背景のない写真
- 1 名前:M_Y_F 投稿日:2003年04月26日(土)02時39分28秒
- 森板でひっそりと書いてたものです。
今度はこちらで書かせていただきます。
しょうもない駄作ですが、よろしくお願いします。
- 2 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時40分46秒
カシャッ
一筋の光が駆け巡る。
カシャッ、カシャッ・・
カメラのレンズが被写体を捉えていく。
一瞬一瞬が勝負のときでもある。
何十枚、何百枚撮ろうが掲載されるのはごく一部。
- 3 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時41分28秒
「少し顔上げて・・」
カメラマンの指示に素直に従うモデル。
「そのまま、目を閉じて」
カメラマンとモデルだけ世界は続いていく。
ピーンとした緊張感が周囲に漂っていた。
レンズを通して、二人の戦いは続いていく。お互いに気を抜くことは許されな
い。
- 4 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時42分12秒
―あれっ・・―
モデルはどことなく違和感を感じていた。
「ほら、気を抜くんじゃない」
カメラマンの厳しい言葉がモデルに浴びせられる。
「は、はいっ」
カシャッ、カシャ・・
気を取り直して撮影は続けられた。
- 5 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時44分12秒
―違うよね・・―
モデルは今まで感じていた違和感の原因がカメラにあることに気づいた。必死
に頭の中で整理を続けた。確かにカメラは持っているが最近は飽きて全然使用
していない。今では押入れに眠っている。しかし、目の前にあるカメラは押入
れに眠っているはずのものと同じだった。自分と同じカメラをカメラマンが持
っているのは不思議なことではないが、カメラ本体にある2本の引っかき傷が
自分の持っているカメラの傷とそっくりなのだ。しかも、レンズのふちにある
傷まで同じだ。撮影のことより、カメラの方が気になってしょうがない。しか
も、目の前にいるカメラマンはニット帽にサングラスと格好でなかなか素顔を
見せようとしない。打ち合わせも挨拶程度のものでいきなり撮影となった。
その声と格好からして女性であることは確かだったが、それ以上わからなかっ
た。
- 6 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時45分59秒
撮影がいったん休憩になったとき、モデルはカメラマンに話を聞こうとしたが、
カメラマンは足早にその場を去ってしまった。残された機材に自然と目がいく。
特にカメラに視線が集中する。悪いと思いながらもついついいろんな備品を調
べていった。
―これは、私のものだ・・―
モデルは備品の一つを見て愕然とした。それは自分しか持っていないものだっ
た。カメラとは別に気に入って買ったものだった。今までモヤモヤしていた原
因がはっきりした。同時に自分のものがどうしてここにあるのかという疑問も
湧いてくる。モデルはカメラマンの後を追って走り出した。
- 7 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時47分02秒
「いた!」
自販機でコーヒーを買っているカメラマンの姿があった。
モデルの走るスピードが上がる。
モデルの姿を見たカメラマンはただごとではないと感じたのか慌てて逃げよう
とした。
「待って!! 逃げるな!」
モデルの怒声にも近い大声にカメラマンの足も止まる。
モデルは肩で大きく息をしながら、カメラマンに近づく。
- 8 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時48分36秒
「あなたは誰?」
モデルはカメラマンに尋ねた。
カメラマンは観念したのかニット帽とサングラスをはずして素顔をさらした。
「うそっ」
自分そっくりな人の出現にモデルは思わず足を止めた。
カメラマンはニタリと笑いながら口を開いた。
「私はあなた・・私は保田圭」
さっきまでの態度と変わって、カメラマンもモデルである圭に近づいてきた。
―えっ・・―
蛇に睨まれた蛙のように圭の体が動かなくなっていく。声さえも出なくなって
いた。大きく目を見開いたまま全身が固まっていく。
カメラマンは軽蔑の眼差しで、圭の髪を撫でた。
「かわいい・・ん・・・」
カメラマンは唇を重ねた。
圭の頭の中が真っ白になっていく。
―このままじゃいけない・・―
圭の思いをあざ笑うかのように記憶は遠い彼方へと消えていった。
- 9 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時50分11秒
数日後
圭は仕事が終わってマンションの入り口にたどり着いた。
ポストの中をのぞくと、一通の封筒が入っていた。普通の封筒と同じだった。
しかし、封筒には住所と圭の名前だけがしか書かれてなかった。しかも、筆跡
は圭自身と同じだ。心当たりのないことに不安を抱いた圭はその場で封筒を光
にさらして中身を確認した。中には写真らしきものが一枚入っているようだっ
た。封筒の反対側も調べてみるが写真以外何も入っていないようだ。圭は必死
で記憶の糸を辿っていくが封筒を出した覚えはなかった。
- 10 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時52分07秒
圭はテーブルに置かれた封筒を見つめていた。心当たりのない封筒である。何
が入っているかはまったくわからない。後で面倒なことになって迷惑をかける
ことはできない。本来なら事務所にすぐに連絡を入れるところだ。しかし、封
筒には自分自身の筆跡が残っている。この状況で何もなければ事務所の人に怒
りを買ってしまいそうなことであった。多分、圭自身が出していないと言って
も信じてもらえないだろう。再び変な噂を立てられるのも迷惑なことである。
見たところ写真以外何も入ってなさそうであった。
- 11 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時53分27秒
さんざん悩んだ結果、思い切って封筒を開けた。
封筒の中には1枚の写真だけが入っていた。
真っ黒な背景にぽつんと圭だけが写っていた。
ただ、それだけだった。
何の変哲もない普通の写真だった。
どこか気が抜けた感じだった。
- 12 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時54分06秒
しばらくの間、写真のことは黙っておこうと決めた。
しかし、その決心も無駄になってしまった。
身に覚えが無いない上に興味がないとなれば忘れるのも早かった。
写真は封筒の中に戻されて、アルバムの最後のページにはさんだままだった。
- 13 名前:写真 投稿日:2003年04月26日(土)02時55分11秒
しかし、忘れるとはそのときの状況で用いる言葉である。
記憶の中の引き出しに鍵がかかっているのかもしれない。
無意識のうちに引き出しの鍵を探さないのかもしれない。
いや、引き出しを開けること自体がタブーかもしれない。
引き出しが開いたとき、何が起こるのかは誰も知らない。
- 14 名前:M_Y_F 投稿日:2003年04月26日(土)02時55分58秒
- 今日はここまで
- 15 名前:たけトラマン(o|o)/ 投稿日:2003年04月26日(土)03時11分56秒
- なんか、面白そうですね
更新待ってます!
俺も昨日書き始めたので、お互いがんばりましょう!
- 16 名前:M_Y_F 投稿日:2003年04月27日(日)21時14分47秒
- >>15 たけトラマン(o|o)/さん
感想ありがとうございます。
少しでも期待に沿う作品になればと思いますけど・・
では、本日の更新です
- 17 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時16分05秒
- 圭は一人富津市の海岸線を歩いていた。久しぶりに見る景色は懐かしいものだ
った。潮風が気分を落ち着けてくれる。穏やかな風に身を任せながら足を進め
る。多くの人々とすれ違う中で、ばれているのかいないのかわからないが圭に
声をかけてくる人々もいない。普段なら、何人か声をかけてくるものなのだが。
―私を知らないのかなあ・・―
圭はちょっとだけ寂しい気もしたが逆にその分だけ気が楽になった。何かとプ
ライベートまでも追いかけられる身である。誰にも邪魔されずにいられるのは
いいことだった。
- 18 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時17分47秒
―行ってみるか―
圭は富津公園の中に入っていった。中には家族連れやカップルや中高生集団な
どいろいろな人々でわんさかしていた。一人で歩き回るには少し場違いなとこ
ろのように感じた。
富津公園は東京湾に細く突出た富津岬全体が公園となっている場所である。春
先は潮干狩、夏には海水浴場やプール、キャンプ場も開設されるところで観光
にはもってこいの場所である。東京湾全体を見渡せ、運がよければ富士山もく
っきり見えることもある。
圭は岬の先まで来ると手すりに手を置いて、東京湾を行き来する船を眺めてい
た。特に変わった景色がみえるというわけではないが、海を見ているだけです
ごく癒される感じがした。
- 19 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時19分55秒
―どうなるんだろうなあ・・―
ふと頭に浮かぶのはこれからのことである。自分にとってどの方向に進むこと
が最良なのかはわからない。しかし、いろいろとやってみたいことはたくさん
ある。ただ、不器用な自分が同時に複数のことをこなすのは無理がある。後に
なって後悔するより、今は一つ一つのことをこなすことが先だった。こなすう
ちに自分のやりたいことが見つかるはずである。見つかったときにまた考えれ
ばいいことだ。
―あぁ、なんでこんなことばっかり考えるんだろうなあ―
右手で髪をかきあげながら頭を横に振った。
ネガティブな自分がちょっとだけ嫌だった。
- 20 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時21分36秒
ザパーーン、ザパーーン
心地よい波音が耳に入ってくる。
今まで悩んでいたことが馬鹿のように思えてくる。
1ヶ月ぐらい何も考えないでゆっくりするのもいい気がする。
強めの陽射しが降り注いでくる。
―へぇ〜〜―
遠くを見渡すと富士山が見えた。ここから初めて見た富士山である。ちょっと
得した気分になる。普段はスモッグのために対岸のビルが見えなかった。懐か
しい部分の確認と新しい部分の発見だけでもここに来てよかったと思えた。
ボォーーー
船が警笛を上げながら東京湾の奥へと向かっていく。
船の入港を歓迎するかのように上空を鳥が舞う。
「あぁ、カメラでもあればなあ」
圭は思わず漏らした。こんな景色めったに見れたものではない。昔の圭なら喜
んでレンズを向けていただろう。
- 21 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時22分56秒
ゴロゴロ、ゴロゴロ・・
青空が広がる中で、雷の音が響き渡る。
人々は何事かと上空を見上げた。もちろん圭も例外ではなかった。
空には雲ひとつなかった。こんな状態で雷の音が聞こえることが不思議なことだった。
地震の前触れではないかと思うものもいた。
ゴロゴロ、ゴロゴロ・・
再び雷の音が響き渡る。
このまま天気が変わると思えなかったが妙に胸騒ぎを覚えた。誰かと一緒に来
ていればやることもあるだろが、一人来ている圭にとっては景色を眺めること
ぐらいしかやることがない。天気が崩れないうちに帰ろうとその場を去ろうと
振り返ったときであった。
- 22 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時24分21秒
目の前には2人の女の子が立っていた。
「あのぉ〜、保田圭さんですよね」
「はい」
「写真撮ってもいいですか・・」
「いやぁ〜、ちょっと・・」
「お願いします」
圭は突然現れた女の子の姿勢に戸惑いの表情を見せた。深々と頭を下げている
様子を見ていると強く断ることもできなかった。ぐるっと首を回してみるが幸
いなことに誰もいなかった。
「あのさぁ、そんなことされるとこっちが困るんだよね」
「だって・・」
「周りに気づかれないうちに早く撮ってよ」
「あ、ありがとうございます」
女の子は互いに手を取り合って喜んでいた。
きゃっきゃっと騒ぐ姿は“娘。”を見ているような感じだった。
- 23 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時25分51秒
「早くしてよ!」
あまりの騒ぎようにあきれながら、圭が2人の間に割って入った。
「あっ、すみません」
女の子は圭の言葉に素直に従った。そして、代わる代わるに圭とのツーショッ
トをレンズにおさめていく。圭も笑顔で2人に答えた。2人とのツーショット
も撮り終えた後だった。
「あのぉ・・保田さんだけの写真もいいですか?」
「いいですよ」
圭は喜んで2人の言葉を聞き入れた。
―前にもこんなことがあったような・・―
圭は不思議な感覚にとらわれていた。しかし、何も思い出せない。
「ちょっと、横向いてくれますか」
女の子の言葉通りに動く圭。
―あれっ?―
圭はなにか引っかかるものがあった。
「次は正面をお願いします」
「これでいい?」
「はい」
―どっかで聞いた声―
圭の頭の中で声の持ち主を探していた。
「あっ!」
「どうしたんですか?」
「ごめん・・なんでもない」
圭は顔を赤くしながらうつむいた。
―まさか、あの2人にそっくりだとは・・―
こめかみに流れる汗を拭きながら、レンズに視線を移す。
- 24 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時27分37秒
「はい、チーズ!」
カシャッ!
女の子の言葉に合わせて、笑顔を作る。
「次いいですか、撮りますよ!」
カシャッ!
女の子の言葉に乗せられてポーズを決める圭。女の子たちも喜んでいるようだ。
―高そうなカメラ―
女の子が持っているカメラにしてはすごくいいカメラを持っていた。圭の関心
は女の子の声からカメラへと移っていた。
―その傷!―
「なんであなた達が私のカメラ持ってるの?」
「これのことですか?」
「今まで気づかなかったんですか・・」
女の子たちはいたずらっぽく笑みを浮かべていた。
「本当に私のカメラなの?」
「にぶいですね」
「持ち主が一番わかるんじゃないですか」
「えっ・・」
女の子の言葉に戸惑いを隠せない圭。見ず知らぬ女の子に怒鳴り散らすわけに
はいかない。いくら自分のカメラだとしても、それが本当なのかはまったくわ
からない。
- 25 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時29分22秒
2人は圭の気持ちを逆なでするように会話を続けた。
「ほんと鈍感だね、圭ちゃん」
「だから、止めとこうって言ったのに」
あざ笑うかのような会話にさすがに圭もキレた。
「あんた達、何様のつもり!
大体見ず知らずの人にそこまで言われることはないわ!」
「そんなにムキにならなくても」
「圭ちゃんも私たちのこと知ってるはずだよ」
「馬鹿にするのもいい加減にしてよ!」
圭の猫のような目がだんだんと釣りあがっていく。
「まだ、わかんないの?」
「くそっ!ほんと頭にくる!」
圭の肩が小刻みに震えている。
「しょうがないね・・」
「そうだね・・」
「えっ・・何してるの?」
圭の目が点になった。なんと大勢の目の前で服を脱ぎ始めたのである。いくら
なんでもここまでやるとは思ってみない。大胆な行動に顔が熱くなってくるの
がわかる。
2人はあっという間に全裸になっていた。さすがの圭もどこを見ていいのか視
線が定まらない。言葉をかけようとしても、何を言えばいいかわからない。し
かし、2人の行動はこれだけではなかった。
- 26 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時31分01秒
グッ、グッ・・
「うっ・・」
圭は思わず顔を伏せた。なんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮が
ぐっと伸びるではないか。気持ち悪いの一言だった。そして、皮がちぎれ、そ
の隙間からまた顔が見えた。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
「ごっつあんによしこ・・」
力のない声が圭の心を表していた。体から一気に力が抜けた感があった。
「圭ちゃん、さっきまでの勢いはどうしたの?」
「ケメ子らしくないよ」
真希とひとみが薄っらと笑っていた。
「圭ちゃん、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
圭は呆然としていた。めまぐるしく変わる展開に頭がついていかなかった。
ただ、両手をぶらりとさせてあさっての方向を見ていた。
しかし、時間が経てば、人は環境に慣れるものである。
「ちょっと、どういうこと」
圭はやっと状況を呑みこめてきたらしく、血相を変えて真希に近づこうとした
ときだった。
- 27 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時31分59秒
カシャッ
ゴロゴロ、ゴロゴロ・・・ドォーーン
シャッターを切る音と雷鳴が重なった。そして閃光が圭たちを襲った。
「うわぁ・・」
叫び声とともに目の前が光で覆われた。まぶしくてまともに目を開けることが
できなかった。
- 28 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時34分00秒
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
圭が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。そこには自分の姿と頭上に
多数の虫が映っていた。虫が圭に襲いかかろうとしている。
「止めてーーー!」
圭は頭を手で隠した。
「動いて・・」
必死に足を動かすがまったく前に進まない。焦りだけが大きくなる。
右を向いた。
「何、これっ」
声を出さずにはいられなかった。目の前には上下に伸びる直線しか見えなかっ
た。自分の目が悪いのか目をこすってみるが、やはり線しか見えない。しかも、
自分の手さえも線に変わっていた。自分の頬をつねってみるが見えるものは同
じであった。
「どうして・・」
首を振りながら、さらに右を向いた。目の前には真っ白な壁しか見えなかった。
上から下まですべて壁だった。出口のでの文字もない。ここから逃げることし
か頭にない圭はさらに右を向いた。そこは先ほど見た上下に延びる直線しか見
えない世界だった。さらに右を向いた。そこには、鏡に映った自分の姿があっ
た。
- 29 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時35分37秒
「もう嫌ぁーーー!」
虫との距離が近くなっていた。圭は身を伏せるが、状況は変わらなかった。
再度走り出そうとするが足は一歩も進まない。できることはその場でぐるっと
回転することだけだった。おまけに体の向きが変わるたびに景色が変わる。
頭の中は混乱の一途を辿るばかりだった。自分がどこにいるのか見当もつかな
い。必死に人影や出口を探すが見えるのは圭自身と虫と地面だけで他には何も
ない。声を張り上げるしかやることはなかった。
「ごっつあん!よしこ!」
2人の名を呼ぶが返事はなかった。2人のことをかまうほど余裕はなかったが、
無事かどうかぐらいは知りたかった。無事であれば余計な心配はなくなる。
「ごっつあん!よっすぃー!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。最悪の事態が脳裏に浮かぶ。
時間が経つにつれて、不安ばかりが大きくなる。
- 30 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時36分42秒
状況は刻一刻と悪いほうに向かっていく。
「助けて!お願い!」
もう自分だけのことで精一杯だった。
必死の叫びも誰にも通じることはない。
顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「きゃーーー」
絶望にも似た悲鳴がむなしく響いた。
- 31 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時37分35秒
「アハハハーーー、面白いこの写真!」
「うん、この表情が最高!」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 32 名前:海 投稿日:2003年04月27日(日)21時38分22秒
「ゆっくりと楽しんでね」
写真を宙に放り投げるとその場を去っていった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
- 33 名前:M_Y_F 投稿日:2003年04月27日(日)21時39分06秒
- 今日はここまで
- 34 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月28日(月)21時43分34秒
- 怖・・・謎だらけで先が気になります
圭ちゃんどうなっちゃうんだー。よっすいとごっちんは何者??
- 35 名前:M_Y_F 投稿日:2003年04月29日(火)01時44分01秒
- >>34 名無し読者さん
感想ありがとうございます。
まだ先の内容は決めていません。
そんなことでいいのかとつっこまれそうですが・・(汗)
それでは、本日の更新です。
- 36 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時45分30秒
- ドタドタ、ドタドタ・・
「遅れる!・・おはようございます」
静かな廊下を息を切らせながら走っていく。
ドタドタ、ドタドタ・・グキィ!
「痛っ・・」
思わず足首を捻ってしまった。危ないとわかっていながらも遅刻するわけには
いかない。厚底靴で走るのは慣れているはずだったが、何故だか足首を捻って
しまう。こんなことがあるたびに厚底靴を履くのは止めようと思うが止められ
ないのが事実だった。
- 37 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時46分55秒
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くがまったく返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
「おはようございます」
誰かいないか部屋中を見渡すが、いないどころかまだ誰も来てない様だった。
「ふぅーー、間に合った」
真里は大きく深呼吸をすると奥の椅子に座った。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜」
冷たい喉越しが爽快だった。
「それにしても辛いよ・・」
部屋に誰もいないせいもあって思わず愚痴がこぼれてしまう。一時期のいそが
しさからは解放されたとはいえ、まだまだスケジュールは詰まっていた。幾分
楽になったといっても、今まで蓄積された疲労が消し去るわけではない。気づ
けば肩や腰に手を当ててる自分がいた。
- 38 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時48分29秒
5分ぐらい経ったであろうか、まだ誰も来る様子はなかった。時計に目をやる
と集合時間までには若干余裕があった。しかし、そろそろ誰か来てもいい時刻
である。苛立ちを隠すように真里は控え室の中を歩き始めた。
―おやっ?―
真里は机の下に写真が落ちているのに気づいた。
「キャハハハハーーー」
写真を拾い上げた真里は思わず笑ってしまった。
―圭ちゃん、最高!―
写真の中の圭の様子が脳裏に浮かぶ。
この瞬間の圭を実際に見たかったかというのが実感だった。
- 39 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時49分51秒
コンコン、コンコン・・
「はいっ」
現実の世界に戻すかのごとくドアを叩く音が響く。
ドアの方を見るとスタッフの一人が紙を持って立っていた。申し訳なさそうな
顔で話し始めた。
「矢口さん、時間は早いですけど写真撮影お願いできますか?」
「いいですよ」
真里はスタッフの申し出を快く引き受けた。待たされるよりも先にやったほう
が終わりも早くなる。途中であれこれ変更が起こるのがこの世界である。後回
しにされるよりはましだった。真里は荷物を整理すると控え室を出て行った。
控え室の机の上には写真が1枚残されていた。
- 40 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時51分57秒
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
真里は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。真里の目にはセットを組ん
でいるスタッフの姿が映った。
「お願いします」
メイクを終えた真里はセットの前へとやってきた。ダウンタウンを思わさせる
さびれたビルの一角だった。真里は破れかかったシャツに穴の開いたジーパン
の格好の意味が理解できた。
「おはようございます」
カメラマンが目の前に現れた。どこかであったことのある感じがした。しかし、
顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけに
ショートカットである。真里はその人物とは別人であると判断した。打ち合わ
せもそこそこに撮影が始まった。
- 41 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時52分40秒
カシャッ
フラッシュがたかれる。
一瞬たりとも気が抜けない。
カシャッ、カシャッ・・
カメラのレンズが被写体を捉えていく。
何度も体験しているが、このときばかりは緊張するものである。
「少し顔上げて・・」
カメラマンの指示に素直に従う真里。
「そのまま、左向いて」
特異な世界は続いていく。
―あれっ・・―
真里は先ほどから違和感を感じていた。
「ほら、顔を上げたまま!」
カメラマンの厳しい言葉が真里に浴びせられる。
「は、はいっ」
カシャッ、カシャ・・
撮影は続けられた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
1時間ほどして撮影は無事終了した。
- 42 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時55分00秒
真里は撮影が終わっても、モヤモヤしたものが心に残ってどうにもならなかっ
た。思ったことははっきり言わないと気がすまない性質である。失礼は承知で
カメラマンに尋ねてみた。
「あのぉ・・人違いだったら申し訳ありませんけど、圭ちゃんじゃないですか?」
「・・・」
何も反応がなかった。真里の顔が神妙な顔つきに変わっていく。
「そのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたか」
真里の心配をよそにカメラマンの声は明るかった。
「圭ちゃん、ひどいよ」
「ごめんごめん、でも矢口って、セクシーだよね・・」
言葉とは逆に真里も圭も笑顔が浮かんでいた。
「あのね、矢口がセクシーだからってあそこまでさせることはないんじゃない?」
「何さ、ノリノリだったじゃん・・
こっちが何も言わなくても足上げてチラリとか、もう矢口の世界だったよ!」
「えーー」
真里の顔が少し赤くなっていた。照れを隠すように笑い続ける。
- 43 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時56分04秒
「かわいい・・ん・・」
突然、真里の唇を圭が奪った。
「止めてよーー、おぇーー」
わざと吐き気をもよおすような姿を見せる真里。
「なんだよ、その態度」
「だって、心の準備というものが・・」
「もう1回してあげようか?」
「もういいよ・・」
冗談ともとれない会話が進む。
- 44 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時57分04秒
「おいら、一度控え室に戻るよ・・」
真里が足を進めようとした瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。頭が妙に重くて立ってるのもままならなか
った。何が原因かまったくわからない。体の力が抜けていく。
「圭ちゃん・・」
力ない声でつぶやく。
―どういうこと?―
不敵な笑みを浮かべる圭の姿がだんだんと闇に消えていく。
真里の意識も消えていった。
- 45 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時58分33秒
数日後
真里は仕事が終わって自宅に戻ると母親から封筒が届いていることを知らされ
た。自分の部屋で封筒を見ると、封筒には住所と真里の宛名だけが書かれてい
た。筆跡は圭のものであった。どうせなら直接くれたらいいのにと思いながら
封筒を開けると中には写真が1枚だけ入っていた。真っ黒な背景にぽつんと真
里だけが写っていた。思わず首を傾げたくなる写真だった。こんな写真撮った
覚えがなかった。それだけに少し気味が悪かった。
- 46 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時59分06秒
写真が届いたことを伝えようとするが連絡がとれない。
今度会ったときに写真のことを尋ねようと、そのままベッドに潜り込んだ。
しかし、写真のことを尋ねる場面がおとずれることはなかった
- 47 名前:写真2 投稿日:2003年04月29日(火)01時59分44秒
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 48 名前:M_Y_F 投稿日:2003年04月29日(火)02時00分24秒
- 今日はここまで
- 49 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時23分06秒
真里は一人山下公園の海沿いを歩いていた。たまに見る景色だが、どことなく
安心できる。潮風に身を任せながら足を進める。多くの人が真里の横を通り過
ぎていく。しかし、幸か不幸かわからないが真里に声をかけてくる人々もいな
い。小さな体に金髪にトレードマークの厚底靴、いかにも真里だと主張してい
る格好である。普段なら、何人か声をかけてくるはずなのだが。
―おいらって人気ないのかなあ・・―
真里はちょっとだけ寂しい気もしたが逆にその分だけ気が楽になった。何かと
プライベートまでも追いかけられる身である。誰にも邪魔されずにいられるの
はいいことだった。ただ、話す相手がいないのが残念だった。
- 50 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時26分33秒
山下公園は関東大震災の復興事業のひとつとして瓦礫を埋め立てて造成された
公園である。TVロケなんかも行われる場所でもある。また、近くには港の見
える丘公園やマリンタワーなどといったスポットもある。海を見つめると目の
前には氷川丸があった。そして、その近くにはたくさんの花が咲いていた。春
の穏やかな陽射しを浴びて、「赤い靴はいてた女の子」像といったモニュメント
を見ていく。そのモニュメントに沿ったエピソードに新しい発見があったりした。
―やってらんねぇ・・―
いちゃついているカップルにどうしても視線が移ってしまう。彼氏と二人きり
で歩いてみたいと思うのだが、現状では無理な話だった。一時期の忙しさから
解放されたといえ、スケジュールは分単位に詰まっている。会う時間を作るこ
とが一番難しいことだった。にぎやかな中で、一人でぽつんとしているのは場
違いだった。
- 51 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時28分21秒
―やっぱ、嫌だ―
時刻は夕暮れへと変わっていた。昼間の光景とは違い、カップルばかりとなっ
ていた。肩を組みながら歩いていく姿を見ていると妬けてしまう。自分には関
係ないと視線を外すが知らず知らずのうちにカップルの方ばかり向いている自
分が嫌だった。
――
「おい、真里」
「なに・・」
「あのさぁ」
さりげなく迫る唇。
静かに目を閉じる。心臓のドキドキしているのがわかる。
――
「あぁ〜〜、恥ずかしい。アハハハーー」
一人で妄想を膨らませていては、顔を真っ赤にしていた。
―あっち行こう―
カップルばかりが増えてくると一人ではいることが辛くなった。幸い正体はば
れていないようだが女の子が一人でいるところではなくなっていた。あちらこ
ちらで肩を抱き合い楽しそうに話しているものやキスをしているもの、目のや
り場にだんだんと困るようになっていた。
- 52 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時31分41秒
- 真里は大桟橋に来ていた。ベンチに座って横浜湾を見渡す。目の前を船が行き
来していた。そして、ライトアップされたベイブリッジが夕焼け空に映える。
ちょっと贅沢な景色だった。
ザパーン、ザパーーン
波の音をBGMに海を眺めていた。
ボォーーー
船が警笛を上げながら東京湾の奥へと向かっていく。
船の上空を鳥が飛んでいた。
波の音と船の警笛と鳥の鳴き声がすばらしいハーモニーを奏でていた。
―ついに、おいらだけか―
いろんな場面が脳裏に浮かび上がる。圭の卒業につい感傷的になっていた。同
期が抜けるのが一番辛いことでもあるが止まってはいられない。
―こんなのおいらじゃない―
しけた思いを吹っ切るかのように立ち上がった真里は両手を口に添えた。
「ば・・」
思わず叫びそうになった。他人がいることを思い出すと急に声が出なくなった。
ザザーーザバーーン
目の前に大きな波が迫ってきた。思わず後ろに下がる。
ザ、ザーーーザパーーン
次々と大きな波が押し寄せてきた。波が真里たちのところまでくることはなか
った。
- 53 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時33分03秒
―びっくりした!―
真里は胸に手を当てながら大きく息をしていた。波にさらわれそうな感じだっ
た。地震が起きる前触れなのかと思ったりもした。
「お姉ちゃん!」
「えっ・・」
ビクッ!
真里を呼びかける声に一瞬背中がピンと伸びる。
「お姉ちゃん、やぐっつあんでしょう」
「ふぅーー、そうだよ」
声のする方を向くとそこには2人の女の子、園児がいた。
―驚かせるなよ、人一倍怖がりなんだから―
心の中では文句を言いながら笑顔で応対する。いくら驚いたとはいえ、園児に
面向かって文句を言うのは大人気ない。真里は園児と視線を合わせるようにし
ゃがみこんだ。
- 54 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時35分20秒
「写真撮って!」
「いいけど、お父さんやお母さんはどこ?」
「あそこ!」
園児が指差す方向には父親らしき人物が2人で話をしていた。娘が心配なのか
チラリチラリとこっちを見ていた。
真里は周りに園児以外がいないことを確認した。
「いいよ・・カメラとか持ってるの?」
「うん、これ!」
園児はバッグからカメラを取り出した。園児が持つにしては高価なものだった。
「すごいねぇ・・」
真里はほんとに驚いていた。ちょっと作りが大きいだけのと思ったが、カメラ
を手にするとズシリと重いものだった。こんなカメラを娘に与えた親が信じら
れなかった。
- 55 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時37分13秒
「はい、チーズ!」
カシャッ!
園児の言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
園児の言葉に乗ってポーズを決める真里。女の子たちも嬉しそうだ。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
「セクシービームやって!」
「セクシービーム!」
カシャッ
「すごい、すごい」
「やぐっつあんて変わったよね」
「変わった。すごくよくなった」
園児たちは飛び跳ねて喜んでいるようだった。
―おかしいなあ―
真里は首を傾げていた。園児の会話を聞いていると園児の会話と思えない。ま
せた子供とは少し違う。それに、園児の持っているカメラもどこかで見覚えの
あるものだったが、どこで見たかが思い出せない。
- 56 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時40分15秒
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「やぐっつあんって、小さいですね」
「まあね・・」
「ほんと、お人形さんみたい」
「そう?」
―あんまり小さい小さい言うなよ―
いろいろと話しかけてくる園児のことを邪魔くさいと思いながら、笑顔を浮か
べていた。園児にマジに対応するのは思いっきり疲れる。早く終わってくれと
願うばかりだ。
「もう終わりにしていい」
「だめ」
「お姉ちゃん、これからお仕事なんだけど」
「嫌だ・・」
真里はいい加減に飽きてきた。真里の言葉に園児たちは目に涙を浮かべていた。
―まずいなあ―
真里はどうしていいかわからなかった。ここで園児を泣かすわけにはいかない。
親を呼ぼうにしても肝心の親の姿がない。
- 57 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時41分41秒
「ねぇ、お姉ちゃん、このカメラ誰のものかわかる?」
「お父さんのもの」
「違うよ」
「お母さんの?」
「違う?」
「じゃあ、誰のなの?」
「圭ちゃんのだよ」
「えっ、圭ちゃんって友達いるんだ・・」
「うん」
一つ一つの会話に合わせるのに大変だった。
「圭ちゃんって誰?男の子?」
「ううん、女の子。やぐっつあんも知ってるよ」
「そう・・」
真里の頭の中に思い浮かぶ顔は一つしかない。しかし、圭がこんな子を知って
いるとはとても思えない。とりあえず、話だけ合わせてあげようと思っていた。
「圭ちゃんのカメラっていいよね」
「そう、使いやすいし」
園児の口調が急に変わった。
―そういえば・・―
圭の持っていたカメラとそっくりなのを真里は思い出した。
- 58 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時43分53秒
「やぐっつあんも鈍いよね」
「こっちが疲れるよ」
「ちょっと、おいらも怒るときは怒るよ」
園児の会話に真里も怒り口調になってきた。
「まだ、わかんないの?」
「くそっ!ほんと頭にくる!」
馬鹿にしたような言葉に真里の肩が両拳が震えている。
「しょうがないね・・」
「そうだね・・」
カメラを地に置くとゆっくりと真里を見て微笑んだ。
グッ、グッ・・
「うっ・・」
真里は思わず顔を伏せた。なんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮
がぐっと伸びるではないか。気持ち悪いの一言だった。そして、皮がちぎれ、
その隙間からまた顔が見えた。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
「ごっつあんによっすぃ・・」
力のない声が真里の気持ちを表していた。目の前の出来事が信じられなかった。
しかも、自分より小さい園児にどうやってなりきっていたのかわからない。そ
こに立っているのが本物の真希とひとみだとはとても思えなかった。
- 59 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時45分14秒
「やぐっつあん、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
ひとみがシャッターを押し続ける。
真里は呆然としていた。目の焦点が合っていない。まだ状況が飲みこめないで
いた。
しかし、時間とともに落ち着きを取り戻すと怒りがこみ上げてくる。
「ちょっと、よっすぃ、どういうこと」
真里は大声で叫びながら、血相を変えてひとみに近づこうとしたときだった。
カシャッ
ドォーーーザザーーン、ザバーーン
シャッターを切る音と波音が重なった。そして波が真里たちを襲った。
「うわぁ・・」
叫び声とともに目の前が暗闇で覆われた。急に息苦しくなってもがいた。
必死で水面へと浮かび上がろうとするが体は沈む一方だった。
- 60 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時47分04秒
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
真里が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。そこには自分の左右から
ゾンビのようなものが迫っているところが映っていた。真里に襲いかかろうと
している。
「来ないでーーー!」
真里は両手をばたつかせていた。
「どうして・・」
必死に足を動かすがまったく前にも後ろにも進まない。焦りだけが大きくなる。
右を向いた。
「何、これっ」
声を出さずにはいられなかった。そうしないと自分自身が恐怖に狂いそうだっ
た。目の前には上下に伸びる直線しか見えなかった。目が悪いのか目をこすっ
てみるが、やはり線しか見えない。しかも、自分の手さえも線に変わっていた。
自分の頬をつねってみるが見えるものは同じであった。ゾンビさえ見えない。
- 61 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時50分59秒
「消えた・・」
首を捻りながら、さらに右を向いた。目の前には真っ白な壁しかなかった。上
から下まですべて壁だった。そして壁は左右に永遠に続く。出口らしき扉はま
ったく見えない。ここからいち早く逃げ出したい真里はさらに右を向いた。そ
こは先ほど見た上下に延びる直線しか見えない世界だった。ゾンビは見えない。
さらに、右を向いた。そこには、鏡に映った自分の姿があった。
「もう、来ないで!来るな!」
ゾンビとの距離が近くなっていた。真里は必死に追い払おうと手を上下左右に
振った。意味がないのはわかっていたが、動いてないとすぐにでも襲われる感
じだった。再度走り出そうとするが足は一歩も進まない。できることはその場
でぐるっと回転することだけだった。おまけに体の向きが変わるたびに景色が
変わる。しかもその景色に関連はない。こんな場所に来たのはもちろん初めて
だ。必死に人影や出口を探すが見えるのは自分自身と地面だけで他には何もな
い。ゾンビはそんな真里の行動を楽しむかのようにじわりと近づいてくる。
- 62 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時52分32秒
「ごっつあん!よっすぃ!」
2人の名を呼ぶが返事はなかった。2人も心配だったが、それよりも誰かいれ
ば助けてもらえるかもしれない甘い期待があった。
「ごっつあん!よっすぃー!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
ゾンビに体を引きちぎられている様子が脳裏に浮かぶ。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと小さくなっていく。
絶望という闇が真里を包んでいく。
状況は刻一刻と悪いほうに向かっていく。
「助けて!お願い!来ないで!」
必死の叫びも誰にも通じない。もちろん、ゾンビに聞こえているはずがない。
ただ助かりたい思いだけがかろうじて声を出させていた。
涙でグシャグシャになった顔は見れたものではなかった。
静かに迫りくる恐怖に震えるだけだった。
「うわぁーーー!きゃーーーーー!」
諦めの悲鳴がむなしく響いた。
それが最後の声だった。
- 63 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時53分23秒
「アハハハーーー、この写真、面白いよ!」
「うん、この表情が最高!」
「前のもよかったけど、これもいいね」
「そう、思ったとおりだよね」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 64 名前:海2 投稿日:2003年05月01日(木)09時54分22秒
「心ゆくまで楽しんでね」
「次だよ、次!」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
恐怖にひきつる2枚の写真が重なっていた。
- 65 名前:M_Y_F 投稿日:2003年05月01日(木)09時55分04秒
- 今日はここまで
- 66 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月01日(木)19時41分11秒
- 怖いけど面白いです。期待してます。
- 67 名前:M_Y_F 投稿日:2003年05月06日(火)23時21分28秒
- >>66 名無し読者さん
感想ありがとうございます。
期待に沿うかはわかりませんけど・・
それに近いものが書けたらといいと思います
それでは、本日の更新です。
- 68 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時22分21秒
カツ、カツ、カツ、カツ・・
慌ただしく人が行き交う廊下を一人歩いていく
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くがまったく返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
「おはようございます」
誰も来てないようだった。
「ふぅーー」
大きく深呼吸をすると奥の椅子に座った。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、スタジオに入ってくるときに買ったミネラルウォー
ターで喉を潤す。いつもと変わらないことだった。
「はぁ〜〜」
ひとまず落ち着くと部屋中を見渡した。
- 69 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時23分19秒
「あれっ?」
部屋の隅に誰かが忘れた写真が落ちていた。
「アハハハハーーー」
写真を拾い上げた瞬間、笑わずにはいられなかった。
両手に持った写真を交互に見ながら、背中が大きく揺れる。
「圭ちゃんも矢口も面白すぎるよ」
写真の中の圭と真里の様子が脳裏に浮かぶ。この瞬間を実際に見れなかったの
がちょっと残念だった。
- 70 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時24分52秒
コンコン、コンコン・・
「はいっ、どうぞ」
現実の世界に戻すかのごとくドアを叩く音が響く。
ドアの方を見ると見覚えのある顔があった。
「あっ、圭ちゃん・・アハハハハーー」
「紗耶香、人の顔見ていきなり笑うのはひどくないかい?」
「ごめん、圭ちゃん!・・これ、どこで撮ったの?」
紗耶香は写真を圭に見せた。
「えっーーー」
圭は目を丸くさせていた。
「圭ちゃん、どうしたの?」
「いやぁ〜、こんな写真どこで撮ったかわからなくてさ」
「ふーーん、加護とか辻じゃないの?」
「そうかもね・・」
紗耶香の予想に反して圭は首をひねっている。
ちょっと悪いと思った紗耶香は別の話題へとふっていく。
- 71 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時27分07秒
「圭ちゃん、何かあるの?」
「まぁ、ちょっとね・・」
「そうか・・」
紗耶香と圭は話に夢中になっていた。歌番組などで一緒になることはあっても
互いにグループの中の一員である。自分勝手な行動をとるわけにもいかない。
特に紗耶香は新しい自分を出す必要があった。復活を大きくアピールした割に
はその後はうまくことが運ばない。いろいろと道を模索する中、どうしても娘
とは距離を置くようになっていく。圭にしてもサブリーダーという役目柄、娘
にかかりっきりになる。最年長とあって誰もが頼ってくる存在であり、スタッ
フとのパイプ役でもある。何かしら打ち合わせなどで忙しい身であった。卒業
して、ゆっくり話せるようになった。
話題に上がるのは真里のことが多かった。同期だけに気にかかる。特にこれか
らを考えると真里の苦労が目に見えていた。そして、未来のことである。ここ
ぞとばかりに熱く語り合う。紗耶香にも圭にもそれぞれの考えがあるが、お互
いに負けられないということだけは一致していた。時間があればあるだけ話は
尽きない感じだった。
- 72 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時28分21秒
「紗耶香、お願いがあるんだけど」
「何?」
紗耶香はちょっと戸惑った感じで圭を見ていた。
ゴソゴソとバッグの中を探っている。
「これだよ、これ」
「えっ・・」
嬉しそうにカメラを持つ圭に、ちょっと予想外のことに目を見開く紗耶香。
「モデルやってよ」
「まじっすか?」
圭の突然の申し出に声が出た。
「圭ちゃん、モデル代は高くつくよ」
「そう、私のスマイルでどう?」
「何言ってるの、圭ちゃんのスマイルよりハンバーガーがいいよ」
「ハンバーガーでいいの?やったね!」
「ちょっと、圭ちゃんひどいよ」
「ハハハハーー、自業自得だよ」
ちょっとした漫才だった。
「ちょっと貸して?」
「いいよ」
紗耶香は圭からカメラを渡されるとレンズを圭に向けた。
ズシリとくる重さが高級さを感じさせる。
「なんか高そうだよね・・このカメラ」
「・・万円したからね」
「そんなに・・さすが圭ちゃん」
紗耶香はカメラを落とすふりをする。
「こらっ!壊したから弁償だからね」
「わかってるって」
頬を膨らませる圭に、茶目っ気たっぷりな笑顔で応える
- 73 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時29分36秒
カシャッ
フラッシュがたかれる。
カシャッ、カシャッ・・
カメラマンは圭だというのにいつもの撮影と変わらない緊張感が紗耶香を包む。
「少し顔上げて・・」
圭の指示に素直に従う紗耶香。
「そのまま、左向いて」
まさに写真集の撮影だった。
―あれっ・・―
しかし、どこか異質な感じがしていた。
「ほら、顔を上げたまま!」
圭の厳しい言葉が紗耶香に浴びせられる。
「は、はいっ」
撮影は続けられた。
- 74 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時31分34秒
「これで終わりね」
「やっと終わった!」
紗耶香は疲れきったようにその場に座り込んだ。
何事もなかったように圭はカメラをバッグへとしまう。
圭はすっきりした表情で紗耶香に近づいて握手を交わす。
「紗耶香、おつかれさま」
「お疲れ・・圭ちゃん、本当のカメラマンだったよ・・すごかった」
「忙しいところ、ありがとう。お礼だよ・・ん・・」
突然、紗耶香の唇を圭が奪った。
「止めてよーー」
わざと手を口に当てる紗耶香。
「なんだよ、紗耶香まで」
「だって〜、圭ちゃん、すごく昔と変わったよ」
「そんなことないよ〜、もう1回してあげようか?」
「もういいよ・・キスの嵐は裕ちゃんだけで十分!」
冗談ともとれない会話が進む。
- 75 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時32分12秒
「そろそろ、戻るね」
「うん、またね!圭ちゃん!」
圭が控え室を出た直後だった。
クラクラ・・
「うっ」
目の前の景色が急に歪みはじめた。目頭を指で押さえながら、必死で頭を振る。
しかし、頭が急に重くなってきて立っているのもままならなかった。
何が原因か必死に考えるが頭の中はぼっーとして思考回路は停止状態になって
いた。
「圭ちゃん・・」
力ない声でつぶやく。
紗耶香の意識ははるか遠くに消えていった。
- 76 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時33分27秒
数日後
紗耶香は仕事が終わって自宅に戻ると母親から封筒が届いていることを知らさ
れた。自分の部屋で封筒を見ると、封筒には住所と紗耶香の宛名だけが書かれ
ていた。筆跡は圭のものであった。圭らしい気遣いだと思いながら封筒を開け
ると中には写真が1枚だけ入っていた。真っ黒な背景にぽつんと紗耶香だけが
写っていた。こんな写真を撮った覚えがなかったので、圭がいろいろと細工を
したんだと予想はついた。ただ、写真を眺める時間が長くなるにつれて、どこ
か不気味に思えてくるのだった。
- 77 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時34分06秒
写真が届いたことを伝えようとするが連絡がとれない。仕方なくメールした。
次の機会に写真のことを尋ねようと、そのままベッドに潜り込んだ。
しかし、写真のことを尋ねる場面がおとずれることはなかった。
そして、メールの返事も来なかった。
- 78 名前:写真3 投稿日:2003年05月06日(火)23時34分53秒
写真は引き出しの奥にしまわれたまま、取り出されることはなかった。
- 79 名前:M_Y_F 投稿日:2003年05月06日(火)23時35分28秒
- 今日はここまで
- 80 名前:池 投稿日:2003年05月13日(火)23時43分13秒
紗耶香は一人アンデルセン公園を歩いていた。アンデルセン公園とは船橋にあ
る公園で日本最大規模のフィールドアスレチックや小動物達とのふれあえるワ
ンパク王国、童話作家アンデルセンが生まれたのデンマークの風景を再現した
メルヘンの丘、子供達が自由に体験できる子ども美術館などがあり、子供達は
もちろん大人も童心にかえって楽しめる場所だった。久しぶりに見る景色は懐
かしいものだった。ちょっときつめの陽射しが降り注ぐ。
額にはうっすらと汗をかいていた。たまに強く風が心地よかった。日曜日とあ
って家族づれでにぎあう中で、子供たちは元気いっぱいに走り回っていた。そ
して、疲れきった様子で子供を追いかける親たち。うるさいと思いながらもど
こかほっとさせる場面だった。
- 81 名前:池 投稿日:2003年05月13日(火)23時45分03秒
―私ってわからないのかなあ・・―
紗耶香はちょっとだけ寂しい気もしたが当然といえば当然といえるものだった。
1年半という空白は予想以上に短くて長いものだった。娘のメンバーもどんど
ん入れ替わっていた。今では半分以上が口もきいたことがないメンバーになっ
ている。圭が卒業した今、残っているのは真里一人である。おまけに初代プッ
チは全員卒業してしまっている。時間の流れがいかに速いかを思い知らされる。
昔と違ってファン層もかなり変わっている。新しく娘のファンにすれば紗耶香
は過去の人当然だった。誰にも干渉されずに歩けるのは気楽なものだった。卒
業前の状況に比べたら雲泥の差だ。決して一人で歩くことなんてできなかった
だろう。考えてみれば贅沢なことだった。
- 82 名前:池 投稿日:2003年05月13日(火)23時47分27秒
ゆっくりと公園の中を歩いていく。左に風車を見ながら正面にはアンデルセン
像が見えていた。
―あれが、アンデルセンか・・―
アンデルセンの顔を見ながら、童話の題名を思い浮かべるが誰が書いたのかま
ったくわからない。思わず頭をかく姿があった。
風車とアンデルセン像の間を通って、太陽の池の上の橋を歩いていく。池には
カップルらしき男女がボートに乗って何やら話していた。太陽の光に反射光と
あい重なってまぶしく見えた。そんなカップルが少しばかりうらやましく思え
るのだった。
さらに足を進めて、アルキメデスの泉を横目に見ながら、にじの池まで来てい
た。その名通り小さいながらも虹がかかっていた。どこか変な感じだった。ど
うせなら、大きい虹が見たかった。ここで文句を言っても始まらない。
- 83 名前:池 投稿日:2003年05月13日(火)23時48分53秒
しばらく虹を眺めていた。
「あのぉ・・すみません」
「何でしょうか?」
「市井紗耶香さんですよね」
「いいえ・・」
紗耶香の目の前には二人のOL風の人物が立っていた。紗耶香には見覚えのな
い顔である。言葉では否定するもののちょっとだけ嬉しかった。ただ、ゆっく
りできる時間は邪魔されたくなかった。
- 84 名前:池 投稿日:2003年05月13日(火)23時50分06秒
「嘘ついてもだめですよ」
「本当に違いますって」
「大声だしてみましょうか?」
「・・・」
それは脅迫に近いものだった。
紗耶香にすれば一人で来ている身である。周囲を見渡す限り知っている人はい
ない。ここでファンや野次馬に囲まれるのは避けたいことだった。
「一つだけお願いがあるのですが」
「何?」
紗耶香の目が鋭くなる。
「写真を撮っていただけませんか? すぐに終わりますから」
「うーーーん」
周りを見ながら考え込んだ。幸いのことに周りには子供とその親ばかりで紗耶
香のことを知っているような人はあまりいないようだった。いたとして子供が
いるのに身勝手なことはできないだろう。紗耶香は女性の言葉を受け入れるこ
とにした。
- 85 名前:池 投稿日:2003年05月13日(火)23時51分54秒
「はい、チーズ!」
カシャッ!
女性の言葉に合わせて、ピースをしながら笑顔を見せる。
カシャッ!
女性に合わせるように紗耶香もポーズを決める。写真撮影は仕事の一部である
せいか慣れたものである。不快に思いながらも表情には出さずに笑顔を絶やさ
ない。
「すみません、私たちの写真もいいですか」
「あ、はい・・」
ズシリと重いカメラだった。どこかで見覚えのあるものだった。喉の奥まで名
前が出かかっているのだが、それが言葉にならない。歯がゆい思いのままシャ
ッターに指を置く。
「はい、チーズ」
カシャッ!
フラッシュがたかれていく。
- 86 名前:池 投稿日:2003年05月13日(火)23時53分05秒
一通り写真も撮り終わった。
「ありがとうございました」
「どうも・・」
女性の言葉にぶっきらぼうに答える紗耶香。
しかし、カメラのことが気になっていた。
必死に記憶の引き出しを開けて調べていた。
「あっ!圭ちゃんのだ」
思わず大声が出た。以前、写真を撮ってもらったカメラとそっくりだった。
女性たちは口を手で隠しながら笑っていた。他人にすれば、おかしなことであ
ろう。しかし、女性たちの笑いは妖しい笑いへと変わっていく。
「やっと、気づいたの!」
「にぶいね」
女性たちの言葉は思いもしないものだった。
「ちょっと、何言ってるの」
「だってさぁ・・前と全然違うし」
「そう、普通って感じだよね」
「あんたら何様のつもり」
紗耶香はぐっと睨みつけた。
- 87 名前:池 投稿日:2003年05月13日(火)23時54分41秒
「市井ちゃん、まだわからないの?」
「市井さん、もうだめみたいですね」
女性は顔を合わせると突然服を脱ぎだした。思わぬ行動に紗耶香の顔が赤くな
る。何のためらいもない様子に目が奪われていく。あっという間に全裸になっ
ていた。
グッ、グッ・・
「うっ・・」
紗耶香は思わず顔を伏せた。なんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の
皮がぐっと伸びるではないか。思わず吐き気がしてくる。映画とか問題ではな
かった。そして、皮がちぎれ、その隙間からまた顔が見えた。それは知ってい
る顔だった。
- 88 名前:池 投稿日:2003年05月13日(火)23時56分33秒
「後藤!吉澤!」
裏返った声が紗耶香の気持ちを表していた。目の前の出来事が信じられなかっ
た。しかも、さっきの女性と体型も声もまったく違う。どうやって他人になっ
ていたのか見当もつかない。本物の真希とひとみだとは思えなかった。真希は
ともかくひとみがここにいること自体が考えられなかった。紗耶香の知るとこ
ろではひとみは娘の仕事を行っているはずであった。
「あんたら、一体誰なの」
「後藤に決まってるじゃん」
「吉澤ですよ」
真希とひとみはふざけたように答える。
カシャッ、カシャッ
真希とひとみは紗耶香にレンズを向けていた。
「いい加減にしなよ」
紗耶香が真希の胸倉を掴んだ瞬間だった。
ザァーーー
池の水が紗耶香の周りを包んだ。
あっという間の出来事だった。
息苦しくて、目の前の景色がかすんでいく。
死ぬとかそんなことを考える時間もなかった。
いや、急激な変化に頭がついていかないだけだった。
- 89 名前:池 投稿日:2003年05月13日(火)23時58分34秒
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
紗耶香が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。そこには自分の左右か
らライオンがが迫っているところが映っていた。まさに自分に襲いかかろうと
している。
「うそっ!」
紗耶香は思わず頭を抱えてしゃがみこんだ。
「どうして・・」
頭の中は混乱の一途を辿る。指の隙間から鏡を見ると少しづつライオンとの距
離が縮まっている。よく見れば、鏡には真っ白い空間に紗耶香とライオンしか
映っていない。ここがどこだか検討もつかない。
―逃げなきゃ―
紗耶香は勇気を振り絞って走り出そうとするが、思いとは逆に体は一向に前に
進まない。距離だけは縮まっている。
―動いて!!―
必死に足を動かすが進むことができない。焦りだけが大きくなっていく。
足を叩くが何も変わらなかった。
- 90 名前:池 投稿日:2003年05月14日(水)00時00分56秒
「嫌だーーー」
頬に涙がこぼれていた。じわりと迫ってくるライオンに死の恐怖が頭をよぎる。
―こっちだ―
後ろを振り返って走り出そうとした。
「うっ・・」
目の前は真っ白い壁が行く手を塞いでいた。力を込めて壁を叩くがびくともしない。左右
上下にそびえる壁は紗耶香の行く末を表わしているようでもあった。必死に出口らしき扉
を探すが白一色でどこが扉かもわからない。
ゴクッ
思わず唾を飲み込む。ライオンとの距離が気になってくる。顔から血が引いて
いくのがはっきりわかる。膝がガクガクと震えてくる。白い壁を見つめたまま
視線は左右に動くことはなかった。
- 91 名前:池 投稿日:2003年05月14日(水)00時02分24秒
右を向いた。
「何、これっ」
思わず声がでた。あまりにも景色が違った。そこには景色はまったくない。目
の前には上下に伸びる直線しか見えなかった。顔を軽く叩いてみるが、やはり
線しか見えない。おまけに自分の手も見えない。はっきりと手を動かしている
感覚はあるのに不思議だった。さらに恐る恐る右を向くとライオンが近づいて
いる。生きた心地がしない。まさに生き殺しのような状態だった。
―どこだよ・・―
気力もだんだんとなくなっていく。
異なる世界に一人でいることは相当のストレスだった。
10分も経ってないのに何時間でもいるように思えた。
- 92 名前:池 投稿日:2003年05月14日(水)00時03分45秒
「後藤!吉澤!」
思い出したように2人の名を呼んだ。二人が生きてさえいれば、助かるかもと
期待を抱いていたのだ。それがだめでも、危険なことを2人に伝えることができ
る。せめて声だけでもと願うのだが、無常にも返事はない。
「後藤!吉澤!」
再び名を呼ぶが静寂だけしか残らない。鏡に目を移せばライオンはそこまで近
づいている。紗耶香に逃げ場はなかった。TVで見たシマウマがライオンに倒
されていく様子がまぶたの裏に浮かぶ。血だらけの自分の姿が重なる。必死に
叫ぶ声にも力がなくなっていく。
諦めの2文字が浮かぶ。
- 93 名前:池 投稿日:2003年05月14日(水)00時05分25秒
状況は刻一刻と悪いほうに向かっていく。
なかなか襲ってこないことに我慢も限界だった。
「襲いたいなら、早くしろよ」
キレていた。何もかもがどうでもよくなっていた。あわよくば逃げることがで
きるかもしれないが、それは夢のまた夢だった。紗耶香の気持ちを知ってか知
らずか、弄ぶようにライオンはゆっくりと近づいてくる。
「ハハハハーー」
悟ったような平坦な笑いだった。涙でグシャグシャになった顔は見れたもので
はなかった。その顔はすでに覇気を失っていた。
「まじでーーー!ぎゃーーーーー!」
突如、絶望の悲鳴が響いた。
それが最後の声だった。
- 94 名前:池 投稿日:2003年05月14日(水)00時06分07秒
「アハハハーーー、この写真、すげぇ!」
「ほんと、この目とかいいじゃん!」
「前のもよかったけど、これもいいね」
「そう、思ったとおり」
「さすが同期だよ」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 95 名前:池 投稿日:2003年05月14日(水)00時06分50秒
「心ゆくまで楽しんでね」
「次はヤングにする?アダルトにする?」
「ヤングがいいんじゃない?」
「そうだね」
写真を宙に放り投げるとじゃれあいながら去っていった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
- 96 名前:池 投稿日:2003年05月14日(水)00時07分31秒
恐怖にひきつる3枚の写真が重なっていた。
- 97 名前:M_Y_F 投稿日:2003年05月14日(水)00時08分02秒
- 今日はここまで
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月14日(土)22時11分55秒
- 待ってるよー
- 99 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時04分11秒
- 「おはようございます」
多くの人が行き交う中を独特の声が響く。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くが返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
誰かいないか部屋中を見渡すが、いないどころかまだ誰も来てない様だった。
「そういえば、私一人だったんだよね・・」
梨華は思い返したように控え室の奥へと足を進めた。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜、疲れた」
椅子に腰をかけるとスイッチが切れたかのように手足をだらりとさせた。
- 100 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時05分27秒
「それにしてもきつい・・」
思わず本音が漏れてしまう。娘全体スケジュールは楽にはなったが、それ以上
に個人のスケジュールが入っている。忙しさは半端なものではなかった。ちょ
っと前までは年齢制限があって終わりの時間が決まっていたが、今はそれもな
い。普通に仕事をこなしてきたお姉さんチームの大変さがここ数ヶ月の間に嫌
というほど理解できた。個人の仕事も増えている中でますます責任という言葉
がより重くなってくるように感じていた。以前にましてストレスと疲れを感じ
ずにはいられなかった。
- 101 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時06分49秒
ギリギリに控え室に入って、5分ぐらい経ったであろうか、まだ誰も来る様子
はなかった。スタッフが呼びに来てもいいころだが未だに誰も来る気配がない。
どこに行けばいいかわからない状態ではただ待つしかない。
―おやっ?―
梨華は控え室の隅に写真が落ちているのに気づいた。
「ハハハハーーー」
写真を拾い上げた梨華は思わず笑ってしまった。
「何ですか?ケメピョンに真里っぺに市井さんまで・・」
写真の中の3人の様子が脳裏に浮かぶ。
この瞬間を実際に見たかったかというのが実感だった。
- 102 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時07分28秒
コンコン、コンコン・・
「はいっ」
現実の世界に戻すかのごとくドアを叩く音が響く。
ドアの方を見るとスタッフの一人が息を切らして立っていた。
「石川さん、遅れてすみません。撮影お願いできますか?」
「わかりました」
梨華は荷物を整理すると控え室を出て行った。
控え室の机の上には写真が3枚残されていた。
- 103 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時09分11秒
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
梨華は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。梨華の目にはセットを組ん
でいるスタッフの姿が映った。
―えっ・・―
思わず目を疑った。グラビアとはまったく関係ないさびれた感じのセット。
それは、暗くて陰気くさいものだった。こんなのでいいのか逆に不安になって
しまう。
「おはようございます」
カメラマンが目の前に現れた。どこかであったことのある感じがした。しかし、
顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけに
ショートカットである。手を顎にそえて他のメンバーのスケジュールを思い返
してみるが、その人物がここにいるはずがない。梨華は一瞬ドッキリなのかと
思い、辺りを見回すがTVカメラらしきものはどこにもなかった。
- 104 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時10分16秒
カシャッ
フラッシュがたかれる。
一瞬たりとも気が抜けない。
カシャッ、カシャッ・・
カメラのレンズが被写体を捉えていく。
このときばかりは緊張するものであるが、今回は何かが違った。
笠と蓑という格好のどこがいいのか疑いたくなるような撮影だ。
おまけにまともに梨華の表情を捉えているカットがほとんどない。
どういうコンセプトで撮影しているのか質問しようとしたが、あいまいな返事
しか返ってこない。イライラが募る撮影である。
「少し顔上げて・・」
カメラマンの指示に渋々従う梨華。
「そのまま、左向いて」
特異な世界は続いていく。
―あれっ・・―
梨華は先ほどから妙な親近感を感じていた。
「ほら、顔を上げたまま!」
カメラマンの厳しい言葉が梨華に浴びせられる。
「は、はいっ」
カシャッ、カシャ・・
撮影は続けられた。
- 105 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時12分21秒
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
1時間ほどして撮影は無事終了した。
梨華は撮影が終わっても、どこか納得できなかった。同じ写真撮影といっても
誰でもいいような感じだった。ただ、撮影の合間に交わされる会話の内容はよ
っぽど親密な関係でないとわからないものだった。失礼は承知でカメラマンに
尋ねてみた。
「あのぉ、すみませんけど、保田さんですよね?」
「・・・」
何も反応がなかった。梨華の顔に戸惑いが見える。
「そのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたか」
梨華の心配をよそにカメラマンの声は明るかった。
「保田さん、ひどいですよ」
「ごめんごめん、でも石川って何着てもいいよね!」
圭の言葉にちょっとだけ胸を張る梨華。
「でも、今回の撮影は私じゃなくてもよかったんじゃないですか?」
「それを言われると辛いけど・・今回は石川がよかったんだけど」
「そうなんですか」
梨華の嬉しそうな表情を見せた。
「でも、今回はちょっとキショイかな」
「キショイはないですよ・・」
梨華は頬を膨らませ、口を尖らせていた。
- 106 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時13分50秒
「そう拗ねないで・・石川」
圭は何か思いつめたようにそっと梨華の頬に手を当てた。
「石川って・・かわいいよねぇ〜・・ん・・」
梨華の唇を奪った。
「止めてくださいぃーー、おぇーー」
わざと吐き気をもよおすような姿を見せる梨華。
「なんだよ、その態度」
「だって、ケメピョンがそんなことするなんて」
「もう1回してあげようか?」
「もういいです・・」
普段と変わらないたわいない会話が進む。
「私、次の仕事がありますから、これで失礼します。
今度はハロモニで会いましょうね」
梨華が立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。頭が妙に重くて立ってるのもままならなか
った。何が原因かまったく見当つかない。体に力が入らない。
「保田さん・・」
最後は声にならない。
―どうして?―
にたりと笑みを浮かべる圭の姿がだんだんとぼやけていく。
いつしか、意識も消えていた。
- 107 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時15分28秒
数日後
梨華は仕事が終わって自宅に戻ると母親から封筒が届いていることを知らされ
た。自分の部屋で封筒を見ると、封筒には住所と梨華の宛名だけが書かれてい
た。筆跡は圭のものであった。圭の心遣いに感謝しながら封筒を開けると中に
は写真が1枚だけ入っていた。真っ黒な背景にぽつんと梨華だけが写っていた。
頭上に“?”の文字が回っていた。こんな写真をどこで撮ったか記憶になかった。
それだけに少し気味が悪かった。
- 108 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時16分34秒
写真が届いたことを伝えようとするが連絡がとれない。とりあえず、メールした。
今度会ったときに写真のことを聞いてみようとメモに残して、夢の世界に浸った。
しかし、写真のことを聞く機会はなかった。
おまけに、メールの返事も返ってこなかった。
- 109 名前:写真4 投稿日:2003年06月15日(日)01時17分19秒
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 110 名前:M_Y_F 投稿日:2003年06月15日(日)01時22分44秒
- 今日はここまで
>>98 名無し読者さん
ありがとうございます。
森板の作品を終了させた後に、
仕事が忙しくなって更新できないでした。
次回更新も期間が空くかもしれません。
- 111 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時18分50秒
梨華は一人観音崎公園の観音埼灯台のふもとを歩いていた。ふと空を見上げれば八角形の
白いコンクリートの灯台に強い日差しが注いでいた。時期がずれているせいか灯台を訪れ
る人はあまり見当たらない。木々の間を吹き抜ける風が海の香りを運んでくれる。梨華は
潮風に髪をなびかせながら灯台の展望台へと登った。展望台には数えるほどしか人がいな
かった。少し寂しい気もしたが、プライベートもおちおちしていられないなかでゆっくり
できることは嬉しいことだった。束の間の時間を惜しむように楽しんでいた。淡いピンク
のブラウスに濃いピンクのスカートという格好はいかにも梨華らしいものだったが、周り
の景色からは完全に浮いていた。年配の人々が腫れ物を見るような目で通り過ぎていく。
梨華にすればちょっと居心地が悪いかったが、梨華だと気づかれていないのが救いだった。
- 112 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時20分30秒
―きれい・・―
梨華は眼下に広がる景色に目を奪われていた。穏やかな波が磯に注ぐ。磯には多くの人々
が釣りをしていた。
―そういえば・・―
TV番組の企画でイカ釣りに行ったことを思い出した。イカに噛まれるという痛い思いも
今ではいい笑い話だった。そして、ぐるっと見渡せば軍艦やタンカーなどが海を航行して
いた。今では滅多に見ることもできない景色である。その前にこんなところに来る時間の
余裕がなかった。
観音埼灯台はもともとレンガ造りの建物だったが地震で倒壊し、コンクリート製となった。
また、この灯台がある観音崎公園は三浦半島のほぼ東端、東京湾内に大きく突き出した岬
にあり、変化に富んだ自然美は釣りや海水浴にするにはいい場所である。また、東京湾や
浦賀水道を航行する船を見ることもできた。
- 113 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時21分44秒
―あっちだよね・・―
梨華は東京湾の反対側に見える房総半島を見ていた。ここからは房総半島にある富津岬を
見ることができるのだ。富津といえば圭の出身地である。梨華の教育係でもあった圭の出
身地をみていること自体が不思議な感じだった。今度スケジュールが空いたら圭におねだ
りして富津でも案内してもらおうと勝手に計画を立てるのであった。
―つまんない・・―
一人で過ごせる時間というのもいいものだが、時間が経つにつれてだんだんとやることが
なくなってくる。何も考えずにぼーっとするのもいいのであるが、強い日差しには勝てな
かった。暑さが気分を苛立たせる。梨華は行く先の宛てのないまま灯台を降りた。
- 114 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時22分55秒
―いいなぁ・・―
一人で歩くにはちょっとばつが悪い。肩を組んでイチャイチャしているところを見ている
と見てるほうが恥ずかしくなってくる。おかげで梨華のほうに注目する輩がいないので助
かるのだが、誰にも気づかれないのもちょっとだけ寂しい気がした。
――
「ねぇ・・」
「なに・・」
さりげなく肩を抱く腕。ゆっくりと腕に身を預ける。
「あのさぁ」
さりげなく迫る唇。
静かに目を閉じる。心臓のドキドキしているのがわかる。
――
「きゃぁ〜〜、恥ずかしい。アハハハーー」
つまらない妄想を膨らませていては、一人で騒いでいた。
―あっち行こう―
カップルばかりがいる場所で女性一人というのは浮いていた。ここで釣竿でも持っていれ
ば多少かっこつくが、海にはまったく関係ない格好である。他の人々夏らしい格好なのに
一人だけ春らしい格好だった。個性といえば個性であるが、ちょっと目立ちすぎていた。
- 115 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時24分46秒
ザパーン、ザパーーン
波の音をBGMに海を眺めていた。多くの人々が海に近いベンチに座っている中で、ちょ
っと離れた場所にあるベンチに一人座っていた。
ボォーーー
船が警笛を上げながら東京湾の奥へ外へと向かっていく。
船の上空を鳥が飛んでいた。
波の音と船の警笛と鳥の鳴き声がハーモニーを奏でていた。
何も考えることなく、ただぼんやりと景色を見ていた。
―どうなるんだろうなあ―
ちょっとだけこれから先のことが気にかかった。今は忙しいスケジュールをこなすのが精
一杯だったが、本当にやりたいことを考えると不安が大きかった。
「ハ・・・」
両手を口に添えて思わず立ち上がったのだが、目の前に人がいるのに気づいて恥ずかしそ
うに顔を伏せてそのまま座りなおした。顔が熱くなっていくのがわかる。
―もう・・―
思わぬ失態に頭を抱えていた。
- 116 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時25分47秒
ザザーーザバーーン
目の前に大きな波が迫ってきた。思わず立ち上がる。
ザ、ザーーーザパーーン
次々と大きな波が押し寄せる。
しかし、波が梨華のところまでくることはなかった。
―びっくりしたーー!―
梨華は胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんなに大きな波が押し寄せてく
るとは思ってもみなかった
- 117 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時26分42秒
「梨華ちゃんだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
「すみません、石川梨華ちゃんですよね」
「そうだけど」
声のする方を向くとそこには2人の女子高生がいた。
「ふぅー」
安堵のため息が漏れた。二人のほかには誰も見当たらなかったせいである。せっかくの時
間をファンとかに追い掛け回されるのもいやだったがその心配はしなくてよさそうだった。
相変わらず海辺周辺に座っている人々は自分たちだけの世界に浸っているようだった。
- 118 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時27分34秒
「お願いがあるんですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・」
梨華は辺りを見渡しながら考えていた。普段なら断るところだが、同性からファンの声に
はできれば応えてあげたいと思っていた。見渡せば目の前にいる女子高生以外はいなかっ
た。
「いいですよ」
「ありがとうございます」
梨華の言葉に女子高生たちの表情に笑みが浮かぶ。
「なるべく早くしてね、周りにばれると面倒だから」
「はい」
女子高生たちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「すごい・・」
梨華は唸った。最初は携帯かデジカメのたぐいだと思っていたが、2人が手にしていたのは
本格的なものだった。どこかで見たことがあるカメラだったが、どこで見たかは思い出せ
なかった。
- 119 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時28分29秒
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
「ハッピーやってください」
「ハッピー!ハッピーーー!」
カシャッ
「すごい、すごい」
「本物が見れた・・」
「かわいい」
女子高生たちは楽しそうに撮影を続けた。
―おかしいなあ・・―
梨華は首を傾げていた。女子高生たちの会話を聞いていると梨華たち娘のメンバーしかわ
からないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあった。梨華は一
体誰の友達なのか予想してみるがわからない。そもそもメンバーから聞いたことにしては
あまりにも知りすぎていた。
- 120 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時29分46秒
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「梨華ちゃんって、すごくかわいいですね」
「そう・・」
「ほんと、あこがれちゃいます。スタイルもいいし・・」
「そう?」
お世辞でもほめられるとうれしいものである。梨華自身は当然と思っている部分もあった。
それぐらいの気持ちがないとこの世界はやっていけない。レンズに向かって精一杯の笑顔
を振り向く。
「そろそろ終わりにしたいんだけど」
「もう少しいいですか?」
「梨華ちゃん、トランスチャーミーやって」
「えっ・・」
「だって、大好きなんですよ」
「私もです。あのはじけるような感じが好きなんです」
「ちょっと・・・」
女子高生たちは梨華を無視してラジカセをとりだした。そして、お気に入りのユーロビートの効いた曲を流した。
「ヒューー、ヒューー」
最初は乗り気でなかった梨華もだんだんと動きがシャープになってきた。
腰を振りながら、その場を回転する。まさに一人舞台だった。
- 121 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時32分38秒
「ちょっと・・」
「梨華ちゃん、やりすぎじゃ」
きっかけを作った女子高生の方が引いていた。
「ヒューー、ヒューー・・」
のりに乗っていた梨華もそんな雰囲気を察知してか動きを止めた。
―おやっ?―
梨華は女子高生の持っているカメラの傷に目がいった。
「あのぉ、カメラ見せてくれない?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、そのカメラが圭のものであることがわかった。
「なんで保田さんのカメラを持ってるの?」
梨華は疑問をそのまま口にした。
「やっと気づいたんだ・・」
「鈍いよね」
女子高生たちはそれが当然かのように応えた。
「ちょっと待ってよ、あなたたち誰なの?」
驚いたのは梨華の方だった。いくら圭に友達が多いとはいってもこんな女子高生のことな
ど聞いた覚えがなかった。
- 122 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時34分02秒
「梨華ちゃんも単純だよね」
「やりすぎちゃうから、こっちが疲れるんだよね」
「ちょっと、どういう意味なの?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、これだから困るんだよね」
「くそっ!ほんと頭にくる!」
馬鹿にしたような言葉に梨華の肩が震えている。
「しょうがないね・・」
「教えてあげる・・」
カメラを置くとゆっくりと梨華を見て微笑んだ。
- 123 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時34分48秒
グッ、グッ・・
「うっ・・」
梨華は思わず顔を伏せた。なんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮がぐっと伸
びるではないか。気持ち悪いの一言だった。そして、皮がちぎれ、その隙間からまた顔が
見えた。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
「ごっちんによっすぃ・・どうして・・」
力のない声が梨華の気持ちを表していた。目の前の出来事を受け入れることができなかっ
た。人の中から人が現れるなんて映画とかでしか見たことがない。そこにいるのが本物の
真希とひとみだとはとても思えなかった。
「梨華ちゃん、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
ひとみがシャッターを押し続ける。
梨華は口を開けたまま呆然としていた。今の状況が飲みこめないでいた。
しかし、時間とともに落ち着きを取り戻すと怒りがこみ上げてくる。
「ちょっと・・ごっちん、よっすぃ、どういうこと」
梨華は大声で叫びながら、血相を変えて真希とひとみのほうに近づいていく。
しかし、声だけを聞いてると怒っているのかまったくわからない。
- 124 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時35分29秒
「梨華ちゃん、キショイ」
「うん、キショイ」
「いいかげんにしてよ!!」
梨華の怒りは増すばかりだった。
しかし、梨華の怒りもそこまでだった。
カシャッ
ドォーーーザザーーン、ザバーーン
シャッターを切る音と波音が重なった。そして波が梨華たちを襲った。
「きゃあーー・・」
叫び声とともに目の前が暗闇で覆われた。
突然の変化に戸惑う梨華。
必死で水面へと浮かび上がろうとするが体は沈む一方だった。
- 125 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時36分19秒
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
梨華が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。そこには自分の頭上から烏が迫って
いた。烏は爪を広げて梨華に襲いかかろうとしている。
「来ないでーーー!」
梨華は思わず身を伏せた。
「どうして・・」
必死に足を動かすがまったく前にも後ろにも進まない。焦りだけが大きくなる。
カー、カー、カー
バサバサ、バサバサ・・
烏が近づいてくるのが音でわかる。
条件反射のように全身に鳥肌が立っていた。
- 126 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時37分15秒
恐る恐る上を向いた。本当は見るのも嫌なのだが、烏に触れるほうがもっと嫌なことだっ
た。
「何、これっ」
声を出さずにはいられなかった。そうしないと自分自身が恐怖に狂いそうだった。目の前
には左右に伸びる直線しか見えなかった。目が悪いのか目をこすってみるが、やはり線し
か見えない。しかも、自分の手さえも線に変わっていた。自分の頬をつねってみるが見え
るものは同じであった。烏さえ見えない。
「えっ・・」
視線を正面に移すと鏡には自分の姿と頭上には烏が迫ってきている。おまけに距離はだん
だんと短くなっていく。思いがけない事態にどうしていいのか頭の中は真っ白に近くなっ
ていた。
「どうなってるの」
左右を向けば上下に伸びる直線しか見えないし、後ろを向けば真っ白な壁だけしか見えな
い。懸命に逃げ場所を探すがどこにもそんなものは見当たらない。烏はそんな梨華の姿を
楽しむかのようにゆっくりと迫ってくる。いつになったら本格的に襲ってくるかわからな
い烏に梨華の焦りは大きくなる一方だった。
- 127 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時38分03秒
「ごっちん!よっすぃ!」
思い出したように2人の名を呼ぶが返事はなかった。2人のことが心配だった。
もし無事だったら、先に安全な場所に逃げているかもしれなかった。
しかし、返ってくるのは烏の鳴き声と羽ばたく音だけだった。
「ごっちん!よっすぃー!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと力がなくなっていく。
絶望という名の闇が梨華にのしかかってくる。
- 128 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時39分11秒
状況は刻一刻と悪いほうに向かっていた。
だんだんと大きくなる烏の鳴き声。
「助けて!お願い!来ないで!」
必死に叫び声をあげる。むろん、烏がわかるはずもない。
ただ助かりたいという思いだけで必死に声を絞り出す。
グシャグシャになった顔には周りを気にする余裕もなかった。
静かに迫りくる恐怖にはなすすべがなかった。
「助けて!きゃーーーーー!お・・ね・・が・・い・・」
諦めの悲鳴がむなしく響いた。
それが最後の声だった。
- 129 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時40分05秒
「アハハハーーー、面白いよ!」
「うん、この表情が最高!」
「でもさ・・こんな顔でもかわいいのが嫌味だよね」
「そうだね・・ちょっと服のセンスは変だけどね」
「ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 130 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時40分58秒
「次だよ、次・・」
「ちょっと、待ってよ」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
- 131 名前:海3 投稿日:2003年06月21日(土)22時41分52秒
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
恐怖にひきつる4枚の写真が重なっていた。
- 132 名前:M_Y_F 投稿日:2003年06月21日(土)22時42分57秒
今日はここまで
- 133 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月22日(日)19時21分31秒
- こぇぇ・・・・・・このまま、全員・・・?((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
- 134 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時07分34秒
「おはようございます」
多くの人が行き交う中をちょっと大きめなバッグを持って歩いていく。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くが返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
誰かいないか部屋中を見渡すが、いないどころかまだ誰も来てない様だった。
「うちが一番に来たのか・・珍しいなあ」
亜依は一番奥へと移動する。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜、疲れた」
椅子に腰をかけるとスイッチが切れたかのように手足をだらりとさせた。
「きつい・・」
思わず本音が漏れてしまう。娘全体スケジュールも半端ではなかったし、個人
のスケジュールもびっしり詰まっている。おまけに新曲やコンサートに向けて
ダンスレッスンが始まった。一度体に染みついたものを拭い去ることは容易で
はなかった。束の間の休憩といえども頭が休まることはなかった。
- 135 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時08分12秒
―おやっ?―
亜依は控え室の隅に写真があるのに気づいた。
「ハハハハーーー、何だよ、これ!!!」
写真を拾い上げた亜依は思わず大声を笑ってしまった。
「おばちゃん、矢口さん、市井さんに梨華ちゃんまで・・」
写真の中の3人の様子が脳裏に浮かぶ。
この瞬間を実際に見たかったかというのが実感だった。
―これで・・―
亜依にとってはいいネタだった。
- 136 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時09分11秒
コンコン、コンコン・・
「はいっ」
ドアの方を見るとスタッフが立っていた。
亜依にすれば予定外のことだった。
「加護さん。先にメイクしていただいていいですか?」
「わかりました」
亜依は荷物を整理すると控え室を出て行った。本当はもっとゆっくりしたかっ
たが娘自体の人数が多いのであまり強くは言えなかった。ただ、先に準備して
しまうと衣装のせいで苦しくなるのが嫌だったのだが・・
控え室には4枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 137 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時10分34秒
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
亜依は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。目には組み立て途中のセッ
ト姿が映っていた。
―ふ〜〜ん―
いつもの明るい感じとちがって、ちょっと薄暗くて落ち着いた感じだった。
いつも明るくてにぎやかなセットが多いので、亜依にすればちょっと意外な感
じだった。
「おはようございます」
メイクを終えた亜依の前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感
じがした。しかし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほく
ろもない。おまけにショートカットである。首をかしげながらスケジュールを
思い返してみるが、その人物がここにいるはずがなかった。
少しだけ不安を覚えた。
- 138 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時11分44秒
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
テストとあって気楽なものだった。
普段なら厳しい言葉が浴びせられるのだが、そういうのがまったくない。
おまけにポーズを指示されるわけでなく、自分でポーズを考えなければならな
い。
普段の写真撮影よりもある意味難しいものだった。ポーズを考えるのはいいの
だがどこまでやればいいか判断がつかなかった。
―ちょっと・・―
亜依は先ほどから妙な親近感と違和感を感じていた。
カシャッ、カシャ・・
亜依の気持ちを無視するかのように撮影は続けられた。
「う〜〜ん・・」
亜依にすれば、いつ終わるのかわからないのが不安だった。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
10分ほどして撮影は無事終了した。
- 139 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時15分26秒
亜依は撮影が終わっても、どこか納得できなかった。同じ写真撮影といっても
誰でもいいような感じだった。ただ、撮影の合間に交わされる会話の内容はよ
っぽど親密な関係でないとわからないものだった。失礼は承知でカメラマンに
尋ねてみた。
「あのぉ〜すみませんけど、保田さんですよね?」
「・・・」
何も反応がなかった。亜依の顔にしまったというような表情に変わった。
「そのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたか」
亜依の心配をよそにカメラマンは大声を上げた。
「おばちゃん、ひどい!」
「ごめんごめん、加護よかったよ!」
「それはそうと、おばちゃんが相手なら、こんなに悩むことなかったのに!」
「なんだよ、その言い草!」
「だって・・」
頬を膨らませる亜依。
- 140 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時16分23秒
「でも、今の撮影は加護じゃなくてもよかったんじゃないですか?」
「いやぁ・・全員撮らなきゃならないんだよ」
「そうなんですか・・大変ですね・・フフッ」
「ちょっと変なこと考えるなよ」
亜依の口元が緩んだのを圭は見逃さなかった。
「何もないですよ」
「顔に書いてあるよ」
思わず顔を拭いてみせる。
「冗談だよ、加護」
圭はいたずらっぽく笑うとそっと亜依の頬に手を当てた。
「加護って・・かわいいよねぇ〜・・ん・・」
亜依の唇を奪った。
「止めてよぉーー、おぇーー」
大げさにアクションする亜依。
「なんだよ、その態度・・」
慣れた場面だとあってすかさずつっこむ。
「おばちゃん、おばちゃんのキスはもう結構です」
「そんなこと言わないで、もう1回してあげようか?」
「もういいです・・」
押し問答のような会話が進む。
- 141 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時17分18秒
「加護、次は辻呼んできて」
「はーーい」
亜依が椅子から立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。必死に頭を振って視線を定めようとするが
目の前の景色はだんだんとぼやけていく。何が原因かまったくわからない。
「おばちゃん・・」
力ない声がかすかに響く。
―何故?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿が脳裏に浮かぶ。
いつしか目の前には闇だけが広がっていた。
- 142 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時18分46秒
数日後
亜依は仕事が終わったのにマネージャーから一通の封筒を手渡された。自宅に
戻った後、早速カバンに入れておいた封筒を取り出した。封筒には亜依の名だ
けが書かれていた。筆跡は圭のものであった。前回会ったことを思い出しなが
ら封筒を開けた。いつもと変わらない心遣いには感心するしかなかった。封筒
の中には写真が1枚だけ入っていた。真っ黒な背景にぽつんと亜依だけが写っ
ていた。撮った覚えのない写真に首を捻るだけだった。圭のいたずらとしか思
えなかった。まあ、自分たちがいたずらしていることもあって、気にはしなか
った。
- 143 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時19分59秒
写真をもらったことを伝えようとするが連絡がとれない。
とりあえず、メールだけした。
今度会ったときに写真のことを聞いてみることにして、そのままベッドの中に
潜り込んだ。
しかし、写真のことを聞く機会はなかった。
メールの返事も返ってこなかった。
- 144 名前:写真5 投稿日:2003年07月04日(金)22時20分31秒
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 145 名前:M_Y_F 投稿日:2003年07月04日(金)22時23分13秒
今日はここまで
>>133 名無しさん
ありがとうございます。
全員とはいきませんけど・・
書く前にネタがなくなっている可能性が・・
- 146 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時24分52秒
亜依は一人蓮池公園の捨篠池のほとりを歩いていた。
「ふぅ・・」
亜依は慣れた風景に心安らぐのだった。きつめの陽射しが差し込んでくるが、それはそれ
で季節感を感じていいものだった。何事も季節を先取る業界である。この季節になれば、
野外ライブも増えて夏の暑さを感じることも出来るが、ステージでは夏を感じることより
もサウナにいるといったほうが正しいほど酷なものだった。
ケロッ、ケロッ
―そういえば・・―
池のほうから聞こえる蛙の声にいたずら心が芽生えてくる。裕子が一緒にいればからかう
にはもってこいの場所だった。しかし、からかった後のことを考えると、知らず知らずの
うちに背中に冷や汗が流れていた。
―きれいなんや・・―
池に目を移せば、薄紫の蓮の花が咲いていた。地元にいたときは何でもない風景だったの
に、一度地元を離れると慣れた風景の良さというものがわかる。大和高田八景の一つだと
いうのもわかる気がした。
- 147 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時25分45秒
捨篠池は弁天池とも呼ばれる。毎年7月7日には蓮取り舟による「蓮取り行事」が行われるのでも有名である。これは、「奥田蓮池のひとつ目の蛙」という民話に基づくものである。
この民話とは、役の行者の母刀良売(トラメ)が奥田の蓮池で病気を養うているとき、夏
のある朝、刀良売が池の中にまつってある捨篠神社に詣でると白い蓮の花が咲いていて、
葉には金色に光った蛙がいた。刀良売は篠萱を引き抜いて、蛙に投げると、蛙の目にあた
って片目になった。池の中ににげた蛙は、もとの土色の蛙となって浮いてきて、五色の露
も消えてなくなり、一茎二花の蓮も、もとの蓮になってしまった。しかも池の蛙はそれか
ら一つ目になった。刀良売はそれから重病になり四十二歳で死んだ。母をなくした役小角
は発心して修験道をひらき吉野山にわけ入り蔵王権現をあがめ、蛙を祭って追善供養をし
た。以来、毎年七月七日に吉野の山伏が行者堂に来り、香華を献じ、蓮池の蓮108本を
摘み、吉野山から大峰山間の沿道の堂に供えているのである。
- 148 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時27分09秒
―つまんないわ・・―
一人で過ごせる時間というのもいいものだが、時間が経つにつれてだんだんとやることが
なくなってくる。何も考えずにぼーっとするのもいいのであるが、強い日差しには勝てな
かった。暑さが気分を苛立たせる。
―あっち行こう―
亜依の視線の先には木が多く生い茂った場所があった。幸いなことにベンチもあった。周
りには誰にもいない。ちょっと休むにはいいところだった。
バサバサ、バサバサ・・
葉の音をBGMに池を眺めていた。散歩がてらの人が多い中で、木陰にあるベンチに腰掛
けていた。木々を吹き抜ける風が一瞬の涼を運んできてくれる。
―どうなるんだろうなあ―
ちょっとだけこれから先のことが気にかかった。今は忙しいスケジュールをこなすのが精
一杯だったが、本当にやりたいことを考えると不安が大きかった。それに、まだまだ先は
あるといっても時間だけはどんどん過ぎていく。このままでいいのか首を捻ってしまう。
- 149 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時27分52秒
ザザーー、ザバーー
「うそや・・」
突然の出来事に亜依は自分の目を疑った。
池の真ん中の水面が異様に盛り上がっていた。
気づけば目の前に大きな波が迫ってきた。思わず立ち上がる。
ザ、ザーーーザパーーン
次々と大きな波が押し寄せる。
しかし、波が亜依のところまでくることはなかった。
―びっくりしたーー!―
亜依は胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんなに大きな波が押し寄せてく
るとは思ってもみなかった。ましては、目の前にあるのは池である。波にさらわれるなん
て考えもしないことだった。
- 150 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時29分44秒
動揺を隠せない亜依に聞きなれない声がかけられた。
「加護ちゃんだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
「あのぉ〜、加護亜依ちゃんですよね」
「そうやけど」
声のする方を向くとそこには2人の小学生の女の子がいた。
「ふぅー」
思わず安堵のため息が漏れた。二人のほかには誰も見当たらなかったせいである。せっか
くの時間をファンとかに追い掛け回されるのもいやだったがその心配はしなくてよさそう
だった。しかも、小学生とあって余計な注意を払わなくてすむ。
- 151 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時31分42秒
小学生たちは申し訳なさそうに声をかけてきた。
「お願いがあるんですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・」
亜依は辺りを見渡しながら考えていた。普段なら断るところだが、特に用があるわけでも
なかった。また、どこへ行くかも決めてはなかった、それにいろんなところに行っても正
体がばれればすぐに引き返すしかなかった。見渡せば目の前にいる小学生以外人はいなか
った。
「いいよ」
「ありがとうございます」
亜依の言葉に小学生たちの表情に笑みが浮かぶ。
「なるべく早くしてね、」
「はい」
小学生たちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「すごい・・」
亜依は目を丸くした。最初は携帯かデジカメのたぐいだと思っていたが、2人が手にしていたのは本格的なものだった。両親からもらったものであろう、それでも値段が高そうなものである。一瞬、この小学生たちの両親の職業が何なのか興味を持った。
「う〜ん」
よく見るとどこかで見たことがあるカメラだったが、どこで見たかは思い出せなかった。
- 152 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時33分00秒
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
カシャッ
「すごい、すごい」
「本物だ・・」
「かわいい」
小学生たちは楽しそうに撮影を続けた。
―おかしいなあ・・―
亜依は首を傾げていた。ときより小学生たちの会話を聞いていると亜依たち娘のメンバー
しかわからないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあった。亜
依は一体誰の友達なのか予想してみるが、娘はおろかキッズにもこっちに友達がいること
なんか聞いたことがない。
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「加護ちゃんって、すごくかわいいですね」
「そう・・」
「ほんと、あこがれちゃいます。」
「そう?」
お世辞でもほめられるとうれしいものであるが、小学生が相手にだけにまともに言葉を飲み込むわけもいかずに、無理やり笑顔を作っていた。
- 153 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時34分35秒
「そろそろ終わりにしたいんやけど」
「もう少しいいですか?」
「加護ちゃんですって、やって」
「えっ・・」
「だって、大好きなんや」
「私も!あのポーズ大好きなんです」
「もう・・加護ちゃんです」
「やった!」
小学生は亜依の姿に喜びの声を上げる。
―おやっ?―
亜依は小学生の持っているカメラの傷に目がいった。
「あのぉ、カメラ見せてくる?」
「いいよ」
カメラを手にすると、そのカメラが圭のものであることがわかった。
「なんでおばちゃんのカメラといっしょなんや」
亜依は疑問をそのまま口にした。
「やっと気づいたんだ・・」
「遅いね」
小学生たちはそれが当然かのように応えた。
「ちょっと待ってや、あなたたち誰や?」
驚いたのは亜依の方だった。テレビでの収録のことだけとはいえ圭にこんな小学生がいる
なんて考えられなかった。
- 154 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時35分21秒
「あいぼんも単純だよね」
「まぁ、そのサービス精神には感心したけどね」
「ちょっと、どういう意味や?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、これだから困るんだよね」
「くっ!ほんま頭にくるわ!」
馬鹿にしたような言葉に亜依の肩が震えている。
「しょうがないね・・」
「教えてあげるよ・・」
カメラを置くとゆっくりと亜依を見て微笑んだ。
グッ、グッ・・
「うっ・・」
亜依は思わず顔を伏せた。なんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮がぐっと伸
びるではないか。気持ち悪いの一言だった。そして、皮がちぎれ、その隙間からまた顔が
見えた。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
「ごっちんによっすぃ・・どうして・・」
力のない声が亜依の気持ちを表していた。大きな黒目をさらに大きくしていた。肝心の話
すべき言葉がまったく出てこない。まるで狐に騙されたように、視線は宙を彷徨っていた。
口はぽかーんと開いたままだった。
「あいぼん、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
- 155 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時36分20秒
しかし、時間とともに落ち着きを取り戻すと怒りがこみ上げてくる。
「ちょっと・・ごっちん、よっすぃ、どういうこと」
亜依は大声で叫びながら、血相を変えて真希とひとみのほうに近づいていく。
しかし、真希とひとみは何事もなかったかのように会話を続けていた。
「あいぼん、かわいい」
「うん、かわいいねぇ」
「馬鹿にすんな!!」
亜依の怒りは増すばかりだった。
しかし、亜依の怒りも2人には届くことがなかった。
カシャッ
ドォーーーザザーーン、ザバーーン
シャッターを切る音と波音が重なった。
大きな波が池の中央にそそり立った。
そして波が亜依たちを襲う。
「きゃあーー・・」
叫び声とともに目の前が暗闇で覆われた。
突然の変化に戸惑う亜依。
必死で水面へと浮かび上がろうとするが体は沈む一方だった。
- 156 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時37分29秒
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 157 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時39分19秒
亜依が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。自分の背後には川が見えた。
そして、視線を上に向けたときだった。
「きゃぁーーー!」
亜依は思わず身を伏せた。鏡には無数の魚が映っていた。
「どうして・・」
必死に足を動かすがまったく前にも後ろにも左右にも進まない。
「何・・」
亜依は再び鏡を見た。すでに落ちてるはずの魚が一向に落ちてこない。ゆっくりと上方に
視線を移すと、口を広げた魚がゆっくりと落ちてきていた。スローモーションを見ている
感じだった。
バシャバシャ、
魚が徐々に近づいてくるのが音でわかる。
バシャバシャ、バシャバシャ・・
亜依にも少し余裕がでてきたのか、魚を観察する余裕みたいなのがでてきた。落ちてくる
のはたかが魚である。気味が悪いが大騒ぎするものではないと思っていた。しかし、鯉や
鮒に比べるとどこか変わっていた。
- 158 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時40分54秒
ピカッ
「えっ・・」
魚の口が光った瞬間、亜依の顔色が変わった。
「まじっ・・ピラニア・・」
最初は我を疑った亜依だが、その口と歯からしてピラニア以外考えられなかった。思わぬ
ピラニアの出現に急に膝が震えだした。これなら、魚を観察するのを止めておけばよかっ
たと思ったのだが手遅れだった。必死に移動しようとするが、肝心の足が動かない。さっ
きまでゆっくりと落ちてきていたピラニアが急にスピードを増したように感じた。
―早く―
焦りは募る一方だ。
- 159 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時41分31秒
「あぁ・・」
上下を見れば左右に、左右を向けば上下に伸びる直線しか見えない。後ろを向けば真っ白
な壁だけしか見えない。しかも、鏡に映った川さえもない。自分がどこにいるのかはわか
らない。どこでもいいから逃げ場所を探すがどこにもそんなものは見当たらない。亜依の
焦ってる様子を楽しむかのようにピラニアは迫ってくる。聞きたくもないピラニアのひれ
をばたつかせる音がだんだんと大きくなる。どうにもならないもどかしさだけが大きくな
っていく。
「来るな!」
必死の叫びもむなしく響くだけだった。じわじわと迫ってくる恐怖ほどいやなものはない。
一気に落ちて来いと思ったが、言葉にはできなかった。言葉にすれば、それが現実になり
そうでかえって怖かった。
「何でや!!」
事態が好転する気配は一向にない。
- 160 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時42分04秒
「ごっちん!よっすぃ!」
思い出したように2人の名を呼んだ。2人がどうなっているのか気になった。もし無事だ
ったら、助けに来てくれるかもしれない。体格的にも体力的にも勝る二人が自分より先に
死ぬことなんて考えられなかった。しかし、期待した声が返ってくることはなかった。
「ごっちん!よっすぃー!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと小さくなっていく。
最後の姿が亜依の頭の中に浮かび上がる。
- 161 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時42分39秒
状況は刻一刻と最悪の一途を辿っていた。
だんだんと大きくなるピラニアの姿。
「助けて!お願い!来るな!」
必死に叫び声をあげる。むろん、ピラニアに伝わるはずもない。
ただ助かりたいという思いだけで必死に声を絞り出す。
クシャクシャになった顔は恐怖で引きつっていた。
死という文字が現実に変わろうとしていた。
「助けて!きゃーーーーー!お・・ね・・が・・い・・」
絶望の悲鳴が響いた。
それが最後の声だった。
- 162 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時43分43秒
「アハハハーーー、あいぼん、面白いよ!」
「うん、この表情が最高!」
「でもさ・・ちょっとかわいそうだったかな?」
「いいんじゃない・・いいお灸だよ」
「ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 163 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時44分43秒
「次、誰にする?」
「誰でもいいよ!」
「じゃ、お姉さん方々でも・・」
「いいねぇ!早く行こう!」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
- 164 名前:池2 投稿日:2003年07月21日(月)18時45分28秒
恐怖にひきつる5枚の写真が重なっていた。
- 165 名前:M_Y_F 投稿日:2003年07月21日(月)18時46分30秒
今日はここまで
- 166 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)00時55分51秒
「何があったんだろう・・」
ひとみは一人頭を抱えて椅子に座っていた。
過去の記憶を辿ろうとするたびに渋谷を歩いていた場面が頭の中で繰り返しながれる。
まるで催眠術にでもかかったように・・
- 167 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)00時56分45秒
ロケで渋谷に来ていたのだが急に天気が崩れて、天気が回復する見込みもなかったために
急遽ロケは中止となりオフとなった。ひとみはぶらぶらと渋谷を歩いていた。
ひとみは肩から黒のバッグをさげていた。昔買ったもので、最近はめったに使わなくなっ
ていたものだった。今回天気が悪かったので少々汚れてもかまわないものを選んで持って
来たのだった。バッグの中にはいつも持ち歩くもの以外に一冊の赤い日記帳が入っていた。
黒のTシャツにベージュのジーンズといった格好で歩いていく。
―これのせいかな・・・―
ひとみはピアスを触りながら真希の言葉が浮かぶ。
- 168 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)00時58分18秒
――
ひとみは雑誌の取材である占いの館に来ていた。取材が終わっても時間があれば占いをし
てもらえるということである占い師のところに連れて行かれた。
「占い師の方に頼んでいますので、あとは心ゆくまで楽しんでください」
雑誌の編集者はそう述べるとその場から去っていった。
「よろしくお願いします・・」
ひとみ軽く礼をすると、椅子に座ると占い師を見た。
「右手を見せて下さい」
「はい・・」
ひとみは占い師に手を差し出した。
「では・・」
ひとみは占い師に対して妙な親近感を感じていた。いつも感じているものだった。
占い師が真剣な眼差しで占っている中、ひとみは憮然とした表情で言葉を聞いていた。あ
まりにもいい加減なことばかりで、知らない奴ならぶん殴ってやるのにと思ったほどだ。
「ごっつあん、適当に私の未来を予言しないでくれる。でたらめもいいところだよ」
「あぁ〜ばれてるのか・・面白くいなあ」
「騙そうたって、まだまだ甘いよ」
真希は悔しそうな表情で布をとった。
- 169 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)00時59分53秒
「なんでごっつあんが占い師やってるの?」
「いやぁ〜、ちょっとね・・」
頭を掻きながら苦笑いを浮かべる真希だった。
二人は会話に夢中になっていた。互いにスケジュールが詰まっている中ではなかなか会い
だすこともない。お互いにとっても貴重な時間だった。
1時間ぐらい経ったぐらいのことだった。ひとみは携帯に視線を移すとその場を立った。
「あぁ〜、これから仕事なんだよなあ」
「相変わらず、忙しいんだね」
「それはお互い様だよ。体がいくつあっても足りないよ・・ごっつあんも頑張ってね」
「ありがとう・・そうだ。ちょっと待って」
その場を離れようとしたひとみを真希が引き止めた。
- 170 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時00分31秒
真希はひとみの髪を優しく撫でると、唇を重ねた。
2つの唇が互いの熱いものを伝え合う。
「ん・・」
ひとみは真希を押しのけた。
「もう!しょうがないなあ」
ひとみは呆れた顔をしながら、ちょっと小悪魔的考えが浮かんでくる。
「ちょっと、ちょっと・・私はそんなこと期待してないってば」
思わず大声を上げ、腰を引く真希だった。
「アハハハーー、冗談だよ」
真希の驚く様子に笑い転げるひとみだった。
「もう・・そのうち、いいことが起こるはずだよ・・」
真希の視線がひとみの全身に注がれる。そんな真希の姿にひとみは嫌な予感がした。
ひとみの手にはピアスと赤い日記帳があった。
――
- 171 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時01分08秒
ひとみは自由にのびのびできる時間を満喫していた。ただ、天気が悪いのと人が多いのが
残念だった。天気がよくてもっと人が少なければ心ゆくまで楽しめるかと思っていた。と
りあえず、今日1日いいことがあると信じて歩いていた。
ひとみはとある十字路で立ち止まった。
―ちょっと、ここどこ!ー
ひとみは一瞬右か左に迷った。しかし、ひとみは真っ直ぐ突き進むことにした。
ひとみが正面の道を進入した途端空気がよどんだ。
ひとみは少し気にはなったが、そのまま道沿いを歩いていく。
50Mほど歩くと道は大きく左カーブしていた。
ひとみがカーブしたところを通りすぎた時、別の箇所で異変が起きていた。
ひとみが通ったはずの交差点が消えていた。もちろん、ひとみが気づくはずもない。
しかし、その異変はひとみ自身も感じることとなった。
- 172 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時02分06秒
最近ではめったに見ない光景を楽しみながら歩いていたひとみはふと空を見上げた。
雲が異様な形をしていた。今までに見たこともない形だった。その形からは嵐でも起きる
のではないかと容易に予想できるものだった。ふと妙に生暖かい風が吹いてきた。そして
風がだんだんと勢いを増していた。まっすぐに顔を向けてられないほどになっていた。風
に逆らっていたひとみも思わず目を閉じて俯いた。
風が止んだ。
目を開けて顔を上げると目の前には予想もできない出来事が起こっていた。あったはずの
ビルが跡形もなく消えて、草原が広がっていたのだった。
「えっ、えっーー・・」
もう一度目を閉じてみるが景色は一向に変わる気配もない。思いもよらぬ変化に大きく目
を見開いたまま呆然と景色を眺めていた。
一向に変わらない状況に痺れを切らしたひとみは周囲を調べ回ったが、草原以外何もない
し人もいない。まして、先ほどまでの街並みを感じさせるものは何一つなかった。
「さっきまでの渋谷はどこに?」
ひとみはニット帽をとると天を仰いだ。不安をかき消すように大きく深呼吸をした。そう
こうしているとどこからともなく蜃気楼が立ち込めてきた。
- 173 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時04分59秒
「今度はなんだよ」
ひとみの背中を小さく丸めた。何かわからないが嫌な予感がした。蜃気楼が消えた瞬間、
先ほどのビル群が現れた。これだけのビルが今までどこに消えていたのか想像もつかない。
しかも草原は跡形もなかった。
「わぁーー!」
ひとみは恐怖を打ち消すかのように思いっきり叫んだ。よく周りを見てみるとそこはさっきまで歩いていたビル群だったが、しーんと静まり返った街はどこか気味が悪い。
「誰か・・」
人がいないかと捜して回るが、人の姿もない。おまけに動物や鳥などの姿もない。
ガヤガヤ、ガヤガヤ・・
突然沸いてきたかのように人々が現れた。その光景だけを見ていれば普段の街並みと何も
変わらぬものだった。人々は何もなかったかのように目の前を過ぎていく。どこを見ても
自分と同じ経験をした人はいないようだ。
- 174 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時05分44秒
「さっきの何・・」
ひとみは咄嗟に口を塞いだ。誰もいないと思って大声を上げるところだった。ニット帽も
とった状態で声を上げればすぐに正体がばれてしまう。しかも、こんな奇行が知れたら世
間は面白おかしく取り上げるだろう。自分以外だけならともかくメンバーにも迷惑がかか
ってしまう。ひとみは冷や汗を流しながらニット帽をかぶりなおした。
―くそっ・・―
ひとみは先ほど出来事を思い返すたびに悔しさが増していった。何で自分だけがこんな目に遭わなければならないのか、そう考えるだけでムシャクシャしてくる。
ひとみが歩いているとゲームセンターが見えてきた。
―いいところにあった―
思わず顔に笑顔が浮かぶ。
- 175 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時06分25秒
ひとみは迷わずにゲームセンターの中に入っていった。中にはにぎやか電子音が響く。ゲ
ームに興じる人々を横目に見ながら目的のゲーム機の前に立った。
―ムシャクシャしてるときはこれだよね―
パンチングマシーンを目にしてひとみは右手に自然と力がこもる。パンチする箇所を確か
めるようにゲーム機に触れた瞬間だった。
バキッ、ガシャン、ガチャン
いきなりゲーム機が音を立てて壊れた。ゲームセンター内にいたすべてのもの視線が集ま
っていた。ゲーム機は粉々に壊れていた。
―どうして・・―
ひとみは呆気にとられていた。
- 176 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時07分08秒
「大丈夫ですか」
そんな中で店員が慌てて駆けつけた。まさか壊れるとは夢に思わない。そして、ゲーム機
の前に立っているのは女性である。女性で力が強いといっても男性に比べれば数段落ちる
ことは当たり前だ。それに連日体格のいい男性たちが殴っても壊れもしなかったものであ
る。店員はひとみに怪我がないことを確認するとゲーム機の後片付けをはじめた。店員に
すればどう考えてもここまで壊れる原因が思い浮かばなかった。
ひとみは気まずい思いでゲームセンターを後にした。
―なんで・・―
ひとみは自分の手を注意深く見てみるが特に変わったところはない。頭の中に“何故”の
文字が駆け巡る。不機嫌な表情のまま宛てもなく歩き続けた。
- 177 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時07分40秒
―最悪な日―
ぶらぶらと歩いているところに再びゲームセンターが見えた。今度こそうさ晴らしするぞとばかりにパチングマシーンの元に直行した。
―2度もないだろう―
ゲーム機に軽く触れた瞬間だった。
ボキッ、ガシャッ、ガチャン・カラカラカラカラ・・
前と同じようにゲーム機が壊れてしまった。店員が慌てて駆けつけるが信じられないとい
った表情をしていた。ゲーム機の前に立っているのは女性である。女性の力でゲーム機が
粉々になるとは思えなかった。首を捻りながら後片付けを始める店員。ひとみはその姿を
ばつが悪そうに見ていた。なんて言えばいいか答えが見つからない。まずは謝ろうとして
移動した際に右手がゲーム機に触れた。
ガシャ、ガチャン、ガチャ、バタン・・
ゲーム機が数台将棋倒しになった。誰もが目を疑った。床にきちんと据え付けておいたゲ
ーム機がいとも簡単に倒れていた。
「ごめんなさい・・」
ひとみは逃げるようにゲームセンターから出て行った。
- 178 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時08分30秒
―私が何をしたの―
ひとみは頭を抱えるように今までのことを思い返す。ムシャクシャしていたのが今では恐
怖に変わっていた。次はどうなるのかを考えただけで背筋がぞっとする。
「くそっ!」
ひとみがビルの壁を叩いた瞬間だった。
ドッ・・ドドーーーン
ビルが音を立てて傾いていく。ビルの壁には大きな亀裂が走り、上のほうが隣のビルにも
たれかかろうとしていた。上からはコンクリートの破片が次々と落ちてくる。それと同時
に恐怖におののく人々の悲鳴があちらこちらで起こっていた。
「どうして」
ひとみはただ呆然とその場を見ていたが、近くにいた人に声をかけられてようやく事態を
把握した。ここにいては危険だと急いで逃げるひとみだった。100Mほど走ったくらい
ところでビルが轟音とともに崩れ去っていった。そして、大きな砂埃が辺り一面の視界を
奪い去った。ひとみは人ごみを避けるように誰もいないところへと向かった。こんなこと
でビルが崩れるとは思わなかった。ひとみの心を重く暗い影が覆っていく。
- 179 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時09分46秒
- どれくらい時間が経っただろう。
ひとみは一人公園のベンチに座っていた。今日という日を思い返すだけで頭の中がどうか
なりそうだった。草原に変わったかと思えば、元の街並みに戻っていたし、たいして力を
いれたわけでもないのにものが次々と壊れていってしまう。自分自身がどうなっているの
か誰かに教えてもらいたいのだが、誰もわからないのが当然だろう。原因を考えれば考え
るほど自己嫌悪に陥るのだった。
「よっすぃー、寒くないの?」
聞き覚えのある声に思わず顔を上げた。
「ごっつあん!」
驚きよりも安堵感が大きかった。ただ、その表情はどこか寂しげだった。
「何してんの?こんなところで」
「ごっつあんこそ」
「私は今日オフだから」
真希の言葉にひとみは首を傾げた。
―ごっつあん、今日仕事のはず・・―
「ごっつ・・」
「よっすぃー、どうしてここにいるの?」
ひとみの言葉を真希の言葉が遮る。
「実はさぁ、ちょっと指先が触れただけでいろんなものが壊れていくんだあ」
「ふ〜ん」
真希はひとみの言葉を不思議そうに聞いていた。
- 180 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時10分31秒
ひとみは肩を落としながらぼやく。
「あぁ〜〜、どうなってるんだか・・わけわかんないよ」
「あーー、それってよっすぃーの願いをかなえただけなんだけど」
真希は茶化すように答えた。その顔はすべてを知っているのような表情だった。
「何っ!・・どういうこと」
その言葉に思わず真希の胸倉を掴むるひとみだった。
「そう、興奮しないで・・もっと最高の願いをかなえる方法を教えてあげようか?」
真希の変化にひとみの顔から血が引いていく。胸倉を掴んでいた手もすぐに引っ込めた。
真希はろうそくを取り出すと怪しげな視線を送った。
ひとみは逃げ出そうとするが足が動かない。
―ちょ、ちょっと待って・・―
体全身に硬直していた。口を動かすが言葉が出ない。
真希はろうそくに火を灯すとひとみの元へと寄って来た。
ろうそくの炎が大きくなっていくとともにほのかに甘い感じの香りが二人の周りに漂う。
真希はひとみの髪を優しく撫でた。そして、軽く頬に手をそえると唇を重ねた。
ひとみは目の前が霞んで身体全身の力が抜けていく・・
「ご・・」
ひとみは深い眠りへと落ちた。
- 181 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時11分25秒
「吉澤・」
「吉澤・・」
女性の声がかすかに聞えてきた。
「うっ・・ここは・・」
目を開けようとするのだが、目の前の状況を見るのが恐ろしくて目が開けられない。
「吉澤、何してるの!」
「は・・はい・・」
マネージャーの声にひとみは覚悟を決めて周囲を見た。目の前には見慣れた光景が広がっ
ていた。いつもの車に、いつものスタジオ・・
―公園にいたはずじゃ・・―
ちょっと拍子抜けたような感じだった。
パン、パン・・
自分がいる場所を確認するかのように軽く頬を叩く。そして、指先がシートに触れた。
―壊れない・・夢か・・―
ひとみは思いっきり深呼吸すると、いつにもなく大量の汗をかいているのに気づいた。
「吉澤、さっさと起きて!行くよ」
マネージャーの声にあわてて車から降りる準備をするひとみだった。
- 182 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時12分08秒
「はいっ・・」
帽子をかぶり直す際に手のひらが耳に触れた。
「えっ・・」
いつもと違う違和感があった。していたはずのピアスの感覚がなかった。自分の座ってい
たシート、足元をくまなく探してみるが落ちている形跡はなかった。バッグの中、小物入
れの中までを探してみたが、そこにもなかった。ただ入れ覚えのない赤い日記帳が入って
いた。
首を捻りながらページをめくっていく。
―こんなこと書くはずないけど・・―
必死に記憶をたどってみるのだがまったく心当たりがない。
そこには、あの交差点から真希に会うまでの出来事が書いてあった。
しかも、筆跡はひとみ自身のものだった。
- 183 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時13分01秒
ひとみは腑に落ちないないまま控え室に向かおうとしていた。
「どうしたの?」
「えっ、ごっつあん・・」
突然の声にひとみは全身が硬直した。
「そんなに驚かなくてもいいじゃん・・アハハハーー」
真希はひとみの反応を楽しむかのように笑っていた。
しかし、その態度が逆にひとみ冷静さを取り戻された。
「ごっつあん、どうなってるの?」
「そんなこと関係ないじゃん!」
真希は他人事のように振舞う。
さすがのひとみもその態度にはキレて、いきなり真希の胸倉を掴んだ。
「いい加減にしろよ・・・・んん・・・」
ひとみを待ち受けていたのは真希の口づけだった。
「ちょっと・・」
知らず知らずのうちに体の力が抜けていく。
「こっちに来て」
心の中では抵抗しているつもりでも、誘われるままに体が勝手に歩きだす。
- 184 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時13分34秒
カシャッ、カシャッ
「ごっつあん・・」
「何?」
「いや、なんでもない・・」
気づけば真希と2人で写真を撮っていた。
どこで待ち合わせをしていたかもわからない。
時間はただ過ぎ去っていく。
- 185 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時14分07秒
ふと気づけば、手元には見慣れない滑稽な写真があった。
自分の中のもう一人の自分が笑っていた。
- 186 名前:回想 投稿日:2003年07月26日(土)01時14分46秒
笑いの時間は永遠に続かない。
一人になると渋谷を歩いてた場面から再び始まるのであった。
- 187 名前:M_Y_F 投稿日:2003年07月26日(土)01時15分28秒
- 今日はここまで
- 188 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時48分08秒
- 「あぁ〜、疲れる」
多くの人が行き交う街中を子供の手を引いて歩く女性がいた。
子供と一緒にいられるのはいいことであるが、いろいろと気を遣うこともありかえって疲
労は大きくなる。まして、この夏の暑さが輪をかけた。
「ふぅ〜〜」
女性は額の汗を拭いながら、まぶしそうに眉の辺りに手をかざした。
―少しぐらいなら・・―
相変わらず子供はそばにいる。女性は洋服の袖を直しながら、一瞬の涼をとった。
「行くよ」
「・・・」
普段なら元気いいの声が返ってくるはずだった。
―まさか・・―
悪夢が頭をよぎる。知らず知らずのうちに体が震えていた。
「アハハハハーー」
「えっ・・」
女性の不安をちょっとだけ解消させるかのごとく子供の声が聞こえてきた。
声のする方を向けば、見慣れた女性が子供とじゃれあっていた。
- 189 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時49分02秒
「圭ちゃん、脅かさないでよ」
「彩っぺ、久しぶり・・でも、会ったばかりでその言葉はないんじゃない」
「最近、物騒だからさ」
「まぁ、それもそうだね」
「圭ちゃんみたいに知ってる顔でよかったよ」
「みたいにって・・こんなかわいい女性はいないよ」
「はいはい、ところで調子はどうなの?」
「まずまずかな、そうだ、時間ある?」
「あるけど・・」
「ちょっと、付き合ってくれない」
「いいよ」
ふと圭の視線の先に目を移すと、暑そうにしている子供の姿があった。
「圭ちゃん、あたしらのことなら心配しなくても」
「気にしないで、彩っぺじゃないといけないんだ」
圭の嬉しそうな顔を見ると断ろうにも断りきれない。時間には余裕があったし、いつも同
じところばかり連れて行ってるので、たまには変わった場所に行くのもいいと思った。
「いいよ」
「こっちね」
彩は子供の手を引くと、圭の後ろをついていった。
- 190 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時49分40秒
「ここだよ」
「ここは・・」
彩は圭の指差す方向に思わず懐かしさを感じた。目の前には写真撮影などでよく来ていた
スタジオだった。
「おはようございます」
「おはようございます」
聞き覚えのある言葉が次々と耳に入ってくる。
- 191 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時51分29秒
- 廊下を歩いていく中、圭が声をかけてきた。
「あのさ、彩っぺ」
「圭ちゃん、何?」
「ちょっとモデルやってくれない」
「突然、そんなこと言われても・・子供がいるし・・」
「子供のことは心配しないで、預けておくところあるからさ。
そこの部屋で待っててね。すぐにメイクさんが来るから・・」
「さぁ、お姉ちゃんと一緒に行こうね・・」
「待ってよ、圭ちゃん・・」
彩の心配もよそに圭は子供をつれて別の場所に歩いていく。圭とは何度かあってるせいか
大騒ぎするわけでも楽しそうにしていた。子供が騒がないなら、少しぐらいはいいかなと
思えてきた。相手が圭であることも一つの理由であったが・・
- 192 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時52分18秒
―どうなってんだよ・・―
彩は苦笑いを浮かべながら、圭の指示した控え室に入っていった。
控え室は、手前側に大きな鏡と化粧台、奥にはソファとテーブルが置かれていた。
彩はソファに座ると、テーブルの上に裏返しに置かれた5枚の写真があるのが気づいた。
「アハハハーー、なんだよ、これ」
そこには、圭、真里、紗耶香、梨華、亜依の写真があった。
―こんなものを撮るんじゃないよね―
一瞬不安がよぎったが、スタジオでこんな写真が撮れるわけがないと思っていたので、特
に気にすることはなかった。
- 193 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時52分53秒
コンコン、コンコン・・
「はいっ」
現実の世界に戻すかのごとくドアを叩く音が部屋に響く。
ドアの方を見ると1人の女性スタッフが立っていた。
「石黒さん、すみません。メイクいいですか?」
「いいですよ」
彩は化粧台の前に移動すると早速メイクが始まった。
圭の言葉の感じと違って、しっかりとメイクされていく。
昔を思い出すかのようにどこか体がウズウズしてくる。
どこかステージがあれば、そのまま飛び出してしまいそうだった。
メイクを終えると控え室を出た。
控え室のテーブルの上には写真が5枚残されていた。
- 194 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時53分29秒
カシャッ
フラッシュがたかれる。
一瞬たりとも気が抜けない。
カシャッ、カシャッ・・
カメラのレンズが被写体を捉えていく。
だんだんと高まっていく緊張感に顔も引き締まる。
「少し顔上げて・・」
カメラマンの指示に淡々と従う彩。
「そのまま、左向いて」
特異な世界は続いていく。
―いいね・・―
懐かしい感じに思わず顔がにやけてくる。
「ほら、顔を上げたまま!」
カメラマンの厳しい言葉が彩に浴びせられる。
「は、はいっ」
カシャッ、カシャ・・
ピリピリとした緊張感が増していく。
撮影は続けられた。
- 195 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時54分18秒
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
1時間ほどして撮影は無事終了した。
「彩っぺ、お疲れさま」
「圭ちゃんもね」
「ありがとう」
彩の疲れをねぎらうように圭が頭を下げた。
「圭ちゃん、ちゃんとカメラマンしてたね」
「まあね。彩っぺもだんだんとその気になってたよね」
「わかった・・昔の血が騒ぐというか・・」
「うん、目がぜんぜん違ってた!ママとは思えなかったよ」
「そうかな・・」
先ほどまでの緊張感はそこにはなかった。
- 196 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時55分00秒
「彩っぺ、すごくよかった」
「本当に?」
「本当、また惚れ直しちゃった」
「ちょっと、女性に惚れられてもね・・」
「・・かっこいいよねぇ〜・・ん・・・」
圭は照れる彩の唇を奪った。
「止めなよ・・あたし、人妻だよ」
突然のことに戸惑う。
「いいじゃない・・たまには」
「たまにはって・・」
彩は呆れて、笑うしかなかった。
「もう1回してあげようか?」
「圭ちゃん、昔と大きく変わったよね・・」
「そうかな・・アハハハハーー」
「ふぅーー」
笑い転げる圭に彩は大きくため息をついた。
- 197 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時55分30秒
「あたしもご飯の準備とかあるから、そろそろ帰るよ」
彩が立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。頭が妙に重くて立ってるのもままならなかった。
何が原因かまったく見当つかない。体に力が入らない。
「圭ちゃん・・」
最後は声にならない。
―子供は・・?―
にたりと笑みを浮かべる圭の姿がだんだんとぼやけていく。
子供たちの声がだんだんと遠くなっていく。
いつしか、意識も消えていた。
- 198 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時56分18秒
数日後
彩はいつものように郵便箱をチェックすると見慣れない一通の封筒が入っていた。一瞬、
怪しい商品のダイレクトメールか何かと思ったが、封筒を手にした途端、その心配は杞憂
に終わった。封筒には住所と彩の宛名だけが書かれていた。筆跡は圭のものであった。圭
の心遣いに感謝しながら封筒を開けると中には写真が1枚だけ入っていた。真っ黒な背景
にぽつんと彩だけが写っていた。思わず頭上に“?”の文字が回っていた。こんな写真を
どこで撮ったか記憶になかった。それだけにちょっと気味が悪かった。
- 199 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時57分14秒
写真が届いたことを伝えようとするが連絡がとれない。忙しいのはわかっていたので、メ
ールを送信するとともに写真のことを綴った手紙を書いた。
しかし、メールが返ってくることはなかった。
しかも手紙が届いたかどうかの連絡もなかった。
- 200 名前:写真6 投稿日:2003年07月29日(火)22時57分45秒
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 201 名前:M_Y_F 投稿日:2003年07月29日(火)22時58分47秒
今日はここまで
- 202 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月31日(木)14時27分47秒
- 怖っ!
なんかめっちゃ怖いっす。
まさかあやっぺまで出てくるとは…。
- 203 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)19時58分26秒
彩は一人で滝野すずらん丘陵公園の中を歩いていた。滝野すずらん丘陵公園は北海道で初
めての国営公園で、ヤチダモやハルニレなどの樹林やスズラン・ススキなどの草原、滝や
川など雄大な自然のありのままの姿を見ることができる。北海道らしい植物や野鳥、小動
物、昆虫などの宝庫で自然観察には最高の場所である。ちなみに、この公園はカントリー
ガーデン、渓流ゾーン、オートリゾート滝野、青少年山の家、こどもの谷の5つのゾーン
から成り立っている。
「はぁーーー」
彩は大きく背伸びをしながら、地元の空気を胸いっぱいに吸い込んでいた。普段は子育て
や家事に終われる毎日だが、こうやって一人で過ごせる解放感は何にも代えらないもので
あった。ただ一人の女性と振舞えるのもたまにしかない。何もかも忘れられる時間を楽し
んでいた。
- 204 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時00分07秒
―北海道はいいねぇ―
目の前に広がる景色を眺めながら、思わずため息を漏らしていた。なにしろ東京と違って
暑くないのがよかった。東京も平年に比べれば温度は低いのだが、過ごしやすさといえば
断然北海道に方がよかった。さわやかな風に彩の髪がなびいていた。
―きれいだ・・―
彩は滝野すずらん丘陵公園の中にあるカントリーガーデンの中を歩いていた。
左に目を移せば、ピンクや赤、紫、クリーム色のリナリア・マロッカや青のヤグルマギク
や白のシュッコンカスミソウが華やかに咲き誇っていた。そして、右に目を移せば赤のガ
ーデンダリアや青のデルフィニウムが艶やかに咲いていた。彩は景色を楽しみながら、す
ずらんの丘展望台へと足を進めた。
- 205 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時01分03秒
「ラッキー」
思わず声がでた。天気がよかったせいで暑寒別岳までも見渡すことができた。これも日ご
ろの行いがいいせいだと勝手に思い込んだりしていた。さすがに展望台とあって、多くの
人々がいた。周りに見渡せば、けっこう若者もいた。まあ、じっとしていれば正体がばれ
ることもないと思ったが、ばれた後のことを考えればどこかに移動したほうが得だと思っ
た。ぐるっと見渡せば滝が見えた。ここに比べたら、人も少ないようである。なるべく人
目につかないように渓流ゾーンへと向かった。
ザァーー、ザァーー
「おぉーーー」
すごい勢いで水が流れていた。その様子に彩は目を奪われていた。
彩はアシリベツの滝に来ていた。この公園の北西端の厚別川本流に懸かる滝は、高さ26m、
札幌市内でも最大級の男性的な滝として古くから行楽客を集めている。この滝は右側の厚
別川本流を落ちる雄滝と左側の清水沢川の落ちる雌滝に分かれている。滝から落ちる水の
せいか辺りの空気がひんやりとしていた。
「かわいい」
ノブキやミヤマヤブタバコといった小さな花々が咲いているのが見えた。雄大な滝とのギ
ャップに頬が緩むのであった。
- 206 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時02分05秒
ザァーー、
「こっちはのどかだね」
彩は不老の滝に来ていた。先ほどのアシリベツの滝ほどの迫力はないが、高さ15mから一
条の滝が落ちる様子は、不老の名にふさわしく幽玄の境を思わせるものだった。
「ふーーん」
改めて自然のよさを実感するのであった。
ゴ、ゴォーーーーーーー
「うそでしょう・・」
突然の出来事に彩の目が大きく開いた。
滝の上流の水面が盛り上がったと思えば、急に多量の水が流れてきた。
近くで大雨が降った様子はない。それだけに驚きが大きかった。
気づけば目の前に多量の水が迫ってきた。
知らぬうちに高い場所に足が向かっていた。
ゴ、ゴォーーーーーーー
滝の水は次々と下流に流れていく。
―びっくりしたーー!―
彩は胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんなに大量の水が前ぶりなしで流
れてくるとは思ってもみなかった。自然の恐ろしさを実感した瞬間だった。
- 207 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時03分00秒
5分ほど経っただろうか、滝の水の量が元に戻っていた。
上流を見渡すと、大量の水が流れてくる気配はない。ただし、先ほどの事実を見せられた
後では、場所を移動する気にもなれない。
そんな動揺を隠せない彩に聞きなれない声がかけられた。
「彩っぺだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
最近ではめったに声をかけられることもなかっただけにちょっと戸惑いを感じていたが、
一方、自分のことを知っている人がいてどこか嬉しい部分もあった
「あのぉ〜、石黒彩さんですよね」
「そうですけど」
声のする方を向くとそこには2人のOL風の女性がいた。
- 208 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時03分47秒
「ふぅー」
思わず安堵のため息が漏れた。二人のほかにはのんびりと座っている壮年の姿が多々見ら
れたが、若者の姿は見当たらなかったせいである。すでに引退して3年以上経ち、今の娘
のファンには顔も知らない数多くいるだろうが、中にはコアなファンもいるので、そうい
うファンがいるとおちおち安心も出来ない。周りを見渡しても、そういう人々はいないよ
うだった。とりあえず、自分のせいでトラブルだけは起きそうにないことに胸を撫で下ろ
した。
OLたちは申し訳なさそうに声をかけてきた。
「お願いがあるんですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・どうしようかな・・」
彩は辺りを見渡しながら考えていた。回りの人々は動く気配もなかった。先ほどの件があ
って誰もが慎重になっていた。誰も動かないことに彩はちょっと焦っていた。なにより、
この場所に誰も知り合いがいないのが辛かった。ここは少しでも話をできる相手を探して
おいた方が今後のためにはいいと思った。
「いいですよ」
「ありがとうございます」
彩の言葉にOLたちの表情に笑みが浮かぶ。
- 209 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時05分22秒
「なるべく早くしてくださいね」
「はい」
OLたちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「すごい・・」
彩は目を丸くした。2人が手にしたカメラは本格的なものだった。プロが使ってそうなカメラである。価格がどれくらいするのか検討もつかなかった。
「う〜ん」
よく見るとどこかで見たことがあるカメラだったが、どこで見たかは思い出せなかった。
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は昔の雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
カシャッ
「すごい、すごい」
「本物だ・・」
「かっこいい」
OLたちは楽しそうに撮影を続けた。
―おかしいなあ・・―
彩は首を傾げていた。ときよりOLたちの会話を聞いていると自分たち以上に娘のメンバー
にしかわからないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあった。
しかも、彩が在籍していた当時の話題まで出てきた。心なしか背中に寒気が走る。
- 210 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時07分04秒
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「石黒さん、ぜんぜん変わらないですね。かっこいいです」
「そう・・」
「ほんと、素敵です」
「そう?」
お世辞でもほめられるとうれしいものであるが、半分は社交辞令みたいなものだと割り切
っていた。
「そろそろ終わりにしませんか」
「もう少しいいですか?」
「もう、他の人移動されてますよ」
「えっ・・」
「早くしたほうが・・」
「もう少しだけ、お願いします」
OLの言葉に彩の眉間にしわがよっていく。
―おやっ?―
彩はOLの持っているカメラの傷に目がいった。
「あのぉ、カメラ見せてくれない?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、そのカメラが圭のものであることがわかった。
「なんで圭ちゃんのカメラといっしょなの・・」
疑問をそのまま口にした。
- 211 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時08分44秒
「やっと気づいたんだ・・」
「鈍いね」
OLたちはそれが当然かのように応えた。
「ちょっと待って!あんたたち誰?」
彩は二人の言葉に即座に反応した。
「彩っぺも物忘れが激しくなったのかな?」
「ちょっと、どういう意味?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、これだから困るんだよね」
「あんたたち!何を言ってるの?」
馬鹿にしたような言葉に彩の肩が震えている。
「しょうがないね・・」
「教えてあげようね」
カメラを置くとゆっくりと彩を見て微笑んだ。
グッ、グッ・・
「うっ・・」
彩は思わず顔を伏せた。なんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮がぐっと伸び
るではないか。気持ち悪いの一言だった。そして、皮がちぎれ、その隙間からまた顔が見
えた。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
- 212 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時10分09秒
「ごっちんに吉澤・・どうして・・」
先ほどまでの勢いはなかった。声のトーンが今の気持ちを表していた。
大まるで狐に騙されたように、視線は宙を彷徨っていた。
口はぽかーんと開いたままだった。
「彩っぺ、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
しかし、時間とともに落ち着きを取り戻すと怒りがこみ上げてくる。
「ちょっと・・ごっちん、吉澤、どういうこと」
彩は大声で叫びながら、血相を変えて真希とひとみのほうに近づいていく。
しかし、真希とひとみは何事もなかったかのように会話を続けていた。
「彩っぺ、かっこいい」
「うん、さすが!ママとは思えない」
「いい加減にしな!!」
彩の怒りは増すばかりだった。
しかし、彩の怒りも言葉も2人には届かなかった。
カシャッ
ゴォーーーザザァーー、ゴォーー
シャッターを切る音と滝を流れる水の音が重なった。
大きな波が滝を伝わってくる。
そして波が彩たちを襲う。
「きゃあーー・・」
叫び声とともに目の前が暗闇で覆われた。
突然の変化に戸惑う彩。
必死で水面へと浮かび上がろうとするが体は水に流されていく。
- 213 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時10分51秒
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 214 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時11分48秒
彩が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。自分の背後には草原が見えた。
そして、視線を上に向けたときだった。
「きゃぁーーー!」
彩は思わず身を伏せた。鏡には無数の雹の塊が映っていた。
草原には雹のせいと思われる無数の穴があった。
「どうして・・」
必死に足を動かすがまったく前にも後ろにも左右にも進まない。
「何・・」
彩は再び鏡を見た。すでに降ってくるはずの雹が一向に降ってこない。ゆっくりと上方に
視線を移すと、ゆっくりと降ってきていた。スローモーションを見ている感じだった。
こんなものが頭に直撃すれば結果はおのずとわかるものだった。
ザーーー、
雹が徐々に近づいてくるのが音でわかる。
―早く―
焦りは募る一方だ。
- 215 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時12分40秒
「あぁ・・どこに行けばいいの」
上下を見れば左右に、左右を向けば上下に伸びる直線しか見えない。後ろを向けば真っ白
な壁だけしか見えない。しかも、鏡に映った草原さえもない。自分がどこにいるのかはわ
からなくなった。どこでもいいから逃げ場所を探すがどこにもそんなものは見当たらない。
彩の焦ってる様子を楽しむかのように雹は迫ってくる。聞きたくもない雹が落ちてくる音
がだんだんと大きくなると同時にどうにもならないもどかしさも大きくなっていく。
「止まって」
必死の叫びもむなしく響くだけだった。
じわじわと迫ってくる恐怖ほどいやなものはない。
草原の無数の穴が彩の恐怖心を余計に駆り立てる。
まぶたの裏に泣き叫ぶ子供の姿が浮かぶ。
- 216 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時13分18秒
「ごっちん!よっすぃ!」
思い出したように2人の名を呼んだ。2人がどうなっているのか気になった。もし気づい
てなかったら、早く逃げるように注意しなければならない。しかし、肝心の返事が彩の耳
に届くことはなかった。
「ごっちん!よっすぃー!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと小さくなっていく。
二人の最悪な姿が一瞬脳裏を掠める。
- 217 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時13分56秒
状況は刻一刻と最悪の一途を辿っていた。
だんだんと近づく雹の塊。雹の塊が不気味に光を放つ
「助けて!お願い!来るな!」
必死に叫び声をあげる。むろん、天気がすぐに変わることもない。
ただ助かりたいという思いだけで必死に声を絞り出す。
クシャクシャになった顔は恐怖で引きつっていた。
雹が降り注いだ後の血だらけの姿が脳裏に浮かぶ。
「助けて!きゃーーーーー!」
絶望の悲鳴が響いた。
それが最後の声だった。
- 218 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時14分36秒
「アハハハーーー、面白い」
「うん、この表情が最高!」
「普通のときと違ってさぁ・・そのギャップがいいよ」
「うん、ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 219 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時15分10秒
「次、誰にする?」
「誰でもいいよ!」
「じゃ、若い方にしようか・・」
「いいねぇ!早く行こう!」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
- 220 名前:滝1 投稿日:2003年08月01日(金)20時15分48秒
恐怖にひきつる6枚の写真が重なっていた。
- 221 名前:M_Y_F 投稿日:2003年08月01日(金)20時20分40秒
今日はここまで
>>202 名無しさん
ありがとうございます。
誰を登場させるかは、そのときの気分です。
書けないメンバーもいるんで・・・(笑)
- 222 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時04分26秒
「おはようございます」
多くの人が行き交う中をちょっと大きめなバッグを持って歩いていく。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くが返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
誰かいないか部屋中を見渡すが、いないどころかまだ誰も来てない様だった。
「私が一番に来たのか・・当然かな・・」
あさ美は他のメンバーのスケジュールを思い出しながら一番奥へと移動する。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜、疲れた」
椅子に腰をかけるとスイッチが切れたかのように手足をだらりとさせた。
「きつい・・」
思わず本音が漏れてしまう。娘全体スケジュールも半端ではなかったし、個人のスケジュ
ールもびっしり詰まっている。おまけに新曲やコンサートに向けてダンスレッスンが始ま
った。一度体に染みついたものを拭い去ることは容易ではなかった。束の間の休憩といえ
ども頭が休まることはなかった。特に夏休みとあって、いつになく地方に出かけることが
多い。北海道出身だけに夏の暑さはかなり辛いものだった。
- 223 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時05分21秒
―おやっ?―
あさ美はテーブルの上にラジオの台本の横に写真があるのに気づいた。
「ハハハハーーー、何ですか、これ!!!」
写真を手にしたあさ美は思わず大声を笑ってしまった。
「保田さん、矢口さん、市井さん、石川さん、加護さん・・
なんで石黒さんまで・・」
最初は面白がってみていたが、よくよく考えてみるとどこか気味が悪い。
―いつ撮ったんだろう・・―
あさ美は首を捻っていた。
- 224 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時06分13秒
コンコン、コンコン・・
「はいっ」
ドアの方を見るとマネージャーが立っていた。
あさ美にすれば予定外のことだった。
「紺野。ちょっと雑誌の取材があるんでメイクしてもらっていい?」
「わかりました」
スケジュールの変更などはよくあることである。
荷物を整理すると、貴重品だけ持って控え室を出た。
控え室には6枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 225 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時07分03秒
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
あさ美は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。目には組み立て途中のセット姿が映
っていた。
―ふ〜〜ん―
雑誌の撮影ということで手の込んだセットかと思いきやシンプルな感じのセットだった。
よくよく考えれば、この時間に本格的な撮影を行うほうが無理なことだった。
「おはようございます」
メイクを終えたあさ美の前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感じがした。
しかし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにシ
ョートカットである。手を顎にあててスケジュールを思い返してみるが、その人物がここ
にいるはずがなかった。少しだけ不安を覚えた。
- 226 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時08分06秒
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
ちょっとした撮影とあって気楽なものだった。しかし、そこはプロである。シャッターの
音に合わせて、きっちりと表情を決めていく。普段の写真撮影のようにポーズを決める必
要がないので、その点は楽だったが、何気ないしぐさや表情をしなければならない分難し
い点もあった。ところどころに垣間見える硬い表情が難しさを表していた。
―ちょっと・・―
あさ美は先ほどから妙な親近感と違和感を感じていた。
カシャッ、カシャ・・
あさ美の気持ちを無視するかのように撮影は続けられた。
「う〜〜ん・・」
あさ美にすれば、いつ終わるのかわからないのが不安だった。しかも、肝心のラジオの台
本にも目を通してないこともあって、早く終わってくれることを祈っていた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
10分ほどして撮影は無事終了した。
- 227 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時12分30秒
あさ美は撮影が終わっても、どこか納得できなかった。撮影の合間に交わされる会話の内
容はよっぽど親密な関係でないとわからないものだった。特にカメラマンの容赦ない喋り
にはちょっと腹を立てることもあった。失礼は承知でカメラマンに尋ねてみた。
「あのぉ〜すみませんけど、保田さんですよね?」
「・・・」
何も反応がなかった。あさ美の口元が少し引きつるような感じになった。
「そのぉ・・」
か細い声が小さくなっていく。
「あぁ〜、ばれたか」
「よかった〜」
カメラマン声にあさ美は思わず胸に手をあてた。
「まぁ、座りなよ」
あさ美は圭の横の椅子に座った。
- 228 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時13分29秒
カメラマンが圭とわかって思わず文句がでる。
「保田さん、ひどいですよ〜」
「ごめんごめん、紺野!」
「でも、どうして保田さんがカメラマンしてるんですか」
「なんだよ、その言い草!」
「だって、カメラって飽きたとか言ってたじゃないですか・・」
「いやぁ〜、またいいなあっと思ってね・・」
あさ美のするどい質問に圭の方が困った表情を見せた。
「でも、今の撮影は私じゃなくてもよかったんじゃないですか?」
「いやぁ・・全員撮らなきゃならないんだよ」
「そうなんですか・・大変ですね・」
「今度は新垣を撮らないとね」
「じゃあ、呼んできましょうか?」
「いいよ、まだ」
圭はあさ美の手をとった。
急に態度を変えた圭に思わず腰が引けるあさ美。
「ちょっと、保田さん・・」
「そんなに怖がらないで、何もしないから」
「でも・・」
あさ美は背中に寒気が走るのを感じていた。
「何怯えてんだよ〜」
笑いながらあさ美の肩をたたく。
「いいえ・・」
表情が固まるあさ美。
「かわいいね」
圭はいたずらっぽく笑うとそっとあさ美の頬に手を当てた。
「えっ・・」
「紺野のほっぺやわらかいよね・・・・ん・・」
亜依の唇を奪った。
- 229 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時14分56秒
「止めてくださいよぉーー」
圭を突き放すあさ美。
「なんだよ、その態度・・」
いつもと違う態度にすかさずつっこむ。
「保田さん、怖いです」
「そうでもないだろう!もう1回してあげようか?」
「もういいですよ・・」
顔を引きつかせながら、手を横に振った。
「ちょっと、そんなこと言わずさ・・」
「ま・・待ってください」
あさ美が椅子から立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。必死に頭を振ってこめかみに手をあて、視線を定めよ
うとするが目の前の景色はだんだんとぼやけていく。何が原因かまったくわからない。
「保田さん・・」
か細い声がますます細くなっていく。
―何故?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿だけしか見えなくなっていた。
いつしか目の前には闇だけが広がっていた。
- 230 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時15分58秒
数日後
あさ美は仕事が終わった後にマネージャーから一通の封筒を手渡された。自宅に戻った後、
早速カバンに入れておいた封筒を取り出した。封筒にはあさ美の名だけが書かれていた。
筆跡は圭のものであった。こういうものはハロモニの収録時に手渡してもらえるはずだが、
今回は圭も忙しいのであろう。圭のちょっとした遣いには感心しながら、前回の撮影の様
子を思い出していた。封筒の中には写真が1枚だけ入っていた。真っ黒な背景にぽつんと
あさ美だけが写っていた。ドッキリとかの企画にしては、あまりにあっさりしすぎていた。
撮った覚えのない写真に首を捻るだけだった。
- 231 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時18分13秒
写真をもらったことを伝えようとするが連絡がとれない。携帯でメールを送った。
今度会ったときに写真のことを聞いてみることにして、そのままベッドの中に潜り込んだ。
しかし、写真のことを聞く機会はなかった。
メールの返事も返ってこなかった。
- 232 名前:写真7 投稿日:2003年08月04日(月)20時18分45秒
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 233 名前:M_Y_F 投稿日:2003年08月04日(月)20時20分39秒
今日はここまで
>>228
名前間違えてしまいました。
すみません。
- 234 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時12分09秒
あさ美は一人百合が原公園の中を歩いていた。この公園は約24ヘクタールという広大な敷
地を持ち、その名の通り世界中から集められたユリが咲く世界の百合広場を中心に四つの
姉妹都市の庭園や花壇広場、温室があり花の総合公園として多くの人々が訪れるのである。
ちなみに、世界のユリの原種は約130種ほどで、そのうち日本には15種が自生し、ササユ
リ、オトメユリなど7種が日本国有種である。百合が原公園にはこれらのうち約80種のユ
リが集められ、温室を含め年中色鮮やかな花を見ることができる。
「はぁーーー」
あさ美は大きく背伸びをしながら、地元の空気を胸いっぱいに吸い込んでいた。普段は秒
単位のスケジュールに終われる毎日だが、こうやって一人でのんびり過ごせる解放感は何
にも代えらないものであった。そして、ただ一人の女の子として振舞えるのは嬉しいこと
だった。
- 235 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時12分57秒
―北海道はいいよねぇ―
目の前に広がるユリを眺めながら、思わずため息を漏らしていた。なにしろ東京と違って
暑くないのがよかった。東京も平年に比べれば温度は低いのだが、夏の過ごしやすさとい
えば断然北海道に方がよかった。特に色白い肌に東京の太陽は厳しいものがあった。
―きれいだね・・―
この公園の中心である世界のユリ広場には様々なユリが咲いていた。日の本やボニーやゴ
ールデンスプレンターなどが公園をよりいっそう華やかに彩っていた。公園の中では、そ
んなユリに魅せられた人々がカメラのレンズを向けていた。そういうあさ美も携帯ではな
くカメラを持ってくればよかったとちょっと残念に思うのだった。
- 236 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時13分40秒
「あれが、いい!」
芝生公園の方を見ると、緑色をした5両ほどの列車が見えた。
ちょっと歩き回ったこともあり、しばらく休憩する場所を探していた。ただ、モーニング
娘の紺野あさ美だとばれないようにする必要があるので、1箇所には長くとどまってはいら
れない。列車ならばれないだろうと思っていた。
あさ美はお金を払うと一番後ろの車両の最後尾の席に座った。
あさ美が乗ったのはリリートレインという列車で、全長1.2Kmのコースを12分ほどで
回るものだった。今年の4月からは新型車両になっていた。
「いいなぁ・・」
さわやかな風を受けながら、目の前に広がる景色を楽しんでいた。ほのかに漂う花の香り
が気分を癒してくれる。このときだけはすべてを忘れて、風に身を預けていた。
- 237 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時15分48秒
リリートレインを降りた後、あさ美は世界の庭園へと足を進めていた。バラを主体にした
ポートランドガーデン、針葉樹に囲まれたムンヒェナーガルテン、中国の伝統的な自然山
水が並ぶ瀋芳園とそれぞれに特色があって、見ていて飽きることがなかった。そして、池
泉回遊式の日本庭園へと向かった。
日本庭園を歩いていたあさ美の目に中央の池にはり出た水舞台が映った。水舞台には誰もいなかった。ちょっと恥ずかしい気もしたが、あさ美は舞台に向かって歩き出した。
あさ美が舞台に着いたときだった。
ザァ、ザパーーーーーーー
ドテッ
「うそでしょう・・」
突然の出来事にあさ美は思わずしりもちをついた。
池の水面が盛り上がったと思えば、急に多量の水が宙に浮いていく。
風が吹いてる様子もない。何が原因かまったくわからない。
気づけば多量の水の塊が宙に浮いていた。
知らず知らずに後退りしている自分がいた。
- 238 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時16分50秒
ザッ、ザパーーーーーーーン
宙に浮いた水は一気に池へと落ちた。
―びっくりしたーー!―
あさ美は胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんなに大量の水が宙に浮くと
は思っても見ない。竜巻が起これば可能かもしれないが竜巻が起きた形跡はない。ただ、
目の前の出来事に目を丸くしていた。
5分ほど経っただろうか、池の水が宙に浮くことはなかった。
池全体を見渡しすが、小さな波紋がところどころにできているだけだった。
予期せぬ状況に戸惑うあさ美に聞きなれない声がかけられた。
「紺野さんだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
まさか、ここで自分の正体がばれるとは思っていなかった。
「あのぉ〜、紺野あさ美さんですよね」
「そうですけど」
声のする方を向くとそこには2人の中学生の女の子がいた。
名前はわからないが、見覚えのある学校の制服を着ていた。
- 239 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時18分02秒
「ふぅー」
思わず安堵のため息が漏れた。二人のほかにはのんびりと歩いている壮年の姿が多々見ら
れたが、若者の姿は見当たらなかったせいである。これが男性ファンなら一言謝って、さ
っさと帰っていたところであろう。今の世の中、何が起きても不思議ではない。最悪な場
面が頭をふとさえぎった。周りを見渡しても、そういう人々はいないようだった。とりあ
えず、最悪な事態には陥らないことに胸を撫で下ろした。
中学生たちは申し訳なさそうに声をかけてきた。
「お願いがあるんですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・どうしようかな・・」
あさ美は辺りを見渡しながら考えていた。腕時計を見ると、まだ時間には余裕があった。
これから何をするか決めていたわけではない。ここで変な騒ぎを起こされても困るので、
中学生たちの申し出を受け入れることにした。
「いいですよ。ただし、他の人には内緒ね」
「わかりました。ありがとうございます」
あさ美の言葉に中学生たちは笑みを浮かべた。
- 240 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時19分15秒
- 「なるべく早くしてくださいね」
「はい」
中学生たちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「すごい・・」
あさ美は目を丸くした。2人が手にしたカメラは本格的なものだった。プロが使ってそうな
カメラである。価格がどれくらいするのか検討もつかなかった。それよりも、中学生がこ
んなカメラを持っていること自体が驚きだった。
「あれっ?」
よく見るとどこかで見たことがあるカメラだったが、どこで見たかは思い出せなかった。
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は昔の雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
カシャッ
「すごい、すごい」
「TVで見るより小柄なんですね」
「かわいい」
中学生たちは楽しそうに撮影を続けた。
- 241 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時21分04秒
―誰なんだろう・・―
あさ美は首を傾げていた。ときより中学生たちの会話を聞いていると自分たち以上に娘の
メンバーにしかわからないことを話っていた。その場にいないとわからないようなことも
あった。しかも、メンバーの友達や親戚にここまで詳しいことを知る人物がいるとは到底
思えない。もしかしたらストーカーまがいの知り合いがいるのか、そんなことを予想して
いくと知らず知らずのうちに背中に寒気が走るのだった。
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「紺野さん、かわいいですね」
「そう・・」
「ほんと、頭も良くて・・うらやましいです」
「そうでもないよ」
お世辞でもほめられるとうれしいものであるが、半分は社交辞令みたいなものだと割り切
っていた。
- 242 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時22分45秒
「そろそろ終わりにしませんか」
「もう少しいいですか?」
「私も用事があるので・・」
「もう少しだけ、お願いします」
「・・・」
中学生の言葉にあさ美の表情も険しくなっていく。
―おやっ?―
あさ美は中学生の持っているカメラの傷に目がいった。
「あのぉ、カメラ見せてくれない?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、そのカメラが圭のものであることがわかった。
「なんで保田さんのカメラといっしょなの?」
傷を指差しながら、中学生たちに尋ねた。
「やっと気づいたんだ・・」
「鈍いね」
中学生たちはそれが当然かのように応えた。
「ちょっと待って!あなたたち誰?」
あさ美は二人の言葉に即座に反応した。
「紺野も、こういうことには鈍感だよね?」
「ちょっと、どういう意味?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、これがギャップってやつなんだろうね」
「何を言ってるんですか?」
馬鹿にしたような言葉にあさ美の両拳が震えている。
「しょうがないね・・」
「教えてあげるよ」
カメラを置くとゆっくりとあさ美を見て微笑んだ。
- 243 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時24分22秒
- グッ、グッ・・
「うっ・・」
あさ美は顔を両手で覆った。指の隙間から怖いものを見るように覗き込むとなんと髪の毛
の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮がぐっと伸びるではないか。気持ち悪いの一言だっ
た。そして、皮がちぎれ、その隙間からまた顔が見えた。そこにははっきりと見覚えのあ
る顔があった。
「後藤さんに吉澤さん・・どうして・・」
先ほどまでの勢いはなかった。声のか細いトーンが今の気持ちを表していた。
大まるで狐に騙されたように、視線は宙を彷徨っていた。
口はぽかーんと開いたままだった。
「紺野、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
しかし、時間とともに落ち着きを取り戻すと怒りがこみ上げてくる。
「あのぉ・・後藤さん、吉澤さん、どういうこと」
あさ美は大声で叫びながら、血相を変えて真希とひとみのほうに近づいていく。
しかし、真希とひとみは何事もなかったかのように会話を続けていた。
- 244 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時25分08秒
「紺野、かわいい」
「うん、怒っているようには見えないよ」
「いい加減にしてください!!」
あさ美の怒りは増すばかりだった。握った拳が震えていた。
しかし、あさ美の怒りも言葉も2人には届くことはなかった。
カシャッ
ゴォーーーザザァーー、ゴォーー
シャッターを切る音と池の水が上空に舞い上がる音が重なった。
「うそっ・・」
大きな水の塊が空を覆う。
そして水があさ美たちを襲う。
「きゃあーー・・」
叫び声とともに目の前が暗闇で覆われた。
突然の変化に動揺を隠せないあさ美。
必死で水面へと浮かび上がろうとするが体は沈んでいく。
- 245 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時26分00秒
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 246 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時26分53秒
あさ美が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。自分の背後には草原が見えた。
そして、視線を上に向けたときだった。
「きゃぁーーー!」
あさ美は思わずかがみこんだ。鏡には無数の蛇が映っていた。
しかも、すべての蛇が大きく口を開けていた。
「どうして・・」
必死に足を動かすがまったく前にも後ろにも左右にも進まない。
1,2匹ならすぐに何らかの対応できるだろうが、そんなことを考える余裕すらない。
予想もできない状況に、ただ慌てふためくだけだった。
「まだ・・」
あさ美は再び鏡を見た。すでに落ちてきてもいいはずの蛇が落ちてこない。ゆっくりと上
方に視線を移すと、ゆっくりと落ちてきていた。スローモーションを見ている感じだった。
学校で習った重力の話は一体本当なのかと疑ってしまう。
シャーーー、
蛇の息遣いがかすかに聞こえる。蛇が近づいているのを実感していた。
- 247 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時27分54秒
―早く、逃げなきゃ―
焦りは募る一方だ。
「あぁ・・どこか逃げ道は・・」
上下を見れば左右に、左右を向けば上下に伸びる直線しか見えない。後ろを向けば真っ白
な壁だけしか見えない。しかも、鏡に映った草原さえもない。自分がどこにいるのかはわ
からなくなった。どこでもいいから逃げ場所を探すがどこにもそんなものは見当たらない。
あさ美の焦ってる様子を楽しむかのように蛇が迫ってくる。聞きたくもない蛇の息遣いが
はっきりとわかるようになってきた。背中に大量の汗が流れるのがはっきりと実感できる。
「止まって」
必死の叫びもむなしく響くだけだった。
じわじわと迫ってくる恐怖ほどいやらしいものはない。
無数に伸びる舌が小刻みに動く。
必死で追い払おうとするが、怖くて手が伸ばせない。
- 248 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時28分46秒
「後藤さん!吉澤さん!」
思い出したように2人の名を呼んだ。2人がどうなっているのか気になった。もうどこか
に逃げているかもしれない。もしそうであれば、助かることができるかもしれない。返事
を聞き逃さないように耳に神経を集中するが、肝心の返事が返ってくることはなかった。
「後藤さん!吉澤さん!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと小さくなっていく。
だんだんと体が小さく丸まっていく。
- 249 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時29分20秒
状況は刻一刻と最悪の一途を辿っていた。
だんだんと近づく蛇の群れ。大きく開けた口の中で牙が怪しく光る。
「助けて!来ないで!」
必死に叫び声をあげる。むろん、蛇にわかるはずがない。
ただ助かりたいという思いだけで必死に声を絞り出す。
蛇が襲い掛かる場面が脳裏に浮かぶ。
体中に鳥肌が立つのがはっきりとわかる。
「助けて!きゃーーーーー!」
絶望の悲鳴が響いた。
それが最後の声だった。
- 250 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時29分55秒
「アハハハーーー、面白い」
「うん、この表情が最高!」
「やっぱり、独特の雰囲気だよね」
「うん、ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 251 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時30分54秒
「次、誰にする?」
「誰でもいいよ!」
「じゃ、お姉さんにしようか・・」
「いいねぇ!早く行こう!」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
- 252 名前:池3 投稿日:2003年08月05日(火)14時31分34秒
恐怖にひきつる7枚の写真が重なっていた。
- 253 名前:M_Y_F 投稿日:2003年08月05日(火)14時32分11秒
今日はここまで
- 254 名前:M_Y_F 投稿日:2003年08月11日(月)23時18分55秒
- 仕事が忙しくなってきましたので
1ヶ月ほど更新できません。
- 255 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時23分51秒
「あぁ〜、疲れた」
真希はベッドの上に寝転ぶと、TVのスイッチを入れた。
カチカチとチャンネルを変えるが面白い番組は何もやってない。
TVを消そうとした瞬間、見たことないオープニングが映った。
「ニュースシリーズ ハロニューマン・・何?」
真希は思わず首を捻った。
新聞のTV欄を見るが、“ハロニューマン”なんて文字はない。
―どんな番組なんだろう―
真希はしばらくその番組を見ることにした。
- 256 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時24分45秒
- とある横浜の山下公園である。ここに突然サーカスの大型テントが建っていた。
テントの前では、3人の女性が呼び込みを行なっていた。
「はーい!今日から始まるセカンドサーカスだよ」
「見なきゃ損するよ。世界最高のサーカス、セカンドサーカスですよ」
「いつもは1万円のところを今日は5千円でどうだ」
しかし、テントに入る客は誰もいなかった。ところが呼び込みを始めて1時間ぐらいする
と次々と男性ばかりがテントの中に入っていく。3人の女性は、元気の良さと、かわいい
笑顔と、そして不気味さで呼び込んでいたのだ。
- 257 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時25分39秒
梨華とあさ美は偶然そのテントの前を通った。
「ちょっと怪しくありませんか?」
「そうね・・」
あさ美の言葉にテントの入り口に目をやる梨華だった。
入り口には誰もいなかった。
「紺野、見に行ってみようよ!」
「でも、お金ないですよ」
「私もよ。でも誰もいないからただで入れるでしょう」
梨華は明るく言い放った。
「これが正義の味方がすることなんですか?」
梨華の言葉にあさ美は突っ込んだ。
梨華にすれば耳の痛い言葉だった。普段から正義の味方と自負しているものとしては何の
言い訳もできないが、世界最高峰のサーカスは見てみたい。
「紺野、世界最高のサーカスが一万円から五千円になんておかしくない?」
「お客がいないからじゃないですか?」
「でも、普通はTVとか新聞で広告するでしょう?
だったら、こんなことはしないはずよ」
「そうですよね・・」
「しかも、男性しかいないのよ。
普通サーカスとかなら、子供とか女性がもっといるはずよ」
「わかりますけど・・」
「きっと、何かあるはずよ・・さぁ、行くわよ」
「はぃ・・」
あさ美は納得できないまま梨華の後をついていく。
二人は堂々と入り口からテントの中に入っていった。
- 258 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時26分18秒
「さぁ。これからサーカスが始まるよ」
「まずはちょっとした手品から」
「注目して」
梨華とあさ美の目に3人の女性が目に映った。
一人目は金髪で背の小さな女性だった。ちょっと化粧が派手な女性は一見すると子供にし
か見えない。ここではすべてを仕切っていた。
二人目は茶髪で丸顔の女性だった。明るくはじけた感じで、他の二人に対して毒を吐きま
くっていた。
三人目は黒髪で、ちょっと頬のえらの部分が張った女性だった。口元のほくろが印象的で
客に愛嬌(?)を振り撒いていた。
- 259 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時26分48秒
3人の女性は顔を見合わせるとカウントダウンを始めた。
「3・2・1・0」
フワッーー、バサッ・・
3人の掛け声とともにテントが天井が降ってきた。突然のことに会場は混乱に陥った。あ
まりのことにお互いに怪我がないかなど気遣う観客達。ある程度時間が経つと焦点はあの
3人へと集るはずだったが、その姿はなかった。しかも、時間が経っても一向に現れる気
配もなかった。観客達も異変に気づいてざわつき始めた。
「どうなってるんだ?」
「騙したのか!」
「責任者出てこい」
観客の怒号が飛び交うが既に後の祭りだった。3人の姿はどこを探しても見当たらない。
騙されたことを割り切った観客が一人減り、二人減り、そして全員が去っていった。
- 260 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時27分27秒
- ほとぼりが冷めた頃、梨華とあさ美はさきほどまでサーカス会場だった辺りを調べ始めた。
あさ美はちょっと蓋の浮いたマンホールを見つけた。
「石川さん、こんなところにマンホールが、しかも蓋が!」
「ここから逃げたかもしれないわ!行くわよ!」
梨華とあさ美はマンホールの中を進むと古びた工場の前にたどり着いた。
慎重に辺りをうかがいながら、工場の中に潜入した。工場内はほこりをかぶった機械が置
いてあるだけで他には何もなかった。工場場内の一室に明かりが灯っていた。梨華とあさ
美は気づかれないように部屋の前にきた。
- 261 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時28分12秒
3人の会話が聞こえて来た。
「ねぇ、紗耶香、誰から?」
「ワダダベェーだよ、圭ちゃん」
「なんて、書いてあるの?」
「えっと・・髭を生やした赤ぶち眼鏡の老人がモーニング・ストーンを知ってる。
しかも赤と黒のチェックのシャツが目印・・名前はブラウン・・だってさ、
真里っぺ・・一人だけ知らないって顔しないでよね」
「あまり面倒なことはやりたくないんだけどさ」
「はぁ〜、早くモーニング・ストーンを手に入れて、さっさと世界征服だね」
その言葉を聞いた瞬間、梨華達の顔色が変わる。
「何てこと!」
「落ち着いてください」
すぐにも飛び出しそうな梨華を必死に押さえるあさ美であった。
- 262 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時29分17秒
「でも、そのおじいさんって何処にいるの?」
「居場所がわからないとどうにもならないね」
紗耶香と圭の目が真里へと移る。
「パリかな・・」
「パリ?」
「なんでパリなの?」
真里のぽつりと漏らした言葉にすばやく反応する紗耶香と圭だった。
「うん・・ワダダベェーからもらった本に自由のための革命の勇士のことが書かれていた
んだよね。その勇士がナポレオン・・だったらフランス、パリかなって」
「そうか・・だったらパリに行こう!」
「圭ちゃん、公私混同はだめだよ・・」
「紗耶香、ばれてた?」
「だって、目の輝きが違うよ」
「紗耶香もね・・」
「あぁ〜、ばれてたのか・・アハハハハーー」
3人はその場を立ち、部屋の扉へと近づいた。
「ヤバイ」
慌てて隠れる梨華とあさ美だった。
- 263 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時30分11秒
ガチャ!
扉が開くと真里達は何処かへと走って行く。2人はその後を追っていくと、3人は地下へと
潜った。
しばらくすると工場の床と屋根が静かに開いていく。二人はそれを黙って見ていた。そし
て地下の極一部の様子が見えた。
「これは・・」
「すごい・・」
地下にある設備に目を奪われた。地上とはまったく比べものにならないほどの機械とコン
ピューターがずらりと並んでいた。
ゴォーーーー
見慣れない1台のメカが上空へと飛びだって行く。2人は激しい音と風に耐えながらその
姿をずっと見ていた。
「紺野、戻るわよ」
「はいっ」
2人は急いで自分たちの家へ戻った。
- 264 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時31分30秒
ここは、梨華とあさ美の家である。
「紺野、このままあいつらに好きなようにさせてはいけないわ」
「はい」
梨華の言葉にあさ美は力強く頷いた。
「今こそ、ハロニューマンの出番よ」
「えっ、・・ハロニューマンって・・」
「私が名づけたのいいでしょう?」
「いいえ・・もっといい名前があると思うんですけど・・」
「例えば、どんなの?」
「ハロプロワイドマンとかオジャマルシェマンとか・・」
「ちょっと名前が長すぎるわ・・もう時間ないから、今日はハロニューマンで行くわよ」
「はっ、はい・・」
あさ美の声が小さくなる。
- 265 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時32分01秒
「そんなんじゃ、世界の平和は守れないわよ!」
「あっ、はい・・」
「やっと紺野の作ったハロニューワンが役に立つわね」
「それって何ですか?」
「紺野が作ったロボットの名前よ」
「えぇーー、すでに名前は考えていたんですけど・・」
「どうせ食べ物の名前でしょう・・いいじゃない、行くわよ!
それと私がハロニューマン1号で紺野が2号ね!」
「はい」
あさ美は仕方なしに返事を返す。
ハロニューワンとはあさ美が作ったロボットで高さ5M、全長20Mほどのダックスフン
ドをモチーフにしたロボットだった。顔は茶色で、体はピンクとホワイトのツートンカラ
ーである。本来なら淡いブルーとホワイトのはずだったが梨華の強引な意見に押しきられ
たのであった。
- 266 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時33分35秒
梨華はあさ美を横目に、ハロニューワンの前に立った。
「チャオーー」
梨華は叫びながら、着ているものを脱いで上に放り投げるとピンクのレオタード姿となっ
た。バスト、ウエスト、ヒップにかけてのセクシーなラインがあらわになる。着ていた服
が上空でピンクのつなぎへと変わる。両手を挙げた梨華はつなぎを身にまとうと赤の帽子
と覆面をかぶった。
「チャオー」
その顔に笑みが溢れる。
「紺野!あなたもよ」
「はい」
梨華の迫力いや執念(?)に観念したのか、あさ美もハロニューワンの前に立った。
「チャオーー」
あさ美は叫びながら、着ているものを脱いで上に放り投げると白のレオタード姿となった。
バスト、ウエスト、ヒップにかけてのキュートなラインがあらわになる。着ていた服が上
空でピンクのつなぎへと変わる。両手を挙げたあさ美はつなぎを身にまとうと白の帽子と
覆面をかぶった。
「チャオー」
その顔はやけになった表情だった。
- 267 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時34分46秒
「今日が記念すべきハロニューマンのデビューの日よ!
ハロニューワン、出動よ。目指せロンドン!」
「ワン!」
右側に1号が、左側に2号、頭の上にアイボンを乗せてハロニューワンが走り出した。
アイボンとはあさ美が開発した解析や偵察を目的とした小型サイコロメカである。
街中を走るハロニューマンは注目を浴びた。けたたましくなるサイレンに突如現れた大き
な犬型ロボット、これで注目を浴びないわけがない。笑顔を振り向く1号に対して2号は
恥ずかしさのあまり下を向いていた。
「動いた、動いた」
ハロニューワンの頭の上ではしゃぎまくるアイボンの姿があった。
- 268 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時35分40秒
パリのとある一角。
赤と黒のチェックのシャツを着た老人が歩いていた。しかも、白髭を生やし、赤の太ぶち
眼鏡をかけていた。そのおじいさんの元に3人の女性が声をかけた。
「ねぇ、おじいさん。ブラウンさん」
「そうじゃが・・」
「モーニング・ストーンって知ってる?」
「そんなの知らんぞ!それにお前らなんか見たこともない!」
「嘘言ってもだめや。ちょっと来てもらうわよ」
3人はおじいさんを両脇から挟むと強引に連れ去ろうとした。
「ラララーー♪、ラララーー♪、ラララーー♪」
突然、3人の耳に聞きなれない歌声が聞こえてきた。その歌声は苦しみへと変わる。
- 269 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時37分18秒
「やめて!」
「耳が・・!」
「誰だよ、騒音公害だぞ」
3人とも耳を塞ぎながらその場にうずくまった。そして、捕らわれていたおじいさんまで
も苦しんでいた。おじいさんの足元にアイボンが現れた。
「おじいさん、これを耳につけるといいとよ」
アイボンに渡されたものを耳につけるとさっきまでの苦痛が嘘のように消えた。アイボン
はおじいさんをハロニューマン達の元へと連れて来た。
「ありがとう、アイボン!おじいさん大丈夫?」
1号が歌うのを止めた途端、3人が立ち上がった。
「おじいさん、大丈夫ですか?」
1号の言葉におじいさんは何も反応しない。いや、聞こえてないようだった。
「すみません」
2号が1号とおじいさんの間に割って入るとおじいさんのところに行くと耳からあるもの
を取り出した。
「何、それ!」
1号が2号を睨みつける。
「耳栓です」
「2号、どういうことなの!説明しなさい」
あまりの剣幕に対して2号は落ち着いて答える。
「だって、あまりにもひどいので・・」
2号はおじいさんと足元がおぼつかない3人を指差した。
「あっ・・」
それ以上、1号は何も言えなかった。
- 270 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時38分11秒
「あぁ、最悪だよ・・」
「まじっすか、あんな歌よく歌えるね」
「ところで、あんたら何者?」
頭を押さえるような格好の真里と紗耶香を横目に圭が尋ねた。
2人は横に並んで、互いに背中合わせになった。
「チャオー、ハロニューマン1号、ただいま参上」
右手でL字を作りながら微笑んだ。
「チャオー、同じく2号、華麗に参上」
両手でL字を作って微笑みながら、1号の前に立った。
「なんで私までやるんや・・アイボン、いやいやながら参上」
両手でハートを作って2号の前に立った。
「私達は正義と平和を守るハロニューマン!」
1号と2号が両手を大きく広げた。
「はぁ〜、なんか変なのが現れたよ」
「何がハロニューマンだ!下手な歌聞かせやがって」
「ヒーローものなら日本でやれよ。聞いた私が馬鹿だった」
「それでさ・・」
3人の視線はハロニューマンに向かずに既に身内の会話に夢中になっていた。
- 271 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時38分54秒
- 「ひどーい、せっかくいいところだったのに」
「どこがですか・・めちゃめちゃ恥ずかしいです」
1号の言葉に静かに突っ込む2号だった。
「2号も・・ちょっと、あなたたちモーニング・ストーンを奪って何するつもり」
怒り口調(?)で叫んでみるが、3人にはまともに聞こえてなかった。
「もう、うるさいなあ!圭ちゃん、紗耶香、メカで勝負つけるよ」
真里がコントローラーを取りだすと、すかさずメカが現れた。すかさず乗り込む3人の姿
があった。
「あっ、まだ早いのに・・」
「いきなりですか・・」
「うっ」
展開の速さに驚く戸惑うハロニューマン達だった。
- 272 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時39分38秒
- 「あんな歌、2度とごめんだ」
カチッ
真里がスイッチを押すとミサイルが次々と発射されていく。
ドカン、ドカン、ドカン
「わぁーー」
「危ない!」
慌てふためくハロニューマン達。
ドシン・・
集中砲火に耐えきれずにハロニューワンが右に倒れた。
「いい気味だ」
「さすが真里っぺ、天才だ」
「そうでしょう!」
自慢げに胸をはる真里がいた。
- 273 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時40分22秒
真里の気持ちを知ってか知らずか、操縦盤の真ん中に一枚の板が下から上がって来た。
そして、コックピットの右手より小さい羊が現れた。そして、重い足取りで壁へと走った。
タッタッタタタタッタ・・、ピョーン
羊がジャンプして、壁にひっつくと、壁をよじ登って、最高点までたどり着いた。
「“ひ辻”おだてりゃ、壁登る!メェーー」
そのまま、羊は板とともに操縦盤の下に消えた。
「今の何?」
「ホントに天才なの」
圭と紗耶香が思わずつっこむ。
「それは・・」
何も言えずに伏し目がちになる真里であった。そんな時変化が起こった。コックピットが
暗くなると、コックピットの右にステージが現れ、下から髪の長く目が大きい女性型ロボ
ットが出て来た。照明がそのロボットに当ると、ロボットは顔を上げて、目を輝かせた。
「ねぇ、笑って」
その一言を言い終わると、そのロボットはステージの下へと消えた。
「・・」
気まずい空気がコックピットに漂う。
- 274 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時41分36秒
思わぬ先制攻撃にあったハロニューマン達は倒れたハロニューワンを心配そうに見ていた。
「こうなったら・・」
1号が後ろのポケットから大きな骨を取り出した。
「ほら、ハロニューワン!メカの素よ」
大きな骨が1号の手からハロニューワンに投げつけられた。
「アーン、ムシャムシャ・・ゴクン」
ハロニューワンが骨を食べ終わると目が光った。
「効いた〜!ハッピーな目覚めーー」
カチャ
胸の部分が開くと、小さなロボットの鼓笛隊が現れた。
ファンファーレが鳴り響く。
ドン、ダダダッダダダ・・、ドン!
「今週(?)のびっくりどっきりメカ発進! アーーン」
ハロニューワンが口を開くと階段らしきものが口から出て来た
「コーン、コーン、コーン、コーン・・」
「コーン、コーン、コーン、コーン・・」
そして、掛け声と一緒にトウモロコシの形をした小型ロボットが多数降りてくる。
「何が始まるの?」
「弱そうなメカだよね」
「あれで戦う気じゃないよね?」
3人は首を傾げていた。
- 275 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時42分25秒
そのときメカのコックピットが暗くなると、コックピットの右にステージが現れ、下から
髪の長く目が大きい女性型ロボットが出て来た。照明がそのロボットに当ると、ロボット
は顔を上げて、目を輝かせた。
「ねぇ、笑って」
その一言を言い終わると、そのロボットはステージの下へと消えた。
「・・」
呆気にとられる3人の間にまたもや気まずい雰囲気が流れる。
気まずい雰囲気を打ち破ろうと圭が真里に質問する。
「相手が小型ロボットだしてきたけど、どうする?」
「おいらは天才だよ、見ておいてよ!」
真里がスイッチを押した。
- 276 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時43分38秒
ギィーーーー、ガチャン、ガチャン
腹部の扉がひらくとはしごが地面へと降りて、小さな黄色い立方体のロボットが無数降りて来た。
「バター、バター、バター、バター、バター、バター」
「バター、バター、バター、バター、バター、バター」
その声の通りバターの形をしたロボットだった。
「まじっすか!」
「まさか、同じようなメカを出すとは・・」
自信溢れた表情を浮かべる真里に対して、紗耶香と圭はがっくりと肩を落としていた。
- 277 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時44分50秒
トウモロコシとバターが横一線に並んで睨み合う。
「コーン!」
「バターーー!」
トウモロコシとバターと戦いが始まった。
トウモロコシが宙に舞うと次々とバターをぺちゃんこに潰していく。バターは何もせずに潰されるだけだった。
「真里っぺ、大丈夫?」
「これぐらいは予想してたよ!慌てずに見てて、紗耶香」
紗耶香の不安げな表情に対して真里は余裕の笑顔だった。
トウモロコシはバターを潰すと次々とこちらにやってくる。紗耶香の顔が引きつってくる。
「ほら、そんな顔しないで」
カチッ
真里がスイッチを押すと地面に亀裂が入った。その亀裂にトウモロコシが躓く。
ステン! ツルン! ツゥーーーーー
トウモロコシはバターの油脂を十分に含んでおり、こけるとそのまま滑って止まることができない。
ガン、ガン、ガン・・ドカン、ドカン・・
トウモロコシは次々とぶつかって互いに爆発を繰り返していった。
- 278 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時45分49秒
- 「天才だ・・すごいなあ」
「ちょっと止めてよ」
興奮した圭が真里に抱きつく。さらに真里に向かって唇を尖らせている。
操縦盤の真ん中に一枚の板が下から上がって来た。そして、コックピットの右手より小さ
い羊が現れた。そして、重い足取りで壁へと走った。
タッタッタタタタッタ・・、ピョーン
羊がジャンプして、壁にひっつくと、壁をよじ登って、最高点までたどり着いた。
「“ひ辻”おだてりゃ、壁登る!メェーー」
そのまま、羊は板とともに操縦盤の下に消えた。
「これがなければ、最高だけど・・ねぇねぇ、圭ちゃん!トウモロコシ1個しかないよ」
「ほんとだ!これで勝ったかな」
「えっへん!おいらの天才ぶりがわかったか!!」
3人は目の前の光景に勝利を確信していた。
- 279 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時47分17秒
バターがただ1台ジャガイモを徐々に追いつめていく。
「バター、バター、バター、バター・・」
バターの声が一段と大きくなっていく。
「どうなるの、2号」
「さぁ、私にもわかりません」
焦りまくるハロニューマン1号に対して、2号の顔には余裕が見られた。
「とどめだ」
真里がスイッチを押そうとした瞬間だった。
「ワダダベェーだ!待て!」
突然、コックピット内に男の声が聞こえた。
「いきなり声かけてこないでくださいよ」
「悪い・・」
「もうとどめさすから、話は後にしてくれませんか?」
「いやぁ・・1号をもう少し見ていたいんだ」
「このエロ親父!」
「あんたが一番公私混同してるじゃん」
「何か言ったか?」
「いいえ、別に・・」
ワダダベェーのわがままに3人は顔を伏せた。
- 280 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時48分16秒
「これを」
「アーン」
1号は再びメカの素をハロニューワンに投げつけた。
そして、ハロニューワンの口から1台の鍋型ロボットが降りて来た。
「お鍋、お鍋、お鍋、お鍋、お鍋・・」
鍋のなかには沸騰したお湯が入っていた。
「お鍋――」
「コーン」
チャポン・・ボコボコボコボコ・・
トウモロコシは鍋の中へと飛び込むと、3分ほど沸騰したお湯の中に入っていた。
その間はバターも小休止していた。
- 281 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時49分03秒
「フゥーー」
トウモロコシが鍋から出てくると、全体に湯気が立っていた。
「コーン!」
先ほどと一転して気合のかかった声とともに攻撃に出た。
「バターーー」
トウモロコシの気合に呼応するようにバターが襲いかかる。
ジュッーー、ドローー
トウモロコシはバターの攻撃を全体で受け止めると、バターは解けて次々とトウモロコシ
に吸収されていく。最後の1台となったトウモロコシをやっつけることができない。
次第にバターの声が小さくなっていく。
「すごいわ、2号」
さっきまで焦っていた1号も嬉しさのあまりキャッ、キャッ騒ぐ。
バターがトウモロコシの上で溶けていくのをただ見ていることしかできない3人であった。
気がつけばバターはすべてトウモロコシに吸収されていた。コーンバターと化したロボッ
トは勢いよく向ってくる。
- 282 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時49分56秒
トウモロコシがメカ内部に侵入した。
トウモロコシは吸収してきたバターをメカの各部に撒き散らす。
キィーー、スルッ、カチャ、スルッ・・
メカ内部の歯車がかみ合わなくなってきた。
なんとか今の状況を打開できないかと紗耶香と圭が矢口に策を聞く。
「やられ放題のまま?」
「何か対策はないの?」
「ないよ、こうなるって予想できなかっただもん」
3人の会話を嘲笑うかのように、目の前にトウモロコシが現れた。
「あっ!」
一瞬、3人の息が止まった。
トウモロコシは3人を見て微笑むと操縦盤の上に転がった。
ボン!
トウモロコシが爆発すると、コックピット内は煙で一瞬包まれた。
「ゲホッ、ゲホッ・・」
「・・目に染みる」
「・・バカーー、こんなところで爆発しやがって」
3人は黒ずんだ顔でお互いを見渡した。その顔はひどいものだった。
「おぇーー」
圭の顔を見た紗耶香と真里は思わず口に手を当てる。
- 283 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時51分17秒
ボン、ドン、ボン・・
メカの各所で大きな爆発が起き始めていた。
「矢口、もうだめだよね?」
「多分・・」
「どうして、こんな結果になるのさ」
「わかんないよ・・ワダダベェーさえ声をかけなければ勝てたのに・・」
真里は頭を抱えた。
そのときメカのコックピットが暗くなると、コックピットの左にステージが現れ、下から
バケツをかぶった女性型ロボットが出て来た。照明がそのロボットを照らす。
「I‘m crying、 cry・・、暗〜い♪」
周りを手探りで探るようなフリをすると、バケツをとり、3人のほうを向いた。
「フッ」
3人に対して軽蔑したような眼差しを送るとステージ下に消えた。
「なんや、あのメカ!頭にくる!」
「ホント!何考えてるんだよ!」
今にも爆発しそうなのに、そのことを忘れ怒り心頭の圭と紗耶香だった。
「ごめん。最後くらい明るくしようとしたんだけど・・」
真里の声がだんだんと小さくなる。しかし、爆発のときは迫っていた。
ボカーーーーン
大きな音とともに爆発を起こした。コックピットははるか遠くに吹き飛ばされ、後には
ドクロの形をした真っ黒い雲が漂っていた。
- 284 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時52分53秒
「やったわーー」
「やりましたよ」
ハロニューマン達は初勝利に感激していた。
「勝利のポーズ!」
「ホントにするんですか?」
「そうよ!それでもあなたハロニューマンなの?」
2号の恥ずかしそうな態度に1号は毅然とした態度をとった。
「わかりました」
2号は渋々と従う。
「気を取り直して、いくわよ! 勝利のポーズ」
1号と2号が腕を胸の前でクロスさせて背中を合わせて立つ。
「チャオーー!」
1号が首を左に傾けながら大声で叫ぶ。
「チャオーー!」
2号が腰をかがめて大声で叫ぶ。
「ハロニューマン!!」
1号の前に2号が膝をついて、その前にアイボンが移動する。そして、両手を大きく広げ
ながら、全員で声をそろえた。
「ハロニューワン」
ドスン!
続いて、ハロニューワンが叫んで、足を下ろすとハロニューマン達の身体が一瞬中に浮い
た。
「ハハハハーーーー」
勝利の余韻に浸るハロニューマン達であった。
戦い終わったハッピーマン達は“モーニング・ストーン”がどういうものかを見におじい
さんの家に向った。
- 285 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時54分55秒
おじいさんの家に着くと1号は早速尋ねた。
「あのぉー、モーニング・ストーンって知りませんか?
古くからあるものらしいんですけど」
「わしはモーニング・ストーンなんて知らんぞ」
「そうなんですか・・」
がっくり肩を落とす1号であった。
「そんなにしょげないで元気だしてください!」
2号が1号の肩を軽く叩く。そして、更に言葉を続けた。
「ここになかったということは他の場所にあるってことでしょう。今度はありますよ!」
2号がウィンクしてみせる。
「そうだね」
「それにあの変な相手にモーニング・ストーンは渡せないですよ!」
「そうね」
さっきまでの暗い表情が1号から消えて笑顔が戻った。
2号は1号が立ち直ったことにはほっとしたが、また探しに行くようなことを言って後悔し
ていた。
- 286 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時56分49秒
「二人とも、うちのこと忘れてない?」
そこには怒り口調(?)のアイボンが下から見上げていた。
「ごめん。すっかり忘れてた」
「私も・・でも、アイボンは今怒ってるの?」
1号の言葉にアイボンは両腕を激しく動かしながら言葉を続けた。
「○◎●×◇□■・・」
すごく早い口調に1号と2号は何を言ってるのかまったくわからなかった。
「元気でな!」
「ありがとうございました。さよなら、おじいさん」
「またお会いしましょう!バイバーイ」
パリの夕日に消えるハロニューマン達の姿があった。
- 287 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時57分55秒
そのころ、圭、真里、紗耶香の3人は自転車で草原の中を必死にアジトへ向っていた。
「何なの、あのメカは?」
「最初はすごいとか言って喜んでたじゃん」
「それとこれとは話しが違うだろ」
真里と圭が言い合っている。
「はぁ、疲れた」
紗耶香は2人の会話に口を挟む気力もなかった。
「お前ら、その様はなんだ!」
天からワダダベェーの声が降ってきた。
「ワダダベェー様!」
3人の口が揃った。
「あんな訳の分からん奴に負けると情けないな」
「ちょっと待ってよ!とどめさすの止めたのワダダベェー様じゃないか」
「うっ・・」
「おいらたちだけの責任にされるのは納得できない」
「・・」
真里の言葉にワダダベェーも反論できない。
紗耶香も圭も真里に同調して激しく文句をぶつけてきた。
さすがのワダダベェーもたじろいだ。
- 288 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時58分47秒
「うるさいぞ!お前ら、全員おしおきだ!!」
ワダダベェーは大声を上げた。ここで何らかの威厳を示す必要があった。
「まじっすか?モーニング・ストーンはどうなったんですか?」
「それはなかった」
「えっーー、それじゃただのやられ損じゃん」
「元々の情報が間違っていたんだから、お仕置きの必要ないじゃん」
「そうだ、そうだ!」
「うるさい、お前らのそういうところも直す必要があるんだよ」
「職権乱用だ!」
「セクハラだ!」
「痴漢だ!エロジジィだ!」
「いい加減にしろよ」
3人の後ろからは、どこからきたのかわからないがライオンの群れが迫って来た。
- 289 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)18時59分34秒
- 今回の処置に納得できない圭が口を開いた。
「ちょっと!真里っぺはともかく、何で私らまで」
「面倒くさい・・いや、お前ら3人いつも一緒だから同罪や」
「そんな・・」
自然と自転車のスピードが上がっていく。
「おいらは小さいから食べてもお腹一杯にならないよ、圭ちゃんか紗耶香がおいしいよ」
「私はぜんぜんおいしくないよ、圭ちゃんなら熟れごろでおいしいよ」
「そうね・・チュッって、違うでしょ!」
3人は自分だけは助かろうと考えているが、同じ自転車に乗っている限り無理な話しだった。
そんな事情に関係ないライオンさらに3人に迫ってくる。
必死に自転車のペダルを踏む3人。
「ワダダベェーーのアンポンタン!」
3人の悲鳴に近い叫びが草原にむなしく響いていた。
- 290 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)19時00分23秒
ハロニューマンは悪があるかぎり世界のどこにでも行く。
今日は東に、明日は西に、明後日は?
モーニング・ストーンを悪の手から守れ!
頑張れ、僕達の、私達のハロニューマン!
- 291 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)19時00分58秒
カチッ
TVのスイッチがオフにされた。
「アハハハーー」
腹を抱える真希の姿があった。
- 292 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)19時01分58秒
笑えたのもほんのわずかな間だった。
―どうして、こんな番組が流れるの?―
真希は首を捻った。
- 293 名前:束の間の休息 投稿日:2003年09月02日(火)19時03分12秒
ヒラヒラ、ヒラヒラ
手の持っていた7枚の写真が床に落ちた。
- 294 名前:M_Y_F 投稿日:2003年09月02日(火)19時03分48秒
今日は、ここまで
- 295 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:30
-
ドタドタ、ドタドタ・・
「はぁ・・はぁ・・おはようございます」
静かな廊下を息を切らせながら走っていく。
「今日も遅刻だよ」
その顔に悪びれた様子もなく笑顔を浮かべていた。
「えっ・・・こっちじゃないの・・馬鹿・・」
ドタドタ、ドタドタ
いつもの場所と思っていたら違っていた。
―誰か教えてくれてもいいじゃない―
慌しく廊下を駆け抜ける足音だけが響く。
―やっと着いたよ―
肩で大きく息をしながら、気分を落ち着ける。
- 296 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:31
-
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くがまったく返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
「おはようございます」
もうメンバーが来ているか部屋中を見渡すが、いないどころかまだ誰も来てない様だった。
「ふぅーー、間に合った・・急いで損したよ」
なつみは大きく深呼吸をすると奥の椅子に座った。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜」
渇いた喉に潤いが戻ってくる。
- 297 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:32
-
「最近忙しすぎるべさ・・」
部屋に誰もいないせいもあって思わず愚痴がこぼれてしまう。いつものハードスケジュー
ルに疲労が蓄積されていく。いくら健康グッズに凝っているとはいえ、疲労を完全にとる
とまではいかない。おまけにソロだ、分割だと覚えることばかりが増えていく。昔は楽に
こなしていたことでさえ最近は苦になることもある。昔よりも自覚が出てきたせいか肉体
的なものよりも精神的に辛くなる日々が多くなっていた。
- 298 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:34
-
5分ぐらい経ったであろうか、まだ誰も来る様子はなかった。時計に目をやるとすでに集
合時間は過ぎていた。マネージャーぐらい来てもいいはずだ。ただ、ゆっくりできる時間
は欲しい。誰か来るまでのんびりしていようと決めた。
―おやっ?―
なつみは机の下に写真が落ちているのに気づいた。
「アハハハハーーー、何?何なの?」
写真を拾い上げたなつみは思わず笑ってしまった。
―圭ちゃん、最高だべ!彩っぺまでいるべさ―
写真を次々と見ていく。
それぞれの滑稽な姿になつみは笑い続けた。
それぞれの瞬間を生で見たかったかというのが実感だった。
- 299 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:36
-
コンコン、コンコン・・
「はいっ」
現実の世界に戻すかのごとくドアを叩く音が響く。
ドアの方を見るとスタッフの一人が立っていた。その顔は怒っているようにも見えた。
「安倍さん、時間過ぎてるので急いで写真撮影お願いできますか?」
「えっ・・他のメンバーは?」
「もうメイクが終わって、撮影に入ってます」
「嘘っ・・・やばいべ」
なつみの表情が変わる。遅れた上に、こんな写真見てくつろいでいたとは誰にも言えない。
急いで荷物をまとめようとするが、焦って思うように進まない。なんとか荷物をまとめる
と急いで控え室を出た。
控え室の机の上には写真が7枚残されていた。
- 300 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:37
-
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
なつみは挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。そこにはすでにメンバーがメイクを
終えたことを告げるようにメイク道具が整理されていた。
―急がなきゃ―
なつみは急いでメイクをはじめた。ベースは自分でやるのである。鏡に映る自分の顔を見
ながら、相変わらずの変顔してるなと再認識しながらメイクを進めていく。
- 301 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:38
-
「おはようございます、お願いします」
「おはようございます」
なつみはスタジオに入ってきた。すでに撮影を終えたメンバーは別の場所に移動していた。
メンバーに謝ろうとしたが、撮影が先である。あたふたしているなつみの前にカメラマン
が現れた。どこかであったことのある感じがした。しかし、帽子をかぶっているせいとサ
ングラスで顔ははっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにショートカッ
トである。なつみはその人物とは別人であると判断した。打ち合わせもそこそこに撮影が
始まった。
- 302 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:40
-
カシャッ
フラッシュがたかれる。
どんな仕事でも気が抜けない。
カシャッ、カシャッ・・
カメラのレンズが被写体を捉えていく。
何度も体験してきたはずだが、このときばかりは緊張するものである。
「少し顔上げて・・」
カメラマンの指示に素直に従うなつみ。
「そのまま、左向いて」
特異な世界は続いていく。
―まさか・・―
なつみは先ほどから妙な違和感を感じていた。
「ほら、顔を上げたままで!」
カメラマンの厳しい言葉がなつみに浴びせられる。
「は、はいっ」
カシャッ、カシャ・・
撮影は続けられた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
30分ほどして撮影は無事終了した。
- 303 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:42
-
なつみは撮影が終わっても、心に引っかかるものがあってどうにもならなかった。
どちらにしても聞くには変わりない。失礼は承知でカメラマンに尋ねてみた。
「あのぉ・・人違いだったら申し訳ありませんけど、圭ちゃんじゃないですか?」
「・・・」
何も反応がなかった。なつみの顔が神妙な顔つきに変わっていく。
「そのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたか」
なつみの心配をよそにカメラマンの声は明るかった。
「ケメコ、ひどいべ」
「ごめんごめん、なっちも最近セクシーになったよね・・」
「そう?まあ大人の私も魅せないとね」
「でも、なっちにはあまりセクシーとか似合わないよね」
「ちょっと、それは言いすぎだべ」
なつみと圭の間に笑いが起こる。
「でもさ、なっちがセクシーになったからってあそこまでさせることはないんじゃない?」
「何さ、ノリノリだったじゃん・・
こっちが何も言わなくても足上げて太ももチラリとか、もうなっちの世界だったよ」
「えーー」
「まぁ、圭織にはかなわないけど」
「圭織と比べられても」
なつみは頬を膨らませた。
- 304 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:43
-
「なっちはセクシーというよりもかわいいだよね」
「圭ちゃん、突然何を言い出すの?」
「・・ん・・」
突然、なつみの唇を圭が奪った。
なつみは目を丸くして、圭を突き放す。
「止めてよーー、おぇーー」
そして、わざと吐き気をもよおすような姿を見せるなつみ。
「なんだよ、その態度」
「だって、心の準備というものがあるべ・・」
「もう1回してあげようか?」
「もういいべさ・・」
冗談ともとれない会話が進む。
「なっち、行かなきゃ・・」
なつみが歩き出そうとした瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。頭が妙に重くて立ってるのもままならなかった。
何が原因かまったくわからない。体の力が抜けていく。
「圭ちゃん・・」
力ない声でつぶやく。
―どういうこと?―
不敵な笑みを浮かべる圭の姿がだんだんと闇に消えていく。
なつみの意識も消えていった。
- 305 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:44
-
数日後
なつみは仕事が終わって自宅に戻ると母親から封筒が届いていることを知らされた。
自分の部屋で封筒を見ると、封筒には住所となつみの宛名だけが書かれていた。筆跡は圭
のものであった。どうせなら直接くれたらいいのにと思いながら封筒を開けると中には写
真が1枚だけ入っていた。真っ黒な背景にぽつんとなつみだけが写っていた。思わず首を
捻りたくなる写真だった。こんな写真撮った覚えがなかった。それだけに少し気味が悪か
った。
- 306 名前:写真8 投稿日:2003/09/13(土) 22:46
-
写真が届いたことを伝えようとするが連絡がとれない。
今度会ったときに写真のことを尋ねようと、そのままベッドに潜り込んだ。
しかし、写真のことを尋ねる機会がおとずれることはなかった。
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 307 名前:M_Y_F 投稿日:2003/09/13(土) 22:47
-
今日はここまで
- 308 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:20
-
「かわいいべさ、久しぶりに見た」
なつみは草原を走り回るキタキツネに目を細めていた。
なつみは一人地球岬灯台のふもとを歩いていた。ふと空を見上げれば八角形の白いコンク
リートの灯台に強い日差しが注いでいた。時期がずれているせいか灯台を訪れる人はあま
り見当たらない。吹き抜ける風が海の香りを運んでくれる。潮風に髪をなびかせながら灯
台の展望台へと登った。展望台には数えるほどしか人がいなかったが一人で楽しむにはこ
の上のない条件だった。少し寂しい気もしたが、プライベートもおちおちしていられない
なかでゆっくりできることは嬉しいことだった。Gジャンにジーパンというラフな格好で
手すりに両肘をついたまましばしのあいだ風に身を任せていた。
- 309 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:21
-
―すごい・・―
なつみは眼下に広がる景色に目を奪われていた。穏やかな波が岸壁にぶつかっていた。
そして、水平線に目を移せば地球の丸さを実感できる大パノラマが広がっていた。
それは雄大そのものだった。
地球岬灯台は「北海道の自然百選」や「新日本観光地100選」などで得票1位に選ばれた
景勝地にある絵鞆半島の最南端から太平洋に突き出た岬に立っている。地球岬の名前の由
来は、灯台の建つ断崖をアイヌ語で、ポロチケウェ(親である断崖)が語源ともいわれて
いる。運がよければイルカやクジラも見ることができる場所でもある。
- 310 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:22
-
―最高だべ・・―
なつみは物思いにふけっていた。普段の忙しさを考えれば、贅沢なときであった。
一人で来るにはもったない場所でもある。
――
「ねぇ・・」
「なに・・」
さりげなく肩を抱く腕。ゆっくりと腕に身を預ける。
「あのさぁ」
さりげなく迫る唇。
静かに目を閉じる。
心臓がドキドキしているのがわかる。
――
「あぁ〜、恥ずかしいべ。アハハハーー」
つまらない妄想を膨らませていては、一人で騒いでいた。
いつしか顔がほんのりと赤くなっていた。
- 311 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:23
-
ザパーン、ザパーーン
波の音をBGMに海を眺めていた。多くの人々が海に近いベンチに座っている中で、ちょ
っと離れた場所にあるベンチに一人座っていた。
ボォーーー
船が警笛を上げながら進んでいた。
船の上空をハヤブサが飛んでいた。
最強の翼を持つ猛禽類とは思えない姿だった。
何も考えることなく、ただぼんやりと景色を見ていた。
- 312 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:24
-
―どうなるんだろうなあ―
ちょっとだけこれから先のことが気にかかった。卒業は決まっているものの、その後につ
いては不安ばかりだった。念願のソロになったことはうれしいことであったが、その分責
任というものが両肩にのしかかってくる。そんな不安を吹き飛ばそうと叫んでみるのもい
いかもしれないと思った。眼下に広がる海の波は穏やかだった
「ハ・・・」
両手を口に添えて思わず立ち上がったのだが、目の前に人がいるのに気づいて恥ずかしそ
うに顔を伏せてそのまま座りなおした。顔が熱くなっていくのがわかる。
―危なかっただべ・・―
思わぬ失態に頭を抱えていた。
- 313 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:25
-
ザザーーザバーーン
突然、目の前に大きな波が迫ってきた。思わず後ろに下がる。
ザ、ザーーーザパーーン
次々と大きな波が眼下に押し寄せる。
波がなつみのところまでくることはなかった。
―びっくりしたべさーー!―
なつみはは胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんなに大きな波が押し寄せてくるとは思ってもみなかった。
「アハハハーー」
次の瞬間、なつみは笑っていた。いくら波が大きいとはいってもここまで来る大きさでは
なかった。あまりの驚きように我ながら呆れていた。
―変なことできないべさ―
なつみは頭をかいていた。
- 314 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:26
-
「あっ、なっちだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
「すみません、安倍なつみさんですよね」
「そうだけど」
声のする方を向くとそこには2人の女子大生がいた。
「ふぅー」
安堵のため息が漏れた。二人のほかには誰も見当たらなかったせいである。せっかくの時
間をファンとかに追い掛け回されるのもいやだったがその心配はしなくてよさそうだった。
相変わらず海辺周辺に座っている人々は自分たちだけの世界に浸っているようだった。
- 315 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:27
-
「お願いですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・」
なつみは辺りを見渡しながら考えていた。普段なら断るところだが、同性からファンの声
にはできれば応えてあげたいと思っていた。男性が圧倒的に多い中での女性ファンは貴重
な存在だった。見渡せば目の前にいる女子大生以外はいなかった。
「いいべさ」
「ありがとうございます」
なつみの返事に女子大生たちの表情に笑みが浮かぶ。
「なるべく早くしてね、周りにばれると面倒だからさ」
「はい」
女子大生たちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「すごい・・」
なつみは目を丸くした。最初は携帯かデジカメのたぐいだと思っていたが、2人が手にして
いたカメラは本格的なものだった。どこかで見たことがあるカメラだったが、どこで見た
かは思い出せなかった。人は見かけによらないものだと思った。
- 316 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:28
-
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
カシャッ
「すごい、すごい」
「やっぱり、生のなっちは違うね」
「かわいい」
女子大生たちは楽しそうに撮影を続けた。
―おかしいべさ・・―
なつみは首を捻っていた。女子大生たちの会話を聞いているとなつみたち娘のメンバーし
かわからないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあった。なつ
みは一体誰の友達なのか予想してみるがわからない。年齢的には自分たちとそれほど変わ
らない。圭織の友達かと思ったが、こんな友達がいるとは聞いたことがない。そもそもメ
ンバーから聞いたことにしてはあまりにも生々しいものだった。
- 317 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:29
-
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「なっちって、すごくかわいいですね」
「そう・・」
「ほんと、あこがれちゃいます。スタイルもいいし・・」
「そう?」
お世辞でもほめられるとうれしいものである。
レンズに向かって精一杯の笑顔を振りまく。
「そろそろ終わりにしたいんだけど」
「もう少しいいですか?」
「ねぇ、いいでしょう」
「えっ・・」
「だって、こんな機会ないですから」
「もっとなっちのこと知りたいなあ」
「ちょっと・・・」
女子大生たちは再びレンズを向けた。
―おやっ?―
なつみは女子大生の持っているカメラの傷に目がいった。
「あのぉさぁ、カメラ見せてくれない?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、そのカメラが圭のものであることがわかった。
「どうして圭ちゃんのカメラを持ってるだべ?」
なつみは疑問をそのまま口にした。
- 318 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:30
-
「やっと気づいたんだ・・」
「鈍いよね」
女子大生たちはそれが当然かのように応えた。
「ちょっと待ってよ、あなたたち誰なの?」
驚いたのはなつみの方だった。
いくら圭に友達が多いとはいってもこんな女子大生のことなど聞いたことがなかった。
「なっちも単純だよね」
「うん、いつまで経っても田舎臭さが抜けないよね」
「ちょっと、どういう意味だべ?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、これだから困るんだよね」
「くそっ!ほんと頭にくるべ!」
馬鹿にしたような言葉になつみの目がつりあがってきた。
「しょうがないね・・」
「教えてあげるよ・・」
カメラを置くとゆっくりとなつみを見て微笑んだ。
グッ、グッ・・
「うわっ・・」
なつみは両手で顔を覆った。なんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮がぐっと
伸びるではないか。気持ち悪いの一言だった。そして、皮がちぎれ、その隙間からまた顔
が見えた。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
- 319 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:31
-
「ごっつあん、よっすぃ・・どうして・・」
なつみの気の抜けた声が今の気持ちを表していた。目の前の出来事を受け入れるほど余裕
がなかった。人の中から人が現れるなんて映画とかでしか見たことがない。そこにいるの
が本物の真希とひとみだとはとても考えられなかった。
「なっち、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
なつみは口を開けたまま呆然としていた。
冷静でいること自体、無理な話だった。
しかし、時間とともに落ち着きを取り戻すと怒りがこみ上げてくる。
「ちょっと・・ごっつあん、よっすぃ、どういうだべ」
なつみは、血相を変えて真希とひとみのほうに近づいていく。
しかし、なつみの目はどこか怯えた感じだった。
「なっち、最高」
「怖がらせたら、一番だよね」
「いいかげんにするべさ!!」
なつみの怒りは増すばかりだった。
しかし、なつみの怒りが二人にぶつけられることはなかった。
カシャッ
ドォーーーザザーーン、ザバーーン
シャッターを切る音と波音が重なった。そして波がなつみたちを襲った。
「きゃあーー・・」
叫び声とともに目の前が真っ暗になった。
突然の変化に戸惑うなつみ。
必死で水面へと浮かび上がろうとするが体は沈んでいくのだった。
- 320 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:31
-
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 321 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:33
-
なつみが目を開けると正面には鏡らしきものがあった。そこには自分の頭上から黒いもの
が迫っていた。最初は何かぜんぜんわからない。鳥らしきものに見えたが、鳥にしては形
がぜんぜん異なる。
「わぁーーわぁーー!」
なつみは思わず身を伏せた。
「何で蝙蝠がいるべさ・・」
なつみはその正体がようやくわかった。蝙蝠はかわいい顔しているという人もいるが、ど
う見ても好きになれない。ときより見える牙が不気味さを増す。無数の蝙蝠に身もすくむ。
必死に足を動かすがまったく前にも後ろにも進まない。焦りだけが大きくなる。
バサバサ、バサバサ・・
蝙蝠が近づいてくるのが音でわかる。
背筋に冷たいものが流れる。
頭を抱えてしゃがみこんだ。
- 322 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:33
-
恐る恐る上を向いた。本当は見るのも嫌なのだが、どこか他のところに飛んでいってくれ
たらと甘い期待があった。
「やっぱり・・だめだ・・」
口大きく開けて迫ってくる姿はとても脅威だった。百匹以上はいるようだった。頭上は一
面真っ黒となっていた。白く光る牙がよりいっそうの恐怖感をあおる。左右を向くと直線
しか見えない。どこに逃げればいいか検討もつかない。
「うっ・・」
視線を正面に移すと鏡には自分の姿と頭上には蝙蝠が迫ってきている。おまけに距離はだ
んだんと短くなっていく。思いがけない事態にどうしていいのか頭の中は真っ白になって
いた。
「どうなってるべ」
左右を向けば上下に伸びる直線しか見えないし、後ろを向けば真っ白な壁だけしか見えな
い。懸命に逃げ道を探すがどこにもそんなものは見当たらない。蝙蝠は白い牙を見せなが
らゆっくりと迫ってくる。いつになったら本格的に襲ってくるかわからない。あの牙で自
分の体に噛みついてくると思うと全身に鳥肌が立ってくる。映画で見たようなシーンが
次々と脳裏に浮かんでくる。
- 323 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:34
-
「ごっつあん!よっすぃ!」
思い出したように2人の名を呼ぶが返事はなかった。
もし無事だったら、先に安全な場所に逃げているかもしれなかった。
なつみに比べれば、度胸もあるし運動神経もいい。その可能性は十分だった。
しかし、蝙蝠の羽ばたく音と鳴き声しか聞こえない。
「ごっつあん!よっすぃー!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと力がなくなっていく。
絶望という名の暗闇がなつみに迫ってくる。
- 324 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:35
-
状況は刻一刻と悪いほうに向かっていた。
だんだんと大きくなる蝙蝠の羽ばたく音と声。
「きゃーーー、ダメダメダメダメ、助けてーーー」
必死に叫び声をあげる。むろん、蝙蝠に通じることもない。
ただ助かりたいという思いだけで必死に声を絞り出す。
腰が抜けたのかその場にへたり込んでしまっていた。
迫り来る恐怖に手をばたつかせるが何の役にも立たない。
「きゃーーーーー!助けてーーーーー!お母さーーん」
諦めの悲鳴がむなしく響いた。
それが最後の声だった。
- 325 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:36
-
「アハハハーーー、面白いよ!」
「うん、期待を裏切らないよね!」
「でもさ・・ちょっと、うるさいよね」
「そうだね・・でも、無口よりもキャーキャー騒いでるほうが似合ってるよ」
「それはいえてる。アハハハハーー」
「ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 326 名前:束の間の休息 投稿日:2003/09/15(月) 20:41
-
「次、どうする?」
「誰でもいいんじゃない?」
「だって、残りも少なくなってるよ」
「そうだよねーー、できるだけ楽しみはとっておきたいし」
「誰がいいかなーー」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
- 327 名前:海4 投稿日:2003/09/15(月) 20:42
-
恐怖にひきつる8枚の写真が重なっていた。
- 328 名前:M_Y_F 投稿日:2003/09/15(月) 20:42
-
今日はここまで
- 329 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/16(火) 00:24
- 最後はどうなるんだろう。
気になって気になってどうしようもないです。
頑張って下さい。あ、あと新しく始めた方もおもしろそうですね。
どっちも期待してますよ。
- 330 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:24
-
「あぁ〜、暑い」
多くの人が行き交う街中を歩く女性がいた。
―時間が経つのは早いなあ―
多くの若者がにぎあう中で堂々と歩いていく。以前だったら、帽子を深くかぶって顔がわ
からないように歩くしかなかったろう。そうしなければ、誰からでも声をかけられるから
だ。プライベートなときに知らない人に声をかけられるほどストレスのたまることはない。
今は声をかけられることはほとんどない。昔の面影は残っているものの一見したところで
はわからない。それより、知らない人が増えたといえばいいだろう。TVのなどに映る姿
は4年以上前のものだ。それだけ経てば、女性も大きな変化を遂げる。
「ふぅ〜〜」
女性は額の汗を拭いながら、まぶしそうに眉の辺りに手をかざした。
―いいなあ・―
店の中にディスプレイされたファッションに目を移しながら、どれを買おうか頭を悩ませ
る。昔では考えられないゆったりした時間をのんびりと楽しんでいた。
- 331 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:25
-
「明日香!」
「・・」
「明日香ってば!」
「あっ、圭ちゃん」
「圭ちゃんじゃないよ・・人が呼んだのに無視して」
「ごめん、そんな気はなかったんだけど」
「かまわないよ・・私も明日香の気持ちはわかるから」
明日香が無視するのも当然だろう。すでに芸能界から引退している身である。しかし、フ
ァンや一般人からすればそんなのはあまり関係ない。自分さえが満足すればいいだけであ
る。引退してなければ事務所がいろいろと手を打ってくれるだろうが、今はそうはいかな
い。できるだけトラブルは避けなければならない。自分のためでもあり、仲間のためでも
あった。
- 332 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:26
-
「圭ちゃん、あまり脅かさないでよ」
「ごめんね・・でも、久しぶりにその姿見たからね」
言葉と違って、二人の顔には笑みが浮かんでいた。
「今日はオフなの?」
「うん、まぁ、娘のときの忙しさに比べたら楽だよ」
「まぁ、それもそうだね」
「明日香、時間ある?」
「2,3時間ぐらいなら空いてるよ」
「そう、モデルやってくれない?」
「何の?」
「写真」
「悪いけど、私引退してるから・・」
「勘違いしないでよ。カメラマンは私だよ」
「圭ちゃんが・・・カメラって飽きたんじゃ・・」
「いやぁ〜、また復活したんだよね、ほら」
「わぁーー、すごい」
圭は鞄を開けて中のカメラを見せた。
「すごーーい、そうだね・・付き合ってあげるよ」
「ありがとう」
圭の後に明日香は続いた。
- 333 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:27
-
「ここだよ」
「ここは・・」
明日香は圭の指差す方向に思わず懐かしさを感じた。目の前には写真撮影などでよく来て
いたスタジオだった。
「おはようございます」
「おはようございます」
聞き覚えのある言葉が次々と耳に入ってくる。
廊下を歩いていく中、明日香が声をかけてきた。
「あのさ、圭ちゃん」
「明日香、何?」
「こんな本格的な場所でやるの?」
「うん、でも撮影する場所はボロだよ」
「そうなんだ、でもよくこんな場所借りれたね」
「スタッフに頼んでおいたんだ」
圭の得意そうな笑みを浮かべていた。
- 334 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:28
-
「明日香、私準備があるから、こっちで軽くメイクしてて」
圭は明日香を控え室に案内すると、撮影場所へと移動した。
「わぁー、本格的だ」
明日香が控え室を見渡すと、鏡の前には立派なメイク道具が揃っていた。
圭のことだから凝っているとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。
本当に圭の準備のよさには感心する。
控え室は、手前側に大きな鏡と化粧台、奥にはソファとテーブルが置かれていた。
化粧台へと向かおうとしたとき、テーブルに置かれていた写真が目に入った。
明日香はソファに座ると、テーブルの上にある写真を手にした。
「アハハハーー、なんだよ、これ」
そこには、圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみの8枚の写真があった。
―こんなものを撮るんじゃないよね―
一瞬不安がよぎったが、スタジオでこんな写真が撮れるわけがないと思っていたので、特
に気にすることはなかった。
- 335 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:29
-
コンコン、コンコン・・
「はいっ」
現実の世界に戻すかのごとくドアを叩く音が部屋に響く。
「明日香。メイク終わった?」
「もう少し待って」
化粧台の前に移動するとメイクを始めた。
「ゆっくりいいよ」
「ごめん」
明日香は圭に手を合わせた。
昔を思い出すかのように手を進めいく。
懐かしさを噛みしめるように鏡とにらめっこを続けていた。
メイクを終えると控え室を出た。
控え室のテーブルの上には写真が8枚残されていた。
- 336 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:30
-
カシャッ
フラッシュがたかれる。
一瞬たりとも気が抜けない。
カシャッ、カシャッ・・
カメラのレンズが被写体を捉えていく。
だんだんと高まっていく緊張感に顔も引き締まる。
「少し顔上げて・・」
カメラマンの指示に淡々と従う明日香。
「そのまま、右向いて」
昔の感覚が戻ってくる。
―おぉーー、体は覚えてるんだ・・―
懐かしい感じに思わず顔がにやけてくる。
「ほら、顔を上げたまま!」
カメラマンの厳しい言葉が明日香に浴びせられる。
「は、はいっ」
カシャッ、カシャ・・
ピリピリとした緊張感が増していく。
撮影は続けられた。
- 337 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:32
-
「お疲れ様」
「ありがとう」
30分ほどして撮影は無事終了した。
「明日香、お疲れさま」
「圭ちゃんもね、お疲れ」
「ありがとう、付き合ってくれて」
疲れをねぎらうように圭は明日香の右肩を軽く叩いた。
「圭ちゃん、ちゃんとカメラマンしてたね」
「まあね。たまには気分転換も必要だし」
「でも、目は真剣だったよ」
「そういう明日香も昔に戻っていたよ」
「そうかな・・」
「以前に比べて、大人っぽくなってるし」
「まぁ6年もたってるんだし、私だってそれなりに成長してるよ」
「そうだね・・」
先ほどまでの緊張感はそこにはなかった。
「明日香、すごくよかったよ」
「本当に?」
「本当、クールな明日香、かっこいいよ」
「あまりおだてないでよ・・」
「またまた照れちゃって〜・・ん・・・」
圭は戸惑い気味の明日香の唇を奪った。
- 338 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:33
-
「ちょっと・・止めなよ・・彼氏でも探したら」
突然のことに戸惑う明日香。
「いいじゃない・・たまには」
「たまにはって・・ハハハーー」
呆れて苦笑いで応えるしかなかった。
「もう1回してあげようか?」
「圭ちゃん、ぜんぜん変わったね」
「そうかな・・アハハハハーー」
「昔の圭ちゃんからは考えられないや」
大声を上げて笑う圭を明日香は冷ややかな目で見ていた。
- 339 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:34
-
「私も用事あるから、そろそろ帰るよ」
明日香が立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。頭が妙に重くなって立ってるのもままならなかった。
何が原因かまったく見当つかない。思うように体が動かない。
「圭ちゃん・・」
最後の力を振り絞って声を出した。
―何をしたの・・?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿がだんだんとぼやけていく。
いつしか、意識を失っていた。
- 340 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:35
-
数日後
明日香は何気なしに郵便箱を覗いてみると見慣れない一通の封筒が入っていた。一瞬、何
か怪しい商品のダイレクトメールか何かと思ったが、封筒を見た途端表情が緩んだ。封筒
には見慣れた文字が書かれていた。けして上手いとはいえないが独特の文字だった。圭の
筆跡だった。封筒には明日香の住所と宛名だけが書かれていた。圭の心遣いに感謝しなが
ら、撮影時の様子を思い浮かべながら封筒を開ける。中には写真が1枚だけ入っていた。
便箋とかは入ってなかった。その写真には真っ黒な背景にぽつんと明日香だけが写ってい
た。思わず首を傾げてしまう。こんな写真をどこで撮ったか記憶になかった。それだけに
ちょっと気味が悪かった。
- 341 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:36
-
写真が届いたことを伝えようとするが連絡がとれない。忙しいのはわかっていたので、
メールを送信するとともに写真のことを綴った手紙を書いた。
しかし、メールが返ってくることはなかった。
しかも手紙が届いたかどうかの返事もなかった。
- 342 名前:写真9 投稿日:2003/09/17(水) 22:37
-
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 343 名前:M_Y_F 投稿日:2003/09/17(水) 22:41
-
今日はここまで
>>329 名無しさん
感想ありがとうございます。
最後をどうするかは決めてはいます。
あまり期待はしないでください。
森板の方も徐々に進めていくつもりですので
こちらもよろしくお願いします。
- 344 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:14
-
ゴォーーーーー、グィーーーン
けたたましい音が周りに響く。
「すごい・・」
明日香はその迫力に圧倒されながらも、普段見ることのない光景に目を細めていた。
こんなに近くから飛んでる飛行機の真下を見る機会なんてめったにない。思わず車輪がは
ずれたりしないのか要らぬ心配ばかりしてしまう。
―こんなところもあるんだよね―
明日香は目の前に広がる景色に目を奪われていた。地元にいるからこそ来ない場所だった。
よく地元のことは地元の人が詳しいというがそれはごく一部の人だけである。地元でも興
味がなければ地方の人よりもぜんぜん知らないのである。かえって遠くはなれた北海道や
沖縄に住んでいる人のほうが知っていることは多々ある。
- 345 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:15
-
明日香は城南島海浜公園へと来ていた。城南島海浜公園は東京湾に面した城南島の東端に
あって羽田空港とも隣接している。東側では航行する船舶を、東南側では羽田空港を間断
なく離着陸する旅客機を間近に見ることができる。キャンプ場の施設もあって、東京都民
の憩いの場として人気は高い公園である。また、公園内には季節ごとに色鮮やかな野草が
咲いている。
―なかなかいい・・―
明日香は物思いにふけっていた。いろいろなことが頭の中をよぎっていく。
過去、現在、未来と自分の姿を描いていく。
一人で来るにはもったない場所でもあった。
- 346 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:16
-
ザパーン、ザパーーン
波の音をBGMに海を眺めていた。多くの人々が芝生に上で騒いでいる中、堤防の策に肘
をついて、全身に潮風を浴びていた。風に髪がなびく。
ボォーーー
船が警笛を上げながら進んでいた。
船の上空を鳥が飛んでいた。
何も考えることなく、ただぼんやりと景色を見ていた。
- 347 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:17
-
ザザーーザバーーン
突然、目の前に大きな波が迫ってきた。思わず後ろに下がる。
ザ、ザーーーザパーーン
次々と大きな波が眼下に押し寄せる。
同時に鳥たちが空に飛び立っていく
―何があったんだよ―
明日香は口に手を当てながら開いたままの口を隠していた。まさかこんなに大きな波が押
し寄せてくるとは思ってもみなかった。ちょっとだけ冷や汗をかいていた。地震がどこか
で起こったのかと思ったが、地震とかあれば即座に放送等で連絡があるはずである。周り
を見れば、何事もなかったかのように今を楽しんでいる人しかいない。驚いていた表情を
見せていたのは明日香だけだった。
- 348 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:18
-
「あっ、明日香だ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
「すみません、福田明日香さんですよね」
「そうだけど」
声のする方を向くとそこには2人のOLがいた。
「ふぅー」
安堵のため息が漏れた。二人のほかには誰も見当たらなかったせいである。とっくに芸能
界から引退している身である。今の自分の姿を知っている人間は少ないであろうが、“モー
ニング娘。”のファンであれば、現在の姿を人目みたいと思うだろう。ただ、昔と違って行
き過ぎたファンも多いので注意してしまう。引退している状態では自分の身は自分で守ら
なければならないのだから。
- 349 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:19
-
「お願いですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・」
明日香は辺りを見渡しながら考えていた。普段なら断るところだが、特に急ぎの用もない
し、さっきの大波のこともある。一人でいるよりは複数でいた方がよかった。冷静だった
らすぐにその場を去っていたかもしれないが、動揺のせいかそのままOLたちの頼みを受
け入れることにした。
「いいですよ」
「ありがとうございます」
明日香の返事にOLたちの表情に笑みが浮かぶ。
「なるべく早くして下さいね、周りにばれると面倒だから」
「はい」
OLたちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「おぉ・・」
明日香葉思わず唸った。最初は携帯かデジカメのたぐいだと思っていたが、2人が手にし
ていたカメラは本格的なものだった。どこかで見たことがあるカメラだったが、どこで見
たかは思い出せなかった。ただ、本格的な様子には感心していた。
- 350 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:19
-
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は経験してきた雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
カシャッ
「すごい、すごい」
「かっこいい」
OLたちは楽しそうにシャッターを押し続けた。
―どうして・・―
明日香は首を捻っていた。OLたちの会話を聞いているとなつみたち娘のメンバーしかわ
からないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあった。明日香は
一体誰の友達なのか予想してみるがわからない。年齢的には自分たちとそれほど変わらな
い。圭織かなつみの友達かと一瞬思ったが、こんな友達がいるとは聞いたことがない。そ
もそもオリジナルメンバーしか知らないような話も耳に入ってきた。
- 351 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:20
-
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「福田さんって、すごくクールですよね」
「そうでもないよ・・」
「ほんと、昔と変わりないけど、大人っぽさが増していいですよ」
「そう?」
お世辞でもほめられるとうれしいものである。
レンズに向かって精一杯の笑顔を振りまいてみせる。
「そろそろ終わりにしたいんだけど」
「もう少しいいですか?」
「ねぇ、いいでしょう」
「えっ・・」
「だって、こんな機会ないですから」
「もっと福田さんのこと知りたいなあ」
「ちょっと・・・」
OLたちは再びレンズを向けた。
―あれっ?―
明日香はOLたちの持っているカメラの傷に目がいった。
「すみません、カメラ見せてくれませんか?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、そのカメラは圭のカメラと同じだった。
「圭ちゃんのやつと同じ?」
明日香は疑問をそのまま口にした。
「ふぅ・・やっと気づいたんだ・・」
「遅いよね」
OLたちはそれが当然かのように応えた。
「ちょっと待ってよ、あなたたち誰なの?」
驚いたのは明日香の方だった。
いくら圭に友達が多いとはいってもこんなOLのことなど聞いたことがなかった。
- 352 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:21
-
「福田さんも単純だよね」
「うん、昔のイメージと違うよね」
「ちょっと、どういうこと?」
「まだ、わかりませんか?」
「はぁ〜、しょうがないといえばしょうがないけど・・」
「くそっ!いい加減にしなよ!」
馬鹿にしたような言葉に明日香の声も大きくなってくる。
「そんなにヒステリックにならないで・・」
「教えてあげるから・・」
カメラを置くとゆっくりと明日香を見て微笑んだ。
グッ、グッ・・
「うわっ・・」
明日香は両手で顔を覆った。なんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮がぐっと
伸びるではないか。気持ち悪いの一言だった。そして、皮がちぎれ、その隙間からまた顔
が見えた。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
「後藤、吉澤・・どうして・・」
明日香の力ない声が今の気持ちを表していた。明日香も真希やひとみの顔は知っている。
しかし、目の前の出来事を素直に受け取れない。人の中から人が現れるなんて映画とかで
しか見たことがない。映像の世界でならわからなくもないが、生でこんなことが起こるは
ずがない。明日香の腰は引き気味になっていた
- 353 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:22
-
「福田さん、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
明日香は口を開けたまま呆然としていた。
冷静でいること自体、無理な話だった。
しかし、時間とともに落ち着きを取り戻すと怒りがこみ上げてくる。
「ちょっと・・後藤、吉澤、どういうこと」
明日香は目をつりあげてを真希とひとみのほうに近づいていく。
冷静な雰囲気とはまったく違っていた。
「福田さん、最高」
「もっと冷静かと思ったけど、けっこう熱い部分もあるんだ」
「何言ってるんだ!人を馬鹿にして!」
明日香の怒りは増すばかりだった。
だが、明日香の言葉は真希やひとみに通じることはなかった。
カシャッ
ドォーーーザザーーン、ザバーーン
シャッターを切る音と波音が重なった。そして波が明日香たちを襲った。
「うわぁーー・・」
叫び声とともに目の前が真っ暗になった。
突然の変化に戸惑う明日香。
水の中で必死にもがくが体はいうことをきかない、沈む一方だった。
- 354 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:23
-
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 355 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:24
-
明日香が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。そこには自分の頭上から黒いもの
が迫っていた。最初は何かぜんぜんわからない。頭にはベトベトしたものがくっついてい
るようであった。ゆっくりと手を当てる。
「なんだよ、これっ!」
明日香の顔が苦虫を潰したようにゆがむ。
「蜘蛛の糸なんて・・最悪だよ」
まるで汚いものを触った後のように手をふる。
「えっ・・」
明日香は戸惑いを感じた。波にさらわれたはずなのに、どうしてこんなことになったのか
わからない。さらに白いものが頭に降りかかってくる。
「ち・・ちょっと」
明日香は両手で蜘蛛の糸を払いながら上方へと視線を移す。無数の蜘蛛が落ちてくる。そ
れは気持ち悪いの一言だった。足を動かすが前後はおろか左右にも動かない。どうしよう
もない状況に自然と膝が震えてくる。
- 356 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:24
-
ガサガサ、ガサガサ・・
蜘蛛が近づいてくるのが足音でわかる。
背筋に冷たいものが流れる。
全身に鳥肌が立っていた。
恐る恐る上を向いた。本当は見るのも嫌なのだが、どこか別のところに落ちていってくれ
ないか少しだけ期待した。
「やっぱり・・だめだ・・」
頭上一面真っ黒となっていた。一匹ならたいしたことはないが無数に落ちてこられると嫌
でも腰が引けてくる。糸が次々とまとわりつき、そのベトベトした感じがより一層の恐怖
心を増長させる。
「どうなってるの」
左右を向けば上下に伸びる直線しか見えないし、後ろを向けば真っ白な壁だけしか見えな
い。懸命に逃げ道を探すがどこにもそんなものは見当たらない。よく見れば様々な種類の
蜘蛛がいる。中でもひときわと大きい黒い蜘蛛に明日香の視線は集まる。タランチュラだ
とすぐにわかった。あんなのに襲われたらどうにもならないと逃げようとするが、どこに
も逃げられない。
- 357 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:25
-
「後藤!吉澤!」
思い出したように2人の名を呼ぶが返事はなかった。
真希とひとみに会わなければ、こんなことにならなかったかもしれない。ただし、2人と
も波にさらわれた可能性がある。姿の見えない二人が心配ではあるが、2人が共謀してこ
とを起こした可能性もある。明日香は半信半疑のまま周りをうかがっていた。しかし、2
人が現れる気配はない。
「後藤!吉澤!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと力がなくなっていく。
絶望という暗闇が明日香にのしかかる。
- 358 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:26
-
状況は刻一刻と悪いほうに向かっていた。
だんだんと大きくなる蜘蛛の足音。
「きゃーーー、来ないでーーーー、助けてーーー」
必死に叫び声をあげる。むろん、蜘蛛に通じるはずもない。
ただ助かりたいという思いだけで必死に声を絞り出す。
迫り来る恐怖に頭上で手をばたつかせるが何の役にも立たない。
体全体からベトベトした感じが伝わってくる。
いたぶられるとはこのような感じをいうのかと改めて思い知らされる。
「ぎゃーーーーー!助けてーーーーー!お願ーーい」
どうしようもない悲鳴がむなしく響く。
それが最後だった。
- 359 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:26
-
「アハハハーーー、思った以上に面白いよ!」
「うん、予想外だよね!」
「そう・・外見とはぜんぜん違うよね」
「そうだね・・あんなに騒ぎまくるなんて」
「それはいえてる。アハハハハーー」
「ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 360 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:27
-
「次、どうする?」
「誰でもいいけど?」
「今度は年下でも」
「それもいいよね」
「誰にしようかな〜」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
- 361 名前:海5 投稿日:2003/09/28(日) 22:28
-
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
恐怖にひきつる9枚の写真が重なっていた。
- 362 名前:M_Y_F 投稿日:2003/09/28(日) 22:29
-
今日はここまで
- 363 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:42
-
バタバタ、バタバタ、バタバタ・・
「おはようございます」
多くの人が行き交う中をち大きめのバッグを持って走っていく。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くが返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
誰かいないか部屋中を見渡すが、いないどころかまだ誰も来てない様だった。
「うわぁ・・急いで損した」
希美は一番奥へと移動する。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜、疲れた」
椅子に座ると背もたれに身を任せ手足をだらりとさせた。
「きつい・・」
思わず本音が漏れてしまう。娘本体はおろか分割にミニモニ。とスケジュールも半端では
なかったし、個人のスケジュールもびっしり詰まっている。おまけに新曲やコンサートに
向けてダンスレッスンが始まった。体は休まっても心が休まることはない。いくら楽しい
とはいえどテンションを保つのは辛いものであった。
- 364 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:44
-
「やったね、いただきまーす」
希美の視線は中央のテーブルに置かれた菓子の入ったバスケットに向く。
早速テーブルに近寄ってお菓子に手を伸ばした瞬間だった。
―おやっ?―
希美はバスケットの横に写真があるのに気づいた。
「ハハハハーーー、何だよ、これ!最高!」
写真を拾い上げた亜依は思わず大声を笑ってしまった。
「おばちゃん、矢口さん、梨華ちゃん、あいぼん、なちゅみ・・」
圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香の9枚の写真があった。
この瞬間を実際に見たかったかというのが実感だった。
―いいよねぇ―
希美にとって、からかう材料にはもってこいだった。
- 365 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:45
-
コンコン、コンコン・・
「はいっ・・おばちゃん」
ドアの方を見ると圭が立っていた。
「こらっ、お菓子ばっかり食べて」
「ごめん。でも、このお菓子おいしいよ」
圭の前にお菓子が差し出されていた。
「ありがとう。あのさぁ、メイクしてほしいんだけど」
「何でですか?」
「写真撮影するからさ」
「そうなんですか・・他の人は?」
「全員のも撮るけど、個人の分もあるからね」
「わかりました」
「よろしく」
希美は荷物を整理すると控え室を出て行った。本当はもっとゆっくりしたかったが娘自体
の人数が多いのであまり強くは言えなかった。どちらかといえば遅く来るほうなので文句
を言えたものではなかったが。
控え室には9枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 366 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:46
-
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
希美は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。スタジオの扉が少しだけ開いていて、
その先にはセットが組みあがっていく様子が見えた。
―ふ〜〜ん―
いつもの明るい感じとちがって落ち着いた感じだった。どんな撮影になるのか期待しなが
らメイク室へと向かう。
「おはようございます」
メイクを終えた希美の前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感じがした。
しかし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにシ
ョートカットである。一瞬同一人物かと思ったが、それにしてはどこかよそよそしい感じ
だった。普段なら明るく近寄ってくるのにその様子もない。
- 367 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:47
-
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
いつもと変わらない撮影だ。次々と浴びせられる言葉。希美もその言葉に応えるようにポ
ーズを決めていく。そこには先ほどまでと違って真剣な表情があった。笑っているが、ど
こか厳しさを感じさせるものだった。時間が進むににつれて、厳しさもだんだんといい感
じに和んでくる。
―どこか違う・・―
希美は妙な親近感と違和感を感じていた。
カシャッ、カシャ・・
希美の気持ちを無視するかのように撮影は続けられた。
全員分撮影するというのに、いつもに比べて時間が長い
「う〜〜ん・・」
希美はいつ終わるのか不安だった。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
30分ほどして撮影は無事終了した。
- 368 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:48
-
希美は撮影が終わってもどこか納得できなかった。全員写真撮影するのに、たった一人の
撮影にこれだけの時間をかけるようなことはないはずだ。カメラマンもプロというにはど
こかアマチュアと思える部分も多々ある。おまけに撮影の合間に交わされる会話の内容は
よっぽど親密な関係でないとわからないものだった。失礼は承知でカメラマンに尋ねてみ
た。
「あのぉ〜、保田さんですよね?」
「・・・」
何も反応がなかった。希美の顔にしまったというような表情に変わった。
「そのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたか」
希美の心配をよそにカメラマンは大声を上げた。
- 369 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:49
-
「おばちゃん、ひどい!」
「ごめん、辻よかったよ!」
「それはそうと、おばちゃんが相手なら、こんなに真面目にやんなくてもよかったのに!」
「なんだよ、その態度!」
「だって・・」
ちょっといたずらっぽく微笑む希美。
「おばちゃん、あんなに時間かかったら時間ないよ」
「大丈夫だよ」
「本当?」
疑いの目を向ける希美。
「なんだよ、その顔」
圭は希美の頬をつまんで引っ張る
「だって、おばちゃんのペースじゃ絶対に無理だよ」
「お前もよく言うよな」
希美の顔には無理という字が浮かんでいる。
「おばちゃん、がんばってよ」
「ありがとう・・そうだ、辻」
圭はいたずらっぽく笑うとそのまま希美の頬に手を当てた。
「辻って・・かわいいよねぇ〜・・ん・・」
希美の唇を奪った。
- 370 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:50
-
「止めてよぉーー、おぇーー」
大げさにアクションする希美。
「なんだよ、その態度・・」
慣れた場面だとあってすかさずつっこむ。
「おばちゃん、おばちゃんのキスはきついよ・・」
「そんなこと言わないで、もう1回してあげるよ?」
「そんなつもりはないよ・・」
押し問答のような会話が進む。
「戻りますね」
希美が椅子から立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。必死に頭を振って視線を定めようとするが目の前の景
色はだんだんとぼやけていく。何が原因かまったくわからない。
「おばちゃん・・」
力ない声がかすかに響く。
―どうして?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿が霞んでいく。
いつしか目の前が真っ暗になった。
- 371 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:51
-
数日後
希美は仕事が終わって自宅に戻ると母親から封筒が届いていることを知らされた。母親は
封筒に住所と希美の名前しか書かれてなかったために、変なものが入ってないか心配した
が封筒の字の筆跡が圭であることがわかると安堵したようだった。郵便でなくて直接くれ
たらいいのにと思いながら封筒を開けると中には写真が1枚だけ入っていた。最近はなか
なか会う機会もないので圭らしい気遣いだと思った。写真を見ると真っ黒な背景にぽつん
と希美だけが写っていた。思わず首を捻りたくなる写真だった。こんな写真撮った覚えが
なかった。それだけに気味が悪かった。
- 372 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:52
-
写真をもらったことを伝えようとするが連絡がとれない。とりあえず、変顔の写真つきで
メールした。今度会ったときに写真のことを聞いてみることにして、そのままベッドの中
に潜り込んだ。
しかし、写真のことを聞く機会はこなかった。
もちろんメールの返事も返ってこなかった。
- 373 名前:写真10 投稿日:2003/10/01(水) 22:52
-
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 374 名前:M_Y_F 投稿日:2003/10/01(水) 22:53
-
今日はここまで
- 375 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:02
-
「でけぇーーー」
希美は空を見上げながら、その大きさに感心していた。
遠くから見ることはあっても、間近で見るのは久しぶりだった。
希美は乗蓮寺に来ていた。見ていたのはもちろん東京大仏だった。
「暑い・・」
少しは気温も低くなって過ごしやすくなってきたが、陽射しはまだまだ強い。
額にはうっすらと汗がにじんでいた。
- 376 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:03
-
乗蓮寺は高速道路建設のために移転して今の場所にある。もともとは仲宿にあり、江戸時
代の中山道板橋宿きっての由緒ある大寺だった。徳川家康が天正十九年(一五九一)年に
十石の朱印地を当寺へ寄進し、八代将軍吉宗以降将軍家お鷹狩りの小休所あるいはお膳所
となった。将軍使用膳部などの遺物も寺宝として大切に保存されている。また、板橋の郷
主・板橋信濃守忠康の墓や名僧祐天上人の筆になる天保飢饉供養塔、藤堂家の石像、千葉
氏が尊信した妙見祀がまつられている。
境内にそびえる東京大仏は阿弥陀如来で、当山住職二十三世正譽隆道が、昭和四十九年八
十八才にて発願、完成まで約三年がかかり昭和五十二年四月完成した。千葉氏一族、戦没
者、そして有縁無縁の霊をとむらい、世界の平和と万民救済が込められている。大仏は青
銅製で黒光りしてとても美しい堂々とした仏である。
- 377 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:04
-
「うわぁーーー」
乗蓮寺の中を歩いていた希美は思わず大声を上げた。
「ちょっと、怖いよ」
足をばたつかせながら、顔を軽く叩く。
希美が目にしたのは奪衣婆の像だった。像の右側には立て札があった。その像にはちょっ
と近寄り難い雰囲気があった。
奪衣婆とは『地蔵菩薩発心因縁十王経』によると、三途の川のほとり衣領樹の影に住み、
亡者の衣をはいで、樹上の懸衣翁に渡す。懸衣翁はこれを衣領樹に懸け、罪の重さを問う
という。奇怪な老女相に表わす多く十王とともに表わされ、鎌倉の円応寺に彫像があり、
絵画では十王経に描かれるほか、二尊院・浄福寺の十王図の秦広(しんこう)王幅にもみ
られる。
- 378 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:04
-
―あっ、そうだ・・―
希美は文殊菩薩の前で手を合わせた。某番組での悲惨な結果が脳裏に蘇る。ちょっとした
変化があると慌てふためいてわけがわからなくなってしまう。少しは落ち着けばわかりそ
うなものだがそこが希美らしいゆえんであろう。もっと合理的な考えができるようにと願
をかける。
―ちょっと不気味だよね―
乗蓮寺はあまり人がいなかった。それに年配者の姿ばかりが目立つ。都心とはいえ、こん
な場所があるとは思えない。寺の中には数多くの像や地蔵が立ち並ぶ。ちょっと薄暗い中
で多くの像や地蔵の姿はかえって気味悪く見えるのだった。
―きれいだねぇ―
乗蓮寺の中庭にある池を眺めていた。池の中では色鮮やかな錦鯉が泳いでいる。そして池
の中央では金色のお堂がさらに光を増す。お堂の中には弁天さまが祭られていた。
- 379 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:05
-
バサバサ、バサバサ・・
チャポン、チャポン・・
風に揺れる葉の音と鯉が水面をはじく音をBGMに池を眺めていた。木々を吹き抜ける風
が心地いい。
ガリガリ、ガリガリ
飴をかじりながら、のんびりと過ぎていく時間を楽しんでした。
―どうなるんだろう―
ちょっとだけこれから先のことが気にかかった。本当にやりたいことが何かまだよくわか
らない。しかし、時間は待ってくれない。このままでいいのかはっきりとした判断もつか
ない。自分らしいといえば自分らしいのだがやっぱりこのままでは限界がある。
- 380 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:06
-
ザザーー、ザバーー
「え、え、えっ・・」
突然の出来事に希美は自分の目を疑った。
池の真ん中の水面が異様に盛り上がっていた。
気づけば目の前に大きな波が迫ってきた。思わず後ろに下がる。
ザ、ザーーーザパーーン
自分の背丈ぐらいの大きな波が押し寄せる。
しかし、波が希美ところまでくることはなかった。
―びっくりしたーー!―
胸に手を当てながら大きく息をしていた。目は大きく見開き涙顔になっていた。まさかこ
んなに大きな波が押し寄せてくるとは思ってもみなかった。ましては、目の前にあるのは
小さな池である。嫌な予感がしてくる。
- 381 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:07
-
動揺を隠せない希美に聞きなれない声がかけられた。
「辻ちゃんだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
「あのぉ〜、辻ちゃんですよね」
「そうだけど」
声のする方を向くとそこには2人の幼稚園ぐらいの女の子がいた。
「ふぅー」
思わず安堵のため息が漏れた。幽霊とかが現れたと思ったからだ。幽霊なんかが現れるに
はもってこいの場所である。思わず周りを見渡したが、特に変わった様子はない。何事も
なかったかのように錦鯉が池の中を泳いでいた。
- 382 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:08
-
園児たちは神妙そうな顔つきで声をかけてきた。
「お願いがあるんですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・」
希美は辺りを見渡しながら考えていた。普段なら断るところだが、特に用があるわけでも
なかった。あっさり断るのもかわいそうな気がしていた。
「いいよ」
「ありがとうございます」
希美の言葉に園児たちの表情に笑みが浮かぶ。
「なるべく早くしてね、」
「はい」
園児たちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「わぁ・・何・・」
希美は目を丸くした。最初はインスタントかデジカメのたぐいだと思っていたが、2人が手
にしていたのは本格的なものだった。両親からもらったものであろう、それでも値段が高
そうなものである。一瞬、この園児たちの親の顔を見たくなった。
―あれっ?―
最初は驚きだけだったが、よくよく見るとどこかで見たことがあるカメラだった。
必死に記憶を辿ってみるが、思い出せなかった。
- 383 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:09
-
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
カシャッ
「すごい、すごい」
「本物だ・・」
「かわいい」
園児たちは楽しそうに撮影を続けた。
―おかしいなあ・・―
希美は首を傾げていた。ときより園児たちの会話を聞いていると希美たち娘のメンバーし
かわからないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあった。一体
誰の友達なのか予想してみるが、娘はおろかキッズにもこっちに友達がいることなんか聞
いたことがない。おまけに自分よりも大人っぽい会話をしていて、園児とはとても思えな
かった。
- 384 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:11
-
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「辻ちゃんって、すごくかわいいですね」
「そう・・」
「ほんと、あこがれちゃいます。」
「ありがとう」
お世辞でもほめられるとうれしいものであるが、園児が相手にだけにまともに言葉を飲み
込むわけもいかずに無理やり笑顔を作っていた。“ミニモニ。”のイメージが強いせいだ
ろう。気安く自分から話しかけていいか迷っていた。
「そろそろ終わりにしてもいい」
「もう少しいいですか?」
「辻ちゃんですって、やって」
「えっ・・」
「だって、大好きなんだ」
「私も!あのポーズ大好き」
「いいよ・・辻ちゃんです」
「やった!」
園児は希美の姿に喜びの声を上げる。
- 385 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:13
-
―おやっ?―
希美は小学生の持っているカメラの傷に目がいった。
「あのぉ、カメラ見せてくれない?」
「いいよ」
カメラを手にすると、そのカメラが圭のものであることがわかった。
「なんでおばちゃんのカメラといっしょなんや」
希美は疑問をそのまま口にした。
「やっと気づいたんだ・・」
「こういうことには割りと敏感だと思ったけど鈍いね」
園児たちはそれが当然かのように応えた。
「ちょっと待って、誰?」
驚いたのは希美の方だった。テレビでの収録のことだけとはいえ圭にこんな園児の知り合
いがいるなんて考えられなかった。
「ののも単純だよね」
「まぁ、そのサービス精神には感心したけどね」
「ちょっと、何?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、これだから困るんだよね」
「だから、何だよ」
歯がゆくてしょうがない希美は足を地団駄を踏む。
「しょうがないね・・」
「教えてあげるよ・・」
カメラを置くとゆっくりと希美を見て微笑んだ。
グッ、グッ・・
「うっ・・」
希美は思わず顔を伏せた。なんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮がぐっと伸
びるではないか。気持ち悪いの一言だった。そして、皮がちぎれ、その隙間からまた顔が
見えた。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
「ごっちんによっすぃ・・どうして・・」
上ずった声が希美の気持ちを表していた。目は潤んで今にでも泣き出しそうな顔になって
いる。肝心の話すべき言葉がまったく出てこない。狐に騙されたように、視線は宙を彷徨
っていた。口はぽかーんと開いたまま、表情が固まっていた。
- 386 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:13
-
「のの、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
ひとみがシャッターを押し続ける。
しかし、時間とともに落ち着きを取り戻してくると怒りがこみ上げてくる。
「ちょっと・・ごっちん、よっすぃ、どういうことだよ」
希美は大声で叫びながら、血相を変えて真希とひとみのほうに近づいていく。
しかし、真希とひとみは何事もなかったかのように会話を続けていた。
「のの、最高」
「こういうときのリアクションは一番だよ」
「馬鹿にすんな!!」
希美は両手の拳を震わせる。
しかし、希美の怒りも2人には届くことがなかった。
カシャッ
ドォーーーザザーーン、ザバーーン
シャッターを切る音と波音が重なった。
大きな波が池の中央にそそり立った。
そして波が希美たちを襲う。
「えっ、きゃあーー・・」
叫び声とともに目の前が暗闇で覆われた。
突然の変化に戸惑う希美。
必死で水面へと浮かび上がろうとするが体は沈む一方だった。
- 387 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:14
-
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 388 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:15
-
希美が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。自分の背後には川が見えた。
そして、視線を上に向けたときだった。
「きゃぁーーー!」
亜依は思わず身を伏せた。鏡には無数の顔が映っていた。
「来るな!」
必死に足を動かすがまったく前にも後ろにも左右にも進まない。
「何で・・」
亜依は再び鏡を見た。そこには顔だけが映っていた。体はない。まぶたが大きく腫れてい
る顔、顔半分が焼きただれた顔、苦痛にゆがむ顔、恨みに満ちた顔、いろいろな表情の顔
が無数に映っていた。しかも、視線はすべて希美に向いている。よく見れば、ゆっくりと
近づいてきている。
- 389 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:17
-
「うっ・・」
うなり声が聞こえてくる。必死で逃げ道を探すがそんなところはどこにもない。
「うわぁ、わぁ、わぁ」
完全にパニックに陥っていた。どこに逃げても同じように感じられた。冷や汗が背中を流
れ、全身には鳥肌が立っていた。頭を振り乱しながら、どこに行けばいいのか必死に考え
るが最悪の場面だけしか浮かばない。
―あっち行け―
焦りは募る一方だ。
「あぁ・・」
上下を見れば左右に、左右を向けば上下に伸びる直線しか見えない。後ろを向けば真っ白
な壁だけしか見えない。しかも、鏡に映った川さえもない。自分がどこにいるのかはわか
らない。どこでもいいから逃げ場所を探すがどこにもそんなものは見当たらない。
「ちょっと・・」
希美はどうしたらいいかわからなくなっていた。
- 390 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:18
-
「来るな!」
必死の叫びもむなしく響くだけだった。じわじわと迫ってくる恐怖ほどいやなものはない。
無数の顔が周りを囲んでいく。逃げ出せそうな場所がない。痛いほど視線が突き刺さる。
生殺しはこんなことをいうのかと思わずにはいられなかった。
「南無阿弥陀仏、南無妙法蓮華経、アーメン・・・ラーメン・・カキ氷、8段アイス!」
知っている言葉を叫んでみるが、状況が良くなる気配はない。
「何でーーー、嫌ぁーーーーー」
希美は金切り声を上げた。
- 391 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:19
-
「ごっちん!よっすぃ!」
思い出したように2人の名を呼んだ。2人が無事だったら、助けに来てくれるかもしれな
い。2人が現れてからこんなことになったのだ。ドッキリなら、そろそろ現れてもいいこ
ろである。しかし、返ってくるのはうめき声だけだ。
「ごっちん!よっすぃー!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと小さくなっていく。
無数の顔に襲われる姿が頭の中に浮かび上がる。
- 392 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:20
-
状況は刻一刻と最悪の一途を辿っていた。
だんだんと大きくなる顔と声。
「早く!助けてよ!」
必死に叫び声をあげる。
ただ助かりたいという思いだけで必死に声を絞り出す。
見るに耐えないほど、顔はクシャクシャになっていた。
だが、希美の思いは誰にも届かない。
「助けて!きゃーーーーー!お・・ね・・が・」
絶望の悲鳴が響いた。
それが最後だった。
- 393 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:21
-
「アハハハーーー、面白いよ!」
「うん、期待以上のことやってくれるよね!」
「やっぱり天才だよ・・ある意味」
「そうだね・・それがとりえだけどね」
「言えてるよ・・ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 394 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:22
-
「次、誰にする?」
「誰がいいかなあ・・お楽しみは最後にとっておきたいし」
「新しいほうがいいんじゃない」
「そうだね・・」
「またやりますか?」
「やろう!」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
- 395 名前:池4 投稿日:2003/10/05(日) 22:22
-
恐怖にひきつる10枚の写真が重なっていた。
- 396 名前:M_Y_F 投稿日:2003/10/05(日) 22:23
-
今日はここまで
- 397 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:07
-
バタバタ、バタバタ、バタバタ・・
「おはようございます」
多くの人が行き交う廊下を邪魔にならないように端を歩いていく。
その姿はとても芸能人には見えない姿だった。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くが返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
ゆっくりと部屋中を見渡すが、まだ誰も来てない様子だった。
「ふぅー、私が一番目か・・」
麻琴は一番奥へと移動する。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜、疲れた」
椅子に座ると両肘をついて顔を両手で支える。
- 398 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:08
-
「きつい・・」
思わず本音が漏れてしまう。娘本体はおろか分割とスケジュールも半端ではなかったし、
個人のスケジュールもびっしり詰まっている。おまけに新曲やコンサートに向けてダンス
レッスンが始まった。高校生になって仕事の量も増えてきた。最近は前に出ていけるよう
になって少しは充実した感もでてきたが、体は休まっても心が休まることはない。こうい
う時間がほっとする時間でもある。
「あ〜、いただきまーす」
麻琴は中央のテーブルに置かれたバスケットの中に菓子が入っているのに気づいた。
食べない方がいいのだが、つい手が出てしまう。
テーブルに近寄ってバスケットに手を伸ばした瞬間だった。
―えっ?―
麻琴はバスケットの横に写真があるのに気づいた。
「アハハハハーーー、何!これ!いい!」
写真を拾い上げた麻琴は大声で笑った。
「保田さん、矢口さん、石川さん・・石黒さんや福田さんまで・・どうして」
圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香、希美の10枚の写真があ
った。
この瞬間を生で見たかったかというのが実感だった。
―あさ美ちゃん、いい―
麻琴にとっては、歌番組のネタにもってこいの材料だった。
- 399 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:09
-
コンコン、コンコン・・
「はいっ・・」
ドアの方を見るとスタッフが立っていた。
「これから写真撮影あるから、メイク、いいかな」
「・・・」
「小川、いい?」
「あっ、わかりました」
「しっかりしてくれよ」
「はい」
麻琴は神妙な顔で頭をちょこんと下げる。自分では気をつけているつもりなのだが、どこ
か緊張感が抜けてしまうときがある。最近はそんなところをつかれては笑いをとるような
場面が増えてきて注目を浴びてきているが、ちょっと複雑な感じだった。
麻琴は荷物を整理すると控え室を出て行った。本当はもっとゆっくりしたかったのだが、
しっかりと注意されただけに仕方のないことだった。
控え室には10枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 400 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:11
-
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
麻琴は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。スタジオの扉が少しだけ開いていて、
その先にはセットが組みあがっていく様子が見えた。
―ふ〜〜ん―
いつもの撮影と違って、しっかりしたセットに期待も膨らむ。ちょっとした撮影であれば
背景は布を張って終わりというもの多い。
「おはようございます」
メイクを終えた麻琴の前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感じがした。
しかし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにシ
ョートカットである。一瞬同一人物かと思ったが、それにしてはどこかよそよそしい感じ
だった。普段なら明るく近寄ってくるのにその様子もない。
- 401 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:12
-
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
いつもと変わらない撮影だ。次々と浴びせられる言葉。麻琴もその言葉に応えるようにポ
ーズを決めていく。そこには先ほどまでと違って真剣な表情があった。しかし、その表情
も怪しげな表情に変わる。撮影のためにメイクしたのはいいが、十円はげが3つほどある
かつらに紺の絣、顔は太い眉毛にあごひげ。はっきりいってコントやゲームでしかやらな
い格好に不満も募ってくる。
―どうして・・―
麻琴は奇妙な親近感と違和感を感じていた。
カシャッ、カシャ・・
麻琴の気持ちを無視するかのように撮影は続けられた。
TVの収録がある様子はなく、写真撮影だけで終わりそうだった。
「う〜〜ん・・」
麻琴は本当にこれが仕事なのか首を捻りたくなってきた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
30分ほどして撮影は無事終了した。
- 402 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:13
-
麻琴は撮影が終わってもどこか納得できなかった。こんな格好をするのなら、TV収録の
合間にでもできるはずだ。わざわざ時間をかけてやるようなことでもない。おまけに別の
ショットを撮るのかと思ったらそれもない。それに撮影の合間に交わされる会話の内容は
よっぽど親密な関係でないとわからないものだった。麻琴に思い当たる人物は1人しか浮
かばない。失礼は承知でカメラマンに尋ねてみた。
「すみません、保田さんですよね?」
「・・・」
何も反応がなかった。まずいというような表情に変わった。
「あのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたか」
麻琴の心配をよそにカメラマンは大声を上げた。
- 403 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:14
-
「保田さん、ひどい!」
「ごめん、小川よかったよ!」
「それはそうと、何でこんな格好なんですか?」
「こっちの方が似合うからさ」
「待ってくださいよ、コントじゃないですよーー」
「小川の場合、こっちの方がいいかなと」
ちょっといたずらっぽく笑う圭。
「止めてくださいよ〜、私だってちゃんとした格好がいいんですから」
右手を振って苦笑いを浮かべる麻琴。
「今度、撮ってあげるよ」
「今度って、今からじゃないんですか?」
「他にも撮影しなきゃいけないんだよ」
「えっーー」
麻琴は大きく口を開けて文句をつける。
「なんだよ、その顔」
圭は軽く麻琴の頭をこつく
「だって、私だけこんな格好・・嫌ですよ」
「皆、一緒だよ」
「本当ですか〜〜?」
疑いの視線が圭に向けられる。
「そんな顔しないで」
圭はいたずらっぽく笑うとそのまま麻琴の頬に手を当てた。
「小川って・・かわいいよ〜・・ん・・」
麻琴の唇を奪った。
- 404 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:15
-
「止めてください」
思わず固くなる麻琴。
「そういうところ、好きなんだよね」
圭は笑みを浮かべる。
「ちょ、ちょ・・そんな・・」
「もう1回してあげようか?」
「いや・・いや・・もういいです」
「あははははーー、最高」
麻琴の上ずった声に圭は笑いが止まらない。
「もう、戻ります」
麻琴が椅子から立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。必死に頭を振って視線を定めようとするが目の前の景
色はだんだんとぼやけていく。何が原因かまったく思いつかない。
「保田さん・・」
力ない声がかすかに響く。
―何故?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿がぼんやりとしていく。
いつしか目の前が真っ暗になった。
- 405 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:16
-
数日後
麻琴は仕事が終わってマネージャーから封筒をもらった。家に戻って、その封筒を取り出
すと、封筒には麻琴の名前しか書かれてなかった。封筒の字の筆跡が圭であることはすぐ
にわかった。直接くれたらいいのにと思いながらも、スケジュールの都合でなかなか会い
だすこともないことを考えると圭の心遣いに感謝するのだった。封筒を開けると中には写
真が1枚だけ入っていた。写真を見ると真っ黒な背景にぽつんと麻琴だけが写っていた。
思わず首を捻りたくなる写真だった。写真撮影とは異なる格好だった。こんな写真いつ撮
ったか思い出すが心当たりがなかった。それだけに気味が悪かった。
- 406 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:16
-
写真をもらったことを伝えようとするが連絡がとれない。とりあえず、メールだけは送っ
た。今度会ったときに写真のことを聞いてみることにして、そのままベッドの中に潜り込
んだ。
しかし、写真のことを聞く機会はこなかった。
もちろんメールの返事も返ってこなかった。
- 407 名前:写真11 投稿日:2003/10/09(木) 23:17
-
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 408 名前:M_Y_F 投稿日:2003/10/09(木) 23:18
-
今日はここまで
- 409 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:46
-
麻琴は一人赤坂山公園の中を歩いていた。この公園は厚生省から不要になった土地を柏崎
市が譲与を受け整備したものである。この公園は、赤松、雑木、桜など合わせて壱万本以
上ある。又コシノカンアオイなど沢山の山野草・昆虫・きのこ・小鳥・陸産貝類などの宝
庫でもある。公園丘陵地の上部平坦地は南側は芝生広場で北側は遊園地広場で桜の頃は昼
夜花見客で賑わい、特に沢山のボンボリに映える夜桜は見事である。遊園地から晴れた日
は遠く佐渡ケ島、近くは原子力発電所を望み夏祭りには打ち上げ花火が眼下一面に広がる。
又一大変貌を遂げた柏崎港、中央海岸一帯と隣接のスポーツ広場なども眼下に見る一大パ
ノラマである。さらに南北平坦部の真中が大滝、せせらぎ、池などが春夏秋の夫々の季節
に風情を添えている。又せせらぎに添ってモミジ、アジサイ、シダレザクラなど二十数種
に及ぶ四季の花木と山野草が訪れる人の目を楽しませてくれる。
- 410 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:47
-
「はぁーーー」
麻琴は大きく背伸びをしながら、リラックスできるときを噛みしめていた。一時期の忙し
さに比べたら少しは楽になったとはいえ、秒単位のスケジュールに終われる毎日から解放
された時間は何事にも変えられない。一人の少女として過ごせる時間は貴重なものである。
―地元はいい・・―
目の前に広がる木々を眺めながら、思わずため息を漏らしていた。コンクリートばかりが広がる都会と違って心がいっそうなごむ感じだった。野鳥の鳴き声に耳を澄ましながら、
今の時間を惜しむように一歩一歩ゆっくりと進む。地元にこんなところがあるんだと再認識するのであった。
―それにしても・・―
麻琴はよく自分の正体がばれないなと思っていた。多くの人々と通りすがっているのに誰
一人自分の名前を呼ぶ人はいなかった。気を遣ってくれているかもしれないが、名前を呼
ばれないのも寂しい気がした。ただ、東京では正体がばれると軽い騒動がおきるので、そ
れを考えるといいことだと自分に言い聞かせていた。
- 411 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:48
-
「はぁ〜・・」
さわやかな風を受けながら、目の前に広がる景色を楽しんでいた。ほのかに漂う木々の香
りが気分を癒してくれる。このときだけはすべてを忘れて、風に身を預けていた。特に何
をするわけでもないが歩いているだけでゆったりとした気分になれるのは久しぶりだった。
誰の目を気にすることなく羽を伸ばすせるのは気持ちがいいことだった。
麻琴は南北平坦部の大滝の前に来ていた。日陰になっているためか周りと比べると少し空
気がひんやりしていた。一見したところ、この滝が人工的に作られたとは思えなかった。
麻琴は滝の様子をじっと眺めていた。何かわからないが、魅かれるものがあった。
- 412 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:49
-
ザッーーーーーーー
ザァーー、ザパーーーーーーー
ドテッ
「うそでしょう・・」
突然の出来事に麻琴は思わずしりもちをついた。
滝の頂上が盛り上がったと思えば、急に多量の水が降り注いでくる。
近くで大雨が降った様子もない。何が原因かまったくわからない。
気づけば多量の水の塊が近づいている。
知らず知らずに後退りしている自分がいた。
ザッ、ザパーーーーーーーン
水の塊は一気に地へと落ちた。
―びっくりしたーー!―
麻琴は胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんなに大量の水が落ちてくると
は予想もしない。目の前の出来事に目を丸くして、口は開いたままだった。何か変わった
様子がないか見渡すが、大きな水の塊が落ちたような形跡はなかった。
「えっ?」
水の塊が落ちた場所を見つめながら、首をひねっていた。
- 413 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:49
-
5分ほど経っただろうか、滝を落ちる水が急に増えるということはなかった。
滝全体を見渡しすが、何事もなかったかのように滝に水が流れていた。
予期せぬ状況に戸惑う麻琴に聞きなれない声がかけられた。
「小川さんだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
まさか、ここで自分の正体がばれるとは思っていなかった。
「あのぉ〜、小川麻琴さんですよね」
「そうですけど」
声のする方を向くとそこには2人の中学生の女の子がいた。
名前はわからないが、見覚えのある地元の学校の制服を着ていた。
「ふぅー」
思わず安堵のため息が漏れた。ただ、自分の名前を呼んでもらえたことに内心喜んでいた。
- 414 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:50
-
中学生たちは申し訳なさそうに声をかけてきた。
「お願いがあるんですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・どうしようかな・・」
麻琴は辺りを見渡しながら考えていた。腕時計を見ると、まだ時間には余裕があった。特
にすることもなかったこともあり、中学生たちの申し出を受け入れることにした。
「いいですよ。ただし、他の人には内緒ね」
「わかりました。ありがとうございます」
麻琴の言葉に中学生たちは頭を下げた。
「なるべく早くしてくださいね」
「はい」
中学生たちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「おぉ〜・・」
麻琴は目を丸くした。2人が手にしたカメラは本格的なものだった。プロが使ってそうなカ
メラである。価格がどれくらいするのか検討もつかなかったが高価なものであることは想
像できた。それよりも、中学生がこんなカメラを持っていること自体が驚きだった。
「あれっ?」
どこかで見たことがあるカメラだったが、どこで見たかは思い出せなかった。
- 415 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:51
-
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は昔の雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
カシャッ
「すごい、すごい」
「TVで見るより小柄なんですね」
「かわいい」
中学生たちは楽しそうに撮影を続けた。
―誰なんだろう・・―
麻琴は首を傾げていた。ときより中学生たちの会話を聞いていると自分たち以上に娘のメ
ンバーにしかわからないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあ
った。しかも、メンバーの友達や親戚にここまで詳しいことを知る人物がいるとは到底思
えない。ここの出身は麻琴だけである。里沙や6期メンバーは中学生であるが、こちらに
友達がいることなんて聞いたことがない。まして、他のメンバーも当然のことである。
- 416 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:51
-
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「小川さん、かわいいですね」
「そんなことないですって」
「謙遜しちゃって」
「そんなことないって」
ちょっとほめられると照れるものである。特に見ず知らずの人だと余計に照れくさくなる。
「そろそろ終わりにしませんか」
「もう少しいいですか?」
「私も用事があるので・・」
「もう少しだけ、お願いします」
「・・・」
ちょっと強く言われると、断るにも断りきれない。
- 417 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:52
-
―まじっ?―
麻琴は中学生の持っているカメラの傷に目がいった。
「あのぉ、カメラ見せてくれません?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、不思議と圭のものに似ていた。
「保田さんのカメラ?」
傷を指差しながら、首を捻る。
「やっと気づいたんだ・・」
「鈍いね」
「まぁ、最初からわかっていたことだけど」
中学生たちにはわかっていたようだ。。
「ちょっと待って!どういうこと」
麻琴は二人の言葉に即座に反応した。
「やっぱり、鈍感だった」
「ちょっと、どういう意味?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、これが天然ってやつなんだろうね」
「何を言ってるの?」
馬鹿にしたような言葉に麻琴の表情も険しくなってくる。
「しょうがないね・・」
「教えてあげるよ」
カメラを置くとゆっくりと麻琴を見て微笑んだ。
- 418 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:53
-
グッ、グッ・・
「うっ・・」
麻琴は顔を両手で覆った。指の隙間から怖いものを見るように覗き込むとなんと髪の毛の
付近を思いっきり引っ張ると顔の皮がぐっと伸びるではないか。何度も映画やビデオでか
見たシーンだが、生で見るのは気味が悪いの一つだった。みるみるうちに皮がちぎれ、そ
の隙間からまた顔が見えた。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
「後藤さんと吉澤さん・・どうしてここにいるんですか・・」
口をぽかーんと開けたまま、視線は定まらない。
二人を見ているようだが、実際には見えていないようだ。
ビデオやDVDの一時停止ボタンを押したかのように体全体が固まっている。
「小川、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
- 419 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:54
-
時間が経つにつれて気分も落ち着いてきた。
「あのぉ・・後藤さん、吉澤さん、どういうことですか」
何が起こったか今一つ理解できない麻琴は恐々と尋ねた。
真希とひとみは笑いながら麻琴の様子を見ていた。
「小川、かわいい」
「いいねぇ、予想外の反応だよ」
「何のことですか!!」
さすがの麻琴も怒りを感じてきた。先ほどまでの恐々とした感が消えてきていた。
しかし、麻琴の怒りも言葉も2人には届くことはなかった。
カシャッ
ゴォーーーザザァーー、ゴォーー
シャッターを切る音と滝を落ちてくる水の轟音と重なった。
「うそっ・・」
大きな水の塊が空を覆う。
そして水が麻琴たちを襲う。
「きゃあーー・・」
叫び声とともに目の前が暗闇で覆われた。
予期できない出来事に動揺する麻琴。
必死で水面へと浮かび上がろうとするが体は沈む一方だった。
- 420 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:54
-
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 421 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:55
-
麻琴が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。自分の背後は真っ白い壁があった。
カチッ、カチッ・・
聞きなれない音が聞こえてくる。
ブーーン、ブーーン
さらに、嫌な音が聞こえてくる。
恐る恐る視線を上に向ける。
「きゃぁーーー!」
麻琴は思わずかがみこんだ。鏡には無数の蜂が映っていた。
しかも、数がどんどん増えていき、頭上を覆っていく。
「どうして・・」
視線を左右に動かすが蜂の巣らしきものはない。
自然と冷や汗が流れてくる。普通の蜂だと思っていたがぜんぜん違う。
―やばい・・―
その蜂の大きさからズズメバチだと容易にわかった。
麻琴は自分の格好に愕然とした。黒っぽい色に統一したことに後悔していた。
とりあえずその場を去ることが一番なのだが、前にも後ろにも左右にも足が進まない。
下手に動けば、一気に襲い掛かってくるかもしれない。
予想もできない状況に、ただじっとしておくしかない。
「まだ・・」
麻琴は再び鏡を見た。蜂は上空で麻琴の動きを監視するように飛び回っている。どこかに
飛んでいってくれることを期待するが、その様子はまったくない。蜂が1,2匹近づいてき
ている。思わず手を出しそうになるのを必死にこらえる。頭を低くしながら、蜂がどこか
に消えるのを待つだけだった。
- 422 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:55
-
「あぁ・・どこか逃げ道は・・」
上下を見れば左右に、左右を向けば上下に伸びる直線しか見えない。後ろを向けば真っ白
な壁だけしか見えない。
―うそっ―
いつの間にか足元に蜂の巣が現れた。
次々と飛び立つ蜂。
麻琴は思わずしりもちをついた。
少しでも離れようと立ち上がろうとするが腰が抜けて動けない。
それでも必死に這いつくばって移動する。
「来ないで」
必死の叫びもむなしく響くだけだった。
じわりと迫ってくる恐怖ほどいやらしいものはない。
顔がゆがんで、まともに見れないような表情に変わっていく。
- 423 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:57
-
「後藤さん!吉澤さん!」
思い出したように2人の名を呼んだ。すでにどこかに逃げているかもしれない。もしそう
であれば、助かることができるかもしれない。それにこんな状況を2人が見過ごすはずは
ないと思った。返事を聞き逃さないように耳に神経を集中するが、肝心の返事が返ってく
ることはなかった。
「後藤さん!吉澤さん!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと小さくなっていく。
だんだんと体も小さく丸まっていく。
- 424 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:57
-
状況は刻一刻と最悪の一途を辿っていた。
だんだんと近づく蜂の群れ。四方八方から羽の音が近づいてくる。
「助けて!来ないで!」
必死に叫び声をあげる。むろん、蜂に言葉が通じるはずもない。
ただ助かりたいという思いだけで必死に声を絞り出す。
なりふりかまっていられなかった。
蜂が襲い掛かる場面が脳裏をよぎる。
「助けて!痛い!きゃーーーーー!」
絶望の悲鳴が響いた。
それが最後の声だった。
- 425 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:58
-
「アハハハーーー、面白い」
「この表情・・最高!」
「いい味でてるよね・・」
「つぼにはまるわけだよ」
「言えてる・・ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 426 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:58
-
「次、誰にする?」
「誰でもいいよ!」
「そうだ、」
「いいねぇ!早く行こう!」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
- 427 名前:滝2 投稿日:2003/10/14(火) 21:59
-
恐怖にひきつる11枚の写真が重なっていた。
- 428 名前:写真12 投稿日:2003/10/14(火) 22:00
-
バタバタ、バタバタ、バタバタ・・
「おはようございます」
多くの人が行き交う廊下を邪魔にならないように端を早足で歩いていく。
その姿はちょっと焦っている感じだった。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くが返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
ゆっくりと部屋中を見渡すが、まだ誰も来てない様子だった。
「ふぅー、私が一番目か・・間に合った・・」
愛は手前の椅子へと移動する。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜、疲れた」
椅子に座ると両肘をついて顔を両手で支える。
「きつい・・」
思わず本音が漏れてしまう。娘本体はおろかミニモニとスケジュールも半端ではなかった
し、個人のスケジュールもびっしり詰まっている。おまけに新曲やコンサートに向けてダ
ンスレッスンが始まった。こういう時間がわずかではあるがほっとする時間だった。ただし、体は休めても心は休めない。
- 429 名前:写真12 投稿日:2003/10/14(火) 22:01
-
愛は中央のテーブルに置かれたバスケットの中に菓子が入っているのに気づいた。
こういうときには甘いものに限る。つい手が出てしまう。
「いただきまーす」
バスケットに手を伸ばした瞬間だった。
―あれっ?―
愛はバスケットの横に写真があるのに気づいた。写真は全部裏返ったままだった。
見ていいものか迷ってしまうが、誰もいなければつい見てしまうものである。
「アハハハハーーー、何だよ!」
写真を見た途端、愛は笑い声を上げた。
「保田さん、矢口さん、まこっちゃんやあさ美ちゃんまで・・どうして」
圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香、希美、麻琴の11枚の写
真があった。
この瞬間を実際に見たかったかというのが実感だった。
―みんな、面白い―
愛にとっては、歌番組のトークのネタにもってこいの材料だった。
- 430 名前:写真12 投稿日:2003/10/14(火) 22:01
-
コンコン、コンコン・・
「はいっ・・」
ドアの方を見るとスタッフが立っていた。
「これから写真撮影あるので、メイクいいですか」
「・・・」
「いいですか?」
「あっ、わかりました」
「しっかりしてくれよ」
「はい、すみません」
愛は申し訳なさそうな顔で頭を下げる。自分では気をつけているつもりなのだが、疲れの
せいかどこか気が抜けてしまうときがある。もっと気をつけないといけないと自分に言い
聞かせるのだった。
愛は荷物を整理すると控え室を出て行った。本当はもっとゆっくりしたいのが本音だが、
しっかりと注意されただけに仕方のないことだった。
控え室には11枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 431 名前:写真12 投稿日:2003/10/14(火) 22:03
-
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
愛は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。スタジオの扉が少しだけ開いていて、そ
の先にはセットが組みあがっていく様子が見えた。
―ほぉ〜〜―
いつもの撮影と違って、しっかりしたセットに少しだけ期待も膨らむ。予想以上のことに
緊張感が増してくる。
「おはようございます」
メイクを終えた愛の前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感じがした。し
かし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにショ
ートカットである。一瞬同一人物かと思ったが、それにしてはどこかよそよそしい感じだ
った。普段なら明るく声をかけてくるのにその気配もない。
- 432 名前:写真12 投稿日:2003/10/14(火) 22:03
-
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
いつもと変わらない撮影だ。次々と浴びせられる言葉。愛もその言葉に応えるようにポー
ズを決めていく。そこには先ほどまでと違って真剣な表情があった。しかし、その表情も
怪しげな表情に変わる。撮影は撮影だが何か足りないような感じがしていた。それが何かは愛自身もわからない。
―何かなぁ・・―
愛は奇妙な違和感を感じていた。
カシャッ、カシャ・・
愛の気持ちを無視するかのように撮影は続けられた。
他のメンバーが来る様子もなく、愛の写真撮影だけで終わりそうだった。
「う〜〜ん・・」
愛は本当にこれが撮影なのか首を捻りたくなってきた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
30分ほどして撮影は無事終了した。
- 433 名前:写真12 投稿日:2003/10/14(火) 22:04
-
愛は撮影が終わってもどこか納得できなかった。おまけに他のメンバーが来る気配もない。
おまけに撮影の合間に交わされる会話の内容はよっぽど親密な関係でないとわからないも
のだった。愛自身の細かい部分までも知っていた。愛に思い当たる人物は1人しか浮かば
ない。失礼は承知でカメラマンに尋ねてみた。
「すみません、保田さんですよね?」
「・・・」
何も反応がなかった。神妙な表情に変わった。
「あのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたか」
愛の心配をよそにカメラマンは大声を上げた。
「保田さん、ひどい!」
「ごめん、高橋よかったよ」
「それはそうと、何で保田さんがカメラマンしてるんですか」
「私も写真集を出そうと思って」
「保田さんのやつですか」
「違う、違う・・私が撮影したものを出そうと」
「そうなんですか〜」
「なんか疑ってない?」
「いやぁ、飽きたって言ってたから・・」
「そういえば、言ってた!」
愛の肩を叩きながら、苦笑いを浮かべる圭。
「他の人は撮らないんですか?」
「撮るよ!誰かいた?」
「わかりません、私来たときは一人しかいなかったから」
「そうか」
「見てきましょうか?」
「いいよ、スタッフに頼んでいるから」
「そうですか・・」
自分だけじゃないことにどこかほっとした気分になる愛だった。
- 434 名前:写真12 投稿日:2003/10/14(火) 22:05
-
「高橋、もう少しだけ付き合ってくれる?」
「いいですけど・・」
圭は愛の肩に腕を回す。
「どうしたんですか?」
「別に〜〜」
妖しい視線が愛に向けられる。
「何かするんですか・・」
愛は嫌な予感がした。
圭はいたずらっぽく笑うとそのまま愛の髪を優しく撫でた。
「高橋って・・かわいいよ〜・・ん・・」
愛の唇を奪った。
「止めてください」
腰を引き気味に固くなる愛。
「その反応がいいよね」
圭は口元を緩める。
「えっ、えっ・・」
「もう1回してあげようか?」
「いや・・いや・・もういいですって」
「あははははーー、最高」
愛の焦った声に圭は笑いが止まらない。
「もう、戻ります」
愛が椅子から立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。必死に目頭を押さえて視線を定めようとするが目の前
の光景はだんだんとぼやけていく。何が原因かまったく思いつかない。
「保田さん・・」
力ない声がかすかに響く。
―どうして?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿がぼんやりと消えていく。
いつしか目の前が真っ暗になっていた。
- 435 名前:写真12 投稿日:2003/10/14(火) 22:05
-
数日後
愛は仕事が終わってマネージャーから封筒をもらった。家に戻って、その封筒を取り出す
と、封筒には愛の名前しか書かれてなかった。既に圭からのものだとは教えられていたの
で一体中身が何なのか興味があった。どうせなら直接くれたらいいのにと思いながらも、
スケジュールの都合でなかなか会う機会もないことを考えると圭の心遣いに感謝するのだ
った。封筒を開けると中には写真が1枚だけ入っていた。写真を見ると真っ黒な背景にぽ
つんと愛だけが写っていた。写真撮影はおろかそれ以外でもこんな写真を撮った覚えがな
い。心当たりがないか必死に思い出そうとするのだが、何も思い当たらない。それだけに
気味が悪かった。
- 436 名前:写真12 投稿日:2003/10/14(火) 22:06
-
写真をもらったことを伝えようとするが連絡がとれない。とりあえず、メールだけは送っ
た。今度会ったときに写真のことを聞いてみることにして、ベッドの中に潜り込んだ。
しかし、写真のことを聞く機会はこなかった。
もちろんメールの返事も返ってこなかった。
- 437 名前:写真12 投稿日:2003/10/14(火) 22:06
-
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 438 名前:M_Y_F 投稿日:2003/10/14(火) 22:07
-
今日はここまで
- 439 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:06
-
「大きいわぁ」
愛は一人で木部西方寺の紀倍神社に来ていた。愛の目の前にはオニヒバと呼ばれる樹木が
立っていた。このオニヒバは福井県の天然記念物に指定されている。樹齢約400年、幹周
り約4メートル、樹高22メートルというこの樹木は、地上3メートル辺りのところから4
本に幹分かれしていて、上にまっすぐ伸びている。遠くからみると、まるで数本の木が寄
り添って立っているかのように見えるのが特徴である。また、このオニヒバには「水鬼」
の伝説がある。奈良時代に政道坊と名乗るお坊さんが、この辺りに出没した水鬼や鬼竜を
退治し、鬼の胴体を境内に埋めた。その上に一対のヒバを植えたことが、名前の由来にも
なっているという。現在のヒバは、1575(天正3)年、織田信長軍の兵火にかかり焼失し
たヒバの跡に植えられたものである。
- 440 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:06
-
「はぁーーー」
愛は大きく深呼吸しながら、リラックスできるときを楽しんでいた。一時期の忙しさに比
べたら少しは楽になったとはいえ、秒単位のスケジュールに終われる毎日である。ゆっく
りできる時間は何ものにも変えられない。一人の少女として過ごせる時間がもっとあれば
いいのにとつい欲がでてしまう。
―落ち着くなぁ・・―
目の前に広がる木々を眺めながら、思わずため息を漏らしていた。コンクリートばかりが
広がる都会と違って心がいっそうなごむ感じだ。せかせかしている都会よりものんびりと
した地元が一番と思うのだった。それに、それほど多くの人がいるわけでもないので思い
っきり羽を伸ばせるのも一因だった
―それにしても・・―
愛はよく自分の正体がばれないなと思っていた。それほど多くの人々と通りすがっていた
わけではないが誰一人自分の名前を呼ぶ人はいなかった。気を遣ってくれているかもしれ
ないが、名前を呼ばれないのも少し寂しい気がした。
- 441 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:07
-
「はぁ〜・・」
愛は木部西方寺を後にして九頭竜川のほとりを歩いていた。草木が風を受けてゆれている。
歩いている分には心地いい風だった。いつも感じているストレスを忘れさせてくれるよう
な風だった。
ザッーーーーーーー
ザァーー、ザパーーーーーーー
「あぁーーーーうそや・・」
突然の出来事に愛は思わず大声を上げた。
川の中央が盛り上がったと思えば、急に大きな波が愛のもとへと迫ってくる。
近くで大雨が降った様子もなければ、地震が起きた様子もない。何が原因かまったくわか
らない。気づけば目の前まで波が迫っていた。知らず知らずに後退りしている自分がいた。
ザッ、ザパーーーーーーーン
波は一気に地へと落ちた。そして先ほどまで立っていた場所はびしょびしょに濡れていた。
―びっくりしたーー!―
愛は胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんな川で大きな波が現れるとは思
っていなかった。海とかならわかるが何故川でこんなことが起こることが不思議でならな
かった。ただ、こんな話をしても誰も信じてもらえないだろうと思った。まだ、起きるか
もとビクビクしていたが何か起こるような気配はなかった。目を丸くしたまま、周りを見
渡すが他の場所では何も起きてないようだった。
「何やろう?」
波で濡れた地面を見ながら、首をひねっていた。
- 442 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:08
-
5分ほど経っただろうか、まだ心臓がドキドキしていた。
川全体を見渡しすが、何事もなかったかのように水が流れていた。
予想しえない状況に戸惑う愛に聞きなれない声がかけられた。
「愛ちゃんだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
まさか、ここで自分の正体がばれるとは思っていなかった。
「あのぉ〜、高橋愛さんですよね」
「そうですけど」
声のする方を向くとそこには2人の高校生の女の子がいた。
名前はわからないが、見覚えのある地元の学校の制服を着ていた。
「ふぅー」
思わず安堵のため息が漏れた。ただ、自分の名前を呼んでもらえたことに内心喜んでいた。
高校生たちは興奮しているようだった。
- 443 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:09
-
高校生たちは申し訳なさそうに声をかけてきた。
「お願いがあるんですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・どうしようかな・・」
愛は辺りを見渡しながら考えていた。腕時計を見ると、まだ時間には余裕があった。特に
することもなかったし、同性のファンということもあって高校生たちの申し出を受け入れ
ることにした。
「いいですよ。ただし、他の人には内緒にしてね」
「わかりました。ありがとうございます」
愛の返事に高校生たちは嬉しそうな表情を浮かべていた。
「なるべく早くしてくださいね」
「はい」
高校生たちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「すげぇ・・」
愛は目を丸くした。2人が手にしたカメラは本格的なものだった。プロが使ってそうなカ
メラである。価格がどれくらいするのか検討もつかなかったが高価なものであることは想
像できた。それよりも、高校生がこんなカメラを持っていること自体が驚きだった。
「あれっ、どこかで・・」
見覚えのあるカメラだったが、どこで見たかは思い出せなかった。
- 444 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:10
-
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は普通の雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
カシャッ
「すごい、すごい」
「TVで見るより小柄なんですね」
「かわいい」
高校生たちは楽しそうに撮影を続けた。
―誰なんやろう・・―
愛は首を捻っていた。ときより高校生たちの会話を聞いていると自分たち以上に娘のメン
バーにしかわからないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあっ
た。メンバーの友達や親戚にここまで詳しいことを知る人物がいるとは到底思えない。こ
の地をよく知っているのは愛だけである。それに他のメンバーの友達がここにいるなんて
聞いたこともなかった。
- 445 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:12
-
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「愛ちゃん、かわいいですね」
「そんなことないですって」
「謙遜しちゃって」
「そんなことないって」
ちょっとほめられると照れるものである。特に見ず知らずの人だと余計に照れくさくなる。
耳が少し赤くなっていた。
「そろそろ終わってもいいですか」
「もう少しいいですか?」
「私も用事があるので・・」
「もう少しだけ、お願いします」
「・・・」
ちょっと強く言われると、断るにも断りきれない。
それに、断れば何をされるか不安だった。
―うそっ?―
愛は中学生の持っているカメラの傷に目がいった。
「あのぉ、カメラ見せてくれませんか?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、不思議と圭のものに似ていることに気づいた。
「保田さんのカメラと同じ・・」
傷を指差しながら、首を傾ける。
- 446 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:12
-
「やっと気づいたんだ・・」
「鈍いね」
「まぁ、最初からわかっていたことだけど」
高校生たちにはわかっていたようだ。。
「ちょっと待って!どういう意味」
愛は二人の言葉に即座に反応した。
「だから、鈍いと言ってるじゃん」
「ちょっと待ってって、どういう意味や?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、これが天然というか純粋とかいうことなんだろうね」
「何を言ってんや?」
馬鹿にしたような言葉に愛の表情も険しくなってくる。
「しょうがないね・・」
「教えてあげるよ」
カメラを置くとゆっくりと愛を見て微笑んだ。
グッ、グッ・・
「あぁ・・」
愛は顔を両手で覆った。指の隙間から怖いものを見るように覗き込むとなんと髪の毛の付
近を思いっきり引っ張ると顔の皮がぐっと伸びるではないか。何度も映画やビデオでか見
たことがあるシーンだが、生で見るのは気味が悪いの一つだった。みるみるうちに皮がち
ぎれ、その隙間からまた顔が見えた。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
- 447 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:13
-
「後藤さんに吉澤さん・・どうしてここにおるんや・・」
口をと開けたまま、目が丸くなっていた。
瞳には二人が映っているが、何も見えていないようだった。
表情だけでなく体全体が固まっている。
「高橋、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
ひとみがシャッターを押し続ける。
時間が経つにつれて落ち着きを取り戻してきた。
「あのぉ・・後藤さん、吉澤さん、どういうことな・・」
何が起こったか今一つ理解できない愛は恐々と尋ねた。
真希とひとみは笑いながら愛の様子を見ていた。
「高橋、面白いよ」
「いいねぇ、思った通りだよ」
「何のことですか!!」
さすがの愛も怒りを感じてきた。先ほどまでの恐々とした感が消えていた。
しかし、愛の怒りも言葉も2人には届くことはなかった。
カシャッ
ゴォーーーザザァーー、ゴォーー
シャッターを切る音と大きな波が襲う音が重なった。
「うそっ・・」
大きな波が頭上を覆う。
愛たちは波に飲み込まれた。
「きゃあーー・・」
叫び声とともに目の前が暗闇で覆われた。
予想もしないことに慌てふためく愛。
必死で水面へと浮かび上がろうとするが体は沈む一方だった。
- 448 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:14
-
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 449 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:15
-
愛が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。自分の背後は真っ白い壁があった。
ボオッ、ボオッ・・
聞きなれない音が聞こえてくる。
フンフン、フンフン・・
さらに、嫌な臭いが鼻をつく。
恐る恐る臭いがするほうに視線を向ける。
「わぁーーー!」
愛は思わずかがみこんだ。鏡には無数の火の玉が映っていた。
しかも、数がどんどん増えていき、頭上を覆っていく。
「どうして・・」
視線を左右に動かすがどこから火の玉が現れてくるかわからない。
自然と冷や汗が流れてくる。いや、火の玉の熱気のせいだろうか。
―やばい・・―
愛は思わず辺りを見渡した。どこか身を隠せる場所かないかを探す。
- 450 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:15
-
「なんや、これ」
愛は目を疑った。下を向いた瞬間、そこには一直線に伸びる線しか見えない。あるはずの地面も自分の足もすべてが直線だった。
「うそやろ・・」
正面を向けばちゃんとした愛の姿が映っている。
「どうしてや」
左右を向くと、縦に伸びる線しかない。改めて驚くことばかりだった。
パンパン、パンパン
自分の頬を軽く叩いてみるが、現実は変わらない。
「熱い・・」
愛は再び鏡を見た。火の玉がずいぶん近くまで落ちてきていた。普通は幽霊とか出そうな
感じがあるが、頭上を明るく照らす火の玉にはそんな気配がない。焼き尽くされる感が強
かった。熱気のせいで額やこめかみから汗が吹き出ていた。いくら汗を拭っても汗が止ま
ることはない。
- 451 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:16
-
「どこか逃げ道はないんか・・」
必死に逃げ道を探すがどこにもそんな場所はない。
ジリジリジリジリ・・
「あちぃ」
髪の毛が焼けるような音がした。
あまりの熱気に気分が悪くなっていく。
頭を下げて、火の玉と距離をおくことぐらいしかできない。
「後藤さん!吉澤さん!」
思い出したように2人の名を呼んだ。すでにどこかに逃げているかもしれない。もしそう
であれば、何か助かる方法があるかもしれないないと思った。返事を聞き逃さないように
耳に神経を集中するが、肝心の返事が返ってくることはなかった。
「後藤さん!吉澤さん!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと小さくなっていく。
熱いせいか頭もだんだんぼーっとしてくる。
- 452 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:17
-
状況は刻一刻と最悪の一途を辿っていた。
だんだんと近づく火の玉。
「助けて!来ないで!」
無駄だと思いながらも必死に叫び声をあげる。
ただ助かりたいという思いだけで必死に声を絞り出す。
なりふりかまっていられなかった。
しかし、状況は何も変わらない。
「助けて!止めて!熱い!ぎゃーーーーー!」
絶望の悲鳴が響いた。
それが最後の声だった。
- 453 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:17
-
「アハハハーーー、面白い」
「この引きつり具合、最高!」
「いい味でてるよね・・」
「でも、今回はビデオのほうがよかったかも」
「そうだね・・ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 454 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:18
-
「次、誰にする?」
「年上にしようか!」
「そうだね、年上のほうがリアクションいいから」
「いいねぇ!早く行こう!」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
- 455 名前:川1 投稿日:2003/10/21(火) 23:18
-
恐怖にひきつる12枚の写真が重なっていた。
- 456 名前:M_Y_F 投稿日:2003/10/21(火) 23:19
-
今日はここまで
- 457 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:15
-
パチッ
TVとビデオの電源を入れた。
目の前にはビデオテープがあった。
何のラベルも貼っていないテープだった。
休憩の間の暇つぶしのためのものだと思い、ビデオを再生した。
- 458 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:16
-
いつも何気なく自分の顔を映し出す鏡。
この鏡の中がどうなっているのかふと不思議に思う。
原理とか科学的なことは関係ない。
鏡の向こうの世界が気になる。
鏡に手を合わせる。
このまま鏡の向こうに行けたら面白いと思う。
しかし、現実にそんなこと起こるとは思っていない。
よく漫画や小説に出てくる話。
今まで数多くの話を読んできた。
どれも似たような話にいつの間にかマンネリを感じていた。
- 459 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:17
-
「はぁ〜〜」
圭は大きく欠伸をしながら鏡を覗き込む。
寝不足のせいかまぶたが腫れている。おまけにクマもできている。
ボサボサの髪を指でとかしながら、頬を叩いて刺激を与える。
バシャバシャ・・
顔を洗い終えた圭は鏡に映った顔をじっと見ていた。
「さえないなあ〜」
最近慣れないことばかりが続くせいか顔にもしっかり表れている。
「あぁーー、もうーー」
どうにもならない苛立ちについ声を上げてしまう。
何が悪いかわかっていても、何もできない自分が歯がゆい。
- 460 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:18
-
圭は鏡に手をついた。
―えっ―
自分の目を疑った。手をついた周りに波紋が起こった。鏡で起こるはずがないことである。
指先には冷たくて硬い感じが伝わってくる。まさしく鏡である。
「変だよなあ」
圭は指先を見てみるが特に変わった様子もない。首を捻りながら、鏡に視線を移すが普通
の鏡にすぎなかった。体の具合でも悪いかと額に手に当てるが熱があるわけでもない。
「うぅーーん」
考えれば考えるほど不安が大きくなってくる。
―まさか・・―
幻だと思って鏡に手をつけた。すると、波紋が起こった。信じられなかった。気味が悪く
なって手を離そうとするが、自分の意志と関係なく鏡の中に手が引き込まれていく。思い
もしないことに顔がひきつっていく。必死に手を引き抜こうとするが、鏡の向こう側から
強い力に引っ張られる。気づけば肘の辺りまで鏡の中に引き込まれていた。
「助けてーーー」
大声を上げるが、誰も助けに来るはずがない。
未知の世界に圭はただ震えるだけだった。
「いやぁーーーー」
絶叫とともに体全体が光に包み込まれる。あまりのまぶしさに目を開けていられなかった。
- 461 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:20
-
5分ほど経っただろうか。
強い光のためにぼやけていた視界も元に戻ってきた。
辺りを見渡すが特に変わった様子もなかった。
―鏡の中に引き込まれたはず・・―
圭は恐る恐る鏡を触るが何も変化がない。
手にしたコップや歯磨き粉の文字はいつものままだった。
―どうなってるんだろう?―
首を傾げたまま、リビングへと向かう。しかし、変わったところはない。TVをつけてみ
るが特に変わったこともなかった。鏡の世界なら何か変わったことがあるはずと必死に異
なる点を探すが何もなかった。よく鏡の中では左右が逆になったり、考え方がまるっきり
違うとかいう話を聞くがそんなこともない。いつもと同じ光景にちょっと気が抜けた感が
するのだった。
- 462 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:21
-
「気晴らしにでもいくか」
薄手の黒のセーターにジーンズと格好で玄関を出た。右手にはたくさんの鍵がついたキー
ホルダーが握られていた。そして、一回り大きい鍵がひときわ輝いていた。
カツ、カツ、カツ、カツ
地下の駐車場に圭の靴音が響く。圭は最近買った車のところへと向かっていく。中古車だ
が初心者にはちょうどいいくらいだ。ボンネットを軽く撫でると足取りも軽やかに車に乗
り込む。
ブルルーーン
エンジン音が響く。
「いいよねぇーー」
体に伝わる振動がなんともいえない。
知らず知らずのうちに興奮してくる。
さっきまで曇りがちだった顔もいつしか明るさを取り戻していた。
ガクン、ガクン・・・キィーーー、ブゥーーーン
圭の性格を表わすかのように車は進んでいく。
車は順調に進んでいく。普段は道が狭いうえに歩行者も多いはずが、この日ばかりは誰も
いない。少しビクビクしながら運転していたのに、このときばかりと気持ちが大きくなる。
- 463 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:23
-
カチッ、カチッ
車は細い道から大通りへ出ようとしていた。
左右の安全を確認して、左に曲がろうとしたときだった。
キィーーーーー、ビィッビィーーーーー
左から来た車が急ブレーキをかけた。あと少しでぶつかるところだった。
「どこ見て運転してるんだ、この馬鹿!」
急ブレーキをかけた車の運転手が大声でののしった。
もう少しで大事故にもなりかねないことに男も完全に頭にきていたようだ。
「すみません」
圭は男の迫力にひたすら頭をさげるしかなかった。
しかし、いつもの光景とどこか違う。
バタン
車を降りた圭は相手の車を見て、自分が怒られていることが馬鹿馬鹿しく感じてきた。
男は物足りないのかまだ怒鳴り続けていた。
「いい加減にしてください!」
「うっ・・・」
圭の変わりように男の言葉も止まる。
「悪いのはあなたでしょう。だいたい車は左側通行でしょう。
右側通行なんて言語道断ですよ」
「おいおい、いい加減なのはお前だろう」
圭の言葉に男は呆れた顔で反論する。
「どういうことですか?」
「お前よく免許とれたなぁ?前の通りを見てみろよ」
男の言葉に圭は通りを流れる車に目を移した。
「えっーーーまじっ!」
圭は自分の目が信じられなかった。
なんと車が右側を走っていた。車が右側を走るなんてアメリカなどでは珍しくはないが、ここは日本である。遠くまで視線を移すが車は右側を走っていた。
- 464 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:24
-
驚きを隠せない圭に男の冷たい視線が突き刺さる。
「どうも申し訳ありませんでした」
さっきの勢いは消え失せ、圭は何度も頭を下げた。
その姿は首振り人形と変わらないほど滑稽なものだった。
「もういいよ」
男はやれやれといった表情でその場を去っていく。
「すみませんでした」
男の車が見えなくなるまで頭を下げていた。
「さてと」
気分を切り替えて車に乗ったもののハンドルを握る手が心なしか震えていた。
今まで左側通行だったのに急に右側を走らないといけないのだ。運転には慣れきたとはい
え、いきなり右側を走るのは勇気のいることだった。
ブッ、ブゥーーー
後ろを見れば数多くの車が並んでいた。圭は焦る気持ちを抑えながら、ゆっくりと車を発
進させた。
「ふぅーー」
無事に大通りに出た瞬間、思わずため息がもれた。とりあえず、事故だけは起こさないよ
うにと慎重に慎重に運転していく。大きな通りのせいか車の流れもスムーズだった。これ
なら何の心配もいらないと思っていた矢先だった。
- 465 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:25
-
キィーーーー
圭は思い切りブレーキを踏み込んだ。
「前の車、信号無視だよ」
圭は信号を見ながらぶつぶつと独り言を並べていた。
ブッ、ブゥーーー
ブッ、ブゥーーー
「何かうるさいよね、信号が赤でしょう」
圭は懲りない運転手がいるもんだとあきれ返っていた。
ちょっと待っていると、信号が赤から黄、黄から青へと変わる。
おかしな信号があるんだと思いながらもゆっくりとブレーキを緩めようとした。
「ちょっと、危ない」
圭はあわを食らったようにブレーキを再度踏み込んだ。
左右から次々と人が車の前を通っていく。車も同じだった。
顔を引きつらせながら、事故を起こさなくてよかったと思うと同時に急に右側通行になっ
たことを思い出した。もしかしたら、信号が逆になっているのかと予想ができた。
信号が赤に変わった。隣の車が発進するのを確認して、圭も車を発進された。圭はようや
く違う世界に紛れ込んだことを悟った。そして、急に怖くなってきた。気晴らしにドライ
ブでもと思っていたのだが、これから先何がどう変わっているかわからない。家にいてビ
デオやDVDを見ていた方がよっぽど安全だと思った。圭はビクビクしながら自宅に戻っ
ていった。
「はぁ〜、どうなっているのよ」
家に戻った後、TVに向かって文句をずっと言っていた。あまり見ないニュースを見るの
だが車が右側通行なのと信号の赤と青が逆という以外は変わりはない。テーブルの上には
ビールの空き缶と日本酒の空き瓶が並べられていた。せっかくの気晴らしのドライブが恐
怖に変わり、わけのわからない世界にいるとなってはストレスがたまるばかりである。そ
うでなくてもイライラしている身にとっては最悪だった。アルコールでも飲んでいないと
やってられない気分だった。
ズゥーーー、ズゥーーー
慣れない世界に疲れたのだろうか、そのまま圭は眠りについた。
- 466 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:27
-
ガヤガヤ、ガヤガヤ・・
「う〜、あぁーーー」
圭は外から聞こえる雑音で目が覚めた。
気づけば朝になっていた。最近ではありえない睡眠時間だった。
携帯をチェックすると、メールが事務所から届いていた。今日の仕事がキャンセルになっ
たのでオフになったということだった。念のために事務所に電話をいれるとオフと伝えら
れた。
ぱさついた髪を振り乱しながら、バスへと向かう。脱衣場でふと自分の姿を映すとむくん
だ顔の姿があった。ちょっと肌につやがなく、まぶたも腫れている。こんなままじゃいけ
ないと自分に気合を入れる。
鏡の中の自分を見ていると、昨日の朝の出来事が頭に浮かんだ。怖々と鏡に手をつけるが
変わったことは起きなかった。テーブルの上の状態が昨日から変わっていないからこそ、
違う世界に来ていると自分に言い聞かせて落ち着こうとしていた。
シャワーを浴びた後,TVを見たが昨日から状況は変わっていない。
どうやったら元の世界に戻れるのか不安が大きくなってくる。
- 467 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:28
-
トゥルゥーーー、トゥルゥーーー
友達からの電話だった。
時間があればドライブに行こうという誘いだった。
気分が滅入ってる圭にはありがたい誘いだった。
早速、車で友達の家に向かうことにした。
昨日のことがあるだけに運転には余計に慎重になる。
いつものように大通りへの道を左折しようとしたときだった。
「うそ!いやぁーーー」
ガシャーーーーン
大きな音とともに圭の存在が消えた。
元の世界に戻ることもできなかった。
- 468 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:30
-
カチッ
ビデオはそこまでだった。
「面白かった!圭ちゃん、けっこう芝居うまいやんか!」
控え室でビデオにかじりつく裕子の姿があった。
―圭ちゃん、こんなドラマに出演したって言ってたっけ?―
よく考えれば、誰からもドラマの話のことなど聞いたことがなかった。
- 469 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:31
-
ギィーーー
見終わったビデオが巻き戻されて出てきた。
ビデオをケースの中に納めながら、あれこれと考えるが納得できない。
- 470 名前:The truth and the lie in a mirror 投稿日:2003/10/25(土) 03:32
-
時計を見れば、仕事の開始時間が間近に迫っていた。
今度このドラマのことを聞いてみることにして、これから始まる仕事に頭を切り替えてい
た。
- 471 名前:M_Y_F 投稿日:2003/10/25(土) 03:33
-
今日はここまで
- 472 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:13
-
控え室の中で、ビデオが再生されていた。
「キャハハハハーー」
控え室からは手を叩きながら笑う様子が伝わってくる。
「これが裕ちゃんが言ってたケメコのビデオかな」
圭織はストーリーよりも圭の姿に目がいっていた。
怖い話が苦手な圭織も安心して見ていられた。
ガサガサ、ガサガサ・・
ビデオを見終わった後、バッグに中からMDを取り出す。
イヤホンを耳にして、お気に入りの曲をバッグに本を読み出した。
「ふぅー」
思わずため息が漏れる。
大人数でいる時間が長いせいか、こういう時間が一番落ち着く。
本を読みながら、ふと肩をグルグルと回す。
知らず知らずのうちにしてしまうしぐさだった。
「疲れる・・」
一人だと思わず本音が漏れてしまう。立場上、しっかりしないといけない分だけ精神面で
の疲れは計りしれない。娘本体はおろか個人のスケジュールもびっしり詰まっている。表
には見えないダンスレッスンなどの方が圧倒的に多い。こういう時間がわずかではあるが
くつろげる時間だった。特に自分だけの仕事となると責任は大きくなるが、余計な注意を
払う必要がない分だけ楽である。
- 473 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:14
-
圭織は中央のテーブルに置かれた菓子が入ってるバスケットに手を伸ばした。
疲れているときには甘いものが欲しくなる。不規則な仕事でもあるし、少しは胃に何か入
れておかないと体力が持たない。
「いただきま〜す」
バスケットに手を伸ばした瞬間だった。
「こんなのがあったんだ〜」
圭織はバスケットの横に写真があるのに気づいた。写真は全部裏返ったままだった。
興味本位で写真を手にした。
「キャハハハハーーー、何だよ!」
写真を見た途端、大声で笑い始めた。
「ケメコに矢口になっち、彩っぺに明日香、ほとんどいるじゃん、どうしたんだよ」
圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香、希美、麻琴、愛の12枚
の写真があった。
この瞬間をビデオか何かで見たかったかというのが実感だった。
―みんな、面白い―
圭織にとっては、トークのネタとして最適だった。
―でも、いつ撮ったんだろう?―
よく考えると誰もこんな写真を撮ったと連絡もないし、事務所からもそれらしきことも聞
いてない。彩や紗耶香は除いて、明日香の写真があるのがどうしても腑に落ちなかった。
- 474 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:15
-
コンコン、コンコン・・
「はいっ・・」
ドアの方を見るとスタッフが立っていた。
「これから写真撮影あるので、メイクいいですか」
「・・・」
「いいですか?」
「あっ、わかりました」
「急いでください」
圭織は申し訳なさそうな顔で頭を下げる。また、交信でもしていたんだろうと相手は思っ
ているはずである。以前に比べれば、はるかにましになったと思っているが、疲れがたま
る(?)とついつい態度にでるものである。
圭織は荷物を整理すると控え室を出て行った。本当はもっとゆっくりしたいのが本音だが、
様々なスタッフがいる以上わがままを言うわけにはいかなかった。
控え室には12枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 475 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:15
-
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
圭織は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。スタジオの扉が少しだけ開いていて、
その先にはセットが組みあがっていく様子が見えた。
―ほぉ〜〜―
いつもの撮影と違って、シックな感じのセットに少しだけ期待も膨らむ。
パンパン、パンパン
自分に気合を入れるために軽く頬を叩く。
「冴えないなあ」
鏡に映った目の下のクマを見ながら、顔に疲れが出ているのが気になった。
「おはようございます」
メイクを終えた圭織の前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感じがした。
しかし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにシ
ョートカットである。一瞬同一人物かと思ったが、それにしてはどこかよそよそしい感じ
だった。普段なら明るく声をかけてくるのにその気配もない。また、いつもの雰囲気から
すると暗い感じがしていた。
- 476 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:16
-
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
いつもと変わらない撮影だ。次々と要求される言葉。圭織もその言葉に応えるようにポー
ズを決めていく。そこには先ほどまでと違って真剣な表情があった。しかし、その表情に
は出さないまでも心の中に変に引っかかるものがあった。ただ淡々と進む内容に物足りな
さを感じていた。
―何かなぁ・・―
圭織は微妙な違和感を感じていた。
「最後です」
カシャッ
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
30分ほどして撮影は無事終了した。
- 477 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:17
-
圭織は撮影が終わってもどこか納得できなかった。撮影の合間に交わされる会話は機械的
なものが多かったがぽつりぽつりと話される内容はよっぽど親密な関係でないとわからな
いものだった。圭織自身に関する細かい部分までも知っていた。頭の中にはある人物が浮
かび上がっていた。失礼は承知でカメラマンに尋ねてみた。
「すみません、圭ちゃんだよね?」
「・・・」
何も反応がなかった。神妙な表情に変わった。
「間違いだったら・・」
「あぁ〜、ばれたか・・アハハハハーー」
圭織の心配をよそにカメラマンは笑いながら声を上げた。
「ケメコ、ひどい!」
「ごめん・・」
「それはそうと、何でケメコがカメラマンしてるの」
「カメラマンとしての写真集を出そうと思って」
「そうか、モデルがケメコじゃ物足りないよね」
「何言ってるの?私がモデルをしたら皆倒れちゃうわよ」
圭は両手を頬に当て、唇を突き出してウィンクする
「おぇーーー」
「何だよ」
いつもの反応に思わず圭織の肩を叩く。
「ケメコのが売れるなら、誰でも売れるよ」
「ちょっとそれはひどいんじゃないか!」
圭は頬を膨らませている。
- 478 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:18
-
「そういえば、他のメンバーも撮るの?」
「うん、これからね」
「えっ、もう撮っているメンバーもいるんじゃない?」
「まだだけど?」
「楽屋に写真があったよ・・明日香の写真も・・」
「へぇーー、私は何も知らないよ。圭織が最初だし」
「本当?」
「うん・・」
圭の返事に複雑な表情を浮かべる圭織だった。
「圭織さ、最近疲れてるんじゃない?」
「まあね・・」
圭の言葉に思わず本音が漏れる。圭以外誰もいないので素直に言葉も出る。
「まあ、あんだけ人数いるとね、あんまり無理するなよ」
「ありがとう・・うっ、効く・・」
圭は圭織の肩を揉み始めた。
「すごくこってるよ・・」
「そうでしょう、最近肩が重いんだよね」
首を左右に動かしながら、肩を上下に動かす。
「圭織って、セクシーだよね」
圭はいたずらっぽく言うとそのまま圭織の髪を優しく撫でた。
「ちょっと止めてよ・・ケメコ」
圭の態度の変わりように悪寒に襲われる
「そう言わずにさぁ、圭織って・・かわいいよ〜・・ん・・」
圭織の唇を奪った。
- 479 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:19
-
「止めてよ・・」
腰を引き気味に固くなる圭織。
「何だよ・・他のメンバーとなら喜ぶくせに・・」
「そうでもないよ!でもね、ケメコとはちょっとはずかしいんだよ」
圭織は困った表情で答えた。
「そういうことなら、もう1回してあげようか?」
「いや・・いや・・もういいよ」
「あははははーー、その顔、最高」
「からかうのもいい加減にしてよ」
圭織の表情に圭は笑いが止まらない。
言葉に反して圭織の顔にも笑みが浮かんできていた。
「そろそろ戻るよ」
圭織が歩き出した瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。必死に目頭を押さえて視線を定めようとするが目の前
の光景はだんだんとぼやけていく。何が原因かまったく思いつかない。足元もおぼつかな
くなってきた。
「ケメコ・・」
力ない声がかすかに響く。
―何故?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿がかすんでいく。
立っていられなくなってきた。
いつしか目の前が真っ暗になっていた。
- 480 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:19
-
数日後
圭織は仕事が終わってマネージャーから封筒をもらった。家に戻って、その封筒を取り出
すと、封筒には圭織の名前しか書かれてなかった。既に圭からのものだとは教えられてい
たので一体中身が何なのか興味があった。どうせなら直接くれたらいいのにと思いながら
も、スケジュールの都合でなかなか会う機会もないことを考えると圭の心遣いに感謝する
のだった。封筒を開けると中には写真が1枚だけ入っていた。写真を見ると真っ黒な背景
にぽつんと圭織だけが写っていた。写真撮影はおろかそれ以外でもこんな写真を撮った覚
えがない。撮影以外で圭に写真を撮ってもらったことがないかを必死に思い出してみるが、
何も思い当たらない。普段の圭からは考えられないことだけに不気味だった。
- 481 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:20
-
写真をもらったことを伝えようとするが連絡がとれない。メールだけは送って後で電話し
ようとした。しかし、電話が繋がることはなかった。今度会ったときに写真のことを聞い
てみることにして、その日は眠りについた。
しかし、写真のことを聞く機会はこなかった。
もちろんメールの返事も返ってこなかった。
- 482 名前:写真13 投稿日:2003/11/09(日) 22:21
-
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 483 名前:M_Y_F 投稿日:2003/11/09(日) 22:22
-
今日はここまで
- 484 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/09(日) 23:16
- 気づけば一気に読んでいました。
これからどうなるんですか?
どんな結果になるのか気になります。
- 485 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:19
- 「へぇ〜、こんな風に見えるんだ・・」
圭織は目に映る札幌市街の様子に感心していた。
圭織は百年記念塔の展望室から眼下に広がる光景を眺めていた。本来ならスケッチブック
でも取り出して写生でもできればいいのだろうが場所と自分のことを考えればそんなこと
はできない。
―あれがドームか・・―
圭織はいろいろと目に映るものを確認していく。札幌ドームや月寒グリーンドームはすぐ
にわかった。そして、札幌市街の先には山並みがあり、左側の山は樽前山、その右になだ
らかな羊ケ丘、右側には手稲山が見えていた。
―こっちは緑がいっぱいだけど・・―
江別の方を見ると眼下には森林が広がっていた。天気がよければ芦別連峰や大雪山系も見
えるということだったが霞んで見ることはできなかった。
- 486 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:20
-
圭織が来ていたのは野幌森林公園である。この公園は札幌市・江別市・北広島市の3市に
またがる野幌丘陵に存在する、約2051ヘクタールの大きさである。この公園は主に3
つのゾーンに別れている。ポロベツ川上流付近と瑞穂池周辺と登満別・大沢の池周辺であ
る。圭織がいる百年記念塔は瑞穂池周辺にあり、北海道百年記念事業の一環として昭和4
5年9月に完成した塔である。高さは北海道百年にちなんで、100メートル、その形は
上空へ向かって無限大の高さで交わる二次曲線によって未来への発展を象徴し、平面的に
は雪の結晶の六角形を形どっている。ここからは四季折々の札幌市街の様子を見ることが
できる。
―かなり時間がかかったなあ・・―
圭織は瑞穂池に来ていた。先ほどいた百年記念塔から歩いて20分ぐらいのところにある。
額にはうっすらと汗がにじんでいた。少し荒れ気味の呼吸を整えながら、池の様子を見て
いた。この瑞穂池は潅漑用として昭和3年に造られたものである。公園内最大の池で、11ha
の広さがある、柵があって中には入れない。かつては、柵のギリギリまで水が貯えられて
いたが、池自体の老朽化と利用農家がいなくなったため、水量は大幅に減少している。池
の周りは多くの木々で囲まれていた。
- 487 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:21
-
「ふぅーー」
圭織は柵の前に座ると、スケッチブックを取り出すと写生を始めた。何も考えずに筆を進
める。周りには誰もいない。風の音と木々の揺れる音をBGMにゆったりとした時間が過
ぎていく。
―どうなるんだろう・・―
ふと我に返ると、これから先のことが気にかかった。なつみの卒業が決まり、オリメンは
自分一人だけ。矢口がいるものの、その後については不安ばかりだった。グループの色が
変わってきている中で、少し浮いた感を感じずにはいられない。一人になるとついこれか
らのことを考えてしまう。そんな圭織の心情を示すように筆を握る手も重く感じてくる。
「違う、違う・・」
悩みを吹っ切るように頭を振る。
後ろ向きになりがちな気持ちを捨て去るように、再び筆を動かす。
- 488 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:21
-
30分ほど経ったぐらいだろうか、突然轟音が圭織の耳に届いた。
ザザーーザバーーン
目の前に大きな波が迫ってきた。
池の水位を考えると予想もできないほどの大きさだった。
自然と後ろに下がっていく。
ザ、ザーーーザパーーン
次々と大きな波が目の前に押し寄せる。
しかし、波が圭織のところまでくることはなかった。
―びっくりしたーー!―
圭織は胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんなに大きな波が押し寄せてく
るとは思ってもみなかった。
「アハハハーー」
次の瞬間、圭織は笑っていた。一人で騒ぎまくっている姿を誰かに見られたかと思うと苦
笑いで済ませるしか思いつかない。いくら波が大きいとはいってもここまで来る大きさで
はなかった。あまりの驚きように我ながら呆れていた。周りを見渡すと誰もいないようで
ちょっとだけ救われた気分になった。
「あぁ・・」
せっかくスケッチしていた絵も先ほどの波のせいでめちゃめちゃになっていた。
思わぬ失態に頭をかいた。
- 489 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:22
-
「あっ、圭織だ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
今までの様子を見られたかと思うと急に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「すみません、飯田圭織さんですよね」
「そうだけど」
声のする方を向くとそこには2人のOL風の女性がいた。
「ふぅー」
安堵のため息が漏れた。二人のほかには誰も見当たらなかったせいである。せっかくの時
間をファンとかに追い掛け回されるのもいやだったがその心配はしなくてよさそうだった。
それよりも、さっきの恥ずかしい姿をOL以外見られたと考えると、更に恥ずかしさを増
していくのだった。
- 490 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:23
-
「お願いですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・」
圭織は辺りを見渡しながら考えていた。普段なら断るところだが、同性からファンの声に
はできれば応えてあげたいと思っていた。男性が圧倒的に多い中での女性ファンは貴重な
存在だった。見渡せば目の前にいるOL以外はいなかった。それにさっきのこともある。
「いいですよ」
「ありがとうございます」
圭織の返事にOLたちの表情に笑みが浮かぶ。
「なるべく早くお願いします、周りにばれると面倒なことになるのは困るから」
「はい」
OLたちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「やっぱ、すごい・・」
圭織は目を丸くした。最初は携帯かデジカメのたぐいだと思っていたが、2人が手にして
いたカメラは本格的なものだった。どこかで見たことがあるカメラだったが、どこで見た
かは思い出せない。場所が場所だけにカメラも違うんだと妙に納得する圭織だった。
- 491 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:24
-
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
カシャッ
「すごく映えるよね」
「やっぱり、生の圭織は違うね」
「すごくかっこいいし」
OLたちは楽しそうに撮影を続けた。
OLの言葉に圭織もまんざらでもない表情を浮かべていた。
―おかしいよ・・―
圭織は首を捻っていた。OLたちの会話を聞いているとなつみたち娘のメンバーしかわか
らないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあった。一体誰の友
達なのか予想してみるがわからない。年齢的には自分たちとそれほど変わらない。なつみ
か美貴の友達かと思ったが、こんな友達がいるとは聞いたことがない。そもそもメンバー
から聞いたことにしてはあまりにも生々しいものだった。
- 492 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:25
-
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「飯田さんって、すごくセクシーですね」
「そうですか?」
「ほんと、あこがれちゃうなあ。スタイルもいいし・・」
「そう?」
お世辞でもほめられるとうれしいものである。
レンズに向かって精一杯の笑顔を振りまく。
「そろそろ終わりにしたいんですだけど」
「もう少しいいですか?」
「ねぇ、いいでしょう」
「えっ・・」
「だって、こんな機会ないですから」
「さっき一人で騒いでましたよね?」
「ちょっと・・・」
OLたちは再びレンズを向けた。
―う〜ん?―
圭織はOLの持っているカメラの傷に目がいった。
「あのぉ〜、カメラ見せてくれませんか?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、そのカメラが圭のものであることがわかった。
「どうして圭ちゃんのカメラを持ってるの?」
疑問がそのまま口から出る。
「やっと気づいたんだ・・」
「鈍いよね」
それが当然かのように応えた。
「ちょっと待って!あなたたち誰なの?」
OLの言葉に圭織の表情が引き締まる。
いくら圭に友達が多いとはいってもこんなOLのことなど聞いたことがなかった。
- 493 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:26
-
「圭織も意外と気づかないんだよね」
「うん、もっと鋭いかと思ったけど」
「ちょっと、どういうこと?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、これだから困るんだよね」
「くそっ!馬鹿にしてるの!」
自然と拳に力が入る。
「しょうがないね・・」
「教えてあげるよ・・」
カメラを置くとゆっくりと圭織を見て微笑んだ。
グッ、グッ・・
「うそっ・・」
圭織は両手で顔を覆った。指の隙間から目に飛び込んできた光景は信じられないものだっ
た。なんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮がぐっと伸びていく。気持ち悪い
の一言だった。そして、皮がちぎれ、その隙間からまた顔が見えた。そこにははっきりと
見覚えのある顔があった。
- 494 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:27
-
「後藤、吉澤・・どうして・・」
圭織の裏返った声が今の気持ちを表していた。目の前の出来事を受け入れるほど余裕がな
かった。人の中から人が現れるなんて映画とかでしか見たことがない。そこにいるのが本
物の真希とひとみだとはとても信じられなかった。
「圭織、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
圭織は口を開けたまま視線は彷徨っていた。
冷静でいられること自体、無理なことだった。
しかし、時間とともに落ち着きを取り戻す。
「ちょっと・・後藤、吉澤、どういうこと」
圭織は肩を震わせて二人に近づいていく。
しかし、圭織の表情にはどこか怯えた感じが残っていた。
- 495 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:27
-
「圭織、最高」
「さすが交信女王」
「いいかげんにしなよ!!」
圭織は目を剥きだして、二人に迫る。
しかし、その怒りが二人にぶつけられることはなかった。
カシャッ
ドォーーーザザーーン、ザバーーン
シャッターを切る音と波音が重なった。そして波が圭織たちを襲った。
「きゃあーー・・」
叫び声とともに目の前が真っ暗になった。
突然の変化に頭が真っ白になる。
必死で水面へと浮かび上がろうとするが体は沈んでいくのだった。
- 496 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:28
-
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 497 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:29
-
圭織が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。映った姿には特に変わった様子は見
られない。鏡には自分以外の姿以外映っていなかった。どこにいるのかまったくわからな
い。後ろには白い壁しか移っていない。視線は上方へと移る。
「何だよーー!わぁーー!」
圭織は目を疑った。
目の上から白くて大きなものが落ちてくる。その姿は大きな魚だった。
香織の視線はしばらくその魚みたいなものに集中していた。本当の交信状態だった。
「何で鯨がいるの・・」
圭織はその正体がようやくわかった。ゆっくりと回転しながら落ちてくる白と黒の配色と
その形から鯨以外に考えられなかった。しかし、すでに落ちてもおかしくないはずなのに
圭織の怖がる様子を楽しむがごとくスローモーションで落ちてくる。しばらくその様子に
見とれていた。
- 498 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:30
-
「でもさ・・」
普段なら真っ先に逃げていただろうが、今回は違った。その魅力にはまったとでもいうの
だろうか。何故、海にいるはずの鯨が宙に舞っているのか、何故海の中にいる生物がこん
なところにいるのか考えれば考えるほどわけがわからなくなってくる。また、こんなとこ
ろに鯨がいることが嬉しくも感じた。間近で鯨を見れるなんて機会はない。最初はバルー
ンみたいなものかと思ったが、激しく動く尾びれやその姿の質感から本物意外に思えなか
った。
「やばい・・」
早く逃げないと押しつぶされる。圭織は小刻みに首を動かした。
「どういうこと?」
左右を向けば上下に伸びる直線しか見えないし、後ろを向けば真っ白な壁だけしか見えな
い。懸命に逃げ道を探すがどこにもそんなものは見当たらない。鯨は回転しながら、ゆっ
くりと迫ってくる。下敷きになれば確実に死ぬのは間違いなかった。映画で見たようなシ
ーンが次々と脳裏に浮かんでくる。逃げようと足を動かすが、鯨の位置はぜんぜん変わら
ない。さらに頭上との差が縮まっている。
「もう、嫌だーー」
真里が一瞬うらやましく思えた。
- 499 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:31
-
「後藤!吉澤!」
思い出したように2人の名を呼んだ。
2人も同じように波に巻き込まれたはずだ。
もし無事だったら、先に安全な場所に逃げているかもしれなかった。
あの2人が現れてからおかしなことばかり起こったのだ。
2人が何か知っていてもおかしくはない。
しかし、圭織の声以外何も聞こえない。
「後藤!吉澤!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと力がなくなっていく。
絶望という名の暗闇が圭織に迫ってくる。
- 500 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:31
-
状況は刻一刻と悪いほうに向かっていた。
だんだんと大きくなる鯨の姿。
「きゃーーー、わぁわぁーー、助けてーーー」
必死に叫び声をあげる。足を動かそうとするが動かない。
ただ助かりたいという思いだけで必死に声を絞り出す。
無駄だと思いながらも身を低くして両手を頭の上にかざす。
迫り来る恐怖に足をばたつかせるが何の役にも立たない。
「きゃーーーーー!助けてーーーーー!お願・・」
諦めの悲鳴がむなしく響いた。
それが最後の声だった。
- 501 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:33
-
「アハハハーーー、面白いよ!」
「うん、期待を裏切らないよね!」
「やっぱり、一番の天然だよね」
「澄ましているときとのギャップがいいよね」
「あとさ、目が怖くない?」
「それはいえてる。アハハハハーー」
「ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 502 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:33
-
「次、どうする?」
「そう!もう残り少ないよね・・」
「どっちを最後にする?」
「やっぱり、あっちだよね・・」
「そうでしょう・・いいリアクションが期待できるよね」
「仕上げに向かって、ラストスパート!」
「オォーー!」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
- 503 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:34
-
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
- 504 名前:池5 投稿日:2003/11/22(土) 19:34
-
恐怖にひきつる13枚の写真が重なっていた。
- 505 名前:M_Y_F 投稿日:2003/11/22(土) 19:40
-
今日はここまで
>>484 名無し読者さん
ありがとうございます。
最後は決めてますけど・・
そろそろラストにしようかな?
- 506 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/28(金) 22:51
- うんうん おもろい
- 507 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:47
-
パチッ
TVとビデオの電源を入れた。
目の前にはビデオテープがあった。
何のビデオかわからない。
とりあえず、ビデオを再生してみた。
- 508 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:48
-
「ふぅ・・、何でこんなところにあるんだよ!
もし嘘だったら火をつけるからな・・」
小柄な女性は大きく肩で息をしながら、額に浮かぶ汗を拭っていた。
「でも、ここ気味悪いよ」
周りには木々が生い茂り、人が住んでるとは思えないような家が建っていた。
意を決して門をくぐる。
「ごめんください」
「・・・」
「ごめんください」
「・・・」
玄関の前に立った女性は何度も声を上げるが返事がない。
「いい加減にしろよ!!」
きつい思いもしてここまで来たのに、何もないでは頭にくるのも当然だ。
「おいら、すごく当たると聞いたから期待して、せっかくの休みを利用して来たんだぞ」
思わず本音が漏れる。
- 509 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:49
-
ギィーー・・・
「わぁ!」
ちょっと膨れっ面の顔が一瞬にしてひきつる。
一気に顔から血が引いていくのを感じた。
開かれた扉の向こうに人影らしきものはない。
「あのぉ・・」
怖いものを見るように玄関を覗き込むが何も返事がない。
目の前にはほのかに灯る明かりが奥へと続いていた。
―あの噂はホントなのかなあ・・―
目の前の魔女の絵を目にしたとき、ちょっと後悔していた。
流行っていると聞いていたが、そんな様子は少しもない。
いかにもインチキくさい感じがする。
街中なら即座に帰っているところだが、ここではそうはいかない。
半日以上かけてここまで来た意味がなくなってしまう。
来たからには占ってもらわないことには今後が始まらない。
明かりに沿って奥へと進む。
両脇にはヨーロッパ調の家具が並ぶ。一見したところ古いものばかりだが、どれも高級な
感じが漂う。触ってみたいがちょっと躊躇してしまう。
明かりの先には扉があった。
- 510 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:51
-
ゴクッ・・
扉を前にした女性は重々しい空気に唾を飲み込んだ。
ゆっくりと右手でノックをする。
「どうぞ・・」
ドアの向こうから聞こえてきた声は若くてつやのある声だった。
「失礼します」
恐る恐る部屋の中に入る。
薄暗い中に浮かび上がる古い家具。
その明かりの中心には黒尽くめの占い師が座っていた。
顔は布で覆われてよくわからない。
ただ、赤く光る瞳が女性のすべてを捉えていた。
「座ってください」
「はい・・・」
女性は言われるままだった。
占い師は女性をじっと見たままだ。
占い師の手はひたすらカードをシャッフルしていた。何も聞こうともしない。
「すみません・・」
「カードを1枚だけ引いてください」
女性の言葉を遮るようにカードを裏返したまま並べた。
- 511 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:52
- 「えっ・・・急にそんなこと言われても」
「引いてください」
「は、はいっ」
躊躇いながらも、一枚のカードを指差した。
「これですね?」
「はい」
占い師は女性に確認するとカードをひっくり返した。
「これがあなたの運命です」
そこには2頭の馬と戦車に乗った男が描かれたカードがあった。
「戦車、しかも正の位置です・・
今の仕事を途中で投げ出さないで、そのままやり遂げればきっと成果は出ます」
「本当ですか?」
「信じるも信じないもあなたの自由です」
「・・・」
何も言い返せなかった。自分が尋ねたい答えを占い師は先に言ってしまった。
占い師は我関せずといった感じで女性を睨んでいた。
占い師の視線に体が固まる。
「他に知りたいことは?」
「いいえ」
「そうですか・・」
占い師はタロットカードを手に取ると、その場を立った。
「ちょっと待ってください!」
慌てたのは女性だった。
「もう占いたいことはないんでしょう?」
「そうですけど・・お金は?」
「お金は結構です・・ただし、半年後にもう一度来てください」
「半年後ですか?来れなかったら、どうすればいいんですか?」
「半年後にお会いしましょう。今日は遅いので、ここにお泊りください」
「わかりました」
女性は納得できないまま、占い師の言うとおりに泊まると翌日家に戻った。
- 512 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:53
-
“世紀の大発明 原子分解装置 実験に成功
開発者はXX大学工学部助教授 矢口真里
ノーベル賞も当確か!”
新聞やTVや雑誌、すべてのマスメディアが取り上げた記事だった。
“矢口真里”
自称天才と名乗る女性である。確かに頭脳明晰なのだが、その考え方は普通の人々とはず
れていた。真里は地方にある大学の助教授だった。最近の不景気のせいで、大学側も予算
を削られ、肝心の企業からの協力もない状態では研究もままならない。それでなくても、
真里の評判は芳しくなかった。真里の説は誰もが信じられるようなものではなかった。新
発明というものには常識という壁が立ちはだかる。その壁を乗り越えて、初めて世にでる
ものだが、真里の理論は誰が聞いても夢のまた夢の話だった。また、言いたいことをその
まま口にしてしまう性格が災いしてか近寄るものは誰もいなかった。
- 513 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:54
-
ウゥーーーーン
機械が音を立てて動き出す。真里が待ち焦がれていた瞬間だった。
大きさは1メートル四方ぐらいで、真ん中には30センチほどのガラスに囲まれた箇所が
あった。真里は拳ぐらいの大きさの石をそのガラスの中に入れた。
ギィーーン
上部からノズル上の突起物が降りてきた。
ウィーン、ウィーン!
激しい警告音が鳴る。
真里は機械がある部屋から出ると、機械の様子が映ったモニターに目をやった。
激しく光る様子に目を細める真里。
ウィーン、ウィーン
先ほどとは違って柔らかい音が鳴る
真里は部屋に戻ると、ガラスを開けた。
そこにあるはずの石は姿もなく消え去っていた。
- 514 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:55
-
真里が開発した原子分解装置はすべての物質を原子レベルで壊す装置だった。もちろん、
原子レベルですべてを壊すので何も残るはずがない。もともと原子レベル以下にものが壊
れることなど考えられなかった。もし、壊せたとしても放射能や熱の問題で装置自体や環
境に多大な影響がある。学者にとっては非現実的なものといっていいものだった。しかし、
真里は長年の研究の結果、これを現実のものにした。特殊な金属、特殊なガラス、大学の
助教授一人ではとても成しえないことだった。開発には多くの資金が必要だ。企業も自分
のためになるならある程度資金を出してくれる。しかし、真里の研究には誰も資金を出す
ものなんていない。資金といえば、大学から配分される研究費と自分の貯金だけである。
まともな試験機も作れない状況では理論を充実させるしかなかった。だが、真里の理論は
誰にも認められることもなく、研究費は削減される一方だった。しかし、占いから帰った
きた後、事態は好転した。突然、外国の大企業から費用の援助の話が来て、真里の研究が
一気に現実のものになったのである。やっと真里の理論をわかってくれるものが出てきた
のである。
- 515 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:56
-
「ふぅーー」
思い通りの結果ににんまりと笑みを浮かべる。
やっと掴んだチャンスである。失敗は許されない。自然と体全身に気合が入る。
成果が出れば、周りの状況も一転する。今まで白い目で見ていた教授たちが次から次へと
手のひらを返したように擦り寄ってくる。企業にしても同じだ。自分たちも参加させてく
れと資金提供の話が次々に飛び込んでくる。真里は次々と話を受け入れた。そして、研究
もより一層発展した成果を残せるようになった。
以前に増して、充実した日々が過ぎていった。
実験段階ではあるが一つづつ壁を乗り越えていく。なんともいえない快感だった。
睡眠時間も満足に取れない状況が続いていたが、思い通りの結果に頭と体はますます冴え
ていく。疲れているにもかかわらずに、気分だけは高揚した状態が続いていた。危ないか
なと思いながらも、自然と体は実験室へと向かっていた。まさに研究に没頭していた。
- 516 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:56
-
真里は更なる改良を目指して、コンピューターとにらめっこを続けていた。
好調なときこそ落とし穴に陥る。真里は慎重に慎重を重ねていた。
一つの段階が終了すれば次の段階では新たなる問題にぶつかる。
いろいろと試行錯誤を繰り返しながらも次々と問題を解決していく。
実験で成功しても製品化ができなければ意味がない。
真里の頭の中は複雑な公式や化学反応式でいっぱいだった。
体がいくつあっても足りない状況ながら、満足ゆく生活が続いた。
1年後、真里の成果が製品として市場に出ようとしていた。
- 517 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:57
-
コンコン・・
―誰だよ、こんな忙しいときに・・後にすればいいじゃん・・―
真里は集中している時間を妨げられるのが嫌だった。
コンコン・・
「はい、どうぞ」
真里は不機嫌な顔でドアの方を向いた。そこには見たことがない女性が立っていた。
「あなたは誰?会ったことありますか?」
「ひどいですね。十分知っていると思うんやけど」
真里は女性を目して首を捻った。長身に、黒の長髪に大きな瞳が印象的だった。真里は誰
だか検討もつかない。
「失礼ですけど、お名前は?」
「1年ぐらい前のことですから忘れましたか?まあ、最近忙しいみたいですし・・」
真里の言葉に女性は皮肉交じりで応える。
「すみません、おいら覚えていないんです」
丁寧に頭を下げて謝るしかなかった。
「私は飯田圭織・・幻の魔女とも呼ばれてるかな」
「あぁ・・あのときの!ありがとうございました。おかげで充実した日々が遅れています」
真里は深々と頭を下げる。命の恩人ともいえる人物をまえに真里は感激した。しかし、あ
のときの雰囲気とはまったく違っていた。一見するとモデルのようだった。
- 518 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:58
-
「でも、どうしてここに?」
半年後に来てくれと言われたことは覚えていたが、まさか来るとは思わなかった。
「半年経っても、あなたが来ないので私のほうから来ました」
圭織は怪しい笑みを浮かべながら、真里をじっと見ていた。
「やっぱり、お金が必要だったんですか?」
急に不安に襲われた真里は恐る恐る尋ねた。
「いやぁ、あなたの今後を占ってあげようと思った」
「な〜んだ」
真里の口から本音が漏れた。
「その言葉、なんか気になるんですけど・・」
「すみません。もっと大変なことになってるかと思って」
真里は小さな体をひたすら小さくして謝った。
「まぁ、いいですけど・・」
圭織はタロットを取り出してシャッフルし始めた。
- 519 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 19:59
-
重苦しい空気が真里に襲い掛かる。
「1枚だけ選んで」
タロットを真里の前に並べた。
「これです」
真里は圭織の指示のまま1枚のカードを選んだ。
「これでいいですね」
「はいっ」
氷のように冷たい視線に真里は緊張せずにいられない。たかがタロットというが、タロッ
トのおかげで今があるみたいなものである。その結果を前に心臓は高鳴っていく。
「これです・・」
「ふぅーー、前と同じだ」
真里は選んだカードを見て思わず安堵した。そのカードは戦車だった。前もこの戦車のカ
ードを選んだおかげで一気に運が向いてきたのだ。表情には出さないまでも、心の中では
小躍りしていた。
「カードは同じだけどね・・」
真里は戸惑いの表情を見せる。
- 520 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 20:00
-
「このカードは逆・・」
圭織は真里の心を見透かしたかのように説明を続ける。
「あなたの研究もここで終わった方がいいですよ。
これは事故や失敗を暗示してます。
きっと何か悪いことが起こりますよ」
「そんなことできるわけない!」
真里は大声を上げた。右手が胸の前でブルブルと震えている。これが知っている相手だっ
たら殴っていたところだった。1年前は続けろといったのに、今になって止めろとは納得で
きない。やっと自分の理論が認められて、結果も目に見えるものになった。やっと掴んだ
チャンスである。簡単に手放せるものではない。
「まぁ、いいわ。信じるか信じないかはあなた次第だし」
「そんな無責任な言い方ないだろう」
「私はただの占い師、決めるのはあなた」
圭織はそれだけ告げると、何事もなかったかのように真里の元を去っていった。
「あの占い師、むかつく」
真里は苛立ちを隠せない。圭織の言葉は無視できないが、自分自身のやってきたことには
絶対の自信を持っているし、それだけのことはやった自負もある。止めろと言われれば言
われるほど反発心も大きくなってくる。真里の気持ちはすでに決まっていた。
- 521 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 20:00
-
原子分解装置の製品化は進み、マスコミへとお披露目までかぎつけた。
実験では確実な成果を得ている。真里は確固たる自信を持っていた。
- 522 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 20:01
-
「えっ、まじ・・」
真里は自分の目を疑った。結果は散々なものだった。
実験では成功していたのに、お披露目では失敗ばかりだった。
何度やっても失敗が続き、さすがのマスコミも呆れるしかない。
実験施設に招き寄せてみるが、そこでも失敗が続いた。
―どうして―
真里自身自問自答を繰り返すが何が原因かわからない。
- 523 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 20:02
-
“矢口真里
世紀の大発明は世紀の大嘘
世紀の大発明は世紀の詐欺行為”
新聞や雑誌には大きく載せられたゴシップ。
真里の権威は一気に堕ちた。
今までの成果はすべて無になってしまった。
いくらすばらしいものであっても、1回の失敗が致命的なものとなる。とりわけ新技術とい
うものは最初が肝心である。おまけに失敗が続けばなおさらである。期待が大きかった分
だけ落胆も大きい。今まで支援してきた大学や企業は次々と支援中止を申し入れた。真里
の居場所はなくなっていた。
- 524 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 20:03
-
真里は辞表を提出した後、研究途中で終わった原子分解装置を見ていた。
「どうして・・」
悔しさが先に出てしまう。せっかく大金をかけて作った装置もただのゴミ当然になってし
まった。他の大学や企業を訪れたが、どこも真里の研究を認めようとはしなかった。
カツ、カツ、コンコン・・
むなしい金属音が響く。
「これがうまくいけば・・」
名残り惜しむように原子分解装置の中枢である特殊ガラスで囲まれた箇所に足を入れた。
1年前から研究していた日々のことが脳裏をよぎっていく。
「だめ、だめ」
自らの思いを断ち切るように頭を振るが、とめどなく涙がこみ上げてくる。
ガーン
ひときわ大きな音が響く。
真里の右の拳からは血が滴り落ちていた。
そこには、がっくりと肩を落とす真里の姿しかなかった。
- 525 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 20:03
-
ガチャ
ウゥーーーーン
特殊ガラスが閉まった瞬間、装置が音を立てて動き出した。
「誰だ!装置を止めろーー!」
慌てて大声を出すが、外から返事は聞こえない。
ドンドン、ドンドン・・
特殊ガラスに体当たりをするがびくともしない。
「誰か!誰かいないの!装置を止めて」
必死の叫びに呼応するのは、装置の音だけである。
ギィーーン
上部からノズル上の突起物が降りてきた。
ウィーン、ウィーン!
激しい警告音が鳴る。
「やめてーーーーー、助けてーーー」
真里の最後の声も警告音にかき消された。
- 526 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 20:04
-
“矢口真里 蒸発
消えた天才はどこに”
しばらく新聞や雑誌等のメディアをにぎあわせたが、それも長くは続かなかった。
矢口真里という人物の名前も忘れ去られた。
- 527 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 20:07
-
カチッ
ビデオはそこまでだった。
「面白かった!」
自宅でビデオにかじりつく里沙の姿があった。
―圭ちゃん、こんなドラマに出演したって言ってたっけ?―
よく考えれば、誰からもドラマの話のことなど聞いたことがなかった。
- 528 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 20:09
-
「そうだ・・」
里沙は圭からこのビデオを借りていたのを思い出した。
もう1本のビデオとともに。
- 529 名前:The Chariot 投稿日:2003/12/13(土) 20:11
-
−今度、返さないと・・−
里沙はそのままベッドに潜った。
- 530 名前:M_Y_F 投稿日:2003/12/13(土) 20:14
-
今日はここまで
>>527
最後の2行はないものとして、読んでください。
UPミスです。
>>506 名無し読者
ありがとうございます
- 531 名前:M_Y_F 投稿日:2003/12/13(土) 20:25
- ↑敬称つけるの忘れてました。
>>506 名無し読者さんへ
ごめんなさい。
- 532 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:39
-
「おはようございます」
多くの人が行き交う中をちょっと大きめなバッグを持って急ぎ足で通り過ぎていく。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くが返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
誰かいないか部屋中を見渡すが、いないどころかまだ誰も来てない様だった。
「私が一番に来たのか・・珍しいな・・」
里沙は今日のスケジュールを思い出しながら一番奥へと移動する。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜、疲れたなあ」
椅子に腰をかけるとスイッチが切れたかのように手足の力が抜けていく。
- 533 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:40
-
「きついなあ・・」
思わず本音が漏れてしまう。娘全体スケジュールも半端ではなかったし、個人のスケジュ
ールもびっしり詰まっている。おまけに新曲やコンサートに向けてダンスレッスンもある。
一度体に染みついたものを拭い去ることは容易ではなかった。束の間の休憩といえども頭
が休まることはなかった。しかも、受験の年でもある。いろいろと悩みは多い。
「あぁ〜、去年ぜんぜん着てなかったのにさあ」
袖や丈の短いシャツやパンツを見ながら後悔していた。成長期とはいえ、やっぱりそのと
きにあった服を選ぶのは当然だが2,3度しか着てないというのがもったいなかった。着
れると思ったものの鏡に映る姿はどこか抜けた感じである。
- 534 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:41
-
―えっ?―
テーブルの上に写真があるのに気づいた。
「ハハハハーーー、何、これ!!!」
写真を手にした里沙は思わず大声を笑ってしまった。
「保田さんに矢口さん安倍さん・・あさ美ちゃん、愛ちゃん、まこっちゃんまであるよ」
圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香、希美、麻琴、愛、圭織の
13枚の写真があった。
―誰が、いつ撮ったんだろう・・―
里沙は疑問に思った。こんな写真を撮ったと誰かが話題に上げるはずである。
- 535 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:42
-
コンコン、コンコン・・
「はいっ」
ドアの方を見るとマネージャーが立っていた。
里沙にすれば予定外のことだった。
「新垣、雑誌の取材があるからメイクしてもらっていい?」
「わかりました」
スケジュールの変更などはよくあることである。
荷物を整理すると、貴重品だけ持って控え室を出た。
控え室には13枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 536 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:43
-
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
里沙は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。目には組み立て途中のセット姿が映
っていた。
―ふ〜〜ん―
雑誌の撮影ということで単純なだセットかと思いきやちょっと手の込んだ感じのセットだった。よく考えれば、この短時間の撮影にはもったいないような気がした。
「おはようございます」
メイクを終えた里沙の前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感じがした。
しかし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにシ
ョートカットである。手を顎にあててスケジュールを思い返してみるが、その人物がここ
にいるはずがなかった。少しだけ不安を覚えた。
- 537 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:44
-
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
ちょっとした撮影とあって気楽なものだった。しかし、そこはプロである。シャッターの
音に合わせて、きっちりと表情を決めていく。普段の写真撮影のようにポーズを決める必
要がないので、その点は楽だったが、何気ないしぐさや表情をしなければならないのはか
えって難しいことであった。時より見せる戸惑いの表情が難しさを表していた。
―あれ〜・・―
里沙は先ほどから奇妙な親近感と違和感を感じていた。
カシャッ、カシャ・・
里沙の思いを無視するかのように撮影は続けられた。
「う〜〜ん・・」
いつもより長い撮影時間に里沙は少し不満を抱いていた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
30分ほどして撮影は無事終了した。
- 538 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:45
-
里沙は撮影が終わっても、どこか納得できなかった。撮影の合間に交わされる会話の内容
はよっぽど親密な関係でないとわからないものだった。特にカメラマンの容赦ないつっこ
みというかボケにはちょっと腹を立てることもあった。失礼は承知でカメラマンに尋ねて
みた。
「あのぉ〜すみませんけど、保田さんですよね?」
「・・・」
何も反応がなかった。眉毛が少し八の字に垂れたような感じになった。
「そのぉ・・」
か細い声がさらに小さくなっていく。
「あぁ〜、ばれたか」
「え〜」
カメラマン声に里沙は思わずしゃがみこんだ。
「そんなびびらなくてもいいじゃない・・まぁ、座りなよ」
里沙は圭の横の椅子に座った。
- 539 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:46
-
カメラマンが圭とわかって思わず文句がでる。
「保田さん、ひどいですよ〜」
「ごめんごめん、お豆ちゃん!」
「でも、どうして保田さんがカメラマンしてるんですか」
「なんだよ、その言い草!」
「だって、カメラって飽きたとか言ってたじゃないですか・・」
「よく知ってるね・・」
「昔からファンでしたから」
「あぁ、なっちだよね」
「保田さんもですよ」
「ふ〜ん、“保田さんも”か・・」
「そんなこと、ないですって・・・」
圭のするどい指摘に里沙はしどろもどろになる。
「でも、今の撮影は私じゃなくてもよかったんじゃないですか?」
「いやぁ・・全員撮らなきゃならないんだよ」
「そうなんですか・・大変ですね・」
「今度は藤本を撮らないといけないんだよね」
「じゃあ、呼んできましょうか?」
「いいよ、まだ」
圭は里沙の手をとった。
- 540 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:46
-
急に態度を変えた圭に思わず腰が引ける。
「ちょっと、保田さん・・」
「そんなに怖がらないで、何もしないから」
「でも・・」
里沙の背中に寒気が走る。
「何怯えてんだよ〜」
笑いながら里沙の肩をたたく。
「あのぉ〜、そのぉ〜・・」
言葉がでてこない里沙。
「かわいいよね」
圭はいたずらっぽく笑うとそっと里沙の頬に手を当てた。
「えっ・・」
「最近きれいになったよね・・・・ん・・」
里沙の唇を奪った。
- 541 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:47
-
「ちょ、ちょっと止めてくださいよぉーー」
圭を突き放して遠のく里沙。
「なんだよ、その態度・・」
いつもと違う態度にすかさずつっこみ返す。
「保田さん、おかしいですよ」
「そうかな?もう1回してあげようか?」
「もういいですっ・・」
顔を引きつかせながら、手を横に振った。
「ちょっと、そんなこと言わずさ・・」
「ま・・待ってください」
里沙が椅子から立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前のが急に歪みはじめた。必死に頭を振ってこめかみに手をあて、視線を定めようとするが目の前の景色はだんだんとぼやけていく。何が原因かまったくわからない。
「保田さん・・」
力ない声がかすかに響く。
―どうして?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿だけしか見えなくなっていた。
いつしか目の前には闇だけが広がっていた。
- 542 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:48
-
数日後
里沙は仕事が終わった後にマネージャーから一通の封筒を手渡された。自宅に戻った後、
早速カバンに入れておいた封筒を取り出した。封筒には里沙の名だけが書かれていた。筆
跡は圭のものであった。こういうものはハロモニの収録時に手渡してもらえるはずだが、
なかなか会う機会も少なくなっている、圭も忙しいのであろう。圭のちょっとした遣いに
は感心しながら、前回の撮影の様子を思い出していた。封筒の中には写真が1枚だけ入っ
ていた。真っ黒な背景にぽつんと里沙だけが写っていた。ドッキリとかの企画にしては、
あまりにあっさりしすぎていた。記憶を呼び起こしても、こんな写真撮った覚えがない。
覚えのない写真に不安が起こる。圭がなぜこんな写真を送ってきたのか不思議だった。
- 543 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:48
-
写真をもらったことを伝えようとするが連絡がとれない。携帯でメールを送った。
今度会ったときに写真のことを聞いてみることにして、そのままベッドの中に潜り込んだ。
しかし、写真のことを聞く機会はなかった。
メールの返事も返ってこなかった。
- 544 名前:写真14 投稿日:2004/01/05(月) 22:49
-
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 545 名前:M_Y_F 投稿日:2004/01/05(月) 22:49
-
今日はここまで
- 546 名前:伊佐びり豪 投稿日:2004/01/06(火) 10:10
- あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
- 547 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:37
-
里沙は1人で横浜・八景島シーパラダイスに来ていた。本来なら友達と一緒に来るはずだ
ったのが友達の都合が急遽悪くなって来れなくなったのだ。他の友達を誘ってみたのだが
用事があって都合がつかない。行くのを諦めようとしたが、せっかく予定していたことで
ある。それに仕事が忙しくなればいつ来れるかわからない。ここは思い切っていくことに
したのである。
八景島パラダイスには大きく3つの楽しめる場所がある。アクアミュージアム・プレジャ
ーランド・ベイマーケットである。アクアミュージアムには日本最大級の水族館があり、
かわいいショーも行われている。プレジャーランドには海をテーマにしたアミューズメン
トがある。プレジャーランドにはレストランやマーケットがある。
里沙はまず一人でも十分に楽しめるアクアミュージアムへと足を運んだ。日本最大級とあ
って様々な生物を目にすることができる。その色の美しさや動き、また考えられない様子
に一喜一憂するのであった。やっぱり映像を通して見るより、実際に見たほうが迫力があ
る。また、ショーではそのユーモラスな内容に心が穏やかになる。来る前の不安も、ここ
まで来ると吹き飛んでいた。
- 548 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:38
-
「はぁーーー」
里沙は大きく背伸びをしながら、リラックスできるときを噛みしめていた。一時期の忙し
さに比べたら少しは楽になったとはいえ、秒単位のスケジュールに終われる毎日から解放
された時間は何事にも変えられない。一人の少女として過ごせる時間は貴重なものである。
―どうしようかな・・―
目の前に広がる景色を眺めながら、思わずため息を漏らしていた。これからの進路を考え
ると悩みはつきない。念願の娘のメンバーになれたものの、これから先のほうが長い。
自分の中にもやりたいことや経験したいことがたくさん出てきている。このままでいいの
かとふと思うときもある。里沙は頬に手を当てながら、ちょっとばかり物思いにふけって
いた。
- 549 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:39
-
「あれでもないし・・」
里沙はプレジャーランドでお土産を選んでいた。たかがお土産とはいえ、何を買うか結構
悩むものである。適当にと考えても、相手が気に入らなかったらとつい気にしてしまう。
無難なものを選べば、どこにでもあるようなものになってしまう。目の前の品を前にいつ
にもなく頭の中がグルングルンと回転をしていた。
―それにしても・・―
里沙はよく自分の正体がばれないなと思っていた。多くの人々と通りすがっているのに誰
一人自分の名前を呼ぶ人はいなかった。気を遣ってくれているかもしれないが、名前を呼
ばれないのも寂しい気がした。ただ、ここで正体がばれて騒動がおきると、これ以上楽し
むこともできないので、これでいいんだと自分に言い聞かせていた。
- 550 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:41
-
両手にお土産の袋を持った里沙はマリーナへとつながる道を歩いていた。
「はぁ〜・・」
さわやかな潮風を受けながら、目の前に広がる景色を楽しんでいた。ほのかに漂う潮の香
りが気分を癒してくれる。このときだけはすべてを忘れて、風に身を預けていた。特に何
をするわけでもないが歩いているだけでゆったりとした気分になれるのは久しぶりだった。
誰の目を気にすることなく羽を伸ばすせるのは気持ちがいいことだった。
静かな波音が心地いい音楽に変わる。
- 551 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:41
-
ザッーーーーーーー
ザァーー、ザパーーーーーーー
「うそ・・」
突然の出来事には目を丸くする。
海の25Mぐらい先が盛り上がったと思えば、めちゃくちゃ高い波がこちらへと迫ってくる。さっきまで海が荒れていた様子はない。何が原因かまったくわからない。
普通なら遠くから迫ってくるはずだが、急な海の変化に自然の驚異を感じた。
知らず知らずに後退りしている自分がいた。
ザッ、ザパーーーーーーーン
波は一気に降り注いだ。
―びっくりしたーー!―
里沙は胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんなに大きなが波が迫ってくるとは予想もしない。目の前の出来事に目を丸くして、口は開いたままだった。何か変わった様子がないか見渡すが、波をかぶったような形跡はなかった。
「えっ?」
周囲の景色をグルッと見つめながら、首をひねっていた。
- 552 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:42
-
5分ほど経っただろうか、大きな波が再び発生することはなかった。
海全体を見渡しすが、何事もなかったかのように静かに波が立っていた。
予期せぬ状況に戸惑う里沙に聞きなれない声がかけられた。
「里沙ちゃんだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
まさか、ここで自分の正体がばれるとは思っていなかった。
「あのぉ〜、新垣里沙さんですよね」
「そうですけど」
声のする方を向くとそこには2人の女学生がいた。
制服を着ており、見た目では中学生に見えた。
「ふぅー」
思わず安堵のため息が漏れた。周りには目の前の2人以外誰もいなかった。
いくら芸能人とはプライベートのことで騒がれるのは迷惑なことだった。
表情には出さないものの自分の名前を呼んでもらえたことに内心喜んでいた。
- 553 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:43
-
中学生たちは申し訳なさそうに声をかけてきた。
「お願いがあるんですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・どうしようかな・・」
里沙は辺りを見渡しながら考えていた。腕時計を見ると、まだ時間には余裕があった。特
にすることもなかったこともあり、中学生たちの申し出を受け入れることにした。
「いいですよ。ただし、他の人には内緒ね」
「わかりました。ありがとうございます」
里沙の言葉に中学生たちは頭を下げた。
「なるべく早くしてくださいね」
「はい」
中学生たちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「おぉ〜・・」
里沙は目を丸くした。2人が手にしたカメラは本格的なものだった。プロが使ってそうなカ
メラである。価格がどれくらいするのか検討もつかなかったが高価なものであることは想
像できた。それよりも、中学生がこんなカメラを持っていること自体が驚きだった。
「あれっ?」
どこか見覚えのあるカメラだったが、どこで見たかは思い出せなかった。
- 554 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:44
-
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は昔の雑誌の撮影と変わりがなかった。
「眉毛ビームしてください」
「眉毛ビーーム!」
カシャッ
カシャッ
「本物だ、本物だ」
「TVで見るより小柄なんですね」
「かわいい」
中学生たちは楽しそうに撮影を続けた。
―誰なんだろう・・―
里沙は首を傾げていた。ときより中学生たちの会話を聞いていると自分たち以上に娘のメ
ンバーにしかわからないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあ
った。しかも、メンバーの友達や親戚にここまで詳しいことを知る人物がいるとは到底思
えない。中学生のメンバーもいるがこのような友達がいることを聞いたことがない。
- 555 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:46
-
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「里沙ちゃん、かわいいですね」
「そんなことないですって」
「謙遜しちゃって」
「そんなことないって」
ほめられると照れるものである。特に見ず知らずの人だと余計に照れくさくなる。
「そろそろ終わりにしませんか」
「もう少しいいですか?」
「私も用事があるので・・」
「もう少しだけ、お願いします」
「・・・」
ちょっと強く言われると、断るにも断りきれない。
―まじっ?―
里沙は中学生の持っているカメラの傷に目がいった。
「あのぉ、カメラ見せてくれません?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、不思議と圭のものに似ていた。
「保田さんのカメラに似てるんだけど?」
傷を指差しながら、首を捻る。
「やっと気づいたんだ・・」
「鈍いね」
「まぁ、最初からわかっていたことだけど」
中学生たちにはわかっていたようだ。。
「ちょっと待って!どういうこと〜」
里沙は二人の言葉に首を傾げる。
- 556 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:47
-
「やっぱり、鈍いよね」
「ちょっと、どういう意味?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、」
「何を言ってるの?」
馬鹿にしたような言葉に里沙の眉間にしわがよる。
「しょうがないね・・」
「教えてあげるよ」
カメラを置くとゆっくりと里沙を見て微笑んだ。
グッ、グッ・・
「うっ・・」
里沙の顔がゆがむ。口元が引きつり、目が恐怖を訴える。両手で顔を隠しながら指の隙間
から怖いものを見るように覗き込むとなんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮
がぐっと伸びるではないか。何度も映画やビデオでか見たシーンだが、生で見るのはまっ
たく違って生々しいものだった。みるみるうちに皮がちぎれ、その隙間からまた顔が見え
た。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
- 557 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:48
-
「後藤さんと吉澤さん・・どうしてここにいるんですか・・」
口をぽかーんと開けたまま、視線が彷徨っている。
キョロキョロと周りを見渡す様子がどことなく里沙の状況を示していた。
ただ動いているのは目だけで、体は硬直したままであった。
「新垣、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
時間が経つにつれて気分も落ち着いてきた。
「あのぉ・・後藤さん、吉澤さん、どういうことですか?
本当に後藤さんと吉澤さんですよね?」
何が事実なのかまったくわからない。
真希とひとみは笑いながら里沙の様子を見ていた。
「新垣、かわいい」
「いいねぇ、予想通りの反応だよ」
「何のことですか!!」
馬鹿にしたような言葉の連続に里沙の中で怒りがこみ上げてくる。
しかし、里沙の怒りも言葉も2人には届くことはなかった。
- 558 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:49
-
カシャッ
ザァーーーザザァーー、ザァーーー
シャッターを切る音と波の轟音とが重なった。
「うそっ・・」
大きな波が空を覆う。
そして波が里沙たちを襲う。
「きゃあーー・・」
叫び声がかき消されるともに目の前が暗闇で覆われた。
予期しない出来事に動揺する里沙。
必死で水面へと浮かび上がろうともがくが体は沈む一方だった。
- 559 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:49
-
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 560 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:50
-
里沙が目を開けると正面には鏡らしきものがあった。自分の背後は真っ白い壁があった。
最初は何も変哲もない部屋かと思っていた。鏡には里沙の姿以外何も映っていない。足元
へと視線を移すと水の跡は一切ない。あの大津波に巻き込まれたことが信じられなかった。
「何か変だよね〜」
どことなく嫌な予感がしてくる。
恐る恐る視線を上に向ける。
「わぁーーー!」
里沙は思わず目を丸くした。鏡には無数の青と白のツートンカラーの魚が映っていた。
しかも、数がどんどん増えていき、頭上を覆っていく。おまけにその姿がだんだんと迫っ
てくる。
「どうして・・」
視線を左右に動かすが波らしきものはない。さらに、水のみの字もない。
自然と冷や汗が流れてくる。普通の魚だと思っていたがぜんぜん違う。
- 561 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:51
-
―まじっ・・―
三角にとがった頭、少し下で光る歯、独特の背びれ、そして鋭く光る目。
「やばい、やばい・・」
その姿から鮫であることはすぐにわかった。鋭く怪しい輝きを見せる歯が恐怖を感じさせ
る。里沙はすかさず逃げ場所を探した。いくら鮫が宙に舞っていても飛ぶことはできない
はず。ただ落下するしかないのだから、その地点から遠く離れれば襲われることもない。
地上に落ちた鮫がそのまま遠くまで移動できるなんて聞いたこともない。
「どうすれば・・」
里沙の動きが止まった。
里沙は鏡に映った光景を見て愕然となった。鮫は里沙のところだけではなく見える範囲す
べてのところで折り重なるように落下してきていた。逃げようにも逃げる場所がない。背
後の壁にもドアのようなものはなくただ白い壁が続いているだけだった。
「あぁ・・ここどうなってるんだよ・・」
上下を見れば左右に、左右を向けば上下に伸びる直線しか見えない。後ろを向けば真っ白
な壁だけしか見えない。思いがけない光景に頭は混乱するばかり。何がどうなっているの
か整理する余裕はない。
- 562 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:52
-
ドスン、ドスン
―うそっ―
里沙は目を疑った。両サイドから里沙のいるところに向かって鮫が次々と落ちてきた。
「わぁ、わぁ、わぁ・・・」
その場で地団駄を踏む里沙。
どちらに行っても最悪の文字だけが並ぶ。かといって逃げられるような場所はない。
恐怖に目は大きく見開き、息が荒くなる。
「来ないで」
必死の叫びもむなしく響くだけだった。
じわりと追い立てるようないやらしさに心拍数が上がっていく。
顔がゆがんで、自然と涙があふれ出てくる。
- 563 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:53
-
「後藤さん!吉澤さん!」
思い出したように2人の名を呼んだ。すでにどこかに逃げているかもしれない。もしそう
であれば、助かることができるかもしれない。それにこんな状況を2人が見過ごすはずは
ない。どこか安全な場所で里沙のことを待っているに違いない。2人の返事を聞き逃さな
いように耳に神経を集中するが、肝心の返事が返ってくることはなかった。
「後藤さん!吉澤さん!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声もだんだんと力なく小さくなっていく。
- 564 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:54
-
状況は刻一刻と最悪の一途を辿っていた。
だんだんと近づく鮫の群れ。四方八方から恐怖が近づいてくる。
「助けて!来ないで!」
必死に叫び声をあげ、足をばたつかせる。むろん、鮫に言葉が通じるはずもない。
ただ助かりたいという思いだけで走り回りながら必死に声を絞り出す。
なりふりかまっていられなかった。しかし、鮫の群れは頭上から消えることはなかった。
鮫に食いちぎられる場面が脳裏をよぎる。
「痛ーい!きゃーーーーー!」
絶望の悲鳴が響いた。
それが最後の声だった。
- 565 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:55
-
「アハハハーーー、いいねぇ〜」
「この表情・・最高!」
「とぼけた味でてるよね・・」
「つぼにはまるわけだよ」
「言えてる・・ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 566 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:56
-
「次は最後だね・・」
「今度も期待できるよね」
「そうだね・・フフフ・・」
「早く行こうよ!」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
- 567 名前:海5 投稿日:2004/01/28(水) 01:56
-
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
恐怖にひきつる14枚の写真が重なっていた。
- 568 名前:M_Y_F 投稿日:2004/01/28(水) 01:56
-
今日はここまで
- 569 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:03
-
バタバタ、バタバタ、バタバタ・・
「おはようございます」
多くの人が行き交う廊下を邪魔にならないように端を千鳥足気味に歩いていく。
その姿はちょっと酔っている感じだった。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩いて返事がないのを確認したゆっくりとドアを開けた。
ゆっくりと部屋中を見渡すと小さなテーブルが中央に置かれていた。
「ふぅー、頭が痛いわ・・」
裕子は手前の椅子へと移動する。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜、飲みすぎた」
椅子に座ると両肘をついてこめかみを押さえる。
- 570 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:03
-
「年かな・・」
思わず本音が漏れてしまう。昔は平気だったことが、最近はやけにこたえてくる。いろい
ろと体調には気をつかっているものの自分の思いとは違っていることも増えてきた。ただ、
昔と違って未知なところで多くなったせいか精神的に疲れることが多いのも事実だ。お酒
も控えめにしてるが、逆にそれで弱くなった部分もあった。こういう時間がわずかではあ
るがほっとする時間だった。ゆっくりとであるが仕事モードに頭を切り替えていく。
裕子は中央のテーブルに置かれたバスケットの中に菓子が入っているのに気づいた。
甘いものはあまり好きではないが、ちょっと小腹がすいていた。本番中にみっともない姿
は見せられない。
「いただきまーす」
バスケットに手を伸ばした瞬間だった。
- 571 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:04
-
―何や?―
裕子はバスケットの横に写真があるのに気づいた。写真は全部裏返ったままだった。
見ていいものか一瞬躊躇うが、誰もいなければつい見てしまうものである。
「ハハハーーー、何やこれ!」
写真を見た途端、裕子は笑い声を上げた。
「圭ちゃんに矢口、なっち・・彩っぺに明日香まであるよ」
圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香、希美、麻琴、愛、圭織、
里沙の14枚の写真があった。
この瞬間を実際に見たかったかというのが実感だった。
―なんで、こんなものが・・―
同時にこれだけのメンバーの写真が揃っているのは、ちょっと気味が悪い。
特に明日香の写真が混じっていたのが気になった。
- 572 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:05
-
コンコン、コンコン・・
「はいっ・・」
ドアの方を見るとスタッフが立っていた。
「これから写真撮影あるので、メイクいいですか」
「・・・」
「いいですか?」
「あっ、わかりました」
「ちょっと顔色が悪いようですけど」
「大丈夫です。すぐ行きます」
裕子はバタバタと撮影の用意を始めた。本当はもっとゆっくりしたいのが本音だが、スタ
ッフがあってこそ、自分がいる。自分のせいで他人に迷惑はかけられない。用意が終わる
控え室を出た。
控え室には14枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 573 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:05
-
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
裕子は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。スタジオの扉が少しだけ開いていて、
その先にはセットが組みあがっていく様子が見えた。
―ほぉ〜〜―
いつもの撮影と違って、しっかりしたセットに少しだけ期待も膨らむ。予想以上のことに
緊張感が増してくる。最初はシックなものと聞いていたが、見た感じは派手な感じだった。
顔を軽く叩いて自分に気合を入れる。
「おはようございます」
メイクを終えた裕子の前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感じがした。
しかし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにシ
ョートカットである。一瞬同一人物かと思ったが、それにしてはどこかよそよそしい感じ
だった。普段なら明るく声をかけてくるのにその気配もない。それにスケジュールではこ
こにはいないはずだった。
- 574 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:06
-
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
いつもと変わらない撮影だ。次々と浴びせられる言葉。裕子もその言葉に応えるようにポ
ーズを決めていく。そこには先ほどまで見せていた疲れた表情はなくピリッとしまった真
剣な表情があった。しかし、その表情も怪しげな表情に変わる。撮影は撮影だが何か足り
ないような感じがしていた。それが何かは裕子自身もわからない。
―ちょっとなぁ・・―
裕子は普段にない違和感を感じていた。
カシャッ、カシャ・・
裕子の気持ちを無視するかのように撮影は続けられた。
セットの雰囲気も関係ない写真撮影で終わりそうだった。
「う〜〜ん・・」
本当にこれでいいのか首を捻りたくなってきた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
30分ほどして撮影は無事終了した。
- 575 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:07
-
裕子は撮影が終わってもどこか納得できなかった。要求されたポーズは最初だけで途中か
らは裕子が勝手に決めてそれを撮るといった具合でカメラマンの意図するものがまったく
わからない。おまけに撮影の合間に交わされる会話の内容はよっぽど親密な関係でないと
わからないものだった。裕子の細かい部分までも知っていた。今目の前の人物は1人しか
思い浮かばない。失礼は承知でカメラマンに尋ねてみた。
「すみません、保田圭さんですよね?」
いつにもなく丁寧に尋ねた。
「・・・」
何も反応がなかった。神妙な表情に変わった。
「あのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたんだ」
裕子の心配をよそにカメラマンは大声を上げた。
「圭ちゃん、びっくりさせないでよ」
「ごめん、裕ちゃん」
それまで張り詰めていた空気が穏やかになる。
「それはそうと、何でカメラマンしとるんや」
「私も写真集を出そうと思って」
「はぁ〜モデルは無理やからか、カメラマンしてるんや」
「ひっどーい!私だってまだまだ負けてないわよ!チュッ!!」
「おぇ〜」
いつものお約束だ。
- 576 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:09
-
2人の会話はさらに進む。
「まぁ〜、元気そうやな・・最近なかなか会うこともないしな」
「そうだね・・」
「そういえば、カメラ飽きたって言ってなかったけ」
「言ってたけど、最近自分の美しさに気づいてね」
「そうか・・ほんまキャラ変わったわ・・」
「そうでもないよ」
両手を頬に当てて微笑む圭、苦笑いを浮かべる裕子。
「他の人は撮ったんか?」
「うん、撮ってるよ・・皆、裕ちゃんと同じような顔してた」
「そうやろうな・・」
「どうして?」
「いや・・はぁ〜」
裕子は大きくため息をつく。
- 577 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:10
-
「裕ちゃん、気分悪いの?」
「そうやないけど・・」
圭は裕子の手を両手で掴んだ。
「何考えとるんや?」
「別に〜〜」
上目遣いで妖しい視線を裕子に向ける。
「何や・・・ちょっと待ってなぁーー」
裕子は嫌な予感がした。
圭はいたずらっぽく笑うとそのまま裕子の髪を優しく撫でた。
「裕ちゃんって・・かわいいよね〜・・ん・・」
裕子の唇を奪った。
「止めてーー」
裕子の顔は笑っているものの少し頬が赤くなっている。
「その反応がいいよね」
圭は口元を緩める。
「もう1回してあげようか?」
「いや・・いや・・もういいわ・・こういうの照れるやんか・・」
「何だよ!矢口とかにはブチューっていくくせに!!」
「いやぁ・・圭ちゃんは大人やから・・」
「もう矢口も大人だよ!」
「それは・・」
圭のつっこみに裕子の答えはあやふやとなる。
- 578 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:11
-
「もう、戻るわ」
ばつが悪くなった裕子が椅子から立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。必死にこめかみを押さえて視線を定めようとするが目
の前の光景はだんだんとぼやけていく。頭を振ってなんとか目まいを覚まそうとするが意
識が薄れていく。何が原因かまったく思いつかない。
「圭ちゃん・・」
力ない声がかすかに響く。
―何したんや?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿がぼんやりと消えていく。
いつしか目の前が真っ暗になっていた。
- 579 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:11
-
数日後
裕子は仕事が終わってマネージャーから封筒をもらった。家に戻って、その封筒を取り出
すと、封筒には裕子の名前しか書かれてなかったが、その筆跡から圭からのものだとすぐ
にわかった。どうせなら直接くれたらいいのにと思いながらも、スケジュールの都合でな
かなか会う機会もないことを考えると圭の心遣いに感謝するのだった。封筒を開けると中
には写真が1枚だけ入っていた。写真を見ると真っ黒な背景にぽつんと裕子だけが写って
いた。写真撮影はおろかそれ以外でもこんな写真を撮った覚えがない。心当たりがないか
必死に思い出そうとするのだが、何も思い当たらない。それだけに気味が悪かった。いろ
いろと考えを張り巡らすが何故圭がこんな写真を送ったのかは見当がつかなかった。
- 580 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:12
-
写真をもらったことを伝えようとするが連絡がとれない。とりあえず、メールだけは送っ
た。今度会ったときに写真のことを聞いてみることにして、ベッドの中に潜り込んだ。
しかし、写真のことを聞く機会はこなかった。
もちろんメールの返事も返ってこなかった。
- 581 名前:写真15 投稿日:2004/01/31(土) 23:12
-
そして写真のことは忘れ去られていった。
- 582 名前:M_Y_F 投稿日:2004/01/31(土) 23:14
-
今日はここまで。
あと5,6回の更新で終わる予定です。
- 583 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:31
-
「変わったなあ」
裕子は1人で三段池公園へときていた。公園は福地山市中心部から北東部へ3km、烏ヶ岳・
鬼ヶ城南部に開けた高台にある。古代には人がすみ、稲葉山古墳からは須恵器・埴輪が多
く出土した。南端の城山は、群雄割拠の時代に築かれ、今も残る「空堀」は昔の面影を漂
わせている。この公園の中心にある三段池の周りには1.3kmの散策道がある。この公園
には三段池を中心に動物園、児童科学館、猿ヶ島、都市緑化植物園、総合体育館、多目的
グランド、テニスコートなどがある。
- 584 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:31
-
裕子はまず児童科学館へと足を運んだ。最近の仕事で何かと関わりのある場所だ。まさか
自分がこんなことに関わるとは思わなかった。こういうことをやってなければ、子供がい
ない限り来ることはなかったろう。中で展示されているものに感心しながら、次は都市緑
化植物園に足を運んだ。サボテン温室でいろんなサボテンを見た後、熱帯果樹温室へと進
む。しかし、ここでは急に歩くスピードが速くなった。原因はバナナだった。まさかバナ
ナがあるとは思っていない。思い返せば、バナナの臭いがしていた。地元に戻って、少し
気分がハイになっていたのだろう。バナナだけはどうしようもない。足早に去るとラン温
室に移る。世界各地のさまざまなランの美しさで先ほどの悪夢を振り払おうとしていた。
- 585 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:32
-
「はぁーーー」
裕子は大きく背伸びをしながら、リラックスできるときを噛みしめていた。まず東京では
味わえない解放感が最高だった。何もかもが慌ただしく過ぎている場所は突っ走っている
ときには最高の場所だが、ふと足を止めようとしたときにはかえって居づらい場所だった。
ゆっくりできる場所があることに改めて感謝するのだった。一時期の忙しさに比べたら少
しは楽になったとはいえ、秒単位のスケジュールに終われる毎日から解放された時間は何
事にも変えられない。この貴重な時間を無駄にしないようにと改めて思うのだった。
- 586 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:33
-
「あぁ、あった・・」
裕子は懐かしさに思わずピョンピョンと飛び跳ねた。新しいものもいいが知っているもの
があるとつい嬉しくなってしまう。気づけば周りの人たちが白い目で見ている。やっぱり
一人だけで飛び跳ねている様子は近寄りにくいものがある。裕子を避けるように歩いてい
く。
「あぁ〜、参ったなぁ」
裕子は思わぬ失態に頭をかいていた。なつみや真里にばれたらいい笑いものだ。馬鹿にさ
れている様子がまぶたに浮かぶ。特に希美と亜依の耳には入れたくないことであった。
- 587 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:34
-
―それにしても・・―
よく自分の正体がばれないなと思っていた。多くの人々と通りすがっているのに誰一人自
分の名前を呼ぶ人はいなかった。気を遣ってくれているかもしれないが、名前を呼ばれな
いのも寂しい気がした。ただ、ここで正体がばれて騒動が起きれば、これ以上楽しむこと
もできないので、これでいいんだと自分に言い聞かせていた。
裕子は昔を懐かしむかのように三段池の周りの散策道を歩いていた。
周りには誰もいなかった。自分のペースで歩いていく。
目の前の光景に重なって子供の頃の思い出が蘇ってくる。
「はぁ〜・・」
さわやかな風を受けながら、目の前に広がる景色を楽しんでいた。ほのかに漂う木の香り
が気分を癒してくれる。このときだけはすべてを忘れて、風に身を預けていた。特に何を
するわけでもないが歩いているだけでゆったりとした気分になれるのは久しぶりだった。
誰の目を気にすることなく羽を伸ばすせるのは気持ちがいいことだった。昔のことがまぶ
たの裏に蘇ってくる。静かに自然の奏でる音が心地いい音楽に変わる。
- 588 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:34
-
ザッーーーーーーー
ザァーー、ザパーーーーーーー
「うそ・・」
突然の出来事には目を丸くする。
池の中央が急に盛り上がったと思えば、めちゃくちゃ高い波がこちらへと迫ってくる。さ
っきまで風が吹いていたり、ここで地震があった気配はない。何が原因かまったくわから
ない。めちゃめちゃ不安になって空を見上げるものの、空には雲ひとつなく真っ青だった。
知らず知らずに逃げ出していた。
ザッ、ザパーーーーーーーン
波は一気に降り注いだ。
―びっくりしたーー!―
裕子は胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんな池で大きなが波が迫ってく
るとは予想もしない。目の前の出来事にちょっと涙目になっていた。誰か知っている人で
もいれば心強いのだが誰もいない。急に不安だけが大きくなってくる。何か変わった様子
がないか見渡すが、波をかぶったような形跡はなかった。
「えっ?」
周囲の景色をグルッと見つめながら、今いる世界が信じられなれなくなっていた。
- 589 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:35
-
5分ほど経っただろうか、大きな波が再び発生することはなかった。
池全体を見渡しすが、何事もなかったかのように静かに波が立っていた。
まだ状況を飲み込めない裕子に聞きなれない声がかけられた。
「裕ちゃんだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
まさか、ここで自分の正体がばれるとは思っていなかった。
「あのぉ〜、中澤裕子さんですよね」
「そうですけど」
声のする方を向くとそこには2人のOLがいた。
「ふぅー」
思わず安堵のため息が漏れた。周りには目の前の2人以外誰もいなかった。
いくら芸能人とはプライベートのことで騒がれるのは迷惑なことだった。
表情には出さないものの自分の名前を呼んでもらえたことに内心喜んでいた。
- 590 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:36
-
OLたちは申し訳なさそうに声をかけてきた。
「お願いがあるんですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・どうしようかな・・」
裕子は辺りを見渡しながら考えていた。腕時計を見ると、まだ時間には余裕があった。
特にすることもなかったこともあり、OLたちの申し出を受け入れることにした。
「いいよ。ただし、他の人には内緒やで」
「わかりました。ありがとうございます」
裕子の返事にOLたちは頭を下げた。
「なるべく早くしてくださいね」
「はい」
OLたちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「おぉ〜すごいやん・・」
裕子は目を丸くした。2人が手にしたカメラは本格的なものだった。プロが使ってそうなカ
メラである。価格がどれくらいするのか検討もつかなかったが高価なものであることは想
像できた。それよりも、こんなカメラを持っていること自体が驚きだった。
「あれっ?」
どこか見覚えのあるカメラだったが、どこで見たかは思い出せなかった。
- 591 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:38
-
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は昔の雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ちょっと横向いてください」
「髪かきあげてください」
カシャッ
カシャッ
「本物だ、本物だ」
「TVで見るよりきれいですね」
「すごくかっこいい・・」
OLたちは楽しそうに撮影を続けた。
―誰なんだろう・・―
裕子は首を傾げていた。ときよりOLたちの会話を聞いていると自分たち以上に娘のメンバ
ーにしかわからないことを話っていた。その場にいないとわからないようなこともあった。
しかも、メンバーの友達や親戚にここまで詳しいことを知る人物がいるとは到底思えない。
なにせ辞めたメンバーのことまでやたらと詳しい。裕子の頭の上に“?”が回る。
- 592 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:38
-
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「裕ちゃん、やさしいですね」
「そんなことないわ・・」
「もっと怖い人かと思ってました。」
「よく言われるわ・・しょうがないけどな・・」
ほめられると照れるものである。特に見ず知らずの人だと余計に照れくさくなる。
「そろそろ終わりにしてくれんか」
「もう少しいいですか?」
「私も用事があるので・・」
「もう少しだけ、お願いします」
「・・・」
ちょっと強く言われると、断るにも断りきれない。
―う〜ん、ほんまやろうか?―
裕子はOLの持っているカメラの傷に目がいった。
「悪いけど、カメラ見せてくれない?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、それが誰のカメラかはっきりと思い出した。
「圭ちゃんのカメラと同じや?」
傷を指差しながら、首を捻る。
- 593 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:39
-
「やっと気づいたんだ・・」
「もう少し鋭いかと思ってたんだけど」
「まぁ、最初からわかっていたことだけどね」
OLたちにはわかっていたようだ。。
「ちょっと待って!まさか、お前ら〜」
裕子の中に嫌な予感がよぎる。
「その通りかもよ」
「ちょっと、どういう意味?」
「まだ、わかんないの?」
「はぁ〜、いい年してさぁ・・」
「何を言ってるんや?」
馬鹿にしたような言葉に裕子の眉間にしわがよる。
「しょうがないね・・」
「教えてあげるよ」
カメラを置くとゆっくりと裕子を見て微笑んだ。
グッ、グッ・・
「うっ・・」
裕子の顔がゆがむ。口元が引きつり、目が恐怖を訴える。両手で顔を隠しながら指の隙間
から怖いものを見るように覗き込むとなんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮
がぐっと伸びるではないか。何度も映画やビデオでか見てきたシーンだが、ただえさえ怖
いのにその上をいく怖さだった。みるみるうちに皮がちぎれ、その隙間からまた顔が見え
た。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
- 594 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:39
-
「ごっちん、よっさん・・どうしたんや・・」
口を半開きにしたまま、視線が彷徨っている。
恐怖のせいか指先がブルブルと震えている。
しゃがんだままの姿勢で体は硬直していた。
「裕ちゃん、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
時間が経つにつれて気分も落ち着いてきた。
「・・どういうことや?
本当にごっちんとよっさんか・・」
何が事実なのかまったくわからない。2人が偽者のように思えた。
真希とひとみは笑いながら裕子の様子を見ていた。
「かわいい」
「いいねぇ、予想通りの反応だよ」
「何のことや!!」
馬鹿にしたような言葉の連続に裕子の中で怒りがこみ上げてくる。
バロメータである眉間のしわも増えていく。
しかし、裕子の怒りも言葉も2人に届くことはなかった。
- 595 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:40
-
カシャッ
ザァーーーザザァーー、ザァーーー
シャッターを切る音と波の轟音とが重なった。
「うそっ・・」
大きな波が空を覆う。
そして波が裕子たちを襲う。
「きゃあーー・・」
叫び声がかき消されるともに目の前が暗闇で覆われた。
予期しない出来事にすべての思いが飲み込まれる。
必死で水面へと浮かび上がろうともがくが体は沈む一方だった。
- 596 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:41
-
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 597 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:41
-
裕子はが目を開けると正面には鏡らしきものがあった。自分の背後は真っ白い壁があった。
最初は何も変哲もない部屋かと思っていた。鏡には裕子の姿以外何も映っていない。足元
へと視線を移すと水の跡もない。水に巻き込まれたことが信じられなかった。雑音なども
まったくない場所だった。
「どこや・・」
次の瞬間、裕子は信じられない光景を目にした。
真下を見た瞬間、自分の目を疑う。
―まじか・・―
あるはずの床が見えない。そればかりか自分の足さえも見えない。そこは黒い線だけがあ
る世界だった。見渡す限り伸びる直線はまさに2次元の世界、今までに経験のない世界が
そこに広がっていた。鏡と床を交互見るたびに気持ちが悪くなってくる。
- 598 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:42
-
恐る恐る視線を上に向ける。
「わぁーーー!」
裕子は思わず目を丸くした。一番嫌いなものが宙に浮かんでいた。信じられなかった。
しかも、小さいのや大きいの、青いのや茶色いのやみだら模様など色も形もまったく違う
ものが鏡に映っていた。おまけにその数はどんどんと増していく。
「こんなことが」
ケロケロ、ケロケロ・・
ビクッ
その鳴き声に体が嫌でも反応する。その鳴き声の主は蛙だった。
蛙とわかった途端、背中に冷や汗が流れるのがはっきりわかった。
顔から血が引いていき、真っ青になっていく。
視線を上下左右と向けるがどこから蛙が現れたのかわからない。
ここは日本なのに見たことない蛙がいた。不思議な気分だった。
しかし、蛙には違いない。恐怖の2文字がゆっくりと湧き起こってくる。
- 599 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:43
-
「あぁ、どなってるんや、もう・・」
上下を見れば左右に、左右を向けば上下に伸びる直線しか見えない。後ろを向けば真っ白
な壁だけしか見えない。思いがけない光景に頭は混乱するばかり。何がどうなっているの
か考える余裕はない。目の前のことをただ受け入れるしかない。
ドスン、ドスン、グチャ・・
ゲロゲロ、ゲロゲロ・・
―嘘やろ・・―
裕子は耳を疑った。。
「わぁ、わぁ、わぁ・・・止めてって・・」
裕子を取り囲むように蛙が落ちてくる。
どこに行っても最悪の文字だけが浮かぶ、かといって逃げられるような場所はない。
一瞬目が鋭くなるものの蛙には通じない。
「ちょっと、止めてーー来ないでーー」
必死の叫びもむなしく響くだけだった。
じわりと追い立てるようないやらしさに心拍数が上がっていく。
迫っているのがわかっているのに、蛙の実体が見えないのがもどかしい。
鏡に映る蛙に脅えるのだった。
- 600 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:43
-
「ごっちん!よっさん!」
思い出したように2人の名を呼んだ。すでにどこかに逃げているかもしれない。もしそう
であれば、助かることができるかもしれない。どこか安全な場所で待っているに違いない
と2人の返事を聞き逃さないように耳に神経を集中するが、肝心の返事が返ってくること
はなかった。
「ごっちん!よっさん!」
再び名を呼ぶが返事はまったくない。
名前を呼ぶ続ける声も金切り声となるが、涙声に変わるのに時間はかからなかった。
- 601 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:44
-
状況は刻一刻と最悪の一途を辿っていた。
だんだんと近づく蛙の集団。四方八方から恐怖が近づいてくる。
「助けて!来ないで!」
必死に叫び声をあげ、足をばたつかせる。むろん、蛙が消えたりするわけではない。
ただ逃げたいのだが肝心の足が動かない。
地面に激突して、内臓があふれ出している蛙もいる。
足の踏み場もないほど蛙が降り注いでくる。
蛙を踏んづけて逃げる勇気もない。
「いやぁ!きゃーーーーー!」
絶望の悲鳴が響いた。
それが最後の声だった。
- 602 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:44
-
「アハハハーーー、いいねぇ〜」
「この表情・・最高!」
「ほんと怖がっているときと怒っているときのギャップがいいよね・・」
「うん、もういなくなったからいいけど」
「言えてる・・ハハハハーーー」
2人は写真を見て、腹を抱えていた。
- 603 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:44
-
「これで終わりだね・・」
「誰が一番面白かった?」
「そうだね・・内緒だよ」
「ずる〜い!教えてよ」
「やだよ」
写真を宙に放り投げると足取りも軽く去っていった。
- 604 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:45
-
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
写真はそのまま地面へと落ちた。
恐怖にひきつる15枚の写真が重なっていた。
- 605 名前:池6 投稿日:2004/02/03(火) 21:45
-
「あぁ〜、終わっていないんだけど・・
けっこう馬鹿だよね・・」
2人に怪しい視線を送る人物がいた。
- 606 名前:M_Y_F 投稿日:2004/02/03(火) 21:46
-
今日はここまで
- 607 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:21
-
「おはようございます」
深々と帽子をかぶたまま廊下を歩いていく。
華やかな舞台で活躍しているとは思えないほど地味な姿だ。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くがまったく返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
「おはようございます」
誰かいないか部屋中を見渡すが、いないどころかまだ誰も来てない様だった。
「ふぅーー、当然だよね」
ひとみは大きく深呼吸をすると奥の椅子に座った。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、中からペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜」
冷たい喉越しが爽快だった。
改めて控え室を見回す。いつもは大人数で狭く感じるのに一人だと広く感じる。
「やっぱり一人はいいよ・・気を遣わなくてもいいし・・」
誰もいないことをいいことに控え室の真ん中で大の字になった。
- 608 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:22
-
15分ぐらい経ったであろうか。
今回は4期までのメンバーでの仕事だったのだが、まだ誰も来る様子はなかった。時計に
目をやると集合時間までには若干余裕があった。しかし、そろそろ誰か来てもいい時刻で
ある。普通は少し心配するのだが、ひとみの中で何故か嬉しさがこみ上げてくる。
「アハハハハーーー」
ひとみは何かを確信したように笑い出した。
そして、本来の集合時間は過ぎていった。
ひとみ以外にやってくるものはいない。
「本当にやったんだ・・・」
顔を何度か叩いて今の状況を確かめる。
「やったーー!」
ガッ、パラパラパラ・・・
伸ばした手が机にぶつかった瞬間、何かが落ちてきた。
「痛ぇーー」
ぶつけた右手を小刻みに振りながら、床へと目を移す。
―えっ?―
ひとみは机の下に写真が落ちているのに気づいた。
「ハハハハーーー」
写真を拾い上げた途端、思わず笑いがこぼれる。
「圭ちゃん、最高!中澤さんもいいよ・・皆いいね・・」
全部で圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香、希美、麻琴、愛、
圭織、里沙、裕子の15枚の写真があった。
- 609 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:23
-
この瞬間を実際に見たときの記憶が蘇ってくる。
―なんで、こんなものが・・―
写真は確かにひとみたちが撮ったものだった。でも、肝心の写真がここにあること自体が
不思議だった。真希は別の場所で仕事をしている。では、誰がこんな写真をここに置いた
かわからない。考えれば考えるほど気味が悪かった。フィルムは真希が持っているはずで
ある。写真の裏を見ると見たことのない会社名が印刷されていた。真希が裏切ったのかと
しか考えられない。
- 610 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:23
-
コンコン、コンコン・・
「はいっ・・」
ドアの方を見るとスタッフが立っていた。
「これから写真撮影あるので、メイクいいですか」
「あっ、わかりました」
「ちょっと顔色がすぐれないようですけど」
「大丈夫です。すぐ行きます」
ひとみの思考回路はそこで遮断された。スタッフには迷惑はかけられない。今回のことを
考えるにはまだ十分な時間もある。真希にはいつでも連絡はとれる。身の回りの用意が終
わると控え室を出た。
控え室には15枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 611 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:24
-
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
ひとみは挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。スタジオの扉が少しだけ開いていて、
その先にはセットが組みあがっていく様子が見えた。
―ほぉ〜〜―
いつもの撮影と違って、自分一人だと気合の入りようも変わってくる。これから先の展開
に思わず顔がにやけるのだった。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
メイクを終えたひとみの前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感じがした。
しかし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにシ
ョートカットである。一瞬同一人物かと思ったが、それにしてはどこかよそよそしい感じ
だった。もちろん、その人物が目の前にいることがないことをひとみは知っていた。
- 612 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:24
-
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
いつもと変わらない撮影だ。次々と浴びせられる言葉。ひとみもその言葉に応えるように
ポーズを決めていく。そこには先ほどまで見せていた疲れた表情はなくピリッとしまった
真剣な表情があった。今まで以上に自分をアピールできているように思えた。
―まさか・・―
ひとみは別の意味での違和感を感じていた。
カシャッ、カシャ・・
ひとみの気持ちを無視するかのように撮影は続けられた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
30分ほどして撮影は無事終了した。
終了した後、カメラマンから意外な言葉が発せられた。
「次、石川さんが来てるから、呼んできて」
「本当ですか・・」
「メイクが終わったって・・どうしたの?」
「いやぁ、別に・・」
ひとみは考えられなかった。
梨華がここに来れるわけがない。その理由をひとみは知っていた。では、メイクが終わっ
た梨華が誰なのか見当もつかない。ひとみは天を仰いだ。
- 613 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:25
-
ゾクッ
いろいろと考えを張り巡らすひとみの背中を寒気が走る。
その原因はカメラマンだった。サングラスの奥から痛いほどの視線を感じていた。
- 614 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:26
-
「まさか・・圭ちゃんじゃないよね?」
ひとみの頭の中に最悪の文字が浮かぶ。
「・・・」
何も反応がなかった。このまま別人であることを祈っていた。
「あのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたんだ」
ひとみの期待に反してカメラマンは大声を上げた。
「圭ちゃん、どうして」
「どうしてはないだろう・・よしこ」
それまで穏やかだった空気がだんだんと凍っていく。
「だって、あのとき圭ちゃんは・・」
「あぁ、わかってるよ、あのときはお世話になったね」
「・・あのぉ・・ごめんなさい」
ひとみは背中を小さくしていた。
「それにしても、いい表情してたよ」
「・・そうですか・・」
返事も上の空だった。
ひとみは完全にパニックに陥っていた。顔からはすでに血の気が引いていた。口元が引き
つっている。今すぐ逃げ出したいのだが足が動かない。
「ねぇ、なんでそんなに怯えてるの?」
「・・・」
ひとみに言葉はない。
圭の怪しげな視線にただ震えるだけだった。
- 615 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:26
-
「よしこのそんなところ好きだよ」
ひとみの髪をゆっくりと撫で回す圭。
こめかみから一筋の汗が流れる。
「そんなに怖がらなくても・・」
「・・いえ・・」
ひとみの恐怖は最高潮に達しようとしていた。
「あのことなら、別になんとも思ってないから」
「あっ・・・そ・・・」
圭の口元が緩む。
「よしこらしくないなぁ〜」
圭はいたずらっぽく笑うとそのままひとみの頬をやさしく包み込む。
「よしこって・・かわいいよね〜・・ん・・」
ひとみの唇を奪った。
- 616 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:27
-
「止めてーー」
ひとみの我慢もそこまでだった。
逃げ出そうと足を動かした瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。必死にこめかみを押さえて視線を定めようとするが目
の前の光景はだんだんとぼやけていく。頭を振ってなんとか目まいを覚まそうとするが意
識が薄れていく。何が原因かまったく思いつかない。
「圭ちゃん・・」
力ない声がかすかに響く。
―何を?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿がぼんやりと消えていく。
いつしか目の前が真っ暗になっていた。
- 617 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:27
-
「眩しい・・」
カーテンの隙間から陽がこぼれていた。
- 618 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:28
-
ふと目を開けると、そこは自宅のベッドの中だった。寝ぼけたままの顔でリビングに顔を
出すと母親から封筒が届いていることを告げられた。ひとみは何も気にせずに封筒を受け
取るとそのまま自分の部屋に戻った。その封筒を見ると、封筒にはひとみの名前しか書か
れてなかったが、その筆跡を見て眠気も吹っ飛んだ。
「圭ちゃん・・嘘でしょう!」
思わず大声を上げた。そして、圭との写真撮影のことがフラッシュバックする。
ブルブルと震える手で封筒を開けると中には写真が1枚だけ入っていた。写真を見ると真
っ黒な背景にぽつんとひとみだけが写っていた。写真撮影はおろかそれ以外でもこんな写
真を撮った覚えがない。心当たりがないか必死に思い出そうとするのだが、何も思い当た
らない。
- 619 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:29
-
すかさず真希に連絡するが連絡がとれない。何度も携帯に電話してみるものの繋がること
はなかった。とりあえずメールを送った。すぐに返信がるものと信じていた。
- 620 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:29
-
結局、連絡をとることはできなかった。
もちろんメールの返事も返ってこなかった。
- 621 名前:写真16 投稿日:2004/02/08(日) 00:29
-
そして写真のことは忘れ去られようとしていた。
- 622 名前:M_Y_F 投稿日:2004/02/08(日) 00:30
-
今日はここまで
- 623 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:40
- 「おはようございます」
深々と帽子をかぶたまま廊下を歩いていく。
ステージとは違ってかなり地味な格好だ。一見しただけではステージ上の本人と同一人物
だとわからないだろう。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くがまったく返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
当然そこには誰もいない。今では慣れた光景だった。
「眠いよ・・」
真希は大きく深呼吸をすると奥の椅子に座った。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、ペットボトルを取り出して口にする。
「はぁ〜〜」
机に頬杖つくと自然とまぶたが重くなる。
最近は時間を問わずに仕事が舞い込んでくる。年が1歳違うだけでこんなにも違うのかと
戸惑う部分は大きい。昔と違ってやらなくてはいけない気持ちが強くなった分だけ必死に
睡魔と闘うのだが今まで勝ったためしがない。
グゥーーー、グゥーーーー
そして、いつものように睡魔に打ち負かされた真希の姿があるのだった。
- 624 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:41
-
15分ぐらい経ったであろうか。
「はぁーーー」
大きく背伸びをする姿があった。
一時的に睡眠をとれたことで目がすっきりとしていた。
グーーー
目が覚めるとお腹もそのときを知ってるようである。
真希はあらかじめ用意された菓子の入ったカゴへと手を伸ばす。
―えっ?―
カゴの横に写真が裏返しに置かれていたのに気づいた。
「ハハハハーーー」
写真を拾い上げた途端、思わず笑いがこぼれる。
「圭ちゃん、最高!裕ちゃんもいいよね・・・・」
全部で圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香、希美、麻琴、愛、
圭織、里沙、裕子の15枚の写真があった。
- 625 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:42
-
この瞬間を実際に見たときの記憶が蘇ってくる。しかし、その記憶はかき消される。
―なんで、こんなものが・・―
写真は確かに真希たちが撮ったものだった。でも、肝心の写真がここにあること自体が疑
問だった。ひとみがわざわざここまで来たとは考えられない。ひとみ自身別の場所で仕事
していることを知っている。フィルムは真希が持っていたのに誰がこんなことをしたのか
思いつかない。いや、真希が知っているかぎり一人しかない。ただ、ひとみがそこまです
るのか信じられない。真希は疑心暗鬼のまま写真を見続けていた。そして、15枚の写真
を見終わって元の位置に写真を戻そうとすると、カゴの下に1枚写真があることに気づい
た。
「これは・・・」
真希の顔が蒼ざめていく。
それはひとみが写った写真だった。背景には真っ黒だった。
―誰がこんなことを・・―
真希の背中に言い表せないほどの不安が覆いかぶさってくる。
並々ならぬ嫌な予感に周りを見渡す。
- 626 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:42
-
コンコン、コンコン・・
真希の不安を増大させるかのようにドアを叩く音がする。
「はいっ・・」
引きつる頬を手で隠すようにドアの方を見るとスタッフが立っていた。
「これから写真撮影あるので、メイクいいですか」
「あっ、わかりました」
「ちょっと顔色がすぐれないようですけど」
「大丈夫です。すぐ行きます」
スタッフの出現は真希にとってはありがたいものだった。このままここにいたらどうかな
りそうな気がしていた。控え室さえでれば、一時的ではあるが不安は消える。本来ならマ
ネージャーにでも言うことだが、言えないだけに辛いものがあった。これから先、何も起こらないことだけを祈って控え室をあとにした。
控え室には16枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 627 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:43
-
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
真希は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。スタジオの扉が少しだけ開いていて、
その先にはセットが組みあがっていく様子が見えた。
―ほぉ〜〜―
いつもの撮影と違って、自分一人だと気合の入りようも変わってくる。
パンパン
いつもと同じように軽く頬を叩く。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
メイクを終えた真希の前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感じがした。
しかし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにシ
ョートカットである。一瞬同一人物かと思ったが、それにしてはどこかよそよそしい感じ
だった。もちろん、その人物が目の前にいることがないことを真希は知っていた。
「お願いします」
真希はすべての雑念を捨てるかのように頭を振ってレンズの前に立った。
- 628 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:44
-
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
いつもと変わらない撮影だ。次々と浴びせられる言葉。真希もその言葉に応えるようにポ
ーズを決めていく。そこには先ほどまで見せていた疲れた表情はなくピリッとしまった真
剣な表情があった。やっと自分に自信が持てるようになったからか、知らず知らずのうち
に目に見えないオーラがその場を包み込む。
―こんなことないよね・・―
真希はこみ上げてくる不安を拭い去るようにレンズに集中する。
カシャッ、カシャ・・
真希の気持ちとは関係なく撮影は続けられた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
30分ほどして撮影は無事終了した。
―ホント?―
これで終わりだと思えなかった
ゾクッ
いろいろと考えを張り巡らす真希の背中を寒気が走る。
その原因はカメラマンだった。サングラスの奥から痛いほどの視線を感じていた。
控え室のこともこのカメラマンがやったことではないかと、恐る恐る視線を向ける。
- 629 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:45
-
「まさか・・圭ちゃんじゃないよね?」
真希の頭の中にはないはずの文字が浮かぶ。
「・・・」
何も反応がなかった。このまま別人であることを祈っていた。
「あのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたんだ」
真希の期待に反してカメラマンは大声を上げた。
「圭ちゃん、どうして」
「どうしてはないだろう・・ごっつあん」
それまで穏やかだった空気がだんだんと重苦しくなっていく。
「だって、あのとき圭ちゃんは・・」
「あぁ、わかってるよ、あのときはお世話になったよね」
「・・・・ごめんなさい」
真希の顔は緊張で固まりかけていた。こめかみから自然と汗が流れてくる。
それに対して圭は余裕の笑みを浮かべていた。
「その表情もいいよね」
「・・・・」
圭は真希にレンズを向けた。
「あのときの顔はどこに行ったのさ?」
圭の嫌味な質問も真希の耳には入っていなかった。
圭への恐怖からか、唇が微妙に上下に揺れている。
顔から血の気が引いていくのがはっきりとわかる。
「ねぇ、なんでそんなに怯えてるのさ?」
「・・・」
圭の怪しげな視線を避けるように真希は下を向いたままだった。
- 630 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:46
-
「ごっつあん、気にしなくても・・」
真希の髪をゆっくりと撫で回す圭。
ゆっくりと胸に手が下りてくる。
「きゃっ」
声は出るものの体が動かない。
「止めてよ」
胸を回すように揉む圭の手の動きが激しさを増す。
こめかみから一筋の汗が流れる。
「そんなに怖がらなくてもいいじゃんか・・」
「・・いやぁ・・はぁ・・」
真希の恐怖は最高潮に達しようとしていた。
「あのことなら、別になんとも思ってないから」
「・・・」
真希の様子をあざ笑うかのように圭の口元が緩む。
「ごっつあんらしくないよな〜」
圭はいたずらっぽく笑うとそのまま真希の頬をやさしく包み込む。
「・・かわいいよね〜・・ん・・」
真希の唇を奪った。
「いやぁーー」
真希の我慢もそこまでだった。
逃げ出そうと足を動かした瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。必死にまぶたを押さえて視線を定めようとするが目の
前の光景はだんだんとぼやけていく。頭を振ってなんとか目まいを覚まそうとするが意識
が薄れていく。足に力を入れようとするが力が入らない。
「圭ちゃん・・」
力ない声がかすかに響く。
―なんで?―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿がぼんやりと消えていく。
いつしか目の前が真っ暗になっていた。
- 631 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:47
-
「はぁ〜〜・・」
カーテンの隙間から陽がこぼれていた。
ふと目を開けると、そこは自宅のベッドの中だった。何故家にいるのか母親に聞くと、馬
鹿だとかアホだと言われた。おまけにいろいろと耳が痛くなるようなことまで言われると、
さすがの真希もキレる。それからは、いつもの親子喧嘩の始まりだ。10分ほどで喧嘩は
おさまり、部屋に戻ろうとしたときに封筒が届いていることを告げられた。真希は何も気
にせずに封筒を受け取ったが封筒を見た途端思わず体が震えだした。
「どうしたの?」
「いいや何も・・」
真希は一瞬母親の方を振り返ると足早に自分の部屋に戻った。
- 632 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:47
-
封筒を見ると真希の名前しか書かれてなかったが、その筆跡が問題だった。
「圭ちゃん・・どうして!」
思わず大声を上げた。圭との写真撮影のことがフラッシュバックする。
まずは封筒を天にかざして変なものが入ってないかチェックしたが何も入ってないようだ
った。ブルブルと震える手で封筒を開けると中には写真が1枚だけ入っていた。真希は思
わず胸を撫で下ろした。さきほどまでバクバク音を立てていた心臓も幾分落ち着いてきて
いる。真希は大きく深呼吸をして写真を見ると真っ黒な背景にぽつんと真希だけが写って
いた。写真撮影はおろかそれ以外でもこんな写真を撮った覚えがない。心当たりがないか
必死に思い出そうとするのだが、何も思い当たらない。そして、ある場面が頭に浮かぶ。
控え室で見たひとみの写真である。
すかさずひとみに連絡するが連絡がとれない。何度も携帯に電話してみるものの繋がるこ
とはなかった。仕事で携帯に出れないのかと思いメールを送った。すぐに返信があるもの
と信じていたが何もなかった。
- 633 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:48
-
結局、連絡をとることはできなかった。
もちろんメールの返事も返ってこなかった。
そして写真のことは忘れ去られようとしていた。
いや、思い出さないようにしていただけである。
- 634 名前:写真17 投稿日:2004/03/20(土) 16:49
-
何も起こらないようにと祈る日々が続いた。
- 635 名前:M_Y_F 投稿日:2004/03/20(土) 16:50
-
今日はここまで
次回の更新で完了予定です。
- 636 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/26(金) 23:25
- 語るスレに名前が挙がってましたね。で、読みにきました。
旧プッチの壊れ具合が怖いなぁ…面白いです。続きを楽しみにしてます。
- 637 名前:川3 投稿日:2004/03/28(日) 16:29
-
「お疲れ様でした」
真希はそのまま車に乗り込むと眠りについた。
ガサガサ、ガサガサ・・
聞きなれない音に真希は目を覚ました。
思いもよらぬ明るさに目の前に手をかざす。
「えっ・・」
鉛のように重いまぶたを無理やり手で支えると周囲の変化にただ唖然とするばかりであっ
た。あるはずの家やビルの姿がない。それに空を見れば、東京とは違う澄みきった青空が
広がっていた。
「それにしても・・」
真希は両腕を軽くさする。東京ではちょっと暑く感じる服装なのだがここでは少し肌寒い。
おまけに、普段なら見える高々としたビルはそこになく、大きな川と緑が広がるだけだっ
た。
―ここはどこ?―
手元にあったバッグから携帯を取り出そうとするがどこにも見当たらない。はっきりいっ
て、すべてのデータが携帯に入っている。携帯がなければ、いっそう不安増す。コンビニ
らしき場所を探すがどこにもそういうところは見当たらない。
- 638 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:30
-
「何っ」
突然、真希の周りが黒い影に覆われた。
空を見上げると、1機のグライダーが飛んでいた。
何か誘われるようにグライダーの姿を追った。
10分ほど追いかけたであろうか。
「ここって・・」
真希は自分の目を疑った。
「たきかわスカイパークって・・」
真希はどうやってここにきたのかどう思い返しても心当たりがない。
“たきかわスカイパーク”とは北海道の滝川市の石狩川の河川敷にある。その名が示すと
おりスカイスポーツをテーマとした日本初の公園である。ここは広大な土地だけではなく、
空域や上昇気流に恵まれ、全国から集まるグライダーファンやライセンス取得を目指す生
徒たちのメッカでる。また空を飛ばない人も、また家族連れでも航空動態博物館や関連施
設によって空を知り、 空と遊ぶことができる場所でもある。
真希は暇でも潰すかのように、航空動態博物館の中へと入った。この博物館は格納庫と博
物館を兼ねる施設で、最大30機程度格納でき、本物のグライダーを見ることができると
ころだった。いろいろなグライダーを見ていると空を飛びたくなるのが人の常である。財
布の中をチェックするとがっくりとうなだれる真希。とりあえず、飛んでいるグライダー
を見たくなって滑走路の近くへと歩き出した。
- 639 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:31
-
「あぁーー」
真希は見慣れた人物の存在に大声を上げた。
「ごっちん!」
その人物は真希の存在に気づいたのか駆け寄ってきた。
「よっすぃ、なんでここに?」
「なんでって・・ごっちんこそ、どうして?」
「私は気づいたらここに来ていて・・」
「私もなんだ」
2人は奇妙な鉢合わせにお互い顔を斜めに傾ける。
「よっすぃ、今飛んできたの?」
「うん、面白かったよ・・ごっちんも飛んできたら?」
「いいや・・ちょっと、2人だけで話さない?」
「うん・・」
真希の申し出をひとみは素直に受け入れた。
ひとみにとっても真希の存在は大きかった。
2人は何かに急かされるようにその場を離れた。
真希とひとみは河川敷で話をしていた。ここに来る人の多くの目的はグライダーだった。
2人は他人の目を気にすることなく会話をしていた。お互いにどうやってきたのかわかっ
ていない。では、どうやってここに来たのか、2人はあらん限りの可能性を語り合うが結
局答えは見つからない。そして、時間が経てば、いつもの馬鹿話が始まっていた。時々、
空を舞うグライダーを見ては、その自由な振る舞いがうやらましく思えてくるのだった。
- 640 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:32
-
ザッーーーーーーー
ザァーー、ザパーーーーーーー
「うそでしょう・・」
「わぁーー」
突然の出来事に目を丸くした。
上流から下流へと流れるはずが、突然、下流から大きな波が押し寄せてくる。
大雨が降ったり、地震が起きた様子もない。何が原因かまったくわからない。
気づけば大きな波が近づいていた。
知らず知らずに手を握り合って走り出していた。
ザッ、ザパーーーーーーーン
波はさっきいた場所まで押し寄せていた。
それは、絶対にありえないことだった。
いくら広大な河川敷だからといって、グライダーの滑走場が簡単にできるほど法律は甘く
はない。川が氾濫したりする恐れがないから、ここに滑走場ができたのだ。そんなことは
知らない真希とひとみだったが予期しない出来事に唖然とするばかりだった。
「びっくりしたね!」
「うん、どうしたんだろう」
2人は胸に手を当てながら大きく息をしていた。まさかこんなに大きな波が押し寄せると
は思っていなかった。
- 641 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:32
-
5分ほど経っただろうか、再び波が押し寄せることはなかった。
さっきまでいた場所に戻り見渡しすが、何事もなかったかのようにが川の流れは穏やかだ
った。それに、波が押し寄せたことを否定するかのように清く澄んでいた。
―ここに2人いるんだし・・―
―私たち以外にいないはず―
声には出さないものの、二人は頭に浮かんだ考えを否定するのに必死だった。
さっきまでの雰囲気と違い、少しギクシャクした感がある。
- 642 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:33
-
「後藤さんだ!」
「えっ・・」
ビクッ!
自分の名前を呼ばれたことに一瞬顔色が変わった。
まさか、ここで自分の正体がばれるとは思っていなかった。
「あのぉ〜、後藤真希さんですよね」
「そうですけど」
声のする方を向くとそこには2人の中学生の女の子がいた。
名前はわからないが、学校の制服を着ていた。
「ふぅー」
思わず安堵のため息が漏れた。ただ、自分の名前を呼んでもらえたことに内心喜んでいた。
中学生からひとみに視線を移すとひとみは不満そうにこちらを見ている。
「吉澤さんもいる」
「ほんとだ、ラッキーー」
ひとみの存在に気づいた中学生はさらに盛り上がる。
「うんうん・・」
真希のときよりもはしゃいでいる様子にひとみは満足げな笑みを浮かべる。
一方の真希は、そんなわかりやすいひとみの態度に苦笑いを浮かべていた。
中学生たちの興奮はおさまらないのか、きゃーきゃーと声を上げて騒いでいる。
最初は喜んでいたひとみもその様子に呆れたのか、いつしか笑みが消えていた。
- 643 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:34
-
急に騒ぎがおさまると、中学生たちは申し訳なさそうに声をかけてきた。
「お願いがあるんですけど、写真撮ってもいいですか?」
「うーーん・・どうしようかな・・」
ひとみは辺りを見渡しながら考えていた。
特に急ぐこともなかったし、何よりすることがなかった。
真希を見ると、ただ黙って頷いた。
「いいよ。ただし、他の人には内緒ね」
「わかりました。ありがとうございます」
ひとみの言葉に中学生たちは頭を下げた。
「なるべく早くしてね」
「はい」
中学生たちはゴソゴソと鞄の中からカメラを取り出した。
「おぉ〜・・」
ひとみと真希は目を丸くした。2人が手にしたカメラは本格的なものだった。プロが使って
そうなカメラである。価格がどれくらいするのか検討もつかなかったが高価なものである
ことは想像できた。それよりも、中学生がこんなカメラを持っていること自体が驚きだっ
た。
「あれっ?」
「うーーんと、確か・・」
どこかで見たことがあるカメラだったが、どこで見たかは思い出せなかった。
- 644 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:35
-
「はい、チーズ!」
カシャッ!
言葉に合わせて、笑顔を作る。
カシャッ!
次々とポーズを決める様子は昔の雑誌の撮影と変わりがなかった。
「ウィンクして」
「こう?」
カシャッ
カシャッ
「すごい、すごい」
「TVで見るより小柄なんですね」
「かわいい」
「かっこいい」
中学生たちは楽しそうに撮影を続けた。
―誰なんだろう・・―
ひとみは首を傾げていた。ときより中学生たちの会話を聞いていると自分たち以上に娘の
メンバーにしかわからないことを話っていた。しかも、真希には絶対判らない、その場に
いないとわからないようなこともあった。しかも、メンバーの友達や親戚にここまで詳し
いことを知る人物がいるとは到底思えない。ここの出身は美貴だけである。あさ美も北海
道の出身だが、こんな友達がいることなんて聞いたことがない。まして、他のメンバーも
当然のことである。真希は真希でこの状況にある種の不安を感じていた。
- 645 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:36
-
カシャッ、カシャ
撮影は進んだ。
「後藤さん、かわいいですね」
「そんなことないですって」
「謙遜しちゃって」
「そんなことないって」
「吉澤さん、かっけーー」
「そう・・」
「憧れますよ」
「じゃ、サービスだよ」
ほめ言葉に気分を良くしたのか、2人は次々とポーズを決めていく。
「そろそろ終わりにしない」
「もう少しいいですか?」
「うーーん・・」
「もう少しだけ、お願いします」
「・・・」
ちょっと強く言われると、断るにも断りきれない。
- 646 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:37
-
―まじっ?―
ひとみは中学生の持っているカメラの傷に目がいった。
こういうときのひとみは人一倍観察力が増していた。
「悪いけど、カメラ見せてくれない?」
「いいですよ」
カメラを手にすると、不思議と圭のものに似ていた。
「圭ちゃんのカメラ?」
「えっ」
傷を指差しながら、首を捻る。
真希もひとみが手にしていたカメラを奪って、注意深く観察する。
「やっと気づいたんだ・・」
「鈍いね」
「まぁ、最初からわかっていたことだけど」
中学生たちは怪しい笑みを浮かべる。
「はぁ〜、2人とも本当に馬鹿なんだね」
「ちょっと、まさか・・」
「あんたたち誰?」
信じたくない場面が脳裏に描かれる。
「しょうがないね・・」
「教えてあげるよ」
ゆっくりと2人を見て微笑んだ。
- 647 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:38
-
グッ、グッ・・
「うっ・・誰・・」
「どういうこと」
2人の顔がゆがむ。口元が引きつり、目が恐怖を訴える。両手で顔を隠しながら指の隙間
から怖いものを見るように覗き込むとなんと髪の毛の付近を思いっきり引っ張ると顔の皮
がぐっと伸びるではないか。今まで自分たちがやってきたことだ。行為そのものより、仮
面の下に隠された人物が問題だった。そこにははっきりと見覚えのある顔があった。
「ごっちん・・・・」
「よっすぃ・・」
2人はそれぞれの名を呼んだ。そして、思わず顔を見合す。
そして、2人の距離は自然と離れていく。
その仮面の下に隠れていたは真希とひとみだった。
- 648 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:39
-
必死で首を振るがどちらが本物かわからない。
さっきまでいたのが本物だと信じていたかった。
自分たちがやってきたことを考えると、今度は自分の番かと焦ってくる。
平静さを保とうとするだけで精一杯だった。
「よっすぃ、記念にその姿を撮ってあげるよ」
カシャッ
真希がシャッターを押し続ける。
ひとみはどうしていいかわからずに立ちすくむだけ。
「あぁ、よっすぃ〜ばっかり!ごっちんも写さないと 」
カシャッ
ひとみがレンズを真希へと向ける。
真希は口を半開きにしたまま視線が定まらない。
「かわいい」
「いいねぇ、予想通りの反応だよ」
「今までやってきたことをやられる気分はどう?」
新たに現れた真希とひとみは不敵な笑みを浮かべる。
ここぞとばかりに口撃を続けた。
- 649 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:40
-
「ちょっと、あんた誰よ」
「本当の姿、見せなさいよ」
馬鹿にしたような言葉の連続に勇気を振り絞る。
怖いが本当の正体を暴かないことには事態の進展はない。
しかし、その思いを現実にすることはできなかった。
カシャッ
ザァーーーザザァーー、ザァーーー
シャッターを切る音と波の轟音とが重なった。
「うそっ・・」
「誰・・」
大きな波が空を覆う。
そして波が真希やひとみ達を襲う。
「きゃあーー・・」
「なんでだよ」
叫び声がかき消されるともに目の前が暗闇で覆われた。
すべての思いが飲み込まれる。
お互いのことが気になるが、他人のことを思いやるほど余裕はない。
必死で水面へと浮かび上がろうともがくが体は沈む一方だった。
- 650 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:40
-
ピカッ
一筋の光が目に差し込む。
- 651 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:41
-
「うっ、ここは・・」
真希はゆっくりと立ち上がる。
一瞬、最悪の場面が頭をよぎったがそれだけはなさそうだった。
なぜなら、真希がいる場所は波に襲われる前の場所と変わらなかった。
「あぁっ」
真希は思わず声が出た。
10Mほど先には見慣れた姿があった。
「はぁーーー」
大きくあくびをしながら、ひとみも目を覚ました。
その様子をただじっと見つめる真希。
ひとみも真希がいることに気づいたのか視線を真希に向ける。
無言の状態が続く。
二人の距離は近くて遠い。
お互いに見つめあうものの本物だという確証がない。
本物だとわかれば、すぐに抱きつきたい。
しかし、さっきのこともあって動くに動けない。
本物かもしれないないという思いだけが二人をつなぎ止める。
何より嫌な予感が二人を縛りつけていた。
- 652 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:42
-
「ぎぁーー」
突然、真希が大声を上げた。
ひとみの視線も必然とそちらに向く。
「うそっ・・」
ひとみは目を疑った。
真希の前には青白い炎に包まれた人影が。
「圭ちゃん・・嘘だよね」
真希の顔は蒼白となり、身体が震えてきた。
今までと違う展開に真希の思考は止まった。
止まったというより、恐怖という現実が真希を凍らせた。
「やだよ」
ひとみは少しづつ真希から離れていく。
「よっすぃ、白状な奴なんだね」
ひとみは恐る恐る声をするほうを見た。
「いやぁーーーー」
地球の裏側まで届きそうな声を上げた。
視線の先には、青白い炎に包まれた真里の姿があった。
ひとみは腰を抜かしてその場に崩れ落ちた。
圭の姿に後退りを続ける真希。
真希とひとみの距離は2Mほどまで近づいていた。
そして、気づけば15の青き炎が2人を囲んでいた。
青き炎の中に浮かぶ顔はどれも見慣れたものだった。
一つ違ったのは、どの顔にも笑顔が見られなかったことだ。
- 653 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:43
-
恐怖を楽しむかのように激しく燃えさかる炎。
青き炎は現れただけで特に真希やひとみに何も危害を加えることはなかった。
ただ、憎しみに満ちた目でじっと睨んでいるだけだった。
「ごめんなさい。こんなことになるとは思わなかったの」
「本当にごめん。あとで何でもするから・・」
真希とひとみは手を合わせて涙顔で謝った。
2人ともこれぐらいでことが済むとは思っていない。
ただ、できることならこれ以上の苦痛を味わいたくなかった。
身体を震わせながら懇願する2人。
その姿に満足したのか、青き炎の中の顔は穏やかなものに変わる。
そして、一つの炎が消えると導かれるようにすべての炎が消えた。
あとには何も残っていなかった。
2人は目を合わせると、大きくため息をついた。
次に何か起こるはずと覚悟をしていたが、5分経っても変わったことはない。
両手を胸に当てる真希と両手を組んだままのひとみ。
一つの安堵した姿があった。
- 654 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:43
-
安堵できたのは束の間だった。
パラパラと砂が降ってきた。
おかしいと思いながら、空を見上げるが雲らしきものはない。
どこから砂が運ばれているのか不思議としか言いようがなかった。
しかし、最初は小さかった砂の粒がだんだんと大きくなっていく。
身体に感じる痛みもだんだんと大きくなっていく。
―まさか―
―私たちまで―
2人の頭には最悪のシナリオが刻み込まれていた。
- 655 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:44
-
「ねぇ、いるんでしょう・・」
「お願いだから、助けて」
2人の言葉に応えるものはいない。
ただ、石が落ちて砕ける音が2人への答えだった。
どこかに移動しようと考えるが、2人を逃がさないように石は降っていた。
それは、これから訪れる最大のヤマ場を盛り上げる演出みたいだった。
落ちてくる石には圭の顔が浮かんでいた。
保田大明神に子泣き爺にコントでのおばあちゃん姿もある。
恐怖に慄いて顔が一瞬柔和なものとなるが、すぐに引きつった表情に変わる。
すべての石の目が真希とひとみを睨みつけていた。
ドン、ガシャーーン、コロコロコロコロ・・・
ドン、パキン、ドドーーン、コロコロ・・・
次々と降ってくる石。
最初は圭だけの顔だけと思っていたが、そのうち、真里、なつみといろいろな顔があった。
その顔の目が2人を恨めしそうに睨みつけていた。
二人を取り囲むように石は降り続く。
- 656 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:45
-
「どうして・・」
「信じてたのに・・」
「自分さえよければいいの・・」
「あんたら、助けてくれなかったじゃん」
「覚えておけよ」
聞こえるはずのない声が耳に届く。
耳を塞いでも、頭の中に響き渡る。
聞きたくない、いや、聞こえるはずがない声だった。
複数の声が頭が割れるぐらいに広がる。
激しい音とともに石は降り続いていた。
経験したことない激しい音が地面から伝わってくる。
気づけば、周りはすべて石で囲まれていた。
石の一つ一つに人の顔があった。
圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香、希美、麻琴、愛、圭織、
里沙、裕子の顔だった。
どの顔も怒りと恨みに満ち溢れていた。
- 657 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:46
-
2人に逃げ場はなかった。
いつしか抱きしめ合って、地面にへたり込んでいた。
「ごめんなさい・・・」
「本当に悪かった・・」
2人は謝るが、頭に響く声は止まない。
目を開ければ、痛いほど突き刺さる視線の嵐。
唯一、石のない天を見上げた。
「うそっ」
「マジ」
真希とひとみの言葉が重なる。
大きく迫る影。
直径5Mほどある岩が落ちてくる。
岩の表面には15人の顔があった。
- 658 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:47
-
「助けて」
「お願い」
真希とひとみの言葉に応える声はなかった。
考えもしなかったことが現実になろうとしていた。
「ねぇ、誰かいるんでしょう!!」
「ここから出してよ」
静寂だけしかなかった。
無言であざ笑う石の数々。
「きゃーーー、止めて」
「ごめんなさい。助けてーー」
絶望の悲鳴が響いた。
それが最後の声だった。
- 659 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:48
-
「ばり面白い」
「この写真、いいねぇ」
「うん、すごくいい顔・・・ねぇ、どうしたの?」
3人の少女が2枚の写真の中心に集まっていた。
その中の気の強そうな少女が不満そうな表情が浮かべていた。
「なんで私が保田さんの役目をせないかんと」
「しょうがじゃないよ、それを言ったら、なんで私が吉澤さんなの」
「だって、身長順で役目を決めようってことだったじゃない・・」
「なんか納得できん」
最初の談笑はどこへやら、険悪な雰囲気に変わる。
「どうかしたの?」
その3人のもとに目がきつい女性が寄ってきた。
「あっ、藤本さん」
美貴は3人から写真を取ると椅子に座った。
「アハハハーーー、やっぱりいいねぇ〜」
2枚の写真を見ながら大きな笑い声を上げる。
「二人とも情けないね、それにしても・・」
何か物足りないのか写真をクルクルと回す。
- 660 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:49
-
「あのぉ〜、藤本さん」
「あぁ、何?」
突然の呼びかけに美貴の視線が凍てつくようなものに変わる。
その視線に体を硬直させる3人の少女。
「どうしたの?」
美貴の言葉に息を飲む。
「私たち、これからどうしたらいいですか」
「まぁ、お疲れ様と言いたいところだけど、こっちもお願い」
「はい」
「私にとっては、かわいい子猫なんだけど・・」
美貴から手渡された写真を見て息を飲み込む3人。
「どうしたの?」
「いいえ、別に・・わかりました」
美貴に見えないように写真をバッグの中にしまう。
写真の顔が変わったとは、本人を前にしては言えないことだった。
- 661 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:50
-
「じゃあ、よろしく頼んだわよ」
自ら持っていた写真を取り出すと2枚の写真と混ぜてシャッフルした。
すべてを吹っ切ったように手にした写真を宙に放り投げた。
「結果期待してるから」
美貴は足取りも軽くその場を去っていく。
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
17枚の写真が地面へと落ちた。
- 662 名前:川2 投稿日:2004/03/28(日) 16:50
-
そこには恐怖にひきつる17人の顔があった。
そして、17枚の写真は忘れ去られようとしていた。
- 663 名前:写真18 投稿日:2004/03/28(日) 16:51
-
カシャッ、カシャッ
モデルを前にフラッシュがたかれる。
モデルは目の前のカメラマンに疑問を抱く。
モデルは誰か?
カメラマンは誰か?
それは神(?)のみが知る真実。
背景のない写真をモデルが手にしたとき、神は悪の顔をのぞかせる。
- 664 名前:背景のない写真 投稿日:2004/03/28(日) 16:52
-
(完)
- 665 名前:M_Y_F 投稿日:2004/03/28(日) 16:53
-
これで終わりです。
愚作ではありますが、最後までお付き合いしていただいた方には感謝してます。
昨年中に終わらせようと思ってたんですけど、
なかなか進まない状況もあり、だらだらとした展開になってしまいました。
同じような内容の繰り返しなので、
もっとサクサク進めろよと思っていた人もいるかもしれません。
作品を進めていく中で、6期も書けたら書こうと思いましたが、やっぱり書けませんでし
た。それ以前に、書けないメンバーになると文が止まってしまう始末でしたので。
読み返すとよくそれが表れていますね。この作品も小説内容と同様にこのまま静かに消え
るだけです。おまけに、最後も構想とは変わってしまったし・・
最後に、今まで読んでいただきましてありがとうございました。
さて、もう一つを書き上げないとなあ・・(汗)
- 666 名前:M_Y_F 投稿日:2004/03/28(日) 16:55
-
>>636 名無飼育さん
感想ありがとうございます。
作品名が挙がっただけで光栄ですね。
ほんとにひっそりと書いてきてたんで・・
それ以前に語っていただくほどのものでもないと自覚してますので・・
- 667 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/28(日) 16:55
-
- 668 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/28(日) 16:56
-
- 669 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/28(日) 16:56
-
- 670 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:31
-
「おはようございます」
ボサボサ髪を隠すために深く帽子をかぶたまま廊下を歩いていく。
華やかな舞台での衣装と違ってラフな格好だ。
コンコン、コンコン・・
「・・」
控え室のドアを叩くがまったく返事がない。ゆっくりとドアを開けた。
当然そこには誰もいない。以前は見慣れた光景だった。
「ふぅ〜」
美貴は大きく深呼吸をすると奥の椅子に座った。
ドン!
肩からバッグを下ろすと、背もたれに体を預け、手足をだらりとさせる。
「はぁ〜〜」
一気に体の力を抜くと自然とまぶたが重くなる。一人だけのときと違って集団でいるとい
ろいろと気を遣って落ち着いてられない。自分にその気がなくてもちょっとした言い草や
仕草でいろいろと噂が立つ。一人であれば何でもないことが、集団では話題に上がる。腑
に落ちないことであるが、まともに相手にしていたら何もできない。本当の自分をわかっ
てもらうのが一番だが、すべての人にわかってもらえるとは思ってもない。考えてもみな
い噂にはただ苦笑いを浮かべながら聞き流すのみである。次から次に立つ噂にはただ呆れ
るだけだった。
- 671 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:32
-
15分ぐらい経ったであろうか。
「はぁーーー」
いろいろと考えるが出てくるのはため息ばかり。このところのハードスケジュールで多少
疲れがあるかもしれない。時間制限もないのでそれだけ睡眠時間削られ、疲れも取れない。
肩を軽く叩きながら、テーブルに置かれた飲み物に手を伸ばす。
―えっ?―
飲み物の横に置かれた菓子が入ったカゴの下に写真が裏返しに置かれていたのに気づいた。
「ハハハハーーー」
写真を拾い上げた途端、思わず笑いがこぼれる。
「よっすぃもごっちんも馬鹿だよね・・・・」
全部で圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香、希美、麻琴、愛、
圭織、里沙、裕子、ひとみ、真希の17枚の写真があった。
- 672 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:33
-
この瞬間を実際に見たときの記憶が蘇ってくる。
しかし、その記憶は新たな疑惑によってかき消される。
―どうして、こんなものが・・―
写真は確かに真希たちを撮ったものだった。でも、肝心の写真がここにあること自体が疑
問だった。この写真のことを知っている人物は限られていた。しかし、その人物はここに
いない。それは、美貴自身がよくわかっていたはずだった。
「これは・・・」
美貴の顔が蒼ざめていく。
それは美貴自身が写った写真だった。背景には真っ黒だった。
―誰がこんなことを・・―
美貴の背中に言い表せないほどの恐怖が覆いかぶさってくる。
並々ならぬ嫌な予感に周りを見渡す。
自然と蒼ざめていく顔。背筋に冷たいものが流れていく。
- 673 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:33
-
コンコン、コンコン・・
ドアをノックする音に美貴の緊張は一気に高まる。
背中がビクンと動く。
「はいっ・・」
引きつる頬を手で隠すようにドアの方を見るとスタッフが立っていた。
「これから写真撮影あるので、メイクいいですか」
「あっ、わかりました」
「ちょっと顔色がすぐれないようですけど」
「大丈夫です。すぐ行きます」
スタッフの出現にふと胸を撫で下ろす美貴。このままの状態では控え室にいれなかった。
不安をマネージャーにでも打ち明けたいのだが、できないだけに辛いものがあった。これ
から先、何も起こらないことだけを祈って控え室を出るのだった。
控え室には17枚の写真が無造作にちらばっていた。
- 674 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:34
-
スタッフの案内により、とあるスタジオの一室にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
美貴は挨拶を交わしながらメイク室へと足を運ぶ。スタジオの扉が少しだけ開いていて、
その先にはセットが組みあがっていく様子が見えた。普通なら、白や青のシートを背景に写真を撮ることが多いだけに楽しみも人一倍だ。
パンパン
いつもと同じように軽く頬を叩いて気合を入れるのだった。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
メイクを終えた美貴の前にカメラマンが現れた。どこかであったことのある感じがした。
しかし、顔はサングラスではっきりと見えないし、あるはずのほくろもない。おまけにシ
ョートカットである。一瞬同一人物かと思ったが、それにしてはどこかよそよそしい感じ
だった。もちろん、その人物が目の前にいることがないことを美貴は知っていた。
「早速、始めましょう」
「お願いします」
美貴の考えを遮るようにカメラマンの声がかかる。
すべてがあやふやなままレンズの前に立った。
- 675 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:35
-
カシャッ
カシャッ
フラッシュがたかれる。
いつもと変わらない撮影だ。次々と浴びせられる言葉。美貴もその言葉に応えるようにポ
ーズを決めていく。そこには先ほどまで見せていた不安な表情はなくピリッとしまった真
剣な表情があった。すべての雑念を捨てるがのごとく笑顔を浮かべる。
―違うはず・・―
美貴はときよりこみ上げてくる不安を押さえ込みながら、レンズに集中する。
カシャッ、カシャ・・
美貴の状態とは関係なく撮影は続けられた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
30分ほどして撮影は無事終了した。
―このままかな?―
これが終わりだと思えなかった
ゾクッ
一瞬、美貴の背中を寒気が走る。
何故だか喉が異常に渇いてくる。
ゴクン
思わず生唾を飲み込む。
その原因はカメラマンだった。サングラスの奥から痛いほどの視線を感じていた。
控え室のこともこのカメラマンがやったことではないかと、恐る恐る視線を向ける。
- 676 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:36
-
「まさか・・保田さんじゃないですよね?」
美貴はありえないと思いながら言葉をかける。
「・・・」
何も反応がなかった。このまま別人であることを祈っていた。
「あのぉ・・」
「あぁ〜、ばれたんだ」
美貴の不安を煽るようにカメラマンは大声を上げた。
「保田さんが・・どうして」
「どうしてはないだろう・・藤本」
だんだんと空気が凍っていく。
「だって、もう保田さんは・・」
「あぁ、わかってるよ、あのときはお世話になったよね」
「・・・・」
美貴の顔は緊張で固まりかけていた。
いつもの気の強い感じが消え去っていた。
それに対して圭は余裕の笑みを浮かべていた。
「そんな顔もするんだ」
「うっ・・・・」
圭は美貴にレンズを向けた。
「いつもの顔はどこに行ったのさ?」
圭の嫌味な質問も美貴の耳には入っていなかった。
圭への恐怖からか、視線が上下にさまよっている。
- 677 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:37
-
沈黙は続く。
沈黙を破ったのは美貴だった。
どう考えても誰かが化けているとしか思えなかった。
頭の中に浮かぶ人物は3人しかいない。
「誰!」
美貴はいきなり圭の頬を掴んで引っ張った。
しかし、予想に反して頬が伸びることもない。
指の感触も、それが人肌であることを伝えていた。
化粧がはがれ、あるべきほくろが表われた。
いるはずがない人物に、口を半開きにしたまま動きが止まる。
「藤本、そんなに驚かなくても」
美貴の髪をゆっくりと撫でる圭。
ゆっくりとあごから胸に手が下りてくる。
「きゃっ」
声は出るものの体が動かない。
「けっこういい体してるのね・・」
胸を回すように揉む圭の手の動きが激しさを増す。
こめかみから一筋の汗が流れる。
「そんなに怖がらなくてもいいじゃない・・」
「・・・・はぁ・・や・・め・・て・・・」
美貴の恐怖は最高潮に達しようとしていた。
「あのことなら、別になんとも思ってないから」
「・・・」
美貴の様子を楽しむのように圭の口元が緩む。
「藤本もかわいいとこあるんだね〜」
圭はいたずらっぽく笑うとそのまま真希の頬をやさしく包み込む。
右手の人差し指で美貴の唇をなぞる。
唇が微妙に震えている。
「・・その表情、すごくいいよ・・ん・・」
美貴の唇を奪った。
- 678 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:38
-
「いやぁーー」
美貴は限界だった。
逃げ出そうと立ち上がった瞬間だった。
クラクラ・・
目の前の景色が急に歪みはじめた。必死にまぶたを押さえて視線を定めようとするが目の
前の光景はだんだんとぼやけていく。気合を入れて、立ち上がろうとするが意識が薄れて
足元がおぼつかない。自分の意のままにならない体に気は滅入っていく。
「保田さん・・」
力ない声がかすかに響く。
―う・・そ・・―
怪しい笑みを浮かべる圭の姿がぼんやりと消えていく。
いつしか目の前が闇と変わっていた。
- 679 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:38
-
「はぁ〜〜・・」
カーテンの隙間から陽がこぼれていた。
ふと目を開けると、そこは自宅のベッドの中だった。今までにないほど汗をかいていた。
着ていたパジャマがぐっしょりと濡れている。いつもはさらさらの髪が、汗のせいで頬に
まとわりついていた。いつもと変わらない光景に思わず胸を撫で下ろす。夢だったのかと
頬をつねって確かめもした。朝のTVはなにごともないかのように通常の番組が流れてい
た。玄関まで行って、ポストの中に一通の封筒が入っていた。
ポトッ
封筒を手にした美貴は思わず体が固まった。
大きく深呼吸して気分を落ち着けると、玄関の外に誰もいないことを確認して足早に戻っ
た。
- 680 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:39
-
美貴はもう一度封筒を手にした。
封筒を見ると美貴の名前しか書かれてなかったが、その筆跡が問題だった。
「保田さん・・どういうこと!」
圭との写真撮影のことがフラッシュバックする。
まずは封筒を天にかざして変なものが入ってないかチェックしたが何も入ってないようだ
った。ブルブルと震える手で封筒を開けると中には写真が1枚だけ入っていた。さきほど
までバクバク音を立てていた心臓がさらに早い鼓動を打ち始めた。信じたくない現実だっ
た。大きく深呼吸をして写真を見ると真っ黒な背景にぽつんと美貴だけが写っていた。写
真撮影はおろかそれ以外でもこんな写真を撮った覚えがない。控え室で見た写真とも表情
も服が違う。心当たりがないか必死に思い出そうとするのだが、何も思い当たらない。
だめを承知で圭に連絡するが連絡がとれない。何度も携帯に電話してみるものの繋がるこ
とはなかった。さらに、思い当たる人物すべてに連絡をとるが誰にも連絡がとれなかった。
結局、メールを送って返事が返ってくるのを待つしかなかった。
- 681 名前:番外編 投稿日:2004/04/11(日) 21:40
-
その後も連絡をとることはできなかった。
もちろんメールの返事も返ってこなかった。
そして写真のことは忘れ去られようとしていた。
いや、記憶のそこに封じ込めてしまおうとしていた。
- 682 名前:M_Y_F 投稿日:2004/04/11(日) 21:42
-
ミキティだけ、なんとか形になったので
番外編としてUPしました。
次回、更新で終わりです。
- 683 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 21:43
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- 684 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 21:43
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- 685 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 21:43
-
- 686 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:32
-
「あぁ〜」
美貴は思わずため息をついていた。
久しぶりに一人の仕事だと喜んでいたのは後の祭りだった。
「確かにすごい建物だと思うけど・・」
その雄大な美しさには納得するものがあったが、ちょっと面白くなかった。
遊園地といったテーマパークのレポートならまだよかったが、城なんてあまり興味がない。
「まぁ、しょうがないか・・」
愚痴るのも止めて、目的の場所へと歩き出した。
美貴が来ていた場所は姫路城だった。
姫路城、1993年12月にユネスコの世界文化遺産に登録された日本有数の城である。
城郭の姿が、白鷺が翼を広げて飛ぶ優美な姿に似ているため、白鷺城とも呼ばれている。
規模、意匠の優美さにおいては他の城を卓抜しており、国宝にも指定されている。
姫路城は1346年に赤松貞範の手によって築かれたのが始まりだといわれている。ただ
し、当時の城は小さな山城でしかなく、現在のような大規模な城になったのは関が原の戦
い以降である。徳川家康の二女督姫の夫である池田輝政が10年近い年月をかけて築いたの
である。もちろん、これは西国大名に対する備えであった。
- 687 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:33
-
まだ太陽の光が残るというのに閉園となった後は閑散としたものだった。
城外から聞こえるにぎやかな音が嘘のようでもあった。
「えーー、美貴一人で回ってくるんですか?」
呆然としている美貴の手にはビデオとバッグが渡された。
普通なら、カメラマンやADなど誰かスタッフが一緒に行動するはずである。
しかし、スタッフは一人で行くのが当然のように話を振る。
話をするスタッフの表情を見ていると、何か企んでいるのがすぐわかる。
「ドッキリとかじゃないですよね」
美貴の質問にスタッフは首を横に振るだけだった。
「まぁ、いいですよ」
何かあればすぐに仕事放棄してやろうと思っていた。
国宝と言われる建物だけに、大掛かりなことはできないはずだ。
むかつく気持ちを抑えながら、美貴は入場門をくぐった。
- 688 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:34
-
入場門をくぐった目の前には菱の門があった。櫓門と呼ばれる型式の城内で最も大きな門
である。両柱の上の横たわる冠木と呼ばれる木に菱の紋が彫られていることから、この名
前が付いいる。思った以上の雄大さにちょっとだけ感動した。菱の門をくぐると右手に天
守閣が見えた。TVなどで見るのと違って、実際に見るとその大きさと美しさに目を奪わ
れる。昔の人もすごいんだと思わず納得してしまう。下方に視線を移せば、三国濠と呼ば
れる濠があった。水は濁っており、ちょっと近寄る気にはなれない。
チャポン・・・
美貴の耳はその音にすぐさま反応した。
濠の中心から外に波紋が広がる。
誰が石を投げたんだろうと辺りを見回すが人がいる様子はない。
首を傾げながら、ワの櫓へと向かおうとした。
チャポン・・・
その音に濠を見ると、信じられない光景が広がっていた。
濠の水面にここにいるはずのない生物が映し出されていた。
ピラニアに鯨に鮫に蛙だった。
蛙は別にして、ピラニアや鯨や鮫がいるのが不思議だった。
仮にも国宝である場所に本物を連れてくるわけにもいかないだろう。
どうせスタッフの仕掛けた罠だろうと思い、そのままワの櫓へといった。
- 689 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:34
-
ワの櫓からヲの櫓、ヲの櫓からルの櫓へと歩く。
それぞれの櫓の左手には姫山原始林が続いていた。
歩く途中に原始林の方に目を移せば、様々な虫や蜘蛛がうごめいていた。
更には、その虫を求めて鳥や蝙蝠までもが宙を舞っていた。
―なんにもないんだよね―
美貴は手にしたビデオを覗き込みながら、少々物足りなさを感じていた。
スタッフの企みを予想しながら進む。
さすがに日本有数の広大な城である。少しばかり、疲れを感じるようになった。
ルの櫓を抜け、西の丸にある長い廊下と侍女たちが控える個室が続く長局を歩いていく。
- 690 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:35
-
ドドーーン
地面が揺れるほどの振動。
振り返るとさっきまであったはずのワ、ヲ、ルの櫓が崩れ去っていた。
窓から下を覗くと瓦礫が広がっていた。
先ほどまでのおだやかな感じはまったくない。
「もしもし、もしもし」
慌てて携帯でスタッフに連絡をとるがぜんぜん通じない。
携帯に目をやれば、圏外と表示されていた。
「うそ・・」
美貴は急いで建物の外へと出ようとしたが出口はない。
西の丸長局を抜け、化粧櫓とやってきた美貴の目に男山が飛び込んできた。
家康の孫の千姫が遙拝していた天満宮がある山である。
麓の街並みには変化はなかった。美貴の心に少しだけ安堵感がでてきた。
しかし、その安堵感も不安へと変わる。
化粧櫓から外に出られると思ったが出口はどこも塞がっていて出られない。
- 691 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:36
-
ドドーン、ガラガラガラ・・
激しく建物が崩される音が耳に届く。
美貴はひたすら走った。
姫路城がどんな構造になっているかわからない。
とりあえず、壊れていない方へと走った。
ほの門まで走り抜けたとき、大きな音は消し去っていた。
「ふぅーーーー」
大きく深呼吸を繰り返すとゆっくりと振り返ってみる。
このあたりはあまり影響がなかったのであろう。
建物自体は何も変化がなかった。
壊れた場所がどうなっているのか見たいのは人の性である。
しかし、美貴に戻って見るだけの勇気はない。
もし壊れたらどうしようと不安ばかりが先走る。
戻りたいのを我慢して、先へと進む。
スタッフに再度連絡をとるが連絡がつかない。
携帯には圏外の表示がむなしく映しだされていた。
- 692 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:37
-
窓からは大きな天守閣が見えた。
何事もなかったように建っていた。
美貴が見る限り、何も壊れているところはなさそうだった。
姫路城がどうなっているのか無性に見たくなった。
全体を見るなら天守閣に上るのが一番だと思った。
しかし、天守閣が安全だとはかぎらない。
先ほどまでの激しい倒壊の様子では天守閣がいつ壊れてもおかしくないはずだ。
それでも美貴は何かに導かれるように天守閣へと上った。
「これは・・・」
美貴はそれ以上言葉が続かなかった。
さっきまで通ってきた場所は瓦礫の山と化していた。
あれほど美しかった建物が無残な姿に変わっていた。
姫路城はにの門とはの門を中心に西側はすべて壊れ去っていた。
美貴は地上を見渡すがスタッフらしき人影は見えない。
「何してるんだよ」
不安と同時に怒りもこみ上げてきた。
- 693 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:38
-
「急がないと・・」
ここがいつ崩れ去るかわからない。
美貴は急いで天守閣を下りようとしたときだった。
天守閣の壁に絵が浮かんできた。
思わず足が止まった。
その絵はどれも見たことがある絵だった。
はっきり言えば写真で見たものだった。
以前は笑って見れたものが、恐怖で歯をガタガタと鳴らせていた。
絵に描かれていたのは、圭、真里、紗耶香、梨華、亜依、あさ美、彩、なつみ、明日香、
希美、麻琴、愛、圭織、里沙、裕子、ひとみ、真希の姿だった。
- 694 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:39
-
「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい・・」
美貴は心の底から謝った。
逃げようという気持ちはこのときばかりは消えていた。
「許さない!」
「今さら遅いんだよ!」
絵から声が聞こえてきた。
声の主は真希とひとみ。
怒りに満ちた顔で絵から飛び出てきた。
「よっすぃー、ごっちん・・・ごめん」
美貴の声も届くことはない。
冷たくて鋭い視線が美貴の全身を貫く。
真希やひとみ以外のメンバーも次々と絵から出てきた。
誰もが頭や顔から血を流していた。
「絶対許さない」
「同じ目に遭わせてやる」
「藤本さんだけ卑怯ですよ」
特に絵里、さゆみ、れいなの怒りは尋常ではなかった。
いや、他のメンバーもそうだった。
ゆっくりと美貴へと近づいてくる。
殺気に押しつぶされそうだった。
裕子の口元がかすかに緩んだ。
―もう、だめだ―
「ごめんなさーーーい」
殺されると思った瞬間、美貴は一気に天守閣を駆け下りていた。
- 695 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:40
-
どこをどう走ったかわからない。
これにもないというほど一生懸命に走った。
りの門を抜け、上山里とよばれる広場にたどり着いた。
「はぁーーはぁーーーはぁーーーー」
肩で大きく息をしていた。
こめかみから汗がポタポタと落ちる。
膝に手を当て、何とか息を整える。
「もう、やだ!!」
涙でメイクも崩れ去って、見るに耐えない顔となっていた。
―どうなってるの?−
空を見上げると、あるはずの天守閣が消えていた。
同時にここでも何か起きるんじゃないかと不安が増す。
「誰かーーーー」
叫んでみるが何も変化はなかった。
辺りをキョロキョロと見回す。
視線の先には井戸が見えた。
―まさかねぇ―
頭に浮かんだ考えを打ち消すように頭を振った。
- 696 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:41
-
しかし、現実は奇なり。
美貴の頭に浮かんだ模様が目の前で繰り広げられた。
一人二人と井戸から出てくる。
「1人、2人・・・・20人・・・1人足りないよ」
「あっ、あそこにいる!」
「こっちにおいでよ」
天守閣のときとは違って陽気な感じだった。
指差しながら、全員が近寄ってくる。
「こっちに来ないで」
1歩1歩、後ろへと下がる美貴。
「ねぇ、誰かいるんでしょう!!ここから助けてよ!!」
絶叫が辺りに響く。
しかし、聞こえるのは風の音だけ。
- 697 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:42
-
りの門へと戻ろうと振り返るとりの門はすでに閉まっていた。
りの門まで走ってそのまま門を開けようとするがびくともしない。
―開いてよ!―
美貴の願いは通じない。
必死に力を入れるが結果は同じだった
「ひどい言い草ですね。藤本さんもどうですか?」
「ばり楽しいですよ」
「そうです。一度体験しましょうよ」
絵里、れいな、さゆみが笑顔で駆け足で寄ってくる。
「見てるだけじゃ、つまらないでしょう?」
その言葉に美貴の体は一瞬固まる。
- 698 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:43
-
「ねぇ、行きましょう」
れいなに思わず手を掴まれる。
「ちょっと、離して」
手を振り解こうとするが、いつもと違う力強さに顔色が変わる。
「あ・・・・」
れいなの顔を見ると恨みのこもった冷たい視線が美貴を突き刺す。
ガクッ
あまりの冷たさに動きを止める美貴。
「あれっ、どうしたんですか?」
「大丈夫ですか?」
絵里とさゆみが美貴の両脇を抱える。
「・・・」
美貴に言葉はなかった。
絵里とさゆみの口元が怪しげに動く。
その態度に思わず声がでる。
「待って・・・」
しかし、二人は美貴をそのまま井戸へと連れて行く。
- 699 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:44
-
井戸の周りには、笑顔を浮かべたメンバーたちがいた。
怒りに満ちた顔よりも何倍も恐ろしく感じた。
「さぁ、どうぞ」
さゆみと絵里が井戸の中へと導く。
「美貴はあとでいいよ」
「そう言わずに早く!」
「ミキティ・・遠慮しないで」
美貴を思いやる言葉が投げかけられる。
普段ならここで強く言い返すはずだが、そんな余裕はなかった。
「お願い、やめて」
「何言ってるんだよ」
「すごく面白いよ」
冷たい言葉が浴びせられる。
スーーーッ
ふと体が浮いた。
気づけば回りにいたメンバーが体を持ち上げている。
頭はすでに井戸の中にあった。
「早く!」
「急いで」
「止めて」
いくら必死に抵抗しても一人の力はたかがしれている。
ズルズルと井戸の中へと落ちていく。
ひやっとした風が顔に当たる。
- 700 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:45
-
「い・・・」
「えっ!」
美貴は思わず耳を疑った。
「いちまい・・」
「うそ・・」
腕に自然と力が入る。
人がいないはずの井戸の底から声が聞こえてきた。
「ねぇ、井戸の中に誰かいるよ!」
「もう冗談は止めてよ。早く行けよ」
「男らしくないぞ」
「そんなんじゃないってば」
美貴の言葉に耳を貸すものなどいない。
- 701 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:45
-
「1枚、2枚・」
「うっ・・・まさか・・・」
美貴の頭の中でレポーターの打ち合わせのときの1コマが蘇ってくる。
―これがお菊さんのこと・・―
思い出した瞬間、気が抜けたように腕から力が抜けていく。
もっとも有名な怪談の一つである。
詳しいことまで知らなくても、だいたいのあらすじは知っている。
「1枚、2枚、3枚・・・」
再度聞こえた声に反応して、体全体に鳥肌がさぁーと立っていく。
「1枚、2枚、3枚、4枚、5枚・・・」
「きゃーーーー」
乱れた日本髪の女性が目に飛び込んでいた。
今までに見たことがない冷たくて恨みが込められた瞳。
井戸の外からはガヤガヤと騒ぎ声が聞こえる。
あまりにも対称的な世界だ。
氷のように冷たい手が美貴の腕を掴んだ。
ガクンと肘が折れる。
もう美貴の落下を止めるものはなかった。
- 702 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:46
-
「きゃーーー、止めてーーーーー!!!」
絶望の悲鳴が響いた。
それが最後の声だった。
- 703 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:46
-
「はははーー面白い、私って最高」
写真を見ながら、自画自賛を繰り返していた。
「みんなあっけないほど馬鹿だよ、それにしても・・」
何か物足りないのか写真をクルクルと回す。
「まぁ、いいや・・」
亜弥は写真をテーブルに置き、カメラを手にする。
「このカメラって、ホント最高だね・・
保田さんも鈍いからな・・」
圭のカメラの不思議な力に気づいたのは亜弥だった。
被写体になったものを悪夢に導くカメラ。
その悪夢はカメラを手にしたものの意のまま。
偶然にも亜弥が圭のカメラを手にしたとき、体全体が痺れるような感覚に襲われた。
カメラから聞こえるはずがない声が聞こえてきた。
「邪魔な奴を写してみな」
亜弥は声に導かれるままに、圭を初めてのモデルに選んだ。
効果はてきめんだった。
亜弥の心に魔物が住みはじめた瞬間だった。
狙う相手は決まっていた。
自然と口元が緩んだ。
計画は面白いように進んでいった。
これほど痛快なことはなかった。
- 704 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:47
-
「さて、次はどうしようかな・・・」
お決まりの口を尖らせたままポーズをとる。
しかし、頭の中には何も浮かばない。
浮かぶ顔は、どれも亜弥自身の欲望を満たすようなものでなかった。
「あぁーー、面倒だなあ
そのうち、何か浮かぶでしょう・・・
とりあえず、これはもう用なしだね」
写真を放り投げると、足取りも軽やかに去っていく。
- 705 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:48
-
ヒラヒラ、ヒラヒラ・・・
21枚の写真が地面へと落ちた。
そこには恐怖にひきつる21人の顔があった。
- 706 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:48
-
そして、21枚の写真は忘れ去られようとしていた。
いや、そこに写った人物の存在さえも消え去られようとしていた。
- 707 名前:番外編 投稿日:2004/05/30(日) 02:48
-
(番外編完)
- 708 名前:M_Y_F 投稿日:2004/05/30(日) 02:53
-
番外編も含めて、この作品はこれで終わりです。
番外編もちょっと時間かかりすぎました(苦笑)
しょうもない愚作でありましたが、
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
- 709 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/30(日) 02:54
-
- 710 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/30(日) 02:54
-
- 711 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/30(日) 02:54
-
- 712 名前:M_Y_F 投稿日:2004/07/22(木) 23:14
- 容量が少し余ってるので、愚作を
- 713 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:15
-
何気なしに奏でられるメロディ。
それは思いもしない旋律へと変わる。
- 714 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:16
-
「おはようございます」
ひとみはいつものように控え室へと向かう。
今日のスケジュールを整理しながら進んでいく。
コンコン、コンコン
控え室のドアをノックしても返事がない。
「おはようございます」
ゆっくりとドアを開けるが誰もいない。
―おかしいなぁ―
見慣れた複数のバッグはあるのに、肝心の人の姿が見当たらない。
スタジオ入りするのにはまだ時間はある。
そして、控え室に用意された菓子に手をつけられた形跡もない。
首を捻りながら、ロッカーの中もチェックする。
もしかしから、ドッキリかもしれない。
しかし、誰もいなかった。
―どこいったんだろう?―
一人二人ならわかるけど、全員いないというのが気になった。
- 715 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:17
-
5分、10分と静かな時間が流れる。
全員が揃ったときには、絶対ありえない状況だった。
「あれっ」
ひとみの目に見慣れないものが映った。
部屋の片隅に置かれていたギターだ。
ひとみはギターを手にとった。
ちょっと、弾いてみようとしたが肝心の弦がない。
「まぁ、しょうがないか・・」
ひとみはギターのボディを見て納得したようにため息をついた。
- 716 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:17
-
そのときだった。
コンコンとドアを叩く音がした。
「どうぞ」
ひとみの声に控え室に入ってくる人影があった。
もちろん、ひとみは知っている人物である。
「よっすぃ、おはよう」
「おはよう、梨華ちゃん」
いつもと変わらない光景だった。
ひとみは部屋の隅に置かれたギターを指差した。
「あれって、梨華ちゃんの?」
「そうだけど・・よくわかったね?」
「わかるよ・・・あのギターに貼ってあるハートのシール見たら
ギターは古くて渋みのある色でかっこいいのにさ・・
あんな真っピンクのシールを貼るのって
梨華ちゃんぐらいだよ」
「ちょっと、それって私のこと貶してるの?」
「そういうわけじゃないけど・・
そのギター見たら、誰でもつっこむと思うけど・・
特に矢口さんとか」
「まぁ、そうね・・って、ひっどーーい」
「ごめん、ごめん」
二人の間に穏やかな空気が流れる。
- 717 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:18
-
梨華はメイクを直していた。
ひとみは不思議そうにその姿を見ていた。
ひとみの様子に梨華は思わず声をかけた。
「よっすぃ、どうしたの?」
「何でもない・・・あっ、梨華ちゃん、どうしてギターを?」
「あっ、そろそろ新しいこと始めたいなあと思って」
「ふーーん」
「あぁ・・・その目、絶対疑っている!」
梨華はひとみの肩を押した。
「そんなことないよ・・・」
「私が歌上手くないからだって思ってるでしょう」
「うん」
「あぁーーーーやっぱり」
「冗談だって・・」
二人は冗談ともいえない会話を交わす。
多少きついことを言っても平気なのはそれだけ仲がいいってことだ。
- 718 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:19
-
コンコン、コンコン・・
「石川さん、準備いいですか?」
「はい、すぐに行きます」
梨華は慌てて髪を直す。
「じゃ、行ってくるから」
「頑張ってね!」
手を振って梨華を見送る。
- 719 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:19
-
「はぁ・・」
ひとみは机にうつぶせになる。
コクリコクリと夢の世界に迷い込んでいく。
- 720 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:20
-
ワァーーー
突然、大きな歓声が起こった。
気づけばコンサートの会場の前方の観客席にいた。
ステージの中心には見覚えのある人物いた
そして、バンドのメンバーも。
「えっ・・・」
予想もしないギターテクニックに一瞬心が奪われた。
「梨華ちゃんが・・どうして」
ひとみには考えられないことだった。
ステージ上でギターを弾く姿なんて想像もできなかった。
あざやかなギターの音色。
激しいリズムに合わせて、力強い歌声が響く。
「すごい・・」
今までの梨華とはまったく違っていた。
梨華が歌えば歌うほど会場は盛り上がる。
観客は前へ前へと集まってくる。
観客の一人であるひとみも押し寄せる人波の中にいた。
どんどんと圧迫されていく。
誰もが狂ったように前へと進む。
ひとみはその場を離れようとするがどこにも逃げ場がない。
苦しくなって声を上げるが歓声にかき消される。
あまりの苦しさに息も続かない。
「止めてーーー」
ひとみは気を失った。
- 721 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:21
-
「うっ」
思わず胸に手を当てる。
恐る恐る目を開けると、そこは今までいた控え室。
「夢か・・」
ほっとため息をつく。
- 722 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:21
-
「痛っ」
顔を上げようとしたが髪の毛が何かに引っ掛かっていた。
髪の毛の先に視線を移すとそこにはギターが置いてあった。
「誰だよ・・覚えてろよ」
ひとみは思わず舌を打つ。
- 723 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:22
-
「いっ・・」
ひとみは思わぬ展開に戸惑う。
髪の毛がギターのボディの中に入っていた。
必死に髪の毛を引き抜こうとするが引き抜けない。
逆に、頭皮に痛みが走る。
ギターを置いた奴が憎くなってきた。
「もう・・ちょっと・・」
ギターを引き離そうとするが離れない。
逆に髪の毛が引き込まれていく。
手足をばたつかせるが、何も状況はよくならない。
「誰かいないーー」
助けを求めてみるが、誰も来る気配はない。
- 724 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:22
-
引き込む力はだんだんと強くなっていく。
「いやだ・・・痛い」
髪の毛がギターのボディの穴の中へと引っ張られていく。
「くっ・・・どりゃあーーー」
ギターを離そうと力一杯両腕を伸ばすが無駄だった。
必死の抵抗も無駄だった。
髪の毛ばかりか頭まで引き込まれようとしていた。
- 725 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:24
-
「痛い、痛い・・」
激痛が襲う。
思わず涙がこぼれてくる
まともに考えれば、ギターの方が壊れそうなのにきしむ音さえない。
代わりに頭蓋骨がギシギシと音を立てている。
グイグイ・・
「いやぁーーーー」
この世と思えないほどの痛さだった。
ありったけの力でギターを押さえる。
いつしか手が真っ赤に染まっていた。
手だけではない、目の前が真っ赤に染まっていた。
「梨華ちゃん・・お母さん」
必死の叫びも誰にも届かない。
- 726 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:26
-
ポロン、ポロン・・
弦がないはずのギターから聞こえる音。
- 727 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:26
-
「これって」
指先が弦に触れた。
その感触は自分の髪の毛と同じだった。
「うっ・・・」
予想もしない出来事の連続にひとみの頭の中は真っ白になっていた。
夢であってほしいと思った。
- 728 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:27
-
グッグッグッ・・・
しかし、現実にすぐに引き戻される。
痛みが治まることはない、増すばかりである。
グイグイと穴の中に引き込まれていく。
とてつもない力だった。
この世では考えられないことだった
それでも最後の悪あがきを続ける。
だが、それも限界だった。
- 729 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:28
-
「いーーーーやーーーーーーーーっ」
激痛は闇の中に消えていく。
- 730 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:28
-
あとに残ったのは数本の髪の毛と小さな赤い滴。
- 731 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:29
-
ポロン、ポロン・・
ギターからこぼれる音。
- 732 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:30
-
「ウフフフ・・・」
わずかに口元を緩めながら弦をはじく。
- 733 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:31
-
フワリ、フワリ
ギターから数本の髪の毛が床に落ちる。
落ちた髪の毛の上には数滴の赤い雫が落ちる。
「もう、やだ・・せっかくきれいにしたのに・・
でも、苦労しただけあって、やっと一本弦が張れたよ・・」
頬を膨らませながら、髪の毛を踏みつける。
- 734 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:31
-
ポロン、ポロン・・
「よっすぃの音、最高!」
梨華は一本しかない弦をはじく。
- 735 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:32
-
コンコン、コンコン・・
「石川さん、また準備いいですか?」
「はーーい」
―あぁ、せっかくこれからなのに・・―
梨華は恨めしそうにギターを置いた。
そして、控え室を出て行った。
- 736 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:32
-
誰もいない控え室。
静かに広がっていく赤い地図。
- 737 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:33
-
ポロン、ポロン・・
ギターが怪しいメロディを奏でていた。
恐怖と恨みが重なり合った旋律を。
- 738 名前:弦のないギター 投稿日:2004/07/22(木) 23:33
-
(完)
- 739 名前:M_Y_F 投稿日:2004/07/22(木) 23:34
-
相変わらずの作品ですけど・・・
- 740 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/22(木) 23:35
-
- 741 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/22(木) 23:35
-
- 742 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/22(木) 23:35
-
- 743 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/27(火) 14:33
- またまたホラーですね
コワー
- 744 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/02(月) 00:48
- 新作ですか、こわいですね!他のメンバーは登場するのでしょうか?
- 745 名前:MY_F 投稿日:2004/08/03(火) 00:59
-
>>743 名無飼育さん
感想ありがとうございます。
こんなものしか書けないのですが・・
少しぐらい涼しくなっていただけたらいいかなと思っています。
>>744 名無飼育さん
新作というより短編ですね。
他のメンバーは登場しません。
ネタも切れてるし、書けるメンバーも限られてますし・・
読んでいただいた方には感謝です。
続編だとワンパターン化してしまうので
これ以上書くのはよした方がいいかなと・・
ここで、ホラーを書くことはないと思います。
- 746 名前:M_Y_F 投稿日:2004/10/31(日) 00:14
- 容量余ってるので、短編書きます。
- 747 名前:面打士 1.序の巻 投稿日:2004/10/31(日) 00:15
-
能とは室町時代に観阿弥・世阿弥親子によって確立された。
能舞台では大きく分けて、登場人物を演じる役「シテ方・ワキ方・狂言方」、合唱を担当す
る役「シテ方」、楽器を演奏する役「囃子方」が登場します。 シテ方、ワキ方、狂言方、
囃子方という4つのパートの能楽師たちが、それぞれの役割を専門に演じることで1つの
世界を演じる。
能面とは能舞台でつける面のことである。能面は大きく分けて、翁系、尉系、男性系、
女性系、鬼神系、怨霊系の6種類である。その能面を作り上げるのが面打士である。
能面は能舞台や観賞、奉納するために作り上げられてきた。
しかし、そんな世界には関係ない能面を作るものもいた。
そういうものを闇の面打士と呼んだ。
- 748 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:16
-
とある奈良県の某所。
朝陽がカーテンの隙間からこぼれてくる。
「はぁ〜、よく寝たわ」
少女ちょっと腫れたまぶたを押さえながら手を伸ばして時計を手にする。
「8時か・・まじっ」
ドタドタドタ・・
「学校遅刻やわ・・いってきます!!」
いつもと変わらない騒々しさに家族も呆れ顔だ。
- 749 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:17
-
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
始業開始の鐘が鳴る。
「間に合った・・」
少女は額の汗を拭いながら席についた。
そして、いつものように授業が始まる。
すごく眠くなる時間の始まりだ。
頭ではしっかりと起きていようとしているのだが先生の声が子守唄に聞こえる。
睡魔と闘いにはいつも黒星がついてまわる。
- 750 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:17
-
「こら!加護!お前、授業受ける気あるんか」
「ありますけど・・・」
「あるなら、なんで毎日寝てるんや」
「先生の声が心地よくて・・つい・・先生の声、とても魅力的ですわ」
「ありがとうって、お前はいつもそうだ・・・廊下に立ってろ!」
「はーーーい」
「アハハハハーー」
クラスが笑い声に包まれる中、加護と呼ばれた少女は頬を膨らませながら廊下へと向かう。
「ふぅーーー」
少女は大きくため息をついていた。
- 751 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:18
-
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
「終わったーー」
一斉にガヤガヤとにぎやかになる。
「ねぇ、あいぼん、これからケーキでも食べに行かへん?」
「ごめん、うち、今日稽古があるから」
「あぁ、そうだったよね・・じゃあ、今度な」
加護という少女を誘った少女たちはにぎやかに去っていく。
―いいなぁ―
うらやましそうに見つめる表情があった。
- 752 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:19
-
トン、トン、トン、・・
甲高い足音が稽古場に響く。
「加護、もっと力強く!」
「はいっ」
師匠の言葉に動きも変わる。
額を流れる汗。
足の先から手の先まで緊張の連続だ。
「じゃ、休憩ね」
師匠の言葉にその場にへたり込む。
「ふぅーーー、疲れた」
お茶の入ったペットボトルに口をつけながら、タオルで汗を拭う。
- 753 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:19
-
「加護、最近キレがよくなったな」
「そうですか、保田さん?」
「うん・・腰のあたりがな・・ちょっと前まではドーンって感じだったよな」
「うっ・・それは言わんどいて!
それにしても保田さんは面をとらないほうがかわいい」
「ありがとって・・うるさい!」
「痛い、痛いって・・ごめんなさい、許して」
「許すか!いつもいつも馬鹿にしやがって!この野郎!」
にぎやかな音が響き渡る。
加護こと加護亜依。女子高生。昔から親が能に興じていたこともあって幼稚園のころから
習っていた。筋は抜群だとの評判なのだが、何せ本人のムラッ気の多さが上達を妨げてい
るとの話だ。
保田こと保田圭。この世界に足を踏み入れたのは中学生から。当初の評価はそれほどでも
なかったが持ち前の努力で今では全国屈指の実力者となった。何の縁があったか奈良にあ
る小さな会社の事務をしていた。
- 754 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:19
-
「台風多いわ〜」
「そうだね」
二人はTVに映し出される映像に思わずため息をつく。
その様子は悲惨の一言だった。
自然の猛威に人間の無力さを知る。
- 755 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:20
-
ガサガサ、ゴォーーーーー
ドドーーーン
「何か外が騒がしいわ」
「そうだね・・台風が来てるわけないし」
圭の眉が微妙に上下する。
「あの・・」
「加護、早く外に出ろ」
亜依は圭のすごい剣幕に押されるように外に飛び出した。
再び襲った轟音に振り返ると稽古場は瓦礫の山と変わっていた。
その上には鬼の姿があった。
「我は当麻の蹴速!我が脚に砕けぬものはない」
左右の脚を蹴り上げるたびに突風ともに壊された建物の破片が飛び散る。
崩れ去った建物がさらに粉々になっていく。
当麻の蹴速は野見宿祢とともに初の天覧相撲を垂仁天皇前でとった人物として知られる。
肝心の当麻の蹴速は脇腹を蹴折られて負けたと日本書紀にある。歴史に名を残すとあって、
その暴れようは豪快だった。誰も手がつけられない。いや、止められるはずがない。
再び暴れだす鬼。今まで見たことがない地獄図だった。
亜依はただその様子を見ることしかできなかった。
体が完全に固まっていた。
- 756 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:21
-
「保田さん?」
風が止んだと同時に亜依はふと我に返った。
圭の気配がまったく感じられない。
まさかという思いが頭の中を駆け巡る。
ドドーーン、ドォーーーン
再び轟音が響き渡る。
ガシーーン!
一段と甲高い音が亜依の耳を貫く。
亜依の目は否応がなしにその音のするほうに向いた。
「嘘や・・・」
目の前には信じられない光景が広がっていた。
- 757 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:21
-
鬼の蹴りを短刀で受け止める人間の姿があった。
顔は金色の面をかぶってわからないが、薄い橙いの衣に青い袴。
肩ぐらいまで伸びた髪。
面の下からはえらの張った頬が見え隠れする。
「保田さん・・」
亜依は圭の見たこともない姿に鳥肌が立った。
普段は誰が見てもわかるほどの運動音痴。
力が特段に強いわけでもない。
格闘センスに優れているようなところはまったく見たことがない。
ドーン、バシッ、シューーーー、ドスン
激しい動きが続く。
今までに見たことがないほど華麗な舞を見せる圭。
鬼が繰り出す蹴りをことごとく短刀で受け止める。
- 758 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:22
-
「獅子口の面つけたところ初めて見た」
亜依は口が開いたまま塞がらない。
能で面をつけて舞うのは当たり前のことだ。
ただ、圭がつけるのは小面などの女系や般若などの怨霊系がほとんどだった。
鬼神系の面自体を持っていることは聞いたことがないし、この稽古場にもない。
鋭い眼と大きく開けた口、そこに見える大きな牙が力強い印象を与える。
さらに金色の面に真紅の口と鼻や額にかけての赤の線がさらに力強さを増させる。
息もつかせない展開に亜依の興奮は増していく。
- 759 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:22
-
次第に手に汗を握る展開になってきた。
しかし、形勢は次第に圭に不利な状況となっていく
鬼の力の前に圭は耐えるだけで精一杯だった。
肝心の短刀は鬼を傷つけるには至らない。
短刀のほうが鬼の蹴りによってボロボロになっていく。
華麗な舞いも圧倒的な力の前にキレがなくなっていく。
しかも、足場はめちゃくちゃになっている。
移動できる距離もだんだんと狭められていく。
- 760 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:23
-
「危ない!」
亜依は思わず目を覆った。
鬼の蹴りに吹き飛ぶ圭。
面が割れて素顔があらわになる。
「これはもう要らないよな」
落ちた短刀を無造作に投げると圭へと向かう。
「わぁーーー、ちゃんと投げるところ考えんかい!」
短刀が足元に飛んできて慌てふためく亜依。
- 761 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:23
-
「久々の力比べ、面白かったが相手じゃないな」
倒れた圭に鬼の蹴りが襲いかかる。
圭は必死に逃げようともがくが逃げ切れそうもない。
「やめてぇーーーーー」
亜依の絶叫が天を裂く。
無我夢中で短刀を拾うと鬼に向かって投げつけた。
- 762 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:24
-
「うっ・・」
鬼の動きが止まる。
次の瞬間、鬼は亜依の前に移動していた。
右手に刺さった短刀を抜きながら、亜依を睨む。
その迫力に思わず顔が引きつる。
声を出そうにも喉から先に言葉が進まない。
「面白い奴だ・・
次の機会にでも楽しみはとっておくか・・
あっさり勝負を決めるのも面白くないしな」
鬼は傷口を舐めながら、姿を消した。
- 763 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:24
-
「ふぅーー、助かった」
体中から一気に汗が噴出す。
残ったのは破壊された建物と恐怖に慄く人々の声。
亜依の顔は引きつったまま。
生きた心地がしない。
「加護、加護、大丈夫か」
しばし呆然としたままの亜依の耳に聞きなれた声が届く。
声がするほうを向けば、圭が面を片手に持って近寄ってくる。
「保田さん」
走ってくる姿を見て、胸を撫で下ろす。
気づけば、膝が笑っていた。
- 764 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:25
-
「大丈夫?」
圭は亜依の肩に手をおいた。
圭の額からは一滴の血が流れていた。
「保田さんこそ、大丈夫ですか?」
「ああ・・加護こそ怪我はない?」
「大丈夫です」
亜依は大きく息をしていた。
―あんたの力・・―
亜依の秘めた力に驚いていた。
しかし、亜依自身は漠然としかわかっていない。
- 765 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:26
-
圭の頭の中に一筋の光が描かれる。
一部にものだけに受け継がれてきた裏の歴史。
それは能面をかぶることによって神仏の力をわが身に宿らせること。
その力を持って闇を封じること。
まさに光があたることもない舞台だ。
圭がここに来たのはその舞台で舞うためだった。
そして、この地を選んだのはもう一つ理由があった。
能楽師だけで舞うことはできる。
だが、必要な面は作れない。
普通の舞台や飾りとしての面打士はかなりいるが闇の面は別だ。
江戸の末期には途絶えてしまったと伝えられた家系が京都に残っていた。
- 766 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:27
-
普段は絶対に見せない裏の顔。
その顔を知っているのはごく一部。
知っているからといって、その人物が面を作ってくれるとは限らない。
その気難しい性格からは考えられないほどの眼力を持っていた。
黙っていれば美形に見える顔も一瞬にして鬼へと変わるほどの迫力も持ち合わす。
当初は近づくことさえできなかった。
- 767 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:27
-
やっとのことで作ってもらった面が真っ二つに割れていた。
「あぁ〜、これで一からやり直しか・・
肝心の面と短刀がこれじゃね」
がっくりと肩を落とす。
悔しさのせいかブルブルと体中震えていた。
「保田さんがここにいるのは、もしかして・・」
加護も小さいころから能を習っていた。
闇の舞台のことも聞いたことがあった。
亜依の表情がきりっと引き締まる。
- 768 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:28
-
圭は光と亜依が重なって見えた。
「やる気ある?」
「えっ?」
突然の圭の申し出に首をひねる。
「私には倒せないけど、加護なら倒せるかも・・」
「そんな・・」
戸惑いを隠せない。
今回は引き返してくれたが、今度遭えば殺されるかもしれない。
いきなり戦えとか言われても困る。
そんな思いを打ち消すような鋭い視線が亜依に突き刺さる。
ただでさえ怖いと思っていた圭がさらに怖く見える。
しかし、瞳の奥にはなんともいえない悲しみが見え隠れする。
このまま断れば、圭の死は確実に思えた。
- 769 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:29
-
「冗談だよ・・」
亜依の気持ちを察してか圭は笑ってみせる。
冷静になってみると圭自身が焦っていた。
今度戦えば死が待ってるだけだろう。
それだからといって、亜依にその役目を押し付けようとした自分が情けなかった。
自分で決めたことだった。
拳に力が入る。
亜依は心配そうに見つめるだけだった。
ただ、圭の顔を見ると痛々しく思えるのだった。
- 770 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:29
-
コンコンコン・・・
ズサッ・・ズサッ・・
京都の大江山の山中で木を削る音が朝早くから響く。
大江山とは酒呑童子で有名な場所である。
ザワザワ、ザワザワ・・
風が木々の隙間を抜けていく。
- 771 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:30
-
「はぁーーー」
面打士は朝日を向いて大きく深呼吸をする。
紫色の作務衣を着た女性が自分で右肩を叩きながら束の間の休憩をとる。
金髪、そして長く伸びた爪からは面打士とは見えない。
特に派手に飾り付けられた爪は絶対に面を作るのには邪魔なものにしか思えない。
しかし、その女性からは独特のピリピリとした空気が発せられていた。
ガサッ、ガサツ
ふと近づいてくる足音に、眉間にしわがよる。
- 772 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:31
-
「来たか、圭ちゃん」
「うん・・・例のものできてる?」
「できてるで!また、鬼退治か?」
「うん、今度は厄介だけどね」
圭は不安げな表情で応える。
「大丈夫なんか、そんなことで?」
「まぁ、なんとかなると思うけど」
圭はにやりと笑ってみせる。
「これや・・」
「ありがとう」
圭は木箱を受け取ると、能面が入っていることを確認する。
力強く輝く金色の面。
「さすがだね・・」
「お世辞は結構、それで負けたら資格はないな・・」
「うん、今度は勝つ!裕ちゃんの行為、無駄にしない」
「まぁ、勝利の美酒を待っとるで」
「いいけどさ、朝から飲むの止めたら?」
「うっさいわ、私の心配よりそのガキの心配したらどうや?」
「それこそ余計なお世話よ」
圭はきりっと顔を引き締めた。
「ちょっと、飲んでいくか?」
「ごめん、急ぐから」
圭は右手の親指を立てると背中を向けた。
「新しき光か」
太陽の光を受け小さくなる背中をずっと眺めていた。
- 773 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:31
-
「きゃーーーー」
再び恐怖は訪れた。
- 774 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:32
-
「助けてーーー」
「わぁーーーーーー」
「早く逃げろ!急げ!」
逃げ惑う一般人を誘導する警察官も声が震えている。
今までに見たことのない鬼の姿に声を出すのが精一杯だった。
そうしなければ、我を忘れてしまうほどだった。
「ガァーーー、生あるもの死あるのみ」
鬼の叫び声にすべてのものが恐怖に包まれる。
- 775 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:32
-
「止まれ、さもなければ撃つ」
ブルブル震える手で拳銃を構える警察官。
一刻も早く逃げたいのだが、逃げ遅れている人々がいる中で一緒に逃げ出すわけにはいか
ない。こんなものに拳銃で立ち向かえないと思っているのだが立場というものがある。
自然とこめかみから冷や汗が流れる。
照準がまったく合わせられないほどの震えが全身を襲う。
ズシン、ズシン
パーン、パーン
大きな足音に乾いた銃声が重なる。
しかし、足音が止むことはなかった。
一瞬のうちにすべてを切り裂く蹴り。
当麻の蹴速の名が示すとおりの動き。
- 776 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:33
-
ビューーン、ドドーーン、ガラガラ、ドーーン
風切る音に建物が崩れ去る音が重なる。
地獄への幕開けには少し物足りない。
「馬鹿なやつだ」
鬼の足が警察官の元へと伸びる。
「助けて!」
自分の最後を悟った。
- 777 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:34
-
10秒ほど経った。
「あれっ?」
警察官は静かに目を開けた。
鬼の足は目の前で止まっていた。
体には触れてないようだ。
「わぁぁぁーーー」
思わずその場から逃げ去る。
しかし、鬼が追ってくる様子はない。
「アホ、逃げるんや!!」
振り返った警察官は思わず叫んだ。
鬼の前には一人の少女が立っていた。一見すると小学生にも見える。
少女は赤い髪の鬘をつけ、厚板と呼ばれる白と金色の力強い模様の地厚の織物に半切と呼
ばれる赤と金の袴姿で左手には面が握られていた。その姿はまるで鬼に食べてくださいと
でも言っているようだった。
- 778 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:35
-
「ふぅ、この前のガキか・・」
目の前に立っていたのは亜依だった。
鬼は呆れ顔で見つめる。
「うちはこの前は違う」
コトンと、木箱が地に落ちる。
右手には金色の面が握られてい。
亜依は面をつけた。
「なんだ、その面は?」
鬼は首を捻りながら呟く。
本当に何も変化がなかった。
馬鹿な小娘だとしか思えない。
亜依は直径20cmほどの小さな太鼓を取り出すと、呪文とともに太鼓を打ち鳴らす。
ドンドンドンドン
小さいながらもその太鼓の音はズシリと響いてくる。
黒い雲が空を覆う。
鬼が現れたときよりも漆黒の雲だった。
どんな色もこの漆黒の雲にかき消されるようだった。
- 779 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:36
-
鬼の目は亜依の変化に徐々に恐れをなしていく。
亜依の体が微量の金色の輝きを放ちはじめた。
トン、トン、トン、トン
亜依の足がリズムをとりはじめる。
ゆったりしたリズムがだんだんと速くなる。
「ガァーーー」
鬼は大声を上げる。
バサッバサッ、ガサガサ、ダダダダッ
鬼の声を聞いたすべての鳥や野良犬、ネズミたちが逃げ出す。
その姿を見たもの、聞いたものは大きな天変地異が起こるのではさらに不安になる。
しかし、亜依は動じない。
- 780 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:37
-
亜依は能面に隠れた目を大きく見開く。
その目はしっかりと鬼だけを見ていた。
- 781 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:37
-
鬼の爪が亜依を切り裂く寸前だった
「喝っ」
亜依の気合の声が天を裂く。
ピカッ
ゴロゴロ・・・
すべてが雷に飲み込まれる。
「うっ・・・」
狂気に満ちていた鬼の顔が一瞬悶絶した表情に変わる。
- 782 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:38
-
「クソ餓鬼が!」
当麻の蹴速の化身とあって、右足が亜依を襲う。
蹴りには絶対の自信を持っている。
尋常でない加速のせいか、鬼の駆け抜けた後には竜巻が起こっていた。
「死ねーーー」
鬼の必死の形相が迫る。
亜依はゆっくりと腰にかけていた鎌を手にする。
自然と力が湧き上がるのがわかる。
目の前の鬼を圧倒するほどの力。
「これで終わりや!」
雷が亜依の手にした鎌に落ちる。
ゴロゴロゴロローーーードドーーン
雷鳴が一面に響く。
辺りは一瞬真っ白になる。
- 783 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:39
-
静寂な時間が過ぎていく。
「粉々に砕けたか」
鬼が視力を取り戻したとき、目の前に亜依はいなかった。
「馬鹿なやつだ・・ワハハハハーー」
鬼は高らかに天を見上げたときだった。
見えるはずがない景色が目に映る。
「うそだろう・・」
激痛を感じるどころか、首より下の感覚がなくなっていた。
ゆっくりと流れていく景色。
天から地に景色が変わったとき、そこにはないはずの姿があった。
冷たい視線で鬼を見つめる亜依だった。
「まだ生きていたのか・・」
鬼は全身に力を込めるが、体はぜんぜん動かない。
「鬼に命くれてやるほど、アホやない」
鬼は薄れゆく意識の中で亜依の声を聞いた
- 784 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:39
-
ボタッ、ゴロン
目を見開いたままの鬼の首が地面に転がる。
バタン・・・ジューーー
切断した箇所から鬼は灰となって消えていく。
- 785 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:40
-
「ふぅーー」
すべてが消滅した後、大きく深呼吸をした。
気づけば体中がかすかに震えていた。
先ほどまでの騒ぎが嘘のように静寂が亜依を包んでいた。
- 786 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:40
-
パキン・・・・コトン、カラカラン・・・
面が割れて、亜依の顔があらわになった。
その顔は鬼を倒した充実感と安堵感と疲労が混じった表情をしていた。
- 787 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:41
-
「これが面の力なんや・・」
亜依は地面に落ちた面を合わせてみた。
そこには金色の顔に大きく飛び出した目玉と大きく開かれた口があった。
一見するとユーモラスな感じだ。
しかし、管公が雷神となった忿怒の姿といわれているだけに迫力は満点だった。
この能面こそ“大飛出”といわれるものだった。
しかし、その能面も力を使い果たしたのかところどころ色がはがれて焦げていた。
「ありがとう」
今までにない感じたことのない力を与えてくれた面に感謝する。
- 788 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:41
-
ふと空を見上げた。
雲の切れ目からおだやかな陽が差し込む。
- 789 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:42
-
「さて帰ったら、ケーキでも食べよう」
意気揚々と家路につく亜依。
しかし、その気持ちを逆なですることが続いた。
通り過ぎた後にかすかに聞こえる笑い声。
「めっちゃむかつくわ」
通り過ぎる人々の何か腫れ物でも見るような視線に思わず足が止まる。
「????」
亜依を指差す数多くの人々。
- 790 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:43
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ふと自分の姿を見た。
「この格好・・
派手や・・
来るときはかっこいいと思ったんやけど・・
鬼やっつけたこと、誰も言えへんし・・
あっーーー駅のロッカーーー!
このまま家にも帰られへんわ・・」
駅で着替えたことを思い出して、思わず顔を赤らめる亜依。
- 791 名前:面打士 1.壱の巻 大飛出 投稿日:2004/10/31(日) 00:43
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そのころ、大江山では・・
カーン、カーン、コンコンコンコン
「馬鹿、なっち!
簡単に面ができるわけないやろう」
不機嫌な顔で作業に打ち込む。
次の闇の舞台のために面が作られていた。
- 792 名前:M_Y_F 投稿日:2004/10/31(日) 00:44
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これで終わりです。
- 793 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/31(日) 00:44
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- 794 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/31(日) 00:44
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- 795 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/31(日) 00:45
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- 796 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/11(木) 00:10
- よろしければ続きを・・・
- 797 名前:M_Y_F 投稿日:2004/12/03(金) 19:06
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>>796 名無飼育さん
続きはないです。
すみません。
現状、続きの構想が浮かばなくて書けません。
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