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〜あの日について〜 AS FOR ONE DAY 

1 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時22分16秒
初めて小説を書く作者のまりんです。
かおりが主役です。圭ちゃんラストのミュージックステーションを見ていて
思い浮んだ作品です。


AS FOR ONE DAY

今日番組のあいだじゅう、上手に笑えなかったのは
圭ちゃんが卒業しちゃうからじゃない。
もちろん、それはとても淋しいけれど、今日のわたしは全然だめだった。
大事なソロのところでも少し音程を外してしまった。

『電話のない日があった。あの頃からね。』
なんて歌詞、どうしてわたしが……。

2 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時23分46秒
初めて出会ったのは、この歌番組だった。
あの人はそりゃもう日本中の人気者で、わたしだって随分前からTVで
観てしっていた。 
明るくて屈託のない笑顔、しなやかな肉体、情熱的な歌声。
でもあまりにもすごすぎて、雲の上の存在―現実とはほど遠い人だった。

あいさつするだけで精一杯なわたしたちの側を
彼はとってもやさしい微笑を浮かべながら通り過ぎた。



3 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時25分03秒
何度か同じ番組に出るようになっても、ちっとも話したり出来なかったけど
ある時
「ねえ、モーニングの人達も最近は中々遊びにいけなくなったでしょ。
僕ら人目につかない、いいとこ知ってるから一回みんなでバーベキューとか行かない?」
そんな風に誘ってくれたのは、あの人と同じグループの稲垣さんだった。

なっちや矢口はすぐにキャーキャー言って喜んだ。
「バーベキューって海ですか?じゃあ水着持参とか?」
はしゃぐなっちに稲垣さんは
「残念。なつみちゃんの水着姿見たかったけど、川なんだ。
知り合いの別荘の近くでね。少し寒いからまだ泳げないけど。」
「へー!でもなっちお肉とか大好きなんで絶対行きます。ねぇ、かおりも行くよね。」
突然自分に話をふられて焦ってしまった。
あの人もわたしをじっと見て答えるのを待っている。
「う、うん。」


4 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時26分39秒
都内で一緒に行動すると目立つのでわたしたちモーニングの四人、
なっち、矢口、圭ちゃんとわたしは新幹線で、
スマップの四人、稲垣さん、草gさん、TOKIOの山口さん、
そしてあの人は車で現地に向かった。

久しぶりの休暇、ましてやアウトドアでバーベキューだから
皆テンション上がりすぎて、新幹線の中はものすごくうるさかったに違いない。

「かおりはさ、誰狙い?」
矢口がいきなり核心についたことを聞いてくる。
「だ、誰狙いも何も今日はみんなで楽しくバーベキューするんでしょ!」
「そうなんだ。おいらはやっぱ 香取さんだなー。」
ちょ、ちょっとマジで?
「あ、でもー山口さんもなんか優しそうだよね。」
なっちも口を挟んで
「圭ちゃんはさ、やっぱグループ内で同じポジションということで
いいひと、の草gさんなんてどお?」
なんて皆言いたい放題。

5 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時27分21秒
わたしは?
わたしはどうなんだ?
まだわかんないよね。だってTVでしか観てないから。
もっと良く知り合ってからのほうがいいよね。
ボーっと窓の外を見ながら考えていると
「かおり、また交信してる。スマップさんの前では気をつけろよ!」
圭ちゃんに言われてしまった。
交信してたんじゃないのにー!

駅には稲垣さんが迎えに来てくれた。
車には五人しか乗れないからあとの三人は先に現地で準備してくれているらしい。
わたしたちは誰が助手席に座るかさんざんもめたけど
結局じゃんけんで勝った矢口が座った。
6 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時27分55秒
「はい、到着だよ。」
稲垣さんがそう言って指差した先は深い緑に覆われたしずかな河原だった。
風がそよぐたびにさわさわと揺れる木の葉。
時々遠くから聞こえてくる鳥たちの鳴き声。
すべてがふるさとを思い出すような優しさに満ちていた。

その中でも特に惹きつけられたのはとうとうと流れる川のせせらぎだった。

「うわあー!すっごいきれいな水。」
おもわず声をあげてしまった。
東京の川ではありえないくらいに透き通った水。
わたしが一人感心していると、彼が
「ほら、こっち来てみて。」
と手招きしてくれた。
わたしの心臓が トクン と音を立てた。
「見える?魚いっぱいいるでしょ。こんなきれいな川、今でもあるなんてびっくりだよね。」
「ほんとだあー。かわいい、あのちっちゃい魚。」
そういったわたしのほっぺに ピューっと水がかかった。
7 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時28分34秒
「やだー!もう香取さん!」
手で作った水でっぽうでわたしを狙い撃ちする彼に怒ってバシャバシャと水をかけて
仕返しをした。

「あーあそこ、早速ふたりだけの世界作ってるな。」
山口さんがわたしたちを見て冷やかす。
「ねえ、矢口。かおり誰狙いでもないっていってたっしょ。うそだね、あれは。」
なんてみんなに言われてることも全然気づかなかった。

8 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時29分05秒
バーベキューの間も、知らず知らず彼ばかり見ていた。
彼は皆のために一生懸命お肉を焼いたり、お皿にとってあげたりして
本当によく気がつく人。

女の子チームでは、やっぱり圭ちゃんがよく気がついて
「圭ちゃんはいいお嫁さんになれそうだね。」
なんて稲垣さんに誉められて赤くなったりしていた。

それに引き換えわたしはというと
なっちに「取って。」と言われたお肉を食べちゃったり
草ナギさんの足にビールをこぼして散々ドジしちゃった。
皆には「天然ちゃん」っていうあだ名までつけられるし。
あーあ、あの人もびっくりしただろうな。ちょい落ち込む。

9 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時29分39秒
でも帰り際にみんなが見ていない所で彼が
「えっと、あの変な意味じゃないんだけど、かおりちゃんておもしろいよね。」
と話し掛けてくれた。
「そうですか?よく言われるんですよ。かおりって結構ドジなんで。」
「いや、何でも一生懸命なんだよね。
あのさ、良かったらまた会ったりしてもらえないかな?」
「え?あの…」
「あ、迷惑だったらいいんだけど、これ俺のアドレスだから気が向いたらメールして。」

そういって一切れのメモを渡すと、彼は片付けをしている山口さんのところへ走り去っていった。
え?これって、
そうだよね。なんかすごい。

「かおりー!ちょっと手伝って、」
その時お皿洗いをしていた矢口に呼ばれてわたしはメモをポケットにしまった。
密かな思いと一緒に。

10 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時30分15秒
帰りの新幹線は皆疲れて、ぐっすり眠っていた。
でもわたしだけは全然眠れなかった。
となりの圭ちゃんを起こさないように洗面室に立って鏡に映る自分の顔を眺めた。

「これって、現実だよね。」
つい声に出して独り言を言ってしまった。
すごい。
あの香取さんがわたしにもう一度会いたいなんて。
でも、遊ばれてるだけ?それとも友達として?
そんな思いがいろいろと交錯した。
11 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時30分53秒
でもやっぱりお礼だけはと思って、夜メールを送ることにした。
えっと…
さっきのメモを見ながらあの人のアドレスを携帯に打ち込むんだけど
指がプルプル震えている。
ただメールだけなのに。
なんでこんなに緊張するんだろう。

『今日はどうもありがとうございました。
とても楽しかったです。
あんなに澄んだ川を見れて本当にこころが癒されました。
                    かおり』
12 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時31分30秒
送信してから、ジーっと携帯を見つめていた。
すると突然、赤いスイートピーのメロディーで携帯がなった。
あの人から、初めてのメールだ。

『おれも、すっげえ楽しかったよ。
今日はゆっくり休んで、また明日から仕事がんばれ!
                   しんご』

ふへへへ…
画面を見ながらなんだかにやけてきた。
やっぱり香取さんはやさしいなあ。
そんなことを思いながら、わたしは眠りに落ちていった。

13 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時32分37秒
それからの数週間、わたしはひとときも携帯を離せなかった。
メールの中だけの密かなデートを何度も何度も重ねたから。
忙しい彼もレッスンや収録の合間を縫って、しょっちゅう返事をくれた。

でもそのころにはわたしの想いは隠し切れなくなってきて
周りのメンバーもうすうす感じるようになっていたみたい。
「ちょっと、かおりいい?」
特に察しのいい圭ちゃんに聞かれた。
「なんか最近おかしくない?ボーっとしてるし、暇さえあれば携帯いじってるし。
あたしで良かったらさ、なんかあったか話してくんない?」
「実はさ、今好きな人がいるんだ。それでなんか集中できなくて。」
「え?そうなの。良かったね。
で、つきあってんの?」
「それが、まだはっきしわかんないんだよね。どうなのかなっていう段階。」
「そっか。がんばって自分から告っちゃえば?
どっちにころがってもすっきしするでしょ。」
「んー、そうなんだろうけど勇気がないって言うか。恐いんだよね。」
「いい感じなんでしょ?かおりだったら絶対大丈夫だと思うけど
相手って一般の人?」
14 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時33分07秒
「ううん」
首を横に振った。
すると圭ちゃんの顔が急に曇った。
「芸能界の人なんだ。……気を付けなよ。
なっちのこととかあったからね。」
と念を押された。

わかってる。
ずっとそばでなっちを見てたから、
会いたくても自由に会えないし
あることないことマスコミに書かれてどんなに傷ついたかも
しってる。

だけど、もうどうしようもないから。
自分でも自分の気持ちを押さえることができないくらい
どうしようもないくらい
好き。

『会いたいです。』

その日のメールに勇気を出してこの言葉を打った。

15 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時33分37秒
数分後彼から
『なんかあった?』
と返事がきた。

それ以上返事が打てなくて考え込んでいると
突然玄関のチャイムが鳴った。
ドアホンの画面をのぞくとそこには息を切らせた彼が立っていた。

「き、てくれたんだ。」
声が震える。
「なんか心配だったし、俺もかおりに会いたかったから。」
「うれしい。」
なぜか涙がぽろぽろとこぼれてきた。
彼もわたしに会いたいと思ってくれていたなんて。

16 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時34分10秒
そして彼の腕がわたしに向かってすっと伸びてきた。
わたしを抱きしめながら
「かおり…
すっげえ大好き。」
というと優しくキスをしてくれた。
その後わたしたちは何度も何度もキスをして
何度も何度も愛し合った。


「かおりはさ、なんかほっとけないんだよね。
ほら、愛の種のときも一回、目が見えなくなったりしたでしょ。
俺心配でさー。」
となりに寝ている彼がわたしの髪をなでながらきゅうにおしゃべりになる。
17 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時35分10秒
「かおり、そのこと話してないよね。
えー!なんで知ってるの。教えて!」
「やばっ、何でもない何でもない。」
そういっておふとんに頭を隠す。
「こらー言わないとこうだぞ。」
彼の脇腹をくすぐった。
「ぷ・わはははは!
降参降参、わかった。いうよ。
実は俺ずっとASAYAN見てたんだ。」
「うそ、やだ。じゃあオーディションの時のも見てた?はずかしー!!」
「うん。白状するとさ、
オーディションでかおりがCoccoさんの歌、歌っただろ。
あの時になんか知らないけど
魂が揺さぶられるみたいな、不思議な気持ちになって、
気づいたらずっとかおりのこと見てたんだ。」
18 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時35分48秒
まずいよ。
また涙がぽろぽろこぼれてきた。
「ごめん、どうしたの?
俺なんか悪いこといっちゃた?」
「違うの。そんな前からずっとかおりのこと見ててくれたなんて
うれしくて。」
「馬鹿だなー、泣くことないのに。
かおり、かおり。ねぇ、笑って!」
彼がうたばんのタカさんの真似をする。
「もーう!へんな顔しないでよ!」
そう言って怒ると
「うん。やっぱかおりは泣いてるより怒ってるほうがかわいい。」
「プッ、何それ。普通笑ってる顔でしょ。」
自然に笑みがこぼれてくる。
「ほら、やっと笑った。かおり。」
そう言ってまた彼はわたしを抱きしめた。

19 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時40分05秒
それからどれくらいだろう。
わたしたちはお互いのマンションを行ったり来たり
会えない日は毎日電話して過ごした。

「たまにはどこかに行きたいね。
あのバーベキューのときみたいに。」
「そうだな。
かおりのふるさとにも行ってみたいな。」
「札幌?いいとこだよ。
食べるものはおいしいし、空気も景色もきれいだし最高だよ!」
「じゃあ、今度休みのとき行こうか。」
「えー!しんちゃんはいつ休み?」
「来月あたまくらいかな。」
「かおりは駄目だ。ツアーがあるもん。」
「ツアーか。札幌ないの?」
「ある!」
わたしたちはガッツポーズをした。

20 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時40分39秒
結局わたしがコンサートの翌日に実家に寄りたいからとうそをついて
もう一日滞在を伸ばし、
彼は日帰りで千歳にやってきた。

レンタカーを借りて、かおりの思い出の場所を次々とたずねた。
小学校,実家の近くの公園,裳岩山の展望台にもいった。
まだ明るいからムードなんてなかったけど
しんちゃんと一日中過ごせたから
本当に満足だった。

「ここがかおりの育った町なんだね。
なんでかおりがこんなに素敵な女性なのかわかったよ。」
「なに?照れるじゃん。」
21 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時41分11秒
帰りの空港では目立たないように別れて時間をつぶし
飛行機でもう一度一緒になった。
「しんちゃん、何買った?
かおりはね、ロイズの生チョコだよ。これうんまいよ。」
そんなことをおしゃべりしていたら、急に彼が
「ごめん、これおもちゃだけど…」
といって、シルバーのリングを差し出した。
「かわいい。」
手にとって見るとリングの裏に
S to K
とイニシャルが彫ってあった。
「ありがとう、しんちゃん。」
「俺もお揃いだから。」
彼の指にもお揃いのリングがはめられていた。
「大事にするね。」
飛行機を降りるまで、わたしたちはずっとこっそりと手をつなぎつづけた。
22 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時41分47秒
「飯田、すぐに社長室に来なさい。」
次の朝、マネージャーが血相を変えてやって来た。
やばい……
すぐになぜかわかったけど、リングを身に着けたわたしは
何食わぬ顔で社長室のドアをノックした。
「失礼します。」

「これはどういうことだ。」
机の上には雑誌の原稿が置かれていた。
その写真に写っていたのは
飛行機の中でおしゃべりをしているわたしたち二人だった。
23 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時42分22秒
そのあとさんざんお説教をされて
くれぐれもこうしたことがないようにくぎを刺された。

「はい。」
なんだか、ファンのためとかおまえのためとかどんな言葉も耳に入らなかった。
でも
「加護はあんなに小さいのに、親元離れてがんばってるんだぞ。
それなのにリーダーのおまえが好きなことやってたらどんな気持ちがすると思う?」
と言われた時はさすがにグッときた。
あいぼん…
24 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時43分00秒
「とにかくもう少し自分の立場に責任を持ちなさい。
この記事は押さえといたが次は押さえられないかも知れんぞ。」
ああ、またお金で回収したんだ。
こういう事務所のやり方、本当にいやになる。

『しんちゃん、大丈夫だった?』

『ジャニーさんに嫌味いわれたけど、まあ大丈夫。
今度からはもうちょっと気をつけないとね。』

彼のほうも同じだったみたい。
ふと圭ちゃんが言ってた言葉を思い出す。
「芸能界の人なんだ。……気を付けなよ。
なっちのこととかあったからね。」

25 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時43分37秒
夜はいつものように彼の部屋に行くつもりだった。
『やっぱりつけられてるみたい。』
そうメールを打つと
『今日はやめとこうか。』
と返事がきた。
あーあ、一緒に出かけたのは楽しかったけどやっぱりまずかったかな。
でもそれでもいいと思っていた。
娘。をやめてもいい。
ずっと彼といられるなら。

26 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時44分07秒
会わずに過ごすなんてわたしたちには出来るわけなくて
しんちゃんはピザ屋さんの格好に変装したりして
うちに来てくれた。
「それどうしたの?さいこおー!」
「スマスマで使ったやつ。でも普通の原付に乗ってきたから
道路で別の意味で怪しまれたかも。」
「確かに。かなり怪しいよ。」
「なんだとー!かおりに会うためにがんばったのに。
お仕置きだー。」
そういっていきなりわたしを抱き上げてベッドに直行する彼。
もう、強引なんだから。
27 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時44分40秒
「かおり、最低!」
ある日、なっちに言われた。
「男のことばっか、考えてるっしょ。
心ここにあらずじゃいいステージ出来ないよ。」
そういうつもりじゃなかったけど、どうしてもメンバーにはばれてしまう。

そんなある朝全員が集められて突然、後藤の脱退について聞かされた。
それだけじゃない。
圭ちゃんまで。

28 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時45分11秒
そして何よりもショックだったのは
心から愛していたたんぽぽを脱退させられたこと。
これはもちろんこの前の事件の見せしめだ。
わたしはとても動揺した。
娘。本体ではほとんどソロもなくなっていたけれど
たんぽぽで歌うことが出来るから、
やりたくもないバラエティーも我慢してたのに。
事務所も社長もつんくさんもひどすぎるよ。
29 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時45分48秒
「今度の曲、いいね。
でもやっぱおれかおりがたんぽぽで歌ってるとこ見たいな。」
しんちゃんにも言われてしまった。
「ラストキッス初めて聞いたとき、涙出そうになったし。
かおりが一番輝ける場所だったしね。」
30 名前:まりん 投稿日:2003年04月26日(土)09時46分20秒
「…んのせいだよ。しんちゃんのせいだよ。
この前のみせしめだよ。」
言うつもりのなかった言葉が、口から滑り落ちてしまった。
「なんだよ、それ。
行かないほうが良かったってこと?」
「そうだよ。そうしたらこんなふうにマスコミに追いかけられたり
社長に怒られたり、
タンポポやめさせられたりしなかったはずだよ。」
「まじでいってんの?」
違う、けどこの気持ちどこにぶつけたらいいの?
彼はドアをバンと蹴飛ばして
「今日は帰る。」
と出ていってしまった。

31 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時04分01秒
すごい自己嫌悪。
しんちゃんのせいじゃないってことわかってる。
誰のせいでもないわたしが、
わたしが集中してなかったからだ。
それなのにあんなひどいことを言ってしまって。

『さっきはごめんなさい。
タンポポ辞めること自分でも耐えられなくて。』

いつもなら数分で,忙しいときにでもその日のうちには
いつも来ていたはずのメールも電話も来なかった。
しんちゃん…  怒ってるのかな。
32 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時04分41秒
喧嘩してから一週間がたった。
わたしも意地を張って全然連絡しなかったけど
しんちゃんからも全く連絡がない。
もう、嫌いになっちゃった?


番組の収録が終わって、タクシーを捕まえようと外に出ると
そこには見なれた車が止まっていた。
しんちゃんだ。
わたしはすばやく助手席に乗り込む。
「どうしたの?」

「これ、渡そうと思って。」
そういって差し出した彼の手には
少ししおれてぐったりとした 季節はずれのタンポポが握り締められていた。

「これ?」

「タンポポ、やっとみつけたから。」

わたしを元気付けるために忙しい中、咲いてるはずもないタンポポを探し回ってくれたんだ。
「ありがと、ありがとね。」
33 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時05分17秒



それからもう一つうれしいことがあった。
タンポポとして最後の歌を歌うとき
それまで色とりどりだったサイリウムが
一瞬にして黄色一色に代わった。
ファンのみんながわたしたちを励ますのに考えてくれたんだ。
「タンポポが…いっぱいだよ。」


わたしは何を怒っていたんだろう。
何をわかっていたんだろう。
自分だけがタンポポを愛しているような気になっていたけれど
こうして、皆が、
ファンの人達も
メンバーも
家族も
恋人も
みんな、かおりのいるタンポポをこうして愛してくれていたのだ。
わたしはずっと夢だった一つのことを成し遂げることが出来たのだ。
「みんなから愛される歌を歌いたい。」
34 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時06分00秒
こないだのことがあってから
わたしとしんちゃんはもっともっと 【近く】になれた気がする。
黙っていても心が通じ合えるような。

「紅白楽しかったね。でも、中居君あの場でジョンソンってひどくない?」
「あの時かおりすっごい苦笑いしてたよね。くくっ」
しんちゃんはかおりの毛布みたいなあったかい存在で。
同じ番組に出ても、周りにばれないように
少し笑顔を交し合うだけで安心出来るようになってきた。
きっと一生好きでいられるよ。
「ねぇ、しんちゃんは?
わたしのことどう思ってるの?」
「何、急に。そりゃー好きだよ。」
「違う。もっとちゃんと言って。」
「ん?何ていうの?」
「だから、あ で始まる言葉。」
「そっか。かおり、  あい  すくりーむ。」
「違うよー!もう!」
プイッとむこうを向くと、背中にしんちゃんの胸があたる。
彼はわたしを抱きしめながらささやいてくれる。
「かおり、愛してるよ。」
35 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時06分42秒

そんなある日、彼から一通のメールがきた。
『ビッグニュースです。
なんと、来年の大河ドラマに出られることになりました。
すげぇすげぇ!』

すごい!
わたしが歌で人を感動させることが夢ならば
彼は演技で人を感動させたいと、いつも話していたから
大勢の立派な役者さん達に囲まれて、
一年を通じてある人物を演じきる。
これが彼にとっていかに大切な仕事なのかよくわかる。
良かったね。しんちゃん。がんばれ!


わたしも何だかとってもハッピーな気分になって
石川の真似をして楽屋に入った。
「ちゃおー!」
「おおー、かおり おはよう。何?機嫌いいね。」
「そう?」
矢口とあいさつを交わしていると、
また社長に呼び出された。
36 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時07分28秒
「飯田,今から大切なことを話すから良く聞きなさい。
今年の大河ドラマの主役の俳優が次々に女性スキャンダルを起こして
視聴率が振るわないことを知ってるか?

それでNHKの方もその辺はかなり神経質になっていてね。
来年の主役にはスキャンダルのない人材を求めているんだ。

この言葉の意味がわかるか?

もし、スキャンダルのあるような人間なら、そのドラマに出られないということだ。
つまり俳優としての人生を棒に振るということだ。
お前には何が出来るか,よく考えなさい。」

浮かれていたわたしは頭の上からバケツで冷たい水をかけられたように感じた。
つまりわたしと付き合っていることが表に出れば
彼は夢だった仕事が出来なくなるかもしれないということ?
37 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時08分09秒
わたしは、しんちゃんを愛している。
わたしがいることで、彼に辛い想いはさせたくない。
そんな風に感じ始めると、だんだん彼に会うのが恐くなって来て。
仕事のせいにして何度か会えないとうそをついた。

たまに会っても新しく始めたドラマの話を
うれしそうにする彼をまともに見られなかった。
「かおり、最近なんか疲れてない?」
「大丈夫だよ。」
笑顔を作って答えるけれど、彼に心配されると余計辛くなる。
早く、決着をつけなければ。
こうして会っているのも、誰かに悟られてしまうかもしれない。
38 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時09分06秒

決心を決めたわたしはとうとう
「別れてほしいんだよね。」
と切り出した。
「な・んで?」
呆然とする彼。
「なーんか、もうこそこそ会うの厭になっちゃってサー。
もう、しんちゃんと付き合ってるの疲れたから。」
「ちょっと、待ってよ。俺は別れないよ。」
「そんなこと言われてもねー。じゃあ、ほんとの事言うね。
他に好きな人が出来たんだ。ごめんね。」
わざとさばさばした口調で冷たく言った。
「うそだろ?誰だよ。」
「もう芸能人はやなんだよ。
一般の人だから自由に会えるしー、かおりのことだけ考えてくれるし。」
「まじでいってんの?
そいつのことマジで好きなの?」
しんちゃんのまっすぐな視線が突き刺さる。
「うん。だからごめんね。別れて。」

しばらく間があいてから
「わかった。」
とだけ答えると彼は、カバンを取り上げて帰っていった。

終わってしまった。

泣かないつもりだったのに
への字に結んだ口元から嗚咽が漏れた。

39 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時09分51秒
「別れたらしいな。
それでこそお前はリーダーだ。
ところで、今度はいい話があるんだが。」

なんとソロアルバムを出せるというのだ。
なっちも、圭ちゃんもまだ果たせていない夢。
しかも娘。とは違ったジャズの名曲などをフランス語やイタリア語の原語のまま歌うという。
わたしは無我夢中でこの仕事にのめりこんだ。
家にいるときも、
移動のときも、
楽屋にいるときも
イヤホンをつけて歌の世界に没頭すると痛みを忘れることが出来た。
アルバムと平行してCMの話まで来た。
今までになかった待遇だ。
でもそれもこれも夢中でこなした。
40 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時10分43秒


しんちゃんにも聞いてほしいな。

ふっとそんな思いが頭に浮かぶけれど、だめだめ。
何のために別れたのか。
一生懸命にこころに鍵をかけた。


41 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時11分37秒

そして今日がやって来た。
中居君が廊下でわたしを手招きする。
「おい、ジョンソン!ちょっといい?
何でしんごが大人しくお前と別れたか知ってるか。」
首を横に振って答える。
「お前のソロアルバムとCMを取り引き条件に出されたんだぜ。
だから、お前のこと嫌いになったわけじゃないって事。覚えといてな。」

え、どういうこと?
わたしがしんちゃんの仕事のために身を引いたように
しんちゃんもわたしが歌うために身を引いてくれたって言うこと?

そんな。

頭の中がくらくらする。
おかしいと思ったんだ。わたしだけ急にソロの仕事がこんなに入るなんて。
少し考えればわかったはずなのに。


42 名前:まりん 投稿日:2003年04月28日(月)19時12分41秒

そして、あの人の目の前でこの歌を歌うときが来た。


もう一度あなたに会いたい 今すぐココに来て欲しい
でも分かってる 一緒にいられるだけで 幸せだった
さよなら

Ah雨が止んだ uh Ahあなたは来ない
一生好きでいられる 自信があった なのに
あなたはどんどん離れてく 今日でさよならね

AS FOR ONE DAY バーゲン並んだり ネットの占いごっこしたり
AS FOR ONE DAY 泣いたりkissしたり 車でずっと待っていてくれたり
(さよなら恋吹雪

Ah雨になった uh Ahひとりぼっち
電話のない日があった あのころからね 多分
私だから許すけど もう泣かさないで

AS FOR ONE DAY ふるさと訪ねたり おもちゃの指輪に名前を入れたり
AS FOR ONE DAY 愛してる?愛してる?って 意味無く何度も甘えて聞いたり
さよなら恋吹雪

Ah雨が止んだ uh Ahあなたは来ない



     〜Fin〜
43 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月29日(木)14時01分01秒
おもしろかったですよ。
初めてとは思えないほど文章も構成もしっかりしてたし。

強いて気になった点をあげれば、香取のせりふがやや平板だったことと、
せりふのテンポやひとつひとつのエピソードが性急に流れ過ぎているように
感じられた点です。特に、最後の仲居君のせりふをいかすようなエピソードや
飯田の心理的描写があってよかったと思います。いきなり歌の場面に変わって
しまって、やや唐突な終わり方だなーと感じてしまいました。
それ以外は娘。の実際上のエピソードも丁寧に拾っているし、起承転結をきちんと
踏まえた起伏のあるストーリーでおもしろく読めました。

残念だったのは、ストレートに男女の恋愛モノにしてしまった点ですね。
娘。が男と絡むものはここではあまり好まれません。
はっきり言ってしまえば嫌われています。しかも天敵のジャニーズw

百合モノが苦手であるなら仕方がありませんが、そういう場所だと割り切らないと
これだけはどうしようもありません。

失礼なことをたくさん書いてしまいましたが、こういうきちんとしたストーリーを
書ける人はそう多くはないので、またぜひ書いてください。

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