Like the smoke of cigarette
- 1 名前:七等星 投稿日:2003年05月04日(日)04時37分17秒
- レス大歓迎です。
のろのろ行きます。
よろしくお願いします。
- 2 名前:七等星 投稿日:2003年05月04日(日)04時38分25秒
- 「吉澤さん、はやく!」
深夜の国道に悲鳴のような声が響く。
「分かってるよ!後ろはどう?」
「さっきより距離縮まってる!」
「くっそう……」
吉澤さんはいまいましそうにハンドルを叩いた。
私は助手席で、それに気付かなかったふりをして前だけを見つづけた。
空に淋しそうに輝く星と、太った三日月が見えた。
右手に見える海は真っ黒で、まるで世界の終わりのようだった。
その時、街の明かりの草原の中で、目を射るような赤い光が灯った。
吉澤さんが、信じられないと言ったように顔をしかめた。
パトカーが、道をふさいで止まっていた。
しかし私達には止まることなど、できない。
- 3 名前:七等星 投稿日:2003年05月04日(日)04時39分01秒
*
- 4 名前:七等星 投稿日:2003年05月04日(日)04時39分31秒
- 「……やめなよ、体に悪いよ」
「いいの。大丈夫だから」
そういってれいなはライターの火をつけた。
暗がりに、彼女の顔が浮かび上がる。
マルボロの先を火の中に置き、れいなは息を吸った。
やがて煙が立ちのぼり出すと、満足そうに笑った。
れいなは、こうやって精神のバランスを保とうとしているんだ、と私は思った。
それは裏を返せば、それだけ彼女の心が不安定であることを示している。
「どう、さゆも吸ってみる?」
私は悲しみが顔に浮かぶのを取り繕わずに首を振った。
「そうだよね、さゆはまだ子供だもんね」
最近れいなは何かと「大人」という言葉を口にする。
大人になることに、以前にもましてこだわっているのだ。
- 5 名前:七等星 投稿日:2003年05月04日(日)04時40分08秒
- きっかけは、つんくの放ったこの言葉だ。
「モー娘。は大きくなりすぎた。
だから再来年春、半分の7人に、同時に卒業してもらうことにした。
卒業するメンバーは、俺が、これからどう成長していくかを見て
決めようと思う」
娘。は、秋におとめ組とさくら組みに別れることが決まっていたが、
来年の秋にはそれは廃止され、再びモーニング娘。として活動していくこともまた決まっていた。
この時から娘。はおかしくなった。
翌日楽屋へ行くと、普段は工事現場さながらにやかましい楽屋が、しーんとしていた。
しかもそれでいて限界まで膨らんだ水風船のようなおかしな雰囲気が漂っていた。
ふだんから人に鈍いと言われることの多い私は、最初昨日の発表の驚きのせいだろうと思っていた。
なんとも恥ずかしいことに、おかしいと思い始めたのは3日も経ってからだった。
まるでマントル層のストレスが徐々に溜まっていくかのように、それは少しずつ高まっていたのだ。
そして限界を迎えたマントル、あるいは水風船は、大きな衝撃を引き起こす。
- 6 名前:七等星 投稿日:2003年05月04日(日)04時40分39秒
- たしか、その日は雨が降っていた。
私が持参した漫画を読んでいると、突如、楽屋の外の廊下から険悪な声が響いた。
「いいよね、愛ちゃんは可愛いし里沙ちゃんちはお金あるし……」
小川先輩の声だった。何か続けるのかと思ったが、私には聞き取れなかった。
「あさ美ちゃんは」と言おうとして思いとどまる小川先輩が想像できる。
5期メンバーの先輩たちが一緒にいるのを昨日も見ていただけに、私のショックは大きかった。
「何いってんのぉ。まこっちゃんだってオジサン達が喜びそうなカラダしとるやない」
こちらも悪意が飽和した声だ。関係の無い私の心臓まできりりと痛んだ。
異変を察知した安倍さん、飯田さん、石川先輩が楽屋のドアを開けた。
「何してるの、やめなよ」
安倍さんの透き通った、それでいて捉え方によっては見下してるとも思われそうな声が耳に届いた。
思わず私も廊下に出て、様子を見た。
高橋先輩と新垣先輩が手前、紺野先輩と小川先輩が奥で、睨み合っていた。
いや、よくみると、口元は笑っていた。
口だけで笑って、目は悪意を込めた視線を互いに交わらせていた。
- 7 名前:七等星 投稿日:2003年05月04日(日)04時41分10秒
- 取っ組み合いにこそならなかったものの、2つのグループの間には大きな溝が出来た。
それからだった。れいなが大人になることに極度にこだわりだしたのは。
「ふぅ……」
れいなはタバコを吸い終え、灰皿代わりのジュースの缶に押し付けた。
また、私の中でやりきれない思いが膨らんでくる。
れいなの追い駆けているものが、タバコの煙のようなものだと教えてやりたかった。
- 8 名前:七等星 投稿日:2003年05月06日(火)07時16分58秒
- 今日は私達が加入して、15人体制になって初のシングルのプロモーション期間だ。
ラジオに雑誌にと大忙しでまわり、最後の仕事が金曜8時からの生の音楽番組だった。
リハーサルも終わり、番組は順調に進んでいった。
私達の出番が来て、ツアーの話でそれなりにトークも盛り上がっていた時だった。
高橋先輩が、いつもの可愛らしい笑顔のままで言った。
「こないだはまこっちゃんが、おもらししちゃったんですよ」
当然、嘘だ。それも、悪意のこもった。小川先輩の顔を見るまでもない。
だが視聴者にとっては、それは現実に起こったことになるのだろう。
高橋先輩は笑って小川先輩を見、小川先輩はいつものおどけた笑顔を崩さなかった。
トークが私達、六期メンバーの話題に及んだ。
だが、藤本先輩以外は、まともに笑顔も作れなかった。
仕事が終わった。私は無理言って近くのマンションに住むれいなの家に泊めてもらった。
2人で交互にシャワーを浴びた。それかられいなはチューハイを開けた。
飲み終えると床についた。私はソファーに寝転がった。
- 9 名前:七等星 投稿日:2003年05月06日(火)07時17分37秒
- 「ねえ……」
電気を消した私に、れいなは呟いた。
私はなに、と小声で聞いた。
「もしさ、あたし達が小川先輩達か高橋先輩達どっちかにつかないといけないとしたら、どうする?」
「……前は高橋先輩が好きだったけど、今のあの人はオカシすぎる。
私なら、小川先輩達につくかな」
最近、私には小川先輩が高橋先輩と張り合っているのが、かなり無理しているように見えていた。
おそらく、独りきりの時や、紺野先輩と二人の時に泣いたりしているのだと思う。
実際、ラジオの収録の後などに、トイレの個室から嗚咽が聞こえてきたこともあった。
ここの所、私はいつも考えていた。
笑顔と言うのは、人間関係を滑らかにしたり、感情を表現するためのものであるはずだ。
だが、二人はアイドルと言う特殊な職業についてしまったために、別の使い方を覚えた。
高橋先輩は、相手に精神的ダメージを与える武器として、
小川先輩は、自分を守る盾として、笑顔を浮かべているように思えてならなかった。
- 10 名前:七等星 投稿日:2003年05月06日(火)07時18分14秒
- 最近では、高橋先輩が優位なのは誰の目にも明らかだった。
言い争いはよくおこっていたけど、いつも最後は小川先輩が言い返せなくなって、
逃げるようにどこかへ行ってしまう。
それに加えて高橋先輩は、今日のように、小川先輩の人気を落とすような嘘を口にすることもあった。
しかし同時に、高橋先輩はかわいそうな人でもあったと思う。
彼女には、新垣先輩がいつも一緒にいた。
まるでジャイアンにくっついてまわるスネオみたいに。
しかし、少なくとも私には、そこに友情があるとは思えなかった。
高橋先輩には、友達と呼べる存在の人がいなかったのだ。
それにくらべ、小川先輩と紺野先輩の間には、今にもこぼれそうなほどの友情があった。
それが小川先輩の強さであったのかもしれない。
「あたしも小川先輩につく。出来れば高橋先輩に辞めて欲しいな」
れいなの声だと理解するのと、その内容を理解するのに時間がかかった。
感情が押し寄せ、言葉を押し出した。
- 11 名前:七等星 投稿日:2003年05月06日(火)07時19分43秒
- 「違うよ、私は誰にも辞めて欲しくないよ。
もし誰かと争わなきゃいけないんだったら、もう娘。なんか辞めたいよ」
「……ごめん、寝る前にタバコ吸ってこよ」
れいなは逃げるように布団から抜け出た。
酔って少しふらつきながら部屋を出て行くれいなを、私は見送った。
分かっていた。
さっきの言葉も、大人びたことをするのも、本心ではないことは分かっていた。
だから余計に、泣きたくなった。
- 12 名前:りゅ〜ば 投稿日:2003年05月06日(火)12時38分04秒
- 面白そうです。更新期待してます。
- 13 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月08日(木)12時04分43秒
- 面白そう。これがどうやって初めの展開に結びつくか
非常に楽しみ。筆力もありそうで、期待。
- 14 名前:七等星 投稿日:2003年05月09日(金)01時45分22秒
- 翌日は土曜日で、9時から仕事だった。
7時にれいなに起こされ、一緒に朝食を取り、着替え、家を出た。
途中、れいなが喉が痛いと言い、のど飴を買った。
集合場所の建物についたのは、9時10分前だった。
部屋に入ると、すでに5人の顔が見えた。
辻さん、加護さん、飯田さん、吉澤先輩さん、そして紺野先輩だ。
その後着々と人は集まっていったが、どういうわけか、時間を過ぎても小川先輩の姿が見えない。
紺野先輩も気付いているらしく、そわそわと落ち着かなく見えた。
それでも、仕事はいつものように始まった。
私達は仕事に熱中した。
そして夕方の6時、仕事は終わった。
私達が仕事を何らかの理由で休む場合、マネージャーに伝えればよい。
だが、たいていの場合は本人から仲の良いメンバーにもメールで連絡がいっていた。
小川先輩なら私にもメールをくれるはずだ。
それが無いと言うことは、余程具合が悪いのか……。
私とれいなはマネージャーに、小川先輩のからの連絡はどんなものだったのか、訊きに行った。
- 15 名前:七等星 投稿日:2003年05月09日(金)01時46分23秒
- マネージャーの話は、とうてい納得できるものではなかった。
小川先輩からは、「しばらく仕事を休みたい」と連絡が入っただけ、だそうだ。
しかもそれを理由も聞かずにOKしたと言う。
「最近ちょっと元気なかったけど、2.3日休んだらまた元気に戻ってくるよ」
とマネージャーは言っていた。
けれど私達は、もしかしたら自殺でも考えているのではないかと、
最悪の事態になる不安を拭い去ることができなかった。
私達が、その建物から出ようとすると、小さな後姿が見えた。
紺野先輩だった。
私達は小走りに近寄り、呼び止めた。さっきのマネージャーの話を伝えた。
「紺野先輩はどう思いますか?」
「……実は、今日、私まこっちゃんに会ったの。」
私は驚いて紺野先輩を見つめた。
「下駄箱でたまたま会ったの。私が声かけたら、まこっちゃん、ビクつきながら慌てて帰っちゃった」
「……」
わけがわからなかった。
- 16 名前:七等星 投稿日:2003年05月09日(金)01時47分37秒
- 私達にメールをしてくれなかったことを考えると、
こちらから連絡してはいけないような気はしたが、
万が一、変なことを考えてるかもわからないので、私達は小川先輩のマンションに出向いた。
時刻は7時を少し回っていた。
駅を降りて5分ほど歩いた天に届きそうなほどのマンションに小川先輩は住んでいた。
移動中何度も電話したが、出てはもらえなかった。
芸能人が住んでいるだけあって、自由に出入りできるようなマンションではなかった。
入り口で、小川先輩の部屋番号を押した。
しかし、いくら待っても返事は無かった。
重たい沈黙が、その場を支配した。
三人で手分けして、先輩たちにメールを送り、小川先輩が来ていないか確認した。
全員から返信があったが、小川先輩の消息を知る人はいなかった。
ほかにできることもなく、私達はその場を後にした。
- 17 名前:七等星 投稿日:2003年05月09日(金)01時48分29秒
- *
河川敷の鉄橋の下でサイレンサー付ワルサーPPKが発した音は、それを撃った本人にさえ聞こえなかった。
だが、銃口から飛び出た熱い弾丸は、確実に一つの未来ある命をすぐに冷たくなる運命に変えたはずだ。
電車が通り過ぎた。
丸く小さい月が浮かんでいた。
襲撃者は、短い草を踏みしめながら闇の中へと呑み込まれていき、やがて見えなくなった。
風がひときわ強く吹いた。
期限付きの静寂が、あたりの空気に沈殿していった。
*
- 18 名前:七等星 投稿日:2003年05月09日(金)01時49分02秒
- 翌日の日曜日も仕事だった。
またしても、小川先輩は最後まで姿を見せなかった。
マンションに再び三人で出向いたが、7時であたりは真っ暗だと言うのに、部屋の明かりが点いていなかった。
もちろん、いくら呼び出しても、出てくれることはなかった。
もしこのままマンションに帰ってこないつもりならば、寝泊りはどこでするのか。
考えられるのは、ホテルか友達の家くらいだろう。
小川先輩のクラスメイトの何人かとは紺野先輩が面識があり、番号も知っていた。
すぐに連絡を取った。
彼女たちも、小川先輩の居所は知らなかった。
嫌な予感が、暗雲のように私の胸の中を覆っていった。
いくら手で振り払っても、薄らぐことはなく、どんどんと密度を増していった。
「なんか事件に巻き込まれたのかも……」
紺野先輩の不安げな声が、頭の中でいつまでも響きつづけた。
- 19 名前:七等星 投稿日:2003年05月09日(金)01時56分32秒
- >>りゅ〜ばさん
レス感謝です。
がんばりまっす。期待しないでお待ちください
>>13さん
ありがとうございます。
まあ、自分でもどう繋がるかわかってなかったり(ry
とにかく、よろしくです。
- 20 名前:観覧 投稿日:2003年05月09日(金)15時15分42秒
- 真面目な話をするとまず場面展開が急すぎる
あと文才はあると思うけど(表現の仕方とか)誰の台詞か分からなかったり
短い文章なのにポンポン話が進んでいくのでついて行きにくい。
もう1個なんか言いたかったけど忘れてしまったのでここまでです。
偉そうなこと言ってスイマセン聞き流してくださってもけっこうです。
- 21 名前:七等星 投稿日:2003年05月16日(金)04時35分46秒
- 次の日は、学校はあったが仕事は休みだった。
学校が終わってから落ち合い、小川先輩のマンションの近くのホテルに片っ端から電話をかけた。
電話帳と携帯を片手に、私達は祈るような気持ちで番号を押しつづけた。
電話をしながら、空を見上げた。
カラスが夕日を追いかけるように飛んでいた。
自由な鳥になりたいと、くだらない妄想が頭にすっと入り込んでは抜けていった。
同じような文句を何度も電話口に向かって話した。
結果の出ない単調な繰り返しに、気持ちは焦る一方だった。
2時間程が経った頃だ。
私は、電話を終え電話帳のホテル名の所に印をつけていた。
「みつけたよ!『サンライズホテル』602号室に泊まってるって!」
そう言ってれいなは勢いよく立ち上がった。
- 22 名前:七等星 投稿日:2003年05月16日(金)04時36分29秒
- 「なんでそんなことするの……」
「え、だから……」
「なんで……」
「ちょっと、どうしたの、まこっちゃん」
「イヤっ、来ないで!」
いいながら、小川先輩は紺野先輩に枕を投げつけた。
「いくら愛ちゃんが憎いからって……、ひどいよ……」
「何それ。何の話かわかんないよ!」
紺野先輩は母親のいなくなった事に気づいた子供のように、言った。
「とぼけなくてもいいよ。私のためってのもわかってる。」
「いや、ほんとにわかんないんだって……」
「私だって、愛ちゃんには散々ひどい事言ったけど、怪我させるようなことはしなかったよ」
「だからなんなの?一から説明してよ」
- 23 名前:七等星 投稿日:2003年05月16日(金)04時38分00秒
- なんとなくだが、事の内容が見えてきた。
おそらくは、高橋先輩の下駄箱に、何かがあったのだ。
それをたまたま見つけた小川先輩が、紺野先輩の仕業だと思い込んだ。
そして小川先輩がその何かを取ったところに紺野先輩が現れたのだ。
そう考えれば、紺野先輩を見てこそこそ帰った小川先輩の行動も説明がつく。
そしてそれが正しかったことが、すぐにわかった。
「……あれやったの、あさ美ちゃんじゃないの?」
「だからあれって何?わかんないよ」
「仕事場の愛ちゃんの下駄箱にカッターの刃仕込んでたの……」
紺野先輩とれいなは、同時に息を呑んだ。
「え……違かったの?」
「違うよ、私じゃないよそれ」
「じゃあ……、まさか里沙ちゃん?」
- 24 名前:七等星 投稿日:2003年05月16日(金)04時38分36秒
- >>20 観覧さん
レス、指摘ありがとうございます。
ポンポン話が進んで〜というのは前から自覚していましたが、
場面展開が急すぎると言うのと、誰の台詞かわからないと言うのは気付きませんでした。
これから気をつけてみます。
とにかくレス激しく感謝です。
- 25 名前:七等星 投稿日:2003年05月30日(金)06時42分33秒
- その日も私はれいなの家に泊まった。
明日は二人とも、学校を休むつもりだ。
夜、散歩がてらタバコを吸いに行くとれいなが言い出し、私もついて行った。
10分程歩いた後、近くの廃工場に入った。
広さは体育館の半分くらいのプレハブ小屋で、中には大型の機械が並んでいる。
それらはベルトコンベアーで繋がっていて、私達はそこに腰掛けた。
窓からの明かりが空気に溶けて、工場内をうっすらと青白く染めていた。
れいなはポケットからマイルドセブン取り出した。
さっき自販機で買ったものだ。
封を解き、箱のはじを叩いて一本取り出し、口にくわえた。
ライターの火をつけると、いつかのように薄闇にれいなの顔が浮かび上がった。
私はそれを見て、今まで我慢していたものを、つい口からこぼした。
「タバコ、肺に入れなくてもおいしいの?」
「……」
「れいなはふかしてるだけだよね、いつも」
「……気づいてたんだ」
- 26 名前:七等星 投稿日:2003年05月30日(金)06時43分08秒
- ふいに、ひときわ大きな虫の鳴き声が止まった。
止まってから聞こえていたことに気付くのだから不思議なものだ。
「私は思うんだけど、タバコなんて大人になりたいコドモが吸うものだよ」
「なにそれ。あたしに説教でもするの?」
「そもそも、大人ってなんなの?れいなの目指してるものってなんなの?」
「大人ってのは……、一人前の人のことだよ。自分の行動に自分で責任持てる人。
だからタバコ吸ってもいいんだよ」
言ってかられいなはタバコの煙を肺に入れた。
が、すぐに背中を丸めて咳き込んだ。
「やめなよ、喉痛めるよ」
「……いーよ別に痛めたって」
「良くないよ。ライブとかで声出なくなったらどーするの?」
「その時はその時」
私は、言おうとした言葉を飲み込んだ。
むこうを向いているれいなの顔が、窓に反射してかすかに見えたからだ。
れいなは、今にも泣きそうな顔をしていた。
- 27 名前:七等星 投稿日:2003年05月30日(金)06時44分10秒
- 「あたしはもう大人だよ。だからタバコも吸えるしビールも飲める」
れいなははっきりと言った。
私は床に落ちている新聞紙に視線を放りながら言った。
「年は大人でもコドモみたいな事する人なんて掃いて捨てるほどいるよ。
逆に、まだ子供でもオトナよりしっかりしてる子もいる。
そもそも、人間はオトナな面とコドモの面、両方持ってるんだよ。
大人って言葉に、年齢以上の意味なんてないよ」
「ちょっとまってよ、でも人間って成長していくもんでしょ?
そういうのは精神的にオトナになってるって言わないの?
キッズの子達より大人だなとか思わない?」
れいなは少し興奮しているようだった。
それは勿論、私も同じだ。
「確かに、変化はしてるよ。知識だって大人のほうが豊富だよ。
でも、それはただの経験かもしれないよ?
もしかしたら、人間の脳の発達なんて15歳で止まってるかも」
- 28 名前:七等星 投稿日:2003年05月30日(金)06時45分01秒
- 「そんなとこあるわけ無いじゃん。
それに、確かにコドモな大人もいるけどさ、
オトナな人間だっているんだよ。
ようするに、人それぞれってことだよ。
私は、自分で責任持てるオトナだから、吸える」
「……じゃあ、なんでれいなはタバコ吸うの?」
ライターを弄んでいたれいなの手が止まった。
そこに私は沈黙の音を聞いた。
「大人だから」
「それじゃあ答えになってないじゃん」
「あたしにだってストレスがあるんだよ……。」
その時、不意にどこかから空き缶の転がる音が聞こえた。
廃工場内の静寂の中でそれはやたらと大きく聞こえた。
- 29 名前:12 投稿日:2003年06月03日(火)00時30分09秒
- 何が起こっているのか…気になります。
更新期待です。
- 30 名前:七等星 投稿日:2003年06月10日(火)01時32分09秒
- 何日か後の土曜日。今日も雑誌の取材などの仕事をたっぷりと頂いている。
れいなと紺野先輩、小川先輩とひそひそ話をしていた私の耳に、吉澤さんの言葉は突き刺さった。
「私、来年娘。辞めるね」
天気の話でもしているような、そっけない口調だった。
私達は一瞬、ガラスに閉じ込められたように身動きを止めた。
少ししてから、矢口さんが壊れかけたロボットみたいに言った。
「それって……、どういうこと?」
それに対し吉澤さんは、少し大袈裟に話し始めた。
「だって、どうせ再来年の春には7人がいなくなるんだよ。
わたしはそんなに人の減った娘。で活動していく自信ないよ。
それに、わたしが残れるかだって分からない。
このままつんくさんの評価よくするために必死になることはもう出来そうに無いよ」
- 31 名前:七等星 投稿日:2003年06月10日(火)01時32分41秒
- 「何いってんの、ここからが頑張り時じゃない」
「そうだよ、頑張ろうよ」
ひとしきり先輩メンバーからの励ましを受ける吉澤さんを見てれいなが吐いた言葉を、私は聞き逃さなかった。
「私も……、辞めようかな」
私が驚いてれいなを見つめると、彼女はしまった、と言うように周りを見て、顔をそむけた。
れいなの背中越しに吉澤さんを見ると、メンバーの説得に口をへの字にして聞く耳を持たないようだった。
何かが少しずつ崩れて行くような気がした。
その日の夕方だった。
高橋先輩から、話があるとれいなと二人で呼び出された。
いきなり呼び出された私は正直、胸が高鳴るのが抑えられなかった。
嫌な予感というのか、もやもやとした黒いものが血管を通って体中に行き渡るような感覚を覚えた。
- 32 名前:七等星 投稿日:2003年06月10日(火)01時33分14秒
- トイレにいったり自販機で飲み物を買ったりとくだらない悪あがきを少しだけした。
だが逆にそれは高橋先輩を刺激することにもなるだろう。
覚悟を決めて、私は部屋のドアをノックした。
高橋先輩は、部屋の中で一人本を読んでいた。
私たちに気付いて顔を上げたが、そこには最近よく見る余裕のある顔はなく、
思いつめたような表情があるだけだった。
私達は高橋先輩とテーブルを挟んで反対側の椅子に座った。
私とれいなに見つめられて、先輩は椅子を直し、話を始めた。
「あのさ、お願いがあるんだけど…」
「なんですか?」
「実は、あさ美ちゃんとまこっちゃんに伝えて欲しいことがあるの」
高橋先輩が、こんなに思いつめた表情で紺野先輩と高橋先輩に伝えて欲しいこととはなんだろうか。
とっさに考えを巡らせたが、見当もつかなかった。
それはそうだ。この後の言葉は私にハンマーで殴るような衝撃を与えた。
- 33 名前:七等星 投稿日:2003年06月10日(火)01時33分53秒
- 「今まで私、まこっちゃんやあさ美ちゃんにひどい事してきた。
でも、実は……、実は私、脅されてたの。
安倍さんに、脅されてやったんだよ……」
まるで体がこなごなに砕かれたような気がした。
あの安倍さんが…。
そういえば、最近まで高橋先輩と安倍さんは仲が良かった。
二人だけで話している所を何度か見たことがあった。
しかし、ここ何日かは高橋先輩はずっと新垣先輩といた。
私はあの、五期の先輩たちの言い争いのせいかと思っていたが、本当は違ったのかもしれない。
実際、同じように仲の良かった石川先輩は今でも高橋先輩とは普通に話している。
もちろん前よりはだいぶ減ったが。
私たち六期メンバーは、藤本さん以外はまだ娘としての誇りとかこだわりとか、そういうものは持っていない。
いつやめても構わないと思っている。
だけどやはり先輩たちにはつんくさんの提案は大きな問題なのだ。
高橋先輩の涙が、蛍光灯の光を反射してキラリと輝いた。
- 34 名前:七等星 投稿日:2003年06月10日(火)01時43分27秒
- いつも更新遅くてすいません。
別に書く気が無くなって来てるとかそういうことでは全くありませんので。
>>29さん
またまたレスありがとうございます。
少しずつ明らかになっていくと思われます。
- 35 名前:七等星 投稿日:2003年08月04日(月)13時54分04秒
- 落とします。
- 36 名前:七等星 投稿日:2003年08月12日(火)03時25分53秒
- 高橋先輩の依頼は、そのことを紺野先輩と小川先輩に伝えて欲しい、ということだった。
直接言ったのではどれだけ信じてもらえるかわからないし、余計にこじれるかも知れない。
そういう先輩の意見には頷けた。
一応、出来るか分からないがやってみると返事はしたものの、私の心は荒海を漂う小船のように揺れていた。
といっても、別に高橋先輩を信じていなかったわけではなく、それがどういう結果に結びつくのか予想できなかったからだ。
しかし先輩の頼みを断るわけにも行かず、結局はそのまま曖昧に濁して、その場から逃げるように去った。
今の話を聞いたら、二人はどんな反応をするだろうか。
そもそも信じてもらえるかどうかもわからない。
もしも信じたならば、きっと高橋先輩と仲直りできるだろう。
しかし、安倍さんへの憎しみは、多分割増になって二人の腹のそこに溜まっていく。
これ以上仲間内でのいさかいが続けば、娘。自体の存続も危うくなってくるのではないか。
とにかく、高橋先輩の言葉と涙が嘘であるとは思えなかった。
なんとなく確信があった。
高橋先輩からの頼まれ事と割り切って、私は依頼を受けることを決めた。
- 37 名前:七等星 投稿日:2003年08月12日(火)03時27分00秒
- 翌日の日曜日、早速私達は紺野先輩と小川先輩に時間を貰った。
「実は高橋先輩から伝言を頼まれたんです」
れいなが話を進めた。
私は注意深く二人の反応をうかがった。
二人とも、意外にまったく疑う表情を見せずにれいなの話を聞いた。
れいなの話し方が上手かったのかもしれない。
ただ、紺野先輩の目が、時々焦点を失っているように見えた。
まるで窯の中で炎がうねっているのを見るような感覚を何度か覚えた。
「そっか……。話してくれてありがとう」
言って、小川先輩は立ち上がった。
優しそうな目は何も攻めていないように見えた。
怒らない人は、オトナなんだろうか。
ふとそんな疑問が浮かんだ。
くだらないことでイライラする人間はコドモなのか。
……くだらない。
私は一つ大きな深呼吸をすると、先輩の後に続き部屋を出た。
- 38 名前:七等星 投稿日:2003年08月12日(火)03時28分14秒
- *
「あははははっ」
マンションの一室に高い笑い声が響いた。
「崩れていけ……。これは復讐だ!崩れて崩れて……」
ベッドに寝転がったままの女が呟き、それからまたしばらく笑いつづけた。
笑いながら彼女は思い出していた。
ある男との言い争いを。
彼女の生き方を変えた日のことを。
プライドを捨てさせられた代償は、今も胸の中で醜く成長している。
「あははっ もっともっと、崩れていけ! あははははっ」
*
- 39 名前:七等星 投稿日:2003年08月12日(火)03時28分49秒
- 翌日の月曜日、私は仕事場に行ってすぐに気付いた。
もうそこに昔の娘。の雰囲気はどこにもない。
みんな何人かずつのかたまりになって、盗みの相談でもするように周りを気にしながら喋っていた。
私はとりあえず、れいなを探してそのグループの人間を確認した。
れいな、小川先輩、紺野先輩、絵里。
それに吉澤さんと辻さんがいた。
私の目には奇妙な組み合わせに映った。
5人は私に気付くと早く来いと目配せをし、私はすばやくその輪に入った。
吉澤さんが一つ少し芝居がかったため息をついてから、私に聞いた。
「道重さ、私たちと一緒に、娘ぬけない?」
一瞬、世界が遠くなった。
呆然とし、吉澤さんを見返した。
「私と辻はもう辞めるって決めてる。
どうせ辞めるなら、少しでも事務所とかに復讐してやりたくて、
大勢で一度にやめてやりたいの」
言うべき言葉がすぐには見つからなかった。
- 40 名前:七等星 投稿日:2003年08月12日(火)03時34分27秒
- 二ヶ月も間あいてゴメンナサイ。
しかもちゃっかり短編コンペや男×娘企画に参加してゴメンナサイ。
夏休みに頑張る予定です。
これからはオチで行こうと思います。
- 41 名前: 投稿日:2003年08月12日(火)04時12分32秒
- ん、ガンガレ
- 42 名前:七等星 投稿日:2003年08月23日(土)02時52分20秒
- 「もちろん、無理に辞めろなんて言わない。もしよかったらでいいんだけど」
「え、えと……、他の人には聞いたんですか?」
「私たちより上の人は断るに決まってるから、梨華ちゃんと加護には聞いたけど、
嫌だって。他はまだ」
「小川先輩たちは?」
「……私たちも今悩んでる」
そして私は上目遣いにれいなを見た。
戸惑いを隠せない大きな瞳と目が合った。
こういう時はどうしたらいいのだろうか。
混乱して口の中でもごもごと言葉を呟き、どうにか「考えさせてください」とだけ言えた。
吉澤さんと辻さんは、苦笑いしながら私たちを開放し、
小川先輩、紺野先輩、れいな、絵里、そして私は部屋の隅で相談を始めた。
「私は辞めたい」
紺野先輩は驚くくらいきっぱりと言った。
- 43 名前:七等星 投稿日:2003年08月23日(土)02時52分51秒
- 「私には半分の人が卒業して、しかもこんな酷い状態になって、
それでも娘。でいたい気持ちが理解できないよ」
紺野先輩の意見にはなんとなく頷けたが、
そもそも娘。の昔の雰囲気を私はあまり知らない。
それに、コンサートが、緊張はしたけれど興奮したし楽しかったことが私の決断を鈍らせていた。
吉澤先輩は復讐だと言っていたけれど、元々半分は卒業させられる予定なのに効果があるかも疑問だ。
意見を促され、正直にそのことを言った。
れいなは私と、小川先輩は紺野先輩と意見が一致した。
やがて仕事が始まり、先輩たちはまた二つ目の顔で完璧に演じた。
私も、必死に動揺を隠して笑った。
薬包紙を噛んでいるような味気ない時間が私たちの前を走り去っていった。
仕事終わり、私たち六期の三人は、飯田さんに呼び出された。
着替えを済ませてすぐ、私たちは部屋へ向かった。
「失礼します」
「あ、来たわね。今日はあんたたちに注意したくて呼んだの」
「注意、ですか」
戸惑いがちにれいなが返す。
- 44 名前:七等星 投稿日:2003年08月23日(土)02時54分22秒
- 「そう。あんたたち、例のことに振り回されちゃだめだよ」
「例のことって、再来年の……」
「うん。五期メンにも言うつもりだけど、あんたたちは振り回されすぎてるよ。
もっと肩の力を抜いていきな」
「……そんなこと言われても、私たちが選ばれる可能性一番高そうだし……」
「いい?つんくさんはみんなにより頑張ってほしくてあんなこと言ったんだよ」
「でも、自分が残れればほかの誰かが卒業させられるんです。こんなの間違ってますよ」
「あのねぇ。厳しいこと言うようだけど、社会なんてそんなもんだよ。
他人の心配してたら自分は取り残されちゃうよ」
「なら私は喜んで取り残されますよ」
私は、思わずれいなの表情を盗み見た。
普段から真顔でも「怒ってる」などと言われるれいなだが、その目にははっきりと反駁の意思が見えた。
飯田さんもそれを感じ取ったらしく、大げさなため息をひとつ落とした。
しかし、やはり大人な飯田さんだ。「まあ、よく考えてよね」と言う言葉を残して部屋を出て行った。
- 45 名前:七等星 投稿日:2003年08月23日(土)02時54分59秒
- 残された部屋には、見慣れた草むらが刈り取られた後ような、複雑な空気が溜まっていた。
三人とも目を合わせようともせず、黙って下を向いていた。
絵里の「行こう」と言う声に押し出されて私たちは部屋を後にした。
廊下に出ると、遠くの曲がり角のところに小川先輩と紺野先輩が見えた。
声をかけようとしたが、それより早く別の声が私たちに見えない場所から二人を呼んだ。
高橋先輩の声だった。
私たちは思わず足を止め、息を呑んだ。
いったん角で見えなくなった二人が、高橋先輩も率いてこちらにやってきた。
三対三の視線が、かち合う。
一瞬の間があった後、小川先輩の一言が耳に届いた。
「三人も一緒に来て。大事な話があるの」
結局私たちはもとの部屋に戻った。
みんなが席に着くと、カメラを向けられているような緊張が部屋に染みわたっていった。
「れいなちゃんとさゆみちゃんから話聞いたよ。
本当なの?」
- 46 名前:七等星 投稿日:2003年08月23日(土)02時56分08秒
- 小川先輩が、高橋先輩を真正面から見据えて言った。
視界の隅で絵里が何の話だ、と言うように私を見ていたが、
それを無視して高橋先輩を見つめた。
「本当だよ……」
それを聞いて小川先輩は一度紺野先輩を見た。
紺野先輩は視線を逸らしたが、関係ないと言ったように小川先輩は高橋先輩に向き直り、言った。
「わかった。私は愛ちゃんを信じるよ。
今まで酷いことして、ほんとにゴメン」
「こっちこそ、ごめんなさい」
小川先輩は立ち上がり、高橋先輩に手を差し出した。
そして高橋先輩もそれを強く握り返した。
それから紺野先輩や私たちとも、握手をした。
- 47 名前:七等星 投稿日:2003年08月23日(土)02時56分58秒
- 「あはっ、ごめん……」
高橋先輩の目から、一粒の大きな涙がこぼれた。
それは静かに頬を伝って行き、宝石のような光を放ちながら床へ落ちていった。
- 48 名前:七等星 投稿日:2003年08月23日(土)02時57分54秒
- >>41さん
ありがとうございます。がんがりまつ。
- 49 名前:七等星 投稿日:2003年08月28日(木)23時08分53秒
- 「それよりさ、まこっちゃんたちは娘。どうするの……?」
目の淵の涙になりきれなかったかけらを、人差し指で掬いながら高橋先輩は言った。
「私は、やめたいと思ってる。あさ美ちゃんも」
「あたしたちは、まだわかりません」
小川先輩とれいながそれぞれ答えた。
「そうなんだ……。私は続けて行こうと思っとるけどね」
高橋先輩がそう言った瞬間、紺野先輩の顔が強張るのを私は見た。
ほんの一瞬だったが、間違いない。
紺野先輩は、何かを隠している。そんな気がした。
- 50 名前:七等星 投稿日:2003年08月28日(木)23時10分15秒
- 今日の今日まで、こういうものは事前に連絡が来て、私たちは驚いたふりをすればいいのだと思っていた。
安倍さんの卒業発表。
その後の記憶がまったく欠落していて、気がつたら私はみんなと楽屋で泣いていた。コンサートは終わっていた。
「みんな今まで本当にありがとう。
圭織。圭織とは一番長い付き合いだったね。
矢口。ちっちゃいけど、パワフルでかっこいよくて、大好きだよ…」
一人ずつ順番に、安倍さんは言葉を掛けて行き、握手を交わした。
「高橋。人一倍がんばり屋で、才能もある。これからも期待してるよ。
お豆ちゃん。ダンスも歌も存在感があって、尊敬してる。
紺野。マイペースだけど影で一番努力してたこと、私は知ってるよ。
小川。口はいつも閉じててよ。
藤本。その負けず嫌いでこれからも頑張ってね。
田中。新曲センターに満足しないでこれからも上を目指してね。
亀井。その笑顔をいつまでも忘れないように。
道重。道重も影で頑張ってた。これからも自分を磨いてね。
……本当に、本当にどうも、あ、ありが、ありがとう」
- 51 名前:七等星 投稿日:2003年08月28日(木)23時11分14秒
- そして私が握手を終えると、控え室につむじ風のような大きな拍手が巻き起こった。
けれど私は、拍手する気にもなれず、ひたすら下を向いていた。
どういうつもりで、安倍さんはあんなことをしたのかが、全く解せなかった。
今までは、他の人を蹴落として自分が娘に残るためだとばかり思っていたのだが、
その考えが間違っていたことが今わかった。
吉澤さんのように、事務所への復讐というのも考えられなくもないが、
私たちまで巻き込むとはあまりに酷すぎる。
ただ単に、安倍さんの性格がそこまで歪んでいたのだろうか。
それとも……。
- 52 名前:七等星 投稿日:2003年08月28日(木)23時11分44秒
- *
河川敷の鉄橋の下で、二人の少女が対峙していた。
「あんたしか、あんたしかいないんだよ!」
「ちょっと、何興奮してるのさ……」
片方の、赤い服を着た少女が、もう一人のパーカーの少女に歩み寄った。
「来るな! 来たら、来たら撃つ!」
パーカーの少女はポケットからサイレンサー付ワルサーPPKを取り出し、赤い服の少女に向けた。
「なんの真似? 何か、誤解してるんだよ」
銃を構えたまま、少女はもう片方のポケットから、何枚かの紙を取り出した。
「これはあんたが送ったんだ」
「なんなの? それ……」
「汚い言葉が書き連ねてある、脅迫状だよ」
「き、脅迫状!?」
「私はあんたがこれを出す所を見てる」
張ったりだった。少女は、そんなもの見てはいなかった。
- 53 名前:七等星 投稿日:2003年08月28日(木)23時12分29秒
- 「……フン」
言下に、赤い服の少女はパーカーの少女に飛び掛った。
パーカーの少女は銃の引き金を引くことはせず、
飛び掛ってきた少女に容赦なく蹴りを入れた。
それから、手袋をした手で何度も顔面を殴った。
しかし赤い服のほうも黙ってはいない。
倒れそうになりながら相手の膝に爪先で蹴りを見舞う。
それがたまたま狙いがそれて腿の横に当たり、パーカーの少女は苦痛にうずくまった。
その時、鉄橋に電車が来た。
通過音が、辺りを埋め尽くす。
そして次の瞬間、パーカーの少女のワルサーPPKが火を噴いた。
*
- 54 名前:七等星 投稿日:2003年09月04日(木)19時39分01秒
- それは、安倍さんのちょっとしたお祝いを終え、
私とれいながタクシーに乗って10分ほど経ったあとのことだった。
一本の、電話。
「大変なの!すぐ来て!お願い!場所は……」
小川先輩の声だった。
用件も告げずに場所だけ言って切れてしまった電話を訝しく思いながらも、
私たちはタクシーでその場所に向かった。
いわれた場所に着き、タクシーを降りた。土手のある大きな川のそばだった。
指示されたままに鉄橋の下辺りへ移動する。
「道重、田中。こっち」
見ると、鉄橋の下の暗がりに何人かの人影が見えた。
近寄ると、それが吉澤さん、辻さん、小川先輩、紺野先輩であることがわかった。
- 55 名前:七等星 投稿日:2003年09月04日(木)19時39分56秒
- 吉澤さんが無言で少し離れた地面を指差した。
私は、他の人たちが押し黙って俯いているのを不思議に思いながら、
そちらに目をやった。
「えっ……」
足元の地面が、ぐわんぐわんと揺れた。
思わず口に手をやり、漏れそうになる悲鳴やら感情やらを無理やり飲み込む。
「し、死んでるんですか……?」
「死んでる……」
吉澤さんが答えた。
高橋先輩の顔は暗がりでは生きている時とまったく変わらなかった。
しかし、腹部から出たと思われる夥しい量の血が、死を感じさせる。
その血を見た瞬間、現実感が急激に薄れ、落下し続けている感覚にとらわれた。
- 56 名前:七等星 投稿日:2003年09月04日(木)19時40分45秒
- 「二人とも、倒れるなら後にしてよ。今は逃げることが先」
逃げる?どういうことだ。
「土手の上からよく見れば、ここまで引きずった血の跡が見えるの。
だから一刻も早く逃げなきゃいけない」
「ま、待ってくださいよ……。だ、誰が殺したんですか?」
「私」
声のした方を見た。
紺野先輩だった。
「やっぱり安倍さんじゃなかったんだよ。
コイツが安倍さんに脅されてたなんて真っ赤なウソ。
逆だったんだよ。コイツが安倍さんを脅してた」
にわかには信じられなかった。
また足元が抜け落ちてどこまでも落ちてゆく感覚に陥った。
「とにかく、はやいとこ死体を車に乗せて、逃げるんだ。
紺野、大丈夫。私たちは味方だよ」
- 57 名前:七等星 投稿日:2003年09月04日(木)19時41分54秒
- 高橋先輩だったモノをビニールで包み、吉澤さんの車のトランクに入れた。
それだけで息が上がってしまった。
しかしもちろん私だけ逃げ出すわけには行かない。
ワゴンの後ろのドアを止めた直後、車は急発進した。
幸いにもここの辺りは人通りが少ないようだ。
とりあえず、息が詰まるような緊張から開放され、私は車内を見回した。
助手席には辻さん、真ん中の列には小川先輩と紺野先輩。
……。
紺野先輩のポケットに何かが入っていることに気づいた。
ポケットに入れるには大きくて、ゴツゴツしてて、L字型の……。
「こ、紺野先輩、その、ポケット……」
それだけ言うのにも口がからからになった。
「ああこれ?すごいでしょ。ワルサーとか言うらしいよ。
しかも消音機つき。
……、まこっちゃんを守るために買ったんだよ」
そう言って紺野先輩は微笑んだ。
- 58 名前:七等星 投稿日:2003年09月04日(木)19時43分07秒
- とうの小川先輩は何か言いたさそうな、悲しげな表情で紺野先輩を見返す。
「よっすぃー、どこに向かってるの?」
「わからない。とりあえず逃げるんだよ。それからどっか森にでも埋める」
何かが急速におかしな方向へ向かっている。
このままじゃ私も殺人遺棄幇助か何かで刑務所行きだ。
もしくは時効までどこかに隠れて暮らすことになる。
その前に高橋先輩が死んでしまったというのもまだまったく現実感がない。
そしてその犯人が紺野先輩であることにも。
何がなんだか、わからない。
そうしている間に一時間は経っただろうか。
車は今海沿いの国道を通っている。
- 59 名前:七等星 投稿日:2003年09月04日(木)19時43分46秒
- ふいに耳に入る、サイレンの音。
思わず後ろを振り返る私。
目に入るのは、人気の無い国道。赤い光。
パトカー。
「そこの車、止まりなさい」
拡声器から飛び出る声。
「な、なに、パトカー!?」
あわてふためく吉澤さんの声。
「いやあああぁぁぁ」
紺野先輩の悲鳴。
れいなの青ざめた顔。
小川先輩の凍りついた顔。
「よ、よっすぃー」
辻さんの震える声。
- 60 名前:七等星 投稿日:2003/10/19(日) 22:55
- 「吉澤さん、はやく!」
深夜の国道に悲鳴のような声が響く。
「分かってるよ!後ろはどう?」
「さっきより距離縮まってる!」
「くっそう……」
吉澤さんはいまいましそうにハンドルを叩いた。
私は助手席で、それに気付かなかったふりをして前だけを見つづけた。
空に淋しそうに輝く星と、太った三日月が見えた。
右手に見える海は真っ黒で、まるで世界の終わりのようだった。
その時、街の明かりの草原の中で、目を射るような赤い光が灯った。
吉澤さんが、信じられないと言ったように顔をしかめた。
パトカーが、道をふさいで止まっていた。
しかし私達には止まることなど、できない。
- 61 名前:七等星 投稿日:2003/10/19(日) 23:06
- 「みんなしっかり捕まってて」
言われなくても、全員しっかり前のシートにしがみついていた。
「こうなったら、地獄までのドライブだ」
吉澤さんもハンドルに噛りつきながら言った。
突如、バァン、と轟音が辺りに響き、車体が大きく揺れた。
すぐに思い当たった。パンクさせられたのだ。
車はどんどん減速していき、やがて、止まった。
吉澤さんはうなだれていた。
辻さんは泣いていた。
小川先輩は放心していた。
れいなは青い顔で唇を噛んでいた。
そして、紺野先輩は、ポケットから拳銃を取り出していた。
- 62 名前:七等星 投稿日:2003/10/19(日) 23:06
- そして無言のまま紺野先輩は車のドアを開けた。
「あさ美ちゃん…?」
「みんな、巻き込んでごめんね。
やっぱり私の責任だから私が罰を受けないと」
サイレンの音や拡声器の声で相当うるさかったはずなのに、その声ははっきりと聞こえた。
警官たちが走って近づいて来ていた。
しかし紺野先輩はビクついたりはしなかった。
そして右手に構えた拳銃を、自分のこめかみに当てた――
「! やめて!!」
小川先輩が叫んだ。私も何かを叫んだ。みんな泣きながら何かを叫んでいた。
「まこっちゃん、どんなことがあっても私が守るって約束したのに守れなくてごめんね」
「……」
- 63 名前:七等星 投稿日:2003/10/19(日) 23:07
-
次の瞬間、あたりに銃声が響き渡った。
- 64 名前:七等星 投稿日:2003/10/19(日) 23:07
- ――――――
――
―
モーニング娘。は、結局解散した。
あんな事件をマスコミに隠しとおせるはずもなく、あっという間の解散だった。
まあ、芸能界に残る人も少なくはないようだったが。
私たち、事件に関わったメンバーは、逮捕こそされなかったものの、
警察の執拗な聴取に始まり、雑誌での中傷、流言飛語、ほかのメンバーのファンからの嫌がらせなど、
膨大な苦痛を味わった。
紺野先輩は、被疑者死亡のまま書類送検となったらしい。
私たちは、実家へ帰った。
最近ようやく学校へも行き始めた。
もちろん全ての傷が癒えるにはまだまだ時間がかかるのだろうが。
あれから、れいなはタバコを吸わなくなった。
それだけではない。出会った頃のような無邪気な笑顔が戻ってきた。
最近はなかなか会えないけれど、メールでもあの頃と違うことはよくわかる。
それはきっと、れいなが、追いかけいてたはずの物の正体を知ったせいだ。
- 65 名前:七等星 投稿日:2003/10/19(日) 23:08
- Like the smoke of cigarette Fin.
- 66 名前:七等星 投稿日:2003/10/19(日) 23:10
- 終わりです。今までありがとうございました。
…といもしない読者に言ってみるテスト
- 67 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/19(日) 23:18
- 完結おめでとうございます。
突然の完結に驚いております。
ネタバレは控えさせていただきますが…。
お疲れ様でした。
- 68 名前:名無し 投稿日:2003/10/23(木) 23:22
- 完結お疲れ様でした。
それぞれのキャラクター達が、それぞれの役割を巧くこなしている感じがしました。
冒頭のシーンや所々に入れられる場面変換も興味を注がれると同時に話しに集中させられました。
しかし、自分の読解力が未熟なせいで謎が自分の中で残ったままになってしまいました。
38のシーンは一体誰で何があったのか?紺野は一体どうやってあれを手に入れたのか?真の黒幕は誰なのか?
でもタイトルが煙にかかっているので、作者さんが意図的に謎を残すようなモヤモヤ感を出していたのなら完敗です。
最後の方が自分にはスピードが速く感じたので、もう少しゆっくり膨らませて見せて頂けたら私的には嬉しかったです。
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/13(火) 12:13
-
- 70 名前:七等星 投稿日:2004/01/30(金) 02:37
- 今更ながらレスです。申し訳ない…。
>>67様
ありがとうございます。突然でごめんなさい。
てーか短すぎですね。森に建てればよかった…。
>>68様
ありがとうございます。それが狙いだったんでうれしいです。
38は高橋さんですね。紺野の拳銃の入手経路は自分もわかりませんw
真の黒幕はやはり高橋さんで紺野さんはそれになんとなく気づいていたのです。
もっと作中でわかるようにしないと駄目ですね。精進します…。
最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました。
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