蚊喰鳥劇場
- 1 名前:token 投稿日:2003年05月07日(水)21時47分30秒
- 第1回上映作品
『危険人物処理班』
日常業務
1
蒼ざめた満月の夜。都内の某公園内。一人の若い女が不安そうに歩いていた。
その10メートルほど後ろで、何かが彼女を見つめていた。全身、黒づくめの服装。スキーマスクをかぶった顔は、異様な光を宿している目だけしか見えない。
彼はゆっくりと、獲物に近づいていった。彼好みの女だ。彼女の顔が驚愕に歪むのが、目に浮かぶようだ。
後ろから、音もなく近づく。右手に愛用のナイフを握り締め、左手を彼女に伸ばす。あと、数十cm。
と、その時、彼は自分の首に何かが巻きつくのを感じた。すぐにそれは彼の首を締め付ける。
彼は何かを叫ぼうとしたが、無駄だった。その間にも、彼の獲物は、後ろで何が起こっているかも知らずに、遠ざかっていく。
それが、彼が見た、最後の映像だった。
- 2 名前:日常業務 投稿日:2003年05月07日(水)21時50分44秒
- 日常業務
2
二つの黒ずくめの影が、くっついていた。一つはたった今、絞め殺された男で、今ひとつはそれを絞め殺した人物だ。
絞め殺した方は、慣れた手つきで首に巻き付けたロープを外すと、口を閉じて密封できるビニール袋に入れた。それから、死体を軽々と担ぐと、少し離れた所にある、大きな木の下(もと)に運んだ。
そこには、黒ずくめのスーツを着て、コートを羽織った美人が立っていた。後藤真希だ。
「お疲れ!」小声だが、親しみを込めた声で労をねぎらう。
「おおっ」それまで無表情だった顔を、一瞬崩し、応える。こっちが吉澤ひとみだ。
吉澤はロープ入りのビニール袋を死体の側に置くと、そのまま、きびすを返し何処かに去っていった。
後藤はその後ろ姿を目で追いながら、携帯をかける。その顔は厳しく近寄りがたい雰囲気を、全身から醸し出している。
後藤「一班は終了。二班出動」
すぐに五人ほどの男達がやって来た。皆、一見宅配便の業者のような服装をしている。彼らは、死体に近づくと、これも慣れた様子で、木の太い枝に、吊した。
後藤は少し離れた位置で、この偽装工作を見つめていた。
- 3 名前:日常業務 投稿日:2003年05月07日(水)21時51分33秒
- 暫くして後藤の携帯が震えた。
「警官が一人近づいてきます」公園の入り口に配置した見張りからだった。
「了解」電話を切ると、後藤は男達に命じた。
「撤収急げ!」
翌日の朝刊では、連続婦女暴行殺人容疑者の自殺が、社会面を賑わしていた。
- 4 名前:口上あるいは逃げ口上 投稿日:2003年05月07日(水)21時53分01秒
- 皆さん初めまして。私はこの『蚊喰鳥劇場』の支配人tokenと申します。昨年の9月にmusume-seekに流れ着き、『娘。小説』を読み始めました。数々のすばらしい作品に触発され、いつか私も書いてみたい、と思いつつずっとROMっていましたが、なかなか決心が付きませんでした。しかし、先頃さる人から、強いリクエスト(別名脅し)を頂き、とうとうレスを立てる運びとなりました。立てた以上責任を持ち、完結目指して頑張ります。
- 5 名前:口上あるいは逃げ口上 投稿日:2003年05月07日(水)22時12分50秒
- では、お話の続きを始めたいと思います。吉澤ひとみが主役です。
年齢は少し高めの、21歳ぐらいの設定です。他にはもちろん、あの人も出てきます。
内容は、まあ、どこにでもあるような、ありふれた話ですが・・・・・。
早速やってしまいました。コピペ失敗。読みづらいですね。
P.S 紺野あさ美様、お誕生日おめでとうございます。
- 6 名前:仕事帰りに 1 投稿日:2003年05月07日(水)22時16分33秒
- 強姦魔を『処理』してから、四時間後、吉澤ひとみはタクシーの中にいた。
白ずくめのスーツで決めた格好は、彼女の男振り(?)を引き立てていた。
これは吉澤の習慣だった。彼女は『処理』を終えた後は、いつも陽気に飲み歩いた。
陽気でハンサム、おまけに金離れも良いとあって、吉澤はどこでもモテモテだった。
そしてハシゴをした後、今夜最後の一軒へと向かっていた。
やがてタクシーが止まると、吉澤は路地裏の方へと歩いていった。
月明かりの魔法が吉澤の男振りを増強させる。だが、タクシーを降りてからの
吉澤には、陽気さが影を潜めていた。ギリシャ彫刻を思わせるような、
端正な顔立ち。しかし、そこには人間らしい暖かみがなかった。
- 7 名前:仕事帰りに 2 投稿日:2003年05月07日(水)22時26分01秒
- 吉澤ひとみは、ある『組織』に所属していた。表の顔として、きちんとした職業を
持っているが、裏の顔として『処理班』と呼ばれるセクションに所属していた。
『処理班』は3班に分かれており、吉澤は一班である。ここは直接目標を『処理』する。
二班は『処理された』その死体を扱う。今回のように自殺に見せかける偽装工作をやったり、
場合によっては、死体そのものを、『処理』して行方不明者を作り出す。
三班は『広報担当』だ。主に二班の工作を補助したり、マスコミ対策をする。やりかたはまあ、
いろいろだ。
- 8 名前:仕事帰りに 3 投稿日:2003年05月07日(水)22時28分07秒
- これらを統括しているのが、班長の後藤真希だ。
もちろん、彼女の上にも、指揮官が存在する。その上にもさらに誰かがいるだろう。
実のところ、吉澤には組織の全容は知らされてはいない。何処かの企業が経営しているのか、
あるいは、政府の特務機関の一つなのか、はっきりとは知らない。後藤は、立場上、
吉澤よりも詳しいはずだが、彼女とて直接の上司以上の人間とは、面識がない。
しかも、ほとんどが電話やメールでのやりとりなので、年に数えるほどしか、顔を合わせない。
とりあえず、言えることはこの『組織』は、裏社会の存在であり、ある程度は
警察内部と通じているらしい。そして、孤児だった吉澤や後藤を、育て上げ、社会の害悪となる人物を
密かに『処理』している、ことである。
- 9 名前:token 投稿日:2003年05月07日(水)22時29分33秒
- 本日分の更新終了です。
- 10 名前:不思議少女 投稿日:2003年05月09日(金)20時15分51秒
- やがて吉澤は一軒のスナックの前で立ち止まった。『タンポポ』という看板が出ている。彼女は店の中に入った。
「はーい、カオリン元気?」陽気に挨拶しながら、カウンターに着く。カウンターには8つ席がある。こぢんまりとしているが、
なぜか居心地の良い店だ。1年ほど前に、偶然見つけてから、いつも最後はここに来るようになった。
吉澤よりも背が高く、黒髪は腰まである女性が、微笑む。ここのママ飯田圭織だ。
「いらっしゃい。ご無沙汰ね」
「仕事が忙しくてね」
飯田は吉澤の顔をのぞき込む。その大きな瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えながら、吉澤は耐える。
やがて飯田は小さな、ため息をつきながら、目をそらす。
- 11 名前:不思議少女 投稿日:2003年05月09日(金)20時18分34秒
- 「どうしたの?ママ?」
「何にする?」そのまま受け流し注文を聞く。
「ソルティードッグ」
飯田はバーテンダーに、オーダーを伝える。すると店の奥から
吉澤の知らない女の子が出てきた。
「紹介します。紺野あさ美ちゃん」
「紺野です。よろしくお願いします」ぺこりと頭を下げる。
この店は、ママの飯田圭織とバーテンダー、それに女の子が
一人か二人で営業している。スナックだからお触りはナシだ。
「へ〜。かわいいねキミ」声を低めにして口説きモードに入る吉澤。
「吉澤っ!」軽くにらむ飯田。
「あの、飯田さん、大丈夫です」そう言いながら、吉澤の隣に座る紺野。
吉澤は興味深げに、紺野を眺めた。
- 12 名前:不思議少女 投稿日:2003年05月09日(金)20時20分18秒
- 「ねえ。何かお話ししてくれない?」吉澤が二杯めのカクテルをすすりながら言う。
「そうですねぇ」そう言いながら紺野が吉澤の顔をまじまじと見上げる。
飯田ほどではないが、その大きな瞳は、吉澤をなぜか不安にさせた。
「山田朝右衛門という人を知ってますか?」
「誰それ?お相撲さん?あっ、歌舞伎の人だ!」おどけて見得を切る真似をする吉澤。
「いいえ、通称首切り朝右衛門。江戸時代から明治初期まで実在した幕府の首切り役人です」
ポカンとする吉澤。
「この名前は代々受け継がれて、確か明治の頃で八代目だったと思います」
「ふ〜ん」
「この人は月に何回か罪人の首を切る、死刑執行人なんです。」
「・・・・・」
- 13 名前:不思議少女 投稿日:2003年05月09日(金)20時21分07秒
- 「で、その仕事を終えた日は、必ず弟子達と、屋敷で夜通し浮かれ騒ぐのだそうです」
「・・・・・」
「それを見聞きする人たちは罪人のたたりじゃないか、などと無責任な噂を流したりも
していたそうですが、当人達は血に酔うと称していました。おそらく、仕事とはいえ、
そうでもしないと精神のバランスが取れなかったんじゃないかと思います」
突然吉澤が笑い出した。
「あっははは紺野さん、君、変な子だね」
「はい、すみません。でも、吉澤さんの顔を見ていたら、この話を思い出したんです」
吉澤は内心、漠然とした危険を感じていたが、なぜか紺野に惹かれてもいる自分に
気づいていた。
- 14 名前:token 投稿日:2003年05月09日(金)20時21分55秒
- 本日分の更新終了です。次回はようやくあの人が登場します。
- 15 名前:Girl Meets girl. 投稿日:2003年05月10日(土)11時26分08秒
- 2時間ほど『タンポポ』で飲んだ吉澤は、フラフラと路地裏を歩いていた。
今日はなんだか変な気分だった。いつもよりも遠回りして帰りたい気分だった。
吉澤はいつの間にか商店街を歩いていた。
商店街と言っても、時刻は、真夜中をとうに過ぎている。静かなのは当然だ。
だが、吉澤は知らなかったのだが、このあたりは通称「シャッター通り」と呼ばれ、
廃業した店が軒を連ねていた。昼間でも寂れた場所だった。
(それにしても変な子だったな?)紺野のことを思い出しながら、ゆっくり歩く吉澤。
- 16 名前:Girl Meets girl. 投稿日:2003年05月10日(土)11時26分50秒
- 日付は変わっているが、数時間前に『処理』した男の事は少しも思い出さなかった。
これはいつものことだった。長年の訓練と実践を経て、吉澤は『処理』の事を思い
出さないようになっていた。飲み歩くのもそのための一環だった。だから、首切り
朝右衛門の話には、いささかドッキリさせられた。
(彼女はあたしを、本当のあたしを理解してくれるかもしれない)
とりとめもないことを考えながら歩いていた吉澤は、その時、異変を感じた。
何か場違いな臭いが、吉澤の鼻をくすぐった。
(灯油!?)
職業柄、夜目が利く吉澤が、目を凝らすと、何者かが一軒の店の前に灯油を
まいていた。
(放火?)3人を確認した。
- 17 名前:Girl Meets girl. 投稿日:2003年05月10日(土)11時27分24秒
- 吉澤は躊躇した。警察沙汰は極力避けるようにと、後藤(つまりは組織)から、
言い渡されていた。自分はあくまで小市民を装わねばならなかったからだ。
「だっ、誰だ!」突然の誰何の声。吉澤は放火犯の一人に見つかってしまった。
この声を聞いて、吉澤は、かえって安心した。なぜなら、相手の声に、
怯えを感じ取ったからだ。
(酔い覚ましに軽くね。)
二人の男が吉澤に近づいてきた。一見してわかる、チンピラ風の若い
男達だった。
「てめー、何見てやがんだ!」
いきなり、一人が殴りかかる。吉澤は、それを軽くかわし、ボディーに
一発。男は呻きながら、道路に沈んだ。
- 18 名前:Girl Meets girl. 投稿日:2003年05月10日(土)11時28分04秒
- 「くっそー」
もう一人も殴りかかってきた。これは、カウンターパンチを顔に喰らって、倒れた。
まったく男達にとっては、災難だった。軽くかまして、黙らせてやろう、と言う目論
見の彼らには、一見、優男の吉澤が、自分たちを遙かに越える、戦闘力を秘めているとは
思えなかったのだから。
「だっ、誰?」突然上の方から声が聞こえてきた。さっきと同じせりふだが、若い女の声だ。
吉澤は声のした方へ振り向いた。
店の二階が、居住スペースになっているのだろう。そこの窓を開けて、一人の女の子が、
不安そうに顔を出していた。暗かったが、吉澤の目にはパジャマの柄まで見えていた。
- 19 名前:Girl Meets girl. 投稿日:2003年05月10日(土)11時28分46秒
- Girl meets girl.
泣き出しそうな彼女の顔を見、その瞳と目があった時、吉澤は固まった。
(うわーっ。女の子だ!)
彼女は、吉澤がイメージする、まさに「THE女の子」だった。
吉澤の心に何かが、生まれた。なんだろう、このドキドキは・・・。
しばし、呆然とする吉澤。これが、油断を生んだ。
危険を感じ、危うく身をかわす。左手の甲に、鋭い痛みが走った。左手に
浅い切り傷が出来ていた。
灯油をまいていた三人目が、ナイフを構えていた。
手の甲の血をなめる吉澤。スイッチが入った。
次の瞬間、吉澤は男に向かっていった。
ナイフを振り回す男。紙一重でかわし、そのまま顔にパンチ。首を後ろに
のけぞらせる男。道路に落ちるナイフ。だが、吉澤は止まらない。殴る、殴る、
殴る。ひたすら殴り続ける。男は、電信柱を背に、人間サンドバッグと化していた。
- 20 名前:Girl Meets girl. 投稿日:2003年05月10日(土)11時30分53秒
- 「やめて!」甲高い声に、吉澤は我に返った。
(あちゃ〜、またやっちゃったよ)やや、自己嫌悪に陥りながら、吉澤は振り返った。
そこには、さっきまで二階にいた女の子が、必死の表情で立っていた。胸の前に挙げ
られた両手は、小さな拳が握りしめられていた。よく見ると微かに体が震えていた。
「もう、やめて、お願い」訴えかけるようなその瞳に、吉澤はまた魅入られそうに
なる。しかしそれを、覚醒した理性を総動員して、何とか回避した。
「あっ、いや。その。こいつらが、火をつけようとしていたから・・・・・」
それを、聞くと女の子は怯えた顔したが、それでも何とか、まるで体中の勇気を
絞り出すようにして、吉澤に言った。
「でも、やりすぎだよぉ!」
(かわいいな〜)と思いながら、吉澤は、言った。
「うん、そうだね」
- 21 名前:Girl Meets girl. 投稿日:2003年05月10日(土)11時32分21秒
- 「警察を呼んでくるね」そう言いながら、吉澤はこの場を離れようとした。
もちろん、このままバックれるつもりだ。いささかやりすぎたため、警察
沙汰は不味いからだ。
「血、出てるよ」女の子が、吉澤のスーツの裾を掴んでいた。
「ね、手当てしよう」
「大丈夫だよ、このくらい」
「だめ!だめだよ」眉をハの字にしながら、女の子は吉澤を必死に引き留めた。
この時、チンピラの二人が、一人では動けなくなった仲間を運んで逃げ出した。
実のところ、ずいぶん前から動けるようになっていた二人だったが、吉澤の猛ラッ
シュを見て、逃げ出すことしか考えていなかったのだ。そして、ようやく隙を見つ
けて、逃げ出せたのだった。
「覚えてろ〜」それでも、お約束の捨てぜりふは忘れなかった。もっともそれは、
だいぶ離れてからだったが・・・・・。
- 22 名前:Girl Meets girl. 投稿日:2003年05月10日(土)11時34分29秒
- 吉澤にとっても、彼らがいなくなってくれた方が好都合だったので、
何もせずに見送った。(さあ、あたしも行かなくっちゃ)。
「お願い!」吉澤は背中越しに女の子に抱きつかれていた。彼女の鼓動が、
体温とともに伝わってくる。
「小さな傷でも黴菌が入ったら、死んじゃうんだよ!!」
「へっ?」吉澤は力が抜けた。(う〜ん。確かに破傷風にでもなったら
やばいかもしれないけれど、今時、都会で破傷風なんてね)
吉澤が振り向くと、女の子は目をウルウルさせていた。
これが吉澤ひとみと石川梨華の出会いだった。
- 23 名前:token 投稿日:2003年05月10日(土)11時35分15秒
- 本日の更新終了です。
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月11日(日)01時41分24秒
- 面白いですね。期待してます。
- 25 名前:token 投稿日:2003年05月11日(日)20時43分41秒
- レスが来た━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
>名無し読者様
ありがとうございます。あなたが初めてのお客様です。
ご期待に添えるか解りませんが、頑張ります。
と、言うわけで、予定を前倒しして、更新します。
- 26 名前:表の顔 投稿日:2003年05月11日(日)20時44分20秒
- 翌日、午後2時頃。ここは、フィットネスクラブのエアロビスタジオ。
20人ほどの生徒とともに、軽快に吉澤が踊っていた。
彼女のエアロビは、どこか人を惹きつける物があった。溌剌とした若さ
と、開放感を感じさせる動き。ひょっとしたら、裏の仕事で抑圧された
何かを、ここで、無意識のうちに、発散させていたのかもしれない。
だからだろうか、彼女はここの人気講師だった。
「は〜い。じゃあ、今日はこれで終わりにしま〜す」
曲が終わり、授業の終了を告げる吉澤は、ほとんど息が乱れていなかった。
生徒達が、吉澤に挨拶をして、次々に帰っていく。それらに、にこやかに
対応しながら、吉澤は辺りを見回した。居た。彼女だ。
吉澤は、スタジオを出て、廊下の自販機コーナーの前に移動した。
そこには、彼女が待っていた。
- 27 名前:表の顔 投稿日:2003年05月11日(日)20時44分52秒
- 「ごっちん!」嬉しそうに、吉澤は近づいていく。
「やあ」軽く片手を挙げて、後藤真希は応えた。
「来てくれたんだ」スポーツドリンクを買いながら、吉澤が言った。
後藤は今日も黒いスーツで決めていた。吉澤は心の中でいつも、
後藤のかっこよさを、賞賛していた。
「来ないわけには、いかないだろう」缶コーヒーを買うと、吉澤の
隣に腰を下ろした。二人とも目を合わせない。
「で?」しばらくの沈黙の後、吉澤が尋ねた。
「寺田興行のチンピラだね」
「あそこか〜」
寺田興行とは、この町を牛耳る暴力団だ。警察にも顔が利くし、
市長との癒着も噂されていた。
「病院に喧嘩で大怪我したチンピラが運ばれてね。それでわかった」
「面目ない。ちょっとやりすぎたよ」
「ホントだよ」突然声のトーンをあげて、後藤が吉澤の顔を見た。
「よしこはバカだから、加減って物を知らないんだから」
「ひどいなー、あたしバカじゃないよ〜」
二人の間の雰囲気が変わった。よそよそしさが取れ、親しい
友人同士のそれへと。
- 28 名前:表の顔 投稿日:2003年05月11日(日)20時47分36秒
- 「だからね、よっすぃー。しばらくはおとなしくしてなきゃだめだよ」
しばしの、談笑の後、後藤が言った。口調は優しいが、目は笑っていなかった。
「うん、わかった」
後藤がそろそろ腰を上げようとした時、
「あのさ〜」
「何?」
「あいつら何で放火しようとしてたの?」
「よっしぃ〜」
「いや、あのさぁ。やっぱ気になるじゃん!」
「余計なことに首を突っ込んじゃだめだよ」
「お願い、ごっちん。ちょっと調べてくれない?」吉澤が後藤の目を
のぞき込んで言った。後藤は決して認めなかっただろうが、この、
吉澤のお願いモードに弱かった。
「地上げのため、としか今は言えないね」不承不承、言った。
「・・・・・」
「あの喫茶店を立ち退かせたいんだよ」
「どうしてかな」
「さぁ〜ね」
「ごっち〜ん」今にも、「ごろにゃ〜ん」と甘えてきそうな様子で、
吉澤が迫った。
軽くため息をつくと、後藤は立ち上がりながら言った。
「解った。情報収集担当としては、潜在的な敵である寺田興行の
動向に、注意する必要があるからね。調べとくよ」
「ごっちん。大好き〜」吉澤が抱きついた。
汗が気持ち悪いよ、などと言いながら、しばしじゃれ合う二人。
- 29 名前:token 投稿日:2003年05月11日(日)20時48分10秒
- 本日分の更新終了です。
- 30 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月12日(月)04時15分23秒
- サクサク読めて面白いですよ〜
ストーリー展開に期待しています!
- 31 名前:裏の顔 投稿日:2003年05月13日(火)22時24分24秒
- 不意に、後藤の表情が変わった。
続いて、吉澤も表情を引き締めた。
((誰か、来る!))
二人は9歳で『組織』の運営する、養成所に入れられた。その歳で
孤児(みなしご)だった。
同期には、30人程の男女が居た。皆同年代で身寄りがない子供達
ばかりだった。
その養成所で、吉澤達は、様々な事をたたき込まれた。訓練教官には、
元傭兵や殺し屋、などの物騒な連中が揃っていた。訓練内容は推して知
るべし、だろう。
15歳の時、5人が残っていった。他の者達は様々な理由で、脱落
していった。訓練中に死んでいった者もいたし、脱走を試みて失敗し、
逃げ切れないと見るや、自ら命を絶った者も居た。中には、一夜明け
たら寝床から消えていた者もいた。12歳の女の子だった。その時は、
脱走者の捜索が、なぜか行われなかった。普段から、脱走には非常に
警戒していた施設だったのに・・・・・。
- 32 名前:裏の顔 投稿日:2003年05月13日(火)22時25分01秒
- その5人は、各自の適正に従って、各セクションに割り振られた。
成績優秀で、特に感情のコントロールが抜群の後藤真希は、幹部
候補として、実戦を通じた研修へと。優秀だが、感情が爆発すると
暴走する吉澤は、処理班の1班へと。
二人は、それぞれ、更に3年間を生き抜き、再会を果たした。
それから、3年。二人の関係は続いていた。
- 33 名前:裏の顔 投稿日:2003年05月13日(火)22時25分56秒
- 長年の訓練と、実践の結果、彼女たちの五官は、常人を遙かに越えて
研ぎ澄まされていた。たとえ眠っていても、人の気配に気づくぐらいに。
表面上は呑気な様子で、吉澤は接近者を待った。後藤はいつもの近寄
りがたい雰囲気を漂わせていた。
「こんにちは〜」
「梨華ちゃん!?」
やって来たのは、昨日喫茶店で出会った女の子、石川梨華だった。薄
いピンクのダッフルコートに、これまたピンクの帽子を被っていた。そ
してかわいらしい手袋をした手には、小振りのバスケットを下げていた。
まるで、ピクニックに行くような格好だった。
「あたしは、これで」後藤は、梨華と入れ替わるように、去っていった。
梨華とすれ違いざま、鋭い一瞥をくれながら。
「吉澤さん。改めて、お礼に伺いました。本当に、ありがとうございま
した」深々と梨華は頭を下げた。
- 34 名前:裏の顔 投稿日:2003年05月13日(火)22時26分44秒
- 「別に、わざわざ来なくても・・・・・」
昨夜、あれから梨華の強引さに負けて、吉澤は手当を受けた。リビン
グに通され、念入りに傷を消毒され、包帯を巻かれた。その間、吉澤は
梨華から、幼い頃弟が破傷風で死んだことを聞かされた。
その後、帰り際つい名刺を渡していた。いや、本当は、渡したかった
のかもしれないが・・・・・。
(ごっちんに、言われたばかりだし、さっさと、追い返そう)吉澤がそ
う思っていた時、
「これ、お口に合うかどうか、解らないんですけど」梨華が、バスケッ
トを差し出した。
「何?」
「お礼の代わりです。ベーグルサンド」
「ベーグル!」
「はい、あたしが作りました」
(まあ、せっかくだからね、うん。それにそろそろ3時だし)
吉澤は既に、どこで食べようかと考えていた。
- 35 名前:token 投稿日:2003年05月13日(火)22時27分34秒
- 本日分の更新終了です。
ベーグルはお約束と言うことで。
>名無し読者様
ありがとうございます。頑張ります。
- 36 名前:梨華の事情 投稿日:2003年05月14日(水)19時48分09秒
- 楽しい食事は、人を幸せな気分にする。
幸せな気分になると人は、寛容になる。
吉澤の勤めるフィットネスクラブは、地上7階、地下2階の自社ビル
であり、その経営母体は『組織』である。もっとも、『組織』の人間は、
吉澤を含め、10人ほどしか居ない。彼らは主にセキュリティ関係に集
中していた。残りは、ごく普通のスポーツインストラクターや、バイト
達であった。
今、吉澤は屋上に作られた、簡易温室の中のベンチに座っていた。い
わゆる、癒しを目的として作られた施設で、ここは、時間割で使用権の
優先順位が決められており、今は職員優先の時間であった。
この中は現在、温度が春に設定されていて、蝶々すらもちらほら飛ん
でいた。そんな中で、吉澤の隣には、梨華が腰を下ろし、ベーグルサン
ドを次々に勧めたり、魔法瓶に入れてきたコーヒーを注いでやったり、
と何かと世話を焼いていた。確かにちょっとした、ピクニック気分だ。
- 37 名前:梨華の事情 投稿日:2003年05月14日(水)19時49分08秒
- 「梨華ちゃんは食べないの?」一緒に食べたい、と言ってついてきた梨
華が、ベーグルサンドを一つしか食べず、コーヒーを啜っているのを見
て、吉澤が尋ねた。
「うん、よっしぃーの食べてるのを見ているだけでいいんだ!」
「えっ!?」
「どうしたの?」
「よっしぃーって」(あたしニックネームを梨華ちゃんに教えてないよ)
「ごっごめんなさい」梨華は顔を真っ赤にして謝った。
(梨華ちゃんて、いったい・・・・・)
- 38 名前:梨華の事情 投稿日:2003年05月14日(水)19時49分48秒
- 「あっ、あのね。怒らないでね。私に死んだ弟がいたって話したでしょ
う。その子ね、義人と言う名前で、よっしぃーって呼んでたの」
「・・・・・」
「で、ねっ。吉澤さんの顔がね、義人に、弟にそっくりなの」梨華が早
口になった。
「あのね、たまにね。たまに想像してたの。もし弟が生きていたら、ど
んな子になってたかって。うん。変なことだって解ってる。解ってるん
だ。だけど、最近ちょっと辛いことが続いていたし、なんだか、あの子
のこと思い出すことが、多くなっちゃって」
梨華は沈み込んでいった。声のトーンが暗くなってきた。
「で、ね。吉澤さんを初めて見たとき、びっくりしたの。弟は生きてい
たんじゃないかって、思ったんだもん」
「ベーグルはね、弟が好きだったの。美味しそうに食べる吉澤さんを見
ていたら、つい、ホントごめんなさい。迷惑だよね、こんな事って・・
・・・」とうとう梨華はしくしくと泣き出した。
- 39 名前:梨華の事情 投稿日:2003年05月14日(水)19時51分11秒
- 暫くの後、吉澤が言った。
「その、弟さん、義人さんだっけ、本当にあたしに似てたの?」
「うん」うつむきながら、梨華が応える。
「じゃ、男前だったんだね」冗談めかした口調で言う吉澤。
「へっ!?」梨華が顔を上げた。
「元気出してよ。あたし別に怒ってないよ。それにあたしも友達からは、
よっしぃー、て呼ばれてるんだから」
「本当!?」梨華の声のトーンも上がった。
「うん。吉澤をもじって、そう呼ばれているんだ。だから・・・。だか
ら、どうして梨華ちゃんが、その呼び方を知ってたのか、不思議だった
んだよ」
「ありがとう。やさしいね吉澤さんは」
「よっしぃーで、いいよ。あたしだって梨華ちゃんて、呼んでるんだしさ」
「うん、ありがとう。よっしぃー」
- 40 名前:裏の顔 投稿日:2003年05月14日(水)19時52分00秒
- 「あ、でも、梨華ちゃんあたしより、年下でしょう」
「そんなことないよ。あたしの方がお姉さんのはずだよ」
吉澤は梨華の歳を聞いて、驚いた。確かに、自分よりも一つ上だった。
(絶対、年下だと思ったんだけどなあ)
吉澤が年下だと確定すると、梨華はおどけて、姉らしく振る舞い始めた。
(さっきまで、泣いてたのに、切り替えが早い子だな。でも、なんか楽しいなあ)
時間の流れが速くなった気がした。
- 41 名前:token 投稿日:2003年05月14日(水)19時52分31秒
- 本日分の更新終了です。
- 42 名前:裏の仕事 投稿日:2003年05月15日(木)22時48分52秒
- 3日後、吉澤はまた一人の男を『処理』した。今回の標的は、19歳
の少年だった。
仲間を率いて、ホームレスを何人も襲い、そのうち3人を死に至らし
めた、自称フリーターの、要するにプーである。
仲間との待ち合わせの場所へと急ぐ少年を暗がりで襲い、首を折った。
これで、明日の朝刊には、歩道橋から転げ落ちて事故死した少年の記事
が載るはずだ。
吉澤の『処理』の方法は、後藤から、つまりは上からのリクエストに
基づいていた。ナイフや拳銃ももちろん使えるのだが、基本的には事故
や自殺を装う様にしていた。なぜなら、殺人と事故死では、警察の追求
の仕方が大きく違うからだ。
もちろん、犯人をでっち上げる、と言う手段もあるが、少なくとも後
藤が指揮を執るようになってからは、それは一度も行われてはいなかった。
空はどんより曇り空。ワルの少年が死ぬにはうってつけの晩だった。
- 43 名前:スナック『タンポポ』 投稿日:2003年05月15日(木)22時49分30秒
- 「いらっしゃい。今日は早いわね」飯田ママが吉澤に声を掛けた。
「は〜い。も〜、カオリンに早く会いたくてね」いつものようにスーツ
で決めた吉澤が、『タンポポ』にやって来た。手には大きめの、某有名
デパートの紙袋を下げていた。
「嘘おっしゃい。紺野でしょ」
「ははは」
「こんばんは。吉澤さん」カウンターの吉澤の隣に紺野が来た。
「バーボン。ボトルで」
「!?」
「あっ、今日はまだ、全然飲んでないんだ」弁解するように吉澤が
説明する。
「それと、これは、紺野さんに」そう言いながら、紙袋から取り出
した物を渡した。
「マシュマロ・チョコ!!」紺野の声のトーンが上がった。
「紺野さん、好きだって言ってたでしょ」
「飯田さ〜ん」甘えるように紺野が名前を呼んだ。
「しょうがないわねぇ〜。ティーバッグでいいわね」
「はい、お願いします。あっ、でも砂糖は結構です。太りますから」
ウキウキしながら、紺野は紅茶を待っていた。
- 44 名前:スナック『タンポポ』 投稿日:2003年05月15日(木)22時50分12秒
- 「そうですね〜。つまり梨華さんは、精神的に追いつめられている可能
性がありますね」マシュマロ・チョコを次々とつまみながら、紺野が答
えた。
吉澤はやや迷ったが、この知り合ったばかりの、不思議少女に、梨華
のことをそれとなく、相談してみようと思ったのだった。だからわざわ
ざ、紺野の好物だというチョコレートを土産に持って来たわけだ。
「梨華ちゃんが!?」
「情報が少ないので、これは想像ですけれど、その亡くなった弟さんが
いた頃が、梨華さんにとって、もっとも幸せな時期だったのでは、ない
でしょうか。あっ、紅茶のお代わりをお願いしま〜す」
3杯目の紅茶が来た。36個入りのマシュマロ・チョコは既に半分が
無くなっていた。
「ですから、梨華さんは辛い現実から逃げ出したい、と思っているので
はないでしょうか」
- 45 名前:スナック『タンポポ』 投稿日:2003年05月15日(木)22時50分55秒
- 「ふ〜ん」(梨華ちゃん、そんなに苦しんでいるんだ!)
梨華が苦しんでいる様を想像すると、吉澤の心が痛んだ。
(彼女には笑顔が似合うのになあー)
「それとですね、これも想像なんですが、切り替えの早いというのは、
別の見方をすれば、情緒不安定とも言えますね」
紺野はそう言ってまたチョコを一つ食べ、紅茶を飲んだ。
「場合によっては、カウンセリングを受けた方がいいかもしれませんね」
結局、その夜は、2時間ほど過ごした後、吉澤はマンションに帰って
いった。その間に吉澤はボトル1本を空け、紺野はマシュマロ・チョコ
2箱を、ほとんど一人で平らげていた。ちなみに紅茶は7杯飲んだ。
- 46 名前:token 投稿日:2003年05月15日(木)22時51分31秒
- 本日分の更新終了です。次回は悪役の男が登場します。(予定)
- 47 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月15日(木)23時18分30秒
- 連夜の更新乙です。おもしろいです。
私もマシュマロチョコが食べたい。
飲み物はよすぃと同じバーボンで。
- 48 名前:寺田興行 投稿日:2003年05月16日(金)13時44分22秒
- 「おい、てめえら、俺の顔に泥をぬるんじゃねーえぜ」
ここは寺田興行の組事務所の一室。いかにも、その筋のアニキ風の男が、
床に正座させられている若い男達に「説教」していた。
「でも、兄貴ぃ〜」
「黙れ!3人がかりで、シロウトに負けるたぁー、どお言うこった。あっ?」
「あいつ、きっとボクサーかなんかですよ」
「ふん、おめえらは、武闘派の俺様の舎弟だ。喧嘩に負けるのはゼッテー許せねぇ」
吉澤にやられた二人のチンピラが、兄貴分の山崎に叱られていた。山崎は、
この組の幹部で、次期組長候補の一人だった。と、言っても有力候補はまだ
他にいたので、ここ時期での失点は、なんとしても避けたいところだった。
それなのに武闘派を自認する自分の舎弟が、3人もやられ、そのうち
一人は病院送りなどと、情けない有様であった。そのため、「説教」にも、
自然と力が入った。
- 49 名前:寺田興行 投稿日:2003年05月16日(金)13時45分02秒
- 「とっとやつを探し出して、おとしまえをつけてきやがれ!」
((やっと兄貴の説教から解放される!))そう思いながら、チンピラ
二人が、立ち上がって出ていこうとした時だ。
「お待ちなさいな」
隣の部屋のドアが開き、縁なし眼鏡をかけた、細身の男が舎弟を四人
引き連れて、入ってきた。
「けっ、嫌な野郎が」山崎は呟いた。
「おとしまえもいいが、おまえ達、あの喫茶店はどうなったんだね?」
男は、もう一人の有力組長候補の和田薫だった。彼は頭脳派を自認していた。
「いや、それは・・・・・」
- 50 名前:寺田興行 投稿日:2003年05月16日(金)13時45分57秒
- 「おう、今はそれどころじゃねんだ!極道はなぁ、なめられたら終わり
なんじゃ」
「喫茶店の地上げは、組長の命令だったはずだが」白々しく言う、和田。
「くっ(このインテリヤクザが)」山崎は心の中で毒づいた。
緊張感をはらんだ沈黙が続いた。
「まあ、いいでしょう」和田がその沈黙を破った。
「私も暇になったので、今からちょっと、その喫茶店に行って来ましょ
うか」
「な、何だと!?」山崎が立ち上がった。
和田はにやりと唇をゆがめながら、
「なーに。店の地上げのひとつやふたつ、私が片づけてあげますよ」
「ふざけるな!」山崎は気色ばんだ。和田の舎弟達が、戦闘態勢に入った。
しばしのにらみ合い。
「まあまあ」また、和田が間に入った。
「組長には、さっき電話で許しをもらったんですよ。ですから、ね」
- 51 名前:token 投稿日:2003年05月16日(金)13時47分07秒
- 本日分の更新終了です。
諸般の事情で、お昼休みがずれました。
幸いノートパソコンを持ってきていたので、
こんな時間に、うp出来ました。
今回は、娘。が一人も出てきません。(うううっ、ごめんなさいです)
次回は、必ず出ますので、ほんの少しお待ち下さい。
>名無し読者様
ありがとうございます。がんがります!
- 52 名前:喫茶「ひまわり」 投稿日:2003年05月17日(土)19時53分14秒
- その時店には、客が一人しかいなかった。黒いスーツで決めた美女、
後藤真希だ。
彼女は吉澤の頼みで、この喫茶店の地上げについての調査をした。
自分の仕事の合間をぬっての事だったが、彼女にとっては、楽な仕事
だった。一通りの調査は終わったのだが、吉澤に報告する前に、ふと、
吉澤が気にかける女、石川梨華に会ってみよう、という気になった。
(別に、変な意味じゃないよ。ただ、・・・・・)
心の中で誰に対するでもない、言い訳をしながら、後藤は喫茶店に
入っていった。
「あの〜。この間、吉澤さんと、一緒にいらした方ですよね?」
注文を取りに来た梨華が尋ねた。
(ふ〜ん。覚えていたんだ。あたしの顔を)
- 53 名前:喫茶「ひまわり」 投稿日:2003年05月17日(土)19時53分55秒
- 「ああ、私もあそこに通ってるから」面倒くさそうに答えた。
「そうなんですか。あっ何になさいます?」
後藤はコーヒーを注文し、視線を窓の外へと移した。かまってくれる
なと言う意思表示だ。
梨華はカウンターの向こうで、コーヒー豆をひき始めた。香ばしい香
りが広がっていく。
後藤は梨華の様子を盗み見ていた。
(何だか手つきが危なっかしいなぁ)
後藤の前に置かれたコーヒーは、それでも、なかなかいい味だった。
ゆったりした時間が、流れて行く。
- 54 名前:喫茶「ひまわり」 投稿日:2003年05月17日(土)19時55分28秒
- その時、誰かが店の中に入ってきた。
「いらっしゃいま・・・」梨華が反射的に声をかけたが、それが途中で
止まった。
入ってきたのは、いかにも暴力団風の男が四人と、縁なし眼鏡をかけ
た、どことなく嫌みのある男だった。もちろん和田薫とその舎弟達だ。
「なっ、何のようですか」梨華の声は震えていた。
「ビジネスの話ですよ。ビジネスのね」和田は微笑んだが、どう見ても
愛嬌のある物ではなかった。
「ここを買いたいんですよ」
「帰って下さい。お客さんもいるんですから!」
梨華の言葉に、わざとらしく和田は店内を見回し、まるで今気づいた
とばかりに、後藤に目を向けた。
「おおっこれは失礼」そう言うと、和田は後藤のそばにやって来た。後
藤はつまらなそうに、頬杖をついていた。
- 55 名前:喫茶「ひまわり」 投稿日:2003年05月17日(土)19時58分09秒
- 「君君。これをあげるから、どこかで缶コーヒーでも飲みなさい」
そう言いながらポケットから500円玉を出すと、気取った手つきで、
それをはじいた。500円玉は回転しながら後藤の目の前に来た。後藤
はそれを大儀そうに片手で受け取った。
「じゃあ」和田はくるりと背を向け、戻ろうとした。
「んあ〜」突然後藤が変な声を上げた。和田は振り返った。
「おじさん。これ、使えないよ〜」そう言いながら、後藤がもらった
500円玉を軽く投げ返した。
和田はそれを、また気取った様子で右手で受け取ると、手のひらを開
いて、その500円玉を見た。すると和田は顔色を変え、後藤の顔を見た。
後藤は相変わらず、とぼけた顔をしていた。
「兄貴、どうしたんですか?」様子がおかしいことに気づき、舎弟の一
人が尋ねた。
「かっ、帰るぞ」和田はそれだけ言うと、店を出て行った。慌てて男達
が続いて行った。
店では、梨華が訳が分からず、ぽか〜んとしていた。
「ねえ、コーヒーお代わり」後藤がにやつきながら言った。
- 56 名前:喫茶「ひまわり」 投稿日:2003年05月17日(土)19時58分54秒
- 「私はね、はっきり言って腕力には自信がないよ」しばらく無言で歩き
続けた和田が、突然立ち止まった。兄貴分の意図が分からず、舎弟達は
黙っていた。和田は続けた。
「今日びのヤクザは、力じゃねぇー、ここよ。この頭よ。私は今日まで、
こいつを頼りにのし上がってきたのさ」
「へえ」
「自分より強い奴とは正面からはやらない。それが私のモットーだ」
「でも、兄貴」
「これを見な」和田は、後藤が投げ返した500円玉を見せた。
「こっ、こいつぁ」
和田が差し出したそれは、二つに折り畳まれていた。
「こんな事を出来る奴にゃあ、ケンカは売れねー」
「で、でも、手品かなんかじゃ・・・」
- 57 名前:token 投稿日:2003年05月17日(土)19時59分32秒
- 「バカ野郎!」舎弟を小突きながら、和田が続けた。
「あいつの目を見なかったのか。ふにゃっとにやけた面をしてやがった
が、目が笑ってねぇ。いや、ありゃ人間の目じゃねぇ。監視カメラかな
んかの、相手を人と見なしていない、そんな目だった」
思い出したかのように、和田は身震いをした。
舎弟達は何も言えなかった。しばしの沈黙。が、やがて、
「おい、お前ら。しばらくあの店を見張っとけ」
「へい」
「あいつが、たまたま居合わせた客だったら、構わねぇ。だが、もし、
これ以上関わってくるようなら、私はこの件を降りるよ」
「あっ、兄貴」
「なあーに、そん時は、山崎の馬鹿をおだてて、奴にやらせる。そうす
りゃ、潰しあって一石二鳥だ」狡がしそうに和田が言った。
- 58 名前:token 投稿日:2003年05月17日(土)20時01分20秒
- 本日分の更新終了です。
今日も外から更新です。まだ帰れそうにありません。(ううう)
お約束通り、娘。は出てきましたが、よっしぃーは出てきません。
主役なのに・・・・・。よっしぃーカムバ〜ック!
- 59 名前:フィットネスクラブ 投稿日:2003年05月18日(日)07時39分30秒
- ここは吉澤が勤めるフィットネスクラブの地下3階。
表向きの設計では、このビルは地下2階までしかない。だがこの階に
は、組織のメンバー専用の施設があった。射撃練習場だ。
後藤真希は、拳銃を両手で構え、引き金を引いた。
6発すべてを撃ち終わると、標的の確認をするために、脇の壁のボタ
ンを押した。吊された標的が、こちらに戻って来た。
「へ〜、珍しいじゃん」
「んあっ?」
「一発外してるね」
いつの間に来たのか、吉澤が後藤の後ろから標的をのぞき込んでいた。
(背後を取られた)
耳を保護するための防音ヘッドホンをしていたとはいえ、後藤が人の
接近に気づかないのは、あり得ない事だった。たとえそれが、自分に対
して敵意を持たない吉澤だったとしても。
- 60 名前:フィットネスクラブ 投稿日:2003年05月18日(日)07時40分18秒
- ここ3日程、後藤は、自分が少しおかしい事を自覚していた。
原因は解っていた。だが、自分では認めたくはなかった。だから、努
めて考えないようにしていた。その結果、集中力に支障をきたし、組織
有数の拳銃使いの腕に影響が出ていたのだ。
「へへへへへ」笑ってごまかしながら、後藤は吉澤に言った。
「よっすぃ〜もやる?」
「う〜ん、パス。あたしはいいや。使わないし」
「でも、たまには練習しとかないと、腕が落ちるよ」
「大丈夫だよ。それに硝煙臭くなるから」
「それって、遠回しに、後藤が硝煙臭いって言ってない?」
突然、吉澤は後藤を抱きしめ、髪の臭いを嗅いだ。
「ごっちんはいい匂いだよ」
「あっははは、やめろよ、よしこ〜」
しばしのじゃれ合いが続いた。
- 61 名前:フィットネスクラブ 投稿日:2003年05月18日(日)07時40分53秒
- 「で、どうなの。調べてくれたんでしょう?」
「うん。あそこら辺一帯をつぶしてね、ショッピングセンターを造る
計画があるんだ。内緒なんだけどね」
「内緒?」
「うん。安く買い叩くには、その方が都合がいいんだよ。ほとんどの
お店は立ち退いたり、その予定だったりするんだけど、梨華ちゃんは
お店を続けたがってるんだ」
「寺田興行が絡んでるのは?」
「市長がね、この計画の黒幕なんだよ。今ね、あいつの経営する会社
の資金繰りが苦しいらしいんだ。不況だからね。それに、任期も長い
し歳だから、そろそろ今後の身の振り方を考えなくちゃならないんだ
ろうねぇ」
「ふ〜ん」吉澤は考え込んだ。
「よっすぃー。だめだよ」
「えっ!?」
「もう、あの連中に関わっちゃだめだよ。面倒なことになるから」
「・・・・・」
(梨華ちゃんに関わっちゃだめだよ!)
「それより、次の仕事なんだけど、」後藤は一番言いたかった言葉を
飲み込んで、仕事の打ち合わせを始めた。
- 62 名前:token 投稿日:2003年05月18日(日)07時41分34秒
- 本日分の更新終了です。
まずは、訂正です。57の名前の欄がtokenになっていますが、
喫茶「ひまわり」の間違いです。ごめんなさい。
昨夜はとうとう、おうちに帰れませんでした。部屋に着いたのは、
午前1時に近かったです。その後、速攻、寝ようとしたのですが、
眠れません。そこで、お話の続きを少し書きました。
やっと、よっしぃー登場です。へへへ。
そろそろ展開が、怪しくなってきました。大丈夫か作者?(笑)
では、また!
- 63 名前:紺野あさ美 投稿日:2003年05月19日(月)12時05分44秒
- 「ショッピングセンターですか?」
今夜も吉澤は『タンポポ』で飲んでいた。
隣には、いつものように、紺野がちょこんと座っていた。
「うん、もしもだけど、この町に大きなやつが出来たら、少しは景気が
良くなるのかなぁと思ってさ」
「そうですね〜」紺野は小首を傾げた。
「規模にも依りますけど、初めのうちは物珍しさも手伝って、人が集ま
るでしょうね。」
「うん」
「でも、そのうち、飽きられて、ガラガラの建物になるんじゃないでし
ょうか」
「じゃあ、元に戻るだけかぁ」
「いいえ。大規模ショッピングセンターが出来ると、その周辺の小売店
はほとんど潰れます。だから、元に戻るだけじゃなくて、町が余計に寂
れるでしょうね」
- 64 名前:紺野あさ美 投稿日:2003年05月19日(月)12時06分34秒
- 「マジっすか?」
「はい。この町の人口及び産業構造等を加味して考察すると、これが一
番妥当な予測だと思います」
(と、言うことは造らない方がいいって事か)
吉澤はグラスを飲み干した。
「はぁ〜」しばらくして、紺野がため息をついた。
「どうしたの?」
「いえっ、なんでもありません」
「紺野はね〜、吉澤のお土産を楽しみにしていたんだよね?」
お代わりを持ってきたときに、からかうように飯田が言った。
「わっ、ごめんね!すっかり忘れてたよ」
前回の帰り際、吉澤は紺野に、またお菓子を持ってくると約束してい
た。普段、他の店の女の子にもマメに花束などを持っていく吉澤にして
は、珍しいことであった。
- 65 名前:紺野あさ美 投稿日:2003年05月19日(月)12時07分31秒
- 「いいんです。きっと吉澤さんの頭の中は、誰かさんのことでいっぱい
なんでしょうから」
「じゃ、じゃあさあ。これから、何か食べに行かない?まだ、宵の口だ
し」最近の吉澤は、他の店に寄らずにまっすぐここに来るので、まだ時
間が浅かった。
「吉澤っ!ウチではお持ち帰りはナシ、だよ!」飯田が睨んだ。
「いいんです。それに、お仕事もありますから」
「ごめんね!ほんっと、ごめんね!じゃあさあ、お寿司でもとろうか?」
「いえ、大丈夫です。私はただ、吉澤さんがわざわざ持って来てくれた
物が欲しかっただけですから」
「こ・ん・の。言い過ぎよ」飯田がつっこんだ。
「ごっ、ごめんなさい」紺野は頬を赤らめ、それを両手で包み込んだ。
(紺野さん・・・・・)
その後、何となく気まずくなった吉澤は、マンションへと帰っていっ
た。更に、15分後、まだ、早い時間だったが『タンポポ』は本日の営
業を終えた。
- 66 名前:token 投稿日:2003年05月19日(月)12時08分35秒
- 今日も、お昼休みに、外から更新です。
「紺野さん、がっかりの巻」でした。(笑)
次回こそ、梨華ちゃんとよっしぃーが、からみます。
また〜り、お待ち下さい。
- 67 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月19日(月)18時55分14秒
- はじめまして。いつも楽しみに見ています。
スゴク面白いので毎日チエックさせてもらってます!
これからもがんばってくださいね。
- 68 名前:ネガティブ・モード 投稿日:2003年05月20日(火)06時51分48秒
- お昼。飲食店にとっては、かきいれ時のはずだが、ここには誰もお客
がいなかった。
もちろん、梨華のいれるコーヒーや、作る料理の味が酷いせいではな
い。長期間の寺田興行の嫌がらせに、常連客が離れていったためだ。
「はあー」大きくため息をつくと、梨華はカウンターの中の席から立ち
上がった。
(もうだめかな?)
(あたしのコーヒーや料理がもっと美味しかったら、嫌がらせにも負け
ないのになあ)
(せめて、焼きそばが、もっと上手に出来たなら・・・・・)
だんだんネガティブ・モードになっていく梨華。
店の中を、あちこち歩き回る。
(つらいよ〜。お母さん)
今は亡き母を思う。この店の先代経営者だ。
- 69 名前:ネガティブ・モード 投稿日:2003年05月20日(火)06時53分17秒
- 梨華は、捨て子だった。ある冬の朝、店の前に置かれたバスケットの
なかに、生後3ヶ月ぐらいの女の子が入れられていた。使い捨てカイロ
など、それなりに防寒対策はなされていたが、よく凍死しなかったもの
である。今彼女の誕生日となっているのは、梨華が拾われた日だった。
梨華の義母となった女性は、女手一つで梨華を育て上げた。梨華も喫
茶店の中で、幼い頃から彼女の仕事ぶりを見て、成長していった。梨華
の料理は義母譲りだった。手際はあまり良くないが、味は十分合格点で
ある。梨華が店を続けたがっているのは、ここが彼女にとって、義母い
や、母との思い出の場所だからだ。
そして、弟の義人は、・・・・・。いや、それは、次の機会に譲ろう。
今はまずお話を進めてみたい。
(よっしぃ〜!お姉ちゃんを助けて!)
梨華はカウンターの客席に座った。両手で顔を覆うと、すすり泣きを
始めた。声をあげず、いつまでも泣き続けた。
- 70 名前:ネガティブ・モード 投稿日:2003年05月20日(火)06時54分48秒
- どのくらい立ったのだろう。ふと梨華は、自分の後ろに誰かの気配を
感じた。
「誰!?」
「どうしたの?梨華ちゃん?」そこには吉澤が、戸惑った様子で立って
いた。梨華は、彼女の来店にも気づかなかったらしい。
「よっしぃ〜!!」梨華は立ち上がると吉澤の胸に飛び込んだ。そして
今度は声をあげて、泣いた。まさに号泣だ。
「梨華ちゃん!」吉澤は、突然のことで驚いたが、優しく彼女を抱きし
めた。
(柔らかくて、温かいな)そんなことを吉澤は、ぼんやりと考えていた。
吉澤は一晩に何件も、店をハシゴして酒を飲むような奴だ。あちこち
の店で、女の子に抱きつかれたり、抱きついたりは、日常茶飯事だった。
しかし、この石川梨華に対しては、これまでとはアプローチの仕方が、
違っていた。つまり、距離の取り方が、解らなかったのだ。
- 71 名前:ネガティブ・モード 投稿日:2003年05月20日(火)06時56分29秒
- 一つには、梨華がシロウト娘で、今まで吉澤がつきあっていた、夜の
女達とは違うからだった。少し嫌な言い方をするなら、梨華は「日向臭
い」女だった。まさに、店の名前が連想させる、太陽の下で生きる女の
子だった。
仮に、人を2種に分類した場合、吉澤や後藤は、夜の世界の住人であ
る。好むと好まざるとに関わらず、夜こそが、彼女たちの能力を存分に
発揮できる時間だった。
他方、我々一般人は、昼の世界の住人であり、太陽の下でこそ、生き
ている事を強く実感できるのだ。
月と太陽。「ミスター・ムーンライト」と「ひまわり娘」。両者には
根本的な違いがあった。
だが、人は自分には無い物を求める。そして時に、それを求めるあま
り、破滅へと続く道にも踏み込んで行く。お互い相容れない世界の者同
士が、求め合う時、そこに生まれる物は、果たして・・・・・?
- 72 名前:ネガティブ・モード 投稿日:2003年05月20日(火)06時57分47秒
- 「梨華ちゃん?」いつまでもこうしてはいられないので、吉澤は少し落
ち着いてきた梨華に、優しく声をかけた。
「ごめんね、頼りないお姉ちゃんでごめんね」梨華はしゃくり上げなが
ら顔を上げた。まさに泣きべそ顔だ。
(また、間違えてるよ)そう思いながらも、吉澤は梨華の顔を見てドキ
ドキしていた。
見つめ合う二人。やがて、梨華は今の状況に気づいたのか、パッと吉
澤から離れた。
自分の泣き顔を見られたことに対してだろうか、恥ずかしさで耳まで
真っ赤になった。
「ごっ、ごめんなさい。あっあの、私ったら、その・・・」しどろもど
ろの梨華を見て、吉澤はくすりと笑った。
「あっ、あの。ちょっと、わたし、お化粧直してきます。ごめんなさい」
そう言いながら梨華はトイレに駆け込んでいった。
- 73 名前:token 投稿日:2003年05月20日(火)06時59分42秒
- たまたま早く目が覚めました。空は曇ってますけど(笑)
そこでお出かけ前に、更新です。
>名無し読者
はじめまして。
>スゴク面白いので毎日チエックさせてもらってます!
ありがとうございます。お忙しい中、そこまでしていただいて、
嬉しいです。頑張ります!
- 74 名前:用心棒 投稿日:2003年05月21日(水)20時19分15秒
- 「カラ〜ン」店のドアが開き、誰か入ってきた。
チンピラ風の男が二人だった。その顔に吉澤は見覚えがあった。例の
放火犯達だ!
吉澤の顔を見て二人の男が固まった。吉澤は不敵な微笑みを浮かべな
がら言った。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
「あっ、ああ、その〜」しどろもどろになる男。
「あっ、やっべえ。財布忘れたぜ!」
突然もう一人は大声でこう言うと、そのまま店を飛び出していった。取
り残された一人も、慌てて後を追うように出ていった。
(あたしが居る時で良かった)
トイレから梨華が戻ってきた。
「何だか声が聞こえたみたいだけど?」
「そう?」
(このままじゃ、梨華ちゃんが危ない!)
- 75 名前:用心棒 投稿日:2003年05月21日(水)20時20分03秒
- 翌日、吉澤は店の開店時間と同時にやって来た。そしてそのまま、閉
店まで、『ひまわり』に居た。
もちろん、コーヒー一杯でそんなに粘ったわけではなく、朝昼夕の3
回の食事と、合間に何杯かのコーヒーを頼んだ。
「梨華ちゃん、お昼一緒に食べようよ!」客席の吉澤が、カウンターの
中の梨華を誘った。
「だめだよ。仕事中だから」
「仕事って、お客さん誰もいないじゃん!」
「あのね、よっしぃー。飲食店ではね、従業員は営業時間中にお客様と
一緒のテーブルで食事をしちゃあいけないんだよ」諭すように梨華が言
った。
「そうなの?」
「うん、お母さんが教えてくれたモン!」
「でもさぁ〜、お店の人だっておなかが空くでしょう?」
- 76 名前:用心棒 投稿日:2003年05月21日(水)20時20分42秒
- 「うん。だから中休みとかに、まかないを食べるんだよ」
「まかない?」
「そ。メニューにない従業員用の御飯の事よ。」
「それ、あたしも食べてみたいな」
「だあ〜め。よっしぃーはお客様だから」
「え〜、ぶーぶーぶー」おどけて駄々をこねる吉澤。
「よっしぃーたらいつまで経っても子供なんだから」
「・・・・・(梨華ちゃんあたしは、義人君じゃあないよ)」
「あっ、ご、ごめんなさい」会話が途切れ、気まずい沈黙が続いた。
沈黙を破ったのは梨華だった。
「じゃ、じゃあ、今日だけよ。他にお客様も居ないから、特別に中
休みの時間をずらすわね」
「やった〜!」吉澤も努めて明るいリアクションをとった。
- 77 名前:用心棒 投稿日:2003年05月21日(水)20時21分31秒
- 「あっ、でもね、お客様が来たら、あたしはすぐ席を外すからね」
この時吉澤は、いつまでも客が来ませんように、と願っていた。
梨華はエプロンを外すと、冷蔵庫から自分の分のまかないを持って吉
澤の席に来た。運んできたのは、サンドイッチだった。
「あまり重たい物だと、食後の仕事がきつくなるし、食事の時間が短く
て済むから」
「いただきま〜す」二人の食事が始まった。
「ねえ、よっしー、仕事に行かなくていいの?」
「うん、全然大丈夫。有給取ってきたから」
「有給?」
「うん、3年ぐらい貯まってるから、しばらくは大丈夫だよ」
「でも、貴重なお休みなんでしょう。なにもしないでこんな所に居てい
いの?」
「梨華ちゃんってエアロビやったこと、ないでしょう?」唐突に吉澤が
尋ねた。
「うん」
- 78 名前:用心棒 投稿日:2003年05月21日(水)20時22分16秒
- 「そうだねえ、スタイルいいから必要なさそうだもんね。でね、エアロ
ビって、結構ハードでさあ、特にあたしらみたいなインストラクターは、
足首や膝を痛めやすいんだよ」
「そうなんだ」
「そ。堅いフローリングの床の上を飛び跳ねて、その衝撃をもろに受け
るからね。だから、のんびり体を休めるのは必要な事なんだ」
(それに、こうして梨華ちゃんのそばにいると何だか、心が安まるんだ)
「ねえっ。よっしぃ〜」
営業時間が終わり、店の片づけをしながら、梨華が尋ねた。
「今日食べたメニューの中で、どれが一番美味しかった?」
しばらく考える素振りを見せて、吉澤が言った。
「ゆでたまご!」
「もう、ひっど〜い!」
「あっはははは、冗談だよ、冗談」
(梨華ちゃんの作った物は何でも美味しいよ!)
(それにしても、こんなにのんびりしたのは何年ぶりだろう?)
- 79 名前:token 投稿日:2003年05月21日(水)20時23分23秒
- 今夜も外から更新です。まだ帰れません!
またお詫びです。
>67 名無し読者様
お返しのレスの中で敬称が抜けておりました。ごめんなさい。
慣れない時間に更新なんてするものじゃありませんね。同じ日に、
よそ様の板に書いたレスは、うっかりあげてしまいました。あたしのバカバカバカ。
よっしぃー梨華ちゃんのそばでまったりするの巻、でした。では、また。
- 80 名前:用心棒 投稿日:2003年05月22日(木)23時50分13秒
- (あっ、今夜どうしようか?)
昼間は吉澤が居たためだろう。寺田興行の連中は姿を見せなかった。
しかし、吉澤が帰って梨華一人になったら、危ないかもしれない。なに
しろ、一度放火しようとした奴らだ。何をするか判らない。
(やっぱり泊まり込みで守らないと。でも、変かな。急に泊めてくれだ
なんて)
その時、吉澤の携帯がメールの着信を告げた。
(ごっちん!)
裏の仕事の打ち合わにすぐに来い、とのことだった。
(そうだ、あたしにも仕事があったんだ!)
吉澤は、仕方なく梨華にいとまを告げた。
「戸締まりはしっかりしてね。それと、何かあったら、すぐ電話してね。
かっ飛んで来るからさ」
「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ。そんな気がする」
「梨華ちゃん」
- 81 名前:用心棒 投稿日:2003年05月22日(木)23時51分40秒
- 「やだなあ、そんな顔しないでよ、ポジティブ、ポジティブ!ねっ!」
「・・・・・・」
「あたしね、最近まで、ひとりぼっちで味方が居ないと思いこんでいた
の。でも、でもね。よっしぃーや後藤さんみたいに、助けてくれる人が
いるのに気づいたから。大丈夫、きっとやって行けるって、そう思える
んだ!」
「えっ、後藤さん!?」
「うん、この間コーヒーを飲みに来てくれたの。その時たまたま来た、
嫌な人たちを追い払ってくれたの」
(ごっちん、そんなこと一言も言って無かった)
「カッコイイね、後藤さんって」
吉澤は複雑な気分だった。
- 82 名前:後藤と吉澤 投稿日:2003年05月22日(木)23時52分55秒
- 1時間後、吉澤は後藤のマンションに来ていた。
「何か飲む?」
自分の分のブランデーを注ぎながら、後藤が尋ねた。
「うん、ありがとう」吉澤もブランデーを頼んだ。リビングでテーブル
を挟み向かい合って座る二人。
気まずい沈黙が続いた。
「あ、あのさあ」
「よしこ、あたし言っといたよね。余計なことに首を突っ込まないよう
にって」冷たい声の後藤。
「・・・・・」
「表の仕事サボって、喫茶店に入り浸ってるのはどういうわけ?」
「だって、梨華ちゃんが」
「放火現場にたまたま居合わせたのは、しょうがないよね。でもね、用
心棒みたいに店の中にいるのは、やりすぎだよ」
「でも、あたしが居ないと梨華ちゃんが」
- 83 名前:後藤と吉澤 投稿日:2003年05月22日(木)23時54分17秒
- 「梨華ちゃんが何?寺田興行のチンピラに脅されるから?それがどうだっ
て言うの、よしこには関係ないことでしょ!」
「ちょっと、ごっちん。関係ないってどういうことさ!」
「よしこは梨華ちゃんの何なの?友達?よしこには、ううん。あたしら
には友達なんて居ないんだよ!」
「ごっちん?」
「住む世界が違うんだよ。あたしらには仕事仲間以外に、友達なんて出
来ないんだよ。それ以外は、単なる知り合いでしかないんだよ!」
「・・・・・」
「それにね、これを見なよ」後藤は角2号サイズの封筒を差し出した。
「何これ?」
「調査報告書。石川梨華に関するね」
「梨華ちゃんのことを調べたの?」
「調べてくれって頼んだのは、よっしぃーでしょ」
「あたしは、そんなつもりで言ったんじゃないよ。あたしが頼んだのは」
- 84 名前:後藤と吉澤 投稿日:2003年05月22日(木)23時56分04秒
- 吉澤の言葉を遮るように後藤が言った。
「いいから、読んでごらんよ。面白いことが判ったよ」
「嫌だ。梨華ちゃんのプライバシーを探るなんて。なんか嫌だよ、そう
言うの」そう言うと吉澤は、封筒を後藤に投げ返した。
「石川梨華はねぇ、捨て子だったんだよ」
「それがどうしたの?実の親と暮らしていなかった人なんて、たくさん
いるじゃない」
後藤はブランデーを一息にあおった。
「それだけじゃないんだ。石川梨華はねぇ」
「もういいよ、聞きたくないって言ってるだろう!」
「石川梨華には、弟なんていなかったんだよ」
「え!?(今なんて言ったの、ねえ、ごっちん)」
「彼女は嘘をついているんだ。よっしぃーを騙しているんだよ」
「梨華ちゃんが・・・・・・」
「処理班の班長として言うよ。石川梨華には関わるな。いいね、よっしぃー」
- 85 名前:token 投稿日:2003年05月22日(木)23時59分59秒
- 本日分の更新終了です。
なんとか、連日更新を続けられました。眠いです。
いつの間にか、ochi機能が付きましたね。ああ、試してみたい。
どうしましょう?では、また。
- 86 名前:鯛焼きとお茶 投稿日:2003年05月23日(金)20時25分16秒
- 「そうですね〜」紺野あさ美は、鯛焼きを食べながら呟いた。
彼女は決して大口を開けて食べるタイプではない。小さな口で、少し
ずつ、擬音をつけるとするならば、「はむはむはむ」と言った感じで食
べる。それを見ている者は、知らず知らずに、頬がゆるんでくる。そん
な、食べ方だった。
しかし、それが、延々と続くのだ。大食いなわけである。
結局、あれから裏の仕事の打ち合わせがないまま、吉澤は後藤のマン
ションを後にした。そしてその足で『タンポポ』にやって来た。もちろ
ん鯛焼きは吉澤のお土産だ。時刻が遅かったので開いている店は既にな
く、某駅前の露天で買ってきた。
今夜の吉澤は沈んでいた。飲み屋では、いや、人前では常に陽気に振
る舞う吉澤が、今夜は打ちひしがれていた。梨華のことで頭が一杯だっ
たから。もっとも、そんな姿を『タンポポ』で見せるのは、それだけ吉
澤が飯田や紺野達に、心を許している証拠なのかもしれないが・・・。
- 87 名前:鯛焼きとお茶 投稿日:2003年05月23日(金)20時26分10秒
- 「飯田さん、お茶のお代わりお願いしま〜す」何個目かの鯛焼きを食べ
終え、自分のお茶を飲み干した紺野が、店のママの飯田圭織に頼んだ。
もちろん、既に新しい鯛焼きを手に持っていた。
寿司屋にあるような、大きめの湯飲みにお茶を注いでもらいながら、
紺野は幸せそうに微笑んだ。
「幻肢と言うんですけどね、事故か何かで失った手足の感覚が、残って
いることがあるんです」紺野はしゃべり続けた。吉澤は黙ってウイスキ
ーのグラスを重ねていった。彼女の頭の中では、先ほどから自問自答が
延々と続いていた。
「たとえば、切断されて無いはずの腕が疼いたり、無いはずの足の痛み
を感じたりするんです」
(どうして、嘘なんかついたんだろう?でも、あたしには梨華ちゃんが
嘘をついているようには見えなかった)
「よく、愛しい人と別れるとき、我が身を引き裂かれる思い、と表現し
ますよね」
- 88 名前:鯛焼きとお茶 投稿日:2003年05月23日(金)20時26分47秒
- (それに、ずいぶん具体的だよね。そうだ!ごっちんの勘違いって事も
・・・・・。いや、ごっちんの情報収集はいつも正確だし、それともご
っちんの方が、嘘をついてるっていうの?)
「だから実際に、いなくなった人でも、その人が居ると感じている限り
存在するんです。こんな話、退屈ですか?」
「えっ、いや、何だっけ?」紺野の呼びかけに我に返った吉澤は、視線
をそちらに移した。
「ごめんなさい。話題を変えましょうか?」紺野の両手のリストバンド
が目に付いた。普通より何だか幅が広いタイプだ。
「紺野さんって、いつもリストバンドしてるよね、そう言えば」
「はい、お守りみたいな物でしょうか。ずいぶん前から着けているので、
していないと何だか落ち着かないんです。変ですか?」
「ううん。でも、君みたいなカワイイ娘なら、ブレスとか指輪とかのア
クセサリーが似合うんじゃないかな?」
「私、金属アレルギーなんですよ。だから当然ピアスもダメです」
「そっか」会話が途切れた。
- 89 名前:鯛焼きとお茶 投稿日:2003年05月23日(金)20時27分34秒
- 「ねえ、紺野さん。君嘘をつく事ってある?」唐突に吉澤が尋ねた。
「ありますよ。もちろん」ニコニコしながら答えた。
「どんな時、どんな嘘を?」
「そうですね、好きな人の前で自分を少しでも良く見せたい時、でしょ
うか?いわゆる見栄ってやつですね」
「見栄、か」吉澤は考え込んだ。
「正直に言えば今だって嘘をついていますよ」
「えっ!?」
「吉澤さん、実は私40歳なんですよ!」
「へっ!?」吉澤は固まった。空気が重い。
「外しちゃったみたいですね、ごめんなさい」テヘとした表情をして紺
野が言った。
(やっぱり良く判らない子だなあ。あれ、そう言えば紺野さんっていく
つなんだろう?)
「じゃあさあ、本当はいくつなの?」
「吉澤さん。レディーに歳を聞くのは失礼ですよ」冗談めかして紺野が
言った。
- 90 名前:token 投稿日:2003年05月23日(金)20時31分56秒
- 本日分の更新終了です。
では、また次回に。
- 91 名前:用心棒2 投稿日:2003年05月24日(土)20時54分30秒
- 次の日吉澤は、開店時刻前に店にやって来た。
「よっしぃ〜!?寒かったでしょう」店の前に座り込んで待っていた吉
澤に梨華が言った。
「うん、ちょっと来るのが早過ぎたみたい」
早く梨華に会いたくて、まだ閉まっている店の前で待っていたのである。
電話をしようかとも思ったが、眠っているであろう梨華のことを思い、
律儀に開店時刻まで待っていたのだ。
梨華の顔を見て、昨日の紺野の言葉が、吉澤の頭によみがえった。
「吉澤さん、迷った時はですねぇ〜、自分の気持ちに素直に従えばいい
んです。ありきたりな言葉ですけどね」
紺野と一緒にいて、幾分気の晴れた吉澤だったが、それでもまだブルー
な気持ちの吉澤に向かって、帰り際に紺野が言った。
「たとえそれが間違っていたとしてもですね、自分で決めたことなら後
悔しないと思いますよ」
(そうだ!あたしには判る。少なくとも梨華ちゃんはあたしに対して敵
意を持っていない!義人君のことだって、きっと訳があるに違いないよ。
それに何より、あたしは梨華ちゃんのそばにいたいんだ!)
- 92 名前:用心棒2 投稿日:2003年05月24日(土)20時55分21秒
- 「はい、これはサービス。体が暖まるわよ」そう言いながら梨華はホッ
トミルクを差し出した。
「えっ、いいよ。あたしお金払うから」
「気にしないで、あたしがさっき飲んでた残りだから。それよりも何か
食べる?」
「う〜ん、ベーグルサンド!あっ、これはちゃんとお金払うからね」
「は〜い。かしこまりました。お客様」いそいそと梨華は作り始めた。
カウンター席でベーグルサンドを頬張る吉澤を、梨華はカウンターの
中から頬杖をつきながら眺めていた。
「そんなに見つめられると、何だか照れるちゃうよ」
「うん、ごめんね。あたし他の人が、あたしの作った料理を美味しそう
に食べているのを見るとね、ああ、このお仕事やっていて良かった!っ
て思えるんだ。だから、よっしぃーみたいな食べ方をしているのを見る
と、つい、ね」
「あっ、それ何となく判る気がする」
- 93 名前:用心棒2 投稿日:2003年05月24日(土)20時56分13秒
- 「お母さんもね、お客さんが美味しそうに食べるのを見て、いつもニコ
ニコしていたの。それを見てて、あたしも何だか嬉しくなったんだ」
(梨華ちゃんのお母さん、か・・・・・)
(それとなく、弟さんの事、聞いてみようかな?)
「だからね、あたしもっともっと頑張って、お料理やコーヒーを上手に
つくれるようになりたいんだ〜」目をキラキラさせながら梨華は言った。
何だか自分一人の世界に行ってしまいそうな雰囲気だ。
「あのね梨華ちゃん、そのーぉ、義人君の事なんだけど」吉澤が言いか
けた時、携帯が鳴った。ディスプレーを見なくても判る。この着メロは
後藤真希だ。
「もしもし」テーブル席に移動して吉澤は電話に出た。
「命令を忘れたの?」後藤の声は冷たかった。
「あたしは、信じることにしたんだ」梨華に話の内容を悟られないよう
に、慎重に言葉を選びながら、吉澤は話した。
「そう。処分覚悟なんだ」
「別に逆らうつもりはないよ。でもね、あたしにはやっぱりほっとけな
いよ」
- 94 名前:用心棒2 投稿日:2003年05月24日(土)20時57分32秒
- 「深入りして傷つくのはよしこ、の方なんだよ」
「構わないよ。だってあたしの気持ちが、そばにいたいって言ってるん
だ。それに、判るでしょ、絶対悪い娘じゃないんだって。だから、だか
ら、ごっちんも助けたんでしょ」
「あれは、たまたまだよ。美味しいコーヒー飲んでるところを邪魔され
たからね」幾分声のトーンが柔らかくなった。
「お願い、もう少しだけあたしのわがままを聞いて」
「・・・・・・」
「真希ちゃん!」
「・・・・・・わかった。でも、これだけは覚えておいてね。あたし達
は別に正義の味方なんかじゃないんだからね。」
「うん」
「それと、処理の仕事の方はしっかりやってもらうからね」
「ごっちん、ありがとう」
「よしこの馬鹿」最後にそう呟いて電話は切れた。
- 95 名前:token 投稿日:2003年05月24日(土)20時58分46秒
- 本日分の更新終了です。
まだしばらくは、いしよしのからみが続きそうです。よかったね、よっしー。
え〜それから、ちょっと補足というか言い訳(?)なんですが、
これは冬のお話です。(季節感ねぇー)。理由の一つは、
鯛焼きや甘い物は寒い時期の方が美味しそうだからです。
明日は日曜ですが、ひょっとしたら更新はお休みになるかもしれません。
いや、別に毎日更新を目指している訳じゃあないんですが・・・・・。
では、また。
- 96 名前:用心棒2 投稿日:2003年05月26日(月)20時21分58秒
- その後、この日もお客はほとんど来なかった。ただ、吉澤としては梨
華と二人だけでいられる時間が多い方が有り難かったので、内心は喜ん
でいた。もっとも梨華の方は、お客が来ていない時でも、あれこれとレ
シピの研究に余念がなかった。新しいメニューを考えてはノートにいろ
いろとメモしていた。そんな風に頑張っている梨華を眺めながら、吉澤
はまったりとした時間を過ごした。
時間が来て店を閉めた後、今夜も吉澤は『ひまわり』に泊まらずに帰っ
て行った。一抹の不安があったのだが、梨華の妙に自信に満ちた言葉を
受け、泊まり込むのは諦めた。もちろん戸締まりや緊急時の連絡につい
ては、くどい位に念を押していったのだが。
それから吉澤は、閉店間際のケーキ屋で、パンプキンケーキを買って、
『タンポポ』へと向かった。
- 97 名前:用心棒2 投稿日:2003年05月26日(月)20時23分41秒
- 吉澤が、通いだしてから、3日目に、他のお客もぽつぽつとやって来
るようになった。
残存者利益と言う言葉がある。斜陽産業において同業他社が次々と撤
退した結果、最後に残った1社が、独占的にその業種のシェアを握る状
態だ。
つまり、この「シャッター通り」とまで呼ばれるようになったこの一
帯では、飲食店は『ひまわり』しか残っていないのだ。もちろん、コン
ビニぐらいはあるのだが、某マイナーチェーン店のためか、あまり品揃
えがよろしくない。それに、毎日コンビニ弁当では、飽きが来る。
だから、寺田興行の嫌がらせさえなければ、『ひまわり』は商売繁盛
間違いナシなのだった。
そしてここ一週間ほど、後藤や吉澤のおかげで、トラブルがほとんど
なかった。また、この3日間、オトコマエの吉澤が、朝から晩まで店内
にいたので、格好のディスプレイにもなっていた。彼女の存在自体が、
店の安全をアピールしていた。
店は忙しくなってきた。
- 98 名前:ウェイター 投稿日:2003年05月26日(月)20時25分33秒
- 「お待たせしました。ボンゴレパスタとシーフードパスタでございます」
4日目には、吉澤はウェイターとして、店の手伝いをしていた。梨華
一人では、忙しくて追いつかなくなったためだ。当然女性なのだから、
ウェイトレスとなるべきなのだが、吉澤がスカート姿を嫌ったため、男
装して働くことになった。
「よっしぃー、カッコイイ!」
スナック『タンポポ』で借りた、バーテンダーの衣装をアレンジして、
即席のウェイター服にして、髪も後ろで一つに縛った。その姿を初めて
みた、梨華の第一声がこれだ。
「そうかい?Baby!」おどける吉澤。
「うん、王子様みたい!」
「姫、踊っていただけますか?」大げさな素振りで誘う吉澤。
「よろしくってよ、おほほほほ」
見つめ合う二人。暫くの沈黙の後、二人は声をあげて笑った。
(やっぱり梨華ちゃんは、笑っている顔がいいな〜)
表の顔が愛想の良い吉澤は、無難にウェイターの仕事をこなしていっ
た。お客の方も、吉澤目当てに来ている連中が、結構居るようだ。昼時
だけでなく、他の時間もお客が増えていった。
- 99 名前:ウェイター 投稿日:2003年05月26日(月)20時28分17秒
- 「どうしよう?」
「何!?梨華ちゃん?」
「うん、あのね。こんなにお客さんが来るとは思わなかったから、パス
タの在庫が、無くなっちゃったの」
「じゃあ、売り切れだね」
「せっかく、来ていただいたのに・・・・・。ここのところ、お客様が
ほとんど来なかったから、仕入れを少なくしていたの」
「じゃあ、あたしがひとっ走りして、買ってくるよ!」
「あっ、でも、いつもの奴じゃないと、味が変わっちゃうし・・・」ま
た、ネガティブ・モードになっていく梨華。
(く〜っ。困った顔の梨華ちゃんもかわいいぜ!)状況を忘れて、梨華
に見とれる吉澤。
「毎度、宅配便です」突然、荷物が届けられた。
「あっ、はい」梨華は判子を押して、それを受け取った。送り主を確認
する梨華。
- 100 名前:ウェイター 投稿日:2003年05月26日(月)20時30分14秒
- 「あれ?」
「どうしたの?」
「うん、それがねぇ〜」そう言いながらも、中身を確認する梨華。
中には、パスタや、他にも現在『ひまわり』で在庫が乏しい食材が入っ
ていた。
「一体誰が?」
その時、吉澤の携帯が鳴った。
「吉澤さん、おはようございます」紺野からだった。
(おはようって、もうお昼過ぎだよ)
「宅配便、届きました?」
「えっ、これ紺野さんが!?」
「はい。吉澤さんがウェイターをするって聞いて、たぶん食材が足らな
くなるだろうと思ったので、ネットで注文しておきました」
「でも、店で使っているパスタの種類まで、良く判ったねえ」
「はい、完璧です!」
- 101 名前:ウェイター 投稿日:2003年05月26日(月)20時31分11秒
- 「あっ、ありがとう。今度何か、お礼するよ」
「いいんですか?そんな安請け合いして?うふふふ」
「・・・・・」
「それじゃ、お仕事頑張ってくださいね!」
吉澤は携帯を切った。
「誰からだったの?」眉を八の字にして、梨華が聞いてきた。
「うん、知り合いの子なんだけど、彼女が気を利かせて、食材を揃えて
くれたんだ」
「えっ、でも、これ全部ウチで使っているのと同じものだよ。何でそん
なことまで判るの?」
「うん、それがねぇ、ちょっと不思議な子なんだけど」
「おーい。パスタまだ〜」お客から催促が来た。
「あっはい。ただいますぐに」
こうしてその食材は、すべて使われた。
こんな具合で連日、店は繁盛していった。
- 102 名前:token 投稿日:2003年05月26日(月)20時35分48秒
- 本日分の更新終了です。
やっと、100を越えました。
よっしぃーのウェイター、いかがでしたでしょうか?
いしよし喫茶(笑)の巻でした。
では、また。
- 103 名前:闇討ち 投稿日:2003年05月27日(火)21時03分32秒
- 「そうか。それじゃあ、あの女はあれ以来姿を見せないんだね」
ここは寺田興行の組事務所の一室。革張りのソファーにふんぞり返って
座りながら、和田は舎弟からの報告を受けていた。なぜだか小指を立て
て携帯を持つ、という妙な手つきだ。以前後藤にビビらされた和田は、
持ち前の慎重さから警戒して、『ひまわり』を見張らせていたのだ。
一週間ほど経ったのだが、後藤は一度も現れなかった。そこで頃合い
と見た和田の舎弟は、兄貴分に携帯で報告を入れてきた。
「何!?ボクシング娘?ああ、山崎の馬鹿の舎弟がやられたって、あれ
かい?大丈夫だ。そんな奴、4・5人でかかれば怖くないよ」
ずいぶんな余裕である。後藤の時とはえらい変わり様だ。
「もっとも、そこで油断しないのが、あたしの偉いところさね。念のた
め助っ人を用意してあるからな。よし、お前達。とっとと戻って来い。
今夜にでもかたづけちまおうや」
- 104 名前:闇討ち 投稿日:2003年05月27日(火)21時04分21秒
- 携帯を切り和田は煙草をくわえた。ソファーの後ろに立って、待機し
ていた舎弟が慌てて火を付けた。うまそうに吸い込んだその煙を、おち
ょぼ口で吐き出す和田。その目は相変わらず、狡賢そうな光をたたえて
いた。
「兄貴、助っ人って誰なんですかい?」別の、あまり頭がよろしくなさ
そうな舎弟が聞いた。
「壊し屋娘だよ。お前達も噂ぐらい聞いたことがあるだろう?」
「ケンカ相手はすべて素手で半殺しにする、て言うあの女ですか!」
「ああ、そうさ女には女さ。もっとも、出来高払いだからね、お前達が
頑張ってくれりゃあ、安上がりなんだがね」
「任せて下せい。俺らだってヤル時はやるんっすから」
「ほほほほほ、頼りにしているよ」和田は気味悪く笑った。
- 105 名前:闇討ち 投稿日:2003年05月27日(火)21時05分15秒
- 吉澤が『ひまわり』に通い初めて一週間目、そしてウェイターとして
働いて4日目。今日も無事に営業時間を終えた。本来なら定休日があっ
たはずだが、あまりの客の入りに毎日営業を続けていた。梨華も吉澤も
懸命に働いた。
慣れない仕事というものは疲れを誘う物だ。確かにそうだったのだが、
吉澤には、あまり苦にはならなかった。吉澤が底なしのスタミナの持ち
主である事も一因だが、やはりそれは、梨華の存在が大きかった。
危なげな手つきながらも、大勢の客の注文を一人でこなし、奮闘する
梨華を見ていると、吉澤の心には愛おしさがこみ上げて来た。
いつまでも側にいて見守っていたい!この忙しい日々がいつまでも続
けばいいのに。そうだ。いっそ、インストラクターを辞めて、本格的に
ここに勤めようかな。そんなことを夢想しながら、吉澤は働いていった。
だが、現実にはこの幸せな気分は長くは続かなかった。後藤からのメ
ールが届いた。あれから、何通かのメールは来ていた。もちろん内容は、
裏の仕事の打ち合わせだ。そして、今夜来たそれは、『処理』の決行を
命令する物だった。吉澤は、自分の正体を思い知らされた気がした。
- 106 名前:闇討ち 投稿日:2003年05月27日(火)21時06分18秒
- 「じゃあ、帰るね」内心の動揺をおくびに出さず、いつものように挨拶
をして、吉澤は行こうとした。
「ねぇ、よっしぃー」梨華が呼び止めた。
「うん!?」
「最近働きづめで疲れたでしょう?」
「大丈夫だよ、あたし体力バカだから」
「あのね、あの〜」言い淀む梨華。
「どうしたの?」
「うん。今度ね、お休みにどこかに遊びに行かない?」
「えっ!?いいの?」
「うん!よっしぃー頑張ってくれてるし、働きづめじゃあ体に悪いし、
少しは遊んだってバチは当たらないよー」
(やったー!梨華ちゃんとデートだ〜!)
「どうかな?あたしとじゃ迷惑?」
ブンブンと音がしそうなくらいに首を振り、それを否定する吉澤。
- 107 名前:闇討ち 投稿日:2003年05月27日(火)21時07分06秒
- 「そう、良かった〜。じゃあ、今度お休みをいつにするか決めるからね。
どこがいい?」
「梨華ちゃんの行きたい所でいいよ」
「えーっ、よっしぃーはどこがいいの」
「う〜ん、そうだなあ、すぐに思いつかないや。じゃあ、さあ、明日ま
でに考えて来るってのは?」
「うん、宿題だね」
「そう。こんな宿題なら大歓迎だね」
店を出て帰ろうとした時、吉澤の常人離れした鋭い感覚が、怪しい人
間達の存在をキャッチした。
(5人ってところかな?)
梨華が店の中に入って行って、こちらを見ていないことを確認してから、
吉澤は怪しい人影のほうに近づき、声をかけた。
「何か用かい?」
一瞬人影はびくりとしたが、和田とその舎弟達は姿を現した。
- 108 名前:token 投稿日:2003年05月27日(火)21時07分59秒
- 本日分の更新終了です。
次回には新キャラの、壊し屋娘が登場する予定です。
では、また。
- 109 名前:闇討ち 投稿日:2003年05月28日(水)21時13分30秒
- 「ほほほほほ。お初にお目にかかりますよ。寺田興行の次期組長の和田、
と申します。あなたが、有名なボクシング娘さんですか」
既に自分が組長になることが確定しているかのような口振りで、和田
は自己紹介をした。ライバルの山崎が聞いたら、そりゃあもう大騒ぎだ。
「その和田さんがどんなご用なんですか?」こいつが次期組長なら寺田
興行もたいしたことないんじゃないかな、と内心思いながら吉澤は尋ね
た。もちろん辺りへの注意は油断なくしていた。
「最後通告だ。とっとと出てお行き。もちろんあたしも鬼じゃあないか
ら、あの店を買ってやろう。もっともこちらの言い値で、だがね」
「いやだ、と言ったら?」
「痛い目を見ますよ」にやにやしながら和田が言った。
「誰が?」からかう様な口調で吉澤が聞いた。
和田からにやけた笑い顔が消えた。
「ヤクザ舐めたら死ぬぞ、こら〜ぁ!!」
- 110 名前:闇討ち 投稿日:2003年05月28日(水)21時15分04秒
- 4人の舎弟達が身構えた。手に手に木刀や金属バットなどの得物を持
っていた。吉澤は彼らを一瞥してから言った。
「待てよ。ここじゃあまずいから、どこかよそに行こう」
「へ、今更ビビったのかい」
「もう逃げらんないぜ」
舎弟達が口々に言った。
「てめえらの悲鳴を梨華ちゃんに聞かせたくないだけだよ」
「なんだと〜。このアマーっ!!」
「まあ、待ちなさいな。向こうに空き地がある。そこでいいかね?」
和田が提案した。
「おう!」吉澤の答えを聞いて、内心ほくそ笑む和田。例の助っ人は、
その空き地の近くに止めてある車に待機していたからだ。
(念には念を入れて、と)
和田を先頭に、吉澤を取り囲むようにしてぞろぞろと6人は歩いてい
った。5分ほど行くと、空き地があった。
- 111 名前:闇討ち 投稿日:2003年05月28日(水)21時15分52秒
- ここはバブル期に地上げされたが、その直後バブルがはじけたため、
長い間空き地になっていた。ここならば多少の大声をあげても騒ぎには
ならないだろう。この街にはこうしたスペースが結構多かった。街全体
が寂れつつあったのだ。
和田は立ち止まり、掌を上に向け、どうぞお先に、とポーズを取った。
吉澤は無言で頷き、先に中に入っていった。その後を4人の舎弟達が続く。
吉澤が真ん中あたりまで進んだ頃、後ろからついてきた舎弟達が、目
で合図した。その直後、手にした得物で後ろから吉澤を殴った。
が、まるで初めからそれを予想していたかのように、吉澤は苦もなく
それらをかわすと、ファイティング・ポーズをとった。
「(仕事前のウォーミングアップだ)来い!」
「このやろう〜!」「死ねや〜、ボケ〜!」
舎弟達は口々に何かを叫びながら、吉澤に襲いかかった。4対1では
普通に考えれば、吉澤の方が分が悪い。だが、舎弟達の連携は悪かった。
- 112 名前:闇討ち 投稿日:2003年05月28日(水)21時17分25秒
- もし彼らが吉澤の周りを取り囲んで、間髪入れない波状攻撃を仕掛け
てきたのなら、さすがの吉澤も無傷では済まなかっただろう。しかし、
彼らはバラバラに得物を振り回して突っ込んでくるだけだった。そこの
所は、兄貴分が武闘派ではない事の影響かもしれないが・・・・・。
だから吉澤の身のこなしのスピードなら、実質1対1の戦いが4セット
と変わりがなかった。吉澤は彼らの攻撃をすべてよけながら、一人、ま
た一人と、確実に沈めていった。
「お、おい、お前。何をしてるんだ。早く来い!」
吉澤の戦いぶりを見て余裕の無くなった和田は、携帯で近くに待機して
いる助っ人を呼びだした。
空き地には吉澤と和田以外に立っている者はいなかった。4人の舎弟
達はすべて地面に倒れて呻いていた。
「後はあんただけだよ。次期組長さん」
- 113 名前:闇討ち 投稿日:2003年05月28日(水)21時19分13秒
- 吉澤が一歩近づいた。それにあわせるかのように和田が後ずさった。恐
怖に顔が歪んでいた。更に吉澤が近づいた。また和田は下がったが地面
に足を取られ、尻餅をついた。
尻餅をついた和田を上からのぞき込むようにして、吉澤が言った。
「次期組長さんなら、話が早い。あの喫茶店から、手を引いてくれるよ
ね。じゃないと」吉澤は拳を握りしめ、和田の顔に突き出した。
「ひっ、ひぃー」追いつめられた和田。
「ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん」突然気の抜けたような拍手の音が聞
こえた。吉澤が、音のした方に振り返るとそこにはいつの間にか、吉澤
より少し背の低い女が立っていた。なぜかテンガロンハットを被り、ウ
エスタンブーツを履いていた。
「あんた、やるね〜。面白い見せ物だったよ。でもまだまだ、だね」
「誰だよ、お前(こいつ、できる!)」前にも書いたが吉澤の研ぎ澄ま
された感覚は、人の気配を敏感に感じ取れる。しかし、この新たな敵は
見事に気配を消してここまで近づいていたのだ。
「俺かい。壊し屋の麻琴。今夜あんたをぶっ壊す女さ」
- 114 名前:token 投稿日:2003年05月28日(水)21時21分01秒
- 本日分の更新終了です。
新キャラは小川麻琴ちゃんでしたー。
しばらくアクションシーンが続きます。
では、また。
- 115 名前:token 投稿日:2003年05月28日(水)21時41分14秒
- わ〜ごめんなさい。忘れていました。
ミカちゃん、お誕生日おめでとうございます。
では、また次回に。
- 116 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月29日(木)14時44分43秒
- どきどき
- 117 名前:壊し屋娘 投稿日:2003年05月29日(木)21時02分59秒
- 「おっ、遅いじゃないか、とっとと片づけてくれ」和田が立ち上がりな
がら喚いた。
「へい、へい、と」指先の開いた革手袋を、キュッと音を立てて直しな
がら小川が呟く。
対峙する吉澤と小川。小川は不敵に笑うとゆっくりと構えた。吉澤は
小川を観察した。
(やや腰を落とした構え。打撃系じゃないな。レスリングか何かかな?)
小川の肩越しに和田が見えた。すっかり余裕の表情で煙草を吹かしなが
らにやついている。
和田を一睨みしたのち、吉澤は小川に近づき、仕掛けた。
吉澤のジャブが相手との距離を測る。次の瞬間、右ストレートが走っ
た。プロボクサー並の速さと威力である。一般人には目でとらえること
も出来ないだろう。見えたと思った瞬間に鼻血を出すのがおちだ。
- 118 名前:壊し屋娘 投稿日:2003年05月29日(木)21時03分57秒
- しかし、小川はそれを紙一重でかわし、あまつさえ吉澤の右腕を捉え、
そのまま、寝技に持ち込んでしまった。吉澤はうつ伏せに倒され、押さ
え込まれた。右腕は関節を極められたままだ。
「俺に打撃は効かねーんだよ」そう言いながら、力を込める。
「うっ!」吉澤の腕がきしむ。何とか関節技を外そうと藻掻くが、びく
ともしない。
吉澤とて、プロである。メインはボクシングスタイルではあるが、他
の格闘術の訓練も受けてきた。並の格闘家には遅れを取る気はしないし、
今までに出会った腕自慢の「ターゲット」の何人かにも、常に勝ってき
た。だが、この壊し屋を名乗る小川はレベルが違う。裏世界はなんて広
いんだ。などと、関係ないことが頭に浮かんできた。
- 119 名前:壊し屋娘 投稿日:2003年05月29日(木)21時04分33秒
- 「調子に乗るんじゃねーよ!」吉澤は無理な体勢ではあったが、反撃を
試みた。右腕の痛みをこらえつつ、左手で、小川の喉を突いた。
だが、吉澤の左手の感触は、柔らかい喉を突いたそれではなかった。
吉澤の反撃を予想した小川は、特徴のある自分の顎で喉をガードして
いた。
「何だって、コノヤロー」にやりと小川が笑った。
と、同時に吉澤の右腕の痛みが激しくなった。小川は腕を折りに来た。
「くっ!」吉澤は観念した。しかし、それは諦めたというわけではない。
右腕を折られることを受け入れ、その後の反撃を考えていたのだ。やは
り、吉澤はファイターだった。
あと一息で、関節が破壊される正にその時、小川の手が止まった。
- 120 名前:壊し屋娘 投稿日:2003年05月29日(木)21時05分39秒
- (こいつ、動揺している!)吉澤の位置からは小川の顔が見えない。し
かし、密着した体を通して、それは感じられた。
次の瞬間、吉澤は強い殺気を感じた。これほどまでに強い殺気は、滅
多に感じたことがない。小川の動揺が、この殺気に気づいたことに間違
いはない。
あるいは後藤真希ならば、これに匹敵する殺気を放つかもしれない。
しかし、彼女の場合は質が違う。では、一体誰なのか?
不自由な体勢から何とか顔を上げてみる。そこにはピンクのスニーカ
ーを履いた足が見えた。
「てっ、てめーっは!!」小川が憎しみを込めた声を吐き出した。
「こんばんは。確か小川さんでしたっけ?」飄々とした声が答えた。
- 121 名前:token 投稿日:2003年05月29日(木)21時07分47秒
- 本日分の更新終了です。
>名無しさん様
ありがとうございます。文体を誉められるなんて、照れますな〜、ヘヘヘ。頑張ります。
麻琴ちゃん強いです。よっしぃーピ〜ンチ。果たして乱入者は、誰?(バレバレですか〜)
では、また次回に。
- 122 名前:壊し屋娘 投稿日:2003年05月30日(金)19時27分53秒
- そこに立っていたのは紺野あさ美だった。
小川は奥歯を噛みしめながら、下から見上げるように紺野を睨みつけた。
紺野あさ美はその視線を、美しい瞳で平然と受け止めた。
しばしの沈黙。
紺野に注意を奪われた小川に、わずかに隙が生まれた。吉澤がこの機
を逃すはずはない。
(今だ!)全身のバネを使い吉澤は辛くも小川の関節技から逃げ出した。
だが、小川は吉澤に一瞥をくれただけで、すぐに視線を紺野に戻した。
立ち上がり、ファイティングポーズをとる小川。
ゆっくり近づいてくる紺野。
右腕を押さえながら、二人の動向を見守る吉澤。
「おっ、おい!そんな女なんか放っておけ!それより仕事を・・・」
小川の後ろから近づいていった和田は、すべてを言い終える前に、鼻血
を吹いて倒れた。小川が振り向きもせずにはなった、裏拳のせいだ。
- 123 名前:壊し屋娘 投稿日:2003年05月30日(金)19時29分44秒
- 「うぜ〜んだよ!」
「乱暴ですね」いつのまにか二人は対峙していた。
「俺は、この2年間お前を忘れたことがねぇ〜んだ!」
「きゃっ!それって『愛の告白』ですか?」わざとらしく両手で自分の
頬を包み、イヤイヤをする紺野。
「ちげーよ!」小川が仕掛けた。タックルで紺野の足を狙った。
しかし、小川は殺気を感じ、タックルを途中で止め、後ろに飛び退いた。
いつの間にか紺野は踵落としで、小川の頭を狙っていたのだ。
「不意打ちとは汚ぇー奴だ」
「あらっ、先に仕掛けたのはあなたの方でしょう」
「来いや。ほら」小川が挑発した。
紺野が構えた。空手の構えだ。
「あさ美、行きます」流れるようなきれいなフォームで踏み込んだ紺野
は、左手で上段突きを小川に放った。
- 124 名前:壊し屋娘 投稿日:2003年05月30日(金)19時31分02秒
- (だめだ、遅すぎる)吉澤は思った。
紺野が空手を使えるのは意外だった。しかも、あの構えや動きを見てい
るだけでかなりの実力者なのも理解できた。
(でも、あたしには、あのスピードなら、カウンターを狙える)
確かに、客観的に見て吉澤のパンチの方がスピードがあった。あれでは、
小川には通じないだろう。
案の定、小川は余裕を持って突きをかわし、紺野の関節を取りに行った。
だが、紺野は右手で抜き手を使った。
小川はこれもかわした。紺野が離れた。二人は再び向かい合った。
「どうでぇ〜。この2年間で打撃対策はばっちりだ。今度は、俺がてめぇ
の手足を折ってやるぜぇ」
「まあー、すごい。努力なさったんですねぇ」相変わらず呑気な口調で
言う紺野。
「けっ。いつまで余裕かましてられっかな」
- 125 名前:壊し屋娘 投稿日:2003年05月30日(金)19時32分36秒
- 「解りました。では、もう少し本気でお相手して差し上げましょう」
そう言うと紺野は、リストバンドを外して後ろに放り投げた。
余裕の表情を見せながら小川が構えた。
紺野も構え直し、再び上段突きを打った。
次の瞬間、小川の首が後ろにのけ反った。
「な、何っ!?」
なんとか視線を紺野に戻した小川は、右目の視力が落ちているのに気づ
いた。
鳩尾に紺野の突きが入ったのはその直後だった。胃の中の物が、すべ
てこみ上げてきそうな感覚。そして、前屈みになった小川の顔面に、紺
野の膝が来た。
小川は仰向けに倒れた。体が思うように動かなかった。
「小川さん、私もあれから少し強くなってるんですよ」紺野の口調は相
変わらずだった。
- 126 名前:token 投稿日:2003年05月30日(金)19時38分59秒
- 本日分の更新終了です。
話の展開、早過ぎたでしょうか?おがこんの勝負ついちゃったみたいです。ヘヘヘ。
それから、申し訳ありませんが、明日の更新はお休みさせていただきます。ちょいと用事がありまして。
いや別に、明治座に行く訳じゃあありません。(笑)
実は知り合いが明日で引退することになりまして、結構長いつきあいなので、花束ぐらいは持っていこうかなと、思いまして、ハイ。
ひょっとしたら、日曜日も危ないかも?
ではまた、次回に。
- 127 名前:紺野の秘密 投稿日:2003年06月01日(日)09時26分46秒
- (す、すげ〜。かっけぇ〜)腕の痛みもすっかり忘れて吉澤は紺野の動きに見とれていた。
「吉澤さん、大丈夫ですか?」紺野がやって来て、吉澤の腕を調べる。
「こっ、紺野さん強いんだね」その時吉澤は、紺野の左手首の内側に、深い傷跡があるの
に気づいた。
(これって、リストカット!?)
「違いますよ」吉澤の視線に気づき、紺野が答えた。
「昔、ある事件に巻き込まれて、人質になったことがあるんです。その時犯人に・・・」
「・・・・・」
「その後、護身用に空手を始めたんです」
(でも、護身用のレベルを超えてない?)吉澤はそう思ったが、黙っていた。それは紺野
の口調にどこか悲しそうな響きを感じたからだ。
「さあ、行きましょう」
「えっ!?」
「病院に行ってもいいんですけど、吉澤さん、都合が悪そうですから、とりあえず、お店に」
- 128 名前:紺野の秘密 投稿日:2003年06月01日(日)09時27分41秒
- 「あっ!あたし、仕事に行かなきゃ!」(ごっちんを待たせてるんだった)
「無理です。どんなお仕事か知りませんが、手当が先です」
「でも・・・」
「吉澤さん。あたしの正拳突き、受けてみます?」口調はおどけているが、紺野の瞳には
強い意志が感じられた。
「遠慮します」吉澤は素直に従うことにした。
「まっ、待てよ」苦しそうな声がした。小川だ。まだ倒れたままで、立ち上がれないらし
かった。
紺野が歩み寄り、小川をのぞき込んだ。小川は顔を上に向けたまま、しゃべった。
「おっ、俺はまだ、死んじゃいねぇーぞ」
「そんなに死にたいんですか?」
「へっ!」
少し考えるそぶりをしてから、紺野が言った。
「取引をしましょう、小川さん」
「・・・・・」
- 129 名前:紺野の秘密 投稿日:2003年06月01日(日)09時28分57秒
- 「もう2度と、寺田興行とはお仕事をしないで下さい。その代わり、今回は見逃してあげ
ます」
「・・・・・」
「それから、元気になったらいつでもあたしのところに来てください。また、お相手して
差し上げますわ」
小川は無言で弱々しく片手を挙げた。まるでバイバイ、と言っているみたいだった。
「救急車、呼んどきますね」紺野は携帯をかけた。
一方、吉澤は、紺野と小川が話をしている間に、後藤にメールで、アクシデントが起き
たことを伝えた。そしてその後、紺野のリストバンドを拾いに行っていた。この隙に逃げ
出すこともチラリと考えたが、紺野の言葉を思い出し、逃げるのはやめておいた。
「えっ!?」リストバンドを拾って驚いた。見た目よりも遥かに重い。
これは、いわゆるパワーリストだった。
(こんな物をずっと着けていたのか)その時、吉澤は別のことが閃いた。
「お待たせしました。さあ、行きましょうか」
- 130 名前:紺野の秘密 投稿日:2003年06月01日(日)09時29分59秒
- 「紺野さん、これ」
「ありがとうございます。わざわざ拾っていただいて」二人は歩き始めた。
「ねえ、紺野さん」しばらくして、吉澤が尋ねた。
「はい?」
「ひょっとして、君の履いているスニーカーって・・・」
「吉澤さん、あなた私のこと、食いしん坊だと思っているでしょう?」
「へ!?」唐突な問いに吉澤は戸惑った。
(違うのかヨ!)ツッコミは心の中だけにしておいた吉澤。
「どんなに食べてもですね、余分に摂取したカロリーの分だけ、消費すればいいんです。そうすれば肥りません。」
「うん」エアロビをやっている吉澤でなくともその理屈は解る。
- 131 名前:紺野の秘密 投稿日:2003年06月01日(日)09時30分56秒
- 「そこでですね、筋肉量を増やせば、脂肪を効率的に燃やせます。」
「・・・・・」
「ですから私は、スニーカーに鉛を仕込んであるんです。これで、お散歩すれば、結構な
運動量になります。完璧です!」
「そっ、そうなんだ。ははは・・・」
(いや、だから、ダイエット目的といったレベル越えてるしぃ・・・)
確かに、パワーリストを着け、鉄下駄のように重いスニーカーを履いてダイエットに励む
女の子は、少数派だろう。
ふと空を見上げる吉澤の目には、先ほどまで出ていたハーフムーンが雲に覆われていく
のが見えた。
しばらく忘れていた痛みがぶり返してきた。後藤からのメールの返しはまだなかった。
- 132 名前:token 投稿日:2003年06月01日(日)09時32分55秒
- 本日分の更新終了です。
あれだけ食べて、何故紺野ちゃんは肥らないのか?の巻(笑)でした。
さあ、次回はいよいよ吉澤VS紺野、それとも後藤VS紺野でしょうか。
嘘です、ごめんなさい。格ゲー小説ではないのでそれはありません。たぶん・・・・・。
えーと、実は朝帰りでして、寝ないでそのまま書いていました。ちょっとテンパってま〜す。
午後から、またお出かけです。
では、次回まで。ご機嫌よう!
- 133 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月02日(月)15時22分07秒
- 紺野さん。謎めいてるとは思ってたがこれほどとは…
- 134 名前:飯田圭織の秘密 投稿日:2003年06月02日(月)21時38分44秒
- 吉澤は驚いた。初めて入った『タンポポ』の奥には、ちょっとした診察室のような部屋
があった。
「はーい、どうしました?」そして、何故か白衣を着て聴診器を首にぶら下げた飯田圭織
が、妙にはしゃいだ様子で聞いてきた。
「いっ、飯田さん!?」
「こほん、先生と呼びなさい。先生と」
「せっ、先生」
「それでは、まず上着を脱いで」腕の痛みで難儀をしながらも吉澤は服を脱いで、下着姿
になった。
「あら、吉澤スポーツブラなの?」
「ええ、男物着る時はこっちの方が便利なんですよ」
「そっかー」飯田は診察を始めた。
「ふむ、ふむ。なるほど、なるほど」吉澤の体のあちこちに聴診器をあて、飯田は勿体ぶ
りながら、ひとりごとを繰り返していた。
「飯田さ〜ん(これって、まるで)」
そう、お医者さんごっこだ!
- 135 名前:飯田圭織の秘密 投稿日:2003年06月02日(月)21時39分28秒
- 「じゃあ、そろそろ治療しよっか!」
「えっ、やっぱり飯田さんがするんですか?」
(大丈夫かよ)
「当然でしょう。圭織は名医なんだよ」そういいながら、吉澤の右腕を掴んだ。
「くっ」吉澤が呻いた。動かしただけでも痛む。だが次の瞬間、痛みは和らいでいった。
飯田が、吉澤の右肘や右肩の何カ所かに、鍼を打っていた。
それが済むと吉澤は、ズボンも脱がされベットに仰向けに寝かされた。治療は続いた。
「圭織はねぇ、ブラックジャックなんだよ〜」吉澤の身体のあちこちに鍼を打ちながら、
飯田が言った。
「天才医師ってことですか?」今の状態で受け流すのは拙い、と思った吉澤は、あまり気
は進まなかったが、聞いてみた。
「ううん、違うの」嬉しそうに、飯田が言った。
「じゃあ、法外な報酬を取るんですか?」
「まさか!圭織はお金に関心無いモン」
- 136 名前:飯田圭織の秘密 投稿日:2003年06月02日(月)21時40分33秒
- 「それじゃあ・・・」吉澤は嫌な予感がした
「そっ。モグリ、つまり無免許医。鍼灸師の資格持ってないの」
(何ですと〜!!)
「あっははは。大丈夫だよー。圭織、名医なんだから」
体中に鍼を打たれた吉澤はまるでハリネズミ状態だった。
何を根拠に名医と言い切れるのか?また今更ながらだが、考えてみれば腕の治療に、な
ぜここまで鍼を打つのだろうか?吉澤はふたつめの方の疑問を口にした。ひとつめの方は
怖くてとてもじゃないが口に出来なかったからだ。すると
「それはねえ〜、常連さんへのサービスよ、さ・あ・び・す。ついでに悪いところを直し
といてあげるからね!」ますます嬉しそうに飯田は言った。
(あれ、何だか体中の力が抜けて、眠くなってきた)
「ふふふ、ゆっくりお休みなさいな、ね」
吉澤の意識が途切れた。
- 137 名前:token 投稿日:2003年06月02日(月)21時41分41秒
- 今夜の更新終了です。
>名無しさん様
レスありがとうございます。
作者も紺野さんがここまで変な娘だったとは知りませんでした。(笑)
ふふふ、まだ紺野さんには秘密があるんですよ〜。そのうち明らかになると思いますが。
え〜実はスランプです。いえ、私ごときがスランプだ、などと言うのはおこがましいんですが、書けません。
ごっちんが書けないんです。本当は今夜の更新で待ちぼうけを喰った後藤さんを書こうと思ったのですが、
いまいちよくありません。そこで急遽予定を繰り上げ、飯田さんに登場してもらいました。
何がいけないのでしょうか?先日モデルガンの取材に行って『ゴ○キ缶』を標的にしたから、罰が当たったのでしょうか?
それとも、『メリケン粉』のDVDを未だに封も切らずに見ていないからなのでしょうか?
では、次回まで、頑張ってみます。
- 138 名前:Silence 投稿日:2003年06月03日(火)00時44分25秒
- 更新お疲れ様です。
いや〜作風を壊してしまうのが不安だったんですが作者様の言葉に
笑ってしまったんでレスさせてもらいました。
自分なんて常にスランプですよ。(w
なんかこの作品本当に映画みたいなので一週間に一回まとめて読ませて
もらっています。
(金曜ロードショーみたいな感覚で (w
作者様のペースで無理なさらずにがんばってくださいね。
- 139 名前:後藤の仕事 投稿日:2003年06月03日(火)21時59分56秒
- (遅い!)さっきから何度も時計を確認しながら、後藤は思った。時間通りに吉澤が来な
いのだ。
今回のターゲットは爆弾魔だった。既に3件の事件を起こし、七人の死者と数十人の怪
我人を出していた。そんな彼は、今夜のシナリオでは交通事故で死ぬ手筈である。
もちろんある程度の余裕を持って、作戦は立てられていたのだが、それにも限度がある。
計画の時間的遅れは、時に致命的な失敗へと繋がるのだ。時間厳守、仕事とはそう言うも
のだ。たとえそれが、裏の仕事であったとしても。
その時、後藤の携帯にメールが届いた。吉澤からだ。
『サンタさ〜ん!!』
これは緊急時の暗号であった。「アクシデントのため遅れる」と言った意味だ。
(まずいな)後藤は思った。これ以上作戦を遅らせるわけにはいかなかった。だが、吉澤
の到着がどの程度遅れるのか判らない。
(今回は見送るか?いや、次の機会まで待つ余裕はない。今夜やらなければまた犠牲者が
出るだろう。いっそ、あたしがやるか?)
- 140 名前:後藤の仕事 投稿日:2003年06月03日(火)22時00分48秒
- 『ターゲット、動き出しました!』見張りから連絡が入った。事前に収集した情報通り、
爆弾魔は出かけるらしい。おそらくどこかに爆弾を仕掛けに行くのだろう。
(仕方がない)後藤は決心をし、指示を出した。
「計画を修正する。ターゲットを尾行せよ」
『し、しかし、計画では』
「だから修正するんだ。とりあえず尾行して様子を見る」
『了解しました!わあっ!!』
「何だ?」
『気づかれました〜!!』
爆弾魔は最近自分が見張られているような気がしていた。実際その通りだったのだが、
半分は彼の被害妄想であった。今まで起こした3件の事件では一度もミスをしなかった。
だが、日に日に警察の捜査の網は、自分に迫って来ているのではないか?いや既に、自分
は警察の監視下にあって、警察は逮捕の時期を伺っているのではないか?彼は精神的に追
いつめられつつあった。そして臆病は彼の感覚を能力以上に引き上げていた。
- 141 名前:後藤の仕事 投稿日:2003年06月03日(火)22時03分00秒
- そんな時だった。処理班の見張り役の動揺を、彼が察知したのは。
「わあーーーーーーー!!!」大声で叫びながら彼はRVタイプの自分の車に飛び込んだ。
爆弾の入っているボストンバッグも一緒だ。キーを回すのももどかしく、急発進させた。
見張り役は何も出来なかった。
後藤はターゲットのアパートから少し離れたところに待機していた。そのため彼女が来
た時には、爆弾魔のRVは目の前を猛スピードで走り抜けるところだった。後藤の視線が
RVの進行方向の先に向けられた。何かがいた。人間だ!
こんな時間に塾の帰りだろうか?小学生低学年ぐらいの女の子が、車道の真ん中で蹲っ
ていた。何かを見ているようだ。RVの接近には気づいていなかった。
けたたましくクラクションを鳴らしながら加速するRV。止まる様子はもちろん、避け
る素振りすらない。そのまま轢き殺す気だ!
女の子は固まってしまった。ヘッドライトに浮かび上がった顔は恐怖と言うよりも、驚
きの表情でしかなかった。
- 142 名前:後藤の仕事 投稿日:2003年06月03日(火)22時04分53秒
- 後藤は思わず拳銃を抜き前輪の左タイヤを狙った。後方からの後藤の位置では角度的に
厳しい。トリガーを絞った。
見事狙いはたがわずパンクしたRVは、女の子の直前で、左に大きく傾き転倒した。撃
つのと同時に女の子へと向かって駆けだした後藤は、その手に大事そうに何かを持ってい
る女の子を抱えて、一目散に逃げ出した。
(来る!)後藤の超感覚が警鐘を鳴らした。女の子庇うように道路に伏せる後藤。その直
後、転倒したRVが爆発した。ガソリンに引火したためだけではない。爆弾魔が今夜どこ
かに仕掛けるために運んでいた爆弾が爆発したからだ。
かつてRV車であつた物の破片が、辺り一面に飛び散った。
- 143 名前:後藤の仕事 投稿日:2003年06月03日(火)22時06分36秒
- しばらくして、後藤は起きあがった。辺りの様子を一瞥した後、女の子の無事を確認し、
彼女の手の中の物を見た。傷ついた子犬だった。これを道路で見つけたから、しゃがみ込
んでいたのだろう。
女の子は突然泣き出した。今頃になって恐怖が実感できたのだろう。優しく抱きしめて
頭を撫でてやりながら、後藤は女の子を宥めていた。
サイレンの音が近づいてきた。あれだけ大きな爆発だ。当然である。野次馬もちらほら
出てきた。
後藤は女の子に別れを告げると、出来るだけ目立たぬように現場を立ち去った。
空では月が、雲に隠れ始めていた。
- 144 名前:token 投稿日:2003年06月03日(火)22時10分09秒
- どうもtokenです。
>Silence様
ありがとうございます。温かいお言葉までかけていただいて恐縮です。
私も連載を楽しみにして読んでいる作品がいくつもあるんですが、ほとんどROMっています。
実は、Silence様の森板の短編集も読んでいました。
あっ、でも私の所では、あまり作風なんぞ気にしておりませんので、お暇でしたら、皆様レス下さいな。
では、次回までごきげんよう。と、いつもならなるところですが、実は今夜はもう少しうpしたい物があるんですね〜。
どうしましょうか?え〜い。迷ったときは即、行動。と、言うわけで、おまけです。
- 145 名前:特別企画 投稿日:2003年06月03日(火)22時12分15秒
- tokenの取材レポート
その日、私ことtokenは関東地方の某県 へと取材に向かいました。相棒は運転手兼案
内人の某氏です。当日の取材先は2件。そもそもなぜ取材などに出かけたのかと言えば、
『危険人物処理班』などという、結構アクションシーンが多い作品を書いているにも関
わらず、tokenには銃や格闘技の知識が乏しいからでした。(オイオイ)
そこで、知り合いの某氏に紹介を頼んでみると、日曜日ならば本人自ら案内をしてくれ
るとの事。では、お言葉に甘えて、とあいなりました。
さて、一件目は拳銃の取材です。もちろん本物ではありません。モデルガンです。エア
ガンも体験してみました。ご協力いただいたガンマニアの方は、30歳ぐらいの男性でし
た。170センチぐらいですが、体重は90キロを超えていそうなガッチリした体格の方
でした。以下、そうですね〜高木氏(仮名)とでも呼びましょうか。
- 146 名前:特別企画 投稿日:2003年06月03日(火)22時16分47秒
- まず、モデルガンです。種類はトカレフというニュースで良く耳にする奴です。色は真
っ黒です。高木氏(仮名)によると、黒星という呼び方もあるそうです。そう言えばグリ
ップに星印がありました。持ってみました。重いです。本物と同じバランスで同じ重さだ
そうです。正直に言えば実際に持ってみるまで、モデルガンなんて要するにおもちゃの銃
の上等な物ぐらいにしか考えていませんでした(マニアの方ごめんなさい)。とんでもあ
りません!凄いです。あんなに作りがしっかりした物だとは思いませんでした。
そして、何よりデカイです。女の子の手には大きすぎますね。これではごっちんに持た
せるのには不似合いだな、と思いました。
今度はエアガンです。詳しい仕組みは判りませんが要するに弾が出る奴だそうです。(取
材に行ってそれだけかよ!)弾倉が回転するリボルバーという種類でした。さっきの奴よ
りも小振りです。でもやっぱり重かったです。
- 147 名前:特別企画 投稿日:2003年06月03日(火)22時20分00秒
- 高木氏(仮名)が5メートルぐらい離れたところに標的を並べました。缶コーヒーの空
き缶です。しか〜し、ここで問題発生!なんとよりによってポッカのゴ○キ缶を並べたん
です。それも5本全部がこちらを見ています!こいつ、確信犯だなと思いました。
簡単なレクチャーを受けた後、銃を構え狙いを定めます。腕を伸ばしたままの体勢が続
きます。撃てません。ダメ、あたしはごっちんを撃てない!
そんな私の心の中の葛藤をよそに、某氏と高木氏(仮名)は早く撃てと催促します。い
い加減腕が痺れてきた私は、意を決して引き金を引きました。
それ程大きくはありませんが「パン」と乾いた音がしました。思わず目を瞑ってしまい
ました。当然当たりません。次々に引き金を引きました。6発全部外れです。笑われまし
た。某氏と高木氏(仮名)に。(うるうるうる)
高木氏(仮名)が手本を見せてやるぜ、とばかりに次に撃ちました。ショルダーホルス
ターという奴に愛用の銃を入れ、ベルトに手を置き構えました。
- 148 名前:特別企画 投稿日:2003年06月03日(火)22時21分43秒
- 某氏の合図で高木氏(仮名)は拳銃を抜き、撃ちました。格好をつけるだけの事はあり
ます。5本全部当たりました。さすがに上手ですね。でも、なんかムカツキました。おま
えはなぜごっちんの顔を躊躇せずに撃てるんだ。小一時間・・・・・なんてヘタレな私が
言えるわけもなく、でした。
次に某氏も撃ちました。こちらも3本当てました。なんか悔しいです。お前もかよ〜。
そこで、もう一度挑戦です。ただし今度は、別の種類の空き缶にしました。これなら大
丈夫だと思いました。撃ちました。その結果、当たりましたー!!6発撃って、空き缶が
2本倒れました。わ〜、なんかこれ気持ちいいです。マニアの皆さんがハマるのが判る気
がしました。
- 149 名前:特別企画 投稿日:2003年06月03日(火)22時23分05秒
- え〜、だいぶ長くなりましたので、ここらで特別取材レポート『拳銃編』はおしまいに
したいと思います。リクエストなどはないでしょうから、『空手美少女編』は作者の気が
向いたと時にでも、うpしたいと思います。
えっ、ここ小説以外書いちゃダメ?うっわー、やべえっす。今更どないしょ〜。う〜ん、
考え中、考え中、考え中!(加護ヲタの皆さんごめんなさい)考えつきました。
え〜このお話はフィクションであり高木氏及び某氏は架空の人です。つまり小説の番外
編です。よし、フォローO.K.!
では、また、ごきげんよう〜!
- 150 名前:紺野と梨華 投稿日:2003年06月04日(水)22時37分54秒
- (よっしぃーどうしたんだろう?)
吉澤が闇討ちに遭った翌日、開店時間になっても吉澤は現れなかった。ウェイターをする
ようになってから吉澤は、開店時間の10分前にはやって来ていた。
(どうしちゃったんだろう?昨日あたしが余計なこと言ったから、来たく無くなっちゃっ
たのかな?ううん、そんなわけないよね。嬉しそうにしていたし。そうだ、電話してみよ
うかな?でも、ちょっと遅くなったぐらいで電話なんかしたら、うざい奴だと思われちゃ
うかな?)梨華がプチ・ネガティブモードに入って、自問自答していた時、
「おはようございます」誰かがやった来た。
「あ、いらっしゃいませ」すかさずポジティブモードに梨華は切り替えた。
「いいえ、お客ではありません。初めまして、紺野あさ美と申します」
「紺野さん!?」どこかで聞いたことのある名前だな、と梨華は思った。しかし、まるで
思い出せない。
- 151 名前:紺野と梨華 投稿日:2003年06月04日(水)22時39分19秒
- 「はい。今日は吉澤さんの代わりにお手伝いに来ました」
「よっしぃーの代わり!?」いぶかしげに梨華は聞いた。
「はい。実は吉澤さんの身内の方にご不幸がありまして、お通夜に行っています」
「ご両親かどなたかなの?」心配そうに梨華が尋ねた。
「いいえ、それほど近い方では無いそうなんですが、どうしても、顔出ししなくてはなら
ないそうなんです」
「でも、電話ぐらいしてくれれば」
「夜遅かったから、遠慮されたんだと思います。メール来てませんか?」
その時、まるでタイミングを計ったかのように、梨華の携帯からメールの着信音がした。
「よっしぃーからだ!」
梨華はメールを読んだ。その時、ほんの一瞬だったが、紺野はにやりと笑った。もちろ
ん梨華が、それに気づくことはなかったのだが。
- 152 名前:紺野と梨華 投稿日:2003年06月04日(水)22時41分26秒
- メールには梨華への謝罪の言葉とバイトを休む理由が書き連ねてあった。また、自分の
代わりに紺野を手伝わせてくれ、ともあった。梨華は素直にそのメールを信じた。
結局紺野は、その日『ひまわり』でウェイトレスをする事になった。吉澤目当てのお客
は、あからさまにがっかりした顔をみせていたが、別の客層には好評だった。なにしろ、
昼休みに来てから仕事帰りにも、デジカメ持参でやって来たサラリーマンもいたぐらいだ。
「ねえ、紺野さん?」遅い中休みに食事をしながら、梨華が聞いた。
「はい」吉澤のために梨華がつくっておいたベーグルサンドを美味しそうに食べながら、
紺野が答えた。
「紺野さんって、よっしぃーのお友達なのよね」
「そうですね〜」紺野は食べかけのベーグルサンドを手に持ったまま、小首をかしげなが
ら考え込んだ。
(あれ、あたしそんなに難しいこと聞いたかしら?)紺野の態度は梨華を少し不安にさせ
ていった。
- 153 名前:紺野と梨華 投稿日:2003年06月04日(水)22時43分29秒
- 「微妙ですね」にっこり笑ってそう答えると、紺野はまたベーグルサンドを食べ始めた。
「びっ、微妙!?」
「はい、つまりですねぇー。あたしが吉澤さんに対して抱いている思いと、吉澤さんが私
を見る目にズレがあるんですよ」
「それって、要するに、そのぉー」何故だか梨華は居心地が悪くなってきた。
「えへへへへ」人なつこい顔で紺野はただ笑っていた。
その後梨華がプチ・ネガティブモードに入り、二人だけの食事は静かに続けられた。
仕事の忙しさが、心の悩みを紛らわせてくれることが多々ある。中休み後、店はまた忙
しくなった。おかげで梨華は料理づくりに没頭することで、先ほどから胸に生まれた不安
を忘れることが出来た。
さて肝心の紺野の仕事ぶりなのだが、良くやっていたと言えるだろう。ウェイターをし
ていた時の吉澤は、料理や飲み物の載ったトレイを器用に片手で扱っていた。
- 154 名前:紺野と梨華 投稿日:2003年06月04日(水)22時44分52秒
- 一方紺野はトレイを両手でしっかりと持って、そろそろと運んでいた。息を詰め、大き
く見開いた目でトレイの上のオーダー品を、じっと見つめながら運ぶ紺野を見ていると、
なんだか危なっかしくてハラハラさせられた。ところが、不思議なことに一度もトレイを
落としたり、飲み物をこぼしたりなどの、ドジはなかった。また、オーダーの取り方は完
璧で、どれほどややっこしい注文も決して間違えなかった。
その日の営業時間が終わった。梨華と紺野は店の掃除を始めた。
「石川さん」
「なあに?」モップを動かす手を休め、梨華が聞いた。
「石川さんは吉澤さんのお友達なんですか?」
「えっ!?」ビックリした表情の梨華。
「ふふふ、お昼御飯の時のお返しですよ」
(あたしとよっしぃーって、やっぱ友達だよね。うん、そうだよ、でも・・・・・)昼間
の紺野の言葉が思い出された。
(よっしぃーはどう思ってるんだろう?)
「微妙、かな?」やがて梨華はこう答えた。
「うふふふふふ、それって昼間のお返しですか?」
「うん」梨華はにっこり笑った。
- 155 名前:token 投稿日:2003年06月04日(水)22時46分55秒
- まずは訂正です。誤字脱字が3カ所ありました。
141小学生低学年ぐらいの女の子→小学校の低学年ぐらいの女の子
142女の子庇うように→女の子を庇うように
142かつてRV車であつた物→かつてRV車であった物
ひょっとして他にもあるかもしれませんが、その時は、皆様適当に読み流して下さい。
いや〜、先週の土曜日から異様に忙しかったもので、昨夜は少々壊れ気味でした。
今日になってようやく落ち着きました。作者周辺の環境、及び症状は安定しております。
特別企画はですね〜、後藤さんがうまく書けなかったもので、気分転換のために書きました。
おかげで、何とかごっちんの活躍を書くことが出来ました。でも後藤さんピンチです。
さて次回は、よっしぃーかごっちんのどちらかが出てくるでしょう。それでは、また。
- 156 名前:Silence 投稿日:2003年06月05日(木)16時15分36秒
- 更新お疲れ様でした。
後藤さんいいですね〜。うん、かっこいい人ですね。よっすぃーの
『サンタさ〜ん!!』が面白かわいかったです。(w
それから取材レポート『拳銃編』お疲れ様でした。(あっフィクション
でしたね(w
『空手美少女編』なるものがものすご〜く気になりつつも次回の更新
に期待しています。(w
- 157 名前:後藤の苦悩 投稿日:2003年06月06日(金)21時36分34秒
- 一人の女性がシャワーを浴びていた。後藤真希だ。健康的で美しい肌。なだらかな肩の
ライン。豊かな胸の膨らみ。肉付きの良いヒップライン。プロポーションを含めすべてが
完璧と言えた。ただ一つの点をのぞいては。
彼女のちょうど心臓の辺りに、10センチほどの古い傷跡があった。刃物か何かでつけ
られた切り傷らしかった。もっとも現代の医学をもってすれば、この程度の傷は形成手術
で十分消せただろう。だが後藤は、決してそうしようとはしなかった。
何かを振り払うかのように後藤はシャワーを浴び続けた。やがてシャワーを終えた後藤
はバスルームを出て、服を身につけた。それが済むとドレッサーの前に座り、簡単な化粧
を始めた。仕上げにルージュを引くと、リビングに向かった。
後藤はソファーに座った。ここからなら玄関の出入りが一望できた。そして目の前のテ
ーブルに、ブランデーと携帯と愛用の拳銃を並べた。携帯のメールをチェックするが、ど
こからも来ていなかった。そのまま、その日何度目かの、吉澤宛のメールを送った。その
後、これも何度目かの電話を吉澤にかけた。が、応答したのはやはり留守電だった。後藤
はブランデーをあおった。
- 158 名前:後藤の苦悩 投稿日:2003年06月06日(金)21時37分48秒
- 今夜の後藤の行動、すなわち少女と子犬を助けたことは、『処理班』としては致命的な
ミスだった。確かにターゲットの爆弾魔は結果的に事故死した。しかし、後藤は少女を助
けるためとは言え、銃を使ってしまった。これが、第一のミスだった。
一般に銃身の内側にはライフルと呼ばれる螺旋状の溝が刻まれている。これは、発射さ
れる弾丸に独楽のような回転を与えることで、命中精度を上げる役割を果たす仕掛けだ。
ちなみに大砲のような口径の大きな物にもライフルはある。さて、このライフルを造るに
は、ライフル・カッターと呼ばれる機械で、一丁づつ銃身に刻み込んでいくのだが、大量
生産の同型の銃でもカッターの刃こぼれなどで、少しずつ違いが出来てしまう。つまり、
ライフルは一つ一つ銃によって違うのである。
そして、銃で使われた弾丸にはライフルマークと呼ばれる跡が残る。これは銃の遺留指
紋とも言えるのだ。だから、現場に残された弾丸は、重要な証拠品となる。警察には、過
去の犯罪に使われた弾丸のデータはもちろんのこと、全国の警察官の所持する銃のデータ
も記録されている。これらと照合することで、弾丸からそれが発射された銃を特定できる
のだ。
- 159 名前:後藤の苦悩 投稿日:2003年06月06日(金)21時39分01秒
- 二つ目のミスは、少女を直接助けたことで、後藤が顔を見られたことだ。小学生とは言
え似顔絵の作成には十分協力できるだろう。『処理班』つまり『組織』は、その存在自体
を気づかれてはならないのだ。だから従事するほとんどの人間達は、表の仕事を別に持っ
ていたし、秘密を守るためのあらゆる配慮がなされていた。
だが、弾丸の存在と少女の目撃証言があれば、警察も捜査を始めるだろう。いくら『組
織』が警察に影響力があっても、そうなってからでは遅いのだ。これは『組織』の存亡に
関わる。
秘密を守るため、後藤自身が『処理』される可能性があった。
- 160 名前:後藤の苦悩 投稿日:2003年06月06日(金)21時40分01秒
- (あたしは何で、女の子を助けたんだろう?)後藤は自問していた。今回の作戦の目的は
あくまでも爆弾魔の『処理』であった。
「あたし達は別に正義の味方なんかじゃないんだからね、か」以前後藤自身が吉澤に言っ
た言葉を口に出してみた。
「なんでだろう?」別に後藤は冷酷無比で残忍な性格では決してない。豊かな感情をその
独特なポーカーフェースで隠しているに過ぎなかった。そしてそれは、過酷な運命の中で
生き残るために身につけた処世術だった。
後藤がおかしくなった原因。それはやはり、梨華の存在であった。だが別に後藤が梨華
に恋い焦がれている、と言うわけではなかった。梨華の醸し出す雰囲気、別な言い方をす
ればオーラが、後藤が遥か昔にどこかへ無くしてしまった何かを、呼び覚ましていたから
だ。朧気ながらの自覚はあった。だが、後藤は認めたくなかった。もしそれを認めてしま
えば、自分が崩壊してしまうのではないかと本能的に恐れていたからだ。
後藤は再びブランデーをあおり、拳銃の撃鉄を起こした。
- 161 名前:token 投稿日:2003年06月06日(金)21時41分04秒
- 本日分の更新終了です。
>Silence様
またのご来場ありがとうございます。『空手美少女編』をリクエストなされますか!
でも、本編そっちのけで書いていくと、石が飛んできそうなので、来週の後半ぐらいには・・・・・。
たぶん、載るんじゃないかな、まちょっと覚悟はしておけ(byさだまさし)へへへ。
後藤さん状況的にヤバイです。よっしぃーとも連絡つきません。
では、次回まで。
- 162 名前:Silence 投稿日:2003年06月08日(日)14時56分40秒
- 更新お疲れ様でした。
今回もポップコーン食べながら(w)読ませてもらっていました。
後藤さんピンチ!?よっすぃは何をやっているんだ?(w
続きがすっごく気になりますね〜
>まちょっと覚悟はしておけ(byさだまさし)
うわぁ、よくわからないけど怖い(w
この劇場に住み着いちゃおうなんて考えながら次回の更新待っています。
- 163 名前:ある悪夢T 投稿日:2003年06月09日(月)01時15分22秒
- 嵐の晩だった。外では激しい雨が降り続き、時々雷すら鳴っていた。その光と音の間隔
は段々短くなってきていた。
一方、建物の中は静まりかえっていた。停電しているのだろう、所々に蝋燭が灯され、
室内を気味悪く照らし出していた。一つの人影が足音を忍ばせ、薄暗い廊下を歩いていた。
色白で目の大きなかわいらしい女の子だ。だが両手には、彼女に似つかわしくない物が握
られていた。出刃包丁だった。よく見ると彼女の手は、あまりにも包丁を強く握りしめて
いるためか、震えていた。いや、そこだけではない。身体全体が微かに震えていた。その
表情には緊張と恐怖が入り交じっていた。
やがて少女は、一つのドアの前で立ち止まった。『園長室』。乏しい蝋燭の光量でもプ
レートの文字はそう読めた。しばしそこに立ち止まったまま中にはいるのを躊躇した。や
がて意を決し、ドアのノブに手を掛け、そっと回した。
- 164 名前:ある悪夢T 投稿日:2003年06月09日(月)01時16分22秒
- (鍵が掛かっていない!)少女は内心そう思った。少女が躊躇していたのは、諦めるきっ
かけを探していたのかもしれなかった。
(もう後戻りは出来ない!)そのまま少女は中に入った。その時、外では雷が光り廊下の
窓越しにその姿を照らし出した。
園長室はこの建物の中で一番良い位置に作られていた。室内は重厚な高級家具で統一さ
れていた。訪問者をリラックスさせるよりも、威圧するのが目的のようだ。更に奥に寝室
へと繋がるドアがあった。おそらくそこに奴は居るはずだった。
寝室には大きなベッドが一つあった。誰かが寝ているらしい。少女は包丁を逆手に持ち、
ゆっくりと近づいていった。そっと布団を剥がすと男が寝穢く、眠りこけていた。この施
設の園長だ。男を見ると少女の心拍数が跳ね上がった。恐怖ではない。怒りのためだ。
(こいつのせいで!)少女は渾身の力を込めて、包丁を男の胸に突き立てた。
そして・・・・・。
- 165 名前:目覚めた場所は 投稿日:2003年06月09日(月)01時17分27秒
- 目が覚めた吉澤は最初、自分が何処にいるのか判らなかった。そこは、吉澤でも十分に
余裕のあるダブルベッドの上だった。上半身を起こした。下着姿だった。何だか頭がはっ
きりしない。何か夢を見ていたような気がしたが、思い出せなかった。辺りを見回してみ
た。部屋はシンプルで機能的にまとまっていた。だが、ビジネスホテルにあるような冷た
さはなかった。
(あたし、どうしちゃったんだっけ?)吉澤は眠る前のことを何とか思い出そうとした。
「おはよう!ようやくお目覚めねっ!」その時、長身で長い黒髪の女性が、元気に入って
きた。
「飯田さん!」
「お腹空いてるでしょ、今何か作ってあげるからその間シャワーでも行って来なよ」
言われて初めて、自分が酷く空腹なのに気づいた。
「ここ、何処ですか?」
「あっははは、圭織の家だよー。決まってるじゃん!」
- 166 名前:目覚めた場所は 投稿日:2003年06月09日(月)01時18分11秒
- やや強引な飯田に促されて吉澤はバスルームに向かった。熱いシャワーを浴びていると、
ぼーっとした頭が徐々に覚醒してきた。
(あっ、ごっちん!!)忘れていたことを思い出した。
大慌てで吉澤はバスルームから飛び出した。
「飯田さん!あたしの携帯は?」
「サイドテーブルの上よ。ねえ、前ぐらい隠したら?」
吉澤は赤面した。またあわててバスルームに戻り、そこに吉澤のために用意されていた
バスタオルを身体に巻き付けると、ベッドルームに行った。
携帯を手にすると、メールと着信履歴をチェックした。ほとんどが後藤からだった。
後藤に電話をかける。呼び出し音が響くが繋がらない。留守電にも切り替わらなかった。
(ごっちん、どうして出ないの?)嫌な予感がして不安が募ってきた。
- 167 名前:目覚めた場所は 投稿日:2003年06月09日(月)01時19分07秒
- 何度目のコールだろうか。もう諦めて切ろうとした時、その声が聞こえた。
『んあ〜〜。何、よしこ?』
「ごっちん!!」
『ん〜、今ね後藤、凄く眠いんだよ。せっかく眠っていたのに』
「ご、ごめん。あのさ、例の仕事のことなんだけど・・・」
『例の〜。あ〜〜、あれね。あれはもう良いんだ。終わったんだよ』
「終わったって・・・・・」
『じゃあ、もう切るね〜。後藤もう少し寝るから』そう言うと後藤は電話を切った。
吉澤は後藤の様子に違和感を感じていた。先ほどから感じていた不安は消えるどころか、
ますます大きくなっていった。
「飯田さん、あたし帰ります。どうもお世話になりました」
「そう、じゃこれ」そう言って飯田は紙袋を渡した。中には吉澤の服と真新しい下着が一
組入っていた。
- 168 名前:目覚めた場所は 投稿日:2003年06月09日(月)01時20分47秒
- 「クリーニング出しといたから。あっ、下着は新品だけどサイズはぴったりのはずよ。だっ
て紺野が言ってたから」
吉澤は手早くそれらを身につけた。そのころになってようやく、痛めたはずの右腕が治っ
ていることに気づいた。それだけではない。何だか身体全体の調子がすこぶる良かった。
「ついでに悪いところを直しといてあげるからね!」飯田の言葉が思い出された。
(本当に名医だったんだ。でも飯田さんって一体・・・・・)
「ねえ、圭織が送ろうか?」飯田が聞いてきた。吉澤は考えた。少しでも早く後藤の所に
行くためには有り難いことだったが、行き先に何が待っているかは判らない。普通の人で
ある飯田(ここまで来ると必ずしもそう言いきれなかったが)を、巻き込むわけにはいか
ない。吉澤は辞退した。
「右の方に少し行くと大通りに出るから」
「ご迷惑掛けました。ありがとうございました」
「ううん、良いのよ。またね〜」飯田は小さく手を振った。
マンションを出ると吉澤は教えられた方向へ走っていった。
- 169 名前:token 投稿日:2003年06月09日(月)01時22分17秒
- 今回の更新終了です。
>Silence様
たびたびのご来場ありがとうございます。
>よっすぃは何をやっているんだ?
ハイ、呑気に寝てました(笑)
日曜はお出掛けしていたんですが、予定では午後11時には帰っているはずでした。
でも、なぜか帰ってきたら日付が変わっていました。せっかく矢口さんのラジオを聴きながら
更新しようと思ったのに(涙)朝も早いので、ソッコー寝ま〜す。
では、また次回まで。
- 170 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月09日(月)13時06分57秒
- おもしろいです。がんばってください。
- 171 名前:Silence 投稿日:2003年06月10日(火)13時51分30秒
- 更新お疲れ様です。
ごっちんなしたんだろう?気になりますよね。
のんきに寝ていた(?)よっすぃーかっこいい。(w
それでは次回の更新も待ってますね。
- 172 名前:ある悪夢U 投稿日:2003年06月10日(火)21時14分18秒
- そこは海に突き出した断崖絶壁の上だった。その下では、まるで覗く者を引きずり込む
かのように、波が逆巻いていた。巨大に見える真っ赤な太陽は、まもなくその姿を水平線
に沈め始めるだろう。そこには二つの人影があった。どちらも年の頃なら少女と呼べる範
疇だろうか。しかし二人の様子は異様だった。海に顔を向け、相手を追いつめた形の少女
の手には、大型の拳銃が握られていた。コルト・パイソン357マグナム。一発で確実に
人を死に至らしめられる、マグナム弾を使える拳銃だ。
一方、海を背にして追いつめられた少女は、身体のあちこちが血で汚れていた。所々に
傷もあったが、様子から察するに、そのほとんどは返り血らしかった。そして、その右手
には刃渡り20センチはあろうかと思われる、大型のナイフが握りしめられていた。だが、
もっとも異様なのはその双眸であった。まるで闇に炯々と光るかのそれは、少女の全身か
ら発する雰囲気と相まって、飢えた狼を思わせた。
- 173 名前:ある悪夢U 投稿日:2003年06月10日(火)21時15分30秒
- 先ほどから二人は対峙していた。崖の下で荒れ狂う波の音よりも、互いの乱れた呼吸音
だけが、やけに耳についた。やがて追いつめられた少女は、にやりと笑い言った。
「撃てよ、後藤」
後藤と呼ばれた少女は拳銃を構えた。その照準は相手の腹を狙った。が、いつまで経っ
ても引き金を引くことはなかった。
「どうした。今なら確実にあたしを殺せるよ」
後藤は拳銃を下ろした。
「ダメ、あたしには撃てないよ」泣き出しそうな顔で呟いた。
「そうかい」ナイフを持った少女がゆっくりと後藤に近づいた。
「だけど、あたしはアンタを殺せるんだよ」既に間合いに近づいた少女はナイフを構えた。
「さようなら」そう言ってナイフを突きだした。後藤は信じられない物を見た、という表
情で自分が刺されるのを、何もせずに見ていた。
- 174 名前:ある悪夢U 投稿日:2003年06月10日(火)21時16分21秒
- が、いつまで経っても刺された痛みが伝わってこなかった。既に何人もの血を吸って来
たであろうナイフは、後藤の心臓の上で止まっていた。後藤は相手の顔を見た。
「後藤、頼む。あたしを殺してくれ。あたしの理性が残っている内に」
少女も泣き出しそうな顔で、後藤に懇願した。
「で、でも・・・・・」
「頼むよ。せめて死ぬときは人間のままで死にたいんだ!」悲痛な叫びだった。
「うぐっ!」突然少女が苦しみ始めた。心配そうに後藤は少女に近づいた。が、次の瞬間
ナイフが後藤を斬りつけた。
痛みに耐えかね、後藤は膝をついた。思わず押さえた右手は見る見る血に染まって言っ
た。拳銃を左手に持ち替えて、後藤は何とか立ち上がった。少女はナイフを握りしめたま
ま、よろよろと崖の方に歩いていった。後藤はその後を追った。
- 175 名前:ある悪夢U 投稿日:2003年06月10日(火)21時17分21秒
- ついに、崖っぷちまで来た少女は後藤の方を振り返った。その顔はもはや人のそれとは
言えなかった。だが、最後の力を振り絞って少女は叫んだ。
「後藤ーーーっ!!!」
次の瞬間、拳銃が火を噴き少女の腹部に血の染みが広がった。ナイフが手から滑り落ち、
両手が傷を押さえるように、腹部に添えられた。少女の口が動いた。
「ありがとう」後藤には唇の動きがそう読めた。そして、少女は波が荒れ狂う海へと落ち
ていった。
必死の思いで崖っぷちにたどり着いた後藤は、力の限り少女の名を叫んだ。
そして・・・・・。
- 176 名前:token 投稿日:2003年06月10日(火)21時20分13秒
- 本日分の更新終了です。
>170名無しさん様
ありがとうございます。頑張ります。
>Silence様
ごっちんの謎(笑)は次回以降明らかになる予定です。
凄い、レスがふたつも来てます。自己新記録です。(感涙)
実は今回の部分は書き直しています。本当は『ごっちん初めての殺人』(笑)を書いたんですが、
気分が悪くなって、止めました。代わりは、ごっちんの胸の傷の由来になりました。
では、次回まで、ごきげんよう。
P.S.訂正です。174血に染まって言った→血に染まっていった
ごめんなさい。
- 177 名前:『組織』よりの使者 投稿日:2003年06月11日(水)21時04分43秒
- (あたし、眠っていた!?)彼女は自分の頬が涙で濡れていたのに気づいた。指で軽くそ
れを拭うと、後藤はソファーに座ったままの姿勢でテーブルの上に目をやった。ブランデ
ーの瓶、グラス、携帯、拳銃。すべてが元のままだった。いや、一つだけ違った。それは、
・・・・・。その時、気配を感じた。
(真後ろに一人。拳銃だ!)素知らぬ風で他の気配を探る。どうやら他には誰もいないら
しい。更に意識を集中し、相手との正確な距離を測った。約3メートル。飛びかかるには
遠すぎるが、拳銃には最適の距離だ。
突然携帯がその存在を主張し始めた。この着信音は吉澤だった。コールが続いた。留守
電には切り替わらない。この時点で、後藤には3つの選択肢があった。
- 178 名前:『組織』よりの使者 投稿日:2003年06月11日(水)21時05分41秒
- 一つ目はこのまま、電話にでないことだ。確かに吉澤とは連絡を取りたかったのだが、
今は状況が変わってしまった。二つ目はそのまま電話にでることだ。だが、動いた時点で、
後ろで狙っている誰かに撃たれる可能性があった。そして、3つ目は電話にでると見せか
けて、拳銃を取り反撃にでることだ。相手との距離と方向は既に認識していた。後藤の腕
前なら十分に勝算があった。
後藤はどれを選ぶべきだったのか?やがて彼女はこれを選んだ。
「んあ〜〜。何、よしこ?」努めて呑気そうな声で答えた。
『ごっちん!!』それほど久しぶりだったわけではないのに、後藤には何故かその声は懐
かしく響いた。
「ん〜、今ね後藤、凄く眠いんだよ。せっかく眠っていたのに」これは嘘ではない。考え
てみれば異常に眠かった。まだ頭がスッキリしない。ガスを使ったな、後藤は内心思った。
『ご、ごめん。あのさ、例の仕事のことなんだけど・・・』
- 179 名前:『組織』よりの使者 投稿日:2003年06月11日(水)21時06分22秒
- 「例の〜。あ〜〜、あれね。あれはもう良いんだ。終わったんだよ(今更どうにも成らな
いよ)」
『終わったって・・・・・』
「じゃあ、もう切るね〜。後藤もう少し寝るから」
これが最後の挨拶になるかもしれなかったが、素っ気なく電話を切った。こうなったら、
吉澤を巻き込まないようにしなくては、後藤はそう決心していた。
電話を切るとついでに電源も落とした。これで誰からも邪魔は入らないだろう。テーブ
ルに携帯を置くと、後藤は両手を組んで頭の後ろに回した。降伏の合図だ。
「上出来やな」関西弁の女性の声が響いた。この声を聞くや否や、後藤は自分の選んだ行
動が正解だったことに気づいた。声の主はゆっくりと歩いて後藤の斜め向かいのソファー
に座った。それは金髪で、これも金色のカラコンをしたスリムな女性だった。組織の幹部
で現在後藤の直属の上司である、中澤裕子だった。
- 180 名前:『組織』よりの使者 投稿日:2003年06月11日(水)21時07分22秒
- 「なんで、銃を取らなかったんや?」拳銃を腰だめに構えながら中澤が尋ねた。
「起こしておいたはずの撃鉄が戻してありました。誰かがあたしの眠っている間に触った
証拠です」
「うん。うん。よー気づいたなぁ」
「ヒントがありましたからね。撃鉄を戻しておいたのはわざとでしょう?でなければ、気
づかなかったかもしれません」
「そっか〜。呆けてる訳ではなさそうやな」そう言いながら中澤は、テーブルの上の後藤
の拳銃を左手で取って撃鉄を起こした。右手にはまだ銃を持って、狙いを付けたままだ。
それから中澤はそれを、後藤に向けると無造作に引き金を引いた。
「パン」と乾いた音がした。だが、後藤は無傷だった。
「空砲や。薬莢全部抜いとくと、重さで気づくかもしれへんしな」そう言って拳銃をテー
ブルに戻した。
「さ〜て、まずはそうやな、やっぱビールやな」そう言いながら中澤はキッチンに移動し
ていった。普段ビールを飲まない後藤は、冷蔵庫にビールが入っていないことに気づいた。
- 181 名前:『組織』よりの使者 投稿日:2003年06月11日(水)21時08分28秒
- 「中澤さん、うちに今ビールは」頭に手を当てたまま、立ち上がろうとした。
「知っとるわ。ウチの持ち込みやがな」6本パックの缶ビールを持って来た中澤が言った。
「ああ、悪かったな、もう降ろしてもええで」そう言いながら、ビールを一本取り出した。
拳銃は自分のポケットにしまい込んだ。素手ならば後藤は中澤に負ける気はしなかった。
だが、後藤には闘う気力はなかった。
「飲むか?よーう冷えとるで」中澤は軽くトスして来た。後藤はそれを掴んだ。確かに冷
えていた。缶ビールのラベルを見つめたまま後藤は考え込んだ。
「どうした?毒なんぞ入れとらんよ」中澤は自分の分のビールを取ると、プルトップを開
け言った。
「中澤さん、あたし、どのくらい寝ていたんですか?」
「まあ、待ちぃや。とりあえず乾杯や。裕ちゃんなぁ、喉乾いてんのや」
二人は缶を軽く触れ合わせてビールを口にした。
- 182 名前:『組織』よりの使者 投稿日:2003年06月11日(水)21時10分27秒
- 「ぷっは〜ああ。やっぱ、仕事中のビールは美味いでー」一気に半分ほど飲み干して、中
澤が言った。後藤も喉の渇きが癒されるのに心地よさを感じていた。またアルコールが胃
に染みこんでいく具合から、自分が空腹だったことを自覚した。
(と、言うことは10時間以上かな)
「今日はな、あんたと腹を割って話そう思ってなあ」しばらくして中澤が切り出した。
「今何時なんですか?」
「午後2時やな。あの仕事から二日経っとる」中澤はビールを一口飲んだ。
「!」
「もう気づいとるやろうけど、あんたはガスで眠らされたんや。この意味解るよな」鋭い
眼光で中澤が睨んだ。
「いつでもあたしを殺すことが出来た、そうですね」後藤もビールを飲んだ。
- 183 名前:token 投稿日:2003年06月11日(水)21時11分04秒
- 「そうや。眠ってるあんたの息を止めるだけでええんやからな。そもそも催眠系のガスや
のうて、一酸化炭素でも使こうてればそのままあの世行きや。その上で練炭でも置いとけ
ば、一件落着。なんせ、今流行っとるしな練炭心中」中澤は自分の冗談に面白くなさそう
に笑った。髪を掻き上げ、再び視線を後藤に戻した。
「今回のあんたの仕事ぶりな」中澤が話し始めた。
「ミス、言うよりも、命令違反。悪く取れば反逆行為やな」
「はい、そう取られても仕方がありません」神妙に頷く後藤。
「『反逆者には死を!』これが『組織』の掟や」きっぱりとした口調で中澤が言った。後
藤は拳を握りしめた。
(よしこ、やっぱりもうお別れだね)今まで生かされていたのは、何か理由があるからで
はないか、だとすれば今回は助かるもしれない。そう思えたかすかな希望が消されつつあっ
た。だが、後藤には不思議と死への恐怖感はなかった。ただ、もう吉澤に会えなくなるの
だと言う思いが、彼女の心を寂しくさせただけだ。
- 184 名前:『組織』よりの使者 投稿日:2003年06月11日(水)21時12分04秒
- 中澤は二本目のビールを開け、一口飲んだ。
「う〜ん。やっぱ一口目が一番美味いか。なあ、そう思うやろ?」
「覚悟は出来ています」中澤の問いには答えず、後藤は言った。
「ふ〜ん。そうか。じゃあ、そろそろ死んで貰おうか」ポケットから再び拳銃を取り出す
と、中澤は狙いを定めた。
(さようなら、よしこ!!)目を閉じた後藤の脳裏には、何が映ったのだろうか?
中澤は引き金を引いた。
- 185 名前:token 投稿日:2003年06月11日(水)21時15分40秒
- 本日分の更新終了です。
ここに来てまたもや新キャラ登場です。
尚この後は、悪役の男性キャラが一人登場する予定です。
わーまたミスった。183の名前の欄は『組織』よりの使者です。ごめんなさい。
では、次回まで。ごきげんよう〜。
- 186 名前:Silence 投稿日:2003年06月12日(木)12時15分11秒
- 更新…え〜え!!どうなっちゃったのごっちん。
すいません、更新お疲れ様でした。
気になります。すっごく。
ああ、また気になって寝れない…(w
- 187 名前:ある悪夢V 投稿日:2003年06月12日(木)20時34分37秒
- 「ねえ、あたしにはどうしてお父さんがいないの?」
「りなちゃんも、さゆみちゃんも、えりちゃんも、み〜んな、お父さんがいるんだよ!」
「そっかー、うちには男の子が、いないからなんだね」
「おとうと。おにちゃん。お父さん。み〜んな男の子なんだもんね!」
「男の子は大きくなったら、お父さんになるんだよね」
「あたし、おとうとが欲しいな!」
一人の幼い少女を同い年ぐらいの数人の男の子達が取り囲んでいた。
「や〜い、や〜い」
「親なしや〜い」
「そんなことないモン!」少女は精一杯の強がりで少女は反論した。
「だって、拾われたんでしょ。うちのママが言ってたよ」
「そお言うの捨て子って言うんだよね」
「あたし、捨て子じゃないモン!」
「じゃあ、さあ、お兄ちゃんかお姉ちゃんいる?」
「弟か妹いる?」
- 188 名前:ある悪夢V 投稿日:2003年06月12日(木)20時35分39秒
- 黄昏時。あまり大きくはない川の河原。空には2匹の蝙蝠が音もなく飛び交っていた。
河原に少女が一人しゃがみ込んでいた。可愛いその顔は泣きべそで歪んでいた。いつから
だろう。少女は嫌なことがあると、ここに来て一人で泣いていた。それは負けず嫌いの少
女の性格故なのか?それとも義理の母親へ心配をかけたくないという彼女の優しさからな
のか?葦が茂るここらは人目につかなかった。いつも彼女はここで涙を流していった。
揺れる水面から何かが浮かび上がってきた。そしてそれはゆっくりと少女に近づいた。
少女が気配を感じて振り向いた。
「おねえちゃん」それは少女にそう呼びかけた。
「誰?」少女が聞いた。
「僕、よ・・・・・」
そして・・・・・。
- 189 名前:頭痛の種 投稿日:2003年06月12日(木)20時36分40秒
- 真夜中、石川梨華は目が覚めた。頭の奥がズキズキしていた。ここ数ヶ月程、梨華は頭
痛に悩まされていた。もっとも最近は、もう少し正確に言えば吉澤と知り合ってから、頭
痛は減っていた。だが、今夜は久しぶりに、症状がぶり返していた。
梨華は病院が嫌いだった。なぜなら、病院には悲しい思い出しかなかったから。だから
梨華は自分の身体を医者に見せなかった。体調の悪いときは、頭痛薬や風邪薬などの売薬
で済ませ、医者に行ったことはなかった。
今夜も梨華は頭痛薬を飲んで寝ることにした。
(明日はよっしぃー帰って来るのかな?)そう思いつつ梨華は眠りについた。
- 190 名前:吉澤が見たもの 投稿日:2003年06月12日(木)20時37分45秒
- タクシーを降りた吉澤は、後藤のマンションに飛び込むと、叩きつけるようにオートロ
ックの暗証番号を押した。後藤の携帯は電源が切られているようだった。インターホンも
無駄だろう。自動ドアが開くのももどかしく、中に入っていった。
ちょうど一階に待機していたエレベーターに乗り込むと、後藤の住む階のボタンを押し
た。階数表示の数字を睨みながら、吉澤はイライラと到着を待った。階段で行った方が早
かったかも、そう思い始めた頃にエレベーターは止まった。ダッシュでそこを出て、後藤
の部屋に向かった。
すると、向こうから金髪の女性が一人、歩いてくるのが見えた。顔立ちからすると日本
人のようなので染めているらしい。ご丁寧にブルーのカラコンも入れていた。吉澤より小
柄でスリムだが、おそらく年上だろう。だが、はっきりした年齢は判らなかった。彼女は
吉澤と擦れ違う時、何故かにっこりと笑った。
- 191 名前:吉澤が見たもの 投稿日:2003年06月12日(木)20時39分12秒
- 一瞬女性に見とれた吉澤はその足が止まりかけたが、すぐに気を取り直して後藤の部屋
へと向かった。その女性、中澤裕子は振り向きもせず、マンションを出ていった。
後藤の部屋の前に着いた吉澤はドアのノブに手をかけた。開いていた。途端に、以前こ
れと同じ体験があったことを感じた。だが、それがいつだったのかは思い出せなかった。
頭を軽く振り、吉澤は目の前の問題を解決することに専念した。
慎重に部屋の中に入った。玄関には後藤の靴しか置いてなかった。だが、来客用のスリ
ッパが外に向けて置いてあった。そっと手で触れてみると、それはまだ温かかった。つい
さっきまで、誰かが履いていたらしい。
(あの、女だ!)金髪カラコンの女性の顔が頭に浮かんだ。胸騒ぎを覚えて、吉澤は靴の
まま中に駆け込んだ。
「ごっちん!!」リビングで吉澤が見たもの、それはソファーに横たわっている後藤真希
の姿だった。
- 192 名前:token 投稿日:2003年06月12日(木)20時42分01秒
- 本日分の更新終了です。
>Silence様
ありがとうございます。
実は酔った中澤さんが勝手に発砲してしまい、作者もあたふたしております。
嘘です。・・・・・・。申し訳ありませんが、もう少し引っ張らせて下さいな。
ではまた、次回まで。
- 193 名前:ある悪夢W 投稿日:2003年06月13日(金)19時51分02秒
- 真っ白な空間。そこに少女は一人で立っていた。彼女の足は床の存在を確かに感じてい
た。ふと上を見上げるが、天井は見えない。何処までも真っ白だ。辺りを見回してみる。
壁と言う物がやはり見えない。何処までも続く白い空間。他には人っ子一人いなかった。
(ここは何処!?)少女がそう思った時、あたりは暗転した。
今度は全くの暗闇。鼻をつままれても判らないとは、正にこの状態だろう。だが、少女
に怯えた様子はなかった。大きめの瞳を見開いて何も見えないはずの空間を凝視していた。
(私は誰!?)少女が自らにそう問いかけた時、再び光が戻った。
だが、以前とは様子が一変していた。そこには先ほどまではなかった、ある物が存在し
ていた。カボチャだ。いちめんのカボチャ。いちめんのカボチャ。いちめんのカボチャ。
いちめんのカボチャ。いちめんのカボチャ。いちめんのカボチャ。いちめんのカボチャ。
・・・・・・・。
少女を取り囲むように、カボチャが床中に置かれていた。少女は辺りを見回した。果て
しなく続くカボチャの群。
- 194 名前:ある悪夢W 投稿日:2003年06月13日(金)19時52分07秒
- (あたしの名前は・・・・・)少女がそれを思い出そうとしたとき、カボチャに変化が起
こった。すべてのカボチャの側面に切り込みが入り始めた。目、鼻、口、が次々にできあ
がっていく。そう、ハロウィーンのカボチャ大王だ。いちめんのカボチャは、いちめんの
カボチャ大王になった!
それらのうち幾つかが空中に浮かび始めた。音もなくゆらゆらと辺りを漂っていた。み
んな少女の方に顔を向けていた。突然その中の一つが、少女に向かって飛んで来た。少女
は難なくそれをかわした。すると今度は別の奴が、また少女に向かって飛んで来た。今度
も少女はそれをよけた。すると間髪を入れず、新手が飛んで来た。間に合わない。そう判
断した少女は、手刀でそれをたたき落とした。
それを合図のように、カボチャ大王達の攻撃が始まった。それ程スピードがあるわけで
はない。だが、休むことなく次々と、少女に向けて飛び込んで来た。少女も応戦した。両
手両足を使い、次々にそれらを退けていった。
- 195 名前:ある悪夢W 投稿日:2003年06月13日(金)19時54分00秒
- セミロングの黒髪を振り乱しながら、カボチャ大王の群と闘う少女。まるで疲れること
を知らずに、技を繰り出す少女。誰も見ることのない、その現実感のない戦いは、実に美
しい光景だった。
いつまで続くのだろう。この終わりのない戦いは?
そして・・・・・。
- 196 名前:偽りのメール 投稿日:2003年06月13日(金)19時56分13秒
- 彼女はいつの間にか眠っていた。目覚めた紺野あさ美は、ずれた眼鏡を指で直した。
(慣れないウェイトレスなんてやったからかしら?)
ノートパソコンに向かいながら椅子で眠ったしまったらしい。画面を確認した。そこに
は書きかけのメールがあった。紺野が、吉澤に代わって書いた梨華宛のメールだ。
先程あった飯田からの連絡に依れば、吉澤はまだ目覚めていなかった。早くても明日の
昼までは無理らしい。そこで紺野が再び偽のメールを書くことにしたのだ。
比較的簡単な方法でメールの差出人を偽ることが出来た。もちろん詳しく調べれば、バ
レてしまうのだが、携帯でメールを受ける梨華に、それだけのスキルがあるとは思えなかっ
た。だから紺野は自分に都合のいいような文面を書けた。
吉澤が親類のお通夜に行ったと言う話は、もちろん嘘であった。その後来た吉澤からの
メールは紺野があらかじめ書いて、時間指定で送ったものだ。
「あしたも、ウェイトレスですね」紺野は誰に言うともなく呟いた。
- 197 名前:token 投稿日:2003年06月13日(金)19時58分35秒
- はい、tokenです。しつこく続く悪夢シリーズでした。
後藤さんに何が起きたのか?中澤さんのカラコンはいつ換わったのか?
などは次回に明らかになるはずです。たぶん・・・・・・。
さて、今週ももうお終いですね。そこで、予告通り、特別企画第2弾を載せちゃま〜す。
尚、今回はこれ以降、ochiで行ってみたいと思います。
- 198 名前:特別企画その2 投稿日:2003年06月13日(金)20時01分25秒
- tokenの取材レポートPart2
はい、やって来ました迷惑企画。作者の気分転換のためにだけ、書かれていると言う噂
の取材レポートです。今回はお約束通り『空手美少女編』です。
ガンマニアの高木氏(仮名)のもとを辞した私ことtokenと運転手兼案内人の某氏は、
途中昼食(これは私のおごり、と言うことになりました)を摂った後、次の取材先に向か
いました。
やがて、一軒の建物につきました。それ程大きな物ではありませんが、時代劇に出てく
るような剣術道場といった趣の建物です。実は以前にも私は都内のいくつかの道場に見学
に行ったことがあります。でも、それらはすべて、ビルの中にあった物です。道場と言う
よりも格闘技専用体育館と言った感じでした。もちろん都内の土地事情を考慮すれば道場
のビル化は当然の結果だと思います。内部の設備も立派なところが多かったですし。
- 199 名前:特別企画その2 投稿日:2003年06月13日(金)20時03分57秒
- でも、これはあくまでシロートの勝手なイメージなんですが、道場と言えば、平屋の板
張りで、冷暖房ナシ、であって欲しいんです。その点今回お邪魔したこちらは、正にイメ
ージ通りでした。もし映画を撮るんでしたらここでロケをしてみたいほどです。
早速門の前に立ち案内を乞います。本当ならここで「たのもー」とか言って、「何のご
用でしょう」と出てきた下っ端に向かって、「道場破りじゃ、ごるぅああああ〜」と言い
ながら、出て来る門弟達をバッタバッタとなぎ倒しつつ奥に進み、ラスボスの師範と死闘
の末、それをついに倒しての帰り際、看板を蹴りでまっぷたつ、な〜んて妄想が限りなく
広がります。(あれ、なんだか某氏の視線が痛いです)
閑話休題。気を取り直して、レポートを続けます。門弟の方に案内されて私たちは中に
入りました。道場の中は、外からイメージしたように板張りでした。(かっけー!)中に
は10人ぐらいの空手着を着た人たちが居ました。うち、女性は二人です。皆さん、正座
なさっていました。私たちも正座して早速見学です。客人の私たちには座布団が出されま
したが、皆さんは直に座っていました。師範は50歳ぐらいの割に小柄な方でした。
- 200 名前:特別企画その2 投稿日:2003年06月13日(金)20時05分38秒
- まず、型を見せていただきました。演じるは黒帯の男性です。いろいろな空手の構えを
続けてみせるアレです。ゆっくりやるシャドーボクシングって所でしょうか?う〜ん、迫
力がありますね。つづいて、女性の方にも見せていただきました。短髪の20代後半ぐら
いの方でした。やはり、女性がやると雰囲気が違います。流れるようなスムーズな動きで
綺麗でした。
次は試し割です。素手で板や瓦を割るお馴染みのやつです。ここでお待ちかね『空手美
少女』の登場です。(拍手)身長は160センチを少し欠けるぐらいです。そしてスリム
です。空手はダイエットにも良いんでしょうか?後で聞きましたが今年の夏で17歳にな
るそうです。黒い髪をポニーテールに纏め、空手着を着た姿は凛々しく見えました。帯の
色は茶色でした。でも、今年中に黒帯が取れるそうです。そして、顔は誰かに似ています。
そう、高橋愛ちゃんです。以下、彼女のことを高橋(仮名)さんと呼ばせていただきます。
- 201 名前:特別企画その2 投稿日:2003年06月13日(金)20時07分12秒
- 4人のガタイの良い男達が彼女を取り囲みます。手にはそれぞれ1センチぐらいの厚さ
の板を待っています。まな板の半分ぐらいの大きさでしょうか。4人が板を高橋(仮名)
さんに向けて構えました。周りが大きいのでなおさら小さく見えます。こちらも緊張しま
す。やがて構えた高橋(仮名)さんが動きました。正面の板を正拳突きで割ると、右に向
きを変えこれも手で割ります。次は左の板に蹴りです。最後に後ろの板にも蹴りを繰り出
しました。全部で30秒ぐらいでしたか。4枚すべてが一撃です。凄いです。早速高橋(仮
名)さんに駆け寄ろうとしたんですが、足が痺れて立てません。ここでも笑われました。
足の痺れを克服して何とか高橋(仮名)さんに近づいた私は、まず彼女の手を見せても
らいました。私よりも遥かに小さくて柔らかです。拳の先とでも言うんでしょうか、板に
当たったであろう箇所が少し赤くなっていた以外は、怪我一つしていません。
- 202 名前:特別企画その2 投稿日:2003年06月13日(金)20時09分48秒
- 本当は空手着を脱いでもらって(エロい意味ではないですよ〜)、筋肉の付き方なんか
を確認したかったのですが、さすがにここでは出来ませんね。(へへへ)。ただ、いつま
でも手を握っていたせいでしょうか。高橋(仮名)さんが居心地悪そうにしていました。
また、何故かここで敵意に満ちた、誰かの強い視線を感じました。
今度は瓦割です。また、男性がやります。185センチぐらいで、体重は100キロを
軽く超え、120キロぐらいあったかもしれません。そして気のせいでしょうか、何故か
睨むんです。私のことを。以下この男性を伊集院(仮名)氏と呼びましょう。
間をあけて並べた二つのコンクリートブロックを渡すように瓦を置きます。10枚も積
み上げました。その上にタオルを一枚置きました。割れた破片で怪我をしないためだそう
です。伊集院(仮名)氏が構えます。呼吸を整え、上から押しつぶすように拳を打ち込み
ました。凄い、下まで全部割れました。上の方は粉々です。高橋(仮名)さんと違って、
力業と言うイメージです。
- 203 名前:特別企画その2 投稿日:2003年06月13日(金)20時10分29秒
- でも、彼の手を握りたいとは思いませんでしたYO。(笑)この後、また彼は私を睨む
んです。その後、高橋(仮名)さんに向かってどんなもんだい、とばかりに拳を見せまし
た。はっは〜ん、そう言う事ですか。
最後に組み手を見せていただきました。要するに対戦ですね、うん。実力が同じぐらい
だと、なかなか大技は決まらないそうです。仮に素人と有段者が対戦すれば、回し蹴り炸
裂状態だそうですが。組み手は3組ほどありました。でも私は途中から高橋(仮名)さん
とそれをさり気なく見つめる伊集院(仮名)氏を見ていたので、あまり詳しく書けません。
なんか某氏も組み手に参加したみたいですけど。(って、オイ取材はどうした!取材は)
皆様にお礼を述べて道場を後にしました。帰り際高橋(仮名)さんに確認してみました。
それによると現在、彼氏も彼女(!)もいないそうですが、募集もしていないとのこと。
残念、私は立候補を断念しました。近くで耳をダンボにして聞いていた伊集院(仮名)氏
は、喜んだり、がっかりしたり、見ていて面白かったです。頑張ってね、伊集院(仮名)
さん!
- 204 名前:特別企画その2 投稿日:2003年06月13日(金)20時12分11秒
- お土産に道場の看板を貰っていこうとの私の計画は、某氏の脳天空手チョップによって
阻止されました。冗談なのに、頭痛いです。背が縮むかと思いました。(涙、涙のカフェ
テラス)と、言うわけでこの後は、遅めの午後のお茶です。やっぱり私の奢りでしたけど。
以上です。明らかに本編より長いですね。さて、ここでお約束ですが、この特別企画は
フィクションであり、登場する人物及び団体等はすべて架空の物です。あくまで変則『娘。
小説』ですよ〜。(笑)だから、怒っちゃや〜YO
では、また。
- 205 名前:Silence 投稿日:2003年06月13日(金)22時36分13秒
- 更新お疲れ様でした。
カボチャ大王と戦う少女。う〜ん想像できん。(w
おお、次回でついに後藤さんのことがわかるんですね。(寝不足解消?
取材レポートお疲れ様でした。
すごく面白かったんですけど、自分的に一番のツボだったのは
作者様の作戦でした。(w
次回も限りなく楽しみにしていますね。
- 206 名前:吉澤が見たものは2 投稿日:2003年06月14日(土)21時00分27秒
- 吉澤は固まった。立ちつくしたまま動けなかった。
9歳で、虐待されていた孤児院を出て、『組織』の養成所に入った吉澤ひとみ。そして、
そこで出会った唯一とも呼べる親友であり、義姉妹でもあった後藤真希。吉澤の脳裏に後
藤との思い出が、走馬燈のように駆けめぐった。
「ごっちん」吉澤が力なく呟いた。すると、
「うっ、う〜ん」後藤が軽く呻きながら、動いた。
(生きてる!!)吉澤は後藤に駆け寄り、揺さぶった。
「ごっちん、しっかりして、ごっちん!」怪我の具合によっては、いきなり強く患者を揺
さぶるのは、症状を悪化させることがある。脳内の出血などが典型的な例だ。知識として
吉澤はそのことを知ってはいたが、今の彼女にそんな余裕はなかった。
「ごっちん!!」
「んっ、あ〜〜。何だよ、うるさいな〜」吉澤の緊迫した声とは正反対に、緊張感のない
声で後藤が答えた。眠そうに目をこすりながら、起きあがりソファーに座り直した。
- 207 名前:吉澤が見たものは2 投稿日:2003年06月14日(土)21時01分28秒
- 「ご・っ・ち・ん!?」吉澤は再び固まった。
「あれ〜、よしこか。おはようー」後藤が呑気に挨拶した。
「・・・・・・・・・」
「お〜い、よしこー。どうした〜」固まったままで一向に動こうとしない吉澤に対して、
後藤は彼女の目の前で、手を振って見せた。反応ナシ。が、更に5秒後、
「何だよ〜!!」いきなり大音量で吉澤が吼えた。
「ひ、人が、心配してかっ飛んで来てみれば、ごっちん呑気に寝てるじゃん!それに」そ
う言いながらテーブルの上に目をやった。
「ビールの空き缶が何本もある。ごっちん一人だとビールを飲まないから、誰かと飲んだ
んでしょ!」視線を後藤に戻し、大きな瞳で睨みつけた。
「さっき金髪カラコンの女の人と擦れ違ったよ。あの人と飲んでたんだね。あっ、あたし
が、あたしが心配で心配で死にそうな気分だったのに!」一気にまくし立てて後藤に迫った。
- 208 名前:吉澤が見たものは2 投稿日:2003年06月14日(土)21時02分39秒
- 「ああ、それはねぇー」後藤が説明しようとした時、
「あああああー!!!」更にボリュームを上げた吉澤の声が挙がった。
「えっ!?」訳が分からず戸惑う後藤の、額に掛かるサラサラの髪を吉澤が掻き上げた。
むき出しになった後藤の額には、唇型のルージュの跡がくっきりと残っていた。
「何だよ、このおでこのキスマークは!!」
吉澤の言葉を聞いて、後藤は頬を赤らめた。
(あの時の・・・・・)
「何照れてるんだよ!ごっち〜ん!!何してたんだよ〜〜〜!」吉澤の絶叫が響き渡った。
- 209 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月14日(土)21時04分03秒
- 中澤は、後藤に狙いを定めた拳銃の引き金を引いた。
「パン」乾いた音がして、硝煙の臭いが立ちこめた。が、後藤は無事だった。
「ビックリしたか。これも空砲や」中澤は拳銃をポケットにしまい、飲みかけの缶ビール
を飲み干した。
「中澤さん!?」訳が分からず後藤は呆然とした。
「最初に言ったやろ。腹を割って話そうって」そう言いながら3本目のビールを開けた。
「まず、今回の件やが、まっ、減俸ってとこで手ぇ打ったる」
「・・・・・・」
「以前なら、こんなケースは確実に『処理』の対象や。運がええでぇー、アンタ」
「信じられへんって顔やな。今から説明したるわ」
- 210 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月14日(土)21時05分54秒
- 「その前にや。アンタが寝とる間にな、この部屋は、隅から隅まで調べさせといたわ。さ
すがやな。盗聴器の類は一つも出てこんかったわ」
「はい、それはいつも注意していますから」ようやく落ち着いてきた後藤が答えた。
「うん、うん。感心や。裕ちゃんそう言う娘、すっきやでぇー」またビールをあおる中澤。
「この部屋はもともと声が外に漏れんように、防音対策もバッチリや。さっきからの発砲
音も外には漏れてへんはずやしな。だからこれから、ウチがしゃべることは、アンタと二
人だけの秘密や、ええな!」一瞬、金色のカラコンが後藤を睨んだ。
「わかりました。続けてください」
「そうか、何から話そかな」また、ビールを一口飲んだ。まもなくこれもなくなりそうだ。
- 211 名前:token 投稿日:2003年06月14日(土)21時12分07秒
- 本日分の更新終了です。
>Silence様
毎度ご来場ありがとうございます。寝不足解消出来たでしょうか?
でも、また新たなキスマークの謎が(笑)
では、また次回まで。
- 212 名前:Silence 投稿日:2003年06月15日(日)16時31分25秒
- 更新お疲れ様でした。
寝不足は一瞬直ってまた来ました(w
でも、やっぱ楽しいので読んで大満足です。
次回もがんばってください!!
- 213 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時37分07秒
- 「アンタらが任務に就く前の『処理班』の仕事ぶり、どのくらい知っとるんや?」
「さあ、資料で読んだぐらいですから」
「以前の『処理班』の手口。そりゃーもうー、えげつないもんやった」遠くを見つめるよ
うな目で、中澤は話し始めた。
「一言で言うとな、目的のためには手段を選ばず、や。連続通り魔の仕業に見せかけるた
めに、関係ない人間を二人ほど殺したこともあった」中澤はビールを飲み干した。そして、
4本目に手を伸ばした。
「極めつけはアレやな。一人の人間『処理』するために、ジャンボ機落っことしたこっちゃな」
「えっ!?」さすがに後藤は驚いた。以前の『処理班』の手口の非道さはある程度は知っ
ていた。だから後藤は密かに、自分たちは出来るだけ穏便に事を進めたいと思い、そのよ
うにして来た。『処理班』は客観的に見れば暗殺者であり、人殺しである。元々の発想自
体が間違いなのだろう。それでも、後藤は無駄な死を避けようと、人知れず悩み努力して
いたのだった。だから多くの犠牲者を出す、飛行機を落とすなどと言うやり方は信じられ
なかった。
- 214 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時38分53秒
- 「今は幾分ましになったが、『処理班』はこんなだから忌み嫌われとった」
「だが、まあ、あれや。飛行機の件はさすがにやりすぎや、言う声が『組織』の中からも
出てな、以後方向転換する事になったんや」
「そのうちのひとつが『養成所』の設立や」
「・・・・・」後藤の脳裏に嫌な思い出が蘇ってきた。
「あんたらで、何期やったかなー。3か4期かなぁ、ま、それはどっちでもええこっちゃ
がな」
「身寄りのない子供達を集めて、理想的な『殺人マシーン』を造る。そもそもはこういう
発想やった。だがな、それやと長持ちせーへんのや。アンタ、『養成所』でひとり一人前
に育てるのにいくらかかるか知っとるか?1億やで、1億。ウチの給料の何倍や、ちゅー
んや」
「せっかくそんだけ金掛けてもやな、持たんのや『殺人マシーン』は。初めはええんや、
ごっつううまくいきよる。普段は施設に閉じこめて置いて、必要なときに外に出す。だが
な、月日が経つうちに段々おかしくなって来るんや、精神的にな」
- 215 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時40分21秒
- 「仕事のミスはまだましな方や。酷いのになるとな、見境なく人殺しを始めるんや、暴走
っちゅーやつやな。まさに『殺人マシーン』やけどな。コントロールできへんのは厄介な
んや」
「もちろん、『組織』も考えたで。薬漬けにして、コントロールしようともしたわ。その
ための新薬も開発した。知っとるやろう、例の薬や」
この話を聞いて後藤の顔が青ざめた。脳裏には、断崖絶壁から落ちる少女のイメージが
浮かんでは消えていった。
「あの薬はな。アンタも関わったあの事件を引き起こした薬は、これの最終バージョンや
ねん。増強剤も兼ねとるんや。まあ、一種のドーピングやな。だが、副作用が強すぎたん
や、ま、麻薬の類やから当然かもしれんがな」そんな後藤の様子にはお構いなしに、中澤
は話を続けた。
「だから、あの事件以後、薬の開発及び使用は凍結されたんや。そしてここに至って、よ
うやく『組織』は『処理班』の扱い方のノウハウを完成させたんや。それが、今も続いて
いる、日常生活を送らせながら、裏の仕事をやらせる方法や」
- 216 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時42分29秒
- 「これはな、監視体制さえしっかりしていれば、一番効果的なやり方なんや。表の仕事を
させとくとな、社会に関心を持つようになる。するとな、不思議にも、社会に害をなす奴
らを憎むようになる。その結果、裏の仕事にも使命感が生まれるんや」また、中澤はビー
ルに口を付けた。
「こうして、『処理班』はうまく運営されとるんや。ところがや、今『組織』は揺れとる
んや」
「簡単に言うとな、派閥争いや。きっかけは世代交代やな。組織の最高幹部が何人か引退
の時期を迎えとるんや。もちろん、定年なんてあらへんでぇ。ま、年齢も関係があるけど
な。『組織』の引退は、イコール実力っちゅうか影響力がのうなった、っちゅうこっちゃ」
「で、一番過激な奴がな、『処理班』の効率化を図るっちゅうて、例の薬の開発及び使用
の凍結を解除しようとしとるんや。他にももっと大がかりな方法で『処理』をやろう言う
んや、昔みたいにな」
「えっ、でも」
「ああ、常識的に考えたら無茶な話や。だがな、こいつには結構、賛同者がおるんや」
- 217 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時44分13秒
- 「何でですか?」
「まあ、今まで冷や飯喰らいやったモンが、これを機にのし上がろう、思っとったりと、
事情は様々やけどな」
「アンタ、言うたやろ、『あたし達は別に正義の味方なんかじゃないんだからね』と。ウ
チもそう思うわ。でもな、盗人にも三分の理、や」ビールを飲み干した中澤は、空き缶を
握りつぶした。
「あんな、飛行機落っことすような真似、二度としたらあかんのや。そうやろう。後藤」
金色のカラコンが再び後藤を捉えた。後藤もその視線をガッチリと受け止め、目を逸らさ
なかった。
「あたしに何をしろと?」
「ウチについて来い。つまりは派閥に入れ言うこっちゃ。ウチとこの親分な、これが信用
できる奴やねん。そやから、この派閥にアンタも入って欲しいんや」
しばらくのにらみ合いが続いた。やがて後藤が口を開いた。
- 218 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時46分02秒
- 「ひとつ聞いても良いですか?」
「なんや?」
「ひょっとして、飛行機事故の犠牲者に、中澤さんの関係者がいたんじゃ」
「ふっ、判るか。あんたにゃかなわんな」中澤の目が緩んだ。
「はい、なんとなくそんな感じがしました」
「そうや、うちのな大切な人があれに乗っとったんや、たまたまやけどな。えらそうなこ
と言うても、ウチは単なる復讐をしたいだけかもしれん。せやけど、本気や。奴らの好き
にさせといたら、『処理班』は、いや『組織』はただの暗殺者集団になってしまうんや。
頼む、後藤、ウチに力を貸してくれへんか?」
「わかりました。あたしは中澤さんを信じます。あたしで良ければ喜んでお手伝いします」
「そうか、うん、ありがとうな、ありがとう」中澤は後藤の手を取って、喜んだ。
「で、あたしは何をしたら良いんですか?」
「とりあえずは今まで通りで、かまへん。いずれなんかある時は、別に連絡するさかい。
せやけどな、問題は」
- 219 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時47分17秒
- 「よっしぃー、いえ、吉澤ひとみですね」間髪を入れずに後藤が答えた。
「そうや。小競り合い程度ならええんや。いずれ『寺田興行』も、潰さなあかんやろうし。
それにウチも暴力団は、好かん」
「はい」
「だがな、時期が悪いわ。今もめ事起こして、警察に目ぇ付けられるんは拙いわ」
「説得はしたんですけど」
「まあ、女絡みやし、あの娘が執着するのも判る。なんせ、初恋やろうからな」
「えっ、初恋!?」
「そうや、『吉澤ひとみ21歳の初恋物語』て、とこやな」
「中澤さん、それはありえませんよ。よっしぃーは、いえ、吉澤は50人以上の女の子と
遊んでますよ」
「ふ、甘いな。肉体関係があるからっちゅうて、それが恋とは限らへんやろ」
「でも、・・・・・・」
- 220 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時48分19秒
- 「思い出してみい。『養成所』は恋が出来る環境やったか?普通の中学生が恋に悩む頃、
あんたらはナイフや銃の扱いを習ってたやろ」
「・・・・・・」
「それに、アンタも知ってるんやろう。吉澤が9歳までいた施設での話を」
後藤は頷いた。彼女は以前吉澤から直接聞いていた。孤児院で吉澤が職員や園長達から
性的虐待を受けていた話を。
「肉体的には早熟なんや。それが幸か不幸か、精神が崩壊する前に『組織』の『養成所』
に入れられたんや。恋なんぞ、する暇なんかなかったやろうなあ」
「せやから、今の『吉澤は恋する中学生』状態や、判るやろ?」
「どうすれば良いんですか?」
「あきらめさすんやな。所詮住む世界が違うんやし、それに・・・・・」
「それに?」
「初恋は実らん、そう言うやろ」
- 221 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時50分49秒
- 「じゃあ、そろそろウチは帰るわ」中澤が立ち上がると、後藤も立ち上がった。中澤を
見送ためだ。
「トイレ借りるでぇ」
「向こうです」
「知っとるわ。あっ、化粧直すためやからな」そう言いながらセカンドバッグを持って移
動しようとした中澤が、思い出したように中から何かを取りだした。
「せや、土産を忘れとったわ」
「はい!?」
「これや」中澤はそれを後藤の手に握らせた。後藤が手を開いてみると、そこには少し潰
れた弾丸があった。
「アンタの撃った弾や。警察に手ぇ回して回収しといたわ」
「ありがとうございます」後藤は頭を下げた。だが、その心中にはまだひとつの不安の種
があった。中澤はそれを見透かしたかのように後藤に言った。
「アンタの助けた女の子な、今病院や」
「えっ!?」
- 222 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時52分29秒
- 「ショックが強すぎたんやろうな。寝込んどる。もっとも警察はあの子のことは、単なる
被害者としか見ておらん。せやから事情聴取でアンタの事を聞く事もないやろう」中澤は
トイレに行った。
しばらく後藤は弾丸を見つめていた。それからそれを握りしめた。
(良かった、あの子が無事で)
あの事件での後藤の関わりをもみ消すためには、弾丸の回収と目撃者の口封じが必要で
あった。弾丸の回収が成功した今、一番確実な口封じは、『死人に口なし』であった。幸
いなことに女の子から警察に後藤の情報が伝わる可能性は低そうだ。
トイレから戻った中澤は、どこか雰囲気が変わっていた。ルージュを引き直した唇もそ
うだが全体に妖艶さを漂わせていた。よく見るとカラコンがブルーに換えられていた。
「じゃあな」片手を軽く挙げ、中澤が出ていこうとした。後藤はその後を追うように玄関
まで行こうとしたが、再び中澤が立ち止まり、振り返った。
- 223 名前:回想、後藤と中澤 投稿日:2003年06月15日(日)17時53分53秒
- 「もひとつ、忘れもんや」中澤のブルーのカラコンが、後藤の瞳をのぞき込んだ。沈黙が
続いた。そして、彼女は後藤の顎に軽く手をかけると、後藤の唇に彼女のそれを重ねた。
しばらく後、二つの唇は唾液の糸を引きながら離れた。
「いっ、いきなり何をするんですか」後藤は顔を赤らめて目を逸らした。
「思った通り柔らかい唇やな」にやりと笑う中澤。「ええやろ、減るもんやないし」
「も〜、信じらんな、あれ、・・・」後藤は急に身体の力が抜けて来たのを感じた。足が
もつれ立っていられなかった。思わず中澤にしがみつく様な格好で身を預けた。
そんな後藤を中澤はソファーに連れて行き横にさせた。
「どや、裕ちゃんのキスは効くやろ」後藤の髪の毛を、優しく撫でてやりながら中澤が言
った。
「薬で・す・ね」口を動かすのも大儀になってきた。
「さっき電話で言ってたやろ、もう少し眠るて。ほな、行くわ。お休み」中澤は後藤の額
に口づけすると、今度こそ部屋を出ていった。
「中澤さん・・・」後藤は眠りの世界に降りていった。
- 224 名前:token 投稿日:2003年06月15日(日)17時55分44秒
- 本日分の更新終了です。
>Silence様
寝不足は解消されましたか。それは何よりです。ありがとうございます。頑張ります。
今回は、中澤裕子先生による解説で『処理班』の歴史、あーんど、
何故よっしぃーは梨華ちゃんを、とっとと押し倒さないのか、でした。(笑)
自己新記録の大量更新です。これを2回か3回に分けて更新すれば、ストックができて、
楽なのでしょうが、『いけいけゴーゴー、じゃ〜んぷ』で、一気に載せちゃいました!
それにしても、ごっちん、中澤さんにキスされて、うらやましーぞ〜〜!!
月曜からは少し忙しくなりそうですが、なんとか乗り切ってみま〜す。
ではまた、次回まで。ごきげんよう。
- 225 名前:Silence 投稿日:2003年06月16日(月)10時00分53秒
- 更新お疲れ様でした。
景気良く、ぱ〜っとストック使う作者様に尊敬です。
(自分はネチネチとストックを溜めこむ派ですので(w
ごと〜さんと中澤さんのキスはびっくりでした。
お忙しいとのことで、あまり無理なさらないでくださいね。
- 226 名前:コマシのタイセー 投稿日:2003年06月17日(火)20時01分09秒
- ここは寺田興行御用達のキャバクラ。
照明が絞られた店内。だが、『タンポポ』の様に落ち着いた雰囲気ではなく、どちらか
と言えば、ピンク系の明かりが扇情的で安っぽい。あちこちで下着に等しい姿の女の子達
が、客を取り囲みながら、下品な笑い声を立てていた。そんな中で店の一番奥のボックス
席がひときわ姦しい。そこには、この店のきれいどころが集められていた。その中心にひ
ときわ態度が横柄で、上機嫌な男がいた。寺田興行の山崎だ。
先程から山崎は、店の女の子に囲まれウイスキーを飲みながら、舎弟達を相手に上機嫌
で話をしていた。それも当然であった。なにしろ、次期組長の座を争っていたライバルの
和田が、大失態をやらかしたのだから。既に山崎は自分の勝利を確信していた。いわばこ
れは前祝いであった。いつもよりも気前よく、舎弟や女の子達にも酒を勧めていた。
「ざまーねーよなぁー、おい」
「へい」
- 227 名前:コマシのタイセー 投稿日:2003年06月17日(火)20時01分48秒
- 「和田の奴、大口叩いた割に、あれかよ」
「へへへ」
「おまけに助っ人まで頼んで、返り討ちにあったそうじゃねーか」
「そうっスねぇ」
「だいたい武闘派の俺っちを差し置いて、闇討ちなんてするからあんな目にあうんだ。イ
ンテリヤクザは大人しく、電卓でも叩いてりゃいいんだよっ!なあ、おい」
「その通りっす」
山崎が黙ってくわえた煙草に、女の子の一人が、しなを作りながら火をつけた。別の一
人が、新しい水割りを作り、ほとんど空になったグラスと取り替えた。煙草を吹かし、ウ
イスキーを一口飲み、山崎の独演会は続いた。
二時間ほど後、ようやく山崎の独演会は終わりに近づいてきた。
- 228 名前:コマシのタイセー 投稿日:2003年06月17日(火)20時02分40秒
- 「さあーて、それじゃーそろそろ真打ち登場と行こうか」山崎は手で合図をして、女の子
達を下がらせた。いくら、寺田興行の息が掛かった店とはいえ、ここからの話を部外者に
聞かれるのは拙いとの判断からだった。舎弟達に緊張が走った。
「どうするんですか?」
「なーに、簡単よ。あの女を直接襲っちまえばいいんだよ。そうだなー、やっぱタイセー
にやらせようか」
「タイセーさんっすか!」
コマシのタイセーの異名を持つその男は、裏ビデオ・売春など、組の女関係の『事業』
を仕切っていた。彼のやり口を知っている舎弟達は、下品な笑い声を漏らした。
「とりあえず、女の方をやっちまって、店にはダンプでも突っ込ませるか」何本目かの煙
草の煙を吐き出しながら、山崎が言った。
- 229 名前:token 投稿日:2003年06月17日(火)20時03分48秒
- 本日分の更新終了です。少量ですが・・・・・。
>Silence様
ありがとうございます。
>景気良く、ぱ〜っとストック使う作者様に尊敬です。
そんな、畏れ多いです。ただ単に後先考えてないだけですから。
今日も実は外から何ですが、どうしても一言書きたくて、更新しました。
それはですね〜
辻ちゃん、お誕生日おめでとう〜〜〜〜〜!カシャカシャカシャ、ナイスです!
では、また次回まで。ごきげんよう。
- 230 名前:Silence 投稿日:2003年06月19日(木)15時08分59秒
- 更新お疲れ様です。
なにやらシリアスな場面ですねぇ。
う〜ん、次回もがんばってください。
- 231 名前:嵐の前の日常 投稿日:2003年06月19日(木)21時44分21秒
- 今日も喫茶『ひまわり』は繁盛していた。ウェイトレス二日目の紺野は、相変わらず危
なっかしい動きだったが、ミスをすることも無く、働いていた。
梨華も吉澤がいないのは寂しかったが、紺野がいるとそれも随分紛れた。もっとも、そ
れは梨華が寝ているうちに来ていた、吉澤からのメールの効果が大きく働いていたのだが。
(先に記述したように、これは紺野の書いた偽のメールだったのだが、梨華は知る由もな
かった)
営業時間中は忙しかったが、中休みには紺野と梨華はいろいろとお喋りが出来た。彼女
たちは急速にうち解けていった。二十歳を超えているはずの梨華の精神年齢が幼いせいな
のか、あるいは自称40歳(!?)の紺野のそれが高いせいなのか、二人の仲は高校の同
級生の様な感じであった。紺野は知らず、梨華に限って言えば、高校を卒業以来、同年代
の友達がほとんどいなくなっていた。同級生達はそのほとんどが、進学であちこちに散っ
てしまったからだ。
- 232 名前:嵐の前の日常 投稿日:2003年06月19日(木)21時45分21秒
- 妙齢な女の子の会話と言えば恋バナであろう。初恋の話から始まって、どんなタイプが
好きか、そして失恋の話へと、どんどん広がっていった。梨華にとっては久しぶりの『友
達』との会話だった。
梨華は内心、紺野との出会いを感謝していた。そして、それをもたらした吉澤との出会
いにも。だが、紺野の方はどうだったのであろうか?
- 233 名前:後藤の忠告 投稿日:2003年06月19日(木)21時46分07秒
- 「ごっちん、おーい、ごっちんってば!」
後藤は、吉澤の自分を呼ぶ声で我に返った。いつの間にか意識が、先程の中澤との密談へ
と飛んでいたらしい。それにしても変だ、と後藤は思った。催眠系のガスと中澤が口移し
で飲ませた、得体の知れない薬とが、身体に残っているせいだろうか?普段より明らかに
思考力が落ちていた。だが、胸の鼓動はいつもより熱い。まるでそれは、今まで胸の奥で
押さえつけていたものが、飛び出したいと暴れているようだった。
(そうだ、よしこに言わなきゃいけないことがあったんだ)
「よしこ、大事な話があるんだ」
「その前に、そのおでこのルージュ、落としなよ」冷ややかな視線で吉澤が言った。
「よしこ、マジな話なんだよ!」
後藤の勢いに押され吉澤はしぶしぶ、向かいのソファーに座った。
「まず、今まで何があったかをお互いに報告しあおうよ」
- 234 名前:後藤の忠告 投稿日:2003年06月19日(木)21時47分18秒
- 「解ったよ。じゃあ、あたしから班長に報告しま〜す」まだ幾分ふざけ気味だったが、吉
澤は報告を始めた。
寺田興行の和田達に闇討ちされたこと。そこで負傷したが、紺野あさ美に助けられたこ
と。また、飯田圭織に鍼治療を受けたこと。その後、さっきまで飯田のマンションで眠っ
ていたこと。それらを簡潔に後藤に伝えた。
「スナック『タンポポ』の飯田に紺野!?」
「うん、どちらも少し変な人たちだな、とは前から思ってたんだ。でも、悪い人たちじゃ
ないよ。それにあそこは居心地が凄く良いんだよ」
「ふ〜ん(よっしぃーより強い女の子なんて想像できないよ)」後藤は気になったが、こ
の点は後回しにすることにした。
「それじゃあ、今度はあたしの番だね」後藤は話を始めた。
- 235 名前:後藤の忠告 投稿日:2003年06月19日(木)21時48分00秒
- 吉澤が来なかったために、『処理』作戦が失敗しかけたこと。自分の判断ミスで拳銃を
使ってしまったこと。そして先程まで『組織』の使者が来ていたこと。これらを吉澤に伝
えた。だが、中澤との密談の内容は、あえて言わなかった。吉澤を信用していなかったか
らではない。彼女に余計な心配を掛けさせたくなかったからだ。実際の年齢はともかく、
内心密かに、後藤は吉澤の保護者を自認することが多かった。やんちゃな『妹』を温かく
見守る『姉』、そんな構図であった。
「そうだったんだ、ごめん。あたしのせいで、ごっちん大変だったんだね」素直に吉澤は
謝った。
「ううん、よっしぃーのせいだけじゃないから。それにもう済んだことだから。減俸だけ
どね」
「じゃあ、お詫びになんか奢るよ」
「へ〜。いいの、そんなこと言って。よっしぃーも3ヶ月減俸だよ」いたずらっぽい目つ
きで後藤が言った。
「え〜〜!?」
「当然でしょ。理由はどうあれ、『仕事』に来なかったんだから」
「そんな〜」二人の雰囲気がじゃれ合いモードに変わりつつあった。
- 236 名前:token 投稿日:2003年06月19日(木)21時49分58秒
- 本日分の更新終了です。
>Silence様
ありがとうございます。作者もこんなシーンはあまり書きたくありませんので、短かったんですYO(笑)
そして、お約束の一言です。
中澤裕子様、三十路突入おめでとうございます!
ではまた、次回まで。がんがります。
- 237 名前:Silence 投稿日:2003年06月21日(土)13時37分46秒
- 更新お疲れ様でした。
ってゆーか紺野さん自称40歳!?びっくりしますた。
そして作者様の言葉で中澤さんの30入りを知った自分。(w
次回もがんばってくださいね。
- 238 名前:後藤の忠告 投稿日:2003年06月21日(土)23時44分27秒
- 吉澤の携帯がメロディーを奏で始めた。この着信音は紺野だった。
「ごっちん、ごめん」そう断ってから吉澤は電話にでた。今回はいろいろと世話を掛けた
ので、とりあえず一言礼を言おうと思ったからだ。
『吉澤さん、お加減どうですか?』
「うん、お陰様で、もうすっかり元気だよ。今度のことでだいぶ迷惑掛けちゃって、いろ
いろ悪かったねぇ。今度改めてお礼に行くからさ」
『いえいえいえ、そんなこと。それよりですね、あたし今、ウェイトレスをしてるんです
よ『ひまわり』で』
「えっ!」
『吉澤さんの身代わりですよ。お店今、大繁盛なんですから』
「よかった〜。心配だったんだよ」
『良いんですよ。あたしも梨華さんに興味がありましたから。可愛い人ですね、彼女』
「うん」
『それでですね、梨華さんは、吉澤さんが親戚の法事で田舎に行っている、と思っていま
すから、口裏を合わせて置いて下さいね』
- 239 名前:後藤の忠告 投稿日:2003年06月21日(土)23時46分04秒
- 「そこまで気を遣ってくれたんだ!ありがとう。ホント助かったよ」
『ふふふふふ、完璧です!あっ、そろそろ梨華さんがトイレから戻るので、また後で』そ
う言って紺野は電話を切った。
「今のが紺野さん?」電話を終え、晴れ晴れとした表情の吉澤に後藤が尋ねた。
「えっ、聞こえてたの!?」
「えっへん、後藤は地獄耳なのだ」おどけた口調で答えた。
「うっわ〜悪趣味ぃー」吉澤もそれに会わせた。
「あたしも会ってみたいな、その紺野さんに」
「うん、じゃあ、今度一緒に『タンポポ』に飲みに行こうよ」
「うん、いつかね」急に会話が途切れた。二人の間に奇妙な緊張感が漂い始めた。それは、
さっきから後藤が、切り出そうとしてタイミングを計っている話題の内容に吉澤が気づい
ているからに他ならなかった。出来ればこの話題には触れたくない、双方がそう思ってい
たのだが、それは避けられないものであった。遂に後藤は話を切り出した。
- 240 名前:後藤の忠告 投稿日:2003年06月21日(土)23時46分37秒
- 「よしこ、梨華ちゃんと別れて」それまでとはうって変わって、まじめな口調で後藤が言った。
「な、何を言い出すんだよ急に」真正面からの後藤のアプローチに、いささか吉澤はあせった。
しかしすぐに冷静さを取り戻し、反論した。
「別れろって言われても、あたし達、そんな仲じゃないよ」
「じゃあ、尚更簡単でいいね。とにかく別れて」そっけなく後藤は言い放った。
「ごっちん、でもこの間は梨華ちゃんの側にいるのを認めてくれたじゃない」
「認めた訳じゃないよ。黙認ってやつだよ。でも、それももうおしまい。状況が変わったんだ」
「嫌だよ、あたしには関係ないよ、そんなこと。そりゃ、今回は油断して迷惑掛けちゃっ
たけど、これからはもっとしっかりするから。裏の仕事に響かないようにするから!」
「それだけじゃないんだよ、あたしが別れろって言うのは。梨華ちゃんのためでもあるんだよ」
「梨華ちゃんのため!?」
- 241 名前:後藤の忠告 投稿日:2003年06月21日(土)23時48分08秒
- 「よっしぃーは裏の仕事のことを梨華ちゃんに隠したまま、つきあって行けるの?もし裏
の仕事を梨華ちゃんが気づいたら、梨華ちゃんを『消去』しなくちゃならないんだよ」
「でも、口止めすれば・・・・・」
「口止め?そんな事、簡単に言わないでよ。それとも梨華ちゃんを仲間に引き込むって言
うの?よっしぃー知ってる?成人してから『処理班』に入った人間は、ほとんど途中でダ
メになってるんだよ」
「みんな、極度の緊張感から来るストレスで、精神的におかしくなっていくんだよ。裏切っ
て消されちゃった人もいたよ。当然だよね、なんだかんだと理由を付けても、あたし達は
『人殺し』なんだから」
「あたし達みたいな、養成所出の生き残りは、普通の人とは違うんだよ。よっしぃーは『処
理』の後でも御飯を食べられるでしょ。普通の人が、仕事帰りにビールを飲むみたいに。
あたしもそうだけどさ」自嘲気味に後藤が言った。
「『ひまわり』で改めて、間近で梨華ちゃんを見たとき、正直あたしは彼女に惹かれたんだ」
- 242 名前:後藤の忠告 投稿日:2003年06月21日(土)23時49分39秒
- 「ごっちん!?」
「勘違いしないでね、別に恋愛感情じゃないよ。もっとなにか他の、側にいると感じる心
地よさと言うか、そういった類のものだから」
「・・・・・・」
「で、それが何だろうって考えたんだ。そして解ったんだ。梨華ちゃんはやっぱり、あた
し達とは別の世界の人間なんだって。彼女はあたしたちが、とっくの昔になくしてしまっ
た物、ううん。もしかしたら初めから持ってなんかいなかった物、それを持ってるんだよ!」
「・・・・・・」
「あたしは、それに惹かれたんだと思う。ねえ、よっしぃー知ってる?人はね自分に無い
もの、足りないものを求めるんだよ。お腹が一杯な人は食べ物を欲しがらないでしょう?」
- 243 名前: 後藤の忠告 投稿日:2003年06月21日(土)23時50分12秒
- 「あたし達は普通の人間じゃないんだ。優しさに飢えた獣だよ。そんなあたし達が梨華ちゃ
んに関わると、彼女には不幸な結果しか残らない、そんな気がするんだ」
「二人がつきあうのは、梨華ちゃんを不幸にすることになるんだよ!それでもいいの?」
呆然とする吉澤を、後藤は優しく抱きしめた。
「あたしがいるじゃない。ね。よっしぃーが寂しいときは、いつだって慰めてあげるから
・・・・・。だから梨華ちゃんのことは諦めて、お願い!」
- 244 名前:token 投稿日:2003年06月21日(土)23時54分11秒
- 本日分の更新終了です。
>Silence様
毎度ありがとうございます。
紺野さんの年齢に関しては >>89 のジョークをもとにしております。もっともこのお話の中で
一番の謎のキャラですから、真偽のほどは???
では、次回まで。ごきげんよう。
- 245 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月22日(日)09時40分19秒
- 初めて読ませていただきました。
面白いです。紺野のキャラがかなり
いいですねw
がんがってください。
- 246 名前:名無しくん 投稿日:2003年06月22日(日)19時44分08秒
- 一気に読ませていただきました。
すっごくおもしろいです!
今後のいしよしがどうなっていくのか・・・
期待しつつ更新お待ちしております
- 247 名前:『タンポポ』の秘密 投稿日:2003年06月23日(月)13時07分46秒
- 吉澤が花束を持って『タンポポ』にやって来た。
後藤と別れた後、吉澤は梨華に会いたかった。せめて電話で声を聞きたかった。だが、
今の精神状態では普通に対応出来そうもなかった。一人で部屋にいるとますます気が滅入っ
て来そうだった。そこで吉澤は、『タンポポ』にやって来た。もちろん飯田への礼も兼ね
ていたのだが。
「いらっしゃい」ママの飯田が迎えた。その大きな瞳で見つめられた吉澤は、以前から何
度も感じた感覚を味わった。まるで、心の中を見透かされているような、奇妙なものだ。
「いろいろご迷惑掛けました」内心の動揺を隠しつつ花束を差し出した。
「どう、調子は?」
「はい、完璧です!」紺野の口調を真似て吉澤が答えた。飯田は小さなため息をついて、呟いた。
「思った通り、後は心の問題か」
「えっ!?」吉澤の笑顔はぎこちなかった。
「ねぇ、あんた気づいてる?お店で陽気に振る舞っている時の吉澤って、痛々しいんだよ」
- 248 名前:『タンポポ』の秘密 投稿日:2003年06月23日(月)13時08分32秒
- 「Oh!そんなこと、ないですYO〜」
それには直接答えず、飯田は別のことを話し始めた。
「吉澤、あたしがどうしてこのお店やっているのか解る?」
「お金のため、じゃないですよね」
「うん、前にも言ったけど、圭織、お金に興味ないから。圭織はね、癒しの場所を創りた
いんだ」
「ここに通っているから解ると思うけど、このお店は居心地が良いでしょ。それはね、吉
澤が癒されたいと、心の奥で願っているからなんだよ」飯田の目つきがどこか遠くを見つ
めている様になった。
「モグリの鍼灸師も、同じ理由なの。世の中にはねぇ、事情があってお医者さんに見ても
らえない人達が、たくさんいるの。だからその人達のために圭織はいるんだよ」
「それって、え〜と、そのぉー」何か言った方がいいと思うのだが、吉澤はうまく言葉が
出てこなかった。
- 249 名前:『タンポポ』の秘密 投稿日:2003年06月23日(月)13時09分30秒
- 「そうね、まあ裏の仕事ってとこかしら」
「裏の仕事、ですか」
(同じ裏の仕事でも、飯田さんは人の命を助け、あたしはそれを奪う、か。こんな事が知
られたら、飯田さんは絶対あたしを許してくれないだろうな。ううん、きっと軽蔑される
よ。紺野さんだって。ちょっと変な娘だけど、やっぱり嫌われちゃうよ。だったら梨華ちゃ
んは?・・・・・・。だめだ、普通の女の子の梨華ちゃんが、人殺しのあたしなんて受け
入れてくれるはずないな。あたし、自分の都合のいいようにしか考えてなかったけど、やっ
ぱり、ごっちんの言うことは正しいのかな。みんなとつき合って行くには、表の顔の吉澤
ひとみで居続けるしかないんだ。じゃなきゃ、・・・・・・)
吉澤は物思いに沈んでいた。気を利かせたのであろうか、飯田は吉澤から離れて行った。
- 250 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月23日(月)13時10分25秒
- 吉澤の思考を中断するかのように、紺野から電話が来た。
『吉澤さん、今どちらですか?』
「『タンポポ』にいるよ。こっち来る?」出来るだけ陽気な声で答えた。あたしは単なる
常連客の吉澤ひとみなんだ、と自分に言い聞かせながら。
『いいえ、さすがにウェイトレスやって疲れました。今日はこのまま帰ります』
「ありがとう、何度も言うようだけど、ホント助かったよ。感謝してるよ」
『それはいいんですけど。吉澤さん、どうして梨華さんに電話してあげないんですか?』
その声にはいくらか、非難めいた響きがあった。
「えっ、え〜とそれはさ、ちょっと」吉澤が口ごもった。
「ごめんなさい、余計なこと言っちゃいましたね」吉澤の何かを察したのか、紺野は素直
に引き下がった。
「・・・・・・」
- 251 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月23日(月)13時11分14秒
- 『ところで吉澤さん、以前私が『ひまわり』に食材をお届けしたときのこと、覚えてます
か?確か何かお礼をしていただけるんでしたよね』突然紺野が話題を変えた。
「うん、覚えているよ。何かリクエストある?」内心助かったと思いながら吉澤が聞いた。
口調も明るいものに戻っていた。
『そうですね〜』紺野は電話の向こうで考えているらしい。しばらくして、
『そうだ。あたしとデーとして下さい』
「デート!?」
『な〜んてね。冗談ですよ、冗談。吉澤さんは梨華さんのことで頭が一杯でしょうから、
そんなこと出来ませんよね』
「・・・・・」
『でも、一緒に映画を見てくれませんか?』紺野がいたずらっぽく言った。
- 252 名前:token 投稿日:2003年06月23日(月)13時12分49秒
- 本日、お昼休みに更新です。って時間が押してる〜!
レスが二つも来ています。しかも、どちらもご新規です。(感涙)
>245 名無しさん様
ありがとうございます。紺野さん、主役のはずの吉澤さんより目立ってるかもしれません。(笑い)
>246 名無しくん様
ありがとうございます。でも、しばらく梨華ちゃんは・・・・。
次回の更新まで、頑張ります!どうぞよろしく!
- 253 名前:Silence 投稿日:2003年06月23日(月)17時20分46秒
- 更新お疲れ様です。
しかし、吉澤もつらいですよね。う〜ん、難しい問題すぎて
自分にはわかりません。
ではでは、次回もがんばってください。
- 254 名前:名無しくん 投稿日:2003年06月24日(火)21時22分21秒
- 更新お疲れ様です!
展開が読めません・・次回どうなっているのか
どきどきしながらお待ちしています!
- 255 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月25日(水)21時42分06秒
- 昨夜、吉澤はさんざん迷った末、梨華にメールを送った。紺野から、翌日は梨華の店が
久々の休みだと聞いていた。それは本当なら、梨華とどこかに遊びに行くはずの日だった。
だが今の吉澤は、直接梨華に会うのが辛かった。自分でも情けないと自覚しているが、も
う少しだけ時間が欲しかった。だから戻るのは明後日だとメールで嘘をついた。
そしてここは、営業時間前のスナック『タンポポ』。時間の早い昼間だから、まだ開店
準備すらされていない。ママの飯田も、バーテンダーも当然いない。店の中は吉澤と紺野
の二人だけだ。
一緒に映画を見たい、と言う紺野の希望を、結局吉澤は受け入れた。見方によっては梨
華を裏切っている様にも見えたが、吉澤にはそんな意識はない。むしろ明日、表の顔で平
然と梨華に会うためのリハーサルぐらいに考えていた。
意外にも、紺野の指定した待ち合わせの場所は、スナック『タンポポ』だった。
- 256 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月25日(水)21時43分04秒
- 「私たちは夜のお仕事ですからね。仕事帰りに映画館に行く、なんて事は当然出来ません。
昼間お仕事の前に見に行ってもいいんですけど、良い映画を見た後には、その余韻に浸り
たい時もあります。だからお仕事前はあまり見たくないんです。そうすると、いきおいビ
デオで鑑賞と言うのがメインになります。ここのモニターは音が良いんですよ」
そう言いながら、紺野は普段はカラオケに使っているモニターの電源を入れ上映の用意を
進めていた。
「でも、今日は吉澤さんと一緒だから特別です」結構意味深なことを、さらりと言っての
けた紺野。
「ねえ、一体何を見るの?やっぱ恋愛物?あ、一人で見るのが怖いホラーかな?ひょっと
してカンフーアクション?」紺野の台詞に気づかない振りをして、吉澤が聞いた。
「ふふふ。どれも面白そうなんですけど、今の吉澤さんと見るのなら、これでしょうかね」
紺野は店の明かりを消した。モニターの明かりだけになった。
吉澤の隣に座った紺野は、リモコンでビデオを操作した。目の前のテーブルには大量の
ポップコーンとコーラが用意されていた。
「さあ、始まりますよ」
- 257 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月25日(水)21時44分19秒
- 『Rain Man』タイトルはそう読めた。(雨男!?雪男の親戚のホラーかな?)
「へー。トム・クルーズが出てるんだ。確か、かっけーアクション映画に出てる人だよね」
「はい。でも、これは拳銃を撃ったり、爆弾が爆発したりはしないんですよ」
「ふ〜ん(じゃあ、やっぱり恋愛物なのかな?)」
実を言うと吉澤は、ビデオを含めあまり映画を見ていなかった。表と裏の両方の仕事を
しているせいで、時間のやり繰りが難しかったことも理由の一つだろう。だが、その気に
なれば時間など作れるはずだ。最大の理由は、映画という絵空事に魅力を感じていないた
めだった。特に犯罪がらみのアクション映画の多くは、本職の吉澤の目には、ご都合主義
の産物としか映らなかったからだ。
一方意外な事だが、吉澤とは対照的に後藤は映画が好きだった。やはり時間の都合上、
ビデオが主流になるのだが、一人の時に部屋でよく見ていた。これは現在の、処理班班長
に就任する前に、共に作戦に従事していたパートナーの影響によるものだ。映画鑑賞は習
慣化していたのだ。
- 258 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月25日(水)21時45分35秒
- 吉澤など特に親しい者にしか見せないために、後藤は感情をあまり表に現さないタイプ、
そう思われていた。その反動だろうか、一人の時はビデオを見て笑い、泣き、感情を素直
に表していた。
そんな後藤は、たまに吉澤を誘い一緒にビデオを見ることもあった。だから吉澤にとっ
て、数少ないビデオ鑑賞体験はすべて後藤がらみだった。ビデオそのものに興味は持てな
くとも、自分の前で素の顔を見せる後藤を身近に感じたくて、吉澤は誘われると喜んで出
かけて行った。もっともそれはいつも、裏の仕事のスケジュールから時期的に離れた日が
選ばれていたのだが。
- 259 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月25日(水)21時46分37秒
- やや、脱線したので話を元に戻そう。
「わっ、これ吹き替えじゃない!」思わず吉澤は声をあげてしまった。
「ごめんなさい。このビデオしかなかったんです」
「ううん、オーケー、オーケー、O.K.牧場だYO〜」
とは言っても、どちらかというと英語が不得意な吉澤は、画面の細部に目をやるゆとり
はなく、スクリーンの字幕を読み続けていた。筋を追うのが精一杯だった。
(えーと、主人公のお父さんが亡くなって、それから)字幕を読んでいる吉澤がビデオに
やや飽きかけた頃、
「吉澤さん、ここで題名の意味が解りますよ」ポップコーンを頬張りながら、紺野が教え
てくれた。
- 260 名前:token 投稿日:2003年06月25日(水)21時48分59秒
- 本日分の更新終了です。ちょっと区切りのシーンが変ですが・・・・・。
>Silence様
ありがとうございます。実は作者もよく解りません(爆)
>名無しくん様
再びのご来場ありがとうございます。次回あたり急展開の予定です。
では、次回までごきげんよう。
- 261 名前:token 投稿日:2003年06月25日(水)22時01分42秒
- わ〜、また、忘れてました。
松浦亜弥様、お誕生日おめでとうございます!
- 262 名前:Silence 投稿日:2003年06月26日(木)12時00分38秒
- 更新お疲れ様です。
映画ですかぁ〜。確かによっすぃがアクション系見て『かっけ〜!!』
って言ってるのは想像し易いです(w
次回もがんばってくださいね。
- 263 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月26日(木)23時32分44秒
- Man:"When I was a kid and I got scared, the Rain Man would come and sing to me."
Woman:"The rain waht?"
Man:"You know, one of those imaginary childhood friends."
Woman:"What happened to him?"
Man:"Nothi'. I just grew up."
Woman:"Not so much."
(訳)
男:僕が子供の頃怖がっていたら、レインマンがやって来て歌ってくれたんだ。
女:レインマン!?なんなのそれ?
男:子供の頃によくあっただろう、架空の友達の事だよ。
女:で、彼は結局どうなったの?
男:何もないさ。僕がただ成長して、それで空想は終わりさ。
女:成長してるかしら?
- 264 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月26日(木)23時36分39秒
- 吉澤は字幕を目で追った。しかし、ここの俳優の台詞部分を読んだとき、何か頭に引っ
かかるものを感じた。
2時間ほどで、ビデオは終わった。
「ありがとうございました。吉澤さん。私のワガママにつきあってくれて」
「ねえ、紺野さん」いつになく真剣な顔で吉澤は聞いた。
「何ですか?」ニコニコしながら聞き返す紺野。
「梨華ちゃんの弟さんの義人君って」
「それは解りません。でも、その可能性は高いと思います。レインマンとは逆のパターン
ですけど」まるで吉澤の言いたいことをすべて解っているような口振りだった。
「義人君ってのは梨華ちゃんの頭の中にしか存在しない、想像上の人物なんだね」
「正確にはかつて存在していた、と言うべきでしょう。既に亡くなっているようですし」
「じゃあ。じゃあ、梨華ちゃんは嘘をついているわけではないんだね」
「少なくとも、意図的な嘘ではないはずです」
- 265 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月26日(木)23時38分17秒
- 「そうか、よかった〜」梨華の弟、義人の存在については気になってはいたが、努めて考
えないようにしていたのだ。
「あまり、良いとは言えないかもしれませんよ」表情をやや 硬くして紺野が言った。
「えっ!?」
「これを一種の病気だとみると、進行している疑いがあります」
「しかも、原因は精神的緊張から来るストレスと言うよりも、肉体的なものではないでしょ
うか?」
「?」
「石川梨華さんは一度、専門家に見てもらう必要があります。できるぼくだけ早いうちに」
(梨華ちゃん・・・・・)吉澤は難しい表情になった。
- 266 名前:紺野とデート!? 投稿日:2003年06月26日(木)23時40分27秒
- 「大丈夫ですよ。それ程心配するものじゃないかもしれませんよ。念のためですよ。そうだ、吉澤さんが病院へ付き添ってあげれば良いじゃないですか!」まるで吉澤を励ますように、一転して明るい口調で紺野が言った。
「うん、そうだね。いろいろありがとう。でも、わざわざこのことを教えてくれるためにビデオを探してくれたの?」
「いいえ、だから言ったでしょ。私のワガママですよ。吉澤さんと映画を見たかったのは本当です。出来ればどこかの小さな映画館が良かったんですけど」そう言うと紺野は嬉しそうに笑った。
吉澤が帰った後、紺野は携帯を取り出しリダイヤルボタンを押した。
「あたしです。そちらはどうですか?そうですか、それはご苦労様です。では、引き続きよろしくお願いしますね」
- 267 名前:ひとりぼっちの休日 投稿日:2003年06月26日(木)23時41分51秒
- アラームのセットなどはしていなかったが、その日の朝も、梨華はいつも通りの時間に
目が覚めた。今日は久々の休日だ。しかも最近は、一人で捌ききれないほどのお客がやっ
て来ていたので、疲労もピークに達していた。だから、今日はゆっくり朝寝が出来るはず
なのだが、梨華は目が覚めてしまった。だが一向に、ベッドから起き出そうとはしなかっ
た。身体がだるく、食欲もなかった。そこでそのまま梨華は、ベッドの中で時間を潰して
いった。
母親が亡くなって、喫茶店『ひまわり』を引き継いでから約3年が過ぎていた。寺田興
行の嫌がらせが始まるまでは、店はそこそこ繁盛していた。その間梨華は、アルバイトも
雇わず、一人で店をやっていた。ひとりぼっちには慣れているはずだった。だが、今日は
何故かいつもにも増して、寂しさが募っていた。
昨夜遅く、吉澤からメールが届いた。それによると吉澤の帰りは、明日になるらしい。
せめて今日の昼前に帰って来てくれたならば、前からの約束通り、どこかに遊びに行けた
のに。梨華はベットの中で、ぼんやりとそんなことを考えていた。
- 268 名前:ひとりぼっちの休日 投稿日:2003年06月26日(木)23時43分21秒
- 『こんなに苦しむのなら、出会わなければよかった。』これまで何人の恋人達が、これと
同じ思いを味わっていたことだろう?
この時点で、梨華には吉澤と恋愛関係にあると言う自覚はなかった。だが、相手が側に
いないことで、寂しさが募ってくる状態は、恋の初期症状とは言えないだろうか?梨華は
自分の気持ちに戸惑っていた。梨華にとって吉澤は、自分を助けてくれた親切でカッコイ
イ友達で、女性だけど弟の義人そっくりの・・・・。義人・・・・!?よっしぃー!?あ
れ、義人は確か・・・・。ここまで考えを巡らせていた梨華を、激しい頭痛が襲った。頭
の奥で刺すような痛みを感じていた。
(痛い、痛いよ、頭が・・・・・イタイヨ。助けて!・・・・・お母さん。よっしぃー)
ベッドの中で文字通り頭を抱えて、梨華は苦しんでいた。
- 269 名前:token 投稿日:2003年06月26日(木)23時46分29秒
- 本日の更新終了です。
>Silence様
いつもありがとうございます。はい、頑張ってみました。
263の映画の台詞は、一応私が訳しました。ほら、他人の訳を使うと著作権の問題が(笑)
英語のほうも私にはこのように聞こえたので、ひょっとしたらどこか間違ってるかもしれませんけど(苦笑)
それから、前回急展開を予告していましたが、ごめんなさい。次回にずれました。期待なさっていた方、申し訳ありません。
お詫びと言っては何ですが、次回の更新は、明日中にする事をお約束いたします。
わー、266コピペ失敗です。一行の字数が変ですね。ごめんなさい。
では、次回まで。ごきげんよう!
- 270 名前:ひとりぼっちの休日 投稿日:2003年06月27日(金)21時01分19秒
- 午後、吉澤から電話があった。
その頃には梨華の頭痛は収まり、ベッドからも起き出していた。だが、特にこれと言っ
てすることがなかった。本当なら銀行に行きたかったのだが、もう時間的に間に合わなか
った。とりあえずテレビを付けてみたが、連続ドラマの再放送をやっていた。が、見たこ
とのないドラマの途中の回だったので、興味が湧かなかった。
(あ〜暇だなあ。紺野ちゃんに電話してみようかな?あっ、でも夜のお仕事だから、まだ
寝ているかも。そうだ!よっしぃーにメールしてみよう。メールなら迷惑にならないよね。
うん)梨華が携帯を持ってメールを打っている時に、突然それが震えだしメロディーを奏でた。
『梨華ちゃん?あたし、吉澤です』
「よっしぃー!」思わず声のトーンを上げていた。
『ごめんね、突然休んじゃって』
「ううん、大丈夫だよ。紺野ちゃんも手伝ってくれたし」
- 271 名前:ひとりぼっちの休日 投稿日:2003年06月27日(金)21時02分45秒
- 『紺野ちゃん!?』
「うん、お友達になったんだよ、あたし達」
『そ、そうなんだ。うん、あのね、そのー』
「大変だったんでしょう。身内の方にご不幸があって」
『えっ!?うん、そ、そうなんだよ。いや、それよりね、えーと、ちょっと話がしたいん
だけど・・・・・』歯切れの悪い吉澤であった。
「なあに、相談事?」
『うん、あのね、そのー』
「さっきからそればっかりだね。いいよ、お姉ちゃんに任せなさい!さあ、ほら、カモ〜
ンナ」梨華が張り切りモードになった。
『(梨華ちゃん)・・・・・』
「どうしたの黙りこくっちゃって。そんなに言いづらいことなの?」
『落ち着いて聞いてね。あのね、あたしと病院に行ってくれない?』
「へっ!?病院って、よっしぃーどこか悪いの!?」
- 272 名前:ひとりぼっちの休日 投稿日:2003年06月27日(金)21時03分40秒
- 『うん、いや、そうじゃなくてさ、梨華ちゃんが』
「あたし!?あたしはどこも悪くないよ」
『でもさ、え〜と、梨華ちゃん働きづめで体調悪そうだし』
「まあ、正直に言うとね、今朝方ちょっと頭痛がしたんだ。でもね、お薬飲んだらすぐ直っ
たし、たぶん風邪だと思うんだ。だから大丈夫だよ。うん、もう平気!」
『梨華ちゃん・・・・・(やっぱり直接会って説得しないと駄目か)』
「ね、それよりさ。よっしぃー今どこなの?今日はお店が休みだったんだよ。どこか行く
約束だったよね」
『うん、覚えてるよ。ごめんね今日は行けそうもないね』
「ううん、もういいよ。だって今回はしょうがないよね。でも、さ、宿題だったでしょ。
どこ行くか考えとくの。で、どこに行きたかったの?」 >>101参照
- 273 名前:ひとりぼっちの休日 投稿日:2003年06月27日(金)21時05分05秒
- 『えっ、えーとね、それはさー(やっべー考えてなかったYO)』
「あっれ〜、宿題忘れてたの?」からかうような口調で梨華が聞いてきた。
『そっ、そんなことないアルヨ。じゃなかった。うん、あのね、え〜と、映画。うん、そ
う。映画館に行きたいな〜って』
「映画館!?」
『うん、ビデオじゃなくて、梨華ちゃんと一緒に映画館に行くのがいいかな、って』
「よっしぃー映画好きなの?」
『う、うん。いつもは時間がないからビデオなんだけど、どこか小さな映画館でゆっくり
映画をみたかったな、梨華ちゃんと』
「小さな映画館かあ〜。いいわね、それ」幾分うっとりしているような口調で梨華が答えた。
『でしょう(ふ〜、紺野さんの台詞、パクッちゃったよ)』
- 274 名前:ひとりぼっちの休日 投稿日:2003年06月27日(金)21時06分43秒
- その後、二人の楽しい会話は1時間ほど続いた。それを止めたのは吉澤の携帯の、バッ
テリー切れだった。
「ねえ、よっしぃー、明日もお店手伝ってくれるの?」通話の終了間際、梨華が聞いた。
『うん、もちろんだよ。だってお客さんがあたしを待ってるもん』
「ふふふ、そうね。あのね、明日はお店を開けるのは11時にするね」
『えっ!?どうして』
「うん、今日午前中に銀行へ行こうと思ってたんだけど、あたし寝てたから。それに郵便
局にも行きたいし」
『わかった。じゃあその頃行くよ。(なんとか梨華ちゃんを説得しないと)』吉澤は決心
した。
- 275 名前:拉致 投稿日:2003年06月27日(金)21時09分20秒
- 翌日午前10時頃、歩道を石川梨華が歩いていた。周りには人通りがまるでなかった。
この町は寂れていた。長引く不況で、地元の有力企業が倒産して以来、その寂れは加速
していった。そのため、現市長が再開発に躍起になるのも、ある意味当然だった。もっと
も、だからといって、これから行われるであろう卑劣な犯罪行為を、正当化する理由には
ならないのだが・・・・・。
梨華は、銀行へ言った後、郵便局へ小包を出しに行った帰りだった。思ったよりも時間
が掛かり、彼女なりに店へと急いでいた。だから、そんな彼女の100メートルほど後ろ
から、一台のワゴン車がつけてきているのに、梨華は気づかなかった。
梨華が横断歩道を渡るために、信号待ちをしていると、そのワゴン車が猛スピードで走っ
て来て梨華の目の前に止まった。
と、同時に中から3人の男達が飛び出してきて、驚く梨華をワゴン車に引きずり込んだ。
声をあげようとする梨華に、一人は薬を染みこませたタオルで口元をふさぎ、他の二人は
抵抗できないようにがっちりと押さえ込んだ。
ワゴン車は走り去った。そんな恐ろしい犯罪が起きた痕跡はどこにも残ってはいなかった。
- 276 名前:token 投稿日:2003年06月27日(金)21時12分25秒
- 本日分の更新終了です。
早速訂正です。270 テレビを付けてみたが→テレビをつけてみたが
275 銀行へ言った後→銀行へ行った後
ううう、ごめんなさい。
梨華ちゃんピ〜ンチ。
では、次回まで。ごきげんよう。
- 277 名前:token 投稿日:2003年06月28日(土)08時28分22秒
- お早うございます。実は昨夜の更新分にまた間違いハケーン。
272「ひとりぼっちの休日」のなかに 101参照とありますが、107の間違えでした。
ゴメンナサイ。101は紺野さんとの約束のシーンでした。
せっかくアクセスしているのですから、ほんの少し更新しておきます。
- 278 名前:拉致 投稿日:2003年06月28日(土)08時32分44秒
- 「う〜ん」軽いうめき声とともに、梨華は目が覚めた。
何だか頭がすっきりしない。ほとんど酒を飲まない梨華だったが、それは二日酔いのけだ
るさにも似ていた。
(あれ?)体の自由が利かないことに気づいた。両手を後ろ手に縛られ、足首にも赤いロ
ープが巻き付けてあった。立ち上がろうとするが、うまく立てなかった。
不自由な体勢で辺りを見回してみた。どうやら長い間使っていないビルの中のようだ。
かなり埃っぽい。梨華は、薄汚れたマットレスの上に寝かされていた。少し離れた所にあ
る、折り畳みの出来る長テーブルの上に、何かがごちゃごちゃと並べてあるのが見えた。
梨華は当然知らなかったのだが、それらはいわゆる「大人のおもちゃ」であった。もちろ
ん男達が梨華に使うために用意した物だ。それらのまがまがしさを感じた梨華は、本能的
に嫌悪した。
- 279 名前:拉致 投稿日:2003年06月28日(土)08時34分20秒
- 「お目覚めかな?お嬢ちゃん」金髪でツンツンヘヤーの40歳ぐらいの男が近寄ってきた。
口元はにやけているが、目つきが怖い。
「こ、ここは何処ですか?あなた誰なんですか?どうしてこんな事するんですか?早くほ
どいて下さい。おっ、お巡りさんに捕まっちゃいますよ!」梨華は一気にまくし立てた。
そうしないと、恐怖で泣き出したしまいそうだったからだ。
「ここは撮影現場。俺様はタイセー、このビデオの監督だ。こんな事するのはあんたが主
演女優だから。ロープは撮影の時にほどいてやるよ。もっともそん時は新たに亀甲縛りか
な。そして、お巡りさんは俺らのお・ト・モ・ダ・チ。これから撮るあんたのビデオを分
けてやれば喜んで協力してくれるさ」小馬鹿にしたように、梨華の質問に一つ一つタイセー
は答えた。
- 280 名前:拉致 投稿日:2003年06月28日(土)08時35分22秒
- 「さっ撮影なんて、どういうことですか!」
「裏ビデオだよ。裏ビデオ。一度ぐらい見たことあるだろ?」
梨華は首を振った。
「へ!?へっへへへへへ、はっははははは、こいつぁ〜いいや、最高だぜ。あんた運が良
いよ。この俺様が一気に裏ビデオのスターにしてやるからYO〜〜」
タイセーの声につられて、向こうで撮影の準備をしていた舎弟達がやって来た。
「もしかして、処女!?」
「おお、いいっすね。」
なめ回すような視線を向ける男達に、梨華は身の危険をヒシヒシと感じていた。
梨華はぎゅっと目を瞑り、心の中で叫んだ。
(助けて、よっしぃー!!)
- 281 名前:token 投稿日:2003年06月28日(土)08時37分38秒
- 以上です。ではまた次回に。
- 282 名前:Silence 投稿日:2003年06月29日(日)12時36分51秒
- 更新お疲れ様です。しかも早朝から。
・・・・・・っ、石川さんマジピンチじゃないですか。助けてあげて
よっすぃー。石川さんを助けるのはやっぱり君しかいないよ。
決して間違った展開にならないことを祈っております(w
- 283 名前:電話 投稿日:2003年06月30日(月)12時12分18秒
- やや抑えめに暖房の効いた部屋。フローリングの床。その上にスウェットの上下を着た
女が、足を180°広げて座っていた。相撲で言う股割状態だ。そのまま身体をゆっくり
前に倒すと、吉澤の腹、胸、顔が徐々に床に着いていった。
梨華が拉致監禁されていた頃、吉澤はまだ自分の部屋にいた。彼女は日課である柔軟運
動の最中だ。吉澤の強さの秘訣は、その反射神経の良さにあったが、いくら反射神経が優
れていても身体が動かなければどうにもならない。しなやかな身体あってこそであった。
だから、それを維持するための鍛錬は欠かせなかった。
(まず、梨華ちゃんになんて言おうかな?)床に密着した状態で、吉澤は今日これからの
ことを考えていた。今までの短いつきあいからでも、梨華が結構頑固なのが解っていたの
で、病院嫌いの梨華を説得するには骨が折れるかもしれない。だが、紺野の言うように梨
華が本当に病気ならば、このままには出来なかった。
- 284 名前:電話 投稿日:2003年06月30日(月)12時13分20秒
- そんな時、携帯が鳴った。後藤からの着メロだ。軽々身を起こすと、吉澤は電話にでた。
『よしこ、聞こえる?』
「うん、だけど雑音がするね」
『手短に言うよ。今ね、後藤、新幹線の中』
「えっ!?」
『出張ってやつかな。しばらく帰れないよ』
「そうなんだ(珍しいな、どこ行ってるんだろう?)」
『じゃあね、梨華ちゃんとは離れなくちゃ駄目だよ』吉澤が、何も言い返す間もなく、電
話が切れた。
普段から吉澤は、後藤の仕事のすべてを把握していたわけではなかったが、数日間の出
張と言うのは記憶になかった。しかも、後藤の声に、心なしか余裕がなかったようにも思
えた。漠然とした不安が募ってきた。折り返し電話で聞いてみようか?吉澤はそうも思っ
たが、結局やめておいた。何も言わなかった後藤を信じて、とりあえず待つことにした。
それにそろそろ『ひまわり』に出かける時間だ。
- 285 名前:電話 投稿日:2003年06月30日(月)12時14分22秒
- 柔軟運動でうっすらと汗をかいた吉澤が、そろそろ着替えて出かける準備をしようとし
ていた時、再び携帯が鳴った。
『吉澤さん、大変です!』声のトーンがいつもより高かった。
「どうしたの、紺野さん」
『石川さんが、さらわれました!!』
「!?」
『私見たんです。廃ビルに石川さんが、チンピラみたいな人たちに連れ込まれて行くのを』
「どこ、それ!!」
『西口公園のすぐそばの、廃業したホテルです。警察には私から、早くっ!』
吉澤はジャンパーと携帯を掴むと部屋を飛び出した。服装は部屋着のスウェットの上下の
ままで、素足で靴を履いた。
- 286 名前:電話 投稿日:2003年06月30日(月)12時15分19秒
- 道端に止めてあったチャリンコに、勝手に乗ると、吉澤は猛スピードでこぎだした。
(梨華ちゃん!梨華ちゃん!梨華ちゃん!梨華ちゃん!梨華ちゃん!梨華ちゃん!・・
・・・・・・・・・・・・)
寺田興行の仕業なら、癒着している警察はあてに出来なかった。後藤も近くにいない
今、梨華を救えるのは自分だけだ。ただ、ただその思いだけで吉澤は道を急いだ。
20分後、吉澤は問題の廃ホテルの前に着いた。
- 287 名前:token 投稿日:2003年06月30日(月)12時16分39秒
- 本日お昼休みに更新です。
>Silence様
ありがとうございます。最近ネットにつなぐ時間が・・・・・。
皆さん、27時間テレビ見ましたか?私は土曜の夜から日曜の深夜まで、
テレビもネットも使えませんでした。(涙)今朝は起きるの辛かったです。
では、次回まで。ごきげんよう。
- 288 名前:Silence 投稿日:2003年07月01日(火)19時18分45秒
- お昼休みの更新お疲れ様です。
吉澤の激チャリかっこいい〜。でも…犯罪じゃないの?(w
token様、お忙しそうで。無理せずマイペースですよ!!
- 289 名前:へっとずぴかる 投稿日:2003年07月02日(水)03時36分08秒
- はじめまして〜
いしよし小説を探していたらこの小説を見つけて
最初からじっくり読ませてもらいました♪
面白くて時計見たら2時間経過してました^^;
映画を見てる感覚でした〜
石川さんがやってる喫茶店を想像してるだけで
「いきてぇ〜いきてぇ〜ひまわり」って思ってしまいました^^
また更新されていたら読ませてもらいます〜
それでは〜♪・・おっとお気に入りに入れておかないと・・
- 290 名前:あたしが守る! 投稿日:2003年07月02日(水)21時13分26秒
- 「おい、発電機もっと遠ざけろ。そんなんじゃ音ォ、拾っちまうだろう。廊下に出して、
延長コードで(電気を)引っ張ってこい」
「カメラ、バッテリー大丈夫か?今回はたっぷりとるからな」
「照明、位置が悪いぞ。それじゃ影ができる!」
撮影スタッフとなる舎弟たちに、次々と指示を出すタイセーは、いっぱしの映画監督気取
りだった。彼の撮った裏ビデオは、その内容のえげつなさで、かな〜り人気があったとい
う。なにしろ出演させている女性の人権というものを、ハナから無視していたので、その
過激さは押してしるべし、であった。
「ちょっと寒みィーか?やっぱストーブ一個じゃ」そういいながらタイセーは視線を梨華
に移した。梨華はマットレスの上で縛られたまま、眠らされていた。先ほど甲高い声で喚
きだしたので、舎弟たちが薬を嗅がせておとなしくさせていたのだ。
「色黒だが、可愛い顔したお嬢様タイプだな。おまけに胸がでかそうだぜ。さーて、どう
料理してやろうか?」タイセーは撮影プランと言う妄想を膨らませ始めた。
- 291 名前:あたしが守る! 投稿日:2003年07月02日(水)21時14分22秒
- 「てめぇーら、何してんだ!」吉澤が中に飛び込んで来たのは、ちょうどそんな時だった。
中に居た男達の視線が一斉に吉澤に注がれた。
吉澤は彼らを睨み付けながら梨華を探した。彼女は床に置かれたマットレスの上に転が
されていた。縛られてぐったりしているが、服は着ているし怪我もしていないようだ。
(良かった。間に合った!)内心ほっとしたのもつかの間、状況を把握分析して攻撃の算
段を始めた。
(5人、か。あいつが兄貴分だな)吉澤の目つきが更に険しくなり、タイセーを睨んだ。
「おんや〜、誰かなこの元気なお嬢ちゃんは?」からかうような口調でタイセーが言った。
「兄貴、こいつが例のボクシング娘ですぜ」吉澤を見知っている、舎弟の一人が言った。
「ふ〜ん」値踏みするようにタイセーは吉澤の全身を見た。
「梨華ちゃんを放せ!!」舎弟たちは吉澤の剣幕に、押され気味だった。だが、
「へっへっへ。良いこと考〜えた、と」まるでそんな事は気にしないかのように、おどけ
た口調でタイセーが言った。
「おい、お前、服を脱げ!」タイセーが吉澤に命令した。
- 292 名前:あたしが守る! 投稿日:2003年07月02日(水)21時15分12秒
- 「何だと!」
「いいのか、そんな口を利いて」そう言いながらタイセーは、ポケットから取り出した拳
銃を、梨華に向けた。
「くっ!」
「どうした?早くしろや!」
タイセーを睨みつけながら、吉澤はゆっくりジャンパーを脱いだ。それからスエットの上
を脱ぎ捨てた。彼女はブラジャー姿になった。
「ひょ〜う。思ったとおり色白だね〜」なめ回すような視線を向けるタイセー。
「へっへっへ。でも、胸のほうは巨乳とは言えませんぜ」先ほどまで吉澤にびびっていた
舎弟の一人が調子に乗って言った。
「兄貴、は、はっ、早くストリップの続きを〜」別の舎弟も騒ぎ始めた。
(下司野郎どもめ!)内心吉澤は吐き捨てるように毒づいていた。
「まあ、待てや。このねえちゃんと、向こうの色黒ねえちゃんのレズシーンを見たくねー
かい?」
- 293 名前:token 投稿日:2003年07月02日(水)21時16分57秒
- 本日分の更新終了です。
>Silence様
そんなこと梨華ちゃんのためならよしこは、気にしません。(きっぱり)
え〜忙しいのは半分は自業自得です。なんせ遊び回ってるもんで。ヘヘヘ
>へっとずぴかる様
はじめまして。ご来場ありがとうございます。どうぞよろしく。
喫茶店『ひまわり』はコーヒーとパスタがお勧めです。
尚、紺野さんとの会話をヒントに新メニュー『カボチャの水羊羹』を
梨華ちゃんが研究中との噂が。(笑)
よしこ何とか間に合ったんですが、むしろピンチに!
ではまた、次回まで。
- 294 名前:Silence 投稿日:2003年07月03日(木)10時47分57秒
- 更新お疲れ様ですぅ。
なんかマジピンチじゃん。とにかく〜、なんとかなれ〜(w
(って本当にどうなっちゃうんだろう
token様もいろいろがんがってくださいね〜!!
- 295 名前:あたしが守る! 投稿日:2003年07月04日(金)08時11分02秒
- 「あっ兄貴、それ最高ーっす!」
「そんな〜、殺生な〜!」せっかくの獲物を前にして、お預けを喰らった男優役の舎弟は
不満気味だ。
「もちろんやるぜ。そいつは、後のお楽しみだ。なんせ時間はたっぷりあるんだ」タイセ
ーが下手くそなウィンクをした。
「さあーて、おい、色白ねえちゃん。こっちの色黒ねえちゃんの横に来な。変な真似しや
がると撃つぞ」拳銃を吉澤に突きつけるタイセー。
吉澤はゆっくり梨華の元に向かった。
「おまえら、レズなんだろう?ほれ、いつもやってるように、そこで愛の営みってやつを
俺らにも見せてくれや」
「梨華ちゃん、大丈夫?」タイセーの言葉を無視して梨華の手足の戒めを解く吉澤。その
ままでは梨華が痛々しくて見ていられなかったからだ。
- 296 名前:あたしが守る! 投稿日:2003年07月04日(金)08時12分00秒
- 「おい、カメラの用意だ」タイセーが舎弟に向かっていった。
「へい、ばっちりです」
「照明もO.Kです」
「おお、仕事が早ぇーな」
「へっへっへ。俺らはやるときにはやる男っすから」舎弟達が下品に笑った。
「梨華ちゃん、梨華ちゃん」吉澤は梨華の頬を軽く叩いて彼女を起こした。
軽いうめき声を上げた後、梨華が気づいた。
「あれ!?よっしぃー、ここは・・・・・」まだ、頭がはっきりしないらしい。焦点の合
わない濡れた瞳が妙に色っぽかった。
「あたし、確か・・・。よっしぃー!どうしたの?その格好!?」
「えへ、ちょっと暑いから脱いでみました〜」おどけてみせるが梨華は笑わなかった。何
故なら自分自身の身に起きた事を思い出したからだ。そして、その状況が少しも好転して
いないことにも気づかされたからだ。
- 297 名前:あたしが守る! 投稿日:2003年07月04日(金)08時13分19秒
- 梨華と吉澤から5メートルほど離れたところには、二人を照らし出す4本のライト。そ
の中心に当たる場所に三脚で設置されたビデオカメラ。そしてその後ろには、梨華達を熱
っぽい、いやらしい視線で見つめる男達。裏ビデオの撮影。先程気絶する前に聞いたタイ
セーの言葉が思い出され、梨華は恐怖と嫌悪感で身震いした。
「梨華ちゃん、安心して。大丈夫。あたしが来たから、あんな奴らに梨華ちゃんには指一
本触れさせないから」梨華を安心させるため肩を抱きながら、吉澤が言った。
「でも・・・・・」梨華の不安は消えなかった。
「紺野さんがね、警察に通報してくれているんだ。すぐに助けも来るよ」
「でもね、あの人警察はお友達だって言ったんだよ」怖い物を見るような目で、梨華は吉
澤の肩越しにタイセーを見た。
「そんなのはったりだよ。大丈夫安心して」
「う、うん」返事はするが、明らかに納得していなかった。
- 298 名前:あたしが守る! 投稿日:2003年07月04日(金)08時14分59秒
- (梨華ちゃんが無事だったのはいいけど、まずったな〜)梨華に掛ける言葉とは裏腹に、
内心吉澤は後悔していた。何しろ梨華の身が危ない、と思っただけでそのまま部屋を飛び
出してきてしまったので丸腰である。普段は素手で闘う吉澤だが、もちろん武器の扱いに
も精通していた。拳銃一丁、いやナイフ一本でも有れば、十分梨華を助け出せただろう。
だが、今吉澤が身につけている物と言えば、下着とスエットのパンツとスニーカーだけだ。
当然ベルトもないので、それを鞭代わりに使うことも出来なかった。おまけに携帯も先程
脱いだジャンパーのポケットの中だった。これではどこからも応援が呼べない。
(ひょっとして、紺野さんなら気づいてくれるかも。いや、いくら彼女が強くてもそんな
危険なことを期待しちゃ駄目だ。梨華ちゃんを守るのはこのあたしだ。あたしが守る。た
とえ、この身がどうなっても)
「よっしぃー!?」表情の厳しくなった吉澤を見て梨華が声を掛けた。
「梨華ちゃん、あたし言っときたい事があるんだ」梨華の瞳をまっすぐ見つめて吉澤が言
った。吉澤の眼にはある決意が見て取れた。
- 299 名前:token 投稿日:2003年07月04日(金)08時16分23秒
- 今朝もお出掛け前に更新です。
>Silence様
ありがとうございます。ピンチ更に続きます。正に絶体絶命!?
では、また次回まで。
- 300 名前:告白、そして 投稿日:2003年07月05日(土)12時32分50秒
- 「えっ!?」
「こんな状況で言うべき事じゃない、とは解っているんだ。でも、こんな時だからこそ、
今しか言えないから、あたしは梨華ちゃんに言うよ」吉澤はマットレスの上に正座した。
「うん」つられて梨華も座り直し頷いた。
「おい、あいつらの会話、録れてるか〜ぁ」くわえ煙草でタイセーが聞いた。
「へい、さすが高いカメラっす」
「あたぼーよ。S☆NYの業務用だからよぉー」
「早くぶちゅって、やって欲しいっすねー」
「まあ、待て。ここから面白くなりそうだぜ」タイセーがにやけた。
「あたし、吉澤ひとみは・・・・・。梨華ちゃん、君が、石川梨華が好きなんだ。友達と
してじゃなく、恋愛の対象として。初めてあった時から、ずっと」
「よっしぃー!!」
- 301 名前:告白、そして 投稿日:2003年07月05日(土)12時33分44秒
- 「いきなりで、ビックリだよね。梨華ちゃんはあたしのこと友達としてしか見ていなかっ
たんだろうけど、あたしはそうじゃなかった。ううん、違う、最初のうちはあたしもこれ
は女同士の友情だと思ってた。こんな気持ち初めてだったから。でも、途中から気がつい
たんだ。あたしは梨華ちゃんが好きなんだって」
「ノーマルな梨華ちゃんには迷惑だろうけど、あたしは自分の気持ちだけは伝えておきた
かったんだ。ひょっとしてこれが最初で最後の機会になるかもしれないから。梨華ちゃん、
愛してる。だから、あたしは、絶対君を守る!どんなことをしても」
吉澤の話の途中から、梨華の瞳はみるみる潤み始めていた。そして遂にあふれた涙が一
筋、頬を伝って流れていった。
「梨華ちゃん!?」涙の真意を測りかねた吉澤が不安げに梨華を見つめた。泣かれるほど
ショックだったんだろうか?自問する吉澤。するといきなり梨華が吉澤の首に己の両腕を
巻き付け、飛びつくように吉澤に口づけした。
- 302 名前:告白、そして 投稿日:2003年07月05日(土)12時34分49秒
- 決して上手なキスではなかった。だがその行為の中には、梨華の思いが十分に込められ
ていた。彼女は言葉よりも先に、その行動で吉澤の気持ちに答えたのだった。
(梨華ちゃんにキスされた!!)二人の唇が離れ、お互いの顔が見える位置に戻った時、
まず吉澤の頭に浮かんだのはこのことだった。
「あっ、あたしも」耳まで真っ赤になりながらも、それでも決して吉澤から目を逸らさな
いようにして、梨華が言った。
「私もよっしぃーが、ううん、吉澤さんが好き。気づかなかったわ最近まで。でも、紺野
ちゃんとお話ししたり、ここ何日か吉澤さんに会えなくて、すっごく寂しくて、ひとりぼ
っちなのは慣れているはずなのに、凄く寂しくて。それで解ったの。私は吉澤さんが好き
だって。だから、嬉しいの。同じ気持ちだって解って」梨華は泣きながら吉澤の胸にもた
れかかってきた。吉澤の素肌に梨華の涙が垂れていった。だが不快さは微塵も感じなかっ
た。むしろ心地よい。
- 303 名前:告白、そして 投稿日:2003年07月05日(土)12時37分03秒
- 吉澤は優しく梨華を自分の胸から引き剥がすと、今度は自分から梨華に口づけした。優
しく、だが吉澤の思いのすべてを込めて。
この一瞬、吉澤は、自分たちの置かれている絶望的な状況を忘れていた。
(梨華ちゃん、愛してる!愛してるよ!!)
長いキスシーンは続いた。
- 304 名前:token 投稿日:2003年07月05日(土)12時38分16秒
- 本日の更新終了です。
ついに、ついに、いしよしのキスシーンが書けました。300を越えて、やっとです。こ
のお話の初めてのキスシーンは、中澤さんがやっちゃうし、いしよしの仲がなかなか進ま
なかったけど、やっとコクって、結ばれました〜!
あと、悪役について補足です。
え〜、悪役の男性キャラなんですが、純粋に名前だけ借りていまして、その属性、つま
り年齢や外見的特徴など、すべてデタラメです。あくまで、名前から私がイメージするキャ
ラです。山崎、武闘派ヤクザ。和田、インテリヤクザ。タイセー、スケコマシ。てな具合
です。別に他意は有りません(笑)汚い言葉遣いも演出上、止むを得ずですから。
私、タイセーさん結構好きですYO。C:BOX持ってますし、Cランチなんか『ひまわり』
のメニューに出そうかなって思ったりもしました。はい、フォロー終了。
では、次回まで。ごきげんよー。
- 305 名前:Silence 投稿日:2003年07月05日(土)22時02分44秒
- 更新お疲れ様でした。
ついに来たって感じですねぇ。う〜ん、確かにここまでいろいろ
ありましたよね。でも、単純に結ばれたのは嬉しいです。
それから…フォローもお疲れ様でした(w
- 306 名前:絶望からの脱出 投稿日:2003年07月06日(日)08時40分28秒
- 「やらせじゃないレズのキスっていいすねー」
「おう、なんか泣けてくるぜー」
舎弟達が吉澤と梨華のキスシーンに見とれていた中、タイセーは機嫌が悪くなってきた。
(むかつくぜ。女が幸せそーなツラ〜してるとYO)
「おい、お前ら、予定変更だ。このまま乱入して集団レイプだ。準備しろ」
「ちぇ、いいな〜」カメラ担当の舎弟が呟いた。
「お前も行って来ていいぞ。どこぞの代議士センセが、元気があって良いて誉めてたしYO。
俺がカメラ撮ってやるからYO。思いっきりやってこい!」
舎弟達の顔が一気に崩れ、皆一様に下品な笑いを浮かべていた。それを横目で見てパイ
プ椅子にふんぞり返りながら、タイセーはほくそ笑んだ。
(目の前で愛する者が、為す術もなく陵辱され苦悩する表情、それが見てーんだ、俺様は)
コマシのタイセー。どうやらこの男には女性に対して、酷く歪んだコンプレックスがあ
るらしかった。だからこそ、次から次へと唾棄すべきアイデアが浮かんでくるのだろう。
だが、悲しい現実として、彼の演出、監督した裏ビデオは、その過激さで結構な売れ行き
を示していた。
- 307 名前:絶望からの脱出 投稿日:2003年07月06日(日)08時41分33秒
- キスが終わり、吉澤と梨華の二人は再び見つめ合った。
「梨華ちゃん、あたし行くから」吉澤が静かに告げた。
「よしざ、ううん、ひとみちゃん!駄目!行っちゃ駄目だよ!」吉澤の言った言葉の意味
に気づき、甲高い声で梨華が止めた。
「ありがとう。やっと名前で呼んでくれたね。うん、嬉しいよ、あたし」
「ひとみちゃん、ひとみちゃん、ひとみちゃん。名前ぐらいこれから何回だって呼んであ
げるわ。だから、お願い、行かないで」眉を八の字にして梨華が懇願した。
「大丈夫だよ。あたしが強いの知ってるでしょう」梨華の頬を両手で優しく包みながら、
吉澤は駄々っ子を諭すように言った。
「でも・・・・・」
「不安で怖かったらさ、目を瞑って耳を塞いで、マットの陰に伏せて待っててよ。すぐ済
むからさ」これは梨華が流れ弾で傷つかないための配慮でもあった。
- 308 名前:絶望からの脱出 投稿日:2003年07月06日(日)08時42分31秒
- 「それは嫌」きっぱりと梨華が答えた。
「えっ!?」
「ひとみちゃん、もしかしたら、し、死んじゃうかもしれないんでしょ。だったらあたし
最期まで見ていたいの。ひとみちゃんの姿を」恐怖に震えながらも、懸命に勇気を奮い起
こして梨華が言った。初めて出会った時もちょうどこんな風に震えていたね、梨華の姿を
見て内心吉澤は思っていた。あれからどのくらい経ったんだろう?梨華ちゃん、誓うよ。
あたしはきっと君を守るから。
「わかった。じゃあ、行って来るよ」軽く梨華の唇にキスすると、吉澤は立ち上がり梨華
に背を向けた。
「うん、行ってらっしゃい」涙を手で拭いながら、小さいながらもはっきりした声で、梨
華が答えた。
吉澤の身体の奥で、何かがゆっくりと胎動していった。
- 309 名前:絶望からの脱出 投稿日:2003年07月06日(日)08時43分32秒
- 吉澤達の様子の変化に真っ先に気づいたのは、やはりタイセーであった。舎弟達はこれ
から自分たちが参加出来るであろう猥褻行為に舞い上がっていたため、まるで気づいてい
なかった。既に服を脱ぎ、ブリーフ姿で張り切っているバカもいた。吉澤はそいつらに軽
蔑の視線をチラリと向けた後、タイセーを睨みつけた。
「おんや〜、色白ねーちゃん、どうしたんだい?やっと告って結ばれたんだろう?遠慮な
く続きをヤッテいいんだぜ」相変わらずニヤニヤ笑いのタイセーが言った。
「ああ、あんたらみたいなゲス野郎どもには、梨華ちゃんの顔を見せるのも汚らわしいか
らね。あんたらのいないところでゆっくりさせて貰うよ」
「なんだとコラ〜」
「お前まだ自分の立場が解ってないみたいだな」
「犯すぞコラ〜」自分たちの絶対的な有利を信じて強気の舎弟達が吉澤に対して凄んだ。
だが吉澤は平然としていた。
- 310 名前:絶望からの脱出 投稿日:2003年07月06日(日)08時44分47秒
- 「お前らうぜーんだよ!」凛とした吉澤の声が響いた。その声に一瞬、身が縮む思いをし
た舎弟達だが、すぐに気を取り直し、そこらに落ちている鉄パイプや手頃な角材を拾って
吉澤に近づいていった。
(掛かった!)内心吉澤はガッツポーズをしていた。一人で複数を相手にするにはやはり
武器が必要だ。更にこの状況下では梨華を守らなければならなかった。だが戦闘能力を全
開にした吉澤なら、適当な武器さえあれば、それが可能だった。そして、吉澤の望む武器
は、ゲス野郎どもが、わざわざ運んで来てくれていた。
(ひさぶりだけど、鉄パイプがいいかな。さあ、早く来いよ)
相手の武器を奪い、あわよくば舎弟の一人を盾にして、とにかくここから逃げ出す。こ
れが吉澤の立てた脱出プランだった。
- 311 名前:token 投稿日:2003年07月06日(日)08時46分27秒
- 本日分の更新終了です。
できたてのホヤホヤです。よく見ると所々に湯気が(笑)
私、日曜の朝っぱらから何書いてるんだか(汗)
>Silence様
ありがとうございます。そう、やっと結ばれたんですけど、二人にはさらなる試練が・・・・・。
え〜と予めお断りをしておきますが、しばらくこのシーケンスが続きますので、極力避けるようにはしますが、
文中に汚い言葉や不快になる表現が続きます。ごめんなさいです。
あすの七夕は晴れるでしょうか?では、次回まで、ごきげんよう。
- 312 名前:Silence 投稿日:2003年07月06日(日)19時08分15秒
- 更新お疲れ様です。
七夕のお願いは2人がうまく行きますように。にします(w
試練を乗り越えたその先には…次回も楽しみにしてます!!
- 313 名前:絶望からの脱出 投稿日:2003年07月08日(火)12時32分41秒
- 「パン、パン、パン」突然銃声が続けざまに3発鳴り響いた。驚いて立ち止まった舎弟達
は、銃声の聞こえた方向に振り向いた。
そこには立ち上がったタイセーが、拳銃を上に向けて無表情で立っていた。
「はい、ここで質問です。このビデオの監督は誰ですか?」まるで学校のステレオタイプ
の教師のような口調でタイセーが言った。
「えっ、あ、あの、その」タイセーの意図が解らない舎弟達が顔を見合わせて戸惑ってい
た。すると彼らの一人の足下に、タイセーはいきなり銃を撃った。
「ひゃあー!」奇妙な叫び声を上げてその舎弟が尻餅を付いた。倒れた拍子に握っていた
鉄パイプが落ち、耳障りな音を立てた。
「もう一度聞きます。このビデオの監督は誰ですか〜?」拳銃を次々に舎弟立ちに向けな
がらタイセーが尋ねた。
「あ、あ、兄貴、兄貴です。タイセーの兄貴です」泣きそうな声で舎弟の一人が答えた。
- 314 名前:絶望からの脱出 投稿日:2003年07月08日(火)12時33分48秒
- 「はい、良くできました。そう、私がこのビデオの監督です。いいですか〜、監督のお仕
事は〜、このビデオの撮影を仕切ることです。ですから〜」ここまで言ってタイセーの口
調が一変した。
「てめーら、勝手に動くんじゃねーぞ、このボケどもが。なに近づいてるんだよ。挑発さ
れてたのがわかんねぇーのか、このタコ。迂闊に近づいてお前ら返り討ちにあって、盾に
されたらどうするんだYO」血走った目で大声を上げ、舎弟達を怒鳴り散らした。
「あっ兄貴っ」
「ま、そん時は、俺はてめーらごと撃つけどな」再び静かな口調に戻ったタイセーがニヤ
リとしながら言った。
「て、な訳だ。残念だったな。色白ねーちゃん」ハリウッド映画のギャングスターがよく
やるように、拳銃を横に倒して構えながらタイセーが言った。吉澤を見つめる彼の目は蛇
のそれを連想させた。
- 315 名前:助っ人? 投稿日:2003年07月08日(火)12時34分44秒
- 「飯田さん、早くして下さい!」吉澤とタイセー達とが対峙していた頃、『タンポポ』の
前では紺野が、店の中に向かって呼びかけていた。すぐ側にはワゴン車が止めてあった。
どうやらこれでどこかに出かけるようだ。
(どうせここの警察は寺田興行の味方でしょうから、あたし達が行かなきゃ!)珍しく紺
野は焦っていた。
「飯田さん!まだですか〜!」紺野の再びの催促にも店の中からは返事がなかった。が、
思いも寄らぬ方向から声が聞こえた。
「見つけたぜ〜」声のした方向に振り返るとそこには『壊し屋娘。』の小川麻琴が立って
いた。
「ああ、小川さんですか。今忙しいんです。後にしてくださいな」まるで新聞の勧誘員か
何かを断るような口調で紺野があしらった。
「なんだと、俺がどれだけ苦労してお前を捜し出したと思ってるんだ。リターンマッチだ。
さあ、来い!」小川はやる気満々で構えた。
- 316 名前:助っ人? 投稿日:2003年07月08日(火)12時35分38秒
- 「そうだ!」ぽんと手を打って紺野が言った。
「小川さん、一緒に来てください。吉澤さんが危ないんです」
「吉澤!?誰だっけ?ああ、あのボクシング娘か」眉を片方だけ上げながら、小川が答えた。
「さあ、行きましょう!」そう言って小川の手を引っ張っていこうとした紺野だが、小川に
難なくかわされ、文字道理空を掴んだ。
「なんで、俺があいつを助けてやらにゃあなんねーんだよ」
「だって少年マンガだと、かつてのライバルはピンチの時に現れて助けるんでしょう?」
「お前、やっぱり変な奴なんだな。それに俺はお・ん・な・だ!」そう言って小川は紺野
に飛びかかった。紺野も身をかわして距離を取った。
「もうー、分からず屋!」いつになくイライラした口調で一言言って紺野が構えた。
「お待たせー。どうしたの?」二人の戦いが始まろうとした直前に、『タンポポ』から飯
田が出てきた。彼女は何故かチャイナドレスを着ていた。
- 317 名前:助っ人? 投稿日:2003年07月08日(火)12時36分49秒
- 「何だ!?この大女は?」飯田を見上げながら小川は素直な感想を漏らした。これを聞い
て飯田の目が、わずかに細められたのを、小川は気づかなかった。
「飯田さん!遅いですよ」紺野の声には咎める響きがあった。
「ごめんね、このドレスに合う沓が見つからなくてさー」飯田は頭をかきながら謝ると、
視線を小川に向けた。
「で、どうする?」「とりあえず大人しくさせて下さい」紺野が言った。
「どけ、大女!」小川が怒鳴った。が、次の瞬間小川は真後ろに吹っ飛ばされた。そして
自分の身に何が起こったのか解らぬまま、小川は気絶してしまった。飯田の渾身の蹴りが
まともに入ったからだ。
「飯田さん、気絶しちゃったじゃないですか!」すぐさま小川に駆け寄った紺野が言った。
「あはははは、ごめんね。なんか妙にむかついたから、ちょっと力が入っちゃって」
「せっかく助っ人になって貰おうと思ったのに、飯田さんのバカ〜!!」
- 318 名前:token 投稿日:2003年07月08日(火)12時37分46秒
- 本日もお昼休みに更新です。
>Silence様
ありがとうございます。私、今年も天の川見られませんでした。まあ、統計的に言って
この日は関東地方では、晴れが少ないんです。なんせ、梅雨時ですから。だからこそ
見えたときは嬉しいんですけどね。
シリアスが続きましたのでコミカルなシーン入れてみました。ピンチ続いてます。
ではまた次回まで、ごきげんよう。
- 319 名前:Silence 投稿日:2003年07月09日(水)13時59分25秒
- 更新お疲れ様でした。
チャイナ〜飯田さん来た?(w 紺野さん・・・
がんばって。次回も期待です
- 320 名前:反撃 投稿日:2003年07月09日(水)22時52分15秒
- 「さあさあ、女優さんには戻って続きをやって貰おうか。おい、俺様は優しいだろう?死
ぬ前にたっ〜ぷり気持ちよくさせてやろうってんだからよ。それにお前らの頑張り次第じゃ〜、
続編もありだから、そん時はそれまで生かしといてやるからよ。なあ、せいぜいエロイと
こ見せてくれや!」拳銃を吉澤に突きつけながら、タイセーが言った。
「嫌だね。ここからはアドリブで行かせて貰うよ!」
「ほほー、言うねー。けどよ、俺様にそんな口聞くのは、10年早ぇーんだよ!」言いざ
まにタイセーが拳銃を撃った。弾は吉澤の左耳の横を通り過ぎていった。彼女には弾のう
なりがはっきり聞こえた。だが、微動だにしなかった。
吉澤は神経を極限までに研ぎ澄ませていた。弾道は曲がらない。心の中で吉澤は呟いた。
銃口の向きで、弾道が、つまり弾の飛ぶコースは決定される。だからよけることも可能だ。
- 321 名前:反撃 投稿日:2003年07月09日(水)22時53分30秒
- もちろん続けざまに何発も撃たれれば不可能だが、タイセーはその歪んだ性格から、吉澤
をなぶるつもりらしい。しかも、あのような銃を横向きに持つ構えは、絵的にはカッコイ
イかもしれないが、実用性は低く命中率が下がる。一発づつ慎重にかわして、吉澤の間合
いまで近づけたなら、その時は。これが今の吉澤の狙いだ。
吉澤の後ろでは、マットレスの上にしゃがみ込んだ梨華が、両拳を顔の前で握りしめ吉
澤を見守っていた。その身体は微かに震えていたが、先程の宣言通り目を逸らそうとはし
なかった。
一方タイセーの後ろでも舎弟達が、どうして良いのか解らずにオロオロしていた。そん
な彼らに向かってタイセーが怒鳴った。
「おい、お前ら、カメラ回しとけ!この女の泣き顔見せてやるからよ!」慌てて舎弟の一
人がカメラを吉澤に向けた。
- 322 名前:反撃 投稿日:2003年07月09日(水)22時55分44秒
- 吉澤はタイセーを睨み続けた。それまで余裕を見せていたタイセーの顔が、再び不機嫌
そうなそれに変わっていった。
「ああ、なんだ〜、そのツラは。どうしてそんな目で俺様を見るんだ。銃で狙われてるん
だぞ。泣け、喚け、命乞いをしろよ。ほら」再びタイセーが撃った。弾は吉澤の足下に当
たり小さな埃を立てた。構わず吉澤はゆっくり近づいた。心の中では、タイセーの拳銃の
弾の残りを数えていた。
(あの銃ならフルで8発。今ので6発目。残りはあと2発のはずだ。もう少しだ)
「女なんてのはよ、男に突っ込まれてヒイヒイしてればいいんだよ!お前生意気だぜ!」
また、タイセーが撃った。吉澤は立ち止まり、わずかに頭を素早く左に傾けた。それと同
時に吉澤の柔らかい頬を焼けるような痛みが走った。弾が掠ったようだ。だが流れる血を
拭おうともせず、吉澤は再び前に進み始めた。
(あと一発!)反撃のための力を吉澤は身体のうちに溜めていた。
(ひとみちゃん!)緊張で声が出ない梨華は、祈るような気持ちで吉澤を見つめていた。
- 323 名前:反撃 投稿日:2003年07月09日(水)22時59分26秒
- 「あ〜、もうイライラするぜー」左手で頭を掻きむしりながら、タイセーは喚きだした。
不機嫌そうにせかせかと左右に歩き回り、銃口をあちこちに向けていた。舎弟達は銃口が
自分たちに向くたびに畏れおののいて、逃げまどった。
「お前なんなんだよ。女だろ!それともアレか、オカマなのか?バカか?銃が怖くないの
かよ」舎弟達とのあまりの反応の違いに、タイセーは益々エキサイトしていった。
「吉澤ひとみ。今からお前をぶん殴る女さ!」
「ああっ、寝言は寝て言えやー!」タイセーが撃った。
同時に吉澤は右前に飛び込み、弾をかわした。柔道で言う前回り受け身の状態だ。素早
く立ち上がり、タイセーに視線を戻した。彼我の距離は約2メートル。間に障害物は無い。
ダッシュ一回で吉澤のパンチが届く距離だ。
焦ったタイセーが引き金を続けざまに引いた。だが、一向に弾は出なかった。弾切れだ。
拳に渾身の力を込め、吉澤はタイセーに向かって行った。
- 324 名前:token 投稿日:2003年07月09日(水)23時01分33秒
- 本日分の更新終了です。
>Silence様
いつもありがとうございます。
アクション物で飯田さんとくれば、チャイナドレス!ですよね。(意味不明)
お昼休みに更新すると、残り時間を計算できない罠に気づきました!
前回の更新後、余所様の板を回っていたら、あっと言う間に昼休みが〜〜!
それから訂正です。316 文字道理→文字通り です。ゴメンナサイ。
では、次回まで。ごきげんよう!
- 325 名前:匿名匿名希望 投稿日:2003年07月10日(木)00時50分19秒
- 気がついたらこんな時間・・・。
始めから読みはじめて、やっとこさ追い付きました・・・。
連日更新お疲れ様です。
明日が休みということもあって、一気に読みましたYO!
続きが禿しく気になります!!
次回の更新も楽しみに待ってます!!!
- 326 名前:反撃 投稿日:2003年07月10日(木)22時41分39秒
- 「パン!」乾いた音と共に、踏み込んだ吉澤の左太股に激痛が走った。吉澤の前進が止ま
り堪らず膝をついた。
「ひゃあ〜〜、はははははっ。へ〜へへへへ。やーい。ば〜か、ば〜か、ば〜か。ひっか
かりやがった」狂ったようにはしゃぎながらタイセーが笑い転げた。その左手には大きな
手ならば、すっぽりと隠れてしまいそうな小型の拳銃が握られていた。ベイビーブローニ
ング。25口径の弾丸を使用する小型拳銃だ。
「お前、俺様の弾の残り数えてただろう?だがなあ、俺は自分の撃った弾の数を忘れるほ
どバカじゃねーんだよ。アドリブで行かせて貰うだぁ?ば〜か、すべて俺様のシナリオ通
りじゃやん!ひゃっ、ははははは〜」
「くっ」痛みを堪えながら吉澤はヨロヨロと立ち上がった。弾丸はそのまま足の中に残っ
ていた。傷口からは血がゆっくりと流れ出して来ていた。幸い骨には異常が無いようだ。
だが、踏ん張りが効かなかった。それでも吉澤は諦めてはいなかった。
- 327 名前:反撃 投稿日:2003年07月10日(木)22時42分56秒
- 「おっととと」大げさな身振りでタイセーは吉澤から距離を取った。そして舎弟達にむかっ
て言った。
「どうよ、俺様の名演技?最高だろ?」2丁の拳銃を手にタイセーは気障なポーズで肩を
竦めて見せた。
「え、演技だったんすか?俺はてっきり兄貴が本当にキレたのかと、ビビりましたよ」
「すげーっす。兄貴、すげーっすよ!」
タイセーは舎弟達が口々に誉めるのを満足げに聞いていた。その間も油断無く吉澤の動
きをチェックしていた。一通り舎弟達の賞賛が終わると、タイセーはこれ見よがしに新し
いマガジンを取りだし、弾を入れ替えた。それからその銃はベルトに差して、ベイビーブ
ローニングを右手に持ち替えた。
「こいつはYO、20年以上前に、俺がまだ駆け出しだった頃に手に入れたやつでな、どう
でぇー、ぱっと見、ライター見てぇーだろ?」銃を弄びながらタイセーが言った。
- 328 名前:反撃 投稿日:2003年07月10日(木)22時44分13秒
- 「だから、なんだってんだよ!」吉澤が怒鳴った。顔中に脂汗が浮いていた。それでも歯
を食いしばりタイセーを睨む目には力が残っていた。
「なんせ使い込んでるから、引き金が軽くてYO」言い終わるやタイセーが撃った。弾は吉
澤の右二の腕の肉を抉って後ろに飛び去った。バランスを崩した吉澤が倒れた。後ろで事
の成り行きを見守っていた梨華が立ち上がり叫んだ。
「ひとみちゃん!」そのまま吉澤目指して走り始めた。
「きっ、来ちゃ駄目だ〜!」吉澤が叫んだ。
「おい、そっちの色黒ねーちゃん、止まらねーと撃つぞ」タイセーが銃を梨華に向けた。
だが今の梨華の耳には、何も聞こえなかった。何も見えなかった。ただ撃たれて苦しむ吉
澤ひとみの姿以外は。
「シカトすんじゃねーよ」銃を梨華に向けたままタイセーが怒鳴った。心なしか興奮のあ
まり手が震えていた。それが、引き金に掛けた指にほんの少し、力を入れてしまった。
- 329 名前:反撃 投稿日:2003年07月10日(木)22時45分43秒
- 「ヤメロ〜〜!」決して届かない距離だとは解ってはいたが、それでも吉澤は手を伸ばし、
タイセーを止めようとした。
「ぱん!」何度目かの乾いた音が響いた。そこからの現象は、吉澤の目にはすべてがスロ
ーモーションとして映っていた。
吉澤目指して懸命に駆け寄って来た梨華。彼女が、もう少しでゴールの吉澤にたどり着
く地点でその足が止まった。梨華の頭からは鮮血が飛び散りそのまま不自然なかっこうで
倒れていった。
「梨華〜〜〜!!!」吉澤の絶叫が響いた。
「あーあ、勿体ねーことしたなー」まったく悪びれもせず、タイセーがぽつんと呟いた。
(嘘だよね、梨華ちゃん、こんな事、嘘だよね。そうだ、これは夢だ。きっと夢なんだよ。
あたしきっとまだベッドの中なんだ。もうすぐアラームが鳴ってこの嫌な夢から目覚める
んだ。そして内容だってきっと覚えていないんだ。うん、そうだよね、ね、梨華ちゃん、
そうなんだよね・・・・・・・・・・・・)
- 330 名前:token 投稿日:2003年07月10日(木)22時48分41秒
- 本日分の更新終了です。
>匿名匿名希望様
ありがとうございます。ようこそいらっしゃいました。まさか来ていただけるとは、感激です。
はい、皆様のおっしゃりたいことは解っております。これじゃ痛いを通り越して悲惨の一語につきます。
え〜ですが、次回更にとんでもない展開になりそうです。これから書くのですがぶっちゃけ、エロ入ります。
ですので、次回はochiで更新します。
では、次回まで、さらば(大丈夫か?作者!?)
- 331 名前:Silence 投稿日:2003年07月11日(金)15時35分09秒
- 更新・・・えええっ〜!!梨華ちゃんが撃たれた〜!?
あっ、また取り乱しました。更新お疲れ様でした。
続きがさっぱり予測できないんですけど、がんばってください。
- 332 名前:token 投稿日:2003年07月11日(金)20時32分58秒
- どうも、今回は前説入ります。
まず、レスのお礼です。
>Silence様
ありがとうございます。取り乱して当然です。でも今回の更新分を読むと更に!
しつこいようですが今回はエロです。可能な限り表現はおとなしくしましたが、おそらく今回は、
数少ない読者様の多くが退くか、ブルーな気持ちになられるかと思います。
だったら、そんなもの書くなよ、との抗議の声が聞こえてきそうですが、大人の事情(なんだそりゃ)で、
書かざるを得ませんでした。ゴメンナサイ。>>4参照
では、これから更新します。
- 333 名前:俺様 投稿日:2003年07月11日(金)20時34分06秒
- 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
パイプ椅子に一人の男が座っていた。目の前には煙草の吸い殻であふれた灰皿が載った
折り畳みテーブルがひとつ。男はそこに両肘を載せ退屈そうに頬杖をついていた。口には
火のついた煙草が一本。立ち上っていく紫煙が空気にとけ込んでいき、気だるい密度を濃
くしていった。しばらくして長くなった灰がぽろりと落ちた。男はその煙草を吸い殻の山
に無造作に突っ込むと、新しい一本に火を付けた。一息吸い込みそれを吐き出すと、煙草
をくわえたまま、視線を真後ろに移した。
彼の真後ろには色黒の若い女性が転がされていた。だが異様なのはその服装だ。いや、
そもそもそれは服装と呼べる物なのだろうか?彼女の身につけている物は、黒いレザーの
紐の様な物だけだった。そのため形の良い乳房も下半身もむき出しであった。
- 334 名前:俺様 投稿日:2003年07月11日(金)20時36分15秒
- 更に彼女の手首と足首は、左右それぞれが手錠で繋がれていた。仮に立ち上がろうにも、
己の足首に手首を繋がれた状態では不自然な形で身体を曲げるしかなかっただろう。この
ため彼女は無理矢理股を開かされた状態であった。そして彼女の股間には、人参の形と色
を模したバイブレーターが突っ込まれていた。
だが、もっと異様なのは彼女の顔であった。目は虚ろに開き、口はだらしなく開けられ、
涎すら垂れ流されていた。そしてそんな状態の彼女の側頭部は血で染まっていた。
男はしばらくその様をみていたが、視線をそこから少し離れた別の方に移した。そこに
は色白の女性が仰向けに倒れていた。上半身は裸であった。こちらは白い肌に黒々とした
血の染みが、あちこちにこびりついていた。彼女は顔をこちらに向けていたが、やはり目
は虚ろであった。先程からピクリともしないところをみると、死んでいるのかもしれない。
だが、彼女の瞳からは、ゆっくりと血の涙が流れていた。綺麗な紅い色だった。
- 335 名前:俺様 投稿日:2003年07月11日(金)20時37分39秒
- 男は煙草を投げ捨てると、色黒の女性の方に近づいた。その横にしゃがみ込んで彼女の
顔をのぞき込んだ。相変わらず生気のない顔であった。男は彼女の股間のバイブレーター
を無造作に引き抜いた。オレンジ色のそれはいやらしく濡れていた。
男はそれを見て満足そうに微笑むと、それを投げ捨てた。そして自ら服を脱ぎ全裸にな
ると、色黒の女性に覆い被さった。彼女は条件反射のようにしがみついてきた。
男は自分の分身を彼女に挿入した。すると今までに感じたことがないような、奇妙な感
覚が彼を支配した。まるで雲の中をふわふわと浮いている様な、そんな感じだった。色黒
の女性は相変わらず虚ろな目だが喘ぎ始めた。
色黒女性を抱きながら彼は顔を、もう一人の色白女性に向けた。やはり彼女も先程とは
変わっていなかった。血の涙は止まる気配を見せず、床に血だまりを作っていた。彼はニ
ヤリとすると、まるで彼女に見せつけるように、腰使いを激しくした。
- 336 名前:俺様 投稿日:2003年07月11日(金)20時38分57秒
- (見ろ、こいつを。女なんてこんなモンだ。頭から血を流しながら、しっかり反応してる
じゃないか。この好き者め。へへへへへ、このままたっぷり可愛がってやるからな)
(ざまあ見ろ、色白ねーちゃん。悔しいかYO。最後に勝つのは俺様だぜ。誰も俺様には敵
う奴はいねーぜ。山崎!?関係ねーな。今に見てろよ。そのうち俺様が組を牛耳ってやる
からYO)
突然男の脳裏に、今までの人生が走馬燈のように流れ始めた。中学でグレ始め、中2の
夏休みには、近所の女子高生をレイプした。高校で教師を刺し、少年院へ。出所と同時に
再びレイプ事件を起こし、院に逆戻り。やがて寺田興行の準構成員になり、幾つかの犯罪
を犯した後、杯を受け組員になった。以後、何人の女を食い物にしてきたことだろう?そ
う言えばそんなこと考えたことなかったな?なんで今日に限ってこんな事考えてるんだろ
う?まあいいか?気持ちよければYO!
ムズムズと、身体の奥から何かが飛び出す感覚と共に、男は昇天していった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
- 337 名前:token 投稿日:2003年07月11日(金)20時40分42秒
- 以上です。作品の構成の都合により、次回の更新は日曜日以降です。
酷い話だとお思いでしょうが、まだ希望はあります。では、また。
- 338 名前:token 投稿日:2003年07月13日(日)00時43分27秒
- 今回も前説付です。
日付が変わりましたので、日曜日です。お約束通り、更新します。
ほんの少しですけど。なんせ、作者もあまり引っ張りたくありませんから(笑)
- 339 名前:病院にて 投稿日:2003年07月13日(日)00時44分08秒
- 「バイタル消えました!」緊張を伴った若い女性の声。
「心臓マッサージ、強心剤。チャージ!」すかさず女医の指示が飛んだ。
「チャージ」心臓に刺激を与えるため、電気ショック装置の充電が始まった。
「チャージ完了」看護士の報告を聞くと、女医はアイロンの様な電極を掴み、それを患者
の胸に押しつけた。スイッチを入れると同時に、患者の身体がビクンと跳ね上がった。
「変化、ありません!」心電図を見つめる看護士から、すぐに報告が帰ってきた。
「もう一度、チャージ!」同様の行為が繰り返された。が、心電図の波形は平たんなまま
だった。患者の心臓は2度と動き出すことはなかった。
おもむろに女医は胸のポケットからペンライトを取り出すと、瞳孔反応を見ようとした。
が、患者の顔に伸ばした手は止まってしまった。
- 340 名前:病院にて 投稿日:2003年07月13日(日)00時45分43秒
- (さてさて、どないしよか?)
患者の腫れ上がった瞼は完全に目を塞いでいた。指で無理矢理広げてみるが、なかなか
思うようには開かなかった。患者の顔は完全に潰されていた。頬骨は両方とも砕かれ、歯
もほとんどが折られていた。その様はまるで空気の抜けたドッヂボールだった。顔面には
神経が集中しており、それはつまり人間の急所である。患者は1時間ほど前に救急車で搬
送されて来たのだが、その時点で既に虫の息だった。むしろ今まで持ったのが不思議なく
らいだった。
やっと目を開かせると、女医はペンライトの光で瞳孔を照らした。反応はなかった。女
医は時計で時刻を確認すると、患者の死を宣告した。
これが寺田興行の、コマシのタイセーの最期であった。
- 341 名前:token 投稿日:2003年07月13日(日)00時49分00秒
- いかがでしたか?
>336 ムズムズと、身体の奥から何かが飛び出す感覚と共に、男は昇天していった。
自己嫌悪になりそうなくらいベタなんですが、ここはダブルミーニングだったんですね。実は。
では、また新たな謎を残しつつ、次回まで。さらば。
- 342 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年07月13日(日)00時59分16秒
- 初めまして!!
ずっとROMってのですが、今回はリアルタイムで
読ませていただいたので、調子にノッてレスらせてもらいました。
ここ2回ぐらいはショッキングなシーンの連続でしたが
当方は最後まで作者様について逝きます。
では、次回も楽しみにしております♪
- 343 名前:Silence 投稿日:2003年07月13日(日)02時30分56秒
- 更新お疲れ様でした。
深い、実に深かったです。と、いうか状況が理解できて
ません(w とりあえず次回をお待ちしてます
- 344 名前:医師中澤裕子 投稿日:2003年07月13日(日)10時46分59秒
- 「ほな、後はよろしくな」女医はそう言って処置室を出ていこうとした。
「中澤先生、どちらに?」今春看護学校を卒業したばかりの若い看護士が尋ねた。
「休憩や。厄介な手術の連チャンで、さすがに疲れたわ。何かあったら呼んでや」後ろ向
きで左手を挙げひらひらさせると、女医の中澤裕子は廊下を歩いていった。
15分後、中澤はシャワーを浴びていた。公称30歳の中澤だが、ある理由からもっと
年上なのではないか?と言う噂が、病院内で絶えず立っていた。だが、シャワーをはじく
肌の色つやから判断すると、むしろ20代の前半なのではないかとも思えた。
シャワーを終えた中澤はバスローブを羽織ると、缶ビールを片手にソファーに座った。
缶を開け一息に半分ほどビールを飲み干した。
「あー、胸くそ悪いわ。あのゲス野郎。死んで当然じゃ、ボケが」吐き捨てるように中澤
は呟いた。
- 345 名前:医師中澤裕子 投稿日:2003年07月13日(日)10時47分56秒
- ここは中澤裕子専用の執務室であった。執務室と言ってもビジネスホテル並の設備を備
え、人が十分生活できるものだった。
『組織』で『処理班』を統括する中澤裕子にも表の顔があった。それがこの総合病院で
第一外科の医師としての仕事だった。肩書きは部長である。
中澤は両親の顔を知らなかった。物心ついた頃には一人の老人に引き取られていた。そ
の老人が彼女の実の祖父だったのか、今となっては解らなかった。蝶よ花よ、と育てられ
たわけではない。さりとて虐待をされたわけでもなかった。だが彼は中澤の人生に大きな
影響を与えた。その老人の職業は医師だった。それも、戦場を職場とする軍医だった。
- 346 名前:医師中澤裕子 投稿日:2003年07月13日(日)10時48分57秒
- 常識的に言えば、それはあり得ないことだった。そもそもなぜ、そんなことが可能だっ
たのか?老人は何を考えていたのか、まだ幼い中澤を伴い、戦場に赴いていた。むろん、
最前線まで行くわけではなかった。自陣の後方にある、それでもとりあえず安全が確保さ
れている程度の場所、そこに造られた野戦病院で、老人は働いていた。彼の腕は超がつく
ほどの一流と言えた。医薬品や医療器具が不足する中でも、老人の仕事ぶりは凄かった。
むしろ、不自由な状態でこそ、他者には真似の出来ないその技術をアピール出来た。彼は
多くの傷兵を助けたが、多くの傷兵の臨終にも立ち会った。
幼い中澤はそれらの様を、処置の邪魔にならないように眺めながら育っていった。普通
の女の子がままごと遊びをする年頃には、中澤は手術の手伝いをするようになった。しば
らく後には、簡単な傷なら縫合できるようにすらなっていた。
- 347 名前:医師中澤裕子 投稿日:2003年07月13日(日)10時49分55秒
- 後に18歳で日本の某医科大に入学した頃には、彼女の経験と技術は、並の教授陣のそ
れを軽く凌駕していた。
その後医師免許を得て、1年ほど研修医を経た後、海外に渡った。アメリカやヨーロッ
パで更に腕を磨いた。祖父同様に各国の紛争地域に赴き、軍医として働いたこともあった。
やがて、さる事情から『組織』に加入して現在に至っていた。
だが、中澤の秘密はこれだけではなかった。彼女には更なる秘密があった。それは、人
の臨終の際の脳内映像が見える、と言うものだった。一般的に言えばテレパスと呼べるも
のかもしれない。だが、中澤の能力はもっと限定されたものだった。通常では、彼女は目
の前の人物の思考を読みとることは決して出来なかった。
だが、死にかけている人物のそれは、はっきりと見ることが出来た。それも、彼女の意
志とはまるで関係なく。中澤の近くで死にかけた人が居た時、その人の脳内の映像が、否
応なく中澤の頭に流れ込んで来た。俗に死に瀕した人が、過去の思い出を走馬燈のように
思い出すと言われるが、まさにそれが中澤には見えるのだった。
- 348 名前:医師中澤裕子 投稿日:2003年07月13日(日)10時52分06秒
- これは中澤にとっては辛い能力であった。人の死に立ち会う毎に、彼女はその人の人生
を見せつけられていたのだから。ごくたまに、人生に満足して安らかに息を引き取る人の
それは、中澤にとっても感動の涙を誘われるものであった。が、職業柄、彼女の立ち会う
人の死は、あまり歓迎できる映像を見せてはくれなかった。事件絡みの被害者などは、人
生を強制終了されたための、驚きと恨みの籠もった思いが、中澤の気持ちを暗くさせた。
そして、コマシのタイセーのようなゲス野郎のそれは、医師としての職分を離れ、思わず
とどめを刺してやろうか、と思わせるものであった。
中澤のこの自分では制御できない超能力は、人の臨終の際にしか発動しなかった。だか
ら、職業を変えたならば、これほど苦しむこともなくなっただろう。だが、彼女はそうし
なかった。
- 349 名前:医師中澤裕子 投稿日:2003年07月13日(日)10時52分55秒
- この超能力が中澤にもたらした唯一の恩恵は、彼女の精神力を鍛え上げた事だろうか。
鍛え上げた?あるいはそれは、ただ単に感受性を麻痺させただけなのかもしれない。だが、
おかげで中澤の心は明らかにタフになった。果たしてこの能力は神の恩寵なのか、それと
も悪魔の呪いだったのだろうか?
彼女の卓越した技術と豊富な経験、それにタフな精神力。これらが中澤裕子年齢詐称疑
惑の噂の根拠だった。
しばらくして服を着た中澤は、デスクの前のライト板に何枚かのレントゲン写真を貼り
付けた。スイッチを入れると、それらには脳に当たる部分に、黒い影が映っていた。中澤
は腕組みをしてそのおぞましい影を睨みつけた。
- 350 名前:token 投稿日:2003年07月13日(日)10時56分47秒
- 本日2度目の更新です。いえ〜い!寝不足でテンション変です!
まずは、レスのお礼です。
>ぷよ〜る様
初めまして。お名前を余所様の板でお見かけする方ですね。ありがとうございます。
最後まで〜、だなんてそんなこと言われたら、それこそ作者は「調子にノッ」ちゃいますYO
>Silence様
毎度ありがとうございます。今回の更新でいくらか状況の説明は出来たでしょうか?
少し補足しますと、「反撃」の最期のシーンと「俺様」との間は時間が飛んでいるんですねー。
次回からこの飛んだ部分で、いしよしがどうなったのかが解ると思います。たぶん。
「俺様」の章は、いつもの倍くらいの時間が掛かりました。私はエロはほとんど書いたことがないので
(信じてくださいYO)苦労しました。しかも内容がアレなのでブルーになりました。
現実離れした風に書いてみたのですが、いかがだったでしょうか?
今回の更新分は切れ目がなかったのでいつものより多めです。ああ、ストックが貯まらない。
では、次回まで、ごきげんよう。
- 351 名前:token 投稿日:2003年07月13日(日)11時08分59秒
- またまた、忘れ物です。
まず訂正です。
>350 最期のシーン→最後のシーンです。ゴメンナサイ。
それとですね、道重さゆみちゃん、お誕生日おめでとうございます。
では、また。
- 352 名前:Silence 投稿日:2003年07月14日(月)12時35分56秒
- 更新お疲れ様でした。
中澤さんも登場。って前にもよっすぃーの唇奪ってましたね!
2度更新ご苦労さまでした。次回も待ってます。
- 353 名前:殴る! 投稿日:2003年07月14日(月)21時09分54秒
- 時間は3時間ほど遡る。
目の前で梨華が撃たれた。きっと君を守るから。自らの心に誓ったあのフレーズは何だっ
たのか?吉澤は奇妙な虚脱感に見舞われていた。終わっちまったよ。何もかもね。絶望感
ではなかった。幼い頃体験した、まだ半分も終わらずに落としてしまった線香花火。がっ
かりと悔しさとが、ない交ぜになった感情。
「へへへ、どうすっかな〜」相変わらず無遠慮なタイセーの言葉が聞こえてきた。だが、
吉澤の頭の中では、それは意味を成すものにはならなかった。単なる音の羅列でしかなかった。
「色白ねえちゃんだけじゃ、インパクトにかけるしYO」
「兄貴、どうしやしょう?」不安そうに舎弟が聞いてきた。
「何ビビってんだYO。役に立たなくなったんだから、捨てちまえばいいじゃ〜ん!」
「でも・・・・・」
- 354 名前:殴る! 投稿日:2003年07月14日(月)21時11分23秒
- 「ああっ、うるせーぞ。お前も役立たずか?」タイセーが舎弟にベイビーブローニングを
向けた。舎弟達は怖気をふるって逃げまどった。やはりタイセーの兄貴は、逝っちまって
るんだ、そんなことを思いながら。
「そうだ!お前ら、死体とヤレ」突然妙案を思いついたかのようにタイセーが言いだした。
「考えてみたらYO、俺はまだ〜、死体とヤッてるビデオ、撮ったことがねーからYO」
さすがに退き気味の舎弟連中。
「ああ、どうしたー、ダッチワイフと同じだろ?この娘、りかって言ったっけ?おお、良
いねえ。『死姦!等身大りかちゃん人形』。うん、良いタイトルだぜ〜」
タイセーの「りか」という単語を聴くと、吉澤は一瞬身体をビクリと震わせ、それから
ゆっくりと立ち上がった。左足と右腕からは血が流れていた。それでも何とか立ち上がり
タイセーに向かっていった。
- 355 名前:殴る! 投稿日:2003年07月14日(月)21時13分15秒
- 「おい、おい、まだ来るのかYO。いい加減うざいぜー」ベイビーブローニングをしまい、
ベルトに挟んでいた拳銃を抜くと、タイセーは吉澤に狙いを付けた。今度は嬲るつもりは
ない。明らかに殺す気だ!
「はい、はい、はい。もう、飽きたぜ。今日はこれでお終いだ」引き金に掛けた指に力を
込めた。あとほんの少しの力で弾丸が発射されるだろう。だが、吉澤は少しもよける素振
りを見せなかった。ヨロヨロと無言でタイセーに近づいて行った。
「止めな!」やや低いが、良く通る声が響いた。舎弟達が一斉に振り返った。タイセーも
首だけを曲げ、声の主を見た。
- 356 名前:殴る! 投稿日:2003年07月14日(月)21時14分40秒
- そこにはチャイナドレスに身を包んだ、長身の長い黒髪の女性が腕組みして立っていた。
そのやや後ろには、小柄だがこれも黒髪の目の大きい少女が控えていた。言うまでもなく、
飯田圭織と紺野あさ美だった。紺野は辺りを見渡し、状況を素早く判断した。
「なんだ!?お前らは?」飯田の声に一瞬ぎょっとしたが、相手が女性の二人組だと知り
強気になった舎弟の一人が詰問した。他の舎弟達も睨め付けるように眼を飛ばしていた。
だが飯田はそれには構わずにつかつかと舎弟達の中に入って言った。ちょうど舎弟達に取
り囲まれた形になった。
「おいおいおい、今日は一体なんて〜日だ。おお、神よ、感謝しま〜す」大げさな身振り
でクリスチャンの祈りの真似事をしてタイセーが言った。
「色黒ねーちゃんが死んじまったら、さっそく新しいのが届いたぜ〜。しかも、チャイナ
ドレス。うん、うん、うん。いいねー、そそるぜ。そそる。創作意欲が湧いてきたぜ〜」
この言葉を聞き、飯田の濃いめの眉がぴくりと動いた。
- 357 名前:殴る! 投稿日:2003年07月14日(月)21時15分40秒
- 「死んだ!?」紺野は梨華に駆け寄ろうとした。
「おっとっと、動くなよ。なあ、お前ら。スターにしてやるぜ。ビデオに出る気はないか?
て言うか、出ろや!」タイセーの銃口が紺野に向いた。
その瞬間、何が起こったのか彼には解らなかった。拳銃を握るタイセーの右手の甲には
見慣れないものが突然生えていた。タイセーの目がそれを捉え認識した。その後訪れた激
痛。それは手に生えたのではなかった。中国風の刀子。一瞬の隙を突き、目にも留まらぬ
早業で飯田が投げたものだった。
「いってー。いてーよ〜」手を押さえ喚き散らすタイセー。拳銃を落とし、泣きそうな顔
で刀子を引き抜こうとした。だが、余程の力で投げつけられたのだろう。刀身の半分ほど
が突き刺さり、もう少しで刃先が掌に突き抜けるところだった。容易には抜けなかった。
「なっ、何してやがる。とっととやっちまえ!」タイセーの怒りを含んだ声で我に返った
舎弟達は、得物を手に取り飯田に向かっていった。
- 358 名前:殴る! 投稿日:2003年07月14日(月)21時16分58秒
- チャイナドレスの深いスリットから覗く、飯田の美しい脚が上げられる度に、舎弟達は
信じられないほどの衝撃を、その身体で体感していた。手にした得物を使う暇もなかった。
飯田の蹴りは男達を次々に倒していった。
一方紺野は梨華のもとに駆け寄っていた。瞳を閉じた梨華は、側頭部から血を流して倒
れていた。だが軽く開いた口からは息が漏れていた。梨華は、まだ生きていた!
「飯田さん、早く!」いつもより甲高い紺野の声が響いた。
何とか刀子を抜いたタイセーは、血まみれなそれを捨てると、ハンカチで傷口を押さえ
ていた。血管が脈打つ度に、ジンジンとした痛みがタイセーを苦しめた。
「畜生、あのアマー。ぜってー許さねーぞ!!」苦痛と怒りで顔を歪めたタイセーは、鬼
の形相で飯田を睨みつけた。飯田は既に3人を倒し、最後の一人に向かっていくところだった。
- 359 名前:殴る! 投稿日:2003年07月14日(月)21時18分04秒
- タイセーの後ろで気配がした。ふと振り返るとそこには一匹の鬼がいた。足を引きずり
ながらの不安定な状態で立っている、吉澤ひとみだった。形相が鬼だったのではなかった。
瞳が鬼を宿していた。
左足の痛みをものともせず、思い切り踏み込んだ吉澤のパンチがタイセーの顔面を捉え
た。鼻血を吹き出しもんどり打って転んだ。体勢が崩れた吉澤も同時に倒れ込んだ。倒れ
たまま鼻を押さえ、後ずさりするタイセーを、吉澤は這って追いかけ、馬乗りになった。
格闘技で言うところの、マウントポジションを取った。ひとたびこの状態になったならば、
組み伏せられた者は脱出不可能で、ギブアップするしかないと、言われていた。だが、当
然ながら今の吉澤は、タイセーのギブアップを受け入れるつもりは無かった。
吉澤はタイセーの顔面を殴り始めた。
- 360 名前:token 投稿日:2003年07月14日(月)21時19分49秒
- 本日分の更新終了です。
>Silence様
ありがとうございます。
このお話では名前の付いているキャラは、それなりに活躍してもらう予定ですので、
これからも中澤さんは出てきます。ある意味キーパーソンですから。
次回更新は明日になる予定です。それでは、また。
- 361 名前:Silence 投稿日:2003年07月15日(火)01時09分14秒
- 更新お疲れ様でした。
おおおうっ。間に合ってたんだあの2人。よかったです。
しかも、いしか〜さんも・・・。次回もがんがってください。
- 362 名前:殴る! 投稿日:2003年07月15日(火)20時59分07秒
- 最後に残っていた舎弟は、例のブリーフ男であった。彼は他の連中よりも後ろにいたの
で今まで無事だったのだが、飯田に睨まれると手にした角材を投げ出し、尻餅を付いて許
しを乞うた。紺野の声を聞いた飯田は男に一瞥をくれると梨華の所に向かった。残された
ブリーフ男はガクガクと震えていたが、後ずさった拍子に左手が何か冷たい物に触れた。
それはタイセーが先程投げ出した拳銃だった。男は誰も自分に注意を向けている者がいな
いのを確認すると、恐る恐る拳銃を拾った。
飯田は梨華の様子を観察した。頭を銃で撃たれたようだが、確かに息があった。飯田は
中国鍼を入れた携帯用の容器を取りだして、何本かの鍼を選んだ。そして梨華の首筋や顔
面などに鍼を打った。
- 363 名前:殴る! 投稿日:2003年07月15日(火)21時00分04秒
- 「飯田さん?」不安そうに治療を見つめていた紺野が尋ねた。
「とりあえず止血と麻酔。弾は頭蓋骨で止まってるみたい。進入角度が良かったのね。す
ぐに摘出すれば何とかなると思う」
これを聞くと紺野が携帯でどこかに電話を掛けた。
「あっ、院長、あたしです。頭部に弾丸を受けた患者を運びます。一番腕のいいお医者さ
んを待機させてください。いいえ、救急車じゃ間に合いません。これからすぐに搬送しま
す。それから、VIPルームを。えっ、空いていない?どうせ検査入院のお金持ちでしょう。
構いません。追い出しなさい。命令です」
電話を切った紺野は飯田に目で合図を送った。無言で頷いた飯田は外に出ていこうとし
た。だが、その前に例のブリーフ男が拳銃を構えて立ちふさがった。
- 364 名前:殴る! 投稿日:2003年07月15日(火)21時02分46秒
- 「おい、お前。よくもやってくれたな。これが目に入らねーか?へへへへへ」
小太りでやや腹の出ている、ブリーフ姿の男が拳銃を構える姿など、あまり見たくもない
風景である。飯田も一瞬嫌そうに眉を顰めたが、すぐに気を取り直して構えた。
「飯田さん、行ってください。ここはあたしが」紺野がやって来て飯田を促した。
頷いた飯田は無造作に男に近づくと、そのまま脇を通り抜けていった。完全に無視された
男は、あまりのことに呆然として、飯田を見送った。が、やがて正気に戻ると、今度は喚
きだした。
「おい、このアマ。逃げるんじゃねー、こら、おいい!」
「逃げた訳じゃないですよ」
「ひゃあっ!」
- 365 名前:殴る! 投稿日:2003年07月15日(火)21時03分46秒
- 突然紺野に話しかけられた男は、驚いて振り返った。拳銃を紺野に向け凄んで見せた。
拳銃を向けられても少しも怯まない飯田達に、逆に恐れをなしたのだろうか。腰が引け
思いっきり伸ばした腕は震えていた。
「て、てめー。う、う、撃つぞ!」
「今日のあたしの靴、軽いんですよ〜」世間話でもするような口調で紺野が言った。
「な、何言ってやがるんだ」突然訳の解らない事を聞かされ男は更に動揺した。が、次の
瞬間、男の強気の源である拳銃が、彼の手から消えた。それに続き手首に激痛が走った。
紺野の蹴りが男の手首を正確に破壊していたのだ。だが、それで終わりではなかった。そ
のままの勢いで綺麗に身体を回転させると、腕を押さえ苦しむ男の側頭部に回し蹴りをた
たき込んだ。ブリーフ男は倒れ、気絶した。
「あなたみたいな人、手で触りたくないですからね」呟いた紺野は辺りを見回した。動い
ている者はなかった。ただ一人を除いて。そこからはなにかで潰れた肉を叩くような、嫌
な音が聞こえていた。
この時吉澤は、まだタイセーを殴り続けていた。
- 366 名前:token 投稿日:2003年07月15日(火)21時08分20秒
- 本日分の更新終了です。
>Silence様
どうもありがとうございます。はい、間に合いました。だって、もし間に合わなかったら
今頃は、邪魔をした小川さん、二人にタコ殴りですから(笑)
そして石川さんの命は、あの人の腕にかかっています。
余談ですが紺野さんの靴については>>131参照。
それとまた、訂正です。
>>339 >>344の看護士は看護師が正しいようです。ゴメンナサイ。
私、未だに看護婦と表記するもんでうっかりしてました。
では、次回も頑張ります。
- 367 名前:Silence 投稿日:2003年07月16日(水)00時19分17秒
- 更新お疲れ様です。
よしざ〜さんやりすぎ(w それにしても飯田さんと紺野
さん強いですね〜。石川さん・・・助かって(願
- 368 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年07月16日(水)01時12分48秒
- 更新お疲れ様です!!
石川さんが心配で心配で・・・
とにかく今はあの人の腕を信じるのみですね・・・
では、次回更新も楽しみにしてます♪
- 369 名前:急患 投稿日:2003年07月16日(水)12時57分34秒
- ここは中澤が勤める『平家総合病院』の正面玄関。数人の看護師達が出口付近の内側と
外側で待機していた。院長からの直々の指示があり、これから到着する急患に対処するた
めだ。この病院ではこれまでにもこうした事が行われていた。古株の看護師達は慣れた者
で、落ち着いた様子だ。それらの一団の中に、白衣のポケットに両手を突っ込み、やや寒
そうにしながらも外で待っている中澤裕子の姿もあった。
突然一台のワゴン車が猛スピードで飛び込んできた。急ブレーキを掛け、患者を運び出
すには絶妙の位置で停車した。後部ドアが開かれ、ストレッチャーに固定された女性が運
び出された。血のにじむ頭に巻かれた包帯が痛々しい。
そのストレッチャーに乗せられたまま、病院内に運び込まれていく患者を見送ると、中
澤はワゴン車の方に目をやった。そこには先程までワゴン車の中で梨華に付き添っていた
飯田が立っていた。飯田の後ろには、ドアが全開になったワゴン車の中が見えた。中をの
ぞき込んだ中澤の動きが止まった。が、それも一瞬のことであった。
- 370 名前:急患 投稿日:2003年07月16日(水)12時58分19秒
- ワゴン車の中はまるで救急車のような作りになっていた。そこには、毛布にくるまれシ
ートに座り、壁に寄りかかるように眠っている吉澤と、その横でそれを守るように抱きし
めている紺野がいた。運転席にも誰かいるようだが、これは中澤の知らない顔であった。
「久しぶりね、裕ちゃん」飯田が微笑んだ。
「院長の紹介や言うから、誰が来るんやろ思っとったら、そういう訳やったんか」独り納
得しながら中澤が呟いた。
「裕ちゃん、これ」そう言いながら飯田は一枚の紙切れを渡した。
「ん!?」
「患者石川梨華さんに、あたしが打った鍼の位置と本数。裕ちゃんなら意味解るでしょ?」
「おおきに。止血しといてくれたんか」メモを見ながら中澤が言った。
「弾は頭蓋骨にめり込んでると思う。でも、ひょっとしたら破片が脳を傷つけているかも」
- 371 名前:急患 投稿日:2003年07月16日(水)12時59分22秒
- 「ああ、でも、運のエエ娘やな〜。よっぽどの石頭なんか?」
「裕ちゃん!」
「冗談やがな。そんな怖い顔せんといてー。裕ちゃん小心者なんやから」
「あの娘、助けられなかったら、解ってるよね!」声を一段低くして飯田が言った。
「怖いなー、解ったから睨まんといてーな。ところで、そっちの娘もウチで診ようか?怪
我しとんのやろ?」チラリと視線を吉澤に移して尋ねた。
「ううん、いいの。あの娘はあたしが診るから。今は眠らせているからいいけど」
「そやな、病院で暴れられたら堪らんからなー」飯田に最後まで言わせずに、中澤が台詞
を引き継いだ。
「じゃ、行くわ。患者の石川やったっけ、が待っとるからな」踵を返すと中澤は病院の中
に入っていった。彼女は一度も振り返らなかった。
中澤を見送ると飯田が運転席の人物に声を掛けた。
「よし、次行くよ!」
「へいへい、仰せのままに」ワゴン車に飯田が乗り込むと、小川は発車させた。行き先は
モグリ営業の飯田医院こと、スナック『タンポポ』だ。
- 372 名前:急患 投稿日:2003年07月16日(水)13時00分32秒
- 飯田の一撃で伸びてしまった小川は、幸いにも路上に放置されず、そのままワゴン車に
積み込まれていた。その後、呑気に夢をみていたら、飯田にたたき起こされ、訳が分から
ぬまま梨華の搬送を手伝わされ、ワゴン車を運転させられた。
なぜ、俺が運転手なんだ?と飯田に対しささやかな抵抗を試みたが、あっさり却下された。
「Aライ持ってるんだろ?」やや殺気だった声で飯田が言った。
「なんでそんなこと知ってるんだよ!」
「アンタのことは調査済みさ。さあ、早くしな。あたしはこの娘に付き添うから」
こんなやりとりがあって、小川はワゴン車のハンドルを握ることになった。
小川のドライビングテクニックは確かに素晴らしかった。実のところ、過去に何度か国
内レースで入賞した実績もあったほどだから。だが、特筆すべきはワゴン車の性能であろ
う。外見からは想像も出来ないほどの改造があちこちに施されていた。特に足回りは完璧
で、小川は久しく忘れていた感覚が蘇ってきた。それは小川が『壊し屋娘。』と呼ばれる
ようになる以前のものだった。小川は内心、久しぶりに車との一体感を楽しんでいた。
- 373 名前:token 投稿日:2003年07月16日(水)13時01分42秒
- お昼休みに更新です。て、また時間が〜〜!
>Silence様
ありがとうございます。紺野さん鍛えてますから、きっと飯田さんもこっそりと(笑)
>ぷよ〜る様
ありがとうございます。中澤さん名医みたいですからたぶん(て、オイ!)
え〜でもですね、実はこの先更なる展開が・・・・・・。
では、次回まで。
- 374 名前:Silence 投稿日:2003年07月17日(木)11時58分39秒
- 更新お疲れ様でした。
ほぇ〜、小川さんにそんな特技があったのかぁ。ここの方々は
みんな多彩な特技をお持ちみたいですね。でも、やっぱ一番は
紺野さんかなぁ〜(w 次回も楽しみにしてま〜す
- 375 名前:ある悪夢Tその2 投稿日:2003年07月17日(木)21時01分18秒
- 男は絶叫しながら跳ね起きた。弾みで少女は跳ね飛ばされ床に尻餅を付いた。男はパニ
ックになりながら夢中で自分の胸に突き刺さった包丁を引き抜いた。パジャマに血が広が
っているがそれ程出血はしていなかった。傷は浅いようだ。だが、それは男を逆上させる
には充分なものだった。
心臓を刃物で一突き、これを実行するのは結構難しい。人体には肋骨があり心臓や肺な
どの臓器を守る役割も担っている。心臓を狙うには肋骨の隙間を刺さなければならない。
また、渾身の力を込めたと言っても、所詮は幼い少女のそれである。力不足は否めなかった。
男はその醜い本性をそのまま顔に出した状態で、自分を傷つけた犯人である少女を睨み
つけた。雷が光り、男の顔を余計に醜悪に見せていた。
「なにしやがるんだ!このクソ餓鬼!!」
「おっ、お、お前のせいだ。おまえのせいで、**ちゃんが死んだんだ!おまえのせいで」
初めは男の勢いに押され怯んでいた少女だが、敢然と男に向かって言い返した。
- 376 名前:ある悪夢Tその2 投稿日:2003年07月17日(木)21時02分04秒
- 「**だあ〜。ああ、あの自殺しやがった恩知らずのクソ餓鬼か」
「お前と違ってアソコがまだ小さく、ワシのモノが入らぬから、しゃぶって、指で弄んだ
だけじゃねーか。これからが楽しみだったのによ〜」下品な笑いを見せながら男が言った。
「あたしはあの子に守ってあげるって約束したんだ。それなのに、死んじゃったんだ。お
前のせいだ。だから、お前を殺してやる!」
男がいきなり少女を足蹴にした。格闘技の足技ではなく、怒りに任せて蹴飛ばした、と
いった風だ。おそらく口の中が切れたのだろう、少女は口から血を流していた。
「けっ、逆恨みもいいとこだぜ。お前らはワシらのオモチャなんだから、そんな生意気な
こと言う権利なんかね〜ぞ」今度は少女の腹に蹴りを入れた。
「うっ嘘だ!誰にでも、子供にも、あたし達にだって『じんけん』があるって、シスター
が言ってたもん!」腹を押さえ、痛みに堪えながら、少女が反論した。
- 377 名前:ある悪夢Tその2 投稿日:2003年07月17日(木)21時03分21秒
- 「シスターぁ?ああ、あのこの間研修に来た娘っ子か。おお、ああゆうのもそそるよな〜」
この男の頭にはこれしかないらしい。男は暫し、下品な妄想を繰り広げていた。
「お前らみたいなのをなんて言うか知ってるか?ド・レ・イ。奴隷って言うんだよ。いい
か、奴隷には人権なんて上等なモノはないんだぞ。本当ならイヌっころみたく鎖で繋いで
置くところだ。だが慈悲深いワシはな、お前らのような奴らでも不憫に思って、自由に放
し飼いにしてやってたんだ。それをこの、恩知らずが!」
男は、今度は力任せに殴った。少女は倒れながらも男をキッと睨みつけた。その揺るが
ない瞳が、更に男の嗜虐性をあおった。男は使い慣れた竹刀を握ると、容赦なく少女を撲
った。揺れる蝋燭の明かりに照らし出された、その光景はある意味幻想的だが醜かった。
どのくらい続いただろう。力任せに竹刀を振るい続け、疲れた男が手を休めた。呼吸は
乱れ心臓が早鐘のように鳴っていた。もう少女は、体中を撲たれボロボロだった。だが残
った力を振り絞り、顔を男の方に向けた。片方の目は瞼が腫れ上がり開かない状態だった。
それでも少女は、残った目で男を睨みつけた。
- 378 名前:ある悪夢Tその2 投稿日:2003年07月17日(木)21時04分22秒
- 「このクソ餓鬼〜!!」更に逆上した男は、先程自分を傷つけた包丁を拾うと少女に馬乗
りになった。少女は男の巨体に押しつぶされそうだ。凶器を片手に握り、これ見よがしに
刃先を少女の無事な瞳に近づけた。
「そんな目でワシを見るなー!!!」
包丁が勢い良く少女の瞳に向かって振り下ろされた。迫り来る刃先。だが、それでも少
女は瞼を閉じなかった。
そして・・・・・・。
- 379 名前:token 投稿日:2003年07月17日(木)21時05分33秒
- 更新です。今夜もテンション変で〜す!
>Silence様
ありがとうございます。
そうなんです。これくらいの特技がないと目立てませんから。(笑)
本当は、この特技があるとこの後、登場しやすくなるもんですから。
これは同じ夢の >>163 と >>164 の続きになります。
皆さんは同じ夢を見ることはありませんか?私は小学生の頃、熱が出て寝ていると
必ず見る同じ夢がありました。この吉澤さんの見る悪夢も、そういった類のものです。
P.S. 悪魔が来たりて笛を吹く、う○ばん見てたら何故か思いついたフレーズです。
では、次回まで。ごきげんよう!
- 380 名前:Silence 投稿日:2003年07月18日(金)12時34分33秒
- 更新お疲れ様でした。
悪夢ですかぁ〜。よく胸(心臓?)の辺りに手を当てたまま
寝ると怖い夢をみると聞いたことがあります(w
ではでは次回も期待してます。
- 381 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年07月18日(金)18時21分45秒
- 更新お疲れ様です!!
悪夢・・・起きた後でも気分悪いですよね・・・
当方なら吉澤さんのような悪夢には耐えられないです・・・
夢といえば最近やたらいしよしが夢に出てきます(w
では、次回も楽しみにしてます♪
- 382 名前:生還そして、告白!? 投稿日:2003年07月18日(金)20時30分12秒
- 目覚めた吉澤にはその天井は見覚えがあった。だが、自分の部屋のそれではなかった。
どこだろう?ごく最近これと同じ事があったな、そんなことを思いながらぼーっとしてい
ると、段々頭がハッキリして来た。
「梨華ちゃん!」跳ね起きようとした吉澤だが、体中に痛みを感じうまく起き上がれなか
った。左太股と右の二の腕が特に痛かった。だが、それよりも先程目覚めた頃からジンジ
ンと疼いている部位があった。両手だ。吉澤は布団から自分の両手を引き出した。両手と
も包帯が丁寧に巻かれていた。握り拳を作ろうとすると酷い痛みがした。
「お目覚めですか?」聞き慣れた優しい声がした。いつの間にかベッドの脇には紺野が来
ていた。
「ここは飯田さんの家?」
「はい、吉澤さん2度目ですね」明るい口調で話しているがどこか表情が暗かった。
「ねえ、正直に答えて。梨華ちゃんは無事なの?」枕に頭を乗せたまま、吉澤は紺野に尋
ねた。紺野を見つめる目には不安の色がありありと見えた。
- 383 名前:生還そして、告白!? 投稿日:2003年07月18日(金)20時32分29秒
- 「石川さんは、今入院しています」
「そうか〜」吉澤はホッとした。(入院、つまりは生きてるんだ!)
吉澤はあの時のことを思い出した。
自分の流した血とタイセーの返り血とで、吉澤は血まみれだった。いつまでもタイセー
を殴り続ける吉澤を紺野は止めようとした。自分の服が汚れるのも厭わず、後ろから吉澤
を抱きしめると、力ずくで止めようとした。だが、吉澤は強引にそれを振り払うと、既に
ぐしゃぐしゃに潰れた肉塊を殴る作業を再開した。まるでその作業を続けることは神聖な
儀式だとでも言いたげな風だった。諦めずに紺野は再び抱きつき、吉澤の耳元で泣きそう
な声で叫んだ。
「吉澤さんしっかりして下さい。梨華さんは、石川梨華さんは生きています。まだ、生き
てるんですよ!」
- 384 名前:匿名匿名希望 投稿日:2003年07月18日(金)20時34分01秒
- 痛いよぉ・・・イタイよぉ・・・(涙
悪夢もただの『夢』ではなく、実体験として体験していたのなら・・・
そのうえ気になる所できられてるYO!
次回の更新も楽しみに待っています。
頑張って下さい。
- 385 名前:生還そして、告白!? 投稿日:2003年07月18日(金)20時34分19秒
- 「イ・キ・テ・ル?生きてる?梨華ちゃんが生きてる!」弾かれたように振り返った吉澤
は梨華を捜した。またも振り払われた紺野は床に倒れた。吉澤は倒れている梨華を見付け
ると近寄ろうとしたが、すぐに転んでしまった。撃たれた左足のせいだ。
すると吉澤は這って進んだ。吉澤の肘・胸・腹部は擦り傷でいっぱいだ。左足と右腕か
らも血が流れていた。だが、構わず吉澤は進んだ。
「駄目、今動かしちゃ駄目です!」大慌てで紺野は吉澤に追いついた。だが、吉澤には何
も聞こえなかった。
「梨華ちゃん、梨華ちゃん、梨華ちゃん!」
「ごめんなさい!」紺野の手刀が這っている吉澤の延髄に打ち込まれた。吉澤は動きを止
めた。そして最後の力を振り絞り左手を大きく梨華の方に伸ばし、吉澤は力尽きた。その
拳は血まみれで、大きく腫れあがっていた。
「ありがとう。また迷惑掛けちゃったね」暫くして吉澤が紺野に言った。
「良いんですよ。だってあたし達、お友達でしょ?」
- 386 名前:生還そして、告白!? 投稿日:2003年07月18日(金)20時35分29秒
- 「友達!?(あたしみたいな奴を友達だなんて)」
あの時、吉澤は梨華に告白した。ただただ自分の想いを伝えられるだけで良かった。結
果は関係なかった。幸運にも、梨華はその想いに答えてくれた。梨華の想いが嬉しかった。
が、まだ吉澤は自分の裏の仕事を話してはいない。物理的に時間がなかったせいもあった。
しかし本当のところは梨華には隠して置きたかったのだ。自分の正体が殺し屋なのだ、と
言うことを。
もう迷わない。梨華ちゃんに本当のことを伝えなきゃ。嫌われるかもしれない。軽蔑さ
れるかもしれない。だってあたしは人殺しなんだから。でも、隠しておきたくない。この
まま隠し続けるのは裏切っているのと同じだから。そして紺野さん達にも。吉澤の胸はこ
うした想いでいっぱいだった。
「紺野さん、あたしあなたに言わなきゃならないことがあるんだ。実は、あたし」意を決
した吉澤は、紺野の目を見つめ話し始めた。やや潤んだ紺野の瞳に吉澤自身が映っていた。
吸い込まれそうな感覚と軽い眩暈を覚えた。しかし、
- 387 名前:生還そして、告白!? 投稿日:2003年07月18日(金)20時36分46秒
- 「ストップ。吉澤さん。愛の告白はナシ、ですよ。だってあたし、梨華さんともお友達な
んですから」
「へっ!?」吉澤は固まった。
「それにあたしにも、その〜、好きな人と言うか、つき合ってる人が」頬を赤らめ俯きな
がら紺野が言った。照れているのか、歯切れが悪い。
「はい!?」妙な展開に吉澤は益々混乱した。
(いや、あたしはそんなつもりは更々ないんだけど。あっ、でも今の紺野さんは、なんだ
かいつもより可愛いぞ。って、いかんいかん、何考えてるんだ。そうじゃない。あたしは
梨華ちゃんが好きなんでそれ以外の人は。違う、今しなけりゃならないのは・・・・・)
吉澤がそんなことを考えている間に、紺野は部屋を出ていってしまった。
吉澤の告白失敗。
- 388 名前:token 投稿日:2003年07月18日(金)20時39分04秒
- 本日の更新終了です。今回は少しだけコミカルです。
>Silence様
ありがとうございます。
私もそれ聞いたことがあります。実家にいた頃変な夢を見て、
目ざめたら胸の上に飼い猫が寝ていた、なんて経験も。
>ぷよ〜る様
ありがとうございます。
いいな〜。夢にいしよしが出てくるんですか?
私まだ娘。が夢に出てくる、なんて嬉しい経験ありません。
思い入れが足りないのでしょうか?(涙)
>匿名匿名希望様
ありがとうございます。
はい、実は吉澤さんの悪夢は、過去の悲しい体験なんです。
ベタな表現方法ですけど。ちなみに、後藤さんの悪夢もそうなんです。
次回も頑張ります。では。
- 389 名前:匿名匿名希望 投稿日:2003年07月18日(金)20時42分33秒
- 更新途中のレスごめんなさい・・・
逝ってきますです。
- 390 名前:token 投稿日:2003年07月18日(金)22時13分03秒
- >匿名匿名希望様
無問題です。お気になさらぬように。
おお、そう言えば一度に3つもレス頂いたの初めてです。(感謝!)
- 391 名前:作者名未定 投稿日:2003年07月19日(土)13時50分44秒
- やっと追い着きました…
更新速度が速いので、遅筆な自分にうらやましい限りです。
途中の石川のショッキングなシーン…その後のことが予想できてもやっぱり
上手い、と唸ってしまいました。
お目汚しレス済みません。それでは。
- 392 名前:拒絶 投稿日:2003年07月19日(土)23時14分23秒
- 予想外の紺野の反応で吉澤の決心は、はぐらかされてしまった。
(仕方がない。紺野さんには日を改めて言おう。それよりも、梨華ちゃんの所に行かなくちゃ)
吉澤は上半身をベッドの上で起こした。やはり身体中に痛みを感じた。その時また、誰
かが部屋に入ってきた。飯田圭織だ。セーターにジーンズのラフな服装である。
「吉澤、あんた自分の身体がどんな状態だか、解ってる?」ベッドサイドの椅子に腰掛け
て飯田が尋ねた。
「太股の弾は摘出した。幸い骨には当たってなかったよ。だけどしばらくは歩くのにも不
自由するだろうね。でもね、一番酷いのは両手だね。あんた今、拳が握れないだろう?」
- 393 名前:拒絶 投稿日:2003年07月19日(土)23時15分08秒
- 優秀なボクサーは決して素手で喧嘩をしないと言う。モラルの問題からと言う意味もあ
ろう。だが、最大の理由は、自分の存在証明の源である拳を痛めないためである。特にハ
ードパンチャーほど、己の拳を破壊しやすい。いささか旧聞だが、あのボブ・サップがK
−1で、試合には勝ったが決勝進出を断念したのは、そのあまりの破壊力に自分の指の骨
が耐えきれず骨折したからだ。
吉澤の場合も、ハードパンチャーであることに加え、タイセーの顔面が潰れるほど殴り
続けたため、ほとんどの指が骨折していた。甲の部分にも無数のひびが入っていた。だか
ら吉澤の両手は一時、ゴールキーパーのグローブのように腫れあがっていた。今の吉澤に
は、缶コーヒーを掴めるかさえ、怪しいものだ。
更に、銃で撃たれた右腕の傷。それに体中の擦過傷。客観的に見て吉澤が梨華を助ける
ためにとはいえ、払った代償は大きかった。だが、当然吉澤は後悔などしていない。
「いくらあたしでもそこまで壊れた拳は、簡単には治せない。あとはあんたの治癒力とリ
ハビリ次第だね」
- 394 名前:拒絶 投稿日:2003年07月19日(土)23時16分28秒
- 吉澤は自分の両手をじっと見つめた。心なしか両手が疼き始めた。一心にタイセーを殴
り続けた、あの時の感触が蘇ってきた。
「飯田さん、あたしあいつを殴り殺したんですね。でも、少しも後悔はしていません。結
果的に梨華ちゃんは死ななかったけど、あいつは梨華ちゃんを撃ったんです。それに、い
やらしいビデオも撮ろうとしてたんですから」
「そう、あの男は運ばれた病院で死んだよ。あれだけ顔を殴られりゃあ、助かるほうが不
思議さ。あんたが殺したんだ。あんたは人殺しだよ。でも、それを裁くのはあたしの仕事
じゃない。だからって警察にチクったりする気もない。ここの連中は寺田興行とつるんで
るからね。それに、随分非道な事をしていた奴らしいし・・・・・。でもここを退院した
ら、吉澤、あんたはもう店には来ないでくれ。あたしは紺野を、これ以上あんたに関わら
せたくないんだ」
「はい、その通りです。あたしは人殺しです。違います、あいつのことを言ってるんじゃ
ありません。あたしは・・・・・、あたし吉澤ひとみは、他にも」
- 395 名前:拒絶 投稿日:2003年07月19日(土)23時17分44秒
- 「聞きたくないな、そんな話」飯田は吉澤の話を遮った。いつも通りの大きな瞳。だが、
そこには強い拒絶の光がたたえられていた。
「ごめんなさい。そうですね、不快になるだけですよね。はい、あたし出ていきます。今
すぐにでも。ここにいるとひょっとして、また迷惑を掛けるかもしれないし。いろいろあ
りがとうございました」
「そっか、じゃあタクシー呼んでやるよ」飯田の口調は素っ気なかった。
- 396 名前:token 投稿日:2003年07月19日(土)23時19分13秒
- 今夜の更新終了です。
>作者名未定様
いらっしゃいませ。レスありがとうございます。誉めていただいて嬉しいです。
>更新速度が速いので、遅筆な自分にうらやましい限りです。
騙されてはいけません。たしかに更新回数は多い方ですが、量が少ないのでトータルでは
たいしたことありませんから。
実は今日はお休みでした。この機にストックを作るぞ、と思いましたが、ちっとも進みませんでした。
ですから、今回も更新量は少な目です。(ポリポリ)
また来週は忙しくなりそうです。そこで申し訳ありませんが、日曜の更新はお休みです。
その代わりと言ってはなんですが、図々しく宣伝させてください。
短編を一本書きました。ここに載せようかとも思いましたが、あまりにも内容が違うので、
『赤板の作者フリー 短編用スレ 4集目』に投稿させて頂きました。もし、お暇でしたら読んで
やって下さいませ。406-423 題名は『吉澤先輩の秘密』です。
では、次回まで。ごきげんよう。
- 397 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年07月21日(月)04時23分27秒
- 更新お疲れ様です!!
きょ、拒絶!?この後、どうなるのか至極気になります・・・
それから『吉澤先輩の秘密』読ませていただきました。
ハロハロのDVDを見た後だったこともあるのですが
あの3人はよかったです!!
素敵なお話をありがとうございました(ぺこり)
では、次回も楽しみにしてます♪
- 398 名前:Silence 投稿日:2003年07月21日(月)12時43分47秒
- 更新お疲れ様でした。
なんか自分を理解しているっていうのかな〜。吉澤さん。
ほんとかっこいいとかオトコマエとかいうセリフの似合う
人ですよねぇ。次回もまったり待ってます。
あっ、短編のほうも読んで楽しませてもらいました。
- 399 名前:タクシー 投稿日:2003年07月21日(月)21時17分55秒
- その後簡単な食事が出された。怪我で箸が使えない吉澤のためにスプーンが添えられて
いた。何日ぶりの食事だろう?吉澤は有り難く食べた。
しばらくして食事の容器を飯田が回収しに来た。その手には大きな紙袋が一つ。
「着替えだよ。血で汚れたから、アンタのは捨てた」そう言って飯田は出ていった。
中にはセーターにパンツ。ハーフコート。それにデッキシューズまで。小さなボタンを
填めなくても良いような服装ばかりだ。もたつきながらも吉澤は一人で着替えを済ませた。
「タクシー来たってさ」飯田の声に促され、吉澤は部屋を出た。
松葉杖をつきながら吉澤は何とかマンションのエントランスまで降りてきた。足も痛か
ったが、杖を握る手の痛みも酷かった。一緒に飯田も部屋を出た。しかし、エレベーター
の中で飯田は何も言わなかった。廊下を歩くときも、黙って吉澤の後ろから付いてきた。
- 400 名前:タクシー 投稿日:2003年07月21日(月)21時19分41秒
- エントランスから、外にタクシーが一台止まっているのが見えた。
「これ」飯田が封筒を差し出した。
「このまま病院に行くつもりだろ?花束ぐらい買っていってやりなよ」
「飯田さん!」
「勘違いするなよ。紺野からだからね。その服だって選んだのは紺野さ」飯田はそっぽ
を向きながら答えた。
「ありがとうございます」吉澤は頭を下げた。
「じゃあな、杖は返しに来なくていいから」飯田はそのまま自分の部屋に戻っていった。
- 401 名前:タクシー 投稿日:2003年07月21日(月)21時21分09秒
- ヨロヨロとタクシーに乗り込むと吉澤は行き先の病院名を告げた。
「ハイよ」低めだが女性の声だった。それにどこかで聞き覚えがあった。
「あっ!」
「よー、退院おめでとう」皮肉っぽい口調で運転手が言った。『壊し屋娘。』こと小川麻
琴だった。
「おいおい、そんな怖い顔で睨むなよ。今、壊し屋は休業中なんだからよ」
「なんで、お前が」
「まあ、いろいろあってな。大人の事情ってやつかな」
「・・・・・」
「それにお前とあの撃たれた娘を運ぶのだって手伝ったんだぜ」
「そっか」頭をシートに預け吉澤が呟いた。
「ありがとう。あたし結局みんなに助けられてるんだね」しみじみ吉澤が言った。
「ケッ、いいって事よ。おう、それよりも怪我はどうなんだよ。直ったらもういっぺん続
きをやろうぜ!」
「ああ、今はまるで駄目だけどね。今度は負けないよ」
- 402 名前:token 投稿日:2003年07月21日(月)21時22分43秒
- 短いですけど本日の更新終了です。
>ぷよ〜る様
ありがとうございます。短編も読んでいただきまして、感謝です。
でも、ぶっちゃけ6期メンのことあまり知らないモンで。(汗)
機会がありましたら、また書いてみたいと思います。
>Silence様
ありがとうございます。こちらも短編のほうを、感激です。
吉澤さんいろいろ悩みましたからね〜。でも、この先まだ苦労しそうです。
ちょっと冷たい飯田さんですが、理由は次回で解るかもしれません。
では、また。
- 403 名前:飯田と紺野 投稿日:2003年07月22日(火)07時35分04秒
- 「飯田さん、吉澤さんは?」のんびりした声が聞こえてきた。
飯田は部屋に戻り、リビングのソファーで本を読んでいた。そこに紺野がやって来て飯
田に尋ねたのだ。可愛らしいパジャマを着て眠そうに目を擦っていた。
「ああ、出てったよ」本から目を離さずに飯田が答えた。
「えっ!?」パタパタとスリッパの音をさせて、紺野は確認に行った。
飯田はそのままの姿勢で本を読み続けた。だが、その様子はどこか不自然だった。まる
で何かから逃げるために。現実から目を逸らすために。そんな風だった。
「どうして?」戻ってきた紺野が飯田の前のソファーに座りながら聞いた。
「どうして、引き留めて置いてくれなかったんですか〜?」
「だって、吉澤がどうしても行きたいって言うから」飯田はまだ本から目を離さなかった。
- 404 名前:飯田と紺野 投稿日:2003年07月22日(火)07時35分49秒
- 「私を起こさなかったのは?」
「最近ろくに寝てなかったし、起こすのは悪いと思ってさ」
「飯田さん、顔を上げて下さい」紺野の口調が変わった。飯田は渋々本を置き、紺野の顔
を見た。紺野を見つめる大きな瞳。だがそこには怯えたような色が見えた。
「どうして嘘をつくんですか?」怒っているのか、口調が冷たい。
「嘘じゃないよ。あの娘が出ていくって言ったんだよ」飯田は精一杯の抵抗を試みた。だ
が飯田自身にも、それが無駄なことだとは充分解っていた。
「そう言うように仕向けたのは飯田さんでしょう?」
「だって、だって、これ以上吉澤に肩入れすると、紺野が、紺野が」飯田は泣き出しそう
な顔になった。
- 405 名前:飯田と紺野 投稿日:2003年07月22日(火)07時36分54秒
- 「構いません。私が望んでしていることなんですから。それとも飯田さんは、私の望みの
邪魔をする気なんですか?」紺野の瞳の中で何かが光った様に思えた。
「ごっ、ご、ごめんなさい」飯田はその大きな両手で自分の顔を覆うと泣き出してしまった。
しばらくその様子を無言で眺めていた紺野だが、飯田の隣に並んで腰を下ろした。そし
て飯田を優しく抱きしめ、まるで母親が子供をあやすように、飯田の髪を撫でた。
「泣かないで、飯田さん。私も言い過ぎました。解ってます。飯田さんはいつも、私のた
めを思っているんですよね。解ってますよ。だから泣かないで、ね、飯田さん」
「ご、ごんの〜」飯田は紺野に抱きついた。紺野の優しい言葉に、飯田は益々泣き出した。
「圭織」紺野の声は優しかった。
- 406 名前:token 投稿日:2003年07月22日(火)07時38分09秒
- お早うございます。また寝てません。自業自得ですけど。(苦笑)
また短めの更新です。
紺野さん、飯田さんを泣かしちゃいました〜!でも殴り合いの喧嘩にならなくて一安心。
だって、もしこの二人が闘ったら・・・・・。
では、おやすみじゃなかった、行って来ま〜す。
- 407 名前:タクシー 投稿日:2003年07月23日(水)19時40分39秒
- 「あっ。そうだ大将、ちょっと寄って欲しい所があるんだけど」しばらく後部座席で目を
瞑っていた吉澤が、運転席の小川に声を掛けた。
「誰が大将じゃ。俺はランニングシャツ着て、お握り喰らうんかい」随分陽気な声だ。ど
うやら本来の小川の性格は、明るいもののようだ。
「だってさ、運ちゃんじゃ変だし、兄貴じゃおかしいし」
「麻琴でいいよ」
「Hey、じゃあ、マコちゃんちょっと寄っておくれよ」吉澤もおどけた。
「花屋か?それとも果物屋?」
「うん、それもそうだけどさ、梨華ちゃんのお店に行ってみたいんだ。しばらく留守にし
ていたし。あっ、場所知らないか?『ひまわり』って喫茶店なんだけど」
「知ってるよ」それまでの陽気さはなりを潜め、小川の声が低くなった。
異変に気づいた吉澤は、バックミラー越しに小川を見つめた。
- 408 名前:タクシー 投稿日:2003年07月23日(水)19時41分36秒
- 「おめー聞いてなかったのか?」
「何を?」
「どうすっかなー。まっ、いいっか。解った。連れてってやるよ」しばらく迷った風の小
川だったが、やがて決心したらしく、ハンドルを右方向に切った。
吉澤は松葉杖で身体を支えながら、茫然と立ちつくしていた。彼女の目の前には、瓦礫
の山。数日前まで、この場所で梨華がコーヒーを入れ、それを吉澤が運んでいた。その店
喫茶『ひまわり』が、今はただの建築廃材の山に変わっていた。
「お前らが怪我した同じ日にな、ダンプが突っ込んだんだ。犯人はそのまま逃げた。特に
怪我人もなかったから、悪質な当て逃げって事で警察は処理しているぜ。もちろんやった
のは寺田興行のチンピラだろうけどな」吉澤の後ろに立ち、小川が解説した。
「どうして、どうしてみんなで梨華ちゃんを苛めるのさ」振り返った吉澤の瞳は涙に濡れていた。
- 409 名前:タクシー 投稿日:2003年07月23日(水)19時42分57秒
- 小川は両手の掌を上に向け、黙って肩を竦めて見せた。その様はどこかコミカルだった
が、今の吉澤は笑える気分ではなかった。
「くっそー、あいつら」吉澤はどこかへ行こうとした。わずかな移動にも慣れないためか
その動作はぎこちなかった。
「おいおい、どうする気だよ」
「決まってんだろう、殴り込みだ!」
「お前馬鹿か?そんな怪我で何が出来るんだよ。それに今は他にすることがあるだろ?」
「?」
「梨華って娘は、確かに生きてるよ。でもな、今どんな状態なのか、その様子じゃお前知
らされてないんだろ?」
自分の目の前で、梨華が頭を拳銃で撃たれたのを目撃した吉澤は、梨華が生きていた、
と聞かされただけで安心しきっていた。だが、言われてみれば・・・・・。
- 410 名前:タクシー 投稿日:2003年07月23日(水)19時44分25秒
- (何故、今までそのことに気づかなかったのだろう?頭を撃たれたんだ。死なないまでも
重傷なのは当然だ。なのにネガティブな発想なんて少しも浮かんでこなかった。まるであ
たしの思考能力が低下していたみたいだ。ひょっとして薬でコントロールされていた!?)
一旦わき上がってきた不安は容易に消えることがなかった。吉澤は、己の思考の沼の底
へと沈んでいきそうになった。だが、それを遮ったのは、側にいた小川であった。
「考え事してる時に悪りいんだけどよ」
「あっ、ええっと何?」吉澤は我に返った。
「病院まで送ってやれなくなっちまった。こっからは他のタクシーでも拾ってくれ」
「えっ!?」吉澤はすぐに、辺りに神経を集中した。向こうの角に、こちらを伺う数人の
男達の存在に気づいた。
「寺田興行か!」いきり立つ吉澤。だが、小川は落ち着いた様子でそれを否定した。
「いいや、違うね。あいつらには見覚えがあるぜ。俺に用があるんだろう」
「?」
- 411 名前:タクシー 投稿日:2003年07月23日(水)19時45分23秒
- 「俺はフリーで壊し屋をやってるから、結構敵が居てな。あいつらは以前俺が仕事で潰し
た奴の仲間さ。大方仕返しにでも来たんだろう。麗しの友情物語ってか〜」
「手伝おうか?」真面目な顔で吉澤が聞いた。
「冗談は止めてくれよ。今のおまえさんは、そこら辺にいる女の子よりも役に立たない足
手まといだぜ。第一あんな奴ら、俺独りで充分さ。慣れてっからよー」
「解った。で、どうするんだ?」
「なーに、わざわざ相手すんのもウザイから、このまま逃げるさ。だから、お前を送って
やれない」
「そうか、いろいろありがとう。気を付けて」
「ああ、またな」小川は独りでタクシーに乗り込んだ。
「じゃあ、お客さん毎度〜!」わざと男達に聞こえるように大声で挨拶すると、タクシー
は走り出した。それを追うように一台のベンツが吉澤の目の前を通り過ぎていった。スモ
ークガラスでハッキリしないが、中には4人ほどの人影があった。
「麻琴」二台の車を見送りながら吉澤が呟いた。
- 412 名前:token 投稿日:2003年07月23日(水)19時46分32秒
- 本日の更新終了です。
えーまた。宣伝させて下さい。
前回の更新時にもちょっと書きましたが、月曜の夜に眠れなかったので、また一本
短編を書きました。で、また赤板にお世話になろうかと思いましたが、スレッドサイズが。
そこで、思い切って新スレ立てました!紫板で『徒然なるままに』です。お暇でしたら
覗いてやって下さい。(ぺこり)
http://m-seek.net/purple/index.html#1058844281
では、次回まで。ごきげんよう!
- 413 名前:Silence 投稿日:2003年07月24日(木)14時43分07秒
- 更新お疲れ様でした。
梨華ちゃん・・・。なんで君はこんなにも不幸が似合う人なんだよ(w
冗談はさておき、大将かっこいいですね〜惚れますよ。
では次回も楽しみに待ってます。
- 414 名前:診断 投稿日:2003年07月25日(金)21時10分53秒
- 「当医院には、そのような患者さんは入院しておりません。お引き取り下さい」受付の女
性はそう言って、吉澤を追い返そうとした。
ここは梨華が運び込まれた『平家総合病院』のロビー。多くの人々がいたが、病院のた
めか比較的静かだ。小川と別れ、他のタクシーを拾い、やっとの事で吉澤はここまでたど
り着いたのだった。だが、初めは愛想の良かった受付係も、吉澤が外来患者ではなく、石
川梨華の見舞いに来た事が解ると、途端に態度がよそよそしくなった。
「そんな筈ありません。ここに運ばれて手術を受けたんですから」
「ですが、記録には石川様と言うお名前がございませんので。どちらかとお間違えになっ
ているのでは?」端末のディスプレーを見ながら女性が言った。
「それ、あたしに見せてください」不自由な体で身を乗り出して、端末を覗き込もうとす
る吉澤。
「止めてください。職員以外は閲覧禁止です!」
「お願いします」押し問答が続いた。
- 415 名前:診断 投稿日:2003年07月25日(金)21時12分04秒
- 周りの人々も、このちょっとした事件に注目し始めた様だ。あちこちで何かをささやき
あっていた。そんな時、受付の内線が鳴った。すぐさま女性は受話器を取った。
「はい、受付です。先生っ!ええ、そうなんです。強引な方で困っております。えっ!?
はい、解りました。そのように伝えます」女性は内線を切ると吉澤の方に向いて言った。
「失礼いたしました。その石川様と言う方の件で、ウチの医師から説明があるそうです。
ただいま係りの者がご案内に参りますので、しばらくお掛けになってお待ち下さい」
「梨華ちゃ、いや、石川さんはどこに居るんですか?」
「申し訳ございませんが、それはわたくしの口からはちょっと」女性は言葉を濁した。
相変わらず梨華に関しては何も教えてくれない。が、先程までの拒絶する態度とは明ら
かに違うようだ。吉澤は素直に待つことにした。
- 416 名前:診断 投稿日:2003年07月25日(金)21時14分32秒
- 10分程経った頃だろうか?体格の良い二人の男性看護師が吉澤の下にやって来た。自
分を強制排除するためか、一瞬そう思った吉澤だが、彼らの態度を見るにそうでもないら
しいことが解った。二人は慣れない松葉杖の吉澤を何かにつけ気遣ってくれた。やがて彼
らの案内で、吉澤はある部屋の前にたどり着いた。ドアのプレートには『第一外科部長
執務室』と書いてあった。
吉澤は執務室の中に招じられた。
吉澤を送り届けた看護師達は、部屋の中の人物に丁寧に挨拶をすると、そのまま出てい
った。部屋の中は二人だけになった。椅子を勧められ座った吉澤は、自分の目の前の人物
に見覚えがあった。以前、一度だけ後藤のマンションで擦れ違った、金髪カラコンの年齢
不詳の女性。もちろんそれは、中澤裕子であった。
「顔見せるんは2度目やけど、言葉を交わすのは今日が初めてやな。この病院の第一外科
部長を務める、中澤裕子や。よろしく」
「・・・・・」
- 417 名前:診断 投稿日:2003年07月25日(金)21時15分53秒
- 「何か、言いたそうやな。ああ、アンタが思ってる通りや。これは表の顔や。裏の顔は東
日本の『処理班』を束ねる、まあ〜『組織』の幹部っ、ちゅうとこやな」ニヤリと中澤が
笑った。数々の修羅場をくぐり抜けてきた者だけが纏う事の出来る雰囲気を、吉澤は肌で
感じ取った。が、それも一瞬の事であった。中澤は元の穏やかな雰囲気に戻ると、話を続けた。
「いろいろ知りたいことがあるんやろ。そうやなー、まずは、事実関係から行こか。石川
梨華さんの手術はワシがやった。頭部に受けた弾丸は無事摘出した。傷跡は残るかもしれ
んが、この弾による後遺症は無いやろ。彼女は現在、この病院のVIPルームにおる。初
め受付のモンが、アンタを拒絶したのはここの規則やからや。なんせVIPルームの患者
はアポなしでは会えんようにしとるさかいな」
吉澤はまだ全面的に中澤を信用したわけではない。だが、彼女の説明素直に信じたかっ
た。そう、梨華が本当に無事であるかどうか、これが今の吉澤の最大の関心事だったから。
- 418 名前:token 投稿日:2003年07月25日(金)21時17分54秒
- 本日の更新です。
>Silence様
ありがとうございます。小川さんにはこの後もう少し出番がありそうです。
お昼休みに更新しようと思いましたが、もう一つの板の方で思わぬ時間を取って
しまいました。やっとこちらも更新できました。
さんざん引っ張りましたが次回の更新で梨華ちゃんの消息が判るはずです。
では、次回まで。
- 419 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月26日(土)03時18分13秒
- 面白いです。
ごっちんの再登場を待ちわびているのですが…
- 420 名前:Silence 投稿日:2003年07月27日(日)14時09分08秒
- 更新お疲れ様でした。
よかった。石川さん。助かったんですね。裕ちゃんありがとう。
石ヲタを代表してお礼を(w 次回もがんばってください!!
- 421 名前:診断 投稿日:2003年07月27日(日)23時38分50秒
- 中澤の説明は続いた。
「弾丸の進入角度が頭部に対して斜めやったんや。それに25口径っちゅう、ちっさいや
つやったからな、威力も半減や。ま、この辺の理屈はあんたならわかるやろ」
(良かった)吉澤は安堵した。だがそれも次の中澤の言葉で、再びかき乱されてしまった。
「彼女は生きておる。それは間違いない。けどな、これ、見てみいや」そう言いながら中
澤はデスクの前のライト板に、何枚かのレントゲン写真を貼り付け明かりを点けた。
「石川梨華さんの頭部レントゲン写真。弾丸摘出前に撮ったもんや。このちっこいやつが
弾丸や。これはもう取った。だがな、問題はこっちの黒い影や」中澤はペンで指し示しな
がら説明した。
「な、べつの方向から撮ったやつにも映っとるやろ」
吉澤は食い入るようにそれらを見つめた。禍々しさすら感じさせるその黒い影を。
「これな、腫瘍や」
「腫瘍!?」
「それもタチが悪いやっちゃな。このままだと彼女死ぬで」
- 422 名前:診断 投稿日:2003年07月27日(日)23時40分53秒
- (死ぬ!?梨華ちゃんが?なんで?)
「石川さんな、彼女どこかおかしなとこなかったか?体調悪いとか、物忘れが酷いとか。
あるいは服装のセンスが人と激しく違っとったとか?」ニコリともせずに冗談を交ぜ、中
澤は言った。どうやら吉澤の反応を窺っているようだ。だが彼女はそのことに気づかなかった。
(そう言えば紺野さんが言ってたっけ)
「ま、最後のは冗談やけどな。マジな話、今までに何か兆候があった筈や。そん時に検査
でも受けとけばもっと早く見付けられたのにな。ここまで大きくなってしまえば、放射線
療法や、インターフェロンなんかの薬物療法も無理やな。手術しかあらへん」
(あたし、やっぱり馬鹿だ。なぜ、もっと早く梨華ちゃんを病院に連れて行かなかったん
だろう。そうすればすぐ入院して・・・・・。そうだ、寺田興行の奴らからだって、酷い
目に遭うこともなかったのに)
- 423 名前:診断 投稿日:2003年07月27日(日)23時42分23秒
- 吉澤のこの考え方はしょせん結果論であった。仮に梨華が入院したとしても、寺田興行
の連中は病院で襲うかもしれなかった。第一、紺野のアドバイスを受けた時点でも、腫瘍
はすでに成長していただろう。だが、今の吉澤にはそんなことにさえ考えが回らなかった。
ただただ自分を責め続けていた。まるで腫瘍の原因が自分自身にあるかのように。
「けどな、なんせ場所が脳やろ。例え良性な腫瘍でも患部だけ摘出するのは難しいんや。
変なとこまで切ると後遺症が怖いしな。この悪性のやつなら成功率3割ってとこやな。普
通の医者ならまず諦めるやろな。なんせ死なせでもしたら、最近はいろいろ外野もうるさいしな」
(梨華ちゃん・・・)
「かと言ってこのまま放っておくと、一年程で運動機能が麻痺して寝たきりになるやろな。
その後苦しみながらあの世行きや」中澤はお手上げのポーズを見せた。
(あたしのせいだ!あたし、梨華ちゃんから幸せを貰うばかりで、何もあげてない。むし
ろ不幸にしてる。ごっちんが言ってた通りだ)
- 424 名前:token 投稿日:2003年07月27日(日)23時57分42秒
- 今夜の更新終了です。
>名無しさん様
ありがとうございます。
>ごっちんの再登場を待ちわびているのですが
そう言えば後藤さん >>284 以来出ていませんね。(笑)
お話の流れとして、一時的に吉澤さんを孤立無援にする必要があって
そのために「出張」させました。
設定ではある悪夢U >>172-175 に関係がある事に、つまり後藤さんの
過去に関わる「出張」です。近いうちに必ず帰ってきます。
>Silence様
ありがとうございます。
あなたを石ヲタ代表と見込んで一言、言わせてください。
申〜し訳ございません。梨華ちゃんまだ助かってません。むしろ、これからでーす!
今回も少な目の更新でした。ごめんなさい。次回は明日の予定です。では。
- 425 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年07月28日(月)02時46分46秒
- 更新お疲れ様です!!
梨華ちゃん・・・なんで・・・
心配で今夜は眠れそうにないです・・・(w
では、次回も楽しみにしてます♪
- 426 名前:決意 投稿日:2003年07月28日(月)20時26分30秒
- いつになく吉澤はネガティブ・モードになっていた。この反応も考えてみれば異常であ
った。先程小川と話していた時に吉澤が考えたように、あるいは吉澤は、薬でコントロー
ルされていたのかもしれない。だから今は、その効果が切れた反動で必要以上に悲観的に
なっているのかもしれない。
真相はわからない。だが、吉澤の腹は決まった。
(あたし、梨華ちゃんから離れなければ!)
「ホンマに運が良いんだか、悪いんだか。頭撃たれたおかげで腫瘍が見つかった。でも、
このままやとやがて苦しんで死ぬことになるな。いっそのこと即死した方が、幸せやった
かもな。なあ、そうは思わんか?」
「手術して下さい。お願いします!」吉澤が頭を下げた。それを中澤は冷たい視線で無言
で見下ろしていた。やがて彼女は口を開いた。
「なんでワシが、あんたの頼みを聞かなあかんのや?」
- 427 名前:決意 投稿日:2003年07月28日(月)20時28分18秒
- 「中澤さんはプロ、ですよね」顔を上げた吉澤は挑戦的な視線を送った。
「一流のプロは仕事に私情を持ち込まないはずです。ですからプロの外科医と見込んでお
願いします。梨華ちゃんを助けて下さい。あなたならこの手術、出来るはずです!」
吉澤はまっすぐに中澤の瞳を見つめた。今の中澤のカラコンはブルーだ。果たして吉澤
の眼力はそのブルーのレンズの奥にある、中澤の裸眼に届いているのだろうか?
「手術をする交換条件に、あんたの命寄越せ、言うたらどうする?」
「構いません。梨華ちゃんが助かるなら、今すぐにでもあたしは死ねます」
「あんたが死んでもウチには一文の得にもならんしなー。そやな、ほったら一生ウチの奴
隷にでもなって貰うか。ただし、2度と石川には逢えへんで」
「はい、それでも結構です。お願いします!」
「なんでや、あんた石川が好きなんやろ?彼女が欲しいんやろ?」口の端を意地悪そうに
つり上げて中澤が聞いた。
- 428 名前:決意 投稿日:2003年07月28日(月)20時29分46秒
- 「あたしは梨華ちゃんに出会って初めて幸せと言うものを味わいました。もちろんそれ以
前の生活の中でも笑ったり楽しんだりはしてきました。でも、梨華ちゃんと過ごして来た
数日間のそれは、それまでとはまったく違ったものなんです」
「彼女のために命がけで闘った時だって。今まで仕事で何度も死にかけたこともあります。
だけど充実感が全然違うんです。あたしは彼女と出会ってから、初めて人生を生きたと言
えるのかもしれません。梨華ちゃんはあたしに幸せをくれました。だから、だから彼女、
梨華ちゃんが助かるなら、彼女がこの先幸せになってくれるなら、あたしはこのまま死ん
でも悔いはありません」
人は言葉によって考える。自分の心中を誰かに言葉で伝えることで、その想いをより明
確な物として自覚していく。今の吉澤は普段よりも饒舌であった。そして梨華への想いを
確信していた。
- 429 名前:決意 投稿日:2003年07月28日(月)20時31分26秒
- 「彼女の幸せだけを願う、か。あんたやっぱりそうなんやな〜」ふっ、と中澤の雰囲気が
変わった。それまでの威圧的なものから、優しさすら感じさせるものへと変化していた。
吉澤は戸惑ったが、中澤は話を続けた。
「ええか、この世の中は嘘つきだらけや。誰もがみんな何かしら嘘をついてる。自分の利
益のためにな。解るか?それとな、あんたの手は他人の血で汚れとる。一生それは落ちへ
んやろな。まっ、それはウチも同じや」
「でもな、あんたとウチとでは大きな違いがある。あんたは素直や。正直モンなんやな」
吉澤には中澤の意図が読めなかった。中澤は目を瞑り腕組みをして考え始めた。吉澤は
固唾を呑んで見守るしかなかった。しばらく沈黙が続いた。
「よし、解った。石川梨華さんの手術引き受けたるわ!」
「本当ですか!?」
「ああ、ホンマや。ウチに出来る最高の手術したるでぇ」
「ありがとうございます」吉澤は深々と頭を下げた。
- 430 名前:決意 投稿日:2003年07月28日(月)20時32分48秒
- 「あんた、飯田圭織知っとるやろ?ウチなあいつとは昔からの知り合いなんやけどな、あ
いつに言われとんのや、石川を必ず助けろとな」
「飯田さんが!」
「もちろんそれは頭に受けた弾丸のことやったけどな。ここまで来たら一緒や。ついでに
やったる。交換条件の件もナシや。この患者、石川梨華さんの件は外科医中澤裕子として
臨むわ。それでええやろ?」
「ありがとうございます」再び吉澤は礼を述べた。梨華ちゃんはきっと助かる。それは希
望的観測に過ぎなかったかもしれない。中澤の説明通り、この手術は困難を極めるだろう。
だが、吉澤にはそれは確信だった。梨華ちゃんは助かるんだ!
「あんた、難しい手術を成功させるための、3つの条件、知っとる?」しばらくして中澤が尋ねた。
「3つ、ですか?」
- 431 名前:決意 投稿日:2003年07月28日(月)20時33分57秒
- 「ああ、そうや。3つあるんや。1番目は良い設備や。なんや、意外そうな顔やな。ええ
か、いくら優秀な外科医でも素手では手術できへん。だから、まず設備や。でな、ここの
病院、個人経営なんやけど、アッチャコッチャからぎょうさん寄付貰ろとってな。それを
院長が新型機材の導入なんかにパッパ使うんや。優秀なスタッフも集めとるしな。おかげ
で下手な大学病院にも、ひけはとっとらんわ」
「2番目は優秀な医者や。これはウチがおる。ウチな、自分の腕が世界一や、とは自惚れ
てはおらん。せやけど、他の医者が成功する手術ならウチにも必ず出来る、思っとる」
(それって、凄い自信じゃん!)
「3番目はなんやと思う?」いたずらっ子のような表情で中澤が尋ねた。中澤はこんな表
情も出来るのか、内心意外に想いながらも吉澤が答えた。
「患者の頑張りですか?」
「惜しいな、うんそれも確かにある。生きようとせえへん者は確かに助けにくい。でも違うんや」
「では、何ですか?」
- 432 名前:決意 投稿日:2003年07月28日(月)20時35分28秒
- 「神様のご加護や」
「神様!?」
「最終的に手術の成功を決めるのはこれや。まあ、偶然って言い換えてもええけどな。で
も、神様のほうがええやろ」
「中澤さんは神様を信じてるんですか?」
「ああ、信じとる。けどな、信者しか助けんようなせこい神様ちゃうで。もっと大きな自
然の摂理とでも言うか、まあそんなもんや」
「あたし達は、その自然の摂理を破って、人の寿命を勝手に変更してるんですよ!」神様
と聞いて吉澤の心に嫌な思い出がちらついて来た。口答えするつもりは更々なかったが、
思わず吉澤は、中澤に抗議めいたことを言ってしまった。
「ああ、解っとる」だが、中澤は気にとめた風もなく答えた。
「だからなワシも含めて、いずれはウチらは地獄行きやろな。せやからそれまでの間、出
来るだけ悪い奴ら始末してやるねん。向こうに行っても遊び相手が居なくて、退屈せえへ
んようにな」
- 433 名前:token 投稿日:2003年07月28日(月)20時36分55秒
- 今夜の更新終了です。
>ぷよ〜る様
ありがとうございます。ご心配かけましたが、梨華ちゃん何とか助かりそうです。
いつもこのくらいの量を更新できれば良いんですけど。(へへへ)
では、次回まで。
- 434 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年07月28日(月)23時19分31秒
- 更新お疲れ様です!!
中澤姐さん、かっこいいですね。
あとは彼女の腕を信じて・・・
では、次回更新も楽しみにしてます♪
- 435 名前:ROM夫 投稿日:2003年07月29日(火)06時35分48秒
- 細かい事を言って申し訳有りませんが、姐さんのワシとウチを統一して貰えれば
非常に気持ちが良いのですが。
- 436 名前:Silence 投稿日:2003年07月29日(火)19時17分32秒
- 大量更新お疲れ様でした。
そっか〜、まだわからないのか〜。でも、中澤さんなら・・・。
でも、よっすぃと梨華ちゃんが別れちゃうっていうのは哀しい
かも・・・。石ヲタでもありいしよしヲタでもあるんで。
- 437 名前:裏切り者 投稿日:2003年07月30日(水)22時48分02秒
- 電話が鳴った。すかさず中澤が出る。その顔つきが徐々に変わって行った。優秀な外科
医の顔から、『組織』の幹部の顔へと。額にしわを寄せ、何度か頷きながら、相づちを打っ
ている。どうやらどこかから報告を受けているようだ。
「解った。そうしてや」やがて中澤が受話器を置いた。
「何かあったんですか?」
「ええか、ウチはなれ合いは好かんのや。石川の事で話がついたから言うて、裏の仕事で
も、おトモダチになるつもりは、ない」
「はい、申し訳有りません。出過ぎたことをしました」吉澤は素直に謝った。
「と、言いたいとこやが、これはアンタにも関わりある事やから、教えといたる」
「?」
「後藤や」
「ごっちん!?」
- 438 名前:裏切り者 投稿日:2003年07月30日(水)22時49分38秒
- 「そや。後藤が「出張」しとったのは知っとるやろ。あれな、『組織』の裏切り者の処理
に行かせたんや」
「なんせ相手が厄介な奴でな。そやから、『組織』で一番の腕っこきを送ったんや。けど
な・・・」
「どうしたんですか?」不安な面もちで吉澤が聞いた。
「やられたわ、後藤。返り討ちや」
「ごっちんが!」思わず吉澤は立ち上がりかけた。
「慌てんな。それは今から三日前のことや。でな、標的は山に逃げ込んでたんや。それを
追って後藤が追いつめたんやけど、逆にやられて行方不明になったんや。で、その後藤が
さっきやっと見つかった、言うわけや」
「ごっちん見付けるのにどうして三日も掛かったんですか!」
「落ち着きぃな。山狩りでもすりゃあ簡単やったやろけど、そんなんしたら後藤の身元ば
れるやろ。だから『組織』のモンだけで探してたんや」
- 439 名前:裏切り者 投稿日:2003年07月30日(水)22時50分44秒
- 「ごっちんは無事なんですね」
「ああ、怪我しとるみたいやけど、生きとる」
「どこに居るんですか?」今にも吉澤は、後藤のもとに駆けつけそうな雰囲気だ。
「待ちいや。さっきも言ったやろ。なれ合う気は無い、て。吉澤、アンタは謹慎や。別に
部屋にじっとしておれ、とは言わん。この町の中なら移動は自由や。まっ、その足なら出
歩かんほうが楽やろけど。それに気ぃつけーや。寺田興行の奴らに出会うと面倒やからな。
せやから、とりあえず養生しとれや。ええなっ!」
「解りました。では、あと一つ教えて下さい。ごっちんをやった、その裏切り者って誰な
んですか?」
「あいつの昔のパートナーや」
「えっ!?」
「まだ吹っ切れてなかったんやな。可哀想な事したかもしれんな」その一瞬だけ、中澤の
表情はまた優しくなった。
「ごっちん・・・・・」
- 440 名前:同床異夢? 投稿日:2003年07月30日(水)22時51分54秒
- シンプルなダブルベッド。辺りには脱ぎ散らかした服が散乱していた。その服の持ち主
は、生まれたままの姿でダブルベッドの中だ。彼女は何か良い夢でも見ているのであろう
か。眠っているその表情は満ち足りたものだった。
寝返りをうった拍子に彼女の豊かな黒髪が、白い素肌に掛かった。黒と白の対比が美し
い。どうやら今しばらく彼女は夢の中の住人のようだ。
飯田圭織は久しぶりに安眠していた。ここ最近は吉澤と梨華の件でゆっくりする暇もな
かった。物理的にも忙しかったが、それよりも飯田を苦しめていたのは、紺野の吉澤への
強い肩入れだった。彼女は紺野が余計なことに巻き込まれるのを恐れていた。いや、それ
だけではない。実は飯田は吉澤に対して、漠然とした嫉妬を感じていた。なぜなら彼女は・・・・・。
- 441 名前:同床異夢? 投稿日:2003年07月30日(水)22時53分08秒
機能的な机の上にはノートパソコンが一台。それにはタブレットが繋がれていた。どう
やら何か映像の編集をしている途中のようだ。その前で紺野は考え事をしていた。
(飯田さんにも困ったものですね。さて、これからどうしましょうか)
やがて紺野はこれからやるべき事を決めたようだ。それまで中断していた作業を再開し
た。シーンを切り取り並べ替える。まるで映画の編集作業のようだ。無言で紺野は作業を
進めた。だが、そこに映っているものは・・・・・。
- 442 名前:token 投稿日:2003年07月30日(水)22時54分51秒
- 今夜の更新終了です。
>ぷよ〜る様
ありがとうございます。
ヘタレの中澤さんも良いんですけど、このお話の姐さんはあくまでカッコ良くです。
>ROM夫様
わっ、見つかってしまいましたか。え〜この時点でご指摘受けるとちょっと辛いんですけど。
まあ、統一した方が書く方も楽なので何とかしましょう。ハンドルネームから察するに普段は
書き込みされないようですが、わざわざありがとうございます。気が向いたら今度は何か感想でも。
>Silence様
ありがとうございます。ここから二人を何とかしないと。(汗)
では、次回まで。ごきげんよう。
- 443 名前:匿名匿名希望 投稿日:2003年08月01日(金)18時55分42秒
- 更新お疲れ様です。
まとめてずばっと読ませていただいてます。
何だか飯田さんと紺野さんの間にも色々あるようで・・・。
色々な背景が見隠れすしてますねぇ。
次回の更新も楽しみにまっています。
- 444 名前:眠れるお姫様と王子様 投稿日:2003年08月02日(土)22時22分44秒
- ホテルのスイートルームを思わせるような豪華な部屋。だが、徒に華美に走ってはいな
かった。落ち着いた調度品の数々。光ファイバーによって外から導かれた、本物の太陽の
光。勿論部屋の空気は快適な温度と湿度に調整されていた。外界の喧噪とは無縁の空間。
生き物は何も存在しないような静けさ。だが、規則正しく聞こえてくる小さな電子音と、
それよりもやや不規則な呼吸音とが、人の気配を感じさせた。吉澤ひとみが案内された
VIPルームは、そんな部屋だった。吉澤は一人で梨華の見舞いに来ていた。
石川梨華はその部屋の中央に位置する、ベッドの上で静かに眠っていた。身体のあちこ
ちには脈拍や体温を測るセンサーが繋がれていた。やや離れたところにある機械がそれら
のデータを自動的に記録していた。監視カメラは梨華を見守るように設置されていた。中
澤の説明によると、24時間体制で容態を監視しているらしい。
- 445 名前:眠れるお姫様と王子様 投稿日:2003年08月02日(土)22時24分34秒
- 頭部の手術の際に髪の毛は剃られてしまったようだ。頭に巻かれた白い包帯が、梨華の
顔の美しい輪郭を際だたせていた。その寝顔は安らかだった。病魔という魔女によって、
脳腫瘍という名の死の呪いを掛けられたお姫様には到底見えない程だった。
童話では、眠れるお姫様の呪いを解けるのは、王子様のキスだけだ。悪い魔法を駆逐す
る正義の魔法。遥か昔、まだ孤児になる前の吉澤はキスについてそう認識していた。だが、
孤児となり収容された施設で、性的虐待を受けると、キスと言う行為は、彼女にとって嫌
悪する対象にしかならなかった。
9歳でその生き地獄から解放され、『組織』という別の地獄に移った後に、キスにも愛
情表現の意味があることを思い出した。しかし、やがて『処理班』の任務を担うようにな
り、精神のバランスを取るために、女遊びをするようになると、吉澤にとってキスは肉欲
のための前戯の一つに過ぎなくなった。
- 446 名前:眠れるお姫様と王子様 投稿日:2003年08月02日(土)22時25分50秒
- そして梨華と出会った吉澤は、再びキスに肯定的な意味を見いだしていた。ただの一回
で世界観すら変えてしまうもの。梨華とのキスに吉澤はそんな事を感じたこともあった。
だから今ここで、眠り続ける梨華にキスすれば、奇跡が起きるのではないか?ひょっとし
て吉澤はそんなことを、頭のどこかで考えていたのかもしれない。
吉澤はゆっくりと梨華に近づき、その柔らかい頬に自分の手を添えようとした。だが、
包帯だらけの自分の手を見て、その動きを止めてしまった。あたしの手は汚れているんだ。
梨華ちゃんに触れちゃダメなんだ。まるでそんなことを考えているかのようだ。
吉澤はベットに手をつき梨華の唇に自分のそれを、そっと落とした。柔らかい感触と微
かな唾液の臭いが吉澤に伝わってきた。さあ、王子様のキスだ。起きておくれよ、お姫様。
- 447 名前:眠れるお姫様と王子様 投稿日:2003年08月02日(土)22時26分42秒
- が、奇跡は起こらなかった。ゆっくり顔を離した吉澤の目に映った梨華は、先程とは寸
分違わず、静かに眠り続けていた。
(当然だよね。だってあたしは梨華ちゃんの王子様じゃないんだから)
しばらく梨華の寝姿を見守っていた吉澤だが、やがて松葉杖をつきながら静かに病室を
出ていった。
(手術はきっと成功するよ。あたしとはもう2度と会えないだろうけど、頑張ってね、梨
華ちゃん。さようなら)
だが、この時吉澤は気づかなかった。さっきまで眠り続けていた梨華の口が、まるで吐
息が漏れるような小さな声で、誰かの名を呟いた事を。
- 448 名前:token 投稿日:2003年08月02日(土)22時28分07秒
- 今夜の更新終了です。
まずはレスのお礼です。
>匿名匿名希望様
どうもありがとうございます。なんたって紺野さんはこのお話の中で一番の謎キャラですから。(笑)
ところで実は困ったことが一つ。すいません、お話のサイズ読み間違えました〜!
そもそもこのスレタイと作品の名前が違うのは、一本のお話では、スレッドを使い切れ
ないと思っていたからです。たぶん三分の一位。せいぜい長くなっても半分。そう考えて
いたので、ここに2・3本書くつもりでした。でも気がつけばこんなサイズに。
お話としては確かに終盤なのですが、どんなに切りつめても残りの分量で収まりそうに
ありません。ですから、申し訳ありませんが、また新しくスレッドを立てたいと思います。
時に混んでいるわけではなさそうなので、出来れば同じ金板に立てたいと思います。
では、次回まで。
- 449 名前:Silence 投稿日:2003年08月03日(日)13時54分55秒
- 絆ですかね〜。読んでいてそんな感じがしましたよ。
本当に強く思います。2人が幸せになってほしいと。
更新お疲れ様でした。次回も待ってます。
- 450 名前:token 投稿日:2003年08月04日(月)21時59分39秒
- 新スレを立てました。このお話の続きです。
よろしければそちらの方にもおいで下さい。(ぺこり)
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/gold/1060000959/
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