蜂蜜をたっぷりかけた青春
- 1 名前:いむすたん 投稿日:2003年05月16日(金)04時44分30秒
ちわっ。
ここでは、ありそうでなさそうなお話の、短編を展開させて頂く
所存でございます。
甘い、辛い…その日の気分に依ると思われます。
お見苦しい点への忠告は、随時書き込み下さいませ。
- 2 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時45分19秒
A woman's whole life is a history of affections.
− Irving −
- 3 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時46分35秒
うまくいってるんやな。
仕事では殆ど会えへんはずやのに。
…FS4は一緒やったっけ。
ん?独り言や。
- 4 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時47分21秒
- もともとあんたらのように忙しい身分ではなかったにせよ、それなりに
自分の好きなことを生業にできてたし、それで満足やった。
不満?
なかったといえば嘘になるなぁ。
負け組の彼女らがだんだんと大きく…いや人数的にではなくて…存在が
大きくなり始めたときには、結構嫉妬したこともあったしな。
「あんたらには負けん」って息巻いてた時期もあったのは事実や。
それでも、やっぱり一緒に戦った仲間には変わりないし、悲しいことに
こっちは彼女らのおかげで色々な場に出れるようになったと思うんや。
そう考えると、恨まれへんよ。
- 5 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時48分00秒
- まあ、最近はTVを見る時間も多くなって、相変わらずあんたらの姿を目に
することは多いんやけど。
…やっぱり頭をよぎるのは。
本当に次々と変わりよるよな。自分、よくやってると思うで。
あたしだったら、ついていかれへんもん。
人見知りするっちゅー話。慣れる頃にはまた変わるんやろ?
ずっとそんな環境におったら、慣れるのも早いんかもしれんけど。
あんたにこんな話をするのはどうかと思うけどな。
あの人がいなくなるって聞いたときは、ダメになってしまうんやないかと
本気で心配したんや。
だけどな、ハロプロの活動が中心になれば、一緒にいる時間が増える。
やっぱり、自分の欲が出てしまうんやね。
心のどっかで、期待してた部分があったと思うわ。
- 6 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時48分56秒
- ……そう、好きだったで?
最初はただのライバルとしか思ってなかったけど、試練をずっと一緒に乗り
越えてくれば、自然と仲間意識も芽生えるってな。
普通はそこまでなんやと思う。
いい友達。
親友。
そんな言葉では、満足できないようになっててな、ちょっと焦ったんやけど
ばれなきゃ何もないだろうと思ってたし。
向こうは何も気付いてへんから、飲めば普通に絡んで来よるし。
心臓、ばくばくもんやったわ。
もしかして、アタシに気があるんかな、なんてな。
ちょっと、自惚れてみたりもしたけど。
- 7 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時49分42秒
まあ、結局のところ彼女にとって私は、アウト・オブ・眼中やったんやね。
…死語って?うっさいなー。ええやろ。
- 8 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時50分52秒
- とにかく、彼女はアタシの気持ちには気づきさえしなかった訳や。
ひどい人やろ?基本的に鈍いんやと思う。
あきらめたろ、最初はそう思ってたんやけどな。
なのに、無邪気に絡んでくんねん。
別にアタシがなんかモーションかけた訳やないで。
人の気も知らんで。酒癖がかなり悪いのは知っての通りやから。
もう、どうしたら良いか分からなくてな。いっそ、こんな気持ち伝えたろ、
思って気合い入れて、ハロモニの仕事に行ったら。
- 9 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時52分05秒
- …わかってると思うけど。
彼女の視線はある人を追っかけてて。
初めてそれに気付いた。自分も鈍かってんな。
「恋は盲目」ってそれはちょっとちゃうけど、全然見えてなかったのはアタシや。
だから、全てが地に還ったと。なかったことにしてしまいたかったな。
- 10 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時52分59秒
あかんなー、なんであんたにこんな話しとるんやろ?酔っとるなぁ、アタシ。
そうそう、で、この番組やね。
いや、今に始まったことやないで。
これは、この話のきっかけにすぎんよ。
- 11 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時53分50秒
…ちょっと待ち。順に話すから。
二人がうまくいったっていうのは、薄々気付いてたわ。
最終的には、電話で聞いてんけどな。本人から。
どこで、気付いたかっていうと、まずはラジオやったと思う。
やぐっちゃんのや。
突然関西なまりが混じるって違和感あるやん。
やぐっちゃんの話し方、あの人と同じなんやもん。
関西弁つーても、地方によって違うんよ?
同じに聞こえるかもしれんけどなぁ。
仕事でいくら一緒にいるって言っても、そう簡単に言葉なんて変わらない
もんやと思う。現に、なっちだってまだ北海道の訛りがあるやん?
関西弁は、結構耳に残るから、移るってことも考えられたけど。
- 12 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時54分48秒
- もう一つが、さっき言ったやつや。
見てたやろ、うたばん。
…いや、B級になろうとか言ってへんやん。ん、冗談?
ならいいけど。
そう、目線な。一緒や。
目を閉じてから、力強く開けるとこ。
あれは、やぐっちゃんと同じやん。
さすがに、リズムの取り方は教えられても、表情の作り方までは細かい指導
はなかったからなぁ。
移るとしたら、それだけ相手の表情を見てな、無理やろ。
だからや。
全部含めて、うまくいってるんやな、って。
…祝福してるんやで?嫉妬やないよ。
- 13 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時55分20秒
こらこら、誤解や。
こんな話、悪かった。ちょっと今日は酔ってん。
…今は、もう彼女への恋心はないで。
- 14 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時56分21秒
- いや、言いたかったのは、や。
あんたもな、気をつけなあかん、ってこと。
どんなんが移ってるかはわからんし、それに誰が気付いてるかわからんけど
一緒にいるっていうことはそういうこともあるっていうことやって。
おっかないやんな。
だけどな、矛盾するかもしれんけど。
我が侭言ってええ?
そんな癖が移るくらい一緒にいられたらええなって。
忙しいのもわかってる。
でも、今はあんたのことが好きやからなぁ。
彼女らには負けたくないんやもん。
だから、まだまだよろしくな、よっすぃー。
- 15 名前:Overlap 投稿日:2003年05月16日(金)04時57分10秒
END
- 16 名前:Overlapあとがき 投稿日:2003年05月16日(金)05時00分50秒
- そんなわけで。
外では鳥さんが ぴよぴよ 言っているわけですが。
こんな時間に録画したうたばんを見てました。
そして書いた一品にございます。
ちょっと出てくる人物が分かりづらいでしょうか。
ちなみに関西弁は使えません故、おかしいところはご容赦を。
- 17 名前:いむすたん 投稿日:2003年05月16日(金)05時04分15秒
次回、また書き上げてから参ります。
お気に召せば、ご覧下さい。
- 18 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月23日(金)00時26分47秒
- 面白い。。。
次回も期待してます。
- 19 名前:いむすたん 投稿日:2003年06月03日(火)12時59分03秒
- >>18 名無しさん
レスありがたいです。
こんな駄文でもおもしろいと言っていただけるとは。
ところで、白板って書いてはいけない話とかあるんですかね。
たとえば・・・んっと・・・エロとか。
禁止!っていうことが不文律だったら、嫌なので。
もちろん、sageかochiで書きますけれども。
- 20 名前:in the blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時04分40秒
どこからか、鐘の音が聞こえていた。
矢口にはその音が、遠い昔にどこかで聞いたことがあるような懐かしさと
取り戻せない過去を裏付けるかのような寂しさを漂わせているように感じた。
だが、すぐに思考は乱れて、まとまらなくなっていった。
頭の中がぼんやりしている。
身体の感覚が麻痺してしまったのか、指も動かないし、下肢も鉛を詰められた
ように重い。瞳を開くことすら、面倒に感じる。
しかし、どうにか瞳を開けても、自分のいる世界は薄闇だった。
- 21 名前:in the blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時05分24秒
- 暗闇は青く、冷たい熱を持っていた。
そして、聞こえていた鐘の音も、既に闇に溶けてしまった。
この青さは、とても人工的だから照明の光なのかなぁ。
でもこの部屋に、そんな色の付いたモノがあるわけがないよね。
部屋の装飾品を考えて、束の間矢口は正気に戻った。
あいつは、部屋にそんなこだわりを持っているはずがなかった。
あー、だめだ・・・頭がぼーっとするや・・・
その時だった。
- 22 名前:in the blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時06分48秒
- 「・・・矢口さん・・・」
耳元で、低くなめらかな声がして矢口はハッとなり、一気に正気を
取り戻した。
目の前の青い闇でも、金に近い髪の毛が見てとれた。
いや、知っている自分の頭がそう錯覚させたのかもしれない。
「よっすぃー・・・・・・」
矢口は嫌悪をまじえた声で、目の前の金髪の名を発した。
すると、闇の奥で、怪しい篝火のように光っていたその金髪が、
持ち主の笑い声に合わせ、小刻みに光の粒を零している。
- 23 名前:in the blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時07分45秒
- 「こうされるだけで、気絶するくらい悦かったんですね。」
人間の姿をした悪魔から、低く、魅惑的ですらある声が発せられると同時に
矢口は自分の内奥に埋め込まれているモノが、蠢いたのを感じた。
「・・・ぅあ・・・っ」
「どうしました?また気絶しそうですか?」
さも楽しそうな吉澤の声がして、矢口は屈辱で唇をかみしめていた。
ソファーの上で押さえ込まれ、仰向けにされ、同性の、しかも後輩に
のし掛かることを許している。
それも、より深く結合するために両足を押し開かれ、下肢を持ち上げ
られるというあられもない姿をしているのだから。
闇の中だったのが、せめてもの救い。
- 24 名前:in a blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時08分52秒
- しかし、吉澤は目が闇になれてきて、そんな矢口のささいな安堵を
感じ取ることができた。
こんなことで、落ち着かれちゃ困るんです。
「矢口さん、しっかりと吉澤の顔を見て下さいよぉ。」
「・・・見えないよ。」
「えー、だって見てた方が、感じますよ?」
からかうように声をかけながら、次に小さく、合図するかのように
指を鳴らした。
その瞬間。
- 25 名前:in a blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時09分48秒
- 冷たい青い闇の中に、星空が広がった。
矢口は、あまりの衝撃にびっくりしている。
それを、顔を見ずとも、内奥に指を埋めている吉澤は、感じていた。
「星・・・」
掠れた声が聞こえる。
「前に地方に行ったとき、物欲しそうに夜空を見上げていた姿が
とても印象的で。プラネタリウム取り寄せちゃいました。
今夜は、月が明るくて、部屋が真っ暗じゃないのが残念ですけど。」
そう、耳元で囁く。
矢口のために、三ヶ月もかけて、自宅用プラネタリウムを探して
ようやく見つけたのだった。
- 26 名前:in a blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時10分37秒
- 「そう・・・星が好きなんだ。小さい頃から・・・」
矢口は絶え絶えに答えた。
それは身体の奥を犯す艶めかしい苦悶から逃れようとしているかの
ように、星空へと瞳を彷徨わせている。
「・・・瞳がキラキラして、綺麗ですよ。」
虚ろな目を覗き込みながら、吉澤は下肢をしっかりと持ち上げると
突然激しく動かし始めた。
- 27 名前:in a blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時11分17秒
- 「や・・・やぁ・・・」
「もう、この都市でもだんだんと星が見えなくなってきていますね。」
矢口の顔が、快楽とも苦痛ともつかない表情に歪むのを見つめながら
わざとリズムを乱し、強弱を異ならせて、矢口を責め立てる。
「は・・・んやぁ・・・ぁっぁ・・・」
矢口の内壁が、ひき攣るように慄えてきた。
それでも、吉澤は星の話を淡々と続けている。
「いつか、吉澤が見た、すごい星空の話、してあげますね。」
甘く囁かれても、もう、囁きなど耳に入らぬほどに、矢口は首筋を
歪め、白い喉を仰け反らせて、喘いでいる。
- 28 名前:in a blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時12分12秒
- 「・・・ひゃっ・・・あっ・・・も、も・・・・・・ああぁんん・・・」
喘ぎながらも、いつしか吉澤から与えられる快楽を貪ろうとして、
吉澤にしがみつき、締め付けている。
けれど、締め付けることは、それだけ奥を圧迫している異物の存在を
強く感じることにもなってしまう。
矢口は、自分で制御できない内奥の作用で、自分自身を責め立てる。
「んふ・・・っ・・・や・・・あん・・・・・っあ・・・」
声は抑えようにも、飛び出てしまう。
できるだけ吉澤を喜ばせないように、奥歯をかみしめてみるものの、
もうそんな力と理性は残されてはいない。
- 29 名前:in a blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時12分53秒
- だんだんと、声の熱が上がり、部屋の温度を上げていく。
淫らに反応し始めた矢口を、口元を歪めて見つめながら、べたべたに
なってきた自分の指を、更にもう一本こじ入れ、蹂躙していった。
しかし、もう気絶するほどの鋭い一瞬を与えるつもりはない。
ただ狂ってしまうように永く、執拗な快楽に溺れ果ててくれればいい。
・・・追いつめてあげますよ。
矢口は屈辱の中でも、快楽の中へ堕ちていくことを止められなかった。
声が、しだいに涙を含んでくる。
- 30 名前:in a blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時14分09秒
- 「もう・・・む、むり・・・や、やっ・・・やぁぁ・・・」
なのに、もう身体はいうことを聞かなくなっている。
自ら吉澤に下肢をこすりつけ、身体を貫いている吉澤をもっと求める。
圧迫感が、苦しい。
さらに、そこを掻き回すかのように、こねくり上げられる。
「あ、も・・・もう、・・・よっ、よっす・・・ぃ・・・いぃ・・・」
壁がビクビクっと痙攣したのを感じた瞬間、吉澤は素早く身を退いて
全てを引きずり出した。
- 31 名前:in a blue moon 投稿日:2003年06月10日(火)03時14分45秒
- 「は、あ・・・あっ・・・」
激しい情熱が一気にはぎ取られ、圧迫感からは解放された。
けれど、突き放された肉体は、成就されなかった快楽を求めて、小刻みに
ふるえている。
「・・・よっ・・・しー、・・・えっ?」
吉澤には、焦らすつもりは微塵もない。
矢口の下肢を抱え、今度はソファーの上に這わせる格好で組み敷いた。
「やめて、・・・やだっ、やっ」
より屈辱的な姿に、快楽を求める気持ちも、恐怖へと変わっていく。
しかし身体は、より大きな快楽を得ようとするかのように、密を滴り
落としていた。
- 32 名前:いむすたん 投稿日:2003年06月10日(火)03時21分28秒
- これは「in a blue moon」というお話です。
出だし、何個かタイトルまちがっちったけど・・・
というわけで、倉庫とか見回って、えっちぃの始めました。
次第に、大変なことになっていくかもしれません(w
ちなみに、これは元ネタありです。
元ネタと設定等変わっていくのですが、元ネタがお好きな方は
読むのをお止め頂いた方が無難です。
コメント頂ける方は、必ずsageで、お願いします。
- 33 名前:いむすたん 投稿日:2003年06月23日(月)15時12分58秒
- さて、そろそろ交信しなきゃね。
しかし、パソ君絶不調で、データが宇宙の塵になっちゃったっす。
どうしたものか。
まだまだ、続く予定だけれども。
でも、まったりと。
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月27日(日)02時33分16秒
- うぉっ!今日初めて読みました。
こういう雰囲気好きです。
がんばってください
- 35 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時49分52秒
- 獣のような姿をとらされることへの抵抗は、もろくはね除けられ、その上
いかなる拒絶も吉澤には通じなかった。
それどころか矢口は、この羞恥に悶えさせられる。
掲げさせられた双丘を力で割り裂かれて、吉澤の目に曝している羞恥。
「なんか、めくれて・・・中まで丸見えですよ?」
明らかに笑いを含んだ声。
矢口には、もはや届いていないかもしれない。
- 36 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時50分28秒
- そう言った吉澤は、屈辱に喘ぎながら、しかし切なげに息を弾ませている
矢口に指をあてがい、一気に貫いた。
「ぅあああっ・・・」
背後から貫かれることで、もっとも深く結合する。
苦悶に矢口は身を捩らせ、少しでも楽になろうとしているらしい。
もがいた。
もがいて逃れようとしたが、四つん這いにさせられ、さらに掲げられた
腰を落とすこともできないほどに深く、内奥まで突き刺されている。
- 37 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時50分59秒
- 結局力尽き、支配を受けることになってしまった。
矢口はシーツを握った両手を突っ張らせ、雄叫びにも似た声をあげながら
凶暴で、強烈な快感に呻きを放っていた。
絶叫に近い嬌声が迸るたびに、喉元が上下し、反り返る。
その、自分とは違う、太陽をたくさん吸収した健康的な首元が目に入った
吉澤は、ひとつ大きく息を吐いた。
そして、自分の手を、忙しく動かした。
「うぁぁ・・・がっ・・・」
「・・・矢口さん」
- 38 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時51分42秒
- 微かに矢口の息遣いが荒くなり、周りの空気が変わり始める。
闇が、どろりとした粘膜質なモノになっていく。
闇の中で、吉澤は矢口の身体の上へと包むように覆い被さりながら、反ら
されてくる、艶めかしい首筋に舌を這わせ、舐めあげた。
舌先に、矢口の肌の下を流れる脈動が、そして心臓の鼓動までも感じる。
力強さを、こんな時にさえも晒すんですね。
心中で苦笑しながら、吉澤は首筋に口唇を押しつけた。
そして、しつこく接吻を繰り返し、矢口の首筋の感触や甘酸っぱい匂いを
口唇と舌先で愉しんだ。
- 39 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時52分35秒
- まるで、えさを与えられた犬が、匂いを嗅いでいるような仕草でもあった。
あるいは、楽しみを引き延ばして、来るべき一瞬を、より劇的なまでに素晴
らしくしたいと願っているかのようであった。
しかし、矢口の身体も限界に近づいていた。
「・っ・・・・・っ・・・・・・」
執拗な快楽の下では、人間は声を失うらしい。
- 40 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時53分18秒
- 吉澤が耳の下を強く吸い上げた瞬間、矢口は声もなく全身を硬直させたかと
思うと、掻きむしるように掴んでいたシーツから指を外して、身を反らせた。
そして、背後にいた吉澤によって、抱きとめられる。
「はぅう・・・」
抱かれながら、首筋から血でも啜り上げられているような未知の感触に、
瞬く間に矢口の肉体は極まり、快感に弾けた。
- 41 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時53分48秒
・・・・・
- 42 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時54分19秒
- 快楽に翻弄された一瞬が過ぎると、矢口は首筋に血が逆流しているかのような
感覚と共に、ちりちりとした痛みを感じる。
吉澤は、その首筋を、相変わらず執拗に舐め続けている。
「矢口さんの血は、太陽をいっぱい浴びた、トマト味。」
そう耳元で囁かれ、矢口は初めて噛みつかれたのだと気付いた。
それでも、首筋の小さな苦痛と、下肢にもたらされた快感とが複雑に混じり
あい、再び矢口は恍惚となり始めていた。
- 43 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時54分59秒
苦痛と。
快楽と。
これが、吉澤のやり方だった。
- 44 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時55分32秒
- そして、もちろん矢口は初めてではなかった。
時には見えないところに傷を付けられ、時には中途半端に高められたまま
シャワーを浴びるように言われることもある。
しかし、苦痛と紙一重の快楽からは、逃れたいとは思っても逃れようとは
しなかった。
身体を如何ほど合わせたのか、もう見当もつかない。
仕事に差し支えない程度に交わった。
ただ、自分から求めたことは一度もない。
- 45 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)22時56分04秒
- すべて、吉澤が引き起こす。
まるで、飲み物を買いに行くのにちょっと声を掛けた、そんな様子で導く。
スタジオで。
控え室で。
電話で。
家で。
朝。
夜中。
休憩中。
いつでも。
- 46 名前:いむすたん 投稿日:2003年09月01日(月)23時02分48秒
- 2ヶ月以上放置。
そして、話自体がつまらん。
こんなんで、容量をとってしまって申し訳ない。
そして >>34さん。
頑張って下さいと言って下さったのに申し訳ない。
まだ続く予定だけど、予定は未定。
機会があれば、また読んでコメント下さい。
さて、続きを考えよう。
- 47 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)23時36分03秒
- 本当にどれくらいコトが済んだのか、吉澤も矢口も覚えてはいない。
矢口が覚えていること。
それは、吉澤が言っていた一言が出発点だった、と言うこと。
「吉澤は、矢口さんみたいに、」
夜の匂いじゃなくて、太陽の薫りがするような人になりたい。
そう言いながら、闇事を仕掛けてきた矛盾。
吉澤には、本当にあの、悪魔の尻尾がついているのではないかと疑心を
抱く暇もないほど、心に入り込み、瞬時に心を闇に染めていった。
- 48 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)23時36分58秒
- しかし吉澤は、密かに思い焦がれている。
本当に、矢口のように、なりたかった。
『元気』『陽気』
そんな形容詞が自分には当てはまらないことを知っているから。
自分が試みた時には、それは周りから浮いて、破裂した。
だったら、闇に染まろう。
どこまでも深く暗黒になっても、きっと矢口さんは自分を必要とする。
太陽の光を浴びて輝く星。
それらが輝くのは、夜。
夜が必要だから。
- 49 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)23時37分48秒
- そこで、吉澤は自分の考えに大いなる矛盾があることに、苦笑する。
夜と太陽は絶対に巡り会えない運命である。
それでもいい。
矢口が吉澤のそばにいる。
ただその真実だけが、吉澤を支える今の全てだった。
- 50 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)23時38分35秒
- 矢口はまだ吉澤が持つ本当の闇には気付かない。
気付くにはもっと時間が必要だろう。
それでも、今日も、長い夜が過ぎていった。
空にはまだ、青白い顔をした月が、下界を見下ろしている。
- 51 名前:in a blue moon 投稿日:2003年09月01日(月)23時39分25秒
【終われ】
- 52 名前:いむすたん 投稿日:2003年09月02日(火)00時44分29秒
- そんなわけで、無理矢理、終止符。
更新に時間が空くと、なかなか話がまとまらなくなるものなんですなぁ。
1話目は、平家さん独白(聞き手:よっすぃ〜)
2話目は、吉澤×矢口の・・・(sage必要な内容)
今度書くのは、甘いものにしたいところです。
それと、こんなところでお礼を言っても届かないだろうけど。
前に別ハンで書いた小説、CP板で紹介してくださった、つかささん。
ありがとうございました。(とか言ってみる。)
- 53 名前:いむすたん 投稿日:2003年09月02日(火)00時45分33秒
- しまった、あげちまった。
不適切な小説がある場合は、下げるのが基本!
でしたね。
- 54 名前:いむすたん 投稿日:2003/09/11(木) 01:16
-
【into the blue】
- 55 名前:into the blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:17
-
ここは、広い海。
あたたかくて、おだやかで、まぶしくて。
大きな、大きな海原に包み込まれている感覚。
- 56 名前:into the blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:18
- ゆらゆらと揺する波が気持ちよかったり。
時に襲ってくる大波はちょっと苦しいけど。
- 57 名前:into the blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:19
-
薄く目を開けば、目に飛び込んでくるのは、光。
波間から差し込む、クリスタルの輝き。
小さな泡が、目の前で、弾ける。
- 58 名前:into the blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:20
-
一番大好きなのは、この芳り。
鼻をくすぐる、深く引き込まれる芳り。
意識を手放してしまいそうなほど、甘く。
アタシには、麻薬。
- 59 名前:into the blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:21
-
そろそろ、大きな波が打ち寄せる頃。
いつも、とてつもない不安に襲われる。
- 60 名前:into the blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:21
-
このまま、どこかへ流されてしまったら。
もう二度と、帰ってこれなくなってしまったら。
- 61 名前:into the blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:22
- そんなアタシを、繋いでいるのは一本の碇。
「・・・大丈夫だよ。」
世界一強い碇だって、自信を持って言える。
だから、アタシはそれに任せて、手を離す。
ちゃんと、つかまえていてね。
きつく、強く、ずっと。
- 62 名前:into hte blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:23
-
「・・・心配すんな。ほら、イッちゃいなよ、後藤。」
- 63 名前:into the blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:24
- 耳元で囁かれた瞬間には、もう意識を手放して。
大きな波に飲み込まれながら、その声を聞くんだ。
今日一番の、大きな泡が目の前で、弾けて。
海面へと、上っていくのが見えた。
幻想的な、光を身に纏って、上へ、上へ。
- 64 名前:into the blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:25
-
そして、また、アタシは波間を漂う。
あたたかい、あたたかい波に包まれながら。
- 65 名前:into the blue 投稿日:2003/09/11(木) 01:25
-
【終わり】
- 66 名前:いむすたん 投稿日:2003/09/11(木) 01:31
- 掲示板の様相が一変していて、ちょっとびっくり。
そして、8月のカレンダーはそろそろ、と交換しようと
思いながらの、衝動に駆られた創作、でして。
分かっていただけるか?
「いちごま」でした。
すっかり、いちごま押しって本人が忘れてたし。
- 67 名前:いむすたん 投稿日:2003/09/11(木) 01:34
- そうそう。
タイトルの"into the blue"っていうのはジバンシーの
フレグランスで、自分がつけていたり。
結構、良い匂いがするんですよ。
でも、市井って何つけてんのか、知らないし。
同社のウルトラマリンだっけかな・・・
こういう情報を知らないなら使(ry
- 68 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/07(火) 23:53
-
【Darker than DARKNESS】
- 69 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/07(火) 23:54
- 目の前に薄闇が広がっている。
季節は秋。
あっと言う間に日は短くなった。
木々が色を付けるにはまだちょっと早い。
ましてや、裸になるなんてもう少し先のことだ。
けれど、それでも「物悲しい」様子を醸し出す。
そんな季節になった。
そして、瞬く間に冬が来るのだろう。
- 70 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/07(火) 23:55
-
別にこんな季節だから、気が滅入っている、という訳ではない。
ただ無性に、自分の人生を、過去の自分を振り返ってしまいたく
なるのは、少なくとも自分の中に或る自覚症状が生まれたからだ。
早くも人生は、冬に向かっている。
二十歳にもなっていないこの自分が、なぜそう思うのか。
別に、死が近いわけではない。
死を考えたことは無いわけでもないが。
自虐的に言うなら、自分は幼い頃から自分が好きではない。
はっきり言って、嫌い、だ。
- 71 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/07(火) 23:56
-
劣等感、という言葉では括りきれないかもしれない。
家でも、学校でも、モーニング娘。の中でさえ、誰かと比較される。
その前に自分を卑下してしまう癖がついた。
答えは聞きたくなかった。
そのくせ。
つい強い振りして、明るい振りして、何でもないように生活する。
いつしか、周りの人に「頼られる」ことが、何よりの重圧。
なのに、絶対的信頼を勝ち得るような立ち振る舞いをしている。
- 72 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/07(火) 23:57
-
陰と陽の顔を持つ二つの人格が、自分を狂わせていることを自覚しな
がら、それでも「良い子」でいることを演じる。
そう、演じている。
気付かないうちに、自分というモノの存在を証明づけるために、その
役を演じているのだと感じるようになった。
そうすれば、誰もが「私の居場所」を空けてくれるから。
そうやって、ある時まで生きていた。
そう、後藤真希に出会うまで。
- 73 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/08(水) 00:02
-
というわけで、ひっそりと暗い話を書き込んでいたり。
とりあえず、最後まで暗いし。
一応、いちごま?な感じ?
ちょっとパスティーシュで志賀直哉とか考えたけど
自分には無理、っていうわけで。
変に言葉が堅苦しかったり、砕けたり。
中途半端ですが、ご容赦。
- 74 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 00:53
-
自分にとって、この後藤真希という存在は、大きな鉛の一つだった。
とにかく大人びている印象が苦手だった。見た目も挙動も。
「教育係」という肩書きを背負わされ、自分の人生は彼女の育ち具合に
左右されるかもしれないという危惧。
ましてや先輩面をし、彼女の前では肩肘張って生活をしなくてはならない
という息の詰まるような状況を想定していた。
ところが。
- 75 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 00:54
-
何の仕事だっただろうか。
ほんの少し立つと、彼女の印象と本性に差があるような感じがした。
自分が身構えてしまっていたから、見えなくなっていただけのことで
ちょっとした気の緩みがもたらした、幸運だったとも言える。
後藤はまったくもって、子どもだった。
天真爛漫、そんな言葉が合うのかわからないが、素直だった。
この秋の青空の下が似合う、そう感じた。
それに気付いたとき、自分の心配が杞憂で良かったと胸を撫で下ろした。
それと同時に、醜い嫉妬が生まれていた。
- 76 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 00:54
- −−−−−−
「ちょっと、ごとー?今日仕事終わったらうちに来ない?」
仕事の合間。
雑誌を読んでいた市井が突然顔を上げ、後藤に話しかけた。
ぼーっとその横顔を眺めていた後藤だが、とっさのことで、いまいち
何を言われているのか理解できなかった。
「ぇ?え?何?」
「だーかーらー、うちに来ないかって言ってるのさ。あんたの振りが
まだ不安なんだよ。特訓ってこと。」
- 77 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 00:55
-
ん〜、と後藤は考え込む。
特訓は嫌だけど、いちーちゃんち、行きたいかもっ。
「行く!行きます!!」
ちょっと楽しそうな後藤に、市井も口元をあげて見せた。
特訓だと言っているのに、自分の本能に任せて、楽しそうな解釈を
している後藤は、本当に無邪気なものだ。
当然、何もわかってはいない。
- 78 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 00:56
-
仕事の後、二人で車に乗り込み、家の近くのコンビニで降りた。
市井はとりあえず飲み物と、後藤のことを考え、食料を少し買って
いこうかと、後藤に声を掛けようとしたが、見あたらない。
当の後藤と言えば、なにやら月刊誌の漫画を熱心に読んでいるよう
だった。
「お前なぁ、人に買い物させて・・・」
「だって、今月号発売日だったんだもん。」
こういうところが、市井には羨ましい。
本能のまま、悪く言えば我が侭なのだろうが、自分の意志を持ち、
それを人に素直に伝えることが出来るというのは、市井には真似が
出来ないところなのだから。
- 79 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 00:56
-
「ほら、何か食べるんなら、自分で選びなよ。置いてくよ?」
そう言って自分はさっさとレジへ向かう。
後藤も読みかけのページを残念そうに閉じて、お菓子の棚経由で
レジへと向かった。
- 80 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 00:57
-
「はいよ、どーぞ。」
鍵を開けた市井が中へと促すと、後藤は興味津々といった体でキョロ
キョロとあたりを見回しながら、部屋へとついてきた。
特に物珍しいものを置いているわけではない。
しかし、後藤は何かと感嘆の声をあげながら見回している。
「何か変わってる?」
「ん〜ん、別に。ただ、いちーちゃんの部屋だなーって。」
「あっそ、よくわかんないけど。そこのソファに座ってて。今コップ
持ってくるから。」
- 81 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 00:58
-
そう言ってキッチンへ姿を消した市井だったが、内心は言葉と裏腹に
複雑な感情が熱を持っていることを自覚していた。
これからしようとしていることに対してなのか、後藤に対してなのか
それは自分でも全く分からなくなっていた。
自分を狂わせているのは、後藤だ。
- 82 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 00:58
-
コップを持ってリビングに戻ると、後藤は眠そうな顔でTVを眺めていた。
特訓、と言われて付いてきたことなど微塵も覚えていないようだ。
お茶をついで後藤に渡すと、コクコクと飲み干す。
「ねぇ、眠いねぇ。」
独り言のように呟いた顔は、何も汚れのない、後藤だった。
それを見た市井は自分の中で、何かが外れる音を聞いた。
- 83 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 00:59
-
後藤の上にのしかかる。
いくら後藤の方が力が強いといっても、体勢の上で市井が有利だった。
そして、驚きのあまり声のでない後藤を自らの口で塞ぎ、後藤から何かを
吸い取ろうとするように、緩急をつけて、口腔を弄んだ。
後藤を、無理矢理犯した。
後藤を、黒く染めてみたかった。
後藤の頬に一筋の涙が伝ったとき、自分は征服したのだと調子づいた。
けれど、後藤は最後まで一言も声を上げなかった。
いい気になった市井はそのことに最後まで気付かなかったけれど。
−−−−−−
- 84 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:00
-
つくづく自分は、醜い存在であると思う。
心の底に闇を抱える自分にとって、後藤の純真さは妬ましかった。
それをどうやったら汚すことができるのか、深くは考えなかった。
後藤を喰べれば、自分も後藤の魅力を得られる。
他の生き物を喰って自分の一部に取り込む、なんて漫画の読み過ぎだ。
そんなことは出来ないことを知ってはいたけれど、出来れば良いなんて
妄想じみたコトを思っていたのは事実だった。
正当化しようもない、悪事。
- 85 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:00
-
結局、自分の良心の呵責に悩まされた。
後藤に嫌われたくはなかった。
それと同時に、自分の地位が揺らぐことが心配だった。
自分の中にはいつだって表と裏が同時に存在する。
優等生は優等生でいることが重荷になっているのに、しかしまた優等生
でいたいと願う矛盾した気持ちを抱えている。
- 86 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:01
-
事務所へ、仕事から離れたいと告げたのは、木の葉が落ち始めた頃だった。
- 87 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:01
-
自分の後藤へ対する明確な嫉妬が、実は「恋愛」という不得意分野の
所産だったと気付いたのは、それから結構経ってからだ。
自分の立場上、一緒にいる機会が多かったし、更にプッチモニの活動も
始まり、一日の殆どを共にするようになっていた。
ただ自分の犯した罪とはいえ、後藤と仕事をするのは気が引けた。
しかしそこは、得意の良い子面でどうにか乗り越えられた。
後藤も、何もなかったように接してきたからかもしれない。
つくづく、後藤には感心する。
後藤を見ていると、自分の黒さが際立つようで不安になった。
- 88 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:02
-
ある日の帰り、後藤を再び家に呼び、法律を破って酒という薬に手を
借りて、自分の行いを詫びた。
- 89 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:02
-
−−−−−−−−−
なんだ、びっくりしちゃった。
また犯されるのかと思って、ドキドキしながらついてきたんだよ?
って、これじゃ楽しみにしてたみたい?
それじゃー、ごとーは変態じゃん。
っていうかね、別にごとーは何も。
何もっていうか、なんて言ったらいいのかな。
よく分からないけど、いちーちゃんがなんか困ってる気がしたし、
いちーちゃんなら、許せるっていうか。
- 90 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:03
-
・・・よくわかんないよぅ。
でも、あれがいちーちゃんで良かったって思った。
他の人だったらショックだけど。
何でかはわかんないんだけどねー。
いちーちゃんはごとーのこと、ちゃんと考えてくれる気がしたから。
あのあと、結構冷たかったから、がーんって思ったけど。
だって、自分から仕掛けといて、ずるいよね。
ごとーのこと、無視するなんて。ひどすぎ。
- 91 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:03
-
ごとーは何ともないのでした。
・・・何ともなくはないけど、やっぱりいちーちゃんにはこれからも
まだまだ一杯教えて欲しいこともあるし、ごとーのこと助けて欲しい
なぁ、って思ってるから。
迷惑一杯かけるけど、負担になんないようにするから。
いちーちゃんがいたから、ごとーがこうしてやってられるんだよ?
いちーちゃんのおかげ。
だから、ありがとね。んで、これからもよろしくってこと。
−−−−−−−−−
- 92 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:04
-
後藤の自分に寄せる信頼感は、自分にとって初めて息苦しくないもの
だったから、かなり驚いた。
後藤は本当によく考え、自分のことを認めてくれているのだということに
今更ながら気付いた瞬間だった。
そして、後藤から離れるという選択を初めて悔やんだ。
それどころか、願わくば離れたくない、と。
- 93 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:04
-
その時に気付いていた。
これは「恋」だと気付いたけれど、そのことは最後まで告げなかった。
もしかしたら報われたかもしれない感情だ。
けれど、それを告げないことが、自分の後藤に対する懺悔だった。
そして、自分に対する懲罰だった。
- 94 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:05
-
後藤に会ってから、モーニング娘。を離れるときまでが自分の人生で
靄の晴れた時間だったことは間違いない。
いや、前にも言ったとおり、人生を締めくくるつもりではない。
ただ、人生の中で藻掻いている自分に一瞬嫌気がさしただけのことだ。
ドラえもんの「もしもボックス」なんて道具があれば、可能だろうか。
- 95 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:05
-
果たして、モーニング娘。を辞めたことは正しかったのか。
後藤に気持ちを伝えなかったことは正しかったのか。
モーニング娘。に加入したことは正しかったのか。
- 96 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:06
-
人生は一度きりなんて、小さい子どもだって知っている。
でも、子どもの頃はそれがどういうことだか深くは考えない。
後悔先に立たずなんて、当たり前だ。
後から悔やむから後悔という。先に出来たら矛盾する。
そんな屁理屈をこねたくなる。
- 97 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:06
-
普通の学生生活を送っていれば、今はどうなっていただろう。
こんなに悩むことは無かったかもしれない。
忙しいことに疲れ果てなければ、今はどうしているだろう。
あの頃は、ただ休みが欲しいと願ったものだ。
後藤がそばにいたら。
全ては良い方向へ転じただろうか。
- 98 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:07
-
自分と入れ替わったメンバーたちも、私がこの世界へ戻った時には
もうすっかりその一員として、地位を獲得していた。
そして裕ちゃんから、後藤と吉澤がツキアッテイルと聞いたのは
私がこの世界に戻った紅葉が綺麗な頃のことだった。
意外にショックを受けなかった。
そんな嘘を自分に吐いた。
- 99 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:08
-
次の秋に後藤がメンバーでは無くなるという話がニュースを躍った。
同じ世界にいても、出来るだけ顔を合わせないようにしてきたのは、自分
の中にあった罪悪感と恋慕をひた隠すためだけだった。
後藤だけではない。モーニング娘。に対しても背負っていた感情だった。
卒業祝いではなく、後藤の誕生日のお祝いに、一人の自分としてTVの
仕事を受けたのは、大きな間違いだった。
楽しかった日々や、後藤との思い出が、溢れて息苦しくなった。
- 100 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:08
-
裕ちゃんも圭ちゃんも後藤も。
みんな、自分と同じ立場に立ったはずだ。
それなのに、自分の中に生まれる焦燥感は、ますます大きくなる。
この世界に戻ってきて、3度目の秋が巡ってきた。
モラトリアムな自分が嫌いだ。
- 101 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:09
-
たまたま今年の9月23日は後藤と同じ地方にいた。
会おうと思えば会えた。
それだけだ。
自分の手でつかめるものなんて、本当はそんなにない。
自分の吐くコメントに、時々心の中で毒を吐いてしまう。
時々何もやる気が起きない。
これは「鬱」だろうと、自覚があるうちはまだ大丈夫か。
あっという間に外は夕闇から、漆黒の闇へと姿を変えている。
- 102 名前:Darker than DARKNESS 投稿日:2003/10/08(水) 01:10
-
今日も一日が終わる。
こんな風に人生も終わっていってしまうのなら、今できることを
何かしなくてはならない。
そう、思うだけが精一杯。
人生なんて、みんなそんなものなのだろうか。
誰か、その答えを聞かせて欲しい。
- 103 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/08(水) 01:11
-
【了】
- 104 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/08(水) 01:18
-
暗い。そして、中身が単調だ。
一つの表現に装飾が少ないからなのか、うまく感情が
表現されません。
他の作者さんのを読んで、研究しMAX。
どこがいちごま?っていう突っ込みは勘弁してください。
とりあえず、ピッコロHP上での市井メッセージ9/30分を
憂鬱モードで見た、そんな感じのオチでした。
- 105 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/08(水) 01:24
-
しまった、補足。
このタイトルは、某バンドのアルバムタイトルです。
たしか、シングルカットされたかも。
とりあえず、中身は一切関係ないので、その曲が好きな方の
イメージを壊すつもりは毛頭ありません。
- 106 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/16(木) 02:06
-
『この世に止まない雨はない』
- 107 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/16(木) 02:06
-
ただ傍にいて欲しい。
そう叶わぬ思いなのは、百も承知で。
ほんの些細な日常と、ほんの僅かな時間。
今。
いま。
イマ。
- 108 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/16(木) 02:07
-
今日はたぶん久しぶり、なはずの雨。
忙しい毎日を、自分の意志とは無関係に引きずり回されながら動き回っていた。
携帯も通信手段として機能するのは、仕事の連絡か、迷惑メール。
最近は特にメールを、期待することなく無意識に開いていたから、仕事から戻って
久しぶりに受信箱の中に見知った名前が出てきたら、心が弾むのも当然だ。
『中澤裕子』
2週間に1度は仕事で会える。
逆にいうと、それだけしか会えない。
どちらが正しい表現かは、何とも言えないけど。
- 109 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/16(木) 02:08
-
世間がどう思っているか知らないけれど、元メンバーとはいえスケジュールも
全く違うから、逢いたいと思ってもそう簡単に逢えたりはしない。
仕事でほんの少しの時間だけ話したり出来るけど、結局いつも一緒にいたころ
みたいには、いろいろ話せるわけでもない。
お互いがお互いを気遣って、最後には仕事と関係ない話とか、共通の友人、大概
他のメンバーの話とかになってしまうのが、ちょっとだけ淋しいところ。
それでも、会えるという事実だけがオイラを突き動かす。
そう、メールに書かれた言葉はたった一言。
『今夜、うちにおいで。』
- 110 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/16(木) 02:08
-
前は、つまり裕ちゃんがメンバーだった頃はかなりの頻度で遊びに行っていた。
1年の殆どを一緒に過ごしていたと言っても、何も可笑しくはない。
オイラはお姉ちゃんが欲しかった。
そして、面倒見の良い裕ちゃん。
強いていうならそんな関係だから、一緒にいることが当たり前みたいに思ってた。
卒業するって聞いたときは、ずっと一緒にはいられなくなるとは思っていたけど
まさか、こんなに会えない間が長いなんて、思いもよらなかったし。
でも、こうして時々仕事の休みを見つけて連絡をくれる。
オイラはそんな誘惑にすぐだまされて、っていうと言葉が悪いけど、それだけで
一日が「ハッピー」(byチャーミー)っていう感じになる。
よっすぃにも「矢口さん、今日はおでかけですか?」なんてつっこまれるくらい
テンションはいつになく上がっているらしい。
さて、このまま仕事をさっさとこなして、終わらしてしまおう。
- 111 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/16(木) 02:10
- 今回はやぐちゅーです。
人生教訓編とでもなりましょうか。
お暇な方はコメント下さい。
- 112 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/19(日) 00:52
- やぐちゅー最近少なくて凹んでたんで尚更嬉しいです。
続き期待してますよー。
- 113 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/20(月) 03:19
-
>>112 名無し読者様
読んで頂いてありがとうございます。
やぐちゅーといっても、お望みのようには展開しないと思いますが
懲りずにおつきあい下さい。
それでは、交信します。
- 114 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/20(月) 03:20
- −−−−−−
戻ってくると、また未読メールの表示。
どこまでも面倒見の良い彼女の、優しい追伸が舞い込んでいた。
『今日ドコ?向かえに行く。』
「…そんなに気を遣ってくれなくてもいいのに。」
いつも贅沢な我が侭を言ってみたくなって、小さく呟く。
その優しさにどれだけ救われているかなんて、自分に問いただすまでもなく
とっくに自覚していることなんだけど。
そして、その優しさに甘えてしまうのが悪い癖だと知ってはいるけど。
- 115 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/20(月) 03:20
- 『砧。9時には終わるよ。』
一般の人たちみたいに、打ったらすぐ戻ってくるということも少ない。
オイラたちのメールは、思いをのせたままじっと待っているのだろう。
ちょっと切ない。
だから、早く逢いたい。
- 116 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/20(月) 03:21
- −−−−−−
結局、仕事がちょっと押してしまったから、待たせてしまう結果になった。
それでも笑顔で「お疲れさん。」なんて労ってくれる裕ちゃんは、さすが
オトナだ、なんて意味もない感想をもってしまう。
オイラだったら一言目には「おっせーよ。」とか言っちゃいそう。
不定期な仕事をしてるのは自分も、なのに。
本気でそう思う訳じゃないけど、そういう性格なんだよ。
正直な気持ちを伝えるのが、ちょっと照れくさい。
- 117 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/20(月) 03:21
- 先にいろいろと準備はしておいてくれたらしく、裕ちゃん家の扉を開けると
良い匂いがした。
それと、裕ちゃんの愛情を一心に受け止めている、オイラのライバル登場。
「は〜なちゃ〜ん!」
おいおい、鼻の下が伸びてるぞ。
強面の元リーダーだけど、やっぱり普通の女の子(子か?)なんだと実感する
瞬間でもある。誰だって、みんな独りは寂しいんだ。
「…ねぇ、お腹空いたんだけど。」
場の空気にそぐわない発言をしたことは謝ろう。
でも、なにその目?恐っ。
「わかった。とりあえず、向こう行って座っとき。はなちゃんも連れてってな。」
- 118 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/20(月) 03:22
- ふぅ、危ない。
オイラが食材になっちゃったら、洒落にならないじゃないか。
けど、オイラは裕ちゃんのこういうギャップが、たまらなく好きなんだと思う。
優しいだけでも、厳しいだけでも、恐いだけでも、ない。
こういう表現はあまり相応しくないけど、でも使うならそうじゃない人と一緒に
いることは「飽きる」と思う。もしくは「信用されていない」と感じるかもしれない。
人って不思議なくらい、他の人の感情には敏感なものだったりするんだって。
特に裕ちゃんは、オイラが知っている人の中でも気性は激しい。
半分は、メディアの中で作られてしまったキャラクターなのかもしれないけれど、
それがまた、一つの魅力でもあり、彼女のオーラの源でもあると思っている。
- 119 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/20(月) 03:23
-
「何、ぼーっとしてるん?テレビぐらい付けたらえぇのに。」
ビール瓶を片手に立っている姿は、何とも似合う。笑いがこみ上げてくるくらいに。
逆に、お盆を持って立っていたりすると「どしたの?」なんて思われるかもしれない。
そういう人なんだと、改めて思う。
けれど、どっちもやってのける。
それが彼女の魅力。
「手伝うよ。」
立ち上がろうとすると、それを制してテレビの電源を入れた。
「まあ、疲れてるんやろうから、座っとき。」
目の前にビール瓶と、それからオイラの為に用意されたであろう甘めのお酒を置いて
またキッチンへと戻る裕ちゃんだけど、疲れているのは一緒のはず。
今日、休みじゃなかったよね。
- 120 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/20(月) 03:24
- 「何?座っててえぇのに。」
「だって、お腹空いたからさ、手伝えば早く食べれるし。」
正直じゃないオイラ。
でも、その気持ちを察してくれる裕ちゃんはやっぱりオトナだ。
「じゃあ、これ持ってって。」
受け取った背中に「落とすなよー。」なんて声を掛けながら、取り皿を準備する。
こんな、感情の伝達は、久しぶり。
- 121 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/20(月) 03:27
-
もう少し続きます。
話の流れは非常に遅いのですが、矢口さんの視点で
このまま進んでいきます。一挙一動にご注目(w
- 122 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/20(月) 03:35
-
それと、お詫び。
書いている途中で「おいら」を読んでしまったので、へんに
その内容にこじつけたりとかしているかもしれません。
直接の「ネタバレ」はありません。
ただ「おいら」を読まれた方には思い浮かぶ話も、食い違いもあると
思いますが、笑って許して下さい。
あくまで、フィクションですから。
- 123 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:44
-
テーブルの上に置いて戻ろうとすると、裕ちゃんがお皿と箸を持って部屋へ来た。
「もうお終いや。あ、グラスいるなぁ。悪い、持ってきて。」
汗をかいたビール瓶を見ながら、裕ちゃんは私に「お願い」をする。
「裕ちゃんなら、瓶のまま飲めるんじゃないの?」
「あほっ、うら若き乙女がそんなおっさんみたいなこと、するわけないやろ。」
「乙女じゃないじゃん。っていうか、おじさんでも瓶のまま飲む人、見たこと無いけど。 珍しいね、瓶ビール。いつもは缶なのに。」
「貰いもん。最後の一本やし。けど瓶は捨てんのがめんどくてな。…っていうか、鍋が
冷めるから早よ食べようや。矢口も、コップいるやろ?」
オイラ用に用意されたと思われる、お酒たち。
オイラのために準備された、お鍋。
裕ちゃんの優しさと愛情がたくさん見え隠れする、裕ちゃん家の食卓。
久しぶりに遊びに来たけど、毎回心の底から感動する。家族みたいな裕ちゃん。
こんなお姉ちゃんがずっと欲しかった。
- 124 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:45
- コップを持って部屋に戻り、裕ちゃんに渡す。それと引き替えに、ビール瓶を持って
裕ちゃんへ差し出す。前は「客なんやから、まず矢口。」なんて言っていたけど、もう
そんなことは言わなくてもお互いが分かっている。
「…ほい、ありがと。矢口は、どれにするん?」
泡が多めのグラスを置いて、裕ちゃんが何個か缶を指さす。
「んーと、そっちのヤツ。」
ぷしゅっといい音をたてて、缶がボコボコっとした形状になる、不思議な缶のお酒。
秋になって白桃が出たんだけど、思いの外飲みやすい。
それを注いでもらって、二人で乾杯。
- 125 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:45
- 「やっぱ強っ。」
「ん〜、んまいっ。」
対照的なコメントはいつものこと。
ごくごくと喉を鳴らして流し込む傍らで、ちびちびと舐めるように飲む。
アルコール5%って言っても、ウオッカで割ってあるから強いことは承知の上。
そんなにお酒が好きじゃない。でも、慣れれば飲めるようになってくる。
それが、怖いところなんだよね。
「真里ちゃん、相変わらずお子ちゃまやね。」
鍋をよそいながらからかうように声を掛けてくるのは、笑顔の裕子。
「…ビールをぐわーって飲むのって、オヤジじゃん。」
「……鍋やらんで?」
- 126 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:46
- こんなコントみたいな会話を、テレビの前だけでなく、いつもしている。
ただテレビと違うのは、裕ちゃんが笑顔で返してくれることなんだ。
画面に映っている時は「刺すような目」でにらんでくるから、裕ちゃんは恐キャラ
なんだけど、本当はすっごくノリがいいだけだと思う。
「ありがと。」
鍋をよそってもらって、よく煮えた白菜を口に運ぶ。味が浸みていて、おいしい。
「んー、おいし。今年もさ、鍋の季節になっちゃったねぇ。」
オイラたちの周りを流れる時間は、きっととても早い。
それを充実していると呼ぶのかもしれない。
忙しいことの幸せ。
- 127 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:47
- 「今年もまたクリスマスの季節やで?裕ちゃん、悲しいわぁ。」
「本当は結婚なんて、そんなに考えてないくせに。」
また、裕ちゃんがからかわれる(もしくは、裕ちゃんをからかう)時期が来る。
「考えてるっちゅうに。けど、仕事もまだやりたいしな。結婚、結婚言う前に、彼氏作ら なあかんけど、そんな時間もな。それより、あんたはどうなん?」
「えー、オイラは別に。欲しいとは思うけど、仕事の邪魔になるようならいらないかな。
今はさ、まだやりたいこといろいろあるし。」
「そうやな、新しいユニット。大変なん?」
裕ちゃんが大好きだと言ってくれたミニモニ。を卒業して、それでもちびっ子たちを
面倒見る立場のオイラ。でも、面倒を見ると言うより抜かれないように、自分が自分
らしさを持っていられるように、そうしていることが一番大変なのかもしれない。
「辻加護より手がかからないから、ZYXはそんなでもないけど。そういえば、誰かが
言ってたんだけど、ZYXの中で矢口が浮いてるって。そう見える?」
「正直、ミニモニ。は違和感なかったけど、な。」
- 128 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:48
- そう言ってビールを一口飲む裕ちゃんが大好きだ。
率直に意見を聞くことができるのも、裕子が一番。
やっぱり長い間一緒だったし、一番冷静な目で判断してくれるのも、裕ちゃん。
社会に出ていたからなのか、客観視してくれて、感想を素直にくれる。
「そうかー、何でだろ?」
「ちょっとな、馴染んでない感じはしたで。ミニモニ。は辻加護が矢口にべったり
だったけど、今回はキッズも矢口に気を遣ってる感じやったし。もう少し時間は
掛かるんやない?これからが大事やろね。」
「そうだね、確かに。頑張らなきゃな。」
「あんまり、頑張りすぎんようにな。」
一時期から、口癖のように「頑張る」と言うようになってきた。
前にどっかで聞いた「ガンバレ、自分。」っていう言葉があったけど、これって
自分を窮地に追い込んじゃったりする。
メンバーみんな、矢口は自分の中に限界までため込むって言っていたけど、あたり。
それを一番心配してくれているのが、他でもない、裕ちゃんで。
- 129 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:48
- グラスに入った液体をぐっと流し込んで、気合い入れ。
「あほっ、そんなにいっぺんにいったら…。」
「けほっ。」
あきれ顔の裕ちゃんは、お姉ちゃんというか、お母さんというか。
それでもグラスにお酒を注いでくれちゃったりするんだ。そういう人なんだ。
そんな裕ちゃんに、ついいつもいつも「彼氏」ネタを振ってしまうんだけど、本当は
彼氏なんかできて欲しくない、というのが正直な気持ち。
裕ちゃんのことが好きなんだけどなぁ。
この気持ちは、どう説明すべきものか、実は自分でもよくわからない。
わかっているのは、前に友達と飲みに行ったときにその友達が酔った勢いで話している
のを聞いて、そんな感情もあるものなんだ、と思ったときに浮かんだのが、裕ちゃん。
- 130 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:49
- ……
彼氏とか、彼女とか、そういう「肩書き」が欲しいんじゃなくて。
何ていうかなー、一緒にいて楽とか話を聞いてくれるとか、そんなんでいいわけ。
人間っていう種の繁栄のためだけに男と女が結婚するんだったら、それはつまらない
ことだと思うんだよね。別に滅んだって、関係ないじゃん?とかさ。
いや、本当に滅んだら悲しいけど。
子孫を残すためだけだったら、愛なんか無くてもなんとかなるんじゃないかなぁ。
とりあえず、子どもを作る。みたいな感じで。
でも、俺は今彼女とかいないけど、ぶっちゃけ一緒にいて邪魔になるようなのは
うざったいから、なんか支え合うって感じの人がいたら、それでいいや。
そいつが俺の気持ちを全部分かる。俺もそいつの気持ちが全部分かる。
そういうのは、ちょっと望まないね。
なんでって、無理だろ、見知らぬ人間同士でだぞ?
それよか、なんか沈んでるときに、その理由を聞いてくれてコメントくれるヤツの
方が、よっぽど俺自身に必要な気がするんだよ。
飾らない、っていうのかな。わかんねーけど。
相手のために、自分を飾るのもめんどい。相手にものぞまない。
え?俺、酔っぱらってんじゃん。やべー。
いや、違うって。俺は別にホモ志望じゃねぇよ。
……
- 131 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:50
-
懐かしい中学の同級生。かつて、親友の彼氏だったヤツ。
大学行ったら賢くなったね、なんてちょっとずれた返事をしてしまったのは
頭に裕ちゃんの顔が浮かんだから。
自分にとって、楽な存在。
だからこそ、この関係は壊したくない。
愛とか恋とか、そんな枠で括ってしまうには、あまりにも難しい気持ちなんだ。
同性だから、なんていうことに遠慮しているからでもないし。
裕子に遠慮しているわけでもない。
離れたくないと思うのは、生まれる子供が、母親から切り離される時に似た感情
なのかもしれないけど、オイラはそんなの覚えてるわけない。
- 132 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:51
- もう一度、グラスを煽る。
「なんや、矢口。今日はあんた、やけ酒みたいやわ。なんかあったん?」
心配そうに覗き込んでくれる裕ちゃんが、大好きだ。
そのうち、裕ちゃんの悩みも聞いてあげられるくらいの人間になりたい。
「ん〜、なんでも無いけど?それより、裕子も飲みなって。」
「あんたが変やと心配で飲まれへんやんか。」
「って、瓶一本空いてるじゃん!もう一本持ってきてあげるよ。」
「へぇ、珍しいな、勧めるなんて。本当にだいじょぶなんか?」
3度目の心配。
嬉しさと感謝の気持ちが混ざった、冷たい言葉を返す。
「ホントに、何にもないよ?じゃあ、飲むのやめるの?」
「いや、飲むけど。あ、ついでに、こっちの酒は冷蔵庫に入れておいて。ぬるく
なってもうたし。あんたも飲むんなら、冷えたの出して来。」
「一体何本買ったんだよ?裕ちゃん、甘いの飲まないんだろー?」
「飲んで潰れたら、襲ったろ、思ってな。…なんて。貰いもんや、番組で。」
- 133 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/10/23(木) 03:51
- 飲み物が大半を占める冷蔵庫から缶ビールと、ちょっと迷ってから自分のために
缶を一つ取り出して、部屋へ戻る。
「珍しいな、矢口がそんなに飲むんは。」
「いーじゃん、オトナになったってことさ。」
「…全然背は伸びひんけどな…」
「なんだとー、三十路のくせに!!」
「なっ!言っていいことと悪いことがあるやろっ。」
「オイラの背だって禁句だい。」
二人で顔を見合わせて、にやっと笑う。
そしてプルタブを空けて、乾杯。
きゅっと冷えたお酒は、やっぱり苦かったけど、でもおいしかった。
- 134 名前:いむすたん 投稿日:2003/10/23(木) 03:54
-
もう少し続きます。
大学の時、哲学とか勉強してこなかったけど、
ちょっとフロイトとか読んでみたい気分。
勉強は、勉強できる場から離れると、やりたくなるものなんですよね。
これって、恋愛も一緒ですか?(w
- 135 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:00
-
−−−−−−
「さて、そろそろ片づけるか。」
一通りいろんな話をして、ちょっとまったりした空気が流れてきたころ、おもむろに
裕ちゃんは立ち上がると伸びをして、片づけを始めた。そして、オイラが口を開く前に
「酔っ払いのお子ちゃまは座っとき。どうせ下げるだけやから。明日洗うし。」
そういって、頭をぽんぽんとなでた後、鍋を下げにいった。
その背中に「子ども扱いするなよ。」と投げかけたけど、実際にはちょっと眠くなって
いたから、素直にそれに従うことにした。
- 136 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:00
-
「ほら、矢口。ここで寝たら風邪ひくで。」
一瞬の記憶がなくなったと思ったら、15分くらいたったみたいだ。
どうやら結局洗い物までやってくれたらしい。
「ごめんね。後かたづけ。」
「ええって、アタシが誘ったんやし。それよりお風呂入って寝る準備しぃ。シャワー
だけでもええから、浴びておいで。着替えある?」
いつ何事があるかわからないから、と言うわけではないけど、一応宿泊セットを持ち
歩いていたりする。まあ、要するに着替えな訳だけど。Tシャツとジャージ。
ダンスレッスンと変わらないスタイルなのは、練習後の着替えだったりするから。
- 137 名前:いむすたん 投稿日:2003/11/20(木) 04:01
-
「ふう、今日は飲み過ぎちゃったなー。」
酔っているけれど、浴槽にも入る。飲んだ後は、心臓に悪いっていうよね。
でも、つくづく日本人でよかったと思う。お風呂、好き。
好き。
あ、裕子のこと。
ぶくぶくとお湯に潜っていくと、意識が覚醒してくるみたい。
そうだ、さっき飲みながら交信しかけたのは、危なかったなー。
でも、あまり深くは考えない。
考えても結論なんて出ないし、きっと答えも見つからない。
ただ、これからも、一緒にいたいな。それでいいや。
そう、傍にいて欲しい。いつも、じゃなくても、いつまでも。
- 138 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:01
-
「おーい、寝てないか。」
ドアの外から声がする。
「今上がる。」
「寝てないんやったら、えぇけど。じゃ、向こう行ってるな。」
ネットで言われるように、一緒にお風呂に入ったり、襲われるなんていうことは
とてもじゃないけど、あり得ない。
でも、裕ちゃんのメディアでの発言からなのか、ただのイメージからなのか、よく
そんなことを質問されたりする。そして、オイラたちはそれをネタにする。
裕ちゃんのちゅうも、寂しがり屋の彼女のスキンシップ。
辻が、他の人と腕を絡ませる癖と一緒。まあ、最近では裕ちゃんの悪影響で、辻加護
はよくちゅうしてるみたいだけど。そろそろ止めた方がいいかもしれない。
- 139 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:02
-
「あがったよー。」
「どれ、アタシも入ってくるから、先寝ててな。」
「でも、目が冴えちゃったよ。」
「明日も午後、仕事あるんやろ。無理せんとってな。」
そういって風呂場に向かった裕ちゃんから声が聞こえてくる。
「そうや、矢口。冷凍庫に氷入ってるから。ポカリもあるし。」
さすが、裕ちゃん。準備はさすがだね。
氷を片手に、ぼーっとテレビを見ているのも、ちょっとした至福。
忙しすぎると、時間の流れに歪みがあるみたいに感じるよね。
時間泥棒って、本当にいるかも。
あ、お風呂から上がったみたい。
- 140 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:02
-
「なんや、起きてたん?」
「目が覚めたし。なんか話そうよ。」
「ちょお待って、頭乾かすから。なら氷は片づけて、ベッドで話そ。」
冷凍庫に氷をしまいに行っていると、ドライヤーの音が聞こえてきた。
裕ちゃんの、金じゃなくなった、伸びた髪。一層大人びた雰囲気になった裕ちゃん。
その髪が熱風でそよいでいる。
…なんだか切ないよ。
「矢口も乾かし、風邪ひくから。こっちおいで。」
「オイラね、ちょっと切りすぎちゃったの。」
「でも、短いとすぐに乾くから、楽でええよな。矢口に似合ってるし。」
頭をまさぐる裕ちゃんの手は気持ちいい。まるで頭を撫でられているみたい。
いつもなら、子ども扱いすんなって怒るところだけど、本当は嬉しい。
裕ちゃんになら、ガキ扱いされても。
- 141 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:03
-
「ほい、乾いたで。寝よか。」
泊まりにきたら、いつも裕ちゃんの隣。温かくて、心地いい。
ハナちゃんも一緒に寝たいところだけど、二人でベッドにいると潰してしまったら
かわいそうだから、いつもの指定席は矢口が借りることにしている。
「電気消すで。」
消灯。静寂。夜の闇。
目が慣れるまで、本当の暗闇に支配されてしまう錯覚を起こしてしまう。
すぐに裕ちゃんがベッドに入ってきて、そんな不安も吹き飛ぶけど。
「明日、一緒に出よな。起きるんは、9時くらいか?」
「任せるけど、それくらいなら間に合うはず。」
「了解。じゃ、おやすみ。」
「ん、おやすみ。」
沈黙。裕ちゃんはこっちに背を向けてる。
寝付きがいいオイラだけど、今日はちょっと目が冴えて仕方がない。
飲み過ぎたせいなのか、いっぱい頭を使ったせいなのか分からない。
裕ちゃん、もう寝ちゃったわけ?話そうよー。
でも、今日一日仕事して、御飯準備して、迎えに来て。
疲れてるんだろうな、きっと。また迷惑掛けちゃったよ。
早く自立しないと。
- 142 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:04
-
ふぅ。
小さく溜息。
すると、もぞもぞと裕ちゃんの顔がこっちを向いて、そして目を開いた。
「…な、何?」
「溜息はな、幸せが逃げるんやで。」
そんなの知ってるよ。
言い返そうとしたその時、裕子の方が先に口を開く。
「最近、また無理してないか?」
「え…そう?そうかな??」
オイラの口を吐いて出た言葉とは裏腹に、心は激しく鼓動を刻んでいる。
わかってる、わかってるよ。
不安がいっぱいだって、言いたい。でも、言えない。
天の邪鬼なオイラの、最大の欠点。
ぎゅっと目をつぶるオイラの、不意をついたあたたかい頬への感触。
突然のコトだったから、驚いて目を開けると、こちらをずっと見ていた
らしい裕子の眼差しと真っ直ぐにぶつかる。
「別に何もないなら、それでえぇよ。」
裕ちゃんは、そう言って手を引っ込めると目を閉じた。
- 143 名前:いむすたん 投稿日:2003/11/20(木) 04:04
-
え、あっ…あのー。待って!!
いつでもそうだ。
裕ちゃんは限りなくオイラを、オイラの心を表に引きずり出す。
どんな魔法よりも強力な、裕子という存在に感嘆する。
そして、やっぱり勝てない自分を、内心ではすごく嬉しく思う。
理解不能な矛盾。
「ねぇ、ねぇ、裕ちゃん。起きて。」
「…何や、トイレか?もうオトナなんだから一人で…」
「お話聞いて。ちゃんと話すから。」
にっこりと笑った裕子の顔が、目の慣れた暗闇に優しく浮かび上がり
さっきと同じ優しい温もりが、オイラの手を包み込む。
- 144 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:05
-
「なっちが…いなくなるから……」
やっぱり勝てないよな。
でもオイラがこんな話を出来るのは、地元の友達でも両親でもない。
やっぱり裕ちゃんだけなんだ。だって、オイラが悩むのは、ほとんど
仕事のことだから。プライベートは自分でちゃんとやれる自信がある。
違うな、今は仕事ばかりでプライベートでは悩む余裕がないだけ。
でも、仕事は…
自分の想像を絶することが多すぎて、自惚れじゃないけど自分にかかる
期待が大きい気がしてどうしても息が続かなくなってしまうことがある。
オイラはそんなにデキル人間じゃないって思う反面、周りの期待に応え
ようとしてしまう自分がいる。
無意識のところで生じる二つの自我に板挟みになって、勝手に自分で重圧
をかけて、自爆するタイプ。
周りにその期待を背負ってくれる人がいるときは、まだ平気。
- 145 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:05
-
でも、なっちが…なっちがいなくなると。
娘。にはまだ圭織がいる。
失礼な話だけど、でもそれだけじゃ不安なんだ。
圭織がどう、っていうんじゃなく、なっちは娘。の顔って言われるくらい
モーニング娘。だったから、歌もできて、バラエティもこなして。
卒業しちゃったら、その時はきっと、裕ちゃんやごっちんや…みんなの時
みたいに、新しいモーニングとしてやっていけるかもしれない。
だけど、それが出来たのはなっちと圭織が二人いたからかもしれない。
オイラでは、力不足で…そう思うと、怖い。怖いだけ。
ミニモニ。でもZYXでもリーダーだったし、きっと大丈夫。
頭ではそう思うんだけど、気持ちが尻込みしちゃう。
- 146 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:06
- そしてね。
裕ちゃんたちが、あやっぺや明日香やそして、なっちと圭織と作り上げた
モーニング娘。が。オイラの大好きだったモーニングが、きっと変わる。
いや、いいことだって、知ってる。
変わるのは何も悪いコトじゃないよね。今までだってそうだったし。
でもやっぱり、なっちがいなくなったら、モーニングはモーニングじゃ
無くなる、そんな気がするんだ。
- 147 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:06
-
「…なぁ、一つ聞いてえぇか?」
目を閉じて黙って聞いていた裕ちゃんは、すっと目を開けてオイラの目を
覗き込みながら、暗闇を切り裂くように一本の矢を放つ。
「矢口は、モーニングじゃないん?」
「…どういうこと?」
質問の意図がわからないし、どう答えたらいいのかもわからなかった。
「モーニングはなっちのものなん?それともオリメンのものなん?」
モーニング娘。は誰のモノ?
「難しい質問やったかな。…ま、難しいわなぁ。アタシもよく考えんねん。
あの頃はって思うコトもあるけど、何も過去の形が全部正しいわけじゃ
ないんやなって。」
あまりにキョトンとしていたみたいで、裕ちゃんはちょっと眉間にしわを
寄せながらも、口の端を上げて、言葉を吐き出す。
「アタシにとってのモーニングは、アタシがいたときのモーニングだけ。」
- 148 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:07
-
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
少なくとも裕ちゃんは、裕子は、きっと今のモーニング娘。も大切に思って
くれていると、オイラは勝手に信じていただけだったんだね。
いや、きっとみんなもそう、今でも信じていると思うけど。
「もうそこにいない人間やから、中のことに、とやかく口出しはできんし。
厳しいことを言うようやけど、みんながみんな、それぞれの自覚をもって
自分たちでやって行かな、あかん。」
頭が朦朧としてきた。
裕子がもう仲間じゃない、突然本人から引導を渡された。
そんな絶望感がひしひしと襲ってくる。
何を言っているのか、もう聞きたくない!
暗闇でよかった。これなら目に溜まる涙には気付かれないから。
悲しいからじゃない。仲間だと思っていた人の裏切りにも似た悔しさ。
ぎゅっと掛けていた布団を握りしめる。
- 149 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:07
-
「なぁ、矢口…」
なのに、裕子の声色はドコまでも優しく、暖かく、包み込む。
「今のモーニングは、アタシのいない、あんた達のモーニングなんよ。
なっちや圭織がいても、もうとっくに違う形になってるんや。」
「だから…モーニング自体は、誰のモノでもない。メンバー一人ひとりが
育っていくその器なんやと思うよ。矢口が悩んだら悩んだ分だけ、苦労
したら苦労した分だけ、おっきくなれる。そんな場所や。」
裕子が口にしている言葉がいまいち理解できないでいた。さっき一度、意識を
遮断しかけたからだろうか。もう一度、裕子の言葉に耳を傾ける。
「誰かだけが頑張ったり、引っ張ったりするモノやない。モーニングはその時
いる人たちが、試行錯誤して、いろいろ悩んで作り上げるモノやし。それを
まとめていくんが、年長者の役割や。先に立って導くんだけが、矢口の役割
なんか?矢口の立場だけがそんなに重要なんか?」
- 150 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:08
-
「そんなわかったようなコトいうなら、一緒にいてよ!!」
自分は、最高に最悪なくらい、我が侭だと思う。
裕ちゃんの言っているコトも、全部じゃないけど理解できたし、気持ちも軽く
なった。だからこそ裕ちゃんに、精神的支柱になっていて欲しいと、心の奥で
すがりたい気持ちがなぜか表に、口から飛び出したけど。
知ってる、これは我が侭だ。
だから裕ちゃん、オイラを厳しく叱りつけて。
「いたかったんやけど、そういうわけにはいかなかったしな。だからこうして
話を聞いたり、そんなことしかできんくて、ごめんな。」
お願い、裕ちゃん。優しい言葉を掛けないで。
そうしないと、オイラはきっと自力で立ち上がれなくなっちゃうかもしれない。
誰かに縋り付いてしまうことの、その心地よさを感じたら、オイラ自身の強さを
失っちゃうかもしれない。
- 151 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:09
-
ふと目があった裕ちゃんは、口を開きかけ、そしてそのまま閉じた。
ああ、びっくりさせちゃった。自分でもわかるくらい、涙が流れている。
大丈夫。落ち着いた。これは、悲しいんじゃない。悔しいわけでもない。
自分の心の中を洗い流すだけだから、ちょっと待ってね。
そしたらいつもの、頑張り屋のオイラに戻れる気がする。
「裕ちゃんの前では、いつでも泣いて、ええから。
矢口にいっぱい心配かけて、ごめんな。…そして、ありがとな。」
そんな裕ちゃんの目にもキラリと光るものが見えて、不思議と嬉しくなる。
オイラの心の痛みも、裕ちゃんなりの苦しみも、今夜の雨に流されてしまえばいい。
- 152 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:09
-
強面の裕ちゃんだけど、本当は泣き虫な元リーダーは、オイラの大切な人だと
声を大にして言える。恋人とか、そういうのとはちょっと違う。
一緒の時間を共有した。でもそれは過去のこと。
立ち止まってはいけない。進まなくてはいけない。しかたがない。
自分の未来の答えを、人に出してもらおうとしないこと。
人に問うのは、選択肢のヒントでしかない。答えではない。
「裕ちゃんがいてくれてよかった。」
照れながら、でも正直に伝えよう。
この胸一杯の感謝と、尊敬の念。
明日も元気に、自分らしくいられるに違いない。
そしたら、明日はきっと晴れる。
- 153 名前:この世に止まない雨はない 投稿日:2003/11/20(木) 04:10
-
【終わり】
- 154 名前:いむすたん 投稿日:2003/11/20(木) 04:15
-
誰も見ていないから、一人で完成会。
じゃない。反省会。
今回のミス。
1.時間をおいて書いたら、元のプロットと話がずれて
支離滅裂になった。
2.支離滅裂を悔やんでいたら、ageてしまった。
3.挙げ句に、途中でタイトルとハンドルを入れ間違えた。
最大のミス。
0.一番の推しであった市井の引退にさっき気付いた。
- 155 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 11:11
- 分類板で見てきました。すげーいい話でした。
テレビで裕ちゃんと一緒のお姉さんチームみると、
リーダーのかおりでさえ甘えてるみたいで可愛いんですよねー。
そんな存在なんだと思います、裕ちゃん。
- 156 名前:名無し 投稿日:2004/01/13(火) 00:57
- 自分も前から見てました・・・・何かレスするタイミングを逃してたんですが。
分類板紹介したの自分なんで何か嬉しくて。
凄いツボにはまった作品だったんで、紹介した甲斐があったと・・・分類板に書け
って話でスレ違いだったらすいません。
また作品、読みたいです。
- 157 名前:いむすたん 投稿日:2004/01/18(日) 23:32
-
読んでくださっている方、お久しぶりです。
あまりの間の空きように、ここから離れた方もいることと思いますが。
…だって修論終わらないんだもん ・゜・(ノД`)・゜・
>>155 名無飼育 様
レス、ありがとうございます。
私も同感で、裕ちゃんは信望が厚いのだと感じますよね。
最近はハロプロでしか見れませんが・・・
>>156 名無し 様
分類板への紹介も併せ、レスありがとうございます。
こんな作品で良ければ、また目を通してください。
今はやぐちゅーの需要があるのでしょうか?
- 158 名前:いむすたん 投稿日:2004/01/19(月) 00:54
-
次のはだいぶ暗いっすな。
自分は、今や東京にいるわけではないので
雪が降っているか知りませんが。
ウチの周りは、降り積もった雪が凍ってる(爆)
- 159 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 00:57
-
「…くぁあ、寒ぅ〜。」
店から出る私と一緒に口から出てきた独り言は、なんだか年寄りじみていて
自分で自分が恥ずかしくなった。照れたら、いつもは顔と体が熱くなるはず
なのに、今日は体が温まることもなく、ちょっとした暖も取れそうにない。
冬も終わりへと近づいているけれど。
- 160 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 00:58
-
暖冬だとは言われていても、やっぱり寒いモノは寒い。
特に暖かいところから出てきたときの寒さは、格段に、染みる。
東京でもこんなだったら、北海道はもう凍えちゃうくらいなんだろうな、と
友達の故郷を思い浮かべたり。
- 161 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 00:58
-
「室蘭の冬は、なまらしばれるべさ。」
いつだったか、屋上で話していたときにそんなことを言っていたっけ。
遠い故郷を思い出しては、いつも空を見上げる雪ん子みたいな彼女。
彼女ももうすぐ、あの温かい空間から羽ばたく時が近づいている。
私と同じように。
あの人と同じように。
- 162 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 00:59
-
ふと、空を見上げる。
空。
何処までも続く空。
- 163 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 00:59
-
今日の空は、残念ながらどんよりと灰色の雲で重く覆われている。
晴れていたら眩しくて迷惑な、ミラーコートされたオフィス街のビル群も、
今日はただの真っ黒なコンクリートの塊に徹している。
真冬の空の下のコンクリートの冷たさは、温もりを知った後の凍えるような
独りの寒さと似ている気もする。
- 164 名前:いむすたん 投稿日:2004/01/19(月) 01:00
-
大好きだった、あの人。
もう、同じところにはいない。
2度目のドロップアウトは、また誰にも相談しないまま、この世界から消えた。
本当に、本当に、大好きだった人。
アタシはアタシの気持ちをカコ形にしたいとは思わない。
けど、カコ形にしなくちゃいけないような状況が何度もやってくるし。
自分勝手な彼女をうらむことしかできないし。
- 165 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 01:00
-
それでも思い続けていれば気持ちが届く。
- 166 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 01:01
-
なんて、そんなフィクションみたいなコトを信じているわけもない。
連絡の取れなくなった遠距離恋愛は、自然消滅と相場が決まっている。
どんなに空が繋がっていたって、連絡網が途切れちゃえば、お終い。
わかってるよ。
わかってる。
諦められないわけでもない。
ただ、諦めたら負けのような気がするだけ。
何に負けるのか、わからないけれど。
- 167 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 01:01
-
心配して連絡をくれた親友のメールは一言。
『もう、私に乗り換え時だよ。』
そうかもしれない。
そしたら、親友じゃなくなっちゃうね。
それに、キミのかわいい彼女が、アンハッピーになっちゃう。
人の幸せを壊してまで、幸せになりたいなんて思わない。
壊して奪っても、自分が幸せになる、自信がない。
- 168 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 01:02
-
そう、自分に負けたくない。
ようやく、強くなったのだから。
- 169 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 01:02
-
東京は、ここ2、3日、本当に寒い。
こうやって空を見上げていると、ハラハラと冷たいものが落ちてくる。
「夜空から舞い降る真っ白な粉雪」。
頭に響く、フレーズ。
雪のあまり降らない東京だし、まだ夜にはなっていないけれど。
時々思い出す、彼女が残した、「夢」の欠片。
- 170 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 01:03
-
何に負けて、何に勝って、何を見つけて、ここから去ったのかはわからない
けれど、アタシは負けない。
何にも負けない。
誰にも負けない。
もちろん、自分にも。
- 171 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 01:03
-
不健康に細くなってしまった、自分の体を抱きしめて思う。
まだまだ独りでも生きていける。
この東京なら、独りでも寂しくはないから。
いや、ここにいる限り独りではないから。
それでも、もし、独りに耐えられなくなったら。
その時はあなたを訪ねてみたい。
- 172 名前:snowfall 投稿日:2004/01/19(月) 01:04
-
【了】
- 173 名前:いむすたん 投稿日:2004/01/19(月) 01:07
-
以上「snowfall」でした。
なぜ今になって市井ネタ?とかいう突っ込みは受けかねます。
酒を片手に、独りよがり作品、なので。
リアル系いちごま作家さんたちは、撤収しつつあるようですね。
悲しいなぁ。
自分みたいに駄作ではなく、本当に良作を書かれていた方には
とりあえず完結はさせて欲しいなんて、思ったり。
こんな所に書くコトでもないんでしょうけど。
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/19(月) 02:21
- >>173
妄想だけを全てに物語を書ける人もいれば
やはり現実があってこそって人もいると思います
そして作品の中の市井は大抵カッコイイ役で書かれることが多かったですが
現実的にはやはりカッコ悪い幕引きだったと自分は感じます
撤収は仕方のないことかもしれませんね
- 175 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/31(土) 20:07
- がんばれ、負けんな・・・でも、ばかちんが。
- 176 名前:いむすたん 投稿日:2004/02/19(木) 03:07
- >>173
>>174
レス、ありがとうございます。
最近では、どうしても、ネタが暗く成りがちで
自分の天性が「ネガティブ」なのかと疑って
いるところですが。
まあ、次からは明るいネタでも探します。
暗い話しでもよければ、次のお話をどうぞ。
- 177 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:08
-
外はまだまだ上着なしでは歩けないけれど、ガラス越しに差し込んでくる
お日様は、そんなコトお構いなしに、春の陽気を届けてくれる。
春眠暁を覚えず、なんて思うくらい、穏やかな日差しは春の訪れを予感させる。
何もない、午後。
何もない…
- 178 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:09
-
「な〜、暇やん。どっか行こう。」
ちょっと甘えた声でせがんでみても、背中をピタッとくっつけて雑誌を
読んでいる彼女からの返事はない。
そんなに雑誌に夢中なのだろうか。
「なぁ。…なぁ〜って。」
彼女の特徴的な小さい背中を、自分の背中で揺すってみても、彼女は何にも
返事をしてくれない。
完全無視。全くもって、反応なし。
- 179 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:09
-
はは〜ん、こら、眠ってるな。
いっちょ、からかったるか。
眠っている彼女を一番驚かすには、転けさせるしかない。
この重心のかかり具合だったら、後ろへ倒れること間違いなしだ。
だから、自分の体を、腹筋を使って前に倒す。
- 180 名前:いむすたん 投稿日:2004/02/19(木) 03:10
-
が。
「…あたたたっ。何すんねんっ!!」
あり得ないコトに、背中の彼女が先に起きあがった。
何ていう、読心術。あるいは以心伝心。
さっぱり、訳がわからない。
しかも情けないことに、自分は背中から崩れ落ちる始末。
- 181 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:11
-
「うるさいな〜、たまの休みくらいのんびりしたっていーじゃん。
っていうか、どこも行きたいとこ、ないでしょ?」
「…あんた、眠って……、いや、、」
よいしょ、っと体勢を直してもう一度、話しかける。
「てか、せっかくいい天気なんやし、車でどっか行こうや。
公園とか、海…はちょっと寒いかもしれんけど。」
「外に行って、誰かに見つかって騒がれるより、こうしてウチでのんびり
してた方が楽じゃん。暖かいし、気持ちいーし。」
「あんたなぁ、若いんだから…」
- 182 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:11
-
日頃は散々『若い』と豪語している自分も、そんなことはうっかり忘れて
相手の若さを逆手にとって誘いをかけてしまったことに、気付いていない。
でも、せっかくのいい天気。
二人そろってのお休み。
二人きりの、ゆったりとした時間の流れが贅沢なのはわかっているけれど。
何となく『この陽気』も無駄にはしたくないのが、本当のところ。
春の紫外線はとても危険だけれど、春の木漏れ日を感じたい。
だって、日常では、四季の変化を実感することも少ないから。
室内に居ることが多い日常だけに、たまには自然の中で日常をすごしたい。
- 183 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:12
-
「やぐちぃ〜。」
「なに?そんなに行きたいの?…珍しいよね、外に出たいなんて。
…行ってもいいけどさぁ。変装、めんどいんだよなぁ。」
ぼそっと付け加えられた、彼女の抗議理由。
『日常』も『仕事』も紙一重の立場にいるから、外ではあまり気が抜けない。
そんなこと、誘った本人もわかっている。
わかっていても、今日のお日様の誘惑は、ちょっと勝てそうにない。
どれくらいかって。
冬のめっちゃ寒い朝の、布団の中くらいの、誘惑。
- 184 名前:いむすたん 投稿日:2004/02/19(木) 03:13
-
「ん〜、全然人がおらん所ならええん?」
「そんなとこ、ないじゃん。この東京に。」
「……一カ所、知ってるで。」
都心からは車でちょいとかかるけど。
けっこう、いい穴場、知ってる。
「えっ、そうなの?
しかたないなぁ、なら、行ってやるか。」
こうなれば、即決行。
早くしないと、日が沈んじゃう、なんて心変わりの早い彼女を尻目に
日差しより温かい笑みを浮かべながら上着を羽織って、準備を済ませる。
「あんたも、ちゃんとあったかくしていき。
日が沈んだら、ぐっと冷えるで。」
優しい忠告に、わかってるよー、なんて言いながら素直に従う。
- 185 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:14
-
彼女だって、出かけたくなかったわけじゃない。
何処へ行っても、二人で居ることを邪魔されるのが、この上なく嫌だった。
つまり、二人で居ることが、この上なく幸せだから、他に何もいらない。
ただ、それだけ。
運転している姿を見るのも、好き。
横顔が、いつになく凛としていて、かっこいい。
そんなことを言うと、運転手は調子に乗るから、絶対に言わないけど。
車内で、二人っきり。
お気に入りの、音楽。
コンビニで仕入れた、飲み物とおやつ。
窓に映る景色を見ながら、たわいのないお喋り。
乗り気じゃなかったくせに。
乗り気じゃないふりをしていたくせに。
相変わらず素直になれない自分が、ちょっと悔しいけれど。
それを、見抜いてくれる、彼女が大好き。
- 186 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:14
-
「ほら、ここ。」
目の前にあるのは、大きな水溜まり。
一応、車が止められるスペースがあるけれど、車は一台も止まっていない。
完全貸し切りの、ここは…
「ねえ、ここって湖?沼?ダム?…何なの?」
「ダム、ではないやろ。ようわからんけど。
…ええやろ、人がいなくて。」
言いながら、車のエンジンを止める。
確かに閑散としているけれど、外はちょっとだけ寒い。
- 187 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:15
-
けれども、せっかく来たことだし。
そういって、二人で水辺まで近寄ってみる。
「…ほいっと。」
「うわっ!おいっっ!!危ないじゃん!!」
「何言うてん、お約束やろ。
まぁ、大丈夫や。落ちたら、すっぽんぽんになりぃ。
そしたら、車に乗せたるし。服も乾かせるし。」
「このエロ裕子っ!!」
最後の一声が、ものすごく響く。
それでも、誰もいない。誰も振り向かない。
二人だけの、とっておきの、空間。
…まあ、驚いたらしい鳥が、木々から数羽、飛び立ったけれど。
- 188 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:16
-
「なぁ、たばこ吸うて、えぇ?」
「いいよ。」
今は自分たち以外誰もいないけれど、誰かの訪問を望んでいるように
きちっと整備された駐車スペースがある。
そして、今二人で座っている、ベンチ。
「何で誰も来ないんだろうね。」
「…あんたが、誰もおらんとこ、って言うから…。」
元はと言えば、ここを選んだ理由は。
たばこを片手に、悲しみを込めた返答をしてしまった気がして。
あわてて付け加える。
「こんな、寒い、季節やし。」
「あ、ゴメン。そう言うんじゃなくてさぁ。
せっかく整備してあるのに、誰も知らなかったら来ないよなぁって。」
「でも、ウチらは来てるやん。」
「それはさ、これからも誰も来なかったら、ずっと貸し切り状態じゃん。
すごく嬉しいけどさ。…ちょっと寂しいよね、作った人は。」
- 189 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:17
- まだ、ずっと外に居られるような季節では決してない。
しかも、暖かい季節には一度も来たことがないから、ここがどのくらいの
人でにぎわうのか、自分だってわからない。
「どうやろ。あったかくなってから来たら、めっちゃ人居て、ウチらは
車から降りられへんかもな。」
「それもやだなー。」
なんや、わがままやなぁ。
ウチのお姫様は、何が言いたいんやろ。
短くなったたばこを、携帯灰皿にねじ込み、もう一本取り出して火を付ける。
体に悪いものなのに、とても清々しいような錯覚に襲われ、ついいつもと違う
周りの風景に目を凝らしてしまう。
「裕ちゃんと二人っきりのときには、誰もいなくなっちゃえ!って思うんだ。
こっぱずかしいけど、裕ちゃんには、ヤグチのことだけ見て欲しいし。
オイラも、裕ちゃんのコトだけを考えてたいんだけどね。
けど…。」
「けど、どした?」
- 190 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:17
- 「…うちらってさ、いっつも人に囲まれてるじゃん。
だからさ、人がいなかったらいないで、ちょっと不安になるんだよね。
時々、自分がひとりぼっちになっちゃう夢、みない?
オイラさ、最近よく見るんだよね。
メンバーも居なくなって、スタッフさんも居なくなって、ファンのみんなも
全然いないの。で、名前呼んでも、何にも返事がなくてさぁ。」
「…」
「誰もいなくなったら、自分たちのお仕事が成り立たないの、わかってる。
CD買ってくれる人がいなくなったら、それこそお終いじゃん。
あとは、一緒に作り上げてくれるスタッフさんがいてこそ、ウチらがやって
いけてるし、あとは…メンバーも。」
彼女の不安が徐々に理解できた。
原因は、なっちの卒業。
毎度のことだけど、卒業を祝う陰には、必ず不安がついて回る。
護っていく者の不安。
先に飛び出してしまった自分には、残されている彼女ほどの辛さが正直なところ
わかっているのかは、自分でもいまいちわからなくて歯痒い。
- 191 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:17
-
だから、たばこの火を消して、彼女の目をちゃんと見て。
「ごめんな、負担かけて。」
「…、あ、何も、こんな暗くなる話、するつもりじゃ、ゴメっ」
「ええやん、こんな誰もいないトコだからこそ、正直に話し。
周りの木が聞いてたりせぇへんはずやし。」
言ってやれる言葉は、何も見つからないから。
ただ、聞いてあげることしかできないけれど。
こんな自然の中だから、心を開ける時もある。
まつげを濡らしながらも、一生懸命心を語る彼女が、たまらなく、愛おしくて
普段には滅多にないくらい、優しく、やさしく、彼女を抱きしめる。
そして、彼女の、濡れたまぶたへ、そっと口づけ。
- 192 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:18
-
「なんで、そない夢見たとき、裕ちゃんの名前、呼んでくれへんの?
今度は、裕ちゃんの名前を呼びぃな。絶対に、ヤグチのこと、守ったるから。」
それから、彼女の口に、軽く口づけて。
「さ、寒くなってきたから、帰るで。」
照れ隠しにそんなことで誤魔化してみたり。
- 193 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:18
-
された方も、かなり恥ずかしくて。
でも、いつもの天の邪鬼をちょっとだけ脇に押しのけてみる。
こんな、誰もいないところだからこそ、ちゃんと言える。
「ここに連れてきてくれて、あんがとね。裕ちゃん。」
自分の顔が赤くなるのがはっきりとわかる。
こんな時に、夕日が差してたりなんかするといいんだけどなぁ。
現実はそんなにうまくいかないもんだ。
でも、たまにはいいか。
そして、二人は、またいつもの日常へと戻っていくのでした。
- 194 名前:非日常あるいは日常 投稿日:2004/02/19(木) 03:19
-
【おわり】
- 195 名前:いむすたん 投稿日:2004/02/19(木) 03:21
- いやはや。
いつも中途半端でごめんなさい。
なんだかどのくらい細かく描写していくのが適切なのか
どの目線で書いたらいいのか、わからなくなるのでした。
もっと、みなさんの良作を読んで、精進します。
お目汚し、失礼しました。
- 196 名前:いむすたん 投稿日:2004/03/02(火) 16:14
- あららら。
遂に市井紗耶香、結婚。
- 197 名前:ADULTERATION 投稿日:2004/03/02(火) 16:15
-
「後藤には、もう…会えないから。」
別れはあまりにも突然で。
でも、その別れは、ちょっとだけ予感できていた自分がいた。
- 198 名前:ADULTERATION 投稿日:2004/03/02(火) 16:15
-
気怠さが残る体を反転させながら、まだはっきりとしない頭に
響いてきたその声からは、何にも気持ちなんか読みとれなくて
さっきまで、少なくともさっきまで、かけてくれていた声は、
とても優しかった。そう思っていたけど。
こんなにボーっとしてても、言われた意味が理解できた。
そんだけ、アタシは、オトナになっていた、ってこと。
でも、こうやって自分の頭の中を巡る思考は、全く順番なんか
無視して、適当に彷徨っているだけなんだよね、なんて。
ちょっと客観視できちゃう、アタシは、オトナ。
- 199 名前:ADULTERATION 投稿日:2004/03/02(火) 16:16
-
「…ごめんね。」
謝るくらいなら、そんなことしなきゃいいのに。
って、何かの本だったか、ドラマだったかで、覚えた言葉。
でも、そんなことを言う前に、口を塞がれてしまったから。
- 200 名前:ADULTERATION 投稿日:2004/03/02(火) 16:16
-
ずっと、ずっと、優しい口唇。
その吐息を感じながら、無理して気持ちを殺していたんだなぁ
って実感できちゃって。
…市井ちゃんも。
…アタシも。
- 201 名前:ADULTERATION 投稿日:2004/03/02(火) 16:17
-
オトナになる階段を、全速力で昇らされてしまったアタシたちは
感情のコントロールとか、知らないうちに身に付いてて。
そう言っちゃえば、とってもかっこいいコトなんだろうけど。
それは、時に、「我慢する」っていう言葉に置き換えられちゃうモノ。
「結婚」は、ちょっとだけ、「我慢」とは違うかもしれない。
けど、結局これも、オトナへの階段。
- 202 名前:いむすたん 投稿日:2004/03/02(火) 16:17
-
市井ちゃんは、お酒が飲めるようになるのと同じような感覚で
オトナになっていく。
…オトナに、なっていく。
…オト、ナ、になっ、てい、く。
ホントは全然コドモなのに。
- 203 名前:ADULTERATION 投稿日:2004/03/02(火) 16:18
-
ホントは全然コドモなのに。
「…んっ、はぁ」
「…ご、とう」
だめだ、頭がクラクラする。
市井ちゃん、そんな所ばっかりオトナになっちゃって。
わざと苦しくさせるような息の継ぎ方も、全ての神経をいっぺんに
掠め取る舌の使い方も、アタシを虜にする、名前の呼び方も。
- 204 名前:ADULTERATION 投稿日:2004/03/02(火) 16:18
-
そして、アタシが抑えきれなくなったことを、都合のいい言い訳にして
今日何度目かわからない、またオトナの戯れ。
最後の、きっと最後の、戯れ。
「はっぁ、ん、ぁぁ、ぃいっ、いちー、ちゃん」
- 205 名前:ADULTERATION 投稿日:2004/03/02(火) 16:19
-
コドモ、生むんでしょ。
ホントは、結婚、するしかなかった?
アタシは、こうして市井ちゃんと一緒にいたかったなぁ。
ずっとコドモでいられたら、よかったね。
アタシたちは、コドモのようでオトナであり。
アタシたちは、オトナのようでコドモである。
まだまだ藻掻き、試行錯誤して。
結局オトナになっちゃうんだね。
それは、それで、寂しいね。
アタシたちは、オトナとコドモが混ぜ混ぜになった、不純物。
綺麗なオトナになりたいと願いながらも、コドモでいたいなんて。
- 206 名前:ADULTERATION 投稿日:2004/03/02(火) 16:19
-
【終わり】
- 207 名前:いむすたん 投稿日:2004/03/02(火) 16:24
- やってくれたぜ、市井紗耶香。
いや、オラは市井推し。_| ̄|○
だからドリカム型(あるいはglobe型)は嫌だったんだよっ!
やってくれるぜ、吉澤直樹。
また、いちごま小説は減っていくのね。
残念無念。
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/21(日) 07:44
- ごっちんの教育係は市井ちゃんだったから、
今のごっちんの基本は市井ちゃんだから、
市井ちゃんのほんとの子供もごっちんみたいになるのかな
なんかいいね、それ
- 209 名前:いむすたん 投稿日:2004/04/10(土) 00:44
- >208 名無飼育さん
市井紗耶香の子どもが、後藤みたいになったら
それはそれで面白い。
ある意味、遺伝を乗り越えて。ってコトだし。
…期待したいと思います。
もうすぐ、何か書きます。
お暇な人は読んで下さい。
- 210 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/28(水) 05:38
- 待ってます!!!
- 211 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/04(金) 02:01
- いつまでも
- 212 名前:いむすたん 投稿日:2004/06/13(日) 13:47
- >210 >211 名無飼育さん
こんな駄作ばっかの自分を待っていてくださって
ありがとうございます。
次の作品は、人が死にます。
暗いのがだめな方や、勝手に殺すな、という方は
ご遠慮ください。
- 213 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:49
-
ヤグチガシンダ。
- 214 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:49
-
丑三つ時の着信は、最悪な知らせだった。
風呂上がりに通販番組を見ながら、腹筋をしてる場合じゃなかった。
音がうるさいから、なんて、バイブにしてなきゃよかった。
2時間前に、矢口さんから明日の予定を確認するメールが届いてたのに…
それにさえ、そして訃報を知らせる着信にさえ、気付かなかった。
- 215 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:50
-
寝る直前に、アラームをセットしようとして気付いたときには、その事実に
どうすることもできなかった。
みんなから、次々連絡が来たけど、何を話したか、全く覚えてない。
気づいたら、日が昇っていた。眠ったかどうかさえ、あやふやなまま。
- 216 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:50
-
朝になって、みんなで矢口さんの家に行った。
いつだかの打ち上げみたいに、酔いつぶれて寝ているみたいだった。
「よっすぃ〜、もっと驚けよっ!」
なんて、キャハハっていっつもみたいに笑いながら、起きあがればいいな
と思ったけど、そんなことはなくて、やっぱり矢口さんは寝続けていた。
- 217 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:50
- だから、みんなが席を外した機会を狙って、矢口さんに口付けてみた。
何百年も眠り続けた姫も、毒入りの林檎を食べた姫も、王子様のキスで
目を覚まして、ハッピーエンド。
それが、いい。
- 218 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:51
-
でも、あんまりにも冷たくて、ありえないくらい唇が乾いていて。
あの暖かくて、瑞々しかった矢口さんは、そこにいなかった。
気付けば、自分の頬に伝う涙が、やけに、温かかった。
でも、悲しいのかどうかはわからなくて。
そこに佇んでいたら、梨華ちゃんが戻ってきて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
- 219 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:51
-
- 220 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:51
-
その3日後、矢口さんは煙と一緒に、真っ青な空へ上っていった。
すごく真っ白な骨を見て、矢口さんらしいや、とか独りで思っていた。
自分でも、どういう意味かよくわからない。
でも、牛乳嫌いでも、骨は真っ白なんだな。へんに感心した。
- 221 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:51
-
- 222 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:51
-
矢口さんは、突然死、だった。
詳しいコトは聞いたんだろうけど、あんまり覚えていない。
ただ、ラジオが終わって、次の打ち合わせをしている途中で、突然意識を
無くしたらしい。スタッフさんも慌てて救急車を呼んだらしいけど、それが
来たときには、もう呼吸も心臓もとっくに止まっていて。
そのまま、二度と帰ってこなかったって。
原因は、全く分かっていない。
解剖したのに、原因は見つからなかった。
- 223 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:52
-
矢口さんを救うことさえ出来なかった無能な医者たちの一人が、テレビで
コメントしていた。
「この年齢の人たちの中には、まれにこのように死ぬことがあるんです。
現代の医学では、まだまだ解決されていない原因があるんですね。」
分からないなら、わざわざ身体を切り刻むこともなかっただろうに。
どこまでも、失礼なヤツらだ。
この世にブラックジャックはいないのだろうか。
- 224 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:52
-
あんまり突然すぎて、何も反応できなかった。
泣くことも、怒ることも、当然、笑うことも。
そして、いなくなったという実感さえもないままに、また日常へと戻る。
- 225 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:53
-
でも、日常が大きく歪んでしまった感じがする。
本当にこれが、今までと同じなのかどうか、とっても疑わしい。
自分が、おかしくなってしまったのか。
あるいは、自分は違う世界に来てしまったのではないかと思うくらい。
いや。
自分は不思議なくらい、何も変わっていない。
メンバーみんなが心労を患っている中、非情なくらい、何も変わらない。
変わったのは、環境。
一緒にいた人の、大好きな声が聞こえない。
ただ、それだけだと思う。
- 226 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:53
-
あれから3年が過ぎた。
辻加護の卒業、そして飯田さん、梨華ちゃんと卒業が決まっていたけど
次期リーダーを失ったグループは、自然に解体されることになり、今や
みんなそれぞれ多方面で活躍を見せている。
人は失ってみて気付くことがある、と思う。
その人の良さや、その人に対する感情や。近すぎて見えなかったもの。
勝手に距離を作って、見えなくなっていたもの。
- 227 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:54
-
ふと、矢口さんを思い出すときがある。
メンバーと会ったとき、瓶入りの牛乳を見たとき、キスをしたとき。
これから先、結婚したり恋人が出来ても、唇が触れたときには、永遠に
矢口さんがフラッシュバックするのだろう。
これを、心の浮気と言うなら、言わせておこう。
失ったものは、何よりも強く、心に残るものだと、そう、思う。
それを振り切ることが、必ずしも良い事だとは思わない。
- 228 名前:loss of love 投稿日:2004/06/13(日) 13:54
-
【了】
- 229 名前:いむすたん 投稿日:2004/06/13(日) 13:56
-
【後記】
若くして亡くなった友達の誕生日が、今年も巡ってきました。
ただ、それだけです。
それだけなのに、こんな暗くて意味の分からないものを書いて
ごめんなさい。次は、ちょっとは明るいものを書きます。
- 230 名前:いむすたん 投稿日:2004/06/13(日) 13:58
-
*注意*
上のお話は暗いし、勝手に人を亡き者にしているので
そのようなお話が嫌いな方は、ご遠慮ください。
- 231 名前:211 投稿日:2004/06/25(金) 08:34
- 心に来ました
こうして忘れないでいてくれる友人がいてくれるのは
故人の方も喜ばれていると思います
これからも期待しております
- 232 名前:いむすたん 投稿日:2004/08/29(日) 23:56
-
>231 211さん
感想ありがとうごさいます。
最近の娘。は動きが激しくてなんだか切ないです。
で、自分の根底は、やっぱ、いちごま(w
- 233 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/08/29(日) 23:58
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かりんとう。お茶。
そんな食べ物をかつても好んで食べてたんだっけ?
時間の流れを遡ってみても、なかなかたどり着けないし。
でも、確実に。
なかなか思い出せないっていう現実が、時間が進んでいることを
実感させるってことには違いなくて。
- 234 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/08/29(日) 23:58
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床に寝そべって古い映画に見入っている友達は、かつての先輩で。
いまも、年齢的には…そう言ってしまえば一生先輩には違いないけど。
いつの間にやら、先輩とか後輩とかいう線を越えて。
ただの、友達。
友達って呼ぶには結構躊躇して、おこがましい気もして。
ずっとこの関係をなんていうのか迷っていたけど。
かつての同僚?
会社っぽくて、絶対嫌だぁ。
だから、結局『友達』に落ち着いた感じ。
- 235 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/08/29(日) 23:58
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「やっぱ、連休があるっていいよなぁ。」
映画にも飽きてきたらしく、伸びをしながらこちらを振りむいて
かりんとうの袋を差し出しながら、こんなことを言う。
ものすごく忙しい、立ち止まることさえ儘ならない世界から抜け出し
『女の幸せ』(?)まで手に入れて、何をいまさら。
「もう、ずっとロングバケーションじゃん。」
「なんだ、後藤。英語知ってんじゃん。」
「…もう、馬鹿にして…」
「いや、そういうわけじゃなくて。ってか、主婦って結構忙しいもん
なんだよ。あんまりのんびりもしてらんないわけよ。子供もいるし。」
- 236 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/08/29(日) 23:59
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そうなんだよね。
あっという間に環境は変わっちゃって。
前みたいに頻繁に会うわけにも、遊ぶわけにもいかなくなっちゃって。
でも、今日みたいにたま〜に会えれば、それはまるで昔に返ったよう。
本当にそんなんで主婦してんの?って疑っちゃうくらい。
- 237 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/08/29(日) 23:59
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いちいちゃん。
いちいちゃん、なんだよね。
どうしても昔の面影を追いかけてみたり、そんな感じになっちゃうのは
いちいちゃんがあまりにも『いちいちゃん』すぎるからで。
わけが分からなくなったときに、わけが分からないことを言い出すから
更にわけが分からなくなっちゃうのは、自分が成長できてないの?
- 238 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/08/30(月) 00:00
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「だからさ、後藤も次の仕事は連休取れるのにした方がいいよ?」
だから、って何?訳が分からないよぅ。
とりあえず。
「…うん。そうだよね。」
うなずいておこっ。
- 239 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/08/30(月) 00:00
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【たぶん 続】
- 240 名前:211 投稿日:2004/09/09(木) 17:41
- いちごまのまったり感は堪らないですね
続きまってます
- 241 名前:いむすたん 投稿日:2004/09/10(金) 02:17
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お久しぶりです。
最近、全体的に更新が滞ってるようですね。
寂しくなりました。
>>211さん
いちごま、もう想像に難くなりましたけど。
自分は大好きです。
そして、こんな作品にレスをくれるあなたが大好きです(w
では、続きっす。
- 242 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:18
-
でも実際。
こうして話していても、『次の仕事』なんて想像もつかないし。
想像したいとも思わない。
友達から連絡が来ても遊べないことが多くて。
そのうち、友達からの誘いもだんだんに減っていって。
ちょっと寂しいな〜なんて、思ってる暇もなくなって。
- 243 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:18
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『トモダチ』ってどんなんだっけ?
ちょっとわかんないのは、自分だけ?
って不安になっちゃうの。
きっと、いちいちゃんは忘れちゃったのかもしれない。
そんな気持ちとか、そんな状態とか。
それも、ちょっと寂しいよね。
- 244 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:18
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そんな思いに浸っていると、突然の着メロ。
自分のじゃない。流行の曲?っぽい。
横でごそごそポケットをかばんをまさぐっているのは、いちいちゃん。
「……電話?出ていいよ??」
「いんや、メールだよ、この着メロ。誰だろ?」
パカっと携帯を開いて中をちょっと確認した後、すぐまたパカっと音を
立てて携帯を閉じているけど。
- 245 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:19
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「返さなくていいの?」
「友達からだし、いいでしょ。あとで返すよ。」
「え〜、返せば?」
そう言いながら、心の中では結構うれしいんだよね。
これって、やっぱり天邪鬼?
二人っきりのときに携帯を頻繁にいじられることほど、悲しいこと
ってないし、自分の知らない誰かに、いちいちゃんを持っていかれる
ような気がして、かなり、やだ。
- 246 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:19
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いちいちゃんは、自分といるときくらい、自分のもの。
もう、自分だけのものじゃないことくらい分かってる。
独占欲が強いのは、分かってる。
分かってるけど…
分かって欲しいのは、この気持ち。
「ねえ、」
「ん?何??」
かりんとうをポリポリ砕きながら、いちいちゃんは答える。
- 247 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:19
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「ごとーのメールもさ、そうやってトモダチといるときはシカト?」
「そんなことはないけど…。なんでさ、最近はちゃんと返してるじゃ
ない。あとは、家でバイブにしてっから気付かないこともあるけど。」
なんて言ってお茶をすすってるけど。
きっと、絶対、そうなんだ。
誰かといるときは、滅多に返してくれないんだ。
ちょっとだけ、自己中すぎない?
自分だけ、だったらかなりうれしいんだけど、そうじゃないって。
淋しすぎるよ。
- 248 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:20
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しかも。
自分が暇だとこっちが返信しなくても、2,3通入ってるときもあるし。
こっちがたまに送っても、返事が12時間以上経過してたりして。
メールしたほうとしては、ずっと。
返ってくるの待ってるんだよ?
返事が欲しいからメールしてるんだもん。
わかんないのかなぁ。
異世界で生活してるって、思いっきり距離を感じちゃって。
こんなに近くにいても、もう、近くにいない感じ。
じっと見つめても、気持ちは伝わらないのかな。
- 249 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:20
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「ってか、後藤はさ、仕事の合間に打つことが多いでしょ?だからさ、
返信しても戻ってこないこと、多いからね。」
「…それって、返事くれない理由?」
「そうじゃないけどさ、仕事の邪魔かな〜、とかさ。」
「お友達だって、用事があって送ってきてるんじゃない?」
「別に、たいした内容じゃないし。急ぎだったら電話くるでしょ。」
確かにね。
メールが出来るようになってから、電話って回数減ったし。
本当に面倒な用事とか、急いでるときはかけるけど。
- 250 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:20
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電話って、ただ単に気を遣っちゃうからっていうのもあるんだよね。
相手がさ、何してるかわかんないから。
ちょっとだけ、申し訳ない気もして。
メールだったら、都合のいいときに返事がもらえるもんね。
…でも、やっぱりすぐに返事が欲しいときもあるんだよ?
……寂しくて。
………誰かにくだらないことでも聞いて欲しいときってあるんだよ?
- 251 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:20
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ちょっと落ち込んでた感じが伝わっちゃったのか、いちいちゃんは
困ったような顔をして、ぼそぼそと言い訳を重ねてる。
「そういえば前ってさ、電話なんて友達の家電とかさ、絶対知ってた
のに、今じゃ全然知らないしね。」
「…うちは知ってるじゃん。」
「いや、それはあんたの携帯がつながらないことがあるからでしょが。
電話って、本当に使わなくなったなって思って。メールってちょっと
くだんないことでも、ちょっと言いにくいことでも楽なんだよね。」
「でも、返事来なきゃ、届いてるかわかんないよ?」
まいったな〜、っていちいちゃん。
ドツボにはまったような顔をして、頭をポリポリかいちゃって。
- 252 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:21
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でもね。
言ってることはわかるよ。
言いにくいことは、メールなら言える。
「でもさ〜、思うんだけど…」
「何?返事くれない理由?」
「あー、違うって。メールってさ、ちょっと気軽過ぎて、言葉も軽い
感じがするんだよな〜って。」
例えば、ごめん。とか。
言いにくいのは分かるんだけど、できれば声で聞きたいよね。
何が違うんだろうね、おんなじ言葉なのにさ。
自分自身に問いかけるように、いちいちゃんは言う。
- 253 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:21
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だったら、こんな言葉、メールしたら重くなくて済むのかな?
自分の携帯を取り出し、履歴からアドレスを引っ張り出して本文も打つ。
「なんだよ〜。一緒にいるのに、メールとかするなよ〜。」
ごめんね、いちいちゃん。
ちょっと思い出したことあるんだ。
- 254 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:23
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本文にほんのわずか言葉を表示して。
でも、やっぱり送信まではたどり着かなくて。
「クリア」を押して、全てをなかったことにしちゃった。
そして、「切」」を押して、電源も落とす。
やっぱり、無理。
「メールでも、言えないことなんていっぱいあるよ?」
「そうかぁ??そんなもんかね。ま、電話よりは楽っしょ?」
「わかんないよ。」
そう答えて、携帯をベッドの上に放り投げる。
- 255 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:23
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携帯から、自分の口から、もう絶対に届くことのない言葉。
届けたくても、宛先人不明で戻ってきちゃう。
『愛してる』
もう、言えない。
もう、届かない。
from、ごとー。
to、いちいちゃん。
電源と一緒にこんな気持ちも消えちゃえばいいのになぁ。
横で無邪気にテレビに視線を戻している友達に。
小さく、溜め息。
- 256 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:24
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【中途半端感で 了】
- 257 名前:HARD TO SAY 投稿日:2004/09/10(金) 02:25
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そんなわけで、いちごまでした。
市井の近況すらわからないのに、こんなの書くなよ
っていう突っ込みはお受けかねます。
あしからず。
ではまた。
- 258 名前:211 投稿日:2004/09/13(月) 18:28
- そんなそんな(照
しかしいちごまに限らず、ごま関係のCPは想像しにくくなりましたね
娘との絡みもTVではほとんど無いし
でもだからこそここのスレには頑張って欲しいです
これからも期待しております
長々と申し訳ないです
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