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いしよしハッピー計画
- 1 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)18時47分59秒
- いしよしオンリーものを短編&やや長編、織り交ぜて書いていこうと思っています。
ほとんどが「甘」ベースで、ハッピーエンドものしか書きませんので、
甘が好きな方は是非お運びください。
設定は高校生の2人が多くなると思います。
- 2 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)18時55分56秒
- さて、これからUPしようと思っていたのですが・・・。
すみません、時間がなくなってしまいました(涙)
でも2時間後くらいには再び帰ってこれそうなので、
それまでしばしお待ちください。
申し訳ございません・・・(涙)
一応『サクラサク。』スレからの移行となっておりますので、
そちらの方も、念のため繋いでおきます。
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/moon/1044900091/l50
- 3 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時19分56秒
『期待』
教室の扉をドキドキしながら開ける私。
「おはよー。あれ、梨華ちゃん?」
私のことを見つけて最初に来てくれたのは、柴ちゃんだった。
「おはよ。」
「へぇ、髪切ったんだ。かわいいねー。」
「えへへ。ありがと。」
期待していた通りの言葉。
心弾ませて扉を開けたのは、この言葉が聞きたかったから。
切りたての髪を披露する日は、ちょっぴり浮かれた気分で。
なんと言っても、みんなからかわいいねと声をかけてもらえる、特別な日だから。
女の子にとってこれほど嬉しい言葉はない。
ちょっとしたお姫様気分を味わえる瞬間。
- 4 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時20分46秒
- 「おっはよー。あーっ、梨華ちゃん髪切ったんだ。」
「おはよう。うん。ちょっと切りすぎたかも。」
「ううん。すっごくかわいいね。どこの美容室行ったの?」
教室に入ってくる友達は、みんなそうやって声をかけてくれた。
それでなんとなく私の周りに友達が集まって、楽しくおしゃべりをしていたところ。
「おはよー。」
その声を聞いた瞬間ドキドキが音を立てた。
私が一番気になっていたのは彼女がかけてくれるはずの言葉。
いつものように眠そうな顔で教室に入ってきたその人が、
私の前を通り過ぎようとしている。
「おはよう、よっすぃー。」
「うぃー。おはよ。」
友達の頭の隙間から一瞬だけ合った視線。
よっすぃーもかわいいって言ってくれるかな?
期待に弾む胸はやはり抑えようがない。
しかし・・・。
彼女は特に何も言わないままで、自分の机へと向かっていってしまった。
髪を切ったことに気付かなかったのだろうか・・・。
- 5 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時23分03秒
- 「でね、カラーリングをしてもらおうと思って・・・」
柴ちゃんの話し声を片耳で聞きながら、私はよっすぃーの
席の方をずっと見ていた。
彼女はカバンを机の横にかけると、ぐたっとして突っ伏していただけ。
こちらを見てくれる気配は、悲しいかな一向に感じられない。
私のことには興味がないのかな・・・。
一番声をかけてもらいたかった人のつれない態度に、気持ちはどんどん沈んでいった。
一言くらい声をかけてくれてもよさそうなものなのに・・・。
それからほどなく先生がきてしまって、結局よっすぃーとは
何も話せないままで授業が始まった。
そしてお昼休み。
よっすぃーと加護ちゃん、村っち、みきてぃ、柴ちゃん、そして私を
入れた6人が、机をあわせてのランチタイム。
ちょうど対角線上にいるよっすぃーと私とは、ちょっと離れてしまって
いるから、どうしてもすぐ隣にいる柴ちゃんと話し込んでしまう。
よっすぃーは隣の加護ちゃんと、おかずを取り合いながら、
楽しそうにお弁当を食べている。
- 6 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時24分10秒
- ふざけているのに夢中で、ちっともこちらを見てはくれない。
それはいつものことなんだけど、せめて今日ぐらいは
私のこと見てくれてもよさそうなのに。
「それにしても随分思い切って髪切ったね。」
村っちが私のことを見て、そう言った。
「うん。これから暑くなるし、気分転換にちょうどいいかなって思って。」
背中まであった髪を肩の位置まで切るのは、ここ数年なかったこと。
身も心も軽やかに、すがすがしい気分でこれからくる夏を
迎えようとしていたのに。
たった一人、その人の言葉が足りないだけで・・・。
ちらりとよっすぃーを見てしまった。
来週にせまった衣替えを前にして、じとっと感じる空気は、
冬服を着ているせいだけではないのかもしれなかった。
お昼を済ませると、各自思い思いに時間を過ごしていた。
ファッション雑誌を広げていたり、携帯のメールを打っていたり、
他のクラスの子と話していたり。
そして私は今度こそしっかりと、よっすぃーに視線を移した。
- 7 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時25分18秒
- 気になる彼女が何をしているかと言うと、また例の如く加護ちゃんとふざけあっている。
この2人は何かと仲がよくて、抱きしめあってキスをする真似事をしてみたり、
かと思ったら女の子なのにプロレスみたいな技をかけあったりと、
まるで小学生のようなじゃれあいをいつもしている。
「んっ?梨華ちゃんも仲間に入れて欲しいの?」
髪を見てもらいたくてそれとなく近づいた私に、
加護ちゃんを羽交い絞めにしながら、よっすぃーは笑ってそう言った。
その前に何か言うことあるんじゃない?
しかし、そんなことには到底気付いてくれそうもない彼女の態度に、
思わずため息をついてしまった。
「・・・いいよ、別に。」
「ぐぅぅぅぅ・・・。よっすぃー絞めすぎや・・・。梨華ちゃんタッチ!」
苦しそうに伸ばした手が、私の肩に触れた。
「もうギブかよ。根性ねーなー。おしっ。次は梨華ちゃんだな。」
にやりとした笑顔を浮かべると、私をつかまえようと腕を伸ばしてきた。
それに即座に反応した私。
こんなところで抱きつかれたりでもしたら・・・。
どうなってしまうのか自分でも想像できなかったから、迷うことなく逃げることにした。
- 8 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時26分02秒
- だけど、そこは運動神経バツグンのよっすぃー。
駆け出そうとした私をいとも簡単に捕まえると、
私はあっと言う間に腕の中に抱きしめられていた。
背中にぴったりと感じるよっすぃーの体。
ふざけているだけだとわかっているのに、私の胸はドキドキが止まらない。
カーッと熱くなっていく体温をひしひしと感じながら、
気持ちが爆発しないように、精一杯の理性を働かせた。
まさかこんな風によっすぃーに抱きしめられることになるなんて・・・。
もちろん彼女にしてみたら、相手が加護ちゃんから私にかわった
だけのこと。
特に何の感情もないのだ。
それなのに意識しているのは私だけで、それがなんだか悔しく思えた。
「もぅ。ふざけないでよ。」
「いいじゃん、本当は梨華ちゃんも遊んで欲しかったんじゃないの?」
ケラケラと笑いながら、更にぎゅっと強く抱きしめてくる。
- 9 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時26分56秒
- 「なんやよっすぃー。それってただ抱きしめてるだけやん!
うちの時とは全然ちゃうやんかー!」
顔のほてりがまた急上昇していく。
言われてみると、さっきまで加護ちゃんにかけていた技とは違って、
ただ抱きしめられているだけのような気がしてきたから。
もしかして?なんて錯覚をしてしまうのは、
こちらの都合のいい考えだろうけど。
「いいの。梨華ちゃんは加護と違って丈夫にできてないから。」
「えーっ。梨華ちゃんは特別扱いなん?なんか差つけられてるやん、うち。」
「いちいち加護はうるせぇな。」
「なんか腹立つなぁ。こうなったらうちも参戦するでー!」
加護ちゃんはそう言って、私に抱きついてきた。
2人から抱きしめられて、私はあっぷあっぷしている。
「あのねー2人とも!」
「おっ!梨華ちゃんついに反撃か?」
よっすぃーの声が耳に響く。
「うちも負けへんでー!どうや梨華ちゃん参ったかー。」
首にぶら下がるように彼女はくっついてくる。
- 10 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時28分04秒
- 「おい加護!梨華ちゃん嫌がってんじゃん。」
「なんやそれ。よっすぃーだけの梨華ちゃんちゃうやろー。」
「・・・いや、だから・・・2人とも・・・」
「あたしだけの梨華ちゃんだもん。ねー。そうだよね?」
それはほんの冗談のつもりだったのだろうけど、
私は思わずまた頬を染めてしまった。
「あー!梨華ちゃん顔赤いで?もしかしてシャレになってへんのんちゃう?」
すぐ目の前にぶら下がっている加護ちゃんに、赤面をしっかりと見られてしまった。
どうやって言い訳したらいいのだろう・・・。
だけど、咄嗟に言い訳なんて浮かばないものだから、
ただあせった口調で否定するに留まった。
「そっ、そんなことないよ・・・。そんなこと、ない、ないっ。」
「梨華ちゃん、何あせってんの?」
何も知らない加護ちゃんは、もっとからかってやろうとばかりに
私の顔を覗き込む。
「もー。加護ちゃん!」
「ははーん。わかった。さては梨華ちゃん、あたしのこと好きなんだ。」
それに便乗するように、悪乗りしてきたよっすぃー。
- 11 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時29分02秒
- ズキッと痛む胸は、真相を言い当てられてしまったからだったけど、
実際のところ彼女は、何もわかっていないのだ。
この軽いノリが何よりの証拠。
それなのに、ドキドキは止められそうもなかった。
「おぉ。梨華ちゃんますます顔赤なってんでー。」
完全に2人のおもちゃと化してしまった私。
この状況を楽しむ余裕は、さすがに私にはない。
「加護ちゃん、からかわないでよ。ホントそんなんじゃないんだからっ。」
心とは逆の言葉で否定した。
こんなところで本当の気持ちを知られてしまう訳にはいかない。
それこそ冗談として片付けられてしまうのがオチだから。
もっとも、みんながいるこんな場所で告白なんてしようとは思わないけど。
「あーぁー。よっすぃー振られてしもたなぁー。」
「ぐぁ・・・振られちゃったか・・・。」
「・・・はぁ?」
私がよっすぃーを振った?
それって、一体どういう意味なんだろう・・・。
いや、まともに考えるのは危険なこと。
きっとまたふざけているだけに違いないのだ。
- 12 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時29分50秒
- そう決めてかかっている気持ちとは裏腹に、
ちょっぴり期待してしまう気持ちもない訳ではなかった。
だけど、どこまでが冗談でどこからが本気なのか。
そんなことは私にわかるはずもなく。
本気の言葉なんて実際にはないのかもしれないけど・・・。
訳がわからないままでいる私から、2人は同時に手を離してしまった。
突然圧迫感がなくなった体。
怒涛の攻撃が止んで、ほっとしたような、気が抜けたような・・・。
しかし、まだ攻撃は終わった訳ではなかったのだ。
「なーんて。油断させておいて・・・」
よっすぃーはぼーっとしていた私のことを振り向かせて、
唇を近づけてきた。
「ちょ・・・ちょっと・・・今度は、なに・・・」
「なにって。キスしようよ。」
キス!?
もう完全にパニくってしまった私は、固まったまま動けないでいた。
- 13 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時30分43秒
あと数ミリ。
よっすぃーの唇はもうくっつきそうな位置にまできていた。
このままでいると、本当にキスをしてしまうことになる。
だけど。
「なーんて。驚いた?」
一転してクスクスと笑った顔が、目に映った。
その時の私は・・・。
「よっすぃーちょっとやりすぎやで。梨華ちゃんの顔見てみ。」
確認するように覗き込んだ彼女の瞳を、私は精一杯睨みつけていた。
ふざけてこんなことするなんて・・・。
私は加護ちゃんとは違う。
「あ・・・。ごめん。悪ふざけが過ぎた・・・かな・・・。」
「・・・ひどい。ひどいよ、こんなの!」
からかわれているだけだって、悪ふざけだってことは
どこかでちゃんとわかっていたのに。
けれど、いつのまにか期待していた自分がそこにいたのだ。
そんな自分が腹立たしくて、情けなくて。
冗談として受け止められることなど、やはりできるはずはなかった。
「あっ!梨華ちゃん!」
よっすぃーが呼び止める声も聞かずに、私は教室を飛び出していた。
- 14 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時31分27秒
絶対泣かない。泣いたら負けだ。
そう言い聞かせていたけど、やはり出てくる涙をとめることはできなかった。
よっすぃーは何もわかってなどいない。
私がどれほど彼女のことを想っているのかを。
走り抜けてたどり着いた先は、誰も来ることはない体育館の裏。
「・・・っく。・・・ひっく・・・」
膝を抱えてしゃがみこむと、思い切り泣いてしまった。
ふざけてあんなことができるなんて。
私もまた加護ちゃんと同列だったのだ。
彼女にとって私は特別な存在などではなく、
つまりは友達としての気持ちしかもってくれてなかったということに。
現実を嫌というほど思い知らされてしまった。
もちろん、期待など最初からしていなかった。
だけど今、彼女の気持ちを知ってしまって、
落ち込んでいる自分がいる。
もう1%の望みもないという悲しい思いが、頬を伝って流れ落ちていった。
- 15 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時32分13秒
あの時にちゃんと認めていればよかった。
髪型を変えても何も言ってくれなかった彼女の無言の言葉を。
よっすぃーは私のことには興味がないという事実を。
「失恋する前に髪を切っちゃうなんて・・・。」
タイミングの悪さに笑うこともできないでいる。
私はこれからどうしたらいいのだろう・・・。
しかし、今はまだ何も考えられなかった。
いや、考えたくなかったのだ。よっすぃーを諦めなければならないこれからのことを。
涙がポタポタとスカートに染み込んでいく。
冬服の濃い紺色のそれが、もっと重たく感じてしまうほどに。
「・・うっく・・・・。失恋・・・しちゃったんだ・・・。」
ぎゅっと膝に顔を押し当てて、更に勢いよく泣いてしまった。
全て忘れてしまえるように、思い切り泣きたかったのだ。
自分の泣き声だけが頭の中に響いていく。
誰も来ることのないこの場所で。
- 16 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時33分51秒
だけどそんな時、こちらに向かって走ってくる誰かの足音が聞こえてきた。
こんな場所に一体誰が・・・。
息を鎮めて耳をそばだてる。
そして一度立ち止まると、呼吸を整えながらゆっくりと歩く音に変わった。
地面を擦るように歩くその足音。
私にはそれが誰のものであるのかがわかってしまった。
間違えるはずもない。それはずっと好きだったよっすぃーの足音なのだから。
「はぁーっ・・・探したよ。」
ぽすっと隣にしゃがみこんだ彼女。
だけど私は顔をあげなかった。泣いている惨めな姿なんて
見られたくなかったから。
わざわざこんなところまで追いかけてきてくれたのは、
正直嬉しかったけど、今はまだ一人でいたい。
失恋した相手に慰められるなんて、それこそシャレにもならないから。
「・・・誰も探してなんて言ってないじゃない。」
自分でもかわいくないと思う言葉だったけど、よっすぃーを諦めるには
いいチャンスだと思った。
「怒ってる?・・・怒ってるよね・・・」
「怒ってるわよ。当然でしょ。」
「・・・ごめん。」
「もういいから。一人にさせてよ。」
- 17 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時35分03秒
- はぁーっと大きくため息をついてしまった。
わざわざ傷口に塩を塗るようなことを聞かされてしまって。
やっぱり私は加護ちゃんと同じだったのだ。
軽いノリで抱きしめたり、キスをしそうになったり。
ふざける相手が一人増えただけのことだったのだ。
なんでこんな人のこと好きになってしまったんだろう。
鈍感でちっとも気持ちに気付いてくれない、こんな人のことを。
そう思うと、なんだか泣いてるのがバカらしくなってきた。
同じ土俵にすら上がっていないことが、身に染みてわかったから。
「はーっ!やめやめ!もう帰ろう。」
たった今まであふれていた涙は見事に止まり、
そのままの勢いで立ち上がると、よっすぃーを置いて歩きだした。
「なんなんだ、一体?」
訳がわからないとでも言いたげな声が後ろから聞こえてきた。
「もういいんだ。ぜーんぶ終わった話だから。」
半ばヤケ気味に言い放った私。
- 18 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時35分56秒
- けれど、スタスタと歩いていく私の前を遮るように、よっすぃーが立ちふさがった。
「何が終わったの?話、全然見えないんだけど。」
「見えなくていいの。よっすぃーにはこれっぽっちも関係のない話だから。」
目の前にいる彼女を手でよけると、また歩き出した。
「ねぇ、あたしのことまだ怒ってるんでしょ。そのことなんでしょ。」
「もう怒ってなんてないよ。気にしなくていいから。」
「うそだ。ならどうしてあたしのこと避けるのさ。」
腕をつかんで止められてしまった。
「本当のこと言ってよ。じゃないと納得できない。」
「本当のこと?」
「なんでそこまで怒る必要があるのか。あたしにはやっぱりわかんないから。」
「わかんない?なら教えてあげるわ。」
「・・・うん。」
「好きだった人がふざけてキスしようとしたから。
よっすぃーが私のことを友達としてしか見てくれてないってことがわかったから。
これでいい?」
つかまれていた腕を解くと、ずんずんと歩いていった。
- 19 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時36分52秒
- これできれいさっぱり忘れることができるだろう。
失恋の痛みも、もしかしたら感じることなく立ち直ることができるかもしれない。
今の私に必要なのは、感傷にひたる涙ではなく、
明日からも笑っていられるポジティブな勢いだけ。
「ちょっと、待ってよ。」
「まだ何か聞きたいことでもあるの?」
振り返ってよっすぃーを見ると、まるででくの坊のように突っ立っている姿が見えた。
「あの・・さ・・。今のマジ?」
「今更うそ言っても仕方ないでしょ。」
「いや、そういうことじゃなくって・・・。」
はっきりしない態度に腕を組んでじっと見ていた。
「慰めの言葉なんていらないから。きっぱり諦めたから気にしないで。」
「・・・すげー一方的、梨華ちゃんて。」
「だって、よっすぃーは私のことなんとも思ってないんでしょ。
それならさっさと諦めた方がいいじゃない。」
「う・・・。」
「友達以上の気持ち、よっすぃーにはないんでしょ?」
「まぁ・・・そうかな。」
- 20 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時37分50秒
- もう充分すぎるほどわかっていたのに、
改めてその言葉を聞かされると、正直ヘコんでしまった。
思った風にいかないのは、よっすぃーの気持ちだけでなく、
私自身の気持ちもそうであったのだ。
ずきずきと疼きだす胸の痛みに気付かないように、
虚勢をはっていただけなのかもしれない。
そのことに気付かされてしまったから、今すぐこの場を去りたかった。
また涙があふれてくる前に。
「先、帰るね。」
ぐっと溢れてきそうになるそれをなんとか我慢して、
私はまた歩き出そうとした。
だけど。
「まだ、話終わってないんだけど。」
掴まれた手首に視線を落とした。
「・・・なに?」
「確かに梨華ちゃんに友達以上の気持ちなんてもってなかったよ。
まさかあたしのこと、好きでいてくれてるなんて思ってなかったし。」
「・・・・・・・・・。」
「だけど、なんか変なんだ。」
「・・・変?」
「梨華ちゃんが教室を飛び出していった時、すごく胸が痛くなって。
やっとの思いで見つけることができてホッとした。
だけどまた置いていかれるのが、その・・・なんか・・・。」
- 21 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時38分37秒
- 「・・・何が言いたいの?」
「わかんない。わかんないんだけど・・・。」
よっすぃーはぎゅっと唇をかみ締めると、そのまま黙り込んでしまった。
そんな彼女の姿を見て、私は一歩だけ近づいた。
「私にもわからないよ。よっすぃーが何を言いたいのか。」
「・・・うん。あたしもよくわかんない。だけど、これだけは言えるかな・・・。」
彼女は私の目をじっと見つめてこう言った。
「梨華ちゃんと加護とは違うかもしれない。なんとなくだけど、そう思う。」
ぐっと胸に迫ってくる思いは、『未練』と呼ぶものなのだろうか。
思い切って捨てたはずの感情が、情けないことにまた
ふつふつと湧き上がってくるのを感じていた。
「・・・せっかく諦めようと思っていたのに。そんなこと聞かされると、
また私、しなくてもいい期待しちゃうから・・・。」
「あのさ・・・梨華ちゃん・・・。」
「なに・・・」
「もうちょっとあたしに時間をくれない?
一方的に決めないでさ。あたしにも考える時間欲しいんだけど。」
苦笑いを浮かべた顔が、目に映った。
- 22 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時39分23秒
- それで私もやっと気付くことができたのだ。
あまりにも自分の気持ちを一方的に噴出してしまったことを。
勝手に好きになって、勝手に失恋して。
これでは一人相撲もいいところ。
相手の気持ちを何も考えないで行動していた自分が、
なんだか恥ずかしく、稚拙に思えてきた。
「・・・そうよね。ごめん。勝手過ぎたよね、私。」
「あはは。まぁいいんだけどね。梨華ちゃんてか弱く見えて、
本当はすっごいパワーがあるんだって、感心したぐらいだから。」
「うぅ・・・。」
「意外な一面が見れてよかったかも。」
「・・・なにそれ。からかってるの?」
「まっさかー。これでも一応褒めてるんだけど?」
クシャッと笑った笑顔で私の髪に触れた。
「そうそう。梨華ちゃん、髪切ったんだよね。」
「うん、まぁ。」
「似合ってんじゃん。かわいいよ。」
- 23 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時40分20秒
- 皮肉にも、一番聞きたかった人の『かわいい』という言葉を、
今になってやっと聞くことができた。
だけど、これって喜んでいいのか微妙な感じ。
「遅いよ、今頃。今までなーんにも言ってくれなかったのに。」
だからちょっぴりむくれてそう言ってみた。
そんな風に言える自分が、とても不思議に思えたけど。
それはきっと、今だから言える言葉なのだと思った。
あの時、もしそう言ってもらっていたとしても、
きっと『ありがとう』なんて、ありきたりの事しか言えなかったと思うから。
怪我の功名とはよく言うけれど、はっきりと自分の気持ちを打ち明けた
ことで、私はもっとよっすぃーに近づけた気がした。
「あーぁ。なんだよ、かわいいって言ってやってるのに。」
「押し付けがましー。」
「クスッ。だって梨華ちゃんあたしに惚れてんでしょ?」
明らかににやけた表情を見て、私は頬を染めた。
「うっさいわね。惚れちゃ悪いの?」
「あ。逆ギレじゃん、それ。」
頭を抱えるようにして、私を引き寄せた。
それはとても自然に、且つ押し付けがましくなく。
瞬間、ドキッとしたけれど、それはとても居心地のいい感触だった。
- 24 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時41分29秒
- 「あー。なんか楽しいな、こういうのって。」
「ひとごとっぽい言い方よね、それって。」
「そうかな?そんなつもりはないけれど。梨華ちゃんは楽しくない?」
「・・・・・。楽しいかな・・・。ちょっとだけ。」
「ははっおもしれー。梨華ちゃんとは合うかもしれないな。」
「またそんな軽いノリでー。」
「ホントだよ?だってさ、めっちゃ笑顔じゃない?あたしの顔。」
見上げてみると、確かに彼女は笑顔でいた。
その大きな瞳をめいっぱい緩めて。
「はぁーっ。よっすぃーのおもちゃになっちゃうのかな、私も。」
「いいんじゃない、それも。」
「またぁー・・・。すっごい無責任よね。もーっ。私の気持ち返してっ!」
「それはできないな。一度もらったものは返さない主義だから。」
おかしげに笑う声が聞こえたけど、一転してそのトーンが下がった。
「やっぱり違うよ。梨華ちゃんと加護は。」
「そう・・・なの?」
「うん、確信した。だってさ、加護にはこんな気持ち、感じなかったもん。」
「どんな気持ち?」
- 25 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時43分22秒
- 「うーん。なんてんだろ。こう、ドキドキ、ワクワクする感じかな。」
「調子いいー。よっすぃーって。」
本当は嬉しくて仕方なかったけど、あまりにも照れてしまって、
つい減らず口をたたいてしまった。
単純だなって自分でも思ったけど、彼女のその言葉に、
ほんの少しだけ期待してもいいかなって思えてきたから。
「ねぇ、梨華ちゃん。これからさ、ゆっくりと梨華ちゃんのこと
知っていってもいいかな。」
「いいよ。だけど・・・あまりスローだとそのうち違う誰かを好きになるかもよ?」
「あはは。それはないな。」
「なんでよー。そんなの言い切れないじゃない。」
「だって梨華ちゃんは、あたしにベッタリ惚れてるんだから。」
やっぱりよっすぃーのおもちゃになっているってわかったけど、
それも別に悪い気はしなかった。
私と加護ちゃんとは違うって、はっきりと言ってもらえたから。
クスクスと笑っているよっすぃーの腕を外すと、私は駆け出した。
「そんな自惚れはいつまでも通用しないよーだ。」
振り返ってべーっと舌を出して、笑ってみる。
なんだかとても、楽しい気分。
- 26 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時43分59秒
- 「へーっ。無理しなくてもいいのに。」
彼女もまた、駆け出した。
どちらがどちらを追いかけているのかなんて、
そんなことはもうどうでもよかった。
片思いだった気持ちが、これからはいい風に進んでいくような
気がしたから。
淡い期待を胸に秘め、いつか2人で肩を並べて歩ける日を心待ちにしている。
よっすぃーの優しい笑顔に、そう期待してしまう私なのだった。
『期待』 〜終わり〜
- 27 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)19時45分58秒
>作者
ということで、久々にUPしてみましたが、
果たしてみなさまついてきていただけるのかどうか・・・。
これからどんな話を書くかは決めてませんが、
また近いうちUPできればいいなと思っています。
それでは、また♪
- 28 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)21時26分15秒
- >作者
・・・やっちゃいました(wゞ
16>17の間、落丁がございました(笑)
「・・・ごめん。」
「もういいから。一人にさせてよ。」
↓(これが抜けてた部分)
「悪かったのは認めるけど、そんなに怒るようなことかな・・・。
加護なんていっつもあんなことしてふざけてるのに。」
↑これ、抜けてました(笑)
たぶん読んでても気がつかないほどのものだったので、
いいかな?とも思ったのですが、一応そういうことでした。
かっこわるー>作者
これからは気をつけます・・・(涙)
- 29 名前:シフォン 投稿日:2003年05月17日(土)21時34分45秒
- こちらにも追いかけて来ちゃいました♪(笑)
梨華ちゃんの気持ちが凄く切なくて、読みながら泣いてしまいました(素)
この先、よっすぃ〜は梨華ちゃんを好きになるのかなぁ…。
<<果たしてみなさまついてきていただけるのかどうか・・・。
作者様の作品を読ませていただけるなら、ウチはついてゆきますよぉ☆
これからも作者様のペースで更新頑張って下さいね!!
次回作も楽しみにしています♪
- 30 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月17日(土)21時48分07秒
- >シフォンさま
うわぁーいっ♪レス第一号ですね♪=^-^=
シフォンさま、どうぞこれからも呆れずについてきてやってください。
やっぱラストぬるいですよね?(笑)
甘さが足りないようなので、続編書こうと思っています(w
よければまた読んでやってください♪
あぁ。すっごく幸せです作者。
ちゃんとついてきてくださる方がいて♪
それでは、また後日。
- 31 名前:ROM読者 投稿日:2003年05月18日(日)01時01分50秒
- めっちゃ可愛い!・・期待、いいっす。とっても爽やかで。
>果たしてみなさまついてきていただけるのかどうか・・・。
なはは、やっぱり来ちゃいました。どんどん深みにはまっていく〜。
・・・続編楽しみにしてます。
- 32 名前:LOVEチャーミー 投稿日:2003年05月18日(日)13時43分49秒
- いいっす、最高っす!続編まってます!
- 33 名前:Silence 投稿日:2003年05月18日(日)14時16分40秒
- 新スレおめでとうございます。
うんうん、やっぱり大好きですよ作者様のお話。なんてゆーか、
読んでて響きますよね。途中梨華ちゃんが教室飛び出した
ところでかなり切なかったんですが最後はやっぱ甘いしよしで。
これからも作者様の作品を追っかけさせてもらいます(w
後、あんな暗い話を読んでいただいて
ありがとうございました。すごく励みになりましたです。
- 34 名前:チップ 投稿日:2003年05月18日(日)20時27分13秒
- ハッピーキタ━━━━━━━━!!!
新スレおめでとうございます♪
甘バンザイ!やっぱりいいですね、綺麗で甘くて…(ヨダレが(ry
新しいバケツも用意済みです、がんばってください。
- 35 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月18日(日)21時21分18秒
- 初めまして!
今日、『繋いだ気持ち』と『サクラサク。』、
そしてここのスレの作品と読ませていただきました。
この甘甘な感じがたまりませ〜ん☆
最近になってよ〜やく娘。小説を読み始めた当方ですが、
当然、いしよし爆推しです(笑)。
ここの作品に出逢えて楽しみが増えました♪
今後もこんなヘボレスするかもしれませんが、その時はお許しあれ…。
- 36 名前:名無し読者79 投稿日:2003年05月19日(月)19時22分47秒
- 新スレおめでとうございます(^^)
待ってました!この時を!!うれしいです。またお話を読めて。
今回のも梨華ちゃんがかわいくって×2。
次回のお話も楽しみにしてま−す。
- 37 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時05分23秒
- >ROM読者さま
ややっ!ついてきてくださったのですね!(涙)
うれすぃ〜♪これからも、どうぞよろしくです♪
>LOVEチャーミーさま
ありがとうございますー♪
レス、本当に嬉しかったです。どうもありがとうございました。
そして、これからもどうぞご贔屓に♪♪♪
>Silenceさま
夏、ですね?
こちらまでついてきてくださって、嬉しかったです♪
これからもお互いがんがりましょう♪♪♪
>チップさま
はろーなのです♪
ややや。さっそく新しいバケツご用意くださいましたか(wゞ
期待に応えるべくがんがりまっす♪
- 38 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時09分05秒
- >ぷよ〜るさま
ありがとうございますー♪
なにやら、立て続けに読んでいただけたみたいで(wゞ
すっごく嬉しかったですよぉ〜♪
これからもどうぞ応援してやってくださいませ。
レス、大歓迎ですので♪♪♪
嬉しかったです。ありがとう。
>名無し読者79さま
わーいっ♪こちらでもどうぞよろしくですー♪
ご期待に応えられるかはわかりませんが(wゞ
めちゃがんがりますので、どうぞまた読んでやってくださいね♪
さてさて、それでは続編UPしたいと思います。
よければ読んでやってください。どうぞ♪
- 39 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時10分28秒
- 『期待』〜続編〜
眩しいくらい反射する光。
通学路にあふれているのは、夏服になった白のセーラー服。
冬服から夏服への移行は1週間の調整期間が設けられているけれど、
これだけ暑い日が続くと、さすがにほとんどの人が初日から夏服を着てきている。
初夏を思わせる陽気。
半そでになった腕を、まるで冷やかすかのように触れる風が、
衣替えの気恥ずかしさを感じさせた。
「おっはよー!夏服気持ちいいねー!」
後ろから駆けてきた柴ちゃんももちろん夏服。
私たち仲良し6人組は、今日からみんなそろって夏服にしようと決めていたのだ。
「おはよ。朝からご機嫌ね、柴ちゃん。」
「やっぱウキウキするじゃない。身も心も軽やかになったみたいで。」
薄くなった生地は風通しもよく、肌に心地いい。
「ほんと。ウキウキするよね。」
2人で笑って校門へと向かっていると、前方からは『ウキウキ』とは、
かなりかけ離れた姿のその人が見えてきた。
- 40 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時11分36秒
「おはよーよっすぃー。」
「おはよー。」
「うぃー。はよっす。」
やっぱり今日も眠たそうに歩いてきたよっすぃーは、
夏服になってもいつもと変わっていない感じ。
「ふふふ。いつも眠そうね、よっすぃーって。」
「朝はダメみたい。いくら寝ても眠いよ。」
「とかいって。夜更かしし過ぎじゃないの?」
私と柴ちゃんがからかうように交互に話しかける。
「ふわぁ〜。2人はいつも元気だよね・・・。」
ぼーっと半目になりながら、よっすぃーがそう言った。
「私たちはいつでも元気だもん。ねっ。柴ちゃんっ。」
「そうだよね。ほら、よっすぃーもしゃきっとしないと。」
2人でよっすぃーの両側をはさむように、腕を組んだ。
「うぅ・・・。ついてけません・・・。」
そんなぐうたらな姿にクスッと笑った私。
彼女は普通にさえしていれば、それはもう誰もが太鼓判を押すほどの
美少女。
透き通る白い肌に、ぱっちりと大きな漆黒の瞳。
夏服もよっすぃーが着れば、より涼やかに見えてしまうのがうらやましいほど。
けれど今の彼女は、その全てを否定してしまうかのような、有様。
- 41 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時12分33秒
- しかし、私はこんなよっすぃーもかわいくてたまらないのだ。
そのギャップが面白いというか・・・。
絡めた腕に、ちょっぴり嬉しさを感じながら、
私たちは校舎の入り口へと向かっていた。
「おはよーっ!みんなおそろいだねっ。」
また後ろから、今度は村っちが駆けてきた。
柴ちゃんの肩に手をかけたから、彼女は自然とよっすぃーの腕を離した。
そのままの流れで、私たちは2組に分かれてしまった。
前を歩くのは、柴ちゃんと村っち。
そしてその後をついていくように私とよっすぃーがいる。
前の2人は、なにやら楽しそうに話を弾ませていたから、
私たちはそれを邪魔することなく、なんとなく歩いていた。
腕に感じるよっすいーの体。
外すタイミングを逃してしまったのをいいことに、
私はずっと腕を絡ませていた。
これといって、彼女も嫌がっている訳ではないようだし。
しかし、2人で腕を組んで歩くさまは、まるで恋人のそれのように
思えてきて、幾分ぎこちなくなってしまったけど・・・。
- 42 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時13分29秒
よっすぃーに告白したあの日から、幾日かの時が流れていた。
だけど、あれから彼女の気持ちがどう動いたのかは、私にもよくわからなかった。
はっきりとした返事は未だもらってはいないから。
「んー?あたしの顔に何かついてる?」
よっすぃーの横顔を眺めていた私に、彼女はそう言った。
「ううん。何も。」
ただ見つめていたかっただけ。
好きな人の横顔を。
だけど、そんな気持ちは伝えなかった。
あまりこちらを意識させることは言わないほうがいいのかもしれない。
あの日からそう思うようになっていた。
答えをせかしていると思われたら、彼女の負担になるような気がしたから。
相変わらず友達としては普通に過ごしていたけれど、
私の想いはずっと変わらないままでいる。
- 43 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時15分28秒
- しかし、そんな気苦労を知ってか知らずか、
よっすぃーはいつもの口調でこう言った。
「梨華ちゃんて白い色が似合うよね。」
「・・・ん?何?急に。」
「コントラストがはっきりしているから。白と黒。」
にやりとした顔は、明らかに私を見ていた。
「ひどーいっ。気にしてるのに。」
それは私の浅黒い肌の色と、制服の白さをからかった言葉。
「あはは。それにさ、見てよ。」
よっすぃーはそう言って、絡めていた私の腕と自分のそれに視線を落とした。
「ブラック&ホワイト。肌の色もすごく対照的。」
「もーっ。よっすぃー!」
ケラケラと楽しそうに笑う彼女に、ふくれっつらの私。
2人は本当に何もかも正反対に見えた。
「だけどさ・・・。悪くないよね、こういうの。」
はっきりとした言葉はないけれど、あれからよっすぃーは
私に対する態度が少し変わったように思える。
からかっていても、こちらがつい嬉しくなってしまうようなフォローをしてくれる
ようになったから。
- 44 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時17分07秒
- 「もぉ。一体どっちなのよぉー。」
だから私も拗ねるような、甘えるようなリアクションをとってしまうのだ。
冗談を言って笑い合える。
そんな距離が心地いいような、やっぱり少し物足りないような・・・。
「そうだ。今日の帰り、ベーグル屋に行かない?」
「え?」
「駅前に新しい店がオープンしたんだって。早速チェック入れとかなきゃって思って。」
瞬間嬉しくて舞い上がりそうになってしまった。
それは、ちょっとしたデートのようで。
少しは気にかけてくれるようになったのかな・・・。
「ベーグルかぁ。」
「うん。そう。」
何を隠そう、彼女は無類のベーグル好きなのだ。
かれこれ1年近くもはまっているというから、かなりな筋金入り。
- 45 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時18分31秒
- 「クスッ。」
「なーに笑ってんだよー。」
やっぱりどう考えても、よっすぃーとベーグルって似合わないなぁなんて思っていたから、
ついつい笑ってしまった。
「どうするの?ついてくるの?こないの?」
ちょっぴりむくれた顔にキューンと心をくすぐられた。
いつもは冗談ばかり言って、私のことをからかっているのに、
こんなかわいいところもあるのだ。
もっとよっすぃーを知りたい。
だから私は飛び切りの笑顔で答えた。
「もっちろん。ついてくわよ。」
絡めていた腕にぎゅっと抱きつくと、校舎の入り口はもう目の前にあった。
「あいたた・・・。痛いっちゅーねんっ!」
お昼休み。
今日も相変わらずふざけている2人。
「大げさだなぁ、加護は。」
「大げさちゃうわ!マジ切れたで。反撃じゃー!」
「あはは。受けて立ってやる。」
- 46 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時19分40秒
- 本当にこれでも高校生なのかしら・・・。
そんな光景を横目にしながら、呆れ気味に雑誌を開いていた。
「これかわいいねー。」
一緒に雑誌を見ていた柴ちゃんが、ページを指差した。
「ほんとだ。かわいいー。」
柴ちゃんとは服の趣味もアクセサリーの趣味もよく似ていて、
休日も2人でショッピングに出かけることもしばしば。
フリフリまではいかないけれど、2人とも結構女の子っぽい
ファッションが好きなのだ。
「ねぇ、梨華ちゃん。今日帰りこの店寄らない?」
ちょうど帰宅途中にあるその店は、学校帰りでも寄ることができる場所にあった。
「あ・・・。でも今日そんなにお金もってきてないから・・・。」
いつもならほいほいついていくところだけど。
今日はよっすぃーとベーグルのお店に行く約束をしているのだ。
ここの店も気になるけど、やっぱりよっすぃーには代えられない。
「今日は下見だけだから。休みになったら一緒に買いに行こうよ。」
困ってしまった・・・。
ちゃんと先約があるって言うべきか否か。
- 47 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時20分48秒
- しばらく逡巡していると、珍しくよっすぃーが話に割って入ってきた。
というよりも、加護ちゃんから逃げてきただけっぽいけど。
「何?なんの話し?」
「帰りにこのお店見に行こうよって、梨華ちゃん誘ってるの。」
「へぇ・・・。」
よっすぃーは雑誌に目を落とすと、ちらりと私の顔を見た。
「で、どうするの?梨華ちゃん。」
それは柴ちゃんではなく、よっすぃーが言ったセリフ。
どうするの?とはどういうこと?
こっちが聞き返したくなるそのセリフに、思わず目をじっと見てしまった。
帰りに一緒にベーグル屋に行くんじゃ・・・。
けれど、彼女はそ知らぬ顔。
「あ・・・あの・・・。今日はちょっと都合悪いから・・・。」
誰に言うともなく、私はそう言った。
「なんだって。残念だったね、柴ちゃん。」
「そっか。それなら今度にしよっか。」
「うっ、うん。ごめんね?」
- 48 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時21分45秒
「よっすぃー何やってんねん!勝負はまだついてへんでー!」
加護ちゃんの声に振り向くと、瞬間、私の頭にポンと触れて
また向こうへと行ってしまった。
・・・一体なんだったのだろう・・・。
パラパラとページを繰りながら、私はどこか上の空でそのことを考えていた。
「本当はあの店に行きたかったんじゃないの?」
よっすぃーと歩く帰り道。
彼女とは通う路線が違うから、いつもとは逆の駅へと向かっていた。
「んー。捨てがたかったけどね。でもよっすぃーが寂しがるといけないから。」
冗談を言って笑ってみる。
だけど彼女が示した反応は意外なものだった。
「ふーん、そっか。やっぱりね・・・。」
「・・・え?」
「答えに困ってたから。柴ちゃんのこと袖にできないなぁって顔で。」
- 49 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時22分54秒
- あの時よっすぃーは私のことを見ていたのだろうか。
加護ちゃんから逃げてきただけだとばかり思っていたけど・・・。
「困ってたのは事実だけど・・・。」
「柴ちゃんをとるか、あたしをとるかで?」
「違うよ。そういうことじゃなくって・・・。」
「じゃ、なんで即答しなかったの?あたしとベーグル屋に行くからだめだって。」
どこか変な感じがした。
なぜだかよっすぃーの機嫌が少し悪いように思えたから。
そして私はその質問にどう答えていいのか迷っていた。
それはどう答えてみたとしても、結局はよっすぃーが好きだって
また告白してしまうことになるから。
あの時柴ちゃんに本当のことを言えなかったのは、
便乗組みがいっぱい出てきそうな気がしたから。
これじゃせっかくよっすぃーと2人きりになれるチャンスを
ミスミス逃してしまうことになる。
だから2人だけの秘密にしたかったのだ。
でもそのことを言うと、つまりはよっすぃーを好きだとまた告白してしまうことになる。
それは、よっすぃーへのプレッシャーに繋がっていくような気がして・・・。
- 50 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時23分46秒
- 複雑な思いが胸を占めた。
と同時に、私が抱えていた疑問もまた思い出された。
「それじゃ、よっすぃーはなんであの時私にわざわざ予定を聞いたの?
ベーグル屋に行くって約束してたのに。」
「うっ・・・。そうきたか。」
「ねぇー。なんでよー。」
「それは、つまり・・・。」
今度はよっすぃーが答えに困っているように見えた。
ホント、こうなるとややこしくて訳がわからなくなってくる。
「あーっ!すっげー並んでる!」
程なく見えてきたベーグル屋は、思った以上に混雑していて、
店の外には学校帰りの女子高生が、行列をつくっていた。
「うわー。すごいね・・・。」
「なんかファイト沸いてきた。おし!行くぞ!」
彼女はそう言って、私の手をつかむと、列の最後尾まで駆けていった。
その勢いに押される形で、結局疑問の答えはお互い何も解決しなかった。
- 51 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時26分04秒
混雑する店内では食べることができなかったから、テイクアウトして店を出た。
「うはーっ。いいにおいだ。」
「ほんと、おいしそう。」
「んーと。よし、あそこで食べよう。」
駅の端にあるベンチへと移動した私たち。
「あっ、うまい。なかなかいい生地使ってる。」
ほかほかのベーグルを頬張って幸せ一杯な顔。
「うん。おいしいね。」
ほんのりとした甘さのプレーンのベーグルに、
私もやっぱり幸せになった。
だからという訳ではないけれど、色々考えていたことも、
もう気にしないでおこうと思えるようになった。
私の気持ちも、よっすぃーの気持ちも。
わからないことはいっぱいあるけれど、今はただ、
よっすぃーといられるこの時間を楽しみたいと思ったから。
例え彼女が何の答えを出してくれなくとも。
- 52 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時27分02秒
「ちょっと待っててくれるかな。」
そう言ってよっすぃーは立ち上がった。
「ん?どこ行くの?」
「どこって、そこだけど。」
苦笑した彼女。
もう一つベーグルが入っている紙袋をベンチに置くと、
近くにあった自販機へと歩いていった。
「はい、これ。」
差し出したのは、アイスミルクティーの缶。
「ありがと。お金払うね。」
「いいよ。寂しくないようについてきてくれたお礼。」
あははと笑ってまたベンチに腰を下ろした。
「ふふ。ならありがたく頂戴いたします。」
私もその冗談に付き合ってみた。
さっきまで抱えていた色々なものを、もう全部吹き飛ばしてしまえるくらいの
楽しさがそこにはあった。
やっぱり私は単純にできているのかもしれない。
よっすぃーの笑顔を見るだけで、こんなにもウキウキしてしまえるのだから。
- 53 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時27分56秒
「はぁーっ。今日は最高の日だな。」
缶コーヒーのフタをカコっとあけて、おいしそうに流し込む彼女。
「クスクス。おいしいベーグル食べられて?」
「あはは。そうそう。」
ミルクティーを開けると、私もそれを一口飲んだ。
「ありがとね、ホント。付き合ってくれて。」
「何言ってるのよ。別に大したことじゃないでしょ?」
「大したことじゃない・・・か・・・」
缶コーヒーに視線を落としたよっすぃーは、
なんだか急にまじめっぽくそう言ったものだから、
何かあったのかなって勘ぐってしまった。
「ねぇ、よっすぃー。何かあったの?」
「ん?なにも?」
「・・・そう?本当に?」
「ははっ。ホント、ホント、なーんもないっ。」
また一口コーヒーを流し込むと、はぁーっと大きなため息をついた。
それがなんだかしっくりこなくて。
いつものような元気さがやはり今の彼女にはない。
- 54 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時28分46秒
「どうしたの・・・よっすぃー・・・」
心配げに見る私の視線を感じたのか、彼女はそっとこちらに視線を移した。
「梨華ちゃんてさ・・・」
「・・・ん?」
「その・・・・あたしのことまだ・・・・・好きなの?」
今度は見事に私がため息をついてしまった。
やっぱりよっすぃーは、私の気持ちをずっとプレッシャーに感じていた
のだと思ったから。
眉間に寄せられたしわ。
苦しげにもらしたため息が何よりの証拠なのだ。
想いは通じなかった。
瞬間的にそれを悟った。
ぎゅっと胸を締め付ける切なさが迫ってきたけれど、
人の気持ちなんてどうすることもできないものだから・・・。
これ以上彼女を苦しめないためにも、
ここで潔く解放してあげた方がいいのかもしれない。
仲良し組みの一人として、これから付き合っていくためにも。
- 55 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時29分44秒
「・・・ううん。・・・もう、そういう気持ち、ないから・・・・・。」
「・・・そっか。」
自分で言ったセリフに胸を苦しめてしまった。
だけど、これも全てよっすぃーのため。
好きな人のためだから・・・。
「・・・他に好きな人ができたんだ・・・。」
そんなことはあるはずもないけれど、
ここでウンと頷いたなら、この恋はきっぱりと終わりを迎えられる。
もうよっすぃーを苦しめなくて済む。
そう思っていたけれど・・・・。
だけど、結局そうすることはできなかった。
ただ悲しくて、涙があふれてきただけ。
こういうのって、相手にとって苦痛でしかないとはわかっていても。
- 56 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時31分01秒
「泣かなくてもいいよ。あたしが悪い。もっと早くに答えを出しとくべきだった・・・。」
「・・・っく。・・・・・・ぐすっ・・・。」
「こんなにも苦しくなるなんて・・・。好きになるのが遅すぎたね・・・。」
瞬間耳を疑った。
今、何て言ったの?
「え・・・よっすぃー・・・?」
「あたし、梨華ちゃんが好き。」
「・・・っ。」
「今更遅いよね。わかってる。だけど、やっぱり諦められそうにない。」
よっすぃーが私のことを・・・・。
ぎゅっと手を握り締められていた。
とても痛く感じてしまうほど。
「ごめん・・・。ごめんね・・・。」
「いいよ。梨華ちゃんの気持ちを大切にして。」
「違うよ。私、ウソついてたから・・・。」
「・・・?」
「本当はよっすぃーのこと、諦めた訳じゃない。今でもずっと、あなたが好き。」
「・・・本当に・・・?」
ぽたりと落ちていく涙は、私が大きく頷いたため。
もう少し、またもう少しで一人相撲をとるところだった。
ボタンの掛け違いに気付くことなく、あわや見過ごしそうになる寸前で。
- 57 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時32分07秒
「はぁー・・・・。ギリギリセーフか・・・。」
掴んでいた手の上から、指を絡ませてきたよっすぃー。
「・・・私のこと・・・本当に好きになってくれたの・・・?」
「うん。もしかしたら、あの日告白してもらった時から、
好きになっていたのかもしれない。」
「・・・どうして・・・今まで言ってくれなかったの・・・。」
「だってさ、中々自分の気持ちを確かめることなんてできないじゃん。
今まで友達だったのに。だから随分考えたよ。
この気持ちは友達として好きなのか、あるいはそうじゃないのか・・・。」
「それで・・・気付いてくれたの?」
「そういうこと。だけどさ、気付いた時には梨華ちゃんの気持ちがわかんなくて。」
「私の気持ち?」
「あれからちっとも好きとか言ってくれなかったしさ。
どっちかというと、告白してからつれなくなったように感じたから。
もしかしたら、本当に好きな人ができたのかもって、ずっと疑ってた。」
「まさか。そんな急に好きな人は現れないわよ。」
涙を拭って苦笑気味に笑ったけど、嬉しい気持ちは隠せない。
- 58 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時33分13秒
- 「あたしのことなんてもうどうでもよくなったのかなって、正直思ってたよ。」
「・・・どうして?」
「だって・・・さ・・・。先に梨華ちゃん誘ったのあたしなのに・・・。」
「あっ・・・。もしかして、よっすぃー・・・。」
私の中にあった疑問が、瞬時に解明していく思いがした。
「もしかして、あの時わざと予定を聞いたのって?」
「・・・・・うん。」
「私の気持ちを確かめたかったからなの?」
「・・・まぁ、そういうことかな。」
おかしくって思い切り笑ってしまった。
それはよっすぃーに対してではなく、色々一人で思い悩んでた自分に。
「笑いすぎ、梨華ちゃん。」
「ごめん。別に、よっすぃーのこと、笑ってる訳じゃないのよ?」
「なら、なにを笑ってるの。」
「私ね、色々悩んでた。よっすぃーが私の気持ちを負担に感じないようにって。
でも取り越し苦労だったのね・・・。今だから笑える話かも。」
- 59 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時34分11秒
- 「そっか。それであたしにつれなかったんだ。
んだよー。こっちも取り越し苦労じゃん。」
「別につれなくなんてしてなかったじゃない。」
「してたよ。加護とふざけていても、気にしてくれなかったじゃん。」
「・・・はい???」
「もっとさ、こう、メラメラと嫉妬してくれないかなぁとか。
そんなことばっか考えてた。それでつい勢いあまって加護締めすぎたりして。」
「クスッ。おかしー、よっすぃーって。」
「あ。やっぱり笑ってるじゃん。」
「だって、かわいいんだもん。」
「クソ!なんかムカツクぞ、それ。」
よっすぃーは繋いでいた手を引き寄せると、肩に腕を回して抱きついてきた。
「どう?参った?」
体一杯に感じるその圧力。
それは教室でふざけて私を抱きしめた、
あの日のものとは比べものにならないほどの、優しい力で。
- 60 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時35分27秒
- 「ふふっ。降参するとでも思う?」
「案外梨華ちゃんて根性ありそうだからなぁ。」
「そ。私って根性あるのよっ。」
「すぐ泣くくせに?」
「誰が泣かせているのよぉ。」
「あはは。それはあたしです。」
抱きしめていた肩をもっと近くに抱き寄せて、頬が触れるほどの距離にまで近づいた。
「もう、泣かせたりしないから・・・。」
「うん。」
「梨華ちゃんのこと、好きでいてもいい?」
「・・・・うん。」
そして唇が重なり合った。
互いの気持ちを確認するかのように、軽く触れただけのキス。
だけど、もうそれだけで舞い上がってしまいそうなほど、
ドキドキは止められなかった。
- 61 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時36分20秒
胸に手を当てて、息を静めようとしたけれど、
その手をとって、更に抱き寄せられた。
「まだ降参するには早いよ?」
クスリと笑うと、よっすぃーはまたキスをした。
「・・・ごめん。降参します。」
これ以上キスをされたら、溶けてしまうのではないかと思ったから、
さすがに白旗をあげた。
「ふっ。甘いよ、梨華ちゃん。」
「・・・え?」
「そう簡単に引き下がらせる訳にはいかないな。」
よっすぃーはわざわざ頬に手を添えて、包み込むように
キスをしてくれた。
「・・・・・・。」
「やっぱり今日は、最高の日かもしれない。」
その声に目を開けると、彼女はただただ優しく微笑んでいてくれた。
いつも加護ちゃんとふざけている人と、同一人物とは思えないくらい、
落ち着き払った物腰で。
その姿が、あまりにも大人っぽくてステキだったから、ボーっと見とれてしまっていた。
- 62 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時37分28秒
「梨華ちゃん・・・。」
「なぁに?」
「あの・・・さ。」
「うん。」
見詰め合う瞳にドキドキしていた。
もっとステキなことがおこりそうな予感を抱いて。
だけど。
「ベーグル、食べない?冷めたらもったいないから。」
がっくりと肩を落としそうになってしまった。
さっきまでのかっこいいよっすぃーは一体なんだったのだろう。
「クスっ。そうね。」
だけど、やっぱりそんなところがよっすぃーらしいと思えたから、
どこか安心したように笑ってしまった。
「へへっ。よかった。」
ベーコンチーズサンドのベーグルを頬張りながら、
彼女が嬉しそうに言った。
「何がよかったの?」
「梨華ちゃんが楽しそうで。」
嬉しさが溢れてくる。彼女のそんな優しい言葉に。
- 63 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時38分39秒
- 「ありがと、よっすぃー。」
「うんっ。」
「うふふ。」
「はぁーっ。ベーグルはうまいし、梨華ちゃんはかわいいし、
言う事なしかも。」
「クスクスッ。なにそれ。」
「好きなもの両手にすることができて、幸せってこと。」
「そうなんだ。」
「うん、そう。」
「でもね・・・。」
「なに?なんか文句でもある?」
「ないけど。かっこいいこと言う割には決まってないのよね。」
「なんだよー。」
「口にソースつけて言うセリフじゃないわよね。」
ふふっと笑って紙袋からナプキンを取り出すと、よっすぃーの
口元を拭ってあげた。
「・・・うわ。かっこわる・・・。」
「クスっ。かわいいっ。」
「なんだよ。それって褒めてるの?それともからかってるの?」
「うふっ。からかってるに決まってるじゃない。」
「やっぱり。」
それからずっと私たちは、時がたつのも忘れて、
本当に楽しいおしゃべりを続けていた。
- 64 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時39分34秒
「おはよー。」
柴ちゃんの声に振り返る。
「おはよっ。」
「あれ、梨華ちゃん。今日はなんだかご機嫌がよろしいのではなくて?」
たいそうな言いまわしで、柴ちゃんは私に笑いかけてきた。
「あら?おわかりいただけました?」
私もそのノリについついのってしまった。
「なんかいいことあったんだ。」
「うーん。ま、そんなところかな。」
「え?なに?教えてよ。」
「えへへ。それは秘密。」
「あー。なんだか色恋の匂いがするぞぉー。」
そんな感じでじゃれあいながら歩いていると、
視線の先に、あの人が見えてきた。
- 65 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時40分31秒
ドキドキと高鳴る胸。
昨日のことが頭をかすめて、どうにも意識してしまう。
「おはよー。よっすぃー。」
だけどやっぱりよっすぃーは、よっすぃーで。
「うぃー。はよぉー・・・。はぁぁぁー、眠い。」
「おはよ、よっすぃー。さてはまた夜更かし?」
クスッと笑って柴ちゃんがそう言った。
「してないって。ホント、朝苦手なんだ。」
「少しは梨華ちゃん見習ってシャキっといこうよ。」
「んー?梨華ちゃん見習って?」
「ほら、このウキウキパワー分けてもらったら?」
「柴ちゃんっ!」
私は恥ずかしくなって、その口をふさごうと思った。
ウキウキの元である張本人にそんなことを言うものだから。
- 66 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時41分25秒
「へぇ。そうなんだ。なら、少し分けてもらおうかな。」
珍しく冴えた目をしたかと思うと、やっぱり思ってた通りに
その頬は緩んでいた。
「きゃっ。」
思わず小さな悲鳴をあげてしまった。
それはまるで私を抱きしめるように、肩に手をまわしてきたから。
「ねぇ、少しくらい分けてくれてもいいんじゃない?
梨華ちゃんのウキウキ。」
笑い声を殺すようにして、そう言った。
「もぉー。よっすぃー!」
「くすっ。ねぇねぇ、柴ちゃん。あたしたちってどう見える?」
「どう見えるって?」
「ほら、よく見てよ。あたしと梨華ちゃん。なかなかお似合いじゃない?」
「そうねー。そう言われてみると、恋人同士っぽくみえるかも。」
「だってさ、梨華ちゃん。」
あからさまに頬を染めてしまった私。
- 67 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時42分25秒
- 「・・・まさか。梨華ちゃんのウキウキの原因って!?」
「あっ・・・その・・・だから・・・。」
「いいじゃん、隠さなくったって。いずれはわかることだし。」
「えっ・・・。えーーーっ!?」
「おはよーっ。何みんなで盛り上がってるの?」
後ろから駆けてきた村っちが加勢してきた。
「梨華ちゃん、付き合ってるの!?」
「えっ?梨華ちゃん誰かと付き合ってるの????」
「そ。村っち。それはあたしなのです。」
「えーーーっ!!!!!」
そんなこんなで彼女たちの悲鳴だけが、辺りに響き渡っていった。
「・・・まぁ、そういうことになったから。
またみんなにはちゃんと話そうと思ってたんだけど。」
「そういうこと。それじゃ梨華ちゃん、いこっか。」
よっすぃーは手を繋ぐと、私を引っ張って駆け出した。
「ごめんね、先行ってるから。」
呆然とする2人を残して、校舎へと向かう。
- 68 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時43分47秒
「あはは。あの2人の顔と言ったら。」
「やっぱり驚かせちゃったかな。」
「うん。でもなんか気分いいな。」
「ふふっ。そうねー。」
あがった息を静めるように、また歩き出した2人。
「ねぇ、よっすぃー。」
「ん?なに?」
「よっすぃーってすごいよね。」
「ははっ。それだけじゃわかんないよ。なんのことなの?」
「期待してた通りに・・・ううん、期待以上のことをしてくれたから。」
「あたしに何か期待してたんだ。」
苦笑して私を見つめる視線。
「うん。こんな風にして、よっすぃーと歩けたら幸せだなーって思ってたの。」
「そんなこと?なーんだ、これくらいのことならいつでもしてあげたのに。」
「うーん。それは微妙に違うかも。」
「ん?どういうこと?」
「友達のままの私たちじゃないでしょ・・・今は。」
「あ・・・。そっか。」
「私が期待したそのままに、よっすぃーは隣にいてくれる。」
繋いでいた手をぎゅっと握り合った2人。
それと同時にトキメク心。
- 69 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時44分57秒
「もっと期待してくれていいから。」
見上げた彼女は、とても照れくさそうにしている。
「クスッ。それならもっと期待しちゃおうかな。」
「いいよ。ちゃんと応えてあげるから。」
「わぁ。頼もしいー。」
「へへっ。」
大きく手を揺らしながら歩く2人。
木の葉を映す影すら優しく揺れている。
「いっぱい楽しい思い出作ろうね。」
「うん。今から夏休みが待ち遠しいよ。」
「よっすぃーったら、気が早いわね。」
「そうかな?梨華ちゃんは待ち遠しくないの?」
「もっちろん。待ち遠しい。」
「あはは。なんだそれ。」
「色んなとこ遊びにいきたいね。」
「うんっ。あぁ。なんかワクワクしてきたかも。」
「私もっ。」
- 70 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時46分01秒
- クスリと笑うと、よっすぃーもまた笑いかけてくれていた。
胸に思い描いていた通りの笑顔。
その優しい眼差しに心引かれる私。
初夏を思わせる陽射しが肌に心地よい。
今年の夏は、きっと楽しいことがいっぱいありそう。
そんな期待をしてしまうのは、よっすぃーが隣で笑ってくれているから。
通り抜けた風が、夏服のスカートをふわりと揺らしていく。
めいっぱいの青空。
夏はもう、本当にすぐそこまできているのかもしれない。
よっすぃーと過ごす、最初の夏が。
『期待』〜続編〜 終わり
- 71 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月22日(木)22時49分28秒
- >作者
ちょっぴり爽やかに締めてみました(wゞ
この反動が次回作に出るような気がしますが・・・(笑)
次はよし視点のものを書こうと思っています。
テーマは『卒業』
・・・あ。タイトルではありませんので(w
とかいって、全然違うネタかもだけど(笑)
のほほんとやっておりますが、これからも続けていきたいと
思っていますので、どうぞゆるい気持ちで見守ってください(笑)
よろしくお願いします。
=修行僧2003=
- 72 名前:シフォン 投稿日:2003年05月22日(木)23時28分52秒
- >作者様
続編、とても良かったですっ!!
作者様の甘々いしよしは最高です♪
今回も思う存分癒されました(素)
前回のレスで、続編を催促しているような事を書いてしまってごめんなさい(涙)
『期待』のラスト、全然ぬるくなんてなかったですよ♪
次回作も楽しみに待っています。
これからも作者様のペースで頑張って下さいね☆
- 73 名前:ROM読者 投稿日:2003年05月23日(金)00時00分28秒
- まるで心の中にそよ風が吹き込んでくるような、そんな
心地の良い後味の作品ですね。これぞ『爽やか』って感
じです。いつも素敵な作品をありがとうございます。
- 74 名前:Silence 投稿日:2003年05月23日(金)12時59分56秒
- 更新お疲れ様でした。
よっすぃが梨華ちゃんに好きになったって伝えるシーン。これ最高
でした。すっごく甘かったです。
甘党な自分はコーヒーをブラックで飲めないんですが、この作品を
読みながらなら飲めてしまいそうです(w
>これからもお互いがんがりましょう♪♪♪
はい、『がんばっていきまっしょい』ってな感じですね。(w
- 75 名前:名無し読者79 投稿日:2003年05月23日(金)19時18分53秒
- なんか修行憎〜さんのいしよしって何でこんなにも甘いんだろう(^^)
読むとハッピーな気持ちになります。
この後の夏休みの二人も気になりますね。
次回作、待ってまーす!!
- 76 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月24日(土)15時03分02秒
- 更新お疲れ様でした!
何かこのいしよしも胸がキュ〜ンとなりますね!
青春ってサ〜イコ〜ウ!!(w
修行僧2003さんの作品のおかげでしばらく収まってた
よっすぃ〜萌えが再び大爆発!!(w
ホントにありがとうございます。
では、次回作も楽しみにしてます!
- 77 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月24日(土)15時08分16秒
- ageてますね…。
本当にごめんなさい。
- 78 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月24日(土)23時38分59秒
- >シフォンさま
わぁ〜いっ♪褒めてもらっちゃった♪♪♪
いつもいつも励ましのお言葉、ありがとうございます(^-^)
>前回のレスで、続編を催促しているような事を書いてしまってごめんなさい(涙)
何をおっしゃいますやら♪
実は作者が書いてみたかったのですよ(wゞ
紛らわしい書き方をしてしまった、こちらの方こそごめんなさい。
よければこれに懲りずに、リクエストなどしていただければ、
作者喜んで書かせていただきますよぉ〜♪
・・・期待に応えられるかは、また別の問題ですが(w
>ROM読者さま
もちろんカモンナッ!(w
どーこまーでもーつづーくよー♪イェィ!いえすわんだーらんっ!
なのです(笑)
愛の翼をこれからも広げていきますので、
一緒に羽ばたいてやってください♪
>Silence さま
甘かったっすか!?いやぁ。よかったー(wゞ
ちなみに作者はコーヒーにはミルクのみ入れます。
・・・何の話だか(wゞ
いつもありがとうございます。YES!!!
- 79 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月24日(土)23時51分33秒
- >名無し読者79さま
(^▽^)>はっぴー♪
になっていただけましたか!!!
ヨカタヨカタ♪♪♪
甘いと言われると、やはり嬉しいです。
いしよしはやはり甘が一番似合うカプールだと思いますので。
それではまた読んでやってくださいね♪お願いします。
>ぷよ〜るさま
ややっ!!!また来ていただけてマジ嬉しかったです!!!
それと、あげ&さげに関しては、全くもって気にしないでくださいね♪
ってゆーか、作者はただこの文字色が好きなので
使ってるだけということですので(wゞ
どちらでも、ほんとかまいません。
気を遣わせてしまってごめんなさーいっ(笑)
って、そんなことより感想ありがとうございました♪
またやる気もグーンとUPしましたよぉ(^-^)
よければこれからもレスつけてやってください。
楽しみに待ってますので♪
あ。それと。よしヲタ同士がんがりましょう♪(w
今回UPするのは続き物です。
何話くらいまでいくのかはわかりませんが、
またついてきてやってください。お願いします。
それでは、どうぞー♪
- 80 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月24日(土)23時56分28秒
『おもいでの向こう側』
その時あたしは、読みかけていた小説を日よけ代わりにしてまどろんでいた。
うたた寝をするには打ってつけの日和。
初秋の風は、まだ少し夏の名残があるけれど、
肌に感じる陽射しは柔らかで。
高く澄んだ空は、心を爽やかにしてくれる。
図書館にいるのもいいけれど、やはりこんな日は外の空気に触れていたい。
誰の気兼ねなく過ごせる、お気に入りのこの場所で。
屋上の入り口の壁に背をもたせかけて、さっきまで読んでいた
推理小説の主人公になりきっていた夢を、おぼろげに見ていた。
=ギギギギ・・・・=
そんなあたしの耳に聞こえてきたのは、錆びた鉄の扉が開く音。
放課後にこんな場所までくる人がいるなんて珍しい。
もっとも、ここにいるあたしが言うのもなんだけど。
- 81 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月24日(土)23時57分56秒
さっきまで見ていた夢の主人公になりきったつもりで、
この扉から出てくるはずの人間を推理してみることにした。
ちょっとした探偵気分で、息をひそめて待ち構えているあたし。
その人は、さしずめタバコをふかしにきた先生なのかもしれないけれど。
だけど予想は外れてしまった。
にわか仕立ての探偵の推理力なんて所詮こんなところ。
扉の影から現れた人物は、先生でもなく、ましてやおしゃれ泥棒な訳でもなく。
それは石川梨華だった。
あたしは彼女のことをなぜかフルネームで認識していた。
同じクラスにはいるけれど、特に仲がいいという訳ではない2人。
敬遠している訳ではないけれど、なんとなく近寄り難かったのだ。
彼女はこの学校ではある意味特別な存在だった。
絵に描いた優等生とは彼女のことを指すのだろう。
前期まで生徒会長を務めていた石川梨華。
もちろん成績も優秀で人望も厚く、テニス部のキャプテンをしていたほど。
おまけにその容姿はミス朝比奈に選ばれるほどのかわいさと
くるのだから、神様って不公平だ。
- 82 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月24日(土)23時59分22秒
しかし、そんなスーパースターがここにくる理由があたしには
わからなかった。
まさかうたた寝をしにここまで来た訳でもないだろう。
彼女は扉を律儀に閉めると、そのまま真っ直ぐ進んで、
運動場が見渡せるフェンスの端まで歩いていった。
声をかけようか一瞬迷ったけれど、果たして彼女の行動が
気になったから、しばらくは隠れて覗いてみようと思った。
・・・あまりいい趣味とは言えないかもしれないけれど。
フェンスの金網をつかんでボーっとしているように見えた彼女。
特に何をしにきた訳でもないかもしれない。
受験勉強の息抜きに、屋上の風をあたりにきただけ。
あたしはそう推理した。
「石川梨華ー!」
身を潜めたまま、いたずら心いっぱいに叫んでみた。
きっと誰もいないと思っているはずの彼女はびっくり
するだろうと思って。
そして期待通りに石川梨華は、驚いた様子であたりを見回していた。
- 83 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時00分48秒
「どこ見てるの?こっちだよ。」
クスクスと笑いながら顔を出したあたし。
驚きでまん丸だった彼女の目は、あたしを確認したことで、
柔らかい笑顔へと変わっていった。
「吉澤さんだったのね。」
吹き抜けていく風に髪をかき乱されている彼女は、
手で髪を押さえながら、微笑んでいた。
「何してるの、こんなとこで。」
教室ではめったに話したりしなかったあたしたちだけど、
こんな場所で偶然会えたことに、なんだか妙な同調性が感じられて嬉しかったから、
とても気さくに話しかけることができた。
「ちょっと気分転換。」
「あはは。やっぱり。」
「ん?どういうこと?」
「受験勉強の息抜きかなって推理してたから。」
「ふふっ。なるほどね。そういう吉澤さんは?何してるの?」
「あたしはこれ。」
手にしていた本を掲げて彼女に見せた。
「吉澤さん、読書してたんだ。」
「んー。まぁ、半分当りかな。」
「半分?」
「うん。途中でうたた寝が目的になっちゃったから。」
そんな会話に、溢れる2人分の笑い声。
- 84 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時01分51秒
「そっかー。うたた寝のお邪魔しちゃったかしら?」
「ううん。全然問題ない。」
「それはよかったわ。」
あたしもまた、フェンス越しに運動場を見下ろした。
「後輩たち頑張ってるよね。」
「そうね・・・。テニス部も今年は新入部員が大勢入ったし。
これからもっと強くなるよ。」
「惜しかったんだってね。もう少しで県大会に出られるところまで
いったんでしょ?」
「よく知ってるのね。吉澤さん。」
「そりゃ我が校きっての有名人だから。石川梨華は。」
「クスッ。フルネームで呼ばなくても。」
苦笑して口元に手を当てた彼女。
「そうなんだけど。なんかその方がしっくりくるんだよね。
石川梨華ってのが一つの名前っぽい。あたしの中では。」
「吉澤さんて、面白い人ね。」
「うん。なんか知らないけど、それ、よく言われる。」
「ふふっ。」
おかしげに笑った石川梨華。
長くつややかな髪が風に揺れている。
- 85 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時03分02秒
- 「引退試合のいい記念になったよ。負けちゃったけど、
今はそれでよかったって思ってるの。」
「ん?負けたのに?」
「うん。もし優勝してたら、県大会に出なきゃいけなかったから。」
「え?でもそれを目指して試合してたんじゃないの?」
「そうなんだけど・・・。」
彼女の視線は遥か向こうに見えるテニスコートを捉えていた。
「どういうこと?」
「そうねぇ・・・。うまく言えないけど、もし勝っていたら、
そこで終わりのような気がして。」
「次の県大会があるのに?」
「ふふっ。そうね。ホント、吉澤さんの言う通り。
これってただの負けず嫌いの言い訳かも。」
石川梨華の笑顔になぜか心が揺れた。
胸の中の何かをぎゅっとつかまれるような感覚。
この気持ちは一体・・・。
「かっこよく言うと、後輩に跡を託したかったのかな。
私の気持ちごと。」
キラキラと眩しいものを見るかのように、
あたしは彼女のことをそっと見ていた。
- 86 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時04分07秒
- まるで手が届かない存在。
県大会へのチケットは惜しくも逃してしまったけど、
それさえ誇りにしてしまう。
きっと彼女はあたしが想像もできないくらい、
たくさんのものを持っているのだ。
手にできないものなど何もないと言う、自信すら窺えるほど。
そうでなければこれほどまでキラキラと輝いた存在になど、
なれるはずはないのだ。
あまりにも自分とは違うその存在に、いつしか言い知れぬ寂しさが
影を射していた。
「そっか。石川梨華には思いを託せる頼もしい後輩がいるんだね。」
「可能性を秘めた子たちがいっぱいいるよ。うらやましくなるくらい。」
「あはは。それはおかしいな。」
「・・・え?どうして?」
「だってさ、みんな石川梨華に憧れてるんだよ。
その君がうらやましがるなんて、なんか変な話。」
「憧れてる?」
「元テニス部キャプテンで元生徒会長。おまけに成績優秀で容姿端麗。
あ。もう一つ付け加えると、ミス朝比奈だ。
みんなが憧れる条件は充分すぎるほど揃ってるじゃん。」
「大げさ、吉澤さん。」
「そうかな?事実を言っただけだけど。」
- 87 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時06分05秒
- 金網につかまったまま腕を伸ばして彼女を見た。
しかし、斜めから見える石川梨華は、どこかさっきまでとは
違った表情をみせていた。
「出来過ぎてるわよね・・・。なんか。」
「輝かしい歴史じゃん。」
「ここまでくるのに全速力で駆けてきた。
いっぱい努力して、いっぱい涙して。どうにかここまでやってきたけど・・・。」
「完全燃焼できなかった?」
「ううん。完全燃焼できたって、自分では思ってるの。
でも何か、まだ足りない気がするの。遣り残したことがあるような・・・。」
「うわ。贅沢言うんだ。石川梨華は。」
思わず苦笑してしまった。
あたしが望んでも到底手にできそうもないものを、
いともたやすく手にしているはずなのに。
だけど彼女はただ視線を落としていただけ。
それが妙に心にひっかかった。
足りないものが何であるのか。当然あたしにはわからなかった。
しかし、その何かを感覚的にではあるけれど、
確実に感じ取っていたのだろう。
- 88 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時07分19秒
- もしかしたら石川梨華は、足りない何かを埋めるために、
あるいは、果たせなかった思いを胸に刻むために、
わざわざここに来たのかもしれない。
なぜかそんな風に思えてきたのだ。
「結局私は何を残せたんだろう・・・。」
ぽつりと彼女がもらした。
「それは難しい質問だね。」
「ただがむしゃらに一生懸命走ってきた。だけど、振り返ってみても
何もそこにはないような気がする。」
「そんなことはないんじゃない?」
「・・・え?」
「石川梨華が残した足跡は、きっとちゃんと受け継いでくれる誰かが
いてくれるはずだよ。それを目にすることはできないかもしれない。
だけど君が頑張ってきた証はきっと残ってる。あたしはそう思うんだ。」
「・・・・・ありがとう、吉澤さん。少しセンチメンタルになりすぎてたかな。」
「時には振り返ってみるのもいいことじゃない?
ずっと前向きに頑張ってきたんだから。」
「・・・・・・うん。」
- 89 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時08分17秒
- 「もしかしてさ・・・思い出を刻んでおきたかったのかな?卒業する前に。」
ゆっくりと頷いた石川梨華。
彼女は全てを手にしている訳ではなかったのだ。
きっと、叶えられないこともいっぱいあったはず。
だからここにきて果たせなかった思いを、
『思い出』として胸に刻もうと思っていたのに違いないのだ。
その輝かしい足跡の中に、ひっそりと埋め込んで。
「一人になりたかったんだね。ごめん、なかなか気付いてあげられなくて。」
「あっ。待って、吉澤さん!」
歩き出したあたしを呼び止める声に振り返った。
「なに?」
「その・・・。もしよかったら、もう少し付き合ってくれない・・・かな。」
「邪魔じゃないの?」
「クスッ。どうして邪魔だと思うの?」
その笑顔の魔法は、もう既にあたしの心をしっかりと捉えていた。
そして引き寄せられるようにして、また石川梨華の側へと戻っていった。
- 90 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時09分18秒
「ねぇ、立っているの疲れない?」
「あたしは別に。」
「そうなの?私、ちょっと疲れちゃった。座ってもいいかな。」
コンクリートに腰を落とすと、もたれかかったフェンスが
ガシャリと音を立てて揺れた。
「んー。やっぱあたしも座ろう。」
同じ目線でいたかった。
見下ろす彼女の肩が、寂しそうに思えたから。
もたれかかってへこんでいるフェンスは、もう一人分の
圧力で、さらに歪んでしまったけど。
「ねぇ、吉澤さん。それって一体何の本なの?」
手にしていた小説に視線を向けた。
「推理小説。シリーズものなんだけど、結構はまるよ。」
「そうなんだ。よかったら今度貸してもらえる?」
「いいよ。これ、図書館のだし。」
「いつもここで本読んでるの?」
「んー。天気がいい時はね。」
空を見上げると、さすがにもう夕日が射していた。
- 91 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時10分18秒
だけどその視線を石川梨華に戻したのは、彼女がクスクスと笑っていたから。
「何かおかしい?」
「うん。」
「え?なにが?」
「今までほとんど話したことなんてなかったのに、
なんで今私はこんなにも吉澤さんとおしゃべりしているんだろうって
思ったら、急におかしくなっちゃって。」
「あー。言われてみると、確かに。」
あたしも一緒になって笑ってしまった。
「そうだ、吉澤さん。前から聞いてみたいことがあったんだけど。
聞いてもいいかな?」
「なんか怖いな、その言い方からすると。」
「えへへっ。」
「まぁ、いいよ。なんでも聞いて。」
「うん。」
「で?」
「・・・吉澤さん、私のことずっと避けてたでしょ。」
- 92 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時11分47秒
- 予想もしていなかった言葉に、ちょっぴり面食らってしまったけど、
苦笑している彼女の顔は、それほど深刻そうなものではなかった。
「避けてたって訳ではないけど。」
「けど?」
「まぁ、接点がなかったからかな。グループも違ってたし。」
「それだけ?」
「ん?」
「ズバリ聞いちゃうけど・・・私のこと嫌ってたんじゃない?」
うつむき加減で問いかける彼女。
いつもの自信に満ちた輝きは、その瞬間、影を潜めていた。
みんなの憧れの石川梨華とは思えないほど、
その時の彼女は物憂げな表情をしていたから。
ポジティブなイメージが強いけれど、
こんな一面も持っているのだと、新たに発見した思い。
人間なんてそう画一的にできているものではないけれど。
「まさか。それはないな。」
「・・・本当に?」
「うん。うそはついてないよ。」
その答えに納得したのか、彼女はほーっとため息をもらした。
- 93 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時13分04秒
- 「そっか。よかった。てっきり嫌われてるものだと思ってたから。」
「あはは。第一、嫌う理由がないじゃない。」
「え?」
「あたしも実は石川梨華に憧れてた口だから。」
「・・・・・・・。」
頬を赤く染めて、うつむいてしまった石川梨華。
こんなことを言うつもりはなかった。
だけど、ちゃんと誤解を解いておきたかったから、
あたしは敢えてそれを口にしたのだ。
自分とはあまりにも違いすぎるその存在に、
事実、近づき難いものを感じていた。
しかし、それは石川梨華のことを嫌っていた訳ではなく、
憧れるが故の行動。
だが、それもどちらかと言うと軽薄なものだったのかもしれない。
言わば、アイドルに憧れる一般人のような感覚。
つまり、遠くからその存在を感じられるだけでよかったのだ。
所詮手にすることなどできない存在なのだから。
だったら関わりなど最初からもたずに、その他大勢の中の
一人でいたかった。
あたしはずっとそう思っていた。
彼女がここに現れるまでは。
- 94 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時14分23秒
だけど、あたしは気付いてしまった。
自分の中にある本当の気持ちに。
ただの憧れだと思っていた。
しかしそうではなかったのだ。
ここで石川梨華が見せた、キラキラとした笑顔。
その微笑みに胸が拍動を打った。
それ故、やはり手の届かない存在だと思い知らされて、寂しさを感じた気持ち。
だけど、彼女の中にある寂しげな影を悟った瞬間、
たまらなく愛しく感じてしまったのだ。
知らない一面を知ってしまったことで、もっと彼女を知りたいと
思うようになってしまった。
あまりにも知らないことが多すぎたのかもしれない。
表面的なものしか見ることができなかったあたしに、
偶然とはいえ、心の内をみせてくれた彼女。
遠くにいた存在が、すぐ近くに感じられる。
普通なら戸惑ってしまってもおかしくない状況だろうけど、
あたしはなぜかそれを心地よく感じていた。
石川梨華もまた、みんなと同じように、悩んだり壁にぶつかったり
していたことがわかったから。
特別な存在だと決め付けていたのは、あるいは間違いだったのかもしれない。
- 95 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時15分36秒
頬を染めてうつむいている石川梨華の姿に、
ごく普通の女の子を感じた。
「石川梨華。・・・ううん。石川さんはあたしの憧れだった。」
あたしの言葉に、顔を上げた彼女。
「吉澤・・・さん?」
「だけど、今は違うよ。」
「・・・え?」
「認識が変わった。憧れの存在から、別のものへと。」
フェンスを吹き抜けていく風にあおられた髪を押さえることなく、
石川さんは、ただじっとあたしを見ていた。
「・・・別の・・・もの?」
「うん。石川さんは、クラスメイト。あたしの大切な友達。」
不安げに見つめていた眼差しが、ゆっくりと和らいでいった。
心の奥に芽生え始めた思い・・・・。
本当は友達以上の気持ちを感じてはいたけれど、
そこまで伝える必要はないと思ったのだ。
「ありがと。」
たった一言の言葉だったけど、あたしはそれで充分だった。
それこそが一番聞きたい言葉だったから。
- 96 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)00時19分16秒
- >作者
はい。1話分投稿終了♪
まだ続きますので(w
ヒサブリに続きものを書いていますが、
こんなに疲れてたかな?(笑)
長いお話はテンションの波とか、
(もちろん中だるみも含めて(笑))
ありますので、飽きられずにいれたらいいなぁと思っています。
心優しいモニターの前の読者さま。
ぜひぜひ応援してやってくださいね♪
でないと、作者やる気下がっちゃいますので(笑)
なんて。作者ってなんて他力本願なんでしょう(wゞ
それでは次回をお楽しみに♪
ありがとうございました。
- 97 名前:シフォン 投稿日:2003年05月25日(日)00時31分12秒
- >作者様
新作スタート、おめでとうございます☆
そして、大量更新お疲れさまでした!
この先どんな展開になるのか、とっても楽しみです♪
作者様の作品ですから、きっと期待通りの展開のハズ(笑)
吉ヲタのウチとしては、吉視点でお話しが進んでるのが嬉しかったりします♪
これからも作者様にしっかりついて行きますよ〜!!
次回の更新も頑張って下さい!
楽しみに待ってます♪
- 98 名前:ROM読者 投稿日:2003年05月25日(日)03時13分26秒
- いしよし警報発令・・・次回は直撃か、はたまたフェイントなのか。
微妙にど真ん中をちょっとずらすのもこれまた美学だったり・・。
・・ど真ん中って・・なんだろう?
- 99 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月25日(日)04時07分19秒
- むむっ!!新作がスタートしましたか!
早くも胸がドキドキしております!
何か修行僧2003さんの作品読んでるとよっすぃ〜と一緒に
泣いたり笑ったり、そして梨華ちゃんにときめいたりするんですよね(笑)
こんな駄レスでやる気に少しでもお役に立てるのなら
図に乗ってどんどん書かせていただきます(笑)
では、続きを楽しみにしてます!
- 100 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月25日(日)10時11分50秒
- 100!なので初レスを(W
前2作品からRomっていた読者がここにも一人おります。
も〜う甘いのだいすっきなので、あまアマに仕上がる方向期待しています(W
- 101 名前:100 投稿日:2003年05月25日(日)11時47分21秒
- し、しまった...
「前2作品」でわなく、正しくは「前2レス」ですた。
あ〜〜、(鬱
すいません、バカ読者で(泣
もう半年おとなしくRomってます
- 102 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)15時47分36秒
- >シフォンさま
ここ最近は一番に駆けつけていただいて、誠に感謝しております♪(wゞ
やや頑張って大量更新などしてみましたが、
果たしてこのペースで続けていけるのか・・・(笑)
しかし、シフォンさまの読み通り、「甘」締めです(w
作者はやはり甘しか書けませんので(苦笑)
またまた応援してくださいね♪よろしくお願いしまっす。
>ROM読者さま
This is The 運命!This is The美学!
かるーく中心を外してるかもしれませんね(w
今回のもどうでしょう。
ご期待には添えないかも!?(笑)
それでもちゃんと甘補完しますので、よければついてきてやってください。
というよりも、ROMさまとは運命共同体。
先にどちらが倒れても、死なばもろともなのです(w
>ぷよ〜るさま
やったっ♪ときめいていただけたのですね!!!
作者もよっすぃー好きだからかはわかりませんが、
梨華ちゃにきゅーんとなることがあるんですよ(笑)
おそらく吉と同じ視点かと(wゞ
あの2人はリアルでもラブラブですからね(笑)
ほんと、うらやますぃ〜!!!
いつも応援ありがとうございます♪♪♪
- 103 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)15時52分49秒
- >100さま
ぴったんこ賞ですね!!!ヨカタです♪
>「前2作品」でわなく、正しくは「前2レス」ですた。
ん?ちゃんと意味は伝わりましたよ?
やだなぁー。そんなに気を遣わないでくださいよぉ☆
ってゆーか、本当にここまでついてきてくださって
感謝いたしております。
前回の2スレから引き続きご愛読いただけてるんですね!
きゃ〜っ!うれすぃー♪♪♪
半年と言わず、どうぞこれからもガシガシレスつけて
くださいよー♪
期待して待ってまっす♪ありがとうございましたー(wゞ
それでは2話目、投稿しますが・・・・。
やや痛めかも???(笑)
しかし必ず甘になりますので(w、呆れずに最後まで
読んでやってくださいね。それではどうぞ!
- 104 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)15時55分39秒
あれから一週間。
石川さんは相変わらず、ポジティブに頑張っている。
何かが吹っ切れたかのようなその表情に、
見ているこちらまで元気をもらえそうなほど。
引退したテニス部にも、後輩の指導で顔を出したり、
かと思うと、下校時間ギリギリまで図書館で勉強していたりと、
精力的に活動している。
もっとも、受験勉強なんかしなくても、
石川さんほどの人ならば、学校推薦枠は確実に取れるのだろうけど。
一方、のんびり構えているあたしは、学内のエスカレーターに
乗るお気楽組。
外部に受験しようと思う考えこそが石川さんらしいけど。
そんな話も教室で交わせるようになっていた。
「吉澤さん。今日は行かないの?」
カバンに教科書を詰め込んでいたあたしに問いかけてきた彼女。
「そうだなぁ・・・。」
ちらりと窓の外を窺った。
どうやら天気予報は外れたみたいで、空は雲ひとつなく
綺麗に澄んでいる。
「久しぶりに行こうかな。」
「私も一緒に行っていい?」
「クスっ。もちろん大歓迎。」
- 105 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)15時56分47秒
錆びた鉄の扉を開けた瞬間、風が吹き抜けていった。
「気持ちいいねー。」
「くはーっ!最高!」
大きく伸びをして、体いっぱいに風を感じた。
先週よりも幾分冷たく感じるのは、確実に秋へと向かっている証拠。
カバンを背にして入り口の壁に寄りかかる。
いつものあたしの定位置に。
だけど今日は一人ではない。隣に石川さんが座っているのだ。
「勉強すすんでる?」
ほんの少しだけ顔を横に向けてそう聞いた。
これだけ近くにいると、目を見て話すのは照れてしまうから。
「うん。ばっちり。」
「そっか。偉いね。でもこんなところでのんびりしてていいの?」
「たまには気分転換も必要でしょ?」
「あはは。確かに。」
ウキウキと弾む心。
石川さんとこうやって過ごすのはあの日以来のことだった。
- 106 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)15時57分51秒
あれからあたしは、石川さんを見る目が変わったように思う。
いや、確実に変わっていた。
ただ憧れていた存在から、ぐっと身近に感じられる存在へと。
その距離が縮まったことで、にわかに芽生え始めた気持ち。
あたしは恋をしていた。
もっとストレートに表現すると、石川さんを好きになっていたのだ。
だからこうして2人で過ごせることに、密かに心躍らせていた。
隣に存在を感じられるだけで、心は自然と満たされていく。
石川さんの空気を感じられるだけで。
「吉澤さん。私に気を遣わないで読書してくれていいよ。」
「えっ?」
「実は私も読書しようと思ってたから。」
もたれていたカバンから取り出した本は、
あたしが薦めた推理小説の初刊だった。
「借りたんだ。それ。」
「うん。すごく面白いよね。時間も忘れて読みふけってしまったわ。」
栞をみると、それは三分の二程の位置ではさまれていた。
「受験勉強中だったのに、悪いことしちゃったかな。」
苦笑いで視線を本に落とした。
- 107 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)15時58分53秒
- 「そんなことないよ。良書に出会えて感謝しているもの。
勉強だけしててもつまらないから。」
その言葉に頷くと、あたしもまた読みかけていた本を取り出した。
石川さんはきっと、あたしが本を読むためにここにきたと思っている。
だからこちらが気を遣わないでいいようにと、自分も本を取り出したのだ。
そんなさりげない優しさがちゃんと伝わってきたから、
その気持ちを無駄にしようとは思わなかった。
せっかく2人きりの時間を過ごせるのに、読書に時間を費やすのは
正直もったいないと思ったけど、ある意味それはとても贅沢な時間の過ごし方だった。
「クスッ。文学少女が2人。」
並んで本を広げているあたしたちを、誰かが見たらそう呼ぶのかもしれない。
石川さんは確かにぴったりと当てはまるけど、
あたしには当てはまらないだろうなと、自分で言って笑ってしまった。
「ホントよね。読書の秋って感じ。」
ぱらりとページを繰る紙の音が、耳に心地よく聞こえる。
一方こちらは、なかなかページを進めることができないでいた。
- 108 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)15時59分56秒
- 石川さんのことが気になって仕方なかったのだ。
同じところを2度、3度繰り返し読んでしまっている自分に
内心苦笑したり。
それでも頭の中にはちっとも物語が入ってこなかった。
架空の話よりも、現実にいる彼女の物語を知りたい。
しかし読書を邪魔することなんてできないから、
こちらもさも読んでいるとばかりにページを繰っていた。
変に思われないための偽装工作。
隣では相変わらず規則正しく聞こえてくる紙の音。
だけどそのペースが段々と落ちていってるように思えた。
やがてその音がぴたりと止まってしまったので、
ちらりと手元を見ていると、ページが風に吹かれて勢いよく流れていった。
「クスっ。寝ちゃってるよ・・・。」
うつむいたまま微動だにしない体。
ぱたぱたとめくれていく本を閉じて、膝から取り上げると、
起こさないようにそっと頭をあたしの肩にのせてあげた。
すやすやと聞こえる寝息。
きっとよほど疲れていたのだろう。
- 109 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)16時00分47秒
- 「頑張りすぎなんだよ、石川さんは。」
無垢な寝顔に話しかけてみる。
もちろん聞いていないのをいいことに。
「近くで見るともっとかわいいな。」
守ってあげたくなるほど、華奢な体つき。
女の子っぽい優しい顔は、穏やかな寝顔としてあたしの目に映っていた。
髪の甘い香りがほのかに伝わってくる。
肩に感じる石川さんの体温は、あたしの心もまた温めてくれていた。
「このまま・・・時が止まればいいのに・・・・。」
本気でそう思ってしまった。
このままずっと、2人きりで誰にも邪魔されることなく
秋の風を感じていたい。
みんなの憧れの石川さんを、いつまでもあたしの手の中に
そっと包み込んでいたい。
安心したように眠るその表情を見るにつけ、
心の中に言い知れぬ独占欲が沸き起こってきた。
- 110 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)16時01分55秒
「かわいいな・・・。」
じっと唇を見つめていた。
薄くリップでもひいているのだろうか。
その唇は、つやっぽく光を帯びていた。
そして、まるで引き寄せられるかのように、唇を近づけていった。
「・・・ふっ。なにやってんだ、あたし。」
キスをする寸前で、はたと我に返ると、
自分がしようとしていたことに、戸惑ってしまっていた。
「無防備な人にキスしようとするなんて・・・ね・・・。」
はぁーっと大きく息をついて空を見上げた。
自分の知らないうちに、好きでもない人からキスをされていた
なんてことを知ったら、石川さんはどう思うのだろう。
彼女はきっと、あたしに対してそんな気持ちはもっていないのだ。
そう考えると胸が苦しくなっていった。
やはり手の届かない存在は、友達になった後でも変わってはいなかったのだ。
いや、身近に感じられるようになって、余計そのことを思い知らされた。
- 111 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)16時02分59秒
「・・・好きだよ。石川さん。」
この想いを伝えることはきっとこれからもないだろう。
あたしはそう思ったから、せめて寝ている彼女にそっと告白してみたかった。
目を閉じて彼女の寝息を肩に感じてみる。
今この時だけは、石川さんの止まり木でいてあげたかった。
ゆっくりと羽を休めることのできる存在として。
ページだけ繰って、結局読んでいなかった本を、栞を挟むことなく閉じた。
彼女の頭の上に、そっと頬をのせると、あたしもまたしばし
夢の中へと誘われていった。
「吉澤さん。起きて。」
揺り動かされる体。
その声の方にうっすらと目を開けると、石川さんが心配げにあたしを見ていた。
「・・・ん・・・・。」
「風邪、引いちゃうよ?」
どうやら先に起きたらしい彼女は、なぜかあたしのことを
見下ろしていた。
- 112 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)16時04分03秒
- 「あ・・・っ。ごめん。」
あわてて体を起こした。
どうやらずっとあたしは、彼女の膝に体を預けて寝ていたようだ。
「あっ、その・・・気にしないでね。
吉澤さん寝づらそうにしてたから、私が勝手に膝を貸しただけだから。」
「全然気がつかなかった・・・。重かったでしょ。ごめんね。」
「ううん・・・・。」
黙り込んでしまった2人。
オレンジ色の夕日が辺りを染めていた。
「気持ちよさそうに寝ていたから、起こすのかわいそうだったんだけど・・・。
風、冷たくなってきたから。」
ずっと石川さんはあたしのことを見ていたのだろうか。
そう思うと妙に照れくさくなってしまって、うつむいてしまった。
「・・・・ありがと、膝枕。」
「ううん。先に寝ちゃったの私だし。それに・・・」
「ん?」
「肩を貸してくれたお礼。」
石川さんの頬がうっすらと赤く染まっていたのは、
夕日に照らされているせいだろうか。
- 113 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)16時05分08秒
「随分時間たってたんだね。ごめんね、こんな時間まで付き合わせてしまって。」
「気にしないで。今日はめいっぱい息抜きしようと思ってたから。」
「クスクス。それで、いい息抜きになった?」
「うんっ。吉澤さんのお陰で、すごくいい気分転換になったよ。ありがと。」
「居眠りだったらいつでも付き合うから。また声をかけて。」
2人で笑い合うと、あたしは大きく伸びをして勢いよく立ち上がった。
「さ。帰ろうか。」
手を差し出して、石川さんの手を掴んだ。
「ありがとう。」
「おしっ!」
ぐっと力を入れて、彼女を立ち上がらせようと思い切り引き上げた。
狙っていた訳ではない。
それは神様にだって誓って言える。
だけどこの胸のドキドキは、石川さんには絶対に言えないことだけど。
立ち上がらせた瞬間、彼女はあたしの腕の中にいたのだ。
互いのタイミングがずれてしまって起こった、ちょっとした偶然。
- 114 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)16時06分01秒
- 「ごっ・・・ごめんね?大丈夫だった?」
冷静さを装ってはいるけれど、あたしは完全に舞い上がってしまっていた。
「・・・大丈夫。全然平気だから。」
体に響く彼女の声を感じて、掴んでいた手にぎゅっと力を入れてしまった。
ぴったりと重なる2人の体。
またあたしは望んではいけないことを、心の中にわきあがらせてしまっていた。
このまま、石川さんの唇に触れてみたい・・・。
ほんの少し首を傾けるだけで、それを手にすることはできるのだ。
けれどもちろんそんなことはできるはずもなく。
ならばせめて一度だけでも、石川さんのことを思い切り抱きしめてみたい。
そう思った瞬間、もう気持ちは止まらなくなっていた。
どんな風に思われるかはわからない。
もしかしたら嫌われてしまうかもしれないという考えが、一瞬頭をよぎったけど、
それよりも先に体が動いてしまったのだった。
- 115 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)16時08分19秒
ウエストに腕を回して力いっぱい抱きしめる。
華奢な体は折れてしまいそうなほど細く感じたけど、
しっかりとした柔らかな感触が体に伝わってきた。
その抱擁はあまりにも心地よく、ずっと離したくなくなるほど。
これから先、もう二度と感じることはできないであろうその感触を、
あたしは精一杯体に刻み込んでおきたかった。
「・・・・・・吉澤・・・・さん・・・・?」
不安げな声が耳に届く。
それもそのはず。訳もわからず抱きしめられているのだから。
「ごめん・・・・石川さん。」
「・・・・え?」
「今は何も聞かないで。このまま抱きしめさせていて。」
理不尽なことを言っている。
自分ですらそう思ったのに、彼女は意外なことに頷いてくれた。
「ありがと・・・。」
そう言うのが精一杯だった。
壁に映る2人の影が、くっきりと浮かび上がっている。
- 116 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)16時08分59秒
このまま、あたしだけの彼女にしたい。
しかし、気持ちを伝えてもきっとそんな想いは叶うはずはないのだ。
ならば今のあたしにできることは、この瞬間を思い出として胸に留めることだけ。
切なくなる気持ちに射していく影。
やはり最後まで好きだとは言えなかった。
- 117 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月25日(日)16時12分41秒
- >作者
第2話投稿終わりです(w
梨華ちゃんは果たしてよっすぃーのことをどう思っているのか。
まぁ、いしよしスレでこんな質問は愚問ですが(笑)
はやく2人の想いが通じるといいですねー
・・・ってオイ!書いてるの作者じゃないのよぉー!
がんがれ>作者!!!
・・・。と、まぁ、こんなイターイ作者ですが、
これからもがんがっていきますので、どうぞよろしくです。
次回へ続く・・・。(がんがれ、まだ1行も書いてないぞ!(笑))
- 118 名前:シフォン@i 投稿日:2003年05月25日(日)16時20分55秒
- またも一番乗り?!(笑)
たまたま携帯から覗いて見たら、また更新されてるじゃないですか♪
>作者様
今日も大量更新お疲れ様でした!
屋上での二人の様子が目に浮かぶような、綺麗な描写に、今日のお仕事の疲れも吹き飛びました(素)
この先の甘〜い展開、楽しみに待ってます♪
無理はなさらず頑張って下さいね☆
- 119 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月25日(日)16時42分39秒
- 残念…。一番乗りじゃない…(笑)
でも、こうやって修行僧2003さんの作品を
読めるだけで十分です、マジで。
またも吉と一緒に自分も胸がドキドキしちゃいました♪(笑)
てか、吉になりたいです!!(壊れ気味)
では、続きも楽しみに待ってます!!
- 120 名前:名無し読者79 投稿日:2003年05月25日(日)16時55分14秒
- 新作さっそく読ませていただきました!!
よっすぃー、切ない。
梨華ちゃん視点も読んでみたいなーなんて思っちゃいました。
きっと梨華ちゃんも…なんてね。
今日のハロモニも良かったですし、最高です(^^)
- 121 名前:Silence 投稿日:2003年05月25日(日)17時17分36秒
- 更新お疲れ様でございます。
いいですね、今回のお話も。さすが作者様ですね。
優等生な梨華ちゃんですか。続きも気になりまく
りです。応援してますよ。がんばってください!!
- 122 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年05月26日(月)10時19分09秒
- おひさしぶりです!
忘れ去られし愛読者です(笑)
気が付いたらもう新スレですね〜
もう全話、一字一句逃さず読んでると自負してるんですが、どうも忙しくて…
ところでいしよしが読んでるシリーズ物の推理小説が激しく気になりまっす!!
修行僧様のオススメが知りたかったり…
- 123 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時19分58秒
- >シフォン@iさま
いやぁ〜。わざわざ携帯から見てくださったんですね!!!
作者かなり感激いたしました!!!
ご期待に添えるかどうかわかりませんが、
これからもっともっとがんばりますね!
嬉しいレス、いつも一番に書いてくださってありがとうございます☆
>ぷよ〜るさま
次こそどうぞ狙ってくださいね?>一番のり(w
えへへ。よし視点で一緒にワクワクしていただいて、
嬉しいです♪作者もかなりよし視点でしか
梨華ちゃん見てませんが、なにか?(wうふふ。
これからもどうぞ応援くださいませ♪
>名無し読者79さま
やや!さっそくお越しくださいまして感謝です♪
ハロモニは笑いましたね!!!(笑)
しかし、一応吉澤一家。喜んでいいのか・・・(w
あぁ。作者の憧れの美少女よっすぃーはどこへ逝ったの!・゚・(ノД`)・゚・
梨華ちゃん視点は、またいつか書くかもしれませんが、
その時はまた応援ください♪
- 124 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時28分26秒
- >Silenceさま
いつも嬉しくなる励ましのお言葉、感謝ですっ♪
いやぁ、やはり甘で締めることになりましたが、
どうぞこれからも甘作品、応援くださいませ♪
Silenceさまとともに、いしよしを盛り立てて
いこうと考えていまっす♪
>ラヴ梨〜さま
きゃ〜〜〜〜!!!!!
めちゃめちゃ待ってましたよぉー☆
ってゆーか、作者見切りをつけられたものだと
もう完全に諦めていましたが(wゞ
またお会いできて、本当に嬉しいです!!!(マジ)
2人が読んでいるのは、洋書のナニガシって感じを
もたせたかったのですが、実際のところ、よしは
「小林少年」っぽいので、それで如何でしょうか?(wゞ
(明智小五郎でないところがポンイント(w )
推理小説ではものすっごくベタですが、A・クリスティーの
「名探偵ポアロ」シリーズが好きで、読破しました。
乱歩では「人間椅子」と「押絵と旅する(あれ?なんだっけ?)」
がグッときましたね。ごめんんさいね、ベタで(笑)
三国志には、あまり興味がないのです・・・。ごめんなさい(涙)
お忙しいようですが、これからも頑張ってくださいね!
またいつでもお待ちいたしておりますので♪
それでは続き、どうぞ!
- 125 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時31分28秒
「なんだー。浮かない顔して。」
食べ終わったサンドイッチのビニール袋をクシャッと
丸めながら、真希が苦笑した。
「浮かない顔してるかな・・・。」
大好きなお弁当のおかずにすら、2、3口かじった程度で
残していたから、きっと真希の言う事は正しい。
「浮かないどころか沈んじゃってるよ。」
冗談交じりに笑うと、カフェオレをおいしそうにすすっている。
真希はあたしの親友・・・いや、悪友と言った方が正しいのかも
しれなけれど、とにかくなんでも話せる間柄。
しかしその真希にすら言えないことはあるのだけれど・・・。
「悩み事でもあるの?」
「あ・・・。うん。まぁ・・・。」
「よすこらしくないじゃん。アタシに相談もしないなんて。」
「んぁ?・・・んー・・・・。」
「おいおい。こりゃ相当重症だな。」
ズズッとカフェオレを飲み終えると、ビニール袋にゴミを入れて、
教室の端に置いてあるゴミ箱へと捨てに行ってしまった。
その姿を追うように見ていたら、偶然石川さんと目が合ってしまった。
彼女はすぐに視線を逸らすと、また友達の会話の中へと視線を戻した。
- 126 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時32分28秒
「はぁ・・・。やっぱり避けられてる・・・・。」
あたしを沈ませている原因。
それは石川さんだった。
昨日、屋上で抱擁してしまった後、
結局何も言わないままで別れてしまった2人。
今日、石川さんがどんな顔をしてあたしを見るのか。
昨日の夜からずっと気になっていた。
だから注意深くその表情を観察していたのだ。
朝、おはようと声をかけたあたしは、意識していることを悟られないように、
いつもの調子で笑いかけた。
しかし彼女の方はというと、どこかぎこちなく、
挨拶だけすると、すーっと自分の席へと行ってしまったのだった。
それからなんとなく声をかけづらくて、休み時間も
お互いに何も話せなかった。
そしてお昼休みの今に至っている。
「よすこ。ちょっと。」
戻ってきた真希があたしの肩に手を置いた。
「ん?なに?」
「いいから。ちょっと付き合いなよ。」
「・・・わかった。」
食べ残した弁当を手早く片付けると、真希に誘われるまま教室を出た。
石川さんの方へは一度も振り向かずに。
- 127 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時34分07秒
「で、なに?」
非常階段に連れ出されてしまったあたしは、
手すりに背をもたせかけている真希に問いかけた。
「なにってことはないだろ。せっかく気を利かせてあげたのに。」
彼女は呆れ気味にこちらを見ていた。
「気を利かせた?」
「よすこ。石川さんとトラぶってんじゃないの?」
思わず真希を直視してしまっていた。
「ふふっ。その顔は当りだね。」
「・・・なんで・・・・・・・。」
「アタシが席を立った後、ずっと彼女の方見てたじゃん。
石川さんもよすこの視線に目を逸らせていたし。」
それは一瞬の出来事だったのに、真希は瞬時にして
そのことを見抜いていたのだ。
「クッ。やっぱ真希にはかなわないな。」
「これでも伊達によすこの親友はってる訳じゃないからね。」
苦笑しながらあたしの肩に手をかけた。
「・・・・黙っててごめん。」
「ははは。いいよ、別に。外の空気吸うだけでも気分転換にはなるでしょ。」
「はぁ・・・。ねぇ、よかったら聞いてくれる?石川さんのこと。」
「元よりそのつもりだけど。」
「真希・・・・。」
- 128 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時35分23秒
- あたしもまた手すりに肘を置いて、昨日までの2人のことを
かいつまんで説明した。
もちろん、あたしの中にある彼女への気持ちも。
「うはーっ。よすこ、あんた勇気あるねー。」
「あたしもそう思う。」
「って言うより、身の程知らずかな?」
「・・・だよね。」
やはりあの石川さんに恋心を抱くなんて、無茶もいいところだったのだ。
真希の言葉を聞いて、改めてそう思ってしまった。
「なんてね。冗談だよ。」
「は?冗談?」
「よすこと石川さん。お似合いのカップルじゃん。」
「それも冗談だろ?」
「クス。これは本気。」
「はぁーっ・・・。真希にそう言われてもなぁ・・・。」
「なんだよ。」
「肝心の石川さんがどう思っているのか・・・。」
大きくため息をついてしまった。
「アタシが思うに、石川さんはよすこを避けている訳じゃないと思うよ。」
「またそんな無責任な・・・。ひとごとだと思って。」
「案外よすこも鈍いんだね。」
「・・・鈍い?」
「乙女心、全然わかってないっ。」
- 129 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時36分26秒
真希からそんな言葉が出てくるのは、ちょっと意外だったけど、
あたしは藁をも掴む気持ちで、問い詰めた。
「どういうことなの?」
「つまりはだね、石川さんもよすこのことを意識している。
要はそういうことだ。」
「意識?」
「よすこのこと好きってことだよ。」
それこそ悪い冗談だと思った。
真希はあたしをからかっているのだろうか。
「思いっきり避けられてるんだよ?それでも?」
「あいたた・・・。青春のイロハ、まさかよすこに教えなきゃいけないなんてね・・・。」
思いっきり苦笑いをされてしまった。
「ちゃんと教えてよ、あたしにもわかるように。」
「いいか、よすこ。よく思い出してみな。
石川さんはよすこが抱きしめた時、嫌がっていた?」
「うー・・・。どうだろ。嫌がってた感じはしなかったと思うけど・・・。」
「そこで普通は気付くものだけどね。」
「え?」
「まぁいいよ。それで問題は昨日の今日だ。」
「うん。」
- 130 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時37分34秒
- 「バカよすこはごくふつーに彼女に挨拶したんだよね?」
「・・・・バカって・・・。」
「いいから、答えてよ。」
「まぁ、普通に、いつも通りに。だってさ、こっちが意識してたら、
石川さんまで意識させちゃうことになるじゃん。」
「それだ。」
「は???何がそれなの???」
「石川さんはよすこに意識してて欲しかったんだよ。
昨日の抱擁が意味のあるものだって。
だけどよすこは普通にただ挨拶をした。
これじゃ昨日のことは何もなかったってことにしてくれって
言ってるようなものじゃん。」
「・・・そこまで石川さん、考えてるかなぁ・・・。」
「だから鈍いって言ってるの。」
「悪かったね、鈍くて。」
「クスクス。そう拗ねるなよ。」
「だけど・・・もしそうなら、あたしは一体どうしたらいいの?」
すがるように真希の手を握り締めた。
「おいおい・・・。捨て犬みたいな目で見るなよ。」
「真希ー。」
「わかったから・・・。手、離してくれない?」
「あっ。ごめん。」
「ったく。情けない顔するんじゃないの。」
そう言うと、あたしの頭にぽんぽんと手を当てた。
- 131 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時38分24秒
「ちゃんと告白した方がいいね。石川さんに。」
「告白!?」
「当り前でしょ。向こうもよすこの本当の気持ち知りたいだろうし。」
「でも・・・さ・・・。」
「らしくないね、よすこ。」
「振られたらどうすりゃいいんだよ。」
「振られないって。絶対。」
「そうかなぁ・・・。」
「そうだよ。脈あり。アタシはそう踏んでるから。」
説得力がありそうでないような応援をうけると、
あたしたちは非常扉を開けて出ていった。
「ほら。さっそくチャンス到来。」
コソコソと小声で肘を打ってきた真希。
偶然にも廊下の先に石川さんがいたのだ。
背中をポンとたたくと、真希は一人で教室に戻って行ってしまった。
- 132 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時39分29秒
- 「あのっ、石川さん。」
あたしの視線を避けるようにうつむいていた彼女に、
勇気を出して声をかけてみた。
「・・・なに?」
「その・・・・さ・・・。放課後時間ある?」
一瞬戸惑うように動いた目の動きに、あたしの心は
ぎゅっと締め付けられていった。
断られてしまうかもしれない。
そう感じたのだ。
「あっ・・・。・・・うん。」
だけどそれは杞憂に終わった。
一応OKをもらうことができたのだ。
もうそれだけで、どっと気疲れがする思いだったけど。
「いつものところで・・・いいかな。」
「・・・うん。それじゃ、放課後。」
そう言うと、彼女は手にしていた本を胸に抱えて、
階段を駆け下りて行ってしまった。
授業の終わりを告げるチャイムの音が、ドクンと心臓を突き刺した。
いよいよこの時が・・・。
午後の授業はまるで上の空。
あたしは石川さんに伝えるべきことに頭がいっぱいだったのだ。
- 133 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時40分23秒
「頑張ってきなよ。」
真希の手が肩に触れた。
「うん。なんとかやってみる。」
「クスっ。表情硬いよ?」
「あ・・・。」
「大丈夫だって。絶対うまくいくから。」
「・・・うん。」
「じゃぁね。」
真希の姿を見送ると、石川さんに視線を移した。
彼女はカバンを手にしたままで、あたしを待っていてくれたようだ。
「ごめんね待たせちゃって。」
「ううん。」
「いこっか。」
下校していく流れとは逆に、あたしたちは屋上への階段を昇っていった。
=ギギギギギ・・・・=
扉がやけに重たく感じる。
一気に流れ込んできた冷たい風が、あたしの心を引き締めていくようだった。
- 134 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時41分24秒
「ごめんね、忙しいのに呼び出したりして。」
いつか石川さんと話したフェンス越しに、それをぎゅっと掴んで、
緊張で震えてしまいそうになる手の動きをセーブした。
「・・・ううん。時間のことは・・・気にしないで。」
こちらの緊張が伝わっているのだろうか。
彼女もまた、ぎこちなく言葉をもらした。
それからが問題だった。
まさかいきなり『好きです』とも言い出せる訳がない。
切り出すタイミングを慎重に考えていた。
誰かに告白したことなんて今まで一度もなかったことだから。
「あの本、読みきったんだ。」
とりあえず無難な話題から切り出すことにした。
「えっ?」
「返却しに行ったんじゃないの?本抱えてたから。」
「うっ、うん。・・・そう。」
やっぱり石川さんも緊張している。
わざわざこんなところに呼び出してまでする話ではないこと
くらい、彼女もきっとわかっているはずなのだ。
だけどあたしが何を話したいと思っているのかまでは、
きっとわかっていない。
わかっていないからこそ、緊張しているのだ。
注意深くこちらを見ている視線に、それを感じた。
- 135 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時42分23秒
「・・・吉澤さん。何か話があるんじゃないの・・・。」
こちらの空気を察したのだろうか。
意外にも彼女の方から切り出されてしまった。
「あ・・・。うん、実はそう。」
すーっと大きく息を吸い込んだ。
遠まわしに言葉を並べ立てるより、
当って砕けてもいいから、潔く告白した方がいいと思ったから。
だけど・・・。
「大丈夫。ちゃんとわかってるから。」
先に話し始めたのは石川さんだった。
「え・・・・。」
「意味なんてなかったって言いたいんでしょ。・・・昨日のこと。」
瞬間、真希が言ったことを思い出した。
《《《石川さんはよすこに意識してて欲しかったんだよ。
昨日の抱擁が意味のあるものだって。》》》
ごくりとつばを飲み込んでしまった。
真希の言ったことは正しかったのかもしれない。
だとすると、石川さんはあたしのこと・・・。
- 136 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時43分14秒
「誤解だよ。」
「誤解?」
「だからさ・・・その。昨日のことにはちゃんと意味がある。」
ドクドクと沸き立つ血が、体の中を巡っていく。
極度の緊張で体が強張りそうになったけど、
今こそ伝えなきゃいけない。あたしの気持ちを。
「・・・好きなんだ。石川さんが。」
やっと伝えることができたのはいいけれど、
彼女は表情一つ変えずにあたしを見ていた。
「無理しなくて・・・いいのに。」
「・・・・えっ。」
「無理に好きになってくれなくてもいいよ。」
あたしの告白を否定するかのように、冷たく響き返ってきた言葉。
しかし、それもどこかニュアンスが違う。
告白を拒否されたというよりも、この気持ちが真実でないかのような
受け取られ方をしていると感じたのだ。
- 137 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時43分59秒
「無理に・・・?どういうこと?」
「同情・・・してくれたんでしょ。私のこと。
じゃないと吉澤さんが私のことなんて好きになる訳ないもの。」
やはり石川さんはあたしの想いを誤解しているようだった。
それにしても、同情とはどういうことだろう・・・。
「なんであたしが石川さんに同情するの?」
「だって・・・。あの日、本当の私の姿を見られてしまったから・・・。
寂しくて、不安で、なにか物足りなさを感じて。
自信のない私の姿に同情してくれたんでしょ。
そうでないと説明つかないよ。いくら考えても。」
「石川さん・・・。」
「本当は少し期待してた。抱擁してくれたのは、
ひょっとして・・・って。昨日の夜も眠れずにいたよ。
だけど吉澤さん、今朝すごく普通だったんだもん。
やっぱり私の勘違いだったんだって・・・そう・・・。」
たまらなくなって抱きしめていた。
鈍感だったあたしの罪を償うために。
- 138 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時45分23秒
「ねぇ、これでもあたしの気持ちが同情だと思う?」
ぎゅっと強く抱きしめた。ありったけの好きって気持ちが伝わるように。
「・・・・・・・・。」
「昨日、ちゃんと伝えるべきだったね。」
「・・・・っう・・・。」
「勇気がなかったんだ。拒絶されるのがすごく怖くて・・・。」
「・・・吉澤・・・・さん・・・・。」
「だけど今ならちゃんと言えるよ。石川さんが、好き。
あたしだけの彼女になって欲しい。」
抱きしめている体が震えていた。
だからあたしはその震えを止めるように、もっともっと
彼女を抱きしめたのだ。
「石川さんの答えを教えて?」
「私・・・・私の・・・答えは・・・・。」
「・・・うん。」
「吉澤さんの彼女にして欲しい。」
ふーっとため息をもらしてしまった。
緊張から一気に解放されたから。
それと同時に、頭の中がジーンと痺れていくような感覚に
襲われたけど、それでもあたしは石川さんを離さなかった。
- 139 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時46分42秒
「石川さん。」
「・・・・なに?」
「前言撤回ってのはナシだからね。」
「クス。それは吉澤さんも。」
やっと通じ合えた気持ちが、一緒に揺れている体に響いていく。
「ねぇ・・・吉澤さん。」
「ん?」
「あの・・・悪いんだけど、もうちょっと力、緩めてくれないかしら。」
そう言われてやっと、自分がどれほどの力で抱擁していたのかがわかった。
「ごめ・・・。」
「ふふっ。いいよ。ちょっと苦しかっただけだから。」
苦笑している彼女の髪が揺れていた。
そしてあたしはさっきよりも緩い力で、
優しく抱きとめるように、ウエストに腕をまわしたのだ。
だけどそれにもかかわらず、まだ彼女は苦笑していた。
「まだきついかな?」
「ううん。そんなことないよ。」
「じゃぁなんで笑ってるの?」
「ちゃんとわかったからかな。」
「・・・ん?なに?何のこと?」
「私が求めてたもの。私に足りない何か。」
「そっか。やっと見つけることができたんだね。」
「うん・・・。」
そう言って頷くと、あたしの腕をぎゅっと握り締めた。
- 140 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時47分39秒
「石川さんが見つけたもの、教えてよ。」
本当はちゃんとわかっていたけれど、敢えてそれを聞いてみた。
名探偵ではないあたしでも、容易に推理できること。
いや逆に、例えどんな名探偵であっても、それはあたしにしか
わからないことなのかもしれない。
「私に足りなかったもの。それは恋する気持ち。
青春を彩る一番輝いた光。」
「足りなかったものは埋めることができそう?」
優しい眼差しで彼女を見た。
石川さんがかけてくれる言葉を期待して。
「充分過ぎるほど。だって私には・・・。こんなステキな恋人ができたんだもん。」
キラっとした瞳を輝かせて、照れたように笑う姿。
「ステキかどうかは保障できないけどね。」
恥ずかしさを苦笑してごまかした。
「そんなことないよ。私にはもったいないくらい。
これこそ出来すぎてるって感じがするわ。」
「それはこっちが言いたいセリフだけどね。」
クスクスと笑って見詰め合う。
- 141 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時48分33秒
- 「あー。恋ってこんなに楽しいものだなんて・・・。
もっと早く知ってたらよかったのに。」
「そうだなぁ・・・。それはあたしもそう思うかも。」
「3年間同じ学校にいたのにね・・・。卒業前に恋人ができるなんて。
思い出、作り損ねちゃったかな。」
「あはは。それは違うと思うけど。」
「え?どうして。だってもう卒業するまでそんなに時間ないじゃない。」
「確かに卒業までは時間がないかもしれないけれど、
あたしたちは始まったばかりなんだよ。これからいくらだって
時間はあるじゃない。」
抱きしめていた腕を離して、そっと彼女の頬を包み込んだ。
「吉澤さん・・・・。」
「ここでできた思い出はここにしまってさ。
これから2人で作っていく思い出を大切にしようよ。
思い出の向こう側。あたしは石川さんとずっと一緒にいたいから。」
「・・・うん。ありが・・と・・・」
頬を引き寄せて、互いの唇を重ねた。
2人の気持ちを重ねることができた印として。
- 142 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時49分48秒
- 「これで、もう遣り残したことないような気がする・・・。」
「なんか寂しい言い方だね、それって。」
「クス。だって、本当にそう思うんだもん。」
「そっか。でもあたしはちょっと違うかも。」
「え?」
「精一杯楽しんだつもりだったけど、今になって遣り残したことが
あるかもしれないって、思うなぁ。」
「今度は吉澤さんが?」
クスクスとおかしげに笑っている彼女。
あたしはその髪にそっと触れた。
「だってさ、まだ全然石川さんと楽しい時間過ごしてないんだもん。」
「ふふ。そうね。想いを繋げただけじゃだめなのかもしれないわね。」
「でしょ。楽しい思い出、いっぱい作りたいから。石川さんと。」
「うん。賛成。」
「そこで、ひとつお願いがあるんだけど。」
「はい?」
「受験勉強忙しいかもしれないけどさ・・・。
できたらあたしと過ごす時間も少し作って欲しいんだけど。」
「もちろん。そのつもりよ?」
「ふーっ。よかった。勉強の方が大事って言われなくて。」
冗談交じりに笑ってみせた。
石川さんも、照れ笑いを浮かべている。
- 143 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時50分51秒
- 「一番大切なもの、ちゃんとわかっているから。」
「それって、あたしのこと?」
「そうよ。吉澤さんのことが一番大切。」
「あたしも。石川さんが一番。」
「うふふ。なんだかくすぐったい。」
「へへ。なんか嬉しいなこういうのって。」
「うん。楽しいね。」
その手をとって、瞳を見つめた。
「石川さん、まだこれから時間ある?」
「ん?うん。」
「それならさ・・・。一緒にうたた寝しない?」
彼女の瞳が優しく緩んでいく。
「クスクス。吉澤さんたら。」
「いいかな?」
「うん。」
手を繋いでいつもの定位置へと足を運ぶ。
「少し寒いね。やっぱ風冷たいや。」
「うん。でも心地いい。」
「石川さん、もっとこっちにおいでよ。寒くないように暖めてあげる。」
肩を引き寄せてぴったりと体を寄せ合った。
- 144 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時52分05秒
- 「ありがと。吉澤さんあったかい。」
肩に置いた頭をなでるように、手をおいた。
「気持ちいいな、石川さんの側にいると。」
「私も。ホントに眠くなってきちゃった。」
「クスクス。もちろん寝ていいよ。そのためのうたた寝タイムだから。」
「うん。安心して眠れそう。」
「あたしも。」
目を閉じて互いのぬくもりを感じていると、
やがて睡魔がやってきて、あたしたちを夢の世界へと誘ってくれた。
だけどあたしはその世界から一足先に抜け出して、
石川さんの寝顔を見つめていた。
心が満たされていく。そのかわいい寝顔に。
幸せを噛み締めることができる、贅沢な時間。
そしてやはりあたしは思ってしまった。
キスがしたいと。
「やっぱかわいいや。」
安心したように眠る顔を覗き込んで、あたしは微笑んだ。
「起きちゃうかな・・・。」
そうつぶやいてみたけれど、やはり気持ちは止められない。
- 145 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時52分58秒
- ゆっくりと唇を近づけて、軽くキスをしてみた。
ほんの一瞬触れるだけのキスだったのに、石川さんの体はぴくりと反応した。
だけど、何も言わないで、彼女はあたしのキスを受け入れてくれた。
しっかりと抱きしめて、石川さんの唇を感じた。
彼女もまた、あたしを求めるように、たっぷりと甘く
とろけていくようなキスをしてくれた。
「ごめんね、起こしちゃって。」
キスの余韻を残したまま、恥ずかしげに見詰め合う2人。
「ううん。なんかこうなるような気がしてたから。」
「うわ。先読みされてたんだ、あたしの行動。」
「クス。そうじゃないけど。なんとなく・・・ね。」
「なんとなく?」
「昨日もここでこうやって吉澤さんとうたた寝してた時に、
夢を見たの。吉澤さんがキスをしてくれそうな・・・。」
「それ、夢じゃないよ。」
「・・・え?」
「実はキスしようとしてたから。」
「・・・・そうだったの?」
「うん。でもさすがにできなかったけどね。」
「・・・してくれたらよかったのに・・・。」
思わず彼女の目をじっと見つめてしまった。
あわてて視線を逸らされてしまったけど。
- 146 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時56分13秒
「なんだ。残念。それならしてたらよかったな。」
「あ。やっぱり今のなかったことにして。恥ずかしくなってきちゃった。」
「言ったでしょ。前言撤回はナシだって。」
「だって・・・。」
「それなら昨日の分もまとめてしちゃおう。」
そう言って、また唇を重ねたあたし。
くすぐったそうに逃げる彼女の唇をつかまえて、
何度も何度もキスをした。
昨日と今日の分を合わせても充分おつりが返ってくるくらいに。
冷たく頬をなでていく風も、いつしか心地よく感じてしまうほど、
あたしたちの心は熱く燃え上がっていた。
「やっぱアタシの言った通りだったでしょ?」
得意げに真希が言い放っている。
「ホント。真希さまさまだね。」
昨日のうちにメールで彼女には知らせたのだ。
ちゃっかりカフェオレをおごらされる約束もされてしまったけど。
「よすこ。ほら、石川さんこっち見てるよ。」
振り返って彼女の方を見ると、確かにこちらを見ていた。
だからあたしもにっこりと笑顔でそれに応える。
- 147 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時57分07秒
「おいおいなんだよー。見せ付けてくれるじゃん。」
「へへっ。だってさ、あれあたしの彼女だから。」
「ぐはっ。やってらんねー。」
呆れ気味に言うと、そのまま席へと帰っていった。
「いっしかーわさんっ。」
ご機嫌で彼女の席へと向かったあたし。
「ふふ。なぁに?」
「これ、わかんないんだけど。」
適当にもってきた教科書を彼女の机の上に広げた。
「え?どれ?」
「ここなんだけど。これであってるかな?」
彼女のシャーペンを借りて、スラスラと文字を書き込んだ。
「クスクス。そうね、正解かも。」
あたしが書いた文字は
===放課後図書館でデートしない?勉強もできて一石二鳥。===
見上げた瞳は優しくあたしだけに注がれていた。
- 148 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時58分11秒
「あれ?勉強するんじゃなかったの?」
難しい辞書が並べられている書棚の前で、石川さんを抱きしめていた。
ここならまず人はこないし、図書委員の目も届かない。
「勉強するよ、もちろん。」
「その割にはさっきからずーっとこうしているけど。」
「本を広げることだけが勉強じゃないでしょ。」
声が響かないように、そっと耳打ちした。
「ふふふ。なら何のお勉強にきたのかしら?」
「決まってるじゃん。恋の個人授業に。」
「やだ。吉澤さんたら。」
「受けてみたくない?今ならたっぷりサービスしちゃうけど。」
「そうね。お願いしようかしら。」
そしてあたしは石川さんにキスをした。
もっともっと彼女を知りたい。
そんな気持ちをいっぱい詰め込んで。
「吉澤さんてキスの天才かも。」
「へっ?天才?」
「だって、すごく心地いいんだもん。ドキドキが止まらない。」
「あはは。かわいい、石川さん。」
抱きしめて石川さんを包み込んだ。
あたしだけの大切な彼女。
誰にも指一本触れさせたくない。
- 149 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)18時59分16秒
「くはーっ。すげー気持ちいい!」
あれからは本当にちゃんと勉強していたあたしたち。
図書館の締め切った空気を換えるために、
窓を開けると、心地よい風が部屋に流れ込んできた。
「うーっ。冷たい。」
「ははっ。気持ちいいじゃん。」
隣にいる彼女のウエストに手をかけて、窓の外の景色を眺める。
「夕日がキレイね・・・。」
「ホントだ。」
遠い眼差しで見ている彼女の横顔にそっと視線を移した。
「ねぇ、石川さん・・・。」
「なぁに?」
「冬が来て、春が来て、そして卒業しちゃうけど、
これからもずっとあたしの側にいてくれる?」
石川さんはあたしに視線を向けると、
しっかりとした眼差しで見つめ返してくれた。
「うん。側にいさせて。」
ふわりと流れてきた風に揺れた髪をかきあげると、
あたしはそっと唇にキスを落とした。
- 150 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)19時00分08秒
キラキラと輝く夕日に負けないように、
この輝いた思いを胸に刻み込むために、しっかりと彼女を抱きしめながら。
ここからきっと始まっていく。
思い出の向こう側にある、あたしたちだけの輝いた未来が。
そしてきっといつか思い返すのだ。
青春時代を精一杯楽しんだと。
その時の2人はきっと、懐かしいトキメキを思い出して笑っているはず。
あれから何も変わっていないね、なんて卒業写真を2人で繰りながら。
『おもいでの向こう側』 〜END〜
- 151 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)19時03分18秒
- >作者
ということで、完結です(wゞ
中編でしたね。長さ。
書いていると、段々辛くなってくるんですよ、
盛り上がりをどこにもってくるかで(笑)
これからはまた短編が多くなるかもしれまんせんが、
長いのも書くかも?(どっちやねん!(w )
すでに1本ショートを書き上げました。
また近いうちにUPします。
実は、ひさびさおバカ甘なんですが・・・(笑)
また呆れずに読んでやってくださいね。
いつも読んでくださってる方々、感謝の気持ちでいっぱいです。
それでは、後日。しーゆー♪
=修行僧2003=
- 152 名前:ROM読者 投稿日:2003年05月28日(水)19時31分33秒
- お久し振りです(w
1レス飛ばしたお陰でたっぷりと読ませていただきました。
冗談抜きで、本当に溶けそうです。いや、溶けました。
作者様はいしよし専用の4次元ポケットでもお持ちなので
しょうか。
- 153 名前:名無し読者79 投稿日:2003年05月28日(水)20時12分23秒
- 屋上…この二人にとってすごいいい思い出になったでしょう。
いいなー戻りたいあの頃に…。
二人で寄り添ってうたた寝…なんか実際もしてそうな感じがして(^^)
空き時間とかに…。結構前、テレビジョンでいしよしかは、はっきり断言できない
んですが台本?か雑誌を二人寄り添って読んでる写真がモーチャンに載ったんです!
次回作も楽しみにしてます。バカ甘超楽しみです。
- 154 名前:シフォン 投稿日:2003年05月28日(水)20時35分25秒
- >作者様
完結、お疲れ様でした☆
ごっちんの前で弱気になってるヘタレなよっすぃ〜、可愛かったです♪
<<「決まってるじゃん。恋の個人授業に。」
ウチ、このセリフにヤラれました(素)
羨ましいぞ! 石川さんっ!!(笑)
作者様の作品を読ませていただいている時が、ウチの癒しのひとときです(素)
いつも幸せな気分にさせて下さって、本当にありがとうございます☆
次回作も楽しみに待っていますね♪
- 155 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月28日(水)20時59分34秒
- 完結の方、お疲れ様です!!
今ではすっかり吉になりきって梨華ちゃんとの甘甘な青春を
楽しんじゃってますが、何か?(笑)
今作、相談を受けてるごっちんにちょっと胸を…
でも、浮気はしません!!(笑)
ではでは、新作の方を楽しみに待ってます!!
- 156 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時13分11秒
- >ROMさま
いやぁー。さみすぃかったですよぉー。
いつもレスつけてくださってるのに、いらっしゃらないから
何かあったのかな?って、マジで心配してました。
でもヨカタです。無事で(wゞ
>いしよし専用の4次元ポケット
これ、もしあるのなら、作者も欲しいですがなにか?(w
これからもがんがっていくので、応援よろしくなのですー☆
>名無し読者79さま
戻りたいですよねー。ほんと。
でも残念なことに、作者女子校じゃなかったんですよね。
ずーっと悲しいかな共学(笑)
それで、台本の話ですが、作者も見たことありまっす!
微妙ですが、いしよしヲタの目をもってみれば、
確定的にあれはいしよしですね(w
本当はすっごくラブラブなのに、やはり世間の目を気にして
いるのでしょうか?・・・もったいない(笑)
いつか雑誌でスクープされてましたよね、あの2人。
あの2人は○ズだって。べっつにいいじゃーん。
仲良きことは麗しきかなですよね?
恋に枠をはめ込むなんて、ナンセンスです。
恋する2人の問題なのにね。
てことで、あの2人は恋人同士だと思っていますが何か?(w
・・・何熱く語ってんだ、作者(笑)
いつもありがとうございます!!!
- 157 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時22分05秒
- >シフォンさま
えへへー。なんかお褒めのお言葉、嬉しくって
小躍りしちゃいましたよー。
シフォンさまって褒め上手でらっしゃるんだから♪(^-^)o
へたれなよすこ、なかなか喜んでいただけたようで(wゞ
これからも頑張りますので、よろしくなのですー☆
>ぷよ〜るさま
あれ?ゴチーンに浮気心ですか???
(O^〜^O)>うちの魅力わかってないね?
・・・まぁまぁ、よっすぃー。
誰にでも浮気の一つやふたつ、あるじゃない。(^-^;
(O^〜^O)>まぁ、うちは梨華ちゃんがいるからいいけどね!
・・・結局はそれかよ!いいな、梨華ちゃんよっすぃーに愛されて。
(^▽^)>いいでしょー。私たちラブラブだもんね♪よっすぃー♪
・・・さいですか・・・・。
えへへ。今日は時間があるので、なんとこのままUPします(笑)
この勢いは今日まででしょうけど・・・(w
それでは、どうぞ♪
- 158 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時25分02秒
『特別じゃない一日』
幸せだなーって思える瞬間。
それは梨華ちゃんの優しい笑顔を見れた時。
梨華ちゃんをぐっと側に感じられた時。
「何笑ってるの?」
繋いでいた手を揺らして彼女が微笑みかけてくれる。
「ん?梨華ちゃんといられて幸せだなーって思ってね。」
「ふふっ。ひとみちゃんたら。」
照れたようにはにかんだ笑顔が、またあたしの心を満たしてくれる。
彼女とこうして付き合うようになってから、1年。
今でも変わらず、あたしはずっと梨華ちゃんに惚れている。
そして嬉しいことに、彼女もあたしのことを好きでいてくれているのだ。
これを幸せと呼ばずして何を幸せと呼ぶのだろう。
- 159 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時25分47秒
「ここでいいかな?」
「そうね。調度木陰があっていいかも。」
肩にかけていたDパックを下ろして、レジャーシートを広げた。
あたしたちは休日を利用して、
ちょっとしたピクニックにきていたのだ。
「ところで作ってきてくれた?」
「うん。上手くできなかったけど・・・。」
籐のバッグから取り出したのは、あたしがおねだりした
梨華ちゃんお手製のお弁当。
「やった。やっぱお弁当が最大の楽しみだもんね。」
「うー・・・。おいしくなかったらごめんね?」
「なーに言ってるの。梨華ちゃんが作ったものなら何でもうまいに決まってんじゃん。」
2人分のお弁当箱は、行楽用のもので、
おにぎりとおかずが2段になっているスペシャルなものだった。
ぱっとフタをあけた瞬間、思わず目を輝かせてしまった。
色とりどりのおいしそうなおかずがいっぱい詰め込まれていたから。
- 160 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時26分46秒
「すげー。うまそう!」
「えへへ。ちょっとがんばっちゃった。」
「ありがとね。」
「ううん。お口に合うかどうかわからないけど。」
「いっただーきまーす。」
「どうぞっ。」
そしてぱくりとおにぎりにかぶりついた。
「ぐぁ・・・・。やべー・・・・。」
「えっ。やっぱりおいしくなかった・・・?」
「マジやべー。うますぎっ!」
「やだー。びっくりするじゃない。」
「ごめんごめん。でもホントうまいよ。梨華ちゃんて料理上手だね。」
「ふふっ。おにぎりなんて誰でも作れるよ。それより
これ食べてみて。ちょっと自信あるんだ。」
それは一口サイズに作られたハンバーグだった。
梨華ちゃんはそれをあたしの口へと運んでくれた。
「へへへ。食べさせてくれるんだ。」
「うんっ。はい、あーんして?」
「あぐっ。・・・うん!めちゃうまい!」
「よかったー。ホントは内心ドキドキしてたの。」
「やっぱ梨華ちゃんて最高だな。
料理は上手だし、かわいいし。すげー優しくて最高の彼女だ。」
「ひとみちゃん、褒めすぎ。」
真っ赤になった頬に手を当てて、恥ずかしそうにしている姿が
またたまらなくかわいい。
- 161 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時27分39秒
5月の連休の一日。
どこも混んでいるだろうと覚悟してきたけれど、
案外ここは穴場かもしれなかった。
広い野原には、家族連れのグループが何組かいたけれど、
それも遠くの方でぽつぽつといるぐらいだから、
大して気にはならないほど。
爽やかな風と晴れ渡った空が、一層気分を盛り立ててくれる。
かわいい彼女を連れてきた甲斐もあったというものだ。
「気持ちいいねー。」
「ホント、最高の天気だ。」
お昼を済ませた2人は、木陰が作り出す涼しい空間で、
ただぼーっと過ごしていた。
「ねぇ、ビーチボールもってきたんだけど、
ちょっと腹ごなしにやってみない?」
「えー。うまくできないよぉ。」
「大丈夫、ちゃんと教えてあげるから。」
てばやくボールに息を吹き込むと、
梨華ちゃんの手をとって、立ち上がらせた。
- 162 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時28分26秒
「いくよ。よーくボールを見てたらちゃんと返せるから。」
「うん。わかった。」
「せーのっ。」
ポーンと跳ね上がったボールはクルクルと回転して、
彼女の手元へと落ちていったけど。
「あー・・・。ごめーん。」
見事に空振りした。
「クスクス。次梨華ちゃんからね。」
「はーいっ。いくよーっ。」
けれど、飛ばしたボールは真っ直ぐ上へとあがっていって、
そのまま彼女の元へと落ちてきただけ。
「うぁーん。ごめんね・・・。これじゃ続かないよね・・・。」
「あはは。気を落とさないで。あせんなくていいから。」
「うんっ。がんばるっ!」
「クス。がんばれ。」
そしてようやく続けてラリーをできるようになってきたところで、
強い風がボールを遠くへと流してしまった。
「あー。ちょっと待ってて。拾ってくるから。」
「あっ。私も行くよ。」
「いいよ。疲れたでしょ?ちょっと休憩してて。」
- 163 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時29分14秒
コロコロとどこまでも転がっていくボールを追いかけていくと、
いつのまにか雑木林の所まできてしまっていた。
「おいおい。手こずらせるなよ。」
やっと木の根元で止まったそれを拾い上げると、
原っぱに出て、梨華ちゃんの方へと視線を向けた。
だけど・・・。
「あれ・・・。梨華ちゃん???」
視力のいいあたしがどこをどう見ても、彼女の姿を捉えることはできなかった。
一気に緊張感が体を駆け抜けていった。
まさか、あたしがいない間に何かあったんじゃ・・・。
あわてて駆け出そうとした、その瞬間。
「ひとみちゃん。」
呼ばれた声の方向に視線を向けると、探していた彼女の姿がそこにあった。
「梨華ちゃん!」
さっきまでいた雑木林に駆け込むと、ボールを捨てて彼女の肩を抱きしめた。
- 164 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時30分04秒
- 「びっくりするじゃない。待っててって言ったのに。」
「ごめんなさい・・・。」
「はぁー。でもよかった、無事で。」
「ごめんね、ひとみちゃん。でも私・・・寂しくって。」
「え・・・・梨華ちゃん?」
「一人で駆け出していくんだもん。置いていかれたみたいで、
すごく悲しかった・・・・。」
「あ・・・。ごめんね?」
「置いていっちゃヤだよ。どこでも2人で行きたいんだから。」
「梨華ちゃん・・・。あぁ。なんてかわいいんだ!」
そんなことを言われてしまって、もうメロメロに溶けてしまいそうになっていた。
自分でもバカだなって思えるけど、これだけ惚れているのだから
もう治す薬なんてないのだ。
「約束してね、ひとみちゃん。私を一人にしないって。」
「うんうん。絶対約束する。何があっても梨華ちゃんを手放さないからね。」
「ふふふ。約束ね。」
木漏れ日の中にたたずむ2人は、そっと約束の口付けを交わした。
- 165 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時30分59秒
それからは、もうボールで遊ぶこともなく、
ただ一緒に木にもたれて涼んでいた。
ちょうど昼寝をするにはいい時間帯。
おなかもいっぱいで適度な運動をした後だから、
よけいに眠気も襲ってくるのだ。
さわさわと音を立てる木の葉。
ちらちらと木陰を射す日の光が、すこし目に眩しいけど。
「やっぱり焼けちゃうから、日傘差してもいいかな?」
「いいよ。もってきたんだ。」
「うん。折りたたみのを1本。」
カバンから取り出したそれは、紫外線をカットするものらしく、
梨華ちゃんにしてはシンプルなものだった。
「珍しいね、花柄とかついてないの?」
「うん。デザインより機能性を重視したの。」
「クス。そこまでこだわらなくてもいいのに。」
梨華ちゃんは自分の肌の色をいつも気にしていた。
あたしはそれが健康的に見えて好きだったけど、
彼女としたら納得がいかないらしい。
いつもあたしの肌をみてはうらやましいと言っている。
あたしの肌は自分でも気持ち悪くなるくらい白いのだ。
いくら焼いても黒くならない体質だから、仕方ないけど。
- 166 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時31分49秒
「いいよね、ひとみちゃんは努力しなくても白い綺麗な肌で。」
「体質だからね。あたしだって本当は焼きたいんだけど。
赤くなるだけでまた元に戻るから。」
「いいなぁー。本当にうらやましい。」
「そうかな。あたしは梨華ちゃんの肌がうらやましいけど。」
腕をとって手を重ねた。
互いにうらやましく思っているなんて、
ちょっとおかしいなと思いながら。
しかし案外恋愛もそういうものかもしれないと思うのだ。
あたしのもっていないものを、梨華ちゃんはいっぱいもっている。
女の子っぽいしぐさや、華奢な体。
かわいいものが何でも似合うその容姿は、あたしが手にできないもの。
だからこれほどまでに惹かれるのかもしれない。
自分の趣味がすごくシンプルなものだから、
女の子っぽい梨華ちゃんは、すごく眩しく見えるのだ。
どちらかというと、これは男の子が持つ視点なのかもしれない。
まぁ、一応あたしも女の子だけど、梨華ちゃんのかわいさには
やっぱりクラクラしてしまうのだ。
- 167 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時32分41秒
「ねぇ、ちょっとその日傘貸してもらえるかな?」
「いいけど。ひとみちゃんは焼けないのに?」
「クス。いいから。」
不思議そうに見つめる彼女の手からそれを借りると、
少し斜めにして傘を差した。
「ねぇ、こんな使い方してても日よけにはならないと思うけど?」
「クスクス。別にお日様をよけようなんて思ってないよ。」
「じゃぁ何?」
「こういう使い方もあると思うんだよね。」
2人のことを隠すように差した日傘の中で、
あたしは梨華ちゃんにキスをした。
「・・・クス。ひとみちゃんて面白い。」
「だってさ。この方がロマンチックじゃない?」
「ふふっ。だーれも見てないのに?」
「見てなくてもさ。この方が2人っきりって感じがしない?」
「ホント。2人だけの空間みたいね。」
そしてまた唇を重ねた2人。
- 168 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時33分25秒
「へへっ。幸せー。」
梨華ちゃんの膝に頭をのせてもらうと、心からそう言ってみた。
「私もよ。ひとみちゃんてかわいいんだもん。」
髪に触れている手を取って、キスをした。
「こんな幸せが世の中にあるんだね。」
「そうねー。」
「好きな人と過ごせる時間がやっぱり一番の幸せだよね。」
「うんっ。そう思うわ。」
「梨華ちゃーん。」
「ふふふ。なぁに?」
「好きだよ。」
「クスクス。はぁい。私も好きよ。ひとみちゃん。」
地位もお金も名誉も、なーんにもっていないあたしだけど、
そんなことは所詮ちっぽけなもの。
ただただ好きな人の側にいられるだけで、
こんなにも幸せな気分に浸れるのだから、恋って本当に素晴らしい。
- 169 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時34分06秒
「梨華ちゃん。」
「クスっ。なにひとみちゃん。」
「ずっと幸せな2人でいようね。」
「うんっ。」
平凡な毎日さえキラキラと輝いて見えるのは、
きっと梨華ちゃんが側にいてくれるお陰。
そんな普通の毎日が愛しく思える、春の日の一日。
『特別じゃない一日』 〜おわり〜
- 170 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月28日(水)21時36分31秒
- >作者
ということで、驚かれたかもしれませんが、
本日2本目のUPです。
・・・どうしたんだ作者?(w
さて、まさか2話もUPするとはみなさん思ってらっしゃらないでしょう。
クスっ(w
どなたが一番に気付いてくれるのか、ちょっぴり楽しみでもあります。
たまーにこんな気まぐれもしますので、
よければちょくちょく覗いてやってくださいね♪
たまには読者サービスもかねてこんなことしてみる作者でした。
どうもありがとうございます♪
- 171 名前:ROM読者 投稿日:2003年05月28日(水)21時57分10秒
- (^^)気付いちゃった!
やっぱり持ってるでしょ・・・4次元ポケット。
もしかして作者さんはドラエ(略
こんなフェイントについてきたROMはジャイア(略
いやぁー、ホント嬉しいサービスでした。
- 172 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月28日(水)22時02分13秒
- あま━━いのキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!
この前「スレ」と「レス」を間違えたバカ読者ですが、
更新の速さと嬉しさに興奮してしまい、ついカキコ(w
やっぱ甘甘のいしよしって(・∀・)イイ!!!
そして作者様もすっごく(・∀・)イイ!!人でヨカタ(涙
これからもコソーリ楽しみにしてまつ(w
- 173 名前:シフォン 投稿日:2003年05月28日(水)22時13分14秒
- ちょっとあちこちお散歩(?)している間に、新作がUPされてる〜!!
いやぁ、今夜は幸せなのれす☆
意外と早めに気が付けて良かった♪
フェイント掛けてくるなんて、作者様もなかなかヤリますね(笑)
作者様がドラ…(略、ROM読者様がジャイ…(略、ならばウチはしず…(略……で(ヲイ
続けての更新、お疲れ様でした!
次回作も楽しみに待っていますよ〜♪
- 174 名前:チップ 投稿日:2003年05月28日(水)23時21分37秒
- ひゃー幸せ…ポワワ 甘い!最高!
えーと遅いっすけど『押絵と旅する男』でしたよね、たしか。
小学生の時ハマったんすよ、乱歩。身の毛のよだつ感じが好きで。
屋根裏の散歩者とか黄金仮面とか双生児と(ry スイマセン暴走しちゃった…
2つのお話一気に読んでお腹いっぱいです。しかしまだたっぷり余裕があります。
腹ごなししつつ次回作も楽しみにしてます。
- 175 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月29日(木)00時49分49秒
- 甘ぁぁ〜〜〜い♪♪♪
何の疑いも無く甘いですね!!たまりません!!
読者サービス、ホントにありがとうございます!!
>(O^〜^O)>うちの魅力わかってないね?
ごめんなさい…。魅力は十二分に分かってるつもりです!!
お願いだからよっすぃ〜怒んないで!!(泣)
よっすぃ〜には怒られるわ、梨華ちゃんとのラヴラヴを
見せつけられるわですこし寂しい当方でした…(笑)
ではでは、次回作も楽しみにしてます♪
- 176 名前:名無し読者79 投稿日:2003年05月29日(木)15時32分53秒
- うぉっ、またUPされてるー。
いやーいいですね、こんな休日。お弁当おいしそう…。
甘いお話ありがとうございます。
- 177 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時17分52秒
- >ROM読者さま
さっすがROMさま♪
やっぱりちゃーんとついてきてくださったのですね♪♪♪
>もしかして作者さんはドラエ(略
・・・・ばれたらしょうがないですね。
実は作者、23世紀からやってきた、最新型の
ネコ型ロボットだったのです!
見破ったあなたは、ひょっとして本当にジャイ(略?(w
>名無しさんさま
>これからもコソーリ楽しみにしてまつ(w
コソーリと言わず、おおっぴらにレスお願いいたします(w
というのも、読者の方々の反応を見ながら
話を考えている部分がありますので(笑)
そうです。どこまでいっても他力本願な作者なのです(wゞ
よければレス&応援よろしくお願いしたいのですが。だめ?(うるうる)
- 178 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時22分12秒
- >シフォンさま
せめてドラ○ちゃんと言って欲しかった・・・。
ん!?シフォンさまはしず(略ですとー!
ずるぅ〜い〜(クネクネ)
そんなこと書くとお風呂覗いちゃいますよ?(w
なんちゃって。いつも感想ありがとうです♪
>チップさま
おひさですー♪
どうやらチップさまとは本の趣味が合う気がしますねー☆
これからもガシガシ応援よろしくです♪
>ぷよ〜るさま
えへへー♪ありがとうございます♪
いしよしは誰も邪魔することはできないのですよぉ。
作者もよっすぃ〜に惚れてますが、あの人は梨華ちゃん
のものですから・・・(涙)
これからも応援よろしくですー☆
- 179 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時24分58秒
- >名無し読者79さま
こちらこそ、いつも暖かいレスありがとなのですー♪
すっごい励まされてますよ(wゞ
今回のは、微妙に甘かどうかはわかりませんが、
いつものようにハッピー締めです(笑)
よければ読んでみてくださいね!
さてそれでは今回またまたUPします。
がんがってるなぁー作者。
しかしこれもみなさまのお陰なのです。
嬉しいレスいつも励みになっています。
それでは、どうぞ♪
- 180 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時25分59秒
『本気で熱い1週間』
つっ、次だわ・・・。
落ち着いて、ほら昨日の夜まで何度も練習したじゃない。
きっと大丈夫だから・・・。
「では、次の先生。どうぞ。」
「はっ、はいっ!」
ごくっとつばを飲み込んで、マイクの先へと向かって行った。
「きょ、今日から。ごほんっ。今日から1週間こちらの学校でお世話になります、
石川梨華と申します。担当科目は英語です。みなさん、どうぞよろしくお願いします。」
一礼して壇上から講堂を見渡すと、クスクスとした笑い声がちらほら漏れていた。
何かおかしなことでも言ったのかしら・・・。
「みなさん、お静かに。では、次の先生、どうぞ。」
- 181 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時27分01秒
ふーっとため息をもらしながら、元来た場所へと戻っていった。
「ねぇ、美貴ちゃん。私何かおかしかった?」
「おかしくはないけれど、相変わらずちょっと声が高かったかな。」
隣にいる美貴ちゃんは、大学は違うけれど高校時代の友達。
私たちは教員免許を取るために、母校の高校へと今日から1週間
教育実習に来ていたのだ。
そして全校集会で集められた生徒たちの前で、
紹介の挨拶をしている。
「・・・・てください。一同、礼!」
校長の話が終わると、私たちは職員室へと向かっていった。
「えー。先ほども紹介がありましたが、今年も希望に胸を膨らませた
教育実習生が5名、こられています。どうぞ先生方、よろしくご指導
お願いいたします。」
職員室での紹介が終わると、懐かしい先生方の顔がちらほらと目にとまった。
かなり顔ぶれも変わってしまったけど、その中でも懇意にさせてもらっていた
先生が一人、こちらに歩いてきた。
- 182 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時28分35秒
「きゃははは。石川ー。あんた先生目指してたんかー。」
相変わらず金髪のその人は、在学中もとても気さくに声をかけてくれていた
地学の中澤先生だった。
「お久しぶりです、先生。私も先生目指すことにしました。」
「そうかそうかー。それは楽しみやな。おっ!なんや、藤本もかいなー。」
「先生ー。私のこと覚えてくれてたんですか?」
「当たり前やん。あんたらのことはよう覚えてんで。
うちの授業の時、よう騒いどったからな。」
にやりと笑って、白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「あっ、あの・・・。その節はどうも・・・。」
「クス。まぁ騒いどったんはあんたらだけとちゃうかったから、
気にせんでもええけどな。」
たらりと冷や汗をかきそうになってしまった。
「先生、これからよろしくお願いします。」
美貴ちゃんがぺこりと頭をさげた。
「わっ、私も。よろしくお願いします。先生。」
「2人ともしっかりがんばりや。しんどいことも多いけど、
きっといっぱい勉強になることもあるやろうから。」
- 183 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時29分23秒
- 「「はいっ。」」
「生徒にからかわれても落ち込んだらあかんで。」
クスクス笑いながら、中澤先生は席へと戻っていってしまった。
「美貴ちゃーん・・・・。なんだかすごく不安になってきた・・・。」
「大丈夫だって。一緒に頑張ろうよ。ほら、早速授業についていかなきゃ。」
用意してもらったロッカーに荷物を入れて、授業の道具を抱えると、
担当の先生に導かれて、教室へと向かっていった。
先生に続いて、教室に入っていく。
懐かしいなぁなんて思いに浸る暇もないほど、
私はカチコチだった。
極度の緊張で足が震えそうになってしまったけど、
弱音など吐いていられない。
- 184 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時30分13秒
「さて、先ほども紹介がありましたが、英語を教えてくださる石川先生です。
みなさん、しっかりと学んでください。では、石川先生。」
「はいっ。今日から1週間お世話になります石川梨華です。
よろしくお願いいたします。」
生徒たちの視線が怖いほど突き刺さってくる。
こんな空気の中で1週間、本当に頑張っていけるのかしら・・・。
「では早速石川先生には授業に入ってもらいましょう。
先生、お願いしますね。」
「はい。」
担当の稲葉先生は、教室の一番後ろへ移動していった。
いよいよ初めての授業。事前に研修をうけてはいるけれど、
本番となると、やっぱり緊張してしまっていた。
「リーダーの38ページからということですので、教科書を開いてください。」
ドキドキしながら私もまた教科書を開いた。
教える立場にたつってこれほどまで気力がいることだなんて。
かつて生徒だった時に騒いでいたことを、今更ながら反省してしまった。
- 185 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時31分09秒
- 自分なりにまとめてきたノートを見ながら、カツカツとチョークをはしらせて
いくと、なんだか本当に先生になった気分。
このまま無難に終わるといいのだけれど・・・・。
チョークを置くと、早速一人の生徒が手を挙げた。
「先生。」
「はっ、はいっ。」
思わず裏返ってしまった声に、クスクス笑いが広がっていく。
落ち着かなきゃ・・・・。
「えっと・・・・紺野さんですね。」
座席表をみながらその生徒を確認した。
「スペル間違ってます。」
「えっ!ごっ。ごめんなさい。」
あわてて振り返って書き直した。
正面を向くと、稲葉先生が苦笑している姿が目の端に映っている。
情けなくって、涙がでそう・・・・。
それからは慎重に授業をすすめた。
50分ある配分を駆け足で教えたためか、5分ほど時間があまってしまった。
- 186 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時31分57秒
「石川先生。今日の単元はこれで終わりですね。」
稲葉先生が不安げにしていた私の所へと、近づいてきてくれた。
「はい。少し時間があまってしまいました。」
「かまいませんよ。それではせっかくですから、
生徒に質問やわからない点を挙手させてみるのはどうでしょう。」
「あっ。はい。それでは質問のある方。」
そう言うがはやいか、今までシーンとなっていた教室は
信じられないことに、ざわざわと色めきたったのだ。
「先生、質問!」
どの子をあてていいのかわからないくらい、手が挙がっていた。
これぞ正しく教育の醍醐味だなぁなんて感激していた私は、
相当甘かったのだ。
「はい。加護さん。」
「せんせー彼氏いてはるんですかー。」
全く授業とは関係のない質問に、ただただ戸惑ってしまった。
そうだ。思い返してみれば、私たちも実習生が来たとき、
こんな風にしてからかっていたっけ。
自業自得かもしれない・・・。
- 187 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時32分52秒
「えっ・・・えっと・・・・。いません。」
「あはは。いてへんねやー。」
「・・・・ぐっ。」
一気に笑い声が広がっていく。
「はい!先生。」
「・・・・辻さん。」
「先生って何カップ?」
「・・・・Cです。」
「おぉ〜。すごいかもー。」
本当はBとCの間だけど、ここは少し見栄をはってみた。
こんな子供たちに見栄をはってどうなるってものでもないけれど。
「先生!」
私は戦々恐々たる思いで質問を受けていた。
今度は一体どんな質問が飛んでくるのやら・・・・。
「はい。吉澤さん。」
- 188 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時33分37秒
- 「さっき教えてもらった構文なんですが・・・」
・・・・構文?そんなの私のデータにあったっけ???
「42ページの・・・」
・・・そうだ。これはれっきとした授業の質問なのだ。
自分のことばかりを質問されていたせいで、
すっかり身構えてしまっていたけれど、これぞ本来の姿。
もうそれだけで感動してしまいそうになってしまった。
「・・・先生?」
「あっ。はっ、はい!えっと、それはですね・・・」
吉澤さんの質問に答えたところで、ちょうどチャイムが鳴りはじめた。
「起立!礼。」
クラス委員長の紺野さんの号令で、やっとなんとか授業は締めくくられた。
- 189 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時34分24秒
「はぁ・・・。疲れた・・・・。」
ぽつりと小声でもらすと、もう足は職員室へと向かっていた。
あまりにも疲れきってしまっていて、とにかく一息つきたかったのだ。
だけど・・・・。
「石川先生ー。」
えっと、この子は確かさっき質問していた・・・・加護さんだ。
また何かチクリとする質問でもしてくるのだろうと、
思わず顔も引きつってしまっていた。
しかし、ここは少しでも威厳を見せておかないと。
「はい。なんでしょう。」
「せんせーほんまに彼氏いてへんの?」
またその質問・・・。
自慢じゃないけど、私はずーっと女子校の環境で育ってきたから、
悲しいかなそういうことには全く無縁だったのだ。
今の大学も女子大だし、ひょっとしてこのまま男子とは縁がないかも
しれないなんて、考えちゃうけど。
- 190 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時35分18秒
- 「今はね。」
もちろん今も昔もいないけれど、ここでそれを言うと
なめられそうな気がして。
「へーっ。ほんなら昔はおったんや。」
「ぐっ・・・。」
やばい。このままだとボロがでそう・・・。
しかしなぜ加護さんは私をイジメるような質問しか
してこないのだろう。
イジメととってしまうのは、私のひがみかもしれないけれど。
「そりゃいたに決まってんじゃない。石川先生こんなにかわいいんだもん。
あいぼん、それって愚問だよ。」
え?かわいい?
そんな嬉しいフォローをしてくれたのは、加護さんとどこか
姉妹のように見えてしまう辻さんだった。
「ありがとう。辻さん。」
嬉しくなってついつい笑顔の私。
しかし、私の笑顔を凍りつかせてしまうような生徒が、
後ろに控えていたのだ。
- 191 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時39分19秒
- 「梨華ちゃん先生、初キスはいつなの?」
りっ、梨華ちゃん先生!?
なんなんだ、その呼び方は!
それになんでそんなことまで答えなきゃいけないの・・・。
この生徒は確か、さっき優等生な質問をしてきた吉澤さんだ。
授業中の質問では私をいたく感動させてくれたこの子までが、
まさかこんな質問をしてくるなんて・・・。
ちょっぴり人間不信になりそう。
「ごほんっ。『石川先生』は、あまりプライベートな質問には
お答えできませんっ。」
自分のことを『石川先生』と言ったのは、ここでちゃんと
先生と生徒のボーダーラインをつけとかなきゃいけないと思ったから。
なにせこちらは圧倒的に不利なのだ。
いわば40対1の勝負。
なめられたりしたらそこでクラス崩壊。
泣いて帰らなきゃいけないことになる。
- 192 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時40分14秒
- 「いいじゃん、梨華ちゃんもったいぶらずに教えてよ。」
梨華ちゃん!?さっきより悪いじゃないか。
一体、私を何だと思っているのだろう。
しかし吉澤さんはにやけた顔つきで、慣れなれしくも
私の肩に手をかけてきた。
それで気がついたけど、この子はスラッと背も高く、
はっきり言ってかなりな美少女だった。
だけどその物腰の柔らかさや、ちょっとしたしぐさは
まるでホストのよう。
背も完全に向こうの方が高く、私の方が生徒に見えるくらい。
「さっきも言ったように、お答えできませんっ。」
「あー、わかった。梨華ちゃんていい年してキスの経験ないんじゃないのー?」
完全に遊ばれている・・・。
しかしここで負ける訳にはいかないのだ。
- 193 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時41分00秒
- それがにわか仕込みではあっても、先生としての威厳。
「そういうことは、もう少し大人になってから質問してね。吉澤さん。」
大人っぽく、務めて平静を装ってそう答えた。
なのに・・・。
「クスっ。やっぱりないんだ。よし、決めた。あたしが梨華ちゃんの
ファーストキスの相手になってあげるよ。」
吉澤さんは、そう言って私の肩をぐっとつかむと、
顔を近づけてきたのだ。
「やっ、やめて!!!」
「あはは。ちょっとからかっただけなのに。かわいいな、梨華ちゃん。」
こんなことで取り乱してしまうなんて・・・。
- 194 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時43分04秒
- にしても、一体この吉澤さんは何を考えているのだろう。
案外何も考えてないのかもしれないけれど・・・。
もうこうなると、威厳も何もあったものじゃなかった。
「うーっ・・・・。もう帰りますっ!」
顔を真っ赤にしながら、私はあわてて教室を逃げ出した。
加護、辻、吉澤・・・。
この3人はかなり注意が必要だ。
特にあの吉澤って子には・・・。
私の初授業は、この3人によって苦い思い出として
刻まれることになってしまった。
- 195 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月29日(木)18時44分42秒
- >作者
ということで、第一話投稿終了です。
今回石川さんは先生役で登場です(笑)
でもって、よっすぃーですが・・・(w
まぁ今後どうなるかはわかりませんが、
おそらくみなさんが期待している通りの展開です(笑)
それは作者自身がいしよしヲタだから(w
それでは今日はこの辺で。
ありがとうございました。
- 196 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月29日(木)18時51分02秒
- リアルタイムで読ませていただきました。
今日は1番かな?(笑)
BとCの間…当方の理想なんです…(笑)
石川先生!鼻血が止まりません!!(爆)
注意娘3人(特に吉)には色々と期待してます!!(笑)
では、次の更新も楽しみにしてます♪
- 197 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月29日(木)18時53分47秒
- 興奮のあまり2度目のsage忘れ…(汗)
ホントに申し訳ないです…
- 198 名前:Silence 投稿日:2003年05月29日(木)19時28分15秒
- 更新お疲れ様でした。
石川先生さいこ〜。なんせ石ヲタなんで。(w
それにしても甘、激甘を自由に使いこなす作者様がうらやましい。
(真面目ないしよし書くと暗めな話になる人がここに…(苦笑
>Silenceさまとともに、いしよしを盛り立てて
いこうと考えていまっす♪
おお、すごいプレッシャー(w
修行僧様の同盟者(?)として自分もがんばってみますね。(w
- 199 名前:シフォン 投稿日:2003年05月29日(木)20時57分07秒
- >作者様
連日の更新、お疲れさまです☆
今回の作品は、今までとはちょっと違ってコメディタッチ(?)な感じですね♪
よっすぃ〜、男前キャラになるのかしら…(笑)
続きがとっても楽しみです♪
- 200 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月29日(木)21時21分36秒
- りっ、梨華ちゃん先生!?
もう問答無用でカワ(ry....
新たな展開、期待大っす。
連日のスピード更新、お疲れさまです。
- 201 名前:ROM読者 投稿日:2003年05月29日(木)21時41分01秒
- 梨華ちゃん先生・・・お・・教わりたい(何を?
要注意トリオとの絡みがとっても楽しみです。
>見破ったあなたは、ひょっとして本当にジャイ(略?(w
いやぁー・・体型が(w
- 202 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)18時43分50秒
- >ぷよ〜るさま
ややっ!一番おめでとうございます(wゞ
あ。そうそう。あげ&さげはどちらでもOKですので、
お気になさらず♪
いつも応援ありがとうございます♪
>Silenceさま
いしヲタでいらっしゃるSilenceさまのはぁとを
ぐっとつかむことができたのでしょうか?(wゞ
>おお、すごいプレッシャー(w
何をおっしゃいますやら♪これからもがんばっていきまっしょいっ♪
>シフォンさま
>コメディタッチ(?)な感じですね♪
ぐぁ。見透かされてる(wゞ
そうなんですよ。なんかコメディ入っちゃってますが、
笑いあり、涙あり、そして甘ありになりそうです(笑)
これからもよろしくです♪
>名無しさんさま
>もう問答無用でカワ(ry....
いいっすよね。梨華たんせんせ♪
色々と想像できて鼻血もんです(笑)
あぁ。作者もよし視点で梨華ちゃんに惚れそうです(w
>ROM読者さま
>要注意トリオとの絡みがとっても楽しみです。
あぅ・・・。ご期待に沿えるほどはあまりないかも・・・(w
>いやぁー・・体型が(w
おぉ!なーいすばでじゃないっすか!?
でも空き地で唄ったりしないでくださいね?(笑)
- 203 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)18時45分50秒
「どうだった・・・美貴ちゃん・・・。」
「ん?特に何も問題なかったけど。」
「ぐすっ。いいな・・・。」
「なに?どうかしたの?」
私たちは会議室で休憩をとっていた。
実習生はここを使用するように言われていたから。
他の実習生たちももちろんいるけれど、
高校時代に面識がなかったから、特に話しはしなかった。
「ちょっと聞いてよー。ちょー最悪かもしれない。」
「確か2組の授業だったよね?」
「うん。早速洗礼を受けてしまったわ。」
そこであった出来事を事細かに説明した。
あの要注意3人組のことを。
- 204 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)18時46分51秒
- 「はははっ。それはご愁傷さま。」
「笑い事じゃないわよぉ。美貴ちゃんも確か明日当ってるんじゃなかった?」
「そうね。それじゃ、気をつけてみるよ。」
「でもさぁ、実際こんなに大変だとは思ってなかったよ・・・。」
「そうかな。案外楽勝かもしれないって思ったけど。」
「・・・美貴ちゃん。すっごい余裕。」
「だってさ、クヨクヨしたって、所詮1週間の付き合いじゃない。
ここで教職に就くって決まった訳じゃないしさ。
もっと楽な気持ちで望んでみたら?」
「ふーっ。私もそうしたいんだけど・・・。」
「ほら、頑張っていくよ!次の時間からは見学だから気持ちも変わるでしょ。」
「・・・うん。」
そして次の授業へと足を運んだ。
この時間はただの見学だったから、気持ちも幾分楽だったけど、
現役の先生の授業の進め方を見て、また自信をなくしたり・・・。
やっぱりキャリアが違うとここまでスムーズに流れていくもの
なんだと、感心することしかり。
午後はもう一つ受け持つクラスがあるから、
それに向けて気合をためていた。
いつか私もこんな風に教壇に立ってみたいなと思いつつ。
- 205 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)18時47分35秒
お昼を済ませて、午後からの授業の確認をしていると、
思わぬ人が私を訪ねてきた。
「石川先生。」
心の中で思わず悲鳴をあげそうになってしまった。
それは誰あろうあの吉澤さんだったから。
「・・・なにかしら?」
「質問なんですけど。」
質問?手には教科書を持ってはいるけれど、本当かしら・・・・。
「梨華ちゃん。私、席外すね。ごゆっくり。」
きゃーっ!2人っきりにしないでー!
この子があの吉澤さんなのよぉ・・・・。
精一杯美貴ちゃんに目配せをしていたけれど、
結局彼女は何も気付いてはくれなかった。
あぁ。神さま。私が一体何をしたって言うの?
あろうことか、他の実習生たちも今はいなかった。
きっと食堂でご飯を食べているのだろうけど、
それにしても2人っきりになってしまうなんて・・・・。
- 206 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)18時48分29秒
「クスっ。梨華ちゃん何緊張してるの?」
ほら本音が見え始めた。
さっきまではちゃんと『先生』なんてしおらしく呼んでいたのに。
「梨華ちゃんじゃないの。ちゃんと石川先生と呼んでください。」
「いいじゃん。梨華ちゃんとあたしの仲なんだから。」
・・・いつからそんな仲になったの?
ホントに訳がわからない。
「こほんっ・・・。それで、質問は?」
きっと質問なんて何もないのだ。
ただ私をからかいにきただけ。
今度こそ厳然たる態度で臨まないと。
「ここなんだけど。」
けれど、意外な言葉に思わず拍子抜けしてしまった。
吉澤さんは本当に勉強の質問をぶつけてきたから。
- 207 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)18時49分29秒
- 「あっ。それはね・・・・」
さっきのことがあったから、疑い深くなってしまったのかもしれない。
心の中でちょっぴり反省すると、私は丁寧に質問に答えてあげた。
「・・・へぇ、なるほどね。つまりこれって意訳したほうがいいんだ。」
「そうね。このままだと変な意味になってしまうでしょ。」
「それじゃ、ここは?」
そう言って、英文を読んだ彼女。
信じられないことに、めちゃくちゃ発音がよくって、
私は目をぱちくりさせてしまった。
そういえばどことなく日本人らしからぬ顔立ち。
もしかしたらハーフか何かなのかもしれない。
ハーフというのは日本独特の言い方らしく、
本当は「ダブル」というらしいけど。
「すごいのね、吉澤さん。とても綺麗な発音だわ。」
「へへっ。それはどうも。」
「ねぇ、もしかして吉澤さんって純粋の日本人じゃないのかしら?」
- 208 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)18時50分28秒
- 「あはは。よくわかったね、梨華ちゃん。」
「やっぱり。どうりで発音も完璧な訳ね。」
「それとこれとはちょっと違うんだけど。ただ英会話を習ってるだけ。」
「あっ。そうなんだ。」
「いわゆるクオーターかな。ばーちゃんがオランダ人だったんだ。
もう随分昔に亡くなったけど。だから発音は関係なし。」
ふわっと笑った顔が、本当に優しく見えたから、
私もつられて笑顔になってしまった。
しかし、そんなことで気を許してしまった私がバカだったのだ。
「梨華ちゃんてマジかわいいよね。」
「・・・え?」
「本気で惚れてしまった。冗談抜きであたしの彼女にならない?」
え・・・・。冗談・・・・でしょ?
微動だにできないでいる私の肩に腕をまわすと、
彼女はなおも囁き続けた。
「運命を感じるんだ。梨華ちゃんに。」
「・・・あっ・・・あの・・・・・」
おたおたしてしまっている私に、
やっと救いの手が差し伸べられようとしていた。
- 209 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)18時51分21秒
=コンコン=
「ちぇっ。いいとこだったのに。返事今すぐでなくていいから。」
教科書を手にして立ち上がると、ポンポンと頭に手をのせて
会議室を出て行ってしまった。
「もうそろそろ時間だよ。・・・あれ?梨華ちゃん?」
放心状態でいるのが自分でもわかっていた。
「随分難しい質問だったんだ。すごいねあの子。」
美貴ちゃんは勘違いをしているようだったけど、
とても今あったことなんて話せる訳もなく。
「あ・・・うん。まぁ・・・。」
よろけるようにしながら、それでもなんとか午後の授業へと向かった。
「ふーっ・・・・。なんて一日だったの・・・。」
いつもはシャワーで済ませている私だったけど、
さすがに疲れをとりたくて、不舟にはったお湯にどっぷりと漬かっていた。
- 210 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)18時52分16秒
- 「吉澤ひとみ・・・・。私に惚れたですって?冗談きついよ・・・。」
だけどあの時の彼女の目は冗談を言っているようには、
とても思えなかった。
それが余計に問題なのだ。
《《《運命を感じるんだ。梨華ちゃんに。》》》
その声が何度も頭の中をかけまわって、湯気のゆらめきに
彼女の顔が浮かんできそうになったから、あわててそれをかき消した。
「きっと何かの間違いよ。うん、きっとそうっ!」
これ以上はもう何も考えたくなくて、ザバッと湯船から立ち上がると、
熱いシャワーで体を流した。
そう思っていたはずなのに・・・・。
なぜか吉澤さんのことをまた考えてしまっていた。
「あの調子だと、案外誰にでも声をかけているのかもしれないわ。
そうやってからかって楽しんでいるのよ。美貴ちゃんにもきっと。
そうよ、明日聞けばわかることじゃない。」
やっと気持ちの切り替えができたから、シャワーを止めてバスを出た。
- 211 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)18時55分17秒
- >作者
少しショートですが、第二話終わりです。
何話になるのかはまだわかりませんが、
中編〜長編になるかもしれませんね。
とにかくかんばって書くのみです。
(と、自分のおしりをぺちぺちたたいてみるテスト(w )
それではどうもありがとうございました。
また明日にでも投稿しますね。
- 212 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)19時01分35秒
- >作者
・・・と、思いましたが、
今回のはあまりにも短いので、また夜にでも
再投稿しますので、それまでしばらくおまちください(笑)
- 213 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月30日(金)19時05分04秒
- 更新お疲れ様です!!
今日はモロにリアルタイムで読ませていただきました。
梨華ちゃんの心の中によっすぃ〜が徐々に進入してきてますね!!
今回は梨華ちゃん気分になって積極的なよっすぃ〜に
ドキドキしつつある当方ですが、何か?(笑)
ではでは、次回の更新楽しみに待ってます♪
- 214 名前:名無し読者79 投稿日:2003年05月30日(金)19時09分42秒
- 一番じゃなかった…(T-T)
なんだかドキドキする展開ですね。
梨華ちゃんもよっすぃーに惹かれてきてる感じですし。
今後どうなるのかドキドキしながら待ってます。
- 215 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時42分52秒
- >ぷよ〜るさま
わぉ♪リアルタイムだったのですねっ☆うれすぃ〜♪
>ドキドキしつつある当方ですが、何か?(笑)
クス。それはよかったです(wゞ
もっとドキドキしていただけるようにがんがりまっする(^-^)
>名無し読者79さま
>一番じゃなかった…(T-T)
次回こそはぜひ狙ってみてくださいね♪♪♪
>なんだかドキドキする展開ですね。
うぁー。そういってもらえてマジ嬉しいでっす(wゞ
いつもいつも、本当にありがとうございます。
みなさまのレスで本当に元気と勇気をもらっています。(マジ)
こんな作者の書く作品でも、もし喜んでいただけているのならば、
本当に嬉しいので(wゞ
やや浮かれ気味ですが、これからはほんのちょぴりだけ
イタークなるかもしれませんが、もちろんご期待通りの
甘は保障しますので(笑)。最後までついてきてくださいね!
それでは続き、どうぞ。
- 216 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時45分05秒
「おはよ、梨華ちゃん。」
「おはよー・・・・。」
「なにその疲れきった態度は。寝不足?」
結局あれからベットに入っても、ちらちらと浮かんでくる顔に
うなされていた私。
やっと寝付けたのが朝方だったから、疲れも取れていないのだ。
「うん・・・。美貴ちゃんはよく眠れたみたいね・・・。」
「うん。ばっちり。寝不足は美容の大敵だもんね。」
「ぐっ・・・。私のお肌がぁ・・・。」
ガラガラと力なく職員室のドアをあけると、
タイミングぴったりに中澤先生と顔をあわせた。
「おはようございます・・・・。」
「おはよぉ。なんや朝から元気ないやん。」
「おはようございますっ。」
「おっ。藤本は元気ええなぁ。石川もこれくらい元気ださなあかんで。」
「うぅ・・・。だってぇ〜・・・。」
「だってもへちまもあらへん。教師になろうおもてるんやったら、
もっと気合いれなあかんで。」
- 217 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時46分07秒
- 「そうだよ、梨華ちゃん。ほら元気だして!」
「美貴ちゃーん・・・」
「ほら。カバン置いて、授業の準備しなきゃ。」
そうやって元気でいられるのも今のうち。
きっと今日あの2組の授業が終わったら、
美貴ちゃんもこんな風になってるんだから。
それを思うと、私は今日2組の授業がなかった。
そう考えただけで、なんだかファイトも沸いてくるよう。
・・・カラ元気かもしれないけれど。
午前中の授業を済ませて、美貴ちゃんと2人でお弁当を食べていた。
相変わらず他の人はいないけど、その方がありがたい。
そして私は彼女に2組の感想を聞いたのだった。
「大変だったでしょ。あのクラス。」
しかし彼女の反応は意外なものだった。
「梨華ちゃんが言ってたほどじゃなかったよ?」
う・・・うそでしょー・・・・・・。
- 218 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時47分15秒
- 「ねっ、ねぇ。何か質問されなかった?」
「されたけど。」
「でしょー!それそれ、私が言ってるのは!で、何聞かれたの?」
「んーと。議院内閣制の意義とか、あと世界情勢についても聞かれたかな。」
「・・・それって授業のことじゃない・・・。」
「だって私、社会科教えてるんだよ?当然じゃない。」
美貴ちゃんが苦笑した。
「彼氏いる?とかバストのサイズは?とかってのは???」
「私は聞かれなかったかな。梨華ちゃんの話聞いてちょっぴり期待してたけど。」
・・・なんなのこの差は?
あの3人がいるのに、そんな生ぬるい質問だけで終わるとは
到底思えない。
「ほら、言ってた加護さんと辻さんと吉澤さんは?」
「あぁ、あの3人ね。特に挙手もしなかったから。」
・・・・・ウソだ。そんなことってあるの?
「えーっ。私の時なんかひどかったんだよ。
吉澤さんなんて稲葉先生がいなくなったの見計らって、
質問攻めしてきたんだから。」
- 219 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時48分18秒
- だけど、彼女は笑ったままだった。
「梨華ちゃんかわいいからね。きっとからかわれてたんだよ。」
「なっ、なに言ってるのよ。美貴ちゃんの方がかわいいじゃん!!!」
「あはは。ありがと。でもさ、梨華ちゃんてちょっとイジメたくなるタイプ
なんだよね。そういうかわいさがあるから、からかいたくなるんじゃない?」
そんなのだったらかわいくなくていいっ!
心の中で叫んでしまっていた。
「うぅ・・・。なんか憂鬱になってきた・・・。」
「明日また当るんだったよね、2組。」
「せっかく忘れてたのに、思い出させないでよぉー。」
「クスっ。私なんかうらやましく思うけどなぁ。慕われてる証拠だよ。」
美貴ちゃんはあんな目にあっていないからそう言えるのだ。
キスされそうになったり、彼女になって欲しいなんて詰め寄られたり。
・・・・ん?彼女???
思い出さなくてもいいことに、自分で触れてしまって
また落ち込んでいく思いがした。
そうだ。吉澤さんのことをもっと聞かなくてはならない。
- 220 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時49分16秒
- 「ねぇ、美貴ちゃん。」
「なに?」
「吉澤さん。授業終わってから何か言ってこなかった?」
「何かって?」
「ほら、例えば・・・。キスの経験とか、美貴ちゃんとかって
名前で呼ばれたりとか・・・・。あとは、まぁその・・・・色々。」
「ううん?特になにも?」
「・・・・うぐぐぐ。」
「さて、お昼も済んだことだし。私、ちょっと前田先生に聞きたいことあるから。
梨華ちゃんはゆっくり食べててよ。」
広げていたお弁当箱をささっと片付けると、彼女は
あっと言う間に職員室へと消えていってしまった。
「あーぁ・・・・。なんなの一体。」
一人残された会議室で、まだ半分も食べていないお弁当を
味気なく食べていると。
=コンコン=
「はい?」
「ハロー。梨華ちゃん。」
「・・・ぐぁっ。」
玉子焼きをノドにつめそうになってしまった。
- 221 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時50分23秒
- 「げほっげほっ。」
「大丈夫?」
背中をトントンたたいてくれるのはありがたいけど、
これってこの子のせいなのだ。
「・・・もう・・・・大丈夫・・だから・・・。」
「はい、お茶。あわてて食べちゃダメだよ?」
そう言うと、さも当たり前のように隣に座った。
本当に、毎日彼女は何が楽しくてここにくるのだろう。
まさかまた私を口説きに・・・?
いや、それすらもあやしいものだ。
きっと内心では私をからかって楽しんでいるのだろうから。
「けほっ・・・今日は一体・・・なに?」
ペットボトルのお茶を流し込んで、とりあえず息を整えた。
「何って、勉強教えてもらおうと思って。」
「私なんかより、稲葉先生に聞いた方がよくない?」
「冷たいんだ、梨華ちゃん。」
「・・・いや、冷たいとかそういう問題じゃなくて・・・・。」
- 222 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時51分34秒
- 「それとも自信ない?答えられるかどうか不安なの?」
「そっ、そんなことないわっ!これでも何聞かれてもいいように、
ちゃんと勉強してきてるんだから!」
「クス。それなら安心。でね、問題はここなんだけど・・・・」
だめだ。完全に吉澤さんのペース。
すっかり彼女の挑発にのってしまっていたのだ。
だけど、教育者を志すものとして、教えを請う生徒を放っとけないのも
また事実。
「・・・なるほどね。itはここにもってくるんだ。」
「最後にもってきてもいいけど、常用会話ならこの方が通りがいいから。
こちらの方が一般的ね。」
「ありがとう、梨華ちゃん。」
「・・・だからぁ。梨華ちゃんて呼ばないでよー。」
「わかった。」
「えっ!やっとわかってくれたのっ!?」
「今日からは梨華。そう呼ぶことにするね。」
「・・・・・・・・もういいわ。」
「クス。本当はそう呼んで欲しかったんじゃないの?」
「あのねー!吉澤さんっ!」
- 223 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時52分28秒
- 「固いな、それ。ひとみでいいよ。」
「ひとみ!?なんで私があなたを呼び捨てにしなきゃいけないのよ!」
「だってさ、あたしたちはいずれ付き合う運命にあるんだよ?
今から呼んでたら馴染みもはやくなるし。」
頭を抱えてしまった。
なんか聞いてるうちに、吉澤さんの方が正論を言っているような
気になってきたから。
「百歩譲って、あなたが私のことをどう呼んでもかまわないけど・・・」
「わかってるって。みんなの前では生徒と先生でいたいんでしょ?」
「そうそう。・・・・ん?なんか違うっぽくない、それ。」
「あはは。梨華ってかわいいね。」
「・・・はっ。吉澤さんひょっとして私のことからかってる?」
「正解。」
あぁ・・・。私って・・・。
こんな18やそこらの子供にいいようにされているとは。
- 224 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時53分28秒
- にやけている顔がにくたらしく思えたから、
ぽかすかとなぐってやった。
「大人をからかうんじゃないのっ!」
「イテテ。だってからかいたいんだもん。」
「なんで私ばっかり。」
突然なぐっていた手をつかまれてしまった。
「梨華が好きだから。」
またこの目だ・・・。
たった今までふざけていたのに、真剣な眼差しを向けている。
「あのね・・・。はっきり言っておきますけど、
私は吉澤さんと付き合うつもりはないですから。」
「それが答え?」
「そうよ。」
「そ・・・っか・・・・。」
つかんでいた手を離すと、彼女はゆっくりと立ち上がった。
「・・・・吉澤・・・さん?」
「バイバイ。・・・・石川先生。」
その時なぜか、冷たいものが胸を突き刺していくように感じた。
- 225 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時54分27秒
午後の授業も無事務めることができた私は、
今日教えたことを簡単にまとめると、気分転換をしに、
駅前のデパートへとぶらぶら寄り道にでかけた。
本当は明日の授業の下準備をしたり、大学へ提出する
レポートをまとめたり、やらなきゃいけないことはいっぱい
あるのだけれど、どうも乗り気にはなれなかったから。
デパ地下で晩御飯の惣菜を買い込むと、
そのまま繁華街へと歩いていった。
そしてなんとなく店の中を見ながら歩いていると・・・。
ゲームセンターで見知った顔をみかけた。
制服を着ていないから雰囲気は少し違っていたけど、
それはどう見ても吉澤さんだった。
すごく楽しそうにしているその隣には、男の子がいた。
こちらに背を向けているから顔はわからないけれど、
おそらく同い年くらいなのだろう。
「なんだ・・・。あんなこと言っておきながら彼氏いるんじゃん・・・。」
その光景をなぜかそれ以上見ていることができなかった。
そのまま踵を返すと、私はまた駅へと向かっていった。
- 226 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時55分43秒
「ふふっ。午後からはいよいよ2組の授業だね。」
美貴ちゃんがいたずらっぽく言ってきた。
「はぁーっ・・・。」
だけど出るのはため息だけだった。
「あらら。相当参ってるねこりゃ。」
そうなのだ。私は相当参っていたのだ。
それは別に2組の授業が嫌ということではなく、
昨日の吉澤さんのことがなんだか気になっていたから。
ここを出て行く時に見せた寂しげな背中。
ゲームセンターで見かけた楽しそうな顔。
どの吉澤さんを思い浮かべても、心の中が
ぎゅっと痛くなってくるのだ。
「よし、それならジュースでも買ってきてあげるよ。」
「あ・・・・。ごめんね。」
「確か販売機って食堂にあったんだよね?」
「うん。」
「じゃ、行ってきます。」
「ありがと。」
- 227 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時56分41秒
- 美貴ちゃんが出て行った後の会議室は、
なんだかとても広くて寂しく思えてきた。
なんなんだろうこの寂しさは・・・・。
そうだ。いつもならここで吉澤さんが訪ねてくるのだ。
『梨華ちゃん』なんて、慣れなれしく私の名前を呼びながら。
そんなことを考えていると、ドアのノックの音が響いた。
もしかして・・・・。
視線をドアの方へと向けた。
その時の私は、確実に期待していたのだ。
吉澤さんであって欲しいと。
「おったおった。」
だけどその人は吉澤さんではなかったのだ。
とたんにしぼんでいく気持ち。
一体私はどうしてしまったんだろう。
これじゃ、まるで・・・・・。
- 228 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時57分32秒
「あれ?藤本は?」
中澤先生はそう言って辺りを見渡した。
「ちょっと食堂へジュースを買いにいってます。」
「そうなんや。ほら、これ。あんたたち2人に差し入れのお菓子、
もって来たったから。」
「ありがとうございます・・・・。」
「なんやなんや。また落ち込んでるんかいな。」
「先生・・・。」
「どうせ生徒にでもからかわれたんやろ。」
はははと快活に笑って私の頭をなでてくれたから、
とたんに胸の中に熱いものがこみ上げてきて、
ぽろりと一筋の涙をこぼしてしまった。
「ちょ・・・石川・・・?」
「ぐすっ・・・先生・・・。」
「何があったんや。」
「・・・・ひっく・・・。私・・・・。」
- 229 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時58分22秒
- 「うん。」
「自分の気持ちが・・・わからなくて・・・・どうしたら・・・いいのか・・・・。」
「はぁーっ・・・。そっか。」
「胸の中、すごく熱くて。だけどうまくそれを出せないでいるんです・・・。
自分でもよくわからなくって・・・。なんでこんな気持ちになるのか。」
「ふっ。石川は地球と一緒やな。」
「・・・・地球?」
「そうや。地球は燃えてんねんで。だけど表面はもちろん地殻に覆われて
るから普段は誰もそのことに気付けへん。
せやけど中はマグマでどろどろや。石川も勉強したやろ?」
「・・・はい。」
「石川の中にあるマグマが今やっと噴出そうとしてるんちゃうかな。
それはちゃんとあんたが生きてる証拠やで。
今は訳わからんでも、石川やったらきっと山を築くことができるんちゃうかな。」
「先生・・・・。」
「ちょっと柄にもないこと言い過ぎたかなぁー。」
「いいえ。いい勉強になりました。」
- 230 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)20時59分21秒
- 「そっか。ほんならそれでええねんけどな。」
「先生。」
「ん?」
「先生って本当に地学の先生だったんですね。」
「あはは。なんやそれ。相変わらず素っ頓狂なことゆうねんな。」
「えへへっ。はい。」
=コンコン=
「お待たせー。買ってきたよ。」
「おう藤本!」
「あっ。中澤先生。」
「おいしいお菓子もってきたったで。」
「わぁ。ありがとうございます。」
「ほんなら2人とも午後からも頑張りや。」
「「はいっ。」」
「あっ。先生!」
「ん?なんや石川。」
「本当にありがとうございました。」
「ふふっ。」
ウインク一つ置き土産に、中澤先生は出て行った。
- 231 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)21時00分10秒
「はい。これ飲んで頑張ろうね。」
「ありがと、美貴ちゃん。」
「ちょうどおいしいお菓子もあることだし。午後から頑張るか!」
「うんっ!」
ジュースを一口飲んで、気分を新たにした。
結局吉澤さんが来ることはなかったけど。
「起立!礼。」
問題の2組の授業は終わった。
何度か私は吉澤さんのことを気にして見ていたけど、
彼女はただ普通に授業を受けていただけ。
もっとも、普通じゃないと困るのだけれど。
授業道具を抱えて教壇を降りようとしたその時。
「石川せんせー。」
呼び止めたのは加護さんだった。その隣には辻さんもいたけれど、
吉澤さんの姿はそこにはなかった。
- 232 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)21時01分00秒
- 「はい?なにかしら。」
「今日ちょっと化粧濃くないー?」
ぐっ・・・。早速きたか。
「濃くありません。いつもと同じです。」
「せやったっけ?ほんならいっつも厚化粧なんや。」
「厚化粧じゃないです。きわめてナチュラル。」
「げーっ。ほんまかいな。」
「先生ー。」
「なに?辻さん。」
「パンスト伝線してるよ。」
「えっ!うそっ!」
「きゃははっ。うっそぴょ〜ん。」
「・・・あのねぇ、あなたたちっ!」
「怒るとしわ増えるよ。」
「ほんまほんま。ついでに言うと、うそついてもしわ増えるけどなー。」
- 233 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)21時01分54秒
- 「・・・はい?」
「せんせーうちらにうそついたやろ。」
「なんのことかしら?」
「うわぁー。とぼけてるぅー。なぁ、ののっ。」
「そうそう。これって絶対Cカップじゃないよね!」
「・・・・・あぅぅぅ。」
「やっぱりそうやったんや!」
またこの2人にはからかわれてしまったけど、
やっぱり吉澤さんがここに来ることはなかった。
「あれ?そういやよっすぃーは?」
「ほんまや。せんせーからかうの一番楽しみにしてるはずやのに、
おらんなぁ。」
よっすぃーと呼んでいるのはおそらく吉澤さんのことだろう。
2人が彼女の席を振り返ったと同時に、私もまた
彼女の方へと視線を向けたけど、その姿すら教室からは消えていた。
- 234 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)21時02分28秒
「よっすぃーおらんかったらイマイチ盛り上がれへんなぁ。」
「そうだね・・・。席、戻ろうかあいぼん。」
吉澤さんのことが少し気になったけど、そのまま教室を後にした。
吉澤さん・・・。
職員室へと進む廊下の先に、彼女がいた。
ゆっくりと2人の距離が縮まっていく。
- 235 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月30日(金)21時06分11秒
- >作者
・・・あの。ここで終わりって書いたら怒ります?(w
怒りますよね・・・・。でも実はここまでしかできてないんですよぉ(笑)
ってことで、これからまたパパっと切りのいいとこまで書いてみます。
今日はできるところまでがんがってみようかなと。
これって何話目になるのかわからないんですけど(w
まぁ、このまま調子よく書ければ夜中にでもUPします。
書けなければ、また明日。
ということで、中途半端になってしまってごめんなさい。
でもできていることろまでUPしたくて(笑)
それではまた、後ほど。
- 236 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月30日(金)21時08分22秒
- いつも楽しみにしてます!!
はぁ。。。ほんといいところで!(笑)
いえいえ。作者さんのペースで。
また、期待してますね。
- 237 名前:シフォン 投稿日:2003年05月30日(金)21時20分17秒
- >作者様
笑いあり、泣けるシーンもあり、今回もますます目が離せない作品ですね♪
優等生なよっすぃ〜、惚れちゃいます(笑)
ウチも石川先生のような先生の授業受けたかったなぁ(苦笑)
<<・・・あの。ここで終わりって書いたら怒ります?(w
怒るだなんてとんでもないっ!!
いつも素敵な甘〜い作品を読ませていただけるだけで、十分過ぎるくらい幸せなんですから☆
作者様のペースで、無理はなさらずに更新していって下さいね♪
無理をし過ぎて、作者様の作品を読めなくなってしまう方が、何倍も悲しい事ですから…(素)
次回の更新、まったりゆっくり待っていますね♪
- 238 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月30日(金)23時36分55秒
- 2度目の更新お疲れ様です!!
藤本先生、石川先生が受けたのと同じ質問を
ちょっぴり期待してたんですか…(笑)
では………
「藤本先生!先生には彼氏がい………(略)」
よっすぃ〜の2つの対照的な姿を思い出して心の中がぎゅっと
痛くなる石川先生が何とも言えませんね…
ホント、あまり無理をなさらないで下さいね。
では、続きの方楽しみにしてます♪
- 239 名前:ROM読者 投稿日:2003年05月31日(土)00時10分40秒
- 更新が早くて追いつけない・・・ジァイ**は足が遅くて。
ちょっとよすこが可哀相かも。でもこのまま引き下がって
欲しくない。行けぇ〜!
>でも空き地で唄ったりしないでくださいね?(笑)
通勤の車の中で歌ってます。
- 240 名前:ROM読者 投稿日:2003年05月31日(土)00時20分50秒
- 慌ててカキコしたらageちゃった。反省。
これでさらにファンが増えることを期待しつつ
逝ってきます。
- 241 名前:名無し読者79 投稿日:2003年05月31日(土)11時27分10秒
- よっすぃーはあえて離れてみたのか…それとも…。
梨華ちゃんも気になってきてますし、これからの展開…。
続き楽しみにしてます。
- 242 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時30分45秒
- >名無しさんさま
>いつも楽しみにしてます!!
ありがとうございますー♪♪♪
いやぁ。お待たせいたしました(wゞ
よければこれからも読んでやってくださいっ!
>シフォンさま
うわぁ〜んっ・・・(涙)本当に優しい言葉、嬉しかったです。
なんか全然ダメポなのに、応援くださって・・・感謝です!!!
>ぷよ〜るさま
>「藤本先生!先生には彼氏がい………(略)」
川VvV从>いるよっ♪今回のお話に出てくるからお楽しみに♪
・・・・だそうです(笑)でも、果たして・・・
いや、これ以上はやめましょう。ネタバレですから(w
- 243 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時37分11秒
- >ROM読者さま
クス。あわてなーいあわてないっ♪(笑)
>逝ってきます。
いや〜っ。逝かないで〜っ(涙)
ちゃんと戻ってきてくださいねっ。いつもありがとう♪
>名無し読者79さま
あぅ。さすが79さま。かなりイイ線いってます!
しかーし、ほんのちょっぴり路線変更。
果たしてそれが吉と出るか凶と出るか・・・(w
また少し「アレ」ですが(w、どうぞ最後までお付き合いください♪
それでは、続き投稿しますね。
最初に書いておきますが、必ずやみなさまのお心を
補完しますので、最後までお付き合いくださいね(w
では、どうぞー♪
- 244 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時39分40秒
吉澤さんはうつむくこともなく、顔をあげて真っ直ぐ進んでくる。
背筋をピンと伸ばして歩くそのさまは、まるでどこかのモデルの
ようにかっこよかったけど、なにかしら冷たい空気を伴っている
ように見えて・・・・・・。
結局すれ違っても、何も声をかけられることはなかった。
ぱっと振り向きざま『梨華ちゃん』なんて、声をかけられる
ことを期待していた私は。
その後ろ姿を見つめているのは私の方だった。
「吉澤さん・・・。」
そしてたまらず声をかけてしまっていた。
ゆっくりと彼女が振り返る。
「なにか。」
冷たい声が廊下に響いていく。
それでも・・・・。
- 245 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時40分40秒
- 「今日はこなかったのね。」
「えぇ。」
まるで別人だった。昨日までの吉澤さんとは思えないほど。
「また、いつでもきていいよ。・・・わからないことがあったら。」
「機会があれば。」
「あっ・・・・。そう・・・ね・・・。」
そこでチャイムが鳴り始めた。
「では。失礼します。」
くるりと後ろを向いて教室へと入っていく姿を眺めながら、
私は思っていた。
もう2度と吉澤さんと話すことはないのかもしれないと。
そして、次の日。
職員室の扉を開けると、にわかに騒がしい声が聞こえた。
校長の周りに先生方が集まってなにやら話をしている。
「・・・・そうですか。・・・・吉澤が・・・・」
- 246 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時41分52秒
・・・・・え?確か、今『吉澤』って名前が聞こえたような。
あの吉澤さんのことではないのかもしれないけれど、
私はそれがどうしても気になって、話の輪から戻ってきた
中澤先生をつかまえた。
「先生、おはようございます。」
「おはよ。」
「なにかあったんですか?みなさん集まっていたようですけれど。」
「あぁ、ほら3年2組の吉澤ひとみっていてるやろ。
あの子の話をしててん。」
やっぱり・・・・。
「それはまたどうしてなんですか?」
「こないだの全国模試で10位以内に入ったらしいねん。
それで校長も教頭も大喜びや。東大も夢やないゆうてな。」
あの吉澤さんが・・・。
この学校は都内でも有数の進学校で、国立大学に数多くの卒業生を
輩出しているけれど、『東大』となると、またまったく別格の話。
- 247 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時42分51秒
- 「そうだったんですか・・・。すごいですね。」
「あの子の父親はもう一つすごいけどな。
なんせ、オックスフォード出の外交官やから。」
その話を聞いて、とたんに吉澤さんが遠くの存在に思えてきた。
名門の家に生まれ、頭脳明晰で容姿端麗。
全くもって別世界の人なのかもしれない。
あのふざけて笑っていた吉澤さんが・・・。
《《《運命を感じるんだ。梨華ちゃんに。》》》
またあの日のことを思い出してしまった。
真剣な眼差しでそう告げた彼女。
だけど私は結局彼女の思いには応えられなかったのだ。
《《《バイバイ。・・・・石川先生。》》》
そのフレーズが頭の中にずっとこだましていた。
『運命』なんて彼女はいったけど、結局私たちは最初から
住む世界が違っていたのだ。
きっと吉澤さんは、私なんかが想像できないくらいに
大きく羽ばたいていく。
私の手が届かないところまで・・・・。
さよならを言った彼女の寂しげな姿が、
もう2度と私とは関わらないという、決別の意として、
今はっきりと認識されていく思いがした。
- 248 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時43分54秒
「ふーっ!やっと明日で最終日だねー!!!」
ロッカーで帰り支度を整えている美貴ちゃんが、そう言った。
「ほんと。やっと終わるんだ・・・・。」
長かったような短かったようなこの1週間。
ミスをして恥ずかしい思いもしたし、生徒からからかわれて
情けない思いもしたけれど、とても充実した実習だったと思える。
そして私の心の中に一人、忘れられない思い出として
刻まれるであろう吉澤さんのことが、頭をよぎっていった。
「明日終わったら2人で打ち上げしようよ。」
もう早速終わったことを前提として話している彼女に、
少し苦笑してしまったけど、それもいいのかもしれないと思った。
お酒で何かを紛らわせるのは、ずるいことなのかもしれないけれど、
きっとこのモヤモヤとした思いを、すぐには消化できないだろうから。
「うん。飲みにいこう!」
パチンと互いの手を合わせると、私たちは帰途についた。
- 249 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時44分50秒
ぐったりとした体を抱えて、トボトボと改札をくぐる。
最後の授業の下準備と、レポートのまとめをこれから
帰ってしなくてはならないと思うと、頭が痛い。
おまけに洗濯物を取り込んで、晩御飯の支度をして。
望んでしている一人暮らしは、時間に縛られることもないかわり、
不自由なことも多々あった。
何より帰宅しても一人だということが、寂しくさせる。
落ち込んでいる時には家族の温かみを思い出してしまうのだ。
「夏休みは帰省しようかな・・・。」
教員採用試験を目指して頑張るには、ちょうどいいのかもしれない。
やっぱり弱気になっている自分に苦笑して顔を上げた。
「・・・・・・・・あ。」
駅の出口にいたその人の姿を見て、なぜだかとても懐かしい
感覚におそわれた。
まるでもうずっと会っていない恋人にでも再会したような思い。
制服姿のままの吉澤さんが、そこにいた。
- 250 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時45分51秒
- 「石川先生。」
彼女はこちらに近づくと、私の名前を呼んで立ち止まった。
「吉澤さん・・・なんでこんなところに?」
ドキドキと胸が高鳴っていた。
偶然私をみかかて声をかけてくれただけかもしれないのに、
なぜか彼女が私のことを待っていてくれてたように感じたから。
「先生言ったよね。わからないことがあれば、いつでもきていいって。」
「あ・・・・うん・・・・。」
わざわざこんなところまできて?
不思議には思ったけれど、私はそれを言わずにいた。
「そんなに時間とらせないから、勉強教えてもらいたいんだけど。」
「うん、わかった。家近くだから、よかったら来る?」
「いいの?」
「クスッ。制服姿のままウロウロしてたら問題でしょ?」
「ちらかってるけど大目にみてね。」
「ははっ。それは楽しみ。」
扉を開けて電気をつけると、パパッと洗濯物を取り込んで、
クローゼットの中へと押し込んだ。
テーブルの上に雑然と置いてある資料までは、さすがに
手がまわらなかったけど。
- 251 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時47分10秒
- 「別にちらかってないじゃん。」
「えへへ、お世辞でも嬉しいな。あっ、その辺に座ってて。今お茶入れるから。」
「別にいいよ。すぐ帰るし。」
そうだ。できるだけ早く帰してあげなければならない。
遅くなっては心配だし、何より親御さんが一番心配するだろうから。
まだ今は夕日が辺りを明るく照らしているけれど、
1時間もすれば暗くなってしまう。
「お湯沸くの待ってる間に、質問聞きましょうか。」
「うん。それじゃ早速。」
カバンから教科書を取り出すと、チェックの入った箇所を指差した。
「ここと、ここ。それと・・・・」
ページを繰っていく姿をみながら、すごく勉強熱心だとは感じたけど、
また同時にある疑問が心の中にわいてきた。
全国模試で10位に入るくらいの頭のよさなら、
これくらいの問題は、難なく解けそうに思えたから。
ではなぜ彼女は、おそらくわかりきっているであろう答えを、
わざわざ私に聞きにきたのか。
それを考えると、胸の中がざわめきたった。
もしかして、彼女は・・・・・・・。
「先生?」
「あっ。ごめんなさい。」
- 252 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時48分21秒
- 「疲れてるんだよね。それなのに・・・ごめん。」
ぼーっとしてしまっていたのは、疲れているせいではなかった。
『もしかして』という思いが、ずっと心を支配していたのだ。
だけど、そんなことは彼女に聞けるはずはない。
「ううん。全然疲れてなんてないから。気にしないで?」
「ホントに?」
「うん。大丈夫。」
胸の中でため息をひとつついた。
完全に意識してしまっている自分が、すごく滑稽に思えたから。
『もしかして』という思いはただの勘違いなのかもしれないのだ。
吉澤さんは本当に、ただ純粋に質問に来ただけなのかもしれない。
とすれば、思い上がりも甚だしい。
またひとつ、ため息をついた。
「さすが先生だね。すごくわかりやすい。」
「おだてないで。これくらいだったらきっと、どの先生に聞いても
答えてくれるはずだから。」
「クス。謙遜するんだ。」
「そんなんじゃないわよ。それに・・・」
あわてて言葉を飲み込んだ。
言ってはいけない一言を言いそうになってしまったから。
『『『本当は吉澤さん、わかってて聞いてるんじゃないの?』』』と。
- 253 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時49分20秒
「それに?何?」
しかし彼女はそれを見逃さなかった。
鋭い眼差しで私を見ている。
ぎりりと唇をかみしみて、うまく逃れる言葉を探していた。
そうしてうつむいていると、吉澤さんは、そっと私の腕に手をかけた。
「先生・・・・。あたし、本当は・・・・」
ぎゅっと胸をつかまれる思いがした。
本当は、こんな瞬間が訪れることを、私はどこかで期待していたのだ。
自分から避けてしまった彼女のことを、
今では苦しくなる思いで、求めてしまっている。
だけど、それは伝えてはいけない思いなのかもしれなかった。
吉澤さんは私とは住む世界が違うのだから。
こんなところでつまづかせてはいけない人。
心の中でブレーキをかけた。
「・・・・お湯、沸いてるから・・・・止めてくるね・・・・。」
さっきからずっとカタカタ鳴っているやかんの火を止めに、席を立った。
だけど。
- 254 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時50分26秒
「梨華・・・・・」
後ろから抱きしめられていた。
切なく音を立てる胸の痛み。
私は吉澤さんが好きだったのだ。
もう隠しようもないくらいに。
「吉澤・・・さん・・・・」
「諦めようと思ってた・・・・所詮、こんな子供には手の届かない
人なんだって・・・・だけど・・・やっぱり・・・あたし・・・・」
「・・・・・・・っ・・・・・。」
「梨華が好き。」
強く感じる腕の力に、思いが込められている。
もうそれだけで、彼女の思いが真剣なものだということが
ちゃんと伝わってきた。
けれど、どうしたらいいのだろう・・・・。
ここで自分の本当の気持ちを伝えるべきか、
あるいはそうすべきでないのか。
本当は伝えたい。
私の思いもまた吉澤さんにあるのだと。
苦しくて、張り裂けそうな、胸の中。
そして、私は繰り返される葛藤の中、やっとの思いでこう答えたのだ。
- 255 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時51分36秒
「私も、吉澤さんが好き。」
大きなため息が、私の肩越しにもれてきた。
「梨華・・・・・」
息ができなくなるほど、強く強く抱きしめられていた。
だけど私はその腕を離したのだ。
「吉澤さんのことが好きよ。・・・だけど、あなたとは付き合えない。」
「・・・・なに・・・・言って・・・・」
「お願い・・・・わかって・・・」
「そんなの無理だよ。どうして・・・なんでなの!」
耳を突き刺すような声に、心が凍り付いていく。
「きっといつかわかる時がくるよ。」
涙は流さなかった。
いや、流せなかったのだ。
泣いてしまったら、もう気持ちの止めようがなく、
吉澤さんを抱きしめてしまうだろうから。
「そんなの・・・・そんなのって・・・ないよ・・・・」
ゆっくりと腕の力が緩められ、ぱたりと落ちていった。
「・・・ごめんね・・・・」
その言葉に反応するように、彼女は部屋を飛び出していった。
カバンも何も置いたままで。
- 256 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時52分31秒
だけど私は追いかけなかった。
だってどうすることもできないのだから。
彼女の輝かしい未来を奪う権利なんて、私にはないのだ。
それに吉澤さんには、一緒に笑い合える彼氏がいる。
私のことは単なる、思春期によくある気の迷いだったのだ。
そう自分に言い聞かせていたけれど・・・・。
手にした教科書に、水玉模様がしみ込んでいった。
もう気持ちをセーブすることなく、私は泣き続けた。
「おはよー!さぁ、今日で終わりだねっ!」
「おはよ・・・・」
カバンを詰め込んで、ロッカーを閉じると、美貴ちゃんが
私をじっと見ていた。
「梨華ちゃん・・・何かあったの?」
「ううん・・・・何も・・・ない。」
「うそ。目が腫れてるじゃない。」
「あっ・・・・。昨日徹夜したから。」
「本当に?」
「うん。心配してくれてありがとう。」
- 257 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時53分23秒
紙袋を抱えると、私は逃げるように職員室を出た。
その中には吉澤さんが置いていったカバンが入っていたのだ。
そして2組の教室についた。
だけど、彼女の顔を見ることなんてできないから、
クラスの誰かを捕まえて、渡してもらおうと思っていた。
そこへ調度タイミングよく、あの加護さんと辻さんが現れたのだ。
「あっ、ちょっといいかな。」
「あれ?せんせーやん。おはよー。」
「おはよー。石川先生っ。」
「おはよ。」
「何?今日で最後やからうちらの顔でも見にきたんか?」
ケラケラと笑って加護さんが言った。
「あはは。まぁそれもあるんだけどね。」
「先生いなくなると寂しいよ。ずっといてくれたらいいのに・・・・。」
思わず抱きしめたくなるような、かわいいことを言ってくれる。
「辻さん・・・・」
「なーんて。お涙ちょうだい作戦大成功だねっ!」
- 258 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時54分23秒
- ・・・・あ、あのねぇ・・・・・。
今までしんみりしていた気持ちも、どこかへ吹っ飛んでいく気分。
そうだ。クヨクヨしてたって始まらないのだ。
この2人を見ていると、なんだかとても大きな元気を
分けてもらったように思える。
「それで、なんか用事あるんやろ?」
「あ、そうそう。忘れるところだった。」
「しっかりしてよ、石川先生。」
「うぅ・・・・。・・・・・・あ、あのね。これ吉澤さんに渡して欲しいんだけど。」
紙袋を加護さんに手渡した。
「何これ?」
「カバン。昨日忘れていってたみたいなの。職員室に届けてあったから。」
それは嘘だけど、きっと吉澤さんもわかってくれるはず。
「へぇ。よっすぃーもこんなことあるんだね。」
「あー。でもせんせー。せっかくやけど渡されへんわ、これ。」
「えっ?どうして?」
「今日休むってメール入っとったから。」
「そうだね。入ってた。」
せっかくもらった元気が、また消え失せてしまっていった。
吉澤さん・・・・・。
- 259 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時55分20秒
「・・・?せんせー?」
「あ・・・。特に貴重品とか入ってないと思うから、
机に置いといてもらえないかしら・・・・。」
「うん。わかった。」
「ありがと・・・・。」
「先生、なんか元気ないけど、大丈夫?」
辻さんが私の手をとった。
「んっ。大丈夫!さぁ、そろそろ職員室に帰らないと。ありがとね、辻さん。」
「ほんまにせんせーずっとおってくれたらいいのに・・・。」
今度は加護さんがそう言った。
「はいはい。もうお涙ちょうだい作戦は通用しないわよ?」
「うちもののもほんまは先生のこと大好きやってん。」
2人は同時に私に抱きついてきた。
「加護さん・・・辻さん・・・・」
「ありがとね、先生。」
「ありがとー。せんせーのこと忘れへんからなぁー。」
それは今度こそ本当の言葉だった。
だから私も2人のことをしっかりと抱きしめ返したのだ。
ここにいない吉澤さんへの惜別の念も込めて。
- 260 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時56分14秒
「短い間でしたが、お世話になりました。」
やっと最終日の授業を終えた私たちは、一同並んで
職員室で最後の挨拶をしていた。
「よく頑張りましたね、みなさん。ぜひこれからも頑張って、
立派な教師を目指してくださいね。」
荷物を抱えると、美貴ちゃんと2人で、中澤先生のところへと、
挨拶にむかった。
「先生。1週間ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
2人でペコリと頭を下げると、中澤先生もどこかしんみりした
顔でこちらを見ていた。
「あんたらおらんようになったら寂しなるなぁ・・・。」
「先生・・・。」
「でもな、出会いがあるから別れもあんねん。でもまたその先に
きっといい出会いがある。2人とも、夢に向かって頑張りやっ!」
「・・・はい。」
「はいっ・・・。」
「それで、いい出会いがあったらうちにも紹介したってやー。」
「クスっ。はい。」
「中澤先生ったら。」
最後は笑顔で別れることができた。
それこそが、中澤先生の優しさなのだということを、また新たに胸に留めた。
- 261 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時57分41秒
「くーっ。うまいねぇー。仕事終わりのビールは。」
「ホントホントっ!美貴ちゃん、今日はとことん飲もうよっ。」
「うんっ!大賛成っ!」
私たちは居酒屋で、まるでオジサンがそうするように、
ガンガンジョッキをあおった。
教育実習での失敗談や、嬉しかったこと。
色んなことを話して。夢を語って。
だけど、この胸の中にあるぽっかりとした寂しさは、
どうにも埋めることはできずにいた。
最後に残った吉澤さんの記憶が、あまりにも辛いものだったから。
「おっ!梨華ちゃん、いける口だね。ほら、もっと飲んで。」
「うぅー。今日はいっぱい飲んでやるっ!飲んで、飲んで、忘れてやるー!」
「きゃはは、いいぞー!その調子!」
「なんだっていうのよー。まったく。冗談じゃないわよぉー・・・」
「あらら。絡み酒ですか。」
「いいじゃん。美貴ちゃん今日は私に付き合ってくれるんでしょ。」
「付き合いますとも!すみませーんっ!生チュー2つ追加で!」
それから延々食べて飲んで、笑って泣いて。
もうかなりヘロヘロに酔ってしまっていた。
- 262 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)21時58分46秒
「ふーっ。そろそろ帰りますかぁー。」
「・・・うー。まだ飲むー。」
「梨華ちゃんそれはちょっと無理があるんじゃない?」
「いいの!飲むったら、飲むのーっ!」
「ダメだこりゃ・・・・。」
美貴ちゃんはカバンから携帯を出すと、どこかへ電話していた。
「なによぉー。まさか彼氏にかけてるんじゃないでしょーねー。」
「うふふっ。まぁ、そんなとこかなっ。」
「えーっ。いいなぁー。私も恋人ほしーなー。」
吉澤さんの顔を浮かべて、また泣きそうになってしまったけど、
もう泣く元気すらなかった。
「あ。もしもし、美貴だけど。今から迎えにきてくれる?」
「・・・・いいじゃん。場所・・・・だから。すぐ来てね。じゃっ。」
「すごーい。迎えに来てくれるんだ。」
「うん。だってさ、私たちラブラブだから。」
きゅーんと悲しくなっていったけど、とりあえず美貴ちゃんの
彼氏とやらの迎えを、外の空気にあたりながら待っていた。
- 263 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)22時00分00秒
「あ。あの車だ。」
ガードレールから少し身を乗り出して、美貴ちゃんが手を振っている。
そして、車が横付けされた。
「もぅー!あややはパシリじゃないんだからーっ!」
車から降りてきた人は、『彼氏』ではなかったけど、
この怒り方からすると、すごく仲のいい友達なのかもしれない。
「ごめんごめん。後でちゃんと穴埋めするからっ。」
「ホントだよ?ミキティはいっつもそんな調子のいいことばっか言うんだもん。」
「言ってないじゃん。いつだってあややのこと好きって言ってるのにぃー。」
「えへへー。」
「で、この子も一緒に送って欲しいんだけど。」
「うんっ。いいよっ。」
なんだか訳がわからないまま、私は美貴ちゃんに
後部座席へと押し込められた。
「ごめんね。助手席は譲れないんだ。」
後ろを振り返って笑いかけてくる。
「うぃ・・・・。ひっく。そうですかぁー。ひっく。」
「あらら。ちゃんと道わかる?」
「うー・・・。わかるよぉー。酔ってなんてないもーんっ。」
「・・・・だって。とりあえず出して、あやや。」
「オーライっ。飛ばしてくよーっ。」
- 264 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)22時01分36秒
そしてなんとかかんとか、途中で道に迷いながらも、
無事マンションまで送り届けてくれた。
「ひっく・・・。ありがとね。美貴ちゃんに・・・えっと・・・・」
「あ・や・や。」
「あややー。ありがとー。」
「大丈夫?やっぱり部屋まで送ろうか?」
「いいのいいのっ。エレベーターのるだけだからぁー。」
「心配だけど・・・。」
「だーいじょーぶっ。それじゃ、また連絡するねー。」
「はーいっ。じゃね!」
赤いテールランプを見送ると、私はエレベーターへと向かった。
「はーっ・・・。ぜーんぶ終わったんだ・・・・。」
振り返ってみると、それは本当に熱い1週間だった。
初めて教壇に立った時の緊張感。
助けてくれた仲間や先生。
生徒たちにからかわれて恥ずかしい思いもした。
だけどそれもまた今となっては楽しい思い出。
- 265 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)22時02分42秒
そして・・・・・。
「・・・・っく。・・・・ぐすん。」
やっぱりまた吉澤さんのことを思い浮かべてしまった。
酔ってはいたけれど、やけに鮮明に思い出してしまう。
私をからかって笑っていた笑顔。
真面目に教科書を広げていた姿。
そして・・・・真剣な眼差しで見つめてくれた瞳。
追いかけることのできなかった背中。
結局、私は何もしてあげられなかったのだ。
寂しい気持ちだけがどうしようもなく、胸の中に広がっていく。
全て終わったことなのだ。
それはわかっているはずなのに・・・・。
頭ではわかっていても、なかなか心がうけつけないでいた。
- 266 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)22時03分38秒
エレベーターを降りると手すりにつかまりながら、千鳥足でふらつく体を
一歩ずつ進めていた。
一歩、また一歩。
足元を確かめながら歩いていたのに、それでも足がもつれてよろけてしまった。
まるでスローモーションを見るように、近づいていく廊下。
「あっ・・・・。」
しかし、私の体は廊下にぶつかる寸前で止まっていた。
誰かの腕の中にしっかりと抱きとめられて。
「はーっ。何やってんだよ。」
その声は・・・・。
ゆっくりと確かめるように見上げた視線の先にいたのは。
- 267 名前:修行僧2003 投稿日:2003年05月31日(土)22時06分30秒
- >作者
きゃーっ!石投げないでくださいよー(涙)
だっておいしい部分はゆっくりかんで味わってもらいたい
んですもの・・・・。
と、いうより、ここまでやーっとの思いで書きました。
かなり時間と命を削りながら・・・・(マジ)
ということで、これから盛り上がりシーンにして
最大の山場を書いてみます。
さてさて、どんな展開になるのやら(w
え?もうわかってるって?
それでも最後までお付き合いくださいませ。
さーっ。これからもう少しがんがるか。
それでは、また。ありがとうございました!!!
- 268 名前:ROM読者 投稿日:2003年05月31日(土)22時10分51秒
- 大量更新お疲れ様です。(もう戻ってきてるし・・・
しかし・・なんちゅーところで終っとんねん!
いっ、いかん・・また妄想がぁ〜。
2人が上手く行くよう祈りつつ明日に備えよう。
- 269 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年05月31日(土)22時22分24秒
- 更新お疲れ様です!!
え〜っと………お預けですか?(笑)
ホントに無理はなさらないで下さいね。
では、おいしい部分を楽しみにしてます♪
- 270 名前:シフォン 投稿日:2003年05月31日(土)22時41分19秒
- >作者様
作者様の作品を毎日読む事が出来て、ウチは幸せれす♪
それにしても、いい所で終わっちゃってますねぇ(笑)
まるで、ドラマのようです!
<<おいしい部分はゆっくりかんで味わってもらいたい
そうですよねぇ、楽しみは後に取っておいた方が、喜びは大きいですしね♪
続き、期待して待っています☆
でもでも、決して無理はなさらないで下さいねっ!!
- 271 名前:Silence 投稿日:2003年06月01日(日)00時15分26秒
- 更新お疲れ様です。
本当にいいところで終わっている(涙)どうなるの?どうなっちゃうの?
シフォン様に同感です。ドラマ見ているみたいな感覚ですよ♪
明治座いいな〜。生の梨華ちゃん(?)見たことないんですよ。
作者様ありますか?(w
それじゃあ次回も楽しみにしてまっす!!
- 272 名前:名無し読者79 投稿日:2003年06月01日(日)10時09分46秒
- うぉ、この声はもしや!!!!(笑
楽しみです、楽しみすぎて私も妄想が…。
いつも大量更新ご苦労様です。続き待ってます。
- 273 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時29分06秒
- >ROM読者さま
いいなー。明治座。今頃きっといしよし見て
妄想を膨らませていることでしょう(w
やっぱ、本物みてみたいですよねっ!!!
>ぷよ〜るさま
やっとできました。おいしい部分(w
今回は、お待たせした分、ちょこっとだけサービス(笑)
よければまたーりして読んでくださいね♪
>シフォンさま
いつもお気遣いくださいまして、ありがとうございます。
優しい言葉をかけていただける度に勇気がわいてきますよぉ♪
がんばっていきますので、これからもどうぞどうぞご贔屓に(wゞ
>Silenceさま
明治座いいですよねー。あぁうらやましい!!!
生の梨華ちゃんは一度だけ、コンサで見たことあります☆
やっぱすげーかわいかったですよ!
豆粒くらいにしかみえなかったけど(w
しかし、よっすぃーはある意味遠くからでもはっきり見えました。
理由はあえて書きませんが・・・・(涙)
でもモニターに映った姿。本当に美少女で、
マジデデジマってなくらいに胸がドキドキしました。
本当に恋しちゃってるんですよ。もう病気です(笑)
- 274 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時32分41秒
- >名無し読者79さま
>うぉ、この声はもしや!!!!(笑
うふふ。そうです。誰もが100%予想している
あの人です(w
お待たせいたしました!!!
ラブラブないしよし。一応山場は迎えましたが、
まだ続きますので、完結までぜひ応援してくださいね♪
それではお待たせいたしました。
続き、どうぞ!
- 275 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時35分10秒
「吉澤・・・さん・・・・。」
訳もわからず、ただじっと見つめてしまっていた。
「うわ・・・・酒くせー。」
「・・・・っ。ごめんなさい・・・・。」
「はぁ・・・。こんなになるまで飲んで・・・。」
そのまま抱き起こしてくれた腕の中に、私はただ体を預けていた。
酔っ払って夢でも見ているのだろうか。
そう思うくらい、あまりにも彼女が出てくるタイミングがよすぎたのだ。
しかし、しっかりと抱きしめてくれる感覚が、体を伝ってくる。
夢でないことの嬉しさと、戸惑いが交錯していった。
「なんで・・・・ここにいるの・・・?」
「さて、なんでだか。」
「今日学校休んでたじゃない。・・・あ。もしかしてカバン取りにきたの?
それなら、学校に・・・・」
「クスっ。そんなことぐらいでわざわざ足がしびれるまで待ってやしないよ。」
「・・・・え。ずっと・・・待ってたの?」
「そうだよ。」
- 276 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時36分03秒
- ぎゅっと腕をつかんでしまった。
私を待っていてくれる人がいたなんて・・・・。
それもあんな別れ方をした、この人が。
「あのさ。悪いんだけど、よかったら中入れてくれないかな?」
「・・・・あっ、そうね。ごめんなさい。」
「カギ、貸して。あたしが開けるから。」
「・・・うん。」
こっちが酔っ払っているせいもあるのだろうけど、
彼女の態度はごく冷静に、且つ、とても大人のように感じた。
「いいから、座ってなよ。」
ふらつく体でキッチンに立とうとした私を座らせると、
吉澤さんが代わりにそこに立っていた。
「冷蔵庫、あけていい?」
「うん。」
「飲み物入ってるよね?」
「ん・・・たぶん。でもビールは入ってないわよ。」
「なーに言ってんだか。ホント、酔っ払いは困ったもんだね。」
買い置きしていたお茶のペットボトルをもって、
こちらに戻ってきた。
- 277 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時37分16秒
- 「はい。少し酔い醒ませたら?」
「・・・・ありがと。」
ぐっと力を入れているはずなのに、フタはなかなか空かなかった。
「こりゃ相当重症だな。」
ぱっと私の手からそれを取り上げると、まるで魔法をかけたようにフタが空いた。
「すごーいっ!吉澤さん!」
「・・・誰でもできるよこれくらい。まぁ、酔っ払いには無理かな。」
クスっと笑って、手に戻してくれた。
ノドを気持ちよく流れていくお茶に、思わずプハーっと言ってしまいそうに
なったけど、さすがに酔っていてもそれだけは言わなかった。
「・・・・・はっ。今、何時?」
「んーと・・・。あと5分で明日になるかな。」
「えっ!?こんな時間にこんなとこいて、ダメじゃない!!!」
「今更・・・・。それならもっと早く帰ってきて欲しかったな。」
「お家の人、心配してるんじゃないの?あぁ、連絡しなきゃ・・・。」
立ち上がろうとした私の体を止めて苦笑している。
「とたんに教師の顔に戻るんだ。」
「だって・・・。」
- 278 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時38分29秒
- 「心配しなくても大丈夫。ちゃんと連絡は入れたから。」
「本当に?」
「うん。それに・・・。」
「なに?」
「家には両親はいないんだ。父親の仕事の都合で、2人とも
海外にいるから。」
「あっ。確か外交官のお父様がいらっしゃるのよね?」
「あはは。よく知ってるじゃん。」
「・・・うん。」
とたんに現実に返される思いがした。
吉澤さんは私なんかとは全然別世界の人なんだって。
「10コ歳の離れた兄が一人いるんだ。すごく口うるさくて、
まるで親みたいにあたしの面倒みてくれてるんだけどね。
遅くなりそうだったから、あいぼんち泊まるってウソついた。」
10歳も年上か・・・・。
いつか見たゲームセンターの彼は、後姿だけだったけど、
どう考えてみてもお兄さんではないようだ。
はーっと、息をもらしてしまった。
- 279 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時39分27秒
「そうだ・・・・吉澤さん・・・。」
「ん?」
「ここに何しに来たの?」
「ん・・・あぁ・・・。」
今までシャキシャキと話していたのに、急に口ごもってしまった。
「なに?」
「・・・うん。聞きたいことがあって・・・。」
「吉澤さんてホント、勉強熱心なんだ。」
湧き上がってくる何かを打ち消すように、私はわざと
からかうような口調でそう言った。
だけど。
「ごまかすなよ。勉強の話じゃないことぐらい、わかってんでしょ。」
鋭く見据えた視線が私をとらえていた。
「・・・・・・・・。」
「いくら考えてもわかんないんだ。昨日確かに梨華は
あたしを好きだと言ってくれた。なのにどうして受け入れてくれないのか・・・。」
私は、やはり何も言えないでいた。
鈍い痛みが胸の中を駆け巡って、言葉を発することができなかったのだ。
- 280 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時40分13秒
- 「ねぇ、教えてよ。じゃないといつまでたっても気持ちの整理がつかない。
あたしのことが嫌いならキッパリ諦める。だけど、そうじゃないんでしょ?
梨華はあたしのこと・・・」
「知ってるのよ、私。」
「・・・・なに。」
「本当は吉澤さんに彼氏がいるってこと。」
「・・・は?」
「ゲームセンターで楽しく笑ってた。それ、たまたま見ちゃったから・・・。」
「ゲーセン?・・・・あぁ。あいつのことか。」
「やっぱりいるんじゃない。」
「誤解だよ。あいつはあたしの従兄弟だから。」
「従兄弟?」
「うん。ああ見えて、現役の東大生。で、あたしの家庭教師。
気晴らしに付き合ってもらったんだけど・・・・。まさか、その誤解が原因なの?」
正直少しほっとしたけれど、それは直接の原因ではなかった。
- 281 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時41分07秒
- 「違うよ。」
「じゃぁ、一体なに?」
大きく息を吸い込んだ。
話してもきっと納得なんてしてもらえないだろうけど、
話さないと終わらせることもできないから。
「吉澤さんと私は住む世界が違う。それにあなたはこれから
きっと大きく羽ばたいていく存在。その足かせにはなりたくないから・・・。」
「・・・・そんなことだったの。あたしを拒否した原因って。」
「そんなことって。とても大事なことじゃない・・・・。」
「なんだよ、そんなつまらないことのために・・・」
「今は若いからそれがどれほどの意味をもつのかがわからないのよ。
だけどいつかきっと後悔するわ。それがわかっているから。」
「そんなこと勝手に決めるなよ。あたしはあたしの生き方がある。
不確かな未来を怖がっているより、今を大切にしたい。
それこそ後悔しないように。」
返す言葉がなかった。
吉澤さんの言ってることもまた、彼女の中では正しいことなのだ。
- 282 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時42分04秒
- だけど私の考えていることも、決して間違いではない。
私は不安だったのだ。
あまりにも真っ直ぐにぶつけてくる彼女の感情が。
一度踏み込んでしまったら、もう2度と戻ることはできない
ことを肌で感じていた。
それ故、ここで踏みとどまらないと、もう軌道修正なんてきかないと。
彼女の未来をきっと大きく左右してしまう私の存在。
年上のこちらがしっかりしないと、取り返しのつかないことに・・・。
「わかって・・・吉澤さん・・・」
「わからないよ。好きだけじゃダメなの?」
「・・・・・わかって・・・」
「梨華が好き。それで全てを失うことになったとしても、
あたしにはやっぱり梨華が必要だから。」
唇が強く押し当てられていた。
ここまで強い思いを重ねられて、それでも押しのける力が
私にはなかった。
それは、私もまた彼女のことが好きだから。
- 283 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時43分00秒
- 好きという感情を解放してあげると、もう気持ちを止めることはできなかった。
抱きしめられている体をもっと引き寄せるように、
背中に強く抱きついた。
先のことなんて本当は誰にもわからないことなのだ。
それなら、後悔しないように、今を精一杯生きていきたい。
いつしか私は、吉澤さんの考え方の方が、より正しいことの
ように思えてきた。
ずっと痛みを感じていた心が、すーっと楽になっていく。
きっとそれは吉澤さんも同じ気持ちでいてくれるはず。
「・・・・私の負けね。」
「梨華・・・?」
「好きな気持ちをごまかすことなんてできなかった。
こんなにも吉澤さんのことを好きでいたなんて・・・。自分でも信じられない。」
「・・・それ・・・じゃぁ・・・・」
「・・・・・・・・。」
「付き合ってくれる・・・の?」
「・・・・・うんっ。」
またぎゅっと抱きしめられていた。
- 284 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時43分52秒
- もう何も我慢などする必要なんてなかったから、
私も精一杯、彼女のことを抱きしめ返した。
なんて幸せな気持ちになれるんだろう。
心の中に温かいものがポカポカとわいてきて、
とても満ち足りた気持ちになっていく。
「やっと・・・・手にすることができた。」
「私も・・・。」
「はぁーっ・・・・。」
「クスっ。」
「なに笑ってるの?」
「だって・・・。思い出しちゃったんだもん。」
「え?」
「私のファーストキスの相手になってあげるって。
そう言ったの覚えてる?」
「本当に初めてだったんだ。」
「そうよ。いい年してキスの経験もなかったの。」
「はははっ。そっか。」
「やっぱりそんなのおかしいかな。」
- 285 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時44分48秒
- 「おかしくなんてないよ。むしろ嬉しい。」
「笑ったくせにー。」
「でもそれって今まで好きな人がいなかったからなんでしょ?」
「うん・・・まぁ。」
「なら本当にあたしのことを好きになってくれたんだ。
そういうことだよね?」
「そう・・・ね。」
改めて気持ちを確認されたことで、今更ながら
どうにも恥ずかしくなってきた。
「そっか。へへっ。梨華があたしのことを・・・ね。」
「もぅ、言わないでよ。恥ずかしいんだから。」
「あたしのこと好きなんだ。」
「だからぁ・・・・」
完全にからかわれている。
わかっていても、紅潮していく頬をどうすることもできないでいた。
「ホント、かわいいな。」
「またそうやってからかってー。」
- 286 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時45分42秒
- 「あたしも、梨華が好きだよ。」
今までにやけていた瞳が、一転して真剣なものへと変わっていた。
猫の目のように変わるその瞳に、ドキドキと高鳴る胸。
思えばいつもそうだった。
こちらの方がずっと年上なのに、吉澤さんの方がとても
大人で、しっかりみえて。
これじゃまるで、立場が逆。
最初から勝負はついていたのかもしれない。
まるで歯が立たないのだ。
「吉澤さんにはかなわないね。」
「クス。それはこっちのセリフだよ。」
「だけど、それがとても心地いい。」
「やけに素直じゃん。」
「だって・・・。吉澤さんが好きなんだもん。」
そしてそっと唇が重ねられた。
「やっぱり運命だった。梨華と出会えたこと。」
「そうかも・・・しれないわね・・・。」
「梨華が不安に思わないように、あたし頑張るから。」
優しく抱きしめてくれている。
- 287 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時46分35秒
- 大きく包み込んでくれるふわっとした温もり。
もう何も恐れることなんてないのかもしれない。
ただ吉澤さんを信じていたいと思った。
「吉澤さん・・・」
「クスクス。もうそろそろいいんじゃない?」
「・・・えっ?」
「ひとみって呼んでくれてもさ。」
その肩が揺れていた。
「でも・・・。」
やっぱり恥ずかしくてとても呼べそうにない。
「だから言ってたのに。今から呼んでたら馴染みもはやくなるって。
あたしの言ってたこと、間違いじゃなかったでしょ?」
「・・・・だってー。」
「まぁ、そのうちぼちぼち呼んでくれたらいいか。」
「そう言ってもらえるとありがたいです。」
「ははは。おもしれーなー。」
優しい瞳で私をみつめてくれている。
だから私の心もとても和らいでいくのだ。
- 288 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時47分22秒
- 「ねぇ。今って何時?」
「んと・・・・。うわ、もう1時回ってるわ。」
壁掛け時計を見上げていた私の顔を、吉澤さんが手にした。
「日付が変わったってことだよね。」
「うん。そうね。」
「昨日までの先生と生徒の関係じゃなくなったんだ。」
「まぁ・・・そうかな。」
「これで完全に恋人同士の関係だけになったんだ。」
「・・・・・うん。」
「恋人としての時間、楽しみたいな。」
その瞳はキラリと艶やかに光を帯びて、私をとらえていた。
「梨華・・・・」
視界がゆっくりと傾いていく。
そして私たちはその夜、本当の恋人同士になったのだった。
- 289 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月01日(日)12時48分57秒
- >作者
はい。ということで、本日の投稿終了です。
あっぷあっぷです、作者(w
少しは喜んでいただけたでしょうか?(笑)
まだ続きますので、もうしばしお付き合いくださいね。
それでは、また。
ありがとうございました♪
- 290 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年06月01日(日)12時58分53秒
- 更新お疲れ様です!!
最近、やたらリアルタイムで読めるんですけど
何ででしょう?
ついに先生と教師の間の壁を越えましたね!
まだ続くのですか?嬉しい限りです!!
では、続き楽しみにしてます♪
- 291 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月01日(日)13時14分28秒
- ( ´ Д `)<妬けるね〜、イイな〜。
- 292 名前:チップ 投稿日:2003年06月01日(日)13時56分56秒
- しばらくどころかいつまでも付き合いたいぐらいです。
少しどころか3tトラック5台分は喜んでます、完璧です♪
いいなぁ〜やっぱいいなぁ〜顔がとける…ww
よく噛めるよう歯のお手入れしながら続き待ってます。
- 293 名前:名無し読者79 投稿日:2003年06月01日(日)14時59分43秒
- 毎日ここを覗くのがすごく楽しみというか、毎回ありがとうございます!
二人の今後、どうなるのか梨華ちゃんの研修も終わってしまいますし
ドキドキしながら待ってます。
- 294 名前:シフォン@i 投稿日:2003年06月01日(日)17時43分41秒
- 今日も携帯から読んでしまった(汗)
(バスの中でニヤニヤしちゃいました(笑)
<恋人の時間……
う、うらやますぃ〜!!
ウチもそんな時間をよっすぃ〜と…(爆)
>作者様
ウチも生で見たよっすぃ〜の可愛さに、マジで惚れ直しましたよ(素)
しかも、手まで振ってもらったら、そりゃもぉ…(何)
今回の作品、今まで以上にドラマのような展開で、更新が楽しみです♪
無理なさらず、これからも頑張って下さいね!
作者様にず〜っとついてゆきますよぉ☆
- 295 名前:ROM読者 投稿日:2003年06月01日(日)21時33分55秒
- 研修が終っても続くんですね?うれすぃ〜!今後の展開が楽しみです。
>今頃きっといしよし見て妄想を膨らませていることでしょう(w
久し振りに目の前でチャーミー・スマイルを見て大感激。気付いたら
涙が流れてた。ジャイ**の目にも涙(恥
- 296 名前:Silence 投稿日:2003年06月01日(日)23時06分38秒
- 更新お疲れ様でっす。
やった〜♪甘だ〜。(w やっぱ好きですこのいしよし。
いいな〜ツアーとかライヴ行ったことないんですよ。(涙
>マジデデジマってなくらいに胸がドキドキしました。
うん、気持ちは大いにわかりますよ(w
本物(?)見たいけど梨華ちゃんにはよっすぃーがいるからな〜(w
次回も楽しみに待ってますね。
- 297 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時01分40秒
- >ぷよ〜るさま
最近はリアルタイムでご覧いただきまして、
誠に感謝です(wゞ
>まだ続くのですか?嬉しい限りです!!
まだ続きますよー(笑)応援よろしくなのです☆
>名無しさんさま
>( ´ Д `)<妬けるね〜、イイな〜。
ほんと、妬けますよね、いしよしって(w。
もっとうらやましがっていただけるように、がんがりまーっす♪
>チップさま
ようこそ、おいでくださいましたー♪
今回のはまたえらく甘なので(笑)、
歯のお手入れは入念にしといてくださいませ(w
いつも感謝なのです☆
>名無し読者79さま
わーいっ♪楽しみにしていただいてるなんて!!!
すっごく嬉しかったです。これからもよければ
ついてきてくださいねっ♪
>シフォン@iさま
うわっ!またもや携帯から見てくださったのですね!!!
嬉しいんですけど、パケ代が気になります・・・(涙)
ほんと、無理はしないでくださいね!(wゞでも感謝♪
>マジで惚れ直しましたよ(素)
そうなんですよねー。マジで綺麗だから、よっすぃーは(wゞ
いいなぁ。私もいつかよっすぃーに手をふってもらいたいっ!!!
- 298 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時06分41秒
- >ROM読者さま
いいなぁー。梨華ちゃんスマイルかぁー。
うらやますぃ〜(wゞ
よっすぃーも美人だし、あの2人は最強CPですよね!
>Silenceさま
おぉ!それは、是非一度生のライブを経験してみてください。
作者なんて、友達にカムしてないから、一人寂しく
見にいったんですけど(笑)、それでも感動しましたよ☆
8月のライブは行けないけど、また次のやつには参戦
しようかなと思っています。
一緒に行ってくれる人、ネットで募集かけようかしら?(w
さて、おまたせしました。
今回、かんなり激甘ですので、みなさま鳥肌たってもいいように、
厚着して読んでください(笑)
それでは、どうぞ!
- 299 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時08分08秒
大学生活最後の夏休みも、結局実家に帰ることはなかった。
決して広いとは言えないワンルームマンション。
だけどその狭さが、返って私たちの生活には合っているのかもしれない。
「はい。麦茶。」
「サンキュ。」
小さなテーブルに所狭しと並べられた本の山。
私は教員採用試験に向けて、そして彼女は大学受験の勉強をしている。
色んな習い事もして、予備校にも通って、家庭教師にも教わって。
本当に忙しく走り回っているのに、彼女は少しの時間を見つけては、
私の所へ来てくれていた。
「梨華、ここ教えてよ。」
「ん?どれ?」
「これなんだけど・・・。」
そして相変わらず私もまた、勉強をみてあげているのだ。
もっとも、目指している英語教諭のわかる範囲なんてしれていて、
逆に理数系は教わることが多いほど。
- 300 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時09分02秒
- 「さすが梨華。」
「えへへ。」
「やっぱ梨華に教わると、わかりやすいや。」
「おだて上手ね、ひとみは。」
「そうそう。おだてて木に登らせようと思って。」
「もぉーっ。またそんなこと言うー!」
「あはは。ムキになってやんの。」
「まったくぅー。」
「クスッ。おいで、あたしのかわいい子ブタちゃん。」
そして、もう定位置になってしまったひとみのクッションに
体を預ける。
「ひどいわ。子ブタちゃんなんて。」
「かわいいじゃん。」
「えーっ。かわいくないーっ。」
「かわいいよ、梨華は。」
ぎゅっと後ろから抱きしめてくれる腕。
ぴったりと寄り添う2人の体は、それで一つの意味をもつ。
ひとみの存在を、体いっぱい感じて目を閉じると、
もうそれだけで何もいらないと思えてくるのだ。
- 301 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時10分00秒
「やんっ。ひとみっ。」
「いいじゃん、ブレークタイム。」
ひとみが言う『ブレークタイム』とは、『休憩』という意味でないことに、
絡めてくる手の動きで察した。
「だってまだほとんど勉強進んでないじゃない。」
「終わったらちゃんとするから。」
「それこそ勉強終わってからでいいんじゃない?」
「かわいくないな。梨華は。」
「へぇー。さっきはかわいいって言ってたくせに。」
「かわいいけど、かわいくないの。んっとに、うぜーなー。」
「はいはい。そんなこと言ってる間に勉強しましょうね。」
「はぁーっ。仕方ないな・・・。」
しかし、立ち上がろうとした私の体を引き止めると、
そのまま抱き寄せて、組み伏せた。
「なーんて。そう簡単に諦める訳ないじゃん。」
「あっ・・・・」
「今すぐ欲しいんだ。梨華が。」
「ひとみ・・・」
- 302 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時10分54秒
- 大きな瞳をそっと閉じながら、近づけてくる唇。
こうなると、もう抵抗しても無駄だった。
元より私も本気で断っていた訳ではないのだけれど。
おそらくそんなたわいのない駆け引きも、ひとみはちゃんとわかっていて。
だから余計に離したくなくなるのだ。
こんな幸せな時間がいつまで続くのか。
すごく不安で切なくて。
幸せすぎて、もっと求めたくなってしまう。
ひとみとの幸せな時間を。
しかし、そんな不安も、今はわからないように上手く包み込んだ。
優しくふりかかってくるその愛しい体を抱きしめて、
今このしばしの時、2人だけの濃密な時間を楽しんだ。
うっすらと汗ばんだ互いの体に、クーラーの風が少し冷たく感じる。
ひとみのために用意したタオルケットを一枚、
うつぶせて寝ている彼女の背中にかけてあげた。
「ひとみ・・・大好きよ・・・。」
透き通るような白い頬に、そっと口付けした。
- 303 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時11分39秒
- 普段はとても高校生とは思えないほどしっかりしている彼女だけど、
寝顔はやけに子供っぽくみえる。
自分との歳の差を感じて切ないため息をもらしてしまったけど、
こればかりはどうすることもできないのだ。
まだ二十歳にすらなっていない彼女。
10代の彼女がもつキラメキは、やはり目に眩しくて、
やっぱり私なんてって落ち込んでしまうのだ。
だけど・・・。
「ん・・・・梨華・・・・。」
寝言で私の名前を呼んでいる。
夢の中でも私のことを思ってくれているの?
そんなちっぽけなことにすら、嬉しくて泣きそうになってしまう私がいる。
けれどきっとひとみは気付かない。
今では私があなたを追いかけてしまっていることを。
ひとみなくしてはもう、生きていけないほど、私は彼女を愛しているのだ。
- 304 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時12分31秒
「うーっ・・・・。」
「起きた?」
「うー・・・・うん。」
伸ばした手が、私のことを抱きしめた。
「よかった・・・。ちゃんといてくれて。」
「ふふふ。ちゃんといるわよ。」
「梨華がどこか遠くに行く夢をみていたからかな。
追いかけてもどんどん離れていってしまって・・・。
ふーっ。ホント、夢でよかったよ。」
「ひとみの側を離れたりしないから。安心してね。」
「うん。梨華ー。」
頬にしてくれたキスがとてもくすぐったくて、首をすくめて笑ってしまった。
不安は今でも拭いきれないけれど、やっぱり素直にひとみが好き。
「なんだよー。逃げるなよ。」
「だって、くすぐったいんだもん。」
「だったら。」
そう言うと、今度は優しく唇にキスを落としてくれた。
甘く、痺れていくような優しいキス。
- 305 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時13分32秒
「ねぇ、梨華。」
「なぁに?」
「ずっとあたしだけの彼女でいてよ。」
「クスッ。ひとみったら。」
「どこにも行かないで。あたしの側にいて欲しい。」
「こんな私でよければ。」
「約束だよ。」
「うん。」
そしてまた抱きしめあうと、心地よく疲労した体に眠気が訪れた。
「大変。もうこんな時間!」
ひとみの体を揺り起こした。
「ん・・・・。何時?」
「7時過ぎ。予備校始まってるじゃない。」
「あー。完全に遅刻だ。」
「はやく支度しないと、授業終わっちゃうよ。」
「もういいよ、今日は。サボる。」
「ダメよ。せっかく頑張ってるんだから。」
「んぁ。途中で行ってもわかんなくなるだけだから。」
「ごめんね。私がちゃんと目覚ましかけとかなかったから・・・。」
- 306 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時14分21秒
- 「梨華は悪くないよ。それに調度いいかもしれない。
最近頑張りすぎてたから。今日は自主休講。梨華と一日過ごす。」
「あぅ・・・。ごめんね?」
「クスっ。それよりさ、お腹ペコペコ。晩御飯食べにいこうよ。」
「あっ、それなら。家でご飯つくってあげるよ。」
「えっ!ホント!?」
「うん。私が作ったものでよければ。」
「いいに決まってんじゃん。うぁ。嬉しいな。」
「うふふ。でも買い物に行かないと。冷蔵庫空っぽなの。」
「おしっ!それなら2人で買い物行こう。」
「うんっ。」
てばやく身支度を整えると、私たちは近くのスーパーマーケット
へと向かった。
「なんか楽しいな、こういうの。」
ビニール袋を提げていない方の手を繋いで、
ひとみがそう言った。
「うん。楽しいね。」
ヒグラシも鳴き止んで、街灯に明かりがともっている。
マンションまでの帰り道を、2人は手を繋いで歩いていた。
- 307 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時15分09秒
- 「こういうのってさ・・・あれっぽくない?」
「え?なにあれって。」
「だからさぁ。新婚生活みたい。」
言っている本人が照れている。
「ふふっ。そうねー。私もそう思うわ。」
「家に帰って、かわいい妻の手料理を食べる。これぞ正しく天国だね。」
「妻?」
「そう。梨華はあたしのかわいい新妻。」
ドキドキしてしまった。
それはまるで、プロポーズのように聞こえたから。
実際に結婚できないなんてことぐらいわかっているけど、
やっぱりそう言ってもらえるのは、すごく嬉しくて。
乗り込んだエレベーターの扉が閉まると同時に、
ひとみは私にキスをした。
「ひとみったら。」
「へへっ。だってキスしたかったんだもん。」
クスクスと笑いあってエレベーターを降りた。
そして部屋の扉を閉めると、袋を玄関にどさっと置いて、
私のことを抱きしめた。
- 308 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時15分52秒
- 「クスッ。本当にどうしたの?ひとみ。」
「どうもしないよ。」
「そんなにくっつかれると、逆に不安になっちゃうじゃない・・・。」
「・・・え?」
「最後のひと時を楽しんでるみたいに感じちゃうよ。」
「別にそんなつもりはないけど。」
「うん。わかってる。だけどね・・・」
「梨華・・・あの・・・さ・・・。」
瞬間とても嫌な予感が走った。
それは何の根拠もないものだったけれど、
やっぱりこれで最後にして欲しいなんて、言葉がもれてきそうに思ったから。
ずっと心に感じている不安は、いつしかもっと大きなものへと
姿を変えていた。
いつかやってくる2人の別れ。
今がとても幸せだからこそ、逆にそんなことばかりを考えてしまう。
- 309 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時16分36秒
- 聞こえないほどの小さなため息をついた。
「・・・なに?」
「ちゃんと聞いて欲しいことがあるんだ。」
だんだんと痛くなってくる胸。
やっぱりひとみは・・・・
「わかった。話して。」
ごくりとノドを鳴らすと、ひとみは私を真剣に見つめた。
「あたし・・・梨華と結婚したい。」
今まで感じていた不安を、一気に吹き飛ばしてしまう言葉に耳を疑った。
「結婚・・・・?」
「うん。もちろんそんなことできないのはわかってる。
だからさ、これから一緒に暮らしたいんだ。2人で。」
「ひとみ・・・」
私はその体を抱きしめていた。
こんなことって・・・・
- 310 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時17分29秒
「どうかな。あたしのプロポーズ、受けてくれる?」
「・・・・っく・・・。もち・・ろん・・・」
「はぁ・・・・。よかった・・・・。」
刹那の間色んなことが頭をよぎったけど、
もう素直に自分の気持ちを受け入れることにしたのだ。
だってもう、私はひとみから離れることはできないのだから。
「ありがと・・・ひとみ・・・。」
あふれてくる涙はもちろん、悲しいからではなく、
あまりにも嬉しくて流してしまったものだった。
「泣くなよ。」
「だって・・・嬉しいんだもん・・・」
「クス。かわいいな、梨華。」
「でも、これから・・・どうするの?色んなこと考えなきゃ。」
「うん。それもわかってる。安心して。ちゃんと考えてるから。」
具体的なものなど何も示してはくれなかったけど、
私はひとみの言う事なら、素直に聞くことができた。
例えそれがうまくいかなかったとしても、
私はひとみについていこうとずっと考えていたから・・・
後悔なんて、やってみて初めてわかること。
何もしないでいることの方が、よほど人生の時間を無駄に過ごすことになるから。
- 311 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時18分12秒
- 「あたしを信じて欲しいんだ。それしか今は言えないけど。」
「うん、わかってる。ひとみを信じているよ。
どこまでもずっと一緒に頑張ってついていくから。」
「梨華ならそう言ってくれると思ってた。やっぱりあたしが惚れた女だ。」
「ひとみ。」
互いの唇に触れて、約束のキスを交わした。
「はぁい。お待たせしましたっ。」
小さなテーブルに何品かおかずを並べて向かい合う。
「うわっ。すごいなぁー。おいしそう。」
「えへへ。それじゃ食べましょうか。」
「うん。いただきまっす!」
不揃いの食器が不恰好だけど、私はひとみがおいしそうに
ご飯を食べる姿をみて、本当にこれ以上ない幸せをかみしめた。
「くーっ。うまいっ!」
「ホント!?よかったー。」
- 312 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時18分58秒
- 「ほら、梨華も食べなよ。全然お箸すすんでないじゃない。」
「だって、ひとみの嬉しそうな顔見てるだけで、お腹いっぱいになっちゃったんだもん。」
「あはは。それも困るな。」
「いっぱい食べてね。」
「うん。こりゃご飯が進みそう。」
「ふふっ。」
ほかほかと立ち上がるご飯の湯気は、温かい家庭の象徴のように思えた。
「梨華ー。ねぇ、あれやってよ。」
「あれじゃわかんないけど?」
「ほら、あーん。ぱくっ。おいしい?うん、おいしいよ。ってあれ。」
一人芝居をするさまがとてもかわいくて、胸がキューンと高鳴った。
「やだぁー。ひとみったら。」
苦笑しつつも思わず頬が緩んでいく。
「お願いだから、ね?」
「はいはいっ。」
本当はすっごく照れてしまったけど、瞳をキラキラと
輝かせて待っている彼女が、とてもかわい過ぎて、
恥ずかしいから辞退しますとも言えなかった。
- 313 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時19分42秒
- 「はぁいっ。」
「んぐっ・・・・。」
「どう?おいしい?」
「うんっ!最高うめーっ!」
「きゃはは。ひとみ、かわいいーっ。」
「マジ感動。あぁー。これぞ幸せな家族のあるべき姿だよね。」
これからもし本当に一緒に暮らすとなったら、
毎日でもこんな幸せを手にすることができるのだ。
それを考えると、カーッと体が熱くなっていく気がした。
もう教科書や参考書は片付けて、食後くつろいでいた2人。
つけっぱなしにしているテレビもみるとはなくつけているだけ。
「はぁーっ。幸せだなー。」
「うん。私も。」
クッションを背にしてもたれているひとみの隣に座って、
寄り添っていた。
- 314 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時20分30秒
- 「今日このまま泊まってっていい?」
「もちろん。明日は何時に起こしたらいい?」
「そうだなぁ・・・。7時にでも起こしてくれたら充分間に合うかな。」
「OK。7時ね。」
「明日もまた時間みて来るよ。」
「いいのに。忙しいんだから、ゆっくりして?」
「そんな冷たいこと言うなよ。」
「だってひとみの体、心配なんだもん。」
「だって梨華の顔みないと落ち着かないんだもん。」
私の口調を真似ておまけに目までパチパチさせている。
「もぉ。また人のことからかうー!」
「へへへ。でも結構似てたでしょ?」
「似てませんーっ。」
「似てますぅーっ。」
「またー!!!」
「あはは。ごめんごめん。」
怒ってむくれている私にキスをした。
- 315 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時21分17秒
「ずるいなぁ。すぐそうやってごまかすんだからっ。」
「クスクス。いつも怒らせてごめんね?」
「仕方ないわね。許してあげる。」
「さっすが梨華。やっぱりもつべきものは物分りのいいお嫁さんだね。」
一気に頬に熱が集まってきた。
それを見逃すはずもないひとみの視線。
「やだ・・・。見ないでよ。」
「クスっ。かわいい。」
そして熱くなっている頬にキスをしてくれた。
「早くちゃんと暮らしたいな。」
「・・・うん。」
「おそろいの食器でご飯食べたり、おそろいのパジャマ着たりして。
少しずつでもいいから、2人だけのものそろえていきたいね。」
「そうね。大賛成。」
「梨華。あたしにまかせてくれていいよ。ちゃんと
トラブルシューティングしてあげるから。」
色々考えて落ち込みそうになる前に、もうちゃんと
私の心を救ってくれていた。
本当に、なんてすごい人なんだろう。
- 316 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時22分19秒
- 「私にはできすぎた恋人ね、ひとみは。」
「んなことないよ。ただ大事な人を守ってあげたいだけ。」
「ふふっ。かっこいい。」
「へへへ。それは自分でも思うかな?」
「本当にかっこいいよ。」
ひとみにおもいっきり抱きついてキスをした。
抱きしめて、抱きしめ返されて。
互いを精一杯感じることのできるキスを、飽きるほど重ねた2人。
「おやすみ。」
「はぁい。おやすみー。」
シングルベットに身を寄せて、互いの存在を確かめる。
「うふふ。こうしてると本当に結婚したみたいに感じるね、私たち。」
「あたしはもうそのつもりだけど?」
「うん。私も。」
「紙切れ一枚の繋がりよりも、2人の気持ちが大事なんだよ、きっと。」
- 317 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時23分12秒
- 「そうね・・・。本当にひとみの言う通りだわ。」
「梨華があたしのお嫁さんか・・・。なんか夢みたい。」
「ねぇねぇ、思ってたんだけど、それならひとみは私の何になるの?」
「そりゃさしずめ旦那ってとこかな?」
「クスッ。私の旦那さま?」
「お嫁さんって柄でもないでしょ?」
「うふふ。確かに。」
「きっと綺麗だろうなぁ。梨華のウエディング姿。」
「どうだろうね。でもひとみはきっと似合うと思うけど。」
「あー。今タキシード姿思い浮かべたでしょ。」
「ふふ。思ってないわよ。だってこんなに綺麗な人なんだもん。」
体を横に向けて、ひとみを見つめた。
「うそくせー。」
「ホントだって。」
「あたしは両方着てみたいかな。ウエディングとタキシード。
でもきっと、タキシードの方がぐっとかっこよく決まると思うけどね。」
クスクスと笑い合って体を揺らした。
- 318 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時23分50秒
- 「いつかそんな日が本当にくるといいね。」
「くるさ。きっと。」
「ひとみが言うと、本当に叶えてくれるような気になるわ。」
「叶えてあげるよ。My Sweet Honey.」
「Thank you so much,T love you,Darling.」
「T love you too,baby.Thanx.」
「すごいね。やっぱりひとみの発音てすごくナチュラルだわ。」
「それほどでも。」
「うふふ。今夜はステキな夢が見られそう。」
「夢の中でも愛してあげるよ。」
おやすみのキスをして、目を閉じた。
そして私は幸せを胸いっぱいに感じながら、ひとみの腕の中で眠りについた。
- 319 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月02日(月)19時25分44秒
- >作者
あははははー・・・・。おバカ甘だったでしょ?(w
もうね、作者自分でもバカだなーって思うんですよ(笑)
しかし、やめられません。だからいしよし病なのです。
さてさて、まだ少し続きますので、
みなさま覚悟してついてきてくださいね!(笑)
それでは、今日はこのへんで。
ありがとうございましたー♪
- 320 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2003年06月02日(月)19時25分53秒
- 一週間、目をはなしただけで、こんなにも更新しているなんて!!
いやはや驚異的の3乗くらいです!
見切りつけてないですよ〜!大ファンですし、修行僧様の作品は初期スレから読破してるんですから!
サクラサクの頃なんてそれはもう熱狂的に…(回想)
A・クリスティーは未読ですが、昔、乱歩はほとんど読みましたよ〜、今、読むと古さを感じそうですね
それから三国志好きをご存じとは(驚)!
あまり言いふらしてないと記憶していますが、嬉しいです(?)
今回の梨華ちゃん女教師設定はツボです!
もう、何がって…みなさんわかってくれるハズ
- 321 名前:名無し読者79 投稿日:2003年06月02日(月)19時29分19秒
- アウウ(T-T)またしても…。今日はいける!!と思ったんですが…(泣
なんか今回の二人はもう、なんか読んでる私がうれしくなったというか
すごく考えさせられたというか、紙切れ1枚より〜のよっすぃーのセリフ
グッときました!!現実の二人もこんなやりとりしてたらいいな…。
- 322 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年06月02日(月)20時56分49秒
- 更新お疲れ様です!!
新婚生活ですかぁ。この2人だと余計に幸せが
伝わってきますね!
「紙切れ一枚の繋がりよりも、2人の気持ちが大事なんだよ、きっと。」
こんなセリフが言えるよっすぃ〜はホントに最高の
旦那様(でいいのかな?)ですね!!
2人のアツアツぶりがまだ見れるのですか?
それは嬉しいですねぇ♪
では、続き楽しみにしてます♪
- 323 名前:ROM読者 投稿日:2003年06月02日(月)22時11分56秒
- 激甘バカップルを読んでいると、なんか自分の部屋が桃色に染まっていく
ような錯覚に陥ります。幸せが伝染してきますね。ハッピ〜!
ただ甘いだけでなく、何気に奥が深いのでググッと引き込まれます。
- 324 名前:シフォン 投稿日:2003年06月02日(月)22時24分08秒
- 何なのですかっ! こんなに甘くて良いのですかっ!!(笑)
めっちゃ甘いんだけど、でも切なくて…。
この作品、ドラマ化希望しますっ!!
もちろん、いしよし主演で…(ヲイ
>作者様
ウチのパケ代まで心配して下さって、ありがとうございます(涙)
そのお心遣い、めっちゃ嬉しかったです(素)
お仕事の疲れを作者様の作品で早く癒したくて、お家に帰るまで待てないのですよ(苦笑)
どんな激甘でもしっかり受け止めますので、次の更新も頑張って下さいね♪
- 325 名前:Silence 投稿日:2003年06月03日(火)00時42分41秒
- 更新お疲れ様です。
すごい、ここまで甘いいしよしの久しぶりかも。(w
>おぉ!それは、是非一度生のライブを経験してみてください。
はい、本当に行ってみたいですね〜。
(本当は後藤さんも居る時に行きたかったんですけど…
こんど自分も一番レス狙ってみますね。
(いや、たぶん無理ですけどがんばります (w
- 326 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時00分11秒
- >ラヴ梨〜さま
>見切りつけてないですよ〜!
よかったー(笑)それが聞けて何よりです♪
>サクラサクの頃なんてそれはもう熱狂的に…(回想)
本当にありがとうございます(涙)
初期の投稿のこと、まだ覚えてくれてたんですねっ!
作者的にもあの作品がベストだったかな?と(笑)
全然修行の効果現れてないじゃーん(w
でも嬉しかったので、また今度「サクラサク」の
番外編でも書いてみようかなと思ってます。
その時はまた是非読んでくださいねっ♪
>名無し読者79さま
ひっじょーに惜しかったですね!!!
ってゆーか、ラブ梨〜さまもそうですけど、
あまりのレスの速さに、作者すっごく驚いたんですよ。
でもかなり嬉かったです!いつも応援ありがとうございます(涙)
>ぷよ〜るさま
うひゃー。恥ずかしいような、嬉しいようなレス、
ありがとうございます(wゞ
これからもう一山(?)あるかもしれませんが、
是非最後までご愛読くださいませ♪
>ROM読者さま
えへへ。嬉しいレスさんくすです♪
ROMさまのお部屋、もっとピンクに染めるべく、
作者がんがりまーっす♪応援よろしくっ♪♪♪
- 327 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時06分34秒
- >シフォンさま
>この作品、ドラマ化希望しますっ!!
うわーっ!!!うれすぃー!!!(wゞ
もち、いしよし主演で!(笑)
生のいちゃいちゃいしよし見てみたいなぁー(はぁと)
・・・い、いかん。またいしよし病が(笑)
>お仕事の疲れを作者様の作品で早く癒したくて、お家に帰るまで待てないのですよ(苦笑)
えへへ。ホントに嬉しいです、そう言ってもらえて♪
シフォンさまもお仕事がんがってくださいね♪
でもあまり無理はなさらないでください。約束ですよっ!
>Silenceさま
>すごい、ここまで甘いいしよしの久しぶりかも。(w
ぐはっ!ですよねー(ニガワラ)
でもね、やっぱあまーいの書いてて楽しいんですよ。
でもちょっぴり痛も混じってますけど(wゞ
これからもどうぞよろしくお願いします!!!
さて、今回のはどうなることやら・・・(苦笑)
頭の中では完結できてますので、あとはどうやって
文章にするかが問題です。(ヲイッ!)(笑)
およそのラスト、みなさまも想像されていると
思われますが、果たして如何なものでしょうか?(w
それでは続き、どうぞ!
- 328 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時09分49秒
「うふふっ。でーきたっ。」
ゆでたタマゴをサラダに乗せると、朝食の準備は全て整った。
「7時前か・・・ちょっと早いけど、起こしちゃお。」
かけていたエプロンを外すと、まだベットですやすやと寝ている
ひとみの元へ向かった。
「起きて。トースト焼けたよ。」
「ん・・・・もうそんな時間・・・・」
「おはよ。」
「はよー・・・。ふわぁぁぁ・・・・んーっ・・・・よく寝たー」
大きく伸びをした腕が、そのままこちらに伸びてきた。
「きゃっ。」
ウエストが引き寄せられて、ベットに腰を落とした私。
「梨華ー。」
「ふふ。なにやってるのよぉ。」
まるで甘えた子供のように、くすぐったいほど抱きしめてくる。
「あぁー。梨華のいい匂いがする。」
「私じゃなくて、トーストの匂いでしょ?」
「違うよ。これは梨華の匂い。甘くてほわほわする、あたしだけの。」
「クス。」
そして見つめあうと、おはようのキスをごく自然に交わした。
- 329 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時10分55秒
「わぉ。ゆでたまごじゃん!」
「ひとみってゆでたまご好きだったの?」
「うん。めっちゃ好きなんだよね。あ。梨華のことも好きだけど。」
フォークに突き刺したそれを、本当においしそうに食べている。
「クスクスっ。よかった。でもそう言われると、聞きたくなっちゃうのよね。」
「んぁ?なに?」
「ゆでたまごと私とどっちが好き?なんて。」
「うわー。それって過酷な質問。」
「えーっ。即答してくれないのぉー?」
「そうだなー。ゆでたまごを作ってくれる梨華が好き。」
「あーぁ。うまく逃げられちゃった。」
「へへっ。でも本当は・・・」
「本当は?」
「ゆでたまごが好きっ!」
にやけている頬を軽くつまんで抗議した。
「ひどいーっ。」
「イテテ。冗談だって。」
「冗談じゃなかったら本気で怒ってるわよ。」
「へへへー。梨華の怒ってる顔も見てみたいかも。」
「なにバカなこと言ってるの。さ、早く食べちゃってね。」
「はーいっ。」
- 330 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時11分59秒
トントンとつまさきを鳴らしてスニーカーを履くと、
ひとみは振り返った。
「それじゃまた、夕方にでも来るね。」
「うん、待ってる。」
「いってきます。」
「はぁい。行ってらっしゃい。」
軽くキスをして玄関のドアをあけると、うるさいくらいに鳴く、
セミの声が響き渡っていた。
「うげーっ。暑いなぁ・・・・。」
「ホント。でも頑張ってね。」
「うんっ。じゃっ!」
ひとみの背中をちゃんと見送ってから、ドアを閉めた。
そんな毎日がそれから2週間ほど続いた。
9月の新学期を迎えると、彼女は高校へ、私は大学へと
通う日々が始まった。
卒業論文も大方できてはいたけれど、私は試験に向けての勉強も兼ねて、
大学の図書館で過ごす時間が増えていた。
と言うのも、ひとみと一緒に勉強する時間がほどんど取れなくなっていたから。
それどころか、一緒に過ごす時間さえおぼつかない。
いよいよラストスパートをかけて、更に忙しくなってしまった彼女。
それでもなんとか都合をつけて、水曜の夜だけは、
私との時間を作ってくれた。
- 331 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時13分12秒
「ごめん。待った?」
1週間ぶりに見ることのできた笑顔。
改札から出てきた彼女の姿に、会えなかった時間の寂しさが
一気にあふれてくるよう。
「ううん。大丈夫。」
「へぇ。今日はスーツなんだ。」
「うん。たまに会う時くらいはビシッと決めたくて。」
「こうやって見ると、本当に先生みたいにみえてくるよ。」
「そう?」
「うん。すげーカッケー。なんかまた石川先生って呼んでみたくなるな。」
「クス。梨華ちゃん先生なんて呼んでたくせに。」
「あはは。そうだった。」
そう言って笑うと、ひとみは手を繋いで歩きはじめた。
綺麗にディスプレイされた商品が、ライトアップされている街並み。
おしゃれな服やヒールが並べられているショーウインドーを
眺めながら歩いていると、そこには2人の姿が映し出されていた。
夏服のセーラー服を着ているひとみ。
その彼女を見ると、やっぱりまだ高校生なんだって、改めて思ってしまう。
そして私は、ショーウインドウ越しに覗き込んだ2人の姿に、
思わず小さなため息をもらしてしまった。
- 332 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時16分10秒
- 「どうしたの、梨華?」
「ん・・・。別に。」
「なんか元気なくない?」
「そんなことないよっ。」
わざと明るく笑ったのは、ひとみの視線が胸にチクリと痛かったから。
久しぶりに会えて嬉しいはずなのに、やはりどこか
寂しい影が心に射していた。
このまま本当に、ひとみのことを縛ってしまっていいのだろうか。
今しかない青春のひとときを、自分が独占してしまっているのが、
どうにもいたたまれなくなってくる。
私と出会わなければ、本来ならもっとステキな恋をして、
もっと輝いた思い出を作ることができただろう。
そして、もっときらめいた未来さえ・・・・。
そんなことを考えていると、ふいにひとみが話しかけてきた。
「ねぇ、あたしたちってどう見えるかな。」
「えっ・・・?」
「やっぱ生徒と先生?」
「そうねー。あるいは少し歳の離れた友達ってとこかな。」
「恋人同士には見えないのかなぁ。」
「ふふっ。どうだろう。でもどうしてそんなこと聞くの?」
- 333 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時17分04秒
- 「だってさ。さっきから梨華うつむいてばかりいて、
ちっとも楽しそうじゃないんだもん。これじゃきっと誰も
あたしたちのこと恋人同士だとは思わないんだろうなって思って。」
「・・・・ごめん。」
「あたしみたいな恋人じゃ、梨華は物足りない?
やっぱり釣り合わないのかなぁなんて思えてくるよ・・・・。」
胸がぎゅっとつかまれる思いがした。
私がひとみに感じていた『引け目』が、
彼女からすれば、逆に物足りないように映っていたなんて。
「そんなんじゃないよ・・・。」
「だったらどうしてそんな寂しい目をするの?」
はっとしてショーウインドーを覗き込んだ。
確かに今の私は、どこか憂鬱な目をして映っていたから。
せっかく時間を割いてまで、私と会ってくれてるのに、
彼女にまでそんな寂しい思いをさせてしまっていたなんて・・・。
「ごめんね、ひとみ。あなたは私にとって大切な恋人よ。
付き合ってもらってるのが悪いくらい。」
「そんな言い方するなよ。すげー距離を感じるじゃん。」
「それはひとみのことが好きだから・・・。
本当に好きだから戸惑ってしまうの。」
- 334 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時17分58秒
- チカチカと点滅する信号を、無理に渡ることはしなかった。
渡らなかったと言うよりも、渡れなかったのだ。
それは、大通りをはさんだ広い交差点の下で、
彼女が私を抱きしめてキスをしているから。
ざわざわと耳に聞こえる周りの声。
きっとびっくりして私たちを見ているのだろう。
だけど、それも目を閉じていれば気になるほどのものでもない。
ひとみがしてくれるキスにこそ、私がここに存在する
理由があるのだから。
流れ出した足音に、また信号が変わったことを知った。
「これで少しは恋人みたいに見えるかな。」
「ひとみ・・・」
「本当にあたしのことを好きでいてくれてるなら、
もっと気持ちをぶつけてよ。少しの距離も感じたくないよ。」
切なくて、嬉しくて、涙があふれてきそうになってしまったけど、
私はちゃんと笑顔で答えることができた。
「ありがとう。私の恋人はひとみしかいないよ。」
「梨華・・・。やっと本当に笑ってくれたね。」
「ひとみ・・・。大好き。」
腕にぎゅっとつかまると、また信号が点滅しないうちに、私たちは
交差点を渡っていった。
- 335 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時19分12秒
レストランで夕食を済ませると、そのままマンションに戻ってきた。
「ふーっ。やっぱ家が一番落ち着くな。」
「クス。オジサンみたい。」
「オジサン?ひどいなぁー。」
「うふふ。ごめんなさい。私の大事な旦那さまだったわね。」
ひとみの背中を抱きしめた。
心の中にあった憂鬱も、ひとみの笑顔を見ているうちに、
いつのまにか消え失せていった。
会えなかった時間が、私をブルーにさせていたのかもしれないと、今は思う。
それほどまでにひとみの存在は、何物にも代え難いものになっていたのだ。
「それじゃ、旦那さまはひとっ風呂でも浴びてくるか。」
「うん。着替え用意しておくね。」
「あれれ?一緒に入んないの?」
「あんな狭いバスじゃ無理でしょ?」
「んぁー。それはごもっとも。」
「クスッ。」
「はぁーっ。汗でベトベトだ。やっぱ先、シャワー使わせてもらうね。」
「うん。」
- 336 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時20分14秒
ひとみがシャワーを浴びている間、セーラー服の上着を
洗ってあげた。
部屋干しでも明日の朝までには充分乾く。
何より、ひとみには気持ちのいい清潔なセーラー服を
着ていてもらいたかったから。
そして出てくる頃合を見計らって、冷たい麦茶を用意していた。
「あぁー。さっぱりしたー。」
タオルで髪を拭いながら、彼女が部屋に戻ってきた。
「はい、麦茶。」
「おっ。サンキュ。」
ごくごくとおいしそうに飲んで、一息ついた。
「ふぅ。うまいな。」
「それじゃ私も、シャワーしてくるね。」
「あ、ちょっと待って。」
コップを置くと、私のことを抱きしめた。
- 337 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時21分21秒
「ちょっと・・・なに?」
「なにって。抱きしめたいの。」
「やだ。汗臭いのに・・・。」
「あはは。そんなことないよ。梨華はいつでもいい匂いがするって。」
「またそんなこと言って・・・。ダメ、離してっ。」
「やだ。だってずっとドキドキしてたんだから。」
「・・・え?」
「梨華のスーツ姿見て、すっげードキドキしてたんだ。
いつもよりぐっと大人っぽく見えてさ。
うちの学校で先生やってた時のこと思い出したよ。」
それはほんの3ヶ月前のこと。
あの時には、まさかこんな関係になるなんて、
夢にも思っていなかったけど。
「離してくれないかしら、吉澤さん。」
冗談交じりにそう言った。
「あ、また逃げるんだ。あたしから。」
「そうよ。だって石川先生はまだシャワーも浴びてないんですから。」
「クス。そんなこと言うんだったら、またキスの経験聞いちゃうよ?」
「キスの経験?うふふ。聞いたら驚くわよ?」
「へぇ。それは是非聞きたいな。」
- 338 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時22分29秒
- 「もう少し吉澤さんが大人になったらね。」
「もう充分大人だよ。ほら、こんなキスができるくらい。」
ひとみは優しく、けれど妙に大人っぽく私の唇にキスを落とした。
「大人なんだ。吉澤さん。」
「でしょ?先生といっぱいキスして覚えた。」
「ふふ。そうね。私のキスの経験はあなたとしたものばかりね。」
首に腕をまわして彼女の瞳をみつめた。
「それは光栄だね。」
「ねぇ、ひとみ。・・・ひとつ聞いてもいい?」
「ん?」
「ひとみは、その・・・初めてだった?キス。」
それはいつか聞いてみようと思っていたことだった。
キスを重ねる度、想いを重ねる度に、強くなっていった独占欲。
「さぁて、どうだろ。梨華はどう思う?」
あの日のファーストキスを思い返してみても、
特に不慣れだったようには思えなかった。
やっぱりひとみは・・・・
「初めてじゃ・・・なかった?」
「うん。正解。」
ズキっと胸が疼いた。
いくら女子校だからって、やはりひとみほどの人なら、
キスの経験くらいはあってもおかしくはない。
- 339 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時23分35秒
- それでも取り去ることのできない胸の痛みが、
チクチクと私の心を突き刺した。
ひとみのファーストキスの相手。
どんな人かなんてわからないけど、私は顔のないその人に、
明らかに嫉妬していた。
「・・・ふーん。そうなんだ・・・。」
切なさが胸を締め付けて、もうひとみのことを見るのも辛くなってしまった。
「妬いてくれるんだ。梨華。」
「・・・・・・・・。」
ずっと顔を横に向けて、黙ったままでいた。
悔しいけれど、嫉妬する気持ちを抑えることなんてできなかったから。
「梨華、こっち向いてよ。」
あごに手をかけて、ひとみの方へと向けられてしまったけど、
それでも私はまだ視線を伏せていた。
「ねぇ、梨華。あたしをみて。」
「・・・・・ヤダ。」
「クス。面白いやつ。」
「ふんだ。」
「まさかこんなに妬いてくれるなんてね。」
「だって・・・」
- 340 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時24分28秒
- 「本当はあれがあたしのファーストキスだったよ。」
「!?あのねぇ!ひと・・・」
思いっきり睨んで、文句をいってやろうと思ったのに、
そうする前に、唇がふさがれていた。
「ん・・・・っ・・・・」
それは少し手荒なキスだったけど、もう怒るのも忘れるくらい、
ひとみは私のことを求めてくれていた。
頭の中がぼーっとしてしまうほど、たっぷりと時間をかけて、
ただ唇が触れ合う音だけが耳に響いて恥ずかしくなる。
「・・・・ひどいよ、ウソつくなんて。」
「だってさ、梨華のこと妬かせたかったんだもん。」
「あのねぇ・・・。私がどれだけひとみのこと好きかわかってるんでしょ。なのに・・・」
「わかってるよ。でももっと好きになって欲しかったから。」
「・・・・・・・。」
「あたしのこと、もっと見つめてよ。もう逃げたりしないでさ。」
- 341 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時25分11秒
- ひとみの手が、私の上着のボタンを器用に外していった。
「ひとみ・・・」
「あたしだけの先生でいてよ・・・。いつまでも。」
「・・・・・・・っ・・・・」
週に一度の逢瀬。
すごく切なくて、会えないことを辛く思っていたけれど、
それは私だけが感じていた寂しさではなかった。
「綺麗だよ・・・・梨華・・・」
激しく求めてくるその衝動に胸を焦がしながら、
彼女もまたそうであったことを充分に理解することができた、
水曜の夜だった。
- 342 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月04日(水)21時28分02秒
- >作者
はい。以上で今日の投稿は終了です。
果たしてこの二人の行く末は・・・?
残すところあと何回だろう???
もうすぐクライマックスです。
(またダラダラのびちゃうかもしれないんですけど(笑))
これからもがんがりますので、
どうぞ呆れず、騒がずついてきてくださいね(笑)
それではどうもありがとうございました。
今回は誰が一番にレスつけてくれるのだろう。
最近それが一番の楽しみになっている作者でした(wゞ
ではー♪
- 343 名前:ROM読者 投稿日:2003年06月04日(水)21時30分58秒
- 更新乙です。もうホントにどうしましょう・・・
これでもかって程、心の中はいしよしで満ち溢れています。
あぁ〜心地良い。
- 344 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年06月04日(水)22時14分30秒
- 更新お疲れ様でした!!
もうすぐクライマックスですか…
このいしよしをもっと見ていたい気も…(笑)
では、クライマックスへと頑張ってください!!
楽しみにしてます♪
- 345 名前:シフォン 投稿日:2003年06月04日(水)23時25分47秒
- 嫉妬しぃの梨華ちゃん、可愛いっ!!(壊)
その気持ち、良く分かるよほ…(何)
>作者様
今まで、作者様の作品を読ませていただく度、表現力の素晴らしさや、綺麗な描写に感心していましたが、
今回の作品は今まで以上に奥が深くて、更新の度にいつも以上に感心させられております(素)
ウチ、文章能力が乏しいんで、上手く伝えられないのですが…(滝汗)
でもでも、この作品めっちゃ大好きですっ!!
<<シフォンさまもお仕事がんがってくださいね♪ でもあまり無理はなさらないでください。約束ですよっ!
もぉ、有難すぎるくらいのお言葉です(号泣)
お仕事、ほどほどにがんがりますわ(笑)
作者様も、無理なさらずに更新がんがって下さいね♪ これもお約束ですよ〜☆彡
- 346 名前:Silence 投稿日:2003年06月05日(木)16時16分36秒
- 更新お疲れ様でした。
もーすぐクライマックスか〜。な〜んかこのままダラダラ
でもいいかも(w
それじゃあまた次回の更新待っていますね。
- 347 名前:名無し読者79 投稿日:2003年06月05日(木)19時53分26秒
- よ、よっすぃー…(感涙
周りにどう思われようと構わない!!今の二人の心境はこうなのかな…。
そう思えることがうらやましいです。
二人の今後、どきどきしながら待ってます。
- 348 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)21時48分23秒
- >ROM読者さま
おっ!一番乗りでしたねー♪嬉しいです♪
>あぁ〜心地良い。
マジっすか!?いやぁー。本当に嬉しいですっ!!!
これからもがんがりますね♪
>ぷよ〜るさま
>このいしよしをもっと見ていたい気も…(笑)
えへへ。そうですか?(wゞ
でも一応完結はさせますね(笑)
次がラストとなりそうですが、よければ最後までお付き合いください♪
>シフォンさま
>ウチ、文章能力が乏しいんで、上手く伝えられないのですが…(滝汗)
んなことないですよぉー☆
ばっちりと伝わってきます。いつも温かい言葉、
本当に感謝していますよ♪♪♪
>でもでも、この作品めっちゃ大好きですっ!!
くぅ・・・(涙)
書いてきた苦労も、報われましたっ!!!!
これからもがんがりますので、本当によろしくお願いします!
- 349 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)21時55分01秒
- >Silenceさま
いつも応援ありがとうございます♪
いやぁ、今回の作品は、コメディーあり(最初だけ(笑))
痛あり、涙あり、甘ありと、色々欲張って書いてみました。
それ故受け入れられないかな?とも思っていましたが、
また応援してくださって感謝しております。
これからもどうぞよろしくです!
>名無し読者79さま
>周りにどう思われようと構わない!!今の二人の心境はこうなのかな…。
ズバリそうです!(wゞ
世界は2人のためにあるので(笑)
そして、2人の今後は、きっと幸せに満ちたものになるでしょう(w
それは作者がいしよしヲタだから(笑)
ラストに向けてがんがりますので、よろしくです♪
さて、残すところあと2回となりましたが(予定)、
今回の投稿は、最初に書いておきますが、
かなり痛いと思われる方もいらっしゃるのでは?
そして、やや生っぽい感じも・・・(笑)
どう感じていただけるのかはわかりませんが、
精一杯書きましたので、どうぞ最後までお付き合いください。
それでは、どうぞ!
- 350 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)21時57分45秒
そして、季節は巡り、私たちはまた新たな季節を迎えていた。
「今日のバイトって何時に終わるんだったっけ?」
「んー。7時くらいかな。8時には確実に帰ってるよ。」
「わかった。帰ってなくても先入ってるね。」
「うん。」
「じゃ。行ってきます。」
「はぁい。行ってらっしゃい。」
玄関でキスをしてからひとみを送り出す。
そして私は朝のうちにできる家事をこれからこなすのだ。
ベランダの窓を開けると、気持ちいい春の風が舞い込んできた。
ひとみはこの春、無事に大学に合格することができた。
それも、一番難関なあの東大に。
一方の私はと言うと、教員採用試験には合格せず、
大学を卒業した今、バイトにほぼ一日かけまわっていた。
午前中は近くのコンビニで。そして夕方からは家庭教師の
バイトを週に2件かけもちして。
- 351 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)21時58分36秒
- 実家の親からは、何度も帰ってこいと連絡が入ったけど、
結局このままここに留まることにしたのだ。
教師になる夢を捨て切れなかったのも大きな理由だけど、
なにより、ひとみがこの東京で暮らしているから。
当然親からの仕送りは途絶えてしまっていた。
そうすることで、私が根を上げて、実家に帰ってくることを
望んでいるのだ。
親の気持ちもわからなくはないけれど、
とてもひとみを置いて帰る訳にはいかなかった。
一度帰ってしまったら、もうそれで何もかも終わってしまう。
どうせしたくもない見合いなんかをさせられて、結婚させられるのが落ち。
そんな現実がちらほらと見え隠れしていて、また落ち込みそうになってしまう。
「はーっ。いい天気ねぇ・・・。」
心の中にある曇った空気を入れ替えるように、
思い切り息を吸い込んだ。
- 352 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)21時59分22秒
今ではもう、半同棲の生活をしている私たち。
食器も、パジャマも歯ブラシも、ほとんどのものがおそろいで、
結婚しているのとほとんど変わらないような暮らし。
ただ、ひとみも毎日ここに帰ってくる訳ではなかった。
やはりまだ彼女は未成年で、海外にはいるけれど、
親の庇護の元にあるから。
洗濯をして、掃除機をかけると、そろそろバイトに
いかないといけない時間がきていた。
「よし。今日も一日頑張るかっ。」
疲れた体を抱えて、ドアにカギを差し込む。
扉を開けると、玄関では、私の帰りを待っていてくれていた
ひとみの姿があった。
「ただいまぁ。」
「おかえり。お疲れさま。」
その笑顔に、今日一日の疲れも消えていくのがわかる。
- 353 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時00分15秒
- 「はやかったのね。」
「うん。今日はそんなに忙しくもなかったから。」
「そうだったの。待たせてごめんね。」
「ホント。待たされて寂しかったよー。」
クスっと笑ってキスをした。
「あら?いい匂いがするわね。」
「へへ。ちょっと来て。」
手を引かれてテーブルへと向かうと、そこには既に晩御飯が用意されていた。
「すっごーいっ。これ、ひとみが作ったの?」
「うん。ちょっと頑張ってみた。」
「ありがとー。ひとみっ。」
「たまにはあたしの手料理もいいもんでしょ。
いっつも梨華、クタクタになって帰ってくるからさ。ほんのささやかな気持ち。」
テーブルに並べられているそれは、焼きソバと玉子焼きという、
なんともおかしな組み合わせだったけど、その気持ちがとても嬉しかった。
- 354 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時01分09秒
「・・・どう?」
「んー。おいしいっ!」
「マジ?よかったぁ。」
「ひとみの方がお料理上手かも。」
「んなことないよ。でも嬉しいな。好きな人が喜んでくれるのって。」
「うふふ。それなら毎回お願いしちゃおうかしら?」
「げーっ。それは勘弁してよ。梨華の手料理食べれなくなっちゃうじゃん。」
「クスっ。冗談よ。」
「ふーっ。よかった。」
ひとみと笑い合えることが、今の私の唯一安らげるひと時。
彼女がここにいてくれるから、毎日を頑張って過ごすことができるのだ。
シャワーを済ませると、私たちはゆっくりと夜の時間を楽しんでいた。
と言っても、彼女はさっきから何やらカチャカチャと
持参してきたノートパソコンのキーボードをたたいているけど。
「ねぇ、それって何してるの?」
「んー。ちょっとした勉強かな。」
- 355 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時02分01秒
- 「ふーん。相変わらず勉強熱心なのね。」
「あはは。別にそんな大したものじゃないけどね。」
ひとみの肩に寄りかかって、目を閉じていた。
本当は来年の教職員採用試験に向けて、
私の方こそ勉強しなきゃいけないのだけれど。
疲れが睡魔となっておそいかかる。
リズムのいいその音を聞いていると、段々と眠気が
増してきて、ウトウトしてしまっていた。
「梨華・・・?」
「ん・・・・・・・・」
「寝るんならベッドに行った方がよくない?」
「・・・う・・・・・ん・・・・・」
ひとみの体温がとても心地よくて、ずっとこのままでいたい気分。
夢とうつつの間をさまようように、意識も途切れ途切れになっていた。
そんな風に安心していられるのは、隣にひとみがいてくれるから。
「ふっ。寝ちゃったよ。」
その声は、ちゃんと私の耳には届いていたけれど、
それも現実のものかは定かでない。
- 356 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時02分51秒
- 「かわいい寝顔しちゃって。」
唇に、彼女のそれを感じていた。
夢心地とは、きっとこんな気分のことを言うのかもしれない。
そっと押し当てられているキスは、
いつものようなものではなく、優しく触れているだけのもの。
「梨華・・・・。愛してるからね。それだけは忘れるなよ・・・・・・・・・・ど。」
最後に言ったその言葉が、何であったのか、
ちゃんと聞くことができないままで、眠りに落ちていった。
=ピピピピピ・・・・・=
目覚ましの音に、目を覚ませると、私はちゃんとベットで寝ていた。
「ん・・・・ひとみ・・・・?」
しかし、隣にいるはずの彼女は、ここにいない。
そして、テーブルの上においてある書置きが目にとまった。
『おはよう。今日は先に出ます。
夜も実家に泊まるから、晩御飯はいりません。 ひとみ 』
なんとも言えない寂しさが、胸の中をかき乱していった。
毎日泊まることはないけれど、それでも
一日会えないかと思うと、ぎゅっと胸を締め付けられるよう。
- 357 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時03分41秒
「ひとみ・・・・」
彼女のことを見送ることができなかったのが、
私をとても不安にさせていた。
ここに泊まった朝は、かならず彼女の背中を見送ることが
習慣となっていたから。
「起こしてくれたらよかったのに・・・。」
それもひとみの優しさだとはわかっていても。
ふと視線を逸らせると、テーブルの下においてある
ノートパソコンが目にとまった。
「忘れていったのかな。」
私はそれを見て、どこかほっとしている自分に気がついた。
それはひとみがまたここに帰ってくる証明のように思えたから。
「何・・・考えてんだろう・・・私・・・・。」
ほんの一瞬、それが頭をよぎっていった。
ひとみはもう2度とここには帰ってこないような気がしたのだ。
だけどここには、彼女が置きっぱなしにしているものが、
まだ他にもある。
「考えすぎ・・・よね。」
そんな気持ちごと、きれいに洗い流したくて、
私は洗面台へと歩いていった。
- 358 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時04分26秒
そして、次の日。
今日はここに来ると連絡が入っていたけど、
8時を過ぎてもまだその姿はなかった。
「携帯、かけてみようかな・・・。」
けれど、その手は止まっていた。
もし、彼女がでなかったら・・・。
そんなことはあるはずもないけれど、不安な気持ちが
心を支配していくのも、また本当の気持ちだった。
=ピンポーン=
チャイムが鳴って玄関にかけよった。
ひとみなら合鍵は持っているはずなのに・・・・。
また不安な気持ちが一気に溢れてきた。
けれど、玄関の魚眼レンズを覗いてみたら、
そこにいたのはひとみだった。
- 359 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時05分18秒
扉を開けると、私はたまらず彼女を抱きしめていた。
「ごめんごめん。カギ、実家に忘れてきちゃったよ。」
「ひとみ・・・・」
「あらら。一日会わないだけで、熱い抱擁だね。」
苦笑しているひとみのことを、私は更に強く抱きしめた。
「ん?マジどうしたの?」
「・・・よかった・・・。ちゃんと帰ってきてくれたのね・・・。」
「あはは。大げさだなぁ。ま、あたしも梨華と会えなくて寂しかったけどね。」
「・・・・・バカ。本当に不安だったんだから。
もう2度と会えなくなるんじゃないかって・・・。」
「ごめんね。でも、なんか嬉しいな。へへっ。」
「遅くなるんだったら連絡くらい入れてよ。」
「んぁ。そう思ったんだけどね。なんか忙しくって。」
「そっか・・・。でも、よかった。ひとみの顔見れて。」
「梨華・・・。かわいいこと言うんだ。」
ただいまのキスは、一日会えなかった分を取り戻すかのように、
とても熱く、とけていくように重ねられた。
- 360 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時06分20秒
そしてまた、私たちは食後のリラックスタイムを楽しんでいた。
今夜はひとみが私にべったりと甘えてくれている。
「やっぱ、梨華の側が一番安心するよ。」
「嬉しい。そう言ってもらえて。」
「でも、ごめんね。いつも勉強の時間潰させてしまって。」
「何言ってるのよ。そんなのはやろうと思えばいつでもできることだから。
気にしないで。」
「うん。じゃ、気にしない。」
「ふふ。ひとみったら。」
愛しい人の髪を優しくなでてあげた。
心も体も癒されていくよう。
「ねぇ・・・梨華・・・。」
「なぁに?」
「あたしのこと、好き?」
「クスっ。好きよ。」
「愛してくれてる?」
「もちろん、愛してるわ。」
「本当に?」
「・・・どうしたの?ひとみ。」
「いいから、ちゃんと答えて。」
最初はただじゃれているだけだと思っていたけど、
ひとみが見せた切ないほどの眼差しが、私の心を不安にさせていった。
- 361 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時07分12秒
- なぜこんなにも真剣な瞳で私をみるのだろう・・・・。
「愛してる。」
「あたしも。梨華を愛してるよ。」
肩にかけられた手の力が、強く握られていた。
愛の言葉を交わしているのに、彼女のその痛いほどの視線に、
より濃い色の不安が影を射していく。
「ひとみ・・・・。もしかして、何か話したいことあるんじゃない・・・。」
瞬間、彼女は視線を逸らせて黙り込んでしまった。
感じていた不安が、形になって、どんどん私を苦しめていく。
それは、2人の別れの予感。
頭の片隅に、いつもつきまとっていたそれが、
今、現実としてここに露呈されていくのかもしれない・・・。
「梨華・・・あたし・・・・」
「・・・・・・・・なに・・・・。」
「あたし、イギリスに留学する。」
- 362 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時08分08秒
その瞬間、ガラガラと音を立てて何かが崩れていった。
ついにこの日が来てしまったのだ。
いつかきっと、ひとみは私の元を去っていくとは思っていた。
だけど、それをいざ目の前につきつけられて、声を失った。
「梨華・・・泣かないで・・・。」
頬を伝って落ちてくる涙すら、私自身わかっていなかった。
ただ呆然とした私のことを、そっと優しく抱きしめてくれる
ひとみの抱擁を感じていただけ。
「・・・・っ・・・・うっ・・・・」
「ずっと言おうと思っていたんだ。だけど、やっぱり言い出しにくくて・・・」
「・・・っく・・・」
「ごめん・・・梨華・・・・」
痛いほど強く抱きしめるその体が、震えていた。
私は一体、どうして泣いているのだろう。
ひとみにとって留学は、未来へ羽ばたく大きなチャンスなのだ。
一緒に喜んであげこそすれ、泣いてしまうなんて・・・・。
- 363 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時08分59秒
- いつかくるとわかっていた2人の別れ。
その時は、笑って送り出してあげようと、ずっと思っていたはずなのに。
ひとみの笑顔、その優しさ、与えてくれる愛情の深さに、
いつしかかけがえのない存在となってしまった。
不安すら包み込んでくれる、その大きさに、
私はもうひとみなしでは生きていけなくなってしまっていたのだ。
けれど・・・・。いや、だからこそちゃんと背中を押してあげなくてはいけない。
『今まで愛してくれてありがとう』と感謝の言葉を添えて。
「・・・やだ・・・ひとみ・・・行かないで・・・」
だけど、嘘偽りのない心の声は、この時とばかりに流れ落ちていた。
「・・・・・梨華。」
「置いていっちゃやだよ・・・ひとみと別れるなんて・・・そんなの・・・・・」
「・・・・・・・・っ・・・・・。」
「ひとみが好きなの・・・。別れたく・・・・ないよ・・・・・・・」
溢れてくる涙をその肩で受け止めてくれていた。
そして、私の背中にぽたりと冷たい雫が落ちていくのを感じた。
- 364 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時09分54秒
「・・・あたしも・・・梨華と別れたく・・・ないよ・・・。だけど・・・・・」
彼女もまた泣いていたのだ。
それはひとみが見せた、初めての涙。
「ひとみ・・・・」
「あたし・・・ずっと考えてた。どうしたら2人が・・・うまくやっていけるのか・・・って・・・」
「・・・・・・・・・・。」
「プロポーズ・・・した日のこと・・・覚えてる?」
「・・・うん。」
「あの時、もうあたしの中では・・・・・留学のこと決めてたんだ・・・。」
「・・・・・・そうだったんだ・・・。」
「このまま・・・ずっと梨華の側にいたいと思っていたよ。
それは嘘じゃない。だけど、留学するのがあたしと梨華の
未来を決める最短距離だと思って・・・。」
「・・・どういう・・・こと・・・?」
「あたし、外交官になる。それを目指して留学するんだ。
父と同じオックスフォードに。それがあたしが決めた未来への道。
梨華を幸せにしたいから。」
ひとみはちゃんと考えてくれていたのだ。
私との未来を。
- 365 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時10分50秒
- そして、この別れは、私が考えていたものとは全く違った意味を
もっていた。
消滅させるためのものではなく、2人が未来へと歩いていくための、
前進的な別れであることに。
「すごいね・・・本当にすごいよ、ひとみは・・・。そこまで
考えてくれていたなんて・・・・。」
「梨華を守ってあげたいから。ずっと、2人で生きていきたいから。」
「いつか2人が別れてしまう時がくるって、ずっと不安に思ってた。
だけど、2人の関係を終わらせるための別れじゃないのよね?
そう信じてもいいのね?」
「当たり前じゃん。なんであたしが梨華と別れなきゃいけないの?」
流れていた涙は、もう2人とも止まっていた。
「そっか・・・。なら、ちゃんと送り出してあげないとね。」
「ありがとう。あたしを信じてくれるんだ。」
「うん。信じてるよ。」
「これから4年は待たせてしまうことになるかもしれない。
だけど梨華には待っていて欲しいんだ。あたしのことを。
誰のものにもならないで。」
「・・・・・・・うん。」
「必ず迎えにくるから。その時まで、待っていて欲しい。」
そしてひとみは、ポケットから小さく光るものを取り出した。
- 366 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時11分46秒
「あたしと結婚してください。」
「・・・はい。」
私の手をとると、キラリと輝いた指輪をはめてくれた。
「約束だよ。これはあたしと梨華がちゃんと生涯をともにするって。」
「うん。」
「婚約指輪。ピンクダイヤのリング、探すの苦労したよ。」
苦笑している彼女の顔。
「かわいいの買ってくれたのね。ありがとう。」
そう言って笑ったとたん、たまっていた涙の粒が、
一粒だけ、頬に流れていった。
「ちゃんと誓うよ。梨華を幸せにするって。」
「私も。ひとみを幸せにしてあげるね。」
「2人で幸せになろう。」
「うんっ。ひとみ。」
目の前には、まだまだたくさんの乗り越えなきゃいけない壁が
あるのだろうけど、私はひとみを信じていたかった。
約束のキスは、ほんの少しだけ涙の味がしたけれど、
それも今は感じなくなるくらい、2人の唇が甘く重なっていた。
- 367 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月06日(金)22時15分06秒
- >作者
如何でしたでしょうか?(w
なんか、甘いんだか痛いんだか、訳わかんないですよね?(笑)
時に思ったのですが、これってベースかなり暗いと思うんですよね。
実際に女の子同士が付き合ったりするってことは、
もうそれはいろんな障害があって・・・・。
もちろん小説の中の話なんですけど、
やや、痛い部分も含めたのが実際のとこなんじゃないかなと
作者なんかは思うのです。
逃れたい現実があるから小説を読んでいるのに!
なんておしかりの言葉は『よして、よして・・・』
なのです。↑このネタわかりますよね?(笑)>よして
それでは今日もありがとうございました。
甘ラストへと向かって、がんがりまーっす♪
では。
- 368 名前:シフォン 投稿日:2003年06月06日(金)22時20分15秒
- 久々のリアルタイムだわ(笑)
>作者様
痛いとゆうか、切なかったです(号泣)
<<実際に女の子同士が付き合ったりするってことは、もうそれはいろんな障害があって・・・・。
そぉだねぇ、うんうん…(遠い目)
この二人には、本当に幸せになって欲しいです(素)
きっと大丈夫、作者様が幸せに導いてくれるさ♪
<<『よして、よして・・・』
十分過ぎるくらい『理解して』ますわよ〜(笑)
甘ラスト、楽しみに待っています☆
無理なさらず頑張って下さいね♪
- 369 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年06月07日(土)00時39分52秒
- 更新お疲れ様です!!
当方も痛いと言うより切ないです…
でも、こういう流れは好きです!!
<『よして、よして・・・』
好きです☆(笑)
では、楽しみにしております♪
- 370 名前:ROM読者 投稿日:2003年06月07日(土)02時55分01秒
- 痛い?・・いいえ、むしろ可愛いじゃないですか。
私的には、別れというのは心が離別
することだと
思うので、留学で一緒にはいられないけれど、
会えない時間がさらに2人の愛を
育ててくれる
ことでしょう。
- 371 名前:ROM読者 投稿日:2003年06月07日(土)03時06分39秒
- 痛い?・・いいえ、可愛いじゃないですか。
私的に、別れと言うのは心が離れた時だと思うので、
確かに一緒にはいられないけど、その会えない時間
が2人の愛を育ててくれるはずです。
- 372 名前:ROM読者 投稿日:2003年06月07日(土)03時14分57秒
- あ、2重スマソ。出先からPDA使ったら失敗・・
また逝ってきます・・・・
- 373 名前:名無し読者79 投稿日:2003年06月07日(土)17時20分53秒
- 私もROM読者さんと一緒で痛いとは、思いません。
二人にとっては、別れではないのだから…。
きっと二人にとっては、再スタートなんでしょう…。
そういう困難を乗り越えた二人、楽しみにしています!!
- 374 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時05分24秒
- >シフォンさま
>そぉだねぇ、うんうん…(遠い目)
もしやシフォンさま・・・?
いやいや、これ以上は聞くまい。
作者も痛し痒しの話は、たたけばイパーイでてきますので(wゞ
今まで書いてきたお話にでてくる梨華ちゃんも、よっすぃーも、
少なからず、作者とオーバーラップしている部分は確かにあります。
もし共感してくださるのなら、それはきっと
みなさまの心にも梨華ちゃん、よっすぃーが存在するのでは?
なんて思います。それは女子であれ、男子であれ。
恋をする気持ちは同姓間でも異性間でも差異はないと思います。
>十分過ぎるくらい『理解して』ますわよ〜(笑)
うまいっ!!!山田く〜ん。座布団3枚!(w
>ぷよ〜るさま
>当方も痛いと言うより切ないです…でも、こういう流れは好きです!!
ヨカタですー☆好きと言ってもらえて♪
読者の方々の反応って、すごく勉強になります。
というか、かなり影響うけてます(wゞ
よければこれからも応援お願いしまっす!
- 375 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時24分20秒
- >ROM読者さま
>出先からPDA使ったら失敗・・
すごい!もしやできるサラリーマンですか?(wゞ
作者はPDAなんて使わなくてもいい仕事なので、
すごーく輝いてみえました(マジ)
しかし、OL稼業も決して楽ではないです(笑)
お早いお帰りを待ってますねー♪
>名無し読者79さま
>二人にとっては、別れではないのだから…。
>きっと二人にとっては、再スタートなんでしょう…。
うぅ・・・。ありがとうございます(涙)
そうですね。きっと2人には輝いた未来が訪れるはずです!!!
これからもどうぞよろしくです!
さて、前回ラストとお伝えしましたが、
どうもまとまりきりませんでした・・・(涙)
あと何回か明言できませんが、どうぞよろしくです!
では続き、どうぞ♪
- 376 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時26分30秒
夏休みが終わるのを待たずして、ひとみは英国へと旅立っていった。
パタパタと渡航の手続きやら何やらで、直前まで忙しそうにしていたけれど、
最後の1週間は、ここでずっと暮らしていた。
渡航日の前日すら、家族の元へは帰らずにいてくれたのは嬉しかったけど、
やはり申し訳ない気もしていた。しかし、ここから彼女を送り出すことが
できたことは、私にとって、とても大きな意味を与えてくれたように思う。
「今頃ひとみは何してるのかな・・・。」
頭の中は、いつもひとみのことでいっぱいだった。
それは、バイトをしている時でも、勉強をしている時でも。
気を抜くと、涙があふれてきそうになるけれど、
そんな時は、送り出した時にみせてくれた最高の笑顔を思い出すことにしている。
『いってきます。』と笑顔でここを旅立っていった彼女。
開かれたドアの前、逆光の中に見たひとみのまぶしく光る笑顔。
- 377 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時27分20秒
「あと4年か・・・・。」
出てくるのは切ないため息ばかりだけれど、会えない期間に
どれだけ成長することができるか。
その時になっても、情けない自分でいたくなかったから、
私もまた、毎日を一生懸命に生きていた。
「よしっ。今日もがんばるぞっ!」
ひとみとの連絡手段は、主にメールによるものだった。
彼女が置いていってくれたノートパソコンは、
事前にちゃんとメールができるようにしてくれたもの。
9時間の時差があるから、すぐに返信されることはなかったけど、
それでも近況報告くらいは、マメに連絡しあっていた。
『イギリスは今日も雨。本当にウザイ。
寄宿舎の仲間ともうまくやってるよ。英会話もかなり上達した。
梨華も勉強がんばれ!イギリスの空の下、君の事を想う。』
クスっと笑ってメールを読んだ。
短い中にも彼女の優しさがいっぱいつまっているそのメール。
- 378 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時28分30秒
『こちらはいよいよ試験直前。今年こそ絶対受かるようにがんばるね。
夢に向かってお互いがんばろう。愛するダーリンへ ×××』
ノートを閉じると、私はまた机に向かった。
夜の9時を少し過ぎた時間に、携帯が鳴った。
きっとこの電話の相手は。
「もしもし。」
「ひとみ・・・」
月に一度はお互いに電話する約束をしていた私たち。
だけどそれは今月に入って2度目のものだった。
「メール読んだよ。・・・残念だったね。」
「・・・ぐすっ・・・」
「また来年、がんばれ。」
「もうだめかもしれない・・・。きっと私じゃ無理なんだわ・・・。」
「諦めるつもり?」
「・・・わかんない。」
「先生になるの、梨華の夢だったんでしょ?」
「そうだけど・・・。すごく頑張ったのに、またダメだったし・・・。」
「梨華・・・」
「もう諦めた方がいいのかもしれない・・・。かなわない夢もあるのよ、きっと。」
「らしくないじゃん。たった2度の失敗で諦めてしまうの?
それで後悔しない?」
- 379 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時34分35秒
- 「・・・疲れたの。現実なんてそう甘いものじゃなかったのよ。」
「なら今すぐここにくる?全てを諦めて、あたしのところへ。」
ひとみがかけてくれた言葉は、私の胸に突き刺さっていた。
呼び寄せてくれるのは嬉しかったけど、どこか突き放したような
ニュアンスが込められていたから。
このまま夢を諦めて、ひとみの元へ逃げ出したいけど、
きっとそれでは後悔してしまう。
負け犬にはなりたくない。
「・・・・もう少しだけ頑張ってみるよ。」
「クス。やっぱなぁ。そう言うと思ったよ。」
苦笑する声が耳に響いてきたけれど、
きっとひとみは私がそう言うのを期待していたに違いない。
そう言わせるためにかけてくれた言葉だということぐらい、
私にはちゃんとわかっていたから。
「ひとみには負けられないものね。」
「あはは。梨華の負けず嫌いは相変わらずだね。」
「ホント、そうかも。」
「それなら一ついいこと教えてあげるよ。」
「ん?なに?」
「夏休み入ったら、一度そっちに戻るよ。お土産いっぱいかかえて。」
嬉しくて言葉にならなかった。
- 380 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時35分47秒
- 1年ぶりにひとみの姿を見ることができる。
そう考えただけで、私の心には熱いものがこみ上げてきた。
「・・・ぐすっ・・・本当・・・?」
「うん。ホント。」
「ひとみ・・・。やっと会えるのね。」
「あぁ。1年ぶりに。お土産何がいい?」
「お土産なんかいらないよ。ひとみの顔が見れるだけで。」
「クス。ほんとか、それ?」
「なによー。本当のこと言ってるのに。」
「あはは。わかったよ。帰ったら一番に梨華に会いに行く。」
「うん。待ってるから。」
「それじゃ、切るね。」
「はい。・・・・電話かけてくれてありがとう。」
「うん。愛してるよ、梨華。」
「私も。」
「じゃぁね。」
「バイバイ。」
電話を切った後も、ドキドキは止められなかった。
ひとみが帰ってくる。
やっと会うことができるのだ。
再会の日を夢見ながら、私はまたこれからも頑張っていこうと決心したのだった。
- 381 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時36分45秒
エレベーターを降りると、もう気持ちの押さえがきかなくて、
部屋まで駆け出していった。
「・・・・はぁはぁ。よし・・・。」
カギを差し込んで、扉を開ける。
「お帰り。梨華。」
「ひとみっ!」
嬉しくて飛びつくように抱きしめてしまった。
「梨華・・・」
「・・・・・・ひとみ・・・・。」
「やっと会えたね。」
「うんっ。」
おもいきり抱きしめあって、互いの存在を確かめ合った2人。
そして、1年ぶりに交わしたキス。
しかし、それに少し違和感を感じてしまった。
「ひとみ、もしかして背が伸びた?」
「あ、やっぱわかる?」
「うん。なんかちょっと首の傾き加減が違ったから。」
「あはは。キスしてそれがわかるなんて、梨華ってすごいかも。」
照れくさく笑って、ひとみをまた抱きしめた。
やっぱり、彼女の体はぴったりと私の心にも体にもフィットする。
- 382 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時39分20秒
「帰ってきてそうそう悪いんだけど。梨華の手料理食べたいな。」
「ふふっ。いいよ。そのつもりでちゃんと食材買ってあるから。」
「さすが梨華だね。イギリスの食べ物ってさ、味気なくて。
ずっと梨華の手料理食べられる日を心待ちにしてたんだ。」
「嬉しいなぁ。そんなこと言ってもらえるなんて。」
「でも、その前に。」
「ん?」
「梨華とラブラブしたい。」
思い切り赤面してしまったけど、私は素直に頷いた。
「危ないよ。そんなことしてると。」
「だってさ、抱きしめていたいんだもん。」
包丁を手にして料理をしている私のことを、
ずっと背中から抱きしめている彼女。
「嬉しいんだけど、やっぱりちょっと動きにくいかな。」
「冷たいなぁ。あたしって邪魔?」
「うふふ。そんなことないけどね。」
「ならずっとこうしていよう。ぴたっとくっついてたいから。」
さっきまで、充分すぎるほどぴったりしていた私たちだったけど、
そう言ってくれるのは、本当に嬉しかった。
- 383 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時40分25秒
- 「やっぱ梨華っていい匂いがするなぁ。」
「くすぐったいよぉ。」
「いいじゃん。梨華の髪の匂いすごく好きなんだから。」
首元に顔を埋めて、くすぐったいほどぴったりとしてくるひとみ。
「はぁい。これでできあがり。」
「やった。早速食べよう。」
「クス。」
テーブルに並べた食器は、2人でそろえたもの。
1年ぶりにそろうそれは、ひとみがまたここに帰ってきてくれた
ことを、実感させてくれた。
「うまいなぁ。また腕あげたんじゃない?」
「そう?よかった。喜んでもらえて。」
「まさかあたし以外の誰かに作ってるってこと、ないよね?」
「ふふっ。そんなのある訳ないじゃない。何バカなこと言ってるのよ。」
「へへっ。それならいいんだけどね。」
- 384 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時53分46秒
- >作者
ぐあっ!またもや引越し警報(wゞ
月板はやはり短いので、思い切って海板へと移行します。
どうぞみなさまついてきてくださいね!
では、かもんなっ!
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=sea&thp=1054979365&ls=25
- 385 名前:修行僧2003 投稿日:2003年06月07日(土)18時54分56秒
- >作者
あ。海板のいしよしハッピー計画2です(笑)
URL書いてるからおわかりいただけましたでしょうけど、
念のため(wゞ
=修行僧2003=
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