ミラクル イン 420
- 1 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時21分48秒
- この板では初めて書かせていただきます。
ジャンルはバスケットボールものになります。
感想等いただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。
- 2 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時22分59秒
- 3年前、バスケット界での奇跡と呼ばれたチームがあった。
平均身長150cm以下のチームが、全国大会優勝と言う偉業を達したのだ。
そのチームが全国の舞台に出たのはたった一度だけ。
その一度で頂点に上り詰め、それ以後、全国の舞台には現れなかった。
ひと夏の幻のようなチーム。
だが、そのチームは確かに実在していた。
- 3 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時25分26秒
- ■■■
キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを知らせるこの音とともに、教室を飛び出す一つの影があった。
その影は、廊下を駆け抜け、階段をおり、下駄箱をとおってある建物の前で止まった。
「ここやな…」
その影は息を切らせながらそう言った。
さっきまでとは正反対のゆっくりとした足取りで、一歩一歩階段を上がる。
そこは体育館だった。
ガラガラガラ
鉄の扉を両手で開けた。
中には誰もいなかった。
授業が終わってすぐやってきたのだから当然のことである。
「なんやねん!」
影―加護亜依―は体育館中に響き渡る声で叫んだ。
- 4 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時26分40秒
- ここはタンポポ学園。
進学校と言えばそういうわけでもなく、かといってスポーツに力を入れているといえばそういうわけでもない。
いわゆる普通の高校。
制服もかわいいわけでなく、駅から近くて通学に便利なわけでもない。
それなりの人間がそれなりに入る学校だった。
仮に、一般の高校と違うところを見つけようとするなら、学校のいたるところに植えられたタンポポだろうか。
そんな何の変哲も無い高校から、全ては始まった。
- 5 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時27分10秒
- ダム、ダム、ダム
規則正しい床の音が体育館に響いていた。
バスケットコートが2面取れる大きさの体育館。
決して広いわけではなかったが、女の子一人がいる様は、まさしくぽつんとといった言葉が正しかった。
「遅い…遅い…」
ボールを右手でつきながら、上を見上げて加護はつぶやいた。
ボールに目線を全くやっていないが、ボールは正確に手と床の間を言ったりきたりしていた。
「遅い…遅い…」
しだいに声が大きくなり、それにあわせてボールの動きも早くなる。
「遅いっちゅーねん」
ボールを両手で持ち、叫びながら投げた。
綺麗な放物線を描いて、パサッという音がした。
床にポンポンと数回跳ねて、ボールは壁に当たって止まった。
伸ばした両手を下げ、加護はひとつため息をついた。
- 6 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時27分48秒
- 「おお、すごーい」
後ろから声が聞こえてきたのはそんな時だった。
加護が声のほうにゆっくり向き直った。
そこには、長髪の女性。
スラッと長い足と、細身ながらも筋肉の存在がわかる体。
頭の位置は加護のはるか上にあった。
「誰や?」
「あんたすごいね?さっきの3Pシュートだよ。知ってた?」
加護の問いに答えることなく、その女性は言った。
そして、つかつかと加護の元へやってきて、品定めをするかのように、足から頭のてっぺんまでを何度も眺めた。
「何やねん!」
じろじろみられるのが気に食わなかったのか、加護が食って掛かる。
そんな加護の顔に、人差し指が当てられた。
さすがに、一瞬ひるんで動きが止まる。
- 7 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時28分25秒
- 「あんたはバスケットをやりなさい!」
そこにいきなり言われたのがその言葉だった。
加護は口をポカンと開けたまま、小さな目をぱちくりさせた。
言葉が耳をとおり、鼓膜を震わせ脳に伝わっていく。
そして、脳で聞いたことを理解して、言葉を出す指令が加護の口に伝わるまで、ゆうに数秒要した。
「わかっとるわ。でないとこんなとこにこーへんわ」
首をおもいっきり上に向け、お腹の底から声を張り上げた。
長身の女性は思わず耳に手を当てていた。
だが、加護のいったことを理解したのだろう、にこっと笑顔を作った。
- 8 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時29分11秒
- その時だった。
「圭織、何してるのさ」
戸口の方から声がした。
加護がその声にビクンとした。
茶髪。
校則で禁止されているわけではないが、目立つことには変わりない。
だが、それ以上に目立つのは、彼女の身長。
加護よりも小さなその体は、スポーツをする以上、必ずハンデとなるようなものだった。
- 9 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時29分44秒
- 「矢口さん」
圭織と呼ばれた女性―飯田圭織―を押しのけて、加護は走った。
矢口の方は、一瞬何が起きたか理解に苦しんでいたが、走ってくる人物が加護ということを理解して、笑みがこぼれた。
「加護ちゃん?まじで?」
両手を大きく広げ、矢口は走ってくる加護を受け止めようとする。
だが、無防備な矢口の腹部に入ったのは、加護の体ではなく、蹴りだった。
「うげぇ」と苦悶の声が漏れ、矢口はその場にうずくまる。
飯田は口に手を当てて、その光景を呆然と見ていた。
- 10 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時30分17秒
- 「なにすんだよ…」
「何じゃないわ!なんでこんなとこにおんねん!」
矢口の声を遮るように加護は叫ぶ。
「なんだよ、悪いのかよ。いいだろ、私がどこにいても」
「まあええわ。中学のときみたいに、無名校が勝ち上がるのもおもろいやん」
勝手に納得したように、加護は腕を組んで頷く。
その横で、いつのまにか二人並んでいる矢口と飯田は、顔を見合わせてから申し訳なさそうに言った。
「あのさ、うちって人数足りないんだ…・・・」
加護の首の動きが止まる。
体育館中に今日一番の絶叫が響いたのは、そのすぐ後のことだった。
- 11 名前:kit 投稿日:2003年05月17日(土)22時31分40秒
- 更新終了です。
こんな感じで進んでいきます。
- 12 名前:みっくす 投稿日:2003年05月23日(金)12時16分42秒
- おもしろそうですね。
がんばってください。
- 13 名前:kit 投稿日:2003年05月24日(土)17時09分03秒
- >>12 みっくす様
初レスありがとうございます。
更新遅くなってしまいましたが、がんばりますのでよろしくです
- 14 名前:kit 投稿日:2003年05月24日(土)17時09分56秒
- 「なあなあ、バスケットせーへん?」
次の日、加護はクラスの女の子に次々に声をかけて言った。
入学したてのことだから、特定の友達というものはいない。
だから、手当たり次第に声をかけていった。
だが、返事はどれも芳しくなかった。
「考えとく」なんていう奴が、やるなんていうはずがないのだから。
教室の半分くらいまでいったところで、一人の女の子に出会った。
「え、バスケットですか…」
みんなと同じ反応。
加護はあきらめて次の子のところへ行こうと歩き始めた。
- 15 名前:kit 投稿日:2003年05月24日(土)17時10分46秒
- 「やってみたいですね」
ピタリと足を止め、加護は振り返った。
「ええ?今なんてゆーた?」
「やってみたいかな…なんて」
加護を少し怯えたような目で見ながら、女の子は言った。
- 16 名前:kit 投稿日:2003年05月24日(土)17時11分38秒
- ■■■
「矢口さん矢口さん矢口さん」
「どうしたの、加護ちゃん?」
その日の放課後、体育館でのことだった。
早速紺野あさ美という名前だったその女の子を加護が連れてきたのは。
「これで試合やれるんですよね?5人になったんですよね?」
「ん、ああ…そうだね…」
加護の勢いに押されながらも矢口は答える。
- 17 名前:kit 投稿日:2003年05月24日(土)17時12分27秒
- 「ここからや、ここから始まるんや!
人数ギリギリの無名校が有名校を倒しまくっていく感動の物語が!」
「ちょっと待って下さい。他のみなさんはどこにいらっしゃるんですか?」
なぜか加護に敬語の紺野。
加護は矢口の方を見る。
バスケ部が、自分を入れて4人とは聞いていたけど、矢口と飯田を除くもう一人を加護は知らなかった。
「今着替えてるとこだから、みんなそろったらちゃんと紹介しよう」
加護はそう言われて、自分たちがまだ制服のままだったことを思い出した。
更衣室といっても、体育館の端で、他の部活と共同で使うようなところだ。
下手に行って4人で着替えるよりは、2人が出てくるのを待ったほうが得策だった。
加護は待ってる間、カバンを床に置き、その上に座った。
紺野もそれに習い、矢口はあぐらを組んでいた。
- 18 名前:kit 投稿日:2003年05月24日(土)17時13分03秒
「そういえばさ、辻ちゃんはどこ行ったの?」
自分の言葉に、加護の肩がピクッとしたのを、矢口は見逃さなかった。
「知らん…どっかいきよった」
うつむきながら加護は言った。
矢口はそれ以上聞かなかった。
おそらく二人が離れる理由となったのは自分のせいでもあるのだから。
- 19 名前:kit 投稿日:2003年05月24日(土)17時14分31秒
- 今日の更新はここまでです。
感想等ありましたらよろしくお願いします。
- 20 名前:悠希 投稿日:2003年05月28日(水)21時16分21秒
- タンポポですか。こんこん推しのわたしとしてはPGとかやってもらいたいです。
でもキャラ的に無理ですかねw
とりあえずがんがってください。
- 21 名前:kit 投稿日:2003年05月30日(金)22時44分52秒
- >>20 悠希様
レスありがとうございます。
紺野はどうなるでしょう…楽しみにしていただけると。
- 22 名前:kit 投稿日:2003年05月30日(金)22時46分23秒
- 辻と加護、そして矢口は同じ中学出身だった。
3人ともバスケ部だったが、3人が同じコートに立ったのは、ほんの数ヶ月だった。
矢口が3年で、2人が1年だったので、いわばひと夏だけで矢口は引退することとなったからだ。
だが、そのひと夏を負けずに終えた。
気がつけば全国大会で優勝していた。
そして、さまざまな賞賛を浴びることとなる。
抜けない相手はおらず、通せないパスは無いと謳われ「小さな魔術師」と称された矢口。
飛びぬけたスピードと滞空時間の長いジャンプ。そしてときおり見せるトリッキーさから、「おもちゃ箱」と称された辻。
正確無比なシュートと豊富な運動量。「スナイパー」と呼ばれた加護。
辻加護は、残り2年間、全国大会に出ることはないまでも、更に名を馳せることになる。
だが、矢口はバスケットの世界から姿を消した。
- 23 名前:kit 投稿日:2003年05月30日(金)22時46分55秒
- いろんな高校から誘いはあった。
でも、彼女はタンポポ学園を選び、そこでバスケをしている。
その真相を加護は知らない。
それが知りたくて、彼女は矢口を追ってきた。
辻は、逆だった。
加護以上に矢口になついていた彼女は、ここにはこなかった。
矢口を臆病者と罵り続け、そして県で一番の高校、モーニング学園へと推薦入学した。
それから、辻とは連絡は無い。
全寮制の高校のため、連絡が取りづらいのだ
正直なところ、全寮制でないなら連絡をとれるなんて加護も思ってないのだが…
- 24 名前:kit 投稿日:2003年05月30日(金)22時47分44秒
- 「矢口さん」
上から聞きなれない声がした。
いつの間にか、ジャージ姿の二人が立っていた。
3人もすぐに立ち上がる。
一人は飯田。もう一人は加護の知らない人。
背は飯田と加護の中間辺り。
いわゆる平均身長ってやつだ。
髪の毛を後ろで縛り、少し垂れた目が印象的だった。
「飯田圭織、3年、ポジションはセンター。一応キャプテンやってるよ。よろしく」
飯田が軽く会釈する。
加護と紺野はそれに釣られるように頭を下げた。
- 25 名前:kit 投稿日:2003年05月30日(金)22時48分17秒
- 「矢口真里、ガード、副キャプテンね。よろしく」
パッパと必要なことだけ言って、矢口は二人と握手した。
そして、最後。
「柴田あゆみ。たった一人の2年生。ポジションはフォワード。よろしくね」
感じのいい笑みを作って、柴田は言った。
「加護亜依です。ガードやってました。よろしくお願いします」
「こ、紺野あさ美です。初心者です。よろしくお願いします」
二人とも、すぐさま頭を深く下げた。
- 26 名前:kit 投稿日:2003年05月30日(金)22時48分59秒
- 「加護亜依ってさ、あの加護亜依ですか?」
「そうそう、だってうちには矢口もいるじゃん。加護がいてもおかしくないよ」
どうやら柴田も加護のことを知っているらしい。
飯田の筋が通っているようで通っていない説明に納得しながらも、柴田は再度、加護をじっくり観察していた。
柴田は直接加護たちと試合したことは一度しかなかった。
中学のころ、地区大会1回戦でのこと。
あの時は、こんな小さな子がバスケできるのかと思った。
だが、その思いは開始数秒で吹き飛ぶ。
何度も抜かれ、何度もシュートを決められ、試合は前半だけで決まっていた。
あの時と背は全く変わっているようには思えない。
でも、加護に対する信頼というか、確信みたいなものは少しも揺らがなかった。
なぜなら、この1年間、試合はできないまでも、練習の中で矢口のすごさを十分に見てきたから。
- 27 名前:kit 投稿日:2003年05月30日(金)22時49分30秒
- 「ちょっと待ったー」
自己紹介を終え、さあ練習を始めようとしたとき、体育館に声がした。
今、体育館を使ってるのはバスケ部だから、否応無しにその声の主はバスケ部に用がある人間となる。
ダンダンダンと荒い足音を立てながら、一人の少女は走ってきた。
その顔をみると、加護は露骨に嫌そうな顔をした。
前髪は無く、髪を両方に縛った女の子。
バスケットボールの4分の1くらいの小さな顔。
「なんであんたがおんの…」
加護はため息と共に嘆いた。
- 28 名前:kit 投稿日:2003年05月30日(金)22時50分00秒
- 「あんたって酷い言い方ですね。私はあなたの最大のライバル、新垣里沙でしょう」
その少女は加護を指差して言った。
周りの視線が集中する中、当の加護は手を振って、必死に「違う」ということをアピールしていた。
「私もバスケ部に入ります。新垣里沙、よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀する新垣の頭の上で、矢口と加護はヒソヒソ話をしていた。
――ねえ、あいつってもしかして?
――はい。あのうっとおしいやつです…誰がライバルやっちゅーねん…
3年間ずっと付きまとわれて…1on1挑まれて…
――結果は?
――982戦982勝。
さすがに矢口の顔が引きつった。
思い出したのだ。
地区大会で彼女のいる学校に勝ってから、毎日のように練習後、加護の元へやってきて1on1をやっていた二人の姿を。
「明日こそは!」そう言って体育館から走り去って行く様は、バスケ部名物となっていて、それ見たさに他の部が練習を覗きに来る程だった。
また、人間というものは不思議なもので、あれだけ迷惑がっていても、逆に彼女がこない日があると、1日が終わった気がしないものだった。
- 29 名前:kit 投稿日:2003年05月30日(金)22時52分39秒
- 「確かに、下手やないけどな…」
加護は何かをあきらめたようにポツリと言った。
そんなこんなで、タンポポ学園バスケ部は一気に倍の6人となった。
目指すは3ヵ月後の県大会。
道端の小さな花から飛び出た綿毛は、どこまで飛んでいくのだろうか。
- 30 名前:kit 投稿日:2003年05月30日(金)22時53分22秒
- 更新終了です。
パソコンの調子が悪く、ネットにつなげず更新遅れてすいません。
- 31 名前:みっくす 投稿日:2003年05月31日(土)02時34分35秒
- バスケ部もいよいよ6人になりましたね。
梨華ちゃんはでてくるのでしょうかね。
続きたのしみにしてます。
- 32 名前:kit 投稿日:2003年06月01日(日)23時56分55秒
- >>31 みっくす様
レスありがとうございます。
石川さんはでてくることは間違いないです。
でも、どーなるかは楽しみにしていてください。
- 33 名前:kit 投稿日:2003年06月01日(日)23時58分21秒
- ◇
「はいはい、みんな集合〜」
加護たちが入部してから一月近く過ぎた。
もうだいたいそれぞれの技量が把握できて来た頃である。
「えっとですねー来週、練習試合があります」
いきなりの飯田の言葉。
だが、驚いていたのは紺野と柴田だけ。
矢口は知っていたのか、うなずくだけ。
後の二人、加護と新垣は飛び上がって喜んでいた。
- 34 名前:kit 投稿日:2003年06月01日(日)23時59分26秒
- 「チームはね、3年+紺野対その他ね」
矢口は、飯田の言葉に続いて、ぱっぱとチーム分けを発表した。
「足引っ張らんとってや」
「それはこっちのセリフです」
早速言い争いを始める二人の後方で、柴田は必死に考えていた。
身長からして飯田さんのマークは私。
加護ちゃんは矢口さん、里沙ちゃんはあさ美ちゃんか。
向こうも同じだろうから、あさ美ちゃんには悪いけど、狙わせてもらおう。
- 35 名前:kit 投稿日:2003年06月02日(月)00時00分22秒
- 「加護ちゃん…」
「飯田さんお願いできますか?」
柴田は自分の考えを告げようとするが、逆に加護から言われた。
さっきまで言い争いしていた二人だったが、いつの間にか作戦会議へとその内容が変貌していたようだ。
まだ、二人でジェスチャーを交え、話を続けていた。
「了解」
Vサインで答え、ボールを矢口に向かって投げる。
「始めましょうか?」
- 36 名前:kit 投稿日:2003年06月02日(月)00時01分07秒
- ◇
ダン ダン ダン
3年チームのボールから始まった。
矢口がセンターラインでボールをつく。
飯田はゴール下に柴田の背に立っている。
紺野は3ポイントライン付近でゴールの右側。
「いくよ」
矢口が目の前に立っている加護に、目線をあわせる。
腰をしかり落として、加護はボールに集中していた。
矢口の目線の動きを見ることに意味はないことは身に染みている。
背中に目があるかのように、視線とはまったく別の方向にパスを出すことができるのだから。
- 37 名前:kit 投稿日:2003年06月02日(月)00時01分47秒
- ダンダンダン
徐々に早くなっていくボールの動き。
「来る」、加護がそう思ったとき、矢口の体が消えた。
自分の右に矢口の体は移動したことを認識したころには、矢口の姿は背中を向いていた。
新垣がカバーにはいるが、その前をボールは横切っていく。
そして、中へと移動していたフリーの紺野の元へ。
少々もたつきながらも、紺野はシュートを放った。
ゴンッという鈍い音。
リングに直撃して大きくはじかれたボールは加護の手元に落ちてきた。
ホッと胸をなでおろす3人。
正反対に紺野の肩を叩いて、笑顔で親指を立てる矢口。
練習とは段違いの矢口の力に加護は自分に鳥肌が立っていることに気づいた。
- 38 名前:kit 投稿日:2003年06月02日(月)00時04分16秒
- 短いですが更新終了です。
やっとバスケットしてるシーンをかけて一安心です。
- 39 名前:悠希 投稿日:2003年06月02日(月)00時08分29秒
- お豆ちゃんと柴ちゃんも出てきましたね。
リアルタイムで読んじゃいましたよ。
更新乙です。
- 40 名前:kit 投稿日:2003年06月02日(月)00時49分15秒
- >>39 悠希様
レスありがとうございます。
本当にリアルタイムで、ちょっとびっくりしました。
他のハロプロメンバーもほぼ全員でてくる予定なので、楽しみにしていただけると。
- 41 名前:kit 投稿日:2003年06月07日(土)00時58分32秒
- 更新遅れてすいません。
土曜の夜には更新します。
- 42 名前:kit 投稿日:2003年06月08日(日)00時46分50秒
- 「加護ちゃん?」
柴田に肩を叩かれ、ビクッとして加護は振り返った。
その拍子に手からボールがこぼれた。
「びびってるの?」
落ちたボールをすぐに拾ったのは新垣。
悪態をつきながら、センターラインに向かって歩いていった。
「びびって無いわ。ちょっと作戦考えてただけや」
新垣の背中に向かって舌をだし、加護はリングに向き直った。
もう鳥肌は立っていなかった。
- 43 名前:kit 投稿日:2003年06月08日(日)00時47分42秒
- 1年&2年チーム、ボールは新垣から始まった。
ディフェンスはマンツーではなくゾーン。
紺野と飯田が横に並ぶようにゴール下にいる。
そして、矢口だけは一人、3ポイントライン際の加護についていた。
いわゆるボックスワンというものである。
新垣はあからさまに嫌な顔をした。
自分が3Pシュートが苦手なだけに、この作戦はもっともよいものだった。
紺野が一人でマークするのは困難だが、ゾーンなら飯田がフォローできる。
そして、シューターである加護には矢口がつき抑える。
理想的なディフェンスだが、そのことに加護が納得するわけが無い。
先ほどの借りもある。
さっきまでの弱気はどこへやら、加護はそのことで頭が一杯だった。
- 44 名前:kit 投稿日:2003年06月08日(日)00時48分24秒
- だが、その思いとは裏腹に、新垣からのパスは来なかった。
加護が何度も矢口のマークを一瞬はずしているのだが、それに新垣が気づいていなかった。
そうして、中に入っていって、飯田に止められる。
この2つの繰り返しが続いていった。
紺野に自信をつけさせようとしてか、矢口が紺野にシュートを打たせることが多かったため、
点差自体はそれほど広がっていなかったが、加護の頭には点差はすでに問題になっていなかった。
- 45 名前:kit 投稿日:2003年06月09日(月)01時03分49秒
「終了〜」
飯田の声が響いたのは、紺野が20点目を決めたときだった。
「あんたな、なんでパスださへんねん!こっちが一生懸命マーク外してんのに!」
終わるなり、加護が新垣に掴みかかった。
「何のことよ?矢口さんがマークしててパス出す隙なんてなかったでしょ?」
新垣が声を荒げ言い返す。
そのことが更に加護の逆鱗に触れることとなる。
- 46 名前:kit 投稿日:2003年06月09日(月)01時04分25秒
- 「なんやて?自分が下手なのを人のせいにするんか?」
「それはあなたの方でしょ?」
「ゆーたな、そんなら証明したろーやないか!」
売り言葉に買い言葉。
この場合はそう言うのだろう。
だが、勢いで言ってしまったことは違いないが、加護には自信があった。
「矢口さん、手伝ってくれます?」
「ん?いいけど、どーすんのさ?」
座ってタオルで汗を拭きながら、矢口は答えた。
加護はニッと笑って、飯田と柴田にも同じことを言った。
- 47 名前:kit 投稿日:2003年06月09日(月)01時05分01秒
- ◇
ガンッ
ボールがボードに当たり、そのまま下に落ちた。
3Pライン上に立った新垣は、シュートを打ち終わったままの姿勢で止まっていた。
「3Pシュートか…」
下に落ちたボールの跳ねる音が止むと、両手を下ろした。
頭では、昨日の加護のプレーが再び再生されていた。
- 48 名前:kit 投稿日:2003年06月09日(月)01時05分33秒
- ――――
「2対3や。うちに2人ついたらええ。それでシュート決めたる」
矢口にボールを渡し、加護は新垣に向かって言った。
もちろん、加護のマークは新垣。
更に加護の要望どおり、柴田もマークについた。
結果はほんの一瞬だった。
二人のマークが一瞬だけ離れた隙を逃さず、矢口からのパスが通る。
そこから二人が防ぐまもなく、クイックモーションでのシュート。
新垣自身、3年間加護と1on1をやってきたが、こんな早いモーションのシュートは見たこと無かった。
ボールは綺麗な弧を描き、リングに触れることなく、そのままゴールに入ったのだった。
――――
- 49 名前:kit 投稿日:2003年06月09日(月)01時06分05秒
ボールを拾い上げ、再び加護の真似をして、3Pラインからシュートを打つ。
加護より目に見えて遅いモーションで放たれたボールは、リングにかすることなく床に落ちた。
自分と加護の力の差がここまでとは実際思っていなかった。
悔しかった。
対等と思っていたのが自分だけだったってことを思い知らされて。
私が真剣に勝負を挑んでる間、あいつは本気にすらなってなかったってことがわかって。
- 50 名前:kit 投稿日:2003年06月09日(月)01時07分06秒
- 更新終了です。
昨日の更新分があまりに短かったため、追加更新です。
- 51 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月10日(火)01時52分10秒
- おもしろいっすね。なんか、長く続いてくれたらな〜って思います。
でも、それ以上に作者さん自身が楽しんで書いていただけたらなって思いまつ。
それでは頑張ってください。
- 52 名前:kit 投稿日:2003年06月12日(木)00時58分38秒
- そして、自分の目の前に、いつの間にか加護の姿があったことに新垣は気づいていなかった。
いや、視界に入っていたのに認識をしていなかった。
今は朝の6時半前。朝練まであと30分はある。
自分以外に誰かいるはずないと確信していた。
それなのに、加護の姿はそこにあった。
いつもの青いジャージ姿だが、額には汗がにじんでいた。
加護も新垣の姿に少し驚いたようだった。
- 53 名前:kit 投稿日:2003年06月12日(木)00時59分10秒
- 「なんや、あんたか……」
呼吸を整えながらそれだけ言うと、反応を待たずに用具室へ。
そして、ガラガラという音と共に、ボールをカゴごと出し、新垣に背を向けて反対のゴールへ向いた。
新垣はやっと状況を理解し始めていた。
だが、何も言わずそっと振り返り、加護の行動を観察していた。
加護はボールを持つと、一度床についてから、次々にシュートしていった。
入るたびに数を数え上げていく。
そのカウントは10をすぐに超え、20、30とどんどん増えていく。
時折ボールを拾いながら、加護はどんどん続けていく。
途中から新垣は、いつの間にか自分がボールを拾い始めていることに気づいた。
そして、100を数え上げたとき、加護はシュートを止めた。
時計はまだ7時にははるかに遠かった。
- 54 名前:kit 投稿日:2003年06月12日(木)01時00分15秒
- 「ありがとうな」
残ったボールを拾う時、すれ違いざまに加護は言った。
「別に……」
顔を背けて答えた新垣。
「いつもこんなことをしてるの?」
次のその一言を出すのに、すごく勇気がいった。
言ってはいけないことを口に出すかのように、新垣の鼓動は早くなった。
- 55 名前:kit 投稿日:2003年06月12日(木)01時01分29秒
- 「そうや。朝練前と帰る前。100本ずつや。シュートはな、反復練習が一番なんや」
手に持ったボールを見つめながら、加護が答えた。
「ここにくるまで走ってたの?」
「なんでわかるんや?」
「入ってきたとき汗かいてたから……」
「ふーん」と言って加護はボールを一つだけとって、カゴを端にやった。
「あんたな、ガードは向いてないんちゃうか?」
新垣にボールをパスしながら、加護は言った。
「どーゆーこと?」
ボールをもち、センターライン上に立つ新垣。
それが、中学時代何度もやった1on1の始まりの合図だった。
- 56 名前:kit 投稿日:2003年06月12日(木)01時11分24秒
- 更新終了です。
意外と加護新垣が続いてます……
- 57 名前:kit 投稿日:2003年06月12日(木)01時12分33秒
- >>51 名無しさん様
レスありがとうございます。
2対3=「矢口加護」対「飯田柴田新垣」。それで、加護には新垣と柴田がついているってことですが、
わかりにくかったようですみません。
話自体、どこまで長くなるかわかりません。だいたいの予定は立ってるんですが、きっちり決めてないので……
最低でも県大会は終わるとは思いますが。
- 58 名前:51 投稿日:2003年06月12日(木)23時36分36秒
- そうだとは思ったのですが…(だったらつっこむなよ!てのは無しで(w)
ヤグはパスだすだけだったみたいなので(いいらさんも似たような感じで)、
あえて数えることもないかなって思いまして。
あと、これから先に出てくるでしょうが、辻さんの行方も気になるところです。
というわけで、これからも更新楽しみにしてます。がんばってください。
- 59 名前:kit 投稿日:2003年06月14日(土)15時48分57秒
- 「あんたな、視野が狭いねん」
「何を言い出すのよ」
右に抜こうとする新垣の進路を一歩踏み出し塞ぐ。
新垣の肩と加護の胸が接触したところで、新垣は左足を軸に反転しようとした。
「物理的に狭いって意味や無いで。周りを見てる余裕が少ないねん」
加護もそれに気づき、いち早く右手を伸ばす。
二人並走するような形になったが、加護は新垣を3Pラインの内側へ侵入させていなかった。
- 60 名前:kit 投稿日:2003年06月14日(土)15時49分28秒
- 「だからな、昨日も私がマーク外してた一瞬に気づかへん。
矢口さんはな、私が外す前からパスを出しとったの気づいてたか?
私の動きを予測してな、マークを外すやろうタイミングを計ってくれてたんや」
並走する加護が体半分自分より先にいった隙、それを新垣は見逃さなかった。
スピードを一瞬ゆるめ、加護の体重のかかっていない左側へ。
半歩遅れる形で加護が新垣についていくという形になった。
「あんたにはそれが無いねん。何もな、矢口さんまでなれなんて言ってるわけちゃう。
でも、ある程度味方の動きを把握して、予想しとかなガードはつとまらんで」
速度を落とさないまま、新垣がレイアップシュートを放つ。
追走してる加護には上手くブロックすることが出来ず、ボールはボードに当たってゴールに入った。
- 61 名前:kit 投稿日:2003年06月14日(土)15時50分06秒
- 「じゃあ、どーしろって言うのよ?」
加護の言っていることは正しいことだった。
矢口真里というポイントガード、そして、加護亜依というシューティングガードがいるここでは、自分がレギュラーを掴むことは難しい。
ならいっそ、転向するほうがいいんじゃないか。
その考えとプライドの狭間で揺れる心を振り払うかのように、振り返って新垣は大声で叫んだ。
「それはあんたが決めることや。でも、私はあんたの1対1の強さは結構認めてるで」
床に転がったボールを拾い、今度は加護がセンターラインに立つ。
- 62 名前:kit 投稿日:2003年06月14日(土)15時52分50秒
- 更新終了。
短すぎなので、時間があれば明日も更新します。
- 63 名前:kit 投稿日:2003年06月14日(土)15時59分01秒
- >>58 51様
度々のレスありがとうございます。
辻さんの出番はもうすぐ…のはずでしたが、ちょっと未定…
他のメンバーもそろそろださないといけませんし。
(例えば石川さんとか石川さんとか…)
今月中には出したいと思っています
- 64 名前:kit 投稿日:2003年06月15日(日)22時59分18秒
- それなのかもしれない。
彼女に足りないものは。
ボールをゆっくりとつきながら、加護は考えた。
正直なところ、こいつならやってくれると思ってた。
そう期待して昨日は彼女に組み立てをまかせ、自分はシューターとしての役割に徹していた。
でも、自分とずっと1on1ばかりやってたから、彼女がそれをできなかったのかもしれない。
ポイントガードは周りを使う役。
それは間違っていないが、決して周りを使うという目線じゃいけない。
周りを生かす役目。それが加護が矢口という最高のポイントガードとプレイしてよくわかっている。
今の新垣はそれがわかっていない。
周りが自分に合わせてやってくれると思ってる。
自分がパス出したいときにフリーでいることを回りに強要していた。
それじゃいけない。そんなポイントガードがいるチームは勝てるわけ無い。
- 65 名前:kit 投稿日:2003年06月15日(日)22時59分49秒
- 新垣が自分に一歩近づいた瞬間、加護は一気に動き始めた。
右に抜こうとする自分に、新垣が反応する。
それを見計らって、ボールを自分の足の間をとおし、右から左へ移す。
レッグスルーといわれるものだ。
もののみごとに決まり、新垣を逆から抜き差る。
普段ならこんな簡単に引っかからないのだが、やはり彼女に動揺があったのだろうか。
新垣の「あっ」という声を背中越しに聞き、加護はシュート体勢に入った。
フリースローラインを少し超えたところ。
そこで加護はシュートを放った。
- 66 名前:kit 投稿日:2003年06月15日(日)23時00分23秒
- 別にレイアップでもかまわなかった。
新垣が追いつくというわけでもなかったのだから。
でも、加護はこういった距離から打つのが好きだった。
もちろんそれでミスするようなへまはしない。
「これであいこや」
ゴールに入ったことを見届けないうちに加護は言い放った。
- 67 名前:kit 投稿日:2003年06月15日(日)23時00分56秒
- 「はいはい、そこまでそこまで」
再び新垣の番になったとき、飯田の声がした。
その後ろには柴田と紺野の姿もあった。
「せっかくええとこやったのに……」
加護が未練たらたらに飯田の方を見た。
飯田はそんなことお構い無しに、新垣に近寄ると、グイッと肩に手を回した。
「な、なんですか?」
「あんたは今度の練習試合でフォワードやってもらうよ」
いつものどこかおちゃらけた声とは違う低い声。
内容よりも、その声が新垣を驚かせた。
- 68 名前:kit 投稿日:2003年06月15日(日)23時01分34秒
- 「さっき加護が言ってたことよく考えといて。
あいつ、口悪いけど、ちゃんとあんたのこと考えて言ってるんだから」
それだけ言い残し、飯田は新垣から離れた。
そして、いつもの調子でみんなに指示を出し、練習を始める。
新垣はその姿をボーっと見ていた。
「あんたな、視野が狭いねん」
「私はあんたの1対1の強さは結構認めてるで」
「フォワードやってもらう」
二人の言葉が彼女の頭に繰り返された。
私に足りないものと私の武器……
「お−い、何やってるのさ。ランニング行くぞ」
飯田の言葉に考えが止まる。
小さな声で返事して、体育館の入り口で待ってる3人の下へ走った。
- 69 名前:kit 投稿日:2003年06月15日(日)23時02分32秒
- 「飯田さん、矢口さんはどーしたんですか?」
「寝坊だってさ」
加護は少し違和感を感じた。
責任感の人一倍強い矢口が、寝坊するなんて。
少なくとも加護の知る限りでは、矢口が遅刻した記憶が無かった。
それでも、矢口も人間なんだから、寝坊ぐらいするだろう。
夕方の練習の時、いじめてやろう。
そう加護は納得した。
でも、飯田の表情が強張っていたことを加護はこのとき気づいていなかった。
- 70 名前:kit 投稿日:2003年06月15日(日)23時03分55秒
- 更新終了です。
次回の更新は少し遅れるかもしれません。
- 71 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月15日(日)23時57分39秒
- うお!最後の一文が気になる。
試合楽しみにしてます。試合が始まるまでには○川さんが出てくるんですかね?
出てくるとしたら、石○さんの実力も気になりますね。
- 72 名前:悠希 投稿日:2003年06月16日(月)17時12分17秒
- 久しぶりにきてみたら・・・すごい!更新されてる!!
ところで矢口さんは!?いったい何があったんでしょうか!?かなり気になります。
更新待ってます。
- 73 名前:kit 投稿日:2003年06月21日(土)23時49分28秒
- ◇
「矢口、大丈夫?」
矢口が学校に来たのは、昼休み。
飯田がお弁当を広げている時だった。
彼女と矢口は隣のクラスだったが、廊下の窓越しに矢口がカバンをもって歩くのを見て、
お弁当を開けたまま、隣のクラスへ行った。
飯田の問いに、笑顔でうなずく矢口だったが、その表情は笑顔には程遠かった。
- 74 名前:kit 投稿日:2003年06月21日(土)23時50分30秒
- 「がんばりすぎだって。あんな長い時間、絶対無理ってわかってたでしょ?」
「でもさ……加護が……あいつ、あんなにうまくなってるなんて思わなかった」
「それともオイラが下手になったのかな?」自嘲的にそう続ける矢口。
「バカ、そんなことないさ。あの子はすごい努力してるよ」
「だといいんだけどね……」
曇った表情で、矢口はカバンから教科書を出し始めた。
- 75 名前:kit 投稿日:2003年06月21日(土)23時51分04秒
- 「試合は……どうするの?」
「でるよ。大丈夫。でるさ」
言葉は力強かったが、表情は変わらず曇ったままだった。
飯田はそれ以上何も言えなかった。
机をゴソゴソやってる矢口をそのままに、黙って教室に戻った。
- 76 名前:kit 投稿日:2003年06月21日(土)23時51分37秒
- ◇
日曜日。
加護達、タンポポ学園の面々は、バスを乗り継いで山の中にある花畑高校にやってきた。
練習試合が行われるのは、ここだったからだ。
だが、加護の表情は、とても試合を楽しみにしていた彼女のものとは思えなかった。
口を固く結び、バスの中でも一言も話さず、じっと考え込んでいるようだった。
新垣や紺野もその雰囲気を察してか、加護に絡んでいこうとはせず、隣でこそこそと話をしていた。
原因は出発前だった。
それまで3校で試合するとしか聞いていなかったため、そこで初めて今日の相手を知ることとなる。
一つは、ホスト校でもある花畑高校。
伝統的にインサイドが強く、押し込んでいく一辺倒なチームだった。
それを、去年加入した1年によりスピードも付加された形となり大成。
去年の大会ではベスト8まで残る強豪校へと変貌した。
そして、もう一つ。
加護の悩みの種はここだった。
- 77 名前:kit 投稿日:2003年06月21日(土)23時52分18秒
- 「モーニング学園」
飯田の口から名前が出た。
加護の表情が一瞬で凍りついた。
去年の県大会優勝校だが、そんなことは問題ではなかった。
むしろ加護にとって強いところとやるのは望ましいことだった。
でも、そこには辻がいる。辻希美が。
そのことが加護の心を曇らせていた。
矢口も予めそのことを聞いていたが、やはり複雑な気持ちがあった。
- 78 名前:kit 投稿日:2003年06月21日(土)23時53分05秒
- 「おいおい、どーした?」
不意に6人の前に一人の女性が現れた。
背が高く、茶髪と派手な服装もあいまって、非常に目立つ人。
自分たちの後に同じバスに乗ってくるのを紺野は覚えていた。
あまり係わり合いになりたくない人種だな。
そう紺野は思い、バスの中でその人を気にしないようにしてきたが、いきなり何なんだろう。
目をそらせ気味に顔を観察する。
鼻にキラリと光るものが目に入った。
たぶんあれが鼻ピアスというものなんだろな。
テレビでしかそれを見たこと無い紺野はそう理解した。
- 79 名前:kit 投稿日:2003年06月21日(土)23時53分48秒
- 「彩っぺ、同じバスならどうして声をかけてくれなかったの?」
紺野の分析が進む中、飯田が親しげにその人物に話しかけた。
「硬いこと言わない。それより、そんなんで大丈夫なの?」
バンバンと加護の背中を叩く。
加護は怪訝そうな目で見上げた。
「何するんや、オバサン」
加護の言葉に、飯田と矢口は笑いがこぼれるのを慌てて抑えた。
- 80 名前:kit 投稿日:2003年06月21日(土)23時54分22秒
- 「オ、オバサン?そんなこと言うのはこの口か?」
加護の口を両手で引っ張られる。
丸い加護の顔は四角形になっていたが、加護は負けじとオバサンと必死で叫んでいた。
「あの……この人はどなたですか?」
場をとにかく収集させようと、新垣は飯田に尋ねる。
飯田は涙ぐんだ目を拭き、真面目な顔に戻って言った。
「この人は、ウチの顧問の石黒先生」
その言葉に加護の口の動きが止まった。
それとは逆に、新垣と紺野の口が大きく開いた……
- 81 名前:kit 投稿日:2003年06月21日(土)23時55分16秒
- 更新終了です。
少し遅くなってすみません。
感想などいただけるとうれしいです。
- 82 名前:kit 投稿日:2003年06月21日(土)23時59分12秒
- >>71 名無しさん様
レスありがとうございます。
石○さんはとうとうタンポポで唯一でてない人になってしまいました。
もう少ししたら出てきそうです。もう少しで…
>>72 悠希様
レスありがとうございます。
微妙な更新間隔で申し訳ないです。
一応週2回を目標にしていますので。
- 83 名前:kit 投稿日:2003年06月22日(日)00時03分18秒
- ***お知らせ***
もうすぐ試合になりますが、試合に関しまして、現在のバスケットボールのルールでは、10分X4ピリオド制だったと思いますが、
それでは複雑になりますので、簡単な前半後半各20分という昔のルールでやらせていただきます。
ご了承ください。
- 84 名前:みっくす 投稿日:2003年06月22日(日)08時41分07秒
- 更新おつかれさまです。
矢口の状態が気になりますね。
なにがあったのかなぁ。
梨華ちゃんはライバルで登場?それとも救世主?
- 85 名前:kit 投稿日:2003年06月26日(木)00時23分04秒
- ◇
体育館までの道のりは遠かった。
門を入り校舎をこえ、畑をこえる。
更にグラウンドをこえ、牛舎の向かい側にそれはあった。
加護がなにやら石黒とぶつぶつ言い合っているのを背に、飯田はドアを開けた。
もう既に練習を行っているのが花畑高校。
見るからにがっしりとした体つきの人が並ぶ中、一人線の細い人影があった。
「あれが去年の大躍進の立役者、2年生エースだね」
石黒がそう言ってから体育館の奥へとあいさつに行った。
だが、加護の目はその更に奥を見ていた。
- 86 名前:kit 投稿日:2003年06月26日(木)00時24分10秒
- 体育館の隅でストレッチを行っているジャージの集団。
髪をお団子にしばった彼女の背中に全ての神経を集中していた。
やがて、その人物が振り返り、目が合った。
「のの」
喉元まででかかったその声は、発されることはなかった。
確かに目があったのだが、辻は何事も無かったかのように再び向こうを向いてしまった。
「なっち……」
一通りジャージの集団を見て、今度は飯田がつぶやいた。
なっちこと安倍なつみ。
モーニング学園キャプテンの彼女は去年の大会でベストプレーヤーに選ばれた人物。
- 87 名前:kit 投稿日:2003年06月26日(木)00時25分03秒
- 「高橋はいないんだ……」
矢口は飯田にだけ聞こえるように言った。
高橋愛。
矢口の一つ下にあたる、中学時代の後輩。
加護、辻と共にレギュラーメンバーであり、点取り屋という言葉が一番ふさわしいのが彼女だった。
単純に得点だけを考えると、加護や辻の方がとっていたのかもしれないが、
ボールを回すというより、受けて決めるという意識が一番強かったのが彼女だった。
高橋がモーニング学園にいっていることは、加護は知らなかった。
矢口の卒業と同時に転校してしまったからだ。
そして、二人は気づく。
安倍以外、去年見た覚えのある人間がいないこと。
「つまり、なめられてるってこと?」
矢口が口を尖らせた。
辻の実力からすれば、十分レギュラークラスだろうが、後はレギュラーではない。
それどころか、安倍を除く4人は全員1年だった。
- 88 名前:kit 投稿日:2003年06月26日(木)00時25分43秒
- 「はいはい、もう相手はそのくらいにして、自分達のこと考えな。
まだユニホーム渡してなかったでしょ?」
いつの間にか戻ってきた石黒は手をパンパンと叩き、カバンからユニホームを取り出した。
白を基調にして黄色のラインが大きく入っているユニホーム。
裾には小さくタンポポのイラストが入っていた。
「4番飯田」
「はーい」
「5番矢口」
「はいはーい」
「6番柴田」
「はい」
- 89 名前:kit 投稿日:2003年06月26日(木)00時26分17秒
- 「7番加護」
「おっしゃー」
「8番新垣、9番紺野」
「はい」
「試合は午前に花畑と、午後から朝校になったから、さっさとアップ始めなさい」
「はい」
みんなの声が揃い、空いているコートの半面に移動した。
- 90 名前:kit 投稿日:2003年06月26日(木)00時26分53秒
- 更新終了です。
次からやっと試合を書ける…長かったなぁ
- 91 名前:kit 投稿日:2003年06月26日(木)00時30分14秒
- >>84
みっくす様
レスありがとうございます。
矢口に石川にいろいろたまってきました。
試合も始まりますし、そろそろ書いていきたいと思います。
- 92 名前:悠希 投稿日:2003年06月26日(木)16時43分55秒
- 更新乙です。石黒さん出てきましたね。石黒さんが先生役やってるのってあまり見たことがないので期待age
しかも高橋さんも登場ですか!?ものすごいたのしみです。w
(O^〜^)<試合だー。
試合楽しみにしてました。紺野さんは大丈夫でしょうか!?
川o・-・)/<完璧です。
ちなみに黄板で『学生ホスト』という駄文を書かせてもらってるんですが、今アンケート中なんでもし宜しかったら答えて頂けたら、と思います。
では、次回更新待ってます。
- 93 名前:◆ULENaccI 投稿日:2003年06月27日(金)20時14分14秒
- エースなっちキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
- 94 名前:kit 投稿日:2003年06月29日(日)21時59分04秒
- ◇
やばい。緊張してきた。
アップを始めた瞬間、加護は自分の体がいつも以上に硬くなっていることを自覚した。
生来自信家で、緊張とか経験したことが数えるほどしかなかった彼女。
たかが練習試合くらいで、自分が緊張するなんて夢にも思っていなかった。
いや、それは違うのかもしれない。
彼女が中学時代、どんな大舞台でも緊張しなかったのは、辻がいたからなのかもしれない。
そして、今は辻がいないこと、そしてなにより辻が見ているということが彼女の体を硬くしていた。
初めて袖を通した少し大きめのユニホームはまるで拘束衣のように加護の自由を奪っていた。
- 95 名前:kit 投稿日:2003年06月29日(日)21時59分53秒
- なんとか落ち着かせようと、いろいろ試してみる。
深呼吸をしてみたり、人という字をかいて飲んでみたり。
でもそんなことで治るわけがない。
余計に焦って体は硬くなっていった。
そして、それはもう一人も同じだった。
新垣である。
彼女もまた動きが硬かった。
初めて経験するポジションで、しかも高校に入って初めての試合。
更に相手が強豪校というのだから、仕方の無いことである。
そして、そのまま試合を向かえる。
タンポポ学園の初めての試合。しかも県ベスト8、そして今年は更に上まで行くことが期待されている強豪花畑との試合が。
- 96 名前:kit 投稿日:2003年06月29日(日)22時00分34秒
- 「去年からエースの石川ってやつが入ってスピード面が強調されてきたけど、やっぱり一番の強みはインサイドだ。
パワーと高さがあるからこそiのスピードが生きるってことを忘れるな」
「つまり、加護の出番ってわけだね」
隣の矢口が加護の背中を叩く。
加護はやや遅れて頷いた。
「そう。中で勝負するのは難しい。こっちは飯田と柴田以外小柄なんだからね。
たぶん向こうはゾーンだから、外から勝負するべきだ。
頼んだよ、加護」
「ま、まかせとき」
緊張を気づかれまいと、必死に笑顔を作ったが、その声は震えていた。
「こっちはやっぱりマンツ−でいく。ゾーンにして押し込まれるのは嫌だからね。
それじゃオーダー発表するよ――――
- 97 名前:kit 投稿日:2003年06月29日(日)22時01分13秒
- ◇
ピッ
笛の音と共にボールが飯田と相手の間に上げられる。
相手の、花畑のセンターは戸田。背番号4。
そして、フォワードは2年の里田とエースの石川。背番号14。
ガードは2年の木村と1年の斉藤。
ボールは二人の指にあたり、真横に落ちる。
矢口はそれを狙っていたかのようにボールを拾い、前に投げた。
木村と斉藤の頭上を超え、ボールは走りこんでいた柴田の元へ。
3度ドリブルして、そのままシュートを決めた。
- 98 名前:kit 投稿日:2003年06月29日(日)22時03分08秒
- 「ナイスシュート」
センターライン上でボールを目で追うだけだった加護と新垣。
戻ってくる柴田とハイタッチを交わした。
- 99 名前:kit 投稿日:2003年06月29日(日)22時03分54秒
- 「さあ、ディフェンスきっちりいくよ」
後ろから飯田の声が聞こえる。
ボールを持っているのは木村。
マークは矢口。
加護がついてるのは斉藤。
同じ一年だが、加護は名前を聞いたことが無かった。
練習を横目で見ていた限り、外から打つってことはなさそうだった。
どちらかといえば、新垣がマークしている噂の石川梨華のことも考えながら、マークをしていた。
そしてボールが14番にわたる。
- 100 名前:kit 投稿日:2003年06月29日(日)22時04分25秒
- この人を止めないといけない。
その強い思いが空回りしてか、右に入れたフェイクに新垣は思いっきり引っかかった。
加護がすかさずマークを外してフォローに入る。
石川は斉藤が空いたことがわかったが、パスを出さなかった。
加護と並ぶ形でゴール下に入っていく。
目前に飯田と戸田の姿が映った時、加護の横から不意に石川の姿が消えた。
加護と体を入れ替えるように右足を軸に後ろへターンした石川。
飯田が遅れてブロックに飛んだが、それも及ばず石川のレイアップが決まった。
- 101 名前:kit 投稿日:2003年06月29日(日)22時05分12秒
- 更新終了です。
ようやく100レスまでいけました。
長かった……
- 102 名前:kit 投稿日:2003年06月29日(日)22時13分30秒
- >>92
悠希様
レスありがとうございます。
そろそろ主要人物揃ってきました。
いろんな人書いていきたいんですけど、一度にたくさん書くわけにはいかないので
いろいろ思案中です。
アンケートの方、作品を読ませていただいてからさせていただきます。
>>93
◆ULENaccI様
ありがとうございます。
やっぱりエースといえばなっちかなと。
ベタベタでごめんなさい。
この試合終わったら出てきますので、楽しみにしていただけると。
- 103 名前:∬´◇`∬<ダメダモン… 投稿日:∬´◇`∬<ダメダモン…
- ∬´◇`∬<ダメダモン…
- 104 名前:∬´◇`∬<ダメダモン… 投稿日:∬´◇`∬<ダメダモン…
- ∬´◇`∬<ダメダモン…
- 105 名前:◆ULENaccI 投稿日:2003年07月07日(月)02時09分42秒
- 沈めましょ
- 106 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月09日(水)22時31分03秒
- >>103->>104
誤爆しといて削除依頼ださないんですか?
作者さん、続き楽しみにしています。
- 107 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月10日(木)11時58分31秒
- 期待してます
- 108 名前:kit 投稿日:2003年07月11日(金)00時15分34秒
- えっと、ちょっとリアルで予定が詰まって、全くネットに触れない状況でした。
先に言っておけばよかったのですが、急に決まったことなので、事後報告になって申し訳ありません。
週末から更新再開します。
それで、ちょうどその間にいろいろあったようで「何て間の悪い奴なんだ自分」とか叫びたい心境です。
同板作者さんが誤爆したということでよろしいんですよね?
間違いは誰にでもあることなので仕方ないですが、その後のフォローだけはお願いします。
自分がいなかったのもタイミング的に悪かったですし、気になさらないでください。
- 109 名前:kit 投稿日:2003年07月11日(金)00時17分33秒
- >>106,107さん
ありがとうございます。
次にこんなことがあってはいけないんですが、次からはきちんと間空くときは報告します。
申し訳ありませんでした。
それでですね、これってageていいんですよね?
それともこのままsage更新しましょうか?
ってage無いで言っても仕方ないことなんですけど…
- 110 名前:同板作者 投稿日:2003年07月11日(金)17時07分31秒
- kit様がネットに触れていない間、
誤爆してしまいました。
削除依頼を出し、削除したんですが、
結果。このスレを荒らすような事になってしまいました。
本当にすみませんでした。
kit様の小説を楽しみにしている方もたくさんいますので、
ageてもいいかと思います。
- 111 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時32分49秒
- 呆然とする新垣に、矢口は一言、ドンマイと声を掛ける。
正直なところ、彼女には荷が重いかなと思っていたから仕方ない。
そして、矢口にボールがわたり、試合が再開される。
相手はゾーンディフェンス。
だからといって、新垣は自分が外から打てないことは十分わかっているので、中に入らざるを得ない。
外は加護のみ。
相手もその加護をフリーにするはずも無く、遠まわしに気にしているようだった。
でも、矢口はそれをわかった上でパスを出す。
マークにくる斉藤は追いつけていない。
だが、加護にはそのことがわかっていなかった。
妙に狭まった視界には、ゴールしか見えていなかった。
- 112 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時33分39秒
- ののが見てるののが見てるののが見てる。
その考えは頭の中をぐるぐる呪文のように回っていた。
いつもの流れるようなフォームとはかけ離れた、機械のようなフォーム。
ボールはリングにすら当たることなく、戸田の手の中に収まった。
シュートモーションのまま硬直する加護。
ボールは次々に渡り、最後は石川が決めた。
(なにやってんのや。あれくらい決めれんでどーするねん!)
自分を叱咤するが、頭の中にはまだ呪文が回っていた。
その時、いきなりガクンと体が折れ、加護は尻餅をついた。
- 113 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時34分20秒
- 「なーにやってんだよ。膝が硬いよ、膝が。つったったまま打っても決まるわけ無いだろ」
見上げると矢口の顔が飛び込んできた。
ヒザカックンをやられたことに加護は気づいた。
「ほら、アイツが見てんなら、きっちり決めなきゃ笑われるよ」
文句を言おうとする加護に、矢口がそう言ってそっと右を指差した。
その先にいるのはもちろん辻。
「ドンドン回してくから、いいとこ見せなよ」
柴田が運んできたボールをゆっくり受け取る矢口。
相変わらずゴール下では飯田と戸田のポジション争いが繰り広げられていた。
矢口は木村を抜き去り、中へ入っていく。
- 114 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時34分55秒
- 右には新垣。左は柴田。そして、前には飯田。
それに加えて相手チーム5人の動きも矢口は把握していた。
木村が抜かれたことで、自分の方に斉藤が動いた瞬間。
彼女の頭を超え、ボールは外の加護の元へ。
加護を完全にフリーにするための矢口のプレーは完璧に決まった。
そして、加護もゆったりとしたフォームで丁寧に打った。
膝、体、腕、指。
一つ一つ神経を使って丁寧に打った。
ボールはボードに当たったまでも、リングになんとか収まった。
「おっしゃ」
小さくガッツポーズを作る。
本当ははしゃぎたいくらいうれしかったが、たった一つのシュートでそこまでやるわけにはいかない。
でも、その簡単なシュート一本が、今の加護にはとてもうれしかった。
そして、同時に加護の体の硬さも薄らいでいった。
- 115 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時35分26秒
- ◇
そこから加護の快進撃が始まった。
開始10分を過ぎるころ、加護の得点はチームの8割近くをしめる18得点。
しかし、相手も完全に新垣を穴と悟り、石川主体で攻めていた。
結局石川もチーム得点の半分以上を締める形となり、大きな点差は開いていなかった。
25−18
加護の21点目となる3Pシュートが決まったとき、花畑高校がタイムアウトをとった。
「な、マーク変えてくれへん?あの14番のマークは私に任せてくれんか?」
加護が石黒に言った。
自分があれだけ点を決めてるのに点差が全く広がらないことに対する苛立ちがそれを後押ししていた。
実際、お互いボールを持てば決めるという展開であり、加護にはおもしろくなかった。
- 116 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時36分02秒
- 「駄目。新垣に任せなさい。あんたは自分の相手をきちんとやりなさい」
横から矢口が口を挟む。石黒もそれに頷いた。
その時、笛が鳴った
「まだ一点も決めさせて無いわ」
誰にも聞こえないようにボソッと言い残し、加護はコートに戻った。
- 117 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時36分40秒
- ◇
タイムアウトをとってからの花畑のフォーメーションは変わった。
実際のところ、加護を相手にするチームはまずこのフォーメーションをとる。
中学時代もそうだったし、この前の飯田たちもそうだったように。
加護には石川がついた。
ボックスワンだった。
花畑ボールで試合が再開。
変わらず石川にボールが回る。
負けず嫌いの新垣にとっては屈辱でしかなかった。
- 118 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時37分44秒
- 何とか止めたかったが、気持ちだけではどうにもなら無い技術の差があった。
石川のボールの動きを必死に見ているところで、石川はいきなりシュートを打った。
新垣がブロックに飛ぶことすらできないまま、シュートは決まった。
25−21。
石川の本日2本目となる3Pシュートだった。
- 119 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時38分20秒
- 「あーもう…」
ボールを思い切り叩きつけてから、矢口にボールをかえす加護。
(私は何点とればいいんや…)
ぴったり自分をマークしてくる石川を見てため息を一つついた。
矢口がドリブルする。
石川のマークを外そうとするが、オフェンスだけでなくディフェンスも上手かった。
一番の問題はスピードだった。
一瞬の瞬発力が相手のほうがはるかに上だった。
辻も中学時代はかなり早かったが、石川もそれに劣らないくらい早いと加護は思った。
- 120 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時38分56秒
- (それでも私と矢口さんを止めるのは無理やけどな)
ボールを持たないまま中へ切り込もうと走り出す。
もちろん石川はついてくる。
だが、石川の前に加護の姿はなかった。
1mほど離れた3Pライン上に加護はボールをもって立っていた。
石川が理解できないまま、加護は3Pを決めた。
- 121 名前:kit 投稿日:2003年07月12日(土)11時39分51秒
- 更新終了です。
いろいろありましたが、これからもよろしくお願いします。
- 122 名前:kit 投稿日:2003年07月20日(日)21時40分11秒
- ◇
「よし」
本日何度目かの小さなガッツポーズを作った。
加護が思うシューターの条件は次の3つだった。
シュート成功率はもちろん必要。
でも、いいシューターになるほど相手のマークが厳しくなる。
そこで必要なのは、マークを外す力と、クイックモーション。
この2つを加護は必死で身に着けていたから、パトリオットという呼び名を持つほどのシューターとなった。
- 123 名前:kit 投稿日:2003年07月20日(日)21時40分55秒
- 先ほどの石川の時もそうだった。
1歩、2歩、3歩。
加護は中に切り込んでいく。
だが、3歩目で踏み出した右足をバネに、後ろに飛んだ。
この時点で石川のマークは外れている。
そして、着地した左足でもう1歩下がった時、加護の手にはボールが収まっていた。
そのままクイックモーションでシュート。
一瞬でもマークを外すことが出来たら、矢口はそこを見逃さない。
絶妙なタイミングでボールが自分の元へ来る。
あとは石川が戻ってくる隙を与えないためにクイックでシュートを打つだけだった。
28−21
- 124 名前:kit 投稿日:2003年07月20日(日)21時41分26秒
- ◇
「私の言ったこと覚えてる?」
タイムアウト終了間際、石黒が新垣のユニフォームを引っ張って言った。
「コートの中でしっかりと加護と矢口の動きを見てなさい。あんたに足りない何かがわかるから」
新垣は試合前に石黒に呼び止められてそう言われたことを思い出した。
「これから相手はボックスワンに切り替えてくるだろうから、よーく見ときなさい。わかったね」
石黒の予想どおり相手はボックスワンにしてきた。
しかも加護のマークは14番。
- 125 名前:kit 投稿日:2003年07月20日(日)21時41分56秒
- 二人の攻防と矢口の動きを新垣は反対側からじっと見ていた。
加護はすごかったが、それよりも新垣を驚かせたのは矢口だった。
加護がマークを外す前。
矢口のパスを出したタイミングはそこだった。
加護の動きが全てわかっていたかのように、加護が後ろに下がる前に矢口の手からはボールが離れていた。
かといってパスミスがあるわけでなく、むしろ普通に自分が投げたよりも、いい位置に。
もっともシュート体勢に入りやすい胸元にボールはドンピシャリだった。
- 126 名前:kit 投稿日:2003年07月20日(日)21時42分32秒
- 新垣は自分の体に鳥肌が立っていたことに気づいた。
レベルが違いすぎるとはこういうことをいうのだろう。
自分が今ユニホームを着ていることが恥ずかしくなってきた。
もちろん、石黒のいう自分に足りない何かはわかってきた。
加護に前に言われた「視野」であったり「思いやり」であったり。
「正確さ」も「速さ」もそうだ。
むしろ、矢口にあって自分に無いものが多すぎた。
そして、そのまま前半は終わっていった。
42−32
- 127 名前:kit 投稿日:2003年07月20日(日)21時43分07秒
- 矢口と加護。
このホットラインで点差は10点に開いていた。
だが、新垣はハーフタイムに信じられない言葉を聞くことになる。
ちょうど矢口がトイレといって離れたときだった。
「後半は矢口に代えて紺野。新垣はガードね」
さらっと言い放った石黒の言葉だった。
- 128 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月22日(火)23時27分17秒
- 新垣ガード、おもしろくなってきましたね。次も期待してます。
がんばってください。
- 129 名前:kit 投稿日:2003年07月27日(日)22時55分02秒
- ちょっと忙しくて更新することが出来ません。
夏明けくらいにはなんとか再開したいと思います。
申し訳ございません。
>>128
レスありがとうございます。
必ず再開しますので、待っていただけるとうれしく思います。
- 130 名前:みっくす 投稿日:2003/09/14(日) 09:21
- 保全
- 131 名前:みっくす 投稿日:2003/10/19(日) 21:52
- HOZEN
Converted by dat2html.pl 0.1