inner-city blues

1 名前:JC 投稿日:2003年06月06日(金)00時22分39秒
はじめて板で小説を書かせていただきます。
至らない点も多々あると思いますが、よろしくご指導ください。
必要なのは、暖かく見守る眼差しです(笑)。

ちなみに、吉絡みなんですが、相手はとりあえず内緒です(笑)。
誰なのか、気付く人はすぐ気付くと思うのですが、
当方、楽しみは後までとっておく方なので(笑)、
できれば明言することは、お控えください。
(クイズじゃないので、後で必ず正体出てきますので!)

それでは、よろしくお願いします!
2 名前:JC 投稿日:2003年06月06日(金)00時24分18秒
 出会いは本当に突然だった。

 その瞬間、あたしは雷に打たれたような、ものすごい衝撃を受けた。
 まるで金縛りにでも見舞われたように、その場に固まったまま動けなかった。

 なんだこれは。

 正常な思考をとりもどすまでに、数十秒かかった。
 この衝撃があの人の歌だと気付くのに、さらに数十秒を要した。
 あたしは本当にその場から動けなかった。
 思考が元に戻るにつれ、立ち止まっているところから、なにかに導かれるように、道路の反対側へ進む。
 そして、人込みの向こうに、道路に座り、目を閉じ、歌っているあの人を見た。
3 名前:JC 投稿日:2003年06月06日(金)00時24分48秒
 ギターを抱える細い腕。
 スリムなビンテージジーンズの組んだ足の上に乗せられたギターは、おだやかに彼女を包むような音を奏でていた。
 彼女の黒い髪はさらりと肩で揺れていた。
 この細い体のどこから、こんな声が出るのだろう?
 そう疑問を抱かずにはいられないくらい細いその体から、圧倒的な迫力で奏でられる歌。
 目を閉じ、何かを語りかけるように歌う彼女を、あたしは我を忘れて見つめていた。
 彼女の表情は柔らかく、まるで地上に舞い降りた天使だった。
4 名前:JC 投稿日:2003年06月06日(金)00時25分18秒
 時間が止まったようだった。

 世界が彼女とあたしだけになってしまったような、そんな感覚に見舞われた。
 さっきまでの喧騒が嘘みたいに静まり、透き通るような彼女の歌声があたしに降り注いでいるようだった。
 ごく自然に、そのまま語りかけるように、優しく歌っていた。
 その歌は恐ろしくリアルであり、あたしは彼女の声に心臓を掴まれたみたいに、息苦しくさせられていた。
 彼女の言葉ひとつひとつが突き刺さるように、あたしの心に呼び掛けていた。
 あたしの心臓は、彼女の歌声に共鳴するように、ものすごい勢いで、体中に血液を送り出していた。
 あたしは純粋な感動とともに、わけのわからない恐怖に似た何かを感じていた。
 両腕からは鳥肌が立ち、熱帯夜だというのに、薄寒かった。
 それくらい、すさまじいほどの歌声だった。
5 名前:JC 投稿日:2003年06月06日(金)00時25分58秒
 彼女の細い指先が、フレットからそっと離れた。
 顔を上げ、彼女は小さく息を吸い込み、ゆっくりと目を開けた。
 あたしの前の人から、まばらに拍手がおこった。そうか、歌い終わったんだ。
 彼女は恥ずかしそうに小さくペコリと頭を下げた。
 顔をあげた彼女と目が合った。
 心臓が一瞬止まったかと思った。
 その直後、笑いかける彼女に、あたしは顔が真っ赤になってゆく。
 恥ずかしさが爆発したように、おもわず反対側の道路に駆け出していた。
6 名前:JC 投稿日:2003年06月06日(金)00時26分28秒
「よっすぃー、どこ行ってたの?」
「ちょっと!急にいなくなるからびっくりしたじゃない。」
 友達のところに駆け寄った。
 みんな、あの歌を聞いて、何とも思わないの!?
 友達はにこやかに笑い合って、またもとの明るいノリでおしゃべりを続けている。
 それまで話の中心で笑っていたけれど、友達のもとに戻ったあたしの頭には、彼女の歌声がこびりついた。
 それ以降、うまく喋ることすらできなかった。
7 名前:JC 投稿日:2003年06月06日(金)00時27分06秒
「よっすぃー、変だよ?どうしちゃったの?」
「いいのよ後藤。吉澤っていつもこんなもんじゃない?それでさ、その後の矢口の顔ったら……。」
「あははー、それ、すっごくなぃ!?」

 何を話しかけられても、上の空だった。
 あたしは、どうやって帰ったのかもわからないくらい、ぼんやりしながら家に着く。
 ドサッと体を投げ出して、服を着替えることもしないで、そのままぐったりとしていた。
 頭の中は、今日、路上で合った、あの彼女のことで、いっぱいになった。
8 名前:JC 投稿日:2003年06月06日(金)00時27分50秒
 暑い夏の夜、あたしは生まれてはじめて一目惚れというものを経験した。
 ほんの一瞬の出来事だったけど、それが自分にものすごく重要なことのように感じた。
 目をつぶっても、彼女の声が耳の奥から聞こえてくるようだった。
 どうしちゃったんだろう?
 何が起こったんだろう?
 その疑問は、解明できるはずもなく、あたしはいつしか深い眠りに墜ちていった。
9 名前:JC 投稿日:2003年06月06日(金)00時29分12秒
とりあえず、今日のところは、このへんで。
マターリsage進行でお願いします。
謎のストリートミュージシャン×吉ですが、
ぜひ感想を聞かせてください。お願いします。
10 名前:JC 投稿日:2003年06月06日(金)00時32分11秒
あぁ!大事なこと言い忘れてた!(笑)
パラレルです、もうおわかりだと思いますが(笑)。
すいません、なにぶん、板はじめてなもので……。
11 名前:秋良 投稿日:2003年06月07日(土)03時00分57秒
読ませていただきました。
一目ボレのよっすぃ〜がイイ!
このお相手は誰なんでしょう。気になりますね(笑)
っつーかこの時点でもうごっちんはないのね(涙)
続きを期待しています
12 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)11時50分58秒
>秋良さん
 ありがとうございます。
 こんな衝撃的な一目惚れ、してみたいです(笑)。
 ごっちんは、まだまだ出てくる予定です。

えーと、それでは続きを書きます。
突然視点がコロコロ変わりますが、ここからその一目惚れされた方の
謎のストリートミュージシャン視点になります。
……多分、ファンの方なら、すぐわかるんじゃないかな?(笑)
13 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)11時54分55秒
 はぁ、今日もオーディションか⋯⋯。
 こう毎日やと、気が滅入ってしゃーないわ。
 でも、頑張らな⋯⋯。
「48番の方、お入り下さい。」
 私はハイ!と返事をして、ジェシイを抱えた。
 ジェシイってのは、私の相棒。
 あたしがはじめて出会った、一生の宝物。
「失礼します、よろしくお願いします!」
 ジェシイ、今日もバッチリ頼むで!
14 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)11時55分59秒




 ⋯⋯⋯。
 チューニングもバッチリやった。
 コードもフレーズも、キッチリ弾けたと思う。
 ジェシイには、悪いとこ、なんもあらへん。
 悪いんは、私や。
 でも、なんでやろ⋯⋯。
 なんで私ってこんな本番に弱いんやろ⋯⋯。
15 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)11時57分25秒
 今日も失敗して、鬱入って。
 それでも、気持ち切り替えてやっていかな⋯⋯。
 だって、これは私が選んだ道。
 ジェシイと一緒に、いつかもっといっぱいの人に、私の歌を聞いてもらいたいから。
 これは私が決めたこと。
 辞めたいなんて⋯⋯⋯⋯思って⋯⋯へん⋯⋯⋯。
 逃げたいなんて⋯⋯⋯⋯⋯思わへん⋯⋯⋯⋯ハズや⋯⋯⋯。
16 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)11時58分12秒
 私は憂鬱な気持ちのまま、いつもの場所へ向かう。
 もちろん、路上でのライブをするためやった。
 今日はアレも歌おう、これも歌おう。そう思いながら、ライブの準備をした。
 まぁ準備ってゆーても、名前と簡単なプロフィール書いたスケッチブックを立てかけるだけやけど。
 一人でも、私のことを知る人が増えてくれることを願いながら⋯⋯。
17 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)11時59分02秒
「今日も頑張るぞ、ほな、よろしく頼むわ!」
 ジェシイに声をかけて、今日もライブのはじまりはじまり!
 私は大きく深呼吸して、歌う前の緊張をほぐした。
 あれ?道の向こうに座ってる子、あの子も私の演奏を聞きに来たんかな?
 ⋯⋯んなワケないか。
18 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)11時59分32秒
「それでは、今日の1曲目です。」
 気持ち切り替えて、今日も歌うぞ!
 って、そんなん言うても、誰もおらんけどね⋯⋯。
 まぁ、えぇわ。そのうち誰か聞いてくれるやろ。
19 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)12時00分05秒
「ありがとうございました。」


 そっと目を開ける。
 ん⋯⋯、やっぱ誰もおらん⋯⋯。
 あかん、気持ち切り替えて切り替えて!
「それでは、2曲目です。」
20 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)12時01分15秒


 そんなこんなで、もう10曲目。
 夕方涼しい風が吹いてたのに、夜になってからも、いっそうジリジリと暑い。
 私はうっすらと汗をかきながら、それでも歌った。
 目を開けるたんび、人が少しだけど、足を止めて聞いていてくれた。
 やっぱり、ここが落ち着くわ。
 私、なんでここやと上手くいくのに、本番やとダメなんやろ?
 まばらな拍手を貰いながら、それでもほんまは満足やった。
 でも、そこで満足したらアカンってことも、よぉく分かってる。
 分かってるんやけど、でも、幸せで⋯⋯。
21 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)12時01分50秒
 ジェシイ、あんたは分かってくれるやろ?
 今日の失敗は、明日への糧。
 そうやろジェシイ? ⋯⋯お願い、そうやとゆーて。
 んなアホなコトばっかり考えながら歌ってるなんて、誰も思わんのやろな。
 まぁ、いいけど⋯⋯。



22 名前:JC 投稿日:2003年06月07日(土)12時03分33秒
と、今日はここまでです。
これ、誰だかわかりましたか?
多分、最後の最後まで、この調子でひっぱるつもりです(笑)。
未熟者ですが、最後までぜひおつき合いください。
23 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月07日(土)22時30分21秒
とりあえずJCってのは勘弁してほしかったかな・・・
内容、読むまでもないですから。
(笑)の使い方も、ほどほどにしておいたほうがいいのではないかと思います。
あまり良い印象を与えるものではないこともあるように感じるので。
それから、こういうところに書き込む場合、使う文字は一般的なもののほうが。
お話の中身に関係のない、重箱の隅をつつくような小姑レスをつけたりして
気を悪くされていたら申し訳ないのですが・・・続きも楽しみにしています。
ミュージシャンの言葉遣いは自然でいいですね。作者さんは関西の方でしょうか?
24 名前:JC 投稿日:2003年06月08日(日)00時55分50秒
>名無しさん
レスありがとうございます。
JC、マズかったですかね?まぁ、わかる人にはわかるので
そう表記してみたんですけど。
一般的じゃない文字、なんか使ってましたでしょうか?
(なんか、急に不安になってきた。)
僕は生まれも育ちも東京です。でも、大阪ノリが大好きで
友達に大阪人がいるので、関西弁のほうは、チェックしてもらってます。
まぁ、楽しんでもらえればいいな、と思いますので
これからも長い目で見てやってください。よろしくお願いします。

ちなみに、次は月曜か火曜あたりに更新予定です。
25 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月08日(日)01時36分14秒
作者さまへ
一部、文字化けしてるみたいですよ。
WinとMacで表示が違うことがあるからそのせいでは?
「JC」にどんな意味があるのかよくわかりませんが
この先を読めばわかるのでしょうか?
続きに期待しています!
26 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月08日(日)14時07分33秒
なんというか今は、まだ微妙な時期ですし。そうでなくとも。
JCを名乗る(ように見える)表記は、あまり良い気はしません。
まぁそれは所詮、個人的な感情の部分ですから別段かまわないのですが
わかる人間には内容に入る前にわかってしまうわけで、面白味も…。
文字についてですが‘⋯’は表示されない人もいるかもしれませんよ。
27 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月08日(日)17時22分40秒
>26 名無し読者さん
失礼ですが、「JC」がなんのことかわかるなら
わかるなりの楽しみ方があるんじゃないでしょうか?
わかんない人は「誰だろう?」って楽しみにしてるんだから
そんな言い方しないで下さい。
作者さんも「ファンの方なら、すぐわかるんじゃないかな?」って言ってる
んだから、いろいろ計算なさってると思いますよ。
28 名前:JC改め名無し作者 投稿日:2003年06月08日(日)18時47分40秒
>>25
Macでは正しく「……」と表示されています。なんでだろ?
これも、表示されないんでしょうか?
板で書いたのはじめてなので、表示できない環境の方はゴメンナサイ。
今度から「・・・」とします。
「JC」については、謎のストリートミュージシャンのファンの方のための
道標的なものだったのですが。
わかる人には、わかるってだけで、特に深い意味はありません。
気にせず、楽しんでくださいね。
29 名前:JC改め名無し作者 投稿日:2003年06月08日(日)18時48分20秒
>>26
別に、名前を騙ったわけじゃありません。
ただ、ファンの人に道標みたいになったらな、って思って。
わかる人は、わかった上で楽しんで欲しかったわけだし、
もしこれ読んで面白くないって思うんであれば、もう読んでもらっても
面白くないでしょうし。読まないでいただいても結構です。
ただ、わかんない人は、絶対わかんないと思うので、先にヒントとか
名前は出さないでください、とだけ言ったのであって、
別にクイズやってるわけでもなんでもないんです。
読む気なくて、中傷だけだったら、マジ勘弁して下さい。
自分もこの人のファンだし、ヲタみたいな浮かれた気持ちで書いている
わけではありません。ものすごいメッセージを込めたラブレターくらいの
気持ちで書いています。だから、そのへんも解ってください。
30 名前:JC改め名無し作者 投稿日:2003年06月08日(日)18時48分52秒
>>27
なんか、弁護してもらって、ありがとうございます。
自分は板初挑戦で、少し戸惑っている部分とかあって、
いろいろ考えて書いていたのですが、それが伝わらなくて
とても残念です。
これからも続けるつもりですので、よろしくお付き合い下さい。
31 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月08日(日)18時49分25秒
明日、夜に更新します。一応落としておきます。
32 名前:名無し読者@26 投稿日:2003年06月09日(月)00時50分22秒
言葉が足りなかったようで、申し訳ありません。

私の個人的な感情の部分で「JC」という表記に少し引っかかるものが
あった、というだけで、このストーリーを楽しむ気がないとか
スレそのものを否定するようなことを言ったつもりは毛頭ありません。
登場人物のモデルに対する作者さんの愛情も、まったく疑ってはいません。
また、ファンへの道標という意図も、わからぬわけではないですし
読むよりも前に主要人物が瞼に浮かぶなら浮かぶで、それなりの楽しみ方は勿論
あります。が、作者さんの構成からすると、少々損をした気分にもなるな、と。

中傷と断じられたのは心外ですが…自業自得だと納得もしています。
こう書いている今も、思うことの半分も伝えられていない気がしていますが
皆さんを不愉快にさせて、本当にすみませんでした。
33 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時44分27秒
-------------------------------------------------
 寝ても覚めてもって状態って、きっとこんな感じなんだと思う。
 目か覚めても、あの人のこと考えてた。
 そしてたぶん、夢でも彼女のことを見ていたんだと思う。
 自分の網膜の奥に焼き付いた彼女の姿。
 鼓膜のもっと奥にこびりついて離れない、彼女の澄んだ歌声。
 どこか弱気な感じがするその歌に、あたしは共感したというより、共鳴してた。
 彼女のことが気になって気になって、あたしは家で親とどんな会話したか、覚えていない。
34 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時44分59秒
 ぼーっとしたままバイトに向かう。
 昨日の服着てバイトに来ちゃったことにも、言われるまで気付かなかった。
 バイトしてても、何度も注意された。
 ぼんやりするな、って。
「なんか、よっすいー魂抜けてるよ?」
「んなことないよ。」
 ごっちんは心配してくれてる。さすがあたしの親友!
35 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時45分36秒
「ねぇ、昨日から様子おかしいよ。昨日なんかあったの?」
 あたしはまたぼんやり彼女のこと、考えてた。
「あー、別に何でもないよ。何でもない。」
 あたしは自分に言い聞かせるように、ごっちんに言った。
「はぁ!?ま、いいや。それより今日はどうすんの?」
 今日?
 ふと時計に目をやる。
 あと1時間もしないうちに、バイトが終わる・・・。
36 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時46分13秒


「吉澤!なんなのよ、さっきまで魂が抜けちゃったぐらいぼーっとしてたのに、今度は急にそわそわして。もっと真面目に働きなさいよね!」
「えぇ?あたしそわそわなんてしてないよ。」
 圭ちゃんに言い返したけど、ごっちんが小声で「してる、してる」って笑ってる。
「してないってば!あたし、普通!いつもと同じ!絶好調!」
 ふたりとも「はぁ!?」って言ってた。
 あ、あと30分。
 ちぇー、仕事早く終わんないかなぁ。

37 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時46分49秒


 バイトが終わると、あたしは「お先!」って言って、そそくさと仕事場を後にした。
 圭ちゃんやごっちんが何か言ってたみたいだけど、あたしの耳には届かなかった。
 あたしの体は申し合わせたように、昨日と同じ場所に向かった。
 あたし本人の気持ちと無関係に、なんか「あたしの意見無視かよ!」っていうくらい、強制的にあの場所に向かっていた。
 ・・・もちろん、自分の意志でもあったわけなんだけど。
 彼女と出会った場所。
 あの人が座っていた場所。
 もう一度、会ってみたかった。
 もう一度会って、歌が聞きたかった。
 それ以上に、彼女をもっと知りたかった。
38 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時47分29秒
 昨日と同じ場所に着いたが、彼女はいなかった。
 あたしは道路の反対側の花壇に腰を降ろした。
 彼女は今日、来ないかも知れない。
 いや、もしかしたら、もう二度と会えないかも知れない。
 でも、そんなことを深く考える事自体、どうでもよかった。
 ただ、例えまた会える可能性がわずかでも、あたしにはここで彼女が来るのを待つことしか、選択肢はなかった。
 しょーがない。
 あたしはぼーっと、彼女の声を頭の中で反芻していた。
39 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時48分08秒
 どれくらい経ったのかな。
 あたしの頭のなかではなく、その声が響いてきたのは。
 ハッとして視線を道路の反対側に向ける。
 彼女が鼻歌のように小さく歌いながら、ギターケースからギターを取り出していた。
 まわりを見回しても、誰もいない。
 あたしは彼女のもとに駆け出していた。
40 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時48分51秒

 気持ちだけ。

 肝心な時に体がいうことをきかない。
 あたしの腰から、まるで木の根が生えて、花壇に埋まってるんじゃないかって思うくらい、体を動かすことができない。
 道路の反対側では、あたしの事に全く気付く様子のない彼女が、ライブの準備を進めていた。
 動かない体とは逆に、あたしは彼女を見つめることはできるようだった。
 彼女が気付かないのをいいことに、あたしはじっと彼女を見ていた。
 彼女の足元に置かれたギターケースには、「JC」というシールがあった。
41 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時49分26秒
 なんだろ?何の事だ?
 イニシャル・・・にしては変だし。
 ギターケースの横には、彼女の名前が書いてあると思われる、小さなスケッチブックが立てかけてあった。
 でも、ここからじゃ、遠くてよく見えない。
 
42 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時49分58秒
「今日も頑張るぞ、ほな、よろしく頼むわ!」
 あたしに言っているのかと思い、心臓がドクンと音を立てた。
 でも、それは彼女の独り言だったようだ。
 彼女、関西人なのかな。
 いまの、イントネーションが関西弁だったよね?
「よし!」
 ライブの準備が完了したようだった。
 昨日と同じように、折れてしまいそうに細い足を組み、その上にギターを乗せ、彼女はひとつ大きく深呼吸した。
43 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時50分40秒
 そのとき、彼女がこっちに気付いた。

 ように見えた。

 あたしは焦って、視線を逸らした。
 彼女は不思議そうな顔をしたけど、あまり気にしないような感じで、ギターの方に向き直った。
44 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時51分31秒
「それでは、今日の1曲目です。」
 まわりには、あたししかいない。
 彼女はそんなことを気にも止めない、といった風に演奏をはじめた。
 足を止めて彼女の演奏を見ようという人は、誰もいなかった。
 彼女の歌声は、街の喧騒のBGMのようだった。
 薄汚れたこの街を、洗い流すかのように、澄んだ声が響き渡る。
 数人は、少し足を止め、彼女の歌声を聴いていた。
 でも、きちんと聴こうという感じではなく、
「へぇ。」という感じで、通り過ぎていく。
45 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時52分08秒
 あたしの視覚は、彼女のいる風景しか見えていなかった。
 セピア色のモノクロの世界に、彼女のまわりだけが色づいて見えた。
 あたしの耳は、彼女の歌声と、それを包むような優しいギターの音色しか聞こえなかった。
 通り過ぎていく車やバイクの音は、かき消されていた。
 マイクで歌っているわけじゃないのに、その音は鮮明で。
 あたしの心に染み込んでいくように、ゆっくり溶けていった。
46 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時53分08秒
 彼女が伝えたいことが、痛いほど伝わってくる。
 それは、優しく囁くような歌声とは正反対に、心を締めつけた。
 彼女の歌を聴いていると、どこかが壊れてしまうのではないかと思うくらい、
 心が震えていた。
 これが、共鳴するということなのかな・・・。
47 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時53分47秒

 1曲目の演奏が終わる。
 彼女は目を開け、そっと顔をあげた。
 彼女のまわりには、誰もいない。
 あたしは、そっと拍手をした。
 彼女は気づかないように、2曲目の演奏をはじめた。
48 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時54分24秒

 こうして、もどかしい距離のまま、あたしは彼女が演奏を終えるまで、
 じっとこの場所に座って彼女を見つめ続けていた。
 集まる人だかりで彼女の姿が見えなくなったら、あたしは全神経を耳に集中させた。
 最後には、かなりの数の人が、彼女の演奏を聞いていた。
 あたしはちょっと嬉しくなった。
 こうやって彼女の歌を聴いてくれる人がいる、ということが、純粋に嬉しかった。
49 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時55分14秒

 道の反対側、ほんの5メートルくらいにいる彼女に、
 あたしは最後まで声をかけることも、近づくこともできなかった。
 彼女のことが知りたいはずなのに、何もすることができなかった。
 ギターをケースにしまい、まわりに落ちたゴミを拾う彼女の姿を、あたしはじっと見つめていた。
 道を隔てた反対側が、まるで彼女の聖域のように感じた。
 あたしは踏み入ることができない、そんな空気があった。
 そう感じていたのは、多分あたしだけなんだろうけど・・・。
50 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時56分04秒

 彼女は大きく伸びをして、ギターケースを抱えた。
 そして、あたしと目が合った。
 最初に目が合ったときと同じように、不思議そうな顔をして、小さく一礼した。
 「演奏聞いてくれて、ありがとう。」多分、そんな感じだと思う。
 あたしも、つられてペコリと頭を下げた。
 彼女はにっこり笑って、帰っていった。
51 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)22時56分51秒

 そうして、たいした収穫もなく、衝撃の一目惚れから2日目は過ぎていった。
 帰ってからはドッと疲れて、何もする気が起きなかった。
 明日もバイトだ。
 明日も、あの人、あそこで歌ってるのかな。
 また、会えるかな・・・。


52 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月09日(月)23時03分52秒
今日は、このへんまでです。

>>32
レスありがとうございます。
とりあえず、カプ話ですので、わかる人にはわかる!というのが
念頭にあったので、あえてこうしました。
多分、意味がわかんなかった読者の方も、だいたいは
誰のことだか、わかってきたんじゃないかと。
とりあえず、楽しんで読んでください。
ほいで、よかったら、感想を下さい、お願いします。

よっすぃーの、切なくなる気持ちとか、情景とか、
皆さんに伝わっているといいのですが……。

感想、もっとどんどんください。よろしくお願いします!
53 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月11日(水)22時42分28秒
 あの子、ずっと聞いてくれてたんかな?
 それにしては、なんか様子おかしかったな。
 私が軽く会釈しただけやのに、何であんなに真っ赤になったんやろ?
 何か、言いたいこと、あったんやろか?
 ・・・なぁジェシイ、なんやったんやろ?
 て、あんたがわかってて私だけわかっとらんのやったら、そら、ちっと悲しいわ。
54 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月11日(水)22時43分19秒
 私は帰りがけ、いつものようにコンビニでお弁当買って帰った。
 なんか、わびしいわー。
 何が悲しゅーて、えぇ年頃のおねーさんが、夕飯コンビニ弁当なんやろ?
 あーあ、えぇ女にはまだまだ遠いわ。

55 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月11日(水)22時43分56秒
 最近、いつも悩んでる。
 オーディションとか、色々考え過ぎて、冷静に状況が把握できなくて。
 話す言葉も、必死にアピールしようとしてたのに、どこか弱気で・・・。
 正直、笑うのも、だるくなってた。
 失敗ばっかり続いて、ほんと自信すらなくなってた。
56 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月11日(水)22時44分47秒
 明日は、頑張らんと・・・。
「明日は久々に路上やないライブやで。ちゃんとしたステージやで。一緒に頑張ろな。」
 ジェシイをシリコンフロスで拭きながら、私はぼんやりさっきの子のことを考えていた。
 高校生くらいなんかな。
 なんか、顔立ちはすごく綺麗なのに、ボーイッシュなカッコして。
 でも、あーゆー綺麗な子は何着ても似合うんやろな。
 あーあ、私も綺麗な子っちゅーのに生まれてみたかったわ。
 あの子、笑顔かわいかったなー。真っ赤になっちゃって。
57 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月11日(水)22時45分43秒
 そいえば、最近、笑ってないな。
 ほんとは私もあんな風に、自然に笑うこと、できるはずなんやけど・・・。

 あの子、また来てくれるかな。
 私の歌、聞いてくれるかな。


58 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月11日(水)22時46分36秒
 その日のステージは、私が未だかつて経験したことないくらい、最悪だった。
 なんで頭、真っ白になったんやろ。
 ステージで一人、わけのわからない不安に潰されそうになってた。
 泣きだしてしまいそうやった。
 今すぐこの場から逃げ出したかった。
 ステージを降りて、私はひとり、楽屋で子供みたいに泣いた。
 自分のことが、どんどん嫌いになっていった。
 ジェシイ、あんたは悪くない。悪いのは、私・・・。
 このまま消えちゃおうかな、なんて、子供じみた事を考えてみたり。
 疲れた体を引きずるように、私は家に着いた。
 そのままベッドにゴロンと横になり、その場から動く気が失せた。



59 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月11日(水)22時47分44秒
はい、というわけで、だいぶ話が進みました。
今日はこのへんで……。
また近いうちに更新します。

何でもいいんで、レスお願いします。
「読んでますよ!」だけでもいいので……。
60 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)11時57分07秒
読んでますよ!!
謎のストリートミュージシャン
誰なんだぁ〜〜〜〜〜
きになるぅ〜〜〜〜〜
61 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月12日(木)15時04分49秒
読んでるけど雰囲気崩したくないからとか、
ROM専ってこともあるだろうし、
書きこまないって事もありますよ。

一番上にあるんだし、
レス欲しさにあまりガツガツしないで、
このままの雰囲気で頑張ってください。

私は楽しみにしてますんで。
62 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月12日(木)23時17分00秒
>60
もうちょっとで出てきます。
もうちょっとワクワクしながら読んでいただけると
ありがたいです(笑)。
カキコありがとです!

>61
最近の板って、レスつかないんですねぇ。
なんか、寂しくなっちゃいました。
反応ないのは、ぶっちゃけ不安になりますよ。
読んでるんか読んでないんか、わかんないし。
とりあえず、この調子で最後までグイグイいきます。
よろしくお願いします!

次は、明日の夜にでも……。
63 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月13日(金)22時15分05秒
-------------------------------------------------
「ねぇ、どうしたの?」
 バイトに出勤して、ごっちんにいきなりこう言われた。
「へ?何が?」
「一昨日の夜から、明らかにおかしいよ?何かあったでしょ。」
 ごっちんはあたしに疑惑の目を向ける。
「おかしくないって。」
 ごっちんは無言であたしのTシャツの襟を掴んだ。
「後ろ前、逆。」
 はぁ!?
 あ、なんで首んとこにタグついてるんだよ!
 うわ、恥ずかしい!
「ほんとだ、直してくる!」
 あたしは慌ててトイレに駆け込む。
64 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月13日(金)22時15分42秒

「あのさ、ほんとに何があったの?」
 トイレの個室の外から、ごっちんが話し掛けてきた。
「んー、別に大した事じゃないよ。」
 ごっちんの「ふぅん」と、納得していないような声が聞こえた。
 しばらくの沈黙。
 あたしはごっちんが外に待機してるから、着替えが終わったけど外に出づらい。
「もしかして、よっすぃー、恋してる?」
 ごっちんの一言に、あたしの顔は熱くなっていった。
 あたしの黙ってる様子に、ごっちんは何かを察したようだった。
「図星?」
 あたしは観念して、小さく「うん」と言った。
 やっぱ、ごっちんには隠し事できないや。
65 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月13日(金)22時16分13秒
「マジで!?マジなの!?」
 ドアの外でごっちん、狂喜乱舞して暴れてる・・・。
 あたしが恋するって、そんなに意外かぃ!
「いやーん、ついによっすぃーにも彼氏かぁ!かっこいいの?ごとーにも紹介してくれるよね!」
「は?」
「え!?」
 また訪れた沈黙。
 たぶん、トイレの中も外も、「?」マークが飛びかってる気がする。
「よっすぃー、彼氏できたんじゃ、ないの?」
 ごっちんの問い掛けに、「違うよ。」と答えた。
66 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月13日(金)22時17分35秒
 ごっちんは何事か考えてるようだった。
「え?もしかして、女の子なの?」
 ・・・当たりなんだけど。
 なんか、答えづらいな・・・。
 てゆーか、なんで男に片思いしてるとか、思わないかな・・・。
「マジ!?」
「おかしいかな、女の人に恋しちゃ…。」
 胸が締め付けられるように、きゅーっと熱くなる。
 ごっちんは急におとなしくなった。
 やっぱ、あたしおかしいよね・・・。
「おかしくないよ。ごとーの好きな人だって、女の子だよ。」
67 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月13日(金)22時18分05秒
「は!?マジ?」
 そいや、ごっちんの色恋沙汰って、聞いたことなかったなぁ。
 そうか、相手は女の子なんだ。
 ごっちんに彼女か・・・。
 なんか想像しづらい気もするし、容易に想像できる気もする。
「ごとーね、片思い、なんだ。」
 ごっちんの小さなつぶやき。
68 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月13日(金)22時18分44秒
「あたしも、片思いなんだ。向こうもあたしも、お互いを全く知らないんだけど。最近、なんか、たえずぼんやりその人の事考えてるんだよね。」
 苦しい胸の内を、あたしはごっちんに全て話した。
 一昨日、衝撃的に一目惚れしたこと。
 昨日、会いに行ったけど、体が動かなかったこと。
 自分が彼女の歌に、どれだけ共鳴していたかってこと。
 あたしはごっちんに話して、いくぶん気持ちが楽になったような気がした。
69 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月13日(金)22時19分16秒
「あ、後藤いた!なにサボってんのよ!」
 圭ちゃんの声にびっくりして、あたしもトイレの個室から飛び出す。
「吉澤も!探しちゃったじゃない!あんたたち、なにやってんのよ!」
 あたしたちは、圭ちゃんにこってりしぼられた。
 でも、怒られている最中も、あたしの頭の中には彼女の歌声が響いていた。
 今日も、会いたいな・・・。
70 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月13日(金)22時21分58秒
はい、というわけで、今日の更新はここまでです。
今日のMステでごっちんに萌えまくってたのは内緒です(笑)。
次の更新は、また近いうちに……。
71 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時14分43秒
-------------------------------------------------

 もう嫌やった。
 ものすっごい無気力で、動く気にもなれんかった。
72 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時16分10秒
 歌うの、諦めれば楽になれる。
 わかってても、辞められへん。だって、歌うの好きやもん。
 また、みじめな思いなんて、したくない・・・。
 ステージで、頭真っ白んなって、どうすることもできなかったことを思い出す。
 どうして、緊張しちゃうんやろ・・・。
 それでも、そういう経験をするうちに、自分がステップアップできたら。
 そう思ったら、諦めることなんか、できひんやん・・・。

73 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時16分54秒

 今日、行くのやめよかな。
 別に、誰が待ってるわけやなし。

74 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時17分43秒
 でも、もし昨日の子が待ってたとしたら?
 んなワケないって思てても、なんかひっかかる。
 あの子、最初から最後まで、はじめて聴いてくれてた。
 ・・・ただ待ち合わせしてんのやったら?
 それだったにしても、あそこで聴いててくれたもんなぁ。
 なんであの子が気になるのか、解らなかった。
 いまの私には、冷静に状況を判断できるような判断力、なかった。
 そのせいかも知らんな・・・。
 何でもいい方に考えよう。ネガティブになったら、そこで終わり。
 まだ、終わらせたくない・・・。

75 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時18分56秒

 私はちらりと時計を見て、ベッドから起き上がった。

 行かなきゃ・・・。

76 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時20分11秒
「ジェシイ、行くで。」
 ジェシイの入ったケースを抱えて、私は家を出た。
 歌うために。夢を現実にしていくために。


77 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時24分55秒
 やっぱり、あの子は私の予想通り、あそこにいた。
 昨日と同じように、反対側の花壇に座って。
 じっとこっちを見ていた。
 やっぱり、私の歌を聞いててくれたんや。
 じゃあ、ファン第一号?
 なんて、調子のいい事を考えて、また鬱になる。
 んなワケないやん!
 でも、現にあの子はあそこにいて、私を見てるし。
 よし、あの子のために歌おう。
 もし、ファンやなくても、ファンにさせてやるくらいの勢いで。
 あの子がこっちに来るまで、私は歌おう。

78 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時25分36秒

 ん?なんやジェシイ?
 あの子はジェシイのファン?
 んなワケあるかい!

 一人でジェシイにツッコミつつ、ライブの準備をはじめる。
79 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時26分12秒
 やっぱり、あの子は花壇に座ったまんま、こっち見てる。
 なんで傍に寄ってけーへんの?
 あの子の反応が知りたくて、私は手を振った。
 驚いたように、あの子は真っ赤にして、恥ずかしそうに手を振り返した。

 へへ、かわいいな。

 なんか、純粋って感じ。
 私の美貌に、惚れたか?
 ・・・て、言ってて虚しくなってきたわ。

80 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時26分51秒
「今日も、頑張ろな。」
 チューニング中も、ジェシイはご機嫌らしく、いい音を奏でた。
 なんでそんなご機嫌なん?
 わからんわ・・・。

81 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時27分37秒
「それでは、今日の一曲目、聞いてください。」
 私は目を閉じた。
 自分とジェシイだけの世界。
 ジェシイの音にあわせて、私は歌う。
 あの子に、届くように。
 みんなに、届くように。

82 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時29分12秒
 今日はなんだかいつもと違っていた。
 目を閉じていても、ざわめきで人が見ていることがわかった。
 なんか、いつもより多いぞ。
 ギャラリーの多いことに多少ビビりつつ、私は歌うのをやめなかった。

83 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時30分00秒


 5曲ほど歌ったあと、ちょっとブレイク。
 歌うんは、体力が要る。
 私はふぅ、と息をついた。
 男の子がコーヒー買ってきて、差し入れてくれる。
「昼間のライブ、見てました!」
「あ、そうなん?」
 あんなん見られて、恥ずかしいわ。
 最低最悪のライブやったのに・・・。
 ブレイクしてると、みんなわらわら去っていくのに、今日は昼間のステージの影響なのか、みんな留まっていてくれた。
84 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時30分55秒
「頑張ってるなぁって思って。あの、昼間のライブで、一体何があったんですか?なんでいきなり歌うのやめちゃったんですか?」
 男の子は、にこやかな笑顔でそう言った。
 私は返す言葉が見つからなかった。
 男の子はにこやかに、私を追い詰める。
「僕、ファンになっちゃいました。」
「何で?」
 あんな無惨なステージを見て、どうしてファンになれんねん。
 あんな惨めな思いしたライブで、あんた何を見てたっちゅーねん。
「何でって、かわいいし、なんか応援したくなって。」
85 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時32分07秒

 ・・・逃げ出したくなった。
 もし、ここにいる人が、みんなあの最悪なステージを見て集まっているのだとしたら。
 恥ずかしさに、この場から消えてしまいたかった。
 なんで、あんなもんで、ここまで人が集まるんや?
 いままで、地道にここで歌ってたのは、何やったの?
 いろんな人に聴いて貰いたい、その気持ちは変わらへん。
 でも、なんで・・・。
「可愛いかったら、誰でも応援すんの?」
 男の子は「いや・・・。」と言って、黙ってしまった。
 せっかくのファンやというのに。
 私、なんかすごく嫌な女になっとる。
 自分の中で納得いかない事があるだけで、人の気持ち踏みにじっとる。

86 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時33分04秒
 その時だった。
 ポツポツと、地面に雨水が垂れてきて。
 ザーっと雨が降りはじめた。
 人々は、駆け足で近くのビルなどに雨宿りのため、立ち去っていく。
 私も急いでジェシイをケースに仕舞い込んだ。

 なんか、この雨、嫌やなかった。
 自分の中の嫌な部分を、洗い流してくれるようやった。
 私は雨に打たれたまま、あたりを見回した。
 みんな小走りに雨を避けていく。
87 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時33分49秒
 私は雨に打たれていた。
 その瞬間の思いを洗い流すかの様に、私は雨に打たれた。
 冷たくはなかった。
 優しく暖かい、涙ような雨だった。
 すがすがしくもあった。
 この雨の匂いが好きだった。
 今まで抱いていた不満や不安ごと、雨に流されていくようだった。
88 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時34分33秒
 顔をあげると、あの子がいた。
 あの子もズブ濡れで、あたしの目の前に立っていた。

89 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月15日(日)21時36分46秒
-------------------------------------------------
はい、というわけで、今日の更新はこのくらいで。
次は吉澤視点です。
やっと佳境に入ってきた感じです。
あと5〜6回くらいの更新で、終了です。
もうしばらく、おつき合いくださいな。
90 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月17日(火)22時17分33秒
-------------------------------------------------
 バイトが終わると、さっさと帰ろうと、あたしは「お先!」と言い、タイムカードを押した。
「待って!」
 呼び止めるごっちんに、あたしは振り向いた。
「今日も行くの?その人のとこ。」
 あたしは「うん」とだけ答えた。
 ごっちんは「そっか」と言ったきり、しばらく黙っていた。
 あたしがもどかしくなった頃、ごっちんは淋しそうに微笑んだ。
「頑張ってね。」
 あたしは「ありがと」って言って、彼女のいる、あの場所へ向かった。
 今日も、会えるといいんだけど・・・。
91 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月17日(火)22時18分20秒
 やはり、あの場所には誰もいなかった。
 あたしは昨日と同じく花壇に座り、あの人が来るのを待っていた。
 しばらくすると、彼女がやってきた。
 昨日と同じように、彼女はギターケースを大事そうに抱えて現れた。
 彼女はあたしのほうをちらりと見て、ケースからギターを取り出した。
 チューニングを済ませると、昨日と同じように
 スケッチブックを広げ、ギターケースに立て掛けた。
92 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月17日(火)22時18分59秒

 顔をあげた彼女が、不意にあたしに向かって手を振った。

 正直、焦った。

 彼女の片隅に存在を許されたようで、嬉しかった。
 あたしはめっちゃ照れてたけど、手を振って彼女に応えた。
 彼女はクスっと笑って、ギターのチューニングに取りかかった。
 1本1本、愛おしそうにチューニングをする彼女を見ていると、あたしはあのギターになりたかった。
 彼女の傍で、彼女に抱きしめられながら、一緒に音を奏でる。
 なんか、ギターが羨ましい。
 やべ、あたし、ギターに嫉妬してるよ。

93 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月17日(火)22時19分52秒
「それでは、今日の一曲目、聞いてください。」
 まわりに誰もいないせいか、その言葉はあたしに向けられたように感じた。
 彼女は目を閉じる。
 ギターの優しい音色に合わせて、彼女は音を奏ではじめる。
 美しく、優しく、そして切なくなるようなメロディ。
 彼女の胸にこめられた想い。
 あたしの中に染み込むように、その曲が入ってくる。
 あたしも、彼女のように目を閉じ、彼女の歌声に聞き入っていた。
94 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月17日(火)22時21分07秒
 彼女のまわりには、急に人が集まりはじめた。
 なんだか、様子が昨日までとは違っていた。
 まばらに人が集まっていたのに、今日は彼女が歌いはじめた途端、人だかりができた。
 なんで?
 なんだか、急に彼女が遠くに行ってしまうような感覚に見舞われた。
 やっぱり、彼女は自分とは違う世界の人なのかな・・・。
 芸能人みたいに、なってしまうんだろうか・・・。
 あたしが話し掛けることなんて、無理な気がしていた。
 それでも、この場を動くことができなかった。
95 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月17日(火)22時22分11秒
 ちょうど5曲目が終わったところで、彼女のまわりは人だかりになってしまっていた。
 あの人は、紙袋を手にする、いかにもヲタクっぽい男の子に話し掛けられてた。
 どんな会話をしているのか、ここからじゃ聞こえない。
 そわそわと気になって、必死に立ち上がろうとしていた。
 足に力を込めたけど、やっぱりビクとも動かなくて・・・。

96 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月17日(火)22時23分10秒
 その時、ポツリポツリと、地面に水滴が広がる。
 あたしは空を見上げた。
 夕闇が突如として真っ暗になり、黒い雲があたりを立ちこめる。
 あたしの頬に雫が落ちる。
 その雨垂れを体に受けるたび、どこか体が軽くなったような気がした。
 彼女を見ると、もうまわりには誰もいない。
 でも、彼女はギターをケースにしまうと、そのまま雨に打たれていた。
 すぐに、全身がズブ濡れになった。
 でも、その雨は暖かく、そして優しかった。
 何かの呪縛を解き放つように、雨は、あたしを優しく打った。
 彼女も、その場所を動かなかった。
 雨の中、あたしと彼女、二人だけになった。

97 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月17日(火)22時23分45秒

 立ち上がろう。

 足先に力を込める。
 よし、立ち上がった。
 雨に濡れて、ヒートしていた心臓が弛緩するように、ゆるやかに音をたてる。
 あたしは大きく深呼吸して、彼女の前に踏み出した。
 一歩、一歩・・・・・・。

98 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月17日(火)22時24分43秒
 あたしは彼女の前に立つ。
 しばらくの静寂が、あたりを支配する。
 彼女はあたしに気付いて、そっと顔をあげる。
 あたしは、何て話しかけたらいいのか、言葉が見つからなかった。
「・・・ギター、濡れちゃいますよ?」
 やっと出てきた言葉は、全く関係のない事だった。
「あ、そうやね・・・。」
 そう言って、彼女は笑った。


99 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月17日(火)22時29分18秒
-------------------------------------------------
今日の更新は、ここまでです。
えーと、残り3回ほどで、連載終了予定です。

次からは、怒濤のように視点が入れ代わる予定です。
わけわかんなくなんないでください(笑)。先に言っておきますね。
100 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時00分22秒
とりあえず、100ゲト!

では、続きイキマス。
101 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時01分28秒
-------------------------------------------------

「・・・ギター、濡れちゃいますよ?」
 あの子から発せられた声は、あたしの予想を裏切った。
 もっと、低い声なんだと、勝手に想像してた。
 高く、澄んだ声。
 あぁ、この子も、女の子なんやな・・・。
「あ、そうやね・・・。」
 ふと、ジェシイのケースに目をやる。
 あかん、ジェシイもズブ濡れやん・・・。
 でもな、ジェシイ、ゴメン。
 私、この場、離れられへん・・・。

102 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時02分39秒
「ずっと、聞いててくれたん?」
「・・・ハイ。」
 照れくさそうに笑う。
 それにつられて、私も笑ってしまった。
「ありがと・・・。」
 なんか、それだけ言ったら、急に胸にこみあげるものがきて・・・。

103 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時03分25秒
 今、雨が降ってて、よかった。
 泣いてるの、わからへんのやろな・・・。
「・・・私な、自信なかってん・・・。」
 私の目の前の子は、首を横に振った。

「大丈夫。・・・大丈夫ですよ。」
 この子、泣いてるのん?
 なんで?
 なんでこの子が、泣くの?
「あたしの胸には、・・・ちゃんと届きましたから。」


104 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時05分42秒
-------------------------------------------------


「ずっと、聞いててくれたん?」
 彼女の問いに、あたしはなぜか、自信を持って答えることができた。
「ハイ。」
 でも、言っててすごく恥ずかしくなって。
 ・・・あぁ、なんか、会話してるよあたし。
「ありがと・・・。」
 彼女はそれだけ言うと、キュっと目を閉じた。

105 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時06分26秒
 雨が降ってたけど、彼女の頬を伝う涙を感じた。
「・・・私な、自信なかってん・・・。」
 なんで?
 なんでそんなコト言うの?
 あなたの歌、あたしの心にちゃんと届いてるんですよ!?
 あたし、こんなに感動したことなんて、今までなかったのに・・・。
 ・・・言いたいことはいっぱいあったけど、なんとか言葉にできたのは、たった一言だった。
「大丈夫。・・・大丈夫ですよ。」
 伝えたかった事、伝わったかな・・・。
 あたしのキモチ・・・。
 なんで、言えないんだろ。
 どうして、言葉にならないんだろ。
 あたしは胸が苦しくなって、そしたら、涙がこぼれてきた。
「あたしの胸には、・・・ちゃんと届きましたから。」
106 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時07分22秒
-------------------------------------------------

「そっか。・・・ありがと。」
 私はそっと立ち上がり、この子の両手をギュっと握った。
「ありがと。」
 何度言っても足りないくらい、ありがとうって言いたかった。
 言葉にするのも煩わしいくらい、感謝してた。
 私、まだ歌えるよ。
 私、まだ諦めないよ。
107 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時08分01秒
-------------------------------------------------

「そっか。・・・ありがと。」
 そっと握られた掌が、ものすごく熱かった。
「ありがと。」
 彼女は俯いて、そのまま泣き出した。
 どうしていいのか、わからなかった。
 あたしの肩にもたれた彼女を、そっと抱きしめた。

108 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時08分39秒
「えーと、あの・・・。」
 どんくらい、こうしてたのかな。
 少し落ち着いた彼女に、あたしは思いきって聞いてみた。
「大変失礼なんですが、あたし・・・。」
 彼女は両手で顔を拭った。
「・・・どしたん?」
 ・・・どうしよう。
 やっぱ、聞くべきだよね。
「あたし、その・・・、あなたの名前、知らなくて。」
 彼女はクスクス笑い出した。
109 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時09分18秒
 その途端、魔法が解けたみたいに、雨が止んだ。
「そっか・・・。そっか・・・。えーとな。私は、平家みちよ。」
 再び、あたしの手は彼女に包み込まれた。
「あたし、吉澤ひとみ・・・。あなたのファンです。」

 言えた・・・。

「平家さんの歌、大好きです。」
 一番伝えたかったこと、やっと言えた。
 平家さんは、こぼれんばかりの笑顔で、笑ってくれた。

110 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時10分05秒
-------------------------------------------------

 なんか、心にひっかかってるものが、スーっと抜け落ちていく。
 力まで抜けていくようで、立ってられんかった。
 私は彼女の肩にもたれた。
 優しく抱きとめられた。
 ものすごい安堵感があって、私はひとしきり、泣いていた。

111 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時10分41秒
 結構長いこと、私はこの子に抱きしめられていた。
 でも、不意に言われた言葉に、私は顔をあげた。
「えーと、あの・・・。」
 何か、言いづらいことでもあるのかな?
 私はそっと彼女の肩から離れた。
「大変失礼なんですが、あたし・・・。」
 なんやろ。やっぱ、私泣いてたのん、迷惑やったんかな?
 私は両手で涙と雨でぐしゃぐしゃになった顔を拭った。
112 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時16分55秒
「・・・どしたん?」
「あたし、その・・・、あなたの名前、知らなくて。」
 は?
 ・・・。
 ・・・・・・。
 マジかい!
 私はこみあげる笑いを抑えられなかった。
「そっか・・・。そっか・・・。えーとな。私は、平家みちよ。」
113 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時17分36秒
 この子、おもろいなぁ。
 私の名前すら知らないのに、ずっと歌、聴いてくれてたんやね。
 私は、なんか嬉しくて、この子の両手をギュっと握った。
 今までザーザーと降っていた雨も、ようやっと上がった。
「あたし、吉澤ひとみ・・・。あなたのファンです。」
 目を潤ませて、ひとみちゃんは、こう言ってくれた。
 『あなたのファンです』と。
114 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時18分07秒
「平家さんの歌、大好きです。」
 もう一度、泣き出しそうやった。
 すごく嬉しかった。
 でも、もう泣いたりしない。
 私は、忘れていた笑顔を取り戻したように、ひとみちゃんに笑いかけた。
115 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時18分45秒
「なんか、お腹減ったなぁ。みっちゃん奢ったるから、何か食べいこか?」
 ひとみちゃんは「ハイ。」って言って、嬉しそうに笑った。
 私はビショビショに濡れたジェシイを抱えた。
「あんな、この子、ジェシイてゆーてな、私の一生の宝物やねん。」
 ジェシイの入ったケースから、水が滴り落ちる。
「でもな、今日、もいっこ、一生の宝物ができたわ。」
 ひとみちゃんは不思議そうに、「なんですか?」って言った。
116 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時21分53秒
「ファン第一号ができた、って事やね。」
 ひとみちゃんは目を丸くして、驚いてた。
「あたしが、ファン第一号!?」
 そうや・・・。
 いっつも失敗ばっかりで。
 こんな熱心に私の歌を聴いてくれてた人は、おらんかったもん。
 だから、ひとみちゃんは、私の大事な宝物。
 ずーっとずーっと、ファンでいて欲しいな。
117 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)21時23分25秒
-------------------------------------------------

というわけで、今まで引っ張ってましたが
みっちゃんでした。
もうちょっとで終わります。
最後までおつき合いください。
118 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月19日(木)23時43分53秒
-------------------------------------------------
「なんか、お腹減っったなぁ。みっちゃん奢ったるから、何か食べいこか?」
 え?いいんですか!?
 あたしは「ハイ。」って元気よく返事した。
 平家さんは大事そうに、ビショ濡れのギターケースを抱えた。
「あんな、この子、ジェシイてゆーてな、私の一生の宝物やねん。」
 宝物、かぁ。
 またギターに嫉妬しちゃいそうだな・・・。
「でもな、今日、もいっこ、一生の宝物ができたわ。」
 今日できた宝物?
 一体、なんだろ?
119 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月20日(金)08時44分56秒
「なんですか?」
「ファン第一号ができた、って事やね。」
 それって・・・。
 もしかして、あたしのコト!?
「あたしが、ファン第一号!?」
 なんか、素頓狂な声をあげた気がする・・・。
 平家さんは、笑って頷いた。
 そっか、あたし、平家さんのファン第一号かぁ。
120 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月20日(金)08時46分03秒
 なんか、嬉しいけど、でも、やっぱりもっと大事な事を、ついでに言ってみよう。
 言うだけなら・・・。
 今なら、何を言っても許される、そんな感じだから。
 あたし、思いきって言ってみた。

「平家さん、大好きです。」


Fin.
121 名前:名無し作者 投稿日:2003年06月20日(金)08時49分18秒
なんか、最後あとちょっとだと思うと
ついイライラしてしまい、一気に更新してしまいました。
これで終わりです。
つまんない作品におつき合いいただきまして
ありがとうございました。
よかったら、ぜひ感想聞かせてください。

122 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月09日(土)01時46分13秒
みちよしいいですね。平家さん相手だとよっすぃが幼くかわいく見えます。
続きがあれば読みたいです。

Converted by dat2html.pl 0.1