続・何処までも深く、深く、暗黒に
- 1 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時05分55秒
1
春は割と早くやって来た。卒業式で誰も泣かなかったのも、ほとんどの友人がエスカレ
ーター式に同じ学校へ上がる事や、悲しみより、これからその瞳に写るであろう新しい
世界に、限りない期待を抱かずにはいられなかったからだ。それがたとえ猛然とした物
であっても想像だけがどんどん膨らんでいったんだ。
窓辺で波を作っているのは年度が替わったのに相まって買い換えた、新品の黄色のカー
テン。以前の薄紫色よりずっと部屋が明るくなったと思う。
あたしはいつもより丹念にメイクを施すと、一週間前に送られて来た真新しい、少し大
きめでだぶついた制服に着替える。なんだか体中がチクチクとしてくすぐったかった。
鏡で一回全身を確認すると、鞄を肩に掛けて部屋を出ようとドアノブを握る。
ふと、机の上にぽつんと置いてある使い古してぺしゃんこになったランドセルに視線を
送る。何だかんだ言って6年間お世話になったんだよね。懐かしさと切なさで胸が一杯
になって溢れかえりそうになるのを押さえつつ、握ったノブを回した。
- 2 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時07分50秒
階段を下りた所で、まだパジャマ姿の弟に「ババァ」と言われて、背中に一発蹴りを
入れると、うずくまる弟を後に、その先のおねぇちゃんの部屋へ急いだ。
ノックもせずに堂々と扉を開けると、まだおねぇちゃんは布団を頭まで被っていた。
これがおねぇちゃんの眠り方なんだ。
「おねぇちゃん、スプレー貸して」
と、形だけ声を掛けておくと、漫画やら化粧品などが雑然と積み上げられた机に虚
しく転がっているスプレー缶を拾う。
そしてその缶を上下に振りながら、机の引き出しを開けて相変わらず趣味を疑う
ようなピンクのヒョウ柄縁の鏡を取り出して自分の顔を映す。スプレー缶のコロコロ
と言う音が部屋中に響き渡っていたが、布団はもぞもぞと動くだけで起き上がる気配
は無かった。
- 3 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時09分56秒
- 鏡の中の自分、眠気の取れていないとろんとした瞳、コンプレックスの大
きな鼻、気合い入れて抜きすぎた細すぎる眉、そして真っ黒でツヤある自慢
の髪の毛。あたしはそれに一気にスプレーした。
缶から発する粉っぽい煙が鼻孔をくすぐり、くしゃみを連発してしまった。
部屋から出ると、なるべく音を立てずに靴下でフローリングの床を滑るように歩く。
居間に出ると、台所から洗い物の音がした。ここからでも母さんの後ろ姿がちゃん
と見える。
「あら、真希。もう行くの?」
母さんは物音に気づいたのか後ろを振り返らずにそう言った。
「うん、じゃあ行ってくる」
「へ?もう行くの?」
驚いたような声を出したけど、やっぱり振り返らない。
「うん」
「そう。母さん今日は出れないからね?どうしても仕事」
「分かってる」
母さんの言葉を遮って、あたしは小走りで玄関に向かった。
- 4 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時12分15秒
- マフラーしてくれば良かったかな。玄関から外へ出た瞬間の感想はそんな感じかな。
ただ、母さんの言葉を遮ってまで外へ出たのに、今更戻るのは後ろめたい物があったし、
何より、せっかく髪を染めたのにここでバレるような野暮な事はしたくなかった。
マフラーを諦めてあたしはポケットに手をつっこむと、まだ肌寒さの残るアスファルト
をやや俯き加減で歩き出き始める。
透き通るような高い青空には、薄い雲が漂っていて、ひんやりとした辺りには朝霜を
含んだ空気がぼんやりと漂っていた。
ごく平凡な住宅に囲まれた細い道路には、あたしの他にもぽつぽつと人が歩いている。
黒光りした革の鞄を片手にいそいそと歩くサラリーマンや、電柱の下で長いあくびを
かましている黒猫は、すでに見慣れた風景と化している。
そしてもう一人。いつも先の十字路で別れてしまうランドセルの子。
あれ?あの子いないや。今日は遅刻かな。
- 5 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時13分57秒
そんな事を思っていると、すぐに十字路に入り、いつものように右に曲がる。
ここまでは小学校の時と同じ道筋だ。けれど今度から“あの坂”を昇らな
きゃいけないんだ。努力嫌いなあたしにはあの急な坂は邪魔者の何者でも無い。
そして、やっとその坂の近くまで差し掛かった時。
駄菓子屋の前に、あたしと同じ制服を身にまとった子がひたすら腕時計を確かめながら
ポツンと立っていた。あたしの瞳がその姿を捕らえると、自然と口元が緩む。
次の瞬間、あたしは大きく手を振って声を上げた。
「よっすぃ〜!」
その声に、よっすぃ〜は少し驚いたように目をまん丸くしながら振り返った。
しかしすぐに声の主があたしだと言う事に気がつくと、眉を顰めて。
「遅い」
と、一言低い声で言うと、こちらに顔を向ける。
「―――――!?」
- 6 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時15分07秒
- あたしの変化に気づいたよっすぃ〜は、漫画のキャラみたいにコミカルな表情をになる。
その顔はまさしく爆笑物で、ついついお腹を抱えて笑ってしまった。
「あっははは。何その顔っ!」
よっすぃ〜はあたしの頭らへんに指を指して、あんぐりと口を開けて。
「ちょっと、入学早々から目ぇつけられたいの?」
「だってぇ。こっちの方が可愛いくない?」
「可愛くない?じゃなくてぇ!さすがにしょっぱなからその色はヤバくね?って言ってるの!」
「しょっぱなだから良いんじゃん。人間、第一印象が大切なの」
「…あんたにまともな返答を求めるあたしが馬鹿だったよ」
よっすぃ〜とは小学校の時からの親友だ。
詳しく言うとあたしが小3の時に、埼玉から引っ越して来たんだ。
今はどちらかと言うと外見はクールで格好いいんだけど、案外天然で面白い子で、けど、
実際は結構な人見知りだった。
- 7 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時16分33秒
- 最初は絡みにくいなって正直思っていて、実は小5になるまで必要以上の会話はしないで
いた。それが今ではお泊まりまでしてしまうような仲で。そんな仲になれたのは、結構簡
単なキッカケから始まったんだ。それは調理実習の時間に起こった出来事。
たまたま同じ班になったあたしとよっすぃ〜は野菜切り係りになった。
絶対に指を切るまいと、慎重にじゃがいもと睨めっこをしながら包丁を握っている人の横
で、そんなのおかまい無しに片手で包丁を握ってざくざくと歯切れの良い音を立てて切り
続けるよっすぃ〜を見てしまった。しかも皮も剥かずに。
それに肉団子だってボールに入った肉全部丸めて鍋に入れようとするし、最後の皿洗いも
皿にそのまま洗剤をかけて洗うし、もしかしてこの子面白いかもってつくづく思ったっけ。
そう、それからあたしはよっすぃ〜に思い切って声をかけたんだ。
話てみると案外気の合う子で、すぐに仲良くなっていった。
よく2人で、どうして最初から仲良くなれなかったんだろうねって言って、後から
不思議がってたっけ。
- 8 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時18分56秒
2人して他愛の無い会話をしながら歩いていると、嫌だった坂道をいつの間にか
昇り終えていた。あたし達の目の前には同じように少し大きめの制服を身にまと
った生徒達の後ろ姿があった。
高級マンションの角を曲がると、すぐに正門が見えて来た。
「うわぁー・・・なんか緊張してきたぁ」
よっすぃ〜が珍しく弱々しい声を上げた。
あたしはそんな彼女の様子に一回笑いそうになると、背中を軽く叩いてみせた。
「なぁに、ごっちん」
「らしくないぞ、吉澤ぁ」
あたしの言葉によっすぃ〜はキョトンとした顔をすると、すぐに照れたように口を尖らせて。
「分かってるよ、ちょっとふざけて言っただけじゃん」
「ホントかよ」
あたりまえじゃんと言って、あたしの腹を肘でつつく。
校門の前でじゃれ合うあたし達を他の生徒達が、訝しげな目で見ていたけど、気に
しなかった。
- 9 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時21分20秒
- 校庭の広さには我ながら驚いた。あるいわあたしの通っていた小学校が狭すぎ
ただけなのか、今となってはどうでもいい事だけど。
学校を取り囲むように、桜の花を満開に生い茂らせた樹達が誇らしげにそびえ立つ。
風が吹く度に、花びらが紙吹雪のように辺り一帯に降り注ぎ、あたし達の制服に
まとわりついた。
『新入生は体育館前に集合してください』
校内の何処かから、女性の無機質な声が響き渡った。
あたし達は他の生徒達の向かう方向に取りあえず合わせる事にした。
あたしは指定された列に並ぶと、一呼吸置いた。よっすぃ〜とはかなり
離れてしまったなぁ。そんな事を思い、あたしは視線だけでよっすぃ〜の姿を探した。
しかし、期待していた姿は生憎見つけだす事は出来なかった。諦めたあたしは
何気なく他の生徒達の様子を伺う。みんな期待と不安が入り交じったような
表情を、見事に再現しているのに、少しおかしくなって自然と口元が緩んだ。
すると、さっきからあたしの目の前に並んでいる子に気づく。彼女は何やら手
のひらに指で何かを書いている。そして飲み込むような動作をした。
- 10 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時23分21秒
- この子かなり緊張してるみたい。たかが中学の入学式にそこまでするほどの物かな、
と正直に思った。
しばらくして、体育館から心地よいピアノのメロディーが聞こえてくる。
あたしは後ろの生徒に押さえるがままに、中へ入って行った。
お決まりの赤い絨毯。入場すると同時に響く、親や上級生達の拍手、シャッターの音。
教師達の偽善的な微笑み。緊張した足取りで進む新入生達。
その時、いきなりあたしの目の前にいた子が、鈍い音と共に瞬間的に消えた。
「へ!?」
驚いたのはあたしだけじゃなく周囲の上級生達や同級生、保護者も驚いた
ような顔をしている。
あたしはまさかと思い、視線を落とした。
「ああ・・・」
自然と哀れむような声を出してしまい、慌てて口をつぐんだ。
その子は思いっきり赤絨毯の上で俯せになっていたんだ。どうやらつまづいて
転んでしまったようで。
「だ、大丈夫?」
上級生達から失笑にも似た溜息が聞こえてくる。
せっかくの晴れ舞台で、そしてこんな大勢の目の前で大恥をかいているだろう
彼女の事を、さすがに笑えず、同情するしかなかった。
- 11 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時24分55秒
- あたしは手を貸してあげると、彼女はよたよたとしながら立ち上がった。
案の定顔は真っ赤で今にも泣きそうに顔を歪めている。
しかし、彼女の事を慰めている暇は無いんだ。何故なら、あたしと彼女が
立ち止まっているせいで、後ろの生徒達も立ち止まったままなんだ。
あたしは項垂れる彼女の腕を引いて、やや早足で座席の方へ向かった。
小声でもう一度大丈夫?と訪ねるが、わずかに頷いただけだった。
それから退屈な校長の話や、PTAとか生徒会とかの挨拶を夢うつつの中で聞いて
(結局寝たけど)すぐに入学式は終わった。
それより、よっすぃ〜とクラスが離れてしまったのが残念だったのと、指定された教室
に入るなり、同級生や担任の視線がかなり痛かった事や、勿論その後、しっかり入学早々
職員室に呼ばれコテコテに説教されるハメになったんだ。まぁ、あらかた覚悟はしてたけどね。
- 12 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時27分19秒
- 先生の説教を適当に聞き流した後、すっかり暗くなってしまったグラウンドを一人歩く。
この時間ならまだ運動系の部活が活動している筈だったが、入学式の為に今日はどこの
部活も休みらしくて、辺りは静まりかえっていた。
ふと、気が付くと正門の方で誰か立っているのが見える。
(よっすぃ〜?)
そう思ったけど、確かメールでは用事があって先帰るって言ってたよね?
あたしは目を細めて見るが暗くてよく見えない。多分誰か待っているんだろうと思い、
すぐに視線を反らしてそのまま通り過ぎようとした。
「あ、あの」
すると、消え入りな声が聞こえた。あたしに向かって言ったのかはよく分からなかった
けどなんとなく振り向いてしまった。
「はい?」
その人はしっかりあたしを見ていた。
「あの、さっきはありがとう」
あたしは一瞬なんの事か分からなかったので、しばらく視線を泳がせていたが、彼女の
弱々しそうな表情と、浅黒い肌を見てやっと思い出した。
そうだ、この子は入学式の時におもいっきり転けてた子だ。
「ううん、別に」
- 13 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時28分41秒
- 人見知りの激しい方のあたしはちょっと素っ気ない言い方をしてしまった。
彼女はあたしの様子に少し戸惑ってしまったように目を泳がせしまう。
「・・・ごめんね、急に。えっと後藤さん」
「んあ?なんであたしの名前知ってんの?」
「同じクラスでしょ?」
「え?」
あたしを上目使いに恨めしそうにじろりと睨んだ。
そっか。あたしと同じ列に並んでたもんね。クラス一緒で当たり前かぁ。
「ああゴメン。気づかなかった」
「はっきり言うね」
彼女は力無く言うと、そのまま目を伏せてしまった。さすがにヤバイなって
思い始めたので一応名前を聞いてみようと思った。
「名前、なんて言うの?」
「石川、梨華」
いしかわりか。特徴のある高い声が確かにそう言った。
これが彼女との正式な出会いだった。
- 14 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時29分11秒
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- 15 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時30分23秒
- 今でも夢に出てくるの―――――
ケータイ越しに消え入りそうな声で、梨華ちゃんは言った。
そんなのあたしだって同じだよ。
簡単に忘れる程、あたしだって馬鹿じゃない。
突き抜けたような青い空と、肌を刺す強い陽の光に、露出した腕を気にしながら
日陰を追って歩く。熱を帯びたグラウンドの砂は、スニーカーを履いているあた
しの足の裏にまで熱が伝わって来るほど、もう本格的に夏はやって来ているんだ。
微かに滲む額の汗を一拭きし、ふと、ケータイを開いて時間を確認すると、とう
に約束の時刻を過ぎていた。あたしは意を決したように校舎の中へ入っていく。
- 16 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時32分49秒
- 外と違って、校舎内はひんやりとしていて心地よかった。
冷たい廊下と左右に押し寄せてくるようなコンクリの壁は、まるで今のあたしに
無言の重圧をかけているようで、自然と鼓動が速まって行くのが分かる。
そうだ、あたしはもう何年もこの空間で生きているんだ。
この不思議な空間の中でずっと、同じ制服身にまとって、同ような髪型でみんな
と机を並べて黒板と睨めっこをして一日を過ごしていた。
そんな中、みんな、毎日ただただ過ぎて行く、とか、平凡な日常から抜け出したい
、とか、まるでテレビや漫画でよく聞くようなセリフをしっかり自分の物にして、
次々と不満を漏らしてたっけ。
あたしも同じだったけど、今思えば随分贅沢な不満だったのかもしれない。
お昼頃、紺野からメールが来た。
たった一言。『2時に学校の美術室へ来て下さい』と何の飾りも無くて、なんとなく
無機質な雰囲気のする文だった。まぁ紺野らしいって言ったらそうだよねぇ。
最近、紺野達が沼について調べ回っている事は梨華ちゃんから聞いて知っていた。
- 17 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時34分05秒
- まさかと思ったけど、等々気づかれちゃったみたいね。
この頃、あたし達の通う学校におかしな事件が起こり始めてる。
子供があの沼で死んでいて。
学校に訪問してきた沼の埋め立て作業員が、5日後に揃って行方不明に。
そしてしばらくしてから辻も行方が分からない。
嫌な予感はもっと前からあった。あの日、あの光景を見てからいつか何か起きる
かもしれないって、ずっとそう思ってた。心の中では絶対違うって何度自分に言
い聞かせたか分からないけど、もうそんな事言ってられる状況じゃない。
『彼女』はそもそも得体の知れない力を持ってたんだ。
沼もこれまでの出来事も全部彼女の仕業だったとしたら、それは確実にあたし達
に近づいてる。あたし達に復讐する為に。
今でも、深く深く残っている、あの光景。
オレンジ色の空が眩しくて、目を細めて見ていたあたし、梨華ちゃんの泣き声、
放心するよっすぃ〜、彼女の残した言葉。
- 18 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時34分57秒
『私達、ずっと友達だよね』
そうだ、彼女に出会ったのはいつ頃だったっけ。
確か、夏になるほんのちょっと手前――――――。
- 19 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時35分37秒
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- 20 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月13日(金)22時39分04秒
- 更新遅れてすみませんでした。
その割には少ないですね・・・ホントすいません。
前スレで保全かけて下さった方ありがとうございます!
前スレ
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=moon&thp=1039251072
「振り返れば××がいる」の続編はもう少し待っていて下さい。
ご迷惑かけました。
- 21 名前:名無し娘。 投稿日:2003年06月15日(日)01時31分50秒
- 新スレおめでとう御座います。
そう言う事だったのか!!!とんでもない出だしだ!!
続きが嫌でも楽しみです!!
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月15日(日)19時13分14秒
- 新スレおめ!
過去が明らかになってきそうですね
期待♪
- 23 名前:さすらい読者 投稿日:2003年06月16日(月)21時44分14秒
- どうも、久し振りです!いや〜ついに来ましたね〜。こんな話好きなのでがんばって下さい
- 24 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月27日(金)14時39分19秒
- >名無し娘。様
ありがとうございます!
これからも頑張って更新させて頂きますので
これからもどうぞよろしくお願いします。
>名無しさん様
ありがとうございます!
過去編も少しだけ長くなるかもしれませんが
ご期待に添えるようがんばります。
>さすらい読者様
ありがとうございます!
お久しぶりです。もちろん頑張ります。
飽きられないように努力します。
- 25 名前:青のひつじ 投稿日:2003年06月27日(金)14時44分54秒
- 実は前スレの「振り返れば〜」の続編を更新していたら
スレットサイズがギリギリだった事に気づかずに更新してしまって規定を越えてしまいました。
ホント馬鹿やってしまいました・・・(泣
途中ですが、一応更新はしましたので読んでやって下さい。
で、その続きはこの小説が一段落しましたら残りのスペースに更新させて頂きます。
- 26 名前:名無し娘。 投稿日:2003年06月27日(金)21時18分20秒
- 「振り返れば〜」の続編読ませて頂きました。
最高です!!ああいう友情談みたいの大好きです。
とにかくガキさんのキャラが最高だった。ここの本編と一緒に続きが楽しみです。
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月28日(土)15時42分59秒
- 自分も見た。いいところでホント切れててくやしい。
- 28 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月29日(日)01時30分51秒
- 単なる一読者の戯言です。
残りスペース埋め専用ってことでなければ、森版あたりで
続編完結させてホスィ。
- 29 名前:青のひつじ 投稿日:2003年07月10日(木)23時35分50秒
- >名無し娘。様
ガキさんの場面は個人的に一番書きやすかったです。
すっかりお笑い担当になってしまいました。
>名無しさん様
ホント中途半端で反省しています。(泣
頑張りますので、どうか見守っていて下さい。
>名無し読者様
確かにそれも一つの手ですよね。
ただ、本編の更新が遅れ気味(反省)なので
正直、新しいスレを立ててしまうと何かと問題になりそうで
ちょっと気が引けてしまいますねぇ。実は「振り返れば〜」
は、名無し読者様の言う通りに、本当に穴埋め用で作った物なので・・・。
大変申し訳無いですが、本編の更新が一段落するまで待って頂けたら
嬉しい限りです。自分で失敗しておいて偉そうな事は言えませんが。
どうでしょうか。
- 30 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月10日(木)23時39分56秒
その日の授業は、午後の避難訓練が長引いたせいでいつもより終わるのが遅かった。
日直が帰りの挨拶をすますと、待ちかまえていたように子供達は素早くランドセルを
肩に掛けると、一成に教室から出ていった。この時間帯は今話題のアニメを放送している
時刻なのだ。石黒はそんな生徒達を、誇らしげに見つめると後ろの黒板を消そうと、黒板
消しに手を伸ばした。すると、背後からか小さいが芯の通った声が聞こえた。
一瞬誰だったかなと考えると、すぐに後ろを振り返った。
黄色の帽子を深く被った、ややぽっちゃりとした少女が上目使いにこちらを見ていた。
「さよなら」
少女はもう一度口を開く。
石黒ははっとして思い出したかのように「ああ、さようなら」と、慌てて返した。
すると、少女はすぐに石黒から視線を反らし、とぼとぼと教室から出ていった。
「明日香ちゃんか」
そう独り言を漏らし胸をなで下ろした。そのすぐ後に、明日香の声を聞いたのはこれが
初めてだと言う事に気がついた。
- 31 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月10日(木)23時41分46秒
あちこちに張り巡らされた電線の上に、ずらりと並んで止まっているカラス達が、まるで
会話をしているかのように鳴き声をあげている。そんな不気味に響く鳴き声の下を、明日
香はやや俯き加減に真っ直ぐに延びた自分の影を見つめながら、桟橋を渡る。
暗くなりかけて、茜色と藍色の混ざった空は、街全体に夜の訪れの合図を送っているよう
で、辺りはカラスの鳴き声のBGM以外何も聞こえないくらい静まりかえっていた。
- 32 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月10日(木)23時44分11秒
- 「ただいま」
数年前、明日香の父・俊彦側の祖父が亡くなり、俊彦は一人っ子だった為、多額の財産が
手に入ったので住み慣れた2LDKのマンション引き払い、今の一軒家に引っ越して来た。
俊彦は満足していたが、専業主婦の母・秋子は掃除の手間がかかる事を不満に思っていた
らしい。どちらにせよ、明日香にはどうでも良い事だが。
玄関は薄暗くどことなく肌寒さを感じた。
もう一度明日香はただいまと言ってみたが、返事は無い。
明日香はお気に入りの赤いシューズを脱ぐと、そのまま玄関を上がってのそのそと奥へ進
んで行った。
自分の部屋へ上がる階段に差し掛かった所で、居間から秋子の話声が聞こえて来た。
(なんだママいるんだ)
そう思い、明日香はなんとなく聞き耳を立てようと居間と廊下を隔てる扉に耳を近づけた。
「またあの人来るんですか?・・・ねぇ、あなたいい加減に・・・・
会社の後輩だからって・・・」
ハッキリでは無いが断片的に聞こえる会話と、秋子の疲れている様子で明日香はなんとな
く状況が分かった。“あの人”の事については明日香もよく知っていた。
- 33 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月10日(木)23時47分06秒
- 最近俊彦と一緒に家へやってくる会社の後輩である明里の事だ。俊彦と同じ商品企画部に
所属している為、仕事の打ち合わせをよく二人でやるそうだが、その事をどうも秋子は良
く思っていないのだ。明日香は明里の顔を一瞬くらいしか見た事は無かったが、もの凄く
綺麗な人だったと言う記憶はある。きっと明里が俊彦を奪ってしまうのではないかと、秋
子は恐れているんだと、幼心にも明日香は気づいていた。
その時、明日香は無性に鼻孔がかゆくなって来た。鼻を何回か鳴らすと、我慢出来なくな
りとうとうくしゃみを出してしまう。はっとして鼻を押さえると、丁度受話器を切った秋
子が扉を開けて来た。
それと同時に明日香は気まずそうに一歩後ろに下がった。
秋子も一瞬罰が悪そうに口を歪めたが、すぐにいつもの優しい笑顔に変わり。
「ああ、あすちゃん、お帰りなさい。今日は遅かったのね、すぐにおやつ出すからね」
先程の低い声と打って変わり、一気に声のトーンが上がる。しかし、明日香は
そんな母親の様子に戸惑っているのか、おやつを食べる気分にはなれなかった。
「ううん、いい。宿題あるし」
- 34 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月10日(木)23時48分21秒
「いいじゃない!?おやつ食べましょ!?ね!?ママ一生懸命作ったんだから!?」
「ママ!痛い!」
そう叫ぶと秋子はキッと鬼のような形相になったが、すぐに自分のした事に気づき、明日
香の腕を放した。明日香の右腕は秋子の手形上に赤くなっている。
「ご、ごめんね!あすちゃん!痛かったでしょ!ごめんね、ママちょっと疲れてるみたい・・・・」
明日香は今すぐにでも秋子の側から離れたかったが、秋子の目が赤く腫れている事に気づ
くとどうする事も出来なくなってしまった。
- 35 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月10日(木)23時50分13秒
- その夜。やはり俊彦と一緒に明里はやって来た。
丁度明日香も居間で夕飯を食べていた頃で、玄関から俊彦の「ただいま」と言う声の後ろ
で、もう何回か聞いた「お邪魔します」と言う女性の声が聞こえて来た。
それより明日香は、その瞬間の秋子の表情の変化が気になって仕方なかった。
先程、学校での授業の話をしていて、秋子はいつものように優しい笑みを浮かべながら
明日香の話に相づちを打っていたのに、それが一瞬にして先刻、居間で見せた鬼のような
顔に変わったのだ。が、それもほんの一瞬の出来事に過ぎず、いつものように「お帰りな
さい」と声を上げて席を立って行った。居間から玄関までは遠いので明日香のいる位置で
は3人がどんな会話を交わしているのかは聞き取れないが、今の所争ってはいないようだ。
しばらくして、その会話のような声が少しずつ近づいて来た。
(ここへ来る)
そう思った時、何故か明日香はここにいては行けないような気がして慌てて席を立つ。
まだ好物の水餃子が残っていたが、直ちにここを去りたい気分だった。
- 36 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月10日(木)23時52分03秒
- 急いでその場から離れようと、居間を出たが、運悪くバッチリと俊彦と秋子に鉢合わせし
てしまい、おまけに明里とぶつかってしまった。明里は一瞬目をぱちくりとさせたが、す
ぐに笑顔になり明日香の頭を撫でて「大丈夫?」とくすぐるような声で言った。
明日香は無言で頭を縦にふると急いで明里の手を避けて、走って階段を昇って行った。
その時、秋子がどんな顔をしているのか怖くて想像もしたくなかった。
明日香は自室のデスクに腰をかけると、ランドセルから今日の宿題の算数ドリルを出した。
何だか胸の辺りがムカムカするような感覚を憶えている。吐き気がしそうなのを押さえな
がらも早く宿題を済ましてしまおうと思った。
それからしばらくして、時計は9時半になっていたが、ドリルは一行に進まず、頬杖を
ついたままシャーペンの芯を出したり引いたりを繰り返していた。
なんとなく集中出来ないのだ。ふと、居間の様子が気になった。
明里はもう帰っただろうか、と少し疑問に思ったが、下に降りてみる勇気はまだ明日香
には無い。あの只ならぬ秋子の雰囲気や変貌ぶりにまだ動揺しているのだ。
- 37 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月10日(木)23時53分33秒
宿題の提出日はまだ2日も余裕があるし、今日は特に何かをする気になれないのだから
さっさと寝てしまった方が良いと思い、明日香はスタンドを消した。
すると、そのままベットにもぐり込む。歯を磨こうと思ってもあの居間を通るのは嫌だ
ったので朝にしようと諦め、そのまま目を閉じた。きっと朝になれば秋子の機嫌も直ると
思った。
- 38 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月10日(木)23時54分03秒
- 39 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月10日(木)23時55分19秒
―――――殺してやる
殺してやる
邪魔をする奴は皆殺してやる
殺してやる――――
殺してやる―――――――――
(身体が熱い・・・)
- 40 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月11日(金)00時04分51秒
- 明日香の額からこれでもかと言うくらい汗が噴き出ていて、頭はがんがんと言う痛みを
放っている。まるで地を這うようなしゃがれた男らしき声が、まるで明日香の耳元で聞こ
えてくるようだった。弾む鼓動は自分の脳から響いているようで、明日香は余りの
苦しさに呻き始める。
―――――――殺してやる
邪魔者は消えろ、殺してやる
「いやっ!!」
明日香はやっとの思いでベットから飛び起きた。
肩で息をしながら自分の胸に手をあてると、まるで100m走を走りきった時のように心臓
が波打っているでわないか。パジャマなんかもすっかり汗でぐっしょりだ。
ふと、キティちゃんの時計に目をやると時刻は12時だった。まだ数時間しか寝ていないよ
うだ。明日香はもう一度身体を横にした。
(怖い夢・・・)
- 41 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月11日(金)00時08分56秒
- あの不気味な声は確かに肉声で聞いたようなリアルさを感じさせる物で、とても夢と言う
気がしない。そう思うだけで背筋がぞくりとしてくるようだ。
その時、明日香は自分の喉がカラカラに乾いている事に気が付いた。
それと同時になんだか自分の部屋がとてつもなく恐ろしいような気
がしてきたので、とにかくベットから這い上がり、自室から出る事にした。
やや小走りで階段を下りると、すぐに居間へ通じる扉が目に入る。
廊下や居間の方もすっかり灯りは落ちていて真っ暗だったので、きっと明里
は帰ったんだと思い、安心して先を急いだ。
俊彦や秋子ももう眠っているようで、辺りはしんとしていたが、時折聞こえ
る冷蔵庫のぶんっと言う機械的な音や水道の蛇口から垂れる水の音が妙に不
気味に思えた。
明日香は足音を立てないようにそっと歩きながら、戸棚から専用のコップを
取り出す。
そしてキッチンのすぐ横の冷蔵庫からオレンジジュースを選び、コップに注いだ。
冷たいジュースを一気に飲み干すと、さっきまでの恐怖心もどっかに吹っ飛
んだようで、先程から感じていた胸のムカムカも綺麗さっぱり流された気がした。
- 42 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月11日(金)00時11分16秒
一息つくと、冷蔵庫にジュースを戻し、コップを流しへ持って行こうとした時。
いきなり足の裏がぬるりとした感覚を憶えたかと思うと、そのまま尻餅をついてしまった。
「痛っ!?」
思わず声を上げてしまい慌てて口をつぐむ。幸いにもコップはしっかり持っていたので
割らずに済んだが、お尻はかなり痛い。
もしかしたら秋子か俊彦が床にジュースを零したまま、拭かないでそのまま放置したん
だと思い、今度は苛立ちを憶えた。
チッと舌打ちをすると、コップは流しに置いて、キッチンの隅にかかっている布巾を手
に取り、自分が転んだ所を手探りに拭いた。
(暗くてよく見えない)
明日香は電気をつけようかと思ったが、不用心に歩いてまた転けると嫌だと思い、やめ
ておいた。一通り吹き終えると、洗うのは面倒だったのでそのまま元あった場所にかけておいた。
(いいや・・・明日の朝、ママに言って洗ってもらおう。どっちにしろ床汚した犯人はママ
かパパだよね)
明日香は自分で納得すると、足早に部屋へ帰って行った。
- 43 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月11日(金)00時11分55秒
――――――
―――――――――
――――――――――――――
- 44 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月11日(金)00時15分39秒
「おはよう」
目を擦りながら、新聞紙を広げてコーヒーを啜る俊彦の背中に朝の挨拶を投げかける明日
香。俊彦もいつもと同じように明日香の方を振り返りながら「おはよう」と、眠たげな声で返した。
ふと、俊彦の食べている物に視線を送ると、いつも秋子の作るトーストと目玉焼きでは無く、
珍しくごはんやみそ汁、魚などの和食が並んでいた。
勿論、それと同様のメニューが明日香の席にも整然と置かれている。
明日香は目をまん丸くして、秋子がいるであろうキッチンに顔を向けた。
が、秋子の影おろか、誰も立ってはいなかった。
「え?ママは?」
当然の疑問だ。が、俊彦は先程と全く表情一つ変えずに「とにかく座ってくれ」
と言った。明日香はまだ納得のいかない様子で小首を傾げながらも渋々と、自分の席に腰掛ける。
俊彦は新聞を畳んで隣の秋子の席に置くと、一回溜息をつき渋い顔つきになる。
そんな意味深な俊彦の様子に、明日香も“普通”では無い事に気づき、顔つきが変わる。
俊彦は明日香は一瞥すると、視線を下に落としながら低い声でこう言った。
- 45 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月11日(金)00時17分19秒
- 一気に言い終えると俊彦は恐る恐ると言った感じで、視線を明日香に戻してみたが、意外
にも明日香は納得したように顔を縦に振っていた。
俊彦はやや拍子抜けしたように「明日香、泣いたりしないのか?」と、自分から言ってお
いてそんな突拍子も無い事を訪ねて来た。
明日香は明日香で、あの様子ではこういう事も起こりかねないと、幼いながらしっかり予
測していたようで、ああ、やっぱりかと言う心境だった。
少しも寂しさが無いと言ったら嘘になるが。
「取りあえず、いつ母さんが帰ってくるか分からないから今日の夕飯はこれで自分で買っ
て来てくれるか?」
俊彦は胸ポケットから革の財布を取りだし、明日香に千円札を手渡した。
明日香は無言で頷くと、渡された札を大人しく自分のスカートのポケットに入れ、久しぶ
りの和食にハシをつけた。
が、その時だ。何故か胸の奥がズキリと痛んだかと思えば、徐々に自分の体温が上がって
行くように背中やら首筋やらに汗が滲み出る感覚を憶え、握っているハシを床に落として
しまう。俊彦は突然の娘の異変に気づき、戸惑いがちに落ちたハシを拾う。
「だ、大丈夫か?」
- 46 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月11日(金)00時18分09秒
- 明日香は胸が段々苦しくなり、咳き込み始めた。夜に感じた感覚と同じ物だった。俊彦は
苦しむ明日香の肩を両手で掴み、もう一度大丈夫か?と叫ぶ。
その瞬間、明日香の鼓動がドックンと鋭い音を立てて弾んだ。
―――――――やったぞ!!
あいつがいなくなった!!これで俺も自由だ!!
やった・・・!やった!!
- 47 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月11日(金)00時19分56秒
- その声は昨日の夜中に聞いた声より、鮮明に明日香に届いていた。
明日香は苦しみ悶えながらも、その声が一体何処から、そして誰の声なのかを必死に探ろ
うと辺りを見回してみたが、どれも見慣れた風景ばかりで秋子がいない事を抜かせば、い
つもと変わらない物だった。
やがてあの不可解な声は段々と遠ざかって行き、全く聞こえなくなると、明日香の息苦し
さも嘘のように消えて無くなった。
俊彦はやっと落ち着きを取り戻した明日香を見て、幾分安心したようだったが、大事を取
って今日は学校を休むように明日香に言った。やはり秋子がいない事がショックだったん
だと思い、俊彦はその後すぐに家を出た。
明日香は俊彦によってパジャマに着替えさせられ、無理矢理ベットに押し込まれてしまい
、仕方が無く休む事にしたが、どうもさっきからあ辺りが異様に空気が漂っているようで
気が気で無かった。むしろ学校へ行った方が良いんじゃないかとも思った。
なんだかとても胸騒ぎの様な物を感じずにはいられなかった。
- 48 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月11日(金)00時20分38秒
――――――
―――――――――――――
―――――――――――――――――――――
- 49 名前:青のひつじ 投稿日:2003年07月11日(金)00時24分04秒
- う〜ん・・・毎回言ってるような言葉ですが
更新遅れ気味です。スミマセン。
全体のストーリーや構成は全部出来ているんですが、いざ、文章に
して見ると納得がいかないってのが今の状況ですね。
実は結構スランプです。次回の更新はなるべく早く出来ればなって
思います。・・・4日くらいかかると言う感じですが、その日までには
必ず。
- 50 名前:28 投稿日:2003年07月11日(金)00時35分05秒
- >>29
もしかして、振り返れば〜 のほうは書き終わっているのであれば、
などと思ったものですから。
そもそもは本編が好きで居ついているものなので、本編の更新と
ともに待っておりまする。
番外の銀杏話も深いところへ行きそうですなぁ。
- 51 名前:名無し娘。 投稿日:2003年07月11日(金)17時33分45秒
- 銀杏キター!
なんだコイツがどう絡んでくるんだ!
先が全く読めん!
続き超期待!
- 52 名前:青のひつじ 投稿日:2003年07月16日(水)21時09分40秒
- >28)名無し読者様
お気遣いありがとうございます。
振り返れば〜の方もがんばりたいと思っています。
銀杏編もよろしくお願いします。
>名無し娘。様
とうとう銀杏出してしまいました。
そうですね。これからどう絡んで来るか
ぜひ注目していて下さい。
ん〜・・・4日までと書いておいて深く反省します。
銀杏編は他とはちょっと雰囲気が違っていますので
書いていてどうもしっくり来なくて苦戦しております(後悔)
もう少し待っていて下さい。自分的にも銀杏編は書いていて
怖いので早く終わらせたいのですが・・・わがままスミマセン。
- 53 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時06分40秒
何時間経っただろうか。
明日香は未だに眠れずに、ただじっと天井を見つめていた。窓の外は分厚い雲に一面覆わ
れていて、今にも大粒の雨でも降りそうで、その湿気が部屋中を漂っていた。
明日香の瞳には点々とした天井のシミがぼんやりと映っている。耳には時計の針の規則的
な音だけが響き、静寂と言っても良いほど辺りは静だった。
明日香は昨日の夜の出来事と今朝の出来事について、先程からずっと考えているのだが、
一体何故あのような声が聞こえて来たのかは全く検討が付かない。
あの地を這うようなしゃがれた声は、何処かで聞いた事のあるようなそんな声でもあっ
た。明日香が一番引っかかっていたのはそこなのだ。そう、何処かで聞いた声。
明日香は誰にも言わなかったが、普通の人間がそう簡単に体験出来ないような事、いわ
ゆる怪奇現象を時々体験してしまう事があるのだ。
- 54 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時08分46秒
- 最初は3歳の時だった。
幼稚園の先生が幼児同士の喧嘩を止めているのを、たまたま見ていた時、先生の背中に覆
い被さっている紫の目をして皮膚が茶色く変化してしまっている髪の長い女性と目が合っ
てしまった。その時の明日香にはまだ怖いと言う感情が無かったのか、ただじっとその女
と睨めっこをしているだけだった。
普通なら3歳の頃の記憶など多くの人は忘れてしまっているが、明日香の場合、秋子のお
腹の中にいた頃の記憶でさえ今でも鮮明に覚えているのだ。
そして5歳になったばかりの頃、初めてのお留守番を任されていた時。冷蔵庫の扉が独り
でに開閉を繰り返しているのを目撃し、初めて恐怖を感じてその場で気絶してしまった。
その後、気絶している明日香を帰ってきた俊彦が慌てて起こして明日香に事情を聞くと、
明日香は正直に留守番時の出来事を話した。が、やはり俊彦も秋子も明日香の話など信じ
ておらず、悪い夢を観たんだ、と言いその話を終わらせてしまった。
当たり前と言ったら当たり前だが。
- 55 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時11分41秒
そして小学校に上がったばかりの頃。帰宅途中で教室に体操着を忘れて来た事に気づき、
慌てて学校へ引き返した時の事。教室の扉を開くと、なんと教室中の机と椅子が宙へ浮い
ているのである。
明日香はひっと声を上げその場に座り込んでしまう。するとすぐに机は
ゆらゆらと舞った後にゆっくりと床へ下降して行った。明日香はしばらく途方に暮れ、そ
のまま体操着を取りに行かず、まっすぐ家へ帰った。
それ後も明日香の身の回りに不思議な事は多々あったが、その事件を気に、すっかり細か
い事は気にしなくなった。明日香は多分、あの声もそのいつもの現象の一種なのだろうと
納得する事にした。いつまで考え込んでいても分からない物は分からないのだ。
明日香は気を取りなすと、布団から這い出て、背中が汗ばんでいて気持ち悪かったので
タンスから洗い立てのTシャツを取り出しそれに着替えた。
もうあの変な声を聞こえないようなので、ジュースでも飲んでテレビを見ようと思った。
丁度時刻は、もう少しで今ハマっているアニメを放送する時間になる。
- 56 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時13分40秒
- 明日香は自室を出て急な階段を慎重に降りた。前に、慌てて駆け下りようとして転げ落ち
た事がある。それ以来明日香のトラウマになってしまった。
居間に入ってすぐに位置するキッチンは、俊彦が片づけないまま出かけたらしく、まだ器
が机に並べられたままだ。明日香の席に、サランラップの張られた茶碗と小魚の乗った皿
が置いてあり、横にメモらしき物が添えられている。
明日香はそのメモに目を通す。
『身体の方は大丈夫か?父さんは会社に行って来る。ごはんは適当に温めて食べてくれ』
と、書かれていた。
明日香はまだ食欲は無かったので、また後で食べようと思い、そのまま目的である冷蔵庫
へ歩み寄る。中は昨日飲んだオレンジジュースのパックはもう無くて、代わりに麦茶が冷
やしてあった。明日香は迷わず麦茶を取ると、専用のコップに注ぎ、口へ運ぶ。
乾ききった喉を通る冷たい感触が気持ちいい。
- 57 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時16分34秒
- ふと、明日香はまたもや昨夜の事をフラッシュバックのように思い出した。
コップを流しに置こうとして動いたら思いっきり足を滑らせて転倒した事だ。
その時床に広がった液体を、あの布巾で拭いたのだ。秋子がいない今、その布巾は自分が
置いた場所にそのまま放置されている筈だ。ふいにそんな事が頭を過ぎる。明日香はなん
となく視線を流しの方へ向ける。
やはり昨夜の布巾はそのまま置いてある。
(しかたないな。自分で洗おう)
そう思い、飲んだコップを流しに置くと、明日香はその布巾を手に取ってみる。が、その
瞬間明日香はその布巾を短い悲鳴と共に放り投げた。
床に落ちた布巾。焦げ茶色に広がった染み。明日香は恐る恐るその染みを細めで確認する。
(そうだ。きっとジュースじゃなくてソースだったんだ)
明日香はそう考えるとやっと納得したように足下の布巾を拾った。
蛇口をひねり布巾を濡らす。明日香は何故かその染みに少なからず不信感を感じていた。
明日香の胸に黒い点々としたインクが染みだしてくるようだった。
- 58 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時20分37秒
- が、その黒いインクの染みはどんどん広がって行き、ついにその染みは黒い液体の海に変わ
って行った。明日香はその布巾の染みはもしかしたらソースの染みでは無いのでは?そんな
疑問が沸き起こってしかた無いのだ。布巾を洗う腕に、いくらか力が入って行く。
しかしどんなに力を入れて汚れを擦っても、しっかり染みついているようで一行に取れない。
この染みはソースだ。明日香は強く自分に言い聞かせ蛇口をさらに捻り洗剤を足した。その時
、居間の方から電話の鳴る電子音が聞こえて来た。
多分、明日香が洗い物に夢中だったので気が付かなかったようで、随分前から鳴っているよう
だった。明日香は仕方なく水を止め、濡れた手を服の裾で拭きながら小走りに居間へ向かった。
電話はまだ鳴り止まる様子は無い。
「もしもし、福田です」
小2にしてはしっかりとした口調でそう言った。
『あら、明日香ちゃん?わたしよ。薫ばぁちゃんよ』
薫ばぁちゃん。そう名乗った老女らしき声は秋子の母であり、明日香の祖母である。
「え?おばぁちゃん?久しぶり」
- 59 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時24分02秒
明日香の声のトーンが上がる。それは秋子の事が聞けるチャンスだと言う事もあるが、明
日香がおばぁちゃん子でもある印だ。
『本当に久しぶりね。なかなか遊びに来てくれないから、おばぁちゃんとっても寂しかっ
たのよ?』
「うん。ごめん。夏休みになったら絶対行くね」
『うん、ぜひ来て頂戴。スイカも去年より大きく育ってるから』
「ありがと・・・そういえば今日お父さんから聞いたんだけど、お母さんね」
明日香がそう切り出そうとした時。
『そうそう、秋子いるかしら?おじぃさんの入院が長引くみたいなのよ。今日はそれを
知らせたくてね』
「え・・・・」
(おばぁちゃんはママの事を知らない?)
明日香の脳裏に今朝の俊彦の言葉が蘇って来る。
- 60 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時24分53秒
【昨日の夜、明里さんが来たのを知ってるね?実は母さん、あんまり明里さんが家へ来る
のを良く思ってなかったらしくて、明日香が部屋に戻った後、喧嘩になっちゃってね。】
【・・・だから母さん、しばらく実家に戻るって言って家を出ていってしまったんだ 】
- 61 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時27分48秒
- (ママは実家に帰ったってパパ言ってたのに・・・・パパはあたしに嘘ついた)
『もしもし?もしもし?明日香ちゃん?』
「あ、うん。何でも無い。あのさ、ママ今家にいないんだ」
『あら、そうなの?じゃあまた後でかけ直すけど、いつ戻りそう?』
「うん、ちょっと今は分かんない。ママが戻って来たらおばぁちゃんから電話来た事
言っとくから」
『そう、悪いわねぇ。明日香は本当に大人になったわ。おばぁちゃん関心しちゃう』
「そんな事無いよ。まだ2年生だもん」
『ふふふ・・・なんだか明日香ちゃんて不思議ね。俊彦さんは頼り無さ気で何処か抜けてるって
言うか、秋子も昔っから甘えん坊で未だに親離れ出来ないような子なのに、明日香ちゃんは二人
とは正反対で・・・すごくしっかりしてるし。親が頼りないと子はしっかりする物なのかしらね。
俊彦さんも秋子も幸せ者だわ』
「そうかな。ありがとう」
『そうね・・・だから明日香ちゃん。秋子に何かあったらよろしくね』
「は?」
『・・・ううん。何でもないわ。それじゃあね、わたしそろそろ陶芸教室の時間だから』
「あ、うん。それじゃあママに言っておくから。じゃあねおばぁちゃん」
- 62 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時54分00秒
- そう言って明日香が受話器を切った。祖母の最後の方の言葉が気になったが、それよりも
秋子の事だ。実家に帰った筈の秋子の事を祖母が知らない事は無い筈。かと言って俊彦が
嘘をつく理由なんて何処にあるのだろうか。明里との関係だけで十分な筈だが。
明日香はもう一度流しの方へ視線を向けた。洗いかけの布巾がそのまま置いてある。
あの染みは取れていない。
明日香の心の中はもはや真っ黒になっていった。考えたくも無い事が脳裏を掠める。
明日香は瞼をぎゅっとつむり、勢い良く頭を横に振りその考えを振り切ろうとした。
(テレビの見過ぎかもしれない)
そう自分に言い聞かせると、もう一度洗い場に戻り蛇口に手をかけた。
すると、今度は遠くの方から階段を上がるようなギシギシと言う木のきしむ音が聞こえた。
「今度は何?」
明日香は怪訝な顔になりその音の方へ振り向く。
(もしかしてママ?)
そう思い明日香の真っ黒くなっていた心にパァッと黒インクの海が引いて行くような気が
した。蛇口から手を放し、明日香は軽い足取りでキッチンを出た。
「ママ?ママ?帰って来たの?」
- 63 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時55分32秒
階段のきしむ音が明日香の声にふっと止まった。明日香は耳をすまして秋子らしきその音
の主が声を発するのを待った。が、まるでこちらの様子を伺っているかのように息を潜め
ているのか物音一つ立てない。
「ママ?ママなの?」
明日香はその主に近づこうとゆっくり居間を出た。そして居間を出てすぐに位置する木製
のやや急な階段の手すりを掴みゆっくり頭を上げた。階段を上がった所の角から裸足の足
と赤いスカートの裾が見える。明らかに女性の物である。それを見て明日香は安堵の表情
を浮かべて「ママ、帰ってきたんだ。あのねおばぁちゃんから電話があったてね」
明日香が明るい声でそう切り出すと、足と赤いスカートは明日香を無視するかのように角
から消えた。
「ちょ・・・待ってよ!?」
- 64 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)00時57分40秒
明らかに様子のおかしい女性に向かって明日香は声を投げかけるが、女性の足音は止まる
気配が無い。明日香は慌てて階段を駆け上る。もう廊下には人影は無く物音も消えていた。
階段を昇って右側に明日香の部屋がある。左には別れ道があり、さらに右を行けば俊彦の
書斎、左はテラスがある。明日香はなんとなく分かれ道の方に向かって歩み始めた。
テラスには人がいる気配は無かった。て言う事は、秋子は俊彦の書斎に入って行ったの
だろうか。そう思い視線を俊彦の書斎へ。そのタイミングを計ったのか、書斎の扉が
まるで意志を持っているかのようにギギギ・・・と音を立てて自ら開いた。
明日香は引き寄せられるようにゆっくりと足音を立てずに書斎へ向かった。
半分開いた扉から顔だけで中を覗く。フローリングの床に散らばった書類らしき白い紙が
ふわりと宙を舞う。窓は閉めてはおらず開けたままで、レースのカーテンが大きく波を作
っている。明日香は扉を手で押しながらゆっくりと中へ入って行った。革ばりの椅子に書
類やら本やらが乱雑に散らばった机。いつも秋子が片付けてくれと口を酸っぱくしばがら
俊彦に言っていた。
- 65 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時01分01秒
- その秋子は何処にも見あたらない。ここに入ったのでは無いのだろうか。
ふと部屋の右端に位置するクローゼットが目に入る。俊彦の自慢のスーツが入っている。
普段はしっかり扉が閉まっているのに、何故か今日は少し扉に隙間がある。その隙間の下
の方にモスグリーンの布がはみ出しているのに気づいた。
明日香はゆっくりとクローゼットへ近づく。だが、明日香には本当に自分の意志で歩いて
いるのか分からなかった。なんとなくだが、自分の脳が“近づくな”と言う危険信号を
放っている事に気づいていた。いや、もしかすると階段を昇って行く時点でその信号には
気づいていたのかもしれないが足が止まらないのだ。
明日香はとうとうそのクローゼットの前までやって来てしまった。
明日香の腕が今度はクローゼットの扉を開けようと隙間に手を掛けた。
視線を落とすと、はみ出ているモスグリーンの布が見える。
明日香は唾をごくりと飲み込んだ。額から汗が滲みでる。その時だ・・・・。
「ぶぐぅっ!?・・・・ぐはっ!!」
明日香の手がぎくりと止まったかと思うと、激しい頭痛と吐き気が明日香を襲った。
- 66 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時02分23秒
- 今朝の発作とはまた違う物だ。
そして今度はハッキリ聞こえた。
――――とうとう邪魔者を殺してやった!俊彦はあたしの物だ!
・・・・だが。あの糞餓鬼が邪魔だ。昨日の夜も優しくしてやったあたしをシカトして行
きやがった!!生意気な餓鬼め!!俊彦には悪いけどあたしが殺してやるよ!!
昨夜と今朝とはまた違う声だ。地を這うような・・・今度は女の声だ。
しかし、明日香にはそれがどういう事か、散らばっていたパズルが脳裏の中で猛スピードに形を作って行く。
男の声と女の声。
布巾の染み。
祖母の反応。
じゃあ女性の影は・・・。
そして・・・・・。
- 67 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時04分17秒
明日香は恐ろしくなりクローゼットから1歩、2歩と、後ずさりしながら離れる。
3歩
4歩
5歩・・・・・・・・。
「きゃっ」
突然背中が何かにぶつかりそのまま前のめりに倒れ、床に手をつく体制になる。
明日香は恐る恐る頭だけ後ろを振り返る。
女性の足。赤いスカート。秋子は赤が嫌い。秋子の嫌いな色のスカート。視線をそのまま
上へ向ける。
白のノースリーブ。秋子は二の腕が太いのを気にしてノースリーブは着ない。
茶髪がかったパーマのロングヘヤー。秋子は黒髪。
ピンクのルージュの唇。頬はオレンジのチーク。秋子は授業参観日でも無い限りメイクは
しない。三日月型の眉だけが秋子と似てる。だが、秋子はここまで冷たい目で明日香を見
下ろした事は無い。その女性の身も凍る程の冷たい視線。ピンクのルージュの唇が歪む。
明らかに秋子じゃない。その顔は、昨夜俊彦と共にやって来た明里の物だ。
- 68 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時05分38秒
- 「い、いや・・・ママは!?ママは!?」
明日香は恐怖と共に明里に向かって叫ぶ。
明里はそんな明日香の顔にニヤリと不気味な笑みを投げかけると。
「明日香ちゃんのママ?明日香ちゃんのママは今目の前にいるじゃない?何言ってるの?」
「違う!あなたじゃない!あたしのママはあなたじゃない!」
明日香は表情を歪ませまるで悲鳴のように明里に向かって言い捨てた。すると、明里の表
情が鬼のように歪んだ。それは昨夜俊彦に見せていた愛くるしい顔とは大違いだ。
「あんだと!?この糞餓鬼!人が甘い顔してりゃあいい気になりやがって!」
明里はそう叫ぶと明日香の腹を思い切り蹴飛ばした。
「ぐはっ!?」
明日香は痛さのあまり眉をひそめ、両手で腹を庇った。
「おい餓鬼!よく見ろ!」
明里は高らかな笑い声を響かせながら明日香の髪の毛をつかみ強引にクローゼットの方へ
頭を向かせた。
「おまえの本当のママはなぁ!?」
- 69 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時06分26秒
- ―――――――ドクンッ
明日香の心臓が飛び跳ねた。
わずかに視界に入る、扉の隙間から覗くモスグリーン色の布。
モスグリーン。
モスグリーン色の布。
モスグリーン色のスカート。
モスグリーンは秋子の好きな色。
モスグリーン色のロングスカート。
モスグリーン色のロングスカートは・・・・・・
昨夜秋子が掃いていたスカートだ!!!!
- 70 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時06分59秒
――――――――――ドクンッ
- 71 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時07分40秒
- 明日香の目が驚きと恐怖と怒りで思い切り見開かれる。
明里が耳をつんざくような笑い声を上げて、一気に扉を開けた。
「おまえの父親とあたしが殺してやったんだよ!!!」
ずるり・・・・
どさ。
――――――――――ドックン
- 72 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時08分22秒
明日香の足下に鈍い音を立てて“ソレ”は転がり落ちた。
乱れた黒いロングヘヤー。赤く染まった白のブラウス。モスグリーンのロングスカート。
目は見開かれ充血している。口は大きく開いていて顎は血で真っ赤だ。まるで絶叫して
恐怖で死んで行ったような表情をしたまま固まっている。
ガシャンッ
明日香の頭の中がそんな音を立てて壊れた。
「いやああああああああああああああああああああああああっ!!!」
地面が割れるようなそんな悲鳴が家中に響き渡る。
- 73 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時08分59秒
しかし悲鳴を上げたのは明日香では無い。
その瞬間、明日香は自分の身体が燃えるような熱を感じたかと思うと、いきなり目の前がカッとオレンジ色に光った。
明里の悲鳴が遠くから聞こえたような気がした。
- 74 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時09分31秒
――――――
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- 75 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時11分50秒
- けたたましく鳴る目覚まし時計のベルが、まだ夢うつつのあたしの脳をすぐに現実へ引き
戻して行った。やや黒くなっている髪の根元をかきながら、のそのそと布団から這い出る
と、机の上の鏡を拾った。
「酷い顔・・・」
昨夜、遅くまで梨華ちゃんとメールしてたせいだ。入学以来、梨華ちゃんとはそれなりに
仲が良い。もちろんよっすぃ〜もだ。この頃3人でお昼を食べる事も多くなった。
あたしはやや青ざめた顔をさすりながら、パジャマのまま部屋を出た。
「真希、ちゃんと着替えてからご飯食べなさい」
エプロン姿の母さんが怪訝な顔であたしを見やるが、無視してテーブルの上のトーストを
ひと囓りする。母さんは浅い溜息をつくと、まだ誰にも座られていない椅子達に目をやる。
そして「ったく家のガキ共ときたら」と呟いた。
コンロではベーコンがじりじりと焼かれていた。母さんは朝ご飯だけは気合いを入れて作っ
ている。それは昼から夜まで仕事尽くめで、夜ご飯を作れないから朝張り切って作るのだと
言う。
- 76 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時14分51秒
- だからあたしも普段は朝ごはんは食べない方だったが、母さんにそんな風に言
われてしまったら逆らえなかったから、今こうして眠い身体にムチを打ってま
でキッチンへ来るんだ。
でも、ちゃんと時間通りに来るのはあたしくらいで、ユウキとおねぇちゃんはしっかり
遅れてやって来る。
「おはよ」
機嫌の悪そうな顔つきでのそのそとやって来るユウキも、あたしと同じでまだパジャマだ。
「何?もう出来てんの?」
その後ろからおねぇちゃんも。
「ちょっと毎回言わせないで。3人共ちゃんと着替えて来いって言ってるでしょ」
やはりユウキもおねぇちゃんも「んあ」と、分かってるのか分かって無いのか分からない
返事をしながら席についた。
母さんはその様子を見ながら「誰に似たんだか」とまたもやブツブツと零しながらベー
コンをひっくり返した。
おねぇちゃんが「父さんでしょ」と興味無さ気にパンにバターを塗る。
母さんも「そうかもね」と言った。ユウキはいつものように黙って焼きたてのベーコンを
囓っている。
- 77 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時16分24秒
父さんはあたしがまだ幼い頃に亡くなった。幼いと言ってももう小学生だったからその時
の事はよく憶えている。
父さんは山登りが好きだった。休日になれば家族を放って山登りに行ってしまう父親を幼
いながら心の何処かで嫌悪感を抱いていたと思う。それは多分おねぇちゃんや母さんも一
緒だった。
その日は確かユウキの保育園の運動会の日だったと思う。2日前から父さんは
山へ行っていていなかったから、ユウキも特に駄々をこねたりはしなかったし、多分それ
が当たり前だと思ってたんだ。朝、母さんが弁当の準備をしてて、あたしはユウキと蹴り
合いの喧嘩をしてた。突然、居間の電話が鳴り、ソファで寝転がってテレビを見ていたお
ねぇちゃんに、母さんが代わりに出てくれと叫んだ。
おねぇちゃんは舌打ちしながらも受話器を取った。面倒くさそうに頭をかきながら口を開
く。「はい、後藤です」しかし、段々と母親譲りの無愛想な顔が複雑に歪んで行くのが遠
くからでも分かった。ただならぬ雰囲気に、母さんがコンロの火を止める。
それは父さんの死亡を告げる電話だったのだ。
- 78 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時17分41秒
- ユウキは保育園最後の運動会に出なかった。母さんの作っていた卵焼きは半焼きのまま放
置された。おねぇちゃんが失神した。あたしはしばらく自分の部屋でボーッとしていた。
葬儀はそれから5日後に行われた。その時はあたしやユウキもおねぇちゃんも声を張り上
げて泣いたし、顔の知らない親戚の人達も泣いていた。けど、母さんは父さんの死体確認
に行って帰って来たときも泣いて無かったし、勿論葬儀でも最後まで泣いて無かった。
親戚で一番あたしを可愛がってくれた悦子伯母ちゃんが、母さんの事を「冷たい女だ」
と他の人達と話ているのを聞いた。あたしも心で母さんが酷い人だと思っていた。
その時は。
しかし、それから少し経って、夜中にトイレに行こうと母さんの寝室を通った時、わずか
に扉の隙間から漏れる光を見つけ、気になって覗いて見たら、父さんの仏壇を目の前に、
ウイスキーを片手に泣きじゃくる母さんの背中を見てもの凄いショックを受けた。それか
ら何も知らないおねぇちゃんが母さんの愚痴を言った時に、殴り合いの喧嘩になったっけ。
- 79 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時18分31秒
- 「おかわり」
ユウキが口をもごもごとさせ、皿を母さんに渡す。
ちょっと焦げ目の入ったベーコンとスクランブルエッグを乗せると、ユウキに皿を返す。
「真希、醤油取って」
「ねぇ、いい加減それに醤油かけんのやめたら」
「何言ってんの。これはケチャップより全然いいでしょ」
「うげぇ」
おねぇちゃんはそう言いながら、スクランブルエッグに醤油を垂らした。
「呆れた子」
母さんも本日何度目かの溜息をつく。
「ご馳走様」
冷たいジュースで一気に目が覚めたあたしは、食器をキッチンに戻すとその場を後にした。
アスパラガスを残したせいで母さんはまたぶつぶつと小言を言っていたけど、やはり無視
してそのまま二階へ上がった。
今日も憂鬱な学校が始まるんだ。だから月曜日って嫌なんだ。
勿論、その前の日曜の夜からすでに気分はブルーなんだけど。
- 80 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時19分33秒
- 春はとっくに過ぎていた。グランドを囲むように立ち並ぶ桜の樹達は、辺り一帯に染まっ
ていた桃色をいつの間にか深緑へと変えていて、教室の窓を開ける度にその深緑の香が鼻
孔をくすぐるようになった。相変わらず日差しは緩やかだったけど、時々吹く風は夏の兆
しを感じさせた。
「出席を取ります」
先生の無機質な声が耳を掠める。毎時間、決まって行うこの儀式のような物。
そこまで生徒を信用出来ないのだろうか、と無い頭ながらそう疑問に思った事もある。
「麻生」
「はい」
この瞬間は死ぬほど眠気が襲ってくる時なんだ。あたしはそう心でぼやきながらあくびをする。
何も書かれていないノートが、窓から吹き抜ける風に何ページか捲れた。
入学して早一ヶ月ちょっとが過ぎると、もうクラスでは仲良しグループが出来て、それぞれが
中学校生活に慣れて来ているようで、結局小学校の延長線なんだと言う事に気づき始める。
気づいた所でもう遅いけど。
- 81 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時20分50秒
- 「阿木川」
「はい」
「石川」
「・・・はい」
眠たげな梨華ちゃんの声と、あたしの視界に机に突っ伏生徒達の姿。
みんなあたしと同じみたい。
「江藤」
「はぁい」
「荻野」
「はい・・・」
「小田」
「はい」
「後藤、後藤真希」
- 82 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時22分06秒
- 「・・・あい」
先生はあたしの名前だけフルで呼ぶと、ギロリとこちらを睨む。
「あい、じゃなくて。はい、だ」
「は・い」
金髪に染めて以来、何かとあたしに目をつけているらしいこの先生は、やたら文句をつけ
てくる。そして教師だけじゃなく、上級生までも何かにつけて体育館に呼び出しては、
「おまえ生意気なんだよ」と、お決まりのセリフを浴びせて来る。もう慣れたけど。
その後も、先生は淡々と出席を取っていった。一番前に座る梨華ちゃんがあたしを心配そ
うな目で見ていた。
「野島」
「はい」
「浜野」
「はい」
「濱野」
「はい」
「福田」
- 83 名前:番外 漆黒のインク 投稿日:2003年07月25日(金)01時22分43秒
「はい――――」
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- 84 名前:青のひつじ 投稿日:2003年07月25日(金)01時26分07秒
- 遅くなりました。
銀杏編はお化けの怖さと言うより、狂気に満ちた人の怖さ
を描いたつもりですが・・・微妙。
- 85 名前:名無し娘。 投稿日:2003年07月25日(金)17時31分12秒
- 大量更新お疲れ様です。
なんじゃぁぁーー!!いたのか!!
やばい、最後の出席の場面はかなり緊迫感があった!!すげぇ!!
本当に怖いのはお化けよりも人間だと言う事に気付かされました。
面白かったー。
- 86 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月25日(金)22時51分43秒
- こえーじゃないかぁー!(涙目
ますます話のほうも、深くなってきてますね
続きが楽しみなような、怖いような(w
- 87 名前:名無し 投稿日:2003年08月29日(金)03時25分37秒
- 保全します
- 88 名前:nanasi 投稿日:2003/10/09(木) 01:59
- 保全
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/08(月) 00:02
- 私、まーつーわ
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