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恋せよ、少年少女たち
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)01時06分37秒
- ラストまで書き上げてあるのでサクサク更新していきたいと思います。
ポジネガ問わずレス頂くと嬉しい人です。age sage気にせずぽちっとどうぞ。
お願いします。
あと他のスレとか見る余裕が無いのでこの作品の感想など見つけた心優しい方は
どこどこに載ってたぜなんて教えてくださると助かります。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)01時10分06秒
- 「ふわぁ〜」
いつも通りの起床。
寝ぼけまなこでダイニングキッチンへと向かう。
するとお父さんが席に着いている。
「おはよう。今日は仕事休みなの?」
「ああ。ひとみは今日学校に行くのか。」
「真希にCD返さないと。出席くらいはしないとアレだし。」
「そうか。じゃあ今日は遅くとも3時までには帰ってきてくれ。…話があるんだ。」
「…今すれば?」
「いや、今じゃ駄目だんだ。とにかく早く学校に行ってこい。もうお昼だぞ。」
「へいへい…」
そう言って和室へと向かう。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)01時13分38秒
- 私のお父さん、真里。
男性で雅美という人がいるように、真里と言っても普通に男。
私を産んでから11年後、お母さんは妊娠した。
子供がいかにしてできるかおぼろげながらわかっていた私はちょっと困惑したけれど、
それよりも弟か妹ができるという喜びの方が大きかった。
出産予定日は、8月。『私と誕生日が一緒になるかもね』なんてお母さんは言っていた。
結局、お母さんの誕生日の2日後が妹の誕生日となり、お母さんの命日になった。
「…行ってきます」
仏壇のロングヘアーのお母さんは今日も優しく微笑んでくれている。
「よしっ」
部屋に戻って支度をする。
高校時代は思いっきり楽しんだのは今でもとってもいい思い出だから、
ひとみも高校時代は悔いの無いように楽しみなさいと言って家事全般をお父さんが担っている。
私はその言葉に甘えて、3年生に上がるまでのこの一年間は楽しもうと思っている。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)01時15分11秒
- 起ききれていない体で自転車を出して、乗る。
「青春、してないなあ。はたから見ればこうやって制服着て昼前に自転車漕いでる姿は
青春かもしれない。が、何かこう、熱いモノが足りないんだよなぁ…」
つぶやきながらのろのろと走っている。
「やっぱり恋かなぁ…」
自転車は緑豊かな噴水広場にさしかかっている。柔らかい光に包まれた、のどかな風景。
緑の垣根の曲がり角をいつものように左折しようとしたところで女性が飛び出してきた。
「うわっ」
思いっきりハンドルを曲げたがスピードが全然出てなかったのでバランスを崩し
ハンドルを曲げた逆方向に倒れる。
「ってえ…」
「すいません!大丈夫ですか?」
女性は慌てて駆け寄って、バッグからハンカチを取り出す。
「急いでたから、本当にごめんね。怪我してない?あ、本当に急いでるから、ごめんね!」
ハンカチを渡すと女性は急いで走っていってしまった。
私はしばらくひじをついて上体を起こした状態で口を開けてぼうっとしていた。
「…スカートの中見えてた…って何言ってんの!!」
これではまるで…
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)01時17分14秒
- 時はバレンタインデーにさかのぼる。
友チョコとも、本命ともつかないチョコを一杯貰って
「モテる女は困りますな」
なんて言いながら同じくプレゼントだらけの真希と一緒に帰ろうと自転車置き場に着くと、
一人の女の子が待っていた。
「ありゃ、石川さんじゃん」
真希がいつもの調子でのんびりとした声を出す。
「あ、あの…文化祭の時から、ずっと…好きだったんです!!」
確かに、文化祭ではうちのクラスの劇が一番盛り上がった。
我ながらかっこいいと思ったよ、
私と真希のあぶない刑事は。
「…だからってほっぺにちゅーしてダッシュで逃げていくのはおかしいと思うんですけど。
ピンポンダッシュのピンポンの気持ちだよ今…」
と狼狽して真希の方を向くと
「…いいね、気に入った」
「はぁ?!」
「決めた、私ひとみと石川さんくっつけるから」
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)01時18分44秒
- 真希は人の事を嫌わない。
誰にでも嫌いな部分があるのと同じように好きな部分がある、だったら嫌いな部分を見て
嫌いになるのはもったいないしバカらしいと真希は言う。
私は…どうしたって嫌いな人がいる。大きな心を持つ真希を尊敬している。が…
「石川さん、女。私も、女」
「そんなちっちゃいことは関係ないの。愛だろ、愛。粋だねぇ」
こんな真希が恋愛成就率120%、恋のキューピットとして名を馳せている
という事実が重くのしかかる。
それからというもの石川さんは私に話しかけたりするようになった。
しかもその時必ず、わざとかわざとでないのかわからないが自分の胸を押しつけてくるのだ。
そう…石川さんは何か性的な感情を私に抱いている。
どういうことなんだと真希に問いつめてもむふふと不敵な笑みをこぼすだけ。
女同士で何考えてんだ、わけわかんないと数ヶ月思っていた。
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)01時19分45秒
- 思っていたのに…
「どうしてこんなにドキドキしてるんだろう?ってダメだ、何考えてるんだろう…」
手の中にあるハンカチに目を落とす。
「こ、これを捨てちゃえば、きっとすぐ忘れるさ」
そう言って立ち上がり、スカートを左手ではたきながら噴水の側にあるゴミ箱に向かう。
「どうみても空き缶用のゴミ箱っぽいけど、ごめん。これを捨てなくちゃいけない」
そういって右手をぐーにしてゴミ箱の上にかざす。
「捨てたら忘れられる…」
一分くらいしたのだろうか。
力無く腕を落ろし、くしゃくしゃになったハンカチを、カーディガンのポケットに、入れた。
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)01時22分35秒
- 本日はここまでで。
順調に行けば夏休みに入る頃くらいまででしょうか。
読む方の日々の楽しみに加わる事を願って・・・。よろしくお願いします。
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月14日(土)01時27分56秒
- いきなり2レス目で
「駄目だんだ」なんて誤字が・・・もちろん「駄目なんだ」です。ごめんなさい。
- 10 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)09時06分02秒
- 教室に入る頃にはもうお弁当の時間になっていた。
前の扉を開き、ハンカチを手に持って教室に入っていく。
後ろの席の方からからかいを含んだ挨拶が飛ぶ。
いつもなら笑える返しをするのだが、今日は真顔で真希へと一直線に歩く。
真希は弁当から目を離さずに
「部長、今日も優雅に昼食出勤ですか。」
とみんなと同じように挨拶をして、ひとみが何を言ってくるかと思っていたが
まったく予想してない言葉が返ってきた。
「惚れた」
「はい?」
「吉澤ひとみ17歳0ヶ月、恋に落ちました!!」
教室中があぜんとひとみを見つめる。
「で、どんな人?」
そう言われてひとみは後悔の念に襲われる。
しまったぁぁ!!
惚れてしまった相手が女性だなんてクラスの注目を浴びている中で
そんな事がどうして言えよう、いや言えまい。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)09時07分10秒
- ジェスチャー付きでごまかしながら話す事にした。
「こう噴水の前をチャリ漕いでたら、角から人が飛び出してきたのよ。
それで思いっきり転んだ私に駆けよってきて…」
カーディガンのポケットに手を入れ、ハンカチをきゅっと握る。
一瞬ひとみの表情が複雑なものになったのを、真希は見逃さなかった。
「お姫様だっこしてくれたんですよ!!!」
「何、何年生?」
「いや、20…ご、ろく?のサラリーマン、風。」
ちょっと、いや大分嘘をついてごまかす事にした。
「はぁ?そりゃまたおとなだねぇー。で、その後どーした?お茶でも誘った系?」
「そのお方は急いでるからってソッコーで走り去ってしまったよ。ん…そうだ!
駅の方から走ってきたということはまた駅に来るんじゃないか?!しかも
あの駅の改札口はひとーつ!男吉澤、行かねばならぬ!!」
そう言って今入ってきたばかりの扉へと向かう。
教壇のあたりでばっと振り向き
「二人の恋の邪魔しないでね」
と携帯を高く上げ、電源を切って教室から去っていく。
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)09時08分34秒
- 廊下から「先生吉澤出席でーっす」
「帰るな吉澤っ今来たばかりじゃないか」という声が聞こえる中、
真希は、浮かない顔の梨華に近づく。
「まさかあのひとみに好きな人が出来るとは、予想外の展開だなぁ。」
「どうしよう、こんな状態になったら私なんて…無理だよね。」
「大丈夫。あれは…何か隠してるよ。まぁ、恋愛成就率120%の後藤さんに依頼
したんだから、おまかせくださいまし。今回のターゲットはうぶなひとみちゃんだからね、
親友としては石川さんとくっついて欲しいと思ってますし。ま、今日は行かせといて。」
その頃吉澤家では真里が電話をかけていた。
『現在電波の届かない場所におられるか…』
「ったく、さっき言ったばかりじゃないか。何やってんだよ…。」
「裕ちゃん、本当にごめんね。ちゃんと言ったんだけどなぁ…。」
そう言って腕時計を見る。
「ああ、時間だ…行こう。」
二人は家を出、車に乗って出かけてしまう。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)23時09分33秒
- 駅前。改札の近くで、自転車のハンドルの上に腕をくみ、その上に顔をのせて
駅に向かう人を見ている。
一体何本電車が行き交うのを見ただろうか。さっきの人が駅に戻ってくることが無いまま
もうあたりが大分暗くなっている。
時計台を見るともう6時過ぎだ。
「今日はここらへんにしておくか。」
そういって自転車を漕ぎ出す。
「そういや今日は何かあったような…ま、いっか。」
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)23時12分35秒
- 「ただいまぁ。」
テーブルには真里となつみが着いている。
なつみ。私の妹。あのあつい夏の日に、私が名付けた。
ひとみになつみ。妹が出来たらひらがなで、最後に「み」が付く名前にしたいなと
密かに夢見ていたのでとても気に入っている。
そしてなつみは夏に輝く向日葵のような、我が家を明るくする存在である。
なつみがいて、本当に良かったと思っている。
「おかえりなさい」
「ただいまぁ〜」
満面の笑みをうかべるなつみよりかわいいものは、きっと、ない。
「ひとみ、今日は3時までに帰ってきてって朝ちゃんと言ったよなぁ。」
「ああ、そうかそうかそうだったわ、思い出した思い出した。で、話って何?
私も話したいことがあるんだけど。」
「じゃあ、ひとみから話して。」
お父さんにも教室で話した事を聞かせる。カーディガンの中のハンカチをきゅっと握りながら。
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)23時16分35秒
- ひととおり聞いたお父さんが口を開く。
「そうか。実はな、俺も…。」
「明石家さんまみたいに、なつみが恋愛についてわかるようになるまでは結婚しないんじゃ
なかったのかよ!!」
私だって…まだ全然わかんないのに。
「でもさんまちゃんだって巨乳美女と」
「茶化すなよ!」
「…ごめんな。4年前確かに約束したけど…なつみのためにもひとみのためにも
結婚した方がいいと思うんだ。」
「ウチらのせいにすんなよ」
「いや、本当に…いい人だから。一週間後紹介するから。」
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)23時17分24秒
- 翌日。学校。ひとみは机の上に腕をくみ、その上に顔をのせて、むすっとした顔をしている。
「自分が恋に落ちた時親もとは、青春ですなぁ。」
真希がのんびりとした口調で言う。
石川の視線に気付いてその大きな瞳は輝き、でも口調は相変わらずに
「よし、やりますか」
と立ち上がる。
ひとみの席に近づき
「まぁまぁひとみ君、こうなったら憧れの人を探すっきゃない。とりあえず
その憧れの人がどんな人なのか、この美術5の紺野君を使って絵にしてみようじゃないか。」
つかみどころの無い表情で黒板の側に立っていた紺野は
真希に肩をがしっと掴まれて途端に頬を赤らめる。
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)23時19分43秒
- 時にはぼけ、時には突っ込む。勢いに乗るひとみと
のんびりしている様にもひとみを操っている様にも見える真希。
クラスのみんなを笑わせる事が大好きな二人はまた、
クラスのみんなが思わず見惚れてしまう程の美貌の持ち主だった。
そんな事を全然気にしていない素振りがまた、クラスメイトを惹きつけるのだ。
「で、その人はどういう人?」
「えっ、えっとぉ…」
しどろもどろになるひとみを見てにやりとする真希。
「紺野さぁん、とりあえず、目、こぉんな感じで描いてみて」
真希はにらめっこをする時の目をして見せる。
「…いいん、ですか」
「いいいい」
カツカツとチョークの音が響く。
ひとみが黒板の絵に気付いた。
- 18 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)23時20分51秒
- 「ちっがーーーーう!!!」
変顔をしている真希を押しのける。
「目はもっと大きくて、二重で、たれてて…」
「かかった」
真希は椅子にまたがり、椅子の背の上に腕を組んで黒板を見つめる。
ひとみは夢心地で特徴を並べていく。
「そう、鼻は丸かったなぁ…」
紺野もひとみのテンポに乗って軽快にチョークを走らせる。
そうしてできあがった似顔絵は、女性だった。
「なーんか隠してると思ってたんだよね」
「え?…ああっ!!」
昨日から隠していた事実が思いっきり目に見える形でばれてしまった。
こういう時ひとみは…
「っと逃げさせないからね」
駆けだして行く前に真希が腕をがしっと掴んだ。やはり真希の方が一枚上手だ。
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)23時21分45秒
- 「好きなんでしょ」
「………」
「好き、なんでしょ」
諭すように言う。
何にもいわずに、コクリと、頷く。
「かぁいーなぁ…よし、じゃぁ、探しにいこう」
「へ?」
「あたしも顔わかったから2倍見つかるかもしれないじゃん」
「そっか…真希、隠しててごめん。こうなったら私、頑張るから!!」
真希のことをぎゅっと抱きしめる。
「いやん。優しくしてね」
かわいらしい声でそういって抱きしめ返す。
「今夜は寝かせない…とかそんなこと言ってる場合じゃない、早く探しに行かないと!!真希行くぞ!!」
そういってひとみは颯爽と教室から出ていく。
「単細胞…」
クラスメイトの誰しもがそう思った。
そして幾人かは希望で高鳴る胸をそっと押さえていた。
- 20 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月16日(月)23時22分52秒
- 一方落胆するのは石川だ。
真希はそんな石川の元へかばんを取りに行くついでに立ち寄る。
「好きな人が出来たんだね…しかも、女の人なのかぁ」
「何か隠しているのはわかってたの。カーディガンのポケットに手を入れてる時は、何か…あるから。
っつか、そんなに落ち込まないで。私これから黒板の顔した人探すけど、わざとだから。」
「わざと?」
「10歳差よ?それに、一般論だから言うけど…女の子だからね。断られるに決まってる。
そんなハートブレイクなひとみ君のそばでなぐさめてやって欲しいのよ。
っつーことで、とりあえず探しに行ってきます。」
そう言ってまくってある袖を整えながら扉へと向かう。
ブレザーごと腕をまくるそのスタイルは、ブレザーしわくちゃになっちゃうだろ
という突っ込みを忘れさせるくらい、真希によく似合っている。
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)00時02分35秒
- ひとみと真希は駅員さんに聞いてみたり、駅前の商店街に一軒一軒入って探している。
しかし、見つけられないまま一週間が過ぎる。
ひとみはまた机にいつものポーズをして憂うつそうな表情でいる。
「ついに『お母さん』と今日ごたいめーんなわけだ。」
「まだお母さんになると決まったわけじゃない…。」
「声のトーンに力がないや…。」
大きい声になって
「まぁ、17歳の少女にはどうすることも出来ず…16歳の私にも
どうすることも出来ないなぁ、この問題は。」
ひとみはわかってはいるが言われたくない言葉を聞きむすっとする。
「で、今日は3時までに帰らなくていーの?」
「今日はその人の仕事も休みだから大丈夫だって。ってか夕方からの仕事って何だよぉ…。」
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)00時04分20秒
- その日は逃げないようにとご丁寧に家の前まで真希と、石川さんが一緒に帰ってくれた。
3時10分前、まだ家には誰もいない。和室に入り、ふすまを閉めて座る。
むすっとした顔で待つ。………が、むすっとした顔が持たなくなったので
ポケットからハンカチを取り出し広げる。
「あっちゃー、しわくちゃになっちゃったよ…。」
手で一生懸命しわをのばし始める。そんな中真里が帰ってきた音が聞こえる。
急いでハンカチをたたみ始める。
「ひとみ、入るぞ。」
ポケットにハンカチを入れようとするが慌てていて入らないので、自分の後ろに隠すように置いた。
ふすまが開けられる。
「これが長女のひとみです。」
まだ女性の姿は見えない。
「はじめまして」
ハンカチをいじっていた時の顔からまたむすっとした顔に戻って視線を上げる。
数秒後、驚きの表情に変わる。
「あ」
「中澤裕子と言います。」
裕子はひとみのことを覚えていない。
…母親になるかもしれないと、私に挨拶しているのはまぎれもなく一週間探し続けた人だった。
- 23 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)23時52分24秒
- 「改めて、ひとみ、17歳になります。高校2年、だよな?」
そう私に確かめるように向いた後、時計に目を移す。
「あ、なつみを迎えに行く時間だ。ちょっと2人で話でもしていて。」
そういってお父さんは部屋を出ていってしまった。
私はお父さんを追い部屋からでる。
「あ、保育園だったら私が行くよ。」
「いいんだ、2人で話をしてみろって。ひとみもきっと気にいるから。話してみればわかる。」
「でも…」
「いつまでもむくれてるんじゃない」
そう言ってお父さんはなつみを迎えに行ってしまった。
「違うんだよう…」
仕方がないので和室に戻る。
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)23時53分46秒
- 「ひとみちゃん、って呼んでいいのかな?」
「…」
「とっても明るくっておもしろい子だって真里さんに聞いていたから会うの楽しみだったんだ。」
ありえない状況だ。会いたかった人にやっと会えた。
でも会わせてくれたのはお父さんでお父さんの好きな人でお父さんを好きな人で………
限界値を超えた私の頭は体を制御することが出来なく
なりとんでもない行動をとり始めた。
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)23時54分43秒
- 「…幾つなんですか?」
「にじゅう…ななです。」
「ふーん、結構年離れてるんだね。お父さんが30…6だから10歳近く離れてんじゃん。」
「そう、なるね。」
「ふーん…。」
正座している裕子に顔を近づけていた。
「とっても明るくっておもしろい子が、実は…」
裕子は、近づかれた分上体を後ろにそらしていく。
ひとみは裕子が手をついているすぐそばに手を置き、
完全に上から見下ろす体勢になる。
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)23時55分26秒
- 「ただいまぁ」
その時真里となつみが帰ってくる声が聞こえる。
「…冗談に決まってんだろ」
そうぶっきらぼうに言って部屋から出ていく。
裕子は体勢を立て直すとひとみが座っていた座布団の後ろに置いてあるハンカチが目に入る。
「あ、ハンカチ私とおそろいじゃん」
自分がそのハンカチをひとみに渡したことを全く覚えていない。
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)23時56分12秒
- ひとみは台所に行った。
コップに水を入れて飲み干す。
「どうだひとみ、いい人だろう。今日は夕飯も食べていくからな。」
「…気持ち悪ぃ」
「そう言われればなんだか顔色が悪いぞ大丈夫か?」
「ごめ、寝かせて…」
そう言って自分の部屋に行く。よろよろ歩きでベッドに倒れ込む。
「何やってんだよ…」
- 28 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)01時01分29秒
- ノックの音。いつの間にか眠っていた。体をおこして返事をする。
「はい」
お父さんが入ってきてベッドに腰かける。
「あの人は?」
「今さっき帰って行ったよ。」
「…どこで出会ったの、あの人と?」
「あれは、丁度3ヶ月くらい前のことだったな…」
- 29 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)01時02分30秒
- 「接待で、ある料亭で食事をしていた。」
個室で4人ほどで食事をしている。真里は相手のコップにビールを注ぐ。
「いやぁ、すまんねぇ。」
と、真里のコップにビールを注ごうとするがビール瓶をコップにぶつけてコップは倒れ、
瓶からビールもこぼれて真里のズボンにかかってしまう。
「ああ、申しわけない。ちょっと誰か」
女性従業員がふすまを開けて中に入ってくる。
「あらお客様、大丈夫ですか?中澤さーん」
裕子が和室にやってくる。
「はい」
「お客様のお洋服を乾かしに行って。」
そう言って女性従業員はすぐに畳の方の処理を始める。
「それではお客様、こちらへどうぞ」
- 30 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)01時03分46秒
- 2人きりの従業員の部屋で真里はグレーのスウェットをはき、ジャケットを脱いだ
状態で座っている。
「どうもすいません」
裕子は真里のズボンを乾かしている。
「いえ、よくある事ですから。よし、もう大丈夫かなぁ。」
ズボンを真里に渡そうとする。が、真里の胸のあたりをじっと見つめて
「脱いで」
「はいっ?」
「ワイシャツ…ボタン取れかかってますから。ついでにこのズボンもアイロンをかけた方が…
あ、そんな事したら奥様に誤解されちゃうか。」
「いゃ、妻はもう4年前に亡くなっているんで。やって頂けると有難いなぁ。」
真里はボタンをつける裕子をを上下スウェット姿で見つめる。
- 31 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)01時04分33秒
- 「…それがきっかけで、うん、交際を始めたんだ。」
そう言うとひとみの目をじっと見つめて
「なぁ、ひとみ…どうしても、結婚しちゃ駄目かなぁ」
「あの人も結婚するって言ってるの?」
「お前となつみが賛成してくれれば、結婚したいって。」
「…次はいつ来るの?」
「仕事が休みになるのは一週間後だっていうから、来週の金曜日に来るよ。ひとみ…頼むな。」
「…はい。」
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月21日(土)01時21分46秒
- 翌日、憂うつな足取りで教室に入る。
気付いた真希は立ち上がる。
「おー、『お母さん』はどーだったのよ?美人?芸能人で言うと誰?」
「お母さんはあの人であの人はお母さんなんだってよ」
「はぁ?わけわかんないよ。ちょっと落ち着いて話してみよーよ。」
「だから、あの人と会えたんだけど、それは駅じゃなくて家で、しかも約束してた人なわけで」
「あー、わかった。あの人に会えたわけだ。よし、一回深呼吸。はい吸って、吐いて……。」
真希は黒板の似顔絵を指さす。
「で、その人と家で会えたって、彼女は保険のセールスさんか何かだったの?」
「いや…」
「まさか相手もお前に一目惚れして家をつきとめてきて、『好きです、年の差や性別なんて関係ない、
つきあってください!』なーんて?」
「好きですって…」
「バッカ家なんてわかるわけがないし万が一そうならどーしてそのローテンシ」
「親父のことが。」
真希は状況を把握し、真剣な顔になる。
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月21日(土)01時22分36秒
- ひとみに席に座るように促し自分はその前の席にいつものようにまたがる。
「じゃぁ噂の再婚相手が、この人だったの」
似顔絵は一週間前よりちょっとぼやけた感じだが一週間前と同じ表情で佇んでいる。
「3ヶ月前、裕子…その人中澤裕子って言うんだけどその人が勤めている料亭で出会ったんだってさ。
先週急いでたのは私に挨拶しに行くためで家につくのに必死で私にぶつかった事は
全然覚えてなかった。」
「で、結婚しちゃうわけ?」
「私となつみが賛成してくれれば、だって。」
「ひとみの気持ちは伝えなかったの?」
「それが、2人きりになったらわけわかんなくなって、軽く迫っちゃったりなんか…」
真希ははぁ・・・とため息をつき、顔を下げて数秒してばっと顔を上げる。
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月21日(土)01時23分39秒
- 「その人料亭に勤めてるって言ったよね。」
「あぁ」
「ひとみそれどこにあるか知ってんの?」
「いちおう、住所は紙に書いて来たけど」
「今行けば仕事も始まってないハズだ。行こう。」
真希はひとみの手をひっぱって立たせる。
「それじゃぁ支度して」
そう言って真希は、石川の席に行く。
「悪い、お母さんっていうのはさすがにあんまりだから、とりあえずそれは止めさせに行くわ。」
立ったままのひとみのところに戻り諭すように
「とりあえず、2人っきりで会わないと。そんなぐちゃぐちゃなままじゃ絶対駄目だから。ね。」
ひとみは目をつぶって深呼吸する。目を開いて
「…よし、行こう。」
- 35 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月22日(日)09時46分10秒
- 品の良い、静かな路地の入り口。真希は、住所プレートと紙を見比べる。
「この通りで見間違いないと思うんだけど・・・」
ひとみは路地に入っていく。
路地にひしゃくで水をまく女性がいる。人の気配に気が付き水をまくのをやめる。
「すいません…あれ、ひとみちゃんじゃない」
「どうも」
「わざわざ来てくれたの?」
「あの…父のこと、本当に結婚したい程好きなんですか?」
「妹さん思いなんですってね。部活にも入らずに、保育園になつみちゃん迎えに行って、
寂しい思いしないように遊んであげるんでしょ。お母さんが亡くなった時になつみちゃんが
大きくなるまで再婚しないって約束もして。」
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月22日(日)09時48分17秒
- 一呼吸おいて、思い出すように
「私もね、親が再婚してるんだ。当時は新しいお母さんっていうのが許せなくって。
お母さんという人がいたのに再婚しちゃったお父さんも許せなくって。
その気持ちが伝わってたからね、お母さんが私に遠慮しちゃってさ。
もう私もお母さんに慣れて、そういうこと許して甘えたくなったんだけど、
やっぱり出来なかったんだよね。もうその頃には妹もいて。
3人は家族なんだけど、私だけなんか違って…寂しかったんだよねぇ…。
だから、ひとみちゃんの気持ち、よくわかるよ。」
裕子がまっすぐみつめる。
- 37 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月22日(日)09時49分02秒
- 「でもね、私やっぱり真里さんのことが好きなんだ。別に母親だと思わなくていい。
お姉さんでも、もうお手伝いさんと思ってでもいいから、遠慮しないで接して欲しいんだ。
もちろん、私も早くひとみちゃんに心から賛成してもらえる様に頑張るから。」
「…お父さんをどうかよろしくお願いします。」
深くおじぎをする。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。」
「それじゃあ、また来週に。お仕事、頑張ってください。」
言うなり振り返って歩きだす。
「本当に、わざわざありがとう。」
そう言って、バケツに残っていた最後の水をまく。
真希に会釈をし、ガラガラと扉を開けて店に入っていく。
数秒扉を見つめていて我に返り、ひとみを追う。
- 38 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月22日(日)09時56分57秒
- 追いついたら一歩前に出て
「おーい、本当にいいのー?」
とひとみの顔を見ると、ぼろぼろ涙を流している。
「しょうがないよ、裕子さん本当にお父さんのことが好きなんだよ。お父さんだって、
お母さんが死んでから4年間、1人でお母さんの分まで一生懸命やってきてくれたんだよ。
私なんかが邪魔することなんて、できないよ…。」
「…今日はオネイさんの胸でお泣き」
夕焼けさしこむ道路で真希が泣きじゃくるひとみを抱きしめている。
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月23日(月)01時45分51秒
- 同じ夕焼け空。線香の煙が棚引く。
なつみは保育園帰りの格好で他の墓やお地蔵さんを見ている。
真里は吉澤家の墓に花を挿しながら
「やっと2人と、会わせたよ。なつみはすっかりなついたんだけど、やっぱりひとみには
反対されたよ。『ひとみが大きくなるまで結婚しないんじゃなかったのかよ!!』って。
でも、そこでひとみや、圭織のために反対してくれる子に育っててくれて、安心した。
だし、ここでひとみに負けちゃうようではやってけないからね。まぁ、ひとみのお手並み拝見といきますかね。」
携帯電話が鳴る。真里は立ちあがり電話に出る。
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月23日(月)01時46分47秒
- 携帯電話の相手は噴水広場にいるひとみだった。
「ああ、もしもし…うん。真希と遊んでる。うん。……あのさ、あの人、いい人だと、思う。
…うん、いーよ、結婚して。…そう、結婚して、いいよ。
あの人なら、なつみも、大丈夫だと思う。お母さんには…パステルのとろけるプリン
持って許してもらいに行かなくちゃね。
ああ、もうちょっと遊んで帰る。そんなに遅くならないから。ん、じゃぁまた後で。」
「…よくできました。」
「何それ?」
「だんごピース。」
「…わっけわかんない」
そういって真希と二人で笑い合った。
- 41 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月23日(月)01時47分54秒
- 真里は通話切ボタンを押し、お墓の方を向いて、不可解な顔で首をかしげる。
「…何があったんだろう?」
まあいいかという風な微笑みを浮かべてまたしゃがむ。
「すぐ後で会えるっていうのに直接言えない所がまたいいだろ。
…来月は、4人で来れそうだ。」
パステルのとろけるプリンを置いて、立ち上がる。
「なつみー、帰るよー」
- 42 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月23日(月)22時43分01秒
- 金曜日がやってきた。
その日は珍しく、授業中なのに眠くなかった。睡魔の代わりにいろんな考え事が
ひとみを支配していた。
ついに今日、裕子さんがやって来る。お父さんがプロポーズをして、指輪を渡して
…結婚する。裕子さんが私のの母親になるんだ。みんなは親を選べない。
どんなに嫌いでもずっと家族。それが私は大好きな人と家族になれる。
ずっと一緒にいれるんなんて幸せじゃないか。そう、私は世界一の幸せ者…
- 43 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月23日(月)22時45分20秒
- 「おい、おーい。」
気が付くと真希が目の前で手を振っている。もう片方の手で2人分のパンと
パックのジュースを抱えている。
ひとみにコーヒー牛乳を渡しながら
「もう授業終わってるぞ。珍しく寝ないでいると思ったら…やっぱり土壇場になって
辛くなっちゃったか?」
「何言ってんの、親なんて選べないからどんなに嫌いでもどうしょうもないんだよ。
それが好きな人が母親よ?10歳も上なんだから仮につきあえたとしてもどうせすぐに別れてたよ。
でも母親だったらずっと一緒にいられる。家族旅行も、お正月も、誕生日も。母の日なんて
奮発しちゃうよ、マジで。」
- 44 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月23日(月)22時46分05秒
- 「好きな人を母親になんて選ばねぇよ。」
ひとみはコーヒー牛乳を飲んでいて真希のつぶやきに気付かなかった。
「やっぱりコーヒー牛乳は旨いねぇ」
「これからずーっと、頑張れよ。耐えられそうになくなったり、また裕子さん襲いそうに
なったらすぐうち来なよ。」
ひとみは数秒間真面目な顔でその言葉を噛み締め、それからおちゃらけた顔になり
石川のような声で
「はーい(ハート)」
と返す。
「はぁ…今日はおごってあげようと思ったんだけどなぁ…こないだの千円もまとめて返しやがれっ」
「やーん、乱暴はやめてぇ〜」
- 45 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月24日(火)23時20分01秒
- 家の前。自転車をしまい、ドアの前に立ち、気合いを入れる。
「…よし。」
「ただいまぁ」
玄関には真里、裕子、そして脱ぎっぱなしのなつみの靴が置いてある。
自分の靴を脱ぎ、なつみの靴を直し、リビングへ向かう。
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月24日(火)23時20分40秒
- リビングではなつみが裕子と抱きついてはしゃいでいる。
「あ、帰ってきたな。今日は裕子さんの夕飯、食べられるよな。」
「はい、元気っす。」
裕子、笑顔になって
「よーし、じゃぁ今日はひとみちゃんのために腕をふるっちゃうからね。」
となつみをひざからおろし、エプロンをつけて台所に向かう。
なつみはひとみのところに駆け寄り抱きつく。
「料亭の味を日々盗んでいるからな、めちゃくちゃおいしいぞ。」
ひとみはソファに座ってなつみをひざに乗せた。
真里に聞こえないようにそっと尋ねる。
- 47 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月24日(火)23時21分31秒
- 「なつみ、なつみは裕子さんのこと好き?」
ひとみはなつみが大きな声で答えないように人差し指を口にあてる。
「大好き」
とひとみの耳もとでささやく。
「もしお姉ちゃんやお父さんじゃなくて裕子さんが保育園に迎えに来たり、
毎日ごはん作ってくれたりしてくれるとしたら、どう思う?」
「運動会は?」
「うん、運動会も、発表会も、来てくれるよ。お父さんと、お姉ちゃんと、
裕子さんとなつみで一緒にお弁当食べることになるね。」
「嬉しい!裕子さんのオムライス、とぉ〜〜ってもおいしいんだよ。」
「そっか…。」
そう言ってひとみはなつみの頭をぽんぽんとなでた。
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月24日(火)23時22分06秒
- 「ひとみちゃん、なつみちゃん、出来たよー」
さっきから美味しい匂いが立ちこめていたのだが
視覚的にも美味しい食事であった。
「うわぁーっ!!」
「すごいでしょー」
なつみが私が言ったとおりでしょ、と言いたげな顔で私の腕をぶんぶん振る。
「あ、ロールキャベツだ」
「ブー。ロールレタスでした。ロールキャベツが好物だって聞いて、作ってみたの。
ひとみちゃんケチャップをかけるっていうから今日はトマト味にしてみたんだけど。」
ひとみは急いで席につく。
「いただきますっ。」
と即座にロールレタスを口に入れる。
- 49 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月24日(火)23時22分40秒
- 「うまっ…何だこれ、めちゃくちゃ美味しいっすよ。」
「お店で出るのよりおいしかったりするんだよ、これが。
こんなおいしいお弁当があったらお前も朝から学校行くだろうなぁ。」
「遅刻してばっかで友達に『部長』って呼ばれてるんでしょ?」
「な、なんでそんな事知ってるんですかっ?」
「ひとみちゃんのことはいろいろ知ってるのよー。」
「参ったなぁ…。」
と、揚げだし豆腐を食べる。
「あー、これも凄い美味しい。」
「これは一週間練習してきたから。」
「あー、この間好きだって言ったの、覚えてたんだ。」
「そう。気合い入れて練習したんだから。うまくいってよかったぁ。」
楽しげな二人を見て二人に気付かれない程度に顔を曇らせる。
- 50 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月24日(火)23時23分55秒
- 母親になるというのは当然娘ではなく父親のことが好きだからなわけで、
これから新婚夫婦らしいのろけ話も聞かなくちゃいけないんだ。
納得したけれど、実際聞くと、ツライ…。
「うん、お茶も違う!」
と言い、熱いお茶をぐいっと飲んだ。
なつみはそんなひとみと自分のプラスチックのコップとを見比べている。
- 51 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月28日(土)02時26分18秒
- 食事が終わり、裕子が食器を洗っている。
ソファーにいるひとみとなつみの所に真里が来る。、
「ひとみ、ちょっとなつみと向こうの部屋に行っててくれないか。」
ひとみは頷く。
「なつみ、あっちの部屋でぬりえでもするかー。」
「はーい!」
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月28日(土)02時27分00秒
- ひとみは部屋に入るなりベッドに倒れ込む。
「あー、食べすぎたぁ。本当においしかったなぁ。お父さんも料理上手になってきたけども
根本的に違うわやっぱり。」
「お茶もおいしかったんでしょ。」
「ああ。でも熱いからなつみはもっと大きくなってからね。
それよりもこれからはお弁当もおいしくなるぞー。
うさぎさんのリンゴやスパゲッティなんかも入るんじゃないかなぁ、毎日、毎日…。」
そう言い出すと考えごとモードに入ってしまう。
なつみはそんなひとみの姿を見てむくれている。
- 53 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月28日(土)02時28分05秒
- 食器を洗い終わった裕子はエプロンをはずして席に座る。
「いやぁ、やっとひとみが裕ちゃんの料理を食べることが出来た。」
と言いつつ台所に行き、やかんに火をつけてお茶の準備をする。
「ひとみちゃん、とっても、いい子だね。」
準備を終えリビングに戻って来る。
「そうか、そう言ってくれると安心だなぁ。最初は絶対反対だったから心配で…。」
「本当に心配してた?」
「いや、お手並み拝見って思ってた。ひとみも、裕ちゃんもどんなもんだか。
でもまさかこんなに早く賛成させるとは思わなかったなぁ。…何したの?」
「…内緒。ひとみちゃんは私に似ているような気がするから、だからかもね。」
「そうかぁ?」
「うん、だからきっとひとみちゃんとはいい友達みたいな、似た者同士いい関係になれる気がする。」
「ほぉー…」
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月28日(土)02時28分42秒
- ひとみの部屋からなつみが出ていく。
ひとみはそれに気づかない。なつみはそっと台所に向かう。
台所についたなつみはお茶をとろうとする。が、届きそうで届かない。
つま先立ちしてお茶の缶とゆのみが載ったお盆をひっぱろうとする。
そのはずみでお盆が包丁にぶつかり、
包丁がなつみに落ちそうにぐらぐらしている。
なつみは包丁に気づかない。
- 55 名前:カヲル 投稿日:2003年06月28日(土)19時44分02秒
- ちょっと危機を感じる切れ方っすねぇ。
明るい話…?じゃなかったりして?
やばいぞっ!なつみっち!って感じです。
- 56 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月29日(日)00時03分51秒
- 「あ、そろそろお湯が沸くな。裕ちゃんほどじゃないけどおいしいお茶をいれますから。」
そう言って真里は台所に向かうとなつみと、なつみの上の落ちそうな包丁が目に入る。
「なつみっ」
真里はなつみに飛びかかるようにして助ける。そのはずみで包丁が落ち、真里の左手が切れ、
血が流れる。
「大丈夫か、怪我はないか、なつみっ?」
なつみが泣き出す。真里は自分の怪我には気づかずなつみに怪我がないかくまなく調べる。
「よかったぁ、無事で…。」
真里は、なつみを抱きしめる。
- 57 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月29日(日)00時04分29秒
- なつみは泣き疲れてソファで眠っている。
裕子が真里の左手を包帯で巻いている。
「本当に大丈夫?でもびっくりしちゃった…凄いスピードで飛んでいったから。」
「やっぱり子供のことになるとね、自分のことなんてどうでもよくなっちゃうんだよね。
自分の命をかけてでも、何があっても真っ先にこの子たちは俺が守る。」
「結婚しましょう」
「はいっ?」
「私も一緒に子供たちを守っていきたい。あなたの大事な人を、私も大事にしていきたい。」
「裕ちゃんはいっつもびっくりすることを言うなぁ。俺が先に言おうと思ってたのに。
…裕子さん、僕と結婚してください。」
「はい。」
包帯から手を離し、キスをする。
- 58 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月29日(日)00時05分14秒
- ひとみはいつの間にか眠っていた。
「ん…寝ちゃったのかぁ。ヤバっ、なつみ、あっちに行っちゃったのかなぁ。」
部屋を出て廊下を歩いているとソファのなつみが目に入る。
「なつみ、寝ちゃったの」
と言いながらリビングに入ると真里と裕子のキスシーンが目に入る。
「…にやってんだよ!」
2人、気づいてキスをやめる。真里はひとみの方に歩いていき、怪我をしていない右手で
ひとみのほほをひっぱたく。
予想外の行動にひとみはあっけにとられる。
「何するんだよっ!!」
「なつみと一緒にいる時はなつみから目を離すな!」
お互い無言のまま数秒経ったのち、ひとみが走って家を飛び出していく。
- 59 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月29日(日)00時09分34秒
- >カヲルさん
あぶなかった!なつみっち!!しかし長女よっすぃーがどうなる??
ということで、レスありがとうございました。
- 60 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月30日(月)00時36分17秒
- 「その驚いた顔、どっかで…」
驚いた顔と、部屋にあったハンカチと、噴水広場でぶつかったことが一つの線に繋がった。
「あっ」
真里が裕子の方に振りむく。
- 61 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月30日(月)00時36分58秒
- ひとみは走っていた。
道路を歩いていた人が振り向いてくる。でもそんな事も気にせずにひたすら走る。
走っても走ってもぶたれた時の真里の顔、どうしても結婚しちゃだめかと言う真里の顔、
賛成してもらえるように頑張るからという裕子の顔、迫った時の裕子の顔、のろける2人、
…キスする2人、そんなすべてがごっちゃになってのしかかってくる。
坂道にさしかかり、速度を上げる。
走るしかない。最悪な気分がついてこれなくなるまで、無我夢中で走った。
- 62 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月30日(月)00時37分52秒
- 後藤という表札の前にたどり着く。柵に手を掛けてゆっくりと息を整える。
「すぐうち来なよ。」
という真希の姿が浮かぶ。が、柵をあけようとした時に
「16歳の私にもどうすることも出来ないなぁ、この問題は。」
という真希の姿が浮かぶ。
ひとみは柵をぎゅっと握り、くるっとまわり、真希の家から走り去っていった。
- 63 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月01日(火)23時14分44秒
- 気が付けば噴水のそばの、二人が出会った所に来ていた。
走るのを止めると
「すみません、大丈夫ですか?」
と道路に裕子が現れる。そしてその前には倒れている自分が見える。
「本当に急いでるから、ごめんね!」
と言うとその裕子はひとみに顔を近づけ、キスをする。
でもそれはひとみではなく真里だった。
「うぁあーーーーーっっ!!」
思いっきり叫んだら空想の2人は消えた。
- 64 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月01日(火)23時15分33秒
- ひとみの叫び声が消えると噴水の音が聞こえる。ひとみは再び走り出した。
噴水の方へとダッシュし、走り幅跳びのように噴水に飛び込む。
じゃぶじゃぶと歩きながら「あー」とも「がー」ともとれるようなかん高い叫び声を発する。
「がぁっ」
水を思いっきり殴る。
「ちきしょっ」
水を思いっきりけり上げる。
その勢いでバランスを崩して噴水にばしゃんと大きな音をたてて沈む。
10数秒たって、静かになったひとみが浮き上がる。
そのまま水面でゆらゆらと浮いている。
顔は涙していてもわからない程ぬれている。
- 65 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月01日(火)23時16分22秒
- 裕子がひとみと初めて出会った場所につく。
「やっぱりあの時の子だったんだ。」
「でもここにはいないか…。」
噴水に向かって歩きだし、噴水に浮かんでいるひとみの姿に気づき歩みを止める。
「ひとみちゃん」
裕子は噴水に歩いていき、噴水のふちに右ひさをかけ、両手をついて前に乗り出して
声を掛ける。
「やっと見つけた。探してたんだよ。」
裕子に気付いたひとみは立ち上がる。そして裕子をじっと見つめて、叫ぶ。
- 66 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月01日(火)23時17分08秒
- 「あなたが好きだ!!」
じゃぶじゃぶと水の力に逆らいながら裕子の方に向かう。
「初めて見た時に好きになって、それから一週間ずっと探してた。
お父さんと結婚するんだから諦めようって決めたけど…やっぱり好きなんだよ。」
噴水のふちまでたどり着く。
裕子はひとみを抱き寄せてキスをする。ひとみは今までで一番驚いた顔になる。
「あたしを好きになるなんて、若いのにいい目してるじゃない。大丈夫。
これからはこの裕子さんが、もっと年の若い運命の人を見つけるコツ、伝授してあげる。
…ということで、好きな人いるんで、ごめんなさい。」
「…はい。」
涙をこらえようとするが、限界にきて涙がぼろぼろ流れる。
裕子はそんなひとみを抱き寄せて背中をぽんぽんと叩く。
「恋せよ、乙女。」
泣きじゃくるひとみに向かってか、自分へのひとりごとか、裕子はそう言った。
- 67 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月03日(木)00時27分55秒
- 週が明けて月曜日。1時間目からの長い長い午前の授業を終え、ようやくお弁当の時間。
週末の出来事を一通り真希に話す。
「キスなんかしちゃって裕子さんへの恋心はすぱっと断ち切れるわけ?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたよ真希くん。実はそれから今までの遠慮した態度から一変し、
本性出しおったんですわ。」
土曜日の夜。
ひとみは夕食に入っていた嫌いなしいたけを残し
「ごちそうさまでした。」
と席を立とうとした瞬間
「好き嫌いすな!このしいたけがここにくるまでにどんな苦労したと思うん?」
- 68 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月03日(木)00時28分51秒
- 「か、関西弁だったの?」
「それだけじゃないよ。今日の朝なんか…」
朝7時。部長出勤のひとみが起きるはずもないこの時間、いつもの様に熟睡していた。
その時バンとドアを開けてエプロン姿の裕子が入って来てひとみの首を右腕でぐいっとひっかける。
「朝やで!寝坊して学校遅刻するなんて絶対許さへんで!」
ひとみは眠くてまだぼうっとしている。
すると裕子がふっと今までの優しい口調になって耳もとでささやく
「朝ちゅうしたら起きてくれる?」
「えっ?!」
ドギマギして、しどろもどろに
「いや、お気持ちは嬉しいけどやっぱり親子だしお父さんに悪」
優しい顔からものすごく挑発した顔になり
「うっそ〜〜。」
「なっ!」
「ってゆうかひとみちゃん、キスするの初めてだったでしょ。」
図星で恥ずかしくなり布団に顔をうずめる。
「ひとみちゃんたらかーわーうぃーいー。」
思いっきりバカにした物言いでそうからかうとベッドから立ち上がり、
思いっきりホホホと高笑いしながら
「真里さんに朝ちゅうしてこよーっと」
と言い部屋を出ていく。
ひとみは思わず閉まったドアに向かって
「ちきしょーーっ!」
とまくらを投げつける。
- 69 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月03日(木)00時29分58秒
- そんな自分を思い出しながら弁当のふたをあける。
「ああ、やっぱりしいたけ入ってるよぅ…とにかく恐ろしーよ、マジで。
全然わかってなかった。私ははあの大人しくて品があるかりそめの姿が好きだっただけなのよ。
大体なぁ、金曜日にプロポーズ受けて、土曜の夜には荷物が家に届いちゃうってのはどーゆーことなのよ〜〜。」
「やっぱりあたしらはまだまだひよっこなんですねぇ。」
「まったくだわぁ…。」
そう言ってしいたけを飲み物で流し込む。
真希は思いだしたように後ろの黒板を見て
「そういえばさぁ、裕子さんって石川さんに似てない?」
弁当を片づけながら
「似てないよ」
と答える。
- 70 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月03日(木)00時30分55秒
- しかし石川の席に行き、石川に顔を近づけじっと見つめてぼそっと
「ま、あと10年したらちょっとは似るかもな。」
と言う。
「ま、初恋が人妻っつーひとみさんがあと10年したら海千山千のプレイボーイになるんだろうねぇ〜」
地獄耳の真希から厳しい突っ込みが。
「なっ…」
真希の方をにらみつけると真希はひとみに促すように微笑む。
意を決して石川の方を向き
「あの…悪かった、です。女だからって理由だけで嫌がって。
これからはもうそんな風に思わないんで…まぁ、頑張ってください」
「ありがとうっ、私、嬉しい」
どこかに台本があるかと思うような高い、一本調子な声を出して抱きついてきた。
「あーもう、誤解すなっ!別にOKとかそんな意味じゃないっつの!」
腰のあたりをくすぐって力が緩んだすきに石川から逃げ出す。
石川は満面の笑みで真希に向かってピースする。
真希はそれにだんごピースで返す。
- 71 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月03日(木)00時31分42秒
- 「やっとひとみくんが恋というものを知り、今回の計画も成功しそうな予感。
うーん、めでたしめでたしだね。」
教室から出ていこうとしているひとみがドアの前で振り向く。
「恋せよ、少年少女たち」
とノリよく言い、教室から出ていきドアを閉める。
「ここ女子校だっつーの」
そういうと自分のかばんとひとみのかばんを持ち、ひとみを追って教室から出た。
- 72 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月03日(木)00時32分30秒
- おわり。
- 73 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月03日(木)00時35分10秒
- ありがとうございました。
容量がまだあるのでカミングアウト時に今回の短編に絡んだ話をあげようと思っています。
ま、今書き始めたんで間に合うかわかりませんが(汗あと一週間のうちに
書き終えられるようがんばります…。
- 74 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月12日(土)23時55分52秒
- 短編に絡んだ話を書き上げたので、
その前に短編を再掲させて頂きます。
- 75 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月12日(土)23時56分24秒
- ふたりではいる夏のいりぐち。
- 76 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月12日(土)23時57分00秒
- 二人をのせた自転車はカシャン、カシャンとチェーンの音を立てて
信号がきいろく点滅する夜の道路を走っていく。
- 77 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月12日(土)23時59分29秒
- 不安と期待を抱えてざわめく新しい教室。
席についてあたりを見まわしてみると、左の席の男子のその奥の女の子が目に飛び込んできた。
きれいな人…
クラス名簿によるときれいな、でも強気な表情を浮かべるその人は
おがわまことというらしい────
- 78 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月13日(日)00時00分28秒
- ───────ちゃん、あさ美ちゃん」
「うわぁあ」
びくんという体の動きは椅子に伝わりガタンと音をたてる。
「もう授業終わっちゃったよ」
「あれ、あたし…」
「あさ美ちゃんが寝ちゃうなんて珍しいねー」
「…入学式の日の夢を見ちゃって」
- 79 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月13日(日)00時01分07秒
───────────────────────────────────────────
友達と別れ一人で歩く道をまぶしいほどに照らしていた五月晴れが日に日に翳り出していく。
「雨、降らないといいなぁ…」
はすむかいの家の垣根の奥から甚兵衛姿のおじいさんが縁側にいるのが見えた。
「ただいまぁ」
部屋に入って窓をあけ、しばらくすると
重たくゆっくりとした空気にのって風鈴の音が聞こえてきた。
「あー、おじいさん、風鈴出してたのかぁ…」
- 80 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月13日(日)00時01分40秒
- 夢を見た。
内容はさぁっと風が塵を蹴散らすように消えていってしまったが、
小川さんの夢だった。
- 81 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月13日(日)00時02分17秒
- あたりを見まわすと、カーテンを閉めてない窓の外がもう夜遅いことを教えてくれた。
「寝ちゃってたのか…」
また耳元に風鈴の音が届く。
そんなゆったりとした世界を電子音が破る。
「もしもし、小川さん?」
「ごめん、夜遅くって電車が終点まで行かなくて…紺野さんの家、この駅の近くだよね??」
「あー、うん、じゃぁ駅でて右側に────
- 82 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月13日(日)00時03分11秒
- 「お待たせ。場所わかったかな」
自転車から降りて視線を下に向けている小川さんの顔を覗き込むと、いつも白い顔が
赤くなっていることに気づいた。
「ありがとぉー」
「小川さん、酔ってる?」
「そんなことないよぉー」
そう言いながら私にしなだれてくる。
「まぁ…いいや、乗って」
- 83 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月13日(日)00時03分50秒
- 「しっかりつかまってよ。落ちるのと吐かれるのは困るからねっ」
「あさ美ちゃん」
「な、何?」
「よかったー」
「なんかさ、あさ美ちゃんっておとなしくてまじめなイメージがあったからさ、
こんな時間に頼んでも来てくれないって思ってた。」
「そんなこと…そんなこと、ないよ」
「私そんな良い子なんかじゃないよーっ!!」
- 84 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月13日(日)00時04分36秒
- 「…はっはっはっはっ」
小川さんがいきなり笑い出した。
「な、どうしたの?」
「いや、あさ美ちゃんっておもしろいねー。いきなりそんなこと言うんだもん。
マジおかしいよー、ふふ」
「そんなに笑うことじゃないと思うんだけど…」
そのとき、道路脇の児童公園から花火が打ち上げられた。
黄色。
赤。
黄色。
思わず自転車をこぐ足の力を緩めた。
「うわー!!」
「花火だねーっ!」
- 85 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月13日(日)00時05分11秒
- 「今度さぁ…一緒に花火しない??」
「しよう、しようよ。そうだ、合唱コンの打ち上げでみんなでどーんと花火しよう!!」
「麻琴ちゃん酔っぱらわないでよ」
「あ、今『麻琴ちゃん』って呼んでくれた」
「呼ぶよー、ガンガン呼ぶよー」
そういって自転車を力一杯こぎ始める。
「わかった、実はあさ美ちゃんも酔っぱらってるんじゃないの?」
「そんなわけないでしょっ、一緒にしないで」
「つれない態度とらないでよぉ」
「うわっ、ほらそんなに足ばたばたさせないでよー、倒れちゃうってばー!!」
「あっ!!また花火が見えるよー」
- 86 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月13日(日)00時05分47秒
黄色。
黄色。
「信号が夜遅いから黄色く点滅しているだけですー。こんな夜遅くに不良娘が電話なんか
してくるから」
「進め!不良娘ふたりぐみー!!」
「ヤバ、ほんとにこけるーっ!!」
- 87 名前:01 ふたりではいる夏のいりぐち。 投稿日:2003年07月13日(日)00時06分24秒
- 二人をのせた自転車はカシャン、カシャンとチェーンの音を立てて
夏の入り口へと足を踏み入れていく。
- 88 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時46分59秒
- かわりつづけるふたりのカタチ。
- 89 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時47分57秒
- 小中学校の入学式から一息ついて、桜の盛りはちょっと過ぎたかと思われる様な日。
高校の入学式の日がやってきた。
「お名前お願いします」
「辻希美です」
「辻、辻さん…はい、1年4組ですね。
はい、こちら、式次第や名簿が入ってるパンフレット、親御さんと一部ずつどうぞ。
お子さんは教室に、親御さんは体育館へお願いします」
「4組ね」
「うん、4組。じゃあ、あとでね」
そういって受付のテントでお母さんと別れ、教室へと向かう。
うちの中学からこの高校へ進んだ人は10人はいるから誰かしら同じクラスに
いるんだろうな、なんて思いながら4組の中に入る。
- 90 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時49分02秒
- 「げー、またゴリラと一緒かよ」
私の事をこう呼ぶヤツと言ったら一人しか居ない。
「なんで山猿がこのクラスにいんの??」
「お前のおつむがもっと良かったら一緒のクラスになることもそもそも同じ高校に
なることもなかったんだけどな」
「うっさいな!!」
同じ中学から進んだ人の中で、コイツとだけは同じクラスになりたくなかったという奴が、
大声でからかってきた。
「あんたとなんてあの2年間でコリゴリよ」
「俺だってこんなゴリラとあと1年なんてやってけな…って痛ってぇなー!!」
黒板で席を確認して、奴の横を通ってカバンで思いっきり殴ってから、席へと向かった。
- 91 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時50分10秒
- 「あと同じ中学の子って…」
名簿とにらめっこを始める。と、紺野あさ美という文字を見つける。
1年の時同じクラスだった子だ。ぱっと左を見ると隣の席にその紺野あさ美がいた。
「あさ美ちゃん、同じクラスだねー」
「ああ、辻さんだー」
中学の時とても成績が良かったから、トップ校に行くとばかり思っていたので、
願書を出しに行くときに彼女が居てびっくりしたのを覚えている。
「あさ美ちゃんさぁ、もっと頭のいい学校行けたと思うんだけど、なんでここ来たの??」
「え…別に私大学行く気とか無かったから、雰囲気で」
「ふーん…」
気が付くと私の事なんて忘れて窓の方を思いっきり見つめている。
…相変わらず不思議な感じだなぁこの子は…
- 92 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時50分58秒
- どうやらこのクラスにはあさ美ちゃんと私とあの山猿しかいないらしい。
奴は早速新しい友達と笑い合っている。
「あー、先が思いやられる」
カバンの上に突っ伏した音であさ美ちゃんが元の世界に戻ってきた。
「同じ中学の女子、クラスではうちら二人みたい。あとアレ、アレが」
そう言って顎をしゃくる。
「あー、おもしろそうだね」
「だといいけどねっ」
そういって立ち上がる。
「いろんな子としゃべってみようよ」
そういって、携帯電話を片手に自己紹介とアドレス交換に繰り出しているうちに
体育館入場の時間が来て、そんなこんなで高校生活が始まった。
- 93 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時51分52秒
- そわそわしているうちにオリエンテーションや新入生歓迎会も終わり、授業が始まる。
最初の授業は…化学。
化学室では出席番号の下の数で1−10班に分かれて席に座るように、と言われた。
もう席に座っている女の子の隣に座る。女の子の名前は…駄目だ、思い出せない。
「よろしくねー」
「あ、よろしく」
「ごめん、名前何だったっけ?」
「希美。辻希美」
「のぞみちゃんね。私は麻琴。小川麻琴。」
そうだ、好きなマンガの主人公が「真琴」ちゃんという名前なので名前の印象は強かったのだ。
この顔が「まこと」ちゃんだと一致させるためにまじまじと見つめた。
「まっつげ凄いねぇ」
思わず口に出てしまった。そう言われて目をしばたかせるとボリュームのあるまつげが上下する。
「いきなりそこ来るかー」
そういって顔をゆがませる。
「あ、ごめん、最近ののすっごいまつげ抜けるからうらましくて…嫌だった?」
「ううん、嬉しいよぉ」
そういって思いっきり笑顔になる。つられて私も笑顔になった。
- 94 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時53分51秒
- 急に前の男子がガスバーナーに火をつけた。
「うわっ」
「びっくりしたー」
「授業始まる前に勝手にいじっていいの?」
彼は笑顔のままろ紙をバーナーにかざす。
「ああ、燃えちゃう燃えちゃう!!」
しかし、ろ紙は濡らされているのか、ぼおっと炎を出すがろ紙に火は移らない。
「綺麗でしょ?」
「う、うん」
その答えに満足したのかガスバーナーの火を消し、
片づけながらさらに聞いてきた。
- 95 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時54分30秒
- 「懐かしくない?炎色反応」
「やったねー」
「こうやって食塩水をひたしたろ紙を火にかざすと黄色い炎が輝きます。」
「色については全然覚えてないや」
「マジでー?俺炎色反応が中学の理科で一番楽しかったから超覚えてるよ。
あれだよ、花火でもこの炎色反応が使われてるんだから」
「え?そうなの??」
「まぁ、そんなに目を輝かせて聞かれても詳しいことは全然知らないんだけどね」
「なーんだ、つまんないの」
「つまんないとは失礼しちゃうなぁ、初対面のみんなを盛り上げようと頑張ったのに」
「ごめんごめん、盛り上がった盛り上がった、ね?」
「ね」
そうして、うちの班は先生に2回注意される程盛り上がり、
私達は「のの」「まこっちゃん」と呼び合う仲になった。
- 96 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時55分25秒
- 入学して二週間程が経った。
クラスメイトの名前と顔を一致させていくこの時期、私はある人と間違えられる事が非常に多かった。
「ねぇねぇ加護さん」
まただ。
「辻でーす」
「あ、ごめん、間違えちゃった。」
「今週入って3度目なんだよねぇ」
「うん、なんて言うのかな、雰囲気が似てるから、後ろ姿じゃわからなかったの。ごめんね」
「んー、そうなんだぁ、わかったぁ…」
加護さん。加護、亜依。
そんなに顔が似ているわけじゃないよなぁーと、ほうきにあごを乗せて加護さんの事を窺う。
- 97 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時56分21秒
- 「掃除しないでどこ見てんだよこの辻ゴリラ」
「何?邪魔しないでくれる??」
「何の邪魔だってんだよ」
「いやね、最近やたらと加護さんに似てるって言われるんだよねー」
「似てねぇよ!全然似てねぇよ!!」
「何その言い方、ムカツクわ…」
「だって加護ちゃんは誰かと違って色白で、かわいくって、」
意地悪そうな笑みを浮かべて
「胸あるもんねぇ」
と耳打ちした。
「うっさいな!!」
そういって思いっきりほうきで背中を叩いた。
「ってぇなっ!!事実を述べたまでだよ。似てるようで正反対だよお前ら」
ムカムカするので廊下のまこっちゃんの方へ向かう。
- 98 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時57分22秒
- 「何また夫婦漫才?」
「やめてよそういう事言うの」
しょっちゅうつっかかってくる奴と私は軽くクラスの名物になりつつあるみたいだ。
だから高校では同じクラスになりたくなかったのに…
「本日は何が原因で??」
「私最近よく加護さんと間違えられるのよ。その事言ったら全然似てねぇ、
正反対だって。胸が無いって。」
「本人逆に結構胸の事で苦労してんだけどねー」
「何まこっちゃん仲いいの?」
「あいぼんとは中学一緒だったもん」
「へー、そうなんだ。他には?」
「うちのクラスではうちら二人だけ。でも確かに、顔とかが似てるってわけでは無いんだけど、
雰囲気が何か似てるよ。背も同じくらいだから後ろから見たらわからないかもね」
「そおかぁ?」
正直私も奴が言うように正反対だと思う。
白くって、ほわーっとした柔らかい感じがあって、…胸がある。
「はぁー…がんばろっか」
そういって、そんなに大きくないまこっちゃんの胸に目線を送る。
「うん…」
二人でため息をついた。
- 99 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時58分43秒
- 5月に入ると行事がさかんなこの学校では合唱コンクールに向けて猛練習を始める。
朝練、昼連、放課後と練習を積み重ねていくうちにクラスがまとまっていく。
歌の状況はよくわからないけど、うちのクラスは明るく盛り上がってるクラスだと、思う。
教壇のところに並んで歌う時、背の関係で加護さんの隣になった。
後ろ姿でまた間違えられるのかな、なんて思っていた。
「ああっ!」
「へ?」
「それ!」
私の腕時計を指さす。お正月に買って貰ったお気に入りの時計。
「私も持ってる!」
そう言って左腕を伸ばすと袖から同じ時計が出てきた。
「こないだの誕生日に買って貰ったんだー」
「あたしお正月に買って貰った」
「これいいよね、一目見てからずっと欲しくてさー」
「あたしも!」
伴奏が始まったので笑顔を交わし合い、楽譜に目を移す。
- 100 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)22時59分52秒
- 加護さんとは気が合うかも、とその時初めて思った。
そしてその思いは日に日に強くなっていくことになる。
「お腹すいたー」
「すいたよねー。私牛丼食べたいや」
「あー、わかる!!しかも大盛り」
「「つゆだく、けんちん汁付きで!!」」
放課後の練習の時、私が食べたいと思っているものが加護さんとぴったり合うのだ。
そして段々と「加護さん」が「あいぼん」に、「辻さん」が「のの」へと変わっていった。
- 101 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時00分53秒
- 「今日も二人の息はぴったりかなー??」
「そんなわくわくした目で見ないでよ」
「私はいつでもおいもが食べたいからなー」
「あさ美ちゃんほんとおいも好きだねぇ…」
「あ、加護さん来たぁ〜」
「お、ののー、今日は何食べたい気分?」
「今日はねぇ〜、いっせーの」
「「コロッケ!!」」
「やっぱり今日はコロッケだよね?ねっ?」
「揚げたてのコロッケを食べたいぃ〜〜!」
「あのね、うちの近所のお肉やさんのコロッケがめちゃくちゃ美味しいのね、
だからさ、このあとうちに遊びに来ない?」
「行く!」
あいぼんの最寄り駅は学校から30分弱かかる私の駅よりさらに先の方だった。
商店街を案内されながら、目的の肉屋に付き、二人で800円分もコロッケを買った。
すぐに茶色い袋を開いてほおばりながら、あいぼんの家へ向かう。
- 102 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時02分02秒
- 若いお母さん、おばあちゃんととちっちゃい妹、弟と一緒にコロッケを食べ、
そのあとすぐに夕飯を食べて、あいぼんの部屋に行った。
「うわー、かわいいねぇ」
「ピンク好きなんだよね」
6畳の部屋にはキティちゃんとピンクで一杯だった。
きょろきょろと部屋を見て回る。
「あ、卒アルだ!見ていい??」
「ん、いーよぉ」
返事を聞くなり中学校の卒業アルバムを取り出し、箱を横に置いて開き出す。
「あー、これまこっちゃん?」
「ん、そうそう」
「なんか若ーいって感じだね。あ、これあいぼんだ」
「そんなにじっくり見ないでよ」
「かわいいじゃん」
「ののの卒アルはどんな感じ?」
「え、最悪だよ。あの山猿のせいで超変な顔なの」
「同じクラスだったんだよね」
「そーだよ2、3年で一緒。何でまた一緒なんだろう…」
- 103 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時02分43秒
- 「でも二人息ぴったりじゃん、見てておもしろいよ」
「勘弁してよー。ほんとやなんだから。思い出すだけで腹たってくる」
「うらやましいな」
「へ?」
「ああやって仲良くしゃべれてうらやましいなぁって。」
「もしかして…あいつの事、好きとか?」
「…みんなには、内緒だよ。ほんとに、ほんとに恥ずかしいから」
「ふーん…そうなんだぁ…」
あいつも加護ちゃんかわいい加護ちゃんかわいいって言ってるよ、
両思いじゃんやったね、と、言うことが何故か出来なかった。
それからは初恋の話やら、クラスの子達の噂やら、いろんな事を夜遅くまで話し続けた。
ののに好きな人が出来たら応援するからね、とあいぼんは言ってくれたりした。
- 104 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時03分54秒
- 「のんちゃん、そろそろ当てられるよ」
6時間目が始まって10分も経たないくらいだろうか、あさ美ちゃんがそっと起こしてくれた。
「いやー、やっと目が覚めた。気持ちいいねー」
「午前中から爆睡だったよねー」
「いやね、昨日あいぼんの家に泊まりに行ってさぁ、ずーっと話してたから
もう授業始まると即効で記憶無くなっちゃったよ」
「辻さん」
先生に注意されてしまった。
「午前中から寝てたと思ったら起きてすぐおしゃべりとはさすが辻姐さん!」
教室中から笑いがこぼれる。
きっと発言者をにらみつけて、教科書に目を移す。
- 105 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時05分18秒
- 朝から寝続けたのと、注目を浴びてしまったために眠気がすっかり冷めてしまった。
こんな奴のどこが好きなんだろう。あいぼんの事かわいいの次に胸おっきいなんて言う様な奴の。
そう言えば、あさ美ちゃんも結構胸あったよなぁ、と中学校の宿泊行事を思い出して目線を移す。
「寝てる…」
さっきまでしゃべっていたあさ美ちゃんが眠っていた。
成績の良い彼女は今みたいにちょっとしゃべる事はあってもこんなに熟睡する事は
無かったのでびっくりした。
彼女は授業が終わるまでの間、起きることも、びくっと体を震わせる事もなかった。
- 106 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時06分41秒
- 「あさ美ちゃん、あーさー美ちゃん、あさ美ちゃん」
「うわぁあ」
びくんと体を震わせてあさ美ちゃんが起きた。
「もう授業終わっちゃったよ」
「あれ、あたし…」
「あさ美ちゃんが寝ちゃうなんて珍しいねー」
「…入学式の日の夢を見ちゃって」
「ふーん、入学式かぁ。もう2ヶ月近く前になるのかぁ。」
「早いなぁ、って」
- 107 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時07分36秒
- 「確かに早いかもねぇ。もうテスト大体帰ってきたもんね」
「やっぱり高校のテストって中学と違って大変だねぇ」
「とか言って、良かったでしょ、あさ美ちゃんは」
「まぁまぁ、かな」
「あたし数学以外は全然駄目だよー。その数学もまこっちゃんに負けたし」
「小川さんも数学得意なの?」
「うーん、一番得意みたいだよ」
「小川さんって、きれいだよねー」
「ん、そうかぁ…?まつげはすっごいと思うけど、
そんなに目立ってきれいって感じはしないなぁ」
「えー、白くって、何か雰囲気がめちゃくちゃ綺麗だって!」
「ふーん。まこっちゃん聞いたら喜ぶだろうね。めちゃくちゃ綺麗だって
言われてたよって。ってあさ美ちゃん?聞いてる??っていうか起きてる?」
「ん…うわぁ、なんだか今日とっても眠いや。最近なんだか考え事多くて眠れなくって…」
「そんな感じするよ。危ないから今日は家帰って早く寝なさい!ね。」
- 108 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時08分33秒
- 気が付くと二人が別れるところまで来ていた。
あさ美ちゃんは左に曲がる細い、一軒家が並んだお金持ちそうな道を進んでいく。
「じゃぁまた明日ね」
「明日は授業中眠っちゃだめだよ」
「のんちゃんだって」
「んー、がんばるよ」
私はまっすぐ、普通のマンションへと向かって歩いていく。
- 109 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時09分42秒
- 「ただいまー。今日の夕飯何ー?」
「んー、何にする?」
「え、まだ買い物行ってないの?」
「日が長くなってきたからね、今からくらいが丁度いいわ」
「じゃぁねー…冷やし中華!!」
「冷やし中華ねー。あと豆腐でも買ってくるか」
お母さんが出かけてから、冷蔵庫を物色する。
おやつらしいおやつも無かったのでマンガを読んで時間と空腹を紛らわす。
- 110 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時10分27秒
- 「あ、電話だ」
椅子の上にあるカバンを開き、携帯を取り出す。
「あいぼん、どした?」
「あのねー、今みんな学校にいるんだけどね、今日河原にみんなで集まろうって
話になったの。のの来れない?」
「あ、いいよー、行く。あ、うーん…親めんどくさいからあいぼんの家に泊まるって言って良い?」
「オッケー。まぁ盛り上がったら朝まで河原にいるかもしんないけどね」
「じゃぁ学校に行けばいいの?」
「そうそう。あとどれくらいで着きそう?」
「うーん、準備して、あとは電車次第で…50分って感じ?」
「感じ?りょうかーい」
「んじゃまた後でねー。」
適当な広告の裏に
「お母さんへ あいぼんの家に泊まりに行くので夕飯いりません。 のぞみ」
と書いて、学校へと向かった。
- 111 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時11分27秒
- 7時近くになってちょっと暗くなった空の下、学校の門の外にはもう十数人が居た。
「おー、のの来たー!!」
「お待たせしましたっ!」
「あとのメンバーは7時過ぎになるのでとりあえず移動しまーす」
歩く人や自転車をのろのろこぐ人達が固まってぞろぞろと土手へと動き出す。
「大学生の家庭教師にお酒買って貰うんだって」
とあいぼんはその教え子を指さしてそっと耳打ちしてくれた。
「へー、そうなんだ」
「ののお酒飲めるの?」
「まー、家でちょっと飲んだくらいしかないなぁ。あいぼんは?」
「わからないけど…どうにかなるでしょ」
「今日はクラスみんなに連絡したの?」
「うん、連絡つかない子やまだ部活やってる子とかいるからそこらへんはあとで来るよ」
- 112 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時12分38秒
- 「あ、あさ美ちゃんは?」
「電話でないんだって」
すぐさま携帯を取り出して掛けてみる。が、今日のあさ美ちゃんを思い出して心配なのもあるし
こういった集まり、苦手なんじゃないかな?とも思ってワンコールでやめる。
「今日あさ美ちゃん滅茶苦茶眠そうだったからきっと起きないよ。寝かせてあげて。」
「眠そうだったの?」
「あたしあさ美ちゃんが授業中寝るのははじめてみたもん」
「ののが授業中ずっと寝てるから見えないんじゃなくて?」
「そうだねーってオイ!」
そうこうしているうちに河原に着き、早速酒を配り始める。
「のの何飲む?」
「まこっちゃんは何飲むの?」
「んー、カシスソーダかなぁ」
「あたしは…うーん…」
悩んでいるうちにまこっちゃんは缶を開けて飲み始める。
- 113 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時13分43秒
- 「よし、このピーチのにしよっと」
そう思ってビニール袋に手を伸ばそうとした瞬間、横からまこっちゃんに抱きつかれた。
「へっ?何いきなり??」
「…へへへ」
「まこっちゃん、目真っ赤だよ?」
「んー、だいじょぶだいじょぶ」
「いや全然駄目だから。ってかまこっちゃん、お酒弱いの?」
「そんなことないよー」
…弱いんだな。
「あんまり飲み過ぎちゃ駄目だよーってほら、暑いから離れて」
「いやーだぁ」
まこっちゃんは私から離れようとしない。倒れそうになったので仕方なくまこっちゃんを抱きしめる。
まこっちゃんをおとなしくさせているうちにこの熱さが心地よくなり、あたまがぼおっとしてきた。
「やば、私も酔ってきた…」
酔ったと思った瞬間眠くなる。
- 114 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時14分52秒
- 「ののー?」
「ん、あれ…あいぼん」
「大丈夫?」
「もしかして寝てた?」
「うん、結構。」
携帯を光らせると23という数字が現れた。
「うわ、もうこんな時間…」
「あ、酔いさめた?」
「飲む前にまこっちゃんにからまれてて全然飲んでなくて、ただの睡眠不足で寝てたから
めちゃくちゃ元気。」
「まこっちゃん凄いよー」
「え、どこいった?」
「ほい」
指をさされた方を向くとふらふらになったまこっちゃんが笑っていた。
「あれ、やばくない?」
「やっぱやばいかな?」
- 115 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時15分55秒
- 「まこっちゃん、ねぇまこっちゃん」
「あ、ののおっはー!!」
「おっはーじゃないよ、大丈夫?家帰った方がいいんじゃない?」
「あ、大丈夫、終電でしっかりちゃんと帰るから」
「終電?じゃあそろそろ駅向かわないと駄目だよ」
「え、あいぼん今何分かわかる?」
「もう30分過ぎたよ」
「じゃぁ私一番酔ってないし、駅までまこっちゃん送りに行ってくるわ。みんなまだ居るよね?」
「うん、のの帰ってくるの楽しみに待ってるから、とりあえず今はまこっちゃんを頼んだ!」
「ラジャ!」
- 116 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時17分04秒
- 暗い河原から離れるとまこっちゃんが酔っぱらっているのが目立って見える。
「つーかほんと、大丈夫?家まで送った方がいい?」
「そしたらののこっちに戻れなくなるじゃん」
「そーなんだよねぇ…」
駅の手前で自販機に小銭を入れてスポーツドリンクを買い、まこっちゃんに渡す。
「とりあえずこれ飲んでから駅入ろう。ね」
「ありがとぉ」
携帯の画面を見る。あと1、2本はあるであろう時間だったので、まこっちゃんが
350ml全て飲むのを待った。
「よし、駅行きますよー」
「はーい」
定期を使って改札をくぐり、電光の時刻表に目をやる。
「あー、もうこの時間うちの駅まで行かないんだよねー」
「うそっ??」
時刻表には私の駅の奥、まこっちゃんの駅には数駅届かない駅止まりの電車が並んでいる。
- 117 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時18分34秒
- 「何でもっと早くそれを言わないのー!!マジどうしよ…あたしはあいぼんのとこ
泊まるって言っちゃったし…」
「どーしよぉねー」
緊迫感のないまこっちゃんをにらみつけてさらに考える。
「あ」
あさ美ちゃんがいた。
私と同じ駅で、今日来てなくて、しかもまこっちゃんの事をやたら褒めてたから、
悪い気はしない…と思いたい。思おう。
「まこっちゃん、あさ美ちゃん、紺野あさ美ちゃんに電話してみよ」
「はーい」
そういうと携帯を取り出して早速電話をかけはじめた。
「え、私がかけたほうが」
「いーからいーから」
「あ、もしもしこんばんわー」
私を制して話し始める。
- 118 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時20分12秒
- 「ごめん、夜遅くって電車が終点まで行かなくて…紺野さんの家、この駅の近くだよね??」
「この駅ってまだ電車乗ってないじゃん」
ぼそっと突っ込むがまこっちゃんはそんな事に気づくはずもなくずばっと本題に突入する。
「いきなりなんだけど今日紺野さんの家に泊めて欲しいなー、なんて」
「うん、駅でて右側、マクドナルドの前ね。うん、ほんとにごめんね、ありがとー。
じゃぁ今から向かいますんで、はーい」
- 119 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時21分13秒
- 「おっけ!」
満面の笑みを浮かべる。
「良かったねぇ…」
「あ、家に電話しないと…もしもし?麻琴だけどね、電車無くなっちゃったから
クラスの子の家に泊まるね。…はい、はい。わかりましたー。おやすみなさい」
家にかける時になると急に普通の口調に戻った。
「じゃぁののありがとー」
「ああ、またテンション元に戻ったよ…ほんとに大丈夫??」
「うん、駅出て右側のマクドナルドの前ですから。」
「気をつけてね」
「はーい」
電車のアナウンスが聞こえてきた。
私からもあさ美ちゃんに電話をかけようと思ったところであいぼんから電話がかかってきた。
- 120 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時22分32秒
- 「もしもし」
「のの?帰りにさー、追加飲み物買ってきてくれない?」
「いいよ、いくらくらい?」
ホームに入ってきた電車のドアが開き、まこっちゃんが中に入った。
手を振りながらあいぼんとの話を進める。
「今いくら持ってるの?」
「うーん…1500円くらいかな」
「じゃぁ1000円くらいお願いしまーす」
「はーい」
電車のドアが閉まって、まこっちゃんがこっちに手を振っている。
携帯を切り、手を振りかえして電車を見送った。
- 121 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時23分33秒
- コンビニに行っておつまみやアイスを買って、河原に戻る。
眠気もすっかり切れて今まで眠っていた分、思いっきりしゃべって、しゃべって、
空が明るくなって電車もまた動き出した頃、一回家に帰ることにした。
「男子はあのまま残って学校行くみたいだね」
「私はいいや、一回お風呂入るもん」
「私遠いからなー、そんなにのんびりは入ってられないや」
「そぉいやまこっちゃんどうしたかねー。いきなり紺野さんの家に泊めてもらう事にした
とかびっくりしたんだけど」
「あいぼんあさ美ちゃんの事そんな知らないんだっけー」
「うーん、しゃべった事ないかも。ってかまこっちゃんだってそうじゃないの?」
「あさ美ちゃんまこっちゃんの事気に入ってたからさ、大丈夫だと思ったの。
あさ美ちゃんなにげおもしろいから今度しゃべってみ。」
「そーしてみよ」
早起きのサラリーマンがぽつぽつ座る電車に乗り込んで、あいぼんはすぐに眠ってしまった。
私は眠れなかったので、いつもよりもまぶしい光に包まれた風景を眺めながら、
今日一日の事を思い返していた。
- 122 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時24分33秒
- 数時間後、教室へ入るとあさ美ちゃんの席にまこっちゃんが来て、二人で話していた。
「おー、昨日はいきなりごめんねー。どうだった?」
「もう、あさ美ちゃん超おもしろいんだけどぉ!!」
何、このテンション?
「何、まだ酔ってるの?」
「そんなことないよー。でもあの後もあさ美ちゃんの部屋で飲んじゃった」
「あさ美ちゃんほんとごめんね、迷惑かけたでしょ」
「迷惑かけたのはこっち」
「えへへへ…」
「飲む前から凄かったけど、飲んだら凄かったよー。見せてあげたい。
あ、そーだ、合唱コンの打ち上げで花火やろーよ!!」
そう言いながら教卓の方へ歩いていく。
- 123 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時25分38秒
- 「…何やってたの?」
「え、世間話やら、猥談やら…」
Y団?
「わいだんって何?」
「えっと…エッチな話、とか」
「あさ美ちゃんそんな話好きなの??」
「嫌いじゃ、ない」
意外だった。気きかせて電話ワンコールでやめなきゃ良かった…
これはまたみんなで集まるしかないと思ったところで、教室の前の方では
もうまこっちゃんを中心に合唱コンの打ち上げのプランが練られていた。
「じゃぁ、合唱コンの打ち上げ楽しみにしてるから」
思いっきりの笑顔をあさ美ちゃんに向けた。
- 124 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時26分36秒
- 「最近ずいぶん加護ちゃんと仲いいじゃねーか」
「あんた昨日ちらっちらちらっちらこっちの方向いてたもんねぇ」
「お前起きてからずーっと一緒にいるのな」
「なーんか気が合うんだよね」
「俺の事なんか言ってたりしないの?」
「…ないね、全然」
「何だよその言い方」
その時あいぼんの家に泊まった日の事を思い出して、確かに言い方がきつくなってしまったから
「ごめん」って言えば良かったのに、胸がきゅっときつくなって、もっときつい言葉が
口から出てきた。
「大体さー、何で私にばっかりそんな言ってくるわけ?私にぐだぐだ言ってても
全然本人には伝わらないし、ほんとウザイ。本人に言えばいいじゃんか」
「…わかったよ、合唱コンの打ち上げで、本人に言うよ。」
「…おお、そうしな」
「…ありがとな」
聞きたかったのはこんなセリフじゃない。違う、違う…
- 125 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時27分20秒
- 何だか急に合唱コンが来るのが嫌になった。
それでも日々は確実に過ぎていき、山猿とはあまり話さなくなったけど、
あいぼんとは何も無かったかのように一緒に過ごした。
- 126 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時28分07秒
- 「それではぁ、1年4組6位おめでとうっ!かんぱーい!!」
まこっちゃんの陽気な乾杯の音頭が河原に響く。
「まぁ7組中6位だけどねー」
どっと集団が沸く。
あいつの視線に気づいた私はあいぼんを誘ってちょっと暗めのところに座る。
「あ、ライター買ってこよう。あたし火どこーって探すの嫌なんだ」
「あ、俺携帯電源切れたからコンビニに充電しに行くから一緒に行こうぜ」
「自転車だっけ?」
「そうですよ、お乗り下さいお姫様」
「おお、くるしゅーないぞ」
「それ姫かよー」
そうやって、二人は明るい方へと歩いていった。
- 127 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時28分54秒
- 30分後、戻ってきて私と目があったあいつは、ピースをしてきた。
次の日、あいぼんがそっと耳打ちした。
「昨日ね、買い出し行ったときにね…告白された」
「で、どした」
「もちろん、つきあう事になったよ」
「そっか、良かったじゃん」
「良かったぁ〜〜〜〜!!」
「大変だと思うけど、がんばれよー」
「ありがとう」
「ん?」
「もう今全ての人にありがとう!!って感じ」
「何だよそりゃ〜〜〜」
- 128 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時29分35秒
二人がつきあってる事は、他の人は誰も知らなかった。と思う。
学校ではそんな素振りを見せず、休みの日に電車でちょっと遠くに出かけて
会ったりしているとあいぼんは言っていた。
そんなあいぼんに気を遣ってかつかわずか、期末テスト前の週末は、
まこっちゃんとあさ美ちゃんの勉強会におじゃまさせてもらう事にした。
- 129 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時30分42秒
- 「今日はいきなり混ぜてもらっちゃってごめんねー」
「全然いいよー、のんちゃんおもしろいし」
「あさ美ちゃん成績いいから落としに来ましたー」
「なんだそりゃ」
「一番悪い英語だってあたしより良いもんねー」
「英語は私の方が良かったけど、一番点数良かった数学かなわなかったしなぁ…
何でそんな頭いいの??」
「何でだろうねー…」
「…」
「あさ美ちゃん!!別世界にいってるよ!!戻ってきて!!」
「ああ、ごめんごめん、夏だからかな…」
「ええ?」
- 130 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時31分37秒
- 初めて通る一軒家が多い道の垣根の奥では、おじいさんが上半身裸でスイカを食べていた。
「あ、あさ美ちゃん、あれ」
「あー、ほらね、もう夏でしょ」
「いや、そんなことで季節を確かめないから」
「あー、だめだ、ツボ。あさ美ちゃん私のツボなんだって」
「まこっちゃん、ほらちゃんと歩いてよっ」
「あ、これが家でーす」
「おお、やっぱりでかいんだね」
「おっじゃまっしまーす」
「まこっちゃん失礼だってば」
まこっちゃんがあけた玄関先にはまるごと一個スイカがおいてあった。
- 131 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時32分42秒
- 「うーん、夏だね、スイカがおいしい」
「どうしてスイカが玄関先においてあったんだろう…」
「夏にはよくあることだよ」
「よくない事だって!!またまこっちゃんおかしくなっちゃうから!!」
案の定まこっちゃんは机に突っ伏して笑いをこらえている。
あさ美ちゃんの家に泊まってから、すっかりまこっちゃんはあさ美ちゃんに
ハマってしまったみたいだ。
「すっかりモテモテみたいですね私ったら」
「なーにいってんだか」
「でも高校生になって3ヶ月になるっつーのにカップル出来ないねー」
「ねー」
「いるよ」
「え?」
「マジ誰?」
「あいぼん」
「うわー」
「そーなんだぁ…相手は?」
「…山猿」
「ひぇえ」
「っつかいつから?」
「合唱コンの、打ち上げ」
「よく今までばれなかったね」
「あ、だから、これ内緒ね、3人だけの内緒ね。私しか知らないことだからばれたらやばいわ…」
「だから今日ここ来たのかー」
「そんなわけじゃないって」
「みんな私の魅力にメロメロだから来てるんですよね」
「よくゆーわ」
「っつかほら、勉強するわよ、勉強勉強!!」
「へーい…」
- 132 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時33分40秒
- 絶対内緒話だった話が、何故か月曜の朝には広まっていた。
あさ美ちゃんやまこっちゃんがばらしたというわけではなく、週末のデートが
隣のクラスの男子に見られてしまったからということで、ホッとした。
つきあってるのかよ、というからかいに真っ正面に「そうだよ」と答え、
堂々と受け答えをするため、騒ぎはあっという間に落ち着いた。
「だから『大変だと思うけど』って言ったんだよ」
と、皮肉、ちょっとだけ皮肉めいた事を言ったら
「そんなところも好きなんだ」
と言われて、なんだか泣きそうになった。
- 133 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時34分50秒
- 「ねーのんちゃん、終業式の後に盆踊りあるじゃん」
「うん」
「まこっちゃんと一緒に行くんだけどさー、一緒にいかない?」
「ん、いいよー」
「3人で浴衣着て、彼氏ゲットする予定だから」
「マジでー?気合い入れないと」
「じゃぁ夕方に一回うち集合で」
「了解」
- 134 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時35分59秒
- 「ねー、お母さんは?」
「えー、買い物行ったよ」
「え?盆踊りで浴衣着ていこうって約束あるんだけど」
「あんた昨日のうちにちゃんと言ったの?」
「…」
「あんたが悪いよ」
「あさ美ちゃんごめん、お母さんが買い物行っちゃって浴衣着るのに時間かかるから
先行ってて。まこっちゃんと違って行きなれてるからあっちで会えるよ。うん、
そうそう携帯は持ってくから。うん。」
- 135 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時37分05秒
- お母さんが帰ってきて、ちょっと口げんかして、むすっとして着付けして貰って
出かける頃にはあたりはもうすっかり暗くなっていた。
色とりどりのちょうちんの淡い光や屋台のさんさんとした光の手前のこの道路は
もの凄く暗く見える。目がその暗さに慣れた頃、前の方にあいぼんたちが
歩いているのが見えた。歩く速度をおもいっきりゆっくりにして見ていると、
後ろから来た車からさっとあいぼんを守っている二人が見えて、
悔しいけれどあいつの事も、あいぼんの事も大好きだなって。
どっちの事も好きだから、もう、どうしようもないなという事実に気づいてしまった。
鳥居をくぐったところで居ても経っても居られなくなって、木陰に走った。
「くっ…」
浴衣の裾も気にせずにしゃがみこんで木に手を掛けて、他の人に気づかれない様に、
涙を流した。
- 136 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時38分26秒
- 不意に、ほっぺたにつめたい感触があたる。
「ふぁっ?」
「こんなところで何やってるんですか?」
「そっちこそ何やってるの」
「いやね、三角クジで水鉄砲でも当たったところで化学の自由研究でも」
そういってポケットからハンカチを取り出して、私のほっぺたの水と、目の下の涙をふき取った。
「課題:これに火を付けたら何色になるでしょう?辻さんの仮説は?」
「水道水の色、って何色だったっけ?それじゃないの」
ちょっと鼻が詰まった声で返す。
「実験開始」
そういってライターを取り出し、火を付ける。
「あぁち!」
炎の色が変わる前に、ハンカチに火がついてしまった。いそいで手を離し、ハンカチを踏んで火を消す。
- 137 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時39分16秒
- 「ちょっと、大丈夫?」
「ちょっと水が足りなかったみたいだね」
「ほんとびっくりしたんだからー」
「でも涙止まった」
核心をつかれて私の動きが止まる。
「ほーら、また泣きそうな顔になってる。また水かけちゃうぞ」
「やめてよ」
「どうすれば涙止まる?」
「わかんない」
「例えば…辻さんの事が好きですって言ったら?」
「…わ、かんない」
「ってか当たり前だよねー。タイミング最悪。ほんとごめん。
…でも、忘れて、とも言えない。ゆっくりでいいから、考えてくれると、
っていうよりも、うん、とりあえずお友達からでも、いろいろ話とか、したいな」
「いきなりでびっくりして、そういうこと全然今考えられないんだけど、
だけど…今日は、一緒に、居て欲しい、です」
「はい」
- 138 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時40分08秒
- スピーカーから流れる音頭が終わり、数秒ザーという音を流してから、
おばさんのアナウンスと共に別の音頭を流しはじめた。
「この音頭が終わったら、見て回ろうか」
「…うん」
屋台が立ち並ぶ方を眺めると、まこっちゃんとあさ美ちゃんがソースせんべいを
食べながらフライドポテトに並んでいた。他にも、できたてホヤホヤであろう
カップルや、兄弟や、親子や、いろんなふたりが目に飛び込んできた。
私たちもそんなふたりのひとつとなっていくんだろう。
- 139 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時40分57秒
- 「それと、明日ね、ちょっと遠くで花火大会があるので」
「はい」
「電車乗って一緒に、お出かけしませんか?」
「…はい」
音頭が終わったスピーカーからは雑音まじりのザーっという音が流れている。
手も繋がずに歩いていく私たちは一体どんなふたりに見えるんだろうか、
なんて思いながら光の下へと入っていった。
- 140 名前:かわりつづけるふたりのカタチ。 投稿日:2003年07月13日(日)23時41分49秒
- おわり。
- 141 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月14日(月)00時05分24秒
- 短編に実は辻ちゃんが出てたんだぞ、というのを書こうと思って考えた話が
どんどん長くなってここまでのものになってしまいました。
実はいしよしからおがこんに行く前にののあいになっていたのですが、それこそ
中1にしか見えないなと短編はおがこんにしたので、高1組をみんな出せて
良かった良かったと勝手に思っています。
男×娘。もネタはあるので間に合ったら出そうと思ってますので是非予想スレに殿タンを(w
間に合わなかったり25レスにおさまらなかったらここに書こうと思いまふ…。
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