きみに会えて...
- 1 名前:うっぱ 投稿日:2003年06月18日(水)02時21分51秒
- 予備校を舞台としたお話になります。
安倍さん、保田さんを中心としてます。
マイナーなので、こっそりとやっていきます。
- 2 名前:ご報告 投稿日:2003年06月18日(水)02時25分15秒
- 前スレ(花板の『恋情2』)で、途中まで載せて切れてしまった
短編があるんですが、それを最初から載せた後に本編を始めたいと思いまふ。
- 3 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時27分28秒
最近仕事が終わってから家に帰るのが怖い。
別に誰かに狙われているとかいう訳ではないし、一人が淋しいからでもない。
何が怖いかといえば、今一緒に住んでいる“ミニデーモン”こと安倍のなっちゃんだ。
この恐怖はなっちゃんがアタシよりも先に帰っている時だけに限る。
最近、なっちゃんはアタシよりも忙しい身なので、大抵はアタシよりも遅いのだけれど、
極たま〜にアタシよりも早い時がある。
そういう時は決まって善くないことが起こるのが常だ。
家の前まで来て、鍵穴にキーを挿し込む前にまずドアノブを回す。
まるで盗人みたいに思われるかもしれないけれど、いつの間にかそれが習慣になってしまった。
どうかいませんようにと願ってみると……簡単にドアが開いた。
ということはつまり、もう部屋の中にはなっちゃんが……いる。
アタシは大きな溜息をついて、ドアを開けて中に入った。
「ただいま〜」
- 4 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時28分43秒
- 部屋の中はやっぱりシーンとしている。
なっちゃんが先に帰っている時はいつも真っ暗でシーンとしていて、アタシを驚かそうと
どっかに隠れているのがいつものパターン。
でも今日は部屋も明るくて、なっちゃんの存在がはっきりとわかるくらいケタケタ笑う声もした。
「おかえり〜」
陽気な声がして、久しぶりに平和な夜が過ごせそうだな〜と思ったのも束の間、
部屋の奥に入ってアタシは目が点になった。
「……なんて恰好してんの?」
「えへっ、似合うかな?」
なっちゃんの密かな趣味……それはコスプレで、これまでに兎の着ぐるみから始まって、
セーラー服、チャイナドレス、バニーガール、セー○ームーン、う○星や○らのラムちゃん、
白雪姫、ピ○チュウと多種多彩なコスチュームを見て(見せられて?)きた。
中でも凄かったのがRPGの先駆けともなった『ドラクエ』、その二作目で登場したムー○ブルクの王女。
マニアなら生唾もののコスチューム(たぶんかなりの値で売れると思う)をどっから仕入れてきたのか
聞きたかったけど、それは企業秘密だとかで教えてくれなかった。
- 5 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時30分06秒
- なっちゃんのコスプレは嫌いではない。
何を着ても可愛く見えてしまうから、アタシ的には目の保養に十分過ぎるほど役立っている。
だから好きか嫌いかといえば好きだ。しかし!である。
自分だけが着るのならまだ許せるのだけれど、それをアタシに着るように強要するのは毎回止めて欲しい。
既に何回か、その恥かしい恰好を連中に見られてるのも事実だ。
今までに裕ちゃん、カオリ、矢口、アヤカ、メロンの大谷君、そしてつい先日りんねにも見られてしまった。
何故かコスプレする日に限って来客がある。
まるでどっかから覗いているかのように、タイミングよく現れる。
中でも裕ちゃんに目撃されることがなぜか多く、イチロー選手の打率並みによく出没する。
二人で共同してアタシを嵌めているのかと思うくらい、タイミング良く現れる中澤“デーモンキング”裕ちゃん。
でもって、今夜も誰か来そうな予感がしてる。
また裕ちゃんなのだろうか、と一瞬溜息が出そうになった。
- 6 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時31分13秒
- なっちゃんの今回の衣装(?)はコスプレの定番ともいえるナース。
しかも本格的にキャップまで頭につけて、白いストッキングも着用してる。
はっきり言ってここまでくると、もう病院ものの連ドラ撮影というよりはAVの世界だ。
聞くところによるとAVのコスプレで一番多いのがナースらしい。(某AV好きのスタッフさん談)
やっぱり心体が弱っている時には、あの白衣が天使に見えるからだろうか?
「そ、それ……また、貰ったの?」
「これ? 違うよ。これは通販で買ったの」
「………」
はっきり言って眩暈がした。
おそらく通販の販売担当者も腰を抜かすほど驚いただろう。
今や知らない人なんていないくらいに有名になった安倍なつみが密かにコスプレの趣味があったなんて、と。
アタシは天を見上げて手を額に添えながら、大きな溜息をついてた。
またいつものようにアタシにも着てって言ってくるのだろうと思ったから。
こればっかりは何度やっても慣れる事はなかった、というか慣れたらそれこそ怖い。
- 7 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時32分45秒
- 「どうかな? 今回の衣装」
「いいと思うよ。似合ってる」
「へへっ、した甲斐があった」
「……」
コメントのしようがないよ、安倍さん。
アタシはご機嫌ななっちゃんをよそに夕食を摂ることにした。
最近現場で支給されるお弁当にハマっていて、余った分を持ち帰ることにしてる。
外食で栄養が偏りがちになるよりは、少しでも栄養バランスの取れたお弁当のほうが健康に良いし、
経済的にも助かるし、何より作ってくれた人たちの申し訳ないと思ったから。
本当なら自分で材料を買って料理するのが一番良いのだけれども……。
お弁当を箸で摘みながら、少し離れた所でテレビを見てるなっちゃんを観察してみた。
……見てるとどうしても白衣の天使に見えてしまうのは、アタシが疲れているせいなのだろうか?
ふと、観月ありささんが出演していた『ナー○のお仕事』に新人看護婦役で出ていてもおかしくはないな、
なんて思ったりした。
かたや、江口洋介さんが出演していた『救命○棟24時』では無理だろう、なんてことも同時に思ったりなんかして。
- 8 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時33分48秒
- 夕食も終えて、一日の疲れをお風呂で癒した後、リビングに戻ると
まだナースルックの恰好のままのなっちゃんが寛いでる。
よほど気に入ってるのだろうか、顔が綻びっぱなしだ。
さっきまで白衣の天使に見えていたなっちゃんにちょっと気味が悪くなって探りを入れてみる事に。
「ねえ、なっちゃんさ、どうしてこの恰好のままでいるの?」
「え、いや、ちょっとね〜」
何やら意味深な事を言うナース安倍。
こういう時は大抵、ろくな事が起きやしないと、頭の中で黄信号が灯った。
なるべく刺激を与えないように注意を払いながら、さも関心なさそうに装う。
「あっそ。んじゃ、アタシそろそろ寝るから」
そういって寝室へと足を運ぼうとした時、なっちゃんの目が一瞬だけ輝いたのを見逃さなかった。
咄嗟に頭の中で黄信号が赤へと変わった。
自分の身の危険を案じ、なっちゃんに告げておく。
「間違ってもその恰好でアタシを誘わないでよ? いくらなっちゃんでも変なコトしたら怒るからね」
「えっ……そ、そんな事、しない……よぉ」
「絶対だよ!?」
そう言って先に寝ることにした。
- 9 名前:恋感染 〜服作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時35分01秒
- けれど数分もしないうちにドアが開いて、ナース安倍がコソコソとアタシの寝てるベッドに近づいてくる。
そして……こともあろうに足元から布団の中に潜り込んできた、来やがった。
ナース安倍の手の平がアタシの脹脛を絶妙な手触りで這いずり回る。
一瞬で全身に鳥肌が立ちこめ、思わず布団を払いのけてしまった。
「何してんのよ!」
「あ……は、はぁ〜い。や、保田さぁ〜ん、検診のお時間ですよぉ〜」
「ちょっとなっちゃん! 検診ってアタシどこも悪くないわよ」
「怖くないですからね〜。すぐ済みますよ〜」
ナース安倍はイキナリお医者さんごっこを始めた。どうやらアタシは患者役らしい。
ナースの恰好させられなくて良かった、といつもと違う展開にホッとしてしまった。
ってそんな悠長に構えてる場合じゃないってば!
脈をとる真似をしながらイヤらしい手つきで腕の筋肉をほぐすナース安倍。
なんか違う……そう、これは俗に言う「プレイ」だ。
- 10 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時36分13秒
- 「いつまでそんな恰好してんの!? 明日も早いんでしょ? バカな事してないではやく寝なさい!」
「保田さぁ〜ん、怒ると血圧が上がっちゃいますから落ち着きましょうね〜」
「あのねぇ〜」
「はぁ〜い。リラックスしてくださ〜い。お熱測りますよ〜」
そう言ってなっちゃんは自分のおでこをアタシのおでこに当てる。
間近で見るナース安倍は結構というかかなり可愛い。
ヤバイ……体温も血圧上がりそうだ。
アタシはナース安倍の魅力に引き込まれていくのを必死にこらえる。
「な、なっちゃん! いい加減にしないと怒る…」
「……ダメ?」
「ダメッ!」
「じゃあ、なんで圭ちゃん顔赤いの?」
「え……」
「ホントは期待してたんじゃないの?」
「(ギクッ)」
なっちゃんの鋭い指摘にアタシは真っ赤になって固まってしまった。
- 11 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時37分21秒
- 「あれぇ〜、お熱がありますね〜。風邪ひいた時は温かくしましょうね〜」
そう言ってキュッと抱きついてくるナース安倍。
そ、そんなコトしたら余計に体温が上がってしまいます……。
アタシは完全になっちゃんの成すがままになっていた。
「どこか痛いところはありますかぁ?」
「と、特にはない……です」
「でも、お身体が疲れてますからちゃんと休んでくださいね〜。そうしないといつまでも治りませんからね〜」
「は、はい……」
なんだか本当に病院の一コマを見ている気がしてきた。
興奮していたのが嘘のように和らいでいく。
「どうやら落ち着いたみたいですね〜。ちゃんとナースの言うことは聞いて下さいね〜」
ナース安倍得意のスマイルにアタシはまた白衣の天使を見た。
既にお医者さんごっこにハマってしまったアタシは覚悟を決めて「アタシなり」にとことん付き合うことにした。
そう、アタシなりに……(ニヤリ)。
- 12 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時40分02秒
- 「あ、あの……」
「はい? なんですか?」
「実はアタシ、ちょっと痛いところがあるんですけど……診てもらえますか?」
「それは大変ですね。どこですか、言って下さい」
「実はここなんです」
そう言って自分の胸の辺りを指す。
心なしか、ナース安倍の顔がほんのり紅くなっている。
それはなっちゃんが恥かしがる証拠であることは前々から知っている。
ちょっと面白いので更に続けてみることにした。
「い、いつ頃からで、ですか?」
「もうずっと前からなんです。ある人の笑顔を見る度にここがキュンとするんです。
そんなアタシの気も知らずに、その人は抱きついたりしてくるんです」
「あ、あの、それはその……」
「それでいつも耳もとでその気にさせるような言葉を囁くんです。
どんなに抵抗しても、その影響力は日に日に強くなっていくばかりで……。
このままじゃアタシ、治らないかも知れない」
「わ、悪く考えちゃ、ダ、ダメですよ?」
ナース安倍はアタシを顔を合わせてくれずに、いらぬ方を向いたまま。
それでもアタシはナース安倍の手を握って訴え続けた。
- 13 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時41分22秒
- 「どうしたら治りますか?」
「えっと……その、ですねぇ……」
「アタシ……その人を…安倍さんを見てると、凄く胸が締めつけられるんです。
切なくなるんです。安倍さんの事を考えるだけでアタシ……」
「あ、あの、やす、保田さん?」
「安倍さん、好きなんです! 大好きだ!」
「きゃぁ〜っ!」
「安倍さん、安倍さぁんっ!」
「ダ、ダメです、そんな事……」
「好きなんです、安倍さん。アタシのこの気持ち、受け取ってくださいっ」
「ちょ、け、圭ちゃ…」
「もう我慢出来ない! 安倍さん!」
「ンンーっ!」
どっかのAVみたいなノリでなっちゃんを押し倒して、強引にキス。
しかも理性が崩壊しかけていたらしく、ディープキスしながらなっちゃんが弱そうな所を手でなぞってた。
ナース安倍の手がアタシの身体を離そうと必死になって抵抗するけれど、
徐々にナース安倍の力が抜けていって最後は……。
- 14 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時42分20秒
- 結局ナース安倍は大した抵抗もできずに(せず?)アタシに身を任せて力尽きた。
アタシは生まれて初めて「コスチュームプレイ」というものを体験した。
正直……普通に「する」よりも興奮したのは気のせいだろうか?
ちょっとだけいつもとは違う愛ある行為が終わった後、元に戻ったなっちゃんと目が会うと、
なっちゃんは恥かしそうに言う。
「もう……圭ちゃんのバカっ」
「なんだよ〜、誘ってきたのはなっちゃんの方じゃんか」
「圭ちゃん、変なビデオの観過ぎ!」
「なっちゃんこそコスプレし過ぎ」
「圭ちゃんだってノってるじゃん」
「そうさせてるのは誰なのさ?」
人差し指でなっちゃんのおでこを弾くと、気持ちいい音がした。
手で弾かれた所を撫でながら布団の中に埋まっていくなっちゃん。
目元まで布団を被って上目遣いで拗ねたように言う。
- 15 名前:恋感染 〜副作用にはご注意を〜 投稿日:2003年06月18日(水)02時43分38秒
- 「いいじゃん。今日だって本当はさ……」
「ヤダよ! 絶対にヤダッ!」
「え〜、いいじゃん。見たいよ〜」
「もう絶対にコスプレなんかしないからね!」
「ズルイよ〜。なっちだけ」
「自分の趣味を人に押し付けないでよ」
「なっちにもいい思いさせてよ〜」
「あのねぇ……アタシはコスプレしてるなっちゃんは大好きだけど、自分がやるのはイヤなの」
「えっ」
「あっ……」
なんか今ものすごい発言をしたような気が……。
恐る恐るなっちゃんを見るとしっかりと耳にしてたようで、目が爛々と輝いてた。
「なんだ、圭ちゃんも好きなんだ。そうなんだ」
「いや、あの、それはその、なんというか……」
「よかった、次の考えといて」
「え゙っ……」
「これからもどんどん続けよーっと」
まだまだなっちゃんのコスプレは終わらないようだ。
〜FIN〜
- 16 名前:ご報告 投稿日:2003年06月18日(水)02時45分54秒
- 次回更新から新作
『きみに会えて...』
をお送りしまふ。
- 17 名前:CM 投稿日:2003年06月18日(水)02時53分14秒
Somebody loves you baby 誰かがきみを
Somebody loves you baby 愛しているよ
Somebody loves you baby 淋しくないよ
Somebody loves you baby 一人きりじゃないよ
(M.Watanabe『きみに会えて』より)
- 18 名前:CM 投稿日:2003年06月18日(水)02時56分56秒
『きみに会えて...』
主演:安倍なつみ、保田 圭
共演:平家みちよ、飯田圭織、後藤真希、辻 希美 他
〜近日公開〜
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)02時58分45秒
- Hide this story.
- 20 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月18日(水)02時59分21秒
- Hide this story,again.
- 21 名前:ビギナー 投稿日:2003年06月18日(水)22時52分03秒
- お久し振りです。そして、新スレおめでとうございます。
なっちも、圭ちゃんも素晴らしいです。
素晴らしい壊れっぷりです。
新作長編も、期待してますね。
ぜひ、がんばってくださいませ。
- 22 名前:藤 T 〜BIGINING PLACE〜 投稿日:2003年06月20日(金)03時49分10秒
「また一年、この街と付き合っていくのか……」
一歩改札口を出れば目の前に聳えるシンボルタワー。
新宿と原宿といった流行を先取る街に挟まれたこの街は、「受験生の街」としても有名である。
なにせ地名がそのまま予備校名となっているのだから。
よって年頃の若者が平日の昼間に肩身の狭くなるような思いをする必要がこの街にはない。
とはいってもこの時期はやはり気分的にはブルーにもなろう。
目の前のシンボルタワーを見上げながら、圭もそんな中の一人だった。
「もうここへは来ることないと思てたけど、二ヶ月前までここで頑張っとったなぁ」
「よく言うわよ。合格発表の時、怖いから一緒に見てくれってヘコたれてたくせに。
っていうかさ、なんでついてくんのよ?」
「ええやんか。待ち合わせいうたってすぐ隣やったんやし。固いこと言わない」
- 23 名前:藤 T 投稿日:2003年06月20日(金)03時51分38秒
この春から大学一年生になる平家みちよは懐かしむように辺りを見回していた。
努力の甲斐あってか、第一志望だった私大の雄、W稲田大に受かったみちよだが、
実のところ併願していた大学は全滅だった。
滑り止めに至っては補欠合格になるも、みちよの元に春は訪れなかった。
だから圭には何故みちよがW大しか受からなかったのか不思議でならなかった。
「みっちゃんさ、ほんとにW大生?」
「当り前やろ。れっきとしたW稲田大学第一文学部の学生やで」
「先方が間違って入れてくれたんじゃないの?」
「落ちたやつに言われたない」
「悪かったわね」
「イダッ!」
思いっきり足を踏まれたみちよは交差点のど真ん中で蹲った。
圭は見向きもせず、集団の波に乗るように通い慣れた道を進んでいく。
「ったくぅ、あたしのせいやないのにぃ」
納得のいかない顔つきで、みちよは踏まれた足を庇いながら圭の後を追った。
- 24 名前:藤 T 投稿日:2003年06月20日(金)03時53分18秒
所々で腕章を付けた係員が誘導する方へと進んでいく。
毎回思うのだが、駅からほんの三十秒足らずで到着する校舎になぜ誘導する係員が付くのか。
圭はそんなコトを思いながら教材配布場所でもある校舎へと進んでいく。
昼間という事もあり、あちらこちらに制服姿の高校生が見える。
その顔はどれも初めて体験する大学受験に希望と不安が入り交じった表情をしている。
それにひきかえ、既に経験をしているものたちは、野心に燃えるような顔つきのものが多く見受けられる。
まあ、中にはそんな事を微塵も感じさせないような輩もいるが。
「相変わらずやる気のある連中とない連中の差が激しいとこやね、ここは」
受講証片手に教材を受け取る列を見ながら、みちよが呟いた。
何気に場の雰囲気を読めないみちよは周りの人から痛いほど視線を浴びていた。
(こんな奴がW大生だなんて、ここにいる全員が殴りかかるだろうな〜。それはそれで見てみたい気がするけど)
圭は他人のフリをしながらそう思った。
- 25 名前:藤 T 投稿日:2003年06月20日(金)03時56分01秒
真新しい教材を数冊受け取り、確認用に用意された空き教室に入って、後方の席に腰掛けた。
圭は自らが受講する講座の教室を確認し、みちよは圭が貰ったテキストをパラパラと捲っていた。
真新しい教材独特の匂いがみちよの鼻孔をくすぐる。
「英語に現文、古文、小論。アラ、今年は数学、地学、日本史取らんの?」
「まあね。理数科目はセンターのみだからさ、去年のテキストで十分だと思って。
もしヤバくなったら講習会で補おうかなって。日本史は去年同様、モグリ」
圭とみちよは昨年同じ講座を受講していたが、日本史と地学に限っては圭が地学を、
みちよが日本史を正規で受講し、みちよが地学を、圭が日本史をモグって一年やり過ごした。
「でも、今年はどやってモグんの?」
「それはあとで考えるよ。なんとかなるっしょ」
余裕に満ちた表情のまま乱丁を確認する圭。
去年の今頃、この話を聞いた時は正直驚いたが、要領良く行った結果、
一教科分の学費が浮いて合格できたのだから、それを提案した圭には少なからず感謝している。
そんな圭だから今年も巧くやるんだろうと思い、みちよは敢えて何も言わなかった。
- 26 名前:藤 T 投稿日:2003年06月20日(金)03時58分14秒
「なあ、今年は私立も視野に入れてるん?」
「今のところは」
「それで『W大現代文』と『W大・J智大古文』取ったんか」
「それもあるけど、去年一年間受講してみて、解り易かったからってものあるけどね」
「そっか。去年のテキストも使えるやろうし、下手な参考書より単科の付録の方が使えるもんなぁ」
「それにここは単科が充実してるから、その分自分なりのプランが立てやすいし、
一教科でやり方の違う講師のを幾つも取るよりは、この教科はこの講師って決めた方がいいしね」
「さすが二浪生。判ってはりますなぁ」
「うっさい。嫌味か?」
「イエイエ。滅相もございません。なるほど〜、となるとうちの後輩になる可能性もあるわけやね」
「やだな〜、それ」
「失礼なやっちゃな〜」
「まあ、みっちゃんが留年してくれたらそれでもいいかも」
「冗談やないわ。二浪生と同じやんか、扱いが」
「何度も二浪って言うな」
小馬鹿にしたようなみちよの額にでこピンを入れる圭。
張りのいい音が疎らな室内に響いた。
- 27 名前:藤 T 投稿日:2003年06月20日(金)04時00分08秒
額を擦りながらみちよが続けた。
「今年も『T大英語』は取ったんや。今年は第一志望T大なん?」
「いや。後期で狙ってみよっかな〜とは思ってるけど」
「へ? んじゃ前期はどこ?」
「T外大」
「また?」
「なにさ、受けちゃ悪いみたいな言い方じゃんか?」
「……まあ、レベル的には同じぐらいやからええんちゃう?」
「そうかぁ?」
「いや、ようわからんけど。まあ、センターでコケたらお終いってことは確かや、うん」
「相変わらずいい加減だよね。よくそんなんでW稲田受かったよね」
「だからちゃんと正規で受かったんや」
「誰もズルしたとか言ってないよ?」
「アンタ、ウチのことからかってるやろ? まあええわ。
平家さんは今、何言われても平気やねんから」
「……センターの数U、しくったくせに」
「……古傷えぐらんといて」
古傷(数U試験中、マークする欄をズラしていたことに気付いたが、そこで運悪く終了を告げる鐘が……。
本人曰く、186点取れているはずが、24点になったとの事)をえぐられ落ち込むみちよをよそに、
圭は最後のテキストの乱丁を確認し続ける。
- 28 名前:藤 T 投稿日:2003年06月20日(金)04時01分49秒
無事に確認を終えた二人は教室を出てから、圭は校舎の一角にあるライブラリーへと向かった。
圭がここを気に入っている理由の一つにこのライブラリーがある。
受験に関するものが必要な時すぐに手に入り、且つ文具などが比較的安く購入できるメリットを持っている。
しかも文庫本なども置いてあるため、読書好きの圭には絶好の書店だった。
圭はそこでこれから使う文具を幾つか購入し、店を出た。
受付のあるフロアへ行くと、みちよが何やら真剣な表情をして冊子を眺めていた。
時折「合ってる」とか「やっぱりこっちか」などとぶつぶつ呟いている。
しかも動作まで大げさなので、傍目にはちょっと近寄りがたいが、当の本人は全く気にしていない。
「何見てんの?」
「ん、ああ、これや」
みちよが見ていたのは、つい一ヶ月前に終わったばかりの国立大学の問題と解答が載っている冊子だった。
- 29 名前:藤 T 投稿日:2003年06月20日(金)04時04分26秒
「こないだの前期試験のやつか。どこの、これ?」
「Y国大」
「なんだみっちゃん、受けてたんだ?」
「まあな、なんとかなるかな思て受けてみた。けど、やっぱセンターがなアカンかったみたいや。
結構模範解答と自分の答えは合ってるんやけどな」
「凄いじゃん。Y国って二次重視じゃないの?」
「センターの割合が結構あんねん。やっぱ数Uがなぁ……160点の差は響くよなぁ……」
「さっきは古傷えぐるなとか言ってて、自分でえぐってんだ?」
「う、うっさい! ホレ、あんたが受けたとこやで」
そう言って圭が受けたT外大の冊子を差し出す。
それを受け取り、模範解答と総評に目を通した。
正直ヒヤリングは自信がなかったが、記述に関しては大きな間違いをしたという箇所はなかったように思えた。
だが……総評を読んで改めてこの大学の難しさに己の甘さを痛感した。
- 30 名前:藤 T 投稿日:2003年06月20日(金)04時06分03秒
T外大の前期試験は英語のみのため、T大やその他の国立大のように
他の科目で補う事が出来ないので、僅かなミスが合否に大きく関わるのだ。
しかも、募集人数も各学科とも少ないためにかなりの倍率になっているので、
尚更ちょっとのミスが大きく響いてくる。
圭は総評を読みながら溜息ばかりを吐き続けていた。
「ちょっと圭ちゃん。何そんな溜息ばっかついてんの?」
「みっちゃん……みっちゃんの言う通りだよ。ここの大学ってT大レベルだね」
「なんやセンターしくったんか? それともほとんど合ってなかったとか?」
「どちらとも言えない、かな」
「まあ、その悔しさをバネにまた一年ここで頑張ってこーやないの。
周りの人よか、一年多く勉強してたんやから、来年は受かるやろ?」
「いちいち二浪を強調すんな!」
「ひぎゃっ!」
- 31 名前:藤 T 投稿日:2003年06月20日(金)04時10分18秒
- みちよは圭の渾身の右ストレートを鳩尾にくらい、雄叫びを上げてその場に蹲る。
その際、大声をあげてしまったため、周囲の視線が一気にみちよに注がれる。
みちよは近くにいた警備員さんに掴まり、説教させられてしまった。
周りにいた受講生や職員、受付けの人に笑われるみちよ。
そんな哀れなみちよをよそに、圭はそ知らぬフリをしてそそくさとその場を後にしていく。
「とにかく一年、やってみっか!!」
圭にとって二年目の闘いが始まりを告げた。
- 32 名前:お返事 投稿日:2003年06月20日(金)04時14分43秒
- >ビギナーさん
なつみ「お久し振りです。そしてありがとーございま〜す」
圭 「短編では壊れてますけど、本編ではそうならないようにします!」
なつみ「え〜、壊れないの? ハジけた圭ちゃんが好きなのになぁ」
圭 「(無視)これからもよろしくお願いします!」
なつみ「無視しないでよ〜」
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)04時15分13秒
- Hide this story.
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月20日(金)04時15分47秒
- Hide this story again.
- 35 名前:本庄 投稿日:2003年06月23日(月)15時57分22秒
- おぉう!圭ちゃんがんがれ!
わしも来年がんがるよ・・・。
(某国家試験落ちますた・・・(T▽T))
続き期待しております。
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月23日(月)18時42分52秒
- なちやす大好きなんですよ!!楽しみに待ってまぁ〜す
- 37 名前:藤 U 投稿日:2003年06月26日(木)02時45分00秒
「もお〜カオリのせいで遅くなっちゃんたじゃん。
せっかく今日は早めに教材貰ってから渋谷で買物しようと思ってたのにぃ」
「だってさ〜、新宿って初めてなんだもん。もうさ、JRでさえ乗り換えがごちゃごちゃしてるのにさ、
地下鉄まであるんだよ? もう迷子になるってこんなトコ来たらさ」
「だったら札幌でもよかったじゃんか。Yゼミなんて札幌にもあるんだしさ」
「どうせ大学受かったらこっちに来る予定だったんでしょ。それが一年早まったって考えればすむ事じゃない」
「だからって浪人してる時から来なくっても……」
安倍なつみはやや不満げな顔つきで目の前であちこち見渡している飯田圭織を見つめた。
何故二人が新宿にいるかというと、各駅よりも快速の方が早いという理由で途中乗り換えたため、
目的の駅で降りれなくなったからである。
- 38 名前:藤 U 投稿日:2003年06月26日(木)02時47分49秒
そもそも二人は北海道から高校卒業と同時に出てきた。
運良く圭織の父親の配慮で少し都心から離れた独身寮に下宿することになった。
そこは主に新入社員や単身赴任者用の寮で、圭織の父親の入れ替わりにちょうど
二人分の空きが出来たので圭織となつみが住む事になった。
二人は高校在学時も寮生活を経験しており、くしくも同部屋だった。
時には取っ組み合いの喧嘩もしたが、互いに持っていないものに惹かれた様に二人で一緒にいる事が多かった。
初め、東京に出ようと決意したのはなつみだった。
しかしそれは大学生に無事になったらの話しであって、やや勘違い癖がある圭織は独自の理論で
強引になつみを連れ出しだが、その立場はたった数日であっけなくひっくり返り、
今ではなつみが全てのイニシアチブをとっている。
それでも圭織は自分は自分の精神で今日も頑張っている。
- 39 名前:藤 U 投稿日:2003年06月26日(木)02時51分53秒
「どんなとこだろうね、本校ってさ」
「そんなに対して変わんないよ」
「え〜、だってサテライン講座映してるとこだよ?
もしかしたらカオリの顔とか全国に流れるかもしれないじゃん」
「別にサテライン映りに来た訳じゃないから」
「そうしたらカオリ、全国デビュー? それで受験生のアイドルになっちゃりして」
「嬉しくもないよ、そんなの」
「そしたらカオリ有名人じゃん。サインの練習しないとねぇ」
「カオリの考えって……よくわかんないよ」
「なんだよ〜、なっちノリ悪いよ〜」
「カオリが勘違いしすぎてんだべ」
本来の目的を頭っから勘違いしている圭織を見ていたなつみは先々が不安になった。
(こんなんで大丈夫なのかなぁ〜)
凹凸コンビを乗せた黄色い電車が駅へと滑り込んでいく。
- 40 名前:藤 U 投稿日:2003年06月26日(木)02時53分05秒
改札口を出て、行き交う人々を見つめながらなつみは気を引き締める。
しかし実際、なつみの心の中は不安と恐怖で爆発寸前だった。
ブラウン管の中でしか見たことがなかった大都会東京、しかも日本で一番JRの利用者数が多い
新宿が目と鼻の先にあるこの地に今自分が降り立っているのだ。
自然となつみの脳内で今までのイメージの上に新たな東京のイメージが上書き保存されていく。
「カ、カオリ。は、離れちゃ、ダ、ダメだべさ」
「カオリ子供じゃないよ〜、なっちこそはぐれて知らないおじさんに付いてっちゃダメだよ?」
「な、なっちはそんなヘマしないべ。もう大人っしょ」
「なっち、また訛ってるよ」
「おっとっと。なっちは都会人、都会人っと」
「大丈夫かな〜」
さっきとはうってかわって圭織の方が不安になっていた。
そんな圭織も実は内心、かなりビビっていた。
改札口を出る時に、間違って札幌のレンタルショップの会員カードを通そうとしたぐらいだから……。
- 41 名前:藤 U 投稿日:2003年06月26日(木)02時54分06秒
スクランブル交差点を渡り、係りの誘導員に従い、本校の地に足を踏み入れていく。
現役時代は札幌校に籍を置いていた二人だが、やはり何もかもが違っていた。
人の多さは勿論の事、教室の広さ、各施設の多さ、ライブラリー内の品数の豊富さなどに圧倒される二人。
まるで遠足にでも来たように二人は主要校舎の隅々まで探索していた。
「ウヒャァ〜、さすがに広いべ。なっちたちはここで一年間頑張るんだべか?」
「そうだよ。やっぱり同じ目的を持った人が多いと俄然やる気が出てくるね」
教材配布日でも既に満席だった自習室を覗き見た二人はようやく本日のメインでもある教材を受け取りに行く。
刷り卸されたばかりなのか、インクの匂いが立ち込めている。
なつみと圭織は共に、国公立コースに籍を置いていたので、十数冊の必修教材と数冊の選択教材、
前期の日課表、その他色々なものを支給された。
私立コースより教材が多いために、持ち歩くのだけでかなり疲れる。
隣りに設置されている空き教室に移動し、仕入れたばかりの教材を机の上に置く。
ドスンと鈍い音を立てて、二人は椅子に腰掛けた。
- 42 名前:藤 U 投稿日:2003年06月26日(木)02時55分25秒
「あ〜重かった。毎回思うけど、なんで取りに来なくちゃいけないのかな?」
「通販じゃないんだから」
「郵送してくれれば楽なのに〜」
圭織はぶつぶつ文句を言いながらも真新しい教材に目を通していく。
なつみも圭織のつまらない愚痴に付き合いながら日課表を見つめる。
なつみは文系、圭織は理系だが、幾つかの講義(英語とセンター系の科目)は同じ日程である。
「どお、有名なセンセェいた?」
「結構いるね、サテライン出てる先生は」
「ここって難関私大向けって言われるじゃん。だから国立コースに有名な先生来ないかと思ったけど、
そうでもないんだね。さすがは本校!」
「良い先生に教えてもらうのもいいけど、結局は本人のやる気次第ってことっしょ。頑張るべ」
横の壁に貼られたスローガンを見つめながら、なつみは握りこぶしを作って気合を込めた。
- 43 名前:藤 U 投稿日:2003年06月26日(木)02時56分25秒
「なっちは選択科目、どれにするの?」
「んとね、私大日本史っていうのを木曜日の四限と五限。
んでセンター地学を水曜の三限に入れようと思ってる。カオリは?」
「カオリはセンター世界史を金曜の四限に入れて、私大化学は水曜の四限と五限にしよっかな」
「それなら月・火は午後から自習室で最後まで自習しよ? んで一緒に晩ご飯食べに行こ」
「いいけど帰り遅くなるよ? 確か八時までだよね、ここの自習室って?」
「いいじゃん。なんか受験生って感じするし、減るもんでもないっしょ。お腹は空くけど」
「そっか〜、そうだよね〜。新宿に出れば良いお店いっぱいあるしね。楽しみだね」
相変わらず能天気に答える圭織になつみはまたしても不安を覚える。
そんな時、不意に後ろに座っていた二人組の生徒の会話が聞こえてきた。
どうやら二浪生らしく、しかもかなりこの校舎の講座に精通しているようだ。
彼女たちの口からは耳にしたことのある講師の名前がちらほら出てくる。
なつみは会話の中で自分と同じ選択科目が出てきたのでしばらく耳を傾けてみることにした。
- 44 名前:藤 U 投稿日:2003年06月26日(木)02時57分24秒
『日本史はやっぱこのY?』
『もちろん。延長するけど結構面倒見よかったじゃん。論述対策とかやってくれるし』
『アンタ日本史で論述なんて必要ないやろ?』
『まあそうだけど、聞いてて損はないでしょ』
『でも結構きついな、Yの授業取るとなると。火曜の三・四限か、金曜の五・六限だけやで』
『火曜はダメだね。Sの現代文が四限に入ってるから』
『なら金曜の夜やね。んで小論はどっち?』
『月曜の三限かな』
『水曜の四限があるで?』
『誰? あ〜、この人ちょっと解りにくいらしいじゃん』
『そうらしいなぁ。なんかよお判らん例えするとかなんとか。ちとキツイな』
『それに火曜の深夜、バイト入ってるから。水・木は来ても自習室って考えてる』
『なんで?』
『水曜と木曜の午後って一番授業が多いらしいの。だから自習室に来る人って他の日より少ないみたい。
まあ少ないって言ってもかなりの人数がいることには変わりないけどさ』
『ってことは休息日やな』
『そういうこと』
『しかし、よう考えてんなぁ。月曜が古文に小論、火曜が現代文、金曜が日本史で、土曜が英語二つ、か』
『とりあえず今年はこんな感じで』
- 45 名前:藤 U 投稿日:2003年06月26日(木)02時59分51秒
- なつみは後ろに座っているやや猫目の人の意見に真剣になって耳を傾けていた。
選択科目の時間割を手に取り、再度検討してみることにする。
(なるほどなるほど。この先生がいいのか……良い情報が聞けたっしょ)
基本的に本科生は午前中に主要科目の講座が集中するため、午後は空いている事が多い。
経験者の意見というのは意外と重宝するのでなつみは、後ろにいる人の時間に合わせてみることにした。
「日本史を金曜日の五・六限にしよっと」
「あれ、変えんの?」
「うん。ちょっとね……」
「???」
何故か小声で喋るなつみに圭織は不思議そうに首を傾げる。
しばらくして、後ろにいた二人が教室を後にするのを確認して、なつみは元のトーンに戻して言った。
- 46 名前:藤 U 投稿日:2003年06月26日(木)03時01分55秒
「さっきさ、後ろにいた人の話聴いてたら、こっちの方が良いみたいなこと言ってたから」
「どれどれ……うわ〜、六限取ってるじゃん。よくそんな時間に授業取れるね? カオリ絶対くたばっちゃうよ」
「そうかい?」
「それにさ、夜って現役生と一緒じゃん。なんかヤダな〜。現役生の中に混じって授業受けるの。
それに後ろ指さされそうだよ、アイツ浪人してるよとか言って」
「自分だってついこないだまで現役生だったじゃん?」
「今は現役生じゃないじゃん。立派な本科生でしょ。そこはちゃんと区別しなきゃ」
それほど威張るような事じゃないだろ、と思うなつみ。
それに浪人も現役生も「受験生」という範疇においては同類だし……。
なつみはこんなアバウト思考の圭織に今まで付いてきたことを不思議に思っていた。
結局、予想以上に教材が重かったので、予定していた渋谷での買い物は中止することに。
こうしてなつみは圭織と共に好スタート(?)を切ることになる……予定。
- 47 名前:お返事 投稿日:2003年06月26日(木)03時07分36秒
- >本庄さん
圭 「やりますよ、アタシは! 本庄さん、共に頑張りましょう!」
なつみ「圭ちゃん! 女性がそんなハシタナイ言葉使っちゃダメッしょ!」
圭 「誰もそっちの話なんてしてないけど?」
なつみ「そっちってどっちぃ?」
圭 「……(真っ赤っか)」
>名無しさん
なつみ「圭ちゃん、大好きだって」
圭 「でもさ、あんまり受け入れられてないから」
なつみ「いいんだよ。あんまり有名になると二人でいちゃつけないしさ」
圭 「な、な、何を言って、言って……」
なつみ「へへぇ〜」
圭 「……(真っ赤っか)」
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月26日(木)03時08分08秒
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- 49 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月26日(木)03時08分38秒
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- 50 名前:きゃる 投稿日:2003年06月27日(金)00時46分25秒
- なちかおは仲良く無いもん(/_;)
……でもなちかおいい感じです。殺伐としていれば(ry
PS.SSAなちやす最高でしたね♪
- 51 名前:本庄 投稿日:2003年06月27日(金)14時33分09秒
- いやん、なっちってば。
まだ面識も無いのに圭ちゃんの声を盗み聞きだなんて♪(←馬鹿)
この先どうやって二人は知り合うのかしらん☆
続きまってるのれす。
話はいきなり変わるのですが卒コンDVDをみて毎日号泣しとります。
特に!なちけいのチュウ!!
スロー再生で何度見たことか…。
いやぁ、ええもん見させてもらいやした。長生きはするもんだね。
- 52 名前:お返事 投稿日:2003年07月02日(水)23時57分11秒
- >きゃるさん
圭 「この作品のカオリは『なっち大好き人間』なんだよね」
なつみ「ちょっと怖いなぁ。カオリに愛されるのって」
圭 「でもさ、カオリとの掛け合いもあまり見かけないから逆に良いかもね」
なつみ「マイナーな人選で隠れた名作になることを願うっしょ!」
圭 「前作もそうなってもらえると嬉しいんだけどねぇ、個人的にはさ……(遠目)」
>本庄さん
なつみ「圭ちゃんとは思わぬところで知り合ってね、仲良く……」
圭 「それはどうかなあ!?」
なつみ「ええっ!! 違うの? せっかく卒コンの時、チュウしたのに……」
圭 「それとこれとは話が別なんだけど……」
- 53 名前:藤 V 投稿日:2003年07月07日(月)03時23分21秒
春の麗らかな日差しが気持ち良く射し込む教室。
新学期が始まって一週間経ち、次第にお互いの警戒心が解け出して、賑やかになってくる今日この頃。
長めの髪の毛を後ろで束ねた石川梨華は、自分の容姿にぴったり合うくらい可愛いお弁当箱を広げ、
厚焼き玉子をパクっと口に放り込んだ。
梨華の正面には、購買で仕入れてきたコロッケパンを嬉しそうに頬張る後藤真希が座っている。
そんな真希に梨華が思い出したように尋ねた。
「そう言えば、さっきの英語の問題、良く解ったね?」
「んあ? ああ、あれね、そんなに難しい問題じゃなかったじゃん」
「え〜、難しかったよぉ〜。私、英語はちょっと苦手だから」
「へえ〜、梨華ちゃんでも苦手なもんあるんだ」
真希はふにゃっと笑いながら梨華を見てから、焼きそばパンに手をつける。
梨華は箸を止め、じっと真希を見つめる。
- 54 名前:藤 V 投稿日:2003年07月07日(月)03時24分21秒
「あ、なに? ごとーの顔になんか付いてる? それともごとーに惚れちゃった?」
「って言うかなんでごっちんがそんなに英語できるのかが不思議」
「ん〜、いっつも洋楽ばっか聴いてるからかな〜。それともごとーって頭いいのかな〜? どうなんだろ?」
「どうって聞かれても……」
真希は元々頭が良いわけではない。どちらかといえば学年で下のほうだ。
特に論理的思考を要する数学や化学といった理数系は壊滅状態だ。
国語や地歴公民においても人並みと言うわけではない。
だが、英語に関してはテストの度に高得点をマークしていた。
優等生の部類に入る梨華でさえ、一度も真希より点数が良かった事はない。
(もっとも梨華は英語に苦手意識があるからだが)
そのお陰で幾度となく教科担任に呼び出されては不正行為の疑いをかけられていた。
しかしこう何度も疑いをかけられて気分の良い思いをする人間はいない。
真希は呼び出される度に自主退学を考えるのだが、どうも威勢良く退学届けを叩きつける
勇気が沸いてこず、日々その板ばさみに束縛されながら生活していた。
- 55 名前:藤 V 投稿日:2003年07月07日(月)03時27分54秒
そんな真希の珍事は、学園の七不思議のひとつにもなっていた。
と同時に、本人の知らぬ間に、校内一有名人にもなってしまっていた。
ようやくお腹の方も満たされると、春の陽気が爽やかな眠気を誘う。
それにつられる様に真希の瞼が徐々に閉じられていく。
「ごっちん、寝ちゃダメだよ〜。食べてすぐ寝ると牛になっちゃうよ?」
「いいね〜、牛。牛になりたい。モォ〜」
「そんなこと言ってると太るよ?」
「大丈夫だよ。ごとーは運動してるから」
「だってごっちん、部活入ってないじゃん」
「部活やってなくても踊ってるから大丈夫」
「踊ってる? なにそれ?」
「えへへ……そりぇふぁねぇ……くかー」
- 56 名前:藤 V 投稿日:2003年07月07日(月)03時29分10秒
己の道を全うする真希は完全に寝入ってしまった。
こうなったら梃子でも動かないことは梨華が誰よりも知っている。
授業中に真希が指されると決まって、席が隣同士である梨華がいつも冷や飯を食わされていた。
既にクラス全員から「おしどり夫婦」なる妙なあだ名までつけられるほど、真希と梨華はセットで扱われていた。
事実、午後の授業ではいつものように……。
「次の問題を後藤……は寝てるから、石川。代わりにやって」
「ええーっ、またですかぁ?」
「後藤起こすのと、自分が問題解くの、どっちが楽だ?」
「ン、ンン〜ッ……へへっ」
「……解きます」
結局、午後の授業でも真希の尻拭いをさせられる梨華だった。
- 57 名前:蛇足 1 投稿日:2003年07月07日(月)03時32分09秒
【登場人物】
安倍なつみ……惚れ易い性格でやや夢見がちな主人公。親友の圭織には冷静沈着な態度を取る。
平家みちよ……元レディース特隊だが、意外と常識人。周りに振り回されがちだが、意外とファンが多い。
飯田圭織……自称「なっち大好き人間」。楽観主義者で一風変わった自論を持つのほほん娘。
戸田鈴音……なつみ、圭織の親友で皆の母親的存在。それでいて才色兼備。
後藤真希……運命の出会いで人生が180度変わった能天気娘。梨華の大親友。
- 58 名前:蛇足 2 投稿日:2003年07月07日(月)03時33分39秒
【登場人物】
石川梨華……優等生だが、実は腹黒い性格。興味を持った物事には手段を選ばず、とことん執着する。
村田めぐみ……みちよの後輩で、2代目リーダー。しかし普段は真面目な専門学生。
斎藤 瞳……めぐみ同様、みちよの後輩で2代目親衛隊。仲間思いの良きまとめ役。
大谷雅恵……同じくみちよの後輩で、2代目特隊。キレやすく、考えるよりも先に行動する火の玉娘。
辻 希美……みちよたちのマスコット的存在。しかし実態は、計算高くてズル賢い。
木村麻美……なつみたちの良き(?)後輩。自他共に認めるほど「りんね大好き人間」。
保田 圭……対人不信症の一匹狼。冷徹ぶりが却って周囲の関心を惹かせてしまう、悩める主人公。
- 59 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月07日(月)03時34分19秒
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- 60 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月07日(月)03時34分52秒
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- 61 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月07日(月)03時37分52秒
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- 62 名前:本庄 投稿日:2003年07月07日(月)15時01分04秒
- お久しぶりっす!!
ごっちんなかなか苦労してますなぁ。
私も学生時代一回くらい苦手な科目で良い点とろうと必死こいて勉強した結果
高得点取れたのにカンニングしたと疑われた時は
登校拒否…とまではいきませんが学校嫌いになりましたねぇ。
つうか村田さん!村田さんがでるぅぅぅぅ!!!
実は隠れ村田さんファンなんです…。期待して待ってます!
- 63 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月07日(月)15時36分48秒
- のの!!ってことはののを巡ってのなちかおの争いが…
なんて妄想が……
- 64 名前:藤 W 〜DEPARTURE〜 投稿日:2003年07月09日(水)02時39分04秒
ブラインドの隙間から朝の日差しが零れる。今日も良い天気だ。
なつみは今日から始まる予備校ライフに期待を膨らませる。
手際よく朝食を作り、朝の情報番組を見ながらトーストを頬張る。
画面の中で芸能コーナーを担当する蝶ネクタイのふくよかな男性アナを見ると、何故か食が美味しく感じる。
そして番組最後の今日の運勢を見てから、身支度を始める。
ちなみに今日の運勢は可もなく不可もなく普通。
隣接する圭織の部屋は毎朝物音がするのだが、今日は何故か静かだ。
まだ寝ているのだろうか、なつみは高校時代と同じように圭織を起こしにドアのチャイムを鳴らした。
あの頃は毎朝どこかに疵を一つこしらえていた。何度か眼帯をして登校した事もあった。
その度に当の本人は自分が犯人であるにも関わらず、「なっち、誰にやられたの?」と一人憤慨なんてことも……。
束の間の思い出に苦笑してしまうなつみだった。
- 65 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)02時42分57秒
数秒後、所々にピン跳ねした寝癖をつけながら圭織が出てきた。
目が……白目になっていた。一瞬なつみは後ずさる。
これで白装束なんぞを着ていたら、見知らぬ人たちは真っ先に腰を抜かしてしまうだろう。
しかしそこは百戦錬磨のなつみである。これくらいびくともせず、圭織を叩き起こす。
「ん〜、ああ……なっちぃ……?」
「カ、カオリ何してるべ! 学校始まっちゃうっしょ! 早く用意して!」
「何時ぃ〜、今ぁ〜?」
「八時ちょうどっ!」
「……まだ八時じゃん……カオリは今日二限からだよ?」
「へ?」
なつみは慌ててカオリの日程と自分の日程を確認する。
なつみの今日の講義は…。
一限…二次私大漢文 二限…長文読解 五・六限…私大日本史T&U
一方コピーさせてもらった圭織の今日の講義はというと…。
二限…長文読解 三限…数VC@ 四限…センター世界史
であった。
- 66 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)02時44分48秒
いつものくせで圭織を起こしてしまったなつみは申し訳なさそうに苦笑い。
だが、意識がはっきりしていない圭織は、ドアに寄りかかってスヤスヤと寝息を立てそうな勢いだ。
「あ、あのさ……なっち、一限からだから先行ってるよ……。カ、カオリも遅れないようにね」
「ふぅ〜ん、わかったぁ〜、行ってらっしゃぁ〜い」
半分寝ていた圭織に見送られなつみは最寄の駅に向かう。
地元にいた頃にも経験した通勤ラッシュだが、さすがは大都会東京。
上りも下りも百二十パーセント以上の乗車率で人々を戦場へと送り出す。
なつみもOLやサラリーマンと一緒に押しつ押されつ、苦痛の時間を過ごす。
一駅ごとに車外へ押し出されては中へ押し戻されるといった格闘が続き、
駅に着いた頃にはかなりヘトヘトになっていた。
(朝一からマラソンやった気分だべ)
- 67 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)02時46分47秒
そんなこんなで着いた校舎では、随分な賑わいを見せていた。
初講日でもある今日だからだろうか、それとも元来こういう雰囲気なのだろうか、
それほど広くはない教室には疎らに生徒が思い思いの時間を過ごしていた。
朝のホームルームなるものも終わり、一限の漢文が始まった。
やはり一回目だけあって簡単なガイダンス程度(勉強方や各大学の傾向と対策)の内容で
本格的な講義に入ることなく一限が終わった。
こんなんでいいのか、と思うがなつみはあまり気にしない。
国語は人並みにできた方だから。
休憩時間となり、理系クラスの生徒が教室に入って来る。
比較的空いていた一限とはうって変わって、八割がた席が埋まる恰好になった。
「一限、ごくろーさん」
朝とは違ってスッキリした顔の圭織がなつみの隣に座った。
今朝の事はすっかり忘れてしまっているようだ。
ここへ来る途中で取ってきたであろう公開模試のパンフを眺めている。
- 68 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)02時49分57秒
「なにそれ?」
「公開模試のパンフ」
「もう模試があるのか。今の実力を見極めるのには良いけど、出来なかったら色々言われるんだろうなぁ」
「あれだけは慣れる事ないよねぇ。模試が好きな人っているのかなぁ?」
「どうだろ? なっちなんて模試のたんびに落ち込むんだよね、特に記述式は」
なつみは模試の形態によってバラツキがあった。
得意とする国語はマークでも記述でも良い点を叩き出していた。
日本史や地学は平均点を超えるものの、得意とまでは言えないレベルだ。
だが、問題は勝負の明暗を分けると言ってもいい英語と数学。
マーク式ではそこそこ点が取れるものの、記述となると穴だらけになることがたまにある。
特に文学部を狙っているだけに、英語の記述はどこ大学でも必ず一問は出てくる。
現役時代のなつみはここに盲点があった。
- 69 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)02時50分56秒
一方の圭織はなつみとは反対でマークを苦手としている。
というのも元来几帳面な性格(本人談)が災いして、マークを綺麗に塗りつぶさないと納得がいかないらしい。
そのために全部の答えが解っていてもマークする時間が掛かり過ぎてしまうために、落とした点も多々ある。
自己採点ではかなり良くても、実際は……といった感じである。
圭織もまた、なつみ同様英語を苦手としていた。
「なんで日本の大学受けるのに英語が必要なんだろうね?」
圭織の素朴な疑問のようだ。それにはなつみも異論はない。
しかし現実はその英語に一番ウェイトが置かれている入試も少なくはない。
実際、日本での英語熱が上がっているので、入試から英語が完全に消える事は、
この先十年二十年経っても有り得ないだろう。
「しょうがないっしょ。それが今の入試なんだから」
自分に言い聞かせるように言う。
少し早めに現れた中年講師を目で追いながら、なつみは恨めしそうにテキストを開いた。
- 70 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)02時55分20秒
高校の時はたかだか五十分の拘束がとてつもなく長く感じたが、ここでの九十分は思った以上に短く感じた。
それだけ集中していたのだろう、と自己満足に浸りながら午前中の講義を終えた。
しばらく校内をぶらつきながら、食堂へ足を向ける。
やや時間を置いて来たせいか、少しは席に余裕があるようだ。
気が抜ける一時と言う事もあり、賑やかな空間はまるで大学のキャンパス内の雰囲気にも似ている。
「いや〜、頭使うとお腹空くよねぇ。何食べよっかなぁ」
「お昼と言えば日替わりランチっしょ」
「凄いね、ここの学食。日替わりメニューの献立が一週間先のまで載ってる。なんか給食みたい」
「定番からちょっと変わったものまで色々あるし、しばらくお昼はここでいいっしょ」
「そうだね〜、一学期はここで済まそっかな」
日替わりランチを食しながら、束の間の一時を満喫する二人だった。
- 71 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)02時56分52秒
時計の針が四時五十分を廻った。
なつみは今日の授業で行われた長分読解の復習と予習を終え、講義がある教室へ向かった。
縦長の教室には既に九割がたの席が埋まり、改めて人気講師の授業の凄さを目の当たりにした。
なつみはやや後ろ廊下側の空いた席に陣取り、道具を揃える。
黒板の文字が見え難い事はないが、前の空いていた席に座った男性が大柄だったので、
小柄のなつみには少々不憫な席になってしまった。
するとそこへ黒板の位置と天井に備え付けられたスピーカーの位置を交互に見ている女性が声を掛けてきた。
「あの、席空いてたら詰めてもらってもいい?」
「え、あ、はい、どうぞ」
「どうも」
なつみは荷物を移動して女性に席を譲る。
女性は一礼すると、やや使い古されたノートと、テープレコーダー、それに数本のペンを出し、準備を始める。
なつみは何気なくその動作を横目で見ていた。性格上他人の事が気になるらしい。
そしてまたその女性から声が掛かった。
- 72 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)03時01分03秒
「あの」
「はい」
「テキスト見せてくれない?」
「テキストですか? いいですけど……」
「どうも」
また一礼してテキストを受け取ると、パラパラと捲って一通り何かを確信してから返した。
そして女性は鞄から一冊のテキストを取り出した。
(なんだ持ってんじゃんテキスト……ってええ???)
見ると講義名は同じだったが、表紙がなつみの持っているテキストとは違い、
かなり使い込まれていて、見るからに年季の入ったものだった。
(何、この人? どういうこと?)
平然とする女性をなつみは疑わしい目つきで、一方の女性はなつみの事などお構いもせず
ややリラックスして時が来るのを待っていた。
- 73 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)03時03分57秒
五限の開始のチャイムが鳴り、教室はほぼ満席で授業が始まった。
教材配布日に聞いた噂話の通り、のっけからかなりのペースで授業が進んでいく。
しかも私大日本史と銘打っているにも関わらず、細かい所は勿論、国立向けの論述のポイントまで説明していく。
そんなツボをついた講義は、現役時に受けてきた講義とは一線を駕すものだった。
ただその分、聴覚と視覚、筆記をフル活用するため、かなり忙しい事には変わりないのだが。
板書中に、テープレコーダーの切れる音。
一瞬だけ目をそちらに向けたなつみはまた疑惑の念に駆られる。
隣の女性は板書もせず、別のテキストを用いて問題を解いていた。
更に驚いた事に、古びたノートには参考書並みのノートが……。
なつみは一瞬、己の手を止めてしまった。
(この人、一体何?)
それからというもの、なつみは隣にいる女性の行動が気になって気付かれないように目で追っていた。
女性は板書中になると、問題を解き、口頭説明には集中して一言漏らさず聞き入り、
時には何かをノートの端書きにメモをするといった、奇想天外なやり方で授業を昇華していた。
- 74 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)03時05分02秒
結局、聞いた情報通りに延長したが、なんとか無事に二コマ終える事が出来た。
途中隣りの女性に気を取られて聞き漏らした部分もあったが、それほどマイナスになることもなく、
初講日なのにやけに疲労感があった一日だった。
「ふぅ〜、初日なのに随分疲れたなぁ〜」
思ったままの感想が自然と声に出てしまった。
するとその声を聞いていたのか、隣にいた女性が道具をしまって立ちあがる序になつみに言った。
「さっきはアリガト」
「えっ、あ、はい」
「それとお節介かもしんないけど」
「?」
「あんまり人のやる事に気を取られてると、足元救われるよ」
そう言い残して女性は教室の外へ消えていった。……見られていた。
なつみは自習を終えて迎えに来た圭織に呼びかけられるまで、しばらく呆気に取られていた。
- 75 名前:藤 W 投稿日:2003年07月09日(水)03時07分23秒
一日の疲労を訴えたような顔つきで帰路へと向かう受講生たちに混じって、なつみたちもその輪に加わる。
歩きながらさっきのことを圭織に漏らす。圭織の意識は既に夕飯の事へと向いていたため、軽く聞き流されてしまう。
「人の話ちゃんと聞いてる?」
「でもさ、それって去年も受講してた人かもしんないじゃん」
「あ、そっか。そういうこともあるか」
「その人が言うように周りに気にしてるようじゃ、また落ちるぞ」
「夕飯のこと考えてるカオリに言われたくないっしょ」
「なんだよ〜、こないだの実力テストの英語と数学はカオリの方が良かったもん」
「国語はなっちの方が良かったもん」
「でも、なっちだって数学やばいじゃんかよ。まさかあれくらいの問題ができないようじゃ……プププッ」
「ああっ! 笑ったなぁ!」
「まあ、高校の時から赤点スレスレで通って来たなっちには難しすぎちゃったかねぇ〜」
「ば、バカにすんなだべ! 一年後には必ず……」
「平均ぐらいに届いてると良いね?」
「もう怒ったべ! それならカオリだって……」
一目も気にせずお互い罵り合いながら、夜の街に消えていった。
- 76 名前:お返事 1 投稿日:2003年07月09日(水)03時16分13秒
- >本庄さん
圭 「なっちゃん、本庄さんが村っちゃんファンだってよ?」
なつみ「なっち浮気する人、嫌いだべ」
圭 (浮気には敏感だからなぁ。気を付けよう)
なつみ「圭ちゃん」
圭 「!! ひ、ひゃいっ!?」
なつみ「……信じてるからね」
圭 「は、はい……」
- 77 名前:お返事 2 投稿日:2003年07月09日(水)03時20分12秒
- >名無しさん
なつみ「辻を巡っての争いかぁ。どうなんだろ?」
圭 「二人にはよく懐くからね、辻は」
なつみ「でもそれは現実の世界の話でしょ? この世界ではどうなんだろ?」
圭 「意外な人に惹かれるかもよ?」
なつみ「だよね〜。脇役クラスの人ばかり出てるからね」
圭 「マイナーがモットーだからね」
- 78 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月09日(水)03時20分50秒
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- 79 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月09日(水)03時21分21秒
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- 80 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月09日(水)03時21分57秒
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- 81 名前:きゃる 投稿日:2003年07月09日(水)14時06分26秒
- 罵りあうなちかお最高ですo(^-^)o謎の女性はやはり…
- 82 名前:藤 X 投稿日:2003年07月15日(火)00時17分34秒
遠くのビルが微かに見える朝は、一日の中で一番空気が澄んでいる時間帯なのかもしれない。
土曜日は平日と比べて朝から活気づいてるわけではない。
駅前もそれほど人通りが激しいわけでもなく、何となくゆったりとした空間が広がっていた。
国立コースに籍を置く二人は土曜日も講義があるので、いつも通りの時間に寮を出たが、
思ったより早く最寄りの駅に到着したため、時間を持て余していた。
「土曜日ってこんなに人が少ないんだぁ。カオリ、土曜日って一番人が多いと思ってたよ」
「でも、現役生が午後からは一杯来るじゃん。だから変わんないんでないかい?」
「そうだね〜。あ〜、ちょっと早すぎたな〜。ねえ、なっち、朝マックしない?」
「なっち、朝ご飯食べて来たよ?」
「カオリ、食べてないの。だからさお腹空いちゃってさ〜」
「ちゃんと朝ご飯食べないと、頭が働かないべ」
そう言って二人はシンボルタワーの隣に隣接するマックへ入った。
- 83 名前:藤 X 投稿日:2003年07月15日(火)00時20分39秒
朝から清々しい笑顔と目の覚めるような挨拶を貰うと、気持ちがいいものだ。
それぞれトレイを持って二階へ上がると同じように朝食を摂っている若者がちらほら目に付いた。
二人はスクランブル交差点が見下ろせる窓際に越し掛けた。
なつみはぐるりと辺りを見まわす。背広を着てモーニングコーヒーを啜るサラリーマンに、
自分と同世代の少し眠そうな予備校生、休日を利用してどこか遠出をするのだろうか、
やや大きめのバックを持った二人連れの女性。
誰もが皆自分の世界に浸っていて、場の雰囲気には相応しくないほど静かだ。
同じ店内でも時間帯が違うと、こうも違うのかと、不思議な感じがした。
「なんかいいよね〜、こういうのってさ〜」
「なして?」
「世間の人たちはお休みだけど、カオリたちは土曜日でも頑張ってんだぞ、って気がしてさ〜」
「……その気持ちわかんない」
朝から少し的外れな考えをする圭織に軽蔑するような目を送り、ホットを口にするなつみ。
そんななつみに構うことなく我が道を行く圭織は、今日も朝から快調のようだ。
- 84 名前:藤 X 投稿日:2003年07月15日(火)00時22分05秒
本日の一限はなつみたちが苦手とする英文解釈@。
昨日受けた長文読解の講師とは違い、かなり一文一文を細かく砕いて、説明していく。
説明中に混じる冗談にも笑えないほど忙しく手を動かさなくてはならない。
たった二、三行の文章を終えるのに一時間も掛かったけれども、
得るものは非常に大きかったのも事実だ。
現役時、なつみはただ文章を左から右に闇雲に訳していくだけだった。
実際に高校の授業でも、そういう感じだったのでそれが英語の学習法だと思いこんで今日まできた。
単語が解らなければ辞書を引き、その単語がどういう使われかたをしているのかも知らずに
ただ記載されている訳語をそのまま使う。
だから出来あがった訳は自分でも何を言ってるのか解らないことがあったが、
とにかく訳はしたんだし文句はないだろう、そんなやり方だった。
- 85 名前:藤 X 投稿日:2003年07月15日(火)00時24分47秒
しかし、今なつみはそれまでの英語学習が間違っていた事に気付く。
つまりは国語には国文法があるように英語にも英文法があり、
それがきっちり解っていないと文章が読めない、そんな当り前の事を忘れていたのだ。
黒板で文法の説明があると、頭には幾つか?マークが浮かんでしまう。
それほど文法の知識が薄かった。
よって知らないから必死になって聞き入り、ノートを取り、時には口頭説明をメモする。
そんなこんなで、あっという間になつみのノートは
文字と記号がカラフルに埋め尽くされていった。
こうして驚きと新しい発見の連続で終わった一限は
なつみの英語嫌いを克服させるカンフル剤になったようだ。
満足そうな顔つきに、隣で受けていた圭織が飽き飽きした様子で声をかけてきた。
「なっちさ〜、なに嬉しそうな顔してんの?」
「ふっふっふ。なっちはようやく英語克服への糸口を見つけたっしょ」
「え〜、何々ぃ? ズルイよ〜。カオリにも教えてよぉ。昨日の夕飯奢ってあげたじゃん」
「味噌汁一杯だけじゃん」
- 86 名前:藤 X 投稿日:2003年07月15日(火)00時25分45秒
二限は違う教室なので、荷物を持って移動。
その間、なつみは今の講義で感じた事を圭織に伝える。
なつみは圭織に親切丁寧に教えてあげたが、あくまでも自己流のやり方を教えた。
お互い英語が苦手とはいえ、勉強方法は人それぞれだと思ったから。
圭織もそれが解ったのか、妙に感心しながら、二人で向かいの校舎へ移動する。
すると不意になつみが足を止めた。
「ん? なぁに、どーしたの?」
なつみが指を指す方を見ると、長蛇の列がぞろぞろと移動しているのが見えた。
「何なに、この列?」
「もしかしてサテライン講座かな?」
なつみたちは人がやっと通れるスペースを歩きながら目的の教室へと進んでいく。
すると自分たちの教室と同じ階では、長蛇の列の先頭辺りで腕章をつけた係員が
数人づつ列を整えながら、生徒を誘導していた。
- 87 名前:藤 X 投稿日:2003年07月15日(火)00時26分45秒
どうやら締め切り単科講座らしい。
それもかなり人気講師なのだろう、並んでいる生徒はざっと数えても二百人は超えている。
「いやぁ〜、凄いべさ」
「ホント、地元にいた時、サテライン講座で並んでるの見たことあるけどさ、
こんなに大勢の人が並んでるの初めて見たよ」
圭織は持っていた紙コップを落としそうなほど、長蛇の列に見惚れている。
ぞろぞろと教室内へ吸い込まれていく列にはなおも生徒が並び続けているようだ。
ようやく収まった頃、二人は中の様子を後ろ側のドアの覗き窓から見てみることにした。
かなり広い教室はほぼ満席でどうやらサテライン講座のようだ。
しきりに係員がマイクテストをしている。
土曜の午前にここまで満席になる講座になつみたちは呆気に取られていた。
ふとなつみの目がある箇所で止まった。
- 88 名前:藤 X 投稿日:2003年07月15日(火)00時27分39秒
「あっ、あの人。あの人だべ、昨日なっちが言ってた人」
「ん〜、どの人ぉ?」
「あれあれ、あの茶髪のロンゲくんの前に座ってる、黒い服着た人」
「今立った人?」
「そうそう」
「なんか怖そうだね〜。でもなんか賢そう」
「それにしても、人が多いっしょ」
「いいなぁ〜、カオリもサテライン講座受けてみたいなぁ」
「なんで?」
「カオリの顔が全国に流れるから」
「……」
「そしたらアイドルだよ、受験生のアイドル♪♪」
教材配布日に言っていた戯言が本気なのだとなつみは今、知った。
そこで二限の始まりを告げるチャイムが校舎内に鳴り響いた。
二人は急いで自分たちの教室へと向かった。
- 89 名前:藤 X 投稿日:2003年07月15日(火)00時30分01秒
十二時二十分。
なつみとっては余裕のある、しかし圭織にとっては過酷な二限の講義、
『センター古文』がようやく終わった。
すでに圭織は疲労感が顔に現れるほどキツかったらしい。
ぐったりとして視線が宙を泳いでいた。
一方のなつみは先ほどの女性が気になっていた。
たった一度しか会っていないのに何故か興味を惹かれた。
どことなく危ない雰囲気を醸し出しているのだが、その裏には何か
重大なものを背負っているようにも見えた。
聖と悪の境目、紙一重のところで生きている悲劇のヒロイン。
そんな勝手気ままな思いにしばらくボ〜っとしていた。
やがて先に意識が戻った圭織がなつみに問いかけた。
先ほどの疲労は何処えやら、清々しい顔をしていた。
- 90 名前:藤 X 投稿日:2003年07月15日(火)00時30分57秒
「これからどうする〜、なっちぃ?」
「へ、あ、う〜ん。そうだねぇ〜、とりあえずお昼ご飯でも食べるべ」
「お〜、いいねぇ〜、賛成ぇ」
二人はこぞって食堂へと向った。
やはり午後は学生服を着た現役生が多い。
多種多様な制服を身にまとった高校生たちが束の間の自由を満喫していた。
「なんかさ〜、こうして高校生見てるとさ、遊びたいんだろうな、とか思うよね〜」
「自分たちの時もそうだったしね。特に高三なんて一番思うよ。
毎日受験の事ばっかで、ちょっとした行事が凄く楽しかったもん」
「そうそう、なんだかんだで一番燃えるのって三年生だもんね。文化祭にしろ、体育祭にしろさ」
「だね」
一年前の自分たちを思い浮かべながらAランチ定食を味わう二人だった。
- 91 名前:お返事 投稿日:2003年07月15日(火)00時35分25秒
- >きゃるさん
なつみ「もおね、カオリには困っちゃってさ。意外と子供っぽいんだよね」
圭 「(小声で)どっちもどっちだけどね」
なつみ「圭ちゃん、なんか言ったかい?」
圭 「イエイエ、何も」
なつみ「それにしても謎の女性ってやっぱり……(横目で隣の人を見る)」
圭 「♪♪〜」
なつみ「そういう所が似てるし」
圭 「♪♪〜」
- 92 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月15日(火)00時35分59秒
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- 93 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月15日(火)00時37分02秒
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- 94 名前:本庄 投稿日:2003年07月17日(木)14時44分10秒
- なっちも圭織もがんがれ〜。
いやぁ、私も英語が大っ嫌いなんでなんかなっちに感情移入しちゃいますた。
>なつみ「なっち浮気する人、嫌いだべ」
ち、違うんだぁ!なっち!!
浮気じゃなくてなんつうかあの独特の空気がツボにはまるっつうか・・・。
一押しはなっち&圭ちゃんよ?!
因みに本庄のハロプロの押し順は
1.(●´ー`●)( `.∀´)2.( ´ Д `)3.( ‐ Δ‐)
となっておりやす。
・・・って関係ないやね。
何はともあれがんがってください!
- 95 名前:藤 Y 投稿日:2003年07月23日(水)00時44分52秒
そろそろ巷ではゴールデンウィークなる大型連休を迎えていた。
しかし、受験生にはそんな楽しみも束の間の骨休め程度にしかならない。
本年度最初の全国記述模試。
圭は単科生であるため、一般と同じ日曜日にテストを受ける。
学生や社会人にとって日曜は嬉しい日なのだが、圭にとっては平日と何ら変わらない一日だ。
席が確保されているため、試験開始10分前に教室に着いた。
席に着いてやや眠そうにしていると、一気に目が冴えた。
(なんでみっちゃんがここに?)
前を見ると、腕章を付けたスーツ姿のみちよが忙しなく作業をしていた。
どうやら試験監督の一人のようだ。主任のような人から色々とアドバイスを受けながら黙々と作業をしている。
日頃からどこか不幸そうな彼女だが、こういう一面を見ると普段とは違って凛々しく見える。
数多いる受験生に本日のスケジュール説明をしているみちよを見て、圭はそんな風に思った。
- 96 名前:藤 Y 投稿日:2003年07月23日(水)00時47分35秒
1限の地歴公民から試験はスタート。
日本史選択の圭は淡々と目の前の問題を答えていく。
出題範囲の定められた科目はそれほど難しいわけではない。
ましてや、一年苦い経験をした圭には赤子の手をねじるほどのものである。
所要時間25分ほどで全てを解き終えた。
周りを見ると、現役生だろうか、答案用紙を食い入るように見つめる受験生が多い。
制服姿ではないからはっきりとはわからないが、肩に力が入っているように見える。
あまり周囲を気にすると悪い印象を持たれるので、足早に席を立った。
答案を教壇の上に渡す際、傍にいたみちよと目が合う。
(相変わらず余裕綽々やな)
圭が居た事に驚きながらも、目がそう訴えていた。
圭は口元を少しだけ挙げて、教室を出た。
- 97 名前:藤 Y 投稿日:2003年07月23日(水)00時49分44秒
そんな調子で2限の国語、昼食を挿んで3限の英語と無難にこなした。
思ったほど難しくはなかったが、それでも周りにはしかめっ面をした受験生が多く見られた。
そそくさと答案を出して教室を出た時、後ろから誰かが追い掛けてきた。
「あの、名前書いてませんよ、圭ちゃん」
振り返るとみちよが笑みを拵えて答案を持っている。幸いにも周りには人はいない。
「なによ、こんなとこで」
「なあ、今日この後どっかでご飯食べに行こうや」
「いいけど、もっとマシな方法なかったの?」
「しゃあないやん、こっちかて圭ちゃんがいるとは思わんかったし」
「で、みっちゃんは何時に終わんの?」
「夕飯時には終わるんちゃうかな?」
「わかった。終わったら連絡いれて」
「OK。んじゃあとでな」
「しっかりやれよ、試験監督!」
気合を込めて圭はみちよに肩を叩く。
「わかっとるわ」と言い残し、教室へと消えていった。
- 98 名前:藤 Y 投稿日:2003年07月23日(水)00時51分53秒
4限、数学。試験開始早々、躓いてしまう。
(……ここんところ、基礎解中心にやってたから、数T忘れちゃってるよ。ヤバイなぁ)
それでも、手はスラスラと式と計算によって答えをはじき出している。
端から見れば全く問題なく解いているようにも見えるのだが、本人は納得のいかない様子。
2題を終え、時刻を見ると残り半分。
気付くと周りは諦めモードのようで、突っ伏している受験生がチラホラ。
ふと視線を感じて目を向ければ、みちよの何やら嬉しそうな笑み。
てこずってんなぁ、とでも言いたそうな人を小馬鹿にしたような笑みに、圭は憤りを覚えた。
(ふざけんなよ、センターでコケた奴に負けられるか!)
そこからはまるで導火線に火が付いたように、脳内を公式と数字が駆け巡る。
いつもなら多少迷うはずの微積や手が出ない数列も、面白いように解けていく。
結局時間ギリギリではあったが、全問制覇することに成功したが、自信はなかった。
- 99 名前:藤 Y 投稿日:2003年07月23日(水)00時54分45秒
最後の地学も無難に終えて一日が終了、みちよと合流するまで新宿の街を久々に闊歩した。
久し振りに来てみたものの、街の様相が随分変わっていたことに、
やはり都会の時間の流れは異常なほど速いものだと痛感した。
午後八時、みちよお勧めのお店で一日の労を労う事に。
「今日一日お疲れさん」
「って言うかさ、ビックリしたよ。居た事に」
「ハハハ、3月に通知が来た時に、バイトしませんかっていう欄にチェック入れといたからな」
「なるほどね」
「意外とオモロイもんやな。英語とか数学とかの答案見ると穴だらけとか多いで。
そんな奴に限って有名大学志望してるんやろな」
「いいんじゃないの。今の時期ぐらい夢見ても。夏頃になったら現実がわかるんだし」
「そらそうや。見栄張りたい年頃やもんな、色んなことに」
「自分だって去年の今頃そうだったじゃん」
「そ、そうやったっけ?」
「第一志望T大って書いてたじゃん。それにほとんど難関大学の名前挙げてたし」
「……夢、見てたんや」
「よかったね、夢叶って」
「なんかムカツクわ、その言い方」
- 100 名前:藤 Y 投稿日:2003年07月23日(水)00時56分10秒
今だ大学生だと認めてもらえないみちよは、運ばれて来た焼き鳥に八つ当たりするように食らいrついた。
みちよが学生に見られないのは、小さな飲み屋で、ひっそりとお酒を酌み交わす姿がよく似合うからだ。
間違ってもイタリア料理を上品そうに食するインテリジェンスな様は似つかわしくない。
だから欧文よりも和文が好きだし、洋楽の詩の想いよりも邦楽の詩の世界に惚れてもいる。
ケーキよりも和菓子、トーストよりも白いご飯の朝食を好む、それが今のみちよである。
「それよか、今日のテスト、どうやったん?」
「いつもと変わらないんじゃない?」
「肝心の数学も大丈夫なんか?」
「答えが合ってるかどうかはわかんないけど、解けてはいたね、あの時点では」
「???」
「みっちゃんの顔が見えた途端、無性に腹立ってね。それが今回は上手く作用したと思うよ」
「なんやねん、それ。ってことはウチは今回手助けしてもうたことになるなぁ」
「起爆剤になったよ」
「なんか嫌やなぁ、それ」
その後、みちよの千鳥足が夜の新宿の街で踊り舞っていた。
- 101 名前:藤 Y 投稿日:2003年07月23日(水)00時57分09秒
こうしてそれぞれが無事スタートを切った忙しない四月が過ぎていった……。
- 102 名前:お返事 投稿日:2003年07月23日(水)01時14分26秒
- >本庄さん
なつみ「いやぁ〜、改めて一押しなんて言われると照れるなぁ」
圭 「でも、村っちゃんにハマってらっしゃると」
なつみ「一位の座は何がなんでも譲らないっ!」
圭 「何気にごとぉも近づいてきてるし」
なつみ「まだまだ、これからガンガン行くよ!」
圭 「同一でアタシもいるし」
なつみ(最近の圭ちゃんは意地悪し過ぎだべ……)
- 103 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月23日(水)01時16分08秒
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- 104 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月23日(水)01時16分51秒
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- 105 名前:ビギナー 投稿日:2003年07月23日(水)22時46分23秒
- 試験監督な、みっちゃんカッケーです。
いつもはヘタレなのに・・・
保田さんと安倍さんは、まだ具体的な接触はないですが、
ウキウキして待ってますので、がんばってください。
影ながら応援しております。
- 106 名前:Tea Break 投稿日:2003年07月28日(月)02時39分18秒
『君色に染まる想い』
福寿草の黄色い花の色。ぼんやりと霞む雨あがりの道となっちの心。
童心に却って一人かくれんぼ。
広大な敷地内を横切れば、身を隠す場所もないけど、バレはしない。
みんな自分たちの事で頭が一杯だから、少し位素性が分かっても大丈夫、かな?
けど、見つかっても言い訳すら浮かばないこの場所で、
愛しい圭ちゃんを呼ぶ誰かの声が絶え間なくなっちの心に鳴り響いてた。
(圭ちゃん……)
ふと目の前にある水溜りに目をやる。
そこに映るのは二十歳の記念に晴れ着着た圭ちゃんの影…。
「なっちゃん!? なにしてんの、こんなトコで?」
かくれんぼ……見つかっちゃったね。
- 107 名前:Tea Break 投稿日:2003年07月28日(月)02時41分31秒
窮屈な帯をして綺麗に髪の毛を結ってる圭ちゃん。
普段のテレビ用の化粧とは違った初めての顔つき。
似合うよね、意外にも。
「もう、あんまり見ないでよぉ。恥ずかしいじゃん」
普段より綺麗だよ。
紅くなって目を逸らす圭ちゃんを、そっと見直して目を細める。
その視線に「嫉妬」という邪まななっちの想いをのせて。
……やっぱり見苦しいよね?
圭ちゃんの気持ちなんて初めて逢った時から知ってるはずなのに。
- 108 名前:Tea Break 投稿日:2003年07月28日(月)02時44分47秒
「はぁ〜、なんか落ち着かないよ。慣れないもの着ると」
艶やかな着物姿が目立つ同士から離れたこの場所で、
息抜きのようにふといつもの表情を覗かせてる圭ちゃん。
気の進まない成人式だったんだね。
ウンザリしてたみたいだし、式の席で。
「なんていうかさ、事務的に急遽行かされたようなものだし。
出るならちゃんと準備して、尚且つ地元の仲間と一緒に出たかったかな」
それなら一緒に逃げ出そうよ。
頑固すぎる大人たちの目を誤魔化して、風にのって見知らぬ世界まで走ろうよ。
お互いの指と指、気持ちと気持ち絡めてさ。
その指先でほどけてゆく圭ちゃんとなっちの心と身体、繋いでよ。
「な、何言って……ちょ、なっちゃん!?」
- 109 名前:Tea Break 投稿日:2003年07月28日(月)02時47分44秒
細い路地を走り抜けて、誰もいない砂浜へ。
編みあがったばかりの白いセーターの糸がなっちたちを繋ぎ止めようとしてくれてる。
海からの冷たい北風を頬に感じて、なっちの心が知らぬ間に駆け出してた。
平凡すぎる毎日の想いよりも何かを求めていたかったみたい。
「なんで海なの? こんな恰好じゃ、恥ずかしいじゃん」
そう言いながらも顔は嬉しそうな圭ちゃん。
その証拠に、額に光る無数の水滴としっかり繋がった手から来る温もり。
一張羅の晴れ着なのにこれじゃ台無しだね。
「誰がそうさせたのさ? もぉ、いっつもなっちゃんは急なんだから」
大丈夫。
いつまでもなっちは圭ちゃんの味方で、友達で、そして……だよ。
絶対に一人きりじゃないから……一緒だから。
- 110 名前:Tea Break 投稿日:2003年07月28日(月)02時49分17秒
遠くのほうで犬を散歩中の子供がしぶきを受けて波と戯れてる。
同じように波と子犬とじゃれてるありのままの圭ちゃん。
その姿に一年後の自分を見ていた。
(圭ちゃんはその時、なっちを連れ出してくれるかな?
今日の日の事を覚えていてくれるかな?)
真珠のような輝きを放つ圭ちゃんの笑顔に溺れたなっちの恋に、今虹の雨が降り注いだ。
その光の矢に包まれて、振袖から牡丹が海風に舞い散る……。
〜FIN〜
- 111 名前:お返事 投稿日:2003年07月28日(月)02時58分38秒
- >ビギナーさん
なつみ「みっちゃん、ブレイクの予感、かな?」
圭 「さあ、それは今後の展開次第でしょ?」
なつみ「なっちたちはどうなの? まだ接触してないけど」
圭 「ブレイク確定でしょ? だって主役だし作者さん一押しだし」
なつみ「……(真っ赤っか)」
圭 (あれ、なんで紅くなってんだろ? なんか変なこと言ったかな?)
- 112 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月28日(月)03時01分30秒
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- 113 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月28日(月)03時02分10秒
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- 114 名前:本庄 投稿日:2003年07月28日(月)17時46分58秒
- あぅぅ…なぁっつぃ〜…。
…あなたも…あなたもいなくなってしまうのね…(号泣)
これで本庄もモーニング娘から卒業かしらん(大号泣)
これからはソロの二人をがっつし応援しますです…。
- 115 名前:Tea Break 2 投稿日:2003年07月31日(木)00時36分47秒
『ANGEL』
5月5日、夜の10時過ぎ。
どこかで遠いサイレンが鳴り、道行く人々の囁きと後に残る響き。
イルミネーションを真下に見下ろし、夜を昇っていくエレベーターにアタシは一人飛び乗る。
闇夜に浮かぶ月を映して、凍り付いたビルの谷間をヘッドライトの河が途切れることなく流れる。
コンサート終了後に突如消えたなっちゃん。
皆が慌てふためく様をよそに、アタシは人気のほぼ無くなったとある場所へと向かっている。
なっちゃんの感情に異変が起こると必ず一人で訪れる場所。
アタシはそこを“天使が隠れたナイト・プレイス”と呼んでいる。
そこで夜を明かすのが二人だけの日課でもあり、お互いに「本当の自分」に戻れるオアシスでもある。
そして今日も……天使はいるんだろう。
- 116 名前:Tea Break 2 投稿日:2003年07月31日(木)00時39分12秒
最初に好きになったのは声だった。
「圭ちゃん」
エンジェル・ボイスとでも言おうか、その声で名を呼んでもらうと何故かホッとした。その声に耳を澄ますと、新しくて懐かしいエコーのようにアタシの心に響いた。
そしてシャイニング・スマイル。
「笑顔でいたいんだ、どんな時も」
毎日逢うけれど思いがけない笑顔に、アタシは幸福な日々をプレゼントしてくれた。
それから小さな背中と整えられた指先。
「でもなっちの手ちっちゃいんだよね」
時々黙りがちになる癖。
「カオリみたいになっちゃってた?」
どれも全てが虜になんて出来ないほどアタシには謎めいて見えた。
だから好きになった。
いとおしくてずっと傍にいたい。
生涯を共にしたいとまで本気で思った。
- 117 名前:Tea Break 2 投稿日:2003年07月31日(木)00時42分06秒
約束の場所へ辿り着く。
やっぱり一人淋しそうに夜の都会を俯瞰していた二十歳の天使。
天使がここにいてくれた事に正直、嬉しかった。
ホッとする間もなく、音を立てずに近寄って、そっとなっちゃんの身体を後ろから包み込んであげる。
怖がることなく、驚くことなく自然に、ごく自然に……。
そして振り返るなっちゃんに在りのままのキスを送る。
急がずに、迷わずに、気持ちを込めて……。
「……バカぁ」
「どうしてそういうこと言うかな?」
「……たまには一人にさせてよ」
「なっちゃんはいいかも知れないけどさ、アタシが嫌だから、それは無理」
「勝手過ぎるよ」
エンジェル・ボイスは涙で擦れてても、すぐ近く傍でアタシの心に響いてくる。
口では素っ気無くても気持ちがそう言ってない。
天使は言葉よりも先に行動に現れるのを、一番近くで見続けてきたから。
- 118 名前:Tea Break 2 投稿日:2003年07月31日(木)00時45分14秒
「なっちのこの気持ち、どうしてくれるの?」
「こうしたら、どうかな?」
遅桜の花びらが風に散るのを背景にアタシは再びエンジェル・ボイスが奏でる
音源をそっと塞ぐようにキスして、包み込むように抱きしめた。
アタシのウソ偽りのない、ありったけの気持ちを込めた贈り物に、
何一つ迷わないシャイニング・スマイルが戻ってきた。
そして、一言……。
「やっぱり圭ちゃんには叶わないよ」
恋人たちの月が光り、天使がいるこの場所で、夜を彩るセレナーデが何処からか聞こえてきた……。
〜FIN〜
- 119 名前:お返事 投稿日:2003年07月31日(木)00時51分01秒
- >本庄さん
圭 「なっちゃんも卒業、か……」
なつみ「圭ちゃんを追っかけるかたちになっちゃった」
圭 「アタシは何時になったらなっちゃんから卒業できるのかしら」
なつみ「それは無理! だってなっちが圭ちゃんから卒業しないから」
圭 「……う、嬉しいけどさ、自分で言ってて恥かしくなかった?」
なつみ「……ちょっぴり(真っ赤っか)」
- 120 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月31日(木)00時51分52秒
- Hide this story.
- 121 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月31日(木)00時52分26秒
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- 122 名前:Tea Break 3 投稿日:2003年08月10日(日)01時42分59秒
『LONESOME』
今日は圭ちゃんと逢えない。
せっかく先にソロとして飛び立っていった圭ちゃんと同じ立場になれて、
前みたいに一緒にいられる時間が作れると思ったのに。
「どうして先にいっちゃうのさぁ……バカっ」
いつからか不自然にそう思うなっちはごく自然で、だけど……一人。
もう一度出逢った頃からの事を、今日はゆっくりと考えてみた。
一人の淋しさを二人でいた時の穏やかな気持ちに変える為に。
ついでに、今まで溜まっていた写真の整理でもしながら、アルバムを作ろう。
そして、笑顔一つ一つを繋いで、記憶という名のアルバムも作ってみよう。
- 123 名前:Tea Break 3 投稿日:2003年08月10日(日)01時46分31秒
「アハハ。こんな時もあったんだよね〜。懐かしいな〜」
「え〜、なんでこんな写真あんの? いつ撮られたんだろ?」
いくつもの記憶が甦ってくる。
嬉しかった事、楽しかった事、本気で怒った事、そして……辛かった事。
「あ〜、この時は凄く落ち込んだっけ」
不意に出てきた思い出したくもない出来事。
けれどもそんな運命に臆病ななっちを支えてくれたのは他ならぬ圭ちゃん。
手を繋いで、街が見下ろせる丘に連れて行ってくれた。
青く澄んだ青空の中へと揺らぐ気持ちを運んでくれた。
「嫌な事なんか、このでっかい空でも見て忘れようよ」
それだけで充分過ぎるほど嬉かったっけ。
あの時、なっちは思ったんだ。
- 124 名前:Tea Break 3 投稿日:2003年08月10日(日)01時48分20秒
圭ちゃんの事、女神って呼ばせてよ。
心の奥ではこれからもずっと、ず〜っと。
そしたらなっちはいつか天使になって、圭ちゃんの元に行くからさ。
それで、その時圭ちゃんに貰ったもの返すよ。
「何かあげたっけ?」
いっぱい貰ったんだよ、感動という名のプレゼントを……。
圭ちゃんにとってそれはたいしたことじゃないかもしれないけど、
なっちにしたら、圭ちゃんにしてもらったこと、全てに感動したんだ。
そんなプレゼントを、今度は天使のなっちが贈って、ずっと届け続けたいんだ。
「なんか恋のキューピットみたいだね」
- 125 名前:Tea Break 3 投稿日:2003年08月10日(日)01時50分35秒
そうだよ。だってなっちは天使なんだから。
そうだ、安らぎという名の服も着せてあげたいな。
圭ちゃんはいつも頑張り過ぎてるし。
圭ちゃんの好きな赤じゃないけど、圭ちゃんのお好みの色になってくれるといいな。
それをいつか着て、なっちの前で見せて欲しいな。
「ありがとう、なっちゃん……」
ふと圭ちゃんの声がして我に返ったけど、部屋にはなっちしかいなくて、少しがっかりした。
でも心の中で聴いた圭ちゃんの応えは、どう考えても近くで聞こえたような気がしたのに。
なんだろう?
- 126 名前:Tea Break 3 投稿日:2003年08月10日(日)01時52分30秒
今日は圭ちゃんと逢えない。
いつからか不自然に、思うなっちはやっぱりごく自然で、一人ぼっち。
圭ちゃん……。
「なに?」
圭ちゃんを女神と呼ばせてよ……。
「いいよ」
ホント? 嬉しいな……
「じゃあさ」
なに?
「なっちゃんを天使って呼ばせてよ」
いいよ、圭ちゃんなら……
〜FIN〜
- 127 名前:ご報告 投稿日:2003年08月10日(日)01時55分29秒
なつみ「ショートショート、いかがでしたでしょうか?」
圭 「次回更新より本編に戻ります」
- 128 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月10日(日)01時56分18秒
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- 129 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月10日(日)01時56分59秒
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- 130 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月10日(日)01時57分42秒
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- 131 名前:本庄 投稿日:2003年08月10日(日)15時03分51秒
- なっつぃ〜お誕生日おめでと〜♪
ちょっとの間だけ圭ちゃんと(ついでに本庄と)同い年ね!!
これからもそのまんまの純粋ななっちでいてね☆
Tea Break最高ですた。
でもTea Break 2で圭ちゃんが言ってた
>“天使が隠れたナイト・プレイス”
に笑ってしまいました。
圭ちゃんのネーミングセンス最高です!!
本編も楽しみにしてます!!
- 132 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時31分46秒
麗らかな春のとある晴れた日の午前、都心からやや離れた街にも心地良い雰囲気が訪れていた。
そんな街のとある片隅のアパートの二階、202号室。
ここに4月から居を構えている女子大生、戸田鈴音の部屋のチャイムが鳴り響いた。
高校時代、校内は素より道内でも優秀だった彼女は、現役でJ智大の国文科へ進学した。
道内のH教育大に進学を切望していた親の反対を押し切ってまで東京に出てきたのには訳がある。
鈴音は将来、文筆活動で生計を立てたいと思っていたからだ。
出版社が数多存在する東京ならば活動がし易い、それが大きな理由の一つだ。
幼少の頃から本が好きだった鈴音は、文字だけで人の心を動かす作家という職業に憧れていた。
その想いは歳を重ねるごとに膨れあがり、高校入学と同時に文芸部に所属し、
内緒で素人投稿の場にも顔を出するほど、陰で精力的な活動をしていた。
そんな彼女の文才がようやく認められ、今ではとある出版社が発行するティーン向けの月刊雑誌に
偽名で連載を持てるまでになった。
彼女の未来への扉がようやく開き始めた。
- 133 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時33分25秒
キッチンで手製のクロワッサンを拵えていた鈴音はエプロン姿のまま、玄関に向かう。
まるで新妻が夫の帰りを出迎えにでも行くような、そんな微笑ましい絵が彼女には似合う。
「はぁ〜い、どちらさまですか?」
「うちや、ちょっとええかな?」
「どぉ〜ぞぉ〜」
相手が隣人のみちよと判って、ドアも開けずにキッチンへと戻っていく。
訪れたみちよも勝手にドアを開け、挨拶もなしにズカズカと奥へと進んでいく。
一見、非常識なようにも見えるお互いの行動だが、これが二人の間では常識らしい。
それくらいお互いがお互いを知り尽くし、信頼し合っている証拠とも言えよう。
もっとも鈴音の方からみちよ宅へ出向く時は、そういうことは一切しないが。
奥へ進んだみちよが、既にいた先客に仰天する。
「うげっ! なんでのんちゃんがおんの?」
「それは聞き捨てならねーれすね。へーけさん」
- 134 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時35分20秒
少し形の崩れかかったクロワッサン(失敗作)を口に咥えたまま、
みちよらが住むアパートの大家の娘、辻希美がニヤッと笑った。
いつも見せる屈託の無い笑顔とは違い、悪魔のような笑顔が映えた中学生に、
みちよの背中からいや〜な汗が流れた。
「罰として今日一日、のんにつきあってもらうのれす」
「えっ! い、いや、その、今日は……そ、そうや! 急に用事思い……」
「逃げても無駄れすよ」
「うわあっ! ちょ、お、重い……」
「またまた聞き捨てならねー言葉なのれす」
「ち、違うって! そんな意味で言ったん、グヘッ!」
咄嗟についた定番すぎる言い逃れもかわされ、あっさりと中学生に捕獲される大学生のみちよ。
みちよだけに関わらず、このお年頃の扱いには誰もが悩む。
甘やかせばそれだけ付け上るし、かといって邪険にすれば本人は泣き、周りからは非難轟々。
それでもなんとか抵抗を試みようともがき苦しむみちよだが……。
- 135 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時36分30秒
「平家さん、黙って従った方がいいと思いますよ?」
潰れるみちよの前にしゃがみ込んで顔を覗かせる鈴音にあっさりと諭されてしまう。
そんな彼女を不謹慎にも可愛いな、と思ってしまうみちよ。
精神年齢は部長クラス並みのオジさんであった。
「なんでうちがこんな目に……」
「これは運命なのれす。へーけさんの」
「そんなん……勝手に決め……グハッ!」
「わかりましたか、へーけさん?」
「……へ、へい。わがりまじだぁ〜」
もはや希美の下僕に成り下がったみちよは成す術なし。
ようやく背中から降りた希美はグルっとみちよの前に周って、ニッコリ微笑んで言った。
先ほど見せた魔笑は何処へやら、一転して子供独特の愛くるしさを惜しみなく発揮していた。
- 136 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時38分36秒
「じゃあ、TDS行きたいれす」
「TDS? なにそれ?」
「知らねーんれすか? T京ディズニーシーれすよ」
「T京ディズニーシーの事、TDS言うの?」
「らってディズニーランドの事を略してTDLって言うじゃないれすか。らからTDSれいいんれすよ」
「最近は何もかも略すから、元々の名前が判らんもんだらけや」
「じゃあ早速行きましょー」
「ええっ、今から?」
「へいっ!」
(マジで!? うち一人でのんちゃんの面倒みんの? そんなぁ〜)
しかし、みちよは無いオツム……失礼、ちょっと頭を働かせて、頼れるお方にヘルプを求めた。
「あ、圭ちゃん? なあ、今日暇? え、バイト明けで眠い? あ、ちょ、圭……」
呆気なく嫌われるみちよにもはや選択の余地は限られていく。
視線をゆっくりと部屋の主へと移動させ、視界に捉える。
いつものように「困った時の鈴音頼み」。
- 137 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時39分32秒
目と目が合うと、鈴音はキョロキョロしながらも指で自分を指す。
やっぱり可愛い……。みちよは今、自分の状況がピンチであることを忘れていた。
それが仇となったか、最後の切り札である鈴音は申し訳なさそうに告げた。
「私は今日、お友達がうちに来るんで……」
「……終わった」
みちよの本日の予定が決まった。希美の一日御付人、兼財布係。
「さっそく行きましょー、へーけさん」
「え、あ、ちょ、うちまだ、コラ、ひっぱん、うわっ……あ〜っ」
「いってらっしゃ〜い」
まるで他人事のように素っ気無く送り出す鈴音。
だが、その顔がホッとした表情だった事はみちよには判らない。
- 138 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時41分16秒
ようやく西日が鈴音の部屋に差し込む頃。
『ただいまーれす〜』
窓の下から陽気な声が聞こえてきた。TDSツアーに行った二人が戻ってきたようだ。
二階に住んでいるのが鈴音とみちよだけの事と、普段から周りが静かな事もあって、
階段を駆け上がる足音が部屋の奥にまで響いてくる。
「あ、帰ってきた」
「誰? ああっ、もしかして彼氏だべか?」
「はい?」
「もぉ、りんねったらなっちたちに隠れてこそこそしちゃってぇ。コノコノォ」
「なっち、勘違いしてるよ」
「え〜、りんねいつの間に彼氏できたのぉ? どんな人、カッコイイ? 紹介してよぉ」
「違うってば。男の人があんな可愛い声出さないでしょ?」
「またまた〜、隠さなくってもイイってば。あ〜、なっちもあの人と……いやぁー、何言わせるべさ」
「痛い、痛いってばぁ」
「ねえねえ、誰に似てるの? ねえねえってば」
「ちょっと、カオリ、顔近づけ過ぎ」
- 139 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時42分30秒
一人盛りあがるなつみが鈴音の肩を意味なく引っ叩いている。
反対の方からは圭織にしつこいほど肘で突つかれる。
相変わらず極度の妄想と自己中は変わってないな、と鈴音は思った。
「彼氏ができてたら、今日二人に付き合ってないってば」
「そんな事言っても、カオリたちは騙されないよぉ〜」
「今更カオリたち騙しても、なんの得にもなんないよ」
呆れたような顔をして、いつものようにドアの鍵だけを開けに行く鈴音。
付き合いが長いだけに鈴音の言い分に説得力を感じる二人は、呆気なく白旗を振った。
「そっかぁ、そうだよねぇ」
「相変わらずカオリは早とちりだべ」
「なんだよー、なっちが最初に勘違いしたんじゃん。カオリのせいじゃないもん」
「相変わらず変わってないよね、二人とも」
「「いやぁ〜、それほどでも」」
(……誉めてないよ)
都会に出てから更に二人の悪い癖が悪化したのではないかと、本気で思う鈴音だった。
- 140 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時43分19秒
数分後、勢い良くドアを開けて入って来た希美が、とても満足そうな笑顔で鈴音の元に駆け寄る。
そして両手一杯に掲げた幾つかのディ○ニーキャラのイラストが描かれた大袋のうちの一つを
丸ごと鈴音の前に差し出した。
「ただいまれす、りんねしゃん。これ、おみあげれす」
「これ全部、私に?」
「へいっ! いつものんがお世話になっているのれ、これはその今まれの感謝の気持ちれす」
「ありがとう、のんちゃん」
「テヘテヘ」
パッと希美の頬が桃色に染まる。純粋な証拠である。
お礼の意を込めて希美の頭を撫でていた鈴音の視界に、ようやく玄関から這いつくばって来たみちよが目に入った。
元気な希美とはうって変わって、一目で判るほど疲労感が色濃く出ていた。
身も心も、そして財布の中身も全て出し切ったようで、目が死んでいる。
「あらららら……」
「……りんねぇ〜、なんか飲みもんくれへん?」
「随分お疲れのようですね?」
「引っ張りまわされっぱなしや。……参った」
まるで行き倒れのようにみちよがへたばった。もうピクりとも動かない。
- 141 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時44分30秒
「あれ、お客さんれすか?」
希美が物珍しそうに座っている二人を見ている。見られている二人も、同じようにしていた。
とはいってもお互いに牽制し合うというわけではなく、ほのぼのとした空気が漂っていた。
「そうだよ、こっちの背の高いぼぉ〜っとしたのが飯田圭織さん。でこっちの背のちっちゃい
童顔が安倍なつみさん。私と同じ高校の同級生なんだ」
「なんか嫌だな〜、その紹介の仕方」
「第一印象は大事なんだよ、りんね?」
「誰でもそう思うからそう言ったまでだけど?」
「ひどいなぁ」
「で、こちらさんは?」
「えっとね、こちらの可愛い娘は、管理人さんのお子さんで辻希美ちゃん。
で、そこでへたばってる人がお隣に住んでる平家みちよさん」
「よろしくね、辻ちゃん」
「可愛いね、希美ちゃんは」
「あ、あの、えっと、ついののみれす。よよ、よろしこ…あっ」
向日葵のような笑顔を見せるなつみと、水仙のようにしっとりと微笑む圭織に、
希美は緊張と恥かしさのあまり、呂律が回らずかみ倒してしまった。
- 142 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時45分25秒
「のんちゃん、ちゃんと言えてないよ」
「へえ〜、のんちゃんて呼ばれてるんだ。じゃあカオリもこれからそう呼んでいい?」
「え、う、あ、へ、へいっ! あ、いや、は、はいっ!」
「フフフッ、可愛いねぇ〜」
「!!!」
いつの間にか直立不動になっていた希美の頭を優しく撫でる圭織の行動に、希美の全身が熱を帯びた。
普通の豆腐が湯豆腐になるほど、顔も一気に沸騰状態に。
「? どうしたの、辻ちゃん?」
「顔、真っ赤だよ?」
「フフフ、のんちゃん、カオリに惚れちゃったかな〜?」
「!! り、りんねしゃん、ななにをいうんれすか!?」
「え〜、そうなの? カオリ、嬉しぃ〜」
「へええ〜っ!!!」
もはや希美の意識は宙を舞い、完全に魂まで抜かれた状態になっていた。
辻希美……昇天。
- 143 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時46分19秒
「……なんや自分ら、えらい楽しそうやねぇ」
「わあっ! び、びっくりしたぁ」
ようやく意識が戻ったみちよはいつの間にか傍にいて、顎をテーブルの上に乗せて
疲れた表情を惜しみなく見せていた。
「平家さん……でしたっけ?」
「そんな、固いこと言わんと……みっちゃんでええよ」
「え、でもりんねが平家さんて呼ぶから……」
「気にしなくてもええよ。よお言うやろ“昨日の他人は今日の知人”って」
「平家さん、それを言うなら“昨日の敵は今日の友”ですよ」
「そうやったっけ?」
今日のみちよは頭の方も既にパンク状態らしい。
いつものような薀蓄も豆知識も今日は不発に終わる。
そんな状態にも関わらず鈴音はいつもの台詞をみちよに投げかける。
「平家さんてホントにW大生ですか?」
「だから、ちゃんと受験料払って試験受けて合格したってばよぉ」
「誰も裏口入学したなんて言ってませんよ?」
「……アンタまでウチをバカにすんのかい」
みちよの疲労度が増した。
- 144 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時47分19秒
そんなやりとりを見ていたなつみが笑いながら言う。
圭織は今だ希美と仲良くお話――希美の意識がまだ混濁気味なので一方的な圭織のお喋り――中だ。
「なんか面白い人だべさ、みっちゃんさんは」
「初対面の人におもろいって言われるとは……なんか複雑な気分。ところで自分らは大学生さん?」
「違いますよ、予備校生です」
「そっか……っていうか自分ら今日予備校は? さぼってもええの?」
「大丈夫ですよ。それに今日、ゴールデンウィークでお休みだし」
「そう、それにまだ五月だし。ね、のんちゃん」
「そうれす、てへてへ」
圭織に構ってもらえてご機嫌な希美。
その希美の笑顔を見てこちらもご機嫌な圭織。
「のんちゃんは知らんやろ。それにしてもえらい呑気やな〜、ノッポさんは」
「ノッポじゃなくてカオリ」
「ハイハイ、カオリね。で自分がやべっちやったっけ?」
「それはナ○ナイだべさ。なっちだべ、な・っ・ち」
「そうかそうか。なっちにぃ〜、カオリね」
大雑把なみちよに、またしても鈴音の冷めた一言が。
- 145 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時49分59秒
「相変わらずいい加減ですよね」
「なんか今日のりんねはよお突っ掛かんなぁ。ヒステリーは善くないよ?
それともうウチ、なんか悪いコトしたか?」
「いつもしてますけど」
「なにを?」
「用がなくても人の部屋に上がり込んで来るし、冷蔵庫を勝手に空けるし、
シャワーとシャンプー使うし、夕飯も綺麗に平らげてくし、ベッド占領して寝言いうし、
あと酔っ払うと抱き付いてキスしてくるし、○×△するし……」
「え、ええやんか、いつものことやろ?」
「そうですけど、節度と言うものが……」
「いつもそうなの? みっちゃんさんてもしかしてヒモ?」
「あんなぁ……勘弁してぇなぁ」
今のみちよには些細な言葉での攻撃もかなりのダメージを被るらしい。
既に顔を上げるだけの気力すらない。
しかし、なつみの指摘はあながち嘘でもない。
現に数時間ほど前に、鈴音に言われたことしてたぐらいだから……。
- 146 名前:菖蒲 T 投稿日:2003年08月15日(金)03時52分03秒
「でも、もう慣れちゃったかな。同じようなコトする人がここにもいるし」
そう言って隣りの小悪魔の苦笑いを誘った。
「テヘテヘ」
「みっちゃんとのんちゃんて似たもん同士なんだね」
「姉妹みたいっしょ」
「それはいやれすね〜」
「それはこっちの台詞や!」
「で、りんねがお母さんかな」
「え〜、やだな〜、それも」
「え〜」「なんで?」
二人の姉妹の声が同じに重なる。
「ん?」
「あ?」
みちよと希美の鈴音取り合いバトルはまだまだ続くのであった……。
- 147 名前:お返事 投稿日:2003年08月15日(金)04時01分07秒
- >本庄さん
なつみ「へへ〜、誉められちゃった」
圭 「純粋、か……本性はそうでもないんだけどね、実際」
なつみ「ムッ! 本庄さんの夢を壊さないであげなよぉ〜」
圭 「だったら、そうなるように努力しようよ? 一応天使なんだし」
なつみ「努力って……なっちはいくらなんでも本物の天使にはなれないよ」
圭 (その努力じゃなくて、性格の方だっつーのに)
- 148 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月15日(金)04時01分47秒
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- 149 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月15日(金)04時02分25秒
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- 150 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時27分47秒
ようやくゴールデンウィークも終わった。
ゴールデンウィークまでの期間はまだヨチヨチ歩きの雛どりのようなペースだったが、
ここにきて本格的に受験を意識した講義が始まった。
それに伴い、なつみも圭織も次第に顔つきが受験生らしくなってきた。
週末の午後、三時間ほどの寡黙な勉強時間を終え、二人は増設された自習室から出てきた。
学生服を着た受験生たちに良い刺激を貰ったらしく、集中していたせいで妙な達成感のある顔つきをしている。
「いや〜、すっかり肩凝っちゃったべさ」
「なっち、まだ訛り抜けないの?」
「おっとっと。どうしてもカオリと一緒だと気が抜けちゃってさ」
「それってものすごく失礼な事なんだけど?」
「それだけ気の許せる人ってことだよ。そういう人、中々いないもんだって」
「ん〜、なんか巧く言い包められてるような気がするけど……ま、いっかぁ」
(カオリが能天気娘でよかったべ)
長年の付き合いからか、圭織の扱いは御手の物だ。
よく調教しているといってもよい。
- 151 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時29分30秒
「それにしても、土曜日までここに来て頭使ってるウチらって、なんて優秀な予備校生なんだろう」
「ゆ、優秀かどうかはいいとしても、土曜出勤は偉いことだよ」
「お陰で頭も身体もお疲れモードだよぉ。この後どっか寄ってく?」
「ん〜、寄りたいのは山々だけど、早く帰ってゆっくりしたいっていう気もしないでもない」
「そうだね〜、こういう時こそ気を抜いてちゃマズイし、時間は有効に使わないとねぇ」
「おおっ! カオリにしては良いこと言うねぇ」
「そお?」
「うん。あっ、また行列が出来てる。何の授業だろ?」
静かな廊下を歩く二人の目に、五限の授業を待っている受講生が並んでいた。
未だにもの珍しそうにその様子を眺める二人。
やはり土曜日は平日よりも現役生の制服がひどく目に付く。
「『T大英語』みたいだよ。テキスト持ってる人いるし」
「おおっ! 土曜の五限に“T大英語”だなんて、なんかものすごくカッコイイっしょ」
「……なっちのそのセンス、カオリわかんない」
圭織は自分のことを棚に上げて呟く。
- 152 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時30分48秒
「あっ!」
なつみは素っ頓狂な声と共に、身を圭織の後ろへサッと隠した。
そして圭織の身体越しからどこかを見つめている。
「なに? 急に後ろに隠れたりして」
「あの人だべ、この間見た」
なつみの視線の先には、日本史の講義の時に出会ったあの女性が
縁無し眼鏡を掛け、無関心を装った表情で四限の終わりを待っていた。
勿論その手にはこれから行われる講義のテキストを開き、時間を有効に使っていた。
「へぇ〜、T大狙ってるんだぁ。すごいねぇ」
「……なんか待ってる姿が決まってるよ」
「なんかクールだねぇ。ゴ○ゴ13みたい」
「はぁ……」
「何さ、その溜息は」
「カッコイイべ」
(また始まったよ、なっちの勘違い恋愛が)
「……お知り合いになりたいべさ」
「またそうやって外見だけで判断するぅ〜」
「い、いいっしょ。今回は本気なのっ!」
「それっていっつもじゃん……。で、何でカオリの後ろに隠れるわけ?」
圭織はさっきから自分の身体がどうも前へ前へと進んでいることに気が付いた。
- 153 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時31分49秒
いかにもT大目指してます、といった受講生たちの列へと徐々に近づいていく。
圭織の身体を盾にして、好奇心と共になつみが前へ前へと押していたようだ。
「いやぁ〜、何となく見つかったら……ねぇ」
「本気なんでしょ? だったらもっと堂々としなよ」
「い、イヤだべ。そんなことできないっしょ」
「なんでよぉ。今回は本気なんでしょ? だったらガツンと行こうよ、ガツンと」
「そ、そんなコトしたら、嫌われるべさ」
「まだ何にもしてないじゃん、カオリたちは。そうやってコソコソしてる方が余計に怪しまれるって」
「うわっ、ヤバイッ!」
「え、何なに?」
「こっちに来る、ど、どーしたら……」
「ふ、普通でいいじゃん、普通で」
なつみの興奮気味の説明に前を向き返ると、女性が眼鏡を外しながらなつみたちの方へと歩いてきた。
歩く容姿もさることながら、服装も地味であるため、どことなく秘書のような趣きさえ感じられる。
容姿では他人に引けを取らない圭織でさえも、少し身を引いてしまったほどだ。
- 154 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時33分39秒
「……ん?」
「「あっ……」」
ちょうど圭織の真ん前でその女性は立ち止まった。圭織たちがいたことに今、気がついたらしい。
鋭い目がまるで獲物を捕らえるライオンのように圭織の瞳を掴まえる。
それでいて圭織よりも背が低いため、上目遣いぎみな目線に圭織は一瞬だけ、全身が大きく脈を打った。
「……何か用?」
「え、あ、いや、その、特には……」
「なななんでもないんです、すすいません」
「……そこ、どいてくんない?」
「えっ?」
「入れないから」
「え、あっ、ご、ごめんなさい」
圭織はオドオドしながら後ずさる。というよりも後ろにいたなつみが圭織の身体を後ろへと引っ張っていた。
目の前の同性に対して警戒心があるような動作が、やや彼女を不機嫌にさせた。
そしてその場にいることに耐えられなくなったなつみが、圭織の手を引き女性の前から駆け足で立ち去った。
「ち、ちょっとぉ……」
(なんだ、ありゃ?)
女性は首を傾げながらお手洗いへと消えた。
- 155 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時34分41秒
一気に校舎を二階ほど降りる二人。
高校卒業以来、運動らしい運動などしていなかったせいで、既に息が上がっている。
「……ぷはぁ〜っ」
「もお、…なっちのせいで……大恥じ…かいちゃった…じゃん」
「ご……ごめん」
「…罰として……吉牛の大盛り…ツユだくに、卵と…味噌汁付き……一週間…なっち持ちね」
「ええーっ!!なんでよ!?なっちそこまで悪いことしてないじゃん!」
「だったら……牛鮭定食三日間で…許す」
「だからなんでカオリに奢らないといけないのさ!?」
「良い訳は無用!決まり事には素直に従うべし!」
「ズ、ズルイっしょ!」
「なるべく廊下は静かに通って下さい。授業の妨げになりますから」
憤るなつみの横を通りかかった職員にお咎めを受ける二人。まるで小学生のようだ。
「……怒られちゃった」
「ううっ……今日は厄日だべ」
急に虚しさがこみ上げてきた二人は、意思が通ったように言う。
「……帰ろっか?」
「……そーだね」
結局、なつみは圭織に牛皿一週間奢りで話をつけた。
- 156 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時35分44秒
土曜日に運命の出会いとしたなつみはきっかけを掴んだのか、積極的に行動を起こした。
一週間後の金曜日、“私大日本史”でわざと時間ギリギリに教室へ赴き、お目当ての人を捜していた。
そして野鳥の会の人たちも驚くほどの眼力で数多いる受講生の中から見つけ出すと、
席の空きを探す振りを装いながらターゲットに近づいていった。
「あの〜、隣いいですか?」
「……どうぞ」
「あっ!」
「ん?」
「また、お会いしましたね」
「あ? どっかで会ったっけ?」
「初講日にお隣になって、それから先週の土曜日にも……」
「……。ああ、あん時の?」
「はいっ」
さも偶然のように話し掛けていくなつみ。意外としたたかな性格をしているようだ。
席を譲られたなつみは嬉しそうに隣に座り、自分を見ている視線に満面の笑みで返す。
「ふ〜ん、で?」
「えっ?」
「今日は何の用?」
「いや、用って……何もないですけど」
「そ」
- 157 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時36分46秒
何事も無かったかのように一人の世界に浸る女性と、その横顔をじっと眺める少女が一人。
しかしそんな熱い視線に目もくれずテキストを眺める隣人だが、さすがに我慢し切れなくなったようだ。
軽い溜息をついて視線を合わせる事無く言った。
「……何? アタシの顔に何かついてる?」
「いえ、別に。ただ……」
「何?」
「ただ、その〜、ちょっと気になったものですから……」
「何に?」
「えっと〜、しいて言えば貴方に、でしょうか」
「頭、大丈夫?」
「ええ、一応ちゃんとしてますけど……」
「……なんか聞きたいことでもあんの? 黙って見られると気になるんだよね」
「こ、これも何かの縁という事でお名前なんかを……」
「保田圭」
突き放すような物言いになつみは驚くも、脳内アドレス帳には保田圭のプロファイルが新しく作成されていく。
「……本科生ですか?どちらコースに?」
「単科生で二浪中」
「……志望校なんかは?」
「T外大」
「……」
質問する内容は受験的に普通だが、答える方もそれに負けず劣らず簡略的だ。
新しいアドレスは空白部分が非常に多い。
- 158 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時38分19秒
「…まだあんの?」
「あの、どうしてそんなに愛想ないんですか?」
「見ず知らずの他人に愛想良くするほど、オメデタイ人間じゃないから」
「……」
ごもっともな意見であるのだが、なつみ的にはそれが信じられない。
だって彼女は人見知りしない太刀だから……。
だって彼女は自分のスマイルで敵を戦意喪失させてきたから。
「これでいい?」
「どうしてテキスト持ってないんですか? ノートも取ってらっしゃらないようですし……」
「そんなこと聞いてどうすんの?」
「いや、その、気になったものですから……」
「モグリだから」
「えっ、モグ、モグリ?」
なつみは一瞬、英単語か古文単語かとも思った。
自分が使用している『ター○ット1900』や『土○の古文単語222』が脳内で勢いよく捲れていく。
しかし、何処にもそんな言葉は記載されてはいない。
- 159 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時39分14秒
?マークがなつみの頭上に飛び交っている絵が見えたのか、圭が簡潔に説明する。
「無断受講のこと」
「!! そ、それってやっちゃマズイんじゃ……」
「頭固いね。世の中要領なんだよ。真面目にやって100%受かるって保障どこにもないだろ?
だったらズル賢くやった方が得ってことさ。所詮入試なんて紙切れ一枚で決まるんだから」
「で、でも見つかったら……」
「そこを巧くやるのが要領なの。だてに二浪もしてないよ」
「……」
講義中、前回と同じように独自のスタイルで昇華していく圭。
確かに、圭が行っている行為は誤ってはいるが、言っていることは正論。
そんな彼女を人は、どう思うのだろうか?
卑怯、詐欺、愚弄、横暴……。
しかし、なつみだけは周りの受験生とは何かが違うものを感じてしまった。
圭の存在に、なつみは更に興味を抱いてしまったと同時に、もっと虜になってしまった瞬間だった。
- 160 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時40分24秒
翌日もなつみは圭とコンタクトを取るべく、校内をうろついる。
圭に掻き立てられた好奇心を勉強へと向ければよいものを、そうしないのがなつみらしい。
お陰で、いつもならばやる気満々で自習をしているところなのだが、今日に限っては午後からずっと
校舎内外を徘徊中である。そして、捜すこと二時間と少し。
ようやく自習室から出てくる圭と見つけると、偶然にも圭織が後から出てくるところだった。
「あ、こんにちは」
「ん?」
「へ? 知り合い?」
「なに言ってるのさ、カオリ。この間、会ったっしょ?」
「あ……そういえば」
「……なんだまたアンタ、か」
圭織はなつみと圭を交互に見つめている。
事情のよく判らない圭織と、自棄に嬉しそうな顔のなつみ、そして呆れるような態度を取る圭。
三人のきちんとしたファーストコンタクトの瞬間だった。
- 161 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時41分23秒
「今日はT大英語ですよね?」
「……なんでそうアタシに付きまとう?」
(え、なっちってばいつの間に?)
「えっ、そんなにいつも一緒にいましたっけ?」
「……予備校は高校と違うんだよ? ここは友達作りの場じゃなくて、大学に受かるために勉強する場なの。
仲良しこよしやってっと落ちるよ」
(確かにこの人の言ってる事は正しい。だけど、ちょっと言い方がキツイなぁ)
「そ、そういうわけじゃ……」
「言っとくけど、アタシはアンタらとは仲良くする気はこれっぽっちもないよ」
「え、あ、カオリも?」
「あっ、ちょっと……」
圭は足早にその場を去ろうとしたが、一端歩を止めて振り向きもせず、
「仮にアタシに関わって、受験失敗してもアタシは一切責任は取らないから」
とだけ告げて授業のある教室へと向かっていった。
その後ろ姿からは何人たりとも寄せ付けないオーラが全開だった。
- 162 名前:菖蒲 U 投稿日:2003年08月19日(火)02時42分23秒
「えっ、えっ……?」
「あ〜あ……行っちゃった」
「……なんかものすごく避けられてたね、カオリたち」
無言で頷くなつみだが……。
「でも……そんなところがカッコイイべ」
「はあ?」
「ますます保田さんから目が離せないっしょ」
「……なっち、大丈夫?」
手の平をなつみの額に当てる圭織。
それでもまだなつみは恍惚の眼差しで圭が消えていった方を見つめていた。
自分が鬱陶しがられているとも知らずに。
- 163 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)02時42分53秒
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- 164 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)02時43分31秒
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- 165 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)02時44分10秒
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- 166 名前:本庄 投稿日:2003年08月20日(水)14時35分26秒
- 圭ちゃん冷たい・・・(泣)
そんななっちに冷たい圭ちゃんなんて・・・大好きだぁ!!(馬鹿)
でもなっちはどんどんはまってるみたいで・・・(嬉)
これからどんどこなっちのペースにはめてやってね♪
PS、みっちゃんいいこなのにね・・・。
- 167 名前:お返事 投稿日:2003年08月21日(木)00時52分15秒
- >本庄さん
なつみ「圭ちゃんてば冷た過ぎだよっ! バカっ!」
圭 「だって本庄さんは冷たいアタシが好きだって」
なつみ「なっちはヤなのっ! 圭ちゃんはなっちに優しくなきゃヤダっ!」
圭 「我侭だなぁ。これからなっちゃんのペースで嵌められるのにさ」
なつみ「ヤダっ! 最初からなっちLOVEじゃなきゃヤ!」
圭 (いつからこんな風になったんだろう? 教えて、本状さん)
- 168 名前:お詫び 投稿日:2003年08月21日(木)00時54分56秒
- ゴメンなさひ(焦)
本庄さん、最後の名前間違えてしまいまひた。
圭ちゃんに免じて(?)許してやってくださひ。
- 169 名前:本庄 投稿日:2003年08月22日(金)16時43分49秒
- なっちゃん・・・いい感じっす!!
やっぱ我侭なっちに振り回される圭ちゃんというのは
私のハートにストライクです!!
そしてこんななっちにしたのは・・・やっぱ圭ちゃんの愛でしょう♪
これからも二人の
( ・e・)<ラヴラブ♪
パワーで本庄をとろけさせてね☆
- 170 名前:きゃる 投稿日:2003年08月30日(土)03時30分52秒
- 久しぶりにレスします
やーっとなっちと圭ちゃん絡みましたねー
なっちのお手並拝見って感じですね。
- 171 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時38分48秒
まだ五月だというのに夏のような暑さが教室内を漂う。
その熱気は放課後になっても衰える事を知らず、ヘタる真希を苦しめていた。
もっとも暑さだけではないのだが。
「ねえ、ごっちん。教えてよぉ」
感情と言語を持った大きな目覚し時計が、真希の隣で五月蝿く鳴っていた。
動きたくなかった真希に梨華がこれでもかと言わんばかりにしつこく問い掛けている。
「こないだ踊ってるって言ったけど、どういうこと?」
「いや〜、なんていうか……」
「ダンスでも習ってるの? 日本舞踊? タンゴ? フラダンス?」
「ん〜、まぁ〜、そのぉ〜、なんというかさ〜」
「教えてよぉ。ツナサンド奢るからさ〜」
ツナサンドという言葉に真希の表情が和らぐ。
目に輝きが戻ったようだ。
- 172 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時40分33秒
「え、ホント? じゃあ、教えたげよう。実はさ〜、ごとークラブに通ってんだよね〜」
「クラブ? 部活やってないじゃん、ごっちんは」
「そのクラブじゃなくてさ〜」
「じゃあ、ゴルフで使うやつ?」
「それもちょっと……」
「じゃあ、あれだ。トランプの三つ葉」
「あのさ〜、梨華ちゃん。面白くないよ、そのボケ」
「……真顔で突っ込まないでよぉ。恥かしいじゃない」
(じゃあ言わなきゃいいのに……)
真っ赤になって真希を叩く梨華は純情そのものだった。
そんな仕草が似合うのも彼女ならではだろう。
冷めたような真希に向き直って梨華は改めて問いただす。
「で、クラブってなぁに?」
「なんて説明したらいいのかな〜」
「教えてよぉ。そこまで言っておいてもったいぶらないでさ〜」
「ん〜、言葉じゃどう言っていいかわかんないんだよねぇ〜。ごとー、国語苦手だしぃ〜」
「ハムカツサンドも奢るからさ〜」
また真希の表情に活気が戻る。
どうやら巧い具合に梨華から獲物を集っているようだ。
- 173 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時41分51秒
「あはっ。そうだねぇ〜、一時期はやった“ジュリアナ”って知ってる?」
「知ってるよ。ディスコでしょ?」
「ん〜、ちょっと違うけど、雰囲気はそんな感じかな。で、ごとーはそこに通ってんだよね〜」
「いいの、そんなトコ行って? 未成年じゃダメなんじゃないの? 危ないし、怖いし、汚いし……」
(どんなイメージだよ、梨華ちゃんが思うクラブって)
「大丈夫なの?」
「バレないようにしてるし、結構わかんないもんだよ」
「ふぅ〜ん」
口ではさも興味なさそうに言うも態度はそう言ってなかった。
全身から、特に目から「連れてって」オーラが漲っていた。
目でモノを訴えるとはこの事を言うのだと、真希は一つ学習した。
「……今度、一緒に行く?」
「えっ、いいの?」
「ごとーの知り合いの人がいるからオッケーじゃないかなぁ?」
「じゃあ、行く」
言葉では弱々しい言い方だったが、目ははっきりと嬉しさを見せていた。
判りやすい人だなぁ、と真希は思う。
- 174 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時43分09秒
「決まりだね。じゃあ明日の夜ね」
「えーっ! 明日の晩!?」
「だって明日、土曜日じゃん」
「そうだけどさ……」
「なにか不満?」
「そうじゃないけどさぁ……」
「表向きはごとーんち泊まるってことにしとけば親も心配しないんじゃないの?」
「ん〜、それなら問題ない、かな」
(ごとー以外だったら問題でもあるのかなぁ? それともごとーって梨華ちゃんの親に信頼されちゃってる?)
梨華の親が自分に頭を下げている絵を想像して可笑しくなった真希。
「ごっちん?」
「うひぇ? あ、なに?」
「なんで笑ってんの?」
「それがごとーだから」
「???」
「じゃあ駅前に八時ってことで」
「わかったぁ……って何、この手?」
まるで犬が尻尾を振っておねだりをするように真希は両手を出して何かを待っていた。
- 175 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時47分23秒
「ごほうび」
「???」
「ツナサンドとハムカツサンドは?」
「今日はもう売店やってないよぉ」
「じゃあ、駅前の……」
「いやっ! あそこはダメッ!」
「え〜、なんでなんでぇ〜?」
「あそこは高いじゃん。今日持ち合わせ少ないから却下」
「じゃあさ、本屋の隣りにある……」
「ダメダメ。あそこは一緒に売ってるモンブランが甘くないからダメ」
呆気に取られ、目が点になる真希。
「それって……梨華ちゃん自身の好みの問題でしょ?」
「それにショートケーキの苺が小さいからヤなの」
(食べるのはごとーなのに)
「とにかく駅前のお店も、本屋の隣りのお店もイヤッ!」
「……しょうがないなぁ。じゃあ月曜日ね」
「う、うん」
廊下を軽快にスキップする真希の後ろ姿を見ながら、梨華は思う。
(あ〜あ、ハムカツじゃなくて卵サンドにしとけば良かったなぁ。高くついちゃったよぉ)
たかだか五十円の差にケチを入れる梨華であった。
- 176 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時48分50秒
そして待ちに待った土曜日の夜が来た。
梨華は自分なりに研究したクラブに合う装いで、真希を待っていた。
自分なりにイケてると思った服装は、待ち合わせにきた真希のそれと比べて随分地味になった。
むしろ、場違いを思い起こさせるかもしれない。
「遅くなってゴメンね〜」
「大丈夫だよ、まだ八時になってないし」
「……」
「な、何ぃ?」
「梨華ちゃん……なんか変」
「だってぇ、どんな恰好したらいいのか、わかんなかったんだもん」
「だからってさ……」
「なによぉ〜、途中で止めないで最後まで言ってよぉ」
「いや……いいよ、言わないほうが梨華ちゃんの為だし……」
「え〜、余計に気になるよぉ〜」
服装について(恰好は推して察するが如し)あれこれ指摘しながら、繁華街を歩いていく。
賑やかな繁華街の雰囲気に後押しされるように陽気に笑う真希と、文句をたれる梨華の二人の足は、
徐々に人気のない路地へと入っていく。
- 177 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時49分54秒
路地に入ると、あちらこちらに真希と同じような恰好をした若者がチラホラ。
そんな連中と挨拶程度の会話を平気でする真希に、梨華はただただ恐縮するばかり。
「だだ大丈夫、だよね、ね?」
「心配し過ぎだって」
ニャァ〜
「ひっ!」
「なんだ、ただの黒猫じゃん。怖がりだなぁ」
カラ〜ン
「うひゃあっ!」
「そんな、飛び上がんなくたって」
「だって、だってぇ〜」
既に半泣きの梨華、それを見て笑う真希。
そんなお姫様を連れた王子は、一見入口とも思えないような細い通路を渡り、木製のドアを開けた。
梨華にとっては、未知の世界の扉が開いたように見えた。
- 178 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時51分26秒
一歩中へと踏み入れると、外の雰囲気とは一転して賑やかな音楽と戯れる人の波が梨華の目に飛び込んでくる。
自分たちと同じような年代の子から、ネクタイを締めたサラリーマン、ちょっと露出度の高いお洒落をした女性までが
同居する空間に、梨華は言いようのない恐怖と戦慄を覚える。
(な、何ここ? どうなってんの?)
「今日は人が多いねぇ〜」
「な、なんか怖いよ〜」
「大丈夫、ダイジョウブ。あっ、けーちゃん」
不意に真希が声をあげて駆け寄っていった。
梨華も離れない様に懸命に後をついていく。
すると目の前にはバーテンの恰好をした凛々しい女性がシェーカーを振っていた。
(アレっ、あの人、どっかで見たことのある気が……誰だっけ?)
うろ覚えではあるが、確かに会っていた。
どこか懐かしいような、それでいて近寄りがたい存在。
梨華の脳裏に記憶の断片が甦ってくる。
- 179 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時52分32秒
「なんだ、また来たのか」
「ごとーの唯一のストレス発散できるトコだからね〜」
「アンタにストレスなんてあんの? 一年中、能天気なくせに」
「なんだよ〜、ごとーだってヤなことぐらいあるんだよ〜」
「あっそ。で、後ろにいる娘は?」
急に話題を振られた梨華はしどろもどろになって俯いてしまう。
恥かしさが好奇心よりも勝ってしまったようだ。
「あ、忘れてた。ごとーのお友達の梨華ちゃん。今日、クラブデビューなんだよ」
「は、初めまして、石川梨華っていいます」
「ふぅ〜ん。まあゆっくりしてきなよ」
さほど興味を持たなかったようで、圭はあっさりと仕事に戻ってしまった。
今の梨華には室内に響くサウンドなど全く耳に入らず、ただじっと勤務に励んでいる圭だけを見つめていた。
「……あのさ」
「ん、梨華ちゃん、どーしたの?」
「あの人の名前、何て言うの?」
「あ、けーちゃん? 保田圭って言うんだ」
「保田……圭……やすだ…」
ようやく最後のワンピースが揃い、記憶の奥で眠っていた過去が明らかになった。
- 180 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時54分11秒
(思い出した! この人、お母さんが見せてくれたアルバムに写ってた人だ。
確か、生き別れになった娘がいるって言ってたっけ。じゃあ……この人、私のお姉さん……?)
しかし梨華は自分の記憶に疑念を抱いた。
(でも、お母さんが言ってた人と全く違うみたい。でも、名前は確かに一緒なのに……)
母親から聞いた娘像は、誰にでも優しい、人当たりの良い正直な娘だったということ。
しかし目の前に居る圭は、どこか挑戦的で相手を寄せ付けないような鋭さが出ていた。
理想と現実――どちらが本当の圭なのか、梨華にも判断できなかった。
「梨華ちゃん?」
「え、あ、なに?」
「ごとーは一汗かいてくるけど、梨華ちゃんもどお?」
「え、えっとぉ……私はまだいいよ」
「そお? じゃあごとー、行ってくるね〜」
「い、いってらっしゃ〜い」
嬉しそうに人の輪に加わっていく真希を見送り、梨華は思いきって尋ねてみるコトにした。
- 181 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時55分36秒
「あ、あの……」
「ん、なんか用?」
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、石川○○さんてご存知ですか?」
「さあ、聞いた事ないね」
とりあえず、自分の母親の現姓を告げてみた。
案の定、圭の表情は無反応のままだった。
それならばと今度は、
「あの、じゃあ保田○○さんだったら……」
シェーカーを振る手がピタリと止まる。
顔の表情は変わらないものの、明らかに動揺しているのが梨華の目にもはっきりと判った。
(間違いない、この人だ!)
梨華は畳み掛けるように核心を突いて話し出す。
「ご存知…ですよね?」
「アンタ……なんでその名前を?」
「保田○○さんは今の私の母親なんです」
「!!!」
無表情だった圭の目に力が入った。
その迫力に押し潰されそうになりながらも、負けじと梨華も応戦していく。
- 182 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時56分52秒
「その母が言ってました。“私には娘がいた”と」
「……」
「誰にでも優しい、人当たりの良い正直な娘だったそうですね」
「……」
「今はそう見えないですけど、母の名前を聞いた時、貴方の手が止まりました」
「……」
「率直にお伺いします。貴方ですよね、保田○○さんの娘さんは?」
「……だったらどうするわけ?」
「母が会いたがってます。会ってもらえませんか?」
普段から怒った時でも迫力に欠ける梨華の顔だが、その瞳の奥に見える意思の強さは真剣そのものだった。
それを真っ向から受けるように圭は梨華の瞳を見据える。
何かを読み取るように動揺していた圭の表情が戻り、フッと口元が上がる。
そしてようやく出た結論は……。
「……悪いけど、人違いだね」
- 183 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)00時58分25秒
「えっ」
梨華は確証していた返事に戸惑う。
信じられないような目で圭を見るが、当の圭は先ほどの動揺も感じられないほどあっさりとしていた。
「聞こえなかった? 人違いだって言ったの」
「そ、そんな……」
「アタシには母親なんて、物心ついた時からいなかった。だからアンタの母親が言ってる娘はアタシじゃない」
「う、嘘!」
「何度も言わせんな。アタシには母親なんていない……アタシの親は、今は亡き父親だけ」
「保田さん……」
「それに、アタシは昔っからこういう性格なの。だからアンタの母親が捜してる娘さんとは別人だね」
「ま、待って下さい」
「そういうことだから、悪いけど他を当たんな」
そう言い残し、圭は休憩から戻ってきた他のバーテンと交替して、カウンターの奥へと引っ込んでしまった。
それをずっと目で追っていく梨華の心中は悲しみに覆われていた。
(どうして……どうしてそこまで嘘をつくんですか?)
- 184 名前:菖蒲 V 投稿日:2003年09月02日(火)01時00分57秒
梨華は一人泣いていた。
圭に酷い事を言われたからではなく、圭が荒んだ考え方をしていた事にショックを受けたからだった。
圭の顔と名前を聞いて、耳と目を疑った。
でも、圭が母親の名前を聞いた時の慌てぶりから、懐疑の念ははっきりと確信へと変わった。
しかし、圭はそれを隠そうとする。
梨華はそれが何故なのかが無性に知りたくなった。
それに、圭がどうしてあれほど変わってしまったのかも気になった。
そして……そんな圭に梨華自身が惹き付けられた。
「ふう〜。アレ、梨華ちゃん、どーしたの? なんで泣いてんの?」
「えっ、な、泣いてなんてないよ……」
「だって目に涙が……」
「これはさっきアクビしたから、だよ。もぉ〜、ごっちんてば勘違いし過ぎだよぉ」
「そお? それならいいけど……」
この夜、梨華はその真相を突き止めるべく、真希から圭に関する情報を全て聞き出していった。
この日から梨華の執拗以上に追いかける日々が訪れるのを知らない圭だった。
- 185 名前:お返事 投稿日:2003年09月02日(火)01時19分10秒
- >本庄さん
圭 「ん〜ラブラブでトロケさせて、か……」
なつみ「これ以上圭ちゃんの愛、受けきれないよ〜」
圭 「じゃあどうしよっかね?」
なつみ「今度はなっちの愛を圭ちゃんが受けとめてよ」
圭 「いや、アタシももうお腹一杯……」
なつみ「あっ、なっちの隠し撮り写真が!」
圭 「えっ、どこどこっ!」
なつみ「う・そ」
圭 「……」
なつみ「まだまだ大丈夫だね」
- 186 名前:お返事 投稿日:2003年09月02日(火)01時24分00秒
- >きゃるさん
なつみ「やっとだよぉ〜。もう圭ちゃん遅過ぎ」
圭 「いや、アタシのせいじゃないってば」
なつみ「待たされたぶん、思いっきり甘えてやるもん」
圭 「いや、それはさ、その誰もいないとこで……」
なつみ「あんな事や、こんな事……イヤァ〜(逃)」
圭 「……アタシ、最後まで生きれるかな?」
- 187 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月02日(火)01時25分00秒
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- 188 名前:ビギナー 投稿日:2003年09月02日(火)20時22分17秒
- お久し振りです。
昼は、予備校生。夜は、バーテンさん。カッケーですね。
そして、過去が段々と明らかに。
なっちゃんのみならず、梨華ちゃんまで・・・
ますます、目が離せませんね。
次回も、期待してますので、がんばってくださいね。
- 189 名前:お返事 投稿日:2003/09/12(金) 19:28
-
>ビギナーさん
なつみ「圭ちゃんてどんな生活してんの?」
圭 「ビギナーさんの言う通りだけどバーテンだけじゃないからね」
なつみ「まだ何かやってんの?」
圭 「勿論。日曜は喫茶店、でたま〜に日雇いのバイトなんかも」
なつみ「カッケー」
圭 「なっちゃん、キャラ違ってる」
なつみ「あっ……(ぽっ)」
- 190 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/12(金) 19:30
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- 191 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/15(月) 02:13
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- 192 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:11
-
ようやく予備校の生活に慣れた五月の晴れた昼休み。
なつみと圭織は珍しく陽の光を浴びながらコンビニ弁当を食べていた。
「たまにはお日様からパワーを貰わないと」という圭織の不可解な理論で
連れ出されたなつみは、相変わらずよくわかんないといった表情で圭織を見る。
しかし圭織はどこか嬉しそうに唐揚げを頬張っている。
ふと、目の前を通り過ぎて行った生徒が手にしていた講習会のパンフが目に留まった。
そろそろ本格的に志望校を決めて、ギアを二速から三速へとシフトアップする時期だ。
「ところでさ、カオリはもう志望校決めた?」
「カオリは前からT工大とT理大って決めてんの」
「ふぅ〜ん。じゃあさ、両方受かったらどっち行くの?」
「もちろんT工大に決まってんじゃん。だって国立だよ? いいよね〜、国立って。
なんかカッコイイしさ〜、モテるでしょ?」
(何がカッコイイんだろ? それにモテるモテないは大学と関係ないっしょ)
敢えて口には出さないが、日頃の習慣でついつい突っ込んでしまう自分がいた。
それでなくても圭織はどことなく人を惹きつけるのだから今更何を言うか、
とでも言いたそうな顔をするなつみ。
- 193 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:12
-
「なっちは?」
「ん〜、今のトコ、T学芸大かな」
「へぇ〜、国立一本なんだぁ?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「じゃあ私立はどこ?」
「W稲田とA学の教育、あとは国文科のところを幾つか」
「ふ〜ん。国文科ねぇ……あっ、ふと思い出したんだけど、りんね元気かな?」
「りんね? こっちの大学だっけ?」
「そう、たしかJ智だったかな。H教大けったって言ってたから」
「国立ケルなんてりんねもやるねぇ」
「だよねぇ〜。J智は受けないの?」
「受かったら、りんねの後輩かぁ」
「あ……ヤだね、なんか」
「でしょ?」
「なんかね、りんねが悪いんじゃなくて、こう……ね」
「なっちはいいよ、遠慮しとく」
「じゃあ、カオリもやめとこっと」
この時、二人が何故やめたのかは誰にも分からない。
- 194 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:13
-
「ところでさ、夏季講習どーする?」
「え、もうそんな時期だっけ?」
「本科生は単科生や一般より早いじゃん、申し込みがさ」
「そっかぁ。ん〜、まだ何にも考えてないよぉ」
「だよね。まだ始まって1ヶ月ぐらいしか経ってないし」
「でも、夏っていいよねぇ。なんか気分が開放的になるっていうかさぁ、
ハメ外したくなるっていうかさぁ」
最後の一言になつみは何かを思い出したように言う。
「去年の夏、ハメ外しすぎて失敗したんじゃん」
「え〜、アレはなっちのせいじゃんかぁ! 高校最後の思い出作ろうって言うから
海行ったのにさ、全然人いないんだもん。せっかく大金はたいて水着買ったのにさ」
「なに言ってるべさ! 場所選んだのはカオリっしょ! いくら海とはいえ
漁船が停泊してるとこなんて漁師さんぐらいしかいないべさ」
「だって、りんねに聞いたらそこって言うんだもん! カオリ、悪くないよぉ」
「したっけ、誰だって『近くの海って言ったらどこ?』なんて聞かれたらそう答えるべさ!」
白昼堂々と下らない喧嘩が始まった。周りの受験生も何事かといった目で見つめる。
だが、誰もそれを止める者などいなかった。
- 195 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:15
-
翌日、今年度最初の模試がやって来た。
本科生のみ別日程で行われる今日の模試は、現段階の実力を知るには
ちょうど良い尺度になる一方で、まだ現役生があまり参加しないため、
正確なデーターが取れないという難点もあるので、軽く考えている受験生が多い。
なつみもそんな一人だった。
国立志望のなつみは一日かけてのハードスケジュールだ。
今回の模試は記述であるために数学や理科は受けなくても支障はないのだが、
運で点が取れてしまう可能性のあるマークと違い、自分の実力を知るために
敢えて五教科を受けることにした。
一限の地歴公民科目から模試は始まった。
(まだ春先だから、日本史は鎌倉時代ぐらいまでしか出ないっしょ。楽勝だべ)
英・国・数と違い、出題範囲が限られている地歴公民や理科はこの時期、
知っているか知らないかで点差が大きく変わる。
現役時に、一応平均を保っていたなつみの日本史力はこの程度なら問題はなかった。
一時間の制限のところを四十分足らずで終えてしまい、そっと教室を後にする。
いつもならば圭織と二人で行動するなつみだが、今日の圭織は午後からのため、
一人暇を持て余し当てもなく外をぶらついた。
- 196 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:16
-
二限の国語、これも今のなつみには問題ない。
文系科目でもっとも成績が安定した国語も終了二十分前に終え、人足先にお昼へと繰り出した。
校舎から少し離れた喫茶店に入っていくと、これからテストを受ける圭織が待っていた。
彼女がこうしたお店にいるとどことなく貴婦人っぽく見えてしまうのは、
生まれ持ったその容姿からであろう。
本人は全くもってそんなコトに目もくれないようだが、周りの目はどうしてもそれを許さない。
「お〜、早かったねぇ」
「国語はね、得意だし。それにお昼前だったから早めに出てきちゃったよ」
「カオリはこれからだよ。あ〜あ、初っ端が嫌な英語からだよぉ。
カオリ、テストの度にヘコむんだよねぇ。たまには、理数科目からやってくんないかなぁ。
そしたら午後の時間を有効に使えるのにぃ」
「しょうがないっしょ。文系の方が人数多いんだから。それに朝が苦手なカオリには
一限からはキツイと思うけど?」
「そうなんだよねぇ」
海老ピラフを食しながら、束の間の休息を楽しむ二人。
それでも午後から英語のテストが迫るにつれ、心なしか元気がなくなっていく二人だった。
- 197 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:18
-
午後一時より少し前、苦手な英語のテストが始まった。
最初の簡単な発音、アクセント問題をこなし、途中の文法問題も終え、
いよいよ苦手の長文問題に入る。
二題ある内の一題は部分和訳や内容説明しかない全問記述、もう一題は空所補充や適語選択、
内容一致問題の混じったオーソドックスなもの。
なつみはとりあえず、取れるところから取っておこうと思い、全問記述問題を飛ばした。
……。
(ちゃんと授業でやったことを活かさないと、活かさないと……活かせない? なんで?)
早くも三行目辺りの関係詞節に苦戦を強いられる羽目に。
一方、なつみの後ろに座る圭織も初っ端から悩んでいた。
(ん〜っと、giveが第四文型だから、目的語が……ない? え、なんでなんで?)
一文が受身になっていることにも気付かないほど、圭織も出だしから混乱していた。
……。
(う〜、わかんない。やっぱり単語力がないと読めないのかなぁ)
己の語彙力不足を嘆きながら必死で理解しようと務めるなつみ。
一方の圭織は……。
(should+have+過去完了……時制? それとも仮定法? え〜、どっちだぁ?)
こちらも曖昧な知識をなんとか搾り出す。
それでも時間は刻々と過ぎてゆく。
- 198 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:19
-
試験開始から七十五分が経過。
この頃になると、諦めたのかそれとも解き終ったのか、教室を後にしていく受験生が目立つ。
それをチラチラと気にしながら、気持ちだけは早鐘のように焦っていくなつみ。
(急がないと時間がなくなるべ、急がないと…)
……。
かなりの時間が経ったようだが、なんとか全問答えを導き出せたなつみ。
途中、内容一致問題のことを忘れ、再度読み返すという行為を繰り返しはしたが、文章は完璧に理解できた。
その充実感から解放され、一息付いて残り時間を確認するなつみは目が点になった。
(ええーっ! もうこんな時間!? どうしよう……先に英作文やるべ)
慌てて英作文に取り掛かるなつみの頭は既にパニック状態。
思うように思考が回らないせいか、簡単な英単語すら浮かんでこず、
おまけにスペルまで間違う始末。
一方の圭織。こちらも英作文に取り掛かっていた。
(えっと、"猫も杓子も……" 猫はcat、杓子……杓子? どういう意味だっけ?)
国語が極端に弱い圭織。
英作以前に、日本語に惑わされていた。
- 199 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:20
-
((ヤバイ、ヤバイ。あ〜、なんでこんな時に出てこないんだよぉ〜。もお、バカバカぁ!))
なつみ、圭織のペン先がそれぞれ答案用紙の上で固まったまま、
無情にも終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
結局、長文一題と英作文で全体の三分の一の点を損したなつみ。
片や圭織はなんとか和訳は手をつけたものの、白紙が目立つ。
二人ともすっかり魂を抜かれたようにその場に突っ伏してしまった。
「なっちぃ、どうだったぁ?」
後ろに座っている圭織が弱々しい声をかけてくる。
初っ端の英語から大ダメージを受けた圭織は、このあとの数学、化学に不安を残した。
気の持ち様次第で、試験の出来が大きく変わってしまうのが入試だ。
今の圭織は、本番なら間違いなく落ちていただろう。
だが、それはなつみも同じらしい。
「……もうヤダ。早く帰りたい」
- 200 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:22
-
なつみのテスト地獄はまだまだ続いた。
今度は英語と同じ位苦手の数学。しかも記述となれば、二進も三進もいかない。
九十分がとてつもなく過酷な時間に感じられる。
先ほどの英語といい今回の数学といい、早めに切り上げて教室を後にする生徒は多くない。
……。
(数列!? あ〜、パスパス。次、微積……な、なんとかなるっしょ?)
……。
試験終了。完答率……33%
そして本日最後の科目、地学。
前二つの出来が芳しくないせいで、問題と解こうという気力すら残っていなかった。
それでもなんとか判る範囲を解き、全てのテストが終了。
「……」
「……」
無言のまま二人は帰路についた。
自宅に戻ってから、自己採点をする二人。
同じ時に同じ英語の採点をしていたのだろうか、哀しい叫びが夜の闇に響いた。
「「英語のバカやろーっ!」」
- 201 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:22
-
翌日、なつみは昨日行われた模試の出来が不甲斐無かったせいで、終始落ち込んでいた。
それは圭織にも言えた事で、お互い口数が妙に少ない。
こんな日に限って六限まで授業が入ってると思うとなつみは泣きたくなった。
だが、そんな憂鬱も五限になると悦楽へと変わった。
なにせ今日は金曜日。なつみは凝りもせず、狙いすましたように圭の隣に陣取る。
勿論、表面上は偶然を装う事を忘れない。
顔は受験生とは思えないほど楽観的な笑みを浮かべている。玩具を与えられた子供のようだ。
根本的に何かを勘違いしているなつみに呆れる圭はいつものまま。
「こんばんは」
「……またアンタか。一体何が目的?」
「いやぁ〜、特には」
「だったらなんでそうやって毎回しつこく話し掛けてくる訳? それになんで隣にくんの?」
「それは、保田さんに興味があって」
「……アンタのお遊びに付き合うほど暇じゃないの」
少しだけ語尾が強めになったことで、なつみは慌てて手を左右に振る。
- 202 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:23
-
「別にお友達になって欲しいとかじゃなくて、でもなってもらえたら嬉しいですけど、
でも、その…色々とアドバイスとか聞けたらな〜って思って」
「アタシはアンタと同じ立場なわけ。受験アドバイスや情報ならチューターにでも聞きなよ」
「いや、そういうのじゃなくて、その……要領とかズル賢さとか教えて欲しくて……」
「は? なんでそんな事をアタシに聞きたがるわけ?」
「その、なっちの周りには保田さんみたいな人いなくて、それがとても新鮮で、
どことなく惹かれちゃったんで……」
いいながら顔がどことなく紅潮しているなつみ。
それを見ていた圭は冷静な表情で呟く。
「聞いたって無駄だよ」
「どうしてですか?」
「人間は一人一人違うの。アタシにとって要領の良い事がアンタに良い事とは限らないし、
逆にアタシにとって要領の悪い事がアンタには良い事かもしれない。
人によって要領の善し悪しは千差万別なわけ」
「……」
独り言でも言っているように喋る圭。
相変わらず視線を合わせようとはしない。
同世代で、クールに且つクレバーな物言いをする圭に、なつみの表情も真剣みを帯びていた。
- 203 名前:菖蒲 W 投稿日:2003/09/18(木) 03:24
-
「それにアンタみたいに人の意見や外見に左右され易い人間が、話だけ聞いて
最初から要領良くやろうったってそう上手くはいかない。
失敗は成功のもとって言うようにアタシは一年棒に振ってるから出来るんであって、
仮にきちんと教えてもアンタには宝の持ち腐れだよ」
「……」
「わかった? いくらアタシに引っ付いても何の得にもなりゃしないし、
そんなコトしてる暇があったら古文の単語の一つでも覚えといた方が
よっぽどアンタの為になるよ」
「……」
相変わらず手厳しい洗礼を受けるなつみ。
しかし、恋をしている時ほど周りが見えないのは当然の事で、なつみも例外ではなかった。
(今のなっちには古文の単語より、保田さんを知るためのキーワードが欲しいべさ。
それに古文単語なら、大体は覚えてるもんね。英単語って言われなくてよかった)
周りが見えないのと同時に、考え方も一方通行、且つ寄り道気味になるのが
高校時から変わらない"なつみ式恋愛法"だった。
この日、なつみが習得した事は、荘園制度と条約改正問題、それと……
保田圭に関するプロファイルの追加、であった。
- 204 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/18(木) 03:27
-
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- 205 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/18(木) 03:27
-
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- 206 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/18(木) 03:28
-
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- 207 名前:謝罪 投稿日:2003/09/18(木) 03:50
- 申し訳ないですが
≫193
「ふ〜ん。国文科ねぇ〜」から 「だよねぇ〜」
の部分は無かった事にして下さい。
(既にりんねさんが登場してたこと忘れてまひた)
ごめんなさひ(ペコリ)
- 208 名前:本庄 投稿日:2003/09/20(土) 16:32
- 圭ちゃん…きっついけどそれは愛のムチなのね?
そうよね??そのはずよね???(必死)
うぅぅ、なんか甘甘な二人をずっと見てたんで今だに
この圭ちゃんに慣れないのれす…(涙)
あ、でも最後の
>保田圭に関するプロファイルの追加
にやられました。そうよなっち!!まずは脇から固めてこうね!!
- 209 名前:菖蒲 X 投稿日:2003/09/22(月) 02:09
-
週の真ん中の午後。圭織は『私大化学』の為、今は隣りにはいない。
なつみは一人、進路相談室へ赴き、第一志望校に関するデーター収集をしていた。
なつみが志望するT学芸大は国立の中では中堅レベルだが、それでもセンター試験では
八割ぐらいは取っておかないとキツイほどの大学だ。ましてやセンターの比率が高いので尚更である。
国立で教育学部の置かれている数少ない大学で、近年教職志願者が増えているらしく、
神奈川県下にあるY国大と並んで競争率はかなり高い。
「こりゃあ、難しいべさ」
現段階では、足元にも及ばないなつみが眉を顰めて唸る。
800点中650点は欲しいところだが、そこまでにはあと150点ほど足りない。
やはり英語と数学がネックになっているようだと、自己分析をしてみる。
これさえ克服できれば、かなり有利になるのは間違いないのだが。
なつみは、英語と数学に比重を置いた学習プランを立て、資料室を出た。
気持ちが高ぶった状態でこれからの予定を考える。
「さてと、今日の授業も終わったことだし、いつものように自習でもし……ん? おっ、あれは!!」
なつみの意気込みは違う方へと向いていった。
- 210 名前:菖蒲 X 投稿日:2003/09/22(月) 02:12
-
「思ったより混んでたな……。家にいればよかった、ファ〜、眠ぅ」
夜勤明けの圭は、一人仮設のベンチに腰掛けて欠伸をした。
いつものキリッとした目つきではなく七分開きの目で白と青の混ざった空間を見ていた。
隣りにはいつの間にか、可愛い小悪魔がいたことにも気付かずに……。
「こんにちわっ」
「……またアンタか」
「えへへっ。アクビしてる顔、可愛かったですよっ」
「余計なお世話だよ」
バツの悪そうに顔を背ける圭と、それを見つめる笑顔のなつみ。
端から見れば、恋人同士にも見えなくは無い甘そうな空気が漂っていた。
「あの、これからどうなさるんですか?」
「別に。って言うかアンタには関係無いでしょ、アタシがどこで何しようと」
「え〜、教えて下さいよ〜」
甘えっ子のように擦り寄っていくなつみ。
日頃バイトで培ったシャープな身体に、ちょこっと肉感的ななつみの肌が触れる。
「あ〜、もおっ。寄って来ないでよ。お昼摂って、自習するだけだよ」
「だったらご一緒してもいいですか?」
「んなコトしてる暇があったら、単語の一つでも覚えなよ」
「え〜、だってせっかく金曜と土曜以外で会えたのにぃ〜。仲良くしましょうよ〜」
「イヤだ。何が悲しくてアンタと仲良くしなきゃなんないのさ」
「うぅ〜。だったら、なっちと賭けをしましょう」
「は?」
なつみの突発的な提案に眠気が覚めた。
- 211 名前:菖蒲 X 投稿日:2003/09/22(月) 02:13
-
「来週のマーク模試で一つでもなっちたちが勝ったら、なっちたちと仲良くしてください」
元々ギャンブルには滅法弱い圭だが、模試の勝敗ならば、去年から不敗神話が未だ続いている。
「……一つも勝てなかったら、二度と話しかけないでよね?」
「んん〜っ……」
「そっちが言い出した賭けなんだ。約束は守ってもらうよ」
そう言い残し、圭はそそくさとその場を後にしていった。
相変わらず男顔負けの後ろ姿を見つめながら、なつみは一人ほくそ笑む。
(ふっふっふ。どうやら上手く話しにノッてくれたべさ。「なっちたち」って言ったし、
いくら保田さんでもカオリには数学じゃ敵わないっしょ。それに保田さんが理系だったとしても、
なっちの国語力には敵わないし……一ヶ月後が楽しみだべ)
- 212 名前:菖蒲 X 投稿日:2003/09/22(月) 02:14
-
「フフッ、ウッフッフッフ」
帰りの電車内、なつみは一ヶ月後の自分を想像して不適な笑みを零していた。
目の前に座っている高校生の男子が、妙な視線を自分に送っているのに気付いた圭織。
手前の男子に申し訳なさそうにしながら、なつみを窘める。
「……なっちさ、ちょっと独りでニヤけてると気持ち悪いんだけど?」
「カオリ、今度のマーク、頑張るべ」
「えっ、マーク? そりゃ、頑張るけど……」
「これから予備校生活が楽しくなるっしょ」
「あんまり楽し過ぎるのもどうかと……」
「なっちはこれからガンガン成績が伸びちゃうよ〜。フッフッフ」
「……なっち、頭大丈夫?」
「ダイジョウブイッ!」
一昔前のギャグをかますなつみに、圭織は呆れるしかなかった。
目の前の男子は相変わらず圭織を見てる。
圭織の予想を裏切り、男子はただ圭織に一目ボレしていたのだった。
- 213 名前:菖蒲 X 投稿日:2003/09/22(月) 02:16
-
「勝負ねぇ……去年のこと思い出すなぁ」
賭けを挑まれた圭はというと、とある模試の成績表を片手に、思い出に耽っていた。
〜一年前〜
「圭ちゃん、どやった?」
「まあこれといって前回とそう変わりはない、かな」
「ええよな〜。こんだけ成績が良いと……ん? んんっ!? あっ!」
みちよはイキナリ立ち上がり、二枚の成績表を凝視している。
「何? H橋がA判定だったの?」
「やった……やったぁ……やったぁーっ!」
「な、何よ、イキナリ大声上げて!?」
「圭ちゃんに勝った、初めて圭ちゃんに勝ったんや! やったぁー」
小躍りを始めたみちよの手から、成績表を取り上げて見比べた。
今回も圭の圧勝なのだが、一つだけみちよの方に軍配のあがった科目があった。
「……ああ、国語はみっちゃんの方が上だねぇ」
「ぃやぁったぁーっ!勝ったぁーッ!」
「ちょ、みっちゃん、周りの人が見てんじゃん、止めなってば」
「やった、やった、初めて勝った、勝った、圭ちゃんに勝った。やっほーいっ」
みちよは周りの迷惑など顧みず、終いには涙まで流すほど狂喜乱舞していた。
- 214 名前:菖蒲 X 投稿日:2003/09/22(月) 02:17
-
「……T大に合格したみたいだな」
額に手を添えて、天を仰ぎながら圭は呟いた。
こんな奴と一緒にいる自分を疑いながら。
「おお、センキュー、センキュー」
「んなっ!! なに愛想振りまいてんのよ!!」
「勝った、勝った、圭ちゃんに勝った♪♪」
みちよのパフォーマンスに周りにいた生徒たちが同調し始めた。
即席の歌を唄うみちよとハモっている者もいた。
季節外れのお花見状態に、周りからも何故か(?)拍手喝采を浴びるみちよ。
「なにバカやってんだよっ! たかがテストで」
「ええやろ、負けた分際でガミガミ言うなっ!」
「国語だけだろーが!」
「ま、今回はあんな事なんかないだろうし、大丈夫でしょ」
果たして今回、あの時の二の舞になるのか、それとも不敗神話は続くのか、それを知る者はいない。
- 215 名前:菖蒲 X 投稿日:2003/09/22(月) 02:17
-
圭が過去を回想していた頃、話題の張本人はと言うと……。
「へっぐしゅっ」
「うわっ、汚ねーのれす」
「平家さん、オジさんじゃないんだから、ちゃんと手で押さえましょうよ」
「いや〜、スマンスマン」
「ティッシュティッシュ」と言いながら豪快に鼻をかむみちよ。
二十代の女性とは程遠いほど「オヤジ化」していた。
「ヤれすね〜、こういう大人は」
「のんちゃんはこうなっちゃダメだよ?」
「へいっ」
こちらは中学生とは言えないほど「お子ちゃま化」した希美。
まさしく類は友を呼ぶ、だ。
「あんなぁ……。ところで、なんで自分らがウチにおんの?」
「さあ?」
「なんれれすかねぇ?」
「って言うか、思いっきしテーブルの上に勉強道具が広げてあるんやけど?」
「のんちゃんの中間テストのお勉強です」
「そうれす」
「だからってなんでウチの部屋なわけ?」
「ここが一番落ち着くのれす」
「……だそうです」
「りんねしゃん、この問題れすけろ……」
「ん? これはね……」
いつの間にかみちよの部屋には希美の私物や、鈴音の私物が点々としている。
時には今まで在った私物が忽然と消えていることさえある。
みちよの部屋はいつしか三人が顔を合わせる憩いの場へと変貌していた。
「ウチにも寛げる場所が欲しい……」
- 216 名前:お返事 投稿日:2003/09/22(月) 02:24
-
>本庄さん
なつみ「圭ちゃん、冷た過ぎだよぉ」
圭 「いいのっ。短編ではそのぶん甘いんだから」
なつみ「だって本庄さんも慣れないって」
圭 「いいのっ、これも愛のムチだから」
なつみ(圭ちゃんがSM嬢に見えるべ)
圭 「なっちゃん、今ヘンな事考えたでしょ?」
なつみ「(ギクッ)」
- 217 名前:牡丹 T 投稿日:2003/10/09(木) 02:05
-
一年で一番湿気と雨に悩まれるの季節がやって来た。
まだ梅雨入り宣言がされていない都内は、その前触れとも言うべく、どんよりとした天候が続いていた。
傘を片手に持ち歩く人の数も少なくはない。
金曜日の午後十一時過ぎ。
次第に客も多くなり、一週間の疲れをふっとばす位の勢いでフロアーに流行りのトランスが流れ始める。
ヨーロッパ色が強く打ち出されたこのクラブは、開店当時から月ごとに欧州で活躍するDJをはじめ、
ジャズやフュージョン系のバンドの大御所なども招いて、様々なライブを行ってきた。
そのせいか、時代に敏感な若者から昔を懐かしむ中年までと幅広い客層の人々の交流が盛んで、
今では一風変わった、隠れた名店になっている。今月はダンス一色の空間のようだ。
そんな動の空間の片隅では、カウンターの席で喉を潤す平家みちよの姿があった。
久し振りに訪れたここは前から変わっていない、と懐古する。
音楽や内装は流行廃りの影響で目まぐるしく移り変わるが、場の持つ雰囲気はそのままだ。
みちよは踊るわけでもなく、ただボォ〜っと目の前のアルコールを口にしながら、大人の世界を味わっていた。
これで彼氏の一人でも隣にいればまだ救われるのだが……と思ったりもする。
そんなアダルトな雰囲気を壊すように、カウンター越しから親友がやや暇そうに声を掛けてきた。
「なぁ〜に気取ってんだよ」
「ええやろ、たまにはウチかてシリアスにもなんねん」
顔を背けてアルコールを体内に押し流す。
すると後方から威勢のいい声が聞こえてきた。
- 218 名前:牡丹 T 投稿日:2003/10/09(木) 02:06
-
「やっほ〜、けーちゃん、元気ぃ?」
隣に腰掛けた娘は、ラフな恰好はしているものの、強調する所は立派に強調している。
だが顔はまだあどけなさの残る、そんな少女だった。
「なんや、圭ちゃん、えらい人気者やんか」
「んなわけないじゃんよ」
「あ、はじめましてぇ〜、こんばんはぁ〜」
「こんばんは」
「今日は混んでるんだねぇ」
「ついこないだ、雑誌の取材でここ紹介されたんだよ。その影響じゃない?」
「そうなんだぁ〜。そうするとごとーは結構流行に敏感なほうってことだよねぇ〜」
「そうかぁ?」
「だって今頃ここの良さがわかるなんて遅い方だよぉ〜」
「んな調子のいいこと言っても、何にも出ないよ」
「ちぇっ……」
椅子に腰掛けて「いつもの」と威勢良く注文する真希。
みちよにはその仕草が、仕事帰りに一杯引っ掛けていくサラリーマンのように見えて思わず苦笑した。
「え〜、なにぃ〜? ごとーなんか変かなぁ?」
「アンタはいつも変」
「なんだよ〜、それぇ。ところでけーちゃん、この人誰ぇ?」
初対面相手に指を指す無礼者の真希に、一瞬、みちよのこめかみに青筋が立つ。
- 219 名前:牡丹 T 投稿日:2003/10/09(木) 02:06
-
「ああ、これ? 昔からの腐れ縁で平家みちよっての。こんなんでも一応大学生だから」
「あのなぁ、圭ちゃん。人をこれとか、こんなんとかってモノ扱いすんの止めてくれへん?」
「モノ扱いしてるだけでも有り難いと思いなよ。普段は影さえ薄いくせに」
「誰がハ○やねんっ!」
「んなこと一言も言ってないよ。何聞いてんだ、このタコ」
「アハハハハッ。面白い人なんだねぇ、へーけさんて」
「初対面でまたおもろい言われるとは……で、こちらさんは?」
「これ? 後藤真希っていう高校生」
「これってなんだよぉ〜、これってさ」
「これはこれ。それはそれ」
「高校生!? こんな色気ムンムンの娘が?」
「色気ムンムンって……アンタ、何時の時代の人間だよ?」
「アハハハハ。へーけさん、古〜い」
「古いって……自分、こんなトコ来てええの? 未成年やろ? なんや家出少女か?」
「相変わらず堅物だなぁ」
「アンタこそ未成年になにアルコールなんか出しとんねん。訴えるで?」
「これのどこがアルコールだって?」
敢えてみちよにも真希と同じものを出した。
見た目はアルコールに見えなくもないが、一口で別物と判る。
「え、あっ、なんや、ただのジンジャーエールやん。紛らわしいもん出すな」
「そっちこそいちいち文句つけんなよ。市販されてんだし」
「へーけさんてもしかして、規則とかにうるさいほう?」
「おうっ! こう見えてもかなりの常識人やで。一応法に関する知識にも強いで」
「(なに言ってんだよ、そんな奴がレディースの特隊なんかになるかよ……)」
カウンターでグラスを磨きながらぼそっと呟くほどの小声だったにも関わらず、
みちよの耳にはしっかりと聞こえていた。
- 220 名前:牡丹 T 投稿日:2003/10/09(木) 02:07
-
「圭ちゃん、それとこれとは別問題や」
「へいへい、そうですか」
「は? へーけさんてレディースなの?」
「昔の話や。って言うてもほんの二・三年ほど前の話やけどな。
関東の走り屋ん中じゃ結構有名やったんやで?」
みちよの眉毛がピクリとあがる。自慢しいのみちよの特徴の一つだ。
「えっ! へーけさんて、もしかしてあの"ブルーフェニックス"って呼ばれてた
関東音速四天王の一人、あの"へーけ"さん?」
「よう知っとんなぁ。そんな懐かしい名前まで」
「ええーっ! 嘘ぉー、ホントにぃー!?」
「そんな事に嘘ついてもしゃあないやろ」
「うっわぁ〜、すっご〜い。生で見ちゃったぁ」
突如、恍惚の眼差しで興奮し出す真希についていけない二人は、お互い顔を見合わせ、首を傾げた。
「ごとぉは知ってんの?」
「知ってるもなにもさぁ、だってあのへーけさんでしょ?」
「どのへーけさん?」
「湘南134号ゼロヨンバトルでポルシェに勝ったり、京葉道路で時速200キロ出した、あの"へーけさん"でしょ?」
「そんなこともあったなぁ〜」
「嘘でしょ? 時速200キロなんて。それにポルシェはないでしょ?」
「まあ、そない出てへんかったと思うし、ポルシェ並みに改造した四輪やった」
「あれ、ごとー、見たんだもん。やっぱり本物だよぉ。ごとー感激ぃ〜」
「なんか、照れるなぁ、そんなこと言われると」
「そんなに嬉しいもんかねぇ?」
「嬉しいよぉ〜。だってさ〜、男の人顔負けのドラテクと肝っ玉の据わった度胸は
ごとーたちの憧れの的だったんだもん。いまでもへーけさんの蒼い特攻服姿、忘れないよぉ」
「今時の中坊はこんなしょうもない頭の中まで直管荒くれ娘に憧れ抱いてたんだ?」
「しょうもないって言うな! 直管荒くれ娘って言うな!」
小バカにしたように指を指す圭の手を払い除けるみちよ。
あの頃の面影など今は全くなく、心も身体も(?)丸くなっていた。
- 221 名前:牡丹 T 投稿日:2003/10/09(木) 02:08
-
「ごとー超ラッキーだよぉ。へーけさんとしゃべっちゃった。あはっ」
「なんか芸能人と街中でばったり会った人みたいだな。
昔は特隊ヤローでも普段は突っ込まれ娘のみっちゃんのこと、そんなに気に入ったの?」
「だから人を小馬鹿にすんな! それに指差すな、指を!」
指を払おうとして、思わず自分の飲みかけのグラスを思いっきりふっ飛ばして粉々にするみちよ。
余計な仕事が増えた圭のこめかみに青筋が立ち、みちよの頬を引っ張る。
「こんな奴がいいのか? こんなドジが?」
「うんっ! ねえ、へーけさん。これからもごとーと会ってくれるぅ?」
「ふぇえけほぉ、ふひふぉふぁふぃふぃふぁふぁいふぇ?」(ええけど、ウチそない暇やないで?)
「なんでなんでぇ? ごとーと遊んでよぉ。大学生ならいっぱい遊べるじゃん。遊ぼうよぉ〜」
「イタタ……ウチ、カテキョのバイトしとるから夜は忙しいねん。それにあんまここには来いへんし」
「カテキョしてんのぉ? だったらごとーもやって欲しいなぁ〜」
「そない急に言われてもなぁ」
徐々に擦り寄ってくる真希に身を引くみちよ。
高校生離れしたその顔つきにみちよはやや圧され気味になるが、やはり気になる真希の身体。
鼻の下が伸び始めるのも時間の問題か?
「やったげたら? 本人直々に申し出てる事だし。それにみっちゃん、国語得意だったじゃん?」
「まあな……」
「この娘は国語力がなくてさ」
「でも後藤さんにも色々事情が……」
「へーけさんっ! ごとーのカテキョしてくださいっ! お願いしますっ!」
真希は突然立ちあがって頭を深々と下げた。
その行為にみちよは唖然とする。少々場違いな気もした。
- 222 名前:牡丹 T 投稿日:2003/10/09(木) 02:09
-
「……で、どうすんの?」
「どうするって言われても、ここでは即答できひんやろ」
「……実は自信がないだけだったりして」
「(ムカッ!)そんなコトあらへん!」
「だったらやってあげたら?」
「……まあ、ヘタに大人しい子より、この娘ぐらい明るくて元気な子のほうが教え甲斐ありそうやし……
ええで、やったるわ」
「ホント!? やったぁーっ! へーけさぁ〜ん、よろしくねぇ〜」
真希が勢い良くみちよに抱き付く。いや、抱きつくというよりも組み拉がれるといった方が正しいだろう。
みちよの顔が徐々に苦しそうな表情に変わっていく。
「ちょ、コ、コラ…ひっつくな……くるし……グヘッ」
「遠慮しなくていいよぉ」
「遠慮…なんか……して……アガッ……」
「お〜お〜、お熱いねぇ」
「へへ〜っ」
「ぐ、る……ぢ、ぃ……」
こうしてみちよは真希のカテキョに就任が決まった。
しかしこの日からみちよは真希のカテキョというよりお守役になることをまだ知らなかった。
- 223 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/09(木) 02:13
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- 224 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/09(木) 02:14
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- 225 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/09(木) 02:16
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- 226 名前:本庄 投稿日:2003/10/11(土) 13:59
- みっちゃんて実は凄い人だったのね!…へたれだけど(ボソ)
つーか200キロ近くで大爆走のみっちゃん…
よく生きてたね…。
イメージ的に制限速度守ってんのにオタオタしてそうな感じなもんで…(失礼)
これからごっつぁんとどう絡むのか楽しみっす。
続きお待ちしとりやす。
- 227 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 02:45
-
週明けの月曜日、みちよは大学で講義を終えて、帰宅の途へつこうとしていた。
曲りくねる地下鉄の揺れや歩く振動にさえ、身体の節々に痛みが走る。
まだあの時の後遺症が残っていた。
金曜の晩は店にいる間中、ずっと真希に獲り付かれていた。
しかも興奮気味だった真希は、みちよが頼んだアルコールを勢いで煽ってしまい、
余計にみちよに絡んでいた。
「イタタタ……ったくあの娘は、加減ってもんを知らんのかいな」
肩の辺りを手で解しながら、アパートの前の公園を横切っていた。
その時、
「へーけさぁ〜ん」
どっかで聞いた事のある声がして振り返ると、駆け足でみちよに突進してくる制服姿の真希。
瞬時にあの日の晩のことが甦り、みちよは思わず反対側を向いて走り出そうとした。
が、咄嗟の判断に脚が縺れ、そのまま地面とフレンチキッスしてしまう。
「イタタタ……」
「へーけさんってドジなんだねぇ」
- 228 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 02:46
-
何時の間にか、真希がみちよの前にしゃがみ込んでいた。
短めのスカートからのぞく真希の脚全体がみちよの目に飛び込んでくる。
「うわっ! ななんで自分、こんなトコにおんの?」
「だってこの間約束したじゃん」
「約束? なんの?」
「もお忘れたの〜? ごとーのカテキョしてくれるって言ったじゃ〜ん」
「……確かに言うたけど、なんで今日なん?」
「だって何曜日の何時って決めてなかったじゃん。だから何時でもいいのかな〜と思ってぇ」
にこっと笑う真希に悪気は全く感じられなかった。
みちよは起き上がって、服に付いた埃を払い、改めて真希に問い掛ける。
「それはウチが悪かった。けど、なんでウチの家でやんの?」
「え〜。だって、ごとーんち兄弟多いし」
「別にかまわんで? むしろウチはそっちのほうが……」
「ダ〜メッ! ごとー、静かなトコで勉強したいんだもん」
「ウチもそれなりに五月蝿いで?」
「またぁ〜。そんな冗談言って、ホントはエッチな本とか散らかってるんじゃないの〜?」
「あのな、うちは男やないねん。あるわけないやろ、そんなしょうもないモン」
「相変わらず冗談が通じないんだねぇ〜」
「うっさい。でもホンマに止めといた方が……」
「大丈夫。きっと大丈夫だって」
何を根拠に大丈夫と言ったのかみちよには判らなかったが、
とりあえずしばらくは自分のうちでやらせてみることにした。
- 229 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 02:47
-
二人並んで歩道を歩く。
みちよの左腕に真希の発達した双山が絡み、歩く度にその感触が伝わってくる。
不意にみちよが尋ねた。
「なあ、なんで腕組んでるん?」
「こういうの、嫌い?」
「いや、嫌いやないけど……」
「じゃあいいじゃん。気にしない、気にしない」
みちよはゴーイング・マイ・ウェイの真希を受け持った事にやや後悔する。
なんとも言えない気分のまま、みちよが住むアパートの部屋の前まで来ると、
急に思い出したかのようにみちよが振り返って真希に聞く。
「そういえば、なんでウチの住んでるトコ知っとんの?」
「けーちゃんに教えてもらった」
「……あんにゃろめ。勝手に教えんなって言うたのにぃ」
「あと携帯番号とメールアドレスも教えてくれた。けーちゃんって優しいねぇ」
「いつ聞いたんや、そんな事まで?」
「昨日」
すかさず携帯を取り出し、電話するみちよ。
部屋に上がってからかければいいのにぃ、と思う真希はしばし二階から街の景色を眺める。
少し時間が空いてみちよが勢いよく話し出した。
「圭ちゃん! なに人の住所とか勝手に教えてんねん!」
『はぁ? 教えたって別に減るもんじゃないでしょうが。
それにいずれは知るもんなんだから、早めに教えてあげただけだよ』
「別に教えるのは構わん。けど、一言ことわりぐらい入れてくれんと」
『教えた後、悪いと思ったからすぐみっちゃんに電話入れたはずだけど?』
「えっ……マジっすか?」
『あのねぇ、自分酔っ払ってたじゃんか』
「あ……そういえばあったような……」
『人にお怒りの電話入れる前に思い出しなさいよ。今忙しいんだから、切るよ?』
自分はどうやら考えるより先に行動するタイプのようだ、とこの日初めて判った。
- 230 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 02:49
-
みちよの部屋に着いてから小一時間ほど経過して、ようやく押し掛け教育が始まった。
どことなく真希は嬉しそうな様子で、まだ辺りをキョロキョロと見回している。
「なんか珍しいもんでもあったんか?」
「何にもないから却って珍しくってさ〜」
「シンプル・イズ・ベストの精神や」
「ふぅ〜ん」
「ほんなら始めよか。そんじゃ今の実力を知るために小テスト受けてもらうで?」
「え〜、いきなりテスト〜?」
「文句言わないでやる!」
「は〜い」
用意周到なみちよ。一晩で簡単な小テストを作っていた。
五枚の紙切れには、各教科の設問が三題、しかも入試でもよく問われる部分
(高校二年までの範囲)をピックアップして、それを編集したものだ。
「時間制限とかないから、ちゃんと全部答えを自分なりに出すんやで」
「はぁ〜い」
しばらくみちよの部屋に静寂が訪れる。ペンの走る音がしばし聞こえ、またしばらくの静寂。
この繰り返しに、みちよは読んでいた専門書(『平家物語から読み取る平氏衰退の真相』)
もそっちのけで寝入りそうになる。
自分の部屋というのが更にリラックスムードを誘うようだ。
簡易試験を始めてから一時間後、陽気な声がみちよの耳を劈いだ。
「できたよぉ〜」
「ん……あ、どれどれ……」
「あ〜、へーけさん寝てたでしょぉ?」
「アホ。目閉じてただけや」
また同じサウンドの繰り返し………。今度は真希が退屈からか、寝入りそうになる。
数分後、音だけの世界はようやく終止符を打った。
- 231 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 02:50
-
「……なんでこんなに教科ごとに格差が激しいんやろ?」
「ん〜、ごとーにもわかんない」
「数学、化学は……箸にも棒にも引っかからんなぁ」
答えしか書かれていない答案用紙を見て、みちよが言う。もちろん、答えは全て×。
「ア、アハハハ……」
「ちゃんと計算とかせえ。勘でやっても解けんで、高校の理数科目は」
「は〜い」
「んでもって、国語と世界史は平均よりちょい下くらいってトコやろか?」
「……ア、アハ…ハ……」
基礎がまだ覚束ないようだ。
国語のほうは内容把握に欠点が見受けられ、文章がきちんと読めてない事を露呈していた。
世界史も知識が散漫していた。
かなり有名な名前等は覚えてはいるものの、似通った名前や覚えずらい名前も多いため、
それが却って知識をややこしくしているのかもしれない。
「でも英語はずば抜けとんなぁ。高二でこんくらい英語が出来るっちゅうのはかなりええことや」
「えっ……」
真希は驚いて顔を上げた。
みちよは唸るように答案を見て更に言う。
「凄い。他人に自慢してもええくらいやわ」
「ホントに?」
「おう。みっちゃんのお墨付きやで。ドーンとしとき、ドーンと」
さも自分が一から教育でもしたかのように胸を張るみちよ。
照れ隠しからか、真希は下を向いた。
- 232 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 02:51
-
「英語はしばらくはいいとしてまずは国語と世界史からやな。できるとこから始めよか。
たぶんな、数学は正直、高一の基礎からやり直さなあかんと思うわ。
化学も基礎からちゃんとやって……そやな、理数系は赤点さえ取らなければええやろ。
でも、その分国語と世界史はみっちりやるで?」
「…………」
「ん? なんや急に下向いて黙り込んで。なんかウチ悪いこと言うたか?」
「……グズッ…」
真希の太腿に一滴の雫が落ちた。
「!! な、なんで泣くねん!?」
「だ…だって……初めて…なんだもん……ごとーの…こと、褒めて…くれたの……」
「と、とりあえず、な、泣かんでもええやろ?
「だっでぇ……うれ、嬉しかった……んだも…ん……」
「判った、判ったから。ホレ、ティッシュ」
「ヴん」
急に泣き出した真希を見たみちよは、慌てふためいてオタオタし出す。
喧嘩に明け暮れていた頃、人間が流す血にはことさら強かったみちよであるが、
同じ流れるものでも涙という透き通った液体にはめっぽう弱かった。
そんなみちよをよそに真希は差し出されたティッシュを鼻に添えて……。
ズビィ〜、チィーン!
豪快に鼻をかみ、それを広げて見る。
……ちょっと女の子らしからぬ仕草だった。
- 233 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 02:54
-
少し落ち着いた頃を見計らってみちよが泣いた訳を聞き出してみる。
子供をあやすように光沢のある髪を撫でてやった。
「そら、出来てるんやから褒めて当り前やろ? 何があかんねん」
「だって……学校だと先生にいっつも"カンニングしただろ"とかって
テストの度に言われて疑われてたから……」
「そっか……たかが紙切れ一枚で人生まで変えてしまうほど影響力があって、
学生のデキを測るのに手っ取り早いやり方やからな、テストっつーもんは。
それによって、出来る奴は頭が良い、優秀なんて言われて、逆に出来なかった奴は
バカで落ちこぼれと勝手に決められてまう」
「だからね、ごとーはテストが終わる度に辞めてやるって思うんだ」
「学校行くのがヤなんか?」
「学校行くのは好きだよ。友達と一緒にいるのが楽しいし、校内行事も面白いし、
普段の授業もそれほどつまんなくないし」
「だったら尚更、自主退学はお勧めできんな」
「やっぱりそうなのかな?」
「世の中、学校行きたくても行けん奴もおるんや。そいつ等にしてみたら、学校に行けるだけでも
十分羨ましいと思うで。まあ、そう言うても本人が学校行っても何も意味がないと思うんやったら
辞めてもかまへんと思うけど。でもアンタはそうやないんやろ?」
「うん……テストの時が嫌いなだけ」
「だったらちゃんと3年間通わんと。テストなんて年に5回、365日の内の20日程度やろ?
それに比べて普通の学校生活はその何倍もあって、楽しいコトの方が多いんやから、行かな損やで」
「う、うん……」
みちよに頭を撫でられながら、真希の表情が穏やかになっていく。
- 234 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 02:56
-
「それに、せっかく英語が出来るんやから、いっその事英語で大学の推薦でも狙ったりーな。
ビックリすんで、センセーどもは。たちまち態度変えやがるしな」
「ホント?」
「おうっ! それにセンセーの言う事なんかいちいち聞かんでええんよ。
どうせあいつ等だって学生時分は大抵同じような経験しとる奴が多いんやから。
心の中でベロ出して無視しといたらええねん」
「うん……」
ようやく表情に笑顔が戻る真希につられて、みちよも微笑む。
「一度きりの人生、カッコ良くいかんとな」
「……やっぱりへーけさんてカッコイイねぇ」
「なんや鳴いた烏がもう笑っとんのかい」
「ごとーはからすじゃないよぉ!」
みちよの表情が固まった。そして、ぼそっと呟く。
「……やっぱり国語、ちゃんとやろうな?」
「え?」
真希の国語力向上は茨の道になりそうな予感がしたみちよだった。
- 235 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 02:57
-
ほんの数分の休息を挿み、さあこれから第一歩!という時に、何の前触れも無く
玄関のドアが開き、猪のような何かが猛スピードで突進してきた。
「へーけしゃん、遊ぶのれすぅーっ!」
「うわっ、出やがったな!」
「だ、誰ぇ!?」
「あれ、お客さんれすか?」
「そうや、ちゃんと挨拶しぃ」
やって来たのはなんとも可愛らしい娘だった。
乱れた衣服と髪形を整え、八重歯を覗かせた少女は、微笑んで自己紹介を始める。
「はじめまして、ついののみれすっ。好物はカ○ビーのポテトチップスのBIGPACKと
りんねしゃんが作ってくれる鶏肉のガーリックソテーれす。一度食べたら止められないし、
忘れられない味らったのれす。それと好きな唄は、『大きな古時計』れす。
れも最後におじいしゃんが死んれしまうのが哀しくて……」
何やら凄い勢いで語り始める希美に、真希はしばし呆然とする。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする真希に希美は首を傾げ、心配そうに窺う。
「あのぉ〜、大丈夫れすか?」
「んあ? う、うん……で、へーけさんとどういうご関係、で?」
明らかに自分よりも年下なのだが、何故か丁寧に問い掛けて正座までしまう真希。
その刹那、急に腰に手を当てて仰け反る希美。
- 236 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 02:59
-
「へいっ! のんはここれへーけしゃんの親代わりをしてるのれす」
「コラ! 誰が親代わりやねん、そんなん頼んだ覚えないわ!」
「恋人代わりにしなかったらけれもありがたいと思え、なのれす!」
「恋人」という単語に反応を示した真希が思わず一人呟いた。
「へーけさん、恋人……いないんだぁ。ごとー、立候補しよっかなぁ……」
しかしすぐさま希美がシャットアウトする。
「それは固くお断りするのれす。へーけしゃんはのんの下僕れすから」
「勝手に下僕にすんな!」
「そ、そうだよ。へーけさんが可哀相だよ。下僕になるくらいなら……」
急に小声になる真希、そして
「ごとーが貰っちゃうもん……」
先ほどから真希の小言に何かを感じ取った希美。
口元をニヤつかせて、真希を煽り始めた。
とても中学生とは思えないほど、悪態をつく。
「ごとーしゃん、へーけさんが好きならスキとはっきり言わねーとのんのものれすよ?」
「!!!」
「コラ、のんちゃん! 勝手に人をモノ扱いすんな!」
「今なら言うチャンスれすよ? さもないとのんがへーけさんにアレコレちゃいますよ?」
「(ムッ!)」
「人の話し聞け!」
「ごとーしゃんのへーけしゃんへの愛情はそんなちょっぽけなモンれすか?
フッ、うわべらけの愛って哀しいれすねぇ」
「(ムカッ!)」
真希の表情が変わる。
そして二人の間で見えない火花が散り始める。
- 237 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 03:00
-
希美から先制攻撃は、どっから覚えてきたのか、首筋が痒くなるようなクサイ台詞だった。
「へーけしゃん、宇宙一大好きら! さあ、のんの胸に飛び込んれ来るのれす、さあさあ!」
「誰が行くか!」
負けじと真希も対抗。こちらは己の身体を使ってみちよに迫る。
「じゃあ、ごとーなら来てくれるぅ?」
「せやからそういう問題やないやろ! 離れぇ」
密着する真希にたじたじなみちよを見た希美、やや怯む。
「ひ、卑怯れすよ、ごとーしゃん! その色気れ誘惑するのは!」
「だってこれは前々から持って生まれたものだもん。しょーがないじゃん」
「らったら少しぐらいのんにハンデくれてもいいいれしょ!」
「恋愛にハンデもクソもカンケーないよぉ。早いもの勝ち、あはっ」
不利になった希美。最終手段に出た。
「らったら強引にでも、のんが戴くのれすっ!」
「ダメダメッ! へーけさんはごとーの!」
「ぎ、ぎえぇ〜〜〜〜〜〜っ!!」
何気に大胆な告白をする真希の声も、みちよの悲しい(?)雄叫びによって掻き消された。
夕闇の街にみちよの濁声が響いた。
- 238 名前:牡丹 U 投稿日:2003/10/13(月) 03:01
-
隣の部屋で連載小説の原稿を執筆していた鈴音は、雄叫びが聞こえた方を向いて一言、
溜息混じりに漏らす。
「相変わらず平和ですねぇ、平家さんは」
ちなみに彼女の書く小説のネタやキャラはほとんどがみちよに関するデーターからである。
その事を知る者は……誰もいない。
一方、内容の濃い授業が終わり、ベンチで一息つこうとする受験生の圭。
自販機の前でコインを入れる手が一瞬止まり、夕闇の空を仰いだ。
「ん? なんだか今、みっちゃんのダミ声が聞こえたような……
ってなんでアタシがあの馬鹿のこと気にしなきゃならないんだよ!?」
今宵も眠らない都会には静かな夜が訪れそうだ……。
- 239 名前:お返事 投稿日:2003/10/13(月) 03:08
-
>本庄さん
なつみ「みっちゃんって意外な過去持ってたんだねぇ」
圭 「それがみっちゃんの良い所なんだよ」
なつみ「でもよく死ななかったよね?」
圭 「みっちゃんだからね」
なつみ「でもヘタレなイメージは消えてないよ?」
圭 「だから、それがみ……」
なつみ「結局なんでもいいんじゃないの? みっちゃんなら」
圭 「That's right!」
- 240 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/13(月) 03:10
-
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- 241 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/13(月) 03:11
-
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- 242 名前:本庄 投稿日:2003/10/13(月) 11:50
- みっちゃんモッテモテやん♪
これは私も負けてらんないわ・・・今度夜中にでも忍び込んで・・・(それは犯罪です)
まわりから見たら春爛漫だけどさてみっちゃんのお気持ちは??
さて、続きが楽しみだ☆
- 243 名前:お返事 投稿日:2003/10/14(火) 00:41
-
>本庄さん
なつみ「ああっ!本庄さんじゃないですか、なんでなっちの部屋に!?」
本庄さん「(お好きな台詞でも……)」
なつみ「もおっ、なっちがお仕置するよっ!」
本庄さん「(ご想像にお任せします……)」
圭 「……二人で何やってんのよ?(怒)」
本庄さん「(妄想してください……)」
なつみ「いや、こ、これは、そのぉ……(焦)」
- 244 名前:本庄 投稿日:2003/10/18(土) 12:46
- 妄想してみますた♪
なつみ「ああっ!本庄さんじゃないですか、なんでなっちの部屋に!?」
本庄さん「あぁ、なっち・・・会いたかったよ・・・。」
なつみ「もおっ、なっちがお仕置するよっ!」
本庄さん「なっちにお仕置きされるなら本望さ☆」
圭 「……二人で何やってんのよ?(怒)」
本庄さん「んがっ!!い、いや・・・ロミオとジュリエットごっこを・・・(汗)」
なつみ「いや、こ、これは、そのぉ……(焦)」
・・・ダメだ面白いことが思い浮かばない・・・(泣)
- 245 名前:お返事 投稿日:2003/10/31(金) 00:00
-
>本庄さん
圭 「ロミオとジュリエットごっこはさぞかし楽しかったんだろうねぇ(皮肉)」
なつみ「え、あ、いや、あの……(焦)」
圭 「フンッ」
なつみ「あ、そ、そうだ、圭ちゃんも一緒に遊ぼうよ」
圭 「何して遊ぶのさ?」
なつみ「眠れる森の美女ごっこがいいなぁ。王子様のキスで目覚めて見たいなぁ(ジィー)」
圭 「……いしよしみたい(ボソッ)」
- 246 名前:牡丹 V 投稿日:2003/11/03(月) 02:26
-
六月、毎日のように降り頻る冷たい雨を恨めしそうに見つめるカップルをよそに、
ここのところ暇を持て余していたみちよは、圭がバイトする喫茶店に来ていた。
いつの間にか「みっちゃんランチ」なる特注のランチまで考案するほど、超常連さんにもなっているみちよ。
カウンターに座って大人しく目の前の話し相手である圭を見て、やや心配そうに言う。
「……なんや、お疲れモード全開やね?」
「ちょっと、ね……」
「バイトがきついんか?」
「そういう事じゃないよ。違う事で、さ」
「ってことは成績不振?」
「いや、そっちはいたって問題なし」
心は病んでいてもやる事はきっちりとこなす辺りが圭らしい、と思うみちよ。
去年も、とある時期に寝込むくらいの風邪を引いていたにもかかわらず、
模試であっさりと高得点を叩き出し、みちよをひれ伏させたくらいである。
「じゃあ何なん?」
「……最近さ、妙に人懐っこく絡んでくる娘らがいてさ」
「は?」
「週末、予備校行く度に現れんのよ、その娘」
「どんな娘やねん。冷徹な人相の悪い圭ちゃんに絡むなんて無謀な奴は」
「冷徹ってなんだよ、冷徹って。それに人相が悪いって犯罪者扱いはやめてくんない?」
「ハッハッハ。愛嬌や、愛嬌。で、どんな奴やねんな?」
話す気になったのはいいが、更に圭の肩が落ちる。
よほど参っているのが手に取るように判るほどその姿は弱々しい。
- 247 名前:牡丹 V 投稿日:2003/11/03(月) 02:27
-
「なんかさ、中学生ぐらいの背恰好で、小学生と張れるくらい童顔で、ちょっと所々訛ってる娘。
んで、たまにモデル並みの背恰好で、ごとぉみたいにボ〜とした娘が一緒にいる時もあってさ、
そいつ等に振り回されっぱなしなわけよ」
圭の話を聞いていくうちにみちよの頭の中で似顔絵が出来あがっていく。
そして出来あがったそれはよく見知ったあの二人だった。
「……スマン、思いっきりそれに当てはまる娘ら、知ってるわ」
「もしかして知り合い? だったら、みっちゃんからもきつく言っといてよ。正直うんざりしてんのよ」
「そないにいつも腰巾着みたいに張りついとんの?」
「会う度に色々と聞いてくるし、たまに教室の前で待ってる時もあるよ。
ったくアタシに関わってもいいコトなんかないって忠告してんだけどねぇ」
「……まあな、興味が湧かんこともないけども」
「アタシは芸能人じゃないっつうの」
「せやな。言うたかて同じ受験生やしな」
「はぁ〜っ、世間の荒波や都会の怖さを知らない田舎娘さんたちが怖いよ、アタシには」
「侮れんな。沈着冷静な圭ちゃんをここまで荒立てるなんてな」
「ただでさえ鬱陶しい梅雨時なのに、更に見知らぬ小娘どもに引っ付かれたら……」
「ウチは逆に嬉しいけどな」
みちよのニヤけた顔が妙に圭の癪に障った。
傍においてあったポテチを一枚、みちよが食べているクリームパスタの中へ放り込む。
「ああーっ! なにすんねん!」
「愚痴聞いてもらったご褒美だよ」
「嘘やろ!?」
見る見るうちにポテチがフニャフニャになっていった。
- 248 名前:牡丹 V 投稿日:2003/11/03(月) 02:28
-
数日後、いつものようにりんねの部屋は、賑やかだった。
用もないのにみちよに付いて来た真希は、なつみたちと初対面であるにも関わらず、
その持って産まれたオーラで、ものの数分で皆とお友達になっていた。
真希の醸し出すおおらかさと、なつみが放つ天使の笑顔、それに鈴音の寛大な心――
これに勝るものはないと言うべき「安らぎ最強タッグ」が今、ここに完成した。
そんな温かな空間の一角では、これまた呼ばれてもいないのに希美がいて、圭織と真希を巻き込んで
ババの無い「ババ抜き」に興じている。
その光景は保母さんと遊ぶ幼稚園児たちとでもいったところか。
それをよそに、なつみとりんねは栗原はるみのクッキングブックを眺めては、うっとりしていた。
二人とも料理は上手いが、本人たちはまだまだと思っている。
将来はさぞかしいい奥さんになることだろう。
そして、勝負事や食事に興味の湧かないみちよは一人、素っ気無くお茶を啜っていた。
不意に昼間の圭の言葉を思い出して、食い入るように雑誌に目を通すなつみに聴いてみた。
「なあ、なっち」
「なぁにぃ〜?」
「自分さ、最近予備校で気になる人とかおらんの?」
「えっ、それってカッコイイ人とかってことかい?」
「まあ、そんなとこや。予備校生言うたかて、所詮18、9の若き乙女やん?
恋の一つでもしたい年頃やんか?」
「ヤダァ〜、みっちゃんてばぁ」
なつみが顔を紅潮させてみちよのデコを叩く。ベチッ!っとかなり心地良い音が響いた。
いきなりの突っ込みにみちよはデコを擦りながら唖然としてしまった。
- 249 名前:牡丹 V 投稿日:2003/11/03(月) 02:29
-
「イタタっ……その突っ込み方、DTの浜ちゃんみたいやで?」
「だってさぁ、みっちゃんが変な事聞くからぁ」
「ええやん、予備校ライフ教えてぇ〜なぁ〜」
「平家さん、大学つまらないんですか?」
「そんなことないで。うちの大学は色んなことに興味持った連中がわんさかおるから全然飽きてへんよ」
「ふぅ〜ん、W稲田ってそうなんだ?」
「いいなぁ〜、早く大学生になりたいなぁ」
ババのないババ抜きをしていた圭織が話しに加わる。
どうやら今度はジジ抜き(?)なる遊びを真希と希美がタイマンで勝負している。
圭織は一番であがったらしい。
「で、どーなん? そこんとこ」
「カオリは今んとこいないなぁ。でも、なっちは、ね?」
「なにさ〜。いいじゃん、別に」
「え〜、どんな人?」
珍しく鈴音が乗り出してきた。
あまり人の色恋沙汰に首を突っ込む事がない彼女の行動に一同驚いた。
「なんやりんね、興味あるんかい?」
「そりゃ、ありますよぉ。なっちたちと同じ恋もしたい年頃ですから」
「そらそうやな。で、どんな奴?」
「んとね、見た目にはものすごくクールでちょっと怖い目つきしてるかな」
「それでかなり無口で、たまに喋っても単語だけとか、かなりきつい事言われたりするんだ」
それでもなつみの顔は終始綻びっぱなしで、時折顔がパッと紅くなったり、
その拍子に隣りに座るりんねの肩を関節が外れるくらいの勢いで、バシバシ叩いたりしている。
「カオリは最初見た時、ゴ○ゴ13かと思ったよぉ。眉毛はそんなに立派じゃなかったけど」
「なんかすごいね、それ。実写版だったらかなり怖いよ。闇よりの使者って感じ?」
「そういう見方もできるよ。黒が似合うもん」
「ああ……そう、なんや」
みちよの頭の中に、圭が蔑ましたような表情をしている姿が浮かぶ。
- 250 名前:牡丹 V 投稿日:2003/11/03(月) 02:30
-
「で、頭良くて『T大英語』受講してんの。もうね、なっちの周りには今までいなかったタイプの人だよ。
凄く男っぽくて、カッコイイんだぁ」
「なっち、そういうクールで賢そうな人、昔っからスキだもんね?」
「そうなの!? カオリ知らなかったよ、なっちの本当に好きな人のタイプ」
「へへっ、内緒にしてたべさ」
「じゃあ今までの人はなんだったんだよぉ」
「だから前に言ったっしょ。今回は本気なんだって」
「なんだよ〜。だったらもっと早くに教えてくれたっていいじゃん」
自称、なつみ大好き人間が悔しそうにする。
圭織の『なっち通信A to Z(受信者随時募集中)』は、新しく書き直しが必要になった。
「カオリに言うとすぐみんなに広まっちゃうから。現に高二の時も、ねぇ」
「あったねぇ。あん時はさすがに石黒さんが可哀相だったもん」
「なんだよ〜、二人してカオリのことバカにしてぇ。あれはカオリ的にはOKなのっ!」
((いや、カオリがよくても、石黒さんにしたら大迷惑極まりなかったような……))
当時の彼女の立場を思うと、悲壮感がいまだにこみ上げてくる二人。
そんな二人をよそにみちよは別の事を考えてブルーになっていた。
(間違いない。圭ちゃんの言うてた娘ってなっちたちの事や。
はぁ〜、ウチは慣れ親しんだ友とこの娘ら、どっちを援護したらええんやろか?)
「平家さん、どうかしました?」
「なあ、その人に"アタシに関わんな"とか"馴れ馴れしくすんな"とか言われんかった?」
「うん、言われたよ」
「カオリも言われたよぉ。なんか物凄い威圧感でさ、ビビッちゃったよ」
いつの間にか希美が圭織の股の間にちょこんと座って、圭織の長い黒髪をいじっていた。
希美の顔の上に圭織の顔があるせいで、トーテムポールのように見える。
- 251 名前:牡丹 V 投稿日:2003/11/03(月) 02:31
-
「やっぱり、な」
「???」
「その人、保田言う人やろ?」
「そうそう。なんで知ってんの!?」
「……ウチの知り合いやもん」
「ごとーも知ってるよぉ〜」
真希がみちよにじゃれ付きながら言う。それを鬱陶しそうに払い除けるみちよ。
それでも尚も絡みつく真希。軟体動物顔負けの密着ぶりに隣りにいた鈴音が苦笑する。
「そうなの〜? へぇ〜、偶然って恐ろしいねぇ」
「でも、みっちゃんが知り合いなら保田さんともっと仲良くなれそうな気がする」
「ね」
なつみと圭織の目が怪しく光る。ハンターが獲物を狙うかのように。
それをみちよが窘めた。昔からの戦友を取ったらしい。
「止めとき。圭ちゃん、随分と迷惑してたで? 自分らの事で」
「「え〜、なんでぇ?」」
「うんざりやって」
「ひっどぉ〜い。こうなったら絶対仲良くなってやるもん!」
「そうれすよ! 頑張ることは良い事なのれす。のんも応援しますよ」
「そうだべ。みっちゃんと知り合いなら、なっちたちのこと無碍にはできないっしょ!」
「ウチと知り合いやからは仲良くなるとは……」
「「みっちゃんは黙ってて!」」
「ひっ……」
熱意に燃える二人の眼光にあっさり負けるみちよ。相変わらず頼りない大学生だ。
「……いいのかなぁ?」
「なんか面白そうだねぇ〜」
心配する鈴音と、興味津々の真希はとりあえず傍観の立場を取ることに。
(……スマン、圭ちゃん。火に油注いでもうた)
「道産子パワー見せてやるっ!」
「そうれすっ! ののはいいらさんのみかたなのれす! ガンバルれす」
「Girls, be ambitious.だべ!」
「頑張っていきまっ」
「「「しょいっ!!」」」
なつみを筆頭に"第1回かおなち同盟軍主催 テケテケ、保田さんと仲良くなって、
あんな事やこんな事まで、とにかくヤッちゃいまっしょい"が開幕した。
だが、みちよ以下、傍観者二人は思った。
(のんちゃんは関係ないじゃん)
- 252 名前:牡丹 V 投稿日:2003/11/03(月) 02:31
-
数日後、せっかくの日曜日でも連日続く雨模様の天気に、人通りはあまり賑わいを感じさせない。
そんな景色をよそに、昼食時が過ぎた店のカウンターに座るみちよは、やや窶れ気味の圭に平謝りしていた。
隣りでは我関せず、の真希が黙々とナポリタンにパクついている。
まるで5歳児の様に口の周りにソースが飛び散っている。
「スマン、圭ちゃん!」
「ったく余計に事を荒立ててどーすんのよ。それになによ、その"かおなち同盟軍"ってのは」
「なっちさんがリーダーになって、けーちゃんと仲良くする組織みたいだよ〜。ごとーは違うけど」
「ウチも当然入ってへんからな。誤解せんといて」
「ったく、くだらねー事考えるくらいなら、英単語の一つでも覚えろっつーの」
「ホンマ、力になれんくてゴメンなぁ」
「へーけさんてそういうのヘタなんだねぇ」
みちよはそう言われて腹が立ったのか、睨むように真希を見た。
が、口の周りを紅くした真希を見たら怒る気が失せた。
むしろその姿を可愛いと思ってしまう自分が嫌になった。
「アンタだって人の事言えないよ」
「え? なんで? ごとーなんかしたっけ?」
「石川だよ。石川」
「梨華ちゃん? なんで?」
「アンタが連れてきてから暇さえあればアタシの前に現れてんの。
しつこいったらありゃしないよ、どいつもこいつもさ」
「……フランスも?」
ボソッと小声で定番のギャグをかますみちよ。
しかし、これが更に圭の神経を逆撫でする羽目になる。
- 253 名前:牡丹 V 投稿日:2003/11/03(月) 02:33
-
「け、圭ちゃん……その卵はなに?」
「さあ、なんだろね?」
「ハハ……アハハハハ……」
「つまんねーギャクかましてるくらいなら、田舎娘たちどーにかしろっ!」
パキッ!
「アダッ! っつぅ……い、痛いっ……」
「痛くないっ!」
傍にあった卵をみちよの頭で割る圭。
更にそれが割れ、中身がそのまま煎れ立てのコーヒーの中へ落ちた。
中身は生だった。
「ああーっ! またやりやがった!」
漆黒の中に浮かぶ黄色い太陽。それを囲む白い雲。
隣りにいたバイトの娘は身体を震わせながら笑いを堪えていた。
「あはっ、卵酒ならぬ、コーヒー卵だね〜」
「これでも飲んで違いの判る女になんなよ」
「判るかぁっ!」
- 254 名前:牡丹 V 投稿日:2003/11/03(月) 02:34
-
250円損したみちよ。二度目のコーヒーは食後に頼む羽目に。
「でもさぁ、けーちゃんモテモテだねぇ〜」
「嬉しくも何ともないってば」
「なっちさんも梨華ちゃんも可愛いし、女の子してるし」
可愛いという言葉に敏感なみちよ。
「あ、なんならウチが代わりに……」
その時、圭が容器に詰め替えていた角砂糖が、みちよの頼んだクリームパスタ目掛けて飛んでいった。
見事にクリームが溜まる場所へ落ち、白い塊は熱気で解けていく。
「ああーっ! ウチがせっかく楽しみにしてたクリームパスタがぁ……」
「ごとーもちょっとムカついた」
そう言って嘆くみちよを尻目に、最後の楽しみに取っておいたであろうコーンスープの中に
緑色のお飾り―パセリを投入した。
「ちょっ、何やねんこれらは! これじゃあ何も食べられへんやんかあ」
「さあ? アタシは知らないね」
「ごとーも知ぃ〜らないっと。あ〜、けーちゃんが作ってくれたナポリタンは美味しいなぁ〜」
「ひ、ひどい〜」
隣りにいたバイトの娘は堪え切れずに、奥の厨房まで逃げて行く。
傍にいた店長もまるで存在感を無くすように、場を離れていった。
結局この日は平日以上に繁盛し、さぞかし笑顔が絶えなかった店長以下、従業員数名+真希。
その横で項垂れる大学生が一人……。
3500円――みちよはこれ以上にないほど、店の売り上げに貢献してしまった。
- 255 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/03(月) 02:34
-
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- 256 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/03(月) 02:35
-
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- 257 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/03(月) 02:35
-
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- 258 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/03(月) 23:31
- みっちゃんいい子な(ry
口は災いの元・・・。
- 259 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/04(火) 00:05
- 圭織の『なっち通信AtoZ』激しく受講希望しMAX!!
- 260 名前:本庄 投稿日:2003/11/07(金) 18:47
- みっちゃん…そんなあなたが大好きです!
(なっちと圭ちゃんの次に…)
- 261 名前:牡丹 W 投稿日:2003/11/14(金) 01:53
-
週明けの月曜日というのは他の日に比べて活気が少ないようにみえる。
他の日よりも大人しめな街が広がるが、丸々一日、休みがない圭にとっては
週の始まりだろうと、活気が薄かろう関係ない。
いつもの生活リズムと一定の活気を保ったまま通い慣れた校舎へ向かう。
途中、ライブラリーで今まで使っていた参考書と同一のものを購入しようとした。
ちょっとした空き時間に見る程度で購入した参考書はかなり年季が入っていた。
自分が講義を受けている講師の著作物で、初版の為に所々ミスプリも見受けられる。
やや黄ばんだページは何度も剥がれてはテープで処置し、表紙も角が擦り切れ、汚れが目立っている。
昨今、辞書や参考書がボロボロになることは、難関大学に受かる為の一つのバロメーターになっている。
それと同時に、そのボロが、その汚れが後々の“自信”へと繋がる。
圭は真新しい参考書手にした時、前の参考書と一緒に培ってきた
自信も共に捨ててしまうような気がして、一瞬買うのを躊躇った。
更に、同じ講師が書いた新刊が目に飛び込んできて、そちらの方にも興味が湧いてきた。
しばらく己の中で葛藤が続いたが、結局、何も購入せず店を後にした。
- 262 名前:牡丹 W 投稿日:2003/11/14(金) 01:55
-
講義のある教室へ向かう途中、出入の激しい自習室前で、
今最も会いたくはない人物に遭遇してしまった圭。
そしてそんな圭の気持ちを知らずに、まるで圭がそこを通るのを知っていたかのように、
笑顔を振りまく“トッポと小枝”(圭命名)が二人。
「あっ、保田さん!!」
「……またか」
「フッフッフ。聞きましたよ。みっちゃんと親友だそうですね? ね?」
「だから何?」
「なっちたちもみっちゃんと友達なんですよ」
「(コクコク)」
「あっそ」
二人の前を素通りしていく圭を、なつみが必死になって食い止めた。
「だから結論としてですねぇ、なっちたちと……」
「断る」
「どーしてですかぁ? 仲良くしましょうよ〜」
「カオリたち北海道から出てきて、知ってる人少ないんです。
どうか恵まれないか弱き乙女に愛の手を下さい」
両手を組み、斜め上を見上げて圭織は乙女になりきっていた。
そんな圭織に寄り添うようになつみが目を潤ませる。
「……」
「???」
迫真の演技に呆れた圭は、一際大きな溜息をついてから冷めた目で言った。
「……バァ〜カ」
- 263 名前:牡丹 W 投稿日:2003/11/14(金) 01:56
-
「うわっ!! おもいっきしバカにされたよ」
「ひ、ひどいべさ」
「友達作りたいんなら、一日中渋谷とかブラブラしてなよ。向こうから寄って来るから」
「でもみっちゃんと……」
「いくらみっちゃんと知り合いだからって言っても、アタシはアンタらとは赤の他人なの。
それ以上でもそれ以下でもない」
「それはそうですけど……」
「それに前にも言ったけど、ここに何しに来てんのか、よく考えな」
「ああ、ちょっと待って……」
「それよりアンタ、この間の賭け、忘れてないだろうね?」
「も、もちろんですよ」
「……随分強気だこと」
そそくさとその場を後にする圭と、呆然と見送る二人。
密かに立てていた作戦は好を奏せず、かおなち同盟軍早くも惨敗。
「……行っちゃった」
「やっぱりのんちゃんがいないとダメなのかなぁ」
「のんちゃんは関係ないと思うけど」
「ん〜。じゃあ、なんかイヤな事でもあったのかなぁ? お昼の定食が酸っぱかったとか、
予習でわかんない問題が多かったとか、前髪がキチンと決まんなかったとか」
「何言ってんのさ? そういう事じゃないっしょ」
「やっぱり? ところで賭けってなに?」
「気にしなくていいよ、後々になったら判るし」
「そお? じゃあ楽しみにしてるよ」
「それにしても、はぁ……やっぱりカッコイイよ。あんなこと普通男の子でもそう簡単には言えないって」
「でも、なんであんなに攻撃的なのかなぁ?」
「ますます惹かれたよ。いいな〜、カッコイイな〜」
「嫌な事があったのかな、昔に?」
「お友達になりたいな〜」
「ねえ、カオリの話聞いてる?」
凸凹コンビは今日も口調だった。
- 264 名前:牡丹 W 投稿日:2003/11/14(金) 01:57
-
翌日、朝からどうもハッキリしない天気。
ようやく発表された関東地方の梅雨入り宣言だったが、連日のように降り頻る雨と湿気のせいで、
街行く人々は何を今更といったような表情で日々を送っていた。
そして今にも泣き出しそうな空模様は純真な人の心までも不快にさせる。
なつみもそんな中の一人だった。
二限の数学の講義は、なつみの不快指数をUPさせ続けた。
今日は主に二次関数がメインで、入試では最重要項目、避けて通れない範囲である。
解けない苛立ちと、解けても解答が合わない焦りが募る。
(もー、なんでだよぉ! なんでそうなんの? 二次関数のバカァーッ! カオリのアホッ!)
そうした二つの感情+αが入り乱れ、やがてそれらは化学反応を起こし、「絶望」を作り出す。
講義も終盤になる頃、なつみは一人白く燃え尽きていた。
(ハハハ……カオリ、ゴメン……なっちはもう…ダメだべ……さ)
隣りの教室で同じ数学の講義を受けていた圭織が、講義終了後に迎えに来ても、
なつみの魂はまだどこかを彷徨っていた。
「まだまだ一学期じゃん。これからやれば大丈夫だって」
「ハハハ……」
「わかんなかったらカオリが教えてあげっから、とりあえずお昼食べよ、ね」
「……奢り?」
「オウッ、任せろっ!」
「ホントに!?」
「サラダなら」
「(ガクッ)」
午前の講義を終え、午後から『圭織先生の数T 〜二次関数の魅力〜』なる特別講義に備え、
腹ごしらえにでも行こうかとした時、真後ろから聞き覚えのない声がなつみたちに掛かった。
名を呼ばれ振り向くなつみたちに映るのは、見知らぬ制服姿の女子高生。
(誰だろ? なんでなっちの事知ってんだろ?)
- 265 名前:牡丹 W 投稿日:2003/11/14(金) 01:58
-
まだ東京へ出てきて二ヶ月、自宅のある街と予備校しか出歩かないなつみに、
女子高生と知り合うきっかけなどない。
声を掛けられるのが男子高校生ならともかく、相手は生粋の女子高生である。
もちろんなつみ自身、そっちの趣味など毛頭ない。(本人曰く、圭は別らしい)
なのに……目の前に佇む女子高生は自分の名を知っていた。
なつみが考える間もなく、その女子高生は刺のある言い方で話し掛けてきた。
「貴方が安倍なつみさん?」
「はい? そうですけど」
「保田さんを知ってますね?」
「は、はあ……」
なつみは目の前の少女――梨華を訝しげな目で見つめた。
顔立ちは綺麗に整ったお嬢様風だが、着ている制服は今時の流行にのせられた感がある。
それと対照的に彼女の趣味なのか、ピンク色の傘が妙に目立つ。
そして、なによりも彼女の声質に一瞬驚いてしまった。
そんなアンバランスな彼女がなつみをギッと睨みつけて、言い放った。
「単刀直入に言います。もう保田さんに関わらないで下さいっ!」
「えっ……」
「保田さんに近寄らないでって言ってるのっ!」
なつみは突如現れた、見知らぬ女子高生に、白昼堂々怒られた。
周囲にいた受講生たちが何ごとかと騒ぎ立てる。
あいにく昼休みのために人が多く、しかも予備校内という限られた環境には場違いな出来事に、
興味を抱いた受講生たちのざわめきが、あれよあれよという間に拡がっていく。
「ちょっとぉ。アンタ、いきなり現れてなにさ、その言い方」
「貴方には関係ないですから、黙っててください! 私はこの人に話してるんです」
「けど、貴方に言われる筋合いは……」
「貴方といるから保田さんがああなってしまったんでしょ!? どうしてくれるんですか!?」
「ちょっとどういうことですか? 言ってる意味が判らないよ」
「とぼけないで! 貴方が保田さんといるから、あんなに冷たい人間になったんじゃない。
ホントはもっと明るくて優しい人だったのに!」
- 266 名前:牡丹 W 投稿日:2003/11/14(金) 01:59
-
梨華は言いながら、何かを思い出したのか、声が震えていた。
言い合いから制服姿の学生を泣かせる二人の予備校生という構図に、
周囲では様々な憶測でものを言う輩が増え、なつみたちは一気に悪者扱いになってしまう。
なつみは今の状況を考えつつ何か言い返そうとしたが言葉見つからず、
見かねた圭織が代弁するように梨華に食って掛かる。
「ちょっとアンタ、保田さんのなんなのよ?」
「貴方には関係ありません」
「この娘、さっきから聞いてれば……」
「カオリ、落ち着いて」
しかし、圭織の存在を無視するかのように梨華はクルリと向きを変えた。
圭織はその態度が気に入らず、今にも殴りかかろうとするのを、なつみが必死に止めている。
「……私は貴方に忠告しましたから。今度保田さんに近づいたら、どうなっても知りませんよ、
どうなっても……。それだけは覚えといて下さい」
そう言い残して梨華は野次馬の中に埋もれ消えていった。
「ちょ、待ちな……」
「カオリ、もういいよっ」
なつみたちは周囲の人々に迷惑がかかった事を侘びた。ザワついていた場にまた元の空気が戻る。
怒りが治まらない圭織を宥めつつ、なつみは梨華が自分に浴びせ掛けた言葉の真意を考えていた。
(あの娘、一体誰なんだろ? どうしてなっちの事知ってんだろ? それになっちのことすごく悪者扱いしてた。
何も悪いことした覚えなんてないのに、なんでなっちだけが?)
「ッ……なんだよ、アイツ。なっち、気にしなくていいよ、あんな一方的な奴の言うことなんか」
「判ってる。それになっち、なにも悪いこと保田さんにしてないもん」
「そうだよ。むしろあいつの方がなんかしたんじゃないの? だから保田さんあんなに冷たい人になっちゃったんだよ」
「そう……かもね」
「人のせいにするなってんだよ。ったく最近の女子高生は……」
「うん……」
「それにしても可哀相だね、保田さん」
(なっち……悪い事なんかしてないよね? 悪い事なんか……)
受験という一世一代の悩み事の他に、余計な悩み事が増えたなつみだった。
- 267 名前:牡丹 W 投稿日:2003/11/14(金) 02:01
-
その日から、なつみはあまり活発的に動く事を控えた。
とは言っても相変わらず、圭織とは漫才みたいなボケ、突っ込みを交わせるし、
たまに時間が空けばみちよやりんねとメールの遣り取りや、電話で喋ったりもした。
しかし、週末に近付くと今までは楽しみだった圭とのぎこちない触れ合いが、
なんだかとてもおこがましいように感じるようになった。
『貴方が保田さんといるから、あんなに冷たい人間になったんじゃない。
ホントはもっと明るくて優しい人だったのに!』
『……私は貴方に忠告しましたから。今度保田さんに近づいたら、どうなっても知りませんよ、
どうなっても……。それだけは覚えといて下さい』
あの娘の言葉が頭から離れない。
犯罪の低年齢化が持て囃される現代。若年層の社会への反発。
その対象がまさか自分になろうとは誰が思うだろうか。
ひょっとしたらどこかで見張っているかもしれないと思うと、怖くて近寄りがたくなってしまう。
なつみの頭の片隅に新聞記事の社会面の見出しが踊る。
金曜日、なつみははなるべく圭と距離を置こうと密かに決めた。
それでも圭の姿だけは捉えておこうと、圭が座る位置からやや離れた、それでいて視界には
圭がきちんと入る席で講義を受ける事にした。
初講日以来、一人で受ける講義は妙に新鮮だった。
それが却って好を奏したのか、意外な盲点をなつみに与えてくれた。
(こうして見ると保田さんて意外と小柄なんだなぁ)
(いつもダークな服装が多いよね。大人の女性って感じ)
(今日は髪の毛上げてるんだ。うなじがちょっと色っぽいや)
(シャーペン回すの癖なんだ)
視野を広めたせいで、今まで間近で見てきた圭の見えなかった部分が見えた瞬間だった。
なつみの脳内にある『圭に関するファイル』に新しいデーターが徐々に詰まっていった。
- 268 名前:牡丹 W 投稿日:2003/11/14(金) 02:02
-
土曜日、いつものように自習室で頭の体操を目一杯した後、二人は休息すべく近くのマックへ入った。
この時期、とある部活の都大会が近くの東京体育館で行われていたせいで、
やたらジャージ姿の学生が多く屯っていた。
半額のシェイクとポテトを突つきながら、圭織が言う。
「そういえばさ、今週は大人しかったよね、なっち」
「そ、そうかな?」
「だってさ、いつもなら週末になると『保田さん保田さん』って言ってたじゃん。
今日だっていつもなら朝から、昨日は保田さんがああでこうで、どうしたとか言ってたし、
夕方ぐらいになると一目見ようと教室まで出向いてたじゃん」
「ハハ……アハハ……」
「それがさ、今週は保田さんのやの字も出ないし、今日だって朝からなんも言わないし」
圭織はシェイクを飲むなつみを疑り深い目で見る。
その眼力はかなり見ているものを圧倒させるほど力強い。
「た、たまにはさ、こういう日があってもイイじゃん。ほ、ほら、よく言うでしょ。押してダメなら引いてみろって」
「なっちってそんなに恋愛に達者だったっけ? どこで覚えたのさ、そんな格言」
「えっ……いや、別に。ア、アハハハハ」
ぎこちない笑いをするなつみに圭織は不安を抱いた。
そしてそのまま目で相手を殺しながらなつみを問い詰めていく。
「ひょっとしてあの娘の言った事、気にしてるんじゃないの?」
「そ、そんな事、ないよ……」
「嘘だ」
「う、嘘なんかついてないよ。カオリに嘘ついてもしょうがないじゃない」
しかし圭織は真剣な顔をなつみに向けたままじっと顔を見据えている。
相変わらず目でなつみを殺し続けていて、さすがになつみも、ビビリ始める。
- 269 名前:牡丹 W 投稿日:2003/11/14(金) 02:03
-
「だって、なっちが嘘ついてる時は標準語になるの、カオリ知ってるもん」
「ひ、標準語使えって言ったの、カ、カオリじゃなかったっけ?」
「カオリが言っても、カオリと喋る時はどっかで訛りが出てたじゃん。それが今は全くないし」
「あっ……」
「それに、何か隠してる時のなっちはかむ癖があるし」
「うぅ……」
「いくら誤魔化そうとしても、長年付き合ってきたカオリにはなっちの言動はバレバレなんだよ?」
「……カオリには敵わないっしょ」
白旗を揚げて降参しようとしたなつみだったが……。
「そりゃあそうだよ。カオリは天下無敵だもん」
「へ?」
「カオリを倒したかったら矢でも鉄砲でも持ってこいってんだ」
「カ、カオリ?」
「でも日本で鉄砲打っちゃダメなんだよ、銃刀法違反だからね。あ、猟師さんは別だけど」
「……意味わかんないべさ」
結局、話の筋は明後日の方へと逸れ、圭織が何を言いたかったのか、なつみには判らずじまいだった。
しかし、圭織は圭織なりに自分を励ましてくれたんだと勝手に解釈しておいた。
いまだ掴めないキャラを見せる圭織と一緒に過ごしてきて良かったと思った時だった。
- 270 名前:おまけ 投稿日:2003/11/14(金) 02:04
-
圭織の『なっち通信A to Z』 第一回
Accent(訛り)
なっちといえばこれっ! 高校時代も"訛りのなっちに黒髪のカオリ"って言われるほど有名だったんだから。
なっちは自分のこと都会人て言うけど、あの訛りじゃ何年経っても無理だよね〜。
でもそんな訛り全開で喋り倒した後のニヤけ顔のなっちがカオリは大好きなんだ。(てへっ)
いもなっちサイコー!!(たま〜にじゃがいもみたいな時もあるけど)
でも一回だけいもなっちって呼んだら、「イモは小野妹子だけで十分だべ」って言われちゃった。
なっちってまだまだ謎〜っ。
- 271 名前:お返事 投稿日:2003/11/14(金) 02:05
-
>名無し読者さん
なつみ「みっちゃんてホンとアホだよね〜」
圭 「だけど憎めない」
なつみ「なっち思うんだけど、みっちゃんの隠れファンて結構いそうだよね」
圭 「何気に一番人気があると思うよ」
なつみ「でも現実は……」
圭 「それは言わないであげようよ」
>名無し読者さん
圭 「というわけで、今日から更新の度にカオリの『なっち通信』をお届けします。
カオリの独断と偏見の日記なので、不平、不満、愚痴はご勘弁を」
- 272 名前:お返事 投稿日:2003/11/14(金) 02:05
-
>本庄さん
なつみ「そういえばさ、本庄さんて前はごっちんと村っちゃんを推してなかったっけ?」
圭 「それはさ、時代が変われば人の心も変わるっていうもんだよ」
なつみ「じゃあなっちたちもいずれ嫌われちゃうのかなぁ?」
圭 「さあ……本庄さんに聞いてみないとわかんないなぁ」
なつみ「……グズッ」
圭 「あ、あの、アタシは絶対に、その、嫌いに、ならないからね、ね」
なつみ「……へへっ……アリガト、圭ちゃん」
- 273 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/14(金) 03:40
- 更新ありがとう(●´ー`●)
やったぁ〜\(^o^)/
なっち講座始まったぁ〜!!
カオリ先生おいらはどこまでもついて行きますぜぃ!!
あの人がちょっと怖くなったって誰かが言ってた。そんな寒い日。
- 274 名前:本庄 投稿日:2003/11/16(日) 18:17
- 圭織先生、すごいよ圭織先生・・・。
女子高生はやっぱあの幸薄少(ry かな??
てかいきなり見知らぬ人にあんな暴言・・・かっけ〜(おい!)
このままなっちは諦めてしまうのか・・・?
そんなのいやだぁぁぁぁぁ!!!!!(泣)
大丈夫よなっち!!わたしはあなた(圭ちゃん含)に絶対飽きないから!!
ついでに言うと村さん、ごっちんもまだまだ私の中では上位に
ランクされてます。
- 275 名前:牡丹 X 投稿日:2003/11/21(金) 04:58
-
五月の終わりから止めど無く振り続いた雨が中休みを迎えた月末の土曜日。
朝からすっきりと晴れた日には嫌な気分を吹き飛ばし、パァーッと外の空気と戯れたいのだが、
あいにく今日も頭をフル回転させられた運命の二人。
土曜日は一番きつい科目が入っている圭織は、この時ばかりは浪人したことを恨めしく思った。
「あ〜、もお、なんで今日授業があんのかな〜」
「しょうがないっしょ。浪人生なんだから」
「嫌なこと言わないでよ〜」
変なところで現実を述べるなつみに幻滅する圭織。
しかし、実際に沈んでいたのはなつみの方だった。
(最近誰かに見られてる気がするけど、不思議な感じがする。なんだろ、この感じ?)
ここ数日、妙な視線を感じるようになっていた。
しかしその視線は悪意の篭ったものではなく、かといって好意的なものでもない。
無表情と言うのが適切だろうか、とにかくただ見られているだけ。
しかも、決まって週末辺りの限られた時間にだけ起こる現象に、なつみとしても、対処のしようがなかった。
「なっち? なぁ〜っち」
「んへ? あ、なに?」
「どうしたの?」
「別に何でもないよ。今日は早く帰ろっか」
「なんで?」
「だってこんなに晴れてるんだもん、たまには羽伸ばそうよ」
そう言って両手を目一杯空に広げるなつみ。
そのカットは週刊誌のグラビアでも飾れるほど、綺麗で美しかった。
太陽に光る紫陽花と純美な笑顔――そんなサブタイトルまで付きそうなショットに、
近くを通りがかった男子学生が歩を止めて見惚れていた。
- 276 名前:牡丹 X 投稿日:2003/11/21(金) 04:59
-
「じゃあ、今日は会いに行かないんだ?」
「……最近しつこかったかなって思ってさ」
「……やっぱり気にしてるの?」
「そうじゃないけど、自分がもし保田さんの立場だったらって思ったらさ……
それにちょっと距離を置いた方が色々と視野が広まって、得する事もあるから」
「おおっ、なっち成長したねぇ」
「へへっ」
悪戯っ子のような笑みをみせるなつみ。
今日のなつみは一つ一つの仕草が絵になるほど、際立っていた。
恋しているとこうも人が煌びやかに見えるものなのかと、感心してしまう圭織。
そして、そんな純真ななつみを応援してしまう余り、ついついなつみや自分を鬱陶しがる
相手の態度に対して愚痴ってしまう。
「保田さんもいい加減に諦めて、ウチらと仲良くしてくれたらイイのにぃ」
(そう……保田さんに会った時だけ、物凄く強い視線を感じる。
でもなっち、保田さんに悪いコトした覚えなんてこれっぽっちも無いのにな……)
「…ち、なぁ〜っちってば!」
「えっ?」
「ほら、あそこ」
「あっ……」
「相変わらずクールそうだよねぇ」
圭織が指差す先に、何かを探しているのか、辺りを見回す圭がいた。
相変わらず“デキる人間”を強調するかのような淵なし眼鏡姿の圭に、なつみの心が踊る。
(はうっ!)
その刹那、なつみに今までとは違う、ハッキリとした殺意が込められた視線が突き刺さった。
晴れ晴れとした青空とは打って変わって、徐々に滅入っていくなつみ。
(……まただ。き、今日は物凄い強い視線を感じる……だ、誰ぇ?)
「こっちに来るよ?」
「え? あっ」
- 277 名前:牡丹 X 投稿日:2003/11/21(金) 05:00
-
なつみが顔を上げるとすぐ目の前には圭が立っていた。
徐々になつみに向けられた視線がきつくなっていく。
ポーカーフェイスで鋭い眼光を放つ圭が、今のなつみにとって優しく見えた。
「……アンタら、みっちゃんの友達なんでしょ?」
「え、あ、は、はい」
(ヤダ……すごい怖い。背中がゾクゾクして、寒気がする……やっぱりあの娘なの?)
「あれから伝言頼まれ……?」
「あれって……あのぉ〜、保田さん?」
(でも、一体どこから? う、ううっ……立ってられないよぉ……それに気持ち…悪…い)
あれほど無口な圭が今日に限って話しかけてくれたにも関わらず、なつみは目を合わせられない。
しかも圭が傍にいるだけで、体調が急激に崩れていく自分。
きっと彼女は不快に思っているだろうと一人嘆き悲しんだ。
「……この娘、どうした?」
「え?」
「アンタ大丈夫か?」
「なっち? ね、ねえ、大丈夫!? 顔真っ青だよ!?」
「あ……あの…」
「なっち、ちょっとここ座って! 大丈夫!? どっか痛いの? 苦しいの?」
「……だ、大丈夫…だよ」
「なっち、今日はまっすぐ帰ろう。カオリが送るからさ」
「ご……ゴメン…カオ…リぃ」
ぐったりしたなつみの身体を支えるようにして、圭織がその場を立ち去ろうとした時、
二人の背後から声が掛かった。
「……アンタ等の午後の授業は?」
「え、あ、カオリは『センター化学』があるだけで、なっちはもう終わりですけど……」
「……アンタ、教室はどこ?」
「74Bですけどぉ……」
「テキストは?」
「はい?」
「だから、テキスト。貸しなって」
「??? ど、どうぞ」
ワケが判らず、圭織は言う通りに自分の鞄を漁る。
六月に入ってから金曜日に受講していた化学を土曜日に変更した圭織。
どうやら金曜日担当の講師のやり方に合わなかったらしい。
テキストを引っ張り出して差し出すと、圭は無言で受けとって、二人に背を向けた。
「……ちゃんと送り届けてやんなよ」
「あ、ちょ、ちょっと、テキスト……行っちゃった。あ、そんなコトより、なっち! 早く帰ろう」
「う……うん…」
- 278 名前:牡丹 X 投稿日:2003/11/21(金) 05:01
-
比較的綺麗なテキストの表紙を見ながら圭は思った。
(センター化学か……やったことないけど何とかなんだろ?
しかしあの時、人の心配するなんて……アタシ、変わった……)
ドンッ!
「キャッ!」「おっと……」
もの思いに耽ていて、やや視界が狭かったのか、圭はトイレから出てきた女子高生とぶつかってしまった。
女子高生はか弱い乙女のように、廊下に尻餅をついて転がり、圭は廊下の壁に激突して荷物を落としそうになる。
自らの不注意を侘びる為、圭は女子高生に謝罪の意を表して手を差し伸べた時、
チラリと覗いた横顔に怪訝な顔つきをした。
「……アンタ、こんなトコで何してんのよ?」
「えっ! あっ! や、保田……さん」
倒れた女子高生は梨華だった。
梨華は圭の姿を見るや、強張った様子で後ずさってしまった。
その動作にマズイ、と思いつつも、別の意味で焦っていた。
今日は圭に用事があってここまで来たのではなかったからだ。
咄嗟に思いついた嘘でその場を誤魔化そうと努力する。
「えっと……その、私、夏の講習会の申し込みで来てて、それで、その、少し授業の様子でも
見てみよっかなって思って……そしたら偶然、保田さんに出会ってしまったわけで」
「……あっそ」
さして梨華の言動を気にも留めず、圭は無理やり梨華の手を取って、起き上がらせる。
そして梨華が礼を言う前に、「邪魔して悪かった」とだけ述べて、そそくさとその場から消えていった。
梨華は握られた手の平と圭が消えていった廊下を交互に見つめながら、一人頬を染めていた。
(保田さんて、普段あんなキリッとした恰好してるんだ……。ちょっと見た目はキャリアウーマンみたいで
怖そうだったけど、やっぱり根は優しいんだ……。だったら、一刻も早く目覚めさせてあげなくちゃ)
梨華の心の中に圭への慈愛と共に、なつみへの憎悪も膨らんでいった。
- 279 名前:牡丹 X 投稿日:2003/11/21(金) 05:01
-
閑古鳥が鳴くような夕暮れを背に、圭織はなつみの部屋に篭っていた。
ここまで帰る途中、電車内や街行く人の目が酷く痛かったけれども、
なつみの苦しみ悶えていたあの時の顔を思うと、今の自分などなんてことなかった。
むしろ自分の中ではヒロインを救ったヒーローのような気分でさえいた。
「なっち……もっとさ、カオリを頼ってよぉ」
部屋に戻ってからだいぶ体調が戻ったのか、今ではベッドの上で安らかな寝息を立てている
なつみの頬をそっと手で擦りながら圭織はポロっと零した。
圭織は決して人前では弱い部分を見せない。
その分、昔からなつみが聞いていないところで、自分の想いや愚痴を零していた。
それはなつみの寝顔が圭織の心を清らかに浄化してくれる作用を持っているからだ。
圭織がなつみ離れ出来ない理由の一つはその為である。
細長い指先からなつみの温もりが心地良く伝わってくる。
感触を通じて圭織の想いがなつみにも伝わったのか、寝顔に笑みが浮かんだ。
その笑顔に幾度となく安心させられてきた圭織にもフッと笑みが零れた。
♪♪〜、♪♪〜
鞄の中に眠っていた携帯から、お気に入りのメロディが流れてきた。
なつみから離れ、慌てて携帯を取り出すと、ディスプレイには見たことのない番号。
尚も奏で続けるメロディが、なつみの意識を呼び覚ました。
「……ん、カオリ? 電話……鳴ってるべ……」
「う、うん。起こしちゃってごめんね」
そう言って出てみると、声の主はどこかオドオドしている様だった。
イタ電かと思い、圭織は少し強気な声で対応する。
- 280 名前:牡丹 X 投稿日:2003/11/21(金) 05:02
-
「もしもし、どちらさまですか!?」
『あ、えっと、アタシ、保田だけど』
「や、保田さん!? えっ、えっ、な、なんでなんで?」
『いや、なんでって言われても……今日の講義のことでさ』
「あ、そういえば……」
圭織はすっかり、自分の事を忘れていた。
三限に講義があった事も、その講義を欠席した事も、そして……
テキストを圭に渡したまま帰ってきてしまったことも。
『でさ、一応アンタの代わりに出といたから』
「えっ、授業にですか?」
『そう。で、今日の分のノートと借りたテキストを渡したいんだけど、アンタ今出てこられるかい?』
「出てこられるって……保田さん、今どこにいるんですか?」
『アンタの住んでる街の駅前だけど』
「ええーっ!」
思わず声を上げて叫ぶ圭織。
その声に何ごとかと、寝返りを打ったなつみがムクッと起き上がる。
数時間前までの気だるそうな青ざめた顔はどこへやら、先ほどから圭織の口から出てくる
『保田』という単語に敏感に反応するなつみは、餌を待っている子犬のようだ。
しきりに「何々? 保田さんがどうしたの? ねえ、ねえ」と傍らで喚いている。
『何よ、イキナリ大声で』
「だってわざわざ持ってきてくれたなんて……」
『ああ、そんな事か……なんか今日は悪いことしたみたいだからさ』
「ええーっ!!」
再び、部屋中が揺れ動くほどの絶叫。
なつみは我慢が出来なくなったのか、いつの間にか圭織の隣りにピッタリと寄り添って、
なんとか会話を聞き取ろうとしている。
しかし、身長差がある分、なつみは時々ジャンプして会話を聞こうと努力している。
ホント病人だったとは思えないほどの回復ぶりである。
- 281 名前:牡丹 X 投稿日:2003/11/21(金) 05:03
-
『何なのさ、いちいち人の言うことに驚きやがって』
「え、ああ、ごめんなさい。ついつい……」
『で、どうなの? 来れるの、来れないの、どっち?』
「行きます! 行きますから、えっと、じゃあどこかで待ってて下さい」
『わかった。じゃあ、駅前のド○ールにいるから』
「はい、すぐ行きます、じゃあっ」
圭織は通話を終えた後、ふと疑問に思った。
(アレ、なんで保田さんがカオリの携帯の番号知ってんだろ?)
「……リ……オリ」
(でもなんでカオリの為に授業になんか出てくれたんだろ? いつもは素っ気無いのに)
「カオリってばっ!」
「わっ! あ、なっち……ハッ! なっち、起きあがっていいの!?」
「保田さんと何話してたのさ? なっちにも教えてよ、ねえねえ」
「ゴメン、それどころじゃないんだ。今からちょっと出てくるから」
「えー、なっちも一緒に行きたい。保田さんと会うんでしょ?」
「ダメっ! っていうかさ、何、もう大丈夫なの?」
圭織の横で駄々を捏ねるなつみは、無邪気に外を駆け回る子供の様にピンピンしていた。
時に力瘤まで見せるほど、なつみは全開だった。
「……なんだったのさ、カオリの苦労は」
その後、渋るなつみを置いてド○ールへ向かった圭織は、なんとも言い難いほどぎこちない
表情で圭から道具を受け取った。
まして、よせばいいのになつみのことを正直に話してしまった圭織は、更に圭に不快感を与えてしまった。
お陰で、近づいたかのようにみえた圭との距離は振り出しにまで戻される羽目に。
なつみの怒る顔が頭に浮かんで更に落ち込む圭織だった。
六月の冷たい雨は、圭織の心を水浸しにするほど容赦なく、濡らしていった……。
- 282 名前:おまけ 投稿日:2003/11/21(金) 05:03
-
圭織の『なっち通信A to Z』 第二回
Angel(天使)
高校時代のなっちのミドルネーム。高校時代は色んな仇名があったんだよ、なっちって。
なっちに、安倍ちゃん、べーやん、なつ、なち介、なつみかん、とか。
そんななっちは密かに“なっちゃん”て呼ばれたいんだって(それじゃあジュースと一緒じゃん)
そうそう、変わった仇名といえば、チョコボールちゃんなんてのもあったなぁ(A○男優さんじゃないよ)
あのお菓子って確かエンジェルマークついてたでしょ? エンジェルといえばなっちだからだって。
噂ではなっちがあの“オ○チャの缶詰”だっけ? 銀のマーク五枚集めて当てたからって言われてるし。
なっちってば意外とお子ちゃまなんだねっ。
- 283 名前:ご報告 投稿日:2003/11/21(金) 05:05
- 突然ですが、12月はちょっと本編から離れて、Tea Breakしたい(短編集を二つほどお送りしたい)と思いまふ。
一つ目は6日に“圭ちゃん生誕SP”、もう一つはクリスマス前に“Xmas SP”と称した短編を載せる予定です。
誠に勝手で申し訳ないですが、ご了承下さひ。(ちょっと骨休みさせて下さひ…)
- 284 名前:お返事 投稿日:2003/11/21(金) 05:06
-
>名無し読者さん
圭 「アラ、カオリが大人気じゃない。カオリ先生引っ張りだこ」
なつみ「みっちゃんもカオリも隠れファンが多いんだね。なっちもガンバロっと」
圭 「それにしても『なっち通信』は凄いね」
なつみ「あ、あれは、その、この物語の中のなっちのことだから、ご、誤解しないでよ?」
圭 「知ってるよ。本当のなっちゃんは違うもんね〜?(ニヤッ)」
なつみ「……(ポッ)」
>本庄さん
なつみ「なっちは負けないっ! 諦めたりしないし、村っちゃんにもごっちんにも負けないっ!」
圭 「おおっ、気合入ってるねぇ〜」
なつみ「いくら梨華ちゃんがカッケ〜くても、梨華ちゃんはずっと幸薄少女のままっ!」
圭 「ほっほぉ〜、言うねぇ〜。今日のなっちゃんは一味違うよ」
なつみ「……だからってなっちのこと食べちゃダメだよ?(ニコッ)」
圭 「……(カァーッ)」
- 285 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/29(土) 03:59
- 更新お疲れ様です。
短編の方も楽しみにしてます。
- 286 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/06(土) 02:32
-
『 SWEETIES 〜二人は恋人〜 』
アタシには自慢の彼女がいる。
- 287 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/06(土) 02:33
-
彼女の名前は安倍なつみ。
誰もが知ってる国民的アイドルグループの顔として第一線で頑張ってる。
アタシより一つ年下なのに童顔で、背もそれほど高くはない。
感情表現が豊かで、天然で、鈍臭いけど、憎めなくて、笑顔が可愛くて、天使みたいな女の子。
某音楽ランキング番組のアンケートで『彼女にしたい女性アーティスト』で1位になるくらい人気があって、
ソロデビューイベントで感極まって泣いちゃったりするほど純真な女の子。
二十歳を過ぎてからあまり泣かなくなったし、簡単に挫けることもなくなって、
ちょっとは大人っぽくなったかな、と思ったけど、やっぱりなっちゃんはなっちゃんだった。
そんな彼女と過ごす為、今日もなっちゃんのお家にお邪魔してる。
「ん? どーしたの?」
「ううん、別に何でもないよ」
キョトンとして首を傾けてるなっちゃん。
グラビア顔負けのその仕草は文句なく可愛い。
正直、松浦でもこんな仕草は真似できないだろう。
ふと、その可愛さの理由は何なのか、改めて検証して彼女の魅力を再確認してみようと思った。
だから今日は、少々年齢を逸脱するような行動をしてしまうかもしれないけど、
なっちゃんとアダルティな甘〜い時間を過ごしてみることにする。
- 288 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/06(土) 02:33
-
まずはちょっと離れてなっちゃんの身体が視界に入るように見つめる。
なっちゃんは不思議そうな顔をアタシに向けるけど、とりあえず無視してジーッと眺める。
矢口ほどじゃないけど、小さいなぁ〜とつくづく思う。
なんか胸元のポケットに添えて、毎日持ち歩きたいかも。
「なにぃ? そんなにじっと見つめてぇ」
「ちょっとね……」
「なにさぁ……」
「……」
しばらく視界になっちゃんを入れておく。
痺れを切らして、なっちゃんがアタシに近付いてきても、上手く交わしながら一定の距離を保つ。
ちょっとした鬼ごっこだけで幸せを感じる。
辻や加護に付き合わされる鬼ごっこより数倍楽しい。
「もぉ〜、そんなに見ないでよ〜」
「そんなこと言っても見えちゃうんだもん」
「むぅ〜っ」
プクッと頬を膨らませてご立腹のなっちゃん。
ん〜、怒ったなっちゃんをしばらく見てなかったから、凄く新鮮。
怒っても全く威圧感がないのは、なっちゃん=笑顔の公式が成り立ってるから。
でもすぐ拗ねちゃうし、ここらでなっちゃんに近付いておいた方がいいかな?
- 289 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/06(土) 02:34
-
正面に座って、幼さの残る顔をマジマジと見つめる。
さっきまでの膨れっ面のなっちゃんの頬が、段々紅く染まる。
それを人差し指でツンツンと突ついてみる。
紺野みたいなプニプニ感がたまらない。
「ちょ、もぉ、止めてよぉ〜」
「いいじゃん。もっと突つかせてよ」
「ヤダっ。もー、止めてってばぁ」
恥かしさを隠そうとアタシの指を、手で払い除けるなっちゃんは耳まで真っ赤っか。
まるで、下ネタを聞かされてる時の高橋みたい。
耳朶をちょこっと指で摘んでみたら、凄く熱を感じた。
恥かしさを誤魔化そうと、なっちゃんは頭をブンブン振ってアタシを触れさせない様にする。
それでもアタシは観察を止めず、今度はちょっと小振りな手を取る。
柔らかくて、暖かい手を握ったり、擦ったりしてみる。
なっちゃんはアタシの行動に観念したのか、成すがままになってるけど、
顔だけはリンゴみたいに紅くなってアタシを睨んでる。
そんな顔をしても全く怖くないし、むしろアタシの幸せ度数を上げるだけ。
- 290 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/06(土) 02:35
-
「今日の圭ちゃん、おかしいよ」
「……」
「無視しないでよ〜」
アタシは何も答えないで、なっちゃんの手を弄ぶ。
なっちゃんの手を自分の頬に当てたり、自分の手と交互に絡めたり、
ちょっと気取って手の甲にキスしてみたり……。
その後で、両手をキュッと握ったままなっちゃんに微笑みかける。
女の子座りしているなっちゃんがまた紅くなった。
「……恥かしいから、見ないでよぉ」
「こっち向いてよ」
「ヤダ、見たくない。見ちゃダメッ」
俯いたなっちゃん。
ちょっと伸びた髪の毛がさらりと垂れる。
今度は髪の毛を撫でてみる。
サラサラで艶のある髪の毛はお手入れがいき届いてる。
綺麗な髪って言えばカオリだけど、それとはまた別の意味で綺麗な髪だ。
毛先を指でクルクル巻いてみたり、手ぐしで髪を梳いたりして、
最後に頭を撫でると、なっちゃんはクタッとアタシに身体を預けてきた。
その仕草はちょっと色気があって大人っぽかった。
- 291 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/06(土) 02:36
-
「圭ちゃぁん……どうしちゃったのさぁ」
「別に」
「んもぉ……」
ちゃんと答えないで、最後になっちゃんの身体を両腕で優しく抱き込む。
前にちょっとふっくらしてた時があって、その時も抱き心地は良かったけど、
基本的になっちゃんの身体は誰が抱いても、最高って言うくらいに心地良いみたい。
勿論、他の奴なんかに指一本たりとも触れさせはしないけど。
「……やっぱり最高だね、なっちゃんは」
ここでようやく感想を述べてみるけど、なっちゃんはいつもと違う雰囲気に酔ってるようで、
全身が沸騰状態で、ウットリしちゃってた。
こんな時のなっちゃんは変に色気が出てて、正直大人っぽい。
メロンの斎藤さんなんか目じゃないってくらいに、エロティックでアダルティー。
「なっちゃん?」
「……こんな事されたら……ますます好きになっちゃうじゃん」
「良かった、嫌われなくて」
- 292 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/06(土) 02:37
-
ちょっとした悪戯心が沸いて、温まった耳朶を甘噛みしてみた。
ビクッてなっちゃんが震えたのが面白くて、何度も耳朶をハミハミする。
そのうちアタシから離れようともがき出したけど、今は心も身体もがんじがらめ。
つまり、なっちゃんはアタシという鳥篭からは一歩も外へは逃げられない。
「け、圭ちゃぁん……だ、ダメだよぉ……」
「なにがダメなの?」
「……」
なっちゃんは自分が今、どうされてるのかが恥かしくて言えないみたい。
こういう純情な態度がアタシの心を強く揺さぶって飽きさせない。
もっともこんな純な姿を見せてくれるのは、アタシの前だけだけれども。
ちょっとした隙になっちゃんが手で耳を隠すけど、そんな可愛い仕草が今日は眩しく見える。
「……」
なんだか照れくさくなって、誤魔化すようになっちゃんをギュッと抱きしめる。
いつ、どんな時でも文句無く抱き心地は最高。
加えて、真っ赤になって恥かしそうに顔を隠すなっちゃんも最高。
今日一番の至福の時を感じる。
- 293 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/06(土) 02:38
-
「もぉ……でもどうしちゃったの、今日は?」
「たまにはさ、じっくりなっちゃんを観察してみるのも良いかな、と思ってさ」
「なんで……そんな事わざわざするの?」
「なっちゃんの魅力をもっと知りたかったから、って言ったら……キザかなぁ〜」
「もぉ……圭ちゃんの、バカっ。バカバカっ」
そう言って何度かアタシの背中を叩いた後、なっちゃんはギュッと抱き付いた。
そうやって人の気も知らないで誘ってくるのがなっちゃんのやり口だ。
裕ちゃんなら完全に参っちゃってるね……。
というか、普段ならばアタシも速攻でお手上げ状態なのは言うまでもない。
でも、今日はあえて我慢してひたすら堪える、いや堪えている。
「でも……」
不意になっちゃんが身体を離した、かと思ったら……。
「そんな圭ちゃんが好きっ」
そう言った後、軽く口付けされた。
なっちゃんは真っ赤になって再度アタシに抱き付いてくる。
それに応えるようにアタシも優しく抱きしめ返す。
- 294 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/06(土) 02:39
-
はぁ〜、アタシの中がなっちゃんで満たされていく。
今夜もどうやらアタシの負けたみたいだ。
アタシの首筋に当たるなっちゃんの吐息、それに……弾力のあるアレが官能的な気分にさせる。
石川やごっちんとまではいかないけど、なっちゃんもいいものを持って……ん?
なんだか前に比べて弾力が増したような気が……。
「ねえ、なっちゃん」
「なぁに?」
「その……さ、また、成長した?」
「ん? なにが?」
「えっと……胸が」
「……」
「……」
「……圭ちゃんのエッチぃ」
……。
結局、最後はいつも通りになっちゃったけど、なんだか今日はとても幸せな気分になれた。
なんだかやみつきになりそう……。
- 295 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/06(土) 02:40
-
なつみ、愛してるよっ
〜To be concluded tomorrow〜
- 296 名前:本庄 投稿日:2003/12/06(土) 17:38
- いやん♪甘い、甘甘っすよ!!
もうさらさらと砂糖がお口からこぼれておりますよ!!
あ…PCに砂糖がこびりついっちゃったわ(笑)
最後になりましたが圭ちゃんお誕生日おめでとう!
プレゼントは…私です!!(爆)
あ、返品は不可なんで(w
- 297 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/07(日) 03:29
-
『 BREAST 〜二人は恋人 2〜 』
今夜はなっちの秘密を教えちゃいます。
- 298 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/07(日) 03:29
-
こんなこと人前で言うのはちょっぴり恥かしいけど、なっちは圭ちゃんの胸が好きなんだ。
あっ、そこの君、今エッチなコト考えたでしょ?
なっちが言いたいのはそういう事じゃなくて、圭ちゃんの胸に寄り添ってると、何となく落ち着くの。
圭ちゃんの胸から伝わる熱が、なっちに安らぎを与えてくれるんだよ。
あっ、そこの君、鼻血出てるよっ。
昨日は圭ちゃんにいいように弄ばれちゃったから、今夜はなっちが圭ちゃんを翻弄するんだ。
そんなわけで、なっちは圭ちゃんの胸を求めて、圭ちゃんのお家にお邪魔してますっ。
って言ってもほとんど毎日どっちかの家にお邪魔してるんだけどね。
だってなっちと圭ちゃんは、昔っから恋人同士なんだもん。(ポッ)
未だにみんなには内緒にしてるから、こうやってお家に行く事ぐらいしか出来ない。
でもそのほうが二人っきりを十分過ぎるほど満喫できるんだ。
だってなっちたちが何しようと誰にも邪魔されないしねっ。
で、圭ちゃんのお家にいる時は、大抵なっちの居場所は決まってるの。
どこかって? へへ〜、それはね……。
- 299 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/07(日) 03:30
-
「圭ちゃん、またパソコンかい?」
「ん〜、最近さ、ようやくOS入れ替えたからさ、ちょっと慣れときたくてね〜」
お風呂上がりの圭ちゃんはワイン片手に色っぽくガウンとか着て……なくて、
普通にパジャマ(なっちとお揃い)と上にカーディガンを羽織った恰好のまま、さっきからパソコンと睨めっこ。
目が悪い圭ちゃんはお家の中じゃあ眼鏡を掛けてて、その姿が結構凛々しく見えたりしちゃって、
ちょっとなっちは頬が熱くなっちゃったりする。(ポッ)
ここだけの話、眼鏡を掛けた圭ちゃんに心を奪われちゃった人って結構いるみたい。
勿論なっちもそんな一人だけどね。
ようやく作業が終わったのか、圭ちゃんは画面から眼を離してウ〜ンて伸びをした。
眼鏡を取った時のホンの一瞬見え隠れする圭ちゃんの素顔に毎回ドキッとさせられるの。
けどなっちの中では、それがいつもの合・図。
圭ちゃんに近づいてって、「ん?」って不思議そうな顔をする圭ちゃんを無視して(ごめんね)、
昔、ののがカオリの膝に乗ってたように、ちょこんって圭ちゃんの膝の上に乗っかる。
圭ちゃんと向い合うようにして、そのままなっちは圭ちゃんの胸に顔を埋めるの。
まるでおっきな赤ちゃんを抱っこするような感じで、圭ちゃんはなっちの背中と腰に手を回してくれる。
「なんか最近多いよね、こういう態勢」
「へへ〜、最近なっちのお気に入りなんだぁ」
「てっきり赤ん坊帰りしちゃったのかと思ったよ」
「そんなんじゃないよぉ〜」
そう言いながらもなっちの頭を優しく撫でてくれる圭ちゃんの、そういう何気ない優しさが好き。
カオリが前に「頭撫でられるのって気持ちいいんだよね〜」な〜んて言ってたけど、その通りだと思う。
好きな人に寄り添って、抱き締められて、頭撫でられて、こんな気持ちのいいコト他にないもん。
だからもっとして欲しくって余計に圭ちゃんに密着する。
- 300 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/07(日) 03:31
-
圭ちゃんの胸は暖かくって、柔らかくて、それでいてちゃんと谷間もあるんだよ。
洋服着るとそんな風に見えないけど、着太りするっていうのかな?
だから圭ちゃんの身体って女の人の理想の体型なんだって。(羨ましいなぁ)
ごっちんが加入する前までは一番大きかったし、冗談でよく矢口とか紗耶香がジロジロ見てたリ、
時には触ったり突ついたりしてた。(同期だから許せるんだろうなぁ……)
カオリとか裕ちゃんはよく"イヤミだよね〜"なんて愚痴ってたりしてたっけ。
なっちもそれなりにあると思ったんだけど、圭ちゃんには及ばなかったね。
あ〜、なんか思い出すだけで……はっ! なっち、不覚にも想像しちゃったよ。
「なにニヤニヤしてんのさ」
「え、あ……へへっ」
「笑って誤魔化さないの。ところでなっちゃんさ……」
「なんだい?」
「いっつも思うんだけど、なんでこうしてアタシの胸に顔を埋めてくるわけ?」
「だって気持ちいいんだもん」
「あ、あのねぇ……それじゃあどっかのスケベオヤジじゃん」
「そういう変な意味じゃなくて。ん〜、なんていうのかなぁ……
お母さんの体内にいた時のような、そんな気分になるの」
「覚えてんの? お母さんの体内にいた時の事」
「覚えてないよ。でも、そんな気がするの」
圭ちゃんはまだ納得できないのか、しきりに上を見つめながら難しい顔してる。
そうやってなっちのよくわかんない応えにもちゃんと考えてくれる圭ちゃん。
そういう面倒見の良さがみんなに好かれるみたい。(みんな口に出すのは恥かしいみたいだけど)
- 301 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/07(日) 03:32
-
口下手でついついきつい言い方するけど、それが圭ちゃんなりの愛情表現なんだって、
矢口やごっちんは感慨深く言ってたこともある。
やっぱり付き合いが長い二人だからよく知ってるよね。(羨ましいっ)
そんな二人にジェラシーを感じるなっちはまだまだ子供なのかな?
圭ちゃんもなっちのこと子供扱いしてるのかな?
でもいいや、圭ちゃんの前だけ子供でいても損するコトなんてないし。
「なっちゃん、そのまま寝ないでよ?」
「ん〜、眠たくなっちゃうかも」
「え〜、勘弁してよ〜。それじゃあ、まるで子供をあやすお母さんみたいじゃん」
「お母さんっ」
「ちょ、止めてよ〜」
「いいじゃん、お母さんでも。こうしてさ、圭ちゃんの心拍数聞いてるだけで
すごく落ち着くし、癒されるんだもん。お母さんと一緒だよ」
そう言ってまた、パフって圭ちゃんの胸に抱きつく。
こうやって静かに顔を埋めてるだけで幸せ。
すごく圭ちゃんの全てを感じる。
でもね、決して手で触ったりはしないの。
そういうのはちゃんとベッドの中でしないとね。(ポッ)
なっち、アブノーマルなプレイは嫌いだし、それにその……エッチする時はムードとか大切にしたいし。
勿論なっちは圭ちゃんに愛される方だけど……あっ、何でそんなコトまで言わせるの〜っ!?
いやぁ〜、ハズカシ〜!!
- 302 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/07(日) 03:32
-
「コラコラ、人の胸元で悶えないの」
「もしかして、その気になっちゃった?」
「……バカっ」
「へへっ。今夜の圭ちゃんはなっちのお母さんだから甘えさせてよ」
「お母さんねぇ……あれ〜? なつみちゃん、おねむの時間かなぁ?
だったらちゃんとお布団で寝ましょうね〜、なんて言ってみたりして」
「圭ちゃん、顔紅いよ?」
「……」
圭ちゃんが照れ隠しになっちをギュ〜って抱き締めてきた。
当然なっちの顔は圭ちゃんの胸に圧されちゃって、世に言う「パフパフ」状態に。
柔らかい感触とちょうど良い温かさがなっちの顔を包み込んでく……。
なんだか、男の人の気持ちが判るような、そんな気がした。
「圭ちゃんてば、サイコーだよぉ」
「はい?」
「これからもこうやってパフパフさせてねっ」
「なっ!」
圭ちゃんの身体が一気に暖かくなった。
- 303 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/07(日) 03:33
-
なんだか今年の冬は暖房なんか要らないかも。
はぁ〜、アロマテラピーとかヒーリングミュージックで癒されるのもいいけど、なっちにはこれが一番だよぉ。
パフパフもできる圭ちゃんの胸、そんな胸を一人占めできるなっちは幸せものですっ。
〜FIN〜
- 304 名前:編集後記 投稿日:2003/12/07(日) 03:34
-
二夜連続の“圭ちゃん生誕SP”いかがでしたでしょーか?
まあ言わなくても判ると思いますけど、最初が圭ちゃん視点で、後がなっちゃん視点です。
今まで執筆したやすなち短編の中でも一番甘いかと……。
以前感想にて、冷めた圭ちゃんに慣れないとのご指摘を頂いたので、
せめて短編だけでもと思い、甘〜く仕上げまひた。
まあ、どこにでもあるようなシチュエーションですが、少しでも萌えていただけたら恐縮です。
次回は“Xmas SP”でふ。
- 305 名前:追伸 投稿日:2003/12/07(日) 03:35
-
CP分類板に当作、及び前作、前々作を紹介してくださった方に厚く御礼申し上げます。
(今頃気付きまひた、ごめんなさひ)
ただ、一つだけ言わせていただくと、【やす×1・2期】スレにおける、当作の紹介文の項目8は、
サブではなくてメインですので(我侭言ってごめんなさひ)
でも、紹介文がちょっと誉め過ぎな気がするなぁ……なんて思ってもみたり。
- 306 名前:お返事 投稿日:2003/12/07(日) 03:43
-
>名無し読者さん
なつみ「短編、頑張りましたよっ」
圭 「ちょっぴり甘いですけど……」
なつみ「読んでね〜」
>本庄さん
なつみ「圭ちゃん、どうしたの? 本庄さん連れて」
圭 「へへ〜、貰っちゃった」
なつみ「え〜、ダメだよ〜。本庄さんはなっちが前に貰ったんだから」
圭 「そうなの?」
なつみ「だった前になっちのお部屋にいたことあったしぃ・・…」
圭 「……」
なつみ「一夜を共にした仲だもん」
圭 「……本庄さんのバカァーッ!(去)」
- 307 名前:ビギナー 投稿日:2003/12/07(日) 22:05
- お久し振りです。
長編も、短編も、絶好調ですね。素晴らしいでございます。
短編の2作目の301の、安倍さんが
たらこさんの姉の白子さんに見えるのは気のせいでしょうか?
気のせいですよね。なっちゃんにかぎってそんなこと・・・・
ではでは、長編の方も楽しみにしていますので、
がんばってください。影ながら応援してますので。
- 308 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/08(月) 19:09
- 初めまして〜。
うっぱさんの小説前から大好きでした!!
もう圭ちゃん&なっちゃん最高です。
甘々で萌え死にそうです・・・(*´∀`*)
うっぱさんの書かれる文章はほんと良いです!惹きこまれます!
これからもがんばってください〜!
- 309 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/09(火) 21:39
- なっちきゃわいい・・・
勿論圭ちゃんも凄く良いですけど
なっちが・・・きゃわいい
- 310 名前:ご報告 投稿日:2003/12/12(金) 04:39
-
あの“幸薄少女”が帰ってきます!
『Epitaph 〜revival〜』
KU、かおけい、やすなち、やすやぐ、やすごま、そして……幸薄少女
に関するリクエストのみ、受け付け可
近日公開予定(どっかの板でHN変えてやります)
- 311 名前:お返事 投稿日:2003/12/12(金) 04:54
-
>ビギナーさん
圭 「なっちゃん、公私混同はよくないよ?」
なつみ「ち、ちがうもん! あのキャラとなっちは別人だもん」
圭 「でも見てる人には一緒……」
なつみ「違うのっ! 訛ってないから別人だってば!」
圭 「なんだ別人か。可愛いと思ったんだけどな〜、あの娘」
なつみ「ええっ!! や、やだ、圭ちゃん。そんな、もぉ〜(ポッ)」
圭 「なんでなっちゃんが紅くなるの? 関係無いじゃん」
なつみ(うぅ〜)
>名無し読者さん
なつみ「新しいお客さんだ。はじめまして〜」
圭 「隠れファンの方がいるとなんだか嬉しいよね」
なつみ「これからも頑張って圭ちゃんとイチャイチャしないと(ガッツ!)」
圭 「いや、イチャイチャしなくても……」
なつみ「なっちは圭ちゃんと○○○して×××するから応援してね〜」
圭 「わっわっわ! と、とにかく、今後ともよろしくお願いしますっ!」
>名無し読者さん
圭 「なっちゃんが可愛いって」
なつみ「いやぁ〜、照れちゃうなぁ〜」
圭 「きゃわいい〜って表現からして、もうメロメロじゃない?」
なつみ「えへへっ」
圭 「……」
なつみ「それもこれも圭ちゃんのお陰だよっ、ありがとね(チュッ)」
圭 (あーっ!! もー、誰も見てなかったら押し倒して○○○したいのにぃーっ!)
- 312 名前:本庄 投稿日:2003/12/15(月) 14:25
- 圭ちゃんの胸に甘えてるなっちにKNOCK OUTされますた…。
あ、鼻血が…。
やっぱ甘甘な二人が大好きっす!
圭ちゃん!確かに私はなっちのものでございます!(おい)
でもなっちのものは圭ちゃんのもの!(おいおい)
でもって圭ちゃんのものもなっちのもの!(おいおいおい)
つまり私は二人のものなのれす!!!(おいおいおry)
…痛いな…自分…。
- 313 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/22(月) 03:58
-
【淋別 〜新しき日々へ〜】
- 314 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/22(月) 03:59
-
予告通りに別れの日はカオリたちの上にやって来て、ここを出ていく圭ちゃんとここに残るカオリとを解いた。
禁断の恋なんていういかにも洒落たカッコイイものではなくて、本当に命がけだったこの恋。
やっとの想いで掴んだひとひらの幸せは液体のように流れ落ちていった。
いつかはこんな日が来るなんて、付き合い出した頃からなんとなく判ってた。
だけど……こんな形で終わるなんて。
「本当に行っちゃうの?」
「しょうがないよ。これ以上、カオリや他の娘等に迷惑かけられないから……」
「離れたくないよぉ……」
「アタシだって……そうしたいけど……けど」
圭ちゃんと別れれば、今まで通りに何不自由なく暮らせる。
だけど圭ちゃんと別れなければ、二度と会うことも出来なくなっちゃう。
明日の自分のために愛を捨てるか、愛のために人生を棒に振るか、二つに一つ。
今まで「サヨナラ」なんて何度もして、その度に平気になってった。
会おうと思えばいつ、どんな時だって会えたし、会う度に笑い合えたから。
だけど今度は、今度だけは上手く自分の気持ちを抑えられない。
- 315 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/22(月) 04:00
-
夕暮れの歩道、荷物を持ってカオリの数歩前を歩く圭ちゃんの後ろ姿。
カオリより背が小さいのに、カオリより後からこの世界に入ってきたのに、
いつの間にかカオリの方が懸命に追いかけてた。
でも、そんな追いかけっこも今日が最後……。
明日へと滑り出していく圭ちゃんに向かって加速するカオリの想い。
思わず駆け寄って、きつく背中から抱きしめる。そっと手に添えられた愛しい人の手が更に想いを募らせる。
「ヤダよぉ……行かないでよぉ……行っちゃヤダァ……ヤ…ダァ……」
「……」
「カオリ……圭ちゃんが…いてくれないと……ダメに…なるよぉ……壊れ…ちゃう」
「……ごめん」
「けぇ……ちゃ…ん……」
カオリの腕に一滴の雫が零れ落ちた。
カオリが悲しみで震えていたように、圭ちゃんも肩を震わせていた。
別れを決断した時、これでもかって思うぐらいに号泣しちゃったカオリに対して、
圭ちゃんは最後の最後まで揺れ動く心を隠しながら、目は前を見つめていた。
けれど心の中は、同じ気持ちでいてくれたんだ。
- 316 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/22(月) 04:01
-
「ちゃんと……見てるから……ずっと……見てるから」
「……」
「アタシの分まで……頑張ってるカオリを見てるから……」
圭ちゃんがいう言葉には嘘がない。
だから、今日まで隣りを同じ歩幅で歩いて来れた。
圭ちゃんの事だ、きっと10年も20年もカオリのことを想っててくれるんだろう。
カオリのこれからのこと全てを理解してくれてるんだろう。
それだけ圭ちゃんにとってもカオリの存在は大きかったに違いないんだ。
とっても嬉しいけど、やっぱり……離れるのは辛いんだよ?
「ホラ、最後くらいちゃんと笑顔で見送ってよ」
「だって……だってぇ……」
「カオリの笑顔、心に閉っときたいんから、さ」
何度となく見てきた圭ちゃんの癖。
キザな台詞や、正論めいたことを言った後に横向いて恥かしそうにする癖。
そんな律儀な圭ちゃんの照れ笑いは夕闇に煤けてたし、その上カオリの顔はたぶん涙で歪んでたはず。
だってそんな台詞を聞けるのも今日で最後だから。
- 317 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/22(月) 04:02
-
人込みの激しい電車のホームで、いい年こいた大人の最後の悪あがき。
周りの人たちの目なんて関係なく、泣き声で駄々を捏ねた。
「行っちゃヤダっ、ヤダヤダっ! 行かないでっ!」
「カオリ……」
「ずっと一緒にいるって言ったじゃないっ! 一緒に夢に向かって歩いていくって約束したじゃないっ!」
初めて圭ちゃんと二人で語った時に誓った夢。
同じ言葉で長い間括られてたその夢は、些細な過ちでバラける結果になった。
圭ちゃんはまだ見ぬ第二の人生へ、カオリはこの道でそれぞれ気持ちを向けて歩いてく。
今をとにかく精一杯頑張る事しか知らなかったカオリと、未来を見つめながら今できる事をやって来た圭ちゃん。
目指していたものは同じでも進む方向は全く別だった。
カオリの問いかけに何も応えずに、ホームに滑り込んできた電車に乗る圭ちゃん。
今ならまだ引き止められるのに、カオリの身体は何も行動を起こしてくれなかった。
「ヤダっ! 行かないでよっ! 離れたくないよっ!」
「……」
「こっち向いてよ、圭ちゃんてばっ!」
ドアが閉まるまでずっと背中を向けたままだけど、その背中は圭ちゃんの言いたかった言葉を現わしていた。
「今までありがとう、大好きだよ」って……。
そして……そのまま圭ちゃんを乗せた未来行きの電車は夕陽に向かって滑り出していった。
- 318 名前:Tea Break 投稿日:2003/12/22(月) 04:03
-
駅前の道、人混みに揺られながら歩を進める度に零れ落ちていく圭ちゃんに対する様々な想い。
それだけじゃなく、圭ちゃんが残してくれた表情、言葉、気持ち……その全てがカオリを支え育ててくれた。
それが今、音もなくカオリの全身から掠れていく気がした。
この先、これからカオリは何を抱いて生きていくんだろう?
何を支えにしていけばいいんだろうか?
カオリに新しいパートナーが出来たとして、いつかどこかで巡り会えたら、
カオリは圭ちゃんの笑顔に上手く応えられるのだろうか?
けれど、これだけははっきりと言える。
この先、10年経っても20年経っても、カオリは圭ちゃんのことを想うだろう。
圭ちゃんに新しい恋人ができても、カオリよりも先に人生を終えてしまっても、
カオリはずっと、ずっと圭ちゃんのことを想ってる。
カオリが愛し、カオリを愛してくれた初めての人だから……。
〜FIN〜
- 319 名前:編集後記&お返事 投稿日:2003/12/22(月) 04:05
-
"Xmas SP”前夜祭です。
なので、ちょっと浮気(?)して"かおけい”をお届けします。
メインは二日後にでも……。
>本庄さん
なつみ「もぉ〜、本庄さんてばなっちがいないとダメなんだから〜。はい、ティッシュ(キュッキュッ)」
圭 「それに三段論法、用いて凄いこと言ってるし」
なつみ「最後の"つまり私は二人のものなのれす!!!"っていうセリフやばくないかい?」
圭 「どう解釈しても、"私は二人の奴隷です"って言ってるようなものだもんね」
なつみ(ど、奴隷だなんて……ヤダ、なっち、ヘンな事考えちゃった! うわっ、うわっ、うわっ!)
圭 (奴隷か……どれい……ドレイ……ドレイファソラシド〜♪♪ ……つ、つまんねぇ〜)
- 320 名前:Tea Break 2 投稿日:2003/12/23(火) 03:35
-
【懐想 〜貴方と生きた季節〜】
- 321 名前:Tea Break 2 投稿日:2003/12/23(火) 03:36
-
私には保田さんがいないとダメなんです。
保田さんが娘。を卒業してから、もう半年ですね。
なのに、私にはもう何年も前の事のように思えてしまうんです。
同じ番組に出ていても、コーナーが違うからお互い擦れ違うばかりで、
保田さんを見ることができるのも、もうテレビだけになっちゃいました。
画面の中から聞こえてくる聞き慣れた声と、特徴的な目。
フィクションなのに、一緒に共演している小坊主の四人に思わず嫉妬してしまう私。
ちょっと似合わない和尚さん役だけど、見ているだけで淋しさがこみ上げてくるんです。
保田さんと一緒に過ごした日々の事ばかり、思い出してしまうんです。
- 322 名前:Tea Break 2 投稿日:2003/12/23(火) 03:37
-
私には保田さんがいないとダメなんです。
最近妙に涙もろくて、些細な事でもすぐに涙腺がウルウルしちゃうんです。
ホントに悲しいのに、周りに人たちは声を揃えて、嘘泣きって言われちゃって。
けれど……保田さんは、すぐに気付いてくれて、何も言わずにハンカチを差し出してくれるんですよね。
それでも泣き止まなかった時なんかは、黙って人気の無いところに連れ出して、
そっと抱きしめてくれて、頭を撫でてくれましたね。
この頃、昔からの悪い癖がまた再発しちゃって、一日が終わる頃にはネガティブモード全開なんです。
周りの人たちはまたかって感じで、そ知らぬ顔してそそくさとその場を後にしていっちゃうんです。
けれど……保田さんは、ちゃんと気にかけてくれて、気軽に夕食に誘ってくれるんですよね。
時には自分のお家にまで連れ込んで、立ち直るまでケアしてくれましたね。
- 323 名前:Tea Break 2 投稿日:2003/12/23(火) 03:38
-
私には保田さんがいないとダメなんです。
楽屋にいても誰とも話とかしないし、話しかけてくる人もいないんです。
自分から話しかけようとすると話題が合わずに、いつの間にか蚊帳の外なんです。
けれど……保田さんは、自分のしていた事をやめてまで、ちゃんと付き合ってくれるんですよね。
どんなに中身の無い話でも、興味の無い話でも、話の腰を折らずに最後まで聞いてくれましたね。
収録とかでも、一人浮き足立っちゃってる時があって、突っ込まれる事もほとんどないんです。
冗談で罵られたり、疎ましがられたりしてる、と判っててもどこかで本音かなって思ったりするんです。
けれど……保田さんは、細かいことでもちゃんと拾って突っ込んでくれるんですよね。
どんなに酷い事言っても、どんなにスベっても、オチがつくまで付き合ってくれましたね。
- 324 名前:Tea Break 2 投稿日:2003/12/23(火) 03:39
-
やっぱり私には保田さんがいないと、ダメみたいなんです。
本当はずっと保田さんの傍に居て、保田さんを感じていたいんです。
ベタベタするのが苦手な保田さんとはいつも少しだけ距離がありましたよね。
その僅かな距離が私には何千キロにも遠く感じてたんです。
けれども、その距離が却って保田さんの色々な面を見せてくれたのも事実です。
そんな私の指定席だった保田さんの隣りは、もう私だけのものじゃないんですよね。
本当はもっと保田さんの愛情が欲しいんです。
初めて出会った時から保田さんが卒業するまで、一日たりとも欠かすことなく注いでくれた愛情。
時にはおちょこ一杯程度の時もあれば、1.5リットルもの大容量の愛情を貰った日もありました。
あるいは真っ赤になるくらいの甘い愛情から泣きそうなほど苦い愛情の時もありました。
でも、溢れ出しそうなくらいに毎日貰っていたあの暖かい愛情が、この半年ですっかり無くなっちゃいました。
- 325 名前:Tea Break 2 投稿日:2003/12/23(火) 03:39
-
やっぱり保田さんがいないと私、ダメみたいです。
保田さんの愛と勇気をもう一度私に恵んでくれませんか?
ずっとじゃなくていいんです。今日だけでいいんです。
今日だけは私の我侭、許してもらえますか?
今日だけは私がずっと傍にいてもいいですか?
今日だけは目一杯、保田さんの愛情貰ってもいいですか?
今日だけは……。
- 326 名前:Tea Break 2 投稿日:2003/12/23(火) 03:41
-
◇ ◇ ◇
「ふぅ〜ん。それで、圭ちゃんがここにいるわけね」
呆れたような顔で石川を見るオイラの目の前には、お疲れモードの圭ちゃんがいて、
その横には全くもって悪気がないように、ニコニコしてる石川がいる。
「そうなんだよ。ったくたまたまオフだったからよかったけどさ」
「え〜、昨日はそんなこと、一言も言ってなかったじゃないですかぁ〜」
「人ん家に連絡も無くやって来て、急に抱きつかれた挙句に泣かれたら、放っておけないだろーが!」
「そんなに怒らないで下さいよ〜。石川は十分嬉しかったんですから〜」
「アンタはいいでしょうけど、アタシはどうなるのよ?」
「いいじゃないですかぁ。石川と一緒にいましょうよ〜」
「断るっ」
「えぇ〜、保田さぁ〜ん」
他のメンバーがいるのにも構わず甘え始める石川と、それを鬱陶しそうに交わす圭ちゃん。
まあ、好きなのは判るけど、こうまでベッタリだと圭ちゃんが不憫に思えてくる。
っていうか他のメンバーが明らかに不服そうな表情でチラチラ見てるし。
まあ、久し振りに会ったんだし、話ぐらいはしたいんだろうなぁ。
- 327 名前:Tea Break 2 投稿日:2003/12/23(火) 03:42
-
こういっちゃあなんだけど、何気に圭ちゃんや裕ちゃんって人気あるんだよね。
矢口やカオリ、なっちは同じ釜の飯を食べた仲っていう感じだし、よっすぃーたちには可哀相にオモチャ扱いだし、
高橋たちには頼れる先輩、目標って感じだからなぁ。二人とも大人だし。
「これじゃあ、圭ちゃん、娘。卒業した意味無いよね」
「ホントだよ。アタシの生活返してよ」
「いいじゃないですか〜、石川と一緒ですよ?」
「もう飽きたよ、アンタの面倒見んのは」
「いっその事戻ってくれば?」
「それは勘弁してよ」
「戻ってきてくださいよ〜」
「イ・ヤ・だっ」
石川の圭ちゃん離れはまだまだ先みたい。
でもちょっぴり、圭ちゃんには戻って欲しかったりする。
だってサブリーダーっていう仕事がいかに大変かを思い知ったから。
だって矢口は圭ちゃんに追いついていないから。
それに……石川への対応にはみんな困ってて、圭ちゃん以外には上手く扱えないから。
「じゃあ新メンバーとして再加入しましょう」
「「はあ〜?」」
「オイ保田、お茶持って来い」
「ふざけんなっ!(バシッ!)」
「いった〜いっ」
〜FIN〜
- 328 名前:編集後記 投稿日:2003/12/23(火) 03:44
-
“Xmas SP”前夜祭 その2です。
またまた浮気(?)して“やすやぐと幸薄少女”をお届けしまひた。
明日、メインをお届けします。(当然あの二人+αで)
- 329 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:11
-
【真 想 〜貴方のためにできること〜】
- 330 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:12
-
アタシは初めて逢った時から安倍なつみが密かに好きだった。
でも、それは俗に言う恋に恋している状態だったと思う。
彼女の笑顔を近くで見ることができるだけで、十分だった。
彼女が他の娘とじゃれていたりするのを見ても、それほど苦には思わなかったから。
むしろ、本気の恋なんて十代だったアタシには、猫に小判のようなものだったに違いない。
そんな中で、彼女に対する蒼い想いが真紅の恋情に変わったのは、あの現場を目撃した時からだった。
- 331 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:13
-
◇ ◇ ◇
新曲のPVの撮影の時だった。
アタシは空き時間に暇を持て余し、散歩がてらスタジオ内を歩き回っていた。
ちょうど季節の変わり目で、外は春の足音がすぐそこまで迫っていた。
建物の中がやや暑かったせいもあって、アタシは少しのぼせそうになっていた身体を冷まそうと
外へ出られるところを探していると、楽屋とは反対側にある非常階段の扉が開いていたので、
そこから外へ出ようと、アタシの足が一歩外へ出た時だった。
「ウチは本気で矢口が好きや。誰にも渡したくない」
「裕……ちゃ…ん」
「裕ちゃんじゃ……あかんか?」
非常階段の真下辺りから聞き慣れた声が二つ耳に届いた。
そっと見下ろすと、衣装の上にコートを羽織って、いつになく真剣な顔をした裕ちゃんと、
同じように衣装の上に同じくコートを羽織って、真っ赤になった矢口がいた。
そして……やや離れた二人の死角になるところに、彼女が隠れてジーッと二人を見つめていた。
アタシからは判らなかったけれど、目にはたぶん綺麗な雫を溜めいた……と思う。
遠目からでも小さな肩が小動物のようにか弱く震えていたから。
- 332 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:13
-
彼女が密かに裕ちゃんに恋心を抱いていたことは前から知っていた。
アタシたちに見せる顔と裕ちゃんに見せる顔は、端から見れば一緒のように見えても、
アタシには全く違ったものに見えた。
そう見えたのは、彼女に対して恋心を抱いていたからだろう。
だから……アタシは彼女にそんな顔を見せることができる裕ちゃんに嫉妬していた。
ただ傍に居るだけで、彼女を虜にしてしまう裕ちゃんが憎かったし、羨ましかった。
けれどそんな儚い彼女の想いを知らずに、裕ちゃんは既に違う娘
――栗鼠のようにチョコマカ動く同期の娘を見ていた。
アタシは耳で二人の会話を聞き、視線は彼女を追っていた。
真冬の青空に佇む彼女、今すぐにでも傍に行って抱きしめてあげたい……何故かそう思った。
そのうち胸の辺りから、鋭利な物で突き刺さされたような痛みを感じ始めた。
なんだろう、この切ない胸の痛みは……?
そして急に、彼女がアタシの視界から消えたと同時に、下から聞こえてくる会話が途切れた。
そっと見下ろすと、二人は熱い抱擁とキスを交わし、幸せそうな表情をしていた。
その瞬間……アタシの中で何かが芽生えた。
この時からアタシはいつか裕ちゃんと同等の、もしくはそれ以上の人間になろうと思った。
全ては彼女のために……。
- 333 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:14
-
◇ ◇ ◇
あの出来事からアタシは変わった。
今まではムキになって前へ前へと自分をアピールしていたのを止め、冷静に場の状況を見つめ、
その場に何が必要で、その為に自分が今出来ることは何なのかを考えて、行動する事にした。
俗に言う「裏方に徹する」ことに専念した。
そんな時に、ふと雑誌で、とある有名ロックバンド出身の方が自分のパフォーマンスについて
コメントしていた記事を見つけた。
『演奏中に何のリアクションも取らないのは、自分がベーシストだからとかじゃないんです。
自分に合わないだけですよ。無理してなんかやったってシラけるだけでしょ?
だったら自分はきっちりビートを刻んで、ボーカルやギターが自由に表現できる環境を作ってやろうと。
自分が出来ない分を任せますけど、その分ちゃんと土台は支えてあげますから、安心して下さいって。
それがお互い判ってくると、結構楽しいもんですよ。たまにお互いが遠慮しちゃったりなんかしたりね。
バンドに限らず、人と何かをやっていくのにはそうした些細な事が大切なんじゃないかな』
アタシの心の中を察したような、それと同時に今の現状に当てはまるインタビュー記事だった。
ようやくグループも売れ始めて、人気も上がって来たはいいけど、
みんなが皆自己アピールに走り、統制が取れない状態になりつつある。
もしこのまま行けば、やがては……。
行く末が見えてしまったアタシは、決意を新たにした。
理由なんか自分でも上手く説明できないけれど、そうするしかなかったし、そうしたかった。
- 334 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:16
-
本当の目的がズレてる気がしたけれど、とにかく自分に出来ることをしてみた。
やがてそうした行動は、アタシをグループ内で一番目立たない存在へとさせていった。
それが気に入らなかったのか、事務所やマネージャーからは事あるごとにお叱りを受けた。
けれど、そうなることは最初から判っていたし、自ら進んでやったことだからアタシは妥協しなかった。
時には既に自分のキャラを確立した矢口にもっとアピールしたらと小言を言われたり、
ある時にはアタシの控えめな行動の事で圭織や裕ちゃんと口喧嘩までした。
その結果、アタシは一人浮いた存在になった。
自意識過剰や自己中とかいう問題における浮いた存在ではなく、存在自体あやふやな状態。
それは言葉の暴力や悪質な苛めよりも辛いかも知れない。
何しろアタシという人間に対して関心が全くない、いわば「あかの他人」だから。
完全にグループの中で孤立してしまったアタシが、自分の行動に後悔し始めた頃だった。
一本の電話がアタシに勇気と、自信と、夢を与えてくれた。
彼女の一番近くにいて、本当の彼女を常に引き出してきた仲間からだった。
――福田明日香――
- 335 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:16
-
◇ ◇ ◇
相変わらず俯瞰的なものの見方と、大人顔負けの意見を持つ明日香。
端から見ると可愛げのない人間に思われてしまうけれど、本当はピュアすぎて妥協することが出来ない、
そんな性格の明日香をアタシは心の師として今でも尊敬している。
明日香も明日香で、歳が一番近くて傍にいても何故か安心できた紗耶香と、
人見知りが激しくミステリアスなアタシには、口が硬そうだったからという理由で
よく自分の本心を包み隠さず、話してくれたことがあった。
そんな明日香と久し振りに会うのに、緊張している自分がいた。
我ながら情けないと思う反面、妙に大人ぶっていた自分に苦笑してしまった。
相手が大人ならまだしも、自分より年下の人間に会うのに大人ぶる必要なんてない。
笑ったことでいくらか緊張が解れてきた頃に、約束の時間よりも十分ほど早く明日香はやって来た。
先に来ていたアタシを見つけると、片手を上げて照れ笑う明日香。
それでいて開口一番に「目つきが怖いねぇ、相変わらず」と毒舌をかましてくる。
外見は変わっても中身は昔のままの彼女に、何故か安心する自分。
そんなアタシの心を見透かしてか、話の核心をついてきた。
- 336 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:17
-
「圭ちゃん、なんか随分外れちゃってるね」
「……端から見てても判るんだ?」
「まあね。みんなの事は一応知らない間柄じゃないしね」
「…………」
「でも、圭ちゃんは顔にすぐ出るから一番判りやすいかも」
「そうかな?」
「そうですとも。例えば、誰かさんが裕ちゃんとじゃれてると、力の入った視線投げかけてるし」
「うそ、そんなに出て……ん?」
明日香が口元だけを上げてアタシを見つめる。
何となく察しはついた。昔から人間観察においては明日香の方が一枚上手だったから。
「圭ちゃん、なっちのこと好きでしょ?」
「……それも既にお見通しですか」
「そりゃ、なっちの一番の理解者だったからさ、あの頃は」
「相変わらず、鋭いね」
完全にお手上げだった。
アタシは自分の恋心も考えも全てが、明日香の手の平で転がされているような気分だった。
「なっちが好き……だけど、今のままじゃ、振り向いてくれないから自分に自信をつけてるんでしょ?」
「そうだよ。なっちは頼れる人が好きみたいだから。その為には周りに認められないといけないでしょ?」
「それで自ら裏方に回ってるんだ?」
「そこまで知ってたんだ……とてもじゃないけど17、8の女の子には見えないよ」
「そりゃどうも。で、そんな生活、いつまで続けるの?」
「なっちを含めて周りから認めてもらえるまで……かな」
「じゃあ、もう十分だね」
「へっ?」
アタシはスットンキョな声を上げて明日香を見つめた。
アタシの反応にクスッと笑うと明日香は、紅茶を一口啜って話し始めた。
- 337 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:18
-
「圭ちゃんは気づいてないかもしれないけど、なっちは圭ちゃんのこと気にしてると思うよ」
「なっちが?」
「うん。この間、久し振りに電話で話した時もそんなこと言ってたし」
「またぁ、そんな嘘言って……」
「カッコいいってさ」
「う、嘘でしょ?」
「照れた?」
「な、何を言ってんのさ。アタシは別に……」
「フフッ、相変わらず純情過ぎるね。顔紅いよ?」
「……ほっといてよ」
明日香といるといつもこうだ。
からかわれるアタシを見て、微笑む明日香。
その笑顔は歳相応とは言えないほど大人びている。
「それはいいとして、たま〜にテレビで見ると、何となくなっちの視線の先は圭ちゃんの方だったりするし。
それに雑誌とか読むと、業界の人は認めてるみたいだよ、圭ちゃんの事」
「そ、そうなの?」
「見てる人はちゃんと見てるって事だよ。まあ、本人は気付かないだけなんだろうけどさ」
「……」
「だからもう十分じゃない? そろそろ向き合ってみたら?」
「でもね、一つクリアしてないことがあるんだ」
「裕ちゃんでしょ?」
2杯目のコーヒーを口にする手が止まった。
ふいに横を横切った今時の女子高生たちに目がいく。
本当に目の前にいるのは、今横を歩いてた女子高生と同じ年頃の子なのだろうかと思ってしまった。
しかし、ここまでバレてしまったのならば話しは早い。
こうなった以上、アタシは腹を決めて全てを明日香に告白した。
- 338 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:18
-
「すごい努力してんだね」
「裕ちゃんにだけは認められないと、なっちには言えないからね」
「自信はあるの?」
「今んとこ、五分五分……かな」
「……大丈夫だよ。それに裕ちゃんに認められなくてもいいじゃん」
「何気にひどい事言うねぇ」
「ふふっ。でもさ、考えてみてよ。裕ちゃんに頼る前に、なっちは年下の私を頼ってたんだよ?
その私が圭ちゃんを認めてるんだから、もう十分でしょ」
「……明日香はアタシの事認めてくれるの?」
「前からそうだけど? 今日だって本当は、それを言いたかったから逢ったの。
初代のメンバーだった私が言うんだから間違いないよ。
圭ちゃんはもう十分、なっちや裕ちゃんに追いついてるよ」
「明日香……」
「圭ちゃんなら、安心して見てられるからさ……だから、なっちを……よろしくね」
そう言ってちょっと照れ笑う明日香は、いつの間にかそこいら辺を歩いている少女と何ら変わらなかった。
アタシは最も強力で、絶大な影響力を持つ先輩の了承を得たと同時に、
なにか大切なものを引き受けたような気がした。
- 339 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:19
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◇ ◇ ◇
明日香と逢ってからも、アタシは自分のしていることを貫き通していた。
たとえ人から地味だ、業界に向いてないなどと愚弄され続けても、全て無視した。
仮に受け入れてしまったら、なんだか全て事から見放されそうで、怖かったから……。
けれどもそうした日々の努力が好を奏したのか、いつの間にか周囲に受け入れられるようになっていた。
圭織や矢口から頼られる事も増え、後藤には「けーちゃんてカッコイイねぇ〜」なんて誉められたり。
後から聞いた話だが、石川たちにも加入前から崇拝されていたらしい。
そして何より嬉しかったのは、密かにライバル視していた裕ちゃんが、口喧嘩をした日を境に
アタシを認めてくれていたことだった。
これでアタシはようやく、彼女に近づける権利を得る事ができた。
あの日、明日香から彼女がアタシのことを見ていると聞かされたけれど、
それでもまだ判らない様に今日まで彼女とは距離を置いていた。
理由は二つ。
一つは自分に彼女を支えられるほどの「自信」がまだしっかりしていなかったから。
明日香にはお墨付きを頂いたけど、ちゃんと自分自身で自覚したかった。
もうひとつは、自分の中で制限――裕ちゃんに認めてもらうまでは彼女に手を出さない――を設けていたから。
裕ちゃんに認められなければ、いくら自分を彼女に売り込んでも、自滅するのが判っていた。
それほど彼女の中で裕ちゃんのという存在は大きいものだと今でも思っている。
けれど、ようやく自ら課した制約から解放される時がきた。
- 340 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:20
-
彼女は相変わらず情緒不安定だった。
傍目にはごく普通に周りと噛み合っているように見えても、アタシにはそんな彼女が偽りの姿に見えた。
だから周りの人間は、彼女のちょっとした淋しげな表情や危なげな行動にも気がつかなかった。
でもアタシは、彼女のふと気を抜いた時に見せる切ない表情を何度も見てきた。
彼女は今、路頭に迷ったか弱い仔猫のように、何かを求めている。
(その「何か」にアタシがなれれば、彼女はきっと救われるんだ。イヤ、アタシが救うんだ)
自信がふつふつと沸きあがってくる。
けれども、前向きな考えの裏にはもう一つの考えがへばり付いていた。
(アタシは彼女に笑顔を取り戻せるのだろうか、彼女を天使にさせることが出来るのだろうか)
ここに来て躊躇いが生じてしまったのも事実だった。
けれど、これ以上彼女には似合わない表情をさせたくないという気持ちと、アタシより年下のくせに
妙に偉大な先輩が託してくれた物がアタシを後押ししてくれた。
アタシは意を決して、彼女と向き合うことを選んだ……。
- 341 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:21
-
◇ ◇ ◇
ある日の午後、とある雑誌の撮影の時だった。
撮影は個別で順調に進み、楽屋には最後のアタシとその前の彼女だけ。
彼女は今だ偽りの自分を装っていて、手鏡で仮面の自分を見つめていた。
アタシはそっと彼女の目の前に行き、手鏡の横から顔を出した。
「どうしたの、最近元気ないね」
「そ、そうかな?」
「……」
「なに? そんなにじっと見つめて。て、照れるじゃん」
「……」
誤魔化そうと無理して取り繕う小さな肩に両手を添えて、アタシはじっと彼女の瞳の奥深くを見つめた。
こんなことを言うと失礼かもしれないけれど、彼女の瞳には靄が掛かって汚れていた。
不安、恐れ、自失……。
思ったよりも深刻な靄は、そんじょそこらの風圧で消えそうな感じじゃなかった。
「な、なに? どうした……の?」
「悩んでると、自分をダメにするよ」
「悩みなんて……ない…よ」
「隠しててもわかるよ」
「なんでわかるの?」
「歳の差……かな」
「一つしか違わないじゃん」
「一歳の差は大きいんだって」
「……」
アタシは、変に感づかれないように彼女の前で微笑んでみせた。
彼女はまるでアタシに全てを見透かされたかのような顔をして、何も言えずにアタシの瞳を見つめてきた。
アタシは正面から向い合って、彼女を取り巻く「負のオーラ」を打ち消していく。
じっと見つめ合ううちに、段々と彼女の瞳の奥に灯りが見えてきた。
……きっかけは掴んだ。
- 342 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:22
-
「アタシには何もできないことかもしれないけど、話ぐらいは聞くこと……できるよ」
アタシはそう言いながら、彼女の優しそうな手を取って、彼女と同じ目線で彼女を受け入れようとした。
あの時は彼女を受け入れる余裕と自信がなかったけれど、今は堂々と彼女を包み込む事ができる。
でもこの時、アタシはたとえ彼女がアタシを必要としてくれなくても、それでもいいと思っていた。
この時のアタシには「安倍なつみ」という女の子が好きということよりも、
天使と美称されるいつもの「安倍なつみ」に戻って欲しい気持ちのほうが強かったから。
すると彼女の小さな身体が一瞬震え、頬を一筋の雫が伝っていった。
彼女の中に充満していた毒素がようやく抜けていく。
アタシは狼狽することなく、取り出したハンカチでそっと雫を拭き取るほど冷静に対応した。
そして、静かに弱っていく彼女に向かって語りかけるように言った。
「アタシでよかったらずっと傍にいてあげるし、いつまでも見守っててあげるよ。
それでも不安なら強く抱きしめててあげるから」
「そんなんじゃ、圭ちゃんが苦しむだけだよ?」
「そんなに頼りないかな?」
「そんなコト……ない」
「じゃあ、これでどう?」
アタシは最後に彼女を温かく腕で包みこんだ。
言葉より行動が先に出るのは元来からの癖かもしれない。
でもこの時ばかりは、行動が先で良かったと思っている。
元々口下手なアタシだから、上手く言葉に出して彼女を慰めるのは無理だと思うから。
- 343 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:22
-
静かな楽屋に撮影が終わったのか、カオリの声が遠くから届いてきた。
長い間彼女を懐に包んでいたアタシはゆっくりと彼女を解放すると、素の笑顔を見せてあげた。
たぶん、彼女には変な顔に映ったと思う。
でも、アタシが見せた笑顔に何かを感じとって欲しい気持ちがあったから、
笑顔が引き攣ってても、多少不恰好でもどうでもよかった。
「ホラ、早く涙を拭いて、いつものなっち見せてよ」
「いつもの……なっちを?」
「そう。本当のなっちをね」
「本当の……なっち……」
「愛想笑いじゃなくて、見ている人が幸せになれるような"なっちスマイル"、期待してるよ」
アタシはガラにもないような臭いセリフを言っていた。
そうこうしているうちにカオリが戻ってきて、次の出番である彼女を急かしていた。
彼女が楽屋を出ていく際、アタシの方を見て、何かを言いたそうにしていた。
アタシは微笑んで、軽く手を振って彼女を見送ってあげた。
これでいいんだ……。
完璧ではないけれど彼女は立ち直るきっかけを掴んでくれた、と一人納得していた。
明日香が見ていたら、鼻で「意気地なし」って笑われるかもしれない。
今回は彼女に告白できなかったけれども、それはまた日を改めてしよう。
そうして頭の中を仕事モードに切り替えた。
- 344 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:23
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◇ ◇ ◇
その後、仕事も段々と充実してきたせいで、清々しい気分で帰宅する日々が続いた。
アタシは縁の下の力持ちのような存在としてグループに携わっている。
目立たないけど、でも十分今のポジションには満足していた。
そんなある日の肌寒い夜、いつもより遅くなって足早にマンションに戻った。
今日も気持ちよく眠れそうだ、と思いながらエレベーターが目的の階に着いた時だった。
やや薄暗い廊下の奥にあるアタシの部屋の前に、ちょこんと彼女が一人座っていた。
妙な充実感で気分がハイになっていたアタシは、自然といつもの冷静さを取り戻していた。
彼女に近付いていき、そっと彼女の前に手を差し出す。
顔を伏せて少しだけウトウトしていたのか、ようやくアタシの気配に気付いた彼女は、
アタシの顔と手を交互に見つめた後、手を取って立ち上がった。
「風邪、引くよ? そんな薄着じゃ」
「……」
「と、とりあえず、あがってよ」
「……」
「うち、あんまり人が来ないから何にもないや……ハハハ」
「……」
中に招き入れて、なるたけフレンドリーな感覚で声を掛けても彼女は何も言わなかった。
彼女は、まだ迷っているようだった。
けれども、瞳の奥は何かを必要としているような、何かを探しているような、そんな感じだった。
ひょっとしてまだ、彼女を束縛する何かがあったのだろうか、と彼女の瞳を見つめ返した。
けれど、彼女は視界にアタシを入れないように目を逸らした。
(ここまできて嫌われちゃったか……)
一瞬「諦め」の二文字が頭を過った。
- 345 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:24
-
少しだけ気まずくなった雰囲気を払拭したくて、とりあえず何か飲み物ぐらいは出そうと思い、
キッチンに行こうとした時、アタシの背中から温かい感触が伝わってきた。
背後から回された腕がアタシの身体をグッと引き寄せる。
「ど、どうした……の?」
「…………」
「なっ……ち?」
「…………」
「……怖い……の?」
何も言わずにアタシの身体を締め付ける力が強くなった。
彼女の名前を呼ぶ度に、腕に力が込められる。
アタシの両手はなんだか手持ちぶさたで、アタフタと宙を泳いでいた。
しばらく彼女に背中を貸したままの態勢でじっとしていた。
落ち着いた頃を見計らって、彼女と向き合おうとした瞬間だった。
彼女はアタシの背中越しからゆっくりと口を開いて話し出してくれた。
「圭ちゃん。……『アタシでよかったらずっと傍にいてあげる』って言ってくれたよね?」
「う、うん。アタシみたいな口下手で不器用な奴で良かったらだけど」
「……『いつまでも見守っててあげるよ』って言ってもくれたよね?」
「うん。つり目で怖くなければ、ね」
「……『それでも不安なら強く抱きしめててあげるから』って」
「い、言ったよ。ちょっと自分でもキザっぽかったけど」
「……」
先ほどからアタシの言った言葉を反芻している彼女。
と同時にアタシを締めつけるか細い両腕が、震えていた。
- 346 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:24
-
ようやく両手の使い道が決まり、彼女の柔らかな手の上に自分の手を添えて、彼女の言葉を待った。
フッと彼女の両腕から力が抜け、今度は優しくアタシの身体を包み込んでいる。
手や、腕、背中から伝わる温かさで、彼女が今、本当の彼女になっている事を悟った。
そして……彼女の身体から伝わる気持ちが増した時、彼女が言った。
「圭ちゃんの傍に……なっちを置いてくれる?」
「えっ」
「圭ちゃんがいつも見えるところになっちが居てもいい?」
「それって……」
「圭ちゃんの腕の中で……なっちを安心させてくれる?」
「……なっ……ち」
「今度から……圭ちゃんに……頼っても……いい?」
「……」
アタシは背中を彼女に貸したまま、身体を抱き締める彼女の手に自分の手を添え直した。
そして気持ちを込めてしっかりと力強く握った。
まるで念力で自分の気持ちを送るかのように強く、強く……。
その気持ちが受け入れられたようで、その証拠が涙となってアタシにも伝わってきた。
服に染み込む彼女の涙が、直接アタシの肌にも染み込んでいくように感じられた。
男の人の背中よりも狭くて、頼りない背中だけど、彼女の涙ぐらいは吸い込んであげられる。
だから、思いっきり泣いていいんだよ……。
- 347 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:26
-
しばらくそうしていた時、ふと疑問が湧き起った。
(しおらしくアタシの背中で涙する彼女がここまで頑張ったんだ、今度はアタシの番ではないか?)
そう思うとアタシはゆっくりと腕を解いて振り返り、少しだけ彼女を見据える恰好になった。
切なそうな顔つきでアタシを見つめる瞳に吸い込まれそうになりながらも、胸の内を語り出す。
「アタシも……言わなくちゃいけない事があるんだ。聞いてくれるかな?」
「……うん」
「あんまり言葉で表現するの、得意じゃないからストレートに言うよ」
「……うん」
「アタシはなっちが好きだよ」
「けぇ…ちゃん……」
「初めて逢った時から今日まで……ううん、この先もずっとなっちだけが好き。
この気持ちは誰にも譲れないし、誰にも負けないから」
「……うん」
「アタシはそう思ってるから、なっちはゆっくりと時間をかけてアタシのこと理解してくれればそれでいいから」
「……」
「焦らずにゆっくり待ってるから、だから、その……」
「なに?」
ここまで言っておいてかなり一杯いっぱいだった。
顔なんか真っ赤に染まって、ホント情けない表情してるんだろうな、と思う。
情けなくて申し訳無いけど、でもこれ以上気持ちが抑えられない。
せっかく彼女が勇気を持って告白してくれたんだ、その期待に応えるべく
自分もなけなしの勇気を使って告白しなくては、という使命感がアタシを襲う。
そして……。
- 348 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:26
-
「だから……こんなアタシだけど……その……恋人に……なって……くれませんか?」
- 349 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:27
-
言いながら、アタシは思わず目を瞑ってしまった。
もうここまでヘタレな奴だと、どうしようもなくなる。
穴があったら入りたいほど、いても立ってもいられなくなっている自分。
けれども……そんなアタシに彼女は、最高の返事を送ってくれた。
……。
今、彼女の気持ち良さそうな口唇が、アタシのそれと重なっている。
軽く触れ合うだけなのに、とても心地良くて爽やかな感じがするキス。
そして何よりも、彼女の想いが口移しで伝わってきたことに感激してしまった。
この時、アタシの長年の想いが叶い、アタシたちはお互い唯一無二の存在になった。
正直、もっと言いたい事は多々あったけれども、彼女の応えがアタシを……いや、
アタシと彼女、安倍なつみとを離れられない関係にさせてくれた。
- 350 名前:Tea Break 3 投稿日:2003/12/24(水) 02:27
-
「本当のなっちを見せるには、圭ちゃんが必要なの……圭ちゃんが居なきゃ、なっち、元に戻れないよ」
〜FIN〜
- 351 名前:編集後記 投稿日:2003/12/24(水) 02:29
-
“Xmas SP”ですので、クリスマスソングでも聞きながら読んでやってくださひ。
実はこの短編、あるお話の外伝にもなってます。(セリフが被ってるから、判るといえば判るかな?)
なので時期的には昔の話しになってます。(去年のXmasに載せようと思ってまひた)
でも、一応ひとつの短編としても独立するように推敲しておきまひた。
早いもので“やすなち”を執筆し始めてから今日で二年が経ちまひた。
当時マイナーと言うか、ほとんど脇役(今でもそうかな?)だったお二人。
そんなお二人に、導かれるように書き始めた“やすなち”。
あれからずっと浮気もせず(???)“やすなち一筋”でやって来まひた。
勿論、今後もこの二人を推してきます。
まあそんなわけで(どんなわけだ?)ソロになっても、この二人を応援し続けていきたいと思います。
次回からはまた本編戻ります。
- 352 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 02:31
-
Hide this short story.
- 353 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 02:33
-
Hide this short story again.
- 354 名前:本庄 投稿日:2003/12/25(木) 12:33
- はぁ…あちぃやねぇ…。
季節はすっかり冬なのに…。
…いいっすよほ!!!やっぱうっぱさん最高です!!
本編も常夏の島ハワイのように早くなるように
ミニモ二寺の小坊主達とお祈りしときます。なむ〜。
追伸。二人の奴隷…それもありかも…(やっぱ痛いな自分)
- 355 名前:本庄 投稿日:2003/12/26(金) 14:45
- あぁ!昨日書き忘れてました!!
Tea Break 3 って…私が何度も涙をし、
何度も叫び、そして第二部にはあの忘れたくても忘れられない名(迷?)キャラの
フランクがご出演なさっていた名作の外伝でしょうか??
てかもう一度フランクに会いたいかもしんない…(笑)
二回もレスしてすみません。どーしてもこれだけは書きたかったもんで…。
何故昨日書き忘れたんだろ…(←あほ)
- 356 名前:お返事 投稿日:2003/12/30(火) 02:46
-
>本庄さん
>Tea Break 3 って…私が何度も涙をし、何度も叫び、
そして第二部にはあの忘れたくても忘れられない名(迷?)キャラの
フランクがご出演なさっていた名作の外伝でしょうか??
圭 「そうです。『Tea Break 3』は、第一部の『憧憬1〜5』の辺りとリンクしてます。
でも、フランクさんが出てたのは第三部ですよ」
なつみ「本庄さんはちゃんと復習しておくことっ。でないとなっちがお仕置きするんだから」
圭 (ん〜、なっちゃんのお仕置きは逆効果だと思われ……)
なつみ「泣いて喚いても知らないんだからっ」
圭 (なっちゃんが泣いて喚きそうな気がする……)
なつみ「圭ちゃん? どーしたの?」
圭 「……なっちゃん、気をつけてね」
なつみ「???」
- 357 名前:本庄 投稿日:2003/12/30(火) 15:03
- ぬぉ!!そうか・・・第三部のほうだったか・・・。
いかん!これはもう一度最初っから読み直さねば!!
あ、今年一年素晴らしいお話をありがとうございました。
なっちも圭ちゃんもお疲れ様っす!
来年もがんがってくださいね!
- 358 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:48
-
夏が来る。
七月上旬、都内の中高生たちは夏休み前の試練ともいうべき期末テストに悪戦苦闘していた。
ある者は成績アップを目標に、またある者は赤点と補習を免れる為に答案用紙を埋めていく。
そんな輩をよそに予備校生たちは難なく一学期の終講日を迎えていた。
校内はどことなく一区切りを漂わせる感じがしていたが、一週間のインターバルを置けばすぐ夏季講習会が始まる。
予備校はある種、会社と同じ生活環境なのかもしれない。
「あ〜あ、今日で一学期も終わりかぁ」
「長いようで短かったね」
「でもすぐ夏季講習が始まるんだよねぇ」
「しばらく保田さんとも会えないっしょ。なっち淋しい〜」
「まだ付きまとうのぉ? それじゃまるでストーカーじゃん」
何気なく言った圭織の一言がなつみを鬱にさせる。
(そういえば、最近やたらと誰かにつけられてる気がする。物凄い気配を感じる時もあるし……)
六月の後半頃から感じ始めた、妙な視線。
日増しにその視線を浴びる機会が増え、何やら只ならぬ恐怖を感じるようになったなつみ。
これからが勝負という時に、余計なことにまで気を回したくはない。
(一体どうしたらいいんだろう……)
なつみは思い悩んでいた。
- 359 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:49
-
「……っち、なっちってば!」
「え、あ、えっと、なんだっけ?」
「そろそろ諦めたら? 保田さんもケムたがってたじゃん」
「そこまで積極的に付きまとってないよ。金曜と土曜しか会ってないし」
「それだけでも十分だと思うけど……カオリはもう諦めてるし、仲良くするの」
「根性なさ過ぎだよ、カオリは」
「あれだけ言い寄っても頑なに拒絶されたんじゃ、もう打つ手がないじゃん。
それにそろそろ本格的に受験に取り組まないとヤバイ時期だし、って聞いてる?」
先ほどまでの危惧はどこへやら。
完全に圭織の言葉がすっぽ抜けているなつみには何を言っても無駄だった。
「はぁ〜っ、二学期まで待ち遠しいなぁ」
「あのねぇ〜、いい加減にしとかないと、こないだなんか大変だったじゃん。保田さんと会って」
「あの時はさ……」
「昨日だってなんだかずっと嫌そうな顔してたしさ。たぶん保田さんに嫌われたと思うなぁ」
「ええっ、なんでよ?」
咄嗟に圭織に腕を掴み、大きく揺さぶるなつみ。
背のある圭織の身体が鞭のように撓る。
この世の終わりとも言わんばかりの表情で圭織を見つめるなつみは必死だった。
「だ、だってさ、あの、あの時、やす……ちょ、ちょっとぉ〜、喋れな、イタっ!」
揺さぶられながら喋っていた圭織は舌を噛んだ。
そんな圭織にも気付かず尚も激しく揺さぶるなつみ。
- 360 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:51
-
「な、なっち!」
「なんだべ!」
「落ち着けっ! じゃねえと喰うぞっ!!」
「ひ、ひゃい……」
「ふぅ〜。で、だからさ、保田さんに会った途端に気分害して倒れちゃったでしょ?
保田さんにしてみたら、失礼な奴だと思ったんじゃないかな?」
「そ、そんなぁ〜。うぅ〜っ」
今度は一転して、圭織の腕を掴んでいた手がスルスルと滑り落ちて、ダランと垂れ下がった。
まるで浪人が決まったときのような、学食のパンが売り切れだった時のような落ち込み様だ。
そんななつみの肩をポンと叩いて、圭織はどこか嬉しそうに言った。
「まあ保田さんに嫌われてもカオリがいるから安心しなよ。カオリはなっちのこと嫌いになったりしないから」
「……カオリじゃ意味無いっしょ」
「え〜、なんでよぉ?」
「な・ん・で・も。ハァ〜、講習会で会えないかな〜」
「T大英語あたり取ってるんじゃないの?」
「でも何週目かわかんないっしょ。それになっちにはハイレベル過ぎだし、T大英語は」
「だね。やっとコツが掴めてきたくらいだしねぇ、英語の勉強のさ。
カオリたちからすれば、T大なんて雲の上の存在だよぉ」
そう言いながら空を見上げる二人。
まるで二人の今の気持ちを表しているかのように、分厚い雲が一面を覆っていた。
それを見た圭織は自分の英語力の無さを儚むように溜息を一つついた。
同様になつみも溜息をついたのだが、こちらは圭織とは違った意味合いの溜息だった。
「雲の上か……まるで天○の城みたい。……ってことは保田さんは導かれし者だべ。
あ、でも導かれたのはなっちだから、保田さんはマス○ード○ゴンじゃないと……」
「……なっち、ド○ク○Wのやりすぎ」
「ハァ〜、フゥ〜」
「こりゃ重症だわ」
とにかくこれ以上付き合いきれないと判断した圭織は話題を変える事にした。
- 361 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:52
-
「そういえば、マーク模試の成績表貰った?」
「あっ、まだだ。今日貰いに行っとこ。あ〜、ドキドキするよぉ」
「なんでぇ? たかが模試じゃん。そんなに出来が悪かったの?」
「そうじゃなくて、賭けのことで」
「一体何を賭けたのさ?」
「もしもなっちたちが一つでも保田さんよりも成績が良かったらお友達になってくれるっていう賭け」
「へぇ〜。なっちにしてはいい案、思いついたねぇ」
「いくら保田さんでも理数系に強いカオリと、文系に強いなっちの両方に勝てるわけないからね」
「だね。カオリ、今回の数学かなり良かったしぃ、なっちが負けてもカオリは負けないよ」
「なっちだって国語は出来たもん。カオリが負けても安心していいべさ」
お互い不気味な笑みを浮かべた。
果たしてなつみの画策は吉と出るのか、凶と出るのか?
「ところでさ、今日って保田さん、授業あるの?」
「えっとね、なっちメモ(ネーミング募集中)によると……」
「そんなのいつの間に作ってたの〜?」
「えへへ、自習の息抜きがてらに作成したべさ」
(ここまで本気だったなんて……っていうか勉強しなよぉ)
「今日は……15時10分から64B教室で『W大現代文』があるっしょ」
(なんか怖くなってきた……)
- 362 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:54
-
時刻は四時四十五分過ぎ。
四限終了と同時に大教室から大勢の生徒が吐き出される。
と同時に、廊下で次の授業を待っていた行列が一斉に始動し始める。
なつみと圭織は邪魔にならないよう、身体を避けながら、しかし目だけは教室のドアを見据えていた。
そしてお目当ての人物が教室から出て、階段を降りる列へと吸い込まれそうになった時、
なつみは横から腕を掴んで、脇へと移動させた。
「っとなにすん……」
「こんにちわっ! 待ってましたよっ」
「まぁ〜たアンタらか……今日は何の用よ?」
「お、お茶でもしましょう!」
「んなっ!! な、なっち、違うでしょ!?」
「……帰る」
「あー、違う、違うんです。今日はちゃんとした用があって」
何故か圭織が圭を引き止めていた。
当のなつみはと言うと、自らが言った一言でいらぬ妄想の世界へ小旅行中。
圭織に軽く頬を叩かれ、ようやくなつみの意識が現世に戻ってきた。
「忘れたんですか、例の賭け?」
「……ああ、あれか。まだ貰ってないから」
「じゃあ今から行きましょう、早く行かないと閉まっちゃうんで」
隣りでホクホク顔をするなつみと、自分をガードするかのように背後にいる圭織。
囚人のように取り囲まれながら、圭は二人と共に成績受け渡し場所へと向かった。
- 363 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:54
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受け渡し場所では後数分で閉まる事と、受け渡し期間がギリギリだった事で少し混雑していたが、
なんとか今日中に受け取る事ができた。
しばらく、なつみと圭織、圭は無言のまま成績表を眺めつつ、各自思いに耽る。
(あ〜あ、今回はいけたと思ったんだけど、やっぱり英語かぁ。うわっ、国語がD判定だよ)
(……数学かぁ。今回は確率の方が簡単だったんだ……失敗したなぁ)
しかし、なつみだけは違う事を考えていた。
(今日はあの娘いないみたい。良かった……よしっ、今日は積極的に行くべ!)
「どうでした?」
「……まあこんなもん、かな。もうちょっと数学が伸びればなぁ」
(よしよしっ! この勝負、勝ったも同然だべ!)
目だけで合図を送るなつみ。
圭織もその視線に力強く頷く。
マ○タード○ゴン VS 導かれし者たちのブレイン・ファイトが始まった。
- 364 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:55
-
「じゃあ、いざ勝負! まずは英語から。カオリは……102」
「なっちは……103」
英語は標準レベルであったので、二人の成績は平均点よりやや低めである。
あまり威張れるような成績でないので、心なしか控えめなように公表する二人。
一方の圭は興味なさそうな表情でサラッと言ってのけた。
「194」
「「ええーっ!」」
「何よ、文句あんの?」
何年かかっても取れそうにない点数に、二人は驚愕し固まる。
いきなり圭からの痛恨の一撃に、慌てて回復を図る二人。
「ま、まだまだ、これからだべ」
「つ、次、理科。カオリは物理83!」
「なっちは……地学62」
「なんで理科なわけ? まあいいけど……アタシも地学で84」
(また負けたべ……)
(嘘……)
今回、物理は難しかったのか、科目別の評価でA判定、
順位もかなり上の方にいた圭織の自信満々の顔が崩れる。
同じようになつみもやや苦笑いを浮かべている。
それもそのはずで、物理同様に地学も難易度は高めで、6割を取ったなつみでさえ評価はBだったのだ。
それを嘲笑うかのように、上をいく圭は相変わらず関心なさそうな表情を見せている。
「つ、次は社会。カオリは……世界史69」
「なっちは日本史84だべ」
「日本史89」
- 365 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:56
-
今度はなつみの顔から余裕の笑みが消えた。
日本史はやや易化だったせいもあり、ギリギリB判定を貰ってそこそこ納得していたにも関わらず、
その余裕さえ吹き飛ばす目の前の強敵……。
マ○タード○ゴン VS 導かれし者たちの戦いは、まだ時期が早かったのだろうか?
(なっちぃ〜、どうすんのさぁ?)
(……こ、こっからが勝負だべさ。国語は負けない自信があるっしょ、任せるべ)
「つ、次っ、国語。カオリは……74」
「なっちは173!」
なつみの会心の一撃!
だが……
「181」
今回は古文、漢文が難化し、全体的にやや難であった国語。
国語を得意とするなつみは当然のごとくA判定を貰い、自信があったにも関わらず、
あっさりと上をいかれ、痛恨の一撃を受けてしまった。
瀕死の重傷を負ったなつみに、圭織が泣きつく。
(なななっちぃ〜、話が、話しが違うじゃぁーん!? どーすんのさ!?)
(そ、そんなぁ〜、自信があった国語で負けたべさ……カオリに託すしかないっしょ)
「最後、数学」
「……」
ここでマ○タード○ゴンに異変が生じた。
- 366 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:57
-
(アリ? なんか保田さんの顔が変わったような気が……)
「……数Tと数U合わせんの?」
「べ、別々で」
「……」
(おおっ、もしかしてもしかするとぉ!?)
劣勢だったなつみたちに一筋の光が見え始めた。なつみの目に力が漲る。
最後の頼みの綱である圭織に熱い視線を送るが、天と地がひっくり返っても、成績が変わる事はない。
「数Tから。カオリは85」
「なっちは……41」
「……86」
数学は数T、数U共に標準レベルであった。
理系の圭織には易しそうに見えたが、文系の圭には難しく見えたらしい。
それでも互角の戦いを展開する圭だが、表情はやや重苦しい。
(お願いっ! 神様、仏さまっ!)
「数U、カオリは84」
「なっちは……38」
「……84」
「ってことは……合計したら負けたけど、数Uだけなら……同点だ」
「……惜しかったべさ」
戦いは終わった……。
傷つきながらもなんとか猛攻を凌いだなつみと圭織。
一方の圭は、表情に元気がなく肩が落ちていた。
(……あ〜あ、なんでこんなトッポなんかと同じ点数なんだろ。なんか憂鬱)
文系の圭が理系の圭織と対等な勝負をする事自体、脅威なのだが圭は納得いかない表情を見せる。
確かにマーク模試の場合、あまり文系理系の区別は関係ないのかもしれないが……。
- 367 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:58
-
不意になつみが圭に問いかける。
「あのぉ……」
「なによ?」
「恐縮ですけど、成績表見せてもらえます?」
「何? 疑ってんの?」
「べ、別にそうじゃないですけど」
「……見たきゃ勝手に見なよ」
そう言われて受け取った圭の成績表を見て目を見開くなつみと、言葉を無くす圭織。
ゆっくりと視線を交わすと再び、成績表へと視線を戻す。
マ○タード○ゴンは想像以上に偉大だった。
「……すごい」
「夢みたいな成績だべ」
「ねえねえ、英語、全国で八番だって!」
圭織が叫んだのを皮切りに、雛鳥が餌を催促するかのように喚き散らす二人。
周りにいた生徒の誰もが、「全国で八番」という言葉に歩を止め、息を止めた。
周囲の異様なまでに見開かれた目が一斉に圭へと注がれる。
「あ、あのさ……」
「その他の教科も凄いべさ!」
「うっそぉ〜、T大A判定だよぉ!」
「おおっ! りんねの大学なんて六番だよっ!」
「みっちゃんたちより断然、頭良いじゃん、良過ぎっ!」
「なんでこんな成績で浪人してんだべ? 信じらんないっしょ」
「どうやったらこんな鬼のような点数が取れんの!? カンニングしたみたい」
「そんなことなっちの方が知りたいべさ! なっちに点数分けて欲しいっしょ」
何気に失礼なことを平気で言う二人。
周囲の視線が徐々に痛く感じた圭は、呆れるように二人から離れた。
(これだからヤなんだよ、田舎娘は。これ以上、こいつ等に関わってても時間の無駄だし、自習室行くか)
- 368 名前:萩 T 投稿日:2004/01/06(火) 01:58
-
……。
どれくらいの時間眺めていただろうか、ようやく納得したような顔つきで顔を上げた。
「いやぁ〜、凄いもの見せてもらったべ」
「うんうん。滅多に見れるようなものじゃないからね、ここまでの成績なんて」
「ア、アレ?」
「ん、なに?」
「肝心の保田さんが居ない……」
「えっ、あ、ホントだ……帰っちゃったのかな?」
「どうする、これ?」
「ん〜、今度会う時まで持ってれば? 御守りとして」
「御守りって……」
他人の成績表が御守りとして役立つかどうかは判らなかったが、圭のものを持っているということだけで、
どことなく幸せを感じてしまったなつみ。
これを機に、以前にも増して二人(特になつみ)の学習意欲が高まったのは言うまでもない。
- 369 名前:おまけ 投稿日:2004/01/06(火) 01:59
-
圭織の『なっち通信A to Z』 第三回
Black(黒い)
いつもはニコニコしてみんなから好かれてるなっちだけど、カオリは知ってるんだよ。
なっちの裏の顔、通称“ブラックなっち”
もうね、この状態のなっちはね、正直カオリも近寄り難いくらいヤバイの!
どれ位ヤバイかっていうとね、あ、あれ、なんで? カオリの手が動かないよ〜(焦)、書けないよ〜(泣)
……。
とにかく、ヤバい……の(うわぁ〜ん、右肩になんか乗ってるよ〜)
これ以上……書けない……と、とにかく……怖い、です……(いやぁ〜、誰かが耳もとで囁いてるぅ〜)
- 370 名前:お返事 投稿日:2004/01/06(火) 02:00
-
>本庄さん
なつみ「いやぁ〜、去年は色々あったね」
圭 「例えば?」
なつみ「なっちがソロデビューしたり、ハロモニの司会になったり。圭ちゃんは?」
圭 「なっちゃんが可愛かったこと」
なつみ「……(カァーッ)」
圭 「今年もよろしくお願いします」
- 371 名前:本庄 投稿日:2004/01/08(木) 12:58
- 圭ちゃんすっげ〜。かっけ〜。
マジ頭いいっすね・・・。
そしてなっち・・・圭ちゃんと仲良くできないショックは
学食のパン並なのね・・・(笑)
>なっちメモ(ネーミング募集中)
考えてみました!
「圭ちゃんどこまででもついてわ!なっちの○秘予定表」!!
・・・自分にはネーミングセンスがないとつくづく実感したのれす・・・(号泣)
他の方に託しますのです・・・。
- 372 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/09(金) 00:41
- ド○ク○Wなつかすぃ〜♪手に汗握る戦いでした!!
なっちメモのネーミングおいらも考えました!
『なっちの保田さん●基礎学習張●No.723 〜天○の城徹底攻略への道〜』
●はピンクのハートマーク
なんていかがでしょう…微妙ですが…
- 373 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:32
-
夜の帳が降りた午後八時過ぎ。
いつもならば騒がしいみちよの部屋にもどことなく静寂が漂っていた。
一学期の締め括りとして各学校では期末試験が催されており、中学生の希美も、
隣りの優等生鈴音も今日は各々試験勉強中らしい。
当然の如くみちよも幾つかの講義で前期試験が持ち構えてはいるのだが、それを邪魔する一人の少女。
一足先に本日、期末試験の最終日を迎えた真希だけが今宵も訪れていた。
「……なあ」
「ん〜?」
「なんで今日家におんの?」
「なんでだろうねぇ〜? ごとーもわかんない」
「勉強すんならわかるけど、しないんやったら自分の家帰りぃ」
「だって、つまんないんだもん」
「ウチかて前期試験の勉強せなあかんねん」
「大丈夫だよぉ〜。へーけさんなら」
「アンタが軽々しく言えるほど簡単な試験やないの!」
確かに大学の試験は中高の選択式、穴埋め式の試験とは違い、論述形式が基本である。
更に言えば、いくら自分の中で出来たと思っていても、教授の眼鏡に叶う答えでなければ、
評価が低くなることすらある。
一筋縄ではいかない試験なため、校内はアタフタする学生やナーバスになる学生も少なくない。
みちよもそんな中の一人になろうかという瀬戸際に立たされていた。
- 374 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:33
-
「じゃあ、ごとー静かにしてるから」
「あのなぁ〜、ウチかてちゃんと勉強を……」
「ダメェ〜?」
真希が仔猫のような甘えた声で渋る。
しかも今日はいつもの制服姿ではなく私服のせいで、かなり肌の露出度が高い。
自他共に認める可愛い娘好きのみちよが、この声と美肌に打ち勝てるはずはなかった。
「うっ……いや、その……邪魔せんかったら、いても、ええ…かな……」
「やったぁ〜」
とびっきりの笑顔を見せる真希。
その笑顔は誰もが幸せになれるかのように激しく輝いている。
(はぁ〜、相変わらずこの娘の視線と色気に弱いウチって、ヘタレなんやろか?)
またしても誘惑に屈したみちよは、自分の性格に疑問を抱き始めた。
すると何処からともなく聞こえてくる神の一言が……。
(ごとぉがいなくてもヘタレじゃん、昔っから)
頭の片隅からニョキッと出てきた圭の一言に、思わず吠えた。
「うっさい!」
「わっ! 何なにぃ?」
「あ、いや、なんでもないで、スマンかった」
「??? 変なへーけさん」
「はぁ〜、前期試験かぁ。教養とはいえ侮れんからなぁ」
「……(あれ? なんだろ、これ)」
大人しくすると言った手前、やる事がない真希は、少しだけ開いた収納から何か興味深いものを見つけた。
- 375 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:34
-
一人別世界にいるみちよを余所に、真希は覗き込むように収納の扉を開けた。
すると収納の中から真っ先に目に飛び込んできたのは、蒼い服と一つの木箱だった。
「一応ちゃんと講義には出てるし、問題ないとはいえ、持ち込み禁止のうえに論述やしなぁ」
「……(なんか、見たことあるような服だ。それに箱……。何が入ってんのかなぁ)」
真希はその蒼い服、中でも左の上腕辺りに縫い飾られた刺繍に見覚えがあった。
しかし記憶が曖昧なのか、はっきりとした絵が浮かばずしきりに首を傾げる。
何処か懐かしいようなそれを横目で見つめつつ、両手はこっそりと箱を開けていた。
「唯一教養で興味引かれた講義やし、落としたくないしなぁ……」
「……(ああっ! へーけさんの懐かしい頃の写真だぁ。やっぱりカッコイイな〜)」
「ふぅ……ん、ごっちん? アンタはなんで許可なく人んちの収納、勝手に開けとんねん」
「あっ……バレちゃった?」
「ああっ! コラッ、人の恥かしい過去を」
「過去? ってことはこの服ってやっぱり特攻服?」
見覚えがあったその服を思わず鷲掴みにして、引っ張り出す真希。
中学時代に真希が密かに憧れていたあの文字が目の前に広がる。
そこで初めて、断片的だった記憶の欠片が一つになった。
「コラッ、なに広げとんねん。ごっちん! 引っ掻き出すな」
「やっぱりそうだ、あの時の特攻服だぁ!」
「コラっ、何握り締めてんねん! 匂い嗅ぐな、キスすんなっ!」
「他にもいっぱいあるねぇ〜。あ〜っ、こんな危ないもんまでしまってある〜」
「だからいちいち出すな!」
次から次へと収納の中で眠っていたみちよの過去たちが表舞台に姿を現わした。
それらは普通の女子大生が持ってるはずのない、いやむしろ真っ当な人生を過ごしてきた人間ならば、
一生関わらないモノたちばかりであった。
- 376 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:35
-
“コンコン”
「へーけさん、誰か来たみたいだよ〜?」
収納の中から過去を引っ張り出しながら、呑気な声で真希が来客を告げた。
しかしみちよはそれどころではない。
収納へと身体を突っ込む真希をどう引っ張り出すかで一苦労していた。
目の前に突き出している真希のヒップ(パンチラ付き)に、みちよの理性が崩壊寸前であったから。
「う、うっさい! 今はこ、こっちが先や! はよ返しぃ」
「どぉぞぉ〜!」
「おいっ、何勝手に返事しとんねん! コラ、それよこしぃ!」
「お邪魔するよぉ〜」「入るよ〜」
「げっ、なっちとカオリぃ!?」
両手一杯にコンビニの袋を下げた二人がドカドカと部屋に入ってくる。
勝手知ったる他人の家、入るや否や圭織は冷蔵庫を開けて何やら物色していた。
「おい、カオリ。何勝手に冷蔵庫開けとんねん!」
「久し振り」
「そうやないやろ!」
「とりあえず飲もう」
なつみがテーブルの上にあったみちよの学習道具の上に買い込んだ物品を広げた。
スナック菓子から、お弁当、アイスといった食べ物からファッション誌や四コマ漫画、果てはちょっとHな本まで
年頃の女の子がする買い物とは思えないほどワイルドなものばかりが並んでいる。
更に、みちよが使っているノートをコースター代わりにしてペットボトル二本を置いた。
見る見るうちにノートが水滴で波打ち、文字が滲んでいく。
「あーっ! ノートがあっ!」
「ん? ああ、別に大したノートじゃないっしょ? 平気平気」
「んなわけないやろっ!」
「まあまあ、とりあえず一杯どーぞ」
「お、こりゃどうも……って待て待てぇ! まず、ひとぉ〜つ。なに勝手にあがっとんじゃ」
「え〜、だって今『どぉぞぉ〜』って」
「あ〜、ごっちん。久し振りぃ〜」
圭織が冷蔵庫からチュウハイを数本抱えて真希に挨拶をする。
以前来た時に予備として保管してあったものらしく、几帳面に名前まで書いてある。
“カオリ愛読”と……。
- 377 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:37
-
「んあ? あっ、カオリさんになっちさんだぁ」
「なにしてんの?」
「えへへ〜、アラ探し」
「ごっちん! はよしまえ言うてるやろ!」
「何これぇ? “Highway Princess”?」
なつみが足元にあった蒼い服を拾い上げて、刺繍された文字を読んだ。
隣りにいた圭織が左胸元辺りに刺繍された文字を読み上げる。
「初代特攻隊長……ってもしかして……」
「「暴走族ぅ!?」」
綺麗に二人の声がハモった。付き合いが長いだけのことはあるようだ。
「族って言うな、族って。走り屋言うてくれ」
「みっちゃんってヤンキーだったんだ?」
「だから走り屋やって言うてるやんかぁ。ごっちん、漁るなや!」
「ほんとに?」
「ホントだよ〜、都内じゃあ超有名人で、泣く娘も黙る関東音速四天王の一人だったんだよぉ、へーけさんて」
相変わらず収納の中に身体半分を突っ込んで漁る真希が、自慢するようの答えた。
丈の短いスカートから大胆にも太腿が先程よりも露わになる。
しかしみちよよりも女の子している二人はさほど気にならないらしい。
「へ? 関音……四てんおう……?」
「なにそれ?」
「えっとねぇ〜、ぶっちゃけて言うと、単車に乗ったら誰にも負けなかったってこと」
「おおっ! 只事じゃないべさ」
「へぇ〜、人は見かけによらないんだねぇ」
「うっさい!」
- 378 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:37
-
なつみがまた何かを見つけた。
「あれ、この写真……うわっ、カッコイイ〜っ!」
「どれどれ……うっわぁ〜、今のみっちゃんからは想像がつかないねぇ〜」
「んなっ! し、失礼な。この頃は若かったんや。今でも十分若いけどな、フッ……って勝手に見んなや!」
「みっちゃん、これってその時の特攻服かい?」
「あ〜、カオリ着てみた〜い」
そう言う間もなく圭織は勝手に特攻服を羽織った。
なつみは床に転がっていた木刀を手に取り、物珍しそうに眺めている。
そして、相変わらず真希はみちよの思い出と共に何やら観賞に浸っている。
こうなると歯止めが利かなくなり、次々とみちよの過去が弄ばれていく。
「コラコラ! 勝手に袖通すなっ! ごっちん、何次から次に広げてんねん! なっち、んなモン振り回すな!」
「どおどお? カオリもカッコイイかな?」
「んあ? アハッ、カオリさんイケてる〜」
「これを持ってみるべさ」
なつみが木刀を手渡す。
所々に染みや傷があり、度重なる戦歴を物語っていた。
「どお?」
「「おぉ〜、カッコイイ〜」」
全く違和感ないように見えるのは類い稀なる身長のせいだろう。
特攻服を背負って木刀片手にガンを飛ばす圭織に、なつみと真希が拍手しながら歓喜の声をあげる。
「お前等、人の過去で勝手に遊ぶなや!」
- 379 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:38
-
みちよが吠えた直後、
ブンッ!
みちよの額を木刀の先端が掠った。
いくら圭織の力がないとはいえ、いくらみちよが喧嘩慣れしていたとはいえ
木刀の先端がまともに当れば、青痣一つ拵えるどころではない。
慌てて止めようとするが、どうやら圭織は完全になりきっているようだった。
「あぶなっ! 室内で木刀振り回すやつが……」
ガッシャーン!
「「ああっ!」」
「ああーっ! 窓ガラスがぁ〜」
みちよの部屋に熱気を帯びた風が吹き抜けた。
つい数分前まで綺麗な夜の街を映し出していた窓には、ポッカリ開いた大きな穴と
ヒビが入ったガラスの欠片がダラしなく納まっていた。
「……テヘテヘ」
「笑って誤魔化すな!」
しかしこの後、想像を絶するような惨事になる事など、みちよたちには判るはずもなかった……。
- 380 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:39
-
「何しにきたんや、自分ら?」
辺りに散らばったガラスの破片を慎重に拾い集めていたみちよは、やや不機嫌な態度で尋ねた。
無理もない。勝手に上がられて人の過去を弄ばれた挙句、窓ガラスを割られたのだから。
罪悪感を感じて一緒に手伝っていたなつみが、思い出したように言う。
「え? あ、そうだ! みっちゃんさ、保田さんの講習会の日程知らないかい?」
「はあ? 講習会の日程? 予備校のか?」
「そう」
「知らんよ。って言うかウチがなんで圭ちゃんの講習会の日程知らなあかんの?」
「いや、知ってるかな〜と思ってさ」
「だったら直接本人に聞いたらええやろ?」
「それが出来たら苦労しないよぉ」
「まだくっついとんのかい、自分ら?」
「いやぁ〜、それほどでも」
「誉めてない」
「だからさ、みっちゃん、保田さんに聞いてよ」
「自分で聞いたらよろしいがな。って言うか、ウチはそれどころやないねん。
オイッ、カオリにごっちん! いい加減にしまえ! 写真撮るな!」
妙に大人しくしていた二人。
先ほどの悪事に反省してるのかと思いきや、圭織と真希はどこから持ち出してきたのか、
カメラ片手にみちよの過去を使って記念撮影に乗じていた。
「もうちょっとごっちん、顔傾けないと」
「こ、こう?」
「そうそう、いくよ〜」
「おまえら、ええ加減にせえっ!」
ついに堪忍袋の緒が切れたみちよ。
だが、大魔神顔負けのみちよの形相に怯むことなく、尚も遊び半分の二人。
それが悲劇の始まりだった。
- 381 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:40
-
「きゃあ〜、みっちゃんが襲ってくるぅ〜」
「おおっ、喧嘩だべ」
「へーけさん、かかってこ〜いっ」
「こらっ、ごっちん、振り回すな! 危な……」
ガッシャーン!(テレビのブラウン管が割れた音)
「ああっ!」
バキバキィッ!(収納の戸に穴が開いた音)
「あああっ!」
ドンッ! ドボドボドボ……(ペットボトルが倒れ、みちよの過去の品々が濡れていく音)
「あああああーっ!」
「「「…………」」」
一瞬、ものすごい閑散とした空気が辺りを包み込んだ。
- 382 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:41
-
「ど、どうしたんですかっ!?」
「なにごとれすか、へーけしゃん!?」
やはりと言うか当然と言うか、隣りにいた鈴音や自分の家にいた希美が何ごとかと駆けつけて来た。
そして憐れもない部屋の様子にかける言葉すらなく、ただ押し黙っていた。
いや、押し黙る事しかできないでいたというのが正しい。
「あっ、りんねにのんちゃん。久し振りだね〜」
「こ、これ……」
「……ちょっとやり過ぎっしょ」
「部屋中、めちゃめちゃなのれす……」
「ア…アハハ……やっちゃった……」
呑気に挨拶を交わす圭織、驚愕して言葉がない鈴音、哀れな目を向けたまま同情するなつみ、
見たまま思ったままの事を口にする希美、そして……木刀片手に苦笑いの真希と茫然自失のみちよ。
誰もそれ以上の言葉を発しなかった。
- 383 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:42
-
「あ、もしもし、圭ちゃんか!?」
『ん?』
「今、ええか!?」
『いいけど、なんで怒ってんのよ?』
「ちょっとワケありで! あのな、ちょっと聞きたいことあんねんけど」
『何?』
「今年の夏の予定、教えてくれんか?」
『なんで?』
なつみが知りたがってるとは言えないみちよは、答えに窮する。
「いや、その、予め聞いとった方が、色々便利やん。例えば誘ったりすんのにも困ったりせえへんやろ?」
『そうだね』
「あの…なんでそんなに素っ気無いん?」
『……別に。まあ、急に言われてもこっちが困るし、教えてもいいけど』
「教えてくれる?おおきに。んで、今年も講習会取ってんのやろ?」
『まあね』
「いつ?」
『7月14日から18日の2限』
簡略なメモを取るみちよ。
そんな横ではなつみが差し入れてくれたポテチ三種類をみんなで笑談しながら摘んでいた。
それを恨めしげな眼で見つめつつ、耳を傾ける。
「なるほどなるほど。であとは?」
『それと……8月の18日から22日の4限と5限』
「あとは?」
『25日から29日の2限』
「なるほどねぇ〜、わかった。あんがとさん」
『ちょっと何企ら……』
通話を終えたみちよは投げやりな態度で、メモを渡す。
既にこめかみには青筋らしき線が浮き出ている。
- 384 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:43
-
「ホレ、これが日程や!」
「アリガト。ふぅ〜ん、始めと終わりの方なんだぁ」
「八月の六週目はW大一文の小論やろ、たぶん」
「W大一文かぁ……なっちとは学部が違うけど、もしかしたら一緒に入学することになるかも。
ねえ、みっちゃん。保田さんてさ、今年W大受けんの?」
「知らんっ! それは直接本人に聞き!」
((へーけさん、怖い……))
みちよの身体から青白いオーラが漂い、普段から一緒にいる鈴音と希美には
それが何を意味するか判っていた。
しかし、その空気すら読めない一人の楽観主義者の一言が、みちよの怒りの琴線に触れてしまった。
「W大か……カオリ的にはK大の方がスキかな」
(あっ、カオリのバカッ……)
なんとなくマイナスの雰囲気に気付いていたなつみが圭織の口を塞ごうとしたが、時既に遅し。
みちよ、ついに大噴火。
「んやと、コラ! W大バカにしてんのか!? ああっ!? ドタマから血ぃ噴かすぞぉ、ワレぇ!」
現役時より多少は丸くなったみちよだが、さすがは元特隊。
啖呵のきり方ひとつ取っても、そんじょそこらの悪とは比べ物にならないほどの迫力を見せる。
その昔、チームの仲間を輪姦しようとした隣街の弱小チーム全員を、右手の拳で病院送りにした事があり、
そこからついたもう一つの仇名が“ワンパンのみちよ”
その伝説ともいえる一撃打倒の右拳が、今にも目の前にいる圭織の顔面を抉ろうとしていた。
- 385 名前:萩 U 投稿日:2004/01/14(水) 03:45
-
(ひ、ひぃーっ……へーけしゃんが般若になったのれす、怖いれすぅ……)
(いつもの……平家さんじゃ……ないよぉ……)
(わっわっわ、へーけさんがぁ……へーけさんがあぁ……)
(ややややっぱり、みっちゃんは、ヤヤヤンキーだべ、だべさ)
希美は今にも泣きそうに怯えながら、鈴音に抱き付いている。
真希となつみはどうしていいのか判らず、アタフタし出す。
そんな中でも圭織はゴーイング・マイ・ウェイで自論を語る。
「だってさ〜、K大って“K応ボーイ”とかって言うじゃん。W大にはそういうの無いしぃ」
その場にいた全員の目が点になった。返す言葉もない。
圭織は自論に自信を持っているのか、納得顔で一人頷いている。
「……カオリのその考え方……わかんない」
「なっちもそう思うべ」
「アハっ、カオリさん、面白いねぇ〜」
「……勘弁してくれ」
(なんまいらぶ、なんまいらぶ……)
ガックリと肩の力が抜けた二人と、怒る気力が失せたみちよ。それとは対照的に面白がる真希。
しかし、希美だけはみちよの迫力に怯え続け、しばらくからかうのを止めようと心に誓っていた。
結局、みちよはろくに勉強にありつけず、後日のテストでは散々な結果に終わった。
- 386 名前:お返事 投稿日:2004/01/14(水) 03:45
-
>本庄さん
なつみ「圭ちゃん、すご過ぎだよ。普段はこんなんじゃないのにぃ」
圭 「フッ…」
なつみ「むぅ〜っ、なんかその勝ち誇った態度が気にいらない」
圭 「なっちメモなんか作ってるからだよ。そのうちカオリにも置いてかれちゃうぞぉ〜」
なつみ「うぅ〜、圭ちゃん、意地悪し過ぎだべ」
圭 「っていうかなんで仲良く出来ない事が学食のパンと同等なわけ? そっちの方が気にいらないよ」
なつみ「ア、アハ、アハハハハ……(焦)」
>名無飼育さん
圭 「いやぁ〜、かなり凝ったネーミングだなぁ」
なつみ「なっちの愛が一杯詰まってそうだねっ」
圭 「愛ねぇ……(歪んだ愛のような気がするけど)」
なつみ「実はね、なっちも考えたんだ、ネーミング」
圭 「へぇ〜、なんて言うの?」
なつみ「ジャジャン!! 『他人から恋人へ 〜とことん保田さん、ラブラブチェックリスト〜』 ねえ、どおどお?」
圭 「……なんかエッチっぽくてヤダ」
なつみ(シクシク)
圭 「なっちメモのネーミングは後ほど登場しますので、お楽しみに」
- 387 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/14(水) 03:47
-
Hide this story.
- 388 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/14(水) 03:49
-
Hide this story again.
- 389 名前:本庄 投稿日:2004/01/16(金) 13:31
- ひ、ひどい…(泣)
今回ばっかりは平家さんに心より同情しますわ…。
部屋のお片づけは…やっぱみっちゃんが泣きながらするのでしょうか…(哀)
みっちゃんいい娘なのにね…。
- 390 名前:ご報告 投稿日:2004/01/19(月) 02:56
-
え〜、とある板で諸事情により、連載始めまひた。
敢えて場所は教えませんので、興味がありましたら、
捜して見てください。(HNも名無しで書いてます)
ヒントは……尻です。
- 391 名前:ren 投稿日:2004/01/19(月) 07:54
- 恋情からずっと読ませていただいてますが、初投稿です。
自分なりに探してみたんですがどこにあるかわからないのでもう少しヒントをもらえないでしょうか。
- 392 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/19(月) 09:33
- こらこらこの作者さんはおち進行望んでるでしょ。
おとしておきます。
- 393 名前:お返事 投稿日:2004/01/20(火) 03:49
-
>本庄さん
〜物陰からこっそりみっちゃんの部屋を覗く二人〜
圭 「みっちゃんてつくづく可哀相な運命だよ」
なつみ「でも、ごっちんと仲良くお片づけしてるよ?」
圭 「あ〜あ、余計に散らかっちゃんじゃん」
なつみ「え、なんで?」
圭 「だって……ねぇ……相手はごっちんだし……」
なつみ「???」
圭 (言えないよ……みっちゃんが年下の襲われるなんて、言えないよ)
>renさん
なつみ「わぁ〜、またまた新しいお客さんだぁ。初めまして」
圭 「結構いるんだね、前作から読んでくれてる人って」
なつみ「これで圭ちゃんとの仲が広まるといいんだけどなぁ(期待)」
圭 「なにわともあれ、これからもよろしくお願いします」
なつみ「あ、そうそう、ヒントだけど、アレだけじゃ判りづらいよね」
圭 「だからなっちゃんから特別にヒント(キーワード)が出ます」
なつみ「ずばりっ、『ケツは、有り難いもの。』ですっ!」
>名無し飼育さん
なつみ「おとしてくれてありがとう」
圭 「このスレのモットーは『隠れた名作』になることだからね」
なつみ「それに、ここに出てる人たちは卒業してった人たちばかりだしね」
圭 「なんて言うんだろう、二年ぐらい前なら旬だっ、モガモガ……」
なつみ「そういうこと言っちゃダメッしょ! と、とにかくひっそりとやっていきます」
圭 (なっちゃ……苦し……でも…幸せ……)
- 394 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/20(火) 19:23
- 川‘〜‘)<わかんない。どこかわかんない。
- 395 名前:ご報告 投稿日:2004/01/20(火) 23:35
-
≫390
ヒントが判りづらいので訂正します。
『 有り難い物は、池の蚊を、揺すれば金貨覗く 』
これを上手く並びかえれば、板名、スレタイトル、題名、CPが判ります。
≫renさん、名無し飼育さん
色々と諸事情があって、個人的には公にせずにやってるので、理解してくださひ。
- 396 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/21(水) 08:23
- どうしても駄目ですかね。結構探してるんですけど。
いつから書き始めたんですか?
どれくらい書いてるんですか?
- 397 名前:通りすがり愛読者 投稿日:2004/01/21(水) 13:11
- あらら・・・
また上がってますね。
作者様のご希望通りレスはsageで・・・。
うっぱ様の綺麗な表現法に惚れて以来、ずっと読ませて頂いてます。
甘いやすなちが見れる日を期待して待っております。
それでは新作探しに行って参ります。
スレ汚し申し訳ありませんでした。
- 398 名前:つみ 投稿日:2004/01/21(水) 22:48
- 新作見つけました!ありがとうです!
あちらもこちらもがんばってください!
- 399 名前:ren 投稿日:2004/01/22(木) 17:44
- 見付けました。ある意味並べかえも楽しませてもらいました。
あんまり書き込みしたりしないんでもしレスをあげてしまったらごめんなさい。
- 400 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:20
-
いよいよ講習会が始まった。
この一ヶ月余りをどう切り抜けるかが、九月以降の成績の伸びを左右する。
と同時に基礎学力を固める最後のチャンスでもあり、更に言えば苦手分野の克服もこの時期には必要であり、
まさに今後の明暗を分ける“試練の夏”と言えよう。
なつみもライバルたちに負けぬよう先々の良いスタートを切った。
夏季講習会第一週目という事もあって、講義はあまり多くはないものの、自習室は普段と変わらず大盛況。
事前に入手した圭の講習会スケジュールに合わせて、なつみは朝から自習室に入り浸っていた。
本科生である為、随時自習室が使用できるなつみには、快適な環境下で勉強でき、
かつ憧れの人にも会えるという、まさに一石二鳥の夏を迎える事になった。
時刻は間もなく十二時二十分。
二限終了のチャイムと同時に、なつみの頭は英語の復習から圭へと移り変わる。
(はやく保田さん、来ないかな〜♪♪)
一人浮き足立つなつみが来ている事などつゆ知らず、講義を終えた圭が自習室へとやって来た。
季節は夏だというのに相変わらず、真冬並みの冷たさを漂わせている。
席を外しそうな受講生の行動に眼を見張り、近くへ寄って行く圭。
去年の経験を生かし、難なく席をGETし、そのまま自習へと突入。
その後方では、圭を見つけてホクホク顔のなつみが、隠れるようにしながら圭の動向を窺っていた。
(ああっ、自習始めちゃったよぉ。せっかくお昼一緒に食べようと思ったのになぁ)
腹の虫が餌を求めて唸るのを堪え、なつみも渋々頭を切り替えた。
- 401 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:21
-
三限が始まってしばらくして、自習室の出入りもようやく落ち着きを取り戻した頃、圭が席を離れた。
それに気付かないなつみがふと顔を上げると、既に圭は部屋を出て行った後だった。
慌てて圭を追うようになつみも離席届けを置き、自習室を後にした。
「もぉ〜、どこ行ったんだろ? 出るなら出るって一声掛けてくれればいいのにぃ」
なつみは自分がお忍びである事を忘れているようだ。
そろそろ限界に近づいて来た空腹感と闘いながら、校舎内をキョロキョロ捜しまわる。
その姿はデパートで迷子になった五歳児がお母さんを捜すのに酷似している。
そして数十分後、膝が笑い出して息も途切れ途切れになった時、ライブラリーから出てきた圭を発見。
すると苦しい顔を一瞬にして笑顔に変え、いかにも偶然を装いながら嬉しそうに声を掛けた。
恋する乙女には疲労もなんのその。
「ああっ、保田さんじゃないですかぁ、偶然ですねぇ〜」
「……またアンタか。ったく講習会まで付きまとってくんの止めなよ」
「偶然ですって、偶然」
「偶然にしちゃあ、額に汗掻いてるし、息切れしてるけど?」
「え、あ、アハハハハ」
「……」
「そ、それよりこれから授業ですか? それともお昼とか?」
圭の講義が二限しかないことを知りつつ、ワザと聞くなつみ。
それを知ってか知らずか圭も意味ありげな返答を返す。
- 402 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:21
-
「アンタには関係ないでしょ」
「え〜、いいじゃないですかぁ。もしよかったらご一緒してもいいですか?」
「……なんでそこまでして人の後付いてくんのよ? 遊びに来てんじゃないんだよ?」
「遊びじゃないですよ。なっちだってちゃんと勉強しに来てるんですから」
「だったらアタシのことなんか放っておいて、勉強しなよ。あんな成績じゃ、どこも入れてくんないよ」
皮肉をたっぷり込めて圭は言う。
その勝ち誇ったような顔になつみはムッとして頬を膨らませる。
そんな姿は、異性の前ならば可愛く見えるのだが、圭には全く効果なし。
「い、今はその、き、休憩時間なんですぅ」
「なら一人で休憩してなよ。アタシに引っ付いてないでさ」
そう言い残してさっさと行ってしまう圭。
何とかして一泡拭かせてやりたくなったなつみも後を追う。
一定の距離を保ちながら、先行く圭と同じ食堂へと進む。
そして、頼んだものこそ違えど、昼食時を過ぎた食堂の一角に並んで腰掛けるほどなつみは圭に密着した。
「ちょっと! なんで隣りに座んのさ!?」
「いいじゃないですかぁ、減るもんでもないし」
「そういう問題じゃないの! 用がないのに寄って来ないでって言ってんの」
「用ならありますよ」
「なんの用よ、今更」
「えっと、その……あ、そうだ、勉強教えて下さい。保田さん英語凄いじゃないですか。
なっち英語苦手なんで、教えて下さいよ」
「アタシだってアンタと同じ受験生なのよ? 勉強のことなら講師やチューターに聞けばいいでしょ?」
あくまでも突き放すような圭の言い方になつみは憤慨し、言ってはならないことをボソッと呟いた。
- 403 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:22
-
「……自信、ないんだ」
「なっ……!」
「……負けそうになったもんだから」
「(ぐはっ!)」
(へへっ、勝った……)
なつみの一言が治りかけていた圭の疵をえぐり返した。
憎らしそうになつみを見ると、してやったりのなつみは余裕の笑顔。
それが返って圭の屈辱を煽ったが、これ以上言い返すと深みに嵌りそうな予感がした圭は、
渋々なつみの要求に従うことにした。
「……今回だけだかんね」
「やった〜!!」
はしゃぐなつみは強引に圭の腕を取り、嬉しさを身体全体で表現する。
一方、それを嫌がる圭は必死になって腕を解こうと齷齪する。
端から見ると、二人の行動はまさに恋人同士のヒトコマに映ったに違いない。
今年の夏は暑く(熱く?)なりそうだ……二人はふと同時に思った。
- 404 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:23
-
プライベートレッスンという事でせっかく確保してあった自習室を引き払い、
誰も使っていない教室へと移動した二人。
二百人ぐらいは座れそうな教室にたった二人っきりという、恋人同士ならばこの上ないシチュエーションに、
心成しかウキウキしているなつみに対して、早くも夏バテでもしたかのように溜息ばかりつく圭。
甘いムードを壊している圭に不満気味ななつみはその気になるよう牽制する。
「なんかいい感じですね、なっちたち」
「どこが?」
「だって、こんな昼間っから誰もいない教室で、二人だけのプライベートレッスンだなんて……」
「アンタがそうさせたんでしょうが。巻き込まれたこっちはいい迷惑」
「なんか起りそうな気が……」
「しないっ!」
……はっきりと否定されてしまった。
中々牙城を崩さない圭に、なつみも今日のところは打つ手がなくなった。
もっと恋愛マニュアル読んどけばよかった、とちょっぴり後悔するなつみ。
ここに圭織がいたならば、間違いなくあの目で殺されていただろう。
「で、何が聞きたいわけ?」
「えっと……この間の模試の問題なんですけど、ここの部分和訳がいまいちよく判んなくてぇ」
なつみが指し出した問題は、先月行われた記述模試の英語長文。
その中の下線部訳の箇所で、これといって難しそうな単語はない一文だが、
今回の模試で一番正解率が低いであろうと思われるところだった。
問2 下線部を和訳しなさい。
There are men who love out-of-doors who yet never open a book; and
other men who love books but to whom the great book of nature is
a sealed volume, and the lines written therein are made indistinct.
- 405 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:24
-
「……ああ、ここね。まあ英語が苦手な人にはこの訳はちょっと小難しいか」
「単語は簡単なのに全然意味が通じなくて……もう何がなんだか判んないよぉ……」
「落ち込まないでよ、これくらいのことでさ。たかが模試でしょ、本番までまだ時間あるんだから」
「うん……」
何故同じ受験生である自分が、同じ立場の人間を慰めなければならないのか。
受験といえども所詮は、競争社会。まさに現代を象徴している。
自分が上にいくためには相手の事など構っていられないのに、それを手助けしている自分。
(アタシ、何してんだろ?)
圭は、目の前の白ウサギに優しく接している自分に疑問を感じていた。
こうして急遽、保田先生の『知的英文読解術 ver.K』が始まった。
眼鏡を掛け問題に目を通す圭は、『マ○ンナ古文』等で有名な某講師にひけを取らないほど凛々しく、
なつみにはそんな圭が本当の講師のように映っていた。
その姿につられ、さっきまで嬉しそうだったなつみの顔は陰を潜め、真剣な表情が表に現れていく。
「いい? この部分の着眼点はさ、対応関係なの」
「対応関係?」
「そう。まず主節のThere are menとother menが対応してんの」
「え、でもどうして?」
「それは、there areとmenの間にsomeが省略されてるから。
Some…, other…って表現ぐらい知ってんでしょ?」
「うん」
「で、まだ対応してるとこがあんの。それはこのlove out-of-doorsとnever open a book、
love booksとthe great…ってとこがそれぞれ対応関係にあるわけ」
- 406 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:25
-
なつみの頭に?マークが踊り始める。
英語があまり得意でないなつみは、ハイレベルな講義になりそうな気配を感じた。
ノートに書き出されたそれぞれの文を見て、不思議そうに圭を見る。
“全く判んない”とでも言いたそうな顔つきで。
「わかんない? love out-of-doorsってアウトドアが好きってことでしょ?
で、never open a bookって本を開いた事ない、本は読まない。それをyetで対比してるわけ」
「じゃあ、この最初の方の訳はアウトドアが好きだけど、本は読まないってこと?」
「まあ、大雑把に言うと外に出るのは好きだが、家にいるのは嫌いって事」
「じゃあさ、この後半部分はどう訳すの?」
「前半部分を反対に解釈すればいいだけ」
「へ? 前半部分ってことは……本は読むけど、アウトドアは好きじゃない、でいいの?」
「ま、言ってる事はそういうことかな」
「なんで、なんでそうなるの? だってアウトドアとか、嫌いなんて単語どこにもないよ?」
ハイレベル過ぎる説明に、藁をも縋るような想いで問い詰めるなつみ。無理もない。
なにせ与えられた単語を訳す事だけしか知らなかった学習法にはなかった読解法なのだから。
「よく見なよ。いい? love out-of-doorsとnever open a bookがyetで対比して、love booksと
the great…がbutによって対比してるの。更に、never open a bookとlove booksはneverが
付いてる、付いてないだけで内容は"本は読む"って言ってんでしょ? ってことはlove out-of-doorsと
the great…も前と同じじゃないとおかしいじゃない」
「えっえっ?」
なつみの頭が混乱し出す。
落ち着きを取り戻しつつ、一語一句理解しようとペンを走らす。
なつみの国語力をもってしても、圭の説明は高度で理解するのには時間が必要であった。
- 407 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:26
-
「……じゃあ、love out-of-doorsをAとして、never open a bookをB、love booksをC、
the great…をDと仮定して」
「うん」
「AとBが対比、CとDも対比。ここまでは大丈夫?」
「うん」
「BとCは同じ主旨を肯定・否定にしただけ。わかる?」
「うん、うん」
「ならば、AとDの関係は?」
「えっと……内容は同じで、肯定と否定だけ違う」
「ならば、訳せるでしょ?」
なつみは理解した範囲内で、整理しながら恐る恐る訳しあげていく。
「前半が、アウトドアが好きだけど本は読まないで、後半が本は読むけどアウトドアが嫌い、でいいの?」
「それに主節の訳を繋げるとどうなる?」
「アウトドアが好きだけど本は読まない人たちもいるし、本が好きだけどアウトドアが嫌いな人たちもいる、
こんな簡単な答えでいいの?」
「そう。あとはそれを流暢な日本語にすればいいだけ」
「え、これを更に直すの?」
「ただ訳せばいいってもんじゃないんだよ、和訳って。意訳も時には必要なの。
こういう所で差がつくんだから覚えときなよ」
英語や国語といった語学を学習する上で、伸び悩む人と伸び進んでいく人との差がここにある。
つまりは、論理に基づいた思考の転換が必要になってくるのである。
簡単な例を挙げると、当て字。普段の意味とは異なる例外として、我々は難なく使っている。
または難解語。長ったらしい説明を漢字二字、三字で片付けてしまう日本人の癖。
言語と言う範疇においては、そういう言葉の特殊な遣い方はなにも日本語だけではない。
ならば英語にも変わった言葉の遣い方、言い回しがあるはずである、と考えられるかどうか。
極論を言えば、英語も日本語と同じような考え方ができるかどうか、
それが英語を、いや言語を上達させるキーポイントになってくるのである。
圭はそれを見事に実践して見せたのだった。
- 408 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:27
-
「そうなんだぁ……知らなかった。じゃあじゃあ、保田さんはどんな訳をしたんですか?」
「アタシはすごく簡単にまとめたよ。“自然は好きだが、本は嫌いな人もいるし、逆の立場の人もいる”だったかな」
「ええっ! そんな簡単でいいんですか!?」
「だってそうでしょ? 同じこと何度も言うよりその反対もいるって言えば済むことだし」
「あ、そっかぁ……」
「ただ英語を日本語に置き換えただけじゃ、本番じゃあ半分も点くれないよ」
「すっご〜い。いや〜、やっぱり頭良いんですね」
感心しているなつみに対して、圭はやや呆れ顔の様子。
なつみの言い方がやけに人をおちょくったような気の抜けた声だったから。
「……アンタ、本当に判ってんの?」
「勿論ですよっ! 保田さんに教えてもらったことで、また英語の勉強のコツが掴めましたっ」
「あっそ。まあ、少なからず役に立てたってわけね」
「ええ、もうなっちの中では大革命ですよっ!」
「ハイハイ」
「もうなっち、ますます保田さんにハマりましたっ」
「……」
その後も圭の特別講義において、一問一問解説していく度に、なつみは歓喜の声を上げて喜んで(?)いた。
四月に受けた衝撃で今日までやって来た英語の学習法に新たな旋風が巻き起こった。
圭直伝の英語学習法に添って、この夏なつみは一からやり直す決意をした。
「んなら予備校にくる意味無いじゃん」と言われても、今のなつみにはどこ吹く風であった。
- 409 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:28
-
昼の二時半頃から始まった講義は結局、五限が終わる頃まで延々と続き、
挙句の果てに圭は、なつみの為に参考書まで選ばされる羽目になった。
やる気が漲っているなつみに一日振り回された圭は、半ばお疲れモード全開でグッタリしている。
「参考書ぐらい自分で選べばいいじゃん」
「ついでにお願いしますよぉ。ちなみに保田さんはどれを使ってるんですか?」
「今のアンタにはちょっときつ過ぎるやつだよ」
圭が使っているものは単科講座の講師のもので、講師自らが一通り英語が出来る人向けとの
お言葉があり、中身もかなりのレベルであった。
そんなハイレベルの参考書を無理から購入しようとするなつみを引き止めて、
なつみの今のレベルに合ったものを選んでやる。
「アタシが今のアンタに薦められる参考書はこれが一番だよ。
解説が多いからじっくり読めば十分理解できるし、力も付くから」
そう言われて何を根拠にしたのかは判らないが、なつみは嬉しそうにレジへと参考書を持っていった。
先ほどまでの余韻が残っているせいか、今日の圭はなつみに対していつになく「優し」かった。
この時、不思議と嫌な気持ちがなかったのは疲労のせいだと自己分析する圭。
しかし、既に圭の中になつみの存在が身を宿している事など知る由もなかった。
「いや〜今日はものすごく勉強になリましたっ」
「ハイハイ、そりゃようござんしたね」
「参考書まで選んでもらっちゃったし。なっちお礼がしたいんですけど?」
「遠慮しとく。これ以上関わってると、ドツボにハマってく気がするから」
「え〜、もっとハマってくださいよ〜」
圭にとってはホンの微かだが、なつみにとっては出逢ったその日にキスをするくらいにまで
お互いの距離が縮まった一日だった。
- 410 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:28
-
翌日。
「なっち、顔色悪いよ?」
「え、そ、そお?」
時刻は朝の十時を回った頃、なつみは極度の睡魔に襲われていた。
本日も朝から自習室に篭ろうと考えていたが、動くことさえままならない身体がそれを拒んだ。
昨晩は、圭から伝授された英語の学習法に添って英語を始めから勉強し直し、よほど集中していたのだろう、
気付けば外からラジオ体操の音楽が聞こえてくるまで、テキストと睨めっこしていた。
さすがに身がもたないと思い、寝ようとした矢先。
隣りに住む自己中から「一緒に勉強しない?」との誘いがかかり、
断る前に部屋に上がり込まれ、どうしようもなく現在に至る。
「もしかして寝てないの?」
「朝の六時まで勉強してて……」
「えーっ、六時ぃ!?」
「でも、予備校生として、これくらい当然……だけどね」
「負けた……」
ガックリと肩を落とす圭織に、薄ら笑いを浮かべるなつみ。
自ら敗北宣言をしない圭織に勝てたことが嬉しいようだ。
しかし、相変わらず睡魔はなつみの意識を遠のけようと囁き続ける。
十分後。
「くか〜(Zzz)」
「……これじゃあ一緒にやる意味無いじゃんか」
気持ち良さそうに眠るなつみの頬をシャーペンで突つく。
プニプニした弾力がなつみの寝心地を更に心地良い方へと誘っているらしい。
- 411 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:32
-
不意に、なつみの寝顔が綻び始め、圭織はシャーペンで突つくのを一時止める。
「……へへへっ……カオリに英語で勝ったべさ……まだまだだねぇ……Zzz」
「……なんかムカツク」
実際のところ、二人の英語の成績は団栗の背比べ状態だが、僅差で圭織の方がいつも上にいる。
だから圭織にとっては、たとえ夢であってもなつみに負けたことが非常に悔しいらしい。
憂さ晴らしになつみの頬を摘んで引っ張る。
よく伸びるなぁ、と感心してしまった。
「……いやぁ〜、なっち照れちゃうなぁ……」
「今度はなんの夢見てんだぁ?」
「……もぉ、今日だけですよ〜」
(なんだなんだぁ?)
どうやらなつみは圭織に引っ張られた頬の感触を、誰かに吸い付かれたかのように錯覚していた。
そしてその相手は十中八九、圭である事は間違いないだろう。
なつみの顔がいつの間にか、ほんのりと紅く染まっていた。
「ん〜」
「!! ちょっと、なっち、なにす……」
「そんなに遠慮しなくてもいいじゃないですかぁ〜」
「ちょ、なっち、なっちってば!」
さも起きているかのようになつみが圭織に近づいていく。
そして目を閉じたまま唇だけを突き出して、圭織の唇を求めていく。
圭織はなつみを警戒しながらも部屋中を這いずり回る。
そしてそれを無意識(!)で追うなつみ。
その姿は、さながら飢えた獣が……のようである。
- 412 名前:萩 V 投稿日:2004/01/27(火) 03:34
-
そして逃亡の甲斐なく捕まる圭織。
完全になつみに抑え込まれてしまい、身動き取るのも一苦労な状態になった。
迫り来る恐怖に意地でも抵抗する圭織。
「ん〜」
「ちょ、起きろーっ!」
「保田さぁ〜ん。好きですぅ〜」
「カ、カオリは保田さんじゃなぁ〜いっ!」
必死の抵抗も空しく、圭織は半ば強姦されるようになつみに唇を奪われた。
自称『なつみ大好き人間』ではあるが、それはあくまで友達として好き、というわけであって
こういった禁断の関係になりたい、とはこれっぽっちも思ったことのない圭織。
そこいらへんの事は常識人であるようだ。
「「ん〜っ!」」
この後、二人の身に何があったかは誰も知らない……。
- 413 名前:おまけ 投稿日:2004/01/27(火) 03:35
-
圭織の『なっち通信A to Z』 第四回
Child(子供)
はっきり言ってなっちは子供! 誰がなんと言おうと子供!
カオリが傍にいてやんないとなっちはなぁ〜んもできないの。(よく甘えてくるし)
もうね、ホンのちょっとの事で笑ったり、拗ねたり、怒ったり、喚いたり、泣いたりするんだもん。
顔つきもそうだけど、精神年齢もかなり低くてさ、この間も、駄菓子屋さんで
近所の小学生に混じってアンコ玉やらよっちゃんイカ食べてたし。(カオリ大人だから、奢ってあげたよ)
でもね、そんななっちの感性、カオリは好きだよ。絶対に誰にも真似できないからね。
いつまでも子供の心を持ったなっちでいて欲しいなって時々思うカオリも子供なのかな?
- 414 名前:お返事 投稿日:2004/01/27(火) 03:35
-
>名無し飼育さん
なつみ「ごめんね。諸事情があるから……ヒントを出してあるから自力で捜してね。
ちなみに書き始めたのは今年からで、まだちょっとだけしか進んでないよ」
>通りすがりの愛読者
なつみ「またまた新しいお客さんだ。初めまして〜」
圭 「昔からの愛読者かな? いや〜表現法は長く書いてるせいですよ」
なつみ「甘いやすなちだって、圭ちゃん、どうしよう(ポッ)」
圭 「もう三年目ですからね〜」
なつみ「なっちはこの後圭ちゃんにあんなことやこんなこと……(カァーッ)」
圭 「まだまだ続くんで、綺麗な文章が書けるように精進しますよ」
なつみ「圭ちゃん! 無視しないでよっ!」
圭 「これからもよろしくお願いします(ペコッ)」
なつみ(シクシク)
- 415 名前:お返事 投稿日:2004/01/27(火) 03:37
-
>つみさん
なつみ「新作もそうだけど、こっちがメインだよ。よろしくね〜」
圭 「アタシもこっちの方が好き、かな?」
なつみ「えへ〜っ。やっぱり“やすなち”が一番だよねっ(ニコニコ)」
圭 「アタシ、カッコよく書いてもらってるし(自惚れ)」
なつみ(シクシク)
>renさん
なつみ「製序問題で頭を柔らかくしよ〜」
圭 「……なっちゃんは判りませんでした(ボソッ)」
なつみ「あ〜っ、圭ちゃん! それは内緒だって言ったっしょ!(プクゥ〜)」
圭 「お〜コワっ。ま、なっちゃんは放っておいてっと。
書き込みがなくても読んでくれてる人がいるって判っただけでも嬉しいですよ」
なつみ「これからもヨロシクね〜。ギュ〜(圭ちゃんの脇腹を抓る)」
圭 「イダダ、痛い痛いっ!」
P.S 安倍さん、ご卒業オメデトォございます。
- 416 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/29(木) 13:52
- 振り回される圭ちゃんが面白い・・・
なっちと圭織のやりとりも良い感じですねぇ
- 417 名前:momoyama 投稿日:2004/01/30(金) 18:46
- はじめまして、足跡残すのはじめてです(汗
うっぱさんの作品本当に大好きです!!
やすなち恋情で、はまりました(笑
ちゃんと見てますので頑張ってください!!
足跡あまり残さないですけど(汗
- 418 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/30(金) 21:20
- ochi
- 419 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/01(日) 22:21
- すっとぼけななっちに笑いが止まりません。
受験の鬼の圭ちゃんもかっこいい!!!
予備校受験ネタも詳しく何年か前の(何年も前?)
自分を鮮明に思い出します。これからも楽しみにしてます!
>417さん、
あげるのはよした方がいいと思うが・・・
- 420 名前:本庄 投稿日:2004/02/02(月) 12:20
- お久しぶりっす!
受験の追い込みのためちょいPCから遠ざかっています本庄っす・・・(泣)
なっちぃ!おいらもがんがるよほ・・・(T▽T)
つうわけでおそらくこれから一ヶ月ほど雲隠れします・・・。
捜さないでください・・・(違)
あ、なっち卒業おめでとうれす。
P.S私には新作みつけられませんれした・・・(アホ)
落ち着いたらゆっくり捜索しようと思います・・・。
- 421 名前:ビギナー 投稿日:2004/02/04(水) 23:14
- 大変、お久し振りでございます。
すっかりご無沙汰で、すいません。
保田さんと安倍さん、わずかながらに接近してきてますね。
このペースだと、間がなくなるのはいつの日か・・・
そして、安倍さんの妄想?
かなりいっちゃってます。
取り合えず、飯田さんがんばれっということで。
そして、うっぱさんもがんばってくださいね。
応援してますです。はい。
私も、新作見つけられてないので、地道にいきたいと思います。
- 422 名前:萩 W 投稿日:2004/02/06(金) 01:31
-
後数日ほどで長引いた関東地方の梅雨明けが発表されようかという頃、
予備校では昨日で講習会の第一週目が終わった。
ほとんど浪人生ばかりの講習会は、普段と何ら変わり映えのしない雰囲気だったが、
圭にはそれが却って心地良かった。
自分の中で予備校という環境下は、大学への扉を開ける為の試練の場ではなく、
いつしか気の抜ける安息の地へと変わっていた。
その理由は、二ヶ月ほど前から頻繁に圭のバイト先に現れては懐いてくる一人の少女が原因だった。
少女の名は石川梨華――K学園高等部に在籍し、同じクラスの真希とは一番の親友。
勉強良し、スポーツ良し、容姿良しの三三七拍子揃った優等生で、その噂は向かいのG習院大学にまで
及び、彼女に交際を申し込む輩が後を立たないほどである。
今では私設のファンクラブ(名前は読者の方々にお任せ)が幾つかあるという。
そんな優等生を一目見ようと後をつけてやって来る呑気な学生どもが目の色を変えて入り浸るようになった。
ファンクラブの事など気にも留めずに圭に懐く梨華、その刹那ファンクラブたちの白い目が圭を突き刺す。
そんな日々の繰り返しに、圭は毎日四苦八苦しているのである。
「やっすださぁ〜ん」
今日も店内に響く独特の声質。
その甘ったるいような、背中に虫唾が走るような甲高い声は、圭のフラストレーションを何度も煽った。
客と店員という関係上、邪険にもできず、既に店の常連にまでなった娘を出入禁止にする訳にもいかず、
かといってそれなりに時給も良く、人柄のいい従業員との信頼関係もあって、
辞めるに辞められないその板挟み状態が無性に歯痒かった。
- 423 名前:萩 W 投稿日:2004/02/06(金) 01:32
-
そんな悩める圭を更に悩ます出来事が圭の身に降り掛かった。
講習会前半戦を消化し、これからバイト三昧の日々を迎えようとしたその初日。
いつものようにせっせと仕事をこなし、休憩に入ろうとしていた圭に店長から声が掛かった。
ここでバイトをするようになってかなり経つ。
滅多なことで店長に声をかけられる事はなかったので、圭はいささか緊張気味に対応した。
「はい? なんですか?」
「あのね、今日から石川君が新しくアルバイトで入ることになったから」
「よろしくお願いします、保田さん」
毎日視界にさえ入れたくはなかった梨華が、店のエプロンをして店長の横に立っていた。
一見すると幼稚園の保母さんのようにも見える佇まいは、更にファンクラブの熱を過熱させるほどであった。
しかし、圭本人にはそんな事など関係なく、ただ瞬きする事しかできない。
そして当然のように出てくる疑問――何故?
「アンタ……店長、なんでこの娘が?」
「今月で矢口君が辞めるから、募集しておいたんだ。んで、まあ石川君ならウチの店のことよく知ってるし、
何より保田君がいるから直に採用したんだよ」
「……」
『すいませ〜ん。お会計お願いしま〜す』
「あ、はい。じゃあ石川君、頑張ってね。判らない事があったら保田君に聞いていいから」
「はいっ!」
「……」
昼食用に拵えていたハンバーグからの焦げ臭い煙が鼻孔をつく。
急な出来事に頭が働かない圭を見かねた梨華が、圭の手からフライ返しを横取りし、ハンバーグを裏返す。
表面は見るも無残に、どす黒く焦げ付いてしまっていた。
まるで誰かの心の中を表しているかのように……。
- 424 名前:萩 W 投稿日:2004/02/06(金) 01:33
-
「あ〜、焦げちゃいましたね〜」
「……何しにここまでついてくんのよ?」
「石川はバイトしに来ただけですよ?」
「バイトだったら他のトコでもできんだろうが。魂胆ミエミエなんだよ」
圭はフライ返しを梨華から奪い返すと、手馴れた手つきでもう片方を焼いていく。
裏返された真っ黒な物体に何故か苛立ちを覚える。
焦げた部分を器用に剥がす圭を見つめながら、梨華は胸の内を語った。
「……少しでも保田さんの傍に居たかったんです。あんまり逢えないから……」
「アタシはむしろ離れて欲しいよ。顔も見たくないくらいに」
「でも、判らないことは保田さんに聞けって店長が言ってたじゃないですか?」
「それとこれとは関係ないだろ。それに聞きたきゃ他の人にでも聞きなよ」
「任務放棄ですよ、それって」
「知るか、そんな事。アタシもアンタと同じバイトの身なの。とにかく気安く声掛けないで頂戴。
アンタとしゃべる事なんかこれっぽっちもないから」
「……あの人とならいくらでもあるんですね?」
「しつこいな。前々から言ってる“あの人”って誰のことよ?」
話しに付き合っていたせいでもう片面も黒焦げになってしまったハンバーグを皿に移し、
店特性のソースを半ば自棄気味にかける。
自分用のため、見た目や焦げなど気にせず、これまた余った野菜を脇に備え付ける。
ライスをよそる時にチラッと梨華を見るが、梨華は黙って圭を見つめていた。
『石川君、ちょっといいかい?』
レジの方から店長が梨華を呼ぶ声が聞こえ、梨華はそそくさと圭の元を離れた。
立ち去った後に残るほのかな残香が、余計に忌々しく感じる。
「……扱い難いったらありゃしない」
レジ付近で店長からレジの打ち方を教わっている梨華を、
厨房の片隅から見つめる圭はそう呟き、奥の休憩室へと入っていった。
- 425 名前:萩 W 投稿日:2004/02/06(金) 01:34
-
それからというもの、週末には必ず梨華と顔を合わせる事になってしまった圭は、
以前よりも歯痒い気持ちになっていた。
しかも梨華が夏休みに入れば、週に4日も顔を付き合わせる羽目になる。
嬉しさを身体全体で示し、事あるごとに引っ付いてくる梨華に閉口していた。
にも関わらず、同じ従業員からは「仲良いんだね〜」などと勘違いされ、
そう言われる度に梨華は照れ笑い、圭は逆に不機嫌な態度を示していった。
「やっすださぁ〜ん」
「……」
「無視しないで下さいよ〜」
「……でかい声出すな。周りの迷惑考えろ」
「いいじゃないですかぁ。保田さんと私しかいないんですから」
「向こう行け」
「え〜。お昼時も過ぎたんですから、マッタリしましょうよ〜」
昼食時を過ぎた時間帯という事もあってか、やや気の抜けた梨華が圭の元にやって来た。
あいにく他の従業員は、店長と共に出払っていた為、店内には二人しかいない。
店内にかかる甘いムードを漂わせるBGMが、梨華に変な気分を齎し出す。
じわじわと圭との距離を縮めていく梨華に、危険を察する圭。
「いちいち人の傍に寄ってくんなよ」
「だってぇ、ここしか保田さんと一緒に居られないんですもん」
そう言って、夜のメニューの仕込みに入っていた圭にピッタリと寄り添う。
ここで共に働くようになってからやけに擦り寄って来る事が多くなった梨華。
自分とあまり変わらないその背中に小さな幸せを感じ、心躍らせている。
しかし、状況が状況だけにタイミングがまずかったようだ。
包丁を持って食材を捌いていた圭は、自分の手を捌きそうになった。
身体の向きを変え、間髪入れずに圭は吠えた。
- 426 名前:萩 W 投稿日:2004/02/06(金) 01:35
-
「あー、もぉ、離れろ! 仕事の邪魔だよっ!」
「いいじゃないですかぁ。少しは構って下さいよぉ〜」
「ふざけるなっ! アンタがどんだけ懐こうが無駄なんだよっ!」
「……それってあの人が傍に居るからですか?」
「だからあの人って誰よ!?」
半ば睨み付けるような目で梨華をみる圭。
鋭い目つきから放たれる強烈な威嚇は、まさに目で相手を殺すといった感じである。
しかし今の梨華には、それが通用しなかった。
大抵の人間ならば、圭に睨まれると戦意を無くすのだが、梨華はその眼光を睨み返している。
それは普段の梨華からは想像もつかないほど、敵意に満ちた冷たい視線であった。
「あんなのがいいんですか?」
「誰のこと言ってんのよ?」
「とぼけないで下さい。保田さんは、あの人が好きなんですよね?」
「何なんだよ、一体! これ以上、アンタのくだらない妄想になんか付き合ってられっか!」
「石川は、どんな手を使ってでも保田さんを振り向かせて見せますから……どんな手を使っても」
「……勝手にしろっ!」
ちょうどその時、来客を告げる鐘が鳴り、一組のカップルが入ってきた。
梨華は慌てて厨房を出て、メニューと冷えたお水を持って接客に入った。
目の前のカップルの微笑ましい光景に自分の未来を重ねる。
(保田さん……私の大切な、愛しい人……誰にも渡さない……。
あの女にも……保田さんを変えたあの女になんか……絶対に……)
顔には満面の笑みを浮かべながらも、心の中では底知れぬ黒い想いを抱いていた。
- 427 名前:萩 W 投稿日:2004/02/06(金) 01:35
-
その日の夜、バイトが終わってから梨華はある一人の元へと向かった。
一度だけ訪れた事のある街外れの古びた木造アパート。
静まり返った周囲からは、アパートの目の前を流れる川のせせらぎしか聞こえない。
その音色が辺り一帯から夏の蒸し暑さを払拭している気がする。
日々進化する都会の片隅には、名曲「神田川」の世界が残っていた。
歩くだけで古さを感じさせる階段を昇り、くたびれた戸をノックする。
数秒後、中からこれまたくたびれた表情の金髪の女性が顔を覗かせた。
「……誰だよ? ん? よおっ、随分久し振りじゃん! 相変わらず悩んでますってツラしてんなぁ」
「……マァーちゃん、お願いがあるの」
「なんだなんだぁ、挨拶代わりにいきなり頼みごとか?」
マァーちゃんと呼ばれた女性、大谷雅恵は深刻そうな顔をするかつての幼馴染を物珍しそうに見ていた。
昔の面影を思い出すように見ていた雅恵は、梨華の表情から何かを感じ取った。
幼かった頃の愛苦しさではなく、きな臭い匂いのする何かを。
「……まあ、あがんなよ。っつっても、なぁ〜んもないけどな」
「……相変わらず変わんないね、マァーちゃんは」
「うっせ」
そう言って梨華の顎をしゃくる雅恵。
久し振りに見た幼馴染の笑顔と、昔から梨華をからかう時の癖にホッとする梨華だった。
梨華は雅恵を心からずっと慕っている。
小さい頃からいつも年下の自分を構ってくれた雅恵。
性格が男っぽく、喧嘩や悪ふざけを仕出かしては大人たちを困らせていたが、
梨華にだけは決して火の粉が降りかかるような事はしなかった。
いつしか雅恵が真っ当なの人生から足を踏み外し、周りの人間から白い目で見られ陰口を叩かれても、
梨華だけはいつも雅恵と家族のように温かく接していた。
だから雅恵がどんなに非道で近づき難い人間に変わってしまっても、梨華には頼れるお姉さんとしか映らないし、
今更雅恵を嫌いになんかなれなかった。
- 428 名前:萩 W 投稿日:2004/02/06(金) 01:36
-
「この女、どうにかしたい」
部屋に入って開口一番、ヘビーな台詞と同時に渡された一枚の写真。
雅恵は、お気に入りのハイライトを口に咥えながら、その写真を見た。
「……こりゃ中坊か?」
「違うよ。予備校生なの」
「あっそ。けど、なんでこの娘を?」
「私……好きな人ができた」
そう言って俯いた梨華の顔がほんのり紅くなった。
昔から思っている事がすぐ顔に出る事を知っている雅恵は、梨華の心中を察した。
ほとんどその手の話題に興味のない雅恵でも判るほど、梨華の行動は判りやすい。
写真を指で弾きながら言う。
「ってことは、梨華のライバルってワケか、この娘が」
「それだけじゃない……この女、私の好きな人に付きまとってて、その人に悪影響を及ぼしてるの」
「ほぉ〜、どんな風に?」
「この女といることで、性格が荒っぽくなって、優しさの欠片もない冷徹な人になっちゃってるの。
そのせいで、私が近寄ってもすぐにきつく当ったりしてくるの」
雅恵の表情がやや険しくなる。
口に咥えていただけの煙草をクシャッと潰した。
「おとなしい顔してやる事やってるわけか。あたし等みたいな連中からしたら、
一番ムカツクんだよな、こういう仮面被った良い子ちゃんがさ」
「そんな事言ったら私だって同じだよ。こうやってマァーちゃんにお願いしてるんだもん」
「でも、梨華の方がマシだろ?」
「そうかな?」
「好きな奴を更生させたい、元に戻って欲しいんだろ? その助けを求めにこうしてお願いに来てんだろ?
よっぽど梨華の方がマシだと思うけどなぁ」
- 429 名前:萩 W 投稿日:2004/02/06(金) 01:38
-
梨華は今回の事を雅恵に相談するか迷った。
以前から警察に目をつけられている雅恵を巻き込めば、今度こそ間違いなく雅恵はムショ行きだろうと。
しかし、今の自分ではどうする事も出来ないのも事実。
自分も雅恵ほどの人間ならば、一人でもどうにか事は片付けられるのであろうけれども、
仮にも自分は優等生というレッテルが張られてしまっている身である。
些細な事件でも起こせば、即刻学校や親に迷惑がかかる。
事が公に漏れずに、かつきっちりとしたケジメがつく方法を考えた末に雅恵を頼った……
梨華はそんな自分の気持ちをも告白した。
そんな梨華の心に秘めた切実な想いを聞いていた雅恵は、
潰れた煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出す。
そして環状線を描きながら宙に舞う煙を見つめ、躊躇うことなく言った。
「いいよ、何とかしてやるよ。可愛い妹分の為に、ちょっくらこの娘には泣いてもらうかね」
「無理しなくていいよ? もし何かあったら……」
「気にすんな。梨華にはアタシがグレ始めた頃からずっと庇ってもらったんだ。その時の貸しを返させてくれよ」
雅恵が自分だけに見せる笑顔にホッとする梨華。
この時、梨華も心の中で燻っていた決意が固まった。
自分も心中しようと。
「マァーちゃん」
「ん? まだなんかあんのか?」
「私にも手伝わせて」
「……それって共犯になるって事だぜ? いいのかよ、校内屈指の優等生さんがそんなコトして」
「はっきりとさせたいの。この娘に自分の仕出かした事が間違ってるって事を、
私からはっきりと引導渡してやりたいの」
グッと力の入った眼差しに悪魔を見た雅恵は、梨華の頑なな決意表明に真剣に頷く事しかできなかった。
雅恵は咥えていたタバコに写真を近づけ、引火させた。
見る見るうちに写真の人物の顔が歪み、焼け爛れていく。
「……わかった。けど、どんなやり方でも文句言うなよ?」
「うん」
「ヨロシクな、相棒」
- 430 名前:萩 W 投稿日:2004/02/06(金) 01:40
-
もう後には戻れない。
梨華は雅恵が飲みかけだったビールを苦い顔しながら飲み干した。
そして手の甲で口元を拭う今の梨華には、何かが憑依していた。
手にしていたビールを灰皿の中で静かに燃える写真に注ぐ。
……まるでオーバーヒートしたロボットのような音を立てて、写真は黒い塊へと変わっていく。
ダークエンジェルが静かに動き出す……。
- 431 名前:おまけ 投稿日:2004/02/06(金) 01:41
-
圭織のなっち通信『A to Z』 第五回
cook(料理する)
なっちはね、お料理がすごく上手。お菓子も作ったりするんだけど、困った事があるの。
それは、自分で勝手に作っちゃうこと。もうね、先生の話とか無視で、オリジナルでやるから
普通に調理してるカオリたちが混乱するんだよね。(独自の目分量で測るし)
目分量だから量が多くなって、一回作ると4〜5人分の量になるの。
ケーキとかもクリスマスケーキ並みのばかりだし、おかずとかも大皿に大盛りなんだよね。
でもさ、あの笑顔で「食べて」なんて言われたらさ、食べないわけにはいかないじゃん。
こっからはオフレコなんだけど、高2の時の時間割はね、家庭科の授業がある日は必ずね、
2時間後に体育が組み込まれたんだ。(やっぱり先生たちも心配してたみたい)
ついでに言うと、なっちのクラスに家庭科がある日の売店、定休日だったの。
理由はさ……判るでしょ?
なっちに誰かちゃんとした調理法教えてくれないかな〜。
- 432 名前:萩 X 投稿日:2004/02/06(金) 01:43
-
七月の終わり、学生にとっては嬉しい夏休みが始まった。
海水浴、花火大会、プールに夏祭りと、子供にとっては一大イベントとも言える夏休みだが、
そんな子供を持つ親、特に母親にとっては過酷な夏が始まったと言ってもいい。
何しろ電気代と食費代、そして夏の暑さとだらけた子供の世話にストレスが否応なく嵩む。
この一ヶ月あまりをどう乗り切るかが主婦としての腕の見せ所だろう。
そんな親心など関係なく、別の意味で夏をどう乗り切るかを考えなくてはならない輩たちがいる。
そんな輩たちが一同に会する予備校には、今週も相変わらずの人数の多さが目立つ。
人々が発する熱気に鬱陶しさを感じながらも、順調に過ごしていたなつみと圭織。
昨日行われたマーク模試も、自己採点上まずまずの成果を修めた(英語以外は)が、
やはり心の奥底では先日の圭とのバトルの惨敗が緒を引き、今日からの講習会には気合が入っていた。
- 433 名前:萩 X 投稿日:2004/02/06(金) 01:44
-
昼休み、混雑した学食を出た所で、ふと思い出したように圭織が言った。
手団扇で顔を扇ぐなつみはだるそうな顔つきで圭織を見る。
「なっちさ〜、数学、高一の問題集からやっといたほうがいいよ?」
「え〜、ヤダよ、カッコ悪いじゃん!」
「予備校生が恰好なんか気にしてる場合じゃないじゃん! 今やらなきゃ、もう後がないよっ!」
一歩前に出て圭織が振り向き様に一喝。
普段あまり正論めいた事を言わない圭織が、ここまで真剣な顔をしたのは初めてだった。
特に夏場のダレた雰囲気にはこういった喝が抜群の効果を齎す。
その気迫になつみも、今回ばかりは従わざるをえなかった。
「……そうだよね。本番でできなくて恥かくよりより、今、恥かいといたほうがいいもんね」
「そうそう。早めに手を打っておかないと。カオリも夏の間に国語を教化するって決めたし」
「じゃあ、今時間空いてるし、一緒に選んでよ」
「えーっ、浪人生が高一の参考書なんか選んでるトコなんか見られたくないよっ! カッコ悪いじゃん!」
呆気なく掌を返す圭織に、流石のなつみも呆れる間のなく噛みついた。
夏は頭に血が昇るのも早いらしい。
「ちょっとカオリぃ、今自分が言ったことと矛盾してるべ!」
「あっ、ごめん。これから数学の授業だったんだ、じゃあまた後でっ」
「ああっ、コラっ、カオリーっ!」
- 434 名前:萩 X 投稿日:2004/02/06(金) 01:44
-
言いたい事だけ言ってそそくさと逃げた圭織。
相変わらずの自己中に、フラストレーションを上げられたなつみは愚痴りながらライブラリーへと入っていく。
講習会期間中の昼休みだけあって、中は移動するのにも一苦労するほどごった返していた。
かなりの冷却度を誇るクーラーも、ここではほとんど効果がない。
あまり気の進まないなつみの足はようやくお目当ての数学コーナーへ辿り着いた。
色とりどりの参考書が購買欲を高める文句の書かれた帯と共に、受験生を待っている。
しかし、その中から本当に自分に合う参考書を選ぶのは難しい。
中には箸にも棒にも引っ掛からないような悪書もチラホラ……。
それを見つめながらもまだ愚痴り続けるなつみ。
今のなつみにはどの参考書も同じようにしか見えてならない。
「ハァ……も〜なんだよぉ。人にあれだけ力説しといて、自分が恥かしがっちゃってさ……。
ん〜、数学なんてセンターだけだけど、それでも色々あるしな〜。ん〜、あ〜、う〜っ。
あ〜もぉ〜、どれが良いのかわかんないじゃんかぁ」
隣りにいた学生の白い目も気にせず、一人唸り声を上げるなつみ。
薄気味悪い唸り声に、周囲にいた学生が参考書を置き、離れていく。
いつの間にか圭織の自己中が自分にも伝染していた。
「はぁ〜、ん? おっ、おおっ!」
ふとなつみの目があるところで止まった。
その視線の先には数学の参考書類ではなく、近くに設置されている小論文の参考書類。
更に言えば、そこに立って数多ある参考書を品定めしていた人物であった。
- 435 名前:萩 X 投稿日:2004/02/06(金) 01:45
-
数学の参考書たちが引き留めるのを尻目に、なつみは人垣をかい潜ってそちらへと進む。
そして参考書と睨めっこしているお目当ての人物の横からニョキッと顔を出した。
しかし相手はこれといって驚きもせず、なつみの顔を冷ややかな目で見ている。
「やっすださんっ」
「……今週も嫌な奴に会った」
「今週も授業ですか?」
「なんだっていいでしょ」
「じゃあ、お時間ありますね。今度数……」
「もう教えないから」
「え〜、そんな事言わずに教えてくださいよ〜」
「断る」
「ぶぅ〜。あ、そうだ。あの〜、数学ってどの参考書が判り易いか知ってます?」
「知らない」
「……」
なつみは圭が持っていた参考書をひったくった。
引ったくられた圭は、同じ参考書をもう一冊棚から取る。
それをも引ったくるなつみに、呆れたように言う。
「……前々から言ってるけどさ、そういうことならチューターとかに相談しなって」
「いいじゃないですかぁ。受験の事なんだし、助けてくださいよ〜」
「知るか」
「……うぅっ……」
今にも泣きそうな顔をするなつみ。
その周囲では何事かと二人を見つめる視線、それが圭にはかなり痛いようだ。
- 436 名前:萩 X 投稿日:2004/02/06(金) 01:46
-
「……判った、判ったから泣きそうな顔しないでよ、こんな大勢の人がいる前で」
「……へへっ、案外優しいんですね」
「一人で選べ!」
「あ〜嘘、嘘です〜」
「あ〜っ、もおっ、ややこしい奴だなぁ」
完全になつみのペースに引きずり込まれた圭は成す術無し。
周囲からも時折失笑が聞こえたほどである。
これ以上この娘に付きあっていると恥をかくと思い、さっさと用件を聞いて去ろうと考えた。
「アンタ、数学は二次でも使うの?」
「センターだけですよ」
「だったら、本科のテキストだけで十分だよ。それだけで不安なら、白本か青本でもやれば?
数学がある程度出来る、もしくは二次でも必要なら違うの薦めるけど」
「イエ、そこまでは……」
「あとは単科でも取ったら? 『基礎強化』と銘打ってある単科はセンターにも十分対応してるから」
「なるほど……」
結局なつみは圭の意見を尊重した上で、本科のテキストと模試だけに焦点を絞る事にした。
相変わらず人の意見に大きく左右されるなつみだが、それで成果をあげているのだからたいしたものである。
一方、なつみのいい加減な決定を聞いた圭は思った。
だったら最初から、そうしろよ、と。
- 437 名前:萩 X 投稿日:2004/02/06(金) 01:46
-
無理から付き合わされたついでに、圭は尋ねてみた。
決してなつみに興味を持ったからではなく、いちライバルとして、だ。
「ちなみにアンタ、第一志望はどこなわけ?」
「え、T学芸大ですけど」
「あっそ。なら最低でも数T・数U合わせて160ぐらいは必要だね」
「160ですか!?」
「あそこはセンターの比率がデカかったはず。みっちゃんが去年調べてたデーターだけど」
「みっちゃんが?」
「そっ。あのヘタレはそことY国目指してたし、本番でも自己採点に於いては両方足しても
180ぐらい取ったって言ってたけど……」
「みっちゃんて頭良いんだぁ」
なつみの中ではみちよがVサインを出してニヤけていた。
勿論その後で、真希に振り回されてヘタレ振りを惜しみなく出していたが……。
「まあ、あんなんでもそんぐらい取ってたから、それぐらいは必要なんでしょうに。
って言うかそれぐらい自分で調べときなよ」
「いやぁ〜、なっちはやる事が多くてそこまで手がまわんないんで」
「だったらアタシになんか引っ付いてないで、そっちに気を回しなって」
「それはダメですよぉ。それだけは絶対に譲れません!」
なつみは圭の前に回り込み、頬を目一杯膨らませて抗議する。
圭は一瞬目が点になったが、冷静に考えてから一言。
- 438 名前:萩 X 投稿日:2004/02/06(金) 01:48
-
「バカじゃないの?」
「あー、またバカにしたぁ」
「当り前でしょうが。アンタ、自分の立場わかってんの?
そんなコトするくらいなら数学の公式の一つぐらい覚えなよ」
「一つぐらいならなっちだって知ってるもん!」
「じゃあ解の公式、言ってみなよ」
「えっとぉ…………」
「言えないじゃない。んなくだらない追いかけっこなんかやってちゃ、アンタの進路はまたこの場所だよ」
「く、くだらない追いかけっこってなんですか! なっちにとってはとっても大事な、死活問題なんですぅ!」
「アタシに会うことがなんで死活問題なのよ!? 一度、医者行って診てもらいな!」
ここまでくると完全なる痴話喧嘩である。
照りつける日差しが更になつみをヒートアップさせた。
安倍なつみ、人生で二度目のマジ切れ。
「なっちはいつだって本気だべ! 本気と書いてマジって言うくらいマジだべ!
受験も恋も遊びもぜぇ〜んぶぜぇ〜んぶ本気で19年間生きてきたべさ!
したっけ、それをバカだのアホだの、キモイだの、林○パ○子だの、運動音痴、
略して運痴だの言われちゃあ、そりゃあいくら愛しの保田さんでも黙っちゃいないべさっ!」
「……」
「大体、保田さんはなしていつもそうやっ……ア、アレ? 保田……さん?」
「……」
圭は鋭い目つきで何かを探っていた。
それは今までなつみが見たこともない顔で、その迫力に殺気立っていたなつみは急に萎縮してしまう。
まるで自分が悪い事をしたような気にさせられるその表情は、以前みちよが見せたものと同類の匂いがした。
「あの、えっと、その、ごめんなさいぃ……」
「……誰かに見られてんね、アタシら」
「えっ」
- 439 名前:萩 X 投稿日:2004/02/06(金) 01:50
-
圭が急に黙ったのを不思議そうに見つめていたなつみが、圭の一言で
買ったばかりの文房具をギュッと胸で抱きかかえた。
圭は何食わぬ顔をしながらも辺りを警戒している。
「こんだけ人がいるとちょっとわかんないけど、視線だけは感じる。しかもかなり怨念がこもった冷たいもん……」
「えっ、えっ」
なつみは辺りをキョロキョロと見回すが、やはり講習会時だけあって、様々な人が交錯していて見当がつかない。
同じ受講生から、社会人、その他諸々額に汗を浮かばせながら、真夏の炎天下を行き交っている。
この中から犯人を見つけ出すのはほぼ不可能だ。
圭は試しに、その場から動いて予備校の敷地内へと入っていく。
なるべく相手を限定するにはまず部外者を排除するのが得策と考えたからだ。
敷地内の気だるい熱気から一気にひんやりした建物内へ入る。
周りでは各々が各々の事をしているが、圭たちが入ってきたことを不快に思う輩はいない。
怪しい気配もとうに消え失せていた。
「……どうやら、部外者だったみたいだね」
「……」
- 440 名前:萩 X 投稿日:2004/02/06(金) 01:54
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圭はフッと息を吐いて、ふと自分の掌が温かいことに気が付いた。
視線をそこへ落とすと、固く握られた手と手、そしてその一方の手の持主であるなつみが頬を紅く染めていた。
「アッ……ご、ごめん」
(ああっ……せっかく手ぇ握れたのにぃ……)
圭が咄嗟に手を離すと、なつみは少し淋しそうな表情を見せた。
ドクン……
その刹那、圭に動揺が走った。
「じ、じゃあ、アタシはこの後、用がある、から」
そう言い残して、逃げるように別校舎へと消えていく圭。
そんな圭を、なつみはただ愁いの目で見つめていた。
己の身の危険を感じながらも、心の片隅では圭の手の温もりを思う存分感じていたなつみ。
先ほどまで怒りを露わにぶつけていたとは思えないほど、今は清らかな乙女になりさがっていた。
しかし、気持ちは何故か冷め切っていた。
(保田さんの手……意外と温かかったな。手が冷たい人ほど心は温かいって言うけれど、
やっぱり保田さんてクールなのかな……でも、勉強教えてくれた時はそんな感じじゃなかったのに。
……なっちの思い過ごしなのかな?)
温もりを、感触を味わうように、自分の掌を見つめながら握ったり開いたりを繰り返すなつみだった。
- 441 名前:お返事 投稿日:2004/02/06(金) 01:55
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>名無し飼育さん
圭 「ほんっ〜とに人を巻き込むの好きだよね」
なつみ「(ムッ!)だったらなっちとはやく仲良くしてよ」
圭 「ヤダっ。なっちゃんにはカオリがいるじゃない」
なつみ「カオリはさ、まだなっちにも掴めてないから」
圭 (アタシは貴方も掴めてないんですけどねぇ……)
なつみ「あっ、圭ちゃん、今なっちもカオリと同じだと思ったっしょ?(ギュ〜っ)」
圭 「え゛っ、いや、あの、イダダ……イダイイダイっ」
>momoyamaさん
なつみ「また新しい読者さんだ。はじめまして〜」
圭 「ここのところお初の読者さんが多いね。なんでだろ?」
なつみ「それは、圭ちゃんとなっちの愛がようやく認知されたからだよ」
圭 「いやいや、たぶん新作情報流したからだと思うけど……」
なつみ「なっちも卒業したし、これでゆっくり圭ちゃんと……(クスッ)」
圭 「……シカトするなっちゃん、嫌い(プイッ)」
なつみ(シクシク)
- 442 名前:お返事 投稿日:2004/02/06(金) 01:56
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>名無し飼育さん
圭 「なっちゃん、すっとぼけだって」
なつみ「むぅ〜、なっちはいつでもノーマルだもん」
圭 「大抵自分は普通だって思うのが人間の心理」
なつみ「圭ちゃんだって鬼って言われるくせに」
圭 「別にイヤな気分になんないし、誉め言葉だね」
なつみ「うぅ〜(ウルウル)」
圭 (苛め過ぎちゃったかな? ま、可愛いからいいっしょ)
>本庄さん
なつみ「ん〜久し振りに会えたのになぁ。残念」
圭 「しばらく本庄さんともお別れ、か」
なつみ「じゃあ、戻ってきた時に、がっかりしないように成長しよう」
圭 「ほぉ〜。で、最終目標は?」
なつみ「圭ちゃんとラブラブになって、頭ん中「圭ちゃん一色」に染まったなっちになることっ!」
圭 「あ、そ、そう、なん……だ」
なつみ「……なんで、イヤな顔するわけ?」
圭 「……」
- 443 名前:お返事 投稿日:2004/02/06(金) 01:57
-
>ビギナーさん
圭 「お久しぶりですね〜。相変わらず健気に頑張ってます」
なつみ「カオリもそうだけど、なっちも頑張るよ〜(ニコニコ)」
圭 「妄想は止めてね」
なつみ「アレは妄想じゃないの! 願望!」
圭 「たいしてかわんないと思うけど……」
なつみ「いいのっ! とにかくなっちは圭ちゃんとの間を縮めたいだけなんだから」
圭 「……妄想止めたら接近してもいいかな(ボソッ)」
なつみ(キラァーン!)
なっち、再始動。
- 444 名前:独り言 投稿日:2004/02/18(水) 03:45
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ん〜、前の更新時にROM専の方々がいると判っていても、レスが無いとちょっと更新しづらいなぁ。
まあでも、こっそりと更新するって言ってしまったし、主役級の方々が娘。じゃなくなっちゃったし……。
愚痴ってる暇があったら更新しろって言われそうだから、黙ってこっそり更新しときます。
- 445 名前:芒 T 〜Here comes a candy girl〜 投稿日:2004/02/18(水) 03:47
-
暦の上では月が替わり、スカイブルーの空にライトイエローの向日葵が映える季節になった。
夏季講習会が始まって2週間あまりが過ぎた予備校では、人出が一番のピークを迎える。
特に今月は各週の平日に講習会、日曜日に各種模試と休む間もなくフル稼働で動き続け、
毎日がバーゲンセールといった感じだ。
勿論、圭やなつみ、圭織らはそんな荒波に飲まれ、齷齪しながら生活していた。
所変わって、とある住宅街の一角にあるアパートの一室。
どことなく北の大地を思わせるようなおおらかな雰囲気に包まれた部屋には、いつもの光景。
202号室の鈴音宅には今日も希美がお邪魔していた。
しかし単に遊びに来ていた訳ではなく、きちんとした目的――勉強をしに来ていた。
今年中学三年生の希美は高校受験生である。
学校での成績が中間辺りにいる希美の第一希望は、都立高校への進学。
理由は特にはない――希美らしいといえば希美らしい。
だが両親は都立を強く切望していた。理由は、ずばり学費。
やはりこのご時世、贅沢は敵なのだろう。
そんなわけで希美は親の期待を背負い、都立合格に向け、この夏から本格的に受験勉強に取り掛かった。
都立に合格するには、いささか学力不足の不安が過る希美。
だが、周りの友達のように学習塾へと通ったりはしなかった。
わざわざ高い授業料を払って、猛暑の中、汗水流しながら通学する必要はない。
なにせ身近な所に最高の講師たちがいるのだから。
- 446 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:48
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「……そうすると、この三角形ABCとこの大きな三角形AGHが相似になるの。
それが解れば、後はそれを証明するだけ」
「ああ、そういうことですか。のんはてっきりこの三角形DEFの方だと思ってたんです」
「そっちだと、二辺を挟む角度が違うから相似にはならないんだよ」
クーラーの効いた部屋で鈴音は希美の家庭教師をしていた。
希美の勉強を見る代わりに、二ヶ月分の家賃を免除という特権付きで。
管理人さん直々の頼みとあっては流石に断れなかったが、いざ引き受けてみるとそれほど苦にはならなかった。
むしろ、希美の勉強を見ている間は、自分の大学の課題にも取り組める時間がある為、
計画的な夏が過ごせて都合が良かった。
「のんは証明問題が苦手だったんですけど、りんねさんに教えてもらってから、得意になったんです。
りんねさんは教え方が上手です」
「私もそんなに数学はできるほうじゃないから、ちょっと不安だよ」
「でも、へーけさんよりはずっとマシなような気がするのです」
「それを言ったら真希ちゃんが可哀相だよ」
「てへへ」
本来、鈴音の担当は理科と社会だけだったのだが、五強科全ての面倒を見る羽目になった。
そもそも管理人である希美の母親は、英国数に関しては隣りのみちよにお願いするはずだった。
だが、夏休みに入ると真希が毎日現れ、それが却って希美に迷惑がかかる恐れがあると判断したみちよから、
断りの申し入れがあったのだ。
そんなこともあり、みちよはせっかく一ヶ月分の家賃免除の特権を真希によって潰された形になり、
逆に鈴音は一ヶ月得した形になったわけである。
これも日頃の行いが功を奏した結果といえよう。
- 447 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:49
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「はい、今日はここまで。お疲れ様」
その言葉で希美の顔から緊張感が消えた。
何かをやり遂げた時のような清々しい顔を見せる。
「ふぅ〜、今日も頑張ったなぁ。頭を使ったら、お腹が空いたみたい」
「数学はね、計算を解く事が楽しめないと大変な科目だからね。じゃあ、今日は何にしよっか?」
「ん〜と、今日は暑かったから、冷やし中華がいいなぁ」
「普通はお昼に食べない? 冷やし中華って」
「そうなのかな? のんは普通に夜でも食べてたけれど?」
「そお? まあ、いいけどね。今日は暑かったし」
「へへへっ」
少し窮屈なキッチンに二人で立つ。
最近、希美は食べることもそうだが、作るほうにも興味を持つようになり、
アシスタント役としてキッチンに立つことが多くなった。
お蔭で料理の腕も少しずつではあるが上がり、レパートリーも増えている。
本人が気づかぬうちに、花嫁修行は始まっていた。
みちよと行ったTDSツアーで購入したミッ○ーのエプロンをして、仲良く夕飯の支度に取り掛かろうとした時、
ピンポ〜ン、ピンポン、ピンポン……
けたたましく、来客を告げるチャイムが鳴り響いた。
「誰ですかねぇ。失礼な奴だなぁ」
「真希ちゃんじゃない? ハ〜イ」
「ごとーさんならとっちめてやる!」
希美はなぜか、今日は使わないはずのお玉を持って一人憤慨していた。
やや大きめのエプロン姿が余計に可愛らしさを物語っている。
- 448 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:49
-
鈴音は急々と洗濯したてのエプロンで手を拭きながら、ドアを開けた。
するとドアを開けるな否や、小さな弾丸(?)が鈴音目掛けて飛んできた。
「りんねさーん、お久しぶりでーすっ!」
「え、わあっ!」
「ど、どうしたんで、のわぁっ!」
小さな弾丸を正面から受け止めて後ろへ後ずさる鈴音。
そして突然の絶叫に駆け付けた希美とあわやの所でぶつかりそうになる。
三者三様の驚きで一瞬場が静まり返った。
が、いち早くその静寂を打ち破ったのは突如現れた少女だった。
「アーッ、りんねさん、誰ですか、この娘!? こっちにきて内緒で浮気ですか!?」
「ちょっと、落ち着いてってば。この娘は大家さんのお子さんなの」
「そうですよっ! のんは管理人代理ですよ!」
さも自分が一番偉いかのように踏ん反り返る希美に、どこかで見たような光景だなぁ、と
一瞬過去を回想する鈴音。
「なぁ〜んだ。てっきり浮気してたのかと思っちゃった♪♪」
「う、浮気も何も……」
「りんねさんはそんな遊び人じゃないですもんね? そうですよね?」
「わかったって……わかったから、いい加減離れてくれない?」
「え〜、もお?」
上目遣いで甘える少女。
ごく一般論から言えば、このシチュエーションに関心を抱かない者はいないだろう。
しかし鈴音はその仕草に慣れてるようで、冷静になって質問していた。
- 449 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:51
-
「ところでなんでここにいるの?」
「今年もインターハイですよ。しかも今年の会場は東京なんです。
今、自由時間なんでちょっと抜け出してきちゃいましたっ♪♪」
「……あ、そ、そう……なんだ」
「あの〜、りんねさん。この人は誰ですか?」
「あ、この娘はね……」
「りんねさんの昔っからの恋人っ!」
「ちょっ……」
「ええーっ!? ほ、ホントれすか!?」
突然の爆弾発言に、希美の持っていたお玉が床に落下した。
その顔はどこかショックを隠せないような、微妙な表情だった。
そして、入試の面接対策に直していた舌っ足らずな喋り方も復活してしまった。
やはり、人は些細な感情で昔の癖というものが浮きぼりになるようである。
特に言葉遣いに関してはその傾向が強く反映するらしい。
身近にいるあの娘が良い例だろう。
閑話休題。
少女の爆弾発言を聞いた鈴音は、慌てて誤解を解きに掛かる。
「ち、違うの、のんちゃん。これにはさ、その深い訳が……アレ、のんちゃん?」
「……」
「???」
希美の顔がドアに釘づけとなり、何かに驚いていた。
不思議そうに希美を見つめていた少女――木村麻美は鈴音と共に希美が見ている方へと視線を飛ばす。
すると、そこには……。
「ああっ!」
「ほぉ〜。りんねにこない可愛らしい彼女がいらっしゃったとはねぇ〜」
何故かこういうバツの悪い時にひょっこり現れる野次馬、平家みちよ。
顔は既にニタニタとイヤらしい笑みを浮かべてドアの前に立っていた。
- 450 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:51
-
「へ、平家さん……これは、その、なんと言いましょうか……」
「最近、人の色恋沙汰に首突っ込むようになったんは、こういう事があったからかぁ……ふぅ〜ん」
「いや、ですから、そうじゃなくてですね……」
「そうなんです〜、よろしく、お姉さん♪♪」
「ち、ちょっとぉ……」
「こっちこそよろしう。それにしても可愛い子やなぁ」
「やだぁ〜、もぉ〜、お上手なんだから〜♪♪」
「これじゃありんねを独占できなくなってまうなぁ〜。のんちゃん、どうするぅ〜?」
「うふぇ!? なな何を言ふ*◇▲#¥!?」
日頃の鬱憤を晴らすかのように、煽りをかますみちよ。
流石に希美もいつものように強気な態度で対抗できないほど動揺していた。
希美、人生初の大ピンチ!
「アーッ、やっぱり浮気してたんですねぇ!? ズルイですよ〜。隠れてコソコソと」
「そうなんよ。りんねは結構こっちではモテモテでな……」
「ちょ、平家さんっ!」
「もぉーっ! だから麻美は東京に出るのを反対したのにぃーっ!」
「もぉー、ちがぁーうっ!」
「おおっ、りんねが吠えたで。初めて見た、怒るりんね」
「りんねさん、こわ〜い。不良になっちゃやだぁ〜」
「……そうさせてるのは誰ですか」
人の不幸は蜜の味、その蜜を思う存分吸っているみちよ。
そんな彼女に災難が襲ってくる事など誰にも判らなかった。
- 451 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:52
-
十分後、ようやく落ち着きを取り戻した雰囲気にまたも、みちよが茶々を入れて掻き乱した。
火の無いところに煙は立たないが、みちよだけはそれさえも可能にしてしまう。
「りんね、人気もんやなぁ。両手に華とはこのことを言うんやな」
「……嬉しくないですよ」
「え〜。りんねさん、冷たい〜。りんねさんが不良になったぁ〜、ショックぅ〜」
「……」
みちよは笑いを堪えている。
自分の前に座るはこの部屋の主である鈴音。
その鈴音の腕に抱き付いて密着しているのは右に麻美、左にやや膨れっ面の希美。
まさに二人の子供を抱える若奥さんが今の鈴音にはよく似合っていた。
「のんちゃん、どないしたん?」
「なんれへーけしゃんがここにいるんれすか? なにか用があるんれすか?」
「ウチか? ウチはそやなぁ……りんねの幸せを見届ける親みたいなもんや」
「あ、あのですねぇ……」
半ば呆れ返っている鈴音をよそに、更に深みに陥れようとするみちよ。
「いっその事、今ここで決めてもうたら? どっちが好きか」
「「!!!」」
「ちょ、何を言い出すんですか!?」
突然、麻美が鈴音の手を握って哀願する様に己の心の内を訴え出した。
目がキラキラと輝いているのは言うまでもない。
- 452 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:53
-
「りんねさん、麻美ですよね? 北海道にいた頃からずっと一緒だった麻美ですよね、ね?
りんねさんが去年励ましてくれたから、今年もインターハイに行けたんですよっ。
他の子が恋だ愛だと喚いてはしゃいでる時も、麻美はりんねさんに誉めて欲しくて、
りんねさん一筋で今日の今まで頑張ってきたんですよ?
りんねさんが大学受験する時、密かに近くの神社で合格祈願したんですよ?
卒業の時に貰ったス○ーピーのシャーペンだって、今でも大事に使ってるんですよ?
それもこれも全部、りんねさんに対する麻美の誠意なんですよ?
判ってくれますよね!? ね!?」
「あ、あの、その……」
「す、凄い独白やな……」
「す、すごい気迫なのれす」
最後は泣き落としで迫る麻美に、鈴音はおろか、みちよと希美までもが成す術もなく呆然としていた。
いち早く我に返った主犯格が希美の背中を推す。
「ホ、ホレ、のんちゃんも、思いの丈ぶちまけな」
「へ、へい。えっと、りんねしゃんがここれ麻美しゃんとくっ付いてしまったら、
この先りんねしゃんのお料理が食べられなくなってしまうのれす。
らからりんねしゃんには、彼を、ん? あ、彼女を作られては困るのれす。
なのれのんのためにも、そしてりんねしゃんのためにもここはのんを選んれおくのが得策なのれす」
(のんちゃん……その告白、違うやろ)
麻美にやや圧され気味の希美は、違った意味で鈴音を引き留めに掛かった。
隣りでガックリと肩を落とすみちよ。
未だ本心に気付いていない希美が、ガールからレディーになるのは当分先か?
- 453 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:53
-
「のんちゃんまで……誰か、助けて……」
「りんねさんは貴方に渡さないからね!?」
「のんも負けないれすよ!?」
鈴音の痛切な願いも虚しく、小さな者同士の大きな戦いの火花が散っていた。
それを囃し立てて遊ぶみちよ。
ピィ〜ンポォ〜ン
突然鳴り響く拍子抜けしたようなチャイムの音に、一同がドアの方を向いた。
「ん、誰や? 三人目の志願者か?」
「勘弁してくださいってばぁ。ハァ〜イ」
ヨレヨレになりながらドアを開けると、満面の笑みを浮かべた真希が立っていた。
「あ、りんねさん、こんばんわぁ〜」
「ああ……真希ちゃん、よかったよぉ〜っ」
「へ?」
真希は、いきなり鈴音に抱きつかれ、凭れ掛かられる。
そして、何かを求めるような眼差しにどう対応していいか判らず、
瞬きしながらわけの判らない事を捲くし立て出す。
「あ、ご、ごとーにはさ、ホラ、へーけさんいるし、その、えっと、りんねさんにはもっと可愛くて、
ごとーより頭よくて、そっちのほうが似合ってると言うか、その、つまり……」
「??? 真希ちゃん?」
「えっと、だから、その、そうそう、圭ちゃんなんかいいんじゃないかな? ごとーより頭いいし、
結構腕っ節もいいし、ちょっと無愛想で口悪いけど、でも鈴音さんなら圭ちゃんだって…」
「真希ちゃん? 大丈夫?」
「え?」
一人勘違いしていた真希は、キョトンとしていた。
ようやく落ち着きを取り戻すと、本来は真希がするであろう顔つきをする鈴音が視界に入る。
そして……苦笑い。
- 454 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:54
-
「今日も平家さん、でしょ?」
「あはっ、勿論! 来てる?」
「うんうん。今ね、平家さんに苛められて困ってるの。だから真希ちゃん、お仕置きしてくれない?」
「ホントに!? もお、あれほど浮気はしないって言ったのにぃ」
鈴音の迫真の演技に騙されて、膨れっ面になる真希。
だが表情は徐々にニヤケ顔になりつつある。
「もうとことんやっちゃっていいから今日は。私が許すから、好きなだけ愛してあげてね」
「やったぁ〜、へぇ〜けさぁ〜ん」
「うなっ! ごっち…ぐへっ……」
真希の渾身のタックルがみちよを押し潰した。
あまりにも強引且つ大胆なアタックに周囲から声が上がる。
「「おおーっ」」
「へーけさん、今日は帰さないぞぉ〜」
「あ、アンタの台詞ちゃうやろ! 離れいっ!」
「へへ〜、それは無理だよ。だってりんねさんからお許しが出たんだもん。好きなだけ愛してあげてって」
「なにぃっ!? り、りんねぇ!!」
「さあ? なんの事でしょうか?」
またまた両脇にお荷物を抱えながらトボける鈴音だが、顔はしてやったりといった表情を見せていた。
- 455 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:54
-
「へ〜けさぁ〜ん、チュ〜しよ〜よ」
「「「おおーっ」」」
観客に回った三人が一斉に歓喜の声と拍手を添えて盛りたてる。
「ア、アホか。こんな人前で、ア、アカンて」
「いいじゃん、たまにはみんなにも見せてあげようよ〜。ごとーとへーけさんの愛をさ」
年下に責められるみちよは一回目のキスをなんとか交わしはしたものの、
頬には真希の愛情の印がくっきりと付けられた。
「おおーっ!! キスマークだぁ〜っ!!」
「ちょ、君も感心しとる場合やないって」
「へーけしゃんが食われてるのれす!!」
「の、のんちゃんも見てへんで止めてくれぇ〜」
「平家さん、嬉しそうですね〜」
「んなわけな……ちょお、ごっち……」
感心する三人に見守られながら、真希の熱い口づけを受けるみちよ。
「ん〜、んん〜っ」
「おおっ、ぬおおーっ!!」
「すごいのれすっ!」
(ハァ……なんとか誤魔化せた。真希ちゃんに感謝感謝っと)
- 456 名前:芒 T 投稿日:2004/02/18(水) 03:56
-
これでもかというくらいに甘いシーンを見せられる少女二人は、すでに興奮状態に。
一方の鈴音は、真希が現れたことでようやく平穏な空気を取り戻せると一安心していた。
そんな矢先に……。
「東京の人は進んでる……麻美も負けられないっ、頑張らないと! りんねさんっ!」
「えっ!? わっ! ちょ、まっ……」
北の大地で伸び伸びと育った麻美は野生児そのものだった。
己の欲を満たすべく、一瞬にして獲物(鈴音)に飛び付き……。
「ああっ!」
「んぁ!?」
「……ぐへっ」
木村麻美、大暴走。
その夜、三人の溺愛者による愛情表現はみちよと鈴音の魂を根こそぎ奪っていった。
- 457 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/19(木) 13:13
- 見てますよ〜。
てか鈴音もモッテモテなんだなぁ。
ののも麻美もがんばってね〜(w
- 458 名前:名無し( `.∀´) 投稿日:2004/02/22(日) 14:31
- 毎度、更新を楽しみにしてますよ〜
クールなやすす、カクイイです
まぁ、それも長続きしないのでしょうが
- 459 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/22(日) 23:04
- 落とします。
- 460 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:26
-
夏季講習も折り返しを迎えた土曜の夜。
翌日はK大プレの為、日曜日を模試で潰していたなつみたちには束の間の連休になった。
それを利用して二人はみちよたちのアパートで骨休みをすることにした。
今年の夏は帰省しないと決めていた二人には、ここが緊急の故郷になっていた。
しばらく他愛のない話で盛り上がり、一緒にいた圭織は気が緩んだのか、それとも元々弱いのか
アルコールのせいで一足先に夢の中へと旅立ってしまった。
そんな圭織に自らの膝を貸している鈴音は、やや乱れた圭織の長髪を手櫛で整えてやる。
圭織はその感触を感じ取っているのか、童心にでも戻ったように幸せそうな表情を見せていた。
その一方で、みちよが気分良く口元にビールの泡をつけながら、なつみと笑談している。
毎度お騒がせの真希と希美がいない分、やけにリラックスしている感がある。
アルコールの弱いなつみは、ウーロン茶でお付き合いするも、気分的にはかなり上機嫌らしく、笑いが耐えない。
話がひと段落した頃、みちよが思い出したように言った。
「なあ、まだ追っかけとんの?」
「なにを?」
「圭ちゃんや。それ以外に何を追いかけることがあんねんな」
「勿論だべ! 最近、ようやくスムーズに話ができるまでになったっしょ」
「そないにエエかぁ?」
「……うん」
なつみの頬が紅く染まった。
それは決してアルコールのせいではなく、自らの気持ちから来るものであった。
成人まであと一歩の女性にしては、かなり純粋な証拠である。
- 461 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:27
-
「だったら大学も同じトコ受けたらええやん」
「む、無理だよぉ〜。なっち、英語苦手だもん」
「でも、同じ大学入ったら四年間一緒におれんで? 同級生やし、授業も同じのとか取ったりして、
もう朝から晩までピッタリしほうだいやで? どっかのアイドルがなんや唄ってたやんか。
♪ピッタリしたいなんとか〜♪って。♪頭の中なんとかかん〜とか♪やったっけか?」
依然、希美が持ってきた数枚のCDの中にあった曲の一部を唄った。
詩はメチャクチャだが、音程はきちんと取れていて、フリ(希美直伝)まで付いている。
……何気に上手かった(失礼)。
「うぅ〜、そう言われると心が揺れ動くなぁ」
「でも、動機が不純過ぎませんか?」
「せやけど、恋してる時のパワーは凄いで。苦手なもんもアッという間に得意になったりするし。
しかもまだ夏やから、苦手科目の克服にはちょうどええ時期やし、一石二鳥やと思うけどなぁ」
「そう言われると……ん〜、悩むよ」
「将来の行く末を取るか、目の前の幸せを取るか、イヤァ〜、受験生らしい悩みやね〜」
あぐらを掻いたみちよがビール缶を置き、膝を二、三度叩く。
表向きは女として成熟みを増してくる年なのだが、中身は完全にオヤジである。
もっとも彼女に女らしさを期待するものはここにはいないのだが……。
「みっちゃんならどうする?」
「ウチは断然、将来の行く末を選ぶ!」
「人にカマかけといて……」
「はっはっは。人は人、自分は自分やろ? うっはっはっは」
枝豆を一口して、上機嫌なみちよ。
何か良いことがあったのだろうか、それとも真希がいない分開放的になっているのだろうか、
なんの変哲のないことで笑い転げている。
そんなみちよについていけない二人は、ただただ呆れかえるばかり。
- 462 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:28
-
「セコイっしょ。……りんねならどうする?」
「ん〜、私はどっちとも言えないなぁ」
「なんで?」
「将来のことを考えるのもいいけど、目の前の幸せを踏み躙ってまで固執したくないし……。
かといってその日その日の幸せだけを追い続けるのもなんか生きていく望みがないようで嫌だし……。
ん〜、難しいよね、こういう問題って」
シラフで真面目に応えた鈴音にみちよもいくらか真剣に考えだした。
依然顔は紅くはなって目もそろそろ塞がりそうな状態ではあるのだか。
「せやなぁ。同じトコ目指したからっていっても、二人とも受かる保証なんてないし、
好きな気持ちを押し殺したままっていうのも後々影響しそうやし……」
「ですよね〜」
「なんやったら、この際思いきって告白してもうたら? そや、そうしよ、なっ」
「ええーっ! や、やだよぉ」
「なんで? そんなあやふやな気持ちのまま二月の本番迎えんのも嫌やろ?」
「だって、だってぇ……怖いんだもん、怒りそうで」
「圭ちゃんがか?」
「うん……。それにさ、告ってますます嫌われたくないし。
恋人まではいかないにしても、せめてお友達くらいにはなりたいんだもん」
瞬時に実った完熟トマトは、両手の人差し指同士を突つき合わせて恥かしがる。
先ほどからみちよや鈴音の一言一言に、自分の感情を添えて対応する様が滑稽で、微笑ましい。
その姿にちょっとだけドキッとした者が一人……。
「……じゃあさ、お友達になっちゃったら、なっちはどうするの?」
「う〜ん、どうしよ?」
「えっ、あ、そやな……ちなみになっちはどこ狙ってるんやったっけ?」
「みっちゃんが去年狙ってたT学芸大」
「イヤイヤ、うちはY国狙いやったから……」
「あ、そうなの? 保田さんがそう教えてくれたんだけど」
「ああ、圭ちゃんはあんま他人の事に興味示さんから、いい加減やねん」
「そうなんだ……あ、そうそう。みっちゃんてさ、どのくらいだったの? 去年の成績」
「ウチか? ん〜、なんかイヤやなぁ、人に教えんの」
そう言いつつも、収納の中をゴゾゴゾと漁るみちよ。
- 463 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:29
-
親友の為に協力を惜しまないその姿勢は、レディース時代から変わっていない。
某深夜番組でS田S助氏も語っていたように、ワルと呼ばれる連中ほど情とか仲間意識を大切にするものである。
そしてその時培った絆は後生まで繋がっていく。
今でこそ大人しくしているみちよだが、もし彼女が一声掛ければ、たぶん昔の仲間がわんさか集まってくるだろう。
社会で生きていく為に一番必要なものを、社会から外れた者たちが持っているという矛盾に
どれだけの人々が気付いているのだろうか。
「ホレ。これが去年、ウチの受けた模試の成績表や。
去年のデーターやから参考になるかどうかは判らんけど、目安にはなるやろ」
「アリガト。ふぅ〜ん、結構頭良かったんだね、みっちゃんて」
「失礼なやっちゃなぁ。去年は圭ちゃんが居ったからウチの成績なんか霞んで見えたけど、
それなりにできたんやで?」
「だね、五月の段階で、G芸大がB判定だし、私大もB判定ばっか取ってるもんね」
「ちょい英語が伸び悩んだけどな」
「でも、それなりにキープしてるじゃん。十一月の時点で、順位も良いところまで上がってるし」
「まあな」
確かにみちよは受験生時、成績が上がらず伸び悩んだ事はあったが、前回の模試よりも成績が落ちる事は一度もなかった。
というよりは得意の国語も含め毎回、ほとんど横這い状態だった。
しかしそこからの脱却に時間を要し、結局横這いの呪縛から解き放たれる事ができずに本番へ突入。
その第一歩であるセンター試験で重大なミスを犯し、呆気なく国立への門は閉ざされてしまったのだ。
- 464 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:32
-
「今から考えると、もうちょっとマトモにやっときゃ良かったなぁ。
合格圏確実の大学があったばっかりに、浮かれてもうた」
「でも、W大には合格したんですから、それはそれでいいんじゃないんですか?」
「そうだべ。模試じゃ、W大C判定が最高だし」
「……古傷抉らんといてぇ。まだまだ半年ほど前の話なんやから」
先ほどまでの陽気な表情から一転、部屋の隅にしゃがんで人差し指で角の埃と戯れるみちよ。
彼女にとってはよほど悔いの残る心の病らしい……。
「まあ、それはいいとして。で、どうなの? 今の現状だと大丈夫なの?」
「まだちょっと足んないや。英語と数学をなんとかしないとって感じかな」
「そやな。G芸大受けるんなら英、数、国は150以上は取っとかんと厳しいからな。
でも今のなっちなら、この夏頑張れば本番で180ぐらいはいけるんちゃう?」
「180!?」
「さっきも言うたやろ? 恋する乙女のパワーは計り知れんからって。
ま、そのパワーが勉強の方に注がれればの話やけどもな」
「そして春には、憧れの保田さんとキャンパスデートなんてのもいいんじゃないの?」
ほんのりと顔が紅い鈴音がなつみをからかう。
彼女の微妙な変化にまだ誰も気付いてはいないようだ。
「あっ」
不意にみちよがスットンキョな声を上げた。
- 465 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:33
-
「でも、よう考えたらお互い、別々の大学でもええんとちゃう?
なっちはウチらとダチやろ。で、圭ちゃんはウチのダチ。
んなら、なっちは必然的に圭ちゃんともダチになれるやん」
「おお〜。しゃしゅがはW大国文科の学生れすねぇ。三段論法を用ひるなん…て」
「あのなぁ……アンタかて同じ国文科の学生やん」
「はれ? そうれしたっけ?」
「ちょ、りんね? あんた、顔真っ赤やで?」
みちよがそう言うなり、鈴音は膝の上に寝ている圭織に覆い被さるように倒れ込んだ。
彼女の目の前にはさっきまでなかった一本の見慣れた缶。
どうやら圭織が飲んでいたチューハイをうっかり誤飲してしまったらしく、
鈴音は自分の膝と上半身で圭織を挟み込んだまま眠ってしまった。
「……そういえばそうだべ。なんだ、簡単な事だ。もぉ〜、悩んで損しちゃったじゃんか」
鈴音が酔い潰れた事など気にも止めずに、独り自分の世界に入っていたなつみ。
自分の中で納得のいく応えが出て、気分が高揚していたのか、圭織と鈴音が飲んだチューハイを一気に煽った。
飲みっぷりの良さを表す音と共に、なつみの喉が規則正しく上下に動く。
「あ、なっち。それ、お酒……」
みちよが止める暇もなく、なつみは空になった缶をテーブルに置く。
みちよをじっと見つめる瞳が徐々に垂れ下がる。
なつみにも眠りの園へのお迎えの時間が急速に迫っているようだ。
- 466 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:35
-
「みっちゃん……のせいれ……なやん……らったっしょ」
「ええっ! ウチのせい?」
「そう……らふぇ。……罰とし…て明ら、ヒック……なっちらちにぃ」
「へ? な、なに?」
「……付きあて……ヒクッ…もらふしょお……」
「何を言うてんのか判らん。もう一回言うて?」
「へへへぇ〜、内……しぉ……Zzz」
「ちょ、おい、なっち、なぁーっちぃー!!」
まるで幸せそうに息を引き取っていく人の如く、ゆっくりと隣りの鈴音に凭れ掛かって目を閉じるなつみ。
そのまま心地良い寝息だけが聞こえ出す。
「内緒?ナイショって……りんね、なんのコトや?」
「Zzz……もぉ……飲めぇ……うにゅ〜ぅ…」
こちらも完全に安眠状態。
「なになにぃ!? 誰か教えてく、グハッ!」
独りシラフのみちよの悲しい雄叫びが響いた。
その刹那、小さく丸まって寝ていた圭織の足がみちよの鳩尾を的確に捉えた。
みちよは、腹部を抑えながら前のめりで蹲っている。
が、程よく酔っていたこともあり、本人も知らぬ間に寝入ってしまっていた。
- 467 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:36
-
翌日、アルコールの空き缶が散らばる部屋にお年頃の娘たちが、文面上でも言えないような
あられもない姿で雑魚寝している頃、圭は一人予備校へと向かっていた。
全国の学力に自信のある猛者たちが、国立最難関大の双璧とうたわれるK大に挑もうと
この暑さの中、朝早くから集まってきている。
圭はK大志望ではないのだが、ある目的の為にK大プレと、先ごろ行われたT大プレは受験することにしていた。
「はぁ〜、朝からこんなに暑いとは」
まだ時刻は8時をまわった頃だというのに、真夏の太陽は既に熱く燃えていた。
アスファルトからはあと1時間もすれば、しつこいくらいの熱を放出するだろう。
通路脇に設置されている自販機には既に幾つかの売り切れマークが点滅している。
それに比例するように溢れ返る空き缶の山、山、山。
夏だなぁ、と感じる瞬間だ。
試験会場になる教室へ行くと、やはりまだ運転し始めという事もあってか、
冷房よりも室内に居る受験生たちの体温の方が勝っていた。
受験票に表記された番号に当る席に着くと、受験票を番号札の所へ置く。
しばし、ぼ~っとしていると係りの者が教室に現れ、本日の予定やら緒注意を簡略に説明していく。
そしてようやく解答用紙と問題用紙が配られ、個々に氏名、受験番号を記入していく。
圭も同様に記入し始めるが、そこには自分の名ではなく、
氏 名:安倍なつみ
学籍番号:254026A
受験番号:510−1723K
と、書いて試験開始の合図を待った。
- 468 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:36
-
圭はこのK大プレをなつみの名を使って偽り、本科生料金で受験している。
本科生は各種模試を無料、もしくは定額料金で受験する事が出来る。
去年、みちよの名を使い、幾つかの模試を低料金で受験した圭。
今年はなつみの名を拝借して、受験しようと企んでいた。
このずる賢い技を打診した際、なつみにはかなり拒絶されたものの、なつみに対して
幾つか借りがあった事を餌に揺さぶりをかけた。
すると、泣きそうな眼で圭を見つめながらも渋々了承してくれた。
氏名欄に書かれた名を見つめながら、圭はあの時、嫌々ながらも借りを作っておいて正解だったな、と密かになつみに感謝していた。
定刻通り、K大プレが始まった。
圭はこのテストに関して言えば、英語以外には力を入れようとは考えてはいなかった。
なので、日本史の論述も辺り障りのない解答を打ち出すだけにした。
だから論述対策等で言われる答案作成法やらも無視し、ただ自分が理解している知識だけを
羅列したような解答は、定められた枠の半分も消化しなかった。
同様に国語に至っても、あくまで解答欄を埋めるという単純作業に徹し切っていた。
しかし、与えられた文章を読んで理解して答えを出す国語は、日本史の時とは勝手が違い過ぎて、
きちんとした解答を作り上げざるを得なかった。
問題と解くというよりは、読書をしている感覚でいたせいで時間配分を間違え、
お陰で2、3問ほど解答しきれなかったが、できはまずまずだと思った。
三時間強もの間、頭の中を目一杯使った所で束の間の休息。
一歩外に出ると、先までの冷ややかな室内とは打って変わって、強烈な熱光線と熱気が襲ってくる。
肌から伝わる体感温度で、今日も猛暑であろうと察する。
「あっつ〜。こんなんじゃなんも食べる気がしないや」
先ほどまで空腹を訴えていたお腹が、今は拒絶反応を示している。
どこかに食べに出ようと考えていた圭は、夏の暑さで参ってるのか、それともテストの出来が芳しくなかったのか、
肩が落ち込んでお昼を取りに行く受験生を見て、余計に空腹感がなくなっていく気がした。
仕方なく近くのコンビにでペットボトルとカ〇リーメ〇トだけを買い、早々に室内へと戻っていった。
- 469 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:37
-
その頃、昨晩のアルコールの匂いが漂うみちよの部屋では、四人とも密閉された室内で惰眠をむさぼっていた。
寝苦しさからか、独り離れて冷蔵庫の前で寝ているのはみちよ。
一方、真上に昇った太陽の光りを浴びながら固まっている三人。
壁に背を預け、魘されるように寝息を立てる鈴音。
何故か彼女の首筋と左頬には、くっきりとしたキスマークが点いていた。
その鈴音に寄り掛かりつつも額に大汗を掻いて寝苦しそうにするなつみは、
時折例の寝言(本スレ411〜412)が微かに漏れている。
かたや鈴音の膝を枕にし、こちらも額に大汗掻いて大の字になって眠るのは圭織。
なつみと違い寝言は言わないものの、寝相だけならば男顔負けの姿である。
四人は休日らしからぬ休日を過ごしていた。
◇ ◇ ◇
昼食を挟み、いよいよ本命の英語の試験が始まる。
K大の英語は、英文和訳と和文英訳のみというシンプルな問題構成。
国公立を問わず一部の私立でも、当然のように和訳と英作は必ず一題出題される。
勿論、圭が志望するT外大も然り。
圭がK大プレを受けた一番の理由は、その頻出問題である和訳と英作の訓練の為であった。
(T大もそうだけど、K大も単語自体は比較的易しいんだよなぁ。
けど、いざ和訳するとなると上手く訳せないのがK大……)
下線部も長いものから、短いものまで多岐にわたるが、どれも一筋縄ではいかないものばかりである。
別にT大もK大も知識の化け物でもなければ、天才集団の集まりでもない。
基本的な知識だけで問題は十分解く事ができる。
要はその基本的な知識をいかに運用し、それを自らの言葉で上手く表現できるかが合否の分かれ目になる。
その合否を正確に見分けるべく、大学側は正解へ辿り着くまでの道を、見えないように上手く隠して問題を作成している。
従って、私立大に見られるような重箱の隅を突ついたような珍問や難問は一切見受けられない。
オーソドックスな設問だが、解いてみると難しい――このトリック(隠し方の上手さ)が他の国立大より群を抜き、
俗に言う「T大やK大は難しい」と言わしめる所以なのである。
- 470 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:38
-
残り時間があと十五分になった頃、圭はようやく全問解き終えることに成功した。
やや意訳しずらかった箇所の言いまわしが納得いかなかったが、大意は外さずに済んだと、推測してみる。
英作も同様に、意訳した日本語の文章に似合う英単語が幾つか思い浮かばなかったが、
別表現を用いてなるべく判り易く凌いだつもりだ。
(七割……は取れたかな。多分)
自己分析でやや甘めの評価を下して、自分を無理から納得させておいた。
英語のテストが終わり、安堵の表情で一息ついたのだが、この後に待っていた一番の試練が
圭を苦しめるコトとなる。
(……帰ろっかな)
背中にイヤ〜な汗が流れる。
最も苦手とする科目、数学の問題用紙と解答用紙が圭の目の前に置かれる。
これから始まる恐ろしく長い二時間が、圭には拷問のように見えた。
◇ ◇ ◇
圭が悪戦苦闘している頃、みちよの部屋はようやく遅い朝を迎えた。
部屋の温度変化に気付いて、一人二人と眠りから覚めてくる。
「ふあぁ〜っ……っていうか暑い!」
「ふい〜っ、みっちゃぁ〜ん、クーラーつけてよぉ〜」
「今さっき点けたとこや。でも、ウチら、よぁこんな蒸し風呂みたいな部屋で寝とったなぁ」
「ふぅ〜ん……凄く暑苦しかったよぉ」
「というか自分ら、めっちゃ暑苦しかったやろ?」
「え……なんで?」
「なっちもカオリも鈴音にひっついとったで。見てみぃ、鈴音汗ビッチョリやで」
なつみや圭織と違って身動きの取れなかった鈴音はまるでスポーツをした後のように汗だくになっていた。
いつもの彼女とは異なり、寝起きのせいも手伝ってか、やや不機嫌なご様子。
「なんか肩とか太腿が凄くダルいんですよね」
「肩にはなっちの頭乗せて、そんでもってカオリを膝枕したまま寝とったからな」
「「ええっ、そうなの!?」」
「そうやで。ホンマ仲ええなぁ、自分ら」
「あっ!」
突然、ほのぼのとした空気を切り裂くように圭織が声を上げた。
- 471 名前:芒 U 投稿日:2004/03/03(水) 02:39
-
「なんや、急に大声出してからに」
「今日、カオリ、誕生日だ」
「は? そうなん?」
「そういえばそうだね。で、明後日がなっちの誕生日だっけ」
「そうだよ。なっちもカオリも19歳だべ」
「へぇ〜、そら初耳やわ。とりあえずオメデトォ……ってなに、その手は?」
妙に笑顔が冴え始めた圭織となつみが並んで手をさし出し、なにかを待っていた。
みちよは訳が判らずに差し出された掌と、もの欲しそうな顔つきの二人を交互に見比べる。
「プレゼントは?」
「イヤ、急に言われても何にも用意してへんし」
「だったら今日はみっちゃんの奢りでご飯食べにいこう」
「ええっ、嘘やろ? マジで!?」
「ご馳走様です、平家さん」
「でも、なっちはプレゼントが欲しいな」
「ええっ、ちょお待て、待てっ。昨日言ってた付き合うってまさか……」
「なっち、保田さんが欲しい」
みちよの言い分も聞かずに、プレゼントの催促をするなつみ。
しかも何気に大胆発言をかます。
昨晩の完熟トマトちゃんはどこへやら?
「はあ? あんな、いくら誕生日やからってそれは絶対に無理や」
「じゃあ、カオリはT工大の合格通知が欲しい」
「それも、アンタが頑張らなあかんもんや」
「「ええ〜、ちょうだいよぉ〜」」
「コラコラっ、お前ら何かカン違いしとるわ! ってちょお、足ひっぱんなっ」
「無理なら、せめてお友達になりたい〜」
「T工大がダメならT理大のでもいいから」
強制的に座らされたみちよに、大人もどきが絡む。
冷房が効いているとはいえ、やはり夏場の肌の接触は避けるべきだろう。
みちよの中で不快指数が上昇していく。
四方八方から身体を揺すられ叩かれ引っ張られ、中途半端な横Gがかかり、
気だるい暑さも加わって気分が悪くなるみちよ。
「だから、それらは自分らが努力せんと……っていうか、揺すんな、気持ち悪ぅ……」
「お友達になりたいんだべ!」
「合格通知ぃ〜!」
「人の……話を……聞、オエッ、ウプッ……」
みちよがアルコール以外で初めて酔った一日だった。
- 472 名前:お返事 投稿日:2004/03/03(水) 02:39
-
>名無し飼育さん
なつみ「物語中では何気に一番モテてるよね、りんねが」
圭 「かもね。男性から見たら理想の女性像って感じだし」
なつみ「知的で家庭的で、人付き合いも良いしね」
圭 「その点、みっちゃんやアタシはモテてるって感じじゃないからね。
相手の方が一方的過ぎるから」
なつみ「……い、いいじゃん」
圭 「むしろウザ……ヒイイッ!(ブルブル)」
なつみ(怒)
>名無し( `.∀´)さん
なつみ「クールな圭ちゃんがカッコイイ、かぁ。なんだかイメージ湧かないなぁ」
圭 「失礼な。素のアタシはいつもあんな感じなのに」
なつみ「そのうちボロが出るんじゃないかい?」
圭 「さあね。でも、ま、出たとしても誰かさんみたいなすっとぼけキャラにはなんないだろうけど」
なつみ「(ムッ)素のなっちはこことは違うもん!」
圭 「もっと酷いもんね、素の時は」
なつみ「う、うわぁ〜ん、圭ちゃんの意地悪ぅ〜(泣)」
- 473 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/03(水) 02:40
-
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- 474 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/03(水) 02:40
-
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- 475 名前:本庄 投稿日:2004/03/15(月) 13:33
- 帰ってきてしまいました!お久しぶりっす!!!
なっちぃ!圭ちゃぁ〜ん、逢いたかったよほ〜(T▽T)
てかなんかしばらく見ない間にりんねちゃん!
あなた圭ちゃんに負けず劣らずもてもてじゃない!
そしてなっち!
誕生日プレゼントにさりげなく(?)大胆なものを催促するあなたが愛しいです(笑
ちょこっとずつ距離が近づいてんのかしら・・・?
あぁ、でも薄幸少女も・・・。
続き楽しみにしてるれす!(長文すんません・・・)
- 476 名前:お返事 投稿日:2004/03/18(木) 01:29
-
>本庄さん
圭 「おかえりなさい」
なつみ「お帰り〜(チュッ)えへへ〜、本庄さんがいない間、なっち頑張っちゃった」
圭 「相変わらず突っ走ってるっていうか、スッとぼけてるっていうか……」
なつみ「だってみんな人気者なんだもん。なっちの出番なくなっちゃうじゃん」
圭 「それにさ、誕生日プレゼントがアタシってベタ過ぎやしない?」
なつみ「だって欲しいんだもん! 圭ちゃんのものはなっちのもの、なっちのものはなっちのものっ!」
圭 「ジャ〇アンかよっ!」
ちょっと物語の展開、及び推敲に手間取ってますので、もうしばらくお時間を下さひ。
その代わりといってはなんですが、短編を以下の場所に投稿しまひた。
興味があったら覗いてやってくださひ。
赤板 『作者フリー 短編用スレ 4集目』 644〜 “知恵の輪”
- 477 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:38
-
そろそろ猛暑に身体が慣れつつある頃、なつみと圭織は連日みちよ宅へと入り浸っていた。
二人はみちよが真希の、鈴音が希美の先生であることを聞きつけ、何を血迷ったのか
みんなで仲良く(?)お勉強会をしようと言い出したのだ。
朝から予備校の自習室に通っていた二人と、今年高校受験を控えている希美はかなり意欲満々であったが、
遊びたい盛りの高2の真希は、2、3日で顔を出さなくなっていた。
夜の9時過ぎ、ようやく今日のお勉強会が御開きになる。
お互いの労を労うようにジュースで(みちよは缶ビールで)乾杯した後、みちよが二人に訊ねた。
「なあ、自分らは講習会っていつまでなん?」
「もう終わったよ、なっちは」
「カオリも同じ〜」
「アンタらはホンマに一緒やねんなぁ。そない一緒やとさすがに飽きひんか?」
「全然」「ちょっとイヤ」
二人の意見が被った。
高校時代から一日の半分以上、苦楽を共にして来た二人。
一緒に居ることが鬱陶しく感じる時もあるのだが、いざ面と向かって拒絶されると、その衝撃は大きいらしい。
明らかに嫌悪感を示す圭織に、なつみが怪訝な表情を見せ噛みつく。
「え〜、なんでよ?」
「な、なに?」
「なんでそんなに嫌そうな顔してんのさ?」
「いや、別に……」
「そもそもカオリが言い出しっぺだからね、こっちに出よって言ったのは」
「それはそうだけどさ……(ちょっと怖いんだもん、最近のなっち)」
(なんか判る気がする……)
圭織は先日の強引キス事件を思い出さずにはいられなかった。
あの日以来、少し距離を取ろうと思ったのは事実である。
同様に鈴音も先日の泊まりの際に被害に遭っていたため、圭織の心境が痛いほど判った。
お陰で希美から執拗に問い詰められる羽目に合ったのはいうまでもない。
- 478 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:38
-
「まあまあ。ほんなら来週辺り、みんなでどっか行こか? 気分をリフレッシュして二学期を迎えれるように」
「ホントにぃ!?」
「イイね、賛成〜」
「お出かけ、お出かけ♪♪」
ノリノリの三人とは対照的に、浮かない表情をする娘が一人。
「みんなって誰が行くんですか〜?」
「いつものメンツに決まっとるやんか」
「え、私もですか?」
「そりゃそうや。りんねが居らんかったら、ウチらバラバラのグチャグチャになってまうもん」
「それって、みんなのお目付け役じゃないですか」
明らかに嫌そうな顔を見せる鈴音。
それはそうであろう、荷物番やらお目付け役やらで引っ張り出されるくらいならば、
故郷にでも帰ってゆっくり過ごすほうが数倍マシだろうから。
ましてや相手は一筋縄ではいかない連中ばかり……、嫌な顔一つしない方が変だ。
慌ててみちよが弁解を始める。
普段から色々と世話になっている分、頭が上がらない様子。
みちよがヘタレと呼ばれる所以が垣間見れる瞬間だった。
「いや、なんていうか、その、あれや。りんねの言うことなら、ごっちんものんちゃんもちゃんと聞くしやな、
なっちやカオリの暴走も止められるし……ウチだけじゃお子様相手は無理かと、あ……」
「ちょっとぉ〜、カオリ暴走しないってば!」
「なっちもそこまで一直線じゃないっしょ!」
「イヤ、だから例えばの話やって。落ち着きぃ」
「でもなぁ〜っ……」
尚も渋る鈴音に何かを感じ取ったみちよ。
他人の色恋沙汰に関する情報を察知する第六感が、俊敏に働いた。
- 479 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:39
-
「あっ! さてはあの麻……」
「ち、違いますっ!」
一気に顔が真っ赤に染まる鈴音に、なつみと圭織の凸凹コンビが食らいついた。
普段はのほほ〜んとした印象を受ける二人だが、こういう時の素早さは武闘家をも凌ぐほど。
すかさず逃げ出そうとする鈴音の両サイドを挟み、交互に揺さぶりをかけ出す。
「なんだか怪しいなぁ〜。誰だべ、相手は?」
「そ、そんな人いないってばぁ」
「りんねぇ〜、抜け駆けは無しだよ〜。カオリにも紹介してよぉ。で、どんな人?」
「ち、違うってぇ」
「なんや麻……」
「違いますからっ!」
昔から知っている二人の前では「麻美」の名は出したくないのか、必死になって否定する鈴音。
その行動が更に二人の興味を煽り、肘で突っついたり押したりとやりたい放題だ。
一方、鈴音の交際疑惑にどこなく精彩を欠く者が一人、瞳を潤ませながら鈴音を見ていた。
両サイドのおしくらまんじゅうの最中、その熱い視線を感じ取って何も言えなくなってしまう鈴音。
実はインターハイ後に観光という名のデートをさせられた事や、その後自宅に泊まっていった事は内緒にしている。
(のんちゃんてば、そんな悲しそうな目で見ないでよぉ)
「りんねってば、隠さなくていいじゃん。カオリたちがお勉強してる間にどこで見つけてきたのさ?」
「そ、そんな人いないってば」
「言っちゃえばいいっしょ、我慢はよくないべ。で、大学生さんかい? それとも予備校生? 社会人?」
「が、我慢なんかしてないし、いないから」
(りんねしゃん……)
「のんちゃんまで……」
「なんや、ウチの勘違いか。ほんなら決まりでええか?」
「「「おっけぇ〜」」」
「……はぁ」
鈴音は夏の間も振り回される事になった。
合掌……。
- 480 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:39
-
「ねえ、みっちゃん」
「なんや?」
「保田さんは来ないの?」
「100%無理やな。圭ちゃんはこっから講習会やろ、確か?」
「え〜、土曜とかなら空いてるじゃん。とりあえず誘ってよ〜。ねえねえ」
なつみがみちよの肩を揺する。
なつみの恋するパワーは計り知れないほど強力らしく、日に日に威力を増していた。
自分よりもやや体格の良いみちよの身体が、前後に大きくグラインドする。
その様は、まるで子供が母親に何かを強請るのにそっくりであった。
「わ、わかった、わかったって。とりあえず聞いてみるけども、あまり期待せんといてな。
っていうかなっち、痛い痛い」
「え〜、なんとか説得してよぉ〜、ねえねえ」
「判ったから手ぇ離さんか、イダッ!」
大振りのせいで、本棚に激突するみちよ。
それでも尚大きく揺さぶるなつみには、みちよの頭にタンコブが出来あがっているのにも気付かない。
「(保田さんて誰ですか?)」
「(カオリたちが通ってる予備校で出会った人だよ)」
「(そんなに凄い人なの?)」
「(凄いっていえば凄いんだけど……でも、会う度に嫌われてるみたいで……)」
「痛いって! 判った、判ったから揺するな!」
- 481 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:41
-
なつみの熱意に負け、ようやく解放されたみちよは頭を擦りつつ、渋々電話をかける。
その横で「期待」の眼差しを向ける一匹の子ウサギ、もとい一匹の野獣。
そして、やや離れた所でポテチを摘みながら昔話に花を咲かせ始めた二人と、その話に聞き入る希美。
先の圭織の表情から察して、あまり感心を持たなかったらしい。
「あ、圭ちゃん? 今、空いとる?」
『何? あ、ごとぉ、それは飲んじゃダメだってば。ゴメン、ちょっと待って』
「なんや……ごっちんがおんのかい」
『あ、ちょ、コラアッ! ごとぉーっ!』
「ん? なんや?」
『へぇ〜けぇさぁ〜んっ!!!』
「うわあっ!」
思わず携帯を遠ざけるみちよ。
しかしそれでも真希の声は十分聴き取れるほど、小さな携帯から大きな喜声が響いた。
なつみを含めその場にいた全員が何事かと振り向く。
『へ〜けさ〜ん! やっほ〜、ごとーだよぉ〜。へ〜けさぁ〜ん!』
「ちょ、少し声のトーンを下げ……」
『え〜? なぁにぃ? 聞こえないよぉ〜、へ〜けさぁ〜ん!』
真希はどうやら例のクラブにいるらしく、そこで流れているサウンドが真希の声を掻き消していた。
時折、傍にいる圭に『けーちゃん、携帯壊れてるよぉ』などと愚痴る真希の声がする。
アンタがそないなところに居るから聞こえんのじゃ、と心の中で毒づくみちよ。
だが、面と向かっていう度胸は、今のところ無し。
仕方なく、やや声のボリュームを上げて、再度真希を呼び出す。
- 482 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:43
-
「ごっちん、聞こえるかぁ!」
『あっ、聞こえるよぉ〜、へ〜けさぁ〜ん。元気ぃ〜?』
「元気や、アンタ以上になっ! それよか、圭ちゃんに代わってくれへん!?」
『え〜、なんかへーけさん冷たい〜。ごとーが遊びに行かなくなったからだぁ〜』
「そんあことあらへんて! ウチはただ圭ちゃんに用があるだけであって……」
『うぅ、うわぁ〜ん! へーけさんのバカぁ〜、おたんこなすぅ〜っ!』
「え? あ、ちょ……おいっ、お〜い!!」
『……』
一方的に電話を切られてしまったみちよは、呆然とした表情のままで振り返る。
「切れてもうた……」
「「「……」」」
何も喋らず、みちよに同情しているのかと思いきや、返って来た返事は見事に期待を裏切る応えだった。
「平家さん、真希ちゃんに弱過ぎ」
「いや、それは、その……」
「頼りにならないっしょ」
「そ、そないな事は、ないと……」
「ヘタレ」
「……」
「プププッ」
- 483 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:44
-
翌日、休憩時を狙って再度圭へと電話を入れたみちよ。
しかし、どうやら今日は非番だったらしく、寝起きのような野暮ったい声が耳に届く。
かく言うみちよも今起きたばかりで、声がやや低音気味である。
昨晩はヘタレ扱いを受けた腹いせ(?)に、一人自棄酒を煽った。
勿論誰も介抱せず、見事に二日酔い……彼女らしい。
「なあ、来週の土日とかって空いとる?」
『日曜は……論文テストがあんね』
「……そうでっか」
『何よ、その残念そうなセリフは』
「いや、空いてたらどっか遠出でもしよっかな〜思てたんやけど」
『え〜っ、みっちゃんと二人で行くわけぇ?』
「いんや、ごっちんとかも誘ってあるけど。って言うかなんや、その嫌そうな声は」
『だってさぁ、みっちゃんとどっか遠出すると決まって問題起こすじゃん』
(ギクッ!)
小さなトラブルから、大きなトラブルまで過去に幾度となく被害を被ってきた圭は、嫌々そうに言う。
それなりに自覚があるみちよもその話題を振られると、下手に強気には出られなくなる。
『それになんか嫌な予感がするんだけど……』
「……ああ、なっち等も誘ってるけど」
『……いってらっしゃい』
「そんなぁ、一緒に行こうやぁ。圭ちゃん連れていかんと、なっちに殺されてまうわ」
『アタシ、受験生だし』
「あ〜、ホンマなっちに殺されるわ。どないしよ」
『ごとぉに匿ってもらえば?』
「無理や、一緒になって攻撃されるのがオチや」
『みっちゃん、弱くなったなぁ』
「……」
薄々感じていた事をはっきりと言われ、凹みながら通話を終えたみちよは、
この事をどうやってなつみに伝え、どうやって彼女の攻撃をかわすかを、必死になって考え始めた。
なつみたちと出逢ってから、妙にヘタレ度が上がったことに気付き、密かに自己改革をしようと心に誓った。
- 484 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:44
-
「聞いてくれた?」
その日の晩、浮き足立って訪れたなつみの期待のこもった眼差しに応えられず、申し訳なさそうに結果を告げた。
当然、なつみに引っ掻きまわされる覚悟で。
「ああ。けど、やっぱアカンかったわ。日曜に論文テストがあるって」
「(しゅん)……」
「そ、そない落ち込まんでも……」
「……」
「二学期になったら会えるやろ? それでええやん」
「何言ってるべさっ! 夏と言えばバカンス! バカンスといったらひと夏の恋、リゾ・ラバっしょ!」
夜の帳が降りて時計が後一回り半で一日が終わろうとしていた時、なつみの急な発言に
テレビで話題の高視聴率ドラマを見ていた2人は、何事かと驚く。
おかげで、今週分のハイライトであろう告白シーンを見過ごしてしまった。
一人だけ話の全容を知らない希美でさえ、お菓子をむさぼっていた手が止まったほどだ。
「……ま、まあ、否定はせんけどもやな」
「なっちはこの夏にかけてたのにっ! 今まで生きてきた中で最高の夏にする予定だったんだからっ!
それには保田さんがいないと話しになんないべさ!」
立ち上がり、握り拳を作って懸命に力説するなつみ。
それを呆然とした様子で見上げるみちよ、鈴音、希美。
かたや圭織はいい加減、見飽きたような素振りで一人ポテチを摘んでいる。
どうやら虚構の世界よりも目の前の現実を見ているほうが面白いと悟ったのか、いつの間にかテレビは消えていた。
- 485 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:46
-
「(なっちしゃん、どうしたんですか?)」
「(さ、さあ? でも、なんかキャラが変わってるかな)」
「(高校の頃を思い出すよ……例のミキティ事件)」
「(ああ……納得)」
「それなのに、それなのにぃ……」
「ま、まあ、今年は諦めようや。ホレ、これでも飲んで忘れよ、な?」
急に落ち込むなつみに飲み掛けのビールを差し出すみちよ。失礼な奴である。
その態度に怒ったのか、急にみちよに向き直ったなつみ。
みちよの背筋が一直線に伸びた。
「みっちゃん!」
「は、はい!?」
「なっちは参加しない」
「は?」「え?」「へ?」「?」
突然の不参加宣言に一同再び驚く。
だが、なつみの目は本気だった。
さながら星飛○馬を思い出させるような熱い眼力に、みちよたちも少々ビビる。
「なっちも論文テスト受ける」
「え〜、マジでぇ?」
「……ま、まあ、受けんのはかまへんけど」
「そして私、安倍なつみはここに宣言します!」
「「「へ?」」」
「残りの夏、保田さんを堕としますっ!」
「「「……」」」
呆気にとられる三人。無理もない。
そんな私的な事を目の前で宣言されても、我が身には何の損得もないのだから……。
ただ、希美だけは何やら面白そうになつみを見ていた。
- 486 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:46
-
「でも、圭ちゃんはこれから講習会やで?」
「じゃあ、なっちは自習室に篭ることにする。それで一緒にお昼食べたり、一緒に帰ったりする。
なんなら一緒に講義も受ける。一緒にね……フフッ、ウフフフフッ」
(((っていうか、何しに予備校行ってんの?)))
妄想に浸り、思い出し笑いをするなつみに、大人三人は同じ事を思い、突っ込んでいた。
そんななつみを好奇心からジロジロと見つめていた希美に気付き、
今度は極上のスマイルを返しつつ、希美の頭を撫で回している。
そのスマイルに洗脳された希美は、八重歯を見せながら微笑み返している。
その二人の光景に、鈴音と圭織は何やら不気味なものを感じ取った。
「(さ、最後の半笑いは何?)」
「(し、知らないよぉ、カオリに聞かれても)」
「(それにのんちゃんがなっち色に染まっちゃったよ……)」
「秋になったら、ちゃ〜んとみっちゃんたちに紹介するべさ。ねぇ、のんちゃん」
「そうれす、てへてへ」
「いや、紹介せんでも知っとるし……」
「(コクコク)」
みちよも顔が引き攣りつつも、なんとか言葉を返すが、口調は明らかに弱々しかった。
“これ以上関わりたくない”という意味を込めて。
圭織と鈴音はその意思を行動で示し、みちよを盾に後退している。
「あ、そうだね……へへっ、なっちってばお馬鹿さん」
「そんなことはないれすよ、なっちしゃん」
「そうかい? のんちゃんはイイ娘だねぇ〜」
「てへてへ」
「(こ、怖いよ〜。なっちのキャラが、のんちゃんがぁ……)」
「(どどどうしよう? カオリの手にも負えないよぉ……みっちゃん、なんとかして)」
「(アホか、カオリにできんもん、ウチがどうにかできる訳ないやろ!?)」
コロコロと表情が変わるなつみと満面の笑みを浮かべる希美に怯える三人。
流石にいつも一緒にいる圭織でさえ、ここまで妄想大暴走したなつみを正気に戻す術は判らなかった。
- 487 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:48
-
◇ ◇ ◇
その頃、お勉強会をいち早く脱退した真希は、見知った仲間と共にフロアーで踊っていた。
今月はまさに夏らしく、ラテン系のバンドがゲストにきている。
その為、店内は日本に居ながら南国気分が思う存分味わえる内装になっていて、
最近ラテン系がお気に入りの真希には絶好の遊び場となり、連日クラブに入り浸っていた。
ひとしきり身体を動かした後、いつものようにカウンターに座って休息を取る。
勿論、きちんと圭がカウンターにいる頃を見計らって。
「今月は楽しいな〜」
「ここんとこよく来るなぁ。せっかくみっちゃん紹介して追っ払ったのに」
「ぶぅ〜、なんだよ、それぇ〜。ごとーが来ちゃいけないの!?」
「そう言うわけじゃないけどさ。なんだ、痴話喧嘩でもしたか?」
「違うよぉ。今、へーけさんち、お勉強会やってるんだもん」
「お勉強会?」
「なんかね、へーけさんが住んでるアパートの大家さんの子供がね、今年高校受験なんだって。
そこに、なっちさんとかの大学受験組が来て、一緒にお勉強会やってんの」
「へぇ〜。で、みっちゃんがその大家の子供に勉強教えてんの?」
「違うよ。へーけさんのお隣りに住んでる鈴音さんていう人が、先生だよ。
でもね、へーけさんも先生になって、なっちさんには数学、カオリさんには国語教えてた」
「で、アンタは?」
「えへへ〜、ごとーには今年、受験なんてカンケーないもん。だから今回はパス」
「それで行くとこがなくなって毎日ここに入り浸ってる、と」
「当ったり〜」
「相変わらずだなぁ、みっちゃんも」
真希が注文した野菜スティックをカウンター越しから取り、口に挟む。
シャコシャコと新鮮さをアピールする歯ごたえが心地良い。
そろそろ夏バテの時期に、こういうさっぱりした食べ物が妙に美味く感じる。
自ずともう一本摘もうとカウンターから手を伸ばす。
が、後数センチのところで手を叩かれた。
- 488 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:50
-
「けーちゃん、ごとーの野菜スティック取らないでよ〜」
「いいじゃんか、アタシが拵えたんだから」
「ごとーが注文したんだから、全部ごとーの。食べたきゃ自分で作りなよ〜」
「ああ、そうですか。わかりましたよ」
野菜スティックの入ったグラスを大事に抱えた真希を横目に、圭は一端カウンターの奥へ引っ込んで行った。
数分後、人参スティックを頬張りつつフロアを眺めていた真希に前に、一つのグラスを持って現れた圭。
グラスの中には透き通ったエメラルドブルーの液体が氷と絡み合い、そして香ばしい匂いを発散させる
南国ならではのフルーツ類が見事に花を添えていた。
真希は瞬時にそのドリンクの虜になり、視線はグラスに釘づけ。
面白がって圭がグラスを動かすごとに、真希の目だけでなく身体全部がグラスに向かって動いていく。
やがて見ているだけでは物足りなくなったのか、圭に向かって目で訴えかけ始めた。
「そのジュース、ごとーにも頂戴」と。
しかし、哀願する真希の視線などお構いなしに、圭はグラスに刺さるストローで一人常夏気分を味わう。
ちなみに、圭は現在休憩中なため、どこで何をしようとお咎めは一切無い。
口を半開きにして羨ましそうに眺める真希を尻目に、圭は優雅な休息を楽しむ。
その態度が気に入らなかったのか、ついに真希が痺れを切らした。
「けーちゃん! ごとーにも頂戴よぉっ!」
「は、なんの事?」
「それっ! けーちゃんが飲んでるやつ。ごとーも欲しいっ!」
「ブルーハワイが欲しいの?」
「うんっ!!」
「……ふぅ〜ん、良かったね」
「なっ、良くないよっ! なんでけーちゃんだけ飲んでるのさ!?」
「だってこれ、自分で作ったんだから、飲んだってイイじゃん」
興奮する真希を涼しげな顔で見つめつつも、ストローは咥えたまま。
徐々にグラスの中の液体が消えていくのに比例して、真希の口が徐々に見開き、表情も段々ともの悲しげになっていく。
時折、喉がゴクリと音をたてて上下するのが見てとれるほど、喉元はかなり飢えているらしい。
某CMに出てくる『主人をもの悲しげな目で見つめる子犬』といい勝負が出来そうなほど、
真希は情けない顔付きでジーッと圭を見つめ続ける。
- 489 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:51
-
「ほぉほぉ、目でものを訴えるとはこういう状態をいうのか。なるほどぉ」
「けーちゃん!! ごとーも欲しい、欲〜し〜い〜っ!!」
「なによ、五月蝿いなぁ。アンタがさっき言ったんじゃんか、欲しかったら自分で作れって。
欲しかったら、注文すればいいだろうに」
「じゃあ注文する!! ブルーハワイくださいっ!!」
「アタシに言っても意味無いよ?」
「なんでさ!?」
「だって今、アタシ休憩中だもん。彼に頼んできなよ」
そう言って圭は、交代した男性のバーテンを指差した。
が、あいにく彼は数人の女性客に掴まっていて、とてもじゃないがすぐに出来る気配が無かった。
真希は恨めしそうに彼を見つめた後、持っていた野菜スティックのグラスを圭の前に差し出した。
「ごとーの食べていいから、ブルーハワイちょうだいっ!」
「……っていうかさ、もうセロリしかないんだけど」
「んあぅ〜」
もはや、この世の終わりと言わんばかりの絶望的な表情を見せる真希。
思ったことがすぐ顔に出るのはまだまだ若い証拠である。
店内にかかるラテン調の曲が周囲のオーディエンスの熱い魂を揺さぶるのに対し、
一人だけ『昭和枯れすすき』の世界に身を投じてしまった真希。
ただジィーっと、圭の手の中にあるグラスだけを羨望の眼差しで見つめていた。
「ったく、我侭も大概にしとけ」
「うぅ……」
「……」
呆れた様子で奥へと消えていった圭が、再び真希の元へ現れた時、真希の表情は薔薇色に変わった。
その様子が圭には、“一面薔薇の園の中、両手を広げ満面の笑みで舞い踊る少女”のように映った。
手を叩いて圭とブルーハワイを出迎える真希は、完全に幼稚園児であった。
- 490 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:51
-
「ほらよっ」
「けーちゃん……けーちゃんっ!!」
「なによ、五月蝿いなぁ」
「いいの? ごとーが飲んでもいいの!?」
「注文したんのアンタでしょ? それともキャンセル?」
「ヤダっ!! ごとーが注文したんだもん、ごとーのっ!!」
真希は野菜スティックの時と同じように、大事にグラスを手元に引くと顔を傾け、グラスの側面を見つめる。
南国の海のイメージ通り、スカイブルーの液体が真希の瞳に映る。
グラスの淵に添えられたフルーツの香りがより一層、雰囲気を醸し立てる。
爽やかな波の音が聞こえてきそうなほど存在感たっぷりのドリンクに、真希の目元が極限まで垂れ下がる。
「ニヤけ過ぎ」
「あはぁ〜っ。なんか、沖縄行きたくなっちゃったな〜」
「ハワイとかグアムじゃなくて?」
「別にどこでもいいんだけどさ、この透き通る青さ見てたらさ、南の島で泳ぎたくなっちゃった」
「気持ち、判らなくもないけどね」
一通り感想を述べてから、恐る恐るブルーハワイを口にする真希。
喉越しに目で見た青さが広がるような爽快感が伝わってきた。
その反動で思わず、身を震わせて両腕で身体をギュッと抱きしめている。
昇天しそうな勢いで、ふにゃ顔が一層ダラしなく崩れている。
「アッハァ〜、美味しいねぇ〜っ」
「……アンタが飲むとそう見えないんだけど?」
「ごとー、ヤミツキになりそう」
「そりゃようござんした」
「えへへ〜」
ニタニタしながら爽快感を味わう真希は、やや不気味であった。
- 491 名前:芒 V 投稿日:2004/03/27(土) 02:52
-
「いい忘れたけど、これ結構な値段だからね」
「ほえ?」
添えられていたパイナップルを口に咥えたまま、真希の顔が今度は情けない表情を作る。
「一杯1000円」
「え、えーっ!! 1000円!? 高いよぉーっ!!」
「普通サイズでも限定ものだからそれなりに高いって」
「普通サイズって、いくら?」
「750円」
「な、なんでごとーだけ1000円なわけぇ!?」
「あんたのはLサイズだから」
そう言って普通サイズのグラスを横に置く。
確かに見比べても、真希のほうが大きいのは一目瞭然。
頭を抱え込み、悲痛な叫びを上げる真希。
「ズルーイッ!! 詐欺だぁーっ!!」
「アタシゃ知らん」
なんとかまけて貰おうと媚へつらう真希だったが結局、普段頼んでいるジンジャーエール6杯分
(一杯150円)は支払う羽目に。
今度、これを頼む時は必ずみちよを連れてこようと、空になったグラスを見つめながら誓う真希だった。
- 492 名前:おまけ 投稿日:2004/03/27(土) 02:52
-
圭織の『なっち通信A to Z』 第六回
Country(田舎)
なっちだけに限ったことじゃないんだけど、やっぱり田舎ってイイよね〜。
なっちは特に郷土愛って言うのかなぁ、そういうのがものすごくあるみたいで、
方言とかがたまに出てくるのもそういう愛があるからだとカオリは思うんだ。
カオリ的には、将来こうでっかい牧場とかでさ、牛のお世話とかしてて欲しいなぁ。
「よ〜し、いい子だべ。た〜んと食べて、スクスク育つんだよ〜」なんて言いながら乳搾りしてるの。
それとか男爵芋の栽培なんかしてさ、「今夜はシチューにするべか?」とか言ってて欲しいよ。
あとはそうだな〜、ペンションのオーナーとかも似合いそうだな〜。
なんだかんだ言って家事全般は卒なくこなすし、笑顔が可愛いからお客さんの対応とかも良さそうだし。
あ、でもウィンタースポーツは一切ダメなの。滑っても斜面を「アレェ〜」って転がってっちゃって(笑)。
そうじゃなきゃなっちって感じしないじゃん。やっぱりなっちはどこか抜けてないとねっ!
- 493 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/27(土) 02:53
-
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- 494 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/27(土) 02:53
-
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- 495 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/28(日) 01:55
- ほのぼのしてていいっすね〜。
みんな魅力的だけど特にりんねがかわいいです。
次の更新も楽しみにしときます。
- 496 名前:本庄 投稿日:2004/04/04(日) 16:07
- ごっちんかわいい・・・。
>某CMに出てくる『主人をもの悲しげな目で見つめる子犬』
すんごいツボでございまず・・・。
圭ちゃんの前なら本当にそんな顔しそうですよね(w
てかなっち・・・あなた一応受験生じゃ・・・??
まぁ、それがあなったのいいと・こ・ろ♪(古)ということで(笑)
本庄の予想は圭ちゃんが災難にあうに一万点てとこですな♪
- 497 名前:Tea Break 投稿日:2004/04/10(土) 16:21
-
『SENSUALNESS 〜二人は恋人3〜』
今日はアタシたちの一日をドキュメントします。
決して優雅なもんでもなく、むしろアタシの悲しい日々が……。
- 498 名前:Tea Break 投稿日:2004/04/10(土) 16:22
-
― 朝 ―
チュン、チュン、チュン……
爽やかな朝を象徴するような雀の泣き声。
チュッ……チュッ……チュッ……
と、何やら吸い付くような感触。
「……ん、ん〜、ふぇ?」
「あ、起きたぁ?」
「あ〜、もぉ〜、なっちゃんはぁ〜」
「へへ〜、おはよっ」
「あのさ〜、そういう起こし方、止めてよぉ〜」
「そんなコト言ったって、ホントは嬉しいくせにぃ」
「うぅ……」
アタシは毎朝、なっちゃんの笑顔でお目覚めするんだけど、その起こし方が他とは違う。
何が違うのかと言えば……
「あ〜、もぉ〜、こんなに痕つけちゃって〜。どうすんのさ〜、着替える時ぃ」
「言い訳ならいっぱいできるんだから気にしないのっ」
「もぉ〜毎朝、身体中にキスして起こすの止めてよね〜」
- 499 名前:Tea Break 投稿日:2004/04/10(土) 16:22
-
そう……アタシは朝目覚めると、いつも上半身は裸になっている。
それでもって身体中の至る所になっちゃんが付けたであろうキスマークがくっきりと痕を残してる。
一応腕や肩といった洋服を着ていても肌が見える場所にはしてこないのだけれども、
それでもかなりギリギリのところまできている事も稀にあったり……。
「今何時ぃ?」
「七時ちょっと過ぎだよ」
「まだ寝れんじゃん。アタシ今日お昼からだからもうちょっと寝るよ」
「ダ〜メ。今日は朝からお買い物行くって昨日言ったっしょ。ハイ、起きて起きてぇ」
「あと五分、三分でいいから」
「ダメぇ〜っ、起きるのっ! 圭ちゃ、わあっ!」
普段はのろのろなくせにこういう時だけ早いなっちゃん。
無理矢理起こされて五月蝿いし、勝ち誇ったような笑顔が悔しいから
なっちゃんをベッドへ強引に引っ張り込んで、そのまま腕の中でホールドする。
そしてアタシは大きな抱き枕と一緒にオネンネ。
「ちょ……とぉ、圭ちゃん、起きて……ってば、苦し……ウ〜ン」
「オヤスミィ……Zzz」
「圭ち……も…ぉっ……」
顔を真っ赤にしながらも、観念したなっちゃんは大人しく二度寝に付き合う。
なっちゃんの匂いを感じながら眠るこの幸せがなんとも言えない。
こうしてアタシたちの一日は始まる。
- 500 名前:Tea Break 投稿日:2004/04/10(土) 16:23
-
― 昼 ―
今日はハロモニの撮りなので二人して仲良く現場入り。
でも、楽屋とか待ち時間に二人でいる事はほとんどない。
アタシは同期のちっちゃいのとか弟子のぶりっ子とかと一緒にいる事が多く、
なっちゃんもすっ飛んだ男前やマセてきたおチビさんたちと一緒にはしゃいでる事が多い。
しかも現場でなっちゃんと一緒にいる時は、大抵カオリと一緒にいる事が多い。
そういう時は決まってカオリが弄られ役になるのが常だけど。
「なんかさ、この三人でいるといっつもカオリが弄られるけど、なんで?」
「そりゃあ、カオリで遊ぶと面白いから」
「何気にカオリも弄られキャラだと思うんだけど?」
「え〜、そんなコトないよ〜」
カオリは必ずこうやって対抗してくる。
だから余計にからかいやすい。
アタシもそうだし、なっちゃんや矢口なんかも実は素直じゃない。
何かを言われると必ずと言っていいほど言い返してくる。
大人チームは基本的に弄られキャラだとアタシは思う。
まあ、それだけ好かれていると言ってもいいんだけどね。
撮影も順調に進んでいる。
昔はよくコントで恋人役が多かったけど(悪太郎&悪子然り、かわもち君&ケメ子然り)、最近は絡むことすらない。
まあ、私生活では絡みに絡みまくってるので、アタシ的にはそれだけでお腹イッパイなのだけど。
なっちゃんはそうではないらしい。
それにしては藤本と絡んでる時、嬉しそうな顔してるけど、アレはどう説明するのだろうか。
教えてよ?
- 501 名前:Tea Break 投稿日:2004/04/10(土) 16:23
-
― 夜 ―
「ハァ〜、今日もお疲れ様っと」
一日の疲れを癒すべく湯船にどっぷりと浸かる。
程よい湯加減と発ち込める湯気に、至福の時を感じる。あ〜やっぱりアタシっておばちゃんなのかな?
ガチャッ
「入るよ〜」
「ちょ、何急に!?」
「へへ〜、帰ったら部屋にいなかったからここかなって思ってさ」
「だからってなんで入ってくんの?」
「いいじゃん。たまには一緒に入ろーよ」
そう言うなりなっちゃんはニコニコしながら湯船に浸かってくる。
勢いよく湯が流れ出る。
アタシの対面でちょこんと畏まってるなっちゃん。
なんか恥かしいんですけど?
「どうしたの圭ちゃん、顔紅いよ? のぼせちゃったの?」
「いや、そうじゃないけどさ……ア、アタシ身体洗うからっ」
なんか見てらんなくて湯船から出て、身体を勢いよく洗い始めた。
- 502 名前:Tea Break 投稿日:2004/04/10(土) 16:24
-
ゴシゴシゴシ……
ジィーッ
ゴシゴシゴ……?
ジィーッ
「あの〜、なっちゃん?」
「なにぃ?」
「そうやってジッと見られると恥かしいんですけど?」
「気にしないでいいよ。なっちは圭ちゃんがいつもどうやって身体洗ってるのか見てるだけだから」
「いや、だからね、そういうのは人に見られたくないんだってば」
「じゃあなっちが洗ったげるよ。そしたら恥かしくないっしょ?」
「ええっ! いや、だからそうじゃなくって、ちょ、コラ、何してん、なっちゃ……」
もうこうなってしまってはお手上げだった。
お年頃のの大人が二人、ボディーソープの泡まみれになって、端から見ればこの上なく妖しく見えるだろうこの光景。
正直口では説明できないくらいに……イヤらしい。
「ハイ、おしまいっ」
「あ、ありが……と」
「へへ〜、せっかくだからなっちも洗ってもらおっかな」
「え?」
なっちゃんは、浴室の傍らにおいてあったシャンプーハットを取り出して、それをスポッと頭に被った。
その姿はまさしく幼稚園児そのものといった感じでアタシのツボに見事に嵌った。
か、可愛いっ!!
- 503 名前:Tea Break 投稿日:2004/04/10(土) 16:25
-
「お願いします」
「ハ、ハイ……」
シャンプーの液体を手に取り、最初は撫で回すように泡立てる。
全体に行き渡ったところで頭皮に傷を付けないように、それでいて豪快に洗いまくる。
「うひゃあ〜」なんて声がするのもお構いなしに、ダイナミックに洗う。
そして、一通り終わるとアタシはシャンプーハットをなっちゃんの頭から抜き取り、
桶で湯船のお湯を掬って脳天から豪快にブッかける。
「うわっぷ! ぶばばっ! け、げぇぢゃぁん!?」
「大丈夫、大丈夫」
ビックリしているなっちゃんを放置して、もう一度湯船のお湯を汲んで、それを頭の上からブッかける。
滝にでも打たれてかのような恰好でなっちゃんはしばし呆然としている。
「ハイ、おしまいっ」
「……???」
アタシは湯船に浸かってそ知らぬ顔。
未だ目が点になって何が起こったのかさえ分からない顔してこちらを見てるなっちゃん。
さっきのシャンプーハッとを被った顔も好きだけど、その顔も結構好き。
はぁ〜、い〜い湯・だ・な、アハハン、い〜い湯・だ・な、アハハン♪♪
- 504 名前:Tea Break 投稿日:2004/04/10(土) 16:26
-
― 深夜 ―
「さてと……そろそろ寝よっか?」
「明日も早いしね」
「「おやすみ〜」」
二人仲良く一つのベッドに入って寝るんだけど、必ずと言っていいほどアタシは夜中に二度起こされる。
その理由は勿論なっちゃんのせいであって、本人はそのことを全く知らない。
一回目は大体眠りに就いてから二時間ぐらい経ってから。
バシィーンッ!
「はうっ! いったぁ〜っ」
なっちゃんはよく寝返りをうつんだけど、その寝返りの動作が大振りなもんで、
なっちゃんの平手がよくアタシの頬に当たる。
その衝撃たるや凄まじくて、ごとー並みの怪力だと思う。
酷い時は朝までなっちゃんの手形が残ってる時がある。
二回目は朝型。
なっちゃんの張り手を食らってから二時間ぐらい経ってようやく眠気が襲ってきた頃。
ガブッ!
「うがッ!」
アタシの腕に噛み付いてくる一匹の小ブ……もといなっちゃん。
どうやら夢の中でチキンにでも齧り付いてるのだろう。
その威力もまた凄まじくて、一時の辻みたい……。
歯型は勿論のこと酷い時は内出血まで貰う事もある。
だから痕跡が消えるのに一週間ぐらい掛かることもしばしば。
結果として、アタシはベッドで寝ることができずにソファーで寝る事が多くなってった。
ベッドはアタシが選んでアタシの自前で購入したものなのにぃ……。
あ〜、誰かアタシの安眠できる環境くれないかな〜。
- 505 名前:Tea Break 投稿日:2004/04/10(土) 16:27
-
― 翌朝 ―
チュン、チュン、チュン……
爽やかな朝を象徴するような雀の泣き声。
チュッ……チュッ……チュッ……
と、何やら吸い付くような感触。
「……ん、ん〜、ふぇ?」
「あ、起きたぁ?」
「あ〜、もぉ〜、なっちゃんはぁ〜」
「へへ〜、おはよっ」
「あのさ〜、そういう起こし方、止めてよぉ〜」
「そんなコト言ったって、ホントは嬉しいくせにぃ」
「うぅ……」
アタシは今朝もなっちゃんの笑顔でお目覚め。
でもってお決まりのように……
「あ〜、もぉ〜、こんなに痕つけちゃって〜。どうすんのさ〜、着替える時ぃ」
「言い訳ならいっぱいできるんだから気にしないのっ」
「もぉ〜毎朝、身体中にキスして起こすの止めてよね〜。そのうち炎症起こすよ」
そう、アタシは今朝も上半身は裸になっていて、それでもって身体中の至る所には
なっちゃんが付けた愛の証がくっきりと痕を残してる。
こんな生活を世間では甘いと言うけど、アタシにとってはちょっと……ね。
皆さんはどう思いますか、こんな生活?
〜FIN〜
- 506 名前:編集後記 投稿日:2004/04/10(土) 16:32
-
唐突ですけど、短編載せまひた。
ちょっと早いですけど、保田さんソロ活動一周年SPということで。
(言い訳しますと、もう一つの方で書いてるやつと本編の内容が
被ってしまったので、書き直してます)
本編はもうしばらくお待ち下さいませ。
- 507 名前:お返事 投稿日:2004/04/10(土) 16:33
-
>名無し飼育さん
圭 「ほのぼのかぁ。今はまだ時期的に切羽詰ってないからかもしれないけどね」
なつみ「これから多分忙しくなってドタバタするのかな?」
圭 「でしょうね。そんな中でまた新たな魅力が開花したりすると思うよ」
なつみ「でも、ここのところりんねが可愛いっていう意見多いね」
圭 「何、妬いてるの?」
なつみ「そうじゃないけどさぁ、もうちょっとこうさぁ、なっちの良さとかもさぁ……」
圭 「いいじゃん、作者もメル欄の95〜98で推してるんだから文句言わないの」
なつみ「むぅ〜」
>本庄さん
なつみ「ここのところみんな可愛いよね〜」
圭 「っていうかさ、なっちゃんは一体何してんの? ちゃんとしなさいよ」
なつみ「いいじゃん。それがなっちの良い所って本庄さんも言ってるし」
圭 「良くない! 本庄さんが良くてもアタシにはちっとも良くない」
なつみ「圭ちゃんが災難に遭うに一万点賭けてるし。よぉ〜し、なっちはそれに三万点賭けるよっ!!」
圭 「コイツ等は人をダシに……」
なつみ「なっちが勝ったら圭ちゃんは貰うからね! なっちが負けたらみっちゃんあげるから」
圭 「人体取引すんな!」
- 508 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/10(土) 16:33
-
Hide this story.
- 509 名前:ビギナー 投稿日:2004/04/10(土) 20:57
- シャンプーハットのなっちゃん・・・可愛すぎです。
今時は、小学生でも使わないですよ。シャンプーハット。
でも、それが、違和感ないなっちゃんがとても好きです。
保田さんも、お疲れ様です。
本編の方も、ホント影ながらですが、応援させていただいてますので、
がんばってくださいね。
- 510 名前:へろん 投稿日:2004/04/11(日) 17:20
- うっぱさん、はじめまして。
ずっと読ませていただいてます。
描写が細かい所まで行き届いていて、
リスムが良いので、とても読み易く、
楽しませてもらってます。
まったり応援してますので、頑張って下さい。
- 511 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:14
-
あと数日で暦の上で夏が終わる。
連日続く熱帯夜と、三十度を越す真夏日のせいで一体どれほどの人々が夏バテに苦しむのだろうか。
更に、世のお父さん方には毎年恒例で過酷な「夏休みの課題」という名のお手伝いも待っている。
しかし、普段肩身の狭い思いをする父親が、唯一頼りになる証拠を見せる絶好の機会
――果たして子を持つ父親はどんな気持ちで夏の終わりを迎えるのだろうか。
夏休み終了まで残り一週間。父親たちの七日間戦争が今始まろうとしていた。
そんな週明けの朝七時、なつみの部屋のチャイムが住人を急かすように鳴り響く。
近頃、やや夜型になっていたなつみにとって、朝からの訪問者は安眠を妨害する以外の何者でもない。
不機嫌そうな顔で玄関へ向かい、ドアスコープから来訪者を確認しないままドアを開けた。
いきなり視界に入ったのは真っ白な生地。
あまりにも汚れなきその白さに閉じかけていた瞼が三割ほど開いたが、まだ意識は虚ろのままだ。
「あっ、なっち。まだ寝てた?」
「ん? ああ、カオリか……なんだべ、こんな時間に……ふああ〜っ」
「あのさ、今日から、ホラ、みっちゃんたちと遠出するって言ってたでしょ?」
「そういえばぁ……そんな事…言ってたねぇ……(ポリポリ)」
「でね、その、本当に行かないのかな〜って思ってぇ……」
「……」
「一緒に行かない?」
何故か申し訳なさそうな顔でなつみの顔色を窺う圭織。
プライベートでは大抵行動を共にしていたせいか、自分の隣りに相棒がいないと彼女も淋しいようである。
普段は見せることのない甘えるような目でなつみに訴えかけている圭織。
だが、なつみの意思は固く、今でこそ寝ぼけているような粗末な表情をしているが、
決して首を縦に振る気配はないようだ。
- 512 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:15
-
「お〜い、カオリ、何しとんのや? はよせな、道混んでくんでぇ?」
痺れを切らしたのか、お山の大将こと、平家みちよが圭織を呼びに来た。
その姿はかなりラフ、と言うか夏女全開で、Tシャツとその上からゴージャスなアロハシャツを羽織り、
やや草臥れたジーンズにお決まりのビーサン、そしてレイバンのサングラスを頭に乗っけている。
ここ数ヶ月ほどヘタレぶりが周囲に露呈され続けてきたものの、今日だけはいつになくキマッていた。
それと同様に圭織も普段よりラフな装いで、アロハシャツとグラサンはないものの、
真っ白な布地にワンポイント入ったTシャツと丈の長いスカート、そして手には紫外線予防の白い帽子と
草原に佇むお嬢様を連想させる。
「おお、なっち、おはようさん。ってか起きとんのか?」
「……みっちゃんのそのアロハシャツで目が覚めたべさ」
「はっはっは! どうだ、参ったか!」
参るも参らないも、これと言ってなんの変哲のない普通のアロハシャツである。
仮に参ったからといって、どうなる訳でもない。
今のみちよの頭の中には、静かに押し寄せる波の音と燦々と降り注ぐ太陽の輝きしか目にないのだろう。
それほど気分が高まっている様子が窺えた。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「ホンマになっちが来ぃへんのは淋しいねんけど、本人が望んだことやからしゃあないわな。
ま、あんま精根詰めてやってもそう簡単に成績は上がらんから、適度な息抜きはせなあかんで?」
「わかってるよぉ」
「ほんならそろそろ行こか、カオリ」
「う、うん。じゃあ行ってくるね。二、三日空けるからなんかあった時はよろしくね〜」
そう言って対照的な服装をした二人が去って行った。
なつみは部屋に戻ってベランダへと出ると、ちょうど真下当りに見慣れない一台の車が止まっていた。
やがて上から見ても十分派手派手しい恰好のみちよが運転席側に乗り込み、
爽快な恰好の圭織が助手席側に乗り込むと、バカンス求めて出発して行った。
「……みっちゃんの運転で大丈夫かなぁ」
今夜のニュースや明日の新聞沙汰にならないことを密かに願うなつみだった。
- 513 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:15
-
長かった講習会も残すところ今週だけになった。
最後の週だけあって、ほとんどが単科ゼミ、及びサテライン授業の再放送がメインである為、
先週まで続いていた受講生の往来と熱気が下火になり、通常の雰囲気に戻りつつある。
おまけに、昨日行われたW大プレをもって、ようやく校舎も職員も山場を越えたといった感じで
全体的に静かで過ごし易い環境であった。
そんな中、なつみは少しだけ緊張していた。
その理由は、今日から受ける講義がサテライン講座であったことにある。
なつみが籍を置くコースには衛星中継の講義がないため、圭織が予てから切望していた
「受験界のアイドル」になる機会はそうそうやってこなかった。
しかも通年で単科ゼミを取るほどの余裕と時間もなく、サテライン講座の教室を覗く度に
圭織は羨望の眼差しを向けていた。
しかしここへ来てようやく、しかも切望していた圭織よりも先に全国デビューすることになったなつみ。
(な、なんか芸能人にでもなった気分だべ。い、一応可笑しな所はないはずだけど……)
自分の姿が全国に晒される(可能性もある)というだけで変に勘違いしてしまっているなつみは、
ふと高校時代に、テレビで見ていた某オーディション番組のことを思い出す。
今の彼女は、まさにオーディションに受かった十六歳の少女と心身一体になりつつある。
(あの時の女の子もこんな気持ちだったのかな?)
……んなこたぁない、と誰もがそう突っ込みたくなるだろう。
なつみが取ったのは夏季限定の「W大古文」。
この夏、英語と数学に時間を費やしたせいで、先日行われたマークと記述、
そして昨日行われたW大プレでも古文が疎かになってしまっていた。
というよりも圭と知り合ってから成績はやや下降気味になっていた。
その中でも得点源であった分野に一抹の不安を抱える羽目になったなつみは急遽、単科ゼミの受講を決めた。
「せっかくの予定が狂っちゃったよ。はぁ〜、もうちょっと気合入れないと」
昨日、W大プレ終了後に申し込みを済ませ、テキストを受けとった後にそう漏らしていた。
だが、この選択が翌日に至福の時を迎えることになろうとは、この時思いもしなかった。
- 514 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:16
-
講義のある教室へと向かうと、廊下にはすでに長蛇の列が出来ていた。
教室からは中で行われている講義のマイク音が外に漏れてくる。
サテライン用のマイクは音飛びが無いよう、通常のマイクよりボリュームが大きいのが特徴である。
呪文を唱えるように聞こえる化学式をバックに、なつみはその列の最後尾に並ぶと、
荷物を置いて一端その場を離れた。
お手洗いに行くついでに、列に並ぶ受講生を興味深く窺う。
(やっぱ違うよね〜、人気講師の授業って。人多いなぁ……ん? んんっ!? ああっ!!)
なつみの足がお手洗いの一歩手前で止まった。
くりっとした二つの瞳が捉えたのは、廊下の壁に背を預けてテキストの付録を眺めている眼鏡姿の才女。
相変わらずの容姿と雰囲気で、なつみの存在にも気づかず羅列された文字を追っている。
朝が弱いのか、それともバイトかなにかの疲れが溜まっているのか、時折欠伸を噛み殺す仕草も見受けられる。
(や、保田さんだぁ!! 一緒だったんだぁ。いやぁ〜、嬉し〜っ)
なんと、なつみが取った講座には、偶然にも圭が受講していたのである。
この時間帯に圭が何かしらの講座を取っていることは把握してはいたが、
まさか同一講座だったとは……この事態を圭はおろかなつみでさえも知らなかった。
なつみは、この時ほど古文の成績が下がって良かったと思ったことはなかった。
眠たげな顔をする圭にふと、なつみは自分が圭の前に突如現れたらどんな顔をするのか、
果たしてあのクールそうな顔つきがどこまで崩れるのか、ちょっとした悪戯心が湧いて自然と顔が綻んでいく。
(その眠たそうな顔、すぐに覚ましてあげますよ〜。フフフッ)
心の中でほくそ笑んでから、トイレに行くのも忘れ、なつみは列へと戻り一限が終わるのを今か今かと待ちわびた。
- 515 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:18
-
一限が終わり、教室から受講生が流出してくるのを何気なく見つめる。
化学なのに結構人多いんだなぁ、と思いつつ、これから自分が受ける講義の列の後ろを振り返った。
最後の週かつ締め切り講座ではないにもかかわらず、意外と受講生が多いのに驚く。
講座のネームバリューと講師の評価が高いのが窺えた。
ようやく列が動き始め、簡単なチェックが済んで教室へ入ると、一斉に受講生たちがバラけていく。
次々と席が埋まっていく最中、なつみは圭の居場所を捜し出し、急いで前の座席を陣取る。
まだ当の本人は気がついてはいない様子でボーっとしていた。
なつみは心の中でガッツポーズを取った。
ようやく室内が落ちつきを取り戻した頃を見計らって、なつみは振り返って声をかけた。
「やっすださんっ」
「ん? うわっ!! な、何でアンタがいんのよ!?」
「いいじゃないですかぁ。なっち、ここんとこ古文が弱くなっちゃったから、補強なんです」
「……あっそ」
全くもって関心なさ気に会話を終える圭になつみはムッとする。
そして思わず眼下にあったシャーペンで圭の二の腕辺りを突っついてみる。
それは夏前辺りからかなり積極的になったにも関わらず、進展がない事に対する逆恨みの現れでもあった。
「イタッ……何すんのよ!?」
「バカッ」
「はあ? なんでアンタにバカって言われなきゃいけない訳?」
「保田さんがバカだからです」
「……」
圭は、どうやらなつみが夏の熱さにヤラれてしまったのだ、と解釈したらしい。
夏休みボケが厄介である事(昨年度のみちよの例有り)を知っている圭は、
これ以上付き合ってられないといった感じで、一人の世界へ入る。
そんな圭になつみはちょっかいを出し続けるが、いとも簡単にカワされ呆気なく二限の開始のチャイムが鳴った。
- 516 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:24
-
講義はさすがW大と銘打っているだけあって、対策が立て難い近世の文章を出題する政経、
現古融合の中でも難易度の高い法学、現代文に比重がある商学、学部内で一番難しい一文と
かなりのレベルであり、平均的でオーソドックスな教育やW大の中でも比較的優しい社学でも軽視は出来ない。
(古文、得意科目だったはずなのにぃ……)
授業が始まってまだ三十分も経たないうちからなつみは泣きを入れ始める。
初講日に扱う問題は今年度の教育学部。
W大内では平均レベルだが、他大学に比べればやや難しいといったところだろうか。
講義もかなりの熱が入っていき延長しそうなほどであった。
……。
ようやく二限終了のチャイムが鳴る。
(ダメだぁ……ひぃ〜)
なつみの中では得意源の古文だったが、簡易的な予習の成果も虚しく、
半分しか正解できなかった事に一人ヘコんでいた。
- 517 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:25
-
十二時三十分過ぎ、待ちに待ったお昼休みに入る。
授業中ヘコんでいた気分をなんとか払拭し、なつみは振り返って圭に声を掛ける。
既に圭は荷物を片付け、後は教室を出るだけの状態だった。
「保田さん、お昼どうするんですか?」
「どうしようとアタシの勝手でしょ。お先に」
そう言うなり、素早く教室を出ていく圭。
慌てて追いかけようと私物を片付けるが、元来おっちょこちょいな性格のなつみ。
急いで筆記具を片そうとして、手を滑らせ中身をその場に憤散させてしまう。
(あー、もおっ! この忙しい時にぃ)
自分のドジっぷりに苛立ちながらもなんとか全てを拾い集め、教材や鞄、その他諸々を胸に抱きかかえたまま
教室を飛び出すが、時既に遅し。
だが諦めのつかないなつみは、ライブラリーを筆頭に、自習室、進路相談室、講師室、空き教室、
食堂、受付といった受講生が立ち止まりそうなところを虱潰しに捜し回った。
時折、真上から照りつける日差しや校舎内外との温度差を肌に受け、
額に浮かぶ汗もなんのそのといった感じで、颯爽と敷地内を駆け回るなつみの姿は、
赤の他人から見れば、かなりパワフルな娘に見えただろう。
しかしどれだけ頑張ってみても、お目当ての圭はなつみの行動の裏でも取っているかのように現れはしなかった。
なつみの勢いも失速し、備え付けのベンチに身を預けて、ついに音を上げた。
「先週までだったら、すぐに自習室に直行してたくせにぃ、もおっ!」
結局、初講日は必死の捜索も空しい結果に終わった。
- 518 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:27
-
翌日。昨日の失敗を反省し、入念な予習をもって、いざ講義へ。
勿論、昨日よりも早めに出向く事も忘れない。
「こんにちわっ!」
「うっわ……最悪」
「いやぁ〜、今日は早めに来て良かった」
「よりによって今度は隣りかよ」
「やっぱり惹かれ合う運命なのかな〜、なっちたちって。いやぁ〜、嬉しいな〜」
「惹かれ合うってアンタが勝手に寄ってきただけだろ?」
「もぉ、そんな事言っちゃってぇ〜」
「……傍に寄んな、バカが移る」
「またバカにする〜」
膨れっ面をするなつみを余所に、圭は何やら真剣な顔つきで一枚の紙――個人成績表を見つめていた。
そっと覗き込もうとするなつみだが、そこに打ち出されていた数字に思わず声を上げてしまった。
彼女たちの周囲に居た受講生が何事かと一斉になつみたちへと振り向く。
当然圭もその声に反応するが、なつみの見ているものに気付くと勢いよくそれを隠した。
「ちょ、何覗いてんのさ!?」
「いいじゃないですかぁ、そんだけ成績が良かったらぁ」
「勝手に見んな、“Peeping Tom”め!」
「へ? ぴーぴんとむ?」
圭はやや声を荒立てながら、成績表をそそくさとしまい込むと、憮然とした態度で講義の始まりを待つ。
一方のなつみは“Peeping Tom”なる言葉に首を捻る。
英語の弱いなつみにこの言葉の意味など知る由もない。
「なんですか、“ぴーぴんとむ”って?」
「アンタみたいな奴のこと」
「へ、なっちのこと? なっちの……えっ、うそっ、や、やだぁ〜、もぉ」
なつみはこれまた勝手な解釈で一人妄想の世界へと羽ばたいて行く。
心成しか耳や頬が紅く染まっている。
なつみの間違った解釈に、聞き耳を立てていた周囲の受講生たちから失笑が起こる。
巻き添えを食らう形になった圭は、別の恥かしさから顔が紅潮する。
それでも人目も憚らずに、悪気なく話し掛けてくるなつみを、圭は完全に無視できなかった。
- 519 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:33
-
「あっ、そうだ、また勝負しましょうよ」
「……」
「聞いてます?」
「結果はやる前から目に見えてる」
「そんなコトないもん。勝つ自信ありますぅ」
「前回一つも勝てなかったくせに」
「でも引き分けたじゃないですかっ!」
「アンタじゃないだろ、トッポに助けられたくせに」
「むうう〜っ!!」
「人のケツ追っかけてる奴が何を今更に……フッ」
自分を見下したように鼻で笑われたなつみ。
室内の冷房がかなり効いているにも関わらず、一人熱くなっていた。
(むぅ〜っ。絶対に勝って、吠え面かかしてやるっしょ!!)
しかし、吠え面をかいたのはなつみのほうだった。
勿論、授業に関してだが……。
こんな調子で、三日目、四日目が過ぎていった。
この講座を受けている受講生たちの間ですっかり有名人になってしまっていたなつみと圭。
二人の顔を見掛ける度にヒソヒソ話や指をさされる始末。
ある意味、圭織がなりたがっていた「受験界のアイドル」になってしまったようだ。
- 520 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:33
-
授業が終わり、ホッと安堵する間もなくそそくさと片付けに取り掛かり、一人颯爽と教室を後にしていく圭。
なつみもこの三、四日でかなりスピーディーに片付けが出来るようになり、圭の後を追えるようになった。
それと共に失いかけていた古文への自信も取り戻しつつあった。
まさに一石二鳥、嬉しさこの上無しといった感じである。
そんな厄介ものに掴まってしまった圭は、疲労困憊のご様子。
何とかして腰巾着みたいにくっつく小悪魔を撒こうとアレコレ手を打つが、一向に離れる気配を見せなかった。
まるで圭の舎弟のように周りをウロチョロするなつみはどこか嬉しそうな表情をみせている。
それが却って圭の疲労度を高めていく。
「ったく何なのよ? さっきから人の後ばっか付けて」
「せっかく同じ講座を受講してたんですから、これを気にもっと……」
「断るっ!」
「い、一度ぐらいなっちに付き合ってくれてもいいじゃないですかぁっ!」
「アンタには十分過ぎるほど付き合ってやっただろーがっ!」
「それとこれとは別ですぅ」
なつみもかなり言うようになってきた。
初めて接触した頃は容姿と毒舌に圧倒され、グウの手も出なかったものである。
これも単に日々の積み重ねとでも言えるのだろうか?
ともかく、今の圭の認識の中になつみが割り込んでいる事だけは確実だと言えよう。
「どっか行け」
「イヤです。保田さんとお昼食べるまで付いてきます」
「はあっ!? なんでアンタと食事しなくちゃならないわけ!?」
立ち止まって、なつみを威嚇するような目つきで見つめる。
しかし人間慣れれば今まで怖かったものも平然として受けとめられるようになる。
威嚇には威嚇で対抗するかのように熱い眼差しをもって見つめ返したなつみ。
ふと前にもこんなシーンがあったなぁ、と回想する。
(確かあの時は、誰かの視線を感じて、それを危惧した保田さんと手を繋いだんだっけ。
でも冷たかったんだよなぁ、温もりがなくてちょっと悲しかったし……。
まさか二度も同じ事なんてないよね……)
- 521 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:35
-
内心そう思いながら圭を見つめ続けていたなつみだったが、
不意に自分の背後から聞こえた掛け声に思考を遮断され、振り返った。
圭も自らの名を呼ばれた方へと向き直る。相変わらずの鋭さを放つ眼光で。
ほぼ二人が同時にその人物の姿を見るや否や、共に邪険そうな表情を表した。
((何でコイツ(この娘)がここに!?))
手を振って二人の元へと駆け寄ってくる少女が、今の二人には物凄く邪魔だった。
それと同時に恐ろしくもあった。
この状態を見て何を口走るか、わかったものではなかったから。
徐々に近づいて来る少女が二人の元まで辿り着くと、いきなり圭の腕に絡みついて
嬉しそうな表情と声で一気に捲くし立てた。
「保田さぁん、偶然ですね〜。そういえば確か今日もバイト入ってましたよね?
だったら一緒に行きませんか? 石川も今日入ってるんですよぉ〜」
「ちょ、いきなり腕絡めるな」
「え〜、いいじゃないですかぁ。保田さんと石川の仲じゃないですかぁ〜」
そう言ってより一層圭の腕に密着する梨華。
身体のラインがハッキリと出る軽装のせいで、梨華の胸の間に圭の腕が挟まっている。
尚も密着して押し付けているその仕草は卑猥に見えるのだが、明らかに誰かを意識してやっているようにも見えた。
そう、目の前に居るなつみに向かって……。
「な、なにしてるんですか!?」
「アッ、もうこんな時間ですよ、保田さん。早く行かないと遅刻しちゃいますよぉ?」
「人が居る前で何してんだよっ。離れろ」
「ち、ちょっと! いきなり来てなにし……」
「早く行きましょう!!」
「ちょ、わかったから、引っ張るな」
なつみの存在などまるで眼中に無いかのように、その場から圭を連れて立ち去ろうとする梨華。
ふと、立ち去る寸前になつみに向けて鋭い眼光を向けた。
それはまるで日頃の彼女からは想像もつかないような、それでいて相手を見下しているような凄み。
明らかに敵意剥き出しの眼差しは、なつみに向かってこう訴えかけていた。
(アンタなんかにこれ以上、保田さんを渡さない!! 田舎っぺは引っ込んでなっ!!)
梨華に掴まった圭は抵抗しつつもズルズルと連行されていった。
- 522 名前:芒 W 投稿日:2004/04/16(金) 03:36
-
真昼の炎天下の中、一人佇むなつみは屈辱を味わっていた。
二ヶ月前に突如として現れ、群衆の目前で罵られたこと、今日の今も突然現れ、自分の存在を無視されたこと。
女の直感が働き、恋敵であろう梨華の大胆な行動に対抗しようにも成す術がなかったこと。
そして……立ち去る前に年下である梨華の迫力に後込みし、その姿を嘲笑うかのように見下されたこと。
まるで梨華の存在に自分の存在を全否定されたような感覚に陥っていた。
しかし何よりなつみにとってショックだったのは、傍にいた圭が自分の事を微かでも気に止めてくれなかった事だった。
いくら梨華が強引だったとはいえ、目と鼻の先にいる自分に対して何らかのフォローがあってもよかったのではないか?
そしてそう思うと同時に、自分は圭にとって、そこいら辺と歩く他人と同じ扱いなのだという事を思い知らされた。
アレだけ懸命に接触を謀ってきたこの二ヶ月余りの努力が、一瞬にして崩れ去っていく。
「なんで……あんなに頑張って接したのに……くそぉ……」
自然と湧き上がる悲しみに耐えるべく口をへの字にして、二人が去っていった方を睨みつけていた。
その瞳の奥に一つの決意を秘めて……。
- 523 名前:お返事 投稿日:2004/04/16(金) 03:36
-
>ビギナーさん
圭 「なっちゃんは年齢上では大人ですけど、中身は子供ですからね〜」
なつみ「圭ちゃんだって同じじゃん。結構子供っぽいトコあるくせにぃ」
圭 「でもシャンプーハットは被らないから」
なつみ「い、いいの、あれは。アレはさ、その、つまり……(モジモジ)」
圭 「???」
なつみ「圭ちゃんに、可愛いって、思ってもらうために、買ったんだもん……(カァーッ)」
圭 (!!! な、なんて可愛い奴だぁーっ!!)
>へろんさん
なつみ「はじめまして〜、なっちと圭ちゃんの愛の巣へようこそ〜」
圭 「どこがよ? 調子にのるんじゃないの(ペシッ)」
なつみ「へへへっ」
圭 「まあ、時期的にこれからが勝負って感じになるんで、ちょっとゴタゴタするかも」
なつみ「そろそろ新スレに移行する頃合でもあるしね」
圭&なつみ「「そういう訳で今後ともヨロシクね〜」」
- 524 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/16(金) 03:36
-
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- 525 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/16(金) 03:37
-
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- 526 名前:本庄 投稿日:2004/04/18(日) 16:20
- い、石川ぁぁぁぁ!!!
なんかふとチャーミーに一瞬殺意が・・・(ごめんよチャーミー・・・)
なっち!負けちゃダメよ!!
そして圭ちゃん、・・・そろそろ観念なさい(笑)
P.Sあ、某国家試験受かりました♪
ごめんねぇ圭ちゃん、一足先に受験地獄から脱出しちゃうわ〜♪♪
- 527 名前:芒 X 投稿日:2004/05/01(土) 21:48
-
最終日、なつみは終始圭の傍に貼りついて離れなかった。
席取りから、昼食時、自習時と半径三メートル以内に必ず見えるなつみの姿。
生憎深夜バイトが入っていた圭は、昼間ずっとなつみの監視下に置かれる羽目に。
なので、とことん無視を決め込もうとしていた圭だったが、要らぬ心配であった。
なつみの態度が昨日までとは違い、必要以上に話し掛けてくる気配を見せなかったのである。
すっかり空が闇に包まれ、ネオンの灯りが煌く頃、圭は厳かな雰囲気の自習室から、脳と身体を解放した。
正味五時間近くもの間、こじんまりとしたスペースで研ぎ澄まされた脳内伝達を酷使し、文字と数字を相手に
睨めっこしていたせいで、身体の節々がロボットのようにぎこちなく動く。
ストレッチ体操でもすれば、間違いなく関節が奏でるゴツイ音のオンパレードが聞けそうだ。
首を一回転させると、ちょうど真横には肩から鞄を下げたなつみの姿が目に映った。
相変わらず何も喋らずにジーッと圭だけを見つめている視線は熱い。
「……そんなトコ突っ立ってないで、自習が済んだんなら早く帰れば?」
「帰りません」
「あっそ。んじゃアタシは帰るから」
そう言って駅へと向かって歩き出すと、やや遅れてなつみが後を付け始めた。
校舎を出てすぐ目の前にある改札口の前を通り過ぎ、JRの高架下を抜け、K伊国屋方面へと歩を進める。
目と鼻の先である新宿へ出る道としてはあまり交通量は多くないが、金曜の夜ということもあってか、
人の往来は普段より多いようだ。
K伊国屋をも素通りし、TイムズSクエアまで出ると、昼間とほぼ変わらないくらいの人がごった返している。
買い物帰りの親子連れ、ネクタイを緩めたサラリーマン、流行のファッションに身を包んだカップル、塾帰りの小学生。
幅広い世代が交錯するこの空間に、共通する物――それは皆が暑さに辟易している表情。
世代によって感性が違うといえど、根本的な部分は共通なのかもしれない。
そんな雑踏の中、圭は街の中枢地域へ向かって進んでいく。
その背後では、なんとか人の往来を掻い潜ってなつみがピッタリと付いてきている。
(何なんだ、コイツは!?)
- 528 名前:芒 X 投稿日:2004/05/01(土) 21:49
-
普段から泰然自若な圭でも、その不気味ななつみの行動に精彩を欠き始める。
何故か、傍にいるだけで苛立ちが募り、徐々にフラストレーションが高揚していく。
やがて、我慢の許容範囲を越えたのか、振り返って問いただした。
「何なの、一体? 何が目的なわけ?」
「……」
「黙ってないでなんか言ったら?」
「……あの子の時だけちゃんと受け応えしてたくせに、なっちの時はそうやって邪険に扱ってさ」
「はあ?」
「あの子と保田さんはどういう関係なんですか? あの子のこと好きなんですか?」
「なに勘違いしてんのよ、アホくさ」
「またそうやって誤魔化そうとするっ!!」
なつみの突然の怒声は行き交う人々の歩くスピードを止めた。
一斉に周囲の目に晒される二人。それを見物する野次馬もポツポツ……。
まだ明るい内から揉め事か、といった様子で通り過ぎていく人もチラホラ。
そして目の前には倦厭感を丸出しにした圭。
「あっ、ご、ごめんなさい……つい」
「別にいいけど……」
シラフの如く平然としている圭に対し、桃色ほっぺを全面に押し出したなつみ。
これといって恥かしがる事もなく、再び歩き始めた圭を追うようになつみも後を付いて行く。
“追っかけ”と呼ばれる人たちのエネルギーの一途さに負けず劣らず、タフななつみだった。
- 529 名前:芒 X 投稿日:2004/05/01(土) 21:50
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アルタ前の交差点に立ち止まった時、なつみは尚も圭に詰め寄る。
先ほどから全くといっていいほど喋らなくなった圭は、なつみと目を合わそうともしない。
やがて信号が赤から青へと変わると一斉に人の群れが車道の中央で交錯する。
圭も遅れ馳せながらもその群れに埋もれようと視線を上げ、一歩踏み出そうとした時だった。
なつみも同様に二、三歩進んだが、隣りを並歩する圭がその場に佇んでいるのに気付き、傍まで寄った。
「保田さん? 早く渡んないと轢かれますよ?」
「……」
「渡りますよ、ホラ、早く〜」
なつみは圭の手を引いて横断歩道を渡ろうとするが、圭は微動だにしない。
やがて信号が点滅を始め、仕方なくなつみは圭の身体ごと元居た場所へ戻った。
「もぉっ、なっちがいなきゃ死んでたとこじゃん。これでまた貸しができましたからねっ!」
しかし、なつみのやや嬉しそうな奇声は雑踏の中に埋もれ、圭の耳には届いていなかった。
目下、圭はただ一点を見据えたまま、マウイ島のモアイ像よろしくジッとしているだけ。
ただその眼差しはどこか攻撃的で、今にも飛び掛らんとする百獣の王、そのものだった。
一方、その態度が癪に障ったなつみは不快な表情を向けるが、それさえも視界に捉えようとはしない圭に、
ようやく自分よりも興味を惹いている対象物へと目を向けた。
視線を追うようにして振り返る先には、こちらへ渡ろうとする人々の群れ。
だが、肝心の圭と視線を合わせているであろう対象物など見当たらなかった。
徐々に人塊が大きくなり、こうなると余計に対象物を探すのに苦労しそうだが、圭の目は獲物を捕らえたまま。
しかし相変わらず目には力が漲っている。
「あの〜、どうしたんですか? ねえっ、保田さんてばぁ」
「……五月蝿い。どっか行け」
「もおっ!! 何見てるかぐらい教えてくれたっていいじゃん!!」
先ほどから圭と人塊との狭間で視線を前後に交錯させながらなつみは文句を言う。
しかも、先ほど車に轢かれそうになったのを助けた(なつみ的には)お礼も言ってもらってないことが、
余計になつみの不満度を上げさせていた。
- 530 名前:芒 X 投稿日:2004/05/01(土) 21:50
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何度目かの往復作業の時、ふと人塊の中から一際こちらに向かって何かを訴えかけている一組の夫婦が目に付いた。
こちらの方を見ながら隣りの紳士に何かを訴えかけている婦人と、落ち着きのない婦人を宥めすかしているような紳士。
こちらの人だかりの中からその夫婦に気付いた者たちが話題にし始め、ざわめき視線を辺り飛ばす。
信号が赤から青へと変わった。
が、圭は元より向こう側にいた例の夫婦も動く気配を見せない。
なつみがいた方の人々はその夫婦を避けるようにして、散開して行く。
だが、それは夫婦側にいた人々も同じだったようで、直立不動の圭を遠回しにして、バラけて行く。
なつみはようやく、圭が凝視していたものがあの夫婦であると確信した。
この場所に来て何度目になろうか、信号が赤から青へと変わる。
と同時に、一斉に歩道へと人が群がる。
その中でようやく圭の足が重そうに前へ動いた。
一歩、また一歩と足跡とタイヤの跡で汚れきった白いラインを渡っていく。
半分は好奇心から、もう半分は老婆心からこの状況に付き合う形になったなつみも遅れて後を付けていく。
徐々に圭と夫婦の間が近づいていく。夫婦はその場から動こうとせずに、圭を待っているようだ。
お互い視線を絡めてはいるものの、婦人の方は時折気まずそうに視線を逸らしている。
(うわっうわっ、この後どうなるんだろ? なっち、なんか物凄い場違いな気がする)
周囲の明るく楽しそうな空気とは一線を画すその雰囲気に、なつみは固唾を呑んで見守ることしか出来なかった。
- 531 名前:芒 X 投稿日:2004/05/01(土) 21:51
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横断歩道を渡り切った圭が夫婦とちょうど横一列になる。
婦人を庇う様に紳士が圭の隣りに移動し、視線を進行方向に向けたままの圭と対峙した。
まるで何者かが気を利かせたかのように、三人の周りには人が集まらなかった。
勿論、圭の数歩後に居たなつみでさえも、その領域には踏み込ませないほど緊迫した空気が尚も続く。
ようやく紳士が重く乾いた口を開いた。
「随分と元気そうじゃないか」
「……」
「梨華がお世話になってるそうだな……」
「……世話なんてした覚えはない。アタシにとっちゃ、厄介者に過ぎない。勿論……」
圭は一端言葉を切り、一息いれるとハッキリと言いきった。
「アンタたちもね」
圭のその一言がかなり重いものなのか、婦人も紳士も言葉を失っているようだ。
一歩引いた立場に居るなつみでさえ、どうしてよいのか判らず挙動不審に陥ってる状態だ。
そんな事などお構いなしに尚も圭は続ける。
「……アイツに何を吹き込んだのか知らないけど、人の前をチョロチョロとさ、目障りなんだよ。誰かに似て」
そう言うなり強烈な睨みを利かせた表情を紳士に向けた。
鋭過ぎる眼光に、思わず後ずさってしまった紳士と婦人、それになつみ。
徐々に周囲に人垣ができ始めたのを懸念した圭は、辺りに畏怖の念を残しながら歩き出した。
一足先に我に返った紳士が反撃を込めて圭を引き止めに入ったが、圭は振り向き様に冷たくあしらうように言い放った。
「アンタ如きの人間がアタシに物言える立場かよ? 鶏鳴狗盗(卑しい事しかできない小心者の例え)なくせに」
完全に紳士の動きが止まった。
戦意を失った夫婦を見届けた圭は、やや離れた場所に居たなつみの方を向くことなく群衆の中へと消えていった。
圭が去ったことでようやくその場の時間が動き出した。
事の全てを見聞きしていたなつみもまた我に戻ると、夫婦に気付かれぬようそっとその場を抜け、圭を追った。
が、ただでさえ店が所狭しと建ち並び、人が蠢くこのエリアで、たった一人の人間を追うのは不可能だった。
- 532 名前:芒 X 投稿日:2004/05/01(土) 21:52
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◇ ◇ ◇
家路へと向かう車内で、なつみは車窓に映る自分を見つめながら圭のことを考えていた。
日頃の疲れと淡い恋心が混じった表情は、窓を通じてなつみを綺麗に見せていく。
(あの人たち、一体誰だったんだろ? 保田さんと知り合いのようだったけど、酷く怯えてたし、
それにあの人が言ってた梨華っていう人。人と接するのを物凄く嫌う保田さんが世話してるって言ってた。
一体誰なんだろ? ……それに昨日会ったあの石川っていう娘も気になるし)
しきりに圭と関係のある人物が出てくる事に、鬱な気分になっていく。
ふと、なつみの中にある疑惑が浮かび上がった。
(人と仲良くするのを嫌うってみっちゃんも言ってたけど、アレってホントは嘘なんじゃないのかな?
ホントはなっちたちが嫌いなだけなんじゃ……。じゃなきゃ、あそこまで拒絶したりしないもん。
それとも、何かなっちたちに言えない事でも隠してんのかな?)
表面上、圭と接している人物はなつみが知るだけでも軽く七人はいる事になる。
が、圭の全てを知っているわけではなく、自分の知らない部分でも付き合いのある輩がいるかもしれない。
仮に圭が対人恐怖症であれば、圭と親しい関係に当るみちよと真希を除いても、五人は多すぎるだろう。
なつみの打ち立てた推測が現実味を帯びていく。
(でも……)
一方で、別の疑問が湧き上がる。
(今日会った夫婦と梨華って言う娘に対して、凄い迷惑そうにしてたっけ? 厄介者だって……。
そう考えると、まともに接してるのってみっちゃんとごっちん、それにあの石川っていう娘の三人だけだ……。
やっぱりみっちゃんの言う通り対人恐怖症なのかな?)
車窓に映る同世代のグループの愉快な会話と顔つきに、なつみは人付き合いの難しさを改めて考えさせられた気がした。
- 533 名前:芒 X 投稿日:2004/05/01(土) 21:53
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◇ ◇ ◇
都内のとある住宅街。
高級住宅街としてはやや落差はあるものの、住んでみたい街ランキング等々では上位に挙がるほどの街、
その街の一角に石川家は居を構えている。
都議会議員の父と、優しい母の愛情をたっぷり受けた一人娘、梨華は幸せ一杯に育ってきた。
しかし、梨華が幼稚園へと通い始めた頃、母親は外出先で、無謀な運転をする車の餌食となり、
二度と帰らぬ人となってしまった。
幼かった梨華をなんとか男手一つで育てようとした父だったが、多忙になるに連れて梨華と接する機会をなくし、
一人になる梨華の心境を考え、次第に再婚を考え始めていた。
そして……梨華が十歳の誕生日を迎えた日、父は梨華に新しい母親を紹介した。
娘への最高の誕生日プレゼントと称して。
それからというもの、前妻の愛情の賜物か、梨華は臆することなく新しい母親と接していった。
多忙を極める父親に迷惑をかけまいとする梨華なりの気遣いだったのかもしれない。
必要以上に母親と行動を共にし、色んなことを話し合い、時には甘えたりもして距離を縮めていった。
片時も、自分を産んでくれた母を忘れることはなかったけれども、それをも忘れてしまうかのように毎日が楽しいと思えた。
そしてこれから先も順風満帆な生活を過ごすはずだった。
十七歳の誕生日を迎えるまでは……。
- 534 名前:芒 X 投稿日:2004/05/01(土) 21:54
-
その日、いつになく真面目な表情をした母が教えてくれた「事実」が梨華を変えた。
“私には、梨華以外にも娘がいるの”
それを知ってからは己の中で、半信半疑だったが「事実」が完全な「事実」へと変わったのは、
一番の親友である真希が誘ってくれたクラブで出会った一人の女性――腹違いの姉妹である圭を見た時からであった。
それ以来、梨華は必要以上に圭に関するデーターを拾い集め、接触を謀っていくことに精を出した。
少しでも自分を知って欲しくて、少しでも圭の事を知りたくて――その想いを強く持ちながら近づいていった。
自分と同じ血の流れた「姉」の存在を認める為に。
しかし徐々に知っていく内に、その気持ちは別の気持ちへと変わっていった。
少しでも振り向いて欲しくて、少しでも傍に居たくて圭に近づいている自分。
そう……実の姉に恋心を抱いてしまったのだ。
そして、梨華の気持ちをそう変えさせたのは、一人の女性の存在だった。
――安倍なつみ
リサーチを重ねるごとに、圭を知っていく度に判ってきた事――なつみの存在が最愛の姉を豹変させてしまったという事実。
ハッキリとした確証などはなかったが、そう思わざるを得ない何かが梨華の心にはあった。
それを言葉にして表現するならば、姉妹の“絆”とでも言おうか。
梨華はそれを元に行動を起こし始めた。
その行動が例えどんなに卑劣であっても……全ては姉を手に入れるため。
- 535 名前:芒 X 投稿日:2004/05/01(土) 21:55
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◇ ◇ ◇
「ただいま」
下の階からいつのも声がして、梨華はしばらく見つめていた写真を引き出しにしまうと、部屋を出た。
下へ降りてリビングへと顔を覗かせると、ソファーに腰掛けグッタリとしている両親の姿。
よほど疲れが溜まっているのだろうと思い、梨華は「おかえり」と挨拶を交わすとキッチンヘ入った。
予め拵えておいた野菜スープの鍋に火を入れ、手際良く食器棚からカップを取り出す。
少しでも場の雰囲気を明るくしようと、鼻歌なんぞを唄ってみた。
だが、その空気は消えることなく、夕食の準備をする梨華にリビングから声が掛かった。
「梨華、ちょっと話があるからこちらへ来てくれないか?」
「え〜、後じゃダメなの?」
「大事な話なんだ」
普段からあまりそういった話を持ちかけられる事のない異例の事態に、梨華も渋々火と止めてリビングへと向かう。
両親に対面する形で腰掛けるが、父親は中々話を切り出そうとはしない。
業を煮やした梨華が父に問い掛けた。
「何なの一体?」
「お前、最近圭に迷惑掛けてるのか?」
「えっ?」
突然圭の名が出てたじろく梨華。
「バイト先で何か仕出かしたんじゃないのか?」
「そ、そんなことしてないよぉ。何でそんなこと急に聞くの?」
「……今日、新宿で圭に会って、本人がそう言ったんだ。お前が厄介者だってな」
「……」
確かに自分があまり好かれているとは思えないが、そこまで言われるとは思ってもみなかった。
あまりのショックに言葉を失っている梨華に、追い討ちを掛けるように父親は続けた。
- 536 名前:芒 X 投稿日:2004/05/01(土) 21:55
-
「今後、圭には近づくな」
「なっ!!」
「これ以上、父さんたちに迷惑かけないでくれっ! お前が圭に関われば関わった分、
父さんたちにも被害が及ぶんだぞ? だからこれ以上、圭を刺激するような真似は止めてくれ」
「ちょっと待ってよ、私、何がなんだか……」
「もうあの娘は、完全に父さんたちのことを家族だと思ってない。今日会ってハッキリしたんだ」
「でも、そんな急に……」
「わかってくれ。もう元には……」
絶望感を漂わせながら、父親は最後まで言葉を述べることなく項垂れてしまった。
それは隣りにいた母親にも言えたことで、先ほどからずっと下を向いたままである。
重苦しい雰囲気だけが辺りを包んでいた。
梨華は何も言わずに二階へ上がって自分の部屋に戻ると、先ほど見ていた一枚の写真を取り出した。
被写体となっているのは、二人の人物。
一方は凛々しい顔立ちを崩さずに、もう一方の人間を先導しているかのよう。
もう一方は、何かにうろたえているものの、微かに顔が紅く染まっているように見えなくもない。
そして……その間で繋がれている互いの手と手。
ズキッと胸の辺りに痛みが走った。
梨華は少しの間、見つめていた写真を机の上に滑らすと、傍らにあったカッターナイフを手にする。
音もなく、ゆっくりと裂けていく被写体の少女に何度も何度も刃を入れる。
その度に訪れてくる快感に酔いしれ、次第に荒々しく切り刻み出す。
…………。
……。
数分後、見るも無残にバラけた少女の姿、そして胸の辺りに突き刺さるナイフ。
その刃に映った梨華は、満面の笑みを少女に送っていた。
- 537 名前:おまけ 投稿日:2004/05/01(土) 21:56
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圭織の『のんちゃん通信α』
のんちゃんてさ〜、可愛いよね〜。なんかこうマスコットみたいでさ〜。
最近、受験の為に舌っ足らずな喋り方してくんなくなっちゃって、ちょっと淋しいんだぁ。
それにちょっと大人っぽくなってきてるし。
初めてあった時は、ホント持って帰りたいくらいお子ちゃまだったのになぁ……。
鈴音が羨ましいなぁ〜、いっつも一緒に居られてさ。
カオリも大学受かったらのんちゃんのとこに住もっかな〜。
はぁ〜、いいなぁ〜。
- 538 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 21:57
-
四十日間の長い長いバカンスが後数時間で幕を閉じようとしている。
つい一ヶ月ほど前、世の親御さんたちは泣き、かたや学生たちは笑っていたが、今度は立場が逆になる。
八月三十一日。
学生たちにとってこの日は“運命の日”などとも称される素晴らしい一日。
しかしそんな日を何事もなく迎えた者がここにいた。
平家みちよ――人は今年で二十一歳になる彼女のことを「ヘタレ」「オヤジ」「スケベ」等、
マイナス印象ばかりのイメージつきまとうが、腐ってもヘコんでも元特攻隊長、現W大生である。
人生、どう転ぶかわからないものだ……。
太陽が真上の昇りつめた頃、どこからか聞き慣れたメロディが部屋中に響き渡った。
部屋の主であるみちよは、買い換えたばかりの携帯が奏でるヒット曲『風信子』で目を覚ました。
覚束ない動作で携帯を探り、通話状態に。
「もひもひぃ……」
「アリ? 寝てたかい?」
「……誰ぇ?」
「なっちだけど……」
みちよは何故かなっちって誰やったっけ?と考えてしまった。オイオイ……。
いつも聞くなつみの声とは違い、少しテンションが低かったせいで対応が一瞬遅れたのだ。
「……ああ……おはよーさん」
「もうお昼過ぎて夕方だよ? 起きろ〜」
「ん……そうけ……で、何なん?」
「大丈夫かな〜」
「お…おぉ……任しときぃ……」
全く持って任せられる状態ではないのだが、敢えてなつみは話を切り出した。
- 539 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 21:58
-
「あのね、教えて欲しいことがあるんだけど?」
「うちの知っとる範囲でよければ……」
みちよはのそのそとベッドから這い上がり、時刻を確認する。
長針と短針がちょうど直角を形成していた。
ボリボリと頭を掻いて用件を待つも、電話の向こうからは車の通る音しか聞こえてこない。
黙りこくったであろうなつみに声を送ってみる。
「お〜い、どないしたん?」
「……保田さんのバイト先って、どこ?」
「……はい?」
「バイト先、どこ?」
「なんでまた急にそないなこと……」
「教えてっ!!」
なにやら気迫の勝る声にみちよは訳も判らぬまま、圭が数多バイトしている中でも、
自分の御用達でもある喫茶店の住所と行き方を教えた。
理由を聞こうとしたら、礼の一つもなく途切れてしまった回線。
思わず携帯を見つめる。
「……一体何なんやろ?」
一方的に通話をシャットアウトされて、寝起きのみちよは目が点に。
まだ寝グセのついた頭を捻りながら、何か心当たりがないか考えてみる。
- 540 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 21:59
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「お土産が気に入らんかったんかなぁ……それとも、ホンマは連れてって欲しかったんかなぁ……
そんで臍曲げとんのかなぁ……我侭やなぁ、なっちは」
考える事はついこないだの件のことばかり。
寝ても覚めても、みちよの脳内パラダイスは当分終わりそうになかった。
だが、思考が正常に働き出し、更に記憶の紐を辿ると、ある部分でみちよの琴線が震えた。
『残りの夏、保田さんを堕としますっ!』
なつみが旅行前に宣言していたあの日最大の珍事。
「……まさか……んなアホな、ねぇ〜」
誰に問いかけるでもなく、ひとり冗談めかすが、顔の表情は何故かニヤついていたみちよ。
たとえ親友であっても、他人の色恋沙汰には否応なく興味を惹かれてしまう。
なによりみちよ独特の第六感が極度の反応を示している。
「……クックック、果たして圭ちゃんはなっちの暴走をどないにして受け止めるんやろなぁ〜」
窓から見える青いキャンバスと交信しながら一人ニヤついていた。
そんなみちよにはこんな句が似合うだろう。
“秋近し 空に描くは 桃色か” (*注)
- 541 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 21:59
-
*注
芸術の秋も近くなったし、ちょっと何か描いてみようと試みたけれど、思いつくのはどうしても不純なことばかり。
それならいっそのこと空というキャンパスに妄想という名の芸術でも描いてみるか、という意味を込めた
自作の句です。(ちなみにここでいう桃色は俗語として用いてます。季語だと二重季語で俳句になんないので)
- 542 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 21:59
-
しばらく途方に暮れていると突如、背後から声が掛かった。
「何一人でニヤついてんのさ、気持ち悪っ」
「!! け、圭ちゃん!? アンタ、何勝手に入って来てんねん!?」
「鍵掛かってなかったから」
「んなっ!? 自分、不法侵入罪やで?」
「いいじゃんか、別に。知らない仲じゃないんだから」
コンビニの袋を持ってみちよの大親友、圭が手団扇で顔を扇いで立っていた。
その様子から外はかなりの熱気が溢れているようだ。
「まあ、ええけど。で、何なん、今日は?」
「知らないよ。アタシだって今朝ごとぉにここに来いって呼び出されたんだから」
そう言ってベッドの端に腰掛ける才女。
ビニール袋から購入したであろう、缶コーヒーを二本摘み出し、そのうちの一本をみちよに渡す。
こういうちょっとした気遣いが真希たちとは違って大人だな、とみちよは思う。
「あ、あんがとさん」
「で、ごとぉは?」
「はあ? 今日はまだ誰も来てへんよ。っていうかごっちんと会う約束なんてしてへんし」
「……どういうこと?」
「ウチが聞きたいわ」
その答えは数分後に現れた真希によって解決される事になる。
- 543 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 22:00
-
ようやくお陽様が西の空に傾きかけた頃、みちよ宅では必死に夏の課題に取り掛かるヘナチョコみちよと、
その教え子並びにこの大仕事の首謀者である甘えんぼ真希、そしてこの大仕事の為に急遽呼び出された
ニヒル圭の三人が烈火の如くペンを走らせていた。
「ったく〜、一ヶ月近く何やってたんだよ、ごとぉは?」
「あはっ、けーちゃんとこに通ってた以外はずっとへーけさんと一緒♪♪
へーけさんと海行ったり、へーけさんと夏祭り行ったり、へーけさんと……」
「わかったわかった。みっちゃんとずっと一緒にいれて、幸せだったんでしょ?」
「さすがけーちゃん。ごとーの事よくわかってるぅ。へーけさんもけーちゃん見習ってよぉ〜」
「見習えるか、んなもん。こっちはもうキリギリスやで、財布が」
夏バテのせいか、それとも本当にキリギリスなのか、前よりも顎のラインがシャープになったみちよが呆れたように言う。
確かに後半こそ自宅での臨時勉強会のお陰で、余分な出費は抑えることが出来たが、
前半は毎日のように真希に付き合わされたせいで、たった半月で福沢諭吉が十枚も消えた。
今までにないお金の飛び様に、自分の無計画さを呪った。
「ごっちん、臨時徴収するからな、後で」
「え〜」
「……みっちゃん、後で何か奢ってよ」
「なんでやねんな。ウチが奢ってもらいたいわ」
「あっそ。じゃあアタシ帰るよ」
そう言ってペンを放り投げて帰ろうとする圭の手を掴み、藁をも縋るような目で引き止める。
まるで自分の事のように懸命に頭を下げる。
「あー、嘘ウソ、奢ります。奢りますから手伝ってぇ。頼んます〜」
「へーけさん、ごとーも、ごとーも」
「元々アンタがウチらに奢らんかい!」
「へーけさん、怒んないでよ〜」
まるっきり自分に非がないように膨れっ面をして抵抗をみせる真希。
将来、世渡りが上手いだろうな、と思うのはみちよだけではなかろう。
人類、皆平等という格言が馬鹿らしく思えた。
- 544 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 22:01
-
「夫婦漫才はいいから、とっとと終わらせなよ」
「すんまそん。んでは引き続き国語をと」
「ごとーも引き続き化学を……」
イニシアティブを圭が取り、作業再開。
カリカリカリ……
そろそろ普通の人間ならば三度目の食事を迎える頃、床に寝そべっていたみちよが
ようやく自分のノルマを終え、それと同時にペンを放り投げた。
夏の課題にしては多すぎると思いつつも、その分かなりの達成感を味わっている。
「へえぇ〜、さすがに疲れた。ってかさっきっからみんな一言も喋らんと黙々とやっとんな」
「……」
「……」
みちよは上体を起こし、まるで機械のようにテーブルの上で黙々と英文を訳し続けている圭に声を掛けた。
「圭ちゃん?」
「……何よ?」
「いや、ずっと黙っとったからどうしたんかな、思うて」
「どうもしない」
「なんか怖いで、自分」
「うるさいなぁ。ごとぉだって静かにしてんじゃん。みっちゃんだけだよ、一人でピーピー喚いてんの」
「すいませ……ってコラァーっ!」
「うっさいな! 何よ、今度は!」
「ごっちん、何一人で寝とんねん!」
みちよは視界に入った真希を見て大声を張り上げ、ベッドサイドまで駆け寄る。
ベッドの上に寝そべって課題をしているはずの真希が、枕を抱いて幸せそうな寝息を立てていた。
肝心の課題は、最初こそ解いてはいるものの、徐々に文字とも思いつかぬような文字が綴られ、
終いにはミミズの軌跡だけになっていた。
- 545 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 22:02
-
「起きんかい!!」
「Zzz……ん、ふぇ?」
「「……」」
「あ……アハハ、なんか静かだったから寝ちゃった」
「……ごとぉ、明日の夕飯、奢りね」
「えぇ〜、なんでぇ〜?」
「「言い訳無用」」
「あうぅ〜」
気心知れた仲とはいえ、その処罰は容赦なかった。
カリカリカリ……
更に一時間、ページを捲る音と、ペンが走る音の世界に身を投じる。
そしてやはり最初にその世界に根をあげたのはみちよだった。
なにかと「弱い」みちよ。数年前まで公道というステージで狂気乱舞していた人物とは思えないほどである。
「圭ちゃん、一服せえへん?」
「……ふ〜」
「どこまで進んだん? あっ……」
「ん、何?」
「範囲外のとこまで訳してもうてるやん」
「だったらちゃんとどこまでか言ってよ」
「まあええやろ。ホイ、次は数学な」
「はあ? アタシにまだやらせるわけ?」
「だって圭ちゃん現役やろ?」
「自分だって数学、アタシよか成績良かったじゃんか」
「いや、その、うちは、センターでコケたんで……」
「マークミスしたのは自分のせいでしょ」
「ねえ、へーけさん」
「何や?」
交代して、古文の訳を担当していた真希が首を傾げて訪ねかけてきた。
先ほどまでみちよが訳していた古文の一文を指差して、不思議そうにしている。
- 546 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 22:02
-
「この古文の訳間違ってない?」
「えっ、ホンマに?」
しばし、みんなで審議、検討に入る。
…………。
そして、結論が出ると同時に、圭が高笑いし出した。
「フ……フハハ、アハハハハ」
「笑い過ぎや!」
「国文科の学生がマトモに訳も出来ないうえに、ごとぉに指摘されてやんの、アハハハハ」
「へーけさんてさ、ホントにW大生?」
いつも国語を教えてもらっている真希が疑惑の目でみちよを見つめる。
その瞳の奥には、先ほどの奢りの件をチャラにしようという意思が篭っていた。
「うっさい! 所々間違っててもええねん。パーフェクトやったら疑われるやろ?」
「あ〜、そうだねぇ〜。ごとー国語得意じゃないからそっちの方が却ってよかったかも」
「ホレみぃ。ウチはごっちんの事考えながらやっとったんや」
「あんま威張れるようなことじゃないと思うけど?」
「つ、つべこべ言わんと、次の取りかかるで? ほいっ」
うやむやにしようと、圭の手前に数学の課題を差し出す。
途端に不機嫌な顔になる圭。
「あー? ホントに数学やらせる気?」
「当り前やろ? ホレ、現役受験生なら簡単簡単」
「……一週間分、ちゃんと奢んなさいよ」
「一週間!? せめて三日で……」
「……帰る」
「わ、わかった、わかった。ちゃんと奢りますからお願いしますぅ」
「へーけさんってけーちゃんには頭があがんないんだね〜」
「んなことあらへん。ウチの方が大人やから、折れてるだけや」
「ああ!?」
更に不機嫌な顔になる圭に、殺意を感じ取ったみちよは腰を低くした。
触らぬ神に祟りなし、と思って。
- 547 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 22:03
-
「え……な、何か?」
「大人? 折れる? なぁ〜に寝ぼけた事言ってんだか。
自分の学力に自信がないから人に頼んでるんでしょ? 違う?」
「え、あ、いや、その……」
ストライクゾーンのど真ん中を居抜かれ、返す言葉もないみちよ。
そこを真希が力任せの豪速球で更に傷を広げる。
「ひょっとして、へーけさんてバカ?」
「なっ、何を言うか! ウチはれっきとした……」
「そ・れ・な・ら・高二の数学くらいは朝飯前だよね〜、まして“数学”はアタシよか成績良かったんだし」
「(ギクッ)」
「なら大丈夫だね〜。ごとー、完全に文系人間だからさぁ」
不敵な笑みを浮かべてみちよの出方を窺う二人。
その笑みに憤りを覚えたみちよは覚悟を決めて勝負に出た。
「よーし、そない言うんやったらやったろーやないけ! ウチの学力ナメんなよ!?」
みちよは勢いに任せて教科書を開き、課題に取り掛かった。
ペンが唸りを上げながら問題を解いて行く……はずだったのだが、ある場所でペンがピタリと動きを止めた。
と同時に唸り声を上げるみちよ。
「ん? どーした? 手が止まってますよ、みちよさん」
「……ごめんなさい。わかりません」
「……」
「……なんかへーけさんてよくわかんな〜い」
「……しかも最初の問題、答え違ってるし」
「嘘ぉー、マジで!?」
みちよの威勢は見掛け倒しで終わった。
結局、みちよのせい(圭曰く)で朝までかかってしまった夏の課題だったが、彼女らの苦労は報われなかった。
徹夜空けの真希が登校前に寝てしまい、慌てて起きた時には、既におやつの時間。
昨夜の努力は「骨折り損の草臥れ儲け」となってしまった。
- 548 名前:芒 Y 投稿日:2004/05/01(土) 22:04
-
「アハッ」
- 549 名前:お返事 投稿日:2004/05/01(土) 22:04
-
>本庄さん
なつみ「なっちは負けない!! 圭ちゃん、観念しなさいっ!」
圭 「ヤダねったらヤダね〜♪♪ って言うか、闘う相手間違ってんじゃん」
なつみ「間違ってなんか無いもん。圭ちゃんを手にした時点で、なっちの勝ちだから」
圭 「あっそ。でもなっちゃんに負けるほどヤワじゃないし」
なつみ「ムッ! 運動音痴なくせにぃ」
圭 「自分だってそうじゃん。それにアタシはなっちゃんより賢いもん」
なつみ(グサッ!!)
圭 「フッ……勝った」
- 550 名前:ご報告 投稿日:2004/05/01(土) 22:06
-
GWなんで大量更新しまひた。(ふぅ〜)
容量がそろそろオーバーしそうなので、とりあえず『きみに会えて… vol.1』はこれにて終了しまふ。
まあ、ここまでの感想や質問、批評などありまひたら何なりと申し出てくださひ。
『きみに会えて… vol.2』に反映したいと思ひます。
それではまた後で。
- 551 名前:本庄 投稿日:2004/05/08(土) 15:11
- 更新おつかれさまっす!
なにやら薄幸少女がどんどん恐くなってる気が…(汗)
なっち!負けちゃだめよ!!
そしてみっちゃん。
…あなたはそのままでいて下さい(笑)
『きみに会えて… vol.2』の方も楽しみにしとりやす(^▽^)
- 552 名前:誤文訂正 投稿日:2004/05/09(日) 20:08
-
>22
藤T 〜BIGINING PLACE〜 ⇒ 藤T 〜BEGINING PLACE〜
>24
こんな奴がW大生だなんて、ここにいる全員が殴りかかるだろうな〜。 ⇒
こんな奴がW大生だなんて知ったら、ここに居る全員が殴りかかるだろうな〜。
>27
本人曰く、186点取れているはずが、24点になったとの事 ⇒
本人曰く、数T、U合わせて186点取れているはずが、86点になったとの事
>29
やっぱ数Uがなぁ……160点の差は響くよなぁ…… ⇒
やっぱ数Uがなぁ……100点の差は響くよなぁ……
>67
(勉強方や各大学の傾向と対策) ⇒ (勉強の仕方や各大学の傾向と対策)
>71
なつみは今日の授業で行われた長分読解の復習と予習を終え、 ⇒
なつみは今日の授業で行われた長文読解の復習と予習を終え、
>100
運ばれて来た焼き鳥に八つ当たりするように食らいrついた。 ⇒
運ばれてきた焼き鳥に八つ当りする様に食らいついた。
>132
高校時代、校内は素より道内でも優秀だった彼女は、 ⇒
高校時代、校内はおろか道内でも優秀だった彼女は、
>173
判りやすい人だなぁ、と真希は思う。 ⇒ 分かり易い人だなぁ、と真希は思う。
- 553 名前:誤文訂正 投稿日:2004/05/09(日) 20:09
-
>193
「ふ〜ん。国文科ねぇ〜」から 「だよねぇ〜」 ⇒ カット
>228
何を根拠に大丈夫と言ったのかみちよには判らなかったが、 ⇒
何を根拠に大丈夫と言ったのかみちよには分からなかったが、
>232
「判った、判ったから。ホレ、ティッシュ」 ⇒ 「分かった、分かったから。ホレ、ティッシュ」
>262
圭は真新しい参考書手にした時、 ⇒ 圭は真新しい参考書を手にした時、
>263
凸凹コンビは今日も口調だった。 ⇒ 凸凹コンビは今日も好調だった。
>279
その分、昔からなつみが聞いていないところで、 ⇒ その分、昔からなつみの寝顔の前で、
>404
ここの部分和訳がいまいちよく判んなくてぇ ⇒ ここの部分和訳がいまいちよく解んなくてぇ
>405
もう何がなんだか判んないよぉ…… ⇒ もう何がなんだか解んないよぉ……
>406
“全く判んない”とでも言いたそうな顔つきで。 ⇒ “全く解んない”とでも言いたそうな顔つきで。
>408
「……アンタ、本当に判ってんの?」 ⇒ 「……アンタ、本当に解ってんの?」
>432
やはり心の奥底では先日の圭とのバトルの惨敗が緒を引き、 ⇒
やはり心の奥底では先日の圭とのバトルの惨敗が尾を引き、
- 554 名前:誤文訂正 投稿日:2004/05/09(日) 20:09
-
>446
五強科全ての面倒を見る羽目になった。 ⇒ 五教科全ての面倒を見る羽目になった。
>452
判ってくれますよね!? ね!? ⇒ 解ってくれますよね!? ね!?
>453
瞬きしながらわけの判らない事を捲くし立て出す。 ⇒ 瞬きしながら訳のわからない事を捲くし立て出す。
>467
しばし、ぼ~っとしていると係りの者が教室に現れ、 ⇒ しばし、ぼ〜っとしていると係りの者が教室に現れ、
>470
別表現を用いてなるべく判り易く凌いだつもりだ。 ⇒ 別表現を用いてなるべく解り易く凌いだつもりだ。
>471
みちよは訳が判らずに差し出された掌と、 ⇒ みちよは訳がわからずに差し出された掌と、
>477
圭織の心境が痛いほど判った。 ⇒ 圭織の心境が痛いほど解った。
お陰で希美から執拗に問い詰められる羽目に合ったのはいうまでもない。 ⇒
お陰で希美から執拗に問い詰められる羽目になったのは言うまでもない。
>480
「判ったから手ぇ離さんか、イダッ!」 ⇒ 「わかったから手ぇ離さ、イダッ!」
「痛いって! 判った、判ったから揺するな!」 ⇒ 「痛いって! わかった、わかったから揺すんな!」
注意したつもりなのに、かなり多い……以後気をつけまふ。
- 555 名前:お返事 投稿日:2004/05/09(日) 20:14
-
>本庄さん
なつみ「(●´ー`)」
圭 「……なっちゃん、一体何なの、それ?」
なつみ「だって梨華ちゃんの顔文字が入ってるから」
圭 「そんな所で対抗しなくたって、なっちゃんは……(ゴニョゴニョ)」
なつみ「なんだい?」
圭 「なっちゃんは、その、勝ってると、思う、から(真っ赤っか)」
なつみ(真っ赤っか)
- 556 名前:ご報告 投稿日:2004/06/09(水) 03:29
-
容量が限界に近いので、新スレ立てました。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/flower/1086717704
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