Magic of love

1 名前:松竹籐 投稿日:2003年07月02日(水)22時48分15秒
月板から引越ししてきました。

前スレ→http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/moon/1044670215/
「Magic of love」334より。

前スレの思い切り途中からです。
2 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時50分09秒
「………じゃ、じゃあ。…帰るよ」
麻琴に謝る言葉もかけられず。
そのまま後悔をそこに残したまま、部室を後にしようとしたら――。

「………怖いんでしょう、松浦さん」
「……っ、何?」

視線はあくまでパソコンのまま。
何でもないように、あさ美は続ける。
3 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時56分43秒
「今まで、散々自分は、人を好きにならせておいて振っておいて。
それなのに今度、自分が好きになったら、今度は、振られるのが怖くなったんですよね」
「ははっ……何言ってんの…」
「松浦さんは、馬鹿ですよ」
「はぁ? 何よ、もっぺん言ってみなさいよ」
「……なんで、今までもずっと最初は邪険にされてたのに、時間が経つにつれてメロメロにさせたのに、
どうして、どうして藤本さんにもそうしようとは思わないんですか?」
「…………そんなの…出来てたらしてるよっ。でも、いつもみたいには行かなかったんだもん!!!」
「今だって、いつもみたいじゃないじゃないですか。…松浦さんは、前までとは違って…本気なんでしょ?」
「……っ」
「散々、自信たっぷりに好きにならせて振りまくってきたのに。結局松浦さんは、藤本さんを落とす自信がないんだ」
「う、うるさいぃ! うるさいっ、うるさい!!!」
「…………」

扉が壊れるんじゃないかと思うくらい、思い切り閉めて。
亜弥は、怒って帰ってしまった。
4 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時57分13秒
「……あ、あさ美ちゃん」
「…ん?」
「…言い過ぎ……じゃない?」
恐る恐る麻琴が言うと、ゆっくりとパソコンから視線を外し、あさ美は麻琴を見る。
「……私さ」
「?」
「松浦さんの、馬鹿なとこ、好きなんだ。
やってることはそりゃ、その人たちの事が好きな人にはむかつくのかもしれないけど。
でも私、好きなんだよねぇ……なんか。……悪趣味かな」
「………ううん。そんなことない。だったらあたしもだよ」
「…早く、また馬鹿な松浦さんに戻ってほしいな」
「……うん、また、頭撫でてほしいなぁ……」
5 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時57分47秒



6 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時58分29秒
「……っくそ……くっそぉ…」
あぁちくしょう。
涙がなんでか止まらない。
あさ美に言い当てられて、むかついて、無性に情けないのだ。

自信なんか、あるわけないじゃないか。
今までだってたくさんの松浦マジックをかけてきたのに、効かないんだもん。
それに、それに。
もし仮に好きになってくれたとしても、今度は、振らなきゃいけない。
美貴だってそれを前提にOKしたのだ。
その条件無視して振らないで仲良くなんての、許してもらえない、きっと。
楽しい時間は長く続かないってのは、本当なんだなって。
7 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時59分02秒
すっごく好きだ。
自分でも、どこがいいのあんなアホ、と思う。
でも、好きだ。
振られるのが、怖い。

「…うぅ…っ……」
泣きながら廊下を歩いてる亜弥を、何事かと噂するみんな。
声をかけてくれるのなんて、あさ美と麻琴くらいしか。
でも、そのあさ美と麻琴にも、自分は冷たい態度を取ってしまった。
もう誰にも、自分は声をかけてもらえない。
そう、思ってたのに。
8 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)22時59分33秒
「あ、亜弥ちゃんっ、どうしたの?」
「……っう…?」
――美貴だ。
こんなとこで、逢うなんて。
「うわぁっ、め、めっちゃ泣いてるじゃん! ちょ、ちょっと待って、はいこれっ」
「………っ、…って」
少し待って、渡されたものは。
「…これ、ぞうき……ん、っじゃん…」
「あぁ! しまったぁ!!!」
「……アホぉ……ぅ…ック…」
掃除当番だったんだろうか。
何にせよ、アホと言われても言い返せない。

こんなアホを、好きだなんて。
つくづくどうかしてる。
なのに、つい、嬉しくなっちゃうんだ。
9 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時00分03秒
「……ねぇ、泣かないでよ。また、美貴、何かした?」
「………ハァッ……っ」
「亜弥、ちゃん」
「っ!……んぅ…」
ゴシゴシ涙を擦ってた手を降ろされ、掴まれる。
顔を覆ってた手が降ろされ見えた美貴の顔は、とってもつらそう。
「……亜弥ちゃんは、笑ってる顔のが可愛いよ……」
「な…泣いて…っる、顔も全部っ、あたしは可愛いのぉ…!」
「あ、そ、そうだけど……ね? ほらっ、笑顔が似合うからさぁ、笑顔。美貴、笑ってる亜弥ちゃんの顔、一番好きだよっ?」
「…っ」
――一番すきだよ?
その言葉に反応して、涙が収まる。
「…お、おぉ。泣き止んだ…」
「ぅ…べ、別にっ……別に、みきたんが笑ってる顔が一番好きって言ったからじゃないんだからねっ!」
「……ははっ、分かってるよぉ…」
「………うー」
すべてはなんだか、見透かされてるようで。
どうしよう。
どうしたらいいんだ、なんて、話せば。
黙って俯いてしまった亜弥に、美貴が、優しく声をかける。
10 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時00分36秒
「……いきなり来なくなったかと思えば、今度は泣いてるから、びっくりした」
「それは…」
「…ねぇ、美貴、亜弥ちゃんの事振ってないよ?」
「――っ」
噂が美貴の耳にも。
その噂が、現実になりそうで。
「………い、いいじゃん、もぉ。その噂通りにしとけば。だって…みきたん、あのぁゃゃを振ったんだよ?
ファン、めちゃめちゃ増えんじゃん、また……」
「増えてもうれしかねーよ…」
「またまた……」
「っつうか、亜弥ちゃんの方が嬉しくないじゃん。美貴に振られたことになってんだよ?」
「……そぉだよ。いいの」
多分、ほんとだから。
ほんとに、振られちゃうだろうから。
考えられないくらネガティブになってく、自分の心。
これ以上美貴といたら、壊れちゃうくらいにまで。

「…もぉ、いいんだよ。ほんと」

終わりにしよう。
認めたくない。こんな気持ち。
だから、そっと終わらせてくれたらいいのに。
11 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時01分11秒
「……好きにならせてみてよ、って言ったじゃん、美貴。まだ美貴、亜弥ちゃん好きになってないよ」
「…ふ、ふぅん」
「逃げんの?」
「……な……」

逃げる、だって?
そうかも。そうかもしれない。
だって。だって。
12 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時02分16秒
「好きにならせてみてって言われた奴が、そう言った奴のこと、好きになったんだよ!!!
そんなのっ、馬鹿じゃん!! めっちゃカッコ悪いじゃん!! 振るのが……振られるのが、嫌なんだよぅ…ッ……ぇっく…」
「…え?……えっ?」
「常に…自分っ…優勢でいたいのにっ。自分が一番で、いたいのに…。
みきたんは、あたしより他の子優先したり、ぜんっぜん、ドキドキしてくれないし……っ。
いくら迫っても、全然効かない……もし、効いて、好きになってくれても………」
「――振らないよ?」
「ぇ…?」
「なんで、せっかく亜弥ちゃんの事好きになったのに、振らなきゃいけないの? 振るのは、亜弥ちゃんの方じゃない」
「違うっ、みきたんは……みきたんのことは…」
振りたくない。
ずっとずっと、好きでいてほしい。
出来れば、死ぬまで。
ううん、死んでからも、ずっと。
13 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時02分55秒
「亜弥ちゃんといると、楽しいって言ったじゃん。楽しいの、大好きなんだよ。
好きになって、もし恋人同士になったとしたら、楽しいのがもっと続くわけでしょ?
……残念ながら、まだ、恋人同士になるには、ドキドキが足りないんだけど」
「……」
「でもそれを、亜弥ちゃんが足してくれるって話なんじゃなかったっけ?
美貴を、亜弥ちゃんのこと好きにならせてくれるんでしょ?」
「……な…らせる……よ。ならせて、みせるよ。……楽しい人から、好きな人に、変えてみせる…」
「んー。楽しい人から、楽しい好きな人に変えてください」
「………いいの?」
「何がぁ」
「あ、あたし、本気で迫っちゃうよ? 本気で、みきたんのこと……好きになっちゃったよ?」
「だからぁ………好きにならせてみてよ」
「………う、うんっ!!!」
14 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時03分30秒
好きに、ならせればいいのだ。
そして、恋人同士に。



みきたんの許可は、もらった。
松浦亜弥、もう、怖いもんナシ。
もし、仮に怖いもんに出会ったとしても、また、みきたんに守ってもらおう。

「みきたん……」
「んぅ?」
「大好き!!!」



亜弥は、やっぱり笑顔が似合う。



15 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時04分59秒



16 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時05分35秒
「みきたんみきたんみきたぁーん!!!!!」

放課後、かぼちゃ愛好会部室に行こうとした途中に大好きな人の後ろ姿。
その姿を見た亜弥は、大声あげてダッシュで美貴の元へ走って抱きつく。

「うわっ、びっくりしたぁ…」
「えへへぇ、みきたん捕獲ぅ!」
ヒシッと腕を自分の胸に当てて。
「へへへへ」
と美貴を見やる。
「んー。腕に気持ちぃ感触が」
「もぉっと感じさせてあげよっかぁ」
ぐりぐり、ぐりぐり。
自慢の胸を押し当てて、セクシー攻撃。
17 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時06分08秒
「ドキドキしたっ? ねぇ、ドキドキしてる?」
「うん、心臓は常にドキドキしてるよぉ」
「むぅーっ。そゆことじゃなくてぇ」
「あはは」
「ぶぅー」
膨れて見せても、すぐ元に戻る頬。
まぁ、いい。
時間なんか、関係ないんだから。
ゆっくりゆっくり、好きにならせてみせるんだ。
「今日どこいこっか?」
「ぁ、悪い。美貴、まいちゃんと…」
「!! ダメぇ! 行かせないからねっ」
「うえぇ?」
掴んだ腕は、絶対にもう、離さない。
18 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時06分39秒
そんな甘々な事を廊下でやられてちゃ、同じように廊下で歩いてた人たちはたまらない。
そんな2人を見て、またひそひそと噂話をし始める。

「…何よ。ぁゃゃ、藤本美貴に振られたんじゃなかったの?」
「それがさ、あのぁゃゃ、マジになっちゃったらしいよ?」
「マジって?」
「藤本美貴のことが好きになったってこと!!!」
「うっそ! あのっ、好きにならせては振りまくってたぁゃゃがぁ?」
「今度は、振る目的じゃなく、藤本美貴と恋人になる為に一生懸命らしいよ」
「……へぇ」

ジロジロと様子を見てると、亜弥が楽しそうに美貴に腕を絡めて通り過ぎてく。
19 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時07分13秒
「今まで散々人気者振ってきたのに、勝手なもんだね」
「……でもまぁ。…可愛い……から……許せちゃう、みたいな」
「………うん。なんか、前まではすっごいむかついてて、どこが可愛いのあんな奴とか思ってたんだけど。
…………なんか、最近のぁゃゃ、すっごい可愛いよね」
「藤本美貴といると、なんか、…………なんか、ねぇ」
「うん」
「なんでだろう?」
「……さぁ」

亜弥に言わせりゃ、前から可愛いんだろうけど。
多分、それはきっと。

「…藤本美貴マジック?」
「あれだけむかついて嫌われてたぁゃゃが、可愛く見えるっていう」
「最近、あのぁゃゃにコクる奴がいるって話聞いたことあるし」
「えぇ? 無謀な奴がいるもんだねぇ。誰?」
「えーっとね…確か………」
「あはは! うっそ、あいつがぁ? あ、ねぇねぇ、あいつといえば…」

女の子の噂話は、次から次へと。
言っては、流れていく。
20 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時08分00秒

そして。
かぼちゃ愛好会部室で、いつまでも亜弥を待ってる2人はというと。



21 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時08分33秒
「……松浦さん、遅いね」
「…うん」
「何してるんだろぉ」
「………どうせ、藤本さんでも見つけて、今頃腕でも組んでるじゃない?」
「……やっぱ、そうかなぁ」
「そうだよ。……私達より藤本さんのが大事になったんだ、松浦さんは」
「…あは」
「…何笑ってんの、まこっちゃん」
「いやぁ、あさ美ちゃんもちゃんと、松浦さん好きなんだ、って」
「………何言ってんの」
「デッへッへッ」
「……」
シーン。
どうも、亜弥がいないと静かで困る。

「……久しぶりに、愛好会らしいこと、する?」
「…うん、そだねぇ」
「かぼちゃ、食べようか」
「うん!」
22 名前:Magic of love 投稿日:2003年07月02日(水)23時09分16秒

人生というのは、山あり谷あり苦もあるけれど。
とりあえず今は、楽しく、平和である。









23 名前:松竹藤 投稿日:2003年07月02日(水)23時12分58秒
以上でこの話は完結です。
両想いまでを書くんじゃなく、あくまで松浦さんを書きたかったので。
スレを跨いでご覧に頂いた方、ありがとうございました。
結局、これくらいだったら前スレに収めれたのかな……。
どのみち、なんらかの形で使いたいと思ってます。
それが果たしていつになってどんなCPになるかも分かりませんが、待って頂けるのなら、嬉しいです。

では。
ありがとうございました。
24 名前:ほわ 投稿日:2003年07月03日(木)00時02分49秒
(・∀・)イイ!
それにスレをまたいでくれたほうが見つけやすくて助かりますw
あっちのスレで綺麗に終わるのもありだったろうけど、
その後新スレで別の話を始められると
俺にはもう見つけられなくなってしまいます・・・

とりあえずおつかれさまでした
新作期待です(ニヤリ
25 名前:334 投稿日:2003年07月03日(木)12時10分48秒
お疲れ様でした。
ぷはぁー。堪能させて頂きました。
気持ち良いぐらいに自分の中の松浦さんと藤本さん像にがっちり合わさった話でした。
ジャンルはアンリアルなのに全く違和感無く現実の本人達の顔と声が浮かぶのは
作者さんのハロプロへの愛と技術だからこそ成せる所だと思います。サブキャラの小川さんのへの字顔も個人的にはツボでした(w
自分が今まで読んだあやみきの最高峰の話でした。
次回作も楽しみにお待ちします。
26 名前:17 投稿日:2003年07月05日(土)20時16分28秒
面白かったです。
泣いてる松浦に、
藤本が雑巾差し出すところなんか特にいい。
良い作品を読ませてくれた、
作者さんに感謝します。
27 名前:チップ 投稿日:2003年07月07日(月)13時42分38秒
更新されてることに気付かなかった自分が憎憎しい…。
遅ればせながら読ませていただきました。
藤本さんのキャラが秀逸で、すごい面白かったです。
そしてやはり松浦さんには藤本さんだなと。
次回作も楽しみに待ってます。頑張ってください。
28 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月10日(木)02時55分51秒
今作は個人的には笑いどころ満載で楽しかったです。
特に「美貴様」を崇拝する特殊なファンの皆様にはもう…
本筋に関しても言うこと無しにおもしろいです。
次回作も楽しみに待ってていいですか?(何
29 名前:松竹藤 投稿日:2003年07月27日(日)02時20分05秒
たくさんのレスありがとうございます。
sageでひっそりとやっていたのですが、気付いて頂け、感想まで…嬉しすぎます。

>>24
スレをまたいでありがとうございます。
下らへんにあるので、気付いてくれるのかどうか微妙ですが、新作始めたいと思います。
とりあえず100get考えておきます(w

>>25
最後まで読んで頂き、334さんもお疲れ様でした。
もう、ハロプロ大好きで。段々DD化していく自分が情けなくもあり嬉しくもあります。
その中でも藤本さんと松浦さんと、そしてへの字顔の小川さんへの愛は特に増しておりますが(w
次回作、頑張ります。

>>26
藤本さんが松浦さんに雑巾差し出されたシーンを自分が演じるとなると、
絶対松浦さんみたいに笑えないなと思いつつ、馬鹿な松浦さんに笑わせてみました。
少しでも褒めて頂くと調子に乗ってしまいます。
ありがとございます。

>>27
おがこんも合わせて有難うございます。
藤本さんのキャラ、とんでもなくなってしまい、すいません(w
そして、松浦さんには藤本さんです。それしか考えられません。
30 名前:松竹藤 投稿日:2003年07月27日(日)02時20分53秒
>>28
シスターズは書いてて楽しくて楽しくてですね。
もう、自分の趣味を全面に押し出してしまった作品です。
こんなんでごめんなさい。
次回作…楽しみに待ってていてくれるのを裏切らないように頑張ります!


さてですね。
またまたひっそりとsageで、新しいものを始めようかな、と。
言わなくても分かると思いますが、やっぱり松浦さんと藤本さんで。
今回は初めて藤本さんを主人公として扱ってみました。
まだ手元のが最後まで出来ていませんので、以前のようなほぼ毎日更新は不可能かと思われますが、
どうかお付き合いくださると嬉しいです。
またまたありがちでオバカな話ですが、どうぞ、よければ。
31 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時22分17秒
いきなりですが。
この話の主人公、藤本美貴18歳は、貧乏である。
北海道にある貧乏な家から脱出して上京してきたのはいいのだが、貧乏の家の子は貧乏。
上京しても、貧乏なのは一切変わっていない。
それどころか、アパートの家賃や光熱費、その他諸々をすべて独りで支払わなければいけないので、藤本美貴は更に貧乏なのだ。
この不景気な世の中。
資格も何も持っていない美貴は、なかなか就職をすることも出来ない。
なのでバイトで生計を立てているのだが、人生……なかなか、そう、貧乏から抜け出すことは出来ないみたいだ。

「……ハァ」
人使いが荒いくせに賃金の安いバイトが、やっと終わる。
休憩室で溜息ついて、ソファに身体を鎮めて一言。
「疲れたぁ〜!」
「藤本、うるさいよ」
「……すいません」
ちょっと仕事の感想を言っただけなのに……すぐさま先輩に注意をされ、頭を下げることになる。
正直言って、この先輩は好きじゃない。
先輩もそれを分かっているのか、美貴にはあんまり優しい態度をしてくれない。
32 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時23分08秒
給料も安いし、従業員の人達は嫌な感じだし。
それだったらもっといい所を探した方がいいのかもしれない。
そんな事を思いながらフラフラ家路に着こうとしていたら、背後から慣れ慣れしく誰かに肩を叩かれた。

「オッス! ふじもっちゃんだよね?」
「…?」
「ここだよっ、ここ!!!」
「…あぁ、矢口さんじゃないですか」
美貴の目線を下にすると見える、茶色い髪。
矢口真里という、身長の低い、美貴の以前のバイト先の先輩だ。
「どうしたんですかぁ?」
「どうしたもこうしたもないよ。ふじもっちゃん見かけたから、声かけたんだっつの」
元気?と笑顔で話し掛けてくれる先輩。
現在美貴が働いている所の先輩よりも、よっぽど愛想もいいし、優しい。
美貴は、そんな先輩とまた会って、以前のバイト先を辞めた事を少し後悔してしまった。
33 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時24分29秒
「それより、新しいバイト先どうなのよ?」
「えー…まあ、頑張ってるつもりですけど。あんまり可愛がられてないんですよねー」
「キャハハ。オマエ結構キツイもんなぁ」
「…矢口さんには言われたくないですけど」
「うっせ!」
「あはは」
お互いハッキリと言う性格からか、矢口といると非常に楽しい。
こうなれば、ここで再会したのも何かの縁と思い、いきなりで悪いが思い切って美貴は訊ねてみることにした。

「ねぇねぇ、矢口さん」
「?」
「…出戻りはちょっと恥ずかしいんですけどぉ、美貴、また雇ってもらえるように、店長に言ってもらえません?」
「は?」
「今やってるバイト先より、やっぱり前の所の方がいいんですよね……」
それに優しい先輩矢口さんもいるしぃ、と媚びも売っておく。
しかし、その媚びは見事に無駄だということが分かった。
34 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時25分06秒
「言っとくけど、オイラもバイト辞めたんだよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「うん、ふじもっちゃん辞めてちょっとしてからね〜」
辞めてから一度も前のバイト先へ顔も出していなかったから、知らなかった。
「なんで辞めたんですか?」
「単純だよ。他にもっといいバイトみっけたから」
「じゃあそこ、美貴も紹介してくださいよ!!!」
35 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時25分37秒
ダメかと思われたバイトも、思わぬ方向へと動き出す。
「矢口さんも今働いてるんでしょ?」
「……いや、まあ…そうなんだけど…でも、もう辞めたっていうか、クビにされたというか………」
「えー、なんでですかぁ」
「でも、ふじもっちゃんがマジでやる気なら、オイラちゃんと紹介したげるよ。時給もすっごいいいしさ」
「ホントですか!?…でも、どうしてそんないいとこ、辞めるんですか?」
「………オイラには、向いてなかったってことかな…」
「へぇ…」
なんでも器用にこなす矢口を知っている美貴としては、信じがたい。
しかしこんなおいしい話、他になさそうなのでその話に乗ることにした。

「で、仕事の内容は?」
「…うーん、なんていうんだろう」
「……はい?」
「――女の子の、お目付け役?」


36 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時26分07秒



37 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時26分56秒
次の日。
矢口に仕事先の地図をもらって、早速やって来た美貴。
昨日までやっていたバイトは、昨日の夜の内に電話で辞めると伝えておいた。
やる気は十分。
気合入れて道を歩いていると、なんだか大きな大きなお屋敷が見えてくる。

「うわ、すっごぉい…」
北海道の家なんかとは大違いの家。
こんなとこ、一度住んでみたいなぁ、なんて。
こんなとこ住んでる女の子なんか、すっごいお嬢様なんだろうなぁ、なんて。
なんだか憧れる。
将来は、こんな家に住みたいものだ。
…………宝くじでも当たったら、の話だけど。
38 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時27分29秒
夢のまた夢の事を想像していても、現実を考えなければ仕方ない。
今日はバイトをしに来たんだ、他人の家になんか見とれている暇なんかない。
もう一度地図を見て現在位置と照らし合わせてみる。……そしたら。

「……え。ここ、ですか」

美貴の目の前には、大きな大きなお屋敷。

「………ええっ!?」

…どうやら美貴は、お嬢様のお目付け役を任された……らしい。

39 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時28分18秒
そりゃ、時給もいいはずだ。
こんなおいしい話、滅多にない。
どうして矢口がそんなおいしい話を蹴ってしまったのか分からないが、美貴はますますやる気が出て来た。
気に入られたりなんかして、永久就職なんかになってみたら、こんなお屋敷に住むのは、夢の夢じゃなくなるかもしれない。

「すいませーん! 今日からバイトで来ました、藤本と申しますが…」
見た目もすごいが中身もすごいお屋敷。
その中に一歩進んで声を出してみると、メイドらしき人が何人も顔を出す。
「藤本様ですね?」
「え、あ、そ、そうです…あの、矢口さんからの紹介で…」
「少々お待ちくださいませ」
「はっ、はぁ…」
様、なんてつけられたの、初めてだ。
金持ちのあまりのすごさに、少しびびってしまった。
しかしこれくらいのことでくじけちゃいられない。
姿勢を正しくしてメイドさんが再び戻ってきてくれるのを待っていると、素っ頓狂な声がお屋敷全体に広がった。

「亜弥お嬢様がいない〜〜!!!!!」
「ちょっと目を離した隙に…!」
「まだお屋敷のどこかにいるわっ!!!」
「みんな、みんな亜弥お嬢様を探して!!!!」

……………ポカーン。
一体、何事なんでしょうか。

40 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時28分48秒
「あ、あの…」
とりあえず事情を察する為に近くにいた召し使いに聞いてみる。
「ああっ、ふ、藤本様…!」
「あの…亜弥お嬢様というのは…」
「亜弥お嬢様というのは、ここ、松浦家の1人娘です! そして、今日から藤本様にお目付け役としてついてもらう人なんですが…」
「――げ」
「…げ?」
「あ、い、いや、なんでもありません!」
……どうやら、大変なところにやってきた模様。
「すいませんが、藤本様もご一緒に亜弥お嬢様を探して頂けませんかっ!?」
「は、はあ…」
「よろしくお願いします!!!」
「……よろしく、お願いされましたけど」
――顔、知らないじゃん。

41 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時29分55秒
だが、いつまでもここでポカーンと立っているわけにはいかない。
美貴の周りには、亜弥お嬢様を見つけようと必死こいてるメイド達。
しょうがないので美貴も動く事にする。

「…でも、どこに行けばいいのか……」
広い広いお屋敷は、どんどん進んでいくに連れて、今自分がどこにいるのかさえも分からなくなってくる。
どうしようどうしよう、と辺りをキョロキョロしていると、美貴と同年代の女の子を発見することが出来た。
何をしているのやら、窓から飛び降りようとしている女の子。
その女の子に「あのっ」と声をかけてみると女の子は驚いてひっくり返ってしまった。
「ちょ、ちょっと大丈夫っ!?」
「……いったぁーい………」
言われて、思い切り睨まれる。
「ご、ごめんなさい」
「…もぉっ!」
というか、窓から飛び降りようとしてる方が悪いんじゃ。
理不尽な怒りをぶつけられた美貴は疑問顔のまま、ぷりぷり怒って何処かに行こうとする女の子の後ろについていく。
それに女の子も気付いたのか、後ろを向いて、また睨む。
42 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時30分30秒
「ついてこないでよぅ!」
「え…だって……帰り道が分からないし…」
「………」
困っている美貴と、怒っている女の子。
怒っている女の子は一度頭を押さえた後、何かを言おうと顔をあげた時――。

「あっ、亜弥お嬢様がいた!!!」
「――!!」
「捕まえて誰か!!!」
「えっ? えっ?」

女の子を真ん中に、女の子の背中にはメイドさん。
そして、女の子の逃げようとした先には、美貴。
とりあえず言う通り、逃げようとする女の子をワケが分からず捕まえた美貴は、どうしてかメイドさん達に感謝されまくった。

……どうやら、この女の子が、亜弥お嬢様らしい。


43 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時31分00秒



44 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時31分39秒
「……あなたのせいだからね」

たっぷり30分沈黙の後、突然そんなことを言われた。
場所はうって変わって、めちゃくちゃ広い、女の子――亜弥お嬢様のお部屋。
部屋には、亜弥お嬢様と美貴の2人きり。
亜弥お嬢様は、さっきの脱出を美貴に邪魔されたことについて、まだご立腹らしい。

「今日は、買いたい服いっぱいあったのに!」
「……そんなこと言われても…」
美貴は言われた通り、亜弥お嬢様を捕らえただけなのだ。
文句を言うなら、美貴に捕まえてくれと頼んだメイド達に言ってほしい。
「でも、そんなに服が欲しかったのなら、さっきお嬢様を探してた人達に頼めばよかったんじゃ?」
「ヤダ」
「…………」
この、クソガキめ……。
なんて思うんだけど、もちろん口に出せるわけがない。
亜弥お嬢様はというと、まだぶーぶー怒ってる。
45 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時32分16秒
「もうヤダッ、こんな生活!」
「………」
「全然自由にさせてくれないし、みんなうるさいし……」
「………そりゃ、お嬢様だから」
「………」
「……ん?」
「…ねぇ、なんでまだいるの?」
「え」

きょとん、とする美貴。

「だって、あなたが亜弥お嬢様なんだよね?」
「…そうだけど」
「美貴、今日からお嬢様のお目付け役として雇われたんで……」
「は〜あ? いらないよっ、そんなの!」
「そんなこと言われても……」
お嬢様と呼ばれているのに、なんだかめちゃくちゃやんちゃなお嬢様みたいで。
メイド達じゃ手に負えず、雇われたお目付け役。
けれどお目付け役もお嬢様のあまりのやんちゃとワガママ振りにほとほと困り果て、美貴でもう26人目らしいのだ。
46 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時32分48秒
「…いいから、帰ってよ」
「え、ヤダよ」
「……なんで」
「だって、お金欲しいもん」
「…………」
いればいるほどお金が入ってくるこの仕事。
やんちゃなのもワガママなのも、ちょっとくらい我慢すれば済むことだ。
「それに、もう今日は前金でもらってるんだ♪」
「………………」
「だから、後3時間よろしくね♪」
「………勝手にしなよ。あたし、寝る!」
「おやすみなさーい」
「………」
どこぞのお嬢様が使うかのようなベッドで睡眠を取るお嬢様。
お嬢様が使っているんだから、何らおかしいことではない。
だが、美貴は、そんなお嬢様が使うベッドがどんなものなのか、激しく気になってきた。
47 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時33分25秒


……すっごく気持ちよさそう。
きっと、ふかふかなんだろうなぁ。

ポワワンと、そのベッドで横になってる自分を想像する。
…なんだか、とっても幸せになってきた。


48 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時33分56秒
「……ねぇねぇ」
「………」
「ねぇ、お嬢様」
「…………何よ」
「そのベッド、気持ちいい?」
「……はっ?」
「ちょっとだけ。ちょっとだけ触らせてよ」
「……べ、別にいいけど…」
お言葉に甘えて、そろりと手をベッドの上に乗せてみる。
「うわあっ、やっぱしふかふかだ!」
「……ちょ、ちょっと…?」
「お願いっ、1回だけ上乗らせて?」
「………いい…けど」
「やったー!」
ずっとずっとやってみたかったこと。
それは、柔らかいベッドの上で、ぴょんぴょん飛び跳ねること。

「……ねぇ」
「何?」
「それは、楽しいの?」
「少なくとも美貴は楽しい!」
「………へぇ」
「お嬢様もやってみれば?」
「……」

渋っているお嬢様の手を、優しく取ってやる。
恐る恐ると言った感じで手を掴んで、一緒になって飛んでみると、すごく楽しいことが分かった。
2人して笑ってぴょんぴょん跳ねながら、しばらくその楽しさを一緒に味わう。
49 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時34分32秒
やがて飛ぶのも疲れてきて、ボスッと美貴はベッドに横になる。
久しぶりにこんなに笑った気がした。

「はあ……超楽しかった〜」
「………あなた、変な人だね?」
「え?」
「なんかぁ、おもしろい」
「…………」

これって、気に入られたってことだろうか。
それだったら、こんなに嬉しいことはない。

「でも、言っとくけど、何かあったらすぐクビにするからね」
「……はい」
50 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月27日(日)02時35分14秒


――ワガママお嬢様のお守りは、こうして始まったのである。



51 名前:松竹藤 投稿日:2003年07月27日(日)02時36分03秒
……こんな感じです。
52 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月27日(日)14時32分24秒
作者さんが書くシュチュエーションってどれもこれもツボすぎます。
すごい!!!!
しかもまめに更新してくれるし、ずっと応援してますからね!!
53 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月27日(日)16時00分00秒
作者さんがsageでって書いてるのにageてはだめです。
54 名前:334 投稿日:2003年07月27日(日)16時32分08秒
なぜだ!!もう何度この言葉を作者様の作品に言った事かわからないが、なぜこんなにも危険なシュチュエーションを思い付くのだ!!!
一体作者様の頭の中はどうなっているのだ!きっと松浦さんと藤本さんが暴れ回って大変な事になっているに違いない!
たまにこうやって小説と言う形でそれを見せてくれるのが嬉しいです。

あー僕には見える!この話を見終わって、僕が書くレスが!
またも作者様の作品に何度も言った言葉を懲りもせずに、恥じらいもせずに高らかと言うのだ!
『今まで読んだあやみきの最高峰の話でした。』と。
55 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月28日(月)00時44分51秒
設定だけで萌え萌えなわけで、もうどうしたらいいのやら
この話しを見付けた時、思わずガッツポーズをしたのは言うまでもないっす
はぁ続きがマジ楽しみっす
56 名前:ほわ 投稿日:2003年07月28日(月)03時16分36秒
新作キタ━━━━━从‘ 0‘从人川VvV从━━━━━ !!!!

(・∀・)イイヨ、イイヨー!!
ホントによく思いつきますよね・・・
ミキティが貧乏までならともかく、ぁゃゃがお嬢様とはw
今後の展開(どうやって恋に堕ちるか?)に期待です。
57 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月28日(月)03時41分05秒
ありそうでなかった設定…これはいいですね。
更新が楽しみでしょうがないですよ。
いくらでも待ちますよ〜更新頑張って下さいね!
58 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月28日(月)06時37分18秒
とりあえず1つ。
美貴様<s>ネジが数本抜けてますね?</s>すばらしい感性をお持ちのようで。

「でも、言っとくけど〜からね。」の一言で
一気に目が覚めた藤本さんを想像すると夜も眠れません。
<s>いつも昼寝てるんですがね</s>
お嬢様のお目付役の時給も気になるところ。
タグは脳内変換ヨロ。
59 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)11時57分28秒


それから3週間程、ほぼ毎日のように屋敷へと足を運んだ。
その度に思う。
この亜弥お嬢様は、ただのワガママじゃない……超ワガママなんだってことを。


60 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)11時58分00秒
「あたし、ご飯いらない」
「えっ、お、お嬢様…」
「ダイエット中だからいらないの! いいから、さげてよ」
「でも……」
「い・い・か・ら」
はっきりと、お嬢様の口から拒絶の言葉。
そこまで言われてしまうと、メイドという立場上、きつく言えない。
食事を部屋に運んできたメイドさんは、泣きそうな顔で部屋を退室した。
お目付け役の美貴はというと、亜弥の承諾をもらってふかふかベッドの上で横になっている。
でも、その会話はちゃんと聞こえていた。

「お嬢様ぁ」
「…? 何?」
「メイドさん、可哀想じゃん」
「…あぁ」
聞いてたんだ、と聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いて、美貴が寝ている横に腰掛ける。
61 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)11時58分31秒
「だって、さっきも言った通りダイエット中だもん」
「ダイエット中って太ってないじゃん?」
「女の子はいつでも気になるものなのぉ」
「そうだけど……しっかり食べないと、反対に太っちゃうよ」
「……みきたん、うるさい。いちいち口出さないでよ!」
「………はいはい」
都合が悪くなると、すぐそれだ。
だがあんまり言い過ぎるとクビを切られてしまうかもしれないので、そこら辺にしておく。
最初に比べると、あだ名で呼んでくれるようになったりと大分親しくなった2人だが、やっぱりそれは、仕事上の関係だけである。

美貴が任されている仕事は、亜弥を教育することじゃない。
亜弥が変な事をしないように見張ることだ。
暇と隙を見つければ何処かから独りで抜け出して家を飛び出す亜弥。
美貴が雇われてからというものは、それも出来なくなったんだけど。
ちなみに、美貴が帰ってまた来るまでは、メイド達が24時間体制で見張っているらしい。
62 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)11時59分05秒
「あっ、そうだそうだみきたん! あれ、買ってきてくれた?」
「ああ、買ってきたよ。でもお嬢様、こんなん読むの?」
「うん!」
バッグの中に、ここに来る途中買ってきた物。
それは、美貴達若い女の子が読む、ファッション雑誌だった。
「そんなん見てどうすんのさ?」
「決まってんじゃん、買うんだよ」
「買うって……服、いっぱい持ってるでしょお?」
「…………全部、気に入らない服ばっかりだけどね」
「……」
お嬢様、というのは大変らしい。
自由で優雅に見えて、実は、…少なくとも亜弥は、そうじゃないらしいのだ。

まだ若い、16歳の女の子。
お上品な服もいいけれど、今時の可愛いファッションも体験したい。
63 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)11時59分35秒
「でも買うったって、許してくれないんじゃ?」
「……だから、こっそり抜け出すの」
「そーなんだ」
「だからみきたん……見逃して?」
「無理」
「なんで!」
「だってお嬢様外出したら、美貴、お嬢様からじゃなくって上の人にクビ切られちゃうもん」
「そんなことさせないから!」
「無理だよ」
「…許してくれないなら、みきたんのクビ…切るよ?」
「ど、どっちにしてもクビ切られるんだ…」
それは困る。
家計に大打撃。
クビなんてものは、どっちに切られたって嬉しくない。
じゃあ、どうすればいいんだろう。

……そうだ。
美貴が買ってこれば、いいんじゃないか。
もちろんお金は、お嬢様の亜弥持ちで。
64 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時00分08秒
「どっちみち、ここ来るんだし。鞄の中に買った服詰め込んで持ってきたら、わかんないでしょ」
「ほんとにっ? ほんとにいいの!?」
「その代わり、ちゃんと、前金で頂戴よ? 後で返してもらうことにしても、美貴、買うお金ないからね」
「みきたんが超貧乏なのは分かってるよぉ」
「…ぅ」
そ、そりゃ、亜弥から比べれば超貧乏だろうけど。
大金持ちの人にそう言われちゃ、言い返すことなんか出来やしない。
もっとも誰に言われても、言い返す事なんか出来ないんだけども。
「あのね、あたし、これ欲しいの!」
「ん〜? どれどれ…」
「あとね、これとぉ、これと…」
「う、うん」
「それからスカートでしょぉ…あとぉ……」
「………」

パシリなんか、提案するんじゃなかった。
亜弥から頼まれた服の数は、それはそれは膨大だった。
65 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時00分42秒



66 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時01分14秒
「ま、まぁ…ずっと行けなくて欲しいやつ溜まってたんだろうし…ね…」
にしても、重い。重すぎる。
美貴の両手だけじゃなく、肩、腕まで袋がかけられていて。
それでもまだ買い物があるんだから、信じられない。

普通なら、こんな仕事やってられるかと言って放り出しているところ。
それをしないのは約束したから。
指切りなんかせがまれて。
彼女、亜弥がどれだけ美貴が服を持ってきてくれるのを楽しみにしているか、分かっているから。
でもそれならもうちょっと、服を頼む量を考えてほしい。
これじゃ、何回かに分けて行かないと全部亜弥の元に届けられそうにない。
67 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時01分44秒
「ハァハァ…ハァハァ…」
重い重い荷物。
汗を掻きながらとりあえず自分の家に持って帰ろうとした時。
前から、小さい女の人が。

「あ、矢口さぁん」
「…? おぉ〜、ふじもっちゃん!」
見つけて声をかけると嬉しそうに近寄ってくれる。
…自分からは、重くて近寄れないから。
「ど、どうしたんだよ、この荷物」
「あはは…ちょっと、パシリで…」
「ふじもっちゃんがパシリ!?」
「…そんなに驚くことですか?」
確かに、どっちかと言うと、パシリされそうより、パシリ使ってそう。
だからってちょっとオーバーすぎる。
「あ、いや、ごめんごめん。…にしても、パシリにしても、この量…」
「あれですよ。矢口さんに紹介してもらったとこの、お嬢様の」
「ええ!? ま、まだ続いてたの!?!」
「はぁ」
「うっそ。信じらんない。絶対すぐ辞めると思った」
じゃあ、紹介するなよ、そんなバイト。
68 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時02分16秒
「すっげーねぇ。あの超ワガママに耐えられるんだ?」
「最初はどうしようかと思いましたけど。すべては、お金ですから!」
「時給はいいんだけどねぇ…」
「慣れたら、結構楽ですよ。お嬢様、単純ですし」
「いや、オイラは慣れたくないわ。遠慮しとく」
「そうですかぁ?」
「うん…。あれだね、きっと、合ってたんじゃない?」
「み、美貴、あそこまでワガママじゃないですよ!!」
「ややや、性格とかそーいう意味でなくて。相性がさ」
「やぁめてくださいよぉ」
「ひひ」
どちらかというと、年下と接するのはあんまり好きじゃない。
それもこれも、仕事だからだ。お金のため。
ただ、それだけ。
でもふかふかベッドに横になれるし、決して嫌な仕事ではない。
亜弥の超ワガママには、時折びっくりさせられるけど。
69 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時02分48秒
しばらくそうやって話をしてたのはいいんだけど、気付けばもうすぐで亜弥の家に行かなければいけない時間。
これからダッシュで家に帰って、今日持っていける物を決めなければならない。
「あー、やべ。じゃ、そろそろ行きます!」
「ほーい」
「んじゃ!」
「がんばれよぉ」

矢口の声援を背に受けて、最後の力を振り絞りダッシュで。
家に着いた時は、もう、死にそうだった。
それをなんとか奮い立たせて、荷物の整理をし、亜弥の家へと向かう。
70 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時03分21秒
「…ハァハァ」
しかし、たとえもっていく量を減らしたからといっても、鞄の中はパンパンだ。
さっきからずっと疲れっぱなしの美貴には、その鞄は重くて重くてたまらない。
亜弥の家の前に来るとやっとこさ、その荷物を地面に降ろし、顔を出す。
すると、美貴が来るのを待っていたメイドさんが笑顔で出迎えてくれる。

「藤本様、お待ちしていました」
「あははぁ…こんちはぁ」
「…なんだか疲れていらっしゃるようですが…それに、今日はまた大変な大荷物ですね」
「あ、いや。あはは」
パンパンに詰まってる鞄を見て、首を傾げる。
それを胸に抱き抱え、そそくさと亜弥の元へ。
「今日のお嬢様は、とても上機嫌なのですよ」
「そーなんですか」
「はい!」
きっと、このメイドさんはすごく嬉しいんだろうな。
いつも不機嫌でメイドを困らせている亜弥が、上機嫌なこと。
どうして上機嫌なのかは、多分、美貴が持ってきた荷物に関係しているんだろう。
「では、お願いします」
「はーい」
丁寧にメイドに頭を下げられ、美貴は、扉の中へと入っていった。
71 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時03分51秒


72 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時04分29秒
「……これだけ?」

亜弥の眉が、ピクッと吊り上がる。
…やばい。
せっかく、上機嫌だったのに。

「ち、違うよ。ほんとは、ちゃんと買ったよ? でもね、いっぺんに持ってくるの、大変じゃん?」
「……」
「明日! 明後日! ちゃんと持ってくるから! ねっ?」
「……」
「だから…今日は……その、すいません」
クビは、やだ。
クビは、勘弁。
お願い、許して。
ウルウル両手を前にして謝ると、渋々そうに亜弥が小さく頷く。
「……分かった。じゃあ、絶対、明日明後日で全部持ってきてよね」
「う、うん!!!」
「…調子狂うなぁ、なんか」
「へへへへ」
「やっぱり許すのやめようかな」
「…す、すいません」
「……嘘だよ、みきたんのバーカ」
ふにゃり。
表現すると、そんな笑い方。

…なんだ。
こんな風に優しく、笑えるんじゃないか。
73 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時05分09秒
「…お嬢様ってさぁ」
「んー?」
美貴が選んで持ってきた服を楽しそうに見ながら。
その後ろ姿を見て、呟く。
「そうやって笑ったら、もっともっと可愛いのに」
「………うるさいな」
「え? ほ、褒めてるのに…」
てっきり、「そうでしょ?可愛いでしょ」と自信満々な答えを期待していたのに。
「笑えると思う? この家で」
「ぁ……」
「今笑えたのは、みきたんがいたからだよ」
「――へ?」
「だってみきたん、おもしろいもん」
74 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時05分56秒
今、すっごく何気なく言ったけど。
言われた方は、びっくり。

「あははっ、みきたん今、超アホ面だよ〜?」
「…う、うるさいなっ」
「………へぇー。あたしに、そんな生意気な口聞いていいんだ?」
「あ、ごめ…ごめんなさい」
「うん、よろしい」
「……」
また、ふにゃと笑う。
75 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年07月31日(木)12時06分30秒


あれ?…可愛いじゃん。可愛いじゃん、なんか。
思わず赤くなってしまった頬を抑えるのに、美貴はなんだか必死だった。


76 名前:松竹藤 投稿日:2003年07月31日(木)12時20分05秒
こんな感じで唐突な話です…。

>>52
レスありがとうございます。
色んなシュチュエーションはあるのですが、それを文章にするのがどうも苦手で…。
今回の話も一度諦めてまた書き始めたものだったりします。
更新は、できるだけマメにしたいのですが…。

>>53
落としてくれてありがとうございます。

>>54
またまた発見ありがとうございます。
自分の頭の中ですか…そうですね、ほぼ当たっています(w
あとはそこに自分の推しメンを入れたくらいでしょうか(w
常に藤本さんと松浦さんが暴れまくっていまして、それを楽しむ自分がいて、にやけて笑ってしまいます、道で。
今まで読んだあやみきの中で最低でしたと言われないように、一生懸命頑張ります!

>>55
設定に萌えてくださりありがとうございます。
楽しみを持続できるように、またガッツポーズをしてもらえるよう、頑張ります。
77 名前:松竹藤 投稿日:2003年07月31日(木)12時25分13秒
>>56
新作見つけてくださりありがとうございます。
北海道の真ん中らへんから抜け出してきた貧乏な藤本さんと、姫路じゃないけどお嬢様の松浦さんのお話。
その2人の話を、一生懸命頑張って書きたいと思います。
今後の展開は…あまりにも唐突ですが…これでも頑張ってるんですけど…・゚・(ノД`)・゚・

>>57
誰かがお嬢様、という話はここでもいくつか拝見した事はるのですが、
あやみきでこういう話はまだ見た事がないので、載せさせて頂きました。
更新、頑張ります。少々遅れがちになってしまいそうですが、お付き合いくださると嬉しいです。

>>58
タグは脳内変換ですね、了解しました(w
夜は、無事にお眠りになられたでしょうか?
お嬢様のお目付け役の時給は…想像にお任せします(w
昼寝もキチンと取ってくださいね(w
78 名前:つみ 投稿日:2003年07月31日(木)15時47分02秒
雰囲気がイイ!!
79 名前:334 投稿日:2003年07月31日(木)17時36分16秒
松浦さん受けも藤本さん受けも書ける作者さん凄い。
それにしても作者さんが書くと松浦さんと藤本さんがこんなにも可愛く愛しく見えるのか。元々十分可愛いと言う説がありますがw
でも、ここまであやみきをリアルの二人を崩さず活き活き書かれる方を作者さんをおいて知りません。
これからも幸せな二人を楽しませてもらいます。
80 名前:ほわ 投稿日:2003年08月01日(金)10時39分41秒
いい感じですよ〜

>>79さんのを見てあらためて思いましたけど、
設定がフィクションなのに性格がリアルだから登場キャラが活き活きしてますね
何気に今後の矢口先輩の動きが気になります
では、次の投稿をお待ちしております
81 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月08日(金)02時49分38秒
日記はキショイのになあ‥‥
悔しいが、小説は好きよ(はあと
82 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)22時57分14秒


亜弥がああやって笑うと、あそこまで可愛くなるなんて知らなかった。
正直、ドキッとした。
どうしよう。どうしよう。
お目付け役だからってじっと見てると、亜弥に「何よ」とギロリと睨まれる。


83 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)22時58分21秒
「…パパに監視強くしろって言われたわけ?」
「ち、違うよ。何も言われてないよ。っていうか、会った事もないよ」
「……の割には、最近睨んでるよね、あたしを」
「に、睨んでないよ!」
「睨んでるぅ」
目つきは悪いさ、そりゃ。
だけどただ見てるだけなのに睨んでると言われるのも心外だ。
「何? 見ちゃいけないわけっ?」
「逆ギレ?」
「……」
「ふぅん。みきたんも生意気になったもんだねぇ」
「生意気になったって……育ててあげたみたいな言い方しちゃって…」
「少なくとも、養ってあげてるけど?」
84 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)22時58分55秒
家の事を話している時の亜弥の顔は、とてもつまらなさそうだ。
あの、笑った顔が好きなんだ、美貴は。
美貴と喋っている時にだけ見られる、美貴だけの特権。

「…じゃあ、出ようよ、外に」
「はぁ? 何言ってんの。あたしを外に出させない為のお目付け役でしょ? みきたんは」
「そだよ。だから、大丈夫だよ。美貴、お目付け役だもん。ちゃんと、お嬢様がどっか危険なとこに行っちゃわないようにしっかり見張ってる」
「…パパが許してくれないよ」
「美貴がいるって!」
「みきたんがいたって…」
「守るよ! お嬢様のこと、ちゃんと」
「なっ……何くさいこと言っちゃってるわけ?」
「……」
本当だ。
何を、らしくないこと。
だけど亜弥は、そんならしくない美貴の発言を受け止めてくれた。

「……じゃあ、頼りなさ過ぎるけど、みきたんに守られちゃおうかな」

ふにゃり、と。
亜弥は、嬉しそうに、楽しそうに、そう言って笑った。


気品溢れたお嬢様の作り笑いより。
ただただ、16歳らしい、えくぼが可愛い松浦亜弥という笑顔の方が、ずっと好き。
85 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)22時59分43秒


いつのまにか、お金の為じゃなく、亜弥のそんな笑顔を見る為にやって来る自分。
不思議と、そんな自分が嫌じゃなかった。


86 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)23時00分21秒



87 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)23時01分27秒
今日は、2人だけで外に行く事を父親に許可をもらう日。
珍しく美貴がいる時に家に帰ってきた旦那様を迎える為にメイド達は大忙しだ。
それと同じく、美貴の心臓の鼓動も大忙し。
「…緊張してる?」
「ししししてないよ」
「どもってるしぃ」
「……うぅ」
静まれ、心臓。
本当に静まって鳴らなくなったら死んじゃうけど。
ほどほどに静まれ、心臓。
緊張なんか滅多にしない美貴なのに、どうもドキドキする。
88 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)23時02分10秒
「…1、99かな」
「は?」
「許してもらえる確率1%、許してもらえない確率99%」
「か、可能性1%しかないじゃん」
「それだけ厳しいってこと」
「…っていうか、お嬢様がこれまで脱出とかしなければ、すんなり出してもらえたんじゃないわけ?」
「あたしのせいって言いたいの?」
「い、いや」
「………ふんだ」
頬をぷっくり膨らませて拗ねてみる。

――か、可愛い。

…じゃあなくって。
違う違う。
89 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)23時02分40秒
「怒んないでよ…」
「怒ってないよ、別に」
「ほんと?」
「ほんと」
「絶対?」
「絶対だってば。あたしそこまで短気じゃなぁい。………んもぉ、しつこいなぁ」
…あ。
また見れた、あの笑顔。
口調とは裏腹に、優しい顔。
その度にまた、美貴の鼓動は跳ね上がる。

笑顔1つで気持ちが左右されるなんて――。

90 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)23時03分22秒
「んじゃ、いくよ」
「うん…」
亜弥の言葉で部屋から出ると、外にいたメイド達がびっくり。
「ど、どうなさいました?」
「ん。ちょっとパパに用があるの」
「しかし、旦那様は今お帰りになられて疲れてらっしゃると…」
「すぐ済むよ」
「で、でもですね」
「自分が作った娘に会いたくないなんて、おかしい話じゃない?」
「そ、そうですね…で、ではこちらに」
さすがお嬢様。
メイドに案内をさせて、旦那様がいる部屋へと。
美貴はただ、柄にもなく縮こまって亜弥の後ろに。
亜弥はというと、さすがの風格で堂々と歩く。
やがて、その足は止まり、大きな扉の前に。

まずはメイドさんが声をかけ、娘の亜弥とそのお目付け役が会いに来たことを報告。
しばらく間があったけれど、なんとかその重いドアを開けてもらえた。
91 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)23時03分56秒
「亜弥、久しぶりだな」
「うん、パパ」
「また抜け出していないだろうな?」
「ええ。お目付け役の彼女は立派ですから」
「ど、どうも。先月から亜弥お嬢様に付かせてもらっています、ふ、藤本美貴です…」
メイドや美貴に接する言葉遣いや態度の違う亜弥にびっくりしながらも、練習した挨拶を。
言うだけでかなり緊張。
でもこれからもっと緊張しなければいけないことが。
「それより、どうしたんだ」
「…お願いがありまして」
「お願い? お小遣いのことか?」
「いいえ。外に、出させて頂きたいのです」
「ダメだ」
――やっぱり。
予想していた答え。
けれど、予想していたからこそ、挫けるわけにはいかない。
92 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)23時04分27秒
「あの、美貴がっ…いや、私がちゃんとついてますので!
いつもいつも部屋の中だと、お嬢様も退屈かと思いまして…ですね」
「退屈? 好きなものは与えてやっているけど?」
「ば、バイトが言うのは生意気かもしれませんが、お嬢様だって、もっと外の世界をですね…」
「………」
「…パパ。お願い。……無茶しないから」
「別に、藤本くんじゃなくてもいいじゃないのか?」
「…あ、それは…そうですね…」
父親としてみれば、こんな頼りない女なんかより、もっと強いボディーガードの方が安心だろう。
でも。
「私は、彼女がいいです。彼女じゃないと、嫌です」
「お、嬢様……」
「――分かった。亜弥がそんなに信頼してるなら」
「へ?」
「ほ、ほんとうに!?」
「ああ。その代わり、毎日はダメだぞ」
「はっ、はい!!!」

厳しそうだと見た目から伝わってきたのに。
全然あっさり。
亜弥は嬉しさを隠し切れてない。
美貴はOKをもらったことより、何より亜弥の自分じゃないと嫌という言葉の方が嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
93 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)23時05分10秒
「じゃ、じゃあ、失礼します」
「パパ、ゆっくり休んでね」
「ああ」

ウキウキと部屋を出ると、にっこり亜弥の顔がアップ。
「みきたん!! やったよ、あたし、外に出れる!!!」
「う、うん」
「いっやぁ…パパもいつの間に甘くなったんだろ?」
「…ね」
「…? みきたん? どしたの?」
グイッと近付く顔。
「わわっ」
思わず引く顔。
……惜しいことした、なんて。

「…あの」
「何ぃ」
「ほんとに、美貴でいいの?」
「何が」
「一緒に行く人」
「……お目付け役でしょ、みきたんは」
「う、うんっ」
「それに、言い出しっぺはみきたんじゃない」
「…うん」
笑って言う亜弥。
頷く美貴。
「しっかり、守ってよね」
「うん!!!」
これまでで一番楽しそうに笑って言う亜弥。
美貴は、これまでで一番、力強く頷いた。
94 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)23時05分43秒



95 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月09日(土)23時07分04秒
その頃、旦那様の部屋の中では。

「……いいのですか、旦那様」
「何がだ」
「…お嬢様を、あんな小娘と2人で街に出させて」
「いいわけないだろう」
「…では、なぜ」
「ちゃんと、見張らせるさ。外に出る事を許可したのは、亜弥が涙目で見るから……。
あんな奴に亜弥を任せておけるわけない」
「…じゃあ、早速手配を」
「ああ」

美貴の意思とは別に、亜弥の護衛は父親の意思によって、別に用意をされていた。

96 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月09日(土)23時18分24秒
>>78
レスありがとうございます。
雰囲気がもっと上手く出せるように、これからも頑張ります。

>>79
毎度本当にありがとうございます。
334さんのお言葉、本当に毎度照れながら拝見させて頂いてます。
自分が話を作る時は、まず、誰をメインに主人公にするか決めて、相手役を決め、
それからその2人に合う設定やシュチュエーションを考えているので、そう言ってくださると本当に嬉しいです。
…ま、まあ、前回の設定はこれでもかというくらいおかしかったですが(w
リアルでは超ラブラブなお2人なので、アンリアルの世界でも、リアルに近付けたらいいなと思います。

>>80
今後の矢口先輩……ええと、今書いてる段階でやっとでてきた感じです(w
次の話で…100いけなかった……計算ミスです・゚・(ノД`)・゚・

>>81
日記というのは素晴らしいものですよね。
自分がどれだけキショいのかというのが身を持って実感できるという(w
せめて、話だけはキショくならないように頑張ります(w
97 名前:100まで稼ぐ為に、本編とまったく関係ないお話を。 投稿日:2003年08月09日(土)23時54分42秒
「たぁーん」

亜弥ちゃんが呼んでる。

「たん?」

美貴は目を瞑ってる。
このまま素直に目を開けたらまたキスを迫られるのは分かってるから、狸寝入りだ。
98 名前:ほんと即興でデタラメですが、お許しください。 投稿日:2003年08月09日(土)23時56分08秒
…そもそも。
美貴、たんなの?
美貴のみの字もなくなった呼び方で呼ばれるのって、どうなのさ。
考えてると、自然に眉間に皺が寄ってくる。

「…たん、起きてるの?」
…うあ、やばい。
寝てるふりしてるのに、眉間に皺なんか寄せちゃバレちゃう。
こうなったら、うなされてるふりをしよう。
「…ん……んぅ…」
「んー?………怖い夢でも見てるのかな…?」

ピトって、亜弥ちゃんの冷たい手が、美貴のおでこに。
……ちょっと、気持ちぃ。
99 名前:こんなんしか書けなくて申し訳ない… 投稿日:2003年08月09日(土)23時57分50秒
ほんとに、眠っちゃいそうだよ。
だって亜弥ちゃんが、優しく髪なんか撫でるから。

「かーわいいんだから、みきたんは」
「………」
くすって小さな笑い声。
変な顔してたのかな、美貴。

「…キスしちゃうぞぉ」

人差し指が、唇のとこで止まって。
目を瞑ってるから分からないけど、多分きっと亜弥ちゃんは、冗談半分本気半分の瞳で、美貴を見てる。
100 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月09日(土)23時59分22秒
「……ほんとにしちゃうぞ」
え。ちょっと待って。
美貴が寝てる時にも迫るわけ?
じゃあ美貴、寝たふりしてる意味ないじゃん。
「しちゃうからねぇ」
「――って、わぁー!!! ちょっと、待って」
「……」

結局、起きてしまった。
101 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月10日(日)00時00分03秒
慌てて飛び起きた美貴に、なんだか不機嫌な亜弥ちゃん。
「…そんなに、されるの、ヤなの?」
「あ、いや、そ、そうじゃなくて」
「寝たふりまでしちゃってさ」
「だって亜弥ちゃんしつこいんだもん!」
「キスしてくれたら諦めるからぁ!」
「だ、だから……」
「ねぇねぇ、キスしようよぉ」
「………」

結末なんか、分かってるのに。
分かってるから、するの逃げてるのに。
……あぁ、どうしてでしょう。
亜弥ちゃん得意の上目遣いに負けて、キスを交わしてしまうのは。
102 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月10日(日)00時00分46秒
慌てて飛び起きた美貴に、なんだか不機嫌な亜弥ちゃん。
「…そんなに、されるの、ヤなの?」
「あ、いや、そ、そうじゃなくて」
「寝たふりまでしちゃってさ」
「だって亜弥ちゃんしつこいんだもん!」
「キスしてくれたら諦めるからぁ!」
「だ、だから……」
「ねぇねぇ、キスしようよぉ」
「………」

結末なんか、分かってるのに。
分かってるから、するの逃げてるのに。
……あぁ、どうしてでしょう。
亜弥ちゃん得意の上目遣いに負けて、キスを交わしてしまうのは。
103 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月10日(日)00時02分35秒
「…ん。……ハァ………もぉいっかいぃ…」
「……もう、一回キスしたじゃん……」
「やだ、もう一回するぅ」
「………」
「だって、たんとのキス、好きだもん」

そしてまたキスをして、終わるとまたねだられて。
こんなやりとりが、数十回。
飽きるってことを、知らないんだろうか、この人は。
しつこすぎるよ、亜弥ちゃん。
どこが諦めるのさ。

…でも、なんだかんだ言ってそれに毎度応えてキスしちゃってる美貴が、実は一番しつこくて、……キスが好き、なのかもしれない。


104 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月10日(日)00時03分29秒



105 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月10日(日)00時04分13秒
お目汚し、失礼しました(ペコペコ
106 名前:AYAOTO 投稿日:2003年08月10日(日)17時13分15秒
かなり良いっスね^^
すべてが良いっスww
みきあやサイコーっスww
107 名前:JOJO 投稿日:2003年08月10日(日)23時52分32秒
分類板から飛んできました
やっぱり松竹藤さんの小説は凄いと思いました
読んでたらしみじみみきあや好きでよかったなぁ…と思ったぐらいで
だってみきあや好きでなかったらこんなに萌えてないから
これからも更新楽しみにしています
頑張って下さい
108 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月10日(日)23時56分13秒
ageてはだめです、レスはsageで。
109 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時38分14秒
「…で、あたし達が亜弥お嬢様達の監視役ってわけ?」
「まーまー圭織。確かにしょーもない仕事だけど、楽っしょ」
「そりゃそうだけどさぁ」
少し離れたところにいる、圭織こと飯田圭織が雇われているお屋敷のお嬢様。
その横には、最近そんなお嬢様に付くことになった、お目付け役。
外に出る事になった亜弥だけど、どうやらお付きの相手が旦那様には不満で、
こうして気付かれないように後ろから圭織と安倍なつみが見張っているのだ。
「なっち達の顔もお嬢様には知られてないし、もっと堂々としてもよくない?」
「ダメ」
「なんでぇ」
「堂々としたら絶対なっちお嬢様の前で失態とかして注目されちゃうから」
「ひどい!」
「だってそうでしょ!」
「そうじゃないよ!」
と、こうしてる間に。

「あぁっ、お、お嬢様がいっちゃう!」
「うわわ、やばいやばい!」

……旦那様は、本当にこんな奴らに任せて、大丈夫だったんだろうか。


110 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時38分47秒


111 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時39分17秒
後ろにそんな馬鹿な監視がいるとも知らず、久しぶりの外に出れた亜弥の顔はすごく嬉しそうで興味深々。
美貴もそんな亜弥を見てにこにことしている。
「みきたん! あれは?」
「ん?」
指差した先には、女子高生達が並んでるクレープ屋。
「あれって美味しいの?」
「…え。っていうか、食べたことない?」
「うん」
「……」
お嬢様だもんね。そういえば。
こういう違いで、やっぱりちょっと凹んでしまう。
きっとこの子は、美貴が食べたこともないものを毎日食べているのかと思うと…。
身分の違いは、最初から分かっていたはずだ。
今更、凹むことはない。
笑顔を作って、食べたことないと言う亜弥の為に最後尾に並んであげる。
112 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時39分52秒
「…待たないといけないの?」
「うん、順番だからねぇ」
「えー。やだ。早く食べたい」
「…お、お嬢様…頼むからどうしようもない事でワガママ言わないで…」
「ぶぅ」
外の世界でそんなワガママは通用しない。
だけど世間知らずでお嬢様な亜弥は、待ち時間が大嫌いなようで。
横で、不機嫌気味に。
「あと何分?」
「…何分だろ。みんなが何個頼むかで違ってくるし」
「……もぉいい!」
「えぇ?」
スタスタと。
亜弥は列から外れて近くにあったファッションビルへと入って行ってしまった。
「……あー、もう」
溜息ついて、頭掻いて、美貴もすぐ後を追う。
113 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時40分34秒


住む世界が違うことも、価値観も何もかも違うってことは、分かってた。
そんなの全部、承知してた。
それを含めて、美貴は亜弥の笑顔が好きなんだ。



114 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時41分10秒
「お嬢様っ、待ってって!」
「……」
「お嬢様」
「………」
亜弥の足が止まる。
ゆっくりそこまで歩いて、亜弥の細い手を掴んだ。
「…勝手に1人でどっか行っちゃ、ダメだよ」
「……子ども扱いしないで」
「心配だもん」
「だから、子ども扱いするなって…」
「お嬢様が可愛いから、心配なんだよ」
ここは、お屋敷の中じゃない。
ここは、街だ。
亜弥をお嬢様だと思わない、亜弥を普通の16歳だと思う人達。
メイドが傍にいるわけでもない。
父親や母親が隣にいるわけでもない。
亜弥を守るのは、自分だ。
「お願いだから……傍から離れないで」

心配しすぎて、胸が、張り裂けそう。


115 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時41分53秒
「…さ、どうしようか」
離れないように、手をしっかり握ってこれからの事を相談。
「…クレープ買うのやめて、服見る?」
「………」
「? お嬢様?」
「………クレープっていうの、食べたい」
小さく、ボソリと。
「でも、また並ばなきゃ…」
「それはぁ…やだけど」
――おいおい。
思わず突っ込みたくなったけど、なんとか我慢する。
亜弥の言いたいことを、すべて聞こうじゃないか。
116 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時42分24秒
「…服とか、また今度も見れる? また、一緒に外出れる?」
「ん?」
「だって、並ぶの時間かかるんでしょ? じゃあ…一緒に服見れる時間、なくなるじゃん」
「……見れるよ。また、一緒に外行けるよ?」
「ホント…?」
「うん。毎日は無理だから、週に何回かだけど」
「じゃあ……クレープ食べる」
「うん。ゆっくり順番待とう?」
「美味しいのかなぁ」
「美味しくなかったらあんな並ばないって」
「そっかぁ」
「そうそう」

ただのワガママかと思ったら、彼女なりにそんな理由があったなんて。
……嬉しすぎる。

どうしよう。
ホント、好き。


117 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時43分04秒


118 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時43分39秒
時間かけて並んで、買ったものを亜弥の手に渡してやる。
恐る恐る受け取って、小さく皮をかじる亜弥。
「…むぅ。なんか、あんまり味しない」
「あはは。皮だけ食べるからだよ。ほら、生クリームとかイチゴと一緒に食べると美味しいよ?」
「……」
パク。
さっきより少し大きくかじると、生クリームとイチゴが口の中に。
「…おいし?」
黙ってモグモグしてる亜弥に、少し恐々と尋ねてみる。
顔をあげた亜弥の顔は、美貴の大好きな顔だった。

「うんっ、美味しい!」


119 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時44分09秒
なんでこんな、可愛いんだろう。
自分だって同じ性別なはずなのに。
亜弥を見てると、女の子なんだなぁと実感してしまう。
笑顔が可愛い、ちょっと…ワガママな女の子。
そんな女の子を好きになった女の子。

触れたいとか。
抱き締めたいとか。
ただそれよりも。
亜弥の笑顔を見れるだけで、美貴は、ただ、幸せだった。


120 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時44分43秒
「…あぁ…お嬢様にあんな食べ物を…」
だが、美貴は幸せでも陰でこっそり見張っている圭織はそうじゃない。
可愛い可愛い大事なお嬢様にあんな食べ物を食べさせやがったと幸せな美貴を恨んでいる。
「お嬢様は、超高級料理しかお口に入れてはいけないのに…っ」
「え〜? 美味しいよ、クレープ」
「そりゃっ、美味しいけどお嬢様は…って、なっち!」
「ん?」
「…あんた、何食ってんの」
「え、クレープ」
なつみの手には2つのクレープ。
そのクレープは、亜弥が買ったクレープに包まれている紙と一緒。
「…いつ買ったの」
「亜弥お嬢様の後ろで一緒に並んでた」
「………」
だから、距離空けろって言ってるのに。
いくら顔が知られてないと言っても真後ろで見張ってどうする。
…いや、見張るんじゃなく、なつみはただ単に食べたかっただけかもしれない。
その証拠に、手に持った1つのクレープはもう半分減ってる。
121 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月11日(月)21時45分13秒
「圭織も食べる?」
「………ぅん」
もう1つ、まだかじられていないクレープを受け取る。
「…美味しい」
「ねー」
食べてみると、確かに美味しかった。

「…お嬢様も、美味しそうに食べてるね」
「うん。…それに、楽しそう」

あんなに楽しそうな顔、屋敷では見た事ない。
そんな顔を見れた事だけでも、この仕事を引き受けてよかったと思えた。
「…でも、仕事に私情は禁物だよ」
「…わかってる」
自分達は、亜弥達2人の監視役だ。
お嬢様に何かあったら、それは、すべて美貴のせい。
クレープも食べ終わり、もう一度気を引き締め直し、引き続き亜弥達を見守る事に費やす2人であった。
122 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月11日(月)21時54分15秒
そういえば、前回と前々回の更新との間、10日空いてたんですね…。すいません…。

>>106
ありがとうございます。
自分が考えて作った話はすべてが変だと思ってますので、いい、と言って下さると救われます。
はい、みきあやサイコ―っす。

>>107
分類板からありがとうございます。
更新が微妙に遅れがちになってきましたが、頑張りますのでよろしくおねがいします。。

>>108
どうもすいません。ありがとうございます。
自分でsageでやると言っておいて、私も前回何度か自分であげてしまいました(w


107さんのレスから分類板の事が書かれていたので、この場でお礼を。
「No1――ナンバー☆ワン」、「理想と現実」、「Magic of love」を紹介してくれた方、有難うございました。


123 名前:334 投稿日:2003年08月11日(月)22時30分09秒
うわっ!!油断した隙に大量更新されてる!!
しかも色々凄い事になってる!
つーか番外編がやばいっ!かなりやばいっ!思わず”たん”キタ━(゚∀゚)━!!と叫んでしまった。
”たん”を出してくるとは流石作者さんです。こっちは鼻血の海に溺れています。
本編も遂に爆発しちゃいましたね。何が?って感じですけどw
そして、ここに来てあの二人組みで来るとは……堪らん。
設定が本当に秀逸です。どちらの動きも見逃せません。頑張って下さい。
124 名前:334 投稿日:2003年08月11日(月)22時37分10秒
あ、質問にお答え頂き有難う御座いました。スレ汚しスマソ
125 名前:AYAOTO 投稿日:2003年08月12日(火)09時55分26秒
更新キタ━━━(゚∀゚)━━━!!ww
ワ〜イ♪幸せっスよぉ〜^^
美貴たん・・・wwかわいい・・・ww(鼻血

松竹藤さん>
いやいや。ぜんぜんヘンじゃないっスよ^^
むしろ最高っスww^^
126 名前:JOJO 投稿日:2003年08月12日(火)15時32分42秒
おぉ!もう更新されてる。早いッスね
最近リアルで公共の電波を通しての絡みが少ないので
小説読んでると脳が脳内で映像に変換し始めてしまい
ヤヴァいことに…
ミキたんとぁゃゃはこの後一体どうなるのか
展開が読めなく凄く楽しみでつ
ガソバってくらさい
127 名前:∬´◇`∬<ダメダモン… 投稿日:∬´◇`∬<ダメダモン…
∬´◇`∬<ダメダモン…
128 名前:∬´◇`∬<ダメダモン… 投稿日:∬´◇`∬<ダメダモン…
∬´◇`∬<ダメダモン…
129 名前:∬´◇`∬<ダメダモン… 投稿日:∬´◇`∬<ダメダモン…
∬´◇`∬<ダメダモン…
130 名前:∬´◇`∬<ダメダモン… 投稿日:∬´◇`∬<ダメダモン…
∬´◇`∬<ダメダモン…
131 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月12日(火)23時12分39秒
うう、松浦パパがかわいそうだ…こんな役立たずばっかりで。そりゃ心配だろうて。
でもそんな使えない二人組みが大好きな自分。
そしてバイトなのにずっと頼りになる藤本さんがもっと好き。あ、お嬢様も好き。なんたって藤本さんに好かれてるんだからな。

分類板で「Magic of love」を紹介させていただきました。ochi/sageでやってらっしゃるところを申し訳ありませんでした。あんまり好きだったもので…。

>>126-130 JOJOさん、重複部分については案内板の「依頼&業務連絡スレ」で削除依頼出すといいっすよ。出しましょう。(この一文についてのお返事は不要です)
132 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月13日(水)02時18分22秒
お嬢様とお目付け役って設定が萌え度抜群

133 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月13日(水)08時33分35秒
ごめんなさいごめんなさい。
今更でめちゃくちゃ遅いのですが、思いっきり文章を飛ばしていたことに気付きました。
なので、訂正を…・゚・(ノД`)・゚・

>>83-84の間に、↓のが入る予定だったのです…。
134 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月13日(水)08時34分10秒
「ぐ。つ、つっても、給料はお嬢様が払ってるんじゃないじゃんっ!」
「じゃあいいよ。メイドの方にもみきたんは給料いらないって言っとくから」
「そ、そんなぁ」
「…みきたんを生かすも殺すも、あたし次第ってわけ。分かる?」
「…………はい」
「殺しはしないけどさ」
「お嬢様から犯罪者になるからね」
「…でも、ここから抜け出せるなら、犯罪者になってもいいかも」
「え」
「ここは、ある意味牢獄だよ。もう、16年間も閉じ込められてる。
外に出れる時は、学校の体育と、パパやママが一緒にいる時だけ。何1つ自由になんかならない」
「……」

欲しい服も与えてもらえなくて。
自由に外にも出れなくて。
ワガママばかり言って困らせるのも、せめてもの亜弥の反抗なのかもしれない。
135 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月13日(水)08時36分02秒
ナンバーワンの時から、非常にコピペミスばっかしてる気がします。
確かめてるつもりなんですが、それ以上に見落としが多いようです。
なんか話繋がってないよなぁ、おかしいなぁ、と思う個所があれば、お知らせしてくださると助かります。
今更で申し訳ですが、本当にすいませんでした。

レスありがとうございます。次回更新時に返させて頂きます。
136 名前:AYAOTO 投稿日:2003年08月13日(水)14時14分38秒
松竹藤さん>
ミスなんて、どってコトないっスよ!ww
そのくらい、松竹藤さんの文才でカバーできますって!ww
でも、なんか気づいたら知らせますね^^
じゃ、コレからもガンバってください!!!!
137 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月13日(水)15時22分14秒
やった!更新だー!!・・・と思ったら
重複かよ。。。
作者さん、ミスに気を付けてこれからも頑張ってください!
138 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月13日(水)22時45分25秒
今日は、服を買う日だ。
しかしイマドキの服を買った事が家にバレると色々とうるさいので、
その服はそのまま美貴の家へ持ち帰り、また、前みたいに鞄に入れて持ってくる作戦。
問題は、だ。
今日、亜弥がどれだけの服を買うんだということで。
前回あんなに買ったんだからいいだろうと思っていても、美貴の両手にはもういくつもの紙袋の紐が食い込んでる。
それに比べ、亜弥の腕には何もない。
この差は、なんだろう。

「…ね、ねぇお嬢様?」
「なにぃ?」
「重いんだけど」
「がんばって」
「………」
持ってあげるっていう気はないのね、ハナから。
分かってます、だって彼女はお嬢様。
重いものを持たせて、怪我をさせるわけにもいかないし。
「で、でもでも、ちょっと買いすぎじゃない?」
「……そぉかなぁ」
「そ、そうだよ!」
「じゃ、今日はあと一軒でやめとく。次来た時買うから」
「…………はい」
その最後の一軒で、どれだけ買うんだろう。
もう、持つところも提げるとこもなくなってきた。
あと提げれるとしたら、首くらいか。
139 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月13日(水)22時45分55秒
お願いだから、買うのは、1、2着にしてください。
美貴の祈りが届いているのか届いていないのか、亜弥は真剣な顔して服選び。
真面目な顔も可愛く見える。
そんな美貴は、もう松浦亜弥病から抜け出せないのだろうか。
抜け出せないなら、抜け出せないままでいい。
ずっとその顔を見ていけるなら、それで。

「……たん!…みきたぁん?」
「――はっ?」
「もう! 聞いてんのに何ぼぉっとしてんのさぁ!」
「あ、ごめんっ」
「もう。…ねっ、白と水色だったら、どっちがあたしに似合う?」
「んん?」
気に入った服があったのか、色違いの服を交互にあてて美貴に意見を求める。
…そんなの、求められても答えは1つ。
「どっちも似合うよ」
「ダメ。決めて」
「お嬢様が自分で決めなってば」
「やだ!」
「…な、なんでさぁ…」
いつだって美貴が止めても自分の意志を貫くくせに。
また、亜弥の得意のワガママが。
「両方買えばいいじゃん、じゃあ。お金は腐るほどあるんだし…」
あ、今、ちょっと皮肉っぽく言っちゃった。
でも亜弥は気付かず、っていうかちょっと怒ってせっかく手に取った服を置いてしまった。
140 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月13日(水)22時46分25秒
たたむ、という常識も知らない亜弥の為に、慌ててその服をたたんで元の所に直す。
そして、なんでか怒ってる亜弥の後ろにくっついて質問。
「買わないの?」
「買わない」
「なんで。可愛かったのに」
「あたしは『どっちが似合う?』って聞いたのに」
「え、だから、どっちも似合うって言ったじゃん」
「どっちかはっきりしてほしいの!」
「…は、はぁ?」
「みきたんの好みを聞いてるんじゃん!」
…あぁ、もう。
可愛いなぁ、マジで。
口元が緩んでしまう。

「どっちも好きだよ? 別にどっちでもいいって投げやりになってるんじゃなくて…亜弥ちゃんは、どっちでも似合うから」
「……」
「でも、究極の選択で聞かれたら…白かな。美貴、白好きだし」
「………じゃあ、白、買う」
「美貴の好みじゃなくて、お嬢様自分の好みで決めればいいのに」
「いいの!」
「はいはい」
まだちょっと拗ねてる亜弥にこれ以上は何も言わない。
先ほど直した服の白の方を取って渡してやると、亜弥の機嫌はすぐに直った。
141 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月13日(水)22時47分02秒
「みきたん、明日も来るでしょ?」
「う? うん、来るけど…」
「じゃあ明日この服持ってきて。その時、着てあげるよ」
「…み、美貴のために?」
「見たいでしょ?」
「みっ、見たい!!!」
今まで服を買って持っていっても、亜弥は奥で着替え1人でファッションショー。
美貴はその間、ふかふかベッドで横になっているだけ。
せっかく重い思いして買ってきた服を身につけた亜弥を拝む事はなかったのだ。
「やっぱさぁ、あたし、こんな服より絶対こーいう方が似合うと思うんだぁ」
「うんうん」
お嬢様らしく、と用意された服は亜弥をおしとやかに大人しくしようと用意されたみたいで。
「みきたんもこーいう方が好き?」
「……………うん、好き……」
「? 顔赤いよ? 熱でもあんじゃない?」
「………」
142 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月13日(水)22時47分37秒
ああ、もう、美貴の馬鹿。
服の好みを聞かれて、好き、と言っただけなのに。
亜弥の前でその言葉を口にするのが、すごく恥ずかしい。
熱を冷ますように額に添えられた亜弥の手が冷たくて気持ちよくて。
美貴は、無性に抱き締めたい衝動にかられた。

すごく好き、だ。
もう、どうしたらいいか分からない。
143 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月13日(水)22時48分17秒
「…みきたん?」
「ん、…あ、……なんでもない!」
いつまでも添えられてた額の手を振り払って、また、違う服を薦める。
どうしたらいいか分からなくて、つい、そんなことをしてしまった。
「……」
亜弥の顔は、少し怒り気味。
「人が、心配したげたのに」
「…お、お嬢様に心配されるほどヤワじゃないよ」
「………ふーん。………………ま、どうでもいいけど」
「――っ」

…ああ、今、すごく胸が痛い。
亜弥の言葉が胸に突き刺さる。

所詮は、バイト。

亜弥にとっては、家のことを忘れさせてくれる人なら、誰でもいいんだ。
美貴は、亜弥じゃないとダメなのに。
144 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月13日(水)22時48分51秒
「そ…だよね、どうでもいいよね…あはは…」
「…?」
「あ、こ、これも買う!? じゃ、じゃあっ、払ってくるよ!!!」
「みきたん…?」



本当は、全然、どうでもよくなんかないんだ。
ああ、胸が痛い。



145 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月13日(水)23時01分24秒
短っ。…すいません。
手元では一応完成したので、これからは更新に10日以上空けることはないかと思われます。

>>123-124
メル欄も番外編も読んでくださって感謝です。
たん、いいですよね。最初聞いた時、「“みき”は!?」とびっくりしましたが(w
みきスケから始まって、松浦さんオンリーの呼び方は素敵すぎます。
どうしてあの2人になったかというと、No.1では4期中心、その後の話は五期の2人が出てたりとしてたので、
ここでオリメンだそうかなと単純な理由だったり致します(w
あまり書いた事がない2人なので上手く書ききれるか心配ですが、応援、よろしくお願いします。

>>125
更新しました。
読者さまが楽しんでくださるのが、自分の幸せです…と恥ずかしい事を言ってみると、本当に恥ずかしくなってきました。
…やっぱり、文章じゃなくて、作者が変なんだと思います(w

>>126
電波で最近少ないですよね、絡み。
まあ、前までがありすぎたんだと思いますが、その分裏でイチャついてるんだと日々妄想しております。
展開は急で読む暇もないと思いますが、どうか、応援してくださると嬉しいです。
146 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月13日(水)23時03分33秒
>>132
ありがとうございます。
話ではなかなか萌えが少ないですが、もっとこれからも増やせるように頑張ります。

>>136
またまたレスありがとうございます。
本当にミスが多くて……何か見つけたら、是非、お願いします…。

>>137
更新しました。でも、少なくてすいません…。
ミスに気をつけて、頑張ります!
147 名前:334 投稿日:2003年08月14日(木)16時04分17秒
藤本さん、もう完全にやられてしまっていますねw
どんな顔をしていらっしゃるのか見てみたい。たぶん平然を装っているんだろーなー。
作者さんが書く、松浦さんと藤本さんからは、自分には音声が聞えてくるのが恐ろしいです。
それほど作者さんが書く二人は自分がメディアで見ているあやみきに近いのか、自分の頭がかなり危険な状態かのどちらかだと思います。

オリメンはそーいう理由だったのか!!今思うと、確かに順番に使われていますね。
安倍さんのボケボケキャラに飯田さんがどう立ち向うのか楽しみです。まー飯田さんもボケボケだと思いますがw
148 名前:AYAOTO 投稿日:2003年08月14日(木)16時13分08秒
藤本かわいい・・・ww
ヤバイよ〜><
恋してる藤本かわいいよ〜><
そんな藤本が・・・オイラは好きだ〜〜〜〜w(なじょ&爆
149 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月14日(木)18時00分25秒
亜弥のことは好きだ。大好きだ。
昨日買った服を着て見せてもらった姿は、とっても可愛かったし。
それでも美貴は、元気がなかった。

「……みきたん、暗い」
「そうかな…」
「今日、ベッドにだって横になってないじゃん」
美貴のお気に入りの場所。
最初の日に乗ってから、そこは美貴の指定席へとなった。
今日だってそのふかふかベッドに横になりたいのだけど、身体が動こうとしない。
「…元々、そのベッドは、お嬢様用のじゃん。ただのバイトが、乗っちゃいけないんだよ」
「何それ…」
「どうせ美貴は、バイトだし。あと数時間したらメイドさんと交代だし」
「……」
皮肉っぽくなる、口。
ムカムカしてくる。

こんなに好きなのに、相手は美貴のことをどうでもいいと思ってる。
そんなの、つらいだけ。
代わりの人見つけた方がいいんじゃないか、って。
150 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月14日(木)18時00分58秒
「何ネガティブになっちゃってんのさ」
「なってません」
「なってるぅ」
「なってないよ」
「なんか怒ってる?」
「怒ってないよ…」
「じゃあ、なんでそんな元気ないのさ」
「……」
今日はいつにも増して絡んでくる。
それを、あのセリフを言う前にしてくれたらどんなに嬉しかったことだろう。
だけど今絡まれたって、元気になれるわけがない。

「どうでもいいじゃん、美貴のことなんか」
「はぁ?」
「そもそも、美貴が元気なくたって元気あったって、お嬢様に関係なくない?」
どうせ、2人の立場はお嬢様とそのお目付け役。
本当だったらタメ口だってきけないかもしれない。
「なんでそんな話になるの」
「だって、そうじゃん」
どうでもいいってことは、そういうことで。
別に美貴じゃなくても、美貴の体調がどうであろうと、そういうことで。
いつの間にか凹みを通り越して、軽く切れ始めている自分。
矛盾してるなと分かっていても、高ぶる気持ちは抑えきれない。
151 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月14日(木)18時01分36秒
そもそも。
どうでもいいと先に言ったのは、亜弥の方だ。
なのに、こうして構うなんて。
それこそ矛盾してないか、と美貴は思う。
「昨日、言ったじゃん」
「何がぁ」
「どうでもいいけど、って」
「……………ん?」
「お、覚えてないワケ?」
「うん……」
「っ…」
そんな何気ない、覚えてもいない言葉のせいで、どれだけ美貴が傷ついたか。
それもこれもすべて、亜弥が、好きだから。
好きだからこそ、何気なく放たれた言葉1つで傷つくし、落ち込む。

「っ、言ったじゃん、自分! か…顔赤かった美貴のおでこに手当てた時!
手どけて『お嬢様に心配されるほどヤワじゃない』っつったら、言ったじゃん!!!」
「………………あぁ」
「あぁって…っ。…いいよ、所詮、その程度だったってことだし!」
「その程度って何さ」
「別に、美貴じゃなくてもいいってこと!」
「…何、それ」
「家のこと忘れさせてくれる人だったら、お嬢様は誰だっていいんだよ!」
「よくないよ! みきたんじゃなきゃ!!」
「………」
そういう風に言うから。期待しちゃう。
152 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月14日(木)18時02分12秒
「なんで、そやって怒るの?」
「…」
「心配してるのに。心配したげてるのに! みきたん顔赤い…みきたん元気ないって……」
「……」
「それなのにっ…ほら、そうやって、怒るから。突き放すから……。むかつくんだもん! だって! だから…………」

――どうでもいいけど、なんて。

「…傷つけたんなら、謝る、ごめん。…だけど、みきたんもあたしに謝って」
「え…」
153 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月14日(木)18時02分48秒
亜弥だって、人間。
亜弥だって、普通の子。
何よりそれは美貴だって望んでいたはずなのに。
どうして、手を払われて不愉快になった亜弥の気持ちも考えてあげれなかったんだろう。
むかついて、悪態つくのは美貴だって誰にだってあることなのに。
その言葉は、少々きつかったけれど。
心配してくれていた亜弥を、適当にあしらってしまった。

「…ごめん。ごめんなさい」
「………手、痛かったなぁ」
「ご、ごめんねっ?」

オーバーに、払われた手をさする亜弥。
泣きそうな美貴は自分の手で亜弥の手をさすってあげる。
2度目の亜弥の手の感触は、とても柔らかくて。
その手が、美貴に触れられたまま、美貴の頬へと上がってくる。

「どうでもよくなんかないよ、みきたんは。…ごめんね?」
「あ………」

コクン、と自然に首は下に。
傷ついた心なんて、あっという間に消え去ってしまった。
すべては、亜弥の笑顔で。
154 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月14日(木)18時03分21秒
「……ねぇ、あたし、可愛い?」

仲直りしたところで、もう一度。
昨日買った、美貴の好きな色の白い服を、美貴に見せる。

「うん!」

それを見た美貴。
今度は、元気よく頷いてみせた――。
155 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月14日(木)18時03分51秒



156 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月14日(木)18時05分10秒
「………クレープ? なんだそれは」
「え。あ…あの、そうですね…発祥の地はフランスなんですが、ここ最近日本でも、特に若い女の子達が大好きな食べ物でして…。
生クリームやアイスクリームなんかを巻いて、色々トッピングしながら食べる食べ物であります」
今日は、亜弥の外の行動の監視を旦那様に報告する日。
ビシッと失礼のないようにスーツ姿で現れた圭織となつみの2人は旦那様の顔色を窺いながら発表する。
「で、でも、美味しいんですよ、クレープ」
「安倍」
「…は、はいっ」
「…そんな一般人が好んで食べるようなものを、亜弥が食べていいと思うのか?」
「それは……」
でもでも。
亜弥達の後ろで並んだ買ったクレープは、本当に美味しかった。
「それに、メイド達の話によると、亜弥の服が増えてるそうじゃないか」
「あ…はぁ。外へ出る度に、藤本美貴を連れて買っていまして」
「あんな服は、悪趣味だ」
「「…………」」
でもでも。
楽しそうに選んで、買ってた。
157 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月14日(木)18時05分52秒
「…やっぱり外出するのを許可したのは悪影響だったな」
「で、でも、また出れなくしたら、お嬢様、泣いてしまうんじゃないですか?」
「…………」
泣いて怒らせると、それこそ逃げ出して屋敷には戻ってこないかもしれない。
そうなれば困るのは自分だ。
「と、とにかくだ。…亜弥に悪影響及ぼす藤本は、すぐにクビにしろ!」
「でもお嬢様は藤本美貴に大変懐いてるようなので、それこそ泣いてしまうんじゃ…」
「…………」
申し訳なさそうに言う圭織がなんだか憎い。
お前はどっちの味方なんだ、と問い詰めたくなる。
「じゃあ、どうするんだ!」
「……とりあえず、藤本美貴が失態見せるまでは。
意味もなくクビにするのと、意味があってクビにするのとでは、説得力も全然違いますし」
「…ちゃんと、見張っておけよ」
「「…はい」」

言われなくたって。
旦那様より自分達は、亜弥を、お嬢様を見ているつもりだ。

158 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月14日(木)18時06分55秒
更新しました。
名前の欄を変えるの忘れてました…ミスが多くてヤになります…。

>>147
完全に藤本さんやられちゃってるみたいです。
今までの話で初めてなので、ひじょーに書きにくいという(w
松浦さんの前では真っ赤になったりと大忙しですが、他の人の前ではきっと、いつもの不機嫌面かと思われます(w
頭の危険度では、絶対に負けてない自信があります…。

>>148
藤本さんを可愛いと言ってくださってありがとうございます。
一応主人公なので、主人公を応援してくださると作者としてはとても嬉しいです。
もっともっと好かれるよう、恋してる藤本さんを書いていきますので(w
159 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月14日(木)20時42分37秒
ヘタレ万歳!!(w
160 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2003年08月15日(金)00時22分27秒
今更ですが。
作者さんの書く「みきあや」が、一番好きだぁぁぁぁぁぁ!!
もっともっと、私を、脳内のお花畑で戯れさせてください。<意味不明だ、自分(殴)
161 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月15日(金)11時15分19秒
作者さんの過去3作好きだったからこれも読んだけど
最初の方ちょっと力なかったかなぁと思ふ。
でも話が進むにつれてだんだん勢いもついてきて(・∀・)イィネ
ラストまで期待しておきますよ奥さん(誰
162 名前:334 投稿日:2003年08月15日(金)11時56分33秒
やべー、やべーよ!悶え死ぬよー!
何なんだよ、この常識外れの可愛さは。二人がいちゃいちゃしてる映像が浮かんでしまう。
謝ってとか絶対現実でも言ってるよー!可愛すぎるよ!!松浦さんの前ではダメダメの藤本さんも可愛すぎるよー!
これだけ自分に素直に可愛いと言える小説は他にないです。毎回毎回ありがとー。
163 名前:AYAOTO 投稿日:2003年08月15日(金)12時44分31秒
おぉ!
また更新きたよ〜♪
最近、毎日チェックしるっスよ^^
くはっ!><
松浦の前で赤くなる藤本かわいいさ〜><w
ノックアウトされますた・・・ww
164 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)18時45分12秒


165 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)18時45分44秒
「UFOキャッチャー…?」
「そ」
ブラブラと歩いていたら、店先に美貴には見慣れた、亜弥には見慣れない初めての箱が。
そこにはたくさんのぬいぐるみが入っていて。
なにこれ、と美貴に答えを求めたら、そんな名前が返ってきた。
「ほら、ここになんか機械あるじゃん? それをね、取りたいぬいぐるみのとこに持ってって掴ませるんだ」
「ん???」
「……って、説明しても分かんないよね」
クレープもしらない亜弥には勉強より難しいこと。
てっとり早く覚えさせるのは、説明より実戦。
ポケットに手を突っ込むと、ちょうど200円が。
166 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)18時46分18秒
「お嬢様、どのぬいぐるみがいい?」
「え?」
「美貴が、取ったげるよ」
「じゃあじゃあ、あれ!」
「えっ…あ、あれかぁ……よ、よし」
亜弥が指差した先には、ぬいぐるみとぬいぐるみの間に埋もれた可愛い犬のぬいぐるみ。
ちょっとどころかかなり難易度高め。
…取れるかな。取れないっぽい。
だけどそんなこと言って、亜弥にがっかりはさせたくない。
カッチョいいところを見せたいのだ、美貴としては。

お金出そうか、とカードをどこかに入れようとした亜弥を制して、美貴はお金を入れる。
自分のお金で、亜弥が欲しいと言ったものをプレゼントやりたい。
いつも亜弥が親達からプレゼントされているものと比べると、それはなんてちっぽけなものかもしれないけれど。
それに、そもそもUFOキャッチャーにカードは使えない。
167 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)18時46分49秒
お金を入れると痛快な音が鳴って、軽く亜弥をびっくりさせる。
その顔もまた可愛くて笑ったら、少し怒った亜弥に足を踏まれた。
「いたっ」
それにびっくりして、操作していた→ボタンから手を離してしまう。
止まる、キャッチャー。
「………ぅあ」
狙ってたとことは全然違うとこ。
「お嬢様が踏むからぁ!」
「なんで? 手離しちゃいけないの?」
「離した時点で止まっちゃうんだよ。だから、一番奥まで持っていきたい時はずっと押してなきゃいけないの」
「ふぇ〜…そうなんだぁ。ごめぇん」
「……ぅ…い、いいんだけど、別に」
可愛いぞ、ちくしょう。
可愛すぎる。
なんでも許しちゃうじゃないか。
許したところで、状況は何1つ変わらないんだけど。
というか、↑ボタンをまた離しちゃって、状況は更に最悪。
下にキャッチャーが下がって目的とは外れた獲物を掴もうとしたけれど、もちろんそれは失敗に終わる。

「むぅー。取れないじゃん」
「もう一回する。絶対取るから!…だから、もう足踏まないでね」
「うん」
しっかり頷いた亜弥を見てから、またお金を。
最初から一発で取れるとは思っていない。
勝負は、これから。
168 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)18時47分25秒


…………10分経過。
未だ、取れず。

………………20分経過。
未だ、目的以外のものも取れず。

……………………30分経過。
金が。食事代が、生活費だけが減っていく。


169 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)18時47分59秒
「……も、もういいよみきたん」
「ヤダ! 取るもん!!!」
「だって取れてないじゃん」
「ぅ…」
「もうUFOキャッチャーってのがどんなのか分かったからぁ」
「……でも」
元々はどんなものか分からせてあげるために始めた事。
でも今は、亜弥が欲しいと言ったぬいぐるみを取りたい一心。
亜弥の喜ぶ顔が見たい。
なのに、呆れさせる顔ばかり。

財布の中身を探る。
もう、お金がない。
こうなったら、最後。
買い物しててお金が足らなくなった時の為に財布に隠し持っておいた、200円を使おう。
隠し持っていたお金の単位が千円単位じゃないのは、美貴が貧乏だから。
そんな貧乏が、ただ、愛の為に一生懸命。
170 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)18時48分35秒
もう一度横からどの位置で↑ボタンを止めたらいいのか計算。
前からも確かめて、→ボタンを押す。
「…よし」
大丈夫、右の位置はばっちり。
あとは、上だけ。

ゆっくり、慎重に。
……止まった。
かつて、これまでにないくらい、ピッタシな位置。
「よしよしよし!」
手応えを感じた。
キャッチャーはゆっくり沈んでく。
「今度は絶対取れるからお嬢様!」
「ほんと?」
「ほらっ、見ててよ? 犬がキャッチャーに挟まれて…………て?」

挟まれてたのは、紐。
その紐にぶら下がってたのは、ピンクの、猿みたいなキャラクター。
171 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)18時49分13秒
「…なんだ、これ?」
美貴の疑問に答えず、ポトンと落とされて出て来るぬいぐるみ。
亜弥がそのぬいぐるみを手に取る。
「犬じゃないねぇ」
ええ。どう考えても。
「猿…かな? モンキー?」
「………ははは………」
ピンクの猿。
こんなものを取りたいんじゃなかったのに。

「…お嬢様…」
「んぅ?」
「美貴のこと、しばいてくれてもいいよ」
「はっ? なんで?」
「…めちゃくちゃ無駄な時間、過ごさせちゃったから」
「そんなことないよぉ。みきたんの真剣な顔、めっちゃおもしろかった」
「…うぅ」
優しいなぁ、お嬢様は。
最近はワガママと思うより、そんなことをよく感じる。
優しくて可愛いなんて、最高じゃないか。
172 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)18時49分45秒
「…それにぃ」
「…?」
「可愛いじゃん、これ」
「へ?」
「ぬいぐるみ」
「……そ、そうなの…かな」

いやいや、お嬢様の方が100万倍可愛いって。いや、マジで。
でも、お嬢様が言うんなら、それも、可愛いのかな。
…なんて、亜弥の言う事1つ1つに感化される美貴。
173 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)18時50分19秒
「名前つけよっかぁ」
「名前…」
「モンキーなんだもんねぇ、このコ」
「う、うん、そうみたい」
「で、あたしのでしょ? あたしにくれるんだよね?」
「え、ま、まぁ…もらってくれるんであったら」
「じゃあ…亜弥とモンキー足して、アヤンキーってことで! ねっ、可愛くない?」
「……可愛い……」
「でしょ!」

いや、ぬいぐるみじゃなくて。
そんな名前をつけた、亜弥が。
そして、嬉しそうにアヤンキーを抱き締めて笑う、亜弥が。

どうしよう。アヤンキーになりたい。
美貴のアブない夢は、亜弥がアヤンキーを抱き締める度に見続ける事になる。

174 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)19時01分31秒



175 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)19時02分36秒
こないだ、嬉しい発見をした。
美貴が頑張って取った猿のぬいぐるみ…アヤンキーが、なんと、亜弥のベッドの上に置いてあった。
なんで置いてるのと聞いたら、あっさりと「一緒に寝てる」なんて――。
羨ましいぞ、アヤンキー。
だけど、そのアヤンキーをプレゼントしたのは、他の誰でもなく美貴だ。
小さい頃に散々ぬいぐるみ等をプレゼントされた亜弥が抱いて寝てるのは、貧乏な美貴がプレゼントしたアヤンキー。
そんなアヤンキーは、今日、きちんとベッドの上で布団を肩までかけられ眠っていた。

「アヤンキーがベッドで寝てる〜」
「うん、そだよ」
「美貴、寝っ転がれないじゃん」
「あ〜」
176 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)19時03分06秒
美貴のお気に入りのふかふかベッド。
ゴロゴロしたりたまに飛んだり跳ねたり。
だけど今日はアヤンキーが寝ている為、出来そうにない。
ぬいぐるみなんだからどけたらいいだけなんだけど、ちゃんと布団を被せられて寝てるアヤンキーをどけるのは躊躇われた。
「ソファーがあるじゃん」
「ん…」
豪華なソファー。
亜弥1人だけの部屋なのに、こんなでかいのじゃなくたっていいだろうと思うくらいの大きなソファー。
その上にだって十分横になれる大きさだ。それに、ふかふか。
「じゃあ今日はソファーで我慢しとく」
「明日はみきたんの為にベッド空けとくよ」
可笑しそうに言う亜弥に、笑顔で笑い返す。
…本当は別に、どこでだっていいんだ。
亜弥と、一緒にいれさえすれば。
177 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)19時04分00秒
人のツボを知り尽くしているような、普通の人より少し茶色い瞳で上目遣いとか。
横顔、とか。
茶色に染まった肩までの髪など。
そんなところが、全部、いとおしくなる。
見ているだけじゃ全然飽きなくて、触れたい、と欲求はどんどん悪化していく。
あわよくば、ずっと、この手に収めておきたいとか。

人をこんなに好きになったことなんて、初めて。
相手は身分は違えど性別は同じ。
そんなのも関係ないと思えるくらい、好き。
………亜弥は、どうなんだろうか?
178 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)19時04分36秒
「ね、ねぇ…」
「んー?」
美貴が買ってきた雑誌に真剣な亜弥。
今度のお買い物リストにでも加えるつもりなんだろうか。
「あのさ…」
「何?」
だけど美貴が喋りかけると、最近はページをめくる手も止めて、こっちを見てくれる。
前は「うるさい」とピシャリと押さえ込まれていたのに。
もっとも、前はそう言われるのが怖くて、亜弥が雑誌を読んでる時は喋りかけなかった。
でも今は、聞きたい事がある。
「お嬢様ってさ、お嬢様なんだよね」
「はぁ…?」
179 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)19時05分07秒
「やや、あの…。その、お嬢様だから、大事に育てられてきたんだよね?」
「…大事にっていうのは、その人に取っては大変迷惑な事かもしれないけど、親はそう思って育ててると思うよ」
「う、うん。…だからさ、その…」
「…何?」
「いや、ほら。外の世界とか知らないわけじゃん?」
「うん…」
「だから………こ、恋とか……し、したことないよねぇ?」
「こい?」
「あ、池にいるやつじゃないよ!」
「……みきたんはあたしがそこまで馬鹿って思ってるわけだ?」
「お、思ってないよぉ」
いやでもほら。
世間知らずだから、どうかなって。
どうやらご立腹な亜弥の前では、口が裂けてもそんなこと言えやしない。
180 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)19時05分51秒
「恋くらい、知ってるよ。人を好きになることでしょ」
「…うん」
「みきたんは好き」
「――は?」
「みきたん好きだよ? みきたんはあたしのこと好き?」
「はっ? ぇえっ?……す、好きだよ、大好きだけど」
「じゃあ、両想いだね」
にっこり。
笑った亜弥は可愛いけれど、美貴は……笑えない。

亜弥は世間知らずで非常識人だから。
美貴の好きと亜弥の好きと違うってこと、気付いてないと思うんだ。
…でも、その勘違いをずっとしてて欲しくて。
それは両想いじゃないよ、と訂正できない。
181 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)19時06分51秒
哀しくもあり嬉しくもある亜弥のそんな告白。
そしても1つついでに、知りたくなかった亜弥の告白。

「でもさぁ、婚約者いるんだって、あたし」
「は?」
「会った事も見た事もないけど」
「……」

でかい屋敷から想像出来るように、彼女の家は超資産家。
小さい頃から婚約者がいて政略結婚なんていうのは、お金持ちにありがちなパターン。
たとえ、本人にその気がなくても。

「へぇ……婚約者、いるんだ…」
「みきたん? うぉーい?」
「………」
182 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月15日(金)19時07分32秒
将来の結婚相手まで決まっている亜弥。
将来の夢さえも決まっていない自分。

どうやったって、不釣合いだ。
親が認めた婚約者に、勝ち目なんかない。



「………変なみきたん」



首を傾げて、再び雑誌へと視線を落とす。
それから帰るまで、2人の会話はなかった。

183 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月15日(金)19時09分07秒
短いので、2回分更新しました。そろそろ終わりが見えてきました。

>>159
ええ、へタレ万歳!(w

>>160
わーわーわー(動揺
あああありがとうございます。嬉しすぎる・゚・(ノД`)・゚・
自分は、赤鼻さんのお花畑で戯れたいです(w

>>161
過去の3作品+この話も読んでくださり、ありがとうございます。
最初の方…そうですね、言われてみればそうかもしれません。
本当はお蔵入りにするやつだったのですが、間が空いて書いてく内に楽しくなってきたので…。
この話から勢いを取ったら何も残らないので、勢いづけてラストまで突っ走りたいと思います。

>>162
いつもいつもありがとうございます。
作者にとって過去の作品の中で一番書きづらいあやみきの2人ですので、そう言ってもらえると助かります(w
松浦さんの前ではダメダメな藤本さんも書くの初めてなもので…。
これからも頑張ります。

>>163
毎日チェックありがとうございます。
これからも藤本さんの応援、よろしくお願いします(w
184 名前:つみ 投稿日:2003年08月15日(金)21時09分10秒
アヤンキー・・・
うらやましい・・・
185 名前:AYAOTO 投稿日:2003年08月15日(金)22時33分27秒
やった☆また更新されてる♪^^
松浦に婚約者が!???><
藤本・・・がんばれ・・・・。
ってか、松浦のために必死になってUFOキャッチャーやってる藤本さんがとてつもなく愛しいぜ・・・w

>>183
はい^^
小説の中の藤本さんも、現実の藤本さんも、松竹藤さんも応援します!
186 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月15日(金)22時41分39秒
藤本さんいじらしい…某先生みたいですな(w
毎日の更新本当に嬉しいです。
アンテナ登録しているにも関わらず、
手動で更新チェックしてしまう程この作品が楽しみでなりません。
そしてヘタレ万歳!!
187 名前:JOJO 投稿日:2003年08月16日(土)00時11分26秒
うぉ!いつの間にか大漁に更新されてる
婚約者が誰なのか凄く気になりますね
更新してくださる日が待ち遠しいです

前回のレス時にスレを汚してしまって誠に申し訳ありませんでした
今後はそのようなことがないよう気をつけていきます
188 名前:334 投稿日:2003年08月16日(土)00時13分45秒
なんつー科白群。萌えすぎて涙が出てくる。一々ツボです。
しばいて〜とか、ありえないっす。あの猿のネーミングセンスとかありえないっす。
そして、この天真爛漫の松浦さんがたまらん。お嬢様と言う設定が是ほど似合うのは松浦さん置いていないかも知れん。

ちきしょぉー!毎回絶賛のレスしかつけられないよー!ちきしょぉー!
自分も手動で更新チェックしちゃうよ、ちきしょぉー!
189 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)01時02分24秒
はぅ
あややの告白
ぐっときた
190 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月16日(土)11時39分34秒
亜弥に婚約者がいるという事実は、美貴に多大なるショックを与えた。
それはもう、他のことを考えられなくなったくらい。
頭の中は、そればっかり。
せっかく今日は、亜弥を連れて外出出来る日だというのに。

「みきたん! ねぇー、みきたんってばぁ!」
「…ん、…あぁ、何?」
「速いぃ!」
歩くペース。
人が多い街をスタスタ歩けるのは慣れているからで、まったく慣れていない亜弥は人の間をすりぬけるのすらつらそうだ。
立ち止まった美貴をしっかり掴んで、頬をぷっくり膨らませ抗議する。
「なんであたしがみきたんの歩調に合わせなきゃいけないの?」
「そ、そうだよねー」
お嬢様的考え。
その考えに今までは付き合って亜弥のペースに合わせてきたのに、頭の中は別の事でいっぱいだったから忘れていた。
なのでついつい、いつもの自分のペースに。
「ごめんね、スピード落とすよ」
「ん…」
「…んん?」
改めて亜弥の歩調に合わせて歩き出したら、なんだか後ろから少し引っ張られるような感覚。
振り向くと、ガッチリと美貴の服の裾を掴んでいる亜弥が。
191 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月16日(土)11時40分49秒
「……傍から離れないでって、みきたんが言った」
「………今だって、離れてないじゃん」
「でもさっき、離れそうだったぁ」
「…ッ…」

そんな目で。
身長なんかほとんど変わらないのに、わざと俯いて、上目遣いで見ないで。
このままどこかに連れ去りたくなる。
…でもそれは、無理なのは分かっているから。
彼女は、お金持ちのお嬢様。

「…早く行こう?」
「う…うん」
「みきたん、最近…更に変」
「んなことないよ…しかも、更にって」
「あたしが変って言ったら、変だもん」
「…はは」
お嬢様の言う事は、絶対。
その絶対は当たってた。
でも、変なのは昔から。
けれど最近が一番変だと思う。
こんなとんでもない相手に、恋するなんて。
戻りたい。恋する前に。
あんな笑顔なんて、見なければよかった。
バイトなんか、受けなきゃよかった。
だったら、出逢わなくてすんだのに。
192 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月16日(土)11時42分09秒
「…ってぇ、だからみきたん速い!」

少し後ろから、亜弥の焦ったような怒ったような声が聞こえる。
…少し、後ろから?
無意識の内に歩いていた美貴は自分のペースで行ってしまい、亜弥が掴んだ手も振り払って行ってしまっていたのだ。
慌てて美貴のところへ駆け寄ろうとする亜弥。
だけどそれはあまりにも回りを見ていない動きで。
「あ、お嬢様あぶな――」
美貴の注意を全部聞く前に、人にぶつかって転んでしまった。

「おっ、お嬢さ――!!!」
「「亜弥お嬢様!!!!!」」

美貴がお嬢様と言うより先に叫ぶ2人の声。
美貴より早く亜弥の元へ駆け寄り、転んで泣きそうになってる亜弥を、お嬢様を支えて起き上がらせる。
「いたいよぉ…」
「あぁ、血が出てる…」
「大丈夫。大丈夫ですからね」
「ちょ、…なんなの!?」
自分より先に亜弥に触れたという妙な嫉妬のせいで、怒り口調になる。
何より、この2人を美貴は知らない。
193 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月16日(土)11時43分17秒
「お、お嬢様、大丈夫? どこ怪我した? 見せてみ?」
人ごみの真ん中でいつまでも亜弥をいさせるわけには行かない。
泣きそうなままの亜弥をしっかりと2人が抱え、移動させてから美貴は尋ねた。
そして触れようとしたら、2人の内の1人、髪の長い女に手を掴まれる。
「お嬢様に触れないで」
「はぁ?」
「お嬢様を怪我させた奴に、お嬢様に触れさせるわけにはいかないから」
「っ…な、…んだよ、それ」
「なっち達は、亜弥お嬢様のお父様、旦那様から雇われた、あなた達の…藤本美貴の見張り役、なんだよ」
「美貴の…? な、なんで。旦那様、許してくれたよ!」
「可愛い一人娘だよ、亜弥お嬢様は。任せておけるわけないじゃん」
冷たく言い放つ、髪の長い女。
「好感持ってたのに…その分ガッカリだよ」
194 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月16日(土)11時44分23秒
今まで、ずっと見張られていた――。
驚く亜弥の顔を見ると、亜弥は知らなかったんだろう。
それでも、美貴はショックだった。
2人きりじゃなかったんだ、実際は。
亜弥はお嬢様で。
美貴なんか、信用もない。

「お嬢様、帰りましょう。なっち、車」
「…あ、うん」
「ちょ、ちょっと待ってよ、帰るって?」
「家にです」
「なんで!? みきたんはっ? あたしみきたんと…」
「お嬢様を危険な目に遭わせる人とは、もう付き合いを許すわけにはいかないと旦那様からも言われております」
「かすり傷だよ! 全然、痛くないよ!!」
「帰りましょう」
「やだ…っ、みきたん! みきたっ……」
195 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月16日(土)11時45分30秒


傍から離れないで。ずっと傍にいて。
離れちゃヤダ。
裾じゃなくていい。手を、握って。
笑って。



196 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月16日(土)11時46分49秒
立場が一緒なら、大声で引き止められたんだろうか。
かすり傷といえど、怪我を負わせたのは自分だ。
実質、クビ。
お嬢様とは、オサラバ。

望んでた事じゃないか。
バイトをする前に戻りたい。
これでもう、出逢うこともない。出逢わせてももらえないだろう。

亜弥が家に帰れば、メイドが、旦那様が、婚約者が、将来が待っている。

美貴が家に帰れば、ハムスターのムクが、現実が待っているだけ。

止めない方が、亜弥にとっては幸せで。
もう二度と美貴に逢わない方が、亜弥にとって幸せ。

197 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月16日(土)11時47分55秒


……じゃあ。
美貴にとっての幸せは、一体何なんだろう。

もう、すべてをなくした気がした。



198 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月16日(土)11時52分11秒
更新。段々暗く、ネガティブになってくのは、なんでだろう…。
199 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月16日(土)11時54分57秒
>>184
…ほんと、羨ましいです、アヤンキー。

>>185
藤本さんを突き動かすのは松浦さんの笑顔なので、笑顔が見れるなら彼女はたとえどんなことでも(w
藤本さんの応援だけでなく、私の応援までありがとうございます(w

>>186
こんな藤本さん書くのは初めてでして…大変です(w
10日空けてしまった罪悪感もあってこのまま毎日更新を目指しています。
手動チェック…ありがとうございます。
そして、ヘタレ万歳!!
200 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月16日(土)11時56分06秒
>>187
大量読みご苦労様です。ありがとうございます。
前回のことは、そんなに気になさらないでください。自分もやってしまいましたし(w

>>188
334さんとツボが同じで嬉しいです。
猿のネーミングは、無理やりでしたが(w
松浦さんは独特な性格+色んな表情をしてくれるので、イメージが何通りも出来、設定を考えるのもすごく楽しいです。
次は、藤本さんが女王様の話を(ry
わざわざ、手動で更新チェックありがとうございます。

>>189
めちゃくちゃ何気なく言ったのですが、グッときてもらえて嬉しいです。ありがとうございます。
201 名前:AYAOTO 投稿日:2003年08月16日(土)13時10分34秒
くはぁっ!
更新されてるww
いや〜><藤本〜!ガンバれ〜!!!負けるな〜。
続きが楽しみです。
激しく応援☆
202 名前:つみ 投稿日:2003年08月16日(土)13時28分59秒
藤本〜・・・
がんばっちゃえ!
203 名前:JOJO 投稿日:2003年08月16日(土)13時40分39秒
ワショーイ!また更新されてる^^
あぁ…恋のハードルが高くなっていってる
いいですねぇ〜。恋は障害があってなんぼですからね
次回の更新心待ちにしています
204 名前:334 投稿日:2003年08月16日(土)17時48分00秒
急に切ない展開…しかも転んだだけでw
さすがお嬢様。やっぱり設定を含め構成が素晴らしいな。
あやみきで毒気が無い展開でここまで見せられるのが凄い。
松浦さんの別れ際のセリフが胸を打ちます。そろそろ、ちっちゃいの出てくるのかな。
205 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003年08月16日(土)21時07分35秒
初めましてずっとROMってました。
切ない感じが凄く良いです。まさに胸キュソ。
206 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月17日(日)01時16分15秒
作者さんにはまいりますよ。甘かったり、切なかったり。
胸をガシッと鷲掴みにされてます。
…はぁ、胸が苦しい。
207 名前:ほわ 投稿日:2003年08月17日(日)02時06分47秒
お盆から帰ってきたら大量更新されてる━━━━━从‘ 0‘从人川VvV从━━━━━ !!!!
さすがですね。文章書ける人はホントにうらやましいです。
なんだかクライマックスに向かっている様子だし、今後の展開にハラハラしながら待たせていただきます
208 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)16時52分36秒
今まで頼り切ってたバイトがクビになった。
それ一本でいっていた美貴に、現在収入はない。

「…藤本さん! 今月の家賃はっ!?」
「いや、はぁ……払います、払いますけど…今日は勘弁してください…」
「……」
「すいません…」

実は毎日メイドからバイトが終わった後に手渡しな給料。
いくら待っても、クビにされた美貴の元へはお金は入ってこない。
家賃も、少ししかない貯金を引き落とせばなんとかなるんだろうけど、生憎今日は日曜日。
引き落とすと手数料がかかってしまうので、勿体無くておろせない。
でも、給料を渡されなかっただけでよかったと思わなければ。
相手は金持ち。
もし娘を怪我させたということで裁判にでもなっていたら、美貴は、借金苦でそれこそ自殺しかねない。
209 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)16時53分34秒
……あれから、屋敷からの連絡はまったくない。
亜弥からの連絡は、もちろんのこと。
そもそも亜弥は、美貴の家も携帯番号も知らない。
一ヶ月ちょっと一緒にいたけれど、知っている事と言えば、あまり多くない。
美貴だって亜弥について知ってる事といえば、家と性格と、……笑顔、だけ。
その笑顔を思い出しただけで、胸が痛くなる。
今頃、その笑顔を誰か別のお目付け役が見ているのかと思うと――。

嫌だ。ヤダ。そんなの、イヤ。

放棄したのは自分だ。
なのに嫉妬というものは言う事を聞いてくれない。

「…お嬢様………」

逢いたい。ただ、それだけ。
お金なんかいらないから、傍にいさせて欲しいんだ。
でも、そんな事を言っていたらこのままアパートで過ごす事は出来ない。
とにもかくにも、これから生きていく為に、資金を調達出来る所を探さなければ。
210 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)16時54分24秒



211 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)16時55分27秒
「…っても、なかなかいい所ってないんだよねぇ…」
アルバイト情報誌を買うにはお金がいるし、無料の情報誌の求人場所は遠いし。
1人で街をぶらついてみたら、どこかサビついた店くらいにしかあまり求人のビラが貼っていない。
「…お水、とか」
喋るの好きだし。
顔だって自信あるし、スタイルだって。
身体を売るのは無理だけど、お喋りだけのところなら、なんとかなるかも。
思い切ってその扉を叩こうとしたら、後ろからポンポンと肩を叩かれた。
212 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)16時55分57秒
「やほ」
「………矢口さん」
「こんなとこで何してんの。殴り込みかぁ?」
「なんでですか!……違いますよ、殴り込みじゃなくて、申し込みっていうか…」
「はぁ?」
「…そ、そういう矢口さんだって、何してんですか」
「オイラは、帰りだよ。ほら、あそこのパチンコ屋あるでしょ? あそこでバイトしてっから」
短い指で差した方向には、じゃんじゃんばりばり、パチンコ屋。
お目付け役を辞めた後、どうやらあそこで働いているらしい。
「ふじもっちゃんも、帰りなんじゃないの?」
「帰り? どこからですか…」
「どこからって、松浦家からでしょ」
「…それなら、クビになっちゃいましたから」
「えー!?」
なんだよそれ、と大声で。
パチンコ屋で働くようになってから、元々大きかった矢口の声は、更に大きくなった気がする。
213 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)16時57分01秒
とにかくゆっくり話を聞ける場所に、と移動した先はオシャレな喫茶店。
オシャレな喫茶店には、オシャレな客。
なんだか、美貴には似合わない場所だ。
「ここ、高そうだし…いいですよ」
「何言ってんの。喫茶店ここくらいしかないし、奢るから」
「………でも」
「…仲良かったじゃん、オイラ達。前のバイトでさ。だから、遠慮するなよ。それこそ似合わないぞ」
「…………じゃあ、ミックスサンド2つとホットドックとオレンジジュースとプリンパフェで」
「す、少しは遠慮しろよ……」
「やです。最近もの食べてないんで。それに、遠慮するなって言ったの、矢口さんじゃないですか」
「このっ………元気じゃんか」
「はは…」
けど、笑い方はまったく元気じゃない。
いつもいつも笑顔で憎たらしいくらいの口調の美貴を知ってる矢口は、更に心配になる。
214 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)16時57分46秒
ストローでアイスティーを一度まぜて、氷をカラン、と言わせたのを聞き届けてから。
美貴の反応を窺うように、優しく訊ねる。
「……どしたの? 前、お嬢様の扱い簡単だって言ってたじゃん」
「………」
「やっぱ、あのワガママにとうとう我慢出来なくなった?
やぁー、もうね、いっつもプリプリ怒って無茶なことばっか言うもんねぇ。可愛くないっていうか――」
「ッ…! 可愛いですよっ、お嬢様は!!!!」
「わ…っ!」
「…ぁ……ごめんなさい」
つい、カァーッとなってしまって。
我を忘れて立ち上がって驚かせてしまった。
ダメだ、亜弥お嬢様のことになると、つい。
自分が自分じゃいられなくなる。
215 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)16時58分22秒
「…ほんとは、笑ったらすっごく可愛いんです、お嬢様は。…ワガママだって……」
「……い、いや、まあ…悪かったよ」
「可愛いんです、本当に。すっごい、すっごい」
「うん…」
「気に入ってくれて、懐いてくれて………」
「…じゃあ、なんで」
「美貴が、こんなだから」
「………はぃ?」
「美貴が、頼りなくて、女で、貧乏だから。
もっともっと頼りがいがあって、男で、大金持ちだったら……っ」

だったら、亜弥と婚約出来たのは、自分だったかもしれないのに――。
ヤキモチ以外、何者でもない。
婚約者に嫉妬して。身分の違いに絶望して。
美貴は、自ら亜弥と離れる道を歩いてしまった。
216 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)16時58分56秒
「大事な身体、怪我させちゃったし…美貴は…美貴は…」
「怪我!? え、えぇ…? それって、ダイジョブなの?」
「ひざ……擦りむかせちゃって…ちょっと…血が」
「ひえー、それは大変な怪我……って、それだけかよ!!!」
「…」
「んなの、唾つけときゃ治るじゃん!」
「……お嬢様は、普通の女の子とは違うんです。相手は、お嬢様なんです……」
「…だから、唾つけたくらいじゃ治らないって?」
「……」
「ふーん。それはそれは…大事にされてんだねぇ」
最後の言葉は、皮肉っぽく。
だけど美貴は言い返す事は出来ない。

「ま、相手は超お嬢様だもんね。かすり傷でも負わせちゃったら、クビにされるのも仕方ない、か」
「…はい」
「逢ってないの? それから」
「……逢わせてもらえませんよ」
「だろうねぇ」
「…ぅー…」
「わわ、泣きそうになるなよぉ」
ポンポンと不慣れな手つきで頭を優しく叩いてくれる。
本当に優しい先輩だと思う。
217 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)16時59分28秒
「……だけど、さ」
「…っ…ぅ?」
「だけど、お嬢様だって人間じゃん」
「?…そりゃ、当たり前じゃないですか」
「うん。だから、怪我だってそりゃするし、逢いたかったら――」
「っと、…ちょっとすいません」
言いかけた矢口の言葉を遮るように、美貴の携帯が震える。
着信を見てみると、知らない番号。
誰だと不審がってはみたが、取るのはタダなので、取るだけでも取ってみる。
取ったら取ったら、いきなりなぜか怒鳴られた。
218 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)17時00分36秒
『藤本美貴ッ!? 藤本美貴だよね!?』
「へ!?…あ、あぁ、そうだけど……だ、誰?」
『飯田圭織!!…あ、って言っても名前言っただけじゃわかんないか。ほらっ、亜弥お嬢様が転んだ時にいた…』
「あ……」
『亜弥お嬢様をどこにやったのぉ!!!』
「は…?」

意味がわからない。
不思議そうに美貴を見てる矢口を美貴も見て、矢口と同じ不思議顔をする。

『んと、興奮状態の圭織と交代して、なっちが話すべさ』
「…は、はぁ」

声からして、あの時いた2人組のもう1人なんだろうなということが窺える。
先程なつみと変わった圭織は後ろでどうしようどうしようと騒いでる。

『単刀直入に言うと、亜弥お嬢様が消えちゃったってこと』
「ハァッ?!」
219 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)17時01分45秒
『最近は藤本さんみたいなお目付け役雇わないで、メイドさんとなっちと圭織とで交代交代でお嬢様見てたんだけど、
なっち達が見張ってる隙に、亜弥お嬢様が………』
「……ようするに、あなた達のせいでってこと?」
『ち、ちがっ! なっちがトイレ行きたいって言ったのに、カオがあたしが先に行くって言うから喧嘩になって…!』

電話の後ろでは、違うなっちのせいでしょと罪のなすりつけ合いが繰り広げられてる。
っていうか、もう、そんなことはどうでもいい。

「お、お嬢様、どこ行ったんですか」
『だから、わかんないから、藤本さんに聞いたんじゃんかぁ』
「……」
『藤本さんとショッピングに行った時に買って旦那様が没収した服どっかから見つけて、それも消えてて…。
あと、なんかベッドで寝てた変なぬいぐるみだけ持って、どこかに……。
今、警備の人と探偵とメイドさん達が家とその近所とか探し回ってるんだけど』
「変なぬいぐるみ…」
220 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)17時02分22秒


アヤンキーじゃん。アヤンキーだよ。
家出に、アヤンキーなんか何の役にも立たないのに、お嬢様。
馬鹿だよ、あの人は。あの子は。
行く宛なんか、ないくせに。
どこに、行こうとしてるんだよ。

亜弥が思っている以上に、外の世界は危ない。
そんなところに1人、彷徨わせるなんて――。



221 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)17時03分02秒
「……お嬢様は、美貴が、見つける」
『えっ?』
「お嬢様を守るのは、美貴がするんだ!!!」
『あ、ちょっと、ふじも――』

まだ言いたい事があったのか知らないけれど、美貴の中では用件は済んだ。
そしてこれから、どんな用件も断わらなければいけない程、大事な仕事が出来た。

「…矢口さん、せっかく頼んで食べようと思ってたミックスサンドとか、申し訳ないんですけど、いいです」
「…なんで?」
「なんか、お嬢様、いなくなったらしくて」
「らしいね。会話で分かったよ。いっといで」
「はっ、はい!!!!」
「……」

ああ。そういえば。
もう美貴は行ってしまったけれど、言いかけていた言葉があったんだ。
222 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月17日(日)17時03分34秒


お嬢様だって、人間だ。
だから、怪我をすりゃ血だって出るし。

「逢いたい人と逢えなかったら、意地でも、自分から逢いに行くよね」

独り言にしては大きな声で言って、矢口は小さく笑った。



223 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月17日(日)17時05分12秒
更新しました。もうすぐが、もう終わりになります。

>>201
早速の更新チェックありがとうございます。
藤本さんに頑張ってもらわないとこの話も終われないので、頑張ってもらうことにします(w

>>202
BGMは娘。「がんばっちゃえ!」聴いて、頑張らせたいと思います。

>>203
ハードルは高くても、お2人共運動神経がいいみたいなので、乗り越えられるだろうと信じて…。
更新しましたので、どうか、楽しんでもらえると嬉しいです。

>>204
334さんの言った通り、ちっちゃいのがあの人の事ならば、そろそろ、出てきましたちっちゃいの(w
もし待ってくださっていたのなら、お待たせして申し訳ないです。
いつも嬉しいお言葉、ありがとうございます。頑張ります。
224 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月17日(日)17時05分45秒
>>205
いつも見ていてくれて、ありがとうございます。そして書き込みありがとございます。
胸キュンさせることが出来、幸せです。

>>206
甘かったり突然切なくなったりと感情の起伏が激しい話になっておりますが、そう言ってもらえると…。
そのままラストまで胸を鷲掴みに出来ればいいなぁ、と。
…胸の苦しみも、ラストには取れてくれればいいなぁ、と(w

>>207
お帰りなさいませ。そして、帰ってきて読んでくださり、ありがとうございます。
文章は書けると言っても、この程度ですし…。絵もAAもフラッシュも作る技術もないので、
自分の松浦さんと藤本さんの妄想を形にするのはこれしか・゚・(ノД`)・゚・
それでも、2人の小説は最近じゃ増えてきて、読者としても楽しませてもらっています。
クライマックスかラストまで、精一杯がんばります。
225 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月17日(日)17時23分46秒
この行動力こそ松浦さん!!
226 名前:JOJO 投稿日:2003年08月17日(日)18時37分48秒
いまの松浦さんは「美貴をたずねて三千里」状態なんでしょうか
相変わらず2人の行動力は凄まじいですね
この勢いでラストまで突っ走ってください
もうリアルで無さ過ぎるのでwinnyでおろした
松浦亜弥Let's do itごまっとうSPぐらいでしか
飢えを抑えられない今日この頃…
227 名前:AYAOTO 投稿日:2003年08月17日(日)19時55分36秒
更新だ〜♪
松浦消えた!??
藤本〜!がんばって探すんだ〜〜〜〜〜〜!!
終了ももうすぐ見たいですね。
ガンバってくださいw
228 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月18日(月)00時08分09秒
松浦行きまーす!
といった感じでしょうか(w
行っちゃえばいい、どこへでも。まぁ…例えば藤本さんのとことかね!
更新がタイトですごいなぁ、といつも思ってます。
これからも頑張って下さい。
229 名前:334 投稿日:2003年08月18日(月)00時49分06秒
おお!ついに藤本さんの相方も動き出しましたね!
家出道具が素晴らしいw
最後のレスが、毎回綺麗で一回一回の更新の度にお腹がイッパイになります。
そして次の更新のおかわりが欲しくなります。
230 名前:ほわ 投稿日:2003年08月18日(月)01時02分12秒
どうなってしまうんだろう・・・と読者に思わせるだけの文章が書ければ充分すごいのでは?
でもホントに二人の小説は増えましたよね
それだけ本物の二人が仲良くて、かつ魅力的ってことですね
では最後までがんばってください
応援してます
231 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月18日(月)02時10分14秒
お嬢様を守るのは、美貴がするんだ!!!
この文好きです
お嬢様は美貴が守る
じゃないところがイイ!
232 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時44分15秒
家を飛び出してきた。
もう、あんな家に帰るつもりはない。
そのつもりで、鞄にめいっぱい服や色んなものを詰め込んで、飛び出してきた。
あとは、パパからもらったカード。
そんな亜弥が一番大事そうに抱えてるのは、鞄でもカードでもなくて。
美貴からのプレゼント、アヤンキーだった。
233 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時44分48秒
「……ねぇアヤンキー」
もちろん、話し掛けたところで返事が返ってくるはずがない。
…いや、前は、返ってきたんだ。
悪ふざけで美貴が、声を変えてアヤンキーになって。
だけど今は、アヤンキーから声が発せられることはない。
だってそこに、美貴はいないから。

「……バカ」

つまんないよ。
どこにいるの。
戻ってきてよ。

大きなお屋敷よりもっと広い街では、何も知らない亜弥が美貴を探すには難しすぎた。
234 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時45分21秒
突然来なくなった美貴。
パパや、いきなり自分の前に現れた2人の女に聞いても、「クビにした」というだけ。
怪我なんか、大したことないのに。
次に外出た時に、行こうねって約束していた場所があったのに。

来なくなった美貴の代わりに、メイドや2人の女が見張ることになった。
それに、初めて婚約者という人にも会わされて。
どうやら親は早く結婚させて、自分を落ち着かせようと考えているらしい。
そんなのは嫌だ。
美貴が見せてくれた雑誌にも書いていた。
結婚は、好きな人とするものだ、と。
あんな奴、好きでもないのに。
みきたんの方が、好きなのに。

息苦しい。
ムカムカする。
窮屈だ、こんな家。
ここより、こんなところより何より。

美貴の、隣が。
美貴の、傍が。

235 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時45分53秒
「逢いたいよぉ…」
だから飛び出してきたのに。
どこに行けば逢えるんだろう。
どれに乗れば、美貴の元へ行けるんだろう。
さっぱり分からない。
「うぅー…」
行く宛がなくて。
ズルズルと壁にもたれながら、しゃがみ込む。
しゃがみ込むと自分の目線の下に、靴が見えた。

「…っ」
やばい。
逃げたのがバレて後を追いかけてきた奴らだろうか。
顔をあげると、捕まえられる。
しばらくずっと下向いて怯えてたら、上から軽い男の声。
236 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時46分26秒
「ねーねー、彼女、1人ぃ?」
「…?」
へらへら。
口にピアスなんかもつけて。
いくらなんでも、追っ手はこんな格好して亜弥に声はかけないだろう。
とすると………これは、ナンパだ。
しかし亜弥はそんなこと、知らない。
「うん、1人…」
「うっそ、マジ? どっか行くの? これから」
「みきたんに逢いに…」
「みきたん…? ま、いいや。じゃあ、オレがそのみきたんって奴んとこ、連れてってやるよ」
「!!! ほんとっ?」
「ああ」
「や、やった…」
「じゃ、行こっかぁ」
「うん!」
237 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時47分08秒


――しかし。
連れて行かれるのは、なんだかうるさいところだったり、ショッピングだったり食べ物屋だったり。
美貴なんか、いるはずがない。
気付けば夜が訪れて、辺りは暗くなっていた。


238 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時47分39秒
「……もお。アンタなんかについてきたのが間違いだった!」
何処に行っても美貴はいない。
じゃあ、こんな奴に用はない。
くるりと踵を返すと、ちょっと待てよと肩を掴まれる。
「どこ行くんだよ?」
「…………か、帰る」
「だから、どこに。……そんなでっかい鞄持っちゃってさぁ、家出じゃないの?」
「う…」
「行く宛ないんだろ? だったら泊まるとこ、今日はオレが奢ってやるから」
「いいよっ、お金ならあるもん!」
「まあまあ、いいから。……ここなんてどう?」
「…?」
フッと上を見ると、そこは、怪しい名前のホテル。
そんな怪しい名前のホテルがずらっと右左に並んでる。
いつのまにか亜弥がいるところは、ラブホテル街になっていた。
だが、そんなことも知らない亜弥。
「いいよ、一人で泊まるから!」
「ダメだよ。ここは、男と女が一緒じゃなきゃ泊まっちゃいけないんだぜ」
「えー? そうなの?」
「そうだよ。ほら、見てみなよ、あそこ」
「……んぅ?」
指を差された方には、肩組んで大層ラブラブな男女カップル。
そのカップルはラブホテルにラブラブで入ってく。
239 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時48分13秒
「……ほらな。他にもみんな2人で入ってるだろ?」
「………」
どうやらこの女はバカらしい、と判断したナンパ男。
男と女しか入っちゃいけないという決まってはいないルールを信じ込ませ、悪巧み。
しかし亜弥だって、そこまでバカじゃない。
「…じゃあ、違うホテルに行くから、いい」
「あ」
「じゃ」
「ちょ、…ま、待てよ! 違うホテルとかってどこあんのか知ってんのかよ!?」
「うるさいぃ」
「……チッ」
ここまで散々奢ってきた。
それなのに何もないままなんて、許せない。
なんとしても、ヤってやる。
もう、男の頭にはその事だけ。
240 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時48分47秒
「来いよ!」
「キャッ…!」
「人が優しくしてたからって、つけ上がんじゃねーぞコラ」
「何よぉ、離してよっ」
強引は主義に反するが、ここまで来たんだ仕方ない。
強引に亜弥を、ホテルの中へと連れ込もうとする。
「やだ…!!」
「いいから、大丈夫だって…」
「やだやだやだぁ!!!」
「ぐ、……じゃ、キスだけ…」
なおも抵抗してくる片手を押さえつけて顔を近付ける。
…が、亜弥のもう片手で持ってるアヤンキーの頭が邪魔して、唇まで辿り着けない。
「んだよっ、邪魔だな、こいつ!」
「あ!!」
取り上げてその辺に投げ捨てると、拾おうと亜弥が追いかけようとする。
「…っと」
それをしっかり押さえつけ、固定。

「……なぁ、入ろうよ…入ってイイコトしよ?」
「や、やだぁ」
「は、初めてとか? だ、だったら大丈夫だよ! ちゃんと、痛くないようにす――」

「――だったら先にその手離せよ、馬鹿」


241 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時49分29秒
「…あ……」
「あぁ?」
身体を向けたと思ったら、いきなり。
「っぐぇ!!!」
――凄まじい金的蹴り。

「行こう」
「あ…う、うん!!!」

さっきまで男に掴まれてた手を、今度は別の奴に掴まれて。
でも、ヤじゃなかった。


ずっとその手に掴まれるのを、亜弥は待っていたから。


242 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時50分01秒



243 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時50分42秒
「みきたん……」

逃げて走って、落ち着きたくてやってきた公園。
息を整えてから、亜弥は、ずっと呼びたかったその名前を口に出す。

「ずっと…ずっとみきたんの事探して…」
「っ…美貴だって! 美貴だって探してたよお嬢様のこと!!! くそっ……思った通りだった…………」
「え、思った通りって?」
「…お嬢様は何も知らないから。馬鹿な男に騙されて、絶対連れて来られると思った」
「だって、だって。みきたんのとこ、連れてってくれるって…じゃあ、何か、あんな変なとこ…」
「……」
原因は何もかも、美貴のせい。
美貴のことなんか探さなければ、亜弥が、あんな怖い目に遭わずに済んだのに。
美貴は、自分自身が憎くて憎くて、もう、どうしようもない。
悪いのは自分だとは思っているのに、もっぱら当たるのは、亜弥。
244 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時51分30秒
「馬鹿っ…なんで、家出てきたの!!!」
「だって……」
「だってじゃないよ! 今っ、お嬢様ん家どんな大変なことなってんのかわかんないの!?」
「だって……だって!」
「だってばっかり…」
「だって!! だって家で待ってたって、みきたん来てくんないじゃん!!!」
「ぇ…」
「みきたんがいないと……楽しくないよぅ………みきたんいないと、あんな家いたって退屈で死んじゃうよ…グス」
「おっ、お嬢様…?」
「みきたんがいい……」
「わ…あ」

抱き付かれた。
胸に、胸が当たる。
……お嬢様の方が、大きい。


…って、そんな馬鹿でえっちぃこと、今は考えちゃいけない。
そう、胸のことじゃなくて、亜弥のこと。
美貴の肩に額をつけて、グスグス泣きじゃくっていたかと思えば、こんなこと。
245 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時52分06秒



「お願いだから……傍から離れないで」




246 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月18日(月)14時52分51秒
………それ。前。美貴が。言った。
同じ事。お嬢様も。
ああ。でも。お嬢様には。

「…み、美貴以外に守ってくれる人、他に…」
「いない。だってもう、あたし、あの家から出たもん」
「でで、でも、旦那様とか、飯田さんとか捜して…」
「もぉ、帰らない」
「………じゃ、じゃあ、これからどこ行くのさ」
「…えへへ」
「…?」
「前、約束」
「??」
「したじゃん! 今度、外出た時、行こうねって、連れてってくれるって行った場所」
「………あ、あぁ、でも、あそこは……」
「いーからぁ」

美貴に拾われ収められてたアヤンキーを、自分の所へと連れ戻し、空いた手で美貴の腕を取る。
ベタベタされて顔が思いっきり赤い美貴を無視して、
亜弥はつい先程まで男と一緒いた時の不安顔を一新させて、物凄く幸せそうに美貴の肩に凭れていた。
247 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月18日(月)14時54分27秒
次の更新で最後…かと思われます。

>>225
そうですね(w
松浦さんには精一杯行動してもらいたいです(w

>>226
三千里どころか、放っておいたら世界の果てへと行ってしまいそうです松浦さん。
ごまっとうSP……あれは、最高ですよねぇ。何度も天国へと逝かせてもらいました(w
あれを聴いて、松浦さんと藤本さんのCPから抜け出せなくなったと言っても過言じゃありません(w

>>227
松浦さん消えました。そして、現れました。
最後まで勢いで突っ走りたいと思います。

>>228
行きまーすと出発したのはいいのですが、行き着いた先がなんとやらと(w
しかし最後にいるのは、例えば藤本さんのところとか。例えばが、もうその1つしか思い浮かびません。
これからも頑張ります。
248 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月18日(月)14時55分02秒
>>229
予想なら全然大丈夫です。気になさらないでください!
おかわりをすぐに注ぎ足せるよう、頑張って更新したいと思います。

>>230
ありがとう…自信がつきます・゚・(ノД`)・゚・
本当に小説が増えて嬉しい限りです。たまりません。
……メル欄の2人の可愛さに励まされました…頑張ります!

>>231
ありがとうございます。
後者の方に打ち直した方がいいか結構迷っていたので、そう言われると直さなくてよかったという気になります。
249 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月18日(月)15時08分05秒
ずっとその手に掴まれるのを、亜弥は待っていたから。

これこれ…俺はこれをずっと待っていた。(w
とにもかくにもサイコーでつ!!
250 名前:JOJO 投稿日:2003年08月18日(月)16時00分34秒
ワーイ!正義の味方の登場だー^^
もうぁゃゃのパパさんはおでんの具になって食べられ(ry
純な松浦さんマジ萌え(今更かよ!
藤本さんはどれほどラブホ街で張ってたんでしょうね(w
次でラストでつか…。最高のエンディングを待ってまつ
251 名前:AYAOTO 投稿日:2003年08月18日(月)17時49分25秒
更新だ〜い★
あと1回で終了ですか〜。おわるのはさみしいけど、最後まで期待してますよ^^
252 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月18日(月)18時29分23秒
キャーまた更新されてる
↑嬉しい悲鳴
みきたんかっこいい!
お嬢様かわいー!
パパ許してあげて!
253 名前:334 投稿日:2003年08月18日(月)19時16分38秒
ぬお……。
見せるなー、胸が鷲掴みされる……。
胸に胸が当たるの部分でも自分の胸が鷲掴みされたw
>お願いだから〜
1レスに一行、重みがありますね。かなりグッと来ました。
藤本さんでなくても、これは堪えられん。
254 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時40分24秒
「…………着いたよ」
「え?」
「だから………ここ」
「ふえ〜」
「………悪かったね、ガッカリさせて」
「なんで? いーじゃん、これならみきたん、迷わなくて済むしね」
「う」
出逢った頃の事を突付かれた。
広い広い屋敷で迷ってしまった美貴。
確かに、ここじゃ絶対に迷うはずもない。
――ここは、美貴が住んでる狭い、アパート。

「みきたんいっつもここに住んでるんだぁ」
「…うん」
「みきたんの匂いすんねぇ、やっぱ」
「匂い…?」
「うん!」
「……」
笑顔で微笑む亜弥は可愛い。
可愛いそんな笑顔、もう見る事なんか出来ないと思った。逢えないと思ったのに。
今、目の前にいるのは、亜弥。
汚いボロい美貴の部屋に、ニコニコと座って美貴を見上げてる。
しかし、彼女が本来いるべきところは、ここなんかじゃなくて。
255 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時40分56秒
「……ねぇ、家……」
「帰らないもん」
「ま、またそんなこと言う…」
「帰ったら、結婚しなきゃいけないもん。あたし、みきたんと結婚するもん!」
「…は、はぁ?」
「結婚っていうの、好き同士でするんでしょ? だったらあたし達だってそうじゃん」
「…好きは好きでも………好きの種類が…」
「ん?」
「……お嬢様は、美貴のこと恋愛として好きとかじゃないでしょ?」
「…? よくわかんない」
「そ、そっか…」
やっぱり、そういうこと。
美貴は亜弥を見ると、もう、どうにかなっちゃうくらいなのに。
256 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時41分34秒
「…でも」
「………何?」
「みきたんにすっごく、逢いたかったんだ。パパも忙しくてずっと逢えなかったりした時もあったけど、
こんなに胸が苦しくなったの、みきたんが初めてなんだよ。……これって、恋じゃないのかな…?」
「…お嬢様……」

美貴だって。
逢いたくて。すっごく胸が苦しくて。こんなの、初めてで。
……もう、わかんないなら、決めてやる。
それは、恋っていうんだよ――って。
257 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時42分37秒
「お嬢様っ……ずっ、ずっと、逢いたくて…ッ…っく…うぇ……」
「わぁ…み、みきたぁん?」
「逢いたかったよぉ〜……」
「ん…」
今度は美貴が泣いて、抱き締められる番。
美貴の涙に戸惑いながらも、亜弥は、しっかりと抱きとめてくれる。
「グスッ……お嬢様…」
「………お嬢様はやだぁ」
「え…?」
「だってあたし、もう、お嬢様じゃないもん。フツーの女の子だもん」
「…じゃ、じゃあ、松浦さん?」
「みきたん、年上でしょ!」
「は、はいっ」
「女の子呼び捨てにするくらいの勇気ないのぉ?」
「よよよ……呼び捨てぇ!?」
フ、フルネームなら、なんとか。
松浦亜弥。
名前だけだと、亜弥。
258 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時43分10秒
「あああああゃ……」
「聞こえない」
「………ぁゃ………」
「まだ聞こえなぁい」
「あ、あ、………亜弥!!!………ちゃん」
「うん、よろしい。……って、んぅ?」
「…………亜弥、ちゃん」
「…みきたぁん?」
「……」
呼び捨てにしろと言っているのに。
ぶぅっと頬を膨らませて美貴の顔を窺うと、もう、赤すぎて。
なんだか、さすがの亜弥も可哀想で、可愛く思えてくる。

「…………まぁ…ちゃん付けで呼ばれた事ないから、いっか」
「……ありがとぅ、…………あ、亜弥、ちゃん」
259 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時43分46秒
どこかしら、甘い雰囲気。
このままキス………なんかしちゃったりしたいと、思ったり。
だけどそれは、乱暴にドアをノックする音で諦めざるを得なくなる。

「…ヤバ」
バレるとは思ってた。
だけど、こんなに早いとは。
とにかく亜弥を隠そうと思ったら、亜弥はまるで自分の家のようにドアを開けてる。
「――バッ、馬鹿!!! ちょっ、待って!!!」
美貴が止めるのも聞かず、ドアの向こうの人とご対面。

「あー、飯田さんと安倍さんじゃん。どうしたのぉ?」
「「おっ、お嬢様!!!」」
「……馬鹿……」
どうしたの、ってそりゃアンタ。
アンタを捜しに来たんじゃないのかい。
ここにいるかもしれないと踏んでやってきたのに、あっさりと本人が登場したもんだから、やってきた2人は更にびっくりしてる。
260 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時44分29秒
しかしいつまでも驚いた顔でいられない。
早速顔を元通り…というか怒らせた圭織は、美貴の胸倉を掴んでガクガク揺らす。

「や、やっぱり藤本美貴がお嬢様を家出するように仕向けたんだっ」
「かおりっ」
やめなよ、となつみが抑える。
「……」
もっと抵抗するかと思えば、圭織はあっさりとその手を離す。
「わかってるでしょ、圭織も。お嬢様は自分の意志で抜け出したんだってこと。
藤本さんに八つ当たりするのは、よくないよ」
「……」
「それよりお嬢様、藤本さんと逢う前に何か変な奴らに変なことされませんでしたか?」
「……」
圭織の次に、今度は亜弥が黙る番。
「…? おじょ…あ、亜弥ちゃん?」
「…あたし、もう、お嬢様じゃないもん。だから、お嬢様って言われても、返事しない」
「そ、それって、もう、あの家には帰らないってこと…ですか?」
「うん」
「な、なっち……」
「う、うん………それは、困ったよね…」
あははははと渇いた笑いの2人。
どうしたことかと亜弥と一緒に首を傾げて見ていると、カツ、と音がしてもう1人の訪問者。
261 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時45分05秒
「パ、パパ………」
「げ!!」

殺されるんじゃ、ひょっとして、美貴。
大事な大事な一人娘をたぶらかした罪として。
それでも美貴には、任務がある。
帰りたくないという亜弥を、その父親から守るんだ。

「亜弥…」
「っ」
「…わ。みきたん…」
圭織やなつみがどいて、亜弥と向き合うように旦那様が。
その間に、美貴が立ち塞がる。
「お、…あ、亜弥ちゃんは、帰りたくないって、言ってます」
「……みたいだな」
「旦那様からしてみれば、その…亜弥ちゃんに怪我させた美貴なんか、こうやって亜弥ちゃん守る資格ないと思います。
でも………資格なんかより、何より、美貴が守りたいんです!!」
「藤本美貴…」
「藤本さん……」
「…みきたん」
グッと拳握り締めて。
目だけは、キチンと見て。
大丈夫、気合負けはしてない。
そしてその気合を更にアップさせてくれる、言葉。
262 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時45分59秒
「あたしも…あんな家に守られてるのなんて、もうヤダ。もっと、色んな事見たい。したい。
結婚相手だって、自分で決めたい。着る服だって、自分で決める。
……でも、それすらさせてもらえないから、家出た。もう、パパが何言ったって、戻るつもりないよ。
あたしにはみきたんがいるから、何も心配しなくていいって、ママに言っといて」
「亜弥…っ」
「………あたしの、最後のワガママ…………聞いてよ、パパ」
「……………」
ギリ、と、歯をこすり合わせた音。
ぐっと我慢をしているのか、旦那様の顔はとても苦しそうで。
なつみと圭織が優しく触れたのを感じて、ゆっくりと口を開く。

「……一人娘だから……亜弥は、我侭に育てすぎた」
「ぅ…だから、最後のワガママって…」
「だから………だから」
「?…」
亜弥だけでなく、美貴も、そして圭織となつみの2人も、旦那様の言葉を待つ。
263 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時46分33秒
「………亜弥の気が済むまで、社会勉強してこい」
「…パパ」
「……先生なら、傍にいるから、いらないんだろ…?」
「え」
それって、言わずもがな美貴ですか?
寂しそうな顔の旦那様と目が合う。
「ちょ、旦那様っ、いいんですか!?」
「だけど………そんなこと言わないで、たまには帰って来いよ。……………藤本さんも連れて」
「パパぁ!!!」
「…っく…」
「あ、パパぁ?」
抱きつこうと思ったのに、くるりと回ってもう見えないとこに。
「「旦那様……」」
旦那様に仕えてる2人には、そんな旦那様の気持ちがよく分かる。
そしてその旦那様が許した亜弥と美貴の関係を、自分達はもう反対する必要もない。

「……ちゃんと、あたしらの代わりに、お嬢様守んなさいよ」
「は、はい」
「今度怪我させたら、ショーチしないから」
「もうさせないよっ!!」
「あはは」
自分よりか幾分背の低い美貴のおでこを突付き、圭織は笑った。
「じゃ」
「あ、はぁ」
なつみにも何か言われるかと思いきや、なつみはただこれでもかというくらいの笑顔を美貴達に見せるだけだった。
そうして2人は、旦那様の元へと駆けて行く。
264 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時47分05秒



265 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時47分39秒
「旦那様ぁ、お待ちくださいよぉ」
「…うるさいっ」
「それに、お車はそちらへお止めしてませんよ?」
「……ぐ」
旦那様の数歩後ろを歩いていた2人。
車が置いてある方向が違うと知った旦那様は、向きを変えて2人と向き合う形にならなければならない。
「くそっ」
「……旦那様、目が赤いですけど」
「安倍、うるさい!」
「雨でも降っていたのでしょうか…旦那様のお召し物の袖が少し濡れております…」
「い、飯田まで……!」
クスクスと、自分の左右から笑い声。

「…旦那様は、甘いですね」
「……何が……」
「お嬢様に」
「そして、お嬢様に弱い」
「う、うるさいうるさい!!」
圭織からなつみから、色々からかわれ。
旦那様の顔は一気に真っ赤に。
「嫌われるのは嫌ですもんねぇ?」
「……くそ……」
266 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時48分17秒
「でも」
「…あ?」
なつみが、笑顔で。

「いい顔、してたでしょ」
「…………………あぁ」

もう、16年も親をやってきたというのに。
娘のあんないい顔、初めて見たなんて、情けない。
今まで自分の趣味や考えを押し付けて、どれだけ娘を見てこなかったのかという証拠だ。

「これからは、見ててあげてください」
「きっともっとすごい、いい顔しますよ?」
「……あぁ」
「……あ。旦那様、また泣いてる…?」
「な、泣いてない!! っく…もぉお前等クビだ、クビっ!!」
「「えええ!?」」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! なっちが…!!」
「な、なんでなっちのせいなんだべ!? 違うっしょ、圭織がぁ」

ギャ―ギャ―ワーワー。
亜弥がいなくなっても、この2人がいる限り、旦那様の周りは静まる事はないだろう。

267 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時48分47秒



268 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時49分27秒
そして。
突然美貴の家へ居候することになった亜弥。
和解した旦那様に言えば家くらいポンと買ってくれそうなものを、こんな部屋がいいと言って譲らない。

「さ。じゃあ準備しよっか」
「………何の?」
「え?」
「?」

引越しの準備とか?
言うと、違うと言われた。
じゃあ、何。
269 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時50分02秒
「結婚式」
「ああ、結婚式かぁ………って、はああっ?!?」
「だって、好き同士なら結婚するんでしょ? だったら今すぐしなきゃあ。
あ、でも、指輪っているんだよね? じゃあ買いにいこ、先に!!!」
「い、いや、あ、亜弥ちゃん……?」
「ん?」
「あ、あのね、言っておくよ。……女同士は、結婚出来ないんだよ……日本じゃ」
「えー、そうなの!? だってそんなの雑誌には書いてなかったよ!?」
「いや…一応、常識だから…省いたんじゃないかな」
「じゃあ、どこだったら出来るの?」
「う?…うーん、オランダ…とか」
「じゃ、そこ行こう」
「いや、だから、あの」
「早く早くぅ」
270 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時50分45秒
あぁ。もう。
どうしてよりによって、こんな、世間知らずなお嬢様なんかに、恋をしてしまったんだろう。

……だって、好きなんだもん。だって、愛しいんだもん。
旦那様を味方につけた今、もう、怖いものなんか何もない。
世間なんか関係ない。だって彼女は世間知らず。

もう、どうにでもなっちゃえ。
ただ、どうにでもなっても、変わらない事実が1つ。
美貴は、亜弥のことが好き。
この気持ちさえあれば、生きてける。
271 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時51分28秒
「…あ、でもちょっと待って…あたしお腹空いたぁ」
「ん? あ、じゃあ冷蔵庫に何か…」
――って。
「何もないよ?」
「…………」



でも、愛する人を満たしてあげるには、愛だけじゃなくて………やっぱり、お金も必要です。



272 名前:愛しいあなたは、お嬢様。 投稿日:2003年08月19日(火)09時52分21秒


ヽ从*‘ 。‘)(VvV*从ノ



273 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月19日(火)09時53分09秒
以上で、完結となります。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
…やっぱり、ハッピーエンドが好きなんです…ごめんなさい。

>>249
本当にお待たせして申し訳ない(w
長い間お待たせしました。

>>250
おでんの具の松浦さんは、こんな感じになりました(w
藤本さんは執念深いので、きっと、いつまでも睨みを効かせて大分前からいたと思われます(w
自分勝手なエンディングですが、気に入っていただけると助かります。

>>251
お待たせしました、更新しました。

>>252
またまた更新しました。
252さんの書き込みに応えられてればいいのですが…。

>>253
ありがとうございます。鷲掴みに出来て幸せです(w
自分も、松浦さんに「お願いだから〜」なんて言われたら、きっと、もう一生傍から離れられないと思います(w
274 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月19日(火)10時00分36秒
新しい話は、なるべく早くお見せ出来るかな、と思っております。
前々々回の話でいまいち書ききれなかった、ある方のお話を。
……ようするに、続編、という形でしょうか。
容量はなんとかこのスレで収められると思うので……その時は、よろしくお願いします。

それと、この話の中で藤本さんは松浦さんの事を「お嬢様」と呼んでいるのですが、
こちらのミスで、「亜弥ちゃん」となっている箇所があります。
…よければ、そちらの間違い探しも、どうぞ…。
275 名前:つみ 投稿日:2003年08月19日(火)10時02分03秒
うぉぉぉぉぉ!!
完結した〜!!
楽しみにしていた一つの作品が終わってしまった・・・
276 名前:JOJO 投稿日:2003年08月19日(火)12時17分05秒
あぁ…。終わってしまった・゚・(ノД`)・゚・
終わりは始まり
1つの物事の終わりは多数の人間に始まりを与えると思います
それぐらい影響力の強い小説でした
次回作があるんでしたらそれもまた楽しませてくれると思います
近い未来に飼育に戻ってきてくれると信じています
乙でした!!
277 名前:ほわ 投稿日:2003年08月19日(火)12時34分44秒
・・・・・・

言葉を失いますね。
やっぱりこの2人にはハッピーエンドがよく似合う
そして許してくれたパパもなんか(・∀・)イイ!!
どこのパパも娘には弱いものですよね・・・
この後ふたりはアムステルダムに向かったことを妄想しつつ、次回作に期待
これからもがんがってください!
278 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)12時48分17秒
ほわたんagesage間違えちゃメッ!
作者さんお疲れ様でした〜
今夜は(・∀・)イイ! 夢見れそうです(w
279 名前:AYAOTO 投稿日:2003年08月19日(火)13時41分10秒
終わってしまった・・・。
でも、最高でした!
やっぱり最後は許してくれたのね。亜弥パパw
藤本さんもカッコよかったしw
みきあやサイコーーーーー!!!!
次回作も期待しております^^
280 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)16時10分48秒
続編を心待ちにしつつ、もう一度最初から読み直してみます。
またニヤけながら読むんだろうなぁ…。
作者さんはどれだけ読者を萌えさせれば気が済むんですか(w
それでは、マターリ更新お待ちしております。
281 名前:ほわ 投稿日:2003年08月19日(火)17時14分06秒
>>278 & ALL
申し訳ない・・・
282 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)18時25分19秒
>>281
多分みんなメル欄実行してくれたら許す(w
次回作もマターリ期待してます
283 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)21時58分20秒
面白かったよ〜。
パパさんがこんなに甘かったとは。
次回作も期待大です。

>>277
お、こたつ・・・
もといFlash職人さんが動きますか?
こっちも期待してよいのかな
284 名前:334 投稿日:2003年08月19日(火)22時50分52秒
脱稿お疲れ様でした。しかも次回予告まで……なんていうハイペース。
どこからそのスタミナとセンス溢れるお話が出てくるのか不思議でなりません。
それにしても……

ぬあぁーー!!なんて締め方!!
これからの生活を妄想せざるおえないじゃないか!!
絶対松浦さんが我侭言うんだ!それを毎回藤本さんが宥めるんだ!!
うわぁーー!一人で勝手に萌えてしまう!!メイド二人の先行きも気になる!!
関係無いけど、松浦さんのお父さんはおぼっちゃま君のお父ちゃまを思い浮かべました。
そして言わざるおえない、今まで読んだあやみきの最高峰の話でした!!
285 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)23時34分07秒
ハッピーエンドで何が悪い!!
最高っす。
毎日この小説を読むのを楽しみに生きていたと言っても過言ではない
それぐらい楽しませてもらってた
いやー本当にありがとうと言いたい
次の作品も楽しみにしてるっす
286 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月22日(金)11時24分07秒
たくさんのレス、本当にありがとうございます。

>>275
終わらせました(w
楽しみにしてくださって、本当にありがとうございました。

>>276
本当にありがとうございました。
次回作、やらせて頂きます。どうか、よければそちらもよろしくお願いします…。

>>277
自分に都合のいいハッピーエンドという形なのですが、誰もあまり不幸にしたくないもので…。
松浦さんと藤本さんの笑顔が大好きなので、ああいう形を取らせて頂きました。
メル欄、よろしければ是非是非、お願いしたいです(w

>>278
最後まで読んでくださって、278さんもお疲れ様でした。
(・∀・)イイ!夢…見れましたでしょうか? 見れてたらいいなぁ…。

>>279
みきあやサイコ―っす。大好きです。
次回作、頑張ります!
287 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月22日(金)11時24分43秒
>>280
続編、お待たせしました。…といっても、あまり間は空いてないか。
読み直すとものすごく間違いが出てきそうで怖いですが、ありがとうございます(w
自分が書いた話で人が萌えてくれると、それだけで幸せです。

>>281
お気になさらず。

>>282
ありがとうございます。次回作頑張ります。

>>283
ありがとうございます。
パパ、甘すぎたような感じがめちゃくちゃしますが、勢いで書いちゃいました(w

>>284
締め方が中途半端で申し訳(w
色んな妄想が出来るようにと、あそこで切りました。
でもきっと、今まで以上に藤本さんは苦労するんだろうなということは、言わなくても分かりますね(w
おぼっちゃま君…見た事ないんですよ・゚・(ノД`)・゚・ おぼっちゃま君の物真似なら、安倍さんので知っているのですが…。
そして、大正解です(w

>>285
こちらこそ本当にありがとうございます。
こんな話を楽しみにしていてくれたなんて…涙が…・゚・(ノД`)・゚・
次の作品も頑張ります。
288 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月22日(金)11時25分27秒
と、いうわけで。
新しく…というか、お話を始めたいと思います。
前に言っていた、前々々回の続きみたいな感じで。No.1――ナンバー☆ワンの続きです。
そして、主役は、松浦さんじゃありません。
残念ながら、松浦さんと藤本さんメインじゃありません。ごめんなさい。
それから、ナンバーワンはあの時で話は終わっているんだ、という方は見ない方がいいかもしれません。

それでは、どうぞ。
289 名前:恋愛ってなあに? ―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時27分20秒


…最近、妙におもろくない。
いつも一緒やった友達の亜弥ちゃんの付き合いが悪いからや。



290 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時28分10秒
授業中、加護亜依は頬をぶぅっと膨らませて拗ねていた。

友人より恋人を優先する、典型的な女の子、松浦亜弥。
そんな友達を持ってしまった事が一番の問題だったのに気付くべきだった。
しかし、もう2人は切っても切れない間柄のお友達。
移動教室や昼休み、そんなものはもちろん一緒だ。
けれど、休みの日になると、亜弥は美貴の元へ遊びに行ってしまう。
今日だってそうだ。

「なぁ亜弥ちゃん」
「ん?」
「今日さ、先生達会議やから部活ないやん? ヒサブリにカラオケとか行こうや」
「あ〜、行きたい行きたい!」
「じゃあ行こうや」
「……でも、みきたんと今日買い物行く約束してるんだぁ」
「え〜」
これでもう何度目だろう。
一体いつ約束しているのか、亜依が誘うと必ず美貴という先約がいた。
けど、なんだか今日はいつもとちょっと違う展開。
「あ、じゃあ、みきたんも一緒じゃダメ?」
「え、3人でってこと?」
「うん」
「……ちょお待て。うち、またハミゴとちゃう?」
「そぉんなことないよぉ」
……とか言って、前回3人で遊んだ時は美貴にべったりだった亜弥。
唖然としてた亜依に、美貴が気を遣っていたくらいなんだ。
291 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時29分29秒
亜依にいいお相手がいれば、ダブルデートという事で寂しい思いをしなくてもいいのかもしれない。
だが、残念な事に亜依にはそんなお相手がいなかった。
亜弥と違ってまだ、恋より遊び、部活一筋という亜依に、その気はない。
独特な性格や関西弁、そして新聞部ということから、同級生だけでなく先輩達にも顔が知れていて人気があるんだけど。
好きな人一直線、という亜弥を可愛いと思いつつも、亜依はちょっとした寂しさも感じていた。

「美貴ちゃんがおったら、亜弥ちゃんはうちの存在忘れるからな」
何度か一緒に遊びに行って、藤本さんから美貴ちゃんへ、チビからあいぼんへと呼び方が変わった亜依と美貴。
「忘れないよ。あいぼんはいつもあたしの心の中にいるよ」
「ってか、人を死んだみたいに言うなやっ! びっくりやんけ、知らん人聞いたら!」
「あは、ごめぇん」
「……ぜんっぜん、反省してないねんもん…」
怒る気も失せる。
そんな不思議なパワーを、亜弥は持っていた。
まったく、得な性格をしていると思う。
そんな変わった性格だから、あの美貴を落とせたんだけども。
292 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時30分20秒
「ねぇねぇ、行こうよ。カラオケ」
「…ん〜」
「最近、あいぼんとも遊びに行ってなかったしさぁ」
「…それは亜弥ちゃんが美貴ちゃんとの約束を優先させるからであって」
「あたしぃ、歌いたい唄いっぱいあるんだ!」
「…………」
聞いちゃいねぇ。
…分かってる、亜弥との付き合いは長いから。
293 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時30分51秒
誰を歌いたいとか色々話していると、珍しく美貴が亜依達のクラス、1年B組にやって来る。
一度キョロキョロと教室を覗いたかと思うと、亜依と目が合い、その次に亜弥の後ろ姿を見つけて、声をあげる。
「亜弥ちゃんっ、何してんのさ!」
「…あ。忘れてた」
HRが終わってもやって来ない亜弥。
部活がある日でも部活がない日でも、説得に行ってた頃の名残なのか、亜弥は3年A組の教室に毎日足を運んでいた。
今日は部活もなく、買い物の約束をしていた為、美貴には教室で待っててと言っておいたのだが、
亜依にカラオケに誘われ盛り上がっている内に、忘れてしまっていたのだ。

3年の美貴がクラスにやって来て、亜弥のクラスは騒がしくなる。
亜依のせいで校内新聞に亜弥と美貴の仲を報じられてからは、全校生徒注目の的なのだ。
それなのに恥ずかしい中、わざわざ亜弥のクラスまで来たのは、
いつまで経ってもやって来ない亜弥を心配して……なんて、恥ずかしくて言えない。
なのに亜弥は恥ずかしげもなく、やって来た美貴の腕に抱きついてくる。
294 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時31分29秒
「みきたぁん、ごめんね?…怒ってる?」
「………いいから、腕離して…」
「え〜、いいじゃぁん」
「いいのは亜弥ちゃんだけだよっ」
照れてしまって、無理やり腕を引き離す美貴。
赤くなってる顔が、亜弥にはとても可愛らしく見えてしまう。

「…ちょっとちょっとお2人さん。イチャつくのは布団の中だけにしてや」
見かねた亜依が帰り支度を整え、鞄を持って2人の元に。
その亜依の言葉に、更に真っ赤になる美貴。
「ハッ、ハァ!? ふっ、布団の中でもイチャつかないよ!!!」
「えー、昨日の夜はあんなに燃えたのに?」
「何の話よ何のっ! 昨日の夜は美貴、1人で部屋にいたよ!!!」
「あはは、冗談なんだから、そんなムキに返さなくていいじゃん」
「ほんまやで、美貴ちゃん…」
「っ………!!」
年下に遊ばれるのは、なんだかとっても腹立たしい。

「みきたんはホント可愛いね」
「…うっ、うるさいな!」
言うなり、スタスタと亜弥達を置いて歩き出す美貴。
「わっ、みきたん待ってよぉ」
それでも歩くのをやめない美貴の後ろ姿を見て、2人顔を見合わせ笑いながら、美貴の後を追った。
295 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時32分17秒
教室、学校を出て美貴の機嫌も恥ずかしさも治まって来たところで、ちっこい1年生の2人がやっと追いつく。
「みきたぁん、早いよ」
「そ、そうやで…こ、こんな病弱な子を走らせるなんて…」
「…どこが病弱なの、どこが」
「ここら辺が」
と言って、髪の毛を指差す亜依。
「………わ、笑えないね」
「……うん」
「…………頼むから、笑ってくれ。うちは、それを望んでる」
あまりにマジネタ過ぎた為、美貴と亜弥は同情してしまう。
そうなると言った本人が一番可哀想だった。
296 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時32分50秒
目に見えて沈んでしまった亜依。
これはいかん、と思って、友達の亜弥がなんとか元気づけようと明るく振舞う。
「そ、そうだみきたん! あのね、今日買い物行くの止めて、あいぼんと一緒にカラオケいかない?
ねっ、さっきもその話しててみきたんとこ行くの忘れてたんだよねっ、あいぼんっ」
「……うん、そうやね…」
「も〜。いいかげん立ち直ってよぉ」
「へこませたのは誰やねん!」
涙目で訴える亜依に、心当たりがある亜弥は思わず目を逸らしてしまう。
それでもなんとか持ち直して、もう一度美貴に訊ねる。
「ね、ね。カラオケ行かない?」
「ん〜、別に、亜弥ちゃんがいいならいいよ」
買い物行こうと言い出したのは亜弥だ。
いつも荷物持ちにされてる美貴としては、荷物を持たなくていい分、カラオケの方が体力的にも都合がよい。
297 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時33分24秒
「やったぁ、よぉし、久しぶりに歌うぞぉ! そうだあいぼん、ガクトさんの物真似してよ」
「……あ〜、いいで。またレパートリー増えたしな」
「やたっ、楽しみ楽しみ♪」
物真似が得意な亜依は、落ち込んでたのも忘れ、その話に乗る。
亜依も亜弥と同じく、あまり物事を引きずらない性格なのだ。
そんな2人だから、こうして未だに友人関係が続いているんだと思う。

「よぉし、じゃあみきたん早速イコ〜!」
腕を取って、半ば強制的に美貴を連れて行く亜弥。
気付くと、ポツンと独り残されてる事に、亜依は気付く。


「……ちょっと待て亜弥ちゃん! もう早速うちの存在忘れてるやろ!!!」


言うなり走って、亜弥達を追いかける亜依だった。


298 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時33分55秒



299 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時34分29秒
4時間後。
すっきりした顔で出て来る、人。

「はぁ。歌ったねぇ」
「…歌ったねぇ、すっごく」
「…うん、かなり歌ったなぁ」
「もうね、ちょっと喉やばいかも」
「「……それは、亜弥ちゃんだけね」」
「えっ、ちょっと何それ。っていうかなんでみきたんとあいぼん声揃えてるの!?」
「揃えたくもなるわ!」
「そうだよ…ほんと。ねぇ、美貴達にもマイク持たせてよ…」
すっきりした顔で出て来た人――亜弥に向かって、うんざりした顔で出て来た2人は猛攻撃。
先程のボックス内で、亜弥の連続カラオケに遭った被害者なのだ。
これで割り勘なんだから、納得行かない。
300 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時35分26秒
「…あんなぁ、そんな亜弥ちゃんに1つ教えといたるわ」
「…何?」
「カラオケは、みんなで楽しむもんやで」
「えぇ〜、楽しんでたでしょお?」
マイク独り占めされて、自分達がもたされたのはタンバリン。
持たされてしまった以上、叩かないわけにはいかないじゃないか。
「でも、あいぼん達も歌ってたじゃん」
「亜弥ちゃんの十分の一やで」
「そうそう」
「じゃあ、もう一回戻って歌う?」
「もう十分だよ!」
「しばらくカラオケは懲り懲りや!」
「え〜。楽しかったのになぁ」
「……そりゃ、亜弥ちゃんは楽しかっただろうね」
301 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時37分25秒
少し頭痛がして、頭を押さえる。
大分慣れたつもりなのに、やっぱりまだ美貴は亜弥には驚かされてばっかりだ。
そう思っていると、ポンポンと、亜弥の付き合いについては先輩の亜依が、美貴を慰めるかのように肩を叩く。
「…分かってる。美貴ちゃんの想いは、めっちゃよく分かるで」
「……あいぼん…」
「ちょ、ちょっとちょっと……あたしも入れてよぉ」
やたらと美貴と亜依の強い連帯感を感じ取ったのか、当の本人が慌てたように間に入る。
そんな亜弥を安心させるのは、今ではもう美貴の役目だ。
「なんでもない、なんでもない」
「え〜」
「さぁ、もう帰ろっか?」
話を逸らされて膨れ顔の亜弥のほっぺを突付いて、美貴が言う。
まだ始まったばかりの秋だけど辺りはもう暗くなっていた。
302 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時38分15秒
「じゃあ、うちはこれで」
「えっ?」
「…ん?」
ちょっと待ってよ、と声をあげる美貴に振り向く亜依。
「駅まで送るよ」
美貴の最寄駅と亜依達の最寄駅は場所が違うのだ。
亜弥はこれから美貴の家に遊びに行く、という事を言っていたので、今日は美貴と一緒の帰り道。
でもそうなると、亜依は独りになってしまう。
「いいよ、近いねんし」
「ダメだよ。危ないよ」
いつもはからかわれて遊ばれても、美貴は亜依達の先輩だ。
そして、亜依は亜弥の大事な友達でもある。
303 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時38分55秒
「でも、うち送ったら亜弥ちゃん、美貴ちゃんち行くの遅くなるやん」
「何言ってんの。そんなの、別にいいよ」
美貴が隣にいれば、それだけでいい。
それに亜弥だって、亜依を独りで帰らすのは心配だったりする。
女の子1人より、女の子3人の方がまだ絶対に安心だ。
「………別にいいのに。うちのことなんか…」
だが、なかなか素直に喜べない。
だって、それでなくてもカラオケを3人で行ったりと、2人の時間を邪魔したりしているのに……。
縮こまって遠慮してる亜依。
それを見て、美貴が優しく声をかける。

「…うちのことなんか、って。友達じゃん、美貴達」
「……美貴ちゃん」
「だから、そんなこと気にしなくていいんだよ」

そう言って、頭を撫でてやる。
亜依は亜弥よりちっちゃくて、頭はとっても撫で易かった。
304 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時40分19秒
「じゃ、いこっか」
「…うん」
美貴に手を引かれ、嬉しそうに歩く亜依。
その横で亜弥が、おもしろそうに美貴をからかい始める。
「みきたーん、ねぇねぇ」
「…なによ」
「あたしとあいぼんは友達。あいぼんとみきたんも友達。じゃあ、あたしとみきたんのカンケーはぁ?」
だが、美貴だっていつもいつもからかわれてばかりじゃない。
「金魚と、そのフンじゃないの?」
「ひっど! 今みきたんひどいこと言った!! ねぇあいぼん聞いた!?」
「悪いなぁ、最近うち耳悪くて…」
「ぅあっ、あいぼんもみきたんの味方だっ」
「いえーい、亜弥ちゃんはみご〜」
「みんなひどい、ひどすぎる」
「はいはい。ごめんね」
「なーんでそんな言い方なのぉ」
「あはは」
拗ねてる割に、亜弥も楽しそう。
そうして亜弥をからかいながら、亜依の最寄駅に到着する。
305 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時40分54秒
「ごめんなぁ、ほんまありがとう」
「うん。気をつけてね〜」
「あいぼん、また明日ぁ」
「うん、ばいばい」
手を振って、亜弥と美貴の2人を見送る。
亜依を無事駅まで送り届けた2人は、先程の2人の関係の言葉が嘘のように、ぴったりとくっついて楽しそうだった。


「………いいなぁ」


ふと、そんな事を思う。
仲良さそうに歩いてる2人の後ろ姿が、なんだかとっても羨ましく見えた。


306 名前:―うちと亜弥ちゃんと美貴ちゃんと― 投稿日:2003年08月22日(金)11時41分30秒


恋愛にも、ちょっと興味が出て来た、そんな夜。
亜依は、まだ経験した事のない恋愛を想像しながら、到着した電車へ乗り込んだ。



307 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月22日(金)11時42分06秒

308 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月22日(金)11時42分40秒

309 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月22日(金)11時43分47秒
以上で更新終わりです。
話の本題は、次から動き出すつもりです…。
また、よろしくお願いします。
310 名前:つみ 投稿日:2003年08月22日(金)12時22分09秒
あの時のあいぼんの続きっすかぁ〜^^
楽しみに待ってます!
311 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月22日(金)16時46分56秒
お、ぼんでしたか。
書ききれなかったやつということでああ、いしよしかと思っちゃいました。
良いね、期待しちゃいます。
312 名前:334 投稿日:2003年08月22日(金)18時06分59秒
きた、きた、きた、キタ━━( ‘д‘)━━(  ‘д)━━(  ‘)━━(  )━━(  )━━(‘  )━━(д‘  )━━(‘д‘ )━━━!
実は、自分これかなり期待していました。頼んでもいないのにリクエストが叶えられた感じで、本当にありがとうございますと言いたいですw
なんせ、最初No.1――ナンバー☆ワン読んでいた時、松浦さんと藤本さんとあいぼんさんの三角関係の話だと勝手に思っていましたからw
しかし、何時の間にかあいぼんさんの存在が前髪同様薄くなって行ったのには涙していました。
あいぼんさんが嫉妬する姿を待ち焦がれていました。作者さんが書くあいぼんさんはかなり良い味出しているので大好きです。
ホント禿げしく期待させて読ませて頂きますw

それにしてもあいぼんさん自虐的過ぎる!!w
313 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月23日(土)00時48分21秒
おおっおおっおおっ!
これはもしかしてもしかするのか!?
なんだか面白そうな展開になりつつあるなぁ
続き期待してるっす
314 名前:恋愛ってなあに?―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時27分12秒
ある日、授業も終わって亜依がいつものように新聞部の部室に行くと、珍しく部長、副部長が揉めていた。

「…ねぇ、取材行ってよ」
「やだよ。あんたが行ってよ」
どうやら、取材を誰が行くかで揉めているらしい。
とことことそこへやって来て、2人の間に亜依がひょっこりと顔を出す。
「どーしたんですか?」
「あっ、あいぼん!」
「そうだ、あいぼんがいたじゃん!」
「…?」
「あいぼん、情報収集得意分野だよね?」
「…え、まあ」
「そんなあいぼんに、とってもいい仕事があるのです」
はい、と言って何やら資料を渡される。
ペラペラ、とめくってみると、何だかこれは、全校生徒に聞いたアンケート用紙なものだった。

「これは?」
「毎年恒例の、様々なテーマのランキング」
「ああ」
好きな教科、好きな先生、等など。
その中に、段々と変わったものも発見されてくる。
315 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時28分01秒
「彼女にしたい人ランキング…」
同性同士の恋愛が多いこの学校ならではのランキング。
そしてもう1つは、その逆の彼氏にしたい人ランキング。
「どれどれ」
ちなみに亜依は、用紙をもらった時、どちらにも記入していない。
なので、他の人はどういう名前を書いたのか気になっていたのだ。
こうして見れるのは、新聞部の特権だったりする。
「あぁ、それはもう集計が出てランキング出てるんだよ」
ほい、とパソコンで作成して印刷され出来上がった正確なランキング結果の用紙。
確かに、全校生徒が書いたアンケート用紙を1つ1つ見ていくよりも早い。
有り難く受け取って、見てみる。
……すると、そこにとんでもない名前を見つけた。


【彼女にしたい人ランキング………一位 1年B組 松浦亜弥】


「………嘘やろ?」
一瞬、目を疑った。
確かに、そりゃ、確かに亜弥は可愛い。
けれどあの子は、性格が独特すぎる。
でも、実際にそんな亜弥の性格を知っている子は、亜依と美貴、そしてクラスメイトくらいだ。
人当たりもいいし笑顔な亜弥は、入って半年ほどなのに驚異の一位に輝いている。
316 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時28分40秒
「そういえば、松浦さんはあいぼんの友達だったよね」
「は、はあ」
「ウケがいいんだよね、あの子。年上の人の。3年A組の生徒なんか、ほとんど松浦さんの名前書いてたよ」
「………」
A組の生徒さん達は、美貴を説得する時非常に亜弥に協力的だったと聞いた。
今でも放課後、部活前に行ったりすると、亜弥はお菓子なんかももらったりするという。
「…まあ、亜弥ちゃんには不思議な魅力ありますからね」
人に憎まれない得な性格。
「でも、来年は多分落ちるね。もう藤本さんっていう相手出来たから」
「あ〜。べったりだもんねぇ、松浦さん。完璧にあの子が惚れてるって感じだし」
「はは」
言う通り、亜弥は美貴にべったり。惚れてるっていうのも間違いない。

「そんなことより、見てほしいのはこっちなんだよ」
「はいはい。えーと……これは、彼氏にしたい人ランキングですね。
一位は……よっすぃーですか。まあ、予想ついてましたね」
亜弥の部活の先輩であり、バレー部のエース。
「祝・2冠達成」
「あたし達も名前書いたもんね〜」
「ね〜」
「………」
ミーハーなやつらめ……思うが、もちろん相手は先輩なので表には出さない。
317 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時30分22秒
でも、これを見せてどうしようというのだろうか。
亜依が訊ねる前に、先輩達が解説してくれる。
「あのね、毎年、ランキングの3位までの人に、うちらは取材を行うのよ。
そして、その取材内容を新聞部に載せるの」
「はあ」
「やっぱりさぁ、こうやって上位に入れたら嬉しいじゃん?
だから、みんないつも快く、ちょっぴり恥ずかしがりながら、新聞部に協力してくれるんだけど……」
「うんうん」
「……彼氏にしたい人ランキング2位と、彼女にしたい人ランキング5位の人見てよ」
「…………ええと、2年C組の後藤真希、さん?」
「うん。多分、彼氏にしたい人の方では下級生が入れて、彼女にしたい人の方は上級生が入れたと思うんだけど」
「それが何か?」
別におかしいことはない。
それだけ、年上にも年下にも人気があるってことなんだから、いいことではないんだろうか。
先輩は、言い難そうに続ける。
318 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時30分57秒
「…去年は、彼女にしたい人ランキング3位だったんだよね。だから、当然取材に行くわけじゃん」
「でもさ〜、思いっきり断わられちゃって。結局、取れたデータはコメントもなしで、生年月日とかだけ」
「え〜っ、なんでなんですか」
亜依の疑問に、2人の先輩は顔を見合わせる。

「……だって、あの子、怖いんだもん」
「…うん」

近付くなオーラが出ている、というか。
綺麗すぎて近寄れない、とか。
いつも寝ていて、起こそうとしたら殺されるんじゃないか、とか。
笑わん姫、とか。
でも、投票する人はそんな新聞部の苦労なんかもしらない。
去年、取材したのに生年月日などしか載せなかった新聞部に抗議をしてきたのだ。
怒る気持ちも分かる。
投票してくれたみんなを喜ばせる為に取材しているのに、手に入れた情報がこれだけだったんだから。
しかもその情報は、調べようと思えば、新聞部じゃなくても調べられるもの。
当然、今年は去年と同じようにはいかない。いけない。
319 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時31分37秒
「それで、うちにどうしろと」
「よくぞ聞いてくれました!」
「あたし達の代わりに、取材、してきてほしいの」
「………………え」
散々、真希の怖さを語った後にそんな事を。
「あいぼん、情報収集得意だよね」
「それに、人と仲良くなるのも上手だよね」
「怖いものしらずだよね」
「新聞部期待の新人だから」
「……………あの」
「お願い! あいぼん!!」
「お願いします!!!」
「………」
3年生の部長、副部長に頭を下げられている、1年生の新入部員。
断わることなんか、出来るはずもない。
320 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時32分09秒
「で、でも、それってうちじゃないとダメなんですか? もっと他の人でも…」
「ダメ。すでにみんなに逃げられた。みんなは、違うランキング受賞者の取材に行ってる」
「……あぁ、そうですか」
どうりで人がいないはずだ。
部室にいたら先輩2人のお願いを聞くことになるから、きっとみんな逃げたんだろう。
「部長達は誰のとこ行くんですか、じゃあ」
「あたし達は……ねえ?」
「ね〜」
「……よっすぃーのとこやな」
「「あったり〜!」」
部長と副部長の立場を利用した取材。
「ずるいですよ!」
「あいぼんも3年になったら、こんなこと出来るよ」
「………」
「とにかく、お願いします」
「うぅ………」
「もちろん、あいぼん1人だけじゃないよ?」
「えっ、そうなんですか?」
「うん」
そう言って、奥の方で縮こまっていた人――カメラマンの、紺野あさ美を手招きする。
「って、ていうかあさ美ちゃんおったんやな…」
…気付かなかった。
321 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時33分18秒
校内新聞には、取材内容と同時に写真も掲載する予定だ。
けれど亜依はカメラを撮るより撮られる方が好きなので、あまり写真を撮った事がない。
ましてや今回は、みんなが楽しみにしているランキングの上位3人の写真。
写真写りが悪いなんてことは、許されない。
それだったらばと、専門の子を付かすことにしたのだ。

しかし……どうも、亜依は心配で。
このあさ美という少女は、いつも何処かぼぉっとしているのだ。
取材に行ってもロクに出来ない事から、パソコンのデータ処理等の方へと回され、たまに仕事があればこうやってカメラマンへと変身。
322 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時33分57秒
「…あさ美ちゃん、大丈夫なん?」
「あ、はい、完璧です!」
「…………」
――あぁ、心配だ。
だが、先輩達はそんなことまるで気にしていない。
「本当にごめんだけど、お願いね。最悪の場合、何か1つでもみんなが知らないような事取れればいいんだ。頼むよ」
「はあ…」
「それと、後藤さん以外に、松浦さんと藤本さんの取材もよろしく。そっちの方は全然任せて大丈夫でしょ?」
「え、亜弥ちゃんは分かりますけど、美貴ちゃんの取材もですか?」
「うん。藤本さんランキング一位に入ってるやつがあるんだよ」
「ってか、あたし達そろそろ取材行くから、紺野に見せてもらって〜。そのデータ取ってあるから〜」
「はい、いってらっしゃい…」
「いってらっしゃいです」
そして、残された2人。
「「…………」」
いつまでも沈黙しているわけにもいかない。
とりあえず、さっき先輩が言っていた美貴が一位になったというランキングのやつを見せてもらうことにする。
323 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時34分46秒
「…えーと、えと……あ、これです」
「どれどれ?」
カチカチとマウスを打って、亜依に見せてくれる。
そこに現れたランキング。


【罵ってもらいたい人ランキング……一位 3年A組 藤本美貴】


「み、美貴ちゃん……」
…というか、こんなアンケートを聞く自体、どうかと。
「…ちなみに藤本さん、3冠達成みたいです」
「………」
「取材に行ったのはいいんですが、一昨年も昨年もコメント取れなかったって先輩言ってました。
その代わり、すっごくいい写真が撮れたから、評判よかったって言ってましたよ。ちなみに、これです」
パッと亜依の前に現れた、画像。
「め、めっちゃ睨んでるねんけど、美貴ちゃん…」
「Mの人に大人気の一枚です。…私も、こんなショットが撮れたらいいんですが…」
「……大丈夫、絶対、撮れると思うで」
言いながら亜依は、真希より何より、美貴の取材をする方が怖いんじゃないか…と思い始めていた。
324 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時35分58秒
「…あ、それと」
「ん?」
「加護さんが3位のも、ありましたよ」
「えっ、ほんまに!?」
「はい」
親切に、ゆっくりと口調で教えてくれるあさ美。
「これです」
「どれどれ〜」
にやにやしながら見てみる。
そこには、すごいランキングがあった。


【ちょっと、髪やばいんじゃない?人ランキング……三位 1年B組 加護亜依】


「……………」
ちなみに、一位と二位は、学校の教員で結構年のいった男の先生だ。
その中に、1人だけ生徒が混じっているランキング。
「…あの、そこで質問なのですが」
「…何や」
聞かれる事は予想ついている。そして、その答えも用意している。
「……本当の所はどうなんでしょうか…」
「ちょっと……髪の成長が遅れてるだけや……」
「…そうでしたか。それは、失礼しました」
「……アンタ、覚えときや?」
「はい、記憶力は良い方です」
「完璧?」
「完璧です!」
「…じゃ、取材行こか」
「はい」
そうして、部室を後にする2人。
気のせいか、亜依の後ろ姿はいつもより沈んで見えた。
325 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時37分12秒
ブレザーの胸ポケットに、メモ用紙とペンが入ってる事を確認する。
これがないと、取材が出来ない。
歩きながらそのメモ用紙に、一通りの質問を書き足していく。
亜依の後ろについているあさ美はというと、カメラを両手に持ってぼーっとついてきている状態。
やる気があるのか、ないのか。
聞くと、やる気たっぷりですと答えるのだが、とてもそう思えないあさ美。
なんだか正反対の2人のコンビは、妙にハマっていた。

「…あぁ、そうや」
「…はい?」
「こうして歩いてるのはいいねんけど、うちら、どこ向かってんねんやろ?」
「…………そういえば、そうですね」
亜依とあさ美に任された取材は、3件。
彼氏にしたい人ランキング2位の後藤真希・彼女にしたい人ランキング1位の松浦亜弥・罵ってもらいたい人ランキング1位の藤本美貴だ。
「…あ、あさ美ちゃんは誰がいい? と、とにかく美貴ちゃんは最後にしたいねん、うちは」
それと、取材する時は亜弥を連れて行こう。
この2人じゃ、美貴への取材はきっと返り討ちに遭いそうだ。
326 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時38分04秒
「私は、誰でもいいですけど。…でも、松浦さんはこの時間部活ではないんですか?」
「あ〜、そっかぁ。……部活終わるの待つのもなぁ…」
それによく考えれば、亜弥の場合は放課後じゃなくてもいつでもインタビューしようと思えば出来るのだ。
ちょっとした長い休み時間の時に、違うクラスのあさ美を連れて来てインタビュー。
同じ1年生同士の取材は、非常にやりやすい。
「じゃあ、後藤さんからにしよか」
「はい」
「……でも、ちょい待って。後藤さん、おるん?」

残念な事に、亜依は後藤真希の情報をこれまでに集めていない。
だから当然、真希の行動パターンも何も分からないのだ。
「っていうかそもそも、何組やったっけ…」
持ってきたランキング用紙に確か、何組か書いていたはず。
入試はカンニングで入って来たという事もあり、記憶力があまりない亜依をフォローするかのように、あさ美が口を開く。
327 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時38分45秒
「後藤さんは、C組ですね。今は部活はしてなかったはずですから、いるかどうかは…」
「……おぉ〜、すごいやんあさ美ちゃん」
「…記憶力は良い方ですから」
「なんや、もしかしてうちらいいコンビ?」
「……そうですね」
からかうかのように亜依があさ美の顔を覗くと、あさ美は照れくさそうに笑った。
「とにかく、C組行ってみよか。もしかしたらおるかもしれん」
「そうですね」

情報収集が得意な亜依と、その情報を頭にインプットさせるあさ美。
いつも、自分が集めた情報をせっせと書いて書いて保存している亜依だが、あさ美と組んだ事でより活発に動けるような気がする。
……でも、活発に動く為には、もう少しあさ美に早く歩いてほしいと思う亜依でもあった。
328 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時39分19秒
5分くらい歩いて、2年C組の教室の前へと着く。
………なんだか、とっても静かだ。
他の教室からは楽しそうな声が聴こえるのに、C組のクラスからは何も聞こえない。
「……お、おらんのとちゃう?」
「うーん…どうでしょう」
「長嶋さんかい!」
「…ちょっと物真似をしてみました」
「全然似てなかったけど」
「………自信があったんですけど」
「…って、誰が長嶋トークしろって言ってんねん」
あさ美といると、緊張感というのが一気に解けてしまう。
それは良い事なのかどうかは分からないけど、亜依にとってはリラックスが出来た。

一度短く深呼吸をして、ドアの取っ手に手をやってみる。
「中を覗かんことには、分からんからな…」
ゆっくり、ゆっくり。
開けてみると、机に突っ伏している生徒が見えた。
329 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時39分52秒
「……死んでいるんでしょうか」
「えっ、じゃあうちら第一発見者!?」
「…まずは、意識確認を…」
言うだけ言って、中に入って来ないあさ美。
「……あさ美ちゃん?」
「加護さん、お願いします」
「…………」
なんだかこの新聞部、みんな亜依に便りすぎじゃないんだろうか?
…憧れていた新聞部の実態を、亜依は身をもって感じている。
330 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時40分31秒
とにかく、もし死んでいたとしたら大変だ。
あさ美の言う通り、意識確認をしなければならない。
「……もしもし?」
「……………」
「もしもーし…生きてますかぁ?」
「……………」
「…返事がない。ただのしかばねのようだ」
「…ドラクエですか」
「…このネタが分かるとはあさ美ちゃん…」
「ゲームは好きだったりします」
…って、だからそんな場合じゃない。
「脈を取ってみましょう」
おおっぴらに放り出されている左手を取って、指を当てるあさ美。
「…どう?」
「脈は、あるみたいです」
「……ホッ」
これで、死体の第一発見者じゃなくなった。
亜依はほっと胸を撫で下ろす。
331 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時41分08秒
「じゃあ多分寝てるんやね。ほんじゃ、今日はもう帰ろっか?」
「…え?」
教室には、この寝てる人以外誰もいないみたいだし。
亜弥は部活だし、美貴は亜弥同伴の時じゃないと怖いし。
真希は明日にでも取材をすればいいんだ。
そう提案するも、あさ美はきょとんとして動かない。
「どうしたん」
「…だって」
「?」
「私は、この人が後藤さんだと推理しているのですが……」
「……え」
332 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時41分50秒
声をかけても、脈を勝手に取られてもぴくりとしない、この人。
机に突っ伏してる為見えない顔以外の外見は、細くて髪が結構長くて、美貴より少し明るい茶色い髪色。
スカートは短い。
机の下から覗き込んで見える制服の着こなしは、寝ている為か乱れて見えた。
「確か、後藤さんがいつも寝ているという事実は、ほとんどの生徒が知っているはずです」
「……でも、今、放課後やで。いくらなんでも…」
「…私のクラスには、結構後藤さんファンの方がいるんです。
そのファンの人の話を盗み聞きした話では、起きなくてそのまま教室で朝を迎えて先生に怒られた事があったそうです」
「………ありえへん」
「ここの生徒さんは、おかしな人が多いですから」
「………」
自分を始め、友達、そして今一緒にいる2人の事を思えば、否定なんか出来るはずがない。
確かにここの学校は、意味の分からない人が多い。
「……でも仮に、この人が後藤さんとしてや」
「はい」
「…誰が、起こすん?」
「…」
当然じゃないですか、とあさ美は亜依を見る。
「私、写真撮る人です」
「………うちは、取材する人です」
だったらば、だ。
その人が起こすべき。
333 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時42分22秒
「うぅぅ…」
正直言いまして、怖い。
先輩達の話では、起こそうとしたら殺されるんじゃないかという事を言っていた。
真希らしい人を見てみると、完全に深い眠りに入っている。
「…ご、後藤さん」
小さく呼んでみる。
もちろん、反応はない。
「ごとーさぁん…」
もう少し大きな声で呼んでみる。
が、反応はまだない。
「…揺すった方がいいのでは?」
「う、うん」
言うのは簡単だ。
が、あさ美は言うだけでなく、思いっきり真希らしい人の身体を揺すった。
そして、さっと亜依の後ろへと隠れる。
334 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時42分58秒
「おおおいあさ美ちゃん! な、何してんねん!?!?」
突然の事だった為、亜依はもうそう言うしか出来ない。
すると、揺するよりその声が目覚ましになったのか、真希らしい人の身体がモゾモゾと動いた。
「……んあ………」
なんとも言えない声を出した後、ムクっと起き上がって、寝起きの目で目の前にいた亜依と目が合う。
「うっ…うわあああ!!!!!!」
「ぇ、ちょ、ちょっと加護さんっ?」
335 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時43分33秒



――あかん、殺される。




336 名前:―新聞部のお仕事― 投稿日:2003年08月23日(土)06時44分07秒
実は物凄く怖がりだった亜依は、目が合った瞬間、思わず逃げ出してしまったのだ。
起きたばかりの少女の顔は、確かに資料で見た後藤真希自身だった。
逃げた亜依を追いかけて、あさ美も慌てて出て行く。
そして、1人、寝起きの真希。

「……んあ。…あれ、もうみんないない…」
当たり前だ。だってもう放課後。
「…そっか、さっきの子……起こしてくれたのか」
親切な人がいるもんだねぇ、と言って立ち上がる。
「…さぁ、かえろ」
まだまだ眠い目をこすって、真希は教室を後にした。

337 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月23日(土)06時44分42秒

338 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月23日(土)06時45分17秒


339 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月23日(土)06時45分55秒
朝早くに更新。
やっと話が動き出せそうです。

>>310
ナンバーワンを終わらせてからもずっと心残りだったんです。
今度こそ、書ききれればいいなぁと思います。

>>311
いしよしも、なんとか決着をつけたいと思います。
あやみき以外ほったらかしで、大変申し訳なかったです(w
曖昧…あいまい?

>>312
ぶっちゃけ、松浦さんと藤本さんとあいぼんさんの三角関係にしたいと思ってました(w
ただそしたらあいぼんさんが可哀想になるので…。
しかし、友達役にしても、結局は陰が薄くなってしまい、可哀想なことをしました。
今回は主役にして、ご機嫌をとってみたりします。
自虐ネタは、まだもう少しありそうです(w

>>313
もしかするともしかの期待を裏切っちゃったかもしれません…。
続き、頑張って更新させていただきます。
340 名前:つみ 投稿日:2003年08月23日(土)08時27分26秒
ごとーさん朝までって・・・
341 名前:161 投稿日:2003年08月23日(土)18時48分05秒
作者さんのギャグセンスに拍手。よくできました(某教育委員会風
細かいボケやツッコミ、有り得ない特性を持つ生徒の使い方等
いろいろと面白いですね。
罵ってもらいたい人ランキングやらちょっと、髪ヤバいんじゃない?人ランキングやら
凄いランキングがいっぱいですねぇ。
やっぱりこの学校は特殊な生徒ほど入りたがる学校ようにできているのでしょうか?w
342 名前:334 投稿日:2003年08月23日(土)19時06分18秒
川o・-・)人(‘д‘ )
すごい!!このコンビすごい!!
何で今まで誰もこの組み合わせに気付かなかったんだ!!
ボケにボケで返されるじゃないか!あいぼんさんの関西人の血が疼いてるじゃないか!嫌でも読者がつっこまなければならないじゃないか!!
何よりあいぼんさんが紺野さんに既に疲れているのが(・∀・)イイ!!
やたら”…”が多い!!w
つーか、小ネタがやばい!!こういう方面のセンスまであられるとはホント脱帽です。
まー作者さんだからこそ、ここまで面白く見せられるという説もありますが。
すいません、当方テンションメーター振り切りっぱなしですw
マジ、学園モノ書かせたら右に出る人はいない。
343 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月23日(土)20時11分58秒
いやいや予想しなかったものの、すげぇ面白いっす
まぁどういうものになろうと作者さんの話し好きなんで
絶賛なわけでw
出てくる人物がみんな活き活きしてて終わって欲しくないっす
344 名前:KK 投稿日:2003年08月23日(土)23時43分06秒
ホント、とっても素晴らしいお話です!!!
毎回爽快感に浸りながら読んでいます。
亜弥美貴メインじゃなくても作者さんの作品はサイコー!!!です。
345 名前:恋愛ってなあに?―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時46分24秒
ガクガク。ブルブル。
今日の朝から亜依はずっと、何かに怯えていた。

家の近くでの待ち合わせ。電車。学校。
いつ見ても、亜依はガクガクブルブル。
どうしたの、と亜弥が聞いても
「うちは殺されるんや…」
と、ばかり。

お昼休みを利用して、亜弥は美貴を連れて、屋上で亜依に詳しく話を聞いてみることにした。


346 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時46分57秒



347 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時48分33秒
「…っていうか、なんで美貴も…」
里田と仲良く話していたところに、強制的に亜弥に引っ張られココに。
亜弥の方が腕力も力も弱いはずなのに、美貴を捕らえる時の亜弥の力は半端じゃなかった。
だからこうして、疑問に思いながらも、美貴はココにいる。
「みきたんもあいぼんの友達でしょ。だから、ちゃんと話聞いてあげなきゃ」
「……まあ、そうなんだけど」
そんなにいつも一緒にいる事のない美貴にも、亜依が明らかに怯えているのは分かる。
挙げ句、物騒な事まで呟いていて。
「…どうしたの。なんか悪さでもしてバレちゃったの?」
考えられる事を訊ねてみるが、違う、と返される。
「わ、悪さなんかとちゃう。うちは、取材しに行っただけやのに……」
「「取材?」」
亜弥と美貴は顔を見合わせる。
「誰の取材?」
「………後藤、真希」
「…後藤真希? 誰それ」
頭に?マークいっぱいの亜弥。
亜弥はこの学校では、美貴しか興味がないんだから知らないのも当然なのかもしれない。
…が、美貴はどうしてか、その少女の名前を知っていた。
348 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時49分03秒
「ごっちんがどうしたの?」
「…へ? み、美貴ちゃん、ごっちんって…」
「後藤真希でしょ。一年の時1ヶ月だけバレー部だったよ確か。よっすぃーに連れられて来たんだけど、眠いからっていう理由で辞めた」
バレー部は、部員全員にあだ名をつける方針がある。
そういえばあさ美に後藤情報を教えてもらった時も、『今は部活はしてなかった』と言っていた気がする。
「…み、美貴ちゃん、まだその後藤さんと付き合いとかあんの…?」
「付き合いっていうか……まあ、廊下とかで会ったら、頭下げてくれるくらい?」
「…へ、へぇ」
「そのごっちんが、どうかしたの?」
「……え、いや、その、まあ」
349 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時50分19秒
美貴の後輩だったとは……しかし、この接点は活かせるかもしれない。
「……あの…ほら、この前新聞部からアンケート配られたやん?」
「………ああ、ランキングの投票のやつか」
嫌な思い出でもあるのか、一度間を開けてから美貴が言う。
その嫌な思い出に心当たりのある亜依は、わざと気付かないふり。
「うん。それで、あの、後藤さんが彼氏にしたい人ランキングで2位になってん」
「へえ〜」
「だから…昨日、取材行ってんけど……その、後藤さんって、そんなに寝るの好きなん?」
「へっ? いや、そ〜んな喋った事もないから分かんないけど……なんか、部活中に寝てた事はあるかな」
「…………そんな、睡眠大好きな後藤さんを、うちは、起こしてしまったんや」
「え、だって取材するんだから起こすでしょ」
「でもっ……」
部の先輩が言っていた事を、美貴にも同じように伝えてみる。
すると美貴は怖がるどころか、大笑いを。

「それであいぼん怯えてたわけ? あ〜おかしい。んなワケないじゃん」
「でもでもっ…」
「大丈夫だよ。放課後になっても寝てる方が悪いんだから」
「…………それはそうやけど…」
350 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時50分57秒
起こすだけ起こして、自分は怖くなって逃げてしまったんだ。
真希の立場になってみると、そんな行為はおせっかいかもしれないし、失礼だったかもしれない。
…先に逃げてしまった亜依は、起こしてくれて感謝している真希のことなんか、もちろん知らない。

「…あぁ、でもどうしよう」
「自分が悪いと思ってるなら、謝りに行けば?」
「……けど」
まだやっぱり、怖い。
でもここで諦めてしまったら、コメントも取れないし新聞部の名に傷がつくかもしれない。
それはなんとしても避けたかった。
「じゃあ行けばいいじゃん」
「……」
まるで人事……人事、なんだけど。
不満に思っていると、美貴は笑う。
「……分かったよ、ついてってあげるよ。…美貴、あいぼんよりほんの少しだけだけど、ごっちんの事知ってるしね」
「み、美貴ちゃ〜ん!」
持つべきものは、年上の友達だ。

「でも美貴ちゃん、あれやな。なんか、優しくなったな」
「……何それ。まるで前の美貴は優しくなかったみたいに…」
「ああ、いや、そうじゃなくてやね」
物凄い目で睨まれそうになったので、慌ててフォローをする。
Mの人には悪いが、亜依は、美貴に罵ってもらいたくなかった。
351 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時51分33秒
亜依が言いたかったのは、亜弥と仲良くなってから、美貴のとんがった印象が消えたというか。
とにかく、亜弥のおかげだと言いたかったのに、肝心の亜弥がさっきから一言も喋っていない事に気付いた。
「…亜弥ちゃん?」
いつもだったら2人の会話に絶対入ってくるのに。
美貴も気になって、亜弥の顔を覗いてみる。
「ぅおーい、どうしたぁ?」
覗いて見た顔は、珍しくご機嫌ななめ。

「…………あたし、ごっちんなんて人知らないもん」
「…ハァ? え、だってごっちんが1年の時は亜弥ちゃん中3なんだから知らないはずだよ。バレーも1ヶ月で辞めたんだし」
「でも、みきたんは知ってるじゃん」
「そりゃ、美貴は2年だったし…」
「あたしも、みきたんと一緒に放課後、あいぼんについてく!」
「ハッ、ハァ?」
「亜弥ちゃん、部活は?」
「……ある」
「だったら行きなよ」
「……だってぇ」
何を拗ねているんだこのお姫様はと、亜依と美貴、2人顔を見合わせる。
様子から察するに、亜弥の知らない美貴の人間関係に、嫉妬をしたみたいだ。
352 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時52分20秒
「…ごっちんとかって呼び捨てだしさ」
「いや、あだ名だから呼び捨てでしょ。…亜弥ちゃんだってよっすぃーって呼び捨てじゃん」
「……あれ、みきたん妬いてる?」
「ハァ?!」
「だってだって……」
「……心配しなくても、大丈夫だっつーの」
呆れたように呟いた言葉は、しっかりと亜弥の耳にも届く。
「…ホント?」
「っていうか、何を心配する必要あんの」
「…あたしの方が好き?」
「……焼肉には負けるけどね」
「えへへぇ」
「……ほんっと、単純だね」
――そういうとこ、可愛いんだけどね。
亜依には、言わなかったけれど美貴の表情がそう言っているように見えた。
そしてこんなノロケを近くで見てみると、より、羨ましい気持ちが出て来る。
353 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時52分57秒
「とにかく。亜弥ちゃんは部活、美貴とあいぼんは放課後、ごっちんのとこ行くってことで」
一応3人の中では年上ということで、美貴が話をまとめる。
亜弥も、渋々ながらもそれに頷く。
「あ、でもちょっと待って。もう1人一緒に行かなあかん子がおんねん」
その子がいないと、写真を撮る人がいない。
「じゃあ、その子と3人で」
「うん」
「2年のとこの階で待ってて」
「うん、美貴ちゃんありがとう」
「…いいよ、別に」
野暮ったそうに言いながらも、美貴の頬は赤かった。
そんな素直じゃない美貴を見て、亜依と亜弥は顔を見合わせて笑った。
354 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時53分32秒



355 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時54分46秒
そして、やってきた放課後。
トロトロのろまなあさ美を連れて2年生の階まで行くと、2人より先に美貴がいた。
「…遅いよ」
「ごめん!」
「す、すいません」
ここで機嫌を損ねられたらまずい。
すかさず、あさ美と一緒に謝る事にする。
「……べ、別にいいけど」
そんなに思いっきり頭を下げられると、美貴だって居心地が悪い。
それに、遅いと言いつつ、実は先程、担任の長いHRが終わってやって来たばかりだったのだ。
素直に頭を下げてくれた2人に少し罪悪感を感じながら、小さい2人に合わせて、ゆっくり歩く事にする。

「っていうか、その子は?」
亜依の横にゆっくりとしたペースで歩いている女の子。
「あぁ、同じ新聞部の子やねん」
「紺野あさ美です。宜しくお願いします」
キチンとした敬語。
年下にあまり知り合いのいない美貴には、部活を完全に辞めてからその敬語は久しぶりに聞いたような気がした。
亜弥と亜依も以前は使ってくれていたけど、今はもうくだけて、普通になっている。
……と、そんな美貴の耳に、また敬語が。
356 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時55分28秒
「あれ〜? 藤本先輩、どうしたんですか?」
「……あ、よっすぃー」
部活を辞めてから、初めて会った吉澤ひとみだ。
当然ここは校舎なので、ミキティではなく、藤本先輩と呼んでいる。

2年の教室なんだから2年のひとみがいるのは何の問題もないし、おかしくもない。
おかしいのは、2年の教室にいる、3年の美貴と、1年生の亜依とあさ美の方だ。
「おっ、あいぼんもいるじゃ〜ん」
「わぁっ、髪触らんといて!」
亜弥に会う為バレー部に遊びに行ったりして、顔見知りの亜依とひとみ。
たまにこうして会うと、必ずひとみは結ったお団子や髪を触ってくる。
「あはは。どうしたの、あいぼんがいるってことは、取材かなんか?」
亜依をからかうのをやめて、優しく訊ねてみる。
357 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時55分58秒
「でも、ウチの所には昨日来たよ?」
部長と副部長が。
「うちは、よっすぃー担当とちゃうもん。違う人や」
部長と副部長に押し付けられた人。
「誰々?」
「…………後藤さん」
「…あ〜、ごっちんかぁ。何のランキング?」
「彼氏にしたい人第2位…」
「へぇ〜」
そして1位は、今この目の前にいる人。
同じクラスで1位と2位を占めている。

「で、今からインタビューしに行くの?」
「…うん」
「でもまだ、ごっちん寝てるんじゃないかなぁ。
昨日徹夜でゲームしてたらしくて、ウチがめっちゃ起こしても起きなかったんだよ、さっき」
「えっ」
「ちょーどいいや。あのままほっといたらいつ起きるか分かんないし、起こしてあげてよ」
「な、なんでーや! よっすぃーが起こしてあげてぇや! 怖いし!!」
「起こしたいけど…起きないんだもん。それに、無理だよ。もう部活行かなきゃいけないから。藤本先輩、さようなら」
「ばいばい。頑張ってねー」
「はい!」
「あっ……!」
――逃げられた。
結局、自分が起こさないといけないのかと思うと、また怖くなってくる。
でも、そうだ、忘れていた。
今日は心強い、美貴という味方がいたことを。
358 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時56分36秒
「美貴ちゃぁん…頼むわ…」
うちの代わりに起こして……言わなくても、亜依が言いたい事は、分かった。
「いいけどさ、起こすだけだよ? 謝罪と取材は自分でしてよ?」
「ありがとー」
亜弥がその場にいなかったのを幸いに、美貴に抱きついてみる。
「や、やめてってば」
「えっへへ」
照れてぶっきらぼうになる美貴が、とても可笑しい。
毎日毎日亜弥が抱きついて、からかうわけだ。
……もちろん、抱きつく理由にはからかうのも入っているけど、亜弥の場合はマジが90%含まれてる。
「じゃ、行こか〜」
いつまでも抱きついてるとこを亜弥に発見されたら後が怖いので、離れる。
そうして、やってくる2年C組の教室。
359 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時57分08秒
そっと覗いてみる。
中は、掃除中だった。
……なのに、机を後ろに寄せて掃除しているど真ん中に、動かない机が一台。
後ろに運ばれず、定位置でドカンと構えてる。
どうして、一緒に机を後ろに運ばないのか。
だってそこで、人が寝てるから。

「…なぁあさ美ちゃん、また後藤さん寝てるで…」
「クラスメイトの人達も起こしませんね…」
怖いのか、起こしても無駄だと思っているのか、寝ている後藤をうまく避けて床掃除をしている。
その間も後藤は一度も身体を揺らす事もなく、机に突っ伏したまま。
その様子に耐え切れなくなったのか、黙って見ていた美貴が近くで掃除をしていた生徒に声をかける。
「ねぇ、彼女、起こさないの?」
彼女とは真希のことだ。
いちいち誰と言わなくても、起こさないの?という質問に該当する生徒は、真希しかいない。
360 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時57分38秒
「…え、あ、いや…最初の頃は何度も起こしてたんですけど、なかなか起きなくて…」
タイの色を見て上級生と察したのか、声をかけられた生徒は言葉が固くなる。
「ふーん」
「お、起こしましょうか?」
「…いいよ、起こすの怖いんでしょ?」
「……………」
いくら起きるのが遅くたって、邪魔なら本気で起こすはずだ。
それをしないということは恐らく、怖いんだろう。
図星だったようで、生徒は言葉を出さない。
「今日は美貴が起こすから。掃除の途中みたいだけど入るね」
「は、はぁ…」
断わって、ズカズカと教室に入る美貴。
「う、うちらもいこか」
「そうですね」
その美貴の後ろに、ひょこひょことついてく1年生組。
361 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時58分13秒
「ごっちん」
「………」
「ごっちん!」
ゆさゆさ。
…なるほど、徹夜でゲームしていただけあって、しぶとい。
「み、美貴ちゃん、頑張って」
「藤本先輩、頑張ってください」
背後から、ふぁいとふぁいとと応援する後輩達。
掃除をしていたC組の生徒も、その光景を見守っている。
「…………」
応援されているのなら、頑張らなければいけない。
それに応えてやらなくては、と、美貴は今日一番大きい声を出してみた。

「……スゥ…………ごぉっちぃぃん!!!!!」
「――んぁっ!?」
「っが!!!」

……が、どうやら、大きな声を出しすぎたらしい。
その大きな声にさすがの真希もびっくりしたのか、机に突っ伏していた顔をいきなりあげる。
――それがいけなかった。
真希に声がより届くように真上に持ってきていた美貴の顔が、真希の後頭部と衝突してしまったのだ。
362 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時58分52秒
「………あれ」
後頭部に、少し痛い感覚。
後ろを手でさすって辺りを見渡してみると、蹲ってる人。
「みっ、美貴ちゃあん!」
「…加護さん、ダメです。身体をむやみに揺らしちゃ…」
おでこを押さえて蹲っていた美貴を抱え直す。
手を払って見ると、美貴の意外と広いオデコは赤く赤く染まっていた。
「…くっ………な、なんで美貴がこんなことにっ…」
「美貴ちゃん、喋るな、喋ったらあかん」
「喋らせてよ! っていうか、人が今にも死にそうな言い方しないで!」
半泣きな美貴。
痛くて今にも涙が溢れそうになってる目を、キッと寝起きの真希へと向ける。
363 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時59分24秒
「…あれ。どうも先輩…」
「どうもじゃないよ! すっごく痛いよ!!!」
「……っていうか、なんでここに…?」
「……………」
結局自分は、ぶつかり損。
真希に文句を言おうとしても、亜弥と同様で通用しそうにない。
諦めて、オデコを押さえながら横にいた2人を紹介する。
「……この子らが用あるんだって」
「…?」
「あ、ど、どうも」
「昨日は、本当に申し訳ないことを……」
「…あ〜、昨日、起こしてくれた子じゃん。ありがとぉ」
「「へっ?」」
「…あれ、違ったっけ」
寝起きの真希の記憶では、お団子頭とぷくぷくほっぺの2人組。
今目の前にいる2人は、その記憶にぴったりと該当していた。
364 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)07時59分54秒
「い、いや、確かに起こしましたけど、その後逃げちゃって…」
「なんで? 誰かに追われてたの?」
「追われてたというか、後藤さんがこわ――」
「わぁー! い、いやっ、追われてたんですよ、そう! 追いかけっこしてて!
で、逃げまわってたのはいいんですが、教室にまだ寝てる人がおったから起こしてあげたんですよぉっ!!!」
「ふがふが」
嘘の理由をペラペラと喋る亜依に、口を抑えつけられて喋れないあさ美。
美貴は何やってんだコイツら、的な視線で額を押さえながら見ている。

「あさ美ちゃんのアホっ。ここで後藤さんが怖かったから逃げたとか言うたら、うちらめっちゃ失礼やんけ!」
「それはそうですけど、実際、そんな失礼な事したわけですし」
「いーから、それはもう忘れろ!」
真希は、自分を起こした後突然逃げた2人の事を怒っていたどころか、起こしてくれて感謝していると言った。
とにかく、真希が自分達にいい印象を持ってくれているみたいなのは分かった。
だったらそのいい印象を崩さないように、話を合わせた方が取材もやりやすい。
365 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)08時00分31秒
「…ねぇ」
コソコソと話し合いをするのはいいけれど、存在を忘れられてる気がする。
そう思った真希は、背中向けて話している2人に声をかける。
すると、一瞬肩をビクンと震わせた後、引きつった笑いで亜依が向く。
「は、はいっ! なんでしょう!」
「話って、何なの?」
「…えっ」
「だってさっき、先輩が話あるって…」
「あ、あぁ。そのですね、あの、その、えと、んと」
「あいぼん、さっきから言葉が進んでないよ」
「わ、わかってんねん!」
おもしろがって言う美貴に、ムキになって返す。
だがこのままだとなかなか進まないと感じたのは美貴だけじゃなかったらしい。
「ええと、後藤さんが新聞部アンケートの、彼氏にしたい人ランキングで2位になったんです」
亜依の代わりに、あさ美が戸惑いもなく言った。
366 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)08時01分10秒
言い出せない亜依とはっきりと言い出せるあさ美。
なかなかいいコンビなのは分かったが、大事なのは取材対象の反応だ。
恐る恐る見てみると、あまり…というか、全然嬉しそうな顔じゃない。

「…あの、後藤さん」
「………めんどくさい」
「え」
「なんか色々答えなきゃダメなんでしょ? めんどくさい」
「でもあの…みんな、後藤さんに投票してくれたワケですし」
「でも実際、あたしは投票してくれた人の彼氏になんかなれないよ」
「それは、そうなんですけど…」
そう言われると、来た意味がなくなるというか。
先輩達に頼まれた事が出来なくなるというか。
真希の言う事も分かる。分かるけど、新聞部としては協力してほしい。

去年は多分、ここで諦めたんだろう。
でも、今年はすごいぞ、21世紀。いや、去年も21世紀だったけれど。
今年は、自分がいるんだ、ここで諦めるわけにはいかない。
諦めず最後の最後まで押して押して押し捲って成功した人の例が、亜依の友達なんだから。
自分だって諦めるわけにはいかない。
367 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)08時01分47秒
「後藤さん」
「何?」
「うち、後藤さんを起こしてあげましたよね」
「う、うん…」
「じゃあ、起こしてもらったお礼として、うちの言う事聞いてくださいよ」
「はぁっ?」
「お願いします!!! 取材、させてください!!!!!」

――土下座。
……見よ、これぞ、新聞部魂。

「か、加護さ…」
「ほらっ、あさ美ちゃんも一緒に!」
「えっ!?」
無理やり手を引っ張られて、同じように土下座の格好にされる。
みんなの注目の的だ。
368 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)08時02分23秒
「ちょ、ちょっと…」
「後藤さんが『いいよ』って言ってくれるまで、この頭はあげません!!!」
「…お、同じく…私もあげません…」
「いやっ…っていうか…」
まったく動じなさそうな後藤でも、さすがに困惑している様子。
まさか、ここまでするとは思わなかった。
困り果てていた所に、声。
「ごっちん、どうするよ」
「……先輩…」
1ヶ月だけ先輩だった美貴の顔は、とっても楽しそうに笑っている。
クラスメイトを見てみるも、助けてくれそうな人もいない。
真希の味方は、どうやらここにはいなかったようだ。
369 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)08時02分59秒
「……分かったよ。起こしてもらったお礼として、取材、うけるから…」
「やったぁ〜!!!」
「……よ、よかったです…」
ここまでやった事が報われてよかった。
亜依とあさ美はホッと胸を撫で下ろす。
「…あぁ、そうだ。名前は?」
「い、1年B組、加護亜依です! よければ、あいぼんって呼んでください!」
「私は、1年D組の紺野あさ美です。よろしければビューティーとでも…」
「分かった、あいぼんと紺野ね」
「はいっ!」
「…あの、私のあだ名は……」
ブツブツと訴えるあさ美は無視。
亜依は喜びのため、ひたすら笑顔。
その笑顔につられたかのように、後藤が笑った。
370 名前:―噂と真実― 投稿日:2003年08月24日(日)08時03分42秒
「…負けたよ、あいぼんの新聞部にかける情熱には」
「あ………れ…ぇ?」
「んぁ? どしたの?」
「あ、いや、なんでもないです…」


……なんやねん。後藤さん、全然怖くないやん。


噂と全然違う可愛い笑顔に、亜依は、自分が間違っていた事を知った。


371 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月24日(日)08時04分15秒


372 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月24日(日)08時04分45秒


373 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月24日(日)08時05分26秒
更新です。

>>340
フィクションですので、すいません…。

>>341
拍手ありがとうございます(w
ナンバーワンシリーズは色んなお遊びが入れれて、すごく楽しいです。
ランキングは、言ってないだけで探るともっとすごいランキングがありそうです(w
学校側にそんなつもりなくても、入ってくる生徒は特殊なひとばかりで、先生が一番大変みたいです(w

>>342
こんののはあるのに、あいぼんさんと紺野さんの2人がないよなぁと常々思っておりました。
わざわざ読者さんにまで突っ込ませてしまうコンビで申し訳ない(w
学園モノを書くのが一番好きなので、そう言われると……調子に乗ってしまいそうです(w

>>343
ありがとうございます・゚・(ノД`)・゚・
終わりは…このまま毎日更新できれば、8月いっぱいで終われるかなと思っております。
でもとりあえず、今の所は終われません(w

>>344
本当ありがとうございます。
これからもあいぼんさんメインに進んでいくのですが、あやみきももちろん出てきますので、よろしくお願いします。
374 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月24日(日)19時54分03秒
初めまして。
ずっとROMってたんですが今日思い切ってカキコしちゃいます。
作者さん面白過ぎです(*´д`*)
今まで自分の好きなCP(小高・小紺・保石など)しか読まなかったんですが、
コレ見たらみきあやに嵌っちまいましたよ!
なので、ナンバーワンはもちろんの事、お嬢様、magic of loveも
スッゴイ良かったです。
これからも応援してますんで、がんばってください。
375 名前:334 投稿日:2003年08月25日(月)00時03分50秒
連日の大量更新お疲れ様です。
そして御馳走様です(w
ホント、作者さんが書かれる萌えどころも小ボケも、1ミリも外さずに自分のツボを突いて来ます。
藤本さんが入りボケの嵐も一先ず落ち着くと思いきや、見事なミラクルを起こす藤本さん、それに被せてくる加護さん、素敵です。
そして後藤・加護・紺野という奇跡的なトライアングル!!ある意味「Magic of love」の松浦・紺野・小川ラインよりも期待できる!
どんなファンタジックなプレーを見せてくれるんだ!!続きが楽しみすぎる!!
376 名前:JOJO 投稿日:2003年08月25日(月)01時38分04秒
知らぬ間に更新されていたとは!!
くそ…迂闊だった(鬱
一旦終わった小説の後日談って結構ワクワクしますよね
自分は物語が一本漫画だったり小説だったりが終わると
頭の中でその後どうなったかという考えだけで一週間過ごせるようになってしまい
それが現在の妄想力につながったりして(w
次回更新「No.1――ナンバー☆ワン」を読み返しつつ楽しみに待ってます
377 名前:恋愛ってなあに?―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時24分05秒
そうして、翌日。
しっかりとインタビューを取れた2人は、早速部室へ行って、先輩達に報告する。

「え〜!? こ、コメント取れたのっ!?」
「すごいっ、マジすごいあいぼん!!!」
「ふふん。うちをナメてもらったら困りますよ」
「あいぼん大好き!!!」
「これで、今年は抗議が来ることもないね…」
部長と副部長は、もう泣きそうな勢いだ。
「写真はっ?」
「完璧です!」
ちょうど真希が笑った瞬間に、パチリと一枚撮らせてもらった。
亜依に優しく微笑んでいるその顔は、あさ美会心の作で。
「すごいすごい! 紺野もすごいよ!」
「…ありがとうございます」
「でも、どうやってあの後藤さんを説得したのさ」
「ふっふん。内緒です」
……当たり前だ。
土下座して説得したなんて、格好悪くて言えそうにない。
「いやいや、ホント、あいぼんと紺野が新聞部でよかったよ」
「ウチら、最高の後輩持ったね!」
「ね!」
やったやったーと無邪気に喜ぶ先輩達。
そんな先輩達を見てたら、この仕事を引き受けてよかったなとさえ思える。
378 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時24分49秒
「…あ、でも、そうだ。松浦さんと藤本さんの取材はどうだった?」
「そうや、忘れてた」
「じゃあ、なるべく早くお願いするよ〜」
「はぁい。明日の昼休みにでも、亜弥ちゃんの取材してきます。あさ美ちゃん、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
放課後は亜弥が部活の為、取材をする事が出来ない。
昼休みは亜弥といつも一緒にいるし、その時にでも撮ればいい。
亜弥の場合は、絶対に引き受けてくれる自信があった。
「美貴ちゃんは、もうちょっと待ってくださいね…」
「うん、いいよ〜」
先輩にOKをもらってホッとする。
美貴に思い切り睨まれるのには、まだ少し心の準備が必要だった。
379 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時25分23秒



380 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時26分28秒
「よぉーし、次、ここで!」

………次の日の昼休み、亜依とあさ美、そして亜弥は、なぜか中庭にいた。
取材はとっくに終わっているのに。
今は何をしているかというと、――撮影会。

「あ、亜弥ちゃん、写真は一枚だけでいいねん…」
「え〜。でもほら、いっぱい映してそこから一番いいの選んだ方がいいでしょ?」
「…だからって、そんな、わざわざ1回撮るのにポーズ変えんでも…」
「ダメダメ」
自分大好きカメラ大好きの亜弥。
亜依だけでなく、あさ美もさすがに疲れ果てている。
「紺ちゃん、ほら、今度こっちにしようよぉ」
「……………」
教室で5枚、食堂で3枚、廊下で3枚、グラウンドで4枚、中庭で…5枚目。
連れ回される方の身にもなってほしい。
381 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時27分01秒
「亜弥ちゃん、次で最後やで!」
「じゃあとっておきのポーズで」
「……じゃあ、いきますよ」
ポーズをしっかりとキメて、カシャリ。

まだ撮り足りなさそうな亜弥を置いて、仕事をやり切った亜依とあさ美。
おかげで、昼休みは全部潰れてしまった。
「…あさ美ちゃん、お疲れさん…」
「加護さんもお疲れ様です…」
「ちょ、ちょっとちょっと、普通、あたしに言わない?」
取材に協力してくれた人に労いの言葉。
そう、それが普通なんだけど、残念だが亜弥は普通とは違うのだ。
382 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時27分36秒
「もぉ、2人共体力ないなぁ」
「体力とかっていう問題ちゃうでっ。精神的にゾッとくるわ、美貴ちゃんも大変やろうな…」
「……あいぼん、何気にあたしにひどいこと…」
「亜弥ちゃんとの交友歴は長いからこそ言えるセリフやで」
「むぅ〜」
「……いやぁ、亜弥ちゃんは拗ねても可愛いなぁ」
「えへへぇ、やっぱりぃ?」
交友歴が長いからこそ、亜弥の機嫌を治すのもお手のもの。
亜弥の扱いは、まだまだ美貴には負けるつもりはない。

……そうだ。美貴と、いえば。忘れていた。
383 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時28分08秒
「あ、亜弥ちゃんさ、部活ない日とかってある?」
「部活ない日? 今週の金曜はないけど…」
「じゃあそん時、美貴ちゃんの取材に付き合ってくれへん?」
「みきたんの取材ぃ?」
何の何の、と聞いてくる亜弥。
“自称”みきたんの彼女の亜弥には、非常に言い辛いランキング。
困っていた亜依を横目に、あさ美はコピーした全ランキングのトップ3を掲載した紙を亜弥に見せる。
「どれどれ………罵ってもらいたい人ランキング一位、藤本美貴…」
「ちなみに、ダントツで一位でした」
「あほ! 余計なことはあさ美ちゃんも言わんでいいねん! しかもなんで紙見せるんやぁ」
「だって」
何のランキングって聞くから。
素直に、見せたのに。
意味不明なこのランキングを見て亜弥が怒りそうで、亜依は怖い。
384 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時28分38秒
しかし。
亜依は忘れていた。

「ああこのランキングか。あたしも投票したよ? みきたんに」
「――ハァ?」

彼女は、他の人と違うということ。
思わず、突っ込みが美貴の真似になってしまう。
385 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時29分21秒
「すごいね。みきたんもやっぱり人気あるんだぁ」
「人気って言っても、Mの人にですけど…」
「じゃあじゃあ、あたしってその人達に恨まれてたりするのかなっ? 画鋲入れられたりとか!」
「なんでそんな嬉しそうやねん…」
「えー、だってぇ」
にこにこと、本当に楽しそうに。
「じゃあじゃあ、みきたんもあたしに投票してくれた人に嫌がらせされてたりとか!」
「…それは、多分ないと思う」
「私も、同意です」
「…なんで?」
だって。
罵ってもらいたい人ランキング一位の人に嫌がらせなんて、怖いでしょう。
罵られるどころか、鞭で叩かれそうだ。
過去に亜弥をもビビらせた、得意の冷たい睨みを受けると、もう、普通の人なら何も出来ない。
「でもねでもねぇ、みきたん意外とへたれなんだよ。それがまた可愛いの」
「…はいはい」
いつのまにか、のろけ話。
耳にタコが出来すぎる程聞いてる亜依は激しくうんざり。
386 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時30分26秒
「とにかく、金曜日お願いします……」
「いいけどさぁ。なんであたしまで? いや、付いて行くの許可してくれて、嬉しいけどさぁ」
「………だって。なぁ…あさ美ちゃん」
言い難い事は、なるべくあさ美に。
美貴とはそんなに親しくないあさ美は、亜依の代わりにスラスラと言ってくれる。うんいいコンビ。

「去年、一昨年と、藤本先輩の取材には、新聞部の先輩達、失敗してるんです。
取材には行くんですけど、ランキングがランキングなんで……藤本先輩、怒ったりして請け負ってくれないんですよね」
「えー。なんでだろぉ。一位になったら嬉しいのにね」
「…それは、ランキングの項目によるやろ」
少なくとも亜依は、三位に入ったことは何1つ嬉しくない。
だから、不本意なランキング一位の美貴の気持ちも分かる。
しかし亜依は新聞部。
気持ちは分かるが……新聞部の方が、大事だ。
1つでも、投票してくれた生徒達の期待にこたえられるような記事を書きたい。
…写真の方は…「頼むで」と言わなくても、美貴がバッチリ決めてくれるだろう。
387 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時31分07秒
「ようするに、あたしが2人とみきたんとの間に入って橋渡しすればいいわけだ」
「うん。亜弥ちゃんおったら、美貴ちゃんもあんまり怒らんかなぁって」
「えっへーん、任せて!」
「力強いお言葉、ありがとうございます」
美貴のことなら亜弥にお任せ。
しかもタダで働いてくれるなら、言うことはない。
昼休み亜弥に付き合わされたのは、重労働だったけれど。

写真も撮ったし、美貴の取材に付き合ってくれると約束も出来たし。
もうすぐ、昼休み終わるし。
さあ帰ろう、と中庭から校舎へと移動しようと向きを変えた時だ。
388 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時31分41秒
「…あ、後藤さんだ」
「?」
あさ美がボソッと呟いたのが聞こえ、あさ美の指差す方向に目を向けてみる。
そこには確かに真希と、見覚えのある……同じ1年生の姿。
少し外れた所に立って、1年生の子が何かを言っているのが見える。
「んっ? 何々、どしたの?」
「…あ、そっか。亜弥ちゃん後藤さんの顔知らんかったっけ」
「あの、髪長い方が後藤さんって人?」
「うん」
ふーん、としばらく見て、視線をキョロキョロと違う所に戻す。
おそらく、あっさり真希への興味をすぐになくした亜弥は、美貴にでもばったり逢わないかと探しているんだろう。
389 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時32分11秒
美貴に逢わなくても、真希とばったり逢ってしまった亜依は、しばらくその様子を陰から眺める。
隣には、あさ美も一緒だ。
「何してんねんやろ」
「……告白、とかじゃないですか?」
「えっ、マジで!?」
人の告白現場なんか見るの初めて。
かぁっと赤くなる頬を手で押さえる。
「…別に、加護さんが告白されたりしてるわけじゃないんですから…」
「で、ででもっ、人の告白シーン覗くのって、やばくない?」
「あ、でも、もう終わりますよ」
「……」
見てみると、どうしてか泣いてるような1年生。
真希はそんな後輩を、ただぼーっと見送るだけ。
1年生は泣きながら走って何処かへ行ってしまった。

「あの子、フラれちゃったんだぁ」
「わっ」

亜依の背後からそんな声。
振り向いてみると、亜弥。
美貴探しは諦めたんだろうか。いつから見ていたことやら。
「…でも、何も泣かさんでも……」
純情な乙女の心を。
「うち、ちょっと文句言ってくる!!!」
「はぁっ? ちょっと、あいぼん!?」
「………あ」
引き止める声と呆然とする声に目もくれず、亜依は真希の元へと走った。
390 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時32分52秒
「ご、後藤さん!!!」
「…あっ、あいぼん」
さっきの子と違い、見知った1年生の顔に少しだけ頬が緩む真希。
しかし反対に亜依の表情はというと、微妙に怖い。
「何、どうしたの。もうすぐ昼休み終わるよ?」
「そんなことは知ってます…って、ていうか、後藤さんこそ、こんなとこで何してたんですか」
「あたし? あたしは………んと、コクられてた?」
「っ…」
悪びれもなく普通に言う真希に、頭に来てしまう。
思い切って告白したんだろう同じ1年生が、泣いて去ってったというのに。

「泣いてたじゃないですか」
「は?」
「さっきの子……」
「…なんだ。見てたの」
「なんで、泣かすんですか」
「だって、泣いたんだもん」
「っ」
だから、泣かしたのは誰やねん。
言葉を続ける前に、真希が。
「好きっていうから、あたしは好きじゃないって。何度も言うから、何度もそう言っただけ。じゃあ泣いた」
「なっ……」
「しつこいんだもん」
「そっ、そんなん…」
そりゃ、泣くよ。
絶対、泣く。
391 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時33分22秒
「もうちょっと、断わり方とか考えてあげればよかったんじゃないんですかっ?」
「どうせ断わるのに?」
「それはっ、そうやけど…」
「……変に優しくする方が期待してしまうこともあるから、やめた方がいいんだ」
「…………」
「だから、言ったの」
泣かせてしまったのは、そりゃ、少しは悪いと思ってはいるけれど。
泣いて諦めがつくなら、いっそ、それはそれで構わない。
「じゃ、じゃあ…」
「?」
「後藤さんがあの子の立場やったら、どうするんですか」
「はっきり言ってほしい」
「好きじゃない、って?」
「うん」
「…………ふぅん」
「優しくされるより、突き放してくれた方が、いい」
「…?」

今、なんか。
一瞬。
顔、泣きそうになった。
392 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時34分02秒
「…後藤さん?」
「ん?」
「……や、…」
見間違いかな。
うん、きっとそう。
いつも無表情な後藤真希が、そんな顔するはずがない。
「別にいいけど、授業始まるよ?」
「へっ? あーっ、そうや!」
あたふたと慌ててみるものの状況は変わらない。

「あいぼんっ、早く早くぅ!」
「あ、待ってぇや亜弥ちゃん、あさ美ちゃん!」
少し離れたところから手招きしている亜弥とあさ美。
慌てて2人の元へと走って行くんだけど、後ろからついてくる気配がなくて、途中で止まる。
「後藤さんっ、後藤さんも早く! 授業遅刻しますよ?」
「んぁ…いいのあたしは。どうせ、戻っても何もおもしろいことないし」
「や、おもしろいとか…」
一応勉強するためにある授業だし。
「よっすぃーとかもおるんですから、全然おもしろくないとかはないでしょ、でも」
「………そーだねー」
「???」
393 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時34分36秒
曖昧に笑ったような笑顔。
なんか、気になる。
でも今一番気になることは、時間。

今度授業遅刻すると、罰として1週間トイレ掃除というのがついている。
それだけは絶対に避けたい。
「じゃ、じゃあお先に!」
「ん。ばいばーい」

394 名前:―後藤さんの謎― 投稿日:2003年08月25日(月)19時35分09秒


それから、走りながら時々後ろを振り向いてみたけれど、真希がやって来る気配はなかった。



395 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月25日(月)19時35分40秒


396 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月25日(月)19時36分14秒


397 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月25日(月)19時36分50秒
更新でつ。

>>374
カキコ、ありがとうございます。嬉しいです。
どういう経緯で自分の作品を読んでくださったのかは分かりませんが、
みきあやに嵌ってくれて、これまた嬉しいです(w
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

>>375
恋愛ってなあに?は、一回の更新量が多い事に最近気付きました。結構疲れます(w
334さんとは、趣味が合うのでしょうか?(w  ツボが一緒で嬉しいです。
ボケばっかりな話で、大変です。
続き、おまたせしました。

>>376
一旦終わった話の続編を書くのは難しいのでどうかなと思ってたんですが、
本当に松浦さんと藤本さんの2人だけの話だったので、それ以外の人のも書く事にしました。
べ、別に、あいぼんさんびいきでは…(アセアセ
この話が終わった時、また、その後どうなったか妄想してくれると、嬉しいです(w
398 名前:344 投稿日:2003年08月25日(月)20時17分13秒
おお! 意外な展開!
いやあ、毎回毎回良い意味で私の期待を裏切ってくれます。
この後の展開を妄想しつつ、次回更新を楽しみにしております!
399 名前:JOJO 投稿日:2003年08月26日(火)00時29分31秒
相変わらず更新早いですね^^
それに展開が読めなくてすごく(・∀・)イイ!
こういう展開凄く好きです
それにしても藤本さんの取材って考えるだけでも恐ろしい…
下手なことしたらボコボコにされそうな感じがしますよ
そんな人に果敢に挑むあいぼんはとてもつおい精神力の持ち主だなぁと思いました
松浦さん(おでんではナイ)ももっとがんばれ!!
次回を楽しみに待ってます
400 名前:334 投稿日:2003年08月26日(火)01時53分10秒
なぜこれだけの量をこんなペースで書けるんだ!羨ましさを通り越して悔しくなってくる(w
しかし、松浦さん・紺野さん・あいぼんさんのラインもいいなー。でも前回の藤本さん・紺野さん・あいぼんさんのラインも素晴らしかった…。
結局の所、あいぼんさん・紺野さんがいたらそれだけで夢が見れる(w
あいこん(紺野さん×あいぼんさん)は本当に素晴らしいですね。この組み合わせを考え付いた作者さんに心から感謝したいです。

そして、後藤さんの過去も楽しみです。そもそもこの話はあいこんでなく(ry
出ている話は違うけど、罵ってもらいたい人ランキングに絶対まめおシスターズも投票しているはず(w
401 名前:恋愛ってなあに?―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時23分58秒
「……はぁ」
「んー? どーしたのあいぼん。くっらいねぇ」
珍しく机に頬杖ついて溜息ついてると、少し上から能天気な女の子、亜弥の声。
そりゃ、亜弥に比べたら誰だって暗い。
「亜弥ちゃんはいつも元気ですね、元気すぎるほどに」
「そりゃーもう!…理由聞きたい?」
「…」
「ねぇ。聞きたい? 聞きたいっ?」
「…うん」
「それはぁ、みきたんに恋をしてるから」
「あーそー」
「あいぼん冷たいぃ〜!」
頬杖ついてる亜依の身体をぐらぐら揺らす。
揺らされて支えを失った首は、ガクガク前後に。
ちょっとどころか、かなり痛い。
402 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時24分32秒
「…ねぇ、どうしたのさぁ、一体」
「……んぅ?」
「元気ないあいぼん、やだよ」
「別に、元気なくないよ、ただ、ちょっと考え事してただけ」
亜弥なりに励まそうとしているんだと言う事を知り、少しだけ笑顔を作る。
元気がなくなったつもりはなかったんだけど、誰だって考え事をしている時は元気がなくなってるように見えるものだ。
「考え事って何? みきたんのこと?」
「アホかっ。なんでうちが美貴ちゃんのこと考えなあかんねん!」
「…よかったぁ。あいぼんとライバルになるの、やだもんね」
「……ほんま、絶対亜弥ちゃんとライバルになりたくないわ」
亜弥の強引さと執念深さを誰よりも知ってるのは自分だし。
敵に回したら一番怖いということを知ってるのも、自分だ。
ライバルじゃなくて友達になれてよかったとさえ思う。

「うちが考えてたのはぁ、後藤さんのこと!」
「後藤さん? あいぼん、後藤さんのこと好きなの?」
「バッ…! なんでっ、なんでそーなんねん!!!」
「えぇ? だってぇ」
「違う! 昨日会った時、なんか…気になったから…」
「ふぅん?」
403 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時25分15秒
告白した相手に対して冷たい態度。
どうしてか泣きそうな顔。

「ふーん。そんなことあったんだ」
「うん…」
「でもあたしは別に気になんないけどなぁ」
「…亜弥ちゃんが気になるのは、自分と、美貴ちゃんのことだけやろ?」
「いやいや、あいぼんのことも気になるってぇ」
「人の髪見ながら言うのやめてくれる?」
「…あは」
「………」
だから、薄くないって。
だから、やばくないって言ってるのに。
そうやって気にするから、余計抜け易くなるんじゃないか……って。
「話が髪の方にいってるやん! 違うねん、あたしは…っ」
「あー、そだね。後藤さんだよね」
「そ、そうやん」
「あいぼんは何がそんな気になるわけ?」
「えー…?」
だから、その。
なんていうか。
404 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時25分46秒
少なくとも、あの時、亜依が感じた事は、真希には誰か他に好きな人がいるのかな、って。
その好きな人は、とってもやさしくて。
真希としては、はっきりしてほしいんじゃないかって。

「でもな、その話が仮定じゃなくてホンマやとしたらやで?
彼女にしたいランキングでも上位で、彼氏にしたいランキングTOP3に入ってる人の想い人って、どんな人なんやろ?」
「…まさか――」
「美貴ちゃんじゃ、ないと思うけど…」
「だ、だよねぇっ」
「……あんた、そればっかかい」
「えへへぇ」
「褒めてないから」
「だぁってぇ〜。みきたん可愛いもん、モテるもん」
「彼女にしたい人ランキング一位の亜弥ちゃんが何言うてんの」
「やっ、もちろんあたし可愛いしモテるけどさ」
「…ちょっとは否定するか、謙遜くらいしぃな…」
話はいつからか、真希から美貴へ。
その話についていって時々突っ込みながらも、亜依の頭の中は、まだ、真希で止まっていた。
405 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時26分17秒



406 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時28分06秒
放課後、部室へと行くと、あさ美が1人。
聞くところによると、みんな残っている取材に出かけたという。
美貴の取材を後日に控えている亜依とあさ美は、2人で部室に居残り。
「…暇やね」
「そうですね、珍しく」
「……なんか、スクープ探しに行く?」
「うーん」
あんまり乗り気じゃないらしいあさ美。
亜依も特に乗り気じゃなく、間を持たせる為に言っただけなので無理強いはしない。

「…なぁ、あさ美ちゃん」
「はい?」
「あさ美ちゃんって、後藤さんのこと詳しい?」
「え? 後藤さん…ですか。まだ取材しなきゃいけないこと残ってました?」
「いや、そうじゃないけど…」
気になるんだ、なんか。
あんな泣きそうな顔、見ちゃうと。
あの真希にああいう顔させる相手、とっても気になる。
407 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時28分37秒
「後藤さんてさ、ほら、人気あるやん?」
「…まぁ、そうですねぇ」
それはもう、データが証明済み。
「今まで、誰かと噂になったこととか、なかったんかな」
「う、うーん…」
亜依だけでなくあさ美もノーマークだった真希の情報はないに等しい。
だからといって取材出来る内容でもない。
聞ける雰囲気じゃないことは分かっているから、亜依もこうしてあさ美に聞いているのだ。
「残念ながら私にはちょっと…」
「…そっか」
408 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時29分12秒
適当に礼を言って、今日はもう帰ろうと席を立つ。
その時に何かを思い出したように、あさ美が。
「吉澤先輩に聞いたらどうですか? そんなに気になるなら」
「…あ」
「友達…じゃ、なかったんですっけ」
「うん」
吉澤は優しいから。
何となしに聞いたら、教えてくれるかも。

「じゃあ…そうしよかな」
「はぁ。……あはは」
「な、なんやねん、いきなり笑って」
「あ、いや。………ランキング用に撮った写真、焼き増ししましょうか?」

その写真は、すごくいい出来で。
亜依に向けて笑った顔。
あさ美渾身の作。
その写真を一枚、何やら真希が気になっている様子の亜依に、プレゼントとして。

「い、いっ、いらんわボケぇ!」
「……うわぁ、ひどい」
409 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時29分46秒
なのに、せっかくの親切心を汚い言葉吐いて打ち砕く亜依。
そのまま、赤い顔のまま、出て行ってしまった。

「…あはは」

そんな亜依がむしょうに可愛くて面白くて、あさ美はしばらく1人で小さく笑っていた。

410 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時30分23秒



411 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時31分02秒
「…よっすぃーは……っと。練習中か」
こっそり体育館を覗くと、中はキュキュというシューズの音と鈍いボールの音。
その中にはいつも可愛い笑顔の亜弥も真剣な顔してコーチのスパイクを受けている。
「ひょえ〜……」
体育会系って、すごい。
新聞部も足と体力を時と場合によっては使うけれども、さすがにこれには負ける。
ただ美貴をゲットする為だけに入った亜弥がまだ続けてやっていることも、すごいと思う。
普段は亜依をいじめて楽しんでいる吉澤も、覗いてるとかっこよく見えるし。
同じく覗いてる数人の女性徒からは、そんな吉澤に対する黄色い声援。

「……ヲタクら…じゃないや、お宅ら、よっすぃーのファンですか?」
「ん? あー、新聞部の」
「あっ、そうです、加護亜依です。以後お見知りおきを…」
名前を売って取材協力を出来るだけすんなり得れるように、名刺配りも忘れない。
女の子達は楽しそうに受け取って吉澤、よっすぃーの良さを語ってくれる。
412 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時31分41秒
「なんつーの? 女の子なのに、よっすぃーは紳士なのよ」
「そーそー。コクった子にも、気持ちは受け取れないけどこれからも応援してほしいってすっごい優しいの!」
「綺麗だし、かっこいいし、何よりエースだし!」
「はぁー……誰のものにもなってほしくないなぁ」
「でも…ねぇ」
「ねぇ…」
落ち込んで溜息ついた女の子達の視線の先には、練習が終わって吉澤にタオルを渡しているマネージャー石川梨華の姿。
亜弥の情報によると、吉澤と石川は幼なじみらしい。
そして石川は吉澤に好意を持ってて、吉澤も満更ではないらしい――とか、なんとか。
「お似合いだから…文句言えないんだよね」
「石川さん可愛いしね……」
「ふーん」
まぁ、可愛いかな。
でも亜弥の方が可愛いと思ってしまうのは、長年一緒にいたせいで亜弥に洗脳されてしまったからなのか。
認めたくないと必死で首を振ってると、そんな亜依に気付いたのか可愛い亜弥が「あいぼーん」と言って駆け寄ってくる。
413 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時32分18秒
「あっ、あややだ!」
「可愛い〜!」
「きゃー」
…って、結局誰でもいいのかい。
と思わず突っ込みたくなるようなミーハーぶり。
「どぉもぉ」
亜弥もにこにこと笑顔を絶やさず亜依の横にいた女性徒達に挨拶して、汗で貼り付いた前髪を直しながら亜依の傍へ。
「へへっ、あいぼんどしたの? あたし部活終わるの待っててくれたとかぁ?」
「え…あ、あぁ…」
「ぅん?」
「別にそうじゃないねんけど……って、まあいいや。そうそう、そうやねんけど、ちょっと、よっすぃーに聞きたい事があるっていうか」
「「よっすぃー!?」」
亜依の言葉によっすぃーのファン達が反応。
「何聞くの?」
「いや、まあちょっと」
「ふぅん。じゃあ呼んであげるよ。よっすぃー!!」
遠くでコーチと会話してるとこを大声で呼んで、振り向かせる亜弥。
よっすぃーファンの女性徒達は羨ましそうに亜依を見やる。
この状況じゃ非常に言い辛い為、亜弥の友達という事を利用して体育館の中に入れてもらう。
ただのファンでありバレー部とは無関係な女性徒達は中までは入れない。
414 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時32分51秒
中に入ると、笑顔でよっすぃーが迎えてくれる。
「どーしたあいぼぉん。このよっすぃー様に会いたくなったぁ?」
「アホか」
「うわ、ひっどい。学園一の男前にアホかだって」
「だってアホやんか、よっすぃー」
「…まあね、そりゃ…3年生最後の大事な試合に怪我するさ。アホだから…」
「だ、誰もそういう風に言うてないやろ?」
「あややぁ、あいぼんがいじめるよぉ」
「あははぁ」
「…く」
ダメダメ。
ここは、抑えておかないと。
まだ肝心なことを聞いてない。
415 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時33分21秒
「…で、どうしたのよ?」
それでもなかなか言い出せずにいたら、やっと吉澤の方から話を振ってくれる。
「取材なら、もうあいぼんとこの部長と副部長がこれでもかってくらいしたよ?」
「よっすぃーのことちゃうねん。その……後藤さんのこと、っていうか」
「あぁ、ごっちんかぁ。どした? まだ取材で聞いてないことあった?」
「聞くことは全部聞いてんけど、その…聞き辛いことっていうか…」
「ん?」
ええい。
思い切って、聞いちゃえ。
別に、ただ気になるだけなんだから。
深い意味なんか、ない。

「…ご、後藤さんって、好きな人おるん?」
「――え?」


416 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時33分55秒
……あれ?
なんか……なんか。
よっすぃーらしくない、反応。
微妙、というか。

「あ…はは、なんで?」
「なんでって……ちょっと、気になったから」
「なぁんでウチに聞くんだよぉ」
「だ、だって、友達ちゃうん、よっすぃー」
「………そだよ。友達だよ……大事な大事な、親友だもん」
「? なら…」
「だからこそ、そういうプライベートなことは、ヨシザワの口からは言えませぬ」
「…ケチぃ」
「ケチでけっこーメリケン粉」
「古っ」
「うっさいっつうの」
笑って、タオルで亜依の首を軽く絞める。
苦しがる真似を亜依が十分したのを見届けてから、吉澤は着替えの為部室へと戻っていった。
417 名前:―後藤さんの好きな人― 投稿日:2003年08月26日(火)08時34分39秒
「…なんやねん、結局分からんやんか」
ちょっとくらい教えてくれたっていいのに。
亜依の真希に対する謎は、深まるばかり。
そんな亜依の横には、珍しく考え込んだ顔の亜弥がいた。


418 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月26日(火)08時35分10秒



419 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月26日(火)08時35分43秒



420 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月26日(火)08時36分13秒
更新です。

>>398
この後の展開、344さんの妄想通りにいきましたでしょうか…。
急だったり、意味の分からない展開で申し訳(w

>>399
藤本さんの取材は、絶対に怖いと思います(w
でもそれでも睨まれたいと思う自分は、やっぱりまめ(ry
松浦さんは常に頑張って頑張って、今も変わらず藤本さんにくっついてます(w

>>400
お嬢様の話とこれは、並行で書いていましたので、こちらの話はもう手元では完結してるんです。
更新量が多いのは、一区切りがなかなかつかない自分のせい、でしょうか(w
これからもあいぼんさんは頑張ります。主役ですし(w
ただ…紺野さんは大人しくなるかもしれませんが、あいこんを応援してくれると嬉しいです。

まめおシスターズの事を覚えていてくれて、ありがとうございます(w
思わずランキング用紙に一番大きな字で「藤本美貴様」と書いてる3人の幸せそうな顔が思い浮かびました(w
421 名前:JOJO 投稿日:2003年08月26日(火)15時08分20秒
あいぼんいい感じになってきましたね
作者さんは紺野さんも推すようになったんですか?
最近良く活躍していますよね
後藤さんの好きな使徒…いや、人はいったい誰なんでしょうか
その辺の実態は熱血取材に長けるあいぼんが明かしてくれると思うので
更新を首を長くして待ってます
422 名前:334 投稿日:2003年08月26日(火)19時06分15秒
あいぼんさんの頭に後藤さんが、もう少しで張り付きそうですね。
ここら辺のもって行き方が巧みだと毎回思います。淡い。

おー徐々に後藤さんの過去について触れられて行きそうだ。
それに連れてあいぼんさんの思いも加速して行きそうだ。
どうか前髪の薄さだけは加速しませんように。
423 名前:344 投稿日:2003年08月26日(火)23時10分40秒
いやあ、マジ予測できないスリリングな(?)展開!
亜弥美貴、チャーミー、ヨッスィー、あいぼんetc総登場で読んでるこちらは興奮の渦に巻き込まれています。

>作者様
いやあ、自分の貧困な発想では作者様のような妄想には到底なりませんよ。
424 名前:恋愛ってなあに?―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時01分00秒
「…ね、どう思う?」
「ハァ?」
「だーからぁ。…後藤さんとよっすぃー…じゃなかった、吉澤先輩の関係!」
「知らないよ、んな、人の事」
「ぶぅ」

せっかく相談したというのに、愛する人、みきたんは興味なし。
そりゃ、自分だって最初は興味なかったのだけど、どうやら亜依が珍しく入れ込んでるから。
425 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時01分31秒
「あたしはね? 後藤さん、吉澤先輩のこと好きそうに感じるんだけど。あいぼんの仮定がホントなら」
「…どうでもいいけど、昼休みバレーしてたとこ無理やり引っ張ってきたと思ったら、その話ばっかりなわけ?」
「たまにはあたしの話も聞いてくれたっていいじゃぁん」
「たまにはって、いっつも聞いてないみたいな言い方しないでよ! たまにはって言葉は、美貴が使う言葉だよ!
亜弥ちゃん、いっつも美貴の話聞いてないでしょ!!」
「えぇ〜、聞いてるよぉ。ほら、今だって聞いてるじゃん?」
「じゃあまず昼休み、美貴連れ去る時に『やめて!離して!』って言った美貴の話ちゃんと聞いてよ!」
「聞いてたよ? 聞いてたけど無視したの」
「するなよ!!!」
「でねでね。昨日あいぼんに聞かれた時吉澤先輩おかしかったしさぁ〜」
「………」
ほら、もう聞いてない。
…いや、これは無視してるのか?
どのみち、美貴が発言しても無意味な事は重々分かった。
しょうがないから、聞かないと終わらないらしいから、亜弥の話を聞いてやることにする。
426 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時02分02秒
「そんなにいいのかなぁ? 吉澤先輩って」
「…何が」
「同じ人気者な後藤さんが好きになったり、彼氏にしたい人ランキングで一位になるくらい」
「んー…ま、顔もいいし、性格もいいからでない?」
「…でもみきたんは違うよね?」
「は?」
「吉澤先輩にレギュラー取られたから、恨んでたんだよね? 好きじゃないよね?」
「…このっ、人が思い出したくないことをたやすく…」
後悔してることをあっさりと何でもないように、言うから。
でも、彼女には何でもなくない事だってことも、十分その顔から分かるから。
「だから、好きなものは、焼き肉だって言ってるじゃん…」
「バレーと吉澤先輩だったらどっち好き?」
「…バレー」
「…………えへへ」
「…ばぁか」
吉澤とバレーだったら、バレーの方が好き。
亜弥とバレーだったら………。
言わなくても、分かるでしょ。
でもそう口に出してあげると、亜弥は心底幸せそうな、嬉しそうな顔を美貴に見せる。
そして見せた後、こう言った。
427 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時02分32秒


「……あれ? 何の話してたっけ?」
「……………」

もう一回、一から説明して聞かされるのかと思うと、少々ゾッとする。



428 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時03分03秒



429 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時04分08秒
「――ってことで。やっぱり後藤さんは吉澤先輩のことが好きなんだよ!!!」
「何が、『ってことで』やねん…」
「だぁってそうじゃんかぁ」
ぶぅ、とほっぺを膨らませて、呆れてる亜依にぐっと顔を近づける亜弥。
今日は監督の中澤が急に腹を壊したからということで、自主練習になって。
自主練習を休んだ亜弥は、放課後、今こうして亜依と机を挟んで向かい合わせている。

「……確かに、よっすぃーの様子はおかしかったで?」
「でしょ?」
「でも別に、ただちょっと喧嘩しただけやったんちゃうん、その日は」
「……むー」
「ありえへんありえへん」
「なぁんでそんな否定するのさぁ」
「亜弥ちゃんこそ、なんでそんな後藤さんがよっすぃーのこと好きって決め付けたがんねん」
430 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時04分38秒
「……」
「……」
お互いに思うところがあって発言しているのだが、珍しく意見が合わない。
こういう時は大抵亜依の方が折れて亜弥に話を合わせていくのが今までのパターン。
しかし、今日はまったく折れようとはしない。
「親友やろ、2人は」
「そう思ってるのは吉澤先輩と周りだけかもしんないじゃん。後藤さんは違うかもしんないよ」
「…ぐ」
「………まぁ、あいぼんがそういうんなら、別にいいんだけどさ…」
「…」
初めて、と言っていいかもしれないくらい珍しい事が。
亜弥が亜依に合わせたのだ。
でも顔は、あんまり面白くなさそう。
しかしすぐ何か面白い事を思いついたようで、その顔を明るくさせる。
431 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時05分16秒
「じゃあさっ、じゃあさあいぼん!」
「……ん?」
「吉澤先輩じゃないとしたら、余計知りたくない?」
「………後藤さんの好きな人?」
「うん!」
「………う、うーん…」
「何ぃ? 知りたいから吉澤先輩に聞いたんじゃなかったの?」
「そうや…けど」
なんか、なんか。
ムカムカしてきたぞ、なんか。
相手を考えるだけで、なんか。

「…そ、そもそも!」
「わっ…何?」
「その話は仮定やんか! 誰も、後藤さんに好きな人がおるって事実は言うてない!!」
「何ムキになってんのぉ?」
「うるさいうるさぁい!!!!」
「あいぼん、わっかんなぁい」
「みきたんみきたん言うて浮かれモードな亜弥ちゃんには分からんねん!!!」
「……む。何よそれぇ」
「フンッ」
イライラが募る。
面白可笑しく真希の事を探ろうとしている、亜弥にも。
432 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時05分47秒
「あいぼんが珍しく取材以外で気になってるから、あたしも気になったのに…」
「べ、別に、気になってないもん!!!」
「嘘だぁ! だって昨日吉澤先輩に『ちょっと気になったから』って言ってたじゃん!」
「…む、昔の話はやめてーな」
「……ふぅん。昨日の事は昔になるんだ?…じゃあ、あたしがこないだ借りた千円、もう、時効だよね」
「な! あ、アホ! 千円言うたら大金やで!?」
「だって昔だもん」
「……わ、わかったよ……認めるから……」
「よろしい」
エッヘンと、勝ち誇って大きな胸を張る亜弥。
…胸の大きさ勝負なら、亜依だって負けてないのに。
どうやら亜依は、亜弥に態度では大きく出れないらしい。

「で、やっぱ後藤さんのこと気になるんだ?」
「………」
「だからさー、やっぱ後藤さんは吉澤先輩の……」
「その話はもういいって」
「ぶー」
「もういい。かえろっ」
「えー、もう?」
「うちは忙しいんや」
嘘。ホントはめちゃくちゃ暇。
でもこのまま亜弥とい続けると同じ事の繰り返しだから。
433 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時06分57秒
しばらく2人でぽてぽてと歩いてたら、ある事に気付く。
「…あれ? そういや、美貴ちゃんは?」
「みきたんならねぇ、受験勉強するって図書室に篭もってる」
「行かへんの?」
「……入れてくんないんだもん、みきたんのバカ」
「は、ははは…」
そりゃ、入れたら勉強どころじゃなくなるし。
下級生の亜弥は美貴に勉強を教えてやることも出来ないから、何のメリットもない。
しかし、横に美貴がいないっていうのはなんだか久しぶりで。
中学の頃は毎日2人で帰ってたいたんだけど。
434 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時07分28秒
「中学の頃、思い出すよね」
と、そんなことを思っていたら、にっこりと亜弥も亜依と同じ事を。
「よくバカな事話したよねぇ」
「うん」
テストの点数の争いとか、それこそ言葉通りのバカな事を。
でもその頃よりも、亜弥はバカになってる気がする。親バカならぬ、美貴バカに。
「つっても、バカなこと言うのはいつも亜弥ちゃんで、うちは突っ込むだけ…」
「そんなことないよぉ! バカなこと言ってんのはあいぼんでしょ?……って、どしたの?」
「よっすぃーがおる」
「ん?」
話の途中で急に立ち止まった亜依の肩からひょっこりと顔を出して、少し先を見やる。
すると、亜弥にはよく見慣れた2人の姿。
1人は亜依も言ったよっすぃーこと吉澤ひとみで、もう1人は部活のマネージャーのチャーミーこと石川梨華だ。
435 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時07分59秒
吉澤が何か石川を怒らせるような事を言ったのか、なんだかどつかれてる姿。
でもその姿は、なんだかとても仲が良さそう。
「ラブラブだねぇ」
「………うん」
「でも、まぁだ付き合ってないんだよねぇ。あたしが背中押したげてるのに、石川さん押し弱いからなぁ」
「……」
「あいぼん?」
「……ぁ」
「何? どーしたのさぁ」
「…………なんでも、ない。いこ…」
「???」
436 名前:―関係― 投稿日:2003年08月27日(水)12時08分32秒
亜依に引っ張られ強制的に歩かされる亜弥。
そんな亜弥は、気付かなかった。

遠くで、自分達と同じように、吉澤と石川の様子を見ていた、真希の姿を――。

吉澤も石川も気付いてない。
気付いたのは、亜依、唯1人だった。

437 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月27日(水)12時09分03秒


438 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月27日(水)12時09分33秒


439 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月27日(水)12時10分13秒
いつもより少し短いですが更新しました。

>>421
紺野さんは好きですが、推しではないです、ごめんなさい。
でも、自分が書いてる話には結構出ていますね…なんでだろう(w
首を長くしてすいませんでした。更新しました。

>>422
(;‘д‘)<だから、薄くないって言うてるやん!
全部が加速気味に動き出します。

>>423
ありがとうございます。
もっともっと渦に巻き込めるように頑張りたいです(w
こうやって話を書いていると、自分がどれだけきしょい妄想をしているのか、痛感します(w
440 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月27日(水)16時11分22秒
なにやら切ないごっちんの心も、
きっとあいぼんの笑顔(か若干その上か)のキラキラとした光に
救われてくれるであろうと期待。

一方でミキティに取材に行って
ゴルァと胸倉の結構上をつかまれるところを想像しちゃいました、ゴメン。
441 名前:ほわ 投稿日:2003年08月27日(水)23時10分07秒
(´-`)。o0(これからどうなってしまうのだろう・・・?)

↑こう思わないように溜め込んでから一気読みするつもりが読み始めてしまいましたw
てっきり石川さんと吉澤さんの話になると思って読み始めたのですが
まさかごっちんが登場するとは・・・作者さん恐るべし・・・

今後も読めない展開に期待です
442 名前:334 投稿日:2003年08月27日(水)23時46分15秒
マジでかぁー!!そうだったのかぁー!!!
後藤さんの相手は懐古主義者だからあの人だと思ってたぁー!!!
でもどっちだ!あっちか!(●´ー`●)か!いや違う、わからん!!
まいりました……。

松浦さんに勝てる人は誰もいないでしょうね(w
逆にあいぼんさんは人が良さそう(w
443 名前:344 投稿日:2003年08月28日(木)00時20分57秒
更新キター。

マジで渦の中です。すんごいです。洗濯機の中にいるようです(笑)。
頑張れ!あいぼんです! あややとはどうなるんでしょうか!
444 名前:恋愛ってなあに?―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時52分36秒
『やっぱり後藤さんは吉澤先輩のことが好きなんだよ』

亜弥の言っていた言葉が頭をぐるぐると回る。
どうしてこんなに気になるんだろう。

亜弥のおかげというかせいというか、同性同士の恋愛に抵抗はなくなった。
だから別に真希が吉澤を仮に好きだとしても、嫌悪感はまったくない。
でも………。

「あー、もぉっ!」
モヤモヤする、なんか。
胸の辺りがウガウガと。
なんだろう、この気持ち。
自分で仮定を立てて置いて、本当に真希が吉澤の事を好きというのを認めたくないというか。

でも。
見たんだ、亜依はこの目で。
遠くから、誰からも気付かれないように、石川と吉澤を見ていた真希の姿――。

「………アカンわ」
目を瞑って違う事を考えようとしても、思い浮かぶのはそんなことばかり。
寝たいんだ、自分は。
頼む、寝かせて。
明日は美貴の取材を控えてる。
どんな睨みにでも耐えれるように、体調だけは整えておかなければならない。

しかし、そんな亜依の願い虚しく、結局瞼は朝まで閉じられることはなかった。

445 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時53分10秒



446 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時53分42秒
おはよう、と前から横から後ろから飛んで来る朝の挨拶。
亜依はそれに対して「おやすみ」と言って、今すぐ布団に潜り込みたいくらいだった。
徹夜のせいで、眠気は今頃ピークに達していた。
そんな時に、朝でもいつでも元気な、亜依の大事な大事な友達の声。
「おっはよー、あいぼん!!!」
バッシーンと元気な張り手が背中に一発。
「っつ…!」
よろよろふらふら、アンバランス。
いつもだったら踏ん張って、すぐに何すんねんゴルァと返ってくるというのに。
「わわ、あいぼんどしたのっ?」
すかさずキャッチして、倒れそうになっていた亜依を支える亜弥。
顔を覗いてみると、亜依の可愛らしい瞳の下には、隈が。

「あ、亜弥ちゃん…」
「ちょっ、ちょっと…?」
「うち、おかしいねん………」
「は…?」
「たす………け、て………」
「わぁっ! あっ、あいぼん!?」

そんな、ガクガク揺すらないで。
せっかく、眠りの世界へ旅立てるというのに。
しかしそんな衝撃も気持ちよく感じる程に、亜依は深い眠りにつくのだった。
447 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時54分12秒



448 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時54分48秒
「――もう。一瞬死んだと思ったんだからね!」
「あはは、ごめんって」
「バカぁ」
深い眠りから目を覚ますと、膨れっ面の亜弥。
場所は、いつのまにかどうやってきたのか、学校の保健室。
今何時、と訊ねたら、放課後と返事が帰ってきた。
どうやら6時間以上眠っていたらしい。

「徹夜は、お肌に悪いんだよ?」
「……うん、分かってるよ」
「新聞部の締め切りでも近かったの?」
購買で買ってきたパンをチビチビちぎりながら、小さい口に運んで話す亜弥。
亜依が無事目覚めて、お腹が空いたんだそうだ。
449 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時55分48秒
「…そういえば、亜弥ちゃん、昼休みにご飯食べてなかったん?」
「あいぼんが心配で、その時は食べれなかったんだもん」
「……そっか。ごめん」
「…いいよ、もう」
優しく微笑ってくれる。
思えば朝いきなり逢って寝てしまったんだ、亜弥の前で。
どれだけ大変だったんだろう。
昼ご飯も食べずずっと見ていてくれたらしい亜弥。
本当は自分なんかとじゃなくて美貴と一緒にいたいだろうに、自分なんかといてくれて……。
……って。

「そ、そうや! 美貴ちゃんの取材!!!」
「あぁ、そういや言ってたねぇ、なんか」
「い、いかへんと…」
「っと、ダメだよ」
「なんでぇ」
「あいぼんまだ完全じゃないみたいだし、紺ちゃん今日風邪で早退したもん」
「えっ、そうなんや」
「昼休みまで、あいぼんの隣で一緒に保健室で寝てたよ」
「……」
450 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時56分23秒
取材の日に、2人揃って体調不良でダウンとは。
こんなとこまでいいコンビ…なんて言って笑ってる場合ではない。
「違う日にしたら? 近々試合もないし、あたし、ちょっとくらいなら部活中抜け出せるからさ」
「うん……」
「それよりだから、どぉして徹夜なんかしたの?」
「あ…うん、ちょっと」
「んぅ?」
なんだなんだ、と興味を持って近付いたら、亜依はどうしてか苦しそうな顔。
「…なんかな…胸が、苦しいねん」
「…胸が?」
「うん」
「……ブラのサイズが…合ってないとか?」
「アホか!」
「………うぅ。ちょっと真面目だったのに」
「…」
狙って言ったんじゃないとしたら、それこそアホだ。
亜依は徹夜明けた後の睡眠のせいと、亜弥のアホさ加減のせいで、少し頭が痛い。
451 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時57分04秒
「違くて。…なんかな、昨日寝る時も、別に考えたくないのに、後藤さんの顔とかばっか浮かんで…。
亜弥ちゃんが言ってた言葉思い出す度に、胸が苦しくてムカムカしてくんねん」
「あたしが言ってた言葉…?」
「後藤さんはよっすぃーが好きって………うああ」
また胸が。
ムズムズ。苦しい。
「あいぼん、それって……やっぱり」
「な、何? 何かの病気かなっ?」
「…うん」
「ええ!? マ、マジデジマ…?」
「うん……あたしもなったことあるから、分かるもん」
「びょ、病名はっ? 余命何年?」
「余命はよくわかんないけど、病名は…………………」

ごくり。

「恋の病だよ、あいぼん!!!」
「……こ、こいのやまいぃ……?」
452 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時57分46秒
「そう。そっかぁ……やっぱねぇ、あいぼんも恋しちゃったか」
「こ、こい……池の鯉…」
「そのこいでなくて」
「こ、こい……池野恋…」
「それは、ときめきトゥナイトの作者さん」
「……」
「あいぼんは、後藤さんに恋してるってわけだよ!」
恋。
誰が。自分が。恋を。
相手は、後藤真希。

「ご、後藤さんは、あくまで取材対象なだけや! ち、違うもん…そんな…」
「じゃあなんで、もう取材終わったのにそんな気になっちゃってるわけ?」
「う……うぅ」
453 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時58分20秒
「結構可愛かったもんね、後藤さん。まあ、みきたんには余裕で負けるけど」
「な…!…アホやな、亜弥ちゃん。後藤さんめっちゃ可愛いねんで。亜弥ちゃんは、後藤さんの笑った顔知らんからや!
笑ったら、美貴ちゃんよりもっともっとすっごい可愛いねんから!!!」
「みきたんより可愛い人なんていないもん!」
「おるもん!」
「いない!! いるとしたらあたし!!」
「後藤さんのが可愛い!!」
「違う! みきたん!!!」
「後藤さん!!!」
うーうーと額同士くっつけて睨めっこ。
ここで引き下がったら負けだ。
「…あいぼん、徹夜明けで目がおかしいんじゃないの」
「亜弥ちゃんこそ、可愛いって基準が間違ってるんちゃう?」
「何ぃ?」
「何やねん?」
と、そこに。

「……何やってんの、2人共……」

「「……あ」」

……嫌なとこに来てしまった。
藤本美貴の登場である。
454 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時58分56秒
「様子見にきたら……何? 喧嘩?」
「あいぼんがみきたんのこと、可愛くないって言うの!」
「可愛くないとは言ってへん! 後藤さんのが可愛いって言うたの!!」
「違うもん! みきたんのが可愛いもん!!!」
「………」
ハァ。
亜弥を相手するだけでも大変なのに。
これで、もう一人も相手しなきゃいけないとは。
なんだか1年生が入学してから、美貴は何かと大忙しだ。

「………あのさ、勝手に人の名前使って対決しないでくれる?」
「だって!」
「そもそも、どうして美貴がごっちんと可愛さ対決しなきゃなんないのさ」
まったくもって意味が分からない。
どういうことなのかと説明を求めると、亜弥が少し怒り気味に説明をしてくれる。
455 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)11時59分38秒
「あのね、あいぼんが後藤さんの事好きらしくてさ。結構顔も可愛かったからさぁ。
でも可愛いのはみきたんが一番だって言ったら、後藤さんのが可愛いって怒るの」
「だから、好きじゃない言うてるやんか!!!」
「後藤さんのこと想って寝れなかったのに?」
「そっ、それは…でも、好きじゃないねん!!」
また始まりそうな喧嘩。亜弥の説明を聞いても、あんまり意味がわからない。
とりあえずこのままじゃうるさすぎるので、その喧嘩を、美貴が少し疑問に感じた質問で止めさせる。

「でもさ。好きじゃなかったら、なんでごっちんの援護っていうか……ごっちんのが可愛いって言うの?」
「へ?」
「別に、好きじゃないんなら、どっちが可愛いとかどうでもいいじゃん。
っていうか、ほんと、人の知らないとこでバカな争いやめてね、恥ずかしいから」
「バカな争いって何よぉ」
「バカな人がバカな事を言って争ってるってこと」
「みきたんっ、ひどいよそれぇ!」
「……人の話聞かない人の方が、もっとひどい気がする…」
「…? 誰、それ。みきたん自分の事言ってる?」
「亜弥ちゃんのことだよっ、もう……ちょっとは自覚してくれ……」
456 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)12時00分27秒
あまりに悲し過ぎて涙が出てきそうな美貴を「ど、どうしたのみきたぁん」と慰める自覚ゼロの亜弥は置いといて。
亜依は、美貴に指摘された事について、考えてみた。
………本当に、美貴の言った通りだ。
何をそんなに、ムキになる必要があるのだろう。

「……なぁ」
「「?」」
「……うちって、後藤さんのこと、好き、………なんかな」
「「でしょう」」
何のためらいもなく、声を揃えて。
2人の息はぴったりですね、なんて亜弥を調子づかせる言葉を言ってる場合ではない。
「だから、恋の病だって言ったじゃん」
「ごっちん、噂とか見た感じあんなだけど、実はいい奴だと思うよ」
「………」



これが、恋?



457 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)12時00分57秒
「……ち、違う。こ、こんなん、恋ちゃうもん。うちは、後藤さんに恋なんかしてへんもん!!!」
「あ…ちょっと、あいぼん?」
「………なんだぁ?」
ダダダッと勢いよく保健室を出て行く亜依。
いきなり取り残された亜弥と美貴は意味がわからない。

「何を、そんなに認めたくないんだろ?」
「…亜弥ちゃんに分からないものが、付き合い短い美貴はもっと分からないよ……」
458 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)12時01分30秒



459 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)12時02分00秒


違う。こんなの。
こんなの、恋じゃない。
恋っていうのは、もっと、楽しくて。
もっと幸せで。
亜依が夢見てたのとは、全然違う。

恋じゃないんだ。こんな、苦しいの。
もっとこう、楽しくて。ふわふわして。
恋をしてるとしたら、同じ恋をしてる亜弥は、あんなに楽しそうなのに。
どうしてこんな苦しいんだ。
…恋じゃない。何かの病気だ、きっと。
バカな亜弥が間違ったんだ、きっと。
後藤真希のことなんか好きじゃない…………、きっと。



460 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)12時02分36秒
おかげで、目はぱっちり覚めた。
もう授業も終わったんなら、帰ろう。

と、思ったのに。

「………うあ」
胸が苦しい。
なんで。
真希を、見つけてしまったから。

…好きなんかじゃないんだ。
だから、別に、何気なく話せるはず。
どうしてか高鳴る胸と赤い頬をグッと押さえながら亜依は、真希の名前を呼んだ。

「ご…とぉ、さん」
「んぁ…? あー、あいぼんじゃん」
「はは…どぉも」
「どしたの? 顔色悪そうだけど…」
「あ、な、なんでもないですっ」
真希より背の低い亜依の顔色を確かめる為覗き込もうとした真希の頭を制す。
この状態でアップになられると、胸が爆発しそうだ。
それがどうしてなのか、分からないんだけど。
461 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)12時03分10秒
「帰るとこ?」
「は、はい…」
「……でも、鞄ないよねぇ」
「――あ」
忘れてた……。
「…でも、いいです。どうせほとんど置き弁してますし」
「あは」
保健室に戻れば、まだ亜弥と美貴がいそうだったし。
財布は、ブレザーのポケットに入れてある。定期入れだって財布と一緒だ。
鞄がなくたって、なんとか帰れそう。
「後藤さんも帰るとこなんですか?」
「うん」
「今日は朝まで教室で過ごさなかったんですね」
「んー、センセイに起こされたからねぇ」
「そですか」
並んで歩く。
歩いて何気ない会話をしてると、どうしてか、治まる胸の苦しさ。
………なんだか、すごく、幸せな気分だ。
なんだろう、この気持ち。
462 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)12時03分42秒
いつも賑やかに亜弥と喋っていることもあって、静かなのが嫌いな亜依。
それでも、真希とこうして何も喋らず並んでいるだけで、不思議な気持ち。
こうして喋らないままでも別にいいんだけど、亜依は、なんでだかもっと真希の事を知りたくてたまらない。
胸の苦しみも治まった事だし、新聞部のインタビューなどでお得意の質問を投げかけてみる。

「後藤さんは、いっつも1人で帰ってるんですか?」
「そだね」
「ふぅーん。……あ、でも」
「?」
今日は金曜日。
金曜日は亜弥がバレーの部活はないと言った。
そしたらば、だ。
「よっすぃーと今日はかえ……」
「………」
帰らないんですか、ただ、それが聞きたかっただけ。
2人は親友だ、と新聞部のデータで見せてもらった。
亜依だって亜弥と違って、そう、思っているのに。

「よっすぃーとは、帰らないよ」
「え?…なんで…」
「あたし、よっすぃーにフラれたから」
「―――」
463 名前:―恋の病?― 投稿日:2003年08月28日(木)12時05分40秒
――ズキン、と、胸が痛んだ。

「………ごめん。こんなこと、いきなりあいぼんに話すようなことじゃなかったね」
「あ…………ぃゃ…」
「…でも、名前出されると、思い出しちゃうからさ」
「すっ、すいません!!」
「……もぉいいよ。でも悪いけど、この件に関してのインタビューは、やめて、ね」
「……」
「じゃ、あたしこっちだから」
「……さようなら……」

駅の方向、一緒だった。
だけど、一緒に帰ることはしない。
亜依はただ、そのままじっと立ち止まってた。

よっすぃーと名前を出しただけで、つらそうな顔をした真希。

どうして、あんな顔させるんだ。

自分が憎い。
そして、あんな顔を作らせた、真希を振ったよっすぃーが、憎い。



なんなんだろう、この気持ち。



464 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月28日(木)12時06分16秒


465 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月28日(木)12時06分49秒


466 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月28日(木)12時07分24秒
更新しました。

>>440
期待に応えられるように、頑張りたいと思います。
藤本さんの取材の様子は、もうちょっと先になりそうです(w

>>441
石川さんと吉澤さんもいまいち書ききれなかったんですが、
あいぼんさんを使う事でその2人も前回より少しはマシな扱いができたらな…と。
そして、初めて後藤さんを出してみました。
今後も、頑張りたいです。ありがとうございます。

>>442
そうなんです。後藤さんの相手は、あの人だったんです。すいません(w
今回のではっきりと分かるようにしたのですが、どうでしょう…?
松浦さんはナンバーワンですから、あいぼんさんでも藤本さんでも敵いません(w
川;VvV从<400get羨ましいな…

>>443
更新シター。
洗濯機の中ですか(w
あいぼんさん、頑張らせたいと思います。

467 名前:334 投稿日:2003年08月28日(木)21時07分06秒
むきぃー!!なんだか自分まであの人が憎くなりました(w

自分は毎回作者さんの話を読むたびに、何処かで感じた感覚に浸っていたのですが、そいつがなんだかやっとわかりました。
ハロモニを見ているときの感覚と非常に近いです。見ていると他の全ての物がどうでも良くなるくらい幸せな感覚になります。
作者さんの話にもそれを感じます。あいぼんさんと松浦さんがおでこを合わしてる所なんて想像するだけで幸せになれます。
しかも対決の内容が更にやばい(w
最高です。
468 名前:ほわ 投稿日:2003年08月28日(木)21時43分10秒
ときめきトゥナイトキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!!
・・・ではなくて

あいぼんさんは恋に落ちちゃいましたか・・・
しかもそれを認めようとしないとはなんかきゃわいいですw
本当に恋だったのか?後藤さんはこのあとどうでるのか?
うきゃー、ホントにこのあとどうなってしまうのだろう!?

次の更新も期待して待ちます
469 名前:344 投稿日:2003年08月28日(木)21時45分51秒
源氏物語並みに登場人物の関係が複雑です(笑)。

あいぼんの純朴さが出ていて良いですね。
この気持ちをあいぼんはどうするのでしょうか?!
明日も更新楽しみにしております。

作者様の作品は・・・、
過ぎ去りし我が夏休みに上がる最後の花火であります・・・。
470 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月28日(木)23時32分35秒
後藤さんを振るなんて…ありえない人ですね。切ないなぁ、後藤さん。
あっ、でも後藤さんがうまくいったら加護さんが切なくなるわけで。
…う〜ん、恋愛って難しいですね。
471 名前:恋愛ってなあに?―よっすぃーの気持ち― 投稿日:2003年08月29日(金)10時43分40秒
「…よっすぃー、おる?」
「よっすぃー?」
バレーの練習が終わり、みんなが着替えの最中の部室。
亜弥を呼んで、そう尋ねてみる。
「なんでなんで? どったの?」
「………ちょっと」
「親友に隠し事だぁ〜」
「亜弥ちゃんが曝け出しすぎなだけやん…」
「むー」
「いいから、よっすぃーは?」
亜弥と言い合いをする為に来たんじゃない。
用があるのだ、吉澤に。
「ここにはいないよ。なんかね、今日遅れたからその分居残り練習するって言って、体育館にまだいるよ」
「……そっか。ありがと」
「???……なぁんか、最近おかしいんだよなぁ、あいぼん」
首を傾げて呟く亜弥の言葉は耳に入らず、亜依は、吉澤がいるらしい体育館へと向かった。
472 名前:―よっすぃーの気持ち― 投稿日:2003年08月29日(金)10時44分20秒
部員はおらず、たまに鋭いスパイクの音と床に叩きつけられるボールの音がこだまする、体育館。
覗いて見てみると、亜弥の言う通り、吉澤はそこにいた。
ただ、1人だと思っていたのに、吉澤の横には、幼なじみという石川の姿。

以前の帰り道、楽しそうにじゃれあっていた2人の光景が、思い出される。
そしてその光景を陰から見ていた真希も――。

誰に恋愛をするのかは、自由だ。
しかし、許せない。
勝手だし理不尽だとは思うけど、真希にあんな顔を作らせた吉澤が、許せないのだ。
亜弥を除く他の誰かが、あんな顔をしてても、構わないと思う。
ただ、ずっと一緒だった亜弥と、なぜか…真希だけは、許せないんだ。
473 名前:―よっすぃーの気持ち― 投稿日:2003年08月29日(金)10時44分54秒
「よっすぃー!!!」
「ぅわっ!! び、びっくりしたぁ…」

大声で叫んだせいで、梨華の上げたトスを空振りしてしまう。
スタッと無事着地すると、いきなり現れた亜依の元へ「なんだよぉ〜」と吉澤が近付いてくる。
笑顔。
ファンなら誰でもメロメロになる、笑顔。
ファンじゃないけど、亜依だってそんな吉澤の人懐っこい笑顔が好きだった。
…………そして、真希もなんだろうなと思うと、また、胸が痛い。
474 名前:―よっすぃーの気持ち― 投稿日:2003年08月29日(金)10時45分29秒
「……クソ」
イライラする。
よく、こんな時にヘラヘラ笑ってられるよな、と。
後藤さんを、振っておいて。

「あいぼん? どうしたんだよ?」
「……どうしたもこうしたもないねん」
「んん?」
「…………なんで、後藤さんフッたん」
「え…」
「そりゃっ…よっすぃーはモテモテやし選り取りみどりかもしれんけど…っ。
ご、後藤さんは………よっすぃーのことが………あんな顔するくらい、よっすぃーのことが好きやったのに!」
「……い、いきなりそう言われても……」
「…理不尽な怒りって、分かってる。…でも、むかつくねん」
「な、なんで?」
「わからんから余計むかつくんやんか!!!」
「………」
分からなかったら、やって来られた方も手の施しようが。
475 名前:―よっすぃーの気持ち― 投稿日:2003年08月29日(金)10時46分04秒
「なんで断わったんよ!」
「…ごっちんを?」
「そうや! いい人やんかっ、すごい………まだ、ちょっとしか、喋ってないけど…」
「………うん。そうだね、イイ奴だよ、ごっちんは」
「じゃあなんで? あの人かっ? あの人が原因なん!?」
ズビシと人差し指を、石川に。
そしたら、哀しそうだった吉澤の顔が一気に赤くなる。
「わ、わー!!! あああいぼんっ、外出よう、外っ!」
亜依の背中を押して体育館を出て行こうとすると、え、練習は……と石川が。
「よっすぃー??」
「ご、ごめん梨華ちゃん! ちょっと出て来る!!」
「う、うん…」
476 名前:―よっすぃーの気持ち― 投稿日:2003年08月29日(金)10時46分43秒
体育館を出ると、すぐに吉澤に頭を叩かれる。
「バカ! り、梨華ちゃんに聞こえたらどうするんだよっ!!」
「バ、バカやてぇ!?」
「き、聞こえてないだろうな……あぁ…どうしよ」
「………やっぱり、あの人のことが好きなんやな、よっすぃーは」
…亜弥の言った通り。
もっとも、わざわざ訊ねなくても、亜依だって2人の仲の良さは見て取れたから。
「………あの人と後藤さん、どこが違うん」
「え?」
「なんで、後藤さんがあの人に負けな、アカンの?」
「負けるとか…勝ち負けじゃないでしょ」
「でも、後藤さんのことフッたやんか!」
「それは……」
顔をしかめる。
その事について、吉澤には少なからず罪悪感はあるようで。
477 名前:―よっすぃーの気持ち― 投稿日:2003年08月29日(金)10時47分18秒
「でも…ごっちんとは、親友なんだ」
「…………だから、そーいう対象で見られへん…って?」
「…あぁ。で、でも、ごっちんの事は好きだよ! ずっと仲良くしてきたいと思ってる!!
だから、その……告白された後も、普通通りに接してるんだけど………」
「…?」
「……ごっちん、口聞いてくんないんだ。
寝てるの起こしても何の反応もしてくれなくなったし。……多分、ウチの事、避けてるんじゃないかな」
「あ、でも…起こしても反応ないのは、多分、素で寝てるからやと…」
だって、美貴が揺すっても起きなかったし。
そこまでは吉澤の思い込みのような気がする。
しかし、吉澤の部活がない日に一緒に帰らないというのは、やっぱり、吉澤の言う通り避けているのかもしれない。

……というか。
以前、真希が言っていた言葉を思い出す。

478 名前:―よっすぃーの気持ち― 投稿日:2003年08月29日(金)10時48分04秒


『……変に優しくする方が期待してしまうこともあるから、やめた方がいいんだ』

『優しくされるより、突き放してくれた方が、いい』



479 名前:―よっすぃーの気持ち― 投稿日:2003年08月29日(金)10時48分46秒
吉澤は、優しいから。
でもその優しさを、もう、真希は望んでなくて。
それでも吉澤は、真希に対して態度は変えなくて。

「…そんなん……哀しいやん…」
「…あいぼん?」
「じゃないと後藤さんは、ずっと、あんな顔したままや」
「……」
「そんなん、嫌やねん」

ボソリ、と呟く。
それは、本音だった。
真希のあんな顔、もう二度と見たくない。

「親友は……仲良くあるべきやと思う」
「う、うん」
「よっすぃーだって、このままじゃ嫌なんやろ?」
「そりゃっ…」
「じゃあ、もう一度自分のその気持ち、伝えてあげーや」
「で、でも、会ってくれるかどうか…」
「それは、うちがなんとかする」

吉澤の為なんかじゃない。
真希の為だ。
真希だって、このままじゃ苦しいに決まってる。
だってあの顔は、立ち直った顔じゃない。
480 名前:―よっすぃーの気持ち― 投稿日:2003年08月29日(金)10時49分20秒
「うちはただ……」
「…ん?」
「…後藤さんの笑った顔が、見たいだけやねん」
「……うん」

そのためには。
このままじゃいけない気がした。


481 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月29日(金)10時49分52秒


482 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月29日(金)10時50分26秒


483 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月29日(金)10時51分10秒
更新しました。
予定通り、8月の最後で終われそうです。
あともう少しだけ、お付き合いくださいまし。

>>467
憎ませてしまってすいません(w
あの人もあの人なりに考えてはいるんですが…どうなることか。
これからも、ハロモニを見ている時同様、楽しんで見て頂けたらなと思います。
嬉しいお言葉、いつもいつも、本当にありがとうございます。

>>468
ときめきトゥナイトに反応してくれてありがとうございます(w
期待されるとつらいですが、更新頑張ります(w
生ごっちん、羨ましい。

>>469
本当に登場人物少ないのに、色々絡ませてややこしくしてしまい申し訳ない(w
でもそこはひとつ、あいぼんさんに頑張ってもらおうかと…上手くいくかは、分かりませんが…。
栄冠を手に入れさせてやりたいです。
夏休み最後の花火、綺麗に打ち上げられるように、精一杯がんばります。

>>470
恋愛って、本当に難しいと思います。
でも、恋愛をすると、本当に楽しいと思うのです。
なので、みんなには一番楽しそうな松浦さんみたく楽しんでもらいたいと思っております。
484 名前:JOJO 投稿日:2003年08月29日(金)14時14分29秒
相変わらずあいぼんの喜怒哀楽が判りやすくて楽しいです
8月もあと少し…
夏の最後にいい夢を見させてください
後藤さんに届け!!あいぼんの想い!     
485 名前:334 投稿日:2003年08月29日(金)19時54分53秒
切ない…。
胸にグッと来る。
あいぼんさん熱いな。完全に、ベイベー後藤さんにKOしてますね(w
あいぼんさんがこれからどう動いていくか楽しみです。
486 名前:344 投稿日:2003年08月29日(金)22時16分37秒
すんごく面白いです。 複雑さが余計に良い味出してます。
そうなんですよね。 恋って誰を愛そうと誰に愛されようと自由だけどなんだか「こいつだけは許せん!」
みたいなのがありますよね。

そのあたりがすごく良く出ていて、胸にぐっと来ます。
八月に終わりを迎えてしまうなんて、ちょっと涙色です。
明日も更新期待しております。
487 名前:ほわ 投稿日:2003年08月30日(土)00時43分16秒
あいぼんがんばれって応援したくなりますね
作者さんにプレッシャーがかからないように
次の更新はあまり期待せずに待たせてもらいます(´A` )
488 名前:恋愛ってなあに?―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時03分24秒
「後藤さんっ、一緒に帰りませんか?」
「………?」
6時間目も終わり、今日はなんとか寝ないでボーッと過ごしていると、真希の横から、意外なその声。
加護亜依である。
「ほらほら、はよ立ってください。掃除の邪魔になりますよ」
「…あ、あぁ…うん」
同じクラスの子達は怖くてどかせないのに、亜依はあっさりと。
といっても、亜依も最初は怖くて美貴任せだったのだけど。
真希、という人間がちょっとずつどういう人間か分かってくれば、急かして立たせるくらいなんてことない。
みんな、真希のことを知らないだけなんだ。
489 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時04分09秒
「あたしは別にいいんだけどさぁ…あいぼん、新聞部は?」
「今は、校内新聞発行に向けて製作中なんです。うち、その担当じゃないんで暇なんですよ。
…………で、でも、あと一件取材は残ってるんですけどね」
言わなくても分かるだろうが、美貴の取材だ。
「ふぅん」
だが真希はそれについてあまり興味がないのか、深くは聞いてこない。

「ちゃんと、後藤さんのインタビューもしっかり載せますよ!」
「……あー」
亜依の個人的な意見を言うと、実はあんまり載せたくない。
それでも、新聞部としてはみんなの喜ぶ顔が見たいから。
「…やっぱり、あんまり好きじゃないな、そういうの」
「う…で、でも、協力してくださいよ」
「分かってるよ…約束だもんね」
まだ少し眠そうに笑ってくれる。
………可愛い。
思わず、亜依の頬は赤くなってしまう。
490 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時05分03秒
「………どしたの?」
ひょい、と亜依の目の前に真希の顔。
亜依の方が断然背が低い為、覗くには真希の体勢はかなりキツそう。
「やっ、ななななんでもないですっ」
「あはは。顔また赤くなったよ。…あいぼんはおもしろいねぇ」
「…………そんなこと………ありますよ」
「あはっ」
「…へへ」

すっごい、幸せ。
ほんとは今、飛び跳ねたいくらい、幸せ。
自分の行動・発言で、真希が笑ってくれてる。
人を笑わせるのは大好きだけど、人が笑ってくれてこんなに幸せな気持ちになるのは、初めてだった。
……もう、分かってきていた。
それが、なんでかというのも。

でも、まだ認めない。

491 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時05分50秒
歩くのを進めてく内に、亜依の身体がソワソワと動き始める。
トイレに行きたいからとか、そういうのでは決してちがくて。
これから真希を騙さないといけないと思うのに、胸が痛む。

「…あ、あの、後藤さん」
「んぁ?」
「ちょっと、中庭いきません?」
「は?」
「こ、これから予定とかないんやったら……ちょっとうちに付き合ってくださいよ」
「別に、いいけど……なんかあんの?」
「いや、ほら、うち白いやないですか。だ、だから中庭で焼こかな〜って。あはははは」
…白々しい。自分で考えて、自分で思う。
いつも頭の回転が早いのが自慢なのに、どうしてこういう時だけ。
「……まあ……いいけどさ」
「あっ、ありがとうございます!!!」
でも、その嘘に本当に信じてくれてるのか、嘘でも別によかったのか、真希はOKを出してくれた。
それじゃあと真希の向きを変えて、中庭に。
492 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時07分14秒
「……………」
到着した途端、無言で真希に睨まれる。
怖い。
でも、睨みは美貴ので鍛えられてるんだ、亜依だって。
だから、ここでへこたれるわけにはいかない。
「うちが、セッティングしたんです」
中庭で、すれ違ってしまった2人の気持ちを修復するために。
吉澤と、真希を。

「………」
「ご、ごっちん…」
「帰る」
しかしせっかくセッティングしたというのに、あっさりと踵を返し去って行こうとする真希。
それを、必死で止める。
「なんで避けるんですかっ! いっつも、よっすぃーのこと陰から見てるのに!!!」
「っ」
「まだ、好き………なんでしょ?」
「…………」
亜依から顔を逸らして、黙ってしまった。
それを見かねて、同じくじっと黙っていた吉澤が声をかける。
493 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時08分25秒
「…あのさ、ごっち――」
「喋りかけないで」
「え…」
「優しく、しないで。………好きじゃないなら、冷たくしてよ」
優しくされるほどつらい。
気持ちを断わられたのに普通に喋れる程、大人じゃない。
真希だって、まだ高校2年生だ。
外見で判断されがちだけど、真希だって。


――でも。



494 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時09分14秒
「…………そんなの、できるわけないじゃん」
「…えっ…?」
「ごっちんのことが、大事で。すっげぇすっげぇ大事で。かけがいのない人だもん。
恋愛対象としては、見れないけど……………ヨシザワは、ごっちんのことが好きなんだもん」
「……」
「勝手だと思うよ、そりゃ。自分が振っといて、親友関係は続けたいって言ってるんだ。
でも、このままじゃ嫌なんだ……すっごく、すっごくつらくて……っ…」

吉澤が、泣いた。
それは亜依だけでなく、真希でさえ初めて見た姿。
「あ、あ…あ……よっすぃー?」
オロオロと。
初めて見る涙に、真希は動揺を隠せない。
しかも、初めて真希の前で見せた涙は、真希自身のせいだなんて。
495 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時10分35秒
「他に…、ッ…コクられて振った子だったら、自分から喋りかけたりなんかしない…。
でも……ごっちんだけは、失いたくないんだ………好き、だから………」
「………」
「でっ…でも、好きっていうのが、同じ、ごっちんが想ってくれてる好きじゃなくてゴメン…なさい………」
手の甲でいくら涙を拭っても、次から次へと。
真希の気持ちを、受け止めてやりたかった。
でも、それが出来なかった。
好きは好きだけど、好きじゃ、ないから。
でもそれでも真希の事は、好きで。
別の意味で、特別で。
失いたくない、大事な人。
…………好きの想いが、一緒だったらよかったのに。
496 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時12分32秒
「…よっすぃー…………バカ……なんで、よっすぃーが謝るのさぁ…バカぁ」
「だ、だってぇ」
自分が振られて傷ついていたように、吉澤も傷ついていた。
でもそんなこと、振られてすぐその場を去り、それから一言も口を開かず吉澤の言葉に耳を貸さなかった真希が知っているはずがなかった。
今日、今、初めて、吉澤の気持ちをちゃんと聞いた。

「よ、よっ…ング…っすぃーが、謝るっ…こ…なんかない…っ。
よっすぃの、好き、とっ……違う好きになっちゃったあたしが……ヒック…」
「うわわわ」
とうとう2人共泣き出してしまった。
亜依は焦る。
497 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時13分22秒
ハンカチを貸してあげたり、背中を撫でてあげたり。
亜依の渾身的な慰めを受けて、2人の涙は少しずつ治まっていく。

「…ごめん、…ごめん……ね」
「ウチこそ………気持ち、応えてあげれなくて…」
「………もぉ、いいんだ。それが、本当の気持ちだし。
…でも、よっすぃーがあたしのことを特別な好きでいてくれたの、分かったから。あたし、もぉ、それだけで十分だよ」
「ごっちん…」
「こっちこそ、ずっと………避けてて、ごめん」
「…かなり、効いた」
「あたしがフラれた時は、もっともっと効いた」
そして、あははと笑い合う。
もう、2人の目からは涙は出てこなかった。

「……でも、さぁ」
「…ん?」
「やっぱり、そう簡単に諦めきれるわけなくて……」
「え…」
「ご、後藤さん?」
さっきと言ってる事、違うような。
亜依は焦り、吉澤はバツが悪そうな顔を。
しかし対する真希は、笑顔で。
498 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時14分08秒
「よっすぃーが、よっすぃーの好きな人に告白して付き合ってくれれば、さすがに諦める事出来るって、思うんだ」
「………………へ?」
「石川さん」
「そそそそそそそれなんで知って!!!!!!」
「………ずっと、よっすぃー見てたもん。だから、よっすぃーがずっと誰見てたか、分かってるつもりだよ」
「…ぁ…ぅ……」
「早くよっすぃーの気持ちすっぱり諦めて元の関係戻りたいから、ほら、今すぐ行ってきてよ」
「いっ、今すぐぅ!?」
「うん」
「ええええ」
「早く」
「うーあー…」
頭を掻いて、モゴモゴ口を動かして。
そんなことをしてても、真希の発言は取り消してくれそうにない。
代わりに、別の言葉が降って来る。
499 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時14分43秒
「…あたしとはちがかったけど、さ」
「え?」
「石川さんとは………おんなじ、好き同士なんでしょ?」
「ぁ…それ…は」
「…2人が幸せになってくれないと、あたしは、ずっとまたよっすぃーを見ちゃうよ……親友として、もぉ、またよっすぃーを見れなくなる…」
真希が俯くと、長い髪でその表情は隠れてしまう。
「……だからよっすぃーが、ちゃんと忘れさせて。それで、明日っから、いつものあたし達に戻ろう?」

もう、やめよう。
ずっとつらかった。
すっきりして、終わらせよう。
だから、はっきりと、言って。

500 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時17分12秒
「……………分かった。言うよ。梨華ちゃんに、――好きって。梨華ちゃんと、同じ気持ちだって」
「ちゃんと…伝えなきゃダメだよ」
「うん。………じゃあ」
「……バイバイ」
「!! バ、バイバイッ」
久しぶりに出来た、真希との帰りの挨拶。
嬉しくてたまらないといった顔を一度引き締めて、吉澤は、石川の元へと歩き出した。
501 名前:―好き― 投稿日:2003年08月30日(土)10時18分05秒
その姿が見えなくなった途端、亜依の小さな肩に、真希の頭が。

「……ごめ……ちょっとだけ…肩…貸して…」
「え?」
「……ック……ぅ…っくぅ……ッ」
「…………ごとぉ…さん」



…涙は、出なかったんじゃなくて、ずっと、我慢してたんだ。
………強いよ。格好いいよ。



そんな後藤さんが、大好きだよ。



苦しくて切なくて哀しくて楽しくて幸せで。
亜依は、真希に恋をしているのだと、やっと素直に認める事が出来た。



502 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月30日(土)10時18分37秒


503 名前:恋愛ってなあに? 投稿日:2003年08月30日(土)10時19分10秒


504 名前:松竹藤 投稿日:2003年08月30日(土)10時19分49秒
更新しました。
さあ、頑張るぞ。

>>484
ナンバーワンの主役の松浦さんと、今回の主役のあいぼんさんといい、
表情の変化が多く変わった人ばかり書いているなと自分でも思います(w
いい夢を見せれるように、頑張ります!

>>485
今回はあいぼんさんというより、あの人を動かしてみました。
残りちょっとですが、あいぼんさんを最後にめいっぱい動かしたいなと思います。

>>486
そうなんですよね。誠に勝手ながら、許せんとか思ったりします。
ちなみに、松浦さんの相手は藤本さん以外は許せん!と思ってます(w
涙色を桃色に変えれるよう、最後は、なんとか、収めたいと思うのですが…。
明日も、どうかお付き合いくださいませ。

>>487
是非是非、あいぼんさんにがんばれと声をかけてやってください。
ここのあいぼんさんは調子乗りなんで、頑張ってくれるかと思われます(w
ほわさんの期待を裏切らないように、一生懸命頑張らせて頂きます。
505 名前:JOJO 投稿日:2003年08月30日(土)12時10分02秒
最後まで何があるかわからないくて(・∀・)イイ!
2つの恋物語が同時進行で進んでいって結局どうなるのか凄く楽しみです
明日で終わってしまうのは凄く残念だけど24時間後に読むのを楽しみにしてます
506 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)12時56分21秒
ああ、午前中の楽しみが終わってしまう‥‥

ミキティの取材は引っぱってるのか、扱いが小さいのか、前者キボン
507 名前:ほわ 投稿日:2003年08月30日(土)17時56分14秒
そんな期待を裏切らないようにだなんて恐れ多いあ;lfdじゃl;sdfj
もう今回のごっちんの様子が切なくて俺がなぐさめにいってやりたいくらいですよ
あいぼんの肩じゃなく俺の胸で泣いていいんだぜって感じです(壊

とりあえず後藤さんの恋がようやく終わりを迎えて、
ついにあいぼんは自分の気持ちを自分で認めて・・・
これからってところですね
このスレも話も残り少しでしょうが、これからもがんばってください
508 名前:334 投稿日:2003年08月30日(土)18時39分27秒
なんだよちきしょぉー!!熱いよ!泣いちゃったよ!!
これぞ青春。不器用に何度も失敗して進んでいくのですね。

やっぱ、よしごまは純粋で熱いところがいいなー。
つーか、今までクールだった後藤さんが感情剥き出しのところを見ると泣いちまう。よっすぃーも然り。
つーか、あいぼんさんの健気なところが可愛くて熱くて泣ける。
駄目だ。作者さん巧すぎる。
509 名前:344 投稿日:2003年08月31日(日)07時03分49秒
すごく、泣きました。
涙を我慢したごっちんがクールで良い!
青春ドラマですね。まさに。
明日も期待してます! 

頑張れ!あいぼん!⇒頑張れ!みんな! となりました。 
それだけ作者様の書き方が巧みだったということです。
贔屓なしで登場人物全員を応援したくなりました!
510 名前:恋愛ってなあに?―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時14分37秒
「すいませーん、おっくれましたぁ!!」
放課後の新聞部室。
今日は珍しく担任の話が長くて、いつもは一番乗りに近いのに大分遅れてしまった。
なのに、亜依がやってきたというのに、誰も亜依のことなんか見ていない。
「ちょっと…」
注目されたがりの亜依としては、とても不満なことだ。
来た事をアピールする為、部長の肩を掴んで向かせると、その部長はなぜか号泣していた。

「うわあああん!!!」
「しにたい…」
「仕事なんかやってらんないよ〜!」
「…………あ、あのー」
部長みたく大泣きしてる人もいれば、部室の隅で縮こまってる人。荒れてる人。
ここは、どこだ。新聞部だ。
なのに、この状況は一体なんだというのだろう。

「……加護さん、加護さん」
この中で一番まとも……というか、現在正常な人の呼び声。
「あ…あさ美ちゃん」
「どうも」
「うん……ってか、どうしたん?」
この先輩達の有り様。
亜依が憧れていた新聞部は、こんなカッコ悪くなかったはずだ。
511 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時15分51秒
「号外が出ますよ」
「はぁ?」
「石川梨華先輩と、バレー部エースの吉澤さんの交際発覚です」
「――あぁ」
ポン、と手の平を打って。
やっと納得。
そういえば、横で号泣している部長は、吉澤の大ファンだった。
「おかげで、せっかく完成された校内新聞に誰も見向きもしてくれない……」
「あっ、出来たんや?」
「まだコピー取ってないんでこれ一枚しかないですけど、それでよければ」
「うん!!!」
「といっても、今週の新聞は彼氏にしたい人ランキングと彼女にしたい人ランキングの結果発表とインタビューですけど」
「それが見たいねん!」
出来たての新聞を初めて拝見。
そこには、見知った顔が数人。
512 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時16分38秒
1人は、彼女にしたい人ランキングトップの、松浦亜弥。
ウィンクがばっちり決まった写真は、とてもとても可愛らしい。
インタビュー内容も、これでもかというくらい掲載されている。
プロフィール以外はほとんど、美貴をどれだけ愛しているかのフリートークだ。
何を聞いても美貴に話を持っていくから。

同じくランキングの内容は違うけれど、彼氏にしたい人ランキングトップの、吉澤ひとみ。
ばっちり男前に撮られている。
部長達は一体どんな顔で質問していたんだろう、省いているはずのにインタビュー掲載がかなり長い。

そして、吉澤と同じランキングで2位を獲得した、後藤真希。
亜弥や吉澤みたいに饒舌でないから、亜依が質問した内容を一言で答えるといった方式が取られている。
生年月日はもちろん、好きな食べ物から飼っているペット、1日のおよその睡眠時間なんかまで。
これで、去年みたいな苦情はないはずだ。
写真の出来だってばっちりだし。
513 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時17分13秒
「……」
「加護さん?」
「…ん、あぁ…何?」
「いや、後藤さんの写真ばっかり見てるから」
「…ヒヒヒ」
写真じゃ分からないけど、この笑顔の先には、亜依がいる。
亜依が、こんなに真希を笑顔にさせたのだ。
もう泣き顔になんかは、絶対にさせない。
真希がいつでも笑っていられるように、もっともっと、面白くなってやる。

「…はぁ、でもええなぁ」
「デザインも凝ってみました」
「来週は何のランキング結果載せんの?」
「えっと、お姉さんにしたい人ランキングとか…じゃなかったですかね」
「へえ…って?」
出来上がった新聞を見ながらあさ美と会話していたら、いきなり上から新聞をひったくられる。
「ちょっと、部長! 今うちが見てたんですよ!!」
「うるさい!!…こんなの……こんなのいらないんだぁ〜!!!!」
ビリビリビリビリ。

「「あ〜〜〜〜!!!!!」」
514 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時17分46秒
「ぐすっ…彼氏にしたい人ランキング一位取っても、もう、よっすぃーは石川さんの彼氏になっちゃったんだよ〜!」
「知るかそんなん! しかも彼氏ちゃうし、彼女やし!!!」
「なんだとこらぁ、先輩に向かってぇ!!」
「後藤さんの写真ムチャクチャにするからぁ!」
「うっさい! そんなことより早く藤本さんの取材いけ、ばかぁ! もうすぐ載せるつもりなんだぞ!!」
「っぐ……分かってますよ…いけばいいんでしょ、いけば!!!」
「おう!」
「その代わり、自分でまた新聞作り直してくださいよ!」
「……………あ」
よっすぃーの一ファンから、自分が新聞部の部長だったことを思い出す。
思い出して……自分がしてしまった事を、大後悔。
「そ、そんな……締め切り…あ、明日……」
「……」
「紺野っ! 紺野手伝って!?」
「ヤです」
きっぱり。
せっかくデザインも凝って制作したのに、それを台無しにされたのだ。当然だと言えよう。

「ちょ、ちょっと…あいぼんっ……紺野ぉ!!」
「うちら、取材にいってきまーす」
「きまーす」
ニコニコ笑って、1人はメモ帳とペン、もう1人はカメラを持って、部室を出た。
515 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時18分37秒
「部長、おもろかったな」
「ね」
くふくふと、自分達の部活の部長の顔を思い出し笑い。
「そんなに石川さんとの熱愛がショックやったんかねぇ」
「みたいですねぇ。副部長なんかは朝聞いて、ショックで早退したって言ってましたよ」
「……憧れの新聞部の先輩たちのギャップが……」
「でも、吉澤さんは人気者ですし」
「………そやね。つーか、あさ美ちゃんはよっすぃーファンではないの?」
「私、ですか?」
「うん」
いつも冷静に話を聞いていたりするから。
部長達が吉澤の取材に行くと言っていた時も、反発してなかったみたいだし。
「別に吉澤さんが嫌いではないですけど…でも、ファンでもないですね」
「ふーん」
「加護さんは……後藤さん…ですよね?」
「うん!!!」
「……あれ?」
「何?」
「いや…」
全然素直に返事。
前、それとなく言ったら、怒られたのに。
516 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時19分45秒
「…じゃあ、やっぱり、写真あげましょうか? ネガごと」
「マジデジマ!?…………ってぇ、やっぱいいや」
「え。なんでですか」
「だって、みんなの後藤さんになるから」
「……?」
新聞部に載せる奴をもらっても、その写真の顔は、みんなも目にする事になる。
それを一番最初に生で見たのは自分だけど、今度は、それ以上のが欲しいんだ。
「あんな、うちしか見たことない後藤さん手に入れるから、別にいいねん」
「加護さんしか見た事ない…後藤さん?」
「うん! 美貴ちゃんとか、よっすぃーとかも見た事ない、後藤さん!!!」
「……そうですか」
「…? 何? なんであさ美ちゃん笑ってんの?」
「や…」


そんなに人の事を楽しそうに話す加護さんも、見た事ないな、って。


今度、笑顔の可愛い人ランキングがあれば、あさ美は、絶対に亜依に入れようと思った。

517 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時20分18秒



518 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時21分24秒
「それで、何?」
「いやはははは」
「………何なのさ、だから」
左横に亜弥。右横にあさ美。
真ん中の亜依は、困っていた。
取材する前から、美貴に睨まれているんだもん。…怖すぎる。

もっとも、美貴だって馬鹿じゃない。
亜依と同じ新聞部だと紹介された子が、カメラ持ってこっち見てるんだ。
去年、一昨年の嫌な事を思い出す。

「あいぼんは友達だから、先に言っとく」
「な、何?」
「馬鹿な発表したら、怒るよ」
「(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」
ダメだ。ダメだ。言えない。絶対言えない。
自分の身がやっぱり一番可愛いんだ。
ランキングの写真を期待してる生徒達の事は、もう、無視をしよう。
………そう、考え直したのに。
519 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時23分51秒
「んもぉ、みきたんは。嬉しくないの? 罵ってもらいたい人ランキング一位に輝いたんだよ?」
「――ハァ?」
「ばっ…!!!」

パシャリ。
痺れを切らしたように亜弥が発言するのを止めようとしたら、後ろからシャッターを切る音。

「撮れたっ! 後藤さんに続きまた最高なのが撮れましたよ加護さんっ!!」
「……アホ……」
今さっきの美貴の話は聞いていなかったのか、紺野あさ美。
火に油を注いでどうなる。
「うっそ! あたしも見たい見たいぃ!」
そして、もう1人のアホ、松浦亜弥。
橋渡しするどころか、その橋を壊してどうする。
520 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時24分21秒
「………ふぅん。何が、撮れたって?」
「え、え。ちょ…美貴ちゃん?」
ほら。
2人がそんな事、言うから。
ずいずい、と押され。
体重はどうか分からないけれど、身長が負けてる亜依は、美貴の力と気迫に押されてしまう。
「そそそもそもっ、馬鹿な発表したのは亜弥ちゃんやん!? そんでもって、写真撮ったのはあさ美ちゃんやん!?
ああ、あの、うち、なんもしてない……!!!!」
「うるさい」
「わ……わぁ………ギャーーー!!!!!!!」

そこから先は、ご想像に任せて。


亜依と美貴以外の2人はというと、早速出来を確かめる為に、現像をしにその場から消えていましたとさ。



521 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時24分52秒



522 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時25分30秒
死ぬかと思った。
でも、今自分はこうして生きて道を歩いている。奇跡だ…。
先程美貴にやられた事を思い出し、身体が震える。
美貴を怒らせるもんじゃない。
そして、亜依を置いて去って行った2人の始末はどうしようと考える。
ブツブツ、ブツブツ。
危ない独り言を言っていると、「あいぼん」と優しい声。

「あっ……」
「1人珍しいね」
「あ………は、はあ」
鞄を持った、後藤真希。
「そういう後藤さんこそ…こんな時間にちゃんと下校なんて珍しいですね」
「あー。よっすぃーに起こしてもらったから」
「…なるほど」
あれから、ちゃんと普通通りになったんだ。
亜依は、少し安心する。
523 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時26分06秒
「よっすぃーとは、仲良くやってるんですね」
「うん。…でも、やっぱ、あんな事言っといて、内心はまだ複雑だけどね。でも、前よりかは楽になった。
前みたいにずっとよっすぃーのこと避けてたら、あたし、ストレスで死んじゃったかもしんないや」
「し、死んだらダメですよ!!!」
…自分はさっき、死にそうになったけれど。
「ありがとぉ。死なないよ、……次の恋探さなきゃいけないしね」
ポンポンと亜依の頭の上で手を弾ませて。
だが、亜依は手より、言葉が気になった。

「さ、探すって……アテ、あるんですか…?」
「どうだろ」
「………」

それなら頑張れ、自分。
亜弥だって頑張って頑張って掴んだんだ。
524 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時26分49秒
「じゃあ、立候補します!!!」
「え?」
「うち、後藤さんの次の恋の立候補、します!!!!!」
「…………あは」
「何笑ってるんですかっ! ほっ、本気ですよ!?」
「うん………次の恋のアテが出来たって、思って、嬉しいなって思ったから」
「…そ、そぉですか…」
「………ちゃんと、考えとくよ」
「は、はい!!!」
「…あいぼんはちっこくてかーわいいねぇ」
ナデナデ頭。
気持ちいい。
最高。
好き。
525 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時27分23秒
「じゃあまず、敬語やめる?」
「敬語…やめていいんですか?…じゃなくて、い、いいん……?」
「うん、いいよ。それから呼び方も、ごっちんでいいよ」
「………」

ごっちん。
吉澤や美貴が既に呼んでいる。
亜依だって亜弥みたいに、まきたんとは言わないけれど、少し親密な呼び方がいい。

ごっちん。ごっつぁん。真希さん。真希ちゃん。
…真希ちゃん。

「………じゃあ、真希ちゃんが、いい」
「えええ?」
意外だった呼び方は、真希の頬を少し赤くさせて。
「そ、そんなの、家族とかにしか言われてないから…」
「じゃあ、なおさら真希ちゃんがいい!!」
真希ちゃん、真希ちゃんて連発で。
家族は特別。
その家族と一緒なら、自分も特別。
「……分かったよ、じゃあ、いいよ」
「やったぁ!」

嬉しい。
ふわふわする。このまま、空まで飛んでいけそうなくらい、幸せ。
そんな亜依の元に、またしても「あいぼぉん」と呼ぶ声が。
526 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時27分59秒
「……む」
この声は、亜弥だ。
亜弥といえば、亜依を置いてけぼりにした恨みがある。
「なんやねんっ、今更何しに…って!!!」
「わ」
すかさず真希の後ろに隠れる。
だって、亜弥の後ろに、美貴がいたから。
「ままま、真希ちゃんっ、美貴ちゃんからうちを守って!」
「はっ、はぁ…?」
後ろから顔出して制服を掴んでる亜依の言う事が、真希にはさっぱり分からない。
前方からは、やぁやぁと少しだけ申し訳なさそうにやって来る美貴と、その美貴の腕に胸をくっつけてる亜弥。
527 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時28分32秒
「いやぁ、ちょっとやりすぎちゃった。あいぼん、ごめんって。謝りにきたんだよ」
「そうそう。あたしも橋渡し頼まれたのに出来なくて…」
追いついた2人は、先程の自分達がした行為を思い出し、亜依に謝罪。
「亜弥ちゃんは許さんけど、み、美貴ちゃんは許します! って、ていうか、怒ってないから!!」
ここで逆らったりしたら、今度こそ殺されるかも――。
せっかく真希との仲を深められそうなのに、ここで死ぬわけにはいかない。
「…そう?」
「う、うん!」
だから気にせんといて、と笑顔を作る。
そんな亜依の笑顔を真似して亜弥も作ったんだけど。
「よかったねぇ、みきたん……って、ん? っていうか! なんでみきたんだけ許して、あたし許してくんないの!?」
「亜弥ちゃんは別や! このっ、役立たず! あの時のうちの昼休みを返せ!!!」
「何よぅ!!」
ぎゃあぎゃあと、また騒ぎ始める。
賑やかなのはいいことだけど、いい迷惑だ。
528 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時29分02秒
「もうっ…いつまでもごっちんの後ろ隠れちゃってさ! いいかげん出てきなよ!!」
「つうか、いつのまにごっちんってあだ名で呼んでんねん!!」
「みきたんがごっちんって言うから移ったの!」
「許さへん!!! 許さへんで、そんなん!!! あたしはやっとさっき、後藤さんから真希ちゃんに進展できたのに、あっさりと!!!」
「あいぼんだってみきたんのこと、藤本さんから美貴ちゃんってあっさり変わったくせに!!!」
「うちは美貴ちゃんの許可をもらったんや!!!」
「じゃああたしもごっちんの許可もらうもん! ね、いいよね、ごっちん!!!」
許可をもらう前から、すでにあだ名。
しかもこんな状況で訊ねられたら、うんとしか言えない。
「ほら! 呼んでいいって言った!」
「違う!! 無理やりや!!!」
「どこが無理やりなのよぉ!」
「そもそもやなっ、今真希ちゃんの話してんのに美貴ちゃんの話持ち出さんといてくれる!?」
「だって好きだもん! 可愛いもん!!」
「だから、真希ちゃんのが可愛いって――――」
「違う、みきたんの方が――――」

治まらない喧嘩。
真希は楽観して、美貴は呆れて。
どちらも止めようとはしない。
529 名前:―レモンよりすっぱくて、チョコより甘い― 投稿日:2003年08月31日(日)11時29分34秒
「まったく……本人達がいる前で、ほんと、やめてほしいよねぇ」
「…ですよねぇ」
「恥ずかしいったりゃありゃしない」

ふぅ、と疲れたジェスチャーを。
その割に美貴も何となく口の端が上がっているんだから、素直じゃない。

「……ごっちんも一年坊相手するのか知らないけど、……大変だよ?」
「あはは…」
「精神的に疲れるから、すっごい」
バレーの先輩でもあり、1年生を相手に過ごしてきた先輩でもある美貴からの忠告。
それを、有り難く受け取っておく。

「でも、楽しそう」
「ん?」
「よっすぃーが、先輩はあややと仲良くなって変わったって、言ってたから。あの子が、あややって子なんでしょ?」
「……アイツ……」
「………あたしも、変わりたい。……いつまでも、女々しいのは、ヤダ」
「変われるよ……………あいぼんとなら」

先輩からのお墨付きももらった。
じゃあ、期待、しちゃおうかな。
530 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/09(火) 19:02
 
531 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/09(火) 19:58
(作者さんの代わりに貼っときます)

次スレ:森板「恋愛ってなあに?」
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wood/1062297158/
532 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 11:29
533 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/21(火) 09:56
ここ?
534 名前:結局はバカップルなわけなんです 投稿日:2003/11/29(土) 01:06

「……ふぁあ」
あふ、と息をついた後、かくんと大きく開いてしまった口を閉じて。
あくびで出てきた目尻の涙を、親指で拭う。

「…でっかいあくびー」
「だって眠いもん」
その瞬間を見逃さなかったぞと、すかさず横からツッコミが入る。
しかし、あくびをした張本人――美貴は、悪びれもなく返す。
「眠いとか言うな」
「はあ? なんで」
「あたしといるのがつまんないみたいじゃんか」
ぶぅっと、ほっぺを膨らませる亜弥。
相変わらず、態度がすぐ顔に表れる。
「つまんなくないって。楽しいって」
「じゃああたしみたく眠くなんないはずだぁ」
「そりゃあんたは、夕方からさっきまでぐっすりオフで寝てたからでしょ」
証拠にヨダレの後が、と付け足すと、慌てて鏡を見に走る。
「…なんて、嘘だよ」
「たぁーんー!!」
「でも寝てたのは嘘じゃなかったみたいだね」
「…う」
ズバリ的中に、さすがの亜弥も言葉に詰まる。
ええ、そうです。
美貴がやって来るギリギリまで、ぐっすり寝てました。
…涎は、垂らしてなかったけど。
535 名前:結局はバカップルなわけなんです 投稿日:2003/11/29(土) 01:07

「でもね、でもねっ」
「なによ?」
「違うの、聞いて」
こっちは仕事で疲れた身体でやってきたのにと文句を垂れていると、どうやら亜弥にも言い分はあるらしい。
しょうがないから耳を傾けてやったら、真顔でこんなことを言われる。

「だってだって、たんともっと長くお喋りしたかったんだもん…」
「……」

早めの睡眠を取ったのは、後でやって来る美貴と少しでも長く夜を過ごしたかったから。
前みたいにいつもいつも逢えるわけじゃないから、逢えた時は少しでも長く。
その為には、美貴に先に寝られては困るのだ。

「いっぱいいっぱい、話そうよ」
「話してるじゃん、毎日メールや電話で」
「そんなんじゃなくて。その、メールや電話で言えない事とか」
「あんの? 亜弥ちゃんは」
「えっ…えーと」
何かないかと頭の中をぐるぐる回ってみても、電話で喋り尽くしてるから。
こう突っ込まれると、何も出てこない。
「喋んなくても、今日は泊まるから朝まで一緒だって。何心配してんの?」
「……」
「ん?」
隠し事や心配事とかあると、すぐ分かるようになった。
それだけ、いつも一緒にいたから。
「怒んないから。…ほら」
ほっぺた赤くして、口をアヒル口にして拗ねてる亜弥を、優しく促す。
渋った顔を作ったが、こうなったら口に出さずには亜弥もいられない。
536 名前:結局はバカップルなわけなんです 投稿日:2003/11/29(土) 01:07

「………たんのことが好きなんだもん、だって」
「…?」
何を分かり切ってる事を、改まって。
その意図が分からなくて首を傾げると、また亜弥は俯いてほっぺたを膨らます。
「あたしだって、いっぱいいっぱいたんと喋りたいもん。たんとあたししか知らない話したいもん。
くだんないことでもなんでも、たんと話したいんだもん、いっぱい」
「…いっぱい話してんじゃん?」
「でも今は吉澤さんとか飯田さんとか辻ちゃんのが、絶対よく喋ってるもん、たんは」
「まーた亜弥ちゃんはメンバーにヤキモチ妬くぅー」
「だってだって……」
少しでも冷たくしたり、適当にあしらったりすると、亜弥は最近すぐ拗ねる。
こうしてモーニング娘。のメンバーを持ち出して、自分と比較するのだ。
そして自分の方が負けてた場合、こうして駄々こねて。
「…あたしの方が好き?」
「また、そんなこという」
「……だって聞きたいもん」
「……ハァ」
好かれすぎる、というのも疲れるものだ。
しかし、好かれすぎるようにしたのは、美貴にも責任がある。
なんだかんだ言って、亜弥を甘やかしてしまうから。
537 名前:結局はバカップルなわけなんです 投稿日:2003/11/29(土) 01:08

「…亜弥ちゃんの方が、とかじゃなくて。……亜弥ちゃんが好きだから。ね?」
「…………ホント?」
「美貴、嘘言わないもん」
「さっき、涎ついてるって嘘言ったよぉ」
「あ、あれは……ジョーダン」
「マイケル?」
「ばーか」
コツンと、額と額を当てて面白くない事を言ったお仕置き。
「にゃはは」
しかし亜弥はそうしてくれるのを望んでたかのように、嬉しそうに頬を緩める。
しばらくそうやって額と額をごっつんこして睨めっこしてたら、急に2人は「ぶはっ」と唾が飛ぶのも気にせず笑ってしまう。
538 名前:結局はバカップルなわけなんです 投稿日:2003/11/29(土) 01:09

「あー、オカシ」
「亜弥ちゃん、変顔しすぎだよ」
「たんだってそうじゃんかぁ」
くすくすと、まだ可笑しそうに亜弥の肩は揺れている。
眠くなるどころか、亜弥の気分はどんどん上がってるようだ。
それに乗じて、美貴も……と言いたいところなんだけど。
「んぅ……」
「ん、たんどしたの?」
笑いすぎて疲れてしまったのか、目がしぱしぱし始める。
ごしごしこすっても、余計に眠くなるだけ。
目がめっきり覚めて、これからのお喋りを楽しみにしている亜弥には悪いが、もう、起きてられそうにない。

「やばい、美貴ダメだわ」
「…えー」
「ゴメン」
「……」
口に出しては言わないけれど、美貴の腕の服を持った手が「許さない」と言っている。
539 名前:結局はバカップルなわけなんです 投稿日:2003/11/29(土) 01:09

「……………あのさぁ」
「…っ」
低く言ったその言葉の後に怒られる、そう思ったのか、服を持った手がびくっとなり、離される。
…でも、ホントはそうじゃなくて。

「いつも、よっちゃんや飯田さんや辻ちゃんと何話してんのか、教えたげようか」
「…え?」
「ほとんど、亜弥ちゃんの事なんですけど。だから、ヤキモチ妬かれても意味ないんですけど」
「そ、そうなの?」
「そうだよ」

亜弥に話さないでメンバーとしか話さない事なんて、モーニング娘。の事に関する事しかないと言っていいくらい。
メンバーに話してる事は、先に亜弥に話した事を伝えてるだけ。
亜弥に話す事だって、メンバーから聞いたりしたのを話したり。
そしてメンバーから聞かれる事は、しょっちゅう突っ込まれる亜弥との仲。
その話をしてるのを当の本人の亜弥に妬かれても、美貴としてはただ困るだけ。

「っていうか、亜弥ちゃん知ってる?」
540 名前:結局はバカップルなわけなんです 投稿日:2003/11/29(土) 01:10



――――独占欲が強いのも、ヤキモチ妬きなのも、ホントは美貴のがすごいんだよ。

541 名前:結局はバカップルなわけなんです 投稿日:2003/11/29(土) 01:11

照れ屋な美貴がぼそりと呟いた言葉は、人の話を聞かない亜弥には、届いただろうか?
それは、あともう少し。
表情がすぐ出る、亜弥の顔で分かる。


「……たん――」


――あぁ、彼女はどんな顔をしてるだろう。
こんなに恥ずかしいなら、言わなきゃよかった。
聞こえてないにしろ聞こえてたにしろ、どっちにしろ寝かせてもらえないだろうな……眠くてぼやける視界と思考の中、美貴はそんな事を思っていた。
542 名前:松竹藤 投稿日:2003/11/29(土) 01:13
すんげぇすんげぇ久しぶりに書いたわけですが。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・゚・(ノД`)・゚・

>531さん
あわわ、すいません。有難うございます。
本当は自分がしなきゃいけなかったのに……

>532さん
ほ、ぜんありがとうございます。

>533さん
です。
543 名前:334 投稿日:2003/11/29(土) 14:05
キタ━川VvV从‘ 。‘从 ━!!

むはー!
作者さんの話はホント体の中が蜂蜜で満たされた感じになります!(良くわからん
ゴロッキーズで藤本さんが、遊ぶ時は友達の家に泊まりこんで遊ぶって言ってましたね。
久しぶりだったから本当においしく食べれました。ありがとー
544 名前:JOJO 投稿日:2003/11/29(土) 17:17
新作待ってました!!

やはり作者さんがいないと飼育がなんか寂しかったです
自分は大阪にも東京にも逝けなかった真の負け組みですが
作者さんの作品を読んだらどうでもよく…はないですが
悲しみが癒されました
この作品で1週間脳内を染め上げたいと思います
次回も楽しみに待ってます
545 名前:チップ 投稿日:2003/12/04(木) 01:38
優しくてあったかいやりとりに癒されました。
今夜は幸せな気持ちで眠れそうです(w
546 名前:みきたんと過ごす寒い冬 投稿日:2003/12/12(金) 22:47

「…ねぇ亜弥ちゃん」
「んー?」
「寒いよね」
「うん」
「……ねぇ亜弥ちゃん」
「…、何?」
「寒いよね」
「………」

そりゃ寒い。
季節は冬。
そして、さっきから亜弥に声をかけてる人、藤本美貴は超冷え性だし。
しかしだからといって、同じ事を2回も、しかも間を空けずに言われると、返事もしたくなくなる。
うんと頷く代わりに、大きな疑問が。

「あのね、そもそも、そんなカッコして、まだ寒いの?」
「寒い」
「いや、だったらあたしの方が寒いから」

美貴の首にはマフラー。亜弥の首にはただのネックレス。
美貴のジャケットは真冬用。亜弥のジャケットは秋用。
美貴の着衣は肌着もジャケットも合わせ、4枚。亜弥は3枚。
そして美貴の手には手袋。亜弥は何もなし。
547 名前:みきたんと過ごす寒い冬 投稿日:2003/12/12(金) 22:48

「しかもしかも、みきたんホッカイロ持ってるし!」
「へへ。帰り安倍さんからもらった」
「ずるい〜」
「だって亜弥ちゃん寒くないでしょ」
「いや、寒いから。すっごいすっごい寒いから」
「美貴のが寒い」
「そんなのわかんないじゃんかっ」

いくら亜弥が「貸してよぉ」と言ってカイロを取ろうとしても、美貴は絶対に渡そうとしない。
いつもは亜弥の言う事を素直に聞くくせに、こういう事になると絶対聞かないのはなぜだろうか。

「風邪ひいちゃうじゃん、あたしっ」
「寒いのにそれ相応のカッコしてこなかったからでしょ」
「だって今日オフだったんだもん。だから外出てないからこんなに寒いとは思わなかったし…」
「だから、コンビニ行く前に『寒いよ』って言ったげたのに」
「……みきたんの『寒いよ』は、アテにならない」

なんせ、エアコン温度を30度にしても「まだ寒い」と言う超冷え性な人だから。
ちょっと遠くのコンビニでおでんと肉まん買いに行くだけの用だったし、別にいいかなって。
だけどもその帰り道。
マジで、寒くなってきた。
あともうちょっとのマンションが、遠い。
548 名前:みきたんと過ごす寒い冬 投稿日:2003/12/12(金) 22:48

「ほら、たん。手、冷たくなってきた!」
「んー、どれどれ」
「ほらほら」

冬の冷たい冷気に当たった手は、いつもの手の温度と全然違う。
頬に当てると、すごく冷たい。
それを美貴にも分かってもらおうと手を差し出す。

「あー、ダイジョブダイジョブ。全然冷たくない。問題ない」
「はぁ〜? ちょっと」
「ん?」
「…手袋で触ったって、そりゃ、冷たいはずないじゃん」

にぎにぎとマッサージしてくれるみたいに触ってくれるのは気持ちいいけど。
手袋越しじゃ、亜弥が冷たい冷たい思いして道を歩いてる苦労を分かってもらえない。

「ちゃんと触ってよ!」
「ぅあ!」

ムカついて、少し乱暴に左手の手袋を取って、右手で思いっきり握ってやる。

「ギャーッ! 冷たいっ、冷たい、マジ冷たいから!」
「んっふっふっ。たんの手あったかーい」

さすが手袋&カイロで温めていた手だけある。
亜弥の冷たい手は、美貴のその手を握る事であったかくなってくる。
しかし、同時にそんな冷たい手で握られた美貴の手からは、暖かさが消えて行って…。
549 名前:みきたんと過ごす寒い冬 投稿日:2003/12/12(金) 22:49

「寒い寒い寒いっ」
「手ぇ繋いでればあったかいよ?」
「いやっ、手袋つけた方があったかいし!」
「ヤダ。あたし手袋ないもん」
「じゃあ手袋つけて繋いだげるからっ」
「ヤダ」
「ハァっ? ちょっと亜弥ちゃん」
「ちょっと待って」
「………?」

立ち止まり、一旦繋いだ手を離し、ごそごそ。
しばらくして見た亜弥の左手には、先ほど美貴から奪った手袋。

「…? 何がしたいの?」
「……へへ」

可愛らしく笑ったって、右手の手袋だけはなんとか守ろう。
美貴のそんな決意は外れ、亜弥は別の物を美貴に要求する。

「カイロ貸して?」
「えー!」
「何、その露骨なリアクション」

思いっきり嫌そうなんですけど、とずばり。
それは、ずばりその通りで。
片方の手袋だけでなく、超冷え性の美貴からカイロまで奪おうと言うのかこの人は、と美貴は嫌がる。

「安倍さん通して、安倍さん」
「は? いや、安倍さんからもらったんでしょ。じゃあたんの了解もらうだけでいいじゃん」
「嫌です」
「大丈夫だよ、全部取らないから」
「ハ? どういう――」

意味、と続けようとした時、ポケットからカイロを奪われる。

「あ!」
「……へへぇ」
「………」

奪われたと思った瞬間、そのカイロは、美貴の手の平に当てられた。
そして、美貴の左の指には、亜弥の右の指が絡まる。
繋いだ手の間に、亜弥がカイロを挟んだのだ。
550 名前:みきたんと過ごす寒い冬 投稿日:2003/12/12(金) 22:50

美貴の右手には手袋。亜弥の左手には手袋。
美貴の左手の中にはカイロ。亜弥の右手の中にはカイロ。

「ま、指とか手の甲は寒いけど、中はあったかいよね」
「………」
「なーんで何も言わないの?」
「…指とか手の甲もあったかい方がいい」

美貴は超冷え性だから。
やっぱり、寒いのは嫌だ。

「………ハーッてしてよ、ハーッて」
「…………は?」
「だからっ、ハーッて!!! っ……やっぱ、いい!!!!」
「はっ? ちょ…たぁん?」

何、何、何なの。
おねだりしたかと思いきや、やっぱいいって。
っていうか、ハーッて何。
ハーッて………ハッ。
551 名前:みきたんと過ごす寒い冬 投稿日:2003/12/12(金) 22:51

寒い時。寒くてどうしようもない時。
少しでもそれを和らげようと、ある事をする。
手を口元に持ってき、ハーッと息を――。

そのおねだりがどんなものか、今やっと気付いた亜弥。
そしてそのおねだりをした美貴が、自分がどんな恥ずかしいおねだりをしたかというのを言ってから気付き、顔を赤く染めてそっぽを向いた。
………やばい。可愛すぎる。

目の前に見えるのは、亜弥が住んでいるマンション。
でも、そのマンションが目の前に来ている事にそっぽを向いてて気付いていない美貴。
とりあえず、美貴がおねだりした「ハーッ」をやってあげたいので、このままマンションを通り過ぎるのは内緒にしておこうと、亜弥は思った。



超冷え性の彼女と過ごす冬は、ある意味、いいもんである。

552 名前:松竹藤 投稿日:2003/12/12(金) 22:51

マターリマターリ。
即興なので、お見苦しい点は見逃してくれると助かります…ゴホゴホ

>334さん
レスキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
有難うございます有難うございます。
地方人には見れないゴロッキーズではそんな事が…あぁ羨ましいです。
ゆっくりのたのた更新で頑張っていけたらいいなと思ってます。
見つけてくださり有難うございます。

>JOJOさん
Magic〜の頃からあまり間を空けず更新してたせいか、1ヶ月以上空いたのは久しぶりです。
運動会は東京の方がイチャつき度の内容は高かったようで…ちょっぴり凹んでいます。
次回もまた間が空くかもしれませんが、もし気付いたら読んで頂けると嬉しいです。

>チップさん
幸せな気持ちで眠れましたでしょうか?
もし悪夢を見せてしまったのなら、大変申し訳ないです(w
553 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 00:54
即興でも萌えまつ・・
554 名前:JOJO 投稿日:2003/12/13(土) 11:47
いいですねぇ…。
これからの季節にぴったりのお話ですよ。
藤本さんにとっては過酷で
ぁゃゃにとっては口実付けて寄り添えあえる冬の到来ですね。

これから寒さも厳しくなるでしょうがお体に気をつけてこれからも頑張って下さい
555 名前:334 投稿日:2003/12/13(土) 22:07
タイトルの時点でやられました。
………やばい。萌えすぎる。
って感じです(w

バンプのスノースマイルを思い出したざんす。
冬が寒くって本当に良かった 君の冷えた左手を僕の右ポケットに
お招きする為のこの上ない程の 理由になるから♪

556 名前:344 投稿日:2003/12/13(土) 22:44
お久し振りです。作者様。 344です(って覚えてなかったらすみません)

いやあ、久し振りに見に来たら更新されていてビックリしました!
やっぱ作者様の作品はイイ!ですね。
マターリさせていただきました。
即興でも問題ないですよ! 萌えました。
557 名前:山人 投稿日:2003/12/15(月) 01:54
ワーイ!!!(・∀・)
気づかぬうちに短編が!
待っておりましたよ。
今回も多分に漏れず萌えました。
どうもありがとう
558 名前: 投稿日:2003/12/22(月) 22:25
ここ最近来てなかったんですが来たら短編が…っ!!
やばい、かなりこういうの憧れますね(w
カイロはさんで手つなぐとか…、僕もそんな人が欲しいですよ(何
マジで松竹藤さんの作品最高です!頑張ってくださいね。
559 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:17
朝から仕事。夜まで仕事。
国民的アイドルグループに今年から加入した美貴には、イブの気分味わえる暇がなかった。
最近は、正月番組の収録が多いため、セットはお正月だし。
季節やイベントを先取りのこの仕事をやっていると、今日の日付さえ危うく忘れてしまいそうになる。
そんな美貴に、今日がクリスマスイブなんだと思い出させてくれたのは、おとめ組でも一緒の石川梨華だった。

「美ぃ〜貴ちゃんっ! クリスマスプレゼント、もう買った?」
「…ん?」
――あぁそうだった。
このグループは、毎年3千円以内のクリスマスプレゼントを買って、メンバー同士で交換するのだ。
そういえば矢口さんが安倍さんか誰かにもらった紐パン穿いてるとかなんとか言ってたっけ…違ったっけ……なんて考えてると、美貴の少し上から梨華の困ったような声。
「み、美貴ちゃん? ちょっと…」
「あ、ごめんごめん。いちお買ったよ」
「そーなんだ。あたしも買ったぁ」
だけど今言うと反則だからと、梨華は一体何を買ったか教えない。
そんな梨華を見てたら、少しからかいたくなった。
「っていうか、梨華ちゃんのだけは当たりたくなーい」
「何よぅ!」
「同感同感」
「って、よっすぃーまでそーいうこと言うでしょ!」
横で美貴にもたれていたひとみが、そこで会話に参加。
それに乗って、ひとみに話を振ってみる。
560 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:18

「よっちゃんさんも買ったの?」
「うん買った買った。もし当たったら期待していいよー」
ニカッと笑ってみせるが、いささか心配である。
そんな美貴の気持ちを、同感と言われ不機嫌になった梨華が口に出す。
「……ジンベエとかじゃないでしょうね」
「うるさい」
「何なの、何よ!」
「生返事〜♪」
「もー!!!」
「ハハハッ」
仲がいいのか悪いのか、なんとも形容しにくい2人の関係。
終いには更に不機嫌になった梨華が、「…もう吉澤さんとはしばらく口きかない」と言ってどこかへ行ってしまった。
561 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:18

「ありゃりゃ。…いいの?」
「いいのいいの」
形だけでも心配してみたら、本当に気にしてないように返された。
別にいいならいいんだけど。
「しばらく口きかないとか言ってたけど」
「そう言って今みたいに喋ってるから」
「……ふーん」
なんかよく分かんないけど、とりあえず仲は悪くないらしい。

「それよりさぁー」
「んー?」
「ミキティ、さみしいんじゃないの、ん?」
つんつんと肘を突付いて。
…親父っぽい。
「…何が。財布の中身が?」
「そうそう、今月ピンチで…って、なんでだよ!」
「ハハハ! すっごーい、ノリツッコミだぁー!!」
ヒーヒー腹を抱えて笑う。
この人といると、やはり退屈しない。
美貴が娘。に入ってから、一番仲の良いメンバーで、一緒にいると言っていいくらい。
ひとみといると、いつも面白い。
もう1人、美貴には、そういう人がいるけれど。
今、ここにはいない。

ひとみが言おうとしていた「さみしいんじゃないの」は、多分、その子の事だ。
だからと言って素直に認めるのは少々気に食わない。
きっと帰って来てひとみに「ミキティがあんなこと言ってたよ」と聞いたら、調子に乗るだろうから、その子が。
562 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:19

「ハワイでしょ?」
「うん」
「1人だから大変だろうねぇ」
「……そだね」

風邪ひいてるって聞いた。
空港に移動する直前まで、一緒のスタジオにいた。

「あ、1人じゃないか。カントリーいたか」
「……あー」

一通りの行事が終わったら、雪も降らないハワイでクリスマスパーティーを一緒にするのだろうか。
去年は、その子――亜弥の家族と一緒に、亜弥の家でしたクリスマスパーティー。

「プレゼントとか、別で用意してんの?」
「…してないよ」
「えっ! マジで?」
「だってクリスマスに逢わないし。いっかなって」

去年は、美貴がプレゼントみたいなとこもあるし…と言って結局なかった。
それでも、2人でゆっくり落ち着いてコタツでみかん食べるだけでも、楽しかった。
去年の事を、思い出す。
563 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:20

「やっぱ寂しいんじゃないの?」
「っ…」

そこに彼女がいないだけで。

「ウチ含め、メンバーこんなにいるのにさぁ」
にやにやと、見透かしたように笑う。
「…んなことないし! すっごい楽しいし! これ以上ないってくらい楽しいし!」
「いや、何怒ってんの?」
「怒ってないし!」
「いやでも顔怖い…」
「元々こんな顔だし!」
心の中を読まれないように繕ったら、こんな風になってしまった。
……これじゃ、ひとみの図星じゃないか。
564 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:21


565 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:21

「結局、渡しそびれちゃったな…」
コートのポケットの中の、小さな箱。
何日も前から、そこにずっと入ったまま。
「ま、どっちみち渡せても早いんだけどね……」
それは、こっそり購入していた、亜弥へのクリスマスプレゼントで。
タクシーから降りて、マンションまでの数メートルの距離、プレゼントをポケットの中で転がしながら、呟く。

本来なら、空港へ行く前に、楽屋ででも渡すつもりだった。
でもその日、朝寝坊しちゃって、慌てて近くにあった上着を引っ掴んで出てきたら、プレゼントが入っていたこのコートじゃなくて。
結局、渡せなかった。
「…もぉいいかな、別に」
買った、なんて事はひとみだけでなく、亜弥にも言ってない。
そもそも、買うつもりはなかった。
だけど空き時間にたまたま見て、亜弥ちゃんに似合いそうだなぁと思ったら、いつのまにかポケットに入ってた。
安物だけど。可愛くて。
けど、今頃彼女はたくさんのプレゼントをもらっているだろうから、向こうで。
そう考えると、今自分のポケットに入ってるプレゼントが、ものすごくちっぽけな物に見えてしょうがない。
566 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:22

「はーあ」
ちくしょう。さみしいぞ、こんにゃろ。

いつもいつもうっとうしいくらいにくっついてるから、それに慣れてしまって。
誰かに聞かれると意地を張るけど、やっぱり独りになるとつい本音が出てしまった。
「……さむ」
独りだと、余計。
白い息が、美貴の前に広がる。
こんな時は早く家の中に入って、お風呂に入ろう。
そう思い、マンションの中へ入り、ふとポストを見た時だった。

何だ、これ。

自己主張が強すぎる、桃色の封筒。
「……」
恐る恐る手に取ってみると、表に丸い可愛い字で【藤本のみきたんへ】と書かれてる。
っていうか、いつ入れたんだろう。
とにかく、ハートのシールで塞がれてる封を開けてみる。
開けてみると、とんでもない事がそこに書かれてた。
567 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:22

【あたしがハワイ行ってる間、部屋ホコリたまるかもしれないから、クリスマスに家の掃除しに来て下さい】

「………えぇっ?」
この、相手の都合を一切考えないお願いは、一体なんだろう。
いや、そもそもこれはお願いと言っていいのだろうか。

携帯の時計に目を落としてみる。
時刻は0時を回り、亜弥の指定するクリスマスだ。

突っ込むべきところは、いくつかある。
まず、どうして美貴がそんな事をしなけりゃいけないのか。
そして、なぜクリスマスに行かなきゃいけないのか。
こっちは、寝て起きたらまた仕事がある。

とりあえず手紙をプレゼントと反対のポケットに入れて、美貴は歩き出した。

568 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:23


569 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:23

ピタ、と足を止める。
そして慣れた手つきでバッグから鍵を取り出し、ドアノブに差し込み、回す。
そうして開けられた部屋は、美貴の部屋。――じゃなくて。

「……ったく。なんで美貴がクリスマスに亜弥ちゃんの部屋掃除しに来なきゃいけないのさ……」

そこは、もう美貴が何度も通った亜弥の部屋。
結局美貴は、手紙の通り、亜弥の家に来てしまったのだ。
570 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:24

ブツブツと意味のわからない自分勝手なお願いの愚痴を言いながら、玄関に腰を下ろし、ブーツの紐を解く。
愚痴を言うくらいなら、無視すればよかったのに。
こうして、明日も朝から仕事があるのに来てしまうのはなんだろう、その理由を、少し考えてみる。
「…………だって、ホコリ溜まってたら可哀想だし」
疲れて帰って来て早々、掃除なんてのはつらいだろうから。
しかし4〜5日空けただけで寝れない程ホコリが溜まるのかと言われれば、言葉につまるけれど。
結局美貴は、自分勝手で我侭なお願い…命令だと思うけれど、亜弥に弱いのだ。
だからついつい、お釜洗ってと言われれば洗うし、お米洗ってと言われれば研ぐし。
普段はそんな人の言う事素直に聞くなんて思われてないので、どうして亜弥にそんな優しいんだと、よくメンバーにからかわれたりする。
そんなつもりはないんだけど。
でもきっと、亜弥以外にそんな事言われたら断わるかもしれない。
そういう風に思うのはなんでなのか、まだ、そこまでは考えないようにしている。

「うし」
ブーツの紐を解いて、ブーツ脱いで。
腰をあげて、リビングへ。
「…って」
何かおかしい。
部屋の主がいないリビングは真っ暗なのに、どうしてかチカチカと明かりが光っているではないか。

「………」
恐る恐る、足を踏み入れてみる。
そして、思い切って、リビングの電気のスイッチを押したら――――。
571 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:24

「………ハハッ………」

美貴の前に広がる、飾り付けがされた、クリスマスツリー。
さっきから光っていた明かりは、クリスマスツリーにかけられた電飾。

いつも置いてあったぬいぐるみには、いつ着せたのか、サンタの服を着ていたり。
壁なんかも、クリスマスに合わせてアレンジされている。

バカじゃないのか、と思った。
クリスマス、あんたはここにいないのにって。

「…こんなのするから、風邪ひいたりするんだよ…」

いつも忙しい彼女の事だ。
凝った飾りつけをするのも、きっと、仕事が終わってから頑張っていたんだろう。
自分はハワイに行かなきゃいけないくせに。
美貴を驚かせる為だけに、こんな。
572 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:25

バカだ、本当に。
掃除しに来てなんて騙して、もし来なかったらここまで頑張った飾りつけ、どうするつもりだったんだろう。
でもきっと、亜弥は分かってて。
きっときっと、美貴が考えないようにしてる美貴の気持ちも、亜弥には分かってて。

「……ん?」
ふと美貴がテーブルの上に視線を落とすと、そこにはリボンが可愛く結ばれた見覚えのあるDVDパッケージ。
「なになに…」
その横に置いてある美貴宛の手紙。

【メリークリスマス! 亜弥サンタから、あたしがいない間、寂しい想いをしてるだろうみきたんへ、亜弥ちゃんをプレゼント!】

美・少女日記1.2、亜弥のDNA、ライブDVD多数、ミュージカル「草原の人」、青の炎<松浦亜弥コレクターズエディション>、その他etc。

「っていうか、全部見せられたし」
何度も何度も、これでもかって言うくらい。
それを、また見ろと言うのですか。

もう一度時計を見る。
時刻はどんどん残りのクリスマスの日を減らしていって。
せっかく、亜弥からもらったクリスマスプレゼント。
仕事に出かけなきゃいけない時まで、亜弥サンタから頂いた亜弥ちゃんを、心おきなく頂こう。
573 名前:クリスマスプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 23:25


だけど、お返しは忘れずに。

ハワイから帰って来た亜弥に、安物だけど、遅いクリスマスプレゼントを、初めて渡そうと、美貴はコートのポケットから小さな箱を出し、テーブルの上へと置いた。
帰ってきた亜弥は、びっくりするだろうか。

「早く帰ってこないかなぁ……」

亜弥サンタからもらったプレゼントを眺めながら、美貴は、本物の松浦亜弥を早く頂きたくて仕方がなかった。



574 名前:松竹藤 投稿日:2003/12/25(木) 23:25

な、なんとかクリスマスに間に合った……ゼエゼエ。
でも本当はイブの日に間に合わせたかったんですが_| ̄|○
安物じゃなくて駄作なプレゼントですが、頂いてくれると大変嬉しいでございます。。。

>553さん
即興でも萌えてくださり、本当に有難う御座います。

>JOJOさん
何かとみきたんに触れたい松浦さんの事ですから、冬は好きそうかなぁと思いますよね。
ほんとに体には気をつけながら、こそこそゆっくり頑張りたいです。

>334さん
タイトルつけるのは大の苦手でして…いつもイタタですいません。
ハロプロ以外音楽にまったく触れない人間ですので、パンプって何?な世界なので、歌詞を載せてくださり感謝してます。

>344さん
勿論覚えてます、レス有難う御座います。
マターリして頂けたのなら、幸いです。
ゆっくり更新していけたらいいなと思いますので、また見つけたらどうぞよろしくお願いします。

>山人さん
お待たせして申し訳ありません。
萌えてくださり、本当に有難う御座います・゚・(ノД`)・゚・

>京さん
ほんと欲しいですよねぇ_| ̄|○>カイロ挟んで手を繋ぐ
ゆったりとですが、頑張りたいと思ってます。
575 名前:JOJO 投稿日:2003/12/26(金) 11:59
プレゼントありがとうございます
クリスマスなんてあったんですねぇ…・゚・(ノД`)・゚・
ぁゃゃなら実際にやってそうだから怖いですw

最近二人に対して事務所から多大なる圧力がかかって
公共の電波上ではくっつくなという命令が下っているんじゃないかと思うんですよね
576 名前:334 投稿日:2003/12/28(日) 00:07
最近はよしみきにやられつつあったのですが、やはりあやみき。
こんな形で藤本さんを使えるのは、やはりあの方しかいませんね。
お米研ぎのエピソード懐かしかった(w

あとスノースマイルの歌詞はこれです。
ttp://verse.sinfree.net/ha/bump/snow.htm
577 名前: 投稿日:2003/12/28(日) 14:58
実は僕も最近ごまがあればなんでも良いって感じになってたんですが、
久しぶりにあやみき読むとやはりあやみきが良いですね(w
ここ来て初めて読んだのが松竹藤さんの作品なのでなんか原点に戻った気分です
もしくは松竹藤さんが書けばどんなCPでも素晴らしいのでしょうか?(w
にしても本当にカイロ挟んで手を繋ぐような相手が欲しいですよね。
578 名前: 投稿日:2003/12/28(日) 14:58
sage忘れすいません(汗
579 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/28(日) 15:11
おぉ、来てみたら更新してあって凄く嬉しいです(w
いいですねー。松竹藤さん凄いです、実際にあの人ならしそうだなぁと思ったり(w
最近は、みきごまとかもいいと思ってますけどやっぱあやみきイイ!!
密かにいつも楽しみにしていますw
580 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/03(火) 23:02
まさか短編があるなんて・・・今まで気付かなかった_| ̄|○
萌え萌えな話し、ありがとうございます
今日はいい夢が見れそうです
581 名前:松竹藤 投稿日:2004/02/21(土) 10:32
時期は、去年の12月頃だと思ってください。
今の時期と全然合ってない話を今更スマソ。
582 名前:ぶぎうぎちゅーちゅー 投稿日:2004/02/21(土) 10:33
「にゃはは」
「……」
うわあ。
なんか笑ってるよ、あの人。
超人気アイドルでサイボーグと呼ばれる程の完璧な笑顔のあの人が、気持ち悪く笑ってるよ。
触らぬ桃猿(可愛く言うとピンクモンキー)…もとい亜弥ちゃんに祟りなしとは美貴の心の中では言うけれど、無視する程に2人の距離は離れていない。

ご機嫌うるわしゅう亜弥ちゃん。
何が楽しいのか、毛先を鼻に持ってって、くんくんと匂い嗅ぎ。
そしてにゃははと猫のように笑う。
「…ねぇ、キモイんだけど?」
何も言うまいと思ったけど、思った事は出来るだけ口に出したい美貴は、やっぱり思った事を口に出してしまった。
「ん? キモイ? 誰が?」
「や、誰がって、他に誰がいるの?」
とぼけてるのか分かんないのか。
多分、後者。絶対後者。
自分は可愛いとしか自覚がない亜弥ちゃんは、まさか自分の事だとは思っていない。
「もしかしてあたし?」
でも、やっと気付いてくれたらしい。
髪をいじくるのをやめて、人差し指を自分の顔に向けて首を傾げる。
そんな、絶妙な首の角度で美貴を見ても、キモイって言った事なんか取り消さないからね!
583 名前:ぶぎうぎちゅーちゅー 投稿日:2004/02/21(土) 10:33
「しっつれいだなぁ、たんは」
この可愛いあたしに向かってキモイなんて。
…自惚れもイイとこで。
「っていうか、何自分の髪匂って笑ってるわけ。キモイ通り越して怖いよ」
「怖いって…みきたんに言われたくないなぁ」
「……なるほど、亜弥ちゃんは美貴と喧嘩したいみたいだね」
「いやいや、めっそーもございません。仲良くちゅーがしたいんです。だからしよう!」
「しない!」
「ちゅー。ぶぎうぎちゅーちゅー」
メルヘン街道、1人で走ってきてほしい、いやマジで。

「とにかく、キモイ人とはちゅーなんかしません」
「ぶぅー。キモくないよぉ」
「だからってフツー、自分の髪匂って笑うかぁ?」
まあ亜弥ちゃんは匂いフェチで自分大好きな人であるから、その自分の髪も大好きなのかもしれないけど。
「っていうか、いい香りするでしょ、でしょでしょ」
「は?」
「あたしの髪の香り。ほれ」
「…んー?」
美貴の唇に亜弥ちゃんのおでこごっつんこ。おでこにちゅー。
すなわち美貴の鼻の下には亜弥ちゃんの頭。
お風呂上がりの亜弥ちゃんの髪はまだ少し濡れていて、ちょっと冷たい。
それでもそれを我慢して、くんくんと匂ってみる。

「ぅわ…ちょっと匂いキツクない?」
「ま、そうだけど。でも慣れたらいい香りだよ」
「…そっかな」
あまり慣れたくないけど、亜弥ちゃんが言うなら別にいい。
そう納得して顔を離したら、なぜかにこにこ笑顔の亜弥ちゃん。
584 名前:ぶぎうぎちゅーちゅー 投稿日:2004/02/21(土) 10:34
「みきたんさーん」
「…何?」
「ムラムラくるでしょ」
「は?」
「胸がキュルルンってしたでしょ」
「なぜ?」
「イチコロになったでしょ!」
「……」

………まぁ、前から少し思ってたけど。
だってこの子、芸能界入ったの早かったもんね。
高校中退した美貴も人の事言えないけど、ここまでバカじゃないと思う。……思いたい。

「頭、大丈夫?」
「…みきたんのバカ!」
「はあぁっ!?」
嘘でしょ。嘘と言ってよ。
美貴がバカだったの? 美貴の方がバカだったの?
なんで。どうして。そんなバカな。
「前、見せたじゃん!」
「な、何をさ?」
「ティセラの新しいCM! しかも撮り立てのやつ!」
「えっ………うん、見せてもらったけど…」
ゴメン、訂正。
見せてもらったんじゃなくて、見せられたに訂正。
しかも一回だけじゃなく、何十回と。
今度も前と同じく2種類出るシャンプーとコンディショナー。
でも種類は“今日の私はキュート系”“明日の私はセクシー系”ではなく、……………なんだっけ?
あんだけ何十回と見せられたに覚えてないのは、真剣に見てないのがバレバレで。
585 名前:ぶぎうぎちゅーちゅー 投稿日:2004/02/21(土) 10:34
「覚えてないんだ?」
「……ごめんなさい」
「…まぁ、いいけど」
「…ぇ?」
そんな。
自分は人の話聞かないくせに美貴が聞かなかったら怒る、あの亜弥ちゃんが、お咎めナシだなんて。
一体、どういうことだろう。
「あたしさ、シャンプーとコンディショナー、新製品のね、もう一種類の方今日始めて使ってみたのね」
「…へえ」
「もう一個のはさ、“チヤホヤされちゃうチェリーな香り”って言って、もらってからお仕事行く時毎日使ってるんだけど」
「へ、へえ」
おいおい、どんな香りですか、そんなの。
ありえないんだけど。おかしいんだけど。あまりにバカっぽいんだけど。
だけどバカじゃない美貴は、そこでそんな事は口に出さない。
「でさ、やっぱりその香りの効果ばっちりでさぁ、ホントにチヤホヤされちゃうの! スタッフさんとか共演者の人とかに」
「いやそれは…」
香りじゃなくて、今までもずっとそうだったんじゃ?
今度は突っ込みたくても、亜弥ちゃんの素早い睨みのせいでそれは口には出せなかった。
「でねでね、もうそれは効果ありって分かったからいいんだけど。
もう一種類の方はね、効果あるかわかんなくて試してみたの。
ほらほら、あたしイメージキャラクターなわけじゃん? だから実際使ってどうだったか、みんなに教えてあげなきゃいけないじゃん。
だから、今日のこの香り効果あるか、たんに聞いたの」
「で、この香りって……」
にこにこ。
笑顔がとても怖い亜弥ちゃん。

「あいつもイチコロベリーな香り」
「………」
586 名前:ぶぎうぎちゅーちゅー 投稿日:2004/02/21(土) 10:35


誰か教えて。
それって、どんな香りなの。
あいつって、どいつ。



587 名前:ぶぎうぎちゅーちゅー 投稿日:2004/02/21(土) 10:35
「あ、今イチコロになっちゃったから言葉出て来ないのかな?
よかったぁ、やっぱり効くんだねぇ、へへへぇ。
あ、でも安心してね。このシャンプーは、たんの前でしか使わないから!」
「は、ははは」
「嬉しい? よかったぁ、あたしも嬉しいぃ〜」
だからちゅー。
何かと理由をつけてちゅー。
今の理由は美貴がイチコロになって嬉しいちゅー。
ぶぎうぎちゅーちゅー。

…あぁ、そーいやぁ、ブギトレ最近歌った覚えってないよねぇ……
なんて、違う事に考えをシフトさせたら余計悲しくなったので、もう、何も考えない事にした。
588 名前:松竹藤 投稿日:2004/02/21(土) 10:36
ネタがふと思い浮かんで書いたら、こんな意味も萌えもない話になってしまいました_| ̄|○
もうすぐで亜弥ちゃんのみきたんのお誕生日でつね。

>JOJOさん
プレゼントを受け取って頂きありがとうございます。
もしそんな命令が下りてるとしたら、代わりにその上司を蹴落として自分が上司になってそんで2人に(ry
ゴメンナサイゴメンナサイ

>334さん
松浦さんの命令は素直に頷くんですから、まったく藤本さんも分かり易い人だと思います。
お米研ぎのエピソードは、生で聞いた時は萌え死にそうになりました。
歌詞までご親切にありがとうございます・゚・(ノД`)・゚・

>京さん
ごまヲタさんなんですね(w
自分が書く話にはごまがあんまり出てこず申し訳ないです。
カイロ挟んで手を繋ぐような相手……_| ̄|○

>579さん
sage更新で分かり難くて申し訳ないです。
でも発見してくださりありがとうございます。
密かにいつも楽しみにして頂けるように、密かに更新なんかしてみました(w

>580
気付いて頂き嬉しいです。ありがとうございます。
いい夢を見る事が出来るような話を、いつも書きたいです・゚・(ノД`)・゚・
589 名前:ほわ 投稿日:2004/02/21(土) 14:00
萌えとかなんとかと言うより
もの凄くリアルな気がしました
なんか本当にあの二人ならそんなことを日常的にやってそうみたいな感じでw
ミキティのブギトレが聴きたくなっちゃいましたよ・・・生で・・・
590 名前:334 投稿日:2004/02/21(土) 22:58
今回は歌詞が巧い具合に話の中に溶け込んでいて、
音楽が脳内に流れながら読めました。
久しぶりに読めて嬉しかったです。
ありがとうございます。
591 名前:JOJO 投稿日:2004/02/23(月) 16:38
この話は随分リアリティの高くなっているようなので、より現実に近い
感じの二人の絡みを読めて凄い良かったです。
なんかありのままの二人を覗き見てしまったような気がして妙にドキドキしています(w
592 名前: 投稿日:2004/03/07(日) 21:52
いや、でも最近美貴ヲタに…(w
僕結構移り変わり激しいんですよね。
今回も良かったですよ。美貴帝のツッコミが…(w
新作お疲れさまでした
593 名前:松竹藤 投稿日:2004/03/28(日) 08:54
小川さんと辻さんの話です。
いつもの2人じゃありません。
ゴメンナサイゴメンナサイ
594 名前:なんかよくわかんないけど、まあ、いいんじゃないかと 投稿日:2004/03/28(日) 08:55
あたし、見ての通り女の子なんですよ。
なぜか、メンバーの人達からはキモイとかキモイとかキモイとか、石川さんとは別の意味で言われますけど。
別にキモくないわけですよ、ええ。
おとめ組だし乙女な女の子なんですよ。
…………………………多分、ですけど。
595 名前:∬´◇`∬ 投稿日:2004/03/28(日) 08:55


596 名前:なんかよくわかんないけど、まあ、いいんじゃないかと 投稿日:2004/03/28(日) 08:56
「まこと」
「………」
「…むぅ。まことぉー」
「…っ、んあぁ?」
「んあぁ、って何。キモイよまこと」
あぁ、またやっちゃった。言われちゃった。
どうやらぼけっとしてて、のんつぁんに話し掛けられてるのに気づかなかった。
それでやっと気付いたと思ったら、自分でも思うくらいなんともお間抜けな声出して、またまたキモイって言われた。
「ひどい。あたしキモくないですぅ〜」
「キモいよ」
その言い方とか、と、のんつぁんは笑って言う。
「また口あいてたよ」
「さっき?」
「うん」
頷いて、ぼやーんとブサイクに口を開けてどこか上の方を見てるのんつぁん。
「のんつぁんの方がキモイじゃん」
「まことのマネだよ」
「えー?!」
「ねぇ、似てるよねぇ?」
うそだよ。似てないよ。
だけどものんつぁんが同意を求めた相手の石川さんにまで、「うん似てる似てる」と言われてしまった。
「麻琴もアイドルなんだから気をつけないと」
「うぅ…」
そう言う石川さんだって、運動会の時にマジ切れしてキャラを忘れて思いっきり怒ってたくせに。
――とは、口に出しては言わない、言えないけど。
597 名前:なんかよくわかんないけど、まあ、いいんじゃないかと 投稿日:2004/03/28(日) 08:56
タカさんとかに言われて、口を開けないようにはなるべくしてるんだけど。
やっぱり、癖っていうか、なんていうか。
気付いてたら開いてた、みたいな。
「っていうか、のんつぁんだって開いてる事多いよぉ?」
「のんはいいの」
「なぁーんでぇ」
「だってまことと違って可愛いから」
へっへーといたずらっこのように笑う。
その顔が可愛いから、返事はやっぱりこうなってしまう。

「うん、そうだねぇ。のんつぁん可愛いもん」
「え…」
「んー?」
「い、いやいや。ちょっと」
「はい?」
「て、テレるじゃん」
「ふぇ、なんで?」
ほっぺた赤くさせて俯いて、ぎゅーっと腕を握ってくる。
可愛いって言うから、可愛いって言い返しただけのこと。
何もほっぺた赤くさせるようなことは言ってないんだけど。
松浦さんやシゲさんなら、絶対に「やっぱりそう(ですよね)でしょ?」って返してくれるのに。
598 名前:なんかよくわかんないけど、まあ、いいんじゃないかと 投稿日:2004/03/28(日) 08:57
「だってさっき、のんつぁん自分で可愛いって」
「言ったけどぉ……」
まさかそう返されるとは思わなかったって。
いやいやあたしの方が可愛いとか、のんつぁんもブサイクだよキモイよと返ってくると思ってたらしくて。
そんな、可愛いなんて言われると、照れてしまうんだって。
「………可愛いね」
「ぅ…」
「ふへへ」
「まことに言われると、なんか、オカシクなる」
「可愛いって?」
「うん」
ほっぺたを赤くしたまま口を尖らせるのんつぁんは、やっぱり可愛い。
でもどこか、大人っぽくて。
どうして大人っぽく見えたのか、まだ子供なあたしには、よくわからなかったけど。
599 名前:なんかよくわかんないけど、まあ、いいんじゃないかと 投稿日:2004/03/28(日) 08:57
「まことさぁ」
「うん?」
「のんのこと、すき?」
「うん」
「のんも、まことのこと、すき」
「うん」
「おもしろいしぃー、楽しいし。………キモイけど」
「あ、また言ったぁー」
「でもすき、だよ」
「へへ、うん」

顔がにやける。だらしなく、また、口が開く。
600 名前:なんかよくわかんないけど、まあ、いいんじゃないかと 投稿日:2004/03/28(日) 08:58
「…まこっちゃん、キモイんだけど?」
すかさず、たまたま通りかかった藤本さんの突っ込みが耳に入ったので、慌てて口を閉じた。
「また言われたね」
「うん。へへ」
「もう言われ慣れた?」
「えー、慣れたくないよぉ」
「のんがいっぱい言ったげるから、イヤでも慣れるよ、きっと」
「のんつぁんて、意地悪だ」
「……でも、すき?」
「うん、すき。へへへ」
「…へへ。じゃーいぃ」
「うん、だねぇ」
そして、また口がだらしなく開く。

じゃーいぃとのんつぁんは言ったけど、あたしにとっては何も良くないとは気付かず。
へらへらと、相槌を打つ。
601 名前:∬´◇`∬ 投稿日:2004/03/28(日) 08:58


602 名前:なんかよくわかんないけど、まあ、いいんじゃないかと 投稿日:2004/03/28(日) 08:58
あたし、小川麻琴。
キモイともっぱら言われるわけですが、そんなに嫌ではないんです。
だって、のんつぁんがキモくてもすき、と言ってくれるから。
とりあえず、幸せかな、と。

ぼけーっと、また無意識に口を開けながら、そんなことを思ったりなんかしてます。
603 名前:松竹藤 投稿日:2004/03/28(日) 09:06
どうしてもただ単に書きたかったんです。
辻さんとか小川さんとかありえないほど性格とか違うと思うんですが・゚・(ノД`)・゚・
とりあえず、辻さんに「まこと」と自分で言わせたかっただけなんです…。

>ほわさん
藤本さんのブギトレ…あぁ懐かしい…聴きたいですね、ええ、聴きたいです・゚・(ノД`)・゚・

>334さん
久しぶりでしたが読んで頂き、嬉しいです。こちらこそありがとうございます。

>JOJOさん
現実は妄想を超えるお2人なようですから、きっと、もっとイチャこいてることでしょう(w
読んで頂きありがとうございました。

>京さん
やはり藤本さんと言えば、ツッコミということで(w
あんなに素早く的確なツッコミキティを育てた北海道の真ん中らへんは素晴らしいと思います。



604 名前:334 投稿日:2004/03/28(日) 18:17
アホっぽい! でも可愛い、素敵。
605 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/02(金) 10:52
この小川なんか愛しいw
606 名前: 投稿日:2004/04/02(金) 17:40
やはり藤本さんといえばツッコミですよね(w
北海道の真ん中らへん、最高です(w
今回、辻さん小川さんというわけで、僕的に初めて見るCPなんですが、
はっきり言ってハマりかけです。
まぁ、松竹藤さんの作品だからかもしれませんけどね(w
607 名前:娘。サブリーダーはつらいんです 投稿日:2004/04/10(土) 08:55
「みんな、ちょっと集合してほしいの」

それは、ちょうどテレビ収録の少し長い休憩時間の時で。
やたらと怖い顔をした圭織が、おとめ組+おとめ組の楽屋に遊びに来ていた真里も一緒に自分の元へと集合させる。
「飯田さん、なんですかぁ?」
気の抜けた問い掛けをしたのは、急に集合をかけられ不思議がっている麻琴。
その麻琴の手には、同じく不思議がってる希美の手が繋がっている。
「あ、のんちゃんと麻琴はいいの」
「はあっ?」
「えー、なんでですかぁ」
「わかった! なんか食べるんだ!」
ずるいずるいと、今度は圭織の手を掴んで仲間に入れて欲しいとアピールする、が。
「何も持ってないし食べないよ。のんちゃんと麻琴のお子様はいいの。ちょっと話が難しすぎるから」
「なんだ、食べ物じゃないんだ」
「そっかぁ」
じゃあ2人で遊んどこうと、お子様扱いされた事も気付いてるのか認めているのか突っ込まず、
また、鏡の前で2人独特の変な遊びを飽きずに始める希美と麻琴。
608 名前:娘。サブリーダーはつらいんです 投稿日:2004/04/10(土) 08:57
「あ、あのぉ…」
その2人がもうこちらに注目してない事が分かり満足そうに微笑んだ圭織の下から、少し戸惑いを含んだ声がかけられる。
「ん? どしたの田中」
「いや、あの、辻さんと小川さんが無理なら、れいな達も…ですよね?」
お子様と言われた希美と麻琴。
じゃあ、希美と麻琴よりも学年が下のれいなとさゆみは、赤ちゃんだろうか。
だとしたら、当然その集合に引っかかる事はないと思えるのだけど。
「いや、田中とシゲさんはいいの。会議に参加出来るよ」
「「…会議…?」」
なんだろう。
まだまだ若い2人は、その嫌な響きに不安を覚える。
だが、そんな2人より年上で、多少の知識がある真里、梨華、美貴は、なぜいきなり集合がかかったのか、分かり始めていた。
609 名前:娘。サブリーダーはつらいんです 投稿日:2004/04/10(土) 08:59
「みんなに集まってもらったのは、他でもない――」
「辻と小川の事でしょ」
神妙な顔で発言していた圭織の言葉を遮り、真里が呆れた顔で口を挟む。
「な、なんで分かったの矢口」
「いや、じゃなきゃ辻と小川もこん中に入ってるでしょ、フツー」
なのに圭織はその2人をこの中に入れなかった。
話が難しすぎるなんて理由は、真里にはまるでお見通し。
「で、ののと麻琴がどーかしたのかおりん?」
わざわざ呼び出して。
ペットボトルのお茶を小指を立てながら飲んで、梨華は圭織に質問する。
「っていうか、指立ってるし」
キモい、と、話の議題とまったく違う事を突っ込んだのは美貴。
どうやら無意識な梨華の小指が気になるらしい。
しかし梨華も聞き逃さない。
「あー、美貴ちゃんまたキモいって言ったぁ〜!」
「だってキモいじゃん、ねえれいな、シゲさん」
「はい」
610 名前:娘。サブリーダーはつらいんです 投稿日:2004/04/10(土) 09:00
ニコニコと、まるでそれは当然のような当たり前のような、さゆみの返事。
いや、美貴に言わせればそれは当然で、当たり前なのだけど。
キモいよねと同意を求められ、後輩に笑顔で「はい」と言われた梨華の気持ちは、誰が分かってくれようか。
「たっ、田中は思ってないよね! だって田中、あたしのファンだもんねっ」
「へっ? あ、あー……」
まあそりゃ確かに。
好きは好きなんだけれども、ここは難しいところだ。
一瞬言葉に詰まってしまったれいなを助けるかのように、そこで真里が口を挟んでくれた。
「まーまー。石川がキモいのは周知の事実として、圭織の話聞いたげようよ」
「ちょっ…、周知の事実って何?!」
「梨華ちゃん、ちょっと静かにしてよ。飯田さんの話聞こえないじゃん」
「………」
っていうかそもそも美貴ちゃんが指立ってるしとか言って最初から飯田さんの話なんか聞いてなかったじゃない………なんて梨華の呟きは、美貴は聞いてない。
611 名前:娘。サブリーダーはつらいんです 投稿日:2004/04/10(土) 09:01
「で、何さ。あのアホ2人がなんかしでかしたわけ?」
アホはアホでも、そこにはちゃんと愛が篭もってる言い方。
モーニング娘。・おとめ組のリーダーである圭織の真剣な顔から発せられる2人の事が、真里は口では乱暴に言っていても、少し心配だった。
「いや別に、しでかしたとかじゃないんだけど。っていうか、ののとあいぼんはいつも何かしらしでかしてくれてるけど」
今回はそういうことではないらしい。
じゃあ、どういうことか。
出来るだけ、簡単に。
まだ中学生組のれいなとさゆみにも分かるように、単刀直入に。

「………あの2人、最近あやしくない?」
「「「「「――ハァ?」」」」」

ライブでも、こんなに声の揃う時はあるだろうか。
思わず考える程、圭織以外のこの会議に参加したメンバーの声が揃った。
関係をウワサされてる張本人達は、呆れたメンバーの声も聞こえていないのか、何やら楽しそうに笑っている。
612 名前:娘。サブリーダーはつらいんです 投稿日:2004/04/10(土) 09:01
「あやしいって、何が、ですか」
雲行きがとか、行動がとか、言葉がとか、まあその他色々と。
まずはそこからツッコミキティ。
「あやしいって言ったら、言葉通りだよ。美貴とあややの関係のあやしさと一緒って事」
「はっ?」
「あー確かにミキティと松浦はあやしい!」
「そうだよ! こないだ美貴ちゃん、亜弥ちゃんに浮気してないかどうかとか聞かれてたし!」
さっきのお返しとばかりに、梨華が声を張り上げる。
しまった、見られていたのか。美貴は思わず舌打ちをしてしまった。
「う、浮気ってちょっと梨華ちゃん。ちょっと、こないだの休日誰とどこ遊びに行ったのか他の人よりほんの少しだけしつこく聞かれただけじゃん?」
「そんなの誰と行こうが別にしつこく聞く必要ないじゃん。そこがあやしいの」
「そう言うアンタが一番あやしいよ!」
「あ、あ、アンタって! 美貴今かおりの事アンタって言った!!」
思わず口が滑ってしまい、仮にもリーダーに向かって「アンタ」と言ってしまった。
ツッコミは災いの元。
しかし、突っ込まずにはいられない。
613 名前:娘。サブリーダーはつらいんです 投稿日:2004/04/10(土) 09:02
「まーまーまーまー! とりあえず落ち着こ、ね、ね」
どうどうと圭織を宥める真里。
ベテラン騎手のようなそのお姿。
「確かに、ミキティとあややはあやしいさ。あぁあやしいさ。めっちゃくちゃあやしいけどさ」
「……矢口さん?」
「と、とにかく、あやしいのは分かったけど、今は、ミキティとあややの話は置いとこう、うん」
額に汗を光らせ、必死で美貴と目を合わせないように努める。
それでも後頭部に突き刺さる視線はこれでもかというくらい感じてはいるけれど。
「あやしくないなら、かおり入れてくれたっていいのに」
ぶぅっと頬を膨らませ、一人称で言う圭織は、とてもじゃないがリーダーには見えない。
ただただ、仲が良すぎる美貴と亜弥の中に混ざりたいのだ。
でも悉く突き飛ばされ、挙げ句に自分が間に入れない2人の仲を疑った。
「なんだ、仲間に入りたいんですか。それならそうと言ってくれれば…」
美貴は全然構わない。――けど。
彼女、亜弥はどうか知らない。
そもそも、彼女のせいで仲が疑われているのだ。
…………まぁ、少し、仲が疑われるような事もしているのも事実だけれど、それはやっぱり黙っておこう。
614 名前:娘。サブリーダーはつらいんです 投稿日:2004/04/10(土) 09:03
「問題は辻ちゃんと麻琴でしょー? んな、あやしいってモンじゃないでしょ」
足組んで腕組んで、奥の方で笑ってる2人を美貴は眺めてみる。
それは、とても微笑ましい光景。
「あやしいってこた、デキてるかもしれないってことだろぉ? まぁ、ハロモニとかでそう取れないでもない事も言ってたけどさ。
でもそーゆーのは、娘。内じゃマヒしてるみたいなもんだし」
真里の言葉に、うんうんと、皆頷く。
だけど梨華だけは頷き+「でも美貴ちゃん達は度を越えてるけどね」と仕返しも忘れない。
しかし美貴は聞こえない振り。あとで仕返しの仕返しをしてやると心に秘める。
「でも、最近辻さん、小川さんにベッタリですもんね」
「でしょ!」
田中なかなかいい眼鏡でいい事言った!と、圭織に拍手をプレゼントされ、引きつるれいなの顔。
「ほんとそうなの。のんちゃん、ずっと麻琴ばっかりで、かおりのお膝に来なくなったの…」
「って、オマエの不満かよ!!!」
ずびしと真里のツッコミが綺麗に決まる。
突っ込まれた圭織はというと、お膝に乗ってくれない希美より、真里の「オマエ」発言の方が不満らしい。
「矢口、言葉汚いよ」
「………さくらに帰ろうかな…」
少なくともさくら組には、こんなバカな会議を開く人間はいないだろう。
そもそもなぜ、自分はここにいるんだ。真里は分からなくなってくる。
615 名前:娘。サブリーダーはつらいんです 投稿日:2004/04/10(土) 09:03
「のんちゃん、最近麻琴のお膝ばっかりに乗ってさ。
地方のホテルで寝る時だって、麻琴と同部屋ばっかり希望するの!」
「れいなは、一緒の部屋じゃなくてもあたしの部屋に来る」
「だからさゆっ、今全然関係ない話せんでよか!!」
「れいなさみしんぼだもんね」
悪気もなく笑顔で言ったなのに、なぜか顔を真っ赤にしたれいなに睨まれるさゆみ。
なんだろうか、このまとまりのなさは。
「頭、痛い…」
「あらら。矢口さん大丈夫ですか?」
「あたし頭痛薬持ってるよ。まりっぺ飲む?」
「………」
そして、どうしてこんな呑気に真里の心配が出来るのだろうか。
もう、おとめ組の面々が分からない。
ついさっきまで、リーダーである圭織の話を聞いていたはずなんだけれども。
それが今はどうだろう。
圭織はいじけてるし、さゆみはれいなに何やら怒られているし、美貴と梨華はもう話題を変え、今度は梨華の趣味の悪いピアスについて語り合っている。

「……オマエら、ホントに人間かよ……」

真里にとってそれは、美貴や亜弥・希美と麻琴の関係よりも、一番あやしく思えた最大の謎だった。

616 名前:松竹藤 投稿日:2004/04/10(土) 09:09
(〜´◇`)<………ハァ
久しぶりに矢口さんが書きたくて、そこにまこののを入れたかっただけという。
色んな意味でごめんなさい。色んな意味でがんばります…

>334さん
いつもありがとございます・゚・(ノД`)・゚・
アホな2人が大好きなもんで、アホな話になってしまいましたどうしましょう。

>605さん
∬∬*´▽`)<デッヘッヘッ

>京さん
っていうかもうハマっちゃってくださいそして書いてくださいいやマジででじまマジでじ(ry
小川さんと辻さんこそこれからもっと発展していく……って、もうすぐ辻さん卒業やん_| ̄|○
617 名前:334 投稿日:2004/04/15(木) 00:28
いまっとー、きかけたー!(w
確かに、ここ最近の辻さんと小川さんのいちゃつきぶりは惹かれるものがあります。
しかし、自分がそれ以上に気になっているのが辻さん×田中さん!
こちらにも注目して見て下さい(w
618 名前:繋いだ手は離せない 投稿日:2004/04/19(月) 23:30

この手を離したら、お互いはきっと、別々の所へ行ってしまう。
それだけは嫌だった。
行くなら、二人、同じ所がよかった。

619 名前:繋いだ手は離せない 投稿日:2004/04/19(月) 23:31
どうしてこの手を繋いではいけなかったのか、その意味がまだ分からない程、二人は子供ではなかった。
だけど、大人にもなりきれてなくて。
大人の言う事に納得が出来ず、手を繋いだまま、家を飛び出した。

「お腹すいた」
「ねー」
「まことお金は?」
「………へへ」

だらしなく笑うということは、そういうことだった。
それは彼女だけでなく、訊いた彼女もそうだったから、何も責められはしない。
620 名前:繋いだ手は離せない 投稿日:2004/04/19(月) 23:31
「どこいこっか」
「んー、どこいこう?」

家には帰りたくない。
だけどお金もない。
行き先なんてあるようでなかった。

「のん、ちょっと疲れてきちゃった」
「え、大丈夫? どっか座る?」
「……んーん。がんばる」

座って彼女と時が過ぎるのを待つのもよかったけれど。
とにかく今は、歩いて、彼女の声しか聞こえない静かな所へ行きたかった。
人間が皆、彼女だったらいいのに。
けれどそんなことになったら、たった1人の人を愛する事なんて出来なくなるし、手だって全員と繋げない。
かたっぽだけでしか感じられない手のぬくもりだったけれど、充分にあったかかったので、よしとした。
621 名前:繋いだ手は離せない 投稿日:2004/04/19(月) 23:31
彼女は、笑いすぎて泣き笑いになるくらい、彼女の事が好きだった。
彼女は、彼女の可愛さにみとれて口の中が乾いて乾いて乾きまくってしまうくらい、彼女の事が好きだった。

手を繋ぐだけで幸せだった。
純愛だった。
踏みにじって認めてくれなかったのは、彼女達の周りだった。

繋いだ手を離したくないのが、どうしていけないんだろう。
いつでも傍にいたいという気持ちが、どうしておかしいんだろう。
考えるだけで、疲れた。頭が痛い。
いっぱい色んな事を詰め込める程、二人は賢くはなかった。

「まことぉ」
「んぅ?」
「…ちょっと呼んでみただけ」
「なんだよぉ」

そんな些細なやりとりだけで、幸せなのに。
622 名前:繋いだ手は離せない 投稿日:2004/04/19(月) 23:32
手を繋いで歩いて、どこまで行けるんだろう。
天国への階段があればいい。
地獄の階段は嫌だけど、お互いが一緒なら、もうどこでもよかった。

これは家出じゃない。
テレビを見て憧れた、駆け落ちというやつだ。

行く先もないしお金もないし知恵もないけど。
お互いを想う気持ちだけはあった。
623 名前:繋いだ手は離せない 投稿日:2004/04/19(月) 23:32
「このまま真っ直ぐ行ったら、どこ行くんだろ」
「さあ。北海道?」
「えー、北海道って北でしょ? 今あたし達が向かってるのって南の方じゃない?」
「…そもそも、方角ってどうやって分かるの?」
「え。……えーと、うーんと………あ、そうそう、北極星とかで」
「北極星ってどれ?」

空を見上げる。
星がいっぱいあって、分からない。

「………………どれだろう?」
「なんだよー、まことだってどっち向かって歩いてるかわかんないんじゃん」
「…でへへ。まあいいじゃん」
「うん、まあいっか」
「そうそう。気にしちゃ負けだよ」
「だねだね。気にしなぁーい!」
「切れてなぁーい!」
「あははっ、そだそだ。そんなコマーシャルあったね」
624 名前:繋いだ手は離せない 投稿日:2004/04/19(月) 23:33
それは、まるで学校から家までの帰り道のように。
いつも通り、バカな事を言って、笑って。
ただいつもと違うのは、着く先は、家じゃないということだけ。

どこまで行けるんだろう。どこまで行こう。
とりあえず、繋いだ手を離したら迷子になりそうだから、何が何でも絶対に離せないのは、二人共同じだった。

625 名前:松竹藤 投稿日:2004/04/19(月) 23:33
またまたこの2人。
だって、こないだのハロモニのオープニングで手を繋いでたんだ、萌えずにはいられなかったんだ_| ̄|○
自ら別のお2人の話を期待して下さっている人の期待を裏切ってしまっているような。
モウシバラクオマチクダサイ……

>334さん
惹かれると言わず惚れて(ry
辻さんと田中さんですか…も、もしや小川さんと似ているからと言われたから辻さん…!
……と、こんな考え方しか出来なくなってしまっている自分が嫌です_| ̄|○
626 名前: 投稿日:2004/04/20(火) 23:07
っていうかもうハマりましたね(w
何というか、読んでて顔が緩んできます。
マイペースな2人だからこそできる世界っていう感じですね。
辻さん卒業、寂しいですね。Wで頑張っていただきたいです。
627 名前:334 投稿日:2004/04/21(水) 00:26
小川さんに甘えきっている辻さんが克明に浮びました。
オープニング時にあの二人が並んでいると必ずと言って良いほどいちゃつきますよね。
甘えん坊さんだからな。
628 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:17

まことなんて、ダイキライ。
まことなんて。まことなんて。………まことなんて。

最後は、あまりの怒りに言葉を発せられなくて。
他にぶつけるところが分からなかった希美は、ただ、呆気に取られポカーンとしている麻琴をその場に置いて、教室を飛び出した。

629 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:18


630 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:18
まことが悪いんだ。のんは悪くない。
全部、まことのせいだもん。のんのせいじゃないもん。

まるで、自分に言い聞かせる様に呟きながら、希美は通学路で馴染みの商店街を歩いていた。
さっきまでは全速力で走っていたんだけど、バレーで鍛えた脚もさすがに疲れてきたので、歩く事に変えた。
呼吸も落ち着き、カッと頭に血がのぼっていたのも段々下がってきたところで、ふと希美は先程の事を思い出して泣きそうになった。

「まことのバカ。まぬけ。かぼちゃ。きもい」

それも全部、麻琴のせい。
麻琴が悪い。
そうやって麻琴のせいにしないと、もっと泣きそうだったから。
心にもない、でも実はちょっとは思ってる事を口に出して、発散させる。
そうすると悔しいことに今度は愛しくなってきて、また少し泣きそうになった。
631 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:19
希美が怒っているのは、麻琴にとっては何もない、何気ない事だった。
希美が怒るまでは、いつもの仲良し四人組の、希美・麻琴・あさ美・亜依で遊んでいたのだ。
なのに突然、希美が怒った。

元々、仲良し四人組と言っても、中学は麻琴とあさ美、希美と亜依で別々に分かれていて。
高校生になったクラス発表で四人が同じクラスになり、お互い友達になった。
それからはどこへ行くにも四人一緒だったけれど、やはり、一緒に過ごした年数が違えば、気の許しようも自分では気付かないけど違っていて。

子供の嫉妬だった、それは。

麻琴とあさ美の二人が、毎週土曜日お互いの家に泊まって一緒に寝ていると知った時。
そして、その時にあさ美が言った言葉。

『でね、一緒に寝るのはいいんだけど、ピーマコ、変な笑い方して、私の胸触ってきたりするんだよぉ』

笑って言ってたから、厭らしい意味はなかったんだと思う。
だけど、その言葉はのんびりのほほんとしていた希美の血管に突き刺さり、キレた。
632 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:19
その時、亜依みたいに「まこっちゃんきもいよ〜」と返せればよかったのに。
どうしてあんな事を言ってしまったんだろう。
多分皆、麻琴だけでなく、呆気に取られていただろう。
涙を拭きながら、希美はなんとなくしまったと思った。

遅かったけど、今、はっきりと気付いてしまった。
ごまかしようもなければ、他に言いようがないこの気持ち。
隠してごまかして気付かなければよかったのかもしれないけど。

希美は、麻琴の事が好きだった。

だからこそあさ美の発言に腹を立て、頭に来て、「ダイキライ」なんて言葉を放ってしまった。
難しい。
そして、嫉妬というものは、どうしてこう希美を悲しくさせるのだろう。
これで、麻琴との仲がこじれてしまったら、どうすればいいのか。
そう考えると、また、泣きそうになった。
633 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:20
「ハンカチ、貸してあげようか」
「っ?」

不意に、希美に向けて投げかけられたその言葉。
まさか、と思って振り向くと、希美の予想は外れていて。
冷静に考えればすぐ分かる事だったけど、泣きそうになるのを堪えていたから、冷静にはなれなくて。
その声が麻琴だと思って、つい、振り向いてしまった。
そして顔を見てみると、亜依を通じて知り合った、希美のお気に入りの先輩、松浦亜弥ことあややがいた。

「じゃーん。ピンクのハンカチ。可愛いでしょ」

ヒラヒラと涙目の希美の前に出された、ピンクのハンカチ。
そういえば、ピンクが好きだと前に聞いた気がする。

「……あいぼんとケンカでもしちゃった?」
「んーん…」

ハンカチを受け取り、首を振る。
あいぼんとは、亜依のあだ名だ。
そもそも亜弥とは亜依を通じて知り合ったので、希美の亜依以外の他の交友関係は知らない。
だから当然、泣きそうな希美の原因は、彼女しかないと思ったわけで。
麻琴の事を知らない亜弥が、希美が泣きそうな原因を当てるのは不可能だった。
634 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:20
「のん、好きな人にダイキライって言っちゃった」
「わ。そりゃタイヘンだぁ」
「どうしたらいいか、わかんない」

麻琴が悪くて、自分は悪くないけどと、まだそこは認めない。
だけど、その言葉は取り消したかった。
でもそんな事なんか出来ないので、もう、どうしたらいいのか、希美は分からない。
だから、年上の亜弥に聞いてみた。
ここに亜依もいれば、良い助言を頂けたのかもしれないが、いかんせん亜依は足が遅い。
全速力で走って走って走ってきた希美に追いつくのは、すぐに追いかけてきたとしても、まだ先だろう。

「あややは、前言ってた大好きな人に、ダイキライって言った事…ある?」
「んー……………あった、かな」

しばらく考え込んで、曖昧に笑う。
どうやら、あやふやらしい。
635 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:21
希美達より年上の彼女には、恋人がいる。
フルネームは知らないが、亜弥はいつも「みきたん」「たん」と言っていた。
顔も性格も知らないけど、彼女の口から発せられるみきたん話はとても面白く、そしてとてもとろけて、のろけていた。
希美より、亜弥と過ごす機会が多い亜依は、聞き飽きているのか、亜弥にバレないように耳栓をつけてその話を対処しているのは、亜依に堅く口止めされている。
段々と同じように聞き飽きてきた希美も、その耳栓をつけて聞き流していたりしたけれど、今は、聞き流す事は出来ない。
どうすればいいのか、人生の先輩に訊かなければいけない。――1歳しか、変わらないけど。

「ダイキライって嘘を言っちゃった後は、本当の事を、何回も、何十回も言えばいいんだよ」

大丈夫。
相手も同じ気持ちなら、許してくれるから、と。
そうは言うけれど。

「……同じ気持ちかどうか、わかんないもん」
「…………あー………」

亜弥と希美の違う点は、相手が恋人と友達だということ。
恋人という関係だからこそ、2人が同じ気持ちだという事は分かるけど、それが、友達だったら。
しかも希美だって今しがた気付いたばかりだというのに。
鈍感な麻琴の事だ。
もしかしたら、まだ呆気に取られたままかもしれない。
636 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:21
「じゃ、こーしよ」
「……?」
「あいぼんじゃなくて、その子が追いかけてきたら、その子も同じ気持ちって事で!」
「……でも」
「追いかけてくるよ、きっと。辻ちゃん、可愛いもん」

その曖昧な自信が、逆に心配になる。
可愛い子なんて、いっぱいいる。
まして希美は、麻琴からしてみれば勝手に怒ってどこかへ行ってしまった奴である。
これまでずっと一緒だった亜依が追いかけてくるのは分かるが、その亜依を差し置いて麻琴が追いかけてくるなんて、ありえないと思った。

「そんなの、絶対ム」
リだよ、そう、続けようとしたのに。
無理が、無理じゃなくなった。
ありえないことが起こったのだ。

「じゃあ、あたし行くね」

そう言って希美の人生の先輩は、希美の元を離れて行く。
代わりにやって来たのは、亜依でもあさ美でもなく、麻琴であって。
637 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:22
「なんで、まことが来るのさ」
「だ、だって……」

せっかく亜弥の登場で、涙が引きかけてきたのに。
麻琴が悪い。やって来た麻琴が悪い。
また、泣きそうになる。
どうしてやって来たんだ。

「あいぼんとあさ美ちゃんが、行けって…。ダイキライって言われたから、行っちゃいけないんだろうなぁ〜って思ってたんだけど…。
……あっ、や、やっぱりあたしが来ちゃいけなかった!? そ、そそそ、そうだよね……ゴメンねのんつぁん……」
「…………………ばか」

亜依も、あさ美も。
希美の気持ちを希美より前に気付いていたなら、どうして教えてくれなかったんだ。
あさ美なんか、もっとひどい。
希美の奥底にあった麻琴への気持ちに気付いてて、あんなことを言ったのだ。
おかげで、その気持ちに希美自身も気付いたんだけど。

でも、やっぱり少し感謝もしてる。
他の誰でもなく、麻琴をこうして目の前に来させてくれた事。
638 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:23
「のんも、ごめんね」
「…え?」
「ダイキライとか、言って。……ちがうの、ホントはね――――」


好き。大好き。超好きなの。


639 名前:気付いた気持ち 投稿日:2004/04/21(水) 22:23


どうか、その言葉がまことの胸に届いて、気付いてくれますように。



640 名前:松竹藤 投稿日:2004/04/21(水) 22:24
小川さんと辻さんの2人が好きすぎて困ってます。
需要がないとか、関係ない_| ̄|○

>京さん
ハマってくれた━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
辻さん卒業は哀しいです。Wで頑張ってくれたらいいですが、ある意味色々複雑なヲタ心…

>334さん
∬∬*´▽`)<そうなんです、のんつぁんは甘えん坊さんなの
も、萌え氏(ry
641 名前:334 投稿日:2004/04/22(木) 23:05
つ、辻さんがなんかリアル!!
まずい……ついに作者さんのマジックに……。
しかし、ありですね! うん、あり!
642 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/23(金) 10:44
辻ちゃん乙女ですね〜(*´д`*)ポワワ
辻ちゃんキャワワ☆キャワワ☆
作者様の文章力にますます惚れましたm(_ _)m
643 名前:チップ 投稿日:2004/04/23(金) 18:24
かわいいじゃないですか、
物凄くかわいいじゃないですか、
どうしよう(爆
644 名前: 投稿日:2004/04/25(日) 19:16
つ、辻さんがめちゃくちゃ可愛い…(w
言われてみれば確かにちょっと複雑ですね…。
つんくは何を考えてるんだか…。
645 名前:無題 投稿日:2004/04/27(火) 10:25

大好きな人がいる。
誰にも内緒で付き合って、もう4ヶ月。
それでもいつまでもドキドキは消えなくて。
もっともっと、大好きになって。
もっともっと、くっつきたくて。
もっともっと、一緒にいたい。
646 名前:無題 投稿日:2004/04/27(火) 10:26
「あ、い、た、い、よぉ……っと」

ベッドに身体を預けながら、天井へと手を伸ばし、携帯メールのメッセ―ジを打つ。
文章を口に出して打つ癖はないのだが、つい逢いたい気持ちが大きくて口に出してしまった。
幸い1人部屋なので、その呟きは誰にも届いていない。
届いて欲しい相手には、今からメールで送信を。

「よしよし、ちゃーんといったね」

送信完了の文字を確かめ、顔を綻ばせる。
彼女の名は、松浦亜弥という。
今年18になる、高校三年生だ。

そしてそして。
メールを送ったというのに、5分経っても10分経っても返事をくれない、亜弥の恋人はというと。
彼女より2つ年上で、彼女と同じ性別の、名は藤本美貴といった。
誰にも内緒のこの交際。
きっかけは、亜弥の一目ボレだった。
647 名前:無題 投稿日:2004/04/27(火) 10:26
初めから同性が恋愛対象ではなかった。
幼稚園、小学校、中学校と、好きな相手はほとんど同学年の男の子だったし。
ではどうして、同性の、藤本美貴という人物に一目ボレしてしまったか。
そんな理由が分かるなら、亜弥自身が教えてほしい。
あえて挙げるとすれば、亜弥には美貴しかいなかった――とでも言おうか。
一目見てから、もう、美貴しか見えなくて。
振り向いてほしかった。
自分にだけしか見せない顔が知りたかった。
そして、少し時間がかかったが、そんな亜弥の想いが実り、2人は両想いになり恋人になった。
残念ながら、お互いの家族にはお互いを友人と紹介しており、これからも、恋人と紹介出来そうにない。

本当は、大声を出して「みきたんが好きなんだよ」と叫びたい。
外でキスだってしたい。
結婚出来るなら、結婚したい。

好きで、好きで、好きで。
逢っても逢っても、逢いたい。傍にいたい。
648 名前:無題 投稿日:2004/04/27(火) 10:26
「むー」

なのに、美貴ときたら。
せっかく亜弥の気持ちを込めて送ったメールを未だに一言も返して来ない。
大声に出して言えない分、メールで愛の言葉と気持ちを伝えまくっている亜弥と違い、美貴はというと、返ってきても一行とか一言とか。
好きは好きだけれど、そういうところは改善して頂きたい。
じゃないと、やはり不安だし、何より苛立ってくる。

「早く返してこい、ばかー」

ばかばか、と、携帯に文句を言うが、反応して音が鳴ったり震えたりする気配はまったくない。
といっても、彼女にメールを送ると大概返事は1時間程待つのだが。
今日ばかりはそんなのんびりと待ってはいられない。
何せ、メールの内容が『逢いたいよぉ』なんだから。
649 名前:無題 投稿日:2004/04/27(火) 10:27
これは、何かの病気かもしれない。
逢っても逢っても足りないなんて。
離れたくない。傍にいたい。ずっとイチャついてたい。
あぁ、どうすれば治るのだろう。
そもそもこれは、治るのだろうか。
4ヶ月も経ったのにこの調子だ。
だったらあと1ヶ月後、はたまた1年後には、どんな風になっているだろう。

美貴なしでは生きていけなくなっていたり。
フラれたらきっと、哀しくて切なくて虚しくて、死んでしまうんじゃなかろうか。
もっとも、フラれるなんて縁起の悪いこと、亜弥の頭の中にはないけれど。

とりあえず、逢いたくて。
メールの返事なんて、待っていられなくて。

「ちょっと、みきたんとこ行ってくる」

携帯と薄手のジャケットを手に取り、家族にそう告げ、亜弥は美貴に逢いに行く事にした。
650 名前:無題 投稿日:2004/04/27(火) 10:27
4月だけど、まだ少し肌寒い外。
手に持ってきたジャケットを羽織って、いざ足取り早く美貴の家へ向かおうとしたら、目の前には見知った、逢いたかった顔。
他の誰でもない、今亜弥が逢いに行こうしていた、美貴である。

「あ、あんた、何してんの」

なのにビックリして思わず、そんなことを口走ってしまった。
いつもは可愛い自分だけれど、今のは可愛くなかったと、反省する。

「いや、何って…。逢いに来たんだけど?」
「へっ?」
「逢いたいってメール送ってきたじゃん、亜弥ちゃん」

ほら、と送られてきたメールを、亜弥に見せる。
その文章、忘れるはずがない。
651 名前:無題 投稿日:2004/04/27(火) 10:28
「っていうか、メール見たんならメール返してよ!」

返って来ないメールを、何分何十分と待っていたのに。
返すより何より先に、どうして美貴が目の前にいるのか。

「返して、そっから何回かやりとりしてから逢うより、メール見てすぐに逢いに行く方が早くない?」
「それは、そうだけど……」

だったら、『今行くよ』とか。
そういうのが、欲しかった。
そしたらもっと、準備を整えて、ドキドキしながら待っていられたのに。
こんなの不意打ちで。

どうしよう。
嬉しすぎる。
652 名前:無題 投稿日:2004/04/27(火) 10:28
「で、逢って何しよっか? あ、そうだ、あのDVD見せてよ。亜弥ちゃん新しく買ったって言ってたやつ!」
「やだ」
「えっ、なんで」
「DVD、今日は見ない」
「えー」

違う違う。そうじゃなくて。
DVDも見ない。テレビも見ない。美貴しか見ない。
ただ、亜弥が逢ってしたい事。
653 名前:無題 投稿日:2004/04/27(火) 10:29



「いちゃいちゃ、しよう?」


654 名前:無題 投稿日:2004/04/27(火) 10:29


誰にも言わない秘密の交際。

誰にも見せない秘密の行為。

誰も知らない、2人の世界。


邪魔するものは、誰もいない。
さあ、存分に甘いひとときを過ごしましょう。


655 名前:松竹藤 投稿日:2004/04/27(火) 10:34
ヒサブリにいつものお2人。
タイトルが無題の通り、中身が無(ry
最近はこのお2人の話がたくさんあって、読むだけで満足しがちでつ。

>334さん
リ、リアルでつか? 辻さん難しいんです_| ̄|○
ありと言ってくださりありがとうございます。不安で不安で・゚・(ノД`)・゚・

>642さん
お、乙女でつか?キャワワでつか?
ありがとうございますありがとうございます・゚・(ノД`)・゚・

>チップさん
どうしようもこうしようもなく、是非チップさんも書いて(ry

>京さん
辻さんを主役に書いておいて辻さんが一番自信がないのでその言葉は凄く嬉しいです・゚・(ノД`)・゚・
656 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/27(火) 17:36
久々の二人の短編楽しませてもらいましたぁ〜。
これからも期待しております。
海板の方も‥ゴホゴホ‥‥。
657 名前:JOJO 投稿日:2004/04/27(火) 18:48
おぉ〜〜!相変わらず(・∀・)イイ!ですね
もうこの二人は自分にとっては心の覚醒剤ですよ
だから定期的に摂取しないと禁断しょうじょ(ry。
これからもマターリ待ってますので頑張ってください

最近ますます病的になってきている自分が悲しいやら嬉しいやら
658 名前:334 投稿日:2004/04/29(木) 01:51
おー久しぶりにでれでれ松浦さん!
この人に出会えると心が癒される。ありがとうございました。
659 名前: 投稿日:2004/04/29(木) 22:20
全然自信ない人の文章には見えませんよ。
それにしても久々にあやみきのやっぱり良いですね。
少し冷たいけどそれでいて優しい藤本さんが僕的に良かったです。
660 名前:通りすがりの人 投稿日:2004/06/23(水) 23:55
作者さんのみきあや、ステキです!
是非他のも読みたいのですが、HPとかは持っていないのでしょうか?
661 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 10:21
クールなミキティすっごい可愛いです!!
662 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/09(金) 21:36
私も作者さんのみきあや大好きです。
ホントに本人達のような気がして…
あの、1個質問なんですけど、石川さんが主役の『想い』は
もう書かれないのでしょうか?
663 名前:松竹藤 投稿日:2004/08/08(日) 22:16
月板の倉庫「No.1――ナンバー☆ワン」の続編の完結編。

こんなのナンバーワンのキャラじゃないやい!ヽ(`Д´)ノ
今更?( ´,_ゝ`)プッ
つーかどうでもいいし( ´_ゝ`)

なんてレスを頂くと凹みます_| ̄|○
664 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:17
夏休みの土曜の真っ昼間。
普通なら夏休みで浮かれてハッピーなのに、大学2年生になった美貴は、不機嫌だった。
美貴を不機嫌にさせたのは、他の誰でもない金魚のフン・自称みきたんの恋人の松浦亜弥である。
しかし張本人の亜弥はそんな美貴に気付く事なく、テレビに夢中。
もっと正確に言うと、テレビに映っているバレーボール選手に夢中なのである。

亜弥と美貴は、高校の先輩後輩。
そして、少ししか一緒じゃなかったけど、部活でも先輩後輩。部活はバレーボール。
当時3年生だった美貴は、その最後の試合でバレーを辞めて、現在大学ではサークル等は無所属でバイトをしている。
亜弥はというと、先日行われた予選で負けて引退し、残すは美貴と同じ大学に通う為に受験するだけ。
――だが。
3年間という短い間だったが、バレーボールが楽しいということを知った亜弥。
そして去年・今年と、WC・OQT・オリンピックが立て続けにあって。
テレビでもこれでかというくらいに持ち上げられ特集が組まれてきた女子バレー。
その女子バレーに、亜弥は受験よりも夢中になってしまったのだ。
665 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:18
経験の違いはあれど、同じバレー選手として尊敬・感動・応援するのは勿論のこと。
そしてその応援に熱が入り、雑誌を買うようになり、挙げ句はビデオを撮り始めるまでなってしまった。
しかも、12人の選手の中に、亜弥が特に入れ込んでいる1人の選手。
美貴だってバレーをしていたからその選手がいかにすごいか分かるし、何よりやはりカッコイイ。
しかし美貴は亜弥ほど熱し易い性格でもなかった為、そこまで入れ込む事もなく。
一歩引いて、もう何十回と見た試合をテレビにかじりついて見て、一喜一憂している亜弥を見ている。

「つーか、亜弥ちゃん」
「何?」
「…正直、飽きたんだけ」
「キャー! 決まったぁ!!!」
「……シカトかよ……」
というか、生で見ていたわけでもないのに、まるで初めてかのように喜べる亜弥が分からない。
…そんなにいいか。いや、確かにいいけど。
なんというか。なんといったらよいか。
美貴は、不思議な感覚を覚える。

多分、昔の、亜弥に出逢った頃の美貴なら、無視された時点で切れて帰っていたと思う。
いや、というかそもそも、ここは美貴の家なのだ。
なのに美貴の家で美貴の部屋で美貴のテレビなのに、好きな番組を一つも見せてもらえず、
しかも、見せてもらえたと思えば、もう飽きる程見て次何をして何点で試合が終わったかなんかもすべて把握してしまった試合。
この状況の時点で、亜弥を追い出すのが正解だろう。
なのになのに。
美貴はというと、ベッドに寄りかかったまま亜弥に無視をされ、ちょっと、…どころかかなり、へこんでいる。
666 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:18
気持ちの変化。
それが、こうなってしまった答えなんだろうか。

いつから、こうなってしまったんだろう。
美貴の一番大好きなものは、焼肉だったはずだ。
そもそも、それだけが唯一、亜弥より優位に立てる点だった。
なのにそれさえも順位の入れ替えが起きて。

美貴の“一番”になってしまった、亜弥。

半分、諦めだった。
そして半分、その事実がもう美貴の中で当たり前になっていた。
十何年と、これまで一番は焼肉でこだわって頑張ってきたのに。
今だって好きだけど。大好きだけど。
それを超えるものが出来てしまった。
しかも、一番認めたくなかったのに。
667 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:19
美貴の一番に亜弥がなってから、人に「変わったね」とよく言われるようになった。
優しくなった。柔らかくなった。よく笑うようになった。可愛くなった。
それだけだったらよかったのに。
さっきからずっと感じていた不思議な感覚の答え。

嫉妬するようになったんだ、亜弥が好意を向けている人に。

だから、こんなにも元気がなくて、へこんで、面白くないのだと美貴は気付く。
なんだよ。あんたの憧れは美貴じゃないのかよ。
つーか、美貴だってあの攻撃出来るよ。……パワーもスピードもテクニックも何もかも、敵わないけどさ。
668 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:19
なんだかかんだかムカついて、少し頭を冷やそうと天井へと視線を向ける。
天井は何の変化もなく、真っ白で。
あぁでもちょっとシミが出来始めたかも、なんてやっと冷静に普通の事を思えるようになったのに、ひょいと美貴と天井の間にいきなり現れた明るい笑顔。
「たぁーん」
「………ウザイのがきた」
「またまたぁ。心にもないこと言っちゃって、可愛いんだから」
いつのまに移動したのか。
テレビの前にいたはずなのに、気付くとベッドの上に乗り、ベッドにもたれていた美貴の頭の後ろに立っている。
「亜弥ちゃん、ムカツク」
「えぇー、なぁーんでさ?」
「ふん」
「うぁ、可愛くなーい」
「ええそうです、どうせ美貴の顔怖いし」
「うそうそ。ちょー大好き」
「……」
真剣な顔になってそう言い直すのは、ある意味ずるいと思う。
いい加減、上を向いて天井もとい亜弥の顔を見るのがつらくなってきた美貴は、そのまま頭をベッドの上――に倒そうとしたら、亜弥の太腿とぶつかる。
膝立ちだった亜弥は、そのまま、美貴の頭に押されるかのようにお尻をつき、膝同士を合わせ、足をハの字に。
その膝の上に、ちょうど美貴の頭が乗る形となる。
所謂、膝枕になるのだろうか。
669 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:20
「みきたん、おでこ広い」
「うっさい」
「ちゅーいっぱい出来そう」
「しなくていいし」
「してほしいくせにぃ」
「あんたがしたいんでしょ」
「えへ、うん。でも、出来れば唇に。そしてもっと出来れば、こゆーいの」
「やだね」
誰がそんなものするものかと言わんばかりに拒否をする。
すると、ぶー、とアヒル口にした亜弥を、下から拝む形になる。
笑ったら、頭を亜弥に預けていて触りやすいのをいいことに、ほっぺたを抓られた。

「みきたんのいじわる」
「…昔からこんな感じだよ」
「ちがうもん。高校卒業してから、みきたんあんまりいじわるじゃなくなって、結構素直になったもん」
「………」
それは、まあ。
色々と複雑な事情があって。
最初はあれだけ亜弥が来るのを拒否り、逃げ回っていた頃を知っているクラスメイトの前で変わった姿を突っ込まれるのは更に恥ずかしい事だったから。
「て、っていうか、試合どうしたの試合。こっち来ないで見ればいいじゃん」
無理やりの話題変換。
それが美貴の照れ隠しである事は美貴だけでなく亜弥も気付いているので、突っ込まない。
突っ込まないが、別のところで亜弥が突っ込んだ。
「あー。みきたん見てなかったでしょ、試合。さっき終わってインタビュー映ってたじゃん」
「え、そうなの?」
いつの間にそんなに進んでしまったのか。
頭を持ち上げテレビを見ると、ついてたはずのテレビが消え、デッキに入っていたはずのビデオテープがケースに入れられ置かれている。
…どうやら、結構長い間、美貴は嫉妬していたらしい。
670 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:20
「みきたんだってバレーしてたんだから、ルールも分かるじゃん。なのになんで真剣に見ないのさ」
「いや、普通さ、何十回も見たら、真剣も何も、見る気すら無くすよ…」
「え? あたしめっちゃ真剣だけど…」
「だから亜弥ちゃんは変だって言ってるじゃん」
逢った時からずっと、変わらず言い続けてきた。
あんたは変だ、亜弥ちゃんは変だ、と。
自分で思うのもなんだけど、目つきが悪くていつも第一印象の悪い美貴に一目惚れなんかするし。
そしてその想いが、なんと2年以上も続いているし。
彼女は、変だ。

でも、変だからこそ、可愛くて。
変だからこそ、飽きなくて。
変だからこそきっと、美貴は亜弥を好きになってしまったんだ。
671 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:21
「……もうビデオ見ないの?」
優しく髪を梳くだけで、動かないから。
膝に頭を置いている美貴は、必然的に亜弥を上目で見て訊ねる。
「見たかったら見ていいよ、別に」
そして、上目遣いなんかしといて、可愛くないことを言うのだ。
でも亜弥は。
「えっへへー、たんやっぱ可愛い」
――なんて。
可愛い?誰が。
口には出さないが顔には出てたのか、にゃははと笑って亜弥が言う。
「あたしねー、知ってるんだぞ」
「ハ?…何が」
「たんがぁ、ヤキモチやいてたこと」
「ハッ……ハァ!?」
何で。何で。何で、知って。
慌てたらダメだ、それを認める事になる。
極めて冷静に。
「じ、…自意識過剰すぎ」
「じーしきかじょーじゃないもん。鏡で、ぜーんぶ見えてたもん」
「鏡…?」
テレビの横に置いてある、鏡。
テレビを見てる間も顔を見たいからと、亜弥が家から持参したもの。
いつものことなんで特に気にも止めてなかったが、見てみると、その鏡は美貴を映しているではないか。

「だってさー、試合見てたらみきたん見れないじゃん? それはちょっと寂しいし。
みきたんが傍で一緒に見てくれたら一番いいんだけど、離れるしさぁ。
だから、鏡に映るようにして、タイムアウトん時とかみきたん見てたの。
そしたらさぁ、途中からみきたんぷくーってほっぺ膨らまして口がタコさんなってんだもん」
うりゃうりゃ、とほぼ無理やり美貴の唇に指をやり、タコさん型に。
文句を言いたいが、タコさん型になってる為喋れない。
無理やり手を払う程、美貴は嫌ではなかった。
672 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:22
「にゃはは、タコさんウィンナーじゃなくて、タコさんみきたんだ」
食べちゃいたいなぁ、なんて。
そんな馬鹿な事を言ってくれる。
さすがにムカついて、いい加減口をいじってる手を払い、頭を上げ、ムスッと亜弥の横へ腰を下ろす。
「…ありゃ、怒った?」
「っていうか怒ってるし」
「えー、なんでー」
「だって、美貴が亜弥ちゃん食べるんだから」

初めて食べたのは、いつだったか。
不味かったら食べないとは言ったけど、彼女はすごく美味しかったから。
そして、食べれば食べる程、ハマって。
おかげで、抜け出せなくなった。

ビデオなんかどうでもいい。
試合じゃなくて、美貴見りゃいいじゃん。

……そんなのは、恥ずかしくて言えないから。
美貴は、そんな美貴をすべて分かっているように笑っている亜弥の顔を覆い、まだからかい足りなそうなその口を少し乱暴に封じる事にした。


673 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:22


*****

674 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:23
「――で、どうやった?」
「もう、あいぼんの言う通り! みきたんたらさ、バレーに嫉妬して拗ねちゃってぇ、ちょー可愛かったのぉ!」
「ふっふっふっ。このあいぼん様の作戦通りやな」

翌日の日曜日。
近所の喫茶店で、中学からの親友の加護亜依と亜弥は、昨日の出来事について話し合っていた。

「嫉妬するってことはさ、やっぱさやっぱさ、みきたんあたしのこと大好きだよね」
「そりゃそーに決まってるやん」
「でもみきたん、好きとは言わないんだよねぇ。ただまあ、態度が分かり易いけど」
「まだ完璧に素直になりきれないみたいやね」
「そこがまたかわいーの!」

そして始まるみきたんノロケ話。
毎度の事なのにいちいち相槌を打ち話に耳を傾けている亜依は、さすが新聞部部長と言おうか。
嫌な顔せず、それどころかそんな亜弥の話を聞き色んな疑問や提案を持ちかけてくる。
こないだだって、そうだった。
675 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:23
みきたん全然、ヤキモチ妬いてくんない。

少し拗ねたように呟いたその言葉。
いつだって亜依は、亜弥に協力してきた。親友である。
その親友の小さな不満を叶える為に、亜依が提案した事。

ヤキモチを妬かないのは、興味がないか、それが本気じゃないと分かっているかどっちかだと亜依は思う。
美貴は後者だ。
この亜弥の事だから、誰彼なにかれ構わず、やれ可愛いかっこいいねと言いまくり美貴にヤキモチを妬かせようとしているのだろうと想像出来る。
勿論亜弥が本気で言っているわけでないから、美貴が妬かないのも当然なわけで。
そこで、亜弥が最近美貴以外で本気で夢中になっているバレーボールに目をつけた。
材料としては、これ以上ないくらいだ。
バレーの試合に真剣で、美貴そっちのけな亜弥。
いつもいつもうっとうしい程くっつかれてた美貴が、その事実にヤキモチを妬かないはずがない。
そう睨んだ亜依は、テレビの横に鏡を置き美貴が見えるように角度を考えろと亜弥に言った。
そうして、亜弥の瞳にぷくーっとほっぺを膨らませてタコさんみきたんになってる美貴を映す事が出来たのである。

無論、これは、亜依と亜弥の2人だけの秘密だ。
残念ながら亜依にはMっ気がないので、どこかのまめおシスターズみたいに罵ってもらいたくはない。
676 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:24
「つーことで、美貴ちゃんを嫉妬させよう作戦は大成功。亜弥ちゃん、昼ご飯1週間奢るっていう約束は守ってや」
「う、…覚えてたんだ?」
「なっ…うちは新聞部部長やで!? こないだの期末、学年2位やで!?」
「……隣の席の学年トップの子のをカンニングしたくせに……」
「バレへんかったらわからへんねん、アホやなぁ」
「でも、あたしが言ったらバレるよね?」
「――ハッ!」
そこは盲点だった。
そんなことになったら、新聞部部長の座が危ういどころか、停学退学になってしまう。
それだけはなんとか避けようと土下座しようとすると、慌てて亜弥が止める。
「いややや、さすがにそんなことしないよ」
「ホッ…。もう、心配させんといてや、また髪の毛が……って、なんで余計な事まで言わすねん!!!」
「自分で言ったんじゃん!」
もうあいぼんは、と呆れて言って。
これ以上引っ張ると、また亜依が自虐に入ってしまうので、その話題はここまでにしておく。
次は、明るい話題を。
今の亜依を明るくさせるのは、この話題しかない。
677 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:24
「…で、あいぼんの方はどうなのさ?」
「……うち?」
「ごっちんと」
ごっちん。後藤真希。
亜依の想い人である。
それは、亜弥が美貴を今も想っているのと今も変わっていない。

「………んふふ」
「んー?」
小さく笑ったかと思いきや、思いっきり笑顔で「ジャーン!」と腕を見せてくれる。
「お揃いのブレスレットぉ!」
「わ、すごいじゃん」
親友の嬉しそうな顔に素直に喜び、パチパチパチと拍手を捧げる。
が、急にシュンとなって、亜依が。
「……よっすぃーも、やけどね」
「え?」
「……………うちと、真希ちゃんと、よっすぃーの3人の、お揃い」
「あやや…それは…」
「よっすぃーのやつめ…! あの黒ピンクとオソロっとけばいいのに…ブツブツ」
「まあまあ。実際、よっすぃーとチャーミーさんは付き合ってるわけだしさぁ。安心じゃん」
亜弥は、バレー部を引退した今でも、その2人の事を先輩とつけずその名前で呼んでいる。
あまり堅苦しいのが嫌いな先輩2人が、そっちでいいと言ってくれたのだ。
優しい優しい先輩2人。
だが亜依にとっては、目の上のタンコブのようなものらしい。
でもとりあえず、亜依と真希の仲も上手くいっているようだ。
678 名前:色んな意味で君らがNo.1――ナンバー☆ワン 投稿日:2004/08/08(日) 22:26
高校最後の夏休み。
3年生は何かと忙しいわけで。
なのに2人は、勉強もせず、こうして喋って笑い合ってる。
ジュースを一杯頼んだだけで他の注文もせず、店員の冷たい視線にも気づかずに。

変わったのは、2人の恋のお相手との関係。
変わってないのは、2人はやっぱり馬鹿なとこ。

「夏休み明けの模試、また勝負しよっか?」
「えー、やだ。だってあいぼんまたカンニングでズルするもん」
「亜弥ちゃんもしたらいいやん。コツ教えるで?」
「えー………でも不正はみきたん怒るし…ああ見えて正義感強いから…………でも、どうやって先生に見つからないようにしてるの?」
「それはな……ヒソヒソ」
「えーっ、マジで? それで?…ヒソヒソ」

とりあえず、カンニングのコツを話す暇があったら、何よりまず一番に勉強しろよおまいら。
そんなことを最後に突っ込んで終わりたいと思います。ちゃんちゃん。

679 名前:松竹藤 投稿日:2004/08/08(日) 22:27
お久しぶりですこんばんは。
そしていつものごとくごめんなさい。

>656さん
ホント久々でした。久々すぎて松浦さんが動かしにくくて…
期待をして頂いて大変光栄なのですが、間が空いてしまい申し訳ありません。
海板の方も…ゴホゴホ……ガックリ…

>JOJOさん
現在、定期的に摂取されていますでしょうか?
自分は定期的どころか最近2人を摂取できておりません・゚・(ノД`)・゚・
マターリすぎて読み専みたいになってますが、なんとか頑張っていきたいと思います。

>334さん
でれでれ藤本さんよりでれでれ松浦さんの方がどうも書きやすいみたいです。
でも一度でいいからでれでれ藤本さんを書いてみたい…

>京さん
どうも自分が書くと、亜弥ちゃんに甘いでれでれ藤本さんにはならず、
どこか冷めてる藤本さんになってしまうのが悩みなのですが、
どうやら京さんには気にいって頂けたようで、嬉しいです。ありがとうございます。

>通りすがりの人さん
どうもありがとうございます。
HP、持ってないんですよ。色々あって移転して閉鎖してしまいました。

>662さん
Σ(゚Д゚;)
え、ええと、うんと、……ごめんなさい・゚・(ノД`)・゚・
680 名前:JOJO 投稿日:2004/08/09(月) 01:00
続編キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
まさかこれの続編が読めるとは思いもしませんでした。
やっぱり作者さんは最高ですよ

最近は摂取量が少なくて若干ヤバイことになりかけてますがなんとか大丈夫そうです
なんでもいいから早くあやみきゴトを……ゼェゼェ…
681 名前:チップ 投稿日:2004/08/09(月) 01:13
ミキティ、ミキティが、 か わ い い !(爆

もつべきものは策士…じゃなかった、親友ですね(w
読めてすっごい嬉しかったです。
特に入れ込んでる1人って(ry
682 名前:七氏 投稿日:2004/08/09(月) 09:54
キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
いや、もう最高です。
嫉妬するミキティ・・・・・(・∀・)イイ!!!
683 名前:334 投稿日:2004/08/09(月) 18:56
降参です。頭の中に練乳かけられた感じです。
こんなにスイートなのに読みやすいのは、文章のバランスが絶妙だからなのでしょう。
素晴らしいです。作者大好き。
作者さんはあやみき摂取できなくて辛いでしょうが、自分はここで摂取できて幸せです。
684 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/10(火) 23:56
ナンバーワンシリーズは一番好きな作品だったので
続編が見られて感無量です
更新ありがとう
685 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/11(水) 08:52
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
マッテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
686 名前:松竹藤 投稿日:2004/08/12(木) 23:06
森板倉庫「恋愛ってなあに?」スレ内「相合傘」のほんのちょっと続編。

こんなの相合傘のキャラじゃないやい!ヽ(`Д´)ノ
今更?( ´,_ゝ`)プッ
つーかどうでも(――以下>>663
687 名前:相合日傘 投稿日:2004/08/12(木) 23:14
「……暑い」

顔に汗を浮かばせながら、心底つらそうに呟いた美貴。
スーパー惣菜部のアルバイト。
食べ物を扱う衛生の都合上、このスーパーではTシャツの上に指定の長袖白シャツ・エプロン、
そして頭には前髪を垂らさないように帽子を着用。
美貴の担当はほぼ洗い物のようなものなので、スカートやハーフパンツなんてものは履けず、
長ズボン+長靴+水よけの前掛けという、今時の19歳の女の子ではありえないような格好をしている。

季節は、夏。
秋の初めに始めたこのバイト。
まさか、夏になるとこんなに暑いなんて、知らなかった。知っていたら多分、ここにはいない。
クーラーはついているが、残念ながらその効果を実感出来ず。
もっとも、一番暑いのは強火のコンロの前で大鍋で調理をしている社員さんなんだけど。
その大鍋についてる黒焦げを一生懸命こすって取っている美貴だって、負けていないと思う。

通常は夕方から閉店までの出勤だが、今日は日曜日で早目の朝9時出勤にしてもらった。
上がりは、おやつの時間の午後3時。
現在、午後2時15分。
もう少し、もう少し。この大鍋についた黒焦げが取れるのも、3時になるのも。
そうして汗をかきながら頑張ること、数十分。
美貴の上がる時間は、あと十数分。
その頃には美貴と入れ違いに入るバイトの子もやって来ており、洗い物も段々となくなって。
顔中汗だらけの美貴を不憫に思ったのか、主任が「もう上がっていいよ」と言ってくれた。
その優しいお言葉に甘え、嬉々として前掛けを外し長靴からスニーカーに履き替え、帽子も取って従業員専用のドアから一歩出る。
そして広がるスーパーの店内。
それと、なぜか、見慣れた3人も。
688 名前:相合日傘 投稿日:2004/08/12(木) 23:15
「おー、みっきー出てきたぁ」
「……」
汗いっぱいの美貴とは対照的に、店内で涼しそうにお寿司を物色していた3人の内の1人、
美貴の親友――と言っても、あまり認めたくはないが――まいが笑って声をかけてきた。
その声につられて、まいの横にいた残り2人の梨華、そして亜弥が顔を上げる。

嬉しそうに顔を綻ばしたのも、一番最初に「お疲れ様ですっ」と苦労を労ったのも、亜弥だった。
出てきた美貴とお寿司コーナーとは距離が離れていた為、タタタッと駆けより、控えめに制服のシャツの裾を握って、亜弥が微笑う。
「あれ…? どーしたの?」
「えへへ、早く逢いたくて」
照れくさそうにまた笑顔を見せる。
やばい。キスしたい。
だけどそんなことはさすがに出来ないので、亜弥から視線を外す。
すると、視線の先には、亜弥の手。
「あ、つーか袖汚いよ」
洗い物を洗っていると、邪魔になるので折って上げてはいるが、すぐにずれて元通りになるシャツの袖。
おかげで鍋についてた具がついたり水でビショビショになったりと、汚いのだ。
美貴にとって可愛い亜弥に、そんな汚いものは触らせられないとばかりに腕から離させる。
すると、ぷぅ、と誰からも見て分かるように亜弥が膨れる。

(っ…何この子…!)

可愛いんだけど! 可愛いんだけど! 可愛いんだけど!
同じ事を何度も心の中で唱えてしまう。あと100回くらい言いたい。でもまだ言い足りない。
出逢って付き合ってもう半年以上になるが、冷めるどころか一向に気持ちは膨らむばかり。
本当の名前を知ってから、何十回何百回とその名前を呼んでも満たされることがなくて。
本当の彼女を知れば知る程、好きになる。なっていく。
689 名前:相合日傘 投稿日:2004/08/12(木) 23:15
そして、美貴は忘れていた。
残念ながら此処は美貴達が出逢った公園でもお互いの部屋でもなく、スーパーであり亜弥の他に2人いることを。
「みっきー、顔ニヤけてる」
「そ、そんなことないっ」
「ダメダメ。このまいちゃんを騙せるとでも?」
「アンタ何モンだよ…」
「みっきーの親友じゃーん」
だからこれ買ってと、手には上にぎり。
親友とかどうとか、まったく関係がない。
「無理。高すぎ。ありえない」
せめて、上がついてないにぎりでも。それでも高いけど。
「えー。だってみっきー今日ラストじゃないから残り物もらえないんでしょ? じゃあしょうがないから買うしかないじゃん」
「じゃあ自分で買えよ!」
いつもいつももらってばっかで、売上げに貢献もしないでと、まいには文句がいっぱいある。
しかしそれ以上に文句がある。
これは、絶対に言わねばならない。
「なんで、まいちゃんだけでなく梨華ちゃんもいるのさ!」
「えぇー! 何よぅ、美貴ちゃん。あたしいちゃいけないのぉ?」
「うるさい。キショい」
「ひっどぉーい!」

亜弥がいるのは何の問題もない。この後、デートの約束があるのだ。
本当ならいつものあの公園で待ち合わせだったのだが、早く逢いたくてと亜弥が迎えに来てくれた。
帽子脱ぎたてでボサボサの髪と汗だくの顔で少し格好悪かったけど、嬉しいのでこの際気にしない。
そう、自分の事は気にしないが、あとの付属がこれ以上ないくらい気になるのだ。
690 名前:相合日傘 投稿日:2004/08/12(木) 23:16
まいは、美貴の親友。
梨華はというと、亜弥の従姉。そして、現在は美貴の友達でもある。
亜弥の嘘から梨華を知り、まいとも顔見知りだった梨華。
色んな縁があり改めて紹介してもらった。
大まかなプロフィールは亜弥がパクっていたことから知ってはいたが、
もっと深く探ってみると、美貴からしてみればそれは梨華であって梨華ではなかったのだ。

そもそも美貴にとって最初、梨華という人間は、現在の松浦亜弥であったわけで。
プロフィールも似ていた事もあり、亜弥と仲がいいとも聞いており、紹介される前は亜弥=梨華みたいなイメージも少しは持っていたのに。

違う。亜弥ちゃんはこんなに黒くない。
違う。亜弥ちゃんはヘリウムガスを吸ってない。
違う。亜弥ちゃんはダサくない。

そして、逢う度にその思いは強くなり、現在の梨華=キショいになってしまったのだ。
誠に美貴の勝手だが、そうなってしまったのだから仕方がない。
おかげで、梨華という可愛い名前だけで亜弥を好きになったんじゃないと、より自覚することが出来たんだけど。
691 名前:相合日傘 投稿日:2004/08/12(木) 23:16
「亜弥ちゃんより、あたしの方が可愛いじゃない」
「はぁ?」
「うわっ、超コワイんだけどみっきー!」
「じょじょじょ、ジョーダンだよ美貴ちゃん! うえーん、亜弥ちゃん何か言ってよぅ」
「んー…んー………へへへ」
亜弥としては難しいところだ。
大好きな従姉にフォローをお願いされるも、美貴が梨華の言う事に納得出来ないとして思い切り怖い顔で聞き返してくれて嬉しいのだ。
それはつまり、梨華ちゃんより亜弥の方が可愛いと言っているも同然な意味であって。
なんというか、素直に嬉しくて、従姉のフォローをするより笑ってしまった。
そして梨華の傍には、梨華の味方はいなくなる。

「ひどい…ひどいよ…あたしはまいちゃんと亜弥ちゃんと違って、純粋にお客として来たのにさ…」
「え…あ、あー…っと」
「美貴ちゃん、知ってる? この近所に最近、手作りのお惣菜屋さんが出来たんだって。
あたし、今度からそこで買おうかなぁ……」
これは、ある意味脅しである。
いつもならそんな脅しなんか効かないぞと強気な美貴だが、現在の立場はスーパーの従業員。
ここの売上げがなくなってしまえば店も潰れ、美貴はまたアルバイト探しをしなくてはならないのだ。
「い、いやほら、梨華ちゃんも梨華ちゃんで可愛いと思うよ、亜弥ちゃんとはまた別で、ね。
色黒いとことか、声が変なとことか…ほらっ、服装もピンクだらけとか! 亜弥ちゃんとはホント全然違って…」
「……みっきー、親友だから言ってあげるけど、それは、フォローとは言わないよ……」
「とと、とにかく! ゆっくり買い物してってよ! じゃあ!」
空気まで黒くなってしまい、たちまち美貴は居辛くなりその場から逃げ出す事にする。
理由はタイムカードを押し制服を脱ぐという立派なものがあるけれど。
こっそりと亜弥だけに「裏口で待ってて」と言い残し、美貴はダッシュで去って行った。

「ちょっ…?! ひどいよみんな! あたしはどうなるの!? みっきぃー、上にぎりぃー!!!」

結局まいだけは何しに来たのか分からないが、許せ親友と心の中で詫び、その悲痛な叫びも無視。
そして、亜弥が待っていてくれるである裏口へ――
692 名前:相合日傘 投稿日:2004/08/12(木) 23:17
「あ」
「ごめん」
「…へへ。んーん」
外が暑いのを忘れていて、亜弥を外で待たせてしまった。
幸い陰のあるところで美貴を待っていたからよかったものの、手で顔を扇いでいる瞬間を見ていたから、美貴は。
それでも何でもない様に笑って、美貴を見つけると駆け寄ってくれる亜弥が愛しい。
「さっきも言ったけど、もっかい。藤本さん、お疲れ様です」
「あ、うん」
言い慣れて言われ慣れている挨拶。
だけど、亜弥が言うと不思議と疲れが抜けていくのは、なんでだろう。
単純に、好きだから、だろうか。

「っていうか、それ」
「ん?」
「傘」
手を繋ごうと思ったら、この場に不似合いなそれが邪魔になって。
つい、不機嫌に言ってしまう。
「なんであんの?」
「え、いや」
「雨降ってないじゃん。ってか、晴れ女だから傘持たないんじゃなかったっけ?」
なのに、傘。
青い傘。
それは、美貴の“元”傘だ。
693 名前:相合日傘 投稿日:2004/08/12(木) 23:17
「違うよぉ。これ、日傘だよ」
「違うよ。雨傘だよ」
「今日は、日傘なんですぅ」
「悪いけど、雨傘と日傘兼用じゃなかったはずだけど…」
「うー。………藤本さんのバカ」
「えっ! ななななんでっ?」
「……いいもんいいもん、独りで差すから」
「――あ」

ワンタッチボタンを押すと、ボスッという音が鳴り、上に広がる青の世界。
その限られた青の世界の中に、亜弥が独りでいる。

雲一つない、晴天。
雨が降る気配もない、空。
日傘にはとても見えない、傘。

「………しょーがないなぁ」

なんていうのは建前で。
そんな亜弥が、美貴にとってはとんでもなく可愛らしい。
694 名前:相合日傘 投稿日:2004/08/12(木) 23:18
外は、暑いし。
歩く先には、陰は見当たらないし。
青い雨傘に、今日だけ日傘になってもらって、相合傘して2人でデートをしよう。
特に行き先や目的を決めてなかった今日のデート。
でも、予定が決まった。

「亜弥ちゃん、買い物いこ、買い物」
「? いいけど…何買うの?」
「日傘!」

雨の日でも天気の日でも相合傘が出来るように。
青い雨傘でもいいけれど。
以前と違って、天気のいい日にも亜弥に逢う事が出来るのだ。
なら、それ用の傘だって必要で。

「何色のがいいかな?」
「え、っとぉ…ピンク!」
「ははっ。可愛いねぇ、亜弥ちゃんは。梨華ちゃんだったらキショイけど」
「…………えへへ」

そして日傘を買った次は、新しい傘の色で、おっきな公園に落書きを追加しに――――

楽しいデートは、まだ、始まったばかり。


695 名前:松竹藤 投稿日:2004/08/12(木) 23:19
新しい話を考えるのが面倒臭くてズルばかりしている自分です。ごめんなさい_| ̄|○
でも理想と現実だったりまじっくおぶらぶだったりお嬢様だったり幸せになる方法だったりの続編は書けないのです_| ̄|○
次は新しい話を書けたらいいなと思いつつ…思いつつ…

>JOJOさん
早速のレスありがとうございます。
あやみきゴトの前に、地元テレビ局で二人ゴトの放送を…ゼェゼェ

>チップさん
ナンバーワンの藤本さんを可愛いと言って下さるのは、ナンバーワンの松浦さんだけだと思ってました(w
ちなみに松浦さんの特に入れ込んでる人はご想像にお任せしますが、自分が特に入れ込んでるのは7番(ry

>七氏さん
レスしてくださった七氏さんが最高です
嫉妬する藤本さん……評判良くて、よかったです・゚・(ノД`)・゚・

>334さん
練乳…(;´Д`)ハァハァ ハッ、ちょっと取り乱しましたごめんなさい。
長いこと話を書いてなかったのでもう半分以上滅茶苦茶ですが、
いつもいつも嬉しいお言葉ありがとうございます。

>684さん
もう大分前に書いた作品でしたが、覚えていてくださって嬉しいです。
こちらこそレスありがとうございました。

>685さん
キチャッタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
キテシモタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
マッテテクレタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
696 名前:JOJO 投稿日:2004/08/13(金) 01:41
また続編キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
ついつい相合傘のほうも読み直してしまいましたw。

自分は大体1つの物語が完結すると続編やもしあの時違う選択をしていたら
とかを考えるのが趣m……好きなので続編を書いてくださるのは
個人的には凄く嬉しいです。
これからも頑張ってください
697 名前:334 投稿日:2004/08/14(土) 19:31
作者さんの三人称は独特で、なぜか人情味というか暖かさというか質感がある。そこが凄いし、好き。
久しぶりに、でれでれな藤本さんが見れて良かった。そして石川さんも愛されていて良かった。
698 名前:685 投稿日:2004/08/15(日) 13:40
マタキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
マタキテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
スバラスィ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
続きもの大好物ですよ。
では次は娘。レス(ry  と ビバ!? 今日和(ry ですね?
スイマセン _| ̄|○  さやまり好きなんです‥
カップリングブンルイバンノサヤマリハ、ホトンドアナタサマノサクヒンデスネ。
699 名前: 投稿日:2004/08/18(水) 14:41
今さっき更新に気付きました(遅
でれでれ藤本さんも好きだけど、
冷めてるけどやっぱり弱い藤本さんも好きなんです(w
僕的に冷めてる藤本さん話がなんか微笑ましい感じで、
溺愛してる藤本さん話はなんか面白いんです。
それにしても続編良いですね。
僕、一つの小説が終わっても妙に続きが気になってしまう人間なんです(w
だから続編とか来るととてもありがたいんですよ。
更新お疲れ様でした。
ちなみに僕が全日本女子で入れ込んでるのは12.13番の2人です(w
700 名前:_ 投稿日:2004/09/03(金) 23:20
「怖い夢、見たの」



久しぶりに聴いた電話での亜弥ちゃんの声。
その声は、泣いていたのか、震えていた。




701 名前:_ 投稿日:2004/09/03(金) 23:21
その日も、家に帰ってくるのが遅かった。
仕事は21時前に終わったんだけど、その後に18歳以上のメンバーで焼肉を食べに行ったから。
焼肉奉行になって色んな話をしていたら、もういつのまにか日付が変わる頃になって。
明日も休みがなく仕事があったから、みんな、帰ってって。
同じように美貴もタクシーを拾って家に帰ったら、もう日付が変わっていて。
でもさすがにお風呂には入らないといけなくて。
朝はギリギリまで寝たい派だから、すぐに出て行けるようにしないといけない。
その為には朝にシャワーなんか浴びるわけにはいかないから。
パッパと入って、髪を拭くのもそこそこに、ベッドに横になった瞬間だった。

着メロ。亜弥ちゃんの歌。
液晶画面を見なくても分かる。
最近遊んでいない、亜弥ちゃんだ。

仲が疎遠になったわけじゃない。
喋らないわけじゃない。
ただ、逢う時間がなくて。
予定が合う休みがなくて。
偶然遭うこともなかった。

もうすぐ、ハローのライブがある。
そうなったら、嫌でも会うわけだし。
いや、嫌なわけないけど。
702 名前:_ 投稿日:2004/09/03(金) 23:21
出たくないわけじゃない。
でも、一度ベッドに沈めてしまったその身体は、疲れていたのかしっかりとベッドにフィットして、なかなか言う事を聞いてくれない。
携帯をテーブルの上に置くんじゃなかった。
ちゃんと傍に置いておくべきだった。
そうして悔やむだけで、身体は動かない。
そうこうしてたら、考え方も変わって、もうどうせ切れるしいいかなと思えてくる。
用があったらまたかけてくるか、メールでもなんなりしてくるだろうし。
出なかった事は、怒られるかもしれないけど。
実際問題、眠いし。
軽快な着メロでさえ、子守唄に聞こえてくる。
あ、やばい。
マジ、寝そう。

そうして、目を瞑った時だった。

目を瞑って、何も映らなくなったはずなのに、前に拡がる亜弥ちゃんの顔。
その顔は、とても哀しそうで。

ハッと、目を開ける。
軽快な着メロは、途切れる事なくまだ鳴っていた。
703 名前:_ 投稿日:2004/09/03(金) 23:22
「…………もしもし」

今度はすんなりと身体が動いて。
眠かった意識も、しっかりと醒めていて。
気付いたら手に携帯を持っていて、しっかりと耳に当てていた。
そして聴こえる、久しぶりの亜弥ちゃんの声。


―――怖い夢、見たの。


電話に長いこと出なかった美貴を怒る事なく、泣きそうな声で、そう呟いた。



704 名前:_ 投稿日:2004/09/03(金) 23:22


*****



705 名前:_ 投稿日:2004/09/03(金) 23:23
深夜のタクシーから降りた美貴は、走っていた。
なかなか降りて来ないエレベーターを待つよりも階段で駆け上がった方が、きっと速い気がして。
そして、パジャマ代わりのジャージ姿で、亜弥ちゃんからもらった合い鍵を、乱暴に差し込み回す。

怖い夢見たのと泣き声だったくせに。
部屋は真っ暗で。
その中で、亜弥ちゃんは独り、膝を抱えて泣いていた。

「……怖がりの、泣き虫」
「…っく…ぇ…う」
「もう18になったんでしょーが。なーに泣いてんの」
電気をつけたらきっと、亜弥ちゃんは嫌がる。
でもきっと、美貴が傍に座って頭を撫でたら、亜弥ちゃんは嬉しがる。
だから、後の方を実行することにした。

泣いてる亜弥ちゃんを見るのは、久しぶりだった。
長い事逢えなくて、久しぶりに逢えた時以来。
だけど、逢う前から泣いてるのは、初めてだった。
一体、どんな怖い夢を見たんだろう。
706 名前:_ 投稿日:2004/09/03(金) 23:23
「たんが……ヒック……っ、んっ…た、んがね」
「美貴?」
怖い夢の原因。亜弥ちゃんが泣いている原因。
それが、美貴?
「どっか、消え……ちゃって…」
「…………」

勘弁してよ。
それで、泣いて、電話してきてさ。

「夢じゃん」
「…でもぉ」
「いるじゃん」
「でも、でもっ」
「来たじゃん、ちゃんと」

夜も遅いのに。明日早いのに。
ジャージなのに。タクシー代勿体無いのに。
707 名前:_ 投稿日:2004/09/03(金) 23:24
それくらいで泣かないでよ。
そんなことで泣かれると、美貴は、誰とでも遊べなくなってしまう。
電話に出ないことも出来なくなって。
亜弥ちゃんから、ちょっと離れることすら出来なくなって。
美貴は、亜弥ちゃんなしではいられなくなる。

もう少し自由でいたい。
でも、亜弥ちゃんに泣かれると、困る。
放っておけない。
他の誰かに触れられたくない。
亜弥ちゃんは、美貴のだ。
ただ、美貴が亜弥ちゃんのものになりたくないだけ。
こんなのはエゴだ。

泣かせているのは美貴のせい。
怖がりの泣き虫にさせたのも、美貴のせい。
亜弥ちゃんをこんなに美貴の事を大好きにしたのも、美貴のせい。

「…今日はさ、泊まるから。傍に、いるから」
「……うん」
「もう怖い夢見ないように、ちゃんと、抱きしめててあげるから」
「…うん」

ホントは嘘なんだ。
抱きしめててあげる、なんて。
違うの。
抱きしめてあげたいんだよ。
でも、そう言いたくなくて。
ずるいんだよ、美貴は。
708 名前:_ 投稿日:2004/09/03(金) 23:24
もし、美貴がここに来なかったら。
今の亜弥ちゃんの隣には、別の人間がいたかもしれない。
そんなのは許せない。
だから、こうしてここに来て、見張ってるんだ。

亜弥ちゃんは、美貴のなんだから。
誰にも、触らせない。

亜弥ちゃんの欲しい言葉は口にしないまま。
自分の本当の想いも伝えないまま。

美貴は、ゆっくりと亜弥ちゃんを抱きしめる。
709 名前:_ 投稿日:2004/09/03(金) 23:25
「寝ていいよ」
「うん…」

心地いい感触。
暗い部屋、亜弥ちゃんの鼻をすする音だけが聴こえる。

怖い夢を見なくて済むように、安心させてあげればいいのに。
こうして抱きしめる以上のことを、美貴はしない。

ずるくて、最低で、最悪で。

それでも美貴は、美貴なりに、亜弥ちゃんのことを愛してる。

710 名前:松竹藤 投稿日:2004/09/03(金) 23:26
甘いのが書けない…コンナハズジャ…
書いては消し書いては止まっての繰り返し。もうダメかもしれません・゚・(ノД`)・゚・

>JOJOさん
JOJOさんの考え、すごいよく分かります(w 自分もよくしますので(w
これからもガンバ…れたらいいんですが・゚・(ノД`)・゚・

>334さん
自分ではそんな意識はまったくないのですが、独特なのでしょうか…
でも、名無しで短編書いても、そういわれればすぐに見破られた過去がいくつかあります。
石川さんは愛してますよ(w

>685さん
マタキテクレタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
マタキテシモタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
アリガトォ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
そ、そんな変なタイトルの話を私はかか書いた覚えがごごごございません、さささやまりとか知らない
ソモソモサヤマリズキデカクヒトガスクナイカラ………グス

>京さん
でれでれ溺愛藤本さんは自分の話の中ではあまり登場はしませんが、
どの藤本さんも好きでいてくださって嬉しいです。
12と13…スギユウ(ry
別の意味での推しならば、自分はやはり4と16です(*´д`*)
711 名前:JOJO 投稿日:2004/09/04(土) 02:19
更新お疲れ様です
自分のことよりもぁゃゃを最優先で考える藤本さんが相変わらず素敵ですね
最近ではママンもぁゃゃを狙ってるみたいですし藤本家の人はぁゃゃみたいな
人に弱いのかもしれませんね

フタリゴトハマダデスカ?ジラシスギデスヨ
712 名前:ヒラッペ 投稿日:2004/09/05(日) 00:44
どうも。ヒラッペです。
こっちでは初レスになりますかねぇ?

>甘いのが書けない
十分甘いような気がしますw
いろんな意味で・・・
胸に来ます、結構。

えっと、全日本女子で入れ込んでるメン・・・
16番とか18番とかが自分的に・・・
13番しゃんとかも好きですがw

いつでもどこでも更新お待ちしてます(爆)
713 名前:ヒラッペ 投稿日:2004/09/05(日) 00:47

連レスですが、sage忘れた・・・
大変申し訳_| ̄|○
714 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/05(日) 02:49
落とします。
715 名前:334 投稿日:2004/09/05(日) 03:41
>ホントは嘘なんだ。
ここからの文章が物凄く好きです。
自分の中のイメージでは、藤本さんは須らくこんな感じです。
少し困っても絶対私以外に渡さない。困らせるところも、しょうがないなぁという感じで実は好き。
そんな妄想が頭の中を日夜走っています。
716 名前: 投稿日:2004/09/06(月) 22:05
更新お疲れ様です。
なんだかんだで松浦さん一番な藤本さん、素晴らしいです。
スギユウ好きですよ(w
4と16ですか…、そのCPもいいですよね。
甘える16と、冷たくしつつ優しい4…、あやみきに似てますね(w
717 名前:流れ星 投稿日:2004/09/06(月) 22:10

「ねえ、流れ星見ようよ!」
「――はっ?」

718 名前:流れ星 投稿日:2004/09/06(月) 22:11
久しぶりに逢った、彼女。松浦亜弥。
彼女の発言はいつも前触れもなく唐突で、藤本美貴はいつも驚かされていた。

今日だってそうだ。
久しぶりに逢って、お泊りのお誘いにOKを出してDVDを見ていたのに、急にそんなことを。
DVDの途中なんだけど…という美貴の不満は、もう既にベランダに出ている亜弥にはまったく聴こえていない。
無視をしているわけじゃない。
聴こえていないのだ。もう、亜弥の頭の中には「流れ星を見る」としかないから。
それを美貴は分かっているから、結局は渋々DVDを止めて後をついてく形となる。
でも、なかなかそう簡単に不満は消えるわけでもない。
ベランダまで出ておきながら、不満たっぷりにこんなこと。
719 名前:流れ星 投稿日:2004/09/06(月) 22:11
「つーかさぁ」
「うん」
「流れ星、見ようと思えば見れるもんなの?」

星は見えるけど。
残念ながら、その内のどれも、流れるような気配はない。

「そもそも見てどーすんのよ?」
「3回お願いするに決まってるじゃん。願い叶うって言うし」
「迷信でしょ…」
「あたし、占いとかでも、良い事は信じて悪い事は信じないの」

だからそれも信じるもん、なんてそんな乙女チックな事はこの際どうでもいい。
そんな事でいちいち美貴はときめいてはいられないのだ、実際。
720 名前:流れ星 投稿日:2004/09/06(月) 22:12
「流れ星なんか、そうタイミングよく見れないって」
「見れるもん」
「根拠はあるの?」
「…ないけど。んー、女の感!」
「……美貴も、女なんだけど?」
「あれ? そーだったっけ?」
「………」

冗談だとは、勿論分かってる。
分かってはいるけど、少々腹が立つのもしょうがない。
軽ヤンだ怖いと色々言われ、挙げ句亜弥にまでそんなことを言われたら…

「にゃっはは、たん、拗ねちゃったぁ?」
「拗ねてないし別に」
「うそだね」
「嘘じゃないしそれになんで亜弥ちゃんにそんなこと分かんのさ」
「分かるよ、当たり前じゃん」

――だって、愛してるし?

なんで疑問系なんだよなんてのは、さすがに直視されて恥ずかしかったので、言えなかった。
721 名前:流れ星 投稿日:2004/09/06(月) 22:12
愛されているのは嬉しいもの。
だけどそれによって、考えてる事がすべて分かってしまうのは、考えもの。

「たんね、拗ねたり怒ったりしたら、すっごい早口になんの。だからすぐ分かる」
「え…」
「たんのクセは、全部お見通しだよ」

だから浮気とかは有り得ないし許さないから、と。
真剣なのか、冗談なのか。
くりっと丸いその瞳は、そのどちらも当てはまっているようで。
そしてその瞳に見つめられると、そんな気すら起きなくなる。
亜弥が美貴を愛してるように、美貴も亜弥を愛しているし。
彼女達は両想い。恋人同士。
流れ星に願わなくても、願いなんて叶っているようなものなのに。
722 名前:流れ星 投稿日:2004/09/06(月) 22:12
「…………流れ星見たらさぁ、亜弥ちゃん何お願いすんの?」
「んっとねぇ、みきたんの胸がもう少しだけおっきくなりますように、って」
「………………」
「あはは、ウソウソ。怒っちゃやだー」
「…独りで流れ星見つければ?」
「わっ、あっ、ごめんごめんって!」
「……」
「あのね、ホントはね」
「…なに」
「――――」

耳に、吐息と共に届く言葉。
723 名前:流れ星 投稿日:2004/09/06(月) 22:13
その願いは、あまりにも可愛くて。
そして、その願いは、自分も一緒で。

「1人で3回言うの無理そうだから、分けよっか? あたし2回言うからたん最後言ってくれる?」
「いいけど、それっていいのかな?」
「…いいんじゃない? 同じ願い事なんだし」
「そだね」
「うんうん。あたし達可愛いし、お星様も大目に見てくれるよ」

可愛いという言葉に少し引っかかったけど、彼女1人だけではなかったので、突っ込まないでおいた。
代わりに、亜弥の手を取って、ベランダの入り口に腰を下ろして星を眺める。

「見れるかな」
「見れるよ。女の感は当たるんだよ」
「でもそれって、男の浮気とかの場合じゃないの?」
「いーじゃん、もうそんな細かいことっ。はい、この話はお終いね」
「…ハーイ」

これじゃ、どっちが年上なんだろう。
でもまあ、そんな年齢差も関係ない程話せるのは、いい事だし。

DVDの続きも気になっていて見たいけど、今日くらいは、見れるかどうか分からない流れ星を亜弥と一緒に見るのも、悪くないかもしれない。


724 名前:松竹藤 投稿日:2004/09/06(月) 22:16
台風が迫っているのにこんな話を一つ。ゴメンナサイゴメンナサイ

>JOJOさん
最近ではママンも松浦さんを狙っているのですか!初耳でした。
自分の最近は松浦さんと藤本さんの絡みをチェックせず小学生と中学生のユニットばかり狙っているので…

>ヒラッペさん
甘いですか? よかった……今回はどうでしょうか…
いつでもどこでも更新待っててくださりありがとうございます。頑張ります。

>714さん
ありがとうございます。

>334さん
妄想ハァ━━━━;´Д`━━━━ン!!!!!!
機会があれば、その妄想を是非形にして読ませて頂きたいです、よろしくお願いしますw

>京さん
どんなところにいても何をしてても、やはり藤本さんの一番は松浦さんであってほしいです。これ希望。
似てるようでやはり似てない気もしますが、どっちも自分では萌え!ってことで(w
725 名前:JOJO 投稿日:2004/09/07(火) 01:13
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
実はこの話を読んだ後にドキみき聴いたら流れ星について少し話してたので吃驚しました
なんとも突拍子もないタイミングで頼みごとをするのがぁゃゃらしくて(・∀・)イイ!ですね
それでその我侭をちゃんときいてくれる藤本さんも相変わらず素敵です

最近小説が増えてきてしまった性でリアルで絡みが視たくてしょうがなくなってきました
726 名前: 投稿日:2004/09/11(土) 22:25
更新お疲れ様です。
僕もそれは希望です(w
やはり、藤本さんの一番は松浦さんじゃないといけないですよね。
そういうことですね(w
そういえば、藤本さん、早く元気になってほしいですね。
727 名前:334 投稿日:2004/09/12(日) 18:35
願い事が何なのか確かなことはわからないけど、
二人が一緒に願う想いは何となくわかりました。

全然甘くない上に作者さんに見せるには恥知らずな話ですが、こんなの書いたことあります。
ttp://tv6.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1069113257/234-242
……すいません! ホントすいません!
728 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 15:32
作者さんのみきあやがすっごく好きです。
最近また現実のみきあやネタが出てきたので嬉しいですよね。

あと、理想と現実の番外編というかなんというか
おがこんとみきあやとさやまりのその後が見たいです。
729 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:20
「ねえみきたぁーん。たんってば。えいえい」
「あぁもぉっ、うっとーしいからやめて」
彼女…亜弥ちゃんが行っていたオフ会の帰りの電車の中。
空いてる座席に2人並んで座って、亜弥ちゃんから顔を背けていたら、横からツンツンとほっぺたを突いてくる。
「だってみきたん全然話聞いてくんない」
「聞きたくないもん、だって」
「なんでなんでなんで? だってこんな可愛いみきたんの彼女の口から出る言葉なのに?」
「って、で、電車の中なのにか、彼女とかおっきい声で言わない!」
「…みきたんのが、声おっきいけど」
「う」
慌てて口を押さえ、周りを見渡してみる。
…よかった。
時間帯が時間帯なおかげで、周囲も結構ガヤガヤと話し声がして、特に美貴達の発言は耳に入っていないようだった。

焦って損した。
それも全部、この子の…亜弥ちゃんのせいだ。
「あー、ちょーむかつく」
「誰が?」
「アンタだよっ」
すっ呆けてんのか素なのか、この子は!
「話の流れからして、周りに美貴の知り合いが亜弥ちゃんしかいないことからして、そんなの決まってんじゃん!」
「そんな怒らないでよぉ。ほら、さすがに注目浴びちゃうよ。あたしはそっちのが嬉しいから別にいんだけど」
「っ………」
あぁ、それは勘弁。
それでなくても美貴は、なるべくなら穏便になんでも済ませたいんです。
よく、あなたの周りは問題ばかりでしょ、なんて失礼な事を言われたりするけどそんな事ない。
問題ばかりになったのは、この子と、亜弥ちゃんと逢って付き合ってからだ。
730 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:21

一年半くらい前。
美貴がまだ高校2年生で、亜弥ちゃんが中学の制服を着ていた頃。
帰りの電車が、同じだったんだ。
いつもいつも必ず同じってわけじゃなかったけど、美貴が電車に乗ると、ほとんど同じ車両に亜弥ちゃんはいた。
それは、友達と一緒だったり1人だったりしたけど。
そんな亜弥ちゃんを見て美貴は、中学で電車通学なんて私立中学かな、とかどうでもいい事をぼんやりと考えてた。

恋愛対象は、普通に男の子だった。
当時は彼氏だっていた。
自分ではコクれなかったから、コクられた男の子と、結構楽しく過ごしてた。
相手は部活をしていたから一緒には帰らなかったけど、(部活が終わるまで待つ程、惚れてもいなかったし)
部活がない日は一緒に電車に乗って美貴の家まで送ってくれた。
731 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:21
「…なーなー」
「何?」
「なんかオレ、中学生に好かれてる?」
そんな視線を、彼氏も感じてたんだと思う。
周りに聞こえないように、少し頭と身体を屈めて、ひっそりと美貴に耳打ちをした。
「なんかずっと視線感じるんだけど」
「うん、知ってる」
あんだけ見られたら、そりゃあ。
だけど美貴には、「ちょっと。人の彼氏ジロジロ見ないでよ!」なんて怒鳴ることもなければ、
メラメラと嫉妬の炎を燃え上がらせることもなかった。
ただ、彼女はこの彼氏のことがきっと好きなんだろうな、そう思うだけだった。
732 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:22
「それは好奇心だったのか、潜在的な何かがあったのか、それは未だに分からない。
あの時あんな風に話し掛けていなければ、今、この電車の中の状況はなかった。
それでもあの時の美貴は、同じく電車の中でたまたま1人だった亜弥ちゃんに、話し掛けていたんだ。

「ねえ」
「っ!」
美貴が声をかけただけで、肩をこれ以上ないくらいビクッと震わせる。
今、ちょっと頭に来たけど、怯えさせないようになるべく笑顔で話を続ける。
「ちょっと、聞きたい事あるんだけど」
「なんですか…?」

聞いてどうするつもりだったのか。
それすらも決めてなかった。
でも、聞いてみたかった。
733 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:22
「あのさ…その、美貴がたまに男の子…っていうか彼氏なんだけどさ。
その彼氏と電車乗ってる時、あなたいつも彼氏の事見てるじゃん。あ、しらばっくれてもダメだよ。
美貴も彼氏も気付いてるし。しかもそれ、1回だけじゃなくて毎回だったし。
それでさ、思ったんだけど…………あなた、彼氏のこと……好き――」
「――違います」
「へっ?」
「違います。有り得ないです。勘弁してください」
「え……えーと?」
それこそ有り得ないくらいの速さで、否定。
心外だ、不愉快だ、と言わんばかりの顔。
「でも。でもだって…見てたじゃん!」
「見てました。見て、ずっと考えてたんです」
「はあ?」
「一体どこがいいんだろう、って。あ……、気を悪くしないで下さいね。
ただ、笑顔だってあたしの方が可愛いし、きっとあたしの方があなたの事を想ってるし、絶対あたしの方が優しいはずだって」
「へ、へえ、すっごい自信だね…………………って?」
さり気に今、なんかサラッとすごい事を言われた気がする。
もう一度確認する為訊ねると、静かな声で亜弥ちゃんが言った。

「好きなのは、彼女さんの方なんです」
734 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:23
同性からの、初めての告白だった。
禁断、なんて美貴のイメージからは程遠い、電車の中でだった。
しかも予想も心の準備も何もなく。
相手は、中学生で。
美貴と同じ背格好で、男だったら一発でOKしても良さそうな、男心をバッチリ分かっているような女の子だった。

「お、お……女、なんですけど、美貴…」
「知ってますよぉ…男の人だったらビックリです」
「じゃ、じゃあなんで」
「…哀しいのか嬉しいのかよく分かんないんですけど、あたし、女の人が好きなんです。
可愛いものが、とにかく大好きで……可愛いもの、可愛い人ばっかり目で追って。
でも、あー…なんかすっごい嫌な女って思われるかもしれないんですけど、あたし、自分がすっごい好きなんですね?
だから、結局可愛いものとか人を見ても、自分が一番可愛いと思っちゃって、それ以上にはならなかったんです。
でも、なんでかな………まあ、ツボっていうか、ど真ん中だったんだと思います。
あなた見て、あたし、自分なんてどうでもいいって思えるくらい、好きになっちゃいました」
「え…えぇ…?」
何この展開有り得ない。
突っ込み気質な美貴も、さすがにこの時ばかりは突っ込めなくて、ひたすらオロオロ。
「そ、そんなの知らないし……って、っていうか、あんた美貴の事全然見てなかったじゃん! あんだけ彼氏の事凝視してたのにっ」
「ホントは穴が空く程凝視したかったんですけど、ほら、あんまり見たら怪しい人じゃないですか、あたし。
女が女を熱の篭もった目で見つめてるって噂されたら、あたしはいいんですけどあなたには迷惑かかるかもしれないと思ったし。
だから、チラ見で我慢してたんです、ずっと」
「今、チラ見どころかコクられてるんだけど…」
「だって、聞いてくるから……つい」
それでも一生懸命疑問点を挙げて口にするも、すかさず反応がこれでもかというくらい返ってくる。
そしてとうとう美貴は、何も言えなくなってしまった。
735 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:23
黙って、俯いて。
ドキドキしていた。
このシチュエーションに。
何かがおかしい。
こんなのは、彼氏にコクられた時には感じなかった。

そんな恋はなかなか堂々とも出来なくて、周囲の視線が気になるのに。
亜弥ちゃんは違った。
恥らうようにはしながらも、苦しそうでもなく、当たり前のように自分の気持ちを告白した。

「女だから、っていう理由で今フラれても、あたし、文句なんか言いません。
だけど、あたしを…松浦亜弥っていう人間として見てくれるなら、絶対、あたしは、彼氏さんよりあなたのこと幸せに出来ます」
結婚も出来ないし、子供も出来ないけど、と付け足して。
それでも絶対、今より楽しくなるし幸せになるって、自信満々に。

その時は亜弥ちゃんのあまりの自信満々さに、開いた口が塞がらなくてその話はそこで終わってしまった。
それからだ。
電車で逢う度、決してやらしくない・周りが引かない程度にひっつかれて。
彼氏が亜弥ちゃんに嫉妬して。
怒った彼氏が他の子に浮気して。
それでも美貴が怒りもせず嫉妬もしなかったら、いつのまにか隣には彼氏ではなくて亜弥ちゃんがいるようになって。
気が付くと、楽しかった。
女の子を好きではないけど、亜弥ちゃんのことが好きになってた。
736 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:24
それで、彼女と彼女の関係になって、やっぱりそれに関する問題が増えて。
お兄ちゃんに「なんで俺に彼女が出来ないのにお前に彼女が出来るんだよ!」と八つ当たりされたり、
お母さんに「美貴より亜弥ちゃんの方が可愛いわぁー」なんて言われて大喧嘩があったり、
お姉ちゃんが「美貴と亜弥ちゃんの区別がつかない!」と言って視力検査へ行く行かないと揉めたり、
お父さんが「美貴だったら結婚出来ないから、いっそ、形だけでもお兄ちゃんの方と結婚して家族になるってどう?」なんてジョーダンを言ったら、
お兄ちゃんが案外乗り気になって亜弥ちゃんが嫌ですと号泣したり。
……………もっとも、美貴の家族が“変”である事が一番の問題なんだと、その問題が出た時に初めて気付いたんだけど。

でも、これから先、もっと色んな問題があると思う。
今この電車の中での亜弥ちゃんのひっつき度や発言だって、美貴にとっちゃ大問題。
どこかでやっぱり、こういう関係を他の人には知られたくない。
手だって外では繋ぎたくない。
亜弥ちゃんのことは好きだけど、縛りたくないし、縛られたくない。

……………………なのに。

なんで美貴、今、亜弥ちゃんと一緒に電車乗ってんだろう。
ホントだったら、家でテレビを見ているはずなのに。
なんで。なんで。
737 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:24
隣の亜弥ちゃんをチラッと盗み見ると、なんとまあ幸せそうな顔。
なんでこの子、こんな顔してんの。
分からなくて、聞いてみる。
「ねえ亜弥ちゃん」
「んー?」
「なんで、そんな幸せそうなの」
「あたしは隣にみきたんがいればいつでも幸せだよ?」
「あ……そう」
「でも、今はトクベツ幸せ」
「なんで?」
「だって、初めてヤキモチやいてくれたんだもん」
「え……?」
738 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:25
ヤキモチ。ヤキモチ。
美貴が。

「女の子ばっかなオフ会で心配だった? だから迎えに来てくれたんでしょ?」
「なっ」
「もぉー。みきたんはあたしのことだぁい好きだからなぁ〜、にゃははー」
また馬鹿な事を――なんて、言えなかった。
言われた通りだった。

美貴は亜弥ちゃんが好きだけど、亜弥ちゃんは女の子が好きで。
もしかしたら亜弥ちゃんにとって、美貴より可愛い人が、そのオフ会にいたかもしれないって思うと。
元々、オフ会に行く前から、不機嫌だったんだ美貴は。
最近夜も遅くに楽しそうにチャットばっかりする亜弥ちゃんを見てたから。
オフ会に一緒に行こうよ、なんて誘いも断わって、何だかわかんないけど拗ねてた。
…そっか、ヤキモチだったんだ。
739 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:25
「彼氏と付き合ってる時なんか、ちっともヤキモチやかなかったのに…」
「そうなんだ? じゃあ絶対みきたんは、もう一生あたし以上に好きな人現れないね」
「…なんでよ」
「だって、相手が男の人でもやかなかったのに、女のあたしの時にやいてさ。
しかも相手が女だったら、あたし以上に可愛い子なんて、絶対いないもん。だからみきたんは、あたしだけなの」
「はぁー……」
「うわっ、何そのタメ息ぃ」
呆れてしまう、あまりの自信たっぷりに。
そして、それがまた嬉しく思ってしまって、美貴は無性に幸せになる。

もう、どうでもいいやと思える位、美貴は、亜弥ちゃんが好きだ。
いっぱいある問題も、きっと、なんとかなる。なんとかしてみせる。

そんな気分になった今日くらいは、なんだか思いっきり亜弥ちゃんと外でイチャつきたくなった。
740 名前:理想と現実―藤本美貴の場合― 投稿日:2004/10/28(木) 15:26
「ねえ、亜弥ちゃん」
「なに?」
「なんか混んできたみたいだから、美貴立つよ」

そして、目の前に立ってた男の人と交代。
口を挟む間もなく、隣が交代してしまった亜弥ちゃんは不安そうに目の前に立った美貴を見つめる。
大丈夫、大丈夫だよ。
座席は渡しても、亜弥ちゃんは渡さない。
だって美貴は、亜弥ちゃんだけだから。

「ねえ、亜弥ちゃん」

甘く、優しく。
こんなの、亜弥ちゃん以外の前では言わない。

「キス、しよっか?」



問題になるのは困るけど、話題になるのはたまにはいいかもしれない――――、亜弥ちゃんの唇のぬくもりを感じながら、柄にもない事を思ってみたりした。



741 名前:松竹藤 投稿日:2004/10/28(木) 15:27
ゲフゲフゲフゲフゲフッ。
なんだこれはとお思いの皆様、ご免なさい。
>>728様のリクに応えてみました理想と現実の番外編です。
もう、前すぎて松浦さんのキャラが、キャラが……_| ̄|○

それと、このHN・このスレでの更新はもうこれで最後にします。
今まで読んで下さった方々、本当にどうもありがとうございました。
一ヶ月と少し距離を置いて色々考えたところ、やはり今の自分はこのCPが好きなので、
皆様もこのお二人をお好きでしたらどこかできっとお会い出来ると思います。
表立った発表なんかは出来ませんが、それらしいのを見つけたらこっそりと突っ込んでみて下さい。
それでは。

>JOJOさん
おおっ、ドキみきでそんな話をしていたのですか。ドキみき聴いてなくてごめんなさい_| ̄|○
やはり藤本さんには、松浦さんに対して激甘でいてほしいのです。

>京さん
やっぱりやっぱりやっぱり、藤本さんの一番松浦さんがいいです。逆も同様。
藤本さん元気になられたみたいで一安心ですね。

>334さん
多分きっと、334さんが分かったことで合っていると思います。
そしてそして、素晴らしい文章を貼って頂けて感謝感激です・゚・(ノД`)・゚・
出来ればこれからも書いてほしいな…と希望しておきますw

>728さん
いかがでしょうか? 思い出しながら書いてはみましたが…
おがこんとさやまりについては、ごめんなさい。
今の自分にはちょっと書けそうにもなかったですすいません…
742 名前:JOJO 投稿日:2004/10/28(木) 17:52
最後の更新お疲れ様です
もうしばらくは作者さんの甘甘な作品が読めないのは辛いですが
また次回活動を再開されたときには必ず伺いますのでよろしくお願いします
ヤキモチを妬くときの藤本さんは相変わらず可愛いですね
このお二人には多分これからもずっとイチャついてるんでしょうねw
本当にお疲れ様でした
743 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/28(木) 22:45
お、待ってました。
いいですねー、微甘な感じがグッドです。
744 名前:334 投稿日:2004/10/30(土) 22:56
お読み頂けて至極光栄です。
今回の話を読んで自分のダメさとダメさん──作者さんの偉大さに気付いた所存です。
何時か作者さんの脳みその一部を移植したら、どんなに幸福なんだろうと恐ろしい妄想を抱いています。
ここのスレでは、とりあえずお疲れ様です。作者さんのHPを見失ったのが少し不安ですが、気付けば作者さんだと知らずに松竹籐さんの話を読んでいた自分なら、きっと何処かで会えると信じています。では、その時まで。幸せな時間をありがとうございました。
745 名前:728 投稿日:2004/10/31(日) 10:09
最後の更新お疲れ様です。
リクエストした理想と現実のあやみき編、
本当にありがとうございました。
私はさやまり時代からの作者さんのファンでした。
作者さんのあやみきで一番好きなのは
幻の名作(?)のカテキョものですね。
また、何処かで会えることを願っております。
今までありがとうございました。
746 名前:松竹藤 投稿日:2004/12/26(日) 01:28
ごめんなさい。>>741で嘘ついてしまいました。
最後とか言いつつ微妙に容量が余ってるのでこっそり載せようとか思ってしまいましたああごめんなさい。
やっぱりどうしても相変わらずこの2人が好きですごめんなさい。
しかもイブかクリスマス狙ってたんですけどどっちも間に合わなくてますますごめんなさい。

ではでは、ごめんなさいを連発しながら更新ですごめんなさい。
747 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:30
『悪ぃ、急にバイト入って行けなくなった』
「――はぁっ!?」

待ち合わせからなんと30分後にかかってきた彼氏からの電話。
遅れててごめん、なんててっきり謝罪の電話かと思いきや、それはまったく予想なんかしてなくて。
同じ様に同じ場所で待ち合わせをしている人達の事なんか忘れ、大声で不満をぶちまける彼女。

「ちょっと待ってよ、何それ何それ何それ!」
『だからバイトって言ってんじゃん』
「何当たり前のように言っちゃってるわけ? 休んでくれるって言ったじゃんだって!!」
『だーから、急にバイト入ったって言ってるだろーが!』
「バイトの方を断わったらいいじゃんバカ!!! なんで彼女のあたしの方を断わんのよ?!」
『ごめんって、今度埋め合わせするから! じゃっ!』
「はっ? 埋め合わせってちょっ……!!!」

――切れた。それも一方的に。
自分が言いたい事だけ言って、彼女の文句をすべて聞く事すらなく、切った。切りやがった。
携帯の電話だけでなく電源すら切られてしまって、彼氏と連絡が取れなくなってしまった、残された彼女。
彼女の近くにいた人達に、彼女の発言の内容から、彼氏にドタキャンされたらしいと感付かれ、
なんだか哀れなものを見るような目で見られている。

「……っ」

本当なら、あまりの怒りに持ってる携帯を地面にぶん投げて壊してやりたいくらいだったけど。
そこは、プライドの高い女の意地。
せめてもの抵抗で、まるで何でもないように携帯をカバンにしまい、待ち合わせ場所だったそこを静かに後にした。
748 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:30



749 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:31

「あー、もうムカツク!」

静かに去った後は、賑やかなファーストフード店に独りで入り、乱暴に買った食べ物をテーブルの上へと置く。
こんなことにならなけりゃ、こんな日に入る事のなかったこの店。
今頃、オシャレなカフェかなんかで、彼氏とこれからの予定を楽しく話す予定だったのに。
「アイツ、マジ信じらんない…何が埋め合わせするから、よ。……あー!!!」
イライラするのはよくない。
それは分かってる。分かってるけど、独りになって考えれば考える程、イライラする。
どうして今自分がここで独りでご飯を食べなきゃいけないの、とか。
待ち合わせ時間30分過ぎてからの電話っておかしすぎる、とか。
極めつけは、今日はクリスマスなのになんでバイト?――とか。

あまりにも腹が立って。
でもどうする事も出来なくて、でも何か暴れたくて。
バタバタと足を激しく地面に打ちつけてみたら、ゲシッと隣で突っ伏して寝ていた他のお客さんの足に思いっきり当たってしまった。

「げ……」
あぁ、なんてついてない。
狭い2人掛けのテーブルに座るんじゃなかった。
隣との間があまり空いてないから、こんなことになってしまった。
しかも、そのまま寝ていてくれたらよかったのに、当たった足が痛かったのか、不機嫌そうにその人が顔をあげる。
逃げたらもっと悪い人間になりそうだったので、とりあえず謝らなきゃと、彼女も覚悟を決めてその人の顔を見る。
750 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:31

たとえようのないくらいすごい視線で、まず睨まれた。
うわ、とか、こわい、とかそんな言葉すら出ない程恐ろしい。
「……今、蹴ったよね?」
「ひっ……いやっ、蹴ったとかそーゆうんではなくてっ」
テーブルの上に腕、腕の上に額を乗せて眠っていたせいか、前髪が少し乱れている。
そんでもって、乱れた前髪の間から覗く額には、赤いアト。
どうやら長時間寝ていたらしい。
「超痛かったんだけど」
「ご、ごめんなさい…」
「………」
「でもっ、わざとじゃないんですホントっ。っていうか、あなたにわざとする度胸なんて持ち合わせてないですあたし!」
「いやそれもっとひどいような………って?」
「は、ハイ? って、わあっ!」
睨んだ顔が、なぜか彼女の目の前に。
ドキドキドキドキ。
噛み付かれるのか、頭突きされるのか。
目を瞑って心の準備をしたけれど、一向にされる気配はなくゆっくり目を開けてみる。
そしたら、さっきまで不機嫌だったその人の顔は、なぜか笑顔に変わっていた。

「…美貴、アンタのこと知ってるわ」
「え…?」
「だから、特別に、痛かったけど許したげるよ」
「はぁ…」
それは嬉しいけど。
なんだかちょっと、気持ち悪い。
「なんであたしの事知ってるんですか? あたしあなたのこと知らないのに」
「んー…まーいいじゃん、そこらへんは」
「いやよくないし」
「ってか、今日は背の高い彼氏どーしたの。いつも一緒にいたのに」
「なんで彼氏のことまで知ってんの…」
一体なんなのだろう、この人は。
ただの怖い人ではないのだろうか。
でも、笑った顔は可愛かったし、女の子だったし、何より“彼氏”という言葉に、
さっきの出来事で忘れていた彼女の怒りが再び湧き出した為、この美貴というらしい女の人の素性はどうでもよくなった。
代わりに、どうでもよくない彼氏について、無性に誰かに愚痴を聞いてほしくって、ちょうど目の前にその適任者を見つけ、
彼女は自分にとって見ず知らずの人に不満をぶちまける事にしたのだ。

「その彼氏のことなんですけど………ちょっと聞いてくれますぅ?」
751 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:31



752 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:32
「もうね、アイツ最悪なの。最悪。ちょー最悪!
埋め合わせとか出来ないからって話よ、マジで。そもそもね、ホントはイブに約束してたんだよ。
でもアイツバイトとかって言って、イブは諦めてクリスマス当日、そう今日よ。
今日埋め合わせってことで渋々オッケーして約束してたのに、今日もバイトって何!?
埋め合わせするからって、イブとクリスマスの埋め合わせだよ? ふつーのデートじゃないわけじゃん。
じゃあいつ埋め合わせすんの、来年するつもりかよって言いたかったのに、アイツ電話切っちゃうし!!!」
思い出してまた腹が立ってきたのか、また足癖が悪くなり、亜弥と向かい合う形に座り直した美貴の両足に次々当たる。
「いや、痛いから痛いから」
「ひどいと思わないみきたん!?」
足が当たって怒られると思っていたのはいつの事やら。
ちょっとどころか長々と愚痴を聞いてもらっている内に、いつのまにか長年の友達のような口調になり、
気付いたら美貴に可愛らしいあだ名までついていて、終いには足が当たっても謝ってくれなくなった。
「…亜弥ちゃん、美貴の話聞いてる?」
「みきたんがアイツの話を聞いてくれてるんでしょ?」
「いやまあ、そうだけどさ」
彼氏の愚痴を語りまくる彼女の名前は、亜弥。
自分の事を知っていると言っていたから名前も知ってるのかと思ったら、名前は知らないとの事だったので、最初に教え合ったのだ。

「…亜弥ちゃん、もしかして遠まわしにフラれてんじゃないの?」
「いや、それはありえない」
「…何その自信」
意見を求めたから思った事を美貴は言ったのに、亜弥はあっさりと否定する。
「だって、このあたしがフラれるとか……ありえない」
「その考え方のがありえない」
「だって! フラれる要素がないもん、実際」
自分で言うのもなんだが、顔も可愛いし胸だっておっきめだし、スタイルにだって気を付けている。
それに、好きになった人には意外と一途なのだ。
だけどその反面飽きっぽくもあり、過去に付き合った人をすべてフッている。
現在の彼氏にはまだ飽きは来ず、ラブラブ中だと亜弥は思っていたのだが、イブ・クリスマスとドタキャンされた今、
美貴の言う事は間違っていないように聞こえるが、いかんせん亜弥のプライドは高く自信もある為、それはまったく認めない。
753 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:33

ファーストフード店と言えど、周りを見るとカップルも多々見られる。
年齢層は低く、財布の中身が気になる中・高生くらいだが。
その中で、女同士、必要以上に熱い亜弥と、必要以上に冷めた冷静な美貴の奇妙な組み合わせ。
まさか今日初めて会話したなんて、誰も気付かないであろう。

「じゃあ、フラれる前にフッちゃえ。その彼氏」
「えー…」
「彼女よりバイト優先するなんて、サイテーなんでしょ?」
トレイの上のポテトを次々頬張りながら、美貴は言う。
「そうだけどぉ、そうだけど……ってか、それあたしのポテトだし」
「あ、そーだっけ?」
「そーだよ! みきたんだってちゃんと注文したものあるでしょ、って……」
亜弥が指差した先は、美貴のトレイ。
その上には、Sサイズのジュースが1つだけ。
「……これだけ?」
「うん」
「…みきたん、何しにこの店入ったの…?」
ジュース1つだから、腹ごしらえってわけでもなさそうだ。
季節は冬。今日はクリスマス。
なのに、女独りでしかもジュース1つって。
「だって、外寒いんだもん」
「はぁ?」
「外寒いから中入って、でもなんか買わないといけなそうだったからジュースだけ買って、んで、あったまったから寝てた」
「何それ……」
それが、まだ若い女の子の行動だろうか。
亜弥も同じく女独りだが、こうなった理由はまったく違う。
754 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:33

唐突に、亜弥は美貴の事を知りたくなった。
この女らしくない女の子は、一体どんな子なんだろう。
彼氏に対する怒りよりも、興味が湧いた。
「みきたん、さ」
「うん」
「今日は誰かと一緒に過ごす予定とかないの? こんなとこで寝てたってことは」
「ない」
「だって今日、クリスマスだよ?」
「そだね。こんだけうじゃうじゃと行くとこ行くとこに飾り付けられてたら嫌でも分かる」
「みきたん、結構可愛いのに」
「あ、そう? アリガト。ってか、超じゃなくて結構なんだ?」
「……」
可愛いと言われると嬉しいらしい。
それは、分かった。笑顔が素敵なのも分かった。
でも亜弥には分からない。

「独りで寂しくない?」

今日はクリスマス。
周りはカップル・家族・友達だらけ。
亜弥もその中のカップルに含まれる予定だったが、急なドタキャンでそれは無理になったけど。
本来、独りで過ごすはずなんかじゃなかったんだ。
もし彼氏がいなくても、多分友達を誘ってどこかに出かけてると思うので、独りでこうして過ごしている美貴が亜弥には信じられなかった。
755 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:33

「なんで寂しいとか思うの? っていうか亜弥ちゃんは、クリスマスとか以外にも絶対に誰かと一緒にいるの?
だったら寂しいのは分かるけど、クリスマスだから独りで寂しいってのは、美貴にはよく分かんない」
「で、でも…ほら周りとか」
「人は人。美貴は美貴だよ。それに、美貴目ぇ悪いから周りとか見えないし。って、それは言い過ぎか、あはは」
「……」
だから視線が鋭いのか、なんて。
美貴の言う事に、亜弥は何も言えなくなる。
亜弥にとってイブやクリスマスは特別な日。
でも美貴にとっては、イブやクリスマスは他の日と何ら変わらないと言う。
亜弥は亜弥。美貴は美貴。
人の数だけ考え方も違う。
でも、その考え方を、亜弥は美貴に押し付けたくなった。

「それでもあたしは、独りは寂しいよ。………だから、みきたん。一緒に過ごそう?」
「…はっ?」
「あたしにとっては初対面だったけどみきたんはそうじゃなかったみたいだし、それにもう友達じゃん?
今日出来た友達とクリスマスを一緒に過ごそうよ!」
「え、え、なんでそーゆー展開に?」
「クリスマスはやっぱり特別だってこと、教えたげたいし!」
決めたら即行動とばかりに、美貴の腕を掴んで立たそうとするが、美貴は戸惑ってなかなか立ってくれない。
早く早くと急かすが、美貴が何かを言いたそうにしていたので、先に聞いてあげる事にする。

「亜弥ちゃん、彼氏は?」
「あー、そういえばそんなのもいたね。でも、ドタキャンされたし」
「でもでもっ、バイト、深夜までとかじゃないんでしょ? だったらクリスマスの夜くらいは一緒にいれるんじゃ…」
「…もういいの。今日はアイツなんかほっといて、たんと過ごすって決めたの」
「たんって誰だよ…」
「みきたんじゃん!」
力強く声を出して、同時に力いっぱい腕を引っ張る。
油断していた美貴はそのまま立つ形になったけれど、足は進まず再び亜弥に急かされる。
756 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:34

「どしたの。行こうよ」
「…無理だよ」
「なんでぇ?」
「女の友情は、所詮彼氏に負けるって言うじゃん」
「?」
「彼氏いるんだから、美貴は行かないよ」
「何よそれ…」
憎たらしく横向いて、低い声を出す。
ちょっと遊びに行くくらい、構わないのに。
でもどうして美貴は、そんな哀しい顔をするんだろう。
クリスマスに独りでいても平気な顔の美貴が、なぜ。

「……分かったよ」
しばらく考えた末、亜弥は静かに掴んでいた腕を離す。
「分かった、分かりましたぁ」
「うん、分かってくれたら…」
「じゃあ彼氏と別れたらたんは遊んでくれるんだよね。んじゃ、今別れるからちょっと待ってて」
「へっ!? ちょ、亜弥ちゃん?」
望んでいたはずの答えがまったく違う答えで、美貴は慌ててしまう。
だが亜弥は慌てる事なく、素早くメールを打ち送信。
「別れるって打ったから、これでいいでしょ?」
「なっ……」
あまりの驚きに続きの言葉が出ない美貴が、亜弥には可笑しかった。
亜弥の8割を占めていた彼氏の存在と関心が一気になくなり、それはそのまま美貴へと移る。
興味が、好意に変わった。
彼氏には悪いが、もう飽きてしまったのだ。

「んじゃ、れっつごー!!!」
757 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:34



758 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:34
ファーストフード店を飛び出した2人は、それから色んなイルミネーションを見て回る。
クリスマスの期間限定なそれ。
普通の日では見られない光景。
初めはあまり乗り気でなかった美貴も、日がだんだん進むにつれて、笑顔が多くなってきた。

「ほら、すっごいキレイじゃない?」
「……うん」
「こーゆーのは、誰かと一緒に見るから余計そう感じるんだよね」
「そう、だね」
「独りだったら、わざわざ見に来たりもしないしね。あたしもみきたんいなきゃ見なかっただろうし」
「…美貴も、亜弥ちゃんに誘われなかったら今頃家で寝てる」
「って、お店でも寝といてまた家でも寝るのかいあなたは」
「いやー、趣味が寝ることで、特技がどこでも寝れることだから」
「はー? ちょっとこの人おかしいよぉ」
「うわ、今のすげー失礼」
出逢った時のように睨むけれど、時間が経った今でも一向に効かない。
それどころか、くっついてきた。
「ちょっ」
「だいじょぶだいじょぶ。みーんなこんなことしてるし。クリスマスだからトクベツ、特別」
「………」
「おりょりょ? みきたんほっぺが真っ赤っ赤ー。真っ赤なほっぺのみきたんさんだぁ、にゃはは」
「……ばーか」
「みきたん、可愛い」
「うぎゃ! く、苦しいってば」
家族でも友達でも彼氏のでもない、新しい匂い。感触。
抱きしめたまま、息を吐くのではなく思いっきり吸い込む。
759 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:35

「亜弥ちゃん、苦しいってば。いい加減離して?」
「やだ、離さない」
「えー、マジで?」
「うん。マジ」
「それはちょっと困るかも」
「困ったみきたんの顔見たい」
ガバッとジャケットに埋めてた顔を上げて、美貴の顔に近付ける。まだ近付ける。もっと近付ける。
唇が触れる寸前まで近付けたら、さすがに顔を逸らされた。
「いや近すぎだし」
「みきたんの困った照れ顔見れたー!」
「ちがっ、困ってないし照れてないから! 怒ってるから!!」
「ズバッと当てられて焦ってるみきたんの顔も見たー!」
「違うから違うから!!!」
「にゃはははっ」

楽しかった、純粋に。
初めて逢うだろうと思う人に、どうしてこんなにも打ち解けて馬鹿みたいな事をやり合えてるんだろうという疑問はあったけど。
もっともっと、色んな美貴の顔が見たいと思ったし、美貴の事を知りたいと思った。
逆は言われた事はあったけど、自分が人に対してそんな事を思うのは、亜弥にとって初めてだった。

「ねー、みきたん」
「うん?」
「みきたん、どこ住んでんの?」
「えー。…真ん中らへん」
「は? どこ?」
「真ん中らへんだって、だから」
「東京…だよね?」
「今はね。生まれたとこは北海道だけど」
「北海道? じゃあ真ん中らへんじゃないじゃん、端っこじゃん!」
「違うよ。北海道の真ん中らへんだよ!」
「じゃあ今住んでるとこはどこなのさ?」
「東京の真ん中らへん」
「ぼかしすぎだしー」
「ちょっと謎めいてた方が気になるでしょ」
「うん、すっごい気になる……」
760 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:36

それは、本音だった。
言ってくれない美貴に対してイライラし、想像し、気になった。
教えてくれた名前だって、もしかしたら本名じゃないのかもしれない。
亜弥が知っているのは、美貴の顔だけかもしれない。
もしかしたらその顔も実は特殊メイクかもしれない。
――そんなのは、嫌だった。

「……教えてよ、ちゃんと」

気になって仕方がない。
それは興味でも好奇心でもなくて、本人ですらまだ知らない、芽が出たばかりの恋心だった。
美貴の事は気になって気になって仕方がなかったけど、性別は気にはならなかった。
そんな事が気にならない程、藤本美貴という存在が気になった。
「なんでみきたんだけ、あたしを知ってるの? ねぇ、あたし達、どこで逢った?
みきたん、あたしをどこで見たの? 教えて欲しい……」
そこで逢いたい。そこで見たい。
美貴だけが知っているなんて、ずるい。
そんなのは許せなかったし、認めない。
亜弥は我侭だった。

「…亜弥ちゃんが彼氏を見てる時、美貴はずっと亜弥ちゃんを見てた。……名前は今日、初めて知ったけど」
「ねぇ、だからどこで…」
「おかしな事に、美貴女なのに、女の子に恋しちゃったんだ。……恋人にはなれないけど、友達にはなれて、嬉しかった」
「だからみきた――」
言いかけたその時、亜弥の携帯が鳴った。
「あ…」
特別に設定してある着信。
ディスプレイを見なくても、相手がいくらか前の時刻にメールで別れを告げた彼氏であるという事は分かってしまった。
761 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:36

バイトの合間に、気付いてメールを見て慌ててかけたのだろうか。
留守電になっても留守電に入れる事なく、亜弥が出るまで何度も何度もコールを続ける。
なんでこんな、タイミングの悪い時に……そして、展開は亜弥にとって今日一番最悪な事になる。

「……やっぱ、友情より彼氏、だよね。女より男。それが当たり前だよ、うん」
「な、そんな、1人で納得とかしないでよっ」
「クリスマスが特別だっていう亜弥ちゃんと一緒に過ごせて、すごく嬉しかったありがと。
ドタキャンしてくれた彼氏にお礼しなきゃいけないなぁ」
「ちょっとみきたん?」
「帰るよ。寒いし」
「待ってよ! 寒いならくっついて歩こうよ! 腕組んで手ぇ繋いで!!」
「彼氏とすればいいじゃん」
「別れたもん、もう!」
「美貴が最初別れたら?って言ったら、渋ってたくせに…」
「それは…っ」
その時はまさかこんな気持ちになるなんて思わなかったから。
待って、行かないで。過ごして、クリスマス。
762 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:37

「まだ、クリスマス残ってるよ…っ」
「ちょうどいいじゃん。彼氏と過ごしなよ。最初はその予定だったんだしさ」
「でもあたし、みきたんと過ごしたい! クリスマスだけじゃなくって、他の日も…!!」

慌てた告白にも、とうとう返事すらしてくれない。
聞きたい事はいっぱいあるのに。分からないことだらけなのに。

「明日から、どこでみきたんに逢えるの……?」

最後は涙ながら。
クリスマスに泣くなんて。しかも、哀しくて。
でも美貴は最後に、プレゼントという名のヒントをくれた。

「…………真ん中らへん、かな」


763 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:37



764 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:37
それから何日か経った。
正確な日付は覚えていない。
冬休み中、ずっとずっと美貴を捜していたから。
けれど美貴に逢える事なく、冬休み最後の日。

そんな最後の日、ずっとずっと電話やメールを無視していた元彼氏に呼び出された。
携帯にかけてもラチがあかないとやっと気付いた馬鹿な彼氏は、今度は頭を使って家の電話にかけて、
母親に上手く取り入って亜弥に電話を取らすどころか会う約束も取り付けたのだ。
行かないつもりだったが、何をどう母親に言ったのか母親に背中を押され、嫌々いつもの喫茶店へと向かった。
それは街の端っこにある、彼氏がお気に入りの雰囲気がいい穴場の場所だった。
まだ友達だった頃、2人きりでそこに連れて来てもらって雰囲気の良さに感動した亜弥は、そのまま男にも感動してしまい、彼氏になった。
だが今となっては、雰囲気のいいその喫茶店も元彼氏のお気に入りというだけで嫌な気分になる。
そもそも話なんて、亜弥の中では終わっているというのに。
付き合っていた時は何度も何度も待ち合わせに利用していたそこも、今日で最後となるのだろうか。

「なぁ、別れるとかホントは嘘でしょ?」
「メール読まなかったの? ホントだよ」
「なんでだよ。バイトだろ? 浮気とかじゃないのに別れるのかよ。埋め合わせはちゃんとするって言ったじゃん。
買って欲しいやつあったらバンバン言ってくれていいし! ダテにイブとクリスマスも働いてたわけじゃないからさ」
「欲しいやつなんかない。イブとクリスマスの埋め合わせなんて、イブとクリスマスじゃないと出来ないよ」
「じゃあ来年! 来年のイブとクリスマスは絶対にお前と過ごすから!」
「来年……」
「なっ? それでいいだろ? なあ…」
「ご注文はお決まりでしょうか?」
まだ続きがあるような言い方だったが、それは店員の発言によって遮られる。
いつもはその発言もメニューを見ながら、または彼氏の顔を見ながら流していた亜弥だったけれど、今はその声が気になって仕方がなかった。
765 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:38

顔を上げる。
見つめられている、あの目に。
気になって気になって仕方がなかったのに、今まで気付かなかった。

「バカ…どこが真ん中らへんなのよ…ここ、街の端っこじゃんかぁ…」

冬休み最後の日。涙が零れる。今度は、嬉し泣き。

「街の端っこだけど……立ってるのは真ん中らへんだし」
「バカ。ほんとバカ。っていうか、注文」
「うん」
「来年のイブとクリスマス、あたしと過ごせバカみきたん」
「でも亜弥ちゃん、目の前に彼氏いるじゃん」
「彼氏? わかんない…あたし目ぇ良すぎてみきたんしか見えないから。言い過ぎじゃなくて、ほんとに」
「ちょっとお前…何女相手に言っちゃってんの?」
「悪いけど、亜弥ちゃんにお前とか言わないでくれますか。
っていうかアンタがお前お前ばっか言うから、亜弥ちゃんに教えてもらうまで亜弥ちゃんの名前わかんなかったんだよ」
ギロッと美貴が睨むと、亜弥の元彼氏は腰を抜かす。
「……かっこわるーい」
「っ、俺がカッコ悪いなら、女同士なお前らは気持ちわりーんだよ!! お前なんかこっちから別れてやるよ!」
それを見て亜弥が言うと、元彼氏はカッコ悪く捨て台詞を吐いて出て行ってしまった。
766 名前:あなたと過ごすクリスマス 投稿日:2004/12/26(日) 01:38

「……あーあ。亜弥ちゃんフラれちゃったね」
「違うもん。あたしが先にフッたんだもん。フラれてないもんね」
「…美貴も、その内亜弥ちゃんに飽きられてフラれちゃう?」
「そんなのありえない」

自信は満々。それは絶対。

「まぁ問題はいっぱいだけど、その問題を1つ1つ解決してくのって、なんか楽しくない?
あまりにもその問題が難しすぎたらイライラして当たっちゃうこともあるかもしれないけど、飽きる事は絶対にないね。……みきたんは?」
「こう見えても、一途なんだよ美貴は」
「そーいうギャップ、あたし大好き」

来年、再来年、そのまたもっと先。
イブとクリスマスだけでなく、1年ずっと、君と2人で。



「とりあえず、真ん中らへんなんてアバウトじゃなくて、みきたんの家を教えて下さい」



今日ここから、スタートしよう。





767 名前:松竹藤 投稿日:2004/12/26(日) 01:40
なんか、すべてにごめんなさい_| ̄|○

>JOJOさん
最後の更新とか上で言いつつ更新なんかしちゃってごめんなさい・゚・(ノД`)・゚・
次回活動はもうしてたりしてなかったりするので、既にどこかでお逢いしてたりしてなかったりかもしれません。
藤本さんにはヤキモチやいてないふりしてやいててほしいです、キモい妄想ごめんなさい・゚・(ノД`)・゚・

>743
待たせてしまいました。感想どうもありがとうございます。

>334さん
自分の脳みそを移植してしまったら、表ではこんな話ばっか書いてますが
実際はえっちいことばっかなのできっと更に危険になりますのでそれこそ本当に恐ろしいことになりそうでつ…
自分もまた、どこかで334さんと会えることを信じて、まだもうちょっと書き続けたいなと思います。

>728さん
リクエストしていただきありがとうございました。
しかも、さ、さやまり時代からとかですか……は、恥ずかしすぎる。
さやまり以外にも色々読んでくださっていたようで、本当に幸せです。
本当にありがとうございます。
768 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/26(日) 10:24
おかえりなさい。
待ってましたよぉー!

随所に小ネタがちりばめられていて二人らしさ満天でした。
やっぱ二人の力関係は亜弥上位ですねぇ(・∀・)

これからも、気が向いたときにでも書いて頂ければ嬉しいです。
素敵な短篇、ありがとうございました。
769 名前:JOJO 投稿日:2004/12/26(日) 12:45
キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
また読めて本当に嬉しく思います。
実際もう読めないのかと軽く凹んだりしてましたから。w
クリスマスで寒いはずなのに暖かく感じてしまいました。
これも二人のパワーと作者さんの力量の賜物なんですかね。
1日遅れの素敵なプレゼントになりました。ありがとうございます。
これからも短編なり中編なりを書いていただけたらと思います。
作者さんの新たな活動拠点を探しつつ待ってます
770 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/27(月) 01:18
やったーありがとう!!!
もう作者さんのあやみきは読めないんだろうなと思ってたので
復活すごく嬉しいです
あやみきを好きになったきっかけが作者さんなんです
これからもあやみき小説を気まぐれでいいんで書いて下さい
本当にありがとうございます
771 名前:334 投稿日:2004/12/27(月) 19:58
嬉しい、楽しい、大好き。
772 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/29(水) 20:15
もう、ダメです。ノックアウト。
かわいいんです、二人が。
773 名前:728 投稿日:2005/01/04(火) 10:35
もう最高っ!の一言しか言えません。
私もあやみきを書いたことがあるのですが、
作者さんのようには上手く書けなくて…

これからも、作者さんの素敵なあやみきを
作者さんの新しい場所を探しながら待っていたいと思います。
これからも頑張ってください。
774 名前:JR大正 投稿日:2005/01/11(火) 11:54
あやみき最高
775 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/11(火) 12:57
776 名前:あやみき信者 投稿日:2005/01/13(木) 03:05
いや〜〜〜〜!!!
ヒサブリに見たら、いい新年のプレゼントだ〜☆
やっぱり作者さんのあやみきは癒されますね♪
感謝です♪♪
777 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:45
目つきが悪く、態度も良いとは言えない藤本美貴。
もうすぐ誕生日が控えている、事実上の大人にもっとも近い年齢である。
季節は冬。新しい年の、今日の朝。
正月休みということもあり、いつもより更に深い眠りに陥っていた頃。
その美貴の眠りを妨げる、美貴にとってそれは苦手でありうるさくもあり、
だけども突き放せないどうしようもない気持ちを持ってしまう相手が、ソロソロと美貴の部屋へと侵入してきた。

「にひひ……」
抜き足差し足忍び足。
近付くと、より鮮明に見える美貴の顔。
その顔を見て、とろけそうな笑みを浮かべる不法侵入者。
慣れたように美貴のベッドに腰掛けて、サラッとした茶色の美貴の髪を優しい手つきで撫でる。
撫でた手が冷たかったのか、美貴は少々身じろぎをし、不法侵入者の心臓を高鳴らせる。
けれど反応はそれだけで、目を開けたり起き上がったりすることはなかった。
「にゃはは…たんってば、まぁた腕上に上げて眠っちゃって」
これで安心して、美貴を眺められる。
美貴の事を「たん」と呼ぶ事からして、知らない仲ではないらしい不法侵入者は、
美貴の、腕を上に上げてまるで新聞でも読んでいるかのような寝方について突っ込み、笑う。
「そーかそーか。たんはそんなにあたしを抱きしめたかったんだねぇ。
だから腕を上に上げて待っててくれたんだね、たんは可愛いなぁ」
その腕を上に上げて寝る癖を、自分の都合のいい様に解釈し、不法侵入者は立ち上がる。
そして――――


「みきたぁぁぁぁん!!!!! 逢いたかったよぅ〜〜〜」
「ぐほっっ!?!」


受け入れ準備も何も整っていないベッドの上の美貴の上に、不法侵入者は飛び込みやがったのだ。


778 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:45


「うぅぅぅぅ……みきたんの感触…みきたんの匂い……」
「死ぬっ、死んじゃう、マジ死にますから!!!!」
「………もぉ、オーゲサなんだからたんは」
下からこれでもかというくらい暴れられ叫ばれ、渋々不法侵入者は身体をどけて、再びベッドに腰掛ける。
「ゲホッ、ゲホゲホ……ぐ………はー…死にかけた」
それは大げさでもなんでもなく、美貴の本心である。
まったく、この不法侵入者は自分の事しか考えていない。
でなければ、勝手に部屋に侵入して、その上飛び乗って起こすなんて真似は出来ないはず。
けど、この不法侵入者は、この女は、この松浦亜弥という美貴の従妹は、それを何の疑問も持たずにやってのけるのだ。

「はぁはぁ…あんた、美貴を殺す気ですか。ってか、殺す気満々でしょ。計画殺人だしょ!」
「何をおっしゃいますやらみきたんさんは。このあたしがそんなことするはずないでしょうが!
みきたんを食べちゃいたい程好きで、みきたんを愛して愛してやまないこのあたしがだよ?」
「じゃあもっと労わってよ! ホントに死ぬぞ!!」
「死なないって。っていうか死んでないじゃん実際。そもそもたんはあたしを残して死んじゃダメだし、みたいな」
可愛くウィンクなんかして見せるが、そんなもの寝起きの美貴には効かない。
そもそも美貴は亜弥と同性で、しかも血が繋がっているのだ。
そんな簡単に可愛いなんて思ってたまるか。
「あーもー分かった。ハイハイ」
相手にしてたらキリがない。真面目に聞いてたらバカを見る。
だけどもそんな美貴の態度が、亜弥は気にいらないらしい。
「なんかさぁ…たん、冷たい。せっかく、新年早々たんに逢いたくて東京からやって来たんだよ?」
ベッドの高さが高めなので、床に着かない足をブラブラさせて、ぶーたれる。
従姉妹だけど、住んでいる所が北海道と東京な為、しょっちゅう逢えないのだ。
779 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:46

では、なぜこんなにも亜弥から強烈なラブコールを受けているのか、まず謎な点。
美貴自身も、それは知りたい事だった。
昔から東京に憧れていたので、兵庫から東京に越して来た亜弥の家へ居候しながら東京の高校に通っていたのは1年前。
それまでは、夏休みなどの長期休みにしか逢った事のなかった従妹。
けれど、美貴が高校進学先は憧れの東京でと考え親を説得し、受験やら何やらで中学3年生の頃から東京の亜弥の家へ通い、亜弥とよく接するようになった。
当時、彼女は中学1年生。
勉強の結果、無事に東京の高校に通える事になり、両親の心配もあり独り暮らしではなく、親戚の従妹の家の亜弥へと居候する事4年。
3年の高校生活が4年になってしまったのは、美貴が東京で遊びすぎたからであって、
その事実に北海道の両親は怒り、大学は北海道にしろと首を締められ飛び蹴りされ、現在、こうして北海道の実家から北海道の大学へ通っている。

4年という時間は、亜弥をこんなにストーカーチックにしたのかと、美貴は思う。
まあ、小さい頃から遊びに来たり行ったりしたら、よく美貴の後ろをついてきてはいたけれど。
スキンシップという度合いを、亜弥は超えているのだ。
「それおかしいよ」と美貴が言うと、「好きだからおかしくないもん」とおかしな答えが返ってくる。
亜弥は、美貴に恋をしているのだと言うのだ。
だからこそ触りたいしくっつきたいしイチャイチャしたいし、そしてこうして押しかけたり。

思い込んだら一直線。亜弥はしつこい。
それを嫌でも知っている美貴は、なんとか深入りせず今まで逃げてきていた。
答えを求められても、「もうちょっと背が伸びたらね」「もうちょっと痩せたらね」「もっと成績が上がったらね」――なんて。
だが、亜弥はそんな美貴の発言を、時間はかかるが必ず実行し、達成した事を知らせ、また答えを求める。
もうウザいしウンザリなんだよと言ってしまえば、さすがの亜弥も降参するのかもしれないが、
なかなかその言葉は口に出ず、こうしてちょっとの連休や長期休みの度に北海道に押しかけられ、散々な目に遭っている。
780 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:46

「あーもう。亜弥ちゃんのせいで目が覚めたじゃん、くそぅ」
寝癖がついた髪を撫でながら、渋々身体を起こす。
が、そんな美貴を起こした張本人は、慌てて美貴をまたベッドへと戻したのだ。
「ダメー! まだ起きちゃダメ。寝てなきゃダメ」
「はあっ?」
「ほら、あたしんチで同棲してた時の朝の習慣で、おはようのちゅーがまだ済んでないからさ」
「いやいやいやいや、まず同棲じゃないから。同居というか居候だったから。
それに習慣とか言ってるけどこっちは全然そんなことないし、亜弥ちゃんが勝手にしてくるんじゃん!」
「はぁ〜…みきたんの寝言はうるさいなぁ。しょうがない、愛する人のちゅーで目を覚ましてもらわないと」
「寝てませんから起きてますからぁ!!! てわっ? ちょ、ちょっとま――!?」

塞がれる唇。
唇に感じる唇。
久しぶりの唇。

こんなことをのんびり思って感じてる場合じゃないと分かっているのに、
こうして触れてしまうと、美貴は亜弥に逆らえなくなる。
2つ年下の従妹。
どんなに突き放しても怒鳴っても、へこたれないでベタベタくっついて甘えてくる。
ウザいしウンザリなんだと言えたら、本当に楽なのに。

亜弥ちゃんはキスが上手い、そう判断出来る程、美貴には経験がなかった。
でも、亜弥とするキスは、すごく気持ちがよかった。
優しく絡まる舌に流れて零れる唾液。
気持ち悪いとは、まったく思わなかった。
いつの間にか位置が反転して、美貴の方から活発に舌を動かしてしまう程、美貴は久しぶりの亜弥とのキスに夢中になっていた。

「……っは、た…ん」
逢う度、見る度にどんどん色っぽくなる顔、声。
それは全部、相手が美貴だから?
そう簡単に逢えなくなった分、逢っていない間の亜弥の気持ちが、どうしようもなく気になる。
もしかしたら誰か別の人と、これ以上の事をしているのかもしれない。
けど、そんな不安は逢って、見た時にすぐ消えるのだけど。
別れる前に美貴が出した条件を叶える為、努力した成果が見えるから。

離れてても、亜弥ちゃんは美貴が好きなんだ。
それは美貴の少しの自信であり安心であり、怖くもあった。
781 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:47

「――あ!」
ハッと正気に戻り、舌を引っ込め唇を離す。
その時唾液の糸が厭らしくひいていたが、真っ赤になって手で切った。
「むー……」
当然、そんな美貴の行動を笑顔で見やる亜弥ではない。
物足りない、納得出来ない、そう言わんばかりに口を尖らせる。

「なんでやめちゃうの」
「や、やめちゃうとかって前に、したくなかったし美貴は…」
「うそだぁー」
「嘘じゃない!」
「じゃあ、なんでする前とした後で、あたし反対になってんのさ?」
「…っ!」
乱れた髪に、少し裾が捲れ上がった服。上気した頬。
ウルウルと見つめる薄茶色の瞳。
「あたし、たんに前言われた通り、髪伸ばしたよ。伸ばしたら付き合ってくれるんだよね?」
「…………ダメ、もっと。もっと伸ばさないと」
「なんで! 肩以上って言ったじゃん! もう肩以上になってるもん!」
「じゃあ今度は腰までね」
「な、そ、そんなのメチャクチャかかるじゃんかぁ」
「でも、腰まで伸ばさないと美貴と付き合えないよ?」
「……ぅー。……………カツラとか、ダメ?」
「ダメ」
「う〜っ」

悔しそうに唸る亜弥を見て、美貴はこっそり胸を撫で下ろす。
これが唯一、亜弥を避けれる方法なのだ。深入りせずに。
ウザいしウンザリなんだよと言えない、美貴の。
亜弥が美貴に好きだから付き合ってとアプローチしてきた時から、ずっと。
782 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:48

「ってゆーかさ、みきたんさんよ」
「……なに?」
「あなた、あたしと付き合う気ないでしょ、こら」
「………」
「今までずぅーっと、気付いてたけど言わないでいたけどさ」
「……あぁ、そう」
気付いてたんだ、やっぱり。
というか、気付かないとおかしいよね。
――なんて、頭の中も態度も冷静でいられる事に、少しビックリした。

身体を起こして両足をハの字にして、ペタンと柔らかいベッドの上で呟く亜弥。
美貴はその横で足を乱暴に投げ出し、ただ亜弥の言葉を待つ。
「あたしもさ、もう18なわけで……そろそろ恋人とかって、突っつかれたりもするわけよ」
「…うん」
「でもあたしの心は全部みきたんで埋まってるわけだから、他の人なんて入れるわけがないのね?
だから、みきたんにはマジで責任取ってもらわないと困るんだけど」
「いや、責任とか言われても、勝手にそうしたのは亜弥ちゃんじゃん」
「違うよ。みきたんがそうさせたんだよ。みきたんが可愛くてカッコいくて、優しくて時々冷たくて、
笑顔が素敵で真顔が怖くて、楽しくて面白いみきたんが、あたしを夢中にさせたの」
「なんだそれ……」
「たんの恋人に、なりたいの。あたしは、ただ」
「…………」

ただ、とか。
それだけだと亜弥は、言うけれど。
そんな簡単なものじゃないんだ、この2人の関係は。
783 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:48

「……従姉妹じゃん。女同士じゃん。どうやってなるのさ」
「なれるよ、みきたんさえ頷いてくれれば恋人同士に。
血の繋がりとか性別とか、恋には関係ないでしょ? いるのは、お互いの気持ちだけじゃん」
「そ、それはそうだけど」
「なんでたんは、あたしのこと好きなくせに、素直にあたしに飛び込まないの?
絶対絶対楽しいよ、あたしと一緒なら。楽しくさせる自信がある。みきたんを幸せにする自信だってもちろんあるよ」
「っていうか、勝手に美貴が亜弥ちゃんの事好きって設定にしないでよ!」
言わせておけば、スラスラと当然のように。
顔を真っ赤にさせて突っ込むが、亜弥の自信は崩れない。
「じゃあたんは、好きでもない子に、あーんなキスしちゃうんだ?」
「――っ、そ、それは」
「出来るわけないよね、たんはそんなの。遊んでるように見えて、実はそういうところ、すっごい真面目なんだもん。
ホントに好きな人とじゃないと、たんは、キスなんかしないよね。っていうか、しちゃヤだし」
「………」

血の繋がりがこんなに勘をよくさせるのか、それとも恋の力なのか。
何でも知ってるよ、そんな笑顔の亜弥を目の前に、美貴はそれ以上何も言えなくなる。
784 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:49

美貴は、亜弥みたいに自信がない。
護る自信も、幸せにする自信も。
むしろ、亜弥が自分を好きなせいで、既に不幸にさせていると思っている。
亜弥みたいな子だったら、美貴と接する事がなければきっと、格好いい彼氏がいてその内結婚して、亜弥の大好きな子供を産んだりも出来る。
では、美貴と恋人同士になればどうだろう。
現在では結婚も出来ない、子供も産まれない。
女の幸せとやらを、亜弥に与えてあげれない。
何かしら条件をあげて、先延ばしに、先延ばしにしていた、恋人になる約束。
その間に亜弥の気持ちも変わるだろうと思っていたのに、一向に変わらない。
きっと、腰まで髪を伸ばした頃にも、亜弥の気持ちは何一つ変わっていないだろう。
気持ちが強くなる事はあっても、弱くなって無くなる事はない。それは、美貴の確信だった。

どちらが先に、降参するか。
まだ、美貴は降参したくなかった。
降参して、亜弥みたいに相手を幸せに出来るなんて胸張って言える自信が、なかったから。
じゃあ、亜弥に降参してもらうしかない。
条件を出し続けてもあしらっても降参しない亜弥。
ずっと言えなかった言葉を言ってしまえば、亜弥は本当に降参するだろうか?
785 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:49

「あ…亜弥ちゃん、ウザいんだよ。いっつもいっつも休みの日台無しにしてさ。
それに…それに、もうウンザリなんだって、その、根拠のない自信とか……」
「でもそれは、たんの本心じゃない」
「ほっ…本心だよ!」
「本心じゃないよ。だってたんは、あたしの目を見て言ってないじゃん」
「っ」
射るように鋭く、強い瞳。
美貴ではない、亜弥だ。
普通の人より色素の薄いその瞳は、美貴のすべてを見抜いていた。

そうなんだ。
いくら、ウザいしウンザリなんだと思い切って言ってみても、それが本心でなければ意味がない。

「みきたんの本心、ちゃんと言って」

ああ――。
吸い込まれてしまいそう。
いや、もう心は吸い込まれて、亜弥は持っているんだ美貴の心を。
それを分かっているくせに。
亜弥は、言わない。
美貴が言うまで、言わない。

「美貴、は…」

自信がない。護る自信も幸せにする自信も。
何より、亜弥のその大きすぎる気持ちに応える自信が美貴にはなかった。――――まだ。
786 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:50

「………とにかく、先に、髪を腰まで伸ばして。話の続きはそれからね」
「はあ〜っ? ここまで言っといてそれはないでしょ」
「腰まで伸ばしたら、その時は……ちゃんと言うから」
「…………う〜っ」
まだ、まだ言えないから。自信がないから。
せめて、亜弥の髪が腰まで伸びるまで。
その頃になったらきっと、少しは自信がついてるかもしれないから。
本当に自分勝手で極まりないけど、でも亜弥は待っていてくれる。
それは美貴の、数少ない自信だった。

「腰…腰まで……何ヶ月…っていうか、何年かかるんだろ……」
「まあ、ゆっくりしようよ」
「いやだ! だって早くたんの愛の告白聞きたいもん! 髪の毛ってどうやったら早く伸びるんだろ?」
「…伸びてきたら、美貴が夜にでもこっそり切ってやる…」
「そんなこと言っても、実際たんは出来ないもんね〜。たんの為に頑張って伸ばしてる髪切るなんてこと」
肩まで伸びた髪を一つまみ摘んで、サラサラと落としながら。
すべて見通している、美貴の事。
「……つーか、亜弥ちゃんマジムカツク」
「えー、なんでさなんでさ。マジ可愛いってのだったら同意するけど、あたしがムカツクなんてことは同意出来ないし理解出来なーい」
「だって。だってさ、なんで美貴より美貴の事知ってるんだっつーの…」
「にゃはは。そりゃあ、だって」

――あぁ。
自信満々なその顔。
その顔が、亜弥にはまたよく似合う。
亜弥の髪が腰まで伸びた頃、美貴もああいう顔が出来るだろうか?
787 名前:自信 投稿日:2005/02/16(水) 22:51



「みきたんのこと、愛してるからに決まってるじゃん!!!!!」




788 名前:松竹藤@ダメ経営者 投稿日:2005/02/16(水) 22:52

以上でつ。今度こそ、このスレでの更新は最後にしたいと思います。ありがとうございました。
今後の活動や行き先は未定ですが、とりあえずの場所は確保出来ましたので、
知りたいという優しい方はメール欄にて。
ではでは、長い間本当にありがとうございました。
789 名前:松竹藤@ダメ経営者 投稿日:2005/02/16(水) 22:57
>768さん
ただいまです。待っててくれてありがとうございます!
やはり力関係は亜弥上位で!これ最強ハァハァ

>JOJOさん
また読んで下さり本当に嬉しく思います。
前書いた話はクリスマスでしたね…そういえば。
間が空いてしまい、申し訳ないです。
バレンタインデーの話でもなんでもないですが、目を通して頂けると嬉しいです。

>770さん
好きになったきっかけが自分とか…嬉しいです有難うございます。
ゆったりゆったりですが、これからも書いていこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。

>334さん
ハァ━━━━(;´Д`)━━━━ン!!!!!!

>772さん
KO勝ち━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
可愛いと思って頂けてよかったですw

>728さん
728さんのあやみきが見たい!と激しく希望してみます。
自分も全然上手くないんですが、数だけは結構書いてたります…
これからも頑張ります、はい。

>JR大正さん
最高でつ!でもsageで…

>775さん
ありがとうございます。

>あやみき信者さん
ヒサブリに見て下さりありがとうございます。
今度のも癒せたらいいですが…
790 名前:JOJO 投稿日:2005/02/17(木) 01:00
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
今回の話も例外なくとてもおいしくいただきました。
ありがとうございます。
このスレだけでどれだけ癒されたことか分からないです
これからは新しいサイトのほうでもなにとぞよろしくお願いします

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