徒然なるままに
- 1 名前:token 投稿日:2003年07月22日(火)12時24分41秒
- 徒然なるままに、パソコンに向かひて、心に移り行く、妄想を
そこはかとなく書きつづれば、あやしいばかりの、娘。小説なり
- 2 名前:token 投稿日:2003年07月22日(火)12時28分54秒
- 私は某板で連載している者です。この度図々しくも、こちらにも新スレを立てさせていただきました。
2週間に1・2本のまったりしたペースになると思いますが読み切り短編を載せたいと思います。
どうぞ、よろしく!
- 3 名前:収録の合間 投稿日:2003年07月22日(火)12時30分56秒
- テレビの収録時間が遅れていた。スタジオに入っている熱心なファンの一部が騒いだか
らだそうだ。予定ではこの後ファンの前で歌うことになっていた。でも、少し騒動が収ま
るまで様子を見ることになった。だからあたし達モーニング娘。のメンバーは楽屋で暇を
持てあましていた。
飯田さんは本を読んでいた。彼女はメンバーで一番の読書家だ。リーダーだからではな
い。だって、中澤さんはレディコミと言う、大人向けのマンガしか読んでなかったし、保
田さんはノートパソコンでいつも遊んでいた。矢口さんは人と話をしていないときは、M
Dを独りで聞いていた。頭のいい紺ちゃんだって、本を読んでいるのを私は見たことがな
い。いつだって何か食べてるからだ。そう言えばトークの収録で、田中れいなちゃんが、
紺ちゃんのことばらしてたっけ。あのあと実は、れいなちゃんは紺ちゃんに楽屋の隅で注
意されてたんだ。
- 4 名前:収録の合間 投稿日:2003年07月22日(火)12時32分51秒
- 「田中さん、あなたダウンタウンさんに、いじられたときどうしてボケなかったの?」
てっきり自分の失言を咎められるのだ、と思っていたれいなちゃんは、頭からハテナを飛
ばしてたっけ。
「『モー娘。の先輩は優しいと言わされてるのやろ』、こう突っ込まれたら、『解ります
か?』ぐらいのことを言いなさい。せっかく目立てるチャンスだったのに」
れいなちゃんは素直に、ありがとうございます、と頭を下げてた。それを見て紺ちゃん
は、いきなり正拳突きをれいなちゃんの顔面に。
だけど拳はすんでの所で止められていた。れいなちゃんはぺたんと座り込んだ。
「それと、あたしの食いしん坊ネタはあまり使わないで下さいね。持ちネタなんですから」
にっこり笑うと紺野ちゃんは楽屋を出ていった。きっとトイレだろう。こっそり様子を伺っ
ていたミキティは大笑いしてたし、よっすぃーは「紺野かっけー」と騒いでいた。そうだ。
心配することは少しもない。だってモー娘。にはイジメなんてダサイ事する人は居ないんだから。
- 5 名前:つみ 投稿日:2003年07月22日(火)12時33分16秒
- 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、娑羅雙樹の花の色
盛者必衰の理をあらわす。奢れる者久しからず、
唯、春の夜の夢のごとし。猛き者も遂には亡びぬ。
偏に風の前の塵に同じ
- 6 名前:収録の合間 投稿日:2003年07月22日(火)12時34分51秒
- あれ、話が脱線しちゃった。やっぱりあたし馬鹿なのかな?そんなことより今は飯田さ
んに用があるんだ。私は思いきって彼女に声を掛けた。
「いいらさん、ちょっといいれすか?」私が舌足らずなのは、単にカツゼツが悪いから
であって、決して馬鹿だからではない。多分・・・・・。
「なあに、ツ〜ジ」飯田さんは読んでいた本から目を離すと、にっこりと私に微笑んだ。
「さっきはありがとうございました」
「!?」
「トークの収録で、ののがフリップや瓶のラベルを読み間違えた後、いいらさんも漢字
が読めないって笑われたれしょ。あれ、わざとれすよね」
私はクオリティーをクリッティ、マグマをマグロなどと堂々と間違えて、大笑いされた。
でも、その後で、やっぱりフリップを読んだ飯田さんが漢字をいくつか読めなくて、馬鹿
にされたのだ。飯田さんは大きな目を更に見開いてあたしを見つめた。明らかにビックリ
した時の表情だ。
- 7 名前:収録の合間 投稿日:2003年07月22日(火)12時36分48秒
- 「ののがみんなから、馬鹿キャラだと思われないように、少しでも印象が薄くなるように、
そのためにいいらさんは笑い者になってくれたんれすよね!」
飯田さんの目が細められ、フッと優しい表情になった。私の大好きな飯田さんの顔だ。
「ばれちゃった?良く判ったね」
「へい。らっていいらさん、いつも字がいっぱい詰まった本を読んれるから、漢字が解ら
ないわけないれす」
「あっはははは。買いかぶりすぎだよ。あたし漢字書けないよ」
「でも、読めるんれしょう」
「まあね、余計なことかなって思ったけど、ののももう16歳なんだし、そろそろお馬鹿
キャラは卒業しないとね」
「へい。ののもいいらさんみたいな大人の女性を目指します」私は飯田さんに抱きついた。
「そう、頑張ってね」彼女は私の頭を撫でてくれた。こうしていると気持ちがいい。ウチ
の飼い犬が頭を撫でられると、やはり喜ぶんだけど、きっと同じような感じなのだろう。
- 8 名前:収録の合間 投稿日:2003年07月22日(火)12時38分26秒
- やがてADさんがやって来て収録再開10分前だと告げに来た。だらけ気味だった私達
の楽屋は途端に活気に満ちてきた。弄んでいる携帯をしまったり、メイクの最終チェッ
クをしたり、残ったお菓子を平らげたり、みんな慌ただしい。そうだ、私もトイレに行
っておこう。私は一人で楽屋を出ていった。
「圭織、あれ嘘でしょ」鏡の前でメークを直している飯田の隣に座り、自分もグロスを
塗り直しながら、安倍なつみが聞いてきた。
「解る?」鏡に映る自分の姿から目を逸らさずに、飯田が答えた。
「そりゃーね、つき合い長いべ、なっち達」安倍もグロス塗りの手を休めない。どうや
ら満足のいく仕上がりのようだ。
「漢字がわからなかった訳じゃないのよ。ただ、圭織目が悪いでしょ。字が小さくてよ
く見えなかったのよ」
「まだ相変わらず?」
「うん、疲れているとね、視力が落ちるの。あっ、でもすぐ直るし心配しないで」
- 9 名前:収録の合間 投稿日:2003年07月22日(火)12時39分39秒
- 「のの、騙しちゃったね」
「そうね。でも、あんな事言われたら否定できないっしょ」
「そうだね、ののは優しい娘だし」
「うん、あのまままっすぐ成長して欲しいな」しみじみした口調だ。
「圭織、何だかオバサンみたいだよ」
「ひっどーい、なっちだって来月22じゃない」
「でも、精神年齢は18歳だも〜ん」
「何それ?」
「いいらさん、行きましょう」トイレから戻った私は飯田さんの所に行った。なっちさん
と何か楽しそうに話していた。何だかそれが妙に気になって、私は飯田さんを強引に引っ
張った。今度のユニットも飯田さんと一緒。なっちさんとは違うんだよ〜。
「のの、前髪」飯田さんは そう言って私のを直してくれた。
「じゃあ、行こっか!」
「へい!」今日の歌はいつもより上手く出来そうだ。そんな予感が私にはあった。今日の
スタジオのファンは幸せ者だよ。でも、一番幸せなのは、・・・・・・エヘヘヘヘ。
『収録の合間』完
- 10 名前:token 投稿日:2003年07月22日(火)12時40分59秒
- 更新終了です。
こんな感じでやっていきたいと思います。
では、また、次回まで。
- 11 名前:まろんめろん 投稿日:2003年07月22日(火)13時45分49秒
- 初めて読ませていただきました。
辻ちゃんはやっぱ和みますねぇ。
もしよろしければ『なちのの』とか希望しちゃってもいいっスかねぇ・・・。
これからもがんばってください!応援してます!
- 12 名前:Silence 投稿日:2003年07月24日(木)14時44分11秒
- おおうっ、こっちもいいですね〜。う〜ん、つ〜じが飯田さんが。
そういうことだったのかと1人でものすごく納得しちゃって
いました(w これからこっちも追いかけさせてもらいま〜す。
- 13 名前:作者名未定 投稿日:2003年07月24日(木)16時35分13秒
- 新作おめでとうございます。
実にタイムリーなネタで、特に私のツボに入りまくり。
短編とのことですが、次回も楽しみにしてます。
- 14 名前:token 投稿日:2003年07月25日(金)13時10分16秒
- どうも、tokenです。まずはレスのお礼です。
>つみ様
いきなり、難しいお題ですね。(笑)なんとご返事を。そうだ、続きでも書きますか!
遠く異朝をとぶらへば、秦の趙高、漢のオウモウ、梁のシュイ、唐の禄山、是等は皆旧主
先皇の政にもしたがはず、楽しみをきはめ、諫めをも思ひいれず、天下の乱れむ事をさと
らずして、民間の愁ふる所を知らざっしかば、久しからずして、亡じにし者どもなり。
ええっとー、このくらいで勘弁してください。そして、もしよろしければ、作品の感想の方を
待っております。(ぺこり)
>まろんめろん様
と、言うことであなたがこのスレの第一号読者です。ありがとうございます。
『なちのの』ですか、確かに少ないですね。CP分類を見ても、2本しかありませんね。
- 15 名前:token 投稿日:2003年07月25日(金)13時11分16秒
- >Silence様
ありがとうございます。こちらにも来ていただきまして。ここは、爆弾が爆発したり
血まみれになったり、などのシーンは出ないお話を書こうと思います。たぶん。
>作者名未定様
ありがとうございます。このお話は、番組を見た夜に、眠れなかったので、徹夜で書きました。
鮮度が命、だと思ったので、新スレを立てた次第です。辻ちゃんいいですよねー。
さて、2本目ですが、まろんめろん様からリクエスト頂きましたので、なっちと辻ちゃんの
話を書いてみました。あっ、でもご期待に添えたかどうかは解りませんが・・・・・。
題して『演技指導』です。
- 16 名前:演技指導 投稿日:2003年07月25日(金)13時12分29秒
- 「はあー」辻希美が大きなため息をつく。今日は明治座で『江戸っ娘。忠臣蔵』の4日
目。舞台を終え、着替えを済ませた希美は楽屋に独りで座っている。急に思いついて、希
美は鏡を覗き込みながら、いろいろ変顔をしてみる。
しばらくは楽しそうにそんなことを続けていたが、やがてそれに飽きると、再びため息
をつく希美。
「な〜にやってるの?」突然声を掛けられて、希美はビクッとする。
「なっちかぁ〜、脅かさないでよー」
「なっちかぁ〜、はないっしょ」いつもの笑顔で安倍なつみは話しかける。
「元気ないねー。どっか具合でも悪いんかい?」
言いにくそうにしていた希美は、今の悩み事をなつみに相談してみようと思う。
「あのね、のの悩んでる事があるんだけど・・・」
「へー、なになに。ひょっとして恋の悩み?」ニコニコしてなつみは身を乗り出す。
「違うよー。もっと真面目な話」
- 17 名前:演技指導 投稿日:2003年07月25日(金)13時14分30秒
「あのね、今ミュージカルで忍者をやってるでしょう」
「くのいち羅舞羅舞隊、だっけ?」
「うん、蘭丸って役だけど、何か変なんだー」
「変!?」
「うん。お客さんも笑ってくれるし、台詞も間違えないんだけど、何か違うなーって感じ
るんだ」
「しっくりこないっ、てやつ?」
「うん、良く判らないんだけど」
「のの、それは凄いことなんだよ!」目をキラキラさせながらなつみは希美に言う。
「?」
「お芝居の役ってさー、ただ台詞を言うだけじゃダメなんだよ。ほら、歌を歌う時だって
感情を込めないとダメっしょ」
- 18 名前:演技指導 投稿日:2003年07月25日(金)13時15分20秒
- 「演技もおんなじ。だから、台詞は完璧でも違和感を感じるってことはさ、ののが役に対
してそれだけ本気で向かい合っている証拠なんだよ。うん、凄いよ。良く気づいたね。の
の、えらい!」なつみは大げさに希美の頭を撫でる。
なつみの言っていることを、希美はすべて理解できたわけではない。だが、誉められて
悪い気はしない。それに朧気だがなつみの言いたいことも解った気がする。
「そうなんだー。あっ、でもそれがわかっても」希美はここで考え込んでしまう。要する
に自分の演技力が足りないんだ、そう思い知らされて落ち込んでしまう。
そんな希美をなつみは優しい眼差しで見つめている。
「ののぉ。元気出しなよ。じゃあねー、なっちがいいこと教えてあげようか?」
「えっ?」
「役作りって言葉、聞いたことがあるっしょ」
「うん」
「人によっていろいろなやり方があるんだけどね、なっちが実際にやっている方法を教え
てあげるね」
- 19 名前:演技指導 投稿日:2003年07月25日(金)13時16分59秒
- 「本当!?」
「うん。なっち、ののに嘘ついたことある?」
「ええーと、キクラゲをペンギンの肉だって教えてくれたし。それに・・・」
「わあ〜〜!のの、ここは良いシーンなんだから、そう言うギャグはナシ。今度8段アイ
ス買ってあげるから、ネっ。」慌てふためくなつみ。
「へい(ホントのことじゃん!でも、まっいいか)」
「こほん。でね、その方法なんだけどさ、一言で言えば友達になる事なんだ」
「友達!?」
「そ。自分が演じようとする役の女の子とさ、なっちが友達になるの。友達のことはいろ
いろ知りたくなるっしょ。だからたくさん質問するの。友達だから答えてくれるしね。そ
れに、もしね、お芝居をやっていて失敗しそうになっても、お友達になっているとね、助
けてくれるんだよ」
- 20 名前:演技指導 投稿日:2003年07月25日(金)13時18分14秒
- 「でもー、どうやって友達になればいいの?」希美にはなつみの言っていることが、まだ
理解できない。
「なっちはね、電話でおしゃべりしてるんだよ」そう言ってなつみは携帯を取り出すと、
電話をかける真似をする。
「もしもし、すずちゃん。なっちだよー。そっちは天気どう?へー晴れてるんだ。やっぱ
り、お江戸は日本晴れなんだね。うん、こっちは梅雨で曇り空」
「ねっ、こんな具合にお友達になってお喋りするの、人前でするのはちょっと恥ずかしい
けどさー」なつみは少し顔を赤らめながら言った。
「江戸時代なのに電話!?」もっともな質問を希美はぶつけてみる。
「そりゃ〜さ、変なのは解るけどさ。これはなっちとすずちゃんとを繋ぐ、特別な電話だ
からさぁー、オッケーなの。ネッ」
「ありがとう、安倍さん」やがて希美は、なつみの話から、何かヒントを掴んだのだろう
か、明るい笑顔で礼を述べる。
- 21 名前:演技指導 投稿日:2003年07月25日(金)13時19分50秒
- 「ううん、いいよ。明日も舞台頑張ろうね!」
「安倍さん、お礼にののもいいこと教えてあげる!」
「いいこと?」
「うん、とっても役に立つことだよ」希美は嬉しそうに話し始める。
「つーじー、何書いてんだ〜」くのいち羅舞羅舞隊の月影の衣装を着た矢口真里が、同じ
く蘭丸の衣装に身を包み、熱心にノートに何かを書いている辻の後ろから抱きついた。
「交換日記」振り向きもせず、作業を続ける希美。
「交換日記ぃー!?懐かすぃ〜!誰と、なあ、誰とやってるの〜?」本番前のためか矢口
のテンションは高い。
「蘭丸ちゃん」
「へっ?」
「だってやっぱり、江戸時代に電話なんておかしいじゃん!」
辻の言葉にますます混乱する矢口。
- 22 名前:演技指導 投稿日:2003年07月25日(金)13時21分29秒
- 「なあ、辻、お前何か変な物喰ったのか?」心配になった矢口がそう声を書けようとした時、
「辻、あんたひどいじゃん!」楽屋に入ってくるなりなつみが言う。ちょっとふくれ顔
だが、人によっては、この表情すら微笑ましく見える。
「え!?」希美は目をノートから離し、なつみの方を見る。
「どうしたなっち」今度はこいつか、と内心思いながら矢口が聞く。
「ねえ、聞いて聞いて、矢口ぃー。辻さあー、あたしに嘘教えるんだよ」
「嘘!?」矢口は視線を希美の方に向ける。だが、希美には心当たりがないらしい。
「説明しろよ、なっち。どういう事さ」
「この前辻がさ、電気ポットでお豆腐が温められるって教えてくれたんだよ。だから、昨
日なっち、やってみたさ、したら・・・」
固唾を呑む二人。
- 23 名前:演技指導 投稿日:2003年07月25日(金)13時22分56秒
- 「焦げちゃったんだよー。おまけに洗ってもポットに変な臭いがついちゃってさー」頬を
プクッと膨らませるなつみ。
「ええ〜!?そんな筈ないよ〜。のの何回もやってるけど、一度も失敗したことないよ!」
「だって本当だもん」
「なあ、なっち。一体電気ポットの中に何を入れたんだ。オイラの感じゃ絶対豆腐じゃな
いと思うけど」しばらく考え込んでいた矢口が言う。
「うん、おでん」ポツリとなつみが言う。
「「はいっ!?」」矢口と辻は固まる。
「だからー、コンビニで買ったおでんをポットに移して、あっためたの!したら・・・」
「ぎゃはははは」「あははははは」しばらくして二人の笑い声が爆発した。楽屋にいる他
のメンバー達も何事かとこちらに注目する。
- 24 名前:演技指導 投稿日:2003年07月25日(金)13時24分08秒
- 「ハラ痛てー、なっちあんた最高ーだよ」
「安倍さん、ののより馬鹿じゃん!」涙目になりながら希美も笑う。
笑い声につられ集まってきた連中は事情を聞くや、そこにも笑いの輪が広がっていく。
やがて告げられる開演開始10分前の合図を、みんなは今までにない程リラックスした
余裕の表情で迎える。
なつみのおでんの話が、果たして本当にあったことだったのか、あるいは単なるネタだ
ったのか、希美には解らない。だが、そのおかげで愉快で楽しい気分になれた事は、紛れ
もない事実だ。
(蘭丸ちゃん、なっちさんっていい人だよね)心の中で話しかける希美だった。
辻希美、15歳最後の舞台は、間もなく幕を開ける。
『演技指導』完
- 25 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年07月26日(土)18時39分55秒
- 更新お疲れ様です!!
あちらの宣伝を見てやってきました。
ののがいい味出してますね!!
では、次回更新も楽しみにしてます♪
- 26 名前:Silence 投稿日:2003年07月27日(日)14時09分53秒
- 更新お疲れ様でした。
つ〜じもいいけどなんか安倍さんって見ていて和みますよね〜。
この作品見ていて温かい気持ちになりました。
楽しかったですよ。また次回も待ち遠しいです。
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月29日(火)13時01分40秒
- 安倍さん卒業系でなにかおねがいします。できればなちのので…
- 28 名前:token 投稿日:2003年07月30日(水)12時07分59秒
- どうも、まずはレスのお礼です。
>ぷよ〜る様
ありがとうございます。わざわざお越し下さって感謝です。2本のお話の辻ちゃん、微妙
に違うんですけどいかがだったでしょうか。次回も頑張ってみます。
>Silence様
ありがとうございます。そうですね。やっぱりなっち出てくると雰囲気が。実は向こうの
お話でなっちが出て来ないのは、その殺伐とした内容に合わないからで。(笑)
>名無しさん様
いや、いきなりリクエストされても・・・。どうしましょう?
なっちの卒業発表は、私にもショックでした。でも、女優安倍なつみの活躍が増えるチャ
ンスです。期待したいと思います。それに、まだ、来年の事ですし・・・。
で、一応リクエスト頂きましたので、気持ち、なっちの卒業を絡めた話にしてみました。
題して『私服袋』です。
- 29 名前:私服袋 投稿日:2003年07月30日(水)12時08分45秒
- 「どうした藤本、難しい顔しちゃって?」
「あっ、矢口さん。これなんですけど」
「私服袋がどうかした?」
「ほら、この名前のとこ。ガムテープにマジックで『藤本』って書いてあるだけじゃない
ですか」
「うん、だから?」
「だって矢口さん達のは、名前が刺繍されてるじゃないですか。なんか面白くないですよ」
「しょうがないじゃん、お前ら6期メンの分は後から作ったんだから」
「でもー」
「これさ、結構作るのに時間かかるらしくってさ。だけどお前らの分は特別に早く作って
貰うためにさ、名前の刺繍は省略したんだよ」
「ええ〜っ。それって酷くないですかー?」
「いいじゃん、要は他のメンバーの物と区別が付けばいいんだから」
- 30 名前:私服袋 投稿日:2003年07月30日(水)12時09分55秒
- 「そんなモンですかね〜。あっ、そうだ。ついでに教えてくださいよ。この袋っていつ頃
から使ってるんですか?以前中澤さんに聞いたら、『そんなん、使ったことないわ〜』っ
て言われたんですよ」
「似てねー。お前、あややの物真似も似てないけど、今の裕ちゃんはひどいな」
「なんでですか〜。矢口さん。今の結構自信が有ったのにぃー」
「この私服袋さあ、使うようになったのはある事件がきっかけなんだよ」
「事件!?」
「そう。知りたい?」
「はい、もちろんです」
「じゃあ、なに奢ってくれる?」
「ええっ!矢口さんあたしより稼いでるじゃないですか〜」
「金の問題じゃねーよ。気分の問題さ。で、なになに?」
「8段アイス!」
- 31 名前:私服袋 投稿日:2003年07月30日(水)12時11分14秒
- 「てへてへ、嬉しいのれす。ってオイラは辻ちゃんか〜!」
「あっはははは、矢口さん似てねー」
「じゃあ、なんでそんなに笑うんだよ!」
「だってー、ははははは・・・」
「藤本、お前笑いすぎ」
「あはははは、はい。じゃあ、午後ティー。それで良いですよね」
「午後ティーかぁ。あれさ、松浦がCMやってるだろ。『あやや飲み飽きちゃった』な〜
んて言うから、オイラ箱毎貰ったよ。もう見るのもうんざりだよ」
「矢口さん、矢口さん、みんな聞いてますよッ」
「どうした藤本、急に小声になって。えっ!?あわわわわわ。うん、午後ティー、サイコ
ー。あややのやってるサミー・デービス・Jr.のパロディーCMも最高だよなー。オイラ
なんか3度の御飯と一緒にいつも飲んでるよ!」
「矢口さ〜ん、あややの物真似も似てませんね。それにCMが微妙に古いですよー」
- 32 名前:私服袋 投稿日:2003年07月30日(水)12時12分07秒
- 「突っ込むのソコかよっ!」
「だって〜」
「(はあー、こんなんだからオイラに単独CMの出演以来、来ないのかな〜。ひょっこり
のPVのコックさんなんて、CM向きのいいキャラだと思ったんだけどな〜、は〜あっ。どっ
かのスポンサーさん、オイラをCMに使って〜〜)」
「矢口さん、矢口さん、交信しないで下さいよー」
「えっ!?コホン。んんん。まあ、いいか。じゃ教えてやるよ。あれは確か5期メンが入っ
て来てからしばらく経った頃だったな」
「うんうん」
「ある日、テレビの収録が終わって、みんなで楽屋で着替えてたのさ。そしたら、メンバー
の一人が急に騒ぎ出したんだ」
「?」
「着替えのパンツがなくなった、ってな」
「!」
- 33 名前:私服袋 投稿日:2003年07月30日(水)12時13分56秒
- 「ほら、局のセキュリティって結構甘いとこがあるだろ?それにその頃既に、訳解んねー
ヲタもいやがったから、ちょっとした騒ぎになってさあー」
「どうなったんですか?」
「一時は警察に被害届出そうか、なんて話にもなったらしい。だけどそんなことすれば騒
ぎが大きくなるし、そのー、嫌な言い方だけどさー、盗られたパンツの商品価値っーのが
上がっちゃうじゃん。だって間接的にそれが本物だって認めることになるからさー。だか
らこのことは外部には漏らさないことにしたんだ」
「へー、そんなことが」
「で、自衛策としていろいろ考えたんだ。楽屋に誰か必ず人を置こうなんて案もあったけ
ど、そうなるとウチらのスケジュールに合わせて、必ず一人、事務所の人間が必要になる
じゃん。それにユニット活動だってあるから。そうなると人のやり繰りが大変だろ。まあ、
事務所は儲かってるんだから人を雇えばいいんだけどさ。そうなると大げさになって、だろ」
- 34 名前:私服袋 投稿日:2003年07月30日(水)12時15分08秒
- 「それで?」
「で、結局私服袋を採用することになったんだ。これ、事務所のお姉さんが高校の時、バ
レー部でやってたやり方なんだってさ。こうしとくと私物の管理がしやすいだろ?それに
いざとなったら一纏めにして、どこかにしまっちゃえば良いんだしさ」
「そうだったんですか!へ〜。ナルホド。あっ、もう一つ聞いて良いですか?そのー、パ
ンツ盗られたのって誰なんですか?」
「それがさー、この話には続きがあるんだよ。実はね、その盗られたパンツってのが、後
から出てきたんだよ。結局楽屋が大人数でごちゃごちゃしてたから、他の奴の着替えと混
ざっちゃってたんだな」
「なーんだ。随分ドジな人ですね、一体誰なんですか?」
「それはオイラの口からは言えないよ」
「ええっ、矢口さんずるい。教えてくださいよー」
「知りたい?そんなに?じゃあ教えてやるけど、黙ってろよ。誰にも言うんじゃないぞ」
「はい」
- 35 名前:私服袋 投稿日:2003年07月30日(水)12時16分19秒
- 「なっちさ」
「安倍さん!」
「声がでけーよ。ほら、なっち、一見しっかり者に見えるけど、案外ドジだろ。それがい
つもの調子でやっちゃったんだよ」
「そうなんですか。さすが、安倍さん」
「なにがさすがだかわかんないけど、ま、そんなとこだ」
「や・ぐ・ち・ぃ〜」
「あ、安倍さん、お早うございます」
「げっ、なっち!」
「矢口、あんたまたいいかげんなこと言ってー」
「なっ、なっ、なんだよ。オイラ変な事なんか言ってないよ!」
「藤本、矢口なんて言ってた?」
「安倍さんがパンツ盗られて大騒ぎしたって」
「矢口!」
- 36 名前:私服袋 投稿日:2003年07月30日(水)12時19分32秒
- 「なっ、なんだよ」
「あたしがあの時なくしたのはTシャツじゃん。勝手に話を作らないでよ」
「いや、ほら。フリートークは話を膨らませなきゃ。ラジオの基本だろ?」
「何訳の解らないこと言ってんのよ。いい、藤本。あたしのなくしたのはTシャツだかん
ね。それだってのののせいなんだし」
「辻ちゃん!?」
「そう。ほら、あの子、細かいことに拘らないじゃない。だからあたしのTシャツを間違
えて着てっちゃったのさあ」
「そう、あいつが悪いんだよ。あいつのせいで大騒ぎになったんだから」
「一番悪いのは、矢口っしょ、まったくもうー」
「あはははは」
「藤本って相変わらず、豪快に笑うねぇー」
「ねえ、安倍さん。お願いがあるんですけど」
- 37 名前:私服袋 投稿日:2003年07月30日(水)12時20分17秒
- 「ん、なになに?なっち矢口と違って親切だから、何でも本当のこと教えてあげるよ」
「娘。卒業したら、安倍さんには私服袋必要ないですよね。だったらあたしに下さい」
「藤本、お前何気に失礼じゃん!」
「矢口は黙ってて。藤本、どうして?」
「はい、代わりにあたしのあげます」
「そっか、サッカーでやる、ユニホームの交換ってやつだね」
「はい、あたし安倍さんが卒業しても頑張ります。安倍さんに負けないくらいに」
「ずるいぞ、藤本!オイラだってなっちの欲しいぞ」
「嫌ですよー。だって矢口さんは、安倍さんとの思い出がいっぱいあるじゃないですか」
「なっちぃー」
「解った。うん、藤本にあげるよ。交換しよ!あっ、だけど卒業まではダメだからね」
「ハイ!ありがとうございます!藤本、頑張ります!」
「うん、なっちだって負けないから!」
「なあ、オイラもいるんだけど・・・」
『私服袋』完
- 38 名前:token 投稿日:2003年07月30日(水)12時23分07秒
- 以上です。
ここで訂正です。
『演技指導』 >>22 心配になった矢口がそう声を書けようとした時
これは 心配になった矢口がそう声をかけようとした時 の間違いです。
ゴメンナサイ。
いかがでした。今回は会話文だけで書いてみました。では、また。次回まで。
- 39 名前:token 投稿日:2003年07月30日(水)12時30分55秒
- ゴメンナサイ。また訂正です。
>>32 単独CMの出演以来→単独CMの出演依頼 です。
- 40 名前:Silence 投稿日:2003年08月01日(金)00時56分17秒
- 更新お疲れ様でした。
いいな〜、こんな友情。心が温まりますよね。最後になにげに
放置されてる矢口さんが面白かったです(w
本当になっちが出ると和みますね〜
- 41 名前:token 投稿日:2003年08月02日(土)11時31分38秒
- どうも、tokenです。
まずは、レスのお礼です。
>Silence様
ありがとうございます。いたずらっ子矢口さんの巻でした。(笑)
もっとなっちを活躍させたかったんですけど・・・。
さて、今回はがらりと趣を変えまして、ある男が主役のお話です。実はこれ「男×娘。」
企画に出そうと思って途中まで書いていたんですけど、諸般の事情で結局出せませんでし
た。でも、書きかけの作品を放っておくのもなんなんで、急遽残りを書き上げ完成させました。
こうしたお話に抵抗感がある方もいらっしゃるかと思いますが、エロナシ、ややギャグ
調ですので、良かったら読んでやって下さい。(ぺこり)
それとこのお話、実は原作があるんですが、作者には許可を取りました。(ホントか〜?)
ですから、パクリではありません。たぶん・・・・・。
題して『愛は僕を救うか?』です。後でまた、お会いしましょう。
- 42 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時32分37秒
- 「お願いします。師匠、僕にやらせて下さい」
正座している僕は上座に座っている師範に頭を下げた。
「お前、そんなこと言って出来るのか?」
僕の隣で同じように正座していた先輩が言った。五段の腕前で、この道場で一番強いと噂
される人だ。
「はい。日頃の鍛錬の成果を見て下さい。お願いします!」
再び僕は頭を下げた。
「ふむ。まあ、良いだろう」
この時の師範の言葉、正に天の声です。
「師範!」
先輩が言う。まるで僕みたいな奴には無理だとでも言う口調だ。
「まあなんだ、何事も経験だ。それにおまえも当日は他にやることがあるだろう」
あまり威厳がある人ではないが、そこはそれ、師範のお言葉。
「師範がそうおっしゃるなら構いませんが」
先輩は僕をギロリと睨んで言う。
「無様さらすなよな!」
せっ、先輩、目が怖いっス。
- 43 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時34分01秒
- 僕はこの空手道場の門下生だ。自慢じゃないがガタイはデカイ方だ。身長190センチ。
体重は118キロ。だけど体脂肪率40パーセント!そう、いわゆるデブキャラだ。誰が
付けたか渾名は『伊集院』。顔は全然似てないんだけど、体型がそっくりだからって、あ
のタレントさんにちなんで付けられた。
ウチの道場は小さいながらも、自前の道場がある。昔ながらの造りで、たまにテレビの
時代劇のロケに使わせてくれ、との申し込みもあった。だけど冷暖房設備がないから、稽
古はきつい。特に夏場の稽古は僕みたいな体型には地獄だ。
師範はそれ程威厳のある人ではない。頭も禿かかっているし、ポロシャツを着た普段着
姿は、どこにでもいるような普通のオヤジだ。門下生は小学生も含めると20人ぐらいだ。
だけど何とか経営は成り立ってるみたいだ。まあ、難しいことは僕には解らない。
で、今度の日曜日の午後、見学者が来ることになった。見学自体はたまにあることなん
だけど、今度来る人は、師範の古い知り合いらしい。粗相があってはならない。師範の、
ひいては、道場のメンツがかかっている。
- 44 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時35分53秒
- そこで、黒帯の門下生を中心に、見学者に稽古風景を見せることになった。ちなみに僕
は初段。運動神経が悪く、無駄に太っている僕だけど、それこそ血のにじむような努力の
末、この春黒帯ゲット。それもこれも全部、彼女のため。そう、長い艶やかな黒髪と美し
い瞳の、高橋愛ちゃん。僕のあこがれだ。
彼女は高校生で現在茶帯。だけどこの秋にはきっと黒帯を取れるだろう。この道場には
女性は五人。だけど小学生が三人だから、実質二人。もう一人はOLの平家みちよ先輩。華
奢な体つきなんだけど、技の切れが凄いんだ。おっと、そんなことはどうでも良いんだけどね。
僕は高橋愛ちゃんに会って人生が変わったんだ。大げさなことを言うなって?本当だよ。
だって彼女に出会う前の僕ときたら・・・・・。
高校も中退しかけたけど何とか卒業できた。一年浪人したけど、大学にも入れた。三流
大学だけどね。それもこれも全部彼女のおかげだ。彼女に良いところを見せたくて頑張っ
たからだ。
- 45 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時37分25秒
- だけど、内気な僕は告白なんてとんでもない!普通に話すのだって上がってしまう。第
一、女性と話をするのは、道場以外ではコンビニとレンタルビデオ屋の店員さんぐらいだ。
当日の見学会は、試し割で瓦割をすることになった。それも十枚も。当初の予定では、
あの怖い先輩がやることになっていた。だってウチの道場で確実に瓦を十枚も割れるのは、
師範を除けば先輩しかいないから。だけど僕だって。高橋さんも参加するんだし。カッコ
イイ僕を見せるチャンスだ!そう思うといても立ってもいられず、瓦割に志願した次第で
す。でも実を言うと今まで僕は、十枚も割ったことはない。うん、最高は八枚ぐらいかな
・・・・・。いや、六枚?・・・・・・。四枚・・・・・。ごめんなさい。ワタクシ嘘を
ついておりました〜〜!一度に二枚しか割ったことがありませ〜ん。だけど、声を大にし
て言いたいのは、愛の力です。はい、正に高橋愛ちゃんの力。彼女のために、僕は実力以
上の力で、瓦割に臨みます。そして、それが成功したあかつきには、高橋愛ちゃんに告白
しま〜す!見てて下さい。僕だってやるときはやるんですから。
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月02日(土)11時39分15秒
- そんなこんなであっと言う間に日曜日。僕はと言えば朝から、緊張しまくりクリスタル
キ〜ング。ああ、何を言ってるんだ。しっかりしろ、僕!今僕は自ら志願して庭の掃除を
していた。真面目な僕の態度に愛ちゃんは心惹かれるだろうし、お客様にもいち早く気づ
いて接待が出来る。ここでポイントを稼いでおかねば。
「たのもー」
あれ、道場の外から声がする。僕は箒を投げ捨て門の所に行った。
誰もいない。空耳だったかな?
「おい、お前。そこのデカイの、お前だよ。オイラをシカトするのかよ」
足下から声がした。
「えっ!?」
声につられ下を見たら、確かに人が居た。でも、こいつ一体何?
身体の大きさは小学生。だけど髪の毛は短めで金髪に染めてる!耳には変な形のピアス。
そして服装はコギャルそのもの。よく見ると顔も厚化粧。清楚な高橋愛ちゃんとは、まさ
に正反対の生き物。
- 47 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時40分32秒
- 「オイラがたのもーって言ってるんだからさ、何用でござるか?な〜んて言って出て来いよな」
「いや、今時ござるなんて言う奴は」
「いるじゃん!ハットリ君とか、ハットリ君とか、ハットリ君とか・・・」
「???」
「うっさいな〜。いいだろ。それより早く案内しろよ、この伊集院キャラッ!」
こっ、こいつ、なぜ僕の渾名を知っているんだ。ちっこいくせに侮れん奴だ。
「矢口、あんた口が悪いでぇ〜。堪忍したってやー、にいちゃん」
後ろからまた一人現れた。この人も金髪だ!しかも目が不自然に青い。そうか、これが
噂のカラコンかッ!
「なんや、騒がしいな〜。あら、姐さん来てはりましたの?」
平家先輩が出てきた。
「おう、みっちゃん久しぶりやな」
- 48 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時44分26秒
- 「オイラがたのもーって言ってるんだからさ、何用でござるか?な〜んて言って出て来いよな」
「いや、今時ござるなんて言う奴は」
「いるじゃん!ハットリ君とか、ハットリ君とか、ハットリ君とか・・・」
「???」
「うっさいな〜。いいだろ。それより早く案内しろよ、この伊集院キャラッ!」
こっ、こいつ、なぜ僕の渾名を知っているんだ。ちっこいくせに侮れん奴だ。
「矢口、あんた口が悪いでぇ〜。堪忍したってやー、にいちゃん」
後ろからまた一人現れた。この人も金髪だ!しかも目が不自然に青い。そうか、これが
噂のカラコンかッ!
「なんや、騒がしいな〜。あら、姐さん来てはりましたの?」
平家先輩が出てきた。
「おう、みっちゃん久しぶりやな」
- 49 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時45分13秒
- 「初めまして、矢口真里です。この度はご無理なお願いをいたしまして、申し訳ありませ
ん。どうぞよろしくお願いします」
矢口真里と名乗ったこのちっこい生き物は、先程とは180度違った態度で、平家先輩
に挨拶した。平家先輩、騙されないで下さい。こいつはもっとヤナ奴なんですから。
「あんたが矢口か。姐さんから聞いとるで〜。ホンマ可愛いなー」
平家先輩が目を細めて言った。ダメだ。完全に騙されてるよー。
「ほら、伊集院、お客様やないの。ぼさっとしとらんと早く案内しいな」
「えっ!?」僕は固まった。
「きゃはははは、あんたホントに伊集院ってーの!?」
「渾名やけどな」苦笑しながら平家先輩が説明した。
「すっげー、ぴったりじゃん。よろしくね、伊集院ちゃん!」
まさかとは思ってたけど、こっ、こっ、この傍若無人で失礼極まりないちっこい生き物
と、金髪カラコンの妙に迫力のある姐御が、師匠の大切なお客様〜!?
- 50 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時46分22秒
- 玄関で靴を脱いで貰った。もちろん揃えるのは僕の役目。ホントはあんな奴の靴なんか
揃えたくないけど、ここは我慢。でも、あれ、なんだこの靴?すっげー厚底。はっ、と言
うことは。僕は気づいて矢口の方を見た。予想通りさっきよりも背が縮んでいる。プププッ。
さっき外で見た時も小さい奴だとは思ったけど、本当は更に小さかったんだ。あの身長じゃ
ウチの門下生の小学生より低いよな、絶対!
僕の視線に気づいたのか、矢口がこちらの方を見た。僕が笑いを堪えている理由を悟った
んだろう、悔しそうな何だか泣き出しそうな、変な顔をしていた。ふふふ、いい気味だ。
その時カラコンの姐御が僕に近寄りそっと耳打ちした。
「あんた、人の肉体的コンプレックス笑うのは間違っとるよ。自分の経験に照らし合わせ
てみいや。解るやろ、矢口の気持ち」
はっとした。僕もデブとどれほどからかわれて来たことか。
「それに、ウチの知っとる空手は心の修行もするはずや。そないな事で人を馬鹿にする筈
はないわ。それとも何か、ここの道場は今ではそんなことも教えられん様になっとんのか?」
- 51 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時47分56秒
- 最後のセリフを言ったカラコンの姐御の迫力。ウチのあの先輩なんか足下にも及ばないっ
ス。あれは絶対、人を三人ぐらいは殺したことのある目だ!
「申し訳ありませんでした〜!」
僕は玄関に降りると土下座をした。平家先輩は何事かと驚いていたみたいだけどそんなこ
と関係ない。
「どないしたんや、伊集院」
「何でもあらへん、だけど裕ちゃん素直な子、好っきやで〜。安心したわ。まだここも大
丈夫そうやね」
「そうか?何やしらんが、姐さんがそう言うんならええわ。おい伊集院、先行っとるで〜」
道場には本日の参加メンバーが勢揃いしていた。上座には師範。空手着を着るとそれな
りに様になるから不思議だ。その右隣に座布団が二組。もちろんこれはお客様用。道場の
床は板張りだけど、当然ながら僕らは直に正座する。
女性は平家先輩と高橋愛ちゃん。彼女だけが茶帯で、つまりあとは皆有段者ばかり。
- 52 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時50分10秒
- 早速平家先輩の型の披露が始まった。簡単に説明すると空手独特の体捌きを独りで見せ
ることだ。これは全国大会の正式種目にもなっている。楽な様に見えてこれが結構難しい。
僕なんかがやると汗びっしょりになる。
その点、平家先輩のそれは流れるような美しい動きをする。あの喧しい矢口も真剣に見
入っていた。どんなもんだい。何だか僕まで誇らしい気分だ。
4人のガタイのいい男達を従え、次はお待ちかねの、高橋愛ちゃんの登場だ!くうーっ、
空手着姿が凛々しいっす。長い黒髪をポニーテールにして、赤いリボンで結んでいる。う
わあああああ、これでもうおなかイパーイッス。
彼女を取り囲むように男達が並んだ。手にはそれぞれ試し割り用の板を持っている。4
人はそれを愛ちゃんに向けて、思い思いに構えた。彼女が呼吸を整え、ヤアッとばかりに
拳を繰り出す。正面の板が目に沿って綺麗に割れる。続いて右の板を割る。左の板には蹴
り。最後に後ろの一枚も蹴りで見事に割る。この間約30秒。カッコイイ。ああ、愛ちゃ
ん、天は二物を与えず、なんて嘘です。空手美少女。正にこれは彼女のためにある言葉です。
- 53 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時52分13秒
- その時、あの矢口が、いきなり立ち上がろうとした。だけど、転んでやんの。ぷぷぷぷ
ぷっ、きっと足が痺れたんだぜ。座布団を使ってるのに、この程度で。いい気味だ。転ん
だ拍子にパンツが見えたけど、ちっとも嬉しくないもんね〜。
さすがに決まり悪そうにしてたけど、すぐに立ち直ると、あろう事か、今試し割を終え
たばかりの愛ちゃんに近寄っていくんだ。おい、お前、コギャル菌が移ったらどうするん
だ。こら、戻れ〜っ!。
もちろん僕の心の叫び声は聞こえる筈もなく、矢口は愛ちゃんのもとに行った。そして、
なんと愛ちゃんの手を、いじくり始めたではないですか〜!!
「ねえ、ねえ、ねえ。ちょっと矢口に手を見せてくれない?」
突然の頼みに戸惑いながらもにっこり笑いながら、愛ちゃんは自分の手を差し出した。
「ふーん。ここが拳の先か。ここに板を当てて、ふむふむ、なるほど、なるほど」
もっともらしく愛ちゃんの手を観察しているけど絶対怪しい。だって必要以上にべたべ
た触っているから。僕にはその様子が、手相を観てやる、なんて言いながら若い娘に触る
エロ親父の姿とだぶって見えた。
- 54 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時54分13秒
- 「きゃっ!」
いきなり愛ちゃんが小さな悲鳴を上げた。みるとあのチビンバ、愛ちゃんの空手着をぬっ、
ぬっ、ぬっ、脱がそうとしてやがるのですよ!!!僕だって怒りましたよ。ええ、もう、当
然です。だけど、そのまま飛び出そうとしたら、鋭い声が。
「矢口!何するんや!」
あの金髪カラコンの中澤姐さんです。
「えっ!?何って筋肉のつきかたを見なくちゃ・・・・・。わっ、ごめんね。オイラ夢中
になると周りが見えないから、ホントごめんね」
矢口が謝った。だけど大げさなその様子は、わざとらしい。怪しいぞ、こら。
「いいえ、いいんです」
はにかみながら乱れた空手着を直す愛ちゃん。下にTシャツを着てるとは言え、本当にド
キッとさせられた。
愛ちゃんに何度も謝りながら、矢口は席に戻った。このチビンバめ。僕はこいつを睨み
つけた。ああ、今すぐこいつを殴りたい。いや、この大きさだから、そうだ。後ろから抱
え上げて、バックドロップをかけてやりたい。それとも投げっぱなしのジャーマンスープ
レックスか。いろいろ妄想を広げていると、ヤベッ目があった。慌てて逸らす。ふー、セー
フ。危ない危ない、と。
- 55 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時57分41秒
- 次はいよいよ僕の出番だ。一世一代の晴れ姿。見てて下さいね、愛ちゃん。僕はやりま
すよ〜!!
道場の床に大きめのバスタオルを敷きます。これは板張りの床を傷つけないため。その
上に間を開けてコンクリートブロックを2個並べます。更にその上に、ブロックを渡すよ
うに瓦を積み重ねます。一枚、二枚、三枚、・・・何度数えても十枚です。一枚足りな〜
い、なんて事はありません。そして最後に瓦の上にタオルを一枚載せます。これは割れた
瓦の破片で、手を怪我しないため。
- 56 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時58分51秒
- ううっ、やっぱ緊張して来たっス。瓦十枚かー。失敗したら指骨折!ああ、やっぱ止め
ようか?そんな心の動揺を隠して、僕は積み上げられた瓦の前に立った。チラリと周りを
見てみると、例の先輩が鬼のような形相でこちらを睨んでる。ここで出来ませんなんて言っ
た日にゃー、ブルブルブル。考えたくもない。他の方を見ると、矢口が期待の眼差しで見
ていやがる。うーん、あいつのためにやるのか、と思うとうまくいかない気がする。気を
取り直して、愛しの愛ちゃんは。おおっ、それでこそ愛ちゃん。心配そうな視線をこちら
に投げかけております。よーし、これで勇気百倍。大丈夫です。僕はあなたのために、こ
の瓦割ってみせます!
- 57 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)11時59分34秒
- 呼吸を整え、拳を当てる位置を確かめる。一瞬のポーズ。それから拳を引き上げ、気合
い一閃、一気に拳を打ち込みました〜〜!
手応えあり。やった、やりました。瓦十枚、僕にも割れました〜!一番上の奴は力が変
に入りすぎたためか、粉々だったけど、何とか拳の力が一番下まで伝達できて、十枚全部、
割れました。やはり愛の力は偉大です。
思わず僕はガッツポーズをして、高橋愛ちゃんに、どんなもんだい!とばかりに自分の
拳をみせました。愛ちゃんは、ビックリした顔(これがまたかわいいんだ)で僕を見なが
ら、小さな拍手をしてくれました〜。
あれ、でもなんか変。なんつーかなー、拳の先って言うか、指の関節って言うかが、妙
に熱いような、それに伴い膨らんできたような、変な感じが・・・・・。
げげっ、腫れてます。痛いです。こっこれは、もしかして骨折!?やっちゃいましたー。
すっげー痛いっス。だけどここで骨折したなんてバレたら、それこそお笑い芸人です。我
慢っス。ガマン。何とか誤魔化さなければ・・・。
- 58 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時03分20秒
- 僕は師範と、したくはなかったけど、矢口の方に一礼して、自分の席に戻りました。そ
こでさり気なく右手を左手で隠し、次の稽古の披露を待ちます。こうしている間にも手が
どんどん腫れてきます。あれ、誰かの視線が。げげっ、中澤の姐御がこっちを見てます。
べっ、別に僕は悪い事してません。本当です!心の中で僕は必要のない言い訳をして、姐
御の視線に耐えました。
次は組み手です。まあ、要するに対戦ですね。良かったー、僕、これに出なくて。お前
の体型は空手よりも柔道だろー、なーんて言われる僕ですから、ハッキリ言って組み手は
苦手なんです。相手のスピードについていけないんです。その上幸か不幸か、このガタイ
ですから、多少は人様より耐久力があるので、急所に貰わないとなかなか倒れないんです。
だから運が悪いとサンドバッグ状態。その上、今は拳を痛めていますからね。
- 59 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時04分34秒
- おおっ、平家先輩が、男子とやるみたいです。しかも相手は背が頭一つ高く、横幅もそ
れに見合った奴です。でも、すっげーっス。さすがっス。相手の攻撃を綺麗に捌いて、腹
に一撃!平家先輩勝ちました。カッコイイっス。先輩年上だけど、惚れちゃいそうです。
でーもー、僕が好きなのは、愛ちゃんだけですから。へへへ。
あの矢口がまた騒いでいます。それにしてもこいつ一体何しに来たんだろう?まさか空
手をやりたいなんて言い出すんじゃないだろうか?そんなことを考えながら、次の組み手
を見ます。
- 60 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時05分59秒
- 今度のは男同士の蹴りの応酬です。足技は空手の華なんですけど僕は蹴りが苦手です。
体型がこれですからね。まっ、今日はこれ以上何もしなくて良いのですから気楽です。で
も、そんな僕のつかの間の平和を脅かしたのは、あの怖い五段の先輩でした。なんといき
なり、僕にも組み手に参加しろって言うんです。
無理っス。やれません。そう言おうにも、先輩は怖い顔で僕を睨みながら早くしろと、
促します。モジモジする僕を高橋愛ちゃんが、どうしたの?という風情で見ています。いっ
いかん、彼女の前では、あくまでもカッコ良くなければ。
意を決して僕は組み手に臨みました。相手は僕とほぼ同期の男ですが、既に二段。言うな
ればこの道場のホープです。
「悪いが本気でやらせてもらうぜ。手を抜くと先輩がウルサイからな」
相手は対戦前にこんな事言うんですよ。僕一体、どうなるんですか〜!
- 61 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時07分52秒
- 組み手が始まりました。いきなり右の中断蹴りです。辛うじてブロックしました。なん
とか時間いっぱいまで粘らねば。本当はこっちから攻撃し続ければ良いんですが、僕はさっ
きも言った通り、足技が苦手です。おまけに右の拳が使えません。スピードもないですか
ら、よけるのもうまくいかないでしょう。なんとか相手の技をブロックして凌ぐしかあり
ません。
右手に激痛が走りました。相手の左の蹴りを痛めた右手でブロックしたからです。顔か
ら変な汗が吹き出していくのが解りました。ううっ、ガマン。でも、痛い。でも・・・。
やっぱりサンドバッグ状態です。きっと今の僕はカッコ良くは見えてないでしょう。も
ういいや、ここで倒れちゃおうか?そんな考えが頭をよぎりました。だけど途中で棄権す
るのはもっとカッコ悪い。愛ちゃんに無様なカッコウだけは見せたくありません!
- 62 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時09分15秒
- やっとブザーが鳴りました。僕、最後まで立ってました〜!へへへ。身体のあっちこっ
ちが痛いですけどね。あれ、矢口がこっちを見て拍手してます。けっ、お前なんかに拍手
して貰っても、ちっとも、ちっとも・・・・・うっ、嬉しいっス。平家先輩も、愛ちゃん
も、ほとんどの人が拍手してくれてます。師範も頷いてくれました。空手やって初めて味
わう充実感です!
ただあの怖い先輩だけは、拍手してくれません。腕組みしてむしろ睨みつけてます。お
前自分の役割、解ってんのか?目でそう言ってます。
ここで中澤の姐御が立ち上がりました。なんと組み手に参加する、と言い出したんです。
そしてその相手に、あの先輩を指名しました!ええっ、マジっすか?
中澤の姐御が空手着に着替えるため、しばしの休憩時間に入りました。平家先輩の予備
を借りるそうです。チャンスだ!僕はトイレに行く振りをして、拳の手当に行きました。
とりあえず、冷やさなきゃ。
- 63 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時11分35秒
- 洗面台で洗面器に水を張り、手を中に入れ冷やします。幾分楽になりました。そんな時
僕の腰の辺りから人の声が。
「お前、手怪我してたんだろ?」
ビックリしたー。そこにはいつの間にか矢口が。
「なっ、何を言うんですか、そんなわけないですよ」
「裕ちゃんが言ってたぞ。瓦割の時、拳を痛めたはずだって」
やっぱりばれてたのか。だけど次の矢口の言葉の方が、僕をもっと驚かせた。
「伊集院。お前、高橋愛ちゃんが好きなんだろう?」
「いっ、いきなり何言うんですか〜」
僕は動揺した。
「お前隠してるつもりだろうけどさあ、愛ちゃんを見つめる視線でバレバレだぞ」
ヤバイ。こいつ性格悪そうだから、何言われるか解ったモンじゃない。ええっと、話題逸
らさなきゃ。そうだ!
- 64 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時13分34秒
- 「そっ、そんなことより中澤さん大丈夫なんですか?」
「何が?」
「何がって、あの先輩ウチで一番強いんですよ。おまけに性格良くないから、女の人にも
手加減しないかも」
「矢口さあ〜、裕ちゃん信じてるから」
「?」
「相手が誰でも、裕ちゃんが大丈夫って言うんなら、きっと大丈夫だよ!」
その時僕には、この生意気な矢口が、儚げに見えた。今言った台詞だって、何だか自分
を納得させるために、自ら言い聞かせていたみたいだった。
中澤の姐御の用意も出来て、道場の中央で二人は対峙していた。先輩は自信満々の様子
だ。一方中澤の姐御はと言えば、特に気合いが入っているとか、そんな様子もない。あれ、
でも中澤の姐御、黒帯締めてるぞ。やっぱり有段者だったのか。審判は平家先輩だ。
- 65 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時15分12秒
- 「ルールは顔面攻撃ありのフルコンタクト。K.Oされるか参ったと言うまで。時間は3分」
平家先輩が宣言した。む、無茶だ。確か女子は顔面への攻撃は、ほとんどの試合で禁止さ
れてるはずだ。なんたって、危ないから。鼻にでも拳がクリーンヒットしたら、絶対鼻の
骨が折れちゃいます。しかもあの先輩は、僕と違って、確実に瓦十枚割れる人なんですよー!
上座と相手に一礼した後、二人は構えた。うっわー先輩、やる気満々っス!ホントに大
丈夫でしょうか、中澤の姐御。僕がちらりと矢口の方を見ると、やっぱり心配そうに見つめてる。
「うおーっ」
突然誰かが感嘆の声を漏らした。えっ、えっ、何どうしたの?視線を戻すと、そこには
あの怖い先輩が、顔をおさえて道場の床に倒れているのが見えた。僕が目を離していたわ
ずかの間に一体何が?
「まだやれるか?」
平家先輩の質問に怒ったように返事をして、先輩が立ち上がった。怖いっス。先輩本気で
怒ってるっス。
- 66 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時16分56秒
- 「うりゃ〜!」
先輩がかけ声と共に中澤の姐御に蹴りを仕掛けました。でも中澤の姐御は余裕でかわし、
先輩の軸足にローキック。再び先輩は倒れました。
その後何度も先輩は攻撃を仕掛けたけど、クリーンヒットは一つもナシ。すべてよけ
られたりブロックされたりで、中澤の姐御は無傷。先輩攻撃が大振りなんです。我を忘れて
いるって感じでした。
そして残り時間三十秒を切ったとき、中澤の姐御が仕掛けました。連続攻撃で息が上がっ
てきた先輩の一瞬の隙を突き、思いっきり踏み込んだ中澤の姐御の正拳が、先輩のボディー
に!先輩は崩れ落ち、この時点で負けが決まりました。
そして先輩を倒した後の、中澤の姐御の一言がカッコ良かったっス。
「あんた、空手を舐めたらあかんよ。身体だけじゃなく精神も鍛えんと、それ以上は強くな
れんからな」
- 67 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時19分07秒
- 矢口が凄い勢いで拍手してました。ええ、僕だって負けずにしてましたよ。手が痛かっ
たですけど。
こうして矢口達の見学は終わりました。
さて帰り際、この矢口がまたとんでもないことを言い出したんです。お土産代わりにウ
チの道場の看板を貰って行こう、なんて言い出すんですよ。
「だってさー、この道場のナンバーワンは、裕ちゃんが倒しちゃっただろう。だったら権
利あるじゃん!」
この主張は、中澤の姐御が無言で放った、矢口への脳天空手チョップで却下されました。
「痛いじゃんかー。これ以上背が縮んだらどうすんのさ〜」
「そん時は責任とったるわ」平然と姐御が言いました。
「へっ!?」コラー、矢口。何赤くなってんだ。そんなことしても、お前なんか、少しも、
少しも、あれ、結構可愛い。どうしてだ?しばらく僕はそんな矢口に見とれていた。する
と視線に気づいた矢口が、僕の方を見てニヤリと笑ったんだ。こ、こいつまだ何か企んでるのか?
- 68 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時20分32秒
- 「ねえ、ねえ、ねえ。愛ちゃん」矢口はそう言いながら高橋愛ちゃんの方に近づいて行っ
た。こっ、こいつ。また愛ちゃんに何かするつもりか?
「ねえ、愛ちゃんさー、好きな人いる?つき合ってる人は?」こ、こ、こ、こいつ。なん
て事を聞きやがるんですかー。しかもそんな大声で。案の定愛ちゃんは耳まで赤くして、
照れてます。うっ、かっ可愛い。さっきの矢口の百倍ぐらい可愛いです。し・か・も、愛
ちゃんの返事で、僕はもっと幸せな気分に成れました。
「いないよ。今は空手に夢中だから・・・」
「そっか、じゃあ、オイラが立候補しても無理かぁ。残念残念」
やったー。僕は心の中で叫びました。愛ちゃんくらい可愛いと、誰かつき合ってる人が
いても不思議じゃない。僕だってリサーチしたけど、調査漏れの可能性だってあった。で
も、こうして愛ちゃんの口から、生の情報を聞けて本当に良かった。矢口、あんた役に立
つこともあるじゃん!
- 69 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時22分29秒
- その後矢口が、今度は僕の方に寄って来た。
「良かったな、まだお前にもチャンスがあるぜ!」
「!?!?!」
こっ、こいつ僕に聞かせるためにわざと?
「実はさ、ウチら、女優なんだぜ!」
「女優!?(このちっこいのが!?)」
「そ、劇団『寺田組』ってとこの舞台女優さ」
「・・・・・・」
「こんど舞台で『チャーリーズ・エ○ジェルズ』見たいなアクション物を演る事になった
んだ。そこで、演技の参考のための見学と、ついでにスカウトに来たんだよ。空手の出来
る美少女をね」
「それってもしや・・・」
「高橋愛ちゃん。うん、いいよ。理想的だよ。彼女、宝塚も好きだって言うし、是非とも
スカウトしたいなぁ〜」
- 70 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時25分43秒
- 女優?高橋愛ちゃんが?それは実に何と言うか、想像しただけで、萌え〜!!
「そこでモノは相談なんだけどさ、お前、協力しろよ。お前みたいなガタイの奴はさ、舞
台映えするんだよな。それに思ったより根性もありそうだし。勿論ただとは言わないぜ」
矢口は一枚の紙切れを取りだした。
「これ、なんだか解るか?お前の愛しい、高橋愛ちゃんのメアドと携帯の番号さ」
「いっ、いつの間に?」
「へへん、矢口は友達作るの得意なんだ。メアドは基本だよ。協力してくれたら、お前に
やるよ」
「本当っスか?」
「もちろん」
「矢口さん、あんたいい人だ〜〜!!」
こうして僕は、劇団『寺田組』の研究生となり、高橋愛ちゃんのスカウトに協力するこ
とになりました。だって、うまくいけば愛ちゃんと親密になるチャ〜ンス!それに、それ
に舞台で、こっ、こ、恋人役なんてやったりも出来るかも!よ〜し、やるぞー!!
『愛は僕を救うか?』完
以後、作者の脳内だけでお話は続く・・・・・・。
- 71 名前:愛は僕を救うか? 投稿日:2003年08月02日(土)12時27分58秒
- あとがきです。
原作は金板で連載中のお話の中に書いた、取材レポート『空手美少女編』でした。ね、
原作者の了解ちゃんと取ってたでしょ(笑)
え〜この先、劇団に入った『僕』は、いろいろあった後、矢口も好きになったりなんか
するんですけど、このお話は一応これで終わりです。だって、これ以上調子こいて書いて
ると、さすがに・・・・・。(ヘヘヘ)
あっ、でも、この劇団『寺田組』の設定はかな〜り気に入っています。何しろこれを使
うと劇中劇が書けるので、そうするとモー娘。十五人プラスαで二十人以上の登場人物が
出てくるお話が書けるんですYO。もっともその時は、読み切り短編ではさすがに無理でしょ
うから、中編の連載ものになると思いますが。
それと念のため書いておきますが、このお話の主人公は某タレントさん御本人ではなく、
あくまでもそのタレントさんの名前が渾名の一般ピープルですので、関係者の方々、怒っちゃや〜よ〜!
それと訂正です。 46の名前覧はタイトルの入れ忘れです。
47と48は二重投稿です。ゴメンナサイ。
では、また次回まで。ごきげんよう。
- 72 名前:Silence 投稿日:2003年08月03日(日)13時54分14秒
- すっげ〜楽しかったんですけど(w 空手はあんま知らない
んですけど、なんかかっけ〜かったですし。
更新お疲れ様でした。また、次も期待してますね。
- 73 名前:token 投稿日:2003年08月06日(水)07時26分28秒
- お早うございます。
まずはレスのお礼です。
>Silence様
どうもありがとうございます。
前回のお話は「僕」視点ですが、書きたかったのはかっけー中澤さんと騒がしいけど可愛い
愉快な矢口さんでした。つまりやぐちゅう?(笑)
さて今回は、少し甘めのお話です。主役は大谷雅恵さんです。
題して『ピアスホール』。
- 74 名前:ピアスホール 投稿日:2003年08月06日(水)07時27分39秒
- その時柴田あゆみは鏡に向かって、あれこれとなにやら悩んでいた。
「お早う、あゆ。何やってんの?」
楽屋に入ってきた大谷雅恵があゆみの後ろに立ち、鏡を覗き込んだ。
「お早う、マサオ!」
あゆみの顔がぱっと明るくなった。彼女は鏡越しにマサオの顔を見つめた。その視線に気
づいたマサオが顔を動かすと、二人の目があった。ちょっと赤くなったあゆみは慌てて視
線を逸らすと、先程までやっていた作業に戻った。
「ピアスホールを開けたいんだけど、位置が決まらなくてねー」
「ピアスホール?」
「うん、今度の新曲さー、イメチェンするからって衣装がスッゴイでしょ。だったらピア
スもそれに合わせなくちゃね」
- 75 名前:ピアスホール 投稿日:2003年08月06日(水)07時28分40秒
- 「でもさー、あゆピアスホールなら開いてるじゃん。何もわざわざ新しく開けなくても」
本人は7つも開けてるくせに、マサオが言った。
「マサオ、それ本気で言ってるの?」
あゆみの機嫌が急に悪くなった。
「えっ、何?」
「マサオの莫迦!」
あゆみは怒って楽屋を出ていった。
「あゆ何怒ってんだろう?」
「それはじゃなー」
「わっ、ビックリした。いつからいたんだよー」
「ワシは何でも知ってるえらい博士じゃからな」
村田めぐみがおどけて言った。
- 76 名前:ピアスホール 投稿日:2003年08月06日(水)07時30分01秒
- 「あゆが何故怒ってるのか知ってるの?」
「当然だろ!」
「わっ、今度はボスか!」
いつの間にか斉藤瞳も現れ、マサオは二人に挟まれる形になった。
「マサオは地雷を踏んだんだよ」
「そうそう」
「地雷!?」
そんなことを言われてもさっぱり心当たりのない、マサオであった。
「まだ解かんない?ピアスホールの事だよ」
「ピアスホール?」
「あゆみが新しく開けようとしていたのを止めたんでしょ」
「えっ、だってあゆはもう幾つか開けてるし、それにほら、普段使っていない穴があるじゃん」
マサオの言う通り、あゆみは幾つか耳朶に穴を開けていたが、一つだけ普段使っていない穴があった。
- 77 名前:ピアスホール 投稿日:2003年08月06日(水)07時31分44秒
- 「ほっほー、あの穴の存在には気づいてたの」
「鈍感なマサオにしては上出来だね」
「???」
「あんた覚えてないの、あゆみがあの穴を開けた時のこと」
「開けた時の事って・・・・・あーっ、思い出した!」
以前あゆみの誕生日に、マサオはピアスをプレゼントしたことがあった。あゆみはそれ
が余程嬉しかったのだろう、新しくピアスホールを開け、その穴はマサオからのプレゼン
ト専用と決めた。
以来、何個かピアスをプレゼントされ、それらはすべてマサオ用の穴につけられた。と
ころが、マサオの方はそんなことをすっかり忘れていたのだった。
「あゆ・・・」
マサオは頭を抱えて悩みだした。
- 78 名前:ピアスホール 投稿日:2003年08月06日(水)07時32分25秒
- 「あゆみ傷ついたよなー」
「ホントにマサオは女心が解らないんだから」
「いや、あたしも女なんだけど一応・・・」
マサオは考えた。どうすれば傷ついたあゆの心を癒せるだろう?う〜ん、え〜と、そう
だ!何かを閃いたマサオは急いで楽屋を飛び出して行った。
「やれやれ」
「世話のやける奴ね」
残された二人がため息混じりに言った。
「ここにいたんだ。探したよ」
息を切らせながらマサオがやって来た。ここは事務所の屋上。夏の太陽もそろそろ一日の
仕事を終え、家路につく頃だ。
「何よ、なんか用?」
振り向いたあゆみの頬には、涙の跡が。これを見たマサオは胸がドキッとした。あゆ、君
はやっぱり可愛いね。しばらくぽけっと見とれていた。
- 79 名前:ピアスホール 投稿日:2003年08月06日(水)07時33分08秒
- 「用があるなら早く言いなさいよ!」
あゆみの機嫌はまだ直っていないらしい。いや、本当はもう直っていたのかもしれないが、
泣き顔をマサオに見られたことで、照れ隠しに怒って見せたのかもしれない。
「さっきはごめん。あたしうっかりしてた。ホントにごめん、ピアスホールの事」
マサオが頭を下げた。
「もういいわよ」
素っ気なく答えたあゆみだが、本当はマサオが気づいてくれて嬉しかったのだ。
「マネージャーさんに話してきたんだ」
「?」
「こんどの衣装のあゆのピアス、自前のを使わせてくれって」
「えっ?」
「あたしがプレゼントするよ。だから、専用の穴につけてくれない?」
「マサオ」
あゆみが抱きつき二人の影が一つになった。
- 80 名前:ピアスホール 投稿日:2003年08月06日(水)07時35分48秒
「はあー」
数日後、マサオはため息をついていた。あゆみとは仲直りが出来てめでたしなのだが、
一つだけ誤算があった。それはピアスの値段。今度の新曲のイメージに合わせた衣装に合
うピアスは、今までプレゼントした物とは、値段が一桁違っていた。
「今月前借りしないとダメかも・・・」
一人呟く、色男(?)のマサオであった。金と力はなかりけり。
『ピアスホール』完
- 81 名前:token 投稿日:2003年08月06日(水)07時38分26秒
- 以上です。甘さ足りなかったでしょうか?でも私が書くとこれが限界ですかね。(笑)
>>2 で宣言したように2週間に1・2本の予定が、気がつけば三日に一本書いてます。
大丈夫か、作者!(汗)
ではまた、次回まで。
- 82 名前:token 投稿日:2003年08月08日(金)07時51分53秒
- お早うございます。
某所にもカキコしましたが、私は「娘。小説」を読むようになって、いしよし好き
になりました。でも、未だ石川さんが主役のお話を書いていません。そこで今回は、
梨華ちゃん主役のいしよしを書こうとしたんですが、出来てみるとこんなお話になっ
てしまいました。
題して、『告白されて』です。
- 83 名前:告白されて 投稿日:2003年08月08日(金)07時52分37秒
- 「ねえ、石川さん、あたしとつきあって」
いきなりそんなことを言われた私は、驚いて固まってしまった。
「えっ、あの、そのー。それってどう言う事?」
自分でも間の抜けた質問だとは思ったけど、何か言うべきだと思った私は、とりあえ
ず聞いてみた。
「そのまんまだよ」
彼女はいつものようにニコニコしながら答えた。でもつきあうってつまり、そっかぁ!
「あっ、解った。お買い物でしょ」
「うん、石川さんがそれでいいって言うんならお買い物デートもいいけど。じゃあ、つ
きあってくれるの?あたしと」
えっ!?それってやっぱりその、つまり…。
「つまりね、石川さん。あたしの彼女になって下さい」
そんなー。だって私たち女の子同士だよ。ねえ、言っている意味、解ってるの?ミキティ!
- 84 名前:告白されて 投稿日:2003年08月08日(金)07時54分36秒
- 「あたし以前男の子ともつきあってたけど、やっぱり女の子のほうがいいって気づいた
んだ。ほら、あたし自分が男の子っぽいからさ」
ミキティは椅子に座ってそう言った。私も行きがかりで彼女の前に椅子を持ってきて
座った。
「ねえ、どうして私なの?」
ミキティが男の子よりも女の子が好きだ、と言うのは納得してもいい。でもなぜ私なの
だろう。
「石川さんは芸能界のお仕事に懸けてるんでしょ。だから高校行かなかったんだよね」
そう、私は芸能界以外のお仕事なんて考えてない。だから学歴も必要ないと考え、受
験すらしなかった。両親には、高校ぐらいは出ておきなさいと随分薦められたけ・・・。
「いいお仕事をするためにはプライベートが充実してなきゃね。で、あたしいろいろ考え
たんだ。普通の人は人生設計として、若いうちに結婚して生活を安定させるでしょ。
でも、あたしたち芸能人はちょっと違う。それにあたし、もう男の子とつきあう気ないし」
- 85 名前:告白されて 投稿日:2003年08月08日(金)07時56分33秒
- 「だから将来結婚して引退、なんて考えてないよ。この先何十年も芸能界にいたいんだ。
だから、ね、あたしの彼女になって。あたしたちきっと上手く行くよ。いっしょに芸能
界で頑張ろうよ」
私はミキティの考え方に少々あきれてしまったが、その一方で将来の事までそんな風に
考えている彼女に興味を持った。
「じゃあ、私じゃなくてもいいんじゃない?例えば、ほらそのー、あややとか」
自分でもちょっと意地悪かな、と思いつつも、私はあややの名を挙げた。
「あやや?あっははははは。ない、ない、ない。それは絶対ないよ。そりゃあ、あや
やとは仲がいいよ。でも、あややは親友。仲のいいお友達だよ」
ミキティは屈託なく笑った。彼女の笑い方は男の子っぽいけど魅力的だ。
「石川さんは誰か好きな人がいるの?それとも男の子とつきあいたいの?あっ、やっぱ
りよっすぃー?」
「そんな、違うわ。それによっすぃーとはそんなんじゃないよ。仲のいいお友達だよ」
- 86 名前:告白されて 投稿日:2003年08月08日(金)07時58分29秒
- 「あたしとあややみたいなモンか」
「うん・・・」
私は返事を濁してしまった。果たして私はよっすぃーを親友と呼べるのだろうか?
確かミキティはラジオで何度か、あややを親友と呼んでいた。でも私とよっすぃーは。
仲が良いのは確かだ。よっすぃーは一緒にいると冗談を言って私を楽しませてくれる。
でも、そう言えば二人で将来のことを話し合ったりしたことはない。何度かそんな話
をしようとしたことはある。だけどその度によっすぃーは茶化して、話をうやむやに
してしまう。
親友と呼ぶには私たちの関係は、表面的すぎるのかもしれない。勿論同じモー娘。
のメンバーなんだから、物理的に一緒にいる時間は、それぞれの家族達よりも長い。
そのメンバーの中でもよっすぃーと過ごす時間が一番長いだろう。でも、それは気が
合うから何となく一緒にいるに過ぎないのではないか。
- 87 名前:告白されて 投稿日:2003年08月08日(金)08時01分27秒
- どうやら私は少し混乱しているようだ。無理もない。ミキティーがいきなり告白な
んてするからいけないんだ。
ミキティは私の返事を、しばらく待ってくれることになった。そうだよね。だって
こんな事いきなりじゃ決められないモン。
おウチに帰った私はお風呂を沸かすと、すぐに湯船に浸かった。今日起きた事をじっ
くり考えるために。
ミキティは確かに男の子っぽい。それにカッコイイ。うん、私も彼女のこと嫌いじゃ
ないな。お仕事に対する態度だって一所懸命で好感が持てる。こう考えてみると別に女
の子同士だからどうこう言うつもりもない。いや、そもそも今、私は恋愛なんて考えて
いなかった。プライベートではメンバーのみんなと、そこそこ楽しくやってたから。
- 88 名前:告白されて 投稿日:2003年08月08日(金)08時03分00秒
- 確かによっすぃーは将来のことなんか考えてないみたいだ。あ、別にレッスンをサ
ボるとか、お仕事に対して態度が不真面目だとかそんなことはない。ただ、今目の前
のお仕事をこなしてるだけ、って感じだ。厳しい言い方をすれば向上心がないんだ。
でも私は違う。いつかは私もモーニングを卒業するだろう。でもソロになっても、
ううん、たとえ事務所が変わってハロプロから離れても、一人で芸能人やっていきた
い。だから私は、もっと歌やダンスが上手になりたいし、お芝居だって勉強したい。
だってそれは私の夢だから。
考えてみればミキティーの申し出は魅力的だ。私の夢のためには、ミキティとつき
あうのはいいことなのかもしれない。でも、どうしてだろう。よっすぃーの顔が頭に
ちらつくのは。彼女とは只の仲のよいお友達のはずなのに・・・・・・。
- 89 名前:告白されて 投稿日:2003年08月08日(金)08時04分34秒
- お風呂から上がって携帯を見るとメールが来ていた。よっすぃーからだ。
『乳首コリコリー。おやすみなさ〜い』
お休みの挨拶をしてくれるのは嬉しいんだけど、相変わらずよっすぃーったら。私は
独りでクスクス笑いだしてしまった。
そうか、やっと気がついた。そうだよね、やっぱり私にはよっすぃが必要なんだ。
彼女は私を仲の良い同僚ぐらいにしか思ってないのかもしれない。だけど私にとって
のよっすぃーは、間違いなくそれ以上の存在だ。
そして、翌日。同じ更衣室で。私はミキティに返事をした。ミキティは黙って聞い
ていたが、やがて口を開いた。
「誰かに相談したの?」
「ううん、私が独りで決めたの」
「そっか」
- 90 名前:告白されて 投稿日:2003年08月08日(金)08時05分26秒
- 「私、苦労するかもしれないけど、やっぱりよっすぃーの方がいいの。別に今つきあっ
てるわけじゃないし、すぐに告白して彼女になりたいわけでもないの。ただ、このま
まの関係が続いて、いつの日か二人で、って思うの」
「わかった。ありがとうあたしの告白を真面目に考えてくれて。うん、残念だけどしょ
うがないね。よっすぃーと仲良くね」
「ごめんね、ミキティ。それじゃ」
私は更衣室を後にした。人を振るのは時として辛いものだ。身近な相手だと特にそ
うだ。でもミキティは私が考えていたよりも、さばさばしていた。やっぱり男キャラ
だからなのだろうか?
「もう出て来て大丈夫ですよ、矢口さん」
「なんだ、知ってたのかよ」
ごそごそと更衣室のロッカーから矢口真里が出てきた。
- 91 名前:告白されて 投稿日:2003年08月08日(金)08時06分20秒
- 「途中で人の気配がしたんですけど、ここの狭いロッカーに隠れられるのは矢口さんぐ
らいですからね」
「別に盗み聞きしてたわけじゃねーぞ。ただちょっと暇だったから独りでロッカーに入っ
て遊んでたんだよ。ほら、オイラちっちゃい子のおもりで疲れてるしさー。そうしたら
お前らが来てさ、出るに出られなくなっちゃったんだよ」
「聞いてたでしょ。美貴、振られちゃいました〜」
「そうみたいだな、やっぱり石川にはよっすぃーか」
「将来の事を考えると、絶対あたしのほうがいいと思うんですけどね」
「恋は損得でするもんじゃないからな」
「矢口さん、まるで経験者みたいですね」
「おい、ミキティ、おいらこれでも二十歳の女だぜ。何気に失礼だろ!」
「へへへへへ」
ミキティは椅子に座り込んだ。
- 92 名前:告白されて 投稿日:2003年08月08日(金)08時07分19秒
- 「あーあ、でもやっぱショックだなー」
「じゃあ、おいらと焼肉行くか!」
そんなミキティを矢口が誘う。
「一緒に焼肉食べに行くカップルはデキテルって言いますからね。ひょっとして矢口さ
んあたし狙ってます?」
「なんでそうなるんだよ!」
「ほら、失恋したばかりの女の子は落としやすいって言うじゃないですか」
「何言ってんだよ。第一お前男キャラじゃん」
「ははははは、それもそうですね。あれ、でもなんで涙が出てくるんだろ。矢口さーん」
ミキティはそう言って矢口に抱きついた。
「お前、本気だったんだな」
矢口はそのまま胸を貸して、号泣するミキティを慰めつづけた。
「失恋って、男の方がひきずるんですよね」
『告白されて』
完
- 93 名前:token 投稿日:2003年08月08日(金)08時10分25秒
- いかがでしたか。
結局、よっすぃー出てきませんでした。
これじゃいしよしになりませんね。(笑)
では、次回まで。
- 94 名前:token 投稿日:2003年08月08日(金)08時31分17秒
- 忘れてました〜!
飯田圭織様、お誕生日おめでとうございます。
- 95 名前:Silence 投稿日:2003年08月09日(土)14時19分17秒
- 深いですね〜。恋愛もいしよしも(w 石川さんの選択は
間違って無いですよねきっと。そう思いました。
更新お疲れ様でした。次回作、待ってますよ!!
- 96 名前:token 投稿日:2003年08月14日(木)12時08分18秒
- どうも、まずはレスのお礼です。
>Silence様
ありがとうございます。そう言っていただけると救われますYO。
前回のお話を読み返してみて、梨華ちゃんの気持ちの変化が不自然だなーと、
我ながら思いました。あー早く甘々な、いしよしが書けるようになりたいです。
少し、更新ペースが落ちました。もちろんこの間何も書いてなかったわけではなく、
別の板の連載物を書いたり、短編も一本書きました。でも、これがヤマなし、意味なし、
落ちなし、の本来の意味での「やおい」になってしまったので、自主的にボツにしました。
ちなみに、道重ちゃんとミキティがラジオに出た時のお話なんですけどね。
さて、今回はお馬鹿なお話です。少し長めで、スレの数で20を超えています。
題して『捜索隊』です。
- 97 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時09分04秒
- 「隊長、こちらは駄目です!」
「こっちもなのれす!」
「右に同じです」
私達は口々に報告した。隊長の加護さんは報告を受け、テーブルの上の見取り図に次々
と×印を書き込んだ。
「くっ、一体どこなんや!」
彼女に焦りの表情が見えた。だが、それを咎める事のできる者など、誰がいようか。焦っ
ているのは私達も一緒だ。
私達は絶望的な戦いを強いられて来た。しかも、タイムリミットは刻々と迫っていた。
- 98 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時10分26秒
- 「やっぱり駄目なのか?」
また吉澤さんが弱音を吐いた。
「よっすぃー、最後まで諦めちゃだめなのれす!」
「そうや、モー娘。で鍛えた根性見せたらんかい」
「うん、そうだね。またあたし、弱気になるところだった。うん、最後まで頑張るよ。
よーし、ヤルゾ〜!!」
吉澤さんが吼えた。うん、大丈夫、私達の士気は高い。最後まで諦めなければ、結果は
必ず出せるはずだ。
だが、お宝は一体どこに?
- 99 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時11分35秒
- 事件が発覚したのは、私たちが楽屋に戻った時だった。
「無い、無いのれす!」
舌っ足らずな辻さんの大声が、楽屋中に響き渡った。
「何が無いって、辻ぃー」
矢口さんが声を掛けた。
「へい、お菓子が無いのれす!」
「なんやて〜」
関西弁の加護さんが血相を変えて辻さんの所に向かう。
「な〜んだ」
反対にお菓子と聞いて興味の無くなった矢口さんは、そのままシャーワーを浴びに行って
しまった。
お菓子が無い、この事実は私を震撼させた。だって私はお仕事の後のお菓子のために、
さっきまでの収録を頑張ってきたのに。それなのに・・・。それって一体どういう事?
- 100 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時12分55秒
- 「そうや、マネージャーの仕業や!」
加護さんが叫んだ。
私たち女の子にとって、お菓子がどれほど大切な物なのか、男の人達には解らないだろ
う。食べるという行為は、本来の栄養の補給以外にも、ストレスを発散させる役割を担っ
ている。
私たちモーニング娘。の日々受けるストレスは凄まじいものだ。外から見ればお気楽に
見えるかもしれないが、そんなことはない。モー娘。のメンバーはこうしたストレスに耐
えられる者だけが務まるのだ。
また甘露という言葉があるように、伝統的な日本語に置いては、甘い物イコール美味し
い物なのだ。だから、甘いお菓子に私たちが固執するのは、当然な事だ。
- 101 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時14分26秒
- 「また、マネージャーさんの部屋なのれすかね?」
以前ツアー中の宿泊先で、同様にお菓子を取り上げられた事を思い出した辻さんが、悔
しそうに言った。
「いや、それはないやろ。ここはテレビ局やで。あいつには控え室っちゅうモンはあらへ
んからな」
「すると一体?」
私も口を挟んだ。
「テレビ局内は結構、物隠せるトコあるからなー。見当つかんわ」
「それじゃ、ののは・・・、ののはお菓子を食べられないんれすか?」
今にも泣き出しそうな顔で、辻さんが言った。解ります、その気持ち。私だって絶望で、
目の前が真っ暗になりそうなんですから。
- 102 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時16分16秒
- 「アホやな〜、のの。見っければエエやないか」
にっこり笑いながら加護さんが言った。
「れも・・・」
「捜索隊を組織して、お菓子を見つけ出すんや!」
捜索隊!そうだ、最初から諦めていたら何も出来ない。神は自ら助くる者を助く。求め
よ、さらば与えられん!だ。
「私も捜索隊の一員に加えて下さい。お願いします!」
私は迷わず志願した。
「おう、大歓迎や。頼むで、紺ちゃん」
「はい、頑張ります」
「あいぼん、ののもやります」
「あたりまえやないの。ウチらは無敵のコンビやないか。頼むで、相棒」
「へい!」
辻さんに笑顔が戻った。
- 103 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時17分50秒
- 「何やってんだよー」
突然私たちの後ろから、吉澤さんが声をかけてきた。少し後ろには当然の様に石川さん
も一緒だ。
「お菓子捜索隊なのれす」
辻さんが得意そうに言った。
「お菓子〜!?ああ、またマネージャーさんが隠したのか」
「よっすぃーは平気なんれすか?」
「まあね、もう餓鬼じゃないんだし、その分飯時に多く食えばいいじゃん」
「ほー、流石は吉澤はんでんな。でもな、行方不明のお菓子の中には、わらび餅も含まれ
てるんやで」
加護さんが意地の悪そうな口調で言った。
「!」
私は確かに見た。この時吉澤さんの眼がきらりと光ったのを。
- 104 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時19分21秒
- 「こん前、明治座で共演した、テキサスはんがな、よっすぃーの好物がわらび餅だと聞い
て、差し入れしてくれたんや。それも4箱もな。けど、残念やな〜。そうか、興味ないんか」
「隊長、私は何をしたら良いのでしょうか!」
加護さんに向かって直立不動の姿勢で敬礼しながら吉澤さんが尋ねた。やった、これで
私たちは貴重な戦力を手に入れたんだ。
「よっすぃ〜、そんな馬鹿なこと止めなよー」
石川さんが止めた。だが吉澤さんの決心は揺るがなかった。
「梨華ちゃん。男にはね、負けると解っていても戦わなければならない時があるんだ。だ
から、あたしは行かなくちゃならないんだ!」
吉澤さんは石川さんの両肩をガシッと掴んで、彼女の目を見つめながら言った。石川さ
んは頬を赤く染め、コクンと頷いた。吉澤さんがいつから男なのか、はここでは問わない
ことにしよう。だって私たちには時間がないのだから。
- 105 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時21分06秒
- スタジオのセットの設置に手間取り、収録が遅れていた。予定では一時間半後に次の収
録が始まることになっていた。この90分間で私たちは隠されたお菓子を発見し、平らげ
ねばならないのだ!
「なっちもやるべさ」
また一人、乱入者だ。
「安倍さん!」
私は驚いた。童顔とはいえ、今年で22歳になる安倍さんが、いくらお菓子が好きだか
らといって、私たちの捜索隊に加わってくれるなんて!でも、安倍さんの食べ物に対する
嗅覚は、大食らいの多い娘。内でも上位に位置する。だから彼女の加入は心強い。
こうして私たち5人で、お菓子捜索隊が結成された。しかしその矢先、一人欠員が出て
しまった。他でもない、安倍さんだ。
- 106 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時22分40秒
- 「なっちー、事務所で社長が待ってるってさ」
楽屋に入ってくるなり飯田さんが言った。
「なっち、今忙しいんだべ」
「なんかさー、重要な話らしいよ」
ここから事務所まで行けば、往復で休憩時間が終わってしまうだろう。
「電話でもいいじゃないさー」
不満げに安倍さんが言った。
「安倍さん、行ってください。あとはあたし達でなんとかしますから」
吉澤さんが言った。
社長が直接しなければならない話なんて、よほど重要なことなのだろう。安倍さんは後
ろ髪を引かれる思いで、戦線を離脱した。後で知った事なのだが、この時に安倍さんは、
卒業についての最後通告を受けたそうだ。安倍さんだって私たちとは別の意味で頑張って
いたんだ!
- 107 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時24分09秒
- こうしてお菓子捜索隊は、4人で再開された。リーダーである加護さんが、私たちに捜
索場所の指示を、次々に出した。入手経路は不明だが、加護さんはこのテレビ局の見取り
図をテーブルの上に広げ、お菓子が隠されていそうな場所を選び出した。
5分後に私たちは、それぞれの持ち場に向かった。残り時間約80分!
30分後、私たちは再び楽屋に集まり、各自が加護さんに報告をした。私よりも年下だ
が、加護さんにはリーダーの資質がある。吉澤さんと辻さんは、そのフットワークを生か
して、各階の部屋を虱潰しに回って来たのだ。一方私が担当したのは、テレビ局の通用口
だった。お菓子が既に局外に持ち出された可能性もあったからだ。
- 108 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時26分18秒
- 私は顔見知りの警備のおじさんから、マネージャーさんが外に出て行った時のことを尋
ねた。その証言によれば、その時マネージャーさんが持っていたのは、小さめのバッグだ
けだったと言う。これでお菓子がまだ局内にあることがハッキリした。念のために他の人
物のことも尋ねてみた。おじさんは変なことを聞く娘だ、と言った顔をしたが、それでも
親切に教えてくれた。
「と、言うわけで少なくとも通用口からお菓子が持ち出された事はありません」
「表はどうなん?」
加護さんが私に尋ねた。もちろん抜かりはない。
「はい、受付のお姉さん達にも聞いてきました。やはりそれらしい荷物を持った人は居な
かったとの事です」
- 109 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時28分04秒
- 「なるほど、共犯がいたとは考えられへんからな」
「となると、一体どこに隠したんだよっ!」
吉澤さんが苛立たしげに言った。結局吉澤さんや辻さんの報告は芳しいものではなかっ
た。お菓子の行方は依然不明だ。
時間だけがむなしく過ぎて言った。
「あー、もう面倒だから、コンビニまで行って来て、別のお菓子を買ってこようぜ!」
突然、吉澤さんが言い出した。
自慢じゃないが、私たちモー娘。のメンバーは、長者番付に名前が載るくらいの収入が
ある。だからその気になれば、コンビニ一軒分のお菓子を買い占めることだって可能だ。
だが、それでは根本的な解決にならない。あくまでも、今は敵の手先であるマネージャー
さんから、隠されたお菓子を取り戻してこそ、私たちの勝利になるのだ。
- 110 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時30分12秒
- 「吉澤さんの馬鹿!」
私は思わず、先輩を殴ってしまった。でも、辛うじて理性は残っていたのだろう。使っ
たのは平手打ちだ。完全に我を忘れていたなら、正拳二段突きをお見舞いしていたに違い
な。だが、先輩に手を挙げたことには変わりない。どうしよう。何とか誤魔化さねば。
「そんなことで、石川さんが喜ぶと思っているんですか!」
吉澤さんの気を逸らすには、石川さんを利用するしかない。
「梨華ちゃんが!?」
案の定、それまでやる気の失せていた吉澤さんの眼に光が戻った。
「石川さんは吉澤さんが見つけだしたわらび餅を、一緒に食べるのを楽しみに待っている
んですよ。安易に買ったものではなく、吉澤さんが汗水垂らして、苦労の末に見つけだし
たわらび餅を、です。その期待を裏切るんですか?」
- 111 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時31分46秒
- 我ながら言っていることはむちゃくちゃだと思う。内心不安だったが、私は一気にまく
し立てた。
「紺野、ごめん。そしてありがとう。あたしが間違ってたよ。そうだ。あたしには、あ
たしの帰りを待っていてくれる梨華ちゃんがいるんだ。こんな所でくじけちゃダメなん
だ。あたし、もう一度探してくる!」
吉澤さんはそう言って、再び楽屋の外に飛び出していった。良かった。なんとか誤魔化
せました。完璧です!
「賢明な判断やな」
加護さんが呟いた。
「何でれすか?」
「残り時間を考えたら、コンビニに行って帰って来た時点で、タイムアウトやろ。こうなっ
たらお菓子を見つけだす以外に、食べる方法がないんや」
そう、残り時間はあと40分を切った。
- 112 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時33分18秒
- 「いくで、のの。ウチらももう一遍さがすんや」
「へい、なのれす!」
私たち3人は、吉澤さんの後を追うように、楽屋を飛び出した。
そして、この冒頭の話につながるのだった。
「ひょっとして、マネージャーさんが一人で食べちゃったんじゃ・・・」
私の脳は糖分不足で働きが鈍くなったらしい。とうとうこんな事を考えるようになって
しまった。
「それはないやろな。いくら何でもあの量をマネージャーが食べ尽くすのは無理や。それ
にゴミも見あたらんやろ」
それまで考え込んでいた加護さんが言った。どうやら彼女の脳はまだ正常に働いているら
しい。さすがはリーダーだ。彼女の頭の回転の速さは、モー娘。イチだ。
- 113 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時34分57秒
- そう、なんたってモー娘。15人分のお菓子プラス、差し入れのわらび餅4箱だ。仮に
私でも、食べ尽くすのに4時間は掛かるだろう。それにマネージャーさんは私たちより少
食なはずだ。どう考えても無理な話だ。
「そうなのれす。ののが食べても3時間は掛かるのれす!」
3時間!私は耳を疑った。だが辻さんはつまらない見栄を張る人ではない。これはおそ
らく真実なのだろう。この一時間の差が、今現在の辻さんと私との人気の差なのだろう。
私ももっと精進して、辻さんに追いつかなければ・・・。
「もう一度よく考えてみようぜ、どこかまだ探してない所がないかどうか」
吉澤さんが提案した。普段体力で問題を解決する吉澤さんが、遂に頭を使い始めたよう
だ。つまり状況はそれ程せっぱ詰まっているのだ。
- 114 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時37分17秒
- 「そうやな。情報を整理しよか。紺ちゃんの報告によれば、お菓子はテレビ局の外には持
ち出されてはおらん。よっすぃーやののの捜索でも、お菓子は見つからんかった」
「そうなのれす。鍵の掛かった部屋も無理矢理開けてみたんれすけどね」
「辻すげーんだぜ、力任せにドアノブを回しちまうんだから」
「お菓子のためなら、力をセーブしないのれす!」
さすがはモー娘。イチの怪力を誇る辻さんだ。
「マネージャーさんが食べた訳でもない。するとお菓子はどこに?」
私は誰に聞くともなく尋ねた。そう、これが一番の、そして唯一の問題なのだ。
「すべての可能性を消していくと、残った可能性は、たった一つや」
「「「えっ!!」」」
- 115 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時39分11秒
- 「紺ちゃん、まだ解らんか?」
加護さんがにやりと笑いながら聞いた。
「残った可能性・・・」私は身体に残ったエネルギーをすべて脳に回して考えた。残った
たった一つの可能性、それは。もしかして・・・・・。
「わかったのれす!」
「あたしも」
吉澤さん、辻さんも気がついたみたいだ。
「私もです」
「ほな、行こか」
「きゃー、あんたたち何やってるのよ!」
楽屋に戻ってきた飯田さんが叫んだ。これはある意味当然な反応だったろう。なにしろ
楽屋は私たちが食べちらかした、お菓子の包装紙がばらまかれていたのだから。
- 116 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時41分02秒
- のちに聞いた話なのだが、この様子を見た垣さんの言によれば、餓鬼地獄に迷い込んだ
のか、と思ったそうだ。なるほど外から見れば、そう見えたかもしれない。だが当事者の
私たちにとっては、そこは極楽浄土だった。なにしろ苦労に苦労を重ねた末に、やっと見
つけだしたお菓子を、思う存分食べていたのだから。
加護さんは年相応のあどけない顔に戻って、お菓子を美味しそうに食べていた。リーダー
の重圧から解放された加護さんは、本当に嬉しそうにお菓子を食べていた。今手元にカメ
ラがないのが残念だ。この笑顔は絶対お宝画像になるのに。
吉澤さんは床にどかっと胡座をかき、わらび餅の箱を3箱抱え込んでむしゃむしゃと食
べていた。え、4箱じゃないのかって?残りの1箱は吉澤さんが発見するや否や、自分の
私服袋にキープしてしまった。もちろんこの後で、石川さんと一緒に食べるつもりなのだ
ろう。つまりは独り占めだ。だが、私たちはそれを非難するつもりはない。だって今回吉
澤さんは、それに値するだけの働きをしたのだから。それに私たちも自分の分のお菓子を
食べるのに忙しいのだ。
- 117 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時43分12秒
- 辻さんは豪快だ。ポッキー1箱分をむんずと掴むと、そのまま一気に食べている。当然
もう一つの手にも、ポッキーの束が握られていた。なるほど、あの食べ方なら、3時間で
食べ尽くすと言うのもうなずける。
かくいう私だって、ポテチを中心にスナック菓子を、口を休めることなく、もぐもぐと
食べ続けた。時々口直しにチョコレートを食べ、またスナック菓子を食べた。私は早食い
は苦手だが、大食いにはいささか自信がある。
収録時間が迫っていた。私たちはラストスパートをかけて、お菓子を食べ尽くした。
そうそう、今となってはどうでも良いことなのだが、一応、お菓子がどこに隠してあっ
たのか、報告しておこう。何のことはない。お菓子は初めから楽屋の中にあったのだ。た
だ、目の前にありながらカムフラージュのため、気づかなかっただけなのだ。
- 118 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時45分06秒
- ご存じの方もいらっしゃるだろうが、私たちモー娘。は私服袋と言う物を使っている。
中には小物なども入れたりするので、私物袋と呼んでも良いかもしれない。楽屋の隅にそ
の袋を積み上げてあったのだが、注意して見ると袋の数が、メンバーの数よりも二つ多かっ
た。そう、その余分な袋の中にこそ、行方不明になったお菓子が入っていたのだ。マネー
ジャーさんも知恵を絞ったのだろうが、しょせん私たちには敵わなかった。
こうして、私たちお菓子捜索隊は勝利を収めた。だが、戦いはこれからも続くのだ。お
そらく敵は、また新たな手段を考えてくるだろう。だが私たちは力を合わせてそれに立ち
向かってやる。そして必ず勝利するのだ!私はお菓子をかみ締めながら、決意を新たにしていた。
- 119 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時46分26秒
- 「うげー、もうらめらのれす」
辻さんが膝をついた。
「あたしもー」
吉澤さんは床に大の字になって、寝転がった。
加護さんは既に真っ青な顔でリタイアしていた。
かく言うわたしもお腹が痛くて堪らない。
すべては再開された収録が原因だった。今回の企画はなんと運動会だった。秋に大阪と
東京で行われる、ハロプロ運動会のプレ企画だと言う触れ込みで、スタジオの中に大掛か
りなセットを組んで、私たちは飛び箱や鉄棒、それに障害物競走などをやらされた。
オンエアーは10月なのだが、今は7月。なんでこんな時期に、運動会の真似事なんて
やらなければならないの?
- 120 名前:捜索隊 投稿日:2003年08月14日(木)12時48分12秒
- もちろん、空きっ腹にお菓子をたらふく詰め込んだ、私たちにも多少の責任はあるのだ
が、こんなハードな収録だとは知らなかった。う〜、お腹痛いよ〜。
あっ、だからマネージャーさんはお菓子を隠したのか!今更ながら私はマネージャーさ
んの意図に気づいた。
収録はまだ半分も終わっていない。
ねえ、私たちひょっとして負け組?
『捜索隊』 完
- 121 名前:token 投稿日:2003年08月14日(木)12時49分25秒
- 以上です。レスが多いと更新の手間が掛かりますねー。
あと、どうでも良いことですけど、今回ワープロソフトを変えてみました。
文体に影響出てるでしょうか?
では、次回まで。
- 122 名前:Silence 投稿日:2003年08月14日(木)13時47分03秒
- 大好き(w こういうおバカな話大好きなんですよ。
いいな〜、単純な吉澤さん。そしていしよし。
更新お疲れ様でした。次回も楽しみに
- 123 名前:token 投稿日:2003年08月15日(金)20時44分22秒
- どうも〜。まずは、レスのお礼です。
>Silence様
ありがとうございます。気に入って頂けてなによりです。
私も書きながら、クスクス笑っていました。端から見たら
あぶない人ですね。(笑)
今夜は、前回も少し触れた、一度ボツにしたお話です。
題して『二人でラジオ!』です。
- 124 名前:二人でラジオ! 投稿日:2003年08月15日(金)20時45分01秒
- 「えっ!?」
初めてマネージャーさんからそのことを聞かされて、私は驚いた。それは今
度のお仕事のことだった。私は、ラジオのゲストとして出演することになった。
ラジオか〜。山口にいる時もよく聞いてたっけ。夜遅くラジMDから聞こえ来
る、矢口さんの声。正直次の日の学校が眠かったけど、私はタイマー録音する
ことなく、生で聞いていた。だってラジオってテレビよりも身近に感じられる
んだよ。まるで隣で矢口さんが私に向かってお話ししてくれてるみたいに。他
にも安倍さんのラジオだってもちろん聴いていたよ。
そんなラジオに私、ゲスト出演するんだ!ああ、どうしよう。私、可愛さだっ
たら自信があるんだけど、ラジオじゃそんなの関係ないし。うまく喋れるかな〜。
ラジオって5秒以上黙ってちゃいけないらしいし。でも、変なこと言って笑わ
れちゃうのも恥ずかしいな。あっ、でも私一人で出るわけじゃないし。うん。
れいなちゃんや絵里ちゃんが一緒だから、きっと大丈夫だよね。
- 125 名前:二人でラジオ! 投稿日:2003年08月15日(金)20時47分17秒
- だけどそんな私の甘い考えを壊したのは、マネージャーさんの一言だった。
「今回は、道重とミキティが出るんだからしっかりね」
「あの〜ぉ、二人だけで、ですか?」
確かに藤本先輩は、モー娘。では私達と同じ6期メンだ。でも、ソロで何枚
もCDを出していたし、一人でおっきなコンサートだってやっていた。キャリ
アって言うの?それが全然違う。だから私たち他の6期メンから見れば、藤本
先輩は、モー娘。の先輩達と同じだ。話しかけるのだって未だに緊張する。お
弁当だって一緒に食べたことがない。そんな人と私は、二人っきりでラジオに
出るんだ。緊張しないほうがおかしいよ。
次の日、私たちはラジオ局の会議室って所にいた。ラジオ番組の打ち合わせ
のためだ。私と藤本先輩とマネージャーさん。この部屋に居る人で私が知って
いるのは3人だけ。あとは知らない人が3人。これはラジオ局の人。ディレク
ターさん。放送作家さん。それに私たちが出るラジオのパーソナリティーさん。
それぞれそう紹介された。だけど、一番驚いたのは、パーソナリティーさん。
だって変な覆面をかぶっているんだよ!
- 126 名前:二人でラジオ! 投稿日:2003年08月15日(金)20時48分37秒
- 藤本先輩も初めてこの人を見た時、なんだか笑顔がぎこちなかった。先輩は
いつだってにこにこしていた。その先輩があんな反応をするなんて、ちょっと
意外だった。後で聞いたんだけど、この時藤本先輩は、このラジオ出演自体が
がテレビのドッキリ企画なんじゃないかって疑ったらしい。そうだよね。ラジ
オなのに覆面なんて意味ないし。それに共演者が私だけだから・・・・・。
「今回の番組のテーマは親友です」
ディレクターさんが説明してくれた。なんでもあらかじめリスナーからテー
マに沿った意見を募集して、それを番組で発表するのだそうだ。その際私たち
二人にもコメントを求めるので、考えておいてくれ、などと説明してもらった。
「じゃあ、30分後に収録を始めますから」
そういうとディレクターさんは部屋を出ていった。
「えっ、夜の番組じゃないんですか?」
「録音だよ、決まってるじゃん」
- 127 名前:二人でラジオ! 投稿日:2003年08月15日(金)20時49分34秒
- 隣の藤本先輩が教えてくれた。あっ、そうか。考えてみれば14歳の私は、
夜のお仕事出来ないんだっけ。そっか〜。あれ、30分後!?ええっ!?そ
れってもうすぐ始まるって事〜!どうしよう、私コメントとか、全然考えて
ないよ〜。
「ではみなさんお待ちかね、今夜のゲストは、モーニング娘。の藤本美貴ちゃ
んと重道さゆみちゃんです!」
覆面のパーソナリティーさんに紹介されて、私たちは挨拶をした。覆面さ
んは変なマスクをかぶってたけど、声は優しそうな人だった。だからかな?
私の緊張は少し和らいでいた。でも凄いのは藤本先輩。今ではすっかりリラッ
クスして、喋り方もいつもの調子に戻っていた。覆面さんが振ってきた話を
的確に拾っていた。そうだ。藤本先輩も確かラジオをやってたっけ。ああ〜ん。
じゃあ初めてなのは私だけ?
- 128 名前:二人でラジオ! 投稿日:2003年08月15日(金)20時50分24秒
- 「ミキティには親友いるの?」
覆面さんが聞いた。
「ええ、地元にも一人いますね」
親友かあ。私の親友は二人、かな?どっちも山口にいるよ。たまに電話して
るんだ。でも、どっちも携帯持ってないからメールはしてないな。でも、私だっ
てこっちに来て初めて携帯持ったから、当然か。
「松浦亜矢ちゃんも親友の一人ですよ」
そっかー、藤本先輩は地元の友達以外にも親友と呼べる人がいるんだ。いい
なー、何だか羨ましいな。私もいつか、れいなちゃんや絵里ちゃんを親友と呼
べる日が来るのかな?
- 129 名前:二人でラジオ! 投稿日:2003年08月15日(金)20時52分59秒
- 最後に新曲の宣伝をして、私のラジオ初出演は終わった。失敗して怒られる
ことはなかったけど、みんなは私のことどう思ったんだろうか?そして放送を
聞いたリスナーには、私の声が届くのかな?
「あの、藤本先輩」
「ん!?」
帰りの車の中で、私は勇気を出して声をかけた。
「あのー、少しお話してくれませんか?」
「良いけど、あたし昭和生まれだよ。話、合うかなー」
藤本先輩はニコニコ笑いながら冗談を言ってくれた。良かったー。
「はい、大丈夫です。だって私、可愛さだったら負けませんから」
「何だよ、それ!」
先輩がケタケタ笑ってくれた。私もつられて笑った。車は笑い声を載せて、
他のメンバーが待つ、次のお仕事の現場に向かって行った。
今日のお仕事で、私、藤本先輩と少しだけ仲良くなれたみたいです。
- 130 名前:token 投稿日:2003年08月15日(金)20時57分28秒
- 以上です。えっへん!見事に「やおい」だったでしょ。(いばるなYO)
本当は「親友」をキーワードに、お話を膨らませようと思ったんですけど、
力尽きてしまいました。(涙)
6期メンの3人では(ミキティは別枠として)、道重ちゃんがいいですね。
では、次回まで。
- 131 名前:token 投稿日:2003年08月17日(日)07時22分02秒
- 突然ですが、訂正です。名前間違えてしまいました。
それも、二人!
>>127 重道さゆみ → 道重さゆみ
>>128 松浦亜矢 → 松浦亜弥
ごめんなさい。松浦さんの方は変換ミスです。このお話は、他人のPCを借りて
書きました。データだけ自分のノートパソコンに移して、うpしたんですが、
うっかりしてました。
道重ちゃんの方は、パーソナリティーが名前を間違える、と言うギャグを入れようと
したんですけど、あまり面白くなかったので削除しました。でも、名前の部分を書き直すのを
忘れてしまいました〜。
ホント、ごめんなさい。(ぺこり)
今回は、取り急ぎ、これだけです。では。
- 132 名前:token 投稿日:2003年08月23日(土)11時27分18秒
- どうも、tokenです。関東地方はまだ梅雨が明けてなかったんじゃないか?そう思わせ
るお天気が続いていました。で、梅雨時のお話を書いていたら、途端に暑くなって来まし
た。タイミング悪っ!(笑)
今回は以前書いた、『愛は僕を救うか?』と同じ世界のお話です。そして主役は、矢口さん。
題して『矢口、拉致!』
- 133 名前:矢口、拉致! 投稿日:2003年08月23日(土)11時29分47秒
- 「あちゃー、雨降りそうだよー」
誰に言うともなく、おいらは口に出して言った。おいらは矢口真里。自分で言うのもな
んだけど、劇団『寺田組』の看板女優さ。そんなおいらは今、人と待ち合わせ中。相手は
同じ劇団の裕ちゃん!
今日バイト中にメールが来たんだ。えっ、女優じゃないのかって?いや〜、ウチみたい
な小劇団っつーのはさ、結構貧乏な訳よ。だから看板女優って言っても、いろいろバイト
して、生活費や劇団の運営資金なんかを稼がなくちゃならないんだ。まあもっと売れて、
芝居に専念できるようになるまで、ガマンガマン、と。
- 134 名前:矢口、拉致! 投稿日:2003年08月23日(土)11時31分25秒
- で、メールの内容なんだけど、
『今夜ヒマかぁ?』
のただ一行。相手はもちろん裕ちゃんこと、中澤裕子。ウチらの劇団の創設以来のメン
バーで、矢口の先輩。で、なんだか無闇に顔が広い。この間もおいらを連れて、昔からの
知り合いである、空手道場に見学に行ったんだ。その時まで知らなかったんだけど、裕ちゃ
んすんげー強いんだぜ。なんたって空手五段の黒帯を、一撃で倒しちゃうんだから。
他にもいろいろな職業の人達と知り合いで、役作りなんかで困った時は、大抵裕ちゃん
がその職業の人を紹介してくれるんだ。そうそう看護婦じゃなかった、看護師さんの役を
やった時も、ナースステーションを見学させて貰ったよ。おかげでおいらも大助かりさ。
- 135 名前:矢口、拉致! 投稿日:2003年08月23日(土)11時33分32秒
- おいらは速攻で返信したよ。そしたら、すぐに待ち合わせの場所と時間が指定されてき
たんだ。で、今こうして裕ちゃんを待ってるって訳。一体どこに連れてってくれるんだろ
う?この時間からだと、当然晩ご飯一緒だよね。あっ、じゃあやっぱ焼き肉かな?裕ちゃ
んおいらが肉好きなの知ってるし。でも、裕ちゃんはいつもおいらを驚かせる事をするか
らな〜。ま、それも楽しみなんだけどさ、実は。
だけど、雲行きが何だか怪しいんだ。梅雨時だから仕方ないかもしれないけど、雨が降
りそうなんだよ。天気予報じゃあ今日は降らないって言ってたから、おいら傘持って来て
ないんだよなー。ああ、早く裕ちゃん来ないかな〜。
- 136 名前:矢口、拉致! 投稿日:2003年08月23日(土)11時35分20秒
- 携帯で時間を確認すると、約束の時間を5分過ぎていた。あれ、裕ちゃんどうしちゃっ
たんだろう?おいらちょっと不安になって来ちゃった。だっていつもは時間に正確で、遅
刻なんかした事ないんだから。
その時向こうの角を、一台の車が凄い勢いで曲がって来た。うっわー、あれベンツじゃ
ん。しかもスモークガラス。あんなのが近づいてきたら、大抵の車が道を譲っちゃうよう
な雰囲気のやつだ。
で、そのベンツがおいらの方に走って来て、おいらの少し前で急停車したんだ。中から
出てきたのは、スキンヘッドで額に傷がある大男。矢口とは身長差で40センチ以上はあ
りそうだ。服装はいかにもその筋の人、て感じ。
そのスキンヘッドは辺りをきょろきょろ見回して、誰かを捜しているみたいだった。ヤ
バイ、今おいらと目があっちゃったよ。そしたら一瞬そいつが、ニヤリと笑いやがったん
だ。それからズンズンと矢口の方に向かって来たんだ。
- 137 名前:矢口、拉致! 投稿日:2003年08月23日(土)11時36分37秒
- 「あんた、矢口真里さん?」
すんげー低いドスの利いた声で聞くんだ。えっ、なんでおいらの名前を知ってるの?あっ
ひょっとして、矢口のファンだとか、なーんて訳ないか。
「そうですけど、どちら様ですか?」
とりあえず相手の出方を見ることにした。そしたら突然このスキンヘッドは、おいらを
担ぎ上げて車に乗せようとするんだ!
「何するんだよ、離せよ、コラ!」
おいらは足をばたつかせたりして抵抗したんだけど、無駄だった。そのまま後部座席に
詰め込まれた。それと同時にベンツは急発進!もちろん周りには結構人が居たんだけど、
一瞬のことだし、ぽかんと見ていただけだった。都会人の無関心ってやつかYO〜。
「ちょっとあんた、一体何なんだよ!」
おいらは食ってかかった。本当は怖くて仕方がなかったんだけど、黙っていたら余計怖
くなるから。でも、スキンヘッドは何も言わずに、おいらにシートベルトを掛けた。ううっ、
これでもう動けないじゃん!
- 138 名前:矢口、拉致! 投稿日:2003年08月23日(土)11時39分40秒
- 「おい、いそげや!」
運転手に向かってスキンヘッドが指示を出した。途端にベンツはグンと加速した。それ
と同時に、フカフカのシートにおいらの身体がめり込んだ。急カーブを曲がった時なんて、
シートベルトしてなきゃ、きっとおいらは車内を転がってたよ。
外は雨が降り出したみたいだ。窓ガラスに水滴がぶつかり始めたから。もっとも半分以
上は車が凄いスピードで走っているせいで、実際にはシトシト降りなんだろうけどさ。
な〜んて、冷静に分析しているけど、やっぱり怖いよ、おいら。裕ちゃん助けて。心の
中でそっと呟いた。裕ちゃんはおいらのドラエもんなんだ。困った時はいつだって助けて
くれるんだ。だから、今回だってきっと!
- 139 名前:矢口、拉致! 投稿日:2003年08月23日(土)11時40分40秒
- 20分ぐらい走っただろうか?ベンツは急停車した。それも映画みたいに、スピンして
半回転だよ!
「着きましたぜ」
おいらの隣のスキンヘッドがそう言いながら、シートベルトを外してくれた。運転手の
男は車から降りると、外から後部座席のドアを開けてくれた。大きめの傘を差し掛けて、
待ってくれてるんだ。
なんだか解らないけど、おいら車から出られるんだ!外だったら逃げ出すチャンスだっ
てあるもんね。そう思ったおいらは、慎重に外に出た。だっていきなり飛び出すと、子猫
みたいに襟首を掴まれそうだったから。
外はシトシト雨が降っていた。でも傘のお陰で全然濡れない。
「間におうたな、良かったわ〜」
耳慣れた声が聞こえた。この声は、
「裕ちゃん!」
- 140 名前:矢口、拉致! 投稿日:2003年08月23日(土)11時42分10秒
- 声のした方を向くと、そこには傘を差した裕ちゃんがいた。
「なんや、矢口。いきなり大きな声出して。どや、乗り心地良かったやろ?」
「へっ!?」
おいらは固まった。それって、つまり・・・。
「申し訳ありません。行きにちぃーと道が混んでましたモンで。遅うなりました」
スキンヘッドが雨に濡れながら、裕ちゃんに頭を下げた。
「エエよ。こっちこそいきなりで悪かったな〜」
「とんでもありやせん。姐さんの頼みでしたら、ワシらはいつでもどこにだって駆けつけやすぜ」
スキンヘッドが嬉しそうに笑った。うー、やっぱなに気に迫力あるなー。
- 141 名前:矢口、拉致! 投稿日:2003年08月23日(土)11時43分45秒
- 「ちょっと、裕ちゃん。これ、どういう事?矢口に解るように説明してよ!」
「あかん、もう時間や。行くで、矢口。ほな、おおきにな。オヤジさんにもヨロシクな」
「へい!帰りはどうなさいますか?なんでしたらお待ちしてますが」
「いや、今日はこれで充分や。ご苦労はん」
裕ちゃんが軽く右手を挙げて挨拶した。スキンヘッドと運転手は深々とお辞儀をした。
裕ちゃんの傘に入って、おいらは一緒に歩き出した。しばらく歩いて振り返ってみると、
二人の男達は、雨に濡れながらもまだ頭を下げていた。
「おじさ〜ん、ありがとね〜!」
おいら、お礼を言うの忘れてたから大声で叫んだんだ。だって要するに、おいらを運ん
で来てくれた訳だしね。すると強面の二人は顔を上げて、笑いながら軽く手を振ってくれた。
- 142 名前:矢口、拉致! 投稿日:2003年08月23日(土)11時44分59秒
- 角を二つ曲がると、そこは明治演舞場の正面玄関だった。周りには、独特の服装をした、
いわゆるヲタさん達でいっぱいだった!
今やってる出し物は、6月公演の『江戸っ娘。新撰組』。主演はMMMこと、モーニング
ムーン娘。これって、おいらが観たかった芝居じゃん!
「急にチケットが手に入ってな。観たかったんやろ?これ」
「うん。だけど、それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」
「いやー、矢口驚かそ思ってな。それに裕ちゃん忙しくて迎えに行けんかったんや。だか
ら、トラやんに頼んだんや」
「トラやんって、あのスキンヘッドのおじさん?」
「おじさんか。あんなー、あいつ老けて見えるけど、今年で確か28やで」
「嘘っ!裕ちゃんより年下!」
「あっ、今の言い方、なに気に腹立つわ〜」
「いいじゃん、おいらを脅かした罰だよ」
こうしておいらと裕ちゃんは、ミュージカルを見物しました。これってやっぱりデート
かな?なんちゃって。
『矢口、拉致!』おしまい。
- 143 名前:token 投稿日:2003年08月23日(土)11時46分04秒
- いかがでした。タイトルはショッキングでしたけど内容は・・・。
私が書いたお話の内で、矢口さん初の主役でした。
では、次回まで。
- 144 名前:token 投稿日:2003年08月23日(土)11時47分07秒
- 今回はちょっと、
- 145 名前:token 投稿日:2003年08月23日(土)11時47分53秒
- スレ流し!
- 146 名前:名無子 投稿日:2003年08月25日(月)14時43分24秒
- 矢口さんの描写がとてもいい感じなので、初の主役とは驚きです。
前回と同じ設定みたいなので、また前の続きが読みたいです。おもしろかったので。
- 147 名前:token 投稿日:2003年08月29日(金)23時04分50秒
- まずはレスのお礼です。
>名無子様
ありがとうございます。このスレでは矢口さん、脇役でちょこちょこ出てます。
機会があれば続きを書いてみたいんですが、あのお話は何しろ語り手が「僕」ですから、
今度書く時は別の人物の視点で書きたいと思います。例えば、高橋愛ちゃんとか。
あ、でも彼女を主役にすると言葉の方が・・・。う〜ん、難しいですねー。
さて今回は、以前書いたお話『告白されて』と同じ世界が舞台です。(ネタ切れですか〜?)(笑)
ただ、主役は梨華ちゃんじゃなくて、別の人です。
題して『リターンマッチ?』です。
- 148 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時07分33秒
- それはタイミングが良かったのか、悪かったのか?あたしがそこを通りかかると、ちょ
うど二人は何か言い争っていたトコだった。
「しつこいよ、梨華ちゃん。そんなのあたしの勝手じゃん!」
「でもね、よっすぃー・・・」
「うるさいなー、あたしは眠いんだ。お休み」
そう言うとよっすぃーは、石川さんの目の前でドアを閉めた。石川さんは一人、閉め
出された状態で廊下に取り残された。あたしは彼女の後ろ姿を、ぼんやりと見つめてい
た。今思えば、何故この時、姿を隠さなかったんだろう。いや、理由なんて分かってる。
あたしは石川さんが心配だったんだ。でも・・・。
- 149 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時09分22秒
- その時石川さんが、くるりとドアに背を向けた。あっ、と思ったがもう遅かった。涙
こそ流してはいなかったが、彼女の目は潤み、口はへの字に結ばれていた。当然、彼女
はあたしの存在に気づいてしまった。彼女は気まずそうな顔をして、どうして良いのか
戸惑ってるみたいだ。
こんな時は、やっぱり「男の子」の方から助け船を出すべきだろう。あたしはボケを
かましてみた。
「ドッモ〜。松浦、亜弥で〜す」
石川さんは一瞬固まってしまった。あたし達の間に冷たい空気が流れていた。しばら
くして、石川さんが苦笑いしながら言った。
- 150 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時10分50秒
- 「どうしたの?ミキティ?」
かくしてあたしがやった、あややの振り付きのモノマネは、一応の成果を挙げたようだ。
今あたし達、モーニング娘。の15人は夏のライブツアーの真っ最中だ。今夜は某ホ
テルに泊まっていた。6期メンにとっては初の本格的なツアーだ。あたしを除く3人は、
それなりに緊張していた。(あっ、あくまでもそれなりに、だからね。なんせ、自信過
剰気味の田中とかもいるし)。
で、事務所のほうでも気を遣ったのだろう。ホテルの部屋割りで、3人組は一緒の部
屋になった。あぶれたあたしは、カントリーで一緒の、紺ちゃんと相部屋だ。でも・・・。
- 151 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時12分35秒
- 別に彼女が嫌いな訳じゃない。ただ、目の前でお勉強しながら、お菓子を食べられる
のには閉口した。自慢じゃないが、あたしは学校の勉強が嫌いだった。それに、あの甘っ
たるいお菓子の匂い!
特に紺ちゃんは、本に夢中になると、延々とお菓子を食べ続けていた。あたしだって
女の子だ。ケーキだって食べるし、キャンディーも口にする。でも、食事も終わってお
腹がいっぱいの時には、やはり遠慮したい。
そこであたしは、適当な言い訳をして、携帯とお財布を持って、自分たちの部屋を後
にした。しばらく紺ちゃんを一人にして置いてあげようと思ったから。
さて、どこに行こうかと悩んでいたら、ちょうど石川さんとよっすぃーの言い争いを
目撃してしまったのだ。
- 152 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時14分21秒
- 「ねえ、どこか行くつもりだったの?」
石川さんが聞いてきた。
「うん、紺ちゃんが勉強しててね。邪魔しちゃ悪いかなーと思って」
半分は本当の事なので、嘘ではないよね。
石川さんは少し考える素振りを見せた。その仕草は「THE女の子」って感じで可愛い
なと思った。
「ねえ、ヒマだったらあたし達の部屋に来ない?」
「えーと、誰と一緒だったっけ」
記憶を探るが石川さんと相部屋の人が誰だか思い出せなかった。なにしろあたし、
細かいことには拘らないから、初めから覚えてなかったのかもしれない。
「真里っぺ」
悪戯っ子のように石川さんが言った。
- 153 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時16分12秒
- 「あっ、でも今は部屋にいないの。なんでも近くに美味しい焼き肉屋さんがあるからっ
て、スタッフさん達といってるわ」
さっきホテルで食事は済ませたはずなのに、まだ食べに行くのか!あたしだってお肉
は大好きだけど、さすがにそこまでは・・・。
「うん、じゃあお邪魔しようかな」
内心ではドッキドキだったんだけど、あたしは努めて平静を装い、石川さんの誘いを
受け入れた。
- 154 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時17分39秒
- あたしがドッキドキだったのには訳がある。実は先月、あたし藤本美貴は、石川梨華
ちゃんに告白して、見事振られちゃったんだ。
でもその後、三日ぐらいは石川さんの態度がぎこちなかったんだけど、それからは前
のようにあたしに接してくれるようになったんだ。それにあたしは、ポーカーフェース
だから、すぐに元のメンバー同士の関係に戻れたんだ。だけど内心では、結構ダメージ
が残ってたんだ。ねえ、恋愛って男の方が尾を引くって知ってた?
例えば女の子は、新しい彼氏が出来ると、元カレの事なんかすぐ忘れちゃうんだ。過
去の思い出よりも、目の前の現在の方が大切なんだよ。
だけど男は、街で偶然元カノにあった時なんか、俺にまだ気があるんだろう、な〜ん
て勝手に思っちゃうんだから。で、まとわりつかれて女の子が迷惑するって訳。
ま、あたしは女の子なんだけど、むしろ思考パターンが男の子に近いんだ。きっとそ
の所為だろうな。ボーイフレンドとつき合ってもうまくいかなかったのは。もしあのま
まつき合ってたら、今頃あたし芸能界には入らなかったかもしれない・・・・・。
- 155 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時19分17秒
- あっ、話がそれちゃったね。でね、だから石川さんと部屋で二人っきりになる、って
シチュエーションは、かな〜り緊張するんだ。矢口さんが居れば、また違った展開にな
るかもしれないけどね。ちなみにあたしがコクって振られたのを知ってるのは、当事者
を除けば矢口さん只一人。偶然聞かれちゃったんだ。そして石川さんの言葉を信じるな
らば、よっすぃーもこの事は知らないらしい。
「なんか飲む?」
冷蔵庫を覗き込みながら、石川さんが聞いてきた。ホテルのサービスで飲み物が詰め
込まれていた。もちろん有料だけどね。
「これなんか色が奇麗だね」
そう言いながら石川さんが持ってきたのは、瓶詰めのカクテルだった。
「これってお酒だよ」
成人の矢口さんの為に、ホテル側がアルコール類を用意してくれたんだろう。だって、
あたし達の部屋の冷蔵庫には、お酒の類は入ってなかったから。
- 156 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時20分55秒
- 「そうなんだ。でもなんだか美味しそうだね。色だってピンクだし」
石川さんってお酒飲むんだっけ?
芸能界では未成年の飲酒が問題になることがある。もちろん建前上は禁止だ。でも実
際には、こっそりお酒を飲んでる人は結構いるんだ。さすがに外で飲むとオオゴトにな
るけど、自室や本当に信頼できる仲間達(スタッフさん達)とは、軽く飲んだりするん
だ。だって一般の中高生だって飲んでるでしょ。地元の友達の話では、高校生くらいだ
と、打ち上げと称して飲み会をしたり、中には月2・3回は居酒屋で飲んだりする子も
居るそうだ。
でも、あたしの記憶では石川さんはお酒を飲まない筈だ。そんなことを思いながら石
川さんをぼーっと眺めていると、石川さんはグラスを2個用意して、勝手に注ぎだした。
「ほらー、こ〜んなに奇麗だよ」
石川さんはグラスを掲げ、電灯の光に透かしながら言った。君の方が奇麗だよ、な〜
んてクサイ台詞が頭に浮かんだ。ヤバ、やっぱあたし、まだ引きずってるよ。
- 157 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時22分23秒
- 「ね、乾杯しよ!」
グラスを持った石川さんが促した。とりあえずあたしもグラスを持って、石川さんの
それと軽くかち合わせた。
実はあたしはお酒を飲めない。だけど石川さんの手前、カッコ悪いトコは見せたくな
かった。(ここら辺の見栄を張るところも、男っぽいんだよね)。だから少しずつ口に
含んで飲んだ。でも、石川さんは・・・。
なんと石川さんは、一気にグラスを空けちゃったんだ。ちょっと大丈夫?カクテルだ
から確かに口当たりはいいんだろうけど、これってジュースじゃないんだよ。そんな事
を思っているあたしの心配を余所に、石川さんはグラスに新しい分を注いで、また飲んじゃった。
- 158 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時23分30秒
- 「美味しいね、これ」
「ねえ、石川さんってお酒飲むの?」
「ううん、今日が初めて」
やや潤んだ目であたしを見つめながら、石川さんが言った。
「ほらー、ミキティも飲んでよー」
あたしは勧められるまま、自分のグラスをなんとか空けた。すると石川さんが新しい
瓶を開けて、お酌してくれた。こうなったら飲まねばなるまい。
「だからぁー、私はよっすぃーの事が心配なのッ!」
石川さんが力説した。色黒と言われている石川さんだけど、顔の方はそれほどでもな
い。確かに身体は黒いんだけどね。(7AIRのPV参照ね)。
そんな彼女が顔をほんのりピンクに染めて、よっすぃーとのケンカの原因を話し始め
た。正直そんな話を振られた当人の口から聞かされるのは、辛いんだけど・・・。
- 159 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時26分49秒
- 「仮にも私たちはアイドルなんだから、普段からお洋服だって、きちんとしたやつを着
て欲しいの!」
そう言うと石川さんは、またグラスの中身を飲み干した。
「ねえ、ちょっとペース早くない?」
「大丈夫よー。だってこれジュースみたいじゃない」
いや、みたいって事は違うって事だから・・・。
「でね、やっぱ甚平にサンダルは拙いと思うのよ。だから私は、よっすぃーに言ったの。
なんだったら一緒にお買い物に行って、私が見立ててあげるからって。そしたら・・・」
石川さんがまた新しい瓶を開けたようとした。だけど手が滑るのか、スクリューキャップ
が上手く開けられなかった。
「ねえ、これ開けて」
- 160 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時29分06秒
- 小首をかしげながら石川さんが言った。うっ、可愛い!これ以上飲ませない方がいい
とは思うんだけど、こんな表情でお願いされたら、誰だって拒否できないよ。あたしが
苦もなくキャップをねじ切ると、石川さんが大げさに誉めてくれた。
「すっごーい、ミキティは力持ちなんだねッ」
軽く手を叩く素振りを見せて、石川さんが言った。ヤバイ、このテンションの高さは、
絶対酔ってるよ!
「これで最後にした方がいいよ」
あたしは瓶を渡しながらぶっきらぼうに言った。
「うん」
そう言うと石川さんは、瓶からそのまま飲みを始めた。
「わ、ダメだよ。そんないきなり」
あたしは慌てて瓶を取り上げた。
- 161 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時31分57秒
- 「いやだー、返してよ〜」
彼女は子供みたいに駄々をこね始めた。こんな甘えるような仕草も可愛くて仕方がない。
「ダメ!やっぱこれ以上飲ませられない」
あたしは取り上げた瓶をラッパ飲みして一気に空にした。
「ほら、もうないよ。残念でした」
あたしは瓶を逆さまにして、大げさな素振りを見せた。
「あー、関節キッス〜!」
突然石川さんが、とんでもない事を言いだした。
「え!?」
自分でも顔が赤くなっていくのが解った。
「ミキティ、何照れてるの〜。あははははー」
「ちっ、違うよ。ちょっと酔っただけだよー」
- 162 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時33分47秒
- そうさ、弁解したけど本当は照れてたんだ。ダメだ。あたしまだ石川さんの事を・・・・・・。
もう一度告白してみようか?今ならまだ、あたしにも付け入る隙がありそうだ。だっ
て仲が良いからと言って、石川さんとよっすぃーは、まだ恋人同士って訳ではないんだ
から。でも・・・・・。あたしは自分の世界に入って行った。
「石川さん?」
しばらくして我に返ったあたしが、彼女に呼び掛けてみると、石川さんは椅子で眠っていた。
石川さんの寝顔を見て可愛いなと思った。あー、でもこれじゃ告白出来ないよね。う
うん、これで良かったんだよ。またコクって彼女にウザがられるのも辛いしね。せっか
くの今の関係を壊したくないよ。
いくら夏でホテルの中だからって言っても、こんな所で眠ったら体調を崩すだろう。
あたしはいわゆるお姫様だっこで、彼女をベッドまで運んだ。うわー、なんて軽いんだ
ろう。それに細ッ!この華奢に見える身体のどこからあんな元気が出てくるんだろうか?
- 163 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時35分18秒
- 眠っている女の子の唇を奪うのは反則だろうか?気がつくとあたしは、ベッドの上の
石川さんの唇に、自分のそれをゆっくり近づけていた。もう少しで二人の唇が触れよう
とした時、
「おらー、イ・シ・カ・ワ〜。起きてるかー!」
いきなりドアが開き、矢口さんが入ってきた。このテンションの高さから察するに、
矢口さんも飲んで来たみたいだ。あたしは慌てて石川さんのベッドから離れた。
「あれ、ミキティ!?何してんの?」
「え、いや、そのー」
ヤバ、なんとか誤魔化さなきゃ。いや、そもそも別に疚しいことをしていた訳じゃな
いから、その必要はないか、でも・・・。どうやらあたしも酔っていたみたいだ。なん
だか考えがまとまらない。
「あー、お前ら、酒飲んだなー!!」
テーブルの上の散乱した空き瓶を見て、矢口さんが言った。矢口さ〜ん、目が赤く潤
んでますよー。
- 164 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時36分23秒
- 「ええっ、それお酒だったんですか〜?」
とりあえずボケてみた。
「キャハハハハ。お前ら気づかなかったの?馬鹿でぇー」
矢口さんはあたしを指さしてケタケタ笑った。チャ〜ンス。この人完全に酔ってる。
「エへへへへへ」
「キャハハハハ」
笑いながら矢口さんは、自分のベッドに倒れ込むように寝ころんだ。そしてそのまま
眠ってしまった。その寝顔は可愛くて無邪気だった。でも、キスしたいとは思わなかっ
たけどね。
あたしは酔いつぶれた二人に布団を掛け、テーブルの上を少し片づけてから、その部
屋を後にした。お休みなさい。石川さんに矢口さん。いい夢見て下さいね。
翌日、石川さんとよっすぃーの二人が、手を繋いでホテルの廊下を歩いている所を見
かけた。良かった、仲直りできたんだ。あたしは石川さんの笑い顔を見ながら心の中で呟いた。
- 165 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時37分57秒
- 「ごめんなさい。藤本さん」
散歩から戻ると起きたばかりであろう紺ちゃんが、あたしに謝ってきた。昨夜と言っ
ても夜中の2時を過ぎてたけど、部屋に戻った時は紺ちゃんは寝てたから。言葉を交わ
すのは久しぶりな気がする。
「えっ!?なんの事?」
「私夕べ、迷惑でしたよね、すいません」
そう言って深々と頭を下げた。
「大丈夫、気にしてないよ」
あたしはにこやかに答えた。
「でも、そのー、やけ酒飲んでたんですよね」
言いにくそうに紺ちゃんが言った。やけ酒か〜。まあ、ある意味そうとも言えるけど。
大丈夫、今度こそもう吹っ切れたよ。あたしは石川さんが幸せならそれで良いんだ!たぶん・・・・・。
- 166 名前:リターンマッチ? 投稿日:2003年08月29日(金)23時39分20秒
- 「あっははは、やっぱ匂う?」
「はい、ちょっと・・・」
「秘密だよ」
あたしはおどけてウインクをした。
「はい、完璧です!」
何が完璧なのか解らないけど、ま、良しとしよう!さあ、今夜のライブも頑張るぞ!
『リターンマッチ?』完
- 167 名前:token 投稿日:2003年08月29日(金)23時43分17秒
- 以上です。こんなミキティ変でしょうか?
なお、今回の更新分は >>148-166 です。
では、次回まで。ごきげんよう。
- 168 名前:token 投稿日:2003年08月29日(金)23時44分19秒
- またもや、
- 169 名前:token 投稿日:2003年08月29日(金)23時45分03秒
- スレ流し。
- 170 名前:token 投稿日:2003年09月01日(月)12時59分13秒
- 突然ですが、訂正です。
>>161 「あー、関節キッス〜!」→「あー、間接キッス〜!」
の間違えです。
ごめんなさい。では。
- 171 名前:ぷよ〜る 投稿日:2003年09月02日(火)05時43分35秒
- 更新お疲れさんです!!
『私服袋』以下の作品を一気読みさせていただきました。
完璧です!(w
特に、『告白されて』と『リターンマッチ?』のいしよしふじの関係・・・
まさに当方が求めていたものです!!(w
この3人での作品が読めるなんて・・・幸せです・・・(w
他の作品についても書きたいことはたくさんありますが、
これ以上のスレ汚しはマズイんで・・・
では、次回更新も楽しみにしております♪
- 172 名前:Silence 投稿日:2003年09月02日(火)14時18分30秒
- 更新お疲れ様でした。
いしみき本当にいいですね〜。う〜ん、なんか本当にありそうな
お話で・・・はっ、まさか作者様は関係者の方とかですか(w
ほんとここの作品どれも大好きです。次回はどんな話なのか楽しみです。
- 173 名前:token 投稿日:2003年09月04日(木)22時49分29秒
- どうも、まずはレスのお礼です。
>ぷよ〜る様
ありがとうございます。お気に召していただけましたか。世間ではあやみきが大人気で、
もちろん私も暴走あややは大好きなのですが、あの二人は正に親友同士に見えるんです。
それにミキティは幻の4期ですから。梨華ちゃんと絡めたくなるんですYO。
>Silence様
ありがとうございます。いしよし大好きのSilence様に誉めていただいて嬉しいです。
いつになるか判りませんが、この流れでよっすぃー視点のお話も書きたいと思っています。
>まさか作者様は関係者の方とかですか(w
はい、無関係者れす!(笑)
今回はできたてのホヤホヤです。題して『15人でミスムン』れす。
- 174 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)22時51分17秒
- 私は緊張でドキドキしていた。
スタジオの照明が落とされた暗い中で、数秒後に始まるであろうパフォーマンスについ
て、私は頭のなかで反芻していた。やるだけのことはやった。大丈夫。あれだけ練習した
んだ、きっと上手くいく。でもなんでだろう震えが止まらない。しっかりしろ、私。デビュ
ー以来初挑戦の連続だったじゃない。今回だって・・・・・。
不意に誰かが、私の左手を優しく握ってきた。この感触は。うん、顔を見なくったって
判る。彼女だ。今回の私のパートナー。そうだ。彼女とも練習したんだ。繋いだ手を通し
て彼女の気持ちが伝わってきた。いつの間にか身体の震えは止まっていた。私は彼女の手
をそっと握り返した。私は右手でオールバックにした髪を軽くなでつけた。よ〜し、行くぞ!
垣さんが独りでスポットライトを浴びながら歌い始めた。
「愛をく〜ださい〜」
「「「「「「「「「「「「「「「Wow!」」」」」」」」」」」」」」」
- 175 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)22時52分51秒
- 前奏が始まった。
そして、私の出番。なっちさんの演ってたパートだ。
「ちょいと生意気つぽい青年」
よし、音程は外していない。次に藤本さんが後藤さんのパートを歌う。
「ちょいと粋なステップでUp Side Down」
そしてセンターはもちろんよっすぃー
「OH BABY BABY 今夜は Up Swing オ・ド・リ・ませんか!PARADISE」
こうして、たった一回だけの、ミスムン15人バージョン特別編が始まった。
始まりはいつものようにつんくさん の一言だった。
「俺な、このメンバーでミスムン見てみたいんや。せやから、一回だけ演ってくれへん?」
会議室に集められた、現モー娘。15人の私たちは、つんくさんからこう言われた。
「いや、別にいいですけど。でもごっちんもなっちもいないじゃないですか」
飯田さんが私たちの気持ちを代弁してくれた。
- 176 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)22時54分42秒
- 「それは考えてあるんや。まず、後藤のパートは藤本に演ってもらう。声質も似てるし問
題ないやろ?」
「なっちのパートは誰が?」
よっすぃーが聞いた。なんてったってミスムンはよっすぃーの持ち歌。気になって当然
だろう。
「まあ、待て順番や。で、藤本の相手役は高橋、お前や」
指名された愛ちゃんは、いつものビックリ顔になった。でもこれも順当なところだろう。
だって以前、宝塚の人達とテレビで共演したときも、愛ちゃんは見事に役回りをこなしていたから。
「で、吉澤の相手は石川や」
これも当然な事だ。なんたって二人の踊りの絡みは、本当の恋人の様に見える時があるのだから。
「そして、安倍のパートは」
- 177 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)22時56分30秒
- 「はい、はい、はい。おいら、おいらが演りた〜い」
つんくさんの言葉を遮り、矢口さんが立候補した。そうだね、矢口さんなら適任かもし
れない。筋肉質だし、男装の矢口さんいいかも〜。私がこんな事を考えていると、つんく
さんは首を振った。
「いや、悪いけど矢口じゃイメージ合わんのや」
「え〜、なんでですか〜?」
不満そうに矢口さんが聞いた。
「お前はどっちかっつーと、セクシー系と可愛い系や。今回のオトコマエは遠慮してくれ」
「う〜ん、そっか。じゃあしかたないか」
矢口さんは素直に諦めたみたいだ。あれ、でも。じゃあ一体誰が演るんだろう?あっ、
ひょっとして飯田さん?それともまこちゃんかな?私は男装が似合いそうなメンバーを次
々に思い浮かべた。
- 178 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)22時59分09秒
- 「安倍のパートはお前にやってもらう」
つんくさんが指さしたのは、誰あろうこの私だった。
「え〜っ!?私ですか〜?」
みんなちょっと驚いたみたいだったけど、一番ビックリしたのは私だ。
「そや。そしてパートナーはお前や」
つんくさんは私の隣に座っている彼女を指さした。彼女もビックリしている。
「2週間後にスタジオで演ってもらう。カメラ回すけど、一発撮りや。気合い入ったやつ
を頼むわ」
こうして私たちの特訓が始まった。
「違う、そうじゃないでしょ」
また飯田さんのダメ出しだ。これで何回目だろう?
私はダンスを覚えるのが遅いほうだ。そう言えば以前番組の企画で、チアリーディング
をした時も最後まで苦労したっけ。
- 179 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)23時00分35秒
- 「どうした?もうバテたか?」
矢口さんが聞いてきた。私は首を振った。そんなことはない。私は体力には自信がある。
だけど、段々身体の動きがリズムからズレてきていた。
「飯田さん、ちょっと休憩しましょう。焦ってもいい結果は出ませんよ」
よっすぃーが提案してくれた。
「よし、じゃあ20分休憩」
飯田さんが宣言した。みんなはそれぞれ休憩に入った。
私はベンチに座り、頭からタオルを掛けてみんなから顔が見えないようにした。なんだ
か何度やってもうまくいかない自分が恥ずかしかったから。
今回は本番までに2週間も時間があった。いつもなら振り付けの変更は長くても3日で
マスターする。酷いときは当日の本番数時間前、なんて時もあった。だから最初の内は、
みんな楽勝だと思っていた。
- 180 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)23時02分06秒
- ところが今回は大変だった。なんと振り付けもすべて、私たちメンバーだけでやれと言
われたから。いつもなら夏先生が考えて教えてくれるんだけど、先生は別件で急がしいら
しい。それに今回の件は、あくまでつんくさんの個人的な我が儘なのだから。
私たちは振り付けから考えなければならなかった。もっともまるっきりゼロから始める
わけではなく、今までのをアレンジすれば良いのだからなんとかなるだろう、それが私た
ちの考えだった。
ところが最初にミーテイングを始めてみると、いろいろなアイデアが出てきた。『気合
い入ったやつを頼むわ』つんくさんのこの言葉に、まるで私たちは取り憑かれたかのようだった。
そんなこんなで振り付けは大幅に変更されることになった。
- 181 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)23時03分18秒
- 衣装だってそうだ。よっすぃーはまあ良いとして、私と藤本さんは男物のスーツを新調
しなければならなかった。また、6期メンたちの分も必要だった。そこで思い切って全員
の分を新調することにした。でもさすがに衣装まで作る暇はなかったので、これらは外注
することになった。だって普段のお仕事も普通にはいってるんだよ。あっ、でもデザイン
は私たちの出したアイデアを元に、飯田さんと矢口さんが中心になってやってくれた。(ち
なみに費用の方はつんくさんがたっぷり出してくれた)
私たちモー娘。の特徴の一つは適応性の高さだ。今までにも新しい事を、短期間でマス
ターしてきた。いや、いつもしなければならない状況だった。だから今度の新しい振り付
けだって、一旦決まって練習を始めると、みんなは次々に覚えていった。
私だって頭では判っている。だけど身体の方が思うように動いてくれないんだ。やっぱ
り女の子が男の仕草をするのは難しい。あっ、でも藤本さんはちゃんと踊れてるよな〜。
これってつまり・・・・・。
- 182 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)23時05分14秒
- 私は休憩中にそんな事を考えていた。本当は休憩中は頭を空っぽにするか、まったく別
のことを考えた方がいいんだけど。そうしないと煮詰まったままになるから。いつもの私
だったら、お菓子を食べながらみんなとお喋りするんだけどな。今回はなんだか何も食べ
る気はしない。
不意に冷たい物が私の太股に触れた。顔を上げると私のパートナーが、ペットボトルの
スポーツドリンクを差し出してくれていた。
「水分摂らないとあかんで〜」
あいぼんこと加護亜依がおどけた口調で言った。
「ありがとう」
ペットボトルを受け取った私は、一気に半分ほど飲んだ。確かにのどが渇いていた。
「なあ、のの。ちょっと考えすぎてんのとちゃうか?」
彼女は既に自分のパートをマスターしていた。
「う〜ん、そうかな〜。でも私頭使うの苦手だからな〜」
- 183 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)23時06分50秒
- 「確かに男役は初めてやろ。せやけど無理に男になることはないんやで」
「?」
「男役ゆうんはこの世には存在しない架空の生き物や。おとぎ話のドラゴンや妖精と一緒。
想像上の産物や。つまり話に聞くだけで、誰もホンマモンを見たことがないんや」
「うん」
「せやから、ののが男役だと思って自信を持って演れば、それが男役になるんやないか?」
「あいぼん、凄いのれす」
私は感心した。彼女は精神年齢が私よりも遥かに大人なのだろう。
「へへへ、半分は愛ちゃんの受け売りなんやけどな」
照れくさそうにあいぼんは頭を掻いた。そんなことはない。今までにも私はあいぼんの
歳に似合わぬ考え方に驚かされてきたのだから。
私はベンチから腰を上げた。よし、もう一回頑張ってみるぞ!
- 184 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)23時08分31秒
- 間奏にはいった。
オトコマエのよっすぃーが梨華ちゃんの目を見つめながら台詞を言っている。心なしか
梨華ちゃんはうっすら頬をピンクに染めていた。その姿は、恋愛経験のない私の目から見
ても、まるで本当に口説いている様に見えた。
「だから慌てず行こうBaby!」
「そうさ人生つまりStep by Step」
この後いよいよペアのダンスシーンの見せ場が始まる。
よっすぃーと梨華ちゃんのツイストをベースにしたダンス。
藤本さんと愛ちゃんのジャズダンスをベースにしたダンス。
そして私とあいぼんは。
- 185 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)23時09分44秒
- (いくで!)
あいぼんが目で合図した。今からやる技はタイミングが大事だ。二人の息がぴったり合
わなければ成功はおぼつかない。今回つんくさんはなぜか、一発撮りに拘っていたので、
失敗は出来ない。私は呼吸を整えた。
私は両手をあいぼんの腰に添えた。間髪を入れずあいぼんがジャンプした。私はそのま
ま彼女の身体を持ち上げた。そう、私たちがやったのは、リフトアップだ。バレーやフィ
ギュアスケートなどでやる技だ。
モー娘。では、この技は私にしか、ううん、違う。私とあいぼんにしか出来ない。いく
ら私が力持ちと言っても、女の子一人を腕の力だけで持ち上げるのは無理だ。これはあい
ぼんがタイミング良くジャンプしてくれるからこそ出来るんだ。しかもダンスの一部なの
だから、優雅に決めなければならない。
あいぼんはまるで羽の生えた天使みたいにふわりと浮き上がった。しばらく回ったのち、
彼女はスピンしながら、見事に着地した。やった、成功だ。
- 186 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)23時11分06秒
- これをマスターするのにどれだけ掛かったろう。なかなかうまくいかず、あいぼんは傷
だらけになった。この技は上になるあいぼんの方が危険なのだ。私は何度も、これは無理
だから止めようと提案したのだが、あいぼんが大丈夫だと言って続けてくれた。よっすぃー
や藤本さんには出来ない技。すべてはあいぼんのお陰だ。
うれしくて涙が出てきそうになったけど、泣くのはまだだ。このまま最後まで行くぞ!
全員でポーズを決めてから、しばらくして再び歌が始まった。
「そーしーてー、ランララン」
最後はよっすぃーのソロだ。藤本さんと愛ちゃん、私とあいぼんのペアは、ダンスに専
念する。ここでも私たちはリフトアップを決め、曲の終わりに合わせてあいぼんが着地した。
こうしてミスムン15人バージョン特別編は終わった。つんくさん、どうでした?
- 187 名前:15人でミスムン 投稿日:2003年09月04日(木)23時12分13秒
- つんくはスタジオの隅でモー娘。のパフォーマンスを観ていた。その傍らにはいつの間
にか中澤裕子が寄り添っていた。
「ミスムンはな、大人数で演る曲の中で、俺の一番の自信作や。秋からはモー娘。分割や
ろ。せやからその前にもう一遍見ときたかったんや」
独り言のようにつんくが言った。その姿はどことなく寂しげだった。
「分割反対なんですの?」
「どうやろな。自分でもようわからんわ。せやけど・・・・・」
「?」
「いや、なんでもない。しかしエエモンみたわー」
「つんくさん。この映像のビデオうちにも下さい」
中澤が頼んだ。
「いやや。これは俺の秘蔵ビデオにするんや」
「そんな言わんとー」
「どうすっかな〜」
いつのまにかつんくの表情は悪戯っ子のそれになっていた。
『15人でミスムン』
完
- 188 名前:token 投稿日:2003年09月04日(木)23時19分36秒
- 以上です。設定が強引すぎたでしょうか?
実際にコンサートでミスムンを歌っているそうですが、情報不足のため詳細が判りません。
このお話は、まさに私の願望というか妄想ですね。リーゼントで決めた辻ちゃんと頭にリボンを
つけたフレアスカートの加護ちゃん。皆さんはどう思われますか?
今回の更新分は >>174-187 です。
では、また次回まで。
- 189 名前:token 投稿日:2003年09月04日(木)23時21分05秒
- 今回も、
- 190 名前:token 投稿日:2003年09月04日(木)23時25分50秒
- スレ流し!
- 191 名前:Silence 投稿日:2003年09月05日(金)11時11分53秒
- なるほど。最初誰の視点なのかまったく気がつかなかった
んですけど、あの子たちでしたか。そんな設定自分も見たい(w
更新お疲れ様でした。次回の作品も楽しみに。
- 192 名前:token 投稿日:2003/10/06(月) 00:13
- え〜お久しぶりです。(w
まずはレスのお礼です。
>Silence様
ありがとうございます。
もう少し構成に凝ろうと思ったんですけど、こんなんなりました。
私、絵が描けないんですけど、イラストかなんかでこのシーン描けたらな〜、
なんて思ってたり、思ってなかったり。(w
さて、一ヶ月ぶりの今回はこんなお話です。
題して『ワンマンライブ in the Moonlight』です。
- 193 名前:ワンマンライブ in the Moonlight 投稿日:2003/10/06(月) 00:16
- 満月の夜。
「いた!」
おいらはゆっくり近づいた。
いつものベンチの、いつもの場所に腰を下ろして、ギターを抱えた彼女が歌っていた。
それは不思議な声だった。声量は小さいが、それでいて良く通る。
ソプラノでやや不安定な声。繊細なガラス細工を思わせる儚さ。
日本語じゃない歌詞。英語でもない。どこか別の国の言葉。
だけど、曲調と相まってどういう訳かおいらにも意味が飲み込めた。
それは死に別れた恋人への想いを歌ったものだった。マイナーコードの調べに乗った歌声。
だけど悲しみだけではない。残された歌い手は絶望していない。希望を抱いている。
聴く者の心に染みこむような声がそれを伝えている。
- 194 名前:ワンマンライブ in the Moonlight 投稿日:2003/10/06(月) 00:18
- 彼女と「知り合った」のは半年ほど前だった。
今夜と同じように満月の夜、バイト帰りにたまたま独りでこのそばを通ったら、不思議
な歌声が聞こえてきた。
誘われるようにフラフラと近づくと、そこに彼女がいた。
ショートカットでボーイッシュな髪型。なぜか最初は彼女が人間には見えなかった。月
の光に照らされた彼女。一人もいない聴衆に向け、彼女は歌っていた。
住宅街 の中にポツンとある、小さな公園。ブランコが2基とベンチが4つ。それに水飲み
場。まるで箱庭のような狭さ。昼間は知らないけど、日が落ちてからは利用者があるのだ
ろうか?と思わせるような施設。
もう少し大きかったなら愛を語るカップルや、あるいはヤンキー達のたまり場になってい
たかもしれない。でも、そんな人種達からも見向きもされない、小さな公園。
ここが彼女のステージだ。
- 195 名前:ワンマンライブ in the Moonlight 投稿日:2003/10/06(月) 00:19
- なぜか彼女は満月の夜にだけに現れる。
実を言うと、おいらは彼女の事、名前しか知らない。
どこに住んでるのか、普段何をしている人なのか、いくつなのかさえ。
彼女が無口な所為もあったけど、彼女には気軽に話しかけられないような雰囲気があっ
たから。でもそれは、彼女が冷たいからではない。
聖なるモノへの禁忌、そんな感じがしたから・・・・・。
曲が終わった。でもおいらは拍手なんかしない。いや、出来ないんだ。
人は本当に感動すると、放心状態になる。
曲が終わって暫くして、初めておいらは自分が涙を流していた事に気づく。
- 196 名前:ワンマンライブ in the Moonlight 投稿日:2003/10/06(月) 00:20
- 彼女は立ち上がり、おいらに向かって微笑んだ。そしてそのまま公園を出ていった。
おいらはいつものようにベンチにすわったままの姿勢で、彼女の後ろ姿を見送る。
うん、変な事だとは判っている。でもこれ以上、おいらのほうから少しでも彼女に近づ
くと、2度と彼女に会えなくなるような気がして・・・。だから、いつもここでお別れ。
約束をしている訳じゃない。でも、きっと、来月の満月の夜も会えるはずだ。
じゃ、また。ね、沙也加。
- 197 名前:token 投稿日:2003/10/06(月) 00:22
- 以上です。
なんか、中途半端というか、微妙なお話でした。
では、また。
- 198 名前:Silence 投稿日:2003/10/08(水) 19:32
- 微妙でないですよ。すっごく好きな話です。綺麗な
作品ですよね〜。結構響きましたよ。
更新お疲れ様でした。次回も楽しみにしていますよ♪
- 199 名前:token 投稿日:2003/10/11(土) 21:02
- まずはレスのお礼です。
>Silence様
ありがとうございます。
いつもとは違う書き方をしてみたのですが、いかがだったでしょうか?
ひょっとしたら、これは続いたり続かなかったり・・・・・(w
さて、今回はこんなお話です。
題して『紺野、泣く!』
- 200 名前:紺野、泣く! 投稿日:2003/10/11(土) 21:05
- 「はい、今日オラが言って来たのはだすな〜、」
「カット〜!」
ディレクターさんのダメ出しだ。
「紺ちゃん、アドリブかますのはいいんだけどさ〜、それはちょっとな〜」
「あ、すいません。すいません」
愛ちゃんの真似は失敗だった。私は焦りながら何度も謝った。でも、頭の中は真っ白で・・・・・。
マコちゃんや中澤さんの視線が痛い。ううん、二人だけじゃない。スタジオ中に居る人
たちすべてが、私に向ける視線は・・・。
その後、何度もやろうとしたけど、うまくいかない。あっ、駄目。また涙が出てきた。
この間の収録で泣いたばかりだと言うのに。なんで?
世界が回りだし、私はそのまま倒れて意識を失った。
- 201 名前:紺野、泣く! 投稿日:2003/10/11(土) 21:06
- 気がつくと私はベッドに寝かされていた。どうやら局内の医務室のようだ。
「気づいたか〜」
この声は中澤さん?!
私は慌てて起きあがろうとした。
「まだ、寝とき」
中澤さんの声に気圧され、私はそのまま横たわっていた。
「あ、あの〜収録は?」
「あんた抜きで撮ったわ」
「そうですか」
そう聞くとなんだか力が抜けてきた。ぼんやり天井を見上げていると、徐々に涙が出て
きた。私はやっぱり「ダメな娘。」なんだ。私なんて・・・・・。
- 202 名前:紺野、泣く! 投稿日:2003/10/11(土) 21:08
- 「紺野、なんで泣くんや?」
ベッドの脇に椅子を置いて中澤さんが尋ねてきた。私は両手で顔を覆いながら、涙声で答えた。
「わ、私、私・・・」
「あんたは仕事に穴あけたんやで。みんな迷惑しとるんや。その事は分かってるんか?」
中澤さんが少しきつい口調で言った。
「それで泣いてるんか?そうなんか?泣いてちゃ分からんわ。ほら、言ってみ」
「私、悔しいんです!」
絞り出すような声で私は答えた。
「私、ダンス覚えるの遅いし、歌だって下手だから・・・。6期の子達もみんな、わ、私
よりも歌が上手いし・・・・・」
それ以上は言えなかった。最近の私は自信を無くしていた。何をやっても私がメンバーの足を
引っ張っているような気がしていたのだ。私はしばらく泣き続けた。
- 203 名前:紺野、泣く! 投稿日:2003/10/11(土) 21:09
- 「安心したわ〜」
中澤さんの口から場違いとも思える台詞が出た。声のトーンも優しかった。
「えっ?!」
ひとしきり泣いた後の私は、何故、と問いかけるように聞いた。
「これやがな」
中澤さんは布団を捲って、私のお腹に手を伸ばした。
「きゃっ!」
突然の事で、思わず悲鳴が漏れた。
「ちゃんと腹筋、ついてきとるやん」
中澤さんは私のお腹を探るように触りながら言った。なんだか少し恥ずかしい。
「腹筋鍛えると安定した声が出せるようになる、矢口が言ってたんやろ」
私は肯いた。
- 204 名前:紺野、泣く! 投稿日:2003/10/11(土) 21:12
- 「こん前のダウンタウンさんトコの番組でした、ゴマ豆腐の話。見たでぇ〜。あんた言い
方が舌足らずやったから、笑いのネタにされとったけど、筋肉をつけたいって、このためやろ?」
私は再び頷いた。そう、その通りだ。私は上手く説明できなくて・・・・・。
「矢口の腹筋凄いやんか。あれな、ウチが最初に始めたんやで」
「!?」
「昔、武道館でのサヤカの卒業ライブに備えてな。おかげでその時点での最高の舞台がで
きたわ。それを知ってその後矢口もな。以来あいつはずっと続けてるんや」
矢口さん、そんな昔から・・・。どおりで凄いはずだ。
「紺野、あんたも努力続けてるんやろ。それに悔しい言う気持ちがある内はまだ向上心が
残ってる徴や」
「でも、でも」
「大丈夫。あんた長距離やってたんやし、運動神経も悪くないやろ。あんたに足りないの
はとりあえずは声量やな」
- 205 名前:紺野、泣く! 投稿日:2003/10/11(土) 21:14
- 「でも、でも。そんなこと言われても・・・。藤本さんは上手いし。わたしカントリーでも
一緒だから余計にプレッシャー感じて・・・」
「なあ、何でつんくさん、藤本とあんたをくっつけたか解るか?」
私は首を振った。
「これはウチの想像やけどな、きっと紺野に期待してるからやと思うわ。もちろん他にも
理由があるやろうけど、大きな意味はこれやと思うわ」
「私に期待!?」
「せやがな。藤本は歌上手い。度胸もある。身近でそれをみて勉強せいっちゅうこっちゃ」
そんな事ってあるだろうか?私は買い被られているんじゃないだろうか?
「大丈夫や。自分を信じて、やで」
中澤さんが励ましてくれる。私、もう少し頑張ってみようか。
- 206 名前:紺野、泣く! 投稿日:2003/10/11(土) 21:15
- 「ほな、行こか!」
「はい?」
私は間の抜けた返事をした。
「HWNの収録やない。決まっとるやん!」
「えっ、でもさっき中澤さんが・・・」
「オジャマーはHWNの人気レポーターや。あんた抜きで収録できるわけないやろ。ウチ
が待たせといたわ」
強面のイメージがあるけど、中澤さんはスタッフさんなどの裏方に気を使う人だ。間違っ
ても偉そうな態度はとらない。だからきっと、収録の事も一生懸命頼んで延ばして貰って
くれたんだろう。そう思うと、自然に涙が出てきた。
「あ〜あ、また泣くんかい。ホンマしょうのない娘やなー」
そう言うと中澤さんは私を優しく抱きしめ、胸を貸してくれた。
「あと10分だけや。サービスやで」
「ながざばさ〜ん」
私は号泣した。中澤さんが優しく私の頭を撫で続けてくれた。
こうして、最近少し変だった私は、なんとか立ち直ることができた。ありがとうございます、
中澤さん。私いつか、センターに立てるぐらいに、歌が上手くなってみせますから。
頑張ります!!
- 207 名前:token 投稿日:2003/10/11(土) 21:17
- 以上です。
実は5期メンでは紺ちゃん押しなモンで。
では、次回まで。
- 208 名前:Silence 投稿日:2003/10/13(月) 22:16
- 中澤さん、やっぱ初代リーダーですよね〜。後輩のこと
ほんと想ってるっていうのか。紺ちゃんも頑張れ!!
更新お疲れ様です。次回も楽しみにしていますね♪
- 209 名前:token 投稿日:2003/10/27(月) 03:11
- まずはレスのお礼です。
>Silence様。
ありがとうございます。
HPWの中澤さんもいいですよね。そのうちピーマコとの絡みも書いてみたいと思います。
ハロプロで紺野さんが泣き出したのには、ビク〜リでした。で、それにインスパイアされて(w
前回のお話を書きました。
さて、今回はまた、矢口さん登場です。
葛根湯のPVを見て思いついたお話です。
題して『バーチャル・テニス』
- 210 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:13
- 「トラやん、ずいぶんご機嫌じゃん?」
助手席のスキンヘッドの大男に、おいらは後ろの席から声を掛けた。
「へへへ、判りやすかい?」
額に傷があるトラやんが、ニコニコ顔で振り向いた。うー、笑ってるんだろうけど迫力
あるな〜、やっぱ。
「何かいいことあったの?」
よくぞ聞いてくれました、とばかりにトラやんが話し始めた。
要するにトラやんは、日本シリーズでの、阪神の3連勝が嬉しかったんだって。おいら
野球に詳しくないから良く解らないけど、2連敗した後で、本拠地は甲子園での3連勝は
凄いことなんだって。この勢いで優勝だ!なんて息巻いていたよ。
思い起こせば小学生の頃、地元で阪神の優勝を見て以来、いかに長い道のりだったか、
な〜んて蕩々と語るんだよ。普段割と無口なトラやんが、べらべらしゃべるのは、なんだ
か面白かったんだ。あっ、でもおいら、トラやんと会うのは、今日でまだ3回目なんだけどね。
- 211 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:15
- そうそう、自己紹介がまだだったね。おいら、矢口真里。劇団『寺田組』の看板女優さ。
今日もまた、劇団の先輩、裕ちゃんこと中澤裕子に連れられてのお出掛け。いつものよう
に行き先は内緒なんだ。裕ちゃんはいつもおいらをビックリさせる様なことするから、楽
しみなんだけどね。
おいら達が乗ってる車はベンツ!それも一般車が思わず道を譲っちゃうような、強面仕
様。勿論おいらの車じゃないよ。これは裕ちゃんの知り合いのトラやんのもの。裕ちゃん
もおいらも車を持ってないから、送ってもらってるとこなんだ。
トラやんと、運転手の辰っつあん。どちらも強面なんだけど、おいらには親切なんだ。
裕ちゃんは無闇に顔が広くて、様々な職業の人達と知り合いなんだ。
- 212 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:16
- 「じゃあさー、今日勝てば優勝なの?」
トラやんの長い説明のあと、おいらは聞いてみた。
「そうなんすよ。だから、ワシ、もう居ても立ってもいられなくて。へへへ」
トラやんはスーツの内ポケットから、チケットを2枚取りだした。
「今夜の福岡ドームのチケットっす」
「えっ!?これから福岡まで行くの?」
「へい、飛行機だとすぐですから」
「ふ〜ん」
そうか、おいら達はついでに送ってもらってるんだ。
「ねえ、でもさー、遠回りになるんじゃない?」
「大丈夫すッ。どうせ道の途中ですし、それに姐さんの頼みを断れるわけありやせん」
姐さんと言うのは勿論、裕ちゃんの事。
「ねえー、今日負けたらどうなっちゃうの?」
言ってから余計なこと聞いちゃったかなって思った。おいらよく、一言多いっていわれるんだよな〜。
- 213 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:17
- 「なーに、例え今日負けても、明日は必ず勝ちますから」
上機嫌のトラやんは全然気にしていなかった。
「でも、明日のゲームは見られないんでしょ」
トラやんは得意げに別のチケットを取りだした。
「へっへへ、明日の分もあるんす!」
「スゴッ!良く手に入ったね」
優勝の掛かったゲームのチケットは入手困難な筈。
「へい、実は姐さんに頂きやした」
「裕ちゃんに!?」
それまで車の外をぼんやり眺めていた裕ちゃんが話しに入ってきた。
「トラやんにはいつも世話になっとるやろ、ホンのお礼や」
「そんな事ありやせん!世話になりっぱなしなのはワシらの方です。姐さんの為なら、ワシら・・・・・」
もしもーし、なんかトラやん涙ぐんで来てるんですけど・・・。
- 214 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:18
- 「あー、もうその事はええから、な、トラ」
「へいッ!」
裕ちゃんとトラやん達との間に何があったんだろう?おいらが聞いても裕ちゃんとぼけ
て教えてくれないんだよな〜。まあいいか。そのうち教えてくれるよね。
そんなこんなでおいら達は目的地のビルに着いた。
走り去っていくベンツを見送ってから、おいら達はビルに中に入っていった。あれ、でも
ここ、おいらでも知っているような、有名なゲーム会社じゃん!
「ねえ、裕ちゃん。今日はゲームするの?」
「すぐに判るから、まあ待っとき」
ニコニコしながら裕ちゃんが言った。
日曜日の所為か、大きな建物の中は閑散としていた。受付にはお姉さんじゃなくて、警
備員のおじさんが居た。裕ちゃんが名乗るとおじさんはインターホンでどこかに連絡を入
れた。待つこと3分。すぐに人がやってきた。でもこの人の恰好・・・・・。
- 215 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:19
- 一言で言うなら、コントに出てくる博士そのもの。ボサボサの髪の毛で、白衣を着て度
の強そうな黒縁眼鏡をかけてる。決めた。おいらこの人を「ハカセさん」って呼ぼう。
「お待ちしておりました。良く来て下さいました」
両手で握手しそうな勢いでハカセさんは裕ちゃんに迫ってきた。
「こちらが矢口さんですね。ナルホド、ナルホド」
ハカセさんはおいらをしげしげと見ながら、しきりに独りで納得していた。
「準備は出来ていますので、どうぞこちらに」
おいら達はハカセさんに案内されて、建物の奥に入っていった。
エレベーターで地下の最下層に下りた。そこにはガラス張りの小さなコートがあった。
なんでもスカッシュ用のコートを改造したのだそうだ。
「一体、何するの?」
「ずばり、『バーチャル・テニス』です」
ハカセさんが得意げに言った。
「?」
- 216 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:20
- 更衣室で、裕ちゃんが用意してくれたジャージに着替えてから、おいらはコートに立っ
た。すでに裕ちゃんとハカセさんが待っていた。
「簡単に説明します。まず、これを着けていただきます」
ハカセさんが、おいらの身体のあちこちに100円ライターぐらいの大きさの装置を取
り付けた。その数、肩や肘、膝などに20個以上!
「この装置からワイヤレスで、矢口さんの動きのデータが、リアルタイムであちらのコン
ピュータに送られます。それを元に矢口さんのキャラが造られます」
「つまり、モニターで見るとプレイヤーの矢口さんと、ゲームのキャラが一緒になって
ゲームをしている様が見られるんです」
「マシンの操作はすべてあちらから行います。矢口さんはそのゴーグルを着けて下さい」
おいらは言われたとおりに、ゴーグルを着けた。
「電源を入れるとゴーグル越しにバーチャルな世界が見られます」
おいらはスイッチを押した。途端に目の前にテニスコートが広がった。
- 217 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:22
- 裕ちゃんとハカセさんがガラス張りのブースに移動した。その中から、ハカセさんがマ
イク越しに話し始めた。
「完成品は5人プラス隠しキャラの予定なんですが、まだ3人分しか出来ていません。矢
口さんは順番にその3人と、1ゲームづつ対戦して下さい。」
どれどれ。おいらはポリゴンで描かれた、相手キャラを見た。ミキ、マイ、こんこん、か〜。
どれにしようかな〜。よし、まずはこのちょっと生意気そうなミキって奴にしよう。おいらはミキを指名した。
ミキがサーブした。早ッ!何、今の?おいら動けなかったよ。
気を取り直して2本目。今度も取れなかった。
おいらがサーブの番。一本目はネットに引っかけた。普通、ミスった後のセカンドサー
ブは萎縮して軽く打つんだけど、おいらには関係ない。思いっきり打った。
会心の一撃、って感じでサーブが決まった。筈なんだけど、ミキは奇麗なフォームで
あっさりリターン・エースを決めた。
- 218 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:24
- 結局1ポイントも取れなかった。
「彼女のデータはヒンギスとビーナスを元にしてますから」
ハカセさんの声が響いた。んなの、勝てるわけないじゃん!
ダメだ。次のキャラにしよう。こんこんか。なんだかトロそうな奴だな。こいつなら勝
てるかも。でも・・・・・。
こ、こいつ。とぼけた顔して、おいらが力一杯打った球を簡単にボレーで返してくる!
う〜、なんか妙にむかつく!おいらはへとへとになったけど、結局勝てなかった。
「彼女は200キロサーブもボレーで返せますから」
なんだよ、それ!
そのあとゲームの終わりに、こんこんが変な踊りを始めた。膝を曲げ、脚をパカパカ開
くんだ。ますますむかついて来た!
「勝利のダンスです」
ハカセさんの解説が入った。
- 219 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:25
- 最後はマイ。まさかこいつも?
ゲームが始まった。良かった〜。こいつはまともみたいだ。今日初めてテニスらしい展
開になったよ。
しばらく、一進一退が続いた。いいぞ、このまま行けば勝てる!だけど・・・・・。
おいらの上げたロブを、マイが打ち返した。
何、今の?打球が円を描いて飛んでこなかった!?
「今のがスパイラル・ハリケーンです。彼女の決め技です」
必殺技つきかよ!!
「難し過ぎ〜」
一通りゲームが終わっておいらはベンチに座って、水分を補給していた。
「難易度を調整しないとダメですかね〜」
「矢口、動きに無駄があるからや」
裕ちゃんが言った。
- 220 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:27
- おいらはブースの中のモニターで試合を見ていた。
裕ちゃんがミキと対戦していた。ゲームプレーヤーの裕ちゃんは身体の輪郭だけしか描
かれていない。でも、ハカセさんが言ったように、裕ちゃんの動きが正確に反映されていた。
凄い!ラリーの応酬でどちらもポイントが取れない。裕ちゃん、まるでミキがどこに打つの
か判っているみたいだ。ミキも信じられないくらいのスピードで、球に反応する。
30分以上続いたラリーは時間オーバーで、強制終了。なんでもそれ以上は、システムが
持たないらしいんだ。まだ、試作品だからね。
こうして、今日のゲーム体験は終わった。ハカセさんは裕ちゃんの強さに感激していた。あっ、
おいらの協力にも、もちろん感謝してたよ。今日のデータを元に、完成を目指すんだって。頑
張ってね、ハカセさん。
- 221 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:30
- 夕飯はイタ飯だった。いつもなら、こんなに疲れた日は、焼き肉でパワー充電するんだ
けど、今夜はそんな気分じゃなかったから。あっ、もちろん裕ちゃんと一緒だよ。
帰りのタクシーの中で、ラジオが日本シリーズの結果を伝えていた。
「阪神、負けちゃったね」
「ああ、まあこれでトラは明日まで帰って来んやろな」
裕ちゃんワインを飲み過ぎたのかな?独りで2本空けたからな。なんだか少しだるそう
な様子だった。すっかり暗くなった外を眺めながら、おいらは月を探した。だけど見つか
らなかった。
視線を裕ちゃんに戻した時、一瞬、彼女が儚げに見えた。その姿はおいらが知っている
歌い手さんとイメージが重なった。あれ、何でだろう?そう言えばおいら、彼女の事、裕
ちゃんに話した事なかったな。
- 222 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:30
- 「ねえ、裕ちゃん」
おいらは思い切って聞いてみた。
「沙也加って知ってる?」
「さやか!?」
物憂げな表情の裕ちゃんの眼に光が宿った。
「あっ、もしかしたら沙耶香かも、いや違うかな、良く知らないんだ、おいら」
「その『さやか』がどうしたんや?」
「うん。アコギ弾きながら歌う人なんだけど」
「知らんな〜、悪いけど」
「そっか、裕ちゃんなら顔が広いから知ってるんじゃないかって思ったんだ」
「いくらウチでも知らんことあるで〜」
「そうだよね」
「で、その娘がどうしたん?」
「ううん、いいんだ。大した事じゃないから」
- 223 名前:バーチャル・テニス 投稿日:2003/10/27(月) 03:33
- おいらは話を打ち切った。
うまく言えないんだけど、裕ちゃんの言葉は嘘だ、と思った。裕ちゃんは『さやか』を
知っている。でもなんでそれを隠すんだろう。
おいらはそれを追求しようと思ったけど、止めた。何故かは判らないけど、裕ちゃんが
おいらに言いたくないって事は、きっと理由があるんだ。だから裕ちゃんが教えてくれる
まで、待つことにした。それに今それを聞くと、今までの関係が崩れていく、そんな予感
めいたものがあったから。
タクシーの中で、ラジオの音だけが響いていた。
次の満月はまだまだ先だ。
- 224 名前:token 投稿日:2003/10/27(月) 03:42
- 以上です。時事ネタ入れたので、こんな時間に更新です。(w
ここの板は一話完結なんですが、気がつけば『劇団寺田組』のお話はシリーズ化してたりして。
で、取りあえず今回はひとつのエピソードとして成り立ってるつもりですが、伏線張りまくりのお話でした。
いずれこれが活かせたらいいのですが・・・。
今回の更新分は>>210-223です。
では、また。
- 225 名前:名無子 投稿日:2003/10/28(火) 23:19
- このシリーズ、楽しみにしています。
ここの矢口さんはとても素直でかわいいですね。
- 226 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/08(土) 22:14
- 自分もこのシリーズ好きです。
伏線を活かせる日がやってくることを楽しみにしてます。
- 227 名前:token 投稿日:2003/11/24(月) 21:34
- まずはレスのお礼です。
>225名無子様
ありがとうございます。元気な矢口さんは私も書いていて楽しいんです。
>226名無し読者様
ありがとうございます。でも使おうと思っていた伏線の一つが・・・(涙
「サヤカ」ネタで話を展開しようと思ってたんですけど、あんな事になってしまいまして。
で、このシリーズのお話の展開が少し変わりそうです。
さて、今回はゴロッキーズの二人のお話です。
題して『呼び出し』です。
- 228 名前:呼び出し 投稿日:2003/11/24(月) 21:35
- 始まりは美貴さんからの電話だった。
「お願い、紺ちゃん。助けてッ!」
私は荷物をまとめるとタクシーを拾い、美貴さんのマンションへと駆けつけた。
オートロックを中から開けて貰い、美貴さんの部屋へ直行した。
部屋に入るなり美貴さんが、冗談っぽく抱きついてきた。
「紺ちゃん、来てくれたんだねー!」
抱きしめられて、私はちょっと変な気分だった。気を取り直して私は美貴さんから離れ
ると、彼女に持って来た荷物を渡した。
「はい、これ」
「助かった〜、ありがとぉ〜」
私が持ってきた物は、トイレットペーパーだった。
- 229 名前:呼び出し 投稿日:2003/11/24(月) 21:37
- 「だいたい、どうしてトイレットペーパーが買えないんですか?」
リビングの炬燵に入って、私は美貴さんに尋ねた。
「だって、恥ずかしいじゃん。お店の人に、『あいつ花柄使ってるんだ』とか『ダブルだ
ぜ』とかチェックされてる気がしてさー」
「そんなことあるわけないですよー」
私、紺野あさ美は、独りでトイレットペーパーが買えない、という藤本美貴さんのため
に、代わりにコンビニで買い物をして届けに来たのだった。
美貴さんはまるで男の子みたいなところがある。そもそも娘。のメンバーは性格的に
男キャラが多いのだけど、その中でも美貴さんはトップクラスの男キャラだ。
一言で言うと、がさつ、なのだ。普段の服装には頓着しない。髪の毛もそうだ。よく
寝癖をつけたまま仕事場にやって来る。メークだってすっぴんな事が多い。
- 230 名前:呼び出し 投稿日:2003/11/24(月) 21:38
- あっ、でも決して不潔なわけじゃない。変な言い方だけど、がさつなイメージを演出し
ているんじゃないか、って思えるほどがさつなんだけど、それが相手に不快感を与えない。
もちろん、仮にもアイドルなんだからもう少し女の子らしく身奇麗にしたほうがいい、と
思う人も多いだろうが、美貴さんの場合はキャラと相まって、爽やかにすら感じられる時
がある。まあ、人前で大胆に、鼻をかむのはちょっと閉口するんだけど・・・・・。
「いつもはお母さんが、北海道から送ってくれるんだけど、今回は忘れちゃったみたいでさ〜」
聞きながら私は心の中で、美貴さんのお母様のご苦労を思い、ため息をついていた。
「で、一番近くの紺ちゃんに頼んだってわけ」
美貴さんはニコニコしながら言った。あっ、そんな笑顔で言われると何も言えない気が・・・・・。
屈託のない笑顔を向けられ、私はなんだかドキドキしていた。
- 231 名前:呼び出し 投稿日:2003/11/24(月) 21:39
- 「じゃ〜ん。これな〜んだ?」
美貴さんが得意げに私に見せた物、それは私も良く知っていた。
「鮭とばですね」
「そ。お母さんが送ってくれたの。一緒に食べよッ」
「いいんですか!」
自分でも声のトーンが上がっているのが解った。
「もち。お礼だよ」
「御飯があるといいんですけど」
「このままでも美味しいけどね」
「御飯、炊きましょう!」
私が提案した。
「ええっ!?面倒だよ〜。それに時間掛かるしぃー」
「無問題です。こんなこともあろうかと用意してきました」
私はバッグからカップラーメン位の大きさの容器を取りだした。
- 232 名前:呼び出し 投稿日:2003/11/24(月) 21:40
- 「何、それ?」
「ふふふっ。これを使うと電子レンジで御飯が炊けるんですよー。もち、時間も大幅に短
縮できます」
「嘘っ!スッゴイじゃん」
「私が御飯の用意をしますから、美貴さんはその間に部屋を少し片づけて下さい」
「え〜、メンドイな〜」
「炊きたての御飯、欲しくないんですか?」
かくして役割分担は決まった。私はキッチンで、美貴さんはリビングで、それぞれの作
業を始めた。
15分ぐらいすると、美貴さんの声が聞こえてきた。
「ねえー、まだぁ〜?」
「もうすぐです」
すでにといだお米を入れた容器は電子レンジの中で回っていた。
- 233 名前:呼び出し 投稿日:2003/11/24(月) 21:41
- 3分後。
「まあだぁ〜?」
「あと少しです」
更に、1分後。
「紺ちゃ〜ん」
やや甘えたような声で私の名前を呼ぶ美貴さん。
「今、御飯を蒸らしてますから、もう少し待って下さい」
「え〜、美貴、待てな〜い」
美貴さんはテーブルに並べた茶碗を、箸で軽く叩き始めた。そう、子供が良くやるあの
行動だ。特に男の子が、親に怒られながらも、なぜかする行動だ。
24分37秒で御飯が出来た。リビングに容器ごと御飯を運び込むと、茶碗ドラムは一
段と賑やかになった。
「美貴さん、お行儀悪すぎッ!」
- 234 名前:呼び出し 投稿日:2003/11/24(月) 21:42
- 私が軽く睨むと、美貴さんはシュンとして、神妙な面もちになった。あっ、その仕草、
なんだかカワイイッ!
ようやく二人でお食事が始まった。
「う〜ん、美味しい〜。炊きたて御飯に鮭とば、サイコー」
掻き込むように御飯を食べる美貴さんを見ていると、なんだか嬉しくなってきた。そん
な彼女の食べっぷりを見ながら、私ももぐもぐと口を動かしていた。
「ねえ、まだ御飯ある?」
食べ終わってしばらくして、美貴さんが聞いてきた。
「はい、お代わりですか?」
「うん、そうだけどさー」
そう言いながら美貴さんは、キッチンへ行った。冷蔵庫から何かを取りだして、すぐに
戻ってきた。
- 235 名前:呼び出し 投稿日:2003/11/24(月) 21:44
- 「じゃ〜ん、地元北海道産のバター。これ熱々の御飯に載せるとさ〜」
「はい!醤油と味の素をかけるとこれがまた」
「おっ、通だね〜」
「道産子ですからッ」
2膳目はバター御飯を頂きました。イメージが貧乏っぽいし、食べた後、口の周りがバ
ター臭くなるんだけど、ホントに美味しいんですよ、これ。あっ、でもマーガリンはダメ。
あくまでもバターじゃないと。この味は出せません。完璧です!
「紺ちゃんさー、いいお嫁さんになるよー」
食後に洗い物をしている私に向かって、唐突に美貴さんが声を掛けた。美貴さんはリビ
ングでお茶を飲んでいた。洗い物は面倒でもすぐにした方が後で楽が出来る。だから私は
美貴さんにお茶をいれるとすぐにキッチンに入った。
- 236 名前:呼び出し 投稿日:2003/11/24(月) 21:47
- そんな私をリビングからぼんやり眺めながら、美貴さんが言ったのだった。あれ、なん
だか頬が火照ってきた様な・・・・・。なんでだろう。そうか、きっと物を食べたから、体温が
上昇してきたんだ。うん、そうだ。
「ねえ、今度また一緒に御飯食べよッ」
帰り際、美貴さんが私に言った。
「はい!!」
「うん、いい返事だね。そんなに鮭とば美味しかった?」
違います。何故か解らないけど、美貴さんと一緒に食べると、御飯が3割り増しぐらい
に美味しくなるんです。
本当はこう言いたかったけど、私はただ黙って頷いただけだった。
私と美貴さんとの距離が少し縮まった出来事だった。
完
- 237 名前:token 投稿日:2003/11/24(月) 21:51
- 以上です。
気がつけば、前回の更新から一ヶ月近く経っています。
月日の経つのは早いですね。(w
今回の更新分は >>228-236 です。
では、また。
- 238 名前:sai 投稿日:2003/11/25(火) 09:04
- この二人ですか〜。いいですよねぇ。自分の中でも
ふたりの関係ってこんな感じだったり(w
- 239 名前:ss.com 投稿日:2003/12/01(月) 03:47
- そういえば、紺野さんは先週の(?)ハロモニでこの話をしてたし、
以前、ゴロッキーズでは、『カッコカワイイ人になりたいっていってましたよね』
発言もあって、ナニゲにミキティの周辺をチェックしてる様な気がしますね。
- 240 名前:token 投稿日:2003/12/07(日) 00:00
- まずはレスのお礼です。
>sai様
ありがとうございます。
カントリーでも一緒の二人ですからね〜。
仲が良いと思いますよ、実際のとこも。
>ss.com様
ありがとうございます。
紺野さんが「出来ないからやりたいんです」と司会に挑戦したい発言をしたのは、
同じ日のハロモニでしたでしょうか?きっと紺野さんは藤本さんの様に歌が上手く
なりたくて観察しているんじゃないでしょうか?
さて、今回は、またもや劇団『寺田組』シリーズです。でも、矢口さんは出てきません。(涙
題して、保田圭さん、お誕生日おめでとうございます記念 『ケメ子でラジオ』です。
- 241 名前:ケメ子でラジオ 投稿日:2003/12/07(日) 00:02
- 深夜二時過ぎ、劇団『寺田組』の中澤裕子は、自室で一人ノートパソコンを打っていた。
劇団創設以来のメンバーであるベテランの彼女は、最近は脚本の方も手がけるようになっ
ていた。共同脚本という形ではあったが、既に二本を上演して好評を博していた。今は次
回作のプロットを執筆中だった。
部屋は照明が絞られていた。缶ビールを飲みながら中澤は作業を続けていた。レトロ調
のラジオから威勢のいい声が聞こえていた。
『んじゃーここで一曲。ゴマッキーの新曲、『現職ギャル』。何ですって?あたしはOGだろっ
て?フン、失礼しちゃうわね。あたしだってそれなりのカッコウすれば、ギャルよギャル。ちょっ
と今、オエーっつうた奴、廊下に立ってなさい。コラ、ブースの向こうのスタッフ!何であん
た達もやるのよ。とにかく曲よ。キリキリ行くわよ!!』
- 242 名前:ケメ子でラジオ 投稿日:2003/12/07(日) 00:03
- ノリのいいイントロが流れ始めた。突然中澤の携帯が鳴った。
『もしもし、裕ちゃん、今平気?』
ラジオと同じ声が聞こえてきた。だが、口調はまるで違った落ち着いたものだった。
「おう、圭坊。生放送中とちゃうんか?」
『うん、この曲とそのあとCM入るから、しばらく大丈夫』
「頑張ってるなー、あんた」
『裕ちゃんのおかげだよ。いろいろアドバイスしてくれたから』
「そんなことないで。岩に何言っても動き出さんやろ。アドバイスを実行できるのは、そ
れなりの力があるからや」
『うん、ありがと。口べたな私だけど、ラジオのパーソナリティーやれて楽しいよ』
「ケメ子、凄い人気やん」
『うん、三ヶ月の予定だったけど、延長されたし、来年の改変期も乗り切れそうなんだー』
- 243 名前:ケメ子でラジオ 投稿日:2003/12/07(日) 00:04
- 「良かったなー。ところで、用件はなんやの?」
『うん、実は・・・。CM明けの次のコーナーで読むハガキの事なんだけど・・・』
「うん?」
『あのね裕ちゃん、サヤカ、覚えてる?』
「ああ、忘れるわけないやろ」
『で、サヤカがね・・・、あっ、もう行かなきゃ。じゃ、放送聞いてててね』
そう言い残すと携帯が切られた。
CMが終わり、再びハイテンションな声が聞こえてきた。
『お〜い、受験生起きてるかー!!今寝てる奴!あたしが夢枕に立ってやるぞ。それも
一週間。いいのか、おい。』
- 244 名前:ケメ子でラジオ 投稿日:2003/12/07(日) 00:07
- 『さて次は、二時台の名物コーナー。ニッポン不思議紹介!え〜、このコーナーはリスナー
からのお便りを元に、身近な不思議を紹介します。ってそのまんまじゃん!こら、作家の
村田さんもっと書きようがあるでしょうに。えっ、何、斉藤ちゃん、時間押してるって。ハイ
ハイ、じゃいきますか』
『え〜、北海道はペンネーム、ケメ子だ〜い好き、さんからのハガキです。
「おいっす、ケメ子。お晩です」
誰がオバンじゃ!
「え〜、半月ほど前の話なんだけど、俺、不思議な体験をしました」
「今年は全国で農作物泥棒が流行りましたよね。米とか柿とか林檎とかを大量に盗んで
いく奴等です」
そうねー、まったくふざけた奴等よねー。月に代わって折檻よ!
- 245 名前:ケメ子でラジオ 投稿日:2003/12/07(日) 00:08
- 「で、俺の家も農家で、トウモロコシなんか作ってます。そんなんでその夜、親から畑の
見回りをして来いって言われました。畑は家から少し離れてるので、面倒くせーなーって
思いつつも原チャリで行きました。で、見たんです」
「ハーフムーンだったけど、月が奇麗な晩でした。ざっと見て異常なしって事で、ソッコー
帰ろうとしたら、どこからか歌声が聞こえてきたんです」
「歌声に導かれて言ってみると、ジージャン着た小柄な女の人が、ギターを弾きながら歌っ
てたんだ。それもトウモロコシ畑の中で!」
「最初は、あんた人んちの畑で何やってんだ!って言おうと思ったんだけど、言えなかった。
だって音楽に聴き惚れちゃったから」
「俺、音楽はモーニングムーン娘。とかゴマッキーとかしか聞かないから、よく知らないん
だけど、あれ、聞いたことがない曲なんだ。何だかもの悲しい曲調でさー。それに歌詞も・・・。
英語じゃないのは確実なんだけど、フランス語とかとも違うんだ」
- 246 名前:ケメ子でラジオ 投稿日:2003/12/07(日) 00:10
- 「でも、聞いてるうちに切なくなってきてさー。唐突だけど小学生の頃飼ってた犬の事を
思い出したんだ。最期は車に跳ねられて死んじゃったんだけど・・・・・」
「で、その女の人が歌い終わったら俺の方を見て、にっこり笑ったんだ。奇麗な人だった。
だけど俺、ぞっとした。だって生きた人間に見えなかったから」
「彼女はそのまま畑を出て行った。その際、一本だけトウモロコシをもいでいったんだ。
俺、何も言えなくて、そのままそこで固まってた」
「5分ぐらいして彼女を追っかけたんだけど、見つからなかった。道路は一本道で直線
だから見失うはずないし、エンジン音も聞こえなかったから車やバイクの筈もない。ど
こか畑の中に潜ったのかなって思ったけど、そんな気配もなかった。ねえ、ケメ子どう思う、これ?」
- 247 名前:ケメ子でラジオ 投稿日:2003/12/07(日) 00:11
- ふ〜ん、へんな話ね。判った!きっとその女の子は幽霊で、トウモロコシに未練があっ
てそれで、きゃっ!!何、ちょっと何よ〜!!止めてよ。こんな時に〜。
え〜、今スタジオの明かりがいきなり消されました。ちょっと、酷いじゃない。あたしは
心臓が弱いのよ。そこ、何笑ってんの。もー、あったま来たわ。はーい、スタッフの皆さー
ん、今日はこの後反省会やりまーす。とりあえず朝まで居酒屋よ。いいわね!
あっゴメンナサイね。悪戯好きのスタッフにも困ったモンです。で、その女の子、謎ね。
う〜ん、そうねー、まー世の中いろいろあるって事で。いいのかそれで。じゃあ、ケメ子
だ〜い好き、さんにはケメ子のサイン入り生写真送るから、魔除けにでも使ってちょうだいな。
では、CMで〜す』
- 248 名前:ケメ子でラジオ 投稿日:2003/12/07(日) 00:14
- 中澤の携帯にメールが届いた。
『どう、これサヤカじゃないかしら。
あの娘、結局帰れなかったのかしら?
裕ちゃんどう思う?』
しばらく考える素振りを見せた中澤だが、やがて携帯でメールを打ち始めた。
『圭坊の言うようにサヤカかもしれん。
けど、三年前には確かに向こうに帰れた筈や。
ひょっとしてまたこっちに来たのかもしれんけどな。
まあ、心配するほどのこっちゃないで』
メールを返信すると、中澤は新しい缶ビールを開けて、一息に飲み干した。
「やれやれ、また厄介なことになりそうやな」
間もなく午前三時。ラジオからは相変わらず、明るいケメ子の声が聞こえていた。
- 249 名前:token 投稿日:2003/12/07(日) 00:20
- 以上です。
日付を跨いでしまいましたが、保田さん23歳になりました。
おめでとうございます。
ラジオのパーソナリティーネタは、以前ハロプロ特番で、
中澤さんと保田さんが出た時に思いつきました。
ちなみにスタッフはメロンの方々のお名前を拝借しました。
え〜今回でサヤカネタは少し軌道修正しました。この先は
書いたり書かなかったりです。(w
では、また。
- 250 名前:sai 投稿日:2003/12/08(月) 12:14
- 保田さんのラジオ聞きてぇ〜(w 謎のサヤカしりーず
も楽しみにしてます。
- 251 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:09
- おヒサです。
まずは、お話を上げます。
題して『握手会前夜』です。
- 252 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:10
- 「あれ!?」
そうか、おいら眠っちゃってたみたいだ。
でも目を開けたのに部屋が薄暗い。ここどこだっけ?そうか!ロッカーの中だった。
おいらは矢口真里。言わずとしれたモーニング娘。のサブリーダー。役どころはまあ、
特攻隊長ってとこかな?
バラエティー番組に娘。で出演する時は、まずおいらがトークの口火を切ったり、おと
なしめのメンバー達が目立てるように話を振ったりするんだ。
ラジオだってピンでレギュラー持ってるし、他にもいろいろ忙しい。
特にさくら組では、卒業したなっちの穴を埋めるのが大変なんだ!あと、ユニットのキッズ
のお守りもあるし・・・・・。
- 253 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:11
- そんなこんなで疲れた時、おいらは独りでロッカーの中に潜り込むんだ。暗くて狭い所
に独りでいると、何だか落ち着くんだよ。特にここのロッカーは小さめでおいらのお気に
入り!身長的には辻・加護でも入れるかもしれないけど、あいつらはじっとしているのが
苦手みたいだから、まずこんな所には入ってこない。
だからここはおいら専用の秘密の休憩所なんだ。
さあて、そろそろ出ようかな、そう思った時、誰かが入ってくる気配がした。
別に悪いことしているわけじゃないから、このまま出ていっても全然、無問題なんだけど、
そこはほら、狭いロッカーから出て行くのはちょっとカッコ悪いだろ。それにできればここの
事は秘密にしておきたいから、こんな時はいつも、人がいなくなるまで待つことにしてるんだ。
- 254 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:12
- 違うぜ!別に盗み聞きが趣味なわけじゃないからな〜。信じてくれよぉー。
で、誰が入ってきたかと言うと、どうやら圭織と紺野らしい。ロッカーの隙間から覗い
てみると、なんだか圭織怒ってるみたいだ。圭織のお説教タ〜イムか?なんだか面白
そうだぞ!ワクワク。(オイッ!)
「何でしょうか?お話って?」
緊張した面もちで紺野が尋ねた。
「そうね、とりあえず座って」
紺野と圭織はパイプ椅子に腰掛け向かい合った。
圭織は腕組みをして目を閉じた。数分間の沈黙が訪れた。
- 255 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:13
- 「あの〜」
沈黙に耐えきれず、不安げに紺野が声を掛けた。
「どうしてあんな事をしたの?」
静かに目を開いた圭織が紺野に尋ねた。怒りを含んでいるわけではないが、かと言って
優しい問いかけでもなかった。
「あ、あんな事って、なんですか?」
言葉とは裏腹に紺野には心当たりがあるようだ。動揺しているのがバレバレだった。
「とぼけるんじゃないよ!なっちは卒業した。今の娘。の中でカオに逆らえる奴はもうい
ないんだ。そこんとこ解ってるのかい?」
- 256 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:14
- な、何だよ圭織のあの威圧的な態度。あいつあんな奴だったのか!そりゃ後輩だけど年
上の圭ちゃんも卒業したし、なっちがいなくなってオリメン最後の一人になったけど、そん
な言い方ってないだろう!圭織ってあんなヤナ奴だったのか?タンポポで一緒に苦労した
圭織はどこ行っちゃったんだよ〜!信じられないよ。おいら夢でも見てるんじゃないかな?
そう思ったおいらは自分のほっぺを抓った。痛ッ!
- 257 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:15
- 「・・・・・」
紺野は黙って下を向いたままだった。身体が小刻みに震えていた。
そんな紺野を圭織は見下ろしていた。
「紺野ッ!顔をあげな!あたしを、あたしの目を見るんだ」
紺野は顔を上げた。目は潤み、今にも泣き出しそうだった。
「だって、だって・・・」
「ん?」
「飯田さんが、飯田さんの事が・・・」
しゃくり上げた紺野が泣き声で答えた。
「し、心配だったんです」
紺野は両手で顔を覆って本格的に泣き出した。
静かな部屋の中で、紺野の泣き声だけが響いていた。
- 258 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:16
- やがて圭織がゆっくりと紺野に近づき、長い腕で紺野を抱え込んだ。
泣きじゃくる紺野を優しく抱きしめながら、圭織が何か紺野に囁いていた。紺野もそれ
に泣きながら答えていた。でも、ここからだと何を言ってるのか良く聞き取れないや。
どれくらい時間が経っただろう?ようやく紺野は泣きやんだ。
圭織の雰囲気も穏やかなものに変わっていた。良かったー。事情は分からないけど
平和的解決ってやつかあ〜。
それから紺野は部屋を出て行き、後には圭織が独り残った。
「矢口、もう出てきてもいいよ」
不意に呼び掛けられておいらはドキッとした。
嘘っ!バレてたの!?
おいらはごそごそとロッカーから出て行った。
- 259 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:17
- 圭織は穏やかな顔で座っていた。
「何で分かったんだよ」
「だってカオは交信できるモン」
そう言うと圭織はにっこりと笑った。
絶対冗談だと思う。だけど圭織ならひょっとして・・・・・。
「さっきね、小さいけど音がしたの。で、ここの小さなロッカーに入れる人って言ったら、
矢口しかいないっしょ」
そっかー。ほっぺを抓った時、肘がロッカーの内側に当たったんだな。な〜んだ。
- 260 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:18
- 「ねえ、何があったの?」
「あれ、最初から聞いてたんでしょ?」
「うん、だけど終わりの方は良く聞こえなかったし、第一あれだけじゃ、イマイチ事情が
飲み込めないよ」
「そうね、矢口にも教えといた方がいいわね。これよ」
そう言うと圭織は一枚の紙をおいらに渡した。
「何、これ?」
「数日前に事務所に届いたメールのプリントアウト」
おいらは紙面に目を通した。
- 261 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:18
- 警告!!
飯田圭織の握手会を中止しろ!
さもなくば会場に爆弾を仕掛ける!!
- 262 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:19
- 「なっ、何だよ。こんなメールが来てたの!?おいら知らなかったよ!」
たまに来るんだよなー。変な郵便物やメールが。まあ、ほとんどがイタズラだけどさ。
「当然だよ。だってカオが頼んで内緒にして貰ったんだから。事務所でもこのことを知っ
てるのはごく一部だし」
「なあ、これを紺野が出したって言うの?」
「うん」
平然とした態度で圭織が答えた。
「冗談にしてもやりすぎだよな」
「あの娘(こ)はね、紺野はこんな冗談しないよ」
「だったら何で?」
- 263 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:21
- 「紺野さ、なっちの卒業ライブを風邪で欠席したじゃん」
おいらの問いかけに直接答えずに、圭織が話し始めた。
「今、インフルエンザも流行ってるし、SARSだっけ?もっと怖い奴もあるっしょ。だか
ら握手会でカオがそんなのに感染したら・・・って紺野は思ったらしいんだ」
そうだよな。べつにファンやヲタの人達がキモイって訳じゃないけど、それこそ一回に
千人以上と握手するんだから、時期的に風邪ぐらいひいている人がいてもおかしくないか。
風邪の予防にはうがいと手洗いが有効って言うから、逆に言えば大勢と握手をするとそれ
だけ風邪をひきやすいってことだよね。
「でもさー、いくら何でも短絡的過ぎない?」
「紺野がこのメールを出したのは、熱でまだ頭がぼーっとしている時だったんだよ。」
「ふ〜ん。あっ、でもさ。どうして犯人が紺野だって分かったの?ひょっとしてメールの
送信記録を調べたとか?」
- 264 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:22
- 「ううん。カオそんなことしなかったよ。第一やり方知らないし」
「じゃあ・・・」
「紺野の様子がね、風邪が治って復帰してからずっとおかしかったんだ」
「そう言われれば」
おいらも気づいてたけど、病み上がりで本調子じゃないせいだと思ってた!
「頭がまともに働くようになって、自分のしたことを後悔していたんだ。だけど言い出せ
なくて、独りで悩んでたんだよ」
「圭織、そんなことまで気づいてたのか!?」
「当然だよ。だってカオはリーダーなんだモン」
おどけた様子で得意顔の圭織。年下のおいらが言うのも変だけど、なんかカワイイ!
- 265 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:23
- 「矢口、分かってると思うけど、このことは内緒だよ」
「大丈夫!話すのはミキティとソニンとよっすぃーと石川と・・・」
無言で圭織はおいらを小突いた。
いった〜い。冗談なのに〜。(涙)
おいら思うんだ。こんなうちらのリーダーは最高っ!てね。
握手会、きっと成功するよね。うん。
- 266 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:25
- 『握手会前夜』
完
今回の更新分は、>252−265 です。
- 267 名前:token 投稿日:2004/02/16(月) 05:32
- 以上です。
レスのお礼です。超亀レスですが・・・。(w
>250sai様
ありがとうございます。
予定が大幅に遅れてますが、サヤカネタは近いウチに書こうと思ってます。
12月から事情があって、情報から隔離(!?)されてました。
なんせ、辻・加護の卒業を知ったのが梨華ちゃんの誕生日でした。
おそらく飼育で書いてる者のうちで、一番最後にこのことを知った奴だと思います。(w
では、また。
- 268 名前:silence 投稿日:2004/02/19(木) 23:53
- 復活おまちしてました。今回のもすげーよかったです。
また楽しみにしています
- 269 名前:token 投稿日:2004/05/07(金) 23:11
- え〜、ご無沙汰しております。(w
さて今回は
『アニメ声で歌え、○○○』です。
○○○は伏せ字です。理由はすぐにわかります。(w
では、また後ほど。
- 270 名前:アニメ声で歌え、○○○ 投稿日:2004/05/07(金) 23:12
- 控え室には、私とひとみちゃんの二人だけが残された。
さっきまで一緒にいたマネージャーさんは、会場の警備係に
呼ばれて部屋を出ていってしまったから。
「緊張するね」
ひとみちゃんに声を掛けた。
「そう?あたしは平気だけど」
そんな事言ってるけど、ひとみちゃんが緊張しぃなのは、私が
良く知っている。
「上手く歌えるかなあ?」
「コンサやテレビの生でやってるじゃん。あれと同じだよ」
「でも・・・、今日は二人だけだよ」
そう、娘。のメンバーになってからずいぶん経つけど、ひとみちゃん
と二人だけで歌うなんて、今まで一度も無かった。
- 271 名前:アニメ声で歌え、○○○ 投稿日:2004/05/07(金) 23:14
- その時、私の携帯が鳴った。
『おーい、緊張して泣いてないかぁー?』
テンション高いこの声。矢口さんだ!
「そんなわけないですよー」
そう言いながら、私は少し緊張がほぐれてきたのを感じてい
た。ありがとうございます、矢口さん。私は心の中で感謝した。
『しかし、狡いな、お前ら』
「えっ、どうしてです」
『おいらだって歌いたかったぜーい』
だって今度ばかりはしょうがないじゃないですか。そう言おうとしたら、
「矢口さぁ〜ん」
電話の相手が誰だか気づいたひとみちゃんが、私の携帯を奪い、叫んだ。
- 272 名前:アニメ声で歌え、○○○ 投稿日:2004/05/07(金) 23:15
- 『おおっ、よっすぃー大丈夫か?』
「はい、ありがとうございます。吉澤、頑張ります!!」
しばらく二人で楽しそうに話していた。ねえ、ひとみちゃん。
それ私の携帯だって判ってる?
すると今度はひとみちゃんの携帯が鳴った。メールが届い
たようだ。
矢口さんとの会話が終わったひとみちゃんは、私の携帯を
無造作に投げて返すと、自分の携帯をいじり始めた。
「ねえ、誰から?」
気になった私はひとみちゃんに聞いた。
「美貴ちゃんから。テレビで見てるから頑張れってさ」
そう今回私たちの歌は、全国ネットで生中継されるんだ!!
ああ、また緊張してきたよぉ〜。ああ、どうしよう?
- 273 名前:アニメ声で歌え、○○○ 投稿日:2004/05/07(金) 23:16
- 「吉澤さん、石川さん、そろそろ移動お願いします」
会場の係りの人が告げに来た。
日が暮れてからの会場は少し肌寒かった。でも、いつものコ
ンサの衣装と違って、お腹を出していないから、我慢できない
ほどじゃない。
ひとみちゃんは白のタキシードだった。
私もそれに合わせたドレス姿。
観客席は3万人近い人で埋まっていた。その上まだ入場者が
増え続けているようだ。
こんなに観客が来たのは初めてですよ、と主催者側の人が
感激していた。
- 274 名前:アニメ声で歌え、○○○ 投稿日:2004/05/07(金) 23:18
- 場内アナウンスが響いた。
『試合に先立ち両国の国歌斉唱を行います。皆様、ご起立下さい』
観客席の人達が続々と立ち上がった。
そして、競技場では正面スタンド前に置かれたマイクで、男の人
が独りでが北朝鮮の国歌を歌い始めた。
そもそも今回、こんな事になったのは、日本サッカー協会が、
女子チームの応援に力を入れ始めたからだ。
男子と比べ知名度の低い女子を目立たせるため、私たちハロ
プロはドロアー(組み合わせの抽選籤を引く人ね)を勤めたり、
女子代表の合宿所へ応援に駆けつけたりもした。もちろんこの
シーンをテレビやスポーツ紙に取り上げてもらって、女子サッカー
を宣伝するためだ。
- 275 名前:アニメ声で歌え、○○○ 投稿日:2004/05/07(金) 23:20
- 簡単なセレモニーの後、私たちは練習を見学したけど、ホン
トかっこよかった。
ひとみちゃんはすげー、すげーを連発していたし、ごっちん
や柴ちゃんや美貴ちゃんも見とれていた。それは、予定の見
学タイムを大幅にオーバーしたほどだった。
私たちのフットサル参加を人気取りだなんて言う人達もいた。
でも私たちは真剣だった。特にひとみちゃんなんて、体力づくり
にジョギングをやっていた。
もっともそこまでひとみちゃんがやるのを、事務所の人達は
あまりいい顔をしなかった。写真週刊誌やちょっと逝っちゃってる
ファンの人達にまとわりつかれるからって。でもひとみちゃんは続けていた。
- 276 名前:アニメ声で歌え、○○○ 投稿日:2004/05/07(金) 23:21
- 私だって元テニス部だし、負けず嫌いだから。さすがにジョ
ギングは何かあったら怖いからしてないけど、体力づくりは
欠かしていない。
予選の応援にはスケジュールさえ合えば是非、と事務所の
担当者も言っていた。私だって子供じゃないから、それがマス
コミ向けのリップサービスだと思っていた。
でも、ひとみちゃんはその言葉を本気で信じていた。ベトナム
戦とタイ戦には行けなかった。そこでひとみちゃんはマネージャー
さんに頼んだり、つんくさんにもメールや電話で何度も交渉したそうだ。
で、今回、サッカー女子五輪最終予選の準決勝で私とひとみ
ちゃんが、君が代を歌うことが、急遽決まった。今日勝てば、
アテネ行きが決まる!!だけど相手は、日本がここ何年も負け
続けている北朝鮮!!!
- 277 名前:アニメ声で歌え、君が代 投稿日:2004/05/07(金) 23:24
- 『それではご紹介します。近頃フットサルの公式戦にデビュー
した、モーニング娘。の石川梨華さんと吉澤ひとみさんです!』
いつものコンサなら、私たちの名前が紹介されただけで、お
客さん達が大いに盛り上がってくれる。それこそ大の大人が、
と思うくらいに。だけど今日は・・・。
今日のことは事前に発表されなかった。直前に決まったせい
もあったけど、変な人達がスタンドで騒がないようにと、秘密に
してあったのだ。どうやら、フットサルの公式戦でのことで、
サッカー協会の人が警戒したらしい。
アウエーでの試合とはこんな感じなのだろうか。私たち目当ての
お客さんは皆無だった。私は観客席のサポーター達の、何で?
と言う心の声を肌で感じていた。
- 278 名前:アニメ声で歌え、君が代 投稿日:2004/05/07(金) 23:25
- 笑顔を見せていたけど、身体が小刻みに震えだすのが判った。
その時、私の左手を誰かが優しく握りしめてくれた。
「(落ち着いて)」
掌を通してひとみちゃんの気持ちが伝わってきた。私は小さく頷いた。
一本のスタンドマイクの前に二人で並んだ。
「君がぁ世ぉーうぉーはぁー」
ダメ、音を外した。恥ずかしいよぉ。
君が代と言う曲は、正確に音を取るのが結構難しい。緊張気味の私には特に。
ひとみちゃんが私の手を握る力が少し強くなった。
- 279 名前:アニメ声で歌え、君が代 投稿日:2004/05/07(金) 23:26
- 「「「「「「「「「「ちよにぃい、やぁーちよにぃ」」」」」」」」」」
日本のサポーター達が、合唱を始めた。
何とか私は最後まで歌いきった。娘。になってから今までで
一番緊張した一曲だった。
観覧席に着くとメールが届いた。柴ちゃんだ!
『お疲れ。あとはよっすぃーとデートだね!(w』
デート!?そっかー、ひとみちゃんとサッカー観戦デートだ!
今夜は二人並んでても人目を気にしなくていいんだ!
そして、試合が始まった。もちろん私とひとみちゃんも精一杯応援した。
- 280 名前:アニメ声で歌え、君が代 投稿日:2004/05/07(金) 23:28
- 結果は日本が相手ゴールを三度揺らし、3−0で勝った!
目の前でアテネ行きが決まり、なんだか胸にジーンと来た。
ひとみちゃんも大騒ぎ。サッカー観戦デート(!?)も出来て、
結果オーライ!!
ねえ、ひとみちゃん。またこんなお仕事、あるといいねっ!
『アニメ声で歌え、君が代』
完
- 281 名前:token 投稿日:2004/05/07(金) 23:32
-
>silence様
>復活おまちしてました。
ありがとうございます。でもまた、すぐに沈んでたりしてw
前回の更新から3ヶ月近く経ってたんですねー(しみじみ)
- 282 名前:token 投稿日:2004/05/07(金) 23:34
- 正直、日本のサッカーってあまり好きではないんですが、吉澤さんの応援しています
の言葉に、私も女子サッカー観に行きました。(w
ベトナム戦、タイ戦、そして北朝鮮戦!前の二つは席に余裕があったけど、準決勝は
3万人以上も観客が入ったそうです。
目の前でアテネ行きが決まり、感激しました!3点目を入れたのが大谷選手なのですが、
私の脳内では、もちろんマサオの顔が(w
実際の君が代はサムシングエルスが歌いましたね。観客席からあれを観たときに、
いしよしで君が代を聴きたい!と思いました。
もちろん題名は某純文学小説のもじりです。途中まで伏せ字だったのは、ネタバレ防止のためです。
- 283 名前:token 投稿日:2004/05/07(金) 23:41
- で、お約束の一言です。
紺野あさ美ちゃん、お誕生日おめでとうございます!!
いや〜、何とか間に合いました。
あと、ちょっと宣伝です。
え〜と、金板で連載していた「蚊喰鳥劇場」が今週やっと完結しました。
内容はアクションものというか、暴力的シーンが多いんですが、
お暇でしたら、読んでやって下さい。
では、また、出来るだけ近い内に(爆
- 284 名前:駄々っ子!? 投稿日:2004/06/17(木) 23:31
- 「嫌やっ!!絶対に嫌っ!!」
その時加護亜依は、楽屋で駄々を捏ねていた。
「のの、あいぼんどうした?」
安倍なつみが尋ねた。彼女は、ドラマの収録で少し長い空き時間が出来たので、同じ局
内でバラエティーの収録をしている、辻・加護の所に遊びに来たのだ。
「へい、ウェディングドレスを着るのを嫌がってるんれす」
「?」
Wが出演する番組の企画として、辻と加護の結婚式が計画されていた。だが、
「あいぼんは自分の本当の結婚式以外では、ウェディングドレスを着たくない、って言うんれす」
「あれ!?でも確か他局のドラマで、ドレス着なかったっけ?」
「あの時はカメラに移らない部分は、普通の服やったんや」
- 285 名前:駄々っ子!? 投稿日:2004/06/17(木) 23:32
- 「そっかー・・・」
なつみは考え込んだ。
「女の子にとって、ウェディングドレスは大切な夢なんや。軽々しく着るモンやないわ」
「あいぼん、のののこと本当は嫌いなんれすね」
「そんな事言うてないやん」
「らって、らって」
辻は今にも泣き出しそうだった。
「な〜んだ、それならいい方法があるよ」
「ホントれすか!?」
「あのね・・・・」
なっちは辻と加護の耳に何か囁いた。
- 286 名前:駄々っ子!? 投稿日:2004/06/17(木) 23:33
- 「おい、お前ら、また迷惑かけてるんだって」
やけにテンションの高い矢口真里がやって来た。
「あれ、矢口なんでここに?」
「マネージャーさんに頼まれたんだよ、ってなっちこそ何してんだよ〜」
「うん、暇だから遊びに来た」
「知ってるかぁ?精神年齢が同じくらいのやつらが一緒に遊びたがるんだってさ」
「あはははは」
「で、辻・加護は?」
まじめな顔で矢口が尋ねた。
「うん、今着替えてるトコ」
「なっちが説得してくれたのか?」
「まあ〜ね〜」
おどけた様子でなっちが言った。
- 287 名前:駄々っ子!? 投稿日:2004/06/17(木) 23:34
- 「なんか嘘くせーなぁ〜」
「「お待たせしましたぁ〜!」」
聞きなれた二人の声がした。
「辻ぃ、加護ぉ・・・」
ドレスアップして出てきた二人を見て矢口は驚きの声を上げた。
「うん、うん。すごく可愛いよ、のの」
「へへへ、そうれすか?」
純白のドレスを着た辻が照れた。そしてその隣には、タキシードに身を包んだ加護が立っていた。
「あいぼんも男前だね」
「でへへへへ」
さっきまでとは打って変わった、極上の笑顔だった。
- 288 名前:駄々っ子!? 投稿日:2004/06/17(木) 23:36
- 「簡単な事だったのよ。あいぼんがドレスを着たくないって言うんなら、ののが着れば
良かったのよね」
Wの収録をスタジオの隅で見ながら、なつみが矢口に言った。
「あー、おいらも着てみたくなったな〜」
「タキシードを?」
「違うよっ!」
「幸せにしたるでぇ〜のの」
「へい、なのれす」
と、言う事情で、あいぼんが男装したのでした。
おしまい。
- 289 名前:token 投稿日:2004/06/17(木) 23:39
- 以上です。
本当はこのネタはもっと早く書こうと思ったんですが、また大分時間が経ってしまいました。
え〜、実はですね、『アリ○ナの魔法』見てません!予告編をチラッと見ただけです。Wの
二人が出た週は、別のことで頭一杯だったもんで(w
『U&Uデュオ』良いです。現時点でのハロプロ最強ユニットかもしれませんね。
- 290 名前:token 投稿日:2004/06/17(木) 23:39
- で、最後に一言。
辻希美様、お誕生日おめでとうございます!!
では、また。
- 291 名前:token 投稿日:2004/06/17(木) 23:40
- スレ流し(w
- 292 名前:token 投稿日:2004/08/16(月) 21:58
- ログ整理が前倒しになると知って慌てて書いてます。
今月中に推理物の中篇を書くつもりです。
仮題『豪華客船クルージング殺人事件』です。
登場予定人物は娘。+αです。
と、言うわけでもう少し時間を下さい。
以上、生存報告を兼ねた予告でした。
- 293 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 23:03
- うわー、推理物大好きだから楽しみでーす。
頑張って下さい。
- 294 名前:token 投稿日:2004/08/31(火) 22:40
- token presents
12人のモーニング娘。
in
『豪華客船クルージング殺人!?事件!!』
- 295 名前:対決! 投稿日:2004/08/31(火) 22:43
- アタシは手すりに捕まりながら、独りで穏やかな海を眺めていた。
上の方に目をやると、青い空の所々に雲が浮かんでいた。
この辺りは今頃でも日差しが強く暖かい。まだ充分に泳げそうだ。
船は間もなく目的地に着くだろう。数日間のとんでもない船旅が終わろうとしていた。
テレビの2時間ドラマでは、何故だか犯人は断崖絶壁の上で罪を告白するシーンが多い。
別にそれを真似たわけではないが、アタシは最後の対決の場所に、見晴らしの良い、この
パノラマ・デッキを選んだ。
それにしても、一体何人の犠牲者が出ただろう?心の中で一人一人の顔を思い浮かべて
みた。短い間だったけど、あなた達のことは忘れられません。
生き残った他のメンバーの前で犯人暴きをしなかったのは、これ以上犠牲者を出したくない
から。だってもし相手が最後の足掻きで暴れ出したら・・・。ううん、そうじゃない。本音は自首して
欲しかったから。だってその人物は・・・・・。とにかくこれからここにやって来るであろう人物が、
素直に己の罪を悔いてくれれば良いのだけど。
- 296 名前:対決! 投稿日:2004/08/31(火) 22:45
- 人の気配がした。アタシはゆっくりと振り返った。
そこにはアタシが想像していた通りの人物が独りで立っていた。
「やっぱりあなただったんですね?」
「何の事?」
その人物は、無表情だが落ち着いた声で尋ね返した。
アタシはゆっくりと呼吸を整えて言った。
「この船の上で起こった一連の事件の犯人です」
アタシの指摘にもその人物は表情を変えなかった。アタシは言葉を続けた。
「アタシは残ったメンバー全員の部屋へ、簡単な”なぞなぞ”を書いた同じ内容のメモを
入れました。犯人なら簡単に解けるはずです。だから・・・、あなたがここに最初に来た
のが何よりの証拠です」
「何か誤解してるんじゃないの?」
その人物が不自然な笑い顔を浮かべながら言った。
「いいえ」
アタシは確信を持って、アタシの推理を披露し始めた。
- 297 名前:token 投稿日:2004/08/31(火) 22:47
- え〜もの凄く短いですが、なんとか8月から始める事ができました。
タイトルを若干変更しました。もちろん、それなりの意味があります。
>>293 名無飼育さん
ありがとうございます。お好みに合うお話になるかどうか分かりませんが、頑張ります。
次回更新は明日の夜の予定です。
では、また。
- 298 名前:乗船 投稿日:2004/09/01(水) 22:14
- 10月4日月曜日。晴れ。午前10時08分。有明埠頭。
タクシーはほぼ予定通りに目的地に着いた。
アタシは後部座席から降りると軽く伸びをした。
目の前には大きな船が停まっていた。
これからアタシ達が乗り込む新型豪華客船『かるた・へな号』だ。
「どう、大っきいでしょう?」
マネージャーさんが荷物を降ろしながら声を掛けてきた。
「わっ、ごめんなさい」
船に見とれていたアタシは慌てて自分の荷物を手に持った。
「いいわよ、まだ今の内はね」
ニコニコしながらマネージャーさんが言った。
- 299 名前:乗船 投稿日:2004/09/01(水) 22:15
- 自己紹介するね。実はアタシ、モーニング娘。の7期メンバー内定者なんだ。
えっ、信じられない?そう、今の状況に一番驚いているのは、実は他ならぬアタシ。
そもそもアタシは、エッグオーデションのフットサル部門に応募したんだ。中二から
女子サッカーやってたし、さすがにハードな筋トレまではしてないけど、身体は女の子
にしたらゴッツイほう。まあ、顔は人並みだと思うけどさぁ、アイドルなんてとても無理。
そう思ってたんだけど、どういうわけか審査員の人達の前で歌って踊って、その数日
後にはつんくさんと直接面接までしてしまった。
その上、正式な発表はまだ先なんだけど、今回の増員はなんとアタシだけ!
ねえ、信じられる?
で、そのせいってわけでもないけど、今回この豪華客船の中で娘。メンバーと初対面
して、そのままテレビ番組の特番収録に入る予定なんだ。つまり初仕事!!緊張するなっ
てのが無理な話よね。お陰で昨夜はあまり眠れなかったもん。
- 300 名前:乗船 投稿日:2004/09/01(水) 22:18
- マネージャーさんと二人でタラップを登り切る。すると目に映ったのは、ここが船の中
だって信じられないくらいな豪華な内装。凄っ!そこにはホテルのロビーがそのまま船
の中にあった。
アタシの服、カジュアル過ぎたかも。な〜んて思っちゃうほど。
そのままフロントへと向かった。でもロビーには誰もいなかった。まあ、当然でしょうけど。
だってこの船はアタシ達の貸し切りだったから。テレビ局ってお金あるんだなー、なんて
思いながら、アタシはキョロキョロしていた。高校生のアタシはもちろんこんなトコ来るのも初めて!
「いらっしゃいませ」
フロント係りの中年の男の人が丁寧に挨拶した。それから言われるままにチェックインを
済ませ、カードキーを受け取った。
姿勢の良い若いイケメンのボーイさんが、アタシとマネージャーさんの荷物を持って部屋に
案内してくれた。
贅沢なことにスイートルームを独りで使うらしい。窓からは海が見える。おまけにベランダ付き!!
こんな事も貸し切りだからこそ出来るんだ。ちなみにマネージャーさんは隣の部屋だ。
- 301 名前:乗船 投稿日:2004/09/01(水) 22:20
- スポーツバッグから当面必要な物を取りだした。たいした量じゃないからあっという間に
終わった。マネージャーさんに言われた時間までまだ間があるので、取りあえずアタシは
甲板に出てみようと思った。
部屋を出て廊下を歩いたけど、誰にも会わなかった。まだ他の人達は来てないのかな?
適当にぶらぶら歩いてようやく甲板に出られた。
うっわー広っ!フットサルが出来そうな広さね。
あれ、あそこにいるのは!?アタシが視線を動かすとその先に誰かがいた。
手すりの近くで港の風景を眺めている女の人。背が高くて細い。奇麗な横顔。
間違いない。アタシは心臓がドキドキしてくるのが判った。
わっ、何て言ったら良いんだろう。あっ、でもみんなと対面するまで顔を会わせるのは
まずいのかな?でも、無視したりするのは失礼だし、どうしよう?
なんてアタシが心の中であれこれ迷っていると、彼女はにっこりしながら、向こうから
挨拶してくれた!!
「初めまして、飯田圭織です。あなたが新メンバーの・・・」
アタシは慌てて名乗って、自己紹介をした。
「じゃあ、ノンちゃんと同じ歳だね」
飯田さんの笑顔は眩しかった。
- 302 名前:token 投稿日:2004/09/01(水) 22:22
- 今夜の更新終了です。
実はストックがまるでありません。(涙)
次回更新は金曜日の予定です。
では、また。
- 303 名前:初対面 投稿日:2004/09/03(金) 22:25
- その後は何を話したのか正直、良く覚えていない。だって、あの飯田さんがだよ、目の
前でアタシに話しかけてくれているんだよ。もう無理。イッパイイッパイ。
だからアタシは、その時背後から忍び寄っていた人の気配にまるで気づかなかった。
そう言うの結構鋭いほうなんだけど・・・。ホントだってばぁ〜。信じてよぉー。
「!?」
風もないのに突然、あたしのスカートがめくれ上がった!それもチラリ、なんてモンじゃ
ない。重力に逆らってスカートが真上に持ち上げられたって感じ!!
「あれ、見せパンじゃないのれす」
「青、やな」
こ、これって、スカートめくり!?
「あんたたち、なにやってんの?」
飯田さんが呆れた様に「犯人達」に言った。
- 304 名前:初対面 投稿日:2004/09/03(金) 22:27
- 「つ、辻さんに・・・加護さん!?」
アタシは自分よりも小柄な二人を見て固まった。
「へい。リーダーの辻希美と」
「サブリーダの加護亜依」
「「二人そろって、ダブル、ユ〜でぇーす」」
アクション付で自己紹介をする二人。見事にハモってる。
「ホント、いい加減にしなさいよ」
飯田さんがやんわりとたしなめた。
「ホンの挨拶代わり、なのれす」
「せや、先輩としてのな」
ようやく我に返ったアタシは、また慌てて自己紹介をした。
「ののとタメなんか」
「あいぼんよりお姉さんれすね」
こんな具合に、二人は他にもいくつかの感想を漏らした。
アタシはと言えば、いきなり、心の準備が出来てない時に、辻さん加護さんに会って、
ただただビックリしていた。だって二人も来るって聞いてなかったモン。
- 305 名前:初対面 投稿日:2004/09/03(金) 22:28
- 「あのぉ、ところでどうしてこの船に乗ってるんですか?」
口に出してから思ったけど、もっと敬語で話さなけりゃ駄目だったかな。歳は同じでも、
なんたって先輩なんだし。アタシのこんな葛藤をよそに、二人は気にした風もなく説明を始めた。
「この後、ハロモニの収録があるんれすよ」
「新型豪華客船内部探検の巻、やで」
「この船凄いんれすよ。プールもあるし、アスレチックジムもあるし、それから・・・」
「まさに動くホテルやねん」
やや興奮気味の二人の説明が延々と続きそうだった。
アタシは目がテン状態で二人の勢いに圧倒されていた。
ふと、飯田さんを見ると、彼女は小さな微笑を浮かべ、小柄な二人をいとおしそうに見つ
めていた。その様子はまるで「公園で遊ぶ子供達をみつめるお母さん」のようだった。
- 306 名前:初対面 投稿日:2004/09/03(金) 22:30
- 「さ、私はそろそろ行かなきゃ」
しばらくして飯田さんが言った。
「あんたたちはまだ良いの?」
「へい、まだまだなのれす」
「うちらはまだ1時間待ちですわ」
飯田さんがアタシに向かって言った。
「じゃあ、また後でね」
そう挨拶すると飯田さんは船内に戻って行った。
その後姿にぽけっと見とれていると、アタシは大変な事に気づいた。
(今、何時?)
ヤバ、マネージャーさんカンカンかも。
アタシは辻さんと加護さんに挨拶すると、ダッシュで部屋に向かった。
「廊下は走っちゃ駄目れすよぉー」
「今度の新人は元気、ええのぉー」
背後から二人の冗談めいた声が聞こえていた。
- 307 名前:初対面 投稿日:2004/09/03(金) 22:32
- 少し時間に遅れたけど、マネージャーさんはそれ程ガミガミ言わなかった。
でも、アタシは寧ろ恐縮してしまった。
言い訳するわけじゃないけど、アタシはいつもは時間にルーズじゃない。だけどさっき
みたいなハプニングがあれば、誰だって時間の経つのを忘れちゃうと思う。これからは
気をつけなきゃ。
スタッフさん達と打ち合わせに入った。モチロンこれも初めての体験。
これから撮るシーンはアタシが娘。の先輩達と初めて顔をあわせるとこ。12人全員が
待っている部屋にアタシがドアを開けて、独りで入って行く段取りらしい。
そこからは台本なし。つまりぶっつけ本番!まあ台本に台詞が書いてあったら、正直引く
けどね、そんなヤラセ。
なんて冷静に状況分析しているようだけど、ホントのトコはイッパイイッパイ。ワーって大声を
上げながら意味もなく走り出したい!みたいな状態。
- 308 名前:初対面 投稿日:2004/09/03(金) 22:33
- 不自然にならないように、ほんの少しだけメークをしてもらって、イザ本番。ちなみに
服は自前で、さっきから着ていたやつ。
こうして今、アタシはドアの前に立っていた。すぐ横にはビデオカメラや照明やらのス
タッフさんがいて、アタシを狙っていた。ドアの向こうの部屋の中にも別のスタッフさん
達がいて、アタシが入って来るのを待っている筈だ。
キューのサインが出てアタシはドアを開けた。
部屋に入った時、ライトがちょっと眩しかった。逆光になって中にいる人の顔が良く見えない。
そのままゆっくりと前に進んだ。後で知ったんだけど、ここはコンパス・ルームと言い
小規模なパーティーや会議なんかに使える部屋だそうだ。
そんな部屋に12人の娘。達が一列に並んでアタシを待っていた!
胸のどきどきが最高潮に達してたけど、アタシは平静を装って自己紹介を始めた。
- 309 名前:token 投稿日:2004/09/03(金) 22:35
- 今夜の更新終了です。
次回は・・・月曜日以降?
だんだん間が開いてたりして(w
では、また。
- 310 名前:初対面 投稿日:2004/09/13(月) 22:07
- それから一人ずつの挨拶が始まった。それぞれが一言言い終わるたびごとに、よろしく
お願いします、とアタシはお辞儀をして挨拶を返した。でも今から思うと、先輩達のテンションは
ちょっと変だった気もする。妙にはしゃいでいたような・・・。
「道重さゆみです。困った事や分からない事があったら、姉御肌の私に聞いてね」
いや、それは無理。なんて他のメンバーからの突っ込みが入った。
「亀井絵里です。やったー。やっと後輩が出来た〜」
独特の笑顔で亀井さんが。
「田中れいなです。でも私らより年上やん」
「藤本美貴です。ヨロシクネッ!」
なんか、さっきから軽く睨んでたような藤本さんだったけど、挨拶は可愛らしい声だった。
- 311 名前:初対面 投稿日:2004/09/13(月) 22:08
- 「小川麻琴です。なんだ、この野郎〜」
うっわーい、生で聞けたよぉ〜。小川さんの決め台詞!
「新垣里沙です。君も是非、我が『新垣塾』に入らないか!」
おどけた調子で勧誘された。
「紺野あさ美です。GKならライバル、ですね」
そうだ。辻さんも紺野さんも、ポジション、アタシと被るじゃん。でもアタシ、走るの
遅いから、GKじゃないと困る。
「高橋愛です。いいな〜、訛ってなくて」
「吉澤ひとみです。サッカーやってたんならサルの即戦力じゃん!」
アタシも吉澤さんとプレーするの楽しみです。
「石川梨華です。私より色、白いねッ」
当然じゃん、とすかさず吉澤さんの突っ込みが。
- 312 名前:初対面 投稿日:2004/09/13(月) 22:09
- 「矢口真里です。ちぇ、おいらより背、高いじゃん」
矢口さんは笑いながらピョコンピョコンと飛び跳ねた。
なんで矢口さんには突っ込まないの?と吉澤さんに迫る石川さん。吉澤さんはニヤニヤ
してるだけ。
「モーニング娘。のリーダー、飯田圭織です。私は来春に卒業するので、短い間だけどよろしくね」
最後に飯田さんが言った。他の先輩達がややくだけた態度だったのに比べ、生真面目な
感じだった。そうだった。飯田さんはまもなく卒業しちゃうんだった。まだまだ先の事だと思って
たけど、こうして本人から直に聞くと、もうあんまり時間がないんだ、と実感させられ少し鬱になった。
- 313 名前:初対面 投稿日:2004/09/13(月) 22:11
- ディレクターさんのオーケーが出てこのシーンの撮影が終わった。
きっ緊張したー。これテレビでオンエアされるんだよね。アタシ何か変な事しなかったっ
け?大丈夫かな?
「みんな、テンション変だったわよ」
飯田さんがメンバー達に言ってるのが聞こえてきた。
「だって、一番最初の重さんがボケたからさあー」
矢口さんが答えた。
「ええっ、私、真面目にやりましたよ〜」
心外だなあ、という表情で道重さんが反論した。
「そんな事無いよー。私もう、可笑しくて可笑しくって」
石川さんが思い出し笑いをしながら言った。
「梨華ちゃんのボケは寒かったけどね」
また絶妙のタイミングで吉澤さんの一言が。そうそうと、みんなも頷いていた。
「何よぉ〜」
軽くぶつマネをしながら石川さんが吉澤さんに絡んだ。
その様子を見てアタシは、この二人ホントに仲良いんだなって思った。
- 314 名前:初対面 投稿日:2004/09/13(月) 22:13
- 12人の先輩達はこれからスチール撮影があると言われ、皆この部屋を出て行った。すでに
スタッフの人たちは機材とともに移動を始めていた。これから次の撮影のセッティングに行くら
しい。結果的にアタシだけ取り残されたみたいになった。
「お腹すいたでしょ。今のうちにお昼食べてね」
「あの、他の皆さんは?」
アタシはマネージャーさんに聞いた。
「あの子達は先に済ませたわ。私も他に用事があるから悪いんだけど、どこか適当なトコで
独りで食べてね」
そう言いながらマネージャーさんはアタシにお弁当をくれた。これが噂のロケ弁!?って言っても
なんの変哲も無い、仕出し弁当だったけど。
- 315 名前:初対面 投稿日:2004/09/13(月) 22:14
- 自分の部屋に戻って食べようかな、と考えながら廊下を歩いているとまたさっきの二人
組に出くわした。
「のの達もこれからお昼なんれすよ」
「もー腹ペコやがな」
アタシの持っている弁当を目敏く見つけて話しかけてきた。
「一緒に食べるのれす」
「えっ、あの、でも・・・」
アタシは躊躇した。だって、辻さん加護さんと一緒にだなんて、緊張で食べられないかも、
なんて思ったから。
「先輩命令、やでぇー」
加護さんがおどけて言った。
- 316 名前:token 投稿日:2004/09/13(月) 22:16
- 今夜の更新終了です。
これでほぼ、登場人物は出揃いました。
次回はなるべく早く更新したいです。
では。
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