明日への風
- 1 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月26日(土)01時30分58秒
- 初投稿です。
更新は遅いと思います。
ではよろしくお願いします。
- 2 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月26日(土)01時34分31秒
- 6月、雨の日は鬱だ。
こういう日の電車通学は、ただでさえ狭い電車内を濡れた雨具が
擦れ合い不愉快な湿度をさらに上げている。
おまけに今日はこの前のテストが帰ってくる。
理華はため息をついて窓の外を眺める。
周りは通勤前の会社員やOLが不愉快そうな顔で
電車のつり革広告を見たり、目をつぶっている。
(きっとまた点数悪いんだろうな・・・・)
空の色は理華の心を表すようなグレーだ。
(どうして、こんな優等生ぽいみかけと性格なのかな。)
また一つ大きくため息をつく。
別に点数が悪いのが嫌なのではない。
ただ、周りが勝手に理華のイメージをつくり上げて
頭が良いと決め込んでしまっているのが嫌なんだと思う。
そして周りの期待に応えようとしてまう自分自身さえも・・・・
- 3 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月26日(土)01時53分02秒
- 前に思い悩んでクラスメイトの矢口に相談したことがある。
矢口はこの学園の生徒にしては派手な外見で髪の毛も金髪に染めている。
性格も好奇心旺盛で行動力があり、
頭の回転も速く、成績も優秀で学年で5番以内にいつも入る。
理華とは全く正反対で対照的だが,逆にそのせいか妙に気が合う。
「真里ちゃん、私ね本当は頭良くないのに周りが勝手に思い込んでいて
テストで悪い点取ると、えーて顔されちゃって
それがすごく嫌なの。」
「そうだよね。理華ちゃん外見だけなら間違いなく優等生だもんね。
可愛いし、きちんとしてるし、真面目だし、
おいらも、最初見たときはすごく頭がいいのかと思ってた。」
そういって真里は面白そうに笑った。
真里は本当によく笑う。
毎日が楽しくてしょうがない感じだ。
- 4 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月26日(土)01時54分09秒
- 「笑わないで聞いてよ。こっちは真剣に悩んでいるんだから。」
理華が泣きそうな声で抗議する。
「別にいいんじゃないの。そんなの相手の勝手な思い込みなんだし
無理してもろくなことないよ。
それにさー、理華ちゃん充分可愛いんだし、
おいらはそっちのほうが大切だと思うよ。
容姿ばかりは先天的なものが大きいからね。」
矢口は言いたいことは、はっきり言うが、
嘘やお世辞は言わない。
口が悪いように思えるが、実は優しくて親切だ。
だから理華は矢口のことを信頼しているし
尊敬もしている。
「でも、真里ちゃんは可愛くて頭がいいじゃない。」
「私は私、理華ちゃんは理華ちゃん。
もうやめよう、こんなくだらない話。
それより久しぶりにケーキ食べにいこうか。
駅前のところで。私が奢ってあげるからさ。」
その時の矢口が何を言いたかったのか
今になっても半分しか理解できないが
気持ちが少し楽になったのは事実だ。
(でも努力はしないとね。)
真里の優しい心遣いだけは忘れてはいけないと思いながら
理華は歩き出した。
- 5 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月26日(土)02時35分46秒
- 改札をとおり駅の外に出ると雨がいつのまにか止んでいた。
曇り空だがしばらくはもちそうだ。
(雨、止んでよかった。)
と思いながら傘をたたんでいると、
「すいません。明和学園の生徒さんですよね。」
ふりむくと理華と同じくらいか、それより年下に見える少女が声をかけてきた。
丸顔の可愛いらしい少女で、好奇心の強そうな目をしていた。
背は理華の目線ぐらいの高さで紺のブレザーを着ていた。
もしかしたら転校生かもしれない。
「そうですけど。」
「あー良かった。8時半前に学校に着くように言われてたんだけど道分からなくて・・」
少女は安心したのか、ホッとした表情を浮かべる。
その人懐っこい表情に思わず
「じゃあ一緒に行こうか。」
と言葉が出てくる。
- 6 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月26日(土)02時36分59秒
- 理華は少女に声をかけたあと自分で驚いた。
(なんでこんな簡単に誘えたのかな。今会ったばかりの子なのに。)
理華は気持ちが優しくて親切だが人見知りをするので
初対面の相手に対しては冷たい。
だから、親しくなった友人には
「理華ちゃんて明るくておもしろいけど、最初あったときは
すごく感じの悪い子だと思った。」
と言われる。
理華は、どうしても相手に馴染むまで自分から距離を置いてしまう。
相手が自分に好意を持ってくれるの確信してから、
初めて自分のごく一部を相手にみせる。
そうなってしまったのは、小学生時代に苛められた経験が大きいと思う。
そのころの理華は今ほど可愛くもなく、少しトロイところがあったので
絶好のターゲットにされた。
幸い、私立の中学に入学してからはなくなったが
そのときの辛さは忘れようと努力しても忘れられない。
だから特に初対面の人間にはついつい警戒心をいだいてしまう。
その性格のせいで他人を傷つけたことをあるのも分かっているが
自分を守るために冷たくならざるを得なかった。
そして、そんな自分をあまり好きでもなかった。
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月26日(土)15時41分36秒
- ×理華→○梨華
- 8 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月26日(土)18時03分13秒
- ご指摘ありがとうございました。
これから気をつけます。
- 9 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月26日(土)19時07分02秒
- 梨華は改めて少女を見た。
彼女は理華の目を少し下から覗き込んでいた。
なにか面白いもの見つけたようにその目は輝いていた。
不思議なことに、この少女は梨華に警戒心を微塵も与えなかった。
それどころか、少女を見ていると自分に不思議な安心感がわいてきている。
それは今までに経験したことがない気持ちだった。
(今日の私は何かおかしいのかもしれない。
真里ちゃんや真希ちゃんにはいつも言われているけど・・・
何か欲求不満なのかな。
初めて会った人がこんな気になるなんて
今は親友の真里ちゃんや、真希ちゃんに始めて会ったときも
こんな気持ちにならなかったのに。)
梨華は自分の心の中を整理できずにいた。
考えすぎるのが悪い癖だと周りの人間によく言われる。
「うん。ありがとう。」
少女は微笑みは、そんな梨華の心の葛藤を吹き飛ばした。
その笑顔は梨華が知る限りでは最高の表情だった。
そしてその言葉は梨華の胸に心地よく響いた。
- 10 名前:くり 投稿日:2003年07月27日(日)18時30分59秒
- 更新おつかれさまです!
この女の子の正体は一体だれなのか、
続きがとてもきになります!
(私的に高橋さんであってほしい)
次の更新もがんばって下さい!応援してます!
- 11 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月28日(月)00時26分48秒
- 少女と肩を並べて歩き出したものの、まだ名前を知らないことに気づいた。
彼女のほうを見ると周りを興味深げに視線を動かしながら、
時々感心したように「おー」と、声にだしたり、一人で納得してうなずいている。
もしかしたら、田舎から出てきたばかりでこの辺の街並みが珍しいのかもしれない。
梨華が隣にいることを忘れているように見える。
しょうがないといえばしょうがないが
少しは自分に興味を持って欲しいし、何より彼女と話をしたかった。
何度か話しかけようと思ったがなかなかタイミングをつかめない。
今も楽しそうに、水溜りに靴の先を突っ込んだりしている。
小学生じゃないんだから・・・そう思いながらも彼女に視線を向けてしまう。
「あ・・・・いけない!」
突然何かに気づいたように少女は声を上げる。
「ごめんね。せっかく道案内してもらっているのに」
軽いなまりの言葉とともに
梨華のほうを軽い笑顔と申し訳ないという気持ちが交ざった表情を向ける。
本当に梨華の存在を忘れてしまっていたらしい。
- 12 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月28日(月)00時30分47秒
- 「私は安倍なつみ、友達からはなっちて呼ばれてます。」
「私は石川梨華です。明和学園の二年生です。」
お互いに顔を見合わせる。
そしてどちらからともなく、くすりと笑い声がもれる。
「ごめんね。びっくりしたでしょう。名前も言わずにずっといたんだから。
つい周りに気をとられちゃって・・・・・・・」
「いえ。安倍さんなんだか楽しそうだったんで声かけづらくて。
どこかから出てきたばかりなの?」
「そんなことないべさ。・・・・・」
言ったあとにしまったという顔を一瞬浮かべる。
「いけない。つい故郷の言葉が出ちゃった。気をつけてたんだけどね。
そんなに田舎ものぽっく見えたかな?」
「いえ。あんまりにも物珍しそうにきょろきょろしているもんで・・・・」
遠慮がちに梨華がいうとなつみは照れたような笑みを浮かべた。
別にじぶんの訛りや地方出身ということを気にしているようには見えない。
- 13 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月28日(月)00時34分15秒
「ごめんなさい。悪気があったわけじゃ・・・・・」
「別に謝ることじゃないよ。」
そう言うとなつみは梨華の前髪に軽く触れた。
そして触り心地を楽しむようになでる。
「ただね。こっち来てから5年も経つのにちょっとショックだった。
いもっぽいところって簡単に抜けないみたいだわ。」
梨華の前髪から手を放すと少し歯を見せて笑う。
その表情からなつみの年齢がわからない。
自分より年下かと思えば、一瞬自分の姉よりも大人びた顔をみせる。
(すこし真里ちゃんに似ているかもしれない。)
なつみの仕草で自分の親友を思い出す。
彼女も普段は馬鹿やって楽しんでいるが
ほんの一瞬だけ真剣な表情を見せることがある。
そのときは普段の幼さが消え、試合中のボクサーのような雰囲気になる。
今まで数える程しか見たことが無いが、普段とのギャップが大きいため印象に強く残っていた。
- 14 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月28日(月)00時38分42秒
- 再び二人は肩を並べて歩き出した。学校へは緩い上り坂になっている。
周りはよく整備された住宅街で、派手すぎもせず地味すぎもせず
ドラマによく出てきそうなな住宅街だ。
歩行者用の道も広くゆっくり歩ける。
脇には桜の木が規則的に並べられていて春にはすごく美しい眺めになる。
「安倍さんて転校生だよね。?」
初対面の相手に(なっち)と呼ぶことに抵抗があったため安倍さんと呼んでみる。
「う〜ん。似たようなものかな。」
(安倍さん)というのが自分のことを呼んでるのに
ワンテンポ遅れて気がついたなつみは、少し首を傾げて見せた。
普段はなっちと呼ばれることが多いのでいまいちピンとこない。
- 15 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月28日(月)00時45分46秒
- 「学年は何年生になるんですか?」
くだらない質問のようだけど、実は梨華の一番気になっていたことだ。
梨華自身は年下から、いわゆるタメ語でも気にしないが
自分が目上の人間に使う気はさらさら無い。
ただ敬語だと、どうしても他人行儀になってしまう。
彼女とはできるだけ距離を埋めたかった。
だから、もし彼女が同じ学年か年下なら友達みたいに話すことができる。
そして親しくなれる。それが、梨華のささやかな望みだった。
外見から判断できればベストだったが、それはなつみの外見を見る限り判断できない。
「なっち幾つに見えるかな?」
梨華の気持ちを知ってか知らずか、なつみは悪戯っぽく微笑んだ。
「私と同じかそれより下ぐらいかな。」
梨華は考えたあげく慎重に答えた。
ここ最近では一番難しい判断で、これならまだテストのほうが容易なくらい梨華は悩んだ。
- 16 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月28日(月)00時50分39秒
「じゃあきっとそうなんだよ。」
「きっとそうなんだよ・・・って。なんでそういう答えかたするんですか。」
あんまりにいい加減な言い方なので、少しかっとなってなつみに言い返す。
自分がこれだけ気にしているのに、この人はなんとも思っていない。
他人を完全に理解することはできないのは分かるが、
少しはこっちの気持ちも分かって欲しかった。
理性では自分の勝手な思い込みだと分かっているが、
感情のほうがコントロールできなかった。悔しくて少し涙が出てきたくらいだ。
(いけない。言い方きつかったかな。)
梨華は怒ったあとすぐ冷静になり後悔したが、口から出た言葉はもう戻らない。
(なっち怒ったかな。ちょっとふざけただけなのにこんなキツイ言い方されて。
冗談が通じない、おもしろみの無い子だと思われちゃうかな。
せっかく友達になれると思ったのに。)
- 17 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月28日(月)00時56分31秒
梨華は深いネガティブモードに入ってしまった。
根は明るいのに考え方はこの上なく悲観的で、自分でもよく分からない性格だ。
いつもは真里や真希の励ましで、何とか立ち直るが今その二人はいない。
こうなると普段は一人で抜け出せないが今日の梨華はいつもの梨華と違った。
(どうしたらいいか考えないと・・・私は多分、半年は後悔する。)
必死に脳をフル稼働させる。
そのとき、頭に浮かんだのは1年前に真希と喧嘩したことだった。
今になって思えば些細なことだっと思う。
- 18 名前:3rdcl 投稿日:2003年07月28日(月)01時05分24秒
くりさん。ご期待に添えず申し訳ないです。^^;
愛ちゃん可愛くてキャラクターも好きなんですけど
自分の脳みそではなかなか書きづらくて、
いい作品があったらそこから吸収したいと思います。
レスありがとうございました。
読んでくれるかたが一人でもいるといい励みになります。
更新は遅いですが少しでも気に入るようでしたら
たまに目を通してください。
- 19 名前:くり 投稿日:2003年07月28日(月)09時20分51秒
- 更新おつかれさまです!
安倍さんでしたかぁ!
石川さんと安倍さんってのもなかなか合いそうですね。
これからの展開が気になります!
次の更新もがんばってください!
- 20 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年07月30日(水)22時58分52秒
「梨華ちゃん放課後残って。話があるから。」
真里が声をかけてきたのは真希と口をきかなくなって三日間が過ぎてからだった。
最初はすぐ仲直りするだろうと思ってほっといたのだが、
さすがに気になったらしく、朝の挨拶もなしにいきなり用件を言う。
教室には梨華と真里しかいない。
いつもは騒がしい教室も、朝のまだ誰も登校していない時間は
程よい静けさにつつまれている。
あと20分もすれば、生徒の活気で満ち溢れるのが信じられないくらいだ。
梨華はいつも一番最初に教室に来る。
そして窓を開けた後、誰もいない教室の独特の雰囲気を味わうのが好きだった。
そこに、普段は時間ぎりぎりで登校する真里が来たので驚いた。
「話って、真希ちゃんのこと?」
「あたりまえでしょう。
お昼は一人でどっかいっちゃうし、帰りはすぐいなくなる。
電話したら居留守を使う。
だからこんな朝早くきてるんでしょう。」
「私、別に聞きたくないから。」
- 21 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年07月30日(水)23時02分01秒
梨華は頬膨らませ、むきになって言い返す。
その後はもう聞く耳もたずというポーズでノートを取り出して勉強している。
それでも時々気になるのか、こっちのほうをちらりと見て
まだ真里の視線があるとわかると、
気づかないふりをしてノートに目を向ける。
(痛い・・・・・痛すぎる。
それにしても3日も経つのに・・・・・・これじゃごっちんが頭を痛めるわけだ。)
真里は梨華のあまりに痛い様子にあきれたように天井を見上げる。
(誰もいない朝にしといて正解だった。)
自分の判断の正しさに満足しつつ、放課後どうやって梨華を呼び出すか、
そしてどうやって説得するか考えた。
- 22 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年07月30日(水)23時04分30秒
真希はいつも時間ぎりぎりに登校する。朝が極端に弱い。
睡眠時間は充分取っているはずなのだが、なぜか起きられない。
それでも遅刻すると学校や親がうるさいので、なんとか遅れないようにはしている。
今日もチャイムと同時に教室へ入る。
われながらいつもよく間に合うなと感心する。
教室は女子達の喋り声で賑やかだ。
真希はその中から梨華の席に目を向けると、視線があったので
笑顔で手を振ったが、梨華は次の瞬間慌てて「プイっ」と横を向く。
(梨華ちゃんまだ怒ってんだ。・・・・)
あまりにも幼い仕草に苦笑を浮かべると
隣の真里が机に頭を寝かせて大笑いしているのが目に映った。
何だか少し腹がたったが、文句を言う気力もないので黙って席に着いた。
「ごっちん。一応梨華ちゃんに話しといたから。」
矢口が周りに聞こえないよう小声で真希に話かけてきた。
「ありがとう。真里ちゃん。でも駄目みたいだったね。」
「うーん。さっきの様子じゃね。一応放課後残るように言っといたから。
あれは、昨日のごっちんの話どおりだわ。」
矢口が一時間目の授業の準備をしながら、後藤のほうを哀れむように見た。
- 23 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年07月30日(水)23時07分29秒
- 昨日の放課後・・・・
それまで梨華とのなりゆきを黙ってみていた真里だったが、
意外と長引くので思い切って真希に問いただした。
真里は面倒見はいいがでしゃばりではない。
だから余計なことはしないし、したくもない。
だが、3日間の様子を見てこれは自分が間にたつしかないと思った。
真希のほうはいつもと変わらないように見えたが、
梨華のほうはあきらかに様子がおかしい。
なぜか自分まで避けている。
「うーん。実は後藤ちょっと困っているんだよね。」
「へー珍しい。ごっちんがまいっているなんて聞いたこと無いわ。」
実際、真希はテストで赤点とろうが、
授業中居眠りして先生に怒られようが、何とも思わない。
その真希が悩むなんてめったにないことだ。
- 24 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年07月30日(水)23時09分11秒
- 「原因は何よ。言ってみな。」
「えーとね。
ほら放送がながれるときスピーカーの調子が悪くて、
キーとかボォーとかいう音するでしょう。
それでこの前一緒にご飯食べてたら、ちょうどそういう音がしたのね。
だから「梨華ちゃんの歌みたいだね」って言ったら、怒って席立っちゃったんだ。
うーんそれからかな。」
「それだけ?」
「うん。それだけだと思うんだけど・・・・」
「そんなこと、しょっちゅう言ってるでしょう。」
「そうなんだけどね。」
真希は納得いかなそうな表情を浮かべている。
真里からみれば、少し曲がった愛情表現にしか思えない。
はっきり言えば普段の真里のほうが、余程ひどいことを言っている。
- 25 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年07月30日(水)23時10分40秒
- 「ちゃんと謝ったんでしょう?」
「うん。ちょっと言い過ぎたと思って謝ろうとしたんだけど・・・」
「聞く耳持たないか。」
真里が後を続ける。ここ数日の梨華の様子を見れば一目瞭然である。
「ちょっといい?
ごっちんさー、梨華ちゃん本気で怒ってると思う。?」
真里は梨華の様子を見ていて、疑問に思ったことを口に出した。
「真里ちゃんもそう思った?
うーん後藤もね、あれは怒っているのとは違うと思うんだよね。」
真希は我が意を得たりという表情で頷いた。
普段は、他人のことに興味をしめさない、超マイペースの真希がここまで
他人を観察するのは珍しい。
- 26 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年07月30日(水)23時13分01秒
- 「あれはさー。
まだ怒っているんじゃなくて、
1回怒った都合上、引っ込みがつかなくなったというか・・・
格好がつかなくなったというか・・・・」
「つまり、意地になっちゃってるのよね。」
真里が真希の言葉をまとめる。
鈍感な真希にさえ、そこまで気づかせるのだから梨華の態度は相当分かりやすい。
「なんかさ・・・・悪いのこっちなのに、
梨華ちゃん一日中この世の終わりのような顔して、
寂しそうな目でこっちのほう盗み見してるし、
謝ろうにも逃げちゃうし、
後藤さすがに食欲無くしちゃってさ・・・・・・・」
真希が呆れた表情で外人がよくやる手のひらを上に向けて、首をすくめるポーズを見せる。
「いっそー梨華ちゃんのこと嫌いになれた楽なんだけど・・・・無理ね。
普段はしっかりしてて大人びているのに、
変なところで頑固で子供っぽくて
そこが可愛くてしょうがないんだけどね。」
そういうと照れたように笑みを浮かべる。
真希はよく笑うけど、照れた表情はめったに見せない。
その表情は真里の目にはすごく新鮮に思えた。
- 27 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年07月30日(水)23時29分06秒
- 「わかった。セッティングは私がどうにかするから。
このままじゃ二人とも後味悪いし、何で私まで避けられてるか納得いかないし。」
真里は自分に気合を入れた。
(何としても梨華ちゃんを説得しないと・・・・・)
新しい目標ができて燃えてきた。
昔のドラマみたいなノリだけど、それはそれでおもしろい。
きっと学生時代しか体験できないことだろう。
「真里ちゃん好き。」
真希が真里を抱きしめる。
真里の背が低いのでちょうど真希の胸につつまれた形になる。
真里も手を伸ばして抱きしめ返すと、ちょうど真希の腰辺りに手が届く。
(へーごっちん胸大きいんだ。腰の位置も高いしスタイルいいな。)
どさくさにまぎれ男のような考え方をする。
それだけ同姓の目から見てもそれだけ真希は魅力的に映る。
- 28 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年07月30日(水)23時32分30秒
- 「でもさー。ごっちん。」
ようやく熱い抱擁から抜け出した真里は息を切らせながら言う。
「この代金は高くつくからね。覚悟してよね。」
「うん。後藤のファーストキスでいい?」
真希が笑顔でさらりと言ってのけた。
別に照れているわけでも、変にふざけているようにも聞こえない。
この子の顔は本気なのか冗談なのかわかりづらい。
「バカヤロー」
真里はなぜか顔を真っ赤にして怒鳴った。
何に対しての「バカヤロー」なのかは自分でも分からなかった。
- 29 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)19時47分52秒
- 「ごっちんお昼一緒に食べよう。」
真里が真希の座っている席の正面に立ち視界を遮る。
「そうかもうお昼か。」
その姿を見てやっと昼だと真希は気づいた。
授業は退屈で眠かった。ノートも取ってない。
さすがに机にうつ伏せて寝るわけにいかないので話を聞いている姿勢で
ボーっとしていたらいつのまにか午前中の授業は終わっていた。
「ごっちん、また意識飛ばしてたんだ。大丈夫、まだ16でしょう?」
真里は幾分本気混じりで心配して真希の頭に手を置く。
少し暖かい手の温度が心地良かった。
「やだなー真里ちゃん。後藤まだボケてないよ。
現役バリバリの学生さんだよ。
ところで梨華ちゃんの様子どうかな?」
真希が梨華の席のほうに視線を向けながら尋ねる。
- 30 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)19時50分17秒
- 「心境の変化あるみたいよ。
さっきから何か言おうと決意しては言えないみたいで
今も、いつもみたいに席を立たないで何か考え事してるみたい。」
「お昼一緒に食べようて声かけてきていい?」
(今、話しかければ仲直りできるかもしれない。)
真希にはその自信があった。
ここ数日でさすがに梨華も意地を張るのに疲れてきているように見える。
何よりも寂しそうな彼女の表情をこれ以上見るのは精神的に耐えられそうもない。
「駄目。」
真里が間髪入れずに答える。
「なんで駄目なの。」
この答えをある程度想像していた真希だが、それでも真里に聞き返す。
「ごっつあんだって、本当はわかってんでしょ。
たまには自分から行動させないと、
いつもうちらが救いの手を差し出してたら良くないよ。」
真里が少し寂しそうな表情で真希の問いに答える。
本当に誘いたいのは真里のほうなのかもしれない。
- 31 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)19時51分57秒
- 「へー不良少女真里ちゃんにしては、まともなこと言うんだ。」
真里の言いたいことも、気持ちも理解できるが
感情的に面白くないのでたまには嫌味の一つでも返す。
「ごっちんも嫌味言うことあるんだ。」
真里はため息と共に肩を落とす。
「でもさ、甘やかすわけいかないでしょう。
きっかけ作ったのはあんたでも、
いまの状態招いたのはあの子なんだから。」
(きっかけ作ったのはあんた)の部分を妙に強調して真里が言う。
「そーかなー 十分甘えているように見えるけどな。
だって、すねたりいじけたりする感情見せるのって、私達にぐらいでしょう。
他の子には絶対こんな態度とらないもん。」
「そこが梨華ちゃんらしいんだけどね。
あの子根が真面目で優等生タイプだから、
他の子とも上手にやれるんだけど、どうしても線を引いてしまう。
本当の「石川梨華」を見せるのはうちらだけだもんね。」
- 32 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)20時02分01秒
- 梨華のことを思うと真里は時々胃が痛む。
時々頑張る彼女を見てて辛いこともある。
いっそのこと、梨華のことをほっとければ精神上どんなに楽かと思う。
それでも真里は彼女のことが好きだ。
自分達に見せてくれる「石川梨華」は明るくて努力家で不器用で
どちらかと言えば天才肌の真里や真希とは正反対だが
だからこそ二人は梨華に惹かれる。
自分達にない美点を持ってる彼女を羨ましいと思う。
そして自分達に心を見せてくれる梨華の信頼に応えたい。
それがけして口には出さない二人の共通の思いだった。
- 33 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)20時02分56秒
「ところで後藤お腹すいたんだけど食べていい?」
真希は朝食をいつもとらないのでこの時間はすごくお腹がすく。
ただでさえ大食いの後藤なのに、朝は起きるのが遅いので朝食を取らないので
余計に空腹感を覚える。
「だめ。梨華ちゃんまだ食べてないでしょう?
うちらに声かけようとして迷ってんだよ。」
「なんだよ。真里ちゃん結局梨華ちゃんには甘いじゃん。
私に対する態度とは偉い違いよね。」
そう言いながらも真希は真里の意見に賛成だった。
ただ何となくすねてみたくてわざと真里に噛み付いただけだった。
(私も結構甘えん坊なんだ。梨華ちゃんのこと言えない)
と思い内心苦笑する。
真希も自分が思っているより子供なのかもしれない。
- 34 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)20時04分21秒
- 「女の子に優しくするのはあたりまえでしょ。」
「じゃあ後藤にも優しくしてよ。」
あまりにも自分に対するときの対応とは違うので文句の一つも言いたくなる。
「うーん。じゃあ少しは女の子らしくするかい。
外出するときはいつもスカート、食事を2人前食べない、
言葉使いに気をつける。遅刻はしない。ちゃんとできる?」
真里が真希の目をいたずらっぽい表情で下から覗き込む。
こうやられると嘘はつけない。
「・・・・・・無理。」
しばらくの沈黙の後、しぶしぶ真希が答える。
(できないってわかってて口に出すんだから。真里ちゃん性格悪すぎるよ。)
そう思いながらも真里にはこれ以上面と向かって言い返せない。
言い返すと理屈も何も関係なく何倍にもなって返される。
それは一年間の短い付き合いで痛いほど思い知らされた。
- 35 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)20時06分06秒
- 「ごっつあん。ちょっと気分悪くした?
ごめんね。矢口の悪いとこだね。」
さすがに少し言い過ぎたと思ったのか真里が謝りながら、真希の髪を優しくなでる。
「一種の愛情表現と思ってるから平気。それにもう慣れた。」
苦笑いを浮かべながら真希が答える。
真里は本当に、人の感情を読み取るのが性格で早い。
そして的確に対応する。
(真里ちゃんは本当に気がまわるな。)
真希はじみじみ思う。今も怒ってはいなかったけど、
少し寂しい気持ちになった自分を優しくフォローしてくれた。
あまり感情を表に出さない真希にとって真里のような友人はありがたかった。
「そうか。慣れちゃったか。」
矢口は一笑したあと急に真面目な顔になる。
- 36 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)20時08分02秒
- 「本当はうちらが甘やかすとか、そういうこと言うのも変なんだけどね。
梨華ちゃんには見習わなければと思うところもあるし、
自分らがいなくても時間はかかるだろうけど、他の子とも上手にやってける。
でも近くで関わってると、どうしても危なっかしい気がして
余計なこと考えて、つい余計な世話焼いちゃうんだね。
ごっつあんみたいにたくましいと安心してほっとけるんだけど。」
最後に余計な一言を付け加えたがこれが真里の本音だった。
つい梨華に対しては悪い意味で姉のような気分で接してしまうときがあり、
それが自分の傲慢ではないかと思うときがよくある。
実際は梨華がいることで自分が助かっている点があるし、
彼女のおかげでこのつまらない学園生活が楽しく過ごせているとも思う。
「真里ちゃん。けっこう細かいこと気にしてるんだ。
でもそれって裏を返せば
梨華ちゃんにいつ嫌われるんじゃないかって心配してるってことだね。」
- 37 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)20時09分52秒
- 真里が自分でも気づかなかったことを簡単に指摘する。
真希には物事の本質を見抜く力がある。
普段はのほほんとしてるが大切なことはけして見落とさない。
それはいいことだけでも、時にはすごく残酷なこともある。
このことは真里がけして触れてほしくなかったことで、
多分無意識のうちに封じていたのだろう。
「・・・・そうかもしれない。」
真里はきっと自分で思っているより心が弱いのかもしれない。
普段は強気だけどそれはどうでもいいことに対してだけであって
本当に大切なものに対してはすごく臆病になってしまう。
逆に真希の指摘で、真里にとって梨華がどれくらい大切なものかが分かった気がする。
- 38 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)20時11分00秒
- 「あのさー。もうちょっと梨華ちゃんのこと信じてあげたら。
私達にはあの子が必要で、あの子にも私達が必要だと思うよ。
それでいいと思う。真里ちゃんが梨華ちゃんのこと好きなくらい
あの子も真里ちゃんのこと好きだと思うし」
少しおどけた表情で真里の頭を小さい女の子に対するようになでる。
「何すんだよ。ガキじゃないんだから」
真里が照れ隠しのために必死に抵抗するが、真里のリーチでは真希の顔に手が届かない。
「顔真っ赤だよ。」
普段こういう優位な立場にめったに立つことができないため、
真希はこの状況を利用して楽しんでいるようだ。
(まあ、たまにはいいよね。いつもは後藤がいじめられてるんだから。)
一人で納得すると真希は真里の頬をなでる。
- 39 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月09日(土)20時13分16秒
- (後でおぼえていろ。)
というセリフが真里の口から漏れたが聞こえなかったことにする。
真希の耳には都合の悪いことは一切入らない。
それにしても、真希は一瞬梨華のほうへちらりと目を向ける。
梨華は泣きそうな顔でまだなにか考えている。
普段物事を深く考えない後藤にとっては信じられないことだ。
(あーお腹減った。こんなことになるなら、からかわなきゃ良かった。
梨華ちゃんがこんな執念深いとは・・・・)
真希は珍しく自分のした行為について深く後悔した。
- 40 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月11日(月)16時39分47秒
- 梨華は激しく悩んでいた。
ここ数日の態度は明らかに自分が悪いと思う。
ちょっとからかわれただけで、
むきになって何日間も怒っている自分は、我ながら大人気ないと思う。
その点、真里や真希は大人でそんな態度を取り続ける梨華に対して
いつも笑いながら声をかけてくれる。
そんな二人の優しさがかえって梨華を苦しめる。
最初はすぐ謝ろうと思ったけどタイミングを逃すたびに意地になって
ついここまで引っ張ってしまった自分が情けなくなる。
放課後に真里が話し合いの機会を作ってくれたがそれでは遅すぎると思う。
(自分から謝らないと。)
それが彼女達にできる自分なりの精一杯の誠意だと思う。
でも頭のなかで考えることはできても、実際に行動するのはなかなか難しい。
- 41 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月11日(月)16時41分23秒
- 今日の授業も身に入らず、何をして何を聞いていたかまったく記憶に無い。
気がつけば、もう昼の時間になっていた。
何人かの生徒が「お昼一緒に食べない?」と誘ってくれたが丁重に断る。
放課後まで残された時間は少ない、
多分この昼休みが自分から言い出す最後のチャンスだろう。
真里たちの席をみると幸い彼女達はまだご飯を食べていないようだ。
二人で何やら楽しそうに相談しているように見える。
(そうか、自分がいなくてもうまくやってけるんだな。)
二人の様子を見て梨華は限りなく寂しい気持ちになる。
- 42 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月11日(月)16時42分30秒
- そして同時に自分があの二人がどれだけ必要としていたのかも分かる。
急に目の前が真っ暗になる。
(結構ショックを受けてるんだな。)
梨華はまるで他人事のように感じた。
本当に辛いと心の痛みさえ麻痺してしまうらしい。
教室の窓から吹いてくる風が体を優しく包む。
その風の心地良ささえも今の梨華には不要なものに思えた。
(私もうだめかな。)
何となくそんな気分になる。
少なくても真里や真希と過ごしたような、楽しい時間はもう過ごせないと思う。
自分にとって人生で一番大切な時間だった。
それを自分のつまらない意地で台無しにしてしまった。
チャンスは何度でもあった。それをことごとく自分の選択でつぶしてしまった。
自分が情けなくて自己嫌悪の海へ溺れてしまいそうだ。
- 43 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月11日(月)16時44分47秒
- ふと時計を見ると休み時間が終わるまであと十五分あった。
(まだ終わっていない。これが最後のチャンスだ。)
梨華は最後の勇気を振り絞って真希に謝ることを決意した。
例え許してくれなくても一生後悔するよりましだ。
真希の方へ行こうと思って梨華はある事実に気づいた。
あの二人はずっと食事を取ってない。
彼女達はいつも学食か購買でパンを買うのに昼休みになってから教室を出てない。
ふと真希たちの方を見ると目があった真里が優しい笑顔を浮かべてこっちを見た。
その表情を見たとたん梨華は全てを理解した。
(あー私って本当に馬鹿ね。ずっと私のこと待っててくれたんだ。)
そう思うと体中の力が抜け、今まであらぬ想像で悩んでいた自分が馬鹿らしくなる。
それと同時に真希達の優しさが嬉しくて目に涙が浮かんでくる。
梨華は今度こそ、何のためらいも無く真希達のほうへ歩き出した。
- 44 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月17日(日)02時30分43秒
- ほのぼのとしてて好きっす
続き待ってます
- 45 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月18日(月)02時46分09秒
- 「真里ちゃんまだ待つんだ。」
真希が時計を見ながら言った。休み時間も残り少ない。
別にお腹が減って、いらついているわけではないが
真希にとって真里の我慢強さが意外だった。
真里はどちらかと言えば短気で結論が早い。
待つのが苦手で梨華と三人で遊びに行く約束をしても、
待ち合わせ時間に5分でも遅れると文句を言われる。
10分遅れると待ち合わせ場所にいないで、さっさと行ってしまう。
授業にしても必要な部分だけノートに取ると後は話を聞かずに寝てしまう。
ずいぶん余裕のように思えるが、本人に言わせると
「私、集中力長い間維持できないし、無駄なことっても嫌いなんだ。
あ・・・この無駄って言うのは矢口にとってはってことだからね。」
ということだ。
自分の価値観を人に押し付けないところがいかにも真里らしい。
- 46 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月18日(月)02時50分45秒
- その真里が嫌な顔一つせずに、いつ来るかわからない梨華を待っている。
その時間は彼女にとっては無駄ではなくて大切な時間であるのは間違いない。
(大切なことと、無駄なことか・・・・・・
後藤はさすがにそこまで簡単に割り切れないけど
今回の件に関しては真里ちゃんと同じ考えかな。)
真希は自分の親友が同じ価値観を持っていることが単純に嬉しかった。
そしてその思いを少しでも長く共有したいと思う。
ただ、楽しみにしていた昼食が食べれそうもないのは少し残念だったけれども。
- 47 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月18日(月)02時54分55秒
- 「ごっつあんは待つの嫌いじゃないでしょ」
しばらくしてから真里から返事がきた。
これだけ反応のゆっくりな真里も珍しい。
「うん。お腹は空くけどね。」
真希は顔をほんの少ししかめてお腹を押さえてみせる。
そんな真希の仕草に笑いながら
「自業自得なんだから我慢しな。」
と姉のような口調で言う。
その言い方には何とも言えない優しさが含まれていて、真希の耳に心地よく響く。
「うん。」
真希は素直に返事すると天井を見上げる。
校舎自体は古いが、最近ペンキを塗り直したばかりなのか天井は意外ときれいだ。
「どうした?」
真里がゆっくりとした口調で尋ねる。
本当に気になるわけではないが暇潰しに、話しかけている。
多分何でもないと答えたらそれでこの会話は終わってしまうだろう。
「ちょっと考え事。」
「あ、そう。」
真里も深く追求せずに手元にあるファッション雑誌を眺めている。
口笛を吹きながらパラパラとページをめっくていて
集中して読んではいない。
- 48 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月18日(月)03時00分21秒
- あのさー」
しばらく間の空いた後、真希がまるで独り言を言うように口を開く。
真里はたいして興味も無かった雑誌からゆっくり顔を上げて真希の顔を見る。
そんな真里の様子を気にしていないのか視線をぜんぜん違う方向へ向けながら
ゆっくり続ける。
「今回の件があって良かったって思うの。
私も真里ちゃんも梨華ちゃんも、
普段気づかないことや、考えないことがいっぱいあるってわかったと思う。
後藤はね、いつもは難しいこと考えるのも嫌だし、
関わるのも好きじゃないからずっと避けてきたんだ。
でも今回は当事者で、しかも自分の大事な人たちが関係してて逃げられないよね。
だから結構真剣に考えたし悩んだりしたんだ。
それでね、自分でわからなかった自分の気持ちが少しは理解できたし、
いつもとは違う真里ちゃんや梨華ちゃんを見れて良かったと思ってる。」
- 49 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月18日(月)03時06分51秒
- 「そっかー。
矢口もこういうの苦手なんだ。
いつもみたいにバカやって、面白おかしくしたいんだけどね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
たまにはこういうのも悪くないけど。」
そう付け加えると、真里は手を組んで真上に上げて小さな体で大きく伸びをする。
久しぶりに難しいことを考えたのと、らしくない言動をしているせいで
精神的に疲れが溜まっているのかも知れない。
自分のペースで物事を対処できる真希が少し羨ましいとも思う。
真里の場合は性格的なものでどうしても無理をしてしまう。
よく考えれば今回のことに関しては真希と梨華の問題であって
自分は出る幕じゃないのかもしれない。
それなのに少なくとも当事者の真希よりは頭を悩ませてると思う。
(余計なことに口出ししちゃったよな。
でも元の状態に早く戻すためにはしょうがないか。 )
軽くため息を吐いて梨華のほうを見ると、何気に目が合う。
相変わらず深刻そうな顔をして悩んでいるようだ。
- 50 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月18日(月)03時08分41秒
- (馬鹿だな。そんな大した事じゃないと思うんだけど・・・
梨華ちゃんにとっては深刻な問題か。
かわいそうに精神的にかなりまいってるみたい。
でも、そうやって梨華ちゃんも成長しないと、
同じことの繰り返しになるし・・・・・
まあ偉そうなこと言っても、今の私にできるのは待つことだけか。)
そう思うと少しおかしな気分になり、笑顔で梨華に目で返事を返した。
今度はすぐに瞳ををそらさずに真剣に見返してきている。
気のせいか少し表情にも生気が戻ってきているようにみえる。
(梨華ちゃんも答えが出たみたいね。急いで結果を出さなくてもいいのに。)
梨華の変に生真面目な性格を思って苦笑した。
どんな表情をしてるにしても彼女がここに存在している。
そして多分同じことを考え、同じ空間を占有している。
その事実だけ充分なことのように思える。
- 51 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月18日(月)03時13分39秒
- ふと真希のほうへ目を向けると、彼女も梨華のほうに視線を向けていた。
さっきまでぼけっとしていたのに、空気の流れを読んだのか、本気の真希は結構鋭い。
表情には出さないが彼女なりに真剣なのかもしれない。
その中を梨華が緊張感に満ちた顔で自分の席を離れ
ゆっくり歩いてきて真希の机の正面に立った。
真希は動くことができないのか、梨華を座ったまま見上げる。
梨華は何か言いたいみたいだが声が出ないみたいだ。目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
長い睫毛に涙が絡まってやけに魅力的にみえる。
思わず声をかけてあげたくなる。
(でも私が話しかけたら今までのこと台無しになる。
それに真希と梨華の問題なんだから最初に口挟んじゃ悪いか・・・・)
真里はなんとか梨華を抱きしめたい気持ちを自制すると、
真希がこの状態にどう対応するか、
そして2人がどうなるのかを見届けようと決意した。
- 52 名前:3rdcl 投稿日:2003年08月18日(月)03時24分12秒
- 44さん。
レスありがとうございます。
読んでいてくれる人がいると思うと嬉しくていい励みになります。^^
もう少し更新スピード上げるように頑張りたいと思います。
- 53 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月20日(水)16時26分24秒
「あ、あの」
梨華の声がまるでドラマの中の女の子が、男の子に告白するような緊張感で震えている。
幸いなことに教室の中はほとんどの生徒が出払っていて、
残っている生徒達も真希たちに注目していない。
「なに梨華ちゃん。」
できるだけ真希も、優しい表情で対応しようとするが緊張のためか表情が作れず、
声もついキツイ感じになってしまう。
(いやだな、こんな緊張したの初めてじゃないかな。)
梨華の必死の表情を見てると、やっぱし自分がかなり悪かったんだと思う。
からかったのはともかく、もう少し別の対応をすれば
彼女をこんなに苦しめなくても済んだかもしれない。
梨華の笑顔をここ数日見ないだけで、
自分の心がこれほど重くなるとは考えもしなかった。
彼女の笑顔のない生活は思っていた以上に味気ないものだった。
いつも楽しそうに笑っている梨華がいるのが当然で、
なくなってみて、初めてどれだけ彼女が自分に影響を与えていたのがわかる。
- 54 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月20日(水)16時27分30秒
(それにしも梨華ちゃんだけ立ってて、私だけ座ってるのもおかしい。)
相手にだけ立たせて自分だけ座っているのも悪い気がする。
かといって椅子を勧められる状況でもない。
いくらマイペースの真希でもそれぐらいはわかる。
そう思うと真希は突然席から立ち上がり、真っ直ぐな視線で梨華の姿をとらえる。
梨華の手を胸の前で組む仕草といい、
うつむきかげんで潤んだ瞳といい本当の告白シーンみたいで
ドラマと違うのは両方とも女だということぐらいだ。
(シャレになってないよな。)
真希は照れのためか、つい頭をかいてしまう。
(自分が男なら確実に惚れてるか・・・・・)
それぐらい今の梨華が可憐に映る。
(彼女を守ってあげたい。)
100人男がいたら100人、確実にそんな気持ちになるだろう。
女性である真希でさえ
現在の状況を忘れてついそんな気分になってしまう。
- 55 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月20日(水)16時29分07秒
「真希ちゃん。あのー本当にごめ・・・・」
真希は最後まで梨華に言わせたくなくて、手で彼女の口を軽くふさいだ。
細くて長い指が顔の下半分を覆い隠す。
真希がそこまでしたのは
ほっといたら「ごめんなさい。」といって泣きながら頭を下げられるからだ。
最後まで見なくてもそれぐらいはわかる。
それは絶対にさせてはいけないことだし、して欲しくもない。
そんなことをさせたら、梨華の親友としての自分の立場がない。
真希はさっきの梨華のうっすら浮かんだ涙を見て
自分を責めぬいて苦しんだ彼女の気持ちが理解できた。
梨華は気持ち優しすぎる。
真里や真希と違って他人を攻撃することもできないし
開き直ることもできない。
だから自分で自分を追い込んでしまったんだろう。
一年以上親友をやってて、そんな彼女の気持ちを充分に理解していなかった。
本当に謝りたいのは自分のほうだった。
- 56 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月20日(水)16時30分27秒
「梨華ちゃんごめん。びっくりしたでしょう。」
今度は自然に言うことができた。
梨華は真希の突然の行動に驚いて、肩の力が抜けたのか少し呆然状態で頷く。
「ずっと考えたんだけどやっぱし後藤が悪かった。
だから私から謝るのがスジだと思うんだ。」
「真希ちゃん違うの。私がもっと素直になってたら・・・・」
梨華が慌てて首を振って遮る。
その仕草に真希に余計な負担をかけたくないという彼女の心遣いがあふれている。
その必死さがいかにも彼女らしい。
(私、梨華ちゃんのこういうところ好きだったんだ。
いつも近くにいすぎて分からなかった。)
- 57 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月20日(水)16時31分39秒
「でもね。」
真希は梨華の懸命な仕草に少し口元を緩ませて続ける。
「私は梨華ちゃんを親友だと思ってる。
けど梨華ちゃんのこと全部理解できるわけじゃないから、
これからも小さなすれ違いがあるかもしれない。
だけど覚えておいて欲しいことがあるの。
後藤は何があっても梨華ちゃんのことが好きよ。
それだけは信じて欲しいの。
これは梨華ちゃんさえ良ければなんだけど
友達同士些細なことで、大げさに謝りたくないんだ。
軽く笑って許しあえたらいいと思ってる。
まあ、今回は後藤が原因作ったんだけどね。」
少しおどけながら付け加えた。
内心、自分らしくないセリフに苦笑している。
でもこれが真希の偽りの無い本心だった。
そして自分の心の中からこれだけの言葉を引き出した「石川梨華」の力に素直に感心する。
多分こんなことはもう二度と言えないと思う。
- 58 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月20日(水)16時32分43秒
「私、真希ちゃんたちに嫌われたと思ってた・・・・。」
梨華の頬に大粒の涙がつたう。
安心して緊張の糸が切れたのか、涙腺が押さえ切れないようだ。
真希はそっと両腕で梨華を包み込み、自分の胸で抱きしまる。
(人より大きくて良かった。
梨華ちゃんより小さかったら格好つかないもんな)
初めて女子にしては少し大きめに産んでくれた両親に感謝した。
梨華の体は思っていたより、細くて柔らかくその質感に少し戸惑う。
(これが女の子か・・・・・真里ちゃんとは全然違うな。)
本人に聞かれたら激怒されそうなことを考える。
(あー困ったな。どうしてあげたらいいのかな。
キスするわけにもいかないし)
梨華を抱きしめたあとどうしていいのかわからず悩む。。
それにしてもクラスメートたちに見られたら、
いい話のネタとしてあることないことをばらまかれるだろう。
ただでさえ女子校というのは噂好きなのだから。
- 59 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月20日(水)16時35分40秒
(まあ誰も見てないしいいか。・・・・・誰も!)
ふと嫌なことを思い出し、
梨華を抱きしめたまま恐る恐る顔を横に向けると
視線の隅に、にやりと笑っている真里が映る。
めずらしく一言も喋ってこないので、つい存在を頭の中から消し去ってしまっていた。
(やばい!よりによって真里ちゃんとは・・・・・)
真希は自分の目の前が真っ暗になるのを実感した。
(一番おしゃべりで、一番口が悪く、一番噂好きの真里が
隣にいたことを忘れてしまうとは・・・)
自分のうかつさを呪いたくなる。
(急いで口止めしないと、素直に聞いてくれるとは思わないけど・・・)
真里の目を見ると、やる気満々のお祭りモードのなっている。
(これは駄目だ。)
今までの経験上0.01秒で理解する。
こうなったら誰が止めても無駄なことは明白だ。
今回に限り自分はどうなってもいいが、梨華が不憫すぎる。
- 60 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月20日(水)16時47分26秒
真希は絶望して座り込みたくなったが、梨華を支えているためかろうじて持ちこたえる。
(お願い。何でも言うこと聞くから今回は勘弁して)
駄目もとで、目で必死に訴える。
そうすると真里は理解したのかユビキリゲンマンのポーズをとる。
真希は急いで必死で頷く。
なにしろ彼女の気は変わりやすい。
どういう風の吹き回しか分からないが、今は素直に言うことを聞くしかない。
真里は満足したのか微笑んで立ち上がると
軽く真希の肩を叩き、右手を差し出す。
手にはアイロンがしっかりとかかった、白いハンカチが載せられていた。
そしてジェスチャーで梨華の(涙を拭いてあげて)と伝えてくる。
どうやら真希が梨華にどうしてあげていいのか困っているのをわかっているだけでなく
ポケットの中身まで知ってるらしい。
真希のポケットにもハンカチはあるが、今日使ってしまったので
こんなきれいな状態ではない。
- 61 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月20日(水)16時49分07秒
(真里ちゃんには一生頭があがらない。)
真希は改めて真里の怖さを思い知らされた。
こういう気の回りは自分の及ぶとこではない。
真希の好みや性格、行動パターンを本人以上に把握しているに違いない。
(これは真里ちゃんの旦那になる人は大変だ。)
真希は真里の将来の結婚相手に心の底から同情するのと同時に
同じ女性として生まれたため、結婚の可能性が全くないことに
心の底から安堵の気持ちを覚えた。
- 62 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月21日(木)00時39分06秒
「真希ちゃんありがとう。」
真希に涙を拭かれて、やっと落ち着いた梨華は礼を言った。
プレッシャーから開放されたためか、顔色もよくなってきていて
表情にはいつもの柔らかさが戻ってきている。
「このハンカチ、真里ちゃんのなんだけどね。
後藤のあんまりきれいじゃないから。」
真里のほうを見ながら、申し訳なさそうに言う。
「ごっつぁん。駄目だよ。女の子なんだから清潔にしないと。」
「今日はたまたまだもん。」
真希がスネぎみに言うと、残りの二人から笑い声が漏れて
いつもどおりの明るい雰囲気になる。
(少し勇気を出せばこんな、簡単に取り戻せたんだ。)
梨華は自分の行動の遅さに反省したが、
それでも自分で一歩を踏み出せたのは良かったと思った。
そしてそんな自分を、ずっと待っててくれた友人たちに感謝した。
- 63 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月21日(木)00時41分25秒
「後藤、お腹減った。」
突然、真希が情けない声をあげる。
(そうか・・・・・
私のせいでお昼食べられなかったんだ。
寝ることと食べることが人生の楽しみって、
いつも言ってる真希ちゃんに悪いことしたな。)
「ごめんね。真希ちゃん。」
梨華が謝ろうとすると、
「この馬鹿後藤!」
突然、真里が真希の頭を容赦なく叩く。
「痛いよ。」
真希が後頭部を押さえながらうずくまる。
「あたりまえでしょう。思いっきり叩いたんだから。」
真里が胸を張って当然のことにいう。
なぜか表情も活き活きしている。
- 64 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月21日(木)00時43分48秒
「だいじょうぶ。真希ちゃん。」
慌てて梨華が駆け寄ろうとすると、
「平気よ。この子体だけは丈夫だから。」
何でもないことのように言い、梨華を制する。
「目から星が出た。」
真里は涙ぐむ真希の言葉を無視して、なぜか椅子の上に立つ。
「誰のせいで今回の件が起こったの言ってごらん。」
椅子の上から真希を見下ろしながら言う。
「それは私が・・・・・・」
「梨華ちゃんはいいのよ。」
極上の笑顔で真希を庇おうとした梨華の動きを止める。
そして、真希のほうへ怖い顔をして振り向く
「それは、後藤が原因をつくったんだけど」
「そうでしょ、あんたのせいでしょ。」
「じゃあ、今日お昼抜きになったのは誰のせい?」
「後藤・・・」
「何か言うことは?」
「ごめんなさい。」
真希は梨華に叩かれるならともかく、
真里に叩かれたあげく謝るのは納得いかなかったが
逆らうと後が怖いのでここは素直になる。
- 65 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月21日(木)00時44分58秒
「わかればいいのよ。」
真里は満足そうに頷くと椅子から飛び降りる。
「梨華ちゃん、顔洗いにいこう。
涙のあと顔についてるよ。」
「あ・・・・・・。」
真里に指摘されて始めて気が付き顔が赤くなる。
「さあ行こう。」
真里が梨華の手を取ってエスコートする。
「あの真里ちゃん。」
梨華が真希に聞こえないように真里の口元でささやく。
「真希ちゃんが可哀想すぎると思うんだけど・・・・」
「うーん。ちょっと言い過ぎたか。」
叩かれた痛みと、言い負かされたショックで動けない真希を見て
さすがにやりすぎたと思ったらしい。
- 66 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月21日(木)00時47分49秒
「ごっつぁん。放課後なに食べたいか考えといて。」
真里が少しぶっきらぼうな口調で言う。
本人はこれでも真希の機嫌をとっているつもりらしい。
「乱暴する人とは一緒に食べたくない。」
真希がいじけながら答える。
「真希ちゃん、平気だった。」
真里の腕をほどいた梨華が慌てて真希を助け起こす。
「痛いよね。あれだけ思いっきりやられたら。
叩かれた場所見せて。
あ・・・・・・コブになってる。
可哀想。」
梨華が真希の後頭部の叩かれた箇所を優しく撫でながら
非難の色の交じった目で真里を見る。
(これじゃどっちが悪者だかわかりゃしない。)
真里は泣きたい気分になった。
真希の顔を覗き込むと目が合い、一瞬ニヤリと笑ったのがわかった。
(こいつワザとやってる。絶対に。
一対一では敵わないとみて梨華ちゃんを使うとは。)
- 67 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月21日(木)00時48分50秒
「ごめん。ごっつぁん、やりすぎた。」
真里がしぶしぶ謝ると
「わかってくれたんならいい。」
真希は何事もなかったように立ち上がる。
「良かった。だいじょうぶみたいで。」
梨華が、心底安心した声で喜ぶ。
(梨華ちゃん。
あなたは騙されてるんだよ。
ごっつあんはあれぐらいじゃビクともしない肉体と
精神力を持っているんだよ。)
悔しいが今回は真希のほうが一枚上手だったようだ。
- 68 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月21日(木)00時56分59秒
「後藤は放課後食べにいくの、お肉がいいな。焼肉がいい。」
真希は何事もなかったように、急に食べたい物を言い始めた。
都合の悪いことは覚えてないのに、
『なにが食べたいもの考えといて』
という真里の言葉はしっかりと真希の頭にインプットされてたようだ。
「私もお肉がいいな。」
梨華が一緒になってはしゃぐ。
(まあ、いいか梨華ちゃんが元に戻ってくれたんだから。)
楽しそうな梨華たちをみてると、細かいことはどうでもいい気分になってくる。
「じゃあ、外で食べると高いから矢口の家でやろう。
材料は私が準備するから。」
「やったー。後藤今月お金なかったんだ。」
「嬉しい。期待してるから。」
二人の間から歓声の声が漏れた。
「まかせといて。特別においしいお肉用意するから。」
真里も半分浮かれ気味になる。
ほんの数分前までとはえらい違いだ。
- 69 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月21日(木)01時02分59秒
(お肉、どれぐらい用意しようかな。
飲み物とデザートも準備しなきゃいけないし、
でもお母さん喜ぶだろうな。
みんなで騒がしく食事する好きだから。
そうだ、泊まれるように布団も準備しないと、
明日お休みで良かった。)
頭の中は焼肉パーティーのことで頭がいっぱいになる。
(これじゃ午後の授業は頭に入んなや。まあいいか。
どうせたいしたことじゃないし。
とにかく毎日楽しくいかないと。)
真里は久しぶりにウキウキしながら
ノートに必要なものを書き出す。
もう他の事は考えられないし考えたいとも思わない。
耳の奥にチャイムが鳴る音がかすかに響いていた。
- 70 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月21日(木)04時36分52秒
- お、更新されてる
仲直りしてよかったです!
矢口の家に行ってどうなるのか楽しみですね
- 71 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月26日(火)02時59分34秒
- この話のテンポというか、ほのぼの感がメチャ好きです。
応援してるんで頑張ってください。
- 72 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)20時55分01秒
(人間てこんな簡単なことで幸せな気持ちになれるんだ。)
梨華は教室の窓際まで歩き、空を眺める。
太陽の強い光と夏の入道雲が風に流されていくのがわかる。
「なに、たそがれてるの。」
真里が笑顔で梨華に頬をよせる。
「何かすごいつまんないことで悩んでたなって。
ほんの数分で解決できることなのに、今まで私なにしてたのかなって。」
教室は、放課後で残っている生徒はほとんどいない。
部活に出る生徒達の荷物が机の上に残っているぐらいで
時々、忘れていたようにそっと入ってくる風が心地よい。
- 73 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)20時56分38秒
「梨華ちゃんは少し真面目すぎるからね。
肩の力入りぱなっしで疲れちゃうでしょう。
もう少し楽に生きてかないと。
まあ私やごっつぁんみたいになっちゃうのも問題だけどね。」
「そうかな、私は真里ちゃんや真希ちゃんみたいになりたいけど。」
「やめときなよ。ろくなことないよ。」
真里が校庭を走る生徒達に目を移しながら自嘲気味に言う。
「そんなことないと思う。
二人とも強くて自分の信念をもっていて、それを貫き通す力を持っている。
私は駄目、人に言われたようにしかできない。
自分で考えて、行動することができないの。」
自信無さそうに肩を落とし俯く。
- 74 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)20時58分16秒
「自分でわかってるんだったら、少しずつ変わってったらいいんじゃない。
あまり無理すると疲れるからさ。
でも、今日の梨華ちゃん見てたらそうは思わないけど。」
「え・・・」
梨華は、意外な言葉に驚いた。
真里が自分の今日の行動を褒めてくれるとは、思わなかったからだ。
彼女は普段は、褒めるよりも励ましたり注意したりすることのほうが圧倒的に多ので
[もっと積極的にならなきゃ駄目だよ]
という類のことを言われるのを覚悟していた。
それに彼女の小言は嫌いではなかった。
真里がそういう態度を取るのは、真希と梨華に対してだけで
他の人間には、けしてしない。
つまり、親しい人間に対する愛情表現の裏返しで、
それが梨華には痛いほど伝わっていた。
褒めてくれるのは嬉しいけど、その反面寂しい気もする。
- 75 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)20時59分59秒
「うん。今日の梨華ちゃんの行動を見て、
自分で考えて頑張ってることが伝わってきた。
まあごっつぁんなら、そんなことで毛ほども悩んだりしないけどね。」
真里はそう言って、いたずらっぽく微笑みながら
梨華の肩にかかった髪を優しく撫でる。
梨華は素直に真里の行為を受け入れると同時に
マイペースで能天気な友人の憎めない笑顔が、頭の中に浮かんでくる。
真里も同じことを考えたのか、二人で顔を見合わせて笑い合う。
「何、笑ってんの?」
用事を済ませて戻ってきた真希が二人の様子を見て、不思議そうに尋ねる。
「別にたいしたことじゃないよ。」
真里が慌てて手を振って答える。
「まあ、いいか。
後藤ね。真里ちゃんとこ泊まってていいって。」
「良かった。
梨華ちゃんもOKだし、二人とも一回家に戻る?」
「うん。お母さんが何か作っといてくれるみたいだから。」
真希が、満面の笑みを浮かべながら言う。
彼女の家は小料理屋を経営しているので、
真里の家に泊まりに行くときは必ず何か用意してくれる。
さすがにプロだけあってどの料理を持ってきても、食べやすい味付けで評判が良かった。
- 76 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時02分12秒
「じゃあ私は・・・・」
梨華が何か言いかけると、真里が軽くウィンクして遮る。
「梨華ちゃんは着替え取りに行ったらすぐ来てくれる。?
準備手伝ってくれると助かるな。」
「うん。」
梨華は嬉しそうに頷く。
実のところ、真希が料理を持ってくるということで
自分も何かしなければいけないと思っていたので、真里の言葉は「渡りに船」だった。
「後藤も何か手伝う。」
「ありがとう。じゃあ準備できたら二人とも私の家に来てね。
買い物はこっちで済ませておくから。
じゃあ、駅まで一緒に行こう。」
真里は自分の荷物をまとめて、買い物する物のリストを書いたメモを胸のポケットに入れると
真希たちと廊下に出る。
急に静かになった教室には、セミの鳴く声だけが延々と響いていた。
- 77 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時04分34秒
「ふー。」
真里は、大きく息を吐きながら買って来たものを玄関に置く。
久しぶりの焼肉会アンドお泊り会なので
つい張り切っていろいろ買いすぎてしまった。。
「真里、こんなに買って来て大丈夫?
残っちゃわない?」
あまりに買って来た量が多いので、心配して母親が声をかける。
「平気よ。それより布団干しといてくれた?」
「それはやっといたけど、他に何か手伝う?」
「大丈夫、みんなで準備するのが楽しんだから。」
母親の心配ぶりに苦笑しながら答える。
客観的に見てもいい母親だと思う。
いろいろ面倒を見てくれるし、娘の行動に口出しをするが、
最後は真里の意思を尊重してくれる。
そんな母親に面と向かって「ありがとう」と素直に言えないのが
自分でまだまだ子供だと思う。
- 78 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時06分24秒
「こんにちは」
買って来た品物を台所で整理していると玄関先から梨華の声がした。
「いらっしゃい。梨華ちゃん。」
慌てて玄関に行くと母親が先に梨華を出迎えていた。
学校にいるときは三つ網にして二つに分けてある髪が
無造作に後ろに束ねていて、前髪に軽いウェーブがかかっていた。
黒で少し胸をはだけている半袖のシャツと、ブルーのジーンズが
新鮮で目に映る。
「あら、今日の梨華ちゃんお洒落でかっこいいわ。素敵よね。
うちの真里にもそんな格好させようかしら。
でも駄目ね。背が低いし、スタイル悪いから無理ね。
顔立ちもあんまし良くないし。」
自分が産んだのを忘れているのか、母親は言いたい放題だ。
梨華はあまりの勢いに押されて、曖昧に笑っている。
(やっぱし親子だな。)
母親の言動は普段の真里そのもので、妙なことで感心してしまう。
- 79 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時07分48秒
「お母さん、何勝手に喋ってんのよ。」
真里がふくれっ面で止めに入る。
ほっとくと話はどんどん膨れ上がり、自分の過去の恥ずかしい話でもされそうな勢いだ。
「あらごめんね。真里ちゃんそこにいたんだ。
じゃあ、梨華ちゃん真里のことお願いね。」
母親はニコニコ笑いながら自分の部屋に入って行った。
「梨華ちゃん、いらっしゃい。」
真里は改めて、呆然としている梨華に声をかける。
その一声で我を取り戻したのか、笑顔で真里に応える。
「真里ちゃんのお母さん、いつ来てもおもしろいね。」
「うん。しゃべり過ぎるのは欠点だけど、あんな面白い人はあまりいないと思う。」
「へー、意外と素直に認めるんだ。」
真里に背中を向けて、靴を脱ぎながら言う。
もっと照れてなにか言うかなと思ったが、あっさり肯定したのでそれが意外だった。
「家に連れてきた子みんなに、同じこと言われてみな。
いいかげんに慣れるでしょう。」
梨華の形の良いヒップを軽く叩く。
- 80 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時08分52秒
「それも、そうね。」
真里の心中を察して梨華も苦笑するしかなかった。
「おじゃまします。」
梨華は礼儀正しく挨拶すると、ダイニングキッチンへ向かう。
真里の家の、キッチンはリビングとつながっていて、いわゆるLDKというやつだ。
全部で12畳くらいで特別大きいわけでもないが、
物が少なくてきちんと整理してあるので使いやすい。
「ここって、明るいね。」
梨華は天井の吹き抜けになっている窓を見上げる。
「うん、あんまり広くないから採光だけは気を使ったんだって」
真里はあまり興味無さそうに言いながら、使うものを冷蔵庫から取り出している。
「じゃあ、私食器の用意するね。」
梨華は皿やコップを並べ始める。
何回か真里の家に来ているので、物が置いてある場所は、把握している。
- 81 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時09分53秒
「あ・・そうだ。
何人分用意したらいいかな。」
使う食器の選択に悩みながら梨華が聞いてきた。
「うーん、どうなのかな。」
真里も首を傾げる。
父親は出張中だし妹の修学旅行はいつまでだか覚えていない。
「あなた達、3人で楽しみなさい。」
振り返ると、真里の母親が外出用のばっちり決めた格好で立っていた。
「私も友達と出かけてきて今日は帰らないから。」
「え、でもそれじゃ・・・・・」
梨華が申し訳無さそうな顔をする。
(迷惑なのだろうか)そんな考えが一瞬頭をよぎる。
- 82 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時11分25秒
「そんな、顔しないの。
ほら、旦那もいないし、もう一人の娘もいないでしょう。
せっかくだから、私も気晴らしがしたいだけよ。
まだ、子供なんだからつまらないことに気を使わないの。
その点は、うちの真里を見習ったほうがいいわね。」
褒めているんだか、けなしているのか分からないところで自分の娘の名前を出す。
「じゃあ真里、お母さん出かけてくるから火の元だけはしっかり気を付けてね。
それから、お酒飲むのいいけど救急車で運ばれることのないように。
あと、真希ちゃんによろしく言っといて、
あの子の顔見れないと寂しいって。」
真里の母親は言いたい事だけ言うと、嵐のように去っていった。
「ふー。」
真里は何もする前から疲れた気がしてソファーに座り込む。
小さな体がすっぽりと包み込まれた。
「相変わらずだね。・・・」
遠慮勝ちに梨華はポツリという。
真里は返事をしたくないのか何も言わない。
「いいお母さんだね。」
「うん。」
今度は真里も素直に頷く。
- 83 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時12分56秒
ピンポーン♪
「こんにちはー」
玄関の外から大きな声が響く。
「ごっつぁん、来たみたいだね。」
二人で玄関まで出迎える。
両手には、お泊りセットや、簡単な料理が包まれた紙袋がぶら下がっている。
「真希ちゃん、大変だったでしょう。」
大量の荷物を見て、梨華が大丈夫だったと言うように真希を見る。
「あ・・・平気、そこまで姉貴に車で送ってもらったから。」
「あらそう、良かった。」
ホッとしたように梨華が微笑む。
「真里ちゃん、おじゃまします。」
真希が声をかけて玄関を上がる。
「ごっつぁん、荷物持つから。」
真里が真希の荷物をひったくるように取ると、リビングへ運び始めた。
その様子を見て梨華が急いで駆け寄る。
(照れ屋なんだから、もうちょっと優しく言えばいいのに。
まあ、私には真里ちゃんの気持ち充分伝わってるけど・・)
真希の顔が自然に崩れる。
- 84 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時14分23秒
「そういえば、真里ちゃんのお母さんは?」
いつもなら強烈に存在感をアピールする母親の姿がないことに
さすがの真希も気が付く。
「うん。今日は友達と何処かのホテル泊まってくるんだって、
ちなみにお父さんと妹もいないから。」
「珍しいね。いつもは真里ちゃんのとこの家族と全員で食事取るのに。」
少し残念そうな顔をする。
一見黙ってるとクールに見える真希だが、その中身は人懐っこく
兄弟が多い家庭のせいなのか、意外とコミニケーションの取り方が上手い。
しょっちゅう泊まりにきているうちに、真里の家族とはかなり親しくなっている。
「うん。たまにはいいんじゃないかって、お母さんが言ってた。」
「そうか、おばさん気を使ってくれたんだ・・・・
よーし、せっかくだから思いっきり楽しむぞ!」
真希が両手を挙げて気合を入れる。
梨華も雰囲気に呑まれたのか、同じようなポーズを取り
真希とハイタッチを交わす。
- 85 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時15分33秒
真里はその様子を見て、笑いが抑え切れずにいた。
(どうして、こうも違うかな。)
梨華は、同じことを聞かされたとき
自分が邪魔ではないかと気にしてしまい、
真希は素直に行為に甘えて、最大限有効活用しようとする。
(この三人でよく、仲良くできるよな。)
我ながら感心する。
積極的な真里、マイペースな真希、どちらかというと引っ込み思案な梨華、
この三人で上手くまとまるのだから、世の中は面白いと思う。
「じゃあ、さっそく準備しないと、行くよ。」
真希が梨華の手を引っ張って、リビングへ急行する。
(真希ちゃん張り切ってるな。少しはあの頑張りを学校でも出したらいいのに。)
真希の背中を見つめながら、ふと思う。
- 86 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月26日(火)21時21分21秒
(あ・・・でもそうしたらあの子らしくないか。)
積極的な性格で優等生の真希を想像して首を振る。
いつも眠そうで、肩の力を抜きまくっている真希、「お腹が空いた」と言ってすねてる真希、
自分の好きなことには笑顔で張り切る真希、
着飾っている真希ではなく、
ありのままの真希の全てが好きなんだと思うと同時に
その「好き」が今までの意味合いと違うことに気が付く。
今日の、真里に怒られてしょげた表情や、
焼肉パーティをやると言ったときの嬉しそうな笑顔が、頭の中を占領して、
なぜだか胸が締め付けられるように苦しくなる。
(私、ごっつぁんのことが好きかもしれない。)
真里は自分の感情をよく理解できないが、普通の状態でないことだけは分かる。
人の恋愛の相談に乗ったり、実際に仲介したことは何度もあるが
自分自身がそんな気持ちになるのは、初めてだった。
- 87 名前:3rdcl 投稿日:2003年08月26日(火)21時48分40秒
>70さん。>71さん。
レスありがとうございました。
本当は矢口の家にいく話は省略して、
現在進行形の話に戻ろうと思っていたのですが
いいヒントを頂いて感謝してます。^^
それにしても、読んでくれる人がいるというのはすごく嬉しいものです。
では、これからもよろしくお願いします。
- 88 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月27日(水)22時17分55秒
(よりによって最初の恋?
その相手が女の子、しかもごっつぁんか・・・)
真里たちが通っているのは、女子高なのでそういうことも珍しくはないらしいが
まさか自分がそうなるとは思わなかった。
(ごっつぁんのどこが好きなのかな?)
改めて考えても、簡単に答えは出てこない。
欠点なら、幾らでも出てくるのだが、それすらも愛しいと思ってしまう。
(誰かに相談するわけにもいかないし・・・・・)
事情が事情だけに、誰彼ともなく簡単に相談するわけにはいかないが、
一人で抱え込むには問題が大きすぎる。
何より自分の気持ちを落ち着かせ、考えをまとめるには
他人に話すのが一番いい気がする。
(誰かいい人、いないかな。
梨華ちゃんなら真剣に相談に乗ってくれるだろうけど
内容が内容だから私以上に悩んじゃうだろうし、
できれば、年上で話しやすい人がいいんだよね。)
- 89 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月27日(水)22時20分14秒
(そうだ! 祐ちゃんに相談しよう。)
しばらく考えたあげく、やっと結論が出た。
「祐ちゃん」というのは、
真里たちの数学の担当をしている教師の中澤裕子のことだ。
この学校の理事長の娘で、数年前からこの学校で教師をしている。
飾らない性格で、ユーモアのセンスがあり、
言うことはキツイが根は親切なので、生徒達の評判も良い。
真里とは生徒と教師という関係ながら、馬が合い、半分友達みたいな感覚で、
なんでも気軽に話せる。
(困ったことがあれば、何でも相談したらいいって言ってたし、
それにしても何で気が付かなかったのかな。バカ。バカ。)
- 90 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月27日(水)22時23分08秒
自分の頭を叩きたくなるが、
とりあえず光明が差してきたように思えて少しホッとする。
「真里ちゃん、何してるの?」
真希が覗き込むようにして、いつまでも来ない真里に声をかける。
薄いグリーンのエプロンが彼女にぴったしで、思わずドキッとしてしまう。
「何でもねえよ。」
こっちの悩みも知らないで、楽しそうに笑う真希を可愛いと思う反面
少し腹が立ち、荒い言葉使いをしてしまう。
「何、その言い方。
この前、後藤に言ったこと忘れてないよね。?」
真希がしてやったりという顔で口を曲げる。
「この前、後藤の耳引っ張って怒ったよね。
口の利き方に気をつけろって、
それとも何か理由があるわけ?」
(まだ、あのこと根に持ってるのか・・・・。)
- 91 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月27日(水)22時28分57秒
一ヶ月ほど前、授業中寝ている真希が起こしてくれた梨華に
寝ぼけてつい「うるせいよ。」と暴言を吐いてしまったことがあった。
そんな乱暴に言ったつもりは無かったが、
あとで梨華に聞いたところかなりショックを受けたらしい。
休み時間になって、やっと頭がハッキリして自分の言ったことに気付き
梨華に謝ろうとしたが、時すでに遅く
授業中それを聞いていてカンカンになった真里が
「あんた、何逆切れしてんの!」
鬼の形相で真希に詰め寄り、真希の耳を引っ張った。
『だから、今梨華ちゃんに謝ろうと・・・・』
「言い訳すんじゃないの。」
あまりの痛さに顔を歪める真希に、容赦なく言い放つ。
「真里ちゃん、お願いだから許してあげて、
真希ちゃんも悪気があったわけじゃなくて
寝ぼけてただけだから。」
梨華が真里の腕をつかんで必死にとりなして
なんとか収まったことがあった。
真里はよく覚えていないのだが、
その時に、口の利き方を気をつけなきゃ駄目だとか、
自分が悪いと思ったらすぐ謝まんなさいと、真希に説教したらしい。
- 92 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月27日(水)22時30分00秒
「別に特に理由は無いんだけどさ・・・」
(まさか目の前にいる本人が原因だ。なんて言えないしな。)
真里が頭を抱え込む。
こっちが勝手に好きになって悩んだあげく、
何にも知らない真希の笑顔がしゃくに障ったなんて言おうものなら
人格破綻者決定である。
さすがの真里もそこまで神経が太くない。
「へー、理由が無いんだ。」
真希が嫌味っぽく言いいながら、自分の耳たぶの裏を撫でる。
あの件に関する無言の抗議らしい。
- 93 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月27日(水)22時32分36秒
「ごめんなさい。おいらが全面的に悪かったです。」
真里は素直に謝り、頭のてっぺんを真希の胸に軽くつける。
「やったー。真里ちゃんに勝った。」
真希が勝利の雄たけびを上げている。
いつもは真里に言い負かされてばかりなので、
余程嬉しいのだろう。
「どうしたの。?」
騒ぎを聞きつけて手に皿を持ったまま梨華が駆けつてきた。
「聞いてよ。梨華ちゃん、真里ちゃんがね、後藤に謝ったんだよ。
素直に、いつもの屁理屈こねないで、」
『嘘でしょう。あの強情っぱりで口の達者な真里ちゃんが
そんなことするわけないでしょう。』
梨華が目を見開いて驚く。
(梨華ちゃんまで、私のことをそんな風に見てたのか・・・
ごめんなさい。これからはもう少しいい子になります。)
真希にならともかく、性格が柔らかい梨華にまでそう思われているとなると
自分が悪いのは、明白であることを認めざるを得ない。
久しぶりに自分の行為に深く反省する。
- 94 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月27日(水)22時37分09秒
「真里ちゃん平気? 元気ないよ。」
真希へのせつない恋心?と、梨華の思いがけない攻撃にあって肩を落とす真里に
真希が心配そうに顔を覗き込む。
「そうよ。真里ちゃん変よ。
さっきのも軽い冗談なのに・・・、すぐ何か返してくるかと思ったら
真に受けちゃってるし、熱でもあるの?」
梨華が優しく聞いて、熱を計ろうと額を真里の額に近づけると
少し甘くていい香りが、真里の鼻に付き
梨華の柔らかい前髪が額にあたる。
睫毛の長い目が少し潤んでいて、同姓ながらも思わず気になってしまう。
『あら、ちょっと熱いみたい。顔も赤くなってきているし、
体温計で熱測ったほうがいいかしら。』
「何でもないよ。大丈夫だから。」
顔が赤くなった理由を言えるわけも無く、
大袈裟に手を振って、慌ててごまかす。
- 95 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月27日(水)22時38分20秒
「真里ちゃん、疲れてるみたいだしちょっと休んだほうがいいよ。
後は後藤と梨華ちゃんでやっとくからさー。」
『そうよ。真希ちゃんこういうことは手際いいから
私と二人で大丈夫だから。』
真希と梨華がしきりに休むように勧める。
確かに体のダメージより精神的に疲れているような気がする。
(変に勘ぐられても嫌だし、ここは甘えちゃおうかな。)
確かに自分がいなくても、この二人で十分だろう。
特に真希は実家の仕事がらか、こういうことに慣れていて、
動きがすごくスムーズで、見ていて気持ちいいくらいだ。
たまには自分抜きで、二人で何かをするというのもいいもしれない。
「ごめんね。
何にもできなくて悪いけど、少し休んでくる。」
『うん。そのほうがいいよ。』
二人の言葉を背にして、真里は二階の自分の部屋に戻ると、
ベットの上に仰向けになる。
窓は締め切っていて、エアコンのスイッチも入れてなく
部屋の中は暑いが、今はそのことさえも気にならない。
- 96 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月27日(水)22時40分44秒
(ごっつぁんのことが、こんなに好きだ何て思わなかったし、
昨日まで全然自分の気持ちに気が付かなかった。
人のことは分かるのに自分のことが分からないなんてね。
あの子の何処がいいのかな?
冷静に見れば、男でもあの子よりカッコイイ人なかなかいないし、
それで気になるのかもしれない。
そういえば、さっき梨華ちゃんの顔が近付いた時も、
胸がドキドキしたんだよね。
梨華ちゃんも正真正銘の美少女だし
私って意外と面食いだったんだ。
でも、そういう外見上のことだけじゃなくて
本人達の中身も好きなつもりだけど、普段の私なら絶対認めないだろうな。
それは言い訳だって・・・。
この「好き」は強い友情なのか、それとも恋愛感情なのかも理解できないし、
分からないだらけで、嫌になるな。
あーあ、眠くなってきちゃった。)
真里の額にうっすらと、汗が浮かんでいる。
それさえも気付かせないほどの、疲れが
彼女を深い眠りの海へ誘い込んだ。
- 97 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月28日(木)13時59分49秒
- 連日更新乙です。
相変わらず三人の絶妙な関係がいいですね。
現在進行形の話に戻っても、この感じは続いてほしいです。
- 98 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時08分42秒
真里は額に心地良い冷たさを感じて目を覚ました。
先程までの頭痛も嘘のように消えていて、
あんなに苦しかったのは嘘のように思える。
体には小さな真里を包むようにタオルケットが掛けられ、
上に着ていた物も脱がされていて、下着一枚だけになっていた。
「真里ちゃん目が覚めた?」
甘い声が真里の耳をくすぶる。
ゆっくりと目を開けて焦点をあわせると、
穏やかに笑っている梨華の顔が目に映った。
(これ全部梨華ちゃんがしてくれたんだ。)
真里は少しずつ頭がハッキリしてきて、眠りに落ちる前の様子を思い出す。
確か、そのままベッドに倒れ込むようにして
布団も掛けず普段着のままで寝てしまったはずだ。
梨華は真里の返事を待たず、濡れたタオルで真里の額の汗を拭き取る。
先ほど感じたのは、この冷たさだったらしい。
- 99 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時10分34秒
「ありがとう」と素直に言いたいが、寝起きのせいか口が上手く回らない。
何か言いかけようとする真里に、梨華が人差し指を口に当てて首を振ると
音を立てないように気を使いながら、部屋を出て行く。
真里はゆっくりと体を起こし意識を取り戻す。
窓の外からの生暖かい風が、真里の体を撫でるがそんなに不愉快ではない。
部屋の中を見渡すと、
ベットの脇に椅子が置いてあって、机の上には氷の入った洗面器と団扇が1枚置いてあった。
(どれぐらい寝ていたのかな?)
壁に掛けてある時計を見ると二時間ほどしかたっていなかった。
時間は短いが熟睡したせいか
頭の中はすっきりして気分が良く、体に活力が戻ってきている。
(もし、あのまま寝てたら風邪引いただろうな。)
梨華のしてくれたことのありがたみを実感する。
- 100 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時15分30秒
「真里ちゃん起きたんだ。」
梨華が手にコップを載せたお盆を持って、部屋に入ってきた。
ブルーのエプロンが彼女をいつもよりも大人に見せている。
「のど渇いたでしょう?」
真里にコップを手渡すとベットの脇の机にお盆を置き、椅子に腰掛ける。
「ありがとう。」
それだけやっと言うとコップに口を付ける。
正直のどがカラカラだったのでこの梨華の配慮はありがたかった。
「酸っぱい!」
一気飲みした後に思いもしなかった味に思わずむせてしまう。
中身は果汁100%のオレンジジュースで、
かなり酸味が強いように思えたが、そのせいで甘みが際立つのかもしれない。
「大丈夫?いっぺんに飲もうとするからよ。」
そう言いながらも背中をさすってくれる。
- 101 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時16分53秒
「ごめん。
ほらオレンジジュースなんて買った記憶無かったから、
つい他の物だと思って驚いちゃった。」
『炭酸飲料ならあったんだけど、体にはこっちのほうがいいかなって・・・』
梨華がニコリと微笑みながら説明する。
(そうか。わざわざ私のために買って来てくれたんだ。
水でもジュースでも何でもいいのに。
ううん。それだけじゃない。
風引かないように、タオルケットを掛けといてくれたり
体の汗を拭いといてくれたみたいだし・・・)
正直梨華が隣で座っていてくれるだけでホッとする。
彼女の柔らかな雰囲気だけでその場をなごませ、
真里の気分を落ち着かせる。
普段なら照れくさくて真里がほどいてしまう手を
握っていてくれる梨華の手がなにより暖かく感じる。
- 102 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時18分27秒
「なんかいろいろしてもらったみたいで。
その・・・・・・・嬉しかった。」
ベットの脇に準備してくれた着替えや、
ソックスを脱がしてくれた足の先を見て照れてしまい
まともに梨華の顔も見れずに礼を言う。
「良かった。怒ってなくて。
ちょっとやりすぎたかなって思ったんだけど」
少し安心した顔を見せる。
感情を表に出しやすいのか、本当に梨華の表情はコロコロ変わる。
怒った顔、笑った顔、疲れている顔さえも魅力的で
自分も人並み以上に可愛いと思うが、つい彼女との差を感じてしまう。
- 103 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時19分39秒
『でも驚いたのよ。
様子が気になって見にきたら、
窓は締め切ったまま、何にも掛けずに普段着のまま寝てたんだから。』
「ごめん。
浮かれ過ぎたせいか、つい疲れて寝ちゃった。」
真里が舌を軽く出して弁解する。
「梨華ちゃんいつから、私の面倒見てくれてたの?」
濡れたタオルや団扇の存在が気になって、梨華に聞いてみる。
『隠すことないし、正直に言っちゃおうかな。
えーとね、真里ちゃんが二階に上がって十五分ぐらいしてからずっとかな。』
「えー、ずっと見ててくれたんだ。」
『そうよ。体中汗だらけだったし、変な声でうなされてるし、
ほっとくわけいかないでしょ。』
ごく当たり前のように言ってみせる。
その間ずっと真里の体を拭いたり、団扇で風を送っていてくれたらしい。
- 104 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時20分35秒
『あ・・・。真里ちゃん気にしないで。私が好きでやってたんだから。』
感謝の気持ちをどう表したらいいのか迷っている真里に
気を遣わせないように先回りして言う。
『ほら、それに真里ちゃんの可愛い寝顔ずっと見れたわけだし。』
慌てて付け加える。
「へー梨華ちゃんにそんなこと初めて言われた。」
真里の表情は思いがけず可愛いと言われた喜びを隠し切れない。
『うん。なんだか年下の生意気な男の子が寝ているみたいで』
例え方は微妙だが、彼女の言葉がお世辞ではないことが充分に伝わってくる。
そして、その言葉を聞いて
浮かれ気分になっている自分の心情に少し戸惑いを覚えた。
- 105 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時22分11秒
『どう、調子はよくなった?』
真里が上にTシャツを着るの横目で見ながら
梨華が彼女の体調を気遣う。
「眠る前に較べたらだいぶ良くなったみたい。
梨華ちゃんありがとう。」
『どういたしまして。体調が戻ってきているみたいで良かった。
でも無茶はしないでね。』
真里の性格を見通してか最後の一言を付け加えるのを忘れなかった。
「うん。せっかく梨華ちゃんがずっと看病してくれたんだもんね。
あれ・・・・ということは食事の支度は?」
『うん。真希ちゃんが一人でしてくれているの。
私も手伝うって言ったんだけど
[後藤一人で頑張るから真里ちゃんの様子見といて]
って言われちゃって。』
梨華が少し困ったような表情を浮かべる。
多分、真希がかなり強引に押し切ったのだろう。
梨華としては真里を様子を見るという名目があるにしろ、
彼女一人に全てやらせるというのは心苦しかったに違いない。
- 106 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時23分24秒
(そうか。まぬけだよね。
真希ちゃんや梨華ちゃんに楽しんでもらおうと思って
張り切っていたのに、結局二人に迷惑かけちゃって、
自分が「してあげる」気持ちでいたのに、
実際は彼女達の好意に助けてもらったのか。)
自分の思い上がりと無力さを感じ、みじめな気分が波のように覆いかぶさってくる。
(なんでこうなっちゃったのかな。)
目にうっすらと涙が浮かんで来て、それをこぼさないため顔を天井に向ける。
そんな真里を、突然梨華が強く抱きしめた。
「梨華ちゃん、私汗臭いから、服も汚れちゃうし。」
予想外の行動に戸惑いやっとのことでそれだけ言う。
強くほどこうと思えば、ほどけない強さではないはずなのに
その力が体から出てこない。
(私このままでいたいんだ。)
真里は他人事のように自分の気持ちを理解する。
梨華の体の熱が真里に伝わり、みじめな気持ちも、自己嫌悪も消えていく。
彼女は何も言わず、ただ真里を包み込むだけだった。
- 107 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時25分31秒
そのまま五分ぐらい経っただろうか。
梨華がゆっくりと体を離し、まっすぐ真里の目を見据える。
梨華の目が優しく笑っている。
「梨華ちゃんさー、時々思い切った事するよね。」
素直に礼を言うつもりが自分でも思っていない言葉が出る。
『そうかなー。だとしても真里ちゃんがそうさせたんだけどね。』
そう言って立ち上がると、真里の体を拭いたタオルや、
オレンジジュースを飲んだコップを片付け始める。
「ごめん、あと私がやるから。」
『いいからシャワー浴びてきたら、その方がスッキリするわよ。』
ネッ≠ニ言うように梨華が首を傾ける。
「うん。分かった。」
何を言っても無駄だろうと判断して梨華の好意に素直に甘えることにして
着替えを準備していると、梨華が真里のベットをきちんと整えている。
そこまでさせるわけにいかないと思ったが
梨華の嬉しそうな表情を見てると止める気も無くなってきた。
- 108 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時26分32秒
『真里ちゃん、あのーこっち見ないで聞いてくれる?』
部屋から出て行こうとする真里に、梨華が背中越しに声をかける。
『私も真希ちゃんも真里ちゃんのことがものすごく大好きよ。
真里ちゃんがいてくれるおかげで
すごく助けられてることもたくさんあるの。
それだけは忘れないで。』
真里は振り返りもせず軽く手を挙げただけだったが
それは彼女の今までの人生で一番嬉しい言葉だった。
自分に自信がなくなり、自分の存在を否定したくなった真里を
たった一言が何よりの薬となり、心と体を一気に癒す。
(ふー。私の友達にはもったいないね。)
真里は自嘲気味に笑いたくなると同時に、
もし神様というものがいるなら
真希や梨華と出会えたいうことに心から感謝したいと思った。
- 109 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時29分38秒
「あ、梨華ちゃん降りてきたんだ。」
準備を全て終えて、ソファーに腰掛けテレビを視ていた真希が立ち上がり
梨華のほうに近付いて、両手の食器類を受け取る。
『ごめんなさい。真希ちゃん準備一人で大変だったでしょう。』
真里の使ったコップ類を素早く洗い出している真希の背中越しに声をかける。
「大丈夫。後藤は慣れてるし、料理はお母さんが作ってくれたものがあるし、
メインはお肉焼くだけだから。・・・・・・・・
それより真里ちゃんの調子どう?」
『だいぶ良くなったみたい。無茶しないように釘刺しといたけど。』
梨華が真希の洗った食器を拭きながらしまいこむ。
二人のコンビプレイであっという間に調理に使った食器が片付いていく。
「やっぱ二人でやると早いわ。
調理し終わった後、すぐ片付けようと思ったんだけど
一人じゃなんかヤル気起きなくて。」
真希が、自分の濡れた手を拭きながら梨華に笑いかける。
- 110 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時32分08秒
『そうね。そういうとこが真希ちゃんらしくて好きよ。』
梨華は自分の外国のアニメのキャラクターが入った青いエプロンを脱いで素早くたたみ終わると
真希の後ろに回って、エプロンのヒモをほどいて脱がしにかかる。
「何か嬉しい。」
梨華にされるがままになりながら、素直に自分の感想を言ってみる。
『そうでしょう。』
梨華が嬉しそうに微笑み、たたみ終わったエプロンを真希に手渡す。
「梨華ちゃん、いい奥さんになれるよね。
気が利いて優しいし、おまけに可愛いし、
後藤のお嫁さんにならない。?」
『なに言ってんの真希ちゃん。おかしい。
真面目な顔して冗談言わないでよ。』
体を折り曲げて梨華が笑いこむ。
黙っていれば、仕草の一つ一つが色っぽくて
真希の目から見てもそそる物があるが、
笑い出すと年相応の若さが出る。
「ごめん。つい思ったこと口に出しちゃってさ。」
真希が一緒になって笑いながら弁解する。
- 111 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時32分58秒
(半分本気だったんだけどな。
まあ、自分が女の子だっていうのも少し忘れてたこともあるけど・・・・
いいよな。男は・・・
梨華ちゃんみたいな美少女をモノにできる機会があるんだから)
真希は軽く天井に向けてため息をつく。
「どうしたの笑い疲れた?」
梨華はそんな真希の様子を不思議そうに見つめる。
少し汗ばんだ表情、少し下から覗き込むように見る仕草、そして甘い声、
どれをとっても完璧だと思う。
「うん。そんなとこかな。」
(梨華ちゃんにそそられてたなんて口が裂けても言えないよね。
でも梨華ちゃんも、梨華ちゃんだよな、
それだけ、可愛ければこっちが気になるのも当たり前じゃない。)
ハッと自分の理不尽な考えに気付き、苦笑を浮かべる。
梨華のほうを見ると、真希の母親が作った料理を皿に取り分けている。
- 112 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時35分30秒
(そうだ。梨華ちゃん、
真里ちゃんの面倒見っぱなしでなにも飲んでないんだ。
ようしちょっと気分がハイになって元気になるもの作ってあげるか。)
真希は母親が店の常連からよくもらうあまり市販されていない栄養ドリンク(結構高いらしい)と、
内緒で持ち込んだ香りのいい外国のウィスキー、
それにカルピスを混ぜて怪しげな液体を創りあげる。
(たくさん氷を使って、濃い目に作るのがコツなんだよね。)
作品の出来栄えに満足して微笑む。
「梨華ちゃん、ノド乾いたでしょう。
これ梨華ちゃんのために、いーーーーーしょうけんめい創ったから飲んで。」
真希は笑顔で30秒ほどで創った怪しげな色の液体を差し出す。
「ありがとう。ノドカラカラだったんだ。」
嬉しそうに言って、真希の創った液体を見ると急に体が固まる。
額から別の意味での汗が少し流れる。
(何かしらこれ見たことも無い色してる。
ちょっと不気味だな。
でも真希ちゃんがせっかく創ってくれたんだし・・・・・)
- 113 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時37分08秒
『ところで、これどうやって作るの?』
[何が入っているの?何を入れたらこんな色になるの?]
とは聞きづらく遠回しの言い方をしてみる。
「ごめん。企業秘密なんだ。」
梨華の気持ちを知ってか知らずか
自分の気分でチャンポンして作ったものを企業秘密と言い張る。
「あ・・・・そうか。
見たこと無いから驚いてるんだ。
これはね、ちょっとした大人のスタミナドリンクなの。
いま流行っていて、お店でも出しているんだ。
梨華ちゃん知らなかった?」
本当はどこでも流行っているわけではなく、
真希が勝手にあみだしたドリンクなのだが、
梨華に安心して飲んでもらうため小さな?嘘をつく。
『うん。知らなかった。
ごめんなさい。
てっきり真希ちゃんが適当にいろんなもの混ぜて創ったと思ったの。』
梨華が心底申し訳無さそうな顔で謝る。
「私が梨華ちゃんにそんなことするわけないでしょ。
おいしいから飲んでみて。」
『うん。』
梨華は勢いよく頷くと、真希が創ったドリンクに口を付けた。
- 114 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時37分45秒
『おいしい。』
それは梨華が今まで味わったことのない味だった。
「うん。そうでしょう。」
真希が得意気に頷く。
『すごく口当たりがいいの。
甘いのにほど良い苦さがあって・・』
ノドが乾いていたこともあり一気に飲み干して息をつく。
「これはね後藤秘伝の気付け薬なんだ。
体が疲れているときや、気持ちが沈み込んでるとき
これ飲むと元気になるんだよ。食欲増進にもいいしね。」
『ありがとう。
真希ちゃん私のことそこまで気にしてくれてたんだ。』
梨華の体がほど良く熱を帯びてきて、今まで感じていた軽い疲れがどこかに吹き飛ぶ。
頬に軽く赤みがさし、気分が少し高揚する。
「うん。あんまり飲むものじゃないんだけどね。
一杯ぐらいだとちょうどいいんだ。」
(良かった。梨華ちゃんには少し刺激が強いかなと思ったんだけど。)
- 115 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時38分48秒
「ねー。真里ちゃんまだかなー。」
少し甘えているような声で梨華が誰に言うわけでもなく、独り言のように言う。
彼女がこういう声を出すときは、すごくリラックスしている時だけで
めったにお目にかかれるものではない。
真希はその甘い声に誘われて思わず梨華を凝視してしまう。
梨華はそんな真希の様子に気付くまでもなく
片手で頬杖をつきながら、空いている手の指で机をなぞっている。
黒いシャツの胸元から、想像以上に豊かなふくらみがちらりと見える。
(梨華ちゃんて着痩せするんだよな。)
今日梨華を抱きしめたときの感触を思い出して、
思わず顔が赤くなる。
- 116 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年08月31日(日)22時40分10秒
「ごめんね。待たせちゃって。」
ドタドタと元気な物音がしたかと思うと
ノンスリーブのシャツに短めのスカートをはいて
タオルを片手にした真里が、入ってきた。
『良かった。いつもの真里ちゃんに戻ってる。』
梨華が嬉しそうに声をあげる。
「本当だ。心配かけないでよね」
真希は軽く文句を言いながらも、真里の登場に感謝する。
(いいところに来てくれて助かった。
もう少しで変な気分になるとこだった。)
真里が現れただけで、雰囲気が変わり明るい空気が流れる。
その明るさは、不自然に創られた人口の光ではなく、
自然の太陽のような光で、真希にとって心地の良いものだった。
- 117 名前:名無子 投稿日:2003年09月01日(月)22時54分00秒
- 三人の関係がおもしろいです。強気な真里ちゃんが涙ぐむとせつないです。みんなとってもいい子ですね。
- 118 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月07日(日)13時13分09秒
- 自分も三人の関係好きです。
これから三角関係になるのかな?
誰と誰がくっついても、この関係が崩れることなく続いていくことを願います。
あ・・・なっち忘れてた・・・
- 119 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)22時53分26秒
「心配してくれてたんだ。♪」
真里が嬉しそうに真希の顔を覗き込む。
『少しはね。』
真希は照れ隠しのためわざとぶっきらぼうに答える。
(いい香りがする。何使ってのかな?)
真里の洗いたての髪の程よく甘い香りが真希の鼻をくすぶって、
何とも言えない気持ちになる。
市販のシャンプーやリンスを使っただけでは、この香りが出ないことは
あまりこういうことに詳しくない真希でもさすがに分かる。
「そっか。ありがとう。」
そんな真希の態度を気にせずに、にっこりと微笑むとテーブルの周りを見渡す。
テーブルの上には所狭しと料理が並べられていて、
真ん中には焼肉用のホットプレートが置いてある。
「すごいね。これ全部ごっつぁんが準備してくれたんだ。」
真里が思わず感嘆の声をあげる。
『梨華ちゃんと一緒に準備したんだけどね。』
「私は途中までだから、ほとんど真希ちゃん一人でやってくれたのよ。」
梨華が真希の方を見て柔らかく微笑むと、飲み物をコップに注ぎこんで手渡した。
- 120 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)22時54分57秒
「梨華ちゃん、これウーロン茶?」
注がれたコップを受け取った真希が間抜けな声を上げる。
『いけなかったかしら、お肉がメインだからそのほうがいいかなって思ったんだけど・・・・
ジュースのほうが良かった?』
「いや、そういう問題じゃなくて。」
真希がさすがに「アルコールが飲みたい」と堂々と言えず、遠慮勝ちに歯切れ悪く言う。
『じゃあどうしたらいいのかなー。』
梨華はそんな真希の気持ちに気付かず、唇に指を当てて考え込む。
(真里ちゃーん。)
すがりこむように真里を見ると
真里は分かっているからと言うように何度も頷いて返す。
そんな二人を不思議そうに見ていた梨華が急に
『ごめんね。ちょっとお手洗い借りてくる。』
と椅子から腰をあげた。
- 121 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)22時59分14秒
「ごっつぁん。駄目だよ。」
梨華の足音が完璧に聞こえなくなった後、真里が口を開いた。
『真里ちゃんまでそんなこと言うの!』
血相を変えて真里に詰め寄る。
「違う。違う。」
(そんなに酒が飲みたいか?)
真里が自分のことを棚にあげて
苦笑いを浮かべると、梨華の座っていたほうに目をやる。
「ほら、梨華ちゃんお酒飲むなんて言うとひいちゃうからさ。
あの子真面目でしょう?
だから未成年でお酒飲んじゃいけないと思い込んでて
(まあ、実際いけないんだけど)
うちらが飲む分には止めはしないだろうけど
そのこと気にしちゃって、楽しめなくなっちゃうのよね。」
- 122 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時00分19秒
『だっていつも梨華ちゃん飲んでるじゃない。
さっきだって後藤が作ったウイスキー入り特製ドリンク
[おいしい。]て喜んで飲んでくれたんだよ。』
真希が[おいしいの]部分をわざわざ梨華の言い方を真似て言うと、
頬を膨らませて講義する。
(これが小さな女の子なら中身も可愛いんだけどな。
いや、もちろんごっっつぁん可愛いんだけどね。
こいつの場合、アルコールをどうしても飲みたいという
根性が見え見えだからなー。)
真希の子供っぽい仕草にそそられながらつくづく思う。
- 123 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時03分46秒
「後藤は何にも分かってないね。」
恨めしそうに真里を見つめる真希に大げさにため息をついてみせる。
「その特製ドリンクやらにちゃんとウイスキーが入っているって説明した。?」
真希が首を横に振る。
「そうだろうね。
いつもうちらで飲むときは最初はカクテルで出すでしょ。
あれのこと、いつもうちらはジュースって言ってるよね。
だから梨華ちゃんの頭の中ではアルコールを飲んだって意識はこれっぽっちもないの。」
『でもさー。
口ではいくらジュースって言っても
あれかなりアルコール入ってるはずだよ。
しかも洒落にならないくらい飲んでるでしょ。
いかに梨華ちゃんでも気付かないのは変だと思うんだけど・・・』
真希が必死になって真里の説に反論する。
母親の店で酒飲みを見慣れてる真希が洒落にならないと言うくらいだから
相当の量を飲んでいる。
実際、真希や真里も弱いほうではないと思うが梨華の酒量が一番多い。
- 124 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時05分51秒
「そこが梨華ちゃんのすごいとこでね。
飲んでるうちにその時の記憶なくしちゃうのよね。
だから、朝起きてもその時のこと全然覚えてないの。
普通は、頭が痛いなとか体がダルイとかで気付くんだけど
アルコールの抜けが異常にいいから、体にも響かないのよね。
まあ、あの子の場合は酔ってテンションが上がってるくらいが
調度いいんだけど。」
真里は大きくため息をつく。
- 125 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時06分53秒
『じゃあ今日もたくさん飲ませちゃおうか?』
真希が目を輝かせて体を乗り出す。
真里も普段なら悪ノリしたいところだが、
ここで自分が真希のレベルで行動してしまうと、誰も止める人間がいなくなる。
(梨華ちゃんの存在って貴重だわ。)
いつもリミッターをかけてくれる梨華の存在のありがたみを思い知る。
「今日はそんなに飲まないと思うよ。
あの子が量飲むときは、何か精神的に圧迫受けてる時だから、
普段は二杯ぐらいしか飲まないから。」
『へー。真里ちゃんてよく見てるんだね。』
「ごっつぁんが周りを気にしなさすぎるだけ。」
素直に感心する真希に笑って返事を返す。
何か言い返したそうだった真希も真里の笑顔に引き込まれて
自然に表情が崩れる。
- 126 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時08分16秒
『何か楽しい話でもしてたの?』
笑い声が廊下にまで聞こえたのか梨華が戻ってきて、二人に質問する。
「うん。梨華ちゃんのことでね。」
真希がそう言った後、真里と顔を見合わせる。
『どうせ、また悪口かなんかでしょう。』
梨華は別に気にした風でもなく笑顔で流すと、コップにウーロン茶を注ごうとする。
「あ・・・梨華ちゃん。
気分を盛り上げるためにも私が特製のジュースを作るから
ちょっと待っててくれる。」
『あのきれいな色のジュースでしょ。
私大好きなんだ。
普通に売ってるのと全然味が違うのよね。』
何でだろうと不思議そうに首を傾げる梨華の疑問を背に真里は冷蔵庫から
冷えたグラスと氷を取り出して、『ジュース』をつくる準備をする。
- 127 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時09分03秒
「食事前だから酸味が強くて香りがいいものがいいかな。」
真里は独り言を言いながら、ベースのラムとライムジュースを
シェイカーに四対一で入れそれに砕いた氷と砂糖を少し加えてシェイクする。
『すごい!』
調合した液体と氷が混ざり合う音に二人から歓声が漏れる。
真里は一人分を作るたびに、グラスに注ぎその度に新しく作り直す。
「はい。お待ちどうさま。」
透明度のある白い液体が入ったグラスを真希と梨華の前に差し出す。
『いつみてもすごいね。』
「本当、それにすごくお洒落。どこで覚えたの?」
二人から感嘆の声があがる。
「道具がハンズで売ってたから
面白そうだなと思ってちょっと勉強したんだ。
料理とは合わないかもしれないけどその辺は多めに見て。」
真里が指のつま先でグラスを軽く弾いて見せた。
- 128 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時12分31秒
「じゃあ乾杯しようか。」
真里が音頭をとる。
『はい。乾杯ー』
グラスを軽く合わせると、大人のジュースに口をつける。
『冷たいね。』
梨華がグラスを置きながら真希に話しかける。
「うん。香りがすごくいいし、ライムの酸味がちょうどいいみたい。」
真希も気に入ったらしくご機嫌で返事をする。
さっきの脹れっ面が嘘のようでころりと表情が変わっている。
「あんまり、飲むものじゃないけど無くなったら言ってね。
気分次第で他のジュースつくるから。」
カクテルの効き目が早くも出てきたのか、真里が普段より少し大きな声で言うと
ホットプレートに熱を入れる。
- 129 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時14分32秒
『このホットプレート変わってるね。』
梨華が、でこぼこしているホットプレートの底を見て興味を覚える。
「うん。通販で、ママが買ったのよ。
その、溝の部分に肉の脂が流れるから、
お肉がべとつかないでおいしく焼けてしかもヘルシーなんだって。
本当かどうかはわかんないけどね。」
『真里ちゃんのお母さん、新しい物っていうか変わった物好きだもんね。』
「うん。本当真里ちゃんにそっくり。」
梨華と真希が思っていることを素直に口にする。
これは絶対いいものだと、真里に得意そうに語る母親の姿を思い浮かべて
思わず吹き出してしまう。
- 130 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時15分27秒
「おいしい。このゴボウのサラダ後藤が作ったの?」
真里がサラダを口にしてあまりのおいしさについ素直に褒めてしまう。
「そうでしょう。
後藤の自信作なんだよね。
ゴボウを千切りにしてから水につけてあく抜きして、
それから茹でて・・・・あまり茹ですぎないようにするのがコツね。
あとはマヨネーズとゴマ油であえたんだ。
ゴマが入っているのはミソかな。」
真里に褒められてよほど嬉しかったのか、
聞いてもいないのに作り方を説明する。
(真希ちゃん、やっぱ可愛いな。)
一生懸命説明する真希の表情につい見とれてしまう。
(他の人は知らないんだろうな。
ごっつぁんがこんな表情で笑ったり怒ったりするの。)
それが何だか特別のことのように思えて嬉しくなる。
- 131 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時16分16秒
『お肉焼くね。』
梨華が充分温まったホットプレートに肉を置く。
『これすごくおいしそうなお肉ね。』
「そうでしょう。
いつも行ってるお肉屋さんに頼んで特別おいしい部分を
取っといてもらったんだ。」
『高かったでしょう?』
梨華が申し訳なさそうな顔で尋ねる。
(なんで梨華ちゃんはすぐ心配するかな。
後藤の図太さの10分の1でもあればいいのに)
その態度は彼女の優しさの表れなのは嬉しいが
梨華の今後のためを思うと少し不安にもなる。
「全然。そこが矢口さんのすごいところなんだよね。
お肉屋さんとは普段から仲良くしているし、
食いしん坊でおいしいお肉が食べたことのない友達が
遊びにくるって話しといたんだ。
そしたらお肉屋さんが大奮発してくれて。」
真里が真希に視線を向けると彼女は食べることに夢中でこっちの話に気付いてない
梨華が声を立てずに笑う。
- 132 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時18分10秒
それにしても真希の食べるスピードはすごい。
肉がまだ半焼けの状態でとりだして自分の胃袋に納めこむ。
真里たちはその迫力に圧倒されてまだ一口も食べてない。
「私達も食べようか?」
真希が幸せそうに肉を口に運ぶのを見ながら、
真里が梨華にささやく。
『うん。』
真里は真希の箸が届きにくいところに自分と梨華の分の肉を置くと
ちょうどいい具合に焼けてくる。
「梨華ちゃん食べさせてあげるね。」
真里が子供に対するような態度で梨華に声をかける。
『いい。自分で食べるから。』
梨華が顔を真っ赤にして断る。
そんな梨華の態度を無視して
真里が箸で肉をつかむと息で少し冷ましてから梨華の口元に運ぶ。
「はい。あーんして」
真里が精一杯の笑顔を作って梨華の目を見つめる。
- 133 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時19分34秒
(うっ。そんな顔で見つめられたら断れない。恥ずかしいのに。)
梨華は少し悩んだあげく素直に真里の悪ふざけ?にのることにした。
すこし抵抗があるが行為そのものは嫌ではなく、
むしろ嬉しいくらいだった。
「おいしい?」
梨華の口に肉を運ぶと、真里が幸せそうな表情を浮かべてたずねる。
『ありがとう。』
小さな声で梨華が礼を言う。
本当はすごく嬉しいのに素直に態度に表せない。
(私って駄目ね。
どうしてこう壁を作っちゃうのかな。
真里ちゃんはこんなに優しくしてくれてるのに。・・)
素直に自分の思いを態度に出せる真里を羨ましく思い
つい自分と比較してしまう。
彼女の思いに自分の嬉しいという感情を出したいのにどうしても出せない。
(私はいつからこうなったのかなー)
思い出したくもない記憶が頭をよぎろうとする。
頭の中から消したくても消したくても消せない記憶が・・・・・
- 134 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時22分11秒
「梨華ちゃん。」
真里の一声で思考の迷路から呼び戻される。
その声はさっきのテンションとは違って、
小さくゆっくりで、しかも優しくしっかりと梨華の心に響いた。
下から少し梨華の顔を覗き込むと(大丈夫だから。)というようにしっかりと頷く。
それだけなのに、なぜか真里の思いが痛いほど伝わってくる。
(そうか。
私はいつも相手が自分をどう見るか
ということに気にしすぎているんだよね。
だから誤解を受けたらどうしようといつもびくびくしている。
でも私の外見だけじゃなくて
私の気持ちを分かろうとしてくれる人もいるんだ。)
梨華は自分の世界がほんの少し広がった気がした。
自分の価値観だけにとらわれないで、
いろいろなこと経験して、たくさん悩んで、
少しずつ変わっていくのが大切なのかもしれないと思う。
- 135 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003年09月07日(日)23時23分35秒
昨日と今日の自分を較べるだけで少し違うことはわかる。
あのまま自分が真希達と仲直りできなければ、
今頃は暗い気持ちで食事もノドを通らずにいたに違いない。
それが今晴れ晴れとした気持ちで、彼女達と楽しい時間を共有できるのは
自分の力ではなく真里や真希が自分を包み込んでくれる気持ちが
あったからだということを実感し深く感謝する。
(「ありがとう。」って何度言っても足りないよね。)
人が自分のことを大切に思ってくれるということが
どれだけ幸せなのかを噛みしめて
いつか彼女達に必要とされる自分になりたいと強く願った。
- 136 名前:3rdcl 投稿日:2003年09月07日(日)23時41分44秒
>97さん > 名無子さん >118さん
レスありがとうございました。
「まりごまりか」の関係を気に入って下さっているみたいで嬉しいです。^^
それにしても過去編長いですね。
主役?を忘れてる人がほとんどみたいです。(自分も半分忘れてます。)
でもこの人が書きたくて始めたので、
何とか最後まで読んで頂けるレベルの作品を作りたいです。
では失礼します。<(_ _)>
- 137 名前:3rdcl 投稿日:2003/09/09(火) 22:13
-
この前アップした分、読み直したのですがどうも気に食わないです。
クドイというかワンパターンと言うか、
(もともと表現力が足りないのは100も承知ですが)
よく見直してからアップすればいいのでしょうが
性格的にどうも無理みたいです。
ということで、これからは実験的に2,3レスぐらいずつ
更新したいと思います。
話はなかなか進まなくて申し訳ないですが
気長によろしくお願いします。
- 138 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/09(火) 22:42
-
「梨華ちゃん、ごっつぁんと一緒にお風呂でも入ってきたら?」
食事も一段落ついたところで真里が梨華たちに入浴を勧める。
焼肉の煙のにおいが気になるだろうし、
午後はずっと焼肉パーティーの準備をして疲れただろうから
お湯に浸かって疲れをとって欲しいという真里の心配りだった。
『恥ずかしいから一人で入りたいんだけど。』
遠慮勝ちに梨華が自分の意見を言う。
真希と入りたいという気持ちがないわけでもないが
他人に自分の裸を見られるのは抵抗があった。
「ハハー、冗談だって、
でもどっちか先に入ってきたら?ジャンケンでもして。」
軽く笑うと真希たちに提案してみせる。
『そうだね。
後藤は梨華ちゃんと一緒に入りたかったんだけど
しょうがないね。
真里ちゃんの言うとおりジャンケンしようか?』
真希がニコリと微笑むと腕まくりをして右腕を出す。
- 139 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/09(火) 22:47
-
『最初はグー。ジャンケンポン』
元気よく真希の掛け声が響き、梨華はその勢いに圧倒されるように手を出す。
結果は真希のグー、梨華のパーで梨華の勝ちだった。
「真希ちゃん、ごめんなさいね。先に入らしてもらうね。」
梨華が少し申し訳無さそうに真希を見つめて言う。
『梨華ちゃん、そんな気にしないでよ。
ジャンケンに負けたのは口惜しいけど、』
真希が歯を見せて笑ってみせる。
(梨華ちゃん、いちいち謝るんだよな。自分が悪くないのに。)
真希は梨華のすぐ謝るという行動が全然理解できない。
なんでそんなに神経を使うのだろうと思う。
友達同士なんだから遠慮しないで、気楽にやればいいと思う。
そもそも気を使わなければいけない間柄なら、
友人になりたいとも思わないし一緒にいたいとも思わない。
- 140 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/09(火) 22:59
-
(まあ、梨華ちゃんには梨華ちゃんなりの事情があるんだろうな。
そういえば三人姉妹の真ん中だっていってたし、
それだけじゃないだろうけど
真ん中ってどうしても難しいんだよね。)
真希は彼女なりに梨華の心情を計ろうとしたが面倒になって止めてしまった。
自分でいくら考えたところで、それは梨華本人しかわからない問題で
結局自己満足で終わり、無駄なことだということぐらい十分理解できる。
(まあ、少しずつだけど心を開いてきてくれてるし、
いきなりは無理だよね。長い目で見守るか。)
近い将来に、梨華が心の底から何の気兼ねもなく付き合えるようになって
欲しいというのが真希のささやかな望みだ。
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/10(水) 02:45
- 更新乙です。
更新は作者さんのやりやすい形でいいと思いますよ。
応援してるので頑張ってください。
- 142 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/10(水) 20:18
-
「梨華ちゃん、食器なんて下げないでいいから、
あとで、みんなでやればいいでしょう!」
浴室に行く前に使い終わった食器類を片付けようとする梨華を
真里が「いいから」と止めに入る。
『でも・・・』
梨華が何かが引っかかるようで、歯切れが悪い。
「でもじゃないの!
まったく梨華ちゃんは・・・・・。」
真里が歯痒い思いを押さえ切れなくなったのか、
ピシャリと言い切って、呆れた様子を見せる。
「それとも、一人じゃ入れないの?
それだったら矢口がお風呂に入れてあげようか?」
真里がキツク梨華に言う。
何にも知らない第三者がみたら
いじめてるようにしか見えないかもしれない。
梨華も、真里に悪気があるわけでなく
彼女なりの優しさの裏返しだと分かっているはずだが
あまりの迫力に怯えてしまっていて
目の前の真里より小さく見えるのではないかというぐらい
体を縮ませている。
真里が必要以上に、胸を張って体を大きく見せているため
10センチ以上ある二人の身長差が完全に逆転している。
- 143 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/10(水) 20:20
-
(真里ちゃんも、もうちょっと優しく言ってあげればいいんだよね。
じれったいのは分かるけどさー。)
真希はいっそうのこと間に入ろうと思ったが真里の怒りの矛先が
自分に向かってきたら大変なので止めておく。
梨華に対してもあの勢いなので、自分に対してはその三倍は覚悟しなければいけない。
真里は大切なことや言いたいことは、言い難いことでもきちんと口に出す。
今、梨華に向かっている態度も
自分が何に対して怒っているのかを、
梨華に理解させるための行動だということが真希には分かる。
それに真里はキツイところがあるが、飴と鞭の使い方をよく心得ていて
厳しいことを言ったあとは、きちんとフォローもできるので
その点は安心できる。
(でも私には、鞭、鞭、鞭、たまーに飴。
梨華ちゃんには、飴、飴、飴、飴、飴、極まれに鞭だもんね。
その鞭でさえ私の時の三分の一程度。
しかも私には手を出すし・・・・。)
そう思いながらも真里に対してこれっぽちも悪い気がしない。
それは、自分に対してそれだけ心開いてくれている、
つまり信頼してくれている証であって、
真希も真里に対しては自分の感情を素直にぶつけることができる。
- 144 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/10(水) 20:50
-
(それにしても真里ちゃんすごいエネルギーだな。
とてもじゃないけど、さっきまで調子が悪いって寝てた人間だとは思えない。
しかも看病してくれてた人間に
そこまで言えるんだから面の厚さも普通じゃないよ。・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あんな女の子のどこがいいんだろう。)
心の中で半分真里の行動に呆れながらも
逆にそんな彼女のことを少しずつ好きになっていく自分に気が付く。
真里の学校で認識されている欠点は非常に多い。
口が悪く、短気で、自己中、真里に対する悪評をあげたらきりがない。
でもそれは、真里の姿をきちんと見てない人の意見だと真希は思っている。
真希は真里と付き合う日々を重ねていくたびに
彼女の長所を発見していく。
真里は表面上は荒っぽいところがあるけど
その根本は、照れ屋で、優しくて、気配りのできる人間だ。
だからマイペースで自分に合わない人間とはいっさい関わらない真希も
なかなか周りに打ち解けられない梨華も、真里のことを慕っている。
- 145 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/11(木) 22:54
-
「梨華ちゃん、いいから行くよ。」
真里のお説教?タイムが終わったのか梨華を引っ張って浴室へ向かう。
「いい?
シャンプーもボディーソープも好きなの使うんだよ。
あとタオルとドライヤーも準備してあるから。
それから着替え持ってきてる?
無かったら矢口の貸してあげるかね。
ゆっくり入るんだよ。
ごっつぁんなんか幾らでも待たせておけばいいんだから。」
まるで、小さな女の子に対する母親のような感じで
いろいろ梨華に言いきかせているのが聞こえる。
(真里ちゃんは、梨華ちゃんに甘いよな。)
徹底的に梨華のこと気にかける真里の言葉を聞いてそう思う。
しかも、その言い方には彼女なりの優しさが隠しようもないぐらい
はっきりと表れている。
- 146 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/11(木) 22:56
-
「ごっつぁん、びっくりしたでしょ?」
浴室から戻ってきた真里が冷蔵庫から冷えた缶のチューハイを
二つ取り出してそのうち一つを真希に手渡す。
『別にそうでもないけど。』
真希は真里から受け取ったチュウハイのふたを開けると、一気に飲み干す。
冷えた液体がノドを通る感触は悪くないが、
真里が作ってくれたカクテルに較べると味が落ちる。
「そうだね。ごっつぁんにはいつもあんな感じだもんね。」
真里が軽く微笑むと自分の分のチューハイに口をつける。
『後藤にはあんなもんじゃないもん。』
真希が少しムキになったふりをして喰いかかる。
別に腹が立っているわけではないが、真里にかまって欲しいために
ワザとそういう態度をとってみる。
「そうかな?」
とぼけているのか、本当に自覚がないのか首をかしげて少し考え込んでいる。
『真里ちゃん?』
あまりにも間が空くので、心配して声をかける。
- 147 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/11(木) 22:59
-
「やっぱし、市販のチューハイてあんまりおいしくないね。」
突然真里が全然関係のないことを言い出す。
こういう態度を見せるときは
何か真希に相談したいことがあるときで、めったにあることではない。。
(悩みがあるから聞いて!って素直に言えばいいのに。)
真希はそう思うが、普段強気な態度をみせているだけに
なかなか切り出し難いのだろう。
(しょうがないな。ここは後藤が大人になるか。)
『真里ちゃんどうしたの?
何か悩みでもあるのかな。
後藤でよければ喜んで聞くけど。』
できるだけ、真里が話しやすいのに気軽に言って見せる。
そうした気持ちが通じたのか、
真里が「ありがとう。」と、小さな声で言うと
素早く真希の頬に唇をつけた。
- 148 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/14(日) 21:54
-
「びっくりした?」
真里がゆっくりと真希の頬から唇を離すといたずらっぽく微笑む。
真希が嫌がるとは微塵も思っていない。
もちろん真希にとってむしろ歓迎すべき出来事だが
女の子が頬とはいえ同姓に、キスをしたのだ。
普通なら「気持ち悪い」とか思われたらどうしようとか考えて
もっと恥らうべき?なのに
「例え女の子だろうと私にキスしてもらって嬉しいに決まっているじゃない」
という自信を思わせる真里の堂々とした態度に
さすがの真希も驚き尊敬の念すらいだいてしまう。
(そんな真里ちゃんの悩みといえば梨華ちゃん関係か・・・・・。)
真希はチラリと壁にきちんと掛けてある梨華のエプロンを見た。
青い色のエプロンは外国のアニメのプリントがされていて
そのキャラクターが親指を上げてこっちを覗いている。
(梨華ちゃんのエプロン姿最高だったな。)
自慢の髪の毛を後ろに束ねて、エプロンを掛けていたさっきまでの梨華を思い浮かべる。
梨華の普段の姿は制服と、
一緒に遊びに行くときの女の子女の子した明るい色使いの服装しか知らないので
普段見慣れないエプロン姿はやけに真希の目に焼き付いていた。
いつもはすごく強気の癖にその梨華が絡むと、真里は信じられないくらい弱気で心配性になる。
まるで年の離れた姉が自分の妹を見守るような気持ちなのだろうか。
- 149 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/14(日) 21:55
-
『頬ペッタにチューなら幼稚園児でもやるでしょう。どうせなら唇にしてよ』
真希が冗談っぽく笑ってみせる。
「駄目、唇は何かのご褒美のときにとっとくから。
おいらのキスはすごく高くつくよ。」
真里が唇に指を当てて投げキッスの仕草をしてみせる。
(私、そんな嬉しそうな顔してたのかな?)
そんな態度を出さずに心の中にしまって置いたはずだが
鋭い真里はちゃんとカンづいてしまたらしい。
彼女の少し余裕みえた表情からそのことが十分うかがえた。
『今度は私からしてもいいかな?』
真希が自分でも思ってもいなかったセリフを口から出す。
部屋の中はエアコンが効きヒヤリとしていて
さっきまでつけていたテレビも消してしまったため、
普段感じることがない静寂が部屋を支配しているように思える。
アルコールが軽く入っているせいか、
それとも自分自身が緊張している感覚が異常に冴えて、
時計が秒を刻む音さえもはっきりと聞こえる。
- 150 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/14(日) 21:57
-
「真希ちゃん、何飲みたい?今度はちゃんと作るからさ。」
真里が突然静寂を破ると、時がまたスムーズに流れ出すのを感じる。
身軽に立ち上がると、
さっと冷蔵庫に向かいさっきと同じように冷やしたグラスや材料を取り出す。
『今度は梨華ちゃんいないから強めのやつがいい。
ウィスキーベースですっきりしたの』
真希が自分の要望を出す。
真里がOKサインを指で作るとさっそく作業を始める。
何かの道具を使って氷を器用に細かく砕いている。
真希はただその後姿をぼんやりと眺めていた。
真里は先程の返事を忘れているわけでも、無視しているわけでもない。
ただ自分の考えを上手く言葉にできないか、迷っているかのどちらかだけだ。
そういうときの真里は、いったん別のことをやりながら考え込む癖がある。
そしてそのことがやり終えている頃には彼女自身の気持ちも決まっている。
最初の頃は忘れた頃(それでも長くて二十分ぐらい)
に返事が返ってきて驚いたが最近はずいぶん慣れた。
- 151 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/14(日) 22:23
-
「はい。リクエストに応えて作ったからね。」
真里が恩着せがましく言うと、グラスを真希の前に置く
細かな氷の中に香りのいいバーボンが溶け込んでいる。
本当はバーボンが主役のはずなのになぜだか氷が主役に思える。
その上にハーブの葉らしいものが浮いている。
『なんかさー。派手じゃないけど綺麗だね。』
グラスの中の世界がかもしだす、絶妙のバランス間に思わず感心してしまう。
「そうだね。」
真里が素直に相槌を打つ。彼女も同じことを考えたのだろうか。
「ごっつぁんさー」
真里が真希を「ごっつぁん」と呼ぶ。
別に呼び方に深い意味があるわけでもなく、
「真希ちゃん」と呼んでみたり、
「ごっちん」と呼んだりで気分しだいで使い分けているみたいだ。
ただ怒っている時だけは「後藤」と呼び捨てで呼び
この時の真里だけは非常にやっかいだ。
- 152 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/15(月) 09:10
-
真里がしばらく間を置く。
真希は別にそれを気にせず真里が作ってくれたカクテルをゆっくり飲む。
ミントの香りと、細かい氷の食感が非常に心地良かった。
「ごっつぁんからキスしてくるのもいいけど、お酒飲んでるときは嫌だからね。」
真里がぴしゃりと言い切る。
これだけのセリフを言うためだけにあれだけ時間をかけたのだろうか。
『何でー。真里ちゃんだって飲んでるじゃない。』
自分勝手な言い草はいつものことだが、少し頭にきて真里に言い返す。
「矢口は酔ってないからいいの。
それにさっきのは後藤が優しかったから感謝の気持ちだったの。
頬にキスされるのでも、その場の勢いや冗談でされるのは嫌。」
真里の口調は少し弱く、最後の部分は小さくかき消されるようだったが、
なぜか真希の耳にはしっかりと残った。
- 153 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/15(月) 09:11
-
『じゃあ時々後藤にしてくれたのは何なのかな?』
真希は少し意地の悪い気持ちになって真里に嫌味っぽく言う。
真希の記憶が正しければ、
キスをしてくるのはいつも真里からで
しかも真里が嫌だと言った、その場の雰囲気や少し酒が入ったときがほとんどだった。
「何って・・・。そんなこと分かってるでしょ。!」
真里がムキになって真希に喰いかかる。
『後藤ね。真里ちゃんみたいに頭が良くないから分からないんだよね。』
ここぞとばかりに自分のことを、
いつも馬鹿者呼ばわりする真里に日頃の仕返しをする。
(本当は分かっているんだけどね。)
真希は心の中でぺロリと舌を出す。
梨華の件にしてもそうだが、
真里は本当に大切なものにとっては極端に臆病になる。
真希に自分の行為を拒絶されるのが怖かったので
あとで、あれは冗談だったとか、
逃げ道のつくれる状況でしかしてこなかったのだろう。
- 154 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/15(月) 09:13
-
そして自分にはそういうことをしないでと頼んでくる。
言い換えれば真里は自分のことが好きなので、
きちんと気持ちをぶつけて欲しいということなのだろうか。
(真里ちゃん、自分勝手だよね。)
半分あきれつつもそんな真里の気持ちに嬉しくもなる。
(でもここは真里ちゃんの口からきちんと言ってもらわないと・・
普段私にあれだけキツイ態度とってんだから当然だよね。)
「あれはその・・・・」
真里の口が珍しく歯切れが悪い。
彼女のグラスをのぞいて見るとまだ口が付けられてない。
半分空になっている真希のグラスとは対照的で
それだけ余裕が無いのかもしれない。
『私にしてくれてたのは遊びで
同じこと後藤がしちゃいけないってことかな?』
真希がさらに追い討ちをかける。
- 155 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/15(月) 20:29
-
「何でこんな話になるのよ!
矢口の相談事聞いてくれるんじゃなじゃかったの!」
とても人に相談する態度に見えない真里が逆襲に出る。
『真里ちゃんが後藤にチューしたからじゃないの。』
しれっと真希が言い切る。
これくらいの切り返しぐらいはできないと真里の友人はやってられない。
「く・・・・・・・・」
普段はゴリ押しで言い返す真里だが今回ばかりはさすがに言い返せない。
「あの・・・・。後藤が可愛かったから・・・つい」
真里が顔を下に向けて搾り出すような声でようやくそれだけ言う。
『真里ちゃん、よく聞こえないんだけど。』
真希はわざと自分の耳に手をあてて聞こえないことをアピールする。
- 156 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/15(月) 20:31
-
(これくらい言ってもバチは当たらないよね。あー今日は本当にいい日だ。)
恥ずかしいのか悔しいのかわからないが、
顔を赤く染めて体を震わす真里を見てしみじみ思う。
突然真里が顔を上げると目の前のカクテルを一気に飲んだ。
『真里ちゃん、そんな飲み方するとムセちゃうに決まっているじゃない。』
真希がムセて苦しむ真里の背中を多少乱暴なくらいの勢いでさすってやる。
『大丈夫?お水入れてあげるから』
真希は呼吸が落ち着いてきた真里に少し安心すると、
冷蔵庫からミネラルウォーターと氷を取り出してグラスに注ぐ。
『今度はゆっくり飲まなきゃ駄目だからね。』
少し大きめの音を立てて目の前に水の入ったグラスを置くと、
真里はごくりと音を立てながらゆっくりと飲み干した。
- 157 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/15(月) 20:32
-
「ごっちん助かった。ありがとう。」
やっと口が聞ける状態になった真里は素直に礼を言う。
『なんであんな飲みかたしようとしたの?』
真希が呆れて腰に手をあてて真里に訊ねる。
「いやーごっつぁんが言いにくいことばかり聞いてくるからさー。
つい勢いつけようと思って飲んじゃったんだよね。」
屈託なく真里が笑ってみせる。
その笑顔を見るとさっきまでくだらないことで真里を
いじめていた?自分が馬鹿に思えてきた。
『真里ちゃん、ごめんなさい。
相談にのるって言いながら、あげあしとっちゃって。』
真希は真里に素直に謝ることにした。
確かに相手が真剣なのにそれを逆さにとった自分の態度は悪かったと思う。
(でも真里ちゃんの口から後藤にキスする理由言わせたかったな。
・・・・・・・まあいいか。)
機会はいくらでもあるし、その間に自分達の気持ちも変わるかもしれない。
いずれにしろ、軽々しく口に出すべきことではないということは
真希にしろ真里にしろ同じ考えだったらしい。
- 158 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/18(木) 09:44
- つーか先が気になるよ
この3人どうなるんだよ
- 159 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/20(土) 21:07
-
「あれー。
ごっちんにしてはずいぶん素直だね。
食あたりか何かかな?」
真里が冗談っぽく言って手を後ろで組組みながら、真希の顔を下から覗き込む。
『真里ちゃん、なにか勘違いしてない。
後藤はいつでも素直だよ。
意地っ張りの誰かさんと違って。』
真希は澄ましてクールに言い切る。
真里と一緒にするなと言う態度を全身で表す。
「誰かさんて誰のことかな?
おいらには心当たりが全然ないんだけど。」
真希の言い方にカチンときた
真里はそう言いながら真希のほっぺたを思いっきり引っ張る。
真希の頬は以外に柔らかく、結構伸びる。
『心当たりがないなら何で引っ張るんだよ』
真希も負けじと真里の頬を引っ張る。
お互いに間抜けな顔になったことに気付いて止めると
顔を見合わせて大笑いする。
もともと本気で引っ張っていたわけではないのでたいした痛みもない。
- 160 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/20(土) 21:08
-
「うちら小学生みたいだね。」
真里はまだ笑い足りないのか、体のバランスを崩し真希によりかかる。
『今どき小学生だってこんなことしないよ。』
真希も可笑しくて体の力が全部抜けそうだが何とか真里を支える。
「そうだね。
ごっちん、ほっぺた真っ赤だよ。」
真里が自分でつくったのにも関わらず、真希の頬を見てまた可笑しくなったのか笑い転げる。
『真里ちゃんよく笑うよね。』
呆れながらも、真里の様子を見ているだけで自分まで愉快な気分になる。
(本当に息が合うんだろうな。私と真里ちゃん。
誰かといることがこんなに楽しいことだなんて思わなかった。)
真希は真里と出会うまでは、
人間嫌いではないが、他人といるよりは自分一人で過ごす時間のほうが好きだったし、
それを苦だと思ったことは一度もなかった。
- 161 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/20(土) 21:11
-
その価値観を見事にひっくり返した真里のエネルギーはすごいと思う反面、
もし彼女が自分の目の前からいなくなったら、
以前の自分のような気持ちで日常をおくれなくなるんだろうなとも思う。
誰かを大切に思う反面、それを失ったときの寂しさ辛さを想像するだけで怖くなる。
真希はもともと、嫌なことを深く考える性格ではないが
真里の存在がどんどん自分の中で大きくなるにつれ
「らしくもないこと」を考えることが多くなってきた。
(それだけ幸せだってことだろうけどね。)
いつも思考のループの終端はその結論で落ち着く。
最近は梨華に悪いと思いつつも、
彼女の悲観的な物の見方を反面教師にして自分を省みる。
(なるようにしかならないんだけどね。
理屈と感情は違うんだよね。)
真里がよく使う「理屈と感情は違う」という言葉を心の中で使ってみる。
頭では整理できても気持ちではどうにもならないことはある。
それを認めるだけでだいぶ楽になった気がした。
他の人が言ったならそう思わなかっただろうけど、
真里が使うと、ものすごく説得力を帯びて
言葉が活きてくるから不思議だと思う。
- 162 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/20(土) 21:12
-
「ごっつぁんが笑わせることばかりするからでしょう。」
いつも笑う原因の85%は真里がつくる癖に彼女にはその自覚症状がないらしい。
『そうかな?』
真希が曖昧な笑顔を浮かべてみせる。
くだらないことで真里と言い争いをする気は無い。
「いつまでも呆けてないのないの。
さっさと片付けるよ。」
真里が目の前の食器を片付け始める。
『あれ、みんなで一緒にやるんじゃなかったっけ?』
真里の突然の行動に驚きながら真希が背中越しに声をかける。
「ごっちんねー。
風呂上りの梨華ちゃんに働かせる気なの?
それにあの子は今日いろいろあって疲れてるんだよ。
誰のせいでこうなったかは
いくら忘れっぽいあんたでもわかっているよね?」
真里が台所に食器をさげて戻ってくると、真希の腕を軽くつねる。
- 163 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/20(土) 21:13
-
(後藤のせいだけじゃないよ。
さっき梨華ちゃん泣かせかけた真里ちゃんでしょ。
二十分も経ってないよ。
忘れっぽいのはあんただ! )
と叫びたいのを必死に我慢する。
言い方は気に入らないが
梨華に少しでも楽をさせてあげたいという真里の考え方には賛成だ。
真希は黙って立ち上がると、テーブルの上の物を片付け始める。
無駄の無い動きとそのスピードで
真里と梨華の二人でやるよりやるより全然早い。
一通りさげ終わるとホットプレートの掃除を始める。
お湯をホットプレートの熱で沸かして一度捨てた後
キッチンペーパーのようなものできれいに拭き取ってから
プレートの部分だけを流しへ運ぶ。
「ごっつぁんすごいね。
おいら自分で片付けたことなかったからやり方知らなかった。」
家業で慣れているとはいえ自分など
及びもつかない真希の手際のよさに思わず賞賛の声を浴びせる。
- 164 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/20(土) 21:15
-
『真里ちゃん悪いんだけど
呆けて見てないでちゃんとやってくれる。』
少しも悪いとは思ってないことが充分伝わるで言葉の調子で
さっき真里が使った「呆ける」という言葉を強めに真希が冷たく言う。
「ごめん。とりあえずテーブル拭けばいいかな?」
自分の言い方が悪かったかなというのがあるのと、
真希の仕事っぷりに文句のつけようがないので下手に出る。
(ごっちん怒っちゃったかな。
本当に矢口は口の利き方悪いからね。ごめんよ。)
一言も口を利かず真里の倍以上で作業を進める真希に引け目を感じながらも
真里なりに懸命に動く。
もともとたいした量でないのでテーブル周りはすぐに片付き
後は流しの食器類を洗うだけになる。
先に真希がエプロン姿になって流しの前に立っている。
(学校のごっつぁんからは想像できないよね。)
普段とは違った面を見せる真希に少し圧倒されながらも
負けてはいられないと、自分の頬を軽く叩いて気合を入れる。
- 165 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/21(日) 17:53
-
真里は台所で洗い物をしている真希の横に
小さな体をさらに小さくしてそっと入り込む。
真里は真希の方を見たが何も言わない。
真里は彼女が洗い終わったものを拭いて食器棚にしまい込む。
あっというまに洗うものが無くなって二人の間に沈黙が流れる。
「ねー、ごっちん怒ってる。ねーったら」
ついに真里が沈黙に耐えかねて真希に声をかける。
なおも無視する真希の腕に絡みついて
顔を覗き込もうとするが首を横にそらして表情をみせない。
なおもしつこく同じことを続けると、
次の瞬間真希が体を折り曲げて笑い出した。
『あはは、可笑しい。
真里ちゃん後藤が本気で怒ったと思ったでしょう』
「うん。今回も言い過ぎたかなって少し反省してた。」
真希が本当に怒っていなかったことにホッとして肩の力を抜く。
- 166 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/21(日) 17:53
-
『こんなことで怒ってたら一年中真里ちゃんと絶交中になるでしょ。』
当たり前のように言い切る真希に
感謝していいのか、怒っていいのかわからない複雑な気分だ。
「うん。そうかもしれないけどさ、
ごっちんが口利いてくれないからさすがに心配になっちゃってたさ。」
真里が素直に自分の心境を吐き出す。
『たまには脅かしてやろうと思ったんだけど
真里ちゃんがあまりにも後藤のこと気にするから
我慢できなくなって笑っちゃったんだけどね。』
真希が舌を出して見せて悪戯っぽく笑ってみせる。
さっきの黙ったままの表情のときとはえらい差で、
まるで別人のように思える。
- 167 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/21(日) 17:54
-
「ごめんね。
おいらも分かってるんだ。・・・・
なかなか直らないと思うけど、気をつけるからさ。」
真里がしょんぼりして言う。
冷静になって考えれば自分が同じ言い方をされれば腹が立つだろう。
そんな自分を慕ってくれる真希や梨華を不思議に思うくらいだ。
『今日の真里ちゃんおかしいね。変なこと気にしすぎているぞ。』
真希が真里の気分を明るくするように声をあげると、
彼女を後ろから抱きしめて頬を頭の上に載せる。
『なんか梨華ちゃんの考えそうなことだね。
一緒に居過ぎてうつっちゃった?』
「そうかもね。」
真里は自分の頭に頬をのせる真希を
動かそうとしたがその手には力がなく
どかせようとするポーズだけだということがわかる。
- 168 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/21(日) 17:56
-
『真里ちゃんの話ってさー。』
真希がそのままの姿勢のまま真里の髪に軽く息を吹きかける。
「うん。」
真里は何となく後ろから伸びて自分の胸辺りで組んである
真希の両手を見つめる。
自分よりずっと大きな手のひらで、細い指が長くて綺麗に見える。
『梨華ちゃん絡みでしょ?』
「うん。何で分かった。」
別に驚いたようでもなく真里が聞き返す。
『自分でもわかってんだろうけど。
真里ちゃんいつもすごく明るくて楽観的なのに
梨華ちゃんが関わる問題になると弱気で悲観的になるんだよね。
いつもの厚かましさは見る影もないぐらいにさ』
真里にいつも言われている「厚かましい」という言葉を
ごく自然に使ってみせる。
- 169 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/21(日) 17:57
-
「そうだね。
梨華ちゃんのことになるとムキになっちゃうんだよね。
本人にはいい迷惑だろうけどさ。」
真里が少し自嘲気味に言って、真希の片方の腕を?んで頬を擦り付ける。
「さっきも梨華ちゃん泣いてたんだよね。
私の言い方がきつかったのかもしれないけど
目の前で涙を流されると正直堪えるんだよね。」
『じゃあ言わなきゃいいのに』
真希が真里の体から両腕を解くと正面に周りこんで、瞳を覗きこむ。
「だからこれから気をつけるって言ってるじゃん。」
真里が口を少し尖らせる。
その唇が異様に可愛らしく真希の目に移り
思わず自分の顔をゆっくりと近付ける。
『嫌がらないんだ。』
真希が真里の顔との距離が五センチぐらいのところで止める。
- 170 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/21(日) 17:58
-
「けっこう高くつくかもね。私の唇は。」
真里は自分で言いながら
何かで聞いた映画かドラマのセリフみたいだなと気が付き
急に可笑しくなって言い終わると同時に笑い出した。
『くさいよ。真里ちゃん。カッコつけすぎ。』
真希も同じことを思ったのか、一瞬の間を置いてから大笑いしだした。
「そう思う?
おいらもさー
言ったあとしまったて思ったんだよね。」
(本当にしまったよなー。
気が利くセリフが言えたら
ごっちんの唇が重なってたかもしれないのに。)
自分のセリフのカッコ悪さと、
その結果キスすることができなかったという二つのことに真里は軽く悔やむ。
- 171 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:03
-
『うん。絶対真里ちゃんそんなこと言わないと思ってた。』
涙が出るほど笑ったのか真希が手を目にあてている。
「しょうがないじゃん。緊張してたんだからさ
つい頭の中に残っているセリフ使っちゃったんだよね。」
真里は深い溜め息を大げさにつく。
『ごめんね。
真里ちゃんがあんまりにも可愛いからつい変な気になっちゃった。』
真希が笑いながら、両手を重ねて真里を拝む。
「まあ。しょうがないよ。
矢口がキュートすぎるのが悪いんだからね。」
真里が冗談っぽく笑うと、紅茶を飲むためのティーカップを用意する。
- 172 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:04
-
『真里ちゃん、紅茶入れてくれるんだ?』
真希が嬉しそうな声を出す。
こういうときの彼女は本当に愛らしく真里の顔から自然に笑みがこぼれかける。
「さっきからごっちんに話そらされてばかりだからね。
何か口に入れておけば余計なこと言わないで済むでしょ。」
真里が自分の感情を隠して嫌味を言う。
『ひどいなー。まるで後藤が子供みたいじゃない。』
たいして気にもせず真希が笑ってみせる。
(本当に子供なんだよ。
あーあ、こんな奴に相談しようなんて人選誤ったよな。)
真里は後悔したが、後の祭りでもう遅い。
それに彼女に話すことによって自分の胸のつかえが取れるかもしれない。
真希はいいかげんなところもあるが、たまに真里が気付かないようなとこでも
感づく鋭いところもある。
それにあまり真剣に聞かれるより、
彼女のような肩の力をいつも抜いているような人間に話すほうが
精神的に楽だった。
- 173 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:04
-
「ごっっちんさー。
さっきの私見てどう思った?」
真里が出したクッキーの缶からどれを取ろうか悩んでいる真希に話しかける。
紅茶の湯気がら独特のいい香りが居間に漂っていて、落ちついた雰囲気をだしている。
『さっきのって?
あー真里ちゃんが梨華ちゃんいじめてたやつ。
まだまだ甘いんじゃない、後藤にやるときはあんなもんじゃないでしょ。』
クッキーをほお張りながら真希がさらりと厳しい意見を述べる。
「いじめって・・・・・
やっぱそういう風に見えちゃったかな。」
真里が弱く声をあげる。
たしかに言い方はきつかったかもしれないがそんなつもりは微塵も無かった。
『知らない人が見たらね。
後藤はそうは思わないし、梨華ちゃんも同じだと思うけど』
真希は落ち込んだ真里をみて絶妙のタイミングでフォローを入れる。
- 174 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:05
-
(本当はもっと突き放して、落ち込ませたほうが
大人しくなっていいんだろうけど。
あまりやりすぎると可哀想だし・・・・・)
結局、真里には甘いんだなと自分で苦笑いを浮かべる。
「本当、良かった。」
真里が心底ホットした様子を見せる。
『真里ちゃんの気持ちもわかるけど、
もう少し梨華ちゃんに優しく言ってあげれば。』
真希がティーカップの中身を飲み干してお替りを要求する。
普段なら「自分で入れな。」と冷たく突き放すところだが
場合が場合なだけに、黙って紅茶を注ぐ。
- 175 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:06
-
「そうなんだけど、
梨華ちゃん見てると歯がゆくてね。
他人には優しいのにこう自分を大切にしないというか・・・・
それで腹が立っちゃったんだよね。」
『それだけ梨華ちゃんが気になるんだ』
真希は軽い嫉妬を覚えたが、表情には出さず聞き返す。
(へー。私でもこんな感情持つんだ。)
自分が初めて持つ感情に軽い戸惑いを覚えたが
梨華の柔らかい笑顔が顔に浮かんだらそんなものは一瞬で吹っ飛んだ。
「うん。それでね。
さっきのことで怖がられたり、嫌われたりしたら嫌だなって思って。」
真里は真希のそんな心の動きに気付かずに
自分の思いを素直に打ち明ける。
- 176 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:07
-
『真里ちゃんて記憶力悪いんだね』
真希がいつも真里に言われている言葉をそのまま言い返す。
「何がだよ。ごっつぁんにだけは言われたくないね。」
真里がむっとなって言い返し、真希が選別中だったクッキーの缶を自分の方に引き寄せる。
『だってさー。
さっき真里ちゃんの部屋で梨華ちゃん言ってたでしょ
「私は真里ちゃんのことが大好きです。
このことだけは忘れないで。」って』
真希が梨華のアニメ声を真似ながら言ってみせる。
(はっ・・・・・・・・・・・・、そういわれれば似たようなこと言ってた。
なんでそんな大事なことすぐ忘れちゃったんだろう。
・・・・・・・いや忘れてたわけじゃないんだ。
あまりにも嬉しすぎて現実の言葉として実感できなかっただけなんだよ。
ごめん梨華ちゃん。)
真里は心の中で何度も梨華に頭を下げる。
『梨華ちゃんも可哀想に・・・
せっかく勇気出して言ったのに言われた本人がこの様じゃねー。』
真希が呆れたように真里を見下ろすと、クッキーの缶を奪い返し、
彼女の前に空のティーカップを差し出す。
- 177 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:08
-
「お茶の葉、入れ直すね。」
真里はやっとのことでそれだけ言うと、ふらふらしながら立ち上がる。
(真里ちゃんだって、結構間抜けじゃん。)
真希は可笑しくて笑い転げそうだったが、真里のプライドを考慮して何とかこらえる。
真里が戻ってきて、熱い紅茶が再びティーカップに注がれる。
『真里ちゃんも飲めばいいのに。
さっきから全然飲んでないでしょ?』
真希に言われて、はっと気付き冷めた自分のカップに口をつける。
あまりのショックに紅茶の味も分からないが、一気に飲んで一息つく。
「そう言えば何で後藤そのこと知ってんのよ?
まさか盗み聞きしてたんじゃないでしょうね。」
真里の思考がやっと動き出し、鬼の形相で真希に迫る。
『人聞きの悪いこと言わないでよ。
ドア開いてたから声が漏れてきたの。
後藤だって真里ちゃんのこと心配で二階に行こうとしたら
たまたま聞こえただけ。』
「ごめん。また言い過ぎた。」
何て自分はそそっかしいんだと、真里は天井を見上げる。
- 178 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:09
-
『いいよ。別に。
私はそんな真里ちゃんが好きなんだから。』
真希が「好き」という言葉をさらりとつかう。
あまりにも自然すぎて、真里にはその意味が届かない。
『それより、
これで梨華ちゃんの気持ち分かったでしょ。
あの子不器用だから、自分の思いを上手に出すことができないってこと。』
「ありがとう。
おかげでもう少し梨華ちゃんに自信を持って接せると思う。」
(あれで自信がなかったの?
真里ちゃんの自信って・・・・・・・)
我が友人ながら、真希は末恐ろしいものを真里に感じた。
- 179 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:10
-
『ところで、梨華ちゃん遅いね。』
もう1時間近く入っているはずだ。
真希は別に何時間でも待てるが少し心配になる。
『真里ちゃんどうしたの?』
真里が(しまったと)いう顔を浮かべて固まっている。
『もしかしたら、また真里ちゃんのせい・・・・・・・
なんて言ったか聞かせてくれる?』
想像するのも恐ろしいが怖いもの見たさで真里に話すように催促する。
「ゆっくる入るんだよって・・・・・」
真里は上の空で目の焦点を真希に合わせずぽつりと言う。
『それだけ?』
真希がそれだけのわけは絶対にないと確信しながらも
真里に話させるためできるだけ優しい口調で訊ねる。
「〔三十分以内に出てきたら、
もう一度入りなおしで今度はおいらが梨華ちゃんを洗うって。
一秒でも早く出てきたら駄目〕と言ったような気がする。」
真理が「気がする」というわりには随分鮮明にセリフを再現してみせる。
- 180 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:10
-
『念のために聞くけどお風呂に時計あるよね?』
真希は呆れて口が聞けなくなる寸前だったが、
最後の希望に託して、真里に問いかける。
「あるわけないでしょ。
だってこうでも言わないと梨華ちゃんゆっくり入れないと思って・・・」
真里がパニックにおちいって必死になって言い訳する。
(真里ちゃん気持ちはわかるけど、それは脅迫じゃないのかな?)
さすがの真希も何も言えずに真里に背を向けて居間を出ようとする。
「真希ちゃんどこ行くの?」
珍しく真里が心細気に声を出す。
『梨華ちゃん見てくる』
真希が歩みを止めずに、自分の目的地へ向かおうとする。
- 181 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:14
-
「おいらも行く。」
『ややこしくなるから来ないでね。』
真希が有無をいわせぬ調子でピシャリと言うと
後ろで真里が力なく床に崩れ堕ちていくのがわかる。
(今度という今度はしょうがないね。
よっぽど痛い目に遭わないとわかんないみたいだから
思いっきり冷たくしとかないと。
これでしばらくは後藤に大きな顔できないでしょ。
これが「下克上」てやつか。)
真希の母親が夢中になって見ていた大河ドラマで
覚えた言葉をここで使ってみる。
(さーてと、梨華ちゃんとお風呂に一緒に入るいい理由ができたし、
真里ちゃん反省させるためにもゆっくり入ろう。)
真希はどさくさに紛れて、自分の都合のいいように解釈すると
るんるん気分で風呂場に向かった。
- 182 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/23(火) 14:25
-
>141さん
>158さん
レスありがとうございました。
なかなか順調に進まないです。
一時間に二レス分から三レス分書ければいいほうで、
集中力がないのも原因かもしれません。
この先どうなるのかは自分もよくわからないです。
カップリングと主人公は決定しているのですが・・・・・
では、相変わらず進みませんが
これからもよろしくお願いします。<(_ _)>
- 183 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/26(金) 00:25
-
(どうしてこう余計なことばかり言っちゃうんだろう。
こんなんじゃこれからの私の威厳?に関わるし
どうにかして今日のことを、二人の記憶から葬り去らないと・・・・)
真里はこれからの学生生活のために必死に頭をフル回転させる。
別に真希や梨華はいつもと違い弱くて、そそっかしい真里をみて
何とも思わず、むしろ余計好きになったぐらいだが
真里にとってはいくら親友とはいえ自分の内心を吐露しすぎたことと、
真希に心底呆れられた件は何としても許せなかった。
(それにしてもごっちんにここまでやり込められるとは・・・・
おまけに私があの子に好意をもってるのも、もろにばれたみたいだし・・・・・
明日からどんな表情して顔を合わせればいいのよ!
やっぱアルコールとったのが良くなかったんだよね。
いつも軽い口がさらに軽くなって・・・・
やっと法律で二十達未満は飲酒禁止にしてるか分かったけどもう遅いよー。)
多少法律について間違った解釈をしながら、
キッチンとリビングの間をウロウロと何度も往復する。
- 184 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/26(金) 00:26
-
砂時計の砂が無くなるくらいの時間がたっただろうか。
真里はふとキッチンのしまい忘れた洋酒に目がいった。
(そういえば梨華ちゃん飲みすぎたとき、、
前の日のことほとんど覚えていないんだよね。・・・・・
そうだ!こうしよう。)
真里は素早く計算を立てた。
《風呂上り→ノドが乾く→最初は弱いアルコール→
酒だと気付かずに飲む→感覚が麻痺する→もっと強いものを飲ませる
→二人とも酔いつぶれる→今日ここで起こったことを忘れる→
矢口が介抱する。→朝が来て二人とも真里に感謝アンド頭が上がらない》
(うーん。我ながら上出来の案だね。
死角はないし、完璧だ。
問題は飲みすぎて吐かれちゃったときなんだけど
それぐらいはおいらが後始末するから大丈夫。)
自分の計画に自己満足を覚え、気分も少し軽くなる。
- 185 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/26(金) 00:27
-
(待てよ・・・・一人だけならともかくあの二人を確実に潰すとなると
かなりの量がいると思うけど大丈夫かな?)
真里は不安を覚えアルコール類の残りをチェックすると
ウィスキーが4分の1とカクテル用のアルコール類が少しあるだけで
どう考えても足りそうもない。
(困ったな。
お酒買いに行きたくても、おいら一人で買ったら絶対怪しまれるし・・・
ここのところお店のほうもうるさいんだよね。
おまけにうちの学校地元では一応名門?女子高で通ってるから、
万が一通報されたらやっかいだし・・・・・)
早くも問題点にぶちあたり頭を抱え込む。
(どうしよう。早くしないとあの二人お風呂から出てきちゃうよ。)
真里のリビングを歩き回るスピードが上がる。
- 186 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/26(金) 20:34
- ヤグタンが余計な事考えて墓穴を掘ろうと…
つーかやぐごまですか?
- 187 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/28(日) 01:12
-
(しょうがない。奥の手を使うか。)
真里はなにやら覚悟を決めた表情になると電話機をとり
番号をプッシュしていく。
「もしもし、矢口だけど、祐ちゃん?」
真里が電話を掛けた相手は学校の教師の中澤裕子だった。
こんな時に頼りになる大人の知り合いは彼女ぐらいしかいない。
『何や、仮にも自分の学校の教師に向かって祐ちゃんはないやろ。』
口では文句を言いながらも、
その口調からは真里から電話がかかってきた嬉しさは隠しきれていない。
裕子にとって他の生徒とは違うユニークさを持つ真里は
自分が気にかけているバイト時代の後輩を連想させ結構お気に入りだった。
「何言ってんの今さら。
祐ちゃんと矢口の仲でしょ。」
当然のように言い切る。
- 188 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/28(日) 01:13
-
『ねえ矢口質問していいかな?』
裕子は半分怒りを隠した猫なで声を出す。
「うん。なんでもいいよ。」
『あんた最近私に何て言ったか覚えてる?』
少し意地の悪い調子に声のトーンを変えて真里に問いかける。
「最近ね。最近・・・・・・・・・・・・」
真里は何かを思い出したらしく急に黙り込む。
『どないした?
遠慮せんで言ってみな。』
裕子がたたみかける。
声の調子だけはまた優しくなるが、顔は笑っていない。
電話で表情は伝わるわけないのだが、
真里の頭のビジョンにはしっかりと、裕子の今の表情が映し出されている。
- 189 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/28(日) 01:19
-
裕子がこんなことを言うにはわけがある。
最近真里とのスキンシップに体を触ってくる彼女に対して
本気ではなく冗談交じりながら
「うざい」だの「この三十路」という暴言をしょっちゅう浴びせていた。
裕子の立場から言わせてもらえば、
多少スキンシップに度がすぎるところがあるにせよ
小動物的なところがある真里を可愛がっているにすぎない。
真里のほうから見ると
裕子のことを嫌いではないが毎日続くと多少嫌になってくるのも事実だ。
裕子も大人なのでその辺は分かっていて、
嫌がる真里(本当に嫌なわけではない)の反応を楽しんでいるところがあったが
さすがに真里が暴言特に「三十路」という言葉を使いながら
平気な顔で電話をかけてくる真里に少し意地悪をしたくなっただけだ。
- 190 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/28(日) 01:20
-
「ごめん。祐ちゃん。
矢口が馬鹿だったよー」
電話口で真里が涙声をとっさにつくり謝る。
『矢口、もうええわ。
何か私に頼みたいことがあるんやろ。言うだけ言ってみな』
裕子はいつもと違う不自然な真里の態度をとっさに見抜いて
真意を言い当てる。
さっきの真里に対する抗議も別に怒っていたわけではなく、
彼女なりの生徒に対する接し方だった。
このやり方でも大抵の生徒は彼女の真意を理解できたが
梨華だけは真面目に言葉通り捕らえてしまい
いまだに裕子の前に出ると緊張してしまう。
その点、真里はその辺の要領は抜群にいいので
裕子との相性がばっちりだった。
- 191 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/28(日) 01:21
-
(それにしても、矢口もやり方が露骨過ぎるわ。
もっと上手にやらんと。)
裕子はついバイト時代の後輩と較べてしまう。
その後輩は頼みごとがある場合
断れないどころか、
こっちから進んで聞いてあげたくなるような状況を作り出すのが上手だった。
(まあ、あの子と較べるのは酷か・・・
あれは変わり者だったけど変な才能持ってたもんな。)
悪戯好きで、問題を起こしてばかりいた後輩の表情を思い浮かべる。
普通ならとっくに嫌いになっていてもおかしくないのに、なぜか憎めなかった。
(もうあれから随分経つのに、いまだによく覚えてるわ。)
つい、昔の懐古に引き込まれそうになる裕子を真里の声が引き戻した。
- 192 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/28(日) 01:22
-
「さすが祐ちゃん。すぐにばれちゃったね。
実はね・・・・・・」
真里は自分が裕子にして欲しいことを必死に訴える。
『は?』
最初は真里の話に適当に頷いたが、
あまりにもとんでもないことを言い出すので思わず間抜けな声をあげる。
『アホかあんたは!!
何考えとんね!!
どこの世界の教師が生徒に「記憶が吹っ飛ぶくらいのカクテルの作り方を教えろ」
「その材料を三十分以内に持って来い」
て言われてハイって言うねん。』
(あいつ頭の回転は早いはずなんやけろ・・・・
思考回路がおかしい違うんか? )
さすがに裕子も呆れてしまいこの話が冗談だと信じたかった。
- 193 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/09/28(日) 01:25
-
「祐ちゃん、お願いちゃんと聞いて、本当にやばいの。
それがないと来週から学校に通えないんだよー。
嫌だよ祐ちゃんの顔みれなくなるの。」
最後の一言は、真里らしい出任せっぽかったが
せっぱ詰まっているは事実らしい。
『ちゃんと理由話してみな。
内容次第だったら協力してあげるから』」
どこでどうなったら
酒がないだけで学校に登校できない自体になるのか疑問だったが
とりあえず話をするように促す。
「本当は話したくないんだけど・・・・・
祐ちゃん、絶対人に言っちゃ駄目だからね。」
とても人に頼み事をするような態度に聞こえない口調で真里が念を押す。
『あんたと違って口は堅いほうやから大丈夫やと思うけど?』
大人の余裕で多少嫌味を込めて切り返す。
「わかった。じゃあ今から話すね。」
そんな裕子の返事でも安心したのか、
真里はできるだけ自分に都合が悪い部分を省略して
なぜ「強力なアルコール」が必要になったのかを説明し始めた。
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/09(木) 01:20
- 続きが読みたい…
- 195 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/10(金) 21:57
-
//しばらく更新していない件について
すいません。プライベートなことで20日ぐらいまで
UPできません。<(_ _)>
申し訳ないですが復帰できしだい、
スピードアップして書かせていただきたいと思います。
(書く気だけは満々です。)
*この板の「作者フリー 短編用スレ 5集目」
256番目から284番目ぐらいに
「さよならから始まる恋」という作品をUPさせていただきました。
よろしければ、そちらのほうも是非読んでみてください。
- 196 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:09
-
『あんたなー。』
真里の話(だいぶ事実と違う)を聞いて、裕子は呆れて天井を見上げるしかなかった。
『つまりや。
後藤と石川と一緒にパーティーをやってる途中とんでもない失態を何度も演じてた。
このままでは彼女達とまともに合わせる顔がない。
だから酒で記憶を飛ばしたいとそういうわけか。』
真里の原稿400文字二枚分の説明をたった三行でまとめてみせる。
「そうなの。よーくわかってくれたでしょう。」
真里がこうするのを当然でしょというような調子で裕子に答える。
(たったそれだけのことで、
どうして友達を酔い潰して記憶を飛ばそうという結論になるんや。
一回家庭訪問でもせなあかんかな。)
真里の話のあまりの馬鹿らしさに思わず本気で心配してしまう。
話の様子からするとふざけているわけでもなく、本人はいたって真剣らしい。
- 197 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:10
-
(まあ、もっとすごい子を知ってるから
それほど驚きはしないつもりだけど・・・・・矢口も相当なもんや。
クラスのムードメーカーで頭の回転が早い矢口真里、
努力家だけど痛すぎるところが目立つ、ネガティブ美少女石川梨華、
究極のマイペース、学園一同姓にもてる女、「ハンサムな彼女」後藤真希、
あの三人組みのなかでは矢口が一番まともだと思ったんやけどなあ・・・・・
類は友を呼ぶか・・・・
それにしてもあんだけ癖のある連中がまだ一年か・・・・・・)
真里たちとの付き合いがあと三年近くもあることに気付き頭を抱え込む。
(なんで私は昔から
変わり者とばかり縁があるんやろー。)
裕子は自分の運命を呪ったが実はその原因をわかっている。
彼女のほうが、「変わり者」に惹かれる場合が多いのと
基本的には世話焼きなのでついほっとけなくてかまってしまうのである。
(まあ、性分やからしょうないな。
ほっといたら気になって、後味悪いもんな。)
裕子は覚悟を決めたが、もちろん真里の言うことなど素直に聞く気はない。
- 198 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:10
-
『正直、話の要点が伝わってこないけど
可愛い生徒の頼みや、聞いてあげないこともないけどね。』
「本当、祐ちゃん大好き。」
真里が調子よく言葉を発する。
『馬鹿、話を最後まで聞きなさい。
大人の女一人を動かそうっていうんだから、それなりの代償払う覚悟ある?』
(何が、裕ちゃん大好きや。
昨日までは、「三十路」、「鬼婆」、言いたい放題やったのに。
しばらく、恩を忘れさせないためにもキツイ要求せんとな。
そのほうがありがたみがあるやろう。)
「お金とかは、払えないけど何でも言うこと聞くからお願い。」
電話の向こうの真里はよほどせっぱつまっているのだろう。
それほど待たずに返事が返ってきた。
『あほ、生徒に金せびるほど落ちぶれてないわ。
それより、何でも言うこと聞くの?』
「うん。嫌だけど覚悟はできてる。
そうしないと裕ちゃん言うこと聞いてくれないんでしょ?」
真里の悲壮感を込めた声が受話器越しに聞こえてくる。
- 199 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:11
-
『あたりまえやろ。
三十路になると、
何の見返りも求めないで行動するほどお人好しじゃなくなるからね。』
裕子がここぞとばかり嫌味を込めて返す。
「祐ちゃん、ごめん。悪気は全然なくて、そんなに気にするとは思わなかった。
馴れ馴れしくしてごめんなさい。
もう二度と言わないね。」
いつにもなく、沈んだ声の真里が聞こえなくなると同時に受話器を切る音がした。
(子供、相手に大人気なかったか。
まあ、過ぎたことはしょうがない。せいぜい早く届けるか。)
裕子はアルコール度数がかなり高い洋酒のビンを棚から取り出す。
この洋酒は、バイト時代の後輩から世話になったお礼にと
何年も前にもらったもので、一度も開けていない。
今までは、このビンを開けると大切な思い出も消えてしまいそうな気がして
手を付けなかったが、ちょうどいい機会なのかもしれない。
(有効に使われたほうが、送った人間も喜ぶかな。)
ビンに映る自分の顔をしばらく眺めると、
何年も前のことが昨日のことのように感じしばらく当時を懐かしむ。
「このビンなら、高級感あって矢口もうるさいこと言わないでしょ。」
裕子は、感傷から抜け出すように声を上げるで、
真里の家に届けるものをバックに詰めると、急いで駐車場に向かい出した。
- 200 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:13
-
「さてと、祐ちゃんに電話したし、
あとは酔い潰したごっつぁんと梨華ちゃんがすぐ眠れるように
布団でも敷くか。」
真里は二階の客間に向かうと三人分の布団を用意する。
(客間っていうのは大げさだよね。
簡単に言えば使ってない部屋なんだけど。
まあ、日本の住宅事情を考えると空いてる部屋があるっていうのはいいことかな。)
真里は部屋の周りをゆっくりと見渡す。
余計な家具などは何も置いてないので、実際よりも広く感じる。
(これだけのスペースがあれば三人分、楽に敷けるね。)
一人で自分の部屋のベットに寝るよりも
気の合う友人と一緒に夜を過ごすほうが楽しいが今回ばかりはそうもいかない。
(確実にあの二人をより潰さないと・・・・
私の威厳に関わる問題だからね。
祐ちゃん早く持ってきてくれないかな。)
真里はいつでも眠れるように準備を整い終わると
ぶつくさ独り言をいいながら居間へ向かった。
- 201 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:14
-
(もう出ても平気かな。)
「三十分以上入りなさい」という真里の言い付けを守ろうと思った梨華だったが
時計がないので、どれぐらい時間が過ぎたのかはわからない。
もう一時間以上たった気もするし、まだ十五分ぐらいだと言われればそんな気もする。
長い間湯に浸かっているいるせいか、思考力が低下してきているようだ。
『梨華ちゃん入るね。』
洗面所で人の気配がしたかと思うと
いつのまにか真希が梨華に返事をする余裕も与えず、
産まれたままの姿で登場してきた。
「ごめん。私出るね。」
梨華は真希のいきなりの登場に驚きつつ、
やっとのことでそれだけ言うと浴室から出ようとする。
『梨華ちゃん、今出ないほうがいいよ。
真里ちゃんなんか機嫌悪いみたいだから、
しばらくほっとけば直るけどね。
それより一緒に入ろうよ。こんな機会めったにないんだし。』
真希が梨華に笑いかける。
本当は一緒に入るのは恥ずかしいが、真希の笑顔をみると断るのも悪い気もするし、
真里の機嫌が本当に悪いなら、もう少し入っていたほうがいいのかもしれない。
- 202 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:15
-
「うん。」
梨華がしぶしぶといった感じで頷くと真希が
『本当、やったー!』
と小さな子供のように喜ぶ。
そんな真希を梨華は不思議なものでも見るようにぼんやりと見つめる。
『梨華ちゃんどうしたの。脱水症状かな?
大丈夫、ちゃんと後藤が冷蔵庫からジュースの缶持ってきといたから。』
真希はどこから取り出したのか、ブドウの絵がプリントしてある缶を梨華に手渡す。
さすがに行儀が悪いと思って断ろうと思ったが、
真希がいいことをしたと嬉しそうな顔をしているのに
つき返すわけもいかないのと、なにより梨華自身ちょうどノドがカラカラだったので
真希の行為を素直に受け取ることにする。
- 203 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:16
-
『本当にどうしたの、さっきからポケーっとして』
真希が缶を開けながら梨華を気遣う。
「今さら言うのもおかしいけど、本当に人は見かけによらないなって」
梨華も真希にならって缶を開ける。
果物の甘みと何かの程よい苦味が梨華のノドを潤す。
『ハハ。よく言われるからもう慣れちゃった。
冷たそうとか、クールっぽいとか。
確かにそういうところあるけどね。
後藤は二枚目だから、そう見えてもしょうがないか。』
本人はもてるのを自覚しているみたいだが、
あまり嬉しそうでもなくごく自然に言ってみせる。
- 204 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:17
-
「ごめんね。つまらないこと言って。」
梨華は真希の態度をみて、人の外面しか見れない自分に気付きハッとする。
(私もつまらない人間なのかな?
人の美醜ばかり気にして中身を見ようとしなかった。
これだけ、私によくしてくれている真希ちゃんに対しても
外見から判断していたんだ。)
梨華は自分の友人に申し訳なく思って、つい顔をうつむけてしまう。
『梨華ちゃん。
何で謝るのかわからないけど、後藤のお願い聞いてくれる?』
梨華の気持ちを変えさせようと、下から顔を覗きこんで明るく言う。
「私にできることなら喜んで。」
梨華もそんな真希の気持ちに気付いて、少しおどけて答えてみせる。
- 205 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:17
-
『髪の毛洗ってくれる?』
真希が珍しく恥ずかしそうに梨華に頼む。
「うん。いいよ。」
梨華は湯船から出て真希の後ろに周りこむと、
シャンプーをたっぷりつけて真希の肩まで伸びている髪を泡立てる。
『この年になってもね。
人から髪とか背中流してもらうの好きなんだ。
いつもは真里ちゃんにやってもらうんだけどね。』
真希は気持ち良さそうにしながら、梨華に話しかける。
「真希ちゃんは甘えん坊なんだ。」
梨華が丁寧に真希の髪を洗いながら答える。
想像以上に柔らかく、ボリュームがあってその感触が梨華には心地良かった。
- 206 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/20(月) 20:18
-
『うん。私は寂しがりやなんだよね
だからこうやって誰かの手に触れられてると安心するのかも。』
真希の髪が泡立ってきたので
シャワーから出てくるお湯の温度と量に気を使いながら
ゆっくりと泡を洗い落とす。
「そう。
私も、本当はいつも寂しくて、
だから真里ちゃんや真希ちゃんといると安心するの。
でも私は素直じゃないからなかなか態度に表せないんだけど。」
お互いに裸で向かいあっているせいか、普段言えない胸の内がつっかえることなく出てくる。
『大丈夫。梨華ちゃんのことは後藤も、真里ちゃんもよく分かっているから。』
真希がそっと梨華の手を握り締める。
- 207 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/10/22(水) 23:23
-
「ありがとう。」
梨華は短くそれだけ言うと、
今度はリンスをつけてゆっくり丁寧に真希の髪全体に行き渡らせ、シャワーで軽く落とす。
『それにしても梨華ちゃんよく後藤と一緒に入るの嫌がんないね。
もっと拒絶されるかと思ってた。』
しばらく続いた二人の沈黙を真希が破る。
「真希ちゃんが強引に入ってきたんじゃない。
私が断るスキも与えずに。」
梨華がそう言って柔らかく笑う。
別に怒っているわけでなく、しょうがないなという感じの諦めが入った笑いだ。
『だってそうでもしないと、梨華ちゃんとお風呂に一緒に入る機会なんて一生ないでしょ』
「そうね。一生は大げさだけど。」
梨華は真希の髪をゆすぎ終わると、今度は背中を流し始める。
- 208 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/10/22(水) 23:24
-
『いいよ。そこまでしなくて。
梨華ちゃんにそんなことさせたら罰が当たっちゃうよ。』
真希が珍しく慌てて言う。
(本当に嬉しいんだけど、
このこと真里ちゃんが聞いたらどうなるの?
真里ちゃんはまだ一緒にお風呂も入っていないのに
後藤は体まで洗ってもらったとなると・・・・・
ショックを通り越して落ち込むだろうな。)
梨華に対する愛情表現が不器用であっても、
その純粋な気持ちを知っている真希は嬉しさを通り越して、軽い罪悪感すら覚えてしまう。
「私は真希ちゃんにしてあげられることは
これくらいしかないの。
真希ちゃんが嫌なら止めるけど。」
梨華は真希の態度を勘違いして受け取ったのか、
少し気弱げな声で真希の返事を待つ。
- 209 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/10/22(水) 23:39
-
『いや気持ちはすごーく嬉しいんだけど、
そこまでしてもらうと真里ちゃんに・・・・・・・』
その後をなんと説明していいのか分からなくなった真希は言葉に詰まる。
「真里ちゃん?」
何でここで真里ちゃんが出てくるの?というように梨華が首を傾げて聞き返す。
『うーんとね。
真里ちゃんは前から梨華ちゃんと一緒にお風呂に入りたいって言ってたでしょ?
その真里ちゃんがまだ一回も入っていないのに、
後藤が梨華ちゃんにそこまでしてもらっちゃっていいのかなって・・・・』
真希が自分の考えを頭の中で整理しながらゆっくりと言葉にする。
- 210 名前:川o・-・) 投稿日:川o・-・)
- 川o・-・)
- 211 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/10/28(火) 21:09
-
「別にそんな大げさなことじゃないと思うんだけど、
真希ちゃんがそう言うなら止めとくね。」
『梨華ちゃん、本当にごめんね。』
真希はもう二度とないチャンスを逃したかもしれないという後悔と、
もう一人の友人に対して、
うしろめたい気持ちを持たずに済んだという安堵感が
交じった複雑な思いをする。
「真希ちゃんて本当に真里ちゃんのこと好きなのね。」
梨華がしばらく間を置いてから我慢しきれなくなったように突然くすくす笑い出す。
『そうかな?
真里ちゃんて口は悪いし、性格も自己中でしょ、おまけにスタイルもよくないし
何にもいいとこないよ。』
真希は真里の欠点ばかりを浮かべてみせ、あえて真里の長所に目をつぶる。
- 212 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/10/28(火) 21:10
-
「真希ちゃん駄目よ。そんなこと言ったら。
本当にそう思っているならそれでいいけど?」
梨華は「本当にそれでいいの?」と言うような表情で
真希を優しく見つめる。
(そんな目でみられると、ますます梨華ちゃんが好きになっちゃうよ。)
真希は、梨華を抱きしめたくなる気持ちを抑えるために
視線を珍しく下に向けてみる。
『それはさー、真里ちゃんだって少しはいいとこあるけど・・・・』
やっとのことで真希がそれだけ答える。
本当は真里の好きなところがたくさんあって、言葉では言い切れないほどなのだけど
照れてしまって素直に口に出せない。
- 213 名前:梨華と真里とごっつあんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/10/28(火) 21:12
-
「そうでしょ。」
梨華はまるで自分が褒められたようにパッと顔を輝かせる。
「真里ちゃんて、ああ見えてすごく可愛いいの。
悪ぶってみせるくせに、本当は優しいし、
しっかりしてるようで結構ぬけてるし、
小さい頃よく遊んだ年下のイトコにそっくり。」
梨華が夢中になってしゃべっているうちに、無意識に真希の手を握り締める。
真希は自分の心臓の鼓動が早まるのを感じながら思わず、
梨華の胸や腰のラインに注目してしまう。
(私って結構エッチなのかな?
しかも相手は女の子なのに・・・・・)
そう思いつつも視線は正直に、梨華の体に向いている。
- 214 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/02(日) 02:23
-
梨華はそんな真希の心の動きに気付かず、
真里のいいところを幾つもあげて力説している。
(私は何を考えているんだろう。)
今日はいろいろあって疲れたのと、アルコールを取りすぎたのかもしれない。
気を緩ませ過ぎると意識が飛びそうになる。
「ねえ、真希ちゃん聞いてる?」
梨華の声で、真希はふと我に返る。
『うん。聞いてる。』
真希が慌てて返事をする。
「本当?」
梨華が真希の顔を上目遣いで覗き込む。
- 215 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/02(日) 02:24
-
ごめん。すこしボーっとしてた。』
真希は素直に自分の軽い嘘を認める。
(結構、シラを切るのは得意なんだけどな。
梨華ちゃんのあの目と、甘い声で囁かれたら嘘つけないや。)
基本的に苦手はないと思い込んでいた真希だったが例外はあったみたいだ。
(まあ、こういう苦手ならいいんだけどね。)
真希は、そんな自分の心理状態に思わず声を上げて笑いたくなった。
「そうだったのごめんなさい。」
梨華はそんな真希を見て何を思ったのか慌てて謝る。
『えっ?』
「真希ちゃん、ほとんど一人でパーティーの準備して、
疲れているのに、私が勝手にペラペラ喋って。」
梨華は申し訳無さそうに目を伏せる。
- 216 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/02(日) 02:37
-
(梨華ちゃんて思い込み激しいよな。
しかもネガティブな方向だもんね。
同じ思い込みでも、真里ちゃんは自分の都合のいい方にしか考えないし。)
真希はもう一人の親友とついつい比較してしまう。
(真里ちゃんみたいなのも困るけど、
梨華ちゃんのほうはもっと大変だよね。
こんなんじゃ、世の中渡ってけないぞ。
しょうがない、しばらくは後藤が守ってやるか。)
つい、さっきまで梨華の体に欲情しかけたくせに
そのことはコロッと忘れて彼女の保護者気分になる。
本人は声を大にして否定するだろうが、
やはり真希はかなり真里に近い考え方の持ち主だ。
- 217 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/02(日) 02:50
-
『嫌だな。梨華ちゃん何言ってんの。
後藤はそんなこと少しも思ってないよ。』
真希は少しもの所に少し力を込める。
梨華は本当?という表情を浮かべて、真希をすがるように見ている。
『ごめんね。
少しお湯でのぼせちゃっただけ。
梨華ちゃんがいろいろ後藤に話してくれるだけで、すごく嬉しいんだよ。
出会った頃は口もまともに聞いてくれなかったからね。
真里ちゃんと二人でよく嫌われてるのかなって
話していたぐらいだから。』
真希が梨華を元気付けるために、明るい表情で冗談めかして言う。
梨華はそれを聞いて安心したのか、ようやく表情に明るい兆しが戻る。
- 218 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/02(日) 03:06
-
「そうだったの。
私ったら勝手にいろいろ想像してそそっかしいね。」
梨華は軽く舌を出すと、浴室の扉を開ける。
『梨華ちゃんもう出るんだ?』
真希が心なしか残念そうな声を上げる。
「うん。私もすこしのぼせてきたみたいだから。
それに、もう三十分以上経ったでしょ。」
梨華が冗談っぽく笑う。
さっきの真里の乱暴な物言いを、受けとめられる余裕ができてきたようだ。
『そのことだったら大丈夫。
後藤がよーく言っといたから。
「口の利きかたに気をつけなきゃ駄目
今度、梨華ちゃんにそんなこと言ったら私が許さないから」って
そしたら少しは大人しくなって反省してた。』
真希が事実より多少オーバーに梨華に話す。
- 219 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/03(月) 00:39
-
「そんな、真里ちゃんは私のことを思って・・・・」
梨華が真希がとった行動に対して慌てて真里を擁護する声を上げる。
『梨華ちゃん、駄目よ。
良くないことは良くないとはっきり言ってあげないと。
優しいのと甘やかすのは全然違うからね。』
真希がよく母親から怒られた時のセリフをそのまま流用する。
(うちのお母さんも、たまにはいいこと言うね。)
何で怒られたかは覚えてないが、たまたまお説教の一部は頭に残っていた。
(これで、梨華ちゃんが納得して、
あの子のほうから真里ちゃんに厳しい一言を言ってもらえば、
さすがにあの分からず屋でも、反省するだろうからね。)
- 220 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/03(月) 00:51
-
真希は自分の考えに満足して一人頷いていると、
突然、梨華の笑い声が浴室に響いた。
「あはは、可笑しい。」
見ると梨華が目に涙を浮かべて、お腹を抱えている。
『あれ、後藤なんか笑わせるようなこと言ったかな?』
あまりにも梨華が笑っているので、真希が少し心配になって梨華に訊ねる。
「だってね。真里ちゃんもまったく同じこと言ってたのよ。
後藤は甘やかすとすぐつけあがるから、厳しくしなきゃ駄目だって」
梨華が目に手をあてながら、やっとのことでそれだけ言って
まだクスクスと笑っている。
- 221 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/03(月) 01:01
-
『真里ちゃん、そんなこと言ってたの。』
真希は自分の顔が熱をもって、赤くなるのを感じた。
(そうか、真里ちゃん普段そんなこと言ってるんだ。)
真希は梨華の手前恥ずかしくもあったが、そのことが凄く嬉しかった。
なぜなら自分が真里のことをそこまで言ったのは、
彼女に対しての愛情表現の裏返しだったわけで
真里のそれも、自分に対してどんな気持ちで言ったのかも容易に想像できた。
(私達、似たもの同士なんだね。
でもそんなとこまで、同じじゃなくてもいいのに。)
真希は照れくさい気持ちが浮かんでくるのと同時に、顔が自然と緩んでくる。
- 222 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/03(月) 01:29
-
「あんまり私の前では真里ちゃんとベタベタしないでね。
寂しい気持ちになっちゃうから」
梨華の顔は笑っているのに、その言葉の持つ悲しい響きは
真希の胸にずっしりと伝わってくる。
『大丈夫後藤は、梨華ちゃんも真里ちゃんも同じくらい好きだから。』
慌てて言ったセリフは我ながら都合が良すぎると思う。
これが異性同士なら間違いなく、二股の悪魔と罵しられているだろう。
梨華にとってみれば、真里のほうが大切だと言えば安心するのかもしれない。
曖昧な態度を取られるより、はっきりと分かる形で伝えて欲しい。
彼女はそういう気持ちの持ち主だ。
真希には親友二人を天秤にかける気持はさらさらないが
そのことを上手に表現する方法を知らなかった。
- 223 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/03(月) 01:48
-
「ありがとう。真希ちゃん。」
梨華はそう返事をしたもの、真希の言葉通りに受け取っている様子は無く
自分は真里に較べてとるに足りない存在だと思い込んでるらしい。
(困ったな。どうしたら信じてもらえるかな。)
真希は自分ならこういう場合どうして欲しいのかを、
考えてみることにしたが、なかなかいいアイデアが思い浮かばない。
(そうだ!!)
真希はこのまえ真里に借りた少女漫画のストーリーを思い出した。
その話のヒロインはちょうど梨華みたいな性格の子で、
好意を寄せてくれているボーイフレンドの気持ちを
自分自身に自信がないためなかなか信じきれずに、いつも不安になる。
あるとき、自分より可愛くて性格がいいと思い込んでいる女の子と
ボーイフレンドが一緒にいるのをみて、勝手に誤解してしまうという、
すごくありふれた展開だった。
真里に言わせれば「馬鹿じゃない」の一言で済んでしまう薄っぺらい話でも
今の真希にはそれしか参考にするものがなかった。
- 224 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/03(月) 23:29
-
(こういう場合、どうしたんだっけかな?)
真希はあいまいな記憶をたどってみる。
(たしか、ギュッと正面から抱きしめてキスしてたような気が・・・・・)
真希の頭にやっとその絵の構図が浮かび上がってきた。
(あれは、やばいよな。)
自分の置かれた現在の状況を冷静に考えてみる。
(私は別にいいけど、タオル1枚を羽織っているだけの梨華ちゃんを
抱きしめるのは、さすがにまずいか。そしてキスをすると・・・・・
うーん、一歩間違わなくても犯罪になっちゃうね。
第一、私がどれだけ梨華ちゃんのことを
大切に思っているかということを伝えるという目的からズレてるし・・・
しょうがない、この作戦は中止だ。
でもどうしたらいいんだろう。)
真希は、頭を抱え込む。
- 225 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/03(月) 23:31
-
「どうしたの、真希ちゃん。」
さっきから、
上向き加減で意味の分からない独り言をぶつくさと呟く真希を
梨華が横から心配そうに覗き込む。
『うるさいな。
梨華ちゃんが後藤の言ったことちゃんと信じてくれないから
どうしたらいいか考えているんでしょう!』
真希は条件反射的につい自分の胸の内を吐き出してしまった。
(やばい、梨華ちゃんは後藤のこと心配してくれただけなのに
何でこんなこと言っちゃったんだろう。)
浴室の中で体は火照っているはずなのに、
背中からは冷たい汗が噴き出してくるのを感じる。
(とりあえず、誠意をもって謝って
それから後藤の気持ちをちゃんと伝えなきゃ。)
真希は動揺する自分の心を何とかコントロールして、
どうすればベストなのかを考え、恐る恐る梨華の顔に自分の視線を合わせる。
- 226 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/03(月) 23:59
-
意外なことに、
泣きそうに崩れてるかと思った梨華の表情は落ち着いて
少しバツの悪そうな笑みを浮かべているほどだった。
「真希ちゃん、ごめんね。」
しばらく、といっても五秒程時間を置いた後、梨華がポツリと言った。
真希はあまりの意外な展開についていけず、何も言うことができない。
『どうして?
後藤のこと心配してくれた梨華ちゃんにあんなこと言ったのに。』
「確かに言い方はきつかったけど、真希ちゃんの気持ちが伝わってきたの。
いつも、ふわふわって空気のように?み所がなくて、
どんなことにも、本気にならない真希ちゃんが
そこまで私なんかのことを真剣に考えて
くれているんだなと思ったらすごく嬉しかった。」
梨華は心なしか顔を少し赤らめて真希に自分の思いを伝える。
- 227 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/04(火) 03:32
-
真希は梨華が自分の気持ちを分かってくれたということより、
梨華を傷つけずに済んだという安心感から体中の力が抜けていくのを感じた。
(私、梨華ちゃんのこときちんと理解できていなかったな。)
真希は自分の持つ梨華のイメージより、どんどん精神的に成長していることを
嫌がうえでも、実感させられる。
そのこと自体は嬉しいのに、その反面何とも言えない寂しさを感じてしまう。
(そうか。私は弱い梨華ちゃんも好きだったんだ。
すごく悲観的で傷つきやすくて、おまけに少し意地っ張りなところも。)
「どうしたの、真希ちゃん。
もしかしたら私、泣いちゃうと思ってた。?」
梨華が明るい調子で真希をからかうように尋ねる。
『正直、かなり心配しちゃった。
さっきのこと口から出しちゃった後、真里ちゃんのこと非難できないやってすごく反省してた。』
真希は、はにかんだようなような表情をみせる。
- 228 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/04(火) 03:32
-
「本当はね。ちょっとだけ泣きそうになっちゃったんだ。」
梨華が悪戯っぽく真希に微笑みかける。
『そうだったんだ。それ聞いて少し安心した。』
「どういう意味かな?」
梨華は少し不満げに頬を膨らます。
『梨華ちゃんらしくていいやってこと』
真希は軽やかな気持ちになって、梨華に明るく言うと自分も浴室から出る。
「真希ちゃんも出るんだ。」
『うん。せっかく三人で過ごせるんだから、できるだけ長く一緒にいたいからね。
あ、梨華ちゃん背中拭いてあげるから後藤のも拭いてね。』
真希は素早く言うと梨華の背中の水滴を丁寧に拭き取っていく。
梨華の背中を思ったより細くてその体の感触は柔らかかった。
- 229 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/04(火) 03:33
-
「今度は私が拭いてあげるから真希ちゃん背中向いてくれる。
あれ、おもったより真希ちゃんって筋肉質なんだ。
無駄なお肉ついてないし、色も白くて羨ましいな。
あ、真希ちゃん万歳してくれる。」
梨華は意外にテキパキと真希の体の水滴を拭き取る。
「はい、できた。」
梨華は満足そうに頷くとドライヤーのスイッチを入れて自分の髪を乾かす。
『梨華ちゃん。』
ペンギンの柄の水色のパジャマに着替え終わった真希が、
彼女に聞こえるか聞こえないかの大きさでそっと呟く。
梨華はそんな真希の様子に気付かずに、軽くウェーブのかかった髪をとかしている。
「あ、ごめんね。真希ちゃん。」
彼女に見とれていた真希を、
ドライヤーが空くのを待っていたと勘違いした梨華が慌てて真希に手渡す。
梨華は薄いエローで、何かの果物の絵がプリントしてあるパジャマを着ていた。
- 230 名前:名無子 投稿日:2003/11/04(火) 16:22
- 更新ペースが上がって嬉しいです
三人のバランスがちょっとずつ変わってきた感じがしますが、このままCPもできなくてほのぼのしててもいいなぁ
- 231 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/06(木) 04:19
-
「うん。」
真希は梨華の勢いに押されてドライヤーを受け取ると
自分の髪に何となく、風を当てていたがいつのまにか、その風を止める。
『あのさー、今日は真里ちゃんに優しくしてあげてくれる?』
「え、私真里ちゃんに何か変なことしたかしら。」
梨華は真希の思いもよらない発言の内容と、真剣な雰囲気に思わず心配そうな声を出す。
『ううん。梨華ちゃんはそんなことしたこと一度もないよ。』
真希は慌てて否定すると、自分が伝えたかったことを言葉にまとめる。
『あのね。
さっき真里ちゃんの機嫌悪いから私がこっちに来たって言ったでしょ。』
「それは、私がうじうじしていてハッキリとしなかったから
真里ちゃんイライラしちゃったの。」
梨華は自分が悪かったという表情を浮かべる。
- 232 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/06(木) 04:20
-
『ごめん。真里ちゃんの機嫌が悪いというのは嘘だったんだ。』
真希は大きく息を吸うとゆっくりと言葉を続ける。
『真里ちゃんは梨華ちゃんにあんな言い方しかできなかったのと、
そのことであなたを泣かしたんじゃないかってことで、
すごく気にしてたの。』
そこまで言ってしまったとプライドの高い真里が知ったら
「余計なこと言わないでよ。おしゃべりのバカ後藤」
と自分が口を軽いのを棚に上げて、怒るだろうけど、
梨華に少しでも、真里の気持ちを知って欲しいため思い切って本当のことを伝える。
- 233 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/06(木) 04:51
-
「そうだったの。
真里ちゃんも、真希ちゃんも
私のことをそこまで気にしてくれてたんだね。
なのに私は全然気付かなかったんだ。
私って幸せだよね。
私のことを守ってくれる王子様が二人もいて。」
梨華は少し驚いた表情を浮かべた後、嬉しそうに自分の今の心境を語る。
『そうだね。あんまり頼りがい無いけどね。』
真希もつられたように明るい笑いを浮かべる。
「わかった。今日は真里ちゃんに特別サービスしちゃうね。
喜んでくれるかどうか分かんないけど。」
(馬鹿だね梨華ちゃん、真里ちゃん鼻血出して喜ぶよ。
後藤が同じことをしても、気持ち悪がられるだけだからね。)
真希は梨華がヤキモチを焼くほどの大サービスをしないことを祈りつつも、
それで真里が喜んでくれたら自分にとってもすごく嬉しいことだと思った。
- 234 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/06(木) 05:10
-
「真希ちゃん早く行こう。」
梨華が洗面所から廊下に出る扉を開けて真希をうながす。
『うん。』
真希は生返事をしながら、ある面白いアイデアが思い浮かんだ。
「どうしたの真希ちゃん?」
不思議そうに首を傾げて真希を見つめる梨華の腕を素早く自分の腕に絡ませると、
体を軽く梨華のほうに寄りかからせる。
少しびっくりしたように真希の顔をみた梨華だったが、
真希がニコッと笑うと、梨華も笑い返して真希の体をしっかりと支える。
(よしうまくいったぞ。
これみたら真里ちゃんどんな反応するかな。
案外ショックで倒れちゃうかもね。)
そんなことを考えて胸をワクワクさせながら、
真希は真里の待つリビングへ向かった。
- 235 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 01:37
-
扉を開けるとそこには、少し派手めな格好をした裕子が立っていた。
「祐ちゃん来てくれたんだ。矢口感激!」
真里が喜んで見せたが裕子は不機嫌そうな顔で黙ったままで、真里の顔をじっと見ている。
(やっぱ、祐ちゃん怒ってるよね。)
自分の依頼の内容を少し冷静になって振り返ると、
だれでも怒って当然だし、こうやってわざわざ来てくれただけでも
感謝しなければいけないのかもしれない。
「祐ちゃん、綺麗な格好してるよね。何か予定あったの?」
この気まずい雰囲気を変えるために、真里が話題を振る。
(祐ちゃん、やっぱお金持ってるよな。)
今どきの女子高生らしくファッションにうるさい真里は、
着ている服や、バック、時計をちらりと見るだけで、
どこのブランドでいくらくらいか計算できる。
- 236 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 01:37
-
『予定?
誰のためにデートの約束すっぽかしてきたと思ってんの。』
裕子は、いつもより低めの落ち着いた声を出す。
(やばい。こういう声のときの祐ちゃん本当に機嫌悪いんだよ。
爆発させないように気をつけないと。)
さすがの真里もいつものノリで裕子に接することができない。
デートというのもめちゃくちゃ怪しい気がするが、
そんな考えを口に出せばどんな大惨事になるか容易に想像できる。
「ごめんね。祐ちゃん。」
『謝るぐらいなら何でこんな馬鹿な電話よこしたんや?』
急にカラ元気がなくなってしおらしくなった真里に追い討ちをかける。
- 237 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 01:38
-
(何で、そんな意地悪言うのよ。
矢口が頼れるのは祐ちゃんだけだったのに・・・・・
そんな言い方しなくてもいいのに。)
真里は真希に見放されただけでなく(真里が勝手に思い込んでるだけだが)
裕子にまでそういう目で見られると思うとやりきれない気持ちになる。
『まあええわ。これ約束のものね。』
いつになく元気がない真里をみて裕子も可哀想に思ったのか口調を柔らめて、
籐のバスケットを真里に差し出す。
「えっ」
真里は急に口調が変わった裕子に驚きつつも、
バスケットを落とさないようにしっかりと受け取る。
『中からいろいろ取り出すの面倒だから、
あんたにそのまま預けるわ。』
「じゃあ、このカゴ後で返すね。」
真里は大事そうにバスケットを抱える。
(このカゴの中身に、おいらのこれからの人生がかかっているからね。)
- 238 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 01:39
-
そん中にカクテルの材料と作りかた書いてあるから。』
「ありがとう。祐ちゃん。」
心なしか少しほっとした表情を真里がみせる。
『矢口、青春するのもいいけど程ほどにね。』
裕子が真里の頭をパンとはたく。
「うん。こんなこと頼むの今回だけだから。」
『あほ。今度そんなこと言ってきたら、ひっぱたくわ。』
裕子がそう言って、初めて少し笑った。
その雰囲気は学校にいるときの、頼れる姉御肌の先生だった。
「でね。矢口は祐ちゃんに何すればいいかな?」
真里は少し緊張した表情を浮かべる。
何でも言うことをきくと言った手前、
真里は自分なりに誠意をみせる覚悟はできていた。
- 239 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 01:40
-
(祐ちゃん女の子好きみたいだから、
矢口も卒業するまで、あんなことやこんなことをされるのかな。)
真里は興味本位で買ったレェディースコミックの内容を思い出して鬱になる。
読んでいるぶんには楽しい?が自分が実際に体験するのとはえらい差だ。
『矢口、あんた大丈夫か?
さっきからブツブツ言ってるけど。』
裕子が心底心配そうに真里を覗き込む。
「大丈夫、平気。」
そう言いながらも真里の目は涙ぐんでいる。
『ふー。まあ、ええわ。
今度の休みの日、買い物付き合ってね。』
「それだけでいいの?」
『それだけって、矢口は何を想像してたの?』
そう言いながらも、裕子はさっきから真里の様子がおかしいのは
「なんでも言うこと聞く」と言った自分の言葉に
プレッシャーを感じていたからだということは分かっていた。
- 240 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 02:55
- 『じゃあね。矢口、帰るから。』
裕子は、緊張が解けて床に座り込んでいる矢口に一声かけると
周れ右をして背中を向ける。
「あのね、祐ちゃん・・・・・・」
真里は自分の感謝の気持ちを伝えたいが、上手く言葉にできず詰まってしまう。
裕子はそんな真里の心情を分かっているのか、黙って言葉の続きを待っている。
「今度の約束おいしいもの食べさせてね。」
真里はやっとのことでそれだけ言った。
本当はそんなことを言いたいわけではなかったが、
やっとのことで出た言葉がそれだった。
『せいぜい、期待しといて。』
裕子はそれだけ言うと、振り返らずに真里の家を出て、
その前に止めてあった自分の愛車に乗り込んで、エンジンをかける。
- 241 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 02:58
-
(私も何考えてんだろう。
いくら可愛がってる生徒の頼みだからって・・・・・・・・
本当甘いよな。
まあ、年の功で細工だけはしといたから
月曜日あの子達の顔見るの楽しみだわ。)
裕子は自嘲気味に笑みを浮かべる。
(さてと約束の時間に遅れないようにしないと。
デートというのは嘘じゃないけど
相手はそのつもり全然ないだろうな。 )
バイト時代の後輩で
近くに住んでいるのに、以外と顔を合わせることのない
手がかかる妹のような存在の「なっち」との待ち合わせの場所へ向かうため、
裕子は車のサイドブレーキレバー軽く引くと夜の街に車を走らせた。
- 242 名前:3rdcl 投稿日:2003/11/10(月) 22:52
-
>>230 名無子さん
レスありがとうございました。
なかなか文章が進まず困っていて
なるだけ早く現在進行の話に戻していきたいと思っています。(^^;;
作者フリー 短編用スレ 5集目の372から407に
「さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様」という 作品をUPしました。↓
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/blue/1059546339/372-407
読んでいただければ、とても嬉しいです。
では失礼します。<(_ _)>
- 243 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 23:49
-
「さてと、そろそろあの二人が出てくるだろうから早く準備しないと。」
真里は、裕子から預かったバスケットをテーブルの上に置くと中身を確認する。
洒落た洋酒のビンと、それを使って作るカクテルのレシピ、それに上品な箱が入っていた。
「あれ何でこんなの入っているのかな?」
箱を見てみると、今日の日付と買った時間が記されたシールが貼ってある。
「これって、今から20分ぐらい前だよね。?」
箱は有名なケーキ屋のもので,裕子の家から真里の家までくるのに遠回りになるはずだ。
ということは真里たちのためにわざわざ買って来てくれたことになる。
(祐ちゃん、一言いってくれればいいのに。)
真里は照れてしまって、黙って渡すことしかできない裕子の不器用さに
ありがたいと思いつつも、つい笑いが浮かんできてしまう。
- 244 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 23:51
-
(祐ちゃん、ありがとう。感謝していただきます。
でもおいらには、その前にやらくてはいけないことがあるんです。)
真里は裕子の書いてくれたメモを覗き込む。
幾つかのカクテルの作り方が書かれていたが、一発でアルコールとばれてしまいそうなものばかりだった。
(後藤はお酒だと分かってても、おだてて飲ませればどうにかなるんだけど・・・・
梨華ちゃんは拒絶反応しめすだろうし・・・・・・)
なんとか上手くカモフラージュできるものを探すと、
レモンジュースとソーダ水とウィスキーで作るメニューを発見した。
(しょうがない。炭酸とレモンを強めにしてごまかすしかない。
味覚がなくなってきたら、強くすればいいんだから。)
時間があまりないので、急がなければいけない。
真里は、キッチンに向かうと慌てて準備を始めた。
- 245 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 23:52
- 「よし、間にあったぞ。」
真里はテーブルに置いた自作のカクテルを眺めて満足する。
(よし、これで作戦の半分は成功だ。
あとは、いかに上手に飲ませるかだけだ。)
真里は後の作戦を頭に練る。
ちなみに自分の分は、アルコールを入れてなく
色だけでは見かけがつかないほど似せてつくってある。
(自分が酔い潰れちゃ話になんないからね。)
元来、お調子者であることを自覚しているのか、
今日の真里は用心深い。
- 246 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 23:52
-
『梨華ちゃん、お風呂気持ちよかったね。』
「うん。」
廊下のほうで人の気配がしたと思うと同時に、
真希たちの話し声が真里の耳に届く。
(よし、これからが正念場だ。)
彼女達の楽しげな声とは反対に、真里は悲痛な覚悟で腹をくくる。
真希たちの声がだんだん近くなり、扉の向こうに姿が見える。
「ずいぶん、ゆっくりだったね。疲れ取れた?」
真里は自分の考えをさとられまいとするため、
入ってきた真希たちにいつも以上に陽気な声をあげたが
よくみると何かがおかしい。
- 247 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/10(月) 23:53
- 「真里ちゃん、すごい気持ちよかった。
それからタオルも使わせてもらっちゃった。」
梨華が、真里の心配とは裏腹に明るい表情を浮かべている。
(梨華ちゃん、お風呂あがりでいつも以上に可愛いな。)
湯上りでリラックスしているパジャマ姿の梨華に目を奪われる。
『なにが、「ゆっくりだったね。」よ。
真里ちゃんが出てくんなって言ったんでしょう。』
真里ができるだけ見ないようにしていた視線を、ほんの少し横にずらすと
真希が梨華の腕に自分の腕を絡ませて、幸せそうに梨華の肩に頬を寄せていた。
(後藤の奴。
梨華ちゃんが黙っているからって調子にのって。
しかも私のセリフ自分の都合のいいようにアレンジしているし・・・)
真里は怒りのあまり、一瞬目の前が真っ白になったが、
この後のことを考えて何とか自制する。
- 248 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/19(水) 21:59
- 「真希ちゃん、駄目よそんな言いかたしたら。」
梨華が形のいい眉を細めて注意する。
「いいの。おいらが悪かったんだからさ。」
真希に対する怒りを拳に握り締め笑顔を梨華に向ける。
よく真里の顔を見れば、怒りのあまり顔にスジが浮いているのが
分かるのだが梨華はそこまで気付かない。
『真里ちゃん、よく分かってんじゃん。少しは反省した?』
真希がさらに真里へとどめの一撃を出す。
(真里ちゃん、怒ってる。怒ってる。)
無理をして笑顔を維持する真里に、真希は心の中で大笑いする。
もしここに梨華がいなかったら、今頃真希の体は傷だらけになっているはずだ。
後で真里にどんな仕返しをされるか怖いには怖いが、
真里をからかえるこのチャンスを逃すのは惜しかった。
- 249 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/19(水) 22:01
- 「うん。これから梨華ちゃんに対する態度は改めようと思った。」
[梨華ちゃんに]というところを強調して真里が言う。
(あれ、真里ちゃんまだ怒んないぞ。)
真希は自分の予想外の矢口の忍耐強さに、恐怖を覚える。
(やばい、調子にのりすぎたかな。
なんとか軌道修正したかないとすごいことになりそうな気がする。)
視線を下に向けると真里の手が怒りのあまりブルブル震えていて
自分がとんでもないことをしてしまったことに気づく。
「真里ちゃんやめてよそんな言い方。
今までどおりにして欲しいの。お願いだから。」
梨華が潤んだ目で必死に真里に訴えかける。
- 250 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/19(水) 22:03
- (そうか、梨華ちゃん矢口のこと大好きって言ってくれたんだもんね。
少し?強引で口が悪い本当の私の姿を大事に思ってくれてる。
なんて,けなげでいい子なんだろう。
それに引き換え、後藤の奴は・・・・・・)
数少ないチャンスを要領よくモノにして、
梨華と一緒に入浴したり体を密接させている真希に怒りが頂点になる。
(絶対。許さない。)
真希はそんな真里の気配に気づいているのか、
梨華の後ろに隠れるようにしがみついていた。
- 251 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/19(水) 22:28
-
『あれ、真里ちゃん飲み物用意してくれてんだ。』
(どうしよう、流れを変えないと・・・・・・)
身の危険を感じた真希は話の矛先をそらそうとあたりを観察して
テーブルの上のものに目を止め話題を振る。
「あ、そうそう、
お風呂入ってノド乾いていると思ってね。準備してたんだ。
たくさん作ってあるからいっぱい飲んでね。
これの材料はねー」
真里が急に上機嫌になって説明を始める。
(よし、少しは怒りが逸れたかな。
でも、真里ちゃん根に持つからな。どうしよう。)
真希はこれからも、快適な学生生活を送るために必死に頭を回転させる。
さきはまだ長い。何としても遺恨のもとは絶っておかなければ
真希はずっと真里の尻にひかれっぱなしだろう。
- 252 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/19(水) 22:29
- (いけない。いけない。自分を見失うとこだった。
おいらにはやらなきゃいけないことがある。
調子にのりすぎの後藤には後でたっぷしお仕置きをすることにしてと・・・)
真里は当初の目的を思い出す。
(私が何のためにここまで苦労したか。)
勝手な思い込みで周りを振り回しているだけなのだが
困ったことに本人に全くその自覚がない。
こんなに自分をいたわってくれる梨華を酔い潰そうとすることに
さすがの真里も多少良心の呵責を覚えるが、
自分の醜態?をみせてしまった以上は、
何としてもその記憶を消さなければ、恥ずかしくて夜も眠れそうにない。
- 253 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/19(水) 22:56
- 「いただきます。」
梨華が真里に勧められるまま特製「ドリンク」を飲みだす。
「おいしい。あまり甘みがしつこくなくて、レモンの酸味が利いてて」
一時間近く入浴しててよほどノドが乾いていたのだろう。
あっという間にグラスを空にする。
『うん。本当おいしいよ。もっと欲しいな。』
真希がここぞとばかりに、真里をもちあげる。
こんなことで執念深い真里が自分への怒りを忘れるわけないのは
百も承知だが、できるだけ気分良くさせといて損はない。
「そう。おいらの分も無くなったしもう一杯作るね。」
(よし、徐々に濃くしていけば気づかれないぞ。)
真里は上手くいった。と内心でほくそえむ。
- 254 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/19(水) 23:09
- 「真里ちゃん待って。」
新しくカクテルをつくろうとキッチンへ向かうため立ち上がろうとした真里を
梨華が引き止める。
「いつも、つくってもらってばかりじゃ悪いから
今度は私がやるね。」
梨華がはりきって腕まくりをして、真里に嬉しそうに笑いかける。
真里はその笑顔にクラリとなりながらも
(やばい、そうなったらせっかくの矢口様の計画が台無しに・・・・・
何とか言いくるめないと)
必死に対抗策を練る。
「梨華ちゃん気持ちは嬉しいけど、今日はおいらにやらしてくれる。
ほら、このドリンク簡単なようだけど結構つくるの難しいし、
あとごっつぁんも味にうるさいからさ、ここは私がね。」
真里は必死に梨華を説得しながら、真希に話を合わせろとウインクを送る。
真希はその仕草に気づいたらしく、梨華に見えないようにOKサインを出す。
(あーごっつぁんのカンが鋭くて良かった。
これで梨華ちゃんがドリンクつくるの止めてくれるね。)
真里はホッと一安心する。
- 255 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/19(水) 23:24
- 「そう、私には無理か」
心無しか梨華がだいぶ気落ちしているように思える。
(梨華ちゃん、ごめんね。この埋め合わせは絶対にする。)
真里はそんな梨華を見るのが非常につらくて心が痛む。
でも今回ばかりは事情が事情だけにしょうがない。
今度こういう機会があれば泥水だって飲んでみせると真里は心に誓う。
『梨華ちゃん、大丈夫。』
突然、後藤が梨華を励ますように声をかける。
「でも・・・」
『私が手伝うし、簡単なドリンクをつくるのだって大切なのは
味じゃなくて気持ちなんだから。もし失敗しても後藤が責任取って全部飲むから
だからね!やってみよう』
真希は完全に真里のウインクの意味を誤解していた。
- 256 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 01:03
- (そうか、真里ちゃん照れ屋だから素直に梨華ちゃんにつくってて言えなかったんだよね。
この前、梨華ちゃんが作ってくれたお菓子の包みだって大事にとってあるくらいだし。
よし、これで何とか後藤の株を上げないとね。)
「うん。真希ちゃんがそこまでいってくれるなら私やってみる。」
真希の励ましに梨華も元気を取り戻す。
『じゃ、行こう梨華ちゃん。』
真希は梨華の手を引っ張ってキッチンへ向かうと二人でごとごと材料を選別しながら
楽しそうに会話している。
- 257 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 01:06
- (えっ!)
真里は思ってもいない展開についていけず呆然とする。
(ごっつぁんの馬鹿。そうじゃないんだよ。
梨華ちゃんを煽ってどうするのよ。ちゃんと止めてくれなきゃ。)
あいつに期待した私が馬鹿だったとキッチンの真希の背中を睨みつけると
真希が「いいことをした」と得意げな顔で真里にVサインを送ってみせる。
(あの子悪気はなかったんだね。)
真希があまりにも無邪気にはしゃいでいるのでさすがの真里も本当のことが言えず、
力無げに手を振り返す。
(でもどうしよう。せっかくの計画が・・・・)
真里は天を仰ぎたくなったがまだチャンスはあるはずと自分に言い聞かせて
何とか平常心を保つ。
- 258 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 11:30
- 「真希ちゃんどうしたらいいかな?」
一通り材料を出した後、梨華は人差し指を自分の唇にあてて首を傾げながら真希に意見を求める。
『うーん。つくる人の気持ちかな。
飲ませたい人がどうなって欲しいとか、そういうことでまた違ってくるね。』
真希はそう答えながら梨華のエプロン姿を眺める。
(カクテルつくるだけで大げさだよね。頭にはバンダナ巻いちゃってるし・・・・)
そう思いながらも、こんな些細なことにも精一杯頑張ろうとする梨華の意気込みが伝わってくる。
(やっぱ、梨華ちゃん偉いよね。)
どちらかと言えば何事にも、できるだけ手を抜く、無理はしないという方針の真希には、
梨華の懸命な姿が眩しく映る。
- 259 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 11:31
- (最初会ったときは、少し馬鹿にしてたんだよね。
不器用で引っ込み思案なのに変なところで熱血で。)
クラスの掃除や何かの行事になるともくもくと頑張っていた梨華を
そんなものに何の価値も見出さなかった真希は
正直理解できなかったが、少なくとも真希の物の考え方に影響を与えたのは事実だ。
一生懸命頑張るというのも悪くはない。
ただその価値観を他人に押し付けられるのが嫌だ。
梨華にはそんなところが欠片もなく、むしろ真希が一緒に行動したいと思わせる力があった。
今はそんな梨華を素直に尊敬できる自分に真希はホッとする。
(梨華ちゃんと出会えて良かった。)
真希はこのことを素直に口に出して言える。
そして自分にとって梨華は真里と共に何より大切なものなんだなと思う。
- 260 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 11:32
- 「飲んだ人にどうなって欲しいか?
うーんとね、とりあえず疲れがとれたらいいなと思うの。
そして楽しい気持ちになってくれたらもっと嬉しいかな。
ねー、真希ちゃん聞いてる?」
『あっ、うん。』
真希は慌ててかすかに耳に残っている梨華の要望を頭にインプットする。
(どうしようか。疲労回復か・・・・・・
確かに真里ちゃん体調悪くて寝込んだし、
それと楽しい気持ち・・・・・・・
後藤が梨華ちゃんの件で真里ちゃんを責め過ぎたから、少しイライラしてるか。)
真希はしばらく考え込む。
ふと横を見ると梨華は心配そうに真希の顔と、材料を交互に見ている。
- 261 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 11:33
- (ここで梨華ちゃんの期待を裏切るわけいかない。)
真希はもう一度材料をゆっくり見渡す。
いちごのリキュール、レモンスカッシュ、ライム酒、
そして洒落たボトルを見つける。
(あれ、これいい香りだけどウィスキーだ。
かなりアルコール度数高そうだけど。よし!これを使うか。)
真希はこのボトルを見たとたん冷徹な決断を下した。
(これで、真里ちゃんを酔い潰そう。)
さっきの件で少しは真里に恩を着せたとはいえ、
真里の怒りはこの程度で収まる程甘くないことは十分経験済みだ。
できれば記憶をとばすか、酔っ払っているところを介抱すればさすがの真里も何も言えないはずだ。
それに梨華の要望の疲労回復と、「楽しい気分」になるという条件も満たしている。
- 262 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 11:33
- 『よし、決まった!
後藤は口しか出さないから梨華ちゃんがやってね。
まずグラス一杯にに氷を注いで・・・・・・
それからそこのビンの中身を、真里ちゃんのグラスにだけ半分以上注いで』
「あの真希ちゃん、これ変な匂いするんだけど。」
言われた通りにしていた梨華が心配して、
真希の鼻もとにボトルを差し出す。
『大丈夫。これは気付けにもなるし』
「じゃあ何で私達のグラスには入れないの?」
梨華が不思議そうに訊ねる。
(今日の梨華ちゃん結構鋭いな。)
真希は軽く咳払いをすると、とっさに出任せの説明を始める。
- 263 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 11:34
- 『梨華ちゃん、これは「お薬」みたいなもんなんだ。
「お薬」は健康な人が飲んでいいの?』
「ううん。お母さんにやたらと飲んじゃいけないって」
『そうでしょ。
私達は元気だけど、真里ちゃん体調万全じゃないし少しイライラしてるよね。
だからこれは真里ちゃんに必要なの。その証拠に少し舐めてごらん。』
真希は自分の指にボトルの液体をたらして、梨華の口元まで持っていく。
梨華は恐る恐るそれを舐めると顔をしかめる。
「これ苦いっていうか、美味しくない。
こんなの真里ちゃんが飲んだら・・・・・・・・」
自分が飲むわけでもないのに梨華は泣きそうな顔になる。
- 264 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 11:37
- 『梨華ちゃん、「お薬」ていうのは本来苦いものでしょ?』
梨華は小さく頷く。これでボトルの中身が「薬」だと信じたようだ。
「でも・・・・・」
『味のことでしょ。
後藤の言うとおりにしたら絶対美味しくなるから平気よ。』
「すごいね。真希ちゃん。」
真希の自信満々の態度に梨華は安心したようだ。
(梨華ちゃん、嘘言ってごめん。
だけど、後藤をここまで追い詰めた真里ちゃんがいけないんだからね。
梨華ちゃんには後で正直に言うから。
その後はお尻を叩かれても文句言いません。)
真希はほーんの少し良心の呵責を覚えながらも、梨華に指示を与えていく。
- 265 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 11:38
- 「できた、綺麗な色。
真希ちゃんのおかげで完成しました。ありがとう」
梨華は自分の作品の出来栄えに満足し、嬉しさのあまり真希に抱きつく。
洗いたての髪の匂いが心地良く真希の鼻をくすぶり、服の上から想像するよりも
ずっとボリュームのある胸が真希の体に密着する。
(あー天国だ。それに胸が少しドキドキする。)
真希は天国というものを信じていないが、あるとしたらきっとこんな気分なんだろうなと思う。
(うっ、何か強いエネルギーを感じる。)
真希は梨華を肩越しに軽く抱きながら、そのエネルギーの方向へ恐る恐る視線をむけると
そこにはソファー越しに真里が爪を噛みながら恨めしそうな顔でずっとこっちを見ていた。
- 266 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/11/28(金) 11:39
- (やばい!)
真希は慌てて梨華から手を放し真里のほうをまたちらりと見ると
今度は悔しいのか涙まで流している。
真希は慌てて誤解だとジェスチャーで説明しながら謝るが真里はゆっくり首を振ると
右手の親指をゆっくり下に向ける。
(どうしよう。死刑宣告が出ちゃったよ。
今まで一番怒っている。)
梨華はそんな真希たちのやりとりに気づかずに鼻歌交じりでお盆にグラスを載せている。
(そうだ。ここは梨華ちゃんを利用、じゃなくて協力してもらわないと)
「真希ちゃん、準備できたから行きましょう。」
そう言う梨華に真希は何事か耳打ちする。
「そしたら、真里ちゃん喜んでくれるんだ。」
梨華は納得して大きく一つ頷いた。
- 267 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/07(日) 23:40
- (後藤のやつ!)
真里は今日何度目かの同じセリフを胸のなかで叫ぶが今までとは怒りの度合が違う。
梨華がいなければ、今すぐ飛んでいって真希に噛み付いているかもしれない。
その反面、羨ましくもある。
客観的に見て、背が高くスタイルが抜群でおまけに顔が整っている「ハンサムな彼女」こと
後藤真希と誰が見ても正真正銘の美少女の石川梨華との組み合わせはお似合いだ。
(私ももてるんだけどな。男の子にも女の子にも・・・・・・でも相手が悪いわ。)
真理がほんの少し怒りを収めつつあるところに
『真希ちゃん、お待たせ。』
梨華が自作のドリンクを運んできた。
- 268 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/07(日) 23:41
- 『上手くできたか分からないけど、飲んでくれる?』
梨華が俯き加減で真理に聞いてくる。
「うん、当然でしょ。
梨華ちゃんが作ってくれたんだもん。ありがたく頂きます。」
真理は梨華が期待の眼差しで見つめる中、グラスに口をつける。
(う・・・・これは!!)
果物の酸味とリキュールの甘さでごまかしているつもりだろうが
間違いない。
裕子からもらったウィスキーがたっぷり入っている。
これはこれで美味しいが、今日は酔いつぶれるわけにはいかない。
(後藤め、私と同じこと考えてたんだ。)
真理は今になって、やっと真希の戦略が読めた。
酔いつぶして、真理の記憶を飛ばそうという魂胆だ。
- 269 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/07(日) 23:42
- 『真理ちゃん、美味しい?』
「うん、すごく美味しい。」
そう言いながらも、グラスを口から離す。
こくいうアルコールというのは後から、ゆっくりと利いてくる。
これ以上飲むと少しずつ理性が麻痺してきて危険だ。
『嬉しい。たくさんあるからどんどん飲んで。』
梨華はそんな真理の心情には気がつかずに、彼女の横に座るとどんどん飲むように勧める。
「あっ、でも梨華ちゃんの分がないでしょ。」
真理は口実を作ってなんとか飲まないで済むようにしようとするが
『はい。梨華ちゃんの分は後藤が作ったからね。』
タイミング悪く真希が現れる。
- 270 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/07(日) 23:49
- 「じゃあ、みんなで一回乾杯しましょう。」
梨華が珍しく音頭を取る。
「あっ、でもおいら先に飲んじゃったし。」
『今飲んでるの先に空けちゃえば、まだたくさんあるし』
真希が余計なことを口走る。
だけどあの梨華があそこまで積極的に盛り上げようとしてくれてるのに
その雰囲気をぶち壊すようなことだけは出来ない。
(しょうがない。これだけ。)
真理は覚悟を決めて、グラスの残りを一気に喉に入れる。
さすがに真希が作り方を指導しているだけあって、
アルコール度数が強いわりに口当たりがよく飲みやすい。
- 271 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/07(日) 23:58
- 今日一日でどれくらい飲んでいるのだろう。
「真理ちゃん、グラス貸してね。」
そう言って空になったグラスに、
嬉しそうに特製カクテルを注いでいる梨華の腕が当たるたびに胸が高鳴るのを感じる。
(少しづつ酔ってきているんだな。)
真理は自分で自覚できたがこうなってくるとこのまま理性が保てるか怪しい。
「じゃあ、いくよ。乾杯」
梨華の掛け声と共にグラスがなる音がリビングに響く。
『真理ちゃん、ありがとう。
今日はいろいろあったけど真理ちゃんのおかげでいい日にできた。』
真希が珍しく素直に真理に礼を言う。
真希にも入浴前に飲んだカクテルが効いてきているのかもしれない。
- 272 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/08(月) 00:22
- 「本当ね。私の勝手な思い込みで迷惑かけたけど
今日のおかげで、私が意地を張ってた日もいい思い出になると思うの。
真理ちゃんありがとう。」
梨華はそう言ってごく自然に真理の手を握り締める。
「えっ」
真理は思ってもいない友人たちの感謝の言葉に、
どう反応していいのか迷ってしまう。
嬉しいという気持ちと照れくさいという気持ちが胸の中で喧嘩をしている。
「困ったな。そう改めて言われちゃうと。
どうしていいか。」
真理は顔を真っ赤にして、頭をかく。
珍しく真理の困った表情に、真希と梨華から笑いがおこる。
- 273 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/08(月) 00:23
- 真理はついその照れを隠したくて、ついグラスの中身を空にしてしまう。
「わー、真理ちゃんもう空にしてくれたんだ。」
梨華が気を利かせて、グラスの中身をまた補充する。
「梨華ちゃん、もういいのに。」
真理が慌てて手を振るが、
梨華が体を真理に密着させて「はいっ」と渡してくる。
真理は自分の体が少し熱くなって、体の一部の器官がすごく冴えるのを感じる。
こうなってきたら、酔っている証拠でいくらでも飲んでしまう。
(まっいいか。)
真理は自分の本来の目的がどうでも良くなってきて、割り切って楽しむことに決める。
- 274 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/12(金) 01:30
- 真理は自分が酔ってきているのを自覚していたが
理性で抑えるには多少飲みすぎているようだ。
とりとめのない話題であっという間に時間が過ぎていく。
その間にも真理のグラスはどんどん空になる。
(これ以上飲ませたらまずいかな。
一応悪酔いしないようには作ったつもりだけど。
それにこれだけ飲めば今日のことはほぼ忘れるはずだし)
少しトロンとした目で幸せそうに梨華にもたれかかる真理をチラリと見ながら
真希は真理のグラスに水を注ぐ。
「あれ、真希ちゃんこれ水でしょ?」
『うん。薬も過ぎると毒になるからね。
ちょっと、薄めたほうがいいかなと思って。』
真理はそんな二人の会話が耳に入っていないのか、
水を注いだグラスを一気に飲み干す。
- 275 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/12(金) 01:30
- 真理はフーと大きく息をつくと、また梨華の体にもたれかかる。
梨華はそんな真理の髪を優しく撫でる。
『なんか、真理ちゃん眠いみたいだね?』
「そうね。さっきからしゃべらないし。」
最初のハイテンションはどこに行ったのか、珍しく静かになった真理の様子を気遣う。
『真理ちゃん。もう寝るの?』
二人の会話に何の反応も示さない真理に真希が声をかけるが、
よく見ると真理のまぶたはしっかりと閉じられている。
「あれ、さっきまで起きてたのに・・・・
真理ちゃんて寝つきいいね。」
『うーん。そう言うのかな?』
梨華の少し的外れの発言に内心笑いを浮かべるが
まさか、真理が飲んでいたドリンクはアルコールで、
酔い潰れて寝ているなんて口が裂けても言えない。
- 276 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/12(金) 01:31
- 『でも、眠ってるときの真理ちゃんて一番可愛いよね。
起きている時は、強引だし、口も悪いのに。』
大きく呼吸しながら眠る真理の横顔を眺めながら、小さな声でつぶやく。
時計は23時をまわっていて、家の外からの雑音も聞こえなくなって
この世界には、この三人しかいないのではないかという錯覚を覚える。
「そうね。でも私は起きてるときの元気な真理ちゃんも好きだけど。」
真希の発言に梨華が遠慮がちに自分の意見を述べる。
『梨華ちゃん。真理ちゃんにそんこと言ったら駄目だよ。
これ以上行動的になってもらっても困るんだけど。』
「ふふ、そうね。」
二人は気持ちよく眠っている真理を起こさないように
声をひそめて笑い合った。
- 277 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/12(金) 01:32
- 『このままにしとくわけいかないから、後藤が二階のいつもの部屋に運ぼうか?』
「うん。でも真希ちゃん一人で平気?
私、力ないけど二人で運んだほうがいいと思うんだけど。」
梨華が少し心配そうに真希と真理を交互に見る。
『大丈夫。真理ちゃん軽いし、
それに一人で運んだほうがかえって安定して運べると思うんだ。』
真希はそう言いながら、真理の前まで来るとしゃがんで背中を向ける。
梨華は自分に寄り添って寝ている真理を刺激しないように
少しづつ体を動かして、真希の背中にのせる。
『梨華ちゃん、ありがとう。
悪いけど先いってドア開けといてくれる?』
「うん。」
梨華は真希がしっかりと真理を支えているのを確認すると、指示に従うため彼女たちに先立って歩きだした。
- 278 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/12(金) 01:33
- 「真希ちゃん、お疲れさま。」
真理を二階に運び終わって、リビングに戻ってくると梨華が真希に声をかける。
『真理ちゃん軽かったからたいしたことないよ。』
真希はまだまだ大丈夫と梨華に手を振ってこたえる。
「真希ちゃん、力持ちだね。
あっ・・・・・・女の子に対してほめ言葉になってないね。」
梨華がペロリと舌を出す。
『うーん。さすがに素直に喜べないかな。
でも褒められて悪い気はしないんだ。』
「そう、良かった。」
梨華は安心したようにホッと息を吐く。
(梨華ちゃんもまだまだ気を使い過ぎなんだよな。
少しずつ直ってくれるといいんだけど。)
そんな梨華を見て、真希は心にほんの少し重いものを感じるが表情に出さない。
- 279 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/12(金) 02:26
- 「ところで、勝手に真理ちゃんの服を脱がせて
パジャマに着替えさせちゃって良かったのかな?」
梨華が心配そうに真希に問いかける。
多分、服を脱がしたときに下着姿にしてしまったことを気にしているのだろう。
『しょうがないよ。
そのまま寝て汗をかくよりずっといいでしょ。
それに、真理ちゃんの裸なら私見慣れてるし。
あっ・・・・・・・変なことしてるわけじゃないからね。
ほらっ、一緒にお風呂入ったときとかね。』
顔が赤くなった梨華を見て、慌てて真希が取り繕う。
「そうなんだ。私てっきり・・・・・」
梨華が何か言いかけて慌てて自分の口を押さえる。
梨華も真理の家にきてから、
それとなく真希の魔手でアルコールを飲まされてるせいか
いつもより口が軽くなっているようだ。
- 280 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/12(金) 02:42
-
『ねー、てっきり何?』
「何」の内容が分かっていながら、真希がワザと梨華に聞き返す。
(こういう機会はめったにないからね。
少しからかっちゃおうかな。
でもあんまりやりすぎると真理ちゃんの耳に入っちゃうだろうから
ほどほどにしないと。)
「わかってるでしょ!その・・・・・」
梨華が珍しく怒ったように声をあげたあと、何かを言おうともじもじ口ごもる。
『つまり、梨華ちゃんは後藤が真理ちゃんとキスしたり
裸で抱き合ってるって思ったんだ。』
「うん。」
恥ずかしくて真希の顔をみれないのか、顔を真っ赤にして俯きながら梨華が頷く。
(うーん。梨華ちゃん可愛い)
そんな、梨華の反応を真希は心の中でこっそり楽しむ。
- 281 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/12(金) 02:50
- 『大丈夫、そんなことないから。』
「そうなの。
でも私、真理ちゃんと真希ちゃんがそういう関係でも嫌じゃないし
私が二人のことを好きな気持ちは変わらないから。」
(梨華ちゃん。本当にいい子だな。
でも、私と真理ちゃんは<b>絶対</b>そんな関係にならないけどね。)
なぜかムキになって訴える梨華の仕草に真希は変な色気を感じてしまい
パジャマの裾からチラリと見える豊かな胸の谷間にごくりと唾を飲み込む。
(今日の後藤はおかしいね。
このままだと梨華ちゃんに変なことしてしまいそうになるし・・・・・・・・・
しょうがない、全部飲んで忘れるか。)
真希は自分の気持ちを紛らわすために椅子から立ち上がると
キッチンに置いてあるさっきの残りで自分の分の飲み物を作り出す。
- 282 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/12(金) 03:05
- (梨華ちゃんの分はノン・アルコールで作らないと。
あの子も今日は何だかんだね結構飲んでるから。)
真希は自分の分と梨華の分を区別して作っていると、
梨華はその間に、テーブルの上を片付けて何もない状態にしている。
(梨華ちゃん、気を使わないで座ってればいいのに。
甘えるところは甘えて欲しいな。)
真希はいっそのこと口から出して言おうと思ったが、
「一度に何もかも言うのはよくない。」と言う真理の言葉(その割には、本人は一度に言うが)
を思い出してストップをかける。
(まだまだ先は長いからね。少しずつ変わっていこう。真理ちゃんも、梨華ちゃんも、そして私も。)
- 283 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/15(月) 03:09
- 「今日はなんだか飲んでばかりだね。」
テーブルに置かれたドリンクを見て梨華が感想を述べる。
確かに真理の家にきてからグラス5杯分以上ゆうに飲んでいる。
『そうだね。でも、ほらいろいろ準備して汗かいたしお風呂にも入ったからね。』
「うん。そうね。それにこれ美味しいからつい飲んじゃうのかな。」
梨華はゆっくりと唇にグラスを近づける。
もう日付は変わっていて、周りはますます静かになっていく。
部屋の照明の白い光だけが不自然に明るくて、
まるで別の世界の物のような印象を受ける。
- 284 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/15(月) 03:10
- 「真希ちゃん、どうしたの?」
何も言わず天井をただ見つめているだけの真希に、梨華がそっと声をかける。
『ちょっと疲れただけかな。』
真希は「たいしたことじゃないから心配しないで」と梨華に軽く微笑んでみせる。
(真理ちゃんがいなくて、調子狂っているのかな。
そういえばこうやって梨華ちゃんと二人だけっていうのも珍しいよね。)
「真希ちゃん、眠いの?」
『うーん、眠いのとは違うかな。
ちょっと感傷的になっていただけ。特に理由はないんだけどね。』
「そうなんだ。」
梨華はそれっきり黙りこむ。
二人の間に沈黙が流れるが、それは気まずいわけでなく、
むしろ心地良ささえ感じるもので、同じ空間を共有しているいう安心感を抱かせる。
- 285 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/15(月) 03:11
- 「真希ちゃん、そっち行っていい?」
少し離れたところに座っていた梨華が、真希の隣にぴったりと座る。
梨華が自分からこんなに体をひっつけることは珍しく、真希の記憶ではそんなことは一度もなかった。
『どうしたの?』
真希は自分の肩に触れた梨華の髪を指でいじくりながら、梨華の横顔を眺める。
「うーん。夜遅くなって人恋しくなっちゃったみたい。
ほら、世界中で私と真希ちゃんしかいなくて
もし真希ちゃんがいなくなれば私はこの世界でたった一人になってしまって
孤独の海に溺れてしまうっていう気分なの。
だから真希ちゃんの体温を感じてその存在を確かめているの。」
梨華はそういって、真希の肩に少し遠慮がちにしばらくよりそってからゆっくりと離れる。
「真希ちゃん、笑ってもいいよ。自分でもおかしいと思うから。」
ずっと黙ったままの真希に梨華が自分の今までの行動に照れたように言う。
- 286 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/15(月) 03:27
-
『いやー、実はね。後藤も梨華ちゃんと同じようなこと感じてたんだけど
さすがに【恥ずかしくて】そこまでできなかったんだ。』
真希がおどけて言うと、今まで二人が感じていた静かで孤独な世界が消えていく。
「恥ずかしいって・・・・・・
真希ちゃんひどい!私だってそう思ったけどせっかく二人きりだったし
めったにない機会だからって頑張ったのに!」
真希の言葉に梨華が頬を膨らませて本気で怒る。
『ごめん。後藤が悪かった。
お詫びにとっておきの、ジュースつくってあげるから。』
(いけない。また余計なこと言っちゃった。
真理ちゃんに今度梨華ちゃんを傷つけたら
ただじゃ済まないって脅かされてるのに・・・・・)
真希が必死に謝って梨華に許しを請う。
- 287 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/24(水) 04:08
- 「どうしたの真希ちゃん?」
あまりに必死な様子の真希に梨華は自分の怒りも忘れて、真希の表情をまじまじ眺める。
『いやーまた梨華ちゃん怒らせちゃったかなって・・・・・・・』
真希は真理の怒りを買うのが恐いとも言えず必死に取り繕う。
「それは少しは頭にきたけど、そこまで大げさにされると私が悪いみたいじゃない。
ちょっと甘えてみたくて拗ねてみたかっただけなのに・・・・・・」
梨華が真希から顔をそらせると、真希のグラスに手をかけて一気に空にする。
そのグラスは真希が自分で飲むためにアルコールを強めに入れていたものだ。
(あれ一気に飲んじゃったよ。ただでさえ梨華ちゃん酔っ払いかけているのに・・・・)
真希は梨華のいつになく積極的な行動や強気の発言からかなり酔いがまわってきたことに気づいていた。
(これ以上飲ませちゃいけないと思ったんだよな。)
自分のイタズラ心でそれとなく飲ませていたアルコールの威力が今になって効いてきたらしい。
- 288 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/24(水) 04:09
- 『梨華ちゃん。』
真希は梨華の目をじっくりみるが、その目には理性が宿っていてとても酔っているようには見えない。
「真希ちゃん、びっくりした?」
梨華が悪戯っぽく真希に笑いかける。
『うん。なんかいつもの梨華ちゃんと違うなって』
「いつもの私って?」
梨華が少し意地悪っぽく真希に尋ねる。
『えーっとそれは・・・』
真希は頭で思っていることが上手く言葉にできず珍しく戸惑う。
(いつもの梨華ちゃんて何なんだろう?
私が知っているのは学校でいるときの、
真面目で引っ込み思案で、優しい女の子。
でも私は梨華ちゃんの何が分かっているのかな?)
今まで考えもしなかったことが、梨華の何気ない一言で真希の頭を駆け巡る。
そしてそれを途中で止めたのも梨華の言葉だった。
- 289 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/24(水) 04:10
- 「真希ちゃん、ごめんなさい。
少し酔った勢いで悪ふざけしちゃって」
梨華がため息とともに真希に謝る。
『いや、後藤にも原因はあるし・・・・・・・』
(あれ、待てよ。今梨華ちゃんの口から「酔った」て言葉が出たよね。)
真希は梨華の言葉をもう一度頭の中で繰り返す。
梨華は真希たちがアルコールを飲ませているのを知らないはずだ。
いつも「変わったジュース」と言って通用してきたし、
梨華も疑う素振りをみせたことはなかった。
『あのさ、梨華ちゃん・・・・・』
真希は事実を確認するためおそるおそる口を開く。
飲酒の件はオフレコで口外にしていいものではない。
まして真面目な梨華がそのことを知ったら、自分を責めて苦しむかもしれない。
それでも真希は自分の胸に浮かんだ疑問を解決するために続けずにはいられなかった。
- 290 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2003/12/24(水) 04:21
- 『私が出したジュースにお酒が入っているのを知ってた?』
「うん。」
真希の質問に梨華があっさりと認めて、にこりと微笑む。
『いつから知ってたの?』
真希は自分の受けた衝撃を隠すためにゆっくりと梨華に言葉を吐き出す。
「初めて真理ちゃんの家に来たときかな。」
梨華は天井を見上げ、首を少し傾けて思い出すように真希の質問に答える。
真希はショックのあまり口を開くことができなくなった。
(梨華ちゃん、ずっとお酒だって分かってたんだ。
なのに全然気がつかない振りして、私たちに合わせていたんだ。)
自分達が彼女のこと気遣っていたつもりでも現実はその反対だったわけになる。
- 291 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/29(月) 22:13
- いい雰囲気なのかな?
続き楽しみにしてます
- 292 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:21
- それにしても梨華が
アルコールだと分かっていてそれを黙認していたのは真希にとって意外だった。
『どうして、止めなかったの?』
真希はやっとのことで、それだけ言った。
騙されたというより梨華がそのことを知っていて
知らない振りをしているのを見抜けなかったのが悔しかった。
「だってせっかく楽しい雰囲気になのに
私がそんなこと言ったらしらけちゃうでしょ?」
梨華がそう言ってウインクをしてみせる。
彼女なりの悪戯心だったみたいだ。
(本当に梨華ちゃんのこと分かってなかったんだな。)
入学してから四ヵ月ほどしか経ってないとはいえ、
真面目という先入観だけで彼女のことを理解していた。
- 293 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:22
- 『そうだったんだ。』
真理や真希が思っているより梨華が大人だったことに、
安心したような寂しいような気持ちになる。
「驚いたでしょう?」
『かなりね。』
真希は自分の空になったグラスを見つめてみる。
その中には実物より多少膨らんだ顔が写って見える
「真希ちゃん怒ってる?」
『何が?』
真希はなんとなくおもしろくないのでわざと不機嫌な声を出す。
「私がずっとお酒のこと知らないふりしてたこと。」
『ちょっとね。』
少しすねて梨華を困らせようと思ったが
あまりにも大人気ないと思い彼女を安心させるために髪を軽くなでる。
- 294 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:25
- 「本当はすぐに言おうかなと思ったんだけど
真里ちゃんや真希ちゃんが一生懸命に私に気づかれないようにって
してくれたのが嬉しくてずっと黙ってたんだ。」
『そんなことで、嬉しかったの?』
真希は口ではそう言いながらも
梨華がなぜアルコールのことを知っているのに黙っていたか
何となく理解できた。
彼女は真希たちがドリンクの正体をばらさないようにしている行動を笑っていたわけでない。
(これが私や、真里ちゃんならおもしろいからダマしちゃえってことになるんだけどね。)
「私のことを、
ここまで気にかけてくれる人がいるんだなと思うと
なんか幸せで「生まれてきて良かったな。」って。」
梨華の言葉に、真希はいつもの癖でついちゃちゃを入れそうになるが
よく考えてみれば彼女の家庭の事情も
この高校に入ってくるまでの彼女の学生生活も知らない。
- 295 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:26
- 「やだー。真希ちゃん黙っちゃって。
恥ずかしいじゃない。」
ふと梨華は自分が口にしたことに気づいたのか、顔を赤らめる。
きっと自分でも意識しないで自然に出た言葉だったのだろう。
『そんなことないよ。』
真希の真剣な言葉に二人の間の時間が止まる。
『後藤ね、梨華ちゃんが自分の思っていること、
感じていることを素直に言ってくれてすごく嬉しかった。
・・・・・・・かなり、お酒の力借りてるけどね』
真希の最後の言葉で、二人の緊張が解け時がまた動き出す。
- 296 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:26
- 「だって、しょうがないじゃない。
こういうときじゃないと言えないでしょ。
これでも私すごく悩んで、勇気出して言ったんだからね!」
梨華は照れ隠しのためか、真希に必死にくってかかる。
『でもだいぶすっきりしたでしょ?』
「・・・・・・・・・・うん。」
嬉しそうに言う真希に勢いをそがれたのか、梨華は素直にうなずく。
「でもね、今の話真里ちゃんには内緒ね。」
梨華が唇にひとさし指を立てる。
『どうして、別にいいじゃん。』
真希はそんな梨華の心理が分からずに苦笑いを浮かべる。
- 297 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:27
- 「だって真里ちゃんには、まだまだ甘えたいんだもの。」
真希の目に少し頬を膨らませて微妙に視線を逸らす梨華が
異常に可愛くみえた。
『そっか。じゃあ二人だけの秘密だね。』
真希は梨華を抱きしめたい気持ちを、
何とか理性で押さえ込むと、自分の薬指をそっと梨華に差し出す。
「うん。」
梨華の指がそっと重なり、真希の体にその熱を伝える。
- 298 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:28
- 『うん。これでいいね。』
真希はこのままずっと梨華といたいという気持もあったが
すっぱりと断ち切ると、テーブルの上を片付け始める。
「あ、私も片付けるね。」
梨華は身軽に立ち上がると、使ったグラスをキッチンへ運んで洗い出す。
(あれ、かなり飲んでるはずなのに梨華ちゃんすごいな。)
梨華を休ませて自分で全部やるつもりだった真希は驚く。
真希は家の商売上、自分がどれくらい飲んだら駄目になるかを常に把握できるが
『素人』の梨華がここまで強いとは思わなかった。
- 299 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:28
- 十五分ほどで片づけが終わると、
二人はどちらからともなくソファーに腰掛ける。
『集中してやると早いね。』
真希はすっかり綺麗になったリビングを見まわす。
「・・・・うん。」
反応が鈍いので梨華のほうをみるとまぶたが重そうで、
眠い表情をしている。
時間がしばらく経ってアルコールが効いてきたのかもしれない。
それでもここで眠ったらいけないと、必死で起きていようとする姿がいじらしい。
- 300 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:29
- 『梨華ちゃん、寝てもいいよ。後藤が運んであげるから。』
意識が遠くなりそうな中、真希の優しい声が梨華の胸に心地よく響く。
「でも、私真里ちゃんみたく軽くないよ。」
梨華は自分の意識が遠のいていくなか、何とかそれだけ言う。
『平気、後藤力持ちだから』
真希はそう言うと、背中を向けて梨華をしっかりと背負い込む。
梨華はもう十年以上も味わっていない体の感触に少し戸惑いを覚える。
(すごい、体が浮いてるみたい。)
眠くてよく考えられないが、通常とは違う状態だけにあるのは分かる。
- 301 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:35
- 真希は危なげない足取りで階段をゆっくりとのぼっていく。
梨華の、鼻に彼女の髪の香りがくすぶる。
(真希ちゃん、どのシャンプー使ってたっけ)
一緒にお風呂に入ったとき、使っていたものを思い出そうとするが
そこまで、頭がまわらない。
『よし、ついた』
真希は寝ている真里を起こさないように部屋に入るとそっと梨華を布団の上におろした。
(真希ちゃん、ありがとう。)
梨華は自分でその言葉を口に出したのかそう思っただけなのかは分からない。
ただ真希が、『梨華ちゃん、重いよ。』と
いつも通りの軽い憎まれ口を叩きつつ布団をしっかりとかけて、
ずっと側にいてくれていたのは覚えていた。
- 302 名前:梨華と真里とごっつぁんの麗しき友情?(過去編) 投稿日:2004/01/06(火) 02:50
-
少量の更新でかなり強引ですが、やっと過去編終わりました。
書く予定はなくてだいぶキツかったのですが、いい経験になりました。
>>291さん 亀のように遅いスレにもかかわらず
まだ読んでいてくれる人がいることがわかり
嬉しい気持ち半分と、早く更新しなければという反省の気持ち
半々でした。
ということで、やっと現在進行形の話に戻ります。
あと森板に「さよならから始まる恋」というスレを立てました。
二ヶ月に一回でも目に通していただければ嬉しいです。↓
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wood/1073075077/
では失礼します。<(_ _)>
- 303 名前:rina 投稿日:2004/01/11(日) 15:57
- はじめまして!!
こんな雰囲気の小説すごい好きです!
やぐごま?いしごま?いしやぐ?と、
色々考えながら続きまってます!
- 304 名前:明日への風 投稿日:2004/01/11(日) 20:52
- (もう、あれから一年経つんだね。)
梨華は、当時のことを頭に思い浮かべた。
あの頃の自分を振り返ると少し恥ずかしくて、でも懐かしい。
そして簡単に言葉で表すことのできないことをたくさん学んだと思う。
その経験が梨華が今どういう行動をとるべきか自然に答えをだしていた。
なつみのはぐらかすような答え方に、カ−ッとしてしまった自分が悪いのは分かっている。
(でも分かっているだけでは、この少女に伝わらない。
素直に口に出して謝ろう。そうすれば後悔だけはせずに済む。
もし、傷ついちゃったら真里ちゃんと真希ちゃんい思いっきり泣きつけばいいんだから。)
梨華が意を決して『ごめんなさい。』と謝ろうとすると
「あはは、おかしい。梨華ちゃんおもしろいよ。」
突然なつみがお腹を抱えて笑い出した。
- 305 名前:明日への風 投稿日:2004/01/11(日) 20:54
- (あれ? 私さっき、怒鳴ったんだよね。
なんでこの娘笑っているのかな?笑わせるようなこと言ったつもりないのに・・・・・)
なつみの予想外の対応に梨華は拍子抜けしてしまい肩の力が抜けてしまう。
一瞬のうちに過去の思い出まで持ち出してあれこれ悩んだ自分が馬鹿らしくなる。
「ごねんね。突然笑いだして。おどろいたでしょ?
理華ちゃんのムキになった顔が顔があまりにも可愛いいもんだから、
ついなっちの昔の友達思い出しちゃってね。」
『えっ?』
本当になつみは梨華が怒ったことなど気にしていないようだ。
というより、何にも聞いていなかったかもしれない。
「なっちの幼馴染に「かおりん」て子なんだけど
その子美人なのに、怒るとすごい怖い顔になるんだ。
なっちそれが苦手でねー。」
本当に怖そうにおびえて見せるとまた笑い出した。
きっとなつみが「かおりん」という子をすごく怒らせるようなことをしたのだろう。
- 306 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 20:56
- (そこまで笑うなんて私の怒った顔がおかしかっのかな?
それとも「かおりん」て娘の怒った様子が面白いのかな?)
梨華はホッとすると同時に少し複雑な気持ちになる。
彼女のむじゃきな笑顔からはイタズラっぽい少年の匂いがする。
(安倍さんってすごく表情が豊かなんだ。)
そこまで素直に自分の感情を表現できることを羨ましく思うと同時に
梨華にしては珍しく初対面の相手に好感を覚えている。
(この子と友達になれたら楽しいだろうな。)
それが梨華のなつみに対する第一印象だった。
- 307 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 20:57
- 「けっこういい運動になるね。」
なつみはあちこちキョロキョロ見て回りながら
この緩やかな坂道を登っていたせいか、息を少し切らせ頬に赤みがさしている。
『そうですね。この坂道は私達の学園の名物ですから。』
梨華がようやく姿をあらわし始めた校舎を目にやりながら言う。
「梨華ちゃん、えーっとね。
敬語は止めてくれるかな?
それとなっちのことはなっちて呼んで欲しいな。」
なつみが顔を傾げて梨華を覗き込んでニコリと微笑む。
- 308 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 21:00
- 『うん。なっちがそれでいいなら私は構わないけど。』
梨華は口ではそう言ってみたものの、本当は願ってもない申し出だった。
このしっかりしてるようで、少し落ち着きのない少女は
なぜか梨華の保護欲をくすぶるものがあった。
もしかしたら、なつみの姿に梨華が幼い頃に欲しかった妹の姿を重ねているのかもしれない。
改めてなつみの年齢を尋ねたくなったが、
彼女がどこかの学校の制服を着ていることから少なくとも学生だということはわかる。
(どう見ても私より上に見えないしね。一年生でいいよね?)
そんなことを考えもしたが、なつみと会話しているとそんなことは
ほんの些細なことに思えてどうでも良くなる。
- 309 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 21:00
- 「すごいね。校門から校舎までけっこう距離歩くんだね。
しかも、すごくお洒落だし。」
校門の前でなつみは背伸びしてあたりを見渡す。
『言われてみればそうね。
でも私慣れちゃってて、なっちに言われるまで気づかなかった。』
「すごい! さすが私立の学校は違うよ。」
(すごいのはなっちかな?何にでも素直に感心できて)
もし自分が彼女と同じ立場だったら転校して環境が変わるというのに
ここまで周りの景色を素直に楽しめるだろうか。
梨華は、なつみが楽しそうに歩いている姿を目で追いながら心の底で思う。
- 310 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 21:03
- 『なっちは公立の学校だったの?』
「うん。何の変哲もない田舎の学校。校庭のすぐ前に校舎が建っていて
申し訳程度に気が植えてあってね。
だから、こんな大きな公園の遊歩道みたいな道や
整えられた木や花が咲いてて、びっくりしちゃった。」
梨華はなつみの表情に暗いものがよぎったのを見逃さなかった。
もしかしたら、勘違いかなと思わせるほど短い一瞬でも、なぜか脳裏に焼き付く。
(何かあったのかな?)
そんな陰を少しも感じさせないなつみの笑顔に、
梨華は自分が見たものは幻だったのかもしれないと思う。
- 311 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 21:40
- 「着いたね。」
なつみの声に梨華はふと我に返る。
楽しい時間はあっという間で、
いつも一人で登校している梨華にとっては普段の登校時間よりやけに短く感じた。
なつみと話しているのは本当に楽しかった。
コロコロ変わる表情、少しオーバーな身振り、理華にとってはどれもが新鮮だった。
『うん。着いちゃったね。』
梨華は自分でも知らないうちに残念そうな声を出す。
(あーあ、明日からはまた一人か。
私の登校時間が早すぎるのがよくないんだけど・・・・・
もうすこし遅くしてみようかな。)
「ついでに職員室まで案内してくれる?
なっち方向音痴なんだよね。」
梨華の気持ちを知ってか知らずか、なつみは頭を掻きながらお願いをする。
『うん。いいよ。通り道だし。』
梨華はなつみと少しでも一緒にいられる時間が増えると思うと、単純に嬉しかった。
- 312 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 21:42
- 『同じクラスになれるといいね。』
梨華はふと自分の願望を口にしてしまう。
なつみと一緒に過ごせたら自分だけでなく、真里や真希にも新しい風が吹き込むと思う。
「そうだね。」
なつみは満面の笑顔で頷く。
その笑顔に梨華はなんだかやけに幸せな気持ちになる。
それは彼女とのやりとりが、
小学校時代に仲のいい友人がいなかったため、
作りたくても作れなかった自分の憧れていた思い出と重なっているからかもしれない。
- 313 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 22:07
- 「梨華ちゃん。ここまででいいわ。ありがとう。」
職員室の扉の前に立つとなつみは、梨華にニコリと微笑む。
『じゃあ私いくね。』
梨華はそう言うと自分の教室へ向かって歩き出す。
なつみがその姿を見送っていると、理華が振り返って手を大きく振った。
なつみも大きく振り返すと梨華は笑顔を浮かべて背中をむけると
今度こそ、その姿が見えなくなる。
(石川梨華ちゃんか、素直で可愛い子だったな。
あんな少女漫画に出てくるような女の子本当にいたんだ。
声もアニメ声だったしね。)
なつみは妙なことに感心した後、自分がここにきた目的を思い出す。
- 314 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 23:45
- (そうだ、今日からここで働くことになっているんだ。
でもなっち教員免許持ってないんだよね。
裕ちゃんはいいって言ってたけど大丈夫なのかな?)
裕子はなつみが東京に初めて出てきたときに、働いていたバイト先の先輩になる。
口が悪くて大ざっぱなところがあるけど、
面倒見のいい人間で、特になつみには甘かった。
最初に住んだアパートや、健康保険の手続き、定時制高校に入学するときなど
彼女に世話になったことを数えればキリはない。
今ここにいるのも裕子の紹介だった。
きっかけは三ヶ月ほど前になる。
- 315 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 23:47
- 裕子がなつみと働いていたバイト先を
家業を継ぐということで辞めてから三年近くが過ぎているにも関わらず
二ヵ月に一度くらいの割合で食事に誘ったりしてくれていた。
その日もちょうどそんなときだった。
「なあ、なっち、あんたこのままでいいんか?」
なつみは、慣れないナイフとフォークを使いながら裕子の言葉に耳を傾ける。
『このままって?』
「あんた、こっち出てきてからずっとフリーターやろ。
将来不安にならへんか?」
『うーん。不安って言ってもね。
どんな仕事でもなかなか正社員の口は無いしね。
今の生活に不満があるわけじゃないし、別にいいかな?
あっ、裕ちゃんこのお肉柔らかい!』
なつみは裕子の心配もどこ吹く風と、のん気に食事を楽しんでいる。
- 316 名前:新しい風 投稿日:2004/01/11(日) 23:50
- (不平、不満よりいいところを探す。楽しめるときに思いっきり楽しむか。
まあ、これがこの娘のいいところやな。)
出会った頃から、根本的に変わっていないなつみに嬉しさと少しの不安を覚える。
「何かやりたいことあるの?」
裕子は自分の目の前のサラダをつっつきながらも口に運ばない。
こういう行動は何か言いたいときの彼女の癖だった。
『裕ちゃん、笑わない?』
裕子の顔になつみがテーブル越しで自分の顔を近づける。
「まあ、聞いてからね。」
『裕ちゃんの意地悪!』
(なっち、相変わらず可愛いわ。)
裕子は頬を膨らませて自分の感情をあらわにするなつみを
思わず抱きしめたくなるがその衝動を必死に抑える。
- 317 名前:新しい風 投稿日:2004/01/13(火) 01:50
-
『えーっとね。なっち保母さんになりたいんだ。
小さい子に絵本を読んであげたり、一緒に歌をうたったりしたいんだ。』
「あんた、そんなの無理なのわかんってんやろ?」
裕子が容赦なく突っ込むと、なつみの目からたちまち輝きが消える。
「うん。専門の学校行って勉強しなきゃいけないし、
採用されるの大変みたいだし、採用されても若いうちしか働けないところ多いみたい。」
『あんたにしては、しっかり分かってるな。』
裕子はそう言いながら、しょげてしまったなっちを見て心を痛める。
(そうやな。やりたいことと、なれるものは別だもんね。
裕子の馬鹿バカ、何でもっと上手に聞いてやれなかったんや!)
自分を責めたい気持ちで一杯になる。
なつみは自分と違って何の後ろ盾もなく一人で生きている。
例えば学校に行くにしたって、
高い学費を自分で稼いでその上アパート代や食費、電気・ガス・水道代
その他諸々を賄わなければならない。
- 318 名前:新しい風 投稿日:2004/01/13(火) 01:53
- (うちは完全に親のスネかじってたしな。)
なつみだって、将来のことで真剣に悩んで苦しんだ夜があるはずなのに
自分の発言がいかに軽率だったのか気が付く。
「裕ちゃん、黙っちゃってどうしたの?」
なつみは難しい顔をして沈黙する裕子をいぶかる。
『いや、なっちの都合も考えんと偉そうにぺらぺらごめんな。』
「ううん。心配してくれてありがとう。
なっちのこと、ここまで気にしてくれるの裕ちゃんだけだから嬉しいよ。
ところで、デザート頼んでいい?」
(この娘のこういうとこ好きやな。)
自分の気持ちを素直に相手に伝えた後、
場の空気を変えようとデザートを注文するなつみの行動が
けなげにみえてしょうがない。
(まあ、本当に甘いもんが食べたかっただけかもしれないけど、
その辺りは、長い付き合いだけどよくわからんは。)
なつみに甘いのは自分でも自覚している裕子は苦笑して軽く首を振る。
- 319 名前:新しい風 投稿日:2004/01/13(火) 02:07
- (私がこの娘の面倒全部みてもいいんだけどな。
なっちにもプライドがあるし、そういうわけにいかないか。)
裕子は自分なりになつみにしてあげられることを必死に考える。
(えーっと、絵本を読んで、歌を教えてあげたいのか・・・・・)
『なっち、あんたの希望通りの就職先あった!』
「えっ?」
デザートのアイスクリームを食べるのに夢中になっていたなつみは
何のことかわからずに聞き返す。
『あんたの希望通りの就職先があっ・た・の。』
「それって裕ちゃんの紹介?」
なつみの顔色はなぜかさえない。
『もちろん、そう』
裕子はなつみのそんな様子に気づかないふりをして話を推し進める。
- 320 名前:新しい風 投稿日:2004/01/13(火) 02:32
- 「嬉しいけど世話になりぱなっしで、これ以上迷惑かけたくないし・・・・」
『なっちらしくないね。
裕ちゃんは迷惑だなんて思ってことは一度も無いよ。
そう思うんだったら「あのこと」を忘れられるくらい幸せになって欲しい。
私はそれ以外望まないわ。』
裕子の説得になつみはただ黙るしかなかった。
「裕ちゃん、一つ聞いていい?」
裕子は言葉を発せずに目でなつみの言葉を肯定する。
「私、裕ちゃんに何かしてあげれてるのかな?」
なつみはそう言った後、自信無げに視線を落とす。
『それを口に出すの?』
裕子は苦笑を浮かべる。
なつみに「してもらっている」部分はたくさんあって、
それを言葉にして伝えるというのはものすごく難しいことだった。
- 321 名前:新しい風 投稿日:2004/01/13(火) 23:32
- 『じゃあ、一つだけね。
なっちが私にいろいろ自分が体験したこと話してくれるでしょ。
その話を聞いてるときに幸せだなって、ときどき思うんやわ。』
裕子はそれだけ言うと、電話をかけてくるといって席を離れる。
とても恥ずかしくてなつみの顔をまともに見ていられなかった。
(何を言わすのかな。あの娘は。)
自分がこんなセリフを口から出せるなんて思わなかった。
多分、なつみの前で言ったのも初めてで
これからさき、二度とこんなことを口外にすることはないだろう。
裕子は、自分の気持ちを落ち着かせるために化粧室でダバコを吸う。
普段はめったに吸わないが、たまにどうしようもなくむしょうに吸いたくなるときがある。
今がちょうどそんな気分だった。
(中学生や高校生じゃないのに、何でこんなとこで吸わなきゃいかんねん。)
ぶつぶつと文句を言うが、なつみがタバコの煙を嫌がるのでこうやって隠れて吸わらずを得ない。
- 322 名前:新しい風 投稿日:2004/01/13(火) 23:33
- 「裕ちゃん遅かったね。」
料理を作ったシェフが喜ぶほどきれいに周りのものを平らげたなつみが
手持ち無沙汰にテーブルの上のナフキンをいじっていた。
『ちょっとたてこんでね。ごめんな』
そう言う裕子になつみがぎらりと疑惑の目を向けると
近づいてきて鼻をヒクヒクさせる。
「やっぱしね。タバコ吸ってたんだ。
いいこと一つもないよって、いつも言ってるのに。」
『しょうがないでしょ。我慢できなかったんやから。』
語尾を弱めて遠慮勝ちに言う裕子に、
なつみは軽く首を振ってその仕草で呆れていることを伝える。
- 323 名前:新しい風 投稿日:2004/01/13(火) 23:34
- 『ところで、さっきの話だけどこっちで進めていい?』
テーブルの上のレシートを手に取りながらレジへと進む。
なつみはその後をゆっくりと付いていく。
他人が見れば、少し年の離れた姉妹か、
年の近い叔母とめいといった印象を受けるかもしれない。
それくらい二人が一緒にいることに違和感がなかった。
「裕ちゃん、本当にいいの?」
『うん。ちょうど知ってるところの口が開きそうなんだ。
三ヶ月ぐらいかかりそうだけど。』
「裕ちゃん、無理しなくてもいいからね。
なっちは別に今のままでも十分満足してるから。」
なつみが少し心配そうに裕子を見つめる。
裕子はなつみに自分がどんな仕事をしていて、どれくらい社会的地位があるかを言ったこともないし
なつみも、あえて聞かなかったけど今までの経緯から
裕子がそれなりに『力』があって、お金も持っていることは想像がついた。
なつみは裕子のことが好きだったけど、何が何でも彼女に頼り切るには抵抗があった。
だから、こうして時々食事を一緒にするだけの関係にとどめてきた。
裕子のほうもなつみのそんな気持ちが痛いほどに分かるので
必要なとき以外は距離を置いている。
- 324 名前:新しい風 投稿日:2004/01/13(火) 23:39
- 『自惚れるんじゃないの、いい男のためじゃなくて
なんで、あんたのことで無理する必要あるの。』
裕子は、笑いながらなつみのおでこを軽くはじく。
『もし、なっちがね。
仮にだよ。もし面倒かけてるなと思ったら
あんたがその分他の人間の面倒みたらええやろ?
世の中ってそうやってまわってるんと違う?』
「裕ちゃん、たまにすごくいいこと言うよね。
やっぱり、三十路になると言うことが違うね!」
なつみは笑顔で憎まれ口を叩いたが、
裕子の言葉に納得したのかすっきりした表情をしていた。
- 325 名前:新しい風 投稿日:2004/01/13(火) 23:51
-
「あほ、食事奢らせといてそれか?」
『だって、なっちお金ないんだもん。』
なつみはそう言ってくるりと背中を向けると、
支払いを済ませている裕子を尻目に先に店を出る。
いつものなつみらしい言葉が続いて裕子はホッと胸をなでおろす。
(もうこれで大丈夫かな。なっちはあれで一度割り切ると強いから。)
裕子はなつみの背中を見て少しまぶしくなって目を軽く閉じた。
少なくとも彼女には自分にはない輝きがある。
そのことが羨ましくあり、少し妬ましくもあり、
そしてなぜか自分のことのように嬉しかった。
- 326 名前:新しい風 投稿日:2004/01/14(水) 00:20
- >>303 rina様
初めて読んで頂いたということで嬉しいです。
新規で読んでくれる方がいるのかなと思うと、励みになります。
この作品の雰囲気が、自分が娘小説を書くきっかけになった
作者様たちの作品と少しでも似てればいいのですが(^^;)
- 327 名前:新しい風 投稿日:2004/02/15(日) 21:53
- (ご飯奢ってもらって、就職先紹介してもらうまではよかったんだけどね。)
なつみは職員室の前で軽くため息をついて、一週間前の裕子の電話を思い出す。
「なっち、この前の話決まったから来週に来てくれる?」
『この前のって?本当に紹介してくれるの?』
裕子から連絡がしばらくなかったので半ば諦めていたなつみは、思わず声を高めてしまう。
東京に出てきてから、いや室蘭にいるときから物事を悪いほうにばかり考えてしまう。
(望んでもかなうものなんて何もない。だから私は何も望まない。)
それが彼女のスタンスだった。
そしてその事実を悲観的にではなく、むしろ気軽に受け止めている。
なつみは物事の流れも逆らってまで何かをしようとは思わない。
今回の件も駄目なら駄目でそれで別にかまわないと思っていた。
- 328 名前:新しい風 投稿日:2004/02/15(日) 21:55
-
「本当?って、
あのなー裕ちゃん、なっちにだけは嘘ついたことないし
これからも絶対つかへん。」
電話の先の声は、穏やかながらもしっかりと口調で彼女の意志の強さが伝わってくる。
なつみはそんな裕子の気持ちをどう受け取っていいかわからない。
もちろんありがたいとは思うけど、その反面なんで自分なんかのことをそこまでという気持ちもある。
(可愛くないよな。)
そんな考えに思わず苦笑を浮かべてしてしまう。
きっと裕子はなつみに何の見返りも求めてないし期待もしていない。
それはなつみも分かっている。
だけど何故か素直になれないもう一人の自分がいることも否定できない。
- 329 名前:新しい風 投稿日:2004/02/15(日) 22:15
- 『ごめんね、裕ちゃん。
あんまりにもいい話だったから。
ほらなっち、東京に出てきてから疑い深くなっちゃって。』
なつみは冗談っぽく言葉を付け加える。
『ところで、どこで面接するの?
断るつもりはないけど一応労働条件とか聞かないといけないし。
あっ!それにどんな職種かも聞いてないし。』
なつみは慌てて言葉をつむぎだす。
そういえば、裕子はなつみの「希望どおりの就職先」を紹介すると
言っただけで何も詳しい話を聞いてないし、
こっちの希望も極めて抽象的な表現でしか伝えてなかったような気がする。
- 330 名前:新しい風 投稿日:2004/02/15(日) 22:36
- 「えーっと、面接の必要はなし。」
裕子はスパッと言い切る。
『えっ、なしって。』
大抵のことに驚かないなつみも思わず絶句する。
人を採用するのに面接もしないんなんて聞いてこともなかった。
「まあ細かいことはいいでしょ。」
裕子の言葉が標準語になっていて歯切れは悪い。
これは何か言いにくいことがあるときの彼女の癖で
何を言ってもはっきりした返事が返ってこないのは分かりきっているので
なつみは質問を変えてみることにする。
- 331 名前:新しい風 投稿日:2004/02/15(日) 22:41
- 『えーっとさ、
この前のなっちの希望から言うと
幼稚園が託児所の保母さんのお手伝いみたいなものと考えていいのかな。』
なつみは裕子に何気なく話した自分の希望の仕事を思い出しながら尋ねる。
「まあ、似たようなもんやろな。・・・・・・」
電話の向こうの裕子はやっとそれだけ言う。
どこまでもはっきりしない彼女になつみは慎重に質問を選ぶ。
『それっていくつくらいの子が相手なのかな?
幼稚園くらい?』
「・・・もうちょっと上かな。」
『それじゃ小学生くらい?』
最近の子は大人びてきてるとはいえ
小学生の低学年くらいなら何とか自分でもできるだろうと聞いてみる。
「・・・・・・・もう少し」
裕子はさっきよりも間を空けてそれだけ言う。
- 332 名前:新しい風 投稿日:2004/02/15(日) 23:25
- 『それより上って、裕ちゃん!』
なつみは裕子にキツク問いかける。
「わかったわ。はっきり言うわ。」
なつみの珍しく強い調子に観念したのか裕子はやっと全部
話す気になったようだ。
「なっちの新しい仕事は、女子高の国語の教師。
あとで学校の住所送るから。以上。」
裕子はたったそとだけ言うと、なつみの反論が怖いのか自分から電話を切る。
あまりのショックに呆然としているなつみの耳に電話が切れた音だけがいつまでも反響している。
(ちょっと、裕ちゃんなに考えてんのよ?
小さな子相手じゃないし、絵本を読んであげて一緒に歌を歌うわけにもいかないし
なっちの希望に全然合ってないんじゃん。
というより、国語の教師ってなによ。
なっち教員免許もってないし、第一大学だって行ってないのよ。
そんなのできるわけないじゃん。)
なつみは、裕子への怒りとあまりにもとんでもない仕事の内容に目の前が真っ暗になる。
- 333 名前:新しい風 投稿日:2004/02/16(月) 00:31
- (言ってることめちゃくちゃだし勝手に電話切っちゃうし、
もういい。この話なかったことにしてもらって、
そして裕ちゃんとも絶交することに決めたからね。)
なつみは誰もいないたいして広くもない部屋を何度も往復してしまう。
この怒りをどこにぶつけていいのかも分からない。
そうしているうちになつみの視線はふとテーブルの上に飾ってある写真にぶつかる。
そこにはなつみともう一人の少女が写っていた。
なつみは満面の笑みで微笑んでいて
少女のほうは、少しはにかんだ表情を浮かべているけど目は優しく笑っている。
(明日香・・・・・)
なつみは忘れたくても忘れられない少女の名前をつぶやく。
彼女がいなくなってから三年以上経つ。
その間何回、この名前を胸の中で繰り返しただろうか。
- 334 名前:新しい風 投稿日:2004/02/26(木) 00:40
-
写真のなかの彼女の表情が今のなつみを見て笑っているような錯覚を覚える。
(ねーなっち、
イライラしてるなら一度寝ちゃえ。
目が覚めたら大抵のことはどうでも良くなってるから。)
自分より三つも年下なのに少し生意気で
しっかりものだった少女の言葉がまるで昨日のことのように脳裏に浮かんでくる。
(そうしようか。明日香。)
けして返事が返ってくることのない写真に心の中で語りかける。
彼女と過ごせた季節は短かったけど
彼女の思い出と彼女の言葉は今もなつみのなかで生き続けている。
- 335 名前:新しい風 投稿日:2004/02/26(木) 01:05
- (今年の梅雨はなかなかあけないな。)
なつみは窓の外の今にも泣き出しそうなどんよりとした雲を眺めると
エアコンの除湿を強くする。とてもエアコンなしでは眠りにつけそうもない。
しかも裕子のせいですこぶる気分を害している。
せいぜい環境だけでも快適にしておきたい。
電気代がほんの少し気になったが今日は特別と自分に言い聞かせる。
(昔はやけ食いしたあと眠ったんだけどね。
さすがにそんな年じゃないか。)
ほんの少し前まではそんなストレスの解消の仕方もあったが
最近はそんな気も起こらない。
それがいい傾向か悪い傾向かはっきり分からないが
自分が少しずつ変化していることだけは確かだ。
(こういうときは熱い紅茶でも入れてそれから寝よう。)
なつみはインスタントではない紅茶の葉を取り出す。
少なめに買っていても普段は時間に追われて使う機会がなく
心無しか少し香りがとんでしまっているような気がする。
- 336 名前:新しい風 投稿日:2004/02/26(木) 01:21
- 沸騰したお湯をティーポットに入れると
食器棚のペアになっている白地に黄色の花模様が飾られたティーカップを取り出す。
いつも片方だけしか使っていない。
(最後に両方一度に使ったのはいつかな?)
裕子がたまに部屋に来てもお茶を出すときは
このカップを出さずに別のものを使った。
(別に誰が使ったからって意味ないんだろうけどね。)
自分の理性では理解しているが、
かつて自分と暮らしていた少女と一緒に選んで買ったティーセットを
未練がましく特別にしている自分に呆れる。
(それだけあの娘が特別だったのかな。)
もう何年も経つのに彼女との思い出にすがっている。
- 337 名前:明日への風 投稿日:2004/05/03(月) 01:23
- なつみは砂糖もミルクも入れてない熱い紅茶を飲み終わるとベットルームに向かう。
とはいってもそんな洒落たものではなく、明日香が出て行って空いた部屋に
強引にベットを置いただけでそれ以外は彼女がいたころと変らない。
彼女が確かにそこにいたという証拠の品物囲まれていると
何となく気分が落ち着いた。
しっかりものの彼女らしくドアの前に掛けられた小さなホワイトボード、
化粧台も兼ねている小さな机、その当時はやったアイドルのポスター、
置いてある家具は質素で驚くほど少ないけど、
なつみにとってはすごく大切な空間だった。
(こんな時間に寝るなんて久しぶりだな。)
時計をみるとちょうど午後三時を指している。
世間の人間は働いたり勉学に励んでいる時間で、
そんな時間にふて寝するのもどうかと思うが
今は起きていてもろくなことがないような気がする。
- 338 名前:明日への風 投稿日:2004/05/03(月) 01:26
- なつみは昨日干したばかりの布団が
かけてあるベットに少し勢いをつけて倒れこむ。
その勢いを標準より集めのマットが見事に吸収する。
これは裕子と買い物に行ったときに買ったもので
安いものを選ぼうとするなつみに対して
どうせ長く使うものだからと予算よりだいぶ高いものを買わされた。
その時は文句を言ったが、今になってみると彼女の意見が正しかったことを
なつみも認めざるを得ない。
(買うときに文句は言ったけど、後になっていいものを
ちゃんと選んでくれた裕ちゃんにお礼言ってないよな。
私って嫌な女・・・・・・)
なつみは自分の身勝手さに苦笑を浮かべる。
考えてみれば裕子にはいろいろ世話になってるし
今回の件も頭にきたけど彼女は良かれと思ってやってくれたわけで
そう思うと怒りもだいぶおさまる。
(まあ、いいや。起きたらこれからのこと考えよ。)
なつみは枕の位置を調整し布団にくるまると
あっという間に眠りに落ちた。
- 339 名前:明日への風 投稿日:2004/05/03(月) 01:34
-
(うるさいなー、もう!)
なつみが眠りから覚めたのは、
玄関のベルが何回もなった後だった。
時計をみるとちょうど午後の七時で四時間ほど眠っていたことになる。
胸の中に残っていた少しの苛立ちも消えて
今はむしろ心地よいほどすっきりしている。
(私って単純なのかな。)
気分の切り替えは早いことはいいことだと思うが、
あまりの変わりっぷりになつみは我ながら複雑なものを覚える。
チャイムは一定間隔を置いてはまた鳴る。
(裕ちゃんも暇人だよね。)
ドアを開けずともチャイムを押している人間の想像はついた。
ここまでしつこく押すのは借金取りか警察ぐらいで
幸いなことになつみはこのふたつと縁がない。
ということは裕子ぐらいしかこんなことをする人間はいない。
- 340 名前:明日への風 投稿日:2004/05/03(月) 01:45
- (もうちょっと焦らすかな。)
なつみはゆっくりと着替え終わると洗面所へ向かう。
いつもこうだ。
たまに裕子がなつみを怒らすと数時間置いてから
手にどこかの洋菓子店のお菓子をぶら下げて自分から出向いてくる。
そしてなつみがドアを開けると強引にあがりんで必死に謝る。
なつみも意地になるが最後は裕子の熱意に負けて許してしまう。
そんなことを何度も繰り返している。
いつもはせっかちで、
あきらめの早い裕子もこの時だけは脅威の粘りを見せる。
(なっちのことなんかほっとけばいいのにね。)
なつみは自分は彼女にそこまでしてもらえる人間ではないと
思っているし自分もそれを強くは望んでいない。
(本当に可愛くないよな。)
なつみは鏡に向かって笑顔をつくる。
裕子はなつみの笑っている顔が好きだと言ってくれた。
もちろん笑顔で出迎えるつもりはないが、
彼女が謝り尽くしたら最後にこの顔を見せよう。
いまのなつみが裕子にできるのはそんなことぐらいしかなかった。
- 341 名前:新しい風 投稿日:2004/06/14(月) 00:47
- なつみは洗面所で髪を軽く整えて
顔を洗った後、ドアのチェーンを外して何も言わずに開ける。
『はい!お土産』
裕子はなつみの感情など関係なしに短く言うと同時に
自分の足をドアの間に挟みこむ。
「祐ちゃん何しに来たの?
なっちは呼んだ覚えないんだけど。」
なつみは半分諦めながらも、
このまま彼女を迎え入れるのはしゃくなので、
彼女にきつい一言をおみまいする。
裕子はそんななつみのセリフが聞こえなかったかのように
勝手に部屋にあがりこむと、
小さなテーブルのいつもなつみが座っている席の向かい側に座り込んで
お土産としてもってきた洋菓子の箱を開けている。
- 342 名前:新しい風 投稿日:2004/06/14(月) 00:48
- (結局、いつもと同じか。)
なつみは裕子に見えないように、苦笑いをひとつ浮かべると
わざと乱暴に音を立てながらお茶をいれる。
(そういえばこの紅茶の葉、明日香に教わったんだっけ。)
室蘭から出てきた頃は紅茶といえばそれだけで
その中に種類があるとは全然知らなかった。
さらに付け加えるなら、
葉から入れることもなくスーパーで安売りしているティーパックを
買ってくることがほとんどだった。
『アッサムなんだ。』
なつみが紅茶を入れる様を目を細めて見ていた裕子がつぶやく。
「うん。」
短く返事をするなつみに
裕子は何かを言いかけたが途中でその言葉を飲み込む。
- 343 名前:新しい風 投稿日:2004/06/14(月) 00:51
- 「裕ちゃん、今明日香の名前だそうとしたでしょ?」
なつみが今日始めて裕子に明るい調子で話しかける。
『うん。「あの娘に教えてもらったんだよね?」
て言おうかどうか悩んでた。』
裕子は少し遠い目をする。
三年という歳月は長いようで短く、短いようで長い。
人が変わるには十分の長さのようで、少し短い。
そのままでいるには長すぎる。
そんな中途半端な時間のような気がする。
あの少し変わった少女となつみの過ごした時間を
裕子も共有している。
そして、その思い出をどれだけなつみが大事にしているかも
痛いほど分かっていた。
- 344 名前:新しい風 投稿日:2004/06/14(月) 00:55
- 「裕ちゃん、変な気の使い方するんだね。
それともなっちがいけないのかな?」
お湯を沸かしたヤカンの取っ手を
フキンを巻いて掴むとティーポットに注ぎ込む。
その瞬間に、爽やかで優しい香りが部屋全体に流れる。
「初めてあの娘を部屋に呼んだときに
紅茶入れてあげたの。
そしたら、それが美味しくないって話になって。
確かに今になって思えば確かにその通りなんだけど
明日香も明日香だよね。
はっきり口に出して言うんだから。
なっちは納得いかないから、文句言ったら
あの娘がじゃあお手本見せてあげるって・・・・・・・」
なつみが楽しそうに、
もう何年も前のことをつい最近のことのように話し出す。
- 345 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/14(月) 23:02
- 更新おつかれさまです。
うまく言えないけれど、この作品のやわらかな雰囲気が好きです。
続きも楽しみにしています。
- 346 名前:新しい風 投稿日:2004/07/06(火) 23:18
- そんな彼女の様子を裕子はどこか遠い存在のように感じる。
なつみは完全に過去の思い出に自分を運んでいて、
目の前の自分の存在さえも、映っていないのかもしれない。
(そこまで、大切な思い出があることが幸せなのかな。)
裕子は肘をつきながら、
コロコロと変わる彼女の表情をずっと見つめている。
過去を回顧するのは悪いことではないと思うが、
なつみのそれは、
普段の彼女のことを程度把握している裕子にとって少し異常に思える。
いつも、何処か虚ろで何かに夢中になることもない。
ただ週に三日、四日ほど生活を維持するためにパートの仕事をするだけで
裕子が誘わなければ外に出ることもない。
どこまで彼女のプライベートに踏み込んでいいのか分からないが
明日香と過ごした頃のなつみの笑顔を知っているだけに少し不安になってしまう。
- 347 名前:新しい風 投稿日:2004/07/06(火) 23:19
- なつみはペロリと舌を出す。
『あんたの顔見てるの好きだから、うちは全然かまわんけど』
裕子は、自分でも気づかないほど自然に表情を崩すと同時に
そこまでなつみを虜にしている明日香という存在に
尊敬の念と軽い嫉妬を覚える。
(まあ、なっちにとって明日香の話が出来るのは私くらいだからしょうがないか。)
彼女の交友関係を頭に浮かべるとため息が出る。
なつみは人当たりは柔らかいが、けして友人をつくろうとはしない。
心の中で線を引いて、「そこから入ってこないでね。」と
ニコリと完璧な笑みを浮かべる。
そこからは裕子でさえも入ることはできない。
- 348 名前:新しい風 投稿日:2004/07/06(火) 23:22
- (いつかなっちが明日香と同じくらいに
誰かを大切に思える時がくるといいんやけど。)
それは残念ながら自分ではないことを裕子は自覚していた。
なぜ駄目なのかを上手く言葉に表すことはできないが
世の中想いや理屈だけでどうにかなるものではないことを
彼女は身にしみて知っている。
(私はこの娘の何なのかな。
好きっていえば好きだし、
かといって別に二ヶ月ぐらい会わなくても平気だし・・・・・・・ )
でも、もしなつみになにかあったら損得勘定なしに行動を起こすと思う。
それは自分が正義感の強い人間でも、博愛主義者だからではない。
ただ彼女には裕子をそこまで突き動かすだけの何かを持っていることと
彼女が今のようになってしまった原因を知っているだけに、
余計に彼女から離れることができないのかもしれない。
- 349 名前:新しい風 投稿日:2004/07/06(火) 23:37
- なつみのほうを見ると、
嬉しそうに裕子が持ってきたケーキをフォークですみのほうから
少しずつ削って口に運んでいる。
(いっぱいあるんやから、そんな真似せんでもいいのに・・・・)
裕子の口元から自然に笑みがこぼれる。
飾らない自分をさらけ出すなつみの
こういう細かいひとつひとつの部分が
いとおしくてたまらなくなるときがある。
少なくとも裕子の周りにはこういう人間はいない
みんな本音と建て前で、嘘ばかりだ。
本当は限りなく黒近いくせに、
うすっぺらい言葉と、見えすえた態度でごまかそうとする。
そしてそういう人間ほど中身が汚れている。
(困ったな、まるでうち、どこかのドラマの主人公やな。)
ふと、頭をよぎったどす黒い感情に思わず苦笑を浮かべてしまう。
普段の裕子はそんなことは百も承知で何も気にせずに
むしろのこころの奥底では歓迎しているふしもある。
上辺だけの付き合いのほうが、何かあったときに心を痛めずにすむし、
時には利用し蹴落とすことさえもできる。
- 350 名前:新しい風 投稿日:2004/07/06(火) 23:56
- ただ、彼女といるときは
そんな感情は欠片も浮いてこずに穏やかな気持ちになる。
なつみはああ見えて、
心の底では世話になりっぱなしだと気にしている節があるが、
裕子に言わせれば、
自分がなつみと関わる事でどれだけの形にならない物を
得たか想像できない。
きっと、彼女と出会わなければ世の中に流されて
物やお金や名誉といったことにしか興味を持てない人間になっていたと思う。
それらの物は大変魅力的であればそれなりに便利で、
人間が本来そなわっている感情のある部分を満足させてくれるので
全てを否定する気はない。
でも、それだけを追い求め、けして満足することのない
気持ちを持って時を過ごしていくことが幸福だと思わないし、
少なくとも自分はそんなふうになりたくはない。
自分をそこまで変えたのは、
難しい言葉をいくつも並べた分厚い本でもなく、
計算しつくされた雄弁でも、
どこかのセミナーのような非日常的な強い刺激でもない。
- 351 名前:ななこ 投稿日:2004/08/31(火) 09:56
- なちりか、まだ〜ですか。
やっとなっちでてきたと喜んでるので
期待です。
- 352 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/16(木) 10:14
- なっちゅー、なちりか?どっちかな
なっちがでない話が長かったので暫くご無沙汰してたのですが
よかったなっち復活してて更新待ってます。
- 353 名前:新しい風 投稿日:2004/09/20(月) 23:04
- ただ、普通になつみと一緒に笑ったり、今日あった何気ない出来事を話したり、
ときに彼女の虫の居所が悪くてすねてみせたりとそれだけのことだった。
でもそんな時間が裕子の心を確実に変えていった。
(何でやろうな?)
裕子はフォークを止めて無意識のうちになつみの顔を覗き込む。
『祐ちゃんダイエット?』
そんな裕子になつみが悪戯っぽく微笑むと、
彼女の皿のケーキを口につける。
「あほ!いっぱいあるやろ!」
慌てて自分の皿を両手で囲い込む。
『あれは、明日の分』
なつみが頬を膨らませて言った後、急に楽しそうに笑いこんだ。
- 354 名前:新しい風 投稿日:2004/09/20(月) 23:05
- 「あんた、とっくに二十歳超えてるでしょ!」
『祐ちゃんはもう三十路だっけ?』
あまりにも幼稚な行動にあきれて、思わず自分のウィークポイント?である
年齢ネタを入れてしまった裕子に対して
なつみはわざとらしく首をかしげる動作をしてみせる。
「あほ・・・・」
裕子は短く言い捨てると急に黙り込む。
『裕ちゃん、ごめんやっぱり『本当のこと』言われると
ショックだよね。』
可愛い顔してとはまさにこのことで
言葉の調子こそ優しいが言ってる内容はかなりドギツイ。
裕子はなつみの言葉に反応せずに何か迷ったような表情を浮かべている。
なつみはそんな彼女の苦悩を面白そうに眺める。
- 355 名前:新しい風 投稿日:2004/09/20(月) 23:06
- 『裕ちゃん!なっちにちゃんと言うことあるんじゃない?』
いつになく、言葉の出が悪い裕子になつみがついに切り出す。
「やっぱごまかしきれんか。」
裕子が大げさにため息をつく。
『意地の悪い人と隠し事する人は大嫌い!』
なつみはそう言うと
容赦なく裕子のまだ中身の入っているティーカップとケーキ皿を台所にさげてしまう。
このまま黙っていたらそれだけで済むわけなく、
ホウキかなにかで追い出されて次に入れてもらうためには
半日近く外に立たされるかもしれない。
「あの、なっちごめんな。
悪気はこれっぽっちもなかったんだけど・・・・」
『大切なのは結果でしょ?』
裕子が以前なつみになにかの拍子で言ったことをそのまま返される。
- 356 名前:新しい風 投稿日:2004/09/20(月) 23:10
-
「そんなことも言ったわ。」
裕子が苦笑いを一瞬浮かべると意を決っしたのかゆっくりと口を開く。。
「裕ちゃんの家がね・・・・・
ちょっとした金持ちで学校の経営もまかされとって
私はそこの跡取りやから、比較的自由がきくんや。」
『へーっ!裕ちゃんの家ってお金持ちだったんだ。
お金持ちって本当にいるんだねー』
少しは嫌な感情をあたえるかもしれないと思ったが
なつみは素直に感心している。
「ほら別に裕ちゃんがすごいわけじゃないから、
自慢みたいにとられるのが嫌で黙ってただけなんや。」
『なっちが気になるのは裕ちゃんの家がお金持ちかどうかじゃないんだけど?』
なつみがさらりと笑みを浮かべ、上目遣いに裕子を覗き込む。
(これ、上手くやらんと相当怒らせそうやわ。)
なつみの一瞬の表情で裕子は危険信号をひしひしと感じ気を引き締める。
- 357 名前:新しい風 投稿日:2004/09/22(水) 00:57
- 「うん、それでちょうど教師の口が空いて・・・・・・・」
『それでなっちにお鉢がまわってきたと。
裕ちゃん偉いんだね?
そんな大事なこと簡単に決めれちゃうんだ。』
なつみの口調に毒が少しづつ含みはじめる。
これ以上隠し事をするといい結果をみないことは火をみるより明らかだ。
(でもなっちにコネ採用てはっきり言ったら気分悪いやろう。
こういうことには人一倍潔癖やからな。)
裕子は慎重に言葉を選ばなければいけないと思った。
もともとなつみを採用しようと思ったのは
自分を変えたようにいい影響を生徒達に与えられるのではと
いう考えもあった。
- 358 名前:新しい風 投稿日:2004/09/22(水) 00:58
- 教師としての能力や経験はなくても、
彼女の明るさやその場を盛り上げる天性の才能は誰もが持ちうるものではない。
そして授業を受け持つとなったら彼女なりに、懸命に努力するのは分かりきっている。
その姿を見て励みにならない生徒はいないと思う。
裕子の学園の生徒たちはレベルが高く、学習面では授業以外でもカバーできるので
そんなことよりも精神的な清涼剤が必要だった。
だけど裕子にとってはそんなことよりも
なつみに精神的に早く立ち直ってほしかった。
本当に彼女を気にしている人間でしか分からないほどの違いでも
三年前の出来事からなつみは確実に変わってしまった。
誰も入ることのできない心の有刺鉄線。
そして心の底でなにかを諦めたような生き方、
他の人が見ればとてもじゃないけどそんなふうには思えず、
明るく真面目という印象しか受けないだろうけど・・・・・・・・・・
裕子が知っている頃の
どこまでも昇っていこうとする太陽のような眩しさをもった彼女に戻って欲しかった。
そして心の底から笑う笑顔をまた見たかった。
- 359 名前:新しい風 投稿日:2004/09/22(水) 01:00
- 『裕ちゃん、気持ちはすごい嬉しいんだけどね』
なつみは苦悶の表情で黙り込んでしまった裕子をみて口調をやわらげる。
『なっちね、そういうの好きじゃないんだよね。
人からどうこう言われるのが気になるってわけでなく、
自分自身の気持ちの問題・・・
別に仕事先まで紹介してもらわなくても、
なっち裕ちゃんにすごい感謝してるからさ、
普段はちゃんとお礼も言えてないけど、』
そう言ってもう一度台所にむかうとお湯を沸かし始める。
さっきは自分から取り上げたくせに今度は新しいお茶をいれてくれるつもりらしい。
裕子はそんななつみの姿を見つめながら、
自分の気持ちを上手く伝える方法と彼女を説得する言いまわしを考える。
- 360 名前:新しい風 投稿日:2004/09/22(水) 01:00
- 『裕ちゃん、はい』
なつみが「新しい葉」で入れなおした紅茶と
さきほど取り上げられたケーキの皿を裕子の前に差し出す。
(なっちの態度悪すぎたね。
裕ちゃん傷ついていないといいんだけど・・)
珍しく難しい顔で考え込む裕子になつみは軽い罪悪感を覚える。
「ありがとう。出涸らしで十分やったのに。」
裕子が冗談ぽく言って表情を崩し、
カップを口に運び「美味しいわ」と一言いった後、
ゆっくりと言葉を吐き出す。
- 361 名前:新しい風 投稿日:2004/09/22(水) 01:02
- 「裕ちゃんな、なっちを選んだのにはいろいろ理由があるんやけど
何を言ってもうそ臭く聞こえるやろうから細かいことは言わんわ。
ただ、もしかしたらあんたと出会うことによって
小さなことでも救われる人間がおるかもしれん。
嫌になったら二ヶ月で辞めてもええわ。」
それだけ言うとゆっくりとなつみの返事を待つ。
上手く表現することは出来なかったけど、
裕子なりに気持ちを言葉にのせることはできた。
『本当、裕ちゃんずるいよね。
そこまで言われて断ったらなっち悪い人みたいでしょ。
駄目だと思ったら二ヶ月で逃げるからね!』
「好きにせい。分からず屋説得するには手間かかるわ。」
裕子が憎まれ口と共にほっと安堵のため息をついた。
- 362 名前:新しい風 投稿日:2004/09/22(水) 01:03
- それからしばらく雑談をしたあと、裕子はなつみのアパートを後にした。
(これがいい方向に向かってくれるといいんやけど・・・・)
車のドアをリモコンキーで開けようと立ち止まると、
なつみがアパートのドアから出てきて、裕子のほうに近づいてくる。
『見送ってあげる。
あっ、今日だけの大特別サービスだからね。』
なつみがそう言って今日一番の笑顔を裕子のためだけにむける。
「あほ。」
裕子は見慣れているはずの彼女の笑顔に、
胸の鼓動が高鳴ってしまい何とかそれだけ言うと車に乗り込む。
キーをまわしエンジンをつけ、
車を発進させる直前になつみのほうをみると
ガラス越しに小さな口がゆっくりと言葉を紡いでいた。
- 363 名前:新しい風 投稿日:2004/09/22(水) 01:30
- >>345様 レスのほうありがとうございます。
何とか更新ペースをあげたいのですが・・
たまーに、目を通していただければ嬉しいです。
>>351 ななこ様
やっとですね。どれくらい時間がかかるか恐ろしいですが
なんとか「なちりか」が書けるといいのですが・・・
>>352様
なかなか好きなメンバーが出てる話じゃないと読みにくいですよね。
最近なっちが出てないというだけで敬遠してた
駄作屋さんの「緑の星」を読んだのですが
書いてくれてありがとうございます。と頭を下げたくなる作品でした。
半分放置気味で申し訳ありませんでした。m(_ _;m)三(m;_ _)m
次の場面からは今までよりは書きやすそうですので
何とかしなければと・・・・・・・・
では失礼します。
- 364 名前:新しい風 投稿日:2004/09/26(日) 23:43
-
(結局、引き受けることになっちゃったんだよね。
また新しい人間関係とかもつくんなきゃいけないし
いろいろ面倒くさいな。
でもやるからにはベストはつくさないと。)
なつみは大きく息を吸うとノックして、扉を開ける。
職員室の中は始業前の割には落ち着いて、たくさんの視線が彼女に集中する。
「あれ?転校生入るって誰か聞いてます。?」
なつみが口を開くより前に、
四十代ぐらいの感じの良い女性が、彼女のもとにかけよる。
「特に連絡なかったみたいですけど?」
ラフな格好をした男の教師が、確認をするためか受話器に手をかける。
(うーん困った。現役の女子高生に見られたのは嬉しいけど、
このままだと大騒ぎになっちゃうぞ。
しょうがない、ちょっと早いけどネタ晴らししちゃおうかな。)
- 365 名前:新しい風 投稿日:2004/09/26(日) 23:45
- 『すいません。中澤さんの紹介できた安倍というものなんですけど・・・・・』
なつみは周りの慌しい動きに遠慮勝ちに声を出す。
「裕ちゃんの紹介?そういえば臨時の教師がくるとかいったけど・・・・・
もしかしてあなたが『なっち』?」
先ほどの女性がなつみの顔をまじまじとながめる。
『はい。』
なんでこの人が私のあだ名を知っているんだろうと思いながらも
勢いに押されて返事をしてしまう。
「本当に裕ちゃんが言ったとおりだわ。
でも学生服でくるとは思わなかった。
あっごめんなさい。
私、永川っていいます。
裕ちゃんからいろいろ聞いててね。
今日、初めて会うような気がしなくて」
そう言うとなつみの手を握りしめる
- 366 名前:新しい風 投稿日:2004/09/26(日) 23:49
- 「あっいいな。
永川先生、僕にも彼女の手を握らせてさせてくださいよ。」
若い男性教諭が冗談ぽっくその場を盛り上げる。
「永田先生が同じことしたらセクハラでしょ?」
「あっそうしたら路頭に迷うことになりますね。
でもそうなっても後悔しません。」
「本当バカよね男って!」
永川が笑いながらなつみに同意を求める。
『いえ、なんか想像していたのとイメージが違うんでとまどちゃって!』
実際なつみが知っている職員室のイメージは
なにか陰湿で独特の重い空気が流れているものだった。
でもこの雰囲気はカラッとしていて
仲の良い友人同士が喫茶店にいるのとたいして変わらない。
- 367 名前:新しい風 投稿日:2004/09/26(日) 23:51
- 「そうでしょ。そう思うわ。
ここに来たばかりのときは私もとまどったもの。」
そういって永川はなつみを職員たちに紹介してまわる。
ひとり、ひとりとても覚えられそうもなかったが、
みんないい意味の大人の対応で、感じの悪い人間はいなかった。
なつみが学生時代の制服を着ている点も気にしない様子で笑みを浮かべていた。
それがすごく自然で本当に面白いから笑うと感じで
様子からして裕子からなつみの話を相当聞かされているみたいだった。
- 368 名前:新しい風 投稿日:2004/09/26(日) 23:53
-
「じゃあ、教科準備室に行きましょうか?」
一通り挨拶が終わった後、
永川がなつみを職員室の外に誘導する。
『教科準備室ですか?』
「うちの学校では
普段は教科担任の教師はそこが待機場所なの。
今日は始業式だからあの場所に人がたくさんいたけど、
普段はみんなそこで仕事をするの。」
『そうなんですか。中澤さんから何も聞いてなくて』
こうして校舎を歩き回っているだけで、
考えていた以上のプレッシャーがなつみにのしかかる。
いくら裕子が助けてくれるとはいえ本当にできるのだろうかと・・・・・
- 369 名前:新しい風 投稿日:2004/09/26(日) 23:54
- 「そうか。裕ちゃんらしいね。
あっいろいろ不安なことあるだろうけど、
みんなでバックアップするから心配しないで、
安倍さんのことも一緒に仕事をする上で必要最低限のことは聞いてるから。」
永川は安心させるようになつみの背中をポンと叩く。
『中澤さんって偉いんですね。
私にとってはただのバイト先の先輩でこんなすごいとは思わなかった。』
なつみは思った以上の設備と、
裕子の意向が通るぐあいをみてショックを受けていた。
つまり悪い言い方をすれば一つの学園が彼女の意向でどうにでもなるわけだ。
「うーん、裕ちゃんは偉いとかすごいって言われると嫌でしょうね。
だって自分がそういう立場にあるからそう評価されるだけで
必ずしも本人自体の評価じゃないでしょ?」
『そこまで考えて言ったわけじゃないんですけどね。』
なつみは彼女の指摘に自分の言葉のうかつさを自覚し、
苦笑いを浮かべながらも、たまには年上の人間と話すのも悪くないと思っていた。
- 370 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/01(金) 11:44
- 続き期待
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/05(火) 09:52
- ついになっち学園編かな
楽しくなりそう
- 372 名前:新しい風 投稿日:2005/02/02(水) 23:57
-
「残念、安倍さんともっとお話したかったのにもう着いちゃった。」
永川は国語科準備室と書かれたプレートがかかっている部屋の前に来ると
少し残念そうな顔を浮かべる。
『さすがに中澤さんと一緒に仕事してるだけあってお上手ですね。』
なつみは素直に彼女の言葉を受け取れたが、
照れ隠しのためかつい余計な言葉が出てしまう。
「本当に祐ちゃんに聞いた通りの娘ね。」
永川はそんななつみの心情もお見通しなのか声を上げて笑い出す。
『けっこう見晴らしいいですね。』
なつみは軽く笑みを浮かべるとふと話題を変える。
三階の廊下の突き当たりの窓からは今朝登ってきた駅の方向が一望できる。
あまりに見事で、なつみはつい子供のようにガラスに手をあてて見入ってしまう。
「この部屋の中からはもっといい眺めよ。
この学園で一番いい場所かも。」
少し落ち着きがなく好奇心の強そうななつみの姿に永川は本当に
学生を案内しているような気分になる。
そして自分もあんな頃があったのかと思うと、
おかしい様な、そして少し寂しい気持ちが胸に沸いてくる。
- 373 名前:新しい風 投稿日:2005/02/02(水) 23:58
-
「何やもう来とった。」
突然、部屋の扉が開いて
なつみが知ってるよりかなりきっちりと着飾った裕子が顔を出す。
「あっ、あはようございます。」
永川がゆっくりと裕子に会釈する。
「永川さんが、なっちを案内してくれたんだ。」
裕子は今や遅しと待っていたなつみの姿を見てほっと安堵の息をつく。
『あっ、中澤さん。こんにちは』
「あほ。」
なつみの挨拶に裕子は短く簡潔に返事を返す。
『やっぱ、まずかったですか?』
なつみは自分の姿を足元から見渡す。
- 374 名前:新しい風 投稿日:2005/02/03(木) 00:00
-
「なにかしてくんのは、とっくにお見通しや。
制服着てくるとは思わんかったけど。
それより、なんやねんその「中澤さん」いうのは?」
裕子はよく来たというように、なつみの頭を自分の胸に引き寄せる。
「この娘なりに気を使ってたみたいですよ。
私にも「中澤さん」、「中澤さん」って可愛いじゃないですか。」
永川が可笑しそうに口元に手をあてる。
なつみと話しているときはそんなそぶりを欠片も見せなかったのは
彼女のほうがなつみよりも何枚も上手だったのだろう。
「変な気、使わんとき。
ここではうちのことみんな「祐ちゃん」やから」
『だってねー』
なつみは自分なりに気を使っていたことが、
実はあまりにも子供っぽいことで裕子たちに見透かされてたかと思うと
少し恥ずかしくなって顔を赤らめる。
「なっち、よう似合ってるわ。
来年のパンフレットのモデルにしたいくらいやわ。」
裕子がなつみの背中を抱くようにして部屋に誘導する。
永川はそんな二人の姿を微笑ましげに見つめると軽く会釈をして背中を向ける。
「ご苦労さん」
『あの、短い時間でしたけど楽しかったです』
なつみの言葉に永川振り返り「私もよ。またね。」とにっこり笑い姿を消した。
- 375 名前:新しい風 投稿日:2005/02/03(木) 00:01
-
- 376 名前:新しい風 投稿日:2005/02/03(木) 00:02
-
今井川中島瞳子は気分が落ち着かなかった。
胸の中がもやもやして、まだ過ぎたばかりなのに春先独特の苛立ちに少し似ていた。
「瞳子君落ち着かないね〜。」
同僚の木村が視線を机の上の新聞に向けたままつぶやく。
「私はいつも通りですけど、それより机の上のゴミちゃんと捨ててくださいね!」
見てみると確かにキャンディーの包み紙が一つだけ机に遠慮がちに存在している。
木村は無視しようかと思ったが今までの経験からそれがプラスの方向に向かったことが
ないのを学習しているので包み紙を掴むと机の下のゴミ箱に落とす。
三階の国語科準備室はそもそも教師の数が少ない。
瞳子と木村を入れて二人だけで後は外部の講師が掛け持ちで授業をこなしている。
他の学園と較べて教師の数が少ないのはここの特徴だが特に国語科の教師の数は圧倒的に少ない。
そもそも、漢文・古文というのは人に教えるということが想像以上に難しい科目で
外部の専門講師のほうが圧倒的に上手い。
瞳子もこの学園に来たときは、
納得いかないものがあったが生徒を退屈させないよく工夫された授業を聴いて
考えを改めざるを得なかった。
- 377 名前:新しい風 投稿日:2005/02/03(木) 00:03
-
「瞳子さんも始めての後輩で緊張してんやろ。」
裕子が窓際で煙草に火をつける。
そんな裕子が気に入らないのか瞳子はずかずかと足音を立てて近寄ると強引に煙草を取り上げる。
「あらら、」
裕子が残念そうに顔をしかめるが瞳子はいちべつもくれず煙草水につけた後、ゴミ箱に捨てる。
「瞳子ちゃん、もう少し愛想良くてもいいんじゃない?
うちこれでも、ここの理事長なんだけど・・・・・」
「相手が誰だろうが駄目なものは駄目です!」
瞳子はぴしゃりと言い切ると十分きれいな自分の机の上を雑巾で拭き始める。
彼女の周りは驚くほどきちんと整頓されていて、生活感をまったく感じさせなかった。
- 378 名前:新しい風 投稿日:2005/02/03(木) 00:04
-
「瞳子君が来てからここも変わったな〜」
木村がぽつりと言葉を漏らす。
彼女がくるまでは木村しか教師はおらず、
裕子が時々煙草を吸いにきてこの部屋はいつも紙くずと煙草の煙に包まれていた。
「早いもんや。もう二年目か・・・・・それにまだ21か・・・」
裕子が羨ましそうに彼女を見つめる。
自分にも当然そういう年齢のときがあったわけだが、理不尽だと分かっていても軽い嫉妬のようなものを感じる。
「二人ともまだまだ若いんですから、変なこと言わないの!」
瞳子は手持ち無沙汰なのか珍しく人数分の紅茶を入れる準備をする。
「ほー、瞳子さんがお茶入れてくれるんだ。珍しいこともあるもんや、なあ木村。」
裕子は自分より七つほど年上の男を呼び捨てで呼ぶ。
何に対しても執着心がなく、常に世間から距離を置くこの男と不思議とうまが合った。
- 379 名前:新しい風 投稿日:2005/02/03(木) 00:05
-
「僕の記憶だと自ら入れてくれるというのは三回目かな?」
木村がようやく新聞から目を離し窓へ視線を移す。
(人が入るというのはいい意味でも悪い意味でも環境が変化するものだ。)
裕子が珍しく気に入っているらしい安倍なつみという存在に興味がないといえば嘘になる。
(僕や裕子君はともかく、彼女にはいい方向へ変わってくれるといいんだが・・・・・)
手際よく紅茶を入れる瞳子へ一瞬目をむける。
木村が彼女と一年間一緒に働いて分かったことは、
無理して大人ぶって口うるさいところはあるが、
細かい気配りはできるし、意外と面倒見がいいということだった。
それよりもっと痛感したのは、彼女にはいい友人が必要だということだった。
人はある程度社会とかかわりがあれば恋人や深い友人をつくらずとも
本人なりに満足して生きれる。そのいい例が木村自身や目の前の裕子だった。
それとは対照的に強くみえても、どこかもろさを感じさせるが今井川中島瞳子という少女だった。
- 380 名前:新しい風 投稿日:2005/02/03(木) 00:47
- 「二人ともそんなひねたことばかり言ってると根性だけでなくて、外見にまで出るよ。」
紅茶の香りがただよい、
これからしばらくすると慌ただしい生徒達の登校ラッシュが始まるのとは思えない穏やかな時間が流れる。
「やっぱ、若い娘が入れたお茶は美味しいわ。なあ木村?」
裕子は上機嫌で学園一眺めがいいと言われる窓の景色を楽しむ。
あいにくと曇り空だが彼女は晴れてる日よりも、曇りの日が曇りよりも雨の日のほうが好きだった。
「めったにないことだから、味わって飲ませてもらうよ。」
木村が冗談ぽっく応じると「雑学大辞典」と題されて100円のシールが貼ってある本に目を通す。
- 381 名前:新しい風 投稿日:2005/02/03(木) 00:48
-
「あっ」
椅子に座って紅茶を冷ましながら飲んでいた瞳子が
壁にかけてある時計に目を向けると窓のほうへ歩き出す。
「8時15分か」
木村がもう何十回も口にしたセリフを意識せずに口から出す。
「「イタイ系美少女」の登場か・・・・」
裕子がポツリと口から漏らすと瞳子が一瞬きつい眼差しを向ける。
(ちょっと、違ったかな?)
梨華の印象を思い浮かべてもっと上手い言いまわしがなかったかと頭をかく。
何をやっても空回りという言葉がぴったりと当てはまる少女を
瞳子が気にかけているのは裕子も木村もよく知っている。
もっとも文字通り見守っているだけなので
裕子に言わせれば「何の意味もない」ということになる。
もっとも瞳子の前ではそんな素振りは欠片も見せることはない。
- 382 名前:新しい風 投稿日:2005/02/03(木) 00:49
-
「あれ、誰かと一緒だ!」
瞳子が珍しくはしゃいだ声を出す。
その声につられて裕子ばかりか木村も席を立ち窓辺に足をむける。
瞳子はいつも一人で登校している梨華が
誰かと一緒なのがよほど嬉しいのか「良かったね〜」という言葉を本人も気づかないまま繰り返している。
「でも隣の娘誰だろ?見たことない制服だから転校生だよね?」
不思議そうに首を傾ける瞳子とは対照的に見る見る顔色が悪くなって固まる裕子を
木村は面白そうに見つめる。
「どないしよ。」
裕子が木村にだけ聞こえる大きさで声を漏らす。
木村が興味深げに彼女の目を見やる。
「あれが、例の「なっち」や。」
裕子が搾り出すようにやっとそれだけ言う。
- 383 名前:うううう 投稿日:2005/05/08(日) 09:09
- おえうえksdf
- 384 名前:うううう 投稿日:2005/05/13(金) 19:44
- j
- 385 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 14:51
- 更新待ってます…
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