作者フリー 短編用スレ 5集目
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月30日(水)15時25分39秒
- このスレッドは作者フリーの短編用スレッドです。
どなたが書かれてもかまいませんが、以下の注意事項を守ってください。
・アップするときはあらかじめ“完結”させた上で、一気に更新してください。
・最初のレスを更新してから、1時間以内に更新を終了させてください。
・レス数の上限は特にありませんが、100レスを超えるような作品の場合、
森板(短編専用)に新スレッドを立てることをお薦めします。
なお、レス数の下限はありません。
・できるだけ、名前欄には『タイトル』または『ハンドルネーム』を入れるようにしてください。
・話が終わった場合、最後に『終わり』『END』などの言葉をつけて、
次の人に終了したことを明示してください。
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- 2 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月30日(水)16時35分41秒
- スレ立てたので、自分で書いてみます(w
最近けっこー好きなおがいしを。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月30日(水)16時36分58秒
- 手帳を落とした。
「・・・まずいよ・・・すっごくまずい・・・!!」
私は今日の行動を一つ一つ思い出しながら、手帳を探し回る。
アイドルと言う職業上、手帳をなくすと言うのはとてもマズい事だ。
だって万が一一般の人の手に渡って・・・しかも中身見られちゃったら!マズい事になっちゃう!!
仕事のスケジュールやウチの住所やメンバーの住所・・・それにプライベートなプリクラや写真なんかも入ってるんだもん!!
みんなにすっごい迷惑かかるし、私だって困る。
・・・・・・。
・・・神様、ごめんなさい。今、私はすっごい建前を言いました。
どうしても見つけなきゃいけない本当の理由は・・・写真。大好きな大好きなあの人と一緒に撮った、写真が入ってるから。
コンサート直後の、すっごいテンション高かった時に撮った写真。
あの人と、まるで恋人みたいにぎゅっと抱き合って撮った写真。
「・・・見つけなきゃ。どうしても。」
意気地なしな私は、もう二度と『抱き合って撮りましょう』なんて誘えないから。
もしもまた勇気が出て、誘えたとしても・・・もうあの人の『本当の恋人』が許してくれないだろうから。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月30日(水)16時37分38秒
- 大切な大切な宝物だから。絶対に見つけ出したい。
そう思ったその時、携帯が震えた。
『石川梨華』
携帯の画面に表示されたその名前に、私の心臓はどくんと跳ね上がった。
震える手で、通話ボタンを押す。
「も、もしもし?」
『あ、もしもし?小川?』
「はい!そうです!!」
『今、どこにいるの?』
「え?事務所です。・・・ちょっと忘れ物しちゃったんで、それを捜しに…」
『その忘れ物って、もしかして・・・手帳?』
「そ、そうですけど・・・。」
すると石川さんは、電話の向こう側でうふふ、と笑った。
『やっぱりこれ、小川のだったんだね。わたしが持ってるよ。』
心臓が、蹴り上げられたような気分になる。
「い、石川さんか・・・!?」
『うん。なんか、見覚えのある手帳が廊下に落ちてたんで、拾っておいたの。』
どうしよう。どうしようどうしよう。
中身、見たのかな・・・?あの写真、ラミネート加工までして大事に持ち歩いてるの・・・見られたのかな?
石川さんの口ぶりだと、見られてないみたいだけど。・・・それはそれでガッカリしてるのは何故なんだろう。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月30日(水)16時38分21秒
- 『ねえ、小川。』
「は、はい!何ですか?」
『わたしの家、わかるよね?こないだ、紺野と一緒に遊びに来てくれたもんね。』
「へ?・・・わ、わかり・・・ますけど・・・?なんで・・・?」
唐突な言葉に、思わず変な返答をしてしまう。
そんな私にかまわず、石川さんは可愛い声でこう言った。
『これからおいでよ。手帳取りに来たついでに、わたしと遊ぼう?』
「・・・・・・はい!!!」
好きで好きでたまらない人からこう言われて、断るヤツがいるだろうか。いや、いるまい(反語)。
私は電話を切ってから、半スキップ状態で石川さんの家に向かった。
- 6 名前:手帳 投稿日:2003年07月30日(水)16時39分40秒
自宅ではジャージ姿が定番の石川さんだけど、今日は何故かピンクのワンピースを着ていた。
可愛い。すっごく可愛い。ああ・・・可愛い。
「これ、さっき買ったばっかなんだ♪小川来るから、着替えてみたの♪」
って事は、私が初!?初めて見るの!?このスッゲェ可愛いワンピース姿は!!しかも私の為に着てくれたの!?
感動・・・!!!
「どう?小川。似合う?」
「似合うッス!!超似合ってるッス!!可愛いッス!!」
「いや〜んありがと」
そんな仕草も甘い声も、本当に可愛くて・・・私はもう、胸がいっぱいいっぱいだ・・・。
「あ、そうだ。返すね、手帳。」
「へ!?・・・あ、はいっ!」
すまん、手帳よ。その存在を忘れ去っていたよ。
石川さんから差し出された見慣れた手帳は、なんだか輝いているように見えた。
・・・使い終わっても、永久保存しよう。数時間でも石川さんのバッグの中にいた手帳として・・・。
「ありがとうございました!」
そう言って手帳を手に取り、引っ張ったが・・・手帳は、石川さんの手に引き戻された。
- 7 名前:手帳 投稿日:2003年07月30日(水)16時40分25秒
- 「え?」
一緒ん、手帳が『戻りたくないよぅ』とか駄々こねてるのかとも思ったが・・・そうじゃなかった。
石川さんが、まだ手帳を離してないんだ。
「い、石川さん?」
「・・・・・・ごめん、小川。」
「へ?」
「わたし・・・手帳の中身、見ちゃった。」
「・・・・・・!!」
わたしは、驚きで目を見開いた。
「外側見て、小川のだってわかってたんだけど・・・それでも、見ちゃった。」
石川さんの眉毛が、八の字になる。
「うううん、そうじゃない・・・小川のだってわかったから・・・見たくなっちゃったの。」
「!!」
どういう意味・・・!?
訊きたいような、訊きたくないような・・・期待と不安が入り混じった複雑な感情が、身体の中で膨れ上がる。
「いし・・・かわさん・・・?」
「わかってる・・・。小川には、高橋がいるって。」
「は?」
「それでも、もう駄目。これ以上は耐えられない!」
石川さんの甘い香りが、ふわっと広がった。
・・・え?え!?何!?私、石川さんに抱き付かれてる・・・!?
「好きなの・・・。わたし、小川の事が好き・・・!!!」
- 8 名前:手帳 投稿日:2003年07月30日(水)16時40分58秒
- 「・・・・・・!!!」
自分でも無意識の内に、私は石川さんを抱きしめていた。
「お、小川・・・?」
「わ、私も!私も好きッス!!」
叫ぶように、宣言するように。高らかに言った。
夢の中、想像の中でしか言えなかった言葉を。
「ずっと・・・石川さんの事、好きでした。」
「・・・た、高橋は・・・?」
「なんで愛ちゃんが出て来るんですか?」
「だって、仲良いし・・・。」
石川さんの耳が赤い。ああ、可愛い。愛しい。
「愛ちゃんとは何でもないですよ。」
「本当に・・・?」
「はい。もちろん。だって私、ずっと石川さんしか見て来なかったし。」
「・・・本当にぃ・・・?」
石川さんの目に、涙がにじみ始めた。そこで、はたと気付く。
「い、石川さんこそ!吉澤さんは良いんですか!?」
「え?」
石川さんがきょとんとする。
「なんでよっすぃーが出て来るの?」
「・・・だ、だって・・・。」
よく、一緒にいるし。抱きついたりしてるし。吉澤さんと一緒にいる時の石川さんは、すごくリラックスしてるように見えるし。
- 9 名前:手帳 投稿日:2003年07月30日(水)16時42分59秒
- それらの言葉を、何かがすごく悔しいので飲み込んだ。すると石川さんは、くすっと笑う。
「・・・なんか、みんな勘違いしてるんだよねー。よっすぃーはお友達なのに。・・・わたしが好きなのは、小川なのに。」
「本当ですか!?」
「本当。」
石川さんと目が合う。・・・恥ずかしくて、目をそらしてしまった。
「ちょっとぉ、小川!ちゃんとこっち見てよ!」
「いや・・・だ、だって・・・。」
今までずっと、石川さんは可愛い可愛いって思って来た。だけど・・・なんか・・・すっごい、色っぽい・・・。
変な気分になっちゃいそうで・・・まともに見られないよ・・・。
「小川ぁ。」
甘い甘い、石川さんの声。駄目です、それ以上近付かれたら・・・私・・・!!
「キス、して?」
「!!・・・い、良いんですか?」
「なんで?だって、両思いになったんだよ?ココでキスするのが『王道』ってモンでしょー。」
お、『王道』って。『王道』って。何のですか、石川さん。
しかしそんなツッコミより先に、『両思い』って言葉に動揺してる自分がいる。
そっか・・・そうだよな。両思いになれたんだよな。
「石川さん!!」
- 10 名前:手帳 投稿日:2003年07月30日(水)16時43分31秒
- 「きゃっ・・・なぁに?」
ぎゅっと、抱きしめる腕に力を込める。
「・・・夢じゃ、ないですよね・・・?」
「確かめてみれば?」
言われて、ぎゅっとほっぺをつねって見る。・・・いたい。って事は・・・!!
「ゆ、夢じゃないんですね・・・!?本当にわたし、石川さんと両思いになれたんですね!?」
「本当に、わたしも夢みたい。」
「石川さん!!」
私は、迷わず石川さんの唇に自分の唇を重ねた。
・・・やわらかい。そして、甘い。
「ん・・・。」
時折漏れる吐息も、ぎゅっとしがみついて来る指の力も・・・すべてが甘く愛しい。
唇を離すのは寂しかったけど、もっと石川さんの顔が見たくなった。
「石川さん・・・。」
「ん・・・。」
とろんとした瞳の石川さんに、私は言った。
「・・・今から、私・・・みんなに『恋人ができた』って自慢して良いですか?」
「いいよ。・・・わたしもする。みんなに・・・。」
また、唇を重ねる。
唇を重ねながら、横目でちらりと手帳を見た。
ありがとう、手帳。お前のおかげだ。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月30日(水)16時44分03秒
- 以上です。お粗末様でした。
おがいし、もっと増えないかなー。
- 12 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月31日(木)00時38分23秒
- 使い終わっても永久保存・・・小川やばいよ、小川。
と思いつつ、その気持ち分かる。
まこ梨華 新鮮でいいですね。続編とか期待。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月31日(木)23時41分23秒
- おぉ、梨華まこだよ。梨華まこ。
発見しちまったよ!作者さん、サイコー!良いねぇ…(*´д`)
ホントにもっと広まって欲しいですものです(TーT)
ということで?続編or新作希望!
- 14 名前:手帳作者 投稿日:2003年08月01日(金)10時16分03秒
- ・・・良いのかなー?と思いつつも、止められなくて・・・続編を書いてしまいました(大汗)
甘いだけになってしまったのですが、もしよろしければ読んでやってください。
これが、おがいし(りかまこ、まこりか・・・どれが一番良い呼び名なんだろ・・・)普及に役立てたら良いなぁ、などと思いつつ(w
- 15 名前:呼び名(手帳2) 投稿日:2003年08月01日(金)10時16分39秒
- 我が世の春。現在の私の状況は、まさにそんな感じ。
「まこっちゃん、最近なんか幸せそうだねぇ。」
収録前、隣でメイクしていたあさ美ちゃんに言われて、私はにまーっと微笑む。
「あっははははははは!!わかる!?わかっちゃう!?」
「・・・・・・う、うん、まぁ・・・。」
「そっかぁ〜。やっぱ隠し切れないかぁ〜!!うっははははは!!」
「どうしたの?何があったの?」
台本をぎゅっと握り締め、何故か怯えた表情をしてるあさ美ちゃんを横目で見る。
「じゃ、あさ美ちゃんには教えちゃおっかなぁ〜♪」
「う、うん。教えて。」
「どうしても知りたい〜?」
「うん。・・・なんか・・・教えて貰わないと、怖くていてもたってもいられない感じだし・・・。」
「それじゃあ教えてあげましょぉ!!」
がしっとあさ美ちゃんの肩を掴み、囁くように話す。
「実はぁ、私・小川麻琴はぁ!石川梨華さんと言う可愛い可愛い彼女ができたんです!!」
あさ美ちゃんは、目をぱちぱちと瞬かせてから・・・ワンテンポ遅れて言葉を発した。
「・・・・・・ええぇぇぇぇぇぇ!?嘘ッ!!」
「本当本当。マジ。」
- 16 名前:呼び名(手帳2) 投稿日:2003年08月01日(金)10時17分53秒
- 「す、すごい!!おめでとう、まこっちゃん!!!」
「ありがとう、あさ美ちゃん!!」
手を取り合い、きゃっきゃと喜びを分かち合う。・・・ああ、同期の友って素敵。
そんな事を思ってると、あさ美ちゃんは頬を紅潮させながら言った。
「でも、本当に良かったねぇー!!まこっちゃん、ずっと石川さんの事好きだったんでしょ?」
「・・・・・・へっ?」
「念願叶ったって感じ?・・・うわー、すごいねぇ♪」
・・・なんであさ美ちゃん、私がずっと石川さん好きだったって知ってんの・・・?言った覚えはないんだけど・・・。
そんな私の心の中を見破ったかのように、あさ美ちゃんはにまーっと笑った。
「バレバレだったよ、まこっちゃんの気持ち。気付いてなかったのは石川さんくらいじゃない?」
「・・・・・・そ、そうなんだ・・・。」
- 17 名前:呼び名(手帳2) 投稿日:2003年08月01日(金)10時18分42秒
- なんだかテレてしまう。・・・そっか。バレバレだったか。私としてはなかなか上手く隠してたと思うんだけどなぁ・・・。
あさ美ちゃんは、宙を見つめながらほぅ、とため息をついた。
「そっかぁ。まこっちゃんは石川さんと両思いになれたんだね。・・・私も、がんばろうっと!」
「え?あさ美ちゃん、好きな人いるの?」
「うん!!」
あさ美ちゃんは頬を赤くし、潤んだ瞳で言った。
「・・・私もがんばる。後藤さんと、両思いになれるように。」
「え?・・・えぇ!?えええええぇぇぇぇぇぇ!?」
あさ美ちゃんが後藤さんを好きだとは、初耳だ。私は驚いて、あさ美ちゃんを見た。
- 18 名前:呼び名(手帳2) 投稿日:2003年08月01日(金)10時19分58秒
仕事が終わって、石川さんの家に来た。
「・・・い、石川さん。」
「だーめ。」
「・・・・・・り・・・」
「うん?」
「り、り・・・梨、華・・・さん・・・。」
「だぁーめっ!!」
石川さんは、ぷぅっと頬を膨らませた。
「もうっ!駄目じゃないっ!『梨華』って呼んでってば!」
「だ、だってぇぇ〜!!・・・石川さん、先輩だし・・・それに、年上だし・・・。」
「関係ないもん!・・・先輩で年上だけど、麻琴の彼女だもん」
う・・・っ!か、可愛い・・・!!
「ほら、ま・こ・と・・・わたし、麻琴に『梨華』って呼ばれたいな」
「うぐっ!」
その、殺人的なまでに可愛い仕草と声。ああやばい。鼻血噴きそう・・・。
小川麻琴、十五歳。・・・愛する彼女の喜ぶ顔が見たい!!
ごくりと唾を飲み、私は腹を決める。
「・・・・・・じゃあ、行きます!」
「うんっ!さぁ、呼んでっ!呼んでっ!!」
期待に満ちたその顔に向かって、私は言う。
「・・・・・・梨華。」
「きゃーッ」
いしか・・・いや、梨華・・・は私に抱き付いて来た。
- 19 名前:呼び名(手帳2) 投稿日:2003年08月01日(金)10時21分29秒
- 「嬉しいっ!!大好きよ、麻琴」
「・・・よ、喜んでもらえて嬉しいです・・・。」
「麻琴、顔真っ赤だよ?」
「・・・・・・いや、だって、恥ずかしかったから・・・。あああああの、『梨華さん』じゃ駄目ですかっ?」
「ええー?」
不服そうな彼女に、私の胸は更に高鳴る。・・・反則だ。全部の表情が全部、『超』がつく程可愛いなんて。
「・・・しょ、精進しますから。いつか普通に呼び捨てにできるように・・・。」
「努力するぅ?」
「はい!します!!」
「・・・・・・それなら、良いよ。今の所は、『梨華さん』で許してあげる。」
梨華さんはそう言って、目を閉じた。・・・こ、これはもしかして・・・キス待ち!?
え!?良いの!?良いの!?しちゃって良いの!?
「・・・梨華さん・・・。」
私はドキドキしながら囁いて、恐る恐る唇を重ねた。
・・・ああ、やっぱり・・・梨華さんの唇は、すっごくやわらかくてすっごく甘くて・・・。
なんだか、溺れてしまいそうだ。
「・・・ん。」
唇を離してみたものの、その甘い吐息に・・・もっと欲しい、と言う欲求が止められなくなってしまった。
- 20 名前:呼び名(手帳2) 投稿日:2003年08月01日(金)10時22分08秒
- 「・・・・・・んんっ。」
もう一度、今度は梨華さんを引き寄せて、強引にキス。
・・・こんなに強引にして、嫌われたらどうしようとも思ったけど・・・梨華さんは受け入れてくれた。
そして・・・触れるだけのキスの真っ最中に、梨華さんの唇が少し開かれる。
・・・良いんですか?本当に?
確かめる間もなく、私は・・・舌を・・・。
「ふ・・・ん・・・。」
鼻にかかった、甘い声。甘い吐息。唇を合わせる音までもが甘い。全てが、まるで砂糖菓子のように甘い。
駄目だ・・・止められない。
さんざん、梨華さんとのキスを堪能して・・・唇を離す。
「・・・ん・・・麻琴・・・。」
「梨華さん・・・。」
名残惜しくてたまらない。もっとしたい。・・・いや、キスだけじゃなくて、もっと・・・。
って、何考えてんだよ私は。
「麻琴。」
「っ!!」
梨華さんの表情が、今まで見たこともないような・・・もともと色っぽいんだけど、それ以上にもっと色っぽくなった。
私の心臓が、どんどんと鼓動を速める。・・・だ、駄目だ。梨華さん!!抑えきれなくなっちゃうよぉ・・・。
- 21 名前:呼び名(手帳2) 投稿日:2003年08月01日(金)10時22分51秒
- 「ねえ、麻琴?」
「・・・・・・はいっ。」
「好きだよ、麻琴。大好き。」
梨華さんは、ぎゅっと私にしがみついた。
「麻琴になら何されても、わたしは嬉しいんだけどな?」
「・・・・・・!!!」
それって・・・それって!!!
自分に都合の良いように解釈しちゃって良いんですか・・・!?
「・・・あの、り、梨華さん。」
「ん?」
「・・・・・・私、その、あんまり上手くないかもなんですが・・・そ、それでも・・・?」
「わたしは、『麻琴』が欲しいんだけどな?」
「っ!!」
理性が飛ぶって、こう言う事を言うのかな?わたしは梨華さんを押し倒した。
「梨華さん・・・!!」
「麻琴」
・・・・・・ここから先は、二人だけの秘密。
- 22 名前:呼び名(手帳2) 投稿日:2003年08月01日(金)10時23分44秒
翌日、梨華さんにつけてしまったキスマークをあさ美ちゃんに発見され、ニヤニヤされた、とだけ言っておこう。
ちなみに梨華さんは・・・本当に本当に可愛くて色っぽかった。・・・反則だ。
- 23 名前:手帳作者 投稿日:2003年08月01日(金)10時24分32秒
うわあ、本当に甘いだけですね(汗)未熟者ですみません。
・・・普段いしよしばっか書いてるから、書いててすごい新鮮でした(w
ありがとうございました!
>名無し読者様
律儀なまこだったら、絶対保存するかなー、と思いまして(w
続編希望、嬉しかったです。ありがとうございました!!
>名無しさん様
少ないですよね、この二人って・・・。もっと読みたいのに(泣)って事で、自分で書いてみました(w
ありがとうございました!!
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月01日(金)12時25分11秒
- 我が世の春を謳歌してニヤケテいる小川さんがリアルに思い浮かびました。
長編でも読みたいな・・・なんて。
甘くて良かったです。
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月01日(金)20時54分38秒
- ふわぁぁ〜ん(*´д`)甘甘過ぎで頬肉が上がりっぱなしだよ!
そして、二人がどんな夜を過ごしたのか激しく気になるよ〜。
ってか、作者さんいしよし書いてたんですか。
どおりで甘甘うまい訳だ(*^ ^)
作者さんの都合が良ければ、梨華まこもっと読みたいなぁ(^ ^)
- 26 名前:あすら 投稿日:2003年08月04日(月)11時55分16秒
- 手帳・呼び名、読みましたぁ〜
読んでる間は、人に見せられないような顔(ニヤニヤ顔)してたと思いますw
自分も「梨華まこ」をテーマにHP持っているので(宣伝っぽいかなw)
この小説見つけたとき、嬉しかったです。
特に梨華まこ物は少なかったので。
- 27 名前:なちまりとか 投稿日:2003年08月10日(日)14時16分08秒
なちまりのリアルでちょっとビターなカンジで。
- 28 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時17分58秒
お風呂上りでベッドの上に寝転がるキミの上に寝転がるあたし。
七月入ってんのに夜は少し肌寒いくらい。
肌寒さは人の温もりを求めさせる。
決して孤独なわけじゃないのにひどく人恋しさを煽って焚きつける。
- 29 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時19分41秒
「なっち、髪伸びたねー」
そういってまだ完全に水分の抜けきっていない髪の中に指を通す。
「伸ばすの?」
「あーうん、もうちょっと伸ばそっかな、って、てかそろそろ降りてよ」
重いし暑いよ、って笑いながら言ってそれでも全然楽しそうで。
「いやーなーんか落ち着くんだよネェ、なっちの上って」
そしてそのまま左の肩の下の背骨の横にほっぺたを押し付けて頬擦りする。
シャンプーのいい匂いとなっちの体温と鼓動が混じって甘い睡魔に誘われる。
「こしょばいからヤメテ」
そう言って伸びてきた手があたしのわき腹をくすぐった。
「ヤダ。・・ちょ、てかそっちだってやったじゃん。お返しだほりゃ!」
そう言って今度はアゴで背骨の上をゴリゴリした。
いつもならくすぐったがって振り落とすか
ひんやりとした大人の声で「ヤメテ」っていうかのどっちかなのに
今日はただひゃはひゃは笑ってる。
なんだろう、こんなんでイチイチ不安がってる自分はらしくないよ。
- 30 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時21分06秒
最近機嫌がいいのは知ってる。その理由も。
今までホント頑張ってきたもんね。ずっと見てきたからわかるよ。
人事なのに自分のこと以上に喜んでる。もしかしたら本人以上に。
でもさ、ちょっと不安もあんだよ。
決して浮かれてるようには見えないけど物凄く充実してそうな横顔とか。
眼には見えないけど側にいくとチリチリと焦げるように感じるくらいオーラ出てるとか。
以前よりもっとずっと強く輝いてる気がする笑顔とか。
時々だけど初めて出会った頃のあの遠い距離を感じることがあること、
キミには内緒だけど実は最近しょっちゅうなんだ。
なんだろうな、この感覚。
例えるなら鳥が空へ羽ばたく一瞬みたいな瞬間が連続してるカンジ。
ちょっと、疲れる。正直、焦る。置いていかれそうで。
- 31 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時22分34秒
「やぐちぃ〜」
「んー?」
相変わらず寝転んだなっちの上に寝転んだままのあたし。
カラダの凹凸がぴったりしてるカンジが好きでよくこうやって上にのっかたまま囁いたり。
愛なんて言葉に程遠いような甘いだけの言葉や
時に、恨み言に近いような毒の効いたジョークも。
「もぉすぐさぁライブ始まるじゃん?」
「うん、まぁまだ2週間以上先だけどね」
「そしたらさぁ忙しくなるからさー」
「ん」
「今のうちどっかいこーよ、収録の後でもさ、時間見つけて」
「んーいいけど。何?何かしたい事あんの?」
「えー?別に買い物でもいいしー、映画でもいいしー、なんか食べに行くのもいいしー・・・」
昨日の帰り際と、レッスンの休憩時間と、
今日の収録の待ち時間に口にしかけた言葉の続きが今でも少し気になってる。
漠然とした悪い予感はただの気のせいと、心配性な自分を笑い飛ばせないでいる。
- 32 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時23分37秒
「あ、そだ、なっちお好み焼き食べたい」
「ん?お好み焼き?」
「うん。あいぼんと話してたら食べたくなった」
「おお、いいねぇ、オコノミヤキ」
「ちょっとソレ本気で思ってんのぉ?」
笑ってるなっちの振動で自分も揺れる。
肩越しに振り返るなっちにバレたか、みたいな顔で笑い返した。
なんでもいいんだ、キミとこうしてつながって、繋ぎとめられるならどんなことでも。
でもさ、本当は何を考えてるのか全部知りたいって思ってんの。
最近とくに優しい訳とかいやにあたしを構ってくれる理由とか何もかも全部。
ねぇなっち、なっちは・・・
- 33 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時26分16秒
「なーんかさぁ、パーッと騒ぎたいよねぇ」
「あーいいねぇ。もちなっちの奢りでね」
「なーんでさぁ」
カラダを逸らせて後ろに乗っかってるあたしに頭突きしようとする。
「んじゃ、みんなで食べいくー?」
「何、おいらとのデートじゃないのかよぉ」
「やぐちとはいつでもいけるっしょ?」
「他のメンバーだっていつでもいいじゃん」
矢口最優先でよろしくー、そう言ったら曖昧に笑って小さくそろそろ降りて、って言った。
ザンネンだけど素直になっちの背中から降りて隣に寝転がる。
向かい合う形で二人寝転がってなんでかマジメな顔してる。
あたしは手を伸ばしてなっちの頭を、大分伸びた髪を撫でる、
何気なく頬にかかった髪を掻き揚げたら初めて見るような年相応の大人びた表情。
一瞬、手が止まる。
「ん?なした?」
不思議そうに覗き込んでくる顔はいつもの究極の童顔に戻ってて。
心臓がまだドキドキとびくついている。
「あー、いやーなんか、なっちもオトナになったなぁ・・・って」
「はー?」
「んーなんでも。こっちのこと」
そう言ってまた髪を撫でる。
髪を指に絡めとって遊ぶあたしをなっちはいつもよりぐっと優しい顔で見ていた。
- 34 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時27分16秒
「シャッフルさー今年も一緒じゃなかったね」
「しょうがないべ、つんくさんが決めるんだし」
「まぁ、そうだけど。でも一度くらいはさー一緒になりたいよ」
「んーそうかい?」
「だってその分一緒にいられるしさー」
「シャッフルじゃなくたって一緒にいるんだからいいべさ」
「それじゃぁつまんねぇべさ」
「まねすんな」
「あー来年こそは、一緒になれますように!お願い神様!」
「・・・こんなとこで祈ったって・・」
「いーの!」
ムキになって言うあたしになっちは呆れたような顔で笑ってから、
かぁわいいーなんていいながらあたしの頭をグリグリした。
- 35 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時28分17秒
「ふん、さくら始まったらずっと一緒なんだからなーカクゴしとけー」
「あいぼんとか亀井が見てる前で変なことすんなよー」
「んじゃよっすぃ〜とかの前ならいいのかよー」
「そういう意味じゃないで〜す」
くだらない会話で笑うなっちはやっぱり童顔のままでソレに少し安心する。
一瞬垣間見た大人の顔のなっちにひどく不安になった。
置いてかれるかもしれない、追いつけないかもしれない、離れて、見失うかもしれない。
なんだろうこの焦燥感。
こんなに近くにいんのにさ、何焦ってんだろね。おかしいよ。
髪で遊んでいた手をなんでもないようなタイミングで動かして頬に当てた。
なっちの瞳が柔らかく緩むのを確認して首に滑らせる。
- 36 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時29分28秒
「ちゅうしていー?」
「いいよー」
何で今更確認すんのーって笑いながら軽く目を閉じてる。
軽く触れるだけのキスをした。
「もーいーの?」
「ん?」
何かを誘うような、誘われるのを待ってるような、誘って欲しいと煽るような女の視線。
そういうの似合わないよ、なっちには。
「しないの?」
「したいの?」
「やぐちは?」
「なっちは?」
何かを隠したまま、行き着く結果はわかりきってるのに暴きあうように視線を絡ませてお互いの心の中の奥の奥の隅っこまで覗き込むように見つめあう。
―――コレはもう前戯みたいなもんだよね。
- 37 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時30分30秒
「なっちは・・したい」
いつもなら暴かれるのを待ちきれずに欲望をさらけ出すのはあたしの方なのに、頬のあたりに置いたままになってたあたしの右手を取りながらそう言ったなっちの瞳がやけに黒く滲んでそのせいであたしまで滲んでくる気がする。
捕まれたままの右手手首の内側にそっと唇で触れられて、
カラダのどこかとココロのどこかが激しく震えた。
「・・・なんか、あった、の?」
口の中がいやに乾いてて喉の奥からかすかに声が出ただけだった。
「ん?別になんも?」
じゃぁなんで今日に限ってそんなふうなの。
一気に、突き放すようにオトナになってくのはなんでなの。
最近見せるあの表情に意味がないなんて思えないんだけど。
「やぐち・・・」
あたしは多分不安そうな顔してる。戸惑ってる。
ねぇなっち何を言おうとしてるの、なんで言えないでいるの?
「してよ」
引っ張られた右手を仰向けになったなっちの横について左手も使って閉じ込める。
あたし、ちゃんとなっちのこと捕まえられてるよねぇ?
- 38 名前:そして君に嘘とキスを。 投稿日:2003年08月10日(日)14時33分24秒
見下ろすなっちの顔はひどく穏やかでだけど強い、強い眼をしている。
「これからも、よろしくね」
「は?え、何?何が」
組み敷いたコイビトの場違いなセリフに回転がいいはずの頭が付いていけない。
「んーなんだろ。なんか、イロイロ。娘。もそうだけど、さくら組とか」
「あぁ、まかせてよリーダー。おいらが真のリーダーとして引っ張ってくから」
「いや、なっちがホントのリーダーだから」
「いーや、その座も危ないね。来年になったらおいらがリーダーんなって武道館とかいっちゃってるかもよ?」
「・・・・・・・」
「やっ、ウソウソ今のなし。やっぱリーダーはなっちで」
わずかに曇った表情に慌ててフォロー。なっちはホラ、自分一番ってとこあるから。
そう思ってたら無言で引き寄せられて抱きしめられた。
「やぐちには負けないよー、だ」
そう呟いて背中に回した腕が強くあたしを抱きしめたから
埋めた首筋に軽くキスをしてもう一度視線で確認しあって服に手をかけた。
ねぇなっち、なっちはさぁ・・・
何かを考えかけて、口を動かそうとしたらなっちの柔らかい唇で塞がれてそれ以上何も考えられずにもう一度目を閉じて深い、深いキスをした。
- 39 名前:END 投稿日:2003年08月10日(日)14時35分25秒
以上、なちまり(ちょっぴりビター)でした。
駄文にお付き合いありがとうございました。
- 40 名前:砂漠の水 投稿日:2003年08月11日(月)23時21分53秒
- あなたはなくてはならないもの。
あたしが生きてく上で欠かせない。
あなたががいなくなったらきっとあたしは死んでしまう。
なんてのは、冗談だよ。冗談。
非常階段を上がって広い場所に出た。
下にいた時に聞こえてた騒音も少し小さく聞こえ、
風の音だけがあたしの耳に届く。
目の前の景色はビルばかりで、緑など無かった。
無機質な世界。ひどく喉が渇く。からから。
さばく、砂漠。
- 41 名前:砂漠の水 投稿日:2003年08月11日(月)23時22分29秒
- ばかだなぁ、自分から進んで来たくせに帰りたいなんて思ってる。
ここには何も無い。
でもあなたがいる。
あなたがいればそれだけでいい。
なんてこと、言うと思う?
額から流れる汗と、無意識に出てしまう呻き声。
どんどん壊れてく。目には見えない。内面から、少しづつ。
きっとこんなあたしを見てあなたはこう言う。
- 42 名前:砂漠の水 投稿日:2003年08月11日(月)23時23分07秒
- 「亜弥ちゃんなら大丈夫だよ!頑張ろう?」
なにが大丈夫なの?
あたしはそんなに強い人に見える?
「美貴よりは強いよ」
そんな事無い。
怖いよ、辛いよ。泣きたいし、逃げ出したいよ。
いつも隣に居たのになんでいないの?
あたしの隣はポッカリと穴が開いてるよ?
誰も埋める事なんて出来ない。
わかるよね?
- 43 名前:砂漠の水 投稿日:2003年08月11日(月)23時23分54秒
- ばか。
心配させないように口にした強がりがこんなに後悔するものだったなんて。
いなくても大丈夫。1人でも大丈夫。
そんな言葉、信じないでよ、ばか。
非常階段から足音が聞こえる。
特徴のある足音。
あたしがわからないとでも思う?
「亜弥ちゃん?」
ばかやろう。
あなたがいないと生きていけないよ。
あなたがいればそれだけでいいよ。
枯れ果てた心に注がれる、あなたの水。
おわり
- 44 名前:手帳作者 投稿日:2003年08月12日(火)12時00分25秒
- またまた、書いてしまいました。梨華まこ。
よろしければ読んでやってくださいませ!!
- 45 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時01分49秒
- 付き合い始めて、ちょっと経った。
抱き合ったり、キスしたり・・・それ以上の事もしたり。
大好きな大好きな、梨華さん。誰よりも何よりも愛しい梨華さん。
それ故に、気付いてしまう事もある。
梨華さんて・・・なんか、慣れてる?
抱き合う時のしがみつき方。キスをした時の唇の使い方。…そして、抱かれてる時の感じ。
全て、初心者でたどたどしい私とは大違いだ。
・・・もしかして、私の前に付き合った人がいるのかな?
「・・・・・・。」
私は、ぐっと唇を噛む。
いても、しかたないと思う。だって梨華さんはすごく可愛いし、モテるし。
それに、それによって私の気持ちが変わるなんて事はない。過去に何があっても、梨華さんは梨華さんだ。
だけど・・・。
だけど・・・。
- 46 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時02分21秒
- いつもそれを考える時に、浮かんで来る顔がある。
梨華さんとすごく近くて。私なんかよりもずーっとかっこよくて。二人で並んでると、まるで一枚の絵みたいで。
「・・・吉澤さん・・・。」
ぐっと目をつぶる。
駄目だ。梨華さんは「よっすぃーとは何もない」って言ってたじゃんか。
梨華さんを疑うのか!?私は!!
「・・・でもっ!!」
握り締めた手が、痛い。
ああ、今夜も眠れない・・・。
- 47 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時03分07秒
「・・・はよ〜ございま〜す・・・。」
「お、おはよう小川。どうしたの?なんかすっごい体調悪そう・・・。」
飯田さんに言われて、私は手をひらひらと振る。
「はっはは〜・・・なんでもないッス。ピーマコはいつでもハイテンション〜。」
「・・・・・・とてもじゃないけど、そうは見えないよ?」
そりゃそーだ。結局、一睡もできなかったんだから。
最近ずっとそう。不眠症気味ってヤツ?寝られたとしても2〜3時間くらい。しかもウトウトしかできない。
「まこっちゃん、顔色悪いよ?」
「辻さん・・・。」
「何か悩みとかあんのぉ?言ってみ?」
「加護さん・・・。」
そうだ。この二人も、私より前に梨華さんに出会ってるんだ。
そう思うだけで、嫉妬の炎がメラメラと湧き上がる。
「・・・ま、まこっちゃん?」
「め、目が怖い・・・ッ!」
はっと我に返る。おびえた顔の辻さん加護さん。
・・・何やってるんだ、私は・・・。
- 48 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時03分47秒
- 「ご、ごめんなさい。なんでも・・・ないです。」
「そ、そうなのぉ?」
「そうは見えないよぉ〜。」
「いえ、本当に・・・。」
そう言って笑顔を作って、二人に背中を見せる。
・・・何やってるんだよ、私は・・・。こっちの勝手な事情で、(同い年とは言え)先輩にガン付けるなんて・・・。
「おはよっ」
甘くて可愛い声。私がこの世で一番好きな声。
「・・・石川さん!!おはようございます!」
もーちょっとで「梨華さん」と呼びそうになってしまった・・・。
梨華さんはそんな私に、にこっと微笑んで見せる。
可愛い笑顔。最高の笑顔。私がこの世で一番好きな笑顔。
「どうしたの?なんか、元気ないみたい。」
「そんな事ないです!ピーマコは超元気ですよ!」
「えぇ〜?本当〜?」
「本当ですってぇ!」
ああ、今まで頭の中を占めていた疑惑の中に、モーゼに割られた海のように綺麗な道ができた。
どーでもいいじゃん。過去に誰と付き合ってたって。
今は、私の彼女。今は、私だけのもの。
梨華さんはこそっと、声を潜めて言った。
「・・・麻琴が元気ないと、わたしも悲しいから。」
「・・・・・・梨華さん・・・!!」
- 49 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時04分22秒
- そして私は、梨華さんを抱き寄せる。
「きゃっ・・・もー麻琴ってば。みんな見てるよぉ?」
「かまいません。だって、抱きしめたくてしょうがなくなっちゃったんですもん。」
「ふふっ麻琴ってば」
と、その時。
「なーにやってんの?」
滑らかな、アルトの声。
私は無意識の内に、ぴくりと反応してしまう。
「あ、よっすぃー。」
梨華さんの声が、ちょっと強張ったように感じたのは・・・私だけ?
「仲良しだねー、梨華ちゃんと小川は。」
「うんっ!仲良しだよねー、小川?」
「は、はいっ!」
「ははっ!小川、何緊張してんのー?」
何事もなかったかのような空気。何事も起こらないかのような空気。
・・・その中に、なんだか気まずい気配を感じるのは私だけ?
「みんなー!ミーティング始めるよー!!」
飯田さんの声で、その空気が弾け飛ぶ。
・・・・・・梨華さん。
私、不安です。
- 50 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時06分13秒
・・・精神的なものって、けっこう大きいよね。今日、NG出しまくり。
愛ちゃんとあさ美ちゃんと里沙ちゃんにも心配されたよ。『どっか具合でも悪いの?』って。
・・・・・・具合が悪いなんて、そんな軽い問題じゃない。
胸が痛いよ。不安で不安で・・・死にそうだよ。
そんな気持ちのまま、楽屋に戻る。・・・今は誰もいないはずだから、ちょっと泣こう。
目ぇ腫れるかも知れないけど・・・ちょっとだったら、大丈夫だよね?
ふと気付くと、「1、2、3、4期」と書かれた楽屋の前で立ち止まっていた。
・・・この楽屋を使ってるのは、飯田さん、安倍さん、矢口さん、辻さん、加護さん・・・
そして、梨華さんと・・・吉澤さん。
ワガママかも知れないけど・・・一緒の楽屋になんか、いてほしくない。
梨華さんと吉澤さんが、一緒にいて欲しくない。
顔を背けて、歩き出そうとした・・・その時。
「・・・今更、何よ!!」
「!!」
間違えるはずもない。梨華さんの声。
「だいたい、浮気したのはよっすぃーでしょ!?だから別れたんじゃない!!」
- 51 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時06分46秒
- 「だからって、そんなすぐにカノジョ作らなくても良いじゃん!!」
「いつ作ろうが、わたしの勝手でしょ!?よっすぃーにとやかく言われる筋合いないよ!!」
激しく言い争う二人。
私の頭が、カラッぽになる。・・・ここから立ち去りたいけど、足が動かない。
「わかった。あてつけだね?ウチに対する。」
「な・・・・・・っ!?そんなワケないでしょ!?自惚れないでよ!!」
「だってさ、梨華ちゃんまだウチの事好きでしょ?」
「何を根拠に・・・!!」
「見てればわかるよ。」
どうしよう。
なんだか、自分がどうしたら良いのかわからない。混乱してる。
でも、頭の片隅はすごい冷静で・・・
『ああ、やっぱりこの二人は付き合ってたんだな』とか『吉澤さんが浮気して、別れたんだ』とか分析してる。
したくもないのに。
「・・・ねえ、梨華ちゃん。やり直そうよ。ウチと。」
「!!」
石川さんが凍り付くのが、空気でわかった。
「ウチも、まだ梨華ちゃん好きだよ。だから・・・」
- 52 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時07分16秒
- 「やめてよ!!わたしには麻琴が・・・!!」
「そんな、あてつけにするなんて、小川だってかわいそうだよ。」
・・・ああ、そっか。
今までのは、夢だったんだ。
そうだよなぁ。・・・あんなすごい人が、私ごときに振り向いてくれるはずないよなぁ。
涙が、滝のように頬を伝う。
目の前が、白く・・・いや、黒くなって行く。
「・・・・・・っ!!ま、麻琴・・・!?」
驚いた顔の梨華さん。
なんでだろう。身体がふわふわする。何も考えられない。
「・・・梨華さん。」
駆け寄って来てくれる姿は・・・幻覚かな。そうだよね。だって私、フラれるんだし。
「・・・・・・それでも・・・梨華さんが、大好きです。」
幻覚に向かって、私は呟いた。嘘偽りのない、正直な気持ち。
景色が一転する。身体が床に落ちたのがわかる。
意識が薄れて行く中で、私は思った。
・・・諦められる自信、ないなぁ。
だって私、梨華さんが・・・死ぬほど好きだから。
- 53 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時07分48秒
はっと気がついたら、自分の家のベッドに寝てた。
「・・・・・・あれ?夢?」
そう呟いてから、ベッドの横で泣いている梨華さんを見つけた。
「え?・・・え!?り、梨華さん!?」
「麻琴ぉ!!」
がばっと抱きつかれて、困惑する。・・・・・・胸が、あたってる・・・。
「ごめんね・・・ごめんねっ!!わたし・・・!!まさか、麻琴がいるなんて思わなくて・・・!!」
一瞬、何の事だかわからなかったけど・・・すぐに理解する。
ああ、そうか。あれ、現実だったんだ。
私はゆっくりと、梨華さんの肩を押す。
「・・・・・・大丈夫ですよ。」
「ま、麻琴?」
「わかりましたから・・・私の事は、気にしないでください。」
胸が、えぐられるみたいだ。
本当は泣き喚きたい。「吉澤さんの所なんか行っちゃ嫌だ」って言いたい。
死んでも別れたくなんかない。
- 54 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時08分21秒
- 「吉澤さんと、付き合ってたんですね。知らなかった。」
「そ、それは昔の話で・・・!!」
「私は、浮気相手だったんですね。」
「違・・・ッ!!きいて、麻琴!!」
「・・・・・・ききたくないっ!!!」
ああ、私はなんでこんなに子供なんだろう。
もう後輩も入って来て・・・もう、高校生にもなったのに。なんでこんなにカッコ悪い事しかできないんだろう。
それこそ、吉澤さんに太刀打ちなんかできない。
「・・・ききたくないですよ、吉澤さんとの話なんて!!」
「まこ・・・」
「私は本気で好きなのに!!こんなに大好きなのに!!!」
止められない。
「・・・吉澤さんとは何もないって、あれ・・・嘘だったんですね・・・。」
「・・・・・・。」
反論してほしかった。「実は冗談」とか言ってほしかった。
覚悟を決めなきゃ。
- 55 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時08分58秒
- 愛しいその口から、その声で、それを言われるのは辛過ぎるから。
私から、切り出そう。
「・・・別れましょう、石川さん。」
「やだ。」
「・・・・・・。」
即答されて、私は固まる。
「・・・てゆーか、人が一大決心して言ったっつーのに・・・何即答してるんですかッ!!」
「だって嫌なんだもん!!」
「吉澤さんがいるんでしょう!?まさか二股かけるつもりですか!?」
「違うもん!!そんな悪女じゃないもん!!」
梨華さんの強い瞳が、私を覗き込む。
・・・駄目だよ、梨華さん。そんな目で見られたら・・・諦められなくなっちゃうよ。
「逸らさないで。」
「・・・・・・。」
「大好きよ、麻琴。だから・・・別れるなんて言わないでよぉ。」
「だって・・・よ、吉澤さんは・・・。」
「もう終わった話だもん!!」
- 56 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時10分21秒
- だからって、そんな簡単に納得できるワケないじゃんか・・・。
そう思ってると、梨華さんはキーンと来る声で叫んだ。
「だって、一年も前の話なんだよ!?別れたの!!」
・・・・・・。
「・・・は?」
「一年前・・・よっすぃーが、ごっちんと浮気して・・・それで、別れたんだもん・・・。
あれからもう、一年も経つんだもん・・・。
ごっちん卒業直後くらいから、わたしはもう麻琴のが好きになってたんだもん・・・。」
梨華さんの目から、ぼろぼろと涙が落ちる。
「確かに、「よっすぃーとは何もなかった」って言うのは嘘だけど・・・嫌われたくなくて、そう言っちゃったんだもん!」
「・・・・・・で、でも、吉澤さんさっき・・・つい最近別れたーみたいな事を・・・。」
「いつも大げさなんだよ、よっすぃーは・・・。」
大げさ過ぎです、吉澤さん・・・。
そっと、梨華さんの頬に触れる。
「・・・梨華さんを信じても、良いんですか・・・?」
「信じてよ!・・・信じてもらえないなんて・・・悲し過ぎるよ・・・!!」
私の中で、何かがすとーんっとお腹に落ちた。
ああ、もういいや。
- 57 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時11分04秒
- 信じよう。梨華さんだけを。
万が一騙されてたとしても、梨華さんだったらかまわない。
好きだって言ってくれてる、その言葉を信じよう。
「・・・梨華さん・・・疑って、ごめんなさい。」
「本当だよ!別れようとか言い出すし!!」
「・・・ご、ごめんなさい。」
「麻琴の気持ちって、その程度なの!?」
「ち、違いますよ!私だって断腸の思いだったんですってば!!」
「・・・・・・本当にぃ?」
「もちろん!!」
梨華さんは、不満そうな顔のまま言った。
「・・・じゃあ、その気持ちを確かめさせて。」
「は!?」
どうやって?と言う前に、私は唇を塞がれた。
「んん!?」
驚きのあまり、固まる私。だけど梨華さんは、軽く重ねたまま動こうとしない。
・・・もしかしなくても、これは・・・私に、しろと?
ゆるく閉じられた唇に舌を這わすと、すぐに唇が開けられた。
「ん・・・・・・ふ。」
甘い吐息。・・・これを吉澤さんも知ってるのかと思うと、嫉妬で気が狂いそうだ。
- 58 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時11分35秒
- 「ふ・・・!?」
自然とキスも、激しくなる。
私はそのまま、自分のベッドに石川さんを引きずり込んだ。
・・・私の想いの深さを、思い知らせてあげましょう。
「ちょ・・・駄目だよ、麻琴!さっき倒れたばっかなんだよぉ!?過労と睡眠不足って・・・あんっ」
「誘ったのは、梨華さんですよ?」
「それは・・・そう、だけど・・・んっ。」
唇を塞ぐ。
「そうなんですよねぇ。不眠症気味なんです。」
「あっ・・・やっ・・・」
「だから、激しい運動しないと眠れそうにないんです。」
「ん・・・ま、麻琴ぉ・・・。」
わたしは、不眠症の原因に向かってにっこりと言い放った。
「協力して、くれますよね?」
- 59 名前:不眠症(手帳3) 投稿日:2003年08月12日(火)12時12分05秒
その日の夜は、ぐっすり眠れた。
梨華さんのおかげだ。
- 60 名前:手帳作者 投稿日:2003年08月12日(火)12時12分36秒
調子に乗りまくりました。ごめんなさい。
また感想とか頂けたら、幸いです。
>名無し読者様
今回は痛い系ですが、いかがでしたでしょうか?
長編かぁ・・・がんばってみようかどうしようか、悩み中です(笑)
ありがとうございました!!
>名無しさん様
はい。本業はいしよし書きです(笑)現在連載中です。いしよし。
甘いばかりで、本当に申し訳ない(大汗)だけど、喜んで頂けたみたいで・・・嬉しいです!
ありがとうございました!!
>あすら様
ニヤニヤして頂けましたか♪嬉しいです!!
あすら様のHP、行ってみたい!行ってみたーい!!もっと梨華まこ読みたいー!!
私もがんばりますので、あすら様もがんばってくださいませ☆
ありがとうございました!!
- 61 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月12日(火)22時19分19秒
- 続編キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
作者さんお疲れ様です。ちょいと苦いながらも
美味しく戴きましたm(_ _)m
痛い系も好きなんで堪らなかったです。
凹んで自虐的な考えになっても、
>「・・・・・・それでも・・・梨華さんが、大好きです。」
って云う健気な一途さっぷりがリアルのまこっちゃんでも
ありそう(って勝手に妄想…)で良かったです・゚・(ノД`)・゚・
そしてあまりその気が無いのに誘ってしまう石川さんサイコー!
もうホントこの二人広まっておくれよ!!
ところでどこで書かれているんでしょうか?
差し支えなかったら教えてください。
もしくはヒントを下さい。
- 62 名前:L字 投稿日:2003年08月13日(水)07時55分23秒
- HDの整理をしていたら、5月に書いたまま放置してたやつが出てきて、
内容は思いっ切り時期を外しているのでどうしようかと思ったけど
なっちの卒業も発表されちゃったし思いきって…
今度のハロモニ。も蔵出しSPなので旬を逃してるのは勘弁してください。
- 63 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)07時56分00秒
- 通りを渡って見覚えのある赤い外車に近づく。
小さいけどオシャレなその車の運転席にはちょっと柄の悪いオネエサン。
豹柄のブラウスに金髪、彼は誰時にサングラスはちょっと不似合いで却って目立つと思うけど?
「あれぇ、裕ちゃん迎えに来てくれたんだ!それにしても小っちゃいけど派手な車…ヤグチみたい」
「オイラみたいって…カオリ乗ったら天井に頭付くんじゃないの?」
チッチャイ友達とデッカイ友達がアタシを挟んで軽口をたたきあう。
- 64 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)07時57分01秒
新しい毎日を始めるアタシの出発の記念に集まろうって言いだしたのはカオリ。
せっかくだからいつもと違うことしようって言ったのはヤグチ「海外とか行きたいよね」って、それは無理っていうものよ。
「海外かぁ『真夏の光線』のPV、ドライブしてるシーンは気持ち良かったねぇ」ってなっちが呟いて。
それで、唯一車を持ってる裕ちゃんに白羽の矢が立った。
PVじゃ撮影車に引っ張られてのドライブごっこだったけど、いつか本当にドライブしたいねって話してたのがようやく実現するってワケね。
あやっぺと紗耶香が居ないのが残念だけど仕方ない…けど、なんでなっちが居ないのよ?
- 65 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)07時57分54秒
「カオリのせいだからね」
アタシの打ち合わせが終わるまで待っててくれたハズの3人はいつの間にか2人になってて…
「どうしてぇ、カオ何も悪くないよ…なっちが勝手に怒って帰っちゃったんじゃん」
何で揉めたのか…きっと揉めるトコまで行ってない。
会話しててもマイペースを崩さないカオリ、必死に話を合わせようとするなっちは
ちょっとしたコトですれ違っちゃうだけ。
すれ違いに気付かないカオリとそれに焦れるなっち、ちゃんと話せば何てことないって二人とももう知ってる。
なっちには電話入れてどっか適当なトコで落ち合えばいい、今ごろはきっと落着いてるはずだから。
- 66 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)07時58分56秒
「なぁ、カノジョたちぃ…乗ってかへ〜ん?」
運転席のウィンドウを下げて顔をのぞかせた裕ちゃん、ナンパのマネがシャレにならないくらいはまってる。
助手席のドアを開けたヤグチは楽しそうにナンパごっこに参加。
「どこ連れて行ってくれるんですかぁ?」
ぶりぶりの声でまつ毛をパタパタさせて…キショ!
「どっか行く前になっち迎えに行ってもらっていい?」
アタシは携帯のメモリーからなっちの番号を呼びだして発信ボタンを押す。
まだ、どっか近くにいるんだろうからすぐに捕まるよね。
- 67 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)07時59分35秒
?!
スモークガラスで薄暗いリアシートから聞き覚えのある着信音。
「そこ通りかかったカワイコちゃん引っかけといたわ」
笑いながら裕ちゃんが親指を立ててリアシートを指さした。
ちょっぴりバツの悪そうな顔のなっちとアタシの横で固まってるカオリ。
「あ……」
視線を宙に泳がしてるカオリの靴をつま先でコツンと突く。
「さっきは……ゴメン」
「いやぁ、なっちも悪かったし」
ほらね、二人とも落着いて顔を見合わせるだけで何か通じる。
そこはやっぱり一番長く一緒にやってきた二人。
- 68 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)08時00分22秒
-
「そしたら全員揃ったトコで行こか、あんたら早よ乗り!…ってヤグチは後ろやで」
先にちゃっかりと助手席に納まってるヤグチはブツブツ言いながらもなっちの隣へ。
一番身長のあるカオリが助手席って事だよね…アタシもヤグチに続いてリアシートに座る。
「後ろ狭いよぉ〜!」
確かに小型車のリアシートに大人3人はちょっぴり窮屈、でもなんだかこんな風にぴったりくっついてっていうのもたまには楽しいかもしれない。
運転席の裕ちゃんが『ふー』っと一つ大きく息をついてから、ゆっくりと車を発進させる。
「久し振りの運転やから緊張するわぁ…この面子乗せて事故るワケにいかんしな」
肩に力が入ってガチガチになっているのが後ろから見てもよく解る。
それでも、緊張してると言いつつどこか大ざっぱな感じがする運転が裕ちゃんらしいや。
- 69 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)08時00分54秒
交差点を曲がる時、車が横に大きく揺れてアタシはヤグチに、そのヤグチはなっちにもたれ掛かるような恰好になる。
裕ちゃんのスリルたっぷりな運転にさっきまで大人しかったなっちも悲鳴をあげ始めてる。
「裕子さぁ、もっと大きい車買えよー!」
ヤグチも真ん中で押しつぶされて少しキレぎみに声を上げる。
「うるさいわ!この大きさでも運転せいいっぱいや、普段全然乗る機会無いし…あー、もう運転中に話し掛けんといてや」
裕ちゃんは本当に余裕がないみたいで前方をジッと見据えたまま。
- 70 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)08時01分29秒
「でもぉ、ドライブってどこに行くのぉ?」
一人助手席で余裕のカオリが呑気な声。
「圭ちゃんどこ行きたい?」
のし掛かってるアタシを押し戻しながらヤグチが聞いてくる。
「え?あぁー海…とか?」
アタシはよく考えもせずに反射的に答えてしまった。
一瞬の沈黙の後、車内に爆笑の渦が巻き起こる。
ちょっとぉ…そんなに変な事言った?アタシ。
- 71 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)08時02分02秒
- 「ケメコぉ、それベタすぎ!」
「ドライブで海って、圭ちゃん…カップルのデートコースじゃないべさ!?」
ちょっと呆れたみたいな声で突っ込むヤグチの肩をバンバン叩きながらなっちまでが大笑いしている。
「笑わしたらアカンて、ハンドル切りそこなうとこやんか」
真剣に運転に集中してたハズの裕ちゃんまで小刻みに肩を震わせてる。
ひどいなぁ、裕ちゃんだって突然同じ質問されたらアタシと大差ない答えになるくせにさ。
「もーぉ、うるさいわねっ!いいでしょ、海が見たい気分なのよっ!」
ホントはどうでもいいんだけど、ついムキになってしまう。
「あー、おかしい。圭ちゃんサイコー、いいじゃない今日の主役圭ちゃんなんだし…じゃあさぁ横浜とか行こうよ、カオ肉まん食べたいな」
ちょっと前までのなっちとカオリのどこか引きずってるような気まずさも今の笑いで吹っ飛んだみたい…アタシが大笑いされたのも無駄じゃなかったってことね。
- 72 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)08時02分34秒
- 横浜か…悪くないけどリアシートに詰め込まれた窮屈な体勢であんまり遠くまで行くのは辛いかな。
「アンタら勝手なコト言うなや!横浜なんて無理無理、どっかもっと近いトコにしてや」
結局、近場で裕ちゃんが道を知ってて、でもって一応海もあるからってアタシ達の行き先はお台場に決まる。
「なぁんでしょっちゅう仕事で行くようなトコなんだよぉ」
って、ヤグチの文句は運転に集中してる裕ちゃんの耳には当然のように届かない。
お台場は本当に近くてドライブという程の距離でもないけれど、こんな風に狭い車内で押し合いへし合い騒ぎながらで移動することなんてないからみんな興奮気味、ヤグチやなっちはレインボーブリッジに差し掛かると歓声をあげる。
振り返ると見慣れた東京の夜景もなんだか違う物に見えた。
- 73 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)08時03分18秒
- この街でみんなと出会って精一杯の無茶なスピードで駆け抜けて来た。
一人だったら、とっくに諦めてた投げ出していたよ。
こんなふうに気兼ねなく騒げる仲間、ただの友達じゃなく苦しい時も一緒に乗り越えてきた仲間にアタシはずっと支えられて来たんだな。
ケンカもした、一緒に泣きもした、五年間ほとんど毎日っていう程顔を突き合わせていた…けど、もうアタシは『モーニング娘。』じゃない。
急に黙り込んでしまったアタシにヤグチもなっちも戸惑ってる様子で、せっかく楽しい雰囲気だったのに…って自分でも思うけど胸に膨らんだ淋しさを振り払えない。
裕ちゃんも卒業した時はアタシみたいに急に淋しくなったりしたのかな?
独りでいる時より、こうしてみんなの中に居る時の方が淋しさが大きい気がするのはアタシだけかな?
- 74 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)08時03分58秒
ふいに吹き込んできた強い風が俯くアタシの頬を額を乱暴に撫でていく。
煽られる髪を押さえて顔をあげると助手席の窓が全開になってて、やっぱり片手で髪を押さえたカオリが振り返りもせずに空いた手で作ったVサインを肩越しにこちらに見せていた。
後に続くようにアタシの隣からいきなり突きだされる二つのVサイン。
前を見据えたままの裕ちゃんもフッと小さく笑った気がする。
みんなおんなじなんだ、カオリもなっちもヤグチだっていつまでも娘。でいられるワケないってちゃんと解ってる。
いつか卒業を告げられて、一人で歩き出さなきゃならないって知っている。
今のアタシは一昨年の裕ちゃん。来年か再来年か…そのうちやってくる未来のカオリで、なっちで、ヤグチ。
- 75 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)08時05分29秒
- 視界が歪んで熱いものが溢れそうになって慌てて目元を拭う。
「なーんだよぉ、今ごろになってまた泣くかなぁ?」
茶化すようなヤグチの声だってちょっぴり鼻に掛かって詰まり気味。
「別にっ!風が目にしみただけじゃん!」
悲しいんじゃないよ、なんかね嬉しかったから。
だってみんな優しんだもん、優しすぎるんだもん。
吹き込む風にちょっぴり潮の香りが混じってるような気がして窓の外を見る。
宝石箱をひっくりかえしたようなイルミネーションに埋もれちゃいそうな小さな存在のアタシだけど、どんな宝石より強い光でアタシに元気をくれる女友達。
落ち込むこともあるけれど、明日からも頑張ろう!って貴女達といると、そう思える。
バカみたいに単純だけど、これってすごく素敵な事じゃない?
- 76 名前:ガールフレンズ 投稿日:2003年08月13日(水)08時10分42秒
- みんなありがとう、そしてこれからもヨロシクねアタシの大事なガールフレンド達。
「もっとスピード出して!飛ばしてよ、裕ちゃん!」
「だから無茶言ったらアカンって」
狭い車内にまたみんなの笑い声がこだまする。
アタシの中にも新しいパワーでいっぱいになる、みんなのパワーでいっぱいに…
- 77 名前:L字 投稿日:2003年08月13日(水)08時13分04秒
- おわり
もう3カ月以上経っちゃってて、どうかと思いつつ…
スレ汚し、失礼しました
- 78 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年08月14日(木)14時03分53秒
- え〜暗めの微妙に三角関係物を書きたいと思います。
『crime』
- 79 名前:crime 投稿日:2003年08月14日(木)14時18分03秒
- 愛が欲しいと
私の前で泣き崩れたキミに
私は少しだけ夢を見ることを自分に許した
けれど、夢を見る代わりに罪を負った
1つ夢を見れば1つ罪を負い、1つ罪を負えば1つ夢を見た―――
「・・ねぇ、愛してる?」
「・・・愛してるよ、世界で一番」
カーテンを閉めない大きな窓から差し込む青い光に照らし出されるキミの白い肌
その肌に指を這わせながら、私は君が一番欲しい言葉を与えてあげる
ゆっくりと目を閉じたキミにスローモーションでキスをして、甘い甘い口付けに
酔いしれる。
「・・ごっちん・・・」
色っぽく少し開いた口から、私のあだ名が出てきて私は少しの罪を痛く感じる。
「名前で呼んで」
それは少しの欲望
いつもの私と違うようにしたかった私の我侭。
それをキミはいつも何気なく聞いてくれる。
「―――真希・・・」
ほら。
甘い声でキミは私を深い深い罪の奥の奥にいとも簡単に誘い込む。
目の前でどんどん呼吸が荒くなるキミ
その姿を見るたび自分が壊れていくような気がする
抱けば抱くほどハマっていくワナ
求めれば求めるほど壊れていくワナ
―――それはすべてキミというキャンディーよりも何十倍も甘いワナ
- 80 名前:crime 投稿日:2003年08月14日(木)14時20分40秒
- 「―――帰んなくてもいいの?」
夜中なのにカーテンを開けた窓から空を眺めるキミに私は冷蔵庫からミネラルウォーター
のボトルを取り出しながら呟く。
「分かんない」
キミより大きい窓に手をついてじっと空を見つめるキミの横顔が綺麗でキャップを開ける
手を止めて少しばかり見とれた。
- 81 名前:crime 投稿日:2003年08月14日(木)19時28分21秒
- ミネラルウォーターを1口、口に含んでキミの近くにある深緑色のソファに腰を沈めて
私も窓の外をキミの肩越しに見つめる。
「―――なんで分かんないの?」
口の中のミネラルウォーターが消えたところで、いつもならハッキリとしている
キミらしくない言葉に私は月を見る視線を動かさずに聞いた。
「・・・みきたん・・・帰ってないかもしれないし・・・」
相変わらずキミは窓の外のある1点を見つめたまま
私は、あぁと心の中で呟いて、自嘲気味に笑った。
キミが見つめているのは美貴がいるはずの梨華ちゃんの家があるマンション
私はふぅと短いため息をついて、ミネラルウォーターのボトルをソファの上に転がして
立ち上がる。
- 82 名前:crime 投稿日:2003年08月14日(木)19時33分56秒
- どこまでキミに甘いんだか、と又薄く笑ってズボンのポケットから携帯を取り出す。
ディスプレイの上に美貴の名前を浮かび上がらして、私はキミのいる部屋を出る
蛍光黄色に光る通話ボタンに親指を乗せて、壁にもたれてその親指に力を入れた。
「―――もしもし?ごっちん?」
「ん、そう。いきなりだけどさ、今ドコ?」
出来るだけ不機嫌そうに、投げやりな声で美貴に質問だけをぶつける。
「え?今?あー・・・梨華ちゃん家」
「よっすぃーは?」
「あー・・・帰ってきてないけど・・・そっち亜弥ちゃん居んの?」
「さぁ」
そう言って、強制的に通話ボタンの上の親指に力を入れた。
嘘つきは泥棒の始まり、と美貴にメールを打ってキミの待つ部屋に戻る。
- 83 名前:crime 投稿日:2003年08月14日(木)19時41分48秒
- キミが待っているのは私じゃないのに―――
そんな疑問も今はうざくて、茶色の髪を乱暴にかきあげた。
まだ外を見続けるキミにキミの荷物を持って話し掛ける。
「美貴、帰ってた。帰れば?待ってるよ、あいつ」
驚いたようにふり返るキミに少しふっと笑って荷物を差し出す。
らしくないなーと心の中で自分に笑いながら
キミは私の好きな含み笑いをして、口パクで「ありがとう」と言うと私から荷物を
受け取って慌しく部屋から出ていく。
一人になった部屋は寂しくてさっきまでの君のぬくもりを求めてしまう
犯した罪はどんどん大きくなって
罪深き私はもっと、ずっと夢を見たいと私を見下ろす月に願う。
キミに触れれば触れるだけ壊してしまいたいと思う。
でも、それは私がしてはいけないことで
境界線を越えたくても越えられない自分に苛立つ
罪深き私は
もっと愛が欲しいと
いつかキミに言うでしょう
でも私は1回も満たされなくて
独りぼっちでで暗闇に溶けて泣き続ける
この罪が消えるまで・・・・
end
- 84 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年08月14日(木)19時42分29秒
- え〜お目汚し、失礼しました。
- 85 名前:大キライ、大キライ… 投稿日:2003年08月17日(日)14時42分43秒
- 正直、冗談じゃないと思った。
そして今でも冗談じゃないと思い続けている。
どうして今更自分がモーニングに入らないとならないのか、分からなかった。
自分はソロでそれなりに頑張って来てたし、モーニングはモーニングで同じ
ハロプロだってことぐらいでもう関わりなんかないと思ってた。
そりゃ、最初はモーニングのオーディション受けたけど。
でもまあ、郷に入ったら郷に従えって言葉じゃないけど、年の近い子たちとワイワイ
やるのは学校にいるみたいで楽しい。
年下のメンバーも可愛い。
年上のメンバーはカッコイイし尊敬できる。
…けど。
どうしても好きになれない…ハッキリ言ってキライな人が一人だけいる。
モーニング本体の顔『安倍なつみ』
自分は彼女が大キライだった。
- 86 名前:大キライ、大キライ… 投稿日:2003年08月17日(日)14時49分01秒
- 確かに『天使』と称されるだけあって笑顔は可愛い。
歌もまあ、上手い。
でも駄目なのだ。
22にもなるくせに、おおよそ人を疑うことを知らないし、ハッキリ言って自分より
彼女のほうがカントリーに入れば良かったんじゃないかと思う。
いつまでもたまに出る北海道弁も気に入らない。
「やあ、最近、藤本に良く突っ込まれるんだよねえ」
照れくさそうに笑う顔。
純粋過ぎてイヤになる。
「…22歳の私、聴いてください」
そのくせ、歌うときは別人かと思う位まじめな顔。
なにもかも、自分の心をきりきりさせる。
「お疲れ様〜」
「あ。藤本」
彼女に呼び止められた。
「…なんですか?」
「今日さ、一緒にゴハンでもどう?」
- 87 名前:大キライ、大キライ… 投稿日:2003年08月17日(日)14時58分59秒
ゴハンを食べてる間、彼女は自分に昔の話を聞かせた。
ハッキリ言って自分にはどうでもいい、関係のない話だと思ったけど、面倒くさ
かったから適当に相槌を打っておいた。
「ちょっと歩こう」
「…はあ」
「食べたら運動って、ね」
なにそれ。
「藤本さぁ、モーニング入れって言われてどうだった?」
「…え?」
意外な事を意外な人から聞かれた。
モーニングに入ってからそんなこと聴いてきたのは彼女が始めてだった。
「あれ?つんくさんから聞いたんだよね?」
「え、はい」
「びっくりした?」
自分より小さい彼女は隣から自分を見上げてきた。
顔をみると笑ってると思った彼女はびっくりするくらいまじめな顔をしていた。
「そりゃ、びっくりしましたよ。なんで今更…って思いましたし」
「そうだねえ…でもね」
そこで彼女は自分から視線を反らした。
「実はさ、なっち聞かれたんだよ、つんくさんに」
「え?」
「藤本をモーニングに入れたいと思うんだけど、お前どうだって」
知らなかった。
当たり前だけど。
「どうだって言われてもねえ?なっち困っちゃったよ」
- 88 名前:大キライ、大キライ… 投稿日:2003年08月17日(日)15時04分24秒
- 「安倍さんはなんて答えたんですか?」
「なっちはねえ…んふふ」
彼女の目がカマボコ型になる。
「いやだって言ったよ」
意外だった。
彼女はそんなこと言うタイプじゃないと思った。
「したらつんくさん、なんて言ったと思う?よし、藤本加入や!って言ったんだよぉ?
信じらんないよね、あの人!」
「はあ…」
つんくさんの言葉より安倍さんの言葉のほうが信じらんなかった。
自分がキライって思ってる人には、相手からも自分は嫌われるって言うけど、
そういうことなのかな。
「でもね、最近ようやくつんくさんの言いたいこと分かった」
「言いたいこと?」
「…まだ、カオリとヤグチにしか言ってないんだけど」
彼女は俯いていた顔を上げて、白い歯を見せた。
「モーニング、卒業決まったんだ」
- 89 名前:大キライ、大キライ… 投稿日:2003年08月17日(日)15時10分22秒
- 「なん、冗談やめてくださいよ」
いつものノリで突っ込んだけど、安倍さんは笑ったまま何も言わなかった。
穴が開いた気がした。
胸の奥のどっかにぽっかりとおおきな穴が。
「なっちの代わりってんじゃないんだろうけど…やっぱりさ、藤本はさ、…なんて
いうのかな…オーラが出てるっていうか…」
「…」
「なっち以上にモーニングを引っ張ってってくれると思うんだ」
自分がモーニングを?
そんな…適当に、あんなに適当にやってたのに。
「なっちもさ、最近分かったんだけどさ…それ。でも無意識に感じてたんだろうなって
思うよ。だからつんくさんに聞かれたとき、思わずいやだなんていっちゃったんじゃ
ないかな」
「そんなこと」
「あるってぇ!なんでいやだったのか具体的にどうって言えないんだけど…なんかね、
…焦った」
- 90 名前:大キライ、大キライ… 投稿日:2003年08月17日(日)15時15分27秒
- やー、やっぱつんくさんはスゴイよ、なんて彼女はノーテンキに笑ってる。
でも自分は。
安倍さんがそんなに、自分なんかに焦ったなんて思うほどモーニングを愛してない
のに。
それでも彼女は。
「藤本ぉ。モーニングを頼んだぞぉ?」
なんて笑うの。
安倍さんが必死になって守ってきたものを、自分なんかが。
なんだか涙が出てきた。
こんなはずじゃなかったのに。
「ありゃりゃ、どーしたんだい?」
彼女はびっくりしてハンカチで頬を拭ってくれた。
彼女はずるい。
あんな大きなものを笑顔で背負っていて、それをなんでもないように捨てようと
している。
そしてそれを自分に拾えと、拾って代わりに背負えと笑顔で言う。
- 91 名前:大キライ、大キライ… 投稿日:2003年08月17日(日)15時18分17秒
- やっぱり彼女なんかキライだ。
自分に出来ないことを平気でやってのける。
「安倍さん」
「ん?どした」
「あたし、やっぱり安倍さんキライです」
「…知ってた」
「大キライです」
「うん。それでいいと思うよ」
作り笑いじゃない笑顔。
からだとこころが、暖かいもので包まれた。
ヲワリ。
- 92 名前:jinro 投稿日:2003年08月17日(日)15時19分55秒
- こんなん書いてないで更新しろって感じですよね(w
スミマセン。
- 93 名前:OGAフリーク 投稿日:2003年08月21日(木)10時53分38秒
- あう、すばらしい!!!!
ナッチの心の広さ、ミキティのストレートさが
すごい伝わってきました
- 94 名前:3rdcl 投稿日:2003年08月22日(金)21時03分54秒
ミキティーの一人称(使い方あってるかな)小説良かったです。
お姉さんモードのなっち最高でした。
自分のなかでは、なちごま、なちふくに次ぐCPではと思っています。
jinroさんの銀板の新作めちゃくちゃ面白いです。
更新楽しみに待っています。
- 95 名前:遠くの海に 投稿日:2003年08月26日(火)00時41分15秒
今日は海に行った。
テトラポッドの上に座って穏やかな海を眺めてた。
ゆらゆら光る水面を一人で座って見つめてた。
たまに来る潮風がアタシの髪と遊んで、またどこかに去っていった。
海からは波の音しか聞こえない。
アタシが来たときから、
いや、アタシが来る前からずっと流れ出てる。
毎回ほんの少しずつ違う音。
大分前に来たときもこうだったのかもしれないな。
アタシは絶対な憶測をしながら
でも気付くはずがなかったんだろうな、とも思った。
太陽はもう沈んでいた。
- 96 名前:遠くの海に 投稿日:2003年08月26日(火)00時41分49秒
アタシの座ってるテトラポッドは
周りより暖かくなっていて
そこに長い時間アタシが座っていたことを示している。
ここまで時間に気付かないで座っていたのかと思うと少し頬が緩んだ。
アタシは月が海に映っている事に気づいたときに
よっ、と
そんな掛け声をしながら
テトラポッドから猛スピードで離れて海に足だけ浸かった。
夜の水は冷たくて、潮風も冷たくて
空までアタシに冷たくする。
そんなものたちがアタシが一人だってことをさっきよりも強く感じさせた。
- 97 名前:遠くの海に 投稿日:2003年08月26日(火)00時42分24秒
いつまで待たせるのさ
海の中から出て裸足で歩く足元の近くに
投げるのに適当な石があったから拾って思いっきり投げた。
石は何も言わずあたしの視界から消えた。
そうしたらアタシが待っているあの人が遠くなったような気がした。
口の中でばかやろ、ってなぜか呟いてしまったけど
それはあの人のせいにしよう。
帰ってきてよ、なっち。
涙が一粒こぼれて月を映した。
- 98 名前:遠くの海に 投稿日:2003年08月26日(火)00時43分00秒
- 以上です。お目汚し失礼しました。
- 99 名前:御立派な恋人同士 投稿日:2003年08月26日(火)02時55分01秒
- 「よっすぃ〜にメールしたらね・・・」
「ふ〜ん」
「よっすぃ〜ってば美貴にはやさしいの・・・」
「そうなんだ、よかったね」
なんかムカツク・・・
何この余裕?
ハロモニのコントの合間。
役柄ではカップルだけど、ホントは恋のライバルなわけで。
ってゆーか向こうは御立派な恋人同士なわけだけど・・・
やっと見つけた場所。
男っぽい美貴が唯一甘えれる場所。
美貴にはよっすぃ〜が必要なんだよ。
あんたから奪ってやる。
- 100 名前:御立派な恋人同士 投稿日:2003年08月26日(火)02時55分53秒
- 「新入りの美貴をすっごい気づかってくれるし」
「うん、他の6期にもね」
「抱き着いたらギュッって抱きしめてくれるし」
「ののやあいぼんにもね」
たしかに!!
でもさ、美貴はもう娘。なんだよ
あんたよりすっごい近くにいるんだよ
確かに最近のあんた輝いてるよ
またキレイになったよね。
マシュマロくんはしゃれんなんない程カワイイよね・・・
ってそうじゃなくて!!!
負けねー
美貴はゼッテー負けねー
「今度の休み買い物行く約束しちゃったよ」
「どこいくの?」
「渋谷。カワイイ店見つけてさー」
「渋谷ならイイ店知ってるよ、よっすぃ〜に連れてってもらいなよ」
「何それ」
「んぁ?」
「余裕ってやつっすか?」
「ミキティ?」
「美貴は負けないよ。よっすぃ〜を絶対美貴のものにする」
「う〜ん。それはよっすぃ〜が決めることだからねぇ」
「すごい自信じゃん」
「いろいろあったからね。それよりほら、よっすぃ〜モテモテだよ。アハッ」
悪魔のよっすぃ〜がカッパの辻加護に抱きつかれてる。あっ、高橋までっ!!!!
それをフニャ〜って笑顔で見守るゴッチン
あっ、こっちに気付いた
- 101 名前:御立派な恋人同士 投稿日:2003年08月26日(火)02時56分25秒
- 「真希ちゃ〜ん」
「よしこっ」
飛んできたよっすぃ〜がゴッチンに抱き着いた
ムッ、美貴は無視!?
「今から頑固一徹だよ〜。テンション上がんないよ〜」
「アハッ、がんばれよしこ。カッケーとこみせてよ」
ゴッチンのお腹あたりでゴロゴロするよっすぃ〜
愛おしそうにヨシヨシするゴッチン
美貴は何も言えなかった。
「よーしっ、がんばるぞーーっ。一徹です!!!」
よっすぃ〜は着替えに行ってしまった
乾いた笑いしか出ないよわたしゃ
- 102 名前:御立派な恋人同士 投稿日:2003年08月26日(火)02時58分08秒
- 「わかる?ミキティ」
「へ?」
「やさしいよしこにみんな甘えてるけど、よしこが甘えれるのはあたしだけなんだよ」
「・・・・・・・」
「アハッ」
そう言って笑うゴッチンは梨華ちゃんが束になってもかなわない天使っぷりで・・・
惚れた・・・・
じゃねーーーー!!!!
チクショー割り込む余地なしじゃん
なんだよこの絆は!
「美貴は諦めないからねっ」
「恐いなー、またライバル出現」
って全然余裕だし
またって何人目だよ!!!
――――end――――
- 103 名前:OGAフリーク 投稿日:2003年08月26日(火)03時01分39秒
- 初めての作品です。
ミキティ完敗・・・・。
OGAフリークなのによしごまでどーもすいません。はい。
もしよろしければ感想をお聞かせ願えたらと思います。
客観的な意見を・・・・
- 104 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月26日(火)09時11分17秒
- すごいおもしろかったです!!
ハロモ二でよっしぃ〜とミキティがラブラブだったんですよね〜w
でもやっぱよしごま最高ー!!
- 105 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月26日(火)16時35分30秒
- いしよしをひとつ…。
- 106 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時36分05秒
- あなたの恋人は、一体誰?
「カオリさ〜ん!何やってるんスかぁ〜?」
…今日は飯田さん?
べたべたくっついて、抱きしめて。ふざけてキスしたりして。
昨日はあいぼんだったよね。それで、一昨日はごっちん。その前は安倍さんだったっけ?
見ていたくなくて、考えたくなくて…楽屋を出た。
夜のよっすぃーは、わたしのモノだもん。
心の中で呟いて、自分を慰める。
昼間のよっすぃーは、みんなのモノ。よっすぃーはすごくモテるから。
胃の辺りが、なんだかシクシク言ってる。ストレス、かな?
「あれ?石川?」
ケータリングの所で、保田さんに声をかけられた。
「こんな所でどしたの?これから食事?」
「いえ、そう言うワケじゃないんですけど…。」
ふわりと香って来た食べ物の匂いに、何故か吐き気を感じる。
どうしたんだろう?おいしそうって思えない。
「・・・・・・ちょっと、石川?顔色悪いわよ?」
「なんでも、ないです。」
無理矢理笑ってるわたしに、保田さんはちょっと目を細めて言った。
「…アタシの楽屋、来なさい。」
「え?」
一歩、後退る。
- 107 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時36分44秒
- 保田さんの楽屋は、ソロの人の部屋。って事は、ごっちんがいる。
一昨日、よっすぃーとベタベタしてたごっちんが脳裏に浮かんで…吐き気が増す。
そんなわたしを見透かしたように、保田さんは苦笑した。
「大丈夫よ。後藤なら、松浦とどっかに遊びに出てるから。…裕ちゃんとアタシくらいしか残ってないし。」
顔が、カッと熱くなった。
恥ずかしい。全部、読まれてる。
「・・・・・・。」
わたしは最後のプライドを振り絞って、笑顔を浮かべた。
「…いいです。わたし…ちょっと、一人で歩きたいので。」
保田さんの返事も聞かずに、わたしはその場を後にした。
誰にも、触れられたくない。誰とも話したくない。
胃が、チクリと痛んだ。
- 108 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時37分29秒
非常階段の外に出る。ここなら誰も来ない。
「ふぅっ。」
吐き出した息は、まるで灰色ににごってるみたいに重かった。
しゃがみこんで…シクシク、チクチクする胃を押さえる。
わかってる。これはストレス。
「・・・・・・駄目だなぁ、わたしは。」
よっすぃーみたく、でーんっと構えてなきゃいけないのに。
よっすぃーの望み通りでいなきゃ、駄目なのに。
「・・・・・・。」
だけど、今は一人。
ここには、わたし以外誰もいない。
…少しだけ。少しだけで良いから、吐き出したい。
「・・・・・・なんで、わたし以外の人を見るんだろうなぁ。」
小さな声で、ぽつりと口に出してみた。
わたしは本当によっすぃーだけ。朝も昼も夜も、ずっとずっとよっすぃーだけ。
「わたしだけ、見てほしいんだけどなぁ。本当は。」
風が頬を撫でる。涙が出るのを必死に食い止める。
「なぁーにやってんの?」
「!!?」
驚いて立ち上がって、扉を振り返る。
そこにいたのは…よっすぃー。
- 109 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時38分49秒
- 「な、なんでココに!?」
「いや、なんか楽屋にいたら保田さんが『石川さがして来い』とか言うから。」
また、顔が熱くなる。
ありがたいんだけど、恥ずかしくて仕方ない。また保田さんに気付かれてしまった。
この、ドロドロした心の中を。
「・・・・・・あのさ、梨華ちゃん。」
「…何?」
平静を装いながら笑顔を浮かべると、よっすぃーは…すごく、機嫌の悪そうな顔で言った。
「前にも言ったけどさぁ…なんか、重いよ。梨華ちゃんって。」
胃に、チクリと痛みが走る。
そう。前にも言われた。
「別にさ、他の人と付き合ってるワケじゃないんだからさ。」
それも、前にも言われた。
今と同じような、困ったようなカオで。
「そんなに気にしてくれなくても、別にウチは良いよ。
てゆーか…ちょっと他の人と仲良くしてただけでそんな傷ついたみたいなカオされんの、ちょっと嫌だな。」
悪気はないのよね。それが本心。正直な気持ち。
きっとわたしにだから言ってくれる、本当の気持ち。
- 110 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時39分44秒
- 「梨華ちゃんもさー、もっと余裕持ってよ。ウチが付き合ってんのは梨華ちゃんだけなんだからさー。」
ズキン、と、最大級の痛みが胃を襲う。
だけど、別にそんなのどうでも良い。それ以上に、心臓の方がうるさくて痛い。
「・・・・・・わかった。」
搾り出すような声。…ああ、駄目だ。わたしはまた、よっすぃーの望み通りになれてない。
笑わなきゃ。にっこり笑って、『そうだよね』って言わなきゃ。
それから何か良い訳しなきゃ。何て言おうか。…そうだ、『今、生理前で不安定で』にしよう。
口を開いた。
「・・・・・・ねえ、別れて。わたしと。」
口をついて出たのは、そんな言葉と…大粒の涙だった。
「は?」
あなたは呆れ顔。そうだろうね。こう言う事態に弱そうだもんね。
「別れて。もう、無理だから。」
自分の口から出る言葉に、自分自身ビックリしてる。
…それと同時に、今までの人生の中で一度も感じた事のないような、安堵も感じてる。
- 111 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時40分33秒
- 「な…なんだよ、それ。」
「無理。…もう、ダメ。」
もうちょっと気のきいた事言いたかったけど…しゃくりあげちゃって無理だった。
正反対なんだよ、わたし達。合うワケがない。合わせられるハズがない。
「…冗談にしちゃ、性質悪ィよ!」
首を横に振ることしかできなかった。泣いちゃってて、言葉なんて発せられない。
はっと気付くと、ものすごい眩暈に襲われてた。
周囲の景色が回る。足元がおぼつかない。
気がついたら──わたしの身体は、階段から落下していた。
- 112 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時41分59秒
目が覚めたのは、病院のベッドの上。
「石川!」
「いしかわッ!!」
真っ先に目に入ったのは、マネージャーと…保田さんだった。
「・・・・・・怖ッ。」
保田さんの険しい顔にビビッてそう呟くと、保田さんは頬を引きつらせた。
「…目覚めていきなりソレとは、アンタも良い度胸してんじゃんよ。」
「・・・・・・あれ…?わたし…。」
ちょっと頭を動かしてみると、激痛が走った。
「動かさない方が良いわ。アンタ、頭からコンクリートの地面に激突したんだから。」
「・・・・・・そうだったんですか…。」
「脳震盪とコブだけで済んで、本当に良かった…。」
マネージャーはそう言うと、事務所に電話をかけるために部屋を出て行った。
二人きりになると、保田さんは険しい顔のまま言った。
「…お医者さんによると、アンタ胃炎もあるみたいね。」
「・・・・・・はぁ。ここんトコ、調子悪かったですから…。」
「もうすぐ胃に穴があく所だったらしいわよ。」
「・・・・・・へぇ。」
あまり驚かない。そんくらいにはなってるだろうな〜って、予想はついてた。
- 113 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時42分41秒
- 「…なんでそんなに、溜め込んでたの?なんでアタシに相談して来なかったの?」
「・・・・・・。」
「前はちゃんと、して来てたじゃない!」
「だって…保田さん、卒業しちゃってあんまり会えなくなっちゃってたし…。」
「メールも電話もあるでしょーが!!アンタにはパソコンのメールアドレスも教えてあるはずよ!?」
…何度も、しようとした。
だけど、できなかった。だって保田さん…卒業したばっかで環境変わって、大変だと思ったから。
「…ねえ、保田さん。今更ながら…相談しても良いですか?いや…相談ってゆーか、愚痴かな?」
「もちろんよ!!…何?」
「…わたしなりの愛し方を否定されたら、どうすれば良かったんでしょうね?」
「!!」
「大好きだから、独り占めしたい。大好きだから、嫉妬する。
…それを否定されちゃった時、わたしはどうすれば良かったんでしょう?」
保田さんは、指で目元をぬぐってから叫んだ。
「決まってんでしょ!?激怒してやりゃー良いのよ!!そんなワガママなヤツは!!」
笑ってしまった。
なんて保田さんらしいんだろう。
「・・・・・・それじゃ、わたしは間違えたんですね。」
「・・・・・・そうね。」
- 114 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時43分29秒
- 「無理に、正反対なよっすぃーに合わせようとしたりして。…無理矢理、なんでもないフリしたりして。」
保田さんを見ると、その目は真っ赤だった。
「…わたしはやっぱり、『男前』にはなれないみたいです。」
「…誰もアンタにそんなの期待してないわよ!」
「そうですかねぇ?『男前・石川』って、見て見たくないですか?」
保田さんの手が、わたしの額に触れた。
「・・・・・・良いのよ。アンタはそのままで。」
その言葉と、手が…あまりにも優しかったから。
わたしは涙が止まらなくなってしまった。
- 115 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時44分40秒
頭から着地したって事で、一応いろんな検査を受ける為に入院する事になった。
コブもだんだん小さくなって来たし、痛みも引いて来たんだけど…あとまだ三日は入院してなきゃいけない。
病院には、毎日のようにハロー!プロジェクトのメンバーの誰かがお見舞いに来てくれる。
みんな忙しいのに、悪いなぁ。
「…さーて。今日は誰が来るのやら。」
保田さんとか、のの・あいぼんは何回も来てくれてる。それ以外のメンバーは大体、一回ずつくらいかな?
みんな、来ると同時にわたしに頭を下げて謝ってた。『梨華ちゃんの気持ち考えなくて、ごめん』って。
ごっちんとかは泣いちゃってて…思い出すと、なんだかくすぐったいなぁ。
…まぁ、約一名一回も来てない人がいるけど。仕方ないか。
なんてったって、別れたばっかだもんなぁ。
みんな知ってるみたいで、よっすぃーの事は誰も話そうとしない。
心の中を感じ取られるって言うの、ちょっと前まではすっごく恥ずかしかったんだけど…今はなんだか心地良い。
だってそれって、『通じ合ってる』って事でしょ?
そう言う仲間がいるのって、すごい事だから。
- 116 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時45分34秒
- そんな事を考えてると…病室の扉がノックされた。
「はーい、どうぞー?」
今日は誰だろう?昨日来たのは飯田さんだったなぁ。
「!!!!」
扉が開いた直後、わたしは息を飲む。
「よ…よっすぃー…。」
帽子を目深に被って、大きな花束を持って。
入って来たのは…よっすぃーだった。
「・・・・・・来て、くれたんだ…。」
どうして良いのかわからない。
喜んだ方が良いのか、悲しむべきなのかもわからない中で…わたしはやっと、それだけ呟いた。
するとよっすぃーは、無言でつかつか近付いて来た。
…どうしたら良いんだろう。本当に。何を話したら良いんだろう。
「…あの、よっすぃー?」
「・・・・・・。」
丁度ベッドの横に来てから、よっすぃーの手から花束が落ちた。
- 117 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時46分10秒
- 「あ…」
反射的に床を見た、その直後。
わたしは、よっすぃーに抱きしめられてた。
「・・・・・・!!?」
驚いて、声も出ない。心臓が、痛いくらいに早く動き出す。
何!?何なの!?
しばらくその状態のまま…わたしが抱き返す事もできないでいると、よっすぃーは言った。
「…梨華ちゃん…!!ごめ、ごめん…!!ウチ、本当に…!!!」
「え…?」
よっすぃーは、泣き声だった。…珍しい。
「ウチ、本当に自分の事しか、かん、考えてなくて…!!」
「よっすぃー…。」
「り、梨華ちゃんのき、きもち、とか…全然…ッ!!!」
私は苦笑して、よっすぃーの背中をさすった。
「…落ち着いて、よっすぃー。」
「でも…!!でも、ウチ…め、目の前で、梨華ちゃんが…階段から落ちてっちゃって…!!
呼んでも目ぇ覚まさなくて…ッ!!きゅ、救急車とか来て…乗ってっちゃって…!!」
「うん…。」
「それでウチ…!!このまま、目覚めなかったらどうしよう、とかって考えたりして…ッ!!!」
- 118 名前:いしよし 投稿日:2003年08月26日(火)16時49分03秒
- よっすぃーの身体は、小さく震えていた。
…あはは。やっぱり、わたし…よっすぃーが好きだなぁ。
「目が覚めて、よかったよぉ…!!!」
「…本当にそう思ってるの?」
「本当に決まってんだろ!?」
「…別れたのに?」
よっすぃーは、わたしを抱きしめる手に力を込めた。
「…ウチ、返事してない。だから、まだ別れてない!」
身体を離し、顔と顔を向き合わせる。よっすぃーの腫れた目が見えた。
「…そうだよね?」
「・・・・・・そう、だったっけ。」
「そうだよ!」
よっすぃーは、小さくため息をついてから言った。
「…やっぱウチ、梨華ちゃん大好きだから。絶対、別れてなんかやらない。」
「重いんじゃなかったの?」
「・・・・・・もう、重いなんて思わない。」
よっすぃーは、言った。
「側にいてくれれば良い。もう、梨華ちゃんしかいらない…!!!」
そっと、唇が重なった。
初めてした時みたいな…震えながらするキス。いつの間にか、わたしも泣いてた。
そうだね。
わたしもきっと、ワガママだった。
二人で一歩ずつ、成長して行こうね。
おわり
- 119 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月26日(火)16時49分42秒
- お粗末様でした。
- 120 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月27日(水)05時48分55秒
- 泣く寸前です。
こういうストーリーに弱いです。良いお話ありがとうございました。
- 121 名前:秋が来るまでは 投稿日:2003年08月29日(金)13時45分44秒
岡の上から吹き降ろす風が心地よく二人の髪を揺らし、夏の終わりの匂いを運ぶ。
夏の陽光をいっぱいに浴びて伸びきった草は柔らかな絨毯を作っている。
その上に寝転がる真希と亜弥。
緩やかな緑色の斜面は何処までも続き
遥か眼下では空の青と草原の蒼とが混ざり合っている。
透明な水色の空には霞のような薄い雲が所々に。
「気持ちいいね」
亜弥がはしゃいで言う。
真希はそんな無邪気な亜弥に微笑みかける。
風は常に吹きつづけて亜弥の柔らかな頬を撫でている。
亜弥のはしゃぎ声はすぐに途切れる。
- 122 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月29日(金)13時46分15秒
真希の視線の先には穏やかな表情で空を見上げる亜弥。
その視線の先に一羽の鳥が大空の青を纏って羽ばたいていた。
風の音。
草の匂い。
静かな匂い。
夏の足音。
二人は何年も、ここで、この場所で夏の終わりを一緒に迎えた。
二人が一番好きな季節を。
柔らかな風。
雲と鳥と空と緑の織り成す細密画の景色を眼下にした
揺りかごの絨毯の上で。
真希にとっては亜弥が、
亜弥にとっては真希がすべてだった。
亜弥はいつもはしゃぎまわり、真希を引き回してへとへとにさせ
それでも楽しくて、日が沈むまで二人でいた。
- 123 名前:秋が来るまでは 投稿日:2003年08月29日(金)13時47分11秒
今年は、いつもと違う。
二人で、空を見てる。
亜弥のはしゃぎ声はしない。
亜弥は空を見ている。
真希の視線の先で、亜弥は自分でも気付かないうちに小さな溜め息をつく。
真希はいつでも亜弥のお姉さんで
だから真希は知っていた。
亜弥がとても綺麗になったこと。
亜弥がおとなになろうとしていること。
亜弥が、恋していること。
- 124 名前:秋が来るまでは 投稿日:2003年08月29日(金)13時47分53秒
「ごっちん」
「んー?」
亜弥が笑う。
去年まで、見ることの無かった大人びた笑顔。
「大好き」
「ん」
亜弥が顔を向ける。
真希は視線を空へ遣る。
真希の視線の中にも一羽の小鳥が空を舞った。
- 125 名前:秋が来るまでは 投稿日:2003年08月29日(金)13時48分38秒
亜弥は怖がっている。
ためらっている。
自分の羽ではばたくことを。
真希という鳥篭に篭ろうとしている。
また亜弥の視線が空に戻る。
薄い空色は斜陽をうけて更に溶けだす。
真希はまた亜弥の横顔を見つめる。
真希は亜弥が好き。
亜弥が誰の事を想っていても、真希は亜弥が好き。
だからその横顔を、黙って見つめる。
風に揺れる瞳を、黙って見つめる。
- 126 名前:秋が来るまでは 投稿日:2003年08月29日(金)13時49分50秒
真希はきっと背中を押す。
恋する亜弥の背中を押す。
亜弥が好きだから。
でも、今だけは、
夏の終わり、楽しくて、寂しい、この瞬間だけは、一緒にいたい。
季節が変わればきっと笑える。
秋が来ればきっと亜弥を解き放てる。
だから今だけは。
小さな鳥篭に、亜弥を閉じ込めておきたい。
草の絨毯の上で、二人の手は繋がれている。
真希はそっと瞳を閉じる。
亜弥の望む空を思い浮かべて。
終わり
- 127 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)15時40分41秒
- 六期のことはいまいちよく分からないのですが・・。
思いついたので一つ。
- 128 名前:ずるいキミ 投稿日:2003年08月30日(土)15時41分16秒
- 「ずるいずるいずるい!!」
熱くなっているのは私だけ。
目の前のキミはいつもと同じ、クールなまま。
「・・何で?」
私が言ってる理由がやっぱりれいなには分かってない。
そのことが私には無償に腹が立って。
やっぱり私の方がれいなのことをずっと好きなんだという事実を突きつけられた気がした。
今、ここには藤本さんを除く六期以外いない。
さゆみは一人鏡で自分の顔をじっと見つめてかわいいなんて言ってるだけだからいないのも同然。
だからこんな口喧嘩(きっとれいなはそうは思っていないだろうけど。)ができる。
- 129 名前:ずるいキミ 投稿日:2003年08月30日(土)15時42分00秒
- 「怒ってる?」
何を今更そんなこと聞いてくるの!
どう見たって怒ってるじゃん!
「何かあたししたっけ?してないよね。」
私が答える前に答えを出さないでよ。
っていうか、私に聞いてる意味ないし、それにれいなを目の前にして怒ってるんだから、キミ以外に私を怒らせてる人はいないでしょーが!
でもこんな会話は毎度のことだ。今に限ったことじゃない。
「・・れいなは私のことなんて好きじゃないんだ。」
「は?」
いつもの無表情な顔が少しだけぴくりと動いた。
微妙な反応も私だから気づくというもので、きっと他の人には分からない程度のもの。
「だってれいな・・・私に好きって言ってくれない。」
「はぁ?!」
私がそう言うと、れいなは今度は誰が見ても分かるくらいの反応をした。
- 130 名前:ずるいキミ 投稿日:2003年08月30日(土)15時42分32秒
- 「やっぱり私から告白したんだもん。しょうがいないよね。」
いつもそのどっしりした感がすっごく頼りに感じてた。
自信のない私とは正反対の、自信たっぷりなその姿に惹かれてった。
半分事故っていうか、つい言っちゃった感のある告白だった。
二人きりのとき「私はれいなが好き。」って。
そしたられいなも「あたしもだよ。」なんてあまり変わらない表情で言ってくれた。
「私のはその・・・友達の、じゃなくて・・・恋愛の・・・なんだけど・・。」
そうしたらやっぱり「あたしもだよ。」って・・・。
「石川さんには好きですなんて言ってるくせにさ、何で私には言ってくれないの?私より石川さんの方が好きだってこと?やっぱりそうだよね。石川さんの方が私より綺麗だし、やさしいし、いろいろと教えてくれるし、それに・・」
「えり!!」
私はびくっとした。
あまり大声とか出さないれいなの大きな声・・。
私は口をつぐんでしまった。
- 131 名前:ずるいキミ 投稿日:2003年08月30日(土)15時51分35秒
- れいなは私のことを真剣にまっすぐ見ていた。
微妙に緊張した感じが見てとれる。
この雰囲気、もしかしてれいな・・・。
「あたしはえりのこと・・。」
「・・・。」
「・・・・。」
「・・・。」
「・・・やっぱり恥ずかしい。」
何それ?!
私は拍子抜けした。
結局言ってくれないの?!
私が口を開きかけたとき。
「別の言い方でもいいよね。」
れいなは私に聞いてきた。
いや、これは聞いてきたんじゃなくてもうそうするって感じ。
れいなはいつだってそう。自己完結してんだもん。
少し拗ねかけた私にれいなはやっぱり無表情のまま言った。
- 132 名前:ずるいキミ 投稿日:2003年08月30日(土)15時52分35秒
「えりのこと、愛してる。」
- 133 名前:ずるいキミ 投稿日:2003年08月30日(土)15時53分05秒
- 自分の顔が真っ赤になっていくのを感じた。
確かに言わせたのは私で、なんだけど目の前の言った張本人のれいなはあんまり変わってないのはどうなの?!
・・・こっちの方が言うの恥ずかしいよね?
好きという言葉で躊躇ってるのに、愛してるはそんなにさらっと言えちゃうもんなの?
・・やっぱ分かんない、れいなって。
でもそういうとこも含めて私は好きなんだと思う。
- 134 名前:ずるいキミ 投稿日:2003年08月30日(土)15時54分18秒
それにしてもやっぱりキミは・・・ずるい。
END
- 135 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時07分08秒
- きっかけは地元テレビ局の取材だった。
毎年この季節になると彼らは争うようにネタを掘り漁る。たしかにそれは、
人々に戦争の虚しさ、そして悲しさを思い出させ、いまここにある
平和の重みを伝えているのかもしれない。
しかし、心のどこかで、それはショーアップされたお芝居のようで、
「そんなものじゃない。」いつもそう思ってきた。そんな思いからか
本当に気まぐれとしか言いようがないが、一度きりのローカル番組への
出演を今はひどく後悔している。
四十を越えたばかりの女が、自分の子どももいないのに
「突撃隊の母」と呼ばれること、それ自体も愉快ではないが、
理由はそればかりではない。
- 136 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時08分41秒
- そうあれは思い出だったのだ。私と私たちだけの。それを私は誰に
伝えたかったのか。
そっと胸の奥深くに。この命が果てるその日まで彼らとともに生きよう。
そう誓って語らずに生きてきたはずなのに。
それがこんな事になっては、ただただ自分の浅はかさが恨めしく、
申し訳ない気持ちに押しつぶされそうになる。あれらから何度の夏を
むかえたことか。なのに私はいまだに彼らのやさしさに甘えている。
語る言葉もなく、自責の念でうつむく私。私はここで何をすればいいのだろう。
しかし、今はもうそんな私に微笑みかけてくれる仲間はいない。
- 137 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時09分44秒
- ふと座卓の上を見ると、そこにはスタッフの誰かが用意してくれたのか
色とりどりの氷菓子があった。ピンク、黄色、水色、そして、
あの夏毎日眺めていた雲のように白い菓子。
- 138 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時10分58秒
- 基地近くの小高い丘から見る入道雲は、海を超えどこまで続いているのだろう。
あの雲の先にも戦争はあるんだろうか。
彼女の肩越しに見える空を眺めながら、私はいじけた気持ちでそんなことを
考えていた。
「だから、こうやってなっちがいつもおいしいご飯を作ってくれるから、
私たちだって頑張れるんじゃない。」
蝉時雨の中、だだをこねる子どもを諭すようにはっきりとした口調で、
やさしく語りかける圭織。この二ヶ月の間に何度繰り返されたか分からない
やり取りだが、彼女はいつも膝をかがめてこうして微笑んでくれる。
随分とこちらの暑さにも慣れてきたが、その透けるような白い肌と
柔らかな笑顔は遠くはなれて住む母を思い出させ、懐かしく、そして悲しい。
- 139 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時11分43秒
- 「どうしようもないってことは分かってるよ。けど、やっぱり私だって
みんなと同じように戦いたい。だってここは戦うための場所だもの、
なのに戦わない私はここにいちゃいけない。」
「大丈夫だよ。みんななっちは仲間だって知ってるよ。それに。」
そう言っていったん言葉を切った彼女は、いつもの台詞をいつも通り
少し言いにくそうにつぶやいた。
「なっちには大切な役目があるでしょ。」
「うん。」
この話をするといつもこうして二人そろって悲しい気持ちになる。
分かっているけど、それでも私はやるせなくて、いつも話を聞いてくれる
彼女のやさしさに甘えてしまう。
- 140 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時12分30秒
- 「よし、分かったらさっさと戻ろう。昼休みが終わっちゃうよ。」
「大丈夫だよ、どうせ昼からは訓練じゃなくてみんなサッカーでしょ。」
「あ、敵性語。」
「蹴球?そんな本土じゃあるまいし。サッカー、サッカー」
「だね。」
そうなのだ、ここではサッカーはサッカーだし、カレーライスは
カレーライスなのだ。
遠く本土から離れたこの島には敵性語や無駄な軍規はない。
みな自由に生き、それを咎める者は誰もいなかった。なぜなら、
そんな不要なものに縛られるのは、わずかではあっても未来への光が
見えている、余裕のある証拠だからだ。
- 141 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時13分03秒
- 二本の滑走路の他には設備らしいものは何もない。
この国で最も南に位置する基地には、私たちの部隊以外には誰もいない。
空軍特別防衛部隊。別名「突撃隊」。晴れ上がった空に包まれて、
暖かで自由にあふれたここは、天国に一番近い島だ。
- 142 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時13分57秒
- 長引く戦争は人を狂気に走らせる。
不必要なルールで民衆を縛り上げ、恐怖と連帯感を混同させる事で、
過ちを正当化しようとする。
そして、さらに追い詰められた時、人の命は駒へと変わる。
この島からわずかな燃料で飛び立った戦闘機は、決して再び戻る事はない。
集中砲火の中消えていく者。敵艦の上で砕け散る者。その結果に
一喜一憂するのは本営だけで、この島に住む私たちにとっては
どちらも等しい悲しみでしかない、慣れることなど決してありえない。
だから、この島のみんなはよく笑うのだ。悲しい現実に負けないように、
平和を思い出すように。
- 143 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時15分12秒
- 私と圭織がこの島に来たころは、まだ梅雨の最中だった。遠く北の故郷では
梅雨などなく、またうだるような暑さというやつもここへ来て初めて知った。
突撃隊に選ばれたことを知った両親は、それは悲しんだ。もちろん私も
ショックだったが、それよりも名誉とか誇りとか、そんな1グラムの
重みもない言葉を並べて親戚や近所の人に笑顔を浮かべながら
話す彼らを見ていると、その方が辛かった。
そんな私をさらに悲しませたのは、私が戦闘機に乗れない事実だった。
開戦当事ならそんなこともなかっただろうが、満足な検査も受けずに
やってきた私が最初の訓練で知った事は、私の体は気圧にひどく弱く、
この島で私ができることといったら、明日旅立つかもしれない彼らの
衣食住の世話ぐらいだということだった。
- 144 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時16分12秒
- 「はい、ちゃんと並んで、こらっ、そこ列からはみ出さない、辻。」
最前線のここで言うのもなんだが、食事、特に夕食時は戦場だ。
他の基地と比べるとここは随分厚遇されているらしいが、
それでも育ち盛りの若者ばかりこうも集めていては、食糧はいくらあっても
足りない。
そんな釣り合わない需要と供給のバランスを紙一重で保ちながら、
できる限り彼らの希望に沿ってやるのが私の大切な仕事だ。
最初は与えられた食糧を、ただ言われるがままに調理していたが、
彼らが食べたい物やわずかな贅沢品を本営に交渉することは、
今では私の大切な仕事というよりも使命だ。
- 145 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時17分01秒
- 「はい、石川、吉澤お疲れ様でした。」
「ありがとうございました。」
いつもと変わらない笑顔の「ありがとうございました。」。応えたのは
石川だけだった。盆の上に並べられた食器の隙間に添えられた一つまみの
氷菓子。それを見つめうつむく吉澤の瞳はすでに赤く染まり、
肩は小刻みに震えている。
「私たち最期まで一緒だね。」
吉澤をいたわるつもりの石川の言葉に、食堂にいたみなの心が
わしづかみにされた。「最期」その言葉が響いた瞬間、喧騒は途切れ
冷たく湿った空気が吹き抜ける。
- 146 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時17分34秒
- 「最期とか言うなや。」
まだ少女の面影を残す加護。いつもはその無邪気さでマスコットのように
かわいがれられているが、珍しく故郷の方言交じりで怒鳴る彼女の表情は
鬼気迫るものがあった。
「なにが最期やねん。信じへん、うちはそんなん認めへんで。」
- 147 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時18分25秒
- 加護に石川と吉澤の二人、そして、辻はほぼ同じ時期にこの島にやってきた。
私たちの出撃は週に一度あるかないかだが、ある時期まれに出撃が続く事がある。
そんな後決まって本営から増員が送られてくるのである。
彼女たち四人は異質な存在だった。当時のこの島に馴染まない明るさは、
古参たちから疎まれ、それはしばらく続いた。
しかし、あるときを境に彼女たちは仲間になり、同時にそれは、
ここが天国に一番近い島になった瞬間だった。
- 148 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時19分07秒
- 中澤という一人の将校がいた。
彼女はこの部隊の創設者であり、私たちの取りまとめ役だった。
部隊ができたときから島におり、厳しくも私たち隊員思いで、
いつも本営と部隊の間に立って私たちを導いてくれた。
しかし、彼女が飛ぶ日が来ることになったのは、そんな彼女の存在を
本営が快く思わなかったせいかもしれない。
本来将校である彼女はこの部隊に所属しているとはいえ、
出撃するはずはない、みんなそう思っていた。だから、彼女の出撃が
知らされた夜は島全体が分厚い悲しみに包まれ、永遠に続くかもしれない、
そんな沈黙に支配されていた。
そんな時、四人のがせきを切ったように泣き始めた。
- 149 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時19分58秒
- 人は悲しいから泣くのか、泣くから悲しいのか、そんな理屈や理性の
入る込む隙間がないほどに泣き続け、それは水面の波紋のように
島全体に広がった。
「この夜が明けなければ、時間が止まれば、戦争が終われば。」
思いはみな同じだったのだ。
死は恐ろしい、だから生きたい。そんな当たり前のことに気付いた私たちは、
不条理への怒りとおかれた境遇への嘆きにただ身を任せるしかなかった。
しかし、彼らの幼いがゆえの純粋さは私たちにもう一つのことを
気付かせてくれた。
- 150 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時20分52秒
- 私たちは今生きている。
私たちはこれから死にゆく運命かもしれない。しかし、人は誰もそれに
逆らうはできない。それが遅いか早いかの違いではないか。
人が生まれたときから決まっていることはたった一つ。それは
死ぬと言うことだ。だから、今生きている、そのことに気づいた私たちが
するべきことはたった一つだった。
その限られた生を精一杯。長くはなくとも限界の中で溢れんばかりの
命の輝きを決して曇らせずに生きていく事だった。
そして、その日から私たちはつかの間ではあっても
自由を手に入れる事ができた気がする。
- 151 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時22分03秒
- 「うちらずっと一緒やて言うたやんか。なんで梨華ちゃんたちだけ、
なにが最期や、そんなん今すぐこの戦争が……」
「加護、やめな、そこまでだよ。」
加護の怒声に我に返ると中澤に代わって本営からやってきた保田が、
加護と二人、隊員たちに囲まれ睨み合うように対峙していた。
「あんたがそれ以上何か言うと、私はあんたを粛清しなくちゃいけない。
やめなさい。」
目を真っ赤にしながら、軍規ゆえに加護を戒める保田を見ていると、
彼女が遠くない将来中澤のように「将校不適格」の烙印を
押されるのではないか、そんな不安が頭をよぎる。
- 152 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時22分47秒
- 「さあ、もう泣かないで。」
どうしてあなたは泣かないの。石川の笑顔を見ていると、
決して口にしてはいけない言葉がのど元まで出てくる。
それほどまでに彼女の笑顔は場違いなほど明るく、
本当に自分の立場を理解しているのか疑いたくなるほど美しい。
絶やさない笑顔、それが彼女の選んだ輝きだったのかもしれない。
「アホや、みんなアホや。」
辻に肩を抱かれながら食堂を出て行く加護の言葉が
一体誰の事を言っているのか分からないが、私も同じ気持ちだ。
みんな狂っている。そして、なぜこんなにもやさしいのだろう。
- 153 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時24分00秒
- 「ほら、なっち食事まだでしょ。」
みんなへの給仕を済ました後にとる食事をいつも用意していてくれるのは、
今日も圭織だった。
圭織は誰もいなくなった食堂で最後まで私の食事に付き合ってくれる。
訓練の合間には私のそばで懐かしい故郷の話に花を咲かせてくれる。
そんなあなたの優しさに私は何度救われただろう。だけど、あなたが
旅立ったあとに、私は一人この広い食堂で夜を過ごさなければならない。
それを思うと、罰当たりだと分かっていてもそのやさしさが今は恨めしい。
こんなことを思う私の罪は深い、しかし、いっそ嫌な人間ばかり
集まっていればよかったのに。そう想わずにはいられない。
それほどまでにこの夜は私の胸をきつく締め付けた。
- 154 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時24分51秒
- 「どうぞ。」
そう言い終わるか終わらないうちにノックの主はおずおずと部屋に入ってきた。
開いた扉の向こうには、鮮やかな下弦の月。明日の朝はきっといい天気だろう。
「さっきは取り乱してすいませんでした。」
「気にする事ないよ。」
出撃の前夜、こうして私の部屋を訪れたのは吉澤が初めてではない。
先月の後藤のときは、一緒に来た加護のほうが手がつけられないほど
泣きじゃくり、最後には二人で大笑いしてしまった。
そんな死者との思い出は、生きるものの特権であり、
下すことが赦されない重い十字架のようだ。
- 155 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時25分35秒
- 「謝りたくて、それとたくさんお礼も言いたくて。」
幾分落ち着いたのか、彼女特有のはにかむような笑顔を浮かべながら
腰を下ろした。こんな時以前であればお茶の一杯も出してあげられたのだが、
今はそれすらままならない。こんな時、もしかしたら
この戦争ももう長くは続かないのではないかと思う。
「石川は。」
「起きて待ってると思います。少し泣いてました。」
「そう。」
今夜彼女たちはなにを語り合うのだろうか、この島で彼女たちと
長く過ごしてきたが、旅立ちの前夜の気持ちだけは決してうかがい知る事は
できない。それに、それを知りたいとも思わない。
知ってしまえばきっと私はもう笑えない。
- 156 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時26分23秒
- 「これ食べませんか。」
吉澤が差し出した和紙にくるまれたそれは、夕食のときに私が
彼女たちに渡した氷菓子の一粒だった。
「少ないですけど、おすそ分けです。」
始めのころはタバコやお酒のときもあったが、今はこんな氷菓子くらいしか
旅立つ彼らに用意してやれないことがひどくはがゆい。
「だめだよ。もらえないよ。」
それでも、そんな物でもおいそれと貰うわけにはいかない。
旅立つ事のないわたしなんかが。
- 157 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時27分25秒
- 「そろそろ戻ってあげないと石川が寂しがるよ。」
「そうですね。あと、最後にこれをお願いします。ちょっと検閲は
通りそうにないんで」
石川のまねをしているのか、はじけそうな笑顔。石川のそれが露にぬれる
紫陽花なら、彼女の笑顔はまるで日差しの下で揺れる向日葵のようだった。
受け取った手紙の束は、石川の分を差し引いてもこれまでで一番多かった。
いかにも友達が多そうな吉澤らしい。
「手紙です。石川の分もわたしの分も母にまとめて届けてもらえれば
大丈夫です。」
「分かった。きっと渡す。」
- 158 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時28分35秒
- 支給の安物の紙のはずなのにずっしりと重い。こうして受け取った
彼女たちの手紙もかなりの数になってきた。
いつか戦争が終わったときにこれを届けることが、たぶん私がここにいる
本当の意味なのだ。そのためにも私は彼女たちと彼女たちが生きた証として、
生きなければならない。それはこの島で不条理な死の運命を背負わない
人間の使命だ。
吉澤が帰って独りになった部屋で手紙の束を見つめながら、
これから受け取るであろう手紙を想う。辻や加護は幼い字で一体なにを
書き残すのだろうか、そして、圭織は。
彼女とはここに来てからずっと一緒だが、家族の話を聞いたことはない。
もう二人以外にはともにやってきた仲間はいない。彼女の手紙の中に
私に充てた手紙はあるのだろうか。
夢想か夢か、それをとぎらせたのは、明け方の轟音だった。
石川と吉澤が旅立つ音は静かに、そして、深く私の胸にいつまでも響いた。
- 159 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時29分12秒
- 石川と吉澤の出撃のおかげか、八月に入ってからの出撃はほとんどなかった。
それでも日々知った顔は減り、いつしか私と圭織は最古参の一人に
数えられるようになっていた。
「なっち、大丈夫。」
「大丈夫だよ。」
今朝ついに将校である保田までが、南の海へと旅立った。
私と仲の良かった人たちが旅立つたびに彼女はこうして人目を避けて
私のもとへやって来てくれくる。
- 160 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時30分02秒
- 「仲良かったからちょっと心配で。」
「大丈夫だって、それにね、
突撃したみんなが死んだって決まったわけじゃないんだよ。」
精一杯の虚勢だった。私だって突撃が確実な死を意味することは
痛いほど分かっていた。それでも一筋の糸にすがるように、
わずかな希望をもち続けることがこの島で日々を過ごす糧なのだ。
「死んでるよ。」
空元気で作り上げた私の笑顔が凍りつくのが自分でも分かった。
「ちょっと、なんでそんなこと言うんだよ、どっかの島に不時着したり、
悔しいけど敵の捕虜になってるかもしれないじゃない。」
知らないうちに声は上ずり、上気する頬は炎のように熱を帯びていた。
- 161 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時30分56秒
- 「なっち、気持ちは分かるけど、それは希望じゃない、妄想だよ。
みんな死ぬためにここに集まってるんだよ。」
私は一体誰と話しているのだろう。神様が思いやりとやさしさを
人一倍与えた代わりに、ほんの少しだけ生きづらくなってしまう人間。
それが私の知っている圭織だったはずなのに。
もともと多くを語らず、明るいこの部隊でも声を上げて笑う事は少なく、
それでいて時々突然的を得た事言い周囲を驚かせる。
そんな彼女を人は不思議な人、おかしな人と言うが、私だけは
彼女の心の温かさや、人を想うやさしさを知っていると思っていたのに。
- 162 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時31分26秒
- あの時の彼女が、なぜそんなことを言い出したのか、
それが分かったのは翌日の朝だった。
その日のことはわずかにしか覚えていない。
それほどまでに悔しくて、切なくて。でもその出所が分からずに、
私の心はくもの糸に絡みとられた蝶のようにもがいていた。
- 163 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時32分11秒
- 毎朝部隊長の部屋に一枚の書類を取りに行くのが私の日課だ。
いつもその紙が白紙だといいのに願いながら。
旅立つ兵を想う私の気持ちを察し、翌日の朝出撃する者の名前を
部隊長は一枚の紙に記してくれる。これは、軍において
重大な守秘義務違反だが、この島の空気に生え抜きの部隊長も
あがなう事はできない。
その日は季節外れに涼しい朝で、昨日の圭織の痛烈な言葉も忘れるほどに
ひどく気分がよかった。
あの書類を手にするまでは
『出撃者
飯田圭織
以上一名』
- 164 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時33分09秒
- その日の夕食。私は氷菓子を渡す事はできなかった。いつもと同じように
「お疲れ様でした。」彼女たちとの思い出をかみ締めながら、そして、
彼女たちが幸せになれるように祈りながら、一つまみの氷菓子を盆にのせる。
幾度となく繰り返してきたのに、その日だけそのことが、
なんと胸を締め付けるのだろう。
「安倍さん、そろそろ畑で取れたトマトが、
あれ、安倍さんどうしたんですか。」
はじけそうな笑顔で話す辻を見ていると、自分でも気付かないうちに
泣いていたらしい。驚く辻の頭をなでながら、涙をぬぐうが、
一足遅く見られていた。
いつもと違わぬふわりとした微笑と目が合い、私は確信する。
- 165 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時33分53秒
- 日をまたぐころ、待ちかねていたノックが響いた。今夜は開いた本も
まったく進まなかった。
「氷菓子、私の分もあるんでしょ。」
座るなりそれかと思ったが、このいつどおりが彼女なりのやさしさに
他ならない。
「明日だね。」
「うん、明日だね。」
すっと差し出された一粒を無意識に口に運んでいた。それはなぜか冷たく、
そして悲しいくらいに甘かった。
「空から見る海って綺麗なんだよ。なっちは見たことないけどね。」
わざと意地悪な笑みを口元に浮かべ私の様子を探るように覗き込む。
そんな顔をされると、この夜がずっと続く、そんな馬鹿げた夢を
見そうになってしまう。
- 166 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時46分25秒
- 「ねえ、昨日のこと怒ってる。」
しばらく馬鹿げた話をした後、真面目な顔をした圭織。
応えあぐねる私を他所に語りだした彼女は、静かに、そして、
少し大袈裟に言うと神々しかった。
「私はね、この島が、ここの人たちが大好きだよ。
だってみんな馬鹿みたい。明日死ぬかもしれないのに部下思いだったり、
いつも笑ってたり、子どもみたいにはしゃいだり。
だから、そんなみんなを私は明日守りに行く。」
彼女の強く悲しい決意に耳を傾けながら、
私は一人になるといつも見る夢をつい口にしていた。
- 167 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時47分13秒
- 「明日、いや今この瞬間もしこの戦争が終われば。」
最後のほうは言葉になっていなかったかもしれない。
人は悲しすぎると涙すら忘れ、ただ自分の体がまるで他人のもののように
いうことをきかなくなり感情だけが鼓動を続ける。
「私はそれは捨てたの。」
私の言葉さえぎった彼女の表情は、その言葉とは裏腹に包み込むように
やさしかった。
「今を生きることをあきらめたわけじゃないんだよ。ただ、
私のほうがもっと楽観的なのかな。」
- 168 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時48分03秒
- 結局、圭織からの手紙はなかった。
それでも、翌朝雲をひきながら旅立つ彼女を見送りながら、
私はまた少し彼女が好きになっていた。
私が思っていた以上にやさしく、そして弱くはかない彼女をいとおしく思う。
機影が見えなくなった空を見つめながら祈る。昨日の夜最後に交わした約束。
私がそれを破る事はないでしょう。
だからお願い、もし奇跡があるのならば、どうか。
そして、その夜、戦争は終わった。
- 169 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時48分45秒
- 「すいません、安倍さん。そろそろ本番の打ち合わせがしたいんですが。」
ほら、こうして幾度の夏が訪れても私は約束どおり彼女を忘れはしなかった。
目を閉じればあの夏の日々がこんなにも鮮やかによみがえる。
「安倍さん喜んでくださいよ。安倍さんがテレビに出演されたお陰で、
当時の突撃隊の生き残りの人や家族の人が今回は何人か見つかったんですよ。」
「えっ、誰。誰が見つかったんですか。」
思いがけないスタッフの一言が、私の胸を早鐘のように打ち付ける。
考えてみれば、最後の日に追われるように散り散りになったが、
私がこうして生きているのだから、私より若い当時の隊員が生きていても
おかしくない。
- 170 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時49分42秒
- 「ちょ、ちょっと安倍さんそんなに興奮しないでくださいよ。
待っててください、資料が届いてるはずなんですぐ取ってきますから。」
逃げ出すように部屋を出て行く若いスタッフを見送りながら、
最後の日まであの島にいた少女たちの名前を懸命に思い出す。
しかし、何人目かの顔と名前を一致させたころ、ふと気付く。
そう、一番会いたい人は絶対にいない。
いや、それでも誰かが生きている。その喜びを忘れてはいけない。
そう思い頭を振っていると不意にドアを叩く音がした。
やけに戻ってくるのが早い、それよりもなんだか懐かしい
乱暴なノックだなと思いながら音の主を招き入れる。
- 171 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時50分26秒
- 「あの、本番前にすいません。私どうしても先にご挨拶したくて。
あっ、すいません。私今回のパーソナリティー努めてるグループで
リーダーやってます……」
息が止まるほど驚いているはずなのに、どうやら私も負けず劣らずの
楽天家なのかもしれない。心のどこかで気付いていたのだ、
そんな日がやってくると。
「ええ、知ってますよ。」
若さ特有のはじけるような笑顔。だけど、その奥のやさしい、
包み込むような笑顔を私が忘れるわけがないでしょう。
- 172 名前:夏を想う 投稿日:2003年08月30日(土)17時51分55秒
- 「ねえ、なっち奇跡って信じる。」
「難しい話だね。」
「はぐらかさないで。
あのね、今から二人で約束しよう。
もし、なっちがずっとこれから先私のことを忘れないでいてくれたら。」
「忘れないよ。」
「そしたら私は会いに行く。
時を越えて。悲しみの少ない世界で。
私はこの奇跡のために他のすべては受け入れる。この現実もみんなの死も。
だからお願い、忘れないで圭織のこと。」
おしまい
- 173 名前:頬袋 玉子 投稿日:2003年08月30日(土)18時45分18秒
- >172
間違ってうpしたら、削除依頼しましょうね。
あちらに失礼ですよ。
- 174 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)14時10分35秒
- いろんな意味で鈍りましたなぁ
- 175 名前:lou 投稿日:2003年09月01日(月)09時06分20秒
- キター!
うわぁ、感動です。
ボリュームがかなり増して、読み応え抜群でした。
ただ、(メル欄)の名シーンが消えちゃったのはどうしてなのかな、
と思わないでもなかったり…。
これを機に完全復活成されることを期待しております。
頑張ってください。
- 176 名前:悪夢 投稿日:2003年09月02日(火)19時50分00秒
此処はどこ?
暗くて、何も見えない。誰も、いない。
助けて…恐いよぉ…。メンバーの皆は?
あさ美ちゃんやマコトは?リサちゃん?
- 177 名前:悪夢 投稿日:2003年09月02日(火)19時56分41秒
- だれかぁ…!!返事をして!あたしは一体…
「高橋、置いてくよ?なにしてんの」
「ご、後藤さん…?!どこですか!?
後藤さん!!」
「来ないのォ?置いてくよ、本当に!」
「見えないんです!」
「じゃあね、後藤先行くから。」
- 178 名前:悪夢 投稿日:2003年09月02日(火)19時59分33秒
-
待って!置いてかないで!
後藤さん!
うわぁぁああ…
- 179 名前:悪夢 投稿日:2003年09月02日(火)20時05分47秒
ガバッ
- 180 名前:悪夢 投稿日:2003年09月02日(火)20時11分36秒
「はぁっ、はあっ…。」
目の前には、見慣れた景色。
「寝てたんだっけ、あたし…。」
寝室を出て、リビングに向かう
- 181 名前:悪夢 投稿日:2003年09月02日(火)20時43分29秒
- そこには、MDを聞きながらアンケートを
書いている後藤さんがいた。
駆け寄って、抱きつく。
「お、愛起きた?あれ、ヤな夢でも見た?」
体を回転させて、あたしを抱き締めてくれる。
そうだ、本当の後藤さんは、あたしのこと、
愛っていうんだ…。
「なんでも、ないです。」
その夜は、一緒に寝てくれた。
後藤さんは、あたしをおいてったりしない。
おわり
- 182 名前:あすら 投稿日:2003年09月05日(金)23時51分22秒
- >>手帳(1−3)を書いていた作者さん
全部、読みました
やっぱり梨華まこイイですね〜
返事かなり遅れて申し訳ないですw
って今もこのスレにいるのかなぁ?
- 183 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)02時59分18秒
- ちょっと前から、圭chanはハロープロジェクトの愛すべきキャラクター。
外見は怖そうだけど、少しとぼけてるのと、優しい性格が人気の秘訣。
でも、誰よりも早く圭chanの面白さ、優しさに気づいたのは、
たぶん私だった、と思う。のだけど…
やっぱり元とはいえ、苦楽をともにした同じグループのメンバー同士の絆の強さには敵わない。
あの圭chanの卒業ライブの日から、ひしひしとそう感じています…。
- 184 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)03時01分56秒
- 「Hi! Kei-chan. How are you?」
「あー、アヤ…」
圭chanは私の姿を確認するなり、イケナイモノを見てしまったかのような、
微妙な表情で苦笑した。
私だって恥ずかしいんだけど…、ウェイトレスの制服とかチャイナドレスとか、
最近だとROMANSのお陰で、もうあまり気にならなくなってきてしまった。
ちょっと危ういかもしれない。私の常識。
「なんだよそれぇ…まーたそんな格好してさぁ」
退きまくっている圭chanのために、目の前で一回転してみた。
今回の衣装のテーマは女医だった。超ミニのタイトスカートに、胸元が大きく開いた
キャミソール。その上に白衣を羽織っている。
ちなみに黒の編みタイツ着用でセクシーさを強調。
こういう女医さんて本当にいるのかなぁ?
この格好、通りがかったなっちに「やだ、夜の職業の人みたいだよ」と言われてしまった。
結構ショック…。
- 185 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)03時03分11秒
- 「どう?セクシーでしょ?」
セクシーって言って。お願いだから「歌舞伎町に居そう」とか言わないで…。
祈るように圭chanの顔を覗き込んだ。
圭chanは言葉を探すように一瞬沈黙し、そしてすぐに私から目を、
逸らした。
逸らされた!
「知らないよ。 Go away!」
「そんなこと言わないでよぉ〜」
軽く突き飛ばされた。なんでよぉ。やっぱりお店っぽいのかな…。
圭chanはどう思ってるんだろう。こういうの、嫌いなのかな?
- 186 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)03時06分11秒
- やだなぁ、ちょっと不安になってきた。
最近は特に、梨華ちゃんや矢口さんが圭chanを独占してる状態だから、なかなか会えなくて
ただでさえ不安なのに。
梨華ちゃんや矢口さんは、圭chanに頻繁に会えなくなった反動で、圭chan禁断症状ともいえる
症状を発症して、仕事上がりに毎日のように圭chanを呼び出して食事に行ってる。
グループの身内でしか話せない話もあるだろうし、私はモーニング娘。のメンバーじゃないから
遠慮してるけど…、不安。
ちょっとおどけたフリして、圭chanの気持ちを確かめてみようかな…?
- 187 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)03時07分29秒
- 私は圭chanのそばに戻って、腕を抱き寄せてソファに座らせた。
「ねぇ。ホラ。聴診器もあるんだよ」
「へ〜ぇ。凝ってるねぇ」
「圭chanの心音計るね」
「ええ!? やんなくていいよ」
「えーなんで?」
うう〜、拒否されちゃったよ。
「なんでって。やりたいの?」
「うん」
「……じゃあ一回だけだよ」
渋々、という感じで圭chanがOKを出してくれた。
わかんないよぉ。すぐにOKしてくれたら嫌われてないと思えるのに。
- 188 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)03時08分09秒
- 渋々了承、ってどうなの?
いや、そもそも最初に断られたし…。圭chan…
私は答えを求めるように、聴診器を圭chanの胸に当ててみた。
………。
無音。
なにも聴こえてこない。
服の上からだから、当然といえば当然か。
私はため息をついた。
- 189 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)03時09分03秒
- 「これでさ、心の中がのぞけたらいいのにね」
「うん?」
「そしたら不安になることもないもん」
どうなの?圭chan。
私のこと、どう思ってるの?
梨華ちゃんは。矢口さんは。圭chanにとって、どのくらい大切なの?
マジックアイテムで圭chanの心がのぞけたら、すごく便利なのに。
当の圭chanはちょっと考えて、私に反論した。
「思うんだけどさぁ、たぶんそうなると人生面白くなくなっちゃうよ」
「そう?」
「うん。だってあたしらには、気持ちを伝えるために言葉があって、
声を出す喉があるんじゃない。
それが必要ないことになったら、歌も必要でなくなっちゃう気がする」
- 190 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)03時10分02秒
- あ、なんか圭chanらしい意見。
確かに、恋愛の歌なんて、言葉で伝える必要がなかったら存在しないものなのかも。
「何にヘコんでるのか知らないけどさ、元気だしなよ」
……ヘコんでる原因の圭chanに励まされちゃった。
でもよかった。別に嫌われてないみたい。
「うん、ありがとう。圭chanて優しいよね」
「そうかなぁ」
「圭chanの優しいトコ、好き」
圭chanはフヘヘ、と笑って「あたしもアヤカが好きだよ」と言ってくれた。
嬉しい。……でも、圭chanてみんなにそれ言ってるよね…。
だから不安なのに。
ねぇ、言葉で満足できないときにはどうしたらいいの?
- 191 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)03時13分57秒
- 「アヤカ…アヤカ、ここ、けっこう、人通る」
「圭chan、照れすぎだよ」
「だって、アヤカがそんな仕草するからぁ」
圭chanが困惑顔で言った。
かわいい。
ちょっとからかいたくなって、圭chanが向こうを向いた瞬間に首筋に、
チュッ
素早くキス。
おどろいている圭chanに「see you!」と挨拶して、私はその場から駆け出した。
- 192 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)03時15分29秒
- ちょっとやっぱり不安は残るけど、なんだかハッピーな気分になってきたから、まぁいいかぁ。
こうやって、もっともっと、たくさんのハッピーな思い出を増やしていけば、
不安なんて消えるかもしれない。
それこそ、圭chanの中にある、モーニングのメンバーとの思い出より、ずっといっぱいの思い出を。
作りたいな。ね、圭chan!
「おーい、アヤカあんた、聴診器耳につけてなかっただろー。
……って聞こえてないかぁ。
聴診器忘れてってるし。
ホント天然だね、アヤカって…」
END.
- 193 名前:マジックアイテム 投稿日:2003年09月07日(日)03時22分11秒
- すいません失敗…
>>190-191の間に以下の部分入れ忘れました。なにやってんだ…
私は圭chanの肩に頭を乗せて、キスをねだるジェスチャーをしてみた。
ふざけてやってると思ってるかなぁ。圭chan鈍感だから…。
うん、でもそれでいいんだ。
でも、圭chanは思ったより真面目に動揺してくれた。
- 194 名前:手帳作者 投稿日:2003/09/16(火) 21:22
- また書いてしまいました。
手帳シリーズ第四弾でございます。
もしよろしかったら、読んでやってくださいませ!!
- 195 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:23
- 「・・・梨華さん・・・。」
「麻琴・・・。」
握り合った手に輝く、お揃いのリング。
ハワイアンジュエリー。・・・ハワイの自由時間の時に見つけて、梨華さんも私も一目で気に入った可愛いペアリング。
「えへへ♪麻琴とお揃いのリング・・・すっごく嬉しいな♪」
梨華さんは、その最高に可愛い顔に最高に可愛い笑顔を浮かべて言った。
「麻琴の愛情の欠片が、常にわたしの側にいてくれるみたいで・・・すっごく嬉しい!!」
「梨華さん・・・私も、嬉しいです。」
そんでもってまた、最高に可愛い事言ってくれちゃうんだから・・・本当にもう。愛しくてたまらない。
私はぎゅっと梨華さんを抱きしめた。
「ねえ、麻琴ぉ。」
「何ですか?梨華さん。」
「なんでわたし達、ツアーでもハワイでも同じ部屋になれないんだろ?」
梨華さんは私に抱きついたまま、不満そうに唇を尖らせた。
「仕方ないですよ。年齢順とかもありますし。」
胸にふつふつと湧き上がる悔しさを抑えて、私は言う。
「それに、楽しそうじゃないですか?いつも。」
「そりゃ、楽しいよ?安倍さんも飯田さんも矢口さんも面白いし、話合うから弾むし・・・。」
悔しさが嫉妬に変わり、私は梨華さんを抱きしめる手に力を込める。
すると梨華さんはくすくすと笑って・・・また、ぎゅっとしがみついて来た。
「だけどわたし、麻琴と同室になれたら・・・もっとお仕事頑張れるのになー。」
ああ、可愛い。ああ、愛しい。
「夜、麻琴が側にいないって思うと・・・寂しくって泣きそうになっちゃう。」
「・・・梨華さん・・・!」
- 196 名前:クロイツ 投稿日:2003/09/16(火) 21:23
- 「今はこのリングが『つながってるー!』って思わせてくれて、寂しさを紛らわしてくれるけど・・・」
「梨華さんッ!!!」
私は梨華さんの唇を奪った。
「ん・・・。」
甘い吐息。柔らかい唇。心地よい温かさ。
・・・世の中、美味しいモノはいっぱいある。私は今まで、かぼちゃ以上に美味しいモノはないと思ってた。
しかしそれは間違いだった。
結論。私・小川麻琴が世界で一番美味だと感じるのは・・・石川梨華さんである。
本当にもう。何から何まで梨華さんってば・・・あさ美ちゃんじゃないけど『完璧です』。
「・・・梨華さん・・・。」
「麻琴・・・。」
名残惜しむように、もう一・二回くらい軽く口付けて。
その柔らかい唇を、二・三度甘噛みして。
「・・・私は、梨華さんと同室じゃ駄目です。」
「えぇっ!?なんでぇっ!?」
泣きそうな顔の梨華さんに、もう一度軽くキス。
「だって、離したくなくなっちゃう。誰にも見せたくなくなっちゃう。・・・だから、仕事にならなくなっちゃう。」
今度は、梨華さんの方から唇を奪って来た。
「んう・・・っ。」
その、慣れたみたいな舌の動きに・・・ちょっと、嫉妬心と対抗心を刺激される。
これを梨華さんに教えたのは、吉澤さん?
- 197 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:25
- 「・・・・・・んふっ。」
私は・・・何かに突き動かされるように情熱的に、梨華さんの唇を奪い続けた。
信じてないワケじゃない。梨華さんが愛してるのは、私。もう吉澤さんとは終わってる。
だけど・・・たまに梨華さんから、吉澤さんを感じる事がある。
それが私の心をすごく乱す。
「・・・はふっ。」
唇を離すと、梨華さんは恥ずかしそうな表情で言った。
「・・・麻琴とのキス、大好き♪」
「私は梨華さんの全てが好きです。」
「いやぁん、もう!麻琴ってばぁ♪・・・わたしも麻琴、全部大好き!!」
抱き合って、ソファの上に転がった。
ああ、二十四時間ずーっとこうしていられたらなぁ。
- 198 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:25
-
「はーい。今日の部屋割りはくじ引きー。」
十五人もの大人数を乗せたバスの中が、ざわめく。
「か、圭織!どしたの!?くじ引きなんて・・・!!」
焦ったような矢口さんに、飯田さんは首をかしげる。
「ん?何で?くじ引き、駄目?」
「いや、駄目じゃないけど・・・圭織いつも自分で決めるようにしてるじゃん。」
「うん。でも裕ちゃんがリーダーだった時はよくくじで決めたじゃん。」
中澤さんがリーダーの時代を知らない私は、ただただ『へぇ〜』と言うばかりだ。
「・・・カオリ、なんかくじ作りたくなったの。で、作ったの。だから、くじなの☆」
「自分がしたいだけかよ!!」
「矢口、うるさいよ。・・・さー、それじゃ席順に引いてって〜。
あ、引いてもまだ見ちゃ駄目だからね?全員で一斉に見るんだからね?」
妙なこだわりを見せながら、くじが車内を回る。
「なんか、ドキドキやわ〜♪」
愛ちゃんが、あさ美ちゃんときゃっきゃと騒いでる。
え?私?
・・・・・・ドキドキ、なんてモンじゃない。強いて言うなら『バクバク』だ。
ちらりと梨華さんを盗み見る。すると、梨華さんもこっちを向いていた。
『一緒の部屋に、なれれば良いね。』
そんな梨華さんの声が聞こえたような気がする。
ああ、神様。小川麻琴、十五歳。
前言撤回。・・・なんとしてでも梨華さんと同室になりたいです。
そんな事を考えていると、私の所までくじが回って来た。
「はい、次はおが──・・・」
飯田さんは、私を見て言った。
- 199 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:26
- 「・・・小川、なんかすっごく燃えてない?」
「はっはっはっはっはっはっはっはっは。・・・・・・一撃必殺────────────────────────!!!!」
「てゆーか、殺してどうするよ。それを言うなら『一投入魂』でしょ?」
微細な間違いは放っておいて。
私は、飯田さんの手の中からくじを一つ取った。
・・・・・・頼むぞ。梨華さんとおなじ部屋になれますように・・・ッ!!!
「はーい、全員に行き渡ったね?それじゃ、開封〜。」
手が震える。
心臓がバクバク鳴ってる。
「・・・・・・まこっちゃんが怖い・・・。」
隣の席の里沙ちゃんがビビッてるけど、かまってられない。
私の番号は・・・7番。ラッキーセブンだ。
ああ、頼んだぞセブン。私にラッキーを運んでくれ。
「・・・それじゃ、1番のコンビ〜。」
「「はーい!!」」
辻さん加護さんが同時に手を上げ、きゃーっと喜ぶ。
「2番は?」
「ほーい。」
「あ、なっちも。」
矢口さん安倍さんが手を上げ、手を打ち合う。
「3番〜・・・あ、カオリ3番だ。3番は三人部屋だよ〜。」
「はーい。ヨシザワ、3番です〜。」
「あ、わた、私もです!」
吉澤さんとあさ美ちゃんが手を上げた。
・・・よかった。少なくとも梨華さんと吉澤さんは別の部屋だ。
「次、4番〜。」
「は、はいっ!!」
「はぁーい!」
亀井ちゃんと里沙ちゃんが手を上げる。
「5番〜。」
「あ、はーい。」
「・・・・・・はいっ。」
田中ちゃんとシゲさんだ。
「6番〜。」
「はい〜。」
「あ、私もやよ〜。」
藤本さんと愛ちゃん。
- 200 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:26
- ・・・・・・って事は・・・!!!
「って事は、最後の7番は?」
飯田さんの言葉に、前のほうに座っていた梨華さんが手を上げた。
「はいっ!石川です!」
・・・・・・神様。
「・・・きゃ、きゃ────────!!!!ま、まこっちゃんが!まこっちゃんが鼻血を!!!」
「お、小川!?どうしたの!?」
駆け寄って来た飯田さんと、焦ってる里沙ちゃんに・・・私は手に握り締めていたくじを見せた。
「「・・・7番?」」
こくりと頷き、私は・・・密かにガッツポーズを取った。
- 201 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:27
-
部屋に入り、二人きりになる。
「・・・麻琴っ!!」
「梨華さぁん!!」
ひしっと抱き合い、お互いの存在を確かめ合う。
「同じ部屋なのね・・・今日から二日間は、この同じ部屋で一緒にいられるのね!!」
「そうですねっ!!・・・ああ、こんなに幸せで良いんだろうか・・・。」
「もうっ。麻琴ってばこの間、『私は、梨華さんと同室じゃ駄目です』なんて言ってたクセにぃ。」
「だって、あの時は絶対無理だと思ってたんですもん!!」
梨華さんの頬に触れ、顔を覗き込む。
「・・・ああ、夢みたいだ・・・。梨華さんと同じ部屋になれるなんて・・・!!」
「夢じゃないわよ?」
「信じられません。・・・確かめさせて下さい。」
梨華さんはくすっと笑って、すっと目を閉じた。
私の意図を感じ取ってくれたらしい。
「梨華さん・・・!!!」
湧き上がって来る想いを抑え切れなくて、それをぶつけるように唇を重ねる。
・・・ああ、現実だ。この柔らかさとこの甘さ・・・夢では絶対にありえない感触。
「・・・・・・確認、できた?」
「ええ。梨華さんへの愛も、同時にね☆」
「いやぁん、もう!麻琴ってばぁ!!」
嬉しそうに微笑んで、梨華さんは言った。
「そう言えば、さっき鼻血出してたよね?大丈夫?」
「ええ、もう・・・・・・いや、ちょっと大丈夫じゃないかな?」
「ええっ!!」
眉を八の字に寄せた梨華さんに、私は言う。
「・・・梨華さんに膝枕してもらえれば、ぜっこーちょー☆になれるんですけどね?」
「・・・・・・もうっ。」
梨華さんは顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに答えてくれた。
- 202 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:27
- 夕日で真っ赤に染まった、ホテルの一室で。
私は・・・時間ギリギリまで梨華さんの膝枕を堪能した。
ああ、神様。こんなに幸せで良いんですか?
しかし、寝る時間が近付いて来ると・・・不安になって来た。
「明日の集合時間、七時だからね?モーニングコールは六時に入れるから、時間厳守で。」
メモを取りながら、ふと思う。
・・・明日も、仕事なんだよね。いや、仕事だからこそ泊まりなんだけど。
・・・・・・エッチとか、控えた方が良いのかな?
そりゃー、確かに今日急いでしなくても・・・この仕事終わったらちょっとオフがあるワケだし。
明日の仕事内容、私はそんなにハードじゃないけど・・・梨華さんはちょっと忙しそうだし。
「質問はー?」
飯田さんの言葉に、思わず『今夜はエッチ控えた方が良いですか?』とかききそうになってしまった。
・・・いけないいけない。
そんな時、飯田さんは険しい顔で言った。
「明日の朝、早いんだからね!!みんな、今夜は早く寝るんだよ!!」
・・・・・・ほほぉ。って事は控えた方が良いって事か?
でもなぁ。・・・せっかく同室になれたのに。
それに、もしかしたらしない方が梨華さんに失礼かもだよなぁ。
だけど梨華さん、プロ意識高いし。・・・拒否られたりして。
うああっ!!私から断るのもイヤだし、拒否られるのもイヤだ!!
「・・・それじゃ、ミーティング終わり。みんな、部屋帰ってさっさと寝なさい。」
全員で声をそろえて『お疲れ様でした』と言ってから、三々五々に部屋に帰り出す。
「・・・麻〜琴っ。」
声を潜めて、私の腕に梨華さんが抱きつく。
「り、梨華さん。」
「お部屋、帰ろ?」
「は、はい。」
ああ、なんて可愛い人なんだ。可愛くて可愛くてたまらない。
- 203 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:28
- ・・・こんな人が隣に寝てて、何もすんなって方が無理でしょ。しかも、片思いならまだしも両想いなのに。
3番の部屋を出て、私たちの部屋に戻る道すがら・・・梨華さんはぽつりと言った。
「飯田さんに、釘さされちゃったね?」
ちょっとからかうような口調の梨華さん。
「そ、そうですか?」
「うん。あれ絶対、わたしに言ったハズ。前に失敗してるからなぁ〜。」
「・・・・・・失敗?」
「うん。前によっすぃーと付き合ってた時に同じ部屋になって・・・」
そこで梨華さんははっと口を押さえた。・・・が、時既に遅し。
「・・・・・・それで・・・?どうなったんですか?」
自分でも、すっごい不機嫌な声出してると自覚してる。だけど止められない。
「・・・・・・あの、なんでもない・・・。」
「最後まで聞かなきゃ、スッキリしないじゃないですか。」
「・・・それじゃあ、言うけど・・・その晩、その、よっすぃーと・・・」
「やっぱやめてください!!聞きたくない!!」
部屋について、扉を閉めるなり・・・私は梨華さんを抱きしめた。
「・・・・・・す、すみません。なんか・・・話せとか話すなとか・・・。」
「ううん・・・わたしも、ごめん。昔の話なんかしちゃって・・・。」
ぎゅっと抱き返して来る梨華さんの手の感触を、もっと強く感じたくて。私はもっとぎゅっと抱きしめた。
「私・・・なんか、情けなくてすみません。」
「なっ!!ま、麻琴は情けなくなんか・・・!!」
「だって!!・・・前に、覚悟決めたのに!!
梨華さんの過去がどうであれ、今は私のモノなんだからって・・・気にしたりしないって、決めたのに!!」
「ま、まこ・・・・・・!!!」
梨華さんの声が、詰まった。涙を流しているみたいな気配。
ああ、駄目だ私。なんでこんなに子供なんだろう。
過去に嫉妬なんかして。独占欲むき出しにして。
「ごめ・・・なさ、梨華さ・・・。」
- 204 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:28
- 「麻琴・・・?」
「わ、私・・・きら、嫌いにならないで、くっ、くださいっ!!」
自責の念と、それでも静まらない嫉妬の炎で・・・私は涙が溢れ出していた。
「・・・梨華さんを、愛してます。」
それが、私の根本にある感情。
本当にそう。梨華さんが好き。愛してる。私はただ、それだけ。
梨華さんは、そんな私の背中を優しく撫でてくれた。
「ごめんね、麻琴・・・。わたしが悪い。麻琴が悲しむってわかってるのに、過去の話を持ち出した・・・私が悪いの。」
「りっ、梨華さっ・・・。」
「だけどね。・・・すっごく身勝手かもしれないけど・・・わたし、心のどこかで思ってた。
『麻琴はこの話きいて、悲しむかな?』って。楽しみにしてた。」
「・・・・・・えっ?」
「わたしも麻琴を愛してる。」
梨華さんの甘い声が、私の頭に流れ込む。
「・・・嫉妬とか、して欲しかったの。わたしの事をどれだけ愛してくれてるのか・・・見たかった。」
「そ、それならいつもっ・・・!!」
「だって・・・・・・よっすぃーだってそうだったもの。」
梨華さんの声が、悲しげに響く。
「いつもいつも、『好きだ』って言ってくれて・・・ぎゅって抱きしめてくれて。
みんなの前でいちゃいちゃしたり、わざと見える所にキスマークつけたりして。
・・・それなのに簡単に浮気しちゃったんだもの。」
頭にカッと血が上った。
「・・・な、なんですかそれ!!」
「あっ!も、もちろん麻琴とよっすぃーは違うってわかってるよ?」
「そうじゃなくて!!」
怒りで、頭の奥が真っ赤に染まる。
「なんですか、吉澤さんは!!!」
「・・・・・・はい?」
- 205 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:29
- 「こんな・・・こんな可愛い梨華さんに・・・!!そんな悲しい思いをッ!?許せない・・・!!!」
「あ、あの、麻琴!?」
私は、梨華さんをキッと見据えた。
「ちょっと、一発殴って来ます。」
「・・・えええっ!?だ、誰を!?」
「決まってるでしょう!!吉澤さんですよ!!なんですかそれ、許せない!!!」
私は、本気だ。
梨華さんを悲しませたなど・・・絶対に許せない。
しかも前に、『別れたのは後藤さん卒業直後くらい』って話を聞いた事があった。
・・・・・・くそう!!なんで気づけなかったんだよ、私!!梨華さんが悲しんでたって言うのに!!
「待って、麻琴!!」
「はなしてください!!」
「違うの、そうじゃないくて・・・わたしはよっすぃーを殴って欲しいんじゃないの!!」
梨華さんは、私を引きとめながら必死の表情で言った。
「・・・わたしは、麻琴に・・・ずっとわたしの側にいて欲しいの!!」
「・・・・・・。」
怒りが一気に冷えた。
そして別の熱さが顔に上るまで、そんなに時間はかからなかった。
「・・・・・・ね?麻琴・・・。」
もじもじしながら、梨華さんは言った。
「今夜は・・・ずーっと、側にいられるんだよね?同室だもんね?」
「・・・・・・え、ええ。そうッスね・・・。」
「じゃあ・・・・・・。」
梨華さんは真っ赤になって、そこで言葉を止めた。
- 206 名前:ラッキーセブン(手帳4) 投稿日:2003/09/16(火) 21:29
- ・・・何が言いたいんだろうか。
いや、わかる。わかってる。・・・だけどそれが私の勝手な思い込みでないと、誰が言える。
ごくりと唾を飲み・・・私は梨華さんの胸に触れた。
拒否するんだったら、ビンタが飛んで来るはず。
「・・・あ・・・ん。」
・・・・・・拒否られて、ないみたい。
い、いいの?いいの!?・・・・・・止まらなくなっちゃっても・・・いいの?
「あん・・・っ。ま・・・ことぉ・・・。」
「梨華さん・・・良い、ですか?」
一応聞いてみる。
「・・・・・・良いよぉ。も・・・もっ・・・。」
恥ずかしそうに言葉を切った梨華さんを、私は抱きしめて・・・ベッドまで運ぶ。
私の頭の中から、明日の仕事も・・・何もかもが消え去った。
・・・・・・神様、同室にしてくれてありがとう。
おわり。
- 207 名前:手帳作者 投稿日:2003/09/16(火) 21:30
-
またしても書いてしまいました。
やっぱまこりか好きだ・・・。
>>>61名無しさん様
レス遅くなりましたが・・・果たして見てらっしゃるかどうか…(大汗)
今回は甘さを最大限に引き出してみましたが・・・いかがでしたでしょうか?
>ところでどこで書かれているんでしょうか?
>差し支えなかったら教えてください。
>もしくはヒントを下さい。
・・・・・・ううううう(大汗)題名で思いっきりHN暴露してしまいました(泣)
隠して行くつもだったんですけどねぇ・・・(号泣)
・・・またきっと書くので、その時はよろしくです!!
>あすら様
これまたレス遅れてるので、果たして見てらっしゃるかどうか・・・。
ありがとうございます!!りかまこ、もっと広まってほしいですよね。
きっとまた書くので、どうぞよろしくお願いします♪
- 208 名前:61 投稿日:2003/09/17(水) 01:56
- 手帳作者さん改めクロイツさん キタ━━━(*´Д`)*´Д`)*´Д`)━━━!!!
いつかまた書いてくれると思ってたんで、ずっと待ち伏せてました(笑
ってか、やばい、やばいですよ。また頬肉上がりっぱなしで自分キモッって
思いながらも止められませんでした。
甘さMAXで歯だけでなく骨まで溶けちゃいそうですヽ(´◇、`)へ
またお待ちしておりますんで、ガンバってください^^
それとHN、暴露させてしまってすいませんでしたm(_ _)m
- 209 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:04
- 「やぐいし」です。
読んでもらえたら嬉しいです。
- 210 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:08
- 「なんだコリャ、娘。・・・小説!?」
画面の中の掲示板のそれぞれの題名にはもっともらしいタイトルが
ついており、それをクリックすると文字が画面に広がる。文字の中
には「よっすぃー」だの「のの」だの非常に見慣れた固有名詞がな
らんでいた。
「おいら達の小説が書いてあんのか!」
矢口 真里 言わずと知れたモーニング娘。の第2期メンバーである。
矢口はインターネットを封印していた。自分が傷つかないように、
心ない中傷で自分を見失わないように、娘。関係のHPには近づかな
いように気をつけていたはずだ。
- 211 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:09
- それなのに何故彼女がここにいるのか
ちょっとした好奇心だった。元メンバーの保田 圭が某オークショ
ンでブランドのバックを格安で落札したと自慢気に話していたのが
発端だった。某オークションを見た後すぐにシャットダウンするつ
もりであった。
「ちょっとだけ」
そうちょっとだけ、ハロモニのHPを見ていこうかな、あそこなら
大丈夫。あぁやっぱり可愛いカキコミがいっぱいだー。じゃあつ
いでに矢口のファンサイトにでも・・・「悪口サイト」さえ行かな
ければ大丈夫。
- 212 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:11
- それが巡り巡ってここにたどり着いたのだ。
「ふぁ〜皆ヒマだねぇー」
これが最初の矢口の感想だった。
「ヲタって普段こんなことばっかやってんのかなー」
矢口は半ば関心しながらサイト内を見て回った。それにしてすごい
数である。
「オイラが主人公のはないのかな〜?」
- 213 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:12
- とりあえず矢口っぽいタイトルのものをクリックしてみる。その話
には矢口の他に中澤裕子やら石川 梨華やら矢口の身の回りの人々
が登場し、尤もらしく会話をしていた。
「そんな会話しねーよ。」
「なっちの性格が違う〜」
いちいちツッコミを入れながら読み進める。まだその話は完結して
いないらしくレスは途中で途切れていた。
「・・・・・」
矢口は腕を組み画面をくいいるように見つめた。
そしてまたトップへ戻り別の小説を読み始めた。
- 214 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:13
- 次の日
「矢口さーん、どうしたんですか〜?」
横で着替えていた石川が矢口の顔を覗きこんだ。
「どっ、どーもしねーよ。あっち向いてろよ」
石川は「折角心配してるのに」といった表情で眉をひそめ前を向き
なおした。石川が心配するのも仕方がない。今日の矢口は少しとい
うか大分変だった。珍しく目の下にでっかいクマを作ってきたかと
思えば、石川と吉澤の方をチラチラ見てはタメイキをついたり妙に
挙動不審である。
- 215 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:14
- これには深い理由があった。昨夜の「娘。小説サイト」である。
矢口はあの後様々なスレッドをのぞいた。自分以外が主人公の
スレッドも。中でも吉澤が主人公のモノは多かった。そして吉澤
絡みのエロも多かった。自分と吉澤が絡んでいたり、石川と吉澤
が絡んでいたり、、、
「なんか、スゲーなぁ」
初めは純粋に面白がっていたエロ大好き矢口であったが、こうして
メンバーを目の前にすと昨日の濃厚な性的描写が思い出されて矢口
は妙にドキドキした。特に石川と吉澤が話したり、じゃれあったり
するだけで
「まさかあの二人本当に・・・」
などと寝不足のアタマは考え始めたのだ。
- 216 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:16
- 昔っから怪しい所はあったんだ。少年みたいなよっすぃーと
女の子らしい石川。石川はよっすぃーのことすげぇ頼りにしてたし、
よっすぃーのたまに見せる男前な振る舞いには矢口だってたまにド
キドキしてしまう。あの石川のことだ、ナイ話じゃないかも・・・
「・・・ぐち、やーぐちぃ!」
気がつくと、圭織が一生懸命話しかけていた。
「えっ!ごめん、何?」
「今日やっぱ何かオカシイよ?今交信してたでしょー」
圭織がおかしそうに笑った。
「はは、そんな事しないよ」
矢口もつられて力なく笑う。
- 217 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:17
- 「何笑ってんですか〜?」
吉澤の間延びした声が背後から聞こえた。
「あぁよっすぃー、矢口今日ねおっかしいんだ。今交信してたんだよ〜」
「へぇ矢口さんが?」
矢口は吉澤を見て思わず赤面した。
お、おいらってば何よっすぃーにドキドキしてんだ!絶対昨日見た変な小説のせいだ!!
矢口はギュッと目をつぶり自分を落ち着かせようと躍起になった。
「矢口さん顔赤いっすよ?熱あるんじゃないですか?」
はっと目を開けるとそこには吉澤の顔があった。
- 218 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:18
- 「よ、よっすぃー・・・」
「熱あるんじゃないですか?」
吉澤が矢口のオデコに手を伸ばす。
「ヤメロ!おいらに触るなっ!!」
矢口は楽屋が一瞬シーンとなるのを感じた。
しまった、キツく言い過ぎた。
後悔したが遅かった。吉澤はパッと手を離すと、少しだけ傷ついた顔をした。
「あっよっ・・・」
しかしすぐいつものフニャケた顔に戻り、そして楽屋の喧騒の中に戻っていった。
「もう!あんな言い方しなくてもいいでしょう!」
隣で圭織がプリプリと怒っていた。
「・・・だって、よっすぃーが」
「えっ?」
矢口は吉澤の傷ついた顔が目に焼きついてはなれなかった。
- 219 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:20
- 「ふあ〜」
ホテルのベッドにだらしなく寝そべり矢口はため息をついた。明日
は朝から地方に飛ばねばならない。明日の事を考えると、体も疲れ
ているし早く寝たほうが良いのに眠れないでいた。
あの後吉澤は普段と別に変わった様子はなかった。矢口の方が
逆に落ち込み、寝不足も手伝ってその後の収録もいつもの調子が
出ず散々だった。
- 220 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:21
- ピリリピリリピリリ
携帯が成り、矢口が面倒臭そうにディスプレイを見るとそこには
「圭ちゃん」と表示されていた。
「けーちゃん!」
矢口は嬉しくてすぐさま電話に出た。保田はいつも矢口が弱ってい
る時に一番気づいてくれて支えになってくれた。
「けーちゃぁぁん!!」
「もしもし矢口?何情けない声出してんのよー」
「うぅ、だって〜」
矢口は保田と会話を交わすと、段々落ち着いてくるのを感じた。
「本当に矢口しょうがないな」
「えへへ」
矢口は恥ずかしそうに照れて笑った。
「
- 221 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:22
- 「あっそれとね矢口、あんた吉澤に感謝すんのよー」
「えっ!?ナンデ」
矢口はイキナリ出てきた吉澤の名前に少々面食らった。
「“矢口さんが元気ないみたいだから話聞いてあげて下さい”って
よっすぃーからメールが来たんだよ。あんたらね、私はもう娘。
じゃないんだからいつまでも私に頼ってちゃダメなのよ?」
保田がブツブツと何か言っているのが聞こえたが矢口の耳にはその
半分も入っていなかった。
- 222 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:23
- 「よっすぃーが、おいらヒドイ事言ったのに」
矢口は感動していた。
「矢口聞いてる?それでね、よっすぃーには矢口に直接聞くように
言ったから!もうすぐよっすぃー矢口の部屋に来ると思うわよ。」
「はっ!?よっすぃーくんの?なんで!?」
「もう、だからね、これからは娘。内の事は娘。内で解決しなさい
って言ってんの!だから吉澤にも気になるんだったら自分で行きな
さいって言ったのよ。」
「えぇーーーーーー!」
「それじゃ、矢口また飲み行くの付き合いなさいよ!じゃあね♪」
保田はそう言ったっきり携帯を一方的に切った。
- 223 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:24
- 「会わす顔が、顔・・・はっメーク落としたんだった!」
矢口は鏡に向かうとメークを始めた。
「あっこの格好も!なんか着なくちゃ」
化粧もそこそこに今度はベッドに起きっ放しになっていた
ジーンズに足を通す。
ピンポーン
「えぇ、もう来たの!?」
慌ててもう片足をジーンズにねじ込む。その勢いで矢口は前につん
のめった。
- 224 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:26
- ドタッバタッドドド、ガチャ
ドアを開けるとそこには予想通り吉澤が立っていた。
「今なんかスゴイ音が・・・」
「あっ大丈夫、気にしないで」
呼吸を整えながら矢口が言う。吉澤が心配そうに矢口の顔を覗き込んだ。
この目だ。
矢口はこのすいこまれそうな大きな吉澤に目が苦手だった。思わず
目を逸らしてしまう。それが吉澤を傷つけていることに気づいてい
たとしても。
「入って、キタナイけど」
「あっここで大丈夫です。あの大したことじゃないんですけど・・・
その何ていうか」
吉澤が非常に言いにくそうに頭をかいた。
その仕草はいつもの飄々としている吉澤から想像がつかなくて矢口
は少しおかしくなった。
- 225 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:33
- 「何笑ってるんですかぁ」
吉澤が口を尖らせる。
「あぁ、ごめん。いやかわいいなぁと思ってさ。」
「矢口さん元気なさそうで心配したけど、なんか大丈夫みたい
ですね。心配してソンしちゃった。」
吉澤ももじもじしている自分がおかしなったのか、開き直ったよう
に笑った。
「何だよそれぇー」
矢口もいつもの調子で返す。矢口はさっきまで落ち込んでいた気持
ちが晴れるていくのを感じた。
- 226 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:38
- 「あの、矢口さん」
吉澤の顔が急に真面目になる。
「もっと頼りたい時は頼って下さい。あの私頼りないかもしれないし
全然圭ちゃんとは比べモンにならないですけど、私の前でくらい
ツライ時はツライ顔してください。」
キッパリといい終わった後吉澤は恥ずかしそうにうつむいた。
「って・・・何言ってんだろ私」
- 227 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:44
- 矢口は吉澤の話を聞きながら吉澤が加入当時のことを思い出していた。
笑顔が下手だったよっすぃー。
あんなにおどおどしていたのに、今自分の目の前にいる彼女と本当
に同一人物だろうか。
「矢口の・・・おいらのグチは長いよ?」
「えっ?」
「泣き出したら止まんないよ?」
「うっ!」
「それでも大丈夫?」
- 228 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:47
- 矢口が遠慮がちに吉澤を見上げる。
「その時は吉澤の胸いくらでもかしてあげます!」
吉澤は花のようにフワッと笑った。
本物の花みたいだと矢口は思った。
- 229 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 22:54
- 「それじゃ、もう帰りますね。」
「うん、・・・ありがと」
矢口の「ありがとう」は消え入りそうに小さい声だったが、どうや
ら吉澤には聞こえたみただった。
「おやすみなさい」
去り際にまた少し笑顔を見せた吉澤を矢口はなんて綺麗でカッコイイ
んだろうと思った。
昨日みたどんな小説のよっすぃーより輝いてみえた。
- 230 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 23:00
- ドクン
「痛ぇ」
矢口は心臓をおさえてその場にへたり込む。
くそぅドキドキいいやがって、うるせぇよ心臓!!
矢口が心の中で毒付く。しかしその顔はしまりなく緩んでいた。
「はぁ、本物にはやっぱ敵わねぇやー」
矢口の片思いはまだ始まったばかりである。
END
- 231 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 23:03
- 終了です。
「やぐよし」のつもりなんですけどちょっと微妙ですねw
批判でもなんでもいいんで感想つけてもらえると嬉しいです。
- 232 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/20(土) 23:06
- >>209には「やぐいし」って書いてあったのに…。
いつやぐいしになんだって楽しみに読んでいただけにガックシです。
- 233 名前:事実は小説より奇なり 投稿日:2003/09/20(土) 23:19
- うわ、とんでもないミスを・・・
すいません。申し訳ないです。
「やぐよし」です。
>>232さん折角読んでもらったのにごめんなさい。
- 234 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/21(日) 16:41
- なかなか良かったですよ。
設定とか造形とかに変なひねりがなくて、楽しくすっきり読めました。
自分、よしやぐ好きですし。
これって続いていくんですかね? それはそれで読んでみたい気が。
それこそ森にでもスレ立てて…って勝手なこといってすみません。
>>232 まあまあ、凡ミスにマジツッコミはしない方向で。気持はわかるけど(自分、やぐいしも好きだし)。
>>233 あまりへこまないでくださいね。これからもガンガってください。
- 235 名前:Like a Peach 投稿日:2003/09/23(火) 01:36
- 好きだと自覚してから数ヶ月。
何か行動を起こそうにも彼女は鈍感だし、第一付き合ってる人がいるし。
部屋でひとり、彼女を思って自分を慰めていたとき、
いつの間に気持ちがこんなに膨らんでしまったのかと驚いたことがある。
最近ではそんな気持ちを通り越して、毎晩泣いている。
彼女というのは、同じグループで一番年の離れたメンバー、村田めぐみのことだ。
- 236 名前:Like a Peach 投稿日:2003/09/23(火) 01:37
- 「・・・はよー」
仕事場に着いてもまだ眠くて、つい気の抜けた挨拶になる。
「あ、あゆみおはよー」
そうあたしに声を掛けたマサオが何か慌てていたのを感じ取ったけど、
気づかないフリをした。
その後ろからひょっこり顔を覗かせるめぐちゃん。
「おはよーしばたくん」
ひとみんはまだ来てないよ。
そう言うめぐちゃんの顔が心なしか赤い。
それを見たときピンときた。
今まで二人がナニしてたかなんて、一番コドモのあたしにだってわかる。
・・・わかりたくもないのに。
喉元に何かがこみ上げてくる。
願っても、彼女は手に入らないよ。そう誰かに笑われてる気がした。
- 237 名前:Like a Peach 投稿日:2003/09/23(火) 01:38
-
きっと今日も家で、同じことであたしは泣く。
目を腫らして仕事に来るあたしを見て、もしかしたら何か言ってくれるかもしれないなんてバカな期待をしながら。
- 238 名前:Like a Peach 投稿日:2003/09/23(火) 01:39
-
今日は一日雑誌の撮影。
衣装は新曲のイメージを大切にした、と説明された通りのセクシーなドレスだった。
こういう時、真っ先にめぐちゃんの格好が気になる自分が少し嫌いだ。
なんだか今日はいつも以上に気分がもやもやしてる。なんでなんだろう?
ああそうか、これって限界が近づいてる証拠なんだ。
- 239 名前:Like a Peach 投稿日:2003/09/23(火) 01:42
- もしその限界なんてのが来たら、あたしは何を彼女にしちゃうんだろうか。
あたしを好きになってよって喚いて彼女を困らせる?
それとも・・・
そこまで考えたとき、自分を呼ぶ誰かの声によってそれを中断させられることになった。
「あゆみ何ぼーっとしてんの?用意できたなら早く行こうよ」
めぐちゃんだった。めぐちゃんにあゆみと呼ばれるのは
随分久しぶりだったと思う。
それに、こんな風に至近距離で会話することも最近は自ら避けていた。
あたしの手首にやんわり絡められている彼女の細くて長い指の感触。
冷たくて、信じられないくらい柔らかい。
- 240 名前:Like a Peach 投稿日:2003/09/23(火) 01:43
- 「う、ん・・・」
おかしなところにアクセントを置いたあたしの返事に、めぐちゃんは一瞬怪訝な表情を浮かべた。
しまった、と思ってフッと下を向くと、彼女の履いているミュールからピンクのペディキュアが覘いていた。
それはめぐちゃんの白い肌にとてもよく似合っていたから、あたしが彼女にプレゼントしたものに違いなかった。
そしてそのペディキュアの色を香りにするならきっとこんなだろう甘い香りが、めぐちゃんから漂った。
- 241 名前:Like a Peach 投稿日:2003/09/23(火) 01:44
- 「めぐちゃん今日甘い匂いする」
俯いたまま、無邪気ぶって。
「んーこの香水ね、この前マサオと買い物行った時買ったの。
あゆみにも似合いそうな香りだね」
「そ、かな・・・」
「・・・あゆみ?どうしたの、どこか痛い?」
顔を覗きこまれて初めて、自分が泣いていることに気づいた。
めぐちゃんの顔が、ぼやけた白とピンクの水たまりに見えて初めて。
- 242 名前:Like a Peach 投稿日:2003/09/23(火) 01:46
- 次の日は久しぶりの休みだから、
今日めぐちゃんのつけていた香水をあたしも買いに行こう。
足には、自分の分も買っておいたおそろいのペディキュアを塗って。
買った場所も香水の名も聞いてなかったけど今のあたしなら
簡単に見つけられそうな気がする。
本当にほしいものは、どうせ手に入らない。
- 243 名前:Like a Peach 投稿日:2003/09/23(火) 01:53
- おしまいです。
メロン、それも柴村が読みたいけど少ない。じゃあ自分が書こうと思って
はじめてみたんですけど柴村のよさがひとつも出てない作品になってしまいました。
柴田さんがやけにジトーッとしてて。
- 244 名前:アナタだけでいい 投稿日:2003/09/24(水) 19:02
- 深く、味わうように口の中を探ってからゆっくりと離れたら、
お互いの唇の間で唾液の糸が引いた。
離れるにつれてそれはすぐに消えたけれど、
濡れた唇に残るその艶が端から零れそうで、あたしはそっと、指で拭い取った。
「…あゆみは、キス、うまいなあ」
拭き取ったあと、頬を僅かに紅潮させて、うっとりした舌足らずな声でそんな風に言われた。
「あたし、あゆみのキスが一番好き」
- 245 名前:アナタだけでいい 投稿日:2003/09/24(水) 19:02
- ――――― むか。
ホントに、なんでこうさらっと、そういうこと言うのかな、このひとは。
誰と比べて、そういう台詞が出るわけ?
あたしとキスしながら、誰のこと思い浮かべてたのよ。
- 246 名前:アナタだけでいい 投稿日:2003/09/24(水) 19:03
- でも、それを口にするのは何だかものすごく悔しくて、
だからって知らないフリが出来るほどオトナの余裕もなくて、
思わずあたしは、彼女の両頬を指先でつまんで、横へ引っ張ってしまっていた。
「…い、イタイ、イタイよ、柴田くん…」
そんな風に、涙混じりの声で言われて、あたしはすぐに手を離す。
引っ張られた頬を両手で撫でさすりながら、彼女は、少し心配そうにあたしを上目遣いで見つめてきた。
「…なんか、怒った?」
「……別に」
ぷいっ、と顔を背けて、カラダごと背を向けて。
- 247 名前:アナタだけでいい 投稿日:2003/09/24(水) 19:03
- 「えっ、え? じゃ、なんでそっち向くの」
「向きたいから」
「そんなの理由じゃないよぉ。ねえ、なに? あたし、何かした?」
彼女が素面で鈍感なのは、覚悟してる。
今更そのことに怒るのも、もうどうしようもないって、判ってる。
判ってるけど。
でも、むかついちゃったもんは、しょーがないじゃん。
- 248 名前:アナタだけでいい 投稿日:2003/09/24(水) 19:04
- 「あゆみぃ」
心配そうな声。
「おーい、柴田くーん」
ちょんちょん、て、あたしの肩を指先で突付いて。
「こっち向いてよぉ」
言いながら、背後からあたしの顔を覗き込むようにして。
心細そうにしぼんでいく声色でそう言われちゃったら、
なんか、あたしが悪いことしたみたいな気分になるじゃない。
- 249 名前:アナタだけでいい 投稿日:2003/09/24(水) 19:04
- 「…怒ってない、よ」
そっと振り向いて告げると、彼女はホッとしたように眉尻を下げた。
「ほんと?」
「うん」
答えて、そのまま上体を彼女の膝元へと倒す。
突然の行動に、彼女は少し面喰ったかのようにホールドアップの態勢。
ゆっくり見上げて、その細くて白い左手首を捕まえて、指先に、キス。
「…怒ってないから、頭、撫でて?」
最初はきょとん、と目を丸くした彼女も、意味を理解したのか、
あたしの言葉が嬉しいと言わんばかりにふわりと微笑んで。
- 250 名前:アナタだけでいい 投稿日:2003/09/24(水) 19:05
- 「ほーんと、甘えん坊だなぁ、柴田くんはぁ」
そうだよ。
あたしは、あなたの前でだけ、コドモになるんだ。
何も知らない、あなたの好きな、あなたの望むようなコドモでいてあげる。
だから、気付かなかったフリをしてあげる。
だからそばにいて。
もう、他の誰のものにもならないで。
「…めぐちゃん、大好き」
「うん、あたしも」
その答えをいつか、違うものにできますように―――――。
- 251 名前:アナタだけでいい 投稿日:2003/09/24(水) 19:07
- 需要がないなら自分で書きます(w
コレ、私の得意技。<に、するなよ(w
お粗末さまでした。
- 252 名前:ポンチ 投稿日:2003/09/25(木) 01:06
- 街の明かりで、星は見えず月が微かに浮かぶ夜空。一部の人間
からすれば一等地らしい場所に立ってるホテルのベランダで柵に
手をかけ、珍しくも無い汚い月を眺めることになった訳は──考え
るのもめんどくさい。
数週間前に月の地主になれるというマネージャーに頼んで買って
もらった権利書を思い出す。
アレはどこにやったっけ。
──目の前に浮かんでいる月は、自分の物だった想像の中の
月よりはるかにみすぼらしいと思う。
夢も何も無い。ただ遠いどこかの話のようで。
手を伸ばせば届くだろうか、小さい自分の身体と、あまりにも遠す
ぎる偽者のような物質。───手にすることができるだろうか。
普段なら馬鹿らしいと思う行動を起こすのは、頭に血が上ってい
るからだと信じたい。
そこに意味などなくて、ただ、それに近づきたいだけ。
- 253 名前:ポンチ 投稿日:2003/09/25(木) 01:07
-
柵に手をかけ、背伸びして、手の平に乗せてみようか。
馬鹿馬鹿しい──やめろやめろそんな無意味なこと──ドンッと
背中を押される。衝撃で延ばされた手は慌てて柵にかかり、上半
身は柵へとぶつかる。目の前に広がる景色は一転、汚い豆粒の街。
「なにすんの」
「死ぬのかと思って」
振り返って聞くと、彼女は悪戯に笑っていて、その瞳は意地悪に
光ってる。
「ふーん」
大した動揺も出せずに、ずるずると柵伝いにコンクリートの床へと
腰掛けた。
世の中はもう、不快な夏の匂いを消し去っていて、変わりに肌を
不快に刺激する微かに冷たい空気を漂わせてる。
クスクスと笑ったまま彼女は、目線を合すように目の前へしゃがみこむ。
「なっちは、ちゃんと後追いするから大丈夫だよ」
冗談なのか本気なのか、どっちにしろ笑えない。微笑を絶やさない
その顔に何を映そうとしてるのか。多分、何かを伝えようとなどしてい
ないのだろうけど。
- 254 名前:ポンチ 投稿日:2003/09/25(木) 01:08
-
散々にまくし立てた後、悲しそうに微笑むだけの彼女に、怒りのや
り場をなくした自分は、頭を冷やすとベランダへでたのは先ほどの
ことで、もうすっかりと冷めてしまった温度を確かめるように、額に
手を当てる。
「あのさー、勝手に殺さないでよ」
ぎりぎりで出せた言葉は、なんとも情けない。
「だってさ、矢口が死なない限り、なっち卒業するもん」
「意味わかんないんだけど」
「わかれ」
「ヤダ」
だからー、と笑みを崩して困ったように彼女は続けた。
「卒業ヤダっていうなら、死んで止めてみせろみたいな?
そしたら、一緒に死ぬからさ」
──わかった?
意地悪にまた笑って首を傾げる。
悔しい。どうしようもない我侭を、簡単に丸め込まれる自分が本当。
「ぐやじい」
その一言でまた嬉しそうに笑う彼女の手を引いて噛み付くようにキス。
吃驚した顔を見て、満足する自分は子供だと思う。
「寒いから中、入ろ?」
自然に浮かぶ笑みもそのままに、手を持ったまま立ち上がると、
膨れたなっちは矢口が先に出たんじゃん、とため息をこぼした。
──おわり
- 255 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:45
-
この板で書かせていただいてます3rdclと申します。
少しだけ自分の書きたいものがありましたので
このスレで発表させて頂きたいと思います。
読みにくい文章ですが最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
ではよろしくお願いします。
- 256 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:47
-
「梨華ちゃんどうしたの?忘れ物?」
番組の収録が終わって、
誰かを待っていたらしい安倍さんが楽屋に入ってきた私に笑いかける。
楽屋のなかにはもう他のメンバーの荷物は残ってなく、
つい一時間前までは、
耳を片方ふさぎながらではないと会話できなかったのが嘘のようだ。
ほとんどスタッフの人たちも仕事を終わらせて帰ってしまったようで
今この空間には、私と安倍さんしかいない。
『いえ、そういうわけではないんですけど。』
実際、何でここに自分がいるのか不思議だった。
少し前に、他の子達とどうでもいい会話をしながら建物を出たのに
安倍さんがまだ楽屋に残っていたことを思い出すと、
矢口さんやヨッシィーに「忘れ物をしたから先に帰って」と
嘘をつき、気が付くとこの楽屋に戻ってきていた。
- 257 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:47
-
「梨華ちゃん、おいしいお菓子あるから食べようか?」
立ったまま、安倍さんを見ている私を不思議そうに見返すと、
小さな子に話かける調子で私を誘ってくれた。
『はい。』
私はその声で我に返ると、返事をして彼女の近くにいく。
安倍さんは、わざわざ立って椅子をひいてくれると、
周りの物をさっさっと片付け始めて、
どこから取り出したのかミニクッションを椅子の上に置いた。
「冷えちゃうといけないからね。
ティーバックだけど紅茶も入れたよ。」
安倍さんは本当に楽しそうな表情を浮かべながら、
目の前に市販のチョコレートの箱と、熱い紅茶が入った紙コップを目の前に差し出す。
私は、そんな表情ができる安倍さんがたまらなく好きだった。
芸能界に入って、いろいろな人の表情をたくさん見てきたが
彼女ほど自然で、魅力的な表情をする人を知らない。
- 258 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:48
-
「ところで梨華ちゃん、時間平気?」
分刻みで用意されているスケジュールを知っている彼女が心配して訊ねてくれる。
『明日はオフなんですよ。』
久しぶりにもらった休日に自然に顔も崩れる。
「梨華ちゃん、やっと笑ったね。
ここ入ってきたときから様子変だったから、なっち心配しちゃった。
あ・・・でも明日って言っても、24時回ってるから明日じゃなくて今日だね。」
安倍さんが鋭い突込みをみせる。
『本当ですね。』
私は少し笑い彼女のおかげで心の緊張がほんのちょっと解けた。
- 259 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:49
-
安倍さんは何か言おうと思ったのか、
私の顔をチラリと見たが結局何も言わず、お菓子の箱に手を伸ばしている。
私も伝えたいことはたくさんあるのだけど、言葉にすることができない。
普段聞こえることのない時計の秒針を刻む音や、
遠くで人の歩く音がうるさいくらいはっきりと聞こえる。
「梨華ちゃん、何で戻ってきたの?」
紙コップの紅茶を飲み干し、「フー」と声をたてて一息ついた安倍さんが沈黙を破る。
『安倍さんとゆっくり話がしたかったからだと思います。』
つい先ほどまで自分でも分からなかった理由を
彼女の笑顔が気付かせてくれた。
安倍さんは驚いた表情を浮かべてしばらく固まっている。
テレビでこういう表情を作るときはあるけど、仲間内で見せるのことはめったにない。
- 260 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:49
-
「そっかー。梨華ちゃんごめんね。
嬉しかったんだけど、想像もしてなくてビックリしちゃった・・・
どうせ待ち合わせか何かのついでかなって思ったべ。」
安倍さんが動揺しているときに出る、
標準語と室蘭の方言が独特の割合で交じった安倍語を使う
『安倍さんでも驚くことあるんですね。』
私は悪戯っぽく微笑んでみせる。
『安倍さんはどうして残っていたんですか?』
「なっちはねー卒業?までに
考えなきゃいけないこと、
忘れちゃいけないことを確認するためにここにいたのかな。」
真剣な表情を一瞬見せたが
「て嘘だよ。
なっちがそんなこするわけないじゃん。
ぼけーってしてたらみんなに置いていかれただけ。」
気恥ずかしくなったのか慌てて三枚目を演じる。
- 261 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:50
-
「でも本当珍しいよね。
梨華ちゃんとこうやって話すのってさー。」
『そうですね。
もう三年以上ずっと同じ時間を過ごしているはずなんですけどね。』
娘としてすごして三年以上、家族や地元の友人以上に仲間達に親近感を覚える。
たぶんそれは、私達が何を考え何を感じたかを
他の誰かに話してもわかってもらえないからだと思う。
普段、あまり口を聞かないメンバーでさえ、その存在が家族以上に大切に思えてくるときがある。
例えば安倍さんの存在はそんな感じで、なかなか話す機会はなかったけど
言葉にできない何か大切なものを彼女と共有できたと思う。
「梨華ちゃんには先輩らしいことなにもしてあげられなかったね。」
安倍さんが、私との記憶を振り返って寂しげに言う。
- 262 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:51
-
『そんなことないですよ。
でも寂しかったのは本当ですよ。
かまって欲しいのに、いつも安倍さんの隣には矢口さんや真希ちゃんが、
なんとか側にいけるようになるかなと思ったら、今度は辻ちゃんや加護ちゃんがいて。
そうしているうちに、下の子が入ってきちゃって・・・・・
本当は私安倍さんに思いっきり甘えたかったんですよ。」
私は、転校する密かに好きだった人に告白するように胸のなかを吐き出した。
顔から火が出るくらい恥ずかしかったけど、
この機会を逃せばもう二度とこんなことを話せる機会がないという思いが
私の背中を後押していた。
「梨華ちゃんの気持ちわかってたんだけどね。」
安倍さんは私の髪をを軽く撫でて、顔を正面に向けさせるとしっかりと私の瞳を見る。
- 263 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:51
-
そうされるていると
何年か前、私が番組の収録が終わったあと、
失敗続きで落ち込んで泣きだしてしまったとき
仲間達の中で安倍さんが一番最初にかけよると「大丈夫だから、ね。」と言いながら
私の頭をずっと撫でていてくれていたことを思い出した。
あとで矢口さんが「そのときねー。なっちこうやって背伸びしてたんだよ。」
と物真似をされて何度もからかわれた。
その度に恥ずかしくて顔を真っ赤にしたけど、
ちゃんと私のことを見ててくれてたんだと思って嬉しかった。
- 264 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:52
-
「やっぱ言い訳はよくないね。」
安倍さんは何か言おうか迷ったようだったけど、
一言そう言った後、妙にすっきりした表情を見せた。
安倍さんには安倍さんの都合があり、
自分のことや周りのメンバーのことで精一杯で、
比較的しっかりものに見える私のことまでなかなか面倒をみれなかったんだと思う。
たぶんそのことを言いたかったと思うけど、
後輩相手に愚痴のようなことは言いたくなかったのだろう。
- 265 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:52
-
「梨華ちゃんは、なっちのこと好きなのかい?」
数十秒の沈黙の後、
突然、安倍さんが自分の疑問をストレートに伝えてくる。
ちょっと考え込んで首を傾げる仕草が、十代初めの少女のようで可愛らしかった。
『口に出さなきゃ分かりませんか?』
私はまるで、映画のワンシーンのような感じで安倍さんに問い直す。
そうでもしないと、普段、「モーニング娘」の石川梨華の仮面を被っている私は
一個人としの本当の気持ちを素直に伝えきれないだろう。
「ごめん。なっち卑怯だね。自分が傷つくことばかり恐れて」
安倍さんは後を続けようとする私の唇に
そっと人差し指をつけると私に頭を下げた。
別に安倍さんに頭を下げられて嬉しいわけではないけど、
なんだかその潔い態度がさわやかな少年ぽっくて可愛らしかった。
- 266 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:53
- 「
「梨華ちゃん、屋上に行こうか?
ちょっと寒いけど。」
上着を羽織ると私と安倍さんは部屋を出てエレベーターに向かう。
途中で何人かのスタッフが
どちらともなく腕を組んで歩く私達を見て驚いた表情をみせていたけど、
安倍さんは例のなっちスマイルで、「お疲れさまです。」と挨拶すると
スタッフの人たちもつられたように、笑顔になって私達に返事を返してくれた。
エレベーターにのって屋上に出ると、想像以上に寒く思わず体を縮みこませてしまう。
「見てごらん、星がきれいでしょ。
この時期だと東京でもねこんなにハッキリと見えるんだよ。」
安倍さんが少し離れた距離から、大きな声で私に話しかける。
『よく知ってましたね。
こんないいところ。私この時間に来るのは初めてです。』
正直こんなに星空をちゃんと見たのは初めてで、あまりの感動に少し興奮している。
私と安倍さんは二人で寄り添うようにして、屋上の隅へ歩く。
安倍さんから伝わってくる体の熱と、
異常に静かなせいか、やけにはっきり伝わる彼女の息遣いが心地よかった。
- 267 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:53
-
「けっこういいでしょ。
なっちね。こういうところで好きな男の子に告白してもらうのが夢だったんだよ。」
私は安倍さんの言葉の意味をとらえようと必死に頭を回転させる。
「私ね。梨華ちゃんのこと好きかもしれないんだ。
自分でも分かんないんだけど。」
安倍さんが白い歯を見せてニッコリと微笑む。
とても私より四つも上の人の表情だとは信じられなかった。
「最初に四期メンバーが入ってきたとき梨華ちゃんのことが一番心配だったんだよ。
マイペースそうなヨッシィー、まだまだ子供で少し我がままそうな辻・加護
そのなかで、変に真面目で神経質そうな梨華ちゃんのことがすごく気になってた。
でも、なっちもその頃は他人のことどころじゃなかったんだけどねー」
安倍さんは両手を後ろで組んで、回れ右をするとフェンスに体を預ける。
- 268 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:54
-
「でもねー。
梨華ちゃんしっかり頑張ってたし、
矢口や圭ちゃんもいたから、なっちが入り込める隙間は無かった。
それにねー。
梨華ちゃんが入ってくる前に本当に好きになった人がいて
人を好きになる辛さを知っていたから
梨華ちゃんに深く関わるのが怖かったの。
なっち梨華ちゃんのことすぐ好きになりそうな気がしたからね。
だからあなたとの距離はずっと埋めようとしなかった。
遠くから見つめているだけでも良かっんたんだ。」
私は安倍さんの告白を聞いて、
彼女がどれだけ自分のことを気にかけていてくれたのかを知ると同時に
安倍さんと腕を絡ませる真希ちゃんや、膝の上に座る辻ちゃん、加護ちゃんを見て
ただ羨ましくて寂しい気持ちになっていた自分が情けなくなる。
- 269 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:55
-
私は思っているだけで自分から何も行動しなかった。
もしアクションを起こしていれば、
今とは違う安倍さんとの関係も築けたかもしれない。
彼女は私の思いに応えてくれないにしても、そのこと自体を馬鹿にするような人間ではない。
私はそのことを誰よりも分かっていたはずなのに何もしなかった。
「だからね。
なっちは梨華ちゃんのこと好きだとか堂々と言えない。
でもすごーく気になる存在なのは確かかな?」
安倍さんは言い終わったあとに大きく息を一つ吐いた。
白い息は一瞬大きくなったがすぐに夜の闇に消えていく。
- 270 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:55
-
「じゃ、戻ろうか風邪引いちゃうと嫌だし、
時間ももう遅いから。」
安倍さんが時計を私に見せるとその針は夜中の二時を指していた。
『私のは聞いてくれないんですか?』
私は安倍さんにだけ、自分の気持ちを吐露させたのは卑怯だと思い彼女の背中に声をかけた。
「梨華ちゃん。
馬鹿だね。私達まだ始まってないでしょ。
それなのに告白も何もありはしないんじゃない。」
安倍さんは、
たぶん照れもあったのだろうエレベーターに載るまで一度も私の顔を見なかった。
- 271 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:56
-
「はー何だかすっきりしたね。」
楽屋に戻ると安倍さんは緊張が解けたのか
急に人懐っこい笑顔に戻ると、ティーバックの紅茶を私に差し出す。
『私は全然すっきりしてないんですけど。』
私はわざと不満げな声を出して、安倍さんに甘える。
「いいの!なっちのほうが生まれたのだいぶ先なんだから。」
訳の分からない理屈をいうと、自分でも可笑しくなったらしく急に笑い出す。
私もその雰囲気につられて、声をたてて笑い出してしまう。
- 272 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:56
-
「でも自分で言うのはなんだけど、なっちと付き合うの大変だよ。」
安倍さんが自分のことをまるで他人事のように言う。
『大丈夫です。三年間ずっと安倍さんを見てきたんですから。
それに、矢口さんや真希ちゃんからもよーく聞いてますし、』
「あの二人なんて言ってた。なっちのこと。」
興味満々といった表情で私に訊ねる。
『えーとですね。
我が強くて、マイペースで、毒舌で、悪戯好きだって
でも可愛くて優しいから安倍さんのこと大好きだって言ってましたよ。』
私は内心しまったと思ったけど、彼女達に聞かされたことをしっかりと伝えた。
何よりそれを安倍さんが望んでいるのはわかっていたし、
表面上の言葉で崩れるほど、私たちモーニング娘の仲間意識は脆くない。
- 273 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:57
-
「あの子たち、本人がいないからって好き勝手言って」
安倍さんは一応ポーズで怒って見せた後
「でも本当のことなんだよねー。」と付け加えて見せた。
『あばたもえくぼって言うじゃないですか。平気ですよ。』
私が慌てていたためか、とっさによく意味の分かっていない言葉を使ってしまう。
「梨華ちゃんそれ意味分かってて使ってる?」
『すいません。私あんまり利口じゃないんでつい口から出しちゃっただけで・・・・』
私が自分の頭の悪さを恥じしろどみどろになって答える。
「大丈夫、なっちもよく意味わかってないから。」
私を励ますように笑うとポンと背中を叩く。
「なっちと付き合うんだったら、もっと強くなんないと大変だよ。
私毒舌だからねー。」
安倍さんの口調から自分で自分のことを呆れているのが十分に伝わる。
- 274 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:57
-
『平気です。安倍さんの全てが好きですから。』
そんな私の言葉に安倍さんはどういう表情をしていいのか悩み、天井を見上げている。
(私は安倍さんのことずっと見てきた。
だから、あなたのことはほとんどわかってます)
という私の思いが込められた言葉だった。
『梨華ちゃんてたまに思い切った行動とるよね。』
安倍さんはそれだけいうと、私の額に軽く唇をつけた。
「でも不思議なもんね。
私がもうすぐ娘からさよならなのに
そのメンバーの梨華ちゃんと新しい関係を築いていこうていうんだから。」
安倍さんは、世の中何があるかわからないとしきりに首を振っている。
- 275 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:58
-
『でもよくコンサートで歌っているじゃないですか、想いは届く、夢はかなうって』
そう言ったものの
あと数える程しか、モーニング娘として一緒に歌えないことに気付いて急に寂しくなる。
今の自分の発言は安倍さんにとって残酷だったのだろうか?
「梨華ちゃん、ありがと」
謝ろうとする私よりも早く安倍さんが笑いかけてくれた。
「そうだね。
モーニング娘とはさよならだけど梨華ちゃんとはこれから始まるんだね。」
安倍さんが希望に満ちた声で自分と私を元気付けるようにつぶやく。
「もう時間遅いね。なっちの家に泊まりにくるかい。
明日は午後から仕事だけど。」
安倍さんは午前三時を伝える時計のアラームが気になったのか、
楽屋から出る準備を始める。
- 276 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:58
-
『そんなこと言って、私を目覚まし時計に使う気ですか?』
「ばれちゃったかー。梨華ちゃん意外とするどいね。」
私の言葉に、安倍さんは一瞬驚いたがニヤリと笑うとすぐに返事を返した。
今まで安倍さんとこんな会話をしたことが
無かったので内心少しビクビクしていたのを読み取られたのかもしれない。
「じゃ、行こうか」
荷物をまとめて電源を落とすと楽屋を出る。
『今から、泊まりに行っても平気なんですか?』
「平気よ。他の子よく泊まりに来るから、パジャマから歯ブラシまで何でもあるんだ。」
安倍さんはそう言うと建物を出るスピードを早める。
- 277 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/28(日) 23:59
-
出口が近付くと、安倍さんの歩みがピタリと止まり私のほうへ振り返る。
「今度、私と梨華ちゃんが腕組んで
楽屋に顔出したらみんなびっくりするだろうね。」
安倍さんはその時のことを想像しているのか、少年のようにわくわくしている。
私と腕を組むというより、
みんなを驚かせるほうに興味があるのは多少複雑なものはあったが
彼女の楽しそうな表情を眺めているとそういうのも悪くないなと思う。
『ええ。でも他の子の焼もちが怖いですけど・・・』
私を睨み付ける矢口さんや、
恨めしそうな顔で眺める真希ちゃんの表情がなぜか鮮明に頭に浮かんでくる。
- 278 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/29(月) 00:00
-
「しょうがないでしょ。なっちと付き合うんだからそれくらい覚悟しな。」
テレビの安倍なつみからは想像できないようなことを平気で言う。
たぶん娘の中でもこんな風に話すのは矢口さんと真希ちゃんだけだと思う。
『なっちすごい自信だね。』
私は意識して、初めて安倍さんのことを「なっち」と呼んだ。
たぶん敬語を使わないで話すのも初めてだと思う。
真希ちゃんは私が入る頃にはもう安倍さんとこんな風に話せたのに・・・・
彼女と自分を較べてつい引け目を感じてしまう。
「なっちはもてるからね。」
安倍さんは得意げに頷いた後、私が言った言葉に気が付き
「あっ」と声をあげる。
「梨華ちゃん、なっちのこと「なっち」て初めて呼べたね。」
それは私が知る限り今までで一番嬉しそうな表情だった。
体全体で喜んでいるのが伝わってくる。
こんな簡単なことであの安倍さんがここまで喜んでくれるとは思わなかった。
- 279 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/29(月) 00:00
-
『はい。安倍さん』
私もそのことが嬉しくてつい元気よく返事をしてしまう。
『あれ、元に戻っちゃた。』
なっちと呼ぶつもりが、意識しなかったせいか
つい普段の呼び方に戻ってしまう。
「梨華ちゃんて本当におもしろい。
いつも見ていた通りの子で本当に嬉しい。」
安倍さんがお腹を抱えて笑いこむ。
本当に安倍さんはよく笑う。
楽屋での矢口さんとの会話は夫婦漫才みたいで笑いが絶えることが無い。
この人たちが、娘のエースであると共にムードメーカーなんだなと実感させたれる。
『そんなに笑うことないじゃないですか。
私も一生懸命なんですから。』
安倍さんが、あんまりにも笑うのでついむきになってしまう。
- 280 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/29(月) 00:01
-
「梨華ちゃんそんな表情もできんだね。」
娘の中ではけして見せない感情のこもった私の表情を見た安倍さんが
感心したように何度も頷く。
『やめてくださいよ。そんな可愛いだなんて』
安倍さんの意外な反応に、怒っていたのも忘れてついボケ役に回ってしまう。
「誰も言ってないでしょ。そんなこと。」
安倍さんの突っ込みが絶妙のタイミングで決まる。
見物人がいないのが残念なくらいの出来だ。
安倍さんも同じことを思ったらしく、
「イェー」と叫びながら私とハイタッチを重ねる。
- 281 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/29(月) 00:01
-
私と安倍さんは誰も居ない建物の玄関ホールで、笑い崩れて動けなくなった。
私達がつくりだした明るい雰囲気もすぐ夜の力に飲み込まれ、辺りには真夜中独特の静けさが再び漂う。
「少し疲れたね。行こうか梨華ちゃん。」
安倍さんはお姉ちゃんのような口調で話しかけると、先に起き上がって私に手を差し伸べる。
私は遠慮勝ちにその手を握り締めるとゆっくりと立ち上がる。
「梨華ちゃんゆっくり行こうね。
モーニング娘の私はもうすぐいなくなるけど、安倍なつみはずっといるから。」
彼女は自分に言い聞かせているのか、それとも私に言い聞かせているのか分からない調子でそっとささやく。
『これからが私達のスタートラインですよね。』
安倍さんが私とはこれから始まると言ってくれたことを思い出す。
「なんかおもしろいね。さよならから始まる恋って・・・」
安倍さんが私を引き寄せる。
私は安倍さんの腕にそっと自分の腕を絡ませる。
- 282 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/29(月) 00:02
-
「梨華ちゃん、ありがとう。」
安倍さんが体を密接してなければ聞こえないほどの小さな声で私にささやく。
「あなたが戻ってきてくれなかったら、
絶対こんな事にならなかっと思う。
あなたが勇気を出してくれたから私は今あなたとこうしていられる。」
安倍さんが、絡んだ腕の手を強く握り締める。
『私も安倍さんが居てくれたから、今まで頑張って来れたんだと思います。』
いつも憧れていた存在の安倍なつみ。
その存在に対していつの間にかアイドルとしてではなく一人の人間として惹かれていた。
この人と一緒に頑張りたい。いつかその隣に堂々と肩を並べられるようになりたい。
その思いが、けして精神的に強いとは言えない自分がここまでやってこれた理由だと思う。
- 283 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/29(月) 00:03
-
「そうかお互いに必要としてたわけなんだね。」
安倍さんは納得したように頷くと、建物の外に出る。
夜はまだ深いが新聞配達のバイクの音が聞こえていて、街がほんの少しづつ活気づいてくるのを感じる。
朝が来るのは嬉しいけど
その日の光が私と安倍さんの思いまでも塵と化してしまいそうで怖かった。
「大丈夫だから。」
安倍さんも私と同じことを思ったのか、あの時と同じように私の髪を撫でる。
『〔さよならから始まる恋〕て言葉何だか不思議ですね。』
安倍さんが言った言葉を私は胸の中で何度も繰り返す。
「なっちが言ったにしては上出来かもね。」
安倍さんは口調とは裏腹に満足気な表情を浮かべてみせる。
- 284 名前:さよならから始まる恋 投稿日:2003/09/29(月) 00:03
-
私はそんな安倍さんを眩しそうに見つめることしかできない。
私はこの人とこれからいろんな思い出を築いていくのだろうか?
それともただの昔の仲間になってしまうのだろうか?
それは自分次第、そして私は後者を望んでいない。
安倍さんが言うようにこれからゆっくりと二人の距離を縮めていきたいと思う。
安倍さんの方を見るとよく使うタクシー会社に電話して車を手配している。
電話をしながら私の視線に気付くと、ニコリと笑ってくれた。
その顔が私のためだけに向けてくれた思うと不思議に嬉しくなった。
「なっち」
私は安倍さんのあまりにも有名な愛称を何度も口のなかで呟いてみる。
私達はまだ何も始まっていない。
私が安倍さんのことを「なっち」と自然に呼べるようになった
その時が本当のスタートラインなんだろう。
------END--------
- 285 名前:さよならから始まる恋---後書き 投稿日:2003/09/29(月) 00:14
-
内容はともかく一日にで書き上げたので疲れました。
レスはどんどん書けるのですが
作品の雰囲気が自分には合わなかったです。
もうすこしコメディータッチのほう良かったのですが
短編だとどうしてもシリアスになりますね。
カップリングはマニアックな、なちりかでした。
うーん。この二人のツートップを最後に見てみたい。
では最後まで読んでくださったかた
いましたらどうもありがとうございました。<(_ _)>
発表する場を用意していただいたおかげで自己満足になりました。
では失礼します。
- 286 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/29(月) 01:05
- や、いいですよコレ。
なんか切れそうな細い糸をお互いびくびくしながら手繰り寄せているような
緊張感が。
なちりかってのがヨイ。てかこのふたりならでは。
いいお話をありがとう。
- 287 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/29(月) 07:40
- いやーまじでよかったですさよならから始まる恋。なちりかって
今まであまり読んだことなかったんですけどやばいですね最高です。
できましたら続き期待しております。おつかれさまでした
- 288 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/30(火) 22:13
- 「さよならから始まる恋」よかったですよ。
なちりかけっこー好きだし、しっとりした感じもイケてます。
続編なんかを期待しちゃったりします。
- 289 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/01(水) 00:00
-
>286さん
すごく的確な表現ですね。
そのレスをみて初めて自分が言葉にできないでいた
書きたかったことが少し分かりました。
>287さん >288さん
気に入って頂けたようで嬉しいです。
続編をという声があって、とても光栄なことなのですが
短編という条件で、書けた作品なので難しいかと思います。
(本人も書きたいのですが、だれるよう気が・・・・)
予想外に評価して頂いて、天狗になっていますが
少しでも読んでくれた方の心に残る作品が書ける様になりたいと思っています。
では長文レス失礼しました。<(_ _)>
- 290 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/04(土) 00:04
- いしよしを書かせて頂きたいと思います。
どうぞ、お付き合いくださいませ。
- 291 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:04
-
『あなたが好きです。 三年C組 石川梨華』
たった、それだけ。
それだけしか書かれていない手紙。
- 292 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:05
-
その手紙をもらったのは、丁度三年前。中学三年生で、受験戦争の真っ只中にいた頃。
石川梨華ちゃんってのは、隣のクラスの子だった。
地黒で、可愛い顔してて、なんかフェロモンみたいなのが全身から出てる子。
男子なんか、いっつも噂してた。
『あいつ、エロいカラダしてるよな』とか、『でも絶対処女だよな』とか。
…いっつも思う事なんだけど、男子よ。お前らの話してる内容ってのは、大体が『余計なお世話』だぞ。
それはさておき。
あたしも同じ女として、いっつも『いいなぁ〜』って思ってた。
だってさ。
女らしくて、可愛くて、モテモテで…んでもって更に成績まで優秀なんだもん。
あたしなんか逆立ちしても入れないよーな学校が余裕で合格圏内だったらしいし。
しかも人望も厚かったから、生徒会長なんかもやっちゃってて。
- 293 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:05
- …そんなワケで、石川梨華ちゃんってのは有名人だった。
あたしも友達といっつも、『石川さんくらい完璧だったら、人生楽しいのにね〜』なんて話したりして。
だけど、去年のちょうどこの時期。
あたしは、そんな『憧れの的』の石川さんから手紙をもらった。
下駄箱に入ってた、ルーズリーフの切れ端。
そこに書かれた、『あなたが好きです。 三年C組 石川梨華』の文字。
最初に訪れたのは、驚き。
文面を見詰めながら、あたしはしばらく頭の中が真っ白になって…動けなかった。
次に訪れたのは、疑問。
あたしは今まで一度も、石川さんと喋った事もなかった。もちろん、面識もない。あたしが一方的に知ってるだけで。
しかもあたし、女だよ?石川さんと同じ、女なんだよ?って。
最後に訪れたのは、怒り。
…あたしは受験で苦しんでるのに。志望校に受からないかも知れないって、苦しんでるのに。
- 294 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:06
- きっとからかってるんだろう。余裕綽々な秀才・石川さんは、こうやってお馬鹿なあたしをからかって遊んでるんだ。
・・・・・・今考えて見ると、あたしもずいぶん精神的に荒んでたんだと思う。
焦りと不安で、どうにもならない状態だったんだ。
…そんな状態のあたしは…
その手紙を、みんなに見せびらかした。
…誓って言う。
あたしは、まともな精神状態じゃなかった。
もう、どうにもならない位に追い詰められてた。
日に日に下がって行く志望校のランクや、覚えるべき単語や公式の量に…押しつぶされそうになってた。
・・・・・・そうでもなければ、あんな事はしなかった。
『うわっ!!何コレ!!きもーい!!』
『ヤダ、石川さんってそーゆー趣味あったんだー!最悪ぅー!!』
『しかもこれじゃ、何が言いたいのかわかんないじゃん!!馬鹿じゃない!?』
- 295 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:06
- そしてその話題は、男子にも飛び火する。
『うわっ!なんだよそれ!!…石川さんから吉澤にラブレター!?マジ!?』
『レズってやつ!?信じらんねー、あの石川さんが!』
『でもさー、女同士ってどうヤるんだ?』
話はだんだんと卑猥な方向に向いて行く。
…そんなクラスメート達の会話を聞きながら、あたしははっと我に帰った。
そして『自分は何て事をしてるんだ!』と、ようやく気付く。
だけど、フォローをしようとする前に・・・・・・。
『あの、卒業文集の写真の事で…』
運が、悪かった。
タイミングも悪かった。
・・・・・・石川さんが、ウチのクラスの教室に入って来た。
その後の事は、用意に想像がつくでしょ?
教室中、大騒ぎ。
石川さんは目に涙を溜めて、真っ赤な顔で何か言ってた。
クラスメート達は、はやしたてるようにきゃーっとかうおーっとか叫んたり。
ニヤニヤしながら石川さんを質問攻めにしたり。
石川さんの目から、大粒の涙がぼろぼろとこぼれた。
だけど、クラスメート達は止まらない。…逆に、残虐性をあらわにし始めて。
女子も男子も、卑猥な言葉で彼女を傷つけて。
- 296 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:07
- ・・・・・・そして、石川さんは逃げ出した。
何人か、追いかけようとしたけど…すぐに先生が来て、足を止めさせられた。
その日から卒業式まで、石川さんは学校に来なかった。
あたり前、かな。
あんな事があっちゃ、来たくても来れないでしょ。
…あの後、あたしは…。
みんなに踏まれて、くしゃくしゃになった手紙をこっそり拾った。
その、丸くて小さな文字を見て…。
しかもその文字が、ちょっと震えているのを見て。
泣きたくなった。
- 297 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:07
-
あれから三年。
あたしはあの後無事に、第一志望だった私立の女子高に合格した。今は高校三年生だ。
あの時と同じ、受験生。
…石川さんは、高校に通ってないんだそうだ。
噂によると、大検を受ける為の予備校には通っているらしいが。
「ふぅっ。」
気合を入れて、その店の前に立つ。
ここの本屋さんで、石川さんはバイトしてるらしい。
がーっと音を立てて、自動ドアが開く。
…この三年、悩みに悩んだ。
どうしても、謝りたかった。
いくら追い詰められていたとは言え、あれは…あたしが元凶だ。
きっと、傷付いただろう。…だからこその、この進路なんだろう。
…きっと、人生を狂わせた。
「いらっしゃいませー。」
その声に、はっと顔を上げる。
聞いた事、ある。このアニメ声。
最後に聞いたのは、泣き声だった。…だけど、しっかり覚えてる。
「…石川さん…。」
声をかけると、彼女はこちらを振り向いた。
そして、驚いた顔をする。
・・・・・・三年ぶりに見た彼女は…綺麗になっていた。
- 298 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:08
-
石川さんがバイトを終えるのを待って、一緒に喫茶店に入る。
オーダーを済ませると、お互い何も言えなくなった。無言のまま、俯く。
あたしの前にコーヒーが、石川さんの前に紅茶が置かれると…石川さんはぽつりと言った。
「…三年ぶり、って言って、良いのかな。」
可愛い声でそう言われ、あたしは思わず苦笑する。
やっぱり。石川さんの心の傷は、癒えてないんだ。
何故かそれがはっきりわかった。
「…あの、石川さん。」
「・・・・・・何?」
思い切って、声を絞り出す。
「あの・・・・・・あたし、謝りたくて…来たんだ。」
「・・・・・・。」
膝の上で拳にしてる手が、細かく震えだす。
「…あの時は、本当にごめん。」
「・・・・・・。」
「あたし、追い詰められてて…マトモな精神状態じゃなくって…。」
「・・・・・・。」
「いやっ、その、言い訳するつもりじゃなくて、その…本当に、ごめん!!」
そう言って、頭を下げた。
ああ、どうしよう。怖くて頭が上げられない。
石川さんがどんな表情をしてるのか、見当もつかない。
それが余計に怖くて…ますます頭を上げられなくなって行った。
- 299 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:08
- すると。
「・・・・・・っぷ。」
「へ?」
「…っはははははっ!まだ、そんな事気にしてたの?」
笑い声に驚いて顔を上げたあたしに、石川さんは言う。
「そんなの、もう完全に吹っ切れてる。」
「・・・・・・へ?」
ぽかんとするあたしに、石川さんは言う。
「だってあれ、間違いなんだもん。」
「・・・・・・ま、間違…い…?」
「うん、そう。」
石川さんは、何も入れてない紅茶を口に運んだ。
「…あれ、あの手紙ね、確かにわたしが書いたモノなんだけどね。」
「う、うん。」
「吉澤さんの下駄箱に入れたのは、わたしじゃないの。」
「・・・・・・は?」
「コーヒー、冷めるよ?」
言われて、震える手でコーヒーカップを取る。
…だけどそれが暖かいのか冷たいのかも、今のあたしには判別できない。
「…休み時間に、ね。友達と、息抜きでおしゃべりしてたの。」
「へ?あ、う…うん。」
「その時、『好きな人』の話になって…それで、『高校行ったら、彼氏作りたいね』とか言ってて。」
- 300 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:09
- 石川さんは、ティーカップを両手で包み込んだ。
「…それで、告白する時はどんな感じでするか、とか…かなりリアルに話してて。」
「・・・・・・。」
「…その、『未来の彼氏』へのラブレター、誰かに盗まれちゃって。」
あたしは、がっくりと両膝に手つく。
「…で、その『誰か』が…悪戯であたしの下駄箱に手紙を入れた、と…?」
「うん。そうみたい。」
からから、と明るく笑う石川さん。
「…だから、実は『お互いに被害者』だったのよ。わたし達。」
「・・・・・・。」
くすくすと笑っている。
だけど、その言葉でもわかる。…やっぱり、傷付いたんだね。石川さん。
『被害者』って言うのは、あの時…クラスメートが言った言葉。
『こんなキモい手紙もらって、よっすぃー可哀想!よっすぃーは被害者だよ!!』
今でも鮮明に思い出せる。…あたしでさえそうなんだから、石川さんなんてもっとだろう。
「…でも、謝らせてよ。あたし、確かに悪い事したんだし。」
「良いよ、別に。…わたし、感謝もしてるから。」
「え?」
石川さんは、にこっと笑って見せた。
「そりゃー…恥ずかしくて悔しくて、恨んだ時もあったよ?だけど、感謝もしてるの。
あれがあったおかげで、わたしは自分のやりたい道に行けたから。」
- 301 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:09
- 「・・・・・・どう言う…?」
「わたしね、小さい頃からずーっと優等生だったの。」
石川さんの笑顔は、すごく綺麗だ。
「…根が生真面目なのか、何でも先生や親の好む方向にやっちゃうの。」
「・・・・・・そうなんだ。」
「だから、一度で良いから『脱線』をしてみたかったの。」
「・・・・・・脱線…?」
「うん。親や先生の敷いたレールから、ね。」
石川さんの、強い目と目が合う。…反射的に逸らしそうになるけど、なんだか引き込まれるみたいに逸らせない。
「…あれがあったおかげで、わたしは誰に文句を言われる事なく『脱線』できたの。」
「・・・・・・。」
「高校に行く事にも、疑問を感じてた。
…親や先生の言いなりになって、親や先生の決めた学校に通って…。
どこかで『脱線』できなければ、わたしは一生わたし自身の事を嫌いながら生きてたかも知れない。」
「…石川さん…。」
「だからね、ある意味感謝もしてるの。」
キラキラと輝くような笑顔を浮かべて、石川さんは言った。
「だから、謝る必要なんかないのよ?」
・・・・・・あたしは。
不覚にも、涙を流してしまった。
- 302 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:10
- 「…だ、だけど…ッ!!」
「・・・・・・。」
そんなあたしの頬に、石川さんは触れてくれた。
「…ずっと…吉澤さん、気にしててくれたんだね…。」
こくりと頷く。
そう。…あの事はずっと、あたしの心の中に残ってた。
当然の事だ。あたしが引き起こしちゃった事件なんだから。
…だけど、今の石川さんの話を聞いて…許されたような気分になって。
それで涙が止まらないんだ。
石川さんは、次から次へと流れ出るあたしの涙を、丁寧に指で拭いながら言った。
「…それだけで、十分だよ。」
その言葉で、更に涙が止まらなくなる。
「よしよし。」
そう言いながら、石川さんは…あたしの涙が止まるまで、そうしていてくれた。
- 303 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:10
-
それから、数時間後。
あたしは重いまぶたをちょっとはずかしく思いながら…でも、軽くなった心で電車のホームに立っていた。
「…あ、あたし、品川方面行きだから。」
「わたしは新宿方面…それじゃ、ここでお別れだね。」
石川さんはにっこり笑って、あたしに言った。
「もうすぐ、大学受験だよね?頑張って。」
「石川さんだってそうでしょ?」
「まぁ、ね。そうなんだけど。…お互い頑張ろうって意味。」
そう言ってる内に、あたしの方の電車が来た。
「あ、来たね。」
「うん。」
「それじゃ。」
まるで、永遠の別れのようなその響き。
…そりゃそうだ。だってもともと、そんなに仲良くなかったし。
あの時の事もカタがついたし…これで、あたし達の間の関係性はなくなる。
扉が、開いた。
石川さんに笑顔を見せて、電車に乗り込む。
ホームで、石川さんが笑いながら手を振ってる。
- 304 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:10
- 『…ドアが閉まります、ご注意下さい。』
音楽が鳴り終わり、アナウンスが流れた。
扉が閉まる。
その直前。
あたしは何故か、電車から飛び降りてた。
「「・・・・・・。」」
お互い、ものすごい驚き顔をしていた。
そりゃそーだ。あたし自身でさえも、こんな行動に出るとは…夢にも思ってなかった…。
「よ、吉澤…さん…?」
「う、うん…。」
「電車…行っちゃったよ…?」
「う…ん。」
呆然と見詰め合う。
唐突に。
本当に唐突に。
気付いてしまった。
自分の恋心。
「・・・・・・あのっ!!」
「は、はい!?」
どきんどきん、心臓が鳴り響く。石川さんに届いてるんじゃないかってくらいに大きく。
「…で、電話番号と、メールアドレス。」
「は?」
「…き、聞いてなかったから。」
「…はぁ…。」
- 305 名前:三年後の謝罪 投稿日:2003/10/04(土) 00:11
- 「それからっ!!」
人もあまりいない、夜の駅のホーム。
…もうちょっとしたら、残業が終わったサラリーマンで埋め尽くされるんだろう。
だけど、今は二人きり。
「…そ、それから…ッ!!」
「・・・・・・?」
「石川さんの、次のお休みっていつ?」
「え…?」
石川さんの頬が、ちょっと赤く染まったように見えるのは…目の錯覚?
あたしは言った。
「…また、会いたい。今度は・・・・・・謝るためじゃなくて。」
「・・・・・・え…っ?」
「思い出を、作る為に。」
なんとなく、右手を差し出した。
そしたら石川さんは、おずおずと握り返してくれた。
おわり
- 306 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/04(土) 00:11
- どうも、ありがとうございました♪
- 307 名前:ななし読者 投稿日:2003/10/05(日) 14:19
- よっすぃの心理描写、凄くよかったです!
お姉さんで芯の強そうな石川さんも(・∀・)イイ!!
未来が明るい方向へ行きそうなラスト、幸せな気分になれました!
- 308 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/06(月) 14:57
- >>>307ななし読者様
感想頂けるなんて思ってなかったので、すごく嬉しいです!
ありがとうございます!
- 309 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/07(火) 22:23
- 最近ハマリ気味なのの愛を書かせていただきます。
- 310 名前:彼女が望んだ愛しかた 投稿日:2003/10/07(火) 22:26
-
帰りどっか寄らない?
あぁ…ごめん。ちょっと家の用事あるんだぁ。
そっか。
うん。また誘ってねぇ。
温和なタレがちの目を細めて微笑まれ、一切を気づかない振りをして頷いた。
「ここまできちゃいましたか」
ばからしい。この空気、大嫌い。
断られたことよりバレバレの嘘をつかれたことに傷つく。
背中に冷や汗をかいて楽屋をあとにするオレンジ色の髪。
心優しい同期の友があたしを傷つけない為に慣れない嘘をついたのだと思うと、
また胸の奥がつんとした。
- 311 名前:彼女が望んだ愛しかた 投稿日:2003/10/07(火) 22:27
-
何か食べてかない?
ごめん。私も今日は駄目なの。
いかない?
ごめん。私もー。
ねえ。
ごめん。ごめん。ごめん――――。
別に謝ってくれなくていいよ。
惨めじゃん。
取り残されたあたしは、みんなが置いていった意味のない科白に一人寄り添う。
周りに誰もいなくなって、笑えなくなって、誰にも必要とされていない
現実で自分の存在価値に自信が持てなくて。
- 312 名前:彼女が望んだ愛しかた 投稿日:2003/10/07(火) 22:27
-
友達、仲間、笑顔、自信、色々な大切。
あたしが失くしたもの、あたしから消えていったもの。
それらが何処にいったのか知っている。
でも、あたしはその場所には行きたくない。
それは彼女に跪くのと同じだから。
愛ちゃん。
呼ばれてはっと振り返る。
帰らないの?
……別に、今から帰ろうかと思ってたとこですけど。
敵意むき出しで答えたあたしに彼女は八重歯を覗かせた。
- 313 名前:彼女が望んだ愛しかた 投稿日:2003/10/07(火) 22:29
-
「何がおかしいんですか」
「あたしは何もおかしくない」
「全然楽しくない」
「返して」
「原因はあなたなんでしょう」
歪んだ感情が濁流みたいに押し寄せてくるのに、どうして?
彼女の憎たらしい笑みを眩しく感じてる。羨ましいと思ってる。
じゃあ、一緒に帰ろっか。
彼女の声で告げられた時、あたしは自分が彼女からの救いを待っていた
のだと反射的に悟った。
正直ありえないと思った。
だって、あたしは彼女に…。
麻琴もあさ美ちゃんも里沙ちゃんも、みんな彼女と戯れはじめ、
あたしは遠目からずっと眺めるだけで駆け出さなかった。
あたしは彼女をずっと眺めていた。
息が止まるくらい強くずっと。
- 314 名前:彼女が望んだ愛しかた 投稿日:2003/10/07(火) 22:30
-
でも。
怯えるように呟くあたし。
不思議そうに睫毛を瞬かせる彼女。
すぐにふにゃりと崩れる表情。
いいから行こ。
あ…っ。
手を掴まれてちょっとびっくりした。
それから。
傍に彼女がいてくれて、あたしは久しぶりに声を出して笑えて、
人の温もりを感じることで自分がここにいてもいいのだと思った。
「辻さん」
そっと心の中で彼女の名をなぞったら、不意に彼女と目が合った。
あたしのことは何でも分かるんだよとでも言うように、
彼女が唇の端を上げてあたしに短い視線を送る。
妙に大人びたその瞳の色に、あたしは「あたし」を失くしてしまい、
あたしの全部は彼女のものになった。
いや、最初から彼女のものだったのかもしれない。
そんなものかもしれない。
おわり
- 315 名前:ナッツ 投稿日:2003/10/09(木) 21:31
- 「みきたんっ!!」
ドアが勢いよく開いた。
部屋には、美貴と亜弥ちゃん以外いないから、相手も当然、亜弥ちゃん。
その亜弥ちゃんは、キッチンでお茶を組んでいた美貴の肩をすごい力で掴んでる。
「な、な、なに」
噛み付いてきそうな亜弥ちゃんの勢いに、どもる。
「みきたん・・・浮気したでしょ」
「は?」
「だ〜か〜ら〜、浮気!!わかる?」
うわき、ウワキ、浮気。
美貴が知ってる限りの意味は、ひとつだけ。亜弥ちゃんはズイズイと押してきて、美貴をソファに座らせた。
「も〜、ひどい! 浮気しなくたって、こんな可愛いアタシが・・・」
「ちょっと待って」
「なにさ」
「美貴が、誰と浮気したのさ」
まず、ソレをハッキリさせなければ。
- 316 名前:浮気なミキーパイ 投稿日:2003/10/09(木) 21:33
- 「みんなと!」
「・・・は?誰と?」
「みんな!ハローの人達!」
トボケないでよ!っと怒る亜弥ちゃん。
「っていうから、さっきまでウチラ、仲良く話してたじゃん。なんで、突然?」
「忘れてたの!悪い?」
「・・・ぉぃぉぃ」
「なんかいった?」
「う、ううん、別に。でも、なんでいきなり浮気なのさ。」
「だってさ、矢口さんと抱きついてたし」
「ああ、ハロモニでね。
「ののちゃんとチュー」
「ああ、シャボン玉ね」
「斉藤さんとプリクラ」
「こないだね」
「あいぼんに抱きついた」
「ハロモニね」
「それから・・・」
「もーいいです。」
いつまで続くかわからなくて、慌てて止める。
- 317 名前:浮気なミキーパイ 投稿日:2003/10/09(木) 21:35
- こんなに浮気して、どうするのさ! 浮気なハニーパイじゃなくて、浮気なミキーパイじゃん!」
「ナニソレ…、ってかさー、よく見てるね」
「当たり前じゃん・・・、 美貴たんの番組は、あたしだってそれなりにチェックしてるんだからっ!」
「え…まじ?」
「とーぜん! うわ!」
少し照れる亜弥ちゃんに、愛しさを感じて思わず抱きしめる。
- 318 名前:浮気なミキーパイ 投稿日:2003/10/09(木) 21:37
- 「バカ!心配しなーいの」
「でもでも、みきたん、モテるじゃん」
「まあね」
「!」
偉そうに言うと、亜弥ちゃんはム、っと睨んだ。
「そりゃあさ、美貴、付き合いいいし、そこそこ可愛いし?」
「・・・」
「モテるのも無理ないよねぇ〜?」
「・・・」
小さく頷く、亜弥ちゃん。
- 319 名前:浮気なミキーパイ 投稿日:2003/10/09(木) 21:37
- 「でも」
「?」
「美貴には、ちゃんと本命がいるんだ、よっ」
「ひゃあ!」
鼻をツンと押すと、亜弥ちゃんはマヌケな声を出した。
「わかったぁ?」
「・・・うんっ!!」
にっこりと笑う亜弥ちゃん。
ただ、その笑顔があまりにもニヤケてるから。
「亜弥ちゃんとも、限らないケドねっ」
少しだけ、イジワルする。
「・・・もー!みきたーん!」
「あはは、痛いって!」
ポカポカ子供みたいに叩く亜弥ちゃんは、すごいマヌケなニヤケ顔。
でも何気に、そんな顔も好きだったり…………しちゃいます。
- 320 名前:浮気なミキーパイ 投稿日:2003/10/09(木) 21:38
- ――― 数日後 ―――
仲直りした美貴と亜弥ちゃんは、2、3日たったある日、テレビを一緒に見ていた。
「これからねー、好みの男性、っていう話題になるんだよー。」
「どーせ亜弥ちゃん、美貴とのプリクラ見せたりするんでしょ〜?」
「さあね〜」
そう言った亜弥ちゃんは、「ニヒヒ…」と怪しげな笑みを浮かべてる。
そして、言ったとおり話題は「好きな男性」へ。
『チャラチャラしてても裏ではちゃんとしてる人が…』
『おっちゃんっポイ人が…』
ちょっと待って。
これって…
「ねえ。」
「んんん〜〜?」
「これってさ・・・間違いなく美貴のこと?」
「正解! チャラチャラしてても、ちゃんと、いるんだよねぇ??」
まだまだ怪しげな笑みで詰め寄ってくる亜弥ちゃん。
もう、素直に認める。
「そうですよっ! 美貴は、亜弥ちゃんが、大好きですよ〜!」
「みきた〜〜ん!!」
「抱きつかないの〜!!」
なんだかんだ言って、今日もラブラブだったり、しちゃってます。
END
- 321 名前:ロッキーズリラックション 投稿日:2003/10/12(日) 21:29
-
「絵里?」
いた。ようやく見つけた。ライブ前の喧噪から少し離れた衣装ダンスの間に。
周りには他のメンバーの姿も無く、忙しげなスタッフさんが時折通り過ぎるだけだった。
「なにやっとー、ほら。お昼ご飯食べんと?時間なくなるよ。」
絵里が挟まっている合間に私が首を出してそう言うと、絵里の目が少しだけこちらを向いた。
「んー。」
「いや、んーじゃ無しに。」
私が絵里に当たるライトの間に立ちふさがった為に出来た、影のせいで。
絵里の表情がよく見えない。
「とにかく、おいで。こっち。」
身体を引っ張り出そうと伸ばした手を、絵里はいやいやと逃れるようにカニ歩き。更に奥へ。
「…おいっ。」
「んんん……。」
ちらっと顔を上げた様子が分かったけれど、それでもやっぱり顔はよく見えなかった。
なんとかしてその顔をよく見ようと、私が眉を寄せて細目になると、
絵里の肩がびくっと震えたのが分かった。
……顔が怖かったですか、そーですか。
段々不機嫌になってくる顔を私は隠しもせず、衣装ダンスを軽く右手で叩いた。
- 322 名前:ロッキーズリラックション 投稿日:2003/10/12(日) 21:30
-
「亀井ー、亀井絵里!さっさと出てこんとぉ、もう一緒に帰ってやらんし、遊んでもやらん!」
「……怒りんぼ。」
「聞こえとーよ!」
更にばんばんと衣装ダンスを片手で叩くと、もぞもぞと絵里がこちらへと近付いてくるのが分かっ
た。入り口付近に私が待ち構えているので、その半歩手前で止まる。顔をようやくこちらへ向けた。
「リハ前だから、緊張ほぐしてるんだもん。」
頼り無げに口元をむにゅむにゅっとさせて話す。絵里は先輩達の前だと比較的いつでも笑顔だが、
自分やさゆみらの前ではそうでもなかった。こういった不安げな顔や拗ねたような表情をよくする。
「だからって、こんなとこでほぐさなくてもいいじゃん。
絵里1人だけ姿見えなかったら、心配するけん。」
手を伸ばして、ようやく絵里の肩に触れながらそう言うと。絵里はまた、んー。と唸った。
「心配、した?」
「……やぁ。私はそれほどしとらんけど。」
何となく正直に答えるのがおっくうになって、私は素っ気無くそう言う。
絵里の顔がまた微妙に膨らんだ。
- 323 名前:ロッキーズリラックション 投稿日:2003/10/12(日) 21:32
-
「いいから、もうお昼行こ?絵里の分無くなっちゃ……っつーか、なにまた奥に行っとう!?」
カサカサと、妙に様になってる横歩きで奥へ奥へと向かう亀井絵里。
属性、タンスガ二。
っていうか、カサカサって動きゴキブ…いや、そんなのはどうでもよか。
私は慌てて右手を突き出し、ボクサーさながらの右フックな勢いで絵里の腕を捕まえた。
「…痛い。」
「はぁはぁ…つ、疲れる……もううう。いい加減にしないと。怒るよ。」
絵里のが年上だろアンタ、的な睨みをきかせながら無理やり腕を引っ張る。
腕力なら自信がある私は、絵里のほっそい身体を半分外へと連れ出すことに成功した。
「……痛いよ、腕…。」
外の蛍光灯に、というか急に明るい場所へ出たせいで眩しいのか、絵里の細めな瞳が、
更に細められた。その様子が近所の黒猫を思い出して、私は知らずに口元が緩む。
「痛いって、どこが。ここ?そこ?」
ふざけて腕を軽く拳で緩く突付くと、絵里がむくれた顔のままやり返してきた。
左手でぽかぽかと私を叩いてくる。
しつこくも、まだ身体半分はタンスの合間に挟まったままで。
「精神集中するのに、ここが1番いいんだから。れいなは知らないんだよ。」
「知らないよぉ、そんなの。知りたくもなか。」
笑って私が絵里の手を捕まえて指を絡めると、絵里は諦め悪く指をぎゅうぎゅうと強く手の甲に
押し付けてきた。
- 324 名前:ロッキーズリラックション 投稿日:2003/10/12(日) 21:33
-
「いいよーだ、別に。私だけの秘密だもん、精神集中の仕方。そうするんだから。
れいなにも、もう教えない。」
FUNでさゆに写真撮られてから、あんたの秘密は全国区だよ。
意地悪な言葉をなんとか口内で押し留めて、
私は強情な反抗を繰り返す左手をもう片方の手で包み込んだ。
「言ってたよね、そういえば。あ、押されてるなぁ。ぐらいが好きって。」
「んう、ゆった。」
やけに偉そうに答える絵里。どうしてこう、自信ありげな顔を先輩メンに見せられないのか。
心でこっそり思いながら、私はその顔にふっと息を吹きかける。
「じゃぁさー、こっちきなよ。やったげるけん。」
吹きかけられた息に、くすぐったそうに狭い場所で身を捩りながら絵里が出てくる。
私は絵里の左手を握ったまま、衣装ダンスの前へと引き出した。
そこで一旦手を離し、不思議そうに顔を傾ける絵里の身体を挟むように両手を壁について、
そのまま覆い被さるように身体を緩く押し付けた。
「おしくら、まんじゅー。」
「…ひゃうっは、っはは。くすぐったいよう。」
少しだけ私より背の高い絵里の笑い声が、耳元を心地良く撫でる。
私も一緒になって笑いながら、絵里の身体にじゃれ付いた。
- 325 名前:ロッキーズリラックション 投稿日:2003/10/12(日) 21:34
-
「絵里さぁ、絶対小さい頃これ、おしくらまんじゅー好きだったでしょ。」
「うん、好きだったあ。っていうかぁ、おしくらまんじゅうって…何年かぶりに聞いたし。」
「なら、今度から心落ち着けたくなったらこれやんなよ。こっちのが良くない?
これなら私、絵里のこと探す手間もないし、さゆと一緒にやったらみんなで緊張ほぐれるかも
しれんし、協力するけん。……や?」
つらつらとまとまらない私の言葉に、しばらくして絵里の優しい声が聞こえた。
「……や、じゃないよ。ありがと。」
顔を少し離して視線を横にずらすと、口元を緩めたいつもの笑顔が私を見返していた。
癖のない、艶やかな黒髪から覗く切れ長の瞳とか、ふにゃふにゃした幼さの残るその笑みに、
胸が少しだけきゅっとした。
あぁ、絵里って美少女だなぁ。
そんなことをぼんやり思う。友達になって、過ごす時間が多くなるとそんなことはすっかり忘却して
しまうけれど。可愛い対決してるさゆと絵里の間にはさまれる自分としては、二人の美少女さ具合
なんて忘れてた方が精神的に楽なんだろうけど。
- 326 名前:ロッキーズリラックション 投稿日:2003/10/12(日) 21:36
-
「れいな?」
絵里の顔をまじまじと見つめたまま、思案顔をしていると。私の頬を絵里に軽く突付かれた。
「なーに、かたまっとー?」
「…何、口真似してんの。なんでもなかーっ、と!」
「や……っ、ん。」
両手を壁から離し、最後に身体全体で力いっぱい体当たりをかましてから、私は絵里から離れた。
「さ、本気で。もうそろそろ行かんと。ご飯食べる時間無くなるけん……どうしたの、絵里?」
少しだけ俯いて。もじもじ。といった形容が1番似合うような仕種で、
両手を胸の前で交差しながら絵里は言った。
「胸、さわった。」
「………?」
「さわった、思いっきり。…れいなのえっち。」
「………。」
私は視線を落として、右手を2、3回握ったり開いたりを繰り返す。
そういえば、服越しにやけに柔らかいものが手に触れたような…。
「…ってえ、ええええ?え、違うよ。触ろうとしたんじゃないし、わざとじゃないし、
それに絵里ってさゆよりは小さい方だよね…ってうわはっ。」
ゴツ。
いつか見た、岡女修学旅行で矢口さんが岡村さんにグーパンチをしたあの時の光景が。
そっくりそのまま私の脳内でフラッシュバックしながら、私は左おでこを押さえた。
- 327 名前:ロッキーズリラックション 投稿日:2003/10/12(日) 21:37
-
「ぐ、グーでか……。え、絵里待ってよ、どこ行くの。そっち違うよ、食事場こっちこっち。」
私を思いっきりグーパンチした絵里の後ろ姿を追いかけて、私は駆け出す。
その背中はよく分からないけど、確かに怒っていた。
でも私が追いつくのを、待ってる風にも見えた。
二人が恋を自覚するのは、もう少し先のお話。
- 328 名前:ロッキーズリラックション 投稿日:2003/10/12(日) 21:40
-
終わりです。
田中さんの方言は、かなりテキトウです。申し訳ない(汗)
6期好きなので、また書けたらいいなぁ。
- 329 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/12(日) 22:51
- ロッキーズ、大変良いです。
このコンビ最高。田中と亀井、二人がすごく生き生きしてて、微笑ましい。
これで連作してほしいくらい。
六期の良い短編をありがとう。ぜひまた書いてください。
- 330 名前:Good Night, Lover 投稿日:2003/10/13(月) 00:35
- 3年ほど前に建てられたばかりの小さなアパートに村田めぐみは恋人と暮らしている。
1年前、大学を辞めて家を出た。
柴田あゆみと一緒にいようと決めたからだ。
一緒に暮らしている恋人というのはあゆみのことで、彼女は病気を患っている。
「ただいまー」
買い物から帰っためぐみが、ベッドで寝ているはずのあゆみに言う。
微かだけれど聞こえる返事にほっとする。
キッチンに荷物を置きに行くと、テーブルに置かれている電話の
留守電ランプが点滅していることに気づく。
『もしもしーマサオです。
ひさしぶりに電話したのになんでいないのー?
たまにはみんなで会わない?ちょうどもうすぐひとみんの誕生日だよ』
- 331 名前:kamyu 投稿日:2003/10/13(月) 00:36
- 田亀っていいですよねぇ・・・。
なんかすっごく癒されました!
この話の続き物とか読んでみたい・・・。
それぐらい良かったです!
また6期で書いてください!
- 332 名前:Good Night,Lover 投稿日:2003/10/13(月) 00:37
- マサオとひとみんというのはあゆみとめぐみの共通の友人だ。
それぞれ年も性格もバラバラだがもう長い付き合いになる。
留守電を聞き終えると、めぐみはあゆみの様子を見に寝室に入った。
いつもは部屋を覗くとあゆみは大抵本を読んでいるが、今日は違った。
熱心に携帯電話に文字を打ち込んでいる。
「メール?」
ベッドに腰掛けながら尋ねる。
「おかえり。んー、違う。」
じゃあ、なんなの?とめぐみが聞くと、
あゆみは特徴的な前歯を覗かせて嬉しそうに笑った。
- 333 名前:Good Night,Lover 投稿日:2003/10/13(月) 00:38
- 「内緒です」
「気になるよ」
「内緒なの。ねえさっき、声聞こえた気がするんだけど」
めぐみの沈黙を気にもしない様子であゆみが言った。
「ああ、留守電・・・マサオから。」
「マサオなんて?」
「ちょうどひとみんの誕生日が近いから今度みんなで会おうって」
「そう・・・。あ、ひとみんといえばね」
「うん」
「その前に、めぐちゃんとなりに寝て?」
しょうがないなぁ、とめぐみはベッドにもぐりこむ。
ベッドに入った瞬間、あゆみの香りに包まれる。
いつも少し、クラクラする。
- 334 名前:Good Night,Lover 投稿日:2003/10/13(月) 00:39
- 「・・・夢をみたの。
気分がよくなって、めぐちゃんと出かけた夢。
あたしはひさしぶりにめぐちゃんと外に出られたと思ってすごく嬉しかったのに、
めぐちゃんはひとみんの誕生日プレゼント買いに行きたいっていうの。
夢なのに誕生日覚えてるなんて変だねぇ。
それであたしが怒って、ケンカになって。でもすぐ仲直りした。
その日はずっと楽しかった。でも怖かった。
病気の人が急に気分がよくなるのは、最期が近づいてるからなんだって。
体が最後の力を振り絞って、病魔との闘いに勝とうとするから。
カフェに入るんだけど、デザートに食べたタルトのカスタードを
あたしがスカートに落としちゃって、
慌ててる間にめぐちゃんはあたしを残してどっかいっちゃった・・・
すごくすごく、怖い夢だった」
「忘れなよ。あたしはどこにもいかない」
「でも怖い。怖くてたまらない」
- 335 名前:Good Night,Lover 投稿日:2003/10/13(月) 00:40
- あゆみには、隣に寝ているめぐみが本当はとても遠くにいるように思えた。
「手、握ってめぐちゃん」
ベッドが大きいので、確かにお互いの間隔には余裕がある。
このベッドはめぐみが両親に家を出ると言ったときに半ば無理やりに買い与えられたものだ。狭い部屋に収まりきるかどうかわからなくて文句を言ったけれど、すぐにあゆみに使わせようと考えた。
「そろそろ寝なね。あたしまだすることあるから」
ベッドから離れようとするめぐみの手をつかみ、ひきとめるあゆみ。
「行かないで」
そのままめぐみの手を引いてひきよせ、唇を寄せる。
「まだ、いてよ」
- 336 名前:Good Night,Lover 投稿日:2003/10/13(月) 00:41
- 次の日の夜。
めぐみはベッドから起き上がり、そっと寝室を出る。
キッチンに行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
扉を閉めるとき、前にあゆみが冷蔵庫に貼り付けた二人の写真が見える。
今よりずっと顔色のいいあゆみと、目線を外して写っている自分。
そのときの様子がまるでフラッシュバックのようによみがえり、いつの間にか涙を流していた。涙はそのまま止まらず、めぐみはミネラルウォーターのペットボトルをテーブルに置き、声を押し殺して泣いた。
部屋から、あゆみがめぐみを呼ぶ。
暗闇なので、泣いたことはバレない。
- 337 名前:Good Night,Lover 投稿日:2003/10/13(月) 00:42
- 「ごめん。目、覚めちゃったね」
「ううん。ねえはじめて会ったときのこと話して?
あの晩、ひとみんの友達が企画したパーティで会って、はじめて口きいた。思い出させて」
「んー・・・わかった。あたしあの時行きたくなかったの。
でも仕方なく、気に入ってたパンプスを履いて行った。
あゆみは美貴ちゃんと来てた。前にあたしと会ったことがあるってあゆみ言ったけど、あたしは覚えてなかった。美貴ちゃんに見つめられて、居心地がよくなかった。」
「はは、だってあの時美貴ちゃんめぐちゃんのこと狙ってたもん」
- 338 名前:Good Night,Lover 投稿日:2003/10/13(月) 00:43
- 「だからお酒を飲みに行った。あゆみもついてきたね。
あゆみはあたしを梨華ちゃんに紹介した。梨華ちゃんに『恋人なの?』って聞かれて、
あたしはなんて言ったらいいかわからなくて下を向いた。
あゆみは笑いながら『ううん。でも村田さんに対して計画があるんだ』って言った。覚えてる?しばらくして傍に来た美貴ちゃんに質問攻めにされたけど、あたしは酔ってた。
早く、あゆみと二人になりたかった」
「それから?」
「あゆみを家まで送った」
「それから?」
「覚えてるんでしょ?」
「キスしたね」
「そっちからね」
あゆみが微笑む。
めぐみは泣きはらした目であゆみに小さく手を振った。
「おやすみ」
あゆみはめぐみに背中を向け、広いベッドに小さく体を丸める。
「おやすみ」
END
- 339 名前:あとがき。 投稿日:2003/10/13(月) 00:45
- おしまいです。
この話はあるオムニバス映画のなかの一篇を元ネタに
柴村で書いてみました。
- 340 名前:kamyu 投稿日:2003/10/13(月) 01:00
- >331のものです。
すみません。
割り込んじゃいました・・・。
- 341 名前:石川さんと辻ちゃん 投稿日:2003/10/13(月) 15:00
- (石川さん視点)
- 342 名前:石川さんと辻ちゃん 投稿日:2003/10/13(月) 15:01
- 共演者の方やスタッフさんたちに挨拶を済ませ、楽屋に戻ろうと廊下に出たとたん、
誰かが勢いよく腕を組んできた。
多少驚きつつも、私たちにはよくあることなので特に違和感もなく、相手を確認しようと横を見る
───よりも早く、彼女はしゃべり出していた。
「なに、あの紺ちゃんのっ!」
あたしの腕を結構な力で掴みながら、ののは怒っていた。
- 343 名前:石川さんと辻ちゃん 投稿日:2003/10/13(月) 15:02
- 「え、なに、どした?」
「梨華ちゃんのことっ、気持ち悪いとか言ってたじゃん! 何あれ!」
え、・・・ あぁ、さっきの ・・・
今出てきたばかりのスタジオでの番組収録中で、あたしは後輩の紺野にイジラレた。
説教が熱くて保田さんに似てきただとか、リアクションが気持ち悪いだとか。
近寄らないで欲しいとまで言われた時はさすがにムッとして、
一瞬カメラを忘れそうになったけど・・・
まあ、いつも矢口さんやよっすぃに使われてるネタみたいなもんだったから、
たいして気にもしてなかった。
みんな笑ってたし。ののだって・・・ 笑ってたよねぇ?
- 344 名前:石川さんと辻ちゃん 投稿日:2003/10/13(月) 15:03
- 「え、のの、どうしたの? 紺野と仲いいのに、そんな」
「だぁって、ムカつくじゃん! なんかさぁ」
こんな言い方するなんて、喧嘩でもしてたのかな?
「何言ってんのよぉ。あたし、そんな気にしてないよ?」
「っでも!」
「いつものことだよ。ののだって言うじゃん。」
このコ、ほんとどうしたんだろ?
「ののは同期だからいいの! 紺ちゃんが言うなっつうの!
ののは紺ちゃんよりずうっと前からいろんなことよく知ってるもん。
絶対のののが仲良しだよ!」
「うん、それはそうかもしれないけど・・・」
- 345 名前:石川さんと辻ちゃん 投稿日:2003/10/13(月) 15:04
- って、聞いてんの?
さっきから、腕は痛いぐらい掴まれてるんだけど、ぜんっぜんこっち見ないし。
ずっと、前の方にらんでブツブツ言ったり、声荒げたり。
一人でイライラしてる、って感じ。
「大体さぁ! ・・・・・・ ちょっとユニットでも一緒だからって、急に馴れ馴れしくしすぎなんだよ。
ちゃん付けで呼んだりとかさぁ。なに、それ!・・・ ズルいよ。」
いや、あれは・・・
「ののだって、一緒のユニットやりたいよ!」
って、あれ? ・・・ え、もしかして・・・
- 346 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/13(月) 15:05
- 「せっかく同じ組なってもさぁ 。さくら・おとめっつったってほとんど一緒じゃん。
紺ちゃん組違うくせにひっついてったりすんだよぉ?」
・・・ 妬いてる? のの、妬いてんの?
「のの・・・ 」
「うぅー、やっぱダメ。許せない。のののが先に好きだったんだよっ!」
「あ・・・ 」
か、かわいい!
やっぱ、妬いてんだぁ。そっかそっか。だよねぇ〜。
普段は生意気な口きいたりするけどさ。
なに、大好きなお姉ちゃん盗られちゃいそう、って?
いやぁん、かわいすぎ!!!
- 347 名前:石川さんと辻ちゃん 投稿日:2003/10/13(月) 15:06
- 「のの、だいじょ 」
「ののの“ミキティ”なんだからねっ!」
「ぶ。 ・・・ って、え?」
え? のの?
- 348 名前:石川さんと辻ちゃん 投稿日:2003/10/13(月) 15:08
-
- 349 名前:石川さんと辻ちゃん 投稿日:2003/10/13(月) 15:09
- かくして、愛すべきちっちゃな同期の、その熱い視線の先には、
紺野に腕をとられて楽しそうに楽屋へ向かう、
6期と呼ぶには知名度もキャリアもありすぎる彼女の
さわやかな笑顔があったのだった。。。
のの、あたしも、・・・ 妬いちゃうよ?(泣)
- 350 名前:石川さんと辻ちゃん 投稿日:2003/10/13(月) 15:11
- おしまい
途中、sage 忘れちゃった(泣)
- 351 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:04
- なんか、最近、
「麻琴ー、ジュース買いにいかない?」
「あ、行きます行きますー」
娘。の中で、
「まこっちゃん、はいこれ、前言ってたCD」
「わーっ、ありがとうございますぅ!」
麻琴の人気が、
「はい、麻琴、あーん」
「あーんっ」
急上昇中。
- 352 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:04
- 別にいやとかそういう気持ちは全くないんだけど、なんていうんだろ。
取り残された、っていうのが、一番近いかもしれない。
前まで、ずっと傍にいた麻琴。
前まで、ずっと隣で笑ってた麻琴。
最近、その笑顔を独り占めしてないことに気付いた。
(…まことって、母性本能くすぐるタイプだしなぁ…)
ほとんどのメンバーが麻琴をかわいがってる。
その目は、もうお母さんが子供を見る目に近い。
だから、心配ないって、そんなこと判ってるんだけど。
(…心配)
だって麻琴ってば、誰にでもあのふにゃけた笑顔見せるんだもん。
- 353 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:05
- 今日、何回目かなんて数えられないくらい番目のため息をついて、当の本人へ視線を向ける。
予想通り、今日のお相手は藤本さん。
6期のはずなのにあたしたちより先輩のような雰囲気の藤本さんも、最近麻琴がお気に入り。
麻琴の頭を犬みたいに撫でながら、よーしよし、なんて、ペット扱い。
「まこっちゃん、ほんっと犬みたいだね〜」
「そぉですかぁ〜?」
「絶対、前世、犬だね。占ってみたら?」
「あー、そーですねぇ、どっか知ってます?」
「へ?何を?」
「あの、そういうので有名な占い師さんとか」
「っははは!まこっちゃん、占い師さんに本格的に占ってもらうのぉ?!」
「えっ、ちがうんですかぁ?」
「じゃなくてー、インターネットとかでさー、あるじゃん、そういうの」
「あっ、おー、はい」
「そういう簡単なものが…まこっちゃん、また口開いてるー」
「えっ!?おぅっ、すいませーんっ」
必死に口を閉じる麻琴を見てまた笑う藤本さん。
藤本さんが麻琴で遊ぶ理由だって判る。
判るけど………
ポケットから携帯を取り出して、「今から電話かけにいきます空気」をかもし出しながら、静かに楽屋を出た。
- 354 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:05
- 「はぁ〜…」
最近、すっかりお世話になってるこの手口。
着信履歴だって、リダイヤルだって、麻琴と家族がほとんど。
待ち受けは麻琴の家で撮った2ショット。
ストラップは麻琴とおそろで買ったぶたのやつ。
こんなに好きが溢れてる携帯だけど、それが麻琴に見られることもないから、気付かれることもない。
携帯を閉じても、あたしの好きが途切れることはない。
ついでに、ため息も途切れることはない。
- 355 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:05
- 自販機の音だけが聞こえてくる。
さっきまで聞こえてた麻琴の声も、今じゃ遠く背中のうしろ。
(―――麻琴の声だけ、聞きたいなぁ)
他の誰かとしゃべってる声じゃなくって、
他と誰かとわらってる声じゃなくって、
『あさ美ちゃんっ!』
あたしとしゃべってる、麻琴の声。
(…最近聞いてない、かも)
背もたれのない黒い椅子に寝そべる。
意外と近い天井に入った線を数えても、憂鬱は消えない。
(…あたし、ほんと麻琴好きだなぁ)
目を閉じて、浮かんだその顔に、少し笑ってしまった。
- 356 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:06
- 「何笑ってんの?」
同時に頬にかかるくすぐったい何か。
あたしには今の状況がすぐに察知できた。
ぱっちり目を開けると、予想通りの麻琴のアップ。
「あっさ美ちゃーん?」
起き上がろうにも麻琴の顔がすぐ目の前にあるもんだから起き上がれない。
逃げたくても逃げられない、こういうのなんていうんだっけ――――
「へんなあさ美ちゃん」
窮鼠猫を噛む―――違うか。
頭の中で追い詰められたねずみが猫にかみついてる絵を想像してたら、ふいと、そのくすぐったい感触がなくなった。
なんだか拍子抜け。
ちょっと物足りない感を感じながら、体を起こした。
- 357 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:06
- 「何してんの?こんなとこで」
「えーっと、電話」
「お母さんに?」
「うん、帰り、ちょっと遅くなりそうって」
別に嘘じゃない。
これからホントにかけようとしてるから。
「ふーん」
「麻琴こそ、藤本さんはいいの?」
言ったあとに気付いた。
ちょっと刺々しい言い方だったかもしれない。
あからさまに敵視した言い方。
いくら鈍感な麻琴でも、さすがに気付いたかも…。
「あー、うん、やっと離してくれたよー」
…やっぱ鈍感だった。
- 358 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:07
- 「あたしってそんな犬っぽいかなー、耳探されちゃったよー」
そう言えば、髪の毛ちょっと乱れてる。
藤本さんが楽しそうに麻琴の髪の毛をわしゃわしゃ探ってる姿が目に浮かんだ。
――――つい何ヶ月か前まで、そこの位置はあたしだったはずなのに。
- 359 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:07
- 「あさ美ちゃん?」
「――麻琴さ」
「ん?」
「最近、人気上昇中って感じだよね」
「え?」
あ、やばい、なんかとまんない。
言葉のブレーキがみつかんない。
「飯田さんとか安倍さんとか、お姉さんチームには元からかわいがられてるしさ、
4期の先輩とか、藤本さんだって麻琴のこと、よく面倒見たりするし、
ハローのメンバーだってそうだよ、メロンさんとかからもよくなでなでしてもらったり、
最近じゃハロプロワイドで中澤さんとかも―――――」
やっと見つかったブレーキは、麻琴の開いた口。
あんまりにも見事にぽっかり開いてたので、言葉も思わず止まった。
- 360 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:07
- 「…麻琴?」
「あさ美ちゃんがそんなにいっぱいしゃべるの、久しぶりに聞いたー」
「………あのねぇ」
さっきあたしが言ったこと、ちゃんと聞いてた?
今日だけでギネスに載るかもしれないってくらい番目のため息。
「あー、だめだよぉ、ため息ついたら幸せ逃げちゃう」
「…幸せなんて持ってないよ」
「そーんな悲しいこと言わないでさー」
「…じゃあ、麻琴が幸せにしてよ」
「いいよ?どうすればいい?踊る?」
「いや、踊りは…」
相変わらず開いたままの口。
あたしの言ってる意味、ほんとに伝わってないみたい。
- 361 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:08
- 「ねー、じゃあ何?」
「―――、いい」
「え?」
「もういいよ」
「えー、なんだよそれー」
だって、あたしが「キスして」とか言ったってしてくれないだろうし、
かと言って麻琴の踊りで幸せになるかって言ったら、そりゃちょっとはなるかもしれないけど、きっとため息分くらい回復はできないだろうし。
それでもうるさい小川麻琴さん、15歳、かぼちゃ好き。
「ねー、ねー、幸せにしてあげるってばぁー」
「あーっ、もーうるさいなぁ、何でもいいよ、麻琴が考えたのでいい」
ひらひらと振った手で「勝手にして」をアピールした。
隣でちぇーってわざとらしく悔しがる声が聞こえた。
- 362 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:08
- (…椅子の上でトランスとかやったらどうしよう……)
そんなこともやりかねない隣の人。
自販機に向けてた視線をこっそりゆっくり麻琴の方へ向けると。
真剣な顔。
「まこ…」
「あさ美ちゃん、ちょっとこっち向いて」
いつのまにか長椅子の上で正座してる麻琴。
真剣な麻琴の気迫に押されて、「あ、はい…」なんて言いながら素直に上半身だけそちらに向けた。
な、何、この雰囲気?
いつもと違う、なんかちが――――
(口、閉まって…!)
その閉じた口が近付いてきて、思わず目を閉じた。
- 363 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:08
- ****
- 364 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:08
- 「っ、まっ、まこっ…!!?」
「……あー…ごめん」
「ふぇぇ?!?」
状況に頭と体温と顔色がついていかない。
えっと、整理すると、
あたしがため息ついてたから麻琴が幸せを足してくれることになって、
で、その幸せの足し方が…きっ、きっ…
「今っ、き、キス…!」
「…これじゃ、あたしが幸せになっちゃう」
「え…?」
「ごめんね、なんか…我慢できなくって」
麻琴の顔がだんだん赤くなってくのが判る。
きっと、あたしも麻琴と今おんなじ状態。
顔色も、温度も、心拍数も、幸せも。
- 365 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:09
- 「…麻琴」
「…はい」
「…ありがと」
「え?」
「…幸せ、足してくれて」
「え…?」
「今ので、今日ついたため息で逃げた幸せ、みんな取り戻せた…かも」
慣れない距離がなんだか照れくさくて、語尾もあいまいになっちゃう。
麻琴の目が直視できなくって、でも、その代わり、視界に入った手を握った。
「…麻琴」
「うん?」
「…昨日の分も」
「へ?」
「…昨日逃げちゃった分の幸せも、足して?」
おとといの分も、その前の日の分も、ずっとずっと。
麻琴の幸せで、足してってよ。
- 366 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:11
- 麻琴の唇と、そこから聞こえる「好き」が、今までに逃げちゃった幸せ全部取り返してくれた。
きっと、今からは、幸せを「取り返す」んじゃなくって、「溜めてく」んだ。
ふと目が合って、照れくさそうに笑う麻琴の口が、へにゃりと開いた。
開いてても閉じてても、麻琴の口はあたしに幸せをくれるね。
終わり
- 367 名前:こんまこ 投稿日:2003/10/14(火) 05:13
- 以上です。
久しぶりに書いたので文章ガタガタ…
お目汚し申し訳…オチが弱(吐血
時代はモテまこ。(言い逃げ
- 368 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/14(火) 20:40
- モテまこキタ━━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!
>時代はモテまこ。
はげ同。そうだよ時代は今モテまこを欲してるんだよ(*´д`*)
- 369 名前:ヤキモチ 投稿日:2003/10/21(火) 19:07
- ヤキモチ
「まこっちゃ〜ん」
「…………」
私の声が聞こえてるくせに、わざと無視して、拗ねてるまこっちゃん。
「まこっちゃんってば〜」
「…………なに、あさ美ちゃん」
「さっきから、無視しないでよー」
「あさ美ちゃんが悪いんじゃん。」
やっと話してくれたのに、まこっちゃんの声はまだ怒ってた。
理由はわかってるし、誰が悪いかもわかってる。
- 370 名前:ヤキモチ 投稿日:2003/10/21(火) 19:11
- 多分、私のせい。
というか絶対に私のせい。
まこっちゃんがいつも私に気持ちを伝えてくるから、私は少し欲張りになってしまって、他の人と少し
長く話していただけなのに、ヤキモチなんかしたから。
「仲よさそうだったね。」なんて、イジワルを言ったら、まこっちゃんも言い返して来て
軽い言い争いになって、今もそのまま。
「ねえ、まこっちゃん…、ごめんね。許して?」
言いながら、腕を絡めると、まこっちゃんは私の手を握ってくれた。
「……次は、許さないからね。」
「…なんていって、結局、許しちゃうクセに。」
「なっ…!」
ボソリと呟く私に、まこっちゃんは怒ったのか赤くなった。
でも、その顔はさっきとは違って、照れてるみたいな赤い顔だった。
「へへ。」
「もうっ!」
俯いてしまったけれど、少しだけ見える赤くなった顔を見て、私の頬も自然に緩んでしまう。
「次のオフ、2人でどっか行こうね。」
まこっちゃんは返事の変わりに、私のほっぺにキスをした。
- 371 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/21(火) 19:16
- もう少し長くすればよかった…、と、あげてから反省しました。
上のこんまこ作者様と同じく、モテまこ気味です。
- 372 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/29(水) 02:30
-
今、連載中のものが、なかなか書けないので
前回の「さよならから始まる恋」(このスレの255-284)
の続きを書き上げました。
よろしければお付き合いください。<(_ _)>
- 373 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:33
-
「梨華ちゃん、おはよう目が覚めた?」
コンサートツアー先のホテルで同室になった安倍さんが、私に声をかけた。
時計を見ると針は午前六時で、まだ集合時間まで時間があった。
『おはようございます。私もっと早く起きたかったんですけど・・・・・・』
コンサート期間中で体が緊張しているのか寝起きにも関わらず、頭も体もよく動く。
「あの日」から、まだ二週間も経っていない。
私達モーニング娘は
全盛期に較べると人気が無くなってきたとはいえ、
細かな仕事が増えているのか、かえって忙しくなったぐらいで、
あれから安倍さんとは数えるほどしか顔を合わせていない。
二人きりの時間などはとても取れる状態ではなかった。
コンサート期間中の空き時間も、他の仕事にまわる機会が多く
彼女とこうして過ごせる僅かな時間がとても貴重だった。
- 374 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:36
-
「しょうがないよ。寝たの日付が変わってからでしょ?
まだ時間あるからもう少し休んでな。」
『でもせっかく無理言って部屋を一緒にしてもらったんですから。』
私達が遠征で何処かに泊まるようなときは、管理しやすいのか必ず二人一組の相部屋だった。
普段は、年の近い子達と一緒になることが多かったけど、
少しずつ古い仲間が消え、新しいメンバー達が入ってくるうちに
私もいつの間にか、年長組みの一員になりかけていて
安倍さんと同室でも不自然ではないほどになっていた。
「矢口がうるさかったからね。
でもあの子は、なっちと一緒の部屋になりたいんじゃなくて
梨華ちゃんに意地悪したかっただけだから、
気にすることないでしょ。」
安倍さんは、背中を向けて厚いカーテンをゆっくりと引く。
薄いレースからは期待した朝の光がなく、
隙間から見える空模様から、今日の天気があまりよくないことがわかった。
ほとんど一日の大半を建物のなかで過ごすのだから、
太陽が出ていようが、出ていまいが関係ないと思うのだけど、
気分的には晴れているほうが良かった。
- 375 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:41
-
「7時半集合だっけ?」
私達の意志とは関係なく流れていく刻に、安倍さんは少し寂しそうな表情を見せる。
『あと一時間ちょっとありますから・・・』
私はベットから出て、部屋に備えてある小さなテレビの画面で時刻を改めて確認する。
「シャワー浴びてきたら、なっちはもう入ったから。」
『はい。そうします。』
私は、シャワーの温度を熱めに設定して体に残った疲れを落とし、
お気に入りのシャンプーと石鹸をたっぷりと使って、体を洗う。
今日も一日長くなりそうだ。
シャワーの蒸気に包まれながらそんなことを考えていた。
- 376 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:42
-
私が一応の身支度を整える終わると、
安倍さんがルームサービスで軽食を注文していてくれていた。
「梨華ちゃん、すっきりしたみたいだね。」
安倍さんが、私の分の紅茶をカップに注ぎながら笑いかける。
『はい。シャワーを浴びてやっと生き返ったという感じで
昨日はすぐ寝ちゃいましたから。』
そう言いながら、安倍さんが昨日私が部屋に帰ってきたときには
まだ居なかったことを思い出す。
「そうか・・・・
仕事とはいえハードだもんね。
そのぶんお金貰ってるから文句は言えないけど。」
そう言ってちょこっと舌を出す。
そんな仕草がすごく自然で可愛いなと思うと同時にすこし羨ましい。
『そういえば安倍さん、昨日遅かったんですか?』
私はさっき頭に浮かんだことをそのまま口に出す。
- 377 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:44
-
「「卒業」した後の準備とかでね。ここのところいろいろね。」
安倍さんが、楽しそうにどのサンドイッチをとるか目配せしている。
睡眠時間はどう考えても私より短いはずなのに、疲れているそぶりは少しもない。
『おいしそうな、サンドイッチですね。
パンも他の所と較べて違うみたいですし』
「うん。ここのはおいしいんだよ。
なっちはいつもこれが楽しみなんだ。
パンにしっかり味がついていて、具もたっぷり入っていてね。
梨華ちゃん今まで頼んだことなかったの?」
『普段は朝食とらないんですよ。』
理由は敢えて言わずに私は笑って見せる。
自分が体型を維持するためにあがいていることを、口に出したくない。
それは私のささやかな意地だった。
- 378 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:45
-
「これからは、ちゃんと食べるんだよ。」
安倍さんはそんな私の気持ちを分かってくれたのか、ただそれだけを優しく言ってくれた。
『はい。』
私は素直に頷く。
心の中で(安倍さんと一緒の時だけ)と付け加えながら。
時計替わりにつけているテレビの音は切ってあるので、
周りは心地の良い静けさに包まれている。
あともう少し時間が経てば、文字通り眼のまわるような忙しさになるのが信じられないくらいで
「嵐の前の静けさ」という言葉がピッタリなくらいだった。
「梨華ちゃん食べようか?」
気が付くと安倍さんは飲み物を注いでくれていただけではなくて、
サンドイッチやサラダ、ローストビーフ、果物をお皿に取り分けてくれていた。
彼女なりに気を使っているらしく、
レストランのような見栄えのいい盛り付けではなかったけど
一生懸命考えくれたんだなと伝わるような丁寧な形だった。
- 379 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:47
-
安倍さん、面倒見がいいんですね。』
私はそんな安倍さんの気持ちが嬉しいのに
なぜだか素直にありがとうという言葉が口から出てこない。
「今頃気付いたの?」
安倍さんは当たり前でしょ?というように私の顔を見る。
『私にそうしてくれるのは、珍しいんで 』
我ながら、可愛気のないセリフだと思うけど
どうしても口から出てしまった。
たぶん、安倍さんに可愛がってもらっている他のメンバーへの嫉妬心と
一緒にいられる残された時間は少ないという気持ちから出てしまった言葉だと思う。
その結果、頬っぺたを叩かれて怒られる覚悟は出来ていた。
安倍さんは、叱るときはそれくらいのことを平気でやる人だということを私は知っている。
- 380 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:48
-
「これからは、いっぱい構ってあげるからいじけないの。」
安倍さんは白い歯をみせて笑うと、柔らくそんな私を包み込む。
『ごめんなさい。』
安倍さんが運んできた穏やかな風が、私のかたくな心をそっと消し去る。
私はまだ過去のことを引きずっているようだ。
何で今まで自分の気持ちを素直に告げられなかったのだろうということに・・・・
(そんなこと考えても何にもならないのに。)
私はこんな自分の性格が時々とても嫌になる。
「まあ・・・・
いっぱいっていうのは無理か?」
安倍さんはバツの悪そうに頭をかいてみせた。
- 381 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:49
-
「それより、おいしそうだね。早く食べよ。」
安倍さんは私の気持ちを切り替えさせるように明るく言うと
「いただきます」と手を合わせてサンドイッチに手を伸ばす。
私は久しぶりにこの時間に食事をとる。
安倍さんが勧めるだけあって、本当においしくて
今まで私が食べてきたサンドイッチは何だったんだろうというくらいの味だった。
安倍さんの方を見ると
こっちまで幸せになるような表情でサンドイッチを頬張っている。
『これすごくおいしいです。』
私は味をもっと上手に言いたかったけど、
あいにくそれだけの言葉の表現能力を持っていなかった。
「本当かい?梨華ちゃんがそう言ってくれてなっち嬉しいな。」
そんな私の言葉に安倍はしっかりと反応してくれる。
- 382 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:49
-
「これはねー。
特別な思い入れのある物だから
おいしいと感じてるの、なっちだけかなって思ったんだ。」
安倍さんは半分ほどに千切ったパンを自分の眼より高く上げると
そこからパクリとかぶりつく。
そんな子供っぽい仕草が年上の同姓とは思えないほど可愛らしかった。
『思い入れですか?』
私は安倍さんのことを少しでも知りたいと思い聞き返す。
「うん。
デビューしたての頃ね。
けっこう忙しいし、
スタイル維持するためにもダイエットしなくちゃいけないで
大変だったんだ。
ある時ね、ラジオの収録で夜遅くなって心も体もボロボロになっているときに
明日香がここのサンドイッチ買ってきてくれて一緒に食べたんだ。
その時は本当に嬉しかった。」
安倍さんはその時の気持ちが分かるような輝いた表情を浮かべる。
- 383 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:53
-
(そうだ。これが私が本当に好きだった「なっち」だったんだ。)
娘のなかで実質上安倍さんのパートナーだった真希ちゃんがいなくなるあたりから
徐々に見せなくなっていた「なっち」の本当の表情を私は久しぶりに思い出す。
最近浮かべる安倍さんの表情は笑っていても、
怒っていても何処か醒めた印象を受けた。
(なるようにしかなんないね。)
口にも態度にも安倍さんはそんな気持ちを、
少しも出していなかったけど、
仕事の合間に時々みせる陰のある表情は、半分諦めが入った気持ちを表しているように思えた。
少なくとも、真希ちゃんと隣で歌っていた頃の安倍さんはそんな陰りは少しも感じさせず
真夏の午前11時の太陽のように、もっと高く、もっと輝ける、
そんな強さを持っていた。
今、一瞬みせた「なっち」は、まだ娘に入りたてで、
安倍さんのことを、眩しそうに見つめることしかできなかった
私の脳裏に焼きついているものと同じだった。
- 384 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:54
-
「ごめんね。あんまり知らない人の話されるの気分よくないよね?」
安倍さんはふと自分の発言を振り返ると私に軽い苦笑いを浮かべる。
それは私を気遣うというよりも、
昔話をしようとした自分に、軽い嫌悪を感じているようだった。
『いえ。私の知らない頃の安倍さんの話聞きたいです。』
「悪いけど、なっちは思い出話って苦手なんだよね。」
悪びれずに安倍さんはそう言うと、
ナイフで果物の皮をむいていていく。
お世辞にもキレイといえない形になった果物を嬉しそうに見つめている。
「梨華ちゃんも早く食べな。
目の前にあるとなっちが全部食べて太っちゃうでしょ?」
安倍さんは机に肘をつきあごを手に載せて、冗談っぽく笑う。
私は、その時の話や安倍さんが大事そうに浮かべた
「明日香」という名前が気になったけど、
どうやら安倍さんはあまりその頃のことを話したくないらしい。
私はその気持ちを破ってまで
安倍さんの心のなかに踏み込む資格は持っていない。
- 385 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:55
-
私は、目の前にある食事をたいらげることに専念することにした。
食事はもちろんおいしいはずなのに、
いろいろな考えが頭を巡って味がよくわからなくなる。
安倍さんとこうやって過ごせる時間は少ないはずなのに、
その時間を何で有効に過ごせないんだろう。
ちらりとテレビで時刻を確認すると06:45と表示されている。
正確に時を刻むスピードに私は軽い苛立ちを感じる。
ふと、正面をみると安倍さんはさっきのポーズのままでずっと固まったままだった。
「大丈夫。梨華ちゃん。」
安倍さんが少し首を傾ける。
その柔らかな雰囲気は年齢以上の落ち着きを感じさせて、
私の知らない安倍さんの一部を知るたびに軽い戸惑いを覚える。
『なにがですか?』
私は今の心理状態が普通ではないのが分かっていたけど、
何が大丈夫ではないのか、自分でも理解できていない。
- 386 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:56
-
「なんか、上手く言葉にできないんだけど・・・・
余裕がないというか、焦っているというか
つまり、あんまり楽しそうじゃないんだよね。」
安倍さんはズバリと私の心理状態を診断する。
自分でも分からなかったことを簡潔に指摘されてしまった。
『そんな。私、今すごく嬉しいんですよ。
ずっと好きで、もう思いは届かないと諦めかけていた
安倍さんと短いながらも一緒に過ごせて。』
感情のコントロールの利かなくなった私の涙腺から
冷たいものが落ちてくるのを他人事のように感じていた。
「梨華ちゃん、苦しいんだね。」
安倍さんはため息をつくと、少し困った顔で私を見つめる。
私の涙はまだ止まらない。
- 387 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:57
-
「つまりだ。・・・・
梨華ちゃんは本当になっちのことが好きなんだね。」
どう考えたらそういう結論になるのか疑問だったが、
安倍さんの結論はずばり的中していた。
『そうです。何度同じこと言わすんですか。
安倍さんは以前よりは気にかけてくれるようになりましたけど、
少し距離を置こうとするし、口に出してハッキリと言ってくれませんし、
何より私は安倍さんのことで知らないことが多すぎるんですから
不安になるの当然じゃないですか。』
私は娘に入ってから一番感情的になってものを言った瞬間だった。
心の中に抱えていた不安、思いが自分の意志とは関係なく勝手に言葉となって出て行く。
- 388 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:58
-
「梨華ちゃんて本当よく泣くよね。」
安倍さんが呆れたようにそう言ったのは、私の涙腺が納まりかけた頃だった。
それまで彼女は私の後ろに立って、ずっと頭を撫でていた。
『泣かしたのはだれですか!』
あまりにも気持ち良さそうに私の髪に手を入れて
その感触を楽しんでる安倍さんに腹がたった私は言い返す。
「なっちがいけないのかい?」
安倍さんは驚いたように目を丸める。
その仕草を見てしまうとさっきまでの「安倍さんが悪い」という気持ちが無くなって
勝手にいろいろ彼女に期待して思い込んだ、
私の愚かさに気付かされる。
ついこの間まで同じグループのメンバーでしかなかった
私に安倍さんのことを言う権利は少しもない。
- 389 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 02:59
-
『すいません。私が馬鹿でした。』
少し冷静になって今までの自分の言動を振り返ると、
恥ずかしくなって安倍さんに頭を下げる。
「梨華ちゃん、本当に素直で女の子らしくて可愛いわ。」
安倍さんは軽く笑うと同時にため息をつく。
「なっちは結構ガサツなとこがあるからね。
女の子らしい子とはあまり仲良くなる機会がなくて
梨華ちゃんの気持ち考えられなかった。」
安倍さんはそう言い終わると、
私の顔についた涙の後をそっとハンカチで拭っていく。
「ごめんね。梨華ちゃん。悪いのはなっちだね。」
最後にそっと私の耳にささやいた。
- 390 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:00
-
「梨華ちゃん、そろそろ支度するよ。」
しばらく経った後、安倍さんが時計をチラリと見て私に声をかける。
そうだった。私達には感傷に浸っている時間もない。
「梨華ちゃんも、ちゃんと顔洗うんだよ。
そんな顔で、出てったらみんな心配するから。」
安倍さんが離れた場所から、楽屋にいるときのような元気な声で私に声をかける。
『余計なお世話です。』
私も負けずに大声で返事をする。
安倍さんは、何がおかしいのかケラケラと笑っている。
窓の外は泣き出しそうな曇り空なのに私の気持ちは少し晴れやかになる。
- 391 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:01
-
「なっち、梨華ちゃん、起きてる?」
ドアを乱暴にノックすると同時に矢口さんが勢いよく部屋に侵入する。
「こら矢口、入っていいって言ってないでしょ!」
安倍さんが小さな子供を叱り付けるような口調で抗議する。
こんな口調で安倍さんが話すメンバーは私が知る限り、
矢口さんと真希ちゃん、そしてののちゃんしかいない。
「いいじゃんそれくらい。本当は今回の部屋割り矢口が一緒だったんだよ!」
矢口さんが安倍さんを脹れっ面で睨みつける。
「そう言えばそうだったね。ごめん矢口。」
安倍さんはしまったという顔をして片手で拝む。
- 392 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:02
-
『あれ、矢口さんは私がお願いしたから交代してくれたんじゃなかったですか?』
私は昨日矢口さんに頼みんだときのことを思い出した。
矢口さんはどんなにお願いしても「嫌!」の一点張りで駄目だったのに
数時間後「しょうがないから、いいよ。矢口、先輩だしね。」
と言って、部屋を替わってくれたのだった。
「おいらが梨華ちゃんの言うことを聞くわけないでしょ!
なっちが仕事先から電話でどうしてもって言うから
泣く泣く変わったのに・・・・今の態度は何よ!」
矢口さんはまだ怒りが納まらないらしく、涙目になりながら安倍さんに食って掛かる。
よほど安倍さんと同じ部屋に泊まるのが楽しみだったらしい。。
「矢口、確かにその点はなっちが悪かったけど・・・・・・
今の話、梨華ちゃんに内緒だって約束したでしょ!
なんでそう口が軽いのよ!」
今度は安倍さんがムキになって矢口さんに抗議する。
とても成人している女性同士とは思えず、中学生ぐらいの口喧嘩のように梨華の目に映る。
- 393 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:03
-
「・・・・・・・。
もとはといえばなっちがいけないんじゃない。」
今度は矢口さんがしまったと顔をしかめたあと、慌てて反撃に出る。
「ほーそうくるの。
それって今流行の逆切れってやつかい。
どこをどう取ったらそんな結論にな・る・ん・だ・よ。」
安倍さんは頭にきたのか、矢口さんの頬を乱暴に引っ張りこむ。
「何すんのよ。痛いじゃないの。
なっちの馬鹿!
もう絶交だから!
謝ってもぜーーーったい許さないから!」
矢口さんは、安倍さんの腕を振りほどくと部屋を飛び出て行く。
「勝手にしな。もう二度と顔見せないでよね。」
安倍さんは矢口さんの背中に容赦なく追い討ちをかけると
バタンと乱暴にドアを閉める音が部屋に響く。
- 394 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:04
-
『仲いいんですね。』
嵐が去ってしばらく沈黙したあとポツリと私は言った。
いくら鈍い私でも今の言い争いは、
「喧嘩するほど・・・」という有名な格言の通りだということは分かる。
そしてそこまで互いに心を許しあえてる二人が羨ましかった。
「あれで、年は二つ違うんだけどね・・・・・・
親友っていうのかな?
年の近い妹みたいなものかもしれないね。
矢口って可愛いでしょ?」
安倍さんは楽しそうに笑って私に意見を求める。
本当に矢口さんが可愛くてたまらないという、思いが表情から嫌というほど伝わってくる。
- 395 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:05
-
『そうですね。
少なくとも他のメンバーといるときには絶対見せない顔かな。』
私に対しては、面倒見が良くてちょっと意地の悪いお姉さんという感じで
接してくれる矢口さんを思い浮かべる。
「下の子がいっぱい入ってきたからね。あの子も大変だ。
でもそのおかげで、仕事が増えてるみたいだからいいのかな?」
安倍さんは一度首を傾げると、洗面所へ移動する。
私は黙ってその後をついていった。
洗面所のガラスは大きくて、二人並んでメイクできるほどの広さだった。
私達娘は現場で、メイクさんやスタイリストさんがつくので
どんな格好でも良かったが、それでもつい化粧をしてしまう。
- 396 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:06
-
鏡には安倍さんと私が並んで映っている。
こうして見ると私のほうが安部さんより大きいことが分かる。
入った頃はたいして変わらなかったのに、三年という月日の長さを感じさせる。
安倍さんはずっと黙ったままで、
ファンデーションを軽くつけたりしている。
私は何もする気が起きず、鏡の中の安倍さんの姿をずっと見つめていた。
『矢口さんが部屋替わってくれたの、安倍さんが頼んでくれたからなんですね。』
さっきの喧嘩の原因になったことを私が口に出す。
「うん。あの馬鹿が口に出しちゃったから否定しようないね。」
安倍さんは手の動きを止めて柔らかく微笑む。
- 397 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:07
-
『何で教えてくれなかったんですか?』
「だって恥ずかしいだもん。
梨華ちゃんと一緒に過ごすために部屋替わってもらったなんて言うの。」
安倍さんが女の子らしく顔を少し赤く染めて言う。
普段外見によらず男の子っぽい安倍さんがみせるその表情は新鮮だった。
「てっきり私が頼んだから、矢口さんが変わってくれたとばかり思ってました。
安倍さんが、わざわざ矢口さんに電話してくれたと分かって
その・・・・・・とても嬉しかったです。」
『じゃあ梨華ちゃんに、なっちのお願い聞いてもらおうかな?』
安倍さんが、悪戯っぽく私をみて笑う。
『はい。』
私は元気よく返事をする。
安倍さんのお願いならどんな恥ずかしい罰ゲームでもこなす覚悟はできていた。
それが彼女の気持ちに対する、私ができる精一杯の誠意だった。
- 398 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:08
- 「一つ。「なっち」のことを「なっち」と一日でも早く呼べるようになること。
二つ。その敬語を止めること。以上」
安倍さんは体育祭の宣誓のように元気な声で、「お願い」の中身を私に伝える。
私はあまりにも思ってもいなかった「お願い」に呆けたように動けなくなる。
「梨華ちゃん、返事は?」
安倍さんは私の顔を見上げて、軽く横髪を引っ張る。
『なっち、ありがとう。』
私は、他のメンバーが使っているのを羨ましいと思いつつ、
「なっち」の前では一生言うことができないだろうなと、諦めていた言葉をだした。
あまりの嬉しさにまた目から涙が出そうになるのを必死に堪える。
どうやら私は、悲しくても、悔しくても、嬉しくても簡単に涙がでるらしい。
- 399 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:09
-
「あのさー、この前も言ったけど無理しなくていいからさ。
でも、できるだけ早くね。」
安倍さんは照れているのか、それだけ言うとクルリと背を向けて
テレビのボリュームを上げる。
ちらりと画面を見ると、あと10分ほどでこの部屋を出ないといけないのが分かる。
安倍さんは準備が出来ているみたいだけど、
私はまだなので急いで必要なものをバックに詰める。
テレビから漏れる音に
「今日の天気は曇りの後、雨模様です。降水確率は・・・・・・・」
というキャスターの声が聞こえてくる。
『やっぱり、雨みたいですね。?』
私は画面を睨みつけているなっちに話しかける。
「あんまし、私達には関係ないんだけどね。」
なっちは一度軽くため息をつくと、勢いよく立ち上がる。
- 400 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:10
-
「梨華ちゃん準備できた?」
なっちがさっきのため息を吹き飛ばす勢いで私に尋ねる。
私は指でOKサインをつくってなっちに応える。
「じゃあ、行こうか?」
部屋の鍵を閉めるて廊下に出ると、なっちが私の腕に自分の腕を絡ませる。
『なっち、いいの?
矢口さんがみたら怒ると思いますよ。』
なっちとこうやって歩けるのは嬉しいけど、
さっきの矢口さんの荒れ具合からみて、
見られたら大変なことになるということは容易に想像がつく。
- 401 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:11
-
「いいの。こうやって見せつけたら矢口悔しがるから。」
なっちは楽しそうに笑い声を上げる。
『私の身が危険なんですけど・・・・・・』
私は半分本気になって心配する。
あの矢口さんのことだ。
黙って見過ごしてくれるほど甘くはない。
「大丈夫、今日中にフォローしとくから。」
なっちは自信ありげに頷く。
十代の一番多感な時期を一緒に過ごしてきた仲間のことは
実の姉妹のことよりわかっているのだろう。
『矢口さん、なっちの妹みたいですからね。』
「かなり手がかかるけどね。」
なっちは満更でもないと言った表情を浮かべる。
- 402 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:13
-
「そうだ!」
なっちが突然、思い出したかのように手を打つ。
「悪いんだけど、今日は矢口とね・・・・・・」
なっちが言いにくそうに私の顔を下から眺める。
口では強気なことを言いながらも、やっぱり結構気にしているみたいで
そんななっちに私はさらに心を惹かれていく。
『大丈夫です。
私はなっちを束縛しようという気持ちは欠片もないですから。
それに私、矢口さんのことも大好きなんですよ。』
私が素直な自分の気持ちをなっちに伝える。
そして口に出してみて初めて私は、口は悪いし、意地悪もするけど、
時々、優しくて、私が落ち込んでいるときによく励ましてくれた
矢口さんに好きという感情があることに気が付く。
「そうか、梨華ちゃんはマゾの気があるんだ。
もっと矢口に苛めるように言っとくね。」
安倍さんがなっちスマイルで怖いことを平気で言ってのける。
- 403 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:15
-
私達はいつのまにかエレベーターホールまで来ていて、
ちょうど来たエレベーターに乗り込む。
珍しいことにエレベータは私達しか乗ってなく
徐々に集合場所のフロアに近づいていく。
『なっち、今日も頑張ろうね。』
私は意識することなく、なっちに笑いかける。
「うん。」
なっちは短くうなずくと、エレベータのドアに向かって視線を向ける。
「梨華ちゃん、もう少し待ってね。」
なっちは私がかすかに聞きとれる大きさで囁く。
私はまだ、なっちのことで知らないことがたくさんある。
彼女に感じているものが、強い友情なのか、恋愛感情か、
それとも母親や姉に対するような感情なのかもよくわからない。
なっちが私に対して感じているものも同じなのかもしれない。
- 404 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:16
-
私は聞こえなかったふりをして、エレベータの扉が開くのを待つ。
頭の中にさっきの天気予報の「曇り時々雨模様」という言葉が流れてくる。
私の心の天気も変わりやすい。
今の私の天気は雲に太陽が隠れているような感じだけど、
いつ晴天になって、いつ雨になるかも想像がつかない。
例え、心の中に雨や雪が降っても
私はなっちと一緒にいることができたら、それが一番の幸福なんだと思う。
(何でこんなに人を好きになっちゃうのかな?)
私は、鼻で笑っていた少女漫画の陳腐なセリフを思い出すと
同時に何か引っかかるものを感じる。
- 405 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:16
-
(あ・・・・そうだ、なっちも私も女の子だったんだ。)
私は少女漫画というキーワードから感じた違和感を、すぐに解決した。
今まで気にしなかったことが不思議でそんな自分が可笑しくなる。
(まあ、いいよね。
恋愛にはいろんな形があるっていうし、
なっちも気にしてないみたいだし、女の子同士も悪くないか。)
真希ちゃんが考えそうな都合のいいことを私は思い浮かべる。
以前ならまずそんな風に考えられない。
いいにしろ悪いにしろ、なっちは私に相当の影響を与えている。
- 406 名前:さよならから始まる恋A 曇り時々雨模様 投稿日:2003/10/29(水) 03:18
- 私はブザーが鳴って開いた扉の外に出る。
いつもと違うのは隣になっちがいることだ。
たったそれだけのことが、今の私にとって何よりも大切なことだった。
(なっちの隣で歌いたかったな。
「ザ☆ピース」が近くで歌えた最初で最後の曲になるのか)
私が唯一センターを勤めた曲で、
その両横になっちと真希ちゃんがいた時代を少し懐かしむ。
思い出に浸りたい気持ちはあるけども
過去を振り返るにはまだまだ若すぎる。
それに前に進んでさえいれば、いつかなっちの隣で歌えるかもしれない。
可能性は0に近いとしても、未来はまだ決まっていない。
今日も長い一日が始まる。
----------END------------
- 407 名前:3rdcl 投稿日:2003/10/29(水) 03:29
-
-----後書き-------
発作的に書きたくなったの、一気に作品を完成させました。
最後のほうは息切れ気味でしたが(笑)
このまえ、近所のレンタルショップが100円だったので
邦画で岩井俊二 監督「Love Letter」という、映画を借りました。
めちゃくちゃ感動して、自分がみた数少ない映画ではNO1です。
有名な作品でどこの店にも置いてあると思うので是非ご覧になってください。
ではまた気が向いたら書かせていただくかもしれません。失礼します。
- 408 名前:告白記念日 投稿日:2003/10/31(金) 00:04
- ―口づけて そっと口づけて 抱きしめて ギュッと抱きしめて
…なんでそんな陽気に歌ってるんだろう、この人は…。
「ひとみん、一体誰に言ってるの、それ」
無駄な質問をとりあえずぶつけてみる。
「え、勿論マサオにだよ」
彼女は笑顔全開よろしくでそう答える。
「あ、そ」
だから私も不粋な返事を返す。
「え、なに。妬いて、くれてんの?」
それを不機嫌な声、と取ったのか、彼女は嬉しそうに笑って訊いてくる。
「べーつにー…」
私は興味なさげにそう言って膝の上の雑誌に目を落とした。
「うふー、素直じゃないぞぉ。妬いてるなら妬いてるって言っちゃえっ」
なのに彼女はまだしつこくそう言って私を後ろから羽交い絞めにする。
- 409 名前:告白記念日 投稿日:2003/10/31(金) 00:04
- 私はその余裕、ともとれる笑顔が気に食わない。
だから出てくるのはこんな言葉ばかり。
「何言ってんの?妬く理由がないよ」
「なにそれー」
そっちこそ、なんだよそのあっかるい声は。
と、思ったら、いきなり真剣な顔をした。
「…マサオ、私のこと、どうでもいいの?」
どうでもいい、か。
「…分かんない、よ。そんなの、さ」
目を合わせたら自分だってよく分かってない心の中身を見透かされそうで、雑誌から視線を上げる事が出来ない。
「わかんないって、どういうことよ」
案の定彼女は声を少し荒げて雑誌の上に身を乗り出してきた。
- 410 名前:告白記念日 投稿日:2003/10/31(金) 00:05
- 「そっちこそ、無駄に八方美人だから、こっちの方がよっぽど聞きたいくらいだって言ってるんだよ」
顔を背けてしまった。
こんな事、言うつもりじゃなかったのに、もう、遅い。
「なによ、それ。どういうことよ」
きつめの視線で彼女は私の目を覗き込む。
「どうもこうも、ない。言った通りの意味だよ」
睨み返したはいいけど、自分で呆れてしまう。
私が謝れば済む話なのに、私は子供だからそれが出来ないんだ、と実感してしまうから。
「ちゃんと言わなきゃ、わかんないじゃない!わけわかんない!」
叫ぶ彼女。
いつも彼女の方が正論だ。
- 411 名前:告白記念日 投稿日:2003/10/31(金) 00:05
- だけどもう収拾がつかない。
それを分かってて言うから、私の声は酷く冷めていた。
「だから、ひとみんは軽く言い過ぎなんだよ。好きとか、そーゆーのを、さ」
「…ごめん。でも、でもほんとに好きなのはマサオだけなんだよ、信じて信じてよ、ね」
そのせいで、彼女のトーンが沈む。
ああ、そういえば、それ、よく聞いた気がするなぁ…。
「ねぇ、それ、何度目だっけ?そう言えばいいと思ってるんでしょ?
だから、軽いんだって」
私はそう吐き捨てた。
「…私のこと、嫌いになった、の?…」
彼女の視線が揺れる。
「好きなんて、言ったっけ…?」
たぶん、これは彼女にとってトドメのような科白だろうな、と思う。
挙句、私の心臓も痛み出すんだから、ほんと、トドメじゃんって心の中で苦笑した。
- 412 名前:告白記念日 投稿日:2003/10/31(金) 00:05
- 「…え。私のこと、最初から好きじゃなかったの…?」
また、あんたはそーゆー事を言うんだから、ほんと、勘弁してよね。
私の性格、知ってるんでしょ?
「そう、かもね…」
暴れ出した心臓の音を知られたくなくて、彼女の腕を払って立ち上がった。
「…」
彼女は、呆然と立ち尽くしている。
なんて。
「そうだったら、どんなに楽だったんだろう…、ほんと、馬鹿みたいだ…」
前髪を掻き揚げ溜め息をつく。
きっとこの言葉は今の彼女の耳には届いていないだろう。
- 413 名前:告白記念日 投稿日:2003/10/31(金) 00:05
- 「馬鹿みたい…私ひとりで、舞い上がって、空回りして…ほんと、馬鹿みたい…。
ごめんね、マサオ…もう、家にも来ないように、するよ。
迷惑だったよね、ごめんね」
彼女は涙を流しながら笑みを浮かべる。
その顔をさせるのも、何度目だろうか。
「…それで、ちょっとは楽になる?仕事場で会っても、胸、痛まない?だったら、そうしよう、よ」
言葉を無視するように引き止めようとする自分の腕をもう一方の腕で押さえつけた。
「う、ん。…そうしよう。さよ、なら」
背を向ける。
「でも、マサオはメロンの大事な、仲間だから。…それだけは変わんない、から」
どこのドラマで学んだんだろう、そんな姑息な科白。
「…ねぇ、キスさせて」
彼女がドラマの最終回みたいな別れをしたがるから、私はそれを壊したくなる。
だから強引に彼女の腕を掴んでそう言う。
- 414 名前:告白記念日 投稿日:2003/10/31(金) 00:06
- 「やだ、やだよ…好きじゃないんでしょ。好きじゃないのに…なんで…」
戸惑う顔が見える。
その顔が一番そそるっていうのは、ちょっとおかしいのかもしれない。
「だから、今からそれを確認するんだよ」
本当は、ついさっき答に辿り着いていたけど。
それは告げずに勝手に彼女の唇を奪った。
「やだ、やだぁ…」
彼女は涙を流しながらうめいて、彼女の口の中にいた私の舌に噛み付いた。
「…っ。…まあ、いいよ。どっちか分かったし」
口の中に血の味が広がる。
「マサオのスケベ!ヘンタイ!色情魔!」
服の袖口で口許の血を拭いながら叫んでくる。
それを眺めながら、こんな風に彼女の方が余裕ないのは珍しいよなぁと思う。
- 415 名前:告白記念日 投稿日:2003/10/31(金) 00:06
- 「で、どうする?私の答え、聞く?聞かないで帰る?」
私の言葉に彼女の動きがぴたりと止まる。
「……聞き、たい……」
「そう言うと思った」
彼女の涙を拭ってあげる。
彼女はそれも気に食わないらしい顔をしている。
「好きじゃないのに、優しくしないでよ。マサオは…だから、誤解されるんだ、よ…私みたいな馬鹿な、女に…」
「そうだね、大いなる誤解だね。ぜーんぶ、誤解だって、ひとみん」
今日初めてこんな風に普通に笑った気がする。
私の顔にか、それともその言葉にか、彼女はきょとんとした。
「え…どういうこと、ねぇ…」
- 416 名前:告白記念日 投稿日:2003/10/31(金) 00:06
- 黙っていると、彼女の声と両手が、早く次の言葉を、と急かしてくる。
「え…分かんないよ、どういうこと、ねえ、どういうことよぉ…」
「じゃ、たぶんもう一生言わないと思うけど…」
私も彼女も息を呑む。
「…だけど、忘れないで欲しい。
小心者だから、言わないけど、でも、いつも、ひとみんが好きなんだって事を」
我ながら、照れ臭い科白だ。
「マサ、オぅ…ずるいよ、そんなカッコよくされたら、もうマサオしか、見えなくな、る……」
また、泣くし。
「見なくていいんだよ、他のなんて、さ」
- 417 名前:告白記念日 投稿日:2003/10/31(金) 00:06
- 「…ああーっもぉ、死んでも言わねぇー」
徐々に体中に恥ずかしさが充満してきて、出来ることならここに穴を掘って隠れたいくらいだった。
そう叫んでしゃがみ込んだ私を、彼女が抱きしめる。
「えへー。マサオぉ、大好きだよおーー」
「…知ってるし」
fin
- 418 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/31(金) 00:07
- 斉藤さん誕生日おめでとうってことで。
記念age
- 419 名前:Trick or Treat ! 投稿日:2003/11/01(土) 00:34
- 「ねーねー、なっちー。今日ってハロウィンなんだねぇ…」
ごっちんのそんな間延びした一言から会話は始まった。
久しぶりに仕事がお互い早く終わり、
ウチで夕食を食べた後、
なっちはソファーで雑誌を見ていて
ごっちんはのんびりテレビを見ていた時だった。
- 420 名前:Trick or Treat ! 投稿日:2003/11/01(土) 00:36
- 「あーそうだねぇ…ののやあいぼんが周りのメンバーに『トリック オア トリート!!』って
叫びながらお菓子もらったり色々してたよー」
「あー、あの二人らしいねぇ…」
そう言ってごっちんは少し遠い目をした。
あれ?なんかなっち悪いこと言ったかなぁ…
なんかごっちん少しうつむき加減でなんか考えてる?
なっちが娘のことを話すから一年前のことを思い出して寂しくなったりしてるのかな?
うぅ…どうしよう。
- 421 名前:Trick or Treat ! 投稿日:2003/11/01(土) 00:37
- 多少、自己嫌悪になりながら話しかけようとすると、
ごっちんの顔がパッと上にあがりこっちを向いた
「ねぇなっち!」
「ん?どしたのごっちん?」
「Trick or Treat !」
ふぇ!?なんかのの達と比べて発音がすごくうまかった気がするけど
今、『トリック オア トリート』って言ったよね…?
え、えーっと、なっちハロウィンのことよく知らないから
イマイチこの言葉の意味わかんないんだよね・・・
お菓子ちょーだいってことかなぁのの達スタッフさんとかからお菓子貰ってたし…
- 422 名前:Trick or Treat ! 投稿日:2003/11/01(土) 00:39
- 「ごっちん、なっちは今お菓子持ってないんだゴメンね」
そういうとごっちんはなんだかニヤっとした笑みを浮かべた
「じゃあなっちはいたずらされる方を選ぶんだね!!」
「え…?どういうこと?」
「『Trick or Treat !』は『お菓子くれなきゃいたづらしちゃうぞ!!』って意味だから」
しれっとした顔で説明してくれる
えぇー!!そんな意味だったんだ!!
どうりで楽屋でののに聞かれたときお菓子を持ってないことがわかったら
なっちのスカートをめくりあげてきたわけだ…
- 423 名前:Trick or Treat ! 投稿日:2003/11/01(土) 00:40
- 「さて、何しよっかなぁ〜♪」
ずずいっと身体をこっちに近づけてくるごっちん
「ちょ、ちょっと待ってごっちん!!」
そんな叫びも空しくどんどん身体は近づいてくる
どうしよう、いたづらなんて何されるんだろ…
なんだか怖くなって目をギュッとつぶる
近くにごっちんが来たことがまわりの音でわかる
ちゅ。
ん?今、唇にふんわりとした感触が…
- 424 名前:Trick 投稿日:2003/11/01(土) 00:41
- そっと目をあけるとごっちんが大成功!と得意満面の顔をしていた
「ご、ごっちん、今何したの?」
「えーなっちにちゅーしたに決まってるじゃーん!!」
『なっちの怯えた顔、カワイイー』なんて言いながら抱きついてくる。
やられた…すっかりしてやられてしまった。
でもこんないたづらなら許しちゃうよ
人前でやられたら困るけど…
今はなっちの家に二人っきりだし…
- 425 名前:Trick or Treat ! 投稿日:2003/11/01(土) 00:43
- 「ねぇ、ごっちん?」
抱きついてるごっちんを少し離しておでこをひっつけながら問いかける
「Trick or Treat !」
おしまい。
- 426 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/01(土) 00:46
- 日付過ぎちゃったけどハロウィン記念。
なちごまは癒しです。。。
424題名間違っちゃったし英語のつづりもあってないかも知れないけど
そこら辺は軽くスルーでw
なちごまマンセー!!
- 427 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/02(日) 23:51
- 顔がにやけました(爆)
- 428 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/03(月) 12:03
- ×いたづら→○いたずら
じゃないかい?よけいなお世話だったら スマソ
- 429 名前:Trick or Treat !書いた人。 投稿日:2003/11/04(火) 00:28
- 427 さん
にやけましたか?w甘いのを目指して書いたので
そう言ってもらえるとうれしいです。
感想ありがとうございました。
428 さん
指摘キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!
よけいなお世話なんてとんでもない。
確かに間違えてますね…アフォさ加減を自分でアピールしてしまったw
指摘ありがとうございます。精進します…
- 430 名前:石川県民 投稿日:2003/11/05(水) 09:36
- お初です。
そしておがたかです。
- 431 名前:伝えたいコト 投稿日:2003/11/05(水) 09:43
-
愛ちゃんは訛ってる。
そりゃあね、あたしだってハロプロで中澤さんに
「訛ってるわよ、アンタ」
って言われるけど、愛ちゃん程じゃないし。
あたしとか、あさ美ちゃんとか里沙ちゃんはね、
慣れてるからいーんだけど。
六期の子、特に亀井ちゃんなんか、
やって来た時、愛ちゃんと喋ったときに
顔を (?_?) にしてたし。
田中ちゃんや道重ちゃんもそうだったし。
藤本さんなんか、
「はっ!?」って言いながら人相悪くなってたし。
- 432 名前:伝えたいコト 投稿日:2003/11/05(水) 09:47
-
だからかな、
慣れたとはいったけどさ、
愛ちゃんが何を言ってるのか、
未だに分からない時がある。
話してるときに、
こっちが怪訝な顔をすると、
眉間にシワを寄せ、
必死に標準語で該当する言葉を探す。
それって結構たいへんねんだよね。
微妙に、
びみょ〜にニュアンスが違うものだから。
微妙に、
びみょ〜に伝えたいことと違うんだ。
その苦労は分かるよ、
うん。
- 433 名前:伝えたいコト 投稿日:2003/11/05(水) 09:57
-
自販機コーナーで。
一人ソファに腰かけ、お茶を飲んでると。
石川さんお得意の、八の字眉毛で
愛ちゃんがやってきた。
「愛ちゃん、どうしたのさ」
「なぁ、真琴〜…」
あたしの横に体育座りのようにヒザを抱えて座った。
「わたしの言葉って、そんなに訳分からんもんやろか?」
「…なんで?」
「さっき話しとったらぁ、辻さんと里沙ちゃんに (?_?) な
顔されてんて」
「…東京の人には、愛ちゃんの言葉って聞き取りづらいのかもね」
あたしがそう言うと、愛ちゃんは
「はあ〜〜っ」と、体中の幸せが全て逃げてくような
ため息を吐いた。
ヒザに顔をこすりつける。
あぁ、あぁ、顔にジャージの跡が付くって。
- 434 名前:伝えたいコト 投稿日:2003/11/05(水) 10:04
-
「でもさぁ、あたし、好きだな。愛ちゃんの言葉」
『へ?』って感じに顔を上げる愛ちゃん。
「落ち着くって言うのかなぁ…暖かい気持ちに
なれる言葉だよね」
そう言って笑いかけたら、
恥ずかしそうに「ありがと」って言ってくれた。
へへ、可愛い。
- 435 名前:伝えたいコト 投稿日:2003/11/05(水) 10:08
- 「大丈夫だよ、本トに
伝えたいコトは伝わってるからさ」
「ほんまに?」
「…多分」
『なんやがそれ〜』って言いながら愛ちゃんも笑ってくれた。
うん、良かった。
「だからさ、ゆっくり喋ってくれたら、
あたし達もちゃんと理解できるからさ」
「…うん」
- 436 名前:伝えたいコト 投稿日:2003/11/05(水) 10:10
-
伝わってるかな。
あたしが愛ちゃんを想う気持ち。
速さや、
イントネーションに気を付けて。
ゆっくりと。
それが、
気持ちを伝えるコツだ、って
誰かが言ってた。
- 437 名前:伝えたいコト 投稿日:2003/11/05(水) 10:13
-
元気になったのか、
ヒザを下ろして立ち上がる愛ちゃん。
良かった。
と。
ぎゅっ、と真正面から
あたしに抱きついた。
な!?
ちょっと、あたし、飲み物持ってるんだけど!?
つーか、ボリュームのいい胸が
顔にあたってるのだけど……!
一人わたわたしてるあたしを、気にすることのない愛ちゃん。
- 438 名前:伝えたいコト 投稿日:2003/11/05(水) 10:14
-
「好きやから」
「真琴のコト、好きやから」
- 439 名前:伝えたいコト 投稿日:2003/11/05(水) 10:17
-
愛ちゃんは訛ってる。
慣れたとはいっていたけど、
愛ちゃんが何を言ってるのか、
未だに分からない時がある。
けど。
本当に、一番に、
伝えたいコト、
伝えてほしいコトは、
伝わってると思う。
だから、
「うん…」
大丈夫、そんな意味もこめて。
そっと、あたしも
抱きしめ返した。
fin.
- 440 名前:あとがき 投稿日:2003/11/05(水) 10:33
- あー変な訳分からん話ですね、ハイ。
ちなみに当方、標準語喋れません。
高橋さんと小川さんの言語を2:1の比率で混ぜたような言語を喋ります。
変な言葉があったらゴメンナサイ。
おがたか広まれー。
お目汚し失礼いたしました〜。
- 441 名前:∬´▽`)川’ー’川 投稿日:2003/11/05(水) 17:40
- 何か胸がホワワンする小高で(・∀・)イイ!!
やっぱりおがーさんには愛ちゃんの良き理解者でいてほιぃ。
ところで
真琴×→麻琴○ですよ。
気をつけぇて
- 442 名前:石川県民 投稿日:2003/11/06(木) 11:16
- 441さま
あわわわわ、素で間違えてるやんけ自分!
指摘ありがとうございます。
ガキさんには気を遣ってたやのに、
まこっちゃんで間違えるなんて……
精進してきます。
- 443 名前:ヤイバ 投稿日:2003/11/06(木) 12:17
- 収録後、ついグタグタしていたことを吉澤は完全に後悔していた。
メンバーは次々と帰宅していき、いま楽屋は2人だけになっていた。
最近の吉澤が、意識して2人きりを避けていて相手で、当然室内は沈黙に支配されている。
携帯をカバンに仕舞いながら気付かれないように溜息を吐く。
「一緒に帰ろうか」なんて言える筈もなく、一刻も早く立ち去ろうと決めた。
努めて自然な動作で無言のまま出て行こうとドアノブに手を伸ばした。
祈っていた。このまま今が過ぎ、何かが先送られるのを…
後で鏡と向かい合ってた人が、立ち上がる気配を背中で感じた。
「よっすぃー。私ね、好きな人出来たの…」
弱々しくもはっきりとした声が、吉澤の儚い祈りをあっという間に打壊した。
- 444 名前:ヤイバ 投稿日:2003/11/06(木) 12:18
- 『ついに来た』真っ先に浮ぶ言葉。形にしたら、きっと諦めに似ている。
ノブを掴み損ねたマヌケな手で頭を掻いた。
出て行くはずだったドアを背に崩れるようにして座り込んだ。
廊下を通る足音。壁の時計の秒針。やけに耳につく。吉澤は真空に閉じ込められたのだと思った。
見上げると彼女がいる。一直線につながる瞳。
こんな時なのに、その頬に触れたい雑念が考えるのを邪魔する。
自嘲するつもりで吉澤は小さく笑ってみた。自分の耳にも溜息にしか聞こえなかった。
- 445 名前:ヤイバ 投稿日:2003/11/06(木) 12:19
- 「梨華ちゃん・・・・・別れの理由なんかさ、知りたくないよ」
石川は左手でしっかりと自分を抱いていた。迷ったり、惑ったりしないために
自分自身を支えている、吉澤の目にはそう映った。
「ただ別れてで、いいよって付き合いしてないでしょ」
確信を持った台詞は力なく、石川らしからぬ低いトーンで放たれる。
吉澤は頷くしかなかった。
「好き」の前に向かい合った。普通、常識、多数の無意味。
自分にしつこく染み込んでた雑多。洗い直して、ようやく触れた気持ちは今更簡単になれずにいる。
- 446 名前:ヤイバ 投稿日:2003/11/06(木) 12:20
- 「・・・・・そうだね、私…梨華ちゃんしかいないからね」
3年ほどの間、誰より時間を共有し、誰より側にいた。と思う。
好きだから…。石川の心が動き始めたのも、自分の次に望む相手すら気付いてしまう。
それが余りに吉澤を切なくさせた。
好きなのに終わる。距離も時間も、心を縛る鎖にならなかった。
「ねぇ梨華ちゃん、いいから。その人好きなままでいいから、別れるなんて言わないでよ」
瞬きも出来ないのに、石川はそれでも首は横に振った。
答えはもう終わり以外ないと判りきっていた。それでも吉澤は口にするしかなかった。
- 447 名前:ヤイバ 投稿日:2003/11/06(木) 12:21
- 『判り合う』は諸刃のヤイバとなる。
吉澤が石川を判ってしまうように、相手も同じで無い筈がなかった。
判らないフリも出来ずに向き合うのは、苦しくて仕方なかった。
石川がゴメンネと泣けば、吉澤は何も言えなくなる。そうして欲しかった。
別れの理由を考慮しても、いい加減だと思えないのは辛かった。
自分の心をココまでと区切る刃が欲しい。血は流れても、いつか止むなら…。
叶うなら、理不尽だと叫びたい。叶うなら、未来を汚すように今石川に無理矢理でも口付けたい。
引き止め方はどこにもないから、せめてもと傷つけ方を探した。
- 448 名前:ヤイバ 投稿日:2003/11/06(木) 12:22
-
吉澤は立ち上がろうとして、うまく動かない体に阻まれる。ひざに手をあて床を見つめていると、
喉の奥が締め付けられていく。体の内側が散らばるみたいに、全身が細かく震えていた。
どうにもならない。何も出来るはずがない。
「哀しい」と泣く石川をただ抱きしめてきたのは、耐えられなかったから。
石川に向かった優しさは、ほかならぬ自分のためだった。
幾度も願ったから…彼女の痛みをすべて自分に。
吉澤は気付いていた。それが何より自分を楽にしてくれるのを。
- 449 名前:ヤイバ 投稿日:2003/11/06(木) 12:23
- 「判った。わかれよ」
床に言い放った自身の声は案外しっかりしていて、吉澤は泣くわけにもいかなかった。
返事を待たず、視線を落としたままドアを出て行った。
静寂の空間に、遠ざかる足音だけ響いていた。
石川は両腕で自分を抱いた。壊れそうなほど強く力をこめて、涙が零れるのだけ許さなかった。
終り
- 450 名前:石川県民 投稿日:2003/11/12(水) 16:16
- 寒くなってきましたので(?)
こりずにおがたかです。
- 451 名前:寒いカラ 投稿日:2003/11/12(水) 16:19
- 北国生まれでも、寒いものは寒い。
仕事も終わり、建物から出ると
突如強風に煽られた。
「わっ、ぷ」
ビル風かいや、ちょっとよろける。
と。
「大丈夫?」
その声に振り返っと、麻琴がいた。
「大丈夫、平気」
なら良かった、そう言って一緒に並んで歩き始めた。
- 452 名前:寒いカラ 投稿日:2003/11/12(水) 16:23
- 「寒くなったよねー」
「うん、日も落ちるの早うなったし」
「こんな日はコタツでぬくぬくしたくない?」
「いいね。最高やね」
「でしょ!?あとは温かい食べ物!!」
肉マンにー焼きイモにーカボチャのシチューー。
お腹空いとるのか、彼女は次々と食べ物の名を上げていく。
しまいには、
「お腹すいたー!!」
と叫ぶ始末。
- 453 名前:寒いカラ 投稿日:2003/11/12(水) 16:25
- 手を擦りつつ、あったかい気持ちでそれを聞く。
すると。
「愛ちゃん、寒いの?」
急にこっちを向くもんやから
ちょっとびびった。
手を擦ってたトコ、見られとったらしい。
「あ…ちょっとね」
笑いながらそう言うと、
「うーん…」
ちょっと何かを考え始めた。
- 454 名前:寒いカラ 投稿日:2003/11/12(水) 16:30
- 「…どしたん?」
心配になって聞いてみる。
すると笑顔をこっちに向けた。
「じゃあ、こうすれば寒くないよ」
ぎゅ。
ぼふっ。
…なっ!?ちょっ…!?
わたしの右手を掴んだかと思うと、そのまま自分のコートに入れたのだ、
し、しかも相手の指と指の間に指を入れる…
いわゆる…"恋人にぎり"の形で……!!
「ね?こーすればあったかくない?」
- 455 名前:寒いカラ 投稿日:2003/11/12(水) 16:39
- 瞬間湯沸かし器並みの早さで自分の顔が真っ赤になるのが見なくたって分かる。
いや、まぁ、確かにあったかいんやけど…
「…愛ちゃん?」
うつむき、ごにょごにょと言ってると、
心配そうな顔でのぞきこまれた。
「どしたの?…嫌?」
「い、嫌やない!!……ぅん、あったかいね」
恥ずかしいけんど、嫌やない。
…むしろ嬉しい。
わたしの言葉にほっとしたような顔をして、歩き出した。
自然と麻琴が少し前を歩く形となる。
- 456 名前:寒いカラ 投稿日:2003/11/12(水) 16:44
- うー、麻琴は恥ずかしくないんやろか。
半歩先を歩く彼女の顔は見えやしない。
一人意識しまくる自分が馬鹿みたいやんけ。
「麻琴、足速いが」
文句を言うと「ごめんごめん」と笑いながら
足の速さを緩めてくれた。
あ。
ちらりと見えた彼女の耳が真っ赤っ赤。
「…なに?」
「うぅん、なんでもないし」
きゅっ、と握る手を少し強めると、
びっくりしたように体が少しはねた。
耳がますます赤くなっていく。
でも離そうとしない。
- 457 名前:寒いカラ 投稿日:2003/11/12(水) 16:48
-
なぁんだ。
麻琴もおんなじ気持ちなんやね?
意識してんやね?
…期待して、いいんやね……?
- 458 名前:寒いカラ 投稿日:2003/11/12(水) 16:54
- 「あーお腹すいたー!」
今までの沈黙を破るかのように言うもんやから、あー、もうっ、雰囲気台無し。
「愛ちゃん何かおごってー」
「な、何でわたしが…!?」
「えー、いーじゃーん」
「…じゃあ、うち寄ってく?お母さん何か作っとるやろし」
「え?いいの?」
「かまへんよ」
「じゃ、お邪魔しよーっと」
- 459 名前:寒いカラ 投稿日:2003/11/12(水) 16:59
- お母さんに電話して、麻琴を連れて行くことを伝えておこう。
ついでにコタツも出しといてもらえるようにお願いして。
だから、
だからさ、
この手、うちに着くまで離さないでよ……?
fin
- 460 名前:あとがき 投稿日:2003/11/12(水) 17:11
- …今、東京ってコタツ出すほど寒いのだろうか……?
よりによって高橋さんで語り口調を書いてみたり。
分かりづらいすかね?標準語と思い切り違うモノは除いてはいるのですが。好評でしたら、またやってみたかったり。
お付き合いありがとうございました〜。
- 461 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/13(木) 01:00
- 小高キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
自分から恋人にぎりしてんのに耳とか真っ赤
になってるおがーさん(・∀・)イイ!!
そして、照れて俯いてる愛ちゃんキャワいい(*´д`*)ハァハァハァアハァ
分かりづらくないでつよ、全然。^^
続き期待してまつよ
- 462 名前:しずかなあさ 投稿日:2003/11/17(月) 20:23
-
静かな、朝。
地球最期の日。
- 463 名前:しずかなあさ 投稿日:2003/11/17(月) 20:24
- 「とうとう、この日がやってまいりました」
テレビの中で、アナウンサーが厳粛に言った。
電波が悪くて、少しずつ画面がずれている。
「小惑星1999の、地球衝突の発表から1週間がたちました。
皆さん、いかがお過ごしでしょうか?
私たちニュースセンターのスタッフは、残った時間を報道にささげ、皆様のために…」
あたしは、黙ってテレビを消した。
急に静かになった部屋の中に、柔らかい光が差し込んでる。
ガラスが割れる音、若い女性の悲鳴…。
犯罪が相次いで、昨日まで街はひどくうるさかった。
けど、今日は静かだ。
これが、地球の最期の日。
- 464 名前:しずかなあさ 投稿日:2003/11/17(月) 20:24
- 「美貴たん…?」
「…亜弥ちゃん、起きてたの?」
「うんー」
ベッドの中から、疲れきった声が聞こえてくる。
裸に、薄い上着を羽織っただけの格好は寒い。
あたしは、程よく温まった布団にくるまった。
すぐに、体をすりよせてくる愛しい人。
「くすぐったいよ…」
言いながら、さらさらの髪に指を通す。
いいにおいがする。
そのうち、たまらなくなって強く抱きしめた。
亜弥ちゃんも、あたしの背中に手を回してくる。
胸がいっぱいで、苦しくなる…。
好きでたまらない。
- 465 名前:しずかなあさ 投稿日:2003/11/17(月) 20:26
- 思う存分抱き合った後。
美貴は、そっと腕の中の亜弥ちゃんに話しかけた。
「…ねぇ。今、幸せ?」
大きな目をあたしに向けて、亜弥ちゃんは答える。
「幸せだよ」
「…美貴もだよ。
最後の日に、大好きな人と一緒に居られて」
亜弥ちゃんは、にっこり笑った。
それはひどく自然で、でも作り物めいた…
綺麗な微笑み。
- 466 名前:しずかなあさ 投稿日:2003/11/17(月) 20:27
- 「大好きだよ、美貴たん…」
首筋に、白い手がおりてくる。
圧迫されて、息が苦しくなる。
「美貴たんの全部が欲しい。
美貴たんを、全部あたしの物にしたい…」
細められた目に浮かぶのは、狂気の光。
亜弥ちゃんの、盲目的な愛。
狂いそうなほどの独占欲。
…それをのぞんでるのは、あたし自身。
- 467 名前:しずかなあさ 投稿日:2003/11/17(月) 20:27
- 「美貴も。
亜弥ちゃんの、全部が欲しいよ…?」
そして、亜弥ちゃんの細い首に手をまきつける。
温かくて、頼りなかった。
「「命だって」」
ぴったり、声が重なった。
2人で、クスクス笑う。
命だって、欲しい。
天災ナンカに奪われたくない。
そして…
全部を、あげたい。
- 468 名前:しずかなあさ 投稿日:2003/11/17(月) 20:28
-
…美貴はせいいっぱい笑った。
亜弥ちゃんの目に映る最後の顔が、笑顔だったらうれしいから。
世界が、白くなる。
太陽の優しい光じゃなくて…。何か、強い明かりが窓から差し込んでくる。
亜弥ちゃんの手が、どんどん美貴を締め付ける。
…苦しい。
目がかすんで、頭が白くなる。
それでもあたしは、巻きつけた手にせいいっぱいの力をこめた。
笑顔の亜弥ちゃんを、見つめる。
- 469 名前:しずかなあさ 投稿日:2003/11/17(月) 20:29
- 苦しい息の中で、必死に声をしぼりだす…。
「愛して…る…」
愛してた。
愛してる。
あなたのすべてを、私だけのものに――――
- 470 名前:しずかなあさ 投稿日:2003/11/17(月) 20:29
-
静かな、朝。
地球最期の日。
END
- 471 名前:3rdcl 投稿日:2003/11/17(月) 22:48
- 「しずかなあさ」の作者様
他の読者様のレスがつく前に書き込んでしまいますがお許しください。m(_ _"m)ペコリ
性格上自分の作品が出来上がるとすぐ書き込みたくなるもので、我慢が利きません。
読者様のほうで「しずかなあさ」の感想がありましたら、
自分の作品の後にでもレスつけていだけると幸いです。
では自分が勢いで書いた作品を書き込ませていただきます。
- 472 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 22:50
- 「市井、もうええやろ。」
男のその一言で私のアーティスト?生命が終わった。
来るべきときがきたなという感じだ。
こう書けば随分大げさに聞こえる。
なにしろ世間的には私はまだ若造と言われる年齢で二十歳にもなっていない。
世間には三十近くになって出てきたバンドもたくさんある。
その点では、まだまだこれからだと言えるが私には私の事情があった。
「はい。」
私はやっとのことで、その短い単語を絞り出した。
男の言葉は事実上の引退勧告だった。
本当はまだまだ続けたかった。
でも悲しいことに私の活動は事務所にとってお荷物、
つまり何の利益ももたらさなかった。
事務所に不満がないわけではないが、今までよくクビにするのを我慢してくれたとも思う。
- 473 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 22:50
- 「何が足らんかったのかな。
もっといい曲廻せたら少しは違ってたんやだろうけどな。」
男はそう言って、タバコに火をつける。
男とこうやって話すのは本当に久しぶりだ。
ここ数年はこんな時間はとることはなかった。
「いえ、もともとゴリ推しでしたから。」
私の顔には苦い笑いが浮かんでいたに違いない。
私はほんの数年前は国民的アイドルグループの一員だった。
いろいろ理由があって事務所を辞めたが、
すぐに復帰させてもらった。
もちろんそのグループに再加入したわけではなくソロとしてだ。
それから三年間元モーニング娘の市井として活動したが泣かず飛ばずで
ついに最終宣告をうけたわけだ。
- 474 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 22:51
- 「おれ個人としては、お前の気持ち分かってるつもりなんやけどな。」
男は、私が所属していたモーニング娘のプロデューサーで
元人気ロックバンドのボーカルだった。
「しゃーないな。」
男は短くそれだけ言うと珍しくため息をついた。
男は男なりに私の活動が上手くいけばと思っていてくれたらしい。
「つんくさん、今までありがとうございました。」
私は男の名前を読んで、私なりに感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「挨拶まわりか。大変やな。」
私の言葉が届いているのかいないのか、つんくさんは窓の外を眺めている。
私は多忙な彼の邪魔をしては悪いと思いもう一度頭を下げて部屋を出る。
- 475 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 22:53
- 「なあ、俺が言ったこと覚えてるか?」
部屋を出ようとして、ドアのノブに手をかけた私の背中越しから声が聞こえる。
「自分で曲を作れるようになれでしたね。」
私はそのまま振り返らずに部屋を出る。
男のことはあまり好きではなかったが、
もう顔を合わせたくても簡単に見ることができなくなるかと思うと、
すこし寂しかった
- 476 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 22:55
- つんくさんは復帰後の私とはほとんど接点がなかったけど、
私のプロデューサーが、つんくさんのバンド仲間だった関係で一緒に食事をとる機会があった。
昔の思い出話をしながら酒を飲む男達に、私は入る隙間がなく早くこの食事会が終わることだけを祈ってた。
「なあ、市井」
つんくさんが話しかけてきたのは、私のプロデューサーがトイレか何かで席を立ったときだった。
さっきまで酒をたくさん飲んで、大声で話していたのにその時の目はすごく冷めていた。
「何ですか?」
男のさっきまでの雰囲気と打って変わった真剣な様子に私は少し動揺した。
「ええこと教えたるわ。」
男は身構えた私に目ざとく気づいて、ほんの少し表情を崩すと話を続ける。
「お前が、アーティストとして生き残りたかったら売れる曲を作れるようになれ。
いい曲だけじゃだめだぞ。売れるようにしなければな。・・・・・・
あっ、これは自分のこと言ってるんやないで。」
つんくさんは私の気持ちを表情から読み取ると急いで訂正する。
- 477 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 22:57
- 「俺の昔の仲間見てみ・・・・・・・
みんな、飯食えてないやろ。
ほんの数年前はオリコンの常連でミリオン売ったことあるグループのメンバーがやで。」
つんくさんはそう言うと少し寂しそうな表情をみせた。
自分の成功で富と名声を得た代わりに、失ったものも小さくなかったのだろう。
「歌を上手く歌える奴はいくらでもおる。ギターやキーボードを弾ける奴もや。
でも売れる曲を作れる人間は演奏できる人間ほど多くない。
ブスでも変人で性格悪くても、いい曲さえつくれれば生き残れる。」
私はその時の言葉が忘れられない。
つんくさんがさっき窓の外を眺めていたのは
この業界で生き残れなかった仲間たちのことを考えていたのかもしれない。
- 478 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 22:59
- 『市井さん、もうすみました?』
いわゆるドサ回りが多く、
CDの売り上げも少ない私の担当は、通常新人のマネージャーがなる。
ここ数年で何人も変わったのは別に私がわがままな訳ではなく、
担当が仕事に慣れるたびに変わるからだ。
今の担当は、業界慣れした三十代の女性でどこかの事務所で働いていたのを引き抜かれた人間だ。
「ええ。事務所関係や取引先とは全部。」
そんなこと言いながら、
半年ちょっとしか付き合いがなかったこの人とも、もう接点がないのかなと思うと寂しくなる。
一緒に苦労して、小さな仕事をこなしただけにそういう気持ちも強いのかもしれない。
『あの、余計なお世話かもしれませんけど、
モーニング娘のメンバーにも挨拶したほうがいいですよ。』
年下で売れない私に対しても敬語で話してくれる彼女が私のことを案じてくれている。
彼女は私がいなくなったら、きっといいタレントさんについてその手腕を存分に発揮するだろう。
- 479 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 23:01
- 「何か、顔あわせづらくて、」
私は自分の中の複雑な心境を彼女に打ち明ける。
今まで迷惑かけてきたけど、
甘えられるのもこれが最後になると思うと素直になれた。
『顔も見たくないんですか?』
彼女は冗談っぽく笑う。
「なんと言うのか、私に残ってるちっぽけなプライドかな。
事情はよく知ってると思うけど私はモーニング娘を捨てた人間でしょ。
その人間がソロ活動して、駄目だったからやめますって言うのはね。」
『やっぱし、格好悪いなとかあるの?』
彼女が、珍しく年上っぽい態度で私に話しかける。
「いや、そういうのじゃなくて、モーニング娘をやめてソロ活動をしたこと。
そしてそれが上手くいかなかったってことは、別に後悔はしてないし恥ずかしいとも思ってないの。
ただ、客観的に考えて今の私が彼女達のところへ行ったら、向こうは気を使って同情するでしょ。
それがすごく嫌。
それだったらコケにされるほうがよっぽどいい。」
私は自分の感情をぶちまけた。
昔の仲間達に憐れまれている自分というのは想像するだけで惨めだった。
- 480 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 23:05
- 『それだけ、元気があれば大丈夫ね。』
彼女は呆れたような安心したような表情を浮かべる。
『でもね。
それはあなたの一方的な考えであって
例えメンバーのほとんどがそう思ってたとしても
みんながそうだとは限らないでしょ。
あなたが会いたいと思っている人がいるように向こうもそう思ってるかもしれない。
それにあなたもプロなんだからこういうことは
きちんとしなければいけないと思うの。』
彼女の理にかなった言葉に私の反論の余地はない。
それに、「飛ぶ鳥跡を濁さず」じゃないけど
きちんとけじめをつけなくては、それが私にできる最低限のプライドだと気づかされた。
「そこまで、言われちゃうと逆らえないや。やっぱし大人はすごいね。」
私はそう言って彼女に笑いかけた。
たぶんこれが彼女に向ける私の最後の笑顔だろう。
今日で私と事務所との契約を切れる。
昔の仲間に私が顔をみせる頃には、ミュージシャンの市井沙耶香ではなく
なんの肩書きももたない無職の私だろう。
- 481 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 23:07
- (私がクビになったて、少しはニュースになんのかな。
まあ元モームスってだけで少しは話題になるか。)
世間から忘れられている自分が
久しぶりにブラウン管に載ることを想像したら泣きたい気持ちになってきた。
私はマネージャーに見送られて事務所を出る。
むこうでは送別会かなにかをしてくれるつもりだったらしいが
最後のワガママとして、それだけは丁重に断った。
「私、またこの業界に戻ってきますから」
この期におよんで私は何を言っているのだろうかと
自分でも呆れたがそんな私に
『その時は、またマネージャにしてくだいね。
あなたと一緒で楽しかった。』
と言って抱きしめてくれた。
- 482 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 23:10
- 空は秋晴れというやつで気持ちいいほど澄み渡っているが
夏のそれとは違いどこか物悲しい。
そして風は冬の気配を運んでいた。
家まで車で送ってくれるという申し出を断って、私は歩いて事務所を出た。
やるだけやったからいいかという気持ちと、
三年間何になったかな?という考えが頭を巡るが今更考えてもしょうがない。
それに私にはあとほんの少しだけやり残したことがある。
自分の気持ちに整理をつけるためにも会わななければいけない人がいる。
私は多忙な彼女達がほんの少し時間が空く時間を、マネージャーから教えてもらっていた。
それはちょうど五日後で、その頃には私の引退も小さなニュースになっているだろう。
さっきまでの不安な私とは違い
彼女達がどんな反応をするかを楽しむ余裕までうまれてきた。
我ながら自分の切り替えの早さに驚く。
これならまたどうにかなるかもしれない。
- 483 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 23:12
- (あれ・・・・・そういえば私のこと知ってるメンバー何人残ってるのかな?
というかモーニング娘って今何人だったけ?)
一人一人の顔を頭に思い浮かべる。
彼女達とは復帰してから数える程しか会っていない。
電話番号も教えていない。
それは私が彼女達と肩を並べられるほどの、
シンガーソングライターになるまで、できるだけ会わないようにしたと決めたからだ。
残念ながら今回は不本意な形の再会になるが
それでも久しぶりに彼女達の顔をみて話せるのは嬉しい。
私はもう随分一人に慣れた。
娘にいたころは、なっちやマリッペとよく一緒につるんだ。
その頃はそれが当たり前だと思っていたけど、
今になってみると、それがすごく楽しくて幸せなことだったんだと思う。
- 484 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 23:17
- (どんな顔して、彼女達に会おうかな?
それにどんな服装しようかな。
時間がたっぷりあるから思いっきりお洒落しようか。)
とりあえず、引退後の私の最初の予定は埋まった。
今の私には些細なことでも実現可能な小さな目標が必要だった。
(さてと、どこのお店で買おうかな。)
私はもう随分行ってない、
渋谷のファッション店の場所を頭の中から引っ張り出しながら、
地下鉄の入り口に足を踏み入れた。
- 485 名前:さよならから始まる恋B 精一杯の意地 投稿日:2003/11/17(月) 23:21
- -------------END-----------------
また勢いだけで書いてしまった。( ̄□||||!!
- 486 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/18(火) 21:27
-
「バカなっち」
唇に残る柔らかい感触。
酔った勢いで急においらは甘いキスをされた。
それも、心の中で長く長く想いつづけていてなっちに。
決してお酒の味が甘かったからじゃない。なっちの舌や口が甘かったわけでもない。
触れた唇や舌がおいらにとって甘い存在で、
なおかつ貰ったキスが恋人同士のそれとあまりにも似ていた。
甘く感じた理由はただそれだけ。
おいらの頭は酔ったせいか何のせいか知らないけど
ぐちゃぐちゃに混ざった状態で自分で立ち上がることすらできない。
だからしばらく冷たい壁に寄りかかり座り込んで
頭を夜風で冷やしていた。
- 487 名前:なちまり 投稿日:2003/11/18(火) 21:28
-
さっき呟いた言葉はその風に流されて飛んでいってしまって
なくなった言葉の寂しさを埋めるようにおいらはまた一人呟いた。
「バカなっち」
言った瞬間に視界がぼやけて頬に涙が伝う。だけど拭うこともせずに放っておいた。
拭ったところで無駄だから。
頭だけじゃなくて人一倍小さい体と濡れた頬を冷やしていく風は
二度目の言葉ですらそこから奪い去ってしまった。
寂しさがまた寂しさをつくるようにおいらが三度目を埋める、その前に
月のほうから声がした。
「誰がバカだって?」
首だけ振り返るとそこにはやっぱり月の光を背負ったなっちがいて
猫の笑顔をこっちに向けたまま細い白い息を笑った口の隙間から吐いている。
- 488 名前:なちまり 投稿日:2003/11/18(火) 21:29
- 座り込んだおいらのそばに一歩近づいてきて軽くデコピンをしてきた。
その動作に色々な言葉を感じる。
なっちは無言でおいらを立たせて、冷たくなった涙を優しくふいてくれた。
手が温かい。
それから、ずるいなっちは言った。
「矢口じゃなきゃあんなことしないんだからね。」
涙をふいた手でおいらは引っ張られて抱きしめられた。
甘いなっちの匂い、なっちの体温に包まれてさっきよりも多く涙がこぼれ落ちる。
「矢口のことが好き」
- 489 名前:なちまり 投稿日:2003/11/18(火) 21:29
- 言葉が言い終わると同時に唇がふさがれた。
そのキスはさっきよりもしょっぱくて甘くて温かい、
今まで経験した中で一番特別なキスだった。
胸が苦しいのも
嬉しいのも
涙が止まらないのも
全部なっちのせいだ。
「おいらも好き」
おいらの言葉となっちの言葉だけ風に流されないでずっとそこに残っていた。
終わり
- 490 名前:なちまり 投稿日:2003/11/18(火) 21:30
- お目汚し失礼しました
- 491 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/18(火) 23:58
- >>472-484「さよならから始まる恋B」よかったよ。
なんというか、うまくいえないけど、まずはこういうのが書かれなければならなかったんだと思ったよ。
そしてこれからどうするか。とか、いろいろ考えてしまったよ。
ありがとう。
- 492 名前:石川県民 投稿日:2003/11/25(火) 12:32
- 短いですが。田亀で。
- 493 名前:とあるオフの日。 投稿日:2003/11/25(火) 12:40
- やっぱりさ、一度は憧れるよね。
ファッションに…うぅん、地方の子なら誰でも思うよ。
東京で買い物してみたいって。
そしてあたし、田中れいな は、オフという今日一日を使って、思いっきりその憧れを満喫しているのだけれど。
「…ここ、ドコ」
思いっきり迷ってしまった。
見渡せど見渡せど似たようなビルしかない。
歩けど歩けど似たような交差点しかない。
そして尽きることのない人に数。
人波で、あっちに流されこっちに流され……
…何だか更に悪化したような…。
- 494 名前:とあるオフの日。 投稿日:2003/11/25(火) 12:47
-
どこだよここはーーーーーー!!!!
なんてね、叫ばないよ。叫びたい気分だけどさ。実際に叫んだらヘンな人だよ。
はぁ…。
もう一件行こうとしていたショップは諦めよう。家に帰れるかどうかも分からないし。とりあえず、大きな交差点に出て、そこから何とか駅を見つけよう。この辺りの地名なんて、まだ分からないけどさ。なんとかなるよね。
とぼとぼと、自分の愚かさを呪いつつガックリ気分で歩いていると。
「れいな?」
聞きなれた声がした。驚いて声のした方を向くと、細い目を丸くした絵里が立っていた。
- 495 名前:とあるオフの日。 投稿日:2003/11/25(火) 12:54
- 「れいな、どうしたの?」
地獄に仏、ってこんな気分だろうか、普段と変わらない絵里の存在がものすごく嬉しい。
「買い物しようと思って…そうしたら迷った……」
情けない声でそう言うと、彼女は何か閃いた表情をし、言った。
「それなら私が案内しようか?」
え?
「そっか絵里は元々この辺り出身だから……じゃなくて。
それは嬉しいけどさ、絵里は?用事あるんじゃないの?」
「私はもう済んだから」
そう言って紙袋を見せた。
- 496 名前:とあるオフの日。 投稿日:2003/11/25(火) 13:04
- いいの…?
「で・ドコ行く?」
ここ、と言いながら店名と住所をメモした用紙を絵里に見せると、絵里が納得した表情で、ここから近いよ、と言ってくれた。
「じゃ行こっか」
先に進む絵里。その間にもあたしと絵里の間を大勢の人が横切る。見失わないように慌てて彼女の横につく。
それを見ていた彼女は、こうすればはぐれないし迷わないよ、と言ってあたしの手を握る。
ちょっとどきっ、とした。
恥ずかしくなって手を解こうとするけれど。
…ま・いっか。
彼女の張り切った横顔をみると、そう思った。
よし、絵里、張り切って案内してもらいましょー。
終わり
- 497 名前:オチ 投稿日:2003/11/25(火) 13:08
- 「絵里お待たせー…ってあれ?絵里??」
さゆみは外で待っていたはずの絵里を探そうと辺りを見回すが見つからない。
「絵里ーーーーーーーー!??」
さゆみの叫びは浮かれモードの絵里には届かなかったということで…。
今度こそ 完
- 498 名前:石川県民 投稿日:2003/11/25(火) 13:30
- 推敲してません、ぐだぐだです。お目汚し失礼いたしました。
- 499 名前:エムディ 投稿日:2003/11/25(火) 20:33
- 田亀いいです!
でも、道重さん、かわいそう(笑)
- 500 名前:捨てペンギン(富山県民) 投稿日:2003/11/29(土) 18:05
- 最後のオチがいいですね
- 501 名前:石川県民 投稿日:2003/12/04(木) 00:40
- >499 エムディさま。
>500 捨てペンギン(富山県民)さま。
うわ〜ありがとうございます!
実はオチが一番最初に話として出来た部分だったのですっげー嬉しいです☆
そして遅ればせながら…
>461 名無し読者さま。
あっりがとうございます!!
そんな461さまに僭越ながらこれを捧げさせていただきます。
とあるオフの日〜コタツにみかん〜
- 502 名前:とあるオフの日〜コタツにみかん〜 投稿日:2003/12/04(木) 00:53
-
「平和だね…」
「そやね〜…」
木枯らし吹き荒れるこの季節、わたし・高橋愛と
向かいに座るピーマコこと小川麻琴は
コタツに首まで入って、ぼ〜っとしていた。
今日は一日丸々オフ。これからの年末年始の忙しぃ
時期に備えての余暇、らしい。
そんな貴重な休みを、わたしは麻琴を誘い、
先日出したばっかりの小さめのコタツに入りながら何もせずに過ごしていた。
何もしない。これってある意味、究極の贅沢だ。
いつもわたし達の周囲は、わたし達の意志に関係なく目まぐるしく動いているんやから。
こんな風に、誰かと(特に好きな人ならなおさら)一緒にぼ〜っとしている日があってもいいと思うんやね、うん。
コタツ板の上にはご丁寧にもみかんがザルに盛られてる。
お母さんがわざわざ用意してくれたんだ。
そのお母さんは今は別の部屋におる。
けんど、今はみかんを食べる気にならない。
………むしろ眠い。
- 503 名前:とあるオフの日〜コタツにみかん〜 投稿日:2003/12/04(木) 01:07
- 「コタツって…眠くなる……」
言うともなしに呟き、ゆるゆると降りてくるまぶた。
ぺたん、とコタツ板にほっぺをつけて………
「ちょやっ」
変な掛け声と共に向かい側から軽く蹴りが入った。
「麻琴…何やの」
ちょっと顔を上げて軽く睨む。しかし彼女は飄々とした態なもの。
「さぁ〜自分の胸に聞いてみればー?」
目線も合わせず、変な節をつけて言うものだから、ちょっとムカッ。
「何怒ってん?」
言葉と一緒にボフッと軽い蹴りも返す。すると麻琴も
「別にー」とか言いながら、やっぱり蹴りもボスッと返した。
「別にってことあるかいや」ボフッ。
「…なんっで分かんないのかなー」ボスッ。
「やから何が」ボフッ。
「愛ちゃんの鈍感」ボフッ。
「な…!麻琴には言われたくないがっ」ボスッ!
「あたしの何処が鈍感よー」ボスッ。
「全部!」ボフッ。
「な…っ、しかも即答かよ!ひどっ!」ボフッ!
ボフボフボフボス…………。
何か目的も忘れかけ、ただ「うりゃうりゃ」と
蹴りを返し返されていると―――
- 504 名前:とあるオフの日〜コタツにみかん〜 投稿日:2003/12/04(木) 01:18
-
ガンッ!
!!――っつ〜〜…。
や…やってもうた、コ、コタツのでっぱりに思いっきり
ヒザをぶつけた……。
痛ーーっ。痛さで自然と体が仰け反る。
麻琴はそんなわたしの異変に
「愛ちゃん大丈夫!?」と近づいてきてくれた。
と。
そんなつもりは無かったのやろうけど(あったらむしろ大変)、肩に手をかけられ、
仰け反っていたわたしはそのまま後ろに倒されてしまった。
彼女もわたしが倒れたものだから、バランスを崩し、
右手はそのままわたしの左肩に。右手はわたしの顔の近くで床に着いた。
『……………』
わたしが見上げ、彼女が見下ろす形に。
………………
えーと…
俗に言うコレ、『組み敷かれてる状態』ってやつ?
- 505 名前:とあるオフの日〜コタツにみかん〜 投稿日:2003/12/04(木) 01:24
- ああああぁぁ。
口には出さないけれど思考はパニックだ。
顔が熱いのはコタツのせいじゃない。見なくても分かる、今、顔、超真っ赤。
―――コタツから出てる麻琴の顔も赤いから。
お互い顔を茹でタコのようにして。
だからといって目を逸らせず。
見つめあってて。
あぁ。彼女の目が潤んでみえるのはきっと気のせいじゃない。
「…愛ちゃん……」
え?え?えぇ!?
- 506 名前:とあるオフの日〜コタツにみかん〜 投稿日:2003/12/04(木) 01:35
- ――麻琴のこんな真面目な顔をこんな至近距離で見たの初めてだ。
ゆっくり顔を近づけられて――互いの鼻先が触れる距離で――――
がちゃ。
「愛?どうしたん?」
『あわわわわわっっっ!!!!』
慌ててお互い体を離す。
突然開いたドアから、疑問符の貼り付いたお母さんの顔が
覗いていた。
「な、何やお母さんつーかノックしてよ!」
ばくばくどっかんと乱れ打ち状態の心臓を押さえて非難する。
けど。
「何やね『ガンッ』て音がしーとら、静かになっちゃやん。
気になるね」なんて、さもこっちに非があるように言う。
「別に足ぶつけただけやから気にしんで」
そう言って、さっさと追い出す。しかし。
「……」
「……」
この、微妙な雰囲気な元に戻らない。
- 507 名前:とあるオフの日〜コタツにみかん〜 投稿日:2003/12/04(木) 01:44
- 「…そういえば、大丈夫?ヒザ」
「あ。…忘れとった。大丈夫、うん」
「………」
「………」
またコタツに向かい合って座るけんど。
お互い目線は合わせられない。
……………………。
- 508 名前:とあるオフの日〜コタツにみかん〜 投稿日:2003/12/04(木) 01:52
- すぅ、はぁ。
深呼吸を一度行い、勇気をぶつけた。
「……ねぇ」
こっちが声をかけると、「何?」と言いたげな目線を返す。
「さ…」
「さ?」
「さっきの……続きは………………何?」
「え…」わたしの科白にビクッと体が震える。
…ちょっと面白い。
「ねぇ…?」
さらに促すと、わたわたと周りを見渡す麻琴。
「ええええええええ えとね………!」
「…うん」その勢いに唾を飲む。と。
突然コタツの真ん中に手を伸ばした。
「み、みかん食べよ!!」
- 509 名前:とあるオフの日〜コタツにみかん〜 投稿日:2003/12/04(木) 02:01
-
…は?
「だって、ほら、せっかく愛ちゃんのお母さんが用意してくれたんだから」
言いつつ、わたしと自分の前にみかんを置いていく。
さ、食べよ、言ってるそばから皮を剥いていく。
ねぇ…
いくらなんでも、あんな状態に『みかん食べよ』なんて言葉が
出てくるなんて、わたし、思ってないかんね?
小川さん?そこんとこ分かってる?
はあ。
しょうがないからわたしもみかんを剥き始める。
別に食べたいわけじゃないけどね、スジも取って、口に運ぶ。
あ。美味しい。
………………………………ま・いっか。
今日はみかんの美味しさに免じてこれで良しとしますか。
麻琴のみかん食べる顔も幸せそうだし。その顔にちょっときゅんときたし。
でも…次ははぐらかしなしだかんね?
- 510 名前:とあるオフの日〜コタツにみかん〜 投稿日:2003/12/04(木) 02:03
-
…って『次』ってなに自分!?
end
- 511 名前:あとがき 投稿日:2003/12/04(木) 02:09
- す、すいませんでした。(大汗)
これの別視点versionもありますが…どうしましょう?
ああぁごめんなさい。
- 512 名前:461 投稿日:2003/12/05(金) 02:22
- ≡(( ´Д`)/≡= はいぃっ先生!是非とも読みたいです!(誰
…ごめんなさい、あまりの嬉しさに暴走しますた。
ってか小高書いてくださってありがとうございます<(_ _)>
もう、ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!ってなって
ウワ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━イ!!って回って
(*´д`*)パッションしちゃいました(訳ワカラン
なのでむしろ私がごめんなさいと謝りたいです(´-ω-`)
ところでできれば、『次』とやらを書いてほし(ry
ほんとエロンでごめんなさい。
- 513 名前:名無し 投稿日:2003/12/06(土) 05:25
- いい!いい!いい!ですよ!
是非是非別視点も読みたいです!
続きも書いていただけた際には・・・昇天・・・
作者さん、お願いしまぁーす。
- 514 名前:れなかめとか 投稿日:2003/12/08(月) 22:34
-
最近マイブームになりつつあるれなかめで。
- 515 名前:ココア。 投稿日:2003/12/08(月) 22:36
-
ダイスキだって、昨日も言った。
ダイスキだって、いつも思ってる。
ついさっきまで笑いながら話してたのに
気付いたら剣呑な雰囲気が二人の間を漂っていた。
「だってれなから言ってもらったことなんてほとんどないもん!」
ついさっきまで二人で飲んでいたココアの入っていたカップを洗いながら絵里は口を尖らせる。
あたしは布巾でクッキーの乗っていた皿を拭きながら
「そんなことなかやん」と口ごもりつつ反論した。
確かに、回数的には絵里の方がそーゆーことを言うのが多い。
でも・・・あたしだって言ってる。
ただそう何回も言うタイプじゃないから、
その、一回一回に気持ちを込めてるだけで・・・。
- 516 名前:ココア。 投稿日:2003/12/08(月) 22:38
-
「なんか不公平な気がするんだもん」
まくっていた袖を下ろしながらリビングのソファに腰掛ける絵里。
そうやって袖の中に手を隠すのは自信がない人がする仕草なんだ、って
前に何かのテレビで見たことあるけど本当なのかな。
「片思いみたいで、やだ・・・」
遅れてやってきたあたしを上目遣いで睨むとそのまま黙り込んでしまった。
「片思いって・・・」
ちゃんと両思いになったじゃん。
だからこうしてオフの日を二人で一緒に過ごしたり、
毎日メールとかしたり、手とかつないだり
・・・少なくともあたしは嫌いな相手だったらこんなこと絶対にしない。
もっとテキトーにしか相手しない。
- 517 名前:ココア。 投稿日:2003/12/08(月) 22:39
-
今日だって絵里が相手だから眠くてもちゃんと起きたし、
部屋の片づけもしたし、ガラにもなく一緒にクッキーなんか焼いてみたりしてんじゃん。
絵里が不満に思ってる理由がわからなくておっきくため息をついた。
途端に絵里がしゅん、と俯いてしまう。
・・・怖がらせるつもりなんてなかったんだけどな。
「じゃ、どーしたら納得してくれる?」
自分じゃどーにもお手上げで袖口の毛糸をいじっている絵里に尋ねた。
「・・・・してくれたら」
「なん?」
もごもごと口の中で言う絵里の言葉が聞き取れず聞き返す。なんか、イヤな予感がヒシヒシと。
「きすしてくれたらなっとくする」
ふわふわした絵里の口からそんな言葉が飛び出して仰天する。
ああ、でもたしか絵里の愛読書は「快感フレーズ」やけんね。
「ね、れな聞いてる?」
「え、ああ、聞いてる聞いてる」
キス・・・キスですか。中学生なのに?なんか、ジョーシキ、っつーかリンリカン?
みたいなもん的にヤバくないのかな。あ、でも友達で付き合ってる子もいたし普通なのか?
東京は結構ススんでるって聞いてたし、まぁそういうのもありなんだろうけど・・・
- 518 名前:ココア。 投稿日:2003/12/08(月) 22:40
-
「・・・ごめんね」
自分の中でいろいろと考えていると絵里が困ったような、泣きそうな顔して謝っていた。
「わかったから、そんな困った顔しないで・・・」
「えっ、ちが、そーゆー意味じゃなくって!」
あたしがキスを嫌がってると判断したのか
絵里はどんよりと下を向いたまま指をモジモジいじってる。
そーゆー拗ね方すら結構サマになってて可愛い。でも誤解は困る。
あたしはイヤだなんて一言もいってない。
「・・・いいよ無理しなくても。ヤなんでしょ?」
ああ、そんな泣きそうな声出すな。
ただでさえ線が細いのにますます儚い雰囲気になってしまう。
「嫌やなか」
「ウソ」
「ウソなんかいいよらん」
「だって、さっきすっごく困った顔した」
「それは・・・」
「ホントは私のこと好きじゃないんだ」
―――好きでもないヤツとのキスなんて考える前に断ってるよ。
- 519 名前:ココア。 投稿日:2003/12/08(月) 22:41
-
黙って絵里の隣に腰掛ける。
絵里は少しビックリしたように腰を浮かせかけて留まった。
「ホントにしてもいいの?」
一言そう断って絵里のほうへカラダを向ける。絵里もそぉっとこちらの顔をうかがう。
「べ、別に言われたからする、ってワケやないけんね。あたしだってずっと・・・」
―――したくなかったって言ったらウソになる。
だってやっぱり好きな人ができたらキスしたいってのは女の子の夢やなか?
でもなんか絵里を見てるとそーゆーヤラシイことはしたくないのかな、って思ってた。
なんていうか絵里はそーゆードロドロした事とは無縁な感じがした。
キスとかそれ以上の事とかそーゆーのなしで
絵本の中の王子さまとお姫様みたいに幸せに暮らしました、ってカンジが似合うんだもん。
もう一度いいの?と尋ねるとふわり、と絵里は笑って頷いた。
- 520 名前:ココア。 投稿日:2003/12/08(月) 22:42
-
「じゃ、じゃぁこっちからするけん、目つぶって」
緊張した声であたしがいうと絵里はちょっと戸惑ってそれから大人しく目をつぶった。
ちょっと汗ばんで冷たくなってる手が細かく震えて、
震えてるのを絵里に気付かれるのはイヤだな、とそんなことを考えていた。
ソファに腰掛けてるから身長差もほとんどなくて、
目をつぶったせいで幼く見える絵里の顔が目の前にある。
そっと肩に手を乗せるとあたしの手の震えは意外にもピタリと止まって、
逆に絵里の肩がピク、と動いた。
「そっちが言うたんやけんね、止めるんだったら・・・」
「いいよ、早くして」
せっかく最後の確認を、と思ったのに絵里に急き立てられるように口をつぐむ。
なんだよ、さっきまでメソメソしてたくせに。
- 521 名前:ココア。 投稿日:2003/12/08(月) 22:43
-
こういう時、どーしたらいいのかな。
絵里を引き寄せるべきなのか、自分だけ動いたらいいのか、目はいつ閉じるのか、
首はどの程度傾けるモンなのか・・・とか考え出したらきりがない。
自分の頬が火照っているのがわかる。
気がつくと目の前の絵里の顔も赤くなってる。
―――絵里も緊張してるんだ。
そう思うと少しだけ気が楽になって残り5センチくらいまで顔を近づける。
息がかかってくすぐったい。少しだけ顔を傾けた。
あと数センチ。
オーディションのときより生放送の前よりもっとずっとドキドキしてる。
あたしのセーターを握り締める絵里の手にぎゅ、と力が入った。
- 522 名前:ココア。 投稿日:2003/12/08(月) 22:44
-
「絵里ん事、好いとぉよ」
囁くみたいな小さな声だったけどありったけの気持ちを込めた。
それこそ今まで言わなかった分を補うくらい。
口に出して言うのはめったにないけどホントはいっつも思ってる。
少しだけ絵里が笑ったような気もしたけど目を瞑ってたからよくわからない。
―――触れた絵里の唇は少し乾いていて、甘いココアの匂いがした。
- 523 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/08(月) 22:44
- 別視点是非読まさせて下さい。
大変ドキドキしたもので(w
自分も「次」が読みたいです。
- 524 名前:ココア。 投稿日:2003/12/08(月) 22:46
-
初めてのキスはココア味だなんて、お子様もいいとこだけど
とりあえず腕の中のお姫様は大満足のようなので黙って絵里を抱きしめる。
心臓の音は少し落ち着いてきて逆に落ち着きすぎて眠くなってくる。
絵里が来るからってはりきって早く起きたせいかもしれない。
絵里の体温が心地よくて、安心したように寄りかかってくる絵里の重みが心地よくて、
トロトロと目を閉じる。あ、ヤバイ、寝る・・・。
「れな、だいすき」
そんな声が聞こえて、不意にココアの匂いが強くなったような気がしたけど
たぶんこれは幸せな夢の始まりだと思ったから
重くなった瞼を開けることはしなかった。
〜おしまい〜
- 525 名前:れなかめでした 投稿日:2003/12/08(月) 22:47
-
以上です。
お付き合いありがとうございました。
- 526 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/08(月) 22:49
- 私のレスが途中に入ってしまわれました。
れなかめ作者様申し訳ございません_| ̄|○
- 527 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/08(月) 23:07
- >>515-524
ココアすごく良かったです
れなえり自分も好きですんで
絵が浮かんで頬がゆるんでしまいましたよ
ありがとう
- 528 名前:年末指定便 投稿日:2003/12/11(木) 14:43
- 「ねぇねぇ。梨華ちゃんて物知り?」
ソファーに座りテレビを眺めていると、後から声をかけられた。
返事はしないで振り返る。
話し掛けたくせに。
ベットに寝そべり完全リラックスモードで足をバタバタさせてる姿。
よっすぃーの視線は雑誌に落ちている。
「何?突然」
聞いても声は返ってこない。
マイペースは今に始まったことじゃないけど…。
無言で続きを待つ。
数分後、雑誌をパタッと閉じてようやく目が合う。
「もうすぐクリスマスだね」
「そうだね」
クリスマス特集でも読んでたの?
どうせ仕事なんだから関係ないじゃんっていつも言ってるのに。
「サンタにお願い事した?」
えっとさ…最初の質問はどこいったの?
私の答えも聞かずに諦めた?
- 529 名前:年末指定便 投稿日:2003/12/11(木) 14:43
- 「梨華ちゃん聞いてる?」
「聞こえてるよ。よっすぃー叶えてくれるの?」
気分を変えて会話に戻る。
「あたしサンタじゃないもん」
・・・・・・その通りですけどさ。
じゃあ、どんな意図があるの!その質問には!!
心の中で逆ギレ。
いや、多分逆じゃないけど。
「ちっちゃい時はサンタさんに手紙書いたよ」
「それ、どこの郵便局の計らい?」
すぐそういうこと言うんだから。
大人なんだからさ、そこは無邪気に流そうよ。
「それよりさ、サンタってどうしてお願い叶えてくれんの?」
それよりなんだ…
話が四方八方に飛び過ぎだし。
油断してたら置いてくつもりでしょ?。
「願いを叶えるって言うより、プレゼントくれるだけじゃないの?」
「にしったって何でよ」
知らないよそんなの。
プレゼント貰ってありがとう、で良いと思うけど。
本来違うとか判ってるけど、教会行くでもないしね。
- 530 名前:年末指定便 投稿日:2003/12/11(木) 14:44
- 「1年間いいコにしてたご褒美」
これでイイでしょ。
「ああ、じゃナマハゲの逆バージョン的なことか」
「・・・・・・どうしてナマハゲが出てくるの?」
「だって、テレビで『ナグゴハ、イネガー』って悪い子供脅かしてたよ」
…泣く子はいないか、ね。イメージは出来たけどさ。
それに悪いコ以外でも、ナマハゲ来たら泣くと思うよ。
「でも納得いかない、クリスマス喜びにくい」
どうもしてあげれないから、もう引いてほしいんだけど…。
「初詣はさ、賽銭があるでしょ。流れ星は稀少価値で有りだよね」
続いてる…。
お願い事は、タダより高いものは無いって感覚?
因果応報?ちょっと違うか。
「七夕の短冊は誰に向けて?」
クリスマスはどこ行ったの?
ゴメンナサイ。もう許して。
て言うか、私が殆ど黙ってしまってる事実に早く気付いてよ!
「・・・・・・七夕は…えっと、織姫と彦星が会えるから…」
取り敢えず答えてみる。
「から?」
その上目遣いは禁止です。無駄ににドキドキしちゃうでしょ。
それに適当なんだから…。
「…会えて嬉しくて浮かれてちゃって、幸せお裾分け!」
やけになってる私。
語尾で破れかぶれさを表現しても。
「年1回しか会えないのに、人の願い聴いてる場合じゃないよね」
ほら、伝わってない。
よっすぃーはベットの上で胡座をかいた。
心算に入った様子でウーと唸りながら両手の拳で頭を挟む。
眉間に力入れた思案顔。
ちょっとカワイイ。
- 531 名前:年末指定便 投稿日:2003/12/11(木) 14:45
- 「大体さ、よっすぃーイベントごと興味あったっの?」
「ないよ」
即答。
判ってたけどさ。
誕生日くらいだものね。
『みんなで盛り上がるだけの決められた日はどうでもいいでしょ。
梨華ちゃんの生まれた日はすげぇー重要だけどさ』
なんて甘い台詞を最初の頃もらったせいで。
世間の行事は私たちに無関係。
去年のクリスマスは、ついでな感じでケーキ食べたくらいか。
で、何考え中だったの?
ぜんぜん関係ないこと考えてたんでしょ。
- 532 名前:年末指定便 投稿日:2003/12/11(木) 14:46
- 「せっかくクリスマスだし、私がサンタによっすぃーのお願い伝えてあげる」
たまにはね。
だから途方もないコト言わないでね。
私の宣言に思いっきり呆れた顔を見せた割りに、
また唸り声を上げながら一生懸命悩み始める。
決めましたって悪戯な微笑を浮かべ、大きな目が私を真っ直ぐに見詰る。
イルミネーションを閉じ込めた瞳。
本当ズルイと思う。
- 533 名前:年末指定便 投稿日:2003/12/11(木) 14:47
- 「梨華ちゃんが今年も側にいるように、
梨華ちゃんに頼んどいてとサンタにお伝え下さい」
判りにくいよ。
・・・・・・それにズルばっかり。
いつもこんな。簡単そうで、何気なく。
ぺこりと頭を下げた後のちょっと得意げな笑顔。
それが私の目の中で零れそうな水分と揺れる。
泣くもんですか!
俯くのが精一杯だけど。
- 534 名前:年末指定便 投稿日:2003/12/11(木) 14:47
- 「今年って、クリスマスは年末なんですけど」
負け惜しみ気味な私の声。
「だって来年のコト言うと、鬼が笑うんだよ」
和洋折衷なのんびりした発言に思わず下を向いたまま笑った。
鬼に笑われるよりマシでしょ?
ソファーが少し傾いて。
隣によっすぃーの温もり。
私の髪を乱暴に掻き混ぜる手。
こうして今年も、クリスマス何てどうでもいいやって思ってしまう。
「ずっと、じゃさ来年困るでしょ」
「毎年お願いするの?」
「そうだよ。サンタにも短冊にも。流れ星とかも。
機会があればナマハゲにだって言っとくよ」
「…最後のは困るだろうから止めといて」
「まぁ最終的に届く先は梨華ちゃんだしね」
- 535 名前:年末指定便 投稿日:2003/12/11(木) 14:48
-
それなら、よっすぃーのお願い事は必ず叶うってコトだね。
私ならいつでも叶えてあげる。
永遠と言葉にするよりも。
願うときこの距離にいて。
もうすぐクリスマス。
サンタさんも大忙しだろうしさ、
お願い事ちゃんと自分で届けに来てね。
- 536 名前:年末指定便 投稿日:2003/12/11(木) 14:51
- 終わりました。
初めて書きましたが緊張しました。
てっ事でつまらなくてスミマセン。
- 537 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/12(金) 23:53
- かわいかったです!
- 538 名前:エムディ 投稿日:2003/12/14(日) 22:59
- 田亀大好きなので、自分で書いてみました。
小説、初めてですけど(汗
えと、読んでみてください。
- 539 名前:泣き虫なあなた 投稿日:2003/12/14(日) 23:00
- 泣き虫なあなた(亀井x田中)
娘。の楽屋。
いつも賑やかだなあ〜って思っちゃう自分がいる。
娘。になれてよかったなあ〜って思った。
読んでる漫画から目を離して周りを見る。
リーダーと辻さんがきゃーきゃーいってまたお菓子とか食べてる。
加護さんは5期のみなさんとトランプしてる。
- 540 名前:泣き虫なあなた 投稿日:2003/12/14(日) 23:01
- 石川さんは、まあ、相変わらず吉澤さんとラブラブ中です。
矢口さんと安倍さんはそのお二人をみてにゃにゃしている。
正直、あのやれやれ顔ってちょっと怖いです。
そういえば、絵里とさゆは?
まだ来ないよね?
違う、かばん置いてあるもん。
また二人でどっか行っちゃったの?
んぁ〜(あ、後藤さんじゃないけど)
なんでさゆとばっか遊んでるんだよ!
う〜むかつく!
そう思った時
「…にしてもさぁ…」
絵里の声が聞こえてきた。
あ、帰ってきんだ。
- 541 名前:泣き虫なあなた 投稿日:2003/12/14(日) 23:02
- 「そうね、でも、あたしって可愛いよね♪」
「何ぃー!あたしのほうが絶対可愛いだって!」
…
なんですか、またですか道重さん。
にしても、亀井さん、しっかりしてよ、年上ですから。
「れいな〜(はーと)」
絵里があたしに声かけて来た。
「なん?」
ちょっと冷たく返事した。
「!…」
絵里が固まった。
あ、ちょっとやりすぎかも。
恐らくこっちを見てる絵里。
ってさ、あたしの目ってそんな怖いなの?
「…怒ってるの?」
「別に」
「…」
- 542 名前:泣き虫なあなた 投稿日:2003/12/14(日) 23:03
- 二人とも黙った。
さゆはどうしていいかわからないって顔してあたしたちを見た
んで、先輩たちのところに逃げた
(おい!逃げちゃったのかい!?)
「…クスッ…」
え?
絵里、泣いちゃった?
まあ、絵里らしいだけどね、すぐ泣くのは。
「ちょっ、絵里! 泣かないでよ、いきなり。」
「…だって、だって、…れいな冷たいんだもん、最近。」
「はぁ?」
「…こないだ久しぶりに会うのになんで目あわせてくれないくて、…あたし、なんかしたの?…あたしのこと嫌いなの?…」
「え?そんな…」
「…そうでしょ?」
そんなことないよ。
だって、
「だって絵里ってさゆばっかと話すから。」
「友達だからだよ?…れいなは特別だから…」
「うん。ちょっとむかついた。ごめん」
- 543 名前:泣き虫なあなた 投稿日:2003/12/14(日) 23:04
- 絵里に自分の腕を回した。
ああ〜久しぶりの絵里のぬくもり、暖かいなあ。
絵里はあたしの首に顔を隠したのを感じた。
かぁいいなあ、こいつ。
「あたし、れいながあたしが嫌いになったのかと思った、…んっ!」
急に絵里の唇を奪った、触るだけの甘いキス。
そしてまた抱きついた。
鏡に映ってる自分の顔は、トマトみたいに赤かった。
「…ごめんな、絵里。好きだよ?」
「…あたしも、好き。」
嬉しくてにやけてしまった。
いいな、こんな甘い時間を過ごせる、はず…
- 544 名前:泣き虫なあなた 投稿日:2003/12/14(日) 23:05
- 「あつあつもいいけどさ、もうすぐ本番だよ?」
「「え!?」」
いきなり後ろから声が聞こえた。
周りを見てもだれもいない、じゃなくて、目線を下ろすと矢口さんがいた。
「亀井ちゃん、顔、なとかしてよ。」
「あっ、はい」
そういって矢口さんはどっか行ってしまった。
絵里が離れようとした時に、あたしはまた腕に力を入れた。
「ん!れいな。本番、もうすぐだよ?」
「…ちょっとだけこうしたい、駄目?」
「…いい、よ」
真っ赤になって返事してくれた。
可愛いな〜
ちゅっ
「もう〜れいなってば」
「てへへ」
は〜幸せだな〜
あたし、やっぱ好きです。
この、泣き虫の彼女が。
~END~
- 545 名前:エムディ 投稿日:2003/12/14(日) 23:07
- **あとがき**
初です!生まれて初めて書きました。
うわ〜うわ〜内容もなくて、オチもなくて、ただのいちゃいちゃの話です、はい。
あと、福岡弁、わからなくてすみません。
下手でごめんなさい。(泣)
- 546 名前:石川県民 投稿日:2003/12/15(月) 14:20
- 再びお邪魔させていただきます(へこへこ)。
もう誰も待っていないと思いつつ。それでも書かせていただきます。
別視点のコタツにみかん
- 547 名前:コタツにみかん〜お昼のモーママ〜 投稿日:2003/12/15(月) 14:23
- 私の名前は高橋。職業は母、高橋愛の母親。
娘がモーニング娘。のオーディションを受け、合格して以来、義母さんと旦那を福井に置き、愛と二人で東京のマンションに暮らしている。
地元と比べたら、快適といえる生活じゃないが、
それでもこれといった不満もなく暮らしている。
ただ…
『あ〜愛ちゃんの部屋に来るの久しぶり…』
『そうやねー。最近は里沙ちゃんちに集まってたもんね』
それぞれの号室の音はこれっぽっちも聞こえないのに、各部屋の音や声は完全に筒抜け。
こういうのも欠陥住宅って言うのかしらねー。
そりゃ・ね。親子だからといっても愛が私に聞かれたくない話は沢山あるのだろうし、普段は意識せずに聞かないようにしているのだけれど。
今日は、別。
先ほどの通り、まこっちゃんが遊びに来たから。
実は愛とまこっちゃんの関係はかなり面白い。だってこの二人……
おっとムダ話をしている場合じゃない。二人の会話を、洗濯物をたたみつつ聞き耳をたてる。
愛は部屋の音が筒抜けだということ、そして私が聞き耳をたてている事には微塵も気づいていないだろうね、おほほほほほ。
ま・ほら、昼ドラ始まるまでだから。ね?
- 548 名前:コタツにみかん〜お昼のモーママ〜 投稿日:2003/12/15(月) 14:24
-
――ということで聞き耳をたてているわけだけれど。
『コタツって…眠くなる……』
こらこらこら。ちょっとちょっと愛。寝るつもりなの?
まこっちゃん寂しがるわよ。
そういう風に寝られると寂しくなる、ってあんたのお父さんが昔、私に言っていたもの。
『ちょやっ』
…ちょや?
意味が分からず、首を捻っていると、愛の不機嫌そうな声が聞こえた。
『麻琴…何やの』
ああ、まこっちゃんが起こしたのね。偉いわ、起こしもしなかったうちの旦那とは大違いやね。
と思いきや。
なんで二人、ケンカしているのよ……。
しかも小学生レベルのものを…情けな。
愛、もうちょっとまこっちゃんの気持ち、分かってあげなよ。
洗濯物もたたみ終わり、時計を見ると、番組の始まる数分前。
お茶を淹れようと立ち上がったとき。
ガンッ!
な、なに今の音、かなり痛そうな…。
『愛ちゃん大丈夫?』
何かあったのかしら?でも……
う〜〜ん…
@様子を見に行く。
Aまこっちゃんに任せて昼ドラを見る。
……………………@かしら。
- 549 名前:コタツにみかん〜お昼のモーママ〜 投稿日:2003/12/15(月) 14:25
- がちゃ。
「愛?どうしたん?」
うむむむむ。愛のやつ。
人がせっかく心配して見に来たというのに。
さっさと追い出しおって。
んもー。
愛はまこっちゃんに任せて昼ドラを見るとしよう。
でも。自然と笑みが零れる。
「あの二人は昼ドラより面白い」と。
- 550 名前:コタツにみかん〜お昼のモーママ〜 投稿日:2003/12/15(月) 14:30
- まこっちゃんが帰った夕飯中。
「なぁ、愛」
「んー?」
私の呼びかけに気の無い返事。だから私も何気なく言った。
「まこっちゃん、いつ嫁にきてくれるの?」
ぶはっ。
「ああいう子なら私、娘がもう一人いてもいいわ〜。というより欲しいわ〜〜」
げほげほげほっ。
咳き込む音に顔を上げると、食卓にミソ汁(わかめとジャガイモ込)が散らばっていた。
慌てて布巾で拭う。さっきの『ぶはっ』は愛が口からミソ汁を吹き出す音やったんやね。
「汚い子やね、まったく」
「おか…さんの……せい」
涙声の反論は無視するとして。
「で・どうよ?」
瞬時に耳まで赤くなるわが子。俯き、もじもじと箸をいじる。
「いや、あの、えっと、その、んだ、けんど…」
「…どうでもいいけどコロッケばらさんで」
- 551 名前:コタツにみかん〜お昼のモーママ〜 投稿日:2003/12/15(月) 14:31
-
夜。
再びノックもせずに、ドアを開ける。
ベッドで、すー、すー、と古いタオルを握り締めながら寝息をたてる愛の姿がある。
忍び寄り、顔にかかった髪を除いてやる。
ごめんな、愛。
昼間、お母さんちょっぴり見ちゃったよ。
お母さん、もしかしなくても『お約束』やっちゃったよね。
でも。
お母さん、あんたの味方だからね。
がんばれ、愛。
えんど。
- 552 名前:懺悔あとがき 投稿日:2003/12/15(月) 14:40
- 512>461さま
513>名無しさま
523>名無しどくしゃサマ
書くのが遅くなって申し訳ありませんでしたぁっ!しかも絶対満足いたたけないような中身でして…。
えーと「別視点」は小川さん視点と思われてたかと。でも、母視点のほうが面白かったので。
『次』
母「つまり愛は、まこっちゃんに再び押し倒されて組み敷かれたい、と」
愛「なななななっ!?」(顔真っ赤)
母「愛、アンタ『誘い受け』ってやつやってんね。『愛』と『受』は似とるしなぁ」
愛「いやーーー!」
………そもそもヘタレの代名詞なあの子が再度できるかどうかが問題(w なので。『次』を期待された方々、申し訳ないデス。
んで。最近荒らし並みに書き込みをしているので、自分でスレッドたてることにしました。新人漫画家の読みきりから連載への動きと同じようなもんです。
青板で分かりやすいスレッド名のを。
他の作者様、読者様、お邪魔いたしましたm(__)m
- 553 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/21(日) 10:38
- 母視点がくるとは!
しかしまこあい、いいですね〜。
こうなるとこの2人がくっつくとこも、見たくなりました。
向こうでのお話も、楽しみにしてます。
- 554 名前:待ち合わせ、1時間すぎ 投稿日:2003/12/24(水) 00:43
-
走って走って走り続ける。
スーツとスカートで走りにくいけど、そんなこと言ってらんない。
息もあがってて苦しくてたまらなかったけど、それでもスピードは緩まない。止まることなんてできない。
- 555 名前:待ち合わせ、1時間すぎ 投稿日:2003/12/24(水) 00:43
-
こんなときに限って、何で残業なんか!
私の机にファイルや資料を置いてにっこり笑った上司の顔を思い出し、よけいに腹が立った。
今日が何の日か部長だって知ってるじゃない。
娘さんにケーキ買うんだ、プレゼント渡すんだなんてにやけ顔で話してたじゃない。
私にだって予定はあるのに。
それなのに、それなのにぃーっ!!
「遅れる」メールを送ってから、私は今までで一番気合を入れて仕事をした。
早く終わらせないとって必死だった。
何とか一時間で片付けて、私は急いで会社を後にする。
約束の時間よりもう三十分以上も過ぎてる。
待っててくれてる・・・よね?こんなに寒い日だけど。
もし風邪なんてひいちゃったらどうしよう。私のせいよね・・。
- 556 名前:待ち合わせ、1時間すぎ 投稿日:2003/12/24(水) 00:44
-
イルミネーションのきれいな大きなクリスマスツリーの下、黒いコートに身を包んだあの人の姿を見つけて、私は笑顔になる。
待っててくれたことにほっとする。
もしかしたら怒って帰っちゃったかもしれないと思ったから。
「ごめん、遅くなっちゃって。」
私が駆け寄ると、よっすぃはぷくっと顔を膨らませていた。
「今、何時だか分かってる?」
「ごめんなさい・・。」
「クリスマスイヴで一人、こんなとこにずっと待っててさ。他にも待ち合わせてる人たくさんいたのに、もうあたしだけだよ。」
「・・・ごめん。」
謝ることしかできない私。
よっすぃだって忙しいのにわざわざこうやって・・。
- 557 名前:待ち合わせ、1時間すぎ 投稿日:2003/12/24(水) 00:44
-
何だか涙が出てきた。
上司のせいとかもうそんなことは考えられなくて、ただただよっすぃに嫌われたくないって思う気持ちばかりで・・。
- 558 名前:待ち合わせ、1時間すぎ 投稿日:2003/12/24(水) 00:45
-
スタスタと歩き出したよっすぃ。
後姿が離れていくのを見て、私は慌てて腕を掴んだ。
「待って。」
ぴたっと立ち止まったよっすぃの背中に私はそっと自分のおでこをくっつけた。
「ほんとにごめんね。何でも言うこと聞くから許してよぉ・・。」
ちょっとだけ間が空いて。
「・・こっちこそ怒っちゃってごめん。仕事だったらしょうがないよね。」
よっすぃはくるりと振り返ると、泣いている私の目をハンカチで拭いてくれた。
「・・おいしいもの、食べに行こっか。」
「うん!」
二人腕を組んで歩き出す。
何が食べたい?何でもいいよ、よっすぃと一緒なら。何でもいいって困るんだけど。
そんな会話も何だかうれしくて。
- 559 名前:待ち合わせ、1時間すぎ 投稿日:2003/12/24(水) 00:46
-
「あ、さっきのこと絶対だからね?梨華ちゃん。」
赤信号で立ち止まったとき、ふとよっすいは思い出したように言った。
「ほぇ?」
きょとんとして顔を上げると、満面の笑みでよっすぃはこそっと私の耳元で囁いた。
「何でも言うこと聞くってこと。」
HAPPY MERRY CHRISTMAS!!
- 560 名前:待ち合わせ、1時間すぎ 投稿日:2003/12/24(水) 00:47
-
END
みなさまもよいクリスマスを!
- 561 名前:始まりのプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 00:37
- −都内某所の廊下−
「安倍さん今日のクリスマスイブ何していますか?」
「エッ!?見ての通り仕事っしょ?」
それでこの後みんなで、クリスマス会やるんだよね。
振り返った安倍さんが、いつもの笑顔で答えてくる。今日も可愛い過ぎです。
「あっあのクリスマスって私たちが出たドラマ放送されますよね。」
「そうだけど、どうしたのリカちゃん?」
首を傾げて、不思議そうに見てくる安倍さん。
こんなことを言いたいんじゃない。
私はいつも本当に言いたいことを、言おうすればするほど言葉にならなくて、そんな自分が嫌になって。
落ち込めば、落ち込むほど周りの人に迷惑がかかって、どうしていいか分かんなくなちゃう。
- 562 名前:始まりのプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 00:41
- 「リカちゃんゆっくりでいいから、本当にリカちゃんが言いたいことが何なのか教えて。」
きっと私の顔は今にも泣き出しそうだったんだろう。安倍さん優しく微笑みながら、私の
答えを待ってくれている。
その表情があまりにも優しくて、私のどうしようもない心に響く。
今度はさっきみたいに情けないんじゃなくて、例えようのない愛しさに反応して
涙が出てきちゃって。
私がどんなに安倍さんを好きでいるかって再認識しちゃう。この涙は、止めたくないって
心から思う。
「リッ・リカちゃん、泣かなくていいからなっちはちゃんと待ってるから。」
安倍さんは私が泣いたことにビックリして、そう言いながら私の頭を撫でてくれる。
私はもっとその手で触って欲しくて、その温かく柔らかそうな安倍さんの体をこの手で
擁き(いだき)たくて。
このどうしようもない想いを知って欲しくて、なけなしの勇気を振り絞る。
- 563 名前:始まりのプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 00:43
- 「わっ私と一緒にクリスマスを過ごしてください。」
「リカちゃんお仕事とクリスマス会があるから、ずっと一緒だよ。」
確かに仕事と娘。のクリスマス会で、安倍さんとは一緒に過ごす。
けど、私が欲しいのはそんな時間じゃない!!
「仕事もクリスマス会も終わった後の安倍さんの時間が欲しいんです。」
「えっ!?それってつまり・・・・」
「安倍さんのことが好きなんです。だから恋人としてクリスマスイブを、
私と過ごして欲しいんです!!」
一気に捲くし立てる様に、自分の言いたい事を全部吐き出した。
次の瞬間、自分の言ったことの重大さに気付いて体が動かなくなった。
安倍さんの顔を見ることなんかもちろん出来なくて、長い沈黙が訪れる。
- 564 名前:始まりのプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 00:47
- 「あっあのリカ・・・「あっ安倍さん今のは、取り消してください。」
沈黙を破ろうとする安倍さんの声を聞いて、どんな答えが返ってくるのか怖くなる。
だから、意気地なしの私は逃げることを選んだ。自分のした告白をなかったことにしよう
という最低な手を使って。
「・・・それじゃ、・・休憩も終わりますし、先にスタジオ行ってますね。」
振り返るのが怖くて、そのまま逃げるようにその場を去る。
そんな私を見て安倍さんは、どう思ったんだろう?軽べつするよね。最低なことしたんだし。
その後の収録とクリスマス会は散々だった。何をやってもうまくいかなくて、どんどんネガ
ティブになっていく。メンバーにも心配され、励ましの言葉をもらう。でも、安倍さんだけ
は私の側には来てくれない。いつもはいち早く側に来てくれるのに・・・。
あんなことをしたんだから、当たり前だと頭では分かっていても心が付いて行かない。
- 565 名前:始まりのプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 00:49
-
気付いたらクリスマス会も終わってて、一人で楽屋にいた。
「10時半か・・・。」
こんな日は、さっさと家に帰って寝ようと思って立ち上がる。
その時、楽屋の扉が開く。
「やっぱり、ここにいた。」
「あっ安倍さん!?」
「ロビーで待っていても、全然来ないから来ちゃった。」
「私はもう帰りますんで、そこ退いて貰えますか?」
なるべく安倍さんの方を見ないように言う。
「やだっ!!」
退いたらリカちゃん帰っちゃうべさ。
「当たり前です。私は帰りたいんですから。」
安倍さんには、用事はありません。
止めどなく出てくる安倍さんへの酷い言葉。私が言いたいことは、こんなことじゃないのに
出てきてしまう。まるで私の口じゃないように。
- 566 名前:始まりのプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 00:52
- 「・・・っ・・うっ・・ひ・・く・・・・・」
安倍さんが急に喋らなくなり、心配になって顔を上げると、安倍さんは泣いていた。
いや、よく見ると泣いてはいなく、涙が落ちるのを必死に耐え、コートの裾をぎゅっと
握り締めている。
私には、その姿さえ美しく感じられた。
私がじっと安倍さんの顔を見ていると、安倍さんは下を向きながら言った。
「・・うっ・・・ごっごめんね。・・ヒク・・・・泣いても・・何の解決に
・・も・ならないね・・・。」
何で?安倍さんは全然悪くないのに。謝る必要なんてないのに!!
私はそんな顔が見たいんじゃない!!
そう思ったら自然と言葉が出てきた。
「泣かないで下さい。笑ってください。」
私は、笑っている安倍さんが好きなんです。
私の言葉に、安倍さんは肩をビクッとさせた。少し間をおいて安倍さんは、恐る恐ると
いった感じで顔を上げる。
「安倍さんの笑ってる姿みたいです。」
私は、今できる最大級の笑顔で言う。
- 567 名前:始まりのプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 00:53
- そうすると、安倍さんは顔を真っ赤にして、
「笑ってるなっちだけが好きなの?」
って上目使いで聞いてくる。今度は私のほうが真っ赤になって、
「卑怯ですよ。」
「何でだべ?」
なっち変なこと聞いた?
「そんな顔で言われたら、抑えられなくなっちゃうじゃないですか。」
安倍さんを抱きしめたいって衝動が・・・。
「えっと、抑えなくていいよ。」
なっちもリカちゃんに抱きしめて貰いたい。
さらに真っ赤になった安倍さんが笑いながら言ってくれた。
その言葉を合図に、私は安倍さんをこの腕に擁いた(いだいた)。
想像通りに、安倍さんに体は温かく、柔らかかった。それに良い香りもした。
- 568 名前:始まりのプレゼント 投稿日:2003/12/25(木) 00:56
- 「安倍さんさっきの質問の答えです。安倍さんの全てが好きです。笑った顔も、
怒った顔も大好きです。
メンバーのことには敏感なのに、自分のことには疎い所も。たまにドジったり、
焦ると北海道弁が出る所も。・・・なっちの全てを愛しいと思っています。」
自分ありったけの想いを言葉に込めて伝える。
「・・・なっちも・・・リカちゃんのことが好き。・・・大好きだよ。」
「・・なっち・・・。」
どちらから共なく目をつむる。
恋人になって初めてのクリスマスイブ。
恋人になった私たちが送りあった、未来に続く始まりのプレゼントは・・・・・・・
- 569 名前:月影 投稿日:2003/12/25(木) 01:01
-
END
初めまして、風板で書かせてもらっている月影です。
この話しは、私が書いている長編の方にあげようと思いましたが、
あまりに内容が違うのでこちらに投稿させていただきました。
- 570 名前:月影 投稿日:2003/12/25(木) 01:07
-
ラストプレゼントを見て、どうしても「なちりか」が書きたくなりまして、
投稿しました。
いかがでしたでしょうか?
- 571 名前:3rdcl 投稿日:2003/12/28(日) 23:57
-
正直レス564あたりまではすごく良かったと思うんですけど
その後をもう少し考えて書けばもっといい作品になったと思います。
(個人的に急ぎすぎているというか不自然な気がしました。)
自分も偉そうなこと言えないですけどね。(^^;)
(書いてる作品が更新止まってます。)
なちりかの作品見れて嬉しかったです。
また気が向いたら書いてみてください。
では失礼します。<(_ _)>
- 572 名前:月影 投稿日:2003/12/29(月) 23:58
- >>571 3rdcl様
貴重なご意見ありがとうございます。
月影が出来る範囲で申し訳ないのですが、以後気を付けます。
そしてゆくゆくは、3rdcl様のような、なちりかが書けるようになりたいです!!
(月影の実力では、無理でしょうが・・・・・将来的にはきっと・・汗・・・)
それでは本当にありがとうございました。
追伸 気が向いたらでいいですので、またなちりか書いて下さい。
- 573 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:11
- 今日の彼女は、何故か不機嫌で。
「…おーい?」
「……」
あたしのお気に入りのクッションを抱きしめたまま、テレビを見据えてぴくりとも動かない。
「…もしもーし」
「……」
堅く結ばれた唇が少し震えて、やっとこっちを向いてくれた。
でも、何もしゃべってくれない。
- 574 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:12
- 「…みけたん?」
「……」
無言で手招きするみきたん。
いまだに彼女の意図が読めないけど、とにかくそれに従って彼女の座るソファに座った。
じっと、見つめられる。
まっすぐな目があたしをとらえて、それが鎖となってあたしの体の自由を奪う。
「みきた―――――」
突然体を抱きしめてきた彼女の腕が、名前を呼ぶことを遮った。
- 575 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:12
- そう言えば、と思う。
最近、自分から抱きつくことが多くて、こうして彼女に抱きすくめられることが久しぶりだと。
力の強い彼女に抱きしめられるのは好きだ。
その力が強ければ強いほど、愛されてると感じることができるから。
今日の彼女の力は、すごい。
あたしが抱き返すことも出来ないくらい。
その腕が解かれる気配はない。
- 576 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:13
- そのきつさに酔っていると、急にそれが緩んで、体がゆっくり離れた。
「みきたん? どうしたの、急に」
「…亜弥ちゃん」
「ん?」
「…亜弥ちゃん」
「んー?」
「…亜弥ちゃん、亜弥ちゃん、亜弥ちゃん…」
あたしの名前を、何度も呼ぶ。
- 577 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:13
- 以前彼女に言ったことがある。
『呼ぶときの声が好きだ』と。『だから、もっと呼んで』と。
その時の彼女は恥ずかしがって呼んでくれなかった。
そのみきたんが、あたしの名前を何度も呼んでいる。
- 578 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:14
- 「亜弥ちゃぁん…」
何も映ってなかった顔がゆっくりくずれていって、その目が涙で潤みだした。
そしてゆっくり、あたしの胸に抱きついた。
- 579 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:14
- あたしの胸で泣きじゃくるみきたん。
年上なのに泣き虫さんだなんて思っていたけど、ふと考えてみると、彼女はあまり涙を見せない人だった。
負けず嫌いで、度胸もあって、悔し涙なんか流したくない、そんな彼女だけど。
そう言えば、あたしはみきたんの涙をよく見てる。
- 580 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:14
-
今までの彼女との記憶を振り返ってみる。
そこには少ないけれども、彼女の涙が残っていた。
細かく震えるその頭を、そっと包み込む。
熱が伝わってきて、彼女の涙が本物であることを感じさせる。
胸から顔が少しだけ離れて、その涙と同じように、口から言葉たちがぽろぽろこぼれた。
- 581 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:15
- 「っ、み、みき、しっ、ぱぃっ、で」
「…うん」
「がめんっ、と、かっ、んっ、もぉ、見て、らんなくてっ」
「うん」
「あゃちゃ、が、だっ、しゅつ、できてっ、っと、っ、ほん、とに…」
「…みきたん」
「わかっ、て、た、けどっ、っ、美貴、こわく、てっ」
頭を抱く腕に力を込める。
さっき、彼女がそうしてくれたように。
彼女の腕があたしの腰に回って、距離がゼロになると、彼女の涙が少しだけ弱くなった。
- 582 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:15
-
「よかっ……」
「よかった……」
「っ、ほんと…よかったよぉ……」
- 583 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:15
- テレビなんだから、あたしはアイドルなんだから。
そんな言葉は慰めにならないって知ってる。
それらは決して、みきたんの涙を止めるストッパーにはなりえない。
万が一、最悪の場合、不幸、事故、世の中は何が起こるかわからないから。
ほんの0.1%でも自分の愛する人に危険の可能性があるのなら、それは必然として涙の理由になるから。
だからこの涙は、あたしを愛してくれてる証拠。
泣いてるみきたんを見るのは少し辛いけど、でも嬉しかった。
- 584 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:16
- 「みきたん」
「亜弥ちゃ…」
「ありがとね、心配してくれて」
「ぅん…」
「ごめんね、心配かけて」
「…ほんとだよぉ……」
「でもね、あたし、どんなことがあっても、絶対脱出してたよ」
「…なんだよ、それぇ……」
- 585 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:17
- *****
- 586 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:17
-
宇宙船の形をしたボックスの中に入ったとき、その狭さがあたしの意志を圧迫した。
心なしか寒い。体が少し震えてるのは、きっと低い気温のせいだ。
たとえ絶対安心が保障されていても、不安がないと言ったら嘘になる。
しなければならないことは簡単だけれど、それが100%出来るとは誰にも証明できないから。
もし、失敗したら。
今になってそんなことが頭をよぎる。
- 587 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:17
-
もし、失敗して、大怪我でもしたら?
唄をうたえない体になっちゃったら?
記憶喪失なんかになっちゃったら?
最悪の場合、死んじゃったら?
わかってる、その可能性はないに等しいもので、でも「ない」と言ってくれる人はどこにもいない。
- 588 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:17
- (大丈夫、落ち着いてやれば絶対できる…)
自分に言い聞かせる。
独りの空間では、自分しか自分を励ます人はいない。
(大丈夫、大丈夫、大丈夫……)
目を閉じて、胸の前で両手を握り締めながら、頭の中で何度も繰り返す。
(大丈夫、大丈夫…)
『大丈夫だよ』
そのとき、声が聞こえた。
- 589 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:18
-
『亜弥ちゃんなら出来るって』
昨日の夜、そう言った彼女の表情まで詳しく覚えてる。
少し悲しそうにしながら、頭を撫でてくれて手の感触まで覚えてる。
『ぜっ、たい、大丈夫』
そう言いながらつけられたおでこも。
『失敗とかありえないから』
そう言いながら細められた目も。
『…頑張っておいで』
そう言いながら優しく触れた唇も。
みんなみんな、あたしの中にはっきりと残ってる。
- 590 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:18
- 気付くと、こんな狭い、無機質な空間の中にいながらも、あたしはまったく不安というものを感じていなかった。
寒さも感じなくなって、体の震えもいつしか止まってる。
「…よし」
絶対、大丈夫。
だってあたしは一人じゃない。
それにあたしを待ってる人がいる。
絶対に成功させて、今日もまたあの感触を、あの優しい腕や手や唇を感じるのだ。
それを見せる観客は一人もいなかったけど、あたしの顔は自然と笑ってた。
- 591 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:18
- *****
- 592 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:19
- 「…だって、ねぇ?」
みきたんの涙を服の袖で拭いてあげながら、つい何時間か前のことを思い出す。
「なんだよぉ」
鼻をすすりながら拗ねたようにする彼女がかわいくて、かわいくて。
- 593 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:19
- そうだ、今日は、
「だーいじょうぶ」
あたしが彼女にしてあげよう。
- 594 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:19
- 「あたしがみきたんの前からいなくなるわけないでしょ?」
そっと頭を撫でてから、こつんとおでこをくっつける。
「てゆーか、みきたんがいやがってもついてくし」
「…いやがんないし」
みきたんの目が細くなって、お互い小さく笑いあう。
「…こんなに好きなんだもん」
やさしく唇でふれる。
さっきまで泣いてたせいか、みきたんの唇はいつもよりあつい。
- 595 名前:あやみき 投稿日:2004/01/02(金) 00:19
- 「離れられるわけ、ないじゃん」
「……ばーか」
へへっ、て笑ってから、まるで子供のようなキスをくりかえした。
昨夜の記憶を引き出しながら、十何回目かの接触で、舌でみきたんの唇をノックした。
- 596 名前:ナナシー 投稿日:2004/01/02(金) 00:21
- おわり。
今年もあやみきで。
- 597 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/02(金) 00:24
- 誰か書くだろうと思ってたネタキター!!
良かったです。萌え。
- 598 名前:ナナシー 投稿日:2004/01/02(金) 00:26
- 誤字が…
>589の「頭を撫でてくれて」→「頭を撫でてくれた」です。
うーん、ショック・゚・(ノД`)・゚・。
- 599 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/02(金) 03:36
- リアルタイムネタ(・∀・)イイ!
しかし今日の大脱出は色々妄想出来るネタが満載でしたね(;´Д`)ハァハァ
- 600 名前:作者です 投稿日:2004/01/05(月) 03:01
- 書かせてもらいます。
- 601 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:02
- 1月3日 中野サンプラザ
目の前で奇妙に叫ぶ観客を見ながら、藤本美貴は一月ちょっと前の出来事を思い出していた。
いまこの場で明かされた事実を、初めて聞かされたときのことを。
- 602 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:03
- 『Secret base』
- 603 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:03
- 11月某日。
都内にある事務所の会議室に集められたのは、メンバー中6人だった。
飯田・安倍・矢口・石川・吉澤・藤本。
いわゆる大人チームと呼ばれる面々だ。
さほど広くもない部屋。
コの字型に置かれた3組のソファに年齢順に2人ずつ、藤本は吉澤と飯田安倍の左隣りに腰掛けていた。
向かいの矢口と石川は、安倍を巻き込んで何か騒いでいる。
きっとまた例の『お母さんに言う』ようなことでもあったんだろう。
21時を回り少し寝不足気味だった藤本は、そんな喧噪を子守歌に、吉澤の肩にもたれて微睡んでいた。
いつもと変わりない日常だった。
本当にいつもと変わりない風景だった。
- 604 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:04
- 最初に声を掛けたのは矢口だった。
「あっれー。なんで辻加護がいるんですかぁ〜」
「ほんと。あいぼんにのの、帰ったんじゃなかったの」
隣の石川もそれに続く。
「あいぼん、のんちゃん。どうしたの」
優しく問いかける飯田に二人は俯くだけだった。
いつもなら部屋に入って来た途端、辻は安倍に加護は吉澤に近寄っていきそうなものなのに、二人してその場を動かない。
- 605 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:05
- そういえば安倍さんは・・・。
少し鈍っている頭で思うとなしに感じた藤本は、声の聞こえない安倍のほうを見た。
口を閉ざして二人を見つめる安倍。
な・・・に・・・。
ついさっきまで、馬鹿騒ぎしていた人のものとは思えない表情。
その顔の険しさに、藤本は改めて意識が覚醒した。
「なっち?」
近くにいた矢口と飯田が、安倍の異変に気づく。
矢口の隣にいる石川は、そんな3人と同期の2人の間に視線を何度も飛ばしていた。
- 606 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:06
- そして藤本は、隣にいる吉澤の身体が強ばっているのに、やっと気がついた。
よしこ。
そう呼ぼうとした時、俺が呼んだんだ、とチーフマネージャーが2人を部屋の中に誘導した。
ソファに向かい合う形で3人が立つ。
「全員そろってるな。今日はおつかれ様」
そんなありきたりな言葉をチーフが並べる間も、6人の意識は小さな二人に集中した。
どう考えても、帰ったはずの二人が個別に呼ばれているのは変だし、なにより二人が二人らしくない。
明らかに様子のおかしい辻加護に、部屋の空気は次第に引きづられていった。
そして爆弾は投下された。
- 607 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:07
- 「このあと仕事が残ってる奴もいるから手短に話す」
そう前置きして、チーフは辻加護の肩に手を置いた。
「来年夏のハロコンで二人をモーニングから卒業させることが決まった。二人一緒だ。卒業後も二人で活動させる。
これを正月のコンサート初日に発表する。
モーニング在籍中に二人にはシングルを一枚出させる。安倍と同じようにな。
その様子を見て歌での方向性は決めることになるが、バラエティ方向が今のところ上には重要視されてるな」
「っちょ、ちょっとまって」
矢口が大声でさえぎった。
- 608 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:09
- 「なんで辻加護を辞めさせるんですか。おかしいでしょ。まだ16ですよ。
だいたいカオリやあたしや石川藤本、よっすぃーだっているのに。
二人でユニット組むなら、今までどおりモーニングにいながらシングル出せばいいじゃないですか。
ましてやお正月は、なっちのモーニング最後のコンサートですよ。
みんな、なっちを盛り上げて最高のライブにするために頑張っているのに、そんな、初日に発表なんて、何考えてんですか!!」
興奮する矢口に冷水を浴びせるように、チーフが答えた。
「後藤は17と同時に卒業したぞ」
「ごっつぁんとは違う!!」
「同じだ。夏には辻は17になっている」
「全然違うでしょ!だいたいごっつぁんはもともとソロ志向があったけど、辻加護はモーニングが好きで入ってきたんだ。それを、そんなふたりから、モーニングを取り上げるんですか!」
- 609 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:10
- わめき散らす矢口のとなりで、石川は呆然と二人を見つめていた。
唇が小さく二人の名前を呼ぶのが、向かいに座る藤本にもわかった。
何度も何度も声なき声が、辻加護に向けられる。
そうしてそれが急にふつりと止むと、石川は両手顔を覆い、俯き嗚咽した。
見ていた藤本が目を背けてしまったほど、苦しく切ない慟哭だった。
藤本が横に視線をやると、吉澤は青白い顔で一点を見つめていた。
膝に置かれた両拳は震えて、爪が掌に食い込み、白い肌は紅潮している。
止めなければ、爪が折れるか傷痕がついてしまう。
ほんの少し藤本は指先を動かしたが、けれども諦めてしまった。
やめさせることなど出来るはずもなかった。
- 610 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:10
- 「それは決定事項なんですね」
飯田の声が部屋に響いた。
藤本が驚くほど、それは静かな声だった。
一瞬の間。
そうだ、と肯定が漏れた。
「二人の親とも協議済みだ。了承は得ている」
その回答がこの場の全員に、二人の卒業に本人達の意志が皆無であったことを、改めて認識させた。
- 611 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:11
- 「これよりのち、ハロプロメンバーに正式発表がある12月末までこのことは戒厳令を引く。
外ばかりでなく身内、特に年下チームには悟られないよう気をつけろ。
他にも藤本、おまえは特に松浦には知られるな。絶対だ。
吉澤も後藤・アヤカ・里田の3人には、言動に特に注意しろ。
石川もだ。
飯田安倍矢口はこれからしばらくは、辻加護を注意して見ておくように。
いいか。このことを知ってるのはおまえ達6人のほかは、中澤稲葉保田の3名だけだ。
全員言動には注意しろよ」
- 612 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:12
- 以上解散、そう締め括ってチーフが部屋を出ていった。
部屋の中には8人とマネージャー数名。
「わたしたちだけにしてください」
いままで黙っていた安倍が、マネージャー達に退出を促した。
お互いに顔を見合わせた彼女達は、お願いします、と念押しした安倍の言葉に部屋を出ていった。
8人だけの空間には、石川の小さな泣き声だけがしていた。
- 613 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:13
- 「なっちは知ってたの」
「知っていたというか」
飯田の問いに安倍は薄く微笑んだ。
「のんがなちゅみにばらしたの」
飯田が安倍を責めていると思ったのか、今まで黙って下を向いていた辻が叫んだ。
「のん、上手く隠しておくことできなくて。黙って、なさいって、言われていたのに、タイドと、か変、だっ、た、らしくて。
なちゅみ、のん、のん、のこと変だって、大丈夫って。のん、ちが、ちがって、何でもないって、ったけど、ぉかしいよって。
のん、ウソっく、のく、苦しく、て、泣いちゃって。
したら、なちゅ、みが苦しいのっハキ、ハキ出しなって、っに聞いても、のん、味方だからって。だから、っからのんしゃべっ、ちゃったの」
- 614 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:14
- なちゅみは悪くないの、と涙声で必死にしゃべる辻を抱きしめて、安倍は続けて話し出した。
「どうもね、なっちはのんとあいぼんがその話をされた、次の日には気づいちゃったみたいでね。
のんは一日も持たなかったってことなんだけど。
あいぼんにしても遅かれ早かれ、隠し切れなくなっちゃっただろうし、気づけて良かったって思ってる。 逆になっちには知られてしまったから、二人とも今日までなんとか過ごせ立ってのもあるだろうし。 ただ、ここにいるメンバーにも、もっと後になってから知らせるつもりだったみたいでね。
さすがにそれはって思って、なっちねじ込んだんだ。
なっちはもう知ってるし、すぐにばれちゃうって。
そんでもちょっと時間がかかっちまったね」
みんなごめん、と安倍は頭を下げた。
- 615 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:15
- 「なっちが悪いわけじゃないから」
あいぼんは大丈夫?
飯田が加護に近づいて聞いた。
小さく、うん、とうつむいた加護から答えがあった。
部屋の中に、辻加護そして石川の泣き声が広がる。
矢口はなんでなんだよ、と何度も何度も呟いていた。
藤本は吉澤が気になった。
さっきからひとことも、本当にひとことも発していない。
険しい張り付かせたまま、微動だにしていなかった。
- 616 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:17
- 「よしこ」
そっと、息を吐くように藤本はとなりに声をかけた。
と。
吉澤が唐突に立ち上がった。
そのあまりの性急さに思わず、藤本は身体が震えた。
立ち上がったその身体が、いつもより大きく目に写る。
怒ってる?それとも・・・。
「よ、よしこ?」
おそるおそる問いかける藤本の声に、そのほかの6人も吉澤のほうを見た。
吉澤の視線は年少の二人に向けられていた。
- 617 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:17
- 固くなる空気。その中を吉澤は二人に向かって進んだ。
吉澤がどんな表情をしているのか、後ろにいる藤本には伺えなかった。
緊張する辻と加護。
だが安倍と飯田はその場を一歩退いた。
- 618 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:19
- 「のの。あいぼん」
低い声が聞こえた。
呼ばれた二人のからだが小さく揺れる。
「のの。あいぼん」
うつむく彼女達に顔を上げることをうながすように、もう一度吉澤は名前を繰り返した。
恐る恐る顔を上げる二人。
そうして見た吉澤の顔はどういったものだったのだろう。
藤本には伺い知れなかった。
しかし続けた吉澤の言葉は、誰の考えからも完全に予想外だった。
- 619 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:20
- 「二人とも、ケンカしても自分たちで仲直りできる?」
どう?と問いかける吉澤を、呆気に取られて眺める辻加護。
回りの4人も後ろにいた藤本も、虚をつかれてしまった。
「二人ともできるのできないの、どっち」
「でっ、できるよ」
「そんなん前からできてるし」
異口同音、答えるふたり。
「そっか、できるのか」
静かに呟いて、吉澤はその場に膝を着いた。
いくらモーニングの中で2番目に背が高いといっても、その態勢では目線は辻と加護より低くなる。
吉澤は二人を見上げると、二人の手を握り微笑んだ。
- 620 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:21
- 「二人とも大きくなったんだね」
- 621 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:21
-
それは本当に優しい声だった。
愛しさと暖かさと切なさに抱かれた、穏やかで儚い声だった。
- 622 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:23
- 「昔はさ。うちや梨華ちゃんが間に入らないと、なかなか仲直りできなかったのに。
こうやってみると身長も伸びて、あのころと大違いだ。
ののもあいぼんもきれいになってきて、ほんと大人になった」
「「よっちゃん」」
「まさか二人に先に卒業されるなんて、思ってもみなかったな。
ずっと、ずっと、梨華ちゃんとののとあいぼんとあたしと。
一緒にいられるだなんて、思ってはいなかったけどさ。
思ってたよりはやかった」
・・・・はやかったねと、わずかに視線を下げて繰り返した。
- 623 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:24
- 吉澤は立ち上がると、梨華ちゃん、と石川を呼んだ。
うながされ石川は腰を上げる。
その顔は涙でぐちゃぐちゃで、瞳は真っ赤に充血していた。
吉澤は辻と繋いでいた手を離して、その空間に石川を入れた。
- 624 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:25
- 「のの。あいぼん。梨華ちゃん。
うちらさ、これからも変わんないよ。
ののとあいぼんが卒業しても、うちら二人が卒業しても、年を取っても、将来それぞれ違う道に進んでも。
うちらのあいだは絶対変わらない。
だから、のの、あいぼん。
ガンバレ。
精一杯ガンバレ。
しんどくなったらここに、うちらのとこに来ればいいから」
ねっ、と吉澤は横の石川の背中を軽くたたいた。
- 625 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:26
- 石川は何度も首を縦に振る。
そしてどうにか息を整えると、つっかえながらも思いを伝えた。
「ののも、あ、あいぼんも、よっちゃ、っちゃんも、大切な、仲間だから。
変わらない、同期の仲間だから。
がんばっ、がっ、がんばって、ね」
どうにかそこまで喋って、石川はまた泣き出してしまった。
「っちゃん、り、りかちゃ」
辻と加護が二人に抱きつく。
ごめん、ごめんなさい、と泣きじゃくる年下二人と、同じように泣きやまない同い年を抱きしめて。
吉澤は柔らかくひとこと呟いた。
- 626 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:27
-
「卒業おめでとう」
- 627 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:27
- 仕事の入っていた安倍飯田石川は、慌ただしくマネージャーに連れられてその場を後にした。
辻加護も遅いからと同じ車で家へと送られていった。
吉澤は一人で帰りたいと、同乗を断った。
それを聞いて藤本も断った。吉澤のことが気になったからだった。
「よしこ、大丈夫?一緒に帰る?」
部屋を出ていこうとする背中に藤本は聞いた。
動きの止まった身体から、一人で帰るよ、と声がした。
- 628 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:29
- それでも、このまま帰したくなかった藤本は、再度問いかけた。
「今日のこと。もしかして知ってた?」
沈黙。
そして永遠とも思える一瞬ののち、吉澤は答えた。
「どうして」
「よしこの顔、安倍さんと同じように二人を見て強ばってたから」
「そうだっけ」
「うん」
「そっか」
「まだ報告がある前から、二人して同じように険しかった。
飯田さんや矢口さんは、安倍さんの様子には気づいてたみたいだけど、美貴はよしこのとなりにいたから」
「・・・・・知らなかったよ」
「ほんとに・・・」
「ほんとに。・・・・ただ、あの人が」
「あの人?」
「辻加護を連れて入ってきたあの人の気配が、『ごっちんのとき』と一緒だった」
- 629 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:30
- あの日、最後まで泣かなかった吉澤。
『同期』という感情がどうあがいてもわからない、これから先も計り知れない藤本にとっても、石川吉澤辻加護の中は考えるところがあった。
もちろん自分がオーデションをうけた当時の合格メンバーというのもあるが、それを置いても、この4人はいまのモーニングの中で『同期』というものを強く意識させる存在だったからだ。
コントのネタになるほどに。
- 630 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:31
- 自分がどうしてこれほど気になるのか。
立場的には石川も同じようなものなのに、藤本の意識は吉澤に向いていた。
心配だった。
泣かない吉澤が心配だった。
多分、今の自分とモーニングを繋いでいるものは、吉澤の存在なのだろう。
藤本は自覚していた。
考え方の似ている吉澤がいなければ、自分とモーニングの意識をこんなにも近づけることなど、出来なかっただろうから。
- 631 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:34
- それでも結局、今回のことでは何の力にもなれなかった。
藤本は、同じように舞台に並んで話を聞いている、吉澤のほうを見た。
その目に今、何を写しているのだろう。
帰り際、振り向くことなく藤本に、心配してくれてありがとう、といった吉澤。
どんな気持ちだったんだろうか。
ただ、夏が来る頃までには。
そのころにはもう少し、吉澤の力になりたいと。
藤本は小さく心に願った。
- 632 名前:Secret base 投稿日:2004/01/05(月) 03:36
-
『Secret base』 end
>>601-631
- 633 名前:作者です 投稿日:2004/01/05(月) 03:46
- 終了です。
普段は森で書かせてもらっているんですが、
CPスレッドなのでこちらに載せました。
といっても最後、みきよしっぽいですが。
設定時期は多分これくらいかなっと自分が思ったころを。
ハロモニを見ていて気になっていた『あいぼん大丈夫』のころ。
でも当時リーダーは海外なので帰ってきてからかと。
つんく発言はもちろんナシの方向で。
ありえないし31日発表だなんて。
自分の考えうる8人の個性を出せていたらと思います。
最後に頑固一家は不滅です。
- 634 名前:作者です 投稿日:2004/01/05(月) 03:46
- surekakusi
- 635 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 11:08
- ちょっと泣きそうになった…
4期マンセー・゚・(ノД`)・゚・。
- 636 名前:作者です 投稿日:2004/01/06(火) 05:00
- 訂正
>>629 誤:石川吉澤辻加護の中 正:石川吉澤辻加護の仲
ごめんなさい。
- 637 名前:arkanoid 投稿日:2004/01/13(火) 04:26
- 書かせていただきます。
おがこん冬の甘い口溶け風味。
皆様のお口に合えば是幸いです。
- 638 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:29
- 「ね、もう窓閉めない?」
二人で見上げた夜空には、もこもことした分厚い雲が一面に広がっていて、それは街の灯りを吸収して不思議な色を放っていた。
もう少しだけその高度を下げればそれは今にも街を押しつぶしてしまいそう。
私は寒さにかじかむ手を擦り合わせながら、もういちど問い掛けてみる。
「寒いよ、風邪ひいちゃうよ?」
明日も朝からお仕事だよ。
本当はもう寝たほうがいい時間だよ。
けど今日のまこっちゃんは私のいうことなんかぜんぜん聞こえていないようで、ぽかーんと口を開いたまま、動くことのない低い雲を眺めている。
- 639 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:31
- 私はまこっちゃんの説得を諦めて窓を離れ、暖気を吐きだしつづけているエアコンの前に体を移した。
エアコンさんも大変だね。
どんなに頑張って部屋を暖めようとしても、この部屋のご主人様があなたの空気を全部外に逃がしちゃってるよ。
それでもエアコンさんは文句をいわずに部屋に送風を続けている。
えらいえらい。
暖かな風と外の冷たい空気を半分ずつ体に感じながら、もうすっかり見慣れた部屋をあらためてぐるりと見渡してみる。
意外と女の子っぽいピンク色を基調とした部屋。
そういやこの間、吉澤さんが部屋に来て「お前、気持ち悪い」とかいわれてショックだったー、なんて話してたっけな。
最近あの二人、異常に仲が良い。
どこか似た者同士のあの二人。
確かにお似合いかもしれないけど。
あの二人がじゃれ合ってると、なんとなく目を背けてしまう自分がいる。
- 640 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:33
- 壁にはべったりと貼られた宝塚のポスター。
これは愛ちゃんにすっかり影響受けちゃったな。
私も宝塚はすごい格好良いと思うけど、まこっちゃんと愛ちゃんが宝塚の話してると、なぜだか耳を塞ぎたくなる。
他にも、藤本さんがまこっちゃんのことからかってるのを見るのも嫌だし、田中ちゃんとかが、小川さーんとかいって甘えてるのも嫌。
…だって、まこっちゃんと一番長くいたのは私だよ。
二人でいろんなとこにお出かけしたし、いっぱい美味しいもの食べたし、この部屋にだって数え切れないくらい来てる。
私が一番まこっちゃんのこと知ってるはずなのに。
なのに。
- 641 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:35
- …私、嫌な子だ、きっと。
他の子と仲良くしているのが嫌だなんて。
まこっちゃんは誰のものでもないのに。
まして私のものなんかじゃ絶対ないのに。
まこっちゃんもこんな風に思われてるだなんて迷惑だよね。
…ごめんね。
弱い風が部屋の中にも吹き込んできて、テーブルの上のカップのスプーンをカタカタと揺らした。
喉の渇きを感じた私はそれにそっと手を伸ばす。
中身のココアは外の冷気にすっかり熱を奪われ、すっかり冷め切っていた。
なんだかちょっと、泣きたくなった。
- 642 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:36
- 「くしゅん!」
窓際から聞こえたくしゃみの音。
ずずっ、と鼻をすする音がそれに続いた。
「ほら、風邪ひいちゃう」
少しだけ声が震えたのはまこっちゃんにばれてないだろうか。
「だって、今夜、降るっていったもん」
大丈夫。
まこっちゃんは、そんなことに全然気づかないまま、ちょっと拗ねたように口を尖らせた。
「…天気予報なんて当たらないよ」
「…降るもん」
- 643 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:37
- お仕事が終わって、まこっちゃんの家に来て、TVなんかをだらだらとお菓子食べながら見て。
そしてたまたま目にした天気予報。
西高東低の冬型の気圧配置やら今季一番の冷え込みやらで、今晩遅くには初雪が降るかもしれない、とアナウンサーが言っていた。
それでまこっちゃんのテンションがすっかり上がってしまった。
日本で今年一番早く雪を見た人になりたいらしい。
まこっちゃん、北国の人なんかはもうとっくに雪なんか見てるよ?
「なんでそんなに雪、見たいのさー?」
「だって雪だよ、雪?ゆーき、スノー、ホワイトスノー」
いやいや、答えになってないし。英語にしただけだし。
- 644 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:39
- 「あさ美ちゃんは雪嫌い?」
「…嫌いじゃないけど」
「新潟はさ、雪、いっぱい降るんだ」
札幌だっていっぱい降るよ、って言おうとしたけどやめた。
「ドカ雪とかいってさー。一瞬の間に街が真っ白になんの。
電車とか当たり前に止まって、車とか走れなくて、なんか全部埋まって」
部屋の中にいる私からは見えないけど、まこっちゃんはきっと白い息を吐き出しながらしゃべっているのだろう。
寒さのせいで肩が少し震えている。
窓、閉めればいいのに。
エアコンさんは相変わらず無駄な頑張りを続けている。
- 645 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:41
- 「昔、学校から帰ってるときにね、そんなのが降ってきてさー。
もう凄かったんだよぉ。淡々と容赦なく街を埋め尽くしてくの。
あたし、ぼーっと空見上げててさ、このまま私も埋められちゃうんじゃないかって思ったらなんか怖くなって。
でも動かないでぼーっと見てた」
鼻をすする音がまた聞こえた。
だから窓を…って、あれ―――?
「新潟のこと思い出すと、いつもその時のことがでてくる。
逆に雪を見ると、あの時見てた新潟の空を思い出すの。
別に雪が特別好きとか嫌いってわけじゃないんだけどね。
…なんとなく、思い出すんだぁ」
- 646 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:42
- 鼻をすすっているのは寒いからだけじゃないということにやっと気づいた。
肩が震えているのも。
まこっちゃんは今、新潟の空をみているんだ。
そしてその空の下で暮らす家族、友達のことを思ってるんだ。
…ごめん。
私、 まこっちゃんのそんな寂しい気持ちとかに気づかないで。
それで他の子と仲良くしてるのに嫉妬なんかしたりして。
ほんとダメだ、私。
- 647 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:46
- 「ねぇ、札幌の雪ってさぁ、どんな感じ?」
まこっちゃんは、わざと元気な声をつくったように私に訊いてきた。
「札幌の雪は―――」
私は目を閉じて記憶の糸をそっと手繰り寄せる。
静かな朝。
カーテンを開ける。
街が真っ白に染まってる。
私は思わず外に駆け出して、まだ誰も触れていない白にそっと手を伸ばす。
その感触―――。
「柔らかくてふわふわしてる」
「…それって」
まこっちゃんは突然、くるっと振り返って無理したように笑いながら云った。
「―――あさ美ちゃんみたいだね」
- 648 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:48
- ドキッ、とした。
鼓動がドクドクと早く鳴って止まない。
頬に熱を帯びているのが自分でもはっきりと分かる。
今、もし雪が降って私の体に触れたのなら、ジュッと音を立ててすぐに溶けてしまうだろう。
私の心に降り積もるまこっちゃんの言葉、笑顔。
好きだという気持ち。
どうしよう。
どうしようもなく、好きだ。
ごめんね、好きなんだよぉ…。
- 649 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:49
- 手をスイッチに伸ばして部屋の灯りを消した。
低い雲が街の灯りを反射しているせいか、部屋の中は真っ暗にはならずにぼんやりとした明るさを保っている。
私はベッドの毛布を窓際のまこっちゃんにボンッて投げつけて、その上からふざけるように抱きついた。
「――うわっ!…ちょっとー、何すんだよぉー」
笑いながらじゃれあって、それから二人で毛布にくるまったまま夜空を見上げた。
まこっちゃんの顔がすぐ側にある。
伝えたい、この気持ち。
雪のようにいつか溶けて消えてしまう前に。
- 650 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:50
-
「降らないね…」
「うん…」
「あのさ、まこっちゃん」
「ん?」
「好きだよ」
「…あたしも」
――本当に?
自分の耳を思わず疑う。
本当だったら、本当だったら…!
「あたしもやっぱり好きなんだと思う、雪」
- 651 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:52
- 窓枠にかけた手を思わず、ずるっと滑らせた。
はぁー、そんな勘違いひどいよ、がっかりだよ。
深い深いため息も白くなって夜空に溶けていく。
もう一回、改めて言い直そうと思ったけど、やっぱりやめた。
まこっちゃんの空を見上げた横顔があまりに無邪気で、そしてすごく綺麗だったから。
今夜はもう少しだけその横顔を見ていたい。
もう少しだけ。
- 652 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:53
- 大丈夫。
私の気持ちは溶けないよ。
いつか春になっても、夏が来ても。
ずっとずっと。
だから今は二人で雪を待とう。
「あ!ねぇ、ほら!あさ美ちゃん、見て―――――」
- 653 名前:初雪 投稿日:2004/01/13(火) 04:55
-
【初雪】 FIN
- 654 名前:arkanoid 投稿日:2004/01/13(火) 05:23
- 以上です。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
甘い感じのは初めて書いたので、感想等あれば是非。
- 655 名前:arkanoid 投稿日:2004/01/13(火) 05:27
- kakushimasu
- 656 名前:名無しRule 投稿日:2004/01/14(水) 00:24
- おぉ…こんな乙女ちっくなのも書けるのか。
叩き込んでくる甘い味の連続に驚きましたが、
やはり最後は届きそうで届かない感じのテクスチャー。いいです。
萌えますた。
- 657 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/14(水) 21:14
- (・∀・)イイ!
- 658 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/15(木) 21:53
- おがこん、いい!
- 659 名前:博多娘より愛をこめて 投稿日:2004/01/16(金) 22:16
- 今は夕ご飯を少し過ぎたそんな時間、私達は近くのコンビニから
買い出しに行きホテルまで戻る帰り道の途中だった。
私の心境は複雑で半分は浮かれていて半分は緊張していた。
その理由はただ一つ好きな人が隣にいるから。
最近やっていたゴロッキー効果か、この頃は色々と話もするし
親密度上昇中な気がする。
今日はいつもより一歩でも前進したいと心に決めていた。
せっかく二人きりなんだからせめて手ぐらいは繋ぎたかった。
- 660 名前:博多娘より愛をこめて 投稿日:2004/01/16(金) 22:20
- 「あのぉ・・・・小川さん?」
「ふぁ?」
沈黙に耐え兼ねて声を掛けてみると、相変わらず間の抜けた返事
が返ってきた。
「今日って結構寒いですよねぇ。何か今年一番らしいですよ?」
それはいつものことなので私は気にせず話を続けた。
まずは何気ない季節の話題から入り、最終的には冷たい手を
暖め合えればと思った。
私の予想では「あっ、本当だ。田中ちゃんの手すごく冷たいね」
みたいなことを言いなから手を取ってくれるはずだった。
だって人の温もりが好きな人だから、上手い具合に手を繋げると
簡単に考えていた。
「へぇ〜 そうなんだ。天気予報とか全然見てないや。」
でも小川さんは私の予想に反してとても一般的な返答をする。
どうやら見た目通り一筋縄でいく人ではないらしい。
- 661 名前:博多娘より愛をこめて 投稿日:2004/01/16(金) 22:24
- 「あ、あの寒いときって何したいって思います?」
私は遠回しに言いすぎたことを反省し、今度はもう少し分かり
易い言葉にしてみた。
「へっ?あぁ、なんだろう?やっぱりコタツで寝てたいかな。」
小川さんは首を傾げると真面目に少し考え込んでから言った。
これでもまだ遠回しすぎたらしい。
「いや、そうじゃなくって。あぁ・・・・どう言うていいか
分からん!」
私は上手い言葉が全く浮かばなくて悩む頭を乱暴に掻き毟った。
「ん?どうしたの田中ちゃん。」
小川さんは訳も分からずに不思議そうな顔を覗き込んでくる。
すると二人の顔はキスしそうなくらいに近づく。
こういうことを無意識にやってくるから、この人を好きになると
本当に困るなと耳に熱を感じながら思った。
- 662 名前:博多娘より愛を込めて 投稿日:2004/01/16(金) 22:33
- 「だから・・・その・・・を・・・したいんですけど・・・・。」
火照ってたそれを隠すように俯きながら小さな声で言った。
「ん?小さくてよく聞こえなかったんだけど。」
でも勇気を振り絞ったその一言はあっさりと聞き返された。
「あぁ!!もうっ!だかられいなは小川さんと恋人同士で冬に
やることをしとー!」
私はその空気の読めなさがもどかしくて思わず大声で叫んだ。
でも言ってから自分の大胆さが恥ずかしくなって、さっきよりも
顔が熱を持った。
「なんだ〜、なら言ってくれればいいのに。」
けれど小川さんは特に驚くこともなく普通に納得していた。
「へっ?」
その言葉に私は顔を上げて彼女を見上げてしまった。
小川さんはなぜか着ているジャンパーのボタンを外し始めた。
そして脱ぎ終えると私の肩の上からそっと掛けてくれる。
「ほい、その格好じゃ寒いよ。」
と頬を掻きながらどこか満足げな顔をして言った。
その子どもぽっい無邪気な笑みに胸が高鳴る。
でもその気持ちは嬉しいけど、私もコート着てるんですけど。
- 663 名前:博多娘より愛をこめて 投稿日:2004/01/16(金) 22:36
- 「いや、これじゃないんですけど。」
私はため息を吐くと悪いなと思いながらジャンパーを返した。
「えぇ?違うの?!」
小川さんは素っ頓狂な声を上げながら目を見開いて驚いていた。
「もっと誰もがやってることですよ。」
あまりに思う答えとズレていたので、私はさらに分かりやすい
ヒントをあげた。
「あぁ、分かった!これでしょ、気づかなくてゴメンねぇ。」
小川さんは何かを思いついたらしく手を叩くと、急に首に巻いて
いたマフラーを外し出す。
この時点でまた勘違いしてることは分かった。
- 664 名前:博多娘より愛をこめて 投稿日:2004/01/16(金) 22:40
- それから肩が触れるくらい接近すると私の首も一緒に巻き直す。
二人の距離が近すぎてうるさいくらい心臓が早まる。
「二人で一緒のマフラー。いや〜、恋人達の甘い一時だねぇ。」
と小川さんはおっさんみたいなことを言いながら一人で納得して
頷いていた。
「あのぉ・・・・これも違うんですけど。」
これで妥協するのも良い気がしたけれど、私は何とか思い直して
済まなそうに言った。
「うえぇぇ!これでもないの?」
小川さんは大げさに手まで上げて驚くと眉間に皺を寄せた。
「だから本当に普通のことなんですよ、街とかでもやってる人が
大勢いるような。」
私は絶対に分かるヒントだから今度こそ答えが出ると思った。
だって冬に手を繋いでないカップルなんて探すほうが大変だ。
「何か連想クイズみたいになってきてるね。まぁいいや・・・・
街でやってる人がいっぱいなんでしょ?」
小川さんは苦笑しながら軽くツッコむと、唸り声を上げながら
腕組みまでして考え込んでいた
それから二人は黙り込んだまま帰り道を歩いていた。
- 665 名前:博多娘より愛をこめて 投稿日:2004/01/16(金) 22:44
- 「あっ、分かったかもしれない!これは絶対合ってるよ、かなり
自信があるから。」
突然閃いた小川さんは顔を上げると不敵に笑っていた。
「本当ですか?!」
私は内心少し不安を感じていたけれど、そんなことは全く顔に
出さずに聞き返した。
でもこれで当たらなかったら色んな意味で泣きそうだった。
「大丈夫だって。これでしょ?田中ちゃんがやりたかったの。」
小川さんはそんな気持ちも知らずに自信満々に頷くと、急に私の
両手を取って口元まで持っていった。
そして暖めるように何度も生温かい息を吹きかけてくれた。
寒さで白くなった息は手から逃げていくけど、その温もりは消えず
にいつまでも残っていた。
私の胸は今にも破裂して死んでしまいそうだった。
- 666 名前:博多娘より愛をこめて 投稿日:2004/01/16(金) 22:48
- 「ねっ?これは当たりでしょう?」
さらに追い討ちをかけるように小川さんは柔らかい微笑みを浮かべる。
「これはこれですごく嬉しいんですけど・・・・・違います。」
私は本当にこのままでいたいと思ったけど、最後に意地の方が勝って
手を離してから言った。
「えぇ!これでもないの?自信あったんだけどなぁ。」
小川さんはもうお手上げって感じで頭を掻きながらため息を吐き出す。
「分かると思うんですけどねぇ、娘ではみんながいつもしてますから。」
私は何だか疲れてしまって溜め息を漏らしながら呟いた。
「娘のみんながいつも・・・・・・まさかこれ?」
すると小川さんは自信なさげにゆっくりと私の手を握った。
「あっ・・・・正解。」
あまりに唐突だったから言葉がすぐ出てこなかった。
「なんだぁ〜。そうならそうと言ってくれればいいのに、
恋人同士するなんて言うからさぁ。」
小川さんは答えが分かると気の抜けたのか脱力した口調で言った。
私は不意に言うのは今しかないと何の根拠もなく思った。
そして気合いを入れる為に深い深呼吸をすると、繋がれた手を強く
握って不意に立ち止まった。
- 667 名前:博多娘より愛をこめて 投稿日:2004/01/16(金) 22:51
- 「ん?どうしたのぉ?」
小川さんは意味が分からないらしく不思議そうな顔をしていた。
「れいなは恋人として繋ぎとーかったから・・・・小川さんと。」
私はもう一度深呼吸するとその少し垂れた目をまっすぐ見つめて
ちゃんと告白した。
「ふえっ?そ、それってどういう意味?」
小川さんは突然のことにかなり戸惑った顔をして混乱していた。
「さぁ?どんな意味でしょうね。」
でも私は今まで焦らされたお返しにとぼけて答えを教えなかった。
「いやだから・・・・・私のこと好きなのかなぁって。」
小川さんは少し顔を逸らして頭を掻きながら何気ない口調で言った。
鈍感かと思っていたけどこういうとこは変に勘が良いらしい。
- 668 名前:博多娘より愛をこめて 投稿日:2004/01/16(金) 22:53
- 「へへっ、ピンポーン。大当たりです。じゃもう一つついでに当てて
くれません?」
私は照れくさそうに笑いながら正解を知らせると、その勢いに乗って問題に答えさせようとした。
そのもう一つというのは今一瞬にして考え出した秘策だった。
「えっ?あぁ、別にいいよ。」
これが策略だとも知らずに小川さんは普通に頷く。
「今れいなが一番してほしいことってなぁんだ?」
私は少し顔を上に向けて目を瞑るとその状態のままで質問した。
「うえぇぇぇ!?」
すると小川さんは近所迷惑なくらい大声で叫んだ。
その表情は見えないけれど今どんな顔しているかは何となく分かる。
絶対に答えは分かってるはずなのにキスしようとしない。
そういう気が弱くてヘタレなところは嫌いじゃないけど、もう少し
押しの強さがあってもいいと思った。
- 669 名前:博多娘より愛をこめて 投稿日:2004/01/16(金) 22:57
- 「はぁ・・・・・。」
私は目を開けると少し呆れた顔して深い溜め息を吐き出した。
「こ、答えが分からなくてゴメンね。」
小川さんは頭を掻きながら引き釣った笑みを浮かべて謝ってくる。
「本当に分からんと?」
私は目を細めてわざと博多訛りを入れながら詰め寄った。
「いや、さぁ?な、ひゃ、にゃんだろう、何だろうなぁ・・・・・
全然分からないなぁ〜。」
小川さんは平然を装っているらしいけど、かなりカミすぎだし
声は完全に上擦っている。
そして笑いながら後退りして逃げようとするから、私はその手を取ると
少し背伸びをすると自分から唇を重ねた。
「これでもまだ分からんと?」
今度は恥ずかしくて本当に訛りが出ると、私は熱くなった耳を手で
隠しながら上目遣いで言った。
「いや・・・・・よく分かりすぎました。」
すると小川さんは赤く染まった頬を掻きながら苦笑いして呟いた。
END
- 670 名前:名無し書き 投稿日:2004/01/16(金) 23:00
- 「れなまこ」が突然浮かんだから書いてみた。
でも書きながらマイナーだなぁっと改めて思うCPだった。
一部の人が楽しんでくれたらそれで良し。
- 671 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:11
-
―――――――
空の、まだ頭のてっぺんまで登っていない東寄りの白い太陽が、昼間のこの時間に
ちょうど良い光を部屋一杯に照らしていた。
部屋の数こそ分からないにしろ、その広く立体感のあるリビングルームはその
マンション自体の大きさと開放感溢れる部屋だということを容易く示している。
ほとんど何も家具を飾らない、殺風景だともとれるほどの白いリビングルームには、
二人の少女がこちらの廊下に背を向け横たわっていた。
正確にはリビングのカーペットのひかれる床に座る少女と、そこからそれほど
大きくはない体を横に横たわらせる少女。
- 672 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:17
-
チュンチュン…
無規則的にさえずる小鳥のさえずりを窓の向こうにとらえ、床に座っていた
少女はふっと顔を上げた。
部屋の明かりさえ必要ないぐらいの明るい太陽の光に目を細める。
窓の向こうは一点の雲もなく、ただ眩しい太陽が風も受けずに大地へ
光を注いでいる。
「眩しい…」
光を遮るものが何もなくて、細めたままの目をそれ以上開く事が出来ず小さく呟く。
「…眩しいね?」
空を眺めていた顔を静かに下に向け、そこにいる彼女へ今度は声を小さく
することなく、普通に話し掛けるように尋ねた。
「……すぅ……」
わざと気を利かさないで普段通り話し掛けてみたけど当の彼女は目を閉じたまま。
気持ち良さそうに、安らかに眠っている。
いつもは実際の年齢よりも2,3もしくは3,4才上に見られるぐらい大人っぽい彼女が
今こうして確かに年相応の寝顔で眠っている姿にふっと笑う。
少女亀井絵里はちょっとやそっとでは起きそうにない彼女、田中れいなの
髪をそっと撫でた。
- 673 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:21
- 『膝枕して?』
『いいよ』
『あれ?今日はどうかしたと?いつもならえぇ!?とか、ん〜…とか言って恥ずかしがっ』
『いいの。それとも…』
話してる途中だけどちょっと頬を赤らめさせながらも素直になりきれない私は
あんまり可愛くない態度で返事する。話を終わらせるための有無を言わせない
反応と返答にれいなは意外そうにちょっと間を置いたけどすぐにはにかむように笑った。
『やった。それじゃさっそく寝よっと』
どうするの?って聞いたつもりだけどその笑顔で何だかどうでもよくなっちゃった。
一応年上っぽくしようと思っても無邪気な笑顔がそんなこと忘れさせる。
寒くもなくて暑くもない、そんな曜日の外を歩いてきたままの服を上着も脱がず
ラフに崩した格好でさっさと横になってしまった。
『それじゃおやすみ』
『もう寝ちゃうの?』
『眠くなったら寝る』
よく分からない返事が返ってきて思わず小さく笑みが零れた。
いつも膝を借りたままじっとしたり暇そうにしたり、時には黙りこん
じゃったり盗み見るように見つめたり、そんな反応に戸惑っている私
への配慮なのかな?
- 674 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:22
- 『眠くなったら寝るー…』
自由気ままなその様子はまるで猫みたいだなって思うけど、実際はどこかで
気を利かしていたり気にしていてくれたりする。そんなところも本当の猫みたい
だなって、顔に掛かった髪を耳にかけてあげながらそう思った。
- 675 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:24
-
「れいな…?」
あれから間もなくして寝息が聞こえ始めて、たぶんあの会話からもう20分ぐらい?
それともまだそんなに経っていないのかもっと経っているのか。
時間を確認する時計さえなくてここには本当におだやかな時間が流れていた。
いつも時間単位で動いている毎日が嘘のようで、こんなにのんびり時を過ご
していていいのかななんてぼんやり考えたりする。
だけどこの時間はとても居心地がよくて、おだやかだけど心地いい空気に身を委ねて
いたいと思う。
忙しなく動いている時間も充実しているけれど、こんな時間もそんな毎日の中には
あってもいいんじゃないかって、思うんだ。
今日は珍しく午前中の早い頃に仕事が終わり、午後からだったオフの時間が
午前へと食い込んだ。
みんなあれから別々に分かれたけど、今どうしてるのかな?
確か、加護さんと辻さんは一緒にお買物に行くって言ってた。
安倍さんと矢口さんは昼食を食べに、高橋さんと紺野さんと新垣さんは
昼食を小川さんの家で一緒に食べるからその材料を買いに、飯田さんは
そのまま家に帰ってそれから……
「……」
思い出そうと思ったけど途中でやめた。全部思い出しきれないし、きりがない。
- 676 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:26
-
することもなくてまたなんとなくれいなの顔を見てみる。
さっきと変わらず気持ちよさそうに幼い寝顔がそこにはあった。
髪をまた優しくすっと撫でて、それからそのままぺたっとほっぺに触る。
触る、よりも添えるぐらいの力で触れたほっぺは温かくて、優しくて、気持ちよかった。
「うーん…」
ちょっと手が冷たかったかな?
寝てると体温上がるもんね。ずっと何することなくぶらぶらしてた手のひらじゃ
冷たいかも。ただでさえ私の手の温度はあまり高くないみたいだし。
よく友達に言われてさゆにもれいなにも言われた。
だけどれいなはこうも言ってくれたんだよね。
手の冷たい人は心が暖かいって。
その時の様子と記憶がすっと蘇って人知れず笑みが零れる。
可愛いなぁ…。
外見とか性格とかもそうなんだけど、なんていうか…存在自体が可愛い。
そういう風に感じたのは今までいろんな人と出会って来たと思うけどたぶん…彼女だけ…
そんなこと考えてたらまた考えモードに入った。
さっきからぽわんと何か浮かんだりすっと消えたり、そんな繰り返しが
起こってると思うけど今で今日何回めかのぽわんが始まった。
- 677 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:28
- 「…」
じーっとれいなの横顔…もとい寝顔を眺めてみる。
いつもならこんなこと無理だろうけど、今は寝てるし。うるさく言われずに
思う存分見ていられる。ってそうじゃなくて。
ほっぺから軽く外していた手をもう一度戻す。
それからそぅっと優しく撫でて、髪を撫でて、毛先まで指を通して。
また戻ってなんとなしにすっと唇に触れてみた。
「………」
唇に触れたまま動かさない手、指。
見つめたままはなさない視線。
こんなこと、普段なら考えられない行動だし、それはれいなにとっても同じ事。
いつもならこんなことしたられいなだって顔を真っ赤にして「なにしよっと!?」って
びっくりするはず。
だけど目の前のその人はぐっすり眠ってます。
気づいてないし、知らないし。ただぐっすり夢の中に入ってます。
れいなに変化が現れないぶん、徐々に私の方に表れてきた。
周りの空気に一体化するぐらいおだやかだった心臓の音が、気づかない
ぐらいだった胸の鼓動が自分にも感じられるぐらい波打ってきてる。
手を胸に添えなくても、分かるくらい。
動揺してるのかしてないのか、たぶんしてる自分を表すように瞬きが
多くなってきて、目が潤んでくる。
緊張で体がだんだん強張ってきて、のどの奥で改めるようにごくんって小さく音がして、
唇が乾いてきた。
- 678 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:31
- しばらくそのままでいたけど限界がくるのが分かって指をさっと唇から離す。
頬に添えていた手のひらも全部離してれいなから膝以外の体全部を離した。
しばらくしてやっと落ち着いてきた自分の体にふぅっと深呼吸に似たため息を零す。
さっきまで浮かんでは消えていた考え達はいつのまにか頭から消えていて、次に
改めて一つの考えに似た疑問が浮かんだ。
この気持ちは一体何でしょう?
言葉では表せない気持ち。
今までには感じた事のないような気持ち。
これに似た気持ちもたぶんない、だから想像しようもない。
人はこれを……というのでしょうか。
だけど、人との関係って言葉や気持ちでは表せないものもたくさんあると思います。
特に今さっきまでいたグループを考えるとそう思う。
友人?友達?親友?仲間?姉妹?
…この中では仲間が一番近いのかもしれないけど違う気もする。
なんかしっくりこない。
だから言葉では表さない。表せない。
これは一体どれなんだろう。どれでもないかもしれない。
疑問は浮かぶけど、答えはいつも出るとは限らない。
ぽわんと浮かんだ疑問に、対する答えを掴めなくて、掴み損ねてすっと消す。
- 679 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:32
- 「れいな…」
「すぅ……すぅ…」
何か…不思議だね。
寝てるっていうのは…どういうことなんだろう。
一緒にいるはずなのに、ここにいるはずなのに、…いなくて。
私はここにいる。だけどあなたは…?
一緒に、いるはずなのに。
「あなたはどこにいるの?」
だらんと膝あたりにのばされたれいなの左手に触れて、きゅっと掴んだ。
夢で会えるなんて、あり得る?…あり得ないよね。
手を握ったまま、そっと目を閉じた。
- 680 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:33
-
………夢かな?……ここは……
夢の中でここが夢かなんて思うのはおかしいかもしれない。
意識がまどろんでいて、必要以上に頭が働かなくなっているような気が、する。
意識はすぅっと消えるように離れて、いろんな物を見たような、気がした。
見るだけじゃなく、たまにそこにいるような。
だけどそこに現れる人たちは、知ってる人で。いつも会ってる人。
- 681 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:35
- 「お、亀井ちゃ、ん」
にこっと笑い左手をさっと上に挙げこちらに振り向く塾長。
「どうしたのー?亀井ちゃんー?」
こっちに気づいて声を掛けてくる人…背が低くて…髪は金髪…。矢口さん…。
「あ、れ…ほんとだー。どしたの亀井ちゃんー?」
その隣には安倍さん…。
いつものおだやかな笑顔と安倍さん特有の話し方で笑いかけてくれる。
それから二人はすっと一緒に消えて、いなくなったと思ったら今度は向こうに高橋さん…。
何か話し掛けてくれたのかもしれないけど、口が動いてるのが見えるだけで他は優しい
表情だったことぐらいしか分からない。
高橋さんの隣にもやっぱり小川さん、紺野さんがいて、一緒になるとすっと消える。
- 682 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:37
- 「分かった。ここはだれかと会うと一緒に消えるの?」
心の中で思ったはずが口に出てた。それも普段通りぐらいの声の大きさで。
それからいろんな人に会って、日頃会わない保田さんや中澤さんも現れては消えた。
…他に会っていないのは…
すぐにその人の名前が出てきて、期待が小さく胸の中で花咲く。
だけどしばらく経ってもその人は現れず、ぼーっとしてたら咄嗟にぽんっと肩に
手を置かれた。
呼ぶようなその行動に、すぐにばっと振り返る。
「……れいな?」
だけどそこには誰もいなくて。
すぐして前に振り向いたけど、そこにも誰もいなくて。
誰だったのかな?なんてちょっと考えて。
そしたら今度は呼ばれた気がした。
- 683 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:38
- 「…あ」
誰かの後姿を見つけて。
見つけたと同時に周りの風景がぐるんと一気に変わった。
「…見つけた」
背中に向かって走っていって、追いついて後ろから左手をきゅっと握りしめる。
呼びかけるように言った私の言葉に、後姿はゆっくりとおだやかに振り返ると
照れくさそうに、だけど嬉しそうに、優しく微笑んだ。
- 684 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:40
- 「あ」
あなたが振り返って、どこかでここは夢だって思ってる自分は同時に
夢から覚めるって勝手に思い込んでいた。
だけど、それはまだ続きがあって…驚く暇もなく、そっと唇に彼女の唇が触れた。
「あ」
夢から覚めて現実へ。
何を思ってかさっきまで眠っていたのにぱっちり目を覚ました私は起きて
初めて聞いた言葉に再び目をぱちくりさせる。
だってそこには躊躇うように顔を近づけて、目の前にあって、唇には確かに
柔らかい感触があったから。
寝て起きたばかりだから頭が上手く働かないけど、目の前の光景と唇の感触は
確かに体が感じてる。
- 685 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:42
- 「お、起きとったんかぁ!?」
至近距離でばっちり目があって、思わず出た言葉は私のものではなく
彼女のものだったらしい。
「ね、寝とるとばかり……それとも…」
大慌てって様子を現実に描いたような慌てっぷりでほっぺたを紅くさせながら
目線が困ったように右へ左へ忙しい。態度もいかにも挙動不審で…、持て余してる
両手は顔を扇いだりとにかくいろいろとしていた。
少し探るような目でこっちを見てたけどまだぼんやりしてる私に考えは消えたらしい。
それはそれで困ったようにまたあたふたして顔を扇いでる。
「…」
何ともなしにただ唇に手を持っていったけど、それを見てれいなは更に
慌てて何か言おうと考えてたり言おうとしてるみたいだった。
- 686 名前:routine 投稿日:2004/01/16(金) 23:45
- 「ち、違うの!つい寝顔が可愛かったから…って私何言ってると!?」
「可愛かったら……誰にでもするの?」
「え?」
聞こえてるはずだから、その一言に言葉は繰り返さず、ただ黙ってみた。
「ち、ちがっ…そんなわけなかっ!」
じっと見つめてくる私に戸惑ったのか最初は慌てて否定して、それから今度は
言葉の意味を理解したのかちょっと怒りながら否定した。
そんな態度が面白くて、ぎゅっと抱きつくように、彼女の腕の中に倒れこむ。
「絵里!?」
「どきどきいってるっ」
胸に耳を当てて、聞こえてくるその鼓動が嬉しくて。
花が咲くように、自然と笑顔が溢れた。
終わり
- 687 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/16(金) 23:50
- 何年ぶりかに書いてみました。
しかもこの二人も初めてです。緊張した…。
退屈な話だったらすいません。
- 688 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/17(土) 01:24
- >>659-670
二人とも「らしさ」が出てて可愛かった。珍しい組み合わせが新鮮で案外萌えることに気付きました。(失礼)
>>671-687
愛ある文だなあと思いました。>>678-679のくだりがいいですね。
- 689 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/17(土) 22:02
- すっごい亀井っぽい!
それぞれ、らしくていいですね。
まじ萌えました。
- 690 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/17(土) 22:41
- あのう、このスレの短編なんですけど私読んですごく感動してしまって、
するとそれと同じシチュエーションから始まる違う話が浮かんだんです。
(自分の中では違う話のつもりなんですが--CPも違います)
それで書いてみたんですけど、そういうのを発表するのってまずいですかねえ
- 691 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/19(月) 01:21
- あ、ごめんなさい。
変な質問でスレの流れを止めちゃってるのかもしれないですね。
ちょっと自分で考えてみます。
失礼しました。
- 692 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/19(月) 13:40
- >690
最初のシチュエーションが同じだけならリスペクトで、パクリには
なんないと思うからいいんじゃないの?
でもこういうのって微妙だから、案内板のパクリ関係のガイドライン見るか
質問スレで聞いといたほうがいいかもね。
どの作品とどれだけ重なるかわかんないから、これ以上軽率なことは
言えないけど。
- 693 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/19(月) 17:58
- >>692さん
ご意見ありがとうございます。
質問スレも考えたのですが、
広く皆さんに言うほどの作品じゃないので控えました。
で、立てちゃいました。スレ
こそこそっとやらせてもらおうと思うので、
どうか私を探さないで。
でも、偶然見かけたらご意見いただけたらと思います。
本当にお邪魔してすいませんでした。
- 694 名前:青春の光 投稿日:2004/01/23(金) 22:18
-
こんな大切な日に、オイラは何やってるんだろう?
- 695 名前:青春の光 投稿日:2004/01/23(金) 22:19
-
世界で最も愛する人に最高の思い出を作ってあげる筈だった。
ううん、違う本当は作ってあげるんじゃない、一緒に作りあげたかったんだ。
なのに、なんでオイラはこんな場所にいるんだろう。
- 696 名前:青春の光 投稿日:2004/01/23(金) 22:23
-
確かに愛する人は目の前にいるよ。
けど、手を伸ばしても届く事はない。
触れたブラウン管の冷たさが、オイラの心を責めている様で打ちのめされて行く。
手紙なんかじゃなくて、貴女の側で、一番近くで、愛しい貴女の名前を呼びたい、
あなたが大切にしている歌を一緒に歌いたい。
そう、オイラの声で。
もどかし過ぎるよ。こんなに願っているのに上手く出すことの出来ない自分の声に。
- 697 名前:青春の光 投稿日:2004/01/23(金) 22:26
-
涙が止まらない。
泣かないって、これが最後のお別れじゃないんだからって、涙は見せないって
決めてしまった貴女。
でもオイラには分かるんだよ。
必死に堪えているんだって事が、だからオイラがその分泣くんだ。
- 698 名前:青春の光 投稿日:2004/01/23(金) 22:29
-
それがオイラが決めたこと。
不甲斐無いオイラが、唯一してあげられること。
- 699 名前:青春の光 投稿日:2004/01/23(金) 22:31
-
涙で滲んだ世界の中で、貴女の輝きを放つ笑顔だけは、しっかり見えるんだよ。
その笑顔で貴女は、オイラを、凍て付いてしまったオイラの心を癒してくれる。
母のように、姉のように包んでくれる。
- 700 名前:青春の光 投稿日:2004/01/23(金) 22:33
-
それがオイラが世界で一番大好きな貴女、なっちなのだから。
- 701 名前:月影 投稿日:2004/01/23(金) 22:36
-
〜青春の光〜 END
- 702 名前:月影 投稿日:2004/01/23(金) 22:39
-
テレビを見ていたら、物凄く書きたくなってしまった“なちまり”です。
- 703 名前:check my heart 投稿日:2004/01/24(土) 23:45
-
安倍なつみです。
と、仕事で言って、思わず考える。
少しずつ増えている、個人での仕事。
まるで、グループに居ることを忘れるかのように。
まるで、新しい「自覚」の助走であるかのように。
冠詞として六年も、大事に唱え続けた言葉が、必要なくなるとき。
ふっと視線を上げて、前を見て。
カメラのむこうにあるだろう、何かを思う。
自分はもう、この脚でしか、立てない――。
- 704 名前:check my heart 投稿日:2004/01/24(土) 23:47
-
ひらり。
楽屋で一枚の写真がゆれる。
ポラロイドの長方形。
「うっわ、これずいぶん肩肘張ってるねぇ」
――あれ、小学校の卒業式とかみたい。
どれくらい緊張していいのか解らない感じだね。
と。先に卒業したはずのメンツが人の写真で笑っている。
後藤の手のなかにある写真。
マネージャーが撮った、仕事中のそれ。
これをどうやら、雑誌の片隅に載せようというらしかった。
- 705 名前:check my heart 投稿日:2004/01/24(土) 23:49
-
「なんか、戦に出陣前の王子様って感じっすね。緊張ガチガチで」
そう、後ろを通りかかった吉澤が呟き。
王様じゃないのがポイントね。
と、同じ年齢の健康的な肌が愉快そうにゆれた。
「ていうか、それこそ大横綱って感じ?」
と。愛情たっぷりに圭織が揶揄し。
「それよりも、金太郎って感じだよねぇ」
ツッコミストが眉を顰め。
写真を覗き込んで、さも楽しそうに体を折った。
そんなに面白いのかい。
そんなに笑えるのかい。
不満そうに話の成り行きを見守っていた、話題の張本人は、肩を軽く竦めた。
- 706 名前:check my heart 投稿日:2004/01/24(土) 23:51
-
「だー、もう。黙って聞いてりゃ、ひどいねぇ、まったくねぇ!」
ふっと頬を膨らませるなつみと。
珍しく中澤と談笑していた矢口は声の主を振り返る。
ぴったりと、視線が合った。
途端、反応するのか言葉が弾む。
「なっち、お母さんに連絡しないと!」
「えー?と、じゃぁ連絡しちゃおっかな!」
ぴ!っと人差し指で手首に触れて、専用連絡器具発動。
おかーさん!藤本たちが苛めるの!
と、さても繋がってるかのように訴える彼女と。
えぇ?あたし筆頭っすか!?
などと呆れた笑みを隠さない後輩と。
そこで重くならないのが、秀逸だ。
そう、たまに楽屋に来ていた裕子は苦笑する。
- 707 名前:check my heart 投稿日:2004/01/24(土) 23:53
-
外から見なければ解らないことは、沢山ある。
内側に居たら解らないことも、沢山ある。
「裕ちゃんも見る?」
人懐っこい笑みで、写真を差し出す後藤の手。
そこからゆっくりと写真をとりあげて。
ひらり、矢口の視界にも入るように面をこちらに向けた。
ポラロイドにおさめられたのは、スタジオのカメラに真剣に視線を向ける姿。
ガチガチに鎧を着込んだような、その気迫。
それと紙一重の、不安に揺れる不確かさ。
ふと、写真の奥に感じるものがあって、口元をゆるめた。
- 708 名前:check my heart 投稿日:2004/01/24(土) 23:54
- 「つーかなっち、これヤバイよ」
――確かに、ミキティの言うとおりに金太郎かもね。
あってるあってる。
ふひゃひゃ。
と子供の顔で笑いながら、すでに21になろうとしている矢口は笑う。
だけど。
なんや、気付いてるやんなぁ。
と、裕子は思った。
微笑の線が、微かにかたいから。
「あー!矢口までそういうこと言うんだ!
なんだい虫のくせにさ!」
――昆虫図鑑にでも載っちゃえ!
気軽にそらしてくれたことを、感じてか感じずか。
なつみは矢口に虫、むし!言いながら。
主食の氷食べに北極でもオホーツクでもいってきなよ!
などと笑っていたのだった。
- 709 名前:check my heart 投稿日:2004/01/24(土) 23:56
-
+ + + + + + + + +
な。同じこと、考えるのはなんでやろ。
さぁね。大事だからでしょ――?
+ + + + + + + + +
- 710 名前:check my heart 投稿日:2004/01/24(土) 23:57
-
何事かを託された小さな背中は廊下を歩む。
「いよう。今帰りかい?」
前を行く背中に声をかけた。
出来の悪いナンパのような声には、
「や、間に合ってますから」と多少場違いな答えを返された。
それにも、曖昧に微笑む。
「疲れたね」
と、何事でもないように、本音をぽつり。
その声と表情に速度が緩んで、小さな背丈の肩が並んだ。
曖昧さと静けさを保った表情に、無理に微笑みかける。
「良かったら、少し話さない?」
しばらくしたら、二人きりなんてあまりできないじゃん。
くっと、持ち上げた口元が、うまく上がっていたか。
それだけが、矢口の中で不安だったのだけれど。
- 711 名前:check my heart 投稿日:2004/01/24(土) 23:59
-
「あのさぁ」
と、吐き出す息は真っ白。
すっかり寒さを増した空気に、耳が痛い、鼻も痛い。
けど、本当に、誰にも聞かれずに話がしたくて。
ファミレスにも、どこにも入れなかった。
こんな年齢で、こんな時間に、こんな公園に二人きり。
通りをはさんだ酒屋の自販機の明かりだけが、暗い世界に白い色を添えている。
「なんだい」
そんな真剣な顔しちゃって。
冗談めいた口調は、しっかりと矢口を見ない。
「さっきの写真、なっちはちゃんと見た?」
託された気持ち。
伝えたいと思った気持ち。
しっかりと抱きかかえて、彼女をみつめる。
- 712 名前:check my heart 投稿日:2004/01/25(日) 00:00
-
ぴく。っと、コートの肩がゆれた。
「な。なんだいイキナリ、写真写りそんなにかわいか…ったかい?」
語尾は、霞んで消える。
矢口の視線が、そんなことが問題なんじゃないって、言い切っているのに気付いた。
ごまかしていたこと。
ばれていないと思ったことが、見透かされていることへの微かな動揺。
ハァ…。と、こぼした息が暗闇に白く溶ける。
下に向けた息は、重たく見えるから不思議だ。
「一人の仕事の時にさ、気を抜いたらすぐばれちゃうって…裕ちゃんとか言ってたのに」
――解っちゃうんだなぁ、やっぱり。ダメだねー、まだまだ。
ほんの一瞬だったのになぁ。
と、うつむいて彼女は微笑んだ。
- 713 名前:check 投稿日:2004/01/25(日) 00:01
-
「一人にね、なるんだなぁって、そう思ったの」
本当に、冠を下ろした…守ってくれる盾のない、初めての仕事。
「モーニング娘。の」が、必要ない安倍なつみ。
「ねー。ダメだね。プロ意識とか、そういうの…まだまだだ」
参った。と、ようやく顔を上げる。
「あのさぁ…」
切り出しとまったく同じ言葉が、もう一度唇から零れた。
だけど、その言葉を伝える距離は、さっきよりもよほど短い。
手袋の指先を、そっと繋ぐ。
そうして、いつもよりも強いと思える声で、紡いだ。
「こないだ言ったこと、嘘じゃないから」
- 714 名前:check my heart 投稿日:2004/01/25(日) 00:02
- ――モーニング娘。にいたことを思い出して――
プロ根性。
プロ意識。
いい意味で仲良くなりすぎたけど、単純に競争ばかりじゃなくなったね。
夢とか、理想とか。
かなえようと思ったら、眩暈がするほど大変だって。
あたしたちはこの体で知っている。
与えられた場所での出発なんて、ただの一度も無かった。
もがいて、切り開いて、踏みとどまって、苦しんで。
小手先の何か、ごまかしとかきかないのを、知っているから。
どんどん、ずっと一緒に居られる時間が減っていく。
こうして、指を繋いでいる今でさえも。
- 715 名前:check my heart 投稿日:2004/01/25(日) 00:03
-
恥じないように。
負けないように。
太陽の似合うキミらしく。
頬に日差しを受けて、前を向いて。
笑いたいときは笑顔でさ。
誰にも、マネのできない、その笑顔でさ。
ポツ。と、涙の雨。
頬を伝い、口元を湿らせて、乾いた砂地へ落下して弾ける。
- 716 名前:check my heart 投稿日:2004/01/25(日) 00:05
-
「…だから」
あたしも頑張るよ。
これからはね、今までのようにはいかないと思うんだ。
頑張るだけでも苦しいかもしれない。
ごまかさなくても、痛む場所があるかもしれない。
だけど、キミの卒業した後、すぐに躓いたりはしない。
そんなこと、させない。
それにさ。
肩肘張ってないといけない時とか、ぜったいあると思うんだ。
全てにリラックスしてなんて、挑めるわけもないじゃない?
逃げ出したい日だって、今までだってあったんだから。
これからだって無いとは言えないわけじゃない。
だからね。
そう告げる瞳に、悪戯な光が微かに宿る――。
「最後のアレは、自分の気持ちでもあるんだ」
- 717 名前:check my heart 投稿日:2004/01/25(日) 00:07
-
ふ。っと、本音が出て、濡れた視線が重なった。
バカみたいに、素直な子供みたいに、泣いてやがる。
ふへへ。と、本当に子供のように苦笑して、お互いの肩をバンと叩いた。
「だからさ!いっぱいいっぱいになったら、連絡して来い」
――いっぱいいっぱいじゃなくても!連絡して来い!
じゃないと、なっちは本当にイッパイにならないと連絡してこないからな。
そう、読みきったように矢口は微笑った。
見えるのは泣いている表情の、独特の弱い微笑み。
真剣に受け止めると、人間は同調するものだと。
今のなつみの表情が語る。
涙を手袋の生地が吸い込むのに、ずす!っとしゃくりあげる。
その後に、思わずテレを隠した。
「ええいあぁって、もらい泣きかよ!」
「って一人でツッコムなよ!」
数瞬で遣り取りをして、二人は微笑って。
お互いにテレを隠しながら、しばらくノリツッコミ合戦を繰り広げた。
少しだけ、重さを公園の隅に放り投げた。
- 718 名前:check my heart 投稿日:2004/01/25(日) 00:09
- 大丈夫。
そう、確かに思った。
気付いてくれる人は、ちゃんと居る。
それならば、大丈夫。
確信できる。
歌いたいと叫ぶ気持ちを。
ここに居ると叫ぶ存在を。
気付いてくれる人は、ちゃんと、ここに、居る。
巣立つ、場所に、居てくれる。
寄りかかることも、その場で助けを求めることも。
もう、できないけれど。
いじめられっこだったなっちは、自分の脚で立てるようになったんだって。
そう。
ここまで、歩いてきたんだよって。
これから、歩いていくんだよ…て。
そう、思うことにするよ。
ありがとう――。
- 719 名前:check my heart 投稿日:2004/01/25(日) 00:10
-
check ny heart
――fin――
- 720 名前:堰。 投稿日:2004/01/25(日) 00:13
- 日ごろ殺伐としている世界ばっか書いてるので、
めずらしくリアルでなちまりを書いてみました。
この日付に名前を残せて、私は本懐を遂げた気がします。
- 721 名前:名無飼育さん @北海道 投稿日:2004/02/10(火) 22:21
- >作者さま
安倍さん卒業に合わせての更新、お疲れさまでした。
安倍オタとして、こういうお話が読みたかったと拳を握って
スクロールさせていただきました。
ありがとうございました。
- 722 名前:ヨルガキタ 投稿日:2004/02/12(木) 12:04
- ベットの中だった。
殆ど眠りの中だった。
なのに枕許の携帯が鳴っている。
瞼を閉じたまま手探りに携帯を捕らえる。
ウルサイ。ウルサイ。
最大限に覚醒を抑える努力をする。
片方だけほんの少し瞼を開けて、ディスプレイを確認して。
カーテンの隙間から陽は射していない。
まず間違いなく夜中。
- 723 名前:ヨルガキタ 投稿日:2004/02/12(木) 12:05
- 眠いけど。
どう考えても迷惑だけど。
指先は無視できずに通話ボタンを押している。
「どうしたの。亜弥ちゃん?」
しかも声に不機嫌さを浮かべることも出来ないなんて。
あー情けない。
返事はない。
聞こえてくるのは、壊れそうな呼吸音。
…泣いてるよね?
- 724 名前:ヨルガキタ 投稿日:2004/02/12(木) 12:06
- 選択肢はない。
あたしは携帯を耳と肩に挟んだまま
適当に着替えて、コートを羽織って外に出ていた。
タクシーを捕まえるため大通りに向かう。
繋がってるのに、何も伝えてくれない役立たずな携帯。
「亜弥ちゃん。今行くね。眠かったら寝てて良いから」
「……ううん。待っ、てる」
ざわついて掠れきった声。
それでも聞けただけで、平静な自分に近づく。
時折おとずれる姿なき畏怖。
訳も理由もない。
だからこそ質が悪い。
それに彼女が呑み込まれる前に。
タクシーはすぐ捕まった。
すぐ着くから、言い聞かせて一旦携帯を切った。
- 725 名前:ヨルガキタ 投稿日:2004/02/12(木) 12:07
- 通り過ぎてく風景。
空の手前で溢れる人工の瞬。
闇に怯えてるのを、知られたくないから
灯りつづけて。
黒の抱える色彩は、綺麗で空しい。
育った場所のせいかもしれないけど
小さい頃、闇の色はもっとずっと濃かった。
自然の零す光は、もっとずっと鮮やかだったはずなのに。
夜が怖いの?
視覚って大してあてにならなよ。
あたしは?
待ってるコがいるし、怯えたりしない。
千古
その恐怖は誰かの体温に溶かした。
きっとそうだ。
テレビや灯りは、替わりになれたフリをしてるだけ。
- 726 名前:ヨルガキタ 投稿日:2004/02/12(木) 12:07
- 気付けば見慣れたマンション。
「ココでいいです」
慌てて運転手に告げる。
すっと軽く背中がシートにあたる。
凭れもせず、前屈みだった自分に苦笑しながらタクシーから飛び降りる。
リダイヤルを押す。
- 727 名前:ヨルガキタ 投稿日:2004/02/12(木) 12:08
- 宇宙に散らばる無数の星が放つ光を受けて
それでも夜空が暗いのは。
光を届けるより速く
広がっているくからなんだってよ。
光ごと遠くに離れていくからなんだって。
ホントか分かんないけどさ。
それはそれで、なんとなく寂しくない?
2人でかわいそうだって笑いながら、手なんかつないじゃって。
星空を一緒に見上げようよ。
- 728 名前:ヨルガキタ 投稿日:2004/02/12(木) 12:11
- 闇が消え果てたとき。
あたしを呼ぶ泣き声も一緒に消えるのかな?
どうなんだろうね…
今は闇で凍えるあなたの許へ
柄にもなく全力疾走。
エレベーターを待つのももどかしく階段を2段ぬかし。
近隣の人。こんな時間にスイマセン。
あたしがこんな必死になるの亜弥ちゃんにだけなんだからね。
大事にしてよね、マジ。
足音でドアが開いた。
「…た、ん」
はいはい。着きましたよ。
もう大丈夫。
あたしの体温が溶かしてあげるよ。
〈終〉
- 729 名前:名無し 投稿日:2004/02/12(木) 12:13
- あ、あやみきです。
なんかいいなと今更思い始めまして。
お目汚し失礼しました
- 730 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/13(金) 09:38
- あたしがこんなに必死になるの〜
の下り、最高です。
あやみき、いいですよね。(w
- 731 名前:Sweet Time. 投稿日:2004/02/13(金) 22:40
- 楽屋での空き時間
特に何をするという訳でもなく
ぼーっと肘をついて、天井辺りを眺めていた
…眠い。
昨日あまりよく寝れなかったからかなぁ…
今日は仕事が終わったらさっさと帰って寝よう
なんて事を考えてあくびを1つ
「れーな」
自分を呼ぶ声が向こうから聞こえた
声のする方へ顔を向けると
嬉しそうにぱたぱたと足音をさせて近付いてくる絵里の姿
「何?」
この流れは何か頼まれるパターンだなと先を読んだ
そしてその考えは見事正解。
- 732 名前:Sweet Time. 投稿日:2004/02/13(金) 22:41
- 「帰りになんか甘いもの食べたい」
相変わらずのふにゃふにゃした笑顔で話しかけてくる
「で?」
そう返事すると絵里は一瞬だけ表情を曇らせたが、言葉を続ける
「だから、一緒に行こ?」
ちょっと首を傾げて、やや上目遣い
そんな顔でねだられたら、断われない
本人ねだってるなんて感覚、全然無いんだろうなぁ…
自覚してないものほど怖いものはない、うん
「れーな?」
絵里ほったらかしで急に考え込んでしまったあたしを心配そうに伺う
「あ、うん。わかったけん」
そう返事をすると、絵里はすごく嬉しそうに笑った
「ありがとね」
その言葉と共にぎゅっと手を握られて、腕を上下にぶんぶんと振られた
「わっ!」
びっくりして思わず声が出る
そんなのお構いなしと言わんばかりに
気の済むまで腕を振った後、また向こうの方へと戻っていった
「…」
そんな絵里の後姿を見送ってから握られてた手を見つめる
「…バカ」
誰にも聞こえないようにそっと呟いた
- 733 名前:Sweet Time. 投稿日:2004/02/13(金) 22:42
- ようやく仕事が終わって帰る準備をしていると
もう完璧に準備を終えていた絵里が横に立っていた
「れーなぁ?」
心配そうに顔色を伺う
「そんな顔しなくても、約束覚えてるけんね」
呆れたようにそう言って荷物の整理をする
「んー、信じてるけどぉ…」
「ほら、準備終わったと?」
カバンを掴んで絵里に合図を送る
「うんっ」
その合図に絵里は嬉しそうに笑って横に並んでくる
「甘いものって、何食べるけんね?」
「んーっと…パフェが食べたい」
パフェってこんな寒い時期に…
「こないだ紺野さんと加護さんと一緒に行ったところのがおいしかったんだぁ」
さくら組繋がりね、なるほど
「その、食べた時にまた食べたいなぁって思ってたから」
「で、あたし誘ってくれたんだ?」
「うんっ」
絵里の方から誘うのって実は結構珍しい事だって今ようやく気付いた
大抵あたしかさゆが言い出して出かける事多いし
それにいつも3人で行くことの方が多い
「さゆも誘えばよかったのに」
「んー、何か今日は2人で行きたい気分だったから」
ふにゃっと笑ってそう言う
2人だけで、ねぇ…
- 734 名前:Sweet Time. 投稿日:2004/02/13(金) 22:43
- 「えーっと…何がいいかなー?」
店に着いて早々メニューを手に取って
嬉しそうな顔でそれに貼り付いてる絵里
そんな様子を肘を突いて見る自分
「イチゴがいいかなぁ?チョコがいいかなぁ?」
ぶつぶつと言いながらメニューとにらめっこ
何でもいいから早く決めればいいじゃん、なんて短気な自分は思ってしまう
メニューとかそこまで迷わなくてもいいだろとか思ったり
しばらく俯いていた絵里がふっと顔を上げる
「れーな、何にする?」
「まだメニュー見てないし」
さっきから絵里が独占してるから見れるわけも無く
「ああ、そっか、ごめんごめん」
そう言ってメニューをこっちに見せる
ざっとメニューを見渡して、どれにしようかと考えてる最中に
「あたしね、イチゴパフェとチョコパフェで迷ってるんだけど…」
絵里の甘えたような声
「…じゃー、れながチョコ頼むから絵里イチゴ頼めば?」
そう言うと絵里は目を輝かせる
「え、ほんとにいーの?」
いいも何もそう言って欲しいって目してたけんね
「別にいいけど…」
「じゃ、それで決まりー」
そんなに嬉しいのか?と思うくらいにもうすごいテンション上がってて
めちゃめちゃ笑顔の絵里
そんな絵里とは対照的にテンションの上がらない自分
てゆーか眠いだけなんだけどね…。
- 735 名前:Sweet Time. 投稿日:2004/02/13(金) 22:43
- 「れーな、なんかあった?」
さっきメニューを見てた時のへらへら笑顔じゃなくて
ちょっと真剣に真っ直ぐこっちを見つめる
「…え?」
「なんか元気ない気がする」
じっとこっちを見つめながら、様子を伺うみたいにあたしの姿を捕らえている
「絵里の気のせいやけんね」
そう言ってコップの水を一口、二口飲んだ
こういう所は鋭いからなかなか気が抜けなかったりする
普段回りから『クールだ』とか『感情が出にくい』とかいろいろ言われてるのに
絵里だけは例外的にその辺りにずばずばと入り込んでくる
別に気に入らないわけじゃないけど、なんかちょっと複雑
「んー、れーながそう言うならなんでもないよね、きっと」
でも内容にはあんまり突っ込んでこないからある意味楽と言えば楽かもしれない
しかも今の場合単に『眠い』って理由だけだし
- 736 名前:Sweet Time. 投稿日:2004/02/13(金) 22:44
- しばらくすると2つのパフェが運ばれてきた
「いただきまーす」
超笑顔でパフェを食べ始める絵里
「んー、おいしー」
その満足そうな顔をちらっと見ながら自分も食べ始める
甘いチョコレートの味が口に広がる
その甘さをじっくり味わってる間に絵里はぱくぱくと食べ進んでいた
更に身を乗り出し、あたしのパフェをすくう
「あ」
声を上げてる間に絵里はそれをおいしそうに口に入れる
「んー、あまーい」
嬉しそうにふにゃっと笑ってる姿を見てあたしは呆れて目を逸らした
つーか普段トロいのにこんな時だけ…
「…あのねぇ」
ふっと絵里を見ると、絵里はスプーンをくわえて、きょとんとした顔
…そんな顔してもダメだから、びしっ!と言ってやるからね
「れーな?」
「…何でもないけんね」
やっぱ、そんな表情されたら無理、言えない
ああ、弱いなぁ…。
いや確かにあげるとは言ったけど、せめて
「もらうね?」とか無いのか?
理不尽な頂かれ方にかなりの疑問を感じたけど、やっぱり言えない
自分の不甲斐無さと絵里の行動に溜息を1つ
「じゃ、れーなにも…」
すっと目の前に出されたスプーンにはピンク色のアイスが乗っていた
「?」
「さっきもらったから、れーなにもあげる」
もらったって言うよりは勝手に取ったようなもんじゃないかと
思ったけど口に出すとややこしくなりそうだから言葉を飲み込んだ
「はい、あーん・・・」
「え!?」
思わず声が大きくなった
絵里は不思議そうな顔でこっちを見ている
「…れなはよかと」
「え?いらないの??おいしいのに…」
しゅんとしながら絵里は自分の口にそれを運んだ
おいしいとか、おいしくないじゃなくて、気にしたのはもっと別の事。
- 737 名前:Sweet Time. 投稿日:2004/02/13(金) 22:45
- その事を更に大きくさせるような言葉が絵里の口から出てきた
「デートとかってこんな感じなのかなぁ…」
「はぁ!?」
その言葉にスプーンを落としそうになった
「そんな大きな声出さなくても…」
びっくりした顔を見せる
「え、絵里がそんな事言うからやけん」
「こんな感じなのかなぁ?って思っただけだよ?」
そう言ってまたパフェを食べ始める
あ…変に意識してるのってこっちだけか…
そう思うとなんだか恥ずかしくなって言葉が、動きが止まる
その様子を見ていた絵里が一言
「早く食べないと溶けるよ?」
「…わかってる」
何か自分でもよくわからないけど、ちょっと動揺してた
絵里の行動とか言葉とかに
さゆと一緒にいても同じ事言うのかな…?
あたしだから言うのかな…?
って何考えてんだろ、あたし
変な考えを取っ払うように少し溶け出したアイスを口に入れた
- 738 名前:Sweet Time. 投稿日:2004/02/13(金) 22:45
- 食べ終わって店を出てからも、相変わらず自分のテンションの低さは変わらなくて
絵里はそれに気付いているのか、横並んで歩かずに
ちょっと後ろを後を着けるように縦に並んで歩いていた
このテンションの低さは眠いだけじゃない
さっきまでとは違う
他の何かが…その何かは多分自分でも気付いている事
意識したくない事だから、知らないフリしてる
そんな事を考えてたら、絵里の事はほったらかしになってしまっていた
なんかちょっと気まずい
自分から何か言おうか…でも何言えばいいだろう?
またいろんな考えが頭をぐるぐる回る
「れーな」
そんな自分の考えを破ってくれたのは絵里の声だった
「何…」
ふっと振り返ると、絵里がぴょんと跳び付いて来る
「わっ!?」
そのままぎゅっとしがみ付いてきて
「え、絵里!危ないけんね!」
しがみ付いてきた絵里を引き剥がそうとすると絵里の顔が急に近付く
「え…?」
- 739 名前:Sweet Time. 投稿日:2004/02/13(金) 22:46
- ちゅっ。
頬にあったかい感触
目の前には顔を赤くしてる絵里
「???」
突然過ぎて状況を把握するのに時間が掛かった
えーっと今絵里があたしに…
「さっきの…」
頭の中を整理して何が起こったかを理解しようと考えている間に絵里が口を開く
「さっきのパフェのお礼」
「はぁ?」
何言い出すんだ、こいつと心の中で叫んだ
「はぁ?じゃなくて」
誤魔化すように笑ってるけど真っ赤になってる絵里の顔
いや、こっちのが恥ずかしいっての
「さっき一口くれたののお礼」
ああ、あの事か
いや、別にお礼なんかいらなかったんだけど
ってゆーか絵里勝手に食べたよね?
頭の中でいろんなツッコミが入るけど
いつもみたいに口には出ない
多分さっきの出来事が自分をまだ混乱させてるのかも
「はぁ…」
出てくるのはこんな言葉にもならない声で、何をどう言っていいのかわからなくて
「怒った?」
表情を曇らせる絵里
「や…怒ってはないけども…」
どうしていいのかわからずに頭を掻いた
「急にだったから、びっくりしたけんね…」
そんな事するなんて思ってなかったし…
「たまにはれーなの事びっくりさせたかった」
へへー、と笑う絵里
「…バカ」
それだけ言ってまた歩き出す
「あ、待ってよー」
その後ろを絵里が追いかけてくる
- 740 名前:Sweet Time. 投稿日:2004/02/13(金) 22:48
- 今絵里が目の前に回り込んできたら、かなりヤバい
だってこんなにも顔が緩んでしまってるから
見られないように絵里の前を歩き続けた
顔がニヤけてしまったり、胸がドキドキするのは
絵里の事好きだって事やけんね?
今はまだ口には出せない気持ちだけど
そのうち、きっと言ってしまうだろう
『あたし、絵里の事好きだ』って。
でも甘い恋になるには、時間がかかるのです、きっと。
―End―
- 741 名前:赤人。 投稿日:2004/02/13(金) 22:51
- えーっと未熟者ですが書かせてもらいました、田亀。
もっともっと増えないかなぁという気持ちを込めて布教作品。
表現が稚拙で申し訳ないです…(苦笑
- 742 名前:捨てペンギン 投稿日:2004/02/14(土) 07:39
- こんなデートいいですね
- 743 名前:コンビニ 投稿日:2004/02/14(土) 18:26
-
「99円になります。
ありがとうございました。」
店員さんの声を後にれいなはコンビニから出てきた。
手には小さいビニール袋。
「何買ったの?」
そういいながら袋を見る。
赤い色がビニールから透けて見えるけどモザイクがかかってなにかはわからない。
でも多分あれだ。れいなも顔には出してなかったけど意識してたんだ。
「チョコ」
大正解。でも誰にあげるんだろう。
かなり気になる。
「誰に?」
「れな、自分で食べるけん」
- 744 名前:コンビニ 投稿日:2004/02/14(土) 18:26
- それじゃ寂しい人みたい、っていおうと思ったけど、
そんなこといったら怒るだろうからやめた。
すねた顔が頭に浮かぶ。
それよりも
「えりにちょうだい」
「別によかと」
「本命チョコとしてね」
「え・・?」
れいなの顔が真っ赤になった。
終わり
- 745 名前:コンビニ 投稿日:2004/02/14(土) 18:28
- コンビニ書いたものです。
一応田亀です。おまけみたいな感じで書きました。
お目汚し失礼しました。
- 746 名前:石川県民 投稿日:2004/02/19(木) 13:45
- 自スレを更新せずに、
たまには浮気心を出してみたいんです。
- 747 名前:ぽかぽか陽気の春うらら。 投稿日:2004/02/19(木) 13:46
- ぽかぽか陽気の春うらら。
「眠―」
お日様が気持ちいい土手に二人で来ていた。
高橋さんは寝転がってそう言ったかと思うと、
すぐに寝息をたて始めた。
「ちょ、ダメですよ、こんなところで寝ちゃ」
アタシが慌てて起こすと彼女は眉間にシワを寄せながら
睨んだ。うわ、アタシの睨みより怖いっちゃ。
「やだ、眠い」
「周りの人にバレたらどうするんですか」
「それはやだ」
「じゃあ家に帰って寝ましょうよ」
「…それもやだ」
「……どうしたいんですかアナタ」
「今、ここで、寝る」
「…だからダメですってば」
「やだ」
「もしかして…
高橋さんてワガママですか」
「…もしかしなくてもワガママやよ」
――この光景を絵里やさゆが見たら驚くだろうなぁ、
ぼんやりそう思った。
“アタシが”こんなワガママに振り回される姿、きっと二人には想像できないだろう。
アタシを振り回している張本人は、片目だけで
ちらりとこっちを見た。
「なん?嫌いになった?」
――試すような言い方。
- 748 名前:ぽかぽか陽気の春うらら。 投稿日:2004/02/19(木) 13:47
-
「いえ、もっと好きになっちゃいました」
「…物好きー」
腕で目を隠す、キレイな瞳なのに。
「こんなワガママ女に
『あの子』は愛想を尽かしたんやよ」
「アタシは愛想を尽かしません」
そう答えると、面白くない、といった感じのふて腐れた顔。
「――あーあっ!」
ひょい、と起き上がる。
「目ぇ覚めたやんけ、かーえろ」
スタスタ歩き始める彼女。
と、突然こっちを振り返る。
「ほら田中ちゃん 帰るでぇ」
その一言でアタシは彼女のあとを追った。
高橋さん。
アナタにとってアタシはまだ、
あの人の代用品かもしれません。
でも。
きっと、その内、絶対。
アタシはあの人を越えます、
アナタの心をアタシで占めてやる。
………こーいうのを『下克上』っていうんだっけ?
完。
- 749 名前:石川県民 投稿日:2004/02/19(木) 13:49
- 小高が根底にある田高。
あはは、ダメだこりゃ。
お邪魔いたしました。
- 750 名前:アナザーロッキーズ 投稿日:2004/02/22(日) 01:18
-
「好きだねえ。」
れいなが後ろから私の頬を突っついてくる。
「うるさぁい。」
その手をぴっぴっと振り払い、私はまたTVに正面から向き直り、
コタツに入ったまま背を丸めた。
ちなみにコタツの上には、みかんとおせんべい。
テレビ画面には、私と同じ歳くらいの女の子たちが、
歌って踊っている姿が映し出されている。
「あ、道重ちゃん!」
最近少し背の伸びてきた、しかしまだまだあどけなさの残る少女の顔がアップになった。
その姿が大きくカメラに映ることが嬉しくて、私は自然と笑顔になる。
「こわかー。ニヤニヤしちゃってさ。」
後ろから嘆息ともつかぬ吐息が聞こえ、空気が動いたと思ったと同時に。
背中にとんでもない重みがのしかかって来た。
「んぅんっ…ちょ、れいな重い、重いよぅ、なに?」
私の必死の抗議にもかかわらず、その重みはなかなかどいてくれなくて。
代わりに耳元でくすぐったい笑い声が響いた。
「絵里?もしかして、ちょっと太ったと?」
「なっ…それが乙女にゆーことばかぁ。」
- 751 名前:アナザーロッキーズ 投稿日:2004/02/22(日) 01:19
-
いつの間にやら腰に回された手をぎゅーとつねって、
私はそのまま後ろにヘッドロックをしてみた。
ぐえ、という声と共に重みが消え、そのままストンとれいなは後ろに座り込んだ。
「絵里…アゴが痛い。赤くなって尖って小川先輩みたいになったらどうすんの。」
「しらなぁい。」
れいなの回された手をシートベルトのように胸の前で交差しながら、
私はそのまま後ろに凭れかかった。
相変わらず暖かくて、心地良い場所だとこっそり思った。
「ほらぁ、れいなが邪魔するからいつの間にか歌、終わってるじゃんかぁ。」
テレビ画面では、歌い終わった少女たちが司会者と会場に笑顔で頭を下げ、
袖口へと下がっていく場面になっていた。
それに合わせて、ばいばい。と私もテレビに向かって手を振る。
「いいじゃん別に…ていうかビデオでしょ。何回も見たと。」
つーか見すぎだよマッタク、などとぶつぶつ呟く声が頭上から振ってくる。
それと同時に、遠くから強い風がガタガタと窓を揺らす音も聞こえてきた。
「あのね、何回も見ないと。歌も踊りも、覚えられないの。」
そう言いながられいなの手を両手でポンポンと叩いてから、
私はまたビデオのリモコンに手を伸ばした。
「ああぁそうですか…つーか絵里が覚えてどうすんの……て、チョット待っとう。
いや待って、まだ見るの?繰り返すの?リバース?見すぎだから、いい加減に!」
慌てた声と一緒に、私の腕を掴むれいなの手。
まだ子供らしさを残す、優しい手。
- 752 名前:アナザーロッキーズ 投稿日:2004/02/22(日) 01:20
-
しばらく二人で、無言のまま手と手の追いかけっこが始まる。
聞こえるのは、テレビから聞こえるCMの音と、窓を揺らす風の音のみ。
TVの音と同時に聞こえるなんて、今日はやけに風が強いな。
なんて関係ない事も思ったりする。
今日のデートを室内に変えたことは、失敗じゃなかった。
「ほら、取った。もう終わりね、おーわり。続きも巻き戻しも、また後で。」
いつの間にか私の手からリモコンを奪ったれいなは、
早口でそう言い終えると画面をピッピッと切り替える。
やがて、「地元の名産品・お料理紹介!」などと銘打ったテロップが映し出された。
日曜の昼下がり、大勢の奥様方がまったりと見るであろう番組だろうか。
「…つまんない。」
私はぶぅたれて、れいなに深く深く凭れかかった。
ぶぅぶぅと膨らんだ頬を右手で軽くつまんで、れいなは私の顔を覗き見る。
「モーニング娘。ばっかり見てる、絵里見てる私の方がつまんない。」
「だって好きなんだもん。」
「知ってる。つかCD買いすぎ。グッズ集めすぎ。」
「だって好きなんだもん。」
「知ってる。カラオケで歌いすぎ。マジでマイク離さないし。」
「だってふひひゃんひゃもん。」
続ける私の頬を、今度は両手でれいなが引っ張る。
- 753 名前:アナザーロッキーズ 投稿日:2004/02/22(日) 01:21
-
なによぅ、やめてよぅ。
うひゃひゃひゃ、絵里変な顔―!
と、笑い転げるれいなの顔。
でも実は、そんな風に子供みたいな反応を返す彼女の顔も好きなので、
自然と私の頬にも笑みが広がる。でも声はいちおう、怒った風に見せないと。
「ほっぺのびるー!」
「めんごめんご。」
ちょっと前にあった某英会話のCMうさぎの口調で謝ってから、れいなは私の頬を離した。
その後笑みを消して少し首を傾げて、私の頬をそっと擦る。
「やべ…ちょっと赤くなっとうね。ごめん。」
「……くすぐったい。」
れいなの手の感触に、思わず目を細めて首をすくませた。
ついでにれいなの腕の中で、ごろごろと小さく転がってみる。
まだ寒いのに、部屋の中だからと随分薄着なれいなの服越しに感じる彼女の熱。
私はこれが好きだった。
「何、無意味に転がっとう…。」
呆れたようなれいなの声。いつの間にかその手は頬から離れていて、私の髪を撫でていた。
「れいなは。」
「なに?」
「モームス嫌いなの?」
- 754 名前:アナザーロッキーズ 投稿日:2004/02/22(日) 01:22
-
「は…え、違うよ別に…ドチラカトイエバスキッチャ。」
「聞こえないー。」
また小さな嘆息と共に、れいなは私の髪を梳きながら片方の手でリモコンに手を伸ばした。
プチっと電源を切って、また手を元の場所へ戻す。
テレビからの音が消え、随分静かになった。でも、相変わらず風の音は止まない。
「逆に聞きたか。絵里は、なんでそんなモームス好きなの。」
「えー。」
それを聞くの?照れるよぅ…などとクネクネ身体を捩じらせると。
れいなにポカっと軽く頭を叩かれた。
「痛い……
私ね、あんな風に。
私たちよりちょっと上の子とか、同じ歳ぐらいの子が。テレビで歌ってるの見るとドキドキしちゃう。」
「はあ?」
「緊張するの、見てるこっちが。なんか、知らないうちに…がんばれぇ!って。思って。
でも、そんなの関係なくあの人たちって、なんか、いっつもキラキラしてて。
それで、そのうちに何だか、私の方が元気貰ってるの。」
言葉遣いがおかしい、と心の中で自分につっこみながら。
私はれいなに言った。
「だから好き。」
「…新期オーディション、受ければ良かったのに。」
「受けたもん。」
「……そうやったとね。」
- 755 名前:アナザーロッキーズ 投稿日:2004/02/22(日) 01:24
-
一次の書類選考はパスして、二次選考の時。
流行の風邪にかかって39度の熱を出して。
それでも行くと、止めないでと駄々をこねてベッドで暴れた私を止めたのはれいなだった。
去年の春に、隣に越してきた年下の女の子。
「あの時は、家族みんなで大騒ぎしたね。」
「…後悔しとう?」
不安げに聞いてくるれいなの声。
俯いているのか、その髪が緩く私の頬にかかってきて。
私はまた少しくすぐったい気分になってしまう。
「ううん。ただ、二次選考に行けなかった事、悔しくて。
でも自分のせいだもんね。健康管理、ちゃんとしてなかったから。」
だから、間違っても。れいながその事で負い目を感じる必要はないから。
時々、モーニング娘。を夢中でテレビ越しに見てる私を、
隣で申し訳なさそうに見守る視線には、いつも気付いていたから。
「…ごめん。」
「れいな、違うってば。なに謝ってるの。…ね。あのとき、止めてくれてありがとう。
私の身体、一番に心配してくれたんだよね。」
れいなに凭れていた身体を反転させて、私はその小さな身体に緩く抱きついた。
暖かい。子供は体温高いって、誰が言ってたんだっけ。
あれ、当たってるんだ。
- 756 名前:アナザーロッキーズ 投稿日:2004/02/22(日) 01:25
-
「れいな、ちゅー。」
「……ん。……って…はぁっ!?ば、ばかっ!」
「…ばかってゆった。また、ばかって。なんで毎日言うの。
私、年上なのに。成績だっていいもん。」
「関係なかと!ばか!」
「……れいな、きらい……。」
ふてくされて、それでも抱きついた身体を離したくなくて。
私は猫のようにれいなの胸に頬を押し付けた。瞳を閉じる。
「…私は絵里のこと、好き。」
しばらくして上から聞こえてきた優しい声を、子守唄代わりに聞いて。
私はそのまま安心して眠りについた。
- 757 名前:アナザーロッキーズ 投稿日:2004/02/22(日) 01:26
-
「……つか、なんでこの体勢で寝れると?」
あたしの胸に顔を押し付けたまま、くぅくぅと可愛い吐息を漏らす絵里。
あんたは一体何者だ。
濡れたように光る綺麗な黒髪から、形のよい横顔が見える。
出会った頃より、ずっと綺麗になったように思えるその横顔。
「…襲うぞ。」
つるつるした頬に唇を寄せて、ちょんと口付ける。
それに反応したのか、ん…んぅ。と、声を漏らしながら身を捩る絵里。
あたしはなんだか、絵里を汚したような気分になって。
また、自分に嫌悪した。
胸が痛くなってくる。
いつか。
いつかこの子に告白する時がくるだろうか。
あの時。
39度の熱を出して、それでもモーニング娘。のオーディションに行くと言って聞かなかった絵里。
そんな身体で無理してどうするんだと、叱ってなだめて。
しまいには暴れ出した絵里の身体を、あたしは必死になって押し留めた。
そのまま泣き出した絵里を、ずっと抱きしめてた。
あの時。
- 758 名前:アナザーロッキーズ 投稿日:2004/02/22(日) 01:27
- 身体のことは、勿論心配だった。
あんな顔真っ赤で身体グラグラの状態で、無茶なんかして欲しくなかった。
でも、本当は。
絵里が熱を出したと聞いた時、心のどこかで「良かった」と思う自分がいた。
これで絵里はオーディションに行けない。と。
これでもう、アイドルなんて遠い世界には行けない。と。
よかった、と。
あたしは自分が、酷く汚い奴だと思った。
「絵里、好きだよ。」
黒猫のように背中を丸めて、檻のような腕の中で眠る絵里。
あたしはその髪を撫でながら、ずっと遠くで風が窓を揺らす音を聞いていた。
- 759 名前:名無し作者 投稿日:2004/02/22(日) 01:31
-
以上です。
ああ、しかしここでは田亀が沢山読めて嬉しい今日この頃。
ありがとうございました。
- 760 名前:公害無毒のナチュラリスト 投稿日:2004/02/24(火) 00:55
- 「ふぁ、仕事の後の一服っちゅうもんは最高やな。これがビールやったら
もっと最高やのになー。ま、昼間っから飲む訳にはいかんねんけど」
収録を終えた中澤は、自分の楽屋でまどろんでいた。
少しきつめにかかった暖房がポカポカと体温を上げ、眠気を誘う。
さっき自分で入れた湯飲みの中をふと覗き込んだ。
「うおっ!茶柱立ってるやん!何かええ事あるかなー」
- 761 名前:公害無毒のナチュラリスト 投稿日:2004/02/24(火) 00:56
- そういえば最近、いい事が無いような気がする。
こんな些細な出来事で喜べる自分はまだまだ若い。
飲んでしまってはもったいないので、湯飲みをそっとテーブルの上に置き、
両手の上にアゴを乗せて茶柱を眺めた。
「ええ事、幸せな事、あるかなー」
いい具合の室温と、ほんの少しの幸せな気分と、仕事後のまったりとした時間。
この状況で眠るなという方が酷というもの。
中澤は微笑を浮かべながらウトウトし始めていた。
- 762 名前:公害無毒のナチュラリスト 投稿日:2004/02/24(火) 00:58
- バタン!
勢いよく開いたドアの音によって、違う世界に行きかけていた中澤は現実に引き戻された。
「なんやねん・・・」と不機嫌に顔を上げると、物凄い形相をして誰かが立っている。
何かを叫んでいるような気もする。
寝ぼけているせいか、顔の輪郭がはっきりと見えない。
目をよく擦って見るとその立っている人は、茶色の髪をオールバック気味にセットした人が立っていた。
「中澤さん!」
あ、さっきからウチの名前を叫んでいたのね
- 763 名前:公害無毒のナチュラリスト 投稿日:2004/02/24(火) 00:59
- 「何やよっすぃやん。どしたん、そんな恐い顔して」
「何ニヤニヤしてるんすか!どんな夢見てたんすか!」
「ん?さみしなって会いに来てくれたんちゃうの?」
「違いますよ!今日のワイド、そでで見てたんですよ!」
「へっ?ワイド?ワイドが何?」
「何であんな事させたんですか!私だってまだ・・・」
「何の事?何ゆーてんの?」
すごい形相で(オールバックである事がさらにその表情を助長させている)
怒鳴り散らす吉澤のおかげで、すっかり眠気は覚めた。
何をそんなに怒ってんねんやろと思い、中澤は今日のHPWの収録内容を思い出した。
- 764 名前:公害無毒のナチュラリスト 投稿日:2004/02/24(火) 01:00
- 確か最初にバレンタインネタで軽く挨拶して、ピーマコラップ始まって。
あれはなかなか出来がよかったな、うんうん。
で、ミニモニのアルバムの紹介して、自分の新曲のPR・・・したよな。
おじゃまるが来て、いつも通りしっちゃかめっちゃかな感じで終わって。
自分で喋っただけやったもんなー、結局。
そういえば、あん時おじゃまる何しとったっけ?
・
・・
・・・
「あ!」
もしやあれの事?
もしかして・・・?
理由に辿り付いて、怒られているのに何だか嬉しかった。
仁王立ち吉澤に、色気全開で聞いてみた。
- 765 名前:公害無毒のナチュラリスト 投稿日:2004/02/24(火) 01:01
- 「よっすぃ・・・妬いてる?」
「なっ・・・」
一瞬たじろいだ吉澤だったがすぐに体勢を立て直し、中澤を睨んだ。
「そんなんじゃないですよ!それにしたって、紺野にあんな事までさせる必要はないでしょ!」
「や、だってしゃぁないやん。台本に書いてあったしやな」
「台本無視する事なんて日常茶飯事じゃないですかっ!何で膝枕なんて許したんですか!」
「そんなに怒っちゃいやん」
「かわいこぶっても意味無いですよ!」
な、なんやとぉ!
ウチかてかわいこぶるぐらい出来るわい!
でもこんな時になんやけど、怒ってるよっすぃの顔もいけてんなぁ
ものっすごいドキドキするんですけど
そのきりっとした眉とか
- 766 名前:公害無毒のナチュラリスト 投稿日:2004/02/24(火) 01:03
- 「中澤さん!私が怒ってるっていうのに、何でまたニヤニヤしてるんすか!」
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて話そうや」
「落ち着いてられませんよ!帰ったらちゃんと家にいて下さいよ!私も終わったら中澤さんの
マンション行きますから!裁判ですよ!でももう有罪は確定ですからね!」
青筋を立てたまま吉澤は中澤の楽屋を去った。
「アイツあんま感情表にださんから、こういうのがあると新鮮でええなぁ。あんな事ぐらいで
叱られたら、ゆーちゃんかなんわー」
さんざん怒鳴り散らされた後なのに、妙に幸せな気分な中澤。
それは彼女と気持ちが繋がっているという証拠の一つだから。
- 767 名前:公害無毒のナチュラリスト 投稿日:2004/02/24(火) 01:06
- 「そういえば裁判がどうとかいっとったな。アイツ、裁判でウチに勝つ気でおるんかな。
こっちには温存してある物的証拠がたくさんあるっちゅーのに」
中澤は片肘をついて、家にあるビデオテープを思い出した。
そこにはゴロッキーズが全て録画されてある。
「小川に紺野に。亀井とかもあったような気がするなぁ。裁判したら君の方が圧倒的に不利ですよ、
吉澤君。自分の事をたなにあげて、ほんまに。ウチが有罪なら、君は無期懲役やん」
中澤は今日帰るのが楽しみでしょうがなかった。
確実に吉澤が来るという事。
何だか面白い事が起こりそうな予感がする事。
テーブルの上に置いてあった湯飲みの中の茶柱が揺れていた。
その湯飲みの底には、二人で撮ったたった一枚のプリクラが張られてあった。
そのプリクラに写るシャイな二人は、お互い反対側を向いている。
おわり
- 768 名前:名無し 投稿日:2004/02/24(火) 01:07
- 以上なかよしです。雑文失礼しました。
- 769 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:26
- 『葉桜』
- 770 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:27
- 雨が煙っている。
窓越しに外を臨んだ安倍なつみは、降り続いて二日目になる春雨にそんな印象を受けた。
まるで細く立ち込める白煙のように、雨粒は流線を描いている。
柔らかく硝子を叩く音が、室内に控えめに進入して来た。
柱時計が二度、低く音を立てた。
なつみはその音を合図に、視線を室内に戻した。
味気ないほどに片付いた室内からは、既に生活観が感じられなくなっていた。
布団を剥がれ、焦げ茶の身体を晒しているベッドと、
いつしか旧式に成り下がってしまった武骨なスピーカーだけが、
置いていかれるのを覚悟しているかのように、ひっそりと佇んでいる。
なつみは戸口の脇に備え付けられたそのスピーカーの横をすり抜け、部屋を出た。
鴬張りの廊下が軋んだ音を立て、隣の部屋からなつみの母親が顔を覗かせる。
「…どうしたの?」
「外、行ってくる」
なつみの言葉に、母親は黙ったまま一つ頷いた。
この家を出ることが決まって以来、なつみの放浪は日課となっていた。
雨が降ろうと、風が強かろうと、途切れることはなかった。
- 771 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:27
- 玄関先で唐傘を抜き取ったなつみは、軒下で広げ、雨の中へと出た。
雨粒がすぐに降り注いでくる。
唐傘は、まるでそれが名前の由来だと主張せんばかりに、
雨粒を身に受けるたび、からからと音を響かせた。
雨に濡れるのを嫌い靴下を脱ぎ捨てた素肌に風が触れ、
歩みを進めるたびに、側面からじわりと冷たさがこみ上げてくる。
なつみはこの感触が嫌いではなかった。
足元から違う世界に引き込まれてしまいそうな気がした。
- 772 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:28
- しばらく歩くと、小さな公園がある。
なつみは公園に入り、晴れた日はいつも腰掛けるベンチを横目に、その中を歩いた。
砂地は水を吸い歩きがたく、草履が氷を削るような音を立てる。
遊具を通り過ぎ、芝生を一面に張った小高い丘のようなところに出ると、なつみは顔を上げた。
丘の上には、年老いた桜の木がある。
幹周りは太く、茶というよりも黒に近い。
枝ぶりも大きく、数年前に他界したなつみの祖母は、
「この枝なら問題なく括れるね」
と、剥き出しになった枝を見ながら、まだ幼かったなつみに向かってよく呟いていた。
当時のなつみには理解できない言葉だったが、もちろん今は理解できている。
その物騒な枝も、今は水滴をたたえながら青々と輝く葉に覆い隠されていた。
なつみは丘に足を踏み入れ、一歩一歩葉桜へと近づく。
近づくにつれ、木の陰に黒い傘が咲いているのが見えた。
「…こんにちは」
歩みを止め、なつみは傘に向かって声を掛けた。
傘は小さく揺れると、向き直り、女性の姿を現した。
- 773 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:28
- 「…毎日、ここに来るね」
少し低い声で、黒傘の女性はそう微笑んだ。
なつみより背が高い。
けれど、年齢も上かどうかは分からない。
「もうすぐ、ここを離れますから」
なつみがいうと、女性は頷いた。
「引っ越すんだってね」
「ええ、遠いところに」
「それじゃあ、逢うのは最後かな?」
「いえ、発つのは明日の夜です」
なつみはそこで言葉を切った。
女性は苦笑して見せる。
「私もあなたも、また明日ここに来たならば、逢うかもしれないわけだ」
「ええ、いつも通りの時間に、ここに来たなら」
そうか、と、女性は頭上の葉桜を見上げながら呟いた。
滴った水滴が、整った顔立ちの彼女の頬に落ちた。
なつみはそれを見ながら、しばし回想に耽った。
- 774 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:28
- ◇
なつみが名も知らぬ彼女を初めて見たのも、そぼ降る雨の日だった。
琴の出稽古の帰り道、冬が舞い戻ってきたかのような、寒い夜。
人影はさも自然に、葉桜の下に佇んでいた。
暗く落ちた闇に紛れるような黒い傘を差し、じっと上を見上げている。
その姿は、少年にも見えた。
「何をしているんですか?」
なつみは好奇心から、そう尋ねていた。
元来、好き好んで厄介ごとに首を突っ込む性ではない。
それなのに自ら声を掛けたのは、人影が上を向いていたからに他ならない。
祖母の言葉が、頭をよぎっていた。
- 775 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:29
- 人影は、丘の下のなつみに気付くと、ふっと微笑を漏らした。
街灯の明かりは雨に霞み、細かい表情までを探ることは出来なかったが、
どうやらそれが女性であるらしいということは判別できた。
「ありがとう」
丘の上から、低い声がいった。
「ありがとう、声を掛けてくれて」
「…どういうことですか?」
「…いや、なんでもない」
女性はそういって、丘を下り、なつみの目の前を颯爽と横切っていった。
まるでなつみなどいないかのように極自然に。
なつみは呆然としたまま、しばしその場に立ち竦んでいた。
傘から僅かに覗いていた、彼女の薄く染まった髪の色が目に焼きついていた。
そしてその日、なつみは引越しの知らせを受けたのだった。
- 776 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:29
- ◇
「明日も、雨だそうだね」
黒傘の彼女の声に、なつみは我に帰った。
見ると、彼女は既に丘の中ほどまで下りている。
「帰るの?」
彼女は頷き、そしていった。
「…あなたは、その唐傘の他に傘をお持ちで?」
彼女の質問の意図が分からずなつみが困惑していると、彼女は申し訳なさ気に小さく笑った。
「私は、生憎この黒い傘しか持ち合わせていません。
明日も雨だというのなら、この傘を差してくるでしょう」
「…」
「からからという音が聞けるのかどうか、楽しみにしています」
彼女はくるりと背を向け、歩き始めた。
なつみの頭上では、からから、と雨粒を打つ音が響いていた。
- 777 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:29
- 翌日。
彼女が言ったとおり、雨は少し勢いを増しながら降り続いていた。
久しぶりに親と共に畳の床についたせいか、背中に小さな痛みを感じる。
適当に朝食を済ませると、彼女は家を出た。
まだまだ彼女と出逢うには時間が早すぎる。
それは分かっていたが、家にいる気分でもなかった。
唐傘は景気よく、からからと音を立てている。
なつみは少し重い足取りで、公園へと向かった。
雲が垂れ込めてるせいであたりは薄暗い。
そんな陰鬱な雰囲気に飲まれそうになりながらも、
なつみにはいくつか心に秘めていることがあった。
それをいくつ言葉にして出せるのか、少し心許ない部分はある。
けれど、言葉にしてもしなくても、彼女と会うのはこれが最後だ。
そう思うと、身体が震えた。
どんな種類の震えなのかは、なつみ自身にもよくわからなかった。
- 778 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:29
- 公園には彼女はもちろん、他の人影もなかった。
そういえば、この公園で彼女以外の人間を見たことはない。
動いている姿を知らない遊具を通り過ぎ、なつみは丘を登った。
葉桜の木の下に身体を寄せ、彼女のように上を眺めてみる。
青々とした葉が、薄い日光に僅かに煌いていた。
たったそれだけのことなのに、なつみはひどくこの葉桜に惹かれていることを実感した。
彼女の、淡々と話す言葉が思い出された。
- 779 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:30
- ◇
「この枝なら、そうそう折れそうにないんだ」
何度目の遭遇の時だったか、彼女はそういった。
わかる?というような視線をなつみに向けながら。
「…死にたいの?」
「よくわかったね。
まぁ、正確にいうと大して死にたくもないんだけど」
分かるに決まっている。
なつみは未だに、枝を見上げる祖母の姿を強く覚えているのだから。
「ただ、どうにもこうにも厄介な病気らしくてね。
私の親は、私を病院に入れるとかいってるんだ」
「病院、入ればいいじゃない」
なつみがいうと、彼女は大袈裟に手を振った。
「とんでもない。
病院に何ぞ入ったら、一月の生活費が泡になってしまう。
家には、両親のほかに弟もいるんだ。
葬式を開けば、香典やらなんやらで、多少は楽になるだろう」
あまり素直には笑えない冗談だった。
いや、冗談である保証は何処にもないのだが。
言葉を見つけられず黙っていると、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべ、
なつみの顔を下から覗き込んだ。
「あなたが何を考えてるか、当てて見せましょうか?」
「え?」
「…葬式を開いたって、手配やらなんやらで、ほとんど儲けなんて出ない…でしょ?」
笑うどころか、言葉を失った。
- 780 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:30
- 彼女は固まってしまったなつみを見ながら、楽しそうに続けた。
「でも、やっぱり踏ん切りがつかなくて。
ぼーっとしてたところに、あなたが声を掛けてきた」
「…あの時、何でありがとうっていったの?」
なつみが尋ねると、彼女は困ったように頬を掻いた。
「実は、自分でもよくわからない。
ただ、ふっと死ぬ気が失せたんだ、そのお礼かもしれない。
だけど、どうせ死ぬ気でいたんだから、礼をいうのも不自然だし」
本能的なものかな、と付け加えた。
「…まだ、死ぬ気なの?」
なつみの問いに、彼女はきっぱりと答えた。
「うん」
- 781 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:30
- ◇
「おや」
間の抜けた声に、なつみの意識は引き戻された。
どれほど時間が経ったのか、いつの間にか、彼女が黒傘を手に眼前に立っていた。
「まだ昼前だというのに、早かったんだね」
「ええ」
あなたこそ、という言葉を飲み込み、なつみはそこで言葉を切り、小さく息を吸い込んだ。
「…少し、話があるから」
「話?」
彼女がなつみの隣へと寄る。
雨脚は幾分弱まっているらしく、頭上のからからはおとなしかった。
なつみは視線を上げ、彼女の目を見据える。
大きなひとみが、柔らかな眼差しでこちらを見ている。
なつみは傘を握る手に力を込め、いった。
「…好きです、あなたのことが」
- 782 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:31
- いった途端、雨脚が強まったのか、唐傘を叩く音が大きくなった。
眼前の彼女は普段と同じ表情のまま、なつみを見つめている。
なつみは困惑した。
いいたいことや言わなければならないかもしれないことが頭の中で渦巻いている。
しかしどの言葉も、あっさりと口に出来そうにない。
口に出しても、まるで空気の如く消え去ってしまいそうな錯覚。
心臓が早鐘のように鼓動を繰り返す。
震える膝を抱えて座り込みたくなる衝動に駆られた瞬間、
なつみの身体を柔らかい熱が包んだ。
彼女の身体だった。
- 783 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:31
- 「…何となく、いわれる気がしてました」
彼女はなつみを抱きすくめたまま、耳元で囁くようにいった。
「自惚れだと思ってたんですけど、そうでもなかったみたいですね」
照れ隠しであることは明確だった。
なつみの身体に回された腕は細かく震え、胸の鼓動が押し当てられた頬に伝わってくる。
黒傘は地面に放られ、雨が遠くに思えた。
「…名前も知らない人なのに、初めて見た時から忘れられなかった」
「私も…」
「自分の気持ちがよくわからなかった。
一目見ただけで好きになるのも、名前も知らぬ人に恋焦がれるのも、信じられなかった」
彼女の言葉一つ一つがなつみを温かくさせた。
彼女の言葉はそのままなつみの言葉だった。
「…こういうのを、行きずりというんでしょうかね」
自嘲気味に笑う彼女になつみは言った。
「…ただ、お互いが名前を知らなかったというだけではないですか?」
彼女は笑みを穏やかなものに切り替えた。
そしてゆっくりと、なつみに顔を近づけた。
- 784 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:31
- ──
雨の中の逢瀬から一年。
その日もまた、雨が降っていた。
なつみは私用で家を出て、その帰り道、人気のない道をとぼとぼと歩いていた。
なつみの予感どおり、あの日以降、黒傘の彼女には逢っていない。
お互いの名前も知り得ないまま、二人は遠く離れた。
彼女が生きているのかどうかすら、なつみは知らない。
あの時胸に秘めていたうちの一つ、「死ぬ気か?」という問いは、
なつみの口を突くことがないままいつしか消えていた。
ふと、なつみが顔を上げると、細い道の奥に、小さな公園が見えた。
足を踏み入れたことのない道だった。
何かに導かれるように、なつみがふらふらとそちらへ歩みを進めると、
道が開けた先には手狭な公園と、そして入り口の脇に、一本の葉桜の木があった。
公園には人影はない。
葉桜に目を向けると、葉が露に濡れ、薄く輝いていた。
そして、幹の袂にはぽつりと、一輪の黒い傘の花が咲いていた。
- 785 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:31
- *
- 786 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:31
- *
- 787 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 17:32
- >>769-784
- 788 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/12(金) 12:16
- なんか幻想的でいいですね。こういうの好きです。
- 789 名前:ワガママ・ベイべー 投稿日:2004/03/18(木) 00:32
-
土曜日はいつも彼女が家に来る事になってる
でも、今日は金曜日
今週は土日がおとめとさくらのコンサートだから
なら無理して来なくても別にいいって言ったのに
絶対行く!とか言い出して
まぁ、いいんだけども。
「れーなぁ」
「んー?」
声をかけてくる絵里の方を向かずに
雑誌に目を落としたまま返事をする
「んー?じゃなくてさぁ」
「うん」
今度ははっきりと返事をしてやった
絵里の言葉が止まる
「そのー、なんて言うかぁ…」
はっきりしない絵里の言葉
「何とね?」
雑誌をめくりながらの応答
すると急に雑誌が視界から消えた
ふと顔を上げると、絵里が雑誌を掴んでいる
「今読んどー」
手を伸ばすと、雑誌はすっと遠ざけられた
「絵里?」
怪訝な顔で絵里を見ると、絵里はむっとした表情でこっちを睨んでいる
- 790 名前:ワガママ・ベイべー 投稿日:2004/03/18(木) 00:33
-
「明日からさくらとおとめに別れるんだよ!?」
「別れるって言っても土日だけやし」
そう言うと絵里はますます機嫌を悪くした
「2日も別れて、れーなは淋しくないの!?」
「一生の別れじゃないし」
雑誌返してよ、と手を伸ばすと絵里はその手をばちんと叩いた
「痛っ」
「れーなのばかぁ」
絵里はテーブルに両手を叩き付けて叫んだ
「バカはどっちやけんね」
「あたしはバカじゃない、バカって言った方がバカだもん!」
「今2回言ったから絵里で決定」
指を差して言ってやった
「そーやってすぐにムキになるでしょー?」
「ムキになんかなってないと!」
つい声が大きくなる
それを聞いた絵里は泣きそうな顔をした
「れーなが怒ったぁ」
「怒っとらんし」
そう言ってふいっとそっぽを向いた
構って欲しいのバレバレだっての
- 791 名前:ワガママ・ベイべー 投稿日:2004/03/18(木) 00:34
-
しばらく黙ったままでいると服の袖が引っ張られた
顔を向けるとしゅんとした様子の絵里
「れーなぁ…」
情けない声上げて、ぐいぐい袖を引っ張り続ける
「どうしたと?」
「怒ってるでしょ?」
機嫌を伺うように上目遣いで見つめてくる
「怒っとらんよ」
袖を引っ張る手をそっと外した
「れーなぁ」
泣きそうな声であたしの名前を呼んで、抱きついてきた
「絵里?」
「だって、れーながいないと淋しいもん」
ぎゅっとしがみ付いたまま、肩におでこをこつんとくっつけてくる
「おとめの時はあたしが知らないれーなになるんだもん、そんなのずるいよ…」
そう言いながら身体を何度も叩いてきた
何度も何度も叩いてくるので、さすがに少し苛立ってきた
「絵里!」
大きな声で名前を呼ぶと、絵里の身体がびくっと跳ねた
そして恐る恐る顔を上げる
- 792 名前:ワガママ・ベイべー 投稿日:2004/03/18(木) 00:35
-
「バーカ」
顔を上げた絵里のおでこをぱちんと弾いた
絵里はむっとしながらおでこを押さえる
「何すんのぉ?」
「わかってないから、お仕置」
そう言ってぺろっと舌を出してみせた
「なにがわかってないの?」
そう言って絵里はきょとんとした顔でこっちを見ている
「確かに絵里が知らないれなはいるけど、でも絵里しか知らないれなもいるけんね」
そう言うと絵里はきょとんとしたままの顔でこっちを見ていた
「…意味わからんと?」
こくんとうなづく絵里
ここから先まで言わせる気か…?
「絵里はれなの特別だから」
それを聞いた絵里は少し考え込んでから、ぱっと表情を明るく変えた
「それって、あたしはれーなの特別だから大事な人って事だよね?」
「く、口に出して言うな!恥ずかしいやろ…」
「れーなぁ!」
「わっ!?」
絵里に抱き付かれてそのまま押し倒される
「え、絵里っ…!」
「れーなだいすきぃ」
ふにゃふにゃした笑顔で嬉しそうにしている
その顔を見たら何も言えなくなった
- 793 名前:ワガママ・ベイべー 投稿日:2004/03/18(木) 00:35
-
でも…
「いつまで乗っかってると?」
「んー?」
「んー?やないやろ」
引き剥がそうとすると、がっちり掴んで離さない
「やーだ」
全く手の掛かる恋人だ
「あのさぁ…」
「明日から2日会えなくなるんだから、これくらいいいでしょ?」
ぎゅっと抱き付いてくる絵里
その姿がすっごい可愛くて、思わず思考が止まる
この人はなんでこんなに素直に気持ちをぶつけて来れるんだろう
いつもながら思う事
自分にはなかなか出来ない事だから、そのへんは羨ましく思える時もある
ふう、と小さく息を吐き出してから
腕の中で小さくなってる絵里の頭をそっと撫でた
「れーな…」
「今日も特別やけんね」
照れたように言って、ぽんぽんと背中を叩く
それに絵里はすごく嬉しそうに笑って、あたしを抱きしめる
今日はその回された腕の中にいる感覚がいつもよりも心地良く感じられた。
- 794 名前:ななしどくしゃ。 投稿日:2004/03/18(木) 00:38
- おしまい。
ここ田亀いっぱいですげー幸せです
そんな中でのこの作品…お目汚し失礼しました(汗
- 795 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 22:16
- 夏のある日の公園での話。
公園なんてものはたいてい小学生の低学年くらいしか来ることはない。
中学生にもなってそんなところに来るのは自分みたいな変なやつだと、れいなは自覚している。
小学生の中に混じって一人浮くのは居心地が悪い。
だからいつも小学生のいない時間帯に行く。
つまりは日が落ちた直後のちょっとした時間。
まだ空は真っ暗ではない。
日の出ているときとはまた違う藍に近い青。
星がかすかに見え始める。
太陽がなくなるおかげで異常な暑さはなくなりちょうどいい涼しい風が流れる。
れいなは一人でブランコをぶらぶら動かして空を見上げていた。
何も考えずに。いや考えてはいるけれどひどくゆっくりな思考。
それは考えているといえるかどうか曖昧だ。
いつもの野良猫が来ない、どうしたのかな。
その猫はれいなが公園に来ると足元に擦り寄ってくる。
撫でて学校でもらうような牛乳をあげる。
ただそれだけするとまたひょうひょうとどこかに行く。それを見てれいなも帰る。
毎日行う行為、日課。
猫を待っていると不意に後ろから手と紙パックのコーヒー牛乳が現れた。
- 796 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 22:17
-
「はい」
後ろには薄いピンクのワンピースを着た肌の色が少し黒い女の子が立っていた。
「もらっていいの?」
「うん」
首を大きく振った。真っ直ぐな黒い髪が揺れた。
「どうも」
礼をいい受け取ると少女は隣のブランコに腰掛けた。
さびた鎖がきい、と鳴って踏まれた土がざりという。
おそらく、年は同じか上かどちらかだろう、と
れいなは貰ったコーヒー牛乳にストローで穴を開けながら思った。
隣の少女も同じパックに穴を開けて、口をすぼめて狭いストローに口をつけた。
見知らぬ人同士なのに空間によそよそしさはなかった。
小さなコーヒー牛乳パックの中身は1分足らずでなくなった。
れいなが吸い終わったことを表すじゅう、という音をパックから鳴らすころ隣から同じ音がした。
- 797 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 22:17
-
少女はまたぎい、と、ざり、と音を立ててブランコから立ち上がった。
それからきたほうと反対方向に数歩歩いてから振り返りれいなに
ばいばい、と笑顔で言った。
猫のような笑顔に片方だけの八重歯がよく似合っていて可愛らしい。
れいなも少女にばいばい、と返す。
もう一度笑ってまた歩いていった。
右手に握られたごみとなってしまったパックは
公園の出口付近のゴミ箱に放られて見事にすっぽりと吸い込まれていった。
歩いていく後姿が何かによく似ているのにれいなは思い出せなかった。
ぎい、ざり、と同じように立って少女の出た出口と違うほうの出口付近にある
ゴミ箱にぽい、とパックを投げ捨ててれいなは公園を後にした。
- 798 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 22:17
-
次の日もれいなも少女もブランコにいた。
Tシャツとジーパンのラフな格好と白いワンピース。
二つしかないブランコは二人に埋められる。
丸い背中で今日はイチゴ牛乳。その後姿はなんだか滑稽だ。
飲み終えると少女は昨日と同じように立ち上がってれいなにばいばいと言う。
それからごみを捨てまた飄々とどこかに帰っていく。
次の日も、その次の日も同じことが繰り返された。
違うのはジュースの種類だけ。
バナナ牛乳、フルーツ牛乳。
明日は何をくれるんだろうと少しれいなは期待した。
くれるものには必ず牛乳が入っているから、そろそろネタ切れにはならないのかと。
牛乳の入ったものでしかも紙パックのものなんてあまりない。
明日は何をくれるのか。
そしてあっさり明日は来た。
- 799 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 22:18
-
ブランコに座って少女を待つ。やけにしんとした公園で。
待つ間はいつもボーっとしている。することも考えることもないから。
少しだけ体を揺らすと一緒にブランコもきい、と揺れる。
その音は静かな公園に大きく響いた。
ぬう、と後ろから手が出てきた。
手の中にあるのは、れいなが猫にあげていた牛乳。
受け取ってありがと、と小さく言った。
少女は隣のブランコに座りパックの紙をはがし穴にストローを差し込んだ。
れいなも同じ動作をしてストローに口をつけた。
すぐに飲み終わってしまう量なのに今日は昨日より一昨日より時間がかかった。
途中で少女がれいなに話しかけたから。
「名前なんていうの?」
「田中れいな、あんたは?」
半分ほど牛乳を飲んだところで口を話し答えた。
「えり」
「えり、ね」
またストローに口をつけて一気に飲み干す。
街灯がつくほどではないけれど日の落ちた空は暗い。
遠くになればなるほどうまく見えない。
- 800 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 22:18
- れいなのパックからじゅう、と音がした直後にえりと名乗った少女のパックから同じ音がした。
飲み終えると少女は立ち上がって違う動きをした、れいなの方へ歩いてきた。
えりの顔を見上げるれいなの顔に影ができて暗くなる。
ざり、とも、ぎい、とも音がしない。
何も聞こえない青い二人きりの公園。
えりの顔も光が当たらずに暗い。れいなからは表情が見えなかった。
牛乳パックは手に持たれたまま潰れもしないでいる。
持っている手は何も考えていない。
えりはれいなの顔までかがんで顔を近づけた。
ブランコがきい、と音を立てた。
れいなの頬はえりのせいで濡れた。涙を流したわけではない。
えりはいつかの猫のような笑顔を見せた。
頭からは動物の耳が生えていた。
「ありがとう、れいな」
「なにが」
質問には答えなかった。
にゃあと一声鳴いて数歩向こう側の出口に向かって歩く。
「ばいばい」
「ばいばい」
- 801 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 22:18
-
パックを握ったほうで手を振られる。
れいなは手を振り返す。
舐められた頬がすうと風に撫でられて冷たかった。
えりはパックをゴミ箱にぽいと投げて歩いて去っていった。
その後姿がいつもより空が暗いせいでうまく見えない。
見つめていたのに気がつけばえりは消えていた。
どこかからにゃあ、と猫の鳴き声がした。
れいなもごみを捨てて家に帰った。
誰もいない公園の街灯がひっそりと電気をつける。
何の音も公園からは聞こえなくなった。
- 802 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 22:19
-
数日後、れいなはあの猫の遺体を見つけた。
薄い茶色だった毛並みが血で濃く汚れている。
何が原因かはわからない、けれど確かに猫は死んでいる。
真夏のせいで腐った匂いがきつかった。
れいなは街灯よりも静かに涙を流しその猫を公園の隅に埋めた。
一緒に、与えていた、与えてもらった牛乳を小さなビンに入れて埋めた。
疑問に思うことはいくらでもあったのに、何も考えなかった。
おそらくそれは猫の最後の魔法。
あの猫も、あの少女もその日からは見なくなった。
なんてことないはずの予定だった、真夏の数日間の話。
- 803 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 22:19
- 一応田亀です。ちょっと長いですね・・。
お目汚し失礼しました。
- 804 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 22:31
- 題名書くの忘れてました。
「真夏の猫」です。ついでにおわりって書くのも忘れてました。
おわりです。
- 805 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/21(日) 00:14
- 悲しい。。。
- 806 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/21(日) 01:01
- れなえりスレにふさわしい良い短編だったよ
ありがとう
- 807 名前:ずっと前から知ってるよ 投稿日:2004/03/26(金) 06:52
- そっと触れた頬は冷たかった。
「雨、降ってきた」
言いながら靴を脱ぐと、彼女は頬に触れたあたしの手をそっと握った。
そしてあたしの掌に自分の頬を押し付ける。
「冷たいっしょ?桜、散っちゃわないかな」
お花見しないうちに散ったらやだよね。
笑いながら彼女はそっとあたしの手を離した。
――ずっと触れていてくれてもいいのに。
- 808 名前:ずっと前から知ってるよ 投稿日:2004/03/26(金) 06:52
-
「あがっていい?」
さっきから黙ったままのあたしに、彼女は少しだけ不思議そうな顔をしてあたしを見上げた。
「あ…、うん」
「お邪魔しまーす。なぁんか久しぶりぃ。カオリの家くるの」
「…そだっけ?」
そおだよーと言いながら彼女は最近染めた黒い髪を揺らしてにかっと笑った。
「なんか飲む?…って言ってもウーロン茶くらいしかないけど」
「あー、なっち買ってきたよ」
彼女が手に持っていた袋。
ソファではなく、クリーム色の絨毯が敷いてある床にペタンと座り込んで、彼女はその袋をごそごそと弄った。
「――なっち、コレ…」
彼女が袋から取り出した物にあたしは目を丸くする。
「たまにはさ、いいじゃん、ねえ?」
あたしの手にビールの缶を握らせて、彼女は自らも缶のプルタブを開ける。
- 809 名前:ずっと前から知ってるよ 投稿日:2004/03/26(金) 06:53
- 「したっけ、カンパイしよっ」
機嫌がいいのか、彼女は笑顔で缶を持ち上げた。
あたしもプルタブを開けて缶を持ち上げる。
しかしそこでふっと手が止まる。
「カンパイって…なにに?」
すると彼女はきょとんとして、それから少しだけ考える仕草をして。
「なんでもいいっしょ!カンパ〜イ!!!」
強引に話をまとめて勢いよくあたしの缶に自分の缶をぶつけてきた。
それからぐいっとビールを煽って、にがーいと顔を顰めた。
「なっちはビールは得意じゃないべさ…。あ、食べるものもね、買ってきたんだよ」
「…お箸とかいる?」
「あ、大丈夫。貰って来た」
- 810 名前:ずっと前から知ってるよ 投稿日:2004/03/26(金) 06:54
-
彼女が買ってきたのは、海草のサラダと野菜が入った厚揚げ。それから焼きそばと、何故かシュークリームが二つ。
「お酒飲んだあとにシュークリーム?」
不思議に思って尋ねると、彼女は持っていた缶を下に置き、二つのシュークリームを手に取った。
「これね、味が違うんだよ!こっちがね、カスタードでこっちがコーヒークリームなの」
言われてみればパッケージも違うみたいだ。
「コンビニでね、これ見つけて。カオリにコーヒーの方あげるね」
「えー…カオもカスタードがいいな」
「え、え…、カスタードのがよかった?」
- 811 名前:ずっと前から知ってるよ 投稿日:2004/03/26(金) 06:55
-
手元のシュークリームを交互に見て、彼女は焦ったように言葉を続ける。
「なっちさ、コーヒー駄目だからさ…カオリなら好きかなと思って…てか、好きでしょ?」
「好きだけど…どうしてカスタード二つにしなかったのさ?」
「だって、せっかく仲良く並んでたのにさ、カスタードだけ二つ買ってったらコーヒーが可哀想じゃん?」
少し酔っ払っているのか、いつもより高い声で彼女は独自の論理を繰り広げる。
相変わらずで嬉しくなる。
卒業しても、彼女は相変わらずで面白い。
にやにやしてるのに気づいたのか、彼女はぷくっと頬を膨らませてあたしを睨んだ。
「なーに笑ってるんだべ!カオリだって二つ並んでたら二つ買うっしょ?どっちか置いてくなんてできないっしょ?」
「うんうん…そうだね」
「また馬鹿にするー!」
- 812 名前:ずっと前から知ってるよ 投稿日:2004/03/26(金) 06:55
-
プリプリしながら彼女はビールの缶を取る。
ちびちびと飲みながらも、その姿はなかなか様になっていて。
「ねえ、なっち。二人でさ、こっそりお酒飲んだの覚えてる?」
「…覚えてるよっ。次の日すごい頭痛くなってさー」
「そーそー!裕ちゃんに滅茶苦茶怒られたよね!」
いろいろとあの頃とは違ってきてるけど、こうやって変わらないものも確かにある。
「あの時もね、なっち今みたいに言ったんだよ」
「へ?」
「詳しくは忘れちゃったけどさ、味が違う同じお菓子カゴに何種類も入れて。そんなにどーすんのって聞いたら、仲間はずれにしたら可哀想だべって」
「えー?そんなこと言ったぁ?しかもだべって!」
「言った言った!」
覚えてないよー!
頭を抱えてウンウン唸る彼女。
- 813 名前:ずっと前から知ってるよ 投稿日:2004/03/26(金) 06:56
-
きっと今日のことも忘れちゃうんだろうな。
彼女にはきっと、当たり前の日常の一コマだから。
だから、あの時、あたしがしょうがないなって言いながら、そんなあなたが大好きになったことも、これからも変わらずに大好きだって事も、言わないでおくね。
だってそんなこと言ったら、あなたはきっと照れた顔してこう言うでしょう?
『――そんなん、ずっと前から知ってるべ』
オワリ
- 814 名前:ずっと前から知ってるよ 投稿日:2004/03/26(金) 06:58
- かお→なちテイストで
- 815 名前:ずっと前から知ってるよ 投稿日:2004/03/26(金) 06:58
- (●´ー`)ノ
- 816 名前:ずっと前から知ってるよ 投稿日:2004/03/26(金) 06:59
- ー`)ノ
- 817 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:05
- 美貴と喧嘩をした。
原因は多分、彼女にあって、きっかけは自分にある。
下らないものだったのだ。会えない日が続いて、その間に見かけていた彼女の楽しそうな
姿が少しだけ気に入らなくて。
それから、やけに親しげな様子を恥ずかしげもなく見せている、少し背の高い彼女の存在。
仲良くなるのはいい事だと判っている。孤立してしまうよりは馴染んだ方がいいに決まって
いるし、美貴はその辺り非常に能力が高い。だからこそ自分も1年やそこらであれだけ
仲良くなれたんだろう。それはもう、メディアで恥ずかしげもなく「一番の仲良し」とか
言えるくらいに。
だから、要するにちょっと寂しかっただけなのだ。久し振りに会えた嬉しさと相まって、
いつもより僅かに我がままになっていて、だから、要するにちょっと拗ねてみただけ
だったのに。
小さなやり取りは次第にヒートアップして口論となり、どちらも引っ込みがつかなくなった。
それから先はよく覚えていない。最後に彼女の頭へ拳骨一発おみまいして自宅マンションを
飛び出したのがどれくらい前だったか、よく判らない。とりあえず、今はもう右手は痛く
ないから、それなりに時間が経っているんだろう。
雨が降っている。外に出て走り出した直後に降り出したから傘はない。財布も携帯も家に
置きっぱなしにして来てしまった。これは失敗だった。次からはちゃんと持って出る事に
しよう。
- 818 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:05
- 「……てゆーか」
亜弥はマンションから程近いコンビニで、ちょうど発売されていた自分が表紙を飾っている
雑誌を立ち読んでいる。
その雑誌を持つ手に、力が入る。爪が白くなって、じわじわと指先が震えだして、ページに
皺がよりかけたところで気付いた。溜息を細く長く吐き出して、力加減を調節する。
吐き出した息に引き摺られるように、その唇が尖った。
「……迎えに来いよ、バカ」
久し振りに会えたのに。スタジオでもイベント会場でもなく、誰にも邪魔されない場所で
二人きりの時間を過ごせていたのに。
ただ一言、何かを言ってくれればそれでよかったのだ。なんでもいいから、自分が聞いて
嬉しくなる言葉を。
それなのに彼女は「はあ?」とか思い切り呆れたような相槌をひとつ打っただけで、すぐに
見ていたテレビに目を戻したりしたから。だから、つまり、それが気に入らなかったから
こんなに怒っているわけで、やはりこうなった原因は彼女の方にある。
だから、つまり、彼女は自分を迎えに来る義務があると思うのだ。
雑誌を戻し、その隣にある別の雑誌を取り出す。年季の入った体格をした中年の店員が
送ってくる視線が少しだけ痛い。文句はなかなか来ないみきたんに言ってください。
亜弥は心の中で言い訳をする。
- 819 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:05
- 雨はこっちの都合などお構い無しに調子よく降っており、10分20分待ったところでやみ
そうにない。客が入ってくるたびに自動ドアが景気よく開いて、風が入り込んできて
寒かった。それより何より、美貴が来たのかと思って即座に確かめてしまう自分が嫌だった。
「お疲れさまでーす」年若い男の声が聞こえた。目をやると、こちらを軽く睨んでいた
中年の店員がエプロンを外して、それを同じ制服姿の青年に渡している。勤務時間の入れ
替わりなのだろう。青年の後ろにはもう少し若い店員が控えている。夜も更けてきたから
防犯のために二人体制になるのか。
じっと見ていたら、視線に気付いたらしい若い方の店員がこちらに視線を向けてきた。
亜弥と同じくらいに見える。高校生バイトだろうか。一瞬の後、店員の口が「あ」の形に
開いて、バイト仲間の肩を叩いた。
「ちょっと、あれ……」
「え、マジ?……」
こそこそと、しかし何となく会話の雰囲気は伝わる程度に話し始める。おお、まずい。
なんとなくというか、はっきりバレている。
夜も遅いし、他にも客はちらほら見える。騒がれでもしたら、面倒なことになりそうだ。
だから、つまり。
これはもう帰らなければ仕方がない状況なのであって、別に寒いとか眠いとか飽きたとか
そういう理由で帰るのではない。
心の中で自分に言い聞かせつつ、亜弥は努めてなんでもない風を装ってコンビニを出た。
雨はやまない。走って帰ればそれほど濡れずに済むだろうが、走って帰るとなんだか
美貴に会いたいから帰るようで悔しかったので、わざとゆっくり歩きながら帰った。
美貴を許してやる気持ちは、これっぽっちもない。
- 820 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:05
-
- 821 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:05
- ずぶ濡れになって家に帰る。これと言って音はない。勿論、声もない。
テレビの音くらい聞こえてもよさそうなものなのに、と僅かに首をかしげながら玄関を
上がる。柔らかい感触に気付く。いつも使っている大判のバスタオルが、畳まれた状態で
置かれていた。
それは。
それは、ものすごく、気に入らない。
気に入らないがこのまま上がって部屋を汚してしまうのも嫌だ。仕方なく亜弥はそれを
持ち上げて髪を乱暴に拭いた。なんだかひどく情けなくて、涙が出そうだったが意地で
堪えた。
リビングに美貴の姿はない。寝室で本でも読んでいるんだろうか。足を進めて寝室の
ドアを開ける。
「……は?」
驚いた。それはもう本当に驚いた。
だってまさか。
こんな状況で、寝ているとは思わないじゃないか。
亜弥の理論では、彼女は自分を心配して迎えに来なければならなかったのだ。走って自分を
探してようやく見つけたら感極まって人目も憚らずに抱きしめてくれたりしなければ
ならなかったのだ。それから一緒に帰って謝ってもらったりとかキスしてもらったりとか、
そういう甘い展開にならなければいけなかったのに。
なんで寝てるんですか、アナタ。
- 822 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:06
- 「……み……」
「……んぁ?」
美貴が首を廻らし、拳を震わせながら仁王立ちしている亜弥を見つける。
「ああ……お帰り」
それはもう、適当に。目なんて開いてるか閉じてるのか判らないくらいで。
怒っていいですか? 怒っていいですね? オーケィ、怒ります。
「みきたんの大馬鹿ー!!」
怒りすぎて涙も出ない。まだ半分眠っている美貴の胸倉を捕まえ、眼前で出せる限りの
大声で叫ぶ。美貴はぐでりと頭を揺らしながら顔をしかめると、亜弥の頭をぺふぺふ叩いた。
「亜弥ちゃん、うるさい」
「なんで!? なんで寝てるわけ? みきたんどういう神経してんの!?」
どういう神経、というより、神経が無い。つまり無神経だ。亜弥は怒りのあまりそこまで
頭が回らない。
雨が降っていた。土砂降りだった。勢いに流されて全部崩れてしまいそうだった。
この程度、小雨じゃないかと、誰かが見ていたら言ったかもしれない。
それでも亜弥にとっては大雨だったのだ。
美貴が顔をしかめたまま小さく頷いた。亜弥の言葉に返したものでない事だけは確かだった。
- 823 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:06
- 「うんうん。判ったからお風呂入っといで。風邪引いちゃうよ」
「はぁ? ちょっと、なにそれ。みきたん、松浦がどんだけ怒ってるか判ってる?」
「判ってるわかってる。ほら、お風呂行ってあったまってきなって」
亜弥の頭を撫でながらそう言う美貴の身体は布団に潜っていく。一緒に入ってくれたりは
しないらしい。それにもちょっとばかりショックを覚えつつ、訪れたくしゃみと身震いに
負けてバスルームに向かった。
美貴に言われたからではない。断じて。
浴槽には既にお湯が張ってあった。だから、どうしてそういう準備をする時間があるのに
迎えに来なかったのだという話だ。
憤りを覚えつつ、ゆっくりと身体を沈める。雨に濡れて冷えた身体が次第に温まっていく。
湯気に煙る空間に、目に見えない呼気が漂った。
「……ばーかばーか」
顎まで浸かりながら、小さく呟いた。
十分に温まったところで入浴を終え、美貴が眠っている寝室へ戻る。身体は温まった
ものの、心は今だ冷え切っている。美貴は毛布を鼻の上まで引き上げて気持ち良さそうに
目を閉じている。それは、ものすごく気に入らない。
- 824 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:06
- ベッドから引きずり下ろしてやろうかと思ったが、それはあまりに可哀想なのでやめた。
なにせ冷え性だし。鼻炎だし。乾燥肌だし。
自分はここまで彼女の事を考えてあげているのに、どうして美貴はそれが出来ないのか。
亜弥が深い嘆息を落とす。
「……んー、亜弥ちゃん上がった? んじゃこっちおいで」
眠りに落ちてはいなかったらしい美貴が、毛布をめくって自分の隣を手で叩いて示す。
まだ反抗していたい気持ちは消えないものの、そもそもここは自分の家で、つまり美貴が
横たわっているのも自分のベッドで、自分のものを自分が使わない道理はないので
亜弥はその中に潜り込んだ。
美貴と一緒に寝たいからではない。念のため。
肩に毛布を掛けられ、それから美貴の腕が亜弥の身体をくるむ。
「ちゃんとあったまった?」「……ん」不機嫌な装いを崩さないよう努力しながら亜弥が頷く。
「じゃ、おやすみ」
「おやすみ。……って違う! 松浦まだ怒ってんの! それに対してなんか言うことない
わけ? みきたんはっ」
「んー?」
面倒臭そうに唸り、美貴が一度閉じた瞼を上げる。くるんでいる腕で亜弥を引き寄せ、
その頭を優しく撫で始める。
「なんで怒ってんの?」
「だっ、だから、みきたんが吉澤さんと仲良くするから……」
「だってよっちゃんさん面白いんだもん」
美貴は気にした風もない。亜弥の喉の奥をぐぐもった唸りが駆けた。
- 825 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:07
- 「ベタベタしすぎだしっ」
「スキンシップだよー。亜弥ちゃんだって加護ちゃんとかとしてんじゃん」
「それは……違うもん」
「なにが違うの」
何かが違うのだ。自分が加護とじゃれあうのは、自分で言うのもなんだが可愛らしいと
いうか微笑ましいというか、とにかく健康的だ。しかし、美貴が彼女とじゃれあう姿は、
なんというか妙に……妙なのだ。
別に他の人には美貴に触って欲しくないなんていう、馬鹿馬鹿しい独占欲ではない。絶対に。
美貴がわずかに身体を丸めて、亜弥の顔へ自身の唇を近づける。
額に触れて、瞼に触れて、頬に触れる。
せめてもの抵抗に唇をへの字に曲げたが、美貴は意に介さなかった。
「よしこと仲良くすんのが嫌なの?」
「……別に、おんなじグループだし、い、いいんじゃないの? 仲良くしたって」
「ふぅん」
もう一度頬に触れて、軽く唇に触れて、それでも拗ねたままの亜弥を柔らかく抱きしめる。
僅かにどもった事には気付いているだろう。それでもその事について何も言わない。
亜弥はそれも気に入らない。
「じゃ、別によっすぃと仲良くしてもいいんだ?」
呼び方を統一したらどうなのかと突っ込もうかと思ったが、責めるにはあまりにも
下らない話題なのでやめた。
美貴は目を細めながら、次々に唇で触れてくる。それに流されそうになりつつも、亜弥は
奥歯を噛み締めて不機嫌な様子を維持する。
- 826 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:07
- 「亜弥ちゃんは何が気に入らないの」
「……最近、メール返してくれる数減った」
「忙しいんだよ」
「紺野ちゃんとか辻ちゃんともベタベタしてるし」
「可愛いんだもん。妹みたいで」
雨が強くなっている。窓や壁を叩く音が、鍵盤を滅茶苦茶に叩いているみたいに激しい。
美貴が唇を離して、亜弥の髪を緩やかに撫でて、その目を覗き込む。
真っ直ぐに見つめ返している亜弥の瞳が潤み始めて、不機嫌に食い縛られていた口から
仄かに熱い吐息が洩れて、だから、つまり。理由は判らないが。
泣けてきた。
「む、かえにっ……来てほしかったのに……っ」
最初の一音の後、喉が妙な具合に震えて、心が熱くて冷たくなって、熱さで溶けた涙は
頬を伝う頃には冷たくなっていた。
髪を撫でていた指が滑り降り、雨だれのように一定のテンポでこぼれる涙を拭う。
「……可愛いねえ、亜弥ちゃんは」
くすくすと微笑いながら、嘘みたいに温かい口調で言われて、亜弥はつい嘘なんじゃない
かと思った。
「みきたんはっ……松浦のことなんか、ど、でも、いいんでしょ……っ!」
「どうでもよくなんかない」
だったらどうしてメールを返してくれないのか、どうして他の子と仲良くするのか、
どうして来てくれなかったのか。
聞きたい事がありすぎて、恐くて聞けない事がありすぎて、聞きたくない言葉が
ありすぎて、だから、泣くしかなかった。
- 827 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:07
- どっちの方がより相手を好きかなんて、そんな下らない事はできれば考えたくない。
自分が彼女を好きで、彼女が自分を好きでいてくれたらそれでいいと、そういうラインで
満足していたい。
それでも、亜弥はまだそこまで悟れていないから。
だって彼女は。
「……好きって、言って、くんないしっ」
メールだろうが声だろうが、亜弥がその単語を聞いた回数は、自分が言った回数より
全然少ない。こっちはメールでも声でも、比喩でもなんでもなく毎日のように言っている
のに。それに返ってくるのは、曖昧な頷きや言葉を置き換えた同意ばかりで。
美貴が、多少困ったような顔をした。自分でも判ってるよ、という顔だった。
「亜弥ちゃん」
その声に含まれる優しさも想いも、判らないわけではないけど。
「美貴ってほら、照れ屋じゃん?」
そんな事も、知っているけど。
指先が、止まる事を知らない涙を拭い続けている。亜弥はそれを拒みたいような、ずっと
そうしていてほしいような、微妙な心境を持て余している。
- 828 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:07
- 指先だけで触れていた手が軽く添えられて、静かに唇を重ねられる。彼女の細い首筋に
腕を回したい欲求は堪えた。堪える必要があったのかどうかは知らない。
キスをしている間も喉は妙にしゃくりあげて、その度に美貴は一度唇を離してその角度を
変えた。触れたままでいると苦しくなるからだ。そういう気の回し方は出来るのに、
なんでしてほしい事をしてくれないのかと、亜弥の思考は同じところをグルグル回る。
「泣いてる亜弥ちゃんも可愛いんだよ」
耳朶に唇を落としてから、美貴はそう囁いた。
だから、つまり。
ちょっと意地悪をしてみたくなったという事だろう。
「なっ、に、それぇ……」
「うん。ワケわかんないね」
ワケがわからないのはこっちの方だ。意味のない同意なんてほしくない。
笑っているから、悪いなんてこれっぽちも思っていない事は簡単に知れた。こっちは
怒っているというのに。
意思表示のために背中を向ける。亜弥にだって意地がある。優しいキスの一つや二つ、
いや七、八回はされた気がするが、とにかくそんなもので誤魔化されてなんかやらない。
微かな苦笑が聞こえた。それから、振り解いた腕がもう一度廻される。引き寄せられて、
その手が軽く肩を叩いてくる。まるで、幼子を寝かしつける時のようだった。
「離してよ」「やだよ」拗ねた声に柔らかい返答。泣いたせいで疲れたのか、暴れてその腕を
解かせるだけの気力はなかった。
美貴の腕の中が心地良いとかではない。決して。
- 829 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:08
- 「美貴があっためってあげるって」
「お風呂入ってあったまったからいらない。だいたい、あんた冷え性だし」
「でもあったかくない?」
そりゃそうだ。亜弥が外で寒い思いをしている間、ベッドの中でぬくぬくと眠っていたん
だから。思い出したらまた腹が立ってきた。
しかし、美貴からは後頭部しか見えないので、そんな事には気付かない。
「豊臣秀吉だっけ? 偉い人のために草履を懐に入れて暖めておきました、みたいなね」
じゃあ亜弥は織田信長か。鳴かぬなら殺してしまおうの人か。失礼な、そこまで酷い人間
じゃない。
里田あたりならそういう切り返しもできるかもしれないが、生憎と亜弥は彼女の言った
意味が判らなかったので、小さく首をかしげただけだった。
「てゆーか、久し振りに会えたんだからさ」
もっとちゃんと仲良くしようよ。苦笑混じりの声。そう出来ない原因を作ったのは誰だと
思ってるのか。いや、確かにきっかけは亜弥だったが。
無視して眠ってしようと思っても、雨音がうるさくてそれもままならない。
どうしてこんな日に雨なんか降るのか。亜弥は怒りの範囲を天気にまで広げる。
何が悪かったのかと亜弥は考える。せっかく、久し振りにスタジオでもイベント会場でも
ない場所で二人きりになれたというのに。飯田に邪魔される事も、矢口にからかわれる
事も、吉澤や辻や紺野やその他諸々と仲良くしている姿を見て苛々する事もない、
幸福な状況のはずなのに。
- 830 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:08
- 「……てゆーかみきたん、色んな人と仲良くしすぎ」
「は?」
「みきたんが悪い」
「なに、いきなり」
まずい、と思った。せっかく治まりかけた涙がまた出てきそうだ。
それでも急流下りのように亜弥の感情は一気に進んでいく。
「みきたんが松浦のこと構ってくんないのが悪い! みきたんが吉澤さんたちばっかと
仲良くして、あたしんことほっぽってんのが悪い! 吉澤さんたちがみきたんと仲良く
すんのが悪い!」
「ちょっと、亜弥ちゃん?」
初めて、美貴の声に戸惑いが見えた。雨音がうるさくてよく聞こえない。美貴が何かを
言っているようだが、聞こえない。
「みきたんが悪いんだ!」背中を向けたまま叫んだ。彼女がどういう表情をしているかは
判らない。困っているだろうか。悲しんでいるだろうか。
出来れば、笑っていてほしかった。しょうがないなと受け流してくれれば、どうにかなる。
「亜弥ちゃんっ」
初めて、美貴の声に強さが生まれた。起き上がった美貴に肩を掴まれ、無理やり身体を
上向かせられる。揺らぐ視界の中で捉えた彼女の眉は怒りで顰められていた。
「別に亜弥ちゃんが本気で言ってないってことも、勢いで言っちゃったことも判ってる
けどね。でもよしこたちを悪く言うのは、いくらあんたでも許さないよ」
「なん……。また、吉澤さんたちの味方するぅ……」
「敵とか味方とかいう話じゃないでしょ?」
判っている。彼女の言っている事の方が正論だ。
それでもこれはどうしようもないもので、つまり、判りやすく言うと乙女心の問題なのだ。
- 831 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:08
- なんでこうなったんだろう。やはりまた涙が出てきた。彼女を怒らせたくなんてないのに。
美貴が小さな溜息をついた。呆れているのだな、と妙に冷静な感想を抱く。
くしゃくしゃと、やや乱暴に髪を撫でられる。その表情は微妙に子供の色を見せていた。
雨が、強くなる。
「泣かせたいわけじゃないんだよ。泣いてる時も可愛いけどさ」
「……誰のっ、せいだよ……」
「美貴だね」
自覚があるなら、もうちょっと態度を改めたらどうなのか。喉から洩れる雨音が激しく
なって、だから亜弥は言いたい事を言えない。
亜弥の頭の横に置いていた手を緩めて、こつりと額を亜弥のそれに押し付ける。
「好きだよ」触れ合って、近すぎて互いの顔が見えないくらいの距離で、小さく囁いた。
「ずるい……誤魔化したぁ……」
「誤魔化してないから。本気だから」
嘘だ。怒ったことを誤魔化そうとしているのだ。このままだと収集がつかないから。
だから、要するに。
そういうのは言われても嬉しくない。
触れ合っていた額が離れて、その代わりというように唇が重なる。
「好きじゃない子とは、こういうことしないし」
愛しげに涙を舌先で掠め取る。
「どうでもよかったら、こんな意地悪とかしないし」
色々な表情を見たくて。色々な感情を受け止めてみたくて。
手のひらが、亜弥に触れる。
雨が少しだけ弱まった。目を閉じたせいか、喘ぐ喉も多少平静になっていた。
- 832 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:09
- 「好きなんだって。信じてよ」
優しく囁かれる。
じわりじわりと、雨が染み込む。全身を晒してしまえば意外と気にならないものだ。
「……一番?」
「ん?」
「あたしのこと、一番好き?」
そこで美貴が微苦笑をした。片肘をベッドに置き、それで頬杖をつく。
僅かに開いた口が肯定を発しかけたように見えたが、途中で閉じられた。
「一番は家族かな」
音。雨音は聞きたくない。
それでも、この音よりはマシだったかもしれない。
どうして彼女はこういう時まで、こうも素直なのか。それとも自分が素直じゃなさすぎる
のだろうか。だからバランスが取れていないんだろうか。
雨が強くなるより前に、美貴は笑いながら言った。
「亜弥ちゃんは他の人と比べらんないから」
泣きすぎて疲れていたが、その意味が判らないほどは鈍っていなかった。
「……ばかぁ」
「亜弥ちゃん、人のことバカバカ言い過ぎ」
「だってばかだもん」
まあいいけどね。美貴が小さく呟いて、亜弥に軽くキスをした。
「機嫌直った?」からかい混じりに聞いてくるのに、その背中へ腕を廻す事で答える。
雨はまだやまない。それでも、これ以上濡れずには済むかもしれない。
- 833 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:09
- 「……う〜」
「なに唸ってんの」
「すき。」
嬉しいような悔しいような、複雑な心境の中で勝手に出てきた言葉だった。
一瞬、美貴がきょとんと目を丸くした。それから笑声を溢したのだが、おそらくそれは
照れ笑いだった。
頬杖をしたまま優しく目を細め、亜弥の髪を撫でる。
「うん。美貴も好きだよ」
いつもは省略される後半が、雨音にも負けることなく聞こえてきた。
「てゆうかね」
美貴が溜息をつく。
「ん?」
「そういうの、可愛すぎるんだって」
自覚無いんだからタチ悪いよ。困ったように呟いてから首筋に顔を埋めてくる。
意味が判らなくて、亜弥は首をかしげながら美貴の言葉を反芻していた。
反芻しても意味は判らないままだったが、次の瞬間、彼女が何をしようとしているのかは
判った。
「ちょっ、みきたん?」
「ん?」
耳朶に噛み付かれて、亜弥が首を竦める。手のひらは脇腹の辺りに軽く添えられている。
「なにしてんのなにしてんの」
慌てたような驚いたような表情で、亜弥が美貴の身体を押し退けようとする。
それに逆らいながら美貴が笑った。
- 834 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:09
- 「だから、仲良くしよって言ってんじゃん」
「うわーうわー、やだ、超やらしい。てゆーかおっちゃんみたいだよそれ」
「いつもの事だし?」
雨降ってるから声出しても聞こえないよ。喉を震わせながら言われた台詞に、亜弥の頬が
紅潮する。
「ばかっ」ショック療法なのか、涙は治まっていた。涙は止まったものの目は赤く充血
している。その目で美貴を睨みつける。それを十全の微笑で受け流して、美貴が長めの
キスをした。
「したくないならしないけど」
唇を離してから、まるでからかうような口調で言う。
雨が降っている。その音に全て遮断されて、まるで世界から隔絶されたような錯覚をする。
ああ、二人きりなのだな。頭で理解していたことが、今更ながら実感となって訪れる。
目の前には愛しい人の微笑。亜弥の頭の横に両肘をついて、その手で梳くように髪を
撫でてくれている。
だから、要するに。
久し振りに逢えたわけで。
美貴の身体に両腕を廻し、そっと引き寄せる。甘えるように首筋へ鼻先を寄せると、
既に馴染み深くなった彼女の香りにくすぐられた。
亜弥に触れた後、それがどれだけ甘く薫るか、もう知っている。
- 835 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:10
- 「……する」
幾分照れた風な口調で答え、彼女の鎖骨の辺りに額をつけた。
美貴が艶のある笑みを浮かべる。そういう表情を、他の誰にも見せない事は知っている。
髪を撫でていた手が、ゆっくりと下りてきて。
それと同時に二人の身体はシーツに沈んだ。
亜弥の双眸から雫がこぼれる日。
そういう日の美貴は、いつもより優しい。
- 836 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:10
- 携帯電話のアラームが鳴り響いて、亜弥は腕を延ばしてベッドボードに置かれたそれを
手に取り、電源ボタンを押しこんでアラームを止めた。
雨は止んでいるようだ。早朝だからか外は静かなものだった。
時間は早い。設定が昨日のままだったからだろう。二人とも起きなければいけない時間
でもない。
美貴はまだぐっすり眠っている。とろけた笑顔でそれを眺め、彼女に触れるためにベッドの
中へ舞い戻る。
美貴を抱き枕代わりにして目を閉じたところで、ふと気付いた。
「……みきたん、結局謝ってないじゃん」
好きだとは言ってくれたが、亜弥が眠りに落ちるその瞬間まで、謝罪の言葉を
聞いた覚えがない。
おそらく彼女は最初から謝るつもりなんてなかったんだろう。悪気がなかったのだから
謝る気も起きるはずがない。なんてワガママだ。自分の事を棚に上げながら亜弥は思う。
「ま……いっか」
眠くて大概のことはどうでもよくなっているのか、亜弥は深く考えもせずに二度寝に入った。
うるさい雨音はもうなくて、彼女の身体は温かくて、呼気は穏やかで。
それはひどく心地良かったので、亜弥は目を閉じたまま、美貴の甘く薫る首筋に擦り寄り
ながら小さく笑った。
だから、要するに。
謝られてもいないのに許せてしまうのは、彼女の事が好きだからだ。間違いなく。
美貴の方もそれを判っているから、いつだってこうやって誤魔化されてしまう。
やはり、雨の日の美貴はいつもずるい。
- 837 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:10
- 終了。
- 838 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:11
- ぬるーい感じに、ヤマもオチも意味もなく。
- 839 名前:雨の日の君はいつもずるい。 投稿日:2004/04/11(日) 23:21
- 4集目、倉庫送りになってなかったのか……_| ̄|○
- 840 名前:_ 投稿日:2004/04/12(月) 17:20
-
きっかけは些細なことだった。
だってもう、なにが理由なのか思い出せないし。
あたしは素直じゃなくて。
絵里は頑固で。
こんな二人が些細なことでも喧嘩になれば、ヒートアップすることは
ちょっと考えればわかること。
でもあたしらはお互いムキになってたから。
「ちょっと」でも考えることをしなかった。
「絵里の頑固もん!もぉ知らん!!」
言葉が口から出た瞬間に冷静になった。
それはもう、頭から突然氷水をかけられた並みに。
恐る恐る絵里を見ると。
目に涙を溜めて、口をぎゅっと結んでぷるぷる震えていた。
「あ、あの、絵里…」
言い訳したいのに、言葉が上手く口からでない。
心の中ではめちゃくちゃ後悔の言葉が駆け巡っているのに。
「れ…」
「え?」
「れーなの…」
「…絵里?」
「れーなの馬鹿ぁぁぁ!」
それだけ言って、絵里は部屋から出ていった。
残されたあたしは、微動だにできなくて。
ただ呆けていた。
- 841 名前:_ 投稿日:2004/04/12(月) 17:23
-
しばらくして絵里の呪縛から解けて。
ただその場にへたりこんだ。
あぁ、あたしって何でこんなんなんだろう。
いっつも絵里を泣かせて。
不安にさせて。
怒らせて。
本当に――ガキだ、自分。
新年に、大人になる。って誓ったのに。
――――って。
くよくよ反省する前に絵里を追いかけなきゃ!
絵里が行きそうな場所なんて見当つかないけど。
まだこの辺りの地理なんて分からないけど。
足…遅いけど。
追いかけて。
見つけないと!
ケータイとサイフをつかんで、
玄関を飛び出す。
エレーベーターまでの廊下も全速力!
「うおっ!!」
お、思いっきり前につんのめってしまった…ばり恥ずかし……。
けど…。
「絵里…そんなトコで蹲ってると轢くと……」
ちょこん、と。
コンパクトに。
今、まさに探さんとしている人物がエレベーターホールに蹲っていた……。
- 842 名前:_ 投稿日:2004/04/12(月) 17:24
-
「絵里」
「……………」
「あのさ、絵里」
「……………」
聞いてるか分かんない。でも言葉を続ける。
「あたしは素直じゃないから」
「……………」
「だから、絵里を傷つけちゃうこともあるかもしれんと」
「……………」
「でも、それは絵里が悪い!」
「…………!」
あたしの物言いに顔を上げる絵里。その瞳に写る感情は――非難。
「絵里があたしの素直じゃない言葉を見抜けないから!!」
我ながら、なんてワガママな理論だろうと思う。
「だから――」
「側に居てほしいと」
「あたしの素直じゃない言葉が見分けれるくらい、側に居てほしいっちゃ」
あたしの顔はきっと真っ赤。耳や首も赤くなってることだろう。
そんな茹でタコの状態で絵里の返事を待ってると。
顔をヒザに埋めたまま、くすくす笑い出した。
「…仕方ないなぁ。れーなは絵里がいないとダメだね」
「ぅ…」
「いいよ。
れーなの素直じゃない言葉が見分けれるくらい、側に居るよ」
そう言ってあたしを見上げた顔に、涙はもうなかった。
結局。
絵里はあたしに甘いし。
あたしは絵里に敵わない。
We are happy………?
- 843 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 08:37
- 忘れてた。完。
- 844 名前:優しい子供たち 投稿日:2004/05/05(水) 03:51
-
これから描くのは二人の少女。一人目の名前は田中れいなという。巷で酷い噂を囁か
れている原因は、その少しとんがった目付きや、ひねくれたような丸い鼻のせいか。
それでもれいなはこれっぽっちもそんな下卑た噂にはへこたれない。けれど、仲の
よかった二人目の少女、亀井絵里という友達にそっぽを向かれ始めたのは少々こたえた。
れいなは笑顔で損をする。絵里は微笑むと優しい顔になる。二人は元来、優しい子供だった。
◆ ◆ ◆
- 845 名前:優しい子供たち 投稿日:2004/05/05(水) 03:54
- 雨の降った日の学校帰りだった。利用するバス亭には、傘をさした人たち
が行列を作ってバスの到着を待っていた。列の真ん中あたりには友達であ
る絵里がいた。絵里の横に並べばかなり前の方へいけて、座席も取ること
が出来るだろうが、そうすると他の乗客に申し訳が立たない。そう思って、
れいなは平然と最後尾に並んだ。傘を心持ち深く持って、絵里に見つから
ないように顔を隠した。何故、顔を隠したのかはれいな自身にもわからな
かった。つまりは、れいなは優しい子なのだ。
やがて黒い煙を吐きながらバスはやってきた。後ろのドアから乗車する際、
整理券を取って、人々は順番にバスに乗り込む。れいなはゆっくり前に進み
ながら、ふと足元を見た。買ったばかりのスニーカーが汚れている。紐の部分
に泥がこびり付き、白かった踵は黒くなっていた。あ〜あ、と落胆の声を
漏らすがすぐに気持ちを切り替えた。靴なんていつかは汚れるものだし、
雨だとわかっていて履いたのが悪いのだと、れいなは自分に言い聞かせた。
それでもやっぱり気になってしまい、彼女は足元を見ながらバスに乗って、
整理券を取った。れいなが降りるのは終点だったから整理券を取る必要は
無いのだが、どうしても癖で取ってしまうのだった。
- 846 名前:優しい子供たち 投稿日:2004/05/05(水) 03:56
-
少女たちのすれ違いは如何にして起こるのであろうか。
れいなが空いている席を探していると、真中辺りの二人席に座っていた
絵里と偶然目があった。れいなはニコリと微笑むが、絵里はバツが悪そ
うにそっぽを向く。れいなは笑顔で損をした。どういう訳か、彼女の笑
みは人には姑息に映るようであった。そして、絵里にそんな風にぞんざ
いに扱われる理由をれいなは考えなかった。自分に嫌われる要素が無い
とは到底思えないからだった。例えば、先日の運動会では走り高跳びの
時にこけて各クラスから失笑を買ってしまったし、つまらないことに愛
想笑いをする勇気も無い。
れいなは気を取り直して、空いている席を探してみた。すると最前部の
一人席が一つだけ空いているのを見つけた。しめたと思って、ぴょこん
と座る。ふうっと、息をついて鞄を膝に乗せた時、空席を探している腰
の曲がったおばあさんの姿を見つけてしまった。ああ、とれいなは残念
そうに眉を顰める。それから立ち上がった。
「席、座ってください」
「いいんですか?」
「はい。もちろんです」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
善意は時に、人の反感を買ってしまう。れいなの善行を横目で窺ってい
た絵里は、理由の無い不快感をれいなに覚えた。絵里には快活な語調で
老人と気兼ねなく会話をしているれいなが、ひどく尊い人のように思え
たのだ。中学三年生という、複雑な年齢。だからこそ善行は格好悪い行
為なのである。れいなはそんな格好悪いことを平気な顔でやってのける
のだった。
- 847 名前:優しい子供たち 投稿日:2004/05/05(水) 03:59
-
立ち上がったれいなは吊り輪を持って、窓外の景色を見る。時刻は4時
を少し越えたところだったが、外にはすでに夜の気配が漂っていた。雨
粒が作る形の悪い筋のせいで、窓の外はぼんやりと歪んでいる。視界は
ほとんど無かった。しかし、濡れた窓にぼかされて輝く街灯の光や、乱
反射するネオンの光やらがとても幻想的に映って、れいなは楽しかった。
車内にはゼリーのような、分厚くて湿った空気が充満していた。カーブ
に差し掛かるたびに人が同じ方向に傾いた。
◆ ◆ ◆
それは特別仲がいいわけではない、
ただのクラスメイトから小耳に挟んだ話だった。
ある日の昼休み、絵里は微笑を浮かべてそのクラスメイトからの言葉を
待った。きょろきょろと辺りを見回して、やがてクラスメイトが語った
のは、れいなが売りをやっているという話。まさか、と絵里は思った。
れいなはクラスの中では一番仲のいい友達だった。だから彼女の風体か
ら感じる少し不良めいた雰囲気は全てまがい物だし、ましてや売春なん
てするような、落ちぶれた人間でもないことを絵里はよく知っていたの
だった。
「まさか、ありえないよ」
絵里の微笑みは人からの受けがとてもいい。
クラスメイトは得意になって語った。
「私、見たんだ。田中さんが、スーツ来た人とラブホテル入っていくところ」
「嘘だぁ…」
「本当だよ」
- 848 名前:優しい子供たち 投稿日:2004/05/05(水) 04:01
-
絵里は言葉を失い、縋るような微笑をクラスメイトに向けた。絵里の笑
みはとても有効に沈黙の空気を心地よいものにする。まさか、ありえない。
その言葉は偽りじゃなかった。それなのにその日以来、絵里はれいなを
避けるようになったのだった。理由は絵里自身もわかっていなかった。
ただ、何となく、というのが当初の本音だったが今ははっきりとわかる。
◆ ◆ ◆
バスが6つ目の停留所に止まった。そこでれいなが席を譲ったおばあさ
んが下車をした。おばあさんは立ち上がった際に、どうもありがとう、
とれいなに一声かけた。れいなもどういたしまして、と軽く頭を下げて
微笑んだ。
空いた席にれいなは腰かけなかった。彼女はそのまま吊り輪を掴んで、
同じ場所に立っていた。終点まであと10分もかからないし、何となく
譲った席に座るのは気持ちが憚られるだけだったのだが、絵里にはそん
なれいなの何気ないふるまいすら、何故かあざとい行動のように思えて
しまうのだった。
気の抜けたような音を発して開閉扉が開くと、冷たい風が入ってきた。
遠い私立の中学校に通うと、登校がひどく億劫になるものだったが、
れいなは長い時間、バスの中で過ごすのは嫌いじゃないと、少し前絵里
に語ったことがある。その格好悪い話もまた、絵里は面白くなかった。
- 849 名前:優しい子供たち 投稿日:2004/05/05(水) 04:03
-
バスが一つの停留所に止まると2、3人の乗客が下車をする。れいなと
絵里が下りる停留所は同じ終点だった。だから二人は始業式の帰りにど
ちらからでもなく、自然に声をかけたのである。終点まで残っている乗
客の数は少ない。絵里の隣の席も空いていたし、れいなの眼前の席も空
いていた。ぎざぎざのエンジン音が車内に木霊する中、二人はお互いの
存在にばかり意識がいっていた。しかし知らない振りをしている。それ
でもこんな時、先に声をかけるのはいつもれいなの方だった。
「絵里、隣座っていい?」
やっぱり話し掛けてきた、と絵里は思った。
「……うん」
「どっこいしょ」
「おじさんくさいよ」
「そう?」
二人はくつくつと小さく笑った。バスは揺れる。外の景色は粒の大きい
雨が作った筋のせいでぼやけている。密度の濃かった車内の空気はいつ
の間にか澄んだものに。そしてバスの中は二人だけの空間となっていた。
「絵里さあ、私が嫌われてる理由、知ってる?」
バスが発車してからすぐに、れいなは軽い語調でそう絵里に訊ねた。
絵里は思った。ああ、何て馬鹿らしいんだろうか。れいなにどんな意地
悪をしたって無駄なのだ。普通なら訊きづらいこんな質問でも、れいな
は平気な顔して訊ねてくる。絵里は、微笑を浮かべた。絵里が微笑むと
優しい顔になる。それは逃げるための卑怯な手段であると、絵里は最近
気付いたのだった。
- 850 名前:優しい子供たち 投稿日:2004/05/05(水) 04:05
-
「答え辛いならいいよ。絵里に嫌われるようなこと、
私はいっぱいしてきたと思うから」
「そんなこと、ないよ」
「絵里には嫌われたくないんだ。だから、ごめんね」
謝られる筋合いなど絵里にはなかった。しかし、謝られて妙にすっきり
とした気持ちになった不思議な自分に気付いた時に、絵里はとうとう泣
き出してしまった。どうして泣き出したのか、それはれいなが羨ましい
からだと、ずっと前からわかっていた。
「れいな、ごめんね」
「何で、泣くの?」
「だって、私はれいなのこと、好きなのに」
「ああー、そっか、わかった。
絵里は私が嫌われてるから話し掛け辛かったってこと?」
「れいなは、嫌われてると思ってるの?」
「だって、最近よく無視されるし。
でも、それも仕方ないとも思ってるけど」
「どうして?」
「んー、よくはわかんない。嫌うなら勝手にどうぞって感じだし」
絵里はれいなが本当に売春をやっているのか訪ねようと思ったが、やめた。
下らなすぎて質問する価値も無いことだったからだ。れいながそんな人
間じゃないことをクラスの連中もみんなわかっているはずなのに、そん
な根も葉もない噂を垂れ流す。
「れいな、今までごめんね。私、本当に…」
「気にしてないよ。これからも友達でいてね。
絵里は、私の中で特別だから」
「うん。ごめんね。ごめん」
- 851 名前:優しい子供たち 投稿日:2004/05/05(水) 04:06
- 少女たちのすれ違いは如何にして起こるのだろうか。
思春期を迎える年齢に達すると、一つ一つの些細な行動にすら異常に敏
感になってしまう。善意が格好悪く見えたり、人から嫌われないために
自己を押し殺したり。それでも、少女たちには特権がある。すれ違いは
いとも簡単に解消できるということ。それもまた、思春期ゆえになせる
業なのだ。
終点に着いて、バスは止まる。れいなはポケットの中に入れていた整理
券を気にしながら運転手に定期券を見せた。絵里も続いて同じように定
期券を鞄から取り出そうとしたが、なかなか定期入れが見つからない。
れいなは外に出て傘をさしてから、まだ車内で狼狽している絵里を笑っ
た。やがて降りてきた絵里は、見つからなくて焦った、とれいなに向か
って微笑んだ。その微笑は本物。絵里が微笑むと優しい顔になる。つま
りは、絵里は優しい子なのだ。
「一緒に、かえろ」
「うん」
空はまだ大粒の雫を落としていたけれど、それもいつかは止むのだろう。
ぱしゃぱしゃと大きな音を鳴らして歩くれいなにとって、スニーカーの
汚れは気にならなくなっていた。
暗くて静まった閑静な住宅街。肩を並べて歩く、優しい子供たち。
- 852 名前:優しい子供たち 投稿日:2004/05/05(水) 04:07
- 終わり。
- 853 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/05(水) 10:58
- これ、かなり良かったよ…!
ローティーンな彼女達の心情がかなり伝わります。
- 854 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/05(水) 17:23
- 最高です!和やかな気持ちになれました。
- 855 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/05(水) 17:23
- あげてしまいました。すいません。
- 856 名前:774 投稿日:2004/05/05(水) 19:26
- 朝起きたら、なっちと手つないで寝てて、
昨日はなっちが先に寝ちゃったから
夜中に起きてなっちからつないでくれたんだなぁ・・・
って思いながら
ギュッ、ギュっておはようの代わりに抱きついた。
「おはよ。朝だよ。」
「うぬぅ・・・もっと寝るぅ・・・」
「だぁ〜め!」
なっち昨日、おいらより先に寝ちゃったじゃん!
せっかく、愛あることしようと思ったのに。
「おきて。」
「やだ。」
「じゃ、愛あることしよっか?」
「やだ!でも、やぐちが、焼きそば以外の朝ごはん作ってくれたら考えてもいいよ。」
やぐちの驚いた顔がみたくなっていってみただけなのに・・・
まぁ、たまにはいいっしょ?
えっ!まじで?ホントに?ホントにいいの?で、なっちはなにがいいの?
んーと。オムライスかな・・・
そういったとたん、やぐちはキッチンに猛ダッシュ。
その間、なっちは寝れるって訳さ。
- 857 名前:774 投稿日:2004/05/05(水) 19:27
- 数十分後に、出来たよぉって満面の笑みのやぐちに呼ばれていってみると、
チキンライスにスクランブルエッグが乗った物体が皿の上に乗っかってた。
しかも、スクランブルエッグからはみだしてケッチャップででっかく書かれたハート。
「おいしい?」
「んっ?おいしいよ。」
「そんじゃ、そんじゃ、食べ終わったらね?」
「なんでさぁ。なっちは、考えてもいいよ。っていっただけっしょや。」
食べ終わってから矢口の隣に移動して、くちびるがちょっと触れるくらいのキスした。
やぐちは、?????でいっぱいだったみたいだけど・・・
おつかれさま。このオムライス?じゃこれが限界だよ。
うーぅ。なっちの顔赤くなりすぎて、元に戻んなくなるかと思っちゃったよ。
これでも、おまけしたんだよ?なっちからこんなことすることないし・・・
えっ?!なに?なに?何がおきたの?これって、愛あることの代わり?
でも、なっちの真っ赤になって照れてるとこかわいかったなぁ。
おいらも、後から照れちゃってたけど・・・
でも、なっちに負けないオムライス作ったら、今度はホントにしてもいいかな?
END
- 858 名前:薔薇と牡丹 投稿日:2004/05/27(木) 15:55
- 「フライング」
「ん?」
「CDデータ」
「ああ・・・ わかんねーだろあれじゃ」
「美貴ちゃん気づいてたよ。 さっき問い詰められた・・・」
「言ってなかったの?」
「うん、みんなにはこれから」
「そっか・・・」
「・・・・牡丹なんだ」
「そ、牡丹ですよ。薔薇さん」
「薔薇はそっちでしょ。天才的美少女・・・」
「やっ、牡丹だよ。てゆーか牡丹もキレクねー?」
「・・・・・」
- 859 名前:薔薇と牡丹 投稿日:2004/05/27(木) 15:56
- 「ウチはそのへんの家の庭に咲いてるただのキレイな牡丹だよ」
「キレイなね」
「そそ、キレイなね。 でもホントの意味で観賞用とは言えないな」
「なにそれ・・・」
「悪い意味じゃなくてさ。牡丹の花束なんてさまになんないだろ?」
「・・・・・・・・」
「花束には素敵なパーティーが待ってるよ ・・・・庭の牡丹はひっそり咲いて散っていく」
「らしくないよ」
「そっかな。 わかってんでしょ? ウチらしいじゃん。 グチグチネガモード・・・」
「わかんないよ。 最近ごぶさただし・・・・私が知ってるのは太陽みたいに・・・」
「必要なくなったんだよ。 まあ演じてた太陽だったけどね」
「よっすぃー・・・」
「まぶしくて近寄れないね。 ごぶさたにもなるよ・・・」
- 860 名前:薔薇と牡丹 投稿日:2004/05/27(木) 15:57
- 「・・・食事、いつ行く? 書いてたよね」
「・・・嫉妬、かな。 気付いたら追い抜かれてた。本物の太陽になってた・・・」
「そんなこと」
「ある。でしょ? そのためにがんばった。・・・当然の結果だよね」
「サブリ−ダー、でしょ? みんなを照らしてあげないと」
「がんばれ、がんばれ、って。自分ががんばってなかった。本物になれないはずだよ・・・」
「・・・・・・・」
「石川」
「え?」
「ウチを見ててね。サブリーダー、盛り上げるぜい」
「うん、まかせた。がんばれ」
「梨華ちゃん」
「よっすぃー」
「ひとみちゃんて呼んでよ」
「・・・・ひとみちゃん」
「クゥゥーーーーーーーーーはずぃーーーーーーーーー!!!!!」
「石川」
「何よ」
「メシ、いつ行こうか?」
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- 861 名前:薔薇と牡丹 投稿日:2004/05/27(木) 16:00
- すいません。何が言いたいかさっぱりですね。
- 862 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/27(木) 20:45
- いいや、俺には充分伝わった!
- 863 名前:串刺し矢口 投稿日:2004/06/02(水) 22:06
- いい夕陽だね。
オレンジ色の光が全てを照らしているよ。
そうね。
この矢口さんもきれいに光っているわ。
そうそう、これはいったいどうしたことなの?
何もない荒地に、矢口さんがこんな姿をさらしているなんて。
そう、お腹を串刺しにされて。
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