解体稼業
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月31日(木)03時39分13秒
- はじめから何ですが不定期かつ不規則更新になると思います。
間も結構あくかもしれません。すいません。
なので次からはsage進行でいきたいと思います。
よろしくお願いします。
- 2 名前:オープニング 投稿日:2003年07月31日(木)03時46分30秒
- ―――今ここから始まる優しく、そして強き物語。―――
自身の主義を貫くことこそ信条。
悪を用いるものには正義のこころで迎える。
そんなある解体屋の物語。
今日も
「完璧ですっ!!」
- 3 名前:第一幕 投稿日:2003年07月31日(木)11時58分13秒
- 物語はじまる
- 4 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年07月31日(木)12時04分57秒
- 時は西暦2XXX年。
これ以上の急発達はしないと言われてきた科学産業。
その常識はある一人の科学者によって覆された。
たった一枚のマイクロチップに秘められた恐るべきパワー。
それが新時代と呼ばれる、世界のはじまりである。
18世紀イギリスの産業革命を彷彿とさせる、めざましい発達と発見の繰り返し。
人々は素晴らしい時代の到来に歓喜した。
人間と機械の共存という理想郷がここにおいてついに成立されたのだ。
- 5 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年07月31日(木)12時08分21秒
- だがしかし、表があれば裏があり、光があれば影もできるのは当然のこと。
機械をよく思わない者、機械を使って悪事を企む者がいるのもまたしかり。
そして、それを止めようとする者もまた・・・
聞こえるか?遠くで鳴る足音が。
彼女たちは今日も走っている。
- 6 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年07月31日(木)12時24分22秒
はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ
だぼだぼのズボンに長いコート。頭には暗視スコープ。肩にかけたデカイかばん。
これで陸上競技してくださいと言われたら笑顔でお断りの、そんな格好で紺野は走る。
足元はフラフラ。息はゼェゼェを通り越して、ひゅうっと失敗した笛のような音だ。
だが彼女は走る。彼らを救うために。
連絡を受けたのは10分ほど前。まだ間に合うはずだ。
心の中で確認してスピードアップ。
右足を出したら左足を出す。次の角までは止まらないで走ろう。
自分を励まして目的地へと急ぐ。角を曲がり、道路を突っ切る。
ようやく目的地が見えてきた。
「あさ美ちゃん!」
こんな時には頼りになるパートナーの声。
その声と共に視界に入ってきたのは声の主――小川麻琴とその前にあるトラックだった。
「はぁー、疲れた。なんとか間に合ったみたいだね。」
荷物の重さにつんのめりそうになりながら、人間らしい呼吸を繰り返す。
「うん。アレ止めようと思ったけど、あたし一人じゃ無理だから呼んだ。」
紺野の方には視線を向けず、トラックをにらみつけたまま小川が答える。
ケンカはいつの時も視線をそらした方が負けなのだ。
- 7 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年07月31日(木)12時32分32秒
- 「よかった。まこっちゃんじゃ何するかわかんないから。」
「何言ってんの。何かしてたらとっくに家に帰れてるよ。」
そう言われた小川の服は、ところどころが破れて土がこびりついている。
突っ込むトラックをよけ続けた結果だ。
「あのトラック可哀想。物を運ぶのが仕事なのに、こんなことしたくないって泣いてる。」
「そうなの?それにしては容赦なくない?」
「・・・・ねぇ、まこっちゃん。車にとっての心臓って何かな?」
「そりゃー、エンジンでしょ。」
「だよね。」
「・・・・・・。」
二人で顔を見合わせる。
アイコンタクトならお手のものだ。
「「いっちょやりますか!!」」
掛け声を合図に二人は行動を開始した。
- 8 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年07月31日(木)12時40分49秒
- 小川がトラックに猛然と駆け出す。
それに対抗するかのようにトラックもまた走り出した。
人と機械のチキンレースだ。だけど正々堂々やるほど馬鹿じゃない。
トラックの手前ぎりぎり。左サイドにワンツージャンプ。
インド人もびっくりの跳躍で運転席に飛び込む。そしてすぐさまブレーキ。
あばれ馬のように動くトラック。そう簡単には止まってくれない。
ハンドルをこれでもかとおもかじ一杯。いい加減止まれコノヤロー!!
「ちょっと!もっと丁寧にしてよ!」
遠くで紺野の悲鳴が聞こえる。
「そんなの無理だってば!」
そう叫び返した次の瞬間。小川はトラックもろともきれいに横転した。
- 9 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年08月01日(金)09時30分38秒
- 煙を上げて止まったトラックに荷物をがちゃがちゃいわせながら駆け寄る。
ここからは紺野の仕事だ。
トラックを操っていた根源を見つけて、可哀想なこの機械を助けてやらなくては。
持ってきたバールでボンネットをこじ開けて熱いエンジンに注意しながらバラバラにしていく。
部品の一つひとつを丁寧にかつ迅速に。
見極めながらビデオの早送りのように手を動かす。
――残念ながらそれを運転席で目を回している小川が見ることはなかったが。
「あった!」
だが普段と変わることなく紺野は見つけた。
右手に握られた青いマイクロチップ。
トラックの喉に引っかかっていた骨を、紺野は憎しみを持って握りつぶした。
- 10 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年08月01日(金)09時48分17秒
- 握りしめた手をゆっくりと開く。
パラパラと破片を地面に落とすと、紺野は一つため息をついた。
目を覚まして頭をぶるぶる振っている小川の肩をつかんでガクガクさせる。
頭をぐわんぐわんと揺すぶられて小パニック。
慌てて立ち上がってそのまま地面へ落下。でも軽くスルー。
「まこっちゃん!あれほど機械に傷つけないでっていったじゃん!!」
急に呼ばれて走ってきたイライラと小川の荒療治の怒りを、自分よりボロボロのへなちょこにぶつける。
さっきまでの勇姿はどこへやら、へなちょこは打った腰をさすりながらチョコンと正座。
上目使いでご機嫌伺いの体勢へ。
「だ、だってああするしか・・・なかった・・・ていうか。」
だんだんと小さくなる声。
「そこをなんとかするのが私達の仕事でしょ。
ま、でも今日は仕方ないか。あのトラックも直せば使えるだろうし。」
そんな小川を仁王立ちよろしく見下ろしていた紺野。
なんだか可哀想になってくる。
もう許してあげよう。帰ろう宣言。
- 11 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年08月01日(金)10時01分07秒
- 「てゆーかあたしの心配は?」
そんな非難をコンマ三秒で黙殺。
清々しいくらいに無視る。
車体をいとおしそうに撫でる紺野に声をかけるが
「まこっちゃんは丈夫だから、平気。」
根拠の全く無い理由であっさり決着。
これで何枚服だめにしたかなぁと自分の格好を見下ろす。
お気に入りのジャージはばりばりお釈迦行き確定なそんな予感。
「終わったから理沙ちゃんに電話して帰ろ?今日も完璧でした。」
「うーうん。」
ガッツポーズする紺野に釈然としないものの、いつもの事かと納得する。
完璧に割に合わない気もするけどこれも運命かなとかあきらめてみたり。
ところで新垣は服代を出してくれるんだろうか?
多分、いや絶対無いだろう。
困った顔の小川と夕飯のメニューを考えてご機嫌な紺野。
そんな二人を月が優しく照らしていた。
- 12 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年08月01日(金)10時01分56秒
- ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月01日(金)17時52分05秒
- の、野バス・・・?(このネタわかった方は私の中で神です)
なんだかとても不思議な世界観の物語ですね。
面白そうです。頑張ってください作者さん!
- 14 名前:作者です 投稿日:2003年08月03日(日)21時53分47秒
- 訂正
理沙→里沙 ケアレスミスでした。
>>13 名無しさん
こちら凡人以下なんで全くわかりません(汗
ちなみに元ネタとかは全然ないです。教えていただけたら嬉しいです。
- 15 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年08月03日(日)22時07分52秒
- ここは彼女達が暮らす事務所。
といっても小屋同然の広さの室内には、ごちゃごちゃと彩り鮮やかな調度品が置かれている。
入り口には色の剥げかかった招き猫。
ただし招く手は根元からポッキリ折れており、なんともグロい雰囲気が漂っている。
客ではなくむしろ何か別のものを呼んできそうだ。
奥に入るとそこは紺野専用のラボ。
ただしこれは物を作るというよりもっぱら修理するためのもので現在は使われていない。
その証拠に通路には、紺野が「まだこれ使えるよ!」と喜々として運んできた
レンジ、冷蔵庫、テレビ、果てはバイクまでが放置されて埃をかぶっている。
さらに階段にはこれまた小川が「体を鍛えなくちゃ」と持ってきたサンドバックやバーベルが
絶妙のバランスで置かれている為、本人以外下手に通ることもできない有様になっている。
どうやら二人にとって粗大ゴミ置き場は格好の宝の山らしい。
地雷を踏んだら一発アウトのスリリングな日常がここには成り立っている。
- 16 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年08月03日(日)22時24分53秒
- そんな中、室内をうろちょろと歩き回る小さな影があった。
電話番と仕事の斡旋も担当する、チャームポイントは眉毛でおなじみの新垣里沙だ。
歩き回るたびにガツンゴツンと音を立てる宝物たちには目もくれず、
さっきから探しているのはレトロ感のある黒電話。
もちろん紺野が拾ってきたものだが、今はそんなことどうでもいい。
あの電話を取らなくては明日の生命線が危ういのだ。
自慢じゃないが、事務所の家計はいつも火の車で轟々だ。
引っ張り出した拍子に倒れてきたサンドバックを右フックで黙らせて、
いつのまにか身についたお客様用ボイスで応対する。
「はい、こちら解体屋でございます。ご依頼ですね。ハイ。
・・・・・・は?スクラップにですか。あーちょっとそれはどうなんでしょうね。ええ。
うちではしないことに・・・・・・え、は?・・・・・・だからしないっつってんでしょ!!」
いかにもチマチマ文句をつけそうなしゃべりに不快感。
でも精一杯可愛らしく受け答え。最初だけだけど。
遠慮なんてずっとしてたら思った通りのことなんてできない。
若くたってプロなんだ。仕事を選ぶ権利はあるよ。
いくらお金がなくてもね。
- 17 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年08月03日(日)22時31分33秒
- 電話をガチャンと切ってふと我に返る。
「あぁー、来週からの食費どうしよ。」
食べ盛りの所員がいて新垣ママは大変です。
頭を抱えたところに戻しておいた筈のサンドバックが倒れてきて、事務所は騒音に包まれた。
- 18 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年08月03日(日)22時33分05秒
- ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 19 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年08月03日(日)22時45分03秒
- 皆さんは「解体屋」というのをご存知か。
科学産業(主にロボット)が盛んになると、当然それに比例して機械関係の職業も登場するようになる。
解体業も同じくして様々な業種に分かれていった。
それらの総称が一般に「解体屋」と呼ばれるものである。
仕事の内容としてはその名の通り機械を分解すること。
やはり利益を考えたスクラップ、廃棄処分、部品の売買が主とされることが断然多い。
だが、そんな業界に居ながらそれを真っ向否定するインテリバカが存在した。
紺野あさ美である。
もっとも本人に言わせれば、自分は「解体屋」でなく「解体専門屋」なのだそうだ。
まこと微妙なニュアンスの不安定さが否めないが、そこにこそ自身の主義があるのだと紺野は譲らない。
それを支えているのは、機械を愛するが故の心である。
- 20 名前:第一話 こちら解体専門屋 投稿日:2003年08月03日(日)22時54分37秒
- 紺野のする仕事は、解体すること。
一見すると何ら違いが無いように思うがそれは間違いだ。
紺野の解体はあくまで生かすためのもの。
バラバラにしても、元の形に戻すことができなければ意味が無い。
壊れている部分を取り替えて、永久持続のリサイクル精神がモットウの紺野に
廃棄の二文字はありえない。
よって結果、ほとんどの仕事を断るためビンボー生活、青春真っ只中。
新垣が頭を抱えているのも仕方が無い。
「ぁー、ちょっと道間違っちゃったかも・・・。」
機械とイモ類には目が無い変人と、その変人に抵抗もなく付き合っていられる
体力自慢の顔を思い出して、今日も新垣は自慢の眉毛を下げるのだった。
- 21 名前:作者です 投稿日:2003年08月03日(日)22時58分27秒
- 以下次回
第二話 親友登場
- 22 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年08月07日(木)22時48分07秒
- 面白い♪
マイペース紺ちゃん、めちゃハマります^^
では続き待ってます^^
がんばってください☆
- 23 名前:作者です 投稿日:2003年08月11日(月)21時16分04秒
- >>22 ヒトシズクさん
ありがとうございます。嬉しいです。
紺野さんはダサかっこよいイメージです。
かおりん、なっち誕生日おめでとうでした。
ほんとに少ないけど更新です。
- 24 名前:作者です 投稿日:2003年08月11日(月)21時25分34秒
- 季節は夏。
青い海。白い砂浜。人工的に作られた、しかしそれはそれで美しい海岸が広がる。
地球温暖化の影響もややあって、今年もレジャー施設は大賑わいだ。
カキ氷、焼きそばにもろこし。匂いがあちこちで手をこまねいている。
海水浴イコール海の家。これ定説。
そんな殺人的なお誘いに、紺野は顔をしかめた。
水着姿の客がほとんどの海岸で、長コートにかばんという格好はイケてない事この上ない。
トドメは特大のサングラス。紺野なりに気を使ったつもりである。
その結果は推して知るべし。
お昼の長寿番組司会もビックリの惨敗っぷりが伺える。
- 25 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003年08月11日(月)21時40分51秒
- 「あさ美ちゃん暑くない?」
「・・・死にそう。」
長コートを着てきたことをちょっぴり後悔。
やっぱりドライバーを十本も入れて歩くには重たい気がする。
今度来るときはコートじゃなくてBOSSジャンにしようと密かに決意。
「それにしても人多いね。」
「うん、海の家もいっぱい。」
「いいなぁ。あ、今度ヒマなとき来ようよ。あたし焼きたいんだ。」
「うん、とうもろこしも焼けてる。」
「すげー楽しそう。泳ぎたいなぁ。」
「・・・・・・まこっちゃん。まさかとは思うけど、服の下に水着とか着てないよね?」
ピクっと動く肩。
噛み合ってないようで噛み合ってる会話。二人はお友達。
あはは、あははとやらせな乾いた笑い声が響く。
「はぁ、小学生じゃないんだからさ。」
「・・・ごめん。でもあさ美ちゃんだって焼きそばとか食べたいでしょ?」
「いや別に。」
「ウソだー、さっき食べたいって顔絶対してた!」
「自分のこと棚に上げてそんな事言うの良くないと思います。」
「う。だ、だからそれは・・・。」
「さ、お仕事お仕事。行こ?」
とりあえず握りしめてた小銭は小川にバレように。
右手をポケットに突っ込んで、口呼吸で海の家を通過する。
- 26 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003年08月11日(月)21時59分45秒
- あ、焼き鳥。フランクフルトもあるんだ。ふーん、へぇー。
店のオヤジに自然とガンつけながら、帰りに買ってこうと誓うのだった。
歩きにくい砂浜をザクザク歩きながらお仕事の確認。
なんてったって命かけてます。
ついでに食費も。
「今日のは正体分からないらしいよ。」
「この前のといい、何か最近変だよねぇ。とりあえず準備だけしとこうよ。」
何だか浮かない顔でそれに返事する紺野。
気になって聞いてみる。
「まこっちゃん青いチップって見たことある?」
「え?」
「この前のトラックの時あったんだけど・・・、初めて見たんだ。」
「ほう。」
小川の間の抜けた返事を聞き流しつつ、意図のわからない相棒に話して聞かせる。
「なんか気になるんだよね。で、今日もし見つけたら教えてくれない?」
「ん、分かった。あさ美ちゃんが言うならきっと何かあるんだろうし。」
機械にはいつも本気な紺野は信用する。
仕事をする上での小川の鉄則。
今日も忙しくなりそうだ。
- 27 名前:ヒトシズク 投稿日:2003年08月18日(月)21時15分09秒
- いや〜面白い!
夏なのにコートを着て海辺を歩く紺ちゃん・・・ばり可愛!
そして、考えてることも・・・(w
次回の更新楽しみにしております♪
- 28 名前:作者です 投稿日:2003年08月19日(火)22時17分28秒
- >>27 ヒトシズクさん
こんな駄文にレスすいません(焦)
こちら趣味でやってますんで間が空いたら申し訳ない。
ちなみにこの話はコート紺野が書きたくてはじめました。w
- 29 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003年08月19日(火)22時28分06秒
遠く地平線の彼方から流れてきた、磯の香りが満ちている岩肌。
時おり波がいたずらに小さな蟹へ強烈な一撃を食らわせて押しては引いていく。
細くやせた月の光に照らされた砂浜が、ガラス瓶の破片によってパラパラ輝いて見えるのもまた絶景。
その美しい恩恵は二人にも余すことなくもたらされ、長い長いシルエットが尾を揺らす。
「うーん、来ないね。」
「来ないなら来ないで平和だからいいじゃん。」
毎日のように現れて、謎の機械音と共に高級クルーザーを破壊しまくる犯人は尻尾も見せてくれない。
じりじりと時間が過ぎてゆく。
こっちは囮用のクルーザーまで借りて待ってんのに。早く来いっつーの。
屋台で食べて泳いで帰るつもりだったのに、夜だから店閉まっちゃったじゃん。
女の子を待たせるなんて最悪。とりあえず来たら一発殴らせてもらうからね。
紺野が聞いたら真っ青になるであろう事を考えて、小川は不機嫌オーラを滲み出している。
- 30 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003年08月19日(火)22時57分13秒
一方、それとは逆にはじめの不機嫌はどこへやら。
クルーザーについた途端
「え、何これ?うわすごーい。」「あぁ、こういう仕組みなんだ。おぉー。」
とあっちこっち触りまくって上機嫌の紺野は、そのままの調子で双眼鏡を覗いている。
「ね、あさ美ちゃん。今日ほんとに来ると思う?」
「どうだろ?でもお仕事だから。とりあえず今日は徹夜だね。」
「ああ、やっぱり〜。」
甲板にごろんと寝転んだ姿が面白くてちょっと笑う。
「仕方ないよ。これも世のため人のためってね。」
「それ以上にあさ美ちゃんの場合、機械のため。でしょ?」
「ま、そうとも言う。」
「はぁ、あさ美ちゃんの機械好きには困ったよ。だいたいね・・・・・」
「・・・待って。何か聞こえる。」
文句を言いはじめた小川に苦笑しつつも、注意をはらっていた耳にはその音が聞こえた。
音の方向に双眼鏡を向ける。つられて小川も顔を向けた。
タンタンタンタン タンタンタンタン
「ん?あれって」
綺麗に塗装された白いフォルム。月光でそれはいっそう美しい。
「そう、だよね。」
静かに波上を滑る姿は、性能の高さを証明している。
「「クルーザーだ。」」
- 31 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003年08月19日(火)23時08分38秒
- 小気味よい音を響かせてやってくるのはクルーザー。
自分達が乗っているのもクルーザー。
どういうこと?
とりあえず作戦会議。
しゃがみこんで何故か小声で話してみる。
「あれが正体?」
「私はたぶんそうだと思う。まこっちゃんは?」
「うーん。怪しいけど傷だってついてないし、船壊すようなパワーもなさそうに見える。」
「それは思った。・・・じゃあ一応止まるように合図してみようか。」
民主主義に乗っ取って、よし決まり。
勢いよく頭を上げた二人は・・・・・凍りついた。
目の前には、驚くほど至近距離にいるクルーザーとばかっと空いた先端に隠された砲台。
・・・・そう砲台。
おいおいおいおい。冗談きついよ。
非常にヤバいんじゃないいですか、コレ。
いつもは煩わしくたまに助けてくれる本能に従って小川は紺野を引っつかんだ。
そのまま桟橋に飛び降りる。
刹那
甲板が吹っ飛んだ。
- 32 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003年08月19日(火)23時16分52秒
ぼとり、ぼとりと破片が海中へ消えていく。
奇跡的に沈まなかったがおそらくもう動かない船を紺野は唖然として見つめた。
破壊を確認したのか、クルーザーが後退し始めている。
逃げられるとか、悔しいとかそういう感情は全く湧かない。
ただ、ただ。驚きと悲しさだけが心を覆っていくのをひしひし感じる。
あのクルーザーも、そして壊れた船も泣いているよ。
肩にかけたカバンをぎゅっと握りしめた。このままでいいのか?
ここで何もしなかったらさらに多くの船が壊される。
何もしなかったら。
- 33 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003年08月21日(木)22時32分44秒
- どうしようと考える前に体が反応していた。
しないでダメならするしかない。
夜の侵入者はその姿を再び岩陰へ戻そうと、確実に海に帰っていく。
絶対に逃がさない。
足場の悪い桟橋の上を、自分の最高スピードで突っ走る。
急がせるのは解体屋としての意地か、はたまた機械への愛情ゆえか。
突然の振動に驚いたフナ虫達がつぶされてはたまらんとシャカシャカ逃げていった。
あと少し。もう少しで追いつける。
「届け!」
気合一発。カバンを遠心力で回してぶん投げた。
おそらく人も殺せる重量のそれは華麗な放物線を描いて鈍い音をたてる。
入った!ナイスオン。
- 34 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003年08月21日(木)22時45分12秒
- けれども紺野は顔をしかめる。
今ので船体に傷ついてたらどうしよう。
頭の中は機械と食べ物とその他でできてる。そんな奴。
信念が第一。それが自分の誠意。それが自分の美学。
とにかくカバンは入った。いける。
「まこっちゃん!」
「よっしゃ!」
だてにパートナーやってない。
頭いいくせに、紺野の考えてることは自分より単純明快極まりない。
小川の組んだ手を足がかりに、紺野はクルーザーに飛び乗った。
勢いでゴロゴロ回転運動をして先に送っておいたカバンを掴む。
ついでに傷が無いのも確認。よし大丈夫だ。
することは一つだけ。クルーザーを止めること。
「今助けてあげるからね。」
- 35 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/15(月) 00:50
- 楽しみにしています。
更新お待ちしてます!
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/20(土) 17:44
- 面白そうだね。
続き書いてちょ。
- 37 名前:作者です 投稿日:2003/10/20(月) 00:44
- レス返しだけでも。
>>35 名無し読者さん
>>36 名無しさん
予想通り間あきまくってるわけなんですが・・・。
すいません。すいますいませ(ry
スカした奴だと思わないでくれたら嬉しいです。今月中に一回書きます。
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 13:52
- ガンバレ!!
- 39 名前:作者です 投稿日:2003/10/25(土) 22:17
- >>38 名無し読者さん
ありがとう!なんかむちゃくちゃ嬉しいですがな。
- 40 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003/10/25(土) 22:32
- とりあえずこの船を止めなくてはならない。
舵をとって港に戻せるならそうしたいが、残念ながら船の運転なんて経験したことないし
第一仕組みが普通と全く違うのだから万一壊しでもしたら元も子もない。
自分でへこんじゃったりするのもまっぴらごめんだった。
紺野は肩のカバンを担ぎなおし唸った後、ハンドル状の舵の下にしゃがみこんだ。
エンジン音に同調するかの鉄板同士がぶつかり合ってカタカタ音を立てている。
右手をコートのポケットに突っ込んだ。
「ここかな?」
操縦室に入るのは思ったより簡単だった。する行動は歩くだけ。
つまり船に人は乗っていなかったのだ。
(まぁ半分くらいは予想してたんだけどね。)
ポケットのドライバーでねじを一本一本外しながら考えてみる。
この前のトラックといいこのクルーザーも見た瞬間に雰囲気がおかしいことに気づいた。
雰囲気で判断するなんて解体屋として失格なのかもしれないが紺野は直感を大切にしていた。
(たぶんこれにもあるんだろうな)
手にぐっと力を込める。
先日思わず粉々にしてしまったチップの感触が蘇ってきた。
小さくて軽くて、なのに心臓の価値があるざらっとした感触が。
- 41 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003/10/25(土) 22:45
-
鉄板が外れた。
割と重量のあるそれをゆっくり脇に寄せて中を見ると黒いコードが顔を見せはじめる。
(あたり、かな?)
とにもかくにも夏の夜はなんと暑いのだろう。
紺野が気づかないうちに、張り詰めた神経の上を汗が一筋流れていった。
声がしたのはその時だ。
「悪いけどはよこの船降りてもらえん?」
驚いて顔を上げたついでに頭を舵に力いっぱいご対面させた紺野に
さらにその人物は話し掛けてくる。焦れたように影がゆらいだ。
「あたしこの船に用があるんやって。あんたさっき港のクルーザー壊した人やろ?
今日のところは見逃しといてあげるで変わりにここから・・・・・ん?」
何か勘違いしているようだがそれはともかく。
返事のかわりにあーとかうーとかそういった声が不思議で影は言葉を切った。
「女?・・・え、ちょっと待って・・・この声って。いやいや、ほんなありえんし。」
一人自問自答していたが浮かんだ名前を口にしてみた。
「あさ美?」
結果として涙目のそいつが出てきた。
- 42 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003/10/25(土) 22:51
- +++
「ざぶーん、ざぶーん。」
海水に足を浸しながら、はるか彼方に言ってしまった白い点を見つめる。
「大丈夫かな、あさ美ちゃん。」
口には出してみたけれど、実はあんまり心配してなかったりなんかしちゃったりして。
ていうか両手組んで足場になったまでは良かったんだけど、ドライバー入ったポケットが
さりげに肩にメガヒットしてたりするんですよね。
我ながらかっこよく決まったと誉めてあげたいところだったのだけど。
「とりあえず文句言いにいくかな。」
よいしょっと腰を上げて小川は小船に乗り込んだ。
- 43 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003/10/25(土) 22:58
- +++
「えーと。つまりまとめるとクルーザー壊したのはこの船だけどあさ美がしたわけじゃなくて
むしろそれを止めにきたってことやがの?」
「まぁそんな感じ。」
お互いの再会を喜んだのもつかの間。昔と変わらない方言早口全開で説明を求める高橋に
どもりながら説明を終えたところだ。
ううーんと唸って黙ってしまった高橋の輪郭の良い横顔を見つめながら、ふと思いつく。
「愛ちゃんなんでこんなとこいるの?」
「あー、仕事で。」
「仕事?」
「そうそう、あたしも解体屋やってるんやって。」
「え?」
- 44 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003/10/25(土) 23:10
- 間、一分間。
脳をフル回転させて考えを巡らせてみる。
同業者。
解体の主なことってなんだったっけ?
あ、思い出した。不要物の分解・処理・スクラップ、たまに埋め立てやってまーす。
これはお昼のCMでよく流れてるやつ。
里沙ちゃんとカキ氷食べながらウチとは大違いだね〜って
いや、てことは
愛ちゃんは何しに来た?
「だめだよ!」
突然の大声に高橋は飛び上がった。
「ど、どうしたの?」
「愛ちゃんこの船壊すつもりでしょ!」
「うん、だって仕事やし。」
「実は私、今日は壊しに来たわけじゃないんだ。今私達のところは解体だけを専門にやってる。
壊すんじゃなくて直すの。さっきしてたのもこの船を生かすためなんだ。それってすごいことじゃない?」
紺野は熱く語った。そう、できることなら高橋にも理解してもらってこの場を二人で乗り切りたい。
一人でなく二人ですればもっと早くできる。
きっと分かってもらえると考えていた。
そんな紺野に高橋は誰もが虜になるような爽快な笑顔で言った。
「悪いけど、それはできん相談やよ。」
- 45 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003/10/25(土) 23:23
- 爆音が聞こえて炎があがったのが見える。
「えぇ!?なんで船燃えてんの?」
小川がやっとついて見たのは炎上している船と、そこでぼんやりしてる紺野だった。
「やばいって、あさ美ちゃん!ちょっと。」
腕をつかまれ小船に乗せられた紺野は遠ざかっていく船を見つめていた。
『どうして?』
『あさ美、今の時代は使い捨てられてこそ意味のある時代なんやよ?
いちいちそんなこと気にしてたらきりがないし、気にする方がおかしいわ。それにコストもかかる。
あたしだって新しいものは欲しいし、だからこうやって仕事もしてる。それに・・・
こういっちゃなんやけどあさ美が言うことは楽しくない。あたしがこの仕事してるの
何でやと思う?スリルがあると思うんやって。実際楽しいし。
テレビでどこかの教授も言ってたやろ?使えないなら捨てればよい。ゴミ問題は解決された。
二十世紀はじめじゃあるまいし、その考えは古いんやって。
だからあたしはこうする。』
そう言って押されたボタン。
高橋の言うことは正論なのかもしれない。でも。
見えないはずの船の炎が増した気がして紺野は目をふせた。
- 46 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003/10/25(土) 23:24
- 以下次回
- 47 名前:第二話 親友登場 投稿日:2003/10/25(土) 23:25
- 第三話 始動
- 48 名前:作者です 投稿日:2003/10/25(土) 23:39
- 訂正
>>40
エンジン音に同調するかの
→エンジン音に同調するかのように
- 49 名前:第三話 始動 投稿日:2003/10/26(日) 14:30
- 彼女は歩いていた。
毎日通る道とはちょっと違う、高級な感じのストリート。
信号で、市民のお手本よろしくきっちり停止、左右確認。
目の前にそびえるメタリックなビルを、顎をくっとあげて見上げてやる。
光る壁は平和の象徴と、それから強者弱者の差を見せ付けているような気がしてならない。
ここに来ることなんて自分には全く縁のないことだった。
機械産業が発達し人間の生活は潤った気がする。
自分達ですら気づかなかった不便さも、今ではすっかり快適だ。
毎日が快適になってくことで、逆になぜこれまで不便だと思わなかったのか不思議になるくらいに。
どこの道路を歩いていたってゴミ一つ落ちていることはないし、たとえ捨てたとしても自動的に片付けられてしまうだろう。
車が空を飛ぶなんて、二十世紀クラシックムービーの夢物語だけど、もしかしてもしかするとそんな日がくるのも近いんじゃないかと思った。
ただしそんなことになったら、自分の仕事はめちゃくちゃになるんだろうけど。
敷き詰められた絨毯の上をさくさく歩きながら、右往左往している自分を思い浮かべる。
結構、笑えるかもしれない。
口角だけを器用に持ち上げて彼女は笑った。
- 50 名前:第三話 始動 投稿日:2003/10/26(日) 14:50
-
快適結構。平和で結構。でもなんだか物足りない。そう思って仕方のないお年頃。
いっぱしに世間に不満なんかも持っちゃってるし、楽しい事がないか探したりもしてる。
そうそう見つからないけど。
どっちにせよ出勤したら訳も言わずに、このビルへ自分をパシらせた課長に不満をぶつけることにした。
心の中なら何言っても平気だ。
口には出せない言葉を毒づきながら、信号を待つ。
「変わるの遅いなぁ。」
結局知らない小学生がボタンを押して渡っていくまで、突っ立っていた。
照れ隠しに颯爽と軽快にハイヒールを響かせて横断歩道を渡ってみたが格好がつかない。
恥ずかしい。しかもよりにもよって今日は仕事着だというのに。
今日の運勢は悪いのかもしれない。
親切にも押しボタン式だと教えてくれた小学生に、御礼を言いながら思った。
- 51 名前:第三話 始動 投稿日:2003/10/26(日) 15:01
- 見たことも入ったことも無い最上階直通エレベーターに乗る。
横の鏡で帽子を少し直した。
こんな下っ端の自分がなぜ呼び出されるのだろうか。
もしかして平和すぎてついにリストラ制度ができたのだろうか。
だったら自分は記念すべき一人目ということになる。
リストラなんて、そんなまさか。
いつもなら笑うところだが、マジなら洒落にならない。
とりあえず、これから会う上司が男だったら特上の笑顔であいさつしてみるか。
うしっと気合を一つ。
「失礼します。」
「あぁ、時間ぴったり理想的だね。」
「はぁ。」
笑顔で入ってみたものの、目に入ってきたのは机に腰掛けている女の上司。
ついでにめちゃくちゃ若いおまけつきで。
- 52 名前:作者です 投稿日:2003/10/26(日) 15:06
- また訂正が…
>>49
敷き詰められた絨毯→敷き詰められた芝
外で絨毯はありえなさすぎ。
- 53 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/29(水) 18:55
- もうダメか、と思った時にこの更新。うれしいです!
ただ大変失礼ながら読んでる側から言わせて貰いますと
「完全に完成、もしくは完成のメドがたったらスレを立ててみては?」
とも思うんですけど・・・。
いや、別にこの解体稼業の作者さんに限った話じゃないんですけどね・・・。
- 54 名前:作者です 投稿日:2003/10/29(水) 21:23
- >>53 名無しさん
いや、まったくごもっともです・・・。返す言葉もありません。
一応メドというか構成はちゃんと最後まで考えてあります。そこはご心配なく。
読んでる側には悪いことしました。というか読んでくれてありがとうございます。
不都合あったらガンガン言ってください。努力しますんで。
- 55 名前:第三話 始動 投稿日:2003/10/29(水) 21:44
- 首が上から下まで二往復ぐらいした後、えぇー?と極小のため息が口から出てきた。
こんなの現実でもあるのだと思う。
最近ハマっている古い映画で、若い女たちが悪と戦う、そのリーダー格もこういうのだったなと思い出した。
てっきり自分とこの部署みたいなクソじいさんだと想像していたのに。
実際目の前に座っているのは、町を歩けば声をかけられそうな、やたら今時の若者まんまだ。
写真とるときに失敗した様な、不思議な笑い顔を浮かべながら、本日二度目の棒立ちになる。
上司はというとニコニコしたまま、片方の口角を引っ張りあげて笑っている下っ端を楽しそうに眺めている。
意外な上司だったことに驚いてるんでしょう?というのが瞳にありありだ。
唇をきゅっと引き締めているのに、どこかアヒルな愛嬌を振りまきながら
「単刀直入に言うね。」
「は、はい。」
スカートを握りしめられた手を見やって、気づかない位僅かに目を細める。
「実は、あなたを『対機械障害特殊化』に任命したいんだけど。」
「・・・・え?」
- 56 名前:第三話 始動 投稿日:2003/10/29(水) 22:04
- ぽかんとして思わず真顔になった下っ端とは裏腹に、やっと言えたとばかりに上司は顔をほころばせた。
考えていた事が上手く言ったような、イタズラがバレなかったようなそんな顔で。
にーっと目元がゆるんだ。
「あー、やっと伝えられた。かなり前々からこの役はあなたしかいないって思ってたんだよね。
・・・そもそも石川の奴がぐだぐだ言ってなかったらこんなに延期になることもなかったのに。ここまで来て今度何か言ったら
公務執行妨害で逮捕できないかなー。やっぱ無理かなー。」
「あのー。」
なんだかブツブツ文句を言い始めた上司に声をかける。
ともかく説明してもらわないことには話が進まない。
机をこつこつ叩いて思考を妨害してやった。
「ああ、ごめんごめん。それにしても今日実際会ってみて気に入ったよ。
特に笑顔!関係ないけど私好きだな。そういういかにも作り物っぽいそれ。」
歯を見せて笑顔満面にしながら清々しく言い切られて、眉がぴくり。
上司のくせして全然上司らしくない。ていうかあたしの笑顔バレバレだったの?
いやいやそれよりこいつ見かけによらずに毒吐きまくりじゃない、さっきから。
何か腹立つ。だけど笑うと可愛いじゃん。あーそれも腹立つ。
大きな目に覗きこまれて、もしかしたら今自分が考えてることも見通されてるかもと思った。
- 57 名前:第三話 始動 投稿日:2003/10/29(水) 22:20
- いろんな事が浮かんで消えていったけれど、それは片隅にまとめておいてだ。
「あの、その対機械なんとかって何なんですか?初めて聞くんですが。」
当たり前に、思っていたことを聞いてみた。
「そりゃそうだよ。だって昨日できたばっかりなんだから。」
「はい?」
いたずらっ子のように目をきらきらさせてそんな事言うものだから、また眉が上がってしまう。
「あなたも最近ニュースとかで聞いてるでしょ?原因不明の機械事故について。
ここんとこ一般市民から薄気味悪いってちょこちょこ抗議が来ててね。で、立ち上げたわけ。
今まであるようでなかったからね。機械の事故なんて。まぁ産業革命様さまってことだけど。」
「はあ。しかし何故私なのですか?他に優秀な人材はいくらでもいるでしょう。」
「悪いけどこれはもう決定事項なんだ。それにあなたが適任だって言う人もいてね。
私もその一人な訳だけど。」
「ちなみにどのような事をするのですか?」
「事件の原因の追求・早期解明・報告。あと一般市民の保護もね。具体的に言うと
故障した機械が万一市民を襲った場合、その人を保護してデータが飛ばないようにしながら
機械を起動不能にさせるってことかな?」
「・・・いや、後者の方は普通に無理だと思うのですが。」
「うん、私もそう思う。」
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/08(土) 11:29
- 密かに待ってます
- 59 名前:作者です 投稿日:2003/11/11(火) 22:34
- >>58名無し読者さん
密かに更新です。。。
- 60 名前:第三話 始動 投稿日:2003/11/11(火) 22:58
- いくら可愛らしく首をかしげられても、はいそうですかとは言いがたい。
この上司はおちょくって楽しんでいるのではないか。というか八割方そうなのだろう。
こんな雰囲気なら、あえて呼び出しかけるほど重大ではないのかもしれない。
いたずらに困らせているのだ。とひとつ納得させてみた。
「そう言うとおもってね。」
上司は涼しげな笑みを漂わせながら足を組みかえる。
そしてそのままの体勢でスーツのポケットをがさがさ探った。体が不安定にゆらゆら揺れた。
思ったよりも物が入っているのか少しの間うなっていたが、突然あった!とつぶやいた。
「よっと、はいコレ。」
「・・・・・住所?ですか?」
「そうそう、ここに協力要請して共に事件解決に励むように。大丈夫、超一流の選んどいたから。」
そう言うと下っ端が口を開きかける前に、机からひょいっと飛び降りて肩をぽんぽんと叩く。
偉そうな感じは全くなかった。
「それから、今話したことは一応極秘事項だから口外はナシね?首が飛ぶよ?」
身長差から少々上目遣いで、そこんとこよろしく、と言う上司からはメロンの香りがした。
- 61 名前:第三話 始動 投稿日:2003/11/11(火) 23:24
- +++
『藤本美貴
女
階級:巡査
現交通課勤務。対機械障害特殊化に転属予定』
簡潔に書かれたメモをパラリとめくりながら、秘書官は納得いかない顔で帰って行った巡査を思い出していた。
いや、あの顔からすると少々不機嫌だったのかもしれない。
先日送られてきた彼女の勤務態度からみて、感情がストレートにでやすい性格であることは承知していた。
些細なことだ。まぁ、おそらくいたずら好きなあの人にからかわれたのだろうと推測する。
けれど、こっちの挨拶には答えて欲しかったなぁ。
お疲れ様でした。という声に気づかず行ってしまって、ぽつんと残されてしまったよ。
あれは少し寂しかった。
んんー。と秘書官は目じりを下げた。
「どうしたの?村っち。」
「え?いやぁ、さっきちょっとねぇ。」
車は次の仕事先に向かっている。
もちろん仕事をするのは隣にすわっている友人であり上司である人だ。
えらく良い地位にいるのにタメ語だし、秘書官ごときの意見も聞くナイスガールだと感謝をすべきところである。
実際、藤本を押したのも村田の意見を採用した結果だ。
「ねえ柴田くん。今更なんだけど本当は彼女に任せられるか不安なんだよねぇ。」
「ほんとに今更だね。」
「うん、そうだねぇ。」
- 62 名前:第三話 始動 投稿日:2003/11/11(火) 23:45
- 村田は的確に能力を見抜く力や情報処理に長けている。
それを買われて秘書の仕事についているのだから当たり前なのだが、本人は自覚が無い。
たまにわずかな不安を、さりげなく口にするのだ。
いつのまにか柴田にも移ってしまった、涼しげな笑みで。
「でもさ、村っちがOKって言っただからきっと上手くいくって。なんせ有能なんだから。」
「おお、ほめられた。そう言ってもらえると嬉しいね。」
判断が正しいか正しくないかは置いといて、納得してもらえたならそれでいいかと思わせる。
上に立つものは、人にそう思わせる物を持っているのかもしれない。
珍しいメロンの香水が、ことにお気に入りの上司を見ながら村田は思った。
「そうそう、大丈夫。えらーい秘書さんが言うんだから絶対だよ。」
「えらいって・・・・なはは。」
照れ隠しにめがねを押し上げて、村田はスケジュールを独特の口調で読み上げていく。
いつのまにか習慣になった毎朝の恒例だ。
そして柴田が軽くため息をつくのも、また恒例。
「自分で言うのもなんだけど、忙しいよね毎日。」
「まぁ、我らの柴田くんだからね。」
「なんだそりゃー。」
二人が話している間に、車はウインカーを出して建物の前にきっちり止まった。
「柴田総監、到着致しました。」
今日も彼女の多忙な一日が始まる。
- 63 名前:第三話 始動 投稿日:2003/11/11(火) 23:55
- +++
一方、心のなかでコイツ呼ばわりしていた奴が、実は某国家機関の最高位なんて一ミリも
考えることがない藤本は
「えぇー?」
ぼんやりしていた。
そういう訳で見上げている、今どき珍しい木造屋根。
右にはバイク。左には洗濯機。すぐ目の前には焼き物のたぬきがこっちを見ている。
手にしたメモを確認するまでもなく、ここだとわかってしまった。
女上司からもらった紙には、地図と「世にも珍しいトリッキーな建物」の文字。
聞いてもわからないが、見れば一発でわかるといったところか。
藤本はぐるりと首を回した。
「とりあえず・・・・・・玄関どこ?」
始まってもいないのに、もうくじけそうだ。
- 64 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/14(金) 18:12
- テンポが好きですね!これからの展開に期待してます。
- 65 名前:作者です。 投稿日:2003/12/04(木) 22:27
- >>64 名無し読者さん
ありがとうございます。嬉しいです。
テンポとかはもう…。毎回いっぱいいっぱいでやってます(汗)
- 66 名前:第三話 始動 投稿日:2003/12/04(木) 22:28
- 一つない青空に、ゆったりとした風が吹き抜ける。
洗いたてのシャツやシーツを干しながら、小川はうーんと肘を伸ばした。
太陽の光を浴びると元気が出た気がするのは、今も昔も変わらない。
今日は快晴。洗濯日和。
風の匂いを感じたくて、シーツの波に体を突っ込んだ。
そのままグルグル回って、冷たさと洗剤の香りを思う存分堪能する。
「なーんか気持ちいい、これ。あさ美ちゃんもやってみない?」
「…遠慮しとく。」
せっかくいい天気なのに。せっかく普段の1.5割増しの笑顔を見せているのに。
それを上回る2割増しで、つれない返事が返ってきた。
急に自分のしていることが虚しい気がして、小川はシーツから脱出する。
少し離れた日なたに紺野の背中が見えた。
- 67 名前:第三話 始動 投稿日:2003/12/04(木) 22:29
-
先日の仕事から、どうも紺野の様子がおかしい。
どこが変かと聞かれると、元々変だから何とも言えないが、やっぱり変だ。
相変わらず壊れた機械を拾ってきては新垣に怒られているし、食事だって三食食べ過ぎなくらい食べている。
なのに、どこかつまらなそうな雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。
気分転換に洗濯しようと言い出したのは小川だった。
「あさ美ちゃんの様子、やっぱり変だよね。」
溜まりに溜まった洗濯物の二回目を運んできた新垣がつぶやいた。
新垣もまた、紺野の様子を怪訝に感じていたのだ。
洗濯かごをよいしょっと抱えなおして、ぼんやりしている紺野をみる。
寝ていた紺野を起こしたは良いものの、どうにも手伝ってくれそうではない。
手すりにもたれ掛かって遠くを見て、あくびなんかしちゃっている。
直したばかりの洗濯機は、ただいま本日三回目のフル活動中なんだけど。
- 68 名前:第三話 始動 投稿日:2003/12/04(木) 22:30
-
「いつもだったら誰かさんと騒いでんのにね。」
「誰かさんってあたし?」
「まこっちゃん以外にいないでしょ。」
「里沙ちゃんだって遊んでんじゃん。」
「んー、まぁ気にしない気にしない。」
でも、そういえば最近騒いだ記憶がないかもしれない。
様子がおかしいと思った原因を見つけて、小川はポンと手を打った。
「そっか、バカじゃなくなったんだ。」
「普通元気ないって言わない?それ。」
「あーそれそれ、それが言いたかったの。」
思わず突っ込んだ新垣を横目に小川はうんうんと頷く。
それって自分がバカだって言ってる様なもんじゃん。とかあさ美ちゃん元気ないのに気づかないで、洗濯しようとか言ってたのか。とか言いたかったけれど。
- 69 名前:第三話 始動 投稿日:2003/12/04(木) 22:30
- ここはひとつ。
「見ればわかるじゃん。それよりハイ洗濯物、言い出したのまこっちゃんなんだからね。
三回目ももうすぐできるから。」
「うおっ!」
笑顔で洗濯かごを渡すことで表現してみた。
まぁ、感覚で行動してても的を射ているならそれでいいのだ。
そんな事を考えながら、新垣は三回目をバカに押しつけるべく、軽快に階段を下りていった。
- 70 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/29(月) 10:42
- 更新お疲れ様です。
毎回こっそり読ませてもらってます、頑張って下さい!
- 71 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/19(月) 16:21
- さて。そろそろ、続きを書いてもらおうか?
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/28(水) 18:48
- 作者の頭の中身が解体されてしまったか?
- 73 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/02(火) 19:09
- 保全
- 74 名前:作者です 投稿日:2004/03/14(日) 16:28
- 正直レスついててビビったわけですが…。
すいません、この二ヶ月ほど海外行ってました。
>>71 名無し読者さん
ただいま、大量更新準備進行中です。
>>72 名無し飼育さん
とっくのとうにバラバラです。
>>73 名無しさん
感謝です。嬉しいです。
- 75 名前:作者です 投稿日:2004/03/14(日) 18:48
- ミスりました。
>>70 名無し読者さん
すいません、ありがとうございます。
今度もこっそり更新するつもりです。
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/14(水) 17:25
- ho
- 77 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:44
-
紺野はこの前のことを考えていた。
高橋の言っていること全てが正しいとは思えない。
けれど世間一般論でいくと、あれが真実なのだろう。
結局は理想論など、ましてや命のない機械においてはなおさらのことで、
受け入れてもらえるとは紺野ですら考えていなかった。
この仕事を始めた当初からあれくらいのことは言われていたし、反感を
買って仕事が来ない時もあった。
別にそのことに関しては痛くも痒くもない。けれど
「それが一般論ってのは知ってるんだけどね…。」
ぼんやりナナメの景色を見る紺野の頬を、日焼けた木のとげがチクリと刺して、
光の反射で茶色味の増した髪が流れた。
それをぐしゃぐしゃかき回しながら、そうして紺野は息をついているのだ。
「愛ちゃん…。」
初めて会った頃、豪快な笑顔で自分の肩を叩いた田舎人を思い出して、
本日何度目かのため息が口からもれた。
- 78 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:45
-
初対面の印象というのはとても大切なもの。
これは藤本が大人になって、痛感した一番のことだった。
経験でいうなら、交通整理をしている時、同僚はお年よりからお礼を言われるのに
自分だけなぜか言われない。
不良を補導したときに、知り合いですかと聞かれる。そんな訳がない。
駐車違反のキップを切ってもあんまり文句をいわれない。
まぁ、これに関しては助かっているが。
自分でもよく分からない内に、切なく寂しい婦警さん生活を歩んでいた藤本にとって、
とびきりスマイルでこんにちはするのは、慣れっこになっていた。
新しい部署に新しい仲間。今こそ真価が試されるとき。
「すいませーん!誰かいませんかー?」
呼びかけるが、応答なし。留守なのかもしれない。
そう思ったが、家の中からはゴウンゴウンと不思議な音が響いてくる。
「聞こえてないだけかな。」
しかしこれ以上近づこうとしても、スクラップが邪魔して先には進めない。
仕方なく、あっちこっちに投げながら雪のなかを行くように進む。
- 79 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:46
-
本当にここが地図にあった場所なんだろうか。
これどうみてもスクラップ場としか見えないんだけど。
あの女上司、地図間違えたりしてないよね。
もしかしてタチの悪いイジメ?まさか、そんなことないよね。公務員なんだから。
いや、でもあんな若い子が上官になるこの時代だ、何が起きるかわかんない。
割と後ろ向きな考えをしながら、スクラップの中を歩く藤本の姿は、確かに
声をかけづらい雰囲気をかもし出していた。
「あのーすいません。勝手に動かされると困るんですけど。」
恐る恐る、けれど迷惑そうな声に振り返る。
黒髪を高めにぐっと縛った女の子が、腕を組んで立っていた。
見るからに良い印象を持ってなさそうなのは気のせいか。
もともと地なのかわざとなのか、その口元は一文字である。
- 80 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:46
-
藤本は、とっさに制服で来なかった事を後悔した。
「あ、ごめん。でもこうしないと玄関まで進めなくって。」
「今片付けるつもりだったんです。でもどうやってこんな風にしたんですか?
重いからバラして一個ずつ運ぼうと思ってたのに。」
「あー…投げた。」
「ええっ!?」
これによって新垣の藤本へのイメージは、笑顔の似合うお姉さんでなく、やたらパワーのある怖そうなお姉さんとなるが、藤本はそれを知らない。
「と、とにかく!勝手に動かしてごめんね。迷惑かけたから手伝うよ。
コレはここに積んどけばいいのかな?」
取って付けたような笑顔は時として人を怖がらせる。
「手伝ってくれるのは嬉しいですけど、見ず知らずの人にされても困ります。」
けれど新垣里沙。年は若いが、事務所のなかでは右に出るものはいないしっかり者。
言いたいことはちゃんと自己主張が肝心。
「とりあえず、どちら様ですか?」
それから、ヤバイことと怖い人には関わるべからず。
目の前のギャルっぽいお姉さんは何だかちょっとケンカとか強そう。
人は見かけで判断しちゃいけないけど、見かけで判断した方がいい時もある。
- 81 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:46
-
そんな新垣をよそに、ギャルっぽいお姉さんはあれ?と首をかしげた。
「連絡いってないの?」
「連絡?」
つられて新垣の頭も45度に。
それから。
事務所に新垣の大声と、小川のやたら元気な返事と、紺野の間の抜けた
どうしたのー?が響くのは五分後のこと。
- 82 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:47
-
「まこっちゃん!電話があったらあったって言ってくれないと困るじゃん!
てっきり変な人が来たと思って。」
「変な人?」
「…いや、何でもないです。」
連絡はちゃんと届いていた。
でも電話をとったのは、偶然近くにいた小川らしかった。
小川いわく、電話の相手はやけに間延びした変な声だった。だそうで、
ぶっちゃけそんなことは実際問題どうでもいい。
しかも肝心の内容は、やたら古い洗濯機の騒音と大掃除の忙しさで聞こえず、
さらに小川も小川で適当に返事して切っていて、内容も半分くらいしか
理解していなかった。
そんなわけで、新垣から怒りの鉄槌が下されたわけだ。
- 83 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:47
-
少々ご立腹の新垣の頭を撫でつつ、そんな怒らなくてもとしょんぼりする
小川を横目に見て、紺野はむぅと唸る。
目の前でのんきにお茶を飲んでいる、警官に見えないけど正真正銘警官の
藤本さんの話を聞いていると、これはどうも仕事の依頼らしい。
しかも相手は国家機関。
仕事がくるのは嬉しいが、当然気になる事がいくつも出てくる。
スクラップにする仕事なら、それを説得して相手に譲歩させなければならない。
はたして国相手にそんな事ができるのだろうか。
いや、させてみせる。
「私が言うのも変なんですけど、何でウチなんですかね?
自慢じゃないですけど、ウチは知る人ぞ知る解体屋で有名ですよ。
もっとこう、優秀な人材が揃ってる大手の方が上手く解決できるんじゃ。
もちろんウチに来てもらえて、とても嬉しいですけど。」
- 84 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:48
-
紺野の正論に、藤本はアゴをぽりぽりとかいた。
空になった湯のみを手でもてあそびながら、こちらもむぅと唸る。
「美貴もよく分かんないんだけど、ただこれって秘密裏な訳じゃない?
大手なんかに頼んじゃったら有名なだけバレやすいっていうか…。
ああ、別にあなたのとこがマイナーって事じゃないよ?」
変なところで気を使う藤本に、いいんですと話の先をうながす。
「要するにこっちはなるべく公にしたくないってのが正直なとこ。
民間人を守る団体が、民間人に不信感を感じさせちゃダメじゃん?
まぁそうは言っても、こうやって民間人に協力要請してる時点でアウトなんだけど。」
苦笑いした藤本と目があった新垣が、ぴくりと肩を揺らす。
- 85 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:48
- 「ぶっちゃけたとこ、まだ具体的にどうするってのは美貴も聞いてないんだ。
後日また連絡が来ることになっててそれまでは待機みたいな。
あ、でも一つだけ絶対な事がある。」
「絶対な事?」
「一般市民を傷つけないこと。それと機体もなるべく傷つけないこと。
たぶんデータが衝撃で破壊されるのを万一防ぐためなんだろうけど…。」
そこまで言って、直後藤本は驚くことになる。
「なんて素晴らしい!やります!喜んで!」
拳を握り締めて目を輝かせる紺野と、それを諦めの境地で見る新垣、
それとまだどことなくしょんぼりしたままの小川がそこにはいた。
- 86 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:49
- 以下次回
- 87 名前:第三話 始動 投稿日:2004/04/18(日) 16:51
- 第四話 たそがれに走る
- 88 名前:作者です 投稿日:2004/04/18(日) 16:52
- とりあえず間空きまくりですいません。
>>76
ありがとうです。
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/22(木) 03:21
- 復活おめです。
- 90 名前:名無読者 投稿日:2004/04/24(土) 11:23
- 好きです。
- 91 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:53
-
慢性的な平和。たまに起こる不況に喘ぎながらも、生まれながらの適応力で
人々は変わらぬ毎日を過ごしていた。
不平不満を抱えてはいながらも、確実に平凡で平穏な日々。
そう見えた。
高橋にとってあの日のことはよく覚えていて、実は何も分からない。
ただ胸に残るイヤな気持ちと、心焼ける苦痛で悶えていたはずだ。
そうして現在彼女は一つの結論に至っている。
- 92 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:54
-
そこは静かだった。
『高橋聞こえる?』
短いノイズ音の後、クリアなハスキーボイスが耳に届く。
「…あ、はい。聞こえます。」
その場に何となく突っ立っていた高橋は、はっと我にかえった。
胸元に備え付けられたマイクを通して簡単な確認を行う。
いざという時に落ちないよう、固定がしっかりしているかもチェックする。
建物の中は蒸し暑い。
首筋をつたう生暖かい汗を拭うと、高橋は大きく息をついた。
町の喧騒がイヤホンから流れてくる。
- 93 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:54
-
『しっかし外はあちぃなー。体感温度とかすごそうなんだけど。
もうだめ。死にそう。高橋助けて。』
「無理です。がんばって。」
『…ちょっとくらい労わりの言葉ってのはないのかな?』
「…ああ、すいません。」
何言ってるんだか。
通信相手は、おそらくオープンカフェで偽セレブを気取ってるんだろう。
氷の涼しげな音と、後ろから聞こえるざわめきがそれを示している。
もっとも、彼女はそれが不服なんだろうが。
カフェなんてお洒落なところ、そういえばここ数年全く行っていない。
最後に行ったのは、誕生日を家族で祝ったときくらいだろうか。
昔の思い出が蘇ってきて、高橋は目を細めた。
それと同時に体にも力が入る。
- 94 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:55
-
「外は楽しそうですね。」
『そうでもないなぁ。ナンパうざいし。ったく人が下手にでりゃいい気になって、
追っ払うのが大変だったよ。これだからスカートはめんどくさい。』
高橋のイヤミにも取れる言葉を、通信相手は飄々と受け止める。
「仕方ないですよ。待機する場所そこしかないんですから。」
『分かってるって。それよりこれ終わったらどっか食べにいこ。
早くて安くてうまいとこ。なんか今いる場所緊張する。』
「了解。」
軽い世間話をしながらも、高橋は周囲の警戒を怠らない。
耳から聞こえる声が程よい緊張緩和になって、神経を刺激する。
- 95 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:55
- 今日の仕事は割と簡単だ。
動力源のスイッチを切って、バラしておしまい。
だから自然と高橋も通信相手もお互い軽口が出てくる。
外は昼だが、高橋がいる場所は少々薄暗かった。
大きくせり出した屋根が太陽光を遮り、人気のなさが不気味さを演出している。
高橋としても、正直こんな場所はご遠慮したい。
自慢じゃないがオバケも幽霊も大大大嫌いだ。
裂け目から差し込む、天国の光みたいな弱い明かりで、歩を進める。
「目標が確認できません。」
『もうちょい進んで。聞いた話じゃ奥のほうにいるって事だから。
大丈夫、動かないよ。明るい時間は活動できない。』
「分かりました。」
- 96 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:56
-
声に従ってさらに奥に進む。
前進するたびに明かりは少なくなり、冷気が高橋の体を包む。
それは高橋にホラーハウスを連想させた。
「不気味やなぁ…。」
そんな雰囲気だったのでケースを見つけたときには棺おけかと思ったほどだ。
「見つけました。」
『おっけー。んじゃ蓋あけちゃって。』
仕事と割り切って取っ手に手をかける。セキュリティーは掛かっていない。
これも話通り。順調にさくさくこなして今日は早く帰れそうだなと高橋は
思う。
二つ目までロックを解除。あと一つ。
バシュっという中に溜まっていた空気の抜ける音がして、扉がゆっくりと…
鳥肌が立った。
「!…いません。」
『…まずいな。周囲に気を』
聞き取れたのはそこまでだった。
首筋にふんわり風を感じても、振り向く時間など与えられない。
「っ!!ぐぅっ!!」
形容しがたい鈍い音をたてて、軽い体は硬い壁にぶち当たった。
- 97 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:56
-
極小の油断は、極大の代償で自身に返ってくる。
高橋のような小さくて軽い人間ならなおさらである。
『おい、大丈夫か!?』
高橋の体は崩れ落ちることもなく、かといって立っているわけでもなく。
要はつまり、壁にめり込んでいた。
くもの巣状に亀裂の入ったど真ん中で、サラサラの髪がこうべを垂れる。
「まったく…話と全然違うが。」
うめきと共に高橋の口から血がこぼれていく。
口内を盛大に切ってしまったらしい。内臓まで痛んでいないことを幸運と取る。
しかし高橋の左腕は、付け根からだらりとぶら下がったまま動かない。
どうやら先ほどの衝撃でおシャカになったようだ。
感覚はおかげさまで感じることはない。
右手で左手を引っ張り出し、体を抜いて地面に降りる。
高橋の小さな体がぐらぐらとふらついた。
- 98 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:57
-
高橋の頭に叩き込まれていること。
自分が人間である時点ですでに負けていると思え。
感情を持つこと。時としてこれ最大の欠点なり。
油断、慢心、恐怖は敗因以外の何者でもない。
常に平常心。冷静に動かないと痛い目を見る。
それもそのはず。だって相手はただの鉄の塊で、一つの目的を遂行することに
全力をかけるイノシシみたいな「物」なのだから。
大丈夫。まだ大丈夫。動ける。死んでない。怒るな。焦るな。
もちろん相手に無駄な動きは一切なく、的確に急所を狙ってくる。
急所。つまり頭・心臓などなど。一発ドカンの地雷危険区域。
当然の話。相手は人間ではないのだ。人情も同情もない。
ほら、今だってやたら尖った腕をこちらに向けて、もの凄い速さで。
やばい。
「っつ!」
首を思い切り傾けて、よける。
危ねぇと壁の一部を見てみれば、キレイにぼっこりなくなっていた。
紙一重のつもりだったが、高橋の頬には赤い液体が伝う。
生暖かい汗が背筋を滑った。
- 99 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:57
-
「あぁ、嫁入り前の顔になんてことするんや…。」
女の子の顔のケガは重大だ。
それにしても。思ったより厄介である。
あれが当たることは、イコール天国に召されるということだ。
さすがにこんなコンクリ臭いところで死にたくはない。
死ぬときはたくさんの花と綺麗な麗人達に見送られたい、と
高橋はぼんやり夢見る乙女な事を考える。
一方マネキン人形の形態をしたロボットは、先ほどの俊敏な攻撃から一転して
想像もつかない陳腐な動きを繰り返していた。
手首・肘・肩の関節をぐるぐると回す。
指を一本一本カタカタと動かし、首をがくりとひねったかと思うととんでもない
高さにジャンプする。
滑稽と言い換えてもよい動き。
だがその一つひとつが命をたやすく奪う強力なもの。
濃い目の肌色に赤い目をしたショーケースの花形は、見た目も
動きも異形の死神のような様相をさらしていた。
- 100 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:57
-
やはりメンテは、話どおり本調子ではないようだった。
アラのある動きはその証拠。
だが調子にのって、下手に手を出せば予測できない行動の餌食になる。
仕方がない。
「すんません。回線切ります。」
『あ、おい。ちょっ』
返事も待たずに高橋は通信機を放り投げた。
正直あまり使うつもりはなかった。だが状況が変わった。
通信を無断で切るのは規定違反だが、後々考えるとこっちの方がいい。
簡単だと聞いていたから迷っていたが、自分の判断は正しかったようだ。
ぐるりと頭を180度回して再び高速で向かってくる相手に対し
無防備に突っ立ったまま、高橋はにいっと笑う。
勘で仕掛けて、結果オーライ。
「あらかじめ下見しといて良かったわ。」
カチッという軽い音がした直後。
意外にもろかったらしい天井が、轟音と共に爆散した。
- 101 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:58
-
ここであまり関係のない話をしておこう。この仕事をするにあたっては
免許が必要になってくる。
職種によっても話は変わってくるが、一般にそれは甲乙丙の三つに分かれる。
それは当然の話で、一般人がおいそれと鉄くずにケンカを売れば、
怪我の問題じゃすまないというものだ。
だからきちんと区分がされている。
しかし近頃は、機械が機械と呼べなくなる時代になってきた。
優秀な科学者によっての開発、製造、知的競争。
ロボット、アンドロイド。
高橋の様な職種の人間にとっては、なんと余計な事をしてくれたと思わないでもない。
おかげで命をかける機会が増えた。
- 102 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:58
-
いくら科学が進歩しても、人間が作り出したものに穴は出る。
人の道具だったものがいつの間にか考えをもち、何かのきっかけで事故が起こる。
いくら素晴らしい人工知能も、それを作った奴が悪人なら本末転倒だ。
そんな事を叫んだ学者ももちろんいた。だが、多数決によって
その声は時代の波へと流されていく。
そしてその不安はまさしく的中することになるのだ。
ノーベルとダイナマイトのようなお話。
全くもってその通り。それは実際にこうして今起きている。
一体どうすれば。ならば壊せばいい。
壊してまたやり直していけば良いだけのこと。
人間は、創造物に負けることなどありはしない。
規定の知識と無限の体力・判断力・度胸があればそれでいい。
ハイリスクハイリターンで有名な最上級の免許はそうして生まれ、
またそれは、スマートな科学時代には不似合いな、何とも暴力的かつ
自分勝手なものに仕上がったのだ。
- 103 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:59
-
パラパラと石が落ちてくるその場は、異様に静かだった。
探索機のいかにもな小さな電子音でもやたらと響く。
高橋の手は、相手が一時的な状況判断を誤った瞬間、首根っこを掴んでいた。
その為だけに、爆発を起こした。
おそらく先ほど切った回線相手なら、クレイジーと拍手喝采ものだろう。
そのまま人間でいう大動脈部分の配線を引きちぎる。
有能な電子知能も、エネルギーという名の血液を抜けば機能は停止するものだ。
「はい、捕まえた。」
高橋はそれを驚くべき若さで取得していた。
彼女はつまりプロだった。
- 104 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 10:59
-
重量のありそうなそれを持ち上げたまま、なまくらな腕の方で
瓦礫の下から通信機を引っ張り出す。
激しいノイズをかいくぐって、少々不機嫌な声が伝わってきた。
もしかすると、またナンパされたのかもしれない。
『突然切んなよなー。ところで生きてる?』
「まぁ何とか。」
『そっか。そりゃ良かった。』
全く抑揚のない声が高橋の無事を祝福する。
「吉澤さん。」
『ん?』
「すいません。」
『ああ、別にいいよ。結果的に上手くいったし、通信切ったのは見逃してあげるって。』
「あ、いやそうじゃなくて。」
『はい?』
「左手に力入らんくて…使い物にならんでご飯はまた今度でいいですか?」
- 105 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/04/30(金) 11:00
-
いたって真面目な謝罪に、空気が止まる。
しばし無言の後、弾けるような笑い声が聞こえてきた。
『そっちかよ!あーはいはい。にしてもさ、高橋サン。』
「何ですか?」
『相変わらずぶっ飛んでるね。アタマ。』
それは吉澤らしい褒め言葉だったが、あいにく冗談が通じない人間もいる。
再び切った通信機を放りなげると、高橋は右手に力を込めた。
- 106 名前:作者です 投稿日:2004/04/30(金) 11:04
- >>89名無飼育さん
ありがとうございます。まだ周りがごたごたしているので
更新は二週間に一回のスローペースかと思われます。すいません。
>>90名無読者さん
そんなことを言ってもらえるほどえらくないです…。
でも嬉しいです。
ごめんなさい、ありがとう。
- 107 名前:作者です 投稿日:2004/04/30(金) 11:05
- _
- 108 名前:作者です 投稿日:2004/04/30(金) 11:05
- _
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/01(土) 04:04
- 小川と紺野にひかれて読み始めましたが、高橋かっこいいですね。
続きも期待してます。
- 110 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/16(日) 00:09
- お気に入りに登録して待ってます!!
作者様、頑張ってください!!
- 111 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/05/22(土) 00:09
- +++
仕事の連絡も無く、穏やかな日々が続いていた。そんな日の事。
キッチンのテーブルで小川に誘われて、紺野は暇つぶしにチェスなどをしていた。
部屋の一部を片した時ひっぱり出されたそれは、年代ものの趣を放って光っている。
小川のチェスの腕はなかなかで、紺野が勝てるのは3回に一度という程度だった。
負けるのは気持ちいいものでないが、元々チェスはそんなに得意では無い。
連絡がいつか分からないから、外出はしないで欲しいな。
待ってる時間があるなら他にやりたいことが、と出かけようとした紺野を藤本が
視線で殺してからしばらく。
笑顔が恐ろしいそのポリスウーマンは、長い手足をもてあまし気味にして、
狭いソファーで横になって眠っている。
連絡は来ず、かといって前の部署にいっても追っ払われるのが関の山。
藤本は仕方なく、毎日のように事務所に通い続けていた。
まさに給料泥棒万歳の現状である。
- 112 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/05/22(土) 00:10
-
軽く業務妨害気味の、訳の分からない権力で行動範囲を限定された事務所の
面々は、そうして白熱のボードゲームをキッチンで静かに展開していた。
「さすがにこんな何回もしてると飽きてくるよね。」
「じゃあ次から罰ゲーム有りね。」
「ええー?まあいいけど。」
ボードからは目を離さずにぽつりぽつりと会話のやり取り。
新しい刺激でもないと続けられない。
仕方なく時間つぶしにと始めた遊びにしては、すでに結構な時間が経過していた。
最初に小川と対戦していた新垣は、頭使う系はダメだぁ〜とあっさりとした
負けっぷりを見せて早々にリタイヤ宣言をしている。
それじゃヒマになっちゃうという小川に頼まれて紺野が交代したのだったが。
- 113 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/05/22(土) 00:10
-
「はい、チェック。」
「…洋物は苦手だ。」
これで三連敗。
結構悔しいかもしれない。
だあぁー!とキングを指で弾き倒した紺野を、えへらえへらと締まりなく笑う
小川が嬉しそうに眺める。
「約束だよ。罰ゲーム。」
「え?次からじゃないの?」
とぼける紺野に
「何言ってんの!いっつも言い出した瞬間からルールは適用されるとか言って
無理難題吹っかけてくるのそっちじゃん!」
あまりいい思い出がないのか、口をへの字にして小川が抗議した。
その様子では律儀に約束は守ったようだ。
- 114 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/05/22(土) 00:11
- 悲鳴に近い声に、むくりと藤本が体を起こす。
髪をがしがしとやった後に、やはり狭いソファーでは寝づらかったのか
手足をううーんと伸ばした。
「何、チェスやってんの?」
「藤本さんもやります?二人だけだとさすがに疲れてきたし。」
近づいてきた藤本にこれ幸いと紺野が話をそらす。
「じゃあ参加させてもらおうかな。紺野ちゃん相手になってくれる?」
「いいですよ。」
「ええー?」
声をあげる小川に、はいどいたどいたと紺野は手を振る。
「ちょっと、約束は?」
「守るよ。守るに決まってんじゃない。でももうちょっと後でね。」
「絶対貸しだかんね。」
押しに少々弱い小川はそうやって約束を次に持ち越す。
紺野がそれを守る確立は、小川の記憶力のみぞが知る。
- 115 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/05/22(土) 00:11
-
「はぁ!?あんたらそんなヤバイことやってんの?」
素っ頓狂な声に、紺野は大焦りで両手をいやいやいやと振った。
無言でチェスをするのも時間が無駄になるので、自分たちの仕事の
基本的な話をしていたところだった。
全てが全てを勘違いされると、とんでもない世界だと思われてしまう。
紺野はとりあえず煎餅を口に入れてから、ゆっくりと話し出した。
「って言っても、最もそういったケースは本当に珍しくて、大抵は処理工
で普通に働いたりしてます。でも、一部の変…冒険好きな人や、お金が必要な人は
そうせずにそれ専門でやっているみたいですけど。もちろん私は反対です。」
そこまで言って、紺野は黙りこくった。辛辣な表情を浮かべている。
それを横目に表現しがたい表情の藤本の、さらに横目で何とも平和な顔で
小川は番茶をすすっていた。
- 116 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/05/22(土) 00:12
-
とんでもないシステムの説明になおも、え?は?と声を上げ続け
藤本が頭を整理してまず最初にでてきた言葉は
「世も末だね。」
月並みだが、曲がりなりにも国に勤める人間が言うと、言葉の重みが違ってくる。
しかし、まさかこんな所でこんなぶっ飛んだ話が実際にあるとは。
これじゃ映画よりも刺激が強いよと思う。
そんな藤本を暖かく迎えていた小川は、さらにせんべいを
ぱりぱりとやっていた。
改めて新しい知り合いができたことに浮かれて、にんまりと頬を緩ませる。
これでちょっとは人手も増えて、こき使われる回数が減るというものだ。
仕事の時以外は、事務所の誰よりも温厚な性格の彼女は、
食べることの幸せを噛みしめながら、そんなことを考えていた。
- 117 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/05/22(土) 00:13
-
一人だけあははうふふな雰囲気を漂わせている小川をよそに
メタリックマニアとポリスウーマンの深刻な会話は続く。
「もともとそんな乱暴な行為を認めるのがおかしいんです!
もっとこう、誠意のある行動を起こすことが必要です。
だって、機械を作ったのは私たち人間なんですよ?なのに
都合が悪くなったら捨てるだなんて非常識にもほどがあります。
そりゃあ、利益の問題があるのは確かですけど、そこを何とか
上手くするのが国の役目っていうか。そうですよね!藤本さん?」
熱弁する紺野の拳に力が入るが、怒りの矛先が少々変わってきた。
バンっと手をテーブルに叩きつけたせいで、チェスボードがカタカタと揺れる。
- 118 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/05/22(土) 00:14
-
「あさ美ちゃーん!電話。」
食ってかからんばかりの勢いで同意を求める紺野を戻したのは
新垣の声だった。
「あ、連絡かもしれないですね。」
そう言うと、よいしょと立ち上がってスタスタ歩いていく。
あまりの豹変振りに、紺野が立ち去った後もなお藤本はぽかんとした表情で
見送っていた。
見かねた小川が番茶を出して薦める。
「大丈夫ですか?」
「紺野ちゃん、大人しいと思ってたけど興奮するとあんななんだ。」
「機械とか絡むといっつもあんな感じですよぉ。何たって第一主義ですから。
まぁじきに慣れると思うけど。」
しかしいろいろと驚いたなとつぶやく藤本に、小川もうんうんとうなずく。
「全くその通りですね。」
「ほんと…ってあんたの仕事の話じゃん。」
あ、そうだったと笑う小川につられて藤本も笑い、結局しばらく訳の分からない
爆笑の波が二人を包み込んで収集がつかない状態になった。
つまり良くも悪くも藤本はこの事務所の空気に徐々に慣れてきていた。
- 119 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/05/22(土) 00:15
- 落ち着いたところでじゃあさ、と藤本は続ける。
「あたしでも免許取ろうと思えばできるんだ。」
「うーんそれはちょっと無理かなぁ。」
「何で?」
「ある程度といっても専門知識がいるし、それに…。」
柔らかい表情を急にしかめた小川の様子に、藤本がその先を聞こうとした時
「連絡来た!出ます。」
紺野が走ってきた。
表情は険しい。
「うぇ!?ああ、うん。」
「話は後で、とりあえず行こう!」
結局チェスの勝敗はおあずけに、三人は事務所を飛び出した。
- 120 名前:作者です 投稿日:2004/05/22(土) 00:19
- >>109 名無し飼育さん
出てくるキャラが全て愛されたらいいなぁと思ってます。
- 121 名前:作者です 投稿日:2004/05/22(土) 00:20
- >>110 紺ちゃんファンさん
登録されるほどでは…でも嬉しいです。ありがとうございます。
- 122 名前:作者です 投稿日:2004/05/22(土) 00:21
- _
- 123 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/23(日) 00:00
- >121作者です 様、
お礼を言われるようなことは・・・。こちらこそありがとうございます。
これからも更新がんばってください!
期待大です!!
- 124 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:53
-
嵐のように三人が事務所から飛び出していったその後。
受話器を押し付けられた新垣も慣れたもので、そのまま切ろうとした。
『もしもし?あれ聞こえますか?もしもーし。』
話は終わったと思っていたら回線はまだつながったままであったらしい。
紺野の代わりに出る。
「あ、はいはい。ごめんなさい何ですか?」
『あらっ、声が違いますね。まだ伝える事があるので紺野さんお願いします。』
「えーと、それが早速出かけちゃったみたいで。」
『あらぁ。』
なんとも緊張感のない声だ。
- 125 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:54
-
聞き取りづらいのでぴったりと耳に押し当てる。
思ってみればいつまでもアナログなのはいかがなものか。
他のご家庭にはあるテレビ電話もないので顔は全くわからない。
一体どんな顔してるのか見てみたい気もする。
それにしてもあさ美ちゃんもせっかちだな。人の話は最後まで聞かないとだめじゃんか。
事務所一せっかちで人の話を聞かないテンパり屋が行っても説得力がないが。
自慢の長い黒髪を指に巻きつけながら、普段通りに応対する。
「何なら代わりに伝言しますよ。」
『ああ、実は藤本巡査の部下にといいますか、一人じゃ何かとあれかと思いまして新人
行かせたんですけども。その子も連れて行ってもらうようお願いしたかった訳ですが
来てませんか?あ、でももう遅いですよね。』
「遅いですね。」
今更気づいたと言った感じの笑い声が受話器越しに聞こえて、つられて新垣も
笑い声をもらす。
『まずいなぁ。死んだらどうしましょう。』
笑い声はそのまま固まった。
- 126 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:54
-
+++
風の流れが鼻に触れて頬に伝い、髪を通り抜けて後方へ消えていく。
ランダムに目まぐるしく変わる景色を眺めながら踏みしめる足が、
またひとつ強く地面を叩いた。
「あさ美ちゃん!どこ向かってんの?」
後方からのいつも通りな声には振り向かず、着けば分かるとだけ叫び返してスピードは
さらにぐんと上がる。
少し距離のできた背中に追いつこうかどうしようか迷う小川。その後ろからはゼイハァと
荒い息。
短距離に得意な人にはよくある、長距離ドンケツ必負法の疲れた顔した藤本がそこに。
なんだこれ、ありえない。軽く二、三キロ全力で走ってるよ。
言葉にできなくても言いたいことは見れば分かる。
- 127 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:54
-
貧乏な紺野らに交通機関の利用という選択肢はなく、またそれは時に距離によって、
足で移動するよりも時間がかかったりする。
必然的に長距離の得意な簡易マラソンランナーの出来上がり。肺活量と食欲も右肩上がり。
藤本を気遣う小川はスピードを上げ下げしてのオーバーワーク気味であるし、紺野にいた
っては、荷物を抱えての移動だけに半端ない負荷があるのだが。
白い頬に涼しい顔して赤信号手前のコーナーを曲がっている。
日々の積み重ねっていうのは凄いですね。
二人がよく食べる意外な盲点が、ここにひとつ。
- 128 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:55
-
『まだ犯人は分からないんですが、以前とある波止場でトラックがバラされてましてねぇ。
ご存知ですか?あら偶然。ええ、その場所なんですけどね。そこに行ってもらいたい訳
なんですよ。よろしくどうぞ。』
待ち焦がれた受話器越しの恋人ならぬ依頼主さん、はのんびりした間延び口調で
突然の仕事命令をお下しになられた。
波止場、トラック。キーワードから思い出されるのは、先日小川がカーボーイさながらに
乗り回した暴れ牛ならぬ暴走トラック。
その後に続いた犯人、修理費、賠償の地雷キーワードには聞こえないふり。
新垣に受話器を押し付けるように渡して、事務所を飛び出した。
今頃お怒りかもしれない。
- 129 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:55
-
踏み込むたびにカバンの肩掛けが食い込んで痛い。紺野自身のスキンより手入れが
行き届いた道具達が、今日もその中に押し合いへし合い収まっている。
目的の場所まであと少し。このペースなら五分とかからない。
体というのは不思議なもので、一度止まってしまうと次に動かすときはとてつもなく
重たく感じるもの。5キロまるまる走るよりも休憩を入れて2.5キロを二回走るほうが
よっぽど辛く感じる。
紺野の目の前の信号は赤。この時間帯の車の交通量はたかがしれている。
一刻も早く目的の場所にたどり着きたい。立ち止まるとつらい。急がなくては。
「くぉらぁ!!赤信号は渡ったらダメだろうが!!」
突き抜ける怒声に初めて、止まることを知らなかった紺野の足がビタッと静止した。
- 130 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:56
-
遠くから聞こえる車の走行音は振動となって、計算された美しく平たいコンクリートの
表面を響かせる。どこかがひび割れて雑草が顔をのぞかせることは、今じゃ除草剤散布の
繰り返しで、砂漠できな粉を見つけることくらい珍しい。
先ほどまで感じていた風を失って、代償にうっすら汗がにじんでくる。
夕方は近いのにやたらと暑い。小川は服の袖で流れてきた汗を拭った。
でもこの調子なら今日も洗濯物は綺麗に乾いているだろう。目に入ってきた民家の
ベランダではためくシャツを眩しく眺める。太陽が暑い。
遠きビルに日は落ちそうで落ちなくて、星は空を散りばめる以前に見えたことがないけれど。
昼と夜いう世界の境目にあるこの空間は、人間の能力の有り方を正しく捉えにくくさせる。
刻々と変化していく様々な色の変化に、視覚の判断が対応しきれないためだ。
この時間帯のことを一般的にたそがれの刻というらしい。
三人以外に人などいないのに、律儀に信号待ちするこの状態を小川はおかしく思いながら
けれど決して嫌ではなかった。
怒鳴ったせいで最後の酸素を使った藤本が、いまだに肩で息をしていても。
急に立ち止まったせいでつんのめった紺野の頬が、いつも以上に膨れていても。
- 131 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:56
-
信号をF1のランプよろしく、スタートダッシュもそこそこに走ってきた波止場。
三人の目に映ったのは、もうもうと煙を上げる大型車両とコンテナ、そして小さな少女だった。
「…何だコレ。」
つぶやく小川の足元には飛び散った金属片が散乱している。
どうやったらこんなに細かくなるのか、そう思うくらいの飛び散り方。
走り疲れていた藤本も、思わず息を止める。
「・・・愛ちゃん。」
苦い顔をした紺野の声に、振り返った少女は眉を寄せた。
一日の最後を締めくくる太陽の灯火が、赤々と鉄コンの地面を照らし出して
高橋の黒い影を長く引き伸ばしている。
足元。そこに散らばる部品もアカ、あか、赤の色。
それはある種幻想的でもあり、またどうしようもなく虐殺的でもあった。
- 132 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:56
- 紺野の目に映る殺戮者は、左腕をぐるりと回す。
「なんや、またあさ美か。」
「一体何したの!」
「何って仕事に決まってるが。」
小川と藤本には、目の前の少女が紺野とどういう間柄なのか分からない。
だが明らかに二人の温度差は違っている。
黒髪の少女は怒声にも無表情で、片やもう一方の黒髪も無表情ではあったが
その拳は強く握り締められていた。
小川は思う。あさ美ちゃん、きっと、絶対怒ってる。
よく考えてみなくてもおかしかった。
どうしてこの場所に自分たち以外の人間がいるのか。内緒の仕事ではないのか。
何が何だかわからない。会話から紺野が目の前の少女と知り合いであることだけは
小川にも理解できた。友好的とは言いかねるが。
こんな顔する紺野をみるのはいつ以来か。それとあの少女。
- 133 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:57
-
「あんた誰に頼まれた?」
藤本が一歩前にでた。ポケットに手を突っ込んで、視覚的に威嚇する。
おそらくこの場をこんな風にしたのは、目の前の少女だろう。
そしてそんなことができるということは、紺野らと同じ解体屋であるに違いない。
問題は誰がそれを指示したのか。
万一頼んでいたとしても、こんなド派手な解体ショーやらかすようなバカなことは
さすがにあの童顔女上司もさせないだろう。目立ちすぎる。
高橋はそんな藤本を一瞥すると、目線も合わせずに言葉を投げ出した。
「知らない。あたしは上がよこした仕事をこなしてる。それだけや。」
少女の通りすぎる甲高い声は、聞いている人間の耳に不快感をもたらす。
一つひとつの響きがそっけない。
- 134 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:57
-
「愛ちゃん。」
拳は握り締めたままに、紺野が高橋に呼びかける。
おそらくは怒っているはずであろうに、どこかその顔は辛そうだ。
「あさ美が何を言おうと、あたしのやることは変わらん。」
「気になってたことがあった。あんなに物を作ることが好きだった愛ちゃんが
久しぶりに会ったらなんでこんなことしてるのか。・・・もしかしてあの事故で」
「うるさいな。」
初めて高橋の表情に影がさした。瞬間、身を翻して走り出す。
「待って!」
それを紺野が追う。二人の姿はあっというまに夕闇に消えていった。
- 135 名前:第四話 たそがれに走る 投稿日:2004/06/22(火) 01:57
-
「あ、ちょっと!」
「待って。」
後を追おうとした走り出しかけた藤本の腕を小川が掴んでいる。
藤本は首をかしげた。
「追いかけなくていいの?」
「大丈夫だと思います。」
追いかけるより先にそれよりも藤本に話しておきたかった。
小川の予想が当たっているなら、おそらくあの少女は。
「あの、さっきキッチンで言ってた話ですけど…。」
「え?」
いつになく真剣な表情で小川は空を振り仰いだ。
「甲の免許を持ってる人は、人間じゃないんです。」
昼と夜の狭間はよりいっそう華やかに。太陽と月が出会って別れる一瞬が
もうすぐ終わりを告げていた。
- 136 名前:作者です 投稿日:2004/06/22(火) 01:59
- 以下次回
- 137 名前:作者です 投稿日:2004/06/22(火) 01:59
- 第五話 さよならとこんにちは
- 138 名前:作者です 投稿日:2004/06/22(火) 02:01
- >>123 紺ちゃんファンさん
更新は相変わらずのスローですが…許してください。
ありがとうございます。
- 139 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/22(火) 19:44
- 138>作者です さま。
いえいえとんでもない!!
この小説(?)はとっても素晴らしいですよ!
更新、いつもどうりがんばってくださいm(__)m
- 140 名前:まこちゃんファン 投稿日:2004/06/26(土) 12:13
- ほ
- 141 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:36
-
昔々あるところに浦島太郎という男がおりました。
その男はある日、海岸でいじめられていた亀を助けて、竜宮城に連れて行かれました。
乙姫様は言いました。
「ここで一生楽しく暮らしましょう」
浦島太郎は言いました。
「そうしたいがそうもいかない。家族が私を待っている」
乙姫様は仕方なく玉手箱をプレゼントしました。
浦島太郎は亀に連れられてもとの海岸へとたどり着きました。
数年前あるところに紺野あさ美という少女がおりました。
その少女はある日、教室で一人だった女の子に声をかけて、体育館裏に連れて行かれました。
女の子をいじめていたお姉様は言いました。
「こいつにかまうな」
紺野あさ美は言いました。
「そうしたいがそうもいかない。あなたはこの子の製作品を壊しました」
お姉様は仕方なく右ストレートをプレゼントしました。
紺野あさ美は女の子に連れられて保健室へとたどり着きました。
- 142 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:37
-
高橋は今でのその状況をまざまざと思い出せる。
その状況はひどく切迫して緊張していたのに、ひどく滑稽な悲劇だった。
いじめられている自覚はなかったが、当時を客観的に見れば高橋は疎外されていた。
それは高橋の自己主張の強さや、ポテンシャル差のひがみから来るものが強く
つまりはいじめる方いじめられる方の両方に欠点があって、直す努力もしなかったので
よろしくない方向へと流れていってしまっていたのだろう。
いじめが起きる理由なんて、そんなものなのかもしれない。
とにかく、高橋にとってその日は、初めて呼び出しなんてものを受けてしまった日だった。
そして言いかえれば、紺野と出会った日でもあった。
- 143 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:37
-
高橋の目に映った紺野は、非常に完璧にお姉様渾身のストレートを受け止めていた。
ただしお見事にも、その額で。
どうやら手で受け止めようとして失敗したようだった。
その証拠に、紺野の右手は催眠術を掛けるかのごとく突き出されていたから。
いや、もし紺野が最初から催眠術をかけるつもりなら、それは成功していたのだろう。
彼女の口癖のごとく。女の子の――高橋の心に。
「あぁあぁああー!!いったー!!」
普段大声を出さない人が大声を出すことは脅威となる。
紺野はそのままの体勢で、眉毛を八の字にさせて叫ぶ。
ただ単に痛かったのか、相手をひるませる為なのか、とにかく「この人痴漢です!!」
と電車で叫ぶくらいの威力を、このときの紺野の声は持っていた。
- 144 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:38
-
紺野はぽかりと口を開けた高橋とお姉様方に泣き笑って見せる。
そこからは、見るも鮮やかな逃亡劇だった。
紺野の叫び声の大きさにひるんだ取り巻きの腕を、軽くひねって倒す。
人間が面白いように背中から崩れるのを、高橋は初めて目の当たりにした。
我に返ったお姉様のパンチを何とか受けて、そのままボーリングのピンを倒すように
遠心力で仲間にぶつける。
紺野は高橋が眼中にあまりないらしい。思いっきりぶん回したので横っ飛びに
逃げなかったらストライクに巻き込まれるところだった。
そうして、そこまでしておいてから、相手立ち上がるのに手間取っている間に、
紺野は高橋の腕を掴むとスタコラ逃げ出したのだった。
喧嘩なんて初めてしちゃいましたとか言いながら。
あれを喧嘩と呼ぶのかどうか、高橋にはちょっと分からない。
- 145 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:38
- ただ覚えているのは、高橋の腕を掴んでいた力が思ったより強かったこと。
安堵感より先に、言葉が高橋の口からこぼれていたこと。
「大丈夫?」
「何が?」
「おでこ」
「え?……うわぁ!?」
初めての会話はそんな感じで、それからの二人はお互いを認識の範囲に置くようになる。
そして紺野の額には、しばらくの間どデカイ青紫が残ることになったのだった。
- 146 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:39
-
「愛ちゃん!待ってよ!」
「愛ちゃん、あの事故のとき何があったの?この仕事してるって事は
もしかしてと思ってたんだけど…」
紺野の言葉はそこで切れる。
久しぶりに再会した紺野の話を聞いてからというもの、高橋はどうしようもない
ムカつきを心に感じていたのだ。
振り返った高橋の鋭い視線が全てを肯定していた。
- 147 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:39
-
「あの日のことは忘れられん。いや、忘れたらダメなことや」
高橋は後悔したのだ。
自分のしてきたこと、目指していたことの末路はこんなことだったのかと。
後悔したきっかけの痕跡は、高橋の左腕左足を含む細部に刻まれている。
瞼をじっと閉じて、高橋は頭の中で何度も繰り返してきた映像をリプレイさせる。
思い出さない日はない。思い出したくない日も何もない。
脳内レコーダーは、今でもその映像だけをピンポイントでエンドレスリピートしてくれる。
あの悲鳴。
二度とは忘れない。
そこまでして目を開くと、高橋はめんどくさそうに顔をしかめた。
思い出すと嫌な気分になるのに、思い出さないと落ち着くことはできない。
- 148 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:40
-
「全部が正しいなんて言わん。でもあさ美のしてることはあたしにとって正しくない。絶対に」
唐突にあっさりとタレ目のエゴイストに向かって言い放つ。
あんたのは偽善だ。しかも誰にもありがたがってもらえない、全くもって無駄使いな
偽善だと。
頑なに拒否する瞳は、紺野の意思さえも解体しようとする勢いで。
ポピュラーな浦島太郎の末路は誰だって知っている。
紺野も、玉手箱を開けて後悔した浦島太郎のように、自分のしていることの過ちに
気づいて、その無意味さに後悔すればいいのだ。
- 149 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:40
-
「悔しかったら殴ればいい」
予想通りの紺野の無反応に、高橋は軽く笑ってこう言ってやる。
「無理にきまってるか。何たってあさ美の大好きな“機械”やもんね」
今度は反応した紺野を見て、やっぱりなと高橋は思う。
左腕の調子が悪いんだ。早く家に帰りたい。無駄な気遣いなんていらないよ。
- 150 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:40
-
愛ちゃんもでしょ。と言いかけて紺野は口をつぐんだ。
暑苦しいブラウン色の上着をはためかせながら、過去と現在と状況を把握する。
無駄な声かけも、罵声をあびせる演技めいた前置きも必要はなさそうだ。
高橋は、紺野がなぜ自分を追ってきたか分かっているらしい。
「あさ美の一番大事なものはわかりやすいわ。相変わらず変やね」
「愛ちゃんに言われたくない」
「あさ美ほどじゃない」
それにしても思ったことはズバズバ言っていたあの愛ちゃんがまさか皮肉を言うとは。
紺野は夕陽の眩しさと思考に目を細める。
しばらく会っていない間で人は変わるのか。それとも人を変えるだけの力があの事故で
あったのか。
少なくとも今、紺野の目の前にいる高橋は以前の高橋であってそうではなかった。
その証拠に高橋はストレートでなく、軽いカーブの変化球を自分に投げかけてきている。
- 151 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:41
-
「聞きたいことあるんやろ?顔見ればわかるわ。
追いかけてきたのもあたしが心配でとかそういう理由じゃないやろ?
あたしが生身の人間であるか、そうでないか確かめたかっただけなんやろ?
あたしが心配なだけやったら、あさ美はあの場に残ってるやろうしね。
めんどくさい前口上はいいから聞きたいこと聞きねま。あたし早く帰りたいんやって」
ぷいっと明後日の方向を向いて紺野は小さく「やっぱバレてたか…」とつぶやいた。
青春群像劇みたいな爽やかな気持ちもなくはないが、ほとんどは自身のよこしまな所が
占めていたのは認めるところである。
紺野はあくまで紺野であって、万物の女神のような優しい人間ではないのだ。
「分かった。でも、これだけは言わせてよ。私あれからずーっと考えてたんだ。
愛ちゃんのこと嫌いじゃないし、でもその愛ちゃんは私の大嫌いな商売してるし、
すごい腹立つけど、さっきのこと見ても愛ちゃんには怒れないよ。
そんな自分がわかんない。けどなんでだろ、自分で言うのも変だけど、私ってとことん
機械が関わってくるとダメみたい。よく皆におかしいって言われるよ。慣れたけど」
- 152 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:41
-
はぁーと自嘲気味に肩を落としてみせるが、抜け出すことはこれから先もないのだろう。
下げられたままのカバンの中身がそう、音のない声を発している。
それが聞こえるのか聞こえないのか、紺野は唐突にその前置きも何もばっさり切り捨てて、
単刀直入直球ボールをキャッチャー高橋に投球する。
「で、どのくらいやった?」
「だいたい半分ってとこやの」
「そんなに…」
一瞬、紺野の表情がゆがむが、まだ知りたいことがある。
「もうひとつ。機械をどうしたいと思ってる?」
「大嫌い。できることなら全部叩き壊したいわ」
- 153 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:42
-
紺野の想像が外れることもなければ、高橋の気持ちが変わることも当然なく。
また、紺野の選択が決まってしまうのも当然の、用意されたような会話だった。
「ごめん。私、愛ちゃんを選べないや」
「やろうね」
そんなことハナから分かってたという体で高橋は頷く。紺野も同じだった。
「聞きたいことはそんだけやね、帰るわ。もうついてこんといての」
「あっ、愛ちゃん。体どっかで痛めてるでしょ?その左腕早めにメン」
「余計な口出しせんといて、これでもあたしはちゃんと人間なんやで。自分のことくらい
自分でできる」
矢つぎばやに言葉を繋ぐと、相変わらずのそっけのない声で高橋は紺野に背をむけた。
これ以上話すことはないという雰囲気がありありと伝わって、紺野は仕方なく黙った。
- 154 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/07/11(日) 15:42
-
高橋は理解できるのに、わざと分かろうとしない。
目に見えて前途多難な友人の遠ざかっていく背に、紺野はなんだかなぁとつぶやく。
そうして、粉々になったトラックをどうにかできる方法に、思考を巡らせはじめた。
浦島太郎は本当に後悔していたのだろうか。陸に上がった時、あまりの時代の流れに
絶望して途方にくれたのではないだろうか。そして、玉手箱の煙によって年老いた時
心のどこかでほっとしていたのではないだろうか。
それは後悔ではない。
- 155 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/11(日) 15:43
- 以下次回
- 156 名前:作者です 投稿日:2004/07/11(日) 15:46
- >>139 紺ちゃんファンさん
更新しました。いつもありがとうございますです。
>>140 まこちゃんファンさん
サンクス!
- 157 名前:作者です 投稿日:2004/07/11(日) 15:46
- _
- 158 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/11(日) 20:31
- 156>作者です さま。
こちらこそ。あなたも、これからもがんばってくらさい(笑)
更新をマターリと待ちます。
- 159 名前:作者です 投稿日:2004/08/07(土) 01:06
- すいません私情でしばらくPCの無い環境に行くことになりました。
10月あたまには帰ると思われます。
ものすごい更新ペースです・・・。申し訳。
≫158紺ちゃんファンさん
読んでいただけるだけでありがたいです。
- 160 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/07(土) 20:04
- 159>
はい!待ちます!10月まで、がんばって待ちたいと思います!
- 161 名前:ほしお 投稿日:2004/10/09(土) 20:45
- とっても面白いですね。一気に読んでしまいました。
作者さんの更新、楽しみに待ってまーす!
- 162 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/10/14(木) 01:58
-
人間が機械に立ち向かうというシステムが明らかにおかしいということは
誰もが思うところではないだろうか。
どう肯定的に捕らえても、危険にさらされることに変わりはない。
安全性を求めて、月でも人間の代わりに探索ロボットが開発された時代なのだ。
代えの利くパーツを持つ機械とは違って人間は生身であり、五臓六腑の部品だって
易々と取り替えられるものではない。どうしようもなくデリケートなのだ。
生き物なのだから当然である。
なのにどうしてこんな現状なのか。
機械には機械で対応すればよい。誰しもがそう思っていた。
数年前、今のシステムの発端となる、小さなトラブルが生まれる。
防犯用ロボットの機能不良。
不運にもロボットの近くに置かれていた花瓶は、その短い生涯を閉じることになる。
被害はほとんどなくけが人も全く出ることはない、ニュースにもならない出来事だった。
たわいもない世間話のタネにしかならない。
- 163 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/10/14(木) 01:58
-
――ちょっと聞いてくださる?ウチの近所でロボットの故障があったらしいんですの。
それで、大事な花瓶が割れちゃったってあの家の奥さん嘆いてましたわ。
――あらまぁ、家を守るロボットが家の物を壊すなんて世話ないですわね。
あははは、おほほほ・・・
――で、うちの子の話なんですけど・・・
そのロボットはすぐに修理に出され、故障箇所を直して再び門番としての機能を果たすのだろう。
気づくか気づかないかの、小さな不安を残して。
- 164 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/10/14(木) 01:58
-
それからしばらくして、あの事故が起きた。
あの事故とは高橋を変えた事件でもあり、解体屋という職業が後々フォーカスされる原因
でもあり、その他もろもろに影響を与えたものだったが、内容はさしたるものではない。
ただ運悪く、人の記憶に大きな影を残しただけだ。小さな不安を媒体にして。
まぁとにかく。
小さな恐怖は長い時間をおいていつしか決定的な危機感へと増長する。
白いオセロも黒に挟まれれば黒になる。いつ白が黒になるかわからない。
絶対な金属の固まりも、扱う者・置かれた環境によって絶対ではなくなってしまう。
人間を守り助けるものが、何かの拍子で180度変わってしまうかもしれない。
自分たちの作ったものが信用できないとはお笑い種かもしれないが、
もし、万一、たとえば、そんな接頭語のつく話はいくらだって考えてしまう。
よくも悪くも人間は生き物だ。
デリケートで、繊細で、とても神経質な。
そうして解体屋と呼ばれる「人間」ができた。
- 165 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/10/14(木) 01:59
-
「機械人間ってこと?」
「平たく言うとそうです」
聞いたことはある。
重度の障害を負った人間に皮膚や筋肉は与えず、代わりに金属体を組み込むのだ。
長期間リハビリを繰り返して手足がやっと動くようになる生身の体とは違って、金属体を
埋め込んだ体は、短期間のリハビリで元の生活に戻れる活気的なものらしい。
でもそれはあくまで医療の話だ。
組み込む金属体も普通の運動機能を想定したものである。
「用はそれの凄いバージョンみたいなことだね」
「きっとさっきの子もそうなんじゃないかなと思います」
- 166 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/10/14(木) 01:59
-
半分は生身、半分は生きていない金属。
人間ではないパワーに対抗するには、人間にはないパワーが必要だ。
おそらくあの少女もそんな力を手に入れたのだろう。
砕けた残骸を横目に小川は確信的に近いものを感じていた。
それをふうん、と眺める藤本が何とはなしに疑問を口にする。
「え、じゃあもしかしてあんたら二人も?」
「あ・・・えーと・・・それは、そのう」
「?」
「怒らないで下さいね?」
「何が?」
「あたしらは・・・いわゆるモグリっていうか」
「・・・・・・はあ?」
「免許とか持ってないです。てか取れないです・・・ハイ」
「・・・・・・」
「いや!ち、違うんだって!」
慌てた小川が、オーバーリアクション気味に手を振りながら言い訳する。
- 167 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/10/14(木) 02:00
-
「だって仕方ないじゃないですか。ケガしたわけでもないのに機械組み込んでなんていう
人病院じゃ相手にしてくれないし。追い返されるのが関の山ですよ。あ、いや、病院じゃ
なくてもそういう裏医者みたいな人いますけど・・・でも、すんごい高いお金がいるし。
あたしら貧乏だから払えないし。えーと、なんていうか・・・それでもあさ美ちゃんはそうい
う人達を憎みきれないんですよ。自分の好きなものを壊してるヤツも、自分の好きなものだから。」
小川はそこまで言って、うぅんと作った困り顔をした。
- 168 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/10/14(木) 02:00
-
「上手く言えないけど、普通にやってちゃダメなんですよ。普通にやってちゃ追いつかないんです。だってだって・・・」
「あーうん、分かったから。分かりました」
まさか小川さんちの貧乏事情が明らかになるとは思っていなかった藤本は、ストップをかけた。
あんまり聞かないほうがいい話も、世の中にはある。
「ほーんとうちの所長さんは変なとこ律儀っていうか、ここまで来ると病気ですね。」
全然困った風に見えない顔で、支離滅裂な話で、小川はそんなことをのたまう。
- 169 名前:第五話 さよならとこんにちは 投稿日:2004/10/14(木) 02:00
-
「まぁ、いろいろ良く分からないけども。美貴も上から言われて来た訳だしさ。大丈夫なんじゃない?」
「そうですかねー。でも無免知られてるって、それはそれで微妙ですよ。あさ美ちゃん気
づいてないだろうけど」
「いざ何かあった時にも訴えられないとか考えたのかもねー・・・・・・意外と狡賢いなアイツ」
「うはー」
「・・・でもさぁ」
「何?」
「そこまでするか普通」
「さぁ」
小川の危機感のなさそうな返事に、藤本は軽い殺意を覚えた。
その時だった
コンテナの扉がひしゃげる、不気味な音が辺りに響き渡る。嫌な音だった。
びくりと二人の肩が揺れる。明らかにトラックの炎上音ではない。
「…何の音?」
夕日はとうに沈み、夜が主役になる時間がもうすぐやってくる。
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/14(木) 02:02
- 以下次回
- 171 名前:作者です 投稿日:2004/10/14(木) 02:04
- やっと帰ってくることができました。
>>160 紺ちゃんファンさん
ありがとうございます。少ない更新量ですが、一応切りのいいところで切らせて
もらいました。
- 172 名前:作者です 投稿日:2004/10/14(木) 02:05
- >>161 ほしおさん
うはー、ありがとうございます。暇つぶしになってたら嬉しいです。
- 173 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/10/14(木) 18:52
- おー、ついに戻ってきてくれたんですね!まってました!
って藤本さん・・・怖いッス・・・。
ってうおお!?どどどどうした!?
夜が主役・・・なんだか意味深なかんじな・・・(違
次回更新を楽しみにしていたいと思います。
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/20(月) 01:34
- 結局放置か…
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