居場所
- 1 名前:山羊太 投稿日:2003年08月16日(土)20時12分02秒
- 初めまして。誤字脱字至らない点が有りますと思いますが、のんびり書かせて頂きます。
- 2 名前:山羊太 投稿日:2003年08月16日(土)20時22分31秒
- 人生がつまらないと言えば、そこで何もかも終わってしまうかもしれない。
学校には友達もいるし、笑って過ごしている方だ。
だけど、なぜだろう?皆との間に見えない境界線が有るのは。
知らない間に壁を作っている。
最近、何が一番楽しいかと言うと、本を読んでいる時間だ。
カードさえ持っていなかった図書館に、連日行くようになった。
本を読んでいる間は違う世界に行けるような気がして。
自分が別の人間になっている気がして。
だって本の中には後藤真希と言う存在はいないから。
そんな自分に嫌気がさしている今日この頃。
- 3 名前:山羊太 投稿日:2003年08月16日(土)20時32分11秒
- 学校も終わり、帰り支度を整えていると、後ろから真希を呼ぶ声が。
この声の主は・・・悪友の吉澤ひとみ嬢。
「ごっちん、今日暇?」
「ごめん、ちょっと用事」
ひとみの誘いを断ってまで行くのは、古本屋。
この前、偶然見つけたその店は、図書館にも置いていない本がズラリと並ぶ。
お小遣いも入ったことだし、何か買おうと朝から意気込んでいたのだ。
もしかしたら、素敵な世界を見られるかもしれない。
でも、友達より古本屋優先って・・・ちょっとやばめかも。
- 4 名前:山羊太 投稿日:2003年08月16日(土)20時46分21秒
- うら若き女子高生が、放課後に古本屋さん。
これだって一つの青春だ。
少し迷いながらも、辿り着いた古本屋。
木で出来たスライド式のドアを開け、薄暗い店内へと入り込む。
「お、お邪魔します・・・。営業中だよね」
真希以外の客の姿が見当たらない。
初めて来た時は、2,3人ぐらい人が居てたので、感じなかったが
静まりかえった薄暗い店内は、はっきり言って不気味だ。
不安になりながらも奥へ進む。
や、休みならドアは開かないはずだしね。
店員さんは・・・何処だろう?
挙動不審に辺りを見回す。
「何かお探しですか?」
「うわぁぁ!!!」
不意に声をかけられて、思わず叫んでしまった。
恐る恐る振り返ると、そこに女の人が立っていた。
年は、同じか上か下か・・・わかり辛い顔立ち。
背は真希より低く、にこにこ笑顔。
多分、この人が店員さん?
- 5 名前:山羊太 投稿日:2003年08月16日(土)21時01分13秒
- 「べ、別にこれと言った探し物は・・・」
と言うか、探していたのは店員さんの存在。
なんて言える訳もない。
「良い本が無いかなって、来てみたんですけど」
「じゃあ、これなんかどうかな?」
童顔の店員さんは嬉しそうに、本棚から一冊の本を取り出した。
「凄く面白いんだよ。中国の昔話で読み出したら止まらないべさ。なっちは徹夜で読んじゃったぐらい」
「は、はぁ」
「あ、こっちもお勧めだよ。探偵物でさ、これがまた最後に騙されたって感じで」
店員さんの話は止まらない。
真希は逃げる術も無く、店員さんの話を聴くばかり。
「こっちも良い本だべさー。涙無しでは読めないって・・・」
「あの、それ買います」
このままだと朝まで話す勢いだったので、その本を買う事にした。
これは新手の押し売りか?
- 6 名前:山羊太 投稿日:2003年08月16日(土)21時17分05秒
- カウンターの前で鞄から財布を出そうとしたが、目当ての財布が見つからない。
おかしい?今日はお小遣いを貰って、財布にお金を入れて、それから・・・
机の上に放置。
「!?」
「?」
「す、すみません、あの、財布を忘れたので、又来ます」
は、恥ずかしい。これだけ語らせておいて、聴き逃げとは。
俯き加減で帰ろうとした時、にこにこ笑顔の店員さんに腕を掴まれた。
「はい、本」
「はいって、お金が」
「んー、出会った記念のなっちからのプレゼント」
思わず「はぁ?」と言いそうになった。
そんなお人好しで商売がやっていけるの?
「良い本だから君に読んでもらいたいのさ。その代わり読み終わったら、感想聴かせてね」
「はい。ありがとうございます、なっちさん」
「・・・!?ど、どうして、なっちの名前を知ってるべさ!?」
お人好しの上に天然らしい。
これは、おまけとなっちさんが、しおりをくれた。
それは桜の花びらが書き込まれたピンクのしおりだった。
- 7 名前:山羊太 投稿日:2003年08月16日(土)21時32分44秒
- ―貴方はいつか私を忘れる日が来るだろう。
だけど貴方と過ごした日々の思い出は決して消えることの無い真実―
こんな出だしから始まった物語を、寝る前に少しだけ読むことにした。
内容は最初の文から察するに、男女の叶わぬ恋物語。
「・・・変な人だったな」
6ページ目に入った所で集中力がきれた。
不意に思い出した店員さんの笑顔。
その顔を思い出すと自然と真希も笑顔になる。
読みかけだった本にしおりを挟み、机の上に置く。
「そうだ」
真希は、何かを思い出した様に、押し入れを開けてダンボール箱を取り出す。
中には、小学校の時の文集やらアルバム。
そして取り出したのは一冊の絵本。
昔大好きで、何度も読み返した本だ。
この本をあの人に見せてあげよう。
きっと喜ぶぞ。
それは天使の物語。
- 8 名前:山羊太 投稿日:2003年08月16日(土)22時52分31秒
若者は孤独だった。
別に一人と言う訳ではないが、心が孤独だった。
そんな孤独な若者の前に一人の天使が現れた。
あまりにも天使が笑顔なので、つられて若者も笑顔になった。
何時しか天使は若者の心のより所になっていた。
そして若者の周りには笑顔が増えていった。
若者が笑顔を絶やさなくなった時、そこには天使の姿は無かった。
そんな物語。昔は普通に読んでいたけど
今、読み返してみると、何故だろう?涙が溢れてきた。
きっと、この若者と自分を重ねてしまうから。
「じゃあ、この天使はあの店員さんかな?」
ほんの一瞬だが、真希はあの古本屋で、孤独と言う時間を忘れていた。
今思うと、それはとても心地良い時間だったのかもしれない。
- 9 名前:山羊太 投稿日:2003年08月16日(土)23時13分46秒
- 色々と矛盾も生じてきて、文も日本語?となってきていますが、今回はここまでです。
- 10 名前:ハノン 投稿日:2003年08月17日(日)04時04分34秒
- 文体好きです。がんばってください。。。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月17日(日)06時49分05秒
- なちごまですか?
続き楽しみにしています!
- 12 名前:山羊太 投稿日:2003年08月17日(日)19時41分23秒
- 火曜日の3,4限目ほど無くなってほしい時間はない。
世間一般で言う選択授業。
「んじゃ、二時間後に会おう」
「ん」
ひとみと別れて教室へ。
最初は寝て過ごせる、気楽な時間だと思っていた。
だが今は違う。
必要以上に話しかけにくる人達が、何ともうざい。
教室では、ひとみと二人で居るので話しかけに来る人は少ない。
ひとみは唯一この学校で、気楽に話せる人間。
波長が合うのだ。
だが他の人は違う。
一応笑って喋っているが、どこかで気を使っている。
喋り終わった後の、疲労感は最悪だ。
それを積み重ねていく内に、他人との間に壁が完成していた。
だが真希はその壁を壊そうとは思わない。
むしろ、その壁は段々と高くなっていく。
それはまるで自分から、孤独の道を歩んでいるかのよう。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月17日(日)19時50分02秒
- 「んぁー、やっと終わった」
今日も全ての授業が終わりました。
学生の諸君、お疲れ様です。
「何?ごっちん、ご機嫌だね」
「ふぇ?そっかな?」
「うん、一人で笑顔。キモイ」
「キ、キモイって言うな!」
「で、今日も用事?」
「んー、まぁ。用事」
昨日と同じ古本屋さんへ。
今日は本が目当てじゃなくて・・・童顔天然お人好しの店員さん。
「ま、頑張って」
ひとみは真希の頭をぽんぽんと叩くと、教室を後にした。
頑張ってって何を・・・?
- 14 名前:山羊太(上で名前記入忘れました) 投稿日:2003年08月17日(日)19時58分03秒
- 今日は迷わずに、すんなりと着けた古本屋。
相変わらず、中は薄暗く、人の気配もなし。
「おじゃまします」
目的は本ではないので
きょろきょろせずにカウンターに一直線。
い、いないし・・・。
無用心だと思いながら、無人のカウンターを見つめる。
本当に商売をする気はあるのか?
「あのー・・・なっちさぁん」
奥に向かって名前を呼んでみる。
違う人が居てたらどうしよう?なんて思考は今の真希には無かった。
「はいはーい」と聞き覚えのある声が奥から返ってきた。
その声を聞いて自分の心臓が跳ねたのは、ビックリしたから。
と、思う。
- 15 名前:山羊太 投稿日:2003年08月17日(日)20時28分20秒
- 奥から出てきた店員さんは、何故か寝癖がついていて。
ね、寝ていたのか?
「あ、昨日の。もしかして本の感想を、言いに来てくれたのかな?」
「いや、違、あの、これ」
店員さんを目の前にした途端に、頭が真っ白になった。
緊張している理由は分らないが、言葉が出てこないのは事実。
説明する代わりに、例の本を差し出した。
「昨日の本のお返しです」
「え?」
店員さんは、その本を手に取ると、ゆっくりとページをめくる。
1、2ページ目を通すと、ゆっくり本を閉じた。
「ありがとう。でもいいの?こんな大事な本」
「はい。なっちさんに見て欲しいから。・・・?どうして大事な本って分かったんですか?」
「分かるよ。この本には君の想いが込められてるから」
店員さんは、そう言ってふんわりと微笑んだ。
その笑顔にドキっとしたのは、店員さんが微笑みながら摩訶不思議な事を口走ったから・・・。
からだと、思いたい。
- 16 名前:山羊太 投稿日:2003年08月17日(日)20時47分17秒
- 本を渡すだけだったのに、何故か座敷に上がらせてもらい、お茶までご馳走に。
「そうだ、まだ君の名前知らなかったよ。えっと、なっちは安倍なつみって言うんだよ」
「ごとうは、後藤真希です」
「いい名前だね。なっちの事は、なっちって呼んでね」
「はい。ごとうは・・・友達からごっちんって呼ばれてます」
「ごっちんか。へへ、似合ってる」
「は、はぁ。恐縮です」
二人の間に変な会話が始まっていた。
それから、いろいろな話を聴いた。
この店は、おじいちゃんから譲り受けた店で、実質なつみが店長的存在だとか。
居候が三人居るとか。
真希は相槌をうちながら、なつみの話しを聴き続けた。
その時間は本を読んでいる時間より、楽しかった。
- 17 名前:山羊太 投稿日:2003年08月17日(日)21時04分30秒
- 真希が古本屋を出たのは、日も傾きかけた時間帯だった。
又、来よう。
なっちの話しは面白いし、なっちと居ると落ち着くし、なっちは可愛いし・・・。
・・・?
何だ!?これじゃあ、まるでごとうがなっちに!
その日、真希は何かと葛藤しながら家路についた。
- 18 名前:山羊太 投稿日:2003年08月17日(日)21時23分31秒
彼女は私の、高い高い壁を簡単に飛び越えてきた。
今、壁のこっち側は私となっちの二人っきり。
特に何の予定も無い日曜の午後。
なつみに貰った本は半分読み終わった。
しおりを挿んで、いつもと同じ机の上に置いた。
「・・・。うーん、今日も行っちゃおうかな」
服を着替えて、例の古本屋へ。
- 19 名前:山羊太 投稿日:2003年08月17日(日)21時34分58秒
- 入り口のガラス越しに客の姿が見える。
さすがに日曜に客が来ないのは、やばいだろう。
しかし内心がっかりする真希。
忙しそうだし、帰ろうかどうか悩んでいると後ろに人の気配。
「お客さん、入り口に突っ立っていると、他の人の邪魔ですよ」
「え?ごめんなさい」
振り返るとそこには、なつみよりも小さい店員さんが一人。
と、その後ろにもう二人。
合計三人の店員さん。
どうして、ごとーは取り囲まれてるの?
- 20 名前:山羊太 投稿日:2003年08月17日(日)21時54分03秒
- 今回はここまでです。名前忘れたのは、きついですね(汗
>10 ハノン様
ありがとうございます。そう言ってもらえて光栄です。頑張ります。
>11 名無し様
はい、なちごまです。他のCPも多分、出てくると思います。
- 21 名前:jinro 投稿日:2003年08月18日(月)00時08分17秒
- なちごまだーーー!!!
三人の店員さん…誰なのかな??
- 22 名前:山羊太 投稿日:2003年08月20日(水)00時19分24秒
- 真希を取り囲んでいる、店員の一人が口を開いた。
「…矢口さん、この人…安倍さんの」
矢口さんと呼ばれた、小さな店員は何かを納得したように
後ろの二人に向かって、一つ頷き、笑顔を真希に向けた。
「もしかして、後藤さんですか?」
「はい、そうですが…」
「貴方の事は、なっちから聞いています。」
「え?」
聞いている?なっちに?
どれだけ詳しく、話したんだ?
顔も知らないのに、一瞬にして、真希だと分かるなんて。
疑問は、他にも浮かんできた。
大体、この小さな古本屋に、こんなに店員が必要だろうか?
三人も…。
三人?
三人で思い当たる、キーワードは一つ。
この古本屋に居る、居候の数だ。
- 23 名前:山羊太 投稿日:2003年08月20日(水)00時40分54秒
- しかし店の入り口で、そんな推測をしていても、しょうがない。
これだけ、店員さんも居る事だし、忙しいって事はなさそうだ。
じゃあ少しだけ、なつみに会って行こう。
「なっちは、いますか?」
「すみません。今、出かけているんですよ」
矢口は、先程と変わらない笑顔で答えた。
出かけている?出かけているのなら
「お店、いいんですか?」
店の中には、店員が一人もいない。
だって、全員ここに居るから。
「…あ。加護、辻」
「「あいさ」」
加護と辻と呼ばれた二人の店員は、返事と共に店の中へと入っていった。
やっぱり、おかしな店だ。
- 24 名前:山羊太 投稿日:2003年08月20日(水)00時59分49秒
- なっちが、いないのなら帰ろう。
そう考えた時だった。
「後藤さん、せっかくここまで来たんだから、お茶でもどうスか?」
まるで、心の声に答えるかの様に、矢口が真希を誘った。
断る理由も無いので、上がらせてもらう事に。
店の中では、加護と辻がカウンターの奥で、雑談。
ここの店員さん達は、本当に商売をする気が無い。
座敷に上がり、真希は前と同じ場所へ腰をおろした。
はっきり言って、初対面の人と話しをするのは苦痛だ。
だけど、なつみの場合は違った。苦痛じゃなかった。むしろ逆。
この矢口と言う人。この人も他の人とは違う。
しかし、なつみとも違う。
この人は直接、真希の心へと話しかけてくる。
だから、真希が作っている、他人との間にある壁は関係無い。
言うなれば、そんな感じだ。
- 25 名前:山羊太 投稿日:2003年08月20日(水)01時19分37秒
- 「自己紹介が、まだだったね。おいらは矢口真里と言います。知ってると思いますが、この店にお世話になっている内の一人です」
店番をしている二人組は、加護亜衣と、辻希美と言うらしい。
真里と同じく、居候。
真希の予想は的中した。
「さてと、後藤さんってのも堅苦しいから、ごっつぁんって呼んでもいいかな?」
「え?」
真里のいきなりのフレンドリーな態度に、少し困惑する。
だけど、やっぱり嫌な感じはしない。
他の人に言われたら、ムッとしてるだろうに。
「いいですよ」
「ありがと、おいらの事も好きに呼んでいいから」
いきなり、好きに呼べと言われても。
真希の性格からして、それは無理な話し。
変な呼び方をしたら悪いし。何かを指定してくれれば呼ぶのに。
「じゃあ、ごっつぁんとお揃いで、やぐっつぁんって、どう?」
返事に困っていると、答えをくれた。
又だ。又この人は、心の声に反応した。
- 26 名前:山羊太 投稿日:2003年08月20日(水)01時29分23秒
>21 jinro様
はい、今回なっちは出てきていませんが、なちごまです。
3人の店員さんはこの人達でした。
- 27 名前:jinro 投稿日:2003年08月20日(水)11時48分34秒
- ほほう、やぐちはなんか特別な力が?
辻加護も?まさかなっちも…?
- 28 名前:山羊太 投稿日:2003年08月25日(月)23時57分17秒
- 貴方は人の心を、よめるのですか?
なんて、聞ける訳もなく、真希はお茶を啜った。
「ごっつぁんさ」
「はい?」
名前を呼ばれて、真里の方を向いたが、視線が交わらなかった。
真里は視線を、手もとの湯のみに落としている。
「どうして、なっちに絵本をあげたの?」
「・・・どうしてって」
そんな事を聞いて、どうするのだろう?
だけど、答えを渋る理由も無い。
あの絵本をなつみに、あげた理由は
「本を貰った、お返しですよ」
「本の?」
その答えを聞いた時、真里の表情が曇ったのは気のせいだろうか?
- 29 名前:山羊太 投稿日:2003年08月26日(火)00時15分38秒
- 「本か。他には何か貰わなかった?」
「えっと、ピンクのしおりを一つ」
桜の花びらが書きこまれた。
そこで、会話が終った。
真里が何故、こんな質問をしたのかは分らない。
その後すぐに、亜衣が真里を呼びに来た。
何かトラブルでも、発生したのかと思ったが、休憩交代だけだった。
真里が店に入るのなら、そろそろ帰った方が良いかもしれない。
真希は荷物を片手に立ち上がる。
「じゃあ、帰りますね」
「あ、ちょっと待って下さい」
真希を止めたのは、希美。
彼女は真っ直ぐに、真希の目を見て
「後藤さん、知らない人には、ついて行っちゃ駄目ですよ」
と、アドバイス。
そんな事、わかってますよ。
- 30 名前:山羊太 投稿日:2003年08月26日(火)00時28分22秒
- 古本屋を出た時には、午後4時を過ぎていた。
結構、居座ったらしい。
寄り道もせずに、帰りますか。
今からだと、20分には家に着くだろう。
そうだ、夕飯までは本を読みふけろう。
今日これからの計画。
しかし、その計画は開始5分も経たない内に崩れた。
真希の前から、歩いてきたのは、なつみ。
元々今日は、彼女に会おうと思ったから、外に出たわけだし。
知らない人じゃないから、声をかけても大丈夫。
「こんにちわ」
「あ、ごっちん。こんにちわ」
今日も笑顔で、なつみは挨拶をしてくれる。
そしてドキドキ早鐘を打ち出した、真希の心臓。
このドキドキは、何でしょうか?
- 31 名前:山羊太 投稿日:2003年08月26日(火)00時34分32秒
- >27 jinro様
さて、どうでしょう?隠しは色々あります。
ヒントも書いています。でも、ヒントになってないかも…。
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月26日(火)08時38分13秒
- むむむ…。
矢口の言葉の意味がわからない
あ、初レスです。いつも読ませて頂いてます。
これからも頑張って下さい!
- 33 名前:山羊太 投稿日:2003年08月28日(木)01時02分39秒
- なつみの両手には大きな買い物袋。
中には食料が、ぎっしり詰め込まれている。
「買い物帰りですか?」
見れば分かる。でも一応聞く。
「そうだべさ。うちには食欲旺盛なのが二人もいるから」
「あー、あの二人。確かに食べ盛りっぽいね」
「あれ?二人を知っているって事は、もしかして今日も来てくれたの?」
「あ、うん」
本当に本が好きだね。と、なつみが微笑む。
目当ては本じゃないんだけど。
真希の体温少し上昇。
そうだ、この際アレを聞いてみよう。
「ねぇ、なっち。やぐっつ…矢口さんって」
「ん?」
「エスパーですか?」
「…んん?」
言ってすぐに思った。バカな質問をしたと。
- 34 名前:山羊太 投稿日:2003年08月28日(木)01時19分12秒
- 「それは、初耳だね」
なつみは真面目に答えを返す。
これは、笑ってくれた方が良いかも。
「でも、どうして?」
「や、何か矢口さんと喋ってると、心を覗かれている気がして」
「なっちも思う。矢口って色々と敏感だから、相手が欲しい答えを返すのが、上手なんだよ」
「へぇ」
文章がおかしかったけど、言いたい事はわかったので納得。
それと、もう一つ。
「暇な時に、なっちの所にお喋りしに行っても、いいですか?」
なつみは少し、びっくりした顔。
そして、優しく微笑んで
「いつでも歓迎するよ」
と、言ってくれた。
- 35 名前:山羊太 投稿日:2003年08月28日(木)01時39分46秒
- なつみと別れてからも、ドキドキが鳴り止まない。
顔が自然と緩んでくる。
一人にやけを抑えながら、信号待ち。
毎日通うのは、迷惑だから土日に行こうかな?
でも、平日の方が、のんびり話せるかも。
信号待ちの間に色々と、計画。
そして信号が青に変わる。
その時だった。
いきなり真希を襲った寒気。
まるで、誰かに睨まれている。そんな寒気。
ビックリして辺りを見渡すと、道路の向こう側の少女と目が合った。
この子に睨まれたとか?まさか。
その子は、とても人を睨むような子には見えない。
- 36 名前:真希視点 投稿日:2003年08月28日(木)01時57分56秒
- 立ち止まっていても、しょうがない。
目の前の信号は青。青は進め。
ゆっくりと歩き出すと、少女も歩き出した。
心臓がドキドキしている。
なつみと居る時のドキドキとは違う。
これは緊張?どうして。どう見ても自分より年下だ。
それに、緊張や脅えを誘う風格でもない。
少女との距離が縮る。
すれ違い。
そして遠ざかる距離。
無事に信号を渡りきった。
もしかしたら、自分はかなりの自意識過剰かもしれない。
でも、どっと疲れたのは事実。
- 37 名前:???視点 投稿日:2003年08月28日(木)02時12分08秒
- ずいぶんと用心だ。
少女は信号を渡りきった所で立ち止まった。
これだと用心だと言う事は、やはり自分の勘は正しい様だ。
しかし、今はまだ様子を見よう。
はっきりと決まった訳ではない。
「余計な事をしてくれますね…」
そして、ポツリと呟いた。
- 38 名前:山羊太 投稿日:2003年08月28日(木)02時14分08秒
- 多分、今のところ、???視点は何の事だか、さっぱりと思います。
読んでいく内に、わかってくると思うので。
- 39 名前:山羊太 投稿日:2003年08月28日(木)02時14分48秒
- …多分。
- 40 名前:山羊太 投稿日:2003年08月28日(木)02時18分51秒
- >32 名無しさん様
ありがとうございます。矢口さんが何を言いたかったのか。
答えは、まだ先です。わからない事だらけのお話しです。
- 41 名前:つみ 投稿日:2003年08月28日(木)07時32分41秒
- やつっぽいな・・・
- 42 名前:山羊太 投稿日:2003年08月30日(土)18時39分56秒
- うんざり月曜日。
今日から始まる一週間。
なっちの所には水曜日あたりに行こう。
うあぁ、今日と明日が早く終わればいいのに。
今日は残すところ半日弱。
帰ったら寝よう。寝れば明日はすぐそこ。
「ごっちん、やる気なさげだなー」
「んぁ、よしこ」
机に、うつ伏せているとひとみが寄ってきた。
前の席に腰掛けて、かまって欲しそうに真希を見る。
やれやれと顔を上げて、お喋り体制。
「で、今日こそは遊んでくれるよね。」
「はいはい。遊ぼうか」
「若者は若者らしく青春を謳歌しようではないか」
「謳歌してるから」
どうやら、今日が終わるのは先になりそう。
何処に行くか悩んでいると、チャイムが鳴った。
6時間目の始まりです。
- 43 名前:山羊太 投稿日:2003年08月30日(土)19時01分53秒
- 結局、何処へ行くのか決まらないまま下校時刻。
二人は適当にぶらぶらする事にした。
あても無く歩くこと10分。
真希の目に飛び込んできたのはコンビニ。
そして、コンビニの前には、一人の顔見知り。
「あ、あの子」
「ん?知り合い?」
「うん」
知り合い。古本屋の居候店員さん。
だけど大問題が。
えっと、加護?辻?どっちだ?
名指しで喋った事も無いからわからない。
彼女達の自己紹介も真里から聞いたし。
悩んでいると、居候店員さんは真希に気づき寄ってきた。
「あ、ごっちん。偶然やな」
「あ、うん」
名前を呼ばなきゃ大丈夫。
「えっと、そっちの人は?」
「はじめますた。吉澤ひとみでぇっす。ごっちんの友達1号です」
「あ、うちは加護亜衣です。ごっちん…友達いてるやん」
そっか、この子は加護だ。
って、今さり気に酷い事言われなかった?
- 44 名前:山羊太 投稿日:2003年08月30日(土)19時20分39秒
- まぁ、平日も休日も一人で古本屋に通ったけど。
それはそれは、寂しい人間みたいだけど。
友達はいてる。
よしこが。
数より中身。狭く深く。
余計な友達を作るのは疲れるだけ。
今のままでいい。今のままで…
「そっか、えへへへ」
友達がいてたのが、そんなに嬉しいのか亜衣は凄い笑顔。
そんな事を年下に心配されていたのかと、少々凹む真希。
「早く安倍さんや矢口さんに知らせなきゃ。じゃーね、ごっちん、1号さん」
「ちょっ、安倍さんって、なっちに!?」
「ほっほっほ、1号さんか」
そこまで皆に心配されていたなんて。
凹む真希に「ジュース奢るよ」と肩を叩くひとみ。
同情しないで。
- 45 名前:山羊太 投稿日:2003年08月30日(土)19時36分34秒
- ジュースを奢ってくれるのなら、ついでにポテトも奢ってください。
強引にファーストフード店に入る。
しかし、ひとみはジュース分しか出してくれなかったので、ポテトは自分で買う事にした。
買った物を持って、二階の窓際の席へ。
「でさ、誰?」
「ん?」
「さっきの子」
「あぁ、行きつけの古本屋の居候さん」
簡潔な説明。
「行きつけって…まさか、最近付き合い悪いのは、あの子のせいか!?」
「ち、ちがっ!あの子じゃないよ」
「あの子じゃ?じゃって何?」
「うあぁぁ…」
喋れば喋るほどボロが出る。
ここは観念して話してしまおうか?
なつみや他の店員さんの事。
ここで嘘をついたり隠したりする自信はない。
ひとみは興味で聞いてきているのだろう。
だったら余計な事は喋らずに、なつみ達の事を教えよう。
- 46 名前:山羊太 投稿日:2003年08月30日(土)20時00分26秒
「なるほど。つまりごっちんは、なっちと言う人に惚れているのだね」
「ごぶっ!!!」
紳士口調で言ったひとみの言葉に、真希は思わずジュースを吹いた。
幸いコップには蓋が付いており、零れずにすんだ。
どうやら余計な事も喋ってしまったみたいだ。
「な、何を言って?違うよ、あははは」
「違わないよ。ごっちん顔真っ赤じゃん」
「よ、よしこが変な事を言うからだよ!」
そうだよ。惚れてる訳ない。
なっちは行き付けの店の店員さんで、ごとーはお客さん。
それだけ。それだけ。
「素直になりなさい」
ひとみはまだ紳士口調。
「そして、気付くんだ。自分の気持ちに。なっちと居るとドキドキするだろう?」
「するけど」
「もっと、一緒にいたいだろう?」
「…うん。なっちといると楽しいから」
「そ〜んでもってキスなんか、しちゃったりしちゃいたいだろう?!」
「き!!??」
体中の体温が一気に上昇するのがわかった。
脳は酸欠状態。
心臓は破裂寸前。
「正直に生きなさい」
と、最後まで紳士口調なひとみだった。
- 47 名前:山羊太 投稿日:2003年08月30日(土)20時03分30秒
- 41> つみ様
いきなりバレていますか!?
わかりませんよ。他の人かもしれませんよー。
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)22時02分01秒
- よしこいぃっすね。
なちごま大好きです!ここのごっちんの性格も良さげで最高です。
これからも頑張って下さい
- 49 名前:つみ 投稿日:2003年08月31日(日)00時23分40秒
- いや・・・やつだな・・・
- 50 名前:山羊太 投稿日:2003年09月04日(木)19時18分42秒
- 運命の水曜日。
ここに来たのはいいけれど、足が動いてくれない。
古本屋の入り口で立ち往生。
相変わらず古本屋の中には客の姿は無い。
入り辛い理由は二つ。
一つ、加護が「ごっちん友達いてたんだ」と、喜んだ事件。
一つ、実はごとーは、なっちに惚れているかも事件。
「んあぁ…なっちの顔、直視できないかも」
意識するなと言う方が無理だ。
何だか顔が火照ってきた気がする。
「お客さ〜ん、本屋の前で赤面してるって事は、その手の本をお探し?」
「…」
振り返ると一番小さい店員さんが立っていた。
- 51 名前:山羊太 投稿日:2003年09月04日(木)19時39分56秒
「ごめんね。今日もなっち留守なんだ」
真里は手馴れた手つきで、お茶の葉をきゅうすへ。
いつもの様に真希は座敷に上がらせてもらったのだ。
またもや会えないとは…
なつみと相性が悪いんだろうか?
「かわりに、おいらが遊んであげるから」
「店番は?」
「ごっちんの方が大事さ」
二人分のお茶を注ぎながら真里は笑った。
駄目店員さんだ。
でも、この機会に気になった事を聞いておこう。
「ねぇ」
「ん?」
「やぐっつぁんは、どうしてここに居候してるの?」
気になるのは、なつみと真里の二人の関係。
- 52 名前:山羊太 投稿日:2003年09月04日(木)20時05分17秒
- 「どうしてって、ん〜、なっち一人じゃ不安だからかな」
真里はゆっくりと喋り出す。
「なっちとは幼馴染なんだよ。家が近所でさ。
なっちは昔から、何やっても失敗ばかりで…ほっとけないって言うのかな。
人一倍、懸命に何かをやって最後に情に流されちゃうんだ」
「バカだよね」と真里は寂しそうに笑う。
凄く伝わってくる、なつみへの想いが。
本当に大切に想っているって。
それは良い事なのに…
なのに、どうしてだろう?
胸の奥が苦しくなるのは。
- 53 名前:山羊太 投稿日:2003年09月04日(木)20時22分20秒
- 胸につっかえを残したまま、古本屋を後にする。
この、もやもやする気持ちは何なんだ?
「ごっちん」
背後から聞き覚えのある声。
今度は間違えない、加護だ。
と、その横には…
「初めまして」
「あ、初めまして…」
「紺野です」
自己紹介をして、少女は微笑んだ。
「後藤です。加護の友達?」
「うん、学校の友達。本を探してるから家へ一緒に行くんよ」
「へぇ、本が好きなの?」
「はい」
本が好き。
ただ、それだけだけど真希は少女に親近感を覚えた。
- 54 名前:山羊太 投稿日:2003年09月04日(木)20時27分23秒
- 48> 名無し様
ありがとうございます。よしこは男前的ポジションです。
ごっちんは、ちょっとへタレになってきた気が。
49> つみ様
最後に、やっぱり…と言われそうな予感がしてきました。
あぁ、当たってるかも…。
- 55 名前:つみ 投稿日:2003年09月04日(木)21時06分05秒
- こんこん登場!
当たってるのかな?やっぱり・・・
- 56 名前:山羊太 投稿日:2003年09月06日(土)16時52分18秒
- 加護達と別れて、真っ直ぐ家に帰る。
部屋に入り、机の上の本を手に取った。
しおりは、本の終わり辺りに挿まれており、今日中に読破できそう。
椅子に腰を掛けて、ゆっくりとページをめくる。
この物語には、どう考えてもハッピーエンドは用意されていないだろう。
なつみは泣けたと言ってたが、今の所、泣いていない。
そう言えば、本を読んで泣いたのは、あの絵本だけ。
なつみにプレゼントした絵本だけ。
- 57 名前:山羊太 投稿日:2003年09月06日(土)17時01分23秒
- 結局、最後まで泣けないまま物語は終わった。
今度、なつみに会った時に感想を言おう。
「ふぅ、君の役目は終わったね」
なつみから貰ったしおりを手に取り眺める。
いかにも手作りだな、これ。
もしかして、なっちが作ったのかな?
だけど…何処かで見た事あるんだよね。
この桜の花びら。
昔、これとそっくりな絵を誰かが…。
だけど、真希は思い出すことは出来なかった。
今は、まだ思い出すことは出来なかった。
- 58 名前:山羊太 投稿日:2003年09月06日(土)17時18分44秒
- 何事もなく終わった木曜日。
放課後の予定は昨日から決めている。
図書館に行こうと。
しおりの新しい役目を作ってあげよう。
そして帰ろうとすると、お約束的に現れるひとみ。
「あれ?もしかして、なっちの所へ行くの?」
「行かないよ。てか、何で面識無いのに、なっちって呼ぶんだよ!さんは?なっちさんでしょ」
「ほぅ、ヤキモチ?」
「…。じゃ、明日!」
んあぁぁ!!意識しすぎだよぉ。
よしこが、あんな事言うからだ!
早足で校門を出ようとして、人にぶつかりかけた。
恥ずかしくて、その人の顔をまともに見れないまま、謝って逃げる。
そんな調子で、真希は図書館に到着するまで、3回は人に謝った。
- 59 名前:山羊太 投稿日:2003年09月06日(土)17時34分58秒
- 図書館は、適度にクーラーがきいてるはずなのに、真希の体温は上昇中。
理由は、図書館の自動ドアに肩を思いっきり、ぶつけたから。
学校から、まだこんな調子。
今日は早く本を借りて家に帰る方が、いいかもしれない。
適当に本棚を眺めて、面白そうな本を探す。
そんな真希の近づく人影。
「こんにちは。今日は古本屋じゃないんですか?」
「んぉ?あ、紺野」
うん、紺野だ。加護の友達の。
下の名前は知らない。
今日ここに、いるって事は探し物は見つからなかったのかな?
それとも、凄い本好きとか?
「昨日、本は見つからなかったの?」
「見つかりましたよ。今日は違う本を探しに」
凄い本好きらしい。
- 60 名前:山羊太 投稿日:2003年09月06日(土)17時57分09秒
- そんな本好きの紺野に、何か面白い本は無いか聞く事にした。
紺野が言うには、児童書にも掘り出し物は沢山有るらしい。
「結構、大人向けも有るんですよ。昔読んだ本でも、今読むと捉え方が違ったり」
「あぁ、なるほど。紺野は特別好きな本とか有る?」
「そうですね、タイトルは忘れましたけど、一つだけ」
「どんなの?」
「天使が出てくる本です。孤独な若者が天使のおかげで幸せになれる」
一瞬ドキっとした。それってあの?
紺野は、あの本を知っているんだ。好きなんだ。なんか、嬉しい。
「それ、知ってるよ。紺野も読んだんだね」
「後藤さんも知っていたんですか?」
紺野は昔、近所に住んでいたお姉さんの家で見たらしい。
もちろん真希の家ではない。あの本を誰にも見せた事はないから。
紺野と自分は何処か似ていると思う。
趣味もだけど、何か目には見えない何かを共感できる。
- 61 名前:山羊太 投稿日:2003年09月06日(土)18時02分11秒
- 55> つみ様
紺野さんは登場です!安倍さんが、なかなか出てこない。
答えを楽しみにしていて下さい。
- 62 名前:つみ 投稿日:2003年09月06日(土)21時18分14秒
- 自分のなかではファイナルアンサー?でてますんで
楽しみにしてます!!
- 63 名前:山羊太 投稿日:2003/09/11(木) 15:35
- 図書館を出て、二人はちょうどいい高さのブロック塀に腰をかける。
もうちょっとお喋り。
「その本は、今も後藤さんの家に有るんですか?」
その本とは例の天使の本。
「う〜ん、つい最近までは有ったんだけどね。あげちゃったんだ」
「あげた?」
「そう、大好きな本を、大好きな人にね」
今まで否定してきた気持ち。
否定してきた理由はきっと、認めちゃったら抑えきれなくなるから。
なっちが好きって気持ちが抑えられなくなるから。
だけど認めたよ。今。自然と口から出た。
よく考えたら抑える必要なんかないんだよね。
突っ走っちゃおうかな。
- 64 名前:山羊太 投稿日:2003/09/11(木) 16:16
- 抑えきれなくなった想いは溢れてくる一方で。
今、やりたい事は一つ。
なつみに会いたい。
「さて、古本屋にでも行くかな」
「後藤さんって本当に、本が好きなんですね」
「うん。じゃあね、紺野」
紺野と別れて、一直線に古本屋へ向かう。
歩きながら、なつみが古本屋に居る事を祈る。
真希の頭の中は、なつみ一色で
途中で真里に声かけられたのも気づかず
誰かの冷たい視線にも気づかなかった。
いつもと同じで客の居ない古本屋。
その扉を元気よくスライド。
「こんにちは!なっ…」
「あ、後藤さん、こんにちは。元気ですね」
出迎えてくれた希美に肩を落とした。
- 65 名前:山羊太 投稿日:2003/09/11(木) 16:31
- 店内に、なつみの姿はない。
でも、奥に居てるかもしれない。
「辻、なっちは?」
「安倍さんですか?奥で寝てます。起こしてきますね」
なっちって、いつも寝てる気がする。
でも、なっちに会えるんだ。うわ、ドキドキしてきた。
どうしよう?あ、本の感想言わなきゃ!えっと、内容、内容。
…どんなのだっけ?んあぁぁぁ!?
パニック状態の真希の前に眠たそうに、なつみがやってきた。
カウンター越しに「おはよう」と微笑むなつみ。
真希も「おはよう」と返す。
しかし、その表情は強張っていた。
- 66 名前:山羊太 投稿日:2003/09/11(木) 16:53
- 座敷に上がると、折り曲げられた座布団に、タオルケットが一枚。
なつみが寝ていた痕跡。
それらを部屋の隅に寄せて、机を真ん中に寄せる。
希美がお茶とお菓子を用意してくれた。
「じゃあ、店番してますね」
「うん、ありがとう」
そう言って希美は店の方へ。
徐に真希はお菓子を手に取り、それを破る。
上目でなつみを見ると、目が合った。
慌ててお菓子の袋に視線を落とす。
真希は、そのままの視線で喋りだした。
「本、読み終わったよ」
「どうだった?」
「んと、な、納得いかなかった」
- 67 名前:山羊太 投稿日:2003/09/11(木) 17:13
- 本当は「泣けたよ」って言いたかった。
実際には泣いていないけど、そう言いたかった。
同じになりたかった。
でも、終わり方に納得いかなかった。
心から愛し合っていたのに二人は別れた。
そして最後に、その恋人の事を忘れる。
こんな終わり方だ。
「納得いかないよ」
「ごっちん、こんな終わり方も有りだよ?」
「でも、ごとーなら忘れないよ。好きな人の事」
その言葉を口走った時、胸がチクッとした。
どうしてチクッとしたのかは、分からない。
「ごっちんは好きな人いるんだね」
「…そ、それより美味しいね、このお菓子!」
真希は思いっきり話題を逸らした。
- 68 名前:山羊太 投稿日:2003/09/11(木) 17:28
- その後、真希は一方的にお菓子の話を続けた。
どれが好きとか、あれは美味しくないとか。
初めて会ったときとは逆で、なつみが聞き役。
話題がきれかけた時、真里が帰ってきた。
「んぁ、やぐっつぁんが帰ってきたみたいだね。じゃあ、ごとーはそろそろ」
「ごっちん、今日はありがとう。楽しかったよ」
一方的に中身の無いお菓子話をしていただけなのに。
ありがとうって笑ってくれた。
真希は、にやけながら座敷を下りる。
店内を見渡すと、真里と希美が隅の方で何かを喋っている。
その会話が少し聞こえてくる。
「…に会ったのですか?」
「うん」
誰かに会ったみたいだけど、名前を知らなかったので気に留めない。
真希は一声かけて店を出た。
- 69 名前:山羊太 投稿日:2003/09/11(木) 17:34
- 62> つみ様
………。(沈黙)
みのさん延ばし過ぎ。
- 70 名前:真里視点 投稿日:2003/09/20(土) 16:19
- 全ては順調に進んでいるはずだったのに。
このまま、うまくいくと思っていた。
なのに、どうして彼女がここにいてるんだ?
狭い路地裏に見覚えのある一人の少女が立っていた。
この子はたしか彼女の…後輩で
「田中だっけ?どうしてここに?」
そう、田中だ。田中れいな。
笑顔で質問をした真里に対して
れいなは無表情のまま淡々と質問に答える。
「そうですね、矢口さんと同じような理由です」
「同じ?同じって」
「心配だから、ついてきた。ですよ」
「わかった様に言うねぇ」
真里は冷たく笑った。
心配だからついてきた。まったくその通りだ。
だけど他人にそれを言われると、いい気はしない。
「お互いに報われないって所も同じですよ」
やはり表情を変えずに、れいなは言った。
真里の内心は穏やかではなかった。
- 71 名前:真里視点 投稿日:2003/09/20(土) 16:44
- 「で、安倍さんは大丈夫ですか?」
「大丈夫って何が」
「最近、睡眠時間が多くなってますって事です」
余計なお世話だと叫びたかった。
でも、彼女は一応心配してくれてるから
それに答える義務は有る。
「大丈夫」
「そうですか。ところで矢口さん」
「何だよ」
「安倍さんを不幸にする気ですか?」
いきなり何を言うんだ?この子は。
心が、かき乱される。
不幸にする気なんて無いのに。
「安倍さんの事を想うなら、後藤さんに近づけない方がいいですよ?
これはビジネスですから」
その言葉に何も返せない。
- 72 名前:真希視点 投稿日:2003/09/20(土) 16:56
- 素敵な素敵な金曜日。
今日が終われば残すは週末のみ。
土日の予定は何もないなぁ。
な、なっちを何処かに誘ってみようかな?なんつって。
真希の頭は春模様。
そんな真希の前の席に腰掛けるのはひとみ。
「ごっちん!日曜遊びに行かね?」
「よしことじゃ、や」
「うわっ!ひど!」
目の前で泣き真似をするひとみに、ご相談。
相談内容は、自然なデートの誘い方。
ひとみさんの答えは
「デートしてくれ。とか?」
「思いっきりストレートだね」
「まわりくどいよりマシでしょ」
面と向かって言える訳がない。
ただでさえ意識しっぱなしなのに。
とにかく今日も古本屋に行こう。
- 73 名前:真希視点 投稿日:2003/09/20(土) 17:06
- 放課後になっても、素敵なセリフは思い浮かばなかった。
やはりストレートに誘うべきか。
しかし今の真希は気づいていない。
誘う場所を考えていない事を。
その事に気づかないまま古本屋に到着。
暴れる心臓を落ち着かせるように一呼吸。
どうか…なっちが居てますように!!!
思いを込めてドアをスライド。
だが、薄暗い店内には誰も居ない。
ドアを閉めて座敷の方へと歩いて行く。
いつもならこの辺で誰か出てくるけど。
「こんにちは」
座敷に向かって挨拶。
「留守ですか?」
「なっちは留守ですよ」
「んぁ!?や、やぐっつぁんか」
やる気の無さそうに座敷から真里が出てきた。
少し元気が無いのは気のせいだろうか?
- 74 名前:真希視点 投稿日:2003/09/20(土) 17:25
- 残念だったね。と、真里は笑った。
でも今日は、すぐに帰ってくるらしい。
いつもの様に座敷に上がり、待たせてもらう事にした。
お茶を飲んでいると真里が少し躊躇って、話しかけてきた。
「ごっつぁん、聞きたい事が有るんだけどいいかな?」
「答えられる質問なら」
「あのね、なっちにあげた絵本。どうしてあげたの?」
「…?それ、前にも聞いたよ?」
真里と初めて会った日に聞かれた事。
その時の答えは本のお返し。
その答えは今も同じ。
「あ、そうだっけ。えっと、その絵本はどうしたの?」
「ん?どう言う意味?」
「いつから持ってた?」
「小さい頃から」
この質問の意図がわからない。
「じゃあ、その本誰から貰った?」
「えっとぉ…お母さんに買ってもらった」
「ん、ありがとう。」
こうして真里の質問は終わった。
それから少しして、なつみが帰宅した。
- 75 名前:山羊太 投稿日:2003/09/20(土) 17:26
- ???さんの答えは、まだですよ。彼女は???さんの側近。
- 76 名前:山羊太 投稿日:2003/09/20(土) 17:29
- やっぱり、わけわかんない話進行中。
少しずつ謎解きしていきます。
- 77 名前:つみ 投稿日:2003/09/20(土) 18:10
- 天使の物語が鍵みたいですね・・・
田中は???の側近ですか・・
あの人でファイナルアンサーでてるんですけどあたってるかな?
何となく一言 『なっちは天使』 と叫びたくなりました(w
- 78 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/21(日) 20:28
- 謎が増えてきてますね。楽しみ
- 79 名前:真希視点 投稿日:2003/09/25(木) 00:22
- いざ本人を目の前にすると、言葉が出てこない。
これは昨日の二の舞じゃないか?
誘おう。でなきゃ自分が嫌いになる。
「な、なっち、週末暇?」
「ん〜?なっちは、いつだって暇だベさ」
「じゃあさ、ごとーと遊びに行かない?」
ほら、自然に誘えたぞ!…多分。
この誘い、OKしてください。神様、仏様、なっち様。
なつみはすぐに笑顔で「いいよ」と言ってくれた。
心の中でガッツポーズ。
「で、どこに行くの?」
「え?あれ?何処って…。行きたい所?」
真希はようやく、行き先を決めていなかった事に気づいた。
行きたい所ってどこだよ!と一人ツッコミ。
答えに困っていると、なつみが口を開いた。
「なっち、行きたい所有るんだけどな。そこでいい?」
今度は真希が「いいよ」と、即答した。
- 80 名前:真希視点 投稿日:2003/09/25(木) 00:29
- 「じゃあ、土曜と日曜、どっちがいい?」
「色々と用意が有るから日曜日がいいな」
色々と用意?
なつみは何処に連れて行ってくれるのだろうか?
でも、それは聞かない。
日曜日までの、お楽しみにしよう。
「10時頃に迎えに来るね」
「うん、遅れたら駄目だよ」
「んぁ〜」
この会話って、恋人っぽくないかな!?
なんて事を考えながら、笑顔で古本屋を出た。
きっと土曜日は長いぞ。
今から待ち遠しい日曜日。
- 81 名前:真里視点 投稿日:2003/09/25(木) 00:44
- 真希が幸せいっぱいの笑顔で帰って行った。
会話の内容は聞こえていた。
聞くつもりは無かったけど、聞こえたからしょうがない。
座敷に上がると、なつみがメモをとっていた。
「何書いてるの?」
「お弁当のメニュー」
「ごっつぁんに作ってあげるんだ」
「うん」
紙には、お弁当の定番メニューが書かれていた。
別にメモる程のメニューでもない。
「おいらは店に居てるね」
なつみに一声かけて、真里は再び店の中へ。
- 82 名前:真里視点 投稿日:2003/09/25(木) 00:58
- 店に戻る時に希美と亜衣も連れていった。
二人に話しがあるから。
店に入ったら、まず先に入り口の鍵を閉めた。
そして3人で店の隅に座りこむ。
「二人共、日曜日の予定は?」
「「ありません」」
「日曜日になっちが、ごっつぁんとお出かけします」
希美が「おぉ」と小さく驚いた。
一瞬の沈黙が流れる。
そして、真里は真剣な表情で言った。
「なっちの後をつけるよ」
その言葉に二人は頷いた。
心がざわざわする。
- 83 名前:真里視点 投稿日:2003/09/25(木) 01:11
- 座敷に戻る途中に希美に止められた。
「矢口さん、いいんですか?」
「何がだよ」
「だって安倍さんが…」
「いいって。ほら早く行かなきゃ晩飯冷めるぞ」
少し茶化す。あまりにも希美が悲しそうな顔をしていたから。
頭をポンポンと、叩いて座敷に上がった。
―安倍さんを不幸にする気ですか?―
頭の中で繰り返される言葉。
その言葉が繰り返されるたびに
心のざわざわは大きくなっていく。
- 84 名前:山羊太 投稿日:2003/09/25(木) 01:20
- 基本的に視点は後藤さん。矢口さん。???さんです。
その三人でくるくる回ります。???さんは出現率低いです。
77> つみ様
鍵はそこら辺にごろごろ落ちていたり。
矢口さん視点とか…。いやいやヒントにもなりゃしないかも。
78> 名無し読者様
まだ、潜伏してる謎とかも有ります。
とにかく、答え合わせもしていかないと。
- 85 名前:山羊太 投稿日:2003/09/25(木) 01:22
- 隠。
- 86 名前:つみ 投稿日:2003/09/25(木) 17:23
- デート編ですか!
それにしても安倍さんが何か心配ですね・・・
- 87 名前:真希視点 投稿日:2003/10/07(火) 17:45
- 待ちに待った日曜日。
昨日は昼から、てるてる坊主を作った。
そのおかげか雲一つない晴天だ。
これ、愛のパワー。
時刻は9時45分。約束の15分前。
今日は目覚ましよりも先に目が覚めた。
まさに愛のパワー。
古本屋の前で、大きく深呼吸。
ついでに人を三回手の平に書いて飲みこむ。
こんなに緊張するのは好きな人とお出かけするから。
よし、開けるぞ。
意気込み手を前に出す。
しかしドアは自動に開いた。
「ふわぁ!いつから自動ドアに!?」
「んなわけ、ないじゃん」
「…んぁ、やぐっつぁん、おはよう」
「はい、おはよう。なっち呼んでくるよ」
そう言って真里は、再び奥に。
待つ事3分ちょっと。
愛しのなつみ登場である。
- 88 名前:真希視点 投稿日:2003/10/07(火) 17:56
- 「おはよう、ごっちん」
「おはよう、なっち」
何気ない挨拶を交わす事も嬉しい。
なつみと居ると、自然と顔が緩んでしまう。
「いってきます」と、真里に一声かけて出発。
あ、そう言えば行き先教えてもらってない。
着いてからのお楽しみかな?
真希は自分の右手に目を落とした。
その右手は、なつみの左手をしっかりと握っている。
行き先を知らない真希が、迷子にならない様にと繋いだ手。
迷子になんかならないよ。
なっちを見失うわけないから。
- 89 名前:真希視点 投稿日:2003/10/07(火) 18:19
- 15分歩いて、途中バスに乗って、そこから再び歩いて
着いた先が山だった。
「今日は絶好の登山日だべさ!」
「んぁ〜」
このパターンは予想できなかったなぁ。
紅葉狩りには少し早い季節。
すれ違う人達は、散歩を楽しんでいる感じで。
真希達はのんびりと景色を見ながら山を登って行く。
途中、なつみはリスを見つけたらしく、嬉しそうに場所を教えてくれた。
結構小さな山で、山頂に到着するのに1時間もかからなかった。
「歩いた〜。明日絶対、筋肉痛だよ」
「ごっちん、まだ若いんだから…」
真希は木々に囲まれたその場に座りこむ。
木を眺めながら、ふと呟いた。
この木、何の木だったけ?
「桜だよ」
「桜?あ、桜だ!思い出した!この木、桜だぁ」
「…思い出した?ごっちん、ここ来た事有るの?」
「んぁ?」
あれ?何で思い出したなんて叫んだんだ?
ここって、来た事あるっけ?
- 90 名前:真希視点 投稿日:2003/10/07(火) 18:34
- 頭ん中が、もやもやして気持ち悪い感じ。
この山に来た覚えなんか無いのに、この木を知っている。
心の奥の奥の奥の奥のず〜っと奥に、壊れたひきだしがあって
その中に、すっごく大事な記憶が入っている。
そんな感じ。
なつみの方を見ると、お弁当を広げていた。
その和やかな光景を見て、もやもやが何処かに吹っ飛んだ。
「ごっちん、お昼にしよっか」
「もしかして、なっちの手作り!?」
「そうだよ。頑張ったんだから、味わって食べるんだよ」
「わ〜い」
桜の木の下で仲良くお昼タイム。
そんな二人の光景を遠くから眺めているグループが二つ。
- 91 名前:山羊太 投稿日:2003/10/07(火) 18:36
- いつもながら短いです。次は多分どーんと…。
- 92 名前:山羊太 投稿日:2003/10/07(火) 18:39
- 86> つみ様
デート編らしき物です。少し続きます。
安倍さんも心配ですが、段々と性格が情けなくなってきた後藤さんも心配です。
- 93 名前:つみ 投稿日:2003/10/07(火) 20:07
- 愛のパワーで後藤さんにはがんばってほしいですね!
桜の木には何かがあるんでしょうかね〜?
眺めてるグループが二つというのが気になりますね^^
次回の更新を待ってます!
- 94 名前:真里視点 投稿日:2003/10/19(日) 16:56
-
「や、矢口さん…、もぅ…あかん…」
「加護…」
山の中腹辺りで亜衣の足が止まった。
脇腹を押さえて、肩で息をしている。
早くなつみに追いつかなくてはならないと言うのに。
「早く頂上に行って、お弁当食べるぞぉ!」
一方、希美の方は当初の目的を忘れ、元気に山登りを楽しんでいる。
この二人は足して2で割ったら丁度いいかもしれない。
「矢口さん…のの、先に行ってぇ…」
亜衣は力無く、その場に座りこむ。
こんな状況じゃなきゃ、一緒に休憩してあげるが、今は一刻を争う時。
何時、あの子が現れるかわからない。
だから
「わかった。先に行く」
「すみません」
亜衣を置いて、再び歩き出した。
- 95 名前:真里視点 投稿日:2003/10/19(日) 17:14
- なつみと真希を見つけた時には、太陽は真上で二人は仲良くお弁当を食べていた。
木陰に入ると、希美が水筒を差し出してくれた。
コップにお茶を注ぎ、一気に飲み干す。
一息ついて、二人を眺める。
「本当に来るかな」
「どうでしょう」
「来たら大変だ。決定的になるから」
「…」
ここに来た理由は二つ。
一つはなつみが心配だから。
もう一つは、とある真実を見極める為。
「あの、お弁当食べていいですか?」
「加護が来てから」
「一口だけ」
マイペースなのか何なのか。
駄目と言ってもお弁当を食べたいと言い続けるだろう。
仕方なく、OKサイン。
さて、何事も無くデートが終ってくれればいいのだが。
- 96 名前:???視点 投稿日:2003/10/19(日) 17:31
-
「あ、おかえりなさい」
「ただいま」
「何処に行ってたんですか?」
「ちょっと」
答えにならない答えを返し、れいなの横にしゃがみ込む。
視線の先には、仲良くお弁当を広げているなつみと真希。
そして、少し離れた所に隠れている真里と希美。
今の所、どちらにも自分達の存在は知られていない。
「これから、どうするんですか?やっぱり邪魔しますか?」
「しないよ。今日は」
少女はやんわりと微笑む。
その笑顔を見て、れいなは思わず目を逸らす。
そして赤くなった顔を両手で押さえ、二人に視線を戻した。
- 97 名前:真希視点 投稿日:2003/10/19(日) 17:57
- お弁当を食べ終わり、のんびり空を眺める。
桜…。真希はこの木を知っていた。
いや、この木だけではない。この場所も知っている。
桜。桜で連想されるのは、なつみに貰ったしおり。
あれも見覚えがあった。
やっぱり、何か大切な事を忘れている。
思い出さなきゃ。今思い出さなきゃ。
イマ オモイダサナキャ ナッチガ マタ トオクニイッチャウヨ
「あ、思い出した…」
「ごっちん?」
壊れた引き出しが、開いた。
封印された記憶の鍵が壊れる。
- 98 名前:真希視点 投稿日:2003/10/19(日) 18:05
- バカだ。なんてバカなんだ。
どうして忘れていたんだ?こんな大切な事。
思い出した途端、涙が溢れてきた。
心配そうになつみが声をかけてくる。
「どうしたの?気分悪い?」
「違う。ごめん。なっち、ごめっ…」
どうして、そんなに優しくしてくれるの?
後藤は今の今まで、忘れていたんだよ?
絵本の事も、しおりの事も、この場所の事も。
なっちの事も。
- 99 名前:真希視点 投稿日:2003/10/19(日) 18:26
- あの絵本は、元々なっちに貰った本だ。
なっちが遠くに行くから、別れ際にくれたんだ。
だから、後藤は手作りのしおりを、なっちにあげたんだよ。
ここの桜も、なっちと二人で見に来たんじゃないか。
「ごめん…なっち。忘れていて…ごめん」
「やっと、思い出してくれたんだね。ありがとう」
なつみはいつもと同じ笑顔で、優しく抱きしめてくれた。
涙が止まらない。
なつみは、どんな気持ちで接してくれていたんだろう。
謝っても謝っても、まだ足りない。
「ごめんね。大好きな人を忘れるなんて、後藤…最低だね」
「あれ?ごっちん、それは告白?」
「んぁ?」
溢れ出ていた涙がピタリと止まった。
- 100 名前:真希視点 投稿日:2003/10/19(日) 18:38
- 今、何て言った?大好きって言った?
普通に言っちゃったよ。
「そ、そうだよ。告白」
「ありがと」
微笑むなつみに、赤面する真希。
「さてと、帰ろうか」
「はい」と、差し伸べられたなつみの手を握る。
ドキドキが鳴り止まない。
もう2度と忘れないよ。なっちの事。
この手も絶対に離さない。
何があっても…絶対に。
- 101 名前:???視点 投稿日:2003/10/19(日) 18:46
-
「思い出しちゃいましたね」
困った顔でれいなが少女を見た。
返事を待っている。
「これからは、安倍さんをマークして」
「あれ?後藤さんは?」
「必要ない…です」
少女から笑顔が消えた。
今はとても、冷たい目をしている。
真希をマークする必要なんか無い。
だってすぐ忘れるから。
貴方はとても大切な事を思い出していませんよ。
- 102 名前:山羊太 投稿日:2003/10/19(日) 18:47
- 大量とは言えない更新です。
のんびりすぎですね…。
- 103 名前:山羊太 投稿日:2003/10/19(日) 18:49
- 93> つみ様
今回で、色々と謎が解けたり増えたりです。
???さんはまだ???さんのままです。はい。
- 104 名前:つみ 投稿日:2003/10/19(日) 20:51
- なんと・・・!
そんな過去がありましたか・・
しおりと絵本にはそんなお話があったんですね。
最後の二文がとても気になって今日は眠れないかな^^
- 105 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/21(火) 01:53
- 更新お疲れ様でした。お待ちしておりました。
今後また気になる展開ですね。がんばってください
- 106 名前:真希視点 投稿日:2003/10/24(金) 00:05
- 前までは憂鬱だった月曜日。
だけど、今日は違う。
一週間、頑張ろうと思えた。
他人から声をかけられるのが、嫌だった。
だけど今朝、クラスメイトの挨拶にも、ほんの少しだけど笑顔で答えた。
真希本人は気づいていない。
他人との間に作っていた壁が、小さく薄くなっている事に。
その微かな変化に気づいたのは、この学校内で唯一人。
「何?やけに機嫌良いじゃん」
「あ、よしこ。わかる?わっかるかな?」
「アハハハ、どうせなっちさん絡みだろ〜?」
「わっかた?さっすが!」
やたらハイテンションな二人。
真希は小声で昨日の経緯を教えた。
最初は笑顔で聞いていた、ひとみの顔が段々と困った顔になる。
聞き終わった時には、やれやれと溜息をつく始末。
「ごっちん…。なっちさんさぁ、返事言ってないよ?」
「え?」
「ありがとうは、告白の返事にはならないって事。
イエスでも、ノーでもないじゃん」
「えぇえええ!?」
その瞬間、一気にその場のテンションが下がった。
- 107 名前:真希視点 投稿日:2003/10/24(金) 00:28
- あの瞬間から放課後が待ち遠しかった。
なつみの返事を聞きたい。
学校が終ると、急いで靴を履きかえて、校門までダッシュ。
その後も古本屋まで一心不乱に走る。
到着した時には、心臓が破裂寸前。
乱れた呼吸で喋れない状態だった。
一息ついて、フラフラとドアを開けようとした瞬間
ドアが勝手に開き、体にいきなりの激痛。視線は空をとらえる。
そして、力無くその場に倒れた。
どうやら、思いっきり飛び出してきた亜衣とぶつかったらしい。
その後すぐ、店から出てきた真里が心配そうに声をかける。
「だ、大丈夫!?ごっつぁん」
「んぁ…。ごとうは大丈夫。加護は?」
辺りを見渡すと、すでに遠くを走っている亜衣が居た。
「何かあったの?」
「…別に」
あったみたいだね。
なっちの返事を聞くのは、もう少し後になりそう。
- 108 名前:真希視点 投稿日:2003/10/24(金) 00:41
- 本当は首を突っ込まない方が善いかもしれない。
だけど、加護は泣いていた。
そして直感。絶対に追わなきゃ駄目だって。
「じゃ、バイバイ」
「え?何しに来たの?」
真里に手を振り、再びフラフラと走り出す。
しかし困った。すでに亜衣を見失なっている。
亜衣の行動パターンも知らない。
闇雲に探すしかないのだろうか?
勘だけを頼りに走っていると真希の目の前に、知った顔が歩いて来る。
亜衣の行動パターンを把握してそうな…。
「こぉーんのおぉー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
へろへろと、紺野に駆け寄る。
紺野は驚いた顔で、真希を見ていた。
- 109 名前:真希視点 投稿日:2003/10/24(金) 00:52
- 「紺野、何も聞かずに、一緒に加護を探そう」
「は、はぁ…。わかりました」
何があったかと聞かれても、知らない。
「そんなわけで、あっちをよろしく」
用件だけ言って、走り出そうとしたが、紺野に呼びとめられた。
紺野は鞄から携帯を取り出す。
「これ、番号です。見つかったら連絡して下さい」
「あ、そうだね。じゃあ、ごとうの番号も教えるね」
お互い、携帯に番号を登録。
見つからなかった場合は、1時間後に図書館前集合。
二人はお互いの反対方向へ走り出した。
- 110 名前:真希視点 投稿日:2003/10/24(金) 00:58
- 走りながら、見つけた後の事を考える。
まず、何があったかは詮索はしない。
でも、亜衣が聞いて欲しいと言えば、黙って聞く。
一人にして欲しいと言われても、一人にしない。
だって、心配だから。
それから、亜衣と紺野を家まで送り届けよう。
あぁ、そう言えば、なっちは携帯持ってるのかな?
…。番号知りたいな。
雑念が少し入った。
- 111 名前:真希視点 投稿日:2003/10/24(金) 01:06
- 30分程、走った時に紺野から着信。
亜衣が見つかったみたいだ。
紺野がいて良かった。真希一人だったら絶対に見つけられない。
現に、全然違う方向に走っていたから。
教えてもらった公園へ最後の力を振り絞って走り出す。
公園に到着した時、太陽はすでに傾いていた。
- 112 名前:真希視点 投稿日:2003/10/24(金) 01:19
- 薄暗く、人気の無い公園は不気味さを覚える。
奥のブランコに亜衣と紺野が座っていた。
二人共無言で、ブランコをこいでいる。
真希はゆっくりと二人に近付いた。
「…加護」
返事は無い。
その存在を無視するように。
「帰ろう。やぐっつぁん心配してるよ」
「…。帰れない」
帰らないじゃなくて?
詮索しないって決めたけど、このままじゃ話しが進まない。
「どうして…」
「どうして?どうしてって、ごっちんが悪いんや」
「ごとうが?」
悪いって…。
ねぇ、ごとうが加護に何かしたの?
- 113 名前:真希視点 投稿日:2003/10/24(金) 01:43
- わけわかんないよ。
加護が何を言ってるのか。
「教えて欲しい?」
「欲しいよ」
「そっか。じゃあ、ごめんね」
亜衣が紺野を見る。
その瞬間、紺野が頭を押さえながら、その場に蹲った。
目の前の光景に絶句する真希。
一体何が起こったのか、頭では理解が出来ない。
「ごっちんが悪いんや。すぐに忘れるのに
矢口さんから安倍さんを取るんやもん!!」
「言ってる意味がわかんないよ!」
「じゃあ、思い出す?」
亜衣が近付いてくる。
体が動かない。声も出ない。
今、この場の現状を理解する事も出来ない。
ただ、理解できたのは、加護の背中に白い羽があるって事。
それは人間ではない証。
- 114 名前:真里視点 投稿日:2003/10/24(金) 01:49
- 信じられない。
だけど決定的な事。
昨日、あの場所に彼女達は現れた。
知るはずも無いあの場所に。
それは、おいら達の中に情報を洩らした人物が居るって事だった。
信じたくない真実。
- 115 名前:山羊太 投稿日:2003/10/24(金) 01:51
- 今更ながら、非現実的な物語です。
???さんの答えは次か、次の次辺りです。
多分、皆さんの予想してる人です。多分。
- 116 名前:山羊太 投稿日:2003/10/24(金) 01:55
- 104> つみ様
色々と、いきなり謎が解け始めています。
これでぐっすりと、寝てくださいな。
105> 名無し読者様
お待たせしちゃいました。のんびりすぎたので
もう少しだけスピードを上げようかなと。
はい、頑張ります。
- 117 名前:山羊太 投稿日:2003/10/24(金) 01:56
- 隠してみよう。
- 118 名前:つみ 投稿日:2003/10/24(金) 18:55
- 天使・・・・・
何かそんな感じは正直してました。
こうなると、今度は絵本との関連性が気になって
眠れないかな・・・
- 119 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/24(金) 19:52
- 楽しみです♪
???さん。
私には、まだ分かりません。期待してます
- 120 名前:真希視点 投稿日:2003/10/29(水) 00:19
- ゆっくりと亜衣が近付いてくる。
逃げれない。得体の知れない恐怖。
呼吸のやり方も思い出せない。
「全て、思い出してな」
その言葉を聞いた瞬間、ひどい頭痛の襲われる。
そして脳裏に過った幼い少女の姿。
「…ぁあ…っつぅ」
欠けていた記憶が繋がっていく。
そうだ、あの日なっちに「さよなら」を言われた日。
あの瞬間から後藤の記憶の中からなっちが消えたんだ。
どうして?どうして消えたの?
目の前の亜衣を見る。
答えなんて考えなくてもわかるじゃないか。
その答えは真希にとって絶望的だった。
- 121 名前:真希視点 投稿日:2003/10/29(水) 00:30
- 「どうして、なっちはごとうの前に現れたの?」
「それは…。本人に聞きなあ」
「…」
いつの間にか亜衣の背中の羽は消えていた。
そのまま公園を後にする。
真希は、ふらつきながら倒れこんでいる紺野の側に近付いた。
「大丈夫?」
「…はい」
紺野は困惑した表情。
無理もない。あんな光景を目の当たりにしたのだから。
紺野に肩を貸して歩き出す。
「家まで送るよ」
「ありがとうございます」
歩く二人に会話は無い。
真希の頭の中ではエンドレスで言葉が回る。
どうしてなっちはごとうの前に再び現れたの?
その答えを知る日はとても近い。
- 122 名前:真希視点 投稿日:2003/10/29(水) 00:35
- 紺野の家の前には、妹らしき女の子が立っていた。
二人の姿を見て、女の子は少し表情を険しくする。
仕方ない、ふらふらだから。
「後藤さん。ありがとうございました」
「ううん。じゃあ、おやすみ」
紺野の家を後にする。
そして真希の足は、古本屋に向けて動き出した。
答えを知らなければ。
- 123 名前:真希視点 投稿日:2003/10/29(水) 00:48
- しかし、真希は古本屋に辿り着く事は無かった。
邪魔が入ったと言えばいいのだろうか?
目の前に希美が立っている。
「どうしたの?辻」
「後藤さん、辻の目を見てください」
「目を?」
「今日はもう遅いですね。だから家に帰ってください。
詳しい事は明日話します」
何故かその言葉に逆らえなかった。
相槌を打って、回れ右。
そう言えば、前にもこんな事があったっけ。
辻がごとうの目を見て言ったんだ。
「知らない人には、ついて行っちゃ駄目ですよ」って。
その後、信号待ちで出会った女の子。
その子の顔が思い出せない。
あんなに印象的だったのに思い出せないのは記憶を消された?
一体何の為に?
- 124 名前:???視点 投稿日:2003/10/29(水) 01:02
- 予想外だった。
亜衣が暴走するなんて。
少女は目の前に置かれている、紅茶の入ったカップを見つめる。
しかし、亜衣が暴走してくれたおかげで、真希の記憶が完全になった。
後は全てを知ってくれれば…。
「大丈夫ですか?」
「え?」
「ボーっとしてますよ」
心配そうな顔のれいなに、優しく「大丈夫だよ」と微笑む。
全ては順調に進んでくれている。
大丈夫。もうすぐ、この物語りは完結を迎えてくれる。
用意されているシナリオは一つ。
真希がなつみを突き放してくれればそれで終る。
それがこの物語に用意された、唯一のハッピーエンドなんだから。
明日、全てが決まる。
- 125 名前:山羊太 投稿日:2003/10/29(水) 01:04
- 次が答えあわせです。
- 126 名前:山羊太 投稿日:2003/10/29(水) 01:08
- 118> つみ様
ははは、鋭いです。関連性はどうでしょう?
次でほぼ全ての事がわかります。
119> 名無し読者様
???さん。次でばば〜んと名乗りあげます。
期待に応えられる様に頑張ります。
- 127 名前:山羊太 投稿日:2003/10/29(水) 01:09
- やっぱり、さっぱり話し。
- 128 名前:つみ 投稿日:2003/10/29(水) 15:39
- ほう・・・・
次回が答え合わせですか!
これからもう一回読み直して自分のファイナルアンサーを出したいと思います。
???視点はもしかしてですけど・・・
何か大どんでん返しのような気がします。
最後の答えを楽しみにして待ってます!
- 129 名前:真希視点 投稿日:2003/11/09(日) 21:36
- 今日は学校に行く気なんて無かった。
ひとみに『休む』とメール。
制服を着て、鞄を持って家を出る。
目的地はあの古本屋。
到着するまで、頭の中で自分なりに色々と整理する。
なっちは…人間じゃない。うぅん、なっちだけじゃない。
やぐっつぁん。加護、辻もだ。
そしてごとうは昔なっちと出会っていた。
その記憶はずっと消されていたけど。
どうして消されていたのか理由はわからない…。
とにかく、なっちに聞かなきゃ。
ごとうの前に再び現れた理由を。
- 130 名前:真希視点 投稿日:2003/11/09(日) 21:48
- いつもより重く感じた古本屋のドア。
できるだけ音の出ないように開け閉めをする。
奥に行くと、カウンターに真里が座っていた。
「なっちは?」と聞こうとしたが
その言葉をさえぎる様に真里が先に口を開く。
「おいらと、お喋りしようか」
答えを待たずに、座敷に上がる真里。
その後ろ姿を無言で追いかけた。
- 131 名前:真希視点 投稿日:2003/11/09(日) 21:57
- 座敷には、すでに座布団が2枚敷いてあった。
前と同じ場所に腰をかける。
真里も前と同じ場所に座り、静かに微笑んだ。
「で、何から聞きたい?」
聞きたい事はいっぱい有る。
いっぱい有りすぎて、何を聞きたいのか分からない。
今、一番聞きたい事は…。
「なっちは?」
「ここにはいないよ」
「じゃあ、何処にいるの?」
「お空の上かな」
半分ふざけて、半分真面目に真里は答えた。
- 132 名前:真希視点 投稿日:2003/11/09(日) 22:15
-
「単刀直入に言うとさ、おいら達は人間じゃないんだよ」
「知ってる」
「なんと、天使ってオチだぜぃ」
これでもかってぐらい、明るく真里が言った。
ただ、その声は震えている。
真希の反応を見て、少し苦笑い。そして視線を落とす。
その視線のまま、ぽつりぽつりと喋り出した。
「おいら達の仕事は、人間の幸せのお手伝いなんだ」
「お手伝い?」
「うん。誰かの幸せのお手伝いが成功すれば、そこで一人前」
その後、なっちは一人前じゃないんだけどね。と付け足した。
- 133 名前:真希視点 投稿日:2003/11/09(日) 22:33
-
「なっちは、いつも仕事の最後に失敗するんだよ。
情に流されたり、ドジしたりで。
ちなみに、なっちの最初のターゲットはごっつぁんだったんだぞ」
「ちょっと待って。ごとうが最初のターゲットって…なっちは何回失敗してるの?」
「ん〜。あ〜っと…99回かな」
普通なら1,2回で、成功するらしい。
天使の世界でも、歴史的な失敗の数だと真里は笑った。
つられて真希も笑う。ほんの少しだけ、その場に流れていた空気が変わった。
天使の仕事は、人間の前に現れない事が多いと教えてもらう。
会話を交わす事も、ほとんど無い。
その理由は、あまり感情移入をしてはいけないから。
「だけど、なっちはごっつぁんに恋しちゃったんだよね」
「え?」
「初めて会ったあの時からずっとだよ」
真希がなつみを忘れている間もずっと。
叶わぬと分かっていながら、ずっと想い続けてきた。
- 134 名前:真希視点 投稿日:2003/11/09(日) 22:51
- 正直、本人からその言葉を聞きたかった。
喜びたいけど何処か喜べない複雑な気持ち。
「本当は、会わないつもりだったみたいだけどさ。
ごっつぁんは来ちゃったんだよ。ここに。
その時おいら思ったんだよね。
この二人は結ばれるべき二人だって」
「結ばれるって、なっちは天使だよ?」
「そう、天使。しかも半人前だから長い事この世界に
とどまっていられない」
だけど真希は幸せを、つかもうとしている。
なつみは今度こそ仕事に成功して、一人前になれる。
そして真里は言った。
「昔、天使が人間になったって例があるんだ」
- 135 名前:真希視点 投稿日:2003/11/09(日) 23:15
- そこで、一つ気になる事が。
真希の幸せとは一体何なのか?
少し、躊躇いながらも真里に聞いてみる。
答えは、心の壁だと言われた。
他人との間に出来た、大きくて頑丈な心の壁を壊すのだと。
「きっと、壊せるよ」
「ごとうが、この壁を壊せたらなっちは一人前になれるんだね」
「そうだよ」
靄のかかっていた部分が明るみになってくる。
その時、ふと脳裏に過った亜衣の顔。
―すぐに忘れるのに矢口さんから安倍さんを取る―
すぐに忘れるって事は多分、天使が仕事を終えた時に
自分の記憶をその人間から削除するって事だと思う。
天使はこの世界に存在しないから。
ごとうは大丈夫。なっちを忘れたりはしない。絶対。
そして矢口さんから安倍さんを取るって言うのは…。
やぐっつぁんも、なっちの事が好きなんだ。
それは自分なりに考え出した答え。
- 136 名前:真希視点 投稿日:2003/11/09(日) 23:26
- ちらりと真里を見る。
目が合ったので、慌てて下を向いた。
「まぁ、ばれてるなら隠す事はないか」
いきなりの真里の言葉を理解する事は出来なかった。
ばれている。隠す事はないって何が?
「ごめん。聞くつもりは無かったけど、聞こえちゃった。
確かにおいらはなっちが好きだよ」
驚いて言葉が出ない真希に対して、真里は喋りを続ける。
「天使は、其々特別な力を持っているんだよ。
例えば加護は人の記憶を操る力。
辻は言葉で人を操る力。
そして、おいらは突然変異で人の心をよむ力が」
真里は少し悲しそうに笑った。
- 137 名前:真希視点 投稿日:2003/11/09(日) 23:40
-
「前例がないらしいんだ。人の心を読む力は。
皆、気味悪がって近付かなかったよ。なっち以外は。
こんなおいらと友達になってくれたんだ。
そして、あの辻加護コンビも。こんなおいらを慕ってくれた。
この好きって気持ちは、家族に対しての好きと同じ意味だと思う。
だから、ごっつぁんは安心して、なっちにアタックしろよ」
真里はニカっと笑った。
その笑顔で「加護の事、怒っていないから安心して」と付け足した。
なつみは半人前だから特別な力は開花していないらしい。
だけど、なつみはもうすぐ一人前になる。
真希の心の壁はすでに壊れかけ始めていた。
- 138 名前:真希視点 投稿日:2003/11/09(日) 23:53
- なつみは明日の夕方には、ここへ帰ってくるらしい。
その時なつみの気持ちをなつみの言葉で知りたい。
だから、今日はこれで帰る事にしよう。
古本屋を出て、いつもの道を歩く。
いつもの信号は赤信号。
立ち止まって、青に変わるのを待つ。
その時、前にも感じた寒気が真希を襲う。
道路を隔てた向こう側には、知らない少女が二人立っていた。
一人は…この前もここで会った。あの時は、すれ違っただけ。
信号が青に変わる。だけど、足が動かない。
少女達は横断歩道を渡り近付いてくる。
そして、真希の前でぴたりと止まった。
「少し、お時間ありますか?」
少女の言葉に、真希は無言で頷いた。
- 139 名前:真希視点 投稿日:2003/11/10(月) 00:08
- 連れてこられたのは、昨日も来た人気の無い公園。
多分…勘だけど、彼女達も天使だと思う。
前に立っていた少女が冷たく笑う。
「安倍さんの事なんですが」
やっぱり、天使だ。
だけど、なっちの事って何だろう?
「安倍さんは人間になりたいと言っています。
その理由は後藤さん。貴方ですね。
だけど、人間になると言う事は私達の世界の法に反しています。
だから後藤さんから安倍さんに言ってくれませんか?
バカな考えは捨てろと」
感情も無く、淡々と少女は喋る。
その言葉に真希は「嫌だ」と答える。
少女はその答えが来る事を予想していたのだろうか
やれやれといった表情を浮かべた。
「後藤さん、何か勘違いしていませんか?
例え安倍さんが望まなくても、貴方から安倍さんの記憶は消えるのですよ」
少女は冷たい表情で、そう言い放った。
- 140 名前:真希視点 投稿日:2003/11/10(月) 00:22
-
「忘れないよ」
頭で考えるより先にその言葉が出た。
もうニ度と忘れない。そう誓ったから。
「忘れますよ」
間髪入れずに少女が答える。
そして一つ小さく溜息。
「現に忘れてるじゃないですか」
「何を?」
「私をですよ」
少女から先程の冷たい表情は消えた。
ただただ真剣に真希を見ている。しかし真希は少女を知らない。
「思い出して下さい」
その言葉に後ろに立っていた少女が反応する。
そして昨日の加護と、同じように真希の目をじっと見る。
次の瞬間、頭の中で何かの鍵が開いた。
「思い出しましたか?」
目の前から聞き覚えのある声がする。
今の今まで、見知らぬ少女が立っていた場所に、立っていたのは
「…紺野?」
「はい」
紺野はその名前を呼ばれて、にっこりと笑った。
- 141 名前:真希視点 投稿日:2003/11/10(月) 00:31
- 混乱。
目の前に立っているのは、
本が好きで加護を探すのも手伝ってくれた、あの紺野だ。
「忘れていたでしょう?2回も。
横断歩道で出会った事も忘れていた。
そして今、私と言う存在も…」
後ろに立っていたのは、昨日紺野を送った時に家の前で会った子だ。
分からなかった。全然分からなかった。
紺野は追い討ちをかける様に真希に言う。
「安倍さんが人間になった所で、後藤さんは安倍さんの事を思い出せませんよ。
この世界に安倍さんの居場所は存在しないのです」
その言葉がひどく胸に突き刺さった。
- 142 名前:山羊太 投稿日:2003/11/10(月) 00:32
- 全ての答え合わせは出来ていません。
答えになっていない気もします。
- 143 名前:山羊太 投稿日:2003/11/10(月) 00:35
- 128> つみ様
どうですか?当たっていましたか?
そのコメントを見る限りでは、気づきましたね!と言いたいです。
- 144 名前:山羊太 投稿日:2003/11/10(月) 00:37
- こんな役ですが、私は???さん大好きです。
- 145 名前:つみ 投稿日:2003/11/10(月) 00:53
- 自分が予想していたことが少し当たっていてうれしいね^^
もうひとり登場人物で気になっている人がいるんですけど・・・
まあそれは次回まで楽しみに取っておきます!
- 146 名前:真希視点 投稿日:2003/11/15(土) 14:36
- 絶対に忘れないと誓ったはずなのに
その決心が、自信が、何もかもが、音をたてて崩れていく。
「だって、ごとうは思い出したよ?なっちの事」
「それはキーワードを貰ったからですよ。幾つもの」
紺野は冷静に真希に答えを返していく。
「安倍さんの事を想っているのなら…」
「…。そうだ…。そうだよ!人間になった天使!
その人はどうなったの!?今、何処に!」
真里の言っていた事。
たった一人だけ人間になった天使。
その言葉を聞いた瞬間、紺野の後ろに立っている少女の顔色が変わった。
そして紺野は
「知っていたのですか?」
何処か寂しげに微笑んだ。
- 147 名前:真希視点 投稿日:2003/11/15(土) 14:52
-
「その人は、今もこの世界にいますよ。
安倍さんと同じように、人間を好きになって…
そして、天使を捨てました」
「その人は今…何処に?」
「何処でしょう?」
ドコデショウ?
その言葉を発した紺野は、目が笑っていなくて
でも、笑顔で真希を見つめている。
「…その…人間と幸せになれたの?」
それが一番知りたい事。
もし、その人と幸せになれたのなら、希望が繋がる。
「なれるわけないですよ。忘れられたのだから」
「…え?」
「その人間にも。天使にも。待っていたのは、ただ孤独でした…」
真希はその場に崩れた。
全ての希望が消えた気がした。
紺野もしゃがみ込み、真希と同じ目線になる。
「知りたいですか?天使が人間になる方法を」
次に待っている物。
それは紺野からの真希に対するトドメの一言。
- 148 名前:真希視点 投稿日:2003/11/15(土) 15:09
- 「…」
返事の仕方も忘れてしまった。
真希の返事を待たずして、紺野は話しを進める。
「簡単な方法です。翼を切り落とすのですよ…」
「!!?」
その言葉を聞いて、真希の体がビクっと揺れる。
体の一部を切り落とす。
その傷跡と痛みは一生消えない。
「耐えれますか?好きな人が自分の為に傷つく事を。
その上、自分は忘れてしまうのですよ?」
頭の中が真っ白だ。
探しても探しても答えなんか見つからない。
溢れ出した涙を拭う事も出来なくて。
ただ目の前にいる紺野に助けを求めるだけ。
「紺野…。ごとうは、どうすればいい?」
「簡単な事ですよ。それは後藤さん自身わかっているでしょう?」
「……」
忘れないって誓ったのに。
なのに…さよならを決意するなんて…。
- 149 名前:真希視点 投稿日:2003/11/15(土) 15:25
- 「どうしますか?ぐずぐずしていると手遅れになりますよ」
「大丈夫だよ。そう時間はかけないから」
「…ありがとうございます」
紺野は態度を一転して深深と頭を下げる。
下がった頭は中々上がっては来ない。
少し経ってから気づいた。紺野が泣いていることに。
声を押し殺して、肩を震わせながら。
「紺野…?」
これは仕事じゃないの?
法を犯す天使を紺野が取り締まっている。
そっと紺野の背中に手を添える。
紺野はすぐに「大丈夫です」と、真希の手を軽く振り払う。
そして、すくっと立ち上がり一礼。
そのまま公園を出て行ってしまった。
もう一人の少女も同じ様に公園を出る…
前に真希に腕を掴まれる。
「君には、もう少し付き合ってほしいんだけど」
- 150 名前:真希視点 投稿日:2003/11/15(土) 15:39
- 「何ですか?」
少女は真希を睨みつける。
どうやら嫌われているらしい。
「まずは自己紹介しよっか」
「…。後藤さんの事は知っています。私は田中れいなです。
これでいいですか?」
彼女の気持ちはわかる。
早く紺野を追いかけたいと言う所。
「ありがとう。で、紺野の事を少し教えてくれないかな?」
「は?」
「お願いだから。ごとうは何も知らないんだよ」
紺野の事。名前とか。能力とか。何も知らない。
どうしてなっちの為に、あんなに必死になるのとか…。
なっちとお別れするって悲しいはずなのに。
実感が無いんだよね。
だからかな?今、目の前にある事をほっておけない。
苦しんでいる紺野を、助けてあげたい。
- 151 名前:山羊太 投稿日:2003/11/15(土) 15:40
- 向かう所に一直線です。
- 152 名前:山羊太 投稿日:2003/11/15(土) 15:43
- 145> つみ様
気になる登場人物?それは誰でしょうか…。
そして、もう少しだけ、謎は残されております。
- 153 名前:山羊太 投稿日:2003/11/15(土) 15:44
-
- 154 名前:つみ 投稿日:2003/11/15(土) 16:05
- むう・・・
こんこんとなっちには何かがあるんですね・・・
もう少しの謎、が凄く楽しみです。
期待して待ってます。
- 155 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/15(土) 18:19
- 更新お疲れ様です。
- 156 名前:真希視点 投稿日:2003/11/30(日) 12:08
- 「貴方に教える事は何もありません」
れいなは真っ直ぐした瞳で、その一言だけを言うとこの場を去ろうとする。
だけど真希はその腕を離さず。
このままでは、いつまで経っても逃げれないと悟ったれいなは、一つだけなら質問に答えますと言った。
一つだけ。
たった一回だけ出来る質問。
聞きたい事は山ほど有る。だけど、今頭の中に有る質問は一つ。
紺野が天使だと知った時に生まれた違和感。
「ねぇ…紺野って人間だよね」
- 157 名前:真希視点 投稿日:2003/11/30(日) 12:19
- だって、彼女は特殊な力を持っていない。
彼女が動く時に使ったのは全てはここにいる、田中って子の力。
加護との時だって、紺野はその力を防げなかった。
そして…紺野の背中には服越しでも判るぐらいの大きな傷跡があった。
それが何を標すのか、バカなごとうだってわかるよ。
紺野なんだよね。やぐっつぁんが言っていた人間になった天使って。
だけど、翼を捨ててでも一緒になりたかった人に忘れられた。
だから、なっちに同じ想いをさせないと頑張っていたんだ。
小さい頃、天使の絵本を見せてくれたなっちに。
「…はい。確かに人間です」
れいなは小さく答えた。
- 158 名前:真希視点 投稿日:2003/11/30(日) 12:30
- 紺野を助けたいと思ったけど、どうやらその役目を果たすはごとうじゃない。
目の前にいるれいなを見る。
大丈夫。君なら心の支えになれるよ。
現に孤独な紺野を救おうとしている。
「ありがとう」
真希はその一言を残すと、れいなの腕を離した。
そして、ゆっくりと歩き出す。
「あさ美ですよ」
「え?」
「紺野さんの名前」
背中越しに教えてくれたその名前を、頭の中で繰り返す。
「可愛い名前だね」
その言葉を聞くと、れいなは嬉しそうに笑った。
初めて見た彼女の笑顔は、とても可愛く思えた。
- 159 名前:真希視点 投稿日:2003/11/30(日) 12:45
- 真希はそのまま家に帰らずに、古本屋に向かう。
しかし、いざ古本屋の前に来ると、そこに立ち入る事は出来ずに入り口の前で右往左往。
「何してんの?」
「あ、加護…」
振り返ると、警戒心でいっぱいの亜衣が立っていた。
この前あんな別れ方をしたのでお互い気まずい。
そんな重い空気の中で、真希は亜衣に笑顔を向けた。
今日、古本屋に来た理由は亜衣に会うためだから。
「加護、いきなりで悪いけどお願いがあるんだけど」
「…。何?」
「記憶を、消して欲しいんだ」
「記憶を?」
「今回のお仕事が終ったら、なっちの中に有る
ごとうの記憶を…消して…くれないかな?」
- 160 名前:真希視点 投稿日:2003/11/30(日) 12:54
- 本当は、ずっと一緒に居たい。
でも、それは出来ないことなんだ。
それを叶える為には、なっちが傷つかなきゃいけない。
ごとうが傷つくのなら、喜んで傷つくよ。
なっちと一緒に居れるのなら、何だってするよ。
だけどね、好きな人が傷つくのだけは耐えられないんだ。
だから、お別れするって決めた。
本音は「忘れないで。ずっとごとうの事、覚えていて」って言いたい。
だけど、それがなっちを縛る鎖になるのなら…。
次の一歩を邪魔する障害になるのなら。
ごとうの事を忘れて欲しい…。
- 161 名前:真希視点 投稿日:2003/11/30(日) 12:56
-
亜衣は何も喋る事は無く、ただ小さく頷いた。
- 162 名前:山羊太 投稿日:2003/11/30(日) 12:57
- 遅い更新です。
- 163 名前:山羊太 投稿日:2003/11/30(日) 13:00
- 154> つみ様
もう少しの謎は解消しました。
これからラスト一直線です。
155> 名無し読者様
ありがとうございます。
のんびり者ですみません。
- 164 名前:つみ 投稿日:2003/11/30(日) 13:20
- こんこん・・・
こんこんはごとーさんのためにこんなことをね・・・
相手は・・・
まだ謎がありそうなんで楽しみにしてます。
- 165 名前:真希視点 投稿日:2003/12/02(火) 18:23
- 心の壁は少しずつ壊されていった。
ひとみの他にも、笑顔を向けて喋れる友達が出来た。
だけどなつみの事を覚えているのは、まだ完全に壁が壊れていない証拠。
決心が鈍らないようにと、古本屋へは行かないと決めた。
なつみに会えば決心が揺らぐかもしれないから。
- 166 名前:真希視点 投稿日:2003/12/02(火) 18:32
- 家から学校へ。
学校から家へを繰り返す。
今日も学校から家へ。
途中で真希の足を止めたのは、翼を捨てた彼女だった。
「紺野?どうしたの」
「偶然です」
偶然にしては、道の真ん中で待ち構えていたよね。
紺野は少し疲れたように笑う。
そしてか細い声で言った。
「あ…。…好きだった人に会ってきました。
声かけたら…変な顔されちゃいました」
- 167 名前:真希視点 投稿日:2003/12/02(火) 18:47
- 紺野は紺野なりに頑張っていたんだね。
「やっぱり、無理なんです」
真希と出会って、昔の自分達と照らし合わせて
自分達と同じ思いをさせたくないと、邪魔していた。
だけど、真希やなつみを見ていて少しだけ芽生えた希望。
もしかしたら、もしかするかもしれない。
ほんの少しの希望をいっぱいの勇気に変えて声をかけてみた。
だけど、現実は残酷で
「ごめんなさい…」
「頑張ったね。ありがとう」
紺野…
君はいつだって誰かの為に走りまわっている…。
もっと違う形で出会いたかったよ。
きっと私は紺野の事も忘れるだろう。
- 168 名前:真希視点 投稿日:2003/12/02(火) 18:54
- 紺野と別れて、毎日と同じコースに戻る。
大丈夫。日常に戻るだけ。
最初から出会わなかった事になる。
なのに、なのにさぁ…どうしてかな?
どうして…
「あ、待ってたべさ」
どうして笑顔でごとうの前に現れるの?
- 169 名前:真希視点 投稿日:2003/12/02(火) 19:09
- 「何しに来たの?」
冷たく言葉を投げかける。
「ん、なっちのお仕事今日までだから、それ言いに来たの」
「それはおめでとう」
顔が見れない。
顔を上げれない。
「なっちが、ここでさよならした瞬間に
ごっちんの中にある天使に関する記憶消えるから」
「へぇ」
だったらさぁ…早く行ってよ。
早く記憶を消してよ!
「…。だけどなっちは…ごっちんの事が好きだから…ここに」
「迷惑だよ」
その言葉を遮る。
「こっちは人間だよ?お願いだから日常を壊さないで。
住む世界が違うから。なっちがこっちに居ても…
迷惑なだけだから!」
今、なっちはどんな顔をしているのだろう…。
- 170 名前:真希視点 投稿日:2003/12/02(火) 19:16
-
「ありがとう」
あんな事を言ったのになっちは笑顔で
ごとうの頭を撫でてくれた。
「全部…聞いたよ?なっちの記憶を消してって言った事も全部」
「…」
「だけど、なっちはごっちんの記憶を残しておきたい」
「どうして?」
「だって、いつかごっちんがなっちの事
思い出すかもしれないっしょ?」
そんな事有り得ないんだよ?
繋がりは全て無くなるのに…思い出せるわけない。
「それまで、ほんの少しお別れ」
なつみの笑顔は最初に出会った時と同じだった。
- 171 名前:真希視点 投稿日:2003/12/02(火) 19:20
- 「ごっちん…好きだよ」
一瞬だけ触れた二人の唇。
それはさよならの合図。
「なっ――――――」
名前を叫ぼうとした瞬間、頭の中が真っ白になる。
「―――――――――」
自分がここで何をしているのかもわからない。
叫びたかったその名前は空に消えた。
- 172 名前:居場所 投稿日:2003/12/02(火) 19:23
-
あの日、どうして自分が道の真ん中で泣いていたのか今でも謎だ。
そして涙が止まらなかった理由も。
考えても考えても答えは答えなんてみつからない。
頭の中が気持ち悪くなるばかり。
だから考えるのをやめた。
- 173 名前:居場所 投稿日:2003/12/02(火) 19:27
-
何か大切な事を忘れている気がしたけど
大切な事を忘れる訳ない。
きっと些細な事なんだろう。
- 174 名前:居場所 投稿日:2003/12/02(火) 19:31
- それよりも、今日はみんなでカラオケ。
何を歌うか考える方が大事だ。
とにかく、よしこに曲を取られないようにしないと。
でなきゃデュエットされてしまう。
それだけは勘弁。
そう言えば、みんなと遊ぶようになってから
本を読む時間が減った気がする。
- 175 名前:居場所 投稿日:2003/12/02(火) 19:34
- 前まではよく図書館に通っていたのに。
うん、今度の日曜にでも行ってみよう。
新しい本が増えてるかも。
そんな事を考えながら待ち合わせの場所へと走った。
- 176 名前:居場所 投稿日:2003/12/02(火) 19:40
-
何となくだった。
歌い疲れたのでボ〜っと携帯をいじっていた。
最近になって登録が増えたなぁと、名前の一覧を見ていた。
「…ん?」
そこには知らない名前が登録されていた。
その名前は
「紺野…?」
- 177 名前:居場所 投稿日:2003/12/02(火) 19:45
- 覚えがないので気持ちが悪い。
消去ボタンに指を添える。
「いや…登録されているって事は知ってる誰かかも…」
その指を離し、携帯を閉じる。
「後で調べよ」
- 178 名前:居場所 投稿日:2003/12/02(火) 19:52
-
―もしも私が貴方の事を思い出せたのならば
私が貴方の翼を切り落としたい
貴方は体に大きな傷がつくだろう
だから私は心に大きな傷を背負いたい
そして私は貴方の居場所になりたい
だって私の居場所が貴方の隣だから―――
- 179 名前:居場所 投稿日:2003/12/02(火) 19:53
-
おわり
- 180 名前:山羊太 投稿日:2003/12/02(火) 19:55
- 今まで読んでくれた方々、ありがとうございました。
最後の最後まで幾つか謎を残しておきます。
自由に答えを考えてください。
- 181 名前:山羊太 投稿日:2003/12/02(火) 19:58
- 164> つみ様
紺野さんの相手は…ヒントだけ残して秘密って事で。
名前の頭文字を何処かで言っちゃっていますが。
今まで感想をありがとうございました。
- 182 名前:つみ 投稿日:2003/12/02(火) 21:26
- おお!!
完結お疲れ様でした。
今最初から読み直して謎をひとつづつ解いていったんですけど
114のやぐちさんが言っていた「情報を漏らした人物」と
いうのはいったい誰なんだろう?と思ってます。
あいぼんなのかののなのかが・・・
それと紺野さんの相手はあのかたでしたか・・・
少し紺野さん編も見てみたいという正直な気持ちですw
- 183 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/03(水) 00:54
- こんなに素晴らしい作品を書いて下さってありがとうございました。
山羊太さんの文章は感情移入しやすいので、ただでさえ感動していたのに、
最後の文章で題名の意味が分かったときは、涙が止まらなかったです。
本当にありがとうございました。次回作も期待しています。
- 184 名前:山羊太 投稿日:2003/12/04(木) 01:08
- 182> つみ様
はぁう!それはですね、加護さんです。
基本的にその役回りは全部加護さんです。
紺野さん編は実は頭の中ではストーリーは出来ていました。
てか、正確には紺野さんと田中さん編です。
本当は書く予定でした。
何時かヒッソリと書き始めるかもしれませんぬー。
183> 名無し読者様
ありがとうございます。恐縮です。
読んでくれて本当にありがとうございました。
次回作、銀の方で始めちゃいました。
そちらも良ければ見てやって下さい。
- 185 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/04(木) 05:58
- >>山羊太
今までご苦労様でございました。これまで仕事から帰ってきては
更新してるかなーなんておもいながらチェックしておりました。
完成はうれしいよなかなしいような。また新作をお書きになるとのこと
そちらも読ませていただきたいと思います。おつかれさまでした
- 186 名前:山羊太 投稿日:2003/12/07(日) 00:06
- 185> 名無し読者様
ありがとうございます。
実は全然未完成な話しですが、読んでくださりありがとうございました。
新作の方もよろしくお願いします。
Converted by dat2html.pl 0.1