キスの味は、マンゴープリン 3

1 名前:マーチ。 投稿日:2003年08月17日(日)19時52分38秒

前スレ(赤板倉庫)の続きです。
いちごま・アンリアル

またよろしくお願いします。
2 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)19時54分52秒

「市井さん?」

「んー?…おわっ!」

呼ばれたから振り向いた。
それはごく当たり前のことで、市井に落ち度はない。
そこに唇を狙って待ち構えてる娘がいるなんて普通思わないだろう。

「もう、市井さん、反射神経良すぎ!」
「同じ手にひっかかるか!」

そう、一度目は見事にひっかかってしまったのだ。
かわいい顔してやることは大胆極まりない、この藤本美貴の罠に――。


あれは、バレンタインの日。
廊下を歩いていた市井が後ろから呼び止められて、普通に振り返ったらその瞬間
キスされて。
それはまさに一瞬の出来事だった。


3 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)19時57分48秒

「じゃあ、今度から違う作戦にしますね!」
「おいおい!冗談じゃないって、シャレになんないんだからさ」

それからというもの、藤本はこんなふうに何かとちょっかいを出してくるように
なった。
元来の積極的な性格がいかんなく発揮され、このところ市井は完全に押され気味。
いつのまにかやけに親しげになっているのも、あながち気のせいではない。
それでもしつこさや嫌味が感じられないのは、藤本のさっぱりした気質が大きい
のだろう。

「シャレにならないって、ごっちん?」
「そ、そうだよ」

キスされたことがばれた時、後藤は泣いてしまった。
怒るとは思ったけどまさか泣くとは思わなかった市井は、かなりショックを受けた。

『なんかびっくりして…、涙出ちゃった…』
そう言って肩を震わせていた姿が今でも目に焼きついている。
もう後藤にあんな思いはさせたくないと、市井はその時強く思ったのだった。


4 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)19時59分08秒

「大丈夫ですって、ごっちんには内緒にしますから」
「や、そういう問題じゃなくて…、って、なにくっついてんだよっ!」

いつのまにかぴったりと密着されてしまい、あわてて両手で押しのける。
でも情けないことに簡単に押し返されてしまう市井。

くっ…後藤並みの腕力だな、こいつ…。

「市井さ〜ん」
「ぅわっ!」

反射的に仰け反ったのは、顔を思いっきり近づけられたから。
3センチ未満の超至近距離。
藤本のアプローチは日に日に過激になっていた。

5 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)20時00分25秒

「そこまで逃げなくても…美貴、ショックだな」
「キスはやばいって、マジで」

「でもごっちんはキスしてましたよ。市井さん以外の人と」
「へ?なに言ってんだよ。んなわけないじゃん」

突然何言い出すんだ、こいつは。
それも作戦か!?

市井が露骨に顔をしかめた。

「ほんとですって。1年の加護ちゃん、最近、よく教室に来るんです。ごっちん
 気に入られたみたいで、この前ばっちりキスしてましたよ」
「…1年?…加護?なに言ってんだよ、ははっ…」

突然聞かされた信じられない話を市井は軽く笑い飛ばした。

後藤が…!?
まさか、ありえないし。


6 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)20時02分05秒

でも、でたらめだと思いながらも、市井は強く否定できないでいた。
というのも最近二人で会う回数が、めっきり減っていたからだ。
だから後藤のことで知らないことがあっても全然不思議じゃないなんて弱気に
なったりもして。

会うのが減ったというのはもちろんそうしたかったわけじゃなく、そうならざ
るを得ない状況にあるからだった。

3年になった市井は受験生。
週末の休日さえも返上して勉強に勤しむ毎日だ。
おまけに生徒会の役員にもなったものだから、その活動にも追われている。
部活は引退したが忙しさは相変わらず、というかむしろ増しているものだから、
このところ二人はデートらしいデートもできないでいた。

後藤はそのへんの事情をよく理解していて、いっさい不満を口にしたりしない。
時々さびしそうな表情を表に出してしまうこともあるが、市井の負担にならな
いようにと努めていた。

だからせめて、登下校くらいはできるだけ一緒にと約束。
その待ち合わせ場所へ行く途中で、市井はこの厄介な娘に捕まってしまったの
だった。

7 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)20時03分11秒

「後藤が…、そんなことあるわけ…」
「ほんとですって!だから美貴とキスしても大丈夫です、ねっ!」

藤本が満面の笑顔で市井の腕にしがみつく。
必要以上に身体を押し付けられ、たじたじとなる市井。
それでいて後藤とはまた違った感触が新鮮に感じられて、ドキッとしたりも…。

「ちょっ、こらこら、離しなさい!んな、くっつくなって!」
「あ〜!市井さん、照れてますぅ?」
「うっさい、離せっ」

しがみついてる両腕をやっとの思いで引き離し、市井は足早に後藤が待つ校門
の前へ向かった。


8 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)20時04分08秒

「ん?」

後藤の姿が見え、駆け寄ろうとしたときだ。
その隣に見かけない人物がいることに気づき足が止まる。
やけにちびっこいその娘は、後藤の手を握ったり髪を触ったりと、かなり親しげだ。

「…誰だ、あれ」
「あれが加護ちゃんですよ」

懲りずに後を着いて来た藤本が、市井の独り言にすかさず応答。

「ふーん、あれが…、っておい!なに着いて来てんだよ」
「ね?仲良いでしょ?」
「う…」

確かにあのスキンシップぶりは仲がいいとしか言いようがなかった。
後藤が気を許してる友達は吉澤だけだと思っていただけに、軽くショックを受ける。
そんな様子を見て、にんまりと笑みを漏らす藤本。


9 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)20時06分26秒

「だから市井さんも美貴と仲良くしてくださいよぉ」
「だから≠チてなんだよ、意味わかんないって……えっ…!!」

横を向いた一瞬のすきだった。
市井の頬に触れた感触はまちがいなく唇。

「すきあり〜!」
「なっ…」

頬を押さえて唖然とする市井。
何が起きたのか理解するまでに数秒かかってしまった。

「これくらい、いいですよね!?」
「い、いくないって……離せっ、おい」

なおもくっついて離れない藤本を必死で追い払う。


10 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)20時07分12秒

「嫌です〜、離しません!」
「嫌って…何考えてんだよ」

「もう市井さん、照れ屋なんだから〜」
「藤本、やめろって……あっ!!」

市井の身体が凍りついたように固まった。


「ご、ごとぉ…」


いつのまにか後藤が近くまで来ていて、じっと二人のやり取りを見ていた。


11 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)20時08分14秒

「よっ…!ま、待った?」

いつものように軽く挨拶。
のつもりだったが、声は上ずり顔は引きつっている。
激しい動揺は、すぐには隠し切れなかったようだ。

「待ってたのはいちーちゃんだけ。美貴のことは待ってないから」

その言葉で市井は藤本がまだ腕にしがみついてることに気づき、あわてて離れた。

「ちがっ、これちがうから…、全然なんでもなくて、その…」

苦しまぎれに弁解を始めるが、後藤の視線は冷たいまま。

これってもしかして、めっちゃやばい状況かも…。

市井の顔がしだいに青ざめる。
一方の藤本は、そんな市井を見て満足げだ。

12 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)20時09分00秒

「あ、じゃあ、美貴帰りますね。ごっちん、市井さん、またあした!」

わざわざ目の前を通って、ひらひらと手を振りながら去っていく。
まるで残された二人の微妙な表情を楽しむかのように、にっこりとさわやかな
笑顔を残していった。


その場に残され立ち尽くす二人。
道行く顔見知りの友人たちが声をかけても、市井に反応する余裕はない。
非常に気まずい空気はどうしようもなくて、そのまましばらく顔を上げられな
いでいた。

13 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月17日(日)20時09分56秒

「いちーちゃん」
「あ、はい」

やっと名前を呼ばれたけれど、それは心なしかいつもより低い声。
市井はおそるおそる後藤の方へ視線を向けた。

「バカ…」
「うっ…」

ぐさっと刺さったその一言。
でも市井に言い返す言葉はない。

すたすたと先を歩き出した後藤の背中を追いかけるしかなかった。



14 名前:マーチ。 投稿日:2003年08月17日(日)20時11分04秒

こんな感じで『3』スタートです。

( ´ Д `)<いちーちゃんのバカッ〜!


15 名前:マーチ。 投稿日:2003年08月17日(日)20時12分26秒

えっと、懲りずにまた始めてしまいました。(お許しくださいっ…)
楽しんでもらえるようにがんばります。

分類板に続編できるかも≠ニ書かれて焦ったことは内緒です…。
(素敵な紹介文を書いてくださった方、ありがとうございます)

16 名前:和尚 投稿日:2003年08月17日(日)20時41分24秒
うわぁ〜い再開だ〜♪嬉しくて思わず小躍りしてしまいました。
しょっぱなからの修羅場スタート(笑)
そしてへタレないちーさんが良いですね〜(笑)
新しい登場人物が出てきたり、次の更新が気になる次第です。

17 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月17日(日)22時03分28秒
再始動(お、かっこいい言葉)おめでとうございます。そしてありがとうございます。
今度の敵(?)は手ごわそうだ…。いきなり強烈&強力、ついでに怪力。負けるな後藤さん!
市井くんダメダメだなあ。でも君だって焼きもちやいて拗ねる資格があるはずなのにね。
これから頑張れよー。

本当に続編ができるとは。あんなふうに書いてみるもんだ!
…ごめんなさい、分類板では期待半分でああ書いたのですが、作者さんを焦らせてしまったようで。でもいまは再始動をとても喜んでおります。
これからも楽しみにしております。
18 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月17日(日)23時46分17秒
お気に入り小説の新連載とても嬉しいです。
これからも楽しみにしています。
19 名前:名無し 投稿日:2003年08月18日(月)00時28分29秒
お気に入りだったので、再開されないかなー
とひそかに期待してました。
ヘタレないちーちゃんいいっす!
楽しみですねー。
20 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月18日(月)01時38分24秒
黒い藤本は少し怖いですね。
元々性格悪そうな子だからしょうがないか。
21 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月18日(月)08時08分14秒
>>520
レスはsageでやって…
22 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月18日(月)22時59分29秒
また始まって嬉しいです。
ミキティに負けるな、ごっちん!
23 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)23時35分40秒
再開されたんだ。めっちゃ嬉しいです。
楽しみにしてます。
24 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月23日(土)21時12分32秒

後藤の心中は穏やかではない。
この言いようもなくイラつく感情。
それがヤキモチ≠セということは後藤も自覚していた。

『…えっと、キス、された…』
あのバレンタインデーの日から始まった藤本の攻勢。
すれ違うたびに声をかけてきたり、時には抱きついてもきたり。
さらには生徒会の役員になり、一緒に活動するようにもなっていて。

後藤と一緒の時間が減る一方で、藤本との時間は増えている。
そんな状況が後藤の気持ちを不安定にさせていた。



25 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月23日(土)21時13分22秒

そして今、目の前で見てしまった二人のじゃれ合ってるシーン。
いや、決してじゃれ合ってるわけではないのだが、後藤から見れば充分そう映る。
これまでの積み重ねも手伝って、後藤の受けたショックは小さくなかった。

しかし、市井は気づいていない。
謝ればなんとかなるだろうくらいに軽く考えていた。

「ごめん」
「…ん…」

歩きながら謝るが、後藤は曖昧に頷くだけ。

「ごとー?」
「……」

笑顔もなければ会話もなく、さすがの市井もしだいに焦り出した。

26 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月23日(土)21時14分07秒

そんな調子のままいつもの公園に到着。
素通りしそうな勢いの後藤をなんとか留めて、二人はベンチに座った。

どんよりと重たい雰囲気の中、市井が恐々話しかける。

「あの、さ…」
「なに」

返ってきたのはやっぱり素っ気無い返事。
後藤の不機嫌さ加減を嫌でも思い知らされる。


27 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月23日(土)21時14分44秒

「なんでもないから…。藤本が勝手にくっついてきただけで、べつに…」
「ずいぶん仲よさそうに見えたけど」

「ま、まさか。そんなことない、仲良くなんかないよ」
「ふーん…」

無表情の後藤はそれだけで威圧感倍増。

やばっ…めっちゃ怒ってるよ。
もしかしてキスされたとこも見られたのかな。

市井の額に汗がじわっと滲む。

ん?
キス…?
そうだ、後藤だって…。


28 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月23日(土)21時15分29秒

「ごとーだってさ、イチャイチャしてたじゃん」
「え?なに…、なんのこと?」

急に言い返されて慌てる後藤に市井が畳み掛ける。

「見たんだ、校門のとこで二人でいるとこ」
「え、あっ、加護?いちーちゃん、加護のこと言ってるの?」

「仲いいんだって?その加護っていうやつと」
「なに言ってるの、加護は…」

「藤本が言ってた、めっちゃ仲いいって。…キスも、してたって」
「なっ…」

不意打ちを食らって一瞬言葉を失い、顔が赤くなる。
でも、後藤も負けてはいない。

29 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月23日(土)21時16分20秒

「いちーちゃん、美貴とそんな話してるの!?」
「え?い、いや…たまたまさっき聞いて…」

攻められるとやっぱりこんな調子。
後藤には強くなれない市井だ。

「キスっていうか、ふざけてたら触れちゃって…。でも加護は可愛い後輩だもん。
 加護の好きな人は別にいて、いろいろ相談に乗ってて」
「そうなの?」

事情を知りほっとした市井が小さく笑みを漏らす。
実はけっこう加護の存在が気になっていたのだった。
でもその安堵もつかの間、さらなる後藤の反撃が開始される。

「いちーちゃんこそ、美貴にまたキスされてたじゃん」
「あ…」

やっぱ見られてたんだ…。

途端に窮地に立たされる市井。

30 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月23日(土)21時17分14秒

「んと、あれはいきなり…」
「だいたい、待ち合わせ場所に美貴と来るなんてひどくない?…腕組んでさ」

「そ、それもだから、藤本が離してくれなくて…」
「…」

「待ちぶせされたんだ、いきなり現れて…」
「…いい」

「え?」
「もういいよ…」

なんとか事情を説明しようとする市井の言葉を後藤がため息混じりに遮った。

31 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月23日(土)21時17分59秒

「ごとー?」
「こんなことでいちーちゃんと喧嘩したくないもん。…ねっ?」

そう言って笑いかけた後藤だけど、それはどこかさびしげで。
後藤にこんな顔をさせてしまったことに、市井は激しく自己嫌悪。

「ごめん」
「だから、もういいよ」

「ほんと、ごめん」
「いちーちゃんがもてるのは今に始まったことじゃないし」

「いや、そんなことは」
「帰ろ?もうこの話はおしまい…」

差し出された手を握って歩き出す。
何事もなかったかのように他愛のないお喋りが続いたけど、市井の胸の内には
何かが引っかかったままだった。



32 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月23日(土)21時18分59秒

「じゃ、また明日ね」

家に着いたとたん、握られていた手が離れた。
いつもよりあっさりしてるのはたぶん気のせいじゃない。

「…ちょっと待って」
「ん?」

後藤が振り返る。
そこにはいつもの笑顔はない。

「やっぱ、ちゃんと話そう」
「え?」

「ごとー、ほんとは言いたいことあるんでしょ?そりゃ喧嘩は嫌だけど、我慢
 されるのはもっと嫌だよ。ごとーには本音をぶつけて欲しい。ちゃんと受け
 止めるからさ」

後藤の目を見て市井は一気に思いを告げた。
さっき何かが胸につかえた気がしたのは、きっとこれが言いたかったから――。


33 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月23日(土)21時19分50秒

「…来て」


しばらく市井をじっと見てた後藤が、そうポツリとつぶやいた。



34 名前:マーチ。 投稿日:2003年08月23日(土)21時21分20秒

更新しました。

レスありがとうございます。感謝!

>16 和尚さん
和尚さんに喜んでいただけてなによりです。
楽しく甘く進めて行けたらな思っています。
いちーちゃん、なぜかヘタレになってしまう…!

>17 名無しさん
えっと、あらためて紹介文ありがとうございます。
激甘と書かれたのを見たときは笑ってしまいました。
いや、甘いの大好きですけどね、激≠ニは!
勢いで再始動しちゃいました。細々とやってきま〜す。

>18 名無しさん
お気に入りとか楽しみとか、嬉しいお言葉ありがとうございます。
今さらどうかなと思っていたので、受け入れられて安心しました。
楽しんでもらえるようにがんばりたいです。

35 名前:マーチ。 投稿日:2003年08月23日(土)21時22分12秒

>19 名無しさん
ヘタレないちーちゃん、いいですか?
ここのいちーちゃんは元々ヘタレではなかったはずなのに…。
なぜこうなったのか、…不思議です。

>20 名無しさん
藤本さんは軽ヤンですからね〜。
そんな悪役ではないと思いますけど。

>22 名無しさん
また始めてしまいました。
喜んでもらえたようで、ほっとしています…。

>23 名無しさん
めっちゃ嬉しいだなんて…書いた甲斐がありました。
楽しんでもらえるようにがんばりたいです。


36 名前:素人○吉 投稿日:2003年08月24日(日)00時29分54秒
やっと続きが読めて感激ですw
ごまに頭が上がらないいちーさん密かにマンセーw
少しずつだけど成長してゆくふたりから目が離せません。
37 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月24日(日)20時08分25秒
いちーちゃんカッケー!
ただのヘタレではないっすね!
38 名前:和尚 投稿日:2003年08月26日(火)12時51分56秒
最後のいちーさんの言葉はごとーさんが凄く好きだから、大切に想っているから言ったんでしょうね。
改めてごとーさんを大切にしているいちーさんに惚れました。
39 名前:S 投稿日:2003年08月26日(火)19時57分38秒
初めてレスします。マーチさんの作品は大好きです。
この作品、2で完結したものと思ってたので、続きが始まってすごく嬉しいです。
末永く続くことを切望しつつ、更新楽しみにしておりますぅ。
40 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時10分29秒

部屋に入ってからずっと、後藤はベッドにもたれながら膝を抱えるようにして
背を丸めている。
その様子はやっぱりいつもと違っていて市井を不安にさせた。
触れたいけどそれを拒んでいるようで…。
何も出来ないまま、ただとなりに座っているだけの自分が歯がゆくて仕方ない。

こんなの嫌だよ、後藤…。



41 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時11分35秒

「あのさ、言いたいこと言っていいよ。ちゃんと、話し合おう」

沈黙を破って市井が言葉をかけた。
心が通じ合っていないこの現状をどうにかしたい一心だ。
後藤はそれに軽く頷いた後、そのままの姿勢でつぶやいた。

「もう1年たつね」
「…ん?」
「つきあって」
「あ、ああ。そうだね…」

後藤の言いたいことがつかめなくて、市井はとりあえず相槌を打った。
次の言葉を待つが、うつむいたままでなかなか声を出してくれない。

そして少しの間の後、後藤はゆっくりと顔を上げた。



42 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時12分33秒

「いちーちゃん、飽きちゃった?ごとーに…」

「えっ…」

それっきり言葉が続かず、動きも止まった。
あまりにも思いがけない後藤のその一言。

「…ちがう?」

首を傾げて市井の顔を覗き込む。
その瞳に漂う不安げな翳り。

飽きたかって…?
いちーが、ごとーに…?


43 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時14分01秒

「な、なんで…、飽きるなんて、そんなこと…」

思わず後藤の肩を強くつかんでしまう。
その勢いで自分の方にぐっと身体を向かせると、後藤は今にも泣きそうになった。

「だって、美貴と一緒のいちーちゃん、すごく楽しそうで…」

「えっ…」

「美貴とは生徒会も一緒でしょ。いつのまにかあんなに仲良くなってて…。
 それで思ったの、ごとーといるより楽しいのかなって。ごとーにはもう
 飽きたのかなって…」

「な…」

「あ、ごめん、こんなこと言うつもりなかったんだよ…。こういうの、うざいよね〜」

そう言いながら後藤はむりやり笑顔を作ろうとしたがうまくいかない。
そんな後藤を見て、市井は胸がきゅんと締め付けられる。


44 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時14分54秒

「そんなふうに思ってたなんて…ぜんぜん…」
「…」

「バカだな、そんなことあるわけないのに」
「だって…」

「ごめん、ごとーの気持ちわかってやれなくて」
「…いちーちゃん…っ」

こらえきれずに頬を伝う涙。
市井が頬に手を添えてそれを拭う。

「だめだよなぁ、まだまだ修行がたりないってことか。あー、もう泣くなって」
「…ん…うっ…」

市井は小さい子をあやすように後藤の頭や背中をやさしく撫でた。
こみあげてくる愛しさを感じながら、何度もそれを繰り返した。


45 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時15分59秒

「藤本は後輩の一人、それだけだよ。たしかに最近一緒にいることは多いけどさ。
 そんなの気にするほどのことじゃないから」
「うん」

「あ、なんなら生徒会やめてもいいし」
「え…?」

「いちーにとっては、ごとーがいちばん大切だからさ」
「いちーちゃん…」

優しい言葉、あたたかい手のぬくもり。
それは閉じかけていた後藤の心をゆっくりと開いていく。

「1年経ったって、やっ、何年経とうがそれは変わんないよ。だからもうそん
 な顔しないの!」
「うん…へへっ」

そして戻ってきたいつもの無邪気な笑顔。

それを見た市井もほっとし、にっこりと笑い返した。



46 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時16分45秒

「ふーっ、やっと笑ってくれたか」
「へへっ、うん、ごめんね」

信じてなかったわけじゃない、ただちょっと不安になっただけ。
市井のことが好きだから。
自分じゃコントロールできないくらい大好きだから。

「ったく…、もう余計なこと考えないこと!いちーも気をつけるからさ」
「うん」

市井が後藤の頭をポンポンと軽く叩くと、ふにゃあと嬉しそうな笑顔に。
そこにはもう、さびしさで落ち込んでいた翳りはなかった。

47 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時17分35秒

「あ、いちーちゃん、生徒会やめるなんて言わないでね」
「ん〜、でもなぁ…」

腕組みをし、眉を寄せる。
実際さびしくさせてしまった原因だということがわかり、市井も少なからず考
えてしまうのだった。

「すっごくかっこいいもん、全校生徒の前で活躍してるいちーちゃん」
「え…まじで?」
「あんな真剣な顔、なかなか見れないしね〜」
「おいっ、それどういう意味だよ!こいつっ」

からかわれた仕返しとばかりに、人差し指の先でおでこをびしと弾く。
大げさに痛がりながらも後藤は嬉しそうだ。

48 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時18分36秒

「うそうそ、冗談。あ、でも、かっこいいのはホントだよ!だからやめないでよ、ね?」
「……ん、白状しちゃうとさ、生徒会やろうと思ったのもごとーのせいなんだなぁ」

「へ…?なに?ごとーのって、どういう意味?」
「いや、実はさ…、ごとーにかっこいいとこ見せたくて…うん。あ、もちろん
 この学校のためになんかしたいってのもあったけど」

照れくさいのか言いながら顔を背ける市井。
後藤もみるみる顔が赤くなる。

「いちーちゃん…、それほんと?」
「ん…。言っとくけど、ごとーだってめっちゃもてるんだぞ」

「ええ?そ、そんなことないよぉ」
「いや、ある。だから、がんばんなきゃまずいなって思ってさ」

後藤がもてるのは実際本当だった。
石川や吉澤から具体的にいろいろ聞かされて、ひそかに焦ってたことも事実。

49 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時19分27秒

「…いちーちゃん!」
「へ、あっ…!」

突然後藤が市井を押し倒し、そのまま上から押さえ込んだ。
床に両手をつき、市井を真っ直ぐ見下ろす。

「な、なに…?」

そのいきなりの行動に驚きを隠せず、市井が目をぱちぱちさせた。
後藤の長い髪がサラサラと揺れて、ほんのり紅く染まった頬をかすめる。

「かっこよすぎ、いちーちゃん」
「へ…?」

市井へ向ける視線は真剣で熱い。
しばしの間、無言で見つめ合うふたり――。



50 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時20分15秒

「そんながんばらなくたって、ごとーはいちーちゃんが好きだよ」
「…」

「大好きなんだから」
「あ…うん…」

か、かわいい…。
こんなかわいいやつに飽きるなんてありえない。

市井はボーっと見惚れてしまい、ポカンと口を開けたまま言葉も出なかった。


51 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時21分08秒

「ね、いちーちゃんは?」
「ん?」

いつまでも何も言ってくれない市井を促すように、後藤は顔を近づけていった。
恥ずかしさで真っ赤になりながらも徐々にゆっくりと近づいていく。

「好き…?ごとーのこと」
「あ、ああ、うん」

でも市井の反応は薄いまま。
それは後藤のかわいさに一撃されてのことなのだが、後藤にしてみれば不満だった。
期待していた言葉をもらえず頬を膨らます。


52 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時21分58秒

「なんか気のない返事…」
「やっ、ちがうって、…そうじゃないって」

「じゃあ、なに?」
「うん…、なんていうか…」

後藤が可愛いすぎてボーっとなったとはさすがに言えない。

「ドキッとして」
「え?なんで?」
「なんでって…、それは、さ…」

言い終わらぬ間に腕を伸ばして後藤をぐいっと引き寄せると、チュッとおでこ
に軽くキス。
そしてそのままあっという間にぐるっと体勢を入れ替えた。


53 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年08月30日(土)13時22分50秒

「ちょっ…いちーちゃん?」

今度は下になった後藤が目をぱちくり。
見上げた先の市井の顔は、さっきの後藤と同様真剣そのものだ。
後藤は惹きつけられるようにその目をじっと見つめた。

「さっきの返事だけどさ…」
「え…?」

後藤の手をとり、指を絡めて、ぎゅっと握って。

「ごとーのこと」

照れくさそうに微笑んで、ゆっくり顔を近づけて。

「大好きだよ」


唇が重なった――。



54 名前:マーチ。 投稿日:2003年08月30日(土)13時23分36秒
更新しました。

( ´ Д `)<仲直り〜♪
55 名前:マーチ。 投稿日:2003年08月30日(土)13時24分28秒
レスありがとうございます。感謝!

>36 素人○吉さん
ホントにお待たせしましたね〜
感激まで言われると、再開してよかったなと思います。
自分としては今さら…って気持ちが強くて。

>37 名無しさん
カッケーいちーちゃんが正解なはずなんです。
ヘタレでありながら、いざという時にはやってくれます。

>38 和尚さん
ごまへの想いだけは誰よりあるいちーちゃんです。
決してヘタレなだけではない!はずです…。

>39 Sさん
初レスありがとうございます!
完結したままの方がよかったかなと今でも思っていたりするので、
始まって嬉しいという言葉はとても救われます。
56 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)02時29分52秒
更新お疲れです。
やっぱり甘いの最高!
57 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)20時31分02秒
甘えっ子のごまが読めるので嬉しいっす。
でも強敵が!
今後をますます期待します。
58 名前:S 投稿日:2003年08月31日(日)20時38分11秒
純粋で甘いいちごまは、ほんと最高ですね。大好きです。
続き、とっても気になりますっ。
59 名前:和尚 投稿日:2003年09月02日(火)22時28分06秒
更新お疲れ様です。
仲直りしたお二人さん。更に二人の絆は更に深まったコトでしょう。
やっぱこーでなきゃね♪
60 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年09月06日(土)22時26分15秒

「…んっ…」

軽く唇を合わせているだけじゃ物足りなくなるのは当然で。
二人のキスはお互いを求め合ってどんどん深くなっていく。

漏れ出す吐息。
後藤の腕が市井の首に廻される。
それを合図に絡め合うキスがより激しくなって淫らな音を立てた。

「ごとぉ…」

市井の手がその先を求め、ボタンを外しにかかる。

「あっ…、だめだよ、いちーちゃん」

慌てて動いている手を止めようとするが、市井はするりと器用にそれを避けた。


61 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年09月06日(土)22時26分59秒

「なんで?」
「弟、帰ってくるし…」

「まじで?」
「ん、そろそろ」

その言葉で一瞬手が止まりかけたが、またすぐに動き出した。

「…じゃ、ちょっとだけ」

そう言ってあっという間にすべてのボタンを外してしまい、肌蹴たシャツを左右に
広げる。
開かれた胸元に唇を這わせると、後藤はその感触にたまらずぎゅっと眼をつぶった。


62 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年09月06日(土)22時27分34秒

「んっ…や、だめっ…」
「ん、ちょっとだけだから…」

手が胸に移った。
下着越しにゆっくりと動き出し、その感触を味わう。

言葉とは裏腹な市井に後藤が抗議した。

「ちょっとって…、…全然ちょっとじゃ、ないっ…」
「そんなことないって…」

ウエストラインを撫で、そのまま下へおりた手がスカートの中へすべり込む。
すべてを知り尽くしている動きに、後藤の身体がびくんと跳ねた――。


63 名前:ヤキモチ。 投稿日:2003年09月06日(土)22時28分28秒

「ね…もう、だめだって…」
「うん」

頷きながらも全然やめる気のない市井。
その唇と手が後藤の身体をますます熱くしていく。

「やめっ…っ…」

このままどんどん進んでしまいそうになるのを後藤は必死で阻んだ。

「い、いちーちゃんっ!…もうだめっ!」

市井の肩をつかんでぐいっと押し返す。

もう限界。
これ以上されてたらどうなるかわからない。

本気の抵抗を感じた市井は渋々身体をどけた。


64 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年09月06日(土)22時29分16秒
「…はぁっ…どこがちょっとなのさ、もぉ…」
「ははっ…、ごめんごめん」

乱された服を整えながら後藤が市井をにらむ。
でも市井にしてみれば、そんな顔も可愛いと思ってしまい頬が緩んだ。

「いちーちゃん、えっちすぎ!」
「あ〜っ、そういうこと言うかなぁ。ごとーだって、その気だったじゃん」
「そ、そんなことないもん!もぉ、いちーちゃんのばかぁ」

真っ赤な顔をした後藤がバシバシと市井の背中をたたく。

「ばか、えっち、いちーちゃんのエロおやじっ!」
「痛っ!やめろって、ごめん、反省してます」

からかって、じゃれ合って、もうすっかり元通りのふたりだ。



65 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年09月06日(土)22時29分56秒

弟が帰って来たのと入れ代わるように、市井は後藤の家を出た。
途中まで送ると言ってきかない後藤が隣を歩く。
道すがら市井がそっと手をつなぐと、後藤は少し照れたように小さく笑った。

「めずらしいね、いちーちゃんから手…」
「あー、たまにはいっしょ?」
「うん、うれしい!」

さっきは手をつないで歩いていても、どこかよそよそしさを感じた。
でも今は違う。
つないだぬくもりから感じられるのはお互いへの愛情。

ちゃんと話してよかった、あのまま別れていたらずっと後藤の気持ちに気づか
なかったかもしれない。
笑顔でお喋りを続ける後藤を市井は感慨深げに見つめた。




66 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年09月06日(土)22時30分47秒

「ん?なに?」
「や、べつに…」

「ねぇ、いちーちゃん。ごとーもがんばるからね」
「へ、なにを?」

後藤が立ち止まって市井の方に身体を向けた。

「いちーちゃんに好きでいてもらえるように、美貴に負けないようにがんばる!
 がんばって女を磨く!」

空いているほうのこぶしをぐっと握り締めて力強く宣言。
些細なことでヤキモチをやいてしまった自分を後藤なりに反省したのだった。


67 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年09月06日(土)22時31分33秒

「や、いいからそんなことしなくて…」

これ以上かわいくなられたらむしろ困る。
口には出さないがそれは切実な思いだ。

そんな市井の気持ちに気づかない後藤は不満顔。

「なんで?せっかくやる気になってるのに〜」
「ごとーはさ、今のままで十分その…かわいいし」

だんだん声が小さくなってしまったのは照れくさくなったから。
かわいい≠ネんてしょっちゅう思ってるけど、あらためて言葉にするには
どうにも恥ずかしい。


68 名前:ヤキモチ 投稿日:2003年09月06日(土)22時32分48秒

「え、なに?聞こえなかった、もう一回言って?」

もちろん後藤には聞こえていた。
市井をからかうように自分の耳に手を当てる。

「ウソつけ〜、聞こえただろがっ」
「あはっ、聞こえたけどぉ、もう一回聞きたいんだも〜ん」

「やだよ、んなの」
「え〜、いいでしょ〜」

「もう絶対言わないから」
「やだやだぁ、そんなのやぁ!」

「こ、こら、引っぱるな。わかったよ、またいつか言うから」
「いつかなんてやだよぉ、いちーちゃんのケチ〜!」


いつまでも楽しそうな声が続く二人の帰り道。

きっともうヤキモチをやくことはない……かな…?



〜お・わ・り〜




69 名前:マーチ。 投稿日:2003年09月06日(土)22時33分46秒

更新しました。
70 名前:マーチ。 投稿日:2003年09月06日(土)22時34分38秒

レスありがとうございます。感謝!

>56 名無しさん
最後まで甘い…?
こんなふうにしか書けなかったり。

>57 名無しさん
甘えッ子ごまは無敵ですよね。
期待に添えるようがんばります。

>58 Sさん
Sさんに気に入ってもらえて嬉しいです。
甘いいちごま、これからもめざしていきます。

>59 和尚さん
和尚さんの言うとおり、二人の絆は更に深まりましたー!
やっぱりこうなるのです、いちごまは。

71 名前:マーチ。 投稿日:2003年09月06日(土)22時35分12秒
ではまた


72 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月07日(日)21時56分01秒
エロな市井がいいっすね!
次もがんばってください。
73 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/09(火) 23:45
うーん。
「男は急に止まれない」というやつか、市井くん。
読んでてニヤニヤしっぱなしでした。
なんだかんだで仲良しなんですなあ。(なんだかんだあるのか?!)
74 名前:和尚 投稿日:2003/09/09(火) 23:45
更新お疲れ様です!
やはりこの二人は仲良しでなきゃいけません!
このまま何事もなければ良いんですけど(苦笑)

それにしてもいちーさんが段々エロになっていく気が・・・。
75 名前:S 投稿日:2003/09/10(水) 01:16
エロ親父市井さいこー!!
つづきも期待しております♪
76 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:35

「やったー!紗耶香の負けね、よろしくー!」
「ちっ…、わかったよ、買ってきますよ」

昼休みの教室は、お弁当を広げている生徒たちのお喋りする声や笑い声で溢れ
ていた。
その中でもひときわ賑やかなグループにいた市井。
だるそうに椅子から立ち上がると、一人一人から押し付けるようにお金を渡される。

「あたし、アイスティね」
「私はウーロン茶」
「えーっと、あたしは…」

ジャンケンで負けたためパシリとなったのだ。
77 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:36

ポケットを小銭で膨らませた市井が自販機に向かう。
途中、藤本に捕まりそうになったが、なんとか振り切り目的場所に到着。
が、そこにはお団子頭のちびっこい先客がいた。

あれ、あの娘、もしかして…。

そっと背後から近づくと、やっぱり間違いなくあの娘。
間近で見ると、ホントにちっちゃい。
150cmあるかないかぐらいだろう。

高校生には見えないよなぁ。

腕組みをしながら、しげしげとその後ろ姿を見つめる市井。
78 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:37

その娘はいつまでたっても買うそぶりを見せず、ただじっと自販機を見ている
だけだった。
後ろに市井が立っていることにも全く気づいていない。

「買わないの?」

痺れを切らした市井が声をかけた。

「買います。ちょっと待って」

返ってきたのはいかにも面倒くさそうな言い草。
まったく振り返りもしない。

「あっ、お金足りないとか?」
「ありますよ!ちょっと待ってて!」

今度はしつこいぞとばかりに多少キレながらの返答。
それでもまだじっと自販機を見ているだけで、一向に買う様子はない。

なにしてんだ…?

市井が不思議そうに首を傾げる。

79 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:37

「買わないならさ、そこどけて欲しいんだけど」
「だからさっきから買うって…ああっ!」

そこでやっと振り返り、背後にいた市井と目が合った。

「市井さんっ!」
「うっす」

大きな驚声を上げたこのちびっ娘は加護亜依。
最近後藤と仲がいいことを知り、市井がひそかに気にしていた人物だ。

「す、すいません、どーぞっ」

加護があわてて自販機の前からどけようとしたが、市井は肩をつかんでそれを制した。

80 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:38

「買うなら先にどーぞ」
「でも、まだ迷ってて…」
「へ?買うかどうか?」
「そうじゃなくて、オレンジジュースにするか、リンゴジュースにするか…」
「はあっ!?ははっ…、まじで!?」

そんなことでずっと自販機とにらめっこしてたのか!?
可愛らしい葛藤に思わず笑みがこぼれた。
市井は加護の頭越しにすっと手を伸ばすと小銭を投入し2種類のボタンを押した。
ハイと加護の目の前に差し出された両手には、オレンジジュースとリンゴジュース。

「え、あの…」
「両方飲めばいいじゃん。おごるよ、はい」

遠慮がちの加護に笑顔でそれを手渡す。
加護の顔がポッと紅く染まったことには、鈍感な市井は気づかない。
市井のこの笑顔に何人の下級生がはまっただろうか。

81 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:39

「い、いいです…」

一瞬その笑顔に見惚れてしまった加護だがすぐに我に返り、つい受け取ってし
まったそれを市井に押し戻した。

「なんで?どっちも飲みたいんでしょ?遠慮しなくていいよ」
「だって、そんな…もらう理由ないです。大体市井さん、知らない人におごる
とか、それって軽すぎだと思いますけど」

幼い容姿に似合わないキツイ口調。
後藤にも『いちーちゃん、軽すぎっ!』と時々つっこまれてることを思い出し
て、思わず苦笑い。

「軽すぎって…ははっ。いや、知らなくはないよ、キミ加護でしょ?」
「ほぇ?どうして加護の名前…」

驚いた加護が市井を見上げると、市井はやんちゃっぽくにっと笑った。

82 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:39

「かわいい1年生はみんなチェックしてるからさ」
「えっ…えっ…」

一気に加護の顔が火照った。
可愛いなんて言われ慣れてるはずなのに、なぜかあたふたとしてしまう。

「なーんてね。ははっ」
「…か、からかわないでください!」

真っ赤な顔で市井を見上げ拳を振り上げる。
今にも跳びかかって来そうな勢いに市井は慌ててなだめた。

「ごめんごめん、そんな怒らないでよ。んと、実は加護に話あってさ。だから
それ飲みながらってことで」
「話…ですか?」

「うん、ちょっと。いいよね?」
「…はい」

自販機から缶コーヒーを取り出すと、市井は加護を促しながら生徒会室に向かった。

83 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:40

「なんですか?話って」

椅子に座るなり加護が訝しげな視線を向けた。
どんな話かまるで見当がつかず落ち着かない。

「そんな怖い顔しないでよ、なんか嫌われてるな〜」
「べ、べつに、そういうわけじゃないです…」

と言いながらも緊張気味の加護。
後藤から市井のことはいろいろ聞かされていたが実際に話すのは初めて。
周りの友達にも絶大な人気を誇っている市井を目の前にして、人見知りなどし
たことないはずの加護もさすがに平静ではいられないみたいだ。

「仲いいって聞いてさ、ごとーと」
「はい、仲良しです」

「で、一度話してみたいなぁって思ってたんだ」
「…はあ」

それだけでわざわざここまで…?

しっくりいかず曖昧にうなずく加護。

84 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:42

「なんで仲よくなったの?」

言いながら机に置いたままのジュースを開け、加護に差し出す。
そういうところは実にスマートな市井だ。

「きっかけですか?えっと、加護はよっすぃーの幼馴染なんです。それで、
よっすぃーに会いに行ってるうちにごっちんとも話すようになって」
「ふーん、そっか」

どうしてそんなことを知りたがるのだろうか。
加護がジュースを口にしながら怪訝な表情を浮かべた。
85 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:42

「あの、ダメなんですか?ごっちんと仲良くしちゃ」
「え、いや、ダメとは……あ、うん、ダメだな」
「はっ!?」

ダメと言い切る市井に驚き、思わず詰め寄る。

「なんでですかっ!?」
「だってさ、キスするのはダメだと思わない?」
「キス!?って…あっ、あれは偶然に…」

事情を説明しようとしたところで、市井が言葉を挟んだ。

「偶然でもダメ!ふざけてでもダメ!とにかくダメー!」

冗談っぽく言ってるわりには顔は笑っておらず、その一方的な言い方に加護も
かちんと来てしまう。
元々おとなしくハイハイ≠ニ聞くような性格ではなかった。

86 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/09/28(日) 00:43

「そんなの…市井さんにそこまで言われる筋合いはないと思います」
「…そりゃ、そうだけど」

「加護がしなくたって、ごっちんからほっぺにちゅーってしてくるしぃ」
「う、うそ…」

そのシーンを思わず想像。

「会うたびにね、ぎゅーってしてくれるしぃ」
「…」

さらに想像。
おもしろくなくムッとしてしまう。

「それもダメですか?」
「ダメ…」

「へ〜、市井さんって、けっこうヤキモチやきなんですね?」
「んなことない、普通だよ…」

ぼそっとつぶやき、プイッと横を向く。
そんな市井が可愛く見えてきた加護は、本来の突っ込みキャラをいかんなく発揮
し出した。



87 名前:マーチ。 投稿日:2003/09/28(日) 00:43
更新しました。
…いちかご?
88 名前:マーチ。 投稿日:2003/09/28(日) 00:45
レスありがとうございます。感謝!

>72 名無しさん
エロないちーちゃん、いいですか?
でも、そんなにエロにしたつもりはないのですが…う〜ん。

>73 名無しさん
そうですね、ごまを目の前にしては止まれません、無理です。
なんだかんだ起こしたいのですが、どうしても仲良しになってしまって。
どうしましょう…

>74 和尚さん
本当は何事か起こしたいんです。
起こそうと思ってるのに、どうしても仲良しになってしまうんです…。(泣)
段々エロに…なってますかね?やばいですね。

>75 Sさん
続き、遅くなりました…。
Sさんもエロいちーちゃんの支持者ですかー?
エロくしたつもりはないのですが…、ごまが魅力的すぎるのです!
89 名前:S 投稿日:2003/09/28(日) 03:14
おお!更新されてる♪
いちかごですか。パート3は、新たなCPがいろいろ出てきますね。
今後の展開が楽しみです。

>Sさんもエロいちーちゃんの支持者ですかー?

はいっっ!!
90 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/28(日) 15:08
やったぁ!更新されてるぅ♪
私もエロ市井さん大好きですぞ!いちごま話が大好きなんですが、もてる市井さんも好きなんで、いちかごも頑張ってください☆
91 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/28(日) 15:44
前回は生々しい「エロ」というより、「はは、お二人さんやってますな」と微笑ましかったです。
作者さん、お気になさらないでください。ああいう雰囲気もすごく良いですよ。
今回は久々の学園シーンですね。待ってました。にぎやかで楽しいです。
加護のキャラもいい。利口でツッコミも鋭いけど、生意気じゃない。「可愛いと言われ慣れて」ますか、そうだろうなあ。
次回も楽しみにしております。
92 名前:和尚 投稿日:2003/09/29(月) 22:17
いちかごなにげに好きかもしんない(笑)
『2』ですからねぇ・・・どんな展開になるのかワクワクしてます。

>段々エロに…なってますかね?やばいですね
いえ全然!(キパーリ)
93 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:22

「だいたい市井さん、自分はどうなんですか?」
「な、なにがだよ…」

意味ありげに顔を覗き込まれ思わず後ずさり。

「イチャイチャしてるじゃないですか、ごっちん以外の娘と」
「してないよ…そんな…するわけない」

少なからず身に覚えのある市井は、言葉では否定したが目は泳いでいた。

「へぇ〜、あれってイチャイチャしてるって言わないのかなぁ?加護見たんですよ。
今日の朝〜、玄関で〜、市井さんと藤本さんが〜」
「あっ、あれはちがう、ちがうって!」

いつでもどこでも人目を憚らず市井に絡んでくる藤本だ。
そんなシーンを誰かに見られていたとしても全然不思議ではなかった


94 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:23

「市井さ〜ん、もっとごっちんを大事にしないと奪われちゃいますよ。ごっちん、
めっちゃもてるんですから」
「わかってるよ、っていうか大事にしてるし」

「どこが?」
「や…どこって…」

「ほら言えないじゃないですか」
「急に言われてもさ…無理って…もんでしょ…」

うつむき加減にもごもごと口ごもる。
その姿はまるで叱られた子どもが言い訳をしているようだ。


95 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:24

「ごっちん、さびしがってましたよ」
「ホントに?」

「一緒にプリクラ撮ってくれないって」
「プリ…なんだ、そんなことかぁ。嫌いなんだよね、昔っから」

それは市井が中学生の頃。
当時からもてていた市井は何度も隠し撮りをされているうちに、写真を撮ら
れること自体が嫌いになってしまった。
プリクラもその延長でどうしても好きになれず、後藤にせがまれて何回か撮
ったきり。
それはプリクラ大好きな後藤にしてはかなりつらいものだった。
数えるほどしか撮ったことのないプリクラを後藤がどれだけ大切にしているの
か、市井にはわかっていない。


96 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:25

「メールもあまりしないそうですね?」
「そんなことないって、してるよ」

「ホントですか?じゃ、見せてください。ケータイ」
「え…」

「調べればわかることですから」
「調べるの!?」

「ほら、はやく」
「…はい」

ポケットからそれを取り出し加護に手渡す。
いつのまにかしっかり主導権を握られているのは気のせいではない。

97 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:25

「な、なんですかっ!?この待ち受けは」

渡されたケータイを見たとたんの第一声。
信じられないという目つきで加護が市井をにらんでいる。

「あ、それ、勝手に藤本がさ」

ディスプレイの画像はよりにもよって藤本の笑顔、しかもアップ。
今朝会った時に勝手にいじられてしまい、直し方を知らない市井はそのまま持
っていたのだった。

「無神経にも程がありますよ、市井さん」
「ははっ…」

返す言葉はなく、ただ力なく笑うだけ。

「まったく、信じられない!ごっちんが見たらどうするんですか?」

ぶつぶつ文句を言いながらケータイを操作する加護。
市井は小さくなってそれを見ていた。



98 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:26

「はあっ!?なんですか、この送信メール」

大きな声と共に再び市井に向けられる冷たい視線。

「なにって、ちゃんとごとーに送ってるじゃん」

今度は自信ありげに言い返すが、加護の視線は冷たいままで、あきれたように
首を横に振った。

「送ってるって…あとで∞遅くなる∞電話して∞わかんない∞間に
合わないかも∞明日はむり=cって、なにこれ、信じられない。この事務的
な一言メールのオンパレード」

「ははっ…メールも実はあんま好きじゃないんだ、打つの面倒でさ。機能もよ
くわかんないし」

そう言いながらも、さすがにこれには苦笑い。
あらためて見てみると、ホントに素っ気無いメールばかりだった。

99 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:27

「あ〜っ、ごっちん、かわいそう!たまにはこんなメールくらいあげてくださいよ」

加護が素早くメールを打つ。
その器用な操作ぶりに、市井は感心しきりだ。

「できた!」

言いながらケータイを市井の目の前に差し出した。

その画面には――
今なにしてる?なんだか急にごとーに会いたくなった。会って今すぐ抱きしめたい

「バ、バカッ!こんな恥ずかしいメール送れるわけ…あーっ!!」
「えへへっ、押しちゃった!」

画面にはすでに送信しました≠フ文字が。


100 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:28

「加護ぉーっ!なんてこと…!」
「きっとすぐ返事来ますよ、待ちましょ?」

「待てるかっ!ったく…、今の取り消すボタンってないの?」
「そんなのありませ〜ん」

「んじゃ、訂正メール送るからケータイ返して」
「ダメですよぉ、今頃ごっちん大喜びしてるから…あっ、来た!」

ケータイが震え、後藤からの返信メールを受信。

101 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:28

いちーちゃん、大丈夫?熱あるんじゃない?

画面を見た市井の顔がみるみる真っ赤に。

「ほらっ!やっぱりごとーもひいたじゃんか」
「ちがいますって、これはごっちんの照れ隠しです。ホントはめっちゃ喜んで
るはずです!」

「いいからケータイ返して」
「まだダメですよ〜」

「こら、返せ」
「やですぅ」

力ずくでケータイを取り返そうとするが、加護はそうはさせまいと逃げ回る。
ちょこまかとしたすばしっこい動きに遊ばれてしまう市井。
所狭しとおにごっこ状態だ。


102 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:29

「キャッ!」
「つかまえたっ!」

ようやく加護を後ろから羽交い絞め。
手に持っているケータイを取り上げたとき、ノックの音と共にガラッと戸が開いた。

「失礼しま…い、いちーちゃん!」

入ってきたのは後藤だった。
メールを見て本当は加護の言う通り嬉しくなった後藤が、市井のいる場所の見
当をつけてわざわざ来たのだ。

「おっ、ごとー、いいとこに来た。さっきのメールだけどさ」
「ちょっと、…なにやってるの、加護と…」

説明しようとしたところで後藤が口を挟む。
その表情には険しさがのぞいていた。

「なにって……?あっ…!」

よりにもよって加護が市井の腕の中にすっぽり包まれている状態。
傍から見れば確かに抱きしめているように見える。
それに気づき慌てて離れるが時すでに遅し…。


103 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:29

「ごとー、落ち着け…。誤解するなよな…」
「いちーちゃんのバカッ!浮気者っ!」

市井の言葉も耳に入らない。
ピシャリと戸が閉められ、勢いよく走り去る足音。

「ごとー!…ちょっ、待って!」

市井の追いかける足音がそれに重なって一緒に遠ざかって行く。


一人残された加護はやれやれという顔で残っていたジュースをぐいっと飲み干した――。



104 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/07(火) 00:30

更新しました。
105 名前:マーチ。 投稿日:2003/10/07(火) 00:31
レスありがとうございます。感謝!

>89 Sさん
>パート3は、新たなCPがいろいろ出てきますね。
CPと言えるんでしょうかね、いちかご…
楽しんでもらえるようにがんばります。

>90 名無しさん
いちごま話が大好きとは、同志ですね!
もてる市井、それにいつもハラハラさせられる後藤。
そんなのが好きです。

>91 名無しさん
加護のキャラは実は自分の中でもはっきりしてなくて…。
だからキャラがいいと言ってもらえて嬉しかったです。
お気遣いも、ありがとうございました。

>92 和尚さん
>いちかごなにげに好きかもしんない
和尚さんがそんなことを言ってはいけません。
和尚さんといえばいちごま≠ナす!
106 名前:90 投稿日:2003/10/07(火) 01:12
更新お疲れ様です☆
いちかごではなかったみたいっすね。でも一番好きなのはいちごまなんで続き待ってます!
107 名前:S 投稿日:2003/10/07(火) 03:05
わ、更新されてる♪
市井ちゃん、ふんだりけったりですね〜。
加護のキャラ、いいです♪
今後の展開が楽しみです☆
108 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/12(日) 12:47

「なんで…はぁっ、はぁっ…そんな足速いんだよ…はぁっ…」

「…はぁっ、はぁっ…いちーちゃんこそ……はぁっ…」

屋上へ上がる途中の階段でようやく後藤を捕まえることができた。
本気で走った二人は息が上がっていて、まともに会話にならない。

並んで階段に腰を下ろし、しばし呼吸を整える。
午後の授業が始まったため辺りはシーンと静まり返っている。
しばらくの間、ふたりの荒い呼吸だけが続いた。
109 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/12(日) 12:48

「ちがうからね」
「え?」

一息ついた市井が先に口を開いた。

「だから…浮気とかじゃないから」
「あ、うん、わかってる。加護がそんなわけないし」

誤解して怒ってるかと思い必死に追いかけたのに。
後藤はそんな様子はなく、笑みさえ浮かべている。

「な、なんだよぉ。だったらなんであんな…怒って出て行ったりしたのさ」
「だって、きっと生徒会室だなって思って急いで会いに行ったのに、加護と
じゃれてるだもん」

「……会いに来てくれたんだ?」
「ん…。メール見てね、すっごいうれしかったから…」

「へ?まじ?」
「うん」

市井の脳裏に加護のにやりとした顔が浮かんだ。

110 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/12(日) 12:49

「会いたいなんてメールくれたの初めてだよね、恥ずかしくてあんな返信しち
ゃったけど、ホントはうれしかったんだ」
「…」

うつむいたままの後藤が頬に垂れていた長い髪を耳にかける。
ほんのりと赤く染まった横顔がのぞき、それを見ていた市井の胸がきゅんと締
めつけられた。

そんなうれしいのかぁ…。
加護の言うとおりだ、わかってなかったな。

「ごとー、今日ひま?」
「うん、なに?」

後藤が嬉しいって思うことはなんでもしてやりたい。
嫌いだとか恥ずかしいとかそんなのどうでもいい、後藤が最優先。
111 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/12(日) 12:50

「プリクラ撮りに行こっか?」
「え…、急にどうしたの?」

「ん〜、なんとなくそんな気分」
「なっ…」

あれだけ嫌がってたのに。
市井の心変わりに後藤はとまどう。

「嫌なの?」
「まさか、そんなわけないじゃん!いちーちゃんがプリクラ嫌いって言うから、
もうあきらめてたんだよ」

「じゃあ、行こうよ。ね?」
「うん!」

嬉しそうに大きく頷いた後藤を見て、市井は目を細めた。

112 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/12(日) 12:51

「そうだ、ねぇ、加護と何話してたの?っていうか、いつのまに仲良くなったの?」
「仲良くって…、話したのは今日が初めてだよ。なんかおもしろいやつだね。気に入った」
「ふ〜ん、そう…」

下を向いて膨れっ面。
自分がいない所で親しくされるのはなんとなく面白くない。

「ちっちゃくてかわいいしさ、ちょっと生意気なとこがこれまたかわいい」
「…」

不機嫌さがますます募る。
気づかない市井はにやにやしながら加護がかわいいと連発。
113 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/12(日) 12:51

「うん、ごとーが加護を抱きしめたりするのわかるよ、やわらかそうだもんなぁ。
抱き心地よさそう」
「ちょっと、いちーちゃん!」

さすがにこれは聞き捨てならない。

「抱き心地って…、だからさっき加護を抱きしめてたの!?やっぱ浮気じゃん」
「ち、ちがうちがう。あれはそんなんじゃないって、不可抗力だって」

自分の言った言葉がまずかったことにやっと気づく。
すでに後藤のヤキモチ度はマックスだ。

「どうせごとーより加護のほうが抱き心地いいんでしょ」

ぷいっと顔をそむける後藤。
焦った市井が肩を抱き必死になだめようとするが、そう簡単に機嫌は直らない。

114 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/12(日) 12:52

「そんな拗ねるなよぉ、ごとーの方がいいに決まってるじゃんか」
「…」

「あ、もしかして妬いてる?バッカだなぁ」
「妬いてない!もういいもん、いち−ちゃん、しばらくごとーに触るの禁止ね!」
「ええっ!」

肩に置いた手を振り払われ驚く市井。
後藤は腕組みをしてそんな市井をにらんだ。

「ちょっ、待ってよ。その禁止は勘弁してって」
「だーめ!」
「ごとぉ…」
「そんな顔してもだめだよ。じゃあね、いちーちゃん」
「ごとーっ…」

市井の声を無視して、後藤がすたすたと階段を降りる。
が、2,3歩行ったところで立ち止まり市井のほうにくるりと振り返った。

115 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/12(日) 12:53

「プリクラは行くからね」
「う、うん」

しょんぼりしていた市井の顔がパッと輝く。

「でも禁止は禁止だよ!」
「うっ…はい」

がっくり肩を落とす市井。
スカートをひるがえして去って行く後藤の背中をすがるように見つめる。
でも後藤はそれきり振り返ることなく教室に戻って行った。

116 名前:ヤキモチ2 投稿日:2003/10/12(日) 12:54

その姿が見えなくなった時、市井のケータイがブルッと震えた。
後藤からのメールだと思い急いで手に取るとそこには――


おーい!うちらのジュース代持ってどこに行ってんだー!





〜お・わ・り〜



117 名前:マーチ。 投稿日:2003/10/12(日) 12:55

更新しました。

118 名前:マーチ。 投稿日:2003/10/12(日) 12:56

レスありがとうございます。感謝!


>106 90さん
またまたレスをいただき嬉しいです。
モチベーション下がり気味なのですが、待っていてくれる方が
いる限りがんばりたいです

>107 Sさん
いつもレスありがとうございます。
ヘタレ市井ちゃん、ホントにふんだりけったり。
ごまに振り回されてます。(そんな二人が好きだったり…)
119 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/12(日) 18:57
更新お疲れさまです。
やー、市井さん一歩前進? でも基本踏んだり蹴ったり。らしいっちゃらしいですな。
しかし後藤さん、加護さんみたく抱き心地よくなってしまったら、それはそれで問題かもしれません。
本人は気にしてるかもしれないし。徒競走をドスドスドス、とね。

ここの学園シーン、楽しくて好きなんで、これからも頑張ってください。
120 名前:和尚 投稿日:2003/10/12(日) 19:17
更新お疲れ様です。
ここに来られない間に次の更新が<(T◇T)>
せっかく良い雰囲気になったのに・・・・(笑)
いちーさんの余計な一言でこんな結果に(爆笑)
いちーさんは今回の事で良い教訓になったんではないでしょうか?

いちごまといえば和尚という方程式が成り立ってるみたいで・・・
嬉しい自分がいたりして・・・
121 名前:S 投稿日:2003/10/12(日) 20:57
更新おつかれさま〜。
ごとーの禁止令、酷ですなぁ、市井ちゃん・・・・。(^_^;)
先日マンゴープリン1、2を読み返しました。
何度読んでもいいですね〜☆
つづき、楽しみにしてますね☆
122 名前:90 投稿日:2003/10/12(日) 23:43
更新お疲れ様です☆
やっぱりいちごまはいいですね〜!最近いちごま不足だったんで更新すごくうれしかったです!
次も楽しみにしてま〜す(^O^)
123 名前:禁止令 投稿日:2003/10/24(金) 22:45

「失礼しますっ」

ガラッと大きな音を立てて、勢いよく保健室の戸が開けられた。

「シーッ、静かに!」
「あ、すいません…」

頭を下げながらあわてて入ってきたのは市井。
後藤が運び込まれたと聞いて駆けつけてきたのだった。

「あの、ごとーは?」
「ああ、ただの貧血。マラソン中に倒れたんだけどもう心配ない。今に目覚めるから」
「そう…ですか、よかったぁ」

ふーっと大きく息を吐く。
授業をさぼって保健室に来ることは何度もある後藤だが、運ばれたなんてこと
はこれが初めて。
何事かと心配でたまらなかった市井は、事情を聞いてほっと胸を撫で下ろした。

124 名前:禁止令 投稿日:2003/10/24(金) 22:46

そんな市井の様子をにやにや見ているのが体育教師の稲葉。
後藤の看病をしていたとこだ。

「市井、ちょっと看てくれるか?保健の先生、今日休みなんだわ」
「あ、はい。いいですよ」

「そりゃ助かる。じゃ、目覚めるまで頼むな」
「はい」

返事を聞いて「よっこらしょ」と立ち上がるが、稲葉はすぐには歩き出さず振り返った。
なにやら言いたげな視線を向けられ、市井が首をかしげる。

「あ、なにか?」
「一応注意しとくけど、ここ、学校だから。変なことしなさんなよ?」
「はあっ…!し、しませんよ!」

そんな気持ち少しもなかったのに。
思わず稲葉をにらみつけるが、ジャージ姿の教師は豪快に笑いながら出て行った。


125 名前:禁止令 投稿日:2003/10/24(金) 22:47

シーンと静まり返った保健室。
白で統一された空間、ツーンと鼻につく薬品の匂い。

奥のほうに3つのベッドが並んでいる。
その中の一つだけがカーテンで隠されているから、そこに後藤がいることがわかる。

「心配させやがって…」

そっと近づいてカーテンを開けると、すやすやと眠っている後藤の姿があった。

「ご…」

思わず名前を呼びそうになりあわてて口を押さえた。
目覚めるまで起こさないようにと言われたことを思い出したのだ。

126 名前:禁止令 投稿日:2003/10/24(金) 22:47

小さな丸椅子をベッド脇まで運び込んでカーテンを閉めると、そこは二人だけの世界。
腰を下ろして覗き込むように寝顔を見つめる市井の目は、自然と目尻が下がっていた。

「かわいいな…」

こうして寝顔をじっくり見ることなんてそうはない。
貧血で倒れたということをすっかり忘れて、市井は目を細めて見つめていた。

127 名前:禁止令 投稿日:2003/10/24(金) 22:48

キスしたい――――

寝顔を見ているうちにふつふつと湧き上がってきた熱い感情。
少し開きかけている唇が妙に艶かしくて、いっそう市井をドキドキさせる。

自然と縮まっていく二人の距離。

目を閉じて――。

あと、もう少し――。

128 名前:禁止令 投稿日:2003/10/24(金) 22:49

が、ぎりぎりのところでピタッと止まった。
後藤のあのときの言葉がどこからともなく聞こえてきたからだ。

『いち−ちゃん、しばらくごとーに触るの禁止ね!』

おあずけをくらってそろそろ3週間。
手をつなぐのさえ禁止されていたから禁断症状は相当なもの。

「いいよね…」

寝てるんだからばれないだろうと思い直し、もう一度顔を近づけていく。
無防備な寝顔にそそられて唇まで数センチ。

でもやっぱり寸前で止まってしまった。
律儀というか、ヘタレというか、後藤に対してはどうにも強く押せない市井。

129 名前:禁止令 投稿日:2003/10/24(金) 22:49

「…こそこそするのはよくないよな、うん」

もっともらしい理由を自分に言い聞かせて、市井は深く椅子に掛けなおした。
そしてまたじーっと寝顔を見つめた。

後藤が目を覚ますまで、飽きることなく見ていた――――。


130 名前:マーチ。 投稿日:2003/10/24(金) 22:50

更新しました。

禁止令に縛られるいちーちゃん…
131 名前:マーチ。 投稿日:2003/10/24(金) 22:50

レスありがとうございます。感謝!


>119 名無しさん
踏んだりけったりのいちーちゃん、これ基本かも。
ごまに振り回されてるいちーちゃんが好きみたいです。
励ましのレスありがとうございます、がんばります。

>120 和尚さん
なんとかまたイイ雰囲気になりそうかもです。
この先は…ふふっ…。
132 名前:マーチ。 投稿日:2003/10/24(金) 22:51

>121 Sさん
えっ、1・2読み返したんですか!?
う、うれしいけど、恥ずかしい。でもありがとうございます。
あの頃はサクサク更新できたなぁ…(遠い目)

>122 90さん
いちごま不足…まさにそうですね、寂しい…。
現実で期待できない今、こっちで盛り上がってほしい。
楽しんでもらえるようにがんばります。


133 名前:S 投稿日:2003/10/25(土) 00:00
更新待ってました〜♪
今回のシチュもいいですね。つづきがすっごく気になります。
それにしても市井ちゃん、そんなに長いことおあずけくらってたなんて・・。
カワイソ・・・・。
134 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/26(日) 15:01
更新お疲れさまです。
おお、触れられずともこんな解決法が。さすが市井さん。
じゃなくて、このままでは変態です。
ごとーさん、すみやかに禁止令を解いてあげてください。

でも、甘いなあ。作者さんありがとう。
135 名前:和尚 投稿日:2003/10/27(月) 23:13
更新ありがとうございます。
律儀に禁止令を守っていたいちーさんに拍手っす♪

>この先は…ふふっ…。
何なんですかその思わせぶりは?スゲー気になるっす!・゚・ヾ((Д`≡´Д))ノ・゚・
136 名前:禁止令 投稿日:2003/11/03(月) 16:58

「ん…んん…」
「あ、起きた?」

市井の声に反応し、薄く瞼が開きかけた。
しばらく瞬きを繰り返すが、状況がわからない後藤はきょとんとしている。

「あれ…?ごとー…なんで?」

そばに市井がいることに気づき言葉をかけたが、その声はまだ弱々しい。

「貧血起こしたんだって、走ってる最中。覚えてる?」
「あ…、そうだ。なんか目の前真っ暗になって」

目を閉じてそのときのことを一生懸命思い出そうとする後藤。
時々顔をしかめて苦しそうだ。
が、やがて無理だと諦めたのか目を開けて市井のほうに顔を向けた。

137 名前:禁止令 投稿日:2003/11/03(月) 16:59

「大丈夫?」
「うん、身体はもうなんでもないみたい」
「そっか、よかった」

市井がにこっと笑いかけると、後藤もふにゃあと表情をくずした。

「でも、いちーちゃん、どうして?」
「うん、今日保健の先生休みらしくてさ、稲葉先生に看ててくれって頼まれたんだ」

「ずっとそこにいたの?」
「うん」

当然といったように市井が頷くと、後藤の顔がポッと赤くなった。

138 名前:禁止令 投稿日:2003/11/03(月) 17:00

「…恥ずかしいなぁ」
「へ?なにが?」

「だって…」と言いながら、後藤が布団をかぶって半分顔を隠した。
好きな人に無防備な状態を見られていたことが、よほど恥ずかしいようだ。

「寝顔、見たんでしょ…?」
「あー、たーっぷり見せてもらいました」

からかうようにわざと大げさに答えると、後藤は布団をぎゅっと握って上目遣
いで市井をにらんだ。

139 名前:禁止令 投稿日:2003/11/03(月) 17:00

「バカ、いちーちゃんのえっちぃ」
「なんでだよ」

キスを必死の思いでとどまったのに、寝顔を見ていただけでこの言われようは
納得いかない。
むしろ理性を保った自分をほめて欲しいくらいだ。

「がまんしたのにさ」
「…え?」

「いや、見てるだけってのもつらかったりして…ははっ」
「……」

言ってる意味がわかって、みるみる後藤の顔が赤くなった。

140 名前:禁止令 投稿日:2003/11/03(月) 17:00

「なーんて、ごめん、不謹慎でした。こんなときに言うことじゃ…」
「いいよ」

市井の言葉を途中で遮る。
後藤は顔までかけていた布団を下げ、市井をじっと見つめた。

「え…いいって?」
「だから、がまんしなくていい…」

布団から手を伸ばし市井の手をそっと握る。
後藤だって触れたいと思っていた。
でも自分で禁止した手前そうもできず、市井から来てくれるのを待っていたのだ。
そんなことにはまるで気づかない市井は、後藤の禁止令を律儀に守り続けていた。

141 名前:禁止令 投稿日:2003/11/03(月) 17:01

「いちーちゃん…」

いつもより弱々しい声がどこかせつなそうに聞こえて市井の胸を熱くした。

潤んだ瞳に吸い込まれるように、ゆっくりと近づいていく。
そっと目を閉じて、軽く唇に触れて。

久しぶりの甘い感触――。

でも意外なことに、それだけで市井はすぐに離れてしまった。
照れくさいのかそれきり下を向いたまま。
あまりのあっけなさに後藤が不満を漏らした。

「もっとぉ…」

市井はびっくりして顔を上げた。

142 名前:禁止令 投稿日:2003/11/03(月) 17:01

「え、でも、いいの?」
「ん、なに?」
「ほら…禁止って」

この期に及んでまだそんなことを気にするなんて。
わざと焦らされてるのかと思い、後藤は両手を伸ばして市井をぐっと引き寄せた。

「そんなのとっくになし、いじわる言わないで」
「まじで…!言ってくれよ〜」

忠実に後藤の言いつけを守っていたことを今さら悔やむ市井だった。

143 名前:禁止令 投稿日:2003/11/03(月) 17:02

「だから、ねぇ、はやく…」

ねだるような視線を市井に向ける。
こんな後藤はめずらしい。

引きずり込まれるようにベッドに上がった市井は覆いかぶさって後藤の唇を塞いだ。
少し荒々しくなったのはしかたない。
市井だって触れたかったのは同じ、ずっと我慢していたのだから。

144 名前:禁止令 投稿日:2003/11/03(月) 17:02

待ちかねたように後藤の腕が市井の首にからみついた。
いつになく積極的な後藤にとまどいながら、市井もキスに夢中になる。
おあずけをくらっていた反動は大きい。

「…んっ…はぁっ…」

時おり漏れる甘い声。
二人分の重さに耐えられないのか、ギシギシときしむベッドの音。

キスはどんどん激しくなった――――。


145 名前:マーチ。 投稿日:2003/11/03(月) 17:03

更新しました。
禁止令解除!
146 名前:マーチ。 投稿日:2003/11/03(月) 17:05

レスありがとうございます。感謝!

>133 Sさん
待っていてくれてありがとうございます。うれしいです。
かわいそうないちーちゃんでしたが、ようやく…。

>134 名無しさん
禁止令はとっくに解いていたのですが、気づかないいちーちゃん…。
ごまの方が積極的!?
え〜、甘さ全開でいきたいですね〜。がんばります。

>135 和尚さん
思わせぶりにしたつもりはないのですが、思わせぶりでしたね。
次どうしよう…ふふっ…。
147 名前:S 投稿日:2003/11/03(月) 21:44
更新おつかれさま〜。
またいいところで終わってるぅ。つづきが楽しみです☆

ふと思ったんですが、この2人、
もしかして、あの温泉旅行以来、ご無沙汰・・・??(>_<)
148 名前: 投稿日:2003/11/04(火) 02:34
更新お疲れ様です!

積極的な後藤さん、いいですね〜(゚∀゚)もうドキドキしました!
続き待ってます☆
149 名前:和尚 投稿日:2003/11/05(水) 13:14
ごとーさんのセリフ一つ一つに萌えを感じました(笑)
いちーさんも我慢していたけど、ごとーさんも我慢できなかった様で(笑)

またも思わせぶりの言葉のマーチ。様(泣)
次は期待して良いですか?(興奮)
150 名前:マーチ。 投稿日:2003/11/09(日) 23:11
ごめんなさい。
放棄はしませんが少し時間をください。
151 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/10(月) 00:04
なんというか、ほんと……お気持お察しします。
自分もきついです。
とにかく、お待ちしますので…。
152 名前:和尚 投稿日:2003/11/14(金) 22:45
お気持ち十分に分かります。
いつまでもお待ちしてますから・・・。
153 名前:S 投稿日:2003/11/23(日) 04:09
待ってます・・・・。
154 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/24(水) 14:31
いつまでも待ってます。
155 名前: 投稿日:2003/12/25(木) 00:59
待ってるよ〜☆
156 名前:マーチ。 投稿日:2003/12/25(木) 18:23
>>147->>149
>>151->>155
あたたかい言葉ありがとうございます。
待ってる読者さんがいるということに感激…すごく励みになりました。
続きは今書き直し中、もう少しかかりそうです…すいません。

リハビリ?がてらクリスマス短編を書いてみました。
マンゴープリンとは全然別物ですが、よかったら読んでみてください。
157 名前:マーチ。 投稿日:2003/12/25(木) 18:24


――――――――

158 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:26

キラキラ輝くイルミネーションと、耳に馴染んだクリスマスソングが街中を彩るイブの夜。
楽しげな恋人たちが足早に歩く街並みにはハラハラと粉雪が舞い降り、よりいっそう幻想
的な雰囲気を作り出している。

「ケーキいかがですかー、おいしいケーキありますよー」

そんな聖なる特別な夜に、あたしはバイトに勤しんでいた。

159 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:26

「ケーキいかがですかー、おいしい…」
「あ、兄ちゃん、ひとつくれ」

兄ちゃん…って…おいっ。

「一番でっかいやつな。いくらだい?兄ちゃん」

……ま、いっか、一番高いの買ってくれたし。
酔っ払いのジジィだし。

「6500円です、中で支払いお願いしま〜す」

ふーっ、残りあと一個か…。

サンタの帽子をかぶり直し売りこみを再開しようとしたとき、背後から声をかけられた。

160 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:27

「本当にここでバイトしてたんだ」
「へ……あっ…!!」

振り返った瞬間、持っていたケーキを落としそうになった。

「いちーちゃんがケーキ屋さんなんて、なんか意外…」
「…いーだろ、別に」

後藤真希。
高校の後輩だ。

といっても後藤は半年以上前に学校を辞めてしまったから、顔を見たのは久しぶり。
長かった自慢の髪は肩までのショートに、かなり濃い目だったメイクはすっかりナチュラ
ルになっていて、様相はすっかり変わっていた。

「ダメなんて言ってないないじゃん。そのサンタ帽子似合ってるよ、お兄ちゃん…くくっ」
「なっ…」

久しぶりに会った先輩に対して全く敬意を表さないこの態度は、あの頃とぜんぜん変わっ
ていないけど――――。

161 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:28

あの頃――
あたしは悪い生徒だった。
反社会的な行動をわざとやって親と教師を困らせていた。
父親が若い女とどこかに行ったとか、母親までがそのへんの男を家に入れるようになったとか、
信じてた友達に裏切られたとか。
そんなありきたりの理由で、自分をことさら貶めていた。

後藤が入学してきたのは、そうやってあたしがいちばん無茶していた時だ。

後藤も一目でそれとわかる悪い生徒だった。
見るからに生意気で、ふてぶてしさは一級品。
相当先輩にシメられたはずなのに、平然と自分を貫く強いやつ。
しだいに一目置かれるようになったのはある意味当然だったろう。

162 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:29

群れないところが似ていたのかもしれない。
校内やバス停、時にはやばい場所なんかで偶然会ったりするうちに、あたしたちはお互い
の存在を意識するようになっていた。

先に声をかけてきたのは後藤。
だけど、誘っていたのはいつもあたし。
二人で悪いことをして、二人で慰め合って。
刹那的な快楽に溺れた日々はまさに堕落だった。

渇いていた心を癒してくれたのは後藤の不器用な愛情。
でも、あたしはよりあたたかいものを欲張るようになって。
外へそれを求め出しとき、自分が変わっていくのがわかった。

悪いことをやめたあたしに後藤は苛立ち、今さらながら口にするもっともらしい言葉に冷
たく笑った。

そして、あたしたちの間に生まれた溝がどうしようもなく大きくなったとき――。

後藤が自主退学したという話を聞いた。

163 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:29

「バイト、何時まで?」
「え、ああ…、んーと、ここのケーキが全部売れるまで」
「全部って、あと一個じゃん」
「その一個が大変なんだ…って、おい!ケーキ盗むな」

後藤がひょいと箱を持ち出したからついそんな言葉が。
あの頃は二人でけっこうやってたからさ…ははっ。

「人聞き悪いなぁ。客に対してひどくない?」
「あ…ごめん。…え、客って?後藤が買うの?」
「あっちで払えばいいんでしょ?いちーちゃん、早く着替えといでよ」
「え、ちょっ…まじで…?」

返事もせずに後藤はそれを持ってそそくさと店内のレジへ向かった。

164 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:30

店の制服から私服に着替え、店長からバイト代を受け取り、めちゃめちゃ急いで外へ出たら、
包装された箱を抱えた膨れ面のあいつが待っていた。

「おそーい」
「これでも急いだって」
「何人にナンパされたと思ってんの」
「後藤なら大丈夫でしょ」
「ばか」
「いてっ…!」

肘がみぞおちにヒット。
さすが、後藤…衰えてない。

165 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:30

「行こ?」
「どこに?」
「思い出の場所」
「……は?」

思い出…?なんだそれ?

「はい、いちーちゃん、ケーキ持って!」
「や、持つけどさ。どこに…ぅわっ」

後藤の手に引っぱられて、あたしたちは雑踏の中へ。
人の流れにわざと逆らって、思いっきり駆け抜けた。
握られた手の感触にドキドキしながら、バカみたいに走った。
カップルの間をわざと通ったり、厳つい兄ちゃんにぶつかって凄まれたり。
久しぶりに感じる悪戯なスリルに高揚感が高まっていく。

あたしたちはいつのまにかあの頃に戻ったかのように笑い合っていた。

166 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:31

「ここ…?」
「うん」

後藤が言った思い出の場所は学校だった。
もちろん中に入れるわけはなく、玄関前の階段に隣り合って座った。
ちょうど真上に電灯が点いていて、そこだけ明るく照らされていた。

「思い出…ね」
「後藤にとってはそうなんだもん。なーんか懐かしい」

後藤が目を細めて校舎を見上げた。
嬉しそうだけど、どこか寂しげに――。

突然学校を辞めてそれ以来会っていなかったから、聞きたいことは山ほどある。
どうして学校を辞めたのか。
どうして何も言わずにいなくなったのか。

でも、なんだか今はそんなのどうでもいいような気がした。
こうして後藤が来てくれたことがすべてだから。

167 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:31

「ケーキ食べよっか」
「あはっ、いいねぇ」

そっと箱から取り出したクリスマスケーキは、いちごがいっぱいのデコレーション。
赤いキャンドルが一本入っていたので、それを真ん中にさした。

「後藤、ライター貸して」
「持ってないよ、タバコやめたもん」
「え、まじ…?」
「うん」

もともと好きじゃないしなんて言いながら、後藤がいちごを一つ頬張った。

168 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:32

悪かった昔話も今となっては笑い話。
二人でケーキをつつきながら、ひとしきり思い出に耽った。

「楽しかったんだぁ、あの頃。いちーちゃんと二人でやりたいことやって」
「やりすぎたけどなぁ…ははっ」
「後藤はずっと一人だったからさ、…心から信じられる人はいちーちゃんが初めてだった」
「え…」
「だから許せなかった、後藤をおいて普通の生活に変わろうとするいちーちゃんが…。
どんどん後藤から離れていって、いちーちゃんの言ってることも全然理解できなくてさ。
もう学校なんてどうでもよくなって…。バカだよね、ホント」
「後藤…」

吐き出された後藤の言葉が胸に突き刺さる。
あの時のあたしは自分のことで精一杯で、本気で後藤を思っていたか自信がない。
もっとあのとき後藤のことを…。

169 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:33

「ごめん」
「いちーちゃんが謝る事じゃないよ。後藤がバカだっただけ」
「ごめん、あのとき…」
「もういいんだって。あのね…、今日はこれ渡しに来たんだ、はい」

そう言って手渡されたのは可愛らしくラッピングされた小さな箱。
どう見てもそれはプレゼントで、今日渡しに来たってことはクリスマスプレゼントにまち
がいないんだろうけど。
まさか後藤がこんなことするなんてびっくりで、本来なら喜ぶべき場面なのに変にとまど
ってしまった。

「こ、これって…」
「見ればわかるじゃん、クリスマスプレゼントだよ」
「わかるけど…さ…」
「あっ、盗んだものじゃないからね!ちゃんと後藤のお金で…」
「そ、そんなことわかってるよ、そうじゃなくて、びっくりしてさ」

突然いなくなって、突然現れて、突然プレゼントだなんて――

170 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:33

「初めて稼いだお金は大切なひとのために使えって」
「へ?」
「店の先輩がそう言ってたから、だから…」
「ちょっ、ちょっと待って、…稼いだ?…店?」

後藤の口から次々出てきたことは驚くことばかり。

「実は、後藤もまっとうに働いてみました」
「まじで!?」
「あのときいちーちゃんが言ってたこと、今はとってもよくわかるんだ」
「後藤…」
「ね、早く開けてみてよ」
「ああ…」

小さなリボンを解いたら中にはシルバーのピアス。
これをあたしに…。

171 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:34

「安物だけどさ、そこは後藤のセンスで許してよ。いちーちゃんが似合うやつ一生懸命
選んだんだぁ」
「値段なんて関係ないって。うれしいよ、ありがと…」

薄暗い電灯でよかった。
多分今、めっちゃ顔が赤くなってる。

「あ、さっきバイト代もらったんだ。後藤にもクリスマスプレゼントあげるよ、何がいい?」
「……なんでも、いい?」

ためらいがちにあたしを見上げる後藤。
あの頃と変わらないその澄んだ瞳に心が逸る。

「…や、あんま高いのは正直無理っす」
「大丈夫、後藤が欲しいのは…ね」

ふわっと後藤の香りに包まれて、唇に熱が伝わった――。

172 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:34

確信に変わる後藤への想い。

ずっと待っていた。
ずっと焦がれていた。
ずっと――


173 名前:大切なひと 投稿日:2003/12/25(木) 18:35

ハッピーメリークリスマス

粉雪が舞う中で、キスは永遠に続く――――




おわり♪


174 名前:マーチ。 投稿日:2003/12/25(木) 18:37

更新しました。

…ageてしまった。
175 名前:マーチ。 投稿日:2003/12/25(木) 18:38

イブに間に合わなかったことには目をつぶってください…。

本スレもがんばります。


176 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/25(木) 20:53
おかえりなさい。
待ってましたよー。復活感謝。

今回の短編、暖かくて正攻法で、こうでなくちゃと大満足でした。
これからも応援してますからねー。
では。
177 名前:K 投稿日:2003/12/25(木) 21:15
おかえりなさい☆
おいらも待ってましたよ!
短編、ほんわかしていてよかったです。
これからもがんばってください!
178 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/26(金) 18:28
お〜〜〜カムバック嬉しいっす!!
なんだかいちごま二人のキャラが新鮮で良かったです。
これからも頑張って下さい。
179 名前:S 投稿日:2003/12/27(土) 14:03
マーチ。さん、お帰りなさい。短編、すごくよかったです。
マンゴープリンのつづきも楽しみにしてます♪
180 名前:名無し 投稿日:2003/12/27(土) 21:14
更新待ってましたよ!
クリスマス短編の二人もいい感じでした。
181 名前:和尚 投稿日:2003/12/30(火) 01:32
おかえりです!
リハビリ?とはいえない温まる文章・・・心が休まります。

はぁ〜たまらん!!
182 名前:マーチ。 投稿日:2003/12/31(水) 14:47

Happy Birthday♪いちーちゃん

どうしても誕生日に更新したいと思いまして、
とりあえずできたところまでいきます。
183 名前:マーチ。 投稿日:2003/12/31(水) 14:48

>144からのつづき
184 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:50

お互いをたっぷり味わった二人は、いったん離れて目と目を合わせた。
後藤の両腕はしっかり市井をとらえたままで離す気配は少しもない。

「…ごとー、激しすぎ」
「いちーちゃんがでしょ…」

浅い息の中、ふたりは小さく笑い合う。

「どうする?」
「え?」

「もっとしちゃう?」
「あ…」

市井の右手が胸に触れた。
不意に受けた刺激に後藤の身体がビクッと跳ねる。
その反応に思わずにっと笑みを漏らす市井。

185 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:50

「その顔エロいよ、いちーちゃん」
「うっ…だってずっとがまんの日々だったからさ」
「あはっ、もうがまんできない…?」
「そういうこと…」

もう一度キスを落とし深く絡め合う。
漏れ出す息が熱を帯び、市井の手がTシャツの中にすべり込んだ。
素肌に触れた瞬間、後藤が小さく声を漏らすと、そこではたと動きが止まる。

「ん?」
「いや、やっぱここでこれ以上はやばいかなって…」
「…」
「うん、がまんがまん」

昂っている気持ちをどうにか理性で抑えつけ、市井はベッドから降りようと
後藤から身体を離した。
が、その瞬間、後藤の手が市井の肩に伸びる。

186 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:51

「…しよっ?」
「へっ……え、えっ?…」

直接的な後藤の誘いにとまどい、市井はしどろもどろ。

嬉しいけど、すぐにでもしたいけど――。

「い、いま?」
「うん」

「ここで?」
「うん」

「ホントに?」
「ん…、もぉ、何回も言わせないで」

恥ずかしさとじれったさで怒ったような口調になりながら、後藤は再びぐっと
市井を引き寄せた。

187 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:52

「キスして…」
「うん…」

激しく求め合うキス。
後藤の手がせわしなく市井の背中をたどる。

「好きだよ、いちーちゃん。大好き…」
「ごとぉ」

甘いはずの言葉がどこかせつなげに感じるのはどうしてだろう。
潤んだ瞳の奥に何かが秘められているような気がして、言い表せない感情が胸
を締め付ける。

「いちーだって、好きだよ」

そう言いながら首筋に顔をうずめると、その身体を包み込むようにやさしく抱き
しめた。

188 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:53

「ごとー、少し痩せたね」
「…そうかな」

抱きしめた感触がいつもと違ったのは気のせいではなく。
見た目よりも明らかに細くなっていた身体に市井は顔を曇らす。

「ダイエット?」
「ううん…」
「なら、どうして…」
「うん…。ねえ、いちーちゃん」
「ん?」

抱きしめたまま首だけを傾けて後藤の顔を見る。
目が合うと思っていたのに、後藤の視線の先は宙に浮いていた。

「いちーちゃんは…」

それきり口をつぐんだまま、時間が流れる。
不審に思った市井が「なに?」とその先を促したとき、突然ガラッと戸の開く
音が響いた。

189 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:53

「え…!」
「シーッ!」

重なったまま固まる二人。
息を潜めてカーテン越しに様子を窺う。
もし見られたらさすがにやばい、いいわけできない状況だ。

「あれ、先生いないのか…。ごっちんは…」

聞きなれた声に市井と後藤がはっとして目を合わせた。
この声は吉澤にまちがいない。
倒れた後藤を心配して様子を見に来たのだろう。

190 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:54

「…吉澤?」

こっちに来られる前にと市井がカーテン越しに呼びかけた。

「えっ?あれ、市井さん?」

急に名前を呼ばれたこととその声が市井だったことに驚き、声がした方に足を
進める。
が、すぐに「待て」という市井の声に止められた。

「そのまま出て行ってくれないかな、ごとーは大丈夫だからさ」
「え、あの…、そこに、ごっちんいるんですか?」
「……いる」

言いにくそうに市井が答えた。
それを聞いて大体を察した吉澤は、まるで自分が悪いことをしたかのように焦
りながら言った。

「あ…す、すいませんっ!で、出ますっ。失礼しましたっ!」

191 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:54

ぴしゃりと戸が閉まり、走り去る足音。
安堵のため息をつきながら市井と後藤が顔を見合わせる。

「びっくりした…」
「うん」

「吉澤でよかったよ、まじで」
「そだね…」

「あ、んーと」
「……」

重なったままの二人。
すっかり素に戻されてしまった今、自分たちの状況が照れくさくてたまらない。
192 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:55

「いちーちゃん、ごめん、もう…」
「う、うん…」

市井がさっとベッドから降りた。
後藤も上体を起こしてもぞもぞと乱れたベッドを整える。
二人とも胸がドキドキして落ち着かなかった。

「えっと…、教室もどるね。ごとーはまだ休んでなよ」
「うん」

「そうだ、さっきなんか言いかけたやつ」
「あ、いいよ。うん、大したことじゃないんだ」

「そ?」
「ん…」

「んじゃ、またあとで」
「うん」

まともに目を合わせられないまま、市井は静かに外へ出た。

193 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:56

「あっつ…」

廊下に出ると市井は壁にもたれかかり両手で顔を仰いだ。
熱い身体を沈めるにはもう少し時間がかかりそうだ。

ふと横を向くと、向こうの曲がり角のところにしゃがみこんでいる人の姿が目
に入った。

「あ…」

目を凝らしてみると、さっきあわてて出て行った吉澤。
てっきり教室に戻ったと思っていたのに、あんなところにいるなんて。
市井は歩み寄って声を掛けた。
194 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:56

「お〜い」
「あっ!市井さん!?」

跳び上がるように立ち上がった吉澤は、市井を見ると申し訳なさそうに頭を下げた。

「すいません、その…いいところ邪魔しちゃって…」
「な…、そんなんじゃないって…。っていうか、こんなとこで何してんだよ。
あ、後藤を待ってるとか?」

「ちがいますよ、保健室に誰も入らないように見張ってたんです。もう誰にも
邪魔されないように」

にっと歯を出した吉澤が意味ありげに笑う。
実際何も見られてはいないのに、なんだかすべてを見られたような気がして
市井はポッと赤くなった。
195 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:57

「べ、べつになにもしてないから」
「…」

向けられる疑いの眼差し。

「なんだよ…」
「なんにもってことはないでしょう?カーテンで囲まれたあの状況で」

「や、ちょっとはね。っていいだろっ、そんなこと」
「はは、市井さんでも照れるんですね」

「うっさい、黙れ」
「すいませ〜ん」

顔を見合わせて笑った後、吉澤が急に真剣な表情になった。
196 名前:禁止令 投稿日:2003/12/31(水) 14:57

「少し時間いいですか?」
「ん?」

「ちょっと話したいことがあって」
「話?吉澤が?」

「ごっちんにも関係あることなんで」
「…ああ、うん」

視線を落とし、ふっと口元を歪ませる市井。
吉澤の言いたいことがなんとなくわかってしまったのだ。


二人はそれきり無言のまま屋上に向かって歩いた。


197 名前:マーチ。 投稿日:2003/12/31(水) 14:58

更新しました。

198 名前:マーチ。 投稿日:2003/12/31(水) 15:00

レスありがとうございます!感謝

>176 名無しさん
ただいま戻りました。
応援ありがとうございます。

>177 Kさん
なんとか戻りました。
いつもレスどうもです、とっても励みになってます。

>178 名無しさん
はい、カムバックしました。
これからまたがんばりたいです。

>179 Sさん
いつもレスありがとうございます。
くじけそうにもなりましたが、たぶんもう大丈夫です。
199 名前:マーチ。 投稿日:2003/12/31(水) 15:01

>180 名無しさん
ホントにお待たせしました。
短編の二人、自分もお気に入りです。

>181 和尚さん
あたたかく迎えてくれてありがとうございます。
いろいろ思いはありますが、いちごまが一番好きということは変わってません。
ちょっとずつでも書いていこうと思います。


えー、実はかなり書き直しました。
アンリアルとはいえ少なからず影響を受けたようです。
今までと雰囲気が変わったかも…大丈夫かな…。
…とりあえず完結に向けてがんばります。
200 名前:マーチ。 投稿日:2003/12/31(水) 15:03

では、よいお年を!

201 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/31(水) 22:05
うぎゃー!!
更新有難うございます。
意味不明なレスでごめんなさい(w
良いお年を♪
202 名前:S 投稿日:2004/01/01(木) 20:40
更新おつかれさま〜。あ、新年あけましておめでとうございます。
今年もいちごま作品、たくさん書いてくださいね。

なんかとっても気になるところで終わってるぅ〜〜。
後藤に何が??・・・・つづきが楽しみです。
203 名前:和尚 投稿日:2004/01/01(木) 22:18
あけましておめでとーございます♪

気になるトコで年越しとは・・・
なんかシリアスになりそうですが、更新マターリとお待ちします。
204 名前:K 投稿日:2004/01/02(金) 01:07
あけましておめでとうございます!!

更新お疲れ様です。
気になるところで終わってて、続きが待ち遠しいです。
今年もマーチ。さんの作品、楽しみにしてます。がんばってください!!
205 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/02(金) 19:42
更新されてるー!
今年も楽しみにしてますのでがんばってください。
206 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:38

肌寒い風が制服の裾を揺らし、季節の移り変わりを告げる。

「話っていうのは、市井さんの進路のことです」

手すりに寄り掛かった吉澤が、遠くに霞む景色を眺めながら言った。

207 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:38

「ああ…」

やっぱりと市井は思った。
それはあえて避けてきた話題だった。
後藤が聞かないでくれたことに甘えてずっと先延ばしにしてきたこと――。

「梨華ちゃんから聞きました」
「そっか…」

「ごっちんには…?」
「言ってない」

何度も言おうと思ったけど、言わなきゃと思ってるけど、どうしても言い出せ
ないままずるずると今日まで来てしまった…。

後藤の悲しむ顔を見るのが嫌だったから。
どう伝えていいのかわからなかったから。

208 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:39

「ごっちん、ずっと気にしてました。はっきり言わないけどいろいろ考えてた
みたいだし。今日倒れたのだってそのせいじゃ…」
「えっ…?」

「だって今までごっちんが体育で倒れることなんてなかった。きっと市井さん
のことを考えて悩んで…」
「……」

吉澤の言葉に驚きを隠せない市井。
でも言われてみれば思い当たることがいくつかあったことは確かだった。

時おり見せる節目がちな表情。
言葉をためらうような不自然な態度。
なによりさっきの後藤こそがいつもと違っていた。

209 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:40

「ちゃんと話してあげてください、ごっちんは市井さんの言葉を待ってると思います」
「ん…」

「うちらは…、いっこ年下でたぶんガキに思えるかもしれないけど、それなりに真剣
に考えてます」
「そうだな…、うん」

「話はそれだけです、生意気言ってすいませんでした」
「いや、いろいろありがと」

「じゃ、失礼します」
「おう」

一礼して戻って行く吉澤。
その姿はいつもよりはるかに大人に見えて、市井は自分の弱さと情けなさを思い知
らされた気がした。

210 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:40




211 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:41

「大丈夫?つらくない?」
「ん、もう平気だよ」

二人一緒の帰り道。
市井は後藤の鞄を持ち、いつもより歩調を遅くして気遣いを見せる。

「やっぱり稲葉先生の車に乗せてもらったほうがよかったんじゃない?」
「ううん、いちーちゃんと一緒に歩きたいもん」

「…そっか」
「うん」

帰り際、稲葉先生に送るよと声をかけられたのだが、後藤はやんわりとその
好意を断った。
市井と歩きたいからと素直な気持ちを伝えられ、照れくさいけど嬉しくて頬が
緩む。

212 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:42

それでも甘い雰囲気に流れそうで流れないのは、市井の心中に期するものがあ
るからだ。

今日は逃げないで後藤と向き合おう。

『ちゃんと話してあげてください、ごっちんは待ってると思います』
吉澤の言葉が後押しとなり、市井が立ち止まった。

「ん?どうしたの?」
「ちょっと家寄って行かない?話があるんだ」
「…ん、いいよ」

にこっと微笑んだ後藤の手を取って、二人は市井の家に向かった。

213 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:42

「勉強、大変そうだね」

部屋に入ってまず目に飛び込んできたのは、机の上に山積みになった参考書や
問題集だった。
それは嫌でも市井が受験生であることを思い知らされる現実。

「もうすぐだからさ、センター試験」
「そうだね…」
「話っていうのはそのことなんだ」

思い切って切り出した市井の声は少し震えていて――。

それに呼応するかのように後藤の瞳がかすかに揺れた。

214 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:43

「えーと……」

ちゃんと伝えようと心に決めていたのに、いざとなると言葉が詰まった。
無意識に握り締めていた手は汗ばみ、表情も強張っていく。
ベッドに並んで座っているため市井のその緊張感がダイレクトに後藤にも伝わり、
しだいに空気が重たくなっていった。

「なあに?はっきり言ってよ、らしくないぞぉ」

はりつめた雰囲気をやわらげようと、後藤がわざと明るくおどけてみせる。
その声にうつむき加減だった市井がゆっくりと顔を上げ、重たい口を開いた。

「ずっと言おうと思ってて、でも言えなかった…その、受験のこと」
「…うん」

今度は後藤が視線を落とした。

215 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:45

「センター試験の出来にもよるんだけど、志望校H大にしようと思ってるんだ」
「H大…」

それは初めて市井の口から聞かされたことだった。
実際にはいろんなところから話が流れてきて、すでに後藤の耳にも入っていた
から心の準備がなかったわけじゃない。
でもやっぱり本人の口から伝えられると、その現実はつらいものだった。

「レベル的にきつかったんだけどさ。ここんとこ成績上がって、先生がもう一息
がんばれば大丈夫だろうって」
「そう…」

「勝手に決めてごめん。相談っていうか話そうと思ってたんだけど、なんか言い
出せなくて」
「…」

216 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:45

遠く離れた大学の選択。
それは同時に後藤と離れることを意味する。
市井がなかなか伝えることができなかったのはそのせいだ。

そして後藤も。
噂で大よそは耳に入っていたのに直接聞くことができなかった。
はっきりさせるのが怖かったのだ。

217 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:46

「怒ってる?地元の大学にしなくて…」
「怒るなんて…そんな」

市井が進みたいと願っていた路。
遠い遠い未知の路。

どうして阻むことができよう。

市井は自分の目標に向かって進む人。
決して信念を曲げたりはしない人。

そんな市井を後藤は好きになったのだから。

218 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:47

「いちーちゃんの進路だもん、いちーちゃんが決めていいんだよ」
「…ん、けど」

「ごとーはまっすぐ進んでいくいちーちゃんが好きだから。だから、ごとーの
ために立ち止まったりしないで」
「…」

言葉を失う市井。
溢れてくる愛しさに胸が苦しくなってぎゅっと目を閉じる。

いつのまに後藤はこんなに大人になったのだろう。
いや、自分が気づいていなかっただけなのかもしれない。

無性に抱きしめたくなって腕を伸ばしたら、後藤がすっと立ち上がった。

219 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:47

「がんばって、いちーちゃん」
「あ、うん」

「この先の話は…もっと後でいいよね」
「え…」

「今は勉強だけに集中してほしいから」
「後藤…でも…」

言いかけた言葉を消すように、後藤が腰をかがめて唇を重ねた。
それは軽く触れただけのキスだけど、後藤の想いがいっぱい込められていて、
市井の胸を熱く震わせた。

220 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 16:48

その日を境に、ふたりは今までのように会うことを控えた。
電話やメールを時々やり取りするくらいの距離を保った。

そうしようと決めたわけでもないのに自然とそうなったのは、後藤なりの深い思慮。
市井もそれに甘えて受験のことだけに集中する日々を過ごした――――。


221 名前:マーチ。 投稿日:2004/01/12(月) 16:49

更新しました。

きのうのラジオでやぐごまに傾いたり…エッ
222 名前:マーチ。 投稿日:2004/01/12(月) 16:50
レスありがとうございます!感謝

>201 名無しさん
意味不明なレスとありましたがちゃんと通じましたよぉ。
ありがとうございます。

>202 Sさん
おめでとうございます。
今年もいちごま書きたいですね、がんばります。

>203  和尚さん
おめでとうございます。
今年もいちごまを盛り上げていきましょう。

>204 Kさん
おめでとうございます。
今年も楽しんでもらえるようにがんばります。

>205 名無し読者さん
応援レスありがとうございます。
今年も楽しんでもらえるようにがんばります。
223 名前:S 投稿日:2004/01/12(月) 22:20
更新おつかれさまでした。
マーチ。さん、やぐごまに傾かないで〜〜〜。(>_<)
224 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/13(火) 22:51
更新お疲れさまです。
なんか…どうなっちゃうのでしょうか。
ちょっと不安…
225 名前:和尚 投稿日:2004/01/15(木) 00:26
いちーさんを深く想ってるごとーさんに切なさを感じました。
ごとーさんも何かありそうですし、次回更新が気になります。

。マーチ。さんは『いちごま』マイスターなのです。
だからやぐごまに傾いてはダメなのです。
226 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:42

ぐったりと虚脱した身体に規則正しい振動が心地よくひびく。
目に映る景色はゆるやかに流れ、夕闇の中ポツリポツリと輝き出す灯りが胸にあたたかい。

2日間にわたったセンター試験が終わり、市井は帰宅途中の電車に揺られていた。

227 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:43

まだ2次試験を控えてるとはいえ大きな山を越えた今、充足感と疲労感が一気
に市井の体を包みこむ。

ふうっ…やっと終わったか…。

勉強だけに費やした日々を振り返り、深いため息。

言いようの無いけだるさに目を閉じてまどろみかけた時、ケータイがポケットの
中で震えた。

228 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:44

『いちーちゃん、お疲れさま〜!今日はゆっくり休んでね。次は2次、がんばれ!』

その文字を目にしたとたん、市井の表情がふっと緩んだ。
眠気も覚め、早々に返事のメールを打つ。
その仕草は以前のようなたどたどしさはなく慣れた手つき。
会わない時間が増えた分、すっかり市井のメールの腕は上がっていた。

『やっと終わったよ、めっちゃ疲れた〜』

そう返信してケータイを仕舞いかけるが、市井はもう一度それを開き受信履歴を見た。
そこには後藤から送られてきたメールがいっぱいだった。
何度こうして画面の中の文字を見つめただろうか。
それは間違いなく市井の心の糧となっていた。

229 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:45

駅に着き家路をたどる市井の足取りは重く、ため息ばかりが口をつく。

ごとぉ…

ここのところ二人はメールのやり取りだけで、まったくと言っていいほど顔を合わ
せていなかった。
市井がたまには会おうと誘っても断られてばかり。
勉強の邪魔になるからと、後藤はなぜか市井以上にナーバスになっていたのだ。

避けられてるのだろうか。
怒っているのだろうか。

大学の話をしたときから後藤の様子がおかしいのは間違いなかった。
離れることを自ら選択した市井だから、ことさら弱気になってネガティブな想像
ばかりしてしまう。

会いたい…

募る想いは沈まることなくいっそう大きくなっていく。
市井の足は自然と後藤の家に向かっていた。

230 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:45

「いちーちゃん!?」
「うっす…」

部屋でうたた寝をしていた後藤の目を覚ましたのはインターフォンの音。
家族はみんな出かけていたので後藤が階下へ降り戸を開けると、そこには市井
が立っていた。

「え…試験の帰り?」
「うん」

「わざわざ来てくれたの?」
「ん…あ、ほら、試験終了の報告でもしようかなーって…ははっ」

会いたかったからとはさすがに言えず、よくわからない理由で照れ笑い。
一方の後藤は突然の市井の来訪に、驚きと嬉しさで戸惑い気味だ。

「報告って…。ね、とにかく中入って?」
「あ、うん。それじゃお邪魔します」

なぜか他人行儀な態度に、二人は顔を見合わせてくすっと笑みを漏らした。

231 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:46

「いちーちゃん、試験どうだった?」

部屋に入るなり心配そうに尋ねる後藤。

「ん…まあ」

それに対してはっきりしない返事。

市井にしてみれば久しぶりに後藤に会えた嬉しさで、試験のことなどどうでも
よかったのだ。
でも後藤の方はそうではない。
口憚った市井の言い方は試験の出来が悪かったのではないかと思ってしまい、
にわかに顔が雲った。
232 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:47

「まあって、まあまあできたってこと?」
「ん、そんな感じ」

「難しかった?」
「まあ…ね」

「そっかぁ…、じゃあ2次はがんばんなきゃね」
「ん…」

試験のことしか話をしようとしない後藤に、胸の中でくすぶっていた不安が大
きくなる。
笑っていてもその表情はどこか以前と違うから――。

「大丈夫だよ、地元の大学に変えるって手もあるし」
「えっ?」

「だからもう、そんなに試験のこと心配しなくてもいいから」
「なんで!?なんでそんな…」

後藤に詰め寄られ一瞬怯むが市井は心に溜まっていたことをぶつけた。

233 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:47

「ごとーが…、ごとーがおかしいからだよ」
「…おかしい?」

「受験勉強に集中してほしいっていうごとーの気持ちは嬉しいけどさ、なんか
よそよそしいじゃんか、ずっと…避けてるっていうかさ」
「そんなこと…」

反論しようとした後藤だが市井の顔を見て言葉を呑んだ。
見たことのないくらい寂しそうで弱々しくて、そして苦しそうだった。

「大学のこと怒ってんなら…」
「いちーちゃん……ちがう…」

かみ合わない想い。
いつのまにこんなにすれ違っていたのだろうか。
そのズレの大きさに後藤は愕然とし、しばらく言葉が出なかった。

234 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:49

「前にね…」

後藤が意を決して口を開いた。

「受験の邪魔しちゃったことがあって」
「…邪魔?」

「あ、いちーちゃんじゃなくって、その…高校受験のとき。ごとーわがままで
その時つき合ってたカレシを遊びに誘ってばっかりいたんだ。で、その人結
局高校落ちちゃって…」
「え…」

初めて聞く話に驚いた市井は後藤を凝視する。
後藤は視線を合わせないまま言葉を続けた。

「それで気まずくなって、結局別れることになって…最悪だった」
「…」

「だから今度は絶対そんなふうにしないって思って…ほんとは寂しかったし
会いたかったよ。けど、いちーちゃんの勉強の邪魔だけはしないようにって」

できれば市井には言いたくなかったことだった。
でも言わなければ誤解している市井を納得させることはできなかっただろう。

235 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:50

しばらく言葉のないふたりだったが、やがて市井の手がすっと伸びた。
うつむいて顔が見えない後藤の頭に手をやり、そのまま髪を撫で、頬に触れる。

「ごめん…そんなに思ってくれたのに、なんか勝手に誤解して責めたりして」
「いちーちゃん」

後藤がゆっくり顔を上げる。
そして頬に置かれている市井の手をそっと握った。

「ごとーの方こそごめんなさい、ちゃんと話せばよかったんだけど」
「うん…そうだよ、言ってくれればいいのに」

「言えないよぉ、いちーちゃんに元カレの話なんか」
「べつに…言ったっていいよ」

そう言って後藤の肩を引き寄せると、おもむろにぎゅっと強く抱きしめた。

236 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:51

「く、くるしいよぉ、いちーちゃん」
「うるさい、文句言うな」

「あ、ひど〜い、横暴だぁ」
「少し黙ってろって」

わざとばたつく後藤をさらにきつく抱きしめる。

「じゃあ…、黙らせてよ、いちーちゃん」
「…へ?」


市井の腕からすっと力が抜けた瞬間――

後藤が市井の唇を素早くふさいだ。
237 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:51

「…へへ、なんか照れるね」

長い長いキスを終えた後、うっすらと濡れた市井の口元を見て後藤が顔を赤らめた。
もちろん市井も負けずに赤面状態。

「不意打ち過ぎだって、ごとぉ」
「いちーちゃんがなかなかしてくれないからだもん」

「はっ…」
「えへへっ」

幸せそうに笑う後藤。
市井もその顔を見てにこりと微笑み、そして少しあらたまった口調で言った。

238 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:52

「えっと…、勉強はちゃんとするよ。だからもう無理するのはやめよう、お互いにさ」
「うん」

「さっきごとーが言ってたのって中学生のときでしょ?そのときと今を一緒にする
なって。例えH大に落ちたとしてもさ、絶対にごとーのせいじゃないし。それで壊
れることなんてありえないから」

「そだね…うん…うん」

うっすらと涙ぐみ、声が震え出す。

「今は…できるだけ会いたい」
「ん、ごとーも」

素直な思いを素直に伝え合う二人にもうぎこちなさは無く、すっかり甘い雰囲気に
包まれていった。

239 名前: 投稿日:2004/02/08(日) 15:53

「さっきの話だけどさ」
「ん?なに?」

何度目かのキスの合間に市井が口を挟む。

「あ〜、ほら、元カレ?どんなやつ?」
「なにぃ?なんでそんなこと聞くの?……あ、もしかしてヤキモチ?」

「ち、ちがうよ」
「あはっ、いちーちゃんに敵うはずないから安心して、ね?」

「…そお?」
「うん。だから…もっとしよっ」

大胆にキスをせがむ後藤に市井は押され気味に応じる。


そっと重ねられた唇からお互いの想いを感じ合って。

甘く溶け合うキスに二人はいつまでも酔った。



240 名前:マーチ。 投稿日:2004/02/08(日) 15:54

更新しました。(やっと…)
241 名前:マーチ。 投稿日:2004/02/08(日) 15:56

レスありがとうございます!感謝

>223 Sさん
やぐごまは好きですけどね、いちごまには敵いません!

>224 名無し読者さん
こんな感じで…もう不安はなくなったかと思います。

>225 和尚さん
やっぱり甘い方向に戻ってしまいました。
ホントはもう少し揉めさせる?予定だったんですが。
242 名前:マーチ。 投稿日:2004/02/08(日) 15:58

たぶん次で終わります。
早めに更新できるようがんばります。
243 名前:K 投稿日:2004/02/08(日) 23:46
更新お疲れ様です☆
甘いいちごまだぁ〜ヽT∀Tノ
おいらは甘いのが大好きなんで大満足っす!
次で終わっちゃうのは残念だけど続き待ってます!
244 名前:S 投稿日:2004/02/10(火) 14:35
更新おつかれさまでした。
次で終わってしまうんですか・・。寂しいですね。
でもまた、いちごまモノ書いてくださいね。
次回を楽しみにしています。
245 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/11(水) 21:27
やっぱりこの二人は甘いのが一番ですね。
次も楽しみに待ってます。
246 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/03(水) 02:22
待ってます
なんか色々ありましたが待ってますよ
247 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:21


「いちーちゃん!」

ベンチに座っていた市井がその呼び声で立ち上がった。
すぐさま声のした方へ顔を向けると、目に入ってきたのは大きく手を振りなが
ら駆け寄ってくる後藤の姿。

少し前に『公園集合』と市井がメールで呼び出したのだった。
248 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:23

「…はぁっ、いちーちゃん…はぁ、はぁ…」
「うっす、早かったね。あれ、また髪切った?」

すぐには息が整わないほど急いで走ってきた後藤を前にして、なんとものんびり
な市井。
にこにこしながら「短いのも似合うなぁ」なんて言って、後藤の髪をいじっている。

その行為は後藤にしてみれば肩透かしを食らったようで、じれったさが倍増。
早く知りたいという一心でこんなに急いで来たのだから。
249 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:24

「そ、そんなことよりどうだったの!?」
「んー?」
「だから…、大学…」

白い息を吐きながら後藤が市井の手を握りしめて問いかける。
市井はにんまりと笑ってその手をぎゅっと握り返した。

「うん、受かったよ」
「ほ、ほんと…?」

大きく頷きピースをして見せる市井。
満面の笑顔を後藤に向けた。

「やったぁ!おめでとー、いちーちゃん!」
「ぉわっ…と…」

勢いよく抱きついてきた後藤をよろめきながら受け止めて。
市井はあらためてじわじわと込み上げてくる合格の喜びに浸った。
250 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:24

「あ、どっか入る?」
「ううん、ここがいいよ。ほら、飲み物もあるし」

そう言って後藤が差し出したのはホット缶コーヒー。
久しぶりに公園でゆっくり話がしたいと思った後藤は、道すがら自販で買って
いたのだ。

「お、サンキュー。実は市井も…これ」
「わあっ、久しぶりかもぉ」

袋の中にはコンビニ限定のマンゴープリンが二つ。

「じゃ、すわって食べよっか」
「うん」

ベンチに並んで腰を下ろし、缶コーヒーとマンゴープリンでカンパイ!
251 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:25

「ホントによかったねぇ、いちーちゃん」

まるで自分が合格したかのように、後藤がしみじみと喜びを噛み締める。

「うん、ごとーのおかげだよ」
「え?なんで…そんなこと…」
「や、まじでさ。ごとーのおかげでがんばれた、ありがと」

照れながらも真剣に気持ちを伝える市井。
まっすぐ見つめる視線に後藤も照れてしまい、だんだんとうつむき加減に。

「ごとーは何も…」
「いや、なんていうか…支えだったんだ。ほんとにありがとう」
「もういいってば…」

感謝の気持ちを何度も伝える市井に、後藤はひたすら照れまくる。
252 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:25

「はぁ〜、でもさ、…いちーちゃんが大学生かぁ」
「なんだよ、おかしい?」

「ん〜、なんか不思議」
「そっかぁ?」

「…もう制服じゃないんだね」
「ははっ、そりゃあね」

目を閉じれば制服の思い出がいっぱいだから。

初めてキスしたときも、けんかしたときも――。

その制服に市井はもう二度と袖を通すことはないと思うと、言いようのない
寂しさがこみ上げてくる。
流れる時を止められないせつなさと一緒に…。
253 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:26

「…いつ…行くの?…向こうに」

涙声になってしまったのをごまかすことはできず、無理やり作った笑顔が崩れ
てしまう。
それを見た市井も思わず顔を歪ませたが、ぐっと堪えて後藤の髪を撫でながら
やさしくこたえた。

「まだだよ、大学の寮に入ることにしたからさ。だからぎりぎりまでこっちにいるよ」
「そう…」

それでもその期間は短い。
きっとあっという間に過ぎてしまうのだろう。

「それまで毎日会おう?できるだけ一緒にいたい」
「ん…」

やさしい言葉がかえってつらく感じることもある。
ぎゅっと目を閉じてその痛みに耐えてから、後藤が市井の方に向き直った。
254 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:27

「ね、いちーちゃん」
「ん?」

「これからのことだけどね」
「あ、うん」

「ずっと考えてたんだ…いっぱい、いろいろ……。聞いてくれる?」
「…うん」

緊張の面持ちで市井が頷く。
後藤は缶コーヒーを両手で持ったままで、ゆっくりと口を開いた。
255 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:28

「あのね、ホントに真剣に考えたんだよ。んと…、高校辞めていちーちゃんに
ついていくとか」
「へ……えっ?!」

突然の過激な提案に市井は目を丸くした。
何か言おうとするが言葉にならず、しどろもどろ。

「あ、あの…え…」

そんな市井を横目に、後藤は話を続けた。

「いちーちゃんが大学行ってる間ごとーはバイトして、夜は一緒に過ごすの。
週末は二人で遊んでさ…。あ、家はもちろんいちーちゃんの寮の近くにアパー
ト借りるんだ」
「……」

「ね?いいと思わない?」
「…う、うん。いい、けどさ…え、まじ…?」

うろたえる市井に後藤がくすりと笑みを漏らす。
256 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:28

「うん、けっこう本気で考えたんだよ。でも考えてるうちに思ったんだ、これって
うまくいくのは最初だけなんじゃないかなって」
「…最初だけ?」

「うん。たぶんごとーはだんだん自分の生活に疑問を持つようになって、いち
ーちゃんもごとーを重荷に感じるようになる」
「……」

「だからやめたの、いちーちゃんを追いかけるのは」
「……」

「安心した?」
「…ん…まあ、でもちょっと残念だったり…ははっ」

実は似たような想像を一度したことを思い出し、市井は照れ笑いを浮かべた。
257 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:30

「でね、次に考えたのはいちーちゃんと同じ大学をめざすこと」
「おっ、それいいじゃんか」

「ん…、でもね、それもちょっと違うなって気がするんだ」
「なんで?」

「ん〜、やっぱり自分の将来のことは自分で決めなきゃダメだって思う。今までみたい
にいちーちゃんに甘えていられないんだし…。自分がしっかりしてないとね」
「ごとぉ…」

一つ一つの言葉が重たくて真剣で。
迂闊に口を挟むことはできず、市井はただじっと後藤を見つめた。
258 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:31

「離ればなれになるのは寂しいよ、とっても不安だし…。」
「ん」

「でも、大人になっていくのは止められないから…。だからね、ごとーはごとー、
いちーちゃんはいちーちゃんでお互いにがんばっていければすっごくいいと思う
んだ。うん、それが一番大事だと思う」
「……」

「以上、これがごとーの考えたことです」
「……」

後藤がふーっと大きく息を吐いた。
思いをすべて伝えることができたからだろうか、どこかすっきりした表情に見える。
持っていた缶コーヒーを横に置いて、代わりにマンゴープリンを手にした。

「いただきま〜す!」

プリンをパクつく横顔は幼いのに、いつのまにか考えることはしっかりして大人で――。
そのギャップに市井はあらためて魅了されてしまうのだった。

259 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:32

「どうしたの?なんか言ってよ、いちーちゃん」
「うん…」

返事をして一つ咳払いをした後、市井がきりりとした表情に変わった。
今度は自分の番だというばかりに。

「正直言うとさ、自分で決めたことなのに離れることが不安でしかたなかったんだ」
「え…?いちーちゃんが?」

「うん…。でもさ、今ごとーの話聞いて大丈夫だって思った。離れてたって気持ちが
しっかりしてれば大丈夫なんだって」
「うん、そうだよ。きっと大丈夫」

力強い言葉の中に漲る愛情。
お互いの存在の計り知れない大きさを実感し、この先の路を達観する。
260 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:32

「今までみたいにそばにはいれないけど…気持ちは変わらないから」
「うん…」

見つめ合い微笑み合って、視線で想いを伝え合う。
お互いを理解し尊重し合えるまでになった二人だから、もう余計な言葉はいらない。

市井の手が後藤の頬に触れた。
そして、やわらかい微笑を浮かべたまま、ゆっくりとその距離を縮めていった――――。

261 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:33

「…マンゴープリンの味」



「あはっ、思い出すねぇ」


262 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:34

積み重ねた日々の中で、少しずつ大人の階段をのぼって。

周りの環境は否応なく変化していくけれど、初めて触れた日の熱い想いは今も
変わらない。

これからだって、ずっと―――。


二度目の春を迎えた二人の物語は、新たなページが開かれた――――





…end…




263 名前:キスの味は、マンゴープリン 投稿日:2004/03/13(土) 12:35

更新しました。
以上で続編完結です。
264 名前:マーチ。 投稿日:2004/03/13(土) 12:35
レスありがとうございます!感謝

>243 Kさん
お付き合いいただいてありがとうございました。
いろいろありましたが完結までたどりつけました。

>244 Sさん
いつもレスありがとうございました。
かなり励まされました、感謝しています。

>245 名無し読者さん
最後なのに甘さが足りませんでしたね。
でもこれが精一杯…。

>246 名無飼育さん
待ってる方がいるということが今回の更新につながりました。
お心遣いに感謝します。
265 名前:マーチ。 投稿日:2004/03/13(土) 12:37

いちごまを書いている者としては、正直キツイことがありすぎでした。
こんな状況の中読んでくださった方、ありがとうございました。
266 名前:和尚 投稿日:2004/03/14(日) 02:24
完結お疲れさまでした。
今回・・・ここ数ヶ月はいろんなコトがありすぎました。
お互いが思う気持ち・・・読んでてヒシヒシと伝わりました。
ありがとうございました。
267 名前:名無し。。 投稿日:2004/03/14(日) 11:16
色々な困難を経て大人になったって感じですね。
気付けば13で娘。に入ってきた後藤ももう18歳…
なんだか時間の流れをこのラストで考えさせられたような気がします。
お疲れ様でした。
268 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/14(日) 12:48
いろいろあったのに、完結してくれてありがとう。
お疲れ様でした。
甘いけどせつない、せつないけど爽やか。
終わりは始まり。希望の明日を確信させてくれる、いいラストでした。

もう一度、ありがとう。
269 名前:S 投稿日:2004/03/16(火) 01:37
完結、ありがとうございました。
市井ちゃんは市井ちゃん、後藤は後藤、それぞれの人生を自分なりに進むのが1番ですね。
今まで楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。
270 名前:読者 投稿日:2004/03/16(火) 16:18
二人の成長が感じられるラストですね。
よかったです。ありがとうございました。
271 名前:マーチ。 投稿日:2004/05/16(日) 13:37
レスありがとうございます。感謝!

>>266 和尚さん
いつもレスありがとうございました。
あたたかい感想や励まし、とっても嬉しかったです。

>>267 名無し。。さん
大人になった二人をえがきたかったので伝わって嬉しいです。
ありがとうございました。

>>268 名無飼育さん
感想ありがとうございます。
いいラストと言ってもらえてほっとしました。(いろいろ迷って書き直したので…)

>>269 Sさん
それぞれの人生…書きたかったのはまさにそれです。
いつもレスありがとうございました。

>>270 読者さん
レスありがとうございました。
ラストがよかったと言ってもらえて嬉しいです。
272 名前:マーチ。 投稿日:2004/05/16(日) 13:39

>>158->>173
以前に書いた短編『大切なひと』の続き。
273 名前:マーチ。 投稿日:2004/05/16(日) 13:40


―――――――――



274 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:41

それはホントに偶然だった。

導いてくれたのは気まぐれな春の雨――――


275 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:42

予備校帰りの夕暮れ時。
珍しく当たった天気予報がそれを自己主張するかのように大粒の雨が降り出した。
一斉に咲く色とりどりの傘の花。

あたしはカバンを頭の上にやり、傘代わりにして走る。
でも雨足はいっそう激しさを増すばかりで、このままじゃずぶ濡れになること間違いない。

「やべ…、どっか入るか」

前髪から滴る水滴を拭いながら雨宿りに駆け込んだのは、たまたま目に入った小さな
古本屋。
しばらくやみそうもないこの雨から逃れるため、あたしはそっと店の戸を開けて足を踏
み入れた。
276 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:43

古い紙やインクの独特なにおいが鼻につく。
決して嫌じゃないどこか懐かしいにおい。

濡れた髪をわしゃわしゃと手で拭きながら周りをぐるっと見渡すと、見たことのない分厚い
本が所狭しと並んでいた。
なんとなく初めて図書館に行った幼い頃を思い出し心が和む。

こういうの嫌いじゃないなぁ…なんてしみじと眺めていたら、背後からふいに声がした。
277 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:44

「お客さん、シブキとばさないでくれますか〜」
「あっ、す、すいません」

慌てて声のした方へ頭を下げた。

確かに不注意だった行為。
本が濡れてしまっては店員だって黙ってはいないだろう。

「気をつけてくださいね…くくっ…」
「はい……って、えっ!?」

今の…もしかして…。

ぱっと頭を上げると、そこにはカウンターに肘をついてにやにやしているあいつが―――

「後藤!?」
「あはっ、やっぱりいちーちゃんだ」
「……」


雨がもたらした偶然の再会だった―――。
278 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:45

後藤真希。
高校の時の後輩で、一緒につるんでバカやってた相棒だ。

学校をやめたあいつが突然あたしのバイト先まで会いに来たのがクリスマスの日だったから
……かれこれ4ヶ月ぶりの再会になる。


――――そう、あたしたちはあれ以来会っていなかった。

キスを交わしたことで何かが始まるかもと思ったのは淡い期待で終わり、クリスマスが過ぎる
のと一緒に二人とも別々の日常に戻っていたのだった。
279 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:46

「久しぶり、いちーちゃん。元気だった?」
「ああ…」

タオルを手に後藤がこっちへ向ってくる。

また少し短くなった髪。
それは彼女を幼く見せているが、かもし出す雰囲気は相変わらず色っぽい。

「これで拭いて、風邪ひいちゃう」
「ん、サンキュ…」

「そうだ、奥にごとーのシャツがあるから着替えて」
「いいよ。大丈夫だって」

「だめだよ、こんなずぶ濡れで。ね、早く」
「あ…ちょっ…」

半ば力ずくで腕を引っ張られ、あたしはカウンターの奥にある部屋へ連れて行かれた。
280 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:46

「着替え終わったら言ってね、はい」

差し出されたのは淡い空色のシャツ。

「ん、悪いな…」

遠慮がちにそれを受け取ると、後藤はそのまま部屋から出て行った。


濡れた服を脱ぎ、シャツを広げて袖を通す。
洗い立てのサラサラとした感触が、肌に気持ちいい。
281 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:47

部屋の中を見渡してみると、中央に小さなテーブルとイスがあり、床には紐で縛られた
古本が乱雑に置いてあった。
隅の方にはトイレらしきドアがあり、小さいけど流し台もある。

「へぇ…」

さっき渡されたタオルで頭を拭きながら物珍しげにきょろきょろしていたら、「いちーちゃん、
まだ?」という後藤の声が聞こえてきた。
どうやら着替え終わるのをずっと待ってたらしい。

「あ、いいよ」

慌ててそう返事をしたら、ガラッと戸が開いた。

「もお、着替え終わったなら言ってよね」
「あ、ああ、ごめん」

後藤はすたすたと流し台へ行くと、やかんに水を入れ始めた。
282 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:48

「似合うね、それ」

言いながらコンロの火をつけ、やかんをかける。
なぜかあたしの方を見ないままだ。

「やっぱり?」

なんて軽く返したら、後藤が手を止めて振り返った。
おもむろに目が合いドキッとして息をのむ。
いや、目が合ったからというよりは、後藤の表情が随分大人っぽく映ったからだ。

「それ買う時、いちーちゃんをイメージしたからかな」
「え…」

さらっと言い放った意味ありげな言葉。
過剰に反応してポッと顔が赤くなってしまう。

283 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:48

後藤はいったいどんなつもりで言ったのだろう。
それとも、全然意味など…?

いろいろ考えてたら会話はすっかり途切れてしまって。
今さら笑って受け流すこともできなくなり、しだいになんとも言えない緊張感が漂った。
お互いに次の言葉を待って、じれったい沈黙が続く―――。

そんな中、静寂を破ったのはピーッという沸き立つやかんの音だった。

「あ、座って。コーヒー入れるから」
「う、うん…」

ほっとして小さなイスに腰掛ける。
後藤はくるりと背を向けてコンロの火を止めた。
284 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/16(日) 13:49

コーヒーのいい香りが広がってくる。
それとともに、さっきまでの微妙な空気も薄れたみたいだ。

「はい、どうぞ」
「ん、ありがと」

やっぱり身体が冷えていたみたいで、一口飲んだだけで温かさがじわっと染み渡った。

「おいしい…」
「そ?よかった」

にこっと笑うと後藤も向かい側にイスを持って来て座った。
小さいテーブルだからやたら距離が近くてなんだか照れくさい。


しばらくの間、そこは雨の音だけが賑やかに振舞っていた――――。


285 名前:マーチ。 投稿日:2004/05/16(日) 13:50

更新しました。

やっといちごまが書けるようになった…
286 名前:マーチ。 投稿日:2004/05/16(日) 13:52

もう少し続きます。

よければおつき合いください。
287 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/16(日) 15:08
待ってました。ありがとうございます。
続きが楽しみです。
288 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/16(日) 18:52
お、ぉおぉおおー!!
待ってました…(ノ∀`)
作者様有難うございます。ありがとうございます。
いちごま熱は冷めず、しかし小説は減少する一方で…。
自分で書くにしても稚拙な文になってしまって、一向に満足できませんでした。
作者さんのいちごまは自分の中のオアシスです。
これからもどうか頑張って下さい。
289 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/17(月) 03:41
おお!まさか短編の続きが読めるとは!!
有難うございます。続きを楽しみに待ってます。
290 名前:和尚 投稿日:2004/05/17(月) 12:35
おかえりなさい。
文章が前回と違い変わった気がします。
いちーさんの心境がヒシヒシと伝わってきます。
自分じゃこんな文章は書けねぇなとちと反省_| ̄|○
291 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/29(土) 23:21

「なん…で」
「なんで…」

タイミングを図ったかのように同時に静寂を破ったのは「なんで」という疑問詞だった。

目を合わせて苦笑い。
そして、後藤が先に「なに?」と聞いてきた。

「うん…、なんでここに後藤がいるのかなって」

聞きたいこといろいろあるけど、まずはこれ。
後藤はファミレスでバイトしてたはずだから。
292 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/29(土) 23:21

「店番だよ、バイト」
「え、だって、ファミレスは?」

「やめた」
「え…?」

あっさり言ったことがすごく意外だった。
前に会った時、あんなにがんばるって言ってたのに…。

「なんでやめたの?」
「……嫌なことがあったから」

絞り出すような小さな声。
節目がちで明らかに表情が翳った。

後藤…。
293 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/29(土) 23:22

「そっか」

あたしはそこで話を打ち切り、コーヒーカップに手を伸ばした。
これ以上聞いて後藤の辛そうな顔見たくなかったし、今さらどうでもいいことだと思った
からだ。

でも後藤はそれが意外だったらしく―――

「それで終わり?」
「ん?それでって?」

「大抵の人は説教し出すから…『なんでやめたんだ、嫌なことなんて誰だってある。
簡単にやめるなんて仕事をなめてる』って」

テーブルの上で両手を重ねてぎゅっと握りしめている。
それは何かを必死で耐えている時に出る仕草だった。
294 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/29(土) 23:22

「わかってるからさ」

後藤が「え?」という顔であたしを見る。

「後藤がやめちゃうほど嫌なことなんでしょ?そりゃよっぽどのことだよ」
「……」

人並み以上に根性のある後藤が『嫌なことがあった』と苦しそうに言ってるから。
簡単にやめたなんて絶対思ったりしない。
説教したっていう奴を今すぐ張り倒してやりたいくらいだ。

「…いちーちゃん…っ…」
「ばーか、なに泣きそうになってんだよ」

手を伸ばして頭をポンポンとたたく。
そう、あの頃みたいに――。

「泣きそうになんて…なってない」
「ははっ、強がりなとこ変わってないな」
「むぅ…」

こういうやり取りも変わってない。
後藤とあたしの心地いい関係。
295 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/29(土) 23:23

「…がんばってみたんだよ」
「ん」
「まじめに働くって決めたしさ…けど…我慢できなかった…」

ぽつりぽつりと心情を吐き出す後藤をあたしは静かに受けとめる。
普段あまり弱いところを見せないだけに、その言葉一つ一つが重い。

「我慢って…?」
「うん…」

後藤が顔を歪ませた。

「あのエロ店長が…」
「えっ…!?な、なんだよそれ…」

耳障りだった雨音がすっと消えていった―――。
296 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/29(土) 23:24

後藤はそれ以上言わないつもりらしく口を噤んだ。

「何かされたのか?」
「……」
「おいっ、後藤…!」

もどかしくなってつい声を荒げてしまう。
本当はもっとやさしく聞いてあげなきゃならないのかもしれないけど、そんな余裕はすでに
なくなっていて。

「言えよっ!」
「……言いたくない」

押し問答が続いた。

「何されたんだよ、言えって!」

一際大きくなった怒声が部屋に響くと、後藤の肩がびくっと動いた。
297 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/05/29(土) 23:25

なかなか答えようとしない後藤だったが、あたしの剣幕に観念したのか、ついにぼそっと
つぶやいた。

「……キスされた」

「なっ…」

「それまでも時々身体触られたりして…それは我慢したんだ。でも無理矢理キスされて、
押し倒されそうに…」

言葉を遮るようにガタンと大きな音が鳴った。
あたしが立ち上がった拍子に倒れたイスの音だ。

「いちーちゃん!?」
「許さない…」
「え、ちょっと、いちーちゃん!」

部屋を飛び出そうとするあたしの身体を後藤が必死におさえた。
298 名前:マーチ。 投稿日:2004/05/29(土) 23:25

更新しました。
299 名前:マーチ。 投稿日:2004/05/29(土) 23:27

レスありがとうございます。感謝!

>>287 名無飼育さん
待っていてくれたなんて…ありがとうございます。
また楽しんでもらえたら嬉しいです。

>>288 名無飼育さん
激励レス、ありがとうございます。
いちごま小説は減ってほしくないですよね、自分も微力ながらがんばります。

>>289 名無飼育さん
あのまま終わらせた方がよかったかもと思いつつ始めてしまいました。
楽しんでもらえたら嬉しいです。

>>290 和尚さん
ただいまです、戻ってきました。
文章変わりましたか?自分じゃよくわからない…。
ブランクあったし、葛藤も…だからかなぁ。

300 名前:S 投稿日:2004/06/01(火) 05:46
マーチ。さん、おかえりなさい。
また、いちごまが読めてとても嬉しいです。
続き楽しみにしています☆
欲をいえば、マンゴープリンの続きも読みたいかも♪
301 名前:和尚 投稿日:2004/06/07(月) 23:04
いいっすね〜
いちーさんはやっぱこうでなきゃ(笑)
次の更新が非常に気になるトコです。
302 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/06/27(日) 18:46

あたしは完全にキレていた。
自分の一番大切なものを踏みにじられた時のような激しい憤りが身体中を渦巻いて。
もはや冷静な思考力なんてない、あるのは鋭く剥き出した報復心。

「そいつ、半殺しにっ…」
「やめて、いちーちゃん!」
「離せって!」
「いちーちゃん、落ち着いてよ」

すがるように止める後藤の腕がぎゅっと腰に廻される。
増していくその力があたしの動きを阻んだ。

「…離せっ、後藤!」

尚もやみくもに暴れるあたし。
でも後藤は決して力を緩めようとせず、切々とあたしをなだめ続けた。
303 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/06/27(日) 18:46

「ごとーは大丈夫だから…ね?」
「……」

「いちーちゃん」
「……でも、後藤…」

抑えきれない情動がガクガクと身体を震わす。
後藤が強く抱きしめてくれてなかったらどうなったかわからない。

「落ち着いて、いちーちゃん」
「……」

繋ぎ止めてくれたのは後藤の温もりと雨の音―――――。

304 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/06/27(日) 18:47

どれくらいそうしていたのだろう。
少しずつ落ち着きを取り戻したあたしは後藤に小さく声をかけた。

「…後藤、もう放していいよ」
「え?」
「もう、大丈夫だから」

その言葉を聞いてほっとしたのか、力強く廻されていた腕がすっと緩んだ。

「いちーちゃん…?」

心配そうににあたしの顔を覗き込む後藤は今にも泣きそうで。
カッとなって見境無くしたことを激しく反省…ったく、こんな顔させちゃうなんて。

「ごめん。なんか…訳わかんなくなってさ…」

キレた自分が恥ずかしくて、苦笑いしながらイスに戻った。
それを見た後藤も安心したように笑みを浮かべて、今度は向かい側ではなく隣に座った。
305 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/06/27(日) 18:47

テーブルの上に目を向けると、コーヒーがこぼれている状態。
そして、足元には崩れた本の山が散乱している。

記憶にないけど、あたしが暴れたからなんだろうな…。

「変わってないね、いちーちゃん」
「ん?」
「キレたとき、手がつけられなくなる」
「うっ…」

そう言われると返す言葉はない。
確かに昔からカーッとなると見境がなくなって暴走してたから。
こんなふうに後藤に止められたこと何度もあったし、時には一緒になって熱くなったりとかも。
すっかり更生したつもりだったけど、根底にあるものは変わってないみたいだ。
306 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/06/27(日) 18:48

「でも、うれしい」
「なに?」
「だって、ごとーのために怒ってくれたんでしょ?」
「ん…まあ」

ふいに肩と肩が触れた。

いちいちドキドキしてしまうこの心臓…どうにかしてほしい。

「っていうかさ、我慢することなんかなかったんだよ。そんなバイト、触られた時点で
やめちゃえばよかったんだ」

拗ねたようにたらたらと不満を口にしてしまう。
今さら言ってもどうしようもないことだけど、やっぱり後藤がそういう目にあったことが
許せないから。
決して責めてるわけじゃなくて、むしろ何もできない自分が歯がゆかった。
307 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/06/27(日) 18:49

「約束…したから」
「約束?」

「この前会ったとき、仕事がんばるっていちーちゃんと約束したから」
「え、あ…」

クリスマスケーキを食べてる時、そんな話をしたことを思い出した。
でも…、だからって…。

「じゃあ、それでセクハラも我慢したの?」

「…限界までね。いちーちゃんに会ったときバイトやめたなんて言いたくなかったし。
でも、結局やめちゃって、いちーちゃんに会わす顔なくなっちゃった」

視線を落とし唇を噛み締める後藤。

あの日の約束をそこまで気にしていたなんて。
もしかして全然連絡くれなかったのはそのせいなのだろうか。
308 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/06/27(日) 18:49

「バカだな…、そんなのぜんぜん…」

無性にこみ上げてくる愛しさと共に、胸がじんと熱くなってきた。
うつむいてる後藤の頬にそっと触れて、こっちに顔を向けた。

「後藤らしくさ、自分の思うとおりにすればいいんだよ」
「いちーちゃん…」

「先輩に何言われても動じなかった後藤じゃんか。あんときの後藤ってさ、めっちゃ
かっこよかった。ほら、そんな暗い顔するなって」
「ん…」

こくんと頷き、笑みが広がる。
それがやけに幼く見えて、やっぱり年下だなって思う。
309 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/06/27(日) 18:50

「ここは自分で探したの?」
「うん、バイトの募集見て…あっ、そうそう、さっきごとーが『なんで』って聞いたのは
それなんだ」

「ん?」
「……いちーちゃん、なんでここに?」

「…なんでって、雨宿り」
「そうなの?それだけ?」

不服そうに首を傾げながら、何かうったえるような強い視線を向ける。
でも後藤の求めているものがわからないあたしは同じ答えを繰り返した。
310 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/06/27(日) 18:50

「うん…雨宿りだけど。傘持ってなくてさ」
「…」

「たまたまこの店が目に付いて、それで」
「なんだ、そっか…」

ため息混じりのその声は、明らかにトーンが下がっていた。

「なんだって、何だよ」

何か言い含んだ後藤の口ぶりが気に障って、つい強い口調になってしまった。
偶然会えたことがあたしは嬉しかったのに、後藤はそうじゃないみたいに感じたから。

でも、それはあたしの思い違いだったみたいで―――。

311 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/06/27(日) 18:51

「……ごとーに会いに来てくれたのかと思って、ちょっと期待しちゃった」

「え?」

期待…?

「会いにきてくれたわけじゃなかったんだぁ…」

いかにも残念そうに肩を落とす後藤。
そんな後藤の一つ一つの仕草や言葉に、あたしはやっぱり惑わされてしまうんだ。

312 名前:マーチ。 投稿日:2004/06/27(日) 18:51

更新しました。
313 名前:マーチ。 投稿日:2004/06/27(日) 18:53

レスありがとうございます。感謝!

>>300  Sさん
ただいまです、戻ってきました。
マンゴープリンの続きですか!?
読みたいと思ってもらえるのは嬉しいのですが、さすがにそれは…。

>>301 和尚さん
熱血いちーちゃん!
でもやっぱりヘタレ気味でもあったり。


次で終わります。
314 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/28(月) 23:42
更新お疲れ様です。
やっぱりなんだかマーチ。さんのいちごまが
一番自分には合ってるな〜としみじみ感じました。
次で終わりですか〜、楽しみに待ってます。
無理なさらずがんばってください。
315 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/29(火) 15:36
更新お疲れ様です。
やっぱりいちごまはいいですね〜。
最近いちごま小説減ってるんで、すごく楽しみにしてます。
これからもあせらず、がんばって下さい!
316 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/29(火) 23:54
市井ちゃんハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン
すいません取り乱しました。
更新待ってます!
317 名前:S 投稿日:2004/06/30(水) 05:26
次で終わりですか〜。
でも、次回作期待してますね。
マーチ。さんのいちごまは、大好きです♪
318 名前:和尚 投稿日:2004/07/03(土) 13:38
いちーさんドキドキです(苦笑)
読んでる自分もドキドキです(笑)
次はどうなるのか更にドキドキして待ってます。
319 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:33

「会いに行ったよ、前に」
「え…?」
「あのファミレスに行ったんだ」

言うつもりなんかなかったのに。
後藤に揺さぶられた心が勝手に動き出してしまった。

「うそ…」
「嘘じゃないっ…」

クリスマスの夜、何も約束しないまま別れてしまったから。

あたしは後藤のバイト先へ足を運んだんだ。
どうしても会いたくて、後藤に会いたくてたまらなくなって―――。

「え、でも…」

まだ信じられないという顔、何か言いたそうに唇が動く。
それも仕方ないかもしれない。
会いには行ったけど、あたしは会おうとはしなかったから。
320 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:33

「外から見てた…、窓ガラス越しに後藤の姿見つけて……」
「それで?」

「……それでって、それだけ」
「な、なにそれ…」

後藤があきれるのも無理はない。
情けないってことは自分でもよくわかってる。
けど、どうしても…、どうしても次の一歩が踏み出せなかった。

「いちーちゃんのバカ…声くらいかけてよ」
「…だな」

気づいてしまった想いが大きすぎたから。
自分から行動に出る勇気が持てなかった。

そしてそのまま日々の暮らしに流されてしまって。
いつのまにか後藤から来てくれるのを待ってるだけの弱いやつに成り下がっていたんだ。
321 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:34

「会いたかったんだから」
「…え?」

耳に届いた言葉はにわかには信じられなくて。
思わず後藤の横顔を凝視する。

「いちーちゃんが来てくれるの、待ってた」
「後藤…」

うつむいたままでその表情は見えない。
でもわかる、うん。
きっと必死の思いで言ってくれたに違いないんだ。

…そう、後藤ってやつは。
普段は大胆なくせに妙に臆病なとこがあって。
後藤のそういうアンバランスな一面、誰よりもよくわかってたはずなのに。

あのクリスマスの日だって、行くか行かないかギリギリまで迷ったって言ってたっけ。
ありったけの勇気出して、バイト先のケーキ屋まで来てくれたんだよな。

わかってるようでわかってなかった、後藤のこと。
そして自分のことも。
322 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:35

「なんか、めっちゃ遠回りしたって感じ?」
「…ふっ…そうかもね」

顔を見合わせて照れ笑い。
うまく言えないけど、その時二人の気持ちが重なったような気がした。

ここは思い切って一歩踏み出してみるべきだろうか。

今ならできるかもしれない―――。

323 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:35

「後藤…」
「ん?」

手のひらがじわっと汗ばむ。

「あ、あのさ…」
「なに?いちーちゃん」

心拍数はきっと最大値。

見つめられて、もっとドキドキして、頭の中が真っ白に―――。

「あー、えっと…」
「なあに?」

首を傾げてあたしの言葉を待つ後藤。
普段の大人っぽさとは対極の無防備で無邪気なその顔が、さらに胸の鼓動を早めた。

324 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:36

「……や、なんでも、ない」
「……」

想いはやっぱり言葉にできず、妙な間だけが虚しく残ってしまった。

躊躇う理由なんてないのに…、ただ臆病なだけ。
自分の情けなさに自己嫌悪でいっぱいになって、思わず足元にあった本に八つ当たり。

「ちょっ、いちーちゃん、それ売り物」
「あ、ごめん…」

…ったく、どうしようもないな。
一人で空回りして、バカみたいだ。

散らかった本を横目で見ながら小さくため息。
とことんかっこ悪い自分に、がっくりと肩を落とした。
325 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:37

「それ、つけててくれたんだ」
「え…?」

うなだれていたあたしを気遣うように、後藤が明るい声で話しかけてくれた。
救われたように顔を上げると、後藤の視線の先はあたしの耳のピアス。
あの日にもらったクリスマスプレゼントだ。

「あ、うん。毎日してる」
「ホントに?気に入ってくれたんだ」
「うん…っていうか、めっちゃ役に立ってるんだよね、これ」
「役にって?」
「『センスいいですね』ってよく言われる」
「あ〜、なにそれ、ズルじゃん」
「ははっ、まあまあ。でもさ、ホントに大事にしてるんだ」
「いちーちゃん…」

後藤が嬉しそうに微笑む。
そしてほんのりと頬を赤らめながら言葉を続けた。

「ごとーも大事にしてるよ、いちーちゃんからもらったプレゼント」
「え、プレゼントなんて何もあげて…あっ…」

浮かんだシーンは粉雪が舞い散る夜空、そして――――
326 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:37

「今思い出してたでしょ…いちーちゃん、顔赤い」
「な…後藤だって…」

真っ赤なのはお互い様、もうごまかしようがない。

きっと今がそのとき――――

今度こそ覚悟を決めて、あたしは後藤の肩に手を置いた。

「あのときわかったんだ」
「え、なに…?」

「後藤が急にいなくなって寂しかった理由とか」
「……」

「勝手にいなくなったことにイラついた理由とか」
「……」

今、ものすごくドキドキしてる。
でも、心はなんていうか穏やかで、後藤にまっすぐ向かっていった。
327 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:38

「好きだった、ずっと……」


「…いちーちゃん」


328 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:39

あたしを見つめる瞳がじわっと潤む。

「…っ…いちーちゃん…」

そして細い指先が空色のシャツをぎゅっと握り締めた。

これって、都合よく解釈してもいいのかな?

「後藤…」

涙がこぼれ落ちる瞬間、引きつけられるように唇を重ねた。
329 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:39

2度目のキス――――

情けないけど身体が震えちゃって、すぐに離れてしまった。
今思えば1回目のキスが随分と長かったのは、後藤がリードしてくれたからなんだな…。

「…いちーちゃんのバカ」
「え…」

なんでここでバカ…?
もしかして嫌だったのか?!
それとも、下手すぎた?!
330 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:40

「もっと早く言ってよね」
「あ、ああ…」

なんだ、そういうことか…。
拒絶じゃないことがわかり、ほっと胸をなでおろす。

後藤は膨れっ面なのに耳まで真っ赤になっていた。
生意気な口ぶりに反して、手はあたしのシャツをまだ握ったままで―――。

「何度も言おうと思ったよ…っていうかそっちこそさぁ」
「なに?」
「だから、その…」

返事っていうか、気持ち聞かせてくれても…。

「大好き」
「へ?」

いきなりすぎて間抜けな声が…。

「いちーちゃんが大好き」

あっという間に抱きしめられて、耳元で何度もその言葉を囁かれた。
331 名前:大切なひと 〜春雨〜 投稿日:2004/07/27(火) 17:41

「もう勝手にいなくなるなよな」
「ん…ずっといちーちゃんと一緒にいる」

熱く駆け抜けたあの頃とはもう違うけれど、後藤と一緒なら何でもできそうな気がする。
ふたりでいればきっと、どんな困難も跳ね返して真っ直ぐに進んでいけるだろう。



しとしと降り続いていた雨が止んだのは、空がうっすらと明るくなってから――――


あたしと後藤は手をつないで朝靄の中を帰った。




〜おわり〜


332 名前:マーチ。 投稿日:2004/07/27(火) 17:42

更新しました。
『大切なひと〜春雨〜』終わりです。

長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。
333 名前:マーチ。 投稿日:2004/07/27(火) 17:43
レスありがとうございます。感謝!

>>314 名無飼育さん
 あたたかいレス、ありがとうございます。
 ここのいちごまが気に入ってもらえてとても嬉しい。
 書いてよかったと思いました。

>>315 名無飼育さん
 あたたかいレス、ありがとうございます。
 最後まで楽しんでいただけたでしょうか。

>>316 名無飼育さん
 お待たせしました。
 こんなベタな終わり方です…すいません。

>>317 Sさん
 いつもレスありがとうございます。
 大好きだなんて…嬉しい…書いてよかった!
 次の予定はまったくなく、残りのスレを無駄にしてしまいそうです。

>>318 和尚さん
 いつもレスありがとうございます。
 和尚さんに最後までドキドキしてもらえたら嬉しいなぁ。
334 名前:マーチ。 投稿日:2004/07/27(火) 17:44

完結 age
335 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/01(日) 01:22
完結お疲れ様でした
凄く良かったです
次回作も期待しております
336 名前:和尚 投稿日:2004/08/03(火) 00:06
感無量!!
ドキドキさせられっぱなしでしたし、
ヘタレないちーさんに笑わせてもらいました。
次の予定はないそうですが、書きたくなったらお願いします(苦笑)

完結お疲れ様でした&ありがとうございました。
337 名前:S 投稿日:2004/08/06(金) 05:43
完結おつかれさまでした〜。
また、マーチ。さんの作品が読める日を、心待ちにしております。
338 名前:ミッチー 投稿日:2004/08/24(火) 17:53
初めまして。
『キスの味は、マンゴープリン』の続きを今日発見しました。
完結お疲れさまでした。
機会があれば、また読まさせていただきたいです。
マーチ。さんのいちごまが大好きです。
ありがとうございました。
339 名前:絵理 投稿日:2004/12/21(火) 14:56
まだっすか?
340 名前:JR大正 投稿日:2005/01/07(金) 18:03
最高☆あやみきが見たい

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