雪花火
- 1 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時13分51秒
- m-seek初カキコとなります、鋼乃69(はがねの ろくじゅうきゅう)
と、申します。
少々文力に欠けるところがあるかもしれませんが、目を通していただけるとうれしいです。
感想など、歓迎いたします。
- 2 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時15分10秒
- 私は雪が嫌いだ。
理由は…別にない。よくわからない。「なんとなく」そんな言葉で片付けても何
の問題にもならないだろう。
ただ、あえて上げるとすれば、あの気味が悪いほどの白さと、冷たさが駄目なの
だと思う。やはりそれもなんとなくになってしまうのだが。
たぶんもっとよく考えればいろいろと理由は出てくるだろう。歩きにくいとか、
グショグショになるとか。
だが、それ以上考えたくもない。何故かは知らない。だからそれをさらに考える
こともしない。
とにかく、私は雪が嫌いだ。大嫌いだ。
- 3 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時16分39秒
- 12月の上旬。街ではここぞと言ったばかりに百貨店が展開するイルミネーション
や、ツリー、飾り付けなどでクリスマスムード一色に染まっていた。
サンタの格好をしたどこかのバイトであろう青年がティッシュを配り、親子はシ
ョーウインドウの前で子供のプレゼントを探し、恋人は寒いからと言って、嫌に
ベタツく、そんな季節。
だが、そんな季節でも相変わらず私のスケジュール帳は文字や数字でいっぱいだ
。
別に街に繰り出してそのクリスマスムードに浸りたいわけではない、むしろその
逆。ただ、キリスト教徒でもないその辺の一般人が、クリスマスクリスマスと騒
ぎ立て、浮かれているのが気に食わないだけだ。私はこんなにも忙しく働いてい
るというのに…
こんな所で意味もなくグチを言っている自分も嫌になる。
- 4 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時17分13秒
- 楽屋の窓から見る外は、この暖房がきいた部屋の中と違って凍り付きそうなほど
に寒そうだった。
だが、今年の初雪はまだ来ない。さっきも言ったとおり、私は雪なんて降って欲
しくないと思っているから、この事には結構喜んでいたりする。もちろん他人に
言ったりせず、自分の中でこっそりと、だが。
- 5 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時18分16秒
- と、急に外を見つめる私の視界が赤一色におおわれる。
「ごっちん、はい、あげる」
私の視界を奪った張本人は、その目前血の海現象の原因であったポッキー(モー娘
。シール付き)の箱を私の目から少し離してそう言った。美貴だ。
「ありがと」
私は、目に近づけすぎだとかツッコもうかとも思ったが、今はそんな事言うよう
な気分じゃないので、そこは黙ってその箱を受け取ることにした。私がそのポッ
キーの箱を受け取ると、美貴は鏡の前に座り髪の毛をいじくり始めた。
- 6 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時19分39秒
- 今この楽屋には私と美貴だけしかいない。今日は、ごまっとうとしての仕事なの
だが、亜弥は(私はTVでは亜弥の事を亜弥ちゃんだとか、あややだとかで呼んでい
るが、私生活では亜弥も私も名前で呼びあっている。美貴もそんなところだ)ソロ
での活動が押しているらしくまだ来ていない。つまり今は、ごまっとうの『まっ
』待ちといった状況なのである。
- 7 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時20分23秒
- 12月に入ってからごまっとうでの活動が多い。と言っても、新曲が出るのだから
それは至極当然のことなのだが。
やはり私たちの曲もクリスマス系のポップスだった。だから私は今回の曲はあま
り乗り気ではない。
ただ、救いはあった。それがソロではなく、このごまっとうでのリリースだとい
うことだ。
- 8 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時26分23秒
- ごまっとうとして、初めて三人で仕事をしたとき、美貴は何かと私に話しかけて
きた。元々、亜弥と美貴は親友と言えるほど仲が良かったから、私だけ一人にな
らないよう気を使ってくれていたのだろう。
私は、別に亜弥とも美貴とも無理に仲良くなんかなろうと思っていなかったから
、その妙な心遣いのほとんどを素っ気ない態度で返していたのだが、私のその飾
らない…いや、飾らな過ぎる性格が美貴には何故か好印象だったらしく、普通に
話しかけて来るようになった。
- 9 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時27分02秒
- 私もこんな性格を好いてくれる美貴に、何となく信頼感のような物を感じていた
。
これまでろくに人を信頼してこなかった私だ。こんな感情を持つ時がくるなんて
自分でも思っていなかった。だからだろう。余計に美貴の人間としての出来の良
さのランクを上げていたのかもしれない。
いつの間にか美貴は有一の『仮面を被らないで素のままで話せる友達』とまでな
っていた。
- 10 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時27分37秒
- 美貴と繋がりが出来たことで、自然と亜弥とも仲が良くなっていった。だが、私
は亜弥の必要以上に明るいあの性格が、正直苦手だった。
でも、やはり何故かはわからないが亜弥も私に好感を持ってくれていたようで、
亜弥も別に嫌みとか、そういう明らかに相手を不満にさせる態度をとるような、
嫌な女じゃあないので、普通に仲のいい友達でいることが出来る。まあ、つまり
私が亜弥のその部分だけが苦手だというだけだ。
だから今ごまっとうは、あのモーニング娘。と同等、またはそれを越えるほどの
仲良しグループとなっている。だが、亜弥以外の二人がこうなので、それが世間
に知られる事はないだろう。別に知られて何も困る事などないのだが。
- 11 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時28分15秒
- 「おっは〜♪」
急に楽屋のドアが開いたと思うとそこには亜弥の姿があった。
「遅い!おっは〜♪じゃないよ!」
美貴はずっと待っていた事をアピールするような口調で亜弥に話しかける。
「ごめ〜ん、道路おもいっきり渋滞してたんだもん〜」
そんな感じで二人が話しているのを私はいつものように少し離れた所から見てい
た。この二人の会話を聞いていると結構楽しい。
「まったく…いつものことだけど緊張感なさすぎだよ?亜弥は」
「なにそれ〜!?十分にあります!ふん、だ!」
私はこの二人の会話を眺めているだけで、ここに存在している自分を感じられる
のだ。多分、それも生き甲斐を感じる一つの手段なんだと思う。自分でも何か変
な手段だな、とか思う。
- 12 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時31分58秒
- 「…ごっちん?どうしたの〜?」
亜弥が急に私の顔をのぞき込んできた。
「え?」
亜弥にそう言われたとき、私は亜弥が何を言っているのか、全くわからなかった
。だが、その亜弥の顔の向こう側にあった自分の顔が映っていた鏡を見たとき、
その亜弥の言葉を理解することができた。
「にやにやして…、何か嬉しい事でもあった?」
亜弥の言うとおり、私はいつの間にか微笑んでいた。無意識の内に。いや、多分
意識はあった。だが、自然に笑う事など滅多にないから、自分自身戸惑っている
のだろう。
「いや、別に…」
「ふーん。変なの」
照れ隠しだったのだろうか?いつものように素っ気ない態度で返していると、亜
弥が入ってきた時のまま、開けっぱなしになっていた楽屋のドアから、スタッフ
であろう男の人が顔をのぞかせた。
「本番です。Bスタジオまでどうぞ」
- 13 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時37分26秒
- テレビ局の裏口の自動ドアが無機質な機械音をたて開く。
「わっ…さむっ…」
冬特有の張りつめたような冷気が私を襲う。さっきまで明るかったはずの空には
、もう月が薄く光っている。
収録は終わり、今の時間は19時。この後には別に予定もないため、私はホテルへ
と戻ることにしていた。
それにしても冷える。この調子だと今日にうちに雪が降り始めてもおかしくない
。天気予報では今週いっぱいは、降らないって言ってたけど…
私は羽織っていたカーディガンを体に密着させるように胸の前で強く握りしめた
。
- 14 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時38分21秒
- 車通りの多い通りに出て軽く右手を挙げる。
すると、そのサインを待ちわびていたように、少し離れたところに止まっていた
車が私の前まで移動し、そのドアを開ける。
いつもの慣れた動きだが、私はこれが好きではない。何かに決められているよう
なその動き。全く自然さを感じさせない。いつもと同じ動き。
だが、今日はそこに予告なしに一つ違う要素が飛び込んできた。
- 15 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時45分09秒
- いつものようにその車に乗り込む。
と、
「おい!あんた!」
いきなりそのタクシーのドライバーが怒鳴る。
私の事を言われたのかと思った。だがどうも違うらしい。乗り込む途中ままの不
安定な姿勢で、私は後ろを振り向く。
そこには、深く被った帽子にサングラス。さらにはマスクまでといった、いかに
もな男が私の後について車に乗り込んできていた。私は、一瞬ビクッと体をすく
めた。
「おい!今の客はこの嬢ちゃんだ!あんたじゃねえ!」
まるで漫画に出てくるような仕事一筋の男といった感じのドライバーが続けて怒
鳴る。
「あ、大丈夫です。ごっつぁんとは知り合いですから♪」
男だと思っていたその人は女の声を出した。
- 16 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時46分29秒
- 「誰があんたみたいな奴と」
一瞬そう思ったが、よく考えるとその声には聞き覚えがあった。
「…あれ…?」
私はその人物を頭から足の先まで、順番に確認するように眺めた。
ニット帽からはみ出た明るすぎる金色の髪、サングラスの奥に見える大きな目、
そして、小さすぎる体。
こんな人、存在すること事態珍しいし、さらに私の知り合いとなっては、考えら
れるのはあの人しかいなかった。
「…やぐっちゃん…」
何かに疲れたように私は小さく一つため息をついた。
と言うか、本当に疲れていた。
- 17 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月18日(月)01時48分32秒
- 今日はここまでにします。明日、暇があったら続きを書きたいと思います。
- 18 名前:名無し 投稿日:2003年08月18日(月)11時09分27秒
- 面白そうです。
頑張って下さい。
- 19 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時06分38秒
- 「はふ〜、助かったよ!財布落としちゃってさあ」
やぐっちゃんはそう言うと私の部屋のベッドに体を投げた。
やぐっちゃんの話によると、どこかで財布を落としてしまい、ホテルに帰れなく
なっていたところに偶然(やぐっちゃん曰く「ここ大事」らしい)私を見つけ、タ
クシーに乗り込もうとしていたため「逃がすものか!」と(…あんたは探偵かよ…)
それに便乗した、ということだ。
いくら何でも大胆すぎやしないかと思ったが、何となく口には出さなかった。
そして、私の止まっているホテルまで来たわけだが、これまた偶然(同じくここ大
事 by.矢口)同じホテルだったらしい。
- 20 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時09分12秒
- で、今はそのホテルの私の部屋でその話を聞いているというわけだ。
何か、すべてに置いて怪しいが、疑ってどうなるわけでもないし、今更あのやぐ
っちゃんの話をいちいち疑うのも面倒くさいので、触れなかった。
と、唐突にやぐっちゃんがこんな質問をしてきた。
「ごっつぁんさあ…藤本のことどう思う…?」
「んあ?美貴?」
その時、部屋着へと着替えをしていた私はやぐっちゃんの言葉を変な返事で受け
たようだが、特に気にせず話を進めた。
「どうって…なにが?」
「全体的にだよ」
部屋着に着替え終わった私は、適当に話を進めながら、やぐっちゃんが座腰掛け
ているベッドに向かい合わせになるよう座った。
- 21 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時15分58秒
- 「はあ…?何?何かトラブルでもあった?」
やぐっちゃんは私と美貴が仲がいいことを知っていたから、その時はやぐっちゃ
んが、最近モーニング娘。として活動し始めた美貴と何か一悶着あったのだと思
い、それについて相談を持ちかけてきたのだろうと思った。
だが、そんな私の予想は見事に外れたようだった。
「違うよ、うまくやってるよ。って言うか普通にメンバーの中でも仲いい方だし
」
「ふぇ〜、やぐっちゃんと美貴、うま合わないだろうなって思ってたのに」
「先入観だよ、そんなの」
「じゃあ、何?美貴がどうしたの?」
またここで私は頭を働かせた。
私はついさっきまで美貴と仕事で一緒だった。その時、美貴には対して変な感じ
を受けなかったから、やぐっちゃんが言おうとしている事は個人的な事なんだろ
う。
今度はそうのように勝手に自分の中でストーリーを展開させた。だが、その自信
を持って脳内で作り出した物語も、やぐっちゃんの次の言葉でまた不正解に位置
づけられてしまった。
- 22 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時19分21秒
- 「なんかさ…おかしくない?最近の美貴」
「は?おかしい?どこが?」
「どこがって聞かれると…答えづらいんだけど…」
「何それ?やぐっちゃんの方がおかしいよ」
「おいらは真剣に話してるんだってば!」
そのやぐっちゃんの言葉通り、やぐっちゃんの目はふざけているといった感じを
全く受けさせない真剣な物だった。
久しぶりにやぐっちゃんの真剣な目を見た。これが新サブリーダーとしてのやぐ
っちゃんの姿なんだろうか?
今では娘。に対しては一般視聴者とほとんど変わらない位置にいる私には、それ
以上に深くはわからない。
- 23 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時20分55秒
- 「なんなの?別におかしい所なんてないじゃん」
「いやね、最近妙にそわそわしてるっていうか、落ち着きがないんだよ、いっつ
も」
「え〜?そんなことないよ、全然。逆に落ち着きすぎてるぐらいだよ」
この私の言葉に間違いはない。最近何回も仕事が一緒になったけど、美貴はどん
なときでも落ち着いていた。収録中にリアクションが薄すぎて取り直しがあった
ぐらいだ。(私はその美貴以上にリアクションが薄かったが、何故かOKが出た。私
の場合、それがキャラとして通るらしい。…TVってよくわからない)
「そうかな…?」
その時、私の脳裏に一つの考えが生まれた。
- 24 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時22分18秒
- 「あぁ〜!もしかして!」
「なっ…なに?」
「美貴、やぐっちゃんに惚れちゃったんじゃないの〜!」
「な、なんだよそれ!バカ言うなよ!」
「だってさ〜私が見てる所だとすんごい落ち着いてるのに、やぐっちゃんがいる
と違うんでしょ?ってことは…恋!これは恋だ!」
「なっ!何でそうなるんだよ!」
こうやって慌てているやぐっちゃんは、女の私から見ても普通に可愛い。多分美
貴もこんな所に惚れたんだと思う。私は勝手に美貴がやぐっちゃんに惚れたこと
にして話を進めた。
- 25 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時23分09秒
- 「この女ったらし〜!」
「お、おいらは別に!」
「きゃー!慌ててるところも可愛い〜!それに自分のこと『おいら』なんて言う
ところなんか、べりぃきゅうと〜♪」
「ち、ちょっと待てよ、ごっつぁん!」
なぜかこのとき私は妙なハイテンションだった。
普段使わないような言葉、どっかのハッピー♪とか言ってる偽ニュースキャスタ
ーしか使わないような言葉を次々と発していた。
「告白されたら一番に教えてよ〜!力になってあげるからっ♪」
「ごっつぁーーん!!」
「やばっ!怒った!きゃははっ!逃げろ〜!」
「こらあー!待てーー!!」
こんな事を話しながら、その日の夜は騒がしいままふけていった…
- 26 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時24分34秒
- 「………………は?」
私はその年のクライマックスと言える時期にその年で一番呆気にとられていた。
私の目の前には美貴が立っている。
「そういう事」
美貴が軽く言う。
…どういう事だか全くわからない。久々に理解できない問題にぶち当たった。こ
れは…小二でピカソの本名、
『パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセノ・
マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピニァーノ・デ・ラ・サ
ンテシマ・トリニダッド・ルイス・イ・ピカソ』
を暗記しようとしたとき以来だ。(ちなみにまだ覚えている。ついでにベートーベ
ンも)
- 27 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時26分18秒
- 「………………は?」
私は壊れたおもちゃの様に、もうその言葉しか口に出す事ができなくなっていた
。
「は?じゃないよ」
そう言われても全く理解できない。美貴が何を言っているのか。
私は落ち着きを…いや、それ以前に自分を取り戻すため、一度大きく深呼吸をし
た。
「あの…もう一度…言ってもらえませんでしょうか…?」
それでもまだよっぽど動揺していたのか、私の口調は何故か、かなりの丁寧口調
になっていた。
「…はあ…、もう…」
美貴はあきれたような感じで、一度近づいた私からまた少し離れて、言葉を繰り
返した。私が凍り付く原因となったその言葉を…
- 28 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時26分50秒
- 「好きです。付き合ってください」
「………………は?」
無限リピートになりそうな予感がした。
…私は再び凍り付いていた。寒さのせいじゃない。冬の寒さなんてもうすでに忘
れていた。そして、やぐっちゃんの言葉を思い出していた。
- 29 名前:雪花火 投稿日:2003年08月19日(火)01時30分39秒
- 「なんかさ…おかしくない?最近の美貴」
「いやね、最近妙にそわそわしてるっていうか、落ち着きがないんだよ」
今なら答えられるよ…。やぐっちゃんの質問…
それは、私がいないから…最近はずっとごまっとうで一緒だった私がいなかった
から落ち着かなかっただけなんだ…。
美貴、他の女の子とちょっとずれてるところあるみたいだから…
寒い冬、目の前に、今年初めての雪がちらつき始めた夜…
そして…美貴のその言葉に、返答なんて出来ず、終わるはずだった夜…
だが…
私は訳のわからないまま、訳のわからない返事をしていた。
「…よろしく…おねがいします…」
- 30 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月19日(火)01時42分00秒
- 取りあえずここまでですかね…
前編、後編で分けるとしたらここまでが前編です。
後編は明日にでも書いていきます。
>>18 名無しさん
ありがとうございます。
期待に応えるべく、なるべくおもしろくなるよう広げていきます。
超×∞マイナーな、ごまみきですが、最後までつきあってくれると
うれしい限りですw
- 31 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月19日(火)01時50分04秒
- よろしくお願いされちゃうのね・・w 続きたのしみッス。
- 32 名前:名無し 投稿日:2003年08月19日(火)15時37分21秒
- 爆発した!!(何がw
はまりました。頑張って下さい。
- 33 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時37分43秒
- いつか、松浦亜弥と言う名の少女が見た光景。
それは残酷なほどに美しく、人間一人一人の命の灯火ともいえる輝きが目の前に
広がっていた。
その光は、喜び、怒り、哀しみ、苦しみ、幸せ。そして、愛。人間の全ての感情
をその光は秘めている。
不意にその光は線を引き歪み、その光景を不鮮明にする。
泣いていた。今までのどんな涙よりも熱い涙が彼女の目を包んでいた。
まだ彼女はその光の一部でいられる。その幸せの光の一部で…
彼女は運命の一歩を静かに踏み出した…
- 34 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時38分33秒
- クリスマス。
まさに今日はホワイトクリスマス。
あのツリーにも、新たに白い飾りが加えられ美しさを増す。
すでに恋人たちの夜は始まっていた。
だが…、ここはその夜とは全くの別世界だった。
それは冷たく、そして暖かい…。
だが、私の手のひらはもう暖かさを感じられない。
その手で私はそっと悪魔をポケットの中へ封じた。
- 35 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時39分35秒
- 長く薄暗い廊下。
風を受けがたつく窓。
力なく光る蛍光灯。
そして…聞こえるはずがない連続して一定感覚で響く冷たい電子音。
私は、昨日そこにいた。イヴの夜。聖なる夜。
だが、頭の中を蛇のように這いずり回るのは絶望感。
それが今の私の中にある有一の感情。なにも考えられない。
壁に寄りかかっていた重い体を起こし、椅子からゆっくりと立ち上がる。
顔を上げた私の目の前には大きなドアが立ち塞がり、その上では、赤いランプが
薄気味悪く光っている。
この向こうで、今あいつは必死に戦っているのだろう。私のせいで…
「どこで道を誤ったのか?」
自問自答してみる。でも…そんなのとっくにわかってる…
それは、あの夜。そう、最大の幸せを手に入れるはずだった夜。
そこから普通の毎日の歯車は狂い始めた…
- 36 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時52分32秒
- 「ホントに?」
美貴が少し驚いたような感じで言う。これが私がOKの返事をしたときの美貴の反
応。
こんな小さなリアクションでも、美貴にとってはかなりの反応を見せたつもりな
のだろう。私にはそれがわかっていた。
「冗談でそんなこと言わないよ」
当然。私なら特にそれは言えることだ。
「…うん、でもね、ごっちんいつもわかんないから…本気なのかどうか」
「…そうかな?」
何となく反論できなかった。自覚があるのだろうか?だが、自覚があるのかどう
かすらも、自分にはわからない。
私にはそんなところがある。自分の感情変化が自分で読み取れない。そんな性格
のせいで今まで損したことがいくつもあった。クールなどとよく言われるが、そ
れはただ自分の感情変化に表情が追いついていないだけだ。
だが実際落ちついているところもあるため、二重効果でそうなってしまう。
そんなことを思いながら、私は心の中で小さく笑った。
- 37 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時53分06秒
- 「…ねえ」
声をかけられ、一度美貴から離した目線を、美貴の方に戻した。
…ドキッとした。
その時目に入った美貴は…女の子だった。いや、女だと気づいていなかったわけ
じゃない。そんな事あり得ないし、そこまで私もバカじゃない。
ともかく、そこにいたはずの、いつもの男勝りな美貴は、すでにどこにもいなく
、代わりに、私が、いや、亜弥でさえ知らないであろう美貴がいた。
雪で湿った髪。
潤んだ瞳。
濡れて少し透けた服。
そして、それ以上に、今の美貴には女の子らしさを感じさせる何かがあった。
- 38 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時53分42秒
- 「じゃあ、証拠見せてほしい」
その美貴がその後、私に対して言った言葉。多分これが始まりで…、最後のチャ
ンスだったんだ。
「キス…しよっか?」
「な…!?」
驚くに決まっている。同じ女性という立場の美貴から告白されただけでも戸惑っ
ていたのに、更にキスとなっては。
心停止になってもおかしくない。
- 39 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時54分40秒
- せっかく恋人同士って関係になれたんだし。
美貴はそう言った。
私はこの時、正直まだわかっていなかった、本当に私と美貴は恋人になったのか
。
私がOKを出したんだからわからないのは本当はおかしいはずだ。しかし、実感が
ないというか、何か刺激のようなものが足りなかったのだと思う。
だからだろう。キスをするのをあまりためらわなかったのは。それによって私は
実感を持つことができるだろうとふんだ。
そんなくだらないこと…。そんな私の勝手な想いが、ナイフとなった…
- 40 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時55分11秒
- 美貴がゆっくりと目を閉じる…。
いつの間にか、キスはすることに決まり、しかも、私リードという展開で進んで
いた。
私だって女なんだから、リードしたことなんかあるはずはない。私はいつだかの
キスを思い出しつつ美貴の両肩に手を軽く添えた。
美貴の肩がビクッとすくんだ。私は驚き思わず、手を自分の方にサッと引く。
「ご、ごめん。嫌だった?」
「あ…ううん…ちょっとびっくりしただけ…」
私は、その美貴のしおらしさに、またドキッとしながら、もう一度美貴の肩に手
を置きなおした。
「私が男だったらもう、心臓破裂してるよ」
私は場違いにもそんなくだらないことを考えていた。
何となく、カメラの前でも普通にキスしてた辻と加護が、羨ましく思えていた。
- 41 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時55分46秒
- そして、気を取り直し、目を閉じた美貴の顔に、ゆっくりと自分の顔を近づけた
。
心臓の鼓動は早くなる一方で、美貴に聞こえているのではないかと恥ずかしくな
った。実際、美貴の鼓動が肩に置かれた手を通して感じられていたから。
ファーストキスでもここまでは緊張しなかったはずだ。
そんなことを思い出し気付いた。私も美貴の事をいつの間にか愛していたんだっ
て…
そっと…美貴の唇に私の唇を重ねる。
ながい…ながいキス。
それは舌を絡ませるようなHなキスじゃなかったけど、私の心臓はもう破裂しそ
うなぐらいに高鳴っていた。
それでもキスは終わらない。
公園の時計台が十二時をつげた。
私が嫌いなはずの雪は、まるで二人を祝福するかのように静かに降り注ぎ…その
日の夜、一面を銀世界へと変えた。
- 42 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時58分01秒
- 雪が…好きになれそうな気がした。
だが、この瞬間すでに、歯車がギシギシとおかしな方向へと回り始めていたんだ
。
気付いたのは今日の夕方。文字通り最悪な状況に陥ってから…
その時、私は携帯を落としていた。通話途中だった携帯は床で跳ね、バッテリー
が外れ、電話の向こうから聞こえていた声はしなくなった。
私は家を飛び出した。
寒空には不釣り合いの薄着。格好なんて気にしている暇はなかった。
- 43 名前:雪花火 投稿日:2003年08月20日(水)14時58分37秒
- 『松浦が自殺した』
私の頭の中にはマネージャーの言葉がいつまでも響いていた。
亜弥が事務所の屋上から飛び降りた。
亜弥の姿を屋上に確認したときはもう手遅れだった。次の瞬間亜弥の体は宙に舞
い、そして亜弥は雪の中に消えた。
それが不幸中の幸い。亜弥が落ちた場所は雪かきをしてその雪を集めた所だった
。
そのため、雪がクッションになって、即死は免れたらしい。
だが、危険な状態には変わりがなかった。それも『死』に極限まで近い状態…
タクシーに揺られながら美貴に何度も電話をかけていた。だが電話から聞こえて
くるのは無機質で単調な案内の女の声ばかり。それがさらに私を絶望へと追い込
んでいった。
- 44 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月20日(水)15時05分59秒
- 取りあえずここまでです。
後は夜中にでもw
>>31 さん
>>32 さん
感想どうもです。
ここから完全に雰囲気180度転換です。
前半と後半の雰囲気替えが狙いだったりするんで、好みと違っても起こらないでくださいw
- 45 名前:31 投稿日:2003年08月20日(水)20時39分56秒
- なぜか好みにジャストミートらしく。。。ここから後半ですか? わくわくと待ってます。
- 46 名前:名無し 投稿日:2003年08月20日(水)21時01分39秒
- 萌え〜って書こうと思ってたら、
なんじゃかこりゃぁっ!!
続きが楽しみです。
- 47 名前:雪花火 投稿日:2003年08月21日(木)01時42分18秒
- 病院に着いても、亜弥には会えなかった。マネージャーが言うには『緊急治療室
』というところで手術が続けられているそうだ。
私は居ても立ってもいられずそこに向かった。
入れないことなんてわかっていた。だけど、少しでも亜弥の側にいたかったから
…
美貴には一回電話が繋がったっきり、連絡がとれないそうだ。私は美貴が来るま
での間、孤独感に耐えるしかなかった。
時計が奏でる何かを打ちつけるような秒針の音が響く…
- 48 名前:雪花火 投稿日:2003年08月21日(木)01時46分09秒
- …どれくらい時間が経ったのだろう。
深夜の病院の中は無駄な暖房などはかけられていないから肌寒い。
私は体の震えが止まらなくなっていた。その時の震えは寒さから来たものなのか
、それとも孤独感から来たものなのか、今の混乱し、冷静さを失っている私には
わからない。
美貴にはいまだ連絡がとれていなかった。
外はもう街灯以外の光が見えない。
病院の中でも手術中のランプだけ…
「…え?」
そこに照らし出されていたはずの手術中の文字は暗闇の中に埋もれていた。
消えている。赤いランプが…
その時、ギギィと嫌な音をたててドアが開いた。
そこには真っ白な白衣を着た医者が数人立っていた。
- 49 名前:雪花火 投稿日:2003年08月21日(木)01時50分47秒
- クリスマスの朝。妙に心地よい光が差し込む朝。
「亜弥、亜弥」
私はベッドに寝かされた亜弥に話しかける。
亜弥がゆっくりと目を開ける。私はその目覚めを、眠り姫の目覚めと重ねていた
。だとすると私はその目覚めを踊って喜ぶ小人だろうか。
「ん、ううん…ごっちん…?」
「おはよう」
私は亜弥にいつもと同じように接する。その方がいいと思った。
「ここ…どこ?」
亜弥はまだ今の状況を把握できていないらしく、私に問いかけてくる。
「病院だよ」
私はその問いの答えだけを亜弥に伝えた。余計なことは話せなかったし、話した
くなかった。
- 50 名前:雪花火 投稿日:2003年08月21日(木)01時57分33秒
- それでも亜弥はよく理解できなかったらしく、少しの間、手のひらを見つめた。
そして、全てを思い出し、理解したのか、こう呟いた。
「そっか…私、助かっちゃったんだ…」
その言葉が私の中で重く響いた。
まるで自分が助かったことで、他の人類全てに不幸が舞い降りるような言葉。
元々一つ一つの言葉に想いを込め、重みを持たせることができる亜弥が言ったそ
の言葉はそこらに転がる格言の数十倍は、私の感情を大きく揺らした。
- 51 名前:雪花火 投稿日:2003年08月21日(木)02時04分57秒
- 亜弥はうつむき、目に涙をためながら言う。
「ご、ごめんね、私…、私…!」
「ううん…悪いのは私…」
私は責任を感じていた。亜弥をここまで追い込んでしまったことに。
「責任を自分一人で背負い込むなんて間違ってる」
そうかおりんから言われたことがある。もともとこんな性格の私だ。全てを自分
が背負い、解決しようとすることがある。そんな自分の性格はわかっていたし、
直そうとも思っていた。
だけどこの時ばかりは、間違っていても責任を自分から背負うことに決めた。
それが償い。こんな事で許してもらえるなんて思ってはなかったけど…
- 52 名前:雪花火 投稿日:2003年08月21日(木)02時06分14秒
- 「…バカだよね。二人が何をしようと、私には関係ないのに…」
私は亜弥の遺書を読ませてもらっていた。ビルから飛び降りた亜弥が握っていた
遺書だと思われるたった一枚のメモ用紙を…
それには一言こう書かれていた。
『ふられちゃった』
私にはそれだけで全てを理解することができた。
亜弥は…私と美貴がキスをするところを、見てしまったのだろう。亜弥が、美貴
の事を好きでも何もおかしくない事に今更だが気付いた。
- 53 名前:雪花火 投稿日:2003年08月21日(木)02時19分14秒
- 亜弥は優しい。いや、優しすぎる。
自分は全く悪くないのに全部自分のせいにして、背負い込む。それは私の責任問
題とかそんなのの比ではない。亜弥は全く自分に関係のないことでも自分のせい
にする。
ごまっとう三人で出かけよう。そう決めた日、雨が降った。
「私…雨女だから…」
亜弥はそう言って、自分のせいだと決めつけた。
それは亜弥の短所であり、長所でもある。
私と美貴でその内「オゾン層に穴が開いてるのは私のせいだ」とか言い出すんじ
ゃないかと話した覚えがある。
そしてその優しさは、残酷にも己の存在を消そうとした…
「ごっちん…」
かける言葉を探していた私に亜弥はこう言った。
「美貴を…美貴を助けてあげて…」
- 54 名前:雪花火 投稿日:2003年08月21日(木)02時20分44秒
- 私は、病院を飛び出した。
迂闊だった。美貴とは昨日から連絡がついていない。それはもしかしたら…美貴
は亜弥よりも危険な状態に追い込まれているかもしれないのだ。
私は走った。目的の場所なんかなく…
事務所。ホテル。美貴のマンション。
頭の中にあったのは美貴の言葉。下手に明るくなく、でも、どんなくだらないこ
とにでも意味を持った言葉。
思えば私が美貴を好きになった理由は、その言葉達の中の一つだったのかもしれ
ない…
- 55 名前:雪花火 投稿日:2003年08月21日(木)02時22分16秒
- 「藤本美貴って言うんだ。よろしく」
彼女は左手を差し出してそう言った。…彼女は知らないのだろうか?左手で握手
を求めるのは喧嘩を売る意味だということを。
とりあえず私は喧嘩には勝つ自信があったので、そこは買っておいた。
最初に感じたのは大物の予感。私も娘。加入当時によく言われたあれだ。梨華ち
ゃんと同い年のはずなのに、最初の印象は全くの別物だった。
その時は、正直言って…嫌いだった。その陰は、昔の私と同じだった。
- 56 名前:雪花火 投稿日:2003年08月21日(木)02時23分01秒
- 次に話したのはごまっとう結成時。
確かその日だ。本格的に仲良くなった日は。
その時の美貴の言葉、今でも覚えてる。
「いくら仲良くなったって、いつかは離れる時が来る。そう感じるたびに思うん
だ。虚しいなって…。それでも、そうわかってても…、人間なんだよね、美貴達
って。どうしても想いが走っちゃう」
美貴は私よりずっと大人だと思う。
実際年齢は上だけど、それ以上に、精神年齢って言うのだろうか。私が考えもし
ない所を突いてくる。
「でも…」
この言葉、嬉しかった。初めてだと思った。
「ごっちんとは…最後の時まで、できるだけ一緒にいたい…」
私のことを…人間として好きになってくれた…
「いいでしょ?ねえ、ごっちん?」
- 57 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月21日(木)02時27分22秒
- 今日はここまでです。そろそろ寝まつw
眠いんで、感想のお礼は明日まとめてしまつ。すんません。
- 58 名前:31 投稿日:2003年08月21日(木)06時04分44秒
- nice job! クライマックスまであと一息ですか? 感想の返事などはお気になさらず。
続きが楽しみです。
- 59 名前:名無し 投稿日:2003年08月21日(木)19時32分10秒
- ぬはー。良いですね、良いですね。
続きが楽しみです。
- 60 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)00時17分16秒
- 太陽も半分ほどしか顔を出していなかったはずの朝空は、いつの間にか太陽が一
番高くまで上がり、そして少しずつ、あたりを赤く染め始めた。
それでも、美貴は見つからなかった。
美貴の行きそうな場所など私にはほとんどわからない。私は美貴を知らなすぎだ
。二人でどこかに出かけたこともなければ、美貴の家が何処にあるかすらも分か
らない。
こういうときに限って人は嫌な方向ばかりに頭が働く。そしてその映像を幻影と
なるほど、頭の中に鮮明に映し出すのだ。
私の頭の中にあったのは…
- 61 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)00時20分36秒
- あの時の言葉…。返事できなかったけど、今その答えを出すよ。だから…
「美貴…」
絶望しかけたその時だった。
「ピロロロロ」
私の心とは正反対の、嫌に明るいメロディーがポケットで響いた。
私は急いで携帯を取り出した。画面には「美貴」という文字が表示されていた。
「もしもし!美貴!?どこにいるの!?ねえ!」
私は、電話にでると、大声でこう言った。
だが、電話の向こうから聞こえてきたのは、そんな私の声とは真逆な弱々しい声
。
「真希…、美貴だめだ…。自分の勝手な欲望だけで、亜弥を傷つけて…」
探し求めていたはずのその声は全く別のものとなっていた。美貴の声ではある。
だけど、美貴の声じゃあない。
- 62 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)00時32分44秒
「ど、どうしたんだよ!いつもの美貴らしくない!」
「いつもの美貴…?そんなの…どこにもいないよ…。あれは…強がってただけ。
美貴を…本当の美貴を見られるのが怖かったから…」
「美貴…」
これが美貴なんだろうか…?ダイヤモンドのように何を受けても砕けないと思っ
ていた美貴の心。今、改めて考えるとそんなことはあるわけがない。美貴の普通
の女の子。藤本美貴でも、普通の女の子なんだ。
美貴の心はタマゴだったのかもしれない。どんなに固い殻を持っていても一度ひ
びが入ってしまえばもう戻らない。小さなひびでも、全てを失ってしまうのだ。
亜弥によって生み出されたハンマーは、美貴の未完成な心に容赦なく振り下ろさ
れた。
- 63 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)00時36分29秒
- 「もうだめだよ…。戻れない…、亜弥はもう居なくて…、いたって許してくれな
い…」
「亜弥が…いない…?」
美貴は亜弥が死んだと思っていたようだ。だがその時の私は取り乱していて、生
きているという事をなかなか伝えられずにいた。
「美貴!亜弥は…」
「いや…多分許してくれるだろうね…亜弥は優しいから…それでも…美貴は償わ
なくちゃならない…」
「違うよ!美貴!」
「何もちがくない。亜弥に…謝らないといけないんだよ…」
「だめぇ!!」
「真希…美貴にキスしてくれた時、すっごくドキドキした…。ありがとう…美貴
、多分あの時、今までの中で、一番幸せだった…」
美貴が涙を流す音が聞こえた気がした。それはすすり泣くときのような音じゃな
くて、ハーブのようなきれいな音…
「でも、もう終わりにしよう…。この恋は許されなかったんだよ…」
一瞬の静寂が訪れ…その時だった。たった一回だけだったが、それは確かに聞こ
えた。鐘の音。
「真希…亜弥…ごめんね…」
プツッ…ツー…
「美貴!?美貴!!」
美貴のその言葉を残し…電話は再び冷たい電子音を鳴らし始めた。
- 64 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)00時37分00秒
- 最後に聞こえた鐘。その音に私は聞き覚えがあった。
「公園…!」
そう、公園。私と、美貴の一番の思い出、キスをしたあの公園。いい思い出にな
るはずだったあの公園…
私はその公園に全速力で向かった。
思うように足は動かない。まるでその場で足踏みしているかのような錯覚を私に
与える。気だけが先行して、体がついてこない。そんな状況に、私の苛立ちは募
る一方だった。
- 65 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時25分09秒
- 再び私の頭に記憶の映像が流れ始める…。運命だったのか、それともただの偶然
か?美貴と私は会っていた。なくしたはずだった記憶がよみがえった。
「ねえ、やばいよ!つんくさんに怒られるって!いちーちゃん!」
「なに?後藤は気になんないの?あんたの初めての後輩だぜ?」
「気になるけど…でも…」
これは…そうだ…私たちがオフだった時、かくれて4期のオーディションを見に
行った時だ。いちーちゃんもまだいる。…思い出した…!
- 66 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時25分46秒
- 「ほら!あの中の誰かが後藤の後輩になるんだよ!見える?」
「見えるよ…もう…怒られても知らないからね!」
いちーちゃんはそんな私の言葉なんか無視してずっとオーディション風景を見て
いる。私のためって言って…結局自分が見たかっただけなんじゃん…。
「へぇ〜…あんなちっちゃい子も上がってきてるんだ…、後藤と同じぐらいの年
の子もいるな」
オーディションが行われてる部屋の中では、つんくさんと、あともう二人ぐらい
がその女の子たちと向き合って、話をしている。
「次!14番、藤本美貴さん」
「あ…可愛い子…」
「ほう。後藤はあんな子がタイプなんだ〜…ふ〜ん…」
「そ、そんなんじゃないってば!」
「好きな先輩ですか…?えっと…後藤真希ちゃんです!」
そうだ…!私が初めて美貴に会ったのはこの時。もしかしたら、この心がその時
から…?
- 67 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時26分28秒
- 再び電話が鳴る。発信者を確認することもせず、私は電話をとった。
「美貴!?待ってて!いますぐそこに行くから…」
美貴だとわかっていた。何故かは知らないが、美貴の想いが伝わってきたような
感じを受けた。
走りながら私は美貴に話しかける。公園までは後1qを切っていた。
「真希…もういいよ…私なんかのためにそんなに一生懸命にならなくても…」
その美貴の声はさっきよりも更に弱々しく聞こえた。
「美貴のため…?それもある。でも、私ワガママだから…、私のためだよ!美貴
が消えたら、私…!」
それは本心だったのかは今でもわからない。でも、心からそれは出ていた。それ
が嘘だとしても、私は…
「気持ちいい…。ごっちんの言葉、その裸の言葉、好き…」
私は美貴に生きてほしかったんだ…
- 68 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時27分33秒
- 「真希…最後に一つだけ言わせて…」
「最後じゃないよ!美貴!!」
私はどうしても溢れ出てきてしまう涙を堪えながら、走った。公園まで後もう少
しだというのに…
「美貴を愛してくれて…ありがとう…絶対に忘れない…。美貴も好きだったよ…
」
再び訪れた静寂。空からは何の音もたてず白い星のカケラが降り注ぎ、その場所
に神秘的な力を与える。
美貴はそっと手に持つ冷たい鉄の固まり、その白い世界とは全く解け合わない黒
い悪魔を握る。
力を込め、その手をゆっくりと動かす。
- 69 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時30分34秒
- …最後に小さく美貴が呟いた。
「亜弥…ごめんね…すぐにそっちに行くから…また遊ぼう?」
パァン………
空気を潰したような乾いた音が辺りに一帯に響き、小さく木霊した。
静寂を破ったその音は、さらなる静寂をこの白い世界に運ぶ。
電話の奥からはもう美貴の声は聞こえない。
公園まで後100mといった所だった。
- 70 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時31分14秒
- 私が公園に着いた時、そこは白かった。
当然である。雪が辺りを覆っているのだから。だけど、私には何故かそれがおか
しく感じた。
美貴の姿はすぐに見つかった。時計台の前で。
美貴の足跡しか見あたらない澄んだ雪。そこは時計台に付けられたの街灯の影響
か、他の場所より更に白く見えた。
時計はちょうど12時を伝える。
- 71 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時31分47秒
- そこに一つの花火が花開いた。
灼熱の炎を思わせるような真っ赤な花火。それは、雪の上を滑るように広がる赤
い花びら。白く輝く雪はその花びらと相反し、更なる美しさを引き出させている
。
その花の中心には美しい乙女が眠っていた。
少しまばらだが赤く染まったそのドレスは情熱を思わせる。生き急ぎ、炎を燃や
し尽くしてしまった乙女の最後の炎だった。
雪と一体となった美貴の花火。
純粋すぎる心はこれ以外に行き場を見つけられなかった。その心には鉄の固まり
が打ち込まれ、穴が開いてしまった。
それは正しい選択だったのか、それとも間違っていたのか。私には答えを出せる
自信がない。でも…
花火が、そっと私の心に触れた…
- 72 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時33分31秒
- 美貴って言うんだよろしく尊敬する先輩離れる時が虚しいなってどうしても想い
最後の時まで一緒にいいでしょごまっとうでごっちんはいあげるもう遅いそうい
う事もう好きですほんとにキスしよっか大丈夫もうだめだよすっごくドキドキし
た終わりにしよう気持ちいいごっちんの言葉好き最後に一つだけ
美貴を愛してくれて…ありがとう…
…美貴に触れる。
暖かだった美貴の唇。だがすでにその暖かさはここにはない。
美貴の冷たさは、雪の冷たさとは比べものにならなかった…
私は…雪は…嫌いだ。
- 73 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時53分00秒
- 「ごっちん…」
あの日から、私は抜け殻になったように、ベッドの上、ずっと眠っていた。
亜弥も、あの後美貴の所へ行ってしまった。意識が戻らないまま…
あの時話した亜弥は何だったのか。それは最後まで誰にもわからなかった。
「ただの慰めしか言えないけど…、立ち上がらないと…!」
やぐっちゃんは優しい。正直に気持ちをぶつけてくれる優しさがある。植物人間
と言われても否定できないような今の私を叱ってくれる。
でも、この時私はもう心に決めていた。
「ありがと。もう…多分大丈夫」
その言葉は頼りなかったけど、やぐっちゃんは微笑んで頷いてくれた。
それが、最後の思い出…かな?
- 74 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時54分12秒
- 私、笑っていられたかな?
私、伝えることできたかな?
私、信じていられたかな?
私、生きていけるかな?
こんな想い。絶望しかないこの領域。人に見せるべきじゃない。
心の奥にしまっておこう。そっと…
- 75 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時55分22秒
- 雪は静かに降り注ぎ…、街灯の光がそれを照らす。
光輝く星のカケラは、力を与えられたように人の心に暖かさをもたらす。
亜弥。最後に見た亜弥、幻影だったかもしれないけど、私、嬉しかった。亜弥に
は、たくさん教えられた。実は私より亜弥の方が大人かもしれないね。
亜弥は、優しすぎた。可愛すぎた。長所のはずなのに行きすぎて短所になる。そ
んな頑張り屋の亜弥、大好きだよ。
調子良すぎかもしれないね、ごめん。
美貴。私を愛してくれた人。最後はあんな風になっちゃったけど、私、今でも好
きだよ。思い出になんかできないよ。
美貴にはたくさんの目に見えない物を貰った。それは力だったり、心だったり。
いつも美貴らしかった美貴。その姿、今でも目に焼き付いて離れない。今でもこ
っちを見て笑ってる。いつかまた、私に笑いかけてね。
いつまでも愛してるよ。
- 76 名前:雪花火 投稿日:2003年08月23日(土)01時57分06秒
- その年最後の夜。誰もが暖かい家庭の中でゆっくりとその時を楽しむ夜。
誰もいない公園で、ゆっくりと静かにその花火は花開いた。
力強くそれでいて可憐な花は、全ての人を虜にする美しさがあった。
だが、その美しい花火は誰の目にも止まることなく消えていった…
『雪花火、最後まで一緒だからね』
花火が散ると同時に雪もやむ。雪と一緒に始まった一つのラブストーリーは雪と
共に終わった。
三輪の花は誰の心にも残ることなく、いつまでも咲き続けていく…
━━━━━━━━FIN━━━━━━━━
- 77 名前:鋼乃69 投稿日:2003年08月23日(土)02時04分59秒
- これで終わりです…。
またもや眠いんで、明日でも感想の返しはw
- 78 名前:31 投稿日:2003年08月23日(土)07時49分52秒
- 雪花火ってアナタ・・・。期待していたストーリーとは激しくかけはなれて
いましたが、面白かったです。ありがとう。
- 79 名前:名無し 投稿日:2003年08月23日(土)11時33分19秒
- スピード速いな…。
でも楽しめました。
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