放課後の恋人〜恋は突然やってくる〜

1 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2003年08月21日(木)14時38分20秒
「ひとみ起きて」
 耳元で彼女の声がする。
 まだ眠い私は布団を顔が隠れるまで引っ張り上げて無視した。
「まったくねぼすけなんだから」
 困り顔で見つめる梨華。

 石川梨華は私の恋人で…。
 そして先週から私の通う高校に化学の教師として来ている。
 それまでは別の高校で講師をしていたのだけれど念願叶ったものだから梨華は大ハリキリ。
 最初は同じ学校で毎日会えると喜んでた私だったけど現実は甘くなかった。
 だって私の高校は男女交際禁止!!(女女交際は?の突っ込みはナシ)
 教師との恋愛は言語道断。と言っても男の教師なんか殆どいないんだけど。

「学校の中では馴れ馴れしく話掛けないでね。当然だけど呼び方も"石川先生"
"吉澤さん"だから。絶対名前で呼んじゃ駄目だからね」
梨華に人指し指で口を押し付けられ念を押されて言うから渋々頷く私。
2 名前:放課後の恋人〜恋は突然やってくる〜 投稿日:2003年08月21日(木)14時39分33秒
そうなんです。私吉澤ひとみと石川梨華が付き合ってる事、同棲してる事は学校には秘密なんです。
 おかげで登校も別々になってしまって。
でも梨華はやる事がたくさんあるらしく私より一時間早く家を出ていく。
ちゃんと朝食を作りお弁当も二個作って行く梨華は将来立派なお嫁さんになれると思う。
口では言った事ないけどもう心の中では梨華は私の嫁さんなんだけど。

「じゃ行ってきます」
そう言って私のくちびるにキスを落とすと梨華は眼鏡をかけて教師の顔になる。
 梨華はホントはコンタクトなんだけど、わざと眼鏡をかけさせてる。
だってモテたら嫌だから。嫉妬深いのかなぁ?私って。
でも梨華の白衣姿は、めちゃくちゃ似合うんだ。今度梨華と準備室で×××とか想像すると…♪
そして私たちを邪魔するライバルも現れて?よしこピンチなのです。
3 名前:第1話 投稿日:2003年08月21日(木)14時41分21秒
「石川先生、張り切ってたねぇ…」
 唯一ひとみと梨華の仲を知っている人物。
藤本美貴が昼休みに話しかけて来た。

 今日の4限目は、化学。梨華の授業である。
 一生懸命説明する梨華は、ひとみから見てもかなりカッコ良く映る。
 ひとみ流で言えば『かっけ〜』と言う言葉が良く似合う。


 美貴とは中学の時からの付き合いで、かれこれもう5年目になる。
 ひとみと同じくさっぱりした性格の美貴とは最初から話が良く合った。

 ひとみと梨華が出逢ったのは、今から3年前。簡単に言えば、ひとみの
家庭教師として当時大学生だった梨華と知り合い、そのまま互いに惹かれ合って
今年の春、ひとみが高校2年になったと同時に、梨華の住むアパートにひとみも越して来たのだった。
4 名前:第1話 投稿日:2003年08月21日(木)14時43分09秒
 美貴もひとみと同じで美術の教師である飯田圭織と密かに付き合っている。
 美貴の方は、平気で準備室で×××をしたり、飯田の住むアパートに行ったりとちゃっかり
お盛んに過ごしている訳だが、最初からそういう境遇でないひとみとしては、今の状況は面白くなかった。

「張り切り過ぎて夜も相手してくれないんだよ…」
 つい、ひとみは愚痴をこぼしてしまう。こういうやばい話は誰もいない屋上とか、そういうところで
しか出来ない。お昼ご飯は、屋上で食べるのが定番になっていた。

「よしこは、化学に嫉妬していますって?」
「そういう訳じゃないけどさ…」
 ひとみは校庭で、遊ぶ他生徒をぼんやりと見ながら呟いた。
「最近やってないんだ?」
 美貴はストレートに聞いてくる。
「んん。まぁ…ね」
 適当に濁すが、美貴には隠して置く必要もないからあっさり認めた。
「週末はいつも一緒なんだけどねぇ…。先週は…こっちに赴任して来たばっかだし、なかったんだ」
 ハッキリ言えば寂しい。週末は裸で抱き合って眠るのが普通だったのに。
 先週は、それがなかった。
5 名前:第1話 投稿日:2003年08月21日(木)14時43分56秒
「週末って…平日はしてないの?」
「…だって…悪いし。あんまり求めるのも…」
 梨華に気を遣っているのか、ひとみも無理には誘っていない。
「美貴なんか、殆ど毎日やってるよ」
「ど、どこで?」
「そりゃぁ、まぁ…ね。圭織んちでね」
 幸いと言うか飯田が住むアパートは、かなり学校から離れている。
 だから、人目につくと言う事もなく、美貴は殆ど毎日のように飯田の
アパートに通っているのだ。そして飯田は車通勤だから、ちゃっかり
近くの駅まで送ってもらって、そこから登校している。
 まぁ知っている人は、飯田と美貴が付き合ってる事など承知なのだが。

「羨ましいなぁ…。お昼だってさ、梨華と…石川先生と一緒に食べたいのに。
 同じ高校にいる意味ないじゃんかよ!」
 ひとみは美貴に不満をぶつける。
「石川先生の作ってくれた愛妻弁当だもんねぇ。でも偉いね、毎日さ、ちゃんと
 作ってくれるなんて。圭織なんか学食だもんねぇ。美貴もそうだけど」

 これだったら、まだ前の方が良かったと思うのだが、折角梨華の念願が叶った
のだから、そんな事を言って梨華を哀しませる事はしたくなかった。
6 名前:第1話 投稿日:2003年08月21日(木)14時44分32秒
「よしこも我慢しないでさ、石川先生の仕事が終わるまで待っててさ、そこで襲っちゃえばいいじゃん」
 美貴がサラリと言ってのけるから、思わずひとみは聞き返した。
「襲う?」
「白衣姿って、なんかそそるよねぇ。美貴も前、圭織の事押し倒しちゃった」

 オヤジみたいだ…とひとみは思うが、自分も否定出来ない。
 裸に白衣とか、裸にエプロン、裸にワイシャツなんかよりも萌える。なんて
考えている時点で、自分は終わっていると、ひとみは思う。
「最初はイヤがっててもさ、弱いところ攻めてると段々力が抜けて来て…」
「生々しいね…」
「結構、学校の中とかってスリルあるし、かなり燃えるんだよ。
 よしこもやってみなよ」
 簡単に言うが、バレたら、それこそ大変な事になる。だからスリルがあると言えばそれまでだが。
「う、うん…」
 美貴の話を聞いていて、段々その気になってくるひとみだった。
7 名前:第2話 投稿日:2003年08月21日(木)14時45分29秒
 放課後…。散々時間を潰して、やっと梨華のいる化学準備室の前まで
ひとみは、人目を忍んでやってきた。今日も梨華は、熱心に仕事をしているのだろう。
 頑張っている梨華の邪魔をするつもりはないが、やはり自分にも
少しは構ってほしいひとみは、深呼吸するとノックをした。

「はい」
 愛しい梨華の声がする。
「よ、よ、吉澤です」
 緊張の余り、声がひっくり返ってしまう自分に苦笑いした。
「入っていいわよ」
 ひとみはゆっくりノブを回すと、素早く入って鍵を締めた。
 梨華はひとみに背を向けながら、机に向かってなにやら書き物をしているらしい。
 高まる胸を抑えながら、梨華にゆっくり近づいていった。
8 名前:第2話 投稿日:2003年08月21日(木)14時47分28秒
「梨華♪」
 ひとみは梨華の背後から、いきなり梨華を抱きしめた。
「きゃっ!」
 不意に抱きしめられて、梨華は持っていたペンを落とす。
「なによ、急に。ビックリするじゃない」
 怒った声も可愛い。久しぶりに梨華を抱きしめうなじに顔を埋める。
「…ひとみ?どうしたの?」
 何も言わないひとみに梨華は怒るのも忘れ、優しく聞き返した。
「梨華。寂しいよ。忙しいのは分かるけど…。甘えたい」
 襲う筈が、梨華の匂いを噛みしめながら、ひとみは素直に甘えて見せる。
 梨華はひとみの方に向き直ると、ひとみを見つめた。
「ゴメンね。落ち着くまで待ってて」
 優しく諭す梨華だが、ひとみは聞かない。
「ヤダ。先週も何もなかったじゃん」
 そう言ってひとみは梨華のメガネを外させる。
9 名前:第2話 投稿日:2003年08月21日(木)14時48分00秒
「梨華は、やっぱり何もつけてない方が可愛い…」
 梨華の頬に手を添えると、ひとみはキスをする。
「…ダメだよ、ひとみ…」
「いいじゃん。此処には二人しかいないんだから」
 嫌がる梨華を無視して、ひとみは梨華に深くくちづけをする。
「…んっ。ぁんっ」
 美貴に言われた通り、梨華の弱い部分をいきなり攻めるひとみ。
 首筋にくちびるを這わせ、耳たぶを甘噛みする。
「梨華…。愛してる…」
 梨華の身体から力が抜けるのが分かったが、それでも、まだ梨華は抵抗した。
「ダメだったら!ひとみ。言う事が聞けないの?」
「梨華と…したいんだもん」
 そう言いながら既にひとみの指は白衣のボタンを外し、下に着ているブラウスのボタンへとかかる。
10 名前:第2話 投稿日:2003年08月21日(木)14時49分08秒
「ぁんっ。ひとみ!」
 梨華は白衣を引き寄せると、ひとみを軽く睨んだ。でも、怒ってはいない。
「そんなに拒否しないでよ」
「こんな場所じゃ…。出来ないでしょ!」
 思わず立ち上がった梨華に、ひとみは梨華の両腿の間に足を入れ込んだ。
「立ってだって、出来るよ。お願いだから…。梨華?」
 ここまで必死になってる自分が何だか情けなくなってくる。
 これで拒まれたら、ひとみは諦めようと思っていたが。
「分かったよ」
 あっさり梨華からOKが出た。
「ヤッタ!」
 ひとみは思わず万歳のポーズで手を広げた。

「子どもなんだから、ひとみは」
 クスッと笑う梨華に、ひとみは照れ笑いすると、梨華のブラウスに再び手をかけた。
(これじゃぁ襲うって意味から外れたけど…。いっか♪)
 多少抵抗してくれた方が雰囲気的に盛り上がるのだが、あまり梨華にそれを
求めても変態扱いされそうで、ひとみは黙ってボタンを1つ1つ外していく。
 梨華のピンクのブラが顔を覗かせると、ひとみは口でホックを外した。
 たちまち、梨華の胸がブラから弾けると、ひとみの目の前に顔を出した。
 ひとみは黙って梨華の頂に口を含ませ、それを舌で転がす。
11 名前:第2話 投稿日:2003年08月21日(木)14時49分58秒
「ぁんっ…」
 梨華がひとみの髪の毛を撫でながら、甘い息を漏らすと、ひとみはその声だけで
もう興奮してしまう。梨華の頂は、もう尖って硬くなり始めている。
 久しぶりの行為に身体もすぐに反応し始める。と言うより、元々梨華の身体は
反応しやすいのだけれど。ひとみはゆっくりと丁寧に梨華の蕾を優しく舐め回しながら愛撫する。
 その度に甘い声をあげる梨華の声を聞きながら、ひとみは梨華にのめりこんでいった。
12 名前:第3話 投稿日:2003年08月21日(木)14時50分54秒
 そして更に1週間が過ぎ―――。

「吉澤さん、まだ残ってるんですか?」

 放課後、時間潰しに屋上にいると、何故か高校一年の松浦亜弥がやってきて話しかけてくる。
 理事長の娘で、テニス部所属。なんでも完璧にこなす優等生。
 別にひとみとの共通点は、それまでなかった。あるとすれば、梨華が亜弥の担任になったと言う事ぐらいか。
「松浦。なんで、ここに?」
 理事長の娘だからと言って、それはひとみには関係なく姓字で呼び捨てにするのは変わらない。
「吉澤さんの行動は分かるんですよ」
 不敵に笑う亜弥に、ひとみの表情は曇る。
「分かってくれなくていいよ。大体なんで私なんかに…」
「それはぁ…松浦は吉澤さんが好きだからですよ♪」
 ぬけぬけと言ってのける亜弥。でもそれが嫌味には聞こえないのは亜弥の生まれ持った性格からか。
「そりゃ、どうも…」

 暇つぶしの話し相手には、なるが、どうもひとみは亜弥が苦手だった。
 これだったら一人の方がマシだ。
13 名前:第3話 投稿日:2003年08月21日(木)14時51分34秒
「本気にしてませんね?」
「する訳ないじゃん」
「今に本気にさせますよ。ふふ」
「大した自信だね」
「勿論です。私、自信ありますから」
「好きにすれば?」
 ひとみとしては、既にどうでも良く、心は梨華に行っていた。
 早く梨華に会って思い切り抱きしめたい!準備室での一件以来、味をしめた
ひとみは、週に何度かこうして梨華を待っている。

「これから一緒に帰りませんか?」
 亜弥はひとみの胸の内など知らず話を変える。
「あ。まだ…」
「誰か待ってるんですか?」
「そういう訳じゃないけど…。一人になりたいから」
「吉澤さんて、好きな人いるんですか?」
 また話を変える。まだ自分も帰るつもりはないらしい。
「別に」
 亜弥に答える必要はないから素っ気なく返す。
「吉澤さんって、かなりモテるのに、そう言った噂を全然聞きませんよね。
 だから、きっと密かに付き合ってる人とか、好きな人がいるんだと思ってるんですけど…」
「バ、バカな。何言ってんの?」
 ひとみは少し動揺する。
14 名前:第3話 投稿日:2003年08月21日(木)14時53分05秒
 ひとみは少し動揺する。
「でも、そんな吉澤さんが、松浦は好きなんですけどね。
 だ・か・ら・ぁ!松浦と噂になってみませんか?」
 ニッコリ微笑む亜弥に、ひとみは、更に動揺する。
「な、何言ってんの? 大体松浦は…理事長の娘だろ?」
 わざわざ危険な事をするなんて…と言うより、亜弥と付き合う気なんか最初から
ないし、梨華と付き合ってるのだから、あり得ない。
「そんなの関係ありませんよ。それに、そう言われるのが、一番嫌です」
 亜弥は心外だと言う風に少し顔を曇らせる。
「ご、ごめん。でも、それとこれとは別だよ」
 逃げ腰になるひとみに、亜弥はひとみの腰に手を回して押さえ込んだ。
「松浦は、吉澤さんとなら噂になりたいです」
「………」
(私はなりたくない…よ!助けて、梨華ぁ!)
 亜弥のくちびるが近づいてくる。ひとみは咄嗟に顔を背けた。
 亜弥はひとみの首筋にくちびるを付ける。生暖かい亜弥の息が触れるとひとみは小さく声を漏らした。
15 名前:第3話 投稿日:2003年08月21日(木)14時54分35秒
「…ぅっ……」
「吉澤さん…」
 亜弥の声が耳元で響く。ひとみは力が入らなくなる。
 やばいと思っても身体が…。ひとみは梨華としか経験した事がないが、
亜弥は、かなりやり手であるように感じられた。

「離してよ!」
 ガッチリと腰は押さえられているから、ひとみは動けない。
「抵抗する吉澤さんも素敵ですね♪」
「ふざけん…っ」
 言いかけるひとみのくちびるを、あっさりと亜弥に塞がれてしまった。
 目が点になるひとみに、亜弥は嬉しそうにくちびるを重ねる。

 梨華以外と、キスするつもりなんか…ない…のに………。

 ひとみは抵抗するよりもショックで、されるままになっていた。
 亜弥の手は器用に、ひとみの制服のボタンを外しにかかる。

「バカやろぅ!」
 ひとみは我に返ると、亜弥を突き飛ばして屋上から駆け足で出て行った。
「これからですよ、吉澤さん…」
 そんなひとみの後ろ姿を亜弥は、笑いながら見送っていた。
16 名前:第4話 投稿日:2003年08月21日(木)14時55分29秒
 い、一体、なんなんだ?あの松浦は!!
 ひとみは怒りとショックが入り混じって、梨華のいる化学準備室へと目指して走っていく。

 軽くノックをして、勝手に入り込むと、梨華は、まだ熱心にレポートを書いていた。

「吉澤さん?」
「梨華ぁ…」
 ひとみは梨華に後ろから抱きつく。
「どうしたのよ?」
 ひとみの様子がおかしいのに気付いた梨華は優しく訊く。
「もぅ、放課後過ぎたんだから、名前で呼んでよ」
「放課後だって、学校の中には変わりないんだから、吉澤さんも
 名前で呼ぶのは、ダメだよ」
 あくまでも姿勢を崩さないところが梨華らしい。
「前は呼んでくれたじゃん」
 ひとみは甘える。梨華はメガネを外すと、ひとみと向き合う。
「なんか、あったの?」
「いや。別に…」
 多分、言ったところで梨華は信じてくれなさそうだ。でも…。
「まだ仕事残ってるから。帰れないわよ」
 梨華は再びメガネをかけると、机のレポートに目を落とした。
17 名前:第4話 投稿日:2003年08月21日(木)14時56分44秒
「梨華の…石川先生のクラスのさ、松浦亜弥って、どんな子?」
 恐る恐るひとみは訊く。
「松浦さん?彼女は良い子だよ。理事長の娘云々とか抜きにしてね。
 なんで、そんな事訊くの?」
 梨華はそのまま顔を上げずに訊いてくる。
「さっき、彼女に襲われそうになったから…」
「あ、そう…。……え?」
 梨華は驚いたように振り返り、ひとみを見つめる。
「…とか言ったら、梨華は信じる?」
「まさか…。そんな事する訳ないでしょ。彼女が」
「やっぱ、そう思うよね」
 梨華でさえ信用しないのに、誰も信じる訳ないか。
「もしかして…。ひとみ、松浦さんに興味あるの?」
「は?」
 思いがけない梨華の問いかけにひとみは息を呑んだ。
「…まさかね。冗談よ。ひとみは先に帰ってていいから。お疲れさま」

 ひとみは自分が襲われたショックで、梨華を襲う気にもなれずに準備室を後にした。
18 名前:第5話 投稿日:2003年08月21日(木)14時57分45秒
 振り返った途端、そこに居たのは、今噂をしていた松浦亜弥本人だった。
「松浦…。帰ったんじゃなかったのかよ?」
「忘れ物しちゃって。取りに帰ろうとしたら、偶然吉澤さんが歩いてるのが見えたんですよ」
 多分それは嘘だろう。尾けていたに違いない。でもそれを否定する事も出来ない。
「吉澤さんの待ち人って、石川先生なんですか?」
「なに言ってんの?ちょっと質問があったから寄っただけだよ」
 下駄箱に向かって歩きながら、亜弥は次々と質問を投げかける。
「こんな遅い時間にですか?」
「色々あるんだよ」
 自分で言っていて意味が良くわからない。
 全く人を襲ったクセに、そんな事はなかったかのように振る舞う彼女がひとみには理解出来なかった。
 それより、梨華との仲がバレる方が恐い。
19 名前:第5話 投稿日:2003年08月21日(木)14時58分19秒
「色々…。例えば…準備室で…えっちな事したり…?」
 ひとみは立ち止まり、亜弥を見つめた。
「”梨華””ひとみ”って呼び合ったり?色々ですね?」
 そんな事は当然知っていたとばかりに、亜弥は続ける。
「結構、もう一緒に住んでたりして…」
 顎に人差し指を当てながら、言う姿がとても憎らしくて…。
 でも、ひとみは何も言い返せなくて、ただ亜弥を見つめていた。

「何が言いたいんだよ」
 もう何もかも亜弥は知っていると思ったひとみは逆に開き直る。
 もう終わりかも知れない。絶望を感じながらも、抵抗する。
「別に何も…。私は忘れ物取りに来ただけですから」
「忘れ物?」
 そう聞き返すと同時にひとみは亜弥に腕を取られた。
「吉澤さんをね♪」
「………」
 ひとみは何も言えずに亜弥を見つめていた。
20 名前:第6話 投稿日:2003年08月21日(木)14時59分08秒
「私、別にどうこうしようなんて思ってませんよ」
 亜弥に連れられて、今は亜弥のお付きの車の中。
 ひとみは無言で窓から流れる外を眺めていた。
「少なくとも吉澤さんの迷惑になるような事はしませんから」
 今でも充分迷惑なのだが、そんな事には気付いていない。
「石川先生を飛ばす事くらい、パパに頼めば簡単な事なんですよ」
 亜弥は笑いながら言う。理事長の娘と言われるのは嫌だと言っておきながら
何かあると、権力を使って動かそうとする考えが、ひとみは一番嫌いだった。
「そんな事はさせないよ。梨華を辞めさせるんなら、私にだって責任あるし私も一緒に辞める」
「それでは意味がありませんね」
「ったく、何考えてんの?梨華にだけは手を出すな!」
 ひとみは、切れて亜弥に大声を上げた。
「お願いだから…梨華には…やっと、梨華は自分のやりたい教師に就いたんだから」
 ひとみは声を落として呟いた。
21 名前:第6話 投稿日:2003年08月21日(木)14時59分42秒
「言いましたね。じゃぁ…吉澤さんには手を出して良いって事ですよね?」
 ひとみは顔を上げる。そこには、亜弥のしたり顔があった。
「この事は、パパにも誰にも言いませんから。そのかわり…吉澤さん
 私の恋人になってくださいね」
「?」
 そう言って、亜弥は嬉しそうにひとみの腕を絡め取った。
「矢口。今日のこの話はパパにも誰にも喋っちゃダメだからね」
 亜弥は運転手である矢口に強く言った。
「はい。お嬢様」
「吉澤さんも…。石川先生には言っちゃダメですよ。
 あ、別に言ってもいいですけど。いっそ私に乗り換えてもいいですよ?
 私の方が石川先生より若いですしね♪」
 亜弥の言っている事は冗談なのか本気なのか、はたまた単にからかって
喜んでいるだけなのか、ひとみには見当がつかなかった。
22 名前:第7話 投稿日:2003年08月21日(木)15時05分41秒
 そして車は、とある高級マンションの前で停まった。
「矢口。ここで待ってて」
 運転手を残して、マンションの中に入っていく。
「ここは?」
「私のマンション。パパがくれたんだけど…。時々しか使ってないの」
 どういう使われ方をしているのか、訊くのが恐くてひとみは黙っていた。

 ロックが外されてドアが開く。部屋の中はとても広くて、ひとみと梨華が
住んでいる所の何倍もあるように思えた。

 部屋に入った途端、ひとみは亜弥に抱きしめられる。
「あ、あの…。ちょ、ちょっと?松浦?」
 さっきの強気な亜弥はどこへ行ったのか、亜弥は甘えるようにひとみに抱きついてきた。
「名前で呼んで下さい。ずっと…ずっと前から、吉澤さんが好きだったんです」
「なに?どうしたの?」
 ひとみは面食らってしまう。矢口の前だから、わざと強い感じにしていたのか?
23 名前:第7話 投稿日:2003年08月21日(木)15時06分12秒
「ゴメンなさい。こんなマネ、ほんとはしたくなかったんですけど」
 そこにいるのは、ごく普通の少女だった。そのギャップにひとみは戸惑う。
「どうしても…吉澤さんと二人きりになりたかった」
(だからって、こんな…。私は、どうなるんだよ!)
「こんな事しなくても…いいじゃん」
 ひとみは宥めるように、亜弥の肩を抱いた。

「学校だと目がありますから。それは、吉澤さんも一緒でしょ?」
 亜弥は、ひとみを見上げる。
「私は仕方じゃん。梨華が、ここに来る前から付き合ってたんだし。
 今更言えないし」
「羨ましい…。私も吉澤さん独占したい」
「何言ってんの」
 しかし亜弥は真剣な目をしていた。
「学校じゃ、理事長の娘って事を常に考えてなきゃいけないし。
 ホントに疲れちゃうんです。優等生を演じるのも案外大変なんですよ。
 だから、ホッとする場所がある吉澤さんが羨ましい」
「どうして、そんな事…私に言うの?」
「吉澤さんなら、分かってくれそうな気がして…」
 亜弥は顔をひとみの胸に埋めた。
24 名前:第7話 投稿日:2003年08月21日(木)15時07分42秒
「ありのままの自分を出せばいいじゃん。今みたいにさ。その方がいいよ」
「そうもいかないんですよ。理事長の娘になんか生まれて来なければ良かった」
「松浦…」
「寂しいんですよ。いつも一人ぼっちだし。本当の友達なんかいない。
 みんな上辺だけでしか付き合ってない。家に帰っても一人ぼっち」
 亜弥の声は涙声に変わる。
「一人じゃないじゃん。少なくとも今は…」
 ひとみは優しく言った。
「吉澤さん…」
 亜弥は潤んだ瞳で、見つめていた。
「さっきはごめんなさい…」
 再び亜弥はうつむき加減に答える。

「え?あぁ、いいんだよ、もう」
 人の善いひとみは、簡単に許してしまう。
「また…お話し聞いてくれますか?」
「ぅん…。いいよ」
「嬉しい」
 亜弥は本当に嬉しそうな顔をした。
「そのかわりさ…。梨華の事は黙っててくれる?」
「言いません。でも、そのかわり、松浦とも付き合って下さい」
「それは…」

「絶対、吉澤さんの気持ちを…私に向かせるようにします」
 亜弥は自信たっぷりに言った。
25 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2003年08月21日(木)15時11分21秒
更新しました。
最初のうちは、いしよし中心っぽいんですが
いしよしは途中から脇役に回ります。

時々エロ挿入がありますのでsageでお願いします。
26 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月21日(木)17時12分59秒
続き期待。頑張ってください。
27 名前:フェンリル 投稿日:2003年08月21日(木)17時27分35秒
初めましてフェンリルと申します。
何気に新スレ一番乗りですw
大量更新お疲れ様です。
自分では書いてはいないのですがあちこちにレスさせてもらってます。
何だか奇妙な3角関係になりそうで楽しみです。
でも
>>いしよしは途中から脇役に回ります。
となっているからあややぐ・・・なのかな?
いずれにしても次回を楽しみにしてます。
28 名前:フェンリル 投稿日:2003年08月21日(木)17時28分43秒
・・・タッチの差で2スレ目・・悔しいなぁw
スレ汚し失礼しました。
29 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月22日(金)01時33分19秒
おもしろそうっす!
途中から脇役になっちゃうんですか?
脇役じゃない方も楽しみですw
30 名前:第8話 投稿日:2003年08月22日(金)18時34分15秒
 ひとみは亜弥のマンションを後にしながら帰路に着く。
 マンションからひとみ達のアパートは目と鼻の先であった。

 ひとみは、誰もいないアパートに帰ると電気もつけないでベッドに横になった。

 松浦亜弥…思ったほど悪い子ではなさそうだが、やはり、まだ
どこか全部を信用しきれない所がある。もう少し警戒を持たないと。

 亜弥の事を考えながら、ひとみは眠ってしまった。

「ひとみ?風邪ひくわよ」
 梨華の声でひとみは目を覚ます。
「あ、梨華。おかえり…」
 ひとみは起きあがると時計に目をやる。もう11時をすぎていた。
「かなり前に帰って来てるわよ。もぅ…」
 梨華は、軽く笑う。
「え?マジで?起こしてよ、梨華ぁ」
 折角の梨華との貴重な時間を寝てしまっていたなんて。
 ひとみはふてくされる。
31 名前:第8話 投稿日:2003年08月22日(金)18時35分41秒
「だって、凄く気持ち良さそうに寝てたから。起こしたら悪いでしょ?」
 梨華は、ひとみの事が気になって早めに切り上げて来たのだが
それは取り越し苦労のようで、安心した。
「起こさない方が悪い!」
 ひとみは、わざと怒ってみせる。
「どうしたら許してくれる?」
 梨華は、ひとみの顔を両手で包み込む。
 ひとみは目を閉じて、梨華のキスを待った。
「甘えん方なんだから」
 梨華は、クスッと笑うと、優しくくちづけをする。
「梨華…。甘えてもいい?」
「ぅん。いいよ」
「ホントに?」

 なかなか頼んでも首を縦に振らない梨華が珍しく素直に受け入れて
くれる事に、ひとみは純粋に嬉しかった。

 しかし、そこには美貴を恋人に持つ飯田に言われた一言が影響していた。
「あんまり拒み続けてると浮気されちゃうよ」
「私達は平気ですよ」
「安心してると、若い子に盗られたりするんだから気をつけた方がいいよ」
「そういうものですか?」
「勿論!仕事に熱心なのもいいけど、恋人との時間も大切にしないとね」
32 名前:第8話 投稿日:2003年08月22日(金)18時37分03秒
 そんな話しをしていた矢先に、ひとみの口から美貴以外の女の子の名前が
出て来て、梨華は、驚いたものだ。
 ひとみは、かなりモテるが、ひとみは梨華一筋なので、今まで安心していた。
 しかし、これから手ごわい相手が現れたら…。ひとみに気がなくても
相手がひとみにモ−ションをかけたら、どうだろう?梨華は初めてそんな気分を味わった。
 特にその相手が亜弥だったら…。

「梨華?どうしたの?」
「え?」
「また考えごと?」
 ひとみは、梨華が、また化学に浮気してるのかと思いからかった。
「ごめん」
「私と一緒の時は私だけの事考えて」
 ひとみは梨華の胸のつぼみをわざと弾いて見せた。
「ぁ…」
「私はこんなに梨華の事が好きなのに…。梨華しか見えてないのに」
 ひとみはそう言いながら、梨華の下の蕾に口を這わす。
「ぁぁ…っ」
 ひとみの舌先が、梨華の感じやすい場所を舐め回すと、梨華は軽く身体を震わせた。
「私だって…ひとみが…好き…」
 久しぶりの愛撫に、全身が痺れたような感覚に陥る。
 そして、すぐにそこは熱くなり、ひとみに応えるかのように熱い液体が溢れ出してくる。
33 名前:第8話 投稿日:2003年08月22日(金)18時37分39秒
「梨華…愛してるよ。ずっとこうしていたい…」
 ひとみは囁くと、梨華の蜜をすすり上げた。
「ゃぁっ…ん…んっ」
 ひとみの舌が梨華の中へと入り、かき回すように動かしていく。
「ぁ…ん。ひと…み…ぃ…」
 梨華は、ひとみの名前を呼びながら、意識は真っ白になり始めていた。
 更にひとみは梨華の足を広げさせると奥深く指を挿入させた。
「はぁ…ん…、ダメ…ぇ…っ」
 梨華は身悶えながら、苦悶に満ちた顔をする。
 ひとみは梨華のそんな顔を見るのが好きだった。
 校内で見せるりりしい梨華とは別に見せる女の顔。

「梨華…もっと…もっと見せて…」
「ゃっ…ん…はぁ…ん。ひ…とみ…」
 梨華は、ひとみにしがみつくと腰を動かし始めた。
 クチュクチュと厭らしい音と、ベッドのきしむ音が重なる。
 そろそろ梨華がイク頃だと見計らったひとみは、いっそう動きを早くした。
「ひと…み。イッちゃう…よ…ぉ…」
 泣きそうになりながら、梨華は声をあげる。
「イッて、いいよ…梨華…」

 それから、すぐに梨華は絶頂を迎え、ひとみの腕の中に落ちた。
34 名前:第9話 投稿日:2003年08月22日(金)18時39分05秒
 昼休みの屋上―――

「昨日、良い事あった?」
 昼休み時間に、朝から顔がニヤけているひとみに突っ込みをいれる美貴。
 ひとみはすぐ顔に出るから一目で分かってしまう。
「うん。久しぶりにさぁ…梨華と、しちゃった!」
 ひとみの顔は緩みっぱなしである。
「あらあらお熱いこって」
 美貴は予想通りの回答に、苦笑い。
「ミキティに言われたくないなぁ。いっつもやってるクセに」
「失礼な。いつもってぇ!まぁ間違ってないけど…」
「はぁ…なんか、こう愛を確認するね。改めて梨華が好きな事を
 再認識するっていうかさぁ…」
 ひとみはまたデレデレしている。こんな顔、他の生徒達には見せられまい。
 ク−ルで通っている吉澤ひとみから、およそかけ離れていた。
 
「吉澤さん!」
 背後から急に声をかけられて、ひとみも美貴も一斉に振り返った。
「松浦…」
 昨日の事が一気に思い出される。今まで、ひとみは亜弥の事を忘れていた。
35 名前:第9話 投稿日:2003年08月22日(金)18時39分41秒
 美貴は怪訝そうに亜弥を見ている。
「藤本さんですよね?松浦亜弥です。吉澤さんをお借りしてもいいですか?」
「う、うん。いいけど…」
 そう言うしかないだろう。美貴はうなずいた。
 ひとみは亜弥に腕を取られると、美貴から見えない屋上の隅に連れていかれる。

「なんだよ?」
 すっかりひとみは不機嫌になる。そして亜弥は寂しそうに言った。
「吉澤さん、昨日…石川先生と…」
「なに?」
「私も吉澤さんと…したいです」
「なっ…」
 何をしようと亜弥には関係ないのに、なんだか彼女の泣きそうな目を
見ていると、こちらが悪い事をしているような錯覚に陥りそうになる。
「吉澤さん…優しかったですね、昨日は…」
「なにが言いたい?それに、何の用?」
 ひとみは苛々しながら亜弥を睨みつけた。
 大体、昨日はって言うところが、なんとも憎たらしい。
 今日は優しくないみたいな言い方ではないか。実際優しくないけど。
36 名前:第9話 投稿日:2003年08月22日(金)18時40分12秒
「放課後だけでも、昨日みたいに逢ってもらえませんか?」
「だって、松浦部活あるじゃん」
「辞めるつもりです」
「はぁ?なんで?」
「そんなの決まってるじゃないですか。吉澤さんと逢う為にですよ」
「大体約束なんかしてないじゃん。勝手に決めるなよ」
 ひとみは、また苛々してくる。
「昨日、話しを聞いてくれるって言ったじゃないですか」
「言ったけど、それとこれとは別だろ?」
 なんで亜弥と付き合わなければいけない?梨華に隠れて。
「自分勝手な奴は嫌い。急に辞めたら他のみんなに迷惑になるじゃん」
「そうですけど…。吉澤さんと逢いたい。逢って話しがしたい」
 亜弥は目で訴えて来る。
「め、迷惑なんだよ。こっちにだって都合があるんだから」
「じゃぁ…吉澤さんの都合の良い日でいいですから」
「そういう問題じゃなくて…」

 押し問答が暫く続く。これでは埒があかない。
37 名前:第10話 投稿日:2003年08月22日(金)18時40分53秒
「お前うざいっ」

「「?」」

 ひとみと亜弥が振り返ると美貴が苛々した顔で腕組みをしていた。

「別に聞くつもりじゃなかったけど、なんなんだ一体」
「ミキティ…」

 いや、充分聞いてるよミキティ!とひとみは突っ込みたかったが
美貴の出現に、ひとみはほっと胸を撫で下ろす。

「よしこは石川先生と付き合ってんだよ!迷惑なのが分かんないのか!」

「あ、あなたには関係ないでしょ?」

 キッと睨み返す亜弥に、美貴も負けずに睨み返す。

「関係ある。よしこは大事な友達だしな。
 理事長の娘だかなんだか知らないけどお高く止まってんじゃないよ!」
「止まってなんかいません!」

 よほどカチンと来たのか亜弥は、さっきよりもキツク美貴を睨む。
38 名前:第10話 投稿日:2003年08月22日(金)18時41分35秒
「もう止めてよ」

 元々喧嘩など大嫌いなひとみは、おろおろしながら二人の仲裁に入る。

「元はと言えばよしこのせいだろ!」
「吉澤さんは関係ないです!藤本さんのせいです!」
「るさい!」

「だーかーらーっ!」

 ひとみは両手を広げて制した。
 
「松浦も、ほら、もう帰れ。いいから帰って!」

 ひとみは手をシッシと追い払うようなマネをした。
 まだ何か言いたげな目をしていたが、亜弥はフンと鼻を鳴らすと口を尖らせながら
屋上から出ていった。

「よしこ、アンタどっちの味方?」

 振り返ると美貴が、まだ怖い顔でひとみを見ていた。

「どっちって…言わなくても分かってるでしょ?ミキティもやりすぎだよ」
「だって腹立つじゃん。なんだよ偉そうに。なんでも自分の思い通りに
 なると思ったら大間違いだよ」
「そうだけど」
「またアイツが何か言って来たら美貴に言ってよ」
「うん」

 強い味方が出来たとひとみは安心した。
39 名前:第11話 投稿日:2003年08月22日(金)18時42分21秒
 腹が立つ。

 亜弥は、午後の授業に身が入らない程に腹を立てていた。

 なんなのよ一体。

 藤本美貴。

 ひとみの友達であると言う事しか亜弥のデータには入っていない。
 元々眼中になかったから名前すら、うる覚えであった。

 しかしさっきの一件で嫌でも頭に顔、声、名前が叩き込まれた。

 悔しい。

 亜弥は、ひとみより先に美貴に矛先を変えた。

 そして亜弥はその日の放課後、テニス部に退部届けを提出した。
40 名前:第12話 投稿日:2003年08月22日(金)18時43分04秒
 薄暗い教室の奥で喘ぐ声が静かに響く。

「美貴ぃ…っ」

 美貴の背中に回される細長い腕と指。

「声出さないで…」
「ぅ…ん。でも…」
「いいからっ…」

 昼間、あんな事があって美貴も異常に苛ついていた。
 その怒りを飯田にぶつける美貴。

 何も知らない飯田だったが何も聞かずに美貴に抱かれていた。

 行為が終わり、服の乱れを整えながら飯田は余韻に浸っていた。

「珍しいね。美貴から誘うなんて…」
「そうかな…」

 どちらかと言うと美貴から誘う事は珍しかった。

「美貴は顔に出るから、すぐ分かるよ」
「まだ子供かなぁ美貴…」
「でも嬉しい」

 飯田の指が名残惜しそうに美貴の顎のラインを撫で上げる。

「そんな美貴も大好きだから…」
「圭織…」

 飯田の指を口に持っていき美貴は舌で丁寧に舐め続ける。
 視線は飯田を捉えながら。

「美貴…っ」

 飯田は不意に手を外すと焦れったいように美貴に唇を重ねた。
41 名前:第13話 投稿日:2003年08月22日(金)18時44分24秒
「石川センセ♪今日は一緒に帰れる?」

 放課後ひとみは梨華のいる準備室に行くと甘えるように後ろから抱きしめた。

「吉澤さん。今日は無理です。先に帰ってて。遅くならないと思うから」

 あくまでも姿勢は崩さずに梨華は黙々と作業を続ける。

「遅くならないなら…待ってちゃダメ?」

 ひとみは諦めない。
 甘い時間を過ごした後は、また甘えたくなってしまう。

「いいけど…。相手出来ないよ?」

 やっと梨華は机から顔をあげる。

「やっぱり邪魔になるか…」

 折角頑張っている梨華の邪魔をしてはいけないと、ひとみは思い直し梨華から離れた。
42 名前:第13話 投稿日:2003年08月22日(金)18時45分34秒
「うちでおとなしく待ってるよ」
「ひとみ…。ありがとう」 

 梨華は笑顔で返した。

「その代わり…」
「なに?」

 ひとみは言いにくそうにしている。

「今日も甘えていい?」 
「だ〜め!」

 梨華は立ち上がると鉛筆でひとみの額を小突いた。

 ひとみも別に期待していた訳ではない。
 断られるのは分かっていたから。

 しかし梨華はひとみの頬を両手で包み込むと軽くくちづけをした。

「梨華っ」

 不意打ちでひとみは目を丸くする。

「その代わり今日はお外でご飯食べようか」
「うん」

 ひとみは思い切り笑顔で頷いた。
43 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2003年08月22日(金)18時46分34秒
更新しました。
一番上から下がりそうにないので一番下まで落としました。

>26 名無しさん
ありがとうございます。完結目指して頑張ります。

>27 フェンリルさん
それほど奇妙な三角関係でもないんですが。
「あややぐ」思いつきもしませんでした。メール欄にヒントが。

>29 名無しさん
次々回更新あたりから極端に、いしよしは減ります。
と言うのもこれを書いたのが1年以上も前でして書き直したら
(キャストも一部差し替え)違う方向に話が進んでしまいまして。

ただ甘くは、ならない…と思います。
なんせ、ここの美貴様は気が強いお人なのでw。
44 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月26日(火)18時39分13秒
初めて読みました。
面白いっす!今一番好きな小説です♪
白衣姿の石川先生、素敵です。化学の教師っていうのが似合ってますね。
何気に「かおみき」って今まであまり見かけないんで、これまた新鮮です。
お嬢様のあやや、気が強いんだけど何かほっとけないような・・
吉がフラフラしそうな予感が・・
次回更新も楽しみにしてます。
45 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月28日(木)03時41分35秒
行方が待ち遠しいです。
更新期待待ち!w
46 名前:第14話 投稿日:2003年08月28日(木)19時02分18秒
 丁度亜弥は美貴が飯田と一緒に美術室から出て来る所を目撃する。

「なんで?」

 亜弥はひとみの事には詳しかったが美貴の事は、無知に等しかったので
美貴と飯田が付き合っている事は知らなかった。

 そっと後を尾ける亜弥。

 しかし、注意深い亜弥も、あっさり化学準備室から出て来るひとみに
見つかってしまう。

「松浦!」

 ひとみに呼ばれて、亜弥は飛び上がる程に驚いた。

「よ、吉澤さん!」

 ひとみの声で、前方を歩いていた美貴と飯田にも気づかれてしまった。

「あ!」

 美貴は振り返り亜弥に気づくと、驚きから再び睨む表情へと変わっていく。

「美貴?」

 状況が呑めない飯田は首を傾げる。

 ズンズンと亜弥に近づくと美貴はピシャリと言い放った。
47 名前:第14話 投稿日:2003年08月28日(木)19時02分50秒
「後を尾けるとは、いい根性してんじゃん。昼間の件で懲りてないのか?」
「藤本さんこそ、なんなんですか?飯田先生と…」

 一瞬美貴は目を大きく見開いたが、すぐに開き直る。
 しかし、美貴が口を開く前に、ひとみが割り込んできた。

「ミキティは、とっとと飯田先生と帰っちゃいなよ」
「吉澤さん!邪魔しないで下さい」

「よしこ」
「松浦もミキティじゃなくて私に用があるんでしょ?」

 ひとみは美貴に目で合図をする。
 ここで美貴まで飯田と交際宣言されては、また話がややこしくなる。

「うん。ありがと。よしこまた明日ね」

 まだ何か言いたげだった美貴だったが、そのまま何も言わずに飯田と帰って行った。
48 名前:第15話 投稿日:2003年08月28日(木)19時04分19秒
「私、吉澤さんじゃなくて藤本さんに用があったんですけどねっ」

 逃したのが悔しいのか亜弥は正直に言う。
 
「まだ…昼間の事?」
「だって…藤本さん関係ないじゃないですか!なんで私があんな言われ方
 しなくちゃいけないんですか!」
「それは…」

 確かにそうだ。
 ただ、美貴もひとみと同じで、しつこいのが大嫌いだから
立ち聞きしていて亜弥の物言いに我慢出来なかったのだろう。

 そして、ひとみも何故いま、亜弥と一緒にいるのか、これまた疑問である。

「私、人にあんな風に言われたの初めてです。許せません」
「はぁ…」

 そう言われても、ひとみも困ってしまう。

「で、藤本さんの後を尾けてたら飯田先生と出て来るし」

 亜弥は本当に二人の仲は知らないらしい。
49 名前:第15話 投稿日:2003年08月28日(木)19時05分11秒
「松浦もミキティとは関わらない方がいいよ」
「なんでですか?」
「また嫌な事言われるだろ?」
「謝ってもらうまで気が済みません」

 あくまでも美貴に謝らせるつもりらしい。
 亜弥と同じく気の強い美貴が到底謝る事はあり得なかった。

「しつこいな…」
「しつこくて結構です!」

 どっちにしろ、ひとみはほっとしていた。
 亜弥の矛先が美貴に向けられたから。
 美貴には悪いが、ひとみとしては梨華と穏便に暮らす事が第一だから安心していた。

 が、、、

「吉澤さん、これから時間あります?」
「は?」

 しかし、既にひとみの腕は亜弥にしっかりと掴まれていた。
50 名前:第16話 投稿日:2003年08月28日(木)19時05分46秒
 やっぱり美貴を助けるんじゃなかったとひとみは車の中で後悔していた。
 再び、この前連れて行かれたマンションへと車は向かっている。

「ごゆっくり…」

 運転手の矢口の言葉さえも憎らしく聞こえたが、ひとみは軽くお辞儀をしてしまう。
 元来人の善さは消えないらしい。

「あの…私、松浦にその気ないからね」

 先に断っておく。

「それよりっ」

 亜弥が顔を突き出す。
 亜弥には、そのつもりは全くなかったらしい。

「ん?」
「藤本さんの事、もっと詳しく教えて下さいっ!」
「あ。そっち?OK!OK!」

 自分の身が安全?と知った途端に、ひとみは安堵した表情に変わった。
51 名前:第17話 投稿日:2003年08月28日(木)19時06分18秒
「で、なに?松浦に美貴の事ペラペラ喋った訳?」

 翌日、ひとみの目の前に、それは恐ろしい美貴の顔が。

「ペラペラって…余計な事は喋ってないよ」
「当たり前!」
「ひぃっ」

 一段と声を上げて美貴は怒鳴った。

「よしこは松浦の味方?それとも…」
「ミキティに決まってんじゃんか!」
「その割に敵に有力情報を蒔くとは、どういう事よ!」
「ごめん…」

「昨日は、あのまま圭織と帰らなきゃ良かったかもね」
「でも…甘い時間は過ごしたんでしょ?」
「過ごしてないわよ!」
「すいません…」

 美貴は怒り出すと、どうも女王様気質になると言うか
言葉が更にキツクなるのが玉に瑕だ。

「いいっ。松浦の事は美貴自身で何とかするから。
 よしこは、石川先生とハァハァする事だけ考えてな」
「ハァハァって、そんな…」

 しかし、こんな時でもひとみの頭の中は梨華でいっぱいである。
 美貴にそんな事を言われてひとみの頭はピンク色だ。

 似たもの同士の二人でも、美貴はその辺冷静であった。 

「今、考えないでいいんだよ!」
「ごめん…」
52 名前:第18話 投稿日:2003年08月28日(木)19時07分10秒
「でね、ミキティが怒り出しちゃって…」

 ひとみは梨華と仲良く遅い夕食を部屋で取りながら亜弥との事を話していた。

「松浦さん、急にテニス部退部しちゃったらしいんだけど、それと原因あるのかしら?」

 梨華は亜弥の担任でもあるから、やはり亜弥の事も気になるらしい。

「え?そうなの?」

 ひとみは、その話は初耳だった。
 退部すると言う話、本当だったとは。

―――『私、有言実行タイプなんです』

 この前も、自信たっぷりに言い放っていた姿が思い出される。

 全部が全部有言実行だったら、ひとみは亜弥のモノになるし、美貴も亜弥に仕返しされて…。
 まさか…ね。

「二人とも気が強いからなぁ…」

「なに?ひとみ…」

「あ、こっちの話…」

「そう言えばひとみさぁ…」
「なに?」

 再び食事を再開する。
53 名前:第18話 投稿日:2003年08月28日(木)19時07分53秒
「ひとみも松浦さんと…」
「どうかした?」
「イヤ…何でもないよ」

「なに?言いかけて」
「最近、松浦さんの話が…多いから…」
「…もしかして気になる?」
「別に…」
「妬いてる?」
「どうしてよ?」

 ひとみは自惚れてると分かりつつも顔がニヤけてくる。
 いつの間にか箸を置いて、向かいに座っている梨華の隣りに移動している。

「梨華だけだよ」

 そう言って梨華の太腿にやらしく手を置くひとみ。

「もぅ、何も言ってないでしょ!まだ食事中よ」

 ひとみの手をピシャリと払いのける。

「ご飯より梨華が食べたくなっちゃった」

 ひとみは構わずに梨華に顔を近づける。

「だめぇ…」

 梨華は身体を横にずらしひとみを避けるが、そのまま簡単に押し倒されてしまう。

「捕まえた」

 ひとみは微笑むと梨華の上に被さった。
54 名前:第19話 投稿日:2003年08月28日(木)19時08分25秒
 美貴も飯田の部屋に来ていたが、心此処にあらずだ。

「美貴?そんなに松浦さんの事気になるの?」

 ここ二、三日ずっとこの状態が続いている。

「決着着けないと気が済まないから…」
「決着って穏やかじゃないなぁ。それに松浦さんは理事長の娘だよ?
 あまり変な事やらかさないでよ。カオ、それが心配」
「分かってるよ。圭織には迷惑かけないから」

 飯田の手をやんわりと戻すと、美貴は立ち上がった。

「もう帰るね」
「美貴…泊まっていかないの?」
「今日は帰ります。おやすみなさい」

 いつもの美貴の笑顔に戻っていた。
 しかし、飯田は美貴の事が気がかりだった。
55 名前:第20話 投稿日:2003年08月28日(木)19時09分55秒
「ぁっ。ぅぅっ…んっ。ひと…みっ…くっ」

 結局…梨華は、ひとみに組み敷かれ畳の上で―――。

 乱れた髪と服を整えながら、梨華はひとみを軽く睨んだ。
 しかし、ひとみの顔は晴れやかである。

「梨華可愛い」

 まだ物足りないのか、ひとみは梨華に構ってほしくてまた梨華の身体を触り始める。

「ひとみっ!」

 着たそばから、再びブラウスのボタンを外されかける。

「梨華ぁ…」
「ひとみ!」

「もう一回しようよ」

 バタつく梨華を、ヒョイと姫抱っこするとひとみは梨華を布団の上に預けた。

56 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2003年08月28日(木)19時13分45秒
更新しました。
いしよしは、多分この後から、めっきり減ります。すみません。
次回は、いよいよ松藤の対決(でもない?w)

>44 名無しさん
白衣の石川さん何となくカッコいいかと思って…。
かおみきも密かに好きなんです。許して下さいw。
でも、あんまり出番が、ないような感じもしますが。

>45 名無しさん
ありがとうございます。
あと数回で更新もゆっくりになるかと思います。
57 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月03日(水)22時19分21秒
いよいよ対決?w
続き待ってます
58 名前:( ´ω` )よっすぃ〜 投稿日:2003/09/09(火) 21:01
よしこ!がんがれ!!

ミキティもいいなぁぁ〜強いミキティぃぃ〜かっけえええええええええ!
59 名前:第21話 投稿日:2003/09/13(土) 17:29
 美貴は飯田と別れると、家には帰らずに亜弥の家へと向かう。
 元からそのつもりだった。

「今夜こそ決着着けてやる…」

 何故、こんなにムキになるのか美貴自身にも良く分からない。

 亜弥の家の門の前に立つと、美貴は大きく深呼吸した。

「お待ちしてましたわ。藤本ミキティさんっ」

 門の後ろから亜弥は登場した。

「なっ…」

 そのわざと小馬鹿にした言い方に美貴は腹立たしくなる。
 ミキティと言うニックネームが気に入らない訳ではない。
 しかし、亜弥に言われると嫌味に聞こえるから不思議だ。

 別に予告して、此処に来た訳でもない。
 なのに、亜弥は自分を待っていた。
60 名前:第21話 投稿日:2003/09/13(土) 17:31
「馬鹿じゃないの?」
「随分とご挨拶ですね。何となく今日あたり来るんじゃないかと
 ここにピンと来ましたわ」

 亜弥は、こめかみに人差し指を当てる。
 いちいち取るポーズが小憎たらしい。

「美貴も、ここにピーンと来たわよ!」

 美貴も負けずに同じポーズを取って言い返す。
 何かおかしい。
 いつもの美貴なら放っておくのに。
 何故か亜弥には言い返してしまう。

「私、どうして藤本さんが気になるのか色々自分なりに考えてみました」

 唐突に亜弥は話し始める。

「それで?」

「藤本さんは松浦と同じだから…かな」
「…ハァ?」

 美貴は口をポカンと開けて亜弥を見る。
61 名前:第21話 投稿日:2003/09/13(土) 17:31
「ずっと私、吉澤さんが好きでぇ…で、藤本さんの事はNO眼中だったんですよ。
 でも、あんなに私の事でムキになって怒ってくれたのって藤本さんが初めてでした」

 別にムキになってなんか…。と言おうとして美貴は考える。
 ムキになってる…か。
 怒ってくれたと言うよりは、ムカついたからと言う方が正しい。

 て、言うか、その手はなに?新手の嫌がらせ?

 いつの間にか亜弥が美貴の手を握りしめている。

「最初は、藤本さんの事、どうやって仕返ししてやろうかってそんな事ばかり考えてて」

 嫌なヤツだな。そんなヤツと一緒にしないでよ!
 美貴はそこまで陰湿じゃないんだから。根には持つけど。

「でも、いつの間にか藤本さんの事が…」
「なに?」

 美貴もいつになく緊張する。
62 名前:第21話 投稿日:2003/09/13(土) 17:32
「気になる存在に…」
「………っ」

 美貴はチラリと亜弥に視線を移す。

「違う意味で…」
「違う意味?」

 亜弥は口の端を歪めて笑う。

「好きって言うと思いました?」
「まさかっ…」

 正直美貴は一瞬、そう思った。
 それは勿論自惚れであったのだけれど。

「私が好きなのは…自分ですよ」

 亜弥は美貴から手を離すと、軽く笑った。
63 名前:第21話 投稿日:2003/09/13(土) 17:33
「馬鹿じゃないの?美貴は少なくとも一番好きなのは自分じゃないよ。
 アンタと一緒にしないでくれる?一緒にいて不愉快だよ!
 もう二度と美貴の目の前に現れるな!!」

 美貴は大声で怒鳴ると亜弥に背を向ける。
 ゆっくりと美貴は駅に歩き出す。

 何故か美貴の目から涙が溢れてきた。
 悔し涙?それとも…。

「でも!」

 亜弥の声が美貴の背中に響く。

「藤本さんの事も…」
「またかよ…。もう引っかからないんだから」

 美貴は小さく呟く。
 立ち止まらずに。
64 名前:第21話 投稿日:2003/09/13(土) 17:33
「好きーーーっ!」
「ふざけるな…。信じるかよ」

 美貴はそのまま歩き続ける。

「自分と同じくらい好き!」

 亜弥が走って来る音が背後から聞こえる。
 嘘だと首を横に振る美貴。

 亜弥に思い切り後ろから抱きつかれ、美貴はバランスを崩しそうになる。

 どうして美貴なんだよ。
 よしこじゃなかったのかよ?
 そんなに簡単に乗り換えるのかよ?

「信じる訳ないじゃん!」

 美貴は亜弥から逃れようと必死にもがこうとする。
 しかし、亜弥の力は思いの外強くて、なかなか解けない。
65 名前:第21話 投稿日:2003/09/13(土) 17:34
「恋は突然やってくるんですよ!」
「冗談っ。そんなの知らないしね。大体、よしこが好きじゃなかったの?」
「吉澤さんよりっ。美貴たんに強く惹かれちゃった」

「み、美貴たん?」

 きしょっ。一体、なんなんだその呼び名は!
 初めて言われた呼び方に美貴は身震いする。
 そんな「たん」なんて言われるガラではない。
 焼肉の「牛タン」なら好きだけど。

「美貴たん。可愛いでしょ?」
「勝手につけるな!」

 美貴の悩みの種が一つ大きくなった瞬間だった。
66 名前:第22話 投稿日:2003/09/13(土) 17:35
 その翌日からと言うもの、亜弥の美貴へのラブアタックは相当なものだった。

 案の定、その事は恋人でもある飯田の耳にも入ってくる。
 元々交際禁止の規則であるが、亜弥は理事長の娘。当然黙認である。

「美貴…。どういう事?」

 飯田から少しだけ非難にも似た視線を感じながら美貴は俯いた。

「か、勝手にあっちが好きって言って来ただけだよ」
「いつ言われたの?」
「昨日の夜…」

 隠してもいずれバレるであろうから美貴は素直に答えた。
 飯田には嘘をつけない。

「カオと別れた後に、会いに行ったんだ」

 飯田の寂しそうな顔に美貴は慌てる。

「だから決着着けようとしてさ。行ったんだよ。そうしたら…」 
「おかしいと思ったのよ。美貴、いつになくそわそわしてさ…」

 飯田は腕組みしながら行ったり来たりしている。
67 名前:第22話 投稿日:2003/09/13(土) 17:35
「やっぱり若い子の方がいいんだよね、美貴は」
「は?」

 急に何を言い出すのかと思えば…。

「美貴、圭織だけだよ。何言ってんの?」
 それに今まで年の差の事を口にした事などないし心外だった。

「ここ数日、松浦さんの話ばっかだったし…」

 そうだったっけか?
 美貴は都合の悪い事はすぐ忘れるタイプだから覚えていない。

「大体、カオの話だって上の空だったじゃない!」

 いつになく飯田の表情が険しい。
 そんな怒った顔も酷く美しい。
 そんな事を呑気に思いながら美貴は置かれている状況が悪いの
にもかかわらず飯田を引き寄せた。

 自分より10cm以上も背が高い彼女。
 美貴は背伸びをして飯田の唇に触れる。

「そんなんで騙されないんだからね」

 しかし美貴は強くくちづける。
 
 美貴が好きなのは圭織だけ―――。

 自分に言い聞かせるように美貴は飯田にキスを繰り返した。
68 名前:第23話 投稿日:2003/09/13(土) 17:36
 そんな中、ひとみは頻繁に梨華の所へ出入りするようになる。

 さすがにマズイと思ったのか梨華はひとみを注意した。
 それでなくとも、亜弥の美貴へ対する行動は教師の耳にも当然入ってきているわけで。

「吉澤さん。最近来すぎじゃなくて?」

 眼鏡の奥から瞳が光る。勿論本当には怒っていない。

「授業についていけないんです、石川先生。だから分からないところを
 教えて欲しいんです。手取り足取り」

 ひとみは梨華の横にひざまづき、教科書を差し出す。

「全部分からないとか言うオチじゃないでしょうね?」
「あ、バレました?」
「それに元から教わろうなんて思ってないでしょうが」

 なかなか梨華は鋭い。

「その通り…かも」

 軽く微笑み合う二人。
69 名前:第23話 投稿日:2003/09/13(土) 17:36
 静かに時間が流れる中、静寂を破る者が一人現れる。

「失礼しますっ」

 慌てて離れる二人。

「吉澤さんっ!」

 まるで、最初から此処にいるのは当然だと言う口ぶりの亜弥。

「松浦…」

「美貴たんのいる場所知りません?」
「美貴たん?」
「屋上にも教室にもいなくて…。吉澤さんもいないから、美貴たん
 多分どこかに隠れてるんだと思うんですよ」

 一気に捲し立てるように話す亜弥に、ひとみは落ち着けとばかりにジェスチャーをする。

「あ!もしかして!」

 亜弥はあっと口を開ける。

「飯田先生のとこ?」

 亜弥はすぐに美術室へと走って行った。

「風のようだね…。松浦さん」
「殆ど松浦一人で喋っていったね」
「松浦さん、廊下は走っちゃダメなのに」

 梨華はワンテンポどころか、かなり遅れて呟いた。
70 名前:第24話 投稿日:2003/09/13(土) 17:37
 薄々は気づいていた。
 美貴と飯田が付き合っていると言う事は。

 あの後、美貴と飯田の事は徹底的に調べたから。

 最初は、ひとみが好きだった。今でもひとみの事は好きだ。
 しかし、美貴に「うざいっ」と言われてから、美貴が気になり始めた。

 憎たらしい。むかつく。最初の美貴の印象は悪かった。

 しかし…気が付いたら亜弥は美貴に惹かれていた。

 嘘のような本当の話。

 そう、恋は突然なのだと亜弥はこの時ハッキリと分かった。
 理由なんてない。

 今まで欲しいモノは何でも手に入れて来た。

 しかし美貴は…一筋縄ではいかなさそうだ。
 それが逆に亜弥を燃えさせる原因にもなる。

「美貴たん。必ず…松浦のモノにしてみせるからね!」

 亜弥は廊下を走りながら自分自身にも言い聞かせた。
71 名前:第25話 投稿日:2003/09/13(土) 17:37
 ぞくぞくっと嫌な悪寒が走り、美貴は途中で顔を上げた。

「どうしたの?美貴」

 美貴の下で飯田は不思議そうに聞く。

「いや。何か今凄くイヤな予感が…」

「美貴が気乗りしないんなら、いいよ」

 最近の飯田は以前よりも謙虚になっていた。
 それが美貴に不安な気持ちにさせる。

 そうさせたのは自分のせいでもあるのだが。

 その亜弥が今、自分に向かって走って来てるとは露知らずに美貴は飯田の頬に手を添えた。
72 名前:第25話 投稿日:2003/09/13(土) 17:38
―――ドンドンドンドンッ

 ドアを乱暴に叩く音で、二人はハッとする。

「開けて下さい!美貴たん?いるんでしょ?」

「…美貴、行ってあげたら?」

 半ば飯田は諦め気味の声で美貴から離れ、長い髪を掻き上げた。

「なんでよ?行く必要ないし。美貴には関係ないから」
「美貴ご指名じゃない」

「美貴たーんっ!」

 亜弥は構わずにドアを叩き続け、ありがたくないニックネームで呼び続ける。

「美貴たんだなんて、可愛いものね」

 多少皮肉混じりに飯田は呟き鍵を開けにドアに歩いていく。

「圭織。開けちゃダメ!」

 慌てて美貴は飯田に駆け寄っていくがタッチの差で、鍵があくと同時にドアが開かれた。
73 名前:第26話 投稿日:2003/09/13(土) 17:38
「美貴たぁ〜ん♪」

 美貴を見るなり、両手を広げ思い切り美貴を抱きしめる亜弥。

「………」

 その横を飯田は無言で素通りしていく。

「かお…。飯田先生?」

 美貴は情けない声で言い直す。

「藤本さん。明日またいらっしゃい。その時ゆっくりとね…」

 飯田の目は笑っていなかった。
 怖い。どうして美貴だけこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!

 美貴は飯田の後ろ姿を見つめながら心の中で叫んだ。
74 名前:第27話 投稿日:2003/09/13(土) 17:39
 結局また連れて来られてしまった。
 亜弥のマンションに。
 そんな自分が情けない。抵抗すれば逃げられた筈だ。
 飯田を追いかけられた筈だ。それなのに美貴は、そのまま車に乗ってしまった。

「紅茶。飲まないんですか?」

 目の前に出された紅茶。
 もしかしたら睡眠薬でも混入されているかもしれない。
 そう思うと美貴は口が付けられなかった。

「なんか入ってるかも知れないしね」

 まだ亜弥の事を信用している訳ではないから美貴は憎まれ口を叩く。
 亜弥は軽く笑う。

「そんなマネしませんよ。もし仮に睡眠薬入れたとして…。
 眠ってる間になんて、つまらないじゃないですか。
 美貴たんとは、お互い通じ合って愛し合いたいですもの」
「あり得ない!!」
「照れないで下さい」
「照れてない!」
75 名前:第27話 投稿日:2003/09/13(土) 17:39
 何故か亜弥は余裕の構えだ。それが逆に美貴を不安にさせる。

「美貴たんは、私の事気になってる事は100%事実ですからね」
「るさいっ!」

 美貴は拳を作り立ち上がった。

 何故だか分からないけど美貴は負けてる気がする。

「美貴もう帰るよ」

 ここにいると亜弥のペースに呑まれてしまう気がして美貴は早口で答えた。

「そうですか…。じゃぁ矢口に送らせますね」

 あっさり亜弥は引き下がる。

 一体何をたくらんでいるのか、美貴には見当が付かなかった。
76 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2003/09/13(土) 17:41
更新しました。
なんかイマイチ…かも。萎え

>>57
更新遅れてすみません。

>>58
ミキティは、あややに押され気味です。
sageでお願いします。
77 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/20(土) 20:42
梨華ちゃんに甘える吉澤可愛い!
二人の馴れ初め物語も番外などで拝見出来れば光栄ですわ
78 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/26(金) 10:55
あやみきどうなるのかな(w
79 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/17(金) 00:52
密かに待っています
80 名前:あやみき信者 投稿日:2003/11/25(火) 03:02
よしいし期待の人には申し訳ないのですが・・・

あやみきが見たい・・・(ボソッ)

そっちメインになることをこれまた密かに祈ってますw
81 名前:あやみき信者 投稿日:2003/12/23(火) 13:30
保全なのです
     (((((ノノ (((((ノノ
    (/´´゚ 彡 (/´´゚ 彡
     (VvV从(‘ 。‘从つ
     しーし´  しーし´  ミ

     \从/ \从/
     / ̄ ̄ ̄ ̄/)
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82 名前:第28話 投稿日:2003/12/24(水) 21:44
 亜弥のおかげで、飯田との仲がギクシャクし始める。
 これは気のせいではない。明らかだ。
 おかげで毎日のように通っていた飯田の家にも行きにくくなってしまった。

 飯田も亜弥を恐れて?一歩引いた形で見ていた。
 亜弥が理事長の娘と言う事もあり、この件で美貴との関係が曝されるのを恐れた
為とも思う。

 実際、亜弥は飯田と美貴の関係は調べ上げたらしい。
 だからと言って何かしてくると言う事もなかったが。

 美貴自身も自分の気持ちが良く分からない。
 飯田の事は勿論好きだし別れるつもりもない。
 しかし美貴の心の中に、亜弥は勝手に土足で上がり込んできた。
83 名前:第28話 投稿日:2003/12/24(水) 21:45
 隣りを見るとひとみが昼寝をしていた。
 呑気なものだ。

 元はと言えば、亜弥はひとみを狙っていた筈なのに、どうして美貴に矛先を変えたのか。
 本当に迷惑な話だった。

「こら!藤本。聞いてるのか?」
「は、い」

 無意識にひとみをじーっと見つめていたらしい。
 美貴は注意されて慌てて黒板の方に向き直った。
84 名前:第29話 投稿日:2003/12/24(水) 21:45
 亜弥にとっては都合の良いように事が運んでいく。
 美貴と飯田の仲が釈然としないまま、飯田は出張で今日から3日間いなくなる。
 そんな出張さえも、亜弥が仕組んだものではないかと美貴は疑ってしまう。

 逆にひとみは至極幸せそうに美貴の目に映る。
 梨華が赴任してきた当初は、かなり不満も漏らしていたが最近は
惚気ばかり聞かされて、美貴は少しばかり気分がよろしくない。

 今日も放課後、ひとみは梨華のいる準備室へと行くのだろう。
 美貴は半ば強引に、ひとみを誘った。

「ねぇたまには美貴にも付き合ってよ」
「今日はちょっと…」

 当然の如くひとみは歯切れ悪い。

「いいよねぇ?よしこ」

 有無を言わさずに美貴はひとみの腕を掴まえる。
 さすがのひとみも頷くしかなかった。
85 名前:第29話 投稿日:2003/12/24(水) 21:45
「行くってどこへ?」
「憂さ晴らしにカラオケでもどお?」

 廊下を歩きながら喋っていると後ろから割り込むように亜弥が二人の両腕に腕を絡めた。

「私の部屋でカラオケしません?」

 ほぼ同時に、美貴とひとみは隣りの亜弥を見る。

「私は遠慮しとくよ」
 
 速攻でひとみは低頭に断ろうと手を左右に振り一歩身を引く。

「よしこ。ここで逃げられると思ったら大間違いだよ」

 美貴はすかさず突っ込みを入れる。
 美貴はしっかりと亜弥に腕を掴まれている。
86 名前:第29話 投稿日:2003/12/24(水) 21:46
「やだなぁ逃げるだなんて人聞きの悪い」

 しかし、ひとみは笑いながら続ける。

「松浦もミキティと二人きりの方がいいんじゃん?」

 しかも余計な事まで。
 よしこも許さないんだから。

「カラオケは人数多い方が楽しいですから吉澤さんも、どうぞ」
「そ、そう…」

 落胆するひとみに、美貴はフフンと笑う。
 抜け駆けしようたって、そうはいかないよ。とでも言いたげに
美貴はひとみに視線を投げかけた。
87 名前:第30話 投稿日:2003/12/24(水) 21:46
 亜弥はよほど機嫌が良いのか車内でも良く喋っていた。

 普通にしていれば亜弥は可愛いと美貴は思う。
 でも気に入らないものは気に入らない。
 そして、ひとみも自分とは関係なくなった途端に亜弥とは普通に
話すようになっていた。それも何だか美貴には面白くない。

「マイカラオケかっけー!おぅ、ゴールデンマイクだよ」

 部屋に入るなりひとみは感動しているのかカラオケの機械を物珍しそうに
眺めている。

「よしこも、ここ来た事あるんでしょ?」

 多少皮肉も交えて美貴はソファに腰を降ろす。

「あるけどさぁ言われなきゃ気づかないよ」

 ひとみはマイクを手に取り、既に歌う気満々のようだ。
88 名前:第30話 投稿日:2003/12/24(水) 21:47
「マジで歌うの?」

 美貴は信じられないとでも言わんばかりだ。
 美貴は歌う気など全くなかった。

「だって、それで来たんじゃないの?」
「松浦は吉澤さんの歌聞きたいですよ」

 丁度亜弥が紅茶をお盆に載せて持ってくる。

「聞きたいなんて思ってないくせに」

 いちいち突っかかる美貴だが亜弥は大して気にも止めない。

「もちろん美貴たんの歌が聴きたいけど…」
「そりゃどうも」

 美貴は足を組み直す。苛々する時の癖だ。
89 名前:第31話 投稿日:2003/12/24(水) 21:47
 いつの間にか、ひとみのオンステージになっていた。

「吉澤さん本当に歌が好きなんですね」
「うん。たまに行くけど大部分がよしこが歌ってるね」

 そんな話しはいい。亜弥は美貴にピッタリくっつくようにして座っている。
 それが美貴にはさっきから気になっていた。

「寄りすぎなんだけど…」
「えへへ」

 亜弥は嬉しそうに美貴の肩に頭を預ける。

「調子に乗るなよ!」

 それでも亜弥はおかまいなしだ。
 本当にめでたいよ。
 
 ひとみは本当に気持ちよさそうに歌っている。
 そんな中、ひとみの携帯が鳴る。
90 名前:第31話 投稿日:2003/12/24(水) 21:48
 あの着メロは梨華からだ。
 途端に美貴は嫌な予感がした。

「うん。分かった。じゃぁ帰るよ♪」

 帰る?今来たばっかじゃん。

「ゴメン。私帰るね」
「もう?」
「早めに片づいたみたいだから」

 ひとみは嬉しそうだ。既に鞄を持っている。

「ちょっと美貴残して帰るつもり?」
「吉澤さんお疲れ様でしたぁ。また来て下さいね」

 美貴の声と被るように亜弥の声が重なる。
 
「うん。楽しかった。また来るね」
91 名前:第31話 投稿日:2003/12/24(水) 21:48
「ちょっとよしこ!」
「矢口に送らせるから」
「あ、いいよ。近いから」
「じゃぁ美貴も一緒に帰る」

 美貴も一緒に帰ろうと立ち上がる。

「美貴たんはダメ!」

 両肩を押されて再びソファに腰を落とす。
 亜弥は携帯を取りだし矢口に指示を出した。

「さ、これで二人きりになりました♪」

 ひとみが帰って、亜弥は嬉しそうに美貴に笑顔で返した。
92 名前:第32話 投稿日:2003/12/24(水) 21:49
 元からそのつもりで…。
 
 亜弥は鼻歌を歌いながらリップを持ってきた。
 何をするのかと思えば、いきなり美貴の目の前で塗り始める。

「私、桃が大好きなんですよ。コレも桃の香りがするんです」

 亜弥はそう言うと美貴に顔を突き出す。

「な、なに?」

 当然美貴は顔を仰け反らせる。

「ね、香りするでしょ?」
「分かんないよ」
「私の唇も食べ頃に見えません?」
「…?」

 何を言い出すかと思えば…。
 亜弥の唇がリップで濡れて光っている。
 美貴の目の前にあるから嫌でも目に入る訳で、美貴は急に恥ずかしくなって
視線を外そうとした。
93 名前:第32話 投稿日:2003/12/24(水) 21:49
 こう言うのって誘ってるっていうんだろうか?
 いや、亜弥の事だ、からかっているのかもしれない。
 
 美貴は瞬時に色々な事を頭に巡らせた。
 しかし唇は突き出されたままだ。

 美貴が此処で唇を奪ったらどうなるだろう?
 亜弥の反応を楽しむか。
 勘違いされても困る。キスされたなんて圭織の耳に入っても困る。
 それでなくても圭織とは、今微妙な関係なのだ。

 美貴は亜弥の肩を掴むと強引に押しのけた。

「冗談っ」
94 名前:第32話 投稿日:2003/12/24(水) 21:50
 亜弥も期待していなかったらしい、へへっと舌を出す。
「美貴たん、一瞬迷ったでしょ?」

 悪戯っぽい視線を送る亜弥に、美貴は図星だから一瞬声に詰まる。

「別にっ」
「いつか美貴たんから自然とキス出来るような関係になれればいいなぁ」
「そんなの来ないよ」

 美貴はフゥーッと溜息混じりに答える。
 亜弥といると疲れる。もう美貴も帰りたかった。
95 名前:第33話 投稿日:2003/12/24(水) 21:50
「美貴も帰るよ。からかわれるのも不愉快だし、もう用もないし」

 美貴は鞄を掴むと素早く立ち上がった。

「美貴たん…」

 寂しそうな視線を背中に感じながら美貴は亜弥を見ないようドアに進む。

「ごめんなさい」

 意外にも素直に亜弥は謝ってきた。
 しかし、これもまた何か裏があるのでは?と美貴は勘ぐってしまう。

「からかうなんて。でも美貴たんは多分本気になんかしてくれないだろうなって
 思ったから。ごめんなさい…」
96 名前:第33話 投稿日:2003/12/24(水) 21:50
 美貴は後ろを振り返る。
 シュンと俯き加減の亜弥が目に映った。

 美貴は溜息を一つ落とすと鞄を置いて亜弥の傍に戻ってくる。

「本気にするわけないじゃん。冗談は頭だけにしろ」

 美貴は亜弥の頭を小突いた。
 気の利いた言葉をかければいいのだが、それも何だか癪に触るから
美貴なりの答えだった。お互い素直じゃないのである。

「美貴たん…」

 亜弥は立ち上がると美貴にしなだれかかってくる。
 慌ててそれを除ける美貴。
97 名前:第33話 投稿日:2003/12/24(水) 21:51
「だからって調子に乗るな」
「吉澤さんはガードが甘いから、すぐにキス出来たんだけど、やっぱり
 美貴たんはガードが堅いなぁ」
「キス?」

 ちょっと待て。そんな話など、ひとみから聞いてない。
 美貴は怪訝そうに聞き直した。

「でもキスなんて挨拶ですよね?」
「誰がそんな事…」

 なんだか急に機嫌が悪くなる美貴。
 なんだ、この気持ちは。
98 名前:第33話 投稿日:2003/12/24(水) 21:51
「もちろん、美貴たんとのキスは、本当にしたいけど…」

 一瞬遠くを見つめる亜弥。

「美貴、やっぱ帰るよ」

 美貴は鞄を掴む。
 亜弥は黙って美貴を見ている。

「それと、もう美貴と関わらないで!」

 それだけ言うと美貴は振り返らずに出て行った。

「美貴たん……」

 亜弥は追いかけもせずにドアを見つめていた。
99 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2003/12/24(水) 21:57
非常に更新が怠り申し訳ないです。
書いている途中で、面白くないなぁと感じ始めて
途中で止まってしまいました。
今後は、なるべく更新したいと思っています。

>>77
既に番外編ですか(笑)。スレ数が余れば書くかもしれませんが
まだまだ先の事ですね。

>>78
どうなりますか。一筋縄では行きません。

>>79
待たせすぎてごめんなさいです。

>>80-81
あやみきイイですよね。でも私には書くのが難しいと
書いている途中で気づきましたが、何とか頑張って
書き上げたいと思っています。保全ありがとうございます。
100 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/28(日) 15:22
良い感じです^ー^b
がんがってください!!!!
101 名前:なち 投稿日:2004/01/25(日) 22:13
待ってますよ〜(ノ^▽^)ノ♪
102 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/14(土) 15:07
保全
103 名前:第34話 投稿日:2004/02/21(土) 15:57
 翌日から亜弥はテニス部に復帰、ピタリと美貴と関わらなくなった。

 亜弥の態度の急変に、放課後ひとみは美貴に問いただした。
 亜弥の変わりように学園内では色々な噂が立ち始め、美貴はうんざりしていた。 

「ミキティ、私が居なくなった後、何かあった?」
「何もないよ…」
「ふぅん。そうかな。松浦急に態度変えるから、何かあったのかと…」
「別に…」

 ひとみもそれ以上しつこく聞いては来なかった。
 美貴にとっては、それよりも飯田の一言が利いていた。
104 名前:第34話 投稿日:2004/02/21(土) 15:58
『少し冷却期間をおこう』

 出張先からの飯田のメールは、素っ気ないものだった。

 全てはアイツが悪い。
 美貴は独りになると更に腹が立って来る。
 しかし、自分から、もう関わるなと言った手前、亜弥に近づくのも変だ。
 これで良かったんだ。亜弥の気持ちもその程度のものだったと。

 美貴は少し意外だった。自分の言葉など無視して今日もまとわりついてくると
思ったからだ。正直少しほっとしていた。

 飯田の仲をどうにかしなければならない。
 美貴の頭の中は、飯田の事でいっぱいだった。
105 名前:第35話 投稿日:2004/02/21(土) 15:59
 最近、ひとみはお昼も梨華のいる準備室で、一緒に昼食を取っていた。
 大抵梨華は、職員室ではなく、この準備室で取る事が多いから、ひとみも便乗していた。

 食後の後は、決まってビーカーでお湯を沸かして紅茶を飲むのが習慣になっていた。
 
「アルコールランプでお湯沸かして飲むのって、なんか美味しそうだよね」

 コポコポと沸騰するお湯を見つめながら、ひとみは楽しそうだ。

「そんな事言うの、ひとみぐらいよ」

 梨華は眼鏡を外すと大きく伸びをした。

「だいぶ梨華の白衣姿も板に付いてきたね」

 ひとみはニヤニヤしながら目を細める。

「何言ってんの。私は、まだまだだよ」

 謙遜しているのか梨華は否定すると、また机にあるレポートに目を落とす。
 
106 名前:第35話 投稿日:2004/02/21(土) 15:59
「休憩時間くらい、休みなよ」

 ひとみは梨華からレポートを取り上げる。

「そうね…」

 梨華は立ち上がるとアルコールランプを消してマグカップを2つ持ってくる。
 家から持ってきたペアのカップである。

「ねぇ、ひとみは知ってる?」
「ん?」

「松浦さんがテニス部復帰したの」
「あぁ。どうしたんだかね。私も気になってるんだけど…。
 ミキティ何か知ってそうだけど、なんか不機嫌でさぁ…」
「そう。特に変わった感じは、しないんだけどね」

 梨華は亜弥の担任だから一応気にはしているのだろう。

「あの位の年頃は、気まぐれなんだよ」
「あの位って、ひとみと1つしか違わないでしょ?何言ってんのよ」

 梨華は笑いながらカップに口をつけた。
107 名前:第36話 投稿日:2004/02/21(土) 15:59
 トントンッと軽くノックする音がして、廊下から声がした。

「松浦ですが、今、よろしいでしょうか?」

 ひとみと梨華は顔を見合わせる。

「どうぞ」

 梨華は眼鏡をかけ直しながら立ち上がった。

「失礼します」

 偉く生真面目そうに亜弥は入ってくると、ひとみがいる事に気づき
ひとみにも挨拶をする。

「吉澤さんもいらしたんですね。お昼時にすみません。
 どうしても分からない事があって石川先生にお聞きしたい事があったもので」

 そう言いながら亜弥は教科書を持って梨華の前へと進む。
 熱心に聞いている亜弥の後ろ姿を見ながら、やはりこれは何かあったに違いないと
ひとみは確信するのだった。
108 名前:第37話 投稿日:2004/02/21(土) 16:00
 更に数日が経ち、飯田が出張から帰って来る日になった。
 飯田が戻って来るのは昼過ぎ。
 美貴は駅で飯田を待ち伏せていた。

「美貴…」

 美貴の姿を見つけると、飯田は一瞬目を細めたが、すぐに険しい表情に戻った。

「圭織。お帰り」
「珍しいね、美貴が迎えに来るなんて。らしくないね」
「そんな事より、なんで電話に出てくれないのさ」

 乗り換えの為、階段を構わずスタスタと早足で歩く飯田に、
美貴は慌てて横に並ぶ。
 
「メール送ったでしょ?文字が読めないの?」
「なっ…」

 飯田の言い方にムッとする美貴。
 しかし、思い直して続けた。
109 名前:第37話 投稿日:2004/02/21(土) 16:01
 その言葉に、飯田は急に足を止めた。
 ビクッとする美貴。恐る恐る顔をあげる。
 スラリと伸びた長身に、サラサラの黒髪、吸い込まれそうな大きな瞳。
 言い返すと思った、その口唇から出た言葉は、美貴の予想を外れていた。

「学校は、どうしたの?サボらないって約束したよね」

 飯田の目は厳しかった。

「そんな状態じゃなかったから」

 どうすれば分かってくれるのだろう。
 飯田は頑として姿勢を崩さなかった。
 
「私はこれから学校行くから。藤本さんもそのまま学校行きなさい」
「藤本さん……」

 美貴は我慢していた何かが切れるのを感じた。
110 名前:第37話 投稿日:2004/02/21(土) 16:01
「圭織、ちょっと…」
「?」

 飯田の裾を掴むと美貴は強引に飯田を引き寄せた。
 人のいる前で、美貴は飯田の口唇に口づける。

 ここは、プラットフォーム。
 人の視線を感じながらも美貴は構わず飯田を離さなかった。

「美貴!何するのよ!」

 飯田に身体をよじられ、突き飛ばされる美貴。

「圭織…」
「美貴、ちょっと来なさい」

 飯田は美貴の手首を掴むと、駅の公衆トイレへと駆け込んだ。
111 名前:第38話 投稿日:2004/02/21(土) 16:01
「人目が気になるんだ、やっぱ」

 美貴は挑戦的に飯田を見る。

「していい事と悪い事があるでしょ?」
「だって圭織、全然人の話聞いてくれないから」

 ムッとしながら飯田を見上げる。

「なに子供みたいな事言ってるの?今度こんな事したらタダじゃ済まないからね」

 飯田はそれだけ言うと鍵を開けようと手を伸ばす。
 その手を掴む美貴。

「なに?」
「美貴は子供だもん。今日はこのまま二人でいよう」

 そのまま手首を引き寄せ口づける。

「駄目に決まってるでしょ。離してっ」
「やだ」

 美貴は強引に飯田を便座の上に座らせ口唇を塞いだ。
112 名前:第39話 投稿日:2004/02/21(土) 16:02
 昼休み。浮かない顔で亜弥は学食で頬杖をついていた。
 今日は、美貴は来ていない。飯田が出張から戻って来る日だから
当然迎えに行っているのだろうと予想出来た。

「亜弥ちゃん、それでいいん?」

 唯一の亜弥の友人、高橋愛が心配そうに尋ねてくる。
 愛の父は会社を経営していて、亜弥の父とは古くからの友人であった。
 その長い黒髪はいつも綺麗にポニーテールされている。
 愛くるしい大きな瞳は、今日も片想いのあの娘を追っていた。

「だってさ…。辛いけど仕方ないよ」

 美貴に言われた「関わらないで!」は、亜弥には、かなり効いたのだ。
 美貴の言う通り、暫くは美貴と距離を置こうと亜弥は決めた。
 押して駄目なら、そのまま様子を窺う事も時には必要だと、亜弥は今
我慢の時なのだと思っている。
113 名前:第39話 投稿日:2004/02/21(土) 16:02
「そんなにいいかね、藤本先輩…」

 愛は行き交う生徒達を物色しながら呟く。

「愛ちゃんは、どうなのさ」
「あともう一歩、もう二歩ってとこかねぇ…」

 愛は東京育ちのくせして、何故か訛りが少し入っている。

「歯切れ悪いね」
「んー。ヤツは人気があるから」

 愛が密かに思っている相手は1年後輩。
 しかし学年問わずに、その愛されるべき性格からか、かなり人気がある。
 噂をすれば、片想いの彼女は、数人の友人と一緒に入って来て、亜弥達の前を
通り過ぎて行く。お喋りに夢中になっているのか、亜弥達には気づいていない様子だ。
114 名前:第39話 投稿日:2004/02/21(土) 16:03
「声かけなくていいの?愛ちゃん…」
「私も今は我慢の時なんさ…」

 彼女の後ろ姿を見つめながら愛は答える。

「愛ちゃんは別に我慢する事ないのにね…」

 それでも愛には愛なりの考え方があるのだろう。

「あ…。あれ藤本先輩じゃん?」

 亜弥よりいち早く、校門から歩いてくる美貴を見つけた愛は
なにげに呟いた。

「え?」

 首を伸ばして、窓から校庭に目を移す。
 制服のポケットに手を突っ込んで不機嫌そうに歩いてくる生徒は
紛れもなく、美貴だった。
115 名前:第39話 投稿日:2004/02/21(土) 16:03
「飯田先生と一緒じゃないんだね…」
「美貴たん…」

 駆け寄って話しかけたい衝動に駆られる亜弥だったが、ぐっと堪えた。
 
「亜弥ちゃん、いいの?」
「だからぁ、今は自分からは無理なんだって」

 自分でそう決めてテニス部にも復活して真面目に(元から真面目だが)
優等生を演じているのに、今、ここで美貴に声でも掛ければ台無しになってしまう。

 そんな事を愛と言い合っていたら、当の美貴が学食に入ってきた。
 校庭で見た時と変わらぬ表情のまま、美貴はそのまま自販機の前に立ち、
乱暴にコインを入れた。

 顔を寄せ小声で囁く愛。

「亜弥ちゃん?」
「だからいいんだってば!」

 本当におせっかいだと亜弥は思いながら亜弥も小声で返した。
 端から見たら、怪しい二人の何者でもない。
116 名前:第39話 投稿日:2004/02/21(土) 16:04
「なんだよ、コレ。氷が入ってないじゃん」

 そうとうお怒りらしく自販機に文句を言っている。
 美貴の声はかなり通るので、一瞬学食内はシーンと静まりかえった。

 その気配に気づき、美貴は周りを見渡す。
 テーブルから顔を上げた亜弥は、美貴とばっちり目が合ってしまった。

 一瞬ハッとした美貴だったが、すぐにまたムッとした顔に戻ると
紙コップを乱暴に取り出し、学食を出て行ってしまった。

「美貴たん……」

 予想した通りとは言え、実際に、あぁやって無視されるとかなり哀しい。
 亜弥は再び顔を下げると深く深く溜息をついた。
117 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2004/02/21(土) 16:07
更新が非常に遅くなり申し訳ないです。

>>100
良いですか。そう言っていただけると助かります。

>>101
お待たせしすぎてすみません。

>>102
保全ありがとうございます。
保全されないよう更新をもう少し詰めたいとは
思ってますが。
118 名前:korean(笑) 投稿日:2004/02/23(月) 04:11
ファンです!(笑)
ずっと待ちました!
韓国でも読む人がいると思って更新お願い致します.(私,韓国人です!)
付け加えて,「かおみき」で..どうぞ!!
119 名前:IshiYoshi& ◆R3XSYjuU 投稿日:2004/02/25(水) 01:19
私も韓国人です
翻訳して見ています 応援しています
Ishiyoshi可愛いです!!
それでは作家様もっと努力してください~~~~~~?^-^;
120 名前:川o・-・) 投稿日:川o・-・)
川o・-・)
121 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 04:50
>>120

「氏」ってどんな意味?

良くない意味なら残念ですね。。

そして今は「朝鮮」じゃなくて、「韓国」です!
122 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 06:38
>>121
まあ何処の国にもこういう人はいますよw
Ishiyoshiなら過去にもたくさんあったんですけどリンク紹介しましょうか?
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 17:34
>>122

「かおみき」はないでしょうか?
124 名前:IshiYoshi 投稿日:2004/02/25(水) 18:35
紹介してくださったら感謝します.
そして韓国にもあんな人たちがいるから
関係しないです^-^
125 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/26(木) 00:47
作者様

ここにリンクを貼ってもよろしいでしょうか?
126 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2004/02/26(木) 23:13
すみませんが、ここで雑談をしないようお願いします。
別の場所でして下さい。
それとageないで下さい。一旦落とします。
127 名前:なち 投稿日:2004/02/28(土) 12:50
更新おつかれ様です!
いゃ〜ミキティとカオリはどーなってしまうんだー
あややも切ない。いしよしは、いつも甘甘でいて欲しいです( ○^〜^)人(^▽^ )
上の雑談してる人たち邪魔だよ。
場所考えてくれ
128 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/24(水) 23:49
保全
129 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/28(日) 12:08
保全
130 名前:あっキー 投稿日:2004/04/05(月) 01:05
続きが読みたいです。でもゆっくりやってください待ってますから!!
131 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/06(火) 02:06
>>130
sageでカキコしなよ。
132 名前:第40話 投稿日:2004/04/10(土) 19:17
 美貴は、そのまま屋上へと向かう。
 
 フェンスの背に凭れ「バカらしい…」と呟く。

 結局、飯田には抵抗され、バツの悪くなった美貴は、そのまま飛び出した。
 家に帰ればいいのに、何故か学校に向かってしまった自分に腹を立てる。

 不機嫌なところに、亜弥にまで会ってしまい美貴の不機嫌は最高潮である。

「ざけんなっ!」

 フェンスに蹴りを入れ、美貴はフェンスを掴み揺さぶった。

「相当怒ってるねぇ、藤本先輩…」

 美貴からは隠れるようにして、愛と亜弥はこっそり後を追い、階段の隅から覗いていた。
133 名前:第40話 投稿日:2004/04/10(土) 19:18
「帰ろうよ、愛ちゃん…」

 愛の制服の袖を引っ張りながら、亜弥は不安そうに囁く。
 
「藤本先輩の気持ちを宥められるのは、飯田先生だけ…か」

 愛のその言葉が引き金となり、亜弥は思い直す。

「私だって…」
「…亜弥ちゃん?」

 愛がそう言った時、既に亜弥は立ち上がっていた。
 しかし、愛はすかさず亜弥の腕を取る。

「我慢するんでしょ?」

 愛に釘を刺され、グッと詰まる亜弥。

 そんな、二人のやり取りには、気づいていない美貴のフェンスを揺らしていた手が止まる。
 そして、視線は校庭に。確認しなくとも、それは飯田が来た事を示していた。

 じっとその方向を見つめていた美貴だったが、急に亜弥達の方に向かって駆けてくる。

「藤本先輩来るよ!」

 愛の言葉で一気に二人は、階段を駆け下りて行く。
 寸手の差で、気づかれずに済み、美貴は二人に気づく事なく昇降口へと駆け下りていった。
134 名前:第41話 投稿日:2004/04/10(土) 19:18
「圭織!」

 美貴の声に、丁度靴を履き替えていた飯田は顔を上げる。
 美貴の姿を見て、少し微笑んだ気がした。

 亜弥と愛も少し遅れて二人に気づかれないように、また隅から様子を窺っていた。

「ちゃんと学校には来たのね。でも、もう午後のチャイム鳴ってるんじゃない?」

 ゆっくり履き替えて、飯田は静かに言った。

「ヤバっ。亜弥ちゃん、もう午後始まってるって!」

 慌てて言う愛に、亜弥は「じゃぁ戻れば?」と冷たく返す。
 大体、愛にはこの件は関係ないのだから。変に首を突っ込んで欲しくなかった。

「圭織…ごめん。美貴が悪かった。謝るから…」

 美貴がすがるように飯田に抱きつき、懇願する。

「随分さっきと態度が違うんだね…」

 飯田は美貴の腕をほどく。

「美貴が好きなのは、圭織だけなんだ。分かってよ!」

 ほどかれても美貴は飯田を離さない。
135 名前:第41話 投稿日:2004/04/10(土) 19:19
 何となく亜弥は見てはいけないものを見てしまったような気になり、愛の手を引く。

「亜弥ちゃん?まだ終わってないよ?」
「いいから…もぅ…」

 亜弥は愛の手を引いて、教室に戻っていった。

 その後、美貴と飯田が、どうなったのか、亜弥には知る術もなかった。
 もちろん、遅刻し先生に注意され、授業の中身もまるで入らなかったのは言うまでもない。
136 名前:第42話 投稿日:2004/04/10(土) 19:19
 何となく近寄りがたかった美貴に、ひとみは思い切って休み時間に声を掛けた。

「そっちは…大丈夫なの?」

 ひとみなりに気にしてるのであろう。
 美貴は、ひとみには詳しくは話していなかった。

「ぼちぼち…」

 そう言って美貴は笑う。
 美貴の笑顔に、少しだけひとみはホッとした。本当にダメならば笑う事などしない
事をひとみは知っているからだ。

「そっか…」
「うん。だから、よしこは心配しないで、石川先生の事だけ気にしてなよ」

 石川先生の所だけ声を潜めて、美貴は微笑んだ。

「ヤダなぁ、ミキティ〜」

 へへへと笑うひとみに、美貴も微笑み返した。

 みっともないと思いながら、美貴は飯田を失いたくない一心で亜弥達が
いなくなった後も、必死で飯田にお願いしたのだ。

 圭織の方が美貴に惚れてると思ったのに、それは間違いだった。

 美貴の方が圭織に惚れていた―――。
137 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2004/04/10(土) 19:20
更新しました。いつもながらに遅い更新で申し訳ないです。

>>118
韓国ですか。わざわざありがとうございます。
かおみき…ですか。どうなるのか私にも良く分かっておりません。

>>119
翻訳…日本語おかしくないか心配です。

>>127
どうなるのか?どうなるんですかね(笑)。
なかなか藤本さんがうまく動いてくれなくて困っていますw

>>128-129
保全ありがとうございます。

>>130
お待たせしてすみません。なるべく更新したいとは思っておりますので。

>>131
ochiありがとうございます。

レスありがたいのですが、sageでお願いします。
138 名前:sasuke 投稿日:2004/04/11(日) 14:44
更新お疲れさまです。

自分はいしよし好きですが「かおみき」もいいですね
作者さんのペースでまったりと更新してください。
139 名前:韓国ー娘。(笑) 投稿日:2004/04/12(月) 00:58
更新お疲れさまで〜すw

藤本さんが飯田さんに惚れていましたよね!
良い展開だと思います…。

これからもよろしくお願いします!
140 名前:101 投稿日:2004/04/12(月) 01:03
>>139 韓国さん sageなきゃだめだよ
141 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/29(木) 18:18
保全
142 名前:第43話 投稿日:2004/04/29(木) 22:20
 放課後、美貴は美術室で飯田を待っていた。
 今日だけは、ずっと傍にいたい。
 打ち合わせがあるから飯田が戻って来るには、まだかなり時間があったのでやることのない美貴は、
暇つぶしに校庭を眺めていた。
 丁度、部活が始まったのか、部員の姿もチラホラと目につく。

 美貴は今は部活に所属していない。
 中学の頃はバレーボール部にいたが、腰を痛めた為、辞めてしまった。
 それ以来、帰宅部と化していた。

「ふっ…」

 美貴の口許が歪む。
 亜弥の姿を見つけた美貴は、何となく、ずっとその後も亜弥を追っていた。
143 名前:第43話 投稿日:2004/04/29(木) 22:21
「美貴…?」

 飯田の声に、美貴は振り返る。
 時計を見ると、一時間は優に過ぎていた。

「圭織…」
「待っててくれたんだ。退屈だったでしょ」

 部活に打ち込む亜弥の姿を見入っていたら、一時間など、あっという間に
過ぎていってしまった。

「いや…」

 飯田に向き直り、美貴は何となく照れ臭くて目を伏せた。

「何見てたの?」

 飯田は美貴のいる窓際に近づいてくる。
 ボールを打つ音が、ポーンポーンと聞こえる。飯田はなるほど。と納得した。

「別に。暇つぶしにさ、外見てただけだよ」

 ポケットに手を突っ込み、窓を背にして美貴は答える。
144 名前:第43話 投稿日:2004/04/29(木) 22:21
「松浦さんも…テニス部だったよね」
「か、関係ないって。もう松浦の話は出さないでよ!」

 慌てて美貴は早口で言うと、飯田を見つめた。

「ただ、言っただけじゃない…」

 ふふっと笑う飯田に、美貴は舌打ちする。

「たまたま校庭見てたら目に入っただけだし…他に見るもんないから」

 自分に言い聞かせるように美貴は呟く。

「何ムキになってんだか…」
「別に…」

 その後の言葉は続かなかった。

「美貴の、そういうトコも好きだけどね」

 飯田の指が美貴の顎のラインをなぞる。
145 名前:第43話 投稿日:2004/04/29(木) 22:21
「圭織…」

 飯田の長い指は、美貴の顎を上向きにさせ、そのまま顔を近づけた。

 一つに重なるシルエットが、バックの夕焼けの空に溶けこむ。

『―――見られるかも』

 一瞬、美貴の脳裏に、そんな言葉が霞んだ。
146 名前:第43話 投稿日:2004/04/29(木) 22:22
 その頃、丁度美貴達が見える方へ、亜弥はミスしたボールを追っていた。

 カーテンのはためく教室に目を移す亜弥に映ったものは――――――。

「美貴たん…」

 ボールを掴んだものの、亜弥は暫くその場で立ちつくしていた。

 美貴が飯田とつき合っている事も知っているし、昼間、美貴が飯田に謝る場面も
見ているから、今の亜弥には、その光景を目にするのは、かなりきつかった。
147 名前:第43話 投稿日:2004/04/29(木) 22:22
「じゃぁ、カオが先に出るから、美貴も後でね」
「うん、あとで」

 美貴は軽く手をあげ、飯田を送りだす。
 1時間後、飯田が先に下校し、美貴が少し遅れて出てくる事になっていた。
 今にして思えば、美貴が先に出ていれば、こんな事にはならなかったのかも知れない―――。
148 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2004/04/29(木) 22:27
更新しました。

読み返していたんですが、2行抜けている所を発見_| ̄|○
今さらですが、訂正させていただきます。

>>108
 飯田の言い方にムッとする美貴。
 しかし、思い直して続けた。
>>109の その言葉に、飯田は急に足を止めた。
の間には、
「美貴は、圭織だけなのに、なんで分かってくれないんだよ。
 そういうとこ、子供なんだから」
が入ります。今頃気づくなんて_| ̄|○

>>138
更新ペースがまったりしすぎてスミマセン。

>>139
お願いですからE-mail欄にsageと入れて下さい_| ̄|○

>>140>>141
どうもです。
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/30(金) 00:23
待ってました〜っ!!
150 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/30(金) 00:48
落としときます。
151 名前:第44話 投稿日:2004/05/11(火) 19:13
-44-

 飯田が出て行って、少し経ってから、美貴も鞄を持って教室を出る。

 何はともあれ、飯田との仲も、修復出来そうだと美貴は内心ホッとしていた。
 靴を履き替えようと下駄箱に行きかけた美貴だったが、ふと校庭に目が行く。

 びっこを引きながら、一人の生徒が、こちらに向かって歩いて来るのが見えた。
 足をくじいたかして保健室へ行くのであろうが、誰も手を貸してくれないのかと
美貴は、鞄を置いて、その生徒に近寄っていく。

「松浦……」

 思わず美貴は、亜弥の方へ駆け寄っていた。
152 名前:第44話 投稿日:2004/05/11(火) 19:13
「美貴…たん……」

 亜弥は辛そうな顔を一瞬して目を背けた。

「どうしたんだよ?」
「どうって…足をくじいちゃって、これから保健室へ行くところです」

 自然と美貴は亜弥に肩を貸す。

「誰も助けてくれないわけ?」

 薄情なヤツらだと美貴は不機嫌になり、コートの方に目をやる。
 誰一人として亜弥を見ている者はいなかった。

「私、一旦退部届け出してて、それでまた復帰してるから、みんな
 良く思ってないみたいで…。まぁいいんですけどね、自分がした事ですから」
「それにしたってさ…」
153 名前:第44話 投稿日:2004/05/11(火) 19:14
 まだ何か言いかける美貴を遮る。

「いいんです。ありがとうございます。平気ですから」

 いつになく遠慮がちな亜弥に、美貴は声を荒げた。

「平気じゃないでしょ?いいから、おぶってやるよ。ほら」

 そう言って美貴は屈み込むと、亜弥に背中を差しだした。

「もう、あと少しだし…」

 躊躇う亜弥に、美貴は更に声を大きくした。

「言う事聞かないと殴るよ?」

 亜弥は暫く黙っていたが、美貴に甘える事にした。
154 名前:第44話 投稿日:2004/05/11(火) 19:14
「あ、ありがと…。美貴たん」

 おずおずと美貴の背中に身を預ける亜弥。

「あの…別に松浦じゃなくたって、美貴はこのくらいの事するから。
 困ってるヤツ見ると放っておけないからな」

 言い訳のように美貴は呟く。
 美貴の背中は、温かかった。
155 名前:第45話 投稿日:2004/05/11(火) 19:15
 美貴におぶられたものの、保健室には、すぐに辿り着く。
 亜弥は少しばかり残念になりながら、保健室に着くとベッドに腰を降ろした。

「ち、なんだよ、誰もいないじゃん」

 怒った風に美貴は言うと、腕組みをする。

「ちゃんと診てもらったほうがいいから、今から病院に行けよ」
「捻挫だから湿布貼っておけば大丈夫だと思うけど…」
「ダメ!念のため診てもらえって。えぇと、誰だっけ、ほらあの背の小さい運転手。
 矢口って言ったっけ?あの人に連絡してさ車出してもらえよ」

 美貴は勝手に話を進めてしまう。

「今は!今は、私電車通学なんです。矢口は使ってないの」
「なんのための運転手なんだよ?いいから呼びつけて行けって」

 美貴の気持ちは嬉しいが、何となく亜弥は苛々し始める。
156 名前:第45話 投稿日:2004/05/11(火) 19:16
「もう、いいから美貴たんは、帰ればいいでしょ!」

―――飯田先生のところに…。

 その言葉を言いかけて亜弥は呑み込んだ。

「なんだよ、その言い方。心配してるのに…」
「美貴たんは……なんでもない…」

 更に言いかけて亜弥は口を噤んだ。

 そもそもなんで美貴は此処にいるのだろう?
 飯田と帰るんじゃないのか?自分の事など放っておけばいいのに。
 それに、美貴と関わるな!と言った本人がそれを忘れてこうして亜弥と
接触してるのは、どういう事なのか?
157 名前:第45話 投稿日:2004/05/11(火) 19:16
「なに?気になるじゃん。言いかけてやめるのって気持ち悪いよ」
「美貴たん、私は約束破ってないからね?」
「え?」
「私、美貴たんに関わるなって言われたから、我慢して美貴たんと喋るのも
 我慢してたのに…」

 その言葉に美貴はハッとする。

「それとこれは…」
「私の事なんか無視すればいいのに。昼休みみたく無視すればいいじゃん!
 美貴たん勝手だよ」

 キッと亜弥は美貴を睨む。
158 名前:第45話 投稿日:2004/05/11(火) 19:16
「松浦…」

 気になるから…なんて都合の良い言い訳にしかならない。
 確かに関わるなって言ったのは美貴の方だ。亜弥が怒るのも無理はない。
 しかし―――。

「し、仕方ないだろ。気になるんだから!美貴にも分からないけど…。
 松浦が気になるんだよ!」
「美貴たん?」

 口に出して言ってしまってから、美貴はハッとして顔を赤らめた。

 いつも思った事をすぐ口に出して後悔する事が多々ある。
 これは癖だから仕方がないにしても、今回ばかりはマズすぎた。

 自分大好きで、生意気で、勝手だけど、美貴の心に入って来た亜弥を
美貴は追い出す事が結局出来なかった。どこかに引っかかっていた。

 さっき―――飯田の事が愛おしいと感じた美貴の気持ちも本当だが、
こうして亜弥が気になる気持ちも本当だった。
159 名前:第46話 投稿日:2004/05/11(火) 19:17
「やーやーやーやー、何言ってんだろね、美貴。おっかしいんじゃないの?」

 自分を自嘲するかのように美貴はすかさず自分に突っ込みを入れる。
 本来、他人に突っ込むのが早い美貴だったが、今回ばかりは自分に突っ込まざる
おえなかった。

「美貴たん?」

 まだ亜弥は驚いた顔で美貴の事を見つめている。
 こういう空気が、間が、とっても居心地悪い。
 相手が笑って返してくれるとか、そうでないと美貴は、いたたまれなくなってしまう。
 そうしたのは美貴自身であるのだが。
160 名前:第46話 投稿日:2004/05/11(火) 19:17
「そんな顔で見ないでくれる?美貴だって…自分で驚いてんだからさ!」

 美貴は、やたら早口で捲し立てた。
 ここまで来たら否定出来ない。する方が却っておかしい。

「美貴たん…」

 亜弥のその甘い声で呼ぶ声に、最初はキショイだのキモイだの悪寒が走ったものだ。
 それなのに、今は、その声で呼ばれると、美貴は、美貴は―――。

 亜弥の前にボーッと突っ立っている美貴は、亜弥の伸ばした手に引き寄せられ
そのまま亜弥の横にストンと落ちた。
161 名前:第46話 投稿日:2004/05/11(火) 19:18
「ぁ、ぁの…」

 凄く近くに亜弥の顔がある。たじろぐ美貴に、亜弥の腕の力がこもった。

「嬉しい」

 どきっとするほど素直な言葉だった。

―――別にね、まだ「好き」って言った訳じゃないしね。「気になる」ってだけだよ。

 そう返すつもりだったのに、亜弥の言葉に美貴は何も言えなくなってしまう。
162 名前:第46話 投稿日:2004/05/11(火) 19:18
「すっごく嬉しいよ」

 なんで、そんなにストレートに言えるんだろう?
 聞いている美貴の方が、すっごく恥ずかしくなってくる。
 でも、そんな言葉を言える亜弥が逆に羨ましくなる。
 そして、そんな亜弥がたまらなく可愛いと思う。

 だいたい、認めたくないけど、亜弥は可愛い。
 そんな亜弥に、嬉しいとか言われたら、やっぱり悪い気しないじゃん?

「松浦…」
「美貴たん…大好き」

 この時、何故だか亜弥の唇に目が行ってしまって…。
 亜弥はなんでも15分置きにリップを塗るとか前に言っていたのを思い出す。
 今だって、プルンプルンに艶やかに光っている亜弥の唇に、美貴は誘われるように
顔を近づけていった。
163 名前:第47話 投稿日:2004/05/11(火) 19:20
「……たん…」

 どのくらい唇を重ねていただろう。
 時間にしたら、数秒かと思うが、その時間は、かなり長く感じられた。

 唇を離して、美貴は顔を俯かせる。

 こんな事、自分からしておいて、もう言い逃れは出来ない。
 何も言わない美貴に、亜弥の方が口を開いた。

「ねぇ…まだ聞いてないよ?」
「…なにが?」
「美貴たんからの告白」
「…さっき言ったじゃん」
164 名前:第47話 投稿日:2004/05/11(火) 19:20
 美貴は足をぶらつかせながら、天井を見る。

「気になるしか言ってないよ」

 ドキ。確かにそうだけど。

「狡いよ。私にだけ言わせて」
「別に言えって頼んだ覚えはないけどさ」

 つい意地悪に返してしまう。
 だって、素直に言うなんて美貴のキャラじゃない。そんなの恥ずかしい。
165 名前:第47話 投稿日:2004/05/11(火) 19:21
「美貴たんは、気になるだけで、チュウしたりするんだ」

 意地悪そうな目で、でもそんな目が輝いていて、面白そうに美貴を覗き込んでいる。

「しないって!するわけないっしょ!美貴、そんなに浮ついてキスなんかしないもん!」

 思わずまた声を大きくして言ってしまって、美貴は顔を赤くする。

 その言葉に亜弥は至極嬉しそうに笑った。

「美貴たんは、素直に言葉に出してなかなか言えないんだよねぇ」

 にゃははと亜弥も足をバタバタさせながら口に手を当てて笑う。
166 名前:第47話 投稿日:2004/05/11(火) 19:22
 足、捻挫してんじゃないのかよ?思わず突っ込みそうになる美貴だったが
つられて笑うしかなかった。

「先輩を虐めて楽しいか?」

 美貴の今の精一杯の抵抗だった。
 彼女・亜弥の方が一枚も二枚も上手だった。

「そんな時だけ先輩ヅラしてもダメだから」
「実際、松浦より先輩だし!」

 美貴は偉そうに腕組みをする。
167 名前:第47話 投稿日:2004/05/11(火) 19:22
「美貴たんの気持ちはよぉぉっく分かったから」
「は?何が分かったって?」
「だから…」

 再び亜弥の顔が美貴に近づいてくる。

「な、なにさ」

 ドキドキ。悔しいけど、亜弥の顔が近づくとドキドキする。
168 名前:第47話 投稿日:2004/05/11(火) 19:22
「私の事、名前で呼んで?」
「ぁ、ぁぁ…」

 少し反応が違う美貴に、亜弥は首を傾げる。
 キスされるのかと思った美貴は、少しばかり微妙な声を漏らした後に続けた。

「今更言えるかよ!」
「美貴たんと松浦って、全然バランス取れてないよ?」
「別にねぇ、恋人同士って訳じゃないし、いいじゃん別に…」
「呼び方って大事だよ?」
169 名前:第47話 投稿日:2004/05/11(火) 19:23
 更に亜弥の顔が近づいて―――。

「…美貴たん?」
「…ん?」

 あまりに近すぎて焦点が合わない。
 少し亜弥が離れると、ようやくピントが合う。
 そして、亜弥はしたり顔でこう言った。

「さっき、キスするって思った?」
「……な…っ!!」

 慌てる美貴に、亜弥はとろけるほどのキスを返した。
170 名前:第48話 投稿日:2004/05/11(火) 19:24
 どうして女は気持ちが通じ合った時点で、あんなにも積極的になれるのだろう?
 いや、亜弥はそれ以前から、妙な自信と変な積極さは持ち合わせてはいたが。

 美貴は、亜弥を病院に送り届けてから、一人駅に向かい考えていた。

 そして、何か忘れていた事に気づく。

 それは―――。

「圭織!!」
171 名前:第48話 投稿日:2004/05/11(火) 19:24
 とたん、美貴は現実に引き戻される。

 飯田には、少ししたら行くと伝えたのは、もう数時間前の事。

「ヤバイじゃん」

 今日の昼過ぎに散々謝ってやっと許しをこうたのに、これでは元の木阿弥。
 電話をするのも、はばかられて、美貴は急いで飯田の家に向かった。
172 名前:第49話 投稿日:2004/05/11(火) 19:25
「大体、大袈裟なんだよね…」

 そう言いながらも病院を出る亜弥の顔は全然怒っていなかった。
 むしろ、笑顔満開である。
 病院でレントゲンをとり、念のためなんて大袈裟に松葉杖まで出される始末。
 そう、今、亜弥は松葉杖をついているのだ。

 さすがにそれで帰るのは辛いから亜弥は奮発してタクシーを呼んで家まで帰る事にした。

 タクシーの中でも、やたらニコニコしているのが分かるらしく、運転手に声をかけられる。
173 名前:第49話 投稿日:2004/05/11(火) 19:25
「病院からなのに、良い事あったの?」
「ハイ!運転手さんにもわかります?」

 バックミラー越しに笑みが零れる。

「わかるよ、なんだかこっちまで嬉しくなるよ」

 家に着くまで、亜弥の話は止まらなかった。おまけに少しタクシー代をまけてくれた。
 捻挫をしたのも不幸中の幸い、何が起こるか分からない。
 今日ばかりは、亜弥は神様に感謝したいくらいだった。
174 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2004/05/11(火) 19:26
更新しました。
次回で終わる予定です。ageやsageは気にしないで結構です。
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/14(金) 12:06
よかったねっていうのと同時に物凄く切ないです。
ミキティはしっかりけじめをつけられるのかな?(w
最後も楽しみにしています。
176 名前:第50話 投稿日:2004/05/28(金) 19:23
 亜弥が家に着く頃、美貴は丁度飯田の家に着いていた。
 亜弥と違って美貴の方は深く重い気持ちになっている。

 別に飯田の事が嫌いになった訳ではないし、むしろ今でも変わりなく好きである。
 ただ、亜弥の事も好きになっている自分に気づいてしまったから美貴は苦しんでいた。
 飯田に隠す事は不可能だろう。飯田もあれで割と勘が鋭い方だ。
 それに美貴は顔に、態度に出てしまうから基本的に無理なのだ。
177 名前:第50話 投稿日:2004/05/28(金) 19:23
 美貴がドアの前で躊躇っていると、ドアが自然と開いた。

「か、か、圭織!!」
「何そんな驚いた顔してるの?」
「や、やー、別に」

 部屋に通されたものの、居心地が凄く悪い。
 とにかく最初に謝らなければ………。

「あ、あのさ、美貴が帰ろうとしたらね…」
「仔犬でも拾った?仔猫でも拾った?」
「………」
「それとも…可愛い女の子…ぅぅん松浦さんを…」
「圭織…」
178 名前:第50話 投稿日:2004/05/28(金) 19:24
 いつもの美貴なら、そこで大声で否定するところだが、美貴は何も言えなかった。
 拾った訳ではない、それは語弊がありすぎる。
 でも、でも亜弥に声をかけてしまったのは、事実だから―――。

 美貴の態度に、飯田は、やっぱりと少しだけ哀しそうな笑みを残した。
 その表情が美貴に罪悪感を少しだけ与える。

 美貴を待っていた飯田。でも、その頃、美貴は亜弥と―――。
179 名前:第50話 投稿日:2004/05/28(金) 19:24
「そういう言い方、圭織らしくなくて嫌い」
「…そうだね。ごめん。ちゃんと話を聞く前から嫌な言い方だったね」

 そう言って寂しそうに笑う飯田に美貴の心は締め付けられた。

「べ、別にさ、圭織が謝る事ないじゃん。美貴が悪いんだから」

 なんだよ、この気持ち。怒るなら怒って欲しい。
 そうしないと美貴の気持ちは―――。
180 名前:第50話 投稿日:2004/05/28(金) 19:24
 美貴の心は揺れている。
 飯田は美貴を優しく抱きしめた。

「美貴。無理しなくっていいんだよ…」

 飯田の声がくぐもって聞こえる。
 そんな事言われたら尚更、美貴はどうしたら良いか分からなくなる。

 飯田と別れるつもりは、美貴にはなかったが、それは飯田の性格上許されるものではないだろう。
 それでも、美貴は飯田の事も愛していた。
181 名前:第50話 投稿日:2004/05/28(金) 19:24
「無理じゃない。圭織も好きなんだ…」

 飯田には甘えられる。これは本当だった。
 都合が良いけれど、飯田といると心が安らぐのだ。

「”も”か」

 飯田の微笑みが痛い。

「言い訳かもしんないけど、美貴は圭織の事が今でも好きだよ。大好き。
 でも、でも…松浦の事も……」

 美貴は言いかけてやめる。
182 名前:第50話 投稿日:2004/05/28(金) 19:25
「分かってたよ。今日の放課後、校庭を見つめる美貴の顔が優しかったもの。
 美貴が、遠からず、松浦さんの事を好きになることはカオには分かってたから」
「圭織……」
「カオ、アルバイトで占いもやってるんだけど、今回ばかりは外れて欲しかったなぁ」
「そんな話、聞いてないよ。名前は?」
「アターレ飯田」
「なんかうさんくさい名前だね…」

 美貴がすかさず突っ込む。
183 名前:第50話 投稿日:2004/05/28(金) 19:25
「何言ってんの。これでもちょっとばかし有名なんだかんね」

 小遣い稼ぎで始めた占いの方が実は結構儲かるなんて皮肉だと、飯田は苦笑まじりに
話してくれた。

「だから…これでバイバイだね、美貴」
「圭織…」
「美貴はカオの性格良く分かってるから言わなくても分かるよね?」

 自惚れてるかもしれないけど、圭織にも頑張って欲しかった。
 美貴が亜弥の方に行かないように引き留めて欲しかった。なんて言うのは都合が良すぎるだろうか。
184 名前:第50話 投稿日:2004/05/28(金) 19:26
「圭織は、やっぱり大人だね…。敵わないや」

 美貴は諦めに似たような眼差しで飯田を見つめた。

「当たり前でしょ。美貴より幾つ年上だと思ってるの?」
「えぇと…」

 美貴は指を折り折り声に出して数え始めた。

「実際やらなくていいから」

 美貴の指を包み込むと、飯田は美貴を抱きしめた。

「圭織…」
「物わかりの良い恋人でしょ?感謝しな」

 更に飯田は力をこめて美貴を抱きしめた。
185 名前:最終話 投稿日:2004/05/28(金) 19:26
 あまりにも、あっさりと飯田と別れた美貴は、まだ実感が沸かない。
 ホントに、これで別れたっていうのかな?

 美貴は首を傾げながら、駅に向かう。

 携帯を取り出し、亜弥にメールをしようとして美貴は気づく。

「あいつの電話番号もアドレスも知らないや…。ま、いっか」

 美貴は口に出し、携帯を再び折り畳んだ。嫌でも明日、また会えるんだから。
186 名前:最終話 投稿日:2004/05/28(金) 19:26
「いきなりあいつ呼ばわりかよ!」

 背後からいきなり突っ込む声を浴びせられる。
 その声は―――。

「なんで、いるんだよ!」
「まぁご挨拶。せっかく、たんの事待ってたのに」
「たんて……」

 振り返れば松葉杖をついた亜弥が立っていて、その杖で背中をグリグリ突かれていた。
187 名前:最終話 投稿日:2004/05/28(金) 19:27
「その足で来たの?」

 美貴は亜弥の傍にいくと、亜弥を支える。

「大丈夫だから。美貴たんの愛の力で、ほら!この通りっ!」

 そう言って亜弥は松葉杖を放り投げて足を上げる。

「ば、馬鹿!」

 慌てて美貴は亜弥を抱きかかえた。
188 名前:最終話 投稿日:2004/05/28(金) 19:27
「ね?にゃはっ」

 嬉しそうに亜弥は微笑み返す。

「にゃはっじゃないよ!」
「美貴たん、おんぶしてぇ?」
「甘えるなっ」
「怪我人には優しいんでしょ?美貴たん」
「ぅっ…。そういうのにつけ込むのは美貴、嫌いなんだよなぁ」

 美貴だって負けてはいない。
189 名前:最終話 投稿日:2004/05/28(金) 19:28
「チュウしてあげるから、して?ねぇ?してよぉ」
「分かったよ。別にキスは、いらないかんね!」

 特に後半は声を大にして強調する。

「かっわいい〜美貴たん。赤くなってるぅ〜。ホントは欲しいくせに」
「欲しくないわい!」

 くっ。まったく、あげるだの、してだの、欲しいだの。
 美貴、ホントにどうにかしちゃうかんね!

 シャイな美貴は、まだそんな言葉は到底言えそうにない。

 我が儘で可愛いお姫様・亜弥に、これから先振り回されそうな美貴だった。



                                  ― 完 ―

190 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2004/05/28(金) 19:28
>>175
レスありがとうございます。ミキティはけじめつけましたが…。
果たして、今後どうなりますか…?

一部は完結です。駆け足な感じで終わってしまいましたし、
飯田さんも物わかりの悪い人にしようかとも思いましたが…(笑)。
ただ、脇役の話が説明不足でしたので(高橋の話とか)、
引き続き第二部も始めようとは思っておりますが…。

それでは、また。
191 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/13(火) 17:52
遅くなりましたが、完結おつかれさまです。
ここの、いしよしにはかなりやられました。
引き続きがんばってください。
192 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:18
-1-

 亜弥と美貴が付き合い初めてから数週間が経った。
 しかし学園内では、薄々知られているものの堂々とは会ったり
していないので、全部には知れ渡ってはいない。
 
 美貴が亜弥と会うのは放課後。亜弥が部活を終えてからだ。
 それまでは、部に所属をしていない美貴は暇を持て余していた。

「だからってねぇ、いつまで此処にいる気なの?」
「だって、ここ居心地いいんだもん」

 此処とは、言わずと知れた飯田のいる美術室。

「ここにいる事、松浦さん知ってるの?」
「さぁ?言う必要もないしさ。聞かれたら答えるけど」

 美貴は呑気に答えながら窓から校庭を眺めていた。

「今日はもう帰るから。美貴も帰るか、どっか行ってくれる?」
「冷たいなぁ圭織は」

 美貴は肩を竦めると、はいはいと言った調子で手を軽く挙げた。
193 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:18
「もう美貴とカオは、何でもないんだからね」
「別にいいじゃん。美貴、今でも圭織の事好きだし…」

 そう言って抱きしめようとする美貴の手を飯田がすり抜ける。

「いい?何の為に、カオは、振られてやったと思ってんの?」
「ケチ」
「そういう問題じゃないでしょ?いいから今日は帰ってね」

 まだ飯田はぶつぶつ言いながら、美貴を追い出すと、鍵を閉めた。
194 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:19
-2-

 飯田と別れた後、美貴は、ひとみの彼女である梨華の方へと出向く。

「石川先生…」
「あら、藤本さん」

 美貴に気づくと、梨華は顔を上げた。
 いつも勉強熱心な梨華は、遅くまで学校に残っている。

「最近どうですかぁ?」
「どうってなにが?藤本さんも、どうなの?」

 梨華は動かしていたペンを置くと、美貴の方を見つめた。

「なんか付き合ってんだか、良く分からないんですけど」
「どういう意味?」
「美貴と松浦、まだキスしかしてなくて」

 いきなり本題に入る美貴に、梨華は慌てた。

「ちょ、ちょっと藤本さん。別に私は何も聞いてないわよ」

 ずり落ちそうになる眼鏡を必死で押さえると梨華は慌ててペンを持ち直した。

「そんな動揺しなくたって。先生だって、よしことしてるくせに」

 恥ずかしげもなく美貴は話しを続ける。

「藤本さん!そういう話しはこういうとこでしないで」

 シーッと鼻に人差し指を立てる梨華に美貴は笑顔になった。

「可愛いですね石川先生。よしこが惚れるのも分かるわ実際」
「藤本さん!」
「分かってますよ。もう帰りますから」

 帰り際、美貴は梨華に言った。

「最近、よしこが寂しいってぼやいてましたよ?では失礼しまっす!」

 取りあえず、ひとみが不満を口にしていた事を思い出し、美貴はそれとなく
梨華に伝えたから、少しは効果があるかもしれないと美貴は思う。
 これでも、友達思いなのである。

 美貴は、そのまま昇降口へと向かった。
195 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:20
-3-

「まだ時間あるなぁ。面倒だから今日はバックれようかなー」

 まだ練習に励んでいる亜弥を横目に美貴は文句を言った。

「バックれちゃダメですよ」
「うわ!」

 いきなり声がして美貴は慌てて振り返る。
 亜弥の友人の高橋愛が立っていた。

「ビックリすんじゃん。脅かすなよ。ていうかなんでいんの?」
「気づいて下さい。さっきからいたのに」
「えぇと…松浦の友達の高橋哀…」
「愛です!」
「まぁどっちでも…」

 と言った途端、愛のきつい視線が飛んだので美貴は慌てて言い直した。

「や、で、愛ちゃんだっけ。何の用?」
「用は特にないです」
「だったら声かけんなよ」

 そう言いかけて美貴は何か思いついたのか愛の腕を取った。

「な、なんですか?」
「そうだ。付き合ってよ。暇だから」
「ちょ、ちょっと!藤本先輩!」

 愛は腕を掴まれたままそのまま連れて行かれた。
196 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:20
 その光景をたまたま見ていたダンス部の後輩軍団。

「あれ、高橋先輩じゃないっすか?」
「連行されてるみたいですねー」
「噂の藤本先輩じゃないですかー」

 口々に言いたい事を言っている。

「愛ちゃん何かしたんかな?」

 黒髪でちょっとぽっちゃりの小川麻琴は呟いた。
 中学2年で愛の1年後輩にあたる。愛とは幼なじみ。

「高橋先輩になら連行されたいですけど、藤本先輩じゃ…」

 一番背の高い、おっとりした目の大きな道重さゆみは的はずれな事を言う。

「そうかね。れいなは藤本先輩の方がいいなぁ」
「れいなは藤本先輩と同じ匂いがするもんね」
「それどういう意味っちゃ!」

 れいなと呼ばれた子は八重歯のある亀井絵里に言い返す。
 三人は中一の同じクラスで仲が良い。

「とっても気になるので小川先輩、明日高橋先輩に事情聴取お願いします」

 えへと言わんばかりにさゆみは首を傾げて麻琴にお願いした。

「シゲさん直接聞けばいいのに」
「いや〜ん、高橋先輩になんて聞けませんよー」
「なんか良く分からないけど分かった。聞いておくよ」

 麻琴はドンと胸を叩いた。
197 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:21
-4-

 美貴に連れて行かれた場所は映画館。

「なんで私が…」

 納得いかない愛は、ぶつぶつ言いながらも、しっかり映画は見ていて、
しっかり涙まで流していた。
 
 しかし映画館から出て来ての美貴の感想は「期待したより面白くなかった」の一言。

 その一言で愛は、再び不機嫌に。

「大体、藤本先輩と私がなんで映画なんて見なくちゃいけないんですか!」
「暇だったからさー、いいじゃん別に」

 全く気にしない美貴は、また愛の腕を取る。

「お茶でも飲もうよ。ね、愛ちゃん」
「気安く呼ばんといて下さい」

 愛は美貴の腕を軽く振り払う。
198 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:21
「ぎゃは。どこの言葉それ?松浦も言ってたけど、面白いねー愛ちゃん」
「あのですね。私が言うのも差し出がましいんですけど、なんで私は『愛ちゃん』
 で、亜弥ちゃんの事は『松浦』なんですかっ?」

 喫茶店で落ち着いたところで、愛は珍しく突っ込みを入れた。

「あぁ、なんとなく今更『亜弥ちゃん』なんて言えないじゃん。
 最初は『松浦』だったんだし、松浦は松浦だし」

 美貴はおしぼりで顔を拭きながら、気持ちいいとまで呟く。

「おっさんですか?ホントにもう」

 愛はぶつぶつ言いながらテーブルを叩いた。

「随分さっきから攻撃的だなぁ。意中の誰かさんには、どうなの?」
「なぬ?」

 突然話しが振られて、愛はギョッとして動きが止まる。

「あ、あ亜弥ちゃんふじもん先輩に何か言ったと?」
「ふじもんじゃねぇよ!」

 美貴がムッとしながら突っ込み返す。
199 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:22
「もう、亜弥ちゃんのヤツぅ」
「ちょっと人の話聞いてる?」

 美貴は苛々しながら足を組み直した。

「その話は…先輩には関係ないですとから」
「だからどこの言葉だよソレ」

 美貴はからかって楽しいのか愛を笑い飛ばす。

「愛の言葉です!」
「訳わかんねぇ…」

 ゲラゲラ笑いながら、美貴は続けた。

「でもビックリしたよ。麻琴が愛ちゃんの幼なじみだったなんてね」
「ぇ…」

 いかにも麻琴の事を知っている風な美貴に愛は真顔になった。
200 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:22
-5-

 一通り今日までの仕事を終えると、梨華は眼鏡を外す。

「今日は、これまで。ご苦労様」

 自分に労いの言葉をかけて、梨華は伸びをした。

「石川先生…。まだいますか?」

 ノックをしながら、声がする。

「ひとみ?」

 梨華が立ち上がりドアを開けると、ひとみが立っていた。

「…どうしたの?」
「もうそろそろ帰る頃だと思ってさ。一旦、家に戻ってたんだけど、
 また制服来て迎えに来た」
「…あ、そう」

 先ほどの美貴の言葉を思い出して、梨華はひとみから目を逸らせた。
201 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:22
「あれ?どうかした?まだ終わらないの?」
「うぅん。終わって帰ろうと思ってたところ。タイミング良いね」
「そっか。良かった。梨華、お疲れ様。じゃぁ待ってるね」

 ひとみは笑顔になると、空いている椅子に腰を下ろした。

―――「最近、よしこが寂しいってぼやいてましたよ?」

「もぅ…」

 美貴の言葉が残っていて、座っているひとみを梨華はチラ見した。
 確かに最近、忙しくてひとみに構っていないのは事実だった。
 
 梨華は軽く頭を振ると、手早く着替えた。

――― 寂しいからって、どうすればいいのよ。

 梨華は、雑誌を読んでいるひとみに近づく。
 滅多に梨華から誘うような事はしないが、少し気になったので屈んで突然キスをした。
202 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:23
「…梨華?」

 突然で何が起こったか一瞬分からなかったひとみはキョトンとしている。
 そんなところが可愛くて思わず抱きしめたくなる。
 梨華はひとみの膝に乗ると、首と腰に手を回した。

「今日は…甘えていいから」

 梨華は顔を赤くしながらひとみの耳元で囁いた。

「梨華」

 ひとみは梨華にくちづけする。

「ん…っ。ぅ」

 久しぶりの本気なキスに、ひとみは早くも熱が篭もる。

「梨華ぁ…」

――― ちょっと、ひとみ?

 キスだけの筈が、なんだか盛り上がってしまい、それだけでは済まない
状況になっていた。
203 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:23
 くちびるから首筋へひとみが移動する。

「ぁっ。ひとみ…っ」

 制しようにも、ひとみは止まらない。梨華もだんだん気分が高揚してくる。
 ひとみを止めるつもりが、逆に抱きつく感じになってしまっていた。

 既に梨華のブラウスのボタンは外されていて、ひとみの顔が埋められている。

「ゃっ…」

 ひとみの手は梨華の太腿を押さえていたが徐々にその手は内腿へとスライド
していた。

「梨華。好き。大好き…」
「ひとみっ」

 梨華の下着に指を這わすと外側からでも既に梨華の場所は濡れているのがすぐに分かった。

「可愛いよ、梨華…」
「ぁん、だめぇ…」
「梨華凄いよ、もう、こんなに…」
「言わないで…」

 梨華は軽く息を弾ませながら、ひとみに抱きついた。
 久しぶりだったから、いつも以上に早く感じてしまう自分が恥ずかしくなる。

「梨華…梨華……」

 ひとみは名前を呼びながら、愛し続けた。

 梨華が果てたのは、それからすぐだった。
204 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:24
-6-

 亜弥がマンションに帰ると、そこには美貴の姿はまだなかった。

「もう、美貴たん、どこで道草食ってるのよ」

 すぐに美貴は捕まり、少し遅れて美貴は到着した。

「ごめん。思ったより長引いちゃった」

 あまり悪いと言った印象は受けない。

「どこ行ってたの?」
「松浦の友達の高橋愛ちゃんだっけ。ヤツと会ってたんだけどさ、
 面白いねーあのコ。何だか飽きないよ」
「愛ちゃんと会ってたの?」

 美貴に愛の話しはした事はあるが、どこで繋がるのだろう。

「愛ちゃん面白すぎ。一家に一台って感じだね」

 とても楽しそうな美貴を見て、なんだか面白くない亜弥。
205 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:25
「そんなに楽しいんなら、愛ちゃんと付き合えば?」
「え?なに怒ってんの?」

 笑う事を止め、美貴は亜弥を見る。

「別に怒ってなんかないもん。面白くないだけー」

 舌をべーと出して、亜弥は憎たらしい顔をする。

「あ、そ。じゃぁ美貴帰って、また愛ちゃんと会ってくるわ」

 美貴は再びドアへ行こうとする。
 亜弥は慌てて遮った。

「なに美貴たん。酷いよ」
「どっちが。大体、放課後、松浦と会うまでは誰と会ってようが
 美貴の勝手でしょ?暇なんだよ実際。だから愛ちゃんは暇つぶしには
 もってこいの相手」

 愛が聞いたら怒りそうな台詞である。

「愛ちゃん、今日は部活休みだったから、たまたまでしょ」

 さっきから自分よりも愛の話題ばかりで面白くない亜弥は、
まだ何か言おうとする美貴に抱きついてキスをした。

「っわっ。なに、いきなり…」
「もう愛ちゃんの話しはいいから!」
206 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:26
 もう一度キスしようとする亜弥に美貴は顔を背けた。

「フェアじゃないっつーの」

 およそムードの欠片もないキスに美貴は亜弥をソファに押さえ込んだ。

「嫉妬はダメだよ。亜弥ちゃん」

 さらっと言ってのけると、美貴は亜弥から離れた。

「亜弥ちゃん…」

 亜弥は初めて名前で呼んで貰えた事に、無意識に呟く。

「ん?嫉妬?…嫉妬じゃないもん!」

 亜弥は美貴の後ろから抱きつく。

「ぅげっ」

 バランスを崩す美貴に亜弥は体重をかけた。

「美貴たん、やっぱり好き」

 今度は美貴が倒れる番だ。

「頭打ったら、松浦のせいだかんね…」
「松浦…さっき、名前で呼んだのにー!」

 首を絞める真似をする亜弥に美貴は叫んだ。

「いいじゃんかどっちでも!」
207 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/08/02(月) 20:26
-7-

 そんなどたばたとした二人とは逆に久しぶりに甘いムードのひとみと梨華。
 ひとみは嬉しくてたまらない。

 家に着くまで嬉しくて、ひとみは梨華の手を離さなかったほどだ。

 ひとみがこんなに喜ぶとは思わなかった梨華は、忠告してくれた美貴に
少なからず感謝したかった。しかし、そこまで気づかなかった梨華は同時に反省した。
 それともう一つ悩む事があった。

 後かたづけをしていると、ひとみが後ろから抱きしめてくる。

「ねえ梨華。もう一回しようよ…」

 ほらきた。

 一度甘えさせると、ひとみの甘えん坊に火が点いてなかなか消えない事だ。

 ひとみの腕をほどき、梨華はひとみに向き直る。

「ひとみ。さっきしたでしょ?」
「それとこれとは別だよ」

 梨華の手を取り、にぎにぎする。

「あれだけじゃ梨華だって満足じゃないでしょ?もっと梨華を悦ばせたいし」

 そんな事を言われ、梨華の顔は再び熱くなる。

「もう、ひとみが満足してないんでしょ?」
「それもある…」

 ひとみの顔が近づきキスされた。
208 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2004/08/02(月) 20:29
続編始めました。ミキティを取り巻く仲間達みたいな感じですか。

>>191
ありがとうございます。いしよしは脇ですが、久しぶりに書いてみました。
209 名前:191 投稿日:2004/08/05(木) 12:07
脇のいしよしですがすごく良かったです。
ミキティのキャラもすごく良いです。
続編がんばってください。
210 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 18:54
-8-

 翌日、妙ににこやかなひとみの顔を見て美貴は内心苦笑いをしていた。

「ミキティおっはよう!気持ちの良い朝だね」
「おはよう、よしこ。元気だね」

 本当に分かり易い性格をしている。

「なんか、こう頑張ろうって気分になるね」
「あ〜ぁ、美貴にも分けて欲しいね、そんな気分」

 結局、昨日だって、どうでもいい喧嘩で時間が潰れてしまった。

「ミキティと松浦うまくいってないの?…なわけないか」
「なんていうかねぇ…進まないわけよ実際」
「ん?」
「まぁ朝からする話しじゃないね。そういうこと!」
「どういうこと?」

 美貴はひとみを置いて先に行ってしまった。

 教室へ向かわずに、そのまま飯田の所へ来る美貴に飯田はあきれ顔で迎えた。
211 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 18:55
「だからここは休憩所でもないの」
「だってこの時間授業ないでしょ?」

 勝手知ったる飯田の事は大体分かっている。
 やはり、まだ亜弥とより飯田といる方が慣れている分気持ちが楽だった。

「美貴、なんでしょっちゅうカオの所に来るの?」
「楽だし、圭織といると落ち着くもん」

 あっさり美貴は言ってのける。

「松浦さんに対して罪悪感とかないの?ないよねぇ、あったらこんな事しないもんねぇ」

 飯田は美貴の鼻に人差し指を押さえつけながら詰め寄った。

「だって付き合ってる感じしないんだもん松浦と」

 そう言って美貴は飯田の人差し指を掴むと飯田を引き寄せた。

「ちょ、ちょっと!」
「この絵の具の匂いとか好きなんだ…」

 美貴は飯田の白衣に顔を埋める。

「美貴。いい加減にしないと出入り禁止にするからね」

 そう言いながらも飯田も美貴を引きはがしたりはしなかった。
212 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 18:56
-9-

 休み時間に、亜弥は愛を屋上へ呼び出した。
 やはり、美貴とどんな話しをしたのか気になるからだ。

「私は被害者なんよ?いきなり腕掴んで映画館に連れていかれて」

 愛はブーブー文句を言いながらも、一部始終話してくれたが、亜弥が部活中に、
美貴とそんなデイトみたいな事をしていたのかと思うと、やはり亜弥は面白くない。

「愛ちゃん狡すぎ!私が汗水垂らしている時に!そんな羨ましいこと!
 もろデイトじゃん。ずるいずるいずるーい!」

 ストレートに愛に不満をぶつける。

「なんや勝手やで。藤本先輩。自己中すぎ。狡くもなんもないやよ」

 愛は抗議するが、亜弥の耳には入ってこない。
213 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 18:57
「愛ちゃん、もう美貴たんに会わないで」
「言われなくても、会いたくないやよ」

 しかし、美貴は愛を気に入った様子。
 それに、亜弥には詳しく言わなかったが麻琴との関係も気になるところだった。

「愛ちゃん、早くまこっちゃんとくっついてよ」

 亜弥まで勝手な事を言い出す。

「それは出来ひんて」

 くっつくもなにも、まだ何も始まってもいないのに不可能な事。
 それに昨日、美貴に「応援するよ」なんて有り難くない言葉も貰ったばかりだ。
 いや、有り難いのか?

 なんでも麻琴は一時期ダンススクールに通っていたのだが、その時、
美貴も同じく通っていたらしい。何とも嘘くさい話しだが、本人が言うので愛は黙って聞いていた。
実際、麻琴がスクールに通っていた事は愛も知っていたので強ち嘘でもないようだ。
214 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 18:57
 美貴にばれてしまったのは、愛も分かり易いぐらいに顔に出るからだった。

「大体、なんで藤本先輩に、私と麻琴の事言うの」
「うん、今思うと美貴たんに愛ちゃんの事話さなければ良かったって後悔してる」

 亜弥の重点は、とにかく麻琴ではなく美貴と仲良く?なった愛の方にあるらしい。

「とにかく、亜弥ちゃんは私の事は放置でいいから藤本先輩と早いとこしたって下さい」
「やだー愛ちゃん、早くするだなんて…」
「先に行くやよー」

 愛は亜弥を置いて、さっさと教室に戻っていった。
215 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 18:57
-10-

 昨日の愛の話しを聞いて、久しぶりに美貴は麻琴に会いに行った。

「美貴ちゃん、久しぶり!」

 屈託のない笑顔で美貴を見つめる麻琴に、思わず美貴もつられる。

「相変わらずだね、麻琴」

 そう言いながら校庭のベンチに腰掛ける。

「て言うか久しぶりじゃないんだけどね」
「どういうこと?」
「昨日、放課後、美貴ちゃんが愛ちゃん連れて行くとこ、たまたま見てね。
 あ、そうだ。その事について聞いておいてって頼まれてたんだった」

 ポンと手を打って麻琴は美貴に向き直る。

「映画見てお茶した。以上」

 素っ気なく言う美貴に麻琴は少し大袈裟に目を見開いて見せた。
216 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 18:58
「それってデイトってヤツですか?」
「はあ?なんで、そうなんだよ」

 ほんと美貴の周りのヤツは、どいつもこいつも的はずれな事しか言わなくて美貴を疲れさせる。

「暇だから付き合わせただけだよ」
「で、でも愛ちゃんとは知り合いだったっけ?」
「松浦から話しだけ聞いてたけど。そう言えば知り合いじゃなかったね」

 ハハハなんて笑い飛ばしながら美貴は答えた。

「さすが美貴ちゃん。馴れ馴れしいと言うか、そんなのはスクールの時に
 気づいてたけど、そうかー。でも説明しにくいなー」

 まだぶつぶつと頭をもたげて麻琴は腕まで組んでいる。

「説明ってなに?」

 美貴は苛々しながら聞き返す。
217 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 18:59
「愛ちゃんを好きな後輩がいてね、その後どうなったのか聞いてきてって頼まれたんさ」
「ふぅん。物好きもいるんだね…」
「美貴ちゃん!」
「あぁごめんごめん。愛ちゃんは麻琴の幼なじみだったね…」
「いいんだけどね。愛ちゃんに会う手間省けたし」

 あ。なんか悪い事したかな。と一瞬美貴の頭に過ぎったが気にしない事にした。

「その程度なんだ」
「うん。ていうか、愛ちゃんの方が私の事避けてるって言うか、最近はあんまり喋ってないなぁ。
だから久しぶりに話すきっかけあるかなって思ったんだけど」
「ふぅん」

 そんなので幼なじみって言えるのかなと美貴は思うが、段々疎遠になる事も
別に珍しくはないから美貴は敢えて突っ込まないでいた。

「話し変わるけどさ…美貴ちゃんて、まだ飯田先生と付き合ってんの?」
「は?」
218 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 18:59
 麻琴なら当然亜弥と付き合ってるものと認識していたのだが。

「結構、飯田先生に会ってるみたいだし」

 げ。見られてる?

「や。どうなんだかね」

 自分でも分からず曖昧に受け答える。

「どうって。確か、松浦先輩と…」
「どうなんだかね」
「美貴ちゃん?」
「もう美貴の事はいいじゃん。麻琴はどうなんさ?」

 今日は麻琴の探りを入れに来たのに、すっかり麻琴のペースになってしまっていた。

「どうって?好きな人いるかってこと?」
「そうそう」
「どうなんだかね」
「麻琴!」
「美貴ちゃんと同じ返しにしてみました」
「ち」

 上手くはぐらかされたような気になる。
 そしてチャイムが鳴り、麻琴は立ち上がった。
219 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 19:00
-11-

「一筋縄じゃいかねぇなぁ…」

 美貴はぶつくさ言いながら、屋上で時間を潰していた。

「いつまでサボってるの?」

 振り返ると、呆れた顔で飯田が立っていた。

「圭織…」
「最近、サボリ癖が過ぎるんじゃないの?少しは真面目に授業受けなさい」
「だって、つまんないんだもん」

 少なくとも飯田と付き合っている時は、そうでもなかったのに最近感じる
この空虚感はなんなのか美貴にも分からなかった。

「あなたたち、うまくいってないの?そんなつまんなさそうな顔して」
「一応心配してくれてるんだ」

 美貴は少し嬉しくなって飯田の顔を見る。
220 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 19:00
「一応、あなたの元カノですからね」

 飯田も言い返す。

「やっぱり欲求がたまるのってよくないんだね」
「なにそれ?」
「子供を相手にしてると疲れるよ」
「美貴も子供よ。じゅうぶん」
「圭織の前なら子供でもいいよ」
「美貴…?」

 美貴が真面目に飯田を見つめ返した。

「なに?」

 飯田はドキドキして聞き返した。

「うちらやり直せないかなぁ?」
「冗談っ」
「…だよね」

 美貴も期待していた訳ではないようで、あっさりと引き下がった。
221 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 19:01
「あ〜ぁ、なんで圭織と別れちゃったんだろ」

 美貴は爪を噛みながら呟く。

「その癖、いい加減やめなよ」

 飯田は美貴の指を掴んで注意した。

「あんまりカオの前に現れないでくれる?こっちも迷惑だから」
「圭織」
「だいたい、年下の彼女が出来て幸せな筈でしょ?
 毎日毎日、うちに来て愚痴と言うかのろけと言うか聞かされるこっちの身にもなってよ」
「圭織?」
「もぅ…金輪際此処に来ないでね!今度来たら、松浦さんに言うから」
「ちょっと、なんでそうなんの?」

 腑に落ちない美貴は飯田に異議をとなえるが、取り合ってもらえなかった。
222 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 19:01
-12-

「何回振られてんだろ美貴…」

 納得しないまま飯田と別れて、美貴は亜弥のマンションへと向かう。

 マンションのソファでごろごろしていると、亜弥が帰って来た。

「松浦お疲れ!」

 努めて明るく言うと、美貴は身体を起こし亜弥を抱きしめて出迎える。

「美貴たん。その呼び方、いい加減やめて…」

 それでも抱きしめてくれる美貴に亜弥は悪い気はしない。
 突然、ガバッと亜弥を引きはがすと美貴は言った。
223 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 19:02
「亜弥ちゃん!って、なかなか呼びづらくてね。なるべく言うようにはするけど」

 名前のところだけ早口で言って、美貴は目を伏せる。
 いつも生意気な美貴が照れてる姿が可愛くて、亜弥は、つい許してしまう。
 おかげで、いつまでたっても『松浦』から進歩しない。

「美貴たん、かわいい…」

 じっと見つめて亜弥は呟く。

「亜弥ちゃんの方がかわいいから!」

 いつも強気で突っ込み返す美貴も何の捻りもなく返す。

「たんが可愛いよ。大好き」

 亜弥に首に手を回されて美貴はキスされた。

「亜弥ちゃん…」
224 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 19:03
 キスなんて慣れてる美貴なのに、何故か亜弥の時は物凄く照れてしまう。
 これは、付き合い始めてからも変わらない。
 冗談で、キス以上進まないなんて言っているけれど、それ以上なんて、もってのほかで、
今の美貴には考えられなかった。

「今日は頑張って3回も『亜弥ちゃん』て呼んだよ。ほら、今の入れて4回」

 ほんとにどうでもいい話しをして、亜弥と時間を過ごす。
 飯田と大人の付き合いをしていた美貴には子供みたいな差だが、それでも美貴は満足していた。
225 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 19:04
-13-

 翌朝、飯田を見かけた美貴だったが声は掛けづらくて、そのまま素通りした。

「ミーキティ!おっはよ」

 後ろからひとみに肩を叩かれ振り返る。

「おはよ、よしこ」
「飯田先生となんかあった?」

 飯田の後ろ姿を見ながら、美貴とひとみは肩を並べて歩く。

「振られた」
「あ?」

 ひとみも、美貴と飯田が別れた事は知っていたし、それと関係なく、
相変わらず飯田と会ってた事も知っていた。

「2回も振られちゃったよ。確か圭織は、しつこいの嫌いだったみたいだし」

 振られた割に、あっけらかんとしている美貴。

「松浦と本気で付き合うなら、もう飯田先生と個別に会うのはよした方がいいと思うけどね」

 梨華一筋のひとみには、美貴の気持ちが理解出来なかった。
226 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 19:04
「やっぱり、そう思う?」
「やっぱりって分かってんなら、そうしなよ」

 強い口調でひとみに言われ、美貴は肩を竦めた。

「都合がいいかも知れないけどさ、美貴、圭織の事今でも好…」
「やめなって」

 言いかけてひとみに遮られる。

「たとえそうだとしても口に出して言うべきじゃない。松浦が可哀相だよ」

 ひとみはそう言うと先に行ってしまった。

「美貴だけ悪者かよ…」

 美貴はムッとしながら呟くが、見慣れた姿を発見すると途端ににやけて走り寄っていった。

「おっはよ!愛ちゃん!」

 愛の背中めがけて美貴は勢い良く突進する。
 声より先に美貴の身体が早くて、愛はよろめいた。

「いたっ。藤本先輩っ。なんなんですかっ朝からもぅ…」

 不機嫌な顔をさせながら、美貴をチラ見する。

「んなシケた顔しなくたっていいじゃんか」
「シケてて悪かったですねっ。先輩のお目当ては私じゃないでしょうに…」

 そう言いながら視線を移す。
 その視線の先には、亜弥がいて美貴をキッと睨んでいた。
227 名前:放課後の恋人2 投稿日:2004/09/20(月) 19:05
-14-

 自分よりも先に愛に目が行ったのが気に入らないらしい。
 ねちねちと亜弥は文句を言う。

「松浦…朝からそんな爽やかじゃないねぇ…」

 はははとから笑いをする美貴だが亜弥には通用しない。

「大体、美貴たんは気が多すぎだよ」

 少し諦めの色が見えて、亜弥は声のトーンを落とした。

「え?ぁ、亜弥ちゃん?」

 思わず亜弥ちゃんと呼んで、美貴は亜弥を改めて見つめた。

「もうチャイム鳴るから先に行くね」

 そう言い残すと亜弥はそそくさと廊下を走って行った。

「ちょっと!なんだよ一体…」

 美貴は、文句を言いながら亜弥の後ろ姿を見送っていた。
228 名前:ななしさくしゃ。 投稿日:2004/09/20(月) 19:07
>>210-227
更新しました。

>>209
ありがとうございます。一人でも読者がいれば何とかやっていけそうですw
物凄く更新が遅いですがお付き合い下さい。
229 名前:イチ読者 投稿日:2004/09/21(火) 02:24
更新お疲れ様です。
いやぁ〜待ってましたよ!ホント
それにしても美貴ちゃんは・・・一体どうなるんでしょうかね?
亜弥ちゃんも少しは大目に見てね・・・とw
230 名前:209 投稿日:2004/09/21(火) 19:26
更新お疲れ様です。
作者様のぺースでがんばってください。
231 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/12(土) 01:00
まだまだ〜

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