スピカ
- 1 名前:Am 投稿日:2003年08月28日(木)22時35分36秒
- 気の向くままに短編書きます。
もしかしたら中編も書くかもしれません。
書かないかもしれません。
たぶん五期、六期が中心です。
- 2 名前:愛と俺 投稿日:2003年08月28日(木)22時36分12秒
- 俺の名前は花村勇。高校三年生だ。
自慢じゃないが、武道にはかなり自信がある。
顔もまあ、悪くはない。
今は友達の家でバカ騒ぎした帰りだ。
暗い道で、何人かの男が固まってつったっている。
その中心には、女の子。
それを理解した瞬間、俺は男たちに向かって走っていた。
昔からこういうのは許せない性質なんだ。
「おいお前ら何やってんだ! その子を離せ!」
「ん、なんだこいつ。お前ら、やっちまえ」
182センチの俺より図体のでかい男がまわりの男に命令した。
「うりゃぁぁぁ」
「フン、声だけはいっちょ前だな」
俺はそいつらのパンチをかわし、3人を3発で仕留めた。
- 3 名前:愛と俺 投稿日:2003年08月28日(木)22時36分47秒
- 「ほぅ、やるなこの野郎。だがお遊びはここまでだ」
残った図体のでかい男は、ポケットからナイフを取り出して言った。
「死ねっ」
すかさず俺は身をかわし、男の手首をつかみ、捻った。
「ナイフなんかで俺を殺せるとでも思ったのか」
男はナイフを落とした。
そして俺が手を離すと、「覚えてろ!」と捨て台詞を残して走り去っていった。
「あ、あの、ありがとうございます・・・」
「いや、気にしないで。それよりちょっと怪我してるね。
うちおいでよ。手当てしてあげる」
「ありがとうございます」
一週間がたった。
俺はあの女に告られ、付き合うことになった。
名前は高橋愛と言うらしい。
今日は、俺の車でドライブする予定だ。
俺は高校生だが、バイトで貯めた金で、学校に秘密で免許を取り車も持っている。
予定の時間より少し早かったが、約束の公園に愛はいた。
「おう、待たせてゴメンな」
「いいよ、気にしないで! それより、いい車だねー」
「ああこれ? バイトした金で買ったんだよ」
「バイトで? スゴーイ!」
「そんなことないよ」
- 4 名前:七等星 投稿日:2003年08月28日(木)22時37分18秒
- 俺たちは海沿いにしばらく走り、近くのコンビニで飯を買い、車の中で食べた。
「こういうのもいいね。コンビニの弁当がおいしく感じる」
愛ははにかんだ笑顔で言った。
最高に愛しい笑顔だった。
食べ終わって談笑していると、ふいに俺の唇が、彼女の唇で覆われた。
それは唐突で、今まで俺が付き合ってきたどの女のそれよりも甘かった。
長い時間、それは離れなかった。
頭が痺れるような接吻だった。
しばらくして、愛は唇をそっと離し、悪魔的な美しさのある笑顔を浮かべた。
そして、言った。
「ふふ、ごめんね急に」
「いや・・・、うれしかったよ」
「はいこれ、お口直しに」
愛は笑って、さっきまで彼女が飲んでいたお茶の缶を差し出した。
「ありがと」
俺は、ありがたくそれを頂いた。
これは二度目のくちづけになるんだろうかと、少しだけ考えた。
「ちょっと、お手洗い行かせてもらっていい?」
「ああ。・・・俺も行こうかな」
愛とそろって車を出、近くの公園のトイレに入った。
- 5 名前:愛と俺 投稿日:2003年08月28日(木)22時38分13秒
- 用をたして外へ出た。
愛はまだのようだ。
俺はとりあえずそばにあった、この海の説明書きのようなものを眺めた。
昔の言い伝えとか、戦争の時のエピソードとかが書いてある。
それを読み終えても愛は出てこなかった。10分は経ったはずだ。
もしかしたらもう車に戻っているのでは。
そう考え、車に戻った。
車にはいなかった。
どこへいったのだろうか。また変質者にでも絡まれていたら大変だ。
そう考え、あたりを探そうとした時、愛の座っていた助手席に、小さな紙切れがあるのを見つけた。
手紙だった。
俺はそれを広げて読んだ。
- 6 名前:愛と俺 投稿日:2003年08月28日(木)22時38分53秒
- −−−−
6年前、私は交通事故で妹を亡くしました。
妹はまだ小学校二年生でした。
父と、遊園地に行く途中でした。
家を出てすぐの狭い道を走っていて、十字路の信号が青なので通過しようとしたら、
信号無視をした車に激突されたのです。
車は左側にぶつかりました。
私と父はなんとか助かりましたが、
助手席にいた妹は、即死でした。
車は、すぐに逃げるように去っていきました。
私は運転手の顔は見ましたが、ナンバーまでは見ることができませんでした。
運転手は捕まりませんでした。
私はどこにもぶつけることのできない、大きな、
焼けた鉄のように熱い怒りのはけ口を、
動物虐待に見出しました。
しかし、野良猫や野良犬を殺すと、それが見つかったとき大変な騒ぎになります。
そこで私は虫を殺すことを覚えました。
虫なら、どれだけ大量に殺したところで、どれだけ残虐に殺したところで、
周りが騒ぎ立てることはありません。
見た目は幼稚園児の無邪気な残虐さと変わりはないけれど、
実はそれは「残虐な自分」に快感を覚えるための行為でした。
そしてそのころ、私はあなたと出会いました。
私にとってあなたは心の支えとなりました。
−−−−
- 7 名前:愛と俺 投稿日:2003年08月28日(木)22時39分32秒
ここで一枚目は終わっていた。
俺はもどかしい気持ちで、二枚目を開いた。
- 8 名前:愛と俺 投稿日:2003年08月28日(木)22時40分03秒
- −−−−
なんて手紙でまで嘘をつくのはやめにしましょう。
そう。車の主はあなたの兄でした。
私はそれにあなたを始めてみた瞬間から、うすうす感づいていました。
そしてあなたの近辺を調べて、やはりそれが事実であることを突き止めたのです。
あなたの兄は私の妹を殺しました。
そして逃げ去り、今はのうのうと暮らしています。
あなたの兄には、私と同じ苦しみを味わってもらいます。
あなたにさっき飲ませたお茶には、毒が仕込んであります。
だんだんと苦しくなって、最後には呼吸困難になって死ぬでしょう。
あなたには申し訳ないですが、諦めてください。
それでは。
天国の妹によろしく。
−−−−
- 9 名前:愛と俺 投稿日:2003年08月28日(木)22時41分01秒
- ・・・くそっ、肺が苦しい。
愛の言っていたことは本当のようだ。
しかしこんな理不尽なことがあるか!
愛の理論からすれば、俺には愛を殺す権利がある。
しかし、動けなかった。
足が麻痺していた。
そのうちこの麻痺が呼吸器にも及んで、俺は死ぬのだ。
うっ
苦しい 胸が苦しい 苦しい苦しい苦しい
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい
だれかたすけて だれかたすけてだれか・・・
―――――――――――――
The end.
- 10 名前:Am 投稿日:2003年08月28日(木)22時42分11秒
- 一個目おわり。つぎ。
- 11 名前:冷たい頬 投稿日:2003年08月28日(木)22時43分04秒
- 「人、殺しちゃった……」
電話越しで、しかも傘にあたる雨の音にまぎれてはいたが、それは間違いなく梨華の声だった。
人を殺した? どういうことだろうか。
「ど、どうしたの?」
「美貴、とにかく来て。お願い」
「え……、もう一時だよ?」
「うちの近くの神社だから。待ってる」
「ち、ちょっ……」
私の返事を待たずに電話は切れた。
何が起きているんだろうか。聞き間違いか何かだったのではないか。
一瞬の逡巡の後、壁に掛かっていたコートを取り、階段を駆け下り玄関を飛び出した。
春の雨は冷たく、おそらくは今満開の桜を散らしながら、降り続いていた。
何もかもが鋭く、冷たく、青い夜だった。
歩いても三分とかからない神社へと、コートの裾が濡れることも気にせず走る。
そしていつもと変わらぬ神社の境内の木立の中に、傘も差さずうずくまっている影と、
木の根元に座り、足をだらしなく前に伸ばし、がっくりとうなだれている影を見た。
- 12 名前:冷たい頬 投稿日:2003年08月28日(木)22時43分40秒
- 「梨華!」
私は思わず言った。
「美貴……」
梨華は焦点の定まらない目で私を見ようとした。
私はその梨華の目をしっかりと見、その冷たい雨に濡れた顔に触れた。
冷え切っていた。まるで人間の肌とは思えなかった。
そして一種、美しい冷たさだとも思った。梨華の美しさを、この冷たさが引き立てているような気がした。
梨華の着ていた服はすでに重たく水を含んでいた。
うちに帰って着替えろと言った私に、梨華はさっきから動かないもうひとつの影を指差した。
私は傘を梨華に渡し、しゃがんでその顔を覗いた。
見覚えのある顔だった。
梨華の、彼氏だった男だ。
蒼白になりうなだれた顔の、鼻と下唇から水滴が垂れている。
こちらはもう二度と温もりを取り戻すことのない、終わりの冷たさだ。
- 13 名前:冷たい頬 投稿日:2003年08月28日(木)22時44分12秒
- 腹には、小さなナイフが、当然そこにあるもののように刺さっていた。
抜いていないため出血は少ないが、それでも下腹部とズボンの腿のあたりまでを朱に染めている。
「梨華は、どうするつもりなの?」
私は言った。息が白かった。
「わからない。どこかに隠す」
「隠す、か」
自分でも可笑しいくらいに冷静だった。
車はないし、大きな旅行用トランクのようなものもない。
神社から出るには道路に出るのだから、深夜とはいえ他人に見つかる可能性が高い。
ここから、動かせない。
「わかった。ここに埋めよう」
「え……」
私は目の前の桜の木を見上げた。
時々花びらを散らしながら、それでもまだ多くの花を抱えながら、悠然と立っていた。
この桜の木の下に、死体を埋めるのだ。
- 14 名前:冷たい頬 投稿日:2003年08月28日(木)22時44分57秒
- 境内の隅にある倉庫からスコップを二つ持ち出し、
死体をわきに寝かせて、桜の木の根元を私と梨華はただ黙々と掘った。
穴は完成した。スコップを置き、死体の足と肘を二人で持った。
不意に、死体の頬に視線が止まった。
桜の花びらが、死体の冷たい頬についていた。
取ろうかとも思ったが、そのままにしておいた。
男の死体を穴に入れ、土を被せていった。
不意に風が桜の木を揺らし、花びらが盛大に二人の周りに舞った。
- 15 名前:冷たい頬 投稿日:2003年08月28日(木)22時45分38秒
- 終わり。タイトルも完璧です。
- 16 名前:Am 投稿日:2003年08月28日(木)22時50分14秒
- ごめんなさい。
スピカさんとはなんの関係もないです。
ただのしがない一作者です。
- 17 名前:待ち受け画面 投稿日:2003年08月28日(木)22時59分26秒
- 「うわぁーん、あさ美ちゃんのバカ!」
「ちょっと、泣かないでよ……」
私は呆れてまこっちゃんの頭をなでた。
しかし効き目はまるでなく、逆に思いっきり涙目でにらまれてしまった。
「じゃあ抱っこしてあげるから、ね?」
「イヤ。携帯見せて」
「それは無理だよぉ。ほら抱っこ抱っこ」
まこっちゃんはのそのそソファーから立ち上がって、
私の膝の上に腰掛けた。
「でもこんなんじゃ許さないからね」
「ええー、じゃあ降りてよ……」
「あさ美ちゃんが携帯見せてくれたら」
「ええ……」
「ほら、ためらうってことはなんかやましいことがあるんだ」
「や、やましくなんかないよ!」
「じゃあ見せて」
「う……」
この携帯はどうしても見せるわけには行かない。
かといってそれでまこっちゃんが納得してくれるとも思えないし…。
- 18 名前:待ち受け画面 投稿日:2003年08月28日(木)23時00分05秒
- 「あさ美ちゃんのバカ……。やっぱあさ美ちゃんは私のこと嫌いなんだ……」
まこっちゃんは立ち上がって言った。
「そうじゃないよ!大好きだよ!」
「じゃあ携帯……」
どうすればいいのだろう。
素直に見せてしまおうか。
いや、そんなことはできない。
こうなったら……
「ねえまこっちゃん、かぼちゃケーキと私の携帯だったらどっちとる?
「かぼ……美ちゃんの携帯」
ちっ。ダメか。それより誰だよかぼ美って。
「よーしじゃあ、かぼちゃプリンもつけて、送料、金利はあさ美ネットが負担で、
100円の一括払い!」
「あさ美ちゃんの携帯つけてくれるなら買う」
「つけないよ!」
なかなかしぶといな。この食いしん坊は。
今のは会心の一撃だと思ったのに。エスタークも倒せると思ったのに。
完璧だったのに……。
「じゃあさー、私に腕相撲で勝ったら見せてあげる」
まあ、勝てるわけないけど。
がしかし、まこっちゃんは本気だった。
「よーし、じゃあいくよ!レディー、ゴー!」
- 19 名前:待ち受け画面 投稿日:2003年08月28日(木)23時00分44秒
バン!
嘘……。
細いくせに力は強いから、亀仙人ってあだ名つけられそうになった私に勝つなんて……。
ボクシングで負けた選手のようにソファーにうなだれる私のポケットから、
まこっちゃんはサッと携帯を取った。
そして、開いて……。
まこっちゃんの顔がみるみる赤くなっていった。
「あわわわわわわ」
私の顔も、やっぱり赤くなっていることだろう。
触らなくても頬が熱を帯びているのがわかる。
だって携帯の待ち受け画面には、ハートに囲まれたまこっちゃんがいるんだから。
- 20 名前:待ち受け画面 投稿日:2003年08月28日(木)23時01分20秒
- まこっちゃんは何事もなかったかのように携帯を閉じ、私のポケットに入れた。
「あさ美ちゃん」
「な、なあに?」
「抱っこしてあげるから、おいで」
私は顔から火を噴出させたまんま、まこっちゃんの膝の上に座った。
「えへへ。疑ってゴメンね。これはその償い」
そういいながら静かにソファーの上で揺れる彼女。
が、突然、それがとまった。
「あさ美ちゃん」
「ん?」
「……かぼちゃバカって誰のこと?」
なんだよ。さっき携帯返したんじゃないのかよ。
こめかみに汗がたらりと流れるのを、私は感じた。
- 21 名前:Am 投稿日:2003年08月28日(木)23時02分00秒
- 終わり。
- 22 名前:ボレーシュート 投稿日:2003年08月29日(金)22時57分09秒
- 左ミットフィルダーである田中の足元に、道重からのパスが過剰な期待と一緒に送られてきた。
田中はそれを落ち着いて捌き、走り出す。
右から走ってきた相手の選手を右へ切り返して抜き、
さっきまでその選手が付いていたフォワードの亀井に鋭いパスを送った。
亀井はそれを振り向きながら受け取り、相手キーパーに向き合う。
しかし次の瞬間、相手ディフェンダーの足がボールをこぼし、それをまた別の選手がクリアーした。
田中は時計を見た。前後半20分ずつ計40分のうちの30分がすでに過ぎている。
試合開始直後の痛恨の一点が、また田中の脳裏に浮かび上がって胸を締めた。
いまだ0対1のまま動かぬ試合に、焦慮にかられて足がうまく動かない。
せめて悔いの残らないようにしたいのに、なんということだ。
- 23 名前:ボレーシュート 投稿日:2003年08月29日(金)22時57分43秒
- 相手のゴールキックから繋がって田中のマークしている眉の濃い少女へパスが出された。
それは田中が狙っていたことだ。
わざと彼女から離れたところにいて相手のパスを誘い、サッと飛び出してそれをカットする。
田中の得意技だった。
成功して周りを見ると、相手側はうまい具合に攻撃態勢に入ろうとしていたところで、
どの選手も瞬時に切り替えはできていない。
それをいいことに、田中は敵の間隙を縫ってゴールへ驀進した。
田中は、サッカーはうまくなかった。
パスのセンスはあるものの、シュートもドリブルも、才能がなかった。
それが、正式な試合のレギュラーになれるまでになったのは、まったく同じようなタイプの選手である、道重のせいだ。
「おかげ」ではない。「せい」だ。
- 24 名前:ボレーシュート 投稿日:2003年08月29日(金)22時58分47秒
- 昔、同じマンションに引っ越してきた道重に、転校生に真っ先に近寄りたがる田中は、自分の所属しているサッカーチームのことを教えた。
そして道重はサッカーを始めることになったのだが、
パスやパスカットのセンス、シュートやドリブルの不得手など、本当に田中と似た選手だった。
それに二人が気づいてから、二人は幾度となく勝負をし、勝つために練習にも身を入れた。
PK対決はもちろんのこと、やはり同じマンションの亀井にキーパーをやってもらい、ひとつのゴールで勝負をすることもあった。
大勢でやる鳥かごと呼ばれるゲームでも、二人は競い合っていた。
自然、ドリブルやシュートの技術もつき、いつのまにか田中も道重も、サッカーに夢中になっていた。
- 25 名前:ボレーシュート 投稿日:2003年08月29日(金)22時59分25秒
- 田中はすでに敵二人を基本的なフェイントでかわし、すでにシュートできる位置にいた。
だが、やたら腕の細いキーパーの鷹揚とした態度に、シュートが躊躇われ、急にゴールが縮んでゆく錯覚にとらわれる。
ここに来て弱気になるなんてどうしたんだ、田中。
そう自分に呼びかけてみても一向にシュートが打てない。
やけくそで打つか…、と思った、
その時だった。
「はい!」
聞きなれた道重の声が、他の錯雑した音声を貫いて耳へ飛び込んできた。
同時に、見慣れたサッカー用ソックスを穿いた足が視界に入る。
さゆみなら、大丈夫だ。よきライバルであり、親友である、さゆみなら…。
田中は、最後の希望を賭けたパスを、道重へと送った。
- 26 名前:ボレーシュート 投稿日:2003年08月29日(金)22時59分56秒
- 27 名前:ボレーシュート 投稿日:2003年08月29日(金)23時00分31秒
- 夕日は最後のひとかけらを溶かしきり、地平線へと沈んでしまった。
しかしセミの鬱陶しいほどの泣き声は止むことを知らない。
時々初夏を感じさせる風が、少女たちの髪を揺らし、
遠くでは未だに続く試合の歓声が響いている。
その中で意気消沈した少女たちは一言も発さず、黙々と帰り支度を整えていた。
「よく頑張った。悔いはないだろう」
そう言って先生たちは励ましたが、返事をするものすらいない。
土埃にまみれたままあるいは階段、あるいは花壇に座り、俯いたままだ。
不意にその中の一人の少女が泣き出した。
その腕の細いキーパーだった少女につられたのか、隣にいた眉の濃い少女も、土に涙を染み込ませ始める。
涙は、胸の奥につねられたような痛みを伴い、止めようとすると溢れ出て、燦然と輝いていた。
- 28 名前:ボレーシュート 投稿日:2003年08月29日(金)23時01分15秒
- 29 名前:ボレーシュート 投稿日:2003年08月29日(金)23時02分04秒
- あの時田中の出したパスは、道重の得意なボレーシュートを撃たせるために浮いたボールだった。
ボレーの成功率は低いが、道重はそれを待っていると、田中は信じていた。
そして、それを待っていたかのように、道重はダイレクトで合わせ、ボールをゴールへ突き刺した。
立て続けに、今度は田中が、右サイドから揚がったセンタリングに頭で合わせ得点した。
先生は最後まで諦めなかった二人を激賞していたが、田中と道重はそれすら聞こえないほどに、喜び、泣いていた。
もちろん、他の選手たちも。
「……あはっ、変な顔」
「いいの、あたしは泣き顔も可愛いと思ってるから」
「バッカじゃないの」
「そのバカに最後にパス出したの誰だっけ?」
「……バカ」
田中は思わず、汗と土埃でベトベトになった道重の体を抱きしめた。
- 30 名前:Am 投稿日:2003年08月29日(金)23時02分35秒
- 終わり。
- 31 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)11時30分07秒
- 個人的に一番好きなのは「待ち受け画面」でした。思わずニヤケてしまう(w
でも続きが気になるのは「愛と俺」だったりします。
この後どうなるんだろう。。。続きまってます(ドキドキ
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)11時51分28秒
- 愛と俺みたいなの、もっと読みたい
- 33 名前:冷たい抱擁と接吻 投稿日:2003年09月01日(月)06時04分50秒
- 透き通った綺麗な瞳が私を見ている。
その瞳の中に私が映っていて、その私も私を見ている。
私が手を上げて彼女の頬に触れると、彼女は妖しく微笑む。
足元でピシャッと水音がする。
彼女が私に近づくために足を動かしたから。
言葉を交わすべきだと思うけれど、それは叶わない。
なぜなら、唇が塞がれているから。
彼女の唇で。
しばらく互いをぐちゃぐちゃに掻き混ぜ、離れると、
唾液の雫が下に落ちて行く。
中途半端に口をあけたまま、再び私たちは見つめあう。
もう、言葉は要らない。
二人がここにいることが全てだから。
- 34 名前:冷たい抱擁と接吻 投稿日:2003年09月01日(月)06時05分20秒
- 彼女は服を脱ぎ始める。
私もそれにならう。
全裸になり、再び向き合う。
それから、強く強く抱き合う。
二人が一つになれるように。
そのままずっと抱き合っていう。
一つにはなれなかった。
構わない。
今目の前にいる人は私のものなのだから。
その茶色く少し傷んだ髪も、
妖しく怜悧な目も
小さな鼻も、
私の味を知っている口も、
汗の匂いのする首も、
私が味を知っているあの場所も。
だんだんと海水の水面はせりあがってくる。
だがさっき足元を固定したために私たちは動けない。
これでいい。
- 35 名前:冷たい抱擁と接吻 投稿日:2003年09月01日(月)06時05分55秒
- 顎までが海水に浸かっている。
笑えるくらい落ち着いて私はその光景を見ている。
「麻琴……」
私は言って彼女を再び抱きしめる。
しかし彼女は私の腕をするっと抜け、海中に沈む。
しばらくして、彼女の足を固定していた器具を持って浮かび上がる。
「ごめんあさ美ちゃん。私やっぱり死ねない」
彼女は泳いで砂浜へあがり、服を持って私たちの乗ってきた車へと走る。
……麻琴のバカ。
波が私の顔に押し寄せる。
遠くなる意識の中で、車が爆発する音を私は聞いた。
- 36 名前:Am 投稿日:2003年09月01日(月)06時06分39秒
- 終わり。完璧です。
- 37 名前:Am 投稿日:2003年09月01日(月)06時10分43秒
- >>31さん
ありがとうございます。
そのうち気が向いたら続き書くかもしれません。
その時はよろしく。
>>32さん
ありがとうございます。
やはりそのうち似たようなのを書くと思われます。
期待しないでお待ち下さい。
- 38 名前:中三の夏 投稿日:2003年09月02日(火)20時27分24秒
- 親友の篠塚信太郎に、彼女ができたと聞かされたのはいつだったろうか。
確か雅人がまだ部活をやっていた頃だから、二ヶ月以上は前だ。
いや、紹介された時彼女は冬服で、二人きりの時信太郎が、
「はやく夏服になんねぇかな……」
などと言っていた記憶があるから、五月か、もう少し前と言ったところだろう。
その信太郎の彼女、れいなが今雅人の目の前にいる。
雅人にまだうまく事態が把握できずにいた。
今日の塾の夏期講習の最中だった。
同じ授業を受けているれいなが近づいてきて、
「今日の帰り、公園で待ってて」
と囁いて行ったのだ。
雅人とれいなはほとんど面識も無く、
まして喋ったことなど全く無かった。
そんなれいなが何故、自分を呼び出したりしたのか。
雅人はまず、眼前のれになにそこから訊いてみた。
「恋愛って、悲しいものなの……」
れいなは恥ずかしげも無くそんなことを言った。
- 39 名前:中三の夏 投稿日:2003年09月02日(火)20時27分54秒
- 「私は、信太郎から心が離れてしまったの。
もう好きじゃなくなってしまった」
夏の強い日差しが肌を侵食していた。
しかしそのせいだけではない眩暈を、雅人は感じた。
れいなは、淡々と続けた。
「私には新しく好きになってしまった人がいる」
「そうか……。でも、信太郎はそんな未練たらしい男じゃないぞ」
やんわりと反抗したつもりだった。
どういうつもりで雅人にそんなことを言っているのか知らないが、
れいなは自分の親友を捨てようとしているのだ。
「わかってる、わかってるよ」
「じゃあなんなの?」
数ヶ月付き合っていた彼氏を捨てる女のいいわけを、雅人は鼻で笑ってやるつもりだった。
- 40 名前:中三の夏 投稿日:2003年09月02日(火)20時28分48秒
- 「あなたが好きなの」
雅人の中で、時が止まる。
笑えなかった。
今まで女性と付き合ったことはおろか、告白されたことすらない雅人は、
そんなこと言われるとは夢にも思っていなかった。
そして言われても、すぐには信じることができなかった。
思わず周りを見回し、信太郎が近くにいないかどうか確かめた。
なんかのドッキリじゃないかと疑ったのだ。
公園は狭くなく、遊具や垣根で隠れるところはいくらでもあった。
しかたなく雅人はれいなに向き直った。
「どういうつもりだ。信太郎とは別れたのか?」
体の大きい雅人には、自分がこういうふうに言ったら相手は怖がるとわかっていた。
しかしれいなは臆することなく言った。
「今はまだ。でも、もしあなたの答えがノーでももうすぐ別れる」
汗が顎から地面に垂れるのを感じた。
それが焦燥からなのか、ひりひり擦り込まれるような太陽のせいなのかはわからない。
- 41 名前:中三の夏 投稿日:2003年09月02日(火)20時30分13秒
- 「とりあえず、日陰に入ろう」
時間稼ぎに雅人は言い、公園の隅の木の下のベンチを目指し歩き出した。
二人が座ると同時に、その木に止まっていた蝉がが何処かへ飛んで行く。
溜め息をついて、まず何を言えばいいのか考えた。
……そうだ。問題は単純だ。
親友をとるか、女をとるか。
そもそも雅人はれいなのことが好きだったわけではないけれど、
れいなはそれなりに可愛い。
それまで恋愛経験の無い雅人からすれば雲の上の人だ。
爽やかな透明な風が辺りを駆け抜けていった。
汗がすっと引いていくのを雅人は感じた。
相変わらず蝉の鳴き声は驟雨のように降り注いでいて、
それが雅人の心をひたすらあおっていた。
「……ごめん、今日は帰る。また今度」
言って雅人は駆け出した。
- 42 名前:中三の夏 投稿日:2003年09月02日(火)20時30分46秒
- 家に帰って落ち着くと、何故か信太郎の方に天秤が傾いた。
というより、あれはたちの悪い嘘で、考えるだけ馬鹿らしいと、
直っていない傷口を無理やり縫い合わせるように仕舞い込んでしまったのだ。
そして翌日、昨日のことなど半分忘れかけて塾へ向かった。
れいなを見たとたん、昨日のことがフラッシュバックのように思い出されたが、
気にせずいつも通りに友達と喋りいつも通りに帰る……つもりだった。
帰り際、再びれいなに呼ばれた。
昨日の公園、昨日のベンチ、昨日と同じような暑さ。
まるであ昨日の続きのようだ、と雅人は思った。
「少しは考えてくれた?」
その笑顔はやはり綺麗で。
気づけば必死に信太郎への言い訳を探している自分がいることに雅人は気づいた。
そしてついに、れいなの堕天使的な笑顔に、雅人は引き込まれていった。
「お……、俺でよければ……」
後から考えると、それはまさにれいなの魔法とでも言わなければ理解できなかった。
友情か恋愛か、がいつのまにかれいなをと付き合うか付き合わないかに変わっていた。
- 43 名前:中三の夏 投稿日:2003年09月02日(火)20時31分42秒
- 夏休みで信太郎に会わなくていいのが幸いだった。
それをいいことに雅人とれいなは逢瀬を重ねた。
しかし、夏休みもあとわずかと言うところになって、雅人はなんとなく何かが違うと感じ始めていた。
信太郎はまだこのことを知らない。
れいなとはお互い受験生ということで、夏休みはほとんど会っていない。
新学期が始まれば、信太郎との友情はどうなってしまうのか……。
それは想像するだけでも恐ろしかった。
新学期が始まって二日目だった。
まだ何も知らない信太郎から、相談を持ちかけられた。
「なあ、俺、道重から告られたよ……」
信太郎は苦しそうに俯きながら言った。
「どうしよう……。れいながいるのに。道重も気になるんだよ…。
どうすればいんだろう……」
喉に大きな塊がつっかかって息ができなかった。
どうすればいいのか、雅人のほうが教えて欲しかった。
「なあ、雅人ならどうするよ」
「……」
何も言えるはずがなかった。
ひたすら目をつぶっていた。
- 44 名前:中三の夏 投稿日:2003年09月02日(火)20時32分30秒
- 家に着くと、勢いよく自室に駆け込んだ。
何か大きな、黒くてゴツゴツした塊が雅人を押さえつけていた。
信太郎を失うことが怖くて仕方が無かった。
布団の中で思い切り泣いた。
そして、ある自分の中の気持ちに気づいた。
何故わからなかったのかと自分を罵った。
今からでも間に合うだろうか。
時計を見た。二時二十五分。
雅人は布団をはねのけ、豹のような勢いで家を飛び出していった。
風を切って走っていると、信太郎の姿が見えた。
家に行くまでもなく巡り合うなんて運命か何かだろうか。
信太郎を呼びとめ、走りより、雅人は言った。
「俺、お前のことが好きだ。付き合ってくれ」
- 45 名前:Am 投稿日:2003年09月02日(火)20時33分05秒
- 終わり。ハァハァ
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月02日(火)21時46分00秒
- いいところで終わるなー・・ ここから先が面白いんだろ、こっから先が。修羅場カモンナ!
- 47 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月02日(火)21時46分50秒
- ついでに回しとくぜ! オチが真っ先に目に入るのは目の毒だぜ!
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月02日(火)23時32分19秒
- 少年の苦悩が伝わりました。涙が止まりません。
男×娘。は好きじゃありませんが、この話はちょっとだけ応援したくなります。
二人の未来に乾杯!
- 49 名前:勝利した敗者 投稿日:2003年09月04日(木)16時16分15秒
- 私の硬く握った拳は空を切った。
そして私の対決相手、高橋愛、同じように拳を突き出した。
互いにその姿を見合いながら、一時の沈黙。
そして次の瞬間、私は今度は手を開いて腰の高さにだす。
相手は、人差し指と中指だけ出した手をやはり私の腰に突きつけるように差し出していた。
それを理解し、私は咄嗟に顔を思いっきり上に逸らす。
相手が右を指差しているのが視界の端っこに映り、元の体勢に戻った。
三度手を突き出す。開いて、手のひらを見せるように。
高橋愛は、握った拳を突き出していた。
今だ!
私は高橋愛の眉間にぴったりと人差し指の照準を合わせ、下に振った。
敵も一筋縄ではいかない。首を右に捻じ曲げて微笑んでいる高橋愛の姿が目に入った。
掛け声を掛けて、今度は指を二本だけ出してあさ美ちゃんの正拳突きのように放つ。
高橋愛も、同じ格好の手を出していた。
このままでは埒が明かない。そう思いながら先ほどと同じ、二本指の手を出すと、
高橋愛は開いた手のひらを私に見せていた。
ここで勝負を決めなければ。
私はまた高橋愛の眼前に掲げた指先を、今度は右に振った。
すると、まるでその糸に操られるように高橋愛の顔が右へ向く。
- 50 名前:勝利した敗者 投稿日:2003年09月04日(木)16時16分46秒
- 勝った。私は勝ったのだ。
その実感は砂地に染み込む水のように、私の胸を満たしていった。
思わず勝ち鬨の声を上げる。
「まこっちゃん目がマジになってたやよ。怖かったぁ」
そんなことを高橋愛が呟いていたけれど、気にはしない。
「さ、愛ちゃん。敗者は何するんだっけ?」
「ぅぅ…買出し…」
「おねがいしまーす♪ポッキーよろしくね」
「二人しかいないんだし、一緒に行こうよぅ」
「あ、それからポテチとかぼちゃがプリンあったら買ってきて」
「まこっちゃんのバカぁ」
「……」
「バカバカバカバカ、バカぁ」
「……、わかった、一緒に行こうか」
「本当?やったぁ」
「本当だよ。いこいこ」
こうして夜は更けて行った。
- 51 名前:勝利した敗者 投稿日:2003年09月04日(木)16時17分16秒
- おわり。
- 52 名前:Am 投稿日:2003年09月04日(木)16時20分06秒
- >>46-47さん
ありがとうございます。
あれ以上書くのは漏れの頭が拒否しました。ごめんなさい。
>>48さん
ノ[ハンカチ]
- 53 名前:退屈 投稿日:2003年09月04日(木)19時44分37秒
- 降り注ぐ陽光が、中庭のつつじや柏やプラタナスの木の葉に当たって跳ね返っている。
写真の風景のようにキラキラと輝き、風が吹くたびにその光輝も新緑の木の葉とともにさわさわと揺れ、
私を飽きさせることは無い。
教師のダミ声と黒板にチョークを立てている音が耳障りだったが、
BGMだと思えばそれもまた趣がある。
用務員のおじさんが名前も知らない木の形を整えているのが見えた。
五十歳くらいと思われる、無口なおじさんだ。
中庭の近くにある自動販売機で、体育の教師が飲み物を買っていった。
視線を少し上に上げると、二階で授業をやっている様子が見えた。
その教室は英語のリスニング専用だ。生徒は全員ヘッドホンをしている。
ここから見ると皆まじめに授業受けているように見えるけど、
中には教科書に落書きしながら暇な時間を持て余している人もいるのだろう。
私のように。
- 54 名前:退屈 投稿日:2003年09月04日(木)19時45分47秒
- さらに視線を上げると、そこには湧き上がる入道雲と夏の空が広がっていた。
なんてことはないけれど、目に眩しい。
不恰好に蝉が飛んでいる。
この風景さえあれば癒し系の音楽も、愛玩動物もいらないのに、
と思ってしまうのは私がまだ世間知らずだからだろう。
長い旅を終えた視線を、ノートに落とした。
文章が書きかけのままとまっている。
しかしそれを見ても、板書をとる気にはさらさらなれなかった。
こんな平和な日にイラク戦争の話なんかやったって、頭に入るわけが無い。
蚊が右手の甲に止まっていた。
音を立てないように左の手のひらで叩く。
よし。つぶした。
私の血なんか吸おうとするのが悪いんだ。ご愁傷様。
- 55 名前:退屈 投稿日:2003年09月04日(木)19時46分26秒
- 今度は教室内を見回してみる。
見事に後方の三分の一は机に突っ伏している。
それでも平然と授業を進める先生もたいしたものだ。
改めて机の上の落書きを見た。
I LOVE YOUなんて彫ったのは誰だろうか。
それから、私が書いたあさ美ちゃんの似顔絵。
数学で筆算をやった跡。
見慣れた机には新しい発見は何も無かった。
ふぅ、と溜め息をつきつつ時計を見た。
あと二十分。
起きるときには授業が終わっていることを祈りつつ、私は机に突っ伏した。
- 56 名前:退屈 投稿日:2003年09月04日(木)19時47分00秒
- 終わり。
- 57 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月05日(金)00時55分59秒
- 「退屈」は誰だ?君は誰なんだー!という興味が先走り終始気になりました。
ごっちんだといいなー。ありえないけど……。
- 58 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月05日(金)04時34分15秒
- 愛と俺はあれですね。娘。小説界に不純物はいらねーんだよってことですね。
冷たい頬もそうですね。作者さんの気負いを感じます。つーかスピッツ好き?
待ち受け画面、ありえねー。変化球だ。どれがストレートなのかわからないけど。単純にほのぼのしました。
ボレーシュートは熱いね。青春だね。もう取り戻せない掛替えの無い物だね。
冷たい抱擁と接吻、面白ですね。かなりのチャレンジャーだと思いました。
中三の夏ワラタ。続きが無いとわかっていても読みたくなりました。
勝利した敗者も熱いですね。5期メンは本気でこんぐらい燃えてそう。
退屈はメロウな感じが良かったです。
作者さんが色々なパターンの話を書きたいのが伝わってきました。これからも飽きずに是非とも色々な話を書いて頂きたいです。
個人的には中三の夏が好きでした。
- 59 名前:海へ続く坂道 投稿日:2003年09月06日(土)20時46分40秒
- 暑い夏。
私の脳裏に浮かぶ一つの思い出。
それは、幻。
目覚めると、時計は六時半を指していた。
高校生になって、夏休みに私がこんなに早起きをするなんて珍しい。
もったいないのでそのまま起き上がり窓を開けた。
早くも日差しが眩しく、空は限りなくブルーだった。
早起きついでに、ふだん電車で通っている予備校の夏期講習に自転車で行くことにした。
お母さんが「あられいな、どうしたの?」なんて目を丸くして驚いく。
別に、と呟きながら朝食を頬張った。
眠気覚ましのコーヒーをすすりながら支度をし、家を出る。
- 60 名前:海へ続く坂道 投稿日:2003年09月06日(土)20時47分50秒
- 大海原みたいな光がキラキラと町に散らばっていた。
全部集めればダイヤなんて目じゃないくらいの宝石ができるのにな、
などと私はペダルを漕ぎながら平和な想像に耽った。
ちょうど道程の半分を過ぎた頃。
思わずはっとなった。
目の前に広がる、海へ続く坂道。
そんなことありえないのはわかっていた。
頭の一部が、東京の真ん中にそんな道が存在するわけがないと罵っていた。
でも。
脳のほかの部分が麻痺したまま、坂を下る。
影を探す。
いないことはわかっていながら、振り返り探す。
それは、幻。
- 61 名前:海へ続く坂道 投稿日:2003年09月06日(土)20時48分26秒
- 中学二年の終わりだった。
おそらくこれまでの私の人生の中で、もっとも多くの感情を引き起こした出来事。
福岡から東京への引越し。それに伴う転校。
友達の中でも、一番近かったあの人との別れ。。
さゆみ。
いつも海へ続く坂道の上で待ち合わせをした。
私が時間通りに着いて、さゆみは遅れて、まるで蜃気楼のように上ってきた。
- 62 名前:海へ続く坂道 投稿日:2003年09月06日(土)20時49分46秒
- 一瞬のうちに記憶がとめどなく流出して行き、
現実に帰ると、もう坂道は終わっていた。
こんな所でさゆみを見るなんて、不思議なものだ。
これからもきっと、この坂道を通るたびにこの思い出に出会うのだろう。
それもまたいい。
私思わず微笑みながら、ペダルを漕ぐ足に力を入れた。
- 63 名前:海へ続く坂道 投稿日:2003年09月06日(土)20時50分25秒
- 終
- 64 名前:Am 投稿日:2003年09月06日(土)20時54分29秒
- >>57さん
ありがとうございます。
いったい誰でしょうね…。
>>58さん
はげしくありがとうございます・゚・(ノД`)・゚・
がんがりまつ。
- 65 名前:ハコ 投稿日:2003/09/10(水) 00:00
- 夜空を覆う灰色の空から降り続ける銀色の雨の中を、ぼろぼろに薄汚れたマントを羽織った女が傘もささずに歩いている。
もともと染めていたのか、黒い生え際に先端が赤黒く染まった髪を腰まで伸ばしていた。
突然、凄まじいブレーキ音と共に青いスポーツカーが車道を走ってきた。
深夜の雨の中、視界が悪いの事などお構いなし走るその車は、歩道を歩く小さな女の子に気づく風でもなく飛び出してきた。
ようやく女の子の存在に気づいたのだろう、車はスチーム音を響かせてながらフロントを沈める。
女の子は恐怖で身動き一つ出来なかった。
女は、咄嗟にマントを翻し駆け出した。
しかし、女の子との距離は十数メートル離れておりとても間に合いそうに無かった。
女はジャンプをすると左足で空中を蹴り上げる。
すると、蹴り上げた足先から光弾が飛び出し、車の側面に直撃した。
車は衝撃で大きく凹み、車体を浮かすと横向き倒れ腹を見せ、そのまま二転三転すると反対車線のガードレールに突き刺さる。
その直後、炎塵を上げて燃え上がった。
女は素早く少女に駆け寄り、爆発の炎から守るようにマントで壁を作る。
「大丈夫?」
女が優しく微笑と、女の子は小さく頷いた。
- 66 名前:ハコ 投稿日:2003/09/10(水) 00:00
- それだけ確認して、女はその場を立ち去ろうとした。
「あの」
思わず少女は呼び止めた。
「ん?」
「あの、ありがとうございます」
「ふふ、ずいぶん律儀な子だねぇ。きっと将来いいお嫁さんになれるよ」
「はい…」
「あ、そうだ。いいものあげる。必ず一年たってから開けてね」
そう言って女は、少女に小さな箱を渡した。
「あ、ありがとうございます」
「いいのいいの。あなた、名前は?」
「絵里です…」
「そう。じゃあ絵里ちゃん、また会いましょう」
そう言って女はボロボロのマントを翻した。
そしてその身を夜の空気に溶かしてしまった。
絵里はしばらく放心していたが、手の中の小さな箱をぽとりと落としてわれに返った。
−−必ず一年経ったら開けてね−−
その言葉を思い出し、絵里はそれを拾い持ち帰った。
- 67 名前:ハコ 投稿日:2003/09/10(水) 00:01
- 箱の中身が気になって仕方が無かった。
あの人がいったい何者だったのか、その答えがこの箱を開ければわかるような気がした。
出窓に置いたそれは、当たり前ながらうんともすんとも言わない。
正座してしばらく眺めた。
なんの変哲も無い、ボール紙で出来たグラスかなんかが入っていそうな箱だ。
大して重くなく、揺すっても音はしない。
もしここで開けて後悔することがあるとは思えなかった。
よし、と気合を入れて、絵里はその箱を開けた。
- 68 名前:Am 投稿日:2003/09/10(水) 00:02
- おわり。しょぼ過ぎです。
サンプル1で書きたかっただけちゃうんかと小一時間(ry
- 69 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/10(水) 00:41
- その1レス目はまさか……( ̄ー ̄)ニヤリ
もはや死んだと思っていた話に魂を吹き込めていただき感謝感謝。
で、絵里たんどうなったんですか?ね。ね。
- 70 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/10(水) 01:22
- 箱には何が入ってたんだろう・・夏かな・・?
- 71 名前:雨粒 投稿日:2003/09/11(木) 21:36
- 雨が降っていた。俺以外の水滴たちも地上の漆黒の沼や、冷たいアスファルトや、廃工場の屋根目掛けて下降していった。俺は街路樹の葉の隙間をうまく抜けていき、その時眼前の家の光景が一瞬、窓から見えた。
ライトブルーの椅子があるだけの白い部屋だった。椅子に腰掛けた髪で顔の見えない一人の少女と、青いシャツを着た少女がいた。
うつむいているほうは泣いているようだった。それも声を上げて。しかし幼い泣き方ではなく、溜めていたものが溢れるような様子だった。年は十六、七と言ったところだろう。黄土色に染められた髪が簾のように頬を隠していた。
青シャツは唇を噛んでいた。微かに髪を染めており、線の細い少女だった。一瞬泣いている少女に同調しているのかと思ったが、そうではないらしい。何かを憎んでいるようなまっすぐな視線を少女に向けていることからそれはわかる。しかもおそらくその憎しみは、青シャツの少女自身へのものだと、俺の直感が言っていた。
その画像は俺の眼前を矢のようなスピードで通り過ぎ、次の瞬間には俺は漆黒の沼に溶けた。
- 72 名前:Am 投稿日:2003/09/11(木) 21:41
- >>69さん
どうなったんでしょうか。
年とったか、中からもう一個ハコが出てきたとか…。
>>70さん
そんな大層なものは入ってませんきっと。
- 73 名前:トライアングル 投稿日:2003/09/12(金) 23:34
- 「おはようございまーす」
そう小さな声で言いながら楽屋に入ってきた彼女は、
一人で携帯をいじっている私を見つけて駆け寄ってきた。
「れいなおはよっ」
「あ、おはよ」
いつものようにさゆは私の隣に、蟻一匹入る隙間も無いほど
くっついて座った。
私はそれについての文句は言わない。
「ねーねー、今日の私どう? 微妙に髪形かえてみたんだけど、可愛い?」
「キショイ」
心の疼きを抑えながら無理して言うと、さゆは拗ねたように頬を膨らませて
ブツブツ何かを呟いていた。
しばらくするとバッグから大きな鏡を取り出そうとしたので、私はあわてて話しかけた。
「どこがキショイの?」なんて顔覗き込んで聞かれた日には、なんと言っていいかわからなくなる。
- 74 名前:トライアングル 投稿日:2003/09/12(金) 23:35
- 「ねーねー、……ジュースでも買いに行かん?」
「あ、うん。れいなが行くなら行く」
さゆは、バッグを漁る動作を中断しながらも、嫌な顔もせず答えた。
最近の私はどうもおかしかった。
娘。に入ったせいなのかもしれないが、クールを装うことが多くなった。
そして……。
「なにボーっとしと?」
気づけばいつの間にか自販機の前にいた。
とりあえずお金をいれ、飲みたくも無いジュースを買う。
上に放ってからそれが炭酸であったことに気がついた。
楽屋へ帰る途中、絵里と会った。
ボーイッシュな格好で、さゆその姿をみるなり飛んで行って、
さっき私に聞いたことを一言一句かえずに絵里に尋ねた。
絵里は絵里で、私と全く同じ言葉をさゆに吐いた。
- 75 名前:トライアングル 投稿日:2003/09/12(金) 23:35
- わかっていた。
私が娘。でクールに装う理由。
それだけ、普段のままでいたら感情が溢れてまずいことになるから。
さゆといると緊張するから。うまく話せないから。
絵里に変な期待をさせたくないから。
絵里は私にあこがれている。むしろ、好きなのかもしれない。
ボーイッシュな服装を好むようになったのもそのせいだし、
私がさゆと二人でいると必ず割り込んでくる。
そして私は、おそらくさゆのことが好きだ。
どうしようもないことは百も承知だけれど。
- 76 名前:トライアングル 投稿日:2003/09/12(金) 23:35
- 午後からさくらとおとめにわかれ、夕方六時近くになって仕事は終わった。
私は残ってダンスの練習をすることにした。
さゆも付き合って残ってくれた。
1.2.3.ターン! 1.2.3.ハイ!
だんだんとダンスが体に馴染んでくる。
後もう少しだけやっていこう。
そう思って鏡越しにさゆのほうを見た。
彼女は、眠っていた。
頬が熱くなった。
びっくりして鏡を見ると、泣き顔で踊っている私がいた。
それを認識すると同時に足の力が急に抜け、私は床に崩れ落ちた。
涙が出るのをとめることが出来ず、唇をかんだ。
こんなところをさゆに見せるわけにはいかない。
さゆにとっての私はクールな人間なのだから。
- 77 名前:トライアングル 投稿日:2003/09/12(金) 23:36
- 口を押さえて声は殺せても、一向に涙は止まらなかった。
次から次へとあふれ出て、視界をにじませる。
床の丸い模様がどんどん増えていく様を私は見ていた。
不意に何かが肩に乗った。
「れいな……。私がいるから、私の前で泣いていいよ」
さゆだった。さゆが私の肩に手を乗せ、真剣なまなざしで私を見ていた。
「れいなが無理してるのはわかってた。
問題児なんて言われてた私たちだし、みんながみんな子供っぽいんじゃだめだよね。
れいながそれで頑張ってるの知ってたよ。
でも、いいんだよ。そんなに自分無理やりつくって頑張らなくても。
それにメンバーの前で泣くことだって、恥ずかしいことじゃない」
- 78 名前:トライアングル 投稿日:2003/09/12(金) 23:36
- やっぱりさゆはわかってないな、と思いながらも私はさゆの胸で泣いた。
あたたかいその胸の中で。
「ごめんね。泣いたりして」
ここはタクシーの中。
「気にしないで。いくられいなが泣いたって一番可愛いのは私だから」
「キショ」
「あー、またそういうこという……」
私が気にかけないように冗談で雰囲気を和ませてくれる。
そんなさゆに私の本当の気持ちを打ち明けられる日はそう遠くはなさそうだ。
- 79 名前:トライアングル 投稿日:2003/09/12(金) 23:37
- おわり。今宵も完壁です。
- 80 名前:ふたつのコップ 投稿日:2003/09/20(土) 21:38
- ある日コンサートが終わって楽屋に戻ると、
二つのコップがおいてあった。
一つは中の液体が真っ黒で、一つは真っ白だった。
どうせ辻加護の飲み残しだろう、なんて言って、
まこっちゃんが黒いほう、愛ちゃんが白いほうを飲んだ。
私と里沙ちゃんは、白い長いすに腰掛けて、煎餅をかじりながらそれを見てた。
翌日、楽屋に行くと、まこっちゃんが飯田さんに怒られてた。
私は縮こまりながら里沙ちゃんのもとへ向かい、話を聞いた。
どうやら、まこっちゃんが部屋の備品を盗んだ、と言うことらしい…。
すぐにはじられなかったが、飯田さんがあれだけ怒っているのだ。
きちんとした証拠があるのだろう。
と思ったのだが、どうもそうではないらしかった。
- 81 名前:トライアングル 投稿日:2003/09/20(土) 21:38
- なんとまこっちゃんが自白したのだそうだ。
何か、おかしい。
昨日飲んでいたおかしな液体のことを思い出した。
そうだ。あれに違いない。
私は愛ちゃんを探した。
飯田さんの隣で、愛ちゃんはまこっちゃんを見つめていた。
里沙ちゃんの話によると、なんと愛ちゃんがまこっちゃんの悪事を目撃し、
飯田さんに通報したのだという。
これも、何か変だ。
「うるせぇんだよクソババァ、死ね!」
それまで黙っていたまこっちゃんが、突然大声で言い、飯田さんを殴った。
まこっちゃんは部屋を飛び出していったが、すぐにつかまり、事務所の部屋に軟禁された。
さらに二日がたった。
愛ちゃんの顔に異変が起きていた。
今までに増して綺麗になり、何かが明らかに今までと違っていた。
それは前までの高橋愛ではなかった。
- 82 名前:ふたつのコップ 投稿日:2003/09/20(土) 21:39
- 私はマネージャに頼んで、まこっちゃんに引き合わせてもらった。
まこっちゃんにも、やはり変化が起きていた。
目には陰湿な光がともり、醜くなっていた。
そして私にさえも汚い言葉を投げつけた。
なんとなくわかった。
あの液体は、人間を純粋なる「善」と「悪」に変えてしまう物だったのだ。
私はこのことをみんなに話した。
しかし誰も信じてくれず、私一人での調査も限界があって、どんどん時間がたっていった。
そして、二人が純粋なる「善」「悪」になった時、彼女らは人間ではなくなっていた。
- 83 名前:ふたつのコップ 投稿日:2003/09/20(土) 21:40
- 終わり。そろそろ夏厨にはつらくなってきました…
- 84 名前:小さな呪文 投稿日:2003/10/06(月) 05:42
- 「あにんさそんそんと あにんさそんそんと」
「…さゆみ?なにそれ?」
「あ、ごめん。私の口癖なの。」
友達は不思議そうな顔をしながら、自分の席に戻っていった。
それでも私は口の中で呟き続けた。あにんさそんそんと。
特に意味はない、筈だ。
言葉の並びには。
ただ私がこの言葉を呟き続けることには、わけがある。
私がまだ小学四年生だった頃のことだ。
夏休みに入り、私は毎年欠かさずに行っていた博多のおばあちゃんの家に、
その年も二週間ほど滞在した。
9
最初の三日間は家でテレビゲームをしてすごした。
でもそれもすぐに飽きてしまって。
それからは、おばあちゃんちの周りを歩き回ったりしてすごした。
山口の私の家よりもそこは大分都会だった。
駅前のデパートでおもちゃと本の売り場を冷やかした後、
大きな運動公園に入った。
- 85 名前:小さな呪文 投稿日:2003/10/06(月) 05:42
- 平和な午後の時間が深緑を靡かせる風のように流れていた。
私はベンチに座り、そこでしばらく体を休めた。
どこからか飛んできた鳩が私を遠巻きに眺め、
しばらくしてまたどこかへ飛んでいった。
ふと、ベンチの裏の、公園の外の森から声が聞こえた。
私と同年代くらいの男の子の声のようだった。
体をねじって見ると、その地面の草は伸び放題で
陰湿な森の中で、何かの作業をしている小学生らしき人影があった。
しばらくそれを眺めた。どうやら秘密基地を作ろうということらしかった。
五人くらいで、一人は女の子のようだった。
私の住んでいる山口県宇部市ははっきり言って田舎だ。
だから自然と子供たちは外で遊ぶことが多かった。
秘密基地を作った経験は、私には何回もあった。
経験によって必然的に身につくコツを、彼らはまるで知らないらしい。
私は彼らの所へ行ってアドバイスをした。
勿論はじめは激しく拒絶されたが、リーダー格らしい唯一の女の子が私を認めたため、
あとの四人もそれに倣う形になった。
- 86 名前:小さな呪文 投稿日:2003/10/06(月) 05:43
- 私はさまざまなテクニックで、木の上に、材料が足りなかったために立派なとか言いがたいながらも
秘密基地を作り上げた。
彼らはその基地を見上げて、私に感謝した。
れいなとなのった少女からは、いつでも好きな時に来い、といわれた。
翌日、またその基地に行くと、ちょっとした会議が行われていた。
何を持ってきていいのか悪いのか、とか、チーム名とか。
そしてこの秘密基地に上がってくるための合言葉。
それが「あにんさそんそんと」だった。
語源は教えてもらっていない。
もしかしたらカタカナや漢字だったのかも知れない。
そうして私は毎日彼らの所へ行った。
二週間なんて、あっという間だった。
明日には山口へ帰らなければならないその日、
基地に来ていたのはれいなだけだった。
他の男の子たちの顔も見たかったけれど仕方がない。
「れいな。私明日、山口に帰るんだ……」
私は始めてそのことをれいなに告げた。
「そっか……」
れいなはびくっと肩を震わせながらも、無表情のままで言った。
「いままでありがとね」
- 87 名前:小さな呪文 投稿日:2003/10/06(月) 05:43
- 「ねぇ。さゆは歌好き?」
「え?」
「あたしアイドルになるのが夢やけん、さゆも一緒にアイドルになれたらいいなぁって」
「うーん、自分ではわかんない……」
「約束しよ。中学に入ったら、オーディション受けるの」
「オーディション……」
「そう。あたしたちならきっと合格するよ」
「そ、そうかなぁ」
「間違いないって。あ、もしオーディションの時に逢ったら、合言葉は『あにんさそんそんと』ね」
「うん。……わかった」
そうしてしばらく暮れ行く太陽を眺めて、私たちは別々の帰路に着いた。
明日は、モーニング娘六期オーディション第二次審査。
私は一人の少女のことを思い描き、口の中で小さな呪文を唱えながら窓際の席で机に突っ伏した。
- 88 名前:Am 投稿日:2003/10/06(月) 05:45
- 終わり。
あにんさそんそんと、意味はありません。適当です。それがこのスレのモットーなので。
- 89 名前:街頭募金 投稿日:2003/10/23(木) 22:47
- ここは東京。新宿駅東口前。
「あの、すいません。イラクの子供たちへ募金をお願いします」
流れる人ごみは忙しなく、無言のルールに従うように歩き続ける。
私はその大波に対抗する堤防のごとく、道行く人にひたすら声をかける。
ひたすら。
おばさんは協力してくれる人が多い。それも、
「若いのにえらいわねぇ」などと労わりの言葉をかけてくれる。
金額も、若い人やおじさんより高い。
お札の出現率はおばさんの財布がナンバーワンだ。
おじさんは、お金は出す人が多いけれど、いかんせん金額が少ない。
もちろん、大事なのは金額の多寡ではないのだけれど、なんだかなぁ、という感じ。
それでも出してくれる人には、得意のブリブリな笑顔をプレゼントしている。
- 90 名前:街頭募金 投稿日:2003/10/23(木) 22:48
- それよりも問題なのは若者だ。
それも高校生か大学生くらいの。
ほとんどがイヤホンをして、私の声など聞こえないふりだ。
視界にも入っていないかのように通り過ぎていく者もいる。
彼らは何もかもに無関心なのだ。
まだ若者からは一円も募金をしてもらっていなかった。
さっきから若い人狙いで声をかけているけれど、例外なく避けられた。
そしてまた、今、一人の若者が私の声に耳を傾けることすらせずに側を通り過ぎていった。
たまらなくなって私は言った。
「あなたそれでも人間なの!? 困ってる人を助けようって言う気持ちはないの!?」
若者は振り返り、冷めた目で私を見た。
「……あんたがその金をどうするか確かめる手段は俺にはない」
- 91 名前:街頭募金 投稿日:2003/10/23(木) 22:50
- 一瞬何を言っているのかわからなかった。
すぐに理解はできたが、なかなか反論が出てこなかった。
「……私がネコババするって言うの!?」
「そんなの俺の知ったことじゃねーよ」
あくまで若者は冷めた目つきのまま、私の方を漠然と見るような感じで、言った。
「じゃああなたはもし、今ここで募金したら必ずイラクの人々に届くとしたら、
募金してくれるの?」
「しないね」
「なんでよ」
「こんな所で偽善者ぶって募金なんかするくらいなら自分でイラクまでいって金渡すよ」
「あなたはそんなことしたことあるの?」
「ない」
「じゃあなに、偽善と思われるのがいやってのはただの言い訳じゃない!」
「いいか、俺は中途半端や矛盾はキライなんだ。
ここで募金だけして、うちに帰ってゲームなんかしながらのうのうと暮らすのは我慢ならないんだ」
「それはそうかもしれない。でもだからってまったく募金しないんじゃ
偽善でも募金してる人よりひどいよ!」
- 92 名前:街頭募金 投稿日:2003/10/23(木) 22:52
- 勢いで叫んだ。私と若者の周りを流れ続けていた人ごみの視線が、
一瞬私たちに集中して、すぐに散って行った。
若者は何も言わない。それをいいことに、私は興奮して続けた。
「イラクで苦しんでる人たちにとっては、募金した人がどんな人間であっても一緒なんだよ。
街頭募金じゃ気持ちまでは送れないからね。
貧乏人が出した千円も、大金持ちが出した千円も、価値は一緒。
あなたは偽善者よりもひどい人間だよ!」
「……俺は募金とか自分の優位を前提にした行動はしたくないんだ。
かわいそうって感情は汚いものだと思ってる」
彼の冷めた目は、もしかしたら感情がないわけじゃなく、
自分への欺瞞がそうさせているのかもしれない、そんな気がした。
「……偽善でもいいから、醜い感情でもいいから、募金お願いします」
若者のは唇を噛み、視線を下げた。悲しみに似た表情がそこに浮かんだ。
私は頭を下げた。しかしそのあいだに若者は人ごみにまぎれて見えなくなっていた。
- 93 名前:Am 投稿日:2003/10/23(木) 22:54
- おしまい。厨はなに書いても厨ですね。
- 94 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/24(金) 01:54
- 昔24時間テレビ見てエチオピア難民に役立つようにと願って募金したら、日本で
障害者用の自動車を買われててものすごくがっかりしたことを思い出した……
- 95 名前:喪失 投稿日:2003/11/13(木) 21:00
- 硯ですった墨が一滴ずつ空気に混じり始めていた。
巨大な森を少し入ったところに、その空気に溶けてしまいそうな
黒いスーツを着た四人の少女が立っていた。
風が強かった。木々のざわめきが間断なく四人を覆っていた。
「どうしようもないね。」一人の、顔立ちの整った少女が言った。
それから自嘲気味にふっと笑った。
「ホント、嫌んなっちゃうよね。」まだあどけない顔の少女が続けて言った。
歌うような言いかただった。
「私は先輩たちの決定に従いますよ」強い目でいったのは、黒い髪を肩まで伸ばした少女だ。
彼女はこちらに出てくるまでは髪を肩より短くしたことはなかった。
「馬鹿なこと言わないで、高橋。」
「馬鹿なことなんかじゃありません。本気です。」
- 96 名前:喪失 投稿日:2003/11/13(木) 21:00
- 一際強く風が吹いた。いつの間にかさっきよりも一段と暗くなっていた。
風がやむのを待ってから、最後の少女が言った。
「私もそのつもりです。石川さんと加護さんについていきます」
「紺野……」
どこか遠くでトラックの走り去る音がしていた。
辺りに街灯はなく、もうすでに相手の顔すら見えなくなっていた。
世界は眠りにつこうとしている。
「ねえ、覚えてる?」加護が、南のほうに見える星を見ながら言った。
「みんなで星を探しに行ったこと。」
「…覚えてるよ。」
言ったのは石川だ。そしてあとの二人も頷いたが、闇のベールがそれを隠していた。
「夜中に家抜け出して、大騒ぎになってたっけ。」
「そうそう。私なんか親に朝まで説教されましたよ。」
森が奇怪な鳴き声を発していた。
昆虫たちが歌いだしたのだ。
- 97 名前:喪失 投稿日:2003/11/13(木) 21:01
- 「もうあの時の星は見えそうもないな…。」
それきり四人は口をつぐんだ。
冷たく透明な沈黙が大河のように流れる時とともにその場を埋めた。
「行く。」足元に置くように言い残し、石川が歩き出した。
三人も、無言で静かに彼女のあとをついていった。
- 98 名前:Am 投稿日:2003/11/13(木) 21:02
- おわり。
あと二ヶ月ほどすれば冬厨になって暴れまわれる…。
- 99 名前:Am 投稿日:2003/11/13(木) 21:05
- >>94さん
24時間テレビは小川さんを虐めるので信用してはいけません。
- 100 名前:Am 投稿日:2003/11/13(木) 21:33
- さりげなく100ゲット
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/02(火) 06:53
- 藤本美貴も6期ですが…、と呟いてみたり。
- 102 名前:お泊り会 投稿日:2004/01/31(土) 01:23
- 「ねえ、今日うち泊まりに来ない」
何回かの週末ごとにあるごく普通の会話。
「あ、うん。行く行く」
「わたしも行く」
「じゃあいつもどおり、待ってるね」
言って絵里は隣の教室へ去っていった。
彼女は隣のクラス、あたしとさゆみは同じクラスだ。
絵里の家に泊まりに行く日は学校が長く感じる。
それでもなんとか授業をこなすと、あたしとさゆみは絵里の家へ向かった。
いつもどおりに夕飯をご馳走になった。
シチューがおいしくて、やはりいつものようにあたしはおかわりをして全てたいらげた。
さゆみが横から「れいな太るよ」とつっこんできたから、
あたしは「いーの」といってシチューを口にかきこんだ。
おばさんはそれを見てにこにこ笑った。
- 103 名前:お泊り会 投稿日:2004/01/31(土) 01:25
- 三人交代でお風呂に入り、二階の絵里の部屋での座談会が始まった。
みんなお揃いのパジャマで、あたしはお気に入りの猫の顔のパウダークッションを抱え、
絵里はベッドに背中を預け、さゆみはカーペットの床に寝転がりながらお菓子をつまんだ。
そして三十分が過ぎた後、あたしは用意していたものをみんなの前に披露した。
「これ…、お酒?」
「うん。そこのセブンで買ってきた」
もちろんあたしも初めてだから何の予備知識もなかった。
だから取りあえず、350mlのオレンジ味のを一つだけ買ってあった。
言いだしっぺということで、まずはあたしが試飲。
「………、うわ、何これ…」
胸が、たぶん胃の辺りが染み渡るように熱くなった。
でもぐっとこらえ、なんでもないようなふりをしてさゆみに缶を手渡した。
「ぐぇ……」
さゆみは舌を出して、思い切り苦そうな顔をした。それが面白くてあたしと絵里は笑い転げた。
- 104 名前:お泊り会 投稿日:2004/01/31(土) 01:26
- 三人で回し飲みして、あっという間にチューハイはなくなった。
「ここであたしから、重大な発表がありまーす」
あとから思えばあんな少量のお酒で酔ってしまうなんて情けない話ではあるが、
初めてだったから仕方ないのかもしれない。
「なになにー?」
さゆみも絵里もとろんとした目でこちらを見ていた。あたしは高らかに宣言するように言った。
「あたし、うちのクラスの島田と付き合うことになった」
「ええーうそー!島田君かっこいいじゃん!…どした?絵里」
絵里はうつむいていたかと思うと、急に部屋を飛び出した。
あたしたちは声も出せずに呆然と見送った。
少し遅れて、あたしたちも絵里を追って家を出た。
寝ているおばさんたちが起きないようにそっと。
- 105 名前:お泊り会 投稿日:2004/01/31(土) 01:26
- 絵里の姿はもう見えなくなっていた。
このへんは街灯があまりなく、かなり暗い。
とりあえず、あたしたちは近所の公園へと走った。
その途中だった。
橋の上に絵里はいた。
手すりにひじを乗せ、そこに顎を預けて。
あたしたちが駆け寄っても、絵里はこちらを見ようともしなかった。
「ごめん…」
あたしはとにかく謝った。絵里は漆黒の帯となった川を見ながら言った。
「別にれいなは悪くないよ。ただ私がバカなだけ」
「絵里、島田君のこと好きだったんだ…」
さゆみの問いかけに絵里はうつむいた。頷いたのかもしれない。
「私が勝手に好きになって、勝手にれいながあの人と付き合って。ただ、それだけ」
- 106 名前:お泊り会 投稿日:2004/01/31(土) 01:26
- 絵里はその場に蹲ってしまった。
さゆみはその背中を撫でて慰めていた。
あたしはどうすることも出来ずに空を仰いだ。
あのWの形はカシオペア座か。
まったくバカなことを言ってしまったものだ。
でもいずれ言わなくてもわかることだったし、
絵里と同じくらい本気で好きな自信はあった。
絵里がゆっくり立ち上がった。
「ごめんね、急に…」
目はまだ潤んでいたし、頬には涙の後があったけど、
それでも絵里は笑顔で言った。
「あたしたち、これからも親友だよね?」
「当たり前」
絵里は言って、涙を拭いた。
- 107 名前:Am 投稿日:2004/01/31(土) 01:28
- おわり。久々でございます。
- 108 名前:Am 投稿日:2004/01/31(土) 01:30
- >>101さん
藤本さんも嫌いではないんですがね…。
まぁそのうちひょっこり出てくるんじゃないでしょうか。
- 109 名前:きれいごと 投稿日:2004/01/31(土) 01:35
- 「愛してる…」
僕の熱い祈りを込めた言葉は、病室の白い壁にかき消されて行った。
「目を開けてくれよ…」
体のあちこちからまるで操り人形の糸のように伸びる管。何も知らずに眠り続ける彼女。その手を握りながら祈り続ける僕。
涙が頬を伝い、シーツにぽたりと落ちた。それから僕は堤防が崩れたようにひたすら泣いた。
輝男がそこまで書いたとき、シャーペンの芯がぱきっと音をたてて弾けた。その飛んで行った方向をぼんやり眺めていると、ある横顔が目に入る。彼女は輝男がノートに書き溜めている小説のヒロインのモデル、藤本美貴。そして輝男が中一の時から一年半思い続けている人でもある。
- 110 名前:きれいごと 投稿日:2004/01/31(土) 01:35
- 初夏の流れるような風の中、授業を終えた輝男は親友の賢と自転車を並べて彼の家へ向かった。放課後賢の家で遊ぶのが最近の日課になっている。賢は輝男の小説の唯一の読者だ。もっとも輝男が読ませているだけだけれども。
賢の家の近くには市民の森がある。そのために彼の部屋には気持ちのいい風が入ってくるけれど、かわりに蝉の鳴き声が五月蝿い。
「これ…、読んでみてよ。新しいの」
「おお、おう」
しばらく賢は無言で読んだ。
「どう?俺続き書くのがすごい楽しみなんだよね。愛する人のために全てを捨てようと決心する青年。もちろん最後は彼女が目を覚まして終わり」
「うーん…」
賢は何か言いたそうに呟いた。
「前も言ったと思うんだけど、なんか綺麗事ばっかりなんだよな…」
「綺麗事のどこが悪いんだよ。人を愛することがいけないっていうのか」
「そうじゃないけどさ…」
「ああわかった。お前は本当に苦しんだことがないんだ。絶望したことがないんだ」
「……」
- 111 名前:きれいごと 投稿日:2004/01/31(土) 01:36
- 輝男は六時半に賢の家を出た。空は青からオレンジへ鮮やかなグラデーションに染まっていた。遠い雲も夕日に染まっていた。商店街は活気付き、スーパーの袋を籠に入れた自転車の主婦と何度かすれ違った。
駅前のロータリーに出た。輝男の家はここから線路沿いに少し歩く。
ふいに見覚えのある後姿を見つけた。美貴だった。狭い路地へと入っていく。一瞬の逡巡の後、輝男もその路地へ入っていった。
いつの間にか空はオレンジから漆黒へのグラデーションに変わっていて、ぽつりぽつりと寂しそうな星が見えた。美貴は明滅を繰返す壊れかけの街灯の下を歩いていく。
美貴が生垣の角を曲がった。輝男も少しスピードを上げてその角を曲がろうとした。
「なぁ……だから……」
生垣のすぐ向こうから男の低い話し声が聞こえた。凄みのある声だった。思わず輝男は立ち止まり、息を潜めて様子をうかがった。途切れとぎれ耳に入って来る言葉は、物騒なものばかりだった。
- 112 名前:きれいごと 投稿日:2004/01/31(土) 01:36
- そっと首を伸ばして覗いた。見るからに悪そうな男が三人、美貴を囲んで立っていた。ふと、男のうちの一人、一際背の高いのと目が合った。頬から顎にかけて傷痕があるのが、雷光のように瞬く街灯に映し出された。輝男の背中に冷水のようなものがさっと流れた。
次の瞬間、輝男は弾丸のように走り出した。息をするのももどかしいほどに、大通りへでてもさらに駆けた。家についてからようやく玄関のドアによりかかり安堵のため息をついた
- 113 名前:きれいごと 投稿日:2004/01/31(土) 01:36
- 翌日も、その次の日もは学校に来なかった。そのことを思うたびに、輝男は胃の底に鉛の塊が溜まっていくような気がした。賢の言ったことは間違っていなかった。
その時も輝男は深く沈んでいた。女子たちの悲鳴で気がついた。
黒い帽子を目深に被り、サングラスとマスクをつけ黒いジャンパーとジャージの背の低い男が教室の前の扉から入ってきていた。そしておもむろに手を水平に挙げたかと思うと、窓ガラスが盛大な音とともに割れた。男は拳銃を持っていた。
たちまち、教室には悲鳴と怒声との渦が起きた。まるで映画の中の出来事のようだった。
再び銃声が響き、男に話しかけていた教師の足から血が噴出した。一瞬にして教室は水を打ったように静かになった。一息おいて、また泣き叫ぶ声などが爆発するように拡がる。
ちょうどドッジボールでもしているかのように、男と対角線上の教室の隅に全員が固まった。輝男はそのさらに一番奥にいた。男は意味不明な言葉を吐きながら入り口のところで生徒たちを睨んでいる。
- 114 名前:きれいごと 投稿日:2004/01/31(土) 01:37
- ふと窓に目をやると、誰かが校庭を歩いてくる姿が見えた。紛れもない、だった。瞬間、輝男の中で何かが弾け飛んだ。輝男は教室の隅の一団から抜け出た。それから教室の前のほうへ移動した。「輝男!」叫ぶのは賢だろうか。机を盾代わりに抱え、輝男は男に向かって猛然と驀進した。
銃弾が一発、机に当たった。重い衝撃が輝男の体を突き抜けたが、机は貫通しなかったようだ。それ以上撃たせる前に、輝男は男に体当たりした。
輝男と男は折り重なって倒れた。輝男はとっさに起き上がろうとしたが、その前に拳銃が三度火を噴いた。焼けた錐で衝かれたような衝撃が、腹部に走った。急激に眩暈がし、意識が遠くなった。輝男は倒れながら、ちょうど頭が男の銃を持つ腕に落ちるようと狙いを定め、そして狙い通り頭をぶつけた瞬間、と賢のことを思い浮かべながら意識を失った。
- 115 名前:Am 投稿日:2004/01/31(土) 01:38
- 終わり。ちょっと前に書いたのを名前だけ変換しますた。
- 116 名前:Am 投稿日:2004/01/31(土) 13:29
- 今気づいたけど最後のレス、変換したところが抜けてる…。
一行目真ん中当たり「紛れもない、」のあとと
最後の「頭をぶつけた瞬間、」のあとに「美貴」を脳内補完しといてください
- 117 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/01(日) 13:06
- むしろ113の最初の文の主語が気になりますが・・・
- 118 名前:Am 投稿日:2004/02/01(日) 13:35
- >>117さん
うわー気づきませんでした。例によって「その次の日も」の後に「美貴」脳内補完おながいします。
- 119 名前:いたずらはいやずら 投稿日:2004/02/02(月) 22:24
- 日の光がカーテンの隙間から漏れ、鳥たちの朝のさえずりが聞こえた。
半分眠りの中に身を浸しながら、このまま起きようか決めかねて、
携帯の背面液晶に目をやる。
まだ、六時か。
その言葉を意味もなく頭の中でリピートしながら、
あたしは再び眠りに落ちていけそうだった。
ちょうど意識が途切れ途切れになった瞬間。
いきなり足になにかが乗っかるような感覚を覚えた。
一瞬混乱したが、すぐに犯人に気づく。
あたしの横でおかしな体勢で眠っている、さゆだ。
- 120 名前:いたずらはいやずら 投稿日:2004/02/02(月) 22:25
- さゆの足を払いのけようとするよりはやく、彼女は寝返りをうった。
その胸にはしっかりと家から持参した大きな熊のぬいぐるみが抱かれている。
ほんとに寂しがりやだな。思わずあたしは一人苦笑した。
目が覚めてしまったらしい。
もう少し寝ていたかったけれど諦めて起き上がった。
トイレを済ませ、少し鏡で寝癖がないか見てからまた部屋に戻った。
相変わらずさゆはぬいぐるみを宝物のように抱きしめている。
無防備すぎるその姿を見ていると、むらむらと悪戯心が沸き上がってきた。
- 121 名前:いたずらはいやずら 投稿日:2004/02/02(月) 22:25
- そっとぬいぐるみを引っ張ってみた。
「んっ」
少し声を上げながら抵抗してくる。
さすがにいつも抱いて寝てるだけのことはある。
負けじとあたしも本格的にもぎ取ろうと力を入れた。
すると案外、するっと簡単にぬいぐるみはさゆの腕から離れた。
小さい頃からずっと一緒に寝てるというだけあって、それはもうぼろぼろだった。
特に右足の付け根からは少し綿が飛び出している。
「うわっ」
いきなりさゆがあたしの足に抱きついてきた。
目は瞑ってるから寝ているらしい。
「や、やめっ」
びっくりして腕を振り解いた。
- 122 名前:いたずらはいやずら 投稿日:2004/02/02(月) 22:26
- 再び手が空いてしまったさゆはぶんぶん手を振り回し、
それがあたしの腰に当たると、こんどは腰に抱きついてきた。
「うざっ。わかったよ…」
なんとなく独りごちながらぬいぐるみをさゆの手に返すと、
さゆは再びうれしそうにぬいぐるみを抱きしめた。
それにしても…。
こうやって眠ってればかわいいのにな、こいつは。
よくみると睫だってながいし、目はくりっとして可愛らしいし。
普段出来ないから、まじまじとさゆの顔を観察してみた。
まったくもって綺麗で、整っている。
これで性格がもっとよければ、チューくらいしてやってもよかったのに。
- 123 名前:いたずらはいやずら 投稿日:2004/02/02(月) 22:26
- 思ったとたん、目が開いた。
「うわっ」
あたしは思わず飛びのいた。
「わたし、れいなとならいいよ…」
飛びのいた状態のまま固まった。こいつは何か勘違いしているらしい。
「お、起きてたんだ…」
「ううん、れいなとがいい」
聞いちゃいない。こうなったらもう何を言ってもだめだ。
あたしは回れ右をすると、ダッシュで逃げ出した。
「そんな照れなくていいのにー」
後ろからさゆの声が聞こえた。
- 124 名前:Am 投稿日:2004/02/02(月) 22:28
- おわり。
なんでホットゾヌで書きこもうとすると二重カキコで怒られるんだろう。
- 125 名前:Am 投稿日:2004/03/12(金) 14:35
- 密やかに保全
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/21(水) 00:02
- おもしろい。
勘違いなさゆイイヨーイイヨー
- 127 名前:爆弾 投稿日:2004/08/04(水) 03:40
- ここに一つの檸檬がある。それは丸善の本棚に積み上げられた画集の頂点に位置し、時が来るのをじっと待っていた。まるで砂漠に真っ青な花がぽつりと咲いているように、奇怪な眺めだった。画集も丸善の風景も、外の世界さえも、その檸檬のために存在しているように見える。異質な空間が檸檬にぎゅっと凝縮されて詰まっているようにも感ぜられる。
積み上げられた画集は全部で十一冊だった。その表紙だけをみて、その犯行を行った少女は画集を選んでいた。キレのあるもの、美しいもの、可愛らしいもの、存在感のあるもの…。
- 128 名前:爆弾 投稿日:2004/08/04(水) 03:41
- 丸善のそのフロアには人がいなかった。目深に帽子を被った少女が、店員に怪しいものがあると告げ、確認した店員がその檸檬からちっ、ちっ、と言う音を聞こえるのに驚いて店の客を全員避難させたのだった。もうすぐ警視庁爆弾処理班とやらがやってくる。
午後九時の鐘がフロアの静寂を打ち破った。それが鳴り止むとまたしんとした瞬間が降り積もる。フロアは何かが起こることを予期してじっと待っているようにも思えた。
そして。
時計が九時十四分を指した瞬間だった。どーんという轟音と共に檸檬は爆発し、画集は全て紙くずになり宙を舞った。全てが真っ黒に焦げていた。本棚も一部黒焦げになり、地面は激しく揺れた。やがてまた静寂がゆるやかに降りてきた。
帽子を目深に被った少女はその時唇の片方を上げながら、映画の看板画が奇体な趣きで街を彩っている道を楽しげに歩いていた。
- 129 名前:Am 投稿日:2004/08/04(水) 03:42
- 終わり。
まあ、どっかで見たことあるような感じかも知れませんが、
いわずもがなの方向で…。
- 130 名前:Am 投稿日:2004/08/04(水) 03:44
- >>126さん
どうもです。久々復活でございます。
さゆみん(;´Д`)ハァハァ
- 131 名前:こまは廻る 投稿日:2004/08/31(火) 01:36
- 二学期の始まった日だった。
先生の「転校生がきます」という言葉にやたらテンションの上がった生徒たち。
前日遅くまで宿題をやっていたあたしは、それをぼんやりと眺めていた。
すると扉が開いて、入ってきたのは清楚な感じの綺麗な少女。
とたんに男子たちが怒号のような歓声をあげる。
「ぼくの名前は亀井絵里。得意な教科は数学です。よろしく」
一瞬男子たちの目が点になった。
そして後ろの廊下側に坐っていた坊主頭がおそるおそる
「えっと…、女の子だよね?」
「はい、もちろん!よろしくおねがいします」
彼女は完璧な笑顔で返す。
自分のことをぼくと呼ぶおかしな美少女。
それがあたしの絵里に対する第一印象だった。
- 132 名前:こまは廻る 投稿日:2004/08/31(火) 01:36
- 自己紹介が終わり、彼女はあたしの隣の空席に坐った。
「よろしくおねがいします」
とても中三に見えない幼い笑顔。
なぜかドキドキしてしまって、「おう」というのが精一杯だった。
休み時間、さっそく馬鹿な男子たちが彼女の机を取り巻いた。
そんな光景を横目に見つつ頬杖ついてぼーっとしていると、突然
「あの、トイレの場所わからないんですけど、一緒に行きませんか?」
いつのまにか輪の中心にいた彼女が傍にいた。
すぐ近くなんだし教えれば一人で行けるだろうとは思いながらも
しぶしぶついて行く。
- 133 名前:こまは廻る 投稿日:2004/08/31(火) 01:37
- 「れいなさん」
「ん?」
「れいなさんって部活とかやってるんですか?」
「あーまぁバスケやってたけどもう引退した」
「へぇー。強かったですか?」
「なんとか県大会までは行ったけどねー」
「本当ですか?すごいじゃないですか」
「そーでもないよ。うちの地区そんなに強くないし。中学少ないし
結局県大会で初戦敗退だったしね」
「県大会まで行ったら十分すごいですって!」
「そーかなー」
そんな話をしながらトイレについた。個室に入りながら少し考える。
あたしは社交的なほうでは決してない。
むしろ一人のほうが好きだ。
クラスでもがさつで乱暴な扱いにくい女だと思われている。
休み時間によってくる人もいない。
いつも真っ先に避けられる。今ではそれが心地よくもなってきたけど。
そんなあたしの、どこが彼女に気に入られたのだろう。
- 134 名前:こまは廻る 投稿日:2004/08/31(火) 01:37
- 男子に囲まれたときも彼女はちらちらと視線を送ってきていたし、
トイレの時も真っ先にこっちに来ていた気がする。
……ただの自意識過剰だろうか。
そんなこんなで二三日が経った。
相変わらず彼女には男子の取り巻きが大勢いる。
しかしそのせいで女子に疎まれるということもなさそうで、
なかなかうまくやっているようだ。
だけどトイレに誘われるのは決まっていつもあたし。
- 135 名前:こまは廻る 投稿日:2004/08/31(火) 01:37
- して一週間が経った頃、あたしは彼女の家に招待された。
誰かの家に遊びに行くなんてものすごく久しぶりだ。
でもたぶん、あと数週間もすれば彼女もあたしから離れていくだろう。
それが自然なのだ。
今が少しおかしいだけ。
部屋に上がると、なんともさっぱりした小奇麗な感じで少し驚いた。
「へぇー」と部屋を見回すあたしを彼女はおかしそうに眺める。
「どう?学校慣れた?」
「うん。どうにか。みんな優しい人ばっかりだし」
「いやーでも影で悪口言ってたりするから気をつけなね」
「そーなんだぁ。ぼくも言われてるのかな…」
- 136 名前:こまは廻る 投稿日:2004/08/31(火) 01:38
- そう。そんなやつらに嫌気が差してあたしは孤独を選んだ。
陰口の応酬、リーダー争い。バカげてる。
むしろ男に生まれたかった。
男子たちは子供っぽいけど、だからこそいろんなことに熱くなれたりする。
連帯感もやたら強い。
しかしもうさすがに彼らも、女子のあたしをすんなり輪に入れてくれるほど
幼くはなくなってしまったのだ。
陽は落ち、気がつくと時計の針はもう六時半をさしていた。
どうも話しに夢中になってしまったようだ。
こんなに人と話したのは久しぶりな気がする。
家を出てうちへ向かう。
なんだろうこの感じは。
胸の中をさわさわと嫌な駆け巡るような。
逞しい手にぐっと握られているような。
人通りりの多い道にでて、ふと気づいた。
あたしの忘れていた、これは、寂しさなんじゃないか
- 137 名前:Am 投稿日:2004/08/31(火) 01:38
- なんだか長くなりそうなのでまた今度
- 138 名前:気分転換・れいなと、喫茶店にて 投稿日:2004/09/08(水) 10:05
- レモンティーの入ったコップをテーブルに置いた。
ストレート過ぎた言葉。すぐには受け止められない。
くるくるとれいなは自転車の鍵を指で回す。あたしをからかうように。
だけど、そんなれいながあたしは好きなのだ。
さっきの言葉を聞いても、なお。
いつものように微笑むれいな。悪魔の笑みだ。
- 139 名前:Am 投稿日:2004/09/08(水) 23:01
- テスト
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/08(水) 23:34
- なぜだかキュンときたからレスする
- 141 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/05(金) 22:58
- >>138
。・゚・(ノД`)・゚・。
- 142 名前:こまは廻る 投稿日:2005/01/05(水) 08:50
- 予想に反して、一ヶ月二ヶ月と経っても、彼女はあたしの側から離れなかった。
そのせいで陰口を叩かれているとあたしがいくら忠告したところで全く聞こうとしなかった。
やがて梅雨になると、絵里は周りの目なんか気にせずにあたしの傘に入ってきたりそのまま腕組んだり。
どうにもあたしにはそれが重荷だった。
絵里はあたし以外の女子ともうまくやってたし、男子からは凄い人気のようだ。
なのにあたしなんかといると株が下がるだろうし、華やかな彼女のとなりにいるとあたしまで目立ってしまう。
絵里に全てを伝えて決別するのは簡単だった。
でもあたしにそれが出来なかったのは、彼女がひたすら純粋だったから。
純粋なものを壊すのは勇気がいる。
- 143 名前:こまは廻る 投稿日:2005/01/05(水) 08:50
- それに。
あたしは心のどっか凍り付いてた部分が、彼女と接することで溶けてくれそうな期待を感じていた。
そしてそれは、痛みを伴いながらも着実に進んでいるようだった。
そんなある日、あたしは絵里の部屋で面白い話を聞いた。
彼女が部活の後輩の女の子に告白された、と。
大袈裟に驚くあたしにふふふと笑って、絵里はつらつらと話を始めた。
こういう話を自慢ぽくもなく語れる絵里をうらやましく思いながらもあたしはただ聞き入っていた。
しかし、話が終わって、部活の写真でその女の子を見てあたしはまた驚くことになる。
こんなに可愛い子が、なんで同性に……。
「道重さんって言うんだ。この子」
「綺麗な子だね」
「でもね、ちょっと前までは男子のことおちょくったりして遊んでたよ。相当なナルシスト」
「へえ。で、どうすんの? やっぱ断る?」
「かなー。ぼくは女でも別にいいっちゃいいんだけど、あの子は妹的な存在だからね……」
- 144 名前:こまは廻る 投稿日:2005/01/05(水) 08:50
- 怖ろしいことに、あたしはこの時、彼女の気持ちが、女の子が女の子に恋する気持ちが分かってしまったのだ。
彼女の写真を見て。
その妖しげな光さえ湛えた瞳は、確かに人を惹きつける魅力を備えていた。
それからあたしは、狂わんばかりの日々を一週間ほど過ごした。
下の名前すらしらない、会って話したことすらない同性への恋。
結局それは、あたしにはどうすることもできなかった。
だからと言って絵里に相談して嫌われるのも困る。
そんな風に思い悩んでいた日のことだった。
- 145 名前:こまは廻る 投稿日:2005/01/05(水) 08:51
- いつものように、放課後絵里の家へ遊びに行った時のこと。
「れいな、恋でもしてんの?」
唐突に彼女は言った。
「あれ。あてずっぽうだったけど図星だったんだぁ。……まさかその相手って、女の子なんじゃない?」
一気に顔の温度が沸点に達したところにさらに追い打ちをかける絵里。
もうあたしは俯くしかなかった。
そういう話に耐性がなさ過ぎたのだ。
「やっぱりねー。こないだ写真見せた次の日からなんかおかしいと思ってたんだ。よし。こうなったら早速行動にでないと」
「こ、行動?」
机の上の携帯を掴み、いきなり電話を始める彼女。
「あ、もしもしさゆ? 今からうち来ない? さゆと友達になりたいって子が来てるんだけど。うん。うん。じゃ、待ってるねー」
一気に顔が氷点まで冷えていくのを感じながら、あたしは呆然と絵里を見上げるしかなかった。
- 146 名前:Am 投稿日:2005/01/05(水) 08:55
- つづく。
そして訂正。>>142の梅雨は雨でおながいします。
>>140さんありがとうございます。
なににキュンと来たんですかねー。
俺には思い当たることが全くないわけですが。
>>141さんもどうもです。
でも泣かないでください。
そんなわけで正月の久々更新。
これからはちょくちょく書いていこうと思ってたりします。多分…。
- 147 名前:気分転換・さゆみと、映画館にて 投稿日:2005/01/05(水) 08:59
- レインボーブリッジがどうなろうと興味ない。
スパイダーマンが何しようと、別にどうだっていい。
くだらないスクリーンの幻想よりも、
だいじにしたいものが、あたしにはある。
さゆ、気づいてるかな。きっと気づいてないだろうな。
いや、それでも全然構わないんだけれども。
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/05(水) 18:09
- 構わないって言われたって気になるものは気になる!
またも胸がキュンとしてしまった。…これずっと続ける気が!?
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/05(水) 21:37
- いろいろと感動した
- 150 名前:名無飼育さんα 投稿日:2005/01/05(水) 23:35
- 急展開ですね。これからどうなるのか楽しみです。
- 151 名前:気分転換・ちゅーしゃき。 投稿日:2005/01/26(水) 22:44
- 「麻琴、血を抜くんだよ」
「え、抜いてどうするの? 献血?」
「私の血を注ぎ込むの」
「……ど、どうして?」
「私、B型だから」
「? あたしはO型だねぇ」
「だから抜くんだよ!」
「ええっ?」
「そうすれば麻琴も今日からB型になるから!」
「べ、別にB型にならなくても良いよぉ」
「良くない! 全然良くない、宜しくない!」
「そんな精一杯否定しなくても……」
「ダメだよ、O型は。一刻も早くB型になるべきだよ」
「あさ美ちゃんはO型に何か恨みでもあるの?」
川+`д´)恨みなどと生ぬるい事を言っている場合ではないっ!
∬∬;´▽`)ヒィッ
「大体O型ってね、吉澤さんもO型なんだよ」
「あ、そうだよ。同じなんだよねぇ」
川+`д´)嬉しそうな顔をするな!
∬∬;´▽`)ヒィッ
- 152 名前:気分転換・ちゅーしゃき。 投稿日:2005/01/26(水) 22:44
- 「そんなだから写真集もスルーされるんだよ! もっと危機感を持ちなよ!」
「関係ないよぉ……ていうか、A型じゃだめなの?」
「A型? A型はもっとダメ。愛ちゃんと同じだもん」
「え、でも、B型だって里沙ちゃんと同じ……」
川+`д´)私と同じなんだよ!
∬∬;´▽`)ヒィッ
「大体うちのメンバーはB型が少ないんだから、
一人ぐらい増えた方が世のため人のため私のためになるの!」
「そしたらAB型の方が少ないよ。亀井ちゃんだけだし」
「麻琴がAB型特有のクールさとか身に着けられるわけがないよ」
「…………」
「この際、亀井ちゃんがクールかどうかは置いといて」
「…………」
川+`д´)なんか文句あんのか!
∬∬;´▽`)ヒィッ
- 153 名前:気分転換・ちゅーしゃき。 投稿日:2005/01/26(水) 22:44
- 「さて。まずは注射器をどこかから入手しないと」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。あたしまだ了承してないし」
「麻琴の意見なんて最初から求めてないよ」
「…………」
「確か人間の血って5リットルぐらいだったっけ?」
「待って! 大体なんでいきなり血液型の話になるの?」
「……わかんないの?」
「わかってたら苦労しないよぉ」
川+`д´)苦労してるのはこっちだ!
∬∬;´▽`)ヒィッ
「とにかく! 麻琴はここで豆柴よろしく待ってなさい」
「あたし、犬呼ばわり……」
∬∬;´▽`)アワワ・・・ =川+`д´)プンスカ
- 154 名前:気分転換・ちゅーしゃき。 投稿日:2005/01/26(水) 22:45
- 「ど、どうしよう……このままじゃB型にされちゃうよ……」
壁│ー’) ∬∬;´▽`)ウーンウーン
壁│ー’)ジー ∬∬´▽`)・・・?
壁│ミ (´▽`∬∬?
壁│ (´▽`∬∬
壁│ー’)サッ Σ(´▽`∬∬
壁│ー’)ニヤ (´▽`;∬∬
- 155 名前:気分転換・ちゅーしゃき。 投稿日:2005/01/26(水) 22:45
- 「なにしてんの、愛ちゃん……」
「麻琴が困っとるって知らせが入ったから参上したやよ」
「そ、そうなんだ……」
「あさ美、さっきウチのとこ来たやよ」
「え? そうなの?」
「そんで血液型の話になって」
「う、うん」
「あさ美が麻琴の事自慢して」
「……は?」
「あーしが麻琴は浮気者だって言って」
「え?」
「そしたらあさ美が泣いて否定して」
「ちょっ」
「あさ美の思いが重すぎたんやよ、って上手い事言って」
「上手くねーよ!」
「そもそも麻琴はO型やしって付け加えたら、
急に形相を鬼の如く変化させて行ってもーた」
「つうか全部愛ちゃんのせいじゃんかよ!」
「そうとも言うかもしれん」
「そうとしか言えないって!」
壁│ー’) (´▽`;∬∬ドウスレバイインダヨー
壁│ー’)・・・ (´▽`;∬∬
壁│ミ Σ(´▽`;∬∬イッチャウノカヨ!
- 156 名前:気分転換・ちゅーしゃき。 投稿日:2005/01/26(水) 22:45
- 「よーし、麻琴注射器持って来たよ!」
「どっから……」
「さーほら早く横になって!」
「ち、ちょっと待ってよ、何のために……」
「なんでわかってくれないの!あたしのためじゃない!」
「ま、待ってよ!……あたしあさ美ちゃんのこと大好きだよ!」
「え……」
「あたしはあさ美ちゃんが世界で一番好きなの!」
「……」
「ぁ……」
「あわあわあわあわ」
「あ、あさ美ちゃん貧血……」
ナデナデ ∬∬´▽`)ノ(・-・*川
- 157 名前:Am 投稿日:2005/01/26(水) 22:49
- ∬∬´▽`)ノ 終わりだよ。
>>148さん
レスありがとうです。
たぶんずっと続きますよ。俺がやる気なくならない限り。
>>149さん
レスどうもです。
感動しましたか。うわーい。
>>150さん
レスさんくすです。
一応ちょくちょく書いてはいるんで近いうちに更新出来たらいいなぁ。
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 22:52
- 萌えたー!萌えたよありがとう
- 159 名前:こまは廻る 投稿日:2005/01/31(月) 01:12
- 写真うつりと言うのは、いい人と悪い人の差が激しい。
プリクラなんかだとみんな二割り増しくらいで綺麗に写ったりするけれど、
普通の写真は普段より悪く見えたりもする。
怖ろしいことに、彼女、道重さゆみの写真うつりは悪いほうだったようだ。
現実に見る彼女は、写真よりもさらに可愛かった。
もう、溶けてしまいそう。
「道重さゆみです。よろしくれいなさん」
「おお、よろしく」
言って、握手を交わした。確かに感じる体温。
その瞬間彼女はあたしの物だった、そんな気がした。
だけど。
「絵里ちゃーん今度デートしましょうよぉ」
「えぇ、どうしよっかなぁ」
「いいじゃん、何も用事ないんでしょ?」
「じゃあ、ぼくの前にれいなとデートしてきたらいいよ」
さらっと、何でもないような風に彼女は言う。
だけどこの胸とても痛い。
「するよする。だからね、来週の土曜日ね」
「じゃあ今週の土曜はれいなとだね」
「うん、うん」
まるでエサを目の前にした犬のよう。
勿論その目はあたしにはちっとも向かず、専ら絵里の虜。
そんなわけで、あたしは彼女とおかしなデートの権利を得たようだ。
- 160 名前:こまは廻る 投稿日:2005/01/31(月) 01:12
- そして、当日。微妙な曇り空。
まずは無難に映画館に入った。どんなのを見ていいのかわからなかったから、
話題のアクションを選んだ。
それから、昼食を摂りにファミレスに。
「どう、映画楽しかった?」
「あ、ハイ楽しかったです」
どうも気になる微妙な間。
「どーかした?」
「いや、わたし絵里ちゃんのこと好きなんですよぉ。だから、来週のこと考えてました」
滑らかに流れていた時間が凍りついた。
どこまでも天真爛漫な彼女は、あたしのことなんか気にもならないんだ。
暗い穴を落ちていくような感覚。いや、いっそ落ちてしまいたかった。
彼女はショックを受けたあたしになんかまるで気づかず、絵里との想い出を語る。
一緒にパフェ食べたんですよ。よく学校帰り一緒になるんですよ。
その言葉の一つ一つが剃刀の刃となってあたしを切り刻んでいることを彼女は知らない。
「わたし絵里ちゃんと結婚したいな。どう思います? 別に女同士でもいいですよねぇ?」
「……いいんじゃない?」
また一瞬で彼女は自分の世界に戻っていった。
- 161 名前:こまは廻る 投稿日:2005/01/31(月) 01:13
- そんなこんなで、あたしとさゆみのデートは終わった。
捨てられた雑巾のように家へ帰って、声を殺して泣いた。
誰も悪くはないんだ。悪いのは全てこのあたし。
不意に静寂を打ち破って賑やかな音が部屋を満たした。
『さくらんぼ』の着うただ。
聞き慣れた歌詞を聴いてまた涙が溢れた。
涙を呑んで、通話ボタンを押した。
「もしもしー。今日はどうだった? うまくいった?」
絵里だった。
「ああ、楽しかったよ。すっごく……」
人付き合いに慣れてなかったあたしにはその嘘は難しすぎた。
すぐにばれてしまった。
「れいな……。ごめん」
「絵里が謝ることなんかないよ」
そう。悪いのは恋をしてしまったあたしのほう。
あたしの、負け。
- 162 名前:こまは廻る 投稿日:2005/01/31(月) 01:13
- 日曜はなんとなく過ごして、気を紛らわそうとした。
昼間やってたアイドルの出ている番組では、みんな可愛らしい顔をしてて苛々した。
そして月曜日。あたしは教室に入ってくる絵里の姿を見て目を瞠った。
さっぱりと、男のようにと言うのは大袈裟すぎるだろうが、
それでも以前より大分短くなった髪を弄って絵里は歩いていた。
もしかしたらさゆみに対する何らかの効果を期待したのかもしれないが、
間違いなく今のほうが可愛かった。それは確かだった。
- 163 名前:Am 投稿日:2005/01/31(月) 01:22
- 続く。終わりが見えない…。
>>158さん
どうもです。萌えられたー。ずわーい。
- 164 名前:気分転換・れいなとの決意 投稿日:2005/01/31(月) 01:25
- レールの上を走ってるだけだ、とれいなは言った
スルスル滑っていけば目的地に着ける。でも…。
あたしはそんなの嫌。それがれいなの言い分だった。
りょーかい。私はふざけて言った。でも本当は、
がたがた震えていた。たぶんれいなも一緒だった。
とまる事などもう出来ない。幕は上がってしまったのだ。
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 23:19
- すごくツボに入った展開だ
田中かわいそうだがよくはまってるなー
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