【新スケバン刑事〜少女武闘伝〜】
- 1 名前:名無慎二 投稿日:2003年08月28日(木)23時59分42秒
- この設定でドラマ化きぼ〜ん
- 2 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月29日(金)00時00分46秒
- プロローグ
札幌市内から少し離れた郊外を一台の黒いBMWが走っていた。
広々とした大地に伸びた広く長い道路。
晴れた空の下には対向車も少ない。
最新のタイプのエンジンは騒音もなく、ただ北海道の澄んだ空気を切り裂きながら疾走していた。
やがて車は一軒の家の前に停まった。
「ここね」
サングラスをはずし、その家を見上げる。
その車を運転していた人物は車を降りた。
30代を過ぎたくらいの女性。
細身の身体に上品な黒のスーツが良く似合う。
服のシワを軽く直し、すっと背筋を伸ばす。
モダンな洋館風の家。
石造りの門をくぐり、ドアの前に立ち呼び鈴を押した。
「はーい」
声がしてしばらくして、ドアが開く。
30代半ばくらいの女性が顔を出した。
「はい、どちら様でしょう?」
「わたくし、こういう者です」
彼女は内ポケットから警察手帳を出して見せた。
- 3 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月29日(金)00時01分16秒
- 「警察の方?」
「そうです、それともあなたにはこちらの方がわかっていただけるかもしれませんね」
そう言って彼女はポケットから何かを取り出した。
彼女が取り出したのは、赤い同心円が描かれている銀色のヨーヨー。
「!?」
彼女はヨーヨーに仕掛けられている小さなスイッチを押した。
ヨーヨーの片面が開き、中から桜の代紋が現れる。
「探しましたよ、先輩」
懐かしそうに彼女は微笑んだ。
「あなたは?」
「はじめましてですね、私は警視庁の五代と申します。かつて2代目スケバン刑事麻宮サキと名乗っておりました。
あなたが行方不明になった後、あなたの名前と任務を継いだ一人です」
彼女は名刺を差し出す。
警視庁特別公安部特殊捜査課、警部五代陽子
名刺にはそう書かれてあった。
「……もうその話は結構です。私は今は……」
「海槌三姉妹との戦いの後、あなたは忽然と姿を消し行方不明となった。
実は全身に火傷を負い、通りがかった若い医師に助けられた。
あなたは身元不明のままその医師の勤めていた病院に入院、手術を受けました。
回復後、あなたはその医師と結婚、一女をもうけ、そして、ご主人の仕事の都合で北海道に移り住んだ。
まちがいありませんね?」
- 4 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月29日(金)00時02分06秒
- 「調べたんですか?」
「いえ、あなたのご主人が殺された事件を追っているうちに偶然、あなたの事を知ったんです。
行方不明だった麻宮サキをね」
「……」
サキは黙って五代陽子の目を見つめた。
「今日、わたくしがお伺いしたのは他でもありません。
率直に申し上げます、あなたの娘さんに「特殊潜入捜査官」になっていただきたいのです」
「あの子に、「スケバン刑事」になれというのですか?」
「あなたもご存知の通り、この任務は警視庁内でもごくごく一部の者しか知らない極秘任務です。
仕事の性質上、公的な活動ができません。捜査官も特別な事情を持って捜査に協力できる者に限られます。
失礼ながら、あなたの娘さんをしばらく調査させていただきました。
さすが、初代「スケバン刑事」の血を引くだけあって、みごとな才能を持つお子さんです。
私どもに彼女を預けてはいただけませんか?」
「帰ってください!、私のような目に娘を会わせる訳には行きません」
「それがあなたのご主人を殺した相手でもですか?」
「?」
「かつて壊滅させた「青狼会」の残党が「神狼会」と名を変え暗躍しています。
今、彼らが何を企んでいるのか、何をしようとしているのかわかりません。
でも、その企みの前にあなたのご主人の存在が邪魔だったようなのです。
他にも「神狼会」によって優秀な研究者や医師などがさらわれたり、殺されたりしています。
私も、部下を2人亡くしました。
もう一刻の猶予もありません。「神狼会」の計画が実行されないうちに彼らを壊滅させる必要があるのです。」
- 5 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月29日(金)00時03分31秒
- サキは黙っている。
陽子は手に持っていたヨーヨーをサキに手渡した。
ずっしりとした重合金製の特殊ヨーヨー。
もうこのヨーヨーを2度と手にする事はないと思っていた。
懐かしい重み。
「これもあの子の運命なんですか……」
サキの呟きに陽子は小さく頷いた。
サキは掌の十字のキズ痕を見つめた。
「やっと運命の呪縛から逃れられたと思ったのに、やっと普通の生活ができると思ったのに……」
********************
数日後、都内某所のとあるビルの前に一人の少女が立っていた。
大きなリュックを背負い、不安げにビルを見上げる。
そのビルの窓から、その少女を見つめる女性が一人。
「来たわね」
彼女はすぐに下に降りてその少女を迎えた。
「いらっしゃい、待ってたわ。
私は警視庁特別公安部特殊教練課の教官、風間唯と言います。よろしくね。
今日から3ヶ月間、あなたをみっちり鍛えてくれと2代目から頼まれてるのよ。
あなたを一人前の「スケバン刑事」にしてくれってね」
「あ、あの……
一体何の事だか
私、とりあえずここに行きなさいって、言われて来ただけで……」
「なんだ、何も聞かされてなかったの?
まあいいわ、事情は追々説明するわ。
とりあえず今日からしばらくここで私の特訓に付き合ってもらうわよ。
そしてあなたは今までの名前を捨てて新しい名前を名乗るの
あなたのお母さんの名前。
”麻宮サキ”
そして特殊潜入捜査官として働いてもらうわ、コードネームは「スケバン刑事」
もう、今日からあなたは、”紺野あさ美”ではなくなるのよ……」
- 6 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月30日(土)01時15分24秒
- 第一話
「北海道からの新入生・新スケバン刑事麻宮サキ登場!!」
「じゃあ、お母さん行って来るね」
小川麻琴は真新しいセーラー服に紺のカーディガンを羽織った。
彼女の家は都内のとあるヘアサロン、1階が店舗で2階が自宅になっている。
「ちょっと、待ちな」
階段を下りようとする麻琴を母親が呼び止めた。
「いいかい、麻琴、何でも初日が大事なんだからね
ここで、ガツン!とやったら後々大丈夫なんだから」
「もうその話はいいよ、お母さんの時代とは違うんだからさ」
麻琴は母親の腕を振り払った。
「違うもんかい、こういうことはね時代が変わっても同じなんだよ
何の為にお前に子供の頃から”技”を仕込んできたと思ってるんだい」
「はいはい、いじめられないように頑張ります」
麻琴は肩をすくめた。
「仕事じゃなきゃぁ、入学式に付き添ってあげられるんだけどねぇ」
「ちょっと、やめてよ。もう子供じゃないんだから!!
母さんが来て学校で騒ぎなんか起こされたらたまったもんじゃないわ!」
- 7 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月30日(土)01時16分30秒
- 麻琴はそう叫んで、家を飛び出した。
彼女の母親はまだ30代半ば
高校卒業後、美容師の専門学校に通っている時に、父親と知り合った。
すぐに妊娠、そして結婚。
二人は麻琴を育てながら働き、都内に小さな店を持つまでになった。
そしてその一人娘も今年の春から高校生になる。
彼女が今日から通う「天王洲高校」は私立の共学校。
制服は都内ではすっかり珍しくなった、男子は学ラン、女子はセーラー服。
中学部もあり、大半は持ち上がりで進学する。
地元の公立中学に通った麻琴は、高等部からの入学になる。
家を出て駅に向かい、電車に乗る。
学校に近くなるにつれ、同じような制服姿の学生が増えてくる。
彼女と同じ新入生だろう、父兄同伴の生徒も多い。
電車が目的の駅に到着すると、各ドアから学生の集団が次々と吐き出される。
駅前の人ごみ
ぞろぞろと連なる学生の列
一人だけ流れから取り残されるように、とぼとぼと歩く女生徒がいる。
ポニーテールに大きな黒いメガネ。
大事そうにカバンを抱えている。
あんまりとろとろと歩くので、麻琴はその女生徒にぶつかりそうになった。
「さっさと歩けよ……」
麻琴のその呟きが聞こえたのか、彼女はぺこりと頭を下げた。
「すいません……」
(こういう気の弱そうな子はいじめられるんだろうな)、彼女を追い抜かしながら麻琴はそう思った。
- 8 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月30日(土)01時17分16秒
- しばらく歩くと、前の方で生徒達が何かざわめいているようだった。
見ると若い男が2人、髪の長い女子生徒に絡んでいる。
「ちょっと放してよ!!」
(やれやれ、初登校の日から騒ぎを起こさなきゃなんないのかよ……)
麻琴はポケットに手を忍ばせようとした。
「?」
見るとさっきのメガネの女生徒が、麻琴のすぐ横からすっと前に出た。
彼女は教科書を熱心に読みふけっている。
彼女は教科書に集中しているのか、騒ぎに気づかず、その男達のところに真っ直ぐに歩いていく。
「なんだこいつ?」
麻琴はその女生徒の奇妙な行動を訝る。
ドン!
当然その女生徒は男達にぶつかる。
「なんだよ、お前!」
男達は今度は彼女にからんできた。
「すいませんすいません」
メガネの女生徒はそのとき初めて、とんでもないところに飛び込んだ事に気づいたのだろう。
おどおどしながら、何度も頭を下げた。
絡まれていた髪の長い女生徒は、その隙にその場から立ち去ろうとした。
- 9 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月30日(土)01時17分54秒
- 「ちょっと待てよ!」
ところが、追いかけようとする男の足がメガネの女生徒の足に引っかかり、男は派手にひっくり返った。
「てめえ!」
「すいませんすいません」
更に申し訳なさそうに彼女は頭を下げる。
「ちょっとこっちに来いっ!」
メガネの女生徒は駅前通りのビルとビルの間の狭い通路に連れ込まれた。
「おいおい」
見るに見かねた麻琴が追いかけようとしたが、メガネの女生徒ははそこからすぐに出てきた。
「すいませんすいません」
ぺこぺこ謝りながら逃げるように走り去る。
「!?」
麻琴が通路を覗き込むと、さっきの男が2人おなかを抱えてうずくまっていた。
ホンの一瞬の出来事だった。
「何これ!
いったいどういう事?!」
- 10 名前:背古井 投稿日:2003年08月30日(土)09時58分18秒
- おっ、こちらに移動してきたんですね、楽しみにしてます
- 11 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時20分52秒
- 天王州高校入学式は滞りなく終了した。
麻琴のクラスは1年B組
天王洲中学出身者でもなく、また同じクラスに知り合いもいないので、彼女は教室の一番後ろの窓側の席に一人で座っていた。
ひときわおしゃべりがうるさい2人組がいる。恐らく、中学からの持ち上がり組だろう。
数人の取り巻きを従えて、たわいもない話題に花を咲かせている。
教室を見回すと通路側の後の席に、さっきのメガネの女生徒が座っていた。
「あいつと同じクラスだったんだ……」
一見、真面目で気弱そうないじめられっ子風。
でもさっきの一瞬の出来事が、麻琴には信じられなかった。
あの数秒の間に一体何があったんだろうか?
麻琴は目立たないようにじっとその女生徒を観察することにした。
先生が入ってくる。
背の高い若い美人の先生だ。
「はーい、みんな席について頂戴」
生徒たちは一斉に席に座る。
彼女は黒板に大きく名前を書いた。
「私が今日から1年間このクラスの担任をします。飯田圭織と言います。
専門教科は美術です。
みんなよろしくね」
さっきの2人はまだおしゃべりを続けている。
「ほらそこ、静かにしなさい
ええっと、あなたは達は辻さんと加護さんね」
名前を呼ばれた2人はふてくされた顔で、おしゃべりを止めた。
- 12 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時21分25秒
- 「とりあえず、しばらくは出席簿順に席に座ってもらいましょう。
出席番号の1番は……麻宮サキさん?」
「はい」
名前を呼ばれて、さっきのメガネの女生徒が立ち上がった。
「じゃあ、麻宮さんから順番に出席順に座ってくれるかな?」
(ふーん、あいつ麻宮サキって言うんだ……)
HRが終わった。
HR中もひときわおしゃべりがうるさかった2人がさっそく麻宮サキにからんでいた。
「あなた、見かけない子ね、どこの中学?」
2人組の片方、加護が訊いた。
「私は北海道から転校してきたんで……」
「ふーん、名前何て言ったっけ?」
「麻宮サキです」
「私たちは天王洲中学出身の辻希美と加護亜衣よ
田舎者のあなたは知らないと思うけど、ここは中学からの持ち上がりの生徒が多いの、ヨソモノは何かと大変だから色々と教えてあげるわ」
「ありがとうございます」
サキは小さく頭を下げた。
「あーあ、あの子可愛そうに……」
それを見ていた麻琴の隣にいた女生徒が呟いた。
- 13 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時21分55秒
- 「何?どういう事?」
その独り言を耳にした、麻琴はその女生徒に訊いた。
「ああ、あの辻さんと加護さんの事よ。ああやって弱そうな子に目をつけてはパシリ代わりに使うの
中学の時もそれが原因で何人か学校辞めたり、自殺未遂騒ぎまで起こしてるのよ。
対外的にはその子個人の問題で片付けられたけど、
みんな知ってるわ、原因があの2人のイジメだったってこと
可愛そうに、今年の犠牲はあの子になりそうだね」
「ふーん……」
サキは辻加護に話し掛けられながら、ちらちらと横目で別の生徒を見ていた。
髪の長い女生徒
そう言えば、朝男達に絡まれてた子だ。
また、麻琴はさっきの女生徒に訊いた。
「あの髪の長い子は誰?」
「ああ、新垣さんよ。
彼女も天王洲中学からの持ち上がり組の一人で、お父さんが大学教授だったかな?
お金持ちのお嬢様よ」
べちゃべちゃうるさく話しかける辻と加護を無視して、サキは立ち上がった。
新垣の席に向かう。
「こんにちは」
「あら、朝の……?
大丈夫だったの?」
「ええ、なんとか上手く逃げられました」
- 14 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時22分46秒
- 「あなたも、ドジですねあんなところに飛び込んでくるなんて
でも、おかげで助かったわ
ありがとう」
彼女は頭を下げた。
「私、新垣里沙って言うの、よろしくね」
「麻宮サキです。よろしくおねがいします」
2人はにっこり微笑んだ。
**********************
「じゃあ、今日はこれで終わりです。
みんな、明日から頑張りましょう。
はい、みんな起立!礼!」
飯田先生の号令で高校生活第1日目が終わった。
一斉に生徒たちは教室を出る。
早速、辻と加護の二人がサキに近づいてきた。
「麻宮さん、一緒に帰りましょうよ」
サキは二人の声を聞こえない風にして、里沙の席の前に行った。
「里沙さん、一緒に帰りませんか?」
「辻さんと加護さんはいいの?」
里沙が訊いた。
サキの背後で辻と加護の二人が何やら大声で騒いでいる。
「ちょっと、麻宮さん、シカトする気!!」
サキはそんな二人には全く意に介さない様に言った。
- 15 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時23分50秒
- 「ああ関係ないから大丈夫ですよ」
「気をつけなさい、サキさん。
あの二人、中学の頃からあなたみたいにおとなしそうな生徒に目を付けてはイジメてたのよ。
今日のところは彼女達に付き合っておいた方が良いんじゃない?」
「そうなんですか」
サキはまるで他人事の様に言う。
「サキさんて変わってますね」
そう言って里沙は笑った。
「え?」
「普通なら、あのイジメっ子2人組を無視して私なんかに話しかけたりしないわ」
「ええ、ちょっと事情があるんですよ」
「事情?」
「話したい事があるんです。
帰り道で話しますから、行きませんか?」
辻と加護の二人の声が更にうるさくなったので、サキは里沙を促した。
「ええいいけど……」
教室を出る2人を見て、麻琴はこっそり後を追いかけた。
学校を出て、しばらく歩いている二人。
駅前通りを抜け、人気のない住宅街へ。
- 16 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時24分25秒
- 「さっき言ってた話って何?」
里沙が訊いた。
「ええ、実は……」
サキが言いかけたその時だった。
一台の車が猛スピードで近づいて来て、2人の前に停まった。
中から男が3人現れる。
内2人は朝、里沙にからんでいた例の男達だ。
「サキさん逃げて!!」
「この人たちは何?」
「わからないけど、ここ何日か私を狙ってるみたいなの
あいつらの狙いは私、だからサキさんは逃げて」
サキは逃げない。
新垣里沙はセーラー服のスカーフを取り、片方に結び目を作る。
右手にもう片方を数回巻きつけると、背中でサキをかばうように3人からの盾になった。
サキはメガネをはずし、構えた。
「何なの!これは一体!
物陰に隠れていた麻琴は目の前の展開に驚く。
「あなた達、いい加減にしてよね」
里沙が叫ぶ。
襲いかかる男に里沙のスカーフが鞭のようにたたきつけられた。
転がる男。
続いて襲ってきたもう一人の男の拳をサキは冷静にさばく。
右正拳突きが入る。
- 17 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時24分57秒
- 「ぐわっ!」
一撃で男は動かなくなった。
拳法?空手?どちらにしろ相当な使い手には間違いなかった。
新垣の動きも男たちに負けていない。こちらもかなりの”闘い慣れ”した感じだ。
だが、サキの方はそれ以上。
麻琴もいろいろとこういった現場を体験しているが、サキは単純に”強い”そんな感じだった。
3人目の男が胸ポケットに手をやった。
その手には拳銃が握られている。
「危ない!!」
麻琴は動いた。
シュッ!!
唸りを上げて振り下ろされる右腕。
その手から放たれた弾は、一直線に男の手の甲に当たった。
「うわ!!」
男の手から拳銃が離れた。
一緒にビ−玉が2つ、転がって落ちる。
サキは物陰の麻琴に気付き軽く会釈をした。
同時に拳銃の男に蹴りが入る。
吹き飛ばされるかという程の勢いでのけぞる男。
3人の男達は、3人の少女によって一瞬で倒されてしまった。
「早く!逃げましょう!!」
サキは里沙の手を引っ張った。
「何なんだよ!あいつらは」
そう叫んで、麻琴もその場から走って逃げた。
********************
- 18 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時25分30秒
- 「サキさんって、めちゃめちゃ強かったんですね」
肩で息をしながら里沙は言った。
「あの男達は何?」
「私の事を狙ってるみたいなんです。
最初は偶然を装って、最近は堂々とあんな風に襲ってくるようになりました」
「そうなの……
実は私、あなたを護衛する為に派遣されてきたんです」
「私の護衛?」
「ええ」
サキはニコっと微笑んだ。
さっきの場所から数百メートルは走っただろうか?
それなのに、彼女は息一つ乱れていない。
「私、護衛なんか要りません、自分の身は自分で守れます。
護身術も習ってるんです、あんなくらいの男なら私負けません」
「でも、任務なの
そして、それは私の運命……なのかもしれない……」
そう言って、サキは少しだけ目を伏せた。
********************
- 19 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時26分38秒
- 「麻琴、学校どうだった?」
小川麻琴が家に着くなり、母親が近づいてきた。
その目は、一人娘が高校生活第1日目にしてどんな騒ぎを起こしたのだろうかという期待で満ち溢れているのが、麻琴にはありありと見て取れる。
「うん、まあ……色々あった」
とりあえず、そんな母親を喜ばすような今日の事件を話す訳には行かない。
拳銃を持った男たちと戦った……なんて話しをした日には、驚喜するに決まっているからだ。
麻琴は曖昧に答える事にした。
「とりあえず……変な子がいたんだ、見かけ弱っちそうなのに、やたら強いんだ
麻宮って言うんだけれどね……」
「えっ!」
母親の動きが止まった。
表情が見る見る変わる。
何時にない真剣な表情で彼女は訊いた。
「もしかして、その子「サキ」って名前じゃない?」
「知ってるの?」
「麻宮サキがお前の学校にいるのかい?」
「ええ、そうだけど……」
「そうか……」
彼女は目を閉じ、しばらく考え深げに頷いた。
「多分、その子が私の知っている麻宮サキと関係がある子なら……麻琴、その子に協力してあげなさい。
私がかつてそうしたようにね
お前に子供の頃から仕込んだ”技”がきっと役に立つはずだよ」
そう言って彼女は娘の両肩を強く掴んだ。
娘の目を見つめるその瞳は、かつて”ビー玉のお京”として鳴らした頃の輝きから全く変わっていなかった。
********************
- 20 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時27分26秒
- 都内某所にある高級高層マンション
まるで高級ホテルのような豪華な造り。勿論住人もそれなりの階級の人が住んでいる。
一室でも数億は下らないであろう、そのマンションの最上階。
このフロアーを全て”彼女”が独占していた。
黒いスーツの男が、やってきてドアをノックした。
「どうぞ」
ドアを開けると、中に女性が2人。
部屋の両端に置かれたデスクにそれぞれ座っている。
「梨華様、お電話です」
男は手に持った受話器を渡した。
「……」
受話器を受け取るとすぐに彼女は顔を曇らす。
「……わかりました。
次の指示を待ちなさい。追って連絡を入れます」
それだけ言うと彼女は電話を切った。
「失敗?」
もう一人の背の低い女性はそれを見て、困った顔をして肩をすくめた。
「みたいね……」
「愛様に報告しないと」
「そうね……」
- 21 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年08月31日(日)23時28分37秒
- ”愛様”と呼ばれるその女性の秘書、梨華と真里は2人の机の間にある、大きな扉を少しだけ開いた。
2人の足音すら完全に消してしまうほど敷き詰められた絨毯。
奥にある広いリビングに、少女が一人いる。
「愛様……」
真里は恐る恐る声をかけた。
「失敗したの?」
彼女はまるでそれが当たり前なのかのように言った。
「申し訳ございません」
梨華と真里は同時に頭を下げた。
「もういいわ、騒ぎが大きくなると面倒だし」
「消しますか?」
梨華が訊いた。
「消しちゃって」
そう言って笑う笑顔は、ごく普通の少女と何ら変わりがない。
「かしこまりました」
秘書2人はお辞儀をしたまま、静々と部屋を後にした。
愛は大きな窓の前に立ち、外の風景を見下ろした。
都心の町並み。
広がる景色を眺めながら、なぜか彼女はくすくすと笑い出した。
「仕方ないわ”彼女”に働いてもらわないといけないわね……」
翌日、同じく都内某所。
大小様々なビルが立ち並ぶ、そのビルの一つ。
柵もないビルの屋上に3つの人影があった。
そう、サキたちを襲ったあの男達……
男達3人は下をじっと見ている、表情は無い。
通行人が屋上の人影に気付く。
一人、また一人ビルの屋上を指差す。
その数が少しずつ増えてくる。
衆人の見守る中、男達は一斉に飛び降りた。
野次馬から悲鳴が上がった……
新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第一話
「北海道から来た新入生・新スケバン刑事麻宮サキ登場!!」
終わり
- 22 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月04日(木)01時15分22秒
- 第二話「さらわれた里沙」
次の日、学校へ登校中のサキの前に、黒いBMWが停まった。
黒いスーツにサングラスの女性。
中から現れたのは、五代陽子だった。
「あ、五代さん……」
「サキ、ちょっと来て」
陽子はサキを車に乗せた。
「サキ、この男達に見覚えある?」
陽子は3人の男の写真を手渡した。
サキにはその写真のに見覚えがあった。
昨日、サキと里沙を襲った男達だ。
「昨日私たちを襲った……」
「やはりそうね、この3人死んだわ」
「え?」
「昨日、ビルの屋上から3人一緒に飛び降りて、即死よ
目撃者がたくさんいるわ、警察は自殺として処理したけどね」
「やはり神狼会と関係が?」
「そういうことね。
三人が同時にビルの屋上から飛び降りるなんて不自然過ぎる。
それも、あなたたちを狙っていた男たちがね。
どういう方法を使って、この三人が自殺したのかはわからないけど、それが神狼会のしようとしている事に何か関係がある……そんな気がするわ。」
- 23 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月04日(木)01時16分10秒
- 「神狼会の目的?」
「恐らく神狼会が関係しているのではないかと思われる、ここ数年内に起こった事件はね、
優秀な脳外科医だったあなたのお父さんを初めとして、精神科医、心理学者や催眠術師……
これらの情報と、私の部下だった捜査員の命がけの潜入捜査で得られた調査結果から
私達は、神狼会は何らかの方法で大量の人間を「コントロール」しようとしているのではないかと見ているの」
「里沙さんのお父さんも?」
「ええ、新垣教授は行動心理学の優秀な研究者だった。
特に人間の潜在意識に働きかける心理的な効果の研究を続けていたわ。
「ハロー効果」と呼ばれる「無意識のコントロール」の研究。
もしその研究で「成果を上げる方法」が見つかっていたとしたら……
そのために神狼会に狙われたのだと思うわ。
新垣教授が行方不明になった後でも里沙さんを狙うのは、その研究の関する重要なカギを彼女が握ってるのかもしれないわね」
******************************
麻琴はまだ昨日の出来事が信じられなかった。
麻宮サキについて母は多くを語らなかったが、麻宮サキという名前が何やら特別な名前であるという事はなんとなく理解できた。
「それが何か知りたかったら、自分で探りなさい」
母はそれだけ言った。
「でも間違いなく、お前を退屈させる事はないよ」
(いったい麻宮サキって何者なんだろうか?)
麻琴はそう言った母の言葉を思い出しながら、学校に行った。
廊下の向こうに、その麻宮サキが歩いていた。
一人の女生徒がサキに近づいてくる。
「あれ、紺野さんじゃない?」
- 24 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月04日(木)01時16分44秒
- 「え?」
サキは驚いたように彼女を見つめた。
「覚えてない?一昨年の空手大会の準々決勝で闘った……」
「人違いですよ、私麻宮と言うんです……」
「あれ、そうなの、ゴメン。いやあんまり似てたもんだから……」
それを見ていた麻琴は、その女生徒に近いて訊いた。
「ねえねえ、さっき言ってた紺野って誰?」
「ああ、北海道出身の女子空手の選手よ
大人に混じって練習してたくらいで、北海道の女子空手界じゃ無敵だったらしいわ。
私は中学2年の時に準々決勝で対戦して負けちゃったんだけどね……」
「ありがと」
麻琴は彼女に礼を言うと、すぐに学校の図書室に向かった。
パソコンを立ち上げ、検索サイトにキーワードを入力する。
「紺野……北海道……空手……」
1000件近い検索結果が出た。
確かに「全国空手道選手権」女子個人組手の部で、北海道出身の「紺野あさ美」という選手が中学生の部と一般の部で優勝している。
麻琴は、その選手権が行われた翌日の新聞記事をデーターベースから検索してみた。
データーベースに保存されていた新聞記事にも小さく記事が載っていた。
切手くらいの大きさの写真もあり、そこもに小さく顔が写っている。
なんとなくだが、その写真の少女は麻宮サキに似ていた。
(なるほど、あれは空手だったんだ……)
- 25 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月04日(木)01時17分15秒
- 昨日のサキの動きが空手のものであることは、これで間違いない。
彼女の隠された強さの秘密が一つ判った気がした。
******************************
麻琴が教室に戻ると、サキが辻と加護にからまれていた。
「ちょっと、麻宮さん、お願いがあるんだけど?」
「なんですか?」
「購買部にいってパンを買って来てくださらない?」
「ええ、いいですけど……」
じっと立っている
「何やってるの早く買ってきてよ」
「あ、あのお金は……?」
「ああゴメンネ私達お金持ってないから、出しといてちょうだい」
「私も持ってないんですけど」
「じゃあ、誰かに借りたら?」
「それくらい自分で考えなさいよ」
サキは仕方が無いという感じで気弱な笑顔を見せた。
辻加護のイジメにも従順に従っている。
- 26 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月04日(木)01時17分55秒
- 「私が貸してやるよ」
麻琴が言った。
「ほら、これで買ってきな」
麻琴はサキに1000円を手渡した.。
「ありがとうございます」
サキは小さく言う。
あくまでも、気の弱いイジメられっ子を装っている。
「いいよ、お金はこいつらから返してもらうからさ」
そう言って、麻琴は辻と加護の二人を睨んだ。
「お、小川さん、お金は麻宮さんに返しておくから、彼女からもらって頂戴ね」
麻琴に睨まれて、慌てて辻が言った。
「いや、私は”お前達”に貸したんだ、”お前達”から返してもらうよ、いいね」
そんな会話を無視するかのように席を離れて購買部に向かおうとするサキに里沙が近づいた。
「どうしてあの2人に従ってるんですか?
サキさんくらい強かったら、あんな奴らすぐにでも……」
「いいのよ」
サキは言った。
- 27 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月04日(木)01時18分28秒
- 「この前も言ったけどあいつら、中学の時からこうやって女の子をイジメては……」
「わかってる、でも事情があって、目立った事はできないの
強さを鼓舞するよりこうやっていた方が都合が良いんですよ」
北海道にいた頃若干13歳で女子空手の頂点に立った。
北海道の女子では一般の部を含めてもほぼ無敵と言われるまでになった。
しかし、いわれの無い他流試合の申し込みや、ケンカを売ってくる者など後を断たなかった。
強くなりたくて始めた空手だったが、強くなって良かった事など一度も無かったような気がする。
******************************
次は体育の授業だった。
「はーい、女子の体育担当の保田です。
今日は、初めての体育の授業ですから、みんなのチームワークを高める為にバスケットボールをします。
良いですね、じゃあチームに分かれましょう」
保田先生はクラスを適当に何チームかに分けた。
サキは辻と加護と同じチームになった。
試合は小川麻琴と新垣里沙がいるチームとだった。
試合が始まると同時に、加護がサキにぶつかってきた。
よろけるサキ。
「ちょっと麻宮さん、何やってんの!!」
「す、すいません……」
辻がサキにパスを出す。
投げられたボールは勢い良く、サキの顔面をめがけて飛んできた。
よけるサキ、よけた手にボールが当たり跳ね返ったボールが加護の顔面に当たった。
- 28 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月04日(木)01時19分12秒
- 「ちょっと、麻宮さん何やってんの!!」
怒る加護
ボールを投げつける。
サキが思わずよけた手に当たったボールは、今度は辻の顔面に
「すいません、すいません」
大笑いする、麻琴と里沙
つられて他のクラスメイトも笑い出す。
「大丈夫ですか?」
サキは辻と加護に駆け寄って謝った。
「す、すいません、わざとじゃないんです……」
しかし、麻琴はボールが当った瞬間に、サキが微妙に跳ね返る角度をコントロールしていたのを見逃していなかった。
(やるな……こいつ……)
授業が終わり、サキが一人水道で顔を洗っていた。
麻琴は周りに人が居ないのを確め、彼女に近づいた。
サキに手に持っていたタオルを手渡す。
「あ、ありがとう……」
タオルを受け取り、サキは言った。
「あんた何者だい?」
豪を煮やした麻琴は直接サキに訊いた。
「何の事ですか?」
- 29 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月04日(木)01時19分49秒
- 「とぼけるんじゃないよ、私は見てたんだからね」
「やっぱり、あなたでしたかあの時は助けてくれてありがとうございます」
丁寧に頭を下げる
知らない人が見たら、麻琴がサキをイジメているようにしか見えないだろう。
「あんた、”スケバン刑事”なんだろ?」
そう言った瞬間だった。サキのそれまでの気弱なイジメられっ子の雰囲気が一変した。
一瞬にしてその手が麻琴の喉元を掴んだ。
恐ろしいまでの彼女の殺気。メガネの下の目つきがさっきまでとまるで違う。
「なぜそれを知っている」
「ちょっと、待って……話すから、この手を……離して……」
あとちょっとサキが力を入れたら、麻琴は喉の筋肉を握りつぶされていただろう。
答えによってはそれを躊躇わずにやる……そう思わせるまでの恐ろしい殺気だった。
力を少しだけ弛められた麻琴は激しく咳き込む。
「うちの母親が昔、”麻宮サキ”と一緒に闘った事があるんだって言ってた。
”麻宮サキ”は”スケバン刑事”の名前だと教えてもらったんだ」
「そうなんですか……」
彼女の殺気が消え、元のイジメられっ子に戻った。
「でもこれ以上私に構わないほうが良いと思います。危険な目に会いますよ」
「そういう訳にはいかないんだよ」
「どうしてですか?」
- 30 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月04日(木)01時20分23秒
- 「なんだか面白そうだから」
小川麻琴はそう言って笑みを浮かべた。
「うちの母親が、騒ぎとか揉め事とか大好きなんだ。
やだねーそんな血を引いてるのか、わくわくしちまってんだよ。
”麻宮サキ”に付き合ってたら、退屈しない高校生活を送れそうだ……ってね」
「でも、これは普通の市民が知ることの無い事件。
何か起きてもあなたの命までは守れません
それでもいいんですか?」
「いいよ、自分の身は自分で守る。
そのためにガキの頃から”技”を仕込まれてんだ。
私の名前は小川麻琴って言うんだ。通り名はビー玉のマコ、よろしくな」
そう言って、麻琴は手を差し出した。
「麻宮サキです。よろしくお願いします」
二人は固い握手を交わした。
- 31 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)02時09分40秒
- ******************************
「父は心理学者だったんです」
里沙は言った。
「サブリミナル効果って知ってますか?
顕在意識には知覚されないが潜在意識には届く、特殊な刺激により潜在意識を活性化させる手法
簡単に言えば、無意識をコントロールする方法なんですが、
父はその研究をしていました。
実際にサブリミナル効果では、簡単な決定事項にしか影響はありません。
のどが渇いて、ジュースを買う。コーラかオレンジジュースかどちらか選ぶ。
そんな簡単な決定事項に効果が出る程度なんです。
それによって、人格や意思の全てをコントロール出来る訳ではないんです。
でももしそれができるなら?
父が研究をしていたのは「ハロー効果」という「サブリミナル効果」に「自己暗示」を組み合わせた「意識のコントロール」
これなら集団の意識のコントロールが可能と考えていたようなんです」
「そういう研究者が次々に行方不明になっているのよ」
サキは言った。そう言う彼女の父親も、その中の一人だ。
「あの男達は、父の研究をまとめたレポートのありかを探しているようです。
父は私にそのレポートを預けたらしいんですが、だから執拗に私を狙ってきているんです。
でも私には覚えがありません。
でも、サキさんがあいつらを追い払ってくれたおかげで、あれから来なくなりましたね」
「そうですね」
サキは微笑んだが、その3人が既に謎の自殺をしていることを言えないでいた。
「せっかく、何時あいつらがやってきても大丈夫なように、特製スカーフにしてるんだけどなぁ」
- 32 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)02時10分41秒
- そう言って里沙はサキにスカーフを見せた。
一見、普通のスカーフだが中に細い鎖が織り込まれている。
引っ張るとその鎖が寄り集まり、かなりの強度になる。
これでムチのように使えば十分な武器だ
「あ、そうだサキさん。今日私の家に来ませんか?
家と言っても、下宿させてもらってる先なんですけど
私、母が死んでから父と二人暮らしだったんですが、その父が行方不明になって
しかも、家は何者かに荒らされてぐちゃぐちゃになっちゃうしで……
護身術を習ってる道場の師範に相談したら、師範の家に下宿させてもらえる事になったんです。
その師範にサキさんの話をしたら、ぜひ連れて来なさいって」
「ええ、いいわよ」
彼女の下宿先は倉庫のような建物だった。
どうやらそこが道場になっているようだ。
すぐ横に玄関があった。
建物自体は倉庫風だが玄関や入り口は普通の民家の物と変わらない。
建て方からして以前、工場か倉庫だった建物とその事務所を改造して住居にした……そんな感じだ。
「ただいま帰りました」
里沙が言うと、奥から一人の女性が現れた。
「おかえり、里沙」
「先生、昨日話をした麻宮サキさんを連れてきました」
理沙の言っていた師範というのはどうやらこの女性のようだった。
髪の長い目の大きな美人。
こんな大きな道場の師範をしているとは、とても思えない。
彼女は微笑みながら、右手を差し出した。
- 33 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)02時11分23秒
- 「いらっしゃい、お待ちしてましたわ。
あなたが麻宮サキさんね?」
差し出したその掌が一瞬、鋭い手刀へと変化した。
サキはとっさにその手を掴む。
身を反転させて関節を決める。
しかし、師範は関節を決められないように体を回転させた。
同時に左手がみぞおち辺りを掴んでくる。
サキは冷静にその手をさばいた。
更に右足のハイキック。
連続するその技に覚えがあった。
サキは身をかがめて足を避け、しゃがみながら師範の軸足を払った。
彼女はバランスをくずすも、ぱっと身を離す。
つい最近、散々訓練させられた一連の動き。
「風魔鬼連組手」
たとえ武器を失っても、両手両足の一撃必殺の技を連続して繰り出す事により、確実に相手を仕留める。
いや、相手を仕留めるまで技を繰り出し続けるという、地獄の連続技の奥義。
暗殺を目的とした古武道……すなわち「忍術」の一種
「さすが、”麻宮サキ”を名乗るだけあるわね、受け払いは完璧だわ」
サキは黙ったまま、彼女を睨んだ。
「いきなりこんなことしてごめんなさい、新しい”麻宮サキ”の実力を見てみたかったの。
随分風間教官に鍛えられたみたいね。「風魔鬼連組手」をここまで凌いだのは素晴らしいわ」
髪をかき上げながら、彼女は言った。
「はじめまして、私は風間格闘術道場の師範、風間結花と言います。
あなたを訓練した特殊教練課の風間教官は、私の妹なのよ」
「ああ、あなたが……」
- 34 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)02時12分00秒
- 彼女に付いては特殊教練課の風間教官に聞いた事があった。
風間教官は若くして、しかも女性にもかかわらず、いかつい体格の男性相手に高度な格闘術を教えている。
それも様々な実戦を潜り抜けてきた百戦錬磨の警官相手である。
なぜ彼女にそんなことができるのか、サキには大きな疑問だった。
その理由は彼女が代々「忍者」の家系に生まれ、幼い頃から特殊な訓練を叩き込まれてきたためと教えてもらった。
彼女の持つ高度な技術とは、「忍者」が実際に確実な暗殺を行う為に積み上げられた奥義の集大成。
彼女に教えられる特殊任務を行う特務警官は、誰一人として彼女に勝つ事ができなかった。
30歳そこそこの小柄な美人の女性を前に、アメフトの選手のような体つきの男たちが手も足も出なかったのである。
そんな風間教官は自分より強いと思った女性が3人いると言った。
一人は特殊捜査課のエージェント「2代目麻宮サキ」の「五代陽子」。
2人目はすぐ上の姉「由真」
そしてもう一人は三姉妹の長女「結花」
彼女は現在「忍者」の一族「風魔鬼組」の頭領を務めていると聞いた。
その彼女が里沙に格闘術を教えた師範だったのだ。
「普段はこうやってみんなに格闘術を教えているのよ」
結花は言った。
「サキさんスゴイです!!
私なんか、さっきの技全然かわした事無かったですよ」
「里沙もねうちの道場じゃかなりの腕前なんだけど」
そう言って、結花は里沙の頭を撫でた。
「それでも鬼連組手はなかなか破れないのよ。
まあ、鬼連組手の技の稽古をつけられる段階ですでに凄いんだけどね」
******************************
- 35 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)02時12分48秒
- 都内某所……とある高級マンションの最上階
真里と梨華の部屋のドアが静かに開いた。
そこに一人の少女が無言のまま立っている。
「来たわね」
「早速、愛様に……」
真里と梨華は互いの顔を見合わせて頷くと、大きなドアを開き、その少女を中に案内した。
「愛様、”ナンバー5”が参りました」
真里と梨華はうやうやしく頭を下げた。
”ナンバー5”と呼ばれたその少女は、無表情のまま黙って立っている。
「待ってたわ、早速あなたには働いてもらうわよ」
ナンバー5は相変らず表情を変えない。
愛はそれが当たり前かのように、彼女に話しかける。
「新垣教授が残した「ハロー効果」の研究データー、必ず探し出して頂戴。いいわね?」
ナンバー5は無言のままうなずいた。
- 36 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)23時30分21秒
- ******************************
「なあ、サキ、里沙、今日授業終わったらどっか行かないか?
行きたいとこあんなら連れてってやるぜ」
午後の休み時間、サキと里沙の元にやって来た麻琴が訊いた。
「?」
サキはしばらく考えた後、答えた。
「私、渋谷とか原宿に行ってみたい」
「あ、渋谷はちょっと事情があってダメなんだ、原宿ならなんとかいいけど
連れてってやろうか?」
「うん、どこでもいい」
サキはその時初めて、普通の高校生らしい笑顔を見せた。
授業が終わると、3人は教室を飛び出し原宿駅に向かった。
駅を降りて竹下口から竹下通りに向かう。
学校帰りの時間帯ということもあって、通りには彼女たちのような制服姿の学生も多い。
「なんか食べませんか?」
いろんな店から流れてくる食べ物の匂い。
里沙はお腹を押さえながら言った。
「そうだな、サキ何がいい?」
「わたし、こういうとこ初めてだから……何でもいいです」
3人はアイスクリームやクレープ屋の前で食べたり飲んだりしながら歩いた。
ウィンドーショッピングをしたり、アクセサリーショップで足を止めたり。
ふざけ合う麻琴と里沙を見ながら、サキは目を細める。
ぶらぶら歩きながら、3人が明治通りに出た時だった。
- 37 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)23時31分04秒
- 「お、お前!、ビー玉のマコじゃねえか!」
そこにチーマー風の若い男が5人、3人の前に立っていた。
「あちゃー」
その男たちの顔を見て、麻琴は頭を抱えた。
「マコ。この前はひどい目に合わせてくれたな!」
「この人たちは誰?」
サキが訊いた。
「この前、大喧嘩した渋谷の連中……こっちまでは来ないと思ったのに」
麻琴はすまなそうに言う。
「ちょっと来い!」
男は麻琴の手を掴んだ。
「離せよこのタコ!、お前たちまたやられたいのか?」
麻琴はその手を振り払い、キッと睨みつける。
「なんだと!」
「お前達みたいなタコが10人束になっても無駄だよ。
またやられたいのなら相手になってやるぜ
でも今日は見逃してやるから、さっさとどっかに行きな!!」
「……」
男たちは黙っている。
「さあ、ここでまたやられるのか、どこかに行くか、どっちか選ぶんだな」
- 38 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)23時31分51秒
- 麻琴は強気に言う。
「じゃあ、行くよ」
麻琴はサキと里沙の手を引っ張って歩き出した。
「3ヶ月ほど前にね、原宿で同じ中学の友達があいつらに絡まれててね
助けようとしたら、仲間が現れて結局10人くらいを相手にケンカしたのよ
でも、そいつら私一人で倒しちゃったんだけど
男が10何人と中学生の女の子一人だったんで結構騒がれちゃってね
だから、私は渋谷はもう歩けないのよ」
「へー、マコさんすごいんですね」
しばらく歩いていると、一台の車が近づいてきた。
丁度、里沙が麻琴と立ち位置が入れ替わった時だった。
車のドアが開き、男の手が里沙の腕をつかんだ。
「あ!」
突然の事で驚いた里沙は、そのままバランスを崩す形で車の中に倒れこんだ。
男たちは里沙の身体を後部座席の中に引きずり込むと、急いでドアを閉めた。
「里沙!!」
麻琴は車の後を追って走り出した。
サキはとっさに車のナンバーを記憶する。
携帯を取り出し、すぐに五代に連絡した。
「車のナンバーは××××、車種は×××、白のセダン、そうです……」
麻琴は数十メートルほど走ったが、さすがに車のスピードには敵わず、里沙の乗った車を見失ってしまった。
「ダメだ見失っちゃったよ」
肩で息をしながら麻琴は戻ってきた。
「大丈夫、ナンバーで手配かけたから、持ち主はすぐわかるわ」
- 39 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)23時33分39秒
- サキがそう言ったと同時に携帯が鳴った。
五代からだった。
「サキ、車の持ち主がわかったわ。
杉村のぼる……住所は渋谷区宇神谷町の工場街ね」
「ありがとう、五代さん」
サキは礼を言った。
「マコさん、杉村って知ってる?」
「ああ、連中のリーダーだった男がたしかそんな名前だった」
麻琴は答えた。
「間違い無いわ。里沙さんは恐らくそこね、行きましょう」
- 40 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)23時36分31秒
- サキは腕にはめているリストバンドをはずした。
一見テニスとかで使う普通のリストバンドだが、テーブルに置いた時、ゴトリと音がした。
セーラー服の下にはベストのような肌着を着ている。サキはその肩と脇の下にあるマジックテープをはがした。
その肌着はゴトリ、とまた音がして床に落ちた。
靴と靴下を脱ぐ。靴下の下にも腕と同じようなリストバンドを付けている。
スカートの下、太腿の辺りにも大きなサポーター状のものを巻いている。
麻琴はその一つを持ってみた。
- 41 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003年09月06日(土)23時37分07秒
- 「お、重い」
服の下にまいたベルト、脱いだ靴も普通の物ではない。
両腕、上半身、腰、両腿、両足
見かけではわからないように作られているが、それぞれが1キロ近い重さがある。
サキは普通のセーラー服の下、見えない部分にこれだけのウエイトを仕込んでいたのだ。
全部数えるとその重さは10キロ近くにもなった。
「サキ、あんたいつもこんな物付けてたの?」
サキはにっこり微笑むと、鞄からカンフーシューズを出して履き替えた。
二、三度軽くジャンプする。
手首や足首も軽くほぐす。
そして、両手に黒い皮の手袋。
拳の部分にはメリケンサック状の金属の突起。掌にも金属の板が貼り付けてある。
サキはポケットからヨーヨーを取り出し、右手に握り締めた。
メガネをはずすと、弱々しいイジメられっ子の顔が「戦士」の顔つきに変わる。
戦闘準備は完了した。
「行きましょう、マコさん」
そんなサキの顔を見て、麻琴は鳥肌が立つほどゾクゾクしている自分を感じていた。
ケンカや揉め事が大好きな姉御肌の母親、元ビー玉のお京が若い頃「麻宮サキ」に心酔していたという話が、麻琴に理解できたような気がした。
「ああ、行こう」
そう答える麻琴も「戦士」の顔つきに変わっていた……
- 42 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/09(火) 23:26
- ******************************
宇神谷町の工場街。
しかし昨今の不況で工場は次々と倒産し、その跡地にはマンションがどんどん建てられている。
そんな一つ。
誰もいない廃工場。
20人位の男と真ん中に里沙が猿轡をされ、両腕を後手にぐるぐる巻きにされ、転がされている。
「麻琴の携帯の番号はわかったのか!」
男の一人が叫んだ。
十数人いる男たちの中でもひときわ身体が大きい。
金と茶のまだらになったドレッドに、鼻や耳や口にいくつものピアス。
どうやらこの男が、リーダーのようだ。
「今調べてるんで、もうちょっと待ってください」
男の一人が言う。
「バカ野郎、間違えて別の女連れてきやがって
しかも、こんなガキ犯す気も起きねえ」
「うー、うー、うー!!!」
里沙は猿轡の下で叫びまくっている。
足をバタつかせて暴れる。
「静かにしろ!」
リーダーが里沙の腹を蹴った。
「うぐっ……」
- 43 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/09(火) 23:27
- 変な声を出すと里沙はおとなしくなった。
「くそっ!むかつく
早くしないか!!」
リーダーはイライラしながら歩き回る。
その時、工場の倉庫の奥の方から音が聞こえてきた。
ギュルルルルルッ!ガチッ! ギュルルルルルッ!ガチッ!
金属と金属がぶつかり合うような音。
音のする方にはセーラー服姿の少女が一人立っている。
その手に握られているヨーヨー。
ギュルルルルルッ!ガチッ! ギュルルルルルッ!ガチッ!
戻ってきたヨーヨーは、グローブの掌の金属板にぶつかって重い音を立てる。
彼女は男たちのいる真っ只中に1歩1歩近づいて来た。
「おいおい、何しにやって来たんだ」
男の一人が近づこうとした時、彼女の手元のヨーヨーがうなりを上げた。
「グエッ!」
重合金製のヨーヨーは一撃で男を倒す。
ざわめき出す男たち。
「だ、誰だ!お前は」
- 44 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/09(火) 23:27
- 彼女は男達を睨みつけた。
「天王洲高校1年B組麻宮サキ。
またの名を7代目”スケバン刑事”
なんの因果か母娘そろってマッポの手先。
だがな、母親より名前と共に受け継いだ熱い血と、代紋入りのこのヨーヨーが
てめーらみたいな悪党を許せないんだよ」
サキは右足を前に出して、腰を軽く落とした。
左手を引き、正拳突きで右拳を前に出す。
「エイヤッ!」
拳と共にヨーヨーを男達に向ける。
仕掛けてある小さなスイッチを押すと、ヨーヨーの片面が開いた。
そこに現れたのは「桜の代紋」
サキはすぐに蓋を閉じ、ヨーヨーを握った。
「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」
「お前のようなガキが一人で、これだけの人数相手に何やろうってんだ」
リーダーが叫んだ。
「やっちまえっ!」
襲いかかる男達。
サキはヨーヨーを握り締めた。
重合金製のヨーヨーはかなりの重さがある。
特製グローブの突起とヨーヨーの重さがプラスされ、サキの拳の破壊力は格段にアップする。
- 45 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/09(火) 23:28
- ********************
「あなたには”具錬功”は向いていないようね……」
溜息をつくように、風間唯は言った。
「スケバン刑事」になるための特訓をした風間教官が、彼女に下した結論だった。
”具錬功”とは風魔でいう「道具を使った闘い方」の奥義である。
忍者は刀や手裏剣は元より、棒術や槍術、小刀やくない、手甲鉤といったポピュラーな武器は当然。
更には釘や金具、小枝や石といった身近な物に至るまで、あらゆる物を己が武器とする能力を求められる。
風間教官の二人の姉が鋼鉄製の折り鶴やリリアンの編み棒を使う技術も、彼女達が極めた”具錬功”の奥義の一つなのだ。
元々空手の選手でもあった”紺野あさ美”には、どうもこの”具錬功”が性に合わなかった。
「あくまでも拳で闘いたい」そう願う彼女の為に、風間教官は早々に”具錬功”に見切りをつけ、「武器を使わない闘い方の奥義」”無手錬功”に切り替えた。
”無手”とは本来「剣の奥義を極めた達人」にのみ達せられる境地。
しかし、風魔では「格闘術」としての”無手”が早くから発達していた。
「素手でも相手を倒す」というのは忍者の必須技術の一つと考えたからだ。
格段に高い格闘センスを持つ彼女は、この奥義を乾いたスポンジのごとく吸収した。
「格闘戦」に限って言えば、風間唯でも彼女には敵わなくなるほどであった。
「これからはこれで闘いなさい」
訓練の最終日、晴れて”麻宮サキ”となった彼女に、風間教官は特注で作らせたグローブを手渡した。
重合金製のヨーヨーのウエイトが、その拳の破壊力を増すようにと工夫されたグローブだった。
不用意にサキの前に飛び出した不幸な男たちは、その拳の前に次々に倒されていった。
そして暗闇から放たれるビー玉。
「うわっ!」
- 46 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/09(火) 23:29
- 「私もいる事を忘れてもらっちゃ困るね」
そう言いながら現れたのは、小川麻琴。
同時に放たれるビー玉は、次々に男たちにヒットする。
サキは男たちを避け、既に里沙の所に来ている。
麻琴の援護している間にすばやく縄と猿轡を解いた。
「さあ、里沙さん逃げて!!」
「嫌です、私もサキさんといっしょに闘います!」
そう言って里沙はスカーフを解いた。
生地の中に細い鎖が織りこまれた特殊スカーフ。
「サキさん、肩を借ります!!」
里沙はそう叫ぶと跳躍した。
右足一本のジャンプでサキの背の高さまで飛び上がると、左足でサキの肩を踏み台にして更に高く飛翔する。
「軽功跳飛」
片足一本で生卵の上に立てるくらいのバランス感覚。身体の重心を完全にコントロールする事で可能となる技「軽功」
「軽功跳飛」とは、この技を極める事で弱い力でも高く飛べる跳躍術。
「忍者」が高い壁を飛び越えたりするために、鍛えられた技。
里沙が風間三姉妹の長姉、結花から伝授された数々の奥義の一つだ。
里沙の身体が地上に舞い下りた時、4人の男がスカーフの鞭の餌食になっていた。
サキの拳が次々と決まる。
麻琴のビー玉が2人の援護射撃をする。
- 47 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/09(火) 23:29
- 20人近くいた男達はあっという間に一人になった。
「お、お前らいったい……」
残ったのはリーダーのみ。
「マコさん、こいつはどうしますか?」
サキが訊いた。
「私にやらせてくれ」
麻琴は男にケリを入れた。男はその足をつかむ。
間髪をいれずに麻琴は片足を掴まれたまま、もう片方の足で男の頭を蹴った。
思わず掴んでいる手を離す。
さっと起き上がり、ビー玉を構える。
「待ってくれ、お前達には敵わない。悪かった許してくれ」
男は両手を上げた。
だが、麻琴はそれを無視してみぞおちにキックを食らわせた。
「グエッ」
唸り声を上げて、男はどうっと倒れた。
「いいか、もう2度とこんなことすんじゃねえぞ。
これからこの3人がお前らのようなグループを全部潰して、関東一円をシメる。
ここにいる麻宮サキがその大ボスになるんだ。よーく覚えておきな!」
- 48 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/09(火) 23:30
- 「ちょ、ちょっとマコさん何言い出すんですか!やめて下さい」
「いいのいいの、こういう奴らにはこれくらい言っとかなきゃ
それにさ、”スケバン刑事”って言うくらいなんだから、本当に”スケバン”にならなきゃ」
「んもお……」
サキは頭を抱えた。
新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第ニ話
「さらわれた里沙」
終わり
- 49 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/11(木) 13:48
- さっき見つけました。
スケバン刑事。懐かしいですね。
斉藤由貴−紺野が親子ですか。そういえば雰囲気似てますね。
元ネタ知ってるほうが楽しめそうですが、当時は幼かったので
うろ覚えなんですよね。3代目は結構覚えてるかも。
あ、こないだマシューで鉄仮面出てきましたね。
ちょっと怖いイメージがあったんですけどそうでもなかったんですね。
それはさておき、続き楽しみに待ってます。
- 50 名前:みっくす 投稿日:2003/09/11(木) 14:55
- 面白そうですね。
スケバン刑事世代なんで結構楽しめます。
がんばってくださいね。
紺ちゃんは7代目なんですね。
時が流れているって感じがします。
- 51 名前:ku_su 投稿日:2003/09/11(木) 17:25
- 楽しみにしてます。
がんばってください。
- 52 名前:名無宮サキ 投稿日:2003/09/12(金) 20:24
- メチャメチャおもろいっす!!
2chで連載してた時からのファンでした
早く4話以降の続き読みたいっす
がんがれー
- 53 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:39
- 皆様レスありがとうございます
いやあ、あんまりレスがなかったもんですから、ここでは不向きな内容かな?と心配しておりました。
仕事の都合でなかなか話が進行しませんが、がんがりますので宜しくおねがいします
では、続きです
- 54 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:40
- 第三話「最大の敵・”ナンバー5”登場!!」
数日後のとある放課後。
天王洲高校体育館。
いろんなクラブが練習する中、隅のほうで空手部が練習している。
サキはドアにもたれながら、ぼんやりとそれを見つめていた。
「紺野先輩、今度の大会もガンバって下さい!」
「3連覇目指してくださいね!!」
次々に声をかけてくる後輩達
レイプされている女生徒
男達に殴りかかる
怒りに我を忘れて殴り続ける
次々に倒される男たち
瀕死の重症
女生徒を支えながら立ち上がる
サイレンが聞こえてくる
駆け寄ってくる警官
しかし手錠は彼女の腕にかけられる
驚く彼女
出場停止……
自宅謹慎……
様々な記憶が頭の中を通り過ぎて行く。
「どうしたんだ、ぼんやりして?」
そんなサキを見て、麻琴が声をかけた。
- 55 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:41
- 「いえ、なんでもないです。なんでも……」
小さくそう呟いて、サキは立ち去った。
寂しそうな後姿だった。
******************************
飯田圭織は朝礼前だというのに、ぼんやりと窓の外を見ていた。
職員室の窓からは部活動中の生徒たちが、あわただしく動き回っている。
「はあ〜………」
大きなため息。
教師になって間もない彼女だが、今年初めて担任を持つことになった。
しかも、問題児の多いクラスの担任とは。
彼女は初めてクラス担任を持つというプレッシャーと、その責任の大きさに苦悩の日々を送っていた。
集中力も途切れがちで、こうやってぼんやりとする事も多くなったような気がする。
「ほら圭織、校長先生が来たわよ」
「あ、ありがと」
同僚の保田圭が彼女に声をかけた。
2人ともこの高校の同級生、それぞれ進んだ大学は違ったが卒業後母校の教員として戻ってきた。
母校の教師となって2年。今年から2人は1年生のクラスを受け持つ事となった。
保田がA組、飯田がB組。
以来、2人はお互いを励ましあいながら頑張ってきた。
校長は女性を一人連れてきている。
- 56 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:42
- 「えー皆さん。
前々から話をしていたと思いますが、先月より出産のため一時お休みされている石黒先生の代わりの先生が来てくれましたので、紹介します。
早乙女志織先生です」
紹介された女性は、少女マンガの主人公みたいな名前とは裏腹に地味な紺のスカートに白いブラウス、銀縁のメガネをかけている。
長い髪を後で無造作に束ねただけの髪型。
何だか全体的にもっさりした感じだ。
「えー早乙女先生には、石黒先生の代わりに1年A組とB組の副担任をしてもらうことになります。
今年からクラスを持った飯田先生、保田先生はまだお若いですので、早乙女先生に良きサポーターになっていただきたいと思っています。」
「あ、はい……」
飯田はまた憂鬱の種が少し増えたような気がして、不機嫌そうに答えた。
そんな、彼女のわかりやすい反応を察した保田は、必死にこみあげて来る笑いを押さえた。
「よろしくおねがいします」
早乙女先生は丁寧に頭を下げる。
彼女は飯田の向かいの席に座った。
「わからないことも多いと思います、いろいろ教えてくださいね」
早乙女先生はそう言って微笑んだ。
近くで見ると意外と小綺麗な感じ。
年齢は自分より10歳以上年上のようだが、こんな地味な格好をしなければ結構若く見られるのに
飯田圭織はそう思った。
「私、保田圭です。体育担当でA組の担任を持ってます。
で、こっちが飯田圭織、美術担当でB組の担任です」
- 57 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:42
- 保田圭は飯田の腕をぐいっと引っ張る。
「よろしくおねがいします」
飯田はちょっと照れくさそうに頭を下げた。
「校長から聞きましたが、問題児の多いクラスの担任だとか?」
「そうなんですよ!」
彼女の叫び声の大きさに、他の先生達から注目の的になってしまった。
まだ朝礼中だったのだ。
飯田圭織は真っ赤になって下を向いてしまった。
飯田は早速早乙女を教室に連れて行った。
「えー今日から、産休の石黒先生に代わってA組とB組の副担任として来て下さいました、早乙女志織先生です」
紹介された早乙女先生の顔を見たサキは、目を見開いた。
(五代さん……!?)
いつものブランドの黒のスーツ姿でなく、地味なブラウス姿。
髪も適当に束ねただけだが、アゴにあるホクロは五代陽子のものに間違いない。
そう言えば、彼女は”五代陽子”という名前は本名ではないとか言ってたっけ……
彼女はサキの視線に気がつくと、ほんの少しだけ目を細めて答えた。
(学校まで来るなんて、どういうつもりなんだか……)
- 58 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:43
- ******************************
都内某所、とある高級マンションの最上階。神狼会本部……
高橋の前に一人の男が立っていた。
与党上府論党幹事長の寺田だ。
「どう?私の言ったこと本当だったでしょ?」
「信じられない、あの不利な状況下で、一体どんな魔法を使ったんだ?」
「それは教えられないわ、まあこれであなたの顔も立ったって事ね」
高橋はまるで同級生の友達に話すように言う。
相手は毎日ニュースに登場するくらい、日本の政治を動かしている男だというのにもかかわらずだ。
「じゃあ今度の統一地方選も頼みます」
寺田はニヤニヤしながら頭を下げた。
「それはどうかなー」
「何!?」
「鱧兄党さんがねー、倍額出すって言ってんのよ」
高橋はちょっと悪戯っぽく笑った。
「ちょっと待った、今回の知事選の話は統一地方選も含んでということになっていたはずじゃないのか!」
- 59 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:43
- 「うん、そうなんだけどねー、数億円くらいの上乗せ程度なら断ったんだけどねー
倍出すって言われちゃー、断る訳には行かないじゃない?」
「貴様!」
寺田は普段テレビのニュース映像で見せる穏やかな人気政治家の顔から一変、どす黒い裏の世界も押さえる男の顔に豹変した。
こんな小娘に良い様に扱われている憤りが露骨に表情に出る。
「鱧兄党さんも必死みたいでねー、絶対当選するんなら上府論党さんの倍額出してでも安いって言ってくれてるんだー」
「この小娘が、人の足元を見やがって」
寺田の握りしめた拳がわなわなと震えている。
「あんたなんか勘違いしてんじゃない?」
そんな寺田を見下す様に、高橋は冷たく言った。
「あの絶対不利と言われた都知事選で上府論党の候補が当選したのよ?
その逆もできるって考えない?
びっくりするわよー、世間が誰も上府論党さんに投票しなくなったら。
私もね、そこまでひどい事はしようと思ってないのよ。
ただ、それをしない代わりにもらったお金は返さないって言ってるだけなのよ。
安いもんじゃない?」
「いったい何億出せばいいんだ」
「あら、気が変わったの?」
「すぐには答えが出せない、追って連絡する」
- 60 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:44
- そう言うと、寺田は踵を返した。
荒々しくドアを開けると、梨華と真里が驚いた顔で立っていた。
寺田は二人を無視して、黒服の男にずかずかと歩み寄った。
「山崎、これはどういうことだ!!」
寺田はその男の胸ぐらを掴んだ。
しかし山崎と呼ばれたその男は、表情を変えずに寺田の手をふりほどいた。
「どういう事だ山崎。お前ほどの男が、
かつて政界の影の実力者とまで言われた男が、なぜあんな小娘に振り回されているんだ」
「愛様の話は脅しではありませんよ。
それはこの前の知事選でも証明されたし、現にこうして私も愛様に従っているのです」
「人の心を操るという話のことか?」
山崎は黙って頷く。
かつて自分も一目を置いていた男の変わり果てた姿に、寺田は背筋が寒くなるのを感じた。
寺田は山崎を若い頃からよく知っていた。
あれは、20年近く前になるだろうか。
- 61 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:46
- 当時、日本の六大財閥の一つ海槌財閥の総帥であった海槌剛三の顧問弁護士、それが山アだった。
財界には強い発言力のあった海槌剛三だったが、残念なことに政界に対してはあまり強いパイプを持っていなかった。
政界に強い影響力を持つため、海槌は海槌グループ傘下の学校法人を中心とした全国の学園支配をもくろむ。
自分の影響下に置いた生徒を毎年社会に送り出す事で、それまでに全くない新たな組織票の基盤を作ろうとしたのだ。
計画自体は剛三の3人の娘が実際の遂行に当たっていたが、それはあまりにも本来の目的からかけ離れた物になってしまっていた。
海槌財閥の政界進出が目的だったのが……それがいつの間にか「学園支配」だけが目的になってしまっていた。
そして、海槌剛三の野望は志半ばにして頓挫する。
自らの過去の殺人を記者会見会場の記者たちに丸聞こえの場所で告白するという失態を犯してしまったのだ。
剛三は自殺、3姉妹の長女は傘下の薬品工場の爆発事故現場から見るも無残な焼死体で発見され、次女、三女も逮捕された。
山アは、崩壊した海槌家の資産と財界のパイプを利用して、鎌倉の「信楽老」に近づきその息子の若い天才的な指導者、信楽恭志郎をそそのかして「青狼会」を作らせる。
「信楽老」とは、本名は勿論、莫大な財力の出所すら一切の情報のない謎の権力者。長年日本を影で操ってきた大物だった。
恭志郎は「信楽老」の後盾を利用して、海槌家がやろうとした「学園支配」を完成させようとした。
しかしその組織も長くは続かなかった。
勢いづいた恭志郎は親である「信楽老」を倒して実権を握ろうとして、逆に殺されてしまったのだ。
そしてその「信楽老」自身も「鬼怒良の秘宝」という「不老不死の妙薬」の秘密にとり憑かれ、逆のその「秘宝の呪い」なのか何者かによって命を奪われる。
山アはまたしてもそこで「信楽老」の残した財産を自分の物とする事に成功している。
- 62 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:46
- 一般には決して知られることのない影の実力者「信楽老」の死亡は、日本の影の権力構造を大きく一変させた。
もっと影の存在、日本でもその存在を知るのはごくごく一部という「忍者」
そしてその中でも、もっとも暗部を支配してきた「陰」と呼ばれる組織が暗躍を開始したのだ。
しかも「陰星」と呼ばれる180年に一度現れるという凶星の出現も手伝い、「陰」の忍者はその勢力をのばした。
結局はその「陰」も別の「忍者」の手によって封ぜられ、日本の影の権力騒動は鎮静化を見せた。
山アはその「忍者」の存在に脅え、「信楽老」の後釜に自分が座ろうとはしなかった。
そんな山アに声をかけて、上府論党に入党させたのが寺田だった。
その後山アは資金力で政財界に圧倒的な力を持ち、その地位を確固たるものとした。
信楽恭志郎の下で働いていた、元「青狼会」の残党を集め、新たに「神狼会」という組織も作った。
かつての「信楽老」ほどではないが、確実にその力を伸ばしつつあったのだ。
しかし、山アは3年前に突然行方不明となり、「神狼会」は「愛様」と呼ばれる謎の少女を新たに総帥として迎えていた。
******************************
「愛様、どのように対処するおつもりで?」
寺田幹事長が帰った後、山アは訊いた。
「何もしなくていいわよ
上府論党が負けたら鱧兄党のせいだと言えばいいし
鱧兄党が負けたら上府論党のせいだと言えばいい
あとはお互いにうまいこと言っておけばいいのよ」
「……」
- 63 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:47
- 「どちらの政党が勝っても負けても、日本が変わる訳がないわ
それなら、搾り取れる方からお金を搾り取った方が得じゃない?
要はお金
どっちが日本の政治の実権を握るとかそんなの興味ないわ
でも豊富な資金があれば何だってできる
そうでしょ?山崎」
山アは黙って頷いた。
******************************
「どう思いますか?早乙女先生」
職員室の向いの席から、飯田圭織は神妙な面持ちで訊いた。
「どうって?」
彼女の真剣な表情に、ちょっと戸惑いながら早乙女志織は答えた。
「B組の麻宮サキのことです……
彼女なんかこう弱々しい感じがして、授業中とかでもおとなしいですし。
彼女もしかしたらイジメられているんじゃないかと思うんです」
「そうですか?」
早乙女志織は思わず吹きだしそうになりながらも、出来るだけそれを悟られない様真面目な顔で話す。
- 64 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:48
- 「校長も言ってたと思うんですが、B組は問題児が多いクラスなんです。
辻さんと加護さんなんかも、中学部で同じクラスだった生徒が何人か学校を辞めたり、自殺未遂事件なんかも起きています。
2人が何かやったという証拠は無いんですが、どうやら影でイジメていたのではないかというウワサがあります。
そんな問題児だというのに中学部からの連絡ミスで、2人を同じクラスにしてしまうし……」
飯田は少し涙声になっている。
「麻宮さんは、そんな2人に格好の標的になってるんじゃないかと思うんですよ。」
「考え過ぎなんじゃないですか?」
「ですが、何かあってからじゃ遅いと思うんです。
最近見ていると、麻宮さんは小川さんとよく一緒にいるみたいなんですが、
この小川さんも中学時代に渋谷の不良10数人を相手にケンカをしたということで
どこの高校も入学を拒否した問題児なんですよ。
なのに、小川さんのお母さんがうちの矢島理事長の親友だというんで、この学校に入学してきたっていうし……」
(雪乃さんの親友?……そうか、小川さんはお京の娘やったんか……)
早乙女志織は飯田に気付かれない様に、少し微笑んだ。
「私が見たところでは、彼女達仲良くやっている様でしたが……」
「ええ、でも私達の見えないところで何かある……麻宮さんと小川さんを見ているとそんな感じがするんです」
(正解よ、飯田先生)
- 65 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/13(土) 22:49
- 「もう少し様子を見てはいかがですか?
麻宮さんも見かけほど弱々しいというのではなさそうですし、
小川さんも確かに不良っぽい雰囲気ですが、どっちかというと姉御肌の性格でそんな麻宮さんを面倒見ているという感じです。
辻さん加護さんも、そんな小川さんに少し遠慮があるみたいですから、中学の頃のような事は出来ないでしょう」
「私はこの学校の卒業生なんですが、学生の頃クラスの友達と仲良くなれなくて学校を辞めようと思ったことがあったんです。
でも、担任の先生が色々と相談に乗ってくれて……そのおかげで卒業する事が出来たんです。
麻宮さんがもし、あの頃の私と同じ気持でいるのだったら、力になってあげたいんです」
「飯田先生のその気持はきっと彼女達にも伝わりますよ」
早乙女志織は微笑んだ。
その微笑は本心からのものだった。
「そうでしょうか……」
飯田圭織は不安気に言うも、早乙女先生に悩みを打ち明けられた事もあって、少し気持が楽になれたようだった。
- 66 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/14(日) 07:22
- えっと今回はここまでですよね?
コメント等は最後に持ってきてくれるとレスしやすいかもしれません
まだ更新途中かもしれないと思うとちょっとためらうので
神狼会のいきさつはきっとスケバン刑事シリーズと絡んでるんですよね
ドラマ覚えてる人はきっと面白さ倍増なんだろうな。うらやましい。
続き楽しみです。
- 67 名前:みっくす 投稿日:2003/09/14(日) 09:18
- 更新おつかれです。
雪乃さんもでてきましたね。
あと、ナンバー5は誰だ?
- 68 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/15(月) 11:59
- おニャン子→娘。な世代にはたまらない話ですな。
元ネタの生かし方も実にお見事。続きも楽しみにしてます。
- 69 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/16(火) 00:48
- >>66
すいません、これから気を付けますです
>>67>>68
ありがとうございます
と言っても、実は>>52の通り、2chで第4話の1回目までカキコしたのにに落ちてしまいまして
早く新作部分にまで追いつくよう、がんがります
それでは続きでございます
- 70 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/16(火) 00:49
- ******************************
サキはとある駅前のビルの前に立っていた。
ビルには学習塾のテナントが入っている。
「ウルフ英会話教室」の看板。
玄関のドアには「入学説明会会場」と張り紙がしてある。
次々とこの教室の生徒がビルに入っていくのに紛れて、サキもそのビルの中に入った。
大きな教室に30人以上の生徒がいる。
授業内容の説明を受ける。
若い日本人女性と、ハンサムなアメリカ人男性が交互に壇上で話をする。
何の事ない普通の説明会。
教室には心地よい音楽がかかっている。
サキは眠たくなるのを必死に堪えながら説明を受けた。
説明会を終え、帰るサキの前に黒いBMWが停まった。
学校での”早乙女志織”の服装ではなく、いつものブランドスーツ姿の”五代陽子”だった。
「乗りなさい」
車をしばらく走らせた後、五代は訊いた。
「説明会はどうだった?」
「どうって事ない普通の説明会でした。
里沙さんの話では、一回でいきなりというのではなくて普段から「ハロー効果」の出やすい素地を作る。
きっと何度か通う間に無意識への”すりこみ”を繰り返していくのだと思います。
「ハロー効果」はそういった”すりこみ”の積み重ねで効果を上げるのだと里沙さんは言ってました」
- 71 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/16(火) 00:50
- 「新垣教授の研究データーがあれば、もっと恐ろしい事が可能なのかも知れないわね。
これは、未確認だけど前回の都知事戦、絶対当選する事が無いと思われていた候補が結局当選した。
浮動票が随分その候補者に投票されて票が伸びたということらしいの
誰が誰に投票したかなんて調べる事ができないけど
調査の結果、普段投票に来ないような若い有権者の投票が目立ったということらしいの。
もしこれが、神狼会の仕業なら大変なことよ。
来月、統一地方選がある。
この投票に同じような事が起きたら、日本の政治をコントロールする事だって可能だわ」
「もう少し、あの英会話教室に通ってみる事にします」
「そうね」
次の日からサキは「ウルフ英会話教室」に通う事になった。
授業自体はなんの事無い普通の授業。
心地よいBGMが微かに聞こえる程度に流れ、リラックスした状態で授業を受ける。
最近は小人数で、外国人講師とマンツーマンに近い状態で勉強ができるスタイルの英会話教室が多いが、ここは1クラスで常時20人近くいる。
数名の講師が交代で教え、多人数でワイワイやりながらの授業。
しかも、受講料が激的に安いため高校生からOLや会社員まで幅広い層に人気があるようだ。
(これでどうやって「ハロー効果」の素地を作るんだろう?)
サキは眠気を堪えながら、注意深くあたりを見回す。
特におかしな所は見当たらない。
むしろ、知らないうちに何かしらの”仕掛け”をされているのではないかという事の方が恐い。
何度か通ってみるが特に変わった事もないまま、何日かが過ぎた。
そんなある日
講師の先生が一人の少女を連れてきていた。
- 72 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/16(火) 00:50
- 「皆さん、ご紹介します。
彼女は私の友人で高橋愛さんといいます。
まだ若いですが、優秀な心理カウンセラーです。
今日は日頃何かとお疲れの皆さんに、特別にリラクゼーションタイムを設ける事にしました」
そこにはサキと同じくらいの年齢の少女が座っている。
何かある、サキはそう思った。
そういえば、いつもかかっているBGMがいつもよりヴォリュームが大きい様な気がする。
「みなさん、今からリラクゼーションの為の特別授業を行います。
気持を楽にして、私の言う簡単な指示に従って下さい。
では、皆さん目を閉じてください……」
教室にいる20人以上いる生徒は素直にそれに従う。
サキも一緒に目を閉じた。
「何も考えずに、音楽を聴いていてください。
ゆっくりと深呼吸をしてください。
はい、吸って……吐いて……
吸って……吐いて……
さあ、目を明けてこちらを見てください」
生徒たちは一斉に目を見つめる。
(いけない、これは催眠か何かだ!)
- 73 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/16(火) 00:51
- サキは咄嗟にポケットに隠し持っていた画鋲を太腿に刺した。
痛みが走る。
苦痛が表情に出ないように集中する。
サキはなるべく高橋の目を見ないようにした。
(でもあの顔。どこかで見覚えがある……)
サキはそう思った。
(何処で見たんだろう?)
そうこうしているうちに、周りの生徒は高橋の目に釘付けになっていた。
「これから皆さんは、私の言う指示に従います。
いいですね?」
「はい……」
生徒たちは一斉に答える。
高橋の目を見た生徒たちは、彼女の術にかかったかのようになっている。
(もしかしたら、彼女が催眠か何かをかけて無意識を操ってるのかもしれない……)
生徒たちを見回し、成果に満足したかのように高橋は頷いた。
「では今日はこれで終了です。
ありがとうございました」
「ありがとうございました……」
- 74 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/16(火) 00:51
- サキも術にかかっているフリをして、他の生徒たちと一緒にそう答えた。
その後の授業は、いつもと変わりなく行われた。
生徒たちにとっては、特別何かが行われたという意識は無いようだ。
きっと、本当に単なるリラクゼーションの時間が設けられただけと思っているのだろう。
しかしあの目は、何かしら特別な能力のようなものを感じる。
サキは太腿に差した画鋲のおかげで、なんとか意識を保つ事ができたが、そうでなければ彼女も他の生徒たちのようになっていたかもしれなかった。
(高橋愛……いったい何者なんだろう?)
授業が終わってサキはビルを出た。
少し離れたところに五代の車が停まっている。
サキは辺りに人がいないのを確め、すばやく中に乗りこんだ。
「どうだった?」
そう問いかけた五代に、サキは高橋愛の話をした。
「高橋愛……何かありそうね、早速調べてみましょう。
できればその彼女の写真も撮りたいわね。
しばらくここで張り込んで見ましょう」
そんな2人の乗るBMWをビルの窓から見つめる少女がいた。
ナンバー5だった。
彼女は車の人影を確認すると、ニヤリと笑みを浮かべた。
数時間が過ぎ、あたりはすっかり暗くなってきていた。
しかし、ビルから高橋達が出て行く気配は無い。
黙ったまま2人は「ウルフ英会話教室」を監視を続けた。
- 75 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/16(火) 00:52
- その時だった。
いつの間にか一人の少女が車の前に立っている。
彼女は車のフロントガラスに向けて、手にした何かを投げた。
ビシッ!
一瞬にしてフロントガラスがヒビだらけになる。
2人は車を飛び出した。
「何者!!」
サキは叫んだ。
その少女は何も言わない。
サキは飛び掛った。
突き、蹴りの連続攻撃。
しかし、彼女は上手くそれをさばく。
(強い……)
暗がりでその少女の顔は見えない。
サキは横に走った。
彼女も後に続く。
もう一度彼女の懐に飛び込もうとするが、彼女の手から投げられた物がそれを阻んだ。
唸りを上げるその武器
銀色のヨーヨー……
- 76 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/16(火) 00:53
- 彼女は両手を前で重ねて大きく振りかぶった。
左足を力強く前に踏み出し、右腕が大きく後方に回転する。
丁度ソフトボールの投法。
腰のあたりからものすごい勢いでヨーヨーが飛んで来る。
ギュルルルルルッ!
あまりのスピードに目測を誤ったサキは、胸にまともにそのヨーヨーを受けてしまった。
「し、しまった……」
あまりの衝撃の強さに、サキはその場にうずくまった。
ナンバー5はゆっくりとサキに近づく。
街灯の明かりが彼女の顔を照らす。
その顔を見て五代は叫んだ。
「な、なつみ……!?」
―続く―
- 77 名前:みっくす 投稿日:2003/09/16(火) 06:04
- 更新お疲れ様です。
なつみがナンバー5?
ヨーヨーってことは、5だから5代目?
続きたのしみにまってます。
- 78 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/22(月) 01:35
- サキはセーラー服の中から胴に巻いたウエイトを外した。
うずくまっている間にリストバンド、足首のバンド、太腿のバンドをすばやく外す。
靴を脱ぎ裸足になる。
「このウエイトが無かったら、完全にやられていた……」
胴に巻いたウエイトには約2キロの砂鉄が仕込んである。
ヨーヨーの衝撃はその砂鉄を通してもかなりのものがあった。
鈍い痛みが胸に残っている。
「あのヨーヨーをまともに受けたら、今度こそ終わりね……」
専用の特殊グローブをはめ、ヨーヨーを握る。
身軽になったサキはすくっと立ち上がった。
手にしたヨーヨーを彼女に向け、睨みつける。
「天王洲高校1年B組麻宮サキ。
またの名を7代目”スケバン刑事”
なんの因果か母娘そろってマッポの手先。
だがな、母親より名前と共に受け継いだ熱い血と、代紋入りのこのヨーヨーが
世の中に巣食う悪党を許せないんだよ」
サキは右足を前に出して、腰を軽く落とした。
左手を引き、正拳突きで右拳を前に出す。
「エイヤッ!」
- 79 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/22(月) 01:36
- 拳と共にヨーヨーを向ける。
仕掛けてある小さなスイッチを押すと、ヨーヨーの片面が開いた。
そこに現れたのは「桜の代紋」
サキはすぐに蓋を閉じ、ヨーヨーを握った。
「この拳の餌食になりたいのなら、前に出な!!」
彼女はサキの姿をじっと見ていた。
眉をひそめ、目を閉じる。
それまでの無表情な顔が、少しだけ変わったような気がした。
そしてゆっくりと口を開いた。
「私のヨーヨーを受けても無事だなんて、運がいいわね」
「お前は誰だ?」
「私の名はナンバー5、麻宮サキ、死んでもらう!!」
ナンバー5がそう叫んだと同じに、ヨーヨーが飛んで来た。
サキよりもヨーヨーさばきは上手い。
あの、ソフトボールの投法で投げられるヨーヨーには要注意だ。
なかなか間合いに入れない。
顔面めがけて飛んで来るヨーヨーを間一髪でよける。
チェーンが伸びきってヨーヨーが一瞬停止した瞬間をサキは狙った。
手刀で叩き落す。
間を空けずに間合いに入る。
左の正拳突きが決まった。
しかしナンバー5は後方にジャンプして、拳の威力を半減させる。
瞬時にそれをやってのけるナンバー5はやはり強い。
- 80 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/22(月) 01:36
- 既にナンバー5の手元にはヨーヨーが戻っている。
ナンバー5は構えた。
ガッキーン
ナンバー5のヨーヨーが手から離れた瞬間、別のヨーヨーが飛んできた。
ぶつかり合った2個のヨーヨーは火花を散らす。
五代陽子のヨーヨーだった。
「なつみ!!」
ナンバー5と名乗ったその少女は、五代の声にも何も反応しない。
「なつみ、生きてたの!」
陽子は再びヨーヨーを構えた。
2対1になり形勢が不利と見たナンバー5は、身を翻した。
「待って!!」
五代が叫んだが、その姿はあっという間に夜の闇に消えてしまった。
彼女は逃げ去った”ナンバー5”を呆然と見ている。
「あの”ナンバー5”っていった女性は何者ですか?」
サキは五代に訊いた。
「あのヨーヨーは私とそしてあなたが持っているヨーヨーと同じものよ……」
- 81 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/22(月) 01:37
- 「じゃあ、あの人は?」
「そう、彼女も私たちと同じ「麻宮サキ」を名乗った「スケバン刑事」……
このヨーヨーを手にした5人目の戦士よ……」
新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第三話
「最大の敵・”ナンバー5”登場!!」
終わり
次回予告
サキの前に現れた最大の敵”ナンバー5”はかつて5代目スケバン刑事だった安倍なつみだった。
再びサキ達の前に現れた”ナンバー5”の前に里沙が倒され、麻琴も謎の少女たちによって倒されてしまう。
果たして最大の敵”ナンバー5”に立ち向かうサキの運命は?
次回 新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第四話「対決2人のサキ!!」
乞うご期待
「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」
というキャスティングでドラマ化きぼ〜ん
- 82 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/24(水) 01:39
- 第四話「対決2人のサキ!!」
五代陽子はBMWを運転しながら、”ナンバー5”について語り始めた。
「あなたに格闘術を教えた風間教官が3代目の「麻宮サキ」を引退した後、
闇の機関はすぐに4代目の「特殊潜入捜査官」……当時は「学生刑事」って言ってたんだけど……を選考した。
選ばれたのは某国軍のコマンド訓練を受けた少女だった。
しかし彼女は潜入捜査先で見つかり殉職したの
それまで闇の機関が「学生刑事」なんていう捜査方法をやっていた事は、警視庁上層部でも問題になっていた。
わたしたちが「スケバン刑事」として捜査活動ができたのも、あなたのお母さんが「海槌三姉妹」という、公安部も手を焼いていた連中を倒したから
そして、私や風間教官も、それまでなかなか警察の手の届かなかった大物フィクサーを倒した実績があったから
しかし、4代目の殉職はその功績を妬む他の警視庁幹部からの格好の攻撃材料になった。
結果、暗闇警視を中心とした闇の機関は解散。
それ以後「スケバン刑事」は任命されることはなかったの。
その後、私は警視庁に入り、所轄署の刑事として働いていた。
丁度3年前よ、ある行方不明事件の捜査を担当する事になったの
それは優秀な脳外科医が数人、ほぼ同時に行方不明になった事件。
捜査を続けるうちにね、ある人物の関与がある事がわかった……
「山崎」
元、海槌家の顧問弁護士で、その後「青狼会」の幹部となった男。
「青狼会」解散後政界に入り、いつの間にか政界の影の大物と呼ばれるようになった。
私がかつて「スケバン刑事」だった頃上司だった西脇さんという人が、今公安部で働いていてね、
「山ア」については同じく公安部でも以前から要注意人物として目をつけていたの。
彼の話では、「青狼会」の残党が「神狼会」と名を変えて暗躍を開始しているらしいということだった
そして、その捜査について公安部が「特殊潜入捜査」のための人員を探していることもね
- 83 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/24(水) 01:39
- その「特殊潜入捜査員」は婦人警官の中から選ばれた
それはかつてわたしの部下だった女性。
”安倍なつみ”
彼女は、元ソフトボールの選手でオリンピックの強化選手だったほどの腕前
彼女は潜入捜査員になるのを了承する為に、ある条件を出したの
武器として桜の代紋の入った重合金製のヨーヨーを作ってもらう事
潜入捜査先で「麻宮サキ」と名乗る事
彼女は私に言ったわ「5代目を名乗らせてください」と……
でも彼女は捜査開始数ヵ月後に行方不明になった……
彼女が行方不明になった事で、公安部は本腰を入れて「神狼会」の捜査に着手したの
特殊捜査課を設立して、捜査員を派遣する事になった。
すぐに次の「スケバン刑事」……6代目ね……が派遣されたけど、彼女もすぐに行方不明になった。
私は所轄署から呼び出され、新しいスケバン刑事のエージェントになるよう命じられた。
実は私はその時、ある人物の行方を追っていた
北海道総合医科大学で脳外科手術の腕を振るっていた紺野医師。
「神狼会」が関連すると思われる行方不明者の一人だった。
捜査を進めているうちに、色々と面白いことがわかった。
紺野医師には妻がいて、それがかつての「スケバン刑事」初代麻宮サキである事
彼女の娘は北海道で無敵の強さを誇る空手選手だった事
それがあなただったのよ……」
「じゃあ、あのナンバー5というのは「5代目スケバン刑事」のこと……」
- 84 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/24(水) 01:40
- 「そういうことね
私を見て何の反応もしなかったところを見ると、彼女は洗脳されているのか何かだと思う
彼女が私達の敵になるなんて……強敵よ」
「わかってます、あのヨーヨーがをまともに当たっていたらやられてました」
サキはナンバー5のヨーヨーが当たった個所に手を当てた。
まだ鈍い痛みが残っている。
彼女はヨーヨーをぎゅっと握った。
******************************
「骨折とかはしてないみたいやけど、なんか、えらい打身になってるで
とりあえず湿布貼っとくけど」
保険医の中澤先生はそう言って、サキの胸に湿布を貼った。
サキの右胸辺りには赤紫色の打身痕ができている。
「しばらくは痕が残るかもよ。
女の子やねんから、注意しいや
いったいどないしたん?」
「ソフトボールが当たったんです……」
サキは咄嗟にウソをついた。
「ぼーっと歩いてたんちゃうか?気ぃつけや」
「はい、すいません……」
- 85 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/24(水) 01:40
- 「ところで話は変わるけど麻宮さん、あんたなんかスポーツやってへんの?」
サキの腕を触りながら中澤先生は言った。
「いえ、なんにも」
「そうか?なんか男の子みたいな腕の筋肉やで
もったいないなあ、何かスポーツやったらどうや?」
「あ、あの、太りやすいんでダイエットで筋トレをずっとやってたんです……」
サキはそう言ってごまかした。
「私な、女子空手部の顧問やってるんやけど、どうやうちのクラブ入らへんか?
中学で全国大会ベスト8になった生徒もいるんやで」
「か、考えておきます……」
サキはそう答えたが、顔は引きつった笑顔になっていた。
******************************
「大丈夫なのか?」
保健室から出ると、麻琴と里沙が待っていた。
ちょっと心配そうに麻琴が訊いた。
「うん、打撲ぐらいで済んでる。骨とかには異常無いみたい」
サキは笑顔で答えた。
- 86 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/24(水) 01:41
- 「そりゃあ良かった。
今度そいつが来たら私も戦うよ」
「私も闘います!」
麻琴と里沙は言った。
「ありがとう……
でもあのひとはかなりの強敵です、元スケバン刑事が相手なんですから」
「1人じゃ無理かもしれないけど、3人なら何とかなるって」
根拠の無い麻琴の言葉だったが、サキはなんだか嬉しくなった。
- 87 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/24(水) 01:42
- 放課後になった。天王洲高校の門からは次々と帰宅する生徒が吐き出されていく。
3人はいつもの様に並んで帰る
道の真ん中に見慣れない制服の少女が立っていた。
ナンバー5だった
彼女の姿に気付いた3人はすぐに身構える。
「まさか、あなたの方からやって来るなんて……」
ヨーヨーを構えながらサキは言った。
「新垣里沙、父親からデーターチップを預かっているだろう?
それを渡せ」
ナンバー5は、表情を変えずにそう叫んだ。
「いい加減にして、知らないって言ってるじゃない!」
「力ずくで奪う、それだけだ!」
ナンバー5は腕を大きく前から上に伸ばし、勢いよく後に振る。
その腕がまるで風車のように前に戻ってきた時、その手から勢いよくヨーヨーが飛び出す。
時速で言うと150キロ以上出ているだろうか、その剛球はうなりをあげて飛び込んできた。
「危ない!!よけて」
- 88 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/24(水) 01:42
- サキの叫びに言われるまでも無く、麻琴と里沙は三方に飛びのいた。
間一髪でよける3人。
麻琴は転がりながらビー玉を投げる。
しかしナンバー5の手元に戻ってきたヨーヨーがそれをはじく。
里沙もスカーフを構えた。
「あのヨーヨーをかいくぐって間合いに入らないと……」
身体中のあちこちに取り付けてあるウエイトを素早く外しながら、サキはそう考えていた。
残念だがヨーヨーの腕はナンバー5の方が遥かに上のようだ。
格闘能力ではサキの方に分がありそうだが、間合いに入らなければ何にもならない。
サキの思いと同じく、麻琴も里沙も同じことを考えていた。
なんとかサキがアイツの懐に飛びこめるようにしなければ何もならない。
麻琴はヨーヨーの届かない離れたところに移動した。
両手にビー玉を構える。
(この技疲れるからあまりやりたくないんだけどな)
そうつぶやきながら、麻琴はビー玉を構えた。
まず右で1発、次に左で2発目、左を撃つ間に右手に3発目を装填、そして右を撃つ間に左に次を装填。
連続して十数発を撃つ。
母親仕込みのビー玉乱れ撃ちの技だ。
さすがのナンバー5もこれには防戦一方になる。
- 89 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/24(水) 01:43
- 里沙は麻琴の攻撃の真意を瞬時に読み取った。
大きくジャンプすると、すぐ脇に停めてあるセダン車の屋根へ、更にそこを踏み台にしてその隣のワンボックス車の屋根に飛び乗った。
里沙はそこから一気にナンバー5の頭上に向かって飛翔した。
ナンバー5はヨーヨーを構え、大きく振りかぶった。
ギュルルルルルッ!
ものすごいスピードの弾丸が彼女をめがけて飛んでくる。
里沙は咄嗟にスカーフを広げた。
広げたスカーフでヨーヨーを受け止める。
ブチブチブチブチ
スカーフに仕込まれた細いチェーンが悲鳴をあげる。
ヨーヨーのパワーを里沙は必死にこらえた。
ビリッ!
しかしスカーフはヨーヨーのパワーに敗れてしまった。
チェーンをブチ破ったヨーヨーは理沙の胸に当たった。
うぐっふ
いくらスカーフで勢いを殺してるとはいえ、重合金製のヨーヨーがまともに当たればただでは済まない。
里沙は受身を取る間もなく、地面に堕ちた。
サキはそれを横目に見ながらナンバー5の正面に飛び込んだ。
麻琴と里沙が作ってくれた絶好のチャンスを逃す訳には行かない。
- 90 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/24(水) 01:43
- 「格闘戦なら負けない!」
そう叫んで、サキは跳んだ。
正拳突きの勢いのまま回し蹴り。
2段技が決まった。
ナンバー5は咄嗟に身を翻して体制を立て直す。
さすがに元スケバン刑事だけあって、格闘技のセンスはサキに引けを取らない。
ナンバー5にヨーヨーを再び手にする時間を与えては何にもならない。
サキは間髪をいれずに再度間合いに入った。
サキの持つ格闘センスを全身全霊の集中力を持って動員する。
今まで実際にこの技を試してみた事はないが、ナンバー5を倒すにはこれしかないと思った。
「風魔鬼連組手」
相手を確実に仕留めるまで技を繰り出し続ける地獄の必殺技。
元々”紺野あさ美”が習っていた空手の流派は「一撃必殺」を身上としていた。
相手の動きを読み、一瞬の隙に最大の攻撃をする。
「風魔鬼連組手」もその「一撃必殺」の精神は変わりはない。
ただ、「一撃」よりも「必殺」を重要視する為、「一撃必殺」級の攻撃を確実に相手を仕留めるまで繰り出し続けるのだ。
口で言うのは簡単だが、実際にこの技をやるのは技を受けるよりもはるかに難しい事くらい、サキにも想像がついていた。
「でもこれしかない」
回し蹴りをしながら、既に上半身は次の突きを出す体勢を整えている。
その無理な一連の動きは、筋肉を悲鳴を上げる寸前まで酷使する。
直突き、振り突き、振り上げ突き等の連続突きから瞬時に蹴り技に移行する。
サキの技は5段目までかわされたが、6段目の蹴りが横腹に決まった。
- 91 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/24(水) 01:44
- うぐっ!
腹部を押えるナンバー5。
サキとの間合いから離れようとしたが、それを阻止する様に、先は更にナンバー5との間合いを詰める。
そのとき彼女はナンバー5の様子がおかしい事に気がついた。
無表情の彼女の目から涙がこぼれているのだ。
「……泣いてる?」
******************************
―続く―
- 92 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003/09/25(木) 22:55
- 作者様更新お疲れ様です。
羊時代のログをHTML化したもの及び代表的な2ch系ブラウザ用datです。
羊掲載分が終了したようなのでアップします。
HTML版 http://csx.jp/~sheep2ch/1049129809.html
かちゅ〜しゃdat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1049129809.lzh
かちゅ〜しゃdat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1049129809.zip
Janedat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1049129809-jane.lzh
Janedat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1049129809-jane.zip
ホットゾヌ2dat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1049129809-zonu.lzh
ホットゾヌ2dat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1049129809-zonu.zip
ABonedat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1049129809-abone.lzh
ABonedat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1049129809-abone.zip
- 93 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/29(月) 01:00
- うわあ、こんなのいつの間に作ってくれたんですか!
感謝!感謝です!
ありがとうございます!
続きでございます
- 94 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/29(月) 01:01
- ******************************
麻琴は倒れている里沙に駆け寄った。
両手に握られたスカーフはボロボロに破れている。
布の破れた部分から引きちぎられたチェーンがのぞく。
「里沙、大丈夫か?」
「何とか……」
ヨーヨーの当たった胸をを押さえながら、里沙は言った。
「?」
麻琴は引きちぎられたスカーフに、小さいカードのようなものがあるのを見つけた
スマートメディアくらいの大きさの黒い柔らかいプラスチックかゴムのような素材でできたカード、中央に5ミリ角くらいの大きさのふくらみがあり、何かが埋め込まれているようだった。
「何だこれ?」
麻琴がそのカードを手にした瞬間だった。
背後に感じたものすごい殺気。
その殺気の正体を確める間もなく、2人は後頭部に強い衝撃を受けた。
ぐえ
麻琴と里沙の背後にいつの間にか少女が4人立っていた。
白い乗馬服に身を包んだ少女は、そのブーツで麻琴の手を踏みつける。
3人の少女が倒れた麻琴にかけより、手にしたカードを奪った。
こちらの3人は黒の乗馬服を着ている。
- 95 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/29(月) 01:10
- 「美貴様、これを……」
少女の一人が奪ったカードを手渡した。
「やっと探していたものが見つかったわね」
美貴と呼ばれたその少女は、麻琴と同じか少し年上くらいの年齢のようだ。
しかし麻琴たちを見下すその目は氷の様に冷たい。
その目を見た麻琴は背筋に寒いものが走るのを感じた。
恐ろしいまでの威圧感。
「な、なんだ……てめえらは……」
痛みを堪えながら麻琴が手を伸ばす。
美貴は容赦無くその手を蹴り飛ばす。
「これさえ手に入れば、山アを……神狼会を取り戻せる。
エリ、サユミ、レイナ行くよ」
「はい」
3人は、麻琴と里沙を散々蹴り飛ばした後、美貴と呼ばれた少女に影のように後を付いて行った。
******************************
- 96 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/29(月) 01:11
- サキとナンバー5との格闘はまだ続いていた。
しかし、ナンバー5の動きが明かにおかしくなっている。
顔は無表情のまま目から涙を流しているのだ。
ギリギリのところで致命傷となってはいなかったが、着実にサキの攻撃はヒットしていた。
蹴り、突き、半回転してからの裏拳。
連続技の一瞬、ナンバー5に隙ができたのをサキは逃さなかった。
「今だ!」
サキの渾身の正拳突きがナンバー5の胸元にヒットした時、遂に彼女の動きが止まった。
ゆっくりとスローモーションの様に、その場に倒れるナンバー5。
しかし、その顔は穏やかだった。
サキは勝った。
サキからの連絡で、すぐに五代陽子が駆けつけて来た。
「なつみ!」
そう叫んで彼女はナンバー5に駆け寄る。
身体を抱き上げる。
「五代さん……?」
うっすらと目を開いた彼女は、穏やかな表情でそうつぶやいた。
無表情だったその頬に、微かに赤みが戻っていた。
- 97 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/29(月) 01:11
- 「なつみ、わたしがわかるの?」
「ごめんなさい、私……スケバン刑事失格です……こんな……ううっ」
そう言うと彼女は頭を押さえた、苦痛に顔がゆがむ。
そして、狂った様に五代の腕を振り払う。
その目はナンバー5の目つきに戻っている。
間髪を入れずに、五代は彼女の首筋に手刀を叩き込んだ。
ナンバー5は一瞬でぐったりとなった。
「相当な精神コントロールを受けているみたいね。
連れて行くわ、それとあなたの仲間もね」
サキが辺りを見まわすと、少し離れたところで麻琴と里沙がボロボロになって倒れていた。
ほどなくけたたましいサイレンと共に救急車がやって来て、倒れている3人を乗せた。
サキは五代の車に乗った。
車は3人を乗せた救急車の後を追うように走り出す。
3人は警察病院に収容された。
「そうだサキ、面白い事がわかったわよ」
病院のロビーのベンチ、五代はサキの隣に座った。
「なんですか?」
「あなたが見たと言っていた、高橋愛の正体」
- 98 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/29(月) 01:12
- 「?!」
「どこかで見たことあるって言ってたわよね、そのはずだわ
彼女、あなたのお父さんの患者の一人よ」
「父の?」
意外な五代の言葉に、サキは驚きを隠せなかった。
「ええ、交通事故で脳挫傷を負って脳死寸前だったのをあなたのお父さんが救ったの
普通の医者ならとっくに見離しているような状態だったにもかかわらず、難しい脳切開手術を施したの。
奇跡的に後遺症も出ず、あなたのお父さんの腕の良さを証明するようなすばらしい手術だったようね
約3年前のことだけど、当時は随分ニュースなんかでも報道されたわ
あなたが見たのはそのニュースじゃないかしら?」
「高橋愛……」
そのニュースはサキにも覚えがあった。
腕が良いのにもかかわらず、決して表舞台に立とうとはしなかった父。
地元の新聞やTVの取材も随分迷惑そうに応対していたのを覚えている。
「そんな彼女がなぜ神狼会のにいるのか、それは判らないけどね
紺野医師が行方不明になった事に何か関係しているかもしれないわね」
******************************
- 99 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/09/29(月) 01:13
- 神狼会本部
真里と梨華が困った顔で立っている。
「ナンバー5が……」
愛は目を閉じている。
「ナンバー5を倒したというのなら、ぜひ我々の仲間になってもらいたいわ……」
「それと、美貴様が動いているという情報が入ってます」
真里と梨華はそう言って頭を下げた。
「美貴が……」
少し哀し気に言うと、高橋は目を伏せた。
それまでどんな状況でも余裕の笑顔を見せていた彼女が、初めて見せた悲しい表情だった。
「仕方ないわ、すぐにナンバー6を呼んで頂戴」
「かしこまりました」
「ナンバー6まで使わないといけないだなんて困った事ね……」
*************
―続く―
- 100 名前:名無しの一読者 投稿日:2003/09/29(月) 19:01
- おニャン子やスケバン刑事をリアルタイムで知る私にはたまらない作品です。
サディスティックな『美貴様』のイメージはやはり海槌麗美ですかね?
続き楽しみにしています。
- 101 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/06(月) 01:51
- >>100
ありがとうございます!
遅筆ですいません。
続きでございます。
- 102 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/06(月) 01:53
- 麻琴は殺風景な部屋のベッドで目覚めた。
見回すとすぐ横のベッドには里沙が横たわっている。
「目が覚めましたか?」
すぐ傍らにサキが座っていた。
「サキ……ここは?」
「大丈夫ですか?」
まだ頭がズキズキする。
「ここは……病院か……?」
頭を押えながら顔をしかめる。
頭には包帯が巻かれてある。頭だけでなく、身体中に包帯やらバンソウコウやらが貼られていた。
身体を動かすと、乾いたばかりのカサブタが引きつる。
「誰にやられたか覚えてますか?
里沙さんがナンバー5のヨーヨーで倒れて、麻琴さんが駆け寄ってる所までは見てたんですけど……」
「……」
麻琴は必死で記憶を思い出そうとした。
後頭部の傷口がズキズキと痛む。
- 103 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/06(月) 01:53
- 「手を踏まれた……
白い乗馬服の女がいた……
ものすごい恐ろしい目をした女だった。
それと黒い乗馬服が3人……
あ、そうだ、里沙のスカーフの中かカードみたいなのが出てきて、それを見つけた瞬間にそいつらが現れたんだ……」
「カード?」
「そう……これくらいの小さい黒いカード……
探してたのはこれだ……ってそう言ってた」
「まさか、新垣教授の研究データー?」
「う、うう……ん……」
少し遅れて里沙が目を覚ましたようだ。
「里沙さん、大丈夫?」
「あ、サキさん、マコさん……
一体ここは……?」
「大丈夫、病院よ」
「ナンバー5はどうなりました?」
「ありがとう、おかげで倒したわ」
「よかった……」
- 104 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/06(月) 01:54
- 里沙は安堵の微笑を見せた。
「訊きたい事があるの
あのスカーフの中に小さいカードのようなものが入っていたらしいの、何だかわかる?」
「さあ……あのスカーフは護身用に父が作ってくれた物なんで、詳しくは……」
「恐らく、新垣教授はそこに研究データーを隠していたんだわ
まさか、武器の中にそんなものがあるなんて誰も思わないものね」
「じゃあ、父の研究データーは敵の手に?」
「なんかそんな風じゃなかったぜ」
麻琴は言った。
「あの恐ろしい目付きの女は美貴って呼ばれていた……
その美貴って女が”これで神狼会を取り戻せる”って言ってたんだ……」
「その話が本当なら、神狼会の他に別の勢力があるのかもしれませんね……」
*************
- 105 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/06(月) 01:54
- 「なつみさんの具合はどうなんですか?」
ナンバー5との戦いから数日後の放課後、サキは五代陽子のもう一つの姿、天王州高校の非常勤講師である早乙女志織に訊いた。
「なんとか正気を取り戻せそうな状態ね
時々私の質問にも答えられるようになったわ
神狼会の本部の場所もわかったし……
今、うちの刑事に張り込みをさせてる」
「神狼会の本部の場所がわかったんですか?」
「ええ……」
五代は,余計な事を言ってしまったというような顔をした。
「五代さん、その場所を教えてくれませんか?」
「……」
五代は黙っている。
「行く気?」
サキは小さくうなずく。
「ダメ、これ以上は私達に任せなさい……と言っても無駄でしょうね
私もきっと同じ事を言ってたでしょうからね」
- 106 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/06(月) 01:55
- かつてスケバン刑事として闘っていた彼女には、今のサキの気持がよくわかる。
「あなたの気持がわかるだけに辛いわ
自分の運命を切り開くにはそれしかないんだものね」
(そうでしたね、西脇さん……)
あの時、闇の機関のエージェントだった西脇も、彼女に同じような事を言った。
”自分の運命は自分で切り開け”と……
彼女の父、早乙女七郎の親友であった西脇は、彼女が物心ついてから17歳になるまで鉄仮面を被って育てられた数奇な運命の理由を知っていた。
彼女は「青狼会」そして「信楽老」との戦いの中で、その理由を知ることとなる。
西脇はただ黙って彼女を見守ってくれていた。
今度は自分が、7代目を名乗る”麻宮サキ”を見守る番になるとは。
いつまでも、自分に付きまとう数奇な運命に、彼女は微笑まずにいられなかった。
「それと気をつけなさい、なつみが生きていて敵の手に落ちていたということは、6代目のスケバン刑事も同じように手に落ちているという事が十分考えられるわ。
なつみはヨーヨーで戦うタイプだったけど、6代目はあなたには戦い難い相手かもしれない。
6代目の”麻宮サキ”は元アマチュアの女子ボクシングの選手だった。
女子ボクシングがプロ化になっていれば間違いなく彼女はトップスターになってたかもしれない
そのくらい、強い相手よ」
「私は負けません」
サキは拳を握りしめた。
五代はサキの瞳に決意の光を見た。
サキが学校を出ようとすると、校門に麻琴がもたれて立っていた。
つい最近退院したばかり。まだ頭に巻かれた包帯が痛々しい。
その横には里沙。彼女もまだ完全に包帯が取れていない。
- 107 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/06(月) 01:55
- 「どこに行くんだい?」
「マコさん、里沙さん……」
「一人で行こうなんてだめですよ
私達もついて行きますから」
「これ以上皆さんを危険な目に会わす訳にはいかないんです。
私一人で行きます」
「みずくさいぜ、あのナンバー5だって3人が力を合わせたからなんとかなったんだ。
足手まといかもしれないけど、協力する事はできる。
連れてってくれ」
「おねがいします、サキさん
私も、父の研究データーが悪い奴らに悪用されるのは嫌なんです」
サキは二人の顔見た。
笑顔でうなずく2人。
サキは黙って歩き出した。
麻琴と里沙はその後に続いた。
サキはもう何も言わなかった。
新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第四話
「対決2人のサキ!!」
終わり
- 108 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/06(月) 01:56
- 次回予告
ある日、公安部の西脇に呼び出された五代陽子は、公安部が「神狼会」の捜査の為に「特殊潜入捜査官」を派遣しようとしている事を知る。
選ばれたのは彼女の部下、安倍なつみだった。
次回 新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
特別編「復活のスケバン刑事!」
乞うご期待
「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」
- 109 名前:名無しの一読者 投稿日:2003/10/06(月) 14:49
- 更新キター━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!!!!!
6代目は誰なんでしょうか?
明日はCSでスケバン刑事Uありますね.....
- 110 名前:奈々氏 投稿日:2003/10/08(水) 18:47
- >>109
>6代目は誰なんでしょうか?
バレバレな気も……
でも、面白いから許す
- 111 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/14(火) 01:57
- >>109>>110
ネタバレはご勘弁を……
なんか最近「娘。」小説というより単なる「スケバン刑事」の続編のウエイトが高くなってる気もします……
それでもなんとかメゲずに続きです
- 112 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/14(火) 01:57
- 特別編「復活のスケバン刑事!」
話は約3年前に遡る。
都内某所の喫茶店に一人の男が座っていた。
ヨレヨレの背広に細いネクタイ、風体の怪しいその男はさっきからぼんやりと競馬新聞を見ていた。
そこにブランドのスーツで身を包んだ美女が、すっと近づいて来る。
「おまたせしました」
その女性は落ちついた声でそう言った。
懐かしさに少し目を細める。
「久しぶりだな、志織」
男は新聞を折りたたみながら、ちらりとだけその女性を見た。
「西脇さんもお変わりがないようで、
ビックリしたわ。突然連絡くれるんだもの」
その美女……早乙女志織こと五代陽子は微笑みながら、西脇の前に座った。
「相変らず、独り者なのか?
いい加減に嫁に行ったらどうなんだ?」
「そんな事言いにわざわざうちを呼び出しただかね?」
五代はそう言って頬を膨らます。
- 113 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/14(火) 01:58
- 亡き父の親友だった西脇。
父の面影をほとんど覚えていない彼女にとって、西脇は父親代わりと言ってもおかしくない存在だった。
「まあ、そう怒るな……
ちょっと、お前に忠告したい事があってな……
お前、最近上府論党の山崎を調べてるだろう?」
そう言いながら、西脇はタバコに火を点けた。
上目遣いに、その目がギロリと光る。
「悪い事は言わん。やめとけ」
「急に呼び出して何を言い出すのかと思ったらそんなことなの?
言っときますけど、そんな事言われて、”はいそうですか”ってやめる私だと思ってるの?」
西脇はやれやれといった風に肩をすくめた。
「そんな事解ってる。
それを承知でわざわざお前を呼び出したんだ。
放っといてもそのうち上から圧力がかかる。
必ずお前は、この事件から手を引かなくてはならなくなるんだ」
「そんなん関係ない、うちは行方不明になった脳外科医や心理学者の行方を追っとうだけや
それぞれの行方不明になった人物をたどっていくうちに必ず山崎の影がちらつく
それだけぜよ」
五代は声を荒げて立ち上がった。
感情が高ぶるうちに、いつの間にか、イントネーションが土佐弁になっている。
- 114 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/14(火) 01:58
- 「まあ落ちつけ……」
西脇は彼女をなだめる様に言った。
「お前、山崎についてどのくらい知ってる?」
「どのくらいって……
上府論党の寺田幹事長の片腕で、党の影の実力者と言われている男でしょう?
他に何かあるの?」
「やはりその程度か……
海槌財閥って知ってるか?」
「海槌って”初代”の?」
五代の”初代”と言う言葉には、特別な響きがあった。
「そうだ、山崎は元々そこの顧問弁護士だったんだ
当主だった海槌剛三が自殺した後、海槌財団の解体は山崎の仕切りで全て行われた。
山崎はその金を持って”信楽恭志郎”に近づいている」
「恭志郎に!?」
信楽恭志郎……
- 115 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/14(火) 01:59
- 「青狼会」の総帥として彼女と壮絶な戦いを繰り広げた、この男。
「信楽老」の養子として引き取られた彼は、幼少の頃から「信楽老」の後継者となるべく、英才教育を叩き込まれていた。
しかし、彼の心の中には、ある女性との思い出が生きていた。
同じく「信楽老」の養女であり、早乙女七郎の妻、道子。
まだ幼かった恭志郎は、悪魔の後継者の教育を受けるまでの数年間を道子の元で過ごしていた。
道子は、恭志郎を自分の娘と共に育てた。
幼少の頃、実の兄のように一緒に遊んだ遠い記憶……
それらは全て鉄仮面の下に封印されていた、「早乙女志織」としての記憶だった。
恭志郎が自分と同じ、母の形見のペンダントを持っている事に気が付いた時、運命の歯車は再び動き出したのだった。
元々、「信楽老」は早乙女七郎が研究していた「超古代文明の残した秘宝」に興味を持っていた。
「不老不死」をも可能にする「鬼怒良の秘宝」
「信楽老」は日本を影で動かす絶対的な力を持ちながら、その欲望はとどまることなく更に「不老不死」まで手に入れようとしていたのだ。
「信楽老」はその研究を後援すると共に、内偵者として自分の養女だった五代道子を送り込んでいた。
早乙女の助手として彼の元で働いていた道子だったが、その強さと優しさに触れる内、道子はいつしか彼に心惹かれるようになっていた。
そして、いつしか二人は恋に落ち、結婚して娘が生まれ、志織と名付けられた。
そんな幸せな日々も、ある日を境に事態が一変する。
「鬼怒良の秘宝」の発見である。
早乙女七郎は、その事を「信楽老」に知られる事を恐れ、その秘密を鉄仮面に封じた。
彼は、娘を守り、そしてまた強い心を育んでもらう為、そしていつしか秘宝を守って戦う日のために、辛い選択をした。
娘にその鉄仮面を被せたのである。
そして、「信楽老」の追手から秘宝の秘密を守る為、自ら屋敷に火を放つ。
道子と志織は、早乙女の親友だった刑事西脇によって密かに屋敷の外に連れ出され、その後道子の実の両親の故郷であった高知に帰り、娘を育てた。
そして10数年余り……
- 116 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/14(火) 01:59
- その娘は鉄仮面を被せられたまま、”五代陽子”という名で育てられた。
「スケバン鉄仮面」として、その強さは四国ではその名を知らぬものは無いというほどであった。
17歳のあの日……西脇によってその封印が解かれる日まで……
「そうだ、山崎は元青狼会の幹部だったんだ。
お前が「信楽老」を倒し、日本の影の支配者がいなくなった後
今度は上府論党の寺田に誘われて、上府論党に入党している。
”陰”と呼ばれる”忍者”から、自分の身を守る為だ。
狡猾な山崎は政治家にならず、「海槌」と「信楽老」の資金を元に与党上府論党を影で動かす実力者にのし上がっている
すなわち、日本の政治をも影で操るまでになったんだ。
俺達公安部だってバカじゃない、山崎については前々から要注意人物としてマークしている。
最近、青狼会の残党を集めて神狼会という組織を作って前々から何やらはじめようとしているらしい。
そこまでは突きとめたんだがな
最近、その山崎が行方不明になっている。
山崎の捜査は我々がやる
お前は手を引くんだ」
「青狼会に関係する男だったと知ったら、益々手を引く訳には行かなくなったじゃない」
- 117 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/10/15(水) 00:03
- 「そう言うだろうと思った
じつはな、公安部で神狼会について「特殊潜入捜査」をやろうという動きがある、内藤を知ってるか?」
「いいえ……」
「そうか、向こうはお前さんの事をよく知っていたようだったぞ」
「まあ、私は自分の知らないところで有名人みたいですから」
「そうだな」
そう言って西脇はニヤリと笑った。
「内閣調査室にいたエリートだ、彼を中心に潜入捜査のチームを編成した。
お前の署に安倍っていう娘がいただろう?
彼女を推薦しておいた」
「なつみを?」
「そうだ、彼女に潜入捜査をしてもらう。
行方不明の医者の件は捜査の進行次第、俺から連絡を入れる
そのへんで手を打ってはくれまいか?」
*************
数日後、都内某署
「五代警部」
そう言って五代陽子の元にやって来たのは、安倍なつみだった。
―続く―
- 118 名前:名無しの一読者 投稿日:2003/11/05(水) 18:43
- 続き待ってます
- 119 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/07(金) 13:50
- リリアンと折鶴の登場をお待ちしてます。
- 120 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/16(日) 02:28
- 1ヶ月も更新しなくて、すいませんでした。
ここんとこ、仕事が死ぬほど忙しくて、なかなか続きが書けなかったもんで
なんとか、ぼちぼち続きを書いていきますので、またお付き合い下さいまし
- 121 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/16(日) 02:29
- 数日後、都内某署
「五代警部」
そう言って五代陽子の元にやって来たのは、安倍なつみだった。
大きな瞳はいつも微笑んでいる様に見える。
たしか22歳だったと思うが、高校生といってもおかしくないくらいの童顔。
だが、ソフトボールでオリンピックの代表候補になるくらい、豪速球を投げるピッチャーでもある。
「公安部へ異動の辞令がおりたそうね、おめでとう頑張ってね」
かしこまって緊張した面持ちで立っている彼女に、陽子は力強く両肩を掴んだ。
「はい、実はその件で五代警部にお願いがあって来ました」
「何かしら?」
なつみは少し間を置き、そして大きく決心した様に瞳を輝かせる。
「私に5代目を名乗らせてください」
「え?」
あまりに突然の事だったので、一瞬、五代にはなつみが何のことを言っているのか理解できなかった。
「何のことかしら?」
「とぼけないで下さい、私知ってるんです。
警部がかつて”スケバン刑事”だったって事を……」
- 122 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/16(日) 02:30
- 「!?そんな昔の話、どこで聞いたの?」
彼女が”現役”だったのは、もうかれこれ17年も前の話になる。
月日の経つのは早いものだ……
しかしなつみの年齢からして、五代陽子が”スケバン刑事”として現役だった頃など到底知らないはずだ。
「私には10歳年の離れた姉がいたんです。
私がまだ物心がついて間もない頃、父と母は離婚して、姉は父に引き取られました。
父は世界を飛び回るカメラマンでした。
まだ中学生だった姉を連れて、中東の難民の姿を撮影する為、キャンプ地を回っていました……
しかし父はそこで戦火に巻き込まれて死に、一緒にいた姉も行方不明になったんです。
でも3年後、姉は突然単身で日本に帰って来ました。
姉は行方不明だった3年間、各地でさらってきた子供を訓練して兵士に育てようとする組織によって高等なコマンド訓練を受けていたんです。
そこで優秀な訓練生だった姉は、組織を抜けて日本に帰って来ました。
そして警察の方にスカウトされて特殊な任務につきました」
「もしかして、なつみのお姉さんって?」
「そうです、4代目スケバン刑事、五百川(イオカワ)いづみ……彼女が私の姉なんです。
私が警察官になる時、母は私に姉の話をしてくれました。
姉はこっそり自分が生きている事、そして警察で特殊な任務につくことを母に手紙で知らせていたのです。
私はそれまで、自分に姉がいたことなんてすっかり忘れていました。
幼い頃、遊んでくれたお姉ちゃんの記憶……
そのときやっと、自分の記憶の断片がつながった思いがしました。
姉について調べよう……私はそう決心したんです。
いろいろ調べているうちに、警部の事を知りました。
”2代目スケバン刑事・五代陽子”のことを……」
- 123 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/16(日) 02:31
- 「そうだったの、なつみはいづみさんの妹だったのね……」
その頃既に”スケバン刑事”を引退し、大学生となっていた彼女は”4代目”だった五百川いづみと直接会った事はなかった。
3代目だった風間唯が引退する際、「暗闇指令」から4代目の名前だけを聞かされていたのみであった。
しかし、3代目の風間唯に対してもそうだったが、自分の任務を引き継ぎ、そして自分と同じように自らの運命と戦った後輩。
彼女たちにはそんな戦友のような「連帯感」みたいなものを感じていた。
「私に特殊潜入捜査官の話が来たのも何かの運命だと思います。
私は公安部に異動について条件を出しました
潜入先で使う偽名を”麻宮サキ”にすること
護身用の武器として重合金製のヨーヨーを作ってもらう事
警部、私を5代目スケバン刑事として認めて頂けませんでしょうか」
「スケバン刑事か……」
二度と再びその名前が聞けるとは思っていなかった。
なつみの姉、五百川いづみが殉職した後、「スケバン刑事」を統括していた闇の期間は解散の憂き目にあっていた。
”初代”もそして自分も”3代目”の風間唯も、普通の警察の捜査方法では絶対に暴く事のできなかった日本の暗部の支配者を倒した。
それは暗闇指令の警察、政府、検察にまたがる強い影響力があったからこそ成しえた出来事だった。
しかしたとえ超法規的措置とはいえ、警察組織が全力をあげて検挙できなかった大物を女子高生が倒したとあれば、警察の面目は丸つぶれだ。
彼女の殉職を機に二度とそういう捜査方法ができないように上層部からの圧力がかかったという話も聞いた。
とはいえ、「海槌剛三」「信楽老」「果心居士」といった影で暗躍していた大物を3人もたて続けに倒したという「スケバン刑事」の噂は警察関係者の間で半ば伝説と化していた。
それは逆に、超法規的な事をしない限りもうあんな大物を検挙する事は二度とできないだろうという、諦めに近い伝説だった。
今回の特殊潜入捜査も警察という組織の規範の中で決して許される捜査方法ではない。
そうまでして、捜査しようとする公安部は「神狼会」に対して並々ならない脅威を感じている事の現れなのかもしれない。
陽子は大きくため息をついた。
- 124 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/16(日) 02:31
- 「いいわ、でも私一人の一存じゃ決められない。
その為には行かなきゃならないところがあるわ。
一緒に来てくれる?」
「はい」
なつみは大きくうなずいた。
********************
「へー、彼女が5代目をねぇ
いまどき奇特な人もいたもんだわ……」
風間唯はそう言いながらも、ちょっと嬉しそうに目を細めた。
「忙しい所を呼び出したりしてごめんなさいね。
この件では私だけでなく、どうしても風間教官にも来て欲しかったのよ」
「何言ってんですか、”2代目”の呼び出しとあれば、何がなんでも参上するのは当然です」
唯は大きな瞳をクリクリさせながら言った。
彼女は今、警官相手の特殊教練課の教官をしている。
巨漢の警官が土下座して許しを乞うくらい厳しい鬼教官という噂である。
陽子は彼女の「忍者」としての実力を知っているが、そうでなければこんな可愛らしい女性がそんな恐ろしい一面を持っているなんて誰も信じられないだろう。
そんな彼女が自分の事を「頭の上がらない先輩」のように扱われると、ちょっと気恥ずかしい思いがした。
「じゃあついてきて」
- 125 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/16(日) 02:32
- 五代陽子が2人を連れて行ったのは、都内郊外の一軒の屋敷だった。
都内だというのに驚くほどの広大な敷地。
陽子は門を開け中に入っていく。唯もなつみもその後に続いた。
庭にはよく手入れされた様々な花が咲き乱れ、ほのかに甘い香りを漂わせていた。
庭を数10メートルも進んだだろうか、ひときわ派手な色を見せているバラ園があった。
老人が一人、バラの花を手入れしている。
陽子はその庭にずかずかと入っていった。
「お久しぶりです」
「おお、志織に唯じゃないか……久し振りだな」
老人は嬉しそうに微笑む。
頭は多少薄くなっているが上品そうな老人だ。
「どうも、ご無沙汰しています……暗闇指令」
―続く―
- 126 名前:ななしさん 投稿日:2003/11/20(木) 21:02
- 更新キターーーーーー!!
- 127 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/25(火) 01:17
- 「どうも、ご無沙汰しています……暗闇指令」
「おいおい、もうその呼び名はよしてくれ
私は今は隠居の身。ただのじじいじゃよ。
ところで、何の御用かな?
家賃はちゃんと払っていると思うのだが?」
この屋敷は元々、陽子の父親早乙女七郎が住んでいたものだ。
妻と娘を逃がす為、主自ら火を放ち焼失、その後長い間放置されたままであったのを彼女がスケバン刑事として任務終了後、暗闇指令によって改修されていた。
しかし、彼女はその屋敷に住む事はなかった。
一人で住むには広すぎるというのが、その理由であった。
長い間、誰も住む事の無かった屋敷だったが、結局暗闇指令が現役引退後に住む事になったのだった。
「最近はこうやって庭いじりが唯一の楽しみでな……」
暗闇指令は好々爺然といった感で笑った。
- 128 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/25(火) 01:18
- その笑顔にはかつて一睨みで犯罪者を震え上がらせたという、凄腕検察官の面影はない。
数々の事件を解決していった鬼検察官。
彼はその後最高裁判事となり、麻宮サキの母ナツの夫殺しの事件を担当した。
彼はその裁判が、いや事件そのものが海槌家の当主海槌剛三が仕組んだ茶番である事を早くから見抜いていた。
財界に大きな影響力をもち、政界をも牛耳ろうと企む海槌家には以前からきな臭い噂が絶えなかった。
特にその巨額な資金源については、彼自身いずれ検察のメスを入れなければならないと感じていた。
海槌財閥の主な資金源は、傘下にある薬品会社が発売する新薬。
しかもそれは、通常では開発から実用化まで10数年はかかる新薬をわずか数年で可能にしている驚異の製品開発技術だった。
通常では到底考えられないそのスピードの秘密は、影で非合法な人体実験を行われているからなのではないか?という疑いが持たれていた。
そしてそういった人体実験に使われた”献体”を使い、非合法な臓器移植など、金さえ出せばどんな手術でもやる医師団なんかも抱えていたらしい。
海槌剛三はそういった豊富な資金をバックに表の世界にのし上がろうとしている。
それも「学園支配」というとんでもない方法を使ってだ。
彼には検察官時代に数多の学生運動の指導者たちを検挙した経験があった。
「学園支配」などという恐ろしい計画など、断じて成功させてはならない。
早急に何とかしなければ、彼はそう考えていた。
その解決の糸口として目をつけたのが、麻宮ナツの娘サキだった。
類い稀なケンカの強さと人望で学園のリーダー格に、そしてその実力は周囲の学校にも及び、いつの間にか彼女は横浜ではその名を知らない者はないというくらいにまでになっていた。
横浜(ハマ)の女番長(スケバン)麻宮サキ
- 129 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/25(火) 01:19
- 彼女に対する畏怖と敬意を込めて皆はそう呼んだ。
海槌家壊滅に彼女を使わない手はない。
政府、警察、検察にまたがる力を持っていた彼は、超法規的処置をもって特別な機関を作った。
将来、必ず日本の癌になろう海槌家壊滅のために……
彼はサキにその任務と身分の証しとして特注のヨーヨーを持たせた。
ヨーヨーは元々サキが武器として使用していたのだが、それにヒントを得たものだ。
新素材として開発されたばかりの”重合金”という名の特殊な合金を使用した特製のヨーヨー。
後々様々な伝説を生んだ「スケバン刑事」はこうして誕生したのだった。
麻宮サキは彼の期待通りの働きをした。
そして海槌家壊滅は当主剛三の自殺という、あっけない幕切れで終った。
残念だったのは、海槌家の様々な悪事の巣窟だった薬品工場が大爆発を起こした事。
海槌家の様々な悪事の手先となっていた三人の娘の長女麗巳。証拠隠滅のために彼女が最後に仕組んだ事だった。
そして、麻宮サキもその爆発と共に行方不明となっていた。
「今日お伺いしたのは他でもありません、指令にご紹介したい女性を連れてやって参りました」
そう言って陽子は横に立っているなつみを手で示した。
陽子と唯の間で小さくなっていたなつみは深々と頭を下げた。
「4代目スケバン刑事だった五百川いづみさんの妹、安倍なつみです」
「なに、いづみの……」
彼の表情が急に暗くなった。
- 130 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/25(火) 01:19
- 「いづみの件はすまなかったと思っている。
彼女は元々外国の傭兵育成の為の組織で訓練されておった。
組織を抜け日本に逃げ帰り様々な刺客と一人で戦っていたんだ。
彼女の身の安全の為に私は彼女を4代目にスカウトした。
警察組織に身を置くことでそんな組織の刺客も簡単に手が出せなくなるだろうと考えたからだ。
いづみもスケバン刑事として存分に働いてくれた。
それは志織、唯、お前達2人に引けを取らないくらいだったんだ。
だが結局いづみは組織の刺客の手にかかった形で潜入捜査先で殉職してしまった。
残念だよ、戦士としては歴代のスケバン刑事のなかでも飛びぬけた実力を持っていただけにな」
「その、いづみさんの妹であるなつみが、5代目を継ぎたいと言ってるんです」
「何?スケバン刑事の……」
陽子はこれまでの経緯を老人に話した。
「なるほど、それでこの隠居に何を?」
「指令に任命していただきたいのです
安倍なつみを5代目スケバン刑事として」
「おねがいします」
なつみは頭を下げた。
「それで、志織と唯が2人揃ってやって来たという訳か」
「そうです」
- 131 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/25(火) 01:20
- 陽子と唯は同時に言った。
「特殊潜入捜査……内藤の考えそうな事だな」
暗闇指令は眉間にしわを寄せた。
「特殊潜入捜査の具体的な内容はわからないが、危険な仕事である事には変わりが無いだろう。
それでもいいのか?なつみ」
「はい……覚悟は出来ています」
なつみは大きくうなずいた。
「いいだろう。
それでは、今日からお前は”5代目スケバン刑事・麻宮サキ”を名乗るがよい」
「ありがとうございます」
3人は同時に頭を下げた。
「初代のサキにも連絡が取れれば3人が揃ったのにな」
「え?”初代”は生きてるんですか?」
彼の意外な言葉に陽子も唯も驚いて、目を開く。
「一度な、サキから連絡をもらった
何処に住んでいるかは言わなかったが、結婚して子供もいると言っていた」
「そうですか……いつか、お会いしたいですね,伝説の麻宮サキに……」
- 132 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/25(火) 01:21
- 「そうだな
ところで、このなつみがスケバン刑事を継ぐのなら、困った事になった」
「何でしょう?」
「実は重合金製のヨーヨーだが、もうあれを作れる職人がもうおらんのだ」
「え?」
「重合金は当時開発されたばかりの新素材でな、強度や耐久性に優れた合金なのだが、燒結時にムラができやすくて均一な製品が出来にくいという欠点があった。
日本で唯一この合金の均一燒結に成功した会社があって、この部品はそこに発注して作らせたものなのだ。
そこの社長は偏屈親父だったのだが、職人としての腕は確かだった。
彼の持つ技術力を結集して作った……まあ道楽みたいなものなのだが。
その社長も去年死んでしまった。
それで無くとも生成が難しい重合金でこんな細かい細工を施した部品を作れる職人はもうおらんのだ」
「じゃあ、このヨーヨーはもう……」
「私に心当たりがある、1週間待ってくれないか?」
暗闇指令が言った通り、丁度1週間後、安倍なつみの元に小包が一つ届けられた。
中には、彼の言った通り重合金製のヨーヨーと一通の手紙が同封されていた。
- 133 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/25(火) 01:21
- 「拝啓 安倍なつみ 様
探すのに手間取って、これが届くのが約束の時間ギリギリになっているかも知れない。
これは君の姉、4代目スケバン刑事だった”五百川いづみ”が使っていたヨーヨーだ。
君を5代目に任命すると共に、その就任を祝して進呈しよう。
〜〜暗闇〜〜」
「ありがとうございます」
安倍なつみはそのヨーヨーをぎゅっと握った。
幼少の頃に離れ離れになった姉。彼女はほんの少ししかその面影を覚えてはいない。
だがそのヨーヨーを握った瞬間、その姉が自分を見守ってくれている……そんな気がした。
姉の唯一の形見……
「五代警部、行って来ます」
「ええ、がんばってね」
五代陽子は、安倍なつみの後姿を見つめた。
新たなる”スケバン刑事”の誕生……陽子にはその背中が頼もしく思えた。
- 134 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/25(火) 01:22
- ********************
「な、何者だ、お前は!
巨漢の男の怒号になつみは怯むことなく、厳しい眼差しを向ける。
なつみはヨーヨーをグイッと前に出した。
「この世に悪がはびこる時、伝説を継ぐ者が現れる。
その名は”スケバン刑事”。
浅草橋高校3年B組 麻宮サキ!」
ヨーヨーにある小さなスイッチを押すと片面が開く
中から現れる桜の代紋
「さ、桜の大門!?」
男たちは一同に驚く。
「この豪球が悪を討つ
てめーら、覚悟しな!!」
なつみは男たちを睨みつけた……
両腕を大きく前から上に伸ばし、勢いよく後に振る。
左足を力強く踏み出す。
その腕がまるで風車のように前に戻ってきた時、その手から勢いよくヨーヨーが飛び出した。
そして……なつみの右腕から放たれた豪速球は、取り囲んだ男たちをあっという間に蹴散らしたのだった……
終わり
- 135 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/25(火) 01:23
- 次回予告
ついに「神狼会」本部に潜入するサキ達。
3人が最上階に辿り着いた時、そこに待ちうけていたものは!!
次回 新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第五話「潜入!神狼会本部!!」
乞うご期待
「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」
- 136 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/11/25(火) 01:26
- えーやっと更新です
- 137 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/03(水) 01:44
- チョット言い訳
本当は”少女コマンドーIZUMI”は戦いが終った後、「暗闇指令」にスカウトされて、”4代目スケバン刑事”になった……そんな設定にしたかったんです。
でも、当時の事を全然覚えておらず(番組もほとんど見てなかった)、資料も残ってないので、中途半端な設定になってしまいますた。
五條いづみ役を五十嵐いづみがやっていたので、名前を五百川いづみにしました(判った人はいるかな?)
近日更新予定、乞う御期待!
- 138 名前:名無しの一読者 投稿日:2003/12/03(水) 18:58
- そうでしたか....
たしか”少女コマンドーIZUMI”はバイオなんとかという機能が備わっていて、
それによりいづみがパワーアップしていたのでは....
それと『西脇さん』的な役割の男として渡辺裕之がでてましたね
次回更新楽しみにしてます。
- 139 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/08(月) 01:26
- >>138
その渡辺裕之って、いづみとどういう関係でしたっけ?
そいでもって、いづみはなんで”バイオフィードバック”という能力を身につけたのか?
その辺って番組内でもちゃんと語られてましたっけ?
ナドナド、当時から持っていた疑問を解決する資料がなかったんですよ
で、こんなお話になってしまいますたとさ
続きです。
- 140 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/08(月) 01:27
- 第五話「潜入!神狼会本部!!」
月が出ていた。
薄い雲の合間から差す十六夜月の淡い光が、静かに3人を照らしていた。
サキが五代陽子から教えてもらった住所は、都内の一角。とある高級マンションだった。
人通りも少ない静かな町。とてもそんな組織の本部があるように思えない。
3人はマンションの敷地内に浸入する為、夜になるのを待っていた。
レンガ風のタイル、まわりにはイチョウが植えられ、高級そうなたたずまいを見せている。
マンションの入り口である大きなガラス戸は閉まっていて、セキュリティがかかっている。
中を覗くとまるでホテルのフロントのようなエントランス。
サキ達はマンションの廻りを調べた。
1階は全て壁、住居は2階から上になっている。
正面の入り口以外その中に入れそうな場所はない。
2階のベランダに何軒か開いている窓があるようだ。
入れるとすればそこしかない。
「私が行きます」
里沙が言った。
10メートルほど後ろに下がって走り出す。
助走の勢いのまま壁面を駈け上がる。
「軽功壁走」
- 141 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/08(月) 01:27
- 丁度バンクカーブを走るのと同じ要領で、垂直の壁を走るのだ。
「軽功」の奥義を極めた里沙は、軽々と2階の部屋のベランダまで駆け上がった。
「大人になって、仕事がなくて泥棒になるんだったら、必ず里沙を仲間に入れるよ」
そう言って麻琴は笑った。
里沙はもっていたロープを垂らした。
サキと麻琴はそのロープで2階ベランダに上った。
こっそり窓から中を覗き込む。
誰もいない。
外から見たら人が住んでいるような感じだが、中に入ると適当に家具があるだけで、人が住んでいるという感じではない。
中に入って、玄関から廊下に出る。
まるでホテルのような広い廊下だが、灯りも点いていない。
これだけの大きなマンションなのに人の気配がまるでなかった。
「変だな、誰もいないみたいだぜ」
麻琴が言った。
「五代さんの話だと、かなり値段の高いマンションで、住んでる人はお金持ちが多いという話だったけど……」
「じゃあみんなウソなんじゃないか?」
3人はエレベーターを使わず真っ暗な階段を上った。
各階ごとを覗いて見るが、やはりどの階にも人がいない。
「この調子で最上階まで行くのかよ……」
- 142 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/08(月) 01:28
- 「本当にここは”神狼会”の本部なんでしょうか?」
麻琴や里沙の言うのももっともであった。
まるで建築して間も無いかのように、人の住んでいる気配が無い。
3人はそんな調子でゆっくりと20階まで上った。
気味が悪いくらい静かだ。
最上階に着くと、そこだけ灯りがついていた。
そーっと覗いて見る。
そこには2人の女性が立っていた。
秘書の真里と梨華だった。
「お待ちしてました」
2人は、まるで彼女達が来たのを待っていたかの様に言った。
「!」
3人がこのマンションに侵入していた事は既にバレていたようだ。
「あなたが3人目の”麻宮サキ”さんですね?」
「愛様がお待ちです、こちらにどうぞ」
2人はサキを奥の部屋へと案内した。
3人は顔を見合わせる。
(どうする?)
- 143 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/08(月) 01:28
- 互いに目で合図する。
サキは小さくうなずくと、2人の後に続いて歩き出した。
麻琴と里沙も後に続く。
タイミングを見計らって、真里が手にした装置のスイッチを押した。
バシッ!!
サキの背中で電気がスパークする音がして、麻琴と里沙は吹き飛んだ。
「マコさん、里沙さん!!」
サキが振り返ると2人が倒れている。
廊下の壁を見ると、なにやら赤い光が出ている装置が床から天井までずらりと並んでいる。
「手を伸ばすと危険ですよ」
梨華が言った。
「進入者除けの電気ショックのカーテンですからね。
下手をすると死んでしまいますよ」
真里が微笑む。
サキは2人を睨んだ。
怒りにその拳が震えている。
「大丈夫、死んではいませんよ
ちょっとショックがキツかっただけです。10分もすれば気が付くでしょう」
- 144 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/08(月) 01:29
- 「よかったらそのままエレベーターで帰っちゃって下さいな。
私達は”麻宮サキ”にしか用がないんですからね。さあ、行きましょう」
真里と梨華はサキを促した。
サキは心配そうに2人を見ていたが、やがて意を決したように歩き出した。
廊下の先には大きな木製の扉があった。
真里と梨華は左右に分れて扉を開け、うやうやしく頭を下げた。
「麻宮サキ様総帥がお待ちです」
サキは何も言わず、大股でその中に入って行った。
奥の部屋に少女が一人立っている。
あの英会話教室に来ていた”高橋愛”だった。
「お待ちしてましたわ、”麻宮サキ”さん」
「お前が神狼会の総帥なのか?」
「ええ」
高橋はうなずいた。
口元には余裕の笑み.
「父を殺したのはお前なのか?]
「あら、どなたの事かしら?」
- 145 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/08(月) 01:29
- 「お前の手術をした北海道総合医科大の紺野は私の父だ」
「!」
高橋は一瞬驚いた顔を見せた。
「そう、あなたは紺野先生の……」
「父はお前の命を救ったのではないのか?」
「ええ、そうよ
確かに紺野先生は瀕死の重症だった私の命を救ってくれたわ
私はそのおかげでこうして生き返る事ができた
普通の人間としてではなく
こんな能力をもった人間としてね」
高橋は目を見開き、掌を前に出した。
(いけない!)
サキは咄嗟に目を閉じた。
すごいプレッシャーに押しつぶされそうになる。
サキは硬く目を閉じ、その上に両腕で目を覆った。
2、3歩後ずさりする。
「いつまでそうしていられるかな?」
(目を開けたらやられる)
- 146 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/08(月) 01:30
- サキはヨーヨーを構えた。
プレッシャーを強く感じる方向を肌で探る。
(そこっ!)
ぎゅるるるるるっ!
投げたヨーヨーに手ごたえはなかったが、感じるプレッシャーの力が弱まった。
転がりながら薄目を開ける。
高橋の足が見える。
今度はその足元をめがけてヨーヨーを投げた。
軽くジャンプしてよける高橋。
サキはその瞬間を逃さずに高橋との間合いに入った。
しかし、目を閉じたままでは思うように攻撃できない。
「無駄な抵抗は止めて素直に私の言いなりになりなさい
前の二人のようにね」
「じゃあ、なつみさんだけでなく6代目のスケバン刑事も!」
「そうよ、私のこの能力で、今では私の忠実な部下
あなたのお父さんから授かったこの能力でね」
「いったいどういう事なんだ?」
サキには高橋の言っている意味がさっぱりわからない。
「この能力はね、脳改造手術の結果得られたもの
紺野先生はそういう実験を数多くしてきた。
私は紺野先生の実験体だったのよ」
- 147 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/08(月) 01:31
- 「ウ、ウソだ……」
確かに、サキの父だった紺野医師は若いながらすばらしい脳外科手術の腕を持っていた。
ベテランの医師でもなかなかできないような、難しい手術も難なくこなす高い技術を持った医師だった。
サキも中学生になったばかりだったが、父の腕が世間でも注目を浴びていた事はなんとなく知っていた。
しかし父は地元の新聞等で取り上げれれることすらあまり喜んではないようだった。
その態度は、まるで世間から隠れているようにさえ感じた。
「私は紺野先生に命を救ってもらった代わりに、脳改造の実験台にされた。
この能力を得た私は、その能力を目当てに近付いてきた山崎を逆に言いなりにして神狼会を乗っ取ったの。
お遊びはここまで、ナンバー6、出番よ」
部屋の奥にあるソファーから、少女が一人ゆらりと立ち上がった。
軽いフットワークで近づいてくる。
高橋はさっと後ろに下がった。
両手に青いグローブ。
格闘技用のグローブだ。
右手にヨーヨーが握られている。
- 148 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/08(月) 01:31
- ナンバー6はそのヨーヨーをサキに向けた。
サキの持っているものと同じ銀色の重合金製ヨーヨー
片面が開き、桜の代紋が現れる
「光あるところ闇あり、闇あるところに光あり
闇を切り裂く光の拳
是天馬高校3年B組 吉澤ひとみ、またの名を6代目スケバン刑事、麻宮サキ」
ヨーヨーを閉じると、ナンバー6は2、3回シャドウボクシングでパンチをする。
「I'm Champion!」
―続く―
- 149 名前:名無しの一読者 投稿日:2003/12/11(木) 19:38
- >>その渡辺裕之って、いづみとどういう関係でしたっけ?
そいでもって、いづみはなんで”バイオフィードバック”という能力を身につけたのか?
その辺って番組内でもちゃんと語られてましたっけ?
う〜ん...たしかにぐぐってもでてきませんね。私もその辺の記憶は不確かなんですよ
とりあえず2ちゃんの懐かしドラマ板にすれがたってましたのではっときます。↓
ttp://bubble.2ch.net/test/read.cgi/natsudora/1048837261/
- 150 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/12(金) 20:05
- よっすぃーキタ-------------
- 151 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:03
- かつてその驚異的なパンチ力で天才少女ボクサーと言われた吉澤ひとみ。
五代が言っていた通り、空手をやっていたサキにとっては戦いにくい相手だ。
足技か関節技にもっていかないと、恐らく厳しいだろう。
ナンバー6は当たり前のように、サキとの間合いに入ってきた。
まるで友達に近づくかのように無防備だ。
あまりの無防備さに逆にサキの方が2、3歩下がった。
ナンバー6は、すばやい動きで拳を構えた。
刹那、右ストレートが飛んでくる。
サキは後ろに飛んで逃れた。
続いて左のフック。
一見、力任せに殴りかかっている風だが、圧倒的なパワーでねじ伏せるといった感じだ。
決してでたらめに腕を振り回しているのではない、反撃の隙を与えないくらいの攻撃が続く。
さすがのサキも防戦一方になる。
(どこかで突破口を開かないと……)
パンチを避けながら、しかし一方で確実に壁際に追い込まれている。
「ほらほら、もう後がないよ」
ナンバー6は笑いながらそう言う。
一瞬その目付きが変わった。
ナンバー6は構えた。
左ストレート
一瞬その拳が光ったように見えた。
(いけない!)
- 152 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:04
- サキはその動きの違いを本能で感じた。
避けたパンチはギリギリのところで肩口をわずかにかすった。
ドウン
しかし、その拳がかすった瞬間、肩の肉が焼け焦げたのではないかというくらいの衝撃が走る。
「な、何、今の!」
なんという衝撃、軽く触れただけと言うにはあまりにも強いダメージ。
「ち、外したか、さすがに”麻宮サキ”を名乗るだけあるね。
このパンチをかわすなんて」
恐ろしい破壊力。もしあの拳をまともに喰らっていたら……
そう思うと身震いする。
「俺の拳の光、あんたに見えたかい?」
「?」
サキは何も答えなかった。
「なんだ、お前には見えなかったのか……」
ナンバー6は少し落胆したように言った。
”光るパンチ”……
- 153 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:04
- サキは以前空手の師範が見せてくれた技を思い出した。
10数枚重ねられた瓦に手を置き、拳ではなく掌の気合だけで全てを割るという技。
一分の距離、一寸の距離と言う極近の隙間に、突きの力を一局化する鍛錬を重ねなければできるものではない。
”発剄”
師範はその技をそう呼んだ。
その瞬間、師範の掌が光ったように見えた。
ナンバー6の拳の光もその光に似ているような気がした。
”発剄”の力を拳に乗せる。
”光るパンチ”があの破壊力と同じものだとしたら、軽く触れただけでこの衝撃を感じたのも納得がいく。
恐ろしい技だ
「この光が見えないなら、お前は”失格”だ」
そう言うと、ナンバー6は再度間合いに入ってきた。
それまで対等な力の相手と戦っているという感じはすっかり無くなり、明かに格下の相手と戦うようなような態度に変わっている。
サキはナンバー6の攻撃を避けるように、身を低くした。と、同時に足払いをかける。
ナンバー6は軽いフットワークで難なくそれをかわす。
すかさず続けてハイキック、蹴り上げた足をそのまま振り下ろす踵落とし(ネリチャギ)。
回し蹴りの後に正拳突き。
鬼連組手の連続技だが、ナンバー6はその動きをあらかじめ読んでいるかのごとく、軽々とさばいた。
「なかなかやるわね
技のキレは風間教官より上じゃない
そう来なくっちゃ、面白くないわ」
- 154 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:05
- 一瞬の隙を突いてまた間合いに入ってくる。
今度はサキは退かなかった。
拳と拳の応酬
サキは右手でナンバー6の左を制しながら、左拳をわき腹に叩き込む。
うぐっ
間髪を入れずに右膝蹴り。
まともに喰らっているのにもかかわらず、ナンバー6は退がらない。
当たり前のように右ストレートを撃って来る。
予期せぬ行動にサキはその拳をかわすのが精一杯だった。
光るパンチの絶対の自信……恐らくそれがナンバー6の強さの秘密なのだろう。
たとえ相打ちになっても、光るパンチを受けた方のダメージは比べ物にならない。
だから、当たり前のように間合いに入ってくる。
一発でも光るパンチをヒットさせれば、相手は絶対に倒れる事がわかっているからだ。
光るパンチが発剄と同じ原理の技だとしたら、そう何度も連続して出せる技ではないはず。
その隙に何回ダメージを与えられる攻撃ができるか、それしか活路は無い。
しかも、攻撃に間があけば、光るパンチを放つ為の時間を相手に与えてしまう。
(要は攻撃するのみって訳ね)
蹴りの連続から突き、ナンバー6は両腕でガードを固める。
すかさず足払いをかける。
後方に避ける。
- 155 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:05
- ナンバー6の目付きが変わった
(来る!)
ナンバー6の様子の違いを察知したサキは、咄嗟に間合いを外した。
「さすがね、その通りよ。
気は練れたわ、今度間合いに入ったら、私の最大の奥義をお見せするわ
うれしいねえ、この奥義を実際に試せるだけの相手に出会えるなんて。
お前に”光”さえ見えていれば、もっと最高なんだけどな」
そう言いながら、ナンバー6はぐいっと間合いに入ってきた。
同時に左ストレートが来る。その拳はさっきと同じ光を放っている。
サキはその動きを読んでいた。
光る拳を避け、左腕を掴んでハイキック
ナンバー6は冷静だった。
右の拳でアッパー、と同時にその拳が光った。
「し、しまった!フェイント!!」
ナンバー6は渾身の力をこめた必殺技を、こともあろうかフェイントとして放ってきたのだ。
本当の目的は右のパンチ。
ナンバー6は両拳同時に”光るパンチ”を放ってきたのだ。
その拳がサキの足に当たった。
ドクン
- 156 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:05
- 膝から崩れ落ちる。
立ちあがろうとするが、膝から下の感覚がなくなっていた。
********************
「う、うーん」
しばらくして、麻琴は目を覚ました。
どのくらい倒れていたのだろう。手がまだ少し痺れが残っている感じがする。
頭がさっきの出来事を思い出すまで更に時間を要した。
横に里沙が倒れている。
「おい、里沙起きろよ」
麻琴は里沙を揺り起こした。
「う、うーん
こ、ここは、そうだサキさんは!」
2人は立ち上がった。
歩きだそうとして足を止める。
またさっきの電気ショックが来そうな気がしたからだ。
ゆっくりあたりを見渡す。
壁に並んだ赤い光を放つ装置。
麻琴はポケットからハンカチを取り出して丸めると、ぽんっと投げた。
バシッ!!
一瞬にしてハンカチは黒い炭になって落ちた。
- 157 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:06
- 「ふー、危ない危ない」
「どうしましょうマコさん、ここから先には行けないみたいです」
「そうだねぇ」
麻琴はビー玉を構えた。
ビシュッ!
壁の装置に向けて放つ。
バチッ
ビー玉は装置のレンズと相打ちになって砕けた。
「地味だけどこれで一つ一つ潰していくしかないね」
2つ目の装置を潰した時、奥の部屋から真里と梨華が出てきた。
「あなた達、何をやってるの!!」
- 158 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:06
- 麻琴は2人に構わず3つ目の装置を潰す。
真里は手にしたリモコンで電気シャワーの装置を切った。
と,同時に麻琴と里沙に襲いかかる。
里沙はスカーフを構えると、壁を走った。
三角飛びで梨華の頭上から鞭を放つ。
麻琴は飛び込んできた真里の延髄に回し蹴りをヒットさせた。
勝負はすぐに決まった。
二人は走って奥の部屋のドアに向かった。
各々その手に武器を構えながら用心深く中に飛び込む。
ドアの向こうの部屋は広くガランとしていた。
少女が一人立っている。
「誰?」
麻琴は用心しながら近づく。
どうやらその少女はサキではない。
その横に疲れきったように座り込んでいる少女。
そして、その傍らにサキが倒れていた。
「サキさんに何をしたあ!」
先に動いたのは里沙だった。
突然走り出すと、立っている少女に飛び蹴りをお見舞いする。
少女は受け身をとる間もなく、吹き飛んだ。
麻琴もビー玉を投げる。
座り込んだ少女は、面倒くさそうにかわす。
2人は倒れているサキにかけ寄った。
- 159 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:07
- 「サキ、大丈夫か?」
サキはぐったりとしている、しかもその目はうつろだ。
里沙はその目を見て、彼女に何が起きたのかをすぐに悟った。
「マコさん、急いで連れて行きましょう!
援護してください!」
里沙はサキの体を抱える。
麻琴は2人の少女の動きを見た。
座り込んでいる少女は、ニヤニヤと薄気味悪い笑いを浮かべて軽く手を振った。
里沙に蹴り飛ばされた少女はゆっくりと起き上がろうとしている。
「もう何をやっても無駄よ、3人目の”麻宮サキ”ももう私の術中に落ちているわ」
里沙はその叫びを無視した。
麻琴は2人から里沙を庇いながら走った。
本当にもう手後れなのか、2人は特別に麻琴たちに攻撃を加えようとはして来ない。
廊下に出る。
さっき倒した2人が起上がろうとしていたところだった。
麻琴はビー玉を投げた。
ビシュウウウ
2個のビー玉は真っ直ぐに2人の額をめがけて飛んでいく。
2人は再び倒れた。
- 160 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:07
- 麻琴は2人が倒れるのを確認すると、エレベーターに向かって走った。
ボタンを押す。
エレベーターはすぐに開いた。
サキを抱えた里沙がすぐ後から乗り込む。
追手は来ないようだった。
1階に降りる。
人のいないいエントランス。
玄関の扉も苦もなく開く。
3人は無事マンションから脱出できた。
「意外とあっけなく脱出できたな」
麻琴は言った。
「それだけ、サキさんにかけた術に自信があるという証拠なんだと思います」
「サキは大丈夫なのか?」
「わかりません、でも何とかなるかもしれません」
その時二人の前に、黒いBMWが停まった。
窓が開き、黒いスーツの美女が顔を出した。
「乗りなさい」
里沙は突然のことに一瞬躊躇いを見せた。
「大丈夫だよ、里沙この人は味方だ」
麻琴は何故かその女性に不信感は抱かなかった。彼女の天性のカンが彼女が敵ではないと感じている。
- 161 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:08
- (どこかで見た事ある人だ…)
麻琴はそう思った。
(どこで見たんだろう?)
考える間もなく、麻琴は里沙とサキをBMWの後部座席に押し込んだ。
滑るように車は発進する。
「やられたの?」
黒いスーツの美女は訊いた。
「わかりません、でも精神コントロールの術をかけられているみたいです」
里沙は答えた。
「私に考えがあります、今からいう場所に私たちを連れていってくれませんか?
すぐに手を打てば何とかなるかもしれません」
「いいわ」
美女はそう答えて、アクセルを強く踏み込んだ。
「ところであなたは?」
「私は、五代陽子、麻宮サキの上司よ」
- 162 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:08
- 麻琴はルームミラーに映る彼女の顔を見た。
あごにホクロがある。
ちらと、ルームミラーを見た目が、麻琴の目と合った。
人の心を射抜くような鋭い瞳。
ほんの一瞬だったが麻琴は、何か心の奥を鷲づかみにされた気がした。
その、はっしと見つめる強い瞳にどこか見覚えがあった。
「もしかして、早乙女先生じゃないですか?」
里沙が訊いた。
「よくわかったわね」
彼女は答えた。
(違う)
麻琴は必死に思い出そうとしていた。
確かにこの女性と早乙女先生は、同一人物のようだ。
(そんなんじゃない、もっと以前に私はこの女性(ひと)を知っている……)
「カシアス・ブルーのコロンをつけていますね?
早乙女先生も同じコロンをつけているんで、ピンときたんです。
日本で珍しいコロンですから」
「詳しいのね」
そう言って陽子は笑った。
- 163 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:09
- 「一応これでも女の子ですから」
(違う、そうじゃない)
麻琴は黙って考えている。
「もっと前に、私あなたに会っていませんか?」
「ええ、そうね」
麻琴の問いに、陽子はあっさりと答えた。
「大きゅなったなあ、マコちゃん」
その土佐弁に聞き覚えがあった。
「!?」
(まさかこの女性(ひと)が?)
そうだ、昔母を訪ねてきた、「無二の親友」と言っていた女性(ひと)
麻琴の母親ビー玉のお京が自分と同じ歳の頃いっしょに戦ったという”麻宮サキ”
この女性(ひと)がそうだったんだ。
――続く――
- 164 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2003/12/23(火) 03:14
- >149
ありがとうございます
私も色々サイトを探してみたのですが、サブタイトルのリストなんかは結構見つけたのですが、各話のストーリーのあらすじとかまで載せているサイトが見つからなかったんですよ。
相変らず遅筆ですいませんです
- 165 名前:牧令 投稿日:2004/01/03(土) 22:11
- はじめまして、「スケバン」者の牧と申します。
面白い!
3作のつなげ方や、その隙間の埋め方も巧みですし。
今後を楽しみにしています。
- 166 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/08(木) 02:23
- >165
ありがとうございます。
相変らず遅筆ですいません
近日更新致しますので、乞う御期待
- 167 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/09(金) 03:01
- BMWはしばらく走った後、里沙が指示した場所に停まった。
「藤井臨床心理カウンセリング」
町の病院の様な小さな建物には、そう書かれた看板が立っていた。
中に入ると、静かな音楽の流れる待合室には、数人の患者が順番を待っている。
若い美人の看護士に訪問の理由を話すと、彼女はすぐに先生に取り次いでくれた。
「あら、里沙ちゃん、久しぶりじゃないの?」
すぐに奥から男が一人現れた。
30前後くらいのその男性は、オカマっぽい口調で里沙達4人を出迎える。
「隆さん、お願いがあってきたの。
この人を診てもらえませんか」
「あら?どうしたん?」
「強力な催眠術にかけられているようなんです。
隆さんなら、なんとかなるんじゃないかと思って連れて来たんです」
「いいわ、診てあげるからすぐに奥の診察室に連れて行きなさい」
(里沙、誰だよコイツ)
麻琴は小声で訊いた。
- 168 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/09(金) 03:02
- (父の助手だった人なんです。
すごい有名な心理カウンセラーなんですよ。
サキさんを治せるとしたらこの人しかいないって、そう思ってここに連れて来たんです)
(そうなのか?でもなんだか怪しいぞ?)
(大丈夫です、腕は確か……のはずですから)
里沙はサキの身体を診療台の上に横たえた。
その目は相変らずうつろなまま。瞳孔が開き、目の焦点が合っていない。
藤井はその目を見て、急に険しい表情に変わった。
「いったいこの子に何があったん?
始めてやわ、こんな状態になるまで催眠をかけられている人間を見たんは
薬か何かで……それもかなり強力なドラッグでトリップさせたみたいになってるで」
里沙はこれまでの経緯を解る限り話した。
「そうか……、なんとか催眠が解けるようにやってみるわ」
数時間治療の後、藤井は診察室から出てきた。
「とりあえず、催眠をかけられる前の状態になるまで退行催眠をかけてみたけどね。
やるだけやってみたけど、どうなるかわからへんよ。
あとはこの子が自力で、術をはね返さないとね」
「はね返せなかったら?」
- 169 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/09(金) 03:03
- 「術をかけた人間の言いなりになるだけよ。
これだけの強力な術だからね、かけた本人でしか最終的には解けない。
後はこの子自身の精神力がその術に勝てるかどうかにかかってる」
「ありがとうございます」
「ところで、さっきの話なんやけど
もっと詳しく聞かせてくれへんか?」
「私が話します」
陽子は藤井にこれまでの経緯を聞かせた。
「なるほどね……
これでわかったわ。
なんかね、最近この病院の周りに変な連中がうろうろしてるなぁって、気になってたんや
そんな事があったんなら、新垣教授の一番弟子の僕のところにもそういう連中が来ても不思議やないね」
「でも結局、連中に父の研究データーの入ったチップを奪われてしまいました。
きっと連中に悪用されてしまうでしょう」
里沙は悲しそうに言った。
- 170 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/09(金) 03:03
- 「さっきから変やなーって、思ってたんやけど、里沙ちゃん達何か勘違いしてるんやない?
確かに教授の研究は「ハロー効果」による「潜在意識のコントロール」の研究やったけど
それは「潜在意識のコントロール」をする方法の研究やなくて、「コントロールを解く方法」の研究やったんよ?」
「え?」
「僕はその研究の手伝いをしていたから、さっきの子にかけられていた術を解くこともできたんだよ。
そんな教授の研究データーで、いったい何をするつもりなんやろ?」
3人は、藤井の意外な言葉に驚きを隠せなかった。
新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第五話
「潜入!神狼会本部!!」
終わり
- 171 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/09(金) 03:04
- 次回予告
ある日、女子少年院の所長の依田に呼び出された風間唯は、一人の少女の更正を依頼される。
まるで飢えた狼のように目のギラギラした少女は、天才といわれたプロボクサー”シャーク吉澤”の娘、ひとみだった。
次回 新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
特別編2「復活のスケバン刑事!〜6代目は飢えた狼」
乞うご期待
「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」
- 172 名前:K-1 投稿日:2004/01/09(金) 13:22
- はじめまして。
いつもこの作品読ませてもらってます。
一番好きな紺野さん主役で、昔めちゃめちゃ好きだったスケバン刑事!!
(一番好きなのはUでした)
もうサイコーです!
おまけに藤井隆までとは、感動です!!
続き待ってます!
- 173 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/01/10(土) 06:13
- すっげー。面白い。後は、由真さんと雪乃さんが出て来れば、全員集合なんだけど(笑)
次回は、楽しみだな
- 174 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:37
- >>172 >>173
ありがとうございます
ヘビーなスケバン刑事ファンの方にも喜んでもらえるような内容を目指してがんがってます。
20代後半以下のお子様には不向きな題材なんで、なかなかレスがつかなくて辛かったです。
こういった感想が続きを書く意欲を掻き立ててくれます。
ありがとうございます。
続きです。
- 175 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:44
- 新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
特別編2「復活のスケバン刑事!〜6代目は飢えた狼」
彼女は背筋を伸ばして、呼吸を整えると「所長室」と書かれたドアをノックした。
「どうぞ」
中から眠そうな声が返ってくる。
「公安部特殊教練課、風間唯。入ります」
唯はさっと敬礼した。
部屋の奥にあるテーブルに男が一人座っている。
男はゆっくりと立ち上がった。
「いや、よく来てくれました。
お待ちしておりましたよ」
「お久しぶりです、依田所長」
「いやいや、まったくですね……」
男は物腰やわらかく、そう言った。
ここは補導された未成年女子が収容される女子少年院。
依田は現在ここの所長をしている。
普段は居眠りばかりしている昼行灯の左遷されてきた所長だが、それは表向き。
裏の顔は風魔忍軍を束ねる総帥「般若」
日本の影で暗躍する「忍者」のボスである。
- 176 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:45
- 「忍者」……古くは講談や小説、マンガやアニメの主人公として超人的な活躍をするヒーローとして描かれている。
実際の「忍者」は修験道の一つとして発展したものであった。
戦国時代、今のように通信や交通が整備されてない時代、”情報”は今以上に大きな役割を持っていた。
”敵の情勢”その情報のもつ意味は”戦の勝敗”に大きく影響する。
TVゲームの戦国シュミレーションではない。実際の駒は兵数千人単位の”命”なのである。
情報一つでその”命”数千人分を左右する。
その情報をもたらす「忍者」の役割は自ずと大きくなる。
あらゆる武道、武術に通じ、どんな状況でも生き抜くサバイバル技術、ストイックなまでに肉体を鍛えあらゆる奥義を極めた者のみに与えられる称号……それが「忍者」なのである。
ある者は性器を切り落とし、ある者は顔を潰した。
ただ己が忍術を極める為に
「忍者」は時代が変わっても生き続けた。
特に服部半蔵を首領とする甲賀忍者の一族は、徳川家に仕えることで栄える。
徳川家が将軍となり江戸に幕府を開いた後も、諸国大名の情報を探る諜報機関……いわゆる”公儀隠密お庭番衆”として暗躍したのだ。
そして、江戸幕府が明治政府に変わった後もその関係は変わることはなかった。
しかし、職業忍者として大名に仕え、天下泰平の世では「忍者」の能力も価値もすっかり落ちてしまった。
単なるスパイ活動のスペシャリストとして存在しているのみで、戦国の頃のような修験者的な趣はすっかり影をひそめてしまったのだ。
そして現代、政府の諜報機関の重要な要職には依然として甲賀忍者一族の流れをくむ者が多く在籍している。
そんな、現状に不満を感じていたのが誰あろう「暗闇指令」であった。
甲賀一族中心だったのは、政府諜報機関だけでなく、警察上層部でも同じであった。
依田たちの祖である風魔一族というのは、鎌倉時代末期頃から室町時代頃に北条氏によって作られ、その後も関東一円に跳梁していた乱破者の集団であった。
北条氏衰退後、特に決まった諸侯や大名に仕えることなく、独自の戦いを続ける孤高の集団であった。
「風魔」は江戸幕府開府の後も独自の敵と戦いつづける事を宿命付けられていた。
”異形の者”
- 177 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:45
- それは180年に一度、夜空に災いを招く凶星として輝く”陰星”とともに世に現れるという。
「風魔」はその”異形の者”たちと長年に渡って戦い続けることで、密かにその技術や能力を守り続けていたのだ。
「暗闇指令」には考えがあった。
以前よりその存在が疎ましく感じていた”陰”と呼ばれる集団。
暗殺集団としての恐ろしさもさることながら、政府を転覆すらしかねない力をも持っていた。
風魔とも因縁が深いこの”陰”の壊滅を考え、「暗闇指令」は依田を警察にスカウトしたのだ。
依田はすぐに、風魔鬼組頭領の娘、唯を「暗闇指令」に紹介する。
額に「不動明王」の梵字”カーン”を生まれながら持った運命の娘。
この娘に秘められた力が、”陰”の首領「果心居士」を倒す重要なカギとなるのは間違いなかった。
「暗闇指令」はその唯が高校生になるのを待った。
それは180年に一度、夜空に”陰星”が現れる年。
そして丁度、五代陽子(早乙女志織)が「2代目スケバン刑事」を引退する。
暗闇指令はうってつけのタイミングで、彼女を”3代目”として任命したのだった。
「相変わらず、”鬼教官”ぶりを発揮しているらしいじゃないですか?」
依田はニヤニヤと笑いながら言った。
「聞くところによると、特殊任務警官を数人半殺しにしたとか」
「あと、0.5秒……」
唯は表情を変えずに言った。
「あと、0.5秒気付くのが遅かったら、生徒たちを半殺しではなく、本当に殺してました」
- 178 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:46
- 「まあ、あなたをレイプしようなんて考えた、生徒たちもどうかと思いますけどねぇ……
そんなあなたに、ぜひ会ってもらいたい少女がおりましてね」
「?」
「ぜひ彼女の矯正をあなたにお手伝いして頂きたくてお呼びしたんですよ。
ちょっと見てもらえますか?」
********************
「ホントに大丈夫なんですか?」
中年の女性看守は少々太り気味のお腹を揺らせながら、訝し気に彼女の顔を見た。
「ええ、大丈夫ですよ」
唯はできるだけ表情を出さないように答えた。
女性看守は相変わらず不安そうに、唯を見ている。
(こんな可愛いお嬢さんが、あの噂の”鬼の風間教官”なんだろうか?)
彼女の目の前にいる女性は、自分とそれほど年齢も変わらないというらしいが、どう見ても20代前半くらいにしか見えない。
大きな瞳に長い髪、同性の彼女が言うのもなんだが、結構な美人だ。
こんな美女が、筋肉隆々の武道高位段保有者がゴロゴロいる特殊教練課で、”鬼”と恐れられている教官だとはどうしても信じられなかった。
「所長から許可も得ています」
「はあ……」
- 179 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:47
- いつもの事なのだが、唯にはどうも依田の考えている事が良くわからなかった。
一見物腰がやわらかく、そのくせ目付きだけはやたら鋭いあの男には昔から何かと振り回されている。
今回の件にしても、唯は依田の目的がわからずにやきもきしていた。
だが不満な気持をできるだけ表に出さないように努める。
(きっと、般若なりに何か考えがあってのことなんでしょ……)
唯はそう自分に言い聞かせた。
2人は長く続いたコンクリートの廊下の突き当たりにある大きな扉の前で止まった。
「ここです」
扉には「反省室」と書かれてある。
重く冷たい鉄の扉。
扉にのぞき窓がある。
中を覗くと高校生くらいの少女が座っていた。
反省室というのは名ばかりの実際は独房に近い。
しかも両手両足には拘束具が取り付けられ、自由が利かないようになっていた。
「女の子一人にえらく大げさですね」
「何を言ってるんですか、こいつをこんな状態にするまでにどれだけの怪我人を出したか!」
看守は大声で叫んだ。
「この1026号は、ここに入所して以来、ケンカの毎日。
手を焼いて独房に移したら、今度は独房の壁を壊して脱獄しようとするし。
この反省室に入れようと思ったら、強いのなんのって、機動隊の警官を10人病院送りにしてやっと取り押さえたんですよ」
- 180 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:48
- (なるほど、それで私をよこしたって訳ね……)
「中に入れてください」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、私を誰だと思ってるんですか?」
「はあ……ですが……」
女看守はためらっているようだ、いくらこの鬼教官が強いという噂でも、この暴れん坊を押さえる事はできるんだろうか?
不安な表情がありありと見て取れる。
「責任は私が取ります……そのために私が派遣されてきたんですから」
「で、では……」
唯の勢いに圧倒されて、女看守はカギを開けた。
重たいドアが開く。
中にいる少女は、突然の客に片目だけ開いて一瞥した。
「拘束具のカギも下さい」
「だ、ダメです、それはいくらなんでも」
「大丈夫ですよ」
「おいおい、えらい自身じゃねーか
私のこと何にも知らないんじゃないのか?」
- 181 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:48
- 少女は言った。
目のギラギラした、まるで飢えた狼のような少女だった。
「知ってて言ってるのよ」
唯はやんわりと言った、しかしその声には強い威厳があった。
少女もこの美女のただならぬ雰囲気は察知しているようだ。
ケンカや戦いに明け暮れた経験から来る本能のようなものだった。
唯はゆっくりと拘束具を外してやった。
少女はそれを黙って見ている。
外している最中に飛び掛れば、もしかしたら脱走できたかもしれない。
だが、彼女の強さのプライドがそれを許さなかった。
互角の条件で本気で闘ってみたい。
そう思わせるだけの実力を持った相手には間違いない。
「さて、話を聞きたいわね、1026号さん」
「吉澤だ、吉澤ひとみ」
そう言って彼女は立ち上がった。
軽く関節を伸ばす。
長時間拘束具をくけられたおかげで身体はすっかり硬くなっている。
2、3歩離れると、軽いフットワークで拳を構えた。
鋭い眼差し。自分の若さと強さを何の疑いも無く信じている……そんな眼差し。
「まずは、お手合わせしてもらおうか
あんた、強いんだろ」
「そうね」
- 182 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:50
- 彼女のそんな瞳の輝きに、若い頃の自分の姿を重ねながら唯は微笑んだ。
「少なくともあなたには負けないんじゃないかしら?」
「ぬかせ!」
早いステップで瞬時に間合いに入って来る。
同時に左アッパー
唯は難なくそれをかわし、軽く平手打ちを喰らわせた。
「痛てぇ!」
あまりに簡単に扱われたことに、ひとみは呆然となった。
唯はさっきの位置から微動だにしていない。
「せめて私を1歩でも動かしてみなさい。
あなた、強いんでしょ?」
唯の挑発にひとみは激昂した。
いくら様子見で間合いに入ったとはいえ、これほどまでに簡単にあしらわれるとは……
ひとみは本気で構えた。
呼吸を整え”気”を練る。
唯は一見無防備とも言える感じで立っているだけだ。
隙だらけの構えだが、それがかえって不気味に感じる。
ひとみは再度踏み込んで間合いに入って来た。
右のパンチとのコンビネーション。
- 183 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:50
- (思ったより攻撃は単純で大雑把ね……)
唯がそう思った瞬間だった。
続けて放たれた左のフックが一瞬光って見えた。
「!!」
反射神経が逆毛立って反応する。
唯は間合いから外れるために動かざろうえなかった。
間一髪、その拳は唯をかすることなく空を切った。
(何、今の?)
その拳を喰らっていれば、相当なダメージを受けていただろう。
唯は2、3歩下がって構えた。
それは彼女が、この少女を戦える相手だと認めた証拠でもあった。
「なるほど、その光るパンチがあなたの必殺技(フェイバリット)って訳ね」
「何!!
このパンチが、このパンチが見えたのか……
あんた……あんた、何者だい?」
「光るパンチが見えたからどうしたっていうの?」
「親父以外に初めてなんだよ、この”フラッシュブロー”の光が見えたってヤツはよ!」
突然、ひとみはすっかり戦闘意欲を無くしたかのように構えを解いた。
- 184 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:52
- 「そのパンチ、私の推測では”発剄”を応用したものだと思ったんだけど、違って?」
「わかんねぇ、俺は子供の頃から親父に教えられて、このパンチを練習してきた。
プロボクサーだった親父の必殺技(フェイバリット)だったんだ」
「プロボクサー……吉澤……光るパンチ……
じゃあ、あなた”シャーク吉澤”の娘なのね?」
「親父を知っているのか?」
「ええ」
”シャーク吉澤”の試合は以前何度か見に行った事があった。
30歳を過ぎてから突然ランキング上位に上がってきた遅咲きの天才ボクサー。
たいした強いパンチ力があった訳ではなかったが、なぜか彼は破竹の勢いで勝ち続けていた。
その拳が軽く触れているようにしか見えないパンチでも、相手は強烈なダメージを受けマットに沈んだ。
その瞬間、彼のグローブが光ったような気がした。
だが、その事を誰一人として気付いている風はなかった。
シャーク吉澤は、いよいよ世界タイトルマッチ戦の挑戦権獲得手前で突然自殺する。
前の試合で戦った相手が、試合後死亡したことで、彼自身精神的に参ってしまいボクサーとしての自信が持てなくなってしまったせいであった。
だが、その一方であまりの相手側のダメージの大きさに”八百長”ではないかという疑惑をもたれ、その方面でも相当ダメージを受けていたらしい
あの光が見えていない者には、パンチの威力に納得がいかないのも当然の事だった。
「あなたのお父さんも”光るパンチ”を持っていたわね
そう、その必殺技(フェイバリット)は父親譲りって訳ね」
「親父のパンチを見たことがあるのか?」
- 185 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:53
- 「ええ」
「フラッシュブローの光があんたには見えていたんだな」
唯は頷いた。
「そうか……」
ひとみはゆっくり膝をつき、両手で顔を覆った。指の間からかすかに嗚咽する声が聞こえた。
「よかった、あの光が見えていたのは俺達だけじゃなかったんだ……」
「”発剄”はね”気”の力を一点に集中する事で強力なダメージを相手に与える事ができる。
その”気”の出し方は人によって様々だけど、あなたのお父さんは、拳が当たる瞬間に一気に”気”を集中させる方法だったんじゃないかしら?
そのインパクトの瞬間光ったように見える……そんな感じね。
人によって見える見えないの違いはわからないけど……」
唯の話を聞いているのかいないのか、ひとみは放心したように宙を見ている。
「出所したら私のところに来なさい、それだけの力の使い道がもったいないわ。いいわね?」
唯はそれだけ言うと、踵を返し反省室を出た。
「大丈夫なんでしょうか?」
明らかにひとみの態度が変わったことで、女性看守は戸惑っているようだった。
「大丈夫でしょう」
唯は笑顔で答えた。
- 186 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/12(月) 22:54
- 「いやあ、さすがですねぇ、おみごと、おみごと」
依田がいつの間にか女性看守の背後に立っていた。
気味が悪いくらい気配を消して近づいている。
「彼女をどうするおつもりですか?」
「女性ボクサーとしてはかなりの実力があると思います。
まだ若いですし、鍛え直せば十分使いものになるでしょう」
「風間教官さえよければ、すぐにでも仮出所の手続きをしてもかまわないのですよ」
「その必要はありません。ちゃんと刑期を終えてそれからでも十分でしょう。
もし、それまでにまた暴れるような事があるなら、私を呼んで下さい。
刑期を終えたら、その後の彼女の面倒を私がちゃんと見ることにしましょう。
いいですね?所長」
結局この男の意図する方向に自分が動かされていることを感じながらも、唯はそう言った。
「まぁ、よろしいんじゃないですか」
相変らず何を考えているのかわからない、依田の笑顔だった。
――続く――
- 187 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/13(火) 00:41
- はじめまして。更新乙です。自分もリアルタイムで毎週かかさずに
スケバン刑事見ていた一人です。
<20代後半以下のお子様には不向きな題材なんで、なかなかレスがつかなくて辛かったです
レスたくさん=良作とは限らないです。羊のころから、更新してると
キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!! 状態ですから。この設定で
ホントにやってくんないかなって思いながら読んでますよ。がんがって下さい。
- 188 名前:名無しの一読者 投稿日:2004/01/13(火) 09:44
- 更新乙です。
わたしのほかにもリアルタイムで見ていた方がおられてよかったです。
187さんのいうように、レスたくさん=良作とは限らないですよ。
これからもがんばってください。
- 189 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/13(火) 19:25
- めっちゃ、おもろいです
毎回更新を楽しみにしています
ぜひがんがってください!!
- 190 名前:にくま。 投稿日:2004/01/14(水) 16:12
- 更新乙です。
某サイトでここをしって、一気に読んでしまいました。
スケバン、娘。両方リアルに好きな僕としては、
ホント実現して欲しいですね^^
これからも更新頑張ってください。
楽しみにしています!
- 191 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/25(日) 01:19
- ********************
それから数日後、唯は”2代目”から突然の呼び出しを受けた。
「え、なつみが行方不明?」
安倍なつみは彼女の元で半年間厳しい訓練を受けた後、特殊潜入捜査官として配属された。
もうかれこれ1年近く経っている。
「そうなんや、うちもさっき西脇さんから聞いたとこなんよ」
”2代目”の声が怒りに震えているのがわかる。
何より、彼女は興奮すると口調が変わってくる。
それが完全に土佐弁になった時、もう彼女を止められる者は誰もいない。
「いまから、”公安部”に乗り込もうと思うちょる。
風間教官も来てくれんか?」
「そ、そりゃあ、もう……」
陽子の土佐弁が少しずつ強くなっていくのに唯は身震いした。
彼女も宮崎の山の中で育ち、東京に出てきてからもしばらくは宮崎弁が抜けなかった。
東京育ちだった2人の姉や友人と接していくうちに、今ではすっかり標準語で話すようになったが、それでも宮崎の友人と電話で話すと宮崎弁が出てしまう。
「じゃあ、いくぜよ」
(うわあ、こりゃあ久々に2代目の怒りモードだわ……)
- 192 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/25(日) 01:19
- ********************
「どういう事か説明してもらえんか」
「さっきも言いました通り、”公安部”には”安倍なつみ”なる人物は在籍しておりません」
目の前にいる男は、陽子の剣幕にも表情を変えることなくそう言った。
この男が公安部特別捜査部、部長の内藤。
一見、さえない中年男の風体だが、元内閣調査室にいたエリートだ。
公安部に入って特別捜査課を作り、普通の警察の捜査方法ではなかなか暴く事の出来ない巨悪の潜入捜査を密かに行っている。
「何言ってるの?私はあなたからの依頼を受けて、彼女を訓練し送り出したはずよ?」
唯が言った。
「確かに、五代警部のおられた署から異動になった”安倍なつみ”は、風間教官のところで訓練を受け”公安部に配属になりました。
しかし、すぐに一身上の都合で辞めたんですよ。
我々も彼女に特殊捜査員としての活躍を期待してたんですけどねぇ」
「彼女が行方不明になっちょるのは、本当か?
答え次第ではうちはおまんを許さんぜよ」
「さあ、何度も言いました通り、お辞めになった方の行動までいちいち管理しておりませんもので」
陽子の表情が変わった。
唯が止める隙もないくらいのすばやさで、内藤の胸ぐらを掴んだ。
「おまん、本気で言うとるがかや。うちらを誰やと思うちょる!」
- 193 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/25(日) 01:20
- この細腕のどこにこんな力があるのだろう、胸ぐらを掴んだまま内藤の体を持ち上げる。
内藤はそれほど背の高い男ではないが、その足が宙に浮くくらいまで持ち上げられている。
「く、苦しい……離せ……」
内藤は情けない声を上げる。
「捜査方法については極秘扱いです。
彼女についても、警察に籍を置いてもらっては捜査ができません。
それはあなた方も事情はご存知でしょう?」
それを聞いて陽子はゆっくりと内藤の身体を下ろした。
「それなのに、自分の身分を示す”ヨーヨー”なんか持たせて、あなた方は何を考えているんですか?
潜入捜査をしているにもかかわらず、警察関係者だという事がバレたらそれこそ”命”の保証なんてできません。
難事件の解決の糸口を彼女の決死の潜入捜査で掴もうと思ったのに、あなた方のノスタルジックな想い出の為に台無しです。
彼女には、ヨーヨーを使用する事も携帯する事も禁じました。
彼女の命を守る為です。
あくまでも、警察が極秘に潜入捜査を行っている事。そしてその捜査員は彼女である事などは”事実”としてあってはならない事なんですよ。
彼女の行方についてはお話する事はできません。
行方不明になった事も我々の預かり知らないところという事です」
「……」
陽子は黙って内藤から手を離した。
なんだか、この男に上手く丸め込まれている気がする。
彼女はとりあえず怒りの矛先を収めたようだった。
- 194 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/25(日) 01:20
- 「一つだけ、話してもいい事があります。
我々特別捜査部は今度の組織変更で”公安部”から、”特別公安部”という独立した部署になります。
我々の捜査本部は”特別公安部・特別捜査課”という形で捜査を進める事が決定しています。
風間教官のおられる特殊教練課も”特別公安部”の管轄になる事が、内示されております。
そして近々もう一人、追加の特殊潜入捜査員を派遣しようと考えています。
そのあなたの言う、”安倍なつみ”の行方とやらをその捜査員に探させることにしましょう。
それでよろしいですか?」
「その追加の捜査員はもう決まっているのですか?」
唯が訊いた。
「いや、選定はこれからですが、何か?」
「実は私に適任な人物の心当たりがあるんですが……」
********************
「そういうことなんだけど、やる?やらない?」
唯は目の前にいる少女に訊いた。
「俺に選択肢なんかないんだろ」
その少女。吉澤ひとみはそう言って肩をすくめた。
「まあ、そういうことね」
「やるよ、って言うかやらなきゃならないんだろ」
- 195 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/25(日) 01:21
- ひとみは面倒くさそうに言った。
既に依田所長に話をつけ仮出所の手続きを受けた彼女は、唯と陽子の二人の前に連れて来られていた。
このままこの二人の女性の言う通りに働くか、そのまま女子少年院に逆戻りなのか、彼女の言う通りその2つしか選択肢は無い。
「あなたには特別のお願いがあるの」
陽子は言った。
「同じように任務についた捜査員が一人行方不明になっているの
彼女の行方を探し出して欲しい」
「嫌って言ってもやるしかないんだろ」
「そういうことね」
「じゃあ、決まり、おまんは今日から”6代目スケバン刑事”ぜよ」
「なんだいそりゃ?」
「事情は追々説明するわ、おまんは今日から”麻宮サキ”を名乗って潜入捜査をしてもらうの
ここにいる風間教官にみっちりシゴいてもらいなさい」
「あっ!」
- 196 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/25(日) 01:22
- 突然唯が大声を上げた。
「どうしたの?」
「2代目、ヨーヨーどうしましょう」
「え?」
「重合金製のヨーヨーがもう作れないって、暗闇指令が言ってたじゃないですか!」
「そういえば……」
********************
――続く――
- 197 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/01/25(日) 01:22
- >>187
>>188
>>189
>>190
レスありがとうございます
実際問題として、「スケバン刑事」の新作が作られる事はあっても、このキャスティングじゃあ企画は通らない気がします。
仮に「娘。」主人公で企画が通ったとしても、多分藤本とか高橋辺りがメインで、紺野がサブみたいなキャスティングになると思います。
- 198 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/01/25(日) 10:50
- 更新乙です。遂に6代目襲名。ヨーヨーはどうするんでしょうね(w
- 199 名前:AAA 投稿日:2004/01/25(日) 15:39
- スケバンなど見た事もない世代ですが、興味深いです。
次の更新待ってます。
- 200 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:22
- 「ここだわ……」
3人が訪れたのは、新宿に大きな自社ビルを構える会社のオフィスだった。
”I・R・Mインダストリー”金属加工技術の高さを武器に、最近急成長した企業だ。
「いらっしゃいませ」
美人の受付嬢に案内され、高速エレベーターに乗る。
エレベーターは20数階をわずかな時間で登った。
静かな応接室に通され、3人はかしこまって座っていた。
特に、こういった場所に慣れていないひとみはさっきから落ち着かなくてそわそわしている。
「おまたせいたしました」
現れたのは中年の紳士。
どうやら、彼が社長の様だ。
「お忙しいところをお時間を取らせまして申し訳ご座いません」
陽子は深々と頭を下げた。
「いえいえ、”暗闇指令”には、父の代からお世話になっています。その直々のお話ですから」
「話は”指令”から行ってると思うんですが、
早速ですが、これを見ていただきたいんです」
陽子はヨーヨーを彼に手渡した。
- 201 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:22
- 「こ、これは……重合金!?」
手にした瞬間、男は眉間にしわを寄せた。
「これはいったい……」
「実はこれは、私達の武器としておたくの会社に以前作ってもらったものなんです」
「そうでしょうね」
男は安心したように笑顔を見せた。
「重合金でこんな細かい細工を施した部品を作れる会社が、我社以外に存在するなんて……と、思ったもんですから」
「やはり、こちらでないと無理ですか?」
「ええ、重合金は、強度、耐久性共に優れた理想的な金属なんですが、精製、加工技術が共に非常に難しいという欠点がございまして。
私の父、先代の社長がその安定化精製の技術開発に成功したのですが、結局それも一品物の特注部品にしか通用せず、大量生産までは至らなかったのです。
私は父の持つ職人技の技術をできるだけフォーマット化、データーベース化して、レア金属部品の大量生産化に成功しました。
小さな町工場だったこの会社は今では世界有数の金属加工技術を持つ会社にまで発展しました。
しかしそれでもこの重合金だけは、手におえない代物だったんです」
「じゃあこれを作ったのは?」
「間違いなく、私の父の作品でしょう
重合金をこんな形で加工できる技術を持っていたのは、世界中でうちの父だけでしたから」
「同じ物は作れないでしょうか?」
- 202 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:23
- 「重合金に近い硬度の金属で同じ物を作る事は、可能です。
しかしそれではだめでしょう?
見て下さい。多分これを作ったのは10年以上前だと思いますが、表面にキズ一つついてないでしょう?
重合金の特徴の一つなんですが、硬いのに形状記憶性と可逆性があって少々のヘコミくらいなら数日で元に戻るんですよ。
まあ、その特殊な性質が精製と加工を困難にしている理由でもあるんですけどね」
実際、このヨーヨーが作られたのは15年以上前になる。
そして、戦いの日々の中で酷使してきた。
その間、ヨーヨーが受けた傷は生半可なものではない。
陽子と唯がスケバン刑事を引退した後、このヨーヨーを使うような事はほとんどなくなっていたが、それでも2人は護身用にと常に携帯していた。
そして確かにその表面は最初にもらった時のまま、キズもなく相変わらず鈍い光を放っている。
「そんな特徴をもつ金属だから、”指令”もこのヨーヨーの素材として選ばれたんだと思います」
「なるほど……」
このヨーヨーの素材である重合金にそんな秘密があったとは、陽子も唯も初めて知った事実だった。
「結局、優れた理想的な金属でありながら、その加工の難しさ故に他の金属にとって代わられ、父が死んだ今ではその加工技術を持つ者すらいなくなってしまいました」
「残念だけど、もうヨーヨーは作れないってことですね……」
陽子と唯は肩を落とした。
「可能性はないこともありません」
「え?」
- 203 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:23
- 「実は私には娘が一人おりまして、これが誰に似たのかちょっと変わり者でして……
ところがどういう訳か、頑固者だった私の父とは何故か馬が合いまして
息子である私には教えてくれなかったような技術を、娘にだけはこっそり伝授していたりしていたようなんです。
もしかすると、重合金の加工技術も私でなく、娘には残しているかもしれません」
「その娘さんはどちらに?」
「都内に父が社長だった頃の旧本社……というか町工場なんですが、ございまして
娘はそこで加工技術の研究をしております」
********************
住所は中小の町工場が立ち並ぶ工場街の一角だった。
バチバチと溶接する音
金属の匂い
そんな一角にその工場はあった。
「市井レアメタル工業・技術研究所」
そんな看板が掲げてあるが、本当にただの町工場。
中に入ると、汚れたツナギを着た少女が一人、研磨機の前で部品加工をしていた。
「こんにちは」
陽子は彼女に声をかけた
少女はチラッとだけ客人を見ただけで作業を続ける。
「何の用?」
「あなたが、沙耶香さん?」
- 204 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:24
- 「そうだけど、あんたたちは?」
「ちょっと確かめたい事があって、お伺いしたんだけれど
少しいいかしら?」
「これが終わるまで、ちょっとまってな」
彼女はしばらく黙ったまま作業を続けた。
所々黒く汚れたツナギを着て見かけは汚いが、その少女はひとみと同じくらいか少し上の年頃。
無表情に作業を続けている。
まわりを見渡すと、作りかけの何かの部品らしきものが無造作に転がっている。
どうやら彼女は、こういった機械や道具の部品を数多く作っているようだった。
「これを見て欲しいの」
陽子は手にしたヨーヨーを彼女に見せた。
「!?」
彼女は一瞥しただけで、そのヨーヨーに秘められた技術を見抜いた。
「これは、重合金……
重合金でこんなものをどうやって?」
「やっぱり、わかったみたいね。
これはあなたのおじいさんが、昔私達の為に作ってくれた物なの。
あなたのお父さんに聞いたら、こんな部品を作れる技術を持った人間はあなたのおじいさんしかいなかったという話だった」
「そうだろうな
こんな使い勝手の悪い金属の加工なんて、うちのじいちゃん以外誰も手を出さないよ」
- 205 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:24
- 「あなたに同じ物は作れないかしら?」
「なんだって?」
彼女は驚いた表情で、そのヨーヨーを手に取った。
手にしてみると、その加工技術の粋を集めて作られた逸品である事が更によくわかる。
彼女はしばらくそのヨーヨーを持って黙って見ていた。
「無理だな」
彼女は言った。
「確かに、重合金の精製方法はじいちゃんに教えてもらった。
でもそれをこんな細工を施した細かい部品として仕上げようと思ったら、それこそ何年もかかってしまう。
じいちゃん程の職人が持ってる技術の粋を結集して作ったもんだ。
私みたいなひよっ子においそれと作れるもんじゃないよ」
「そうですか」
陽子と唯は再び肩を落とした。
「……」
彼女はじっとそのヨーヨーを握っている。
「分解してもいいか?」
「ええ、どうぞ」
- 206 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:25
- ヨーヨーはメンテナンス用に分解できるようになっている。
今のヨーヨーと違い、これが作られた当時のヨーヨーは作りも単純だった。
主な部品は小さな隠しスイッチの部分と、開閉できる蓋部分、左右本体、軸棒くらいのもの。
沙耶香は分解した左右本体を細かく計測しだした。
「すごいな」
部品を見て沙耶香は呟いた。
仕掛けがついているほうの面と、ついていないほうの面がちゃんとウエイトのバランスが取れている。
ヨーヨーにわずかな重心の狂いもない。
構造が単純なだけに、そういった部分で技術の良し悪しがもろに影響する。
風間唯のヨーヨーの使い方は、そのパワーでブチかますやり方だった。
当事はまだ彼女は、姉の結花や由真のように”具錬功”の技術に長じていなかった。
未熟なヨーヨーさばきはパワーで補っていたのだ。
重合金の硬度はそのパワーに負けることなく、敵を蹴散らしてきた。
それに対して五代陽子はコントロールと、ヨーヨーさばきが優れていた。
しかも初速の速さはプロ野球のピッチャーの豪速球をもしのぐ。
当然そのヨーヨーには精密なウエイトバランスが要求される。
数メートル先の的に命中させるには、わずかな狂いでも許されない。
高度な職人技で作られたヨーヨーは、黙ってその要求に応えていた。
「しばらく、借りてもいいか?」
「できるの?」
- 207 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:26
- 「わからんね……でもやってみる」
どうやらヨーヨーは彼女の職人魂に火をつけたようだった。
「何でそんなヨーヨーにこだわるのさ」
それまで黙って見ていたひとみは、面倒くさそうに言った。
陽子と唯が、これほどまでにそのヨーヨーにこだわるのか、その意味が彼女には理解できないでいたからだ。
「ヨーヨーなんか無くったって、俺は戦えるぜ」
「そういうんじゃないのよ」
陽子は言った。
「なんていうのかな、私達が若い頃命をかけた証みたいなものかしら?」
「おばさんの意地なんだから、黙って付き合いなさい」
「ちょっと、風間教官、おばさんはないでしょ!」
「でも、2代目、お互いに三十路を随分過ぎてしまいましたよ」
「ま、まあいいわ、ともかくヨーヨーは”スケバン刑事”の”必須のアイテム”なの
これがないと、話にならない」
「また、内藤警部にイヤミいわれますよ、”ノスタルジー”だなんだって」
「そんなん、関係ない」
- 208 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:26
- 内藤の名前を聞いて、陽子の目が吊り上った。
「こうなったらうちも意地がある。
あの内藤がなんて言おうと、行方不明になった5代目は6代目の力で探させちゃる」
「どうでもいいよ、そんなこと。
俺はやるべきことやって、さっさと自由の身になりたいんだ」
ひとみはため息をつきながら言った。
********************
横浜市内を少し離れた郊外に、その店はあった。
「喫茶プッチガール」
吉澤ひとみが通っていた是天馬高校の近くで、彼女が常連だった店だ。
ひとみは久し振りに店に顔を出した。
平日の午前中という事もあって、店に客は誰もいない。
いや、逆にひとみ自身誰にも見られたくなかったので、客のいないこの時間を選んだのだった。
「おやっさん、久しぶり」
「ひとみじゃないか、どうしたんだ、出所(で)てこれたのか?」
中年のマスターは、久し振りに顔を出したひとみを笑顔で出迎えた。
「ああ、ちょっと事情があってな、仮出所できる事になったんだ」
- 209 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:27
- 「言ってくれたら、迎えに行ったのに」
「ごめん、急だったもんだからさ
で、事情があってすぐに行かなきゃなんねえんだ。
オヤっさんにだけはあいさつしておこうって思ってさ」
是天魔高校で問題児だったひとみだったが、ひとみの父の友人だったマスターが保護者代わりとして面倒を見てきた。
今回の少年院に入れられた一件にしても、彼に随分と迷惑をかけていた。
高校の校長や市の教育委員会にまで掛け合って、ひとみが少年院に入れられる事のない様に骨を折ってくれた。
だが、他校の生徒50人を病院送りにしたという事実は、たとえ是天馬高校の生徒を守る正当防衛の為とはいえ、どうしようもないことだった。
「是天馬高校はお前がいなくなってめちゃくちゃだよ」
「……」
「学校もバカだよ
お前がいたから何とかまとまっていたのによ」
「仕方ないさ、学校は俺を不要だって決めたんだからさ」
そう言ってひとみは肩をすくめた。
「すぐに行くのか?」
「ああ、何の因果かマッポの手先として働かなくちゃなんなくなった」
「何の因果かマッポの手先……か……」
その言葉を聞いたマスターは、遠い目になった。
- 210 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:27
- 「なんだい気持悪いな」
「ああ、すまんすまん
俺がお前くらいの年だった頃を思い出してな」
「確か、オヤっさん是天馬高校に通ってたんだったっけ?」
「ああ、でもその頃は鷹の羽学園って名前だったけどな。
そこにすごい女の子がいた、前にも話したけどなこの横浜じゃあ知らない者はいないくらいのスケバンだった
お前と同じ関東北少年院に入っていた……
なんか似てたんだよ、ひとみにさ……」
「あれ、その人の名前なんていったっけ?」
「麻宮サキの事か?」
「俺、今度その名前を名乗る事になったんだ……」
「え?」
- 211 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:28
- 「麻宮サキを名乗って、マッポの手先として働く事になったんだよ」
「じゃあ、もしかしてお前……スケバン刑事になったのか?」
「プッチガール」のマスター野分三平は、かつて鷹の羽学園で麻宮サキと一緒に戦った仲間。
麻宮サキのすごさは今でもその瞼に焼き付いている。
彼女が警察の命令で密かに学生刑事として働いている事を知った時、何の迷いもなく彼女に協力しようと思った。
敵の手に落ちて、薬によってサキを殺す刺客にされた時、彼女は命がけで自分を救ってくれた。
戦いの日々が、いま親友の娘ひとみにも訪れようとしていた。
********************
――続く――
- 212 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/05(木) 12:31
- 久々の更新です
最近、実写版セーラームーンを見ると、セーラーマーキュリーが紺野に見えてしまうんですが
私だけでしょうか?
- 213 名前:名無し 投稿日:2004/02/05(木) 15:27
- ×沙耶香
○紗耶香
です
- 214 名前:名無しの一読者 投稿日:2004/02/05(木) 16:50
- 三平君キター━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!!!!!
- 215 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/05(木) 20:22
- 意外な人が意外な役どころで登場しましたね。
それとセーラーマーキュリーですが、始まった当初似てると一部で話題になってました。
容姿だけでなく、妙に腹筋の弱そうなしゃべり方まで似てますね(w
- 216 名前:みっくす 投稿日:2004/02/06(金) 14:32
- 更新おつかれさまです。
ほんとに意外な人物の登場でした。
次回もたのしみにしてます。
- 217 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/10(火) 13:11
- イイヨーイイヨー
- 218 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/11(水) 03:42
- ヨーヨー?
- 219 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/11(水) 23:30
- ********************
「結局、ヨーヨーは間に合いませんでしたね」
唯はため息まじりに陽子とひとみに言った。
「仕方ないわ、ひとみにはヨーヨー無しで戦ってもらう」
「だから言ってるだろ、そんなものなくったって俺は素手で戦うって……」
3ヶ月に及ぶ訓練の後、ひとみは特別公安部特殊捜査課に配属となった。
と言っても、実際に配属となっている訳ではなく、あくまでも非公式な存在ではあった。
内藤の元で特殊潜入捜査をする事が決まっている。
「とりあえずさ、俺行くから
明日っから潜入捜査する学校行かなきゃなんねえし」
「がんばってね」
陽子と唯は同時に言った。
「へいへい、あ、それから絶対忘れんなよ。
この任務が終わったら、自由にしてくれるっていう約束」
「わかってるわよ」
唯は言った。
- 220 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/11(水) 23:31
- 「それと、もう一度お前と勝負して今度こそ勝って見せるからな!」
「楽しみにしてるわ」
訓練中、ひとみは何度も唯に勝負を挑んできた。
ひとみはさすがに唯の経験や技には敵わなかったが、パワーや体力では決して引けを取らなかった。
唯自身、額に梵字が浮き出る寸前まで追い詰められる瞬間が何度もあった。
唯の厳しい訓練のもたらした結果、ひとみは間違いなく格段に強くなっていたのだ。
油断をすれば、そのうち唯もひとみの言う通り、負けてしまうかもしれない。
「あんたを倒して、ナンバー1になってやるんだからな」
ひとみは唯に中指を立てて挑発する。
「私を倒したって、ナンバー1にはなれないわよ。
まだ上にこの2代目がいるんだから」
そう言って、唯は隣の陽子を指差した。
「え、何、このオバサン、あんたよりまだ強いのかよ!」
「ちょっと、オバサンってなんぞね!」
********************
男はニタニタと不気味な笑みを浮かべた。
真面目な優等生だった顔が、一転して恐ろしい犯罪者の顔に変わった。
「やっぱりお前だったんだな!」
- 221 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/11(水) 23:31
- ひとみは叫んだ。
「ああ、そうさ。
瑞穂先生も貴代も美由も舞子も俺が殺したのさ」
「許せねえ……」
ひとみは拳を握り締めた。
怒りにわなわなと振るえている。
「仕方ないだろ、あいつらは俺の事をバカにしていたんだから
当然の報いさ、お前も同じ様に俺に切り刻まれる……」
そのセリフを最後まで聞けるほど、ひとみは人間ができている訳ではなかった。
ぐしっ
怒りをこめた右ストレートを顔面にぶち込む。
男は2メートルほど吹き飛ばされた。
「やったなぁ、やったなぁ」
血まみれの男の顔が更に醜くゆがんだ。
「殺してやる、殺してやる!!」
男はナイフを取り出した。
刃渡り30センチはあろうか、大ぶりのサバイバルナイフだ。
振り回しながらひとみに突っ込んでくる。
「死ねえ、死ねえ!!」
ひとみはたまらず後ずさりする。
いくらなんでもこんなにでたらめに振り回されてはかえって危ない。
容易に近づけない。
ナイフは確実にひとみを壁際に追い詰めていた。
(だめだ、後がない)
- 222 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/11(水) 23:32
- 思い切ってひとみは前に出た。
すばやいパンチをナイフを持った手をめがけて放つ。
しかし、男のめちゃめちゃな動きは、かろうじてそのパンチをかわした。
そしてその狂った刃は、代わりにひとみの右腕を切り裂いた。
「うぐっ」
切り口は浅かったが、途端に制服の袖が真っ赤になる。
ひとみは左手で傷口を押さえた。
「ギャハハハ、殺してやる
お前も俺に切り刻まれるんだ!」
男はさらに狂喜の度合いを増した。
ひとみは構えた。
右腕から血がぽたりと落ちる。
ナイフをかわしながら、ひとみは反撃のチャンスをうかがう。
その時だった。
男の背後に人影が現れたかと思うと、スタスタと男に近づいてきた。
手に何かしら棒状のものを持っている。
「?」
ひとみがその人物の正体を確認する間もなく、その手の武器が男に振り下ろされた。
「ぐえっ!」
- 223 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/11(水) 23:33
- 突然の事に対応する間もなく、男は倒れた。
背中を押えてのた打ち回る。
その人物は汚れたツナギの作業着姿の女性だった。
「危ないところだったな」
「あ、あんた……」
その人物は市井紗耶香だった。
「頼まれていたもの、やっと完成したんで持ってきたんだ。
探したぜ。こんなところにいるなんて……」
紗耶香は手にした武器を折りたたんだ。
棒を縮めて2つに折ると、その武器は携帯電話に姿を変えた。
ポケットに入れてニコリと微笑む。
そう言えば、彼女の工房にはこんな仕掛けのついた道具なり部品なりが沢山転がっていた。
金属加工の技術の他に、こういった便利な道具の開発も彼女の得意分野の一つだった。
突然、倒れていた男が再び立ち上がり、再びナイフを振り回した。
「うわっ!」
紗耶香は急いで男から離れる。
「これを使いな!」
紗耶香はひとみに銀色の塊を投げた。
「すまねえな、重合金の塊を削り出しするのにじいさんの残してくれた技術を一から全部再現しなくちゃならなくてよ。
完成するのにめちゃめちゃ時間がかかったんだ」
- 224 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/11(水) 23:33
- ひとみはそれを受け取った。
ずっしりとした重みのあるヨーヨー。
チェーンを指に回す。
子供の頃からボクシング一筋だった彼女は、ヨーヨーなんて使ったことが無かった。
(上手く使えるかな?)
不安な気持ながら、でもあの男のナイフを何とかするにはこのヨーヨーを使うしかない。
そのヨーヨーを握り締めると、なんだか体の奥が熱くなるのを感じた。
ひとみは大きく振りかぶった。
ぎゅるるるるるるるる
ひとみの手を離れたヨーヨーは、みごとに男の左肩に当たった。
「ううっ!」
使い慣れてない武器だったが、ヨーヨーはちゃんとひとみの手元に戻ってきた。
「ちょいっと工夫してオートバック機能をつけてある。
ヨーヨーが上手く使えなくても、ちゃんと手元に戻るようになってるぜ!」
紗耶香が叫んだ。
その声を聞いてひとみはもう一度構えた。
ぎゅるるるるるるるる
今度は男の右肩にヒットする。
- 225 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/11(水) 23:34
- ひとみはヨーヨーのへりに小さなボタンがあるのに気が付いた。
押して見ると、ヨーヨーの片面の赤い部分が開き中から桜の代紋が現れる。
ひとみはそれを男に向けて見せた。
彼女の瞳の輝きが鋭くなった。
「光あるところ闇あり、闇あるところに光あり
闇を切り裂く光の拳
是天馬高校3年B組 吉澤ひとみ、またの名を6代目スケバン刑事、麻宮サキ!」
「I'm Champion!」
新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
特別編2「復活のスケバン刑事!〜6代目は飢えた狼」
終わり
- 226 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/11(水) 23:34
- 次回予告
新垣教授の助手だった藤井医師に治療を受けたサキ
しかしその夜サキは夢遊病者のように部屋を抜け出してしまう
サキを止める為に麻琴と里沙はサキに戦いを挑む
次回 新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第六話
「洗脳されたサキ」
乞うご期待
「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」
- 227 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/11(水) 23:35
- >>214
>>215
>>216
>>217
レスありがとうございます
>意外な人が意外な役どころで登場しましたね。
市井の事でしょうか?三平の事でしょうか?
まあ、市井は一応「プッチモニ」つながりという事で
スケバン刑事の資料を探して色々なサイトをググッていたら、ここを紹介して頂いているサイトがありました。
直接、お礼を申し上げ様と思いましたが、そのサイトにBBSが無かったので、この場でお礼申し上げます。
ありがとうございます。
オリジナル小説も読ませていただきました。
大変参考になりました。
リンクにあった他のオリジナル小説も時間を見て全部読ませていただこうと思います。
思えば、リアルタイムでスケバン刑事を見ていた幼少の(?)頃、自分もオリジナル設定のスケバン刑事もどき小説の設定を色々考えたものです。
それは15年以上経った今、形を変えこんな作品として発表されるとは……
- 228 名前:美依 投稿日:2004/02/12(木) 17:51
- 面白いです。ageちゃったけど、もし嫌ならごめんなさい。
- 229 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 21:20
- みぃみぃ
- 230 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 23:01
- ここ?
- 231 名前:名無しの一読者 投稿日:2004/02/13(金) 19:18
- 今回の更新も面白かったです。
ところで"6代目"ほか今の刑事たちは左利きの設定なのでしょうか?
"初代"と"2代目"は左利きでしたが、唯が右利きだったので萎え萎え
だったのを思い出します。
次回更新待ってます。
- 232 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/22(日) 08:34
- 第六話「洗脳されたサキ」
五代陽子のBMWはとあるマンションの前に停まった。
後部座席からサキが麻琴と里沙に抱えられるように出てきた。
まだその目は半開き。
心理療法師の藤井の治療を受けたサキだったが、まだ完全には正気にはなっていないようだった。
「ここよ」
このマンションの一室がサキの現在の自宅になっている。
麻琴も里沙もこの部屋に来るのは初めてだった。
ドアを開ける。
家具も何にも無い殺風景な部屋。
ダンベルとチューブ式のエキスパンダーが床に転がっている。
その他には同じようなトレーニング用の道具が数点あるのみ。
部屋の隅に大きなリュックサック。着替えなどはここに入ってるようだ。
まるで男の子の一人暮らしの部屋の様だ。
折り畳まれた布団を広げて、サキを横たえる。
「どうする?」
陽子が訊いた。
「とりあえず、しばらく私たちここに泊まります」
- 233 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/22(日) 08:35
- 里沙が答えた。
「大丈夫なの?」
「隆さんが、自力で精神コントロールから逃れない限り、いつまでもこの状態が続くだろうと言ってました。
病院に入院するよりは自宅で普通の生活をして、自分で元に戻ろうとする気持ちを持たせた方が早いと思うんです」
「このマンションの管理人にあなた達の事、お願いしておくわ
……そうだ、里沙さんもよく知ってる人よ」
「え?」
麻琴を部屋に残して、陽子と里沙は1階に降りた。
1階は喫茶店になっている。
店の名前は”リリアン”
白い扉に花模様、ずいぶんと乙女チックな趣味の店だ
中に入るとカウンターの中に女性が一人立っていた。
里沙はその女性に見覚えがあった。
「副師範?」
「あら、里沙じゃない?」
それは、風間三姉妹の次姉”風間由真”だった。
時々、長姉の結花の道場を手伝いに来ている。
普段は喫茶店をやっていると聞いたいたが、それがこの店だった様だ。
- 234 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/22(日) 08:36
- 風間三姉妹……といっても実際は結花、由真の二人と唯は実の姉妹ではない。
風魔鬼組の頭領、小太郎の元にある日双子の女の子が生まれた。
その額に不動明王を表す梵字「カーン」をもつ唯、そして薬師如来を表す梵字「バイ」を持つ翔。
運命の娘の持つ能力は、風魔とその運命を共にしてきた宿敵、”異形の者”の集団”陰”を倒す事のできる希望の光だった。
しかし、”陰”の支配者”果心居士”はその力を恐れ、双子の姉翔をさらって”陰”の力に飲み込んでしまう。
”陰”の持つ闇の力ではその光を消す事ができないため、互いを戦わせる事で2つの光を相殺しようとしたのだ。
残された唯は、風魔の前総帥、長老の達心寺帯庵和尚の元に預けられる。
翔だけでなく唯までいなくなったのでは風魔が”陰”と戦う為の”切り札”を完全に失ってしまうからだ。
唯は、帯庵の元で自由奔放に育てられる。
一方、三姉妹の長姉結花、次姉由真の二人の父は、風魔鬼組五人衆の一人、小源太。
小太郎に仕え双子の娘を守る役目にありながら、翔をさらわれてしまったことに責任を感じ、翔を追って自ら”陰”に飲みこまれてしまう。
相次ぐ悲劇に心を痛めた小太郎は、残された小源太の2人の娘を引き取って実の娘として育てる事にする。
そして十数年余りが過ぎた。
小太郎に育てられた二人の娘は、ある日父より自分達に妹がいることを告げられる。
自称”九州一の大スケバン”、天真爛漫な笑顔の妹、唯。
彼女が上京してきたその日、”陰”は小太郎一家全員の抹殺を図り、彼らの自宅に爆弾を仕掛ける。
幸い、三姉妹は家の外にいたが、自宅にいた小太郎が大爆発で命を落としてしまう。
結花と由真は、突然妹としてやって来た唯を受け入れる事以上に、自分達自身が彼女の姉でない(小太郎の実の娘でない)事にショックを感じていた。
しかしそれも、唯の生まれ持った運命と戦っていくうち、そして彼女の天真爛漫な笑顔に救われるように、三人は実の姉妹以上に強く結束していった。
- 235 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/22(日) 08:37
- 戦いの後、長姉結花は風魔忍軍総帥となった般若より風魔鬼組頭領を命じられ、次姉由真はその補佐として副頭領となった。
といっても”陰”との戦いの中で主力のメンバーを失い、彼女たちの父の世代から比べれば、10分の1にも満たない戦力。
二人に課せられた使命は、まず風魔鬼組の戦力の建て直しだった。
「焦らずともよい」結花を般若はこう諭した。
「先祖代々180年かけて作り上げた戦力だ。また180年かけて作っていけばいい。
そして、”陰”もまた180年かけて同じようにその力を蓄えていく。我々はそんな戦いを繰り返しているだけなのだから」
結花は道場を開き、優秀な人材の育成をめざした。
これは本人も知らない事だが、結花の弟子である里沙もいつの間にか鬼組の構成メンバーにされている。
「由真さんにはこのマンションの管理と、サキの普段の面倒をお願いしているのよ」
********************
深夜、になった。
それまで眠っていたサキが、突然むくりと起上がった。
まるで夢遊病者のようにふらふらと外に出る。
真っ先にそれに気が着いたのは里沙だった。
「マコさん、サキさんが!!」
里沙は麻琴を揺り起こした。
「え?……何だって」
「マコさんはサキさんを追いかけてください、私は由真さんに知らせてきます」
- 236 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/22(日) 08:37
- 「わかった」
二人はパジャマ姿のまま部屋を飛び出した。
サキは道路をフラフラと歩いていた。
麻琴はサキの背中を叩いた。
「サキ、戻るんだ!」
麻琴の叫びにも、サキは答えない。
何も言わずに歩き続ける。
「おい、サキ!」
もう一度肩を叩いたその手を、サキは振り払った。
同時に拳が飛んでくる。
「うわっ!」
麻琴は間一髪でよけた。
サキは拳を構えている。
グイッと間合いに入ってくると、蹴りが来る。
「サキ!!!、目を覚ますんだ!」
麻琴の必死叫びもサキには届いていない。
連続して蹴りと突き。
麻琴は避けるのが精一杯だった。
「マコさん、大丈夫ですか!」
- 237 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/22(日) 08:37
- しばらくして里沙と由真がやって来た。
「里沙、だめだ、サキがおかしくなっちまった」
三人の中にサキが飛び込んでくる。
とっさに飛び散る。
里沙の姿も由真の事もサキは気が付いていないようだ。
「サキ、目を覚ましてくれよ!」
「マコさん、本気で戦わないとサキさんは止められません」
「わかってる、わかってるけどよぉ」
「里沙、麻琴、二人共下がってな」
由真は手にした武器を構えた。
シュッ!
すばやい動きで両手から糸が伸びる。
一本で数百キロの重さに耐えられる細い鋼線をよりあわせた特製の糸。
一瞬にして糸がサキの体にまとわりつく。
由真はぐいっと糸を引き寄せた。
まとわりついた糸の輪が縮まり、サキは両腕の自由を奪われる。
動けば動くほど締め付けの強さが増す鋼糸。
さらに由真が渾身の力を込めて締め上げる。
サキは完全に動きが封じられた。
- 238 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/22(日) 08:38
- 「マコさん今よ!!」
そう叫んで里沙が跳んだ。
麻琴も後に続く。
二人のダブルキック
しかし、サキは身を伏せてそれを避けると、由真に向かって一気に地面を這うように跳躍した。
引っ張る力が一瞬緩み、由真がバランスを失う隙をサキは見逃さなかった。
体当たりの後連続蹴り。
由真の手にしたリリアンの編み棒に正確にヒットする。
「うっ!」
編み棒がその手から離れたのと同時に、サキは鋼糸の呪縛から逃れた。
間髪を入れずに、由真に連続突き。
「止めろ、サキ!!」
麻琴はサキの正面からタックルすると、強く抱きしめる。
「頼むから目を覚ましてくれ!!サキ」
麻琴は泣きながら叫んだ。
「サキ!!!、目を覚ますんだ!」
- 239 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/22(日) 08:39
- 麻琴の叫びとともにサキの動きが一瞬止まった。
里沙はそれを見逃さなかった。
手刀をサキの延髄めがけて放つ。
だがサキは冷静だった。
手が伸びて里沙の手刀を受け止める。
「里沙さん、マコさん……」
サキは静かに言った。
「サキ、気が付いたのか?」
「ごめんなさい、二人とも……私……」
「よかった、目が覚めたんですね」
「わかってた、自分が今何をやってるのか、誰と戦ってたのか……
でも、逆らえなかった……
なんだか夢を見ているように、勝手に体が動いていた。
ごめんなさい、大丈夫……もう自分で動ける」
「そりゃよかった」
そう言って由真は立ち上がった。
体の泥を払う。
「10何年ぶりだよ、本気で戦ったの」
- 240 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/22(日) 08:40
- 由真は笑顔を見せた。
「ごめんなさい、由真さん……私」
「いいのいいの
お前たちを見てたら何だか若い頃の自分そっくりで笑っちまったよ。
久しぶりに昔の自分を思い出したよ。
私の得意技を破られたのはちょっとクヤシイけどな」
そう言って由真は笑った。
********************
数時間後、まだ朝靄も晴れぬ早朝。サキは一人マンションを後にした。
「みんな、迷惑かけてごめんね……
私、今度は負けない」
そう呟いてサキは歩き出した。
体にはまだナンバー6と戦った痛みが残っている。
――続く――
- 241 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/02/22(日) 08:40
- >>213
×沙耶香
○紗耶香
うぎあー、すいません
いちいち変換するのがメンドいので、名前はコピペしてたんですが、それが元々間違っていたようです。
>>228
>ageちゃったけど、もし嫌ならごめんなさい。
いえいえ、自分も特に気にせずカキコしてますから
>>231
>ところで"6代目"ほか今の刑事たちは左利きの設定なのでしょうか?
残念ながら、「娘。」メンバーはみんな右利きみたいです。
市井がもしかしたら左利きらしいのですが、確認は取れてません。
作者の事情
由真は元々、裏設定のみで登場させるつもりはなかったんですが、皆様の”熱い”リクエストで急遽登場となりました。
雪乃もどこかで登場させようと思っています
乞う御期待!
- 242 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/02/22(日) 13:11
- でてきましたね。こんな形で出てくるとは思っていませんでした。
- 243 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/04(木) 20:20
- 続きが早く読みたい!!
作者さん更新よろしく!!
- 244 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/05(金) 06:59
- http://www.videopokerclassic.com/~161203trA/indexjp.html
10セント(約11円)が約1200万円になったんだって
- 245 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:45
- ********************
「山崎は返してもらった」
その頃、神狼会本部。
高橋愛のいつも居る場所に、美貴が座っていた。
頬杖をつき、大きく足を組んでいる。
人を見下したような冷たい視線を高橋に向けていた。
「もうお前には用はない」
「……」
愛は黙ったまま、悲し気に美貴を見つめ返す。
「命だけは助けてやる、さっさとここから出て行け」
「やっぱり、あなたは……変わってしまったのね……」
「何?」
愛の言葉に美貴は冷たい瞳で返す。
- 246 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:45
- 「あの時、美貴は私に言ったよね。
”いつか私が私でなくなったら、その時は私を殺して”と……
あの時は何のことだったかわからなかった。
でもやっとその意味がわかった。
あなたも私のように紺野先生に脳改造の手術を受けたのね……」
「今のお前に私が殺せるかな?
能力の無くなったお前に」
「!?」
「気付いていないとでも思ったか?
お前の力は徐々に弱っていた。
そのうちに山崎をコントロールする力も弱まる。
新垣教授の研究データーがあれば、お前のコントロールから完全に解き放てられる。
私はこの時を待っていたのだ」
「でも、私は闘う、それはあなたとの約束だから……」
「いいだろう、受けて立とう」
美貴は立ち上がって構えた。
愛も悲しい顔のままでで構える。
掌を開き美貴に向ける。
「ハァッ!」
だが、美貴は涼しい顔で立っている。
「もうお前の能力は効かないと言っただろう」
- 247 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:46
- 美貴は平然とした顔で愛に近づく。
激しい平手打ちが、愛の頬に飛んだ。
愛はそれに怯む事なく、もう一度掌を向ける。
「ハァッ!」
「効かないね」
もう一度、掌を向ける。
「効かないと言ってるだろ!」
美貴は怒りの口調で、愛を徐々に追いつめていった。
再度激しい平手。
床に倒れたその体を容赦無く踏みつける。
乗馬用のブーツの尖ったつま先が愛の腹部に食い込む。
「なんだい、口先だけかい。
もう少し楽しませてくれると思ったのにねえ
私を殺すんだろ、殺せるものなら殺してみなさいよ」
愛の攻撃は全く歯が立たない。
「このまま私が、お前を殺してもいいんだ。
だが、一応私の居ない間この神狼会をここまで大きくしてくれた。
それに免じて命までは助けてやろうと言ってるんだ
さっさと出て行きな」
- 248 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:46
- 愛は泣きながら立ち上がった。
恨めしそうに美貴の顔を見た。
美貴はそんな愛の事を全く意に介さないように言った。
「さあ、今からすぐにここを引き払うよ
準備しな!!」
********************
サキは再び神狼会本部の前に立っていた。
なぜか入り口のエントランスは開いている。
サキは訝りながら、近づいた。
「もう誰もいないよ」
声に驚いて見ると、そこに立っていたのは高橋愛だった。
体が反応して咄嗟に構える。
「あら、あなた私のコントロールから逃れているのね。
やるじゃない」
(しまった……)
格闘家としての悲しい性だ、咄嗟に体が反応してしまう。
「せっかくリベンジに来てくれたみたいだけど、
残念ね、もう”私の”神狼会は終わりよ」
「どういう事だ?」
- 249 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:47
- 「これからは新しい神狼会、私はもうお役御免なの」
「美貴とかいう女の事か?」
「そう、これからは彼女が総帥だから」
「美貴とは何者だ?」
「昔、海槌財閥という一族がいて、彼女はその血を引くお嬢様。
神狼会は元々海槌財閥の再興を目的として作られた組織だったの。
両親が死んで一人ぼっちだった私は、彼女の侍女として一緒に育てられたの」
サキ=紺野あさ美は海槌の名前を聞いてもピンとこなかった。
彼女の母親……初代スケバン刑事である麻宮サキは娘に自分の過去を一切話していなかった。
あさ美は五代陽子に聞かされて初めて母の過去を知った。
その時、母が戦っていた相手が海槌家だという事も聞いていたかもしれないが、それが今彼女が戦う相手と関係しているなどという事は思いもよらなかっただろう。
「あ、それから紺野先生の事だけど、
殺したのは私じゃないわよ」
「?」
- 250 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:47
- 「山崎の古い知り合いだったみたい。
私が美貴と一緒に育てられた理由はもう一つあった。
それは、美貴の手術の実験台となること。
あの時私は、その手術をさせられる為に北海道に連れてこられていた。
でも、途中で乗っていた車が事故にあって、私は大怪我を負った。
本当に紺野先生の手術を受けなければ助からない怪我だったの。
そして私は、当初の目的通り紺野先生の手術を受けた。
紺野先生は私の手術をした後、今度は美貴の手術をした。
そして……美貴は変わってしまった」
高橋の目が悲しげに曇った。
「私は自分の身を守る為、手術によって得た能力で山アをいいなりにしたの」
「新垣教授のデーターは?」
「神狼会の皆を私のコントロールから解く為に使われたわ
おかげで私は用無しって訳
そうならないように、先に私が手に入れようと思ってたんだけどね」
「おかしいと思っていた
集団催眠のような方法で人の心を操る事の出来るお前が、なぜ”ハロー効果”の研究データーを欲しがっていたのか」
「そう、そして私の能力も時間切れになったみたい」
「やはりそうか」
- 251 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:48
- 5代目スケバン刑事だった安倍なつみや、6代目の吉澤ひとみを支配下に出来るほどの強い能力。
たとえ、新垣教授の助手だった藤井隆の手助けがあったとはいえ、サキはそのコントロールから逃れる事ができた。
ほとんど無口になるほど自我を失っていたなつみ、まだ自分の意思で話す事のできたひとみ。
サキは2人の違いを見て、影響力が弱くなっている結果なのではないかと感じていた。
「私は結局、美貴を手術するための実験台だったって訳。
そして、失敗作……そういう事よ。
じゃあ」
「どこに行く?」
「とりあえず、今後の身の振り方を考えるわ
また会いましょ」
高橋はそう言って去っていった。
サキは念のため本部のあったマンションに行ってみた。
高橋の言う通り、そこはもぬけの殻だった。
サキは何もない部屋の真ん中で立っていた。そして携帯電話を取り出した。
「もしもし、お母さん?」
「あ,あさ美……」
「訊きたい事があるの、一体お父さんは何をやってたの?」
「……」
彼女は黙っている。
「お父さんは何者だったの?」
- 252 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:48
- 「いつか……
いつかそれを知る日が来ます……きっと……」
彼女はそれだけ言うと電話を切った。
********************
「サキ、どこに行ってたんだ!」
「サキさん心配しましたよ!」
マンションに戻ると、麻琴と里沙の他に五代陽子が来ていた。
また部屋を抜け出したサキを探す為に、由真が呼んだのだった。
「ったく、やっぱり洗脳が解けてなかったんじゃないかって、今話してたとこだったんだぜ」
「ごめんなさい、マコさん。心配かけて……」
「神狼会の本部に行ってたのね?」
「はい」
陽子の問いにサキは答えた。
「本部には何もありませんでした。
美貴という女が高橋愛に代わって神狼会の総帥になったようです。
美貴は私の父に脳改造の手術を受けたようなんです……
五代さん……一体父は何をやっていたんでしょう?」
サキは陽子に訊いた。
- 253 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:49
- 「わからないの」
「え?」
「海槌三姉妹との戦いの後、重傷を負ったあなたのお母さん”麻宮サキ”は通りがかった若い医師”紺野洋史”に助けられた。
回復後、その医師と結婚、一女をもうけ、医師の仕事の都合で北海道に移り住んだ。
北海道総合医科大で聞いた紺野医師の経歴……
だけど、紺野医師がどこの大学でその高度な医療技術を学び、そしてあなたのお母さんがどこの病院で火傷の手術を受けていたのか結局わからなかった。
初めてあなたのお母さんにお会いした時、これまでどうして行方をくらましていたのか、今までどうしていたのか訊いてみた。
でも、何も答えてはくれなかった」
陽子は悲しい目で言った。
陽子自身、いや彼女だけでなく”スケバン刑事”としてその任務を受け継いだ者全員は、麻宮サキにその人生の影響を受けている。
”麻宮サキ”がいたからこそ、”スケバン刑事”という任務が受け継がれ、そして今こここに自分がいる。
もしも彼女がいなかったら、もしかしたら陽子は今も鉄仮面を被ったままの人生を送っていたかも知れない。
陽子は心の中でずっと、麻宮サキに憧れと尊敬の念を抱き続けてきた。
しかし、その当の本人は世間から身を隠すように暮らしていた。
陽子は、その姿と自分の思い描いてきたイメージとのギャップに、失望を感じずにはいられなかった。
そして、紺野サキはその訳を一切話そうとはしてくれなかった。
サキ(あさ美)自身も、母と父の馴初めについて詳しく聞いたことはなかった。
確かに事故で怪我をして、通りかかった父に助けられたのがきっかけだと、聞いた事がある。
だが、どちらかと言うと母はそういうことを話したがらなかったので、サキ(あさ美)はそれ以上詳しくは詮索しなかった。
- 254 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:50
- ましてや、その昔。日本を牛耳ろうと企む巨悪にたった一人で敢然と立ち向かっていた戦士であったなどという話は、訓練中に風間教官から教えられてはじめて知った事実だった。
そして、その伝説を継ぎ、5人の戦士が母の名前を名乗って悪との戦いを続けていたなんて。
いつも世間から隠れるようにひっそりと暮らしていた母。
父が行方不明になった事も、まるでそれが予定されていた運命かのように受け入れていた。
「こんな日がいつか来ると思っていた……」
警察が父の行方について事情聴取に来た後、母はそう呟いた。
母のそう言った意味はいまだにわからない。
「高橋愛は父の手術によってその能力を得たと言っていました。
一体父は何の目的でそんな手術をしたのか、何故父は神狼会によって殺されなければならなかったのか……」
「戦っていくうちにきっと自分の運命を知ることになるでしょう。
たとえその運命が辛いものでも……それを受け入れ乗り越えて行かなければならない」
「覚悟は……できてます」
サキは拳を握り締めた。
「それから、美貴という女はどこかの財閥の血を引くお嬢様なのだそうです。
何て言ったかな……」
「海槌家ね?」
「そうです、たしかそんな名前でした」
- 255 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:50
- 「やっぱりそうだったのね、実は神狼会に関係する人物の中で”美貴”という名前を探してみたの。
該当する人物は一人だけいたわ、海槌剛三の妹、藤本貴子の娘が美貴という名前だったの」
その海槌剛三はサキ(あさ美)の母の実の父親。つまりに彼女にとって祖父になる。彼女自身も海槌家の血を引く生き残りと言えなくもなかったのだが、陽子はあえてそれは告げなかった。
「そうですか……」
「山崎は元々海槌家の顧問弁護士だった。
高橋愛が言う通り、藤本美貴を使って海槌家の再興を考えているんじゃないかしら?」
―――続く―――
- 256 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/06(土) 22:58
- >>242
>>243
ありがとうございます、相変らずの遅筆です
今回、結構話が進んだと思います。
スケバン刑事トリビア(予告)
『スケバン刑事3・少女忍法帖伝奇』で唯の敵であり、実は双子の姉「羽愚列翔」を演じた 林美穂 は……
- 257 名前:NANASHI 投稿日:2004/03/07(日) 20:43
- 話の腰を折って申し訳ないけど
海槌剛三がサキの父親だというのは
剛三が言い張ってただけでお母さんのナツは
否定してますよ。
- 258 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/08(月) 01:52
-
スケバン刑事トリビア
『スケバン刑事3・少女忍法帖伝奇』で唯の敵であり、実は双子の姉「羽愚列翔」を演じた 林美穂 は……
『スケバン刑事』1作目で麻宮サキの子供時代役もやっていた
って、引っぱった割にはたいしたネタでなかったですね、すいません
>>257
たしか20話くらいから実はサキは海槌剛三の娘だという話になりました。
22話でナツは「お前は私と父さん(麻宮としや)の娘」みたいな事をいったと思いますが、
話の流れから、本当は剛三とナツとの間に生まれた娘だけれど、お前は私たちの子供だ!みたいなことじゃないのかなと解釈しておりました。
当時の記憶と資料を参考に書いてますので、記憶違いだったらすいません。
(ビデオ等の資料は残ってないんですよ……)
- 259 名前:名無しの一読者 投稿日:2004/03/08(月) 19:46
- >>258
>『スケバン刑事3・少女忍法帖伝奇』で唯の敵であり、実は双子の姉「羽愚列翔」を演じた 林美穂 は……
『スケバン刑事』1作目で麻宮サキの子供時代役もやっていた
たしか、母親が逮捕されて連行されていくのを追いかけてましたよね。
そのときにこけて手のひらに十字の傷がついたのでは.....
スケバン刑事は初代から3代目までツタヤでレンタルされてるはずですよ。
少女コマンドーはないようですが。
次回の更新楽しみにしてます。
- 260 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:10
- ********************
「私がお前を信用すると思うか?」
美貴は冷たいまなざしを目の前にいる少女に向けた。
美貴は神狼会の本部を新たな場所に移していた。
小高い丘の上に建てられたその建物の最上階。
辺りにその建物より高い他の建物も無く、人家も全く無い。
その階までやってくるのは、美貴と美貴に用事がある者、そして時折窓の外を訪れる鳥くらいのものだった。
それまで山崎をはじめとする神狼会の主だったメンバーは、高橋愛によって洗脳されていた。
美貴は、なんとか愛から神狼会を取り戻そうと、洗脳を解く方法を考えていた。
脳外科医、心理学者、催眠術師……そういった専門家をさらっては洗脳を解く方法を試していたのだ。
最後に行きついたのが、新垣教授による”ハロー効果”の研究だった。
美貴は手に入れた新垣教授の研究データーによって、山崎をはじめとする神狼会のメンバーを洗脳から開放した。
実際は支配者が高橋愛から藤本美貴に変わっただけであったが。
「信用してもらわなくても構わないぜ、俺はただアイツともう一度戦いたい、それだけなんだから」
その少女は……ナンバー6と呼ばれていた6代目スケバン刑事吉澤ひとみだった。
「必ず、奴らは来る。必要な戦力になると思うぜ」
「お前もおかしなやつだな、警察を裏切る気か?
もうあの女のコントロールはもう効いていないのだろう、なのに何故ここに残りたいなどと」
- 261 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:11
- 「俺は最初っから任務なんてどうでもよかったんだ。
仕事さえこなせば無罪放免になる。ただそれだけのためにやってたんだ。
ここに捕まって、お前達の言いなりになって働いていたんだ。今更戻れやしねえ」
「なるほど、一応筋は通っているな……」
「悪い話じゃないと思うぜ」
「フン……まあいいだろう、だがおかしな事をしたらすぐにでも殺す、いいな?」
「ああ、結構だ」
ひとみがそう言って部屋を立ち去るまで、美貴は平然な顔をしていた。
だが、ひとみが部屋を出て行った瞬間、その顔が苦痛にゆがみはじめた。
額から異常なほどの汗が流れ出す。
「美貴様?」
美貴の背後から影が3つ現れ、美貴の傍らに跪いた。
美貴は3人を一瞥もせず、胸をかきむしる。
「ク、クルシイ」
「美貴様。大丈夫ですか?」
3人が声をかけたが、美貴は苦痛でそれどころではない。
「チ……ダ」
「え?」
- 262 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:11
- 「チガホシイ……」
「また発作のようですね」
3人の一人、レイナが言った。
「サユミ、早くドクターを!」
「わかった」
エリナの指図でサユミは走り出した。
美貴は椅子から転げ落ち、床を転がって悶え苦しんでいた。
********************
暗闇の中に父の姿があった。
いつものように、白衣を着て手にはメスを持っている。
サキは父の笑顔が好きだった。
笑うとタレ目が更に下がる。
「あさ美。どうした?」
父はいつものやさしい笑顔で彼女に語りかけた。
突然、父の横から少女が一人現れた。
高橋愛だった。
父は笑顔のまま、高橋愛の頭を手に持ったメスで切り開いた。
切り開いた部分から血が流れ、愛の顔が真っ赤に染まる、
愛は血まみれのまま掌を彼女に向けた
- 263 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:12
- 「はあっ!」
愛は掛け声と共に、姿が消えた。
代わりに見た事もない少女が立っている。
(藤本美貴だ……)
サキは藤本の顔を見た事がなかったが、その少女を見て何故か藤本美貴なのだと感じた。
その少女の背後には父が笑顔のままで立っている。
いつもと変わらない優しい笑顔。
そしてその手に握られたメスが美貴の頭を切り裂く。
切り開いた部分から今度は黒い液体が流れ出した。
その黒い液体は邪悪なエネルギーを放ちながらどんどん大きくなっていった。
とてつもなく邪悪で巨大な影。
父は笑っていた。
優しかった父の背後にも、同じような邪悪な影が見えた。
父は藤本美貴の身体から邪悪な魂を引き出していた。
「お父さん!」
サキは叫んだ。
しかしその叫びも空しく、邪悪な影は益々大きくなっていった。
影は闇となってサキのすぐ前まで迫っていた。
その闇に触れると、とてつもない恐怖がサキの身体を走った。
「お父さん、助けて!」
父の笑顔は凍りついたまま微動だにしていない。
「助けて!!」
闇はじわじわとサキの身体を包んでいった。
『お父さん!!!』
- 264 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:12
- 悪夢の闇は自分の叫び声と共に消えていた。
現実のサキは布団の上でぐっしょりと汗をかいて横たわっていた。
少し頭痛がする。
(夢か……)
嫌な夢だった。
サキは疲れてぐっすりと眠る事が多かったので、めったにこんな嫌な夢を見る事はなかった。
闇に触れたときに感じた悪寒がまだ背中に残っている。
最悪な目覚め。
憂鬱な気分は起き上がる気力さえも奪う。
時計を見ると、いつも起きる時間になろうとしていた。
「ふうー」
サキは溜息と気合の混じった息を吐いた。
「起きなきゃね……」
こめかみが少しズキズキする。
あの日以来、サキは時折襲う頭痛に悩まされていた。
高橋愛の洗脳の後遺症だった。
幸運にも高橋は能力が弱っていたため、サキはその洗脳から逃れる事ができた。
新垣教授の教え子だった藤井隆の治療のおかげもあって、その後遺症も日に日に快方に向かっていた。
だが頭痛は辛い。
- 265 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:13
- かつて”ナンバー5”として「神狼会」の手先となっていた安倍なつみも、今、藤井の治療を受けている。
彼女はサキとは逆に、いつまでも終る事のない頭痛が続き、調子が良くなると若干痛みが和らぐ程度なのだという。
藤井の治療の甲斐もあって、なんとか精神状態も落ちついてきているそうだが、日常生活を普通に送れるまでには至っていない。
サキは諦めて起きあがることにした。
マンションを出ようとすると、丁度1階の喫茶店”リリアン”から男の子が一人出てきたのと一緒だった。
「お姉ちゃん、おはよー!」
「おはよう、小源太クン」
サキは彼のスポーツ刈りの頭をぐりぐりと撫ぜた。
小源太は少し照れくさそうな笑顔を返す。
彼は由真の離婚した夫との間に生まれた男の子だ。
まだ小学校1年生。
サキがこのマンションに暮らすようになった日から、彼女になついていた。
一人っ子だった小源太にすれば、お姉さんができたような気分なのだろう.
「いってきまーす」
小源太は、嬉しそうにランドセルを背負い直すと走っていった。
サキも後を追うように駅に向かう。
いつものように電車に乗り、いつもの駅で降りる。
駅から学校までの通学路に、麻琴と里沙が歩いていた。
「おはよう、マコさん里沙さん」
- 266 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:14
- サキは走り寄って声をかけた。
「おはよう、サキ」
「おはよう、サキさん」
いつものように3人並んで学校に向かう。
いつものような朝の1日だったが、その日はなんだか違っていた。
天王洲高校の校門前に一人の大男が立っていた。
ドレッドへアーに耳、鼻、唇各所にピアス。
腕を組み、登校する生徒を一人一人睨みつけていた。
やがて、その男は通学して来る生徒の中に目的の人物を見つけた。
「姉貴!!」
男はそう叫んで、駆け寄って来た。
男の前には3人の少女が驚いた顔で立ち尽くしていた。
「姉貴!!、探しましたぜ」
男は以前サキたちが戦った渋谷のチーマーのリーダー杉村だった。
「ちょっと、こんなところでやめてよ」
サキ達は慌てて杉村の腕を引っ張って、場所を移した。
- 267 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:14
- 彼らと戦った後に、麻琴がその場の思いつきでサキをリーダーにして関東のチームを傘下に治めると言った事が実現しつつあった。
渋谷で最大の勢力だった杉村のグループを潰したというウワサは、あっという間に近隣に広がっていた。
一昔のいわゆる「不良グループ」や「暴走族」といったグループと違い、今の「チーム」と呼ばれている集団は「つるんでいる仲間」の域を出ない。
「チーム」内の団結力や仲間意識も稀薄な為、「強い者になんとなく従っている」といった感じだ。
突出した実力を持つ者に対して、抵抗するだけの骨のある者もいない。
杉村がサキ達の傘下になったことで、周辺のグループもなんとなく追従する形となっていたのだ。
本人の知らないところで、”麻宮サキ”の名前は一人歩きしていた。
いつの間にか、渋谷をシメる女番長(スケバン)として恐れられる存在となっていたのだった。
「お前、私たちの知らない間に随分好き勝手しているらしいじゃないか?」
麻琴はそういって杉村の襟首を締め上げた。
「な、何のことでしょう?」
「しらばっくれるんじゃないよ、うちらの名前を使って、渋谷をシメようって動いてるらしいじゃないか?」
「だってそれは姉貴達が自分で言った事で……」
「なんだと!」
「す、すいません……」
「ともかく勝手な事をすんじゃねえぞ」
「でも、もう手遅れですぜ」
「何?」
- 268 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:15
- 「渋谷だけじゃねえ、東京一帯にウワサは広まってんだ。
渋谷をシメる女子高生3人組はメチャクチャ強いってね、
それは逆に言えば、この3人を倒せば東京中に名前が知れ渡るって事だイ、イテテッテ!」
麻琴は杉村の腕を逆関節に締め上げた。
「このタコ、うちらにやられた腹いせにそんなウワサを広めていたのか!」
「俺達は姉貴たちがめちゃめちゃ強いってのは認めてるんだ、だからこうやって姉貴たちに従うことにした。
けど、他の連中は俺達が”女子高生にやられた”とウワサしてる。
姉貴たちが本当に強いって事をみんなに知ってもらわないと、俺達のメンツが立たねぇんだ」
「だからって、勝手に俺達の名前を使う事はないだろ!」
「まあまあ、マコさん……」
痛がる杉村に見かねてサキが間に入った。
「で、今日は私達に用があって来たんじゃないの?」
「そ、そうなんです」
杉村はやっと自由になった関節をさすりながら言った。
「実は”女龍鬼連合”っていう女暴走族(レディース)のグループともめてて、どうしても姉貴たちの力を借りたくて来たイテテテッテエ」
「何ネボケた事言ってんだよ、このタコ!」
麻琴は杉村のセリフを最後まで聞くことなく、再度杉村の腕を逆関節に締め上げた。
- 269 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:16
- 「だってリーダー各の4人はめちゃめちゃ強いんで、俺達の手には負えないテテッテテテ」
「くだらねえお前達のイザコザに、うちらを巻き込むんじゃねえよ」
「一体何が原因でそんな風になったの?」
サキが訊いた。
「いや、その……」
「大方、お前達がその”女龍鬼連合”の連中にちょっかい出して、逆にやられちまったってとこだろ!」
麻琴の指摘は的を得ているようだった。
「ともかく、そんなつまらないイザコザは自分達で解決するんだな!」
「そ、そんなぁ」
杉村は麻琴に組み伏せられた下で、更に情けない声をあげた。
「お願いしますよぉ、姉貴ぃ……」
********************
――続く――
- 270 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/15(月) 03:17
- >>259
>>こけて手のひらに十字の傷がついたのでは.....
そうです、あの娘が林美穂だったんです
>>スケバン刑事は初代から3代目までツタヤでレンタルされてるはずですよ。
ウチの近所のツタヤではUが数本あるのみでした
また他探してみます。
- 271 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/16(火) 00:54
- お詫び
先日、映画スケバン刑事―風間三姉妹の逆襲の資料を古本屋で見つけました
それまでTV版の資料しかなくて、この映画の内容を全然知らなかったんですが、
映画が始まっていきなり、般若こと依田一也が死んでいるではありませんか。
一応代わり身の術か何かで死んでなかった事にしておいてください
- 272 名前:NANASHI 投稿日:2004/03/17(水) 22:15
- 私の記憶ではTV版は般若、結花、由真の3人が死んだふりして
平気でよみがえってましたからぜんぜん問題ないと思います。
次も楽しみにしてます。
- 273 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/19(金) 20:29
- >>271
気が付いてたけど突っ込まずにおりました。
個人的にはあの映画はパラレルワールドだと思ってるから問題なしです。
本来、暗闇機関の協力者だった立場の般若があの映画では
「エージェント依田一也」としてただの暗闇指令の部下に成り下がってるし。
- 274 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 02:59
- 原宿メインの通りから少し離れた所に一軒のバイクショップがあった。
店名は「フリージア」
”女龍鬼連合”はそこを溜まり場にしている。
奥にある席に大柄な女性が腕を組んで座っていた。
その周りに数人の女性が取り囲んでいる。
”女龍鬼連合”は原宿を中心にした女性中心の女暴走族(レディース)。
この町で地元民はもとより、東京近郊の少女達が集まる形で結成された。
渋谷の杉村たちのチームと最近いざこざが絶えない。
「ちょっと、シャレにならなくなってきたねぇ……」
大柄なその女性は”女龍鬼連合”のリーダー斎藤瞳。
「どうやら、麻宮サキっていうめちゃめちゃ強い女がいて、そいつが杉村をシメたっていう話だ」
その横にショートカットの女性、サブリーダーの一人大谷雅恵。
「3人組の一人にビー玉のマコっていうのがいるんだけど、そいつは去年中学生の時に、杉村のチーム10数人を一人でやっつけたことがあるヤツ。
もう一人のリサってのも同じくらい強いらしい」
「どう思う?」
斎藤は周りのメンバーに訊いた。
「強い弱いは関係ないよ、向こうがこっちにちょっかいを出してきた。
悪いのは向こうだ、やるしかないよ」
- 275 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:00
- サブリーダーの一人、柴田あゆみ。
可愛い顔をしているが、拳法の達人。”女龍鬼連合”の懐刀である。
「めぐみはどう思う?」
斎藤が訊いた。
「……」
メンバー達とは別のテーブルで一人タロット占いをしている女性。
目を閉じ、静かにカードを開く。
真ん中のカードを裏返す。
出たのは”死神”のカードだった。
「不吉ね……」
村田めぐみは小さく呟いた。
「今まで、こんなカードが出たことなんてなかった。
良くない事が起こりそうな気がするわ」
「私達が負けるって事?」
斎藤が訊き返した。
「わからない、それ以上の何か不吉な事……かもしれない」
- 276 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:00
- 「……まあ、とにかく一度、その3人を調べてみよう。
結論はそれからでも遅くはないよ。
杉村だけなら私達でも十分倒せる相手なんだし。
あいつらにこれ以上のさばらせておく訳にも行かないしさ」
”女龍鬼連合”は斎藤瞳をリーダーとして村田めぐみ、大谷雅恵、柴田あゆみの4人が中心となって何事も決めている。
特に村田の占うタロットの結果は決定に大きく影響している。
不思議とよく当たるその占事の卦には斎藤も少なからず決定の参考にしていた。
だがあくまでも決定の条件は、斉藤をはじめとする幹部4人全員が納得する事。
たとえ占いの結果が良くない卦が出ても、客観的な状況を見て判断する。
斎藤の状況判断と決断力は、ひとえに”女龍鬼連合”の結束の固さにつながっていた。
********************
数日後、天王洲高校
授業が終り、いつものようにサキと麻琴と里沙は並んで帰っていた。
駅までの帰り道の途中で、サキは立ち止まった。
「すいません、私、今日用事があるのでここで帰ります」
「じゃあ、また明日」
そう言って3人は分かれた。
別々の方向に歩き出した3人の数十メートル後方に別の3つの影があった。
同じようにそれぞれ三方に影は分かれた。
”女龍鬼連合”の大谷と村田と柴田だった。
- 277 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:01
- 麻琴は2人と別れた後、誰もいない倉庫に向かった。
いつも彼女が練習に使っている倉庫。
倉庫のあちこちにある荷物に適当に空き缶を並べる。
目を閉じ、意識を集中させる。
麻琴は深く息を吸い込むと気合を入れた。
「ハッ!」
両手からまるでマシンガンのようにビー玉が散弾する。
飛び散ったビー玉は正確に空き缶にヒットしていく。
一瞬で10個近くあった空き缶が地面に落ちた。
(す、すごい)
物陰でその動きを見ていた村田めぐみは息を飲んだ。
麻琴は新しいジュース缶を一つ置いた。
10メートルほど離れて構える。
「ハッ!」
大きいタメのモーションで右手を振り下ろす。
ビシュゥゥゥゥゥン
うなりをあげてビー玉は一直線にジュース缶に向かう。
ドン
- 278 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:01
- 大きな音がしたかと思うと、ジュースの缶から中身がこぼれ出てきた。
側面に大きな穴が空いている。
ビー玉はその威力の犠牲になって粉々に砕けていた。
(ビー玉のマコ……さすがウワサ通りだわ)
村田は気付かれないようにゆっくりとその場を離れた。
里沙は下宿先の”風間格闘術道場”に帰ると、すぐに道場に向かった。
大きな工場跡地を改装して作られた道場の隅にはなぜか長短様々の長さの竹竿が地面に突き刺さっていた。
大谷が少し開いた窓から中を覗くと、丁度里沙がその竹竿の前でウォーミングアップしている最中だった。
(何を始める気かしら?)
里沙は、ゆっくりと息を吐きながら跳んだ。
まず短い竹竿の上に軽々と飛び乗ったかと思うと、次々と高い竿に移り、最後に一番長い2メートルほどの高さの竿の上に右足で着地した。
両手を広げて目を閉じ、左足をゆっくり水平に前に出す。
細い竹竿の上に、里沙は見事なバランスで立っている。
少しでもバランスを崩せば、竹は簡単にしなるだろう。
しかし彼女はその竿の上で微動だにしていない。
地面の上で目を閉じて片足立ちを長時間続ける事すら難しい。
ましてや、直径数センチの竹竿の上、しかも地上から2メートル以上の高さの上でである。
(もしかしたら、何か仕掛けでもあるのかしら?)
大谷がそう疑いたくもなるほど、里沙は完璧にバランスを保っている。
- 279 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:01
- 10分、20分……
突然、竹竿が大きくしなると里沙はふわりと地面に降り立った。
少し息が乱れている。
ただ単に立っているだけではない、実際は激しい運動量に相当する体力の消耗を伴なっている。
”軽功”の鍛錬の一つとして、里沙が続けている訓練だ。
「里沙」
「あ、先生!」
奥からの声に里沙は答えた。
里沙の師である風間結花だった。
風間結花も幼少の頃から、彼女の師である風魔鬼組頭領、風間小太郎より風魔忍術の数々を教えられてきた。
小太郎は厳しい修行というより、本人の個性を重視した鍛錬に重きを置く方法で2人の娘(実の娘ではないが)を導いていた。
その中でも彼女は優雅な動きの中に激しい攻撃力を秘めた”鳥擬錬功”を叩き込まれていた。
必殺の拳”鶴拳”も彼女の極めた奥義の一つ。
鋼鉄製の折鶴を手裏剣代わり使うのも、その影響だった。
新垣里沙の両親は生まれつき体の弱かった彼女をこの道場に預けた。
厳しい鍛錬を積む事で、少しでも丈夫な身体に育って欲しいと願ったからだ。
里沙の母である由里が、風魔の末裔であったというのもその理由の一つだった。
- 280 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:02
- 結花は里沙の小柄な体格と優れた平衡感覚に着目した。
体格に見合う筋力さえつけば、この平衡感覚は大きな力になる。
そう考えた結花は、早速里沙に”軽功”の鍛錬を命じた。
最初は数十センチの竹竿の上で立ち続け、徐々にその高さを上げていく。
一見簡単そうに見えるが、並外れた平衡感覚がないと長時間、そこに留まっている事は出来ない。
里沙は毎日その竿の上で鍛錬を続けた。
体の重心をコントロールできれば、最小限の力で高く跳ぶ事ができる。
忍者が塀や壁を跳び越えるための技術の基本だ。
里沙は結花の考え通りにその奥義を極めていった。
「ここのところ、毎日のように鍛錬を続けているけどどうしたの?」
「先生、私強くなりたいんです」
里沙は真剣な眼差しで答えた。
「私、もっと強くならないとサキさんの足手まといになってしまいます。
私がもう少し強かったら、サキさんもあんな目に会わずに済んだかもしれません。
そう思うと、悔しくて……」
「そう……」
里沙のその目を見て結花は嬉しくなった。
妹の唯のヴァジュラの力を守る為に戦ったあの時の自分と、今目の前にいる弟子は同じ気持でいる。
あの時、師であった育ての父、風間小太郎は既に亡く、そんな思いの自分を導いてくれる人はいなかった。
里沙の師として彼女の力になってあげよう。
結花はそう思った。
- 281 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:02
- 「里沙にはまだまだ教えていない奥義がたくさんある。
修行は厳しくなるわよ」
「はい!」
その時、結花には里沙の右腕に現れた僅かな変化に気が付かなかった。
白い腕に浮き出た小さな痣。
結花がそれを見たなら、その痣は何かの文字である事がすぐわかっただろう。
風魔の忍者の証である”梵字”
里沙もまた、風魔の血に目覚めつつあった……
サキは2人から別れると、町から少しはなれた寺に向かっていた。
長い石段を登った小高い山の上にその寺はあった。
境内に入るとサキは本堂に向かった。
ぎいぃ
古い木の扉を開けると、ひんやりとした空気がサキを包む。
広い本堂の中。
まるで道場のようだ。
静寂した空気の中に人の気配が微かにした。
白い上下の袴姿。
跪坐の体勢で座り、じっと目を閉じている。
「すいません、遅くなりました……理事長」
サキが近付いているのを察知して、その女性はゆっくりと目を開いた。
- 282 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:02
- 「待ちかねましたわ、麻宮さん」
そう言って立ち上がったのは、天王洲高校理事長、矢島雪乃だった。
「無理言って私の特訓につき合わせましてすいません」
「いいのよ、こちらこそ新しい”麻宮サキ”とお手合わせさせて下さいますようにと、
わたくしの方から早乙女先生にお願いしたのですから」
そう言って彼女は微笑んだ。
彼女は高校の理事長である一方で、合気道の師範でもある。
全てはあの日、風間三姉妹の長姉結花が彼女を訪ねて天王洲学園を訪れた事が始まりであった。
3代目スケバン刑事だった風間唯とは、昔一緒に戦った事があった。
その関係で唯の2人の姉、結花、由真の2人とも懇意に付き合うようになっていた。
その結花が自分の弟子だといって連れてきたのが新垣里沙だった。
彼女の父親が何かしらの事件に巻き込まれ、行方不明となっているとのこと。
事件の解決まで、結花が親代わりに里沙の面倒を見ているのだという。
道場から近いこともあり、雪乃が理事長を務める天王洲学園中学部に入学したいのだという事だった。
雪乃は喜んで彼女の編入の手続きを取った。
成績も優秀だった里沙は、何の問題もなく中学部に編入できた。
丁度その頃、かつての親友ビー玉のお京の娘、小川麻琴が問題を起こしてどこの高校も入学を断わられているというウワサを耳にした。
母親の京子を良く知る雪乃には、笑ってしまうくらい同じ性格の娘、麻琴。
曲がった事が嫌いな真っ直ぐな性格。その性格故に揉め事や、衝突も多いのだろうという事が容易に想像できた。
雪乃は京子に連絡をとり、麻琴を自分の学校へ入学させないかと申し出た。
中学部で問題のあった生徒に、麻琴をぶつけてみよう……そんな目論みもあった。
- 283 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:03
- そして、数年ぶりに麻宮サキ(五代陽子)からも連絡をもらう。
新垣里沙が巻き込まれた事件について、彼女の護衛の為に”特殊潜入捜査官”を派遣したいとのことだった。
その潜入捜査官の名前は”麻宮サキ”……その名前を聞いた雪乃はぞくぞくした。
謎の組織による魔の手が自分の学園にも忍び寄っている。
まさか自分の学校にスケバン刑事が派遣されてくる事になろうとは……
雪乃は生徒の安全も考え”麻宮サキ”の特別編入の交換条件として五代陽子(早乙女志織)を非常勤の講師として学園に常駐することをお願いしたのだった。
「結花さんと由真さんに聞きましたわよ。
相当な実力の持ち主だって。
わたくしもぜひあなたとお手合わせしてみたくて、うずうずしておりましたの」
そう言うと、雪乃はすっと立ちあがり構えた。
「よろしくお願いします」
サキも荷物を置き、一礼をした。
窓の隙間からその様子を覗いていた柴田あゆみは息を飲んだ。
拳法の心得のある彼女には、道場で対峙するこの2人の間に流れている静かな闘気が伝わってきていた。
ぴんと張り詰めた空気。
じりじりと間合いが詰まっていく。
機を見てサキが飛び込むが、雪乃は流れるような動きでサキの拳をさばいた。
サキはすぐに体勢を立て直すと、間髪いれずに間合いに入る。
突きと蹴りの連続技。
だが雪乃は絶妙にその技をかわしていく。
(う、上手い……)
柴田も思わず見とれるような流れる動き。
それに対して麻宮サキの方は緩慢で動きに精彩を欠いていた。
いとも簡単にころころと投げられている。
- 284 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:03
- (あんなにのろいんじゃ、100年かかってもあの師範には勝てそうもないわね……)
柴田はほくそ笑んだ。
麻宮サキと合気道の師範らしき女性の動きの差は歴然としていた。
さきほどまでの2人の闘気のすごさに期待して見ていたが、みごとに裏切られた気持がした。
(麻宮サキ……ウワサほどではないわね……)
柴田はそう呟いてその場を去った。
相変わらず、サキは何度も攻撃を試みるが、雪乃の流れるような動きの前に一発も当てられないでいた。
「サキさん……先ほどの方はお友達ですか?」
「いえ、知らない人でした」
「もう行ってしまったみたいですね」
「はい」
「サキさん、そろそろ本気を出して下さいませんか?」
「え?」
「そんなものを身体に付けて、わたくしと闘えると思ってるんですか?」
サキはいつも身に付けているウェイトを装着したまま闘っていた。
それに気付かない雪乃ではない。
- 285 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:04
- 「これをつけた状態で、理事長に勝てるようにならなければ特訓に付き合ってもらった意味がありません」
「まあ、笙王寺流合気道師範代矢島雪乃も甘く見られたもんですわね。
全力じゃお話にならないとおっしゃるのね?」
「……」
サキは少し考えてから答えた。
「じゃあ、すいませんちょっと待って下さい」
サキはそう言ってセーラー服の下に取り付けたウェイトを一つ一つ外していった。
ゴトリ、ゴトリ
その一つが数キロの重さのあるウェイトは、鈍い音を立てて床に落ちた。
「行きます」
(目つきが変わった)
雪乃がそう思う間もなく、サキが動いた。
あっという間の出来事だった。
早いステップで一気に間合いに入ると、その拳がわき腹に入った。
(は、早い)
- 286 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:04
- 雪乃はその拳を流すどころか、受身さえ取れずにいた。
先ほどまでの動きとのあまりの違いに目測をすっかり誤っている。
続けて通常の動きでは考えられないような体勢で蹴りが飛んで来る。
技を受け流す方向が咄嗟に思いつかないくらい、常軌を逸した蹴りだった。
雪乃は避ける事さえ敵わず、まともにその蹴りを喰らうところであった。
サキはその蹴りを寸前で止めた。
無理な体勢で寸止めをしたので、勢い余って転げてしまう。
あまりの動きのギャップに見当を誤ったとはいえ、彼女の攻撃に全くついていけなかったことに雪乃は軽いショックを感じていた。
真剣勝負なら完全にやられていた。
その一瞬の間に雪乃は背中にびっしょりと汗をかいていた。
「理事長、すいません大丈夫ですか?」
サキは立ち上がって、雪乃に駆け寄った。
「つつつ……」
わき腹を押さえて立ち上がる。
「わたくしも、あなたのことを甘く見ておりましたわ。
まだまだ修行が足りませんね。
あなたの速い動きに全くついて行けませんでしたわ」
そう言って彼女は笑った。
- 287 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/22(月) 03:05
- 雪乃も幼少の頃から様々な猛者を見てきたが、その中でも別格の強さを持ち、心底この人には敵わないと思った女性がいた。
その女性の名は”麻宮サキ”
元々、雪乃の通っていた桐の葉学園は、カンフークラブ「紅竜会」が支配していた。
暴力に支配された学園生活にすっかり落胆していた雪乃を変えたのが、転校生としてやってきた麻宮サキだった。
あっという間に「紅竜会」を壊滅した”麻宮サキ”
彼女の強さに惚れた雪乃は、彼女を追って桐の葉学園から梁山高校に転校する。
その後の高校生活は、今でも忘れられない大切な青春の日々であった。
3代目を名乗る風間唯とも一度一緒に戦ったことがあった。
有り余るパワーをまだ完全にコントロールできていなかったが、荒削りながら彼女の能力もやはり突出していた。
雪乃はその時、唯の瞳の奥に滾る熱い炎を見た。
それは、五代陽子の瞳に滾る炎と同じものだった。
きっと7代目の母親だという”初代”にも、そして自分の知らない他の”麻宮サキ”にも同じ炎があるのだろう。
そして、目の前の”麻宮サキ”の瞳の奥にも、真っ赤に燃え滾る熱い炎を見た。
(この娘ならきっと、世間に忍び寄る魔の手を打ち払ってくれる)
雪乃はわき腹を押さえながら、そう確信していた。
********************
――続く――
- 288 名前:みっくす 投稿日:2004/03/24(水) 03:11
- 第2ラウンド開始ってとこですかね。
三人の活躍期待してます。
- 289 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/03/28(日) 00:04
- 最近、完全に「娘。小説」で無くなり、単なる「オリジナル スケバン刑事小説」となっているような気がします。
元々、紺野に斉藤由貴の娘役なんかさせたら面白いなーという、思い付きからできたストーリーです。
「娘。」メンバーが登場する必然は、ただそれだけだったりします。
「娘。」小説にする必要はあるのだろうか?と悩んだりもします。
その最大の理由は、このストーリーに登場する”小川麻琴”と実物との大きなギャップ。
自分の中では、中村由真と相楽ハル子の中間のイメージで「ビー玉のお京の娘”小川麻琴”」を書いています。
最近の小川を見るに、ポスト保田圭の道をまっしぐらの「おばちゃんキャラ」
実物を見れば見るほど、キャスティングミスではないかと辛い気持になります。
- 290 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/28(日) 02:00
- 実をいうと・・・読み始めたきっかけのひとつにキャスティングが濡れ的に
ツボだったことがあります。メイン・サブ両方ともに。
<その最大の理由は、このストーリーに登場する”小川麻琴”と実物との大きなギャップ。
自分の中では、中村由真と相楽ハル子の中間のイメージで「ビー玉のお京の娘”小川麻琴”」を書いています。
最近の小川を見るに、ポスト保田圭の道をまっしぐらの「おばちゃんキャラ」
実物を見れば見るほど、キャスティングミスではないかと辛い気持になります。
そうとは思いません。濡れ的は「おばちゃんキャラ」はTVのみで、ライブでは
同一人物とは思えないマコ見られます。ただ、それをみせつけるチャンスが
与えられないだけで。(ヤスもそうだけど。)娘。のなかでは、適役と思います。
本人自身もカッコよくクールでありたいイメージがあるとおもいながら、ギャップ
に戸惑ってるフシありますし。
作者さんの作品に対してすごく真摯なのは、文章・展開などから読み取れます。
いろいろ大変だろうとは思います。がんがって下さいとしか書けないけど、
ここの読者達は、あなたを暖かく見守ってて応援してるよ。
長・横レススマソ。首吊(r
- 291 名前:名無し職人 投稿日:2004/03/31(水) 00:27
- こういう画像を作ってみた
これでも見て和め
ttp://gazou-keijiban.com/img-box/img20040331002218.jpg
- 292 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/31(水) 01:48
- まこっちゃんて多分本質は幼いくらい若いと思うんですけどね。
竹を割ったような性格のこちらのキャラは少なくとも自分の中の小川像には近いです。
なので特に違和感なく読めていたのですが…
いつ現実が追いついて(?)来るかもしれません(291さんの画像のようにw)
あんまり考え過ぎずにのんびり頑張って下さい。
- 293 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/05(月) 00:22
- そのバイクは爆音を上げながら、夕刻の天王洲学園高校の校門前に停まった。
ハンドルを通常よりも長く伸ばしたアメリカンタイプのバイク。
乗っていたのはノースリーブの黒い皮ジャン姿の大柄な女性だった。
剥き出しの太い腕に、豊満な肉体。
ヘルメットを脱ぐと、金色に染めた髪と真っ赤な口紅をつけた唇。
まるで古いアメリカ映画に出てくる主人公のよう。
女龍鬼連合のリーダー齋藤瞳だった。
齋藤が目指す相手を探そうと校門を睨んだ時、丁度辻と加護の2人が喋りながら校門のを出ようとしたところだった。
「ちょっといいかしら」
彼女は辻と加護に声をかけた。
「な、何よ!」
「何の用?」
「この学校に、麻宮サキっていう生徒がいるって聞いて来たんだけど、呼んでくれないかしら?」
「え、麻宮さん?」
二人は顔を見合わせ、急いで教室に戻った。
「ちょっと、麻宮さん大変よ!
校門に怖そうな人が来てるわよ!」
「え?」
- 294 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/05(月) 00:22
- 辻と加護の2人に言われて、サキは窓から校門の方を見た。
確かに、大柄の女性がそこに腕を組んで仁王立ちしている。
「おい、もしかして?」
横にいた麻琴がサキの顔を見た。
「大丈夫です。ちょっと行って来ます」
サキは落ち着いた風に麻琴に微笑んだ。
「ちょっと、小川さん、あの人は誰なの?」
今から何が始まるのだろうかという期待で、辻と加護はわくわくしながら小川に訊いた。
「さぁ、サキの知り合いらしいぜ」
麻琴はそう答えた。
サキはゆっくりとその女性に近付いていった。
「あの、麻宮ですけど、何の御用でしょうか?」
遠くの校舎の窓からの成り行きを見守る視線を感じながら、サキは弱々しく言った。
「あんたが”麻宮サキ”か?」
事前に柴田から容姿風貌を聞いてはいたが、目の前にいるメガネをかけた弱々しい少女が、東京で一番強いとウワサされる麻宮サキであるとはどうしても信じられなかった。
「はい、あなたはどちら様ですか?」
- 295 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/05(月) 00:23
- 「わたしは斎藤瞳、原宿(ジュク)で”女龍鬼連合”というチームのリーダーをしている」
「ああ、あなたが……」
(やっぱり思った通りだ……)
麻琴と里沙の身辺を見知らぬ少女がうろついていたという話を聞いた。
同じ日、サキも確かに誰かに尾行されていた。
杉村達が女龍鬼連合ともめていると聞いた直後のことだったので、もしかしたらと思っていた。
「すいません、一度こちらからお伺いしなければと思っていたんです。
杉村さんたちがご迷惑をおかけしているそうで……」
サキは丁寧に頭を下げた。
あまりのイメージの違いに斎藤は拍子抜けした。
(あの杉村はこんなヤツにやられたっていうのか?)
だが油断してはいけない、見掛けで騙すそれがこいつの手なのかもしれない。
「何のつもりだ?」
「え?」
「何のつもりで、私たちのいる原宿を狙う?」
「あの……杉村さん達がなんと言ってるのか知りませんが、彼らと私は親分とか子分とかそう言う関係じゃないんです。
杉村さんたちが勝手に私たちの名前を使ってるだけなんです」
「本当に、お前が杉村のグループを潰したのか?」
- 296 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/05(月) 00:23
- 「ええ」
サキは少し口元に微笑を浮かべて答えた。
齋藤はその自信に溢れた答えに、脅威を感じずにはいられなかった。
(何者なんだよコイツ……)
「ともかく、私たちは杉村達のことで迷惑している。
それを伝えに来た」
「わかりました、ごめんなさい
杉村さんのことは今後私が責任を持って、手を出さないようにさせます。
私が知らない間の事とはいえ、ご迷惑をおかけしました」
サキは再度深々と頭を下げた。
そんなサキの態度に斎藤は戸惑っていた。
今東京で一番強いというウワサの麻宮サキ、斎藤は対決をも辞さない覚悟で乗り込んで来たのだが、こんな簡単に事が進むとは思ってもみなかった。
「もし、何かあったらここに連絡してください」
サキはそう言って自分の携帯の番号を書いたメモを渡した。
「わかった……」
なんだか調子の狂わされた齋藤は、渋々そのメモを受け取った。
* * * * *
「ということだから、もう”女龍鬼連合”の皆さんには手を出さないで下さいね」
- 297 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/05(月) 00:23
- サキは杉村達に言った。
「で、ですが……姉貴……」
杉村は不服そうに言った。
サキ達に呼び出され、その上説教をされたんじゃあ杉村も面白くない。
「サキが止めろって言ってるんだ。
文句を言わずに止めるんだ」
麻琴が援護射撃をする。
「じゃあ、お願いね」
* * * * *
「どうするんで?」
サキ達が去った後、チームのメンバーの一人が杉村に訊いた。
「バカ野郎、ああ言われてハイそうですかって、簡単に従う訳ないだろ」
「というと?」
「このまま、”女龍鬼連合”の連中を襲う」
「大丈夫なんですか?今姉貴達に釘を刺されたじゃないですか?」
「だから、お前はバカなんだ」
- 298 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/05(月) 00:24
- 杉村は男の頭を小突いた。
「いいか、女龍のリーダー格4人は相当な強さだ。
もしかしたら、姉貴たちと互角かも知れん。
ぶつかれば、お互い無傷ではいられないだろう。
姉貴たちが女龍を倒せばそれで良し。
相討ちなら、俺達にもチャンスがあるってもんだ。
どっちに転んでも俺達に分があるのさ」
「なるほど、さすが頭がイイ」
「まあな」
杉村は得意気に胸を張った。
********************
斎藤達4人はグチャグチャになった店内を見て呆然と立ち尽くした。
十数台あったバイクは全て倒され、ガソリンとオイルが床にこぼれて広がっていた。
気化したガソリンの異臭が店の中に充満して鼻にツンとくる。
店番に残しておいた、まいみとももかが泣きながら散らかった部品を片付けていた。
「何があった!」
斎藤が叫んだ。
「杉村達が突然店にやってきて、暴れたんです」
”女龍鬼連合”のメンバーの一人まいみが答えた。
- 299 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/05(月) 00:24
- 「メンバーはみんな無事?」
「みやびとあいりが怪我をして病院に……」
ももかが泣きながら答えた。
斎藤の太い二の腕が怒りで真っ赤になっていた。
「なんてことだ、あいつ最初っからこういうつもりで……騙された」
「お前達、ここは頼んだよ!!
あいつら、ブッ殺してやる!!」
「私たちも行くよ!!」
猛然と飛び出して行く齋藤。
村田、大谷、柴田の3人も後に続いた。
新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第六話
「洗脳されたサキ」
終わり
- 300 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/05(月) 00:25
- 次回予告
杉村の策略で_女龍鬼連合と闘う羽目になったサキ
女龍鬼連合幹部達4人の攻撃にも抵抗せずにひたすら耐えるだけだった。
麻琴、里沙はサキを助ける為杉村を連れて闘いの場所に向かう!!
次回、新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第七話
「サキがスケバンになる日」
乞うご期待
「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」
- 301 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/05(月) 00:25
- >>288
>>290
>>292
ありがとうございます。
こういう応援が何よりの励みになります。
>>291
画像頂きました。
>>1にもあるように、あくまでもドラマ化きぼ〜んのストーリーだということを改めて思いました。
本人のキャラクターに合ってなくてもいいんですね。
「こんな役をやらせてみたい」そういう登場人物というのが、本来の目的でした。
数ある「娘。」小説のそのほとんどが、”「娘。」を自分の想像するストーリーの中で動かしたい”という作者の衝動で書かれています。
【新スケバン刑事〜少女武闘伝〜】はその気持プラス「ドラマ化」を意識しています。
勿論、それが実現するなんてこれっぽっちも思っていませんが、読んで下さる読者の方にも、同じ「夢」を共有できたら……そう思っています。
- 302 名前:名無しの一読者 投稿日:2004/04/05(月) 00:28
- リアルタイムの更新に立ちえ当てよかったです。
これからも応援してます。
- 303 名前:みっくす 投稿日:2004/04/05(月) 04:16
- なんか面白くなってきましたね。
次回も楽しみにしてます。
- 304 名前:名無しの一読者 投稿日:2004/04/06(火) 00:37
- 誤字でした。お詫びして訂正いたします。
×立ちえ当て
○立ち会えて
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/15(木) 03:57
- 全守
- 306 名前:名無しの読者 投稿日:2004/04/18(日) 02:31
- 作者様、更新希望読者その1です
応援してますので、更新お待ちしています!
がんがってくらはい
- 307 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/18(日) 23:47
- 皆様、ありがとうございます
4月に入って、仕事がメチャメチャ忙しくなり、ROMもままならない状態です(T_T)
なんとか続きを書いていますが、あいも変わらずの遅筆です。m(__)m
レスは必ずいたしますが、更新はもう少しお待ち下さい。
それまでどうか見捨てないで、見守って下さいまし。
- 308 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/04/20(火) 19:16
- この後のつづきが早く見たいです!待ちくたびれますよぉ!
- 309 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/04/20(火) 19:20
- つづきがんばってください!楽しみにしてます!
- 310 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/04/20(火) 21:22
- 大丈夫ですよ!こうゆう小説は好きですから。いつまでも(笑)待ってますよ!
- 311 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/04/21(水) 23:44
- >紺ちゃんファン さん×3
同一の方のカキコでしょうか?
GW前までにはなんとか更新します
女龍鬼の齋藤なんですが、なんかね自分の中では「ロマンス」の頃のパンパンなイメージ強いんですよ
ハッピー7の頃なんか随分痩せててスリムだったのにねぇ
で、書いてるうちにどんどん大きくなって、いつの間にかレジー・ベネットくらいになってしまいました
齋藤さんファンすいませぬ
- 312 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/22(木) 03:47
- >311 ハッピー7の頃なんか随分痩せててスリムだったのにねぇ
で、書いてるうちにどんどん大きくなって、いつの間にかレジー・ベネットくらいになってしまいました
夜中に加護しくワロタ でも同意。いかにも肉感的って感じで。
- 313 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/04/22(木) 19:58
- 同一人物です。すいません。こうゆうの、慣れてなくて・・・。
- 314 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:02
- 新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第七話
「サキがスケバンになる日」
天王洲高校正門前
放課後、帰ろうとするサキの携帯電話が鳴った。
「どういうことだ」
「え?」
電話の主は名乗りもせずに、いきなりそう言った。
「さ、齋藤さんですか?」
声からしてそれは女龍鬼連合の齋藤からだとサキは察した。
「私たちを騙したのか」
「何のことですか?」
「責任を持って止めさせると言って油断させておいたということか!」
電話の向こうで齋藤は声を荒げている。
「ちょっと待って下さい、私には何のことか……」
「今から言う場所に来い!
今度は騙すな、もし来なかったらお前の学校の生徒にも同じ目に合わせてやる!」
- 315 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:03
- 「わかりました、必ず行きますから」
電話の向こうの斎藤の声でサキは大体の内容を察した。
きっと杉村が女龍鬼達を襲ったのだ。
サキはすぐ側にいた、麻琴と里沙に言った。
「マコさん、里沙さん、杉村さんたちが勝手に女龍さんたちを襲ったみたいです」
「何だって!」
「何ですって!」
二人は同時に叫んだ。
「私、今から女龍さんたちの所に行ってきます。
マコさん、里沙さん、杉村さんたちを捕まえて状況を確認して下さい」
「わかった!」
「行きましょう、マコさん」
二人はそう言って走って行った。
サキは二人を見送ると、自分も齋藤が指定した場所に向かった。
廃工場跡の空き地。
バイクが数台止まった中央に斎藤が立っていた。
その周りに数名の少女がいる。
(女龍鬼連合の人たちだわ……)
サキは彼女達の姿に怯む事なく、堂々と近づいていった。
- 316 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:03
- 「ぶっ殺す!」
サキの顔を見るなり、いきなり大谷が飛び出してきた。
飛び込みざまに蹴りが入る。
サキはその蹴りを両腕でブロックする。
続いて村田が手にしたカードを投げた。
鋭い痛みがサキの頬をかすめる。
頬にマジックで描いたような赤い線が一筋、そこから血が滲み出す。
連続して柴田が飛び込んで来る。
サキは柴田の連続突きをなんとかさばく。
斎藤が地響きを立てて突進して来る。
ノースリーブの皮ジャンから剥き出しになった太い大きな肩の筋肉の塊が、まともにサキにぶつかる。
「ぐうぅっ」
両手でその巨体を受けとめたサキだったが、斎藤の体重のたっぷり乗ったタックルにはさすがに、1メートル以上押し戻される。
サキは腰を落とし何とかふんばる。
「よくも騙してくれたな!」
斎藤は怒りで上気している。
他の3人も同様だった。
斎藤はサキの胸元を掴むと軽々と持ち上げた。
「許さねえ!」
サキは抵抗することなく、黙ったまま女龍鬼達の攻撃を受けていた。
「何とか言ったらどうなんだい!」
- 317 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:03
- 斎藤はメガネの気弱な少女の風貌と、実際の強さと大きなギャプがあることを見抜いていた。
4人の連続攻撃、普通ならこのコンボで大抵の相手を倒してきた。
だがこの少女は4人の攻撃に耐えたばかりか、何のダメージも受けていないようにすら思われる。
(見かけに騙されて油断すれば、とんでもない事になる)
斎藤はそのまま地面に叩きつけるようにサキを投げ飛ばした。
かなり無理な体勢にもかかわらず、サキは器用に受身を取りダメージを最小限に押さえていた。
すぐに立ち上がり、構える。
(コイツ、効いてないのか?!)
再度、大谷の跳び蹴り。
間髪をいれずに柴田が飛び込み、連続突きを繰り出す。
サキは見事なさばきで、その突きを受け流す。
しかし、2人の攻撃を避けようと間合いを外せば、そこに村田のカードが飛んで来る。
逃げ様のない女龍鬼のコンボ技だ。
しかしサキはその攻撃にも耐えた。
「ちぃ、しぶといやつだねぇ」
1度ならず、2度までも4人のコンボ技を耐えきったサキに、齋藤は次第に苛立ちを感じ始めていた。
麻琴と里沙が顔面がボコボコになった杉村を連れてきたのは、丁度そんな真っ最中であった。
「サキさん!」
- 318 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:04
- サキが女龍鬼たちに取り囲まれ、攻撃を受けているのを見た里沙は激昂した。
里沙は走った。
麻琴も後に続く。
ビー玉の連射、里沙はジャンプで女龍鬼達の頭を軽々と越えると、闘いの真っ只中に飛び込む。
「サキさん!大丈夫ですか?」
「ええ」
「一人を相手にこんな大勢で闘うなんて、卑怯者め!」
麻琴が叫ぶ。
「大丈夫ですよ、マコさん私は……」
「サキさんがこんな目に合わされてるのに黙って見てられません、私達も加勢します!」
里沙はそう言うやいなや、すぐ側にいた大谷に飛び掛る。
麻琴もビー玉を放つ、村田がそれにカードで応酬する。
(無抵抗でいるつもりだったのに、これじゃ台無しだわ……)
仕方なくサキは腕のリストバンドを外した。
体の各所のウェイトもすばやく外す。
そのスキを逃さず柴田が飛び掛ってきた。
柴田の突きがサキの顔面を直撃する。しかしサキの姿は既にそこにはなかった。
(なっ!)
背後に殺気を感じた柴田が振り返る間もなく、サキはその背骨に手刀を叩き込んだ。
- 319 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:04
- 「うぐっ!」
衝撃で息ができなくなった柴田は、動けなくなる。
斎藤はそんなサキを黙って見ていなかった。
リストバンドを外した瞬間、その動きが加速しているのを見逃さなかった。
サキが柴田の背中に回りこむのと同時に、斎藤もサキの背後に回った。直後に、サキの身体を抱きしめる。
斎藤の太い腕が、ものすごい力でサキの身体をギリギリと締め上げた。
並みの男ならこの締め技でアバラの2、3本を折る事もできる、斎藤の必殺技「地獄の抱擁(ヘルハッグ)」
「うぐ……」
さすがのサキもその力の前に手も足も出ない。
「サキさん!」
里沙がサキのピンチに気がついた。
しかし、大谷がそれを阻む。
「どこを見てるんだよ、お前の相手は私だよ」
状況は麻琴も同じだった。
麻琴には村田が張り付いている。
だが、サキは斎藤に締められても一向に慌てていなかった。
静かに目を閉じ呼吸を整えた。
斎藤はそんなサキの態度に戸惑っていた、こんな状況ならアバラが悲鳴をあげているはず。
だが、腕の中にいる少女は落ちついて、苦しむ様子も無い。
(こいつ、もう諦めているのか?)
斎藤がそう思った時だった。
- 320 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:05
- 「ふんっ!」
気合一閃、斎藤の腕の中のサキの体が一瞬大きくなった。
サキの細い腕にみるみる力が漲って来る。
斎藤は両腕に更に力を込めた。
しかしサキは全く力負けしていない。じわじわとその腕が開いていく。
「な、何だと!」
斎藤は更に力を込める、二人の力比べ。
その姿に里沙も麻琴も大谷も村田も柴田も、そして他の女龍鬼のメンバー達も息を飲んだ。
あの斎藤のパワーを相手に力比べをする者がいるだなんて、彼女達には信じられない光景だった。
「ま、まさか……まさか……!」
周囲が見守る中、斎藤の腕は徐々に開いていく。
サキは完全に斎藤の抱擁から逃れるまでその腕を開けると、右足を思いっきり前に突き出した。
反動をつけて背後の斎藤に蹴りを喰らわす。
「うっ…」
斎藤の腕の力が一瞬弱まる。
サキはその隙に斎藤から身を離した。
皆はその光景に唖然となっていた。
斎藤はよろよろと退がると、しりもちをついた。
慌てて、立ち上がろうとする斎藤の目の前に、サキは右手を差し出していた。
「え?」
- 321 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:05
- 斎藤の目を見つめるサキはニコリと微笑んだ。
その目を見た瞬間、斎藤はもう立ち上がる気力を失っていた。
(負けた……)
斎藤はそう思った。
完敗だった。
ただ、必殺技を破られただけでない。
自分はこの目の前にいる少女に完全に力負けしていた。
斎藤は腹をくくった。
差し出された右手を掴んで立ち上がった。
「みんな聞け!」
斎藤は叫んだ。
言われなくてもそこにいる皆は斎藤の動きに注目していた。
闘っていた最中の大谷や村田でさえ、その手を止めていたくらいだった。
「今日から我々女龍鬼連合は、この麻宮サキの軍門に入ることにする。
文句のある者は今ここで申し出ろ!」
彼女の言葉に異議を唱える物など誰もいなかった。
斎藤の「地獄の抱擁(ヘルハッグ)」から逃れる力を持った者に逆らおうはずもなかった。
「ちょっと、待って下さい」
しかし当の本人のサキが慌てて斎藤を止める。
「私そんなつもりで闘ったんじゃないんです。
本当に止めて下さい。
わたしは東京を支配しようとか、そんなつもりは全然ないんですから……」
- 322 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:06
- 「いいんだ」
斎藤はサキを制した。
「私とあんたは闘った。私はあんたに完全に負けた。
それが全てだ」
「じゃあ、お友達ってことで」
サキはそう言って再度右手を出した。
「友達?」
「そう、親分とか子分だとかそういうのじゃなくて、私達のお友達になってください」
「……」
斎藤は半ば納得していない様だったが、サキの差し出した右手と握手をした。
「よろしくおねがいします」
サキはにっこり微笑んだ。
その笑顔に斎藤もつられて微笑を返した。
殺伐とした戦いの雰囲気から一変してあたりは和やかな空気に包まれた。
しかしその和やかな雰囲気から、こっそり逃れようとする男がいた。
杉村だった。
みんなに気付かれないように、忍び足でその場を立ち去ろうとした杉村に気がついたのは麻琴だった。
「何処に行くんだい!」
- 323 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:06
- シュッ
麻琴の右腕がうなり、放たれたビー玉が一直線に杉村の後頭部を直撃した。
「ぐえっ!」
杉村は激痛で、その場に派手にひっくり返った。
麻琴は杉村のドレッドヘアを掴むと、斎藤たちの前に引きずり出した。
「こいつが全部仕組んだ事だったんだ!
女龍鬼を怒らせて、サキと闘わせお互いを潰してしまうつもりだったのさ。
女龍鬼のみんなには迷惑をかけた。こいつを思う存分使ってくれ」
数日後、バイクショップ”フリージア”には丸刈りにされた杉村が立っていた。
杉村のグループに続いて、女龍鬼連合を傘下とした”麻宮サキのウワサ”は単なるウワサでは無くなっていた。
********************
「そう言えば、めぐのタロットの占いは外れたみたいだね」
数日後、いつもの4人でバイクショップ”フリージア”に向かう途中で、柴田あゆみが思い出したように言った。
「”死神”なんて不吉なカードを出すから、どんな悪い事が起きるかと心配してたんだ」
「……」
柴田の言葉に、占った等の本人の村田は眉をひそめた。
- 324 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:07
- 「おかしいんだ、あれから何度か占ってみた。
でも、結局最後は”死神”で終わるのよ」
「じゃあまだこれからとんでもない不幸が訪れるってこと?」
大谷が訊いた。
「それはわからない、でも何かある……そんな気がする」
村田のその予感は不幸にも的中した。
しばらく歩いた後、斎藤は喉が乾いてジュースの自動販売機の前で立ち止まった。
「あ、ジュース買って行くから、先に行ってて」
「うん、じゃあ先に行ってるよ」
3人は齋藤を残して、店に向かった。
斎藤が買い物が済んで後を追いかけた。
すぐそこの角を曲がった時だった。
夕暮れの薄暗闇に中に、何やら異様な光景があった。
そこには血まみれの少女が一人立っていた。
少女の足元にも血が広がっている。
斎藤は自分の目を疑った。
その血は、少女の足元に横たわる3人の体から流れていたものだったからだ。
その3人はついさっき別れたばかりの、村田、大谷、柴田の3人だった。
少女は白い乗馬服姿だった。その服が血で真っ赤に染まっている。
「こいつらを連れていきな!」
- 325 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:07
- 少女が言うと、何処からか黒い影が3つ飛び出した。
その黒い影は横たわる3人の身体を抱えて運び出した。
「お前らあ、何をやってる!」
斎藤は怒号を上げた。
血まみれの少女に向かって突進する。
しかし、次の瞬間少女の放った乗馬ムチが斎藤の目元をかすめた。
「うっ!」
思わず目を瞑った斎藤に、少女は容赦なくブーツで踏みつけにした。
「こいつも連れて行くよ!」
少女はそう言って斎藤を思いっきり蹴り上げた。
斎藤はその蹴りを耐えると再度その少女に向かう。
「ち、しぶといね」
少女は容赦なく手にしたムチを打ち据える。
少女を掴もうと斎藤は負けじと腕を伸ばした。
しかし、さっきの影のような少女達がそれを阻んだ。
斎藤はそれにもかまわず、影の少女3人をまとめてなぎ倒す。
血まみれの少女は斎藤の腹を思いっきり蹴った。
「うぐっ!」
- 326 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:08
- その場に膝をつく。
更に影の少女の一人の放った蹴りが、齋藤の後頭部に炸裂した。
斎藤は気を失いかけながら、それでも振り回す両腕の動きを止めなかった。
「時間がない、置いていけ!」
血まみれの少女は叫んだ。
「ま、待て……」
霞んで行く視界の中で斎藤は必死にもがき続けるしかなかった。
********************
――続く――
- 327 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/03(月) 01:09
- GW前までに更新とか言っときながら、今日になってしまいますた
すいませぬ
- 328 名前:みっくす 投稿日:2004/05/03(月) 08:24
- 更新おつかれさまです。
タロットの占いはこういうことだったんですね。
どうなっていくんだろう。
次回も楽しみにしてます。
- 329 名前:名無しの一読者 投稿日:2004/05/03(月) 16:32
- 美貴様登場ですね。
つづき待ってます。
- 330 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/03(月) 20:47
- ついに続ききましたね。待ってましたよぉ!!
ありがとうございます!!!
意外な結果でしたね。
- 331 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 03:50
- ********************
「そう言えば、最近そんな拉致事件が増えてるって、ニュースでやってたよ」
斎藤の話を聞きながら、麻琴は言った。
「守れなかったんだ……あいつらを守れなかったんだ」
斎藤は柄にもなくサキ達三人の前で泣きじゃくっていた。
「心配なんだ、あいつらケガをしてる」
斎藤の言う通り、現場には血の跡が残っている。
死につながるような大量出血という感じではないが、かなりの重傷を負っている事は想像できた。
麻琴の言う通り、最近頻発している若い女性の連続拉致事件。
どの現場にもこれと同じような凄惨な血の跡があり犯人の残忍さを物語っていた。
警官達が現場を物々しく捜査している。
集まってきた野次馬。
サキは人ごみの中に五代陽子の姿を見つけた。
陽子もサキたちの姿を見て、数名の刑事と共に近付いてきた。
「あなたが、目撃者ね?」
陽子は斎藤瞳に訊いた。
「はい……」
目撃者と言う言葉に、陽子の側にいた刑事達は色めきたった。
- 332 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 03:50
- 「君は犯人を見たんだね?」
刑事の一人が念を押すように訊いた。
「はい……」
連続して起きている拉致事件だったが、どういう訳か目撃証言が全くといっていいほど無かった。
犯人は、拉致しようとする女性に斬りつけるか何かでケガを負わせている。
現場に必ずといっていいほど残っている、大量の血の跡。
それだけ争ったのであればそれなりの痕跡も残るし、近くに居合わせた人物が争いに気がつかないはずがない。
ところが、これまで数件起こっている拉致事件について、犯人の手がかりは全くと言っていいほどなかった。
拉致されるのは一人の場合もあれば数名の場合もある。
だが共通して言える事は、恐ろしいほどの手際の良さで、拉致を遂行しているということ。
これだけの犯行の痕跡を、現場に残された血の跡以外一切残していないのだ。
もし血の後が無ければ、行方不明になったことさえ気付かれる事が無かったかもしれない。
残忍な犯行とは裏腹に、警察も犯人につながる手がかりがなくて困っている状態だった。
斎藤が初めての目撃証言になる。
「犯人は、どんな人物でしたか?」
陽子は再度訊いた。
「犯人は17、8歳くらいの女でした」
「女?」
「はい、白い乗馬服を着ていて、その服はあの娘たちの血で赤く染まっていました」
(!?)
- 333 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 03:51
- 斎藤の証言にサキ達に思い当たる人物がいた。
「私は必死で闘いましたが、影から同じ黒い乗馬服を来た若い女が3人現れて……」
(間違いない)
サキ達はそう思った.
犯人は藤本美貴だ。
村田、大谷、柴田の3人は普通の少女ではない。
麻琴や里沙達とも互角に渡り合えるほどの実力がある。
そんな3人を斎藤と離れていたわずかな間で倒せる者など、そうそういるものではない。
「神狼会」を取り戻した藤本美貴は、いったい何をやろうとしているのだろうか?
「神狼会がかかわっている事件だとしたら、私も捜査に協力します」
サキは陽子に言った。
********************
斎藤の女子高生姿の変装を見て、3人は思わず笑い出しそうになった。
「齋藤さん、その格好はやっぱり無理があるんじゃないですか?」
「笑うなよ……」
恥ずかしそうに下を向く。
麻琴が用意したセーラー服はかなり大きなサイズだったが、大柄な齋藤の身体を包むには少し小さすぎる様だった。
その上金髪に派手な化粧、どう見てもホステスか風俗嬢にしか見えなかった。
でも斎藤は真剣だった。
- 334 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 03:51
- 村田、大谷、柴田の3人が拉致された事に、齋藤は激しい自己嫌悪に陥っていた。
ジュースを買うホンの一瞬の違いで、3人が危険な目に会っている。
何とかしなければ……その思いは誰よりも強かった。
サキは女龍鬼連合のメンバーは勿論の事、杉村のグループをはじめとする都内の主だったチーマー達にも声をかけ、協力を依頼していた。
もし、怪しい車、そして乗馬服姿の少女それらを見かけたら、サキ達の元に即座に情報が入る事になっていた。
警察にも負けない独自の情報網だ。
実際、それらしい姿の人物を、拉致事件のあった現場付近で見かけた事があるという情報も寄せられており、なかなかもって以外と頼りになりそうだった。
そして、サキ達自身も都内の次の拉致事件が起きそうな場所をパトロールして、藤本美貴を捕らえようという作戦だった。
4人常に一緒に行動し、拉致されそうな人通りの少ない場所を探して歩いた。
町を彷徨うおかしな4人組……特におかしいのは齋藤一人だけだったが……は、上手い具合に美貴に出会えないまま数日が過ぎた。
そんなある日。
いつものように町を歩く4人。
突然、麻琴の携帯が鳴った。
「よし、わかった。すぐに向かう」
「どうしたのマコさん?」
サキは訊いた。
「杉村んとこのメンバーの一人からの連絡だ。
以前見た怪しいワゴン車と同じ車を××方面に向かって走っているのを見たらしい。
ここからなら、待ち伏せできるかもしれない。
すぐに行こう」
- 335 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 03:52
- 「わかったわ」
4人は情報のあった場所に向かった。
人のいない公園。
近づく麻琴が急に立ち止まった。
「どうしたんですか?」
サキが訊いた。
「血の匂いがする……」
「え?」
麻琴の言葉に、里沙も斎藤もあたりを見回す。
車が数台停まっている。
それ以外におかしな風はない。
だが、麻琴は走り出した。
停まった車の陰に数人の人影があった。
人影の足元に血が流れている。
そしてその人影の人物に麻琴は見覚えがあった。
(間違いない、あの女だ!)
- 336 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 03:52
- 麻琴は咄嗟にビー玉を構えて放つ。
サキたちが後から追いかけてきた。
闘いは一言の言葉もなく始まった。
美貴から3つの影が飛び出した。
黒い乗馬服、エリ、レイナ、サユミの3人だった。
麻琴はサユミに飛びかかった。
里沙はレイナに、斎藤はエリに飛びかかる。
サキは美貴と対峙していた。
「お前が藤本美貴だな!」
足元に少女が一人倒れていた。
美貴は血まみれのナイフを舐め恍惚の表情を浮かべていた。
いつか見た夢に出てきた邪悪な少女。
美貴はそのイメージそのままだった。
美貴は何も言わずに銃を構えた。
「!?」
サキが避ける間も与えず、美貴は引き金を引いていた。
銃から放たれたのは弾ではなく煙幕のようなものだった。
一瞬にして辺りが煙に包まれる。
「しまった!」
- 337 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 03:53
- その瞬間、サキの背中に痛みが走った。
何かに斬りつけられたような痛み。
美貴のナイフだった。
煙の中で3人の黒い少女達も手際よく麻琴たちを追い詰めていた。
里沙は煙を避けるように空中に跳んだ。
しかし何者かに足を掴まれ地面にたたきつけられてしまった。
麻琴も必死に相手の動きを探ろうと五感を澄ます。
突然、背後に大きな影。
その影の振り回す腕が麻琴を打ちのめした。
斎藤だった。
別の影が銃を構えて、斎藤めがけて撃った。
斎藤の肩に注射針のついた弾が刺さっていた。麻酔銃だった。
煙が晴れるまではほんの10数秒だったが、サキたちは見事な美貴たちの連携プレーの前に手も足も出なかった。
美貴は倒れたサキの頭を踏みつけにした。
「こいつらも連れて行くよ!」
影の3人組が麻琴たちを押さえつけにかかる。
里沙は麻琴の上に乗っかるサユミに体当たりをした。
大きく跳躍して、美貴に飛び蹴りを喰らわす。
しかし美貴は冷静にムチを取り出して、里沙の蹴りをまるで羽虫でも払うように払った。
麻琴は立ち上がって、里沙に駆け寄ろうとした。
「マコさん逃げて!」
里沙は叫んだ。
立ち上がろうとしたサキをレイナは麻酔銃で撃った。
- 338 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 03:53
- 「うっ」
一瞬でサキは再度倒れた。
その銃が今度は麻琴に向けられていた。
麻琴はビー玉を放った。
レイナはそれを避け、避ける際に里沙を撃っていた。
麻琴はもう一度ビー玉を放つ。
(みんな、すまない、必ず助けてやるからな)
麻琴は連続でビー玉を撃ちながらその場を離れた。
走りながら麻琴は泣いていた。
(手も足も出なかった……)
こんな思いをしたのは初めてだった。
まるで子供と大人のケンカだった。
サキも里沙も斎藤も多分一人一人の力はあの中の誰よりもあっただろう。
しかしその力を何一つ出せないまま、あっさりとやられてしまった。
完敗だった。
走り去る麻琴を追いかけようとした、レイナを美貴は制した。
「一人くらい放っておけ、さっさとこいつらを連れて行きな!」
車から救急隊員風の男達が数人現われ、手際よくサキたちの身体を担架に乗せた。
そして、何事も無かったかの様に、車は静かに発射した。
ほんの数分の出来事だった。
- 339 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 03:53
- 麻琴はまるで幼稚園児のように泣きじゃくっていた。
泣きながら携帯電話を握り締めていた。
「母さん……助けて……みんなが、みんなが捕まっちまった……
どうしたらいいのかわかんないんだ、助けて……母さん」
麻琴の母、京子は何も言わずに黙って電話を切ると、すぐに別の人物に電話をかけた。
「もしもし、サキか?
急な電話で悪いんだけど、実は折り入って頼みたい事があるんだ……」
********************
――続く――
- 340 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 04:02
- 次回で7話終るんですが、なんか第7話は結構短くなってしまった……
という訳で、次回乞うご期待!
- 341 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/05/09(日) 07:55
- お久しぶりです。
展開が面白くなってきましたね。マコ→お京→サキ=そろ(ry
次回の更新楽しみにしております。
- 342 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/09(日) 19:30
- >338
>そして、何事も無かったかの様に、車は静かに発射した。
→そして、何事も無かったかの様に、車は静かに発車した。
校正ミスでしたスマソ
- 343 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/09(日) 21:13
- いつのまにか更新されていましたね。
いつでも待ってますのでがんばってください!
まぁ、気長にね。
- 344 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/14(金) 02:18
-
「いつまでもメソメソ泣いてんじゃないよ!このタコ!」
京子は泣きじゃくる娘を叱りつけた。
「うん……」
口ではそう言っていたが、ひゃくり上げるのはなかなか止められそうになかった。
「お京、これはうちら警察の責任や。
マコちゃんは悪うない」
五代陽子はそんな二人を慰めた。
「サキ、すまない……」
京子は頭を下げた。
小川麻琴の母親、元ビー玉のお京こと小川京子(旧姓中村京子)は、今も五代陽子のことを”サキ”と呼んでいる。
京子だけでなく、天王洲学園高校の理事長である矢島雪乃も同様だ。
二人とも、”麻宮サキ”の本名が”五代陽子”だろうが”早乙女志織”だろうが、やはり最初に呼んだ”サキ”という呼び方を変えられるものではなかった。
京子から連絡をもらった陽子は、サキ(この場合の”サキ”は”紺野あさ美”のこと)のマンションに二人を呼んだ。
連続して起きている拉致事件の被害者は日に日に増え、その行方は依然として不明のままだった。
被害者は必ずといっていいほど何らかしらの怪我を負っている。
サキに限らず、それまでの被害者の安否も心配だった。
「すぐに行きましょう、もしもの事があったら大変だわ」
- 345 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/14(金) 02:19
- 「五代さん、連れて行って下さい。里沙は自分が身代わりになって私を逃がしてくれたんだ。
絶対助ける、そう約束したんだ」
「サキ、すまない。
こいつのために力を貸してやってくれ」
京子は娘の為に再度深く頭を下げた。
「母さんは?」
「バカやろう、自分の友達(ダチ)のことだろ、自分でちゃんとケツをふくんだ!いいね!」
「母さん……わかった……」
ケンカと揉め事が大好きな、ビー玉のお京がこんな事件に首を突っ込みたくないはずはあろうなかった。
むしろ誰よりも自分が行きたい気持が大きいはずだ。
しかしそれでは娘の為にならない
”母親”としての小川京子は自分の気持を堪え、娘の成長の為に全てを陽子に委ねたのだった。
「お京も大人になったんやね」
「まあな……」
京子は陽子にそう言われて、ちょっと照れくさそうに鼻をかいた。
陽子も二人の微笑ましい母娘愛に心打たれ、胸が熱くなっているのを感じていた。
「サキの力になれるかどうかわからないが、足手まといにならないくらいには仕込んできたつもりだ。
どうかこいつを使ってやってくれ」
「マコちゃんがいれば、お京と一緒に戦ってるようで心強い。
大丈夫、あの娘達は必ず助けるよって」
- 346 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/14(金) 02:20
- 「そう言ってくれると助かる」
京子に見送られて、陽子と麻琴はマンションの前に止めてあるBMWに向かった。
不意に陽子の動きが止まる。
「どうしたんですか?」
麻琴が訊いた。
「ううん、何でもないわ」
そう言って、陽子は車のドアを開けた。
そして車の中には入らずに、誰もいないはずの後部座席に向かって声をかけた。
「そんな気配がわかるようじゃ任務失格よ、忍者さん」
陽子の言葉で、無人の後部座席の影がゆらりと動いた。
その影のもやもやはやがて人間の形に固まると、一人の女性の姿に変わった。
「ちぇ、バレてたんですか」
その影の正体は風間唯だった。
「間抜けな忍者さんはこんなところで何をしてたの?」
「いえね、なんだか面白そうな話が聞こえてきたんで、ちょっと参加させてもらおうかなって」
- 347 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/14(金) 02:20
- 唯はいたずらっぽい笑顔を見せた。
その笑顔を見たとき、陽子はふと昔の事を思い出した。
あれは確か服部という男が企てる陰謀を阻止する為、地獄城という学園要塞に向かう最中だった。
敵の罠にはまり、危機に陥った彼女達の前に”究極のヨーヨー”を届けに現れたのが、まだ3代目を襲名して間もない風間唯だった。
技も能力もまだ未熟で、随分危なっかしい後輩だったが、でも誰よりも心強い突然の助っ人の登場だった。
「もう……」
陽子はため息混じりに腰に手を当てた。
しかし、その口調は決して怒っている風ではなかった。
「まあいいわ、丁度あなたにも助っ人を頼もうかと思ったところだから」
「でしょ?
じゃあ、善は急げ!
ぼやぼやして、ここに私たちがいる事を由真姉に知られたら大変だし」
目の前にある喫茶”リリアン”には唯の姉由真がいる。
サキ(あさ美)に何かあったと知ったら、保護者代わりに面倒を見ている由真も自分も行くと言うはずだ。
だが、唯は由真にはできるだけ危険な目にあわせたくなかった。
由真には離婚した夫との間に6歳の男の子”小源太”がいる。
その子の事を思うと、由真には何も知らせずに自分達だけで行く方が懸命だと考えていた。
「サキたちのいる場所はわかるんですか?」
麻琴は心配そうに訊いた。
- 348 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/14(金) 02:21
- 「それは大丈夫。
実はね、今サキの持ってるヨーヨーには発信機がついてるの。
ヨーヨーを作る専門の職人がいるんだけれど、彼女はヨーヨーに色々と仕掛けをしててね。
いくつか機能を盛り込んであるのよ。
発信電波は携帯電話のエリア電波を利用したGPSシステムに組み込まれているから、携帯電話の圏内にいれば日本中の何処にいても居場所がわかるようになっているのよ」
そう言って陽子は、車のコンソールにあるナビシステムを起動させた。
元々このシステムは、7代目の為のヨーヨーを発注した際、金属加工職人である市井紗耶香の発案で取り付けられたものだ。
5代目に引き続き、6代目も行方不明になり、更に7代目の”スケバン刑事”を任命するにあたり、彼女にも同様の危険が訪れないとも限らない。
それを見越して作られたシステムだった。
こんなシステムは使わないのに越した事はないのだが、残念ながら役に立つ日が来てしまったようだ。
スイッチを入れると、いたって普通のカーナビの画面が立ち上がる。
地図は関東近県を映している。
赤い点が一つ点滅している。
陽子は手にしたコントローラーで画面の縮尺を大きくした。
赤い点は東京近郊の地点を示していた。
「ここは昔、網場総合病院があったところね……今は……ウルフ外国語専門学校建設予定地になってる」
地図は警視庁のホストコンピューターと連動して、検索した地点の詳細な情報を引き出す事ができる。
「神狼会と関連する企業が所有者みたい、間違いないわね。
あの娘たちはきっとここにいるわ」
「サキたちは大丈夫でしょうか?」
心配気に麻琴は訊いた。
- 349 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/14(金) 02:21
- 「大丈夫、私達スケバン刑事はみんなこんな危険をいくつも乗り越えてきたのよ。
彼女が簡単にやられるような弱い娘じゃない事は、小川さんも知ってるでしょ?
彼女を信じてあげなさい」
「はい」
唯の言葉に麻琴は力強くうなずいた。
「娘に何かあったんですか?」
不意に声がした。
3人が声のした方を見ると、陽子の黒いBMWの前に、いつの間にか女性が一人立っていた。
「あ、あなたは……」
その女性の顔を見た陽子は、それ以上言葉が出なかった。
彼女の顔を知っているのは、3人の中で陽子ただ一人だ。
しかし、そこにいる3人全てが彼女の事を知っている。
彼女がここにいる3人の人生に大きく影響した人物だったからだ。
そこに立っていたのは、7代目スケバン刑事、紺野あさ美の母親、紺野サキ。
そう、初代スケバン刑事……麻宮サキだった。
- 350 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/14(金) 02:21
- 新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第七話
「サキがスケバンになる日」
終わり
次回予告
陽子と唯の前に現れたのは、初代スケバン刑事麻宮サキだった。
彼女は陽子、唯、麻琴の3人と共に娘の救出に向かう。
一方、藤本美貴に捕まったサキたちは、新しい神狼会のアジトの地下室に閉じ込められていた。
何とか脱出しようと試みるサキたちだったが、そこに現れたのは……
次回、新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第八話
「拳の約束」
乞うご期待
「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」
- 351 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/14(金) 02:27
- ここまで読んで下さった皆様
すいません、自分はこのシーンが書きたくってここまで長々と引っ張ってきました
幼少の頃からの夢の3ショットです
多分この3人が揃った事って今まで無かったですよね
ぜひ実現していただきたいものです
祝!全話DVD化!
ジャケットめっちゃかっけー
ほしーけど金がねー
- 352 名前:みっくす 投稿日:2004/05/14(金) 04:05
- 更新お疲れ様です。
スケ番世代にはたまらない展開で。
次回も楽しみにしてます。
- 353 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/05/14(金) 07:39
- 来たー!!!!!!!!揃い踏み
展開が展開だけに、揃い踏みは予想できましたが、ここできましたか
DVD自分も欲しい(爆)
次回の更新楽しみにしております。
- 354 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/14(金) 20:27
- おぉ!!ついに初代サキの登場ですか!!
作者様、夢の3ショットおめでとうございます。
次回の更新楽しみにしてます!!
とゆうわけで待ってます。更新のスピード上がりましたね。
がんばってくださいねーー!!
- 355 名前:牧令 投稿日:2004/05/15(土) 09:35
- ついに揃いましたね。
やっぱり、揃い踏みはスケバン者の夢です。俺も自分で書いたときは一人で感動してました(笑)。
今後も楽しみにしてます。
DVD 注文済。
- 356 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/24(月) 04:18
- 第八話
「拳の約束」
刺されるような鋭い痛みを腕に感じて、サキは目を覚ました。
だが、その意思に反して強烈な脱力感が瞼を開こうとする命令を拒んでいた。
(力が出ない……)
自分の身に危険が迫っている……さっきから耳元で警報が鳴りつづけているのにもかかわらず、身体のあらゆる筋肉は脳からの命令を全く実行する気配が無かった。
それどころか、その命令を出す”意識”ですら朦朧としている。
今のサキは本能で危険を感じているだけの肉の塊でしかなかった。
呼吸を整え、意識を集中する。
サキの身体は、ストレッチャーのようなものに寝かされていた。
周りにも同じようなストレッチャーが並んでいるのが見える。
白衣を着た男が数人、別のストレッチャーのまわりに立っていた。
どうやらそこに寝かされているのは里沙のようだった。
白衣の男達は手際よく機械から伸びたチューブを里沙に取り付けている。
同じようなチューブが自分の腕にもつながれていた。
透明なそのチューブには赤い液体が流れている。
それを見たサキは力が出ない理由を察した。
(血を抜かれている……)
- 357 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/24(月) 04:18
- 冷蔵庫を一回り大きくしたようなその機械は、低い唸り声をあげながら周りにいる数名の腕から血を採取していた。
目が霞む。
一体自分はどれだけの血を抜かれているのだろう?
献血で抜かれる量くらいではこんな脱力感になることはない。
今ここにいる白衣の連中は、後でジュースをもらって体力が回復する程度の量くらいではきっと満足しないのだろう。
もしかすると全身の血を一滴残らず抜き続けるかもしれない。
サキは何とか脱出しようと試みた。
だが体がいう事を聞かない。
血を抜かれて体力が落ちている上に、体がベルトで固定されていたのだ。
強烈な眠気が襲う。
(寝ちゃだめだ……)
意識が遠のく。
(寝ちゃだめだ……)
サキの意思に反して、重たくなった瞼の上に心地よい闇の誘惑が広がっていた。
(だめだ……)
闇からの誘惑はサキの体を眠りの沼へ引きずり込む。
そしてサキは再度意識を失った。
********************
- 358 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/24(月) 04:19
- ********************
目の前にあの”麻宮サキ”が立っている。
予期しなかった出来事に、陽子は声もなく立ち尽くしていた。
唯と麻琴は陽子の態度を見て、この女性が誰なのかを察した。
(もしかしてこの人が、サキのお母さん……?)
麻琴はその女性の顔をまじまじと見つめた。
陽子が唯の元を再度訪れたのは、もう半年ほど前になる。
一見スポーツセンターのような警視庁の特殊教練課の建物は、都内某所にあった。
中に入るとむっとするような汗の匂い。
建物の中央は7〜8階分に相当する吹き抜けになっており、壁を登る訓練などができるようになっている。
トレーニング用のジムは勿論、プールや体育館、宿泊施設も充実し警察関係のレクレーションセンターのような趣がある。
だが、この建物の存在を知る一部の警官の間では、ここのことを「鬼の棲家」と揶揄していた。
その凄惨なまでの地獄の訓練に、体力には自信がある警官ですら根を上げるものも多い。
その中でも最も恐れられている「鬼教官」が風間唯だった。
「風間教官、頼みたい事があるの。
また訓練して欲しい娘が一人いる」
陽子は唯に単刀直入に切り出した。
彼女に対しては気遣いや、回りくどい言い方をしない方がすっと事が運ぶ。
陽子も信頼の置ける人物の一人だ。
- 359 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/24(月) 04:19
- 「2代目、大丈夫なんですか?
ひとみも行方不明になったばかりだと言うのに……」
直接ではないが、2人とも”6代目スケバン刑事”として任命した吉澤ひとみが潜入先で行方不明になっていることを聞かされていた。
先に行方不明になった安倍なつみと吉澤ひとみには大きな共通点があった。
それは、特別公安部が最もその存在を恐れる「神狼会」の本部に関する情報を手にした直後に、二人とも連絡が取れなくなっていた事だった。
「神狼会」本部に潜入した事で、彼女たちの身に何かしらの危険な状況が訪れたというのは間違いなかった。
相変わらず、内藤はなつみとひとみが決死の潜入捜査で得られた情報を元に何件かの事件を解決し、その手柄を特別公安部の実績としていた。
そして、肝心の行方不明になった2人に対しては「警察とは無関係の行方不明者」として処理していた。
たとえ”それを覚悟の上の危険な任務”であるとはいえ、そのやり口には二人ともどうしても納得がいかなかった。
陽子も唯も直接行って、二人の行方を探したいという気持は日に日に大きくなっていた。
内藤さえ邪魔しなければすぐにでもそれを実行に移せるのに、二人は常々そう考えていた。
陽子はなんとか行方不明になった二人の行方を捜査できるように、上層部に何度もかけあっていた。
上層部は陽子のしつこさに負け、彼女を納得させる為、陽子を特別公安部への移動を任命した。
こうして陽子は、特別公安部の捜査員として、2人の行方について正式に捜査できる立場になったのだ。
かつての”闇の機関”のエージェントたちは誰もが、自分の身を挺してまで彼女達に協力してくれていた。
唯も城戸礼亜に何度も命を救われた思い出がある。
そして、彼女は唯を守る為に命と引き換えにした。
唯はひとみに対して同じようにしてやれなかった自分が悔しかった。
ひとみの安否はわからないが、もし命にかかわるような状況だったら今度は自分が身を挺してひとみを助けなければ、礼亜に対して申し訳が立たない。
唯はそう考えていた。
「うちも今度は自分で乗り込んでいかないとどうしようもないと思とった。
でも、その娘を見て考えが変わったんよ」
- 360 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/24(月) 04:19
- 「誰なんです?その娘って」
唯は大きな瞳をさらに開いて訊いた。
「実は、神狼会に関わってるんじゃないかと思われる一連の行方不明事件があるの。
脳外科医、心理学者、催眠術師……
色々とその行方を追ってるうちに、ある人物の行方不明事件に突き当たったの。
北海道総合医科大学で優秀な脳外科医だった紺野洋史医師。
一連の行方不明事件の恐らく最初の犠牲者ではないかと思われる人物なの。
行方不明になる直前、彼をある人物が尋ねている。
目撃情報から恐らくその人物は、上府論党の山崎……
彼の行方不明に神狼会が関わってるのは間違いないようなの。
私は彼についていろいろ調べてみた
紺野医師には奥さんと娘が一人いる。
聞いた話では、その奥さんとは”火災事故現場で大火傷を負っていたのを通りがかった彼が助けたのが縁”で結ばれたとか。
奥さんの名前は……”サキ”っていうの」
「まさか……?」
唯の脳裏に暗闇指令が語った言葉が甦った。
『一度な、サキから連絡をもらった
何処に住んでおるかは言わなかったが、結婚して子供もいると言っていた』
- 361 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/24(月) 04:20
- 「そう、そのまさかなの。
私は暗闇指令に頼んで”初代”の写真を手に入れて、紺野医師の家に行ってみた。
写真から感じた印象とは随分違っていたけど、たしかに彼女は”初代”に間違いなかった。
”初代”には娘が一人いるの。
驚いたわ、まだ中学3年生だけど、北海道の女子では敵なしと言われるくらいの空手の選手なの」
「じゃあ、さっき言った”鍛えて欲しい娘”って?」
「今度、”初代”に会いに行こうと思うちょる。
紺野医師の行方不明も何やら深い訳がありそうな気がする。
一連の事件の解決に”初代”の血を引く才能を使こうてみたい……そう思うたんよ」
「いいなあ、私も”初代”にはぜひ会ってみたい。
ねえ、どんな人だったんです?」
唯も陽子と同じように”初代”に対して憧れと尊敬の念を抱きつづけていた。
その気持は”初代”が実はまだ生きていると暗闇指令より聞かされて後、さらに大きく膨らんでいた。
陽子は紺野サキが麻宮サキと同一人物であるのかどうかを確かめる為、数日近くで張り込んでみた。
写真の麻宮サキと紺野サキとは、20年近い年月の隔たりがあるとはいえ、ほぼ間違いが無いようだった。
しかし、陽子が長年抱きつづけていた”初代”に対するイメージと、紺野サキとのギャップに戸惑いを感じずにはいられなかった。
遠目で観察した紺野サキは何処から見ても、ごくごく普通の30代半ばの主婦だった。
実年齢とは多少若く見られるくらいで、これといって目立った特長も無い。
かつて日本を牛耳ろうとした巨悪に、敢然と立ち向かった戦士であったという痕跡を微塵も感じなかった。
彼女に声をかけて確かめてみたい……そんな行動に出るのを陽子は躊躇っていた。
それを阻むような雰囲気が彼女にはあった。
伝説の”麻宮サキ”はひと睨みで悪人を震え上がらせた強い女性だった、しかしそこにいる女性の目は暗く悲しい目をしていた。
その悲しい目はまるで「私にはもう何もかまわないで」と言っているかのようだった。
そんな彼女の事を唯に伝えるべきなのかどうか、陽子は少し躊躇いがあった。
- 362 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/24(月) 04:21
- 「……ちょっと想像していたのと、印象は違ったけど……」
それだけ言って陽子は言葉を濁した。
「ともかくその娘……あさ美って言うんだけど……ものすごく強いわよ。
あなたも見たら驚くと思う」
********************
「娘に何かあったんですか?」
彼女はもう一度訊いた。
「先輩、これは私達警察の管轄の事件です。
申し訳ないですが、一般の市民に詳細を教える事はできないんです」
陽子がそう言ったと同時に、サキは左腕を振り下ろした。
彼女のその手から、一陣の風が巻き起こり陽子と唯の間をすり抜けた。
風は二人の間で頬を切り裂かんばかりの疾風となって通り過ぎると、また彼女の手元に戻っていった。
疾風は彼女の手の中でうねりを上げながら銀色の鈍い光を放つ塊に姿を変えた。
サキは左手に持つその塊をグイッと3人に見せた。
赤い同心円の描かれたヨーヨー
その片面が開き、中から桜の代紋が現れた。
「この代紋は”スケバン刑事”の証。
このヨ-ヨ-がある限り、スケバン刑事麻宮サキ。
それがこの手の中にある以上、わたしはまだその任は解かれていないんじゃないかしら?」
- 363 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/24(月) 04:21
- その目を見た陽子は背中に鳥肌が立った。
勿論、スケバン刑事の任以前に、そのシステムを統括していた”闇の機関”自体が解散してしまっている。
彼女が警察と何ら関係のない立場である事は明白なのだが、そんな理屈をねじ伏せてしまうだけの迫力が彼女の目にあった。
陽子はその迫力を感じて安堵した。
(よかったやっぱり、”初代”はすごい女性(ひと)だったんだ……)
「先輩、わかりました。
サキ……いえ、あさ美は今、敵の手に捕まっています。
彼女だけでなく、彼女に協力してくれている仲間も一緒です
危険な状態かもしれません。今から助けに行こうとしていたところです。
先輩もいてくだされば助かります」
黒いBMWは4人を乗せて走り出した。
陽子はルームミラー越しに、後部座席に座る”初代”を見た。
窓の外をぼんやり見つめる横顔には底知れない陰があった。
「先輩、あさ美たちが捕まっている場所までしばらくかかります。
それまでの間に、話していただけませんか?
あなたがなぜ、20年近く姿を隠すように暮らしていたのか。
ご主人の紺野洋史医師は神狼会とどういう関係だったのか。
私たちにはそれを知る権利があると思います」
「そうね……」
サキは目を少し細めた。
そして、その目は決意の光に変わった。
「あなた方には話さないといけませんね……」
サキはゆっくりと”過去”を語り始めた。
- 364 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/24(月) 04:22
- ――続く――
- 365 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/05/24(月) 04:22
- >>352 みっくす様
>>354 紺ちゃんファン様
いつもご感想、応援ありがとうございます。
>>353 娘。よっすいー好き様
>展開が展開だけに、揃い踏みは予想できましたが、ここできましたか
やはりバレてましたか(笑)
>>355 牧令様
>俺も自分で書いたときは一人で感動してました(笑)。
サイトの小説読ませていただきました。
読みながら「牧令さんには負けない!」という、よい意味での刺激を受けました。
もう少し早く知っていたら、この小説の設定も違っていたかもしれません。
すいません、設定上お京は小川某という美容師と結婚させてしまいました(笑)
>DVD注文済。
う、うらやましい……
- 366 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/24(月) 19:01
- がんばってください!!!
いつまでも応援してます!!
続きへの期待大です!!!
{サキ(あさ美)たち、血ィ抜かれてたけど大丈夫かなぁ・・・}
- 367 名前:風祭 投稿日:2004/05/24(月) 21:18
- ずっと楽しく読ませていただきましたが、ついに黙っていられなくなって書き込みに来ました。
スケバン者の一人です。
サキ(初代)がヨーヨーを投げた時と、その後のタンカで陽子ではないですが、背筋にゾクッとした物が走りました。
スケバン者として、さらに文字書きの一人ととしても、歴代勢揃いは夢のシーンです。
続きも楽しみにしています。
(頭の中だけではイメージできているのですが、実際に文章にしようとすると…なかなか)
例のイベント行ってきました。
三姉妹は今でも綺麗だったし、会話のタイミングはまるでドラマそのものでした。
- 368 名前:名無しの一読者 投稿日:2004/05/27(木) 00:33
- 更新乙です。
"初代"がでてくると雰囲気変わりますね。
やはりヨーヨーは左手で使うものだと思います。
続き楽しみにしてます。
- 369 名前:名無し職人 投稿日:2004/05/28(金) 02:14
- 拾い画像だ
ttp://gazou-keijiban.com/img-box/img20040528020605.jpg
- 370 名前:年甲斐もなく興奮中の現美貴ヲタ 投稿日:2004/06/14(月) 23:44
- 残念ながら2代目から入った世代ものです。
一気に読ませてもらいました。
こりゃすごい!あんたスゴイよ!幾度となく目頭が熱くなっちゃったよ・・・・
>「よかった、あの光が見えていたのは俺達だけじゃなかったんだ……」
個人的にこれ最強。
キャラの立て方絡め方、スジ運び、各シーンの盛り上げ方、過去作との連携・・
おみごと!としかかける言葉が思いつかなくて申し訳ないくらいです。
現行の紺野チームの描き方は言うに及ばず、
2代目組、風魔組の配役の妙は胸に熱く熱くこみ上げるものがあります。
安倍吉澤の背景、極め台詞も震えが来ましたよああた。
市井から吉澤へヨーヨーを渡させるなんてのももー、あんたウマ杉だよこんちくしょー!
”初代”復活は、これまで見てなくて話だけ聞いたり読んだりだっただけに、
逆にもう、あの、伝説の!感炸裂中です。うっひょー
・・・・ってでもここんとこずっと更新されてないのね・・・orz 乱文陳謝。
- 371 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:13
- 「あなた方には話さないといけませんね……」
サキはゆっくりと”過去”を語り始めた。
「あの時、私は燃え盛る炎の中からかろうじて脱出しました。
背中に大きな火傷を負い、生死を彷徨う状態でした。
そこに主人……紺野洋史が通りかかり、私を助けたのです。
彼がそこにいたのは、偶然ではありません。
彼は海槌コンツェルン傘下の製薬会社”YEAST製薬”に勤める医師でした……
それも海槌コンツェルンの暗部だった、”闇の医療機関”でその技術を磨いた医師だったんです。
海槌には大きな収入源がありました。
それは”YEAST製薬”が開発する新薬。
それも通常なら開発から市場に出すまで10年以上かかるものを、わずか数年で市場に出すことができる脅威的な開発力。
そのカラクリは、「献体(ドナー)」と呼ばれる人間を作り新薬投与の人体実験材料としていたから。
海槌の「学園支配」の野望に邪魔な人間は、次々とこの地下組織に「献体(ドナー)」として送り込まれていた。
そして、実験台となる「献体(ドナー)」の身体を切り刻み、外科医としての腕を磨いていたのが主人でした。
そこにいた医師たちは、普通の医療現場では絶対に得られない技術を確立させていた。
でもそれは、聞くもおぞましい悪魔の実験の数々……人の命をおもちゃにして得られた”悪魔の技術”
そして私は……」
サキは声を震わせた。
- 372 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:14
- 「爆炎を背中に受け、後半身全体に負った火傷は普通なら決して助からない状態でした。
しかし紺野は私の命を救う為の手術を施しました。
実験台に使われて死んだ、「献体(ドナー)」の皮膚の移植手術をしたのです。
火傷の治療にはよく植皮という皮膚組織の移植手術を行います。
通常それは本人のものを使います。他人の皮膚ではどうしても拒絶反応が出て、うまく癒着しないからです。
彼らは以前より他人の皮膚を移植する、特別な植皮技術を持っていました。
老人に若者の皮膚を移植する若返り手術は、金持ちがいくらでも金を出す悪魔の技術。
そんな金持ちの為に、「献体(ドナー)」がどこかから”調達”され”ストック”されているのです。
私が今こうして生きているのは、そんな悪魔の手術を受けたから」
サキはうつむき目を閉じた。
膝の上で握り締められた拳が小さく震えていた。
「そんな手術を受けてまで、私は生きていたくはなかった。
私は彼を責めました。
そして、何度も自殺を図りました。
でも、彼はその度に私を死の淵から辛い現実に引き戻しました。
彼は私に”生きてくれ”と懇願しました。
彼自身も悪魔の技術の呪縛に苦しんでいたのです。
目の前にいる患者を救うことでしか、その苦しみから逃れられない
そして、その患者を救う為の技術を磨く為に悪魔の実験をする……そんな地獄の悪循環に苦しんでいたのです。
私は彼に組織から抜け出す事を勧めました。
ここにいる限り、その地獄からは逃れる事はできない。
彼は海槌コンツェルン解体のゴタゴタに乗じて私を連れて病院から逃げ出し、北海道へ逃れました。
わたしはそこで彼と結婚してあさ美が生まれたのです。
間もなく主人は海外で技術を学んだ医者と偽って北海道総合医科大に医師として働き出しました。
彼はそこでベテランの医者でもできないような難しい手術を何度も成功させました。
- 373 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:14
- でも、心の片隅ではいつもそれが「悪魔の技術」であることを知られてしまう恐怖と戦っていました。
その事が知れたら、彼は病院に居れなくなってしまう。
その日まで、一人でも多くの患者を救いたい……彼はそう考えていました。
それが唯一、今の自分にできる事だから……と
それよりも、私はあなた達にお礼を言わなければなりませんね……
私の後、私の任務と私の名前を継いで戦ってくれたことに。
あなた方のことは、暗闇指令から聞かされていたわ。
でも今の自分はあなた達と会う資格なんかない……そう思って今までいました。
悪魔の手術を受けてまで生き延び、自分の小さな幸せを守る為だけに生きていたから……
私は子供の頃に母が殺人を犯した罪で投獄され、中学時代はケンカの毎日、高校時代の大半を少年院で過ごしていた。
こんな自分が、普通の主婦として夫と娘と共に当たり前な生活を過ごすなんて思ってもいなかった。
それは、自分達の正体が知られるまでの薄氷の上に築かれたものだったけれど、私は幸せだった。
ただそれだけの幸せの為に、自分の為だけに生きていた。
あさ美は、私が”スケバン刑事”だった事も、主人が”悪魔の医者”だった事も知らずに育ちました。
私達夫婦は娘にそれを知られるのをずっと恐れて生きてきたんです。
でも、娘が……あさ美が今、自分の運命と戦っているのを知りました。
なのに自分は、運命の呪縛から逃れようと生きているなんて……
ごめんなさい……あなた達が名前と任務を受け継いで戦っていた”麻宮サキ”はこんな醜い女だったのよ」
サキは無理矢理笑顔を作ろうとして、表情をゆがめた。
彼女の暗い横顔は、胸につかえていた深い闇の色。
かつての”スケバン刑事”だった自分を捨て、普通の女性として生きる事を選んだ苦しみの色。
だが、そこにいる誰一人、そんな彼女を責めようとする気持はなかった。
- 374 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:15
- 「いいえ……」
陽子は静かに答えた。
「そんなことはありません。
たとえ先輩が今どんな生き方をしているか、そんなことは関係ありません。
”麻宮サキ”という大きな存在があったからこそ、今の私達がいます。
私たちはあなたがいなければ、今ここにこうしている事はなかった……それは間違いのない事実です。
たとえどんな形でも、私たちは先輩が生きてくれていた事、そしてこうして出会えたことに感謝します」
「ありがとう……」
陽子の言葉にサキの顔に明るさが戻った。
頬に涙が一筋流れていた。
そしてそこにいるもう二人の”麻宮サキ”の目にも、同じ様に涙が溢れていた。
********************
- 375 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:16
- ********************
一体どのくらい自分は眠っていたのだろう?
これが雪山だったら、今頃この身体は確実に冷たくなっていただろう。
幸運にもぼんやりと開いた目に飛び込んできた景色は、さっき見たのと同じものだった。
白い壁に囲まれた窓も無い部屋。
学校の教室くらいの広さの中に、ざっと見ただけでも20台以上のストレッチャーが並んでいる。
薄暗い蛍光灯の向こうで、誰かのうめき声だけが響いていた。
さっきいた白衣の男達はもういない。
サキは身体を動かしてみた。
身体を固定したベルトが腕に食い込んでいる。
サキは身体を少しずつずらして、ベルトから腕を抜いた。
少し動いただけなのに、目の前が暗くなる。
普通ならこれくらいのベルトなら簡単に抜け出せるのだが、ひどい貧血状態での行動では思ったより時間がかかった。
腕1本分だけでもベルトが緩んだので楽になった。
自由になった方の手で、ベルトの固定金具を探る。
時間が随分かかったが、サキはやっとストレッチャーから起き上がれるようになった。
隣に里沙が横たわっている。
「里沙さん、大丈夫?」
肩に手をかける。
身体は冷たくなっているが、死んではいないようだ。
呼吸が荒い。
- 376 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:16
- あの白衣の男達は一体どれだけの血液を抜いたのだろう。
この部屋に同じように横たわっている女性達も同じような目に合わされているのだろう。
サキはふらつく足で他の女性達を見て回った。
里沙のすぐ側に女龍鬼の斎藤が、陸揚げされたジュゴンのように横たわっている。
その少し離れたところに、女龍鬼の3人の姿があった。
(よかった、女龍鬼さん達は無事だわ……)
それまでにさらわれたと思われる女性達も、半死半生状態だがなんとか生きているようだ。
藤本に斬られた背中の傷は、どういう訳かちゃんと治療がなされていた。
同じように藤本に斬られているはずの別の少女達も同様だった。
斬りつけてケガを負わせた少女を拉致し、治療して血液を抜く。
(一体、何の目的でそんなことをしているのだろう?
それよりもこれだけの人間から大量の血を集めて何をするつもりなのか?)
サキはもう1度部屋を見回した。
天井に薄暗い蛍光灯。
監視カメラの類はないようだ。
部屋には鉄製の扉が一つ。
開けようと取っ手に手をかけてみるが、鍵がかかっている。
耳を澄ましてみるが、外の物音は何も聞こえない。
どちらにしろ逃げ出そうにも、今の体力では逃げ切れそうにない。
しかも、これだけの人数の病人を連れて逃げ出す事も考えなければならない。
サキはポケットを探った。
いつもそこに入れてあるはずのヨーヨーは無かった。
- 377 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:17
- (武器も無いか……)
ヨーヨーがあればもしかしたらあの鉄の扉を破れたかも知れない。
脱出できる方法の一つがなくなった。
(”あれ”を試すしかないか……)
だが今のサキの体力では”あれ”をやってみたところで威力が出せるとは到底思えなかった。
とりあえずサキはもう一度ストレッチャーに横たわった。
少しでも体力を回復させるしか、脱出できる可能性を高くする方法はないようだった。
サキはもう1度眠りについた。今度は絶望への眠りではなく、脱出への希望をつなぐ為の眠りだった。
********************
- 378 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:17
- ********************
4人を乗せたBMWは東京近郊の山間にある病院跡の建物に向かっていた。
辺りに人家もない小高い丘の上にその病院は建てられていた。
一見したところでは普通の病院と何ら変わったところがない。
車で移動中に病院についてのさらに詳しいデーターが入手できていた
ダッシュボードの下に取り付けられているプリンターが詳細をプリントアウトする。
助手席の唯がその書類に目を通した。
「網場総合病院、建物は10年程前にリゾート施設の一つとして建築されたものみたいですね。
地上6階、地下2階。
バブル崩壊で経営が行き詰まって倒産、その後病院に改装されていますね。
ここにある資料では、病院として開業直前に医院長の網場仁一郎が行方不明となり、結局病院として開業はしていないみたいです。
建物はすぐに売りに出され、直後に”ウルフ英会話学園”が買いとっている。
約3年前の事ね……」
「神狼会が動き出したのも丁度その頃ね」
建物に近付こうとしたその時、人影がBMWの前の飛び出した。
「!?」
陽子の脊髄が咄嗟に反応して急ブレーキを踏む。
同乗していた3人は勢いで前につんのめる。
車に装備された最新型のABSはその機能全開で、その人影寸前で停止した。
「危ないわね!」
- 379 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:18
- 陽子は叫んだ。
フロントガラスの真正面にその人影は立っていた。
その人影は一人の少女だった。
麻琴はその少女の顔に見覚えがあった。
(神狼会本部でサキに術をかけたあの女だ)
陽子も実際に会うのは初めてだったが、彼女の事は知っていた。
その少女は……高橋愛
「こんな所に何をしに来たの?」
愛は何事もなかったかのように、運転席に近付いて訊いた。
陽子はドアを開けた
「あなたこそ、なぜこんなところにいるのかしら?
たしか”神狼会”を追い出されたと聞いたけど?」
陽子が答えた。
愛は陽子の皮肉めいた言葉にも表情を変えることなく、4人の訪問者を見つめた。
「中は危険だ……いや地獄だ……
あそこはおぞましい悪魔が棲む恐ろしい場所だ。
行かない方がいい……忠告しておく」
「一体あの中で何が起こっているの?」
- 380 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:18
- 陽子が訊いた。
「口に出すのも恐ろしい悪魔の人体実験手術の数々よ」
高橋愛は、今にも嘔吐しそうなほどの嫌悪の表情を見せた。
4人はその表情を見て、何が起きているかを悟った。
「まさか、海槌の”闇の医師団”がこんなところで営業を続けていたということ?」
初代の言っていた海槌コンツェルンの”闇の医師団”と神狼会はここでつながっていたのだ。
「そんなことを言われて、じゃあ帰りますと言うとでも思っているの?」
唯の言う通りだった。
中で行われている事が想像通りの事であったら尚更、一刻も早く助けに行かなければならない。
それがどんなにおぞましい場所であっても、簡単に引き返すようなヤワなメンバーはいない。
「邪魔をするのなら、相手になるぜ」
麻琴はそう言ってビー玉を構えた。
「本当に行く気か?」
愛の言葉で4人の決意が揺らぐ事はなかった。
「じゃあいいわ、私が中を案内してあげる」
- 381 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:19
- 「信用してもいいの?」
陽子はまだ愛の事を信じる気持ちになっていない。
「それはあなた達が決めればいいわ
私はどちらにしろ、あそこに行ってやらなければならない事がある」
「藤本美貴のことね?」
「ええ、私と同じように脳改造をされた美貴を助けなきゃいけない」
「待って」
それまで黙っていた初代が口を開いた。
ドアを開けて高橋の前に近付く。
「やっぱり……あなた高橋愛さんね?
私のこと覚えてる?」
愛はその女性の顔をまじまじと見た。
「あなたの手術をした執刀医の紺野の妻よ、何度か病院で会った事あったわね?」
その名前を聞いて愛は表情を変えた。
「その様子じゃもう頭痛は治まってるのかしら?
主人は最後まであなたの症状を心配していたのよ
主人がいなくなった後、あなたも病院から失踪したって聞いたけど……」
- 382 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:19
- 初代は愛が神狼会を乗っ取って総帥の座にいた事を知らなかった。
陽子は彼女に高橋愛について説明をした。
「そうなの……でも、一つ勘違いをしているわ。
あなたの手術は脳改造なんかじゃない。
あなたの命を救う為に、その方法しかなかったの。
私も専門的なことはわからないけど、あなたが事故で運び込まれた時、脳挫傷で通常なら即死に近い状況だった。
脳細胞は一度死んだら二度と再生される事はない。
主人はあなたの死にかけている脳細胞を助ける為に、脳活性の特殊な手術をしたの。
その手術は脳を制御する部分に特殊な刺激を与え脳内を言わば”ターボ”をかけた状態にして、弱っている脳細胞を活性化させる方法。
そうやって、あなたの脳を救おうとした。
でもこの手術には大きな副作用があったの。
脳の異常な活性化によって、一時的に通常では考えられない能力を発揮するかもしれないという事。
計算能力がコンピュータ並になるとか、人のちょっとした動作仕草で心を読み取る事ができるとか
超能力と呼べるような力を得る可能性があったらしいわ
……一時的なものだけどね
主人はあなたの脳波が異常値を示し続けてなかなか安定しない事を心配していた。
具体的のそれがどんな能力を異常化させていたのかは、彼も把握してはいなかったみたいだけど」
「私も山崎が私の病室に来るまで、自分に何が起きているのかを知りませんでした。
山崎は紺野先生に私の手術について詳細を聞いていたようでした。
多分、あなたが言っていた事と同じ説明をしたのでしょう。
山崎は私にどんな能力が備わったのか、興味を持ったようでした。
私に備わった能力を何かしら利用しようとしたのです。
- 383 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:20
- 私は近付いてくる山崎に恐怖を感じ、咄嗟に”止まれ!”と叫びました。
すると、山崎は突然動かなくなったのです。
”向こうへ行って”と命令すると、山崎は素直にそれに従いました。
私はその時自分に備わった能力に気づきました。
人を操る能力が備わっているという事に……」
「確かにあなたに施した手術は普通では行われていないものよ。
元々は人間の脳に手を加えて、人工的に超能力を得る事ができるのかという実験の副産物だと、主人は言ってたわ。
死滅しそうな脳細胞を再び復活させる治療法に使えないか……そういう意味ではあなたに”実験的な”手術をしたのかもしれない。
でも目的はあくまでも”脳細胞の死滅”を食い止める事。
あなたに備わった能力は一時的なものだったのよ」
「ええ、おかげで私は”神狼会”を失うハメになりました……
美貴は元々優しい娘でした……
紺野先生は美貴に何かしらの”邪悪な”手術をしています。
美貴はそれによって血も涙もない悪魔に生まれ変わりました。
私はそれを止めたい。
あの頃の優しい彼女に戻って欲しい……」
「あなたの気持はわかったわ。私達はあなたを信用します。案内してくれる?」
「ええ、じゃあ付いて来てください。
こっちです」
********************
――続く――
- 384 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/06/18(金) 01:20
- >>366 :紺ちゃんファン さま
>{サキ(あさ美)たち、血ィ抜かれてたけど大丈夫かなぁ・・・}
今後の展開にご期待下さい!!
>>367 :風祭さま
>例のイベント行ってきました。
う、うらやますぃ
>>369 :名無し職人さま
同一人物の方でしょうか?
いつも画像ありがとうございます。
今回も頂きました。
>>370 :年甲斐もなく興奮中の現美貴ヲタ さま
>・・・・ってでもここんとこずっと更新されてないのね・・・
遅筆ですいません。
もう、ちょっと仕事が忙しくなるととたんに、筆が進まなくなりまして……
吉澤編を気に入ってくださったみたいで、お褒めの言葉ありがとうございます。
おまたせしました。やっと更新いたします。
- 385 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/18(金) 20:45
- 作者さま、更新どうもです。
紺野医師、悪い人じゃぁなさそうでしたね?
つづきがさらに気になります。
応援してます。がんばってください。
- 386 名前:年甲斐もなく興奮中 投稿日:2004/06/21(月) 01:32
- おおっ更新乙です!
一更新分だけ読んでみてふと気づきましたが、場面の切り替えもウマイですねえ。
後半への期待をかきたてられちゃいます。
高橋登場も、おお、きたなあってわくわく感、初代、五代、唯の想い(頑張れマコ)
なんともはや、続きが楽しみです。
えーと、けどペースまもって楽しんで書いてください。
・・・・時に、紺野洋史のイメージは渡洋史氏で良いのでしょうか?
- 387 名前:Nanashi 投稿日:2004/06/21(月) 09:04
- >網場(アミバ)総合病院
うーんやはり院長は天才ですか?
- 388 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/21(月) 20:19
- こいつはパクリ?
ttp://rikayuu.hp.infoseek.co.jp/sukeban6/sukeban-top.htm
- 389 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/22(火) 01:10
- 始めたのは新スケさんのが前みたいですね
個人的には皆どんどんやって欲しいんでがんがってほしいと思います
でも、そのー、擬音を地の文に入れるとか(そこにはないですが)心理描写過多とか
神視点の
主観が見えすぎる文章とかってちょっと苦手でして・・・
新スケさんって文章自体もバランス良くて気持ちいいんですよね
実は全然5期ヲタじゃあないんですが、楽しみにさせてもらってます>新スケさん
更新よろ〜♪
- 390 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:05
-
人の気配がした。
鉄の扉の向こうに誰かが近付いて来ている。
サキはまどろみから目を覚ました。
少し眠ったので、身体は楽になったが頭はまだフラフラする。
耳鳴りがひどい。
少しは回復したとはいえ、依然として彼女が極度の貧血状態である状況は変わりはなかった。
(こんな状態で闘えるかな……)
サキはそう考えながらもドアの向こうの足音に意識を集中した。
鉄の扉がゆっくりと開く。
人影が一つ、わずかに開いた隙間から滑り込むように入ってきた。
人影はまた元のように、扉を閉める。
その人影は中を見回し、何かを探しているように半死人状態の横たわるストレッチャーを見て回っていた。
やがてその人物はサキのいるストレッチャーに近づく。
人影はサキの顔を確認すると、その場で立ち止まった。
(何者だろう……)
サキは眠ったふりをしながら、その人物の動きを探った。
人影の手がサキの肩に触れた。
もう片方の手が高く振り上げられている。
(危ない!)
- 391 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:06
- 咄嗟に身体が反応して振り下ろされた拳を掴んでいた。
目を開いて、ストレッチャーから飛び起きる。
薄暗い蛍光灯の灯りの下に立つその人物を見て、サキは目を開いた。
「やはり、気がついていたか」
その人物は低い声でそう言った。
サキはふらつく足で構えた。
「大丈夫、俺はお前を助けに来たんだ」
「その言葉を信用してもいいんですか?」
サキは彼女に訊いた。
「まあ、疑われてもしょうがないけどな」
薄暗い蛍光灯の下、彼女はそう言ってニヤリと笑った。
「一応、俺は”任務”でお前を助けに来たんだぜ」
「じゃあ、今はもう”ナンバー6”ではないんですね?」
「ああ」
そう言ってもう一人の”麻宮サキ”、6代目スケバン刑事・吉澤ひとみは力強い拳をサキに見せた。
「まずはこれを飲め」
- 392 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:06
- ひとみは持っていたペットボトルをサキに渡した。
「血を抜かれてるんだろ。立てるか?」
「なんとか大丈夫です」
サキは一気にペットボトルに入ったスポーツドリンクを飲み干した。
RPGゲームで主人公の体力を回復する薬が実際にあるとしたら、きっとこんな感じなのだろう。
液体が身体の隅々にまで染み渡るのを感じる。
「それとこれ、知ってるだろ?」
そう言ってひとみは黒いアメ玉のようなものをサキに渡した。
それを見たサキは苦い顔をする。
「その顔じゃあ、お前もあの”地獄の鬼ゴッコ”をやったんだな」
”地獄の鬼ゴッコ”とは風間唯が”スケバン刑事”となるべく課した訓練の中で行われたものの一つ。
山の中で飲まず食わずで、気配を消して潜み続けるというもの。
24時間、風間唯にその気配を気付かれずに潜み続けることができれば、訓練はその時点で終了。
しかし唯に見つかってしまえば、その時点からまた24時間逃げ続けなければならないという、”地獄”が延々と続く。
その期間の唯一の食料が、風魔の秘薬”臥薪丹”。
様々な滋養強壮の為の漢方素材を煎じて煮詰めて作られた秘薬。
石のように硬く、恐ろしく苦いその丸薬をなめる事は、薪の上で横たわるくらい辛いというもの。
だが間違いなく、一錠で丸一日分の栄養を補給してくれる。
サキもその味を思い出し、口の中が酸っぱくなる。
- 393 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:07
- 「ここでは点滴なんかでしばらく生かされて、その間血を抜かれ続ける。
体力のあるうちに早い事抜け出した方がいい」
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「さて、あとはどうやってこいつらを外に連れ出すかなんだけどな」
「とりあえず、動けそうな人を起こしていきましょう」
2人はとりあえず里沙と斎藤の二人を起こした。
ひとみが持っていた残りのスポーツドリンクのペットボトルはあっという間に空になる。
「立てる?」
「何とか……」
斎藤はまだ少し体力が残っているようだったが、小柄な体格の里沙は少し苦しそうだった。
「今日一日激しい運動は控えて下さい……っていう程度じゃ済まないな」
「ひとみさん、藤本美貴は今ここにいるんですか?」
サキは尋ねた。
「多分、いると思うけど、どうして?」
- 394 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:08
- 「これだけの拉致された人たちを一度に救出する事はできません。
誰かが外に出て、助けを呼ばなければ無理だと思います。
今頃きっとマコさんが五代さんに私達の事を知らせていると思います。
私のヨーヨーがこの建物の中にあれば、ここの居場所をサーチできるはずです。
もしそうでなくても、少なくとも私達の行方を探しているでしょう。
マコさんと連絡が取れれば、必ず応援に来てくれます。
私とひとみさんが、中で騒ぎを起こしながら藤本美貴の元に向かいます。
里沙さん、斎藤さん、そのスキにここを抜け出して助けを呼んできてください」
サキが冷静に状況を判断してはじき出した、最良の方法だった。
「その身体でやれるのか?」
「このチャンスを逃がしたら、きっとまた被害者も増えていくでしょう。
今しかありません」
「わかった、藤本のいる場所まで俺が案内する」
里沙と斎藤はサキの提案に大きくうなずいていた。
「サキさん、気をつけて下さい」
「ええ、助けが来るまで何とかがんばってみる」
今の体力じゃ自力で藤本を倒せるかどうかわからない。
だが、ここから脱出する為には、ここにいる4人が協力し合わないとどうしようもない。
- 395 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:08
- 斎藤は体力が弱って瀕死の状態の柴田、村田、大谷の身体を順にそっと手でさすった。
「絶対助けてやるからな」
「じゃあ、行きましょう!」
廊下に出る。
人の気配のない、薄暗い廊下。
どこかの地下室のようだ。
冷たいコンクリートの廊下が続く。
消毒液と血の匂いが混ざった匂いが鼻につく。
進めば進むほどサキ達は込み上げる吐き気に襲われた。
廊下を奥に進めば進ほど、そこから感じるただならぬ嫌な気配が濃くなっていく。
どうしようもなく不快な感じ。
廊下の突き当たりでひとみは止まった。
「この廊下を右に行って、階段を上がると非常口がある。
鍵が開いていたらすぐそこから出られるはずだ。
とりあえず、そこからが一番外に出やすい」
「わかりました」
「俺達はこっちだ」
ひとみは反対の左の廊下を指差した。
蛍光灯も満足にない廊下は更に重たい嫌な空気を充満させていた。
体力の弱っているサキにはその空気をはね返すだけの元気はない。
その薄暗い廊下の奥を見つめるだけでも、気が滅入る。
ひとみはとあるドアの前で立ち止まった。
- 396 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:09
- 「7代目、お前気持はしっかりしてるか?」
「?」
「今のお前の体力じゃ、このドアの中を見せるのはちょっとキツイかもしれん。
俺でも3日くらいメシが喉を通らなかったくらいだからな。
ここに、”神狼会”の暗部の全てがある。
お前は見ておかなきゃならない。
いいか、覚悟して見ろ」
そう言ってひとみは、そのドアを開いた。
血の匂いが強くなる。
肉が腐敗した匂いが、消毒液の匂いでは押さえきれないほど。
サキは気を失うのを寸前で堪えていた。
とっ散らかったマネキン人形の倉庫。
そして、まるで食肉加工工場のように、人間の臓器がそこらじゅうに転がっている。
ホラー映画のクライマックスでもこんな残酷な場面は作れないだろう。
ひとみはすぐにドアを閉じた。
ほんの短い間であったが、その内容は強烈だった。
ひとみが数日食事が喉を通らなくなったという話も理解できた。
そこは、人間の尊厳も何も無かった。
ただおもちゃの人形のように首を引きちぎられ、手足をもがれた人間達。
「この建物は表向きは、病院として建てられたものだが実際はこんな人体実験場だ。
神狼会はこんな恐ろしい人体実験を繰り返し、悪魔の医術を向上させていたんだ。
さらわれてきた女性達はもとより、お前たちだっていずれああなる運命だったのさ」
- 397 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:10
- 「何の為にこんなことを……」
吐き気を押さえながらサキは言った。
呼吸が苦しい。
さっきから感じていた不快感。
それらは全てこの部屋から放たれていた物だった。
「海槌家を再興させる為……最終的な目的はどうやらそれらしい。
総帥の藤本美貴を手術する為に、何らかの技術が必要だった。
そのための人体実験をここで繰り返していたようだ。
イカれた医者が数人ここを出入りしていたよ」
2人は階段を上がり最上階を目指した。
2階の廊下は非常扉が閉まっていた。
押してみるが開かない。
「こっちだ」
ひとみは反対方向の別の道に変えた。
細い暗い階段を登る。
廊下に出るとまたそこも非常扉が閉まっていた。
「おかしい、普段こんな扉は閉まっていないはずなのに……」
押してみるがやはり扉は動かなかった。
「こっちから行こう」
- 398 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:11
- ひとみはまた別のルートを示した。
廊下の突き当りもやはり扉が閉まっている。
ひとみはすぐ側の部屋の扉を開いた。
そこはまだ建設途中のホールだった。
内装もまだ済んでいないむき出しの鉄骨そのままのガランとしたホール。
ステージに大小2つの影があった。
真里と梨華だった。
「何処に行くんだ?」
(気づかれていた!)
迷路のようになっていた通路。
閉じられていた扉。
どうやら上手くこの部屋に来るように誘導する為だったようだ。
「美貴様からあなたを監視するように、命令されていたのよ。
ナンバー6、いやスケバン刑事のお二人さん」
「そうかい、バレてちゃあ仕方がないな……」
ひとみはヨーヨーを取り出した。
開いた片面には桜の代紋。
「光あるところ闇があり、闇あるところに光がある
闇を切り裂く光の拳
ナンバー6改め、6代目スケバン刑事、麻宮サキ
I am Champion!」
- 399 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:11
- 「ふん、正体を現したね、この裏切り者が!」
「俺は元々こっちだったんでね。
ナンバー6の方が仮の姿なのさ」
「裏切ったらすぐにでも殺せという美貴様の命令だ、死んでもらう!」
真里は流星錘を出した。
梨華の手には鉄扇が握られている。
(7代目、闘えるか?)
ひとみは小声で訊いた。
(なんとか……)
サキはそう答えたが、極度の貧血状態は変わらない。
ひとみは自分一人でニ人を倒すつもりだが、片方を相手している間だけでもサキがもう片方を牽制してくれれば闘いは楽になる。
「よし、行くぜ!」
- 400 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:11
- ひとみはヨーヨーを投げた。
真里の投げた流星錘と空中でぶつかる。
ひとみは間髪をいれずに、真里にグイと近付いた。
流星錘なんか使われたら、ひとみの技が何も使えない。
それを悟ったのか、梨華が間に割って入ろうとする。
サキはそれを阻んだ。
今の体力では大きな動きはできない。
サキは梨華がひとみと真里の闘いの妨げにならないように、精一杯牽制した。
格闘戦なら真里はひとみの相手ではない。
ボディと顔面のパンチが決まり、一瞬にして真里は倒れた。
サキは梨華の鉄扇を叩き落とした。
間髪をいれずにハイキックを延髄にお見舞いする。
梨華が倒れるのと同時に、サキもその場に座り込んだ。
肩で息をする。
「大丈夫か?」
ひとみが駆け寄って肩を貸す。
「大丈夫です、すこしクラクラするだけです」
「こんなところでモタモタしてられない、行くぜ!」
ひとみのパンチを受けて倒れていた真里だったが、血まみれの顔を苦痛で歪めながら半身を起こした。
- 401 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:12
-
「逃がさないよ、お前達はここで死ぬんだ!」
真里は手にしたリモコンのスイッチを押した。
ドゥッ!!
突然の轟音とともにホールの各所から火柱が上がった。
真里の切り札として、あらかじめ仕掛けられた爆弾。
壁が、天井が音を立てて崩れ落ちる。
「危ない!」
次々と落ちてくる鉄骨。
サキはひとみに思いっきり突き飛ばされた。
「う……」
もうもうと上がる砂埃が晴れた時、サキは鉄骨の下敷きになっているひとみの姿を発見した。
「ひとみさん!」
大きな鉄骨がひとみの足の上に乗っかっていた。
サキは必死で鉄骨を持ち上げる。
コンクリートの塊の乗った鉄骨はビクともせず、ひとみの足を苦しめていた。
ひとみも渾身の力を込めて動かしてみる。
「だめだ、動かねえ」
- 402 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:12
- ひとみは、目を閉じた。
呼吸を整え”気”を練る。
拳を強く握り締め構える。
一瞬、その拳が光を放った。
ひとみはその拳の光をコンクリートの塊に叩きつける。
ビシッ!
衝撃がコンクリートの塊を走り、大きなヒビが入る。
だが砕けるまでには至っていない。
ひとみはもう一度拳を握り締めた。
深く息を吸い、目を閉じる。
もう一度その拳がコンクリートに叩きつけられる。
サキは目を疑った。
(光っていない……)
2回目のパンチは明らかに”フラッシュブロー”ではなかった。
ひとみは光のない拳を叩きつけていた。
当然コンクリートには何も変化がない。
「ひとみさん、いけない、拳が!」
ひとみの拳は血まみれになっていた。
それでもひとみは再度”フラッシュブロー”を放とうとしている。
サキはひとみの左腕を掴んだ。
「ひとみさん、そんな状態で何度も”光るパンチ”は出せないです。止めてください!」
- 403 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:13
- 「7代目、お前……見えてたのか?」
サキは小さく頷いた。
「見えてたのなら何故……?」
「ひとみさんに勝ちたかったから」
そう言ってサキは微笑んだ。
「少し休んでて下さい。私がやってみます」
サキはそう言ってコンクリートの塊に掌を重ねて置いた。
(”あれ”をやってみるしかない……)
今の自分の体力の状態で、果たして”あれ”ができるのか?
だが”あれ”以外にこのコンクリートの塊を壊せる術はない。
********************
- 404 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:13
-
――続く――
- 405 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:14
- >>385 :紺ちゃんファンさま
毎度毎度、レスありがとうございます
>>386 :年甲斐もなく興奮中 さま
>・・・・時に、紺野洋史のイメージは渡洋史氏で良いのでしょうか?
うわー、よくこんな細かい所を気付いてくれました
早乙女志織の父、早乙女七郎役を宮内(V3・アオレンジャー・ビッグ1・ズバット・正木俊介)洋氏が演じておられたので、紺野あさ美の父親役も同様の方をと思いました。
発想が貧困なもんで、もう渡(シャリバン・ブーメラン・スピルバン・ヴェッカー・ゼブラーマン)洋史氏しか適役を思いつきませんでした。
>>387 :Nanashiさま
>網場(アミバ)総合病院
「悪い医者」のイメージで名前を考えたら、北斗の拳のアミバしか思い浮かばず……
発想が貧困で申し訳ない
ちなみに特別公安部部長の内藤は俳優の内藤剛志氏をイメージしていたのですが、五代陽子に持ち上げられるシーンで「内藤はそれほど背の高い男ではない」と書いてしまいました。
実際の内藤剛志氏は身長180cm近い長身なもんで、もうどうでもよくなってしまいました。
- 406 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/01(木) 02:15
- >>388 :名無し読者さま
>こいつはパクリ?
うーん、同じ事を考えてた人が他にもいらしたんですねぇ
こちらの方の作品の方が、自分のよりずっと「娘。」小説してますね
>>389 :名無飼育さんさま
>個人的には皆どんどんやって欲しいんでがんがってほしいと思います
禿同です
>新スケさんって文章自体もバランス良くて気持ちいいんですよね
ありがとうございます。
文章とか文体とかを手本にしているのではないのですが、自分は海外ミステリー小説が好きで。
その中でもおすすめは、パトリシア・コーンウェルの「Dr,ケイ・スカーペッター・検屍官」シリーズ。
そんな小説を目指してがんがってます。
歴代のメンバーでもっとも華のない5期の、紺野、小川、新垣を主人公に据え
恋愛もなければエロもなく、ドロドロとした人間関係もなければ派手な超能力アクションもなく
30前後より上の年齢でなければわからない「スケバン刑事」というテーマで
「娘。」小説といいながら、単なる「スケバン刑事」の続編だったりして
こんな地味な作品を応援してくださいまして、恐縮至極でございます。
- 407 名前:名無しの一読者 投稿日:2004/07/02(金) 14:11
- 更新乙です。
"30前後しかわからないスケバン刑事の続編" 大いに結構じゃないですか。
自分はそういう視点で読んでます
ところで、ガイシュツかもしれませんが"3代目"サキ役だった浅香唯はTBS系の昼ドラにで出演中です。
"サキ"役で↓
ttp://hicbc.com/tv/drama30/rikon/story/index.htm
- 408 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/02(金) 22:51
- おっ・・・更新されてる♪
ナンバー6・・・改め吉澤さん・・・大丈夫かなぁ。
サキの言う“あれ”とは!?
次回更新楽しみにしてます!
- 409 名前:年甲斐もなく興奮中! 投稿日:2004/07/03(土) 00:13
- やたー更新されてるー!乙です!
やっぱイガデンと由貴たんの娘でよいのですね。うひょひょ♪
斎藤と里沙がマコ&1〜3代目と合流して殴りこんでくるシーンを想像しただけで燃えますねえ
あーもう、楽しみに続きを待っております!
おお、あと、思いのほか早めにきてました!
>「光あるところ闇があり、闇あるところに光がある
>闇を切り裂く光の拳
>ナンバー6改め、6代目スケバン刑事、麻宮サキ
>I am Champion!」
かっこええわー。ピンチですけど。5代目も7代目もですが、極め台詞がカッコ良すぎですよ!
>海外ミステリー小説が好きで
なるほど納得です。こちらの気分で印象が変わるんじゃなし、
イイ感じで乗せてもらえてる感じがしてました。(でも志水辰夫好きだったりしますが)
人間関係は結構どろどろしてるような気がしますw
やべ七郎覚えてないや・・・_| ̄|○ 当時きっと仲間うちで盛り上がったんだろうけど・・・
我ながらうざくて申し訳ありませんが、なんか、楽しくて嬉しくて我慢できんのですすいません
- 410 名前:名無しの一読者 投稿日:2004/07/07(水) 21:09
- 作者様
あんたすげーよ面白杉だよ
一気に読んじゃったよ
スケバン刑事を娘がやるってだけでスゴクイイ!!なのに
渡洋史なんて30台大人の読者のツボ押さえてるわ
(それに気付いた興奮中さんもスゲーよ)
思わずシーンが目に浮かぶような場面に、こっちもニヤリとしちゃったり
この面白さが厨房や工房にはわかんねーだろーなーと思うと、更にうれしくなるぜ、コンチクショー
ストーリーも佳境に入ってマスマス面白くなってるゼ
期待してますんで、マターリやってください
長文スマソ
- 411 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 22:56
- ひとみが言った通り、階段を上ったところに非常口があった。
鍵を開けて外に出る。
室内にたちこめるムッとした重い空気から新鮮な外の空気を吸って、斎藤と里沙の二人は少し気分が楽になった。
しかし、扉の外に出ようとした二人の前に、3つの影が立ち塞がっていた。
黒い乗馬服の3人。
エリ、サユミ、レイナだった。
「何処に逃げても無駄よ」
(闘えるか?)
斎藤は里沙に訊いた。
里沙は頷いたが、自信は全くなかった。
斎藤に比べ小柄で細身の里沙には、多量の採血がこたえていた。
階段を上っただけで立ち眩みがするほどの貧血状態。
だがここでやられてしまっては、せっかくの脱出のチャンスが台無しになってしまう。
里沙は覚悟を決めた。
(よし、行くぜ!)
斎藤は両腕を伸ばすと、エリとサユミの頭を掴んだ。
「うおおおおおおおおおおりゃああああ!」
勢いに体重を乗せて、一気に2人の頭を壁に叩きつける。
普段の握力の半分しかないので、威力も半分しかない。
だが、2人の動きを止めておくには十分のダメージを与えている。
- 412 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 22:56
- 里沙は体の力を抜いた。
風が吹いても飛ばされるくらい、最小限の力でゆらりと立っているのみ。
軽功の奥義の一つ”揺蕩羽”……羽のように軽く流れに身を任せる技。
相手が掴もうとすればするほど、風に揺蕩う羽のようにするりとすり抜ける。
攻撃力には欠けるが、体力の消耗具合からこの技が最も”時間稼ぎ”ができそうだった。
里沙はレイナの攻撃をのらりくらりとかわし続けた。
「ちぃっ!」
レイナは次第に苛立ち始めている。
それこそ、この奥義の真髄。
里沙はレイナの隙を見て攻撃を加える。
しかし、いつまでもこんな子供だましが通用するような相手ではなかった。
レイナは攻撃の間隔を徐々に詰め始めた。
体力のない里沙にはだんだんその動きについて行けなくなってくる。
そして、ついにレイナの蹴りが里沙をとらえた。
「うぐっ」
普段なら難なく受身が取れる程度の蹴りだったが、里沙の体力ではそれは無理な話であった。
致命傷に近いダメージを受け、里沙は膝をついた。
レイナの黒いブーツは、容赦なく里沙の身体を踏みつけにする。
その横で斎藤もエリとサユミの反撃にあっていた。
頭を壁に押さえつけられたまま、二人は激しい蹴りを斎藤に喰らわす。
斎藤は半分気を失いながらも、その体重を両腕に込めていた。
- 413 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 22:57
- レイナは拳銃を取り出した。
「死ね」
そう言って、里沙の額に照準を合わせた。
里沙は目を瞑った。
ヒュン
その時空気を裂く音がした。
レイナの手から拳銃が落ちる。
拳銃と共にビー玉が転がって落ちた。
「里沙!」
麻琴の叫び声と、3つの銀色の疾風がエリ、サユミ、レイナを吹き飛ばしたのはほぼ同時だった。
3つの銀色の疾風は紺野サキ、五代陽子、風間唯の手元に戻っていく。
「助かった……」
麻琴達の顔を見て安心した里沙はそのまま気を失うように、その場に倒れた。
「大丈夫か?里沙」
- 414 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 22:57
- 麻琴が里沙の体を抱き起こした。
弱々しくやっとのことで頷く。
斎藤も体力の限界がきてその場に座り込んでいた。
「ここの地下にさらわれたみんながいる。
皆血を抜かれて危険な状態なんだ。
早く助けてやってくれ」
「サキはどうしたんだ?」
麻琴が訊いた。
「サキさんはひとみさんと藤本美貴を倒しに向かいました……」
里沙がやっとの事で答える。
「ひとみってあのナンバー6のことか?」
「はい、私達を助けてくれたんです」
「とりあえず、すぐにその地下にいるさらわれた人たちを救出しなければいけないわね。
風間教官、マコちゃん、この二人といっしょにその地下室に行って頂戴」
唯は一瞬、「え、私?」という顔をしたが、陽子の強い命令の前に逆らうことは出来なかった。
- 415 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 22:58
- 「ちぇ、わかりました」
唯は少し不服そうに口を尖らせたが、素直に陽子の指示に従った。
「私達は藤本美貴の元に向かいましょう」
********************
サキは掌に全神経を集中し、コンクリートの塊との間に空いた1センチに満たない隙間に全エネルギーを込めた。
そして、サキの通っていた空手道場の師範の言葉を思い出していた。
師範は金槌を取り出して、足元に積み重ねられた瓦に叩き付けた。
瓦は簡単に粉々になった。
次に師範は今度は自らの拳で同じように積み重ねた瓦を砕いて見せた。
「今のを見て、私が何を言いたかったのかわかるか?」
師範は生徒達に訊いた。
「俺のこの拳は、当然この金槌より硬い訳ではない。
でも、こうやって同じように瓦を砕く事ができるんだ。
拳を鍛えることで瓦やコンクリートブロックを割ることができるようになる。
だが、いくら鍛えても人間の拳は金槌よりも、そしてこの瓦よりも硬くなることすらないんだ。
そう、瓦は拳の硬さで割っているんじゃないということだ。
じゃあ何で割っているのか?
破壊の衝撃を拳を通じて瓦に伝える事で割っているのさ。
拳はその衝撃を伝えるのに耐えうる強さがあれば良いという事だ。
逆に言えば、衝撃さえ伝える事ができればこういうこともできる」
- 416 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 22:58
- 師範は十数枚重ねた瓦の上に掌を置いた。
普段の柔和な表情から一転、厳しい格闘技家の顔に変わる。
凄まじいまでの気迫。
その時、サキには師範の身体の”気”がゆっくりとその掌の方に集中していくのを感じた。
「ハァッ!」
師範の掌の下で積み重ねられた瓦は見事に粉々に砕けていた。
明らかにそれは、師範の腕力で割れたのではなかった。
掌に集められた”破壊の衝撃”のみ
師範はそれを”発剄”と呼んだ。
サキは、掌とコンクリート塊との間の数ミリの隙間に全神経を集中した。
(今の自分の体力で、果たして成功できるだろうか?)
サキは師範の技を見て以来、何度かこの技に挑戦してみた。
いつかその技を自分もマスターしたい……その気持は”ナンバー6”との闘いの後、更に強くなった。
普段でもなかなか成功したことのないこの技を、極度の貧血状態ではとても成功しそうに思えなかった。
だが、こんな状況ではそうも言っていられない。
サキは腹筋に力を込めた。
「ハァッ!」
サキの掌は光らなかった。
- 417 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 22:58
- (だめだ……)
もう一度掌をのせる。
(もう一回……)
「信じるんだ」
コンクリート塊の下でひとみが言った。
「少しでも心に迷いがあれば、”光”は出ない。
必ずできると信じるんだ。
澄んだ心で”気”集中する事ができれば、必ずその手は光る」
ひとみは幼い頃から、父親の必殺技(フェイバリット)だったこの技を密かに練習してきた。
自分も父のようなボクサーになりたい……ひとみはその想いで練習を続けた。
そんな彼女に父、シャーク吉澤はこうアドバイスをした。
「自分を信じるんだ」と。
「ひとみさん、力を貸して下さい」
ひとみはうなずくと、サキの掌の上に自分の手を重ねた。
すっかり冷たくなっていたサキの手に、ひとみの手は温かかった。
「いきます」
- 418 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 22:59
- サキは掌に再度全神経を集中した。
ひとみの手のぬくもりと共に、強い”気”が伝わってきた。
ひとみの強い”気”を感じれば感じるほどに、不思議なくらいにサキの心は研ぎ澄まされていった。
目を閉じたサキの瞼に、深い静かな湖が映っていた。
その水面は鏡のようにさざ波一つたっていない。
そしてその湖底には底知れない”力”が眠っている。
サキの心はその”力”と一体となった。
湧き出る”気”の力を、サキは両手に集めた。
「ハァッ!」
その時、サキの掌が光を放った。
ドンッという低い地響きのような音が、コンクリート塊の中から響いた。
そして小さな破裂音がピシピシと続く。
コンクリートはゆっくりと崩壊し、いくつもの小さな瓦礫となっていった。
重石となっていたコンクリート塊が砕けたおかげで、ひとみの足の上に乗っかっていた鉄骨は難なく取り除く事ができた。
自由になったひとみだったが、立ち上がることはできなかった。
サキはおかしな曲がり方をしたひとみの脚にそっと触れた。
単なる打撲程度のケガではない事はすぐにわかった。
軽く触れただけなのに、ひとみは苦痛で顔をゆがめる。
「ひとみさんはここにいて下さい。
ここから先は私一人で行きます」
「……」
ひとみは何も言わなかった。
- 419 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 22:59
- 「藤本美貴を倒したら、必ず戻ります。
ここで待ってて下さい」
「藤本美貴は最上階の部屋にいる。
そこの階段を上がれば、部屋に行けるはずだ。
その身体で闘えるのか?」
「大丈夫です。私は”スケバン刑事”なんですから」
そう言ってサキは拳をひとみの拳に合わせた。
「すまない、俺はもう闘えそうにない」
ひとみは脚の激痛を表情に出した。
相当な痛みにもかかわらず、ずっとそれを我慢していたのだった。
「7代目、頼みがある
俺はこの任務が終ったら、風間教官と真剣勝負して倒す事になっている。
それが終ったら、次は五代のオバさんを倒す。
その次になるけど、俺と勝負してくれ」
「ええ」
サキはひとみの言葉を微笑みで返した。
そう言いながら、いくらひとみでもあの恐ろしく強い30代2人を倒せるかどうか疑問だった。
もし、ひとみがあの2人を倒せる程強いとしたら、到底サキに敵う相手ではなくなる。
「ひとみさんが元気になったら、必ず……
でもその前に、由真さんがいいかげん部屋を片付けろって言ってましたよ。
あの部屋はまだ、そのままで置いているんですから……」
- 420 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 23:00
- 「そうか……
長いこと帰ってないな、あの部屋に……」
ひとみの部屋もサキの住む部屋と同じマンションにある。
由真は行方不明になったひとみがいつ帰ってきても大丈夫な様に、部屋をそのままに置いていた。
「藤本美貴を倒したら、必ず戻ってきます。
一緒に帰りましょう、あの家に」
「ああ、ここで待ってる」
そう言って立ち去るサキの後姿を、ひとみはじっと見つめていた。
痛みを堪える様に目を閉じる。
崩れ落ちた瓦礫にもたれ、ひとみは小さく呟いた。
「You are the Champion……」
********************
- 421 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 23:00
-
――続く――
- 422 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/07/17(土) 23:01
- >>407 :名無しの一読者さま
>ところで、ガイシュツかもしれませんが"3代目"サキ役だった浅香唯はTBS系の昼ドラにで出演中です。
スタッフはきっと我々と同世代で、彼女を配役する際にスケバン刑事の話も出たのでしょうね
>>408 :紺ちゃんファンさま
毎度毎度、ありがとうございます
>>409 :年甲斐もなく興奮中!さま
>斎藤と里沙がマコ&1〜3代目と合流して殴りこんでくるシーンを想像しただけで燃えますねえ
ちょっと想像と違うかもしれません
>かっこええわー。ピンチですけど。5代目も7代目もですが、極め台詞がカッコ良すぎですよ!
実は7代目は主人公のくせにあんまりキメ口上やってないんですね、すいません
>>410 :名無しの一読者 さま
応援ありがとうございます。
せっかく楽しみにして頂いているのに、長いこと続きをうぷせず申し訳ございません。
- 423 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/02(月) 19:50
- 作者さん!更新期待!!age
- 424 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 01:59
-
五代陽子と紺野サキ、そして高橋愛の3人は藤本美貴のいる最上階の部屋に向かっていた。
「おかしい……」
いつも開いているはずの扉が開かない事で、愛はすこし焦っていた。
廊下は所々封鎖され、普通に最上階に行けないようになっている。
元々この建物は病院として建てられたものだったが、外部からの侵入者が中で迷うようにワザと迷路のように改築されている。
最上階に辿り着く為には、複雑に入り組んだルートを通らねばならない。
しかし、いつも使っているはずのルートが、今日は通れなくなっている。
「もしかしたら、ルートを変更されているかもしれません……」
愛はそう呟いて、踵を返した。
仕方なく別のルートを進む。
細い廊下を抜け、中央の広間に出る。
「ここからなら、最上階に行けるはずです」
愛は扉を開こうとしたが、どこの扉も鍵がかかっていた。
慌てて戻ってみたが、入ってきた扉も既に鍵がかかっている。
知らない間にこの広間に閉じ込められてしまっていたようだ。
その時、広間の奥にある扉が開いた。
中には黒いスーツ姿の男が一人立っていた。
- 425 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 01:59
- 「?!」
男の顔に見覚えがあった。
男は”神狼会”の創設者、山崎だった。
「どうしてだ?」
山崎は3人の顔を順番に見て言った。
「どうして、貴様らはこうも俺の邪魔ばかりをする!」
「おんしこそ、何を企んじょる。
海槌家、信楽老を利用して、”陰”から逃げまわってまで生き抜いてきた、政界の影の首領(ドン)とまで言われたおまんが!」
陽子も負けじと叫んだ。
「この男は、海槌のところににいた弁護士か?」
サキが訊いた。
「そうです先輩。
海槌コンツェルンの顧問弁護士だった山崎です」
山崎の顔はサキにも見覚えがあった。
かつて、海槌三姉妹と闘った際に何度も見た顔だった。
「お、お前は、麻宮サキか?!」
彼女の顔を見て山崎の表情が変わった。
- 426 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:00
- 「生きていたのか!」
山崎は陽子とサキの2人の顔をにらみつけた。
「揃いも揃って俺のやる事の邪魔ばっかりしてきた”スケバン刑事”が2人もやって来るとは!
だがそれもここで終わりだ。
お前たちはここで死んでもらう」
山崎は銃を構えた。
3人は咄嗟に散らばる。
飛び退きざまにサキはヨーヨーを投げた。
陽子も一瞬遅れてヨーヨーを投げる。
2つのヨーヨーは山崎の手元に正確にヒットする。
しかし、ヨーヨーは見えない壁のようなものに阻まれ、山崎の手前で落ちた。
「残念だが、いくらそのヨーヨーでもこの強化ガラスは破れないよ」
山崎は冷酷な笑みを浮かべた。
「山崎、おんしは何の目的でこんな事を続けちょるんや!
海槌家を再興させて何になるちゅうんや?」
- 427 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:00
- 「何のことだ?
俺は海槌家など興味はない。
あの日から19年、俺の”目的”はたった一つだった。
その為に信楽老にも近付き、”陰”からも逃げ回った、上府論党に入って”神狼会”を作ったのもそうだ
全てはその為に……俺はこの時をずっと待ってたんだ。
ずっと待ち続けてやっと”目的”が完了しかかったと思ったら、この女に洗脳され3年も無駄にしてしまった。
やっと洗脳が解けてこれからという時に、また”スケバン刑事”が邪魔をしに来た。
麻宮サキ、お前たちはどこまで俺の”目的”の邪魔をすれば気が済むんだ!!」
「一体どういう事だ!
てめえの”目的”とはいったい何なんだ?」
「死ぬ前に教えてやろう」
山崎の手に持っていたのは銃ではなかった。
何かのコントローラーのようなものだった。
スイッチを入れる。
広間の壁から霧状のものが噴き出された。
部屋の中にたちまち異臭が立ち込める。
散々彼の”目的”を邪魔してきた者達が苦しむ姿を見ながら、山崎は19年間の過去を語り始めた。
********************
- 428 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:00
- ********************
「うおーりゃあ!」
麻琴は獅子奮迅の活躍で、次々に現れる白衣の男達を蹴散らしていた。
連続して投げられるビー玉、それをかいくぐって麻琴の前にたどり着いた者は容赦ないキックが待っている。
(さすがお京さんの娘ね、やるじゃない)
唯は麻琴のすぐ後で腕を組んだまま、眉毛を吊り上げていた。
2代目に命じられた事とはいえ、敵の本体に行けない事が唯には少し不満だった。
(いつもそうだ……)
口を尖らしながら唯は呟いた。
(なんだかんだといっても結局、オイシいトコロは持ってかれちゃうのよね……)
勿論、捕えられた少女達を助けることが重要な任務である事は、彼女も十分理解している。
口では文句を言いながらも、与えられた任務はちゃんとこなす。
こんなことでつまらない駄々をこねるような子供ではない。
ただ、選択肢があるならより危険な任務を選びたい、そのポリシーは昔も今も変わりはなかった。
そのウサは、幸運にも麻琴のキックを逃れ、唯の前にたどり着いた男に向けられる事になった。
”鬼教官”モードになって立ちはだかる唯の関門をくぐれる者は誰もいない。
白衣の男にとっては麻琴の最初の攻撃でやられていた方が、もしかしたら幸運と言えるのかもしれなかった。
憤怒の形相の唯は、男達を絶対立ち上がることのないほど叩きのめしていた。
********************
- 429 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:01
- ********************
「そんなことの為に……
てめえはそんなことの為に、多くの人間を犠牲にしてきたのか!」
サキはそれまで黙って山崎の話を聞いていた。
陽子はそんな初代の様子を、不気味に感じていた。
陽子も山崎の話に底知れない怒りを感じていた。
だがその怒りも初代の迫力の前に霞んでしまうほどであった。
初代の身体から湧き上がる怒りが白い炎となって立ち上っている。
陽子は身震いした。
部屋の中には壁から噴出されるガスによる異臭がたちこめていた。
3人はそんなことも忘れたかのように、怒りの眼差しを強化ガラスの向こうに立つ男に向けていた。
「お前達が邪魔さえしなければ、俺の”目的”は何の問題もなく遂行できたんだ。
くだらない邪魔さえなければ、被害者も少なくて済んだものを……」
「許せねえ……」
サキはまるで山崎の言葉も耳に入っていないかの様に呟いていた。
彼女の身体が怒りに震えている。
怒りと共にヨーヨーを握り締める。
その握力で重合金がギリギリと音を立てた。
「てめえだけは……
てめえだけは絶対に許せねえ!」
- 430 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:01
- サキの左の豪腕がうなった。
怒りの弾丸は真っ直ぐに山崎に向かう。
ピシッ!
サキのヨーヨーの攻撃は、強化ガラスに小さな傷が一つついただけに終わった。
だが、サキは諦めなかった。
戻ってきたヨーヨーを再度構える。
「先輩、私も行きます!!」
陽子も同じようにヨーヨーを構えた。
「山崎!うちもこんなに人を憎いと思うたことはない。
おんしのせいで犠牲になった人々の恨みや想いがいっぱい詰まったこのヨーヨーは、決しておまんを逃がさんぜよ!」
二人は同時にヨーヨーを投げた。
初速に勝る陽子のヨーヨーが一瞬早く前に出る。
サキのヨーヨーは陽子のヨーヨーを後押しするように、同時にガラスにぶつかった。
バシッ
さっきとは明らかに違う音が、ガラスに響いた。
強化ガラスにヒビが入る。
「もう一度!」
二人は再度ヨーヨーを投げた。
- 431 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:02
- ガシッ
陽子のヨーヨーが強化ガラスのヒビに食い込んだ。
そのヨーヨーめがけてサキのヨーヨーがぶつかった。
「な、なんだと!」
陽子のヨーヨーはサキのヨーヨーに打ち込まれ、強化ガラスぶち抜いた。
戻ってくるヨーヨー。
サキは貫通した穴をめがけて、再度ヨーヨーを投げる。
正確なコントロールはガラスの向こうの山崎の腹を捕らえた。
「うぐっ!」
怒りのヨーヨーをまともに受けて、山崎は膝をついた。
高橋はガラスに向かって側にあったイスを投げつけた。
バキバキッ!
鈍い音と共に、ヨーヨーでつけられたヒビが更に大きくなる。
「くそおっ!」
立ち上がって逃げ出そうとする山崎。
「逃がさないよ!」
2人の”麻宮サキ”は同時にヨーヨーを投げた。
- 432 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:02
- グワッシャーン
粉々に砕ける強化ガラスが、逃げ出そうとする山崎の頭の上から襲い掛かかった。
散らばった破片の下で、山アは血まみれになって倒れていた。
********************
サキは両手でドアを押した。
大きなその扉は音もなく開く。
この建物の最上階の部屋。
中央に置かれた執務テーブルに、少女が一人座っていた。
「騒がしいと思ったら、とんだネズミが入り込んでいたようだね」
少女は冷たい視線で言った。
「藤本美貴!今度こそお前を逃がさない!」
「ふん……」
美貴は何かを言おうとしたが、その言葉が口をつく前にサキは彼女に飛びかかった。
間髪を入れない連続攻撃。
だがその動きは、美貴が十分かわせられる程度の早さしかない。
攻撃を簡単に避けられた後、美貴はすぐにサキから身を離し構えた。
- 433 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:03
- 「その様子じゃあ、血を抜かれてからまだ十分回復していないようだね。
そんなお前に、私が倒せるかな?」
美貴の言う通りだった。
身体がいう事をきかない。
さっき放った”発剄”も体力を消耗している要因の一つだった。
「返り討ちにしてあげるよ!」
今度は美貴が飛びかかってきた。
蹴りの連続。
サキはかろうじてブロックする。
(だめだ、身体が動かない……)
心臓の鼓動が早くなり、目の前が次第に暗くなっていく。
腕に力が入らない。
身体がフラフラする。
サキは気力だけで立っていた。
「あさ美!」
- 434 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:03
- その時、部屋にある別の扉が開いた。
そこには彼女の母親と五代陽子、そして高橋愛の3人が立っていた。
「お、お前は!」
登場した3人の顔を見て、藤本美貴の表情が変わった。
「生きていたのか!
麻宮サキ!」
喉の奥から搾り出すように、美貴は叫んだ。
その声は、19歳の少女のものとは思えないほどの、低く恐ろしい声だった。
新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第八話
「拳の約束」
終わり
- 435 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:04
- 次回予告
山崎が語った、藤本美貴に隠された秘密。
それは恐ろしい、19年にも及ぶ陰謀だった。
そして、最後の戦いに挑む麻宮サキ達の運命は?
次回、新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第九話
「最後の戦い……そして!」
乞うご期待
「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」
- 436 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/08/06(金) 02:05
-
暑中お見舞い申し上げます
相変らずの遅筆、申し訳ございません。
時間がかかっても、続きは必ずうpしますので
皆様、見捨てずにお付き合い下さいませ。
- 437 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/07(土) 20:12
- ついにこの話も決戦ですね・・・。
山崎の目的は一体・・・!?って感じですね。
皆様のように、スケバン刑事にそう詳しいわけではないので、
あんまり言えませんが、作者さま、がんばってください。
- 438 名前:にくま。 投稿日:2004/08/10(火) 17:29
- なにげにスケバンDVDもそろえてるんですけど、
ホント、この内容で、このキャストでドラマ化して欲しい!
そんな風に思いながら1〜3のvol1をみてました。
ま、、市井役は別でも可(笑)
いよいよ大詰めですね。
頑張ってください。楽しみにしてます!!
- 439 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:50
- 第九話
「最後の戦い……そして!」
「生きていたのか!
麻宮サキ!」
喉の奥から搾り出すように、美貴は叫んだ。
その声は、19歳の少女のものとは思えないほどの、低く恐ろしい声だった。
現れた3人を悪魔のような表情で睨みつける藤本美貴を見て、サキ、陽子、愛の3人は、山崎が語った彼女に関する秘密を思い出していた。
それは恐ろしい、19年にも及ぶ陰謀だった。
********************
「あれは……俺がまだ海槌家に弁護士として雇われて間もない頃だった。
俺はそこではじめて彼女に出会った。
海槌会長の命令で進められている極秘任務。
日本中の学校法人を傘下にして強力な組織作りをしようとする計画……彼女はその推進責任者だった。
俺の仕事は彼女がスムーズに計画遂行ができるように、弁護士として細かい訴訟やクレームを全て押さえることだった。
仕事で接しているうちに俺は彼女の魅力に惹かれていくようになった。
普段は厳しい表情の彼女だったが、時々俺の前では普通の女性の笑顔を見せるようになった。
しばらくして彼女は悩みやトラブルの相談を俺に話すようになった。
表向きは仕事上の関係だったが、2人は極秘でプライベートでも一緒に過ごすような仲になっていた。
幸せだったよ。
だがそれを、全て台無しにしてしまう事が起きた。
麻宮サキ、貴様が現れたからだ。
- 440 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:50
- 貴様のおかげで、会長は過去の殺人がばれて自殺。
彼女の妹達も次々に逮捕された。
彼女も警察から重要参考人として指名手配となっていた……彼女が逮捕されるのも時間の問題だった。
日本の6大財閥の一つとまで言われた海槌家は一夜にして崩壊してしまったんだ。
海槌コンツェルンに勤める従業員、関連する会社、取引先。
海槌の資産は、その莫大な被害の為に全て無くなってしまった。
俺はあの夜、全てを失った彼女にプロポーズをした。
海槌家で唯一残された彼女を支えてやれるのは、俺しかいない……そう思った。
その時、彼女は初めて人前で涙を見せた。
気の強い気丈な性格の彼女の涙を初めて見た。
彼女は俺のプロポーズを喜んで受け入れてくれた。
そして、俺達は結ばれたんだ。
しかし、俺達2人が本当に幸せに暮らす為には条件があった。
それは海槌家をこんな目に合わせた張本人、麻宮サキを葬り去る事。
そして、海槌コンツェルンの最大の暗部だった”闇の医師団”の痕跡を完全に抹消してしまう事。
このままいけば、海槌コンツェルンは間違いなく解体される。
海槌コンツェルンが解体となれば、最大の資金源である「YEAST製薬」に必ず各機関のメスが入る。
警察もバカではない。「YEAST製薬」のしてきたことを白日の元にさらしてしまうだろう。
”闇の医師団”の事実が世間に知られれば、海槌は決して再興する事はできない。
だが、”闇の医師団”のもつ医学研究の数々は、いくら金を積んでも得られない貴重な研究資料だ。
闇に潜めておけば、絶対に後々有利に使える。
この二つを同時に成功させる方法は一つだった。
それは大量の爆弾を仕掛けた製薬工場にお前をおびき出し、もろとも爆殺してしまう事だったのさ。
- 441 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:50
- 彼女は、これが終わったら2人でどこか遠い国でしばらくのんびり暮らそうと言った。
しかし俺は彼女が麻宮サキを倒す事に悲壮なまでに強い思いを抱いている事を薄々感じていた。
彼女は麻宮サキを憎んでいた。
麻宮サキを倒す為なら、最終互いを刺し違えてもいいとまで思っているに違いなかった。
俺は彼女を追って、製薬工場に向かった。
丁度工場に到着した時だった……工場から爆音が聞こえたのは。
一足遅かった……
俺は必死で燃え盛る工場の中を駆け回った。
そして、見つけたんだ……焼け焦げた彼女の身体を……
火傷はかなり酷い状態だったが、彼女はかろうじて生きていた。
すぐに俺は彼女を”闇の医師団”の元に連れていった。
警察の目を逃れる為、適当な献体(ドナー)を選んで彼女の身代わりにし、俺は彼女を”闇の医師団”の地下病院に運んだ。
幸い発見が早かったおかげで、彼女は一命を取りとめた。
だが、全身の火傷はかなり深い所まで及んでいた。
植皮手術程度では追いつかないほどだったのだ。
普通、植皮は本人の皮膚でないと適合しない。
そしてそれでも、1、2週間ではがれてしまう。
”闇の医師団”はそれを全くの他人の皮膚を使う植皮技術を持っていた。
老化した肌に若い女性の皮膚を植皮する。
金持ちのババアどもが喜んでいくらでも金を出す植皮技術さ。
- 442 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:51
- だがその高い技術も、彼女の酷い火傷を完全に治療する事はできなかった。
彼女の身体と植皮した皮膚は完全に癒着せず、そのうち接合部分が腐りだす。
表面を保護していた皮膚組織が損傷しているので、そこに付着した雑菌の繁殖を押さえる事ができない。
増えた雑菌は彼女の肉体を蝕み、腐敗を進行させていた。
植皮と彼女の表面の消毒、表面組織の腐敗進行を食い止めるための毎日が続いた。
彼女の命を維持する為には、若い女の皮膚を1、2週間ごとに植皮しなければならない。
必要となる「献体(ドナー)」の確保……俺はその目的の為。
そして、彼女の手術の為の莫大な資金確保の為。
俺は日本を陰で牛耳る大物、”鎌倉の信楽老”に近付いた。
息子の”ウルフレボルーション”などというクダラない妄想を後押しする為に「青狼会」という組織を作った。
そして計画に反抗する女生徒に定期的に”行方不明”になってもらった。
「青狼会」は俺にとっては、彼女の「献体(ドナー)」の確保を目的とした組織だった。
まさかそこにもスケバン刑事が現れるとはな。
結局、その息子も信楽老も死んでしまった。
信楽老が死んだことで、日本の暗部をを裏で支えていた”陰”と呼ばれる暗殺集団が”表”に出てきた。
やつらは信楽老の財産管理者となった俺の命を狙うようになった。
苦労したよ、あいつらから逃げるのには。
最終的には信楽老の後も引き続き資金供与することで話がついたが、「青狼会」が崩壊してしまった事で「献体(ドナー)」の確保先を失ってしまった。
俺は仕方なく、昔”闇の医師団”が命を救った男を利用することにした。
そいつは自衛隊の幹部でありながらクーデターを画策し、失敗して爆死しかけた男だった。
”闇の医師団”はその男の身体を半機械化することで蘇生させていた。
サイボーグとなった後でもその男は、相変らずクーデターを夢見ていた。
政治家まで巻き込んでクーデターの為の兵士育成のための巨大な学園要塞”地獄城”を完成させていた。
俺はその男に近づいて、信楽老の資金提供を申し出た。
そして「献体(ドナー)」の確保の為に、その学園から女生徒を”行方不明”になってもらう事にした。
- 443 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:51
- 俺が「献体(ドナー)」の確保のためにやってきた事、これら全てをことごとく潰してきた……
それがお前達”スケバン刑事”だ!
”闇の医師団”は早くから彼女の治療法について所見を出していた……
このまま植皮手術を続けても、彼女は絶対治る事がない。
彼女の皮膚組織の腐敗進行は数年でやっと症状が安定したが、彼女は相変わらず包帯でグルグル巻きにされ寝たきりの状態だった。
彼女が元気な元の姿に戻る方法は一つしかなかった。
皮膚組織の移植という表面的な部分のツギハギでは、永久に彼女は元の姿には戻れない。
もっと大掛かりな移植手術……
そう、植皮などというまどろっこしい方法じゃなく、大幅な全身の入れ替え。
彼女の完全な治癒の為の方法は、健康な肉体に彼女の脳を入れ替えることしかなかったのさ。
だが、それには大きな問題があった。
”闇の医師団”はかなりの高い臓器移植技術を持っていたが、それでもどうしても超えられない壁があった。
それは、本人と移植する臓器との”適合”。
せっかく移植しても身体がその臓器を”受け入れ”なければ、体内に入った”異物”でしかない。
”闇の医師団”はこの適合率を格段に高く引き上げる技術があったが、それでも誰の臓器でも適合させられるというものではなかった。
ましてや、”脳”と”全身”となれば、その適合率は限りなく100%に近くなければ、移植はありえない。
俺はあらゆる方法を使って、彼女に”適合する身体”を求めて探しまわったよ。
それは意外に早く見つかった。
丁度、会長の妹の所に女の子が生まれていた。
彼女の従妹になるその娘は、その時点で既に高い適合率を示していた。
今はまだ赤ん坊だが、このまま更に”適合するように”育てれば10数年後には、完全な献体(ドナー)にする事ができる。
俺はその家を潰し、その赤ん坊を手に入れ育てる事にした。
- 444 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:52
- 彼女の完璧な「献体(ドナー)」を作り上げる為にね」
そこまで話を聞いて、愛は両手で顔を覆った。
「美貴は昔私に話してくれた事がある。
”いつか私が私でなくなったら、そのときは私を殺して”と
彼女は薄々知っていたんだ……
自分が何の為に育てられていたのか……
まさか、本当に……本当に彼女は彼女でなくなっていたなんて」
「その移植手術の為に、紺野医師の腕が必要だった訳か?」
陽子は異臭の充満する中で叫んだ。
「その通りだ。
あの男が助けた患者に騙されて”闇の医師団”を抜け、北海道で働いている事は知っていた。
いよいよ手術を始めるにあたって、どうしても優秀な脳外科医が必要だった。
あの男は脳改造の研究では”闇の医師団”の中でも最高の技術を持っていた。
そこにいる愛を連れて行って、その腕が落ちていないか確かめるつもりだった。
まさかそこで事故に会い、本当に手術を受ける羽目になるとはな。
しかも、人の心を操る力でこの俺が操られてしまうようになるとは……
3年も無駄にしてしまった。
せっかく、彼女の脳移植手術の手配がすんだというのに、俺はその結果も知らないままこの女の言いなりになって3年も過ごしてしまった。
俺の……俺のこの19年間の目的はただ一つだ!
- 445 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:53
- 彼女を元の元気な姿に戻す事。
日本の政治を陰で操る事も、海槌家を再興することも、それら全てはこの目的の為のついででしかない。
俺はただその目的の為だけにこの19年間を費やしてきたのだ!!」
********************
「生きていたのか!
麻宮サキ!」
喉の奥から搾り出すように、美貴は叫んだ。
「私もお前がそんな醜い姿になってもまだ生きているなんて、思ってもみなかったよ!
まあ、私も人のことは言えないけどな、だがな、お前一人の為に多くの人間の命が踏みにじられてきた。
それだけはぜったいに許せねえ!
今度こそ、お前を逃がさない!!
覚悟しな!
海槌麗巳!!」
その名を聞いて美貴はニヤリと笑った。
「知っていたのか!」
間髪をいれず、愛が飛び出した。
「許せない!
美貴の身体を奪った悪魔め!!」
- 446 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:53
- 愛は泣いていた。
目の前にいる彼女はかつての親友ではない。
悪魔の脳を移植された別人なのだ。
美貴はいつも薬を飲まされていた。
子供の頃から体が弱かったから……彼女はそう言っていくつもの錠剤を服用していた。
今思えばそれは彼女の身体を治すための薬ではなかった。
彼女を悪魔の献体(ドナー)として適合させる為の薬だったのだ。
美貴がどんな思いで生き、そしてどんな思いで手術を受けたのか。
そう思うと愛の胸は強く締め付けられるほどに痛んだ。
彼女の人生はこんな悪魔を再び世に送り出す為のものだったなんて……
美貴は少しも動じる事なく、跳び込んできた愛を殴った。
床に打ち据え、ブーツで踏みつける。
今の美貴、海槌麗巳の脳が宿った悪魔には愛など眼中になかった。
「今度こそ地獄に送ってやるよ!麻宮サキ!」
美貴はずかずかとサキと陽子の元に向かおうとした。
その前にサキ(あさ美)が立ちはだかる。
「どこに行くんだ、お前の相手はこっちだ!」
「邪魔するんじゃないよ、お前など相手じゃないんでね」
「あさ美!これを使いなさい!!」
サキは娘に持っていたヨーヨーを投げた。
娘はそれを受け取ると、ぐいっと前に出した。
彼女の持っていたヨーヨーと同じ場所に小さな隠しスイッチがあった。
片面が開き、桜の代紋が現れる。
- 447 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:54
- 「天王洲高校1年B組麻宮サキ。
またの名を7代目”スケバン刑事”
なんの因果か母娘そろってマッポの手先。
だがな、母親より名前と共に受け継いだ熱い血と、代紋入りのこのヨーヨーが
てめーみたいな悪党を許せないんだよ
この拳の餌食になりたいんなら、前に出な!!」
麻宮サキの娘、紺野あさ美と海槌麗巳の脳が移植された藤本美貴。
対峙する二人の間に流れる空気。
互いの激しい殺気がぶつかり、火花を散らした。
それはまるで19年前のあの日の再現のようだった。
********************
程なく、おびただしい数のパトカーと救急車がこの静かな山村の病院に殺到してきた。
唯は手際よく指示を出し、地下に閉じ込められていた少女達を搬出させていた。
病院の職員としてここで働いていた神狼会のメンバーも警官隊に次々に捕縛された。
いずれこの病院跡の建物の中で行われていた、世にも恐ろしい様々な悪事が白日の元にさらされるだろう。
唯は警官隊の後方で自慢気に腕を組んで指示を出している内藤の姿を見つけた。
(アイツ、こういう時だけしゃしゃり出てくるんだね)
少女達が命がけで掴んだ情報の上前をはねるかのような、内藤の態度には唯も怒りを通り越していた。
(現代(いま)じゃ、ああいうヤツが出世するんだなんて、世も末だね)
唯は怒りと不機嫌を露骨に表情に出しながら、内藤に近付いた。
- 448 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:54
- 「部長、五代警部と特殊潜入捜査官の一人がまだ中で犯人といる模様です。
私は中に入って探してきますので、部長はここの指揮をお願いします」
「あ、ああ、わかった」
言われなくても現場の指揮をとっているのだが、唯はあえて内藤にそう告げた。
「唯さん、私も行きます!」
側にいた麻琴が言った。
「だめよ、ここからは警察の仕事。
だから、おとなしくここで待ってなさい……って言っても付いて来る気でしょ?」
唯は少しだけ眉間のしわを緩め、微笑んだ。
「はいっ!」
「急ぎましょう」
病院の四方から爆発音が聞こえたのはその時だった。
入り口付近、裏手、主要な出入り口付近から火柱と煙が上がっている。
突然の事に、現場は騒然となった。
中に入っていた捜査員は慌てて飛び出してくる。
幸い、さらわれていた少女達の搬出は終わっていたが、その奥にあった「献体(ドナー)」の保管庫は手付かずのままであった。
燃え盛る炎。
唯は正面玄関前まで走ると、印を結んだ。
- 449 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:54
- 「………ブツブツ」
なにやら呪文を唱える
両の掌の指を思い切り広げ、親指を折る。丁度”4”の形。
「私の後ろにピッタリついてくるのよ」
「はいっ!」
正面玄関に上がる火の手を前に、唯はその両手を扇が舞うかのように動かした。
唯の手の動きに合わせて、炎が揺れた。
「はぁぁぁっ!」
唯が両手を広げると、炎はまるで魔法にかかったかのように左右に開いた。
風魔秘伝奥義、「操炎扇」いわゆる火遁の術の一つ。
火遁の術というのは燃え盛る炎の中で身を隠す為の術。
不意に焼き討ちにあったとしても、土中などに身を隠す事によって炎を避け身を守る。
火遁の術の基本は、たとえまわりが炎に囲まれようとも、決して慌てずに脱出の為の活路を見出す事にある。
「操炎扇」は炎の動きをコントロールすることで、炎から身を守り安全に外に脱出したり、炎の中で身を隠す為に使われた術。
火遁から更に一つ発展させた形の術なのだ。
しかしそうは言っても、激しさを増す炎の勢いの中ではその術をも長くは持ちそうにない。
唯はすばやく炎の中に飛び込んだ。
麻琴もすぐ後に続く。
2人は炎の中を走り出した。
********************
- 450 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:55
- ********************
サキ(あさ美)の投げたヨーヨーは美貴の頬をかすめただけだった。
美貴はそのヨーヨーを避けようともせず、悪魔の眼差しを彼女に向けた。
戻ってくるヨーヨーと共に美貴が飛び込む。
サキは構えた。
美貴は隠し持っていたムチを手にしていた。
乗馬用のムチがサキの身体に打ち据えられる。
サキは退かなかった。
そのムチに怯むことなく、間合いを詰める。
サキの正拳突きが美貴の胸元に決まった時、建物の外からドウッという音がした。
続いて地響きのような揺れを感じる。
「な!」
陽子は窓に駆け寄った。
眼下にはおびただしい数のパトカーと警官隊がひしめいていた。
玄関口等各所から煙が上がっている。
続いて炎が真っ赤な舌を舐めまわすように、病院の壁に広がり始めていた。
「みんなここで死んでもらう!」
美貴は高らかに笑った。
********************
- 451 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:56
- ********************
病院の中はまるで迷路だった。
閉じられた非常扉や、廊下を塞ぐ壁がまともに最上階に向かう道を閉ざしていた。
爆発から発生した火災、炎と煙がゆっくりと建物に充満し始めている。
うかうかしているとここもすぐに火の海となるだろう。
唯は時折、床に手を当てかすかに残された気配を読み取りながら先に進んだ。
扉を開くとそこは建設途中のホールだった。
多数の瓦礫が転がっている。
唯はそこにもたれて座っているひとみの姿を見つけた。
「ひとみ!」
唯は彼女に駆け寄った。
「よお、教官、ひさぶり……」
ひとみは、苦痛を精一杯こらえながら痩せ我慢の笑顔でそう言った。
「こんなところで……怪我してるの?」
唯はひとみの足に触れた。
「うぐっ」
ひとみの顔の苦痛の度合いが増す。
唯はそんなひとみの痛みをまるっきり無視するかのように、足の各所を触診した。
- 452 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:56
- 「折れてはいないようね。
歩ける?」
「な訳ねえだろ!痛えぇ……」
「私が背負ってあげるわ、乗りなさい」
唯はそう言ってひとみに背中を向けた。
「いや、いいよ……」
ひとみは片手を面倒くさそうに振った。
「7代目と約束したんだ、ここで待ってるって」
「あさ美と?
彼女は今どこに?」
「そこの階段から上がった最上階の部屋に美貴がいる。
7代目はそこに向かったよ」
「さっきの爆発音を聞いたでしょ?
1階はもう炎に包まれてる。
ここにも間もなく火の手が来るわ。
消防隊も間もなく来ると思うけど、間に合わないわ。
あなたも一緒に、7代目スケバン刑事の最後の闘いを見届けなさい。
行くわよ!
マコちゃん、彼女を私の背中に乗せて!」
「はい」
- 453 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:56
- 麻琴は唯の言う通り、ひとみの身体を唯の背中に乗せた。
長身のひとみの身体は唯には少し大きすぎたが、唯は軽々と背負った。
いつもながら唯のやり方は強引だったが、ひとみはなぜかそれに逆らう事はできなかった。
********************
美貴は手にしたムチをあさ美の首に巻きつけた。
ギリギリと締め上げる。
「近付くんじゃないよ!」
美貴は叫んだ。
「近付けばこの娘の命はないよ!」
だが、サキも陽子も少しも慌てることなく、じっと2人の闘いを見つめている。
締められているあさ美も冷静だった。
サキも陽子も初めから彼女の手助けをするつもりは毛頭なかった。
2人は母親として、そしてスケバン刑事を指揮するエージェントとして、7代目スケバン刑事紺野あさ美の闘いを見届けるつもりだ。
ここで藤本美貴(海槌麗巳)に倒されればそれまでの事。
いや、そんなヤワな娘でないという絶対の信頼を彼女に置いているからこそ、2人は黙って彼女の闘いを見守る事ができる。
あさ美も2人の沈黙の意味を察していた。
(絶対に負ける訳にはいかない!!)
ヨーヨーを後ろ手に投げる。
戻ってきたヨーヨーは美貴の背中に当たった。
「うぐっ!」
- 454 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:57
- その手が緩んだ一瞬をあさ美は逃がさなかった。
身を翻し、振り向きざまに両の掌を美貴の胸元にそっと触れるようにあてがう。
あさ美の頭は空っぽだった。
空虚な思考の中で全身の反射神経だけが反応していた。
心は無
唯一閉じた瞼の下に広がる湖のイメージだけが、彼女の心を極限まで研ぎ澄ましていた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
体の奥から沸き起こる怒りは、大きな”気”の力となって、凄まじいエネルギーが彼女の両手に走った。
そしてそのエネルギーはまばゆいばかりの光となって彼女の掌から放出された。
ドンッ!
鈍い音と共に美貴の身体が中に舞う。
見た目にはそっと押しただけのようなその動きにもかかわらず、美貴の身体は数メートル後方に吹き飛ばされていた。
ゆっくりと、弧を描いて美貴の身体は宙に舞った。
飛ばされた身体は壁にたたきつけられ、そのまま床に墜ちた。
地面に墜ちた美貴は動くことはなかった。
あさ美は勝った。
美貴が倒れると共にあさ美もその場に崩れ落ちた。
神狼会の本部は既に火の海になりつつあった。
扉から階下からの煙が立ち昇ってくる。
丁度その時、煙と共に唯と麻琴、そして唯に負われたひとみが飛び込んできた。
- 455 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:57
- 「助けにきたぜ! サキ!!」
麻琴が叫んだが、闘いは既に終わった後だった。
あさ美は母にかかえられ、支えられながらやっとのことで立っている。
血を抜かれ、それでも闘い続けていた限界が来たようだった。
「あさ美、よくがんばったわね」
サキは娘に声をかけた。
「母さん、この下にひとみさんがいるの……助けなきゃ……約束したの……」
あさ美は半分気を失いながら、呪文のように呟く。
「大丈夫だよ、あさ美。
ひとみはここに居る」
「よかった……」
唯の言葉を聞いて安心したのか、あさ美はそのまま気を失った。
「みんな、あまり時間がありません。すぐにここを脱出しないと!!」
唯の叫び声と2回目の爆発音が響いたのはほぼ同時だった。
さっきの爆発より大きい。
いや、爆発した場所が近いという感じだ。
吹き飛ぶ窓ガラス。
爆風と共に大量の煙が部屋に流入する。
- 456 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:58
- その煙の中に血まみれの男が立っていた。
さっき強化ガラスの破片の下で倒れていたはずの山崎だった。
山崎は真っ直ぐに倒れている美貴の元に駆け寄った。
「麗巳!!」
美貴の身体を抱きかかえる山崎。燃え盛る炎が二人を襲う。
だが山崎はそこから動かなかった。
「山崎……」
少しだけ瞼を開いた美貴が呟いた。
「やっと、やっとこうして2人が愛を確かめ合えるようになったというのに……
こんな、こんな……」
山崎はそう叫んで美貴の身体を強く抱きしめた。
「もう、いいんだ、山崎……初めからこうするつもりだった……」
美貴はそれだけ呟くとゆっくりと目を閉じた。
燃え盛る炎が二人の体を包んだ。
そして二人の姿は炎の中に消えていった。
炎と煙、そしてものすごい熱風が部屋の温度を急上昇させていた。もう一刻の猶予もない。
うかうかしていたら、こちらまで炎に巻き込まれるのは時間の問題だ。
「2代目、ひとみを頼みます!」
- 457 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:58
- 唯はそう叫んで、背中に負ったひとみを陽子に預けた。
印を結び呪文を唱え、両手を広げる。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
花びらが舞うような両掌の扇の舞とともに、炎が揺れ脱出の為の道を空けた。
「早く、火の手が完全に回ってしまえばこの術も効果はありません!
今のうちに脱出して下さい!!」
「私が先導します。こっちです!」
愛が率先して炎の中に飛び込む。
麻琴と、ひとみを背に負った陽子が続いた。
サキは娘を抱えて後に続く。
「唯さん」
通り際サキは唯に声をかけた。
「ここから脱出できた後でいいんだけど、その術私にも教えてくれないかしら?
またこんな爆発に巻き込まれた時の為に、覚えておきたいの」
「ここから無事に脱出できたら、喜んで」
- 458 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:58
- サキの言葉に唯は微笑みで返した。
その時炎が大きく揺れた。
********************
消防隊が到着し消火作業を開始した後も、建物は数回の爆発を繰り返し、現場は危険な状態が続いた。
建物は爆発の後、全焼して崩壊。
火災は深夜まで及んだ消火作業の末に、ようやく鎮火の兆しを見せた。
翌朝早朝より火災現場の調査が開始されることとなったが、不発の爆弾が残っている可能性があった為、調査の進行は慎重に行われた。
しかし、そのわずかに進行した調査で地下室からおびただしい数の人骨と焼死体、バラバラになった人体の一部が発見されていた。
幸い拉致された女性達は、爆発前に搬出され近くの病院に運ばれ、全員一命を取りとめていた。
だが、それ以外に一体何人の行方不明者がこの建物の中にいたのか、おびただしい数の身元不明死体が事件の凄惨さと捜査の困難さを物語っていた。
これだけの恐ろしい犯罪の巣窟であったにもかかわらず、事件自体は「建設途中の建物の火災事故」として片付けられていた。
連続拉致事件の犯人は建設途中のまま放置されていたこの建物を利用していた。
犯人によって拉致されていた少女達はここに集められ、捜査員によって救出された。
犯人らしき人物は火災事故で焼死したと見られる。
事件後の新聞発表はそんな形だった
丁度その頃、与党上府論党の影の大物、山崎氏が行方知れずになり政界は一時騒然となったが、元々一般にはあまり知られていない人物だっただけに、事件が大きく報道される事はなかった。
事件は”闇の医師団”とつながり、”闇の医師団”は”神狼会”とつながり、”神狼会”は”上府論党の山崎”とつながる。
もしこのつながりが解明され大々的に報道されたら、与党である上府論党にとって致命的なスキャンダルになるのは間違いない。
恐ろしい人体実験の数々、非合法な臓器売買。
それに喜んで金を出していた、金持ちや権力者達の構図。
事件は日本の社会の不可侵な暗部を曝け出すはずであった。
上府論党の幹事長寺田は、全力でこの事件のもみ消しに奔走する羽目になり、事件は急速に収束を迎えていた。
********************
- 459 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:59
- ********************
数日後、拉致された女性達が収容されている病院の一つ。
ナースステーションに、看護師の一人が血相を変えて飛びこんできた。
「た、大変です!!あの身元不明患者の姿が見えないんです!」
「なんだって?
身元不明って、あの銀色のヨーヨーを握り締めていた患者か?」
丁度そこにいた医師の一人が訊いた。
「そうなんです、今朝もまだ昏睡状態だったはずなんですが、さっき点滴を交換しに来た時には姿が見えなくなっていたんです」
「姿が見えないって、どこに行ったんだ?」
「わ、わかりません」
「わからないって、一体どこに行ったんだ?」
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「これでやっと夏休みだああああ!!!」
- 460 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 01:59
- 麻琴は大きく伸びをしながら叫んだ。
天王洲高校1年B組の教室は、1学期終業式が終った開放感で普段よりも大きくざわついていた。
皆、既に気持ちは夏休み。明日からの過ごし方のプランを話し合う事に余念がない。
夏季講習で1ヶ月を費やす者、旅行に行くもの、クラブ活動に青春を燃やす者、それぞれの過ごし方の話題が教室に飛び交う。
「残念だけど、小川さんは残って頂戴」
担任の飯田圭織は腰に手を当て、少しキツイ目付きで麻琴の背後に立って言った。
「ええっ、なんでだよ」
「通知簿を見たでしょ?
このままの成績じゃ間違いなく単位を落として留年よ。
小川さんは私が特別に補習授業をしますから。
明日からも学校に来て頂戴」
「ぐええええええ」
「しょうがないでしょ、全科目で単位が取れてるの3つしかないんだから。
それも体育以外は赤点ギリギリの成績なのよ。
ウチの学校はスポーツ優待生みたいな制度がないんだから、ちゃんと勉強して単位を取って頂戴」
「ちぇぇぇ」
麻琴は落胆して机に突っ伏した。
抜群の運動神経と、頼まれたらイヤとは言えない母親譲りの姉御肌の性格のせいで、麻琴は各運動部からの助っ人の依頼が後を絶たなかった。
この夏休みも各部の試合の応援を頼まれている。
「仕方ないですわね」
- 461 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 02:00
- 側にいた里沙はそう言って笑った。
「私もできるだけ時間を作って、マコさんの勉強見てあげます。
マコさん、一緒に勉強しましょ」
「里沙はその必要ないじゃんかよ。
いいよ、無理して付き合ってくれなくても」
麻琴は完全にふてくされてそう言った。
里沙は学年でもトップの成績だ。
ただでさえ、風間結花の道場で厳しい修行を続けている忙しい毎日の中でいつ勉強をしているのか。
「サキはどうすんのさ?」
麻琴は横にいたサキに訊いた。
「私は北海道に帰ろうと思ってます」
「え?」
そういえば二人ともサキの夏休みの予定を聞いていなかった。
北海道に帰るつもりだったというのは、初めて聞いた事実だった。
サキも里沙には若干劣るが、学内でも10位以内に入るくらいの成績。
サキは英語と球技が不得意な為、それさえなければ成績は里沙に決して負けていなかった。
「もう一度、空手の師範の元へ行って、鍛え直してもらおうと思っています」
********************
- 462 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 02:00
- ********************
薄暗い診察室の奥で、少女が一人座っていた。
少女は下着姿。医師らしい白衣の男が彼女の前に座っていた。
男は丹念に少女の身体を調べていた。
指、腕、足、そして顔……
それは、医者としての診察といった感じではなかった。
そして、少女趣味の男の嫌らしい目でもなかった。
まるでそれは、自分の作品をより完璧なものに仕上げようとする芸術家の目。
「ふふふ、完璧だこれこそまさに完璧な少女だ!」
男は満足気に頷く。
「すばらしい、究極の強さを持った完璧な少女。
わたしのパーフェクト・ドールよ!!」
男は狂喜し満足気に高らかに笑った。
- 463 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 02:01
- 新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第一部”神狼会編”最終章
第九話
「最後の戦い……そして!」
終わり
次回予告
心理療法士の藤井の元で、治療を続けていた安倍なつみは、その帰り道謎の少女に襲われる。
その少女は、安倍の強さをもってしても全く歯が立たないほどの強さだった。
次回、新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第二部”パーフェクト・ドール編”
第十話
「奪われたヨーヨー」
乞うご期待
「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」
すいません、話はもうチョット続きます。
- 464 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/09/19(日) 02:01
-
皆様、長い間御愛読ありがとうございます
実は9月に入ってより体調を崩しまして、2週間ほど入院をする羽目になってしまいました。
今もまだ本調子ではなく、仕事も休んでいる状態です。
なのにこんな事をやっててもいいのだろうか?とも思いつつ、することも無いのでぼちぼち続きを書いております。
連載を開始してから早1年余り、2ちゃんからだと1年半くらいになるでしょうか?
やっと、”第1部”が終了いたしました。
「娘。」、メロンと出演させているのに、あれ?あの娘は出ないの?とお気づきの方もおられるかと思います。
更に強敵が登場してこれから本格的?にストーリーが進行する予定です。
皆様、見捨てずにお付き合い下さいませ。
- 465 名前:牧令 投稿日:2004/09/19(日) 22:00
- お疲れ様です。
力作の大河ドラマ、完結かと思いきや、「一段落」でしたか。この話をまだ読むことができるとは。
しかしまぁ、あんまり無理しないでくださいまし。
- 466 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/22(水) 14:17
- がんばってください
- 467 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 00:55
- ほ
- 468 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:22
- 第二部”パーフェクト・ドール編”
第十話
「奪われたヨーヨー」
夕刻の街を彼女は一人、家路を急いでいた。
通院している病院からの帰りである。
2年近く続いた強い精神コントロール状態から、やっと開放されたとはいえ彼女はまだ完全な状態ではなかった。
高橋愛から受けた洗脳。その後遺症は彼女の脳や精神のより深い部分にまで及んでいた。
しかし、持ち前の強い精神力と精神科医による精神安定剤の投与で、なんとか通常の生活がおくれるまでに回復。
恒常的に続いていた頭痛も最近は回復の兆しを見せ、今では定期的に服用していた頭痛鎮痛薬も量が減った。
今日は心理療法士である藤井隆の治療を受けた帰り道であった。
新垣教授の元で「ハロー効果」の研究を手伝っていた藤井には、精神コントロールから解放していけるだけのノウハウを持っていた。
現在は藤井の下で心理カウンセリングによる療法で、精神的な部分での治療を中心に行っている状態だった。
(なんだろう……)
- 469 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:22
- さっきから彼女はとてつもない不快感を感じていた。
”何か起こりそう”そんな胸騒ぎがする。
高橋愛の洗脳によりナンバー5として過ごしていた数年間があったため、こんな感覚を感じたのは随分久しぶりになる。
彼女は元々霊感が強かった。
その能力は彼女が”5代目スケバン刑事・麻宮サキ”を襲名した時から顕著に強くなっていた。
姉の4代目スケバン刑事だった五百川いづみの形見であるヨーヨーを握った時、姉に見守られている感覚と共に、様々な気配や感覚が格段に高くなっていた。
そのせいかも知れないが、彼女は様々な事件に巻き込まれる結果となった。
彼女の持つ強い霊感が彼女に事件を呼び寄せ(勿論、スケバン刑事という任務上そういった立場でもあるのだが)、そしてその霊感が様々な事件の解決の糸口を提供してきた。
そんな彼女の霊感がさっきから彼女に警告している。
”何か起こりそう”だと。
彼女はポケットの中のヨーヨーを確かめた。
(来る!)
いつしか予感は確信へと変わっていた。
何かしら、彼女に危害を加えようとする強い悪意。
そして恐ろしいまでの殺気。
間違いない
何者かが彼女の命を狙っている。
(どこから来る?)
彼女は足を止め、警戒の感覚を研ぎ澄まし四方に注意を払う。
残念ながら”殺気”を感じる事ができても”気配”を感じないので、殺意の主の居場所まではわからない。
だが誰かがどこからか彼女を狙っているのは間違いない。
その殺意の主は出し抜けに彼女の前に姿を現した。
- 470 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:23
- (!?)
彼女は咄嗟に構える。
まさか”殺気”の主が目の前に立っているなんて。
それは17、8歳くらいの少女だった。
髪は金髪に近い色、無表情にただ立っているだけの普通の少女。
どこを見ているのか、目の焦点があっていない。
表情も乏しく、まるで人形のようだ。
一見、町にいる普通の女子高生風。しかしその姿とは裏腹に、禍々しい悪意のオーラがその身体を取り巻いているのが見えた。
それは先ほどから彼女が感じていた、悪意のオーラ。
恐ろしいまでの殺意と攻撃力を秘めているのを感じる。
(やられるかもしれない……)
彼女の霊感が強い警告信号を出している。
目の前にいる少女は只者ではない……と
彼女はヨーヨーを握り締めた。
例え相手がどんなやつであれ、逃げ出す訳には行かない。
戦いの中にひとつでも勝つ為の光明があれば、霊感の警告の内容に関わらず向かっていく。
それが彼女のスケバン刑事としてのプライドであり誇りであった。
彼女はその少女の真正面に立った。
「何か御用かしら?」
彼女はできるだけ落ち着いた口調で、その少女に訊いた。
しかし少女は沈黙のまま
無表情で虚ろな目つきが少しだけ動いた。
- 471 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:23
- (来る!)
少女は動いた。数メートルはなれた二人の距離をものともせず、一瞬にして彼女のすぐそばに飛び込むと、その拳を叩き込む。
(速い!!)
あまりの速さ、彼女は受身を取るのがやっとだった。
ブロックした両腕に重いパンチが入る。
その両腕ごとぶち壊さんばかりの重いパンチ。
この細腕のどこにこんな力があるのだろう。逆にこんなパンチでは、自分の骨が折れてしまうのではないかと思うほどの重いパンチだった。
両腕に激痛が走る。
続けざまに連続蹴り、少女はほぼ空中に浮かんでいるかのごとく、激しい蹴りを続ける。
彼女はたまらずに少女から間合いを外した。
後方宙返りで2回転で少女から離れた距離も、その少女にとっては全くの間合いの範囲内であった。
なんの躊躇も無く、再度飛び込んでくる。
こう至近距離で攻撃されたんでは、彼女の得意のヨーヨーも使えない。
彼女は少女から離れようと、走った。
頃合いを見計らってヨーヨーを投げる。
ヨーヨーは少女の胸に当たった。しかし、威力が弱かったのか、全く効いていないかのように彼女の後を追って来る。
少女の走る速度は彼女よりも速い。
あっという間に追いつかれてしまった。
「逃げても無駄って訳ね」
- 472 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:24
- 彼女は振り返り、クイックモーションで前傾姿勢から力強く左足を踏み込んだ。
風車のように回転する右腕。
腰のあたりから銀色のヨーヨーが弾丸のように飛び出した。
うなる豪球が少女めがけて走る!
少女は胸元をかすめる程度に、ヨーヨーを避けた。
手元に戻ってきたヨーヨーを彼女はグイッと前に出した。
「この世に悪がはびこる時、伝説を継ぐ者が現れる。
その名は”スケバン刑事”。
浅草橋高校3年B組 麻宮サキ!」
ヨーヨーにある小さなスイッチを押すと片面が開く
中から現れる桜の代紋
「私をスケバン刑事と知ってて襲ってくるのなら、この豪球がお前を討つ、覚悟しな!!」
5代目スケバン刑事麻宮サキこと安倍なつみは、そう言って少女をにらみつけた。
少女はなつみの視線に何ら臆することなく、黙ったままである。
なつみはヨーヨーを握り締めた。
ゆっくりとタメをつくってのモーション。
胸を張り全身の筋を伸ばす。
右足を強く踏みしめ、左足を大きく踏み込む
右腕は後方に大きく回転する。
その手に握られた球に全身の筋肉の力が集中する。
- 473 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:24
- ぎゅるるるるるるる
まるでバズーカ砲から射出されたかのような豪速球。
その速度はヨーヨーの重さも手伝い、時速150キロ以上は出ていた。
豪球は少女にまっしぐらに向かう。
少女はまるでそれを待っていたのかのように右手を前に出した。
彼女がオリンピックソフトボールで代表選考の候補に上がるくらいの実力は、伊達ではない。
ソフトボールなら、なつみは軽く100キロ以上の豪速球を投げていた。
最速で110キロを出したこともあった。
日本で100キロ以上のスピードで投げられるピッチャーはほとんどいない。
世界レベルでも110キロクラスのピッチャーは数少ない。
これは硬球だと160キロ以上のスピードに相当する。
間違いなく、プロ野球のピッチャーの投げる球以上のスピードは出ているだろう。
そんな豪腕で投げられるヨーヨーをまともに喰らえば、”デッドボール”程度のケガではすまない。
だが少女はその豪速球にむかってまともに右手を伸ばした。
「ま、まさか!」
バシッ!
信じられない事が、彼女の目の前で起きた。
少女はその豪速球をみごとにキャッチしたのだ。
そのまま掴み、グイっと引っ張る。
なつみはよろけるように少女に引き寄せられた。
- 474 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:25
- これまでこの豪速球は数々の犯人を打ちのめし”悪”を倒してきた。
その必殺の技をいとも簡単に受け止める事ができるなんて。
なつみは反撃に移る気力も失せるくらいのショックを受けていた。
その一瞬の戸惑いを少女は見逃さなかった。
一気に目の前まで跳躍したかと思うと、左の手刀がなつみの首筋に決まった。
「うッ……」
なつみは避ける間もなく、衝撃で膝をついた。
右手の中指に巻かれたヨーヨーのチェーンは彼女の手から離れていた。
ヨーヨーは少女の手の中にあった。
ヨーヨーを握り締めて、少女はニヤリと笑った。
冷たい人形のような彼女の表情が、その時初めて人間らしい感情を見せた。
********************
- 475 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:25
- ********************
数時間後
汗をかいた後の身体に、秋の夕風は心地良く彼女のショートの髪をなぜた。
脚部筋肉の挫傷による筋肉細胞組織の破裂
幸い足の骨折もヒビもなかったが、歩けるようになるまで数週間を要した。
すっかり筋肉が落ちてしまった脚力の回復の為に、彼女はジムに通い始めた。
筋力はかなりの回復を見せたが、足の筋肉に残る若干の違和感はずっと残ったままだ。
それを振り払う為に、彼女は更にハードなトレーニングを重ねた。
彼女は日本女子ボクシングでバンタム級(53.52kg以下)の選手だった。
まだプロ組織ができて間もない女子ボクシングで期待の新人だったが、他校の生徒と起こした傷害事件のためプロ選手への道を諦めざろうえなかった。
今でも彼女の才能を惜しむジムの会長達は、彼女を本格的に復帰させようと躍起になっている。
勿論、彼女もその気持ちに応えたい思いはあるのだが、それよりもまず目前の目標である風間唯との対決
その後には、五代陽子と現役の麻宮サキである紺野あさ美との対決が控えている。
一日も早く、体調を万全な常態に戻さなければならない。
ジムでヒートアップした身体を、ゆっくり歩きながら休める。
出し抜けにその少女は、彼女の前に現れた。
いや、現れたと言うより、急激に殺気を露わにしたという感じだ。
夕刻の黄昏の中に佇む、茶髪の少女。
何気ない彼女の仕草が、突然殺気を帯びたのだ。
- 476 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:25
- 突然の出来事に、反射神経が彼女の神経を高ぶらせる。
(この娘、何者!?)
少女は右腕をだらんとたらし、うつろな目でこっちを見ている。
まるで人形のような表情の無い顔。
しかし彼女が驚いたのはその少女の恐ろしいまでの殺気。
「何者だ?」
彼女はその少女に訊いた。
少女は何も答えない。
「俺を”スケバン刑事”だと知ってての蛮行か?
だったら相手になるぜ」
彼女は構えた。
対する少女は一見無防備な構え。ただだらしなく片腕をたらしている。
どこから攻撃してくるのか、まったく予想がつかない。
少女の口元が少しだけ動いた。
刹那、少女の身体はまるで伸びきったバネを放したかのように跳躍した。
(来る!)
少女は一気に間合いに入ってくる。
左の手刀と凄まじい蹴りの連続。
しかしその右腕は、相変わらずだらんとしたまま。
まるで、腕状の物体がその肩にくっついているといった感じだ。
- 477 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:26
- (こいつ、強いぜ……しかも速い……)
彼女は両腕でガードを固めダメ−ジを軽減するのがやっとだった。
片腕は動かないのだろうか?
普通片腕がこんな状態なら、どうしても動きが動かない腕をかばうような形に無意識に動いてしまうはずだ。
しかしこの少女は、全くその気配を見せない。
逆に突然動き出して攻撃してくるのではないかと訝ってしまうほどだ。
そのくらい、少女の動きに隙はなかった。
彼女はたまらなくなって間合いを外す。
(こいつを使うか……)
彼女はポケットのヨーヨーを手にした。
そのヨーヨーを見た途端、少女の動きが止まった。
さあ、そのヨーヨーを投げなさいと言わんばかりに、無防備になる。
彼女はヨーヨーをグイッと前に出した。
「光あるところ闇あり、闇あるところに光あり
闇を切り裂く光の拳
是天馬高校3年B組 吉澤ひとみ、またの名を6代目スケバン刑事、麻宮サキ!
I am Champion!」
- 478 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:26
- 少女はひとみの睨みにも何らたじろうことなく、いやむしろ恍惚の笑みを浮かべた。
ひとみはこれまでヨーヨーをあくまでも、間合いに入る為のフェイントとして使っていた。
ヨーヨーで中距離の相手を威嚇して、一気に間合いに入る。
ヨーヨーはあくまでも戦いを有利に持っていくための道具、決着はその拳でつける。
格闘戦なら絶対に負けない自信を持つ、ひとみのボクサーとしての意地だ。
ひとみはヨーヨーを構えた。
恐らく、少女の人間離れした動きからして、このヨーヨーをかい潜って、向こうから間合いに入ってくるだろう。
(その一瞬を狙ってカウンターに持ち込むか……)
それ以外に少女の隙をつく手立てはない。
ひとみはその一瞬に賭けることにした。
必殺の左のために気を練る。
じりじりと間合いが詰まる。
ひとみはヨーヨーを投げた。
と同時に左の拳に気を集中させる。
少女はひとみの思惑通り、ヨーヨーをかわして跳躍しひとみの目前に飛び込んできた。
(行けええええええ!!)
ひとみは待ってましたとばかりに、少女に左アッパーを放った。
同時に拳が光を放つ。
しかし少女は冷静にそれを読んでいた。
- 479 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:26
- 少女は左の掌で、ひとみの拳を掴んだ。
ドウン!
フラッシュブローの強い衝撃が少女を貫いた。
間違いなく、ダメージを与えている事はひとみにも伝わっている。
このパンチの特徴は、その拳が軽く触れただけでも神経が麻痺するほどの衝撃を受けること。
まともに喰らえば一撃で全身が麻痺するほどのダメージを与えられる。
しかし少女はその拳を掴み、フラッシュブローの衝撃をその手に受け止めたのだ。
「ま、まさか!」
あまりにまともに技を受け止められた事で、ひとみの心に一瞬ためらいができた。
下手をすると相手を殺してしまいかねない、その強力な技を全力で受け止められたら、いくら少女が強いとはいえただでは済まない。
殺してしまうかもしれないという恐怖は、ひとみの思考をストップさせた。
少女はその隙を逃がさなかった。
半回転で跳躍したかと思うと、その回転力を一気に右の蹴りに乗せた。
強烈なソバットがひとみの胸に決まる。
ひとみは勢いで吹き飛ばされた。
受身を取る間もなく、少女は次の攻撃を繰り出す。
ひとみに起き上がる隙を与えず、身体を踏みつけにする。
さすがにひとみのフラッシュブローを受けたダメージは大きかったのだろう、さっきまでだらんとしていた右腕、今度は両の腕がそうなっていた。
少女の右は最初っから本当に動かなかったようだ。
だが少女はその顔に苦痛の色一つ見せていない。
(こいつ、何も感じていないのか?)
- 480 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:27
- 遠のく意識の中でひとみはそう感じた。
手首を少女に踏みつけられ、その手に握られたヨーヨーはひとみの手を離れていた。
少女はそのヨーヨーを足を使って器用に拾い上げた。
その場に跪き、口に咥える。
ヨーヨーを口にしながら少女は満足気に、口元だけニヤリと緩ませた。
そして恐ろしいまでの殺気は消え、無表情の人形に戻った。
少女は何事もなかったかのように口にヨーヨーを咥え、両腕はだらんとした姿で歩き出す。
やがて漆黒の闇が辺りを覆い始めた。
ひとみの意識も闇の中で消えてしまいそうになっていた。
********************
「一体どういうこと!」
なつみとひとみが謎の少女に襲われたことはすぐに、陽子と唯の元にも知らされていた。
2人の病室に飛び込んできた唯は、険しい表情の陽子の姿を見た。
「2代目、2人の容態は?」
「大丈夫、命には別状ないわ
でもしばらくはおとなしくしてもらわないといけない状態ね」
「ヨーヨーが奪われたって?」
「ええ、”敵”は二人を倒した後、ヨーヨーを奪っていったわ」
- 481 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:27
- なつみとひとみの2人は、並んだベッドにそれぞれ横たわっていた。
ひとみは悔しさを表情に出しながら、病室の天井を見つめていた。
なつみも表情には出ていないが同じ思いなのは見て取れた。
「いくらなんでもこの二人を倒すなんて、相手は何人?どんなヤツラだったの?」
唯の声は怒りと興奮で震えていた。
「二人を襲った相手は一人、高校生くらいの年齢の少女よ。
それもなつみを襲ったすぐ後にひとみと闘っている。
ふたりの言う人物の特徴が一致したわ」
「チョット信じられないわね……
この二人は普通の娘じゃないのよ、スケバン刑事を二人も相手にして倒すなんて」
「普通じゃなかった……」
ひとみが呟くように言った。
「動きも人間離れしていただけじゃねえ、
あいつ、痛みを感じてない……そんな感じだったぜ」
「私もそう感じました」
なつみも言った。
「私のヨーヨーを素手で受け止めるなんて、普通では考えられません。
恐ろしい相手でした」
- 482 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:28
- 「あの女は最初っから俺のパンチを受け止めるつもりで襲ってきているみたいだった。
腕一本は犠牲にしても構わない……そんな感じだった」
「目的は私たちを倒し、そしてヨーヨーを奪う事かも知れません……」
なつみが言った。
「二人をたて続けに襲ったって事は、次はあさ美や私達も襲われる可能性があるってことね……
あさ美は確か今、北海道に帰って修行中のはずだけど、心配だわ……」
陽子の心配は残念ながら的中してしまった。
********************
北海道札幌市内から少し離れた郊外にある一軒の家に、少女が一人訪れていた。
夏の日差しが心地よく照りつけ、渇いた夏の風がその少女の髪を揺らした。
少女は無表情にその家の門をくぐり、玄関のドアの横にある呼び鈴を押した。
彼女は訪問者を迎えるため玄関に向かった。
不意にその動きが止まる。
(何………?)
彼女が近付いたとたん、ドアの向こうに恐ろしい殺気が感じられた。
いや、ドアの向こうの人物がそれまで隠していた殺気を露わにしたという感じだ。
「どなたですか?」
- 483 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:28
- 彼女は用心しながらその人物に訊いた。
ドアの向こうの人物は何も答えない。
だがその殺気は依然としてドアの向こうから放たれたままだ。
彼女は部屋に戻るとヨーヨーを取り出した。
左手に取りギュッと握る。
振り向こうとしたその時、リビングのガラスが割れた。
と同時に少女が一人飛び込んでくる。
彼女は咄嗟にヨーヨーを投げた。
十分なモーションが取れなかったため威力はそれ程でもなかったが、正確なコントロールはその少女の胸にまともに当たった。
すぐに戻ってくるヨーヨー。
しかし少女は蚊に刺されたかというほども反応がなかった。
(何………?)
彼女は再度ヨーヨーを構えた。
渾身の力を込めた左腕がうなりをあげる。
間違いなく今度は最大の威力のヨーヨー。
しかし少女は少しだけ身をよじっただけで、そのヨーヨーをかわした。
「あなた、一体何者なの!?」
彼女は叫んだが少女は相変わらず無表情なまま、じっと立っている。
透き通るようなきれいな肌、整った目鼻立ち、大きな瞳の美少女。
しかし、感情があるように思えないその冷たい表情はまるで人形の様。
その目が少しだけ動いた。
- 484 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:28
- (来る……!)
少女は動いた。
一瞬にして数メートルの間合いを詰め、彼女の胸元に飛び込んでくる。
少女は右足を高く上げると、そのまま左足を軸にして踵落とし(ネリチャギ)を彼女の頭上に炸裂させた。
(うぐっ!)
両腕をクロスさせて直撃だけは免れる。
間髪をいれずにハイキックが延髄めがけて飛んで来る。
彼女は身をかわした
さっきブロックした腕が痺れている。
重いキック。
まるで自分の足が折れても構わないのかというくらいの威力があった。
何とか間合いを外して再度ヨーヨーを構えた
彼女はさっきからのその少女の攻撃を不思議に感じていた。
両腕がほとんど動いていない。
構えだけはしているが、攻撃は全くしてこなかった。
それがワザとなのか、それとも油断させて突然動き出してくるのか?
(それともこんなオバサンには足だけで十分ってことかしら?)
- 485 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:29
- 少女は再度高く足を上げた。
不思議な構えだ。
その状態から回し蹴りが来るのか、踵落とし(ネリチャギ)が来るのか。
自在に動くその足を攻防両方に使ってくる
軸足が跳躍した。
右足がぐるりと後方に半回転してそのままソバットが飛んで来る。
彼女は咄嗟に2、3歩下がってそれをかわす。
ソバットが空振りに終わった少女は着地と同時に再度右足を高く上げ、そのまま振り下ろした。
彼女は手に持ったヨーヨーで、その蹴り足を殴りつけるように受け止めた。
ぐしっ!!
嫌な音がヨーヨーを通して彼女の手に伝わってきた。
少女の骨が折れたのが、ヨーヨーを介してもわかった。
そしてそのダメージは同時に彼女も受けている。
ヨーヨーを持つ手の力が一瞬だけ緩んだ。
少女は折れたと思われる足を、彼女に受け止められたまま振り下ろした。
「うぐっ!」
首筋にまともに入る。
足が折れただけでも痛くて動けなくなるほどのはずだ。
だが少女はその折れた足をものともせず、さっきと変わらない重いキックをしてきた。
常識では考えられない攻撃だった。
彼女は膝をついた。
少女にはその一瞬があれば十分だった。
身をかがめて、彼女の懐に入ると残った片足で一気に伸び上がる。
少女の頭突きが、彼女の胸元にまともに入った。
- 486 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:29
- 初代スケバン刑事、紺野サキはその少女の前に完全に敗北してしまった。
握られたヨーヨーがその手から離れ、床を転がる。
少女はそのヨーヨーを拾おうとした。
右足が折れているので、左足だけで体重を支えるように立っている。
そんな状態で少女は器用にしゃがみ、ヨーヨーを手に取る。
だが、半分開いたままの状態のその手の指はそれ以上動かず、ヨーヨーを掴む事はできなかった。
少女は諦めることなく、両手でゲームセンターのクレーンゲームのようにヨーヨーをすくい上げる。
そして、半分くらいしか動かないその腕でヨーヨーを口に持っていき咥えた。
ヨーヨーを手中にしたとき、わずかだけ少女の顔に表情の変化らしきものがあった。
それは、足が折れた苦痛ではなかった。
美しいその顔にわずかに浮かぶ、喜色の笑顔。
気を失ったサキを残し、少女は片足でひょこひょことその場を後に去って行った。
********************
- 487 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:30
- ********************
(何……?)
道場から帰宅したサキ(あさ美)は、門を入ろうとしていつもと違う自宅の雰囲気に身を硬くした。
家の様子がおかしい。
咄嗟に神経を集中させ、あたりの様子を注意深く探る。
門の中に入ると、庭に面した部屋のガラスが割れていた。
急いで家の中に入る。
リビングに母が倒れていた。
「お、お母さん!」
サキは横たわる母に駆け寄った。
「しっかりして!」
彼女はそう言いながら、すばやく母の脈を診る。
脳震盪か心臓麻痺か状態によっては下手に動かしては危険だ。
(脈はある……)
どうやら気を失っているだけか、死んでいる訳ではない。
あさ美は胸をなで下ろした。
すぐに救急車を呼ぶ手配をした。
「あさ美……」
- 488 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:31
- 意識を取り戻したのか、母親のサキが口を開いた。
「動かないほうがいいわ、今救急車を呼んだから。
一体何があったの?」
サキ(あさ実)は冷静に母に訊いた。
「やられたの、相手はとてつもない強い少女だったわ……」
「お母さんがやられるほどの相手なの?」
あさ美は実際に母の戦っている姿を見たことはなかったが、その伝説は五代陽子や風間唯から伝え聞いていた。
彼女自身これまで母の傍にいて、そのただならぬ雰囲気を以前より感じていた。
世間から身を隠すように、目立たないように暮らす母だったが、どうしてもあさ美にはその行動と母の持つ独特の雰囲気のようなものとの間に”大きなギャップ”を感じずにいられなかった。
もしかしたら、母も格闘技か何かをやっていたのではないか?
あさ美はそう考えていたのだが、決して彼女は自分の過去を語ろうとはせず、その疑問の答えを直接母親から聞くことはなかった。
だが、あさ美の感じていたことは間違いではなかった。
そして、母の伝説はあさ美が想像していたものを、遥かに凌駕していた。
日本を揺るがす巨悪と闘った”スケバン刑事”の伝説。
それほどの強さの母を倒すほどの相手とは、一体何者なのだろう?
「東京の五代さんから連絡があったわ、なつみさんとひとみさんも襲われたそうよ。
注意をするように言われたばかりだったのに……
私を襲ったのも多分、同じ少女だと思うわ」
「なつみさんとひとみさんも?」
- 489 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:32
- 「あさ美、東京へ行きなさい。
私なら大丈夫だから、理由はわからないけど敵は私達”スケバン刑事”を狙っている。
きっとお前のところにも現れるでしょう。
五代さんのところに行って、どうしたらいいか相談しなさい」
「……」
あさ美は黙って母の目を見つめた。
娘を見つめるその瞳の奥に、あさ美は燃え滾る炎を見た。
それは戦士としての強い怒りの炎だった。
言葉は少ないが、母の強い気持ちがあさ美にも伝わってきていた。
あさ美は黙って頷いた。
「東京へ……」
********************
―――続く―――
- 490 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:32
- 驚いて電源を切ると、それ以降二度と電源が入らなくなってしまったのです。
慌てて、近くのPCショップに持ち込んだところ、マザーボードのコンデンサが逝かれてしまってるとのこと。
爆発音はコンデンサが逝った音だったのです。
不安定になった回路内の電圧は、古くなったAC電源の変圧器までを道連れにして電源を落としたのでした。
そしてさらに、電源が落ちたときにハードディスク内のデーターまでぶっ壊してしまい、保存していたデーターはすべて逝ってしまったのでした。
なんということでしょう……
しかたなく、そのPCショップで手頃な値段のノートPCを急遽買うことにしました。
まあ、そのうち買い換えようとお金も貯めていたことだし、いい機会だと思いました。
古いディスクトップPCがノートタイプPCになったことで、PCラックのレイアウトに大幅にゆとりがでました。
あれやこれやとレイアウトを変更しているうち、プリンターの紙受けをPCラックの裏に落としてしまいました。
やれやれ……
- 491 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:33
- 皆様、長い間更新せずに申し訳ありません。
入院して折、なかなか体調が戻らず、執筆もなかなか進んでいませんでした。
さらに訪れた不幸……
長年使っていたPCが突然クラッシュしたのです!!
ある晩、例によってシコシコ執筆をしていましたところ、ディスクトップPCの本体から「ボン!」という爆発音が……
驚いて電源を切ると、それ以降二度と電源が入らなくなってしまったのです。
慌てて、近くのPCショップに持ち込んだところ、マザーボードのコンデンサが逝かれてしまってるとのこと。
爆発音はコンデンサが逝った音だったのです。
不安定になった回路内の電圧は、古くなったAC電源の変圧器までを道連れにして電源を落としたのでした。
そしてさらに、電源が落ちたときにハードディスク内のデーターまでぶっ壊してしまい、保存していたデーターはすべて逝ってしまったのでした。
なんということでしょう……
しかたなく、そのPCショップで手頃な値段のノートPCを急遽買うことにしました。
まあ、そのうち買い換えようとお金も貯めていたことだし、いい機会だと思いました。
古いディスクトップPCがノートタイプPCになったことで、PCラックのレイアウトに大幅にゆとりがでました。
あれやこれやとレイアウトを変更しているうち、プリンターの紙受けをPCラックの裏に落としてしまいました。
やれやれ……
- 492 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:33
- PCラックの裏はホコリだらけ。
動かしたついでに掃除をしながら、紙受けの救出作業を続けていると、そこに古い木の箱を見つけました。
中身は空の箱だったのですが、丈夫ないい箱だったので、以前ここにしまっておいたものでした。
その箱をとりだしてみると、なんとその箱に空いた小さな穴に白骨化したネズミの屍骸が……
どうやら穴に首を突っ込んで抜けなくなったまま、そこで死んでいた模様でした。
お前かい!
私は思わず叫んでしまいました。
こいつはきっと、白骨化した自分の屍骸を見つけてもらうために、こんな手の込んだことをしたんでしょう。
私のPCとそのデーターは、とんでもないネズミの呪いのために逝ってしまったのでした。
実話です。
- 493 名前:【新スケバン刑事】 投稿日:2004/11/14(日) 01:44
- >490は誤爆でした
スマソ
- 494 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/11/14(日) 13:47
- 更新ご苦労様です。
いよいよ2部が始まりましたね。
一体誰なんだろう
- 495 名前:名無し小川ふぁん。。。 投稿日:2004/12/10(金) 19:13
- ほ
- 496 名前:いやぁ 投稿日:2005/01/20(木) 23:13
- ひとつだけキャステイングで気になるところが.....
主人公が紺野あさ美ちゃんならスカートが超ミニになるでしょう
(ミニばっちりはまぁ俺的には嬉しいが...っていうか好き!!!!orz)
スケバン刑事はまぁ野暮ったいロングスカートが基本なのでは?
つきましては陽子ちゃん、スケバン刑事のドレスコードとかそこ
らへんしっかり指導してやってください
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