Fly to ・・・

1 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時01分21秒
森板では初めてになります。
前回は紫板で書いていた者ですが、
短編なのでこちらに書かせていただきます。

後藤メインのアンリアルもので、非CPです。
ある程度書いてしまっているので今日か明日中には終わると思います。
2 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時01分55秒
死ぬなら晴れた日がいい

うまく街路樹を避けて

あのコンクリに頭をぶつけて

この東京の空を飛んで・・・
3 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時02分33秒
今日も朝から天気がすぐれない。
梅雨の雨雲が低くたれこめて、今にも雨が降り出しそうである。

「今日もダメか・・・」

声の主である後藤真希は自分の部屋から恨めしそうに空を見上げ、
そう独り言をもらした。

別に死にたい理由があるわけではない。
ただ、生きる目的も見つからないだけ。
何をすることもなくただ過ぎていく毎日に刺激が欲しかった。
4 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時03分14秒
今年で高校生活も最後の年である。
高校の友人達はみな、残り少ない高校生活を、受験と両立しながら楽しんでいる。
真希自身も、そこそこ行事に参加するものの、
やはりどこか物足りない所を感じて心から楽しめないでいた。

電車に乗って高校へ向かう。
この先、私はどんな大人になるんだろう。
来年も再来年もその次の年も、この窮屈な満員電車に揺られてるのだろうか。
5 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時03分49秒
教室に入り、クラスメイトと他愛の無い会話を交わす。
友達と他愛の無い話をするのは楽しい、しかしそれだけだ。
今自分が欲しいのは日常ではなく刺激。

真希は朝のホームルームを終えると、授業の準備をする友人たちを尻目に教室を抜け出した。

真希が学校で一番好きな場所は誰もいない開放的な屋上だったが、あいにく今日は雨空である。
仕方無しに真希は仮病で保健室へと潜り込む事にした。
6 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時04分22秒
「3-A11番後藤、頭痛で休みまーす」

真希が保健室を利用するのは日常茶飯事である。
おかげで学校の保険医である中澤裕子とはすっかり顔なじみである。

いつもは「何言うてんねん、涼しい顔して。さっさと教室帰り」
と言う声が帰ってくるのだが今日はその声が無い。
見回すと、裕子の姿が保健室に無い。どうやら出払っているようだ。

しめしめ、侵入成功。真希は一番奥の布団にもぞもぞと潜り込んだ。
(もっとも、いつも何かと文句を言っても裕子は帰したりはしなかったのだが)
7 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時04分56秒
さーて、寝不足だし、昼の時間までここでゆっくりしておこう。

そう思った次の瞬間、隣のベッドでもぞもぞと誰かが動いている。
あ、起こしちゃったかな。真希は二人の間を隔てていたカーテンを開いた。

そこで眠っていたのは少女は、脇にかけてあるブレザーの学章から真希と同じ三年生だと分かる。
丸顔で、かわいらしい風貌をしたその少女は真希に起こされて不機嫌なのか
頬をぷぅっと膨らませて真希の方を見つめている。
8 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時05分27秒
申し訳なさそうに後藤が言うと、その少女は堪え切れないようにぷっっと吹き出した。
その目にはいたずらっぽい光が宿っている。

「あはははは、うそうそ。本気にしないで」

少女は笑いながらこちらを見ている。
真希は最初こそむっとしたものの、その少女の屈託の無い笑顔にひきこまれていた。

「後藤さんもよくここ使ってるの?」

自分の名前を呼ばれてどうして見知らぬこの少女が自分の名前を知っているのか、
一瞬不思議に思ったが自由奔放な学校生活を送っているせいか、
どうやら自分では気づかないところで有名人になっているらしい。
9 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時05分57秒
むしろ、自分がこの少女の事を知らないのは自分が他人に興味がなさすぎるのかも知れない。
何せクラスメートの名前でさえほとんど出てこないぐらいだ、
もしかすると何度か喋ったことがあるのかもしれない。

その時、コツコツと廊下を歩く音が響いた。

「いっけない、先生が着ちゃう。それじゃあ、またね」

少女はかけてあったブレザーを引っつかむと急いで保健室を出て行った。

別に、バレたって何の問題も無いのにな。
そういえばあのコの名前、聞くの忘れちゃったな・・・。
10 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時06分30秒
少女が出て行くとほとんど入れ替わりに裕子が保健室へと入ってきた。
すぐに、ベットの膨らみに気づいて声をかける。

「後藤か?アンタまた抜け出してきたんかいな、いい加減にしな卒業でけへんで」

「だってぇ、ガッコ面白くないんだもん。」

被っていた布団から顔だけ出して真希が答えた。

「学校が面白いヤツなんてそうそうおるモンやないよ、ウチもそうやった。
みんなそうやって大人になっていくんよ」

中澤は何かを片付けているのか、真希に背を向けてカチャカチャと作業をしている。
11 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時07分11秒
「そういえばさぁ、さっきまでこの部屋で休んでたコって何て名前なの?」

真希は先ほどの少女について質問してみた。

「んー?ウチが出て行く時はおらんかったで。アンタと同じサボリちゃうか?」

さっきのタイミングなら廊下で会ってるはずなのにな、
あ、先生避けるために逆方向に行ったのか。

一人で納得する真希の目の前にコーヒーカップが現れた。
湯気の立つカップにはコーヒーが入っている。
どうやら先ほどから作業していたのはこれだったらしい。

「ほら、これやるから飲んだら教室帰るんやで」

「ほーい」

気の無い返事をしてコーヒーを飲んだ。
暖かさが体の中からじんわりと広がっていった。
12 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)19時08分18秒
とりあえず、今回はここまでで切ります。
ここまでが一応第一部になります(明確に切ってないんですけど)
次も今晩中には掲載できると思いますので
温かい目で見守ってください。
13 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月30日(土)21時29分53秒
面白そうです。頑張って
14 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)01時06分02秒
翌日は雲一つ無い快晴だった。
窓から空を見上げる真希の表情もどことなく明るい。

今日は天気がいいので授業にも出た。
もっとも、ただいるだけで授業中はぼーっと外を眺めるだけだったけど。

昼休み、真希はいつもの屋上へと向かった。
屋上は開放的で、中でも掲揚台が備え付けてある更に高い所が真希のお気に入りだった。

そこに寝そべって、青い空と流れ行く雲を眺める。
15 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)01時06分43秒


私も鳥になれたら

鳥になってどこか遠くへ

まだ見たことも無い世界へ

どこか遠い世界へ飛んで行きたい

16 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)01時07分16秒
そんな、非現実的な妄想にふけりながら時を過ごす。

「ねぇ、ここで何やってんの?」

突如、視界の上方に影が出来た。
今まで明るい所にいたせいで、よく見えないが声から察するに昨日の少女のようだ。

「んあ・・・別に。」

真希は起き上がって、足を下に投げ出す形で台に座り込んだ。
その横に、昨日の少女が一緒にちょこんと座り込む。
17 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)01時07分49秒
「ねぇ、今後藤さんが何考えてるか当ててあげようか?」

「え・・・?」

少女の思いがけない質問に目を見開く。
そんな真希を見つめながら笑顔で続ける。

「後藤さん、死のうと思ってるでしょ?ここから、飛び降りて」

「何でそのこと・・・大体、あなた誰なの?」

図星で考えを言い当てられて言葉が詰まる。
どうして誰にも言ってない事実を知っているのか、
そもそもこの少女が誰なのか。疑問が後から後から湧いてくる。

「私は、後藤さんの事なら何でも知ってるの。何でもね」

真希はその時、笑顔の裏に、何かぞっとするほど恐ろしい何かを見た気がした。
それが何かと言われても説明はできないけれど、何かを感じた。
少女はそのまま続ける。
18 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)01時08分24秒
「私は、安倍なつみ。ヨロシクね」

そう言って、少女は締めくくった。
真希は何とも言えない気分になっていたが、
次第にこの安倍なつみという少女に興味を持った。

天使のような笑顔を持ちながら
その奥には悪魔のような二面性を秘めてそうなミステリアスな雰囲気、
自分が求めていた日常とは違う毎日が、この子といれば送れそうだと思った。
19 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)01時08分58秒
「ねぇ、安倍さんはどうして私の考えている事が分かるの?」

「なつみでいいよ。何でかな、うまくは言えないけど私も一緒だったから」

「あ、私も真希って呼んで。さん付けなんて堅苦しくって」

なつみの言っている事は真希にはよく分からなかったが、
何年も一緒に生活を共にしてきたクラスメートよりも
突如として目の前に現れたなつみの方が
よっぽどずっと昔からの友達だったように思えた。
20 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)01時09分32秒
「ねぇ、安倍さんはどうして私の考えている事が分かるの?」

「なつみでいいよ。何でかな、うまくは言えないけど私も一緒だったから」

「あ、私も真希って呼んで。さん付けなんて堅苦しくって」

なつみの言っている事は真希にはよく分からなかったが、
何年も一緒に生活を共にしてきたクラスメートよりも
突如として目の前に現れたなつみの方が
よっぽどずっと昔からの友達であるかのように思えた。
21 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)01時10分09秒
その日の午後、授業をサボって真希はまた保健室に来ていた。

「何や、今日はえらい楽しそうな顔してるやんか」

「あ、分かります?」

自分でも気づかぬうちにニヤけていたらしい、慌てて口元を引き締める。
生徒を治療する丸椅子に座ってぐるぐると回っている真希、
裕子は先ほどまで書類作成をしていたようだが今は椅子に座って真希に正対している。

「友達が・・・できたんです」

椅子の回転を止めて、一言一言を噛みしめるようにして、真希が呟いた。
22 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)01時10分45秒
「別に友達なんか一杯おるんちゃうんか、苛められてるワケやないやろ」

裕子は不思議そうな顔で聞き返す。
裕子の言っていることはもっともな事で、
自分も先ほどの不思議な感覚について説明できないので
「んー、そう・・・なんですけどね」と言った後、真希は黙り込んでしまった。

「おっともうこんな時間か、今日はウチ出張やねんからもう出て行ってや」

裕子が立ち上がり、戸締りをしだしたのでその日は渋々保健室の外に出た。
23 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)01時13分06秒
とりあえず区切りがこの辺なので今回の更新はここまでです。
ちょっと用事ができたので今晩はほとんど書けなかったんですが、
順調に行けば明日(正確には今日ですね)には終えれそうです。

>>13さん
記念すべき初レスありがとうございます。
とりあえず伏線は敢えて分かりやすくしているので
これから先話がどんどん読めていくと思いますが
是非とも最後まで応援お願いします(笑)
24 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)10時34分18秒


次の日から、なつみと真希は毎日屋上で話をした。
不思議なことに、それは昼休みであっても、授業中であっても、
真希が屋上で寝そべっていると間もなくなつみが現れた。

いつからか、二人は「なっち」、「ごっちん」と呼び合う仲になっていた。

真希が話している内容はクラスメートと何ら変わりは無いはずはずなのに、
なぜかなつみと話していると、ただそれだけで楽しかった。
25 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)10時35分29秒
屋上に照りつける夏の陽も暑くなりだした七月初め、
いつものように放課後の屋上で二人で話していた時だった。

「そろそろ暑くなってきたし、今日はウチに遊びに来ない?」

真希はそれほど深い意味をこめたつもりは無かったのだが、
なぜかそれを聞いたなつみの表情が曇った。
嬉しさと悲しさが入り混じったような、そんな表情に見えた。

「ゴメン・・・、今日は無理なんだ」

とても申し訳なさそうになつみが言った。
26 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)10時36分05秒
「そう、じゃあまた今度ね」

真希は残念だったが、自分がその表情をすると更になつみを傷つける気がしたので、
つとめて明るく、笑顔で応えたが、なつみは相変わらず寂しい微笑みを浮かべるだけだった。



「ってゆーワケなんだけどさぁ、どう思う?」

「その前にここは保健室であって、決してアンタの教室でも雑談場でも、
増してや喫茶店とちゃうんや。勝手にコーヒーまで作ってからに」

真希が学校の中で話をする相手は、もはやなつみと裕子以外では
必要最小限の会話しか無くなっていた。
27 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)10時36分36秒
「別に、用事があっただけちゃうのん?そんな不思議な事ちゃうやろ」

裕子も口ではやかましく言うものの、真希には何かと目をかけてくれている。
一人でずっと保健室で過ごすというのも随分と退屈なものらしい。

裕子にそう言われると、そんな気がしないでもないが、
なつみの最後の表情、悲しい瞳がいつまでも脳裏に焼きついていた。



それから数日後、学校に数名の教育実習生が配属されてきた。
もっとも、受験がある三年生には配属されないのであまり関係は無いのだけれども、
真希は次々に紹介される教育実習生の中の一人に目が止まった。
28 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)10時37分16秒
飯田圭織、と紹介されたその実習生は長身でロングヘアーをなびかせ、
その美しい顔立ちは、真希だけでなく全校生徒が目を奪われていた。

その日の昼休み、早速なつみとはその話題になった。

「ねぇ、あの飯田センセーってスゴイ綺麗だと思わない?
あーゆーのをきっと明眸皓歯って言うんだろうね」

明眸皓歯、なんて単語が出てくるあたり、
真希も本気でやってないだけで学才はあるようだ。
真希はそのまま続ける。

「ああゆう人って、きっと昔からモテたんだろうね。
男の人がほっとかなさそうだもん」
29 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)10時37分55秒
「そうだね、綺麗だった・・・。
でも、綺麗イコール幸せでもないのよ」

安倍は遠くを見つめて言った。
どこか、昔を懐かしむような言い方だった。



夏休みも近くなってくると、生徒の動きも慌しくなる。
特に三年生は毎日のように担任や学年の先生から「この夏が勝負だ」と言われる。
しかし真希はそんな言葉を外を眺めながら上の空で聞き流す。

勉強したって何になるんだか
大人になったって忙しい毎日の連続
代わり映えのしない毎日を続けて
それでみんなは満足?
私はそんな大人なら、なりたくない。
30 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)10時38分28秒
やはり今でもきっかけさえあればこの生活を終わらせたいという気持ちを持つことはある。
でも、前よりは時間も、回数も少なくなっている気がする。
これもなつみと会った影響だろうか。

そういえば、なつみといる時はそんな気持ちになったことはない。
なつみといると、不思議な気分になる。それが心地良い。

「ねぇ、今ごっちんが何考えているか当ててあげようか?」

抜け出した三限目の時間、屋上へ行くと間もなくなつみがやってきて言った。
初めて屋上で会ってからというもの、何度かなつみはこの発言をしている。
そしてその度に、なつみは真希が考えていることをズバリ言い当てていた。
31 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)10時39分01秒
「いーよもう、どうせなっちには全部見透かされてるんだもん」

真希はふてぶてしくそっぽを向いた。

「ねぇ、そんなに生きてるのがイヤ?ツライ?」

その質問に真希はなつみの方を向きかえる。
なつみはいつになく真剣な表情で真希の顔を覗き込む。

「別に・・・イヤっていうか、何かメンドイ感じ」

刹那、なつみの目に悲しい光を宿ったのが分かった。
しまった、と思ったがもう遅かった。
32 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)10時39分38秒
「ねぇ、生きたくても生きられない人の気持ちって考えたことある?
今世界中にそういう人がどれだけいると思ってるの? ねぇ、答えてよ!ねぇ!!」

「そんなの私に関係無いわよ、なっちだって、無関係じゃない!」

悪いのは自分だと分かっている。だけど、もう後にはひけなかった。
謝りたいという自分の意思に反した言葉が口から出てしまう。

「分かった、もうごっちんなんか知らない!!」

それだけ言うと、なつみはあふれ出た涙を拭い駆け出して行った。
なつみが屋上のドアを閉めた音を足元に聞きながら真希も泣いていた。

ほら、こうやって傷つくのがイヤなんだよ・・・
33 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月31日(日)10時41分25秒
先ほど執筆を完了しました、なわけで次回更新で完結です。
ただちょっと今から出かけるので昼か夜に完結させます。
というわけで読んでいる方(いるのかどうか疑問w)もう少しお待ちください
34 名前:13 投稿日:2003年08月31日(日)20時03分28秒
うむ。良いですね。
続き楽しみ。
35 名前:3rdcl 投稿日:2003年08月31日(日)22時56分01秒

読ませてもらっています。
文章とか上手ですごく見やすいです。
とくに中澤さんがいい味出してて気に入っています。

取り上げているテーマは自分は好きじゃないんですけど
これは個人の好みの問題ですね。(^^;;

短編なのでもうすぐ完結してしまうそうですが
なっちが出てくる作品(特になちごま、なちまり)
は好きなのでこの作品以外も書いていただければと思っています。

36 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時06分21秒
その時、屋上の扉が開いた。
なつみが戻ってきたのかな、と思って下を覗き込んだが
そこにいたのは以外にも、教育実習生の飯田圭織だった。

「あれ・・・飯田先生?」

その声に反応して圭織が振り返り、真希を見つけた。
腰近くある長い髪の毛が、ワンテンポ遅れてくるりと巻きついた。
壇上を見たときもそう思ったけれど、
近くで見るとよりはっきりと均整の取れた顔立ちの美しさが分かる。
37 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時07分19秒
「あれ、あなた一人?言い合う声がしてたから
てっきりケンカでもしてるのかと思ってきてみたんだけど」

圭織は不思議そうに真希の顔を見つめている。

「あ、さっきまで一緒にいたんですけどね。
ケンカして、怒らせちゃったんです」

改めて説明すると、圭織は真希の隣に座ると懐かしそうにして、

「私もここの卒業生なんだけどね、私もよくここに来てたの。
昼休みはもちろん、授業を抜け出して、友達と一緒に泣いたり、笑ったりして。
その時の経験があるから今の私があると言ってもいいぐらいよ」
38 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時07分52秒
「そうなんですか、へぇー意外だな。飯田先生みたいな優等生っぽい人がサボりだなんて」

「そうでもないのよ、私も、高校の時は今とは全然違ったし。
私の高校時代の話聞いたら驚くかもね」

圭織の話はなおも続いた。

高校のときのクラスメートが好きだと言っていた男子と付き合いだしたことからイジメが始まり、
その事が原因で素行が悪くなり、サボりや不登校などを繰り返す、非常に不真面目な生徒だったこと。
そしてある日サボっていたら屋上で、一人の少女に出会い、それから仲良くなったこと。
その少女のおかげと付き合うことで更生し、今の自分があるのだと、自分の一生の親友であると圭織は言った。

真希はその話を聞きながら不思議な感覚に陥っていた。
何だか、圭織の話が、今の自分とダブって見えた。
39 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時08分23秒
「その子に会うまではね、学校なんて面倒くさい、
自分の将来なんてどうなってもいいやって、そう思ってたのね」

圭織がここまで自分と同じ価値観を持っていた事に真希は正直驚いていた。
真希はどうやって圭織がそこまで変れたのかが知りたくなった。
だが、事実はとても悲しいものだった。

「その子ね、白血病だったの。もう絶対に、長くは生きられないって分かってたの。
それでもその子はずっと生きる希望を持ち続けて、そして亡くなったわ。
四年前、高校三年の夏に。ちょうど今日がその命日なのよ」

圭織の話し方から、真希はまさか既にその友人が亡くなっているとは思っていなかった。
ちょうど今の自分と同じ高校三年の夏、生きたくても生きることができなかったその友人・・・
40 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時08分55秒


・・・

・・・・・・!?

まさか、とは思ったがとても信じられないような考えが頭をかすめた。

「その子ね、なっちって言うあだ名だったんだけど、
自分でも自分のことなっちって言うんだよ、おかしいでしょ?
でね、そのなっちがいつも言ってたの。私学校の先生になるんだって、
先生になって、いろんな人に生きる希望を持つことを教えたいって。
だから私が、なっちの変わりにその役目を果たそうって、だから変れたのよ」
41 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時09分27秒
真希の目が大きく見開かれた。
もし自分の想像が、その通りだったとしたら、自分は何てひどい事をしてしまったんだろう。
真希は今更ながら自分のしてしまった事を後悔し、大粒の涙を流した。

「あ、なんか暗い話になっちゃったね、ゴメンゴメン。
とにかく、その友達と仲直りして欲しいなって思ったらつい思い出話になっちゃった。
この後実習生の話し合いがあるから私、行くね」

そう言うと圭織は足早に階段を駆け下りていった。
真希はとめどなく溢れる涙を止める事が出来なかった。

それから真希は、なつみの姿を求めて学校中を捜し歩いた。
しかし教室、保健室、グランドにまで範囲を広げてもなつみを見つけることが出来なかった。
42 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時09分50秒
その内に陽が傾き、下校時刻になっても、真希はまだなつみを探していた。
探し疲れて再び屋上へと戻ってきた時には、既に夕焼けから夜の帳へと空が変っていた。

コンクリの上に寝そべってなつみの事を考えると、また涙が溢れてきた。

「ねぇ、今ごっちんが何考えているか当ててあげようか?」

聞きなれた声が響いた。
振り返るとそこには優しい微笑を浮かべたなつみの姿があった。

「あぁ私は何て事をしてしまったんだろう、一言だけでも謝りたい。って思ってるでしょ」
43 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時10分22秒
真希はたまらずなつみの方へ駆け寄る。
しかし、なつみを掴んだはずのその手は空を切った。

「もう、行かなきゃいけないの。こっちの世界に長くいすぎたから」

そういえば暗さのせいだと思っていたがなつみの姿がうっすらと透けて見える。

「なっち、ゴメン・・・ゴメン!!」

真希は泣きながら声にならない声で叫んだ。

「いいんだよ、ごっちん。もう、別に怒ってないから。
ただ、ごっちんにも分かって欲しかった。生きる希望を持つという事を」

真希はただうんうんと頷きながら「行かないで・・・」と呟くだけだ。
44 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時10分52秒
「大丈夫、ごっちんは強いから。私がいなくても一人で歩いていける。
私は道に迷ったごっちんに、道案内をしただけ・・・」

顔を上げると、なつみの姿はもうかなり薄くなっている。

「なっち、私なっちの事絶対に忘れない!
だって、なっちは私の一番の親友だから!!」

「なっちにとっても、ごっちんは親友。いつまでも忘れない・・・」

なつみはそれだけ言うと、真希の前からすっと姿を消した。
一人になった屋上で、真希はただずっと泣いていた。

そしてそれから先、真希がどれだけなつみの名を呼んでも、
なつみが真希の前に姿を現す事は無かった。
45 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時11分22秒


夏休みも終わり、高校は後期の授業に入った。(真希の高校は前後期制)
放課後の保健室には真希と裕子の姿があった。

「何やお前、最近は授業中来ないようになったと思ったら今度は放課後かいな」

裕子がけだるそうに聞く。
それに答える真希の表情は対照的に明るい。

「いーえ、もうサボりには来ません。
私後期の保険委員になったんですよ、とゆーわけでお邪魔します」

つかつかと熟知した保健室の棚を開け、コーヒーを入れる。
軽快な鼻歌が聞こえるあたりかなり上機嫌のようだ。

「何や後期に入ってえらいマジメに授業受けとるそうやんか。どうゆう風の吹き回しや?」

真希から差し出されたコーヒーに口をつけて裕子が言った。
46 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時11分52秒
「別に、ただの気まぐれですよ。目標を見つけたんでとりあえず頑張ってみよーかなーと」

「目標?アンタの口からそんな言葉が聞けるとは思わんかったな、何やソレ?」

「センセーになって、どっかのモテない保険医さんよりも先に旦那さんを見つける事」

「後半は余計や!」

裕子は真希の座っている椅子を軽く蹴飛ばす。
しかしその表情には薄い笑みが広がっている。

「まぁ、頑張りや。アンタに教えられる生徒の事を考えるとあんまり頑張れとも言えんけどなぁ」

「あっ、ひどーい人が折角ヤル気になってるのに」

頬を膨らませてぶーっとした表情を見せた後、思わず吹き出した。
それは、以前には見せたことない心からの笑顔だった。
47 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月01日(月)00時12分23秒


ねぇなっち。私、頑張るよ

きっとなっちが夢に描いてた先生には届かないけど

精一杯やってみるよ

一人でも多くの人に、生きるすばらしさを分かってもらえるために

私の人生をもっと幸せなものにするために

頑張るから、ずっと見守っててね


ねぇなっち、今私が何考えているか分かる?
48 名前: 投稿日:2003年09月01日(月)00時17分20秒
というわけで完結しました。
最初に名前入れ忘れて出す機会を逃しました(笑

なわけで完結させてからご挨拶。
かなり久々に載せましたね、書いてることは書いてるんですが
なかなか思い通りに仕上がらなくてどれも中途半端です(^^;

この話は頭の中でくみ上げてからは一日半で書き上げました。
分かりやすいよくある話だと思いますが読んでくださった方ありがとうございました。
次回作はいつになるか分かりませんが、
もしこの話を気に入っていただけたのならまた目を通して欲しいと思います。
49 名前: 投稿日:2003年09月01日(月)00時22分28秒
>>13さん

何度も足しげく通っていただきましてありがとうございました。
とりあえず読んでくれている人がいると確認できただけでも嬉しかったです(笑
最後まで読んでいただいてありがとうございました。

>>3rdclさん

レスありがとうございます。
前作もそうだったんですが、私が書くと非CPの痛い話になるみたいです(笑)
一応前作はなちまりだったのでまだ読んでなかったらどうぞです。
紫板倉庫にある「STAND BY ME」という作品ですので。
50 名前:13 投稿日:2003年09月01日(月)19時07分54秒
面白かったです。
題名が巧いですね。
51 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月04日(木)00時38分12秒
感想スレ見て、来たんだけど話のテンポもよく、かなり楽しめました
52 名前: 投稿日:2003年09月04日(木)00時53分47秒
>>13さん
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
Fly to ・・・というのは、そのまま「飛ぶ」ということなんですが、
前半では飛び降り自殺に関する「飛ぶ」で、
後半は未来に向かって羽ばたくという意味の「飛ぶ」を意味した言葉です。
多分、その辺は文章じゃ伝わってないので補足説明などしておきます(笑)

>>51さん
読んでいただいてありがとうございました。
まさか感想スレから人に来ていただけるとは思ってなかったのでビックリです。
確かにテンポはいいんですが、言われてみるとちょっと薄いかもしれませんね。
楽しんでいただけて何よりでした。
53 名前:ROMおやじ 投稿日:2003年09月07日(日)17時34分13秒
栞だったか。
やっぱり巧いよな。レスがつくわけだ。
短編ってのは、こうサクサク読めないと意味がないもんなあ…
イイ勉強させてもらった。これからもがんがれ!

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