1 名前:M_Y_F 投稿日:2003年09月07日(日)20時45分30秒

金板で書いてるものです。
気分転換に違った作品をひっそりと書きます。
気楽に読んでください。
2 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時46分11秒

杏・・
花言葉は誘惑。
3 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時47分07秒

真希はベッドの中にいた。
「うっ・・・ん・・・」
自分が自分でないように感じてきた。
こんなはずじゃなかったのに体が勝手に反応していく。
頭では理解していても興奮する気持ちは抑えきれない。
こんなはずじゃなかったと後悔しても遅かった。
4 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時47分38秒

「あっ」
胸を掴まれて、思わず声が出る。
「かわいいなあ」
「ちょっと、からかわないでよ」
「アハハハー、その顔もかわいいで」
「あっ、裕ちゃん・・・」
裕子の手が真希の体をもてあそぶ。
5 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時48分14秒

ゴソゴソ、ゴソゴソ・・・
裕子の手の動きがさらに怪しくなる。
「あっ・・だめ・・」
「そんなこと言って・・誘ってきたのはごっちんやで」
「でも・・」
「ここまでしといて、終わりはないやろ・・」
「・・・」
裕子の言葉に返す言葉がなかった。
「はぁん・・」
裕子の手の動きにひときわ大きな声が上がる。
「かわいいなあ・・顔が赤くなってるで」
「いやだぁ・・」
真希は自分の顔が熱くなっているのを感じていた。
必死に理性を働かせるけど、言うことをきいてくれない。
6 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時48分55秒

「うっ・・はぁ・・」
興奮はますます増していく。
「フフフーー、なかなかいいやん」
裕子の手が真希の全身を撫で回す。
真希をペットのように扱う裕子。
「はぁん・・」
真希の理性は完全に失いかけていた。
―やぐっつぁんもこんな感じなんだろうか―
抱き合っている裕子と真里の姿が脳裏に浮かぶ。
「あぁーー」
ひときわ大きな声が響く。


裕子の手の動きが大胆になっていく。
真希は裕子のなすがままになっていた

「はぁ・・あぁ・・・」
真希の頭の中は真っ白になった。
7 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時49分36秒

真希は自分の部屋で頭を抱えていた。
―どうして、こんなことになったの―
真希の頭のにはひとみのことで頭がいっぱいだった。
―何もできなかった―
後悔の念だけが残る。
真希は裕子にもてあそばれただけだった。
8 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時50分29秒

1週間前のことだった。
誰もが暗い顔をしていた。
誰もが涙を流していた。


吉澤ひとみが死んだ・・しかも殺された。
このことを聞いたとき、真希は自分の耳を疑った。
ひとみが殺されるなんて夢にも思ってみなかった。
しかし、目の前の現実は残酷すぎるものだった。

真希はひとみの家を訪れた際に、その変わり果てた姿に泣き崩れた。
壇上に飾られた遺影の笑顔がより一層悲しみを大きくした。
9 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時51分17秒

時が過ぎていく中で、娘はおろかハロプロ内でも一つの話題が持ち上がった。
中澤裕子だけがお通夜はおろかお葬式にも出てないことだった。仕事が忙しければ仕方な
い部分はわかるが、仕事の内容からしてお通夜にもお葬式にも出席できる時間はあったと
いうのだ。こういうことにはきちっとしてる裕子が欠席するとは誰も予想できなかった。
いくら不仲であろうと仲間の大事に駆けつけないとは考えられなかった。このことはマス
コミやファンの知るところになり、一部では裕子がひとみを殺したという説まで飛び出し
た。ただ、ひとみが死んだときの裕子のアリバイはあったのでこの説は自然消滅した。代
わりに、ひとみと裕子の不仲説が世間を騒がすこととなった。
10 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時52分05秒

―絶対に何かある・・―
真希だけは裕子を疑っていた。
ひとみが死ぬ前に何度か裕子に相談していたことをメールで受け取っていたからである。
ひとみが裕子に相談することなんてめったにない。それだけに真希は裕子に疑いの目を向
けていた。それに、最近の裕子の行動も気になることがあった。食事等に誘っても犬の世
話があるからとほとんど断るようになっていたのだ。1ヶ月前ぐらいまでなら一緒に行って
いたのだが、ここ最近は誰の誘いも断っているのだ。圭織やなつみや圭にこのことを聞い
てみるが、彼氏でもできたんじゃないのと気にはしてないようだったが、真希にはどうし
ても納得できなかった。
11 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時52分50秒

―どうしたら、いいんだろう―
真希はあらん限りの知恵を絞っていた。
誰にも言えないことが辛いことだった。
せっかく危険を冒してまで裕子に近づいたのに何も得られなかった。
裕子はまたおいでと誘ってくれたが、いつしか本音を言いそうで怖かった。
普通であれば体力的に勝るのでいざとなれば裕子を迎えこむ自信はあったが、裕子が何を
考えているかわからないのが不安だった。
12 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時53分24秒


―ごっちん、何考えてるんや―
裕子はビールを片手に携帯に目を通していた。
真希を抱いたことはたいしたことではなかった。
これ以上、真希に関わってこられることだけがやっかいなことだった。
ツゥルーー、ツゥルーー、ツゥルーー
メールが届いた。
“アズマギク YYYYYYY XX月XX日XX時XX分 ”
裕子はこのメールを削除すると、すぐに鏡の前に座った。
黒のアイシャドウに黒の唇、さっきまでと別人である。
引き出しから、扇子を取り出すと闇の街へと繰り出していった。

13 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時54分01秒

カツカツカツ・・
にぎやかな表通りと違い、裏通りに靴音だけが寂しく響く。
薄暗い明かりの周りを虫が飛び回る。
色褪せたビルが不況を物語っていた。

14 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時54分32秒

スパッ!シャーーー!
ポタ、ポタ・・
赤い雨が通りに降り注ぐ。
わずかな希望も絶望へと変わる。

15 名前:プロローグ 投稿日:2003年09月07日(日)20時55分02秒


そして、サイレンの音と光が暗闇を照らす。
そこに映し出されたのは変わり果てた人の姿だった。

16 名前:M_Y_F 投稿日:2003年09月07日(日)20時56分26秒
今日はこれで終わりです

不定期に更新していくことになります。
1ヶ月に1度は更新予定です。
17 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 12:54


「ニュースの時間です。
 今日、都内のXXで首から血を流して死んでいる人が見つかりました。
 ・・・・・」
「最近、怖いよな」
TVを見ながら、裕子が口にした。
「そうだべ・・」
「私らも気をつけないとね」
「ほんとや」
「でも、裕ちゃん・・よっすぃーの件はまずかったんじゃない」
「わかってるわ、なっち!体が1つがないのにどうするんや」
キッチンで料理しているなつみの言葉に裕子の言葉も荒くなっていた。


裕子は顎に手を添えたまま何やら考え事をしていた。
目の前には、花の名前が書かれたメモがあった。
「わからんなぁ・・」
いろいろと頭を働かせるが、つながりがまったくわからない。
苛立ちのせいか、つま先がトントンと音を立てていた。

18 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 12:55


「もう、こんなときまで考え事して!」
「ちょっと、なっち」
なつみは裕子の目の前のメモをとった。
「悩むのあとにして、ご飯にしよう」
「そうやな」
香ばしい醤油と味噌汁の香りが食欲をかきたてる。
「いただきまーす」
2人は食事をはじめた。



本来は楽しいはずだったが、無言のまま時間が過ぎていく。
なつみは裕子の深刻な表情が気になってしょうがなかった。
「裕ちゃん、できることがあったら協力するべさ」
「ありがとう、私一人で大丈夫や・・」
裕子は笑みを浮かべた。
なつみも裕子の顔を見て明るく笑う。
なつみの笑顔はギスギスした心を癒してくれる。
裕子にとってなつみの存在は大きかった。

19 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 12:57

「そうだ!」
「なんや、なっち」
突然のなつみの大声に裕子はちょっと引き気味の態度をとった。
さっきまでの笑顔はなく目がつりあがっていた。
ちょっと頬を膨らませた顔は一瞬怖いような感じもするが愛らしいものだった。
20 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 12:58

「裕ちゃん、ごっつあん誘ったでしょう」
「うん、誘ったで」
「ごっつあんに変なことしてないでしょうね」
「何や、変なことって?」
「裕ちゃんのことだから、矢口のように同じことをしたんじゃないかと」
「そのことか・・なかなかよかったで」
「えっ、なかなかよかったって・・裕ちゃん、それくらい分別つけようよ」
「わかっとるがな・・でも、しょうがなかったんや・・」
「しょうがなかったって・・・きゃっ!」
「最近、さらに大きくなったとちゃうんか」
「もう、やめてよ・・」
裕子の両手がなつみの胸を覆っていた。
「久しぶりに楽しもうか・・」
「ちょっと・・あぁ・・」
裕子の手が輪を描くように動いていく。
「最近、色っぽくなったやんか」
「もう・・裕ちゃん・・うっ・・」
「いい顔しとるわ」
裕子はなつみをベッドへと導いた。
21 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 12:59

「なっち・・」
「裕ちゃん・・・ん・・・」
裕子となつみの唇が重なる。そして、舌までもが絡み合う。
その様子はまるで恋人のようだった。
「そんな・・」
なつみの服が一枚づつ脱がされていく。
裕子の手と舌がなつみの体を溶かしていく。
「はぁ・・はぁ・・」
なつみは感じるままに声をあげる。我慢しようとすればするほど声は上がる。
「はぁ・・・だめぇ・・」
裕子の手と舌はさらに動きが激しくなっていた。
―こんなはずじゃ・・―
「はぁ・・いやぁ・・・あぁ・・・」
なつみは理性を失いつつあった。
裕子の動きに反応するようになつみの体は自然と動いていく。
「あぁーーん・・あぁ・・」
裕子の指が秘部へと動く。
「はぁーー、うっーーん」
なつみの体が熱くなっていく。
久しぶりの感触に体は正直だった。
裕子の動きに合わせて、腰をくねらせる。
脚が絡み合い、背中がのけぞる。
なつみは裕子にすべてを預けた。
22 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 13:00

「ふぅ・・・」
大きく息をつく裕子。そんな姿になつみは切ないものを感じていた。
「ごっつあんのこと、どうするの?」
「別に・・」
「だって、ごっつあん、裕ちゃんのことを疑っているべさ」
「わかってるわ・・」
「わかってるなら、何故抱いたの?」
「こうでもせんと、さらに足突っ込みそうやし・・」
「裕ちゃん・・」
「なっちもごっちんとよっすぃのこと知ってるはずや・・
 ごっちんをあのままにしたら、事態はさらに最悪やで・・」
「でも・・」
「ごっちんの考えがわからんけど、私だけを疑っているならいいと思うで。
 まぁ、私も動きにくいんやけどな・・
 今は様子見といったところやから、当分ごっちんと交わることもないやろうし」
そこには深刻な表情はなかった。
「裕ちゃん・・」
「なっちもそんな顔せんと、ぜんぜん似合ってないで」
なつみの髪を指でとかしながら、やさしく額にキスした。
23 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 13:01


ツゥルーー、ツゥルーー、ツゥルーー
裕子の携帯が鳴った。
なつみの表情が一瞬曇る。

24 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 13:02


裕子は携帯を確認するとメールが1通届いていた。
“イトスギ YYYYYYY XX月XX日XX時XX分 ”
裕子はこのメールを削除すると、すぐに化粧台の前に座った。


「行くんだ・・」
「あぁ、すぐに戻ってくるから、寝といてええよ」
「大丈夫だよね?」
「心配ない・・なっちがよくわかっとるやろう・・」
なつみを諭すようにやさしく語りかける裕子。
なつみはベッドの中で震えていた。
なつみの心配をよそに裕子は化粧を進めていく。

25 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 13:03


黒のアイシャドウに黒の唇、さっきまでと別人である。
今まで抱き合っていた裕子の姿はなかった。
冷たくて鋭い目、赤のコンタクトが妖しく光る。
引き出しから、扇子を取り出すと闇の街へと繰り出していった。

26 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 13:03


なつみは枕に顔を埋めた。
―私だけしか知らない・・―
なつみは裕子の本当の姿を初めて見たときのことを思い出していた。


27 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 13:04


にぎやかな表通りを一歩奥に進めば、荒んだビルが立ち並ぶ。
この不況の中、水垢や砂埃をかぶった看板が薄暗い明かりのもとでその姿を現す。
何年も取り替えられていない看板。看板にある名の店は潰れてしまっている。
野良猫や野良犬が我がもののように道路の真ん中を歩き回っている。
そこは過去の遺物でしかないようだった。

28 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 13:05


カツカツカツ・・
暗闇をさまようかのように靴音が響く。
そこは人の嘆く声しか聞こえない場所。
そして、死神の通り道でもある場所だった。

29 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 13:06


スパッ!シャーーー!
ポタ、ポタ・・
赤き水が通り一帯に撒かれる。
わずかな希望さえも絶望の闇へと突き落とす。

30 名前:秘密 投稿日:2003/09/16(火) 13:06



サイレンの音と光が暗闇を照らす。
恐怖に満ちた人々の声と視線が闇を探る。
闇で見つかったのは変わり果てた人の姿だった。

31 名前:M_Y_F 投稿日:2003/09/16(火) 13:07

今日はここまで
32 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:00

ガチャガチャ・・


ビクン!
背筋に緊張が走る。最悪の場面が頭をよぎる。
オートロックのマンションとはいえど安心はできない。
安心できる場所などどこにもないのだから。


「ただいま」
「裕ちゃん、お帰り」
なつみはその声に安堵の表情を浮かべた。
「無事だったんだね」
「あぁ・・ちょっと待ってな」
裕子は抱きつこうとするなつみを制止して、シャワーを浴びにいく。

33 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:01

血にまみれた体を洗うために。しかし、血が染み込んだ体から血の臭いと跡が消え去るこ
とはない。他人にはわからないかもしれないが、自分の手を見るたびに真っ赤な血の跡が
見える。最初は戸惑いを感じていたのだが、今では慣れてしまって何も感じない。感じな
いからこそ、今の自分があるのだと認識してしまう。常人では考えられないほどのプレッ
シャーに襲われる世界。光はない。ただ闇しか世界である。そんな世界に誰も巻き込みた
くなかった。



「ふぅーー」
カパッ、シュッーー
髪を束ねて、バスタオルを巻いただけの格好で早速ビールを口に含む。この瞬間が一番安
心するときである。冷たい殺し屋の目からやさしい目に変わる。一見したところきつそう
な感じがするがどこか寂しさの漂う雰囲気がする。それが裕子の哀れな部分かもしれない。

34 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:02

「裕ちゃん・・」
なつみは笑顔を浮かべながら、裕子の横に腰掛ける。
裕子の肩にちょこんと頭をつけると、口をへの字に曲げて拗ねたふりをする。
「なんや、なっち・・そんな顔して」
裕子は右手でなつみの髪をかきあげると人差し指をなつみの唇にあてがう。
「もう、なっちの気持ちも知らないで」
なつみは裕子の指をどけると、静かに唇を寄せていく。
「ん・・・・ん・・・・」
ゆっくりと重ね合う唇。
お互いの気持ちを確かめるかのように。

35 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:02

「なっち、これくらいでええやろう」
裕子はなつみを引き離す。これ以上一緒にいるのが怖かった。
自分のせいで命を落とさせるようなことだけはしたくなかった。
「だめ・・・なっちのこと嫌いなの」
「ううん・・」
「だったらいいでしょう・・」
なつみは裕子の胸に顔を埋める。
ふと溢れてくる涙、そのままだとおさまりそうにもなかった。
「なんや、なっち・・・あぁ・・」
裕子の口から上ずった声が漏れる。
バスタオルをはぎ、裕子の胸を両手でやさしく包み込む。
「うっ、はぁ・・」
裕子の胸の感触を確かめるかのようになつみの両手が動いていく。
チュッ、チュッ・・
なつみの口が裕子の胸元を覆っていく。
―あかん・・でも・・―
裕子は迷っていた。
このまま溺れていくような気がしてならない。
なつみの将来を考えるのならここで止めておくべきだろう。
だが、なつみの気持ちを考えると止めることはできない。

36 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:03

「はぁ・・はぁ・・」
裕子の迷いをあざ笑うかのように快感が伝わってくる。
なつみにこの快感を教えたのは裕子だった。
しかし、今はなつみによって教えられている。
出会った頃の少女の面影が今もはっきりと残っている。
「あぁ・・・あぁ・・」
裕子の息遣いはだんだんと荒くなっていく。
理性で抑えようとしても、腰が勝手に動いていく。
「なっち・・」
「あぁ・・・はぁ・・」
裕子の手がなつみの下半身へと伸びる。
「やぁ・・あぁ・・はぁ・・」
なつみの荒い声が声が響く。
攻守を変えた裕子の動きになつみはなすがままとなっていた。
「はぁ・・あぁ・・はぁ・・」
なつみは本能のままに声を上げる。
―あのときと同じや・・でも・・―
裕子は初めてなつみを抱いたときのことを思い出していた。
―このままでいたい・・―
なつみは別れのときを感じていた。
「あぁーーーー」
「はぁーーーー」
二人は束の間の喜びに浸っていた。

37 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:04



―――

「逃げるんや!」
裕子は大声で叫んだ。
殺し屋としてはあるまじき姿だった。


「こうなれば、一人でも多く道連れにしてやる・・」
獲物は数多くの犠牲を求め動いた。
獲物の前には何も知らない少女の姿があった。


―あれは・・―
裕子の目に映る怯えた少女の姿。
その少女は裕子の知っている少女だった。
一瞬、殺し屋から一人の女性の顔へと変わる。


銀に輝く刃物が少女へと近づく。
―間に合ってくれ―
裕子は扇を投げつけた。

間一髪だった。
獲物はなつみの手前で息絶えた。
血が辺り一面に広がる。
少女は膝をついたまま震えていた。


裕子は少女の手をとると一気に駆け出した。
サイレンの音がけたたましく鳴り響く。


少女は我を忘れたままだった。
裕子は少女を元に戻すつもりで抱いた。
たった一度のつもりだった。
たった一度の・・・


―――



38 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:04

チュンチュン、チュンチュン・・
陽の光りとともにすずめが鳴いていた。

39 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:05


「はぁ〜・・嫌な夢や・・・」
裕子はボサボサの髪をかき上げながら上体を起こした。
―なっちは?―
部屋を見渡すがなつみのいる様子はなかった。
裕子は眠気を払いのけるように軽く頬を叩きながらキッチンへと向かう。
途中、テーブルに置かれた紙に目が止まった。

《家に帰るね・・なっちより》
紙には1行だけ書いてあった。


―これで終わりやな―
裕子は自分に言い聞かせる。
光をわざわざ闇に導くこともない。

40 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:06


裕子はコーヒーを口にしながら,TVのニュースを見ていた。

「ニュースの時間です。
 今日、都内のXXで首から血を流して死んでいる人が見つかりました。
 XX月XX日に起きた殺人と手口が似ていることから、同一犯の見方が強いようです」

―あぁ、そうや―
TVの前で静かにつぶやく裕子。

41 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:07


カチッ
TVを消すと、花の名前が書かれた紙を右手にため息を漏らしていた。
これだけが手がかりだった。

42 名前:別れ 投稿日:2003/10/08(水) 23:07

今の自分と別れるために・・

43 名前:M_Y_F 投稿日:2003/10/08(水) 23:08

今日はここまで
44 名前:消失 投稿日:2003/11/03(月) 00:37

なつみと会った日を境に裕子はブラウン管から消えた。いや、芸能界から消えたといった
方が正しいであろう。誰もが不思議に思った。リストラだとか素行が悪いとかいろいろと
噂が飛び交ったが一番有力だと思われたのはひとみの死に起因するものではないかという
ことだった。葬式にも来てなかったことから、裕子とひとみの仲が疑われた。もともと仲
が悪いと噂が絶えなかったこともあり、マスコミには格好のネタだった。一時的に事態は
収束したが簡単なきっかけで話はぶり返す。話題は本当のことであろうが嘘であろうがい
くらでもあり尽きることはない。しまいには、ハロプロ全体にまで話は進む。あることか
らないことまでいろいろと報道される。関係者には緘口令がしかれたが、当事者にすれば
腹立たしいことだった。しかし、反論しても騒ぎが大きくなるだけである。事態が沈静化
するまではおとなしくしておくしかなかった。裕子に対する憤りを誰もが持ち始めていた。
なつみだけを除いて。

45 名前:消失 投稿日:2003/11/03(月) 00:37


ブルブル、ブルブル、ブルブル
ポケットに入れてある携帯が震える。携帯に表示される文字を見る。裕子は首を振りなが
ら携帯をポケットに戻す。このときばかりはちょっとだけ切なくなる。本当のことを言え
たら、どれだけ楽かわからない。しかし、それはできないことだった。裕子はぐっと唇を
噛んだまま手を握り締めた。


46 名前:消失 投稿日:2003/11/03(月) 00:39

にぎやかな雑踏の中を進んでいく。しかし、裕子の顔に笑みはない。何かに取りつかれた
ように足早に進んでいく。二度と見れないかもしれない光景を脳裏に焼きつけていく。流
行のメロディが街中に響く。ふと聞き覚えのある歌声に足が止まる。
―歌が好き―
正直な気持ちだった。これほど楽しいことはなかった。いくら辛いことがあっても、好き
だという思いが辛さを楽しさに変えた。
―いつからだろう―
裕子は自分の過去を振り返る。
自分の歌声が皆に聞いてもらえる。光栄なことだった。誰かに感動を与えているかもしれ
ないと思うといてもたってもいられなかった。しかし、自分の歌声が違った意味を持つよ
うになってきた。一つ一つの声が念仏のように聞こえていた。

47 名前:消失 投稿日:2003/11/03(月) 00:39


「あぁーーー」
街中での大声に自然と体が反応する。自分のことではないとわかっていてもつい気になる。
自分だっていつ死ぬかわからない。
人の死ほどわからないことはない。
何が起こるかわからないのが未来である。
これは裕子自身が一番わかっていた。
「あぁーー」
大声に裕子の右手が自然と反応する。


48 名前:消失 投稿日:2003/11/03(月) 00:40

ツゥルーー、ツゥルーー、ツゥルーー
裕子の携帯が鳴った。

裕子は携帯を確認するとメールが1通届いていた。
“ローダンセ YYYYYYY XX月XX日XX時XX分 ”

―何が永遠の愛や・・―
花言葉の意味に思わず愚痴がこぼれる。
裕子にすればこんな言葉はまったく意味がない。
最後は死の文字しかない世界である。
よく人の記憶に残っている限り人は生き続けるというが、そんなことは嘘である
人は生きていてこそ価値があるものである。
しかし、一人の人間として裕子が口に出せる言葉ではなかった。

49 名前:消失 投稿日:2003/11/03(月) 00:40


数日後
サイレンの音と光が暗闇を裂いていく。
恐怖に満ちた人々の声と視線が闇を大きくしていく。
光の中で見つかったのは変わり果てた人の姿だった。


50 名前:消失 投稿日:2003/11/03(月) 00:41


裕子の行方は誰もわからなくなっていた。


51 名前:M_Y_F 投稿日:2003/11/03(月) 00:41

今日はここまで
52 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/07(金) 16:41
何故裕ちゃんはこんなことをしているのか?
花の名前の謎は解けるのか?
続き、期待しています。
53 名前:M_Y_F 投稿日:2003/12/13(土) 20:28
>> 52 名無し読者さん
 感想ありがとうございます。

 期待していただけるほどのものが書けたらいいと思ってます。
 もう少ししたら、更新予定です。 
54 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 22:56

「やぐっつあん、裕ちゃんのこと知らない?」
「おいらも捜してるんだけど、ごっつあんも知らないの?」
「うん・・・」
真希はずっと裕子を追っていた。事務所にも尋ねてみたが、事務所も捜している最中との
ことだった。事務所も知らないとなると、親しい人間だけが知っているかもしれないとま
ずは真里に接近した。真里と裕子の仲は知っている。何か連絡があったかもしれないと尋
ねたのだが、真里の表情からすれば何も知っていないようだった。真里のほうも裕子のこ
とを捜しているようで、逆に真希のほうが質問攻めにあってしまった。
「くそっ、アホ裕子、どこに行ったんだ」
真里の言葉がそのまま真希の思いを示していた。
55 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 22:57


「どこ行ったんだろうね」
「ホント、連絡ぐらいくれてもいいじゃんか・・」
真里は圭と二人で飲んでいた。
普段なら順調なペースで減っていく酒もぜんぜん減る気配がない。減っているというより
最初にグラスに口をつけてから一口もグラスに手もふれてない。
「あぁ〜何やってんだか・・」
圭が天井を見上げる。そんな圭の姿に真里は頷くぐらいしかなかった。
「ところでさぁ・・」
気分転換に話を変えてみるが、結局は裕子の話題に戻る。
後に残るのはもどかしさと大きなため息ばかり。
「矢口、時間があればうちに来ない」
「いいけど・・」
突然の圭の言葉に戸惑う真里。このままここに居ても話が弾むこともなさそうだった。
それだったら、誰にも気にせずに話せる場所の方がいい。


56 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 22:58


2人は圭の家へと来ていた。
1台のパソコンの前に座る2人。
パソコンの電源を入れると、モニターが怪しく光り始める。
2人にすればあまり気が進むものではなかった。
いろいろと調べれば、見たくないものも見てしまうことも多くない。
真里にすれば、自分の書かれていることを見て思わず凹んでしまった経験がある。
ただ、見たくないものを見たくなる衝動は起きるものである。
2人はただ裕子の情報だけを求めて調べ続けた。時間は過ぎていくがこれといった情報は
見つからない。疲れだけが増していく。気づけば、カーテンの隙間から陽がこぼれていた。
「今度の機会にしよう・・その間も調べておくから」
「そうだね・・じゃあね・・」
すぐに見つかるとは思っていなかったが、見つからなかったら見つからなかったでショッ
クはある。真里は肩を落としながら圭の家を後にした。

57 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 22:58


数日後・・
「なっち、裕ちゃん知らない」
「なっちもわかんないよ、メールの返事もないし・・」
「そうか・・」
真希の表情が曇る。一番わかるのはなつみだと思っていたがわからないのはしょうがない。
わかっていることだが、ショックは大きい。
「裕ちゃんもひどいよね!連絡の一つや二つくれたらいいのに」
「そうだよね」
なつみの頬くらませた表情に真希の心は和んでいく。
真希の心の内を知ってか、なつみは笑みを浮かべる。
真希の顔にも笑みが浮かんでくる。
ここぞとばかりになつみが話しかけてくる。ばかげたことばかりだが、それが一種の清涼
剤となる。こうなるとなつみのおしゃべりは止まらないが、真希にはいい気分転換になる。

58 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 22:59


楽屋ではTVがつけられていた。誰も見てないのだが、ニュースが流れる。
「次のニュースです。
 今日、都内のXXで首から血を流して死んでいる人が見つかりました。
 XX月XX日に起きた殺人と手口が似ていることから、同一犯の見方が強いようです」
ふと、なつみの話が止まる。
「どうしたの?」
「いやぁ、最近恐ろしい事件が続いてるなあと・・
 なっちたちも気をつけないとね」
「そうだね」
真希はなつみの言動に何ら疑問も持たない。やっぱり、自分でもこういう事件は気になる。
最近やたらと凶悪な事件が増えている。次に巻き込まれるのは自分かもしれない。華やか
な舞台に立つほど注目は多くなる。大げさなことにはなっていないが、危険な目に遭いそ
うになったことがある分、なつみの言葉はちょっと重いものだった。

59 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 23:00


―よかった・・―
何事もなく話が進んで、なつみはほっとしていた。
もっとつっこまれたら、思わず裕子のことを話していたかもしれなかった。
真希たちの憤りもわかるが、それは違うと言えないもどかしさが残る。
だが、それは誰にも言えないこと、言えば誰もが首を突っ込むはずである。
真希さえいなければ、今すぐにでもニュースで聞いた場所に向かいたい気分だった。
そこに裕子はいないのはわかっていたが、ただ何らかの手がかりが残っているかもしれな
い。裕子の強さも弱さもわかっていた。そして、なつみたちを巻き込みたくないことも。

60 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 23:00



東京のとある場所、そこに裕子はいた。
黒のアイシャドウに黒の唇、裕子の本来の明るい姿はなかった。
冷たくて鋭い目、赤のコンタクトが妖しく光る。


61 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 23:01

にぎやかな表通りを一歩奥に進めば、荒んだビルが立ち並ぶ。
TVでは一時期のどん底から抜け出したというが、それは一部分だけ。
必死に生き抜いてる店の水垢や砂埃をかぶった看板が薄暗く光る。
いつしか完全に復活の日を信じて明かりを灯しているようだ。
野良猫や野良犬が我がもののように道路の真ん中を歩き回っている。
そこに人の姿はない。

62 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 23:01

扇子を右手にと闇の中へと消える。
裕子は携帯でメールの内容を再度確認する。
“シオン YYYYYYY XX月XX日XX時XX分 ”

―追悼か・・―
携帯の画面を見るたびにため息が漏れる。


63 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 23:02


カツカツカツ・・
暗闇をさまようかのように靴音が響く。
いくら場所が違っても、裕子の目には同じ場所にしか見えない。
そこは死神の通り道である。

64 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 23:02

スパッ!シャーーー!
ポタ、ポタ・・
赤き水が通り一帯に撒かれる。
わずかな希望(ひかり)さえも絶望の闇へと突き落とす。

65 名前:焦燥 投稿日:2004/01/29(木) 23:03

再びサイレンの音と光が暗闇を探る。
恐怖におびえる人々と恐怖に立ち向かう人々の声が闇で交じる。
闇から光に現れたのは変わり果てた人の姿だった。

66 名前:M_Y_F 投稿日:2004/01/29(木) 23:04

今日はここまで

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