グレートウォール 2
- 1 名前:BX-1 投稿日:2003年09月07日(日)21時42分49秒
It has been nicknamed the "Great Wall of Galaxies,"
after the Great Wall of China.
前スレ(銀板)
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/silver/1043669956/
- 2 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時48分01秒
☆
そこは密集する街の中で、ぽつんと忘れられた空間だった。
似たような高さで並ぶ高架橋の向こう、黒い電線越しに見えるビルの群れと大きな観覧
車、距離はそれほど離れていないのにとても遠くに感じられる。絵葉書を見ているよう
な薄い眺めだった。反対の勾配のついている山側からは他の建物に見下ろされ、すぐ両
側をかためる雑居ビルもここより若干背が高い。
それでも、屋上の開放感は抜群だった。
「はー、きもちー」
空がすごく近いというわけでもないのだが、普段めったに見ることのできない眺めは、
吹きつける寒さも気にならないほど爽快なものだった。フェンスも何もない屋上にこ
うして立った記憶がほどんどない吉澤は空に向かって大きく腕を伸ばすと、硬くなっ
ていた表情を和らげた。
- 3 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時48分51秒
ずっと通っていた中学も高校も、公立校だったせいか屋上へのドアには鍵がかかって
いて、青春ドラマで見るような爽やかな時間を過ごす機会はなかった。がんばっても
その手前の踊り場、立ち入り禁止の柵をこえた所で友達と下らない話をするぐらい。
他にもっと高くて、こことは比べものにならないほど綺麗な景色を望める展望台にだ
って行ったことはあるけれど、こんなにすがすがしい気分になったのは初めてだった。
建築年数がかなりたっていると思われるビルの屋上は、想像通り汚くひびだらけで、剥
がれ落ちたコンクリートのかけらが辺りに散らばっていた。雨水の染みわたって変色し
たコンクリートの隙間からは雑草がちらほらと顔を覗かせている。日照条件がさほど悪
くないことがその成長ぶりからもわかるのだが、片隅に置かれた植木鉢やプランターの
中には土が入ってなく、木の根っこらしき物体が無惨な姿で干からびているだけだった。
- 4 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時49分38秒
- スコップにブリキのジョウロにバスケット。
隅に放置されているガーデニング用品は一斉に買い揃えられたものなのか、デザインが
似ていた。優雅なガーデニングライフを夢見て買い込んだのはいいが、手入れの大変さ
にすぐに投げ出したのだろう。なんとも保田らしい、と吉澤はそれを見つけて微笑んだ。
熱しやすく冷めやすい――下の事務所に溢れかえっている大量のガラクタも、そう考え
ると頷ける。
「ここ誰か住んでんのかな」
そんな不安な建物のてっぺんに家が建っていた。いや、小屋といったほうがいいかもし
れない。トタンでできているその小屋は風でカタカタとリズムを刻みながら、ひっそり
と屋上の片隅にひそんでいた。近づくと、長い時間使われていないのが一目でわかった。
入り口らしきドアにはしっかりと南京錠がかけられ、その鍵自体も錆びついていて誰か
が触れた形跡もない。それに鍵がついてなかったとしても、足下に大きな凹みのついた
木の板は立て付けが悪く傾いていて、スム−ズに開きそうにもなかった。
- 5 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時50分40秒
小屋の横にまわるとガラス窓がついていた。真っ白に汚れたガラスの一部に新聞紙が貼
られている。ボールでもぶつけたのだろう、ガムテープで止められた新聞紙は窓に開い
た穴をふさぐ格好でついていた。
吉澤は曇ったガラスに顔を近付ける。視界の悪いガラスは手で触れることさえためらう
ほど汚れていた。そのせいで細かいところまでは見えないが、六畳くらいある空間は物
置きではなく、やはり誰かが住まいとして使っていた形跡があった。部屋の中央にはこ
たつが出ていて、緑色の台の上にはマージャン牌らしきものが、ゲームの途中で放り出
されたまま綺麗につみ上げられている。しかしこの中で整頓されているのはそこだけで
床や棚の上はひどく散らかっていた。住人以外には、歩くのに注意が必要な部屋だ。
- 6 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時51分26秒
- 少しずつ目が慣れてくると、放置された部屋の汚れ具合に顔をしかめるのと同時に、
ここの住人の趣味や好みもわかってきた。
壁に貼られた古い外国映画のポスターとビデオ、膨大なCDの山、レコード盤、
小学生の頃に見たファミコン、三本線の入ったジャージ…
それ以外には、活字がぎっしりつまってそうな本と雑誌が部屋の大半を占めていた。ケ
ースにしまわれないCDが裸のまま散乱している中、一本のアコースティックギターだけ
が大事そうに壁にたてかけられていて、吉澤の目を引いた。
保田の事務所に入った時も思ったのだが、ここも小屋自体は田舎臭くて造りは平家の建
物とそう変わりないのに、内装によってその雰囲気をがらりと変えていた。レトロな物
と新しい物がケンカすることなく、お互いの長所を出しているようだ。
なんといっても屋上にたっている。狭さを除けば、探偵事務所というのもこちらの方が
吉澤の抱くイメージに近かった。
- 7 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時52分23秒
- 「あっち行こーぜ!」
「あっ、いやあの…ここ」
「こんな物置き見てたってしょうがないでしょ、向こうで遊ぼうよ」
こたつの布団の脇に、このガラス窓を割ったであろう野球ボールと砕けたガラス片を見
つけた時、それを投げ込んだと吉澤が推測していた犯人の少女に腕をまたとられた。訊
く前に、物置きとして一掃されてしまった小屋に後ろ髪を引かれたまま、吉澤は屋上の
ど真ん中に設置されているブランコに連れていかれた。
どこから持ってきたんだろう。てか、どうやってここまで上げたんだ?
今では、あまり見かけなくなった箱ブランコ。これもけっこうな年代物らしく、水色の
ペンキはぽろぽろとめくれ、中の鉄は茶色くなっていた。
そういえば、中に乗ってた子…いつも泣かしてたなぁ。
椅子には座らず、背もたれに両足をかけて思いっきり揺らして遊んでいた幼稚園の懐か
しい光景をふと思い出して、吉澤は口元をゆるめる。が、すぐに引きしめた。
ブランコの四人掛けの席にはまだ眠たそうな後藤と、あの水色の少女が座っていた。
- 8 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時53分41秒
- 「ほら、そっち座ってよ」
後ろからせき立てられ中の椅子に腰を下ろす。子供用に作られていて座席は低く、ただ
でさえ狭いのに、そこに大人に近い人間が4人も入るなんて最初からきつ過ぎた。
案の定、窮屈な姿勢になり、座るというより骨盤がはまっている感じになる。しかも、
隣にはちょっと何を考えているのかわからない少女がいて、そう離れていない正面には
だるそうに風で乱れる髪を気にしている後藤がいる。彼女達の息づかいまで聞こえてき
そうな距離の中で、吉澤は背中を丸め視線を合わせないようにするので精一杯だった。
拾ってきた木を組み合わせて作られたような滑り台、コカコーラのロゴが
入った赤いベンチ、勾配の先に穴の開いた人工芝のゴルフマット。
ゴルフの打ちっぱなしに使うネットには、中心にヒットとホームランと書かれた的が貼
られていて、その前には木製のバットやグローブが転がっている。ガラス窓にヒットし
たのと同じ柄のボールもその付近に散乱していた。
他にも馬鹿でかいフラフープなど、一昔前に流行った遊具まで置いてある。
- 9 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時54分20秒
- 「ここ、いいとこでしょ?よっすぃー」
遊び場と化している屋上を観察している吉澤に、さっきから振り回されてばかりいる声
がかけられる。そりゃー君たちにはいいとこだろうね、と心の中で返事していた吉澤は
少女にあだ名で呼ばれていたことに、遅れて気付いた。
「へ?」
「いいとこでしょ?」
「あっ、うん…いやそうじゃなくて、名前」
「名前?あー!よっすぃーて面白いあだ名だよね。しーじゃなくて、すぃーなんてね」
「あの、そういうことでもなくて…何で知ってるの?」
「何でって、ののに聞いたんだもん」
「のの?」
「うん、ののに」
そう言って、吉澤の隣の少女を指差した。ののと呼ばれた少女は動きを止め、口を開け
たまま目を泳がせる。挙動不信な反応に吉澤の動きも止まった。
- 10 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時55分08秒
- 「ののっていうのはあだ名で、本名は辻希美っていうの。それで私が加護亜依ね。
みんなには、あいぼんって呼ばれてるからよっすぃーもあいぼんでいいよ」
閉口している辻に代わって加護が答えた。
「あ、あいぼん…?」
そっちの方が面白いあだ名では…?と思いながらそう口にすると、加護は恥ずかしそう
に笑って俯いた。馴れ馴れしいように見えて、けっこう照れ屋さんなのかもしれない。
急にモジモジしだした加護は、半目で眠りに落ちそうになっている後藤の腕をつかむと、
後藤の耳もとに口を寄せて何か喋りかけた。
寝起きが要注意って保田さん言ってたんだけどなぁ…
妹が姉に甘えているような微笑ましい光景、保田にとる態度とはまったく違う表情で話
に耳を傾けている後藤にも、吉澤は意外な一面を見た気がしていた。
- 11 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時56分46秒
- 「あ、ああのー…よよっよっすぃーさんですよね?」
初めて聞く声に体がびくっと先に反応する。どもった声、横から脅えた小動物のような
目が向けられている。少しして吉澤がうんと頷くと、一度も変わらなかった辻の表情が
ぱっと明るくなった。
「のっ、辻もバレ−やってるんです。それでよっすぃーさんの試合もよく見ててですね」
なんだ、睨まれてたわけじゃないんだ。
ここに来てからずっと向けられていた視線の意味を理解して、吉澤はほっと胸をなで下
ろした。
「それで名前知ってたのかぁ」
「へい、そうです。辻もよっすぃーさんみたくなりたくて」
「え?よっすぃーって上手いの?」
意外そうな声で加護が会話に入ってくる。確かに今日の自分は強そうには見えないだろ
うな、と吉澤は一瞬、顔に陰りを浮かべたが、それもすぐに照れ笑いでごまかした。
「そうだよ、すっごい上手くて強いんだってば。スパイクなんてね――」
何かのたががはずれたみたいに、急に喋り出す辻。吉澤は自分について熱く語っている
辻の変貌ぶりに、あっけにとられていた。
- 12 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時58分22秒
- 「へーそうなんだ。よっすぃーって凄いんだぁ」
しきりに感心している加護の隣からも似た視線を感じる。
「…で、辻ちゃんはどこでバレーやってるの?」
誉められることがくすぐったくて、吉澤は話の方向を自分で変えた。
「はい!立花高等学校バレー部1年つじののみです!」
何度もしてきた自己紹介なんだろう、辻はかなり呂律が悪いものの元気な声を出した。
高校生なのか、と驚いたのも束の間、それよりもその学校名に吉澤は度胆をぬかれた。
「ええっ!立花のバレ−部ってめちゃくちゃ強いとこじゃん!」
全国大会への常連校、神奈川だけでなく全国でも名が知れてる強豪で、去年初めて県大
会に出れた吉澤達の学校からしてみれば、雲の上とまではいかなくとも特別視するには
十分の実績を持っていた。ぶつかったら絶対に負ける自信がある。抽選の時にはなるべ
く聞きたくない学校名を、こんなところで耳にするとは思ってもみなかった。
「そうそう、ののって見かけと違って実は凄いんだよねー。1年でレギュラーだし」
吉澤の気持ちを代弁するように後藤が口を開いた。どこか抜けていそうな辻が、あの紫
のユニフォームを着ているなんて想像できない。
- 13 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時59分07秒
- 「でも、レギュラー外されたんだよ」
誇らしい笑みをうかべていた辻に加護が横やりをいれる。辻はじっと加護を睨み返した。
険悪になる雰囲気に、すかさず後藤が加護の頭を叩くと加護はぷくっと頬を膨らませた。
「本当のことだもん…」
「それは今日の試合だけでしょ?それまでののはずっとレギュラーでやってたんだから
バレーやってればそういうこともたまにあるんだよ?いちいち突っかからないの」
お姉さん口調で語りかける後藤にも、加護は反発する態度を崩さない。
「ふん。ごっちんに何がわかんだよ」
「わかるもん、私もバレー部だったんだから」
「「は?」」
予想外の言葉に静閑していた吉澤も声をもらした。どう見ても、夜遅くまで居残って、
大汗を流すタイプだとは思えない。加護も初耳といった感じで吉澤と顔を見合わせた。
「うっそだー!そんなの聞いたことないよ!」
「ほんとだよ、言ってないだけで…まぁ、一日だったんだけどねぇー」
「「えっ」」
それ、入ってないのと一緒じゃんか…
平然と言っのける後藤に加護は慣れているようで、苦笑いで受け流していた。
- 14 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)21時59分48秒
- 「体調悪かっただけだよね?のの」
どこかすっとぼけた感のある後藤。彼女の優しい問いかけにも辻は頭を横に振るだけで
すっかり落ち込んでしまっている。
「ほらー、あいぼんが余計なこというから」
非難のほこ先を向けられると、加護は後藤の言葉から逃げるようにブランコから飛び下
りた。辻を気にかけだした後藤に対するその態度は反抗的で、親を他の兄弟に取られて
ふて腐れる子供にそっくりだった。吉澤も弟達がそういう態度をとっているのを何度か
見たことがある。
この子たち、ほんとに高校生かよ。
ボールを力一杯ネットに投げ込んでいる加護、肩を落とし指先を見つめている辻。
すでにお手上げ状態で二人の様子を交互に伺っていると、向かいからの視線を感じた。
そっちはよろしくね――
よし、と気合いを入れてから加護の後を追う後藤。
一瞬合わせた彼女の目がそう訴えていた。
よろしくって言われても困るんですが…
後藤が下りた反動でブランコが揺れだす。辻は肩を落としていて動く様子もない。
吉澤はいつになく気まずい雰囲気に窒息しそうだった。
- 15 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)22時01分03秒
- 「今日は練習行かなかったの?」
週末は部活動にとって一番集中できる大事な期間だ。強豪校ならなおさら、休みなんて
ありえない。後藤のいた向かい側に移り、わずかに広くなった空間で少し間をおいてか
ら話しかけると、辻はぼそっと答えた。
「今日は、試合だったんです…」
「あ、そう言ってたね」
後藤と加護のやりとりに気がいっていたが、そういえば後藤はそんなことを言っていた。
さっき事務所で見た時計は4時半あたりをさしていたから、今は5時くらいだろう。辻の
格好からして一度は家に帰っている。朝早く試合をした後、友達と遊ぶなんて凄い体力
をしているな、と吉澤はまじまじと辻を見つめた。
「あれ、立花って今年も春校出るの?…今日のって予選だったりした?」
本戦は3月下旬から始まる。2月も半ば、そろそろ出場校が顔を揃える時期だった。辻は
ブランコの足下の一点をじっと見つめ、指先をいじりながら黙り込んでしまっている。
何かまずいことでも訊いただろうか、口を開いてくれる気配すらない。吉澤はそれ以上
そのことについて触れるのをやめ、重苦しい空気から逃れるように空を見上げた。
背もたれに寄りかかるだけで、キッと音を上げてブランコの揺れが強くなる。さっきま
で自分が腰掛けていた椅子に足をのせて目をとじると、オレンジの光りがくっきりと瞼
に焼きついた。
- 16 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)22時02分21秒
- 「よっすぃーさんは、なんで朝校に行ったんですか?」
あまりの心地よさに辻の存在すら忘れかけていると、再び弱々しい声が聞こえてきた。
うーんそうだなぁ、と動揺を悟られないよう間を繋いでから吉澤は体を起こした。
「何でっていう決め手はないんだけど、自分のおバカな頭でもいけるとこだったし…」
「あのーそういうんじゃなくてですねー。バレーで他にも強いとこのスカウトとか」
辻がそこまで言ってから、吉澤は自分の回答がズレていたことに気付いた。
「あっ、そっちね。うーん…ただ、バレーが楽しめるところならどこでも良かった――
て感じなのかな…」
途端に言葉の歯切れが悪くなる。辻を元気にしなくては、という思いはどこかへ吹き飛
んでしまっていた。
「へぇ?」
「あ、いや別に強豪校のバレーがつまらないって言ってるんじゃないよ。プレーの質と
かだったら全然そっちの方が凄いし楽しいし、連係もいいからね。そうじゃなくて…
…えっと、なんつうんだろう」
吉澤はそこで言葉を切ると、頭をポリポリとかいた。
「昔はね、バレーやってるのが楽しくて楽しくてしょうがなかったんだけど、いつから
かバレーばっかりやってても違うんじゃないかって思い始めて、急に楽しくなくなっ
ちゃって…なんていうか、怖くなったのかな―」
- 17 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)22時03分21秒
- まだバレーを始めたばかりの頃は、バレーは最高に楽しかったし、周りの人に自分の動
きを見せびらかすぐらい自信満々にプレーしていた。しかし年を重ねて経験が増えたせ
いなのか、吉澤は気が付くとミスを嫌って、監督に怒られないプレーをするようになっ
てしまっていた。
ある日、突然バレーが怖くなる。
それはもの凄い衝撃だった。奪うように追いかけまわしていたボールが怖くてしかたの
ないモノになってしまうなんて、吉澤は考えたこともなかった。一旦、恐怖心が芽生え
てしまうと、もう最悪だった。試合の日なんて朝から憂鬱で、襲いかかるプレッシャー
から逃げ出したいという思いを、勝ちたいという意欲とは別に心に抱えていたものだ。
「――だから普通の学校に行ったんだよ。逃げっつったら逃げになるんだろうけど…」
それを自分で自覚して受け入れられるようになった時、吉澤はその道に進むことを辞め
ようと決心した。このままやり続けると、バレーボールというスポーツが嫌いになる―
――それだけはわかっていて、それだけはどうしても避けたかった。
- 18 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)22時04分06秒
- 辻は下を向いて、手をいじりながら耳を傾けている。深づめしそうなほどに切り揃えら
れた爪、太くなった関節、乾燥してひび割れた指、痛々しい小さな手が吉澤を雄弁にさ
せていた。
親にも打ち明けなかった想いを、今日会ったばかりの辻に全てさらけ出す。なぜか、小
さくなっているこの子には伝えておかなくてはならない、自分が色々味わった後悔を辻
にはしてもらいたくない、という変な使命感に吉澤は包まれていた。
「そうだ!辻ちゃん今度うちの練習においでよ」
「え?朝校の?」
「うん。きつい練習もないし、ずっとゲームやってるだけだから。それとうちの部員に
いろいろ教えてもらいたいしさ…あ、でもそっちが忙しいか」
だめだね、と言いかけた吉澤に、辻が首をぶんぶんと力強く振って否定する。
「いきます!いきます!一日くらい休んだってどうってことないもん。よっすぃーさん
のスパイクの打ち方伝授してもらえれば春校勝ちまくりだし、全然おっけーです」
- 19 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)22時04分42秒
- 誰も教えるなんて言ってないし、辻ちゃんは春校出るんでは?
目を輝かせている辻に、吉澤は口にできない思いを胸の内で消化する。本人が大丈夫と
言ってるのだから大丈夫なのだろう、余計な心配はいらない。お待ちしてます、と笑い
返すのとは別に、後藤に命じられた大役も無事にこなせたことで吉澤はほっとしていた。
「ぎゃー逃げろー!」
ビルに挟まれているため、少しでも大きな声を出すとここではかなり反響する。楽しそ
うな声に振り向くと、三輪車に乗った加護の姿が目に入った。いつの間にか機嫌の直っ
ている加護に安堵の笑みを浮かべつつ何やってんだかと呆れるが、それはまだまだ序の
口だった。次の瞬間、吉澤の目は点になる。
小さな三輪車にまたがって膝を立てているのは、加護だけではなかった。
- 20 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)22時05分31秒
- 「逃がすかー!」
ぼろい小屋の影から現れた後藤の姿は自分と同い年とは思えない、いや、思いたくなか
った。これでは印象が変わるどころではすまなそうだ。二人は窮屈そうに折り曲げた体
を揺らしキコキコと音をたてて、幼児には到底出せないスピードで駆け抜けていった。
「ばっかじゃないのー」
小屋の周りをぐるぐると走っている二人に背後から投げかけられた声。
顔を戻すと、辻が呆れた表情で二人の追いかけっこを眺めていた。
…もしかして、この子が一番大人?
片方の唇をつりあげて「アホだよねーあの子たち」と、やけに落ち着いた声で同意を求
めてくる辻に、吉澤はへへっと笑い返すことしかできなかった。
- 21 名前:5.2PC 投稿日:2003年09月07日(日)22時07分57秒
- >>1-20 更新しました。
2スレ目突入ということで、大量更新しようと思ったのですが
長すぎるので、残りは今週中にもう一度載せることにします。
今後ともよろしくお願いします。
あと、前スレの最後の方に時間軸を少しまとめたものがあります。
あまり役には立たないですが、混乱しそうな時は目を通してみて下さい。
- 22 名前:BX-1 投稿日:2003年09月07日(日)22時08分46秒
- ☆
- 23 名前:BX-1 投稿日:2003年09月07日(日)22時09分18秒
- ☆
- 24 名前:名無し 投稿日:2003/09/10(水) 02:16
- いいっすね、それぞれの関係性が。
また新しいラインも出来たみたいですし、この人達が次に何やらかすか続きが楽しみです。
そして銀板とも照らし合わせてそろそろ推理みたいなものをしてみたいと思います。
- 25 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:35
-
☆
「はぁー、嵐が去っていったわ」
豚骨スープのねっとりとした匂いがまだ充満している。テーブルに並んだ空っぽの五つ
の器、それを前にして保田は膨れたお腹を休めていた。さきほどまでの喧騒が嘘のよう
にしんとしている。保田の頭上でさんざん暴れまわっていた辻と加護は、リクエストし
たラーメンをペロリとたいらげた後、事務所に置いてあるお菓子をほとんど食べつくし
て、ついさっき帰っていった。
嵐の後の静けさとはまさしくこの事だな、と保田は苦い笑みをこぼす。
保田が彼女達を邪険に扱うことはできないのは、ここの大家の稲葉貴子と加護が一緒の
家で暮らしているからであって、加護本人に何か借りがあるわけではない。だが、加護
はそういう大人の事情をよく知っている、その弱味をフルに活用できる頭のいい子だっ
たため、来る度に保田のこめかみをピクリと刺激していた。
- 26 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:37
-
「あの子らすごい走り回ってたみたいだけど、吉澤も負けず劣らずうるさかったわねー」
天井からの騒音はいつになくひどかった。疲れていなければ保田はハシゴをよじ昇って
注意しにいっていただろう。
「えっ…そうでした?」
「上で叫ぶとあちこちの壁に反響して中にも聞こえてくんのよ、窓も開けてたし」
意味不明の雄叫びが、吉澤のものと気付くのに少し時間がかかった。おかしな子だとは
薄々気付いていたが、保田の中で、吉澤は奇声をあげまくる所までいっていなかった。
この瞬間、保田の吉澤に対する印象が辻加護レベルまで下がったことは言う間でもない。
「あー、ごめんなさい」
「いいのいいの、怒ってるわけじゃないから」
優しい言葉をかけられ、虚をつかれた顔している吉澤に保田は柔らかく微笑んでみせた。
突然、耳に飛び込んできた声の大きさに驚いてムカッとしたのも事実だが、楽しそうな
笑い声や遊んでいる物音に別の思いをぶつければ、それは目くじらをたてるほどのもの
ではなかった。吉澤にため息は似合わない。
- 27 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:38
-
「吉澤、ついでにそれ外に出しといて」
底に油の浮いたスープを残しているだけの皿、それを片付けようと重ねているの吉澤に
保田は声をかけた。
「ふぇ!?あっ、はははいーすぐに」
廊下に出前の皿を出しとけと言っただけなのに、吉澤は妙に慌てて返事をする。
何あせってんだろ。つーか、こいつらちょっと仲良くなってないか?
声を裏返す吉澤と目を合わせた後藤は、何やら意味ありげな表情でフッと鼻で笑った。
吉澤も引きつってはいるが、頭を掻きながら笑い返している。
あり得ない…同い年は嫌いなんじゃなかったのかよ。
少し嫉妬を混じらせた視線を後藤に向けて、不満そうにソファーふんぞり返る保田だが、
自分の吉澤に対する態度も変わっていることには気付いていなかった。
「あ!やっぱまだいいや、吉澤」
気兼ねなく呼び捨てにされている吉澤は、保田の声にピタリと足を止めた。
「え?」
「昨日もそこのラーメン食べたんだけど、出しといたはずの皿がなくなってたのよー。
あのおバカ達の仕業かと思ってたんだけど知らないって言ってたし…嫌がらせかしら?」
そのせいで出前持ちのガキにでかい面された事を思い出し、保田はくそっと吐き捨てた。
「あんな安モン、誰が弁償するかってーの!」
- 28 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:40
-
「そっそうですか。あ、吉澤のど渇いたのでジュース買ってきますね。何かいりますか?」
「いやーいらないし、それに飲み物ならウ−ロン茶が冷蔵庫に入ってるわよ」
「ち、ちがうんです。炭酸を一気したいんで…ちょっと行ってきます!」
「あ!吉澤さん、私オレンジジュースねぇー」
どさくさに紛れてオーダーする後藤にオッケーと言ってから、吉澤は財布を片手に飛び
出していった。
「吉澤って変わった子ね…つーか、あんたもちゃっかり奢らせんじゃないわよ」
「ふははは、いいのいいの口止め料だから。それにやることあるみたいだしね」
後藤はにんまりとした笑顔で答える。何か隠している時の顔だった。
「は?何それ、どういうこと?」
「ふふふ、何でもなーい」
なんで手のかかるガキばっか集まってくるのかしら?
腹が減ったとラーメンをねだった辻と加護以上に、後藤がやっかいだということを保田
は忘れていた。
- 29 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:40
-
シャンシャンシャン…
「やっぱりちゃんと鳴るわね」
吉澤が通ったのだろう、後藤が仕掛けた鈴の警報はきちんと役目をはたした。
「でしょー?ごとうの腕を疑う方がまちがってんだって」
「悪かったわね。でも、辻加護みたいに一段飛ばしで上ってきたらどうすんのよ」
「だってさー、犯人はそんな若くないもん。3階まで一段飛ばしでくる体力はないから。
圭ちゃんだってしたことないでしょ?」
「そんな無駄なことうっ…ぷ」
思わず出てしまったゲップを後藤はおばさんくさーい、といちいち拾ってくれる。辻と
加護のわがままの応酬に、苛立ちが溜まりに溜まっていた保田の脳は決壊寸前だった。
「うっさいわね!あんたも吉澤見習って、割り箸くらいごみ箱に捨てなさいよ!」
「いいけど、高くつくよー」
昼食ったんだから、さっさと眠ってくれ!
夕方近くになった夕御飯も兼ねた遅い昼食。
すでに昼寝をすましている後藤には届かない願いだった。
- 30 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:43
-
☆
やっばい、どれに隠したんだっけ…
階段を猛スピードで駆け下りていった吉澤は一階まで来ると足を止め、キョロキョロと
辺りを注意深く見回した。近くに人がいないことを確認してから腰を屈め、階段の脇に
まではみ出しているダンボール箱を一つずつ開けていく。乱雑に投げ込まれている古着
をかきわけて、手探りで底をあさった。
「あったー!」
三つ目に開けた箱の中、納められていた皿を持ち上げて吉澤は安堵した表情を浮かべた。
昨日、保田のそっけない態度にむしゃくしゃしていた吉澤は、困らせてやろうと廊下に
出ていた皿を持って階段を下り、このダンボールに隠していたのだ。本当は割ってやり
たい勢いだったが、この皿に罪はない、と吉澤の良心がそれを押しとどめた。吉澤は、
思い切りのなかった自分に今になって感謝する。
後はさっきのにまぜて置いておけばいっか。
幸いにも保田にはバレていない。が、慌てた態度をとっただけで、後藤にはすぐに勘付
かれてしまった。
口止め料にしたら安いもんだよね…
人影のない日の落ちた通り、自販機の眩い真っ白な明かりはすぐに見つけられた。
- 31 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:44
- ☆
あー、なんか気に食わない。
すっきりした顔でもどってきた吉澤は、缶を一本、宣言通り一気に飲み干した。そして
訪れるゲップの連発。自分の時とは違って、かすかに笑みをこぼした後藤に保田は鋭い
視線を向けていた。特別何かについて話をするとかではないが、後藤の吉澤に対する態
度は昨日までとは明らかに変わっていた。今だって、吉澤が持ってきたチョコレートを
遠慮なしにボリボリと頬張っている。
「ちょっと、ごっちん。あんた他人のもんにそんながっつかないの」
「いやいやいいんですよ、いっぱいありますから。保田さんも食べて下さい」
後藤は食べる手を止めないでうんうんと頭を縦に振っている。ふわっと鼻に届くカカオ
の匂い、確かにうまそうだ。甘味を欲している別腹にも刺激され、保田は差し出された
一つにしぶしぶ手を出した。
- 32 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:46
-
「あら、美味しいわねー」
舌にのせるだけで上品な甘さが口の中に広がる。メーカーをチェックしようと何気なく
箱に目を落とした瞬間、保田の表情が一変した。
「…て!あんた!これバレンタインで貰ったやつじゃないの?」
高級そうな箱に申し訳程度に並べられていたチョコレートは、コンビニで見かけるよう
なものではなかった。一気に罪悪感に包まれた保田は噛むのをやめるが、ドロっとした
チョコレートは濃厚な甘味だけを残して、ほとんど消えかけていた。
「そうですけどーいっぱいありすぎて食えないんで…小川も甘いもん好きだから、今日
少しあげようと思ったんですよ」
「どっちにしてもダメじゃない!こういうのは自分で食うもんなのよ」
「でもそんなことしてたら時間が…それにこういうのって社交事例っていうんですか?
女子高だから自分に集まっちゃうだけで、みんなそういうイベントが好きなんですよ」
「そうなの?でも中には…」
「いいんです。どんどん食べちゃって下さい。捨てるよりはいいですから」
溶けてしまったチョコを吐き出して返すわけにもいかないし、後藤はもう次の箱に手を
出している。こんなことで真面目に論争している自分が馬鹿みたいに思えて、保田は一
つも二つも変わらないと心の中で言い訳しながら、次の包みに手を伸ばした。
- 33 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:48
-
「あのさ、こんな時になんだけど…今後ここには近づかないでくれないかな」
吉澤のバックに入っていたチョコレートやクッキーをほとんど開けてしまった頃、保田
は吉澤に思いきって話を切り出した。もちろん後藤への嫉妬からではないが、このタイ
ミングでそんなことを口にしている自分に、保田は苦笑せざるおえなかった。
「へ?」
「理由は聞かないでほしいんだけど…あんた頑固そうだし教えないと守らなそうだから」
口はかたい?と尋ねると、吉澤は真剣な目つきで頷いた。
「それと、これ聞いたらここに来ないっていう約束もきっちり守ってよ」
「…はい、わかりました」
保田は一呼吸置いてから少し前屈みになる。吉澤もつられて身体を前に乗り出した。
「この前言ってた寺田愛さんのことなんだけど、覚えてる?」
「はー、行方不明の子でしたっけ?」
「あ、そう教えてたんだっけ」
「え…違うんですか?」
「うん。それは嘘で、実は…寺田愛さんは誘拐されたのよ」
声を失う吉澤に保田は差しつかえのない部分だけを話す。保田の話を聞いている吉澤の
表情はどんどん暗くなっていった。
- 34 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:50
-
「忙しい時にすみませんでした…」
吉澤が頭を下げて、ぼそりと呟いた。小川のことを言っているんだとわかった保田は、
そんなこと気にしなくていいと手を振って、余裕ある素振りをみせた。
「ちょうど行き詰まってたわけだし」
「でも、その仕事って危なくないんですか?」
「危ないわねー、脅迫までされてんだもん」
吉澤に変な心配をかけないよう明るい口調でそう言ったものの、保田は動揺していた。
嫌がらせの電話や抗議の文面は今までの仕事でもたまにあったことだが、ああいう形
の脅迫状をもらったのは初めてだった。
「だから近づかないでってこと。あんたにとばっちりがいっても責任とれないからね」
一人難しい顔をしている吉澤の隣で次のチョコレートをあさっていた後藤が「ほぅ」と
気のぬけた声を出した。眉をひそめる保田の視線も気にせず、後藤は吉澤の方を向く。
「吉澤さん、何か入ってるよ」
包装紙から出てきた後藤の手には小さなカードらしきものが握られていた。それを受け
取る吉澤に保田がやじを入れると、後藤が何か言いたげにこっちを見る。その目元には
バカにしたような笑みが浮かんでいた。
ヒューヒューのどこが悪いのよ!どうせ、またおばさんくさいとか言いたいんでしょ。
舌戦で後藤に勝った記憶のない保田はその思いを口には出さず、後藤を睨み付けた。
- 35 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:52
-
「あれ?これ全部おもちゃのやつだ」
後藤がカードの入っていた袋をひっくり返すと、ゴロゴロと卵型のチョコレートが転が
り出てきた。一時期から人気に火が付き、爆発的に売れている玩具付きのチョコ。それ
だけが袋にいっぱい詰まっていた。
「へー、こんなのくれる女の子っているのねー」
「これけっこうワクワクすんね。開けてもいい?」
きっとこのチョコレートで一番喜びを感じる瞬間、このためにお金を払っている人も多
いはず。そんな楽しみに目を輝かせている後藤は図々しくも、吉澤がいいと言うことを
見越しているのか、銀紙にすでに爪を立てていた。
確かに今までの様子を見ている限り、吉澤ならいいと言うだろう。保田はばつの悪そう
な顔で後藤に目配せするが、後藤はこっちを全く見ていなかった。あきらめて、そのま
ま視線を横に移す。すると保田の予想に反して、吉澤は後藤に返事をするどころか表情
を強ばらせ、手にしたカードをじっと凝視していた。
「どうしたの吉澤?」
顔色が一変した吉澤に慎重に尋ねる。数秒してから吉澤は少し目線を上げた。瞳の中に
戸惑いの色が見えた。
- 36 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:53
-
無言で渡されたカードに保田も目を落とす。若い女の子の文字が並んでいるカードは、
イラストが所々についていて、パっと見た感じでも吉澤の笑みを引っ込めるような中身
とは思えない。保田は首を捻りながら文章を読み始めた。
「ハーピーバレンタイン!吉澤さんが好きそうなやつにしましたよ。チョコもあんま食
べなくてすみそうなので…お返しもいらないですよー、部に遊びに来てくれるだけで
十分です。卒業してもたまに顔だして下さいね。シェイシェイ小川ま…小川麻琴!?」
卵型のチョコレートを一つ手に取り、吉澤はそれを思いつめた表情で見つめている。
後藤の視線にもせかされ、保田は最後に付け加えられた一文に目をやった。
「本当にお世話になりました。最高に楽しかったです。いつまでも元気でいて下さい―」
「それで終わり?」
拍子抜けした声を出す後藤に、保田はカードに見入ったまま頷いた。
「何か、お別れの手紙みたいだねぇ」
後藤がしみじみと呟く。保田の感想も同じだった。バレンタインのカードに添える言葉
としては、いささか堅苦しい印象を受ける。これを書いた時点で、吉澤とはもう会えな
いことを小川はわかっていたのだろうか。
- 37 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:55
-
「あれ…でも小川が学校来なくなったのって、もっと前でしょ?どこにあったのこれ?」
「わかんないんです。直接は受け取ってないんで、たぶん机の中かロッカーか…」
吉澤は弱々しい声で答えた。ないがしろに扱っていたチョコレートの中に、こんな物が
入ってるなんて思いもしなかったのだろう。その声には後悔の色が滲んでいた。
「そっか、いつ入れたんだろう」
小川の父親の話を総合すると、バレンタインの一週間以上前に小川は病院に送られてい
る。もしその時に、前もって入れといたとしたらバレンタイン前に吉澤も気付くはずで、
それはちょっと考えにくい。顎に手をあてた保田はテーブルの角の一点をじっと見つめ、
ぼそぼそと呟きながら自問自答をくり返していた。
「…とすると、わざわざ病院ぬけ出して届けにきたのかしら?」
といっても、事情が事情なだけに小川が自由に病院を出入りできるとも思えない。精神
を病んでいる人が入る施設。何かしらの拘束を受けていることは想像に難くなかった。
「んー、誰かに頼んだのかな…」
もう一度カードを眺める。ひっくり返したカードの面、裏側で保田の目がとまった。紙
の材質の模様とは違う傷のようなものがある。ペンのインクがのっかっている表とは違
って、こちらはシャーペンか何かで書かれた跡らしい。下書きでもしたのだろう、カー
ドが分厚いということもあって、消しゴムで消えなかった筆跡がそこに残っていた。
- 38 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:57
-
「圭ちゃん、眉間にしわよりすぎー」
文字を読み取ろうとカードに顔を近付けていると、雰囲気を無視して後藤が笑い出した。
「うるさいわね!あんたよくそんな呑気なこと言えるわねー。こんな時に、まったく…
今読みとってるんだから黙っててよ」
後藤を一喝してから再びその跡に目をやる。かなり短いものだった。
「えーっとなになに、愛は…金じゃかえない――はぁ、何なの?このクサいセリフは」
怪訝な表情を浮かべている保田とは逆に、吉澤はプっと笑い声をもらした。
「ちょっと!ごっちんじゃないんだから、あんたまで空気壊さないでよ」
「ふはははは、いや違うんですよ。小川ってそういう子なんですよ」
「そういうって、どういう子?」
少しムッとした口調になる。小川について吉澤は懐かしむように話し始めた。
「あの、だからそういうクサいことよく言う子なんです。ロマンチストっていうんです
かね?部活の時もよく言っててみんなに笑われてましたから、生まれ変わったら雲に
なりたいとか言ってるような子なんです…ほんと、最後までバカだなぁー」
吉澤はカードを保田から返されると、その言葉の跡に目を細めた。もう一度「バカだな」
と呟いて笑っている吉澤の目元はどこか寂しそうだった。
- 39 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:58
-
「んぉ!」
最後に小川のカードを見せてもらっていた後藤は、咽をつまらせたような声を出して突
然、立ち上がった。
「ほら、チョコレートばっか食べてるからそう…」
保田の言葉を最後まで聞かないで軽やかな動きで部屋の奥へ走っていくと、後藤は保田
のデスクの引き出しを断りなく上から順に開け始める。洗面所へ駆け込むと思っていた
保田は首をひねった。
「ちょっと、あんた何やってんのよー」
「ん?ちょっとねぇー、さがしものを…あったー!」
引き出しを開けっ放しのまま戻ってきた後藤の手には、クリアファイルが握られている。
テーブルにつゆがたれていないのを確認してから、どさっとその中身を広げた。
「あぁー!」
「あの時見せてもらったやつだ…」
見覚えのある紙に吉澤と保田が声を上げる。マックで吉澤を問いつめた便箋、寺田愛の
ロッカーで見つけた文通が全て、そのファイルに納めてあった。あまりいい思い出のな
い吉澤とは反対に、保田は身を乗り出して後藤が並べている便箋に飛びついた。
- 40 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 21:59
-
「もっ、もしかしてこれって!」
「ふふふふ、圭ちゃんも気付いた?」
得意げな笑みを返す後藤は、下に埋もれてしまっていた小川のカードを見つけてくると
一枚の便箋の横に置いた。それを見比べて、保田は胸の高鳴りを覚える。後藤の目にも
同じ輝きが宿っていた。
「ほら、このハートマークの形とか同じでしょ」
後藤が確認するように交互の紙を指差す。気を落ち着かせるように保田は静かに頷いた。
「この『お返し』の漢字の左のくねっとしたやつ…これなんて言うんだっけ?」
「しんにゅう」
「そうそれそれ。普通はね、ここで切って二回で書くでしょ?」
「三回」
漢字の弱さを露呈する後藤を茶化すことなく、保田は低い声で訂正する。後藤も間違い
を気にせず、説明を続けた。
「ああ、三画なの?まーいっか…えっとね、それで上の点と下のヘビみたいな部分をね、
小川さんは繋げて書いてるわけよ。クセなんだろうけど、こっちも全部そうなってて」
そう言いながら、寺田愛の持っていた便箋のしんにゅうが含まれている文字を示した。
- 41 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 22:00
-
「ほんと、くずし方までそっくりね」
『辺、週、進…』見た限りどれも繋がっている。他の文字からも似たようなクセが伺え
るが、それを全て細かく分析する必要もなさそうだ。素人目に見ても、二つは同一人物
が書いたものだと確信を持てるほどそっくりだった。
「ね、あと決定的なのがあるの」
後藤は別の便箋を取り出すと、カードをある部分に添えるように置いた。それだけで、
後藤の言わんとしていることがわかった。質感の違う紙に同じ絵が描かれていたのだ。
「このイラストまったく同じなのよ。いくらなんでもねー、違う人がここまでそっくり
に描けないよね?」
「ほんとだ…しかもこれ似顔絵代わりに使ってるイラストじゃない。こういうのって、
一回決めるとトレードマークみたいにずっと使い続けるのよね」
タレ目で口をぽかんと開けている絵は、ちょっととぼけた印象を与える。吉澤に聞いて
いた小川のイメージにはぴったりで保田は少しおかしくなった。
- 42 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 22:03
-
「あのー、それってどういうことですか?」
それまで黙って二人のやりとりを聞いていた吉澤が口をはさむ。すっかり吉澤の存在を
忘れ、手紙に熱中していた保田は少ししてから反応する。吉澤は本当に何もわかってい
ない顔をしていた。
「小川さんがこのイラスト書いてたの見たことある?これ小川さんの文字で間違いない?」
保田が持ち上げたカードをのぞきこむと、吉澤は困惑した顔で頷いた。
「よく描いてました…この字も小川のだと思います」
その言葉に保田と後藤は顔を見合わせる。満足そうな表情を浮かべる二人とは反対に、
吉澤は視線を床に落とした。
「てことは…もしかして…」
「そう。この手紙を書いた人とカードを書いた人が同一人物ってこと。つまり―」
吉澤が顔を上げるのを待って、保田はいくらか声のトーンを下げて言った。
「――寺田愛と文通していたのが小川麻琴だったってことよ」
- 43 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 22:04
-
「この中に、小川さんいる?」
寺田愛が隠し持っていた写真を後藤が吉澤の前に置いた。保田の言葉を反芻している最
中なのか、吉澤の視点は定まっていなかった。肩を叩いてから、後藤がもう一度質問を
くり返す。
「小川さんって、どの子?」
今朝、小川の家に行った時に彼女の写真は見ている。後藤も顔を知っているはずだが、
一応吉澤に確認をとるらしい。それは、まだ半信半疑でいる吉澤に認識させることにも
意味のある行動で、知らないうちに成長している後藤を、保田は頼もしく見つめていた。
このことだってもう少しで見逃すところだったのだ。疲れていたとはいえ、後藤の記憶
力には感謝しなければならない。
「この子です…」
写真の中、吉澤のすぐ横でガッツポーズとっている少女を指さした。汗で濡れた黒髪、
弾けるような笑顔、暴力とはかけ離れた世界に住んでいるように見える。それを複雑な
表情で見つめていた吉澤はパっと顔を上げると、不安いっぱいの表情で尋ねた。
「えっ、それじゃ小川が誘拐犯なんですか?」
「いやいや、そういうわけじゃないの」
当惑している吉澤を落ち着かせるためにそう否定してみたものの、保田もまだ、頭の中
の整理がついていなかった。以前、吉澤が文通相手だと仮定した時には吉澤を共犯扱い
したのだが、相手が小川となると話は変わってくる。
- 44 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 22:04
-
精神的に追い込まれていた小川に、誘拐の片棒をかつぐ余裕と気力があっただろうか。
もし万が一、1000万という大金を手に入れていたなら、居心地の悪い家に残ってまで
暴れまわる必要はなかったはずだ。
小川をこの事件の共犯とするには引っかかりが多すぎる。
「心配しないで関係ないわ。小川麻琴は寺田愛と友達で文通してただけだから」
自分自身を納得させるように保田は言った。寺田愛のロッカーに大事そうにしまわれて
いた手紙。小川麻琴は彼女にとって大切な友人だったのは間違いない。いつも一人でい
た彼女の唯一の親友、秘密のロッカーの奥底に隠していたぐらいの…。
「あーあ、こうなるんだったら今朝、小川の家に行った時に調べとけばよかった」
根掘り葉掘り聞いた後だ。もう一度押しかけるのはさすがに気が引ける。何で行く必要
があるのかと、小首を傾げている後藤に保田は落胆の表情を隠せなかった。
こいつは勘がいいんだか悪いんだか…
だからー、と語気を強めた保田は少し面倒くさそうに説明しだした。
「私たち寺田愛について何も知らないじゃない、交友関係とか。こんだけ親しそうにし
ている小川にだったら、個人的な情報を何か漏らしてるかもしれないでしょ。小川の
とこにある寺田愛からの手紙が見たかったのよ」
- 45 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 22:05
-
「何だそういうことか、それなら問題ないよ」
胸をはって答える後藤に、保田は目を細めた。
「は?何それ、どういう意味?」
「だからねぇ、小川さんの部屋にそれらしき物はなかったってこと」
「もしかしてあんた!他人の部屋を勝手に荒らしてたの?なにやってんのよ!」
なかなか下りてこないと思っていたら、そういうことか。
軽い叱責を飛ばすと、後藤は手を振って否定した。
「違うよー、吉澤さんが色々ぶちまけてたのを片付けてる時にね…」
「へー、片付け嫌いなあんたがねぇ。机の引き出しまで開けてお掃除ですか」
「開いてたんだもん。人聞き悪いこと言わないでよねー、それに荷物少なかったから
自然と目に入ってきたんだってば」
「はいはい、そうですか」
少しも反省する気配のない後藤には、これ以上何を言っても無駄だ。早々に見切りをつ
けた保田は腕を組んで天井を見上げる。蛍光灯に虫の影が何本か走っていた。
「確かにさっぱりした部屋だったけど、んー家にないとすると…」
そこで言葉を止める。宙をさまよっていた保田の目が吉澤をとらえた。
「あー!吉澤!あんたの部室ってロッカーあったよね?」
「はぁー、ありますけど」
- 46 名前:5.3PC 投稿日:2003/09/13(土) 22:06
-
「よしっ!行くわよ!」
突然大きな声でそう言うと、保田はさっきまでの疲れもどこへやら、きびきびした動き
で部屋の中を駆けまわりだした。使いなれたバックに集めてきた書類や機材を次々と投
げ込んでいく。吉澤と後藤はソファーから微動だにせず、保田の素早い動きにあっけに
とられていた。
「なにボサっとしてんのよ。行くわよ!」
車のキーをとってコートを手にした保田は、まだソファに座っている二人を見とめると
ドアノブへ伸ばしかけていた腕を止めた。
「え、私もですか?」
自分の顔を指差す吉澤に、保田は当然といった感じで答える。
「あんたがいなきゃ部室の鍵借りれないでしょ?用務員さんとか、顔広いんでしょうが」
「ええ、まぁ…」
「なら決まりね。部室壊されたくなきゃ、ついてきなさい」
有無を言わせぬ口調、保田は固まっている吉澤から後藤に目を向けた。
「ごっちん、車まわしてくるから電気消して鍵しっかりしめてきてね」
「ほーい!」
興奮しているのが自分でもわかる。元気のいい返事を耳にした保田は、はやる気持ちを
押さえつつも、階段を一段飛ばしで駆け下りていった。
- 47 名前:BX-1 投稿日:2003/09/13(土) 22:23
-
>>25-46 更新しました。
2chブラウザ初導入。見え方が違うので(ブラウザによるかもしれないですが)
自分のに合わせてスレ間のあけ方を変えてみました。(マイナなマカーとか…)
一応、名前から一行あけて文章に入るようにしています。
しかし少数派なので、詰まってたり読み難かったりしたら教えて下さい。
スレ流しもないので、板から見る場合には薄目でポチッとお願いします。
>>24 名無しさん
ありがとうございます。今までの話の中から、引っかかる箇所を一つずつ
摘んでいくと、徐々に何かが見えてくるかもしれません。
今回の少し真相に迫った更新分も合わせて、保田と競争してみて下さい。(w
- 48 名前:名無し 投稿日:2003/09/14(日) 22:04
- んん……。
もしやアレとアレがアレで、アレとアレが組んでいるのではないか…。
でも目的が……。
あ!! 全然わかんないや。
- 49 名前:0.0PC 投稿日:2003/09/30(火) 22:53
-
膝を抱え丸まって、少女はただ時が過ぎるのを待っていた。
永遠に続く砂の上で、歪んだ蜃気楼をあてもなく眺める。
なにも…なにも聞こえない。
いつのまにか青い世界に包まれていた。
深い深い海の底、闇の気配が彼女に息をすることも許さない。
もう限界、苦しくて胸が潰されそう。
頭上にきらめく光を見上げ、少女はその向こうに広がる世界を想像する。
潮にのって届く香りに気づいた時 その世界は呆気なく崩れ落ちた――
- 50 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 22:55
-
Chapter.6--黒い穴
「もしもし…うん、あと何が入ってた?…ジャージと教科書ノート、ソックス…バレー
関係のやつね、あと他は?…本?借りてる本なの?あらー延滞してそうね、困ったも
ん残してったわね、小川さんは。まーとりあえず全部持ってきて…そう、いいのよ。
チェックしてから全部お家に届ければいいんだから、こっちは寺田愛さんの命が懸か
ってるんだし…うん、じゃあそっちはよろしくね。ばれても上手くごまかすのよー…
はいはい、ちゃんと迎えに行くから…うん、わかってるってまた電話するわね」
今度なんかおごって下さいよ−、という吉澤の叫びが途中でブチッと切れる。一方的に
話を終わらせた保田は携帯をドリンクホルダーに置くと、助手席に座っている後藤に声
をかけた。
「ごっちん、何か書いてあった?」
「うーん」
手にした紙を見つめている後藤の難しい表情、返事を聞かなくともそれが答えになって
いた。落胆した様子で保田はラジオのスイッチを入れる。
「気持ちわるっ…圭ちゃん窓あけていい?」
「え?…あーいいけど」
苦しそうに呟く後藤の声がラジオから流れ出したDJの声と重なる。遅れて返ってくる保
田の言葉を待たずに、後藤は手動式のハンドルを両手で力一杯回していた。
- 51 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 22:56
-
「ちょっと、ごっちん!私の話聞いてなかったでしょ?」
冷たい風に髪をなびかせ、後藤がはーと大きく息をつくのを見て、保田は自分の早とち
りに気付く。さっき後藤が苦悶の表情を浮かべていたのはいい成果がなかったからでは
なく、ただ単に気分が悪かっただけだった。
「ふぇ?何か言った?ごとー文字ばっか読んでたら吐き気がしてきてね…」
「車ん中なんだから気持ち悪くなるにきまってんじゃない!気をつけなさいよ」
「なんだよー!圭ちゃんが読めって言ったんじゃん!」
「さっと目を通せって言ったのよ、誰も凝視しろなんて言ってないでしょーが…ったく
ずっと文字追ってないで休みながらやればいいの!」
馬鹿なんだから、とうんざりした口調で言うのと同時に、後藤がしでかしてきた昔の出
来事を思い出してしまい、それに対する文句が喉元までこみ上げてきたが、保田はそれ
を腹の中に押しとどめた。この状況で後藤を不機嫌にして困るのは、結局のところ自分
なのだ。
「で、何か事件に関することは書いてあったの?」
「ないよ、バレーとテニスと宝塚の話ばっか」
- 52 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 22:58
-
全開にした窓に顎をのせ、顔を外に向けたまま後藤は首を振った。ブスッとふてくされ
ているのは表情を見なくともその声だけでわかる。まだ冬の真只中、すぐにでも窓を閉
めて欲しかったが保田は何も言わず、くしゃみをこらえながら後藤の足の下でパタパタ
と揺れている紙の束に手を伸ばした。
「うーん、はずれか…」
赤信号にさしかかり、保田はブレーキを踏みこむ。交差する道路の歩行者用信号を気に
しながらざっとその文字を眺めた。
保田が目を落としているのは、30分ほど前に吉澤を連れて忍び込んだ朝校のバレー部の
部室、そこの小川のロッカーから頂戴してきた手紙であった。それ以外の荷物は保田に
とって、この事件にとってははどうでもいい物で、次に訪れる場所へ吉澤を連れていく
わけにもいかなかったため「この中に事件に関する重要な物がある」とか「吉澤の腕に
期待している」など、上手くおだてあげて吉澤を一人、部室に置き去りにしてきていた。
「これ、ほんとに寺田愛が書いたやつなのかな…」
しかし、お目当ての物を手に入れたというのに保田の表情に晴れ晴れしい色が射すこと
はく、その手紙はむしろ保田を困惑の迷路に引き込んでしまっていた。
- 53 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:00
-
「中身的にはばっちしだよ。テニスをこっそりやってるって書いてあるし、あの石川と
かいう先輩のこともあるからね」
数十メートル走っただけで気分も機嫌も良くなったのか保田の独り言に後藤が反応する。
口では否定しながらも内心そう思っていた保田は、後藤の意見に大きく頷いてみせるが、
それでも何かまだすっきりしていなかった。それは後藤を信用していないからではない。
目の前にある手紙の文字に原因があった。
「でも、字汚くない?天下の寺田愛さんよ」
「うーん、急いでた…とか?」
「急いでてこの量?急いでるならニ、三行ですますでしょ」
「じゃあ、気がぬけてたとか?」
「大事な親友に書く手紙なのよ、やる気ないわけないじゃない」
「んー、じゃあ普通に汚いんでしょ。お嬢様だからって字が綺麗とは限らないじゃん」
「そうなのかな…」
保田は釈然としない気持ちで手紙を眺める。どこがおかしいというわけでもないのだが、
一つ一つの文字の大きさがバラバラで、女の子とは思えない文字がそこに並んでいた。
今まで寺田愛のお嬢様というイメージにギャップを求めていた保田だが、こんなことで
裏切られるとは思ってもみなかった。
- 54 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:01
-
「あー!」
ギシギシと音をたてて窓を閉めていた後藤は、保田の声に驚いて動きを止める。保田は
目を輝かせて、あれあれあれ、と後藤に手の平を向けた。
「あれじゃわかんないって、何が欲しいの?飴?」
窓ガラスをぴっちり閉めてから聞き返す後藤の声は、少し馬鹿にした口調になっていた。
「ちがうわよ!飴なんかいらないの、そうじゃなくて…あれよ!」
保田はもどかしそうに後藤を何度も指差す。
「あのーほら、あれ…あの寺田愛の手紙!石川から奪いとったやつよ。すっかり忘れて
たわ、後藤あんた持ってたわよね?」
「んー…持ってたかなぁ」
「まさかあんた!なくしたとか言うんじゃないわよね!」
ぼさぼさになった髪の毛を手でとかしながら首をひねる後藤に、保田の怒声が飛んだ。
「あーほら圭ちゃん前、前!信号青になってるよ」
「ごまかしたって無駄よー!あんたはねぇーいっつも…」
ファン!ファン!
保田の怒鳴り声に後方からクラクションが割って入る。バックミラーにチラリと視線を
投げると保田は舌打ちしてから、サイドブレーキを下ろした。
- 55 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:02
-
「はい、どうぞ」
次にまた赤信号にひっかかった時、反省して黙り込んでいると思っていた後藤が一枚の
紙を保田の前に差し出す。それは保田があれと連呼し続けた物だった。
「何これ…って!どこにあったの!?」
「ん、どこってここにしまっておいたんだもん」
そう言って後藤は前にあるダッシュボードを指差す。忘れてたわけじゃないからね、と
念を押す後藤に疑いの眼差しを向けつつ、保田は一昨日テニス部の部室で見かけたきり
行方のわからなくなっていた手紙を広げた。
「違う人が書いてるよね」
先に手紙を見ていた後藤が呟いた。保田も頷いてみせる。小川のロッカーにあった手紙
と見比べる必要もないくらい、石川の家に届けられた手紙の文字は綺麗に記されていた。
「ごっちんはどっちが本物…寺田愛本人が書いたと思う?」
「私はこっちかな」
後藤が手にしたのは字の汚い手紙の方だった。同じ答えに保田も納得したように何度も
頭を縦にふる。字の汚さに違和感を覚えたものの、一度だけ一方的に送られてきた手紙
と何ヶ月にも渡ってやりとりしてきた手紙ではわけが違う。小川のロッカーから出てき
た手紙は、内容からしても偽造できるものではなかった。
それじゃ、石川へのこの手紙は犯人が出したもの……てことは!?
- 56 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:02
-
「やっぱ、小川さんが共犯なのかな」
保田の心を見すかしたかのように後藤が呟く。保田は遠くで光る看板を見つめてじっと
考えていたが、おもむろに口を開いた。
「秘密のロッカーを石川に処分させる必要性…あの中で事情を知っている私達の目にと
まったのは小川との文通の手紙に写真、犯人が見せたくなかったのはそれで間違いな
いと思うわ」
「犯人が、寺田愛さんと小川さんのつながりを隠したかったってことだよね?」
「そうね」
「そんじゃ、小川さんはやっぱ中澤裕子の共犯なんだよね?」
「普通に考えれば、そういうことになるわね」
それっきり二人は黙りこむ。保田は後藤の意見に同意しながらも、内心引っかかる思い
も抱えていた。あの手紙を処分して、得するのは小川しかいないということはわかって
いるのだが、事務所でも思ったように自分のことで精一杯だった小川が犯罪に手を貸す
とは考え難かった。
- 57 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:03
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でもなぁ、小川が共犯であればいろいろ辻褄が合うんだよね
警備の厳しい学校からの抜け出しも、小川が高橋を誘えば問題はない。友人と思ってい
た人間が、まさか誘拐犯だとは疑うはずもないだろう。それに制服を着ていれば、女子
高生が二人並んで歩いていることに誰かが違和感を感じて覚えていることも少ないので
はないか。
寺田が警察に連絡しないことを見越しての犯行なのだろうが、この事件は万が一、連絡
されても足がつかないよう気を使っているように思えた。テニス部のロッカーに隠して
あった手紙の処分を、誘拐という大仕事と平行してやっているところからもそれは伺え
る。ホステスだと聞いていた中澤裕子を少し見くびっていたのかもしれない。この作戦
はかなりの確率で成功する、と保田は犯人でもないのになぜか興奮していた。
うーん、そうなると中澤裕子は偽名の可能性大だわ…
色めきたつ思考とは裏腹に保田は深くため息をついた。中澤の線がしぼれなければ共犯
であってもなくても残る頼みの綱は小川しかいない。今朝の対応からしてみても、父親
が簡単に小川の病院を教えてくれるとは思えなかった。
どうしようか…
ぼんやりと視線を上げる。信号がちょうど青に変わろうとしていた。
- 58 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:04
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☆
日が落ちると急激に寒さが増してくる。
ガソリン臭い暖房が充満している車内の時刻は8時になろうとしていた。
「ねぇー、圭ちゃん。もしかして寺田家に行くつもり?」
窓ガラスに頭をぶつけ目を覚ました後藤は、次々と後ろへ流れていく景色をしばらく眺
めてから口を開いた。今通り過ぎた小学校のグラウンドには見覚えがあった。
「そうよ。あーあんた寺田さん嫌いなんだっけ?」
そう言って笑い出す保田に、後藤は少しムッとして言い返す。
「そういうことじゃなくて何で小川さん家に行かないの?ってこと。病院名教えてもら
って、直接本人に会いにいけばいいじゃん」
「私もさっきまでそう思ってたんだけどね」
「さっきまで?」
「うん、それより先にいくつか確認しておきたいことがあって。寺田愛の筆跡とかさ…
確信はあるけどそこ間違えたら全部狂ってくるでしょ」
保田が静かに答える。後藤はそれを一掃するように、フンと鼻で笑った。
- 59 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:05
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「とかいって、ただ小川さん家に行きたくないだけなんでしょ?小心ものだなぁー」
「ちがうわよ!気を使ってるのよ。朝おしかけて余計な体力消耗させちゃってんだから」
図星だったらしく保田は語気を荒げた。何かと都合が悪くなると怒り出して、話をうや
むやにしようとするのは保田の十八番だったが、後藤はそんな態度にひるむことなく嫌
味をたっぷり込めて言った。
「へぇー、圭ちゃんが気遣いねぇ」
「そうよ、あんたも少しは気配りしなさいよ。この前みたいに失礼な態度とったら承知
しないからね!」
話の首ををすげ替えるのもいつものこと。一転して自分に向けられるほこ先に、後藤は
一歩も後退することなく言い放った。
「別に圭ちゃんにショウチされなくたっていいもん…ちょっ何?触んないでよー」
「ごちゃごちゃうるさいわね!飴だしなさい!」
保田の腕が後藤の頬めがけて伸びてくる。飴の所在を確認するというより、憎まれ口を
叩く後藤のほっぺたをつねるのが目的らしい。あきらかに怒りのこもった目でしつこく
何度も迫ってくる保田の手を、後藤は邪魔くさそうに押しやった。
- 60 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:06
-
「あっ!圭ちゃん、今のとこ右に曲がるんだよ」
庭先の照明に浮かび上がる見覚えのある家、レモン色の壁を横目にそのまま直進すると
後藤が叫んだ。
「知ってるわよ」
そう言って保田は次の角でウィンカーを光らせる。そこに車の頭を突っ込み、Uターン
するのかと思いきや、細い路地に入った途端、保田はエンジンを切った。そしてキーを
つけたまま車を降りる。一瞬迷ったが後藤も慌ててその後を追った。
なにしてんだろ?
今来た大通りに出ると保田の背中がすぐに見えた。レモン色の家とは寺田家へ続く路地
を挟んで反対側に位置する豪邸、その外壁に寄り添う形で保田は寺田家の方を覗き込ん
でいた。
「圭ちゃん、かぎつけっぱなしだよー」
「しっ!」
口元に指をあてた保田は、きょとんとしている後藤に顎をしゃくってみせる。後藤は促
されるまま、車で入っていくはずだった私道に顔半分をのぞかせた。寺田家の門がつき
あたりに見える。立派な門は相変わらず大量の電力を浴びて光っていた。
- 61 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:07
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「ん?誰だ?」
その前で動く人影に気付いた瞬間、襟首を引っぱられ身体が後ろにのけ反った。
「っと、何すんの?いいとこなのに」
「あんた顔出し過ぎなのよ」
後藤を後ろに追いやると保田は身体を屈めて、もう一度、門の様子を自ら窺いだした。
これ以上後藤に見せるつもりはないらしい。かじかみだした手をポケットにつっこみ、
後藤はごつごつとした外壁に身体を預けた。足下から冷気が這い上がってくる。周囲に
目をやりながら、後藤はじっと動かない保田の背中に声をかけた。
「もしかして、さっきわざとスルーしたの?」
「当たり前よ。私が一度来た道間違えるわけないじゃない」
「でもさー、別に私達が隠れる必要なくない?」
「あるわよ、一応隠密に頼まれてる事件だし…それに」
保田は顔を引っ込めると、寺田家の方向を指差して小声で呟いた。
「あそこにいる人、金髪なのよ」
「えっ、まじで?」
「まじよ。嘘ついたってしょうがないでしょ」
そう言い残して寺田家に再び目を向ける。その保田の上から金色に輝く頭を確認しよう
と覗き込む後藤だったが、次の瞬間、しびれるような痛みに視界がぼやけた。門の前の
人影に集中していた後藤の顎に、立ち上がろうとした保田の頭がヒットしていたのだ。
- 62 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:07
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目を潤ませてしどろもどろに喋る後藤に一言の謝りも入れずに、保田は後藤の腕を引っ
ぱって、車を止めた路地に逃げるように駆け込んだ。後藤が痺れる舌先を夜風で冷やし
ながら非難の意味もこめて保田に目を向けるが、保田は今度はこの路地に背を向けて、
大通りの方を覗き込んでいる。人気の少ない住宅街だからいいものの、保田はさっきか
ら挙動不信な動きをくり返していた。
「ごっちん」
ぐったりと座り込んでいる後藤を保田が手招きする。意識が壁の向こうに集中している
ようで、振り向いた保田の顔は真剣だった。仕事にのめり込んだ時の表情、こんな時に
文句を言っても通じないし、もうさっきのことは忘れているだろう。後藤は言われるが
ままに保田に近づいて、同じように通りを覗き込んだ。
レモン色の壁が庭からの照明で一段と輝いて見える。その反射した光の中に突然浮かび
上がる姿、ゴクリと保田が息を飲む音が聞こえてきた。
ほんとに金髪だ…しかも女の人…
- 63 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:08
-
時間にして数秒だったが、その姿が暗闇に溶け込むまで後藤は彼女の全身を記憶するか
のようにじっと見つめていた。顔を隠すように目深にかぶった大きめの帽子、そのせい
で顔は影になっていたが、肩の辺りまで伸びている髪の毛が金色に染められているのは
確認できた。ブーツにスカートにコート、服装は町中でよく見かけるもので何か特徴が
あるというわけでもなく、若く見ようと思えば若く見えるし、30代と言われても違和感
はない格好だった。
「ごっちんは、あの人メグ・ライアンに似てると思う?」
「んーどうだろ。顔までよく見えなかったけどあんな髪型だったような…」
保田の問いかけに、後藤はハリウッドスターの顔を思い浮かべる。が、アクション物の
映画ばかり見ている後藤の頭の中にその女優の明確なイメージは残っていなかった。曖
昧に首をひねりながら、後藤は当たり障りのない言葉を口にする。
「でも、メグライアンの背はもっと大きいよね」
「そりゃーアメリカ人だからね。…けど、彼女が中澤裕子じゃなかったとしても、追う
価値はあるわよ」
通りに響く足音と後ろ姿を気にしながら保田はニヤリと笑みを浮かべる。保田の意を汲
んだ後藤は頷くと、同じであろう答えを呟いた。
「犬ほえてなかったもんね」
- 64 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:09
-
保田と後藤に噛み付かんばかりの勢いで吠えまくった大きな犬。先日訪ねた際に、家族
以外の人間には友達であっても絶対に吠えてしまって困っている、と奥さんが愚痴をこ
ぼしていたほどだ。そのうるさい犬が二匹揃って大人しくしているなんて考えられない。
「それに、たぶん奥さんと言い争いしてたわよ」
「えっ、いたの?私が見た時には犬と…あの女の人しかいなかったような」
「いたのよ。ていっても、私も言い争いしている現場まで見てないんだけど、私が最初
に覗いた時ちょうど奥さんが家に帰っていくところでね、その背中に向かってあの人
がなんか叫んでたのよ」
保田の頭の中にはその光景がはっきりとインプットされているようだ。確信を持った眼
差しで後藤をジロリと見る。
「小声で内容までは聞こえなかったんだけど、あれは絶対ケンカ口調だったわ」
「ケンカかぁ、こんな時間にセールスの人なんて来ないもんね」
「そうよ。それにあんな格好でセールスする人なんていないわ」
門を開かず、鉄の柵越しに向きあっていたことからも、今の女性が招かねざる客である
ことがわかる。
「ごっちん、お金もって…ないよね」
言い終わらないうちに保田はコートのポケットから財布をとった。銀行から下ろしたば
かりの一万円札が手にほどよい厚みを伝えるのか、保田の表情は財布を開く前からゆる
んでいる。
- 65 名前:6.1PC 投稿日:2003/09/30(火) 23:10
-
「ガス代それくらいあれば足りるでしょ?こっちは何があるかわかんないからさ」
ピン札を5枚ほど抜き取ってにやけている保田の手から、財布を奪うのはそれほど難し
いことではなかった。手にした一万円札と後藤が持っている財布を交互に眺め、不思議
そうにしている保田にそう言ってから、後藤はくるりと背を向けた。
「ちょっと、あんた!」
大きな声を出す保田に後藤は足を止めて振り返り、しーっとさっきのお返しともとれる
ポーズを作ってみせる。そしてすぐに、その場から逃げるように走り出した。
背後から保田の声が聞こえなくなる代わりに、前方から聞き覚えのある靴音が響いてく
る。スピードを落とし足音をしのばせて少し行くと、街灯の下に目標の人物をとらえる
ことができた。彼女はバス停の前でも足を止めずに直進する。どうやら坂の下の交通量
の多い道路まで歩いていって、そこでタクシーを拾うようだ。後藤はその後ろ姿に注意
しながら、ポケットの中で暴れている携帯電話を取り出した。
『領収書忘れんなよ!』
その一文を必死の形相で打ち込んでいる保田を想像して、後藤はふと笑みをもらす。
まかしてよ、圭ちゃん。
10メートルほど前方を歩く女性は、暗い夜道に警戒するように周囲にせわしなく視線を
配っている。足を止め、物影に隠れながらも後藤はその背中から目を離す事はなかった。
- 66 名前:BX-1 投稿日:2003/09/30(火) 23:15
-
>>49-65 更新しました。
>>48 名無しさん
アレとアレがアレだと気付くとは…ちょっとドキリとしました。ほんとに。
目的がわからんというのもかなり的を獲ているような、もしかしたらもしかする
かもしれません。アレに言葉を当てはめると公式が成立してしまうらしい。(w
- 67 名前:名無し 投稿日:2003/10/01(水) 20:43
- マジで!!もしかしちゃうの!
今回の更新で更に確信めいてきたよ!でもかなりストレンジャーな考えだよ!!
でも、どちらにしても続きが楽しみで仕方が無いです。
オラわくわくしてきただ!
- 68 名前:七市 投稿日:2003/10/16(木) 00:28
- ふわー。
どうなるんだろう・・・すげー気になる
- 69 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/16(日) 04:13
- 保全!続きカモーンな!
- 70 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/28(金) 00:05
- 待ってます
- 71 名前:BX-1 投稿日:2003/12/15(月) 14:16
- レス&保全ありがとうございます。
大量更新で挽回しようと企んでいたら、あっという間に年末になってしまいました。
フォローできない放置っぷりで、スレを開くことに恐怖まで覚えるこの頃ですが
もうすぐ落ち着いてネットに繋げられるようになると思うので、(年明け
ぐらいの更新を目安に)ダメついでに、もうしばらくおつき合い下さい。
- 72 名前:名無し 投稿日:2003/12/15(月) 21:37
- ゆっくりお頑張りやんす
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/10(土) 22:56
- ho
- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/25(日) 14:42
- 楽しみに待ってます
- 75 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 23:03
- ぜ
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/16(月) 22:42
- 初めて読ませてもらったのですが、面白いっす。
次回更新楽しみにしてます。
- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/02(火) 23:33
- 楽しみに待ってます。
- 78 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 08:11
- そろそろ…そろそろくるだろ…と毎日のように
パソコンの前で呟きながら待ってます。
最近はなぜか確信めいてそう思い始めたので、
思い切って書き込んでみました。
…そろそろ自分の頭がヤバイみたいです。
早く助けて下さい。
- 79 名前:名無し娘。 投稿日:2004/03/11(木) 21:02
- >>78
お前がそう言うなら、俺も信じる。
絶対書き込みが来る。
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/02(水) 12:09
- 自分も信じる。
だからまだ倉庫逝きは待って下さい。
どうしても最後まで読みたい・・・。
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