ちらしずし
- 1 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/12(金) 17:59
- 3レスくらいの短いやつ書きます
意味もオチも あったり なかったり
- 2 名前: 投稿日:2003/09/12(金) 17:59
- 「インスタント」
- 3 名前: 投稿日:2003/09/12(金) 18:02
- 「お湯を入れて3分待つんですよ」と紺野が言った 私はそれを黙って眺める 紺野は右手
をあげた それを合図にしてそのバカでかいカップに 据付けられた太いホースがドボドボ
と熱湯を注ぎ始める 視界はもう湯気にさえぎられてまっしろだ すくなくとも私には何も見
えなかった
「もういいですよ」
紺野の声がしてドボドボという音がやんだ 私は目をしばたたかせる 湯気が晴れていく
カップには蓋がしてありどうやらお湯はもう満たされたらしい 紺野は時計を注意深く睨ん
でいる 私も腕を組んで待つことにしたのだった
- 4 名前: 投稿日:2003/09/12(金) 18:03
- 「58、59、オッケーです」
紺野はそう言うと蓋を一気に取り払った 中からものすごい勢いで飛び出してきたのは
やぐっちゃんだった 「バカ、熱いよバカ!バカ!」とやぐっちゃんは言った 紺野は「完璧
です」と笑う やぐっちゃんはしばらく熱さを逃がそうとばかりにもだえていたが 部屋の隅
にあるドアの【冷水シャワー】という貼り紙に気づいたらしい すごいスピードで飛びこんで
行った 開けっぱなしにされたドアの向こうから しゃーという水音と 「あー、生きかえった」
という声が聞こえる もちろんやぐっちゃんの声だ 本当に生きかえったことにはまだ気づい
ていない様子だった
「どうですか後藤さん私の発明は」と紺野は得意げに胸をそらした 私は何も言わずに財
布を出して 中から一枚の千円札を取り出した
- 5 名前: 投稿日:2003/09/12(金) 18:04
- 「ありがとうございましたー」と紺野は言った 私はやぐっちゃんが服を着るまで待ってから
連れだって部屋を出た 入り口を出たところでやぐっちゃんが振り返る 「何コレ」とドアの
貼り紙を指差して私にたずねる そこには『インスタント人間はじめました 一人千円 骨だけ
持ってきてください 紺野』と書いてある 私は笑って「冷やし中華はじめました。みたいだよね」
と言った やぐっちゃんも笑って 「なら千円は高いよ」と言った そんなこと全然 ないのに
- 6 名前: 投稿日:2003/09/12(金) 18:05
- 「クエスト」
- 7 名前: 投稿日:2003/09/12(金) 18:06
- ふと私はゲームの中に迷い込んだ 最初は夢だと思ったがあまりにも痛いのでそうじゃないとわかった 私
は右手に何やら木の棒のようなものを持っていた 見渡す限り草原だった よく見ると山があったり海があっ
たりもした しばらくあるくとやぐっちゃんがいた 変なでかいカラスに向かって変な矛を突き出したりしていた
矛が刺さってカラスはカーと鳴いて倒れた 「何してんのやぐっちゃん」と私は言った やぐっちゃんは私を
振りかえって言った 「やぐっちゃんじゃなくて、ここではやく゛ちなんだ」 意味がわからなかった やぐっちゃ
ん改めやく゛ちはカラスの死体をあさって 何やらピカピカ光る金貨を取り出した そして「ちっしけてやがる、
たった5ゴールドかよ」と言った
- 8 名前: 投稿日:2003/09/12(金) 18:07
- しばらく二人で歩くと街があった やぐっちゃんは街に入るとすぐに酒場に飛びこんだ しばらく待っていると
紺野とカオリを連れて出てきた 「どうも、こんのです、僧侶です」 「かおりはー、魔法使いなの」 二人はそ
う言って自己紹介をした やぐっちゃんは満足げに頷いた 「オイラは武道家だからバランスは取れてきた
な」 「そうですね、あとは」 「うん、あとはあの人だけだよ」 「そう、あの人だけ」 口々に言い合いながら
三人は酒場へと戻っていった 後についていきながら「誰のこと」と私は聞いた カオリが呆れたような顔で
教えてくれた 「勇者に決まってんじゃん」 「勇者?」 「うん、やっぱ勇者がいないとね」
- 9 名前: 投稿日:2003/09/12(金) 18:08
- 私たちはしばらく酒場でウダウダしていた すると一人の客が入ってきた よく見るとなっちだった 「あ、なっ
ちだ」 「あべさん」 「なっち!」 三人が手を振ると なっちはにこにこしながら近寄ってきて言った 「じゃあ
行こうか」 「うん」 三人は頷いた みんなが立ちあがったので私も立ちあがった するとみんな私のほうを
向いて 何か困ったような顔をした 「ごめんパーティは四人までなんだ」 言いにくそうにやく゛ちが言った
なっちがやはり言いにくそうに続ける 「やっぱり遊び人はちょっと、あ、でもボス倒したら誘いに来るかもし
れないから」 「じゃ待ってるね」と私は言った みんなが出ていくのを手を振って見送り 振り返るとカウン
ターではみっちゃんが皿を磨いていた
- 10 名前: 投稿日:2003/09/13(土) 19:29
- 「情けは人の」
- 11 名前: 投稿日:2003/09/13(土) 19:30
- 駅前でわけのわからないことをわめいてる女がいた どうやら酔っ払っているらしいと一目でわかった かと
言って回り道するのもだるいので 私はさりげなく横を通りすぎようとした 「おい」という声が背中から聞こえ
る そして駆け寄ってくる足音がして 次の瞬間私はガッと肩を掴まれた 「シカトしてんじゃねぇよ」 酒くさ
い息とともに 吐き出された声に聞き覚えがあった 「あれ、やぐっちゃん」 「なんだごっつあんか」 やぐっ
ちゃんはずいぶん底の厚いヒールに 暑いのにロングコートなんて着てて 化粧もいつもより全然すごくて
一瞬別人みたいに見えた 「ごめんごめんオイラちょっと酔っ払ってるから」 確かにふらふらだった
- 12 名前: 投稿日:2003/09/13(土) 19:30
- タクシーを捕まえようと思ったが あまり人目につきたくなかったし 第一吐かれそうなので 私は大通りをさ
けて裏道を歩くことにした やぐっちゃんがふらふらと付いて来る 幸いあまり人とすれ違うこともなく家へと
辿りついた ベッドに寝かせてあげて 水なんか飲ませたりしてるうちに やぐっちゃんはすこし落ちついてき
たみたいだった 「ありがとう今日のお礼は必ずするよ」とやぐっちゃんはしつこく うめくような声で繰り返し
た 「ところでなんであんなとこにいたの」と私は聞いたが 返事はなくて やぐっちゃんはもう目を閉じてすー
すー言っている 私は苦笑してタオルケットをかけてあげた
- 13 名前: 投稿日:2003/09/13(土) 19:30
- 目を覚ますとやぐっちゃんは消えていて かわりにこんなメモが残されていた 『昨日は親切にしてくれてあ
りがとう 実は私は矢口ではなくて神様でした あなたは優しいので願いをひとつ叶えてあげます なんでも
言ってね ××××○○○○@docmo.ne.jp』 最後のメアドはやぐっちゃんの物だった すこし考えてから
私は カチカチとメールを打った 『どういたしまして神様 そう言えば後藤は最近焼肉を食べていないので
もしよかったら山ほど食べたいです タダで』 くすくすと笑いながら 送信ボタンを押したその瞬間から 私
は家から出られなくなってしまいました 家のまわりに何故か牛肉の山が 積もってしまってそろそろ 息も
できないくらいにびっしりと
- 14 名前: 投稿日:2003/09/13(土) 19:33
- 「like a bar・・・?」
- 15 名前: 投稿日:2003/09/13(土) 19:33
- 「モーニング娘。ってまるでジェットコースターだよね」とカオリが言う 私は頷いた 意味はよくわからなかっ
たけど カオリは続ける 「ゆっくりゆっくり上がって、突然息もとまるようなスピードで急降下して、それから
またすごい勢いで上がって、それからそれから」 夢見るような瞳でカオリは喋りつづけた 私はふと口を挟
んだ 「でもさあたし途中から入って途中で降りたよ、ジェットコースターだったら途中下車とか出来ない」と
言いかけたあたりで カオリの様子がおかしいのに気がついた 小刻みに震えているのだ
- 16 名前: 投稿日:2003/09/13(土) 19:34
- 「そう、最初から乗って最後まで辿りつくのはカオリだけ」 もうカオリは私を見ていなかった 「みんなにとっ
てはメリー・ゴー・ラウンドでも、カオリにとってはジェットコースターなの」 この感じ久しぶりだなと思いなが
ら 私はじっと聞いている 「辻加護なんかはコーヒーカップだと思ってるのかもしれない、好き勝手に回し
て、回して、楽しんで」 震えはどんどん大きくなる 「五期にとってみたらさしずめスプラッシュ・マウンテン
かもね、怖くもなんともないジェットコースターもどき、六期にとってみたら、うーん、フリーフォール」 ふふっと
カオリは笑って 私の顔を見た 「ごっちんはどう、モーニング娘。ってどういう存在なの?」
- 17 名前: 投稿日:2003/09/13(土) 19:34
- 私は困った どうやら意地でも遊園地で例えなければいけないらしい うまく答えなければあんなことやこん
なことまでされそうな気がした 「ねぇどうなのごっちん」 すさまじいプレッシャーに 手汗がじっとりと滲む
「あ、今までに言った奴はダメだからね」 しかもモタモタしている間に 新ルールが追加されてしまった 私
はなおさら焦る 「ねぇ、ねぇ」カオリの顔が迫ってくる まずい食われると思ったその時 稲妻のように答え
が閃いた 「ああ、わかったお化け屋敷だ!」と叫んで私は得意げに笑った カオリは黙ってフトコロから
バールのようなものを取り出して ゆっくりと振り上げた
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/13(土) 20:29
- 読みやすくて先が読めなくてわかりやすくて奥が深くて面白い。すげー。
- 19 名前: 投稿日:2003/09/14(日) 19:50
- 「裸の王様」
- 20 名前: 投稿日:2003/09/14(日) 19:51
- 「これが今回の衣装や」と言って つんく♂は親指でテーブルを指した 私たちは目をぱちぱちさせる 「画
期的なミュージカルになるで」 つんく♂が自信ありげにそう言う しかし何度見てもテーブルの上には何も
ないのだ 裸でやれとでも言うのか 「あのーつんく♂さん」 と誰かが手をあげた 途端につんく♂は慌てた
ように こう付け加えた 「おっと言い忘れとった、今回の衣装はな」 声をちいさくして もっともらしい顔で言
う 「バカには見えない衣装やねん」
- 21 名前: 投稿日:2003/09/14(日) 19:52
- 「わー可愛い衣装だなぁ」とやぐっちゃんがまず言った 棒読みで 続いてカオリも口を開く 「ほんとだーす
ごーい、こういうの着たかったんだー」 しかし全く感情はこもっていない 見ると全員が「嬉しいなぁ」「う
わぁ」と 魚の腐ったような目でぶつぶつと呟いている 一人つんく♂だけが満足げに 「そやろそやろ」と頷
いている 「まあとりあえず着てみぃ」 私は仕方なく手をあげる 「あのーすいません、何にも見えないんで
すけど」 皆の動作がはたと止まる 「なんや後藤、今なんちゅうた」 つんく♂が信じられないという顔でこっ
ちを見る そして他のみんなも私を見ている ああ言わなきゃいいのにという顔だ 私はわざとにっこり笑っ
て 言った 「すいません後藤バカだから見えないんですよ」
- 22 名前: 投稿日:2003/09/14(日) 19:53
- 「そうか、じゃあ後藤はええわ」 とつんく♂は吐き捨てるように言った 「あのぅ実はわたしも」 「わたしにも
見えません」 中学生の子たちが何人か続いた 「な、なんやお前らもかいな」 「実はあたしも見えない」
「ほんとだ、うちも見えない」 便乗は続く 「ていうか最初から何もないじゃん」と誰かが聞こえよがしに呟く
にあたって つんく♂の怒りはついに最高潮に 「うっさいわボケ、お前等ええから脱がんかい」 「うわあ」
「正体表したよ」 「変態」 「ロリコンプロデューサー」 「誰や今ロリ言うたんは」 「こんなんで騙せると思っ
たのかよ」 「寺田」 「だ、誰や寺田言うたんは、お前等クビにすんぞ」 「クビだって」 「くすくす」 「お前に
そんな権限もう」 「夢見てんなよ」 「おおおお俺はプロデューサー」 「お飾りが」 「曲なんてもう全然」
「変なグラサン」 私もなんか言ってやろうと思ったのだけど つんく♂はもう涙目だったから やめた
- 23 名前: 投稿日:2003/09/14(日) 19:55
- 「プッチモニ。三人揃って 」
- 24 名前: 投稿日:2003/09/14(日) 19:55
- 市井ちゃんが電話してきて 「なあうち等もう一回やり直そうぜ」と言った 私は「何を」と聞いた 市井ちゃん
はもどかしげに「とりあえず今から行くから」と言って電話を切った プのつくユニットのことを言っているのだ
ろうか とすると一人足りないような気がする 私は電話をかけた 「もしもし」 「あ、圭ちゃん」 私はすこし
イタズラ心を起こして わざと声を低くして言った 「なあうち等もう一回やり直そうぜ」 「何を」と圭ちゃんは
言った 私はもどかしそうな声で 「とりあえず今から行くから」と言って電話を切った 市井ちゃんが来たら
一緒に行くつもりだった しかし待てど暮らせど市井ちゃんは来ない 2時間ほど待って私は電話をかけた
- 25 名前: 投稿日:2003/09/14(日) 19:56
- 「もしもし」 「ああ」 市井ちゃんは何やら元気がない 「なんで来ないの、後藤ずっと待ってるのに」 市井
ちゃんは「悪いそれどころじゃないんだ」と言って電話を切った 私はぽかんとしたまましばらく受話器を握っ
ていた 何があったんだろうか すこし心配だった 突然電話が鳴る 市井ちゃんじゃなく圭ちゃんからだった
「もしもし」 「ああ」 圭ちゃんはすこし苛々した声で言った 「なんで来ないのよ、あたしずっと待ってんの
に」 私は「ごめん今ちょっとそれどこじゃないからさ」と言って電話を切った 市井ちゃんのことが心配で 正
直圭ちゃんのことは頭になかった 私は上着を着て市井ちゃんの家に向かった がたんごとんと電車に揺ら
れて たどりついた時にはもう外は真っ暗だった
- 26 名前: 投稿日:2003/09/14(日) 19:56
- 市井ちゃんの家はカギがかかっていて ピンポンを鳴らしても誰も出てこない 幸い私は大昔につくった合鍵
を持ってきていた 久しぶりに入る市井ちゃんの部屋はなんだか懐かしかった 誰もいないことを確認したそ
の時ふいに携帯がなった 家族からだった 「保田さんが来てるけど」と言われて私は 何か点と線がつな
がったような感じをおぼえた 念のために圭ちゃんの自宅に電話をかけてみると 7回目くらいのコールで
「保田ですけど」という頼りない声が出た 市井ちゃんの声だった 私はコホンと咳をひとつしてから 「なあう
ち等もう一回やり直そうぜ」と言った
- 27 名前: 投稿日:2003/09/15(月) 20:46
- 「市井ペンギン」
- 28 名前: 投稿日:2003/09/15(月) 20:47
- 楽屋に入ってきたのは ペンギンの着ぐるみを着た市井ちゃんだった 私はびっくりしてカメラを探す 市井
ちゃんは笑いながら手を振って 言う 「テレビとかじゃないよ」 私はほっと息をつく それからたずねる 「ど
したの、その格好」 いやぁそれがと市井ちゃんは照れくさそうに頭をかく 「あたしペンギンになることにした
んだ」 「えっ」 「ほらシンガーソングライターになれなかったからさ、第二の夢っていうか」 「第二の夢っ
て、確かトリマーとか言ってた」 「やっぱ夢は追いつづけないとね」 市井ちゃんは私の話を聞かずに 目を
きらきらさせてそう言い放った
- 29 名前: 投稿日:2003/09/15(月) 20:48
- 「南極は寒いから嫌だ」と言い張るペンギンを 結局見捨てられずに私は 家で飼うことになってしまった
「お前はいいなぁ、ペンギン飼えるなんて」とか言って 寝転がってテレビばっか見ている ペンギンはエサ
に関してもかなり贅沢だった もちろんエアコンはフルに効かせておかなきゃいけない 一度忘れ物をして家
に帰った時 ペンギンは着ぐるみを脱いでソファに寝転がっていた ああ一人の時はやっぱり脱いでんだと
思って 何だか納得がいかなかった
- 30 名前: 投稿日:2003/09/15(月) 20:48
- ある日私は圭ちゃんに電話をした 引き取ってもらおうと思ったのだ 「冗談じゃないよまったく、なんとかし
てよ圭ちゃん」 「あはは」 圭ちゃんはおかしそうに笑った 「まあいいじゃんペットだと思って」 「よかない
よ一日中ゴロゴロしてんだよ」 「へぇ」 「魚しか食えないんだよとか言って毎日寿司取るし」 「お寿司を」
「そう、かと言って焼肉とかも食べるくせに」 「焼肉を」 「うん、あとビールとか毎日のように」 「なるほど
ビールをねぇ」 結局圭ちゃんはあいづちだけで あまり取り合ってくれなかった 私も実はそんなに本気じゃ
なかったのだが さて次の日 楽屋でくつろいでいると がちゃりとドアが開いて 狛犬の着ぐるみが入って
きた よく見ると っていうかよく見なくても圭ちゃんだった
- 31 名前: 投稿日:2003/09/15(月) 20:48
- 「カゴアラツジパンダ」
- 32 名前: 投稿日:2003/09/15(月) 20:49
- 楽屋に入ってきたのは 加護ちゃんと辻ちゃんだった 二人は顔になにやら落書きをされていた 「なにあん
た達どうしたのそれ」と私は言った 加護ちゃんの鼻は真っ黒に塗りつぶされ ヒゲまで書かれていた 一方
辻ちゃんは目の周りを黒く縁取られている 「誰にやられたの」私は笑わなかった 何故なら二人がひどく真
剣な顔をしていたからだ 辻ちゃんに至っては涙ぐんでいる 「あべさんに書かれた」と加護ちゃんがぼそっ
と言った 続いて辻ちゃんも「いいださんに書かれた」と言った
- 33 名前: 投稿日:2003/09/15(月) 20:49
- 「ねぇごっちん」 「うん」 「どっちが可愛い?」 加護ちゃんは私の腕をつかんで 辻ちゃんが私のシャツの
スソを引っ張る 「ねぇどっち?」 パンダとコアラのことなのか それとも辻ちゃんと加護ちゃんのことなのか
私にはとても計りかねた 15秒ほど考えて 結局いちばん無難な言葉を選ぶことにする 「いやーどっちも
可愛いよ」 私がそう言った瞬間 ものすごい勢いで楽屋に カオリとなっちが躍り込んできた 「何言ってん
のごっちんあんた目ぇ腐ってんじゃないの」カオリがそう怒鳴り散らし なっちも負けじと 「そうだよこんなク
マの出来そこないみたいなのと、なっちの芸術コアラちゃんが同等だなんて」 「あのねなっちその辺にしと
かないと殴るよ」 「なにほんとのこと言われて悔しい?」
- 34 名前: 投稿日:2003/09/15(月) 20:49
- 辻ちゃんがうわぁんと声をあげて泣き出した 加護ちゃんははぁとため息をつく ついに殴り合いをはじめた
二人をほっといて 私はハンカチを濡らしてコアラとパンダの顔を拭いてあげることにした 「おいで」 二人は
おとなしく目をつぶる 私がごしごしごしごしごしごしと擦っていると やがて殴り合いに疲れた二人がうずく
まった その顔を見て 誰からともなく笑い出す 「はははは、パンダみたいだよ」 「なっちだってコアラみた
い」 まるでわざとのようにうまいこと なっちは鼻の回りが カオリは目の回りが それぞれ赤く腫れていた
張り詰めていた雰囲気が緩む 辻ちゃんも加護ちゃんも笑っている 「仲直りできてよかったね」と私はわ
ざと大きな声で言う 「ところでさ、ごっちん」 カオリが言って なっちが続けた 「どっちが可愛い?」
- 35 名前: 投稿日:2003/09/16(火) 19:15
- 「めびうす」
- 36 名前: 投稿日:2003/09/16(火) 19:16
- 目が覚めるとすでに7時 まずい7時半から仕事なのにと 私はベッドから飛び起きるも 今更間に合うはず
もなく ただひたすらに焦るだけだった ああ時間が戻らないかな 超能力者だったらよかったのにと 服を
着替えながら考えていると 途端に時計の針がぐるっと戻って 一周して6のところで止まった あっけにとら
れたままぼんやり外を見ると なんだか空が暗くなったような気がする 携帯の表示も6時になっていて
117番にかけてみても6時だった あれさっきは確かに7時だったのにと いくら首をかしげてもわけがわから
ない まあいいかと思って私はそのまま家を出る
- 37 名前: 投稿日:2003/09/16(火) 19:16
- タクシーで向かった先は収録現場 うとうとしていた私にふと衝撃が走る なんだかすごい激痛と 頭がお
かしくなるような感覚 数分が何時間にも感じて 気づけば私は何が起こったのか わからないまま空を飛
んでいる 下を見ると大破したタクシーと人だかり ああ事故なんだなと思っただけで まさかあのタクシー
に自分が乗ってたなんて思わない ましてや自分がもう死んで幽体離脱してるなんてわからない 私はふよ
ふよと流れるように飛んでいく 行き先はもちろん収録現場 このペースなら大丈夫 間に合うはずだった
- 38 名前: 投稿日:2003/09/16(火) 19:17
- しかし運命は残酷で 突然首を掴まれた私は無理やりに 変な部屋まで連れてこられてしまった なんだか
不気味な声が聞こえてくる 「後藤真希18歳、お前はもうすでに交通事故で云々」 ながい話をもじもじしな
がら 私はじっと聞いている どうやら私はずいぶん前に死んでいるらしい 「というわけでお前はもう地獄に
いるのだ」 ええそんな イヤだよさよならと私は言おうとした が声にならない 「さあそろそろ休憩は終わり
だ、お前はまた忘れなくてはいけない、そしてお前はまた死ななくてはいけない」という言葉を聞くや否や
私は目が覚める 6時だった さあ着替えようか 今日は確か7時半から仕事だったから タクシーを拾って
- 39 名前: 投稿日:2003/09/16(火) 19:17
- 「しっくすとりりおねあ(生)」
- 40 名前: 投稿日:2003/09/16(火) 19:18
- 奴が笑う 「ファイナルアンサー?」 私は「ファイナルアンサー」と答える さてここからが長いのだ おそらく
二日はこのまんまじっとしてなくちゃならないだろう 私はげっそりした チックチックチックチックチックチック
チックチック 1時間くらい経って スタッフが食事を持ってきた 昨日とおなじ焼肉弁当だった 私は無言で
受けとって 奴のほうを向いたまま食べる 『溜め』の途中で奴から 5秒以上目をそらすと失格だからだ も
ちろん奴も辛いに決まってる しかし奴の方から目をそらしたことは今までに1秒もなかった プロだ
- 41 名前: 投稿日:2003/09/16(火) 19:18
- チックチックチックチックチックチック また2時間ほど経った 私はブザーを押す 途端に会場の緊張が緩む
「はいカメラ止めて」 「後藤さんトイレ休憩入りまーす」 「じゃ、10分後再開しますんでーお願いします」
私はほっと一息ついてトイレへと向かった 一日三回だけトイレ休憩がつかえる その間に私はアレやコレ
の処理をして 10分でスタジオまで戻ってこなくてはいけない 遅れるともちろん失格だ もちろん 慣れれ
ばなんてことはないが なんせ金のためだ
- 42 名前: 投稿日:2003/09/16(火) 19:18
- 戻ってくると奴が笑っている 「後藤さんいよいよ一兆だねぇ」 「どうもー、あ、やっぱり正解でしたか」 「当
たり前じゃない、じゃなきゃこんなに引っ張らないよ」 「えへへ」 「一兆何に使うの」 「でもどうせなら六兆
狙おうかなーなんて」 「あーダメダメ、二兆の問題はほんと難しいから」 スタッフもみんな頷く 「とりあえず
一兆でやめといたほうがいいですよ」 「うーん、じゃあそうしようかな」 「寝ちゃわないようにね」 「それな
んですよねー怖いのは」 ほのぼのとした雰囲気を壊すように ADさんが大声で叫ぶ 「それじゃ本番再開
しまーす」 その声と同時に急いで私たちは みんな元の配置に戻った 私は奴を睨むように 奴はほくそえ
んで私をじらす チックチックチックチック あと45時間 ちなみに 現在の視聴率は38%だそうだ
- 43 名前: 投稿日:2003/09/17(水) 23:25
- 「みざりぃ」
- 44 名前: 投稿日:2003/09/17(水) 23:25
- 気がつくと私は見知らぬベッドに 一人寝かされているのでした なんじゃこりゃと首を回すとこれまた見知
らぬ部屋 「ああ目が覚めたんだね」と言って入ってきたのはこれまた見知らぬ男 それも近づきたくもない
ような外見の 男はぐふっと笑って 言う 「ねぇごっちん、ボクねぇ」 ぞくりと背筋に何かが走る 猫なで声
は続く 「つんく♂なんかの書く曲じゃ、ごっちんの溢れるパワーを受けとめられないと思うんだ、だからさ」と
言って男が取り出したのは紙の束 それをどさっとテーブルに置いた 「これ、全部ボクの書いた曲」
- 45 名前: 投稿日:2003/09/17(水) 23:26
- どうやら楽譜らしいそれを 男は自慢げに差し出す 「どう、見てよコレなんていい曲だよ」 と言われても
私としてはどうも糞もない 「はは」と仕方なく笑ってみせる 「気に入ってくれたんだね、よかった」と男は
にんまりと嫌な笑顔をつくり それからピアノへと歩み寄る 「じゃあ早速合わせようか」 「合わせる、って」
「だから合わせるんだよ」 男は神経質な口調で 言う「今の曲、ボクがピアノ弾くからごっちんが歌うの」
そんなことより家に帰りたいと 言えるような状況でもない 男は得意げに言い放つ 「じゃあ行くよ、ムーン
ライト・セレナーデ」 「あのぅ」 私は笑顔をつくりながら 言う 「実はあたし楽譜読めないんですよねぇ」
- 46 名前: 投稿日:2003/09/17(水) 23:27
- 途端に男の表情が曇る 小指をかりかりかりかりかりかりかりかりと噛み出す 「曲、気に入ってくれたん
じゃなかったの」 私は三たび曖昧に笑う 男は鍵盤に両手を叩きつけた ピアノがじゃあんと物凄い音を立
てる まるで悲鳴のような音 「ねぇごっちんボクを苛々させないでおくれよ、いくらプロデューサーだって限
度があるんだ」 男の目は完全に血走っていて 私はもう笑おうにも顔が引きつって動かない 「それとも、
ボクなんかの曲じゃダメだって言うの、プロデューサーとして認めてくれてないってことなのかな」 ぶつぶつ
と呟きながら 男は距離を縮めてくる 「やっぱりボクもつんく♂みたいに、男として」 男の手が私に触れた
刹那 私は拳を思いきり固めて 男の頭上てっぺんに撃ち下ろす ニブイ音がして 男はぴくりとも動かなく
なった 私はそのまま屋内を物色し 物置で大きな金づちを見つけて それを手に部屋へと戻る 追いかけ
て来られないように というのは口実だったかもしれない 気絶したままの男の まずは右足を目掛けて
- 47 名前: 投稿日:2003/09/18(木) 18:42
- 「かけっこ」
- 48 名前: 投稿日:2003/09/18(木) 18:43
- 裕ちゃんが婚約して しかも同棲しはじめたというので 私たちはそれぞれお土産を持って 不意打ちで冷
やかしに行くことになった 集まったのは12人 みんな裕ちゃんと一緒に 娘。として過ごしたことのあるメン
バーだった 久しぶりの人も多く 盛り上がりながら私たちは 裕ちゃんの新居へと向かう ピンポンを鳴らす
と しばらく間があってドアが開いた 「よう来たな」 と裕ちゃんは アザだらけの顔で言った 目は真っ赤に
腫れていて 良く見るとシャツが裂けていたり 涙をこすった痕があったりした 「まあ、上がって、今茶ぁ入
れるから」 唖然とする私たちに背中を向けて 裕ちゃんはとんとんと台所へ消えていく
- 49 名前: 投稿日:2003/09/18(木) 18:43
- 私たちはとりあえず居間に集まった 誰かが呟く 「指輪、してなかったね」 「ね」 ひそひそと私たちは語り
合った 「喧嘩、したんだろうね」 「ね」 「もしかして婚約破棄」 「やめなよ」 「でもさぁ」 「女に暴力振るう
男なんて別れたほうが」 「えーでもちょっとくらい男らしい方がよくない」 「でも殴るのはやっぱカオリ的に
駄目」 「そりゃ駄目だけど」 「そう言えば婚約者さんいないのかな」
- 50 名前: 投稿日:2003/09/18(木) 18:44
- 「あー、おほん」大げさな咳払いとともに 裕ちゃんが入ってきた 急いで口をつぐむ私たちを 腰に手を当て
て睨め回す 「12人か、あんたらめっちゃいいタイミングで来てくれたわ」 皮肉だと思ってしょんぼりする私
たちに 気づいたのかこう付け足す 「ほんまに言うてるんよ、ちょっとやって欲しい仕事があってな、頼んで
ええか」 さては別居か引越しかと 身をすくめる私たち 裕ちゃんは笑って言う 「ちょっと埋めて欲しいもん
があんねん、庭でええから」 そしてずるずると引きずってきたのは さっきまで婚約者だったはずの物体
やぐっちゃん 辻ちゃん 加護ちゃん 市井ちゃん 福田さん 圭ちゃん 彩っぺ 私 カオリ なっち よしこ
梨華ちゃんの順に 走って逃げた
- 51 名前: 投稿日:2003/09/19(金) 20:10
- 「透明人間になりたい」
- 52 名前: 投稿日:2003/09/19(金) 20:10
- 「ああ透明人間になりたいなぁ」とやぐっちゃんがおもむろに言う 「へぇ」 私は適当にあいづちを打った
「だってさぁ夜遊びにしても、買い物ひとつにしたって、いちいち顔隠したり気ぃ使わなきゃいけないし、変な
写真取られたらまた事務所にああだこうだ云々」 私は適当なあいづちを打ちながら聞いていた それから
やぐっちゃんの事務所批判は 実に一時間二十五分にも及び 内容はやがて事務所を離れ ファンの姿勢
や行動に関しても言及され 私がすこし疲れてきた時に がちゃりとドアが開いた 天の助けとばかりに振り
返ると そこには白衣姿の紺野が 「全てわかりました矢口さん」 ふふんと紺野は笑った
- 53 名前: 投稿日:2003/09/19(金) 20:11
- 「おおそうかわかってくれたか」 やぐっちゃんは喜んでいる なんだか悪い予感がした 「いいですか矢口さ
ん、人間の体は実に78%が水分で出来ています、また残りの22%は云々」 「なるほど、でもそれが透明人
間とどう関係があんの」 「そこでですね、わたしは研究に研究を重ねて云々」 「なんだと」 「そうなんです
この液を注射するだけで、体の構成要素であるタンパク質などの物質が全て化学変化を起こしてナンタラ反
応が云々」 「うーん、つまりどうなるんだ」 「一言で言うと透明になるんです」 「なんだって」 便宜上 云々
としたが 実に一時間にも渡る紺野の独演会状態で はっきり言って日本語とは思えなかったので省略した
- 54 名前: 投稿日:2003/09/19(金) 20:11
- 「じゃあ早速注射してくれよ」 「はい」 紺野が注射器をやぐっちゃんの右腕に刺すと やぐっちゃんの体は
みるみるうちに透明になっていった 「おお消えてる消えてる」 「完璧です」と言って紺野は笑う 「こうしちゃ
いらんねーぜ」と叫んで やぐっちゃんは服を脱ぎ捨てた 表へ走っていったようだ というかもう見えなくなっ
た 紺野がくすりと笑う 「まあ効き目は5分なんですけどね」 「えっ」 紺野は口端を曲げた 「まあちょっと
したイタズラですよ」 「でもやぐっちゃんそしたら裸で」 「でもまあ5分じゃ、そんなに遠くには行かないでしょ
うから」 「それもそうだね」 「普段うるさいから仕返しですよ」 「悪いなー紺野は、あはは」と笑い合ったそ
の時 テーブルの上にあったハサミが 音もなくふわっと浮き上がった
- 55 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/19(金) 21:36
- コワー。オモシロイ。おもしろすぎて困る・・・
- 56 名前: 投稿日:2003/09/20(土) 18:59
- 「変身」
- 57 名前: 投稿日:2003/09/20(土) 19:00
- 目覚めると私はアザラシになっていた 参った 声を出そうとしてもおうおうとしか言えないのだ とは言え仕
事には行かなくてはいけない 私はぺたぺたと玄関へ向かった 家族はちらと目を向けたきりで 私に注意
を払おうとしない 「おうおう」とだけ言って私は家を出る ぺたぺたと大通りに出て タクシーを拾おうとして
気づく アスファルトが異様に熱いのだ そんなに陽射しが強いわけでもないのに やっぱりアザラシになっ
たせいだろうか ともかく私は手を挙げる 一台のタクシーがきぃっと止まった 「どちらまで」 「おうおう」と
答えた 「閉めます」と言ってタクシーは走り出した
- 58 名前: 投稿日:2003/09/20(土) 19:00
- 雑誌の取材や撮影で 午前中のスケジュールはびっしり埋まっていた スタッフの人が気を効かせて ふく
らますプールを持ってきてくれたので 休憩中はびちゃびちゃとそこで過ごした マネージャーさんが昼食を
たずねてきたので 「おうおう」と答えた そうして昼間に出てきたのは 山盛りになったピスタチオ あれお
かしいなと思いながらも かりかりかりかりと貪ってみた マネージャーさんはにやにやと笑いながら見てい
た 案外おいしかった
- 59 名前: 投稿日:2003/09/20(土) 19:01
- さて午後からは収録だった 娘。のみんなと一緒だったので 私はまず楽屋に行き 「おうおう」と挨拶した
みんなは笑いながら 頭をなでてくれたり 「きゅーんって言ってよ」と言われたので私は 「おうおう」と答え
たりした やれタマちゃんだ いやゴマちゃんだよと 楽屋は盛りあがりに盛りあがったのだが とつぜん紺
野が「あれっ」と言った そして何やら雑誌を取りだし それをみんなに回すのだ みんなは途端に「うわぁ」
という表情になった 私ひとりがなんのことか分からず 雑誌も見せてもらえず 「おうおう」と抗議してみたり
もした けれどみんな押し黙ったまんまで なんだか気まずくなって私は 「おうおう」と言ってぺたぺたと楽
屋を出た と見せかけてドアに耳をつける ぜんぶの声は聞き取れなかったけど とりあえず「アシカ」という
単語が耳に入った なんてことだ 私は絶望して川に身を投げた もちろんすいすい泳げた
- 60 名前: 投稿日:2003/09/21(日) 22:09
- 「ねじ」
- 61 名前: 投稿日:2003/09/21(日) 22:10
- まさか私が売れなくなるとは思わなかった 私は完全にソロになってから 以来どんどん売上が落ちてきて
いるのだ 当然1位はとれなくなった 返品がとめどもなく溢れ出した 私は売上不振でクビになるかもしれ
ない 一刻も早く売上を回復しなくてはならないのだ しかし不安定なこの芸能界で 売上を回復するのは
容易なことではない 私はプロデューサーに訴える 「新曲です 出来たら売れる曲が絶対必要なのです
そして中高生に人気が出るようならなお好都合なのです」 プロデューサーは笑いながら 言う 「なるほど
君の言わんとする意味がだいたい見当がつきました きみはこう言いたいのでしょう 新曲はドコだ、と」
- 62 名前: 投稿日:2003/09/21(日) 22:10
- 「悪質な冗談はやめてください 私は真剣なのですよ」 プロデューサーはまた笑う 「目を閉じなさい そう
すればラブマシーンの頃のような気持ちになるでしょう」 私ははたと考え込む 「そうだっけ 私は淡々とし
なければいけないのだ」 プロデューサーはさらに笑い 言う 「とにかく話はわかりました では新曲を聞か
せてあげます」 プロデューサーは一本のテープを取りだし 私に聞かせる 「なんて聞きづらい曲なんだろ
う」と私は思う 「こいつの腕は腐りかけているんだ」 曲が終わり また次の曲が始まる 全てのテープが
終わったところで 私は叫ぶ 「ちくしょう駄曲ばかりではないか」
- 63 名前: 投稿日:2003/09/21(日) 22:10
- 「ああなんて無駄な時間をつぶしてしまったのだろう」 私は嘆く プロデューサーは笑いながら言う 「ここは
歌手の来るところではありません わたしはアイドルのプロデューサーですから」 「あなたに義侠心というも
のがあるなら 私を元のような国民的アイドルに戻してください」 プロデューサーは頷き 立ちあがって歩き
出す 「どうぞ」 私はその後についていく ゆきながらプロデューサーは私に説明する 「これはオニャンコ
方式を応用したものです」 「たしかにそのアイデアは新機軸です」と私は答える やがて一枚のドアに辿り
つく 「さあ 着きました」 私は勇んでドアを開け 驚く 「アッ、ここはもとの娘。ではないか」
- 64 名前: 投稿日:2003/09/22(月) 23:48
- 「ア・チープ・ジョーク」
- 65 名前: 投稿日:2003/09/22(月) 23:49
- ウサギの格好をした梨華ちゃんが 突然楽屋に入ってきた 「ねぇごっちん、ちょっと手伝って欲しいの」 と
両手を組み合わせて 目をうるうるさせて言うのだ 私は軽い調子で「いいよ」と言ってしまった するとウサ
ギは突然 私を背中にかつぎあげ 梨華ちゃんとは思えないほど力強い足取りで どこかへと歩いてい
く 「ちょ、ちょっとどこ行くの」 「よっすぃのとこ」 ウサギはずんずんと歩いた それからしばらくして 一
軒の家を通りすぎる そこには一人のおじいちゃんがいた よく見ると小川だった
- 66 名前: 投稿日:2003/09/22(月) 23:50
- 「今からあの憎いタヌキをヒドイ目に合わせてあげますから」 と ウサギがおじいちゃんに力強く約束する
とするとよしこがタヌキらしい なんだか悪い予感がした どこかで聞いた話の通り おじいちゃんは涙を流し
て喜んでいた 胸に抱えているのはおばあちゃんの遺影らしい それもよく見ると圭ちゃんだった 待てよ私
は一体何役なんだろうと ちらっと疑問に思うも 残念ながらどうにも筋が思い出せないのだ そうこうしてい
る間に ウサギは私を担いだままずんずん歩いていく やがて山についた
- 67 名前: 投稿日:2003/09/22(月) 23:51
- 山ではタヌキの格好をしたよしこが待っていた 「おお、どこ行ってたの」と こちらに気づいたタヌキが手を挙
げる ウサギはにっこり笑って 答える 「うん、薪拾い」 「ずいぶん遅かったねぇ」 「ごめんね待たせちゃっ
て、じゃあ戻ろうか」 ウサギとタヌキは早速下山を始めた 途中でウサギが何やら愚痴りだす 「なんかもう
重くって、駄目ね、歩けないの」 タヌキは背中の私を見て 言う 「しょうがないなー、じゃああたしが持って
あげよう」 ウサギは笑って 私をタヌキへと移す 私はそんなに重くないぞと 抗議しようとも思ったが その
前に重大なことを思い出して 私は振り返ろうとした が遅かった ウサギはすでにライターを取り出して カ
チカチと私に火をつけた後だった ボウボウと燃え上がる私 薄れゆく意識の中 遠くにタヌキの悲鳴を聞き
ながら 私は最期に思う さすがに強引すぎなんじゃないの と
- 68 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/23(火) 00:12
- 一気に読みました。おもしろいなあ…
- 69 名前: 投稿日:2003/09/24(水) 00:34
- 「ちらしずし」
- 70 名前: 投稿日:2003/09/24(水) 00:35
- 「昼ご飯注文しまーす」と辻ちゃんが言った 出前の紙とにらめっこしながら みんなあれだこれだと注文を
はじめる 私だけ迷っていた 特に食べたいものが思いつかなかったから 「じゃあ、それでおねがいしま
す」という声が聞こえ 顔を上げると辻ちゃんが電話を切っていた 「えっなんで切っちゃうの」 「あ、ごっちん
まだ頼んでなかったっけ?」 辻ちゃんが不思議そうに首をまげる 「でも全員ぶん頼んだ気がするけどな」
隣で加護ちゃんも頷く 「うん数えてたけど全員ぶんだったよ」 「えっ」 今度は私が首をまげた
- 71 名前: 投稿日:2003/09/24(水) 00:35
- しばらくすると出前が来た 「あーあたしカツ丼」 「天ぷらソバだれー?」 「あ、あたしー」 そんなやりとり
の中 私はじっと待っている 一つだけ余ったのが私のぶんのはずだった しかし気がつくとお盆は空っぽに
なっていた 加護ちゃんが首をまげる 「おっかしいな、確かに15人ぶん」 「あっ」 辻ちゃんが声をあげた
そしてみんなも気づいた顔になった ああそういうことかと私は思った みんなきまり悪そうな顔で黙っている
- 72 名前: 投稿日:2003/09/24(水) 00:35
- ふっとカオリが立ち上がって 部屋を出ていく すぐに戻ってきた 「ごめんこれしかなかった」 私の目の前
にはごはんがおかれていた おかずもなにもないただの白いごはん 私はにっこり笑って 「ありがとう、み
んなもいいから食べなよ」と言った みんながほっとしたような顔で食べ始める 私もお箸を割った すっと一
切れのカツが差し出された 見ると加護ちゃんだった 辻ちゃんも天ぷらを乗せてくれた なっちはホッケを
やぐっちゃんはカルビを それぞれみんながおかずを一切れずつ それをにこにこしながら 眺めているカオ
リの手元には なぜかごはんのないハンバーグ定食 やがて全員が乗せ終わって 山盛りになったそれを
私は一気にかきこんだ しょっぱかったです
- 73 名前: 投稿日:2003/09/24(水) 20:44
- 「うそつき」
- 74 名前: 投稿日:2003/09/24(水) 20:44
- 「雪が降ってきたぁ」 と 加護ちゃんが言った 私は顔も上げずに 「バカじゃん雪なんて降るわけないで
しょ」 と答えた 加護ちゃんは唇を尖らせて 「降るかもしれないやん」と 関西訛りで言った 私は苦笑す
る 「だってまだ九月なのにさ」 「九月だって雪降るとこあるし」 「あるけど、東京じゃ降らないっての」 加
護ちゃんは心底悔しそうに 窓を叩くと 「ああ雪降らないかなぁ」と言った
- 75 名前: 投稿日:2003/09/24(水) 20:45
- それから 小一時間ほど経って 加護ちゃんがまた叫んだ 「ほら見てみてごっちん、雪降ってきたぁ」 私
は顔を上げる 窓の外には白いものがひらひらと 「雪だぁ、雪ゆき」 歌うように喜ぶ加護ちゃん 私はしば
らくあぜんとしていた 「ごっちん、雪だるま作ろう」と言って 加護ちゃんが私の手を引く 「ええ、でもまだ積
もってないでしょ」 「積もってるよ、ほら」 窓から顔を出すと 下は一面の銀世界 加護ちゃんは窓から飛び
降りて ばふっと雪のなかに着地する 「ごっちんも、おいでよ」 私もおそるおそる窓から 体を乗り出して
気づくと 病院のベッドにいるのだ そして両足にはギプスが 家族 病院のひとに警察のひと 色んなひ
とが私に 入れ替わりで訊ねる 「なんで、四階から飛び降りたりしたんだ」 私は曖昧に笑ってごまかす
- 76 名前: 投稿日:2003/09/24(水) 20:46
- 全治一ヶ月の重傷らしいので 私は個室で空を見ながら寂しく過ごした みんな忙しいらしくて 見舞いには
誰も来やしない そんなある日 とつぜん加護ちゃんが一人でやって来た 「よくもダマしてくれたね」と詰め
寄る私に 加護ちゃんは笑って 言う 「やだなごっちん誤解だよ、でも怒ってるんなら治してあげる」 加護
ちゃんは私の足を指差す すると不思議なことにギプスが取れて 私は自由に足を動かせるようになってい
た 「おお、すげぇ」 「えへへ、感謝してよ」 と笑う加護ちゃん しかし考えてみれば感謝も糞もないのだ
「って元々お前のせいじゃんか」と言いながら 私は逃げる加護ちゃんを追いかけた そして気づくと 私は
またベッドに寝かされているのだ もちろん両足にはギプスが 医者が入ってきて うんざりした顔で言う
「なんで走ったりしたんだ」 ああ ダマされっぱなしだ
- 77 名前: 投稿日:2003/09/25(木) 18:33
- 「サクリファイス」
- 78 名前: 投稿日:2003/09/25(木) 18:34
- ある朝私の家に 神様が来てこう言った 「あなたが不幸になれば全人類は、今より遥かにハッピーになれ
ます、どうしますか」 私は首を振って ついでに「帰って」と言った 寝起きで機嫌も悪かった 神様は
「ちっ」とか言いながら ピンクのコートを翻して 高級外車で帰っていった 私は頭を掻きながら 部屋に
戻って2度寝した そしたら変な夢を見た 汗をびっしょりかいて起きると ピンポンが鳴っていた ドアを開け
るとまた神様がいた 神様はにっこり笑うと 「大変です、世界が破滅することになりました」と言った
- 79 名前: 投稿日:2003/09/25(木) 18:35
- 「ああそうか」と思った 私はドアを閉めようとしたが 神様はすかさずガッと足を入れて ドアの隙間に無理
やり体をねじこんできた 私は仕方なくドアを開け放つ 神様は再びにっこりと笑って 言う 「もしあなたが
死ねば、全人類は助かります、どうしますか」 ほぼ予想どおりの台詞だった 私は考える そして「いい
や、じゃあ破滅で」と答えた 途端に神様は泣きそうな顔になった 「それじゃ困るんです、怒られるんです」
と言って 私にしがみつく神様を振り払い 私は部屋に戻った それから3度寝した しばらくして起きると世
界は破滅していた 私は「うーん」とうなった 見渡す限り破滅している まさかここまで徹底的に破滅すると
は思ってなかった
- 80 名前: 投稿日:2003/09/25(木) 18:35
- とは言え破滅したものはしょうがない などと ひとりごちていると いつのまにか目の前に神様が立ってい
た 「どうですか破滅した世界は」 「どうもこうもないよ」と私は答える 神様はにっこり笑って 言う 「あな
たのせいで破滅したんですよ」 私はなんだかむかついて来て 神様のほっぺをつねり上げることにした
「ああ何をするんですか」 「うるさい」 ぎゅううとつねり上げながら 私は言う 「元に戻しなよ」 「無理れふ
よ」 「無理でもやるの」 神様はもう涙目だ そして目が覚めると私は やはり家のベッドで寝ている もうど
こからどこまでが夢なのか とにかく寝すぎて頭が痛いのだ 突然ピンポンが鳴る ドアを開けると梨華ちゃ
んが立っていた にこにこしながら 私に言う 「ねぇごっちんたいへん、実はモーニング娘。がね」 もちろん
続きなど聞く気はない 梨華ちゃんを無言で外へ蹴り出して 私は部屋に戻った さあ4度寝だ
- 81 名前: 投稿日:2003/09/26(金) 23:37
- 「お化粧」
- 82 名前: 投稿日:2003/09/26(金) 23:38
- みてくださいゴトウさん と 加護ちゃんが言う 差し出したのは女の子の人形 何コレ 何コレって人形です
よぅ 加護ちゃんはそう言って笑った まあ見りゃ分かるけど なんで化粧してんのこの人形 ああコレねー
ののがいたずらしたんですよ へぇそうなんだ 見ると 辻ちゃんも同じような人形を持って カオリなんかに
見せびらかすようにして掲げていた ほら みてこれ あいぼんがいたずらしたんれすよ……
- 83 名前: 投稿日:2003/09/26(金) 23:38
- 私はふふっと笑った 人形をお互いに交換して お互いにお化粧しあって なんて 微笑ましいんだろうか
おかげで私はすごくいい気分になれた しかしそんな気分もつかの間 スタッフさんが入ってきて 言った
じゃあ本番お願いしまーす はーい 私たちは答えて 立ち上がった 去っていく ほんの刹那よぎった もう
何年経つか忘れたけど そんな思い出
- 84 名前: 投稿日:2003/09/26(金) 23:39
- 「あの頃は二人も可愛かった」 と 私はひとりごちる それからごしごしと顔を擦る 油性マジックはなかな
か落ちないのだ 少なくとも本番が始まる前に 額の「うんこ」だけは落とさなくてはいけない それからメイ
クをしなくてはいけない ひたすら焦る私 その時トイレに圭ちゃんが入ってきた 「あのさー」 見なくてもわ
かった 私は無言で洗顔クリームを差し出す 「辻にやられた」 とだけ呟いて 圭ちゃんは私に並んでごし
ごしと顔を洗い出す ふいに思い出した人形のエピソードを 話すべきか それとも話すまいか 考えながら
私は ひたすらにごしごしと顔を洗う圭ちゃんを眺めて ふっとため息をついた 月日のたつのは早いものだ
気づけば 楽屋でおちおち寝てられやしない
- 85 名前: 投稿日:2003/09/27(土) 17:38
- 「ピンク色踊るの私の心」
- 86 名前: 投稿日:2003/09/27(土) 17:38
- 枕元にミカちゃんが立っていた 夢かと思ったらほんとうにいた 思わず「うおっ」と声が出た びっくりして私
は跳ね起きる 「どうやって入ってきたの」 ミカちゃんはハデなサングラスの奥から まっすぐに私を見据え
たまま 黙りこくっている どうやら説明する気はまるで無いらしい 私は困った 怒ってるのか困ってるのか
はたして何の用なのか 何もわからないのだ しかし刺激するのは得策ではなさそうだった ミカちゃんの右
手に 何やら尖った刃物のようなものが握られていたからだ
- 87 名前: 投稿日:2003/09/27(土) 17:39
- 「ゴトウサンハ、ハワイヲドウオモイマスカ」 と ミカちゃんは言った 「えっと、好きだけど」 と私は答えた
別にウソをついたつもりもない ほんとにそう思っただけの話で しかしミカちゃんは何やら不満げに足を踏
み鳴らし 言う 「ハロプロノヒト、ハワイヲバカニシテマス、ユルセナイ」 その時はじめて ミカちゃんの手に
した刃物が 赤黒く汚れているのに気づいた 私は慌てて 言う 「いやほんとしてないよ、好きだよ」 「ウソ
デス」 「ほんとうだよ、ハロプロがバカにしてようがなんだろうが、あたしはハワイが好き」
- 88 名前: 投稿日:2003/09/27(土) 17:41
- 何度か繰り返した結果 ミカちゃんはどうやら信じてくれたらしい 喜んで涙なんか流し始めた 「オナジハワ
イヲアイスルモノトシテ、タタカイマショウ」 「あ、うん、闘おうよ」 と私が答えるやいなやミカちゃんは 私の
右手をつかんで窓から飛び降りる そして物凄いスピードで夜の街を走り出す 私は引きずられながら叫ぶ
「ねぇええどこいくのぉお」 「エェト、ツギハフジモトサンのイエデス」 「えっ」 「イヤーンイヤーンイッテマシ
タ、ユルセナイ」 右手に刃物 左手に私 バイク並みのスピードで引きずられて 体のあちこちを叩きつけな
がらも私は 驚愕する美貴ちゃんの表情を想像して ちょっとわくわくした
- 89 名前: 投稿日:2003/09/28(日) 21:25
- 「破ったら死刑」
- 90 名前: 投稿日:2003/09/28(日) 21:25
- 「日本国民悪口発言全面禁止令」が布かれることになって 私たちの仕事がやりやすくなったかと言えば
全然そんなことはなくて 例えば「今度の新曲すごくよかったですね」 「新曲聞きましたやっぱり最高」 な
どと言われると ほんとかなぁとどうしても思ってしまう そのくせ法律は 日本国民のみを対象としているも
のだから 海外の有名なアーティストの曲を 私の曲を誉めたその同じ口で さんざんに貶したりするのだ
最初こそいい気分だったけど だんだんにうんざりしてくるようになった
- 91 名前: 投稿日:2003/09/28(日) 21:25
- そんな中 久しぶりにやぐっちゃんに会ったので 私はつい愚痴をこぼした 「なんだかたまに貶されないと
誉められても嬉しくないんだよ」 やぐっちゃんはうんうんと頷く 「わかるその気持ち、オイラもそうだよ」
「あ、やっぱやぐっちゃんも」 「当たり前さ」 やぐっちゃんはおもむろにノートパソコンを取り出して 何やらパ
チパチとやりだした 「何それ」 「見ててみ、今立ちあげるから、ほら」 カチッと音がして どこかのホーム
ページが表示された そこには私の悪口がずらっと 「おおお」 「びっくりしたでしょ」 「ねぇ読んでいい」
「ここは見てもしょうがないよ、同じことしか書いてないんだから」と言ってやぐっちゃんは 慣れた手つきでマ
ウスをカチカチと動かす 「ここがいいよ」 カチッという音とともに画面が切り替わる
- 92 名前: 投稿日:2003/09/28(日) 21:28
- ・・・ ゴマキの新曲なんだありゃ 魚も終わったな 超初動型の癖にデイリー4位(プ ごっちんの新曲聴きま
した、すごくよかった ↑バカ 盲目すぎ 俺も思ったごっちんはやっぱり最高 カスのヲタはやっぱりカスだ
な 耳腐ってんじゃねぇの ・・・ 私はひとつひとつに目を通した 「どうよ」とやぐっちゃんが言う 正直ちょっ
と泣きそうになっていた やっぱりこういう悪口のなかに 混じってこそほんとうの誉め言葉だと思った そし
てこんな悪口に囲まれてまで それでも誉めてくれようとするファンの気持ちが なんだか嬉しくて 私は
「バカだねぇ、ファンって」としみじみ呟いた 途端に部屋の電気が全て消え 屈強そうな男たちがドアを蹴
破って入ってくる 「あーあ」とやぐっちゃんがため息をもらす 男たちは無言で駆け寄ってきて 私の両脇を
抱えた 「今のは悪口じゃないんだよぉ」 と 私は叫んだのだけれど なんか腕に注射されて 意識が
- 93 名前: 投稿日:2003/09/28(日) 21:32
- 「got drunk」
- 94 名前: 投稿日:2003/09/28(日) 21:32
- 「生まれ変わるとしたら何になりたいか」という話で 5時間も盛りあがった やぐっちゃんはやっぱりギャルら
しい かなり有名でなければイヤだそうだ カオリは絵描き もしくはえらい人 なっちは本格ミュージシャン
がいいそうだ 話はどんどんふくらんで 誰と付き合いたいだとか 誰の子供に生まれたいかとか やがてカ
オリが酔いつぶれ やぐっちゃんも潰れ なっちがにこにこしながら眠りにつき 起きてるのは私と圭ちゃん
だけになった しばらくまったりしていたが 二人でなんとなく示し合わせたように立ち上がった
- 95 名前: 投稿日:2003/09/28(日) 21:32
- そこらを適当に片して 私たち二人はカオリの家を出る 夜道をたどって駅まで歩く 真っ暗な中を やがて
圭ちゃんがくすっと笑う 「ねぇうち等どこ行くの、電車なんてないのに駅行ってどーすんの」 「さあ」 話は
そこで終わり 私たちはまた歩く ひたすらに 「あれ、駅までこんなに遠かったっけ」 圭ちゃんがいぶかし
げにそう呟く 「どうだろ」 話はまたそこで終わる 駅はまだ見えない なにしろ暗い道だ 1歩先すらも見え
ないような ああまだ酔っ払っているのかもしれない こんなに暗いはずはないのだ
- 96 名前: 投稿日:2003/09/28(日) 21:32
- 「ねぇところで結局、さっきの話で言わなかったよね」と圭ちゃんが言う 「何が」 「いや、生まれ変わったら
何になりたいか、ってさ」 そう言えば私は言わなかった そして圭ちゃんも 「なんで言わなかったの」 圭
ちゃんは まるで独り言みたいに呟く 私も独り言みたいに答える 「だって特にないんだ」 「ふぅん」と言っ
て圭ちゃんは 何事もなかったように空を見上げて 言う 「今日はすごい晴れてるね」 見上げるとそこには
満天の星 「すげー」 「プラネタリウムだ」 私たちはしばらく立ち止まって 星に釘付けになる 「めずらしい
ね、東京でこんな」と私は嘆息をもらす すると圭ちゃんは大声で笑い出した 私はむっとして にらむ 「い
きなり笑い出さないでって、圭ちゃん酔っ払いすぎだから」 「酔っ払ってんのはアンタでしょ、ここ北海道よ」
言われてみればそう 私たちはカオリの実家に遊びに来ていたのだった 「いや面白いわ」 圭ちゃんはま
だ笑っている 自分だって今気づいたくせにさ
- 97 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/29(月) 00:34
- 「ちらしずし」に泣きました。3レスなのにすごいすごい。
- 98 名前:97 投稿日:2003/09/29(月) 00:35
- ochiがクッキーに残ってました… ヘソ噛んで氏にます。申し訳ない(T^T)
- 99 名前: 投稿日:2003/09/29(月) 19:22
- 「バッド・センス」
- 100 名前: 投稿日:2003/09/29(月) 19:23
- 秘密組織のボスであるところのなっちが とある地下組織のリーダーであるところのカオリに言う 「あんた
んとこのシマ譲ってよ」 「やだよ、なんでカオリが譲らなきゃいけないの」 二人とも男物のスーツなんか着
て 結構ノリノリだ 「なんで秘密組織にシマなんて要るのよ」 「地下組織だってそうじゃん、地下なんだか
ら穴でも掘って住んでろっつー感じだよ」 「はぁーなっちバカじゃないの、地下ってそういう意味じゃないよあ
はは」 「し、知ってるよ、何、ジョークもわかんないの、これだから」 「あージョークだったんだ、つまんない
からわかんなかった」 険悪な雰囲気だ そこに えぇと バーテンダーであるところの梨華ちゃんが やたら
シリアスな顔で口を挟む 「お客さん、じゃあアレで決着をつけたらどうですか」
- 101 名前: 投稿日:2003/09/29(月) 19:23
- 「イチ従業員の癖に生意気だな」 と秘密組織のナンバーツーことやぐっちゃんがぐっと睨む おびえて後ず
さる梨華ちゃんを マスターであるところのよしこが庇うように前に出る 「ウチの店で暴れられちゃ迷惑なん
だよ」 「言いやがったな」 と地下組織の特攻隊長的存在であるところの辻ちゃんが立ち上がって 立ちあ
がって えぇと 腕をぐるぐると振りまわす 「やめろ」 鋭い口調でそれを制したのは 秘密組織のアンタッ
チャブル・ジョーカーこと加護ちゃんだ 「あーあ茶番はその辺にしてもらえないですかね」 と 聞こえよがし
に地下組織の 新人ながら期待の超新星的存在であるところの 田中とかいう新人が呟く 「誰に口効いて
んだ」 と 秘密組織のスマッシュ・パンプキンこと紺野がかぼそく怒鳴りつける 「おいおい、ムリすんなっ
てザコが」 と 美貴ちゃんがそれに応じる それから訝しげな顔で 振り返る
- 102 名前: 投稿日:2003/09/29(月) 19:23
- 「なんであたしだけ美貴ちゃんなの」 半切れ口調で言う 「なんか付けてよ、地下組織のなんたらかんた
らってやつ」 「贅沢言うなよ藤本ぉ」 「ていうかあんたっちゃぶるじょーかーって、なんなのぉ」 「田中とか
いう新人ってひどいですよね」 「あたしなんてなんとかパンプキン」 みんなから非難の声があがりだす
「つーかみんなウルサイ、今あたしの話だから」 と美貴ちゃんはよりによって ナレーターであるところの私
の腕をつかむ 「ほら、カッコいい名前つけてよ」 ああ 劇が台無しだ 「誰のせいだと思ってんのよ」
- 103 名前: 投稿日:2003/09/29(月) 19:38
- 「カオえもん」
- 104 名前: 投稿日:2003/09/29(月) 19:38
- 「カオリ、実はカオえもんなの」 とカオリが言うからには カオリは実はカオえもんなんだろう 「信じてくれた
んだ、よかった」と言って カオえもんはロングコートのポケットからドアを取り出した 「なんか喋ったらノド乾
いちゃった」と開けたドアの向こうは 当たり前のように台所だった そしてカオえもんは冷蔵庫を勝手にあさ
り 牛乳パックに口をつけてごくごくと飲んだ たまたま誰もいなくてよかったと思った カオえもんはふぅとか
言いながら 開けっぱなしのドアから戻ってきた こうなれば信じるほかはなかった
- 105 名前: 投稿日:2003/09/29(月) 19:39
- 「なんか、ポケット、お腹につけてるとかじゃないんだね」と私は言った カオリは首を振って いかにも嫌が
るように 言う 「ダサイじゃんそんなの、やっぱロボットなんだからある程度スタイリッシュじゃないと」 へぇ
そういうもんなのか と思ったその時 ふと私に実感がわいてきた そうだ欲しいものはなんでも手に入るん
だというリアリティ そうしてる間にもカオリは 「取り寄せバッグぅ」とか言いながら 変なバッグからドラ焼き
を取り出して 食べ始めた それって泥棒なんじゃないかと思ったが 逆らっても損なので黙っておいた
- 106 名前: 投稿日:2003/09/29(月) 19:39
- さて困った 出して欲しい道具は山ほどあったのだけれど ヨコシマな使い方ではきっと跳ねつけられるはず
だった 私は頭をフル回転させる カオえもんは呑気にドラ焼きを頬張りながら 「ここって押し入れないんだ
ねぇ」とか言ってきょろきょろしている 泣きながら帰ってくるわけにもいかないしと ちょっと贅沢な悩みにふ
ける私 やがて ひとついいことを思いついて私は 机の引き出しに飛びこんだ 「あれ、どこ行くの」 そん
なカオえもんの声を背に 私は勘をたよりにダイヤルをかちゃかちゃと合わせる 1996 お父さんに会いに
行こうと飛んだ やがてマシンは止まって 勇んで穴から飛び出すと そこはどっかの空き地だった ああそ
うだ私引っ越したんだっけと思った瞬間 およそ10メートル ちょうど引き出しとおなじ高さから 私ぐしゃりと
- 107 名前: 投稿日:2003/09/30(火) 22:28
- 「無題」
- 108 名前: 投稿日:2003/09/30(火) 22:28
- 頭からキノコが生えてきた ので 刈り取ることにした 「刈り取らなくてはアイドルとしてやっていけない」と
言われたからだ さくっと包丁で根元からいった 痛みはなかった 私は刈り取ったそれを 夕食どきに圭
ちゃんの家に持って行った そして松茸だと言い張った 翌朝 携帯の履歴は 圭ちゃんからの着信で生め
尽くされていた やばいと思ったその時 怒り狂った圭ちゃんが部屋へ飛びこんでくる そうしてキノコだらけ
の顔で怒鳴る 「ちょっとどうなってんのよ、体のあちこちから変なキノコが生えてきたんだけど」 根元から
刈り取ればいいと思った
- 109 名前: 投稿日:2003/09/30(火) 22:28
- そこに市井ちゃんが来て 言う 「根元から刈り取ればいいじゃん」 私はもっともだと思ったのだが 言われ
る前に言われたのでむかついた だから 「バカじゃんそれじゃなんの解決にもならないよ」と言った 圭ちゃ
んは腕を組んで「刈っても生えてくるんだよ」と泣き声で言った 「ほら」と私は鼻で笑った 市井ちゃんは憤
懣やるかたないといった様子で私に向き直った 「つーかオマエ感じ悪すぎだろ」 お前もだろうと思った
- 110 名前: 投稿日:2003/09/30(火) 22:28
- 「だって無限に生えてくるキノコをいちいち刈り取ってたらキリがない」と私は主張し 対して市井ちゃんは
「そんなもんムダ毛みたいなものなんだから別にいいじゃん毎日のお手入れだよ」と主張した 「地球がキノ
コで埋め尽されたらどーすんの」 「そんなもん食えばいいだろ」 「食ったら生えてくるでしょ、バカ」 「つー
か元はと言えばお前が」 白熱してきた市井ちゃんと私は 取っ組み合ってごろごろと転がった いつのまに
か来ていたよしこが 本棚から勝手にドラえもんを取りだし 読みながらなげやりに呟く 「じゃあ圭ちゃんご
と宇宙に飛ばせばいいよ」 それもそうだなとみんな納得した さっそくロケットの手配のため紺野に電話す
る 紺野は大喜びで 「ちょうど試作品があるんです」と言った そして圭ちゃんはキノコもろとも宇宙へと飛
んだ 市井ちゃんがぽつりと「圭ちゃん、星座になれるといいな」と呟いた それには三人全く同感だった
きっと圭ちゃんも同感だった
- 111 名前: 投稿日:2003/10/01(水) 23:10
- 「桃から生まれた」
- 112 名前: 投稿日:2003/10/01(水) 23:10
- あるところに おじいさんとおばあさんがいました その二人をモニターで監視しながら 「行動パターンはつ
かんであんねん」と裕ちゃんが言います 「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に、それも毎
日」 言いながら裕ちゃんはふふっと笑います 「判で押したような毎日、ぶち壊したくなるわ」 私にはなん
とも言いようがありません だから黙っています 裕ちゃんの指はトントントントントントントントンとすさまじい
スピードでテーブルを叩きます 裕ちゃんが苛々したときの癖です そしてその視線はモニターに釘付けで
す 繰り返しばかりの生活に 何か忌まわしい思い出でもあるのでしょうか
- 113 名前: 投稿日:2003/10/01(水) 23:11
- 裕ちゃんはおおきな桃を持ってきて 私に入れといいました 私は首を横に振りました 「そうか」と言って裕
ちゃんは 例のスイッチを手にしました 途端に私の体はびりびりびりびりびりびり 私はがまんが出来なく
なって 「ごめんなさい、やっぱりあたしやります」 と言いました 裕ちゃんは満足げに笑いました 「よし、
息は出来るから安心せぇ」 と言って 裕ちゃんは私を というか私の入った桃を 川へ放りこみました 次に
目が覚めたのは モニターに映っていたあの家でした そして目の前には これもモニターで見たふたつの
顔 おじいさんが包丁を片手に 戸惑ったように言います 「なんじゃこの子は」 おばあさんもびっくりしてい
るようです 私は仕方なく一歩前に出て ぺこりと頭を下げました
- 114 名前: 投稿日:2003/10/01(水) 23:11
- 「ええと、後藤です、うしろのふじと書きます」 私は顔をあげます おばあさんが呟きました 「あらま、可愛
い子じゃのう」 いやあそれほどでもと言いかけて ふとその口元に浮かぶ いやな笑いに気がつきました
おじいさんも悪そうな顔で言います 「こらぁ高く売れるんじゃないか」 案の定です 鬼退治どころではあり
ません 強引に連れていかれた先は ヒラオさんとか言うおじさんの家でした ヒラオさんは私を見て 言い
ます 「ほほう君かねデビューしたいというのは」 違いますとも言えませんが そうですなんてもっと言えま
せん 煮え切らない私に苛々したのか 私はまた違うところに売られていきます そうして たらい回しにさ
れて気がつけば 私は 汚いお寺で歌わされています 「腹から声出すんだよっ」 と 眼鏡のおじさんが神
経質に怒鳴るのです 誰か 助けてください 裕ちゃんでも 誰でも
- 115 名前: 投稿日:2003/10/02(木) 22:55
- 「きもだめし」
- 116 名前: 投稿日:2003/10/02(木) 22:55
- 「きもだめし、しようか」と言ったのが梨華ちゃんだったか それともよしこだったか 私には思い出せないの
だが とにかく私は独りで 真っ暗な道を歩いているのだ ルールは簡単 一本道を突き当たりまで歩いて
お地蔵さんがあるのでタッチして 帰ってくる その時証拠として お供え物を持って帰らなくてはいけない
ちなみにこのバチあたりなルールは やぐっちゃんの提案だった しかし私は困った お地蔵さんまで着いた
のは着いたのだが お供え物どころかお皿もないのだ かわいそうなお地蔵さんはどこかで見た顔だった
- 117 名前: 投稿日:2003/10/02(木) 22:55
- 帰り道は慎重に辿った 木がガサッと音を立てたり 悲鳴のようなものが聞こえたりして ぜんぶ気のせい
かもしれないし そうじゃないかもしれなかった どうせ誰かが驚かそうと 待ち伏せしてるに決まってる そ
んな思いで私は ゆっくりゆっくり身構えながら歩いたのだが 特に何も無く呆れるほどあっさりと 集合場
所に戻ってきてしまった ところがなんとそこには誰もいない 一番手の私が戻ってきてから 二番手の誰だ
かが出発するはずだったのに 「おーい」と呼んでみるも返事はなく あたりには人の気配すらしない どう
やら勝手に解散されてしまったらしい 私は怒ろうと思って携帯を取り出した
- 118 名前: 投稿日:2003/10/02(木) 22:55
- 「あ、ごっちん」と震える声で梨華ちゃんが言う 「あ、じゃないよ、何帰っちゃってんのねぇ」 「だって驚かし
に行った背中とお地蔵さんが矢口さんのバチ当たりによっすぃが乗っててごっちんって言うから」 と言って
梨華ちゃんは泣き出した わけのわからない言葉でごまかそうとしてるのかと 思ったのだが どうやら梨華
ちゃんはほんとうに混乱しているみたいだった 「バチが当たったんだよ、バチが」と梨華ちゃんが泣き声で
繰り返す 「お供えものなんて持ってきちゃったから」 ああなるほど と私は思った そして言う 「あたしを
驚かしに来たやぐっちゃんとよしこが、あたしの背中にお地蔵さんが乗ってたって言ったのね」 「うん、それ
で怖くなって、二人とも逃げてきたんだって、それでみんなも怖くなって、逃げたの」 私は振り返る そこに
は例のお地蔵さんが 暗やみの中にぽつんと ひとり寂しげに立っている 「ごっちん平気なの?」 私は無
言で電話を切った だって持ってくるものがそれしかなかったんだと 言ってしまうにはもったいない気がして
- 119 名前: 投稿日:2003/10/03(金) 17:38
- 「かくれんぼ」
- 120 名前: 投稿日:2003/10/03(金) 17:38
- 「かくれんぼ、しようよ」と言ったのが梨華ちゃんだったか それともよしこだったか 私には思い出せないの
だが とにかく私は独りで 押し入れの奥に潜んでいるのだ 新垣の親戚の別荘とやらはやたらに広く 部
屋も10個やそこらじゃきかなかった だから隠れる場所は無数にあったのだが いざ隠れるとなるとどこも頼
りなくて 結局私が選んだのは 押し入れの中というありがちな だからこそ盲点という場所だった 布団が
積まれてる中にもぐりこんで 最初こそ隠れてる人っぽく 息なんか殺してみたんだけど その内なんだか緊
張もほどけてきて それと同時になんだか 布団がふわふわして気持ち良くなってきた
- 121 名前: 投稿日:2003/10/03(金) 17:39
- 「押し入れの中で寝てるなんてドラえもんみたい」と誰かが言った 私は答える 「私はドラえもんじゃない
よ」 誰かはくすっと笑った 「じゃあその証拠を見せてよ」 私は軽くむきになる 「私はロボットじゃないし、
ネズミだって怖くないし」 「それはどうかな」という声とともに 無数のネズミが天井から降ってくる 「うっ」
嫌な感触がする ぼとぼとと肩や頭の上に落ちてきて 積もり 私の体をうめ尽くす 無数のネズミ 「ほら
怖くないんだろ、なあ」 「こ、怖くないよ」 「じゃあ目ぇ開けなよ」 ネズミはなんだか体のあちこちを這い
回って 服の中にまで入ってきて あんなところや こんなところにまで 「ほら目開けてみなよ」 「うぅうう」
- 122 名前: 投稿日:2003/10/03(金) 17:39
- 「全然目ぇ覚まさないね」 「くすぐっても駄目か」 「ねぇもしかして死んでるんじゃないの」 「やめなよそん
な」 「ていうかさっきからみんなごっちんに無茶しすぎ」 「かくれんぼで寝てる方が悪いんだよ」 「こんなと
こ弄ってみたりして」 「うわー、やらしぃ」 「うっ」 「わーびっくしたー」 「ね、起きたかと思った」 「ていうか
起こすためにやってるんでしょ」 「どうやったら起きんだろ」 「じゃあコレ使ってみる?」 「キャハハ、なんで
持ってんだよそんなん」 「な、なんにつかうの」 「はいはいとぼけない、そこ」 「で、どうすんの、コレって」
「えっとねーここにこうやって、こう」 「なんかドキドキしてきた」 「じゃスイッチ入れるよー」 「うぅうう」
- 123 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/03(金) 22:57
- こわいよ…
- 124 名前: 投稿日:2003/10/04(土) 18:18
- 「ヒステリア」
- 125 名前: 投稿日:2003/10/04(土) 18:18
- 明け方に帰ってきたら 小川が新聞配達をしていた びっくりして私は呼びとめる 「お、小川ちょっとナニ
やってんの」 しかし小川は振り返りもせずに うちのポストに新聞をいれるとチャリに乗り込んで 凄まじい
勢いで前方遥か遠くへ 朝もやの中へと消えていった 私はあぜんとそれを見送る そして携帯を手に取る
『なんか小川が新聞配達してるんだけど』 と打ってから気づいた なんてシュールなメールだろうか くすっ
と笑って私は それをやぐっちゃんに送ることにした それから部屋に戻って一眠りした 起きるとやぐっちゃ
んからの返事が返ってきていた 『聞かなかったことにしておきます オイラへのメールを履歴から削除して
おいてください このメールもです 絶対オネガイ』
- 126 名前: 投稿日:2003/10/04(土) 18:19
- 起き抜けで理解するのに時間がかかった なんじゃこりゃと思いながらも私は 一応メールを履歴から消し
ておいた さて翌朝 朝刊に変な紙が挟まっていた 殴り書きされた文字を 解読するとこうだった 『きのう
みたことはわすれろ さもないと 』 不自然な余白が なにかこう不気味な感じを演出していた 怖く
なった私はやぐっちゃんに電話をかけた 「もしもし、やぐっちゃん」 「ああ、どしたの」 気のせいかそっけな
い声だった 「なんか小川がさぁ、しんぶん」 「ああああああ聞こえない聞こえないぷちっ」 通話は切れて
不気味な感覚だけ残った 私はまた携帯をカチカチと弄る 微妙に震える手で
- 127 名前: 投稿日:2003/10/04(土) 18:19
- 「電波の届かないところにおられるか、電源が入っていないためかかりません」 と言われた メンバー全て
の携帯にかけたのに と言っても 正確には一人を除いてだけども 意を決して私は 最後のひとりに電話
をかける 「もしもし、小川?」 「ああ後藤さん、お久しぶりです」 それは明るい声だった よく考えたら相手
は小川 可愛い後輩なのだ 私の口調は軽くなる 「久しぶりって、昨日会ったじゃん、ほら朝」 「ぷちっ」
と携帯が切れて パタンという音がした 二つ折りの携帯が閉じる音だ それもすぐ後ろから聞こえた 驚い
て振り返る前に もう一度「ぷちっ」という音がした 何かが切れる音だ 何か と言うか それは私の
- 128 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 13:31
- もっとこわいよ…
- 129 名前: 投稿日:2003/10/05(日) 16:49
- 「メランコリア」
- 130 名前: 投稿日:2003/10/05(日) 16:49
- 明け方に帰ってきたら 小川が新聞配達をしていた びっくりして私は呼びとめる 「お、小川ちょっとナニ
やってんの」 「あ、後藤さんおはようございます」と 小川が頭を下げる その表情にはまるで精彩はなく
アイドルとしてのオーラも感じられない 「貯金しておかないと、不安で」と やつれた顔で言うのだ だからと
言って新聞配達はないだろうと 思ったその時 小川が先読みしたように言う 「他にないんです、アイドルっ
てばれずに出来るバイトって」 確かにそれは言えた 今の小川ならばれるどころか むしろアイドルだって
思わせるほうが難しいだろう 伸びきったトレーナー 薄汚れたジャージ まごうかたなき新聞配達少女
- 131 名前: 投稿日:2003/10/05(日) 16:49
- 「わたしそんなに哀れな格好してますか」 と小川が言う えっしてないよと言いかけて 何か違和感をおぼ
えた 小川はさらに続ける 「最近思うんです、わたしアイドルとしてのオーラがないって」 そんなことないよ
と 言うべきなんだろうが 言っちゃ駄目だと私の中の何かが言う 「そんなことないよって、言ってくれない
んですね」 小川は大きくため息をつく それから上目遣いで私を見る この違和感は一体なんだろう とに
かく話を変えようと 私は訊ねる 「小川はどうしてそんなに憂鬱になっちゃったの」 小川は答えずに 無理
やりな笑顔をつくって首だけ振った 私には言えないということなのだろう
- 132 名前: 投稿日:2003/10/05(日) 16:49
- 「あたしもう駄目なんです、どうせあと一年ももたないんです、次のクビはあたしの番なんです」 それはもう
沈んだ口調で小川が呟く そして「えへへへ」と自虐的な笑い声をたてる なんだか怖くなったので 「ま、ま
あ頑張ってよ」と言って 私はその場を離れようとした 「はい、頑張ります」 力なくそう言って 小川はチャ
リに足をかけた その後姿がなんだかとてもかわいそうだった せっかくだからお茶くらい飲んでってもらおう
かなと 言おうとしたその時 小川が振り返る 「駄目なんです、配達がまだ残ってるんで」 それだけ言って
小川は もう振り返らずに朝もやの中へと消えていく ああ 心が読めるんだ そりゃ鬱にもなるよね
- 133 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 20:42
- 小川しゃん…
- 134 名前: 投稿日:2003/10/06(月) 20:51
- 「ヒポコンデリア」
- 135 名前: 投稿日:2003/10/06(月) 20:51
- 明け方に帰ってきたら 小川が新聞配達をしていた びっくりして私は呼びとめる 「お、小川ちょっとナニ
やってんの」 小川は答えるかわりに 妙な目つきで私をにらむ そして言う 「朝帰りですか」 「えっ」 私
はなんとなくどぎまぎした と とつぜん小川は私に顔を近づけてきた 「くんくん、臭いますねえ」 「ちょ、
ちょっとやめてよ」と言って 私は小川を押しのけた なおもつめたい目で小川は じろじろと私を見る まる
で観察してるみたいに 「お酒、煙草、あとは、まあ言いませんけど、とにかくひどい生活ですねえ後藤さん」
- 136 名前: 投稿日:2003/10/06(月) 20:52
- 「あたしは飲んでないし吸ってもいないし」 と 私は精一杯本気な顔を作って言った が小川は鼻で笑う
「駄目ですよ後藤さん、わたしの目はごまかせません」 「うっ」 どうやら小川のほうが本気だった 「いいで
すか後藤さん、人間にとって一番大事なものってわかりますか、わかりますよねえアイドルなら」 「お金?」
と私は答える 「違いますよ」 小川は小馬鹿にした口調で 言った 「それは、健康です」 なんだそんなこ
とかと思った 「安心してください後藤さん、これからはわたしが付いてますから」 小川は自信ありげにそう
言って 笑った 不安になった私は訊ねる 「何をするの」 「何をって、後藤さんの生活を改善するんですよ」
- 137 名前: 投稿日:2003/10/06(月) 20:52
- 「逆らってもいいですけど、事務所に報告しますよ」と脅されて 私は毎朝ジョギングさせられる羽目になった
サボろうにも 小川が配達をしながら メガホン片手に見張っているのだ また 食事のメニューも決められ
仕事終わりは直帰 などなど 小川の管理は徹底していた そして私は日に日に弱っていった ある朝 い
つものようにチャリで起こしに来た小川に 私はついに泣きを入れた 「ねぇ小川もう一ヶ月だよ、そろそろ勘
弁してよ」 「そうですか、もう一ヶ月ですか」 と小川は考え込む 「なら、そろそろいい頃合ですかねえ」
私は頭の中でガッツポーズをとった 「じゃあ最後の仕上げです」 と言って 連れていかれた先は小川の部
屋だった ドアを開けてびっくりした 大小さまざまな健康食品が 山積みにされて 部屋のほどんどを埋め
尽くしている きょろきょろと見まわしながら 私は呟く 「小川はやっぱ気を使ってんだね」 「そうですよ」と
小川が笑いながら おおきな包丁を片手に振り返る 「ずいぶん研究しましたからねえ」
- 138 名前: 投稿日:2003/10/07(火) 21:41
- 「あはははは!」
- 139 名前: 投稿日:2003/10/07(火) 21:42
- なんだか苛々したので私は モーニング娘。の楽屋に乱入することにした パイを片手に 「あ、おはようご
ざいます」という紺野の顔面に ぱぁん 「ごっちん〜」と言って 駆け寄ってくる加護ちゃんを掴んで ぽいっ
「おーごっちん」と言って 手を挙げたよしこを がつん 隅っこで頭を下げている亀井の 首を掴んで どすん
「ど、どうしたんですか」という新垣の 眉毛を ざくっ 「まさかオイラまで」と後ずさる やぐっちゃんの顔を
ごしごし 「な、なっちはごっちん大好き」と慌てて言い出すなっちの 耳を掴んで 「ばーかばーかばーか」
愕然とするみんなを見まわして 私は「あはははは!」と笑った
- 140 名前: 投稿日:2003/10/07(火) 21:42
- さて翌日 反省したので私は モーニング娘。の楽屋に謝罪しに行くことにした パイを片手に 「お、おはよ
うございます」という紺野の顔面に ぱぁん 「ごっちん〜」と言って 駆け寄ってくる加護ちゃんを掴んで ぽ
いっ 「おーごっちん」と言って 手を挙げたよしこを がつん 「ちょっと待ってください」 と亀井が立ちあがっ
て なにやら抗議をはじめる 「反省したので私は モーニング娘。の楽屋に謝罪しに行くことにした、って一
行目に書いてあるんですけど」 なんの話かわからなかったので とりあえず首を掴んで どすん あとは省
略 昨日と同じ 「あはははは!」と笑って 部屋を出る前に小声で呟いた 「昨日はごめん」
- 141 名前: 投稿日:2003/10/07(火) 21:43
- さらに翌日 おもしろいものを見つけたので私は モーニング娘。の楽屋に届けてあげることにした パイを
片手に 「あれ、ごっちんどしたの」と言う梨華ちゃんの顔面に ぱぁん すると後ろから肩を掴まれた そし
てそのまま ものすごい力で羽交い締めにされて 身動きが取れない 辻ちゃんか 「おもしろいものって、
何よ」 と 動けない私に 腕組みをしたカオリが言う 険しい表情だ 私はきょろきょろと楽屋をみまわす
そして梨華ちゃんを指差して 言う 「これのこと、おもしろいでしょ?」 みんなは梨華ちゃんを見た 梨華
ちゃんはまっしろな顔で 「ひどいよごっちん」とか言いながら咳き込んでいる そして数秒後 梨華ちゃんを
のぞく全員が 声をそろえて「あはははは!」と笑った
- 142 名前: 投稿日:2003/10/08(水) 22:33
- 「おやくそく」
- 143 名前: 投稿日:2003/10/08(水) 22:34
- 道重が 「わたしは未来のことがわかるの」 というようなことを 口元だけでぶつぶつと呟いていた 私は
「じゃああたしの未来を教えてよ」 と言った 道重は渋っていた 私はなぜかペパーミント味のガムを取り出
して 「ペパーミント味のガムあげるから教えてよ」 と迫った 「三つ、あるの」 と道重が話し出す 「さい
しょに、怪我するの」 「へぇ」 「それから、殴られて死ぬの」 「で、三つ目は」 「生き返るんだけど、がっか
りするの」 ロクなもんじゃなかった 私は礼を言って道重と別れた
- 144 名前: 投稿日:2003/10/08(水) 22:34
- 収録現場で ライトが落下して私の頭を直撃した 目覚めるとそこは病院のベッド 枕元でマネージャーが
苛々したように 言う 「ああ頑張ってもらわなきゃいけない時なのに、なんてツいてないんだ」 私は軽く
むっとする そして言う 「あたしの心配はしてくれないんですね」 「そういうわけじゃないけど」 「じゃあどう
ゆうわけなんですか」 しばらく刺のある言葉を交換した 声はどんどん大きくなっていった お互いに苛々し
ていたのだろう やがてマネージャーが口をつぐんで立ちあがる 何をするのかと思ったら 枕元に飾って
あった花瓶を掴んで 振り上げた 冗談ですよねと言いかけて やめた 目が完全にすわっていた
- 145 名前: 投稿日:2003/10/08(水) 22:34
- 次に目が覚めると真っ暗だった どうやら何か箱のようなものに 閉じ込められているらしいとわかった そ
れもひどく狭い箱 もう落ちがわかったので 私は慌てることなく拳を思いっきり固め 蓋をがんがんがんが
んやり始めた 隅っこのほうを集中して狙うのがコツだ 不自由な態勢ながらなんとか棺は壊れ 私は外に
出ることができた そこはどこかの和室だった ナントカ葬儀社と書かれた帽子を被った人が 目の前に立っ
て私をあぜんと見ている 私を炉に運ぼうとしてたのだろうが そうはいかない 「生き返っちゃいました」と
私はにっこり笑って 部屋を出ていこうとした が 肩を掴まれた 「予定が、違うの」という声とともに 押し
当てられたスタンガン 意識が一瞬にして遠のいていく 最後に嗅いだのは 微かなペパーミントの香り
- 146 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/09(木) 03:24
- 恐いけど、おもしろい…
- 147 名前: 投稿日:2003/10/09(木) 21:20
- 「誰にも言えない」
- 148 名前: 投稿日:2003/10/09(木) 21:20
- 「あんまり人に言っちゃ駄目だよ」という約束で 辻ちゃんがひそひそと教えてくれた なんでも世の中には
二種類の人間がいて 超能力を使える人間と 使えない人間とがいるらしい 「これはなかなかデリケートな
問題なんですけどね」と 辻ちゃんがとびきり真剣な顔で言う 私は訊ねる 「で、辻ちゃんはどっちなの」
辻ちゃんは途端に肩を落とす 「ののは、むりなほうなの」 私は少し安心する 超能力など使われたらた
まったものではないからだ 例えそれが嘘でも本当でも
- 149 名前: 投稿日:2003/10/09(木) 21:21
- そこへ加護ちゃんがやってきて 言う 「あたし使えるよ超能力」 そしてフトコロから 何やら黒いカードを取
り出した 「なにそれ」と辻ちゃんが言う 「へへ、超能力カードだよ」 少し照れくさそうに加護ちゃんは答え
た 途端に辻ちゃんの目が輝く 「すごい、使って、つかってみてよ」 「しょうがないなー」 と 加護ちゃんが
言うやいなや 辻ちゃんは突然立ち上がって 踊り出した あぜんとする私 辻ちゃんも踊りながらびっくりし
た顔だ 加護ちゃんは笑いながら 言った 「こんな風に、人でも物でも好きなように動かせるんだ、でもカー
ド一枚につき、一日に一回だけしか使えないけど」 踊りやんだ辻ちゃんが 息を弾ませて加護ちゃんに詰
め寄った 「そのカード、ののにもちょうだい」 「駄目だよ高かったんだから」 「いくらなの」と言って辻ちゃん
はバッグをごそごそ 「ののなら、五千円でいいよ」 安いなと思い 私もバッグから財布を取り出した
- 150 名前: 投稿日:2003/10/09(木) 21:21
- 「事務所には黙っといてね」という加護ちゃんに 私は千円札を五枚押しつけて カードを手ににこにこしなが
ら家に帰った 使い道を考えながら ベッドに寝転がっていると眠くなってきた ふと時計を見ると十二時をま
わろうとしている 今日のぶんを使わないともったいない気がした やがてひとついい案を思いついた カー
ドをかざすように持って 言った 「電気よ、消えろ」 しかし何も起こらない おかしいなと思いながらも 今
度は 「スイッチよ、オフになれ」と言ってみた が やはり何も起きない 諦めきれずに私は カードを口にく
わえて見たり 胸に当ててみたり やけくそになって擦ってみたら 黒いマジックが剥がれて 下から出てき
たのはテレホンカード もちろん0まで穴が空いてた
- 151 名前: 投稿日:2003/10/10(金) 23:37
- 「でもヒーローになりたい」
- 152 名前: 投稿日:2003/10/10(金) 23:37
- 「あーあでっけー怪獣攻めてこねーかな」とよしこがおもむろに言う 「へぇ」 私は適当にあいづちを打った
「だってさぁうち等アイドルだよ、アイドルって言ったらみんなのヒーローだよ、でもヒーローっぽいことなんもし
てないじゃん、そもそもヒーローってのは云々」 私は適当なあいづちを打ちながら聞いていた それからよし
このヒーロー談義は実に三十分にも及び なんだかよくわからない方向へと進んでいった 「だからさごっち
ん、今から倒しに行こうよ」と言ってよしこは私の腕を掴んだ 「えっ」 正直話をぜんぜん聞いてなかった私
は なんのことかわからないまま引きずるようにして どこかへ連れていかれるのだった
- 153 名前: 投稿日:2003/10/10(金) 23:37
- タクシーは東京タワーで止まった 見るとタワーをバカでかい牛みたいなのが倒そうとしている 牛というか
怪獣だ あぜんとする私に対して よしこは不敵に微笑んでみせた 「相手にとって不足はないね」 タク
シーを降りたよしこはいきなり巨大化した そしてでかい牛をつかんで投げ飛ばした 投げ飛ばされた牛は
少なくとも5つのビルを壊し 12軒の家を下敷きにした わけもわからず私は叫ぶ 「がんばれ、よしこ」
- 154 名前: 投稿日:2003/10/10(金) 23:38
- それから数時間にわたって よしこは闘いつづけた 半径5キロくらいの建物は全て壊れ ガレキの山になっ
た 私はタクシーの中で応援していた やがてよしこの何とかキックが炸裂して ついに牛はずしぃんと倒れ
動かなくなった 私の目に涙が溢れてくる よしこは地球を救ったのだ ヒーローだ 私はタクシーを飛び出し
またちっちゃくなったよしこと抱き合う 「いやーごっちんを庇いながら戦ったからてこずっちゃったよ」と豪快
に笑うよしこ 確かにタクシーにだけはかすり傷もない 「カッコよかったよ」と私は言う 「いやー」 「まじヒー
ローだね」 談笑しながらタクシーに戻ると 運転手が険しい顔で言う 「ところでお客さん、お金持ってんの」
メーターには24180と出ている もちろん私は財布など持ってきておらず よしこだって巨大化するくらいだか
ら尚更だ 「悪いんだけど会社もどんなきゃいけないらしいから、ちょっと今清算しちゃって欲しいんだよね」
と聞くや否や よしこはまたおもむろに巨大化すると タクシーをぷちっと
- 155 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/11(土) 02:30
- ヒー!てめえ!
- 156 名前: 投稿日:2003/10/11(土) 23:04
- 「鰐」
- 157 名前: 投稿日:2003/10/11(土) 23:05
- なぜか 鰐が 私の部屋に寝転がっていた ベッドの下にいたから 危なく踏むところだった でかいイグア
ナだなと思って 背中を撫でていたら 気持ち良さそうな目をした 調子に乗った私は 皮をむいてあげようと
思った そしてパクっと飲みこまれた というわけで 鰐の中にいる 仕方なく私は 色々な人に電話をかけ
て 言う 「鰐に食べられちゃった、助けて」 なにぶん 朝方の話だけに みんな面白いように即切りしてく
れる 辛うじて紺野だけが 話を聞いてくれた 「そう言えば昔、鰐に飲みこまれた男の小説がありました」
と言って紺野は わけのわからない話をはじめた
- 158 名前: 投稿日:2003/10/11(土) 23:05
- 「鰐の中で男が出した結論は、それを利用して有名になるというものでした、つまり鰐に食べられるというイ
レギュラーを利用して社会的地位を高める云々」 「つまりどういうことなの」 「簡単な話です」 紺野は
熱っぽく宣言した 「後藤さんは、史上初の鰐アイドルになるべきなのです」 あまりにも他人事めいた結論
に 軽くカチンときた 気取られるのはまずいので 私はわざと冷静を装う 「なるほど、さすが紺野はすごい
ね」 「いやそれほどでも」 と 紺野は嬉しそうな声で言った 「じゃあちょっと今夜うちに来てよ、色々相談
したいから」 「わかりました、わたしに任せておいでください」 私はぞくぞくしながら夜を待った
- 159 名前: 投稿日:2003/10/11(土) 23:06
- そして夜 訪れた紺野に 「今、鰐寝てるから入ってきても平気だよ」と電話で告げた ドアが開く音がして
「これが鰐ですか」 と言う紺野の声が聞こえる 「後藤さん聞こえますかぁ」 「うん、聞こえてるよ」 「えっ
と昼間の話の続きなんですけど」 と 紺野が言いかけたその時 私は寝ていた鰐のお腹の 一番敏感そう
な部分を狙って 拳を叩きこんだ たまらず鰐は飛び起きる 怒りにも似た唸り声をあげて 紺野の「ひっ」と
いう声がする 「やっぱ鰐ユニットのほうが面白いよねぇ」と叫んで 私は体をずらした そうすれば もう一人
くらいなら入れるはずだった
- 160 名前: 投稿日:2003/10/12(日) 18:52
- 「二人のアーティスト」
- 161 名前: 投稿日:2003/10/12(日) 18:52
- 「ほら、出来たよ」 と カオリが言う 私はスケッチブックを覗きこむ そこには即興の鉛筆画とは思えない
ほど そっくりな私が描かれていた 私は驚く 「すごい、そっくりだね」 「でもね、これじゃ駄目なの」と カ
オリは眉を寄せた 私はまた驚いた こんなにそっくりなのに 「いくらそっくりに書いても、それじゃ写真と変
わらないわけでしょ、つまり誰が書いても一緒ってことじゃん」 「写真と変わらない絵なんてカッコいいのに」
と 私は言ったのだが カオリはやはり首を振る 「表現ってものがないとアーティストとは呼べないの、ピカ
ソだってシャガールだって、丸写しするからすごいってわけじゃなかったでしょ」 そんなものか と思う
- 162 名前: 投稿日:2003/10/12(日) 18:53
- カオリの言葉には熱が入る 「要するにただ書くだけじゃなくて、表現したいことが伝わらないと駄目なの、
魂っていうか熱意っていうか想いっていうかなんていうか、それって歌も一緒でしょ」 なんだか難しい話にな
りそうな気がした ので私は慌てて口を挟む 「ちなみにカオリは、さっきのあたしの絵で何を表現したの」
カオリは「しまった」という顔になった どうやら何も考えていなかったらしい 私はにやにやしながら 軽い口
調で突っ込む 「ほら、教えてよアーティスト」 するとカオリは下を向いたまま ぼそっと呟く 「あ、愛」
- 163 名前: 投稿日:2003/10/12(日) 18:53
- 「へぇカオリはあたしを愛してるんだ、へぇ」 と 私はことさらに大声で確認する そうしてにやにやとカオリを
見つめる カオリはなぜか照れ出して 赤くなってみたり 「もぅ」とか言って手で顔を覆ってみたり そして手
の隙間から上目遣いをこちらに向けてみたり 大忙しって感じだった 私は その様子を眺めながら スケッ
チブックを手にとって さらさらと鉛筆を走らせる 髪 輪郭 目 鼻 口 耳 眉毛 30秒も経たずに 出来あ
がったのはカオリとは思えない 不細工な顔 カオリが顔を上げる 「ねぇ、何書いてんの」 「カオリを書い
てんの」 私なりのピカソで 「綺麗に書いてくれてるんでしょうね」と カオリはいつのまにか立ち直って
こっちを睨んでいる 私はふふっと笑って 絵の上に大きく 「カオリ愛してる」 と書いた
- 164 名前: 投稿日:2003/10/13(月) 23:13
- 「猿の手」
- 165 名前: 投稿日:2003/10/13(月) 23:14
- 「三つ、願いが叶うらしいんだよ」 と言って 圭ちゃんが取り出したのは 何やらキーホルダーのようなもの
だった 「まあ信じてるわけじゃないけどさ」 と 頭をかきながら圭ちゃんは言う キーホルダーにはよく見る
と 毛むくじゃらの手のようなものが ひっかかるように付いている いかにもうさんくさい代物だ 私は不審
そうにそれを眺めながら 訊ねる 「これ、幾らで買ったの」 「えっと、五千円」 「五千円も出したの」 私は
あぜんとする 照れくさそうに縮こまる圭ちゃん 私はため息をついて 「じゃーなんかお願いしてみようか」
と言った 圭ちゃんが心配そうに 言う 「大丈夫かなぁ」 どうやら実験台として 私にやらせる気で持って
きたらしい 馬鹿馬鹿しいと思いながら私は言う 「最近ロクに寝てないんで、いっぱい寝たいんですけど」
- 166 名前: 投稿日:2003/10/13(月) 23:14
- ふと気づくと圭ちゃんが 「よかったぁ」とか言いながら 私を抱きかかえていた ぼんやりとした頭で私は時
計を見る 朝になっていた 「あんた全然起きないからもう焦っちゃって、お願いごとで起こしてもらったんだ
よ」 と圭ちゃんが言うやいなや 私は跳ね起きる 「ってことは、あれ、もしかして」 「そう、本物みたいね」
と なんでもなさそうに圭ちゃんは言う そして私はもう有頂天だ そう 私を起こすために一個使ったとは
言っても 願い事はもうひとつ残っているはずで 「なんでも出来るじゃん、ほら世界征服とかさ、他にもさ」
と 子供みたいにはしゃぐ私に しかし圭ちゃんは冷静な調子で 言う 「いや、あれは捨てた」
- 167 名前: 投稿日:2003/10/13(月) 23:14
- 「なんで、もったいないじゃん」 私は愕然とする しかし圭ちゃんはあくまで冷静だ 「あんなの人が利用し
てもいいことないと思うし、さ」 と 余裕たっぷりに言って前髪をかきあげる その美しい横顔に 私はしばし
見惚れる やがて圭ちゃんは立ちあがる 「さて、朝だね、仕事行こっか」 玄関を出て 執事に見送られな
がら中庭を横切ると 門の前にはいつもの 黒塗りのロールスロイスが横付けにされて 朝日に輝いている
「あんた先送ってってあげるからさ」 と 優しく圭ちゃんが言ってくれる 私はぶんぶんと首を振る 「何言っ
てんの圭ちゃん、あたしなんか後でいいよ」 とんでもない話だ なんせ圭ちゃんと言えば レギュラー番組
20本を抱える売れっ子大女優だ だから 私なんかは後回しでいいのだ
- 168 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/14(火) 21:51
- うっめーなぁホント。
- 169 名前: 投稿日:2003/10/15(水) 00:05
- 「猫の裁判」
- 170 名前: 投稿日:2003/10/15(水) 00:05
- あまりにも急いでいたので 猫を轢き殺してしまったことに気づかなかった そして ネコ裁判がはじまった
それはこんな具合だ 「にゃーにゃーにゃーにゃーにゃー」 と ネコ裁判長が高らかに宣言する 「にゃー
にゃー」とネコ書記が付け加え 傍聴ネコ席からはにゃーにゃーにゃーと歓声があがる 被告席では運転し
ていたマネージャーが 屈強なネコ・ガード達に両腕を掴まれている そしてネコ裁判長の指示で どこかへ
と連れていかれていくのだ 次は私の番らしい ネコ弁護士さんに導かれるまま 私は被告席へと向かう
- 171 名前: 投稿日:2003/10/15(水) 00:06
- 「にゃーにゃーにゃーにゃー」 ネコ検事が淡々と言う 「にゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃ、にゃーにゃー
にゃーにゃー」 私はしぶしぶ頷く そして付け加える 「でもあたしほんとに気づかなかったんです」 すると
傍聴ネコ席は「にゃーにゃー」とざわつく どさくさ紛れに「にゃーにゃー」とか言ってる奴までいる ネコ裁判
長が「にゃー」と言って机を肉球で叩く 騒ぎはおさまり ネコ検事の話が再開される 「にゃーにゃーにゃー
にゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー
にゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー」 筋の通った弁論に 私は全く反論が出来ない
それはネコ弁護士も同様らしく 頼りなく毛繕いなんか始めちゃって
- 172 名前: 投稿日:2003/10/15(水) 00:06
- 「ストップ」 と 圭ちゃんがさえぎる 「まさかその後もずっとにゃーにゃー続くんじゃないでしょうね」 「しょう
がないじゃんネコ裁判なんだから」 と 私は答える 圭ちゃんは苛々したように頭を掻きながら 言う 「で、
結局どうなったの裁判は」 「なんか、有罪だった」 と 私はちょっと照れながら答える 「そう、じゃ、あたし
明日早いからさ」 と言って ドアを閉めようとする圭ちゃん 「でさ、その判決内容ってのがさぁ、傑作でぇ」
その時 どこからともなく現れた屈強なネコ・ガード達が 圭ちゃんの体を後ろから捕らえた 「うわっえっ
ちょっとあれっこれどうなってんのやめてちょっとはなしてよ」 と圭ちゃんは言う 私は淡々と話を続ける
「なんか圭ちゃんを差し出せって言われたんだよね、ネコ裁判長がさ、圭ちゃんに一目惚れしたんだってさ、
美教Uで」 でもあれってヒョウなのにね と ふふっと呟いたときには もう圭ちゃんは影も形もなくて
- 173 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/15(水) 01:41
- 食ったんだ……
- 174 名前: 投稿日:2003/10/16(木) 00:01
- 「藁」
- 175 名前: 投稿日:2003/10/16(木) 00:01
- 局の廊下で 10円を拾った ちょっとした幸せを感じながら 歩いていくと 衣装姿の辻ちゃんが 自動販売
機の下に 手を突っ込んでいるところへ 行き当たった 「どうしたの辻ちゃん」 と 私は訊ねる 「ああごっ
ちん、ジュース買おうと思ったら10円を下に落としちゃったんだよ」 なるほど表示は確かに110となってい
た 私はにっこり笑って さっき拾った10円をちゃりんと入れてあげた 「ありがとうごっちん、お礼にあげる」
と言って 辻ちゃんはジュースを飲み干さずに 半分残して私にくれた
- 176 名前: 投稿日:2003/10/16(木) 00:03
- 飲みかけのジュースを手に 廊下を先へ進んだ するとさくら組の楽屋から 加護ちゃんがものすごい勢い
で飛び出してきた そして私を見るなり 「ああろっひんほむもんひょうらい」 と言い 私のジュースをひった
くって ごくごく飲み干す 「ぷはー」 と 満足げに加護ちゃんは一息 それから照れくさそうに笑った 「ご
めんね今さ楽屋でさ、あべさんに激辛・杏仁豆腐とかいうの食べさせられてさ、もーほんと辛くて死にそう
だったんだよね」 私はにっこり笑った 「ありがとうごっちん、お礼にあげる」 と言って 加護ちゃんはごそ
ごそとポケットを探ると 一本の綿棒を取り出した
- 177 名前: 投稿日:2003/10/16(木) 00:04
- 綿棒を手に 私は廊下を先へと進んだ するとおとめ組の楽屋の前で 梨華ちゃんがどうも浮かない顔で
何やら耳を弄っているのだ 「どうしたの梨華ちゃん」 と 私は訊ねる 「ああごっちん、なんだか私耳がむ
ずむずするの」 私はにっこり笑って 綿棒を手渡す 梨華ちゃんはしばらくごそごそした後 ふいに晴れや
かな顔になった 「取れたとれた、あーすっきりしたあ」 と梨華ちゃんは自慢げに 綿棒を私にかざすように
見せる 「ありがとうごっちん、お礼にあげる」 と言って 手渡された綿棒の先には 黒いカタマリがゴリッと
乗っかっていて それを私はインターネット・オークションで捌いた とんでもない額で売れた
- 178 名前: 投稿日:2003/10/16(木) 23:27
- 「コピイロボット」
- 179 名前: 投稿日:2003/10/16(木) 23:27
- むくむくと起き上がったのは 赤い鼻をした私だった 鼻以外はほんと呆れるくらいそっくりで 私は感心する
「うわ、そっくりだね」 私は笑う 「だって私はあなただもの」 さて せっかくのコピイロボットだ 私は早速
切り出す 「じゃあ今日の仕事はお願いね」 「ああ、でも明日はあなたの番だかんね」 と言って私は 上
着を羽織ると家を出ていった 私はばふっとベッドに倒れ込んで にやにやした 今日は一日何をしようか
ああこれからは一日おきにオフなのだ あんな夢やこんな夢を描きながら 私はとりあえずぐっすり眠った
- 180 名前: 投稿日:2003/10/16(木) 23:28
- そんなある夜 帰ってきた私の指に 包帯が巻かれていた 「どしたの、それ」と 私は言う すると私はなん
でもないよと言わんばかりに 笑って 「なんか出待ちの人にやられた」 と言った 鋭いもので引っかかれ
たらしい 私はぶるっと身を震わせる 他人事なんかでは全然ないのだ 「おかしい人も多いからね、気をつ
けないと」 さて 翌日 家を出ようとした私を 私が呼びとめる 「ちょっと待って」 「ん、どしたの」 私は眉
をひそめて 「いや、ほらあたし昨日ケガしたじゃん」 「そうだよ、今日はゆっくり休んでな」 「そうじゃなくて
さ、今日のあたしがケガしてないってのは、不自然かなーて」 それもそうだった 「とりあえず治るまではあ
たしが行く事にするよ」 私はそう言って 上着を着て家を出ていく 軽く心配しながら私はそれを見送った
- 181 名前: 投稿日:2003/10/16(木) 23:28
- 指はなかなか治らなかった 私は日に日に元気をなくしていった 連日の仕事で疲れてるのかな なんて
私は軽く見ていたのだけれど そんなある夜 私が真っ青な顔で帰ってきた 服はあちこち破けて あちこち
擦り傷やアザだらけ もうぼろぼろだ 「ストーカーが」と一言残して 私は崩れ落ちた 慌てて抱きとめたけ
れど 私はもう意識を失っていて その目には微かに涙の跡まで見えて ああどんなひどいことをされたんだ
ろうと 胸を痛めながら私は 鼻のボタンを押す しゅるしゅると音がして 手元に残ったのは人形 さらにも
う一度押すと むくむくと起き上がったのは 赤い鼻をした私 ほんのワンタッチだけで 傷は綺麗に消えて
いた 私は感心して 言う 「すごいね」 私はにっこりと笑い 答える 「だって私はあなただもの」
- 182 名前: 投稿日:2003/10/17(金) 21:46
- 「居酒屋の帰り道にて」
- 183 名前: 投稿日:2003/10/17(金) 21:46
- アイドルの顔を利用してボディチェックを免れたソニンが 国会議事堂に侵入して 閣僚15名を人質に取った
というニュースが 6時のニュース速報でながれた 要求は 「オチがないのに長い話を法律で禁止にしろ」
という単純明快かつ 破壊力もあり しかも表立っては反対し辛いという 要求のお手本のようなものだった
とりあえず9時には機動隊が突入して なんとか人質は開放されたものの ソニン発言は波紋を呼び イン
ターネットや女性誌 各種メディアで取り上げられ 朝まで生討論されたりもして そうなると不思議なもので
世間では 擁護意見もちらほら見えはじめて
- 184 名前: 投稿日:2003/10/17(金) 21:46
- 「最近の子は甘やかされて育ったせいか 自分の話には誰もが興味を持つはずだと 思いこむ傾向にある
だからオチがなくても 長くても 平気なのだ」 と ナントカ大学の教授が発言し 「いやーソニンちゃんの行
為はね、誉められることじゃないですけど、それでも気持ちは分かりますよ、最近の若い女ときたら云々」
と ヅラ疑惑のかかっている朝の番組の司会者が 吐き捨てるようにぼやく そうこうしてるうちに世間で ソ
ニン擁護派はぐんぐんと割合を伸ばし いつか世論の過半数を超え それを受けるかのように 黒柳テツコ
は引退に追い込まれ 小説家たちは次々と自殺を図り 打ち切りになるドラマは多発し それからそれから
- 185 名前: 投稿日:2003/10/17(金) 21:47
- 「ほんと最近やりづらいよ」 と やぐっちゃんがげっそりした顔でぼやく 「ラジオもほとんど歌しか流せない
しさ、ちょっとでも長く喋ると抗議の電話で回線がパンク」 はぁ とため息をつくやぐっちゃん 「でもレギュ
ラーがあるだけまだいいじゃん」と 私は言う 「まあそうなんだけどさぁ」 と ふいにやぐっちゃんの携帯が
鳴る 「ごめんね電話だ、あ、もしもし裕ちゃんか」 電話口の向こうで 愚痴を言ってるらしい裕ちゃんを や
ぐっちゃんは丁寧に宥めているようだ 「じゃあ今から行くよ」と言ってやぐっちゃんは電話を切った 「ごめん
行かなきゃいけなくなった」 ここんとこ毎晩なんだよね とやぐっちゃんは苦笑い 私も笑って 手を振って
別れた みんな大変なんだよなと あらためて思った帰り道 ふいに私の携帯が鳴った 梨華ちゃんから
だった 「ねぇ、国会議事堂って、どこにあるんだっけ」
- 186 名前: 投稿日:2003/10/19(日) 00:00
- 「おまかせ」
- 187 名前: 投稿日:2003/10/19(日) 00:00
- 「最近、肩が重い」 と 圭ちゃんが言うので 「何かに取り付かれてたりして」 と 私は冗談のつもりで答
えた 圭ちゃんはマジな顔のまま 「それってどうしたらいいかな」 などと言い出して どうやら本気で困っ
ているらしく 冗談が冗談に聞こえない状態のようで それはそれで面白かったので 私は 「除霊しかない
よ圭ちゃん」とか言って そしたら圭ちゃんは圭ちゃんで 「除霊しかないか」 なんて大真面目に頷いて
「でも除霊って危険らしいよ、命にかかわることもあるらしいし」 と 私は適当に言ってみたり 「じゃあさ、
どっかしっかりしたとこ紹介してよ」 と 圭ちゃんが言うので タウンページを適当にぱらぱらめくって 一番
上にあった霊能事務所を教えてあげたり 付き添ってくれと言われたので 面白そうだから付いて行ったり
- 188 名前: 投稿日:2003/10/19(日) 00:00
- 「あなたに憑依しているのはウサギの霊です」 と インチキくさいおばちゃんが大真面目に語った 「ほっと
くと大変なことになりますんで、除霊をお勧めしますけど、どうですか」 おばちゃんは霊の恐怖を 立て板に
水とばかりにまくしたてた ほのかな関西訛りはどことなく裕ちゃんをイメージさせた さて圭ちゃんはもうか
わいそうに 羊のように怯えきっていた 「わ、わかりました除霊お願いします」 なんて 震える声で言うの
だ 「では始めます」 とおばちゃんは 指を立てたり ぶつぶつ呪文をとなえたり 子羊圭ちゃんは正座した
まま震えていたり 私はあくびを噛み殺したり そのまま時間が経ったり 経たなかったり
- 189 名前: 投稿日:2003/10/19(日) 00:01
- やがて待ちくたびれた頃 ずぞぞぞぞぞぞぞ という感じで 圭ちゃんの肩のあたりからほんとにウサギが出
てきた あらほんとに憑いてたんだ なんて感心してたら おばちゃんが苦しそうな顔で 口を開く 「どうやら
除霊に成功しました」 しかしウサギはどう見ても まだ体半分しか出てきていないのだ しかし圭ちゃんも
圭ちゃんで 「そう言えば肩が軽くなったような」 とか言って立ち上がる 「そうでしょう」 と インチキおば
ちゃんが笑う 「いやほんと助かりました」 と 肩にウサギを乗せたまま 圭ちゃんも笑う そして 除霊を免
れたウサギも 笑う 「あはははははははははははははははは」 私は 笑えない
- 190 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/19(日) 21:16
- こわい… ソニンの話いいな。好きだな。
- 191 名前: 投稿日:2003/10/20(月) 02:04
- 「悪戯心」
- 192 名前: 投稿日:2003/10/20(月) 02:05
- 「もしさ、のんの目がいきなり見えなくなったら、ごっちんどうする」と 辻ちゃんがふいに言い出した 私はま
じめな顔で 答える 「盲導犬を」 「そんなんじゃなくてっ」と 辻ちゃんは怒ったように 私の言葉をさえぎっ
て 手をばたばたさせる 「もっと、こう、あっ、じゃあさ、のんの足が無くなったとしたら、どうする」 私は首を
かしげてから 言う 「車椅子を」 「いやだから違うの、クルマイスとかじゃなくてさ」 もどかしそうに辻ちゃ
んは身をよじらせ 私は笑いを堪えながら それをじっと眺める 言って欲しいことはわかってたけど なんだ
か微笑ましくて ちょっと意地悪したくなる 辻ちゃんは「むぅ」とか言いながら 悩んでる様子だ
- 193 名前: 投稿日:2003/10/20(月) 02:05
- そこへ加護ちゃんがやってきて おもむろに言い出す 「あのさごっちん」 「なに」 「もしさ、あたしの目がい
きなり見えなくなったとしたら、どうする」 やれやれこっちもか と仕方なく私は まじめな顔をつくった 「盲
導犬を」 「いや、そういうことじゃなくてさぁ」 加護ちゃんは静かに首を振った そしてやけに冷静な顔で続
ける 「じゃあ足が無くなったとしたら」 なんだか調子が違った 私はちょっと戸惑う 「うーん、義足を」 「あ
あ、ギソクとかなんだ、ごっちんにとってあたしはギソクとかで済まされちゃう感じなんだ」 加護ちゃんは冷
たくそう呟いた 辻ちゃんも冷え切った目をして 「しょうがないよあいぼん、うち等なんてそんなもんだよ」
ため息まじりでそんなこと言われて 私はなんだか納得がいかない
- 194 名前: 投稿日:2003/10/20(月) 02:06
- 「じゃあ二人はもし、あたしの目が見えなくなったらどうすんの」 と 怒り気味にたずねた すると加護ちゃん
は笑いながら 「ワカラナイ」 と言って 辻ちゃんも笑いながら 「ワカラナイヨネ」 と言って 二人で顔を見
合わせると 笑いながら 「ジャア、ジッケンシテミヨウカ」 と 声を揃えて言った それから辻ちゃんは素早
く かつ力強く私の体を押さえつけ 加護ちゃんが慣れた手つきでタオルを私の目に巻く それはあっと言う
間の出来事だった まっくらで しかも身動きがとれない私 加護ちゃんの声がした 「ツギハ、ナンダッケ」
「アイボン、ツギハ、アシガナクナッタラ、ダヨ」 「アシカァ、マイッタナ」 「ドウシヨウカ、アシ、ドウシヨウカ」
「オット、ミテゴラン、ノノ、アンナトコロニ、チョウド、ノコギリガアルヨ」
- 195 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 06:22
- ヽ( 'v`)人(`ロ`)ノ コワイヨコワイヨカタカナコワイヨ
- 196 名前: 投稿日:2003/10/20(月) 19:25
- 「ドキドキハートの」
- 197 名前: 投稿日:2003/10/20(月) 19:26
- こないだ 辻ちゃんと長電話してて なんとなく聞いてみた 「辻ちゃんはどんな人が好きなの」 すると辻
ちゃんは ちょっと照れながら 「視野の大きい人が好き」って言いました なるほど視野の大きい人になれ
ば 辻ちゃんに好かれるんだな というようなことを私はぼんやりと考えた そしてこう言った 「じゃあさ視野
の大きい人にだったら、辻ちゃんはチューされてもいいの」 我ながら意味のわからない発言だった 眠かっ
たからなのかもしれない 辻ちゃんは呆れたように 「もう、ごっちん、知らない」と言って電話切りました
- 198 名前: 投稿日:2003/10/20(月) 19:26
- 辻ちゃんは照れていたのか どうか 知らないけど 電話を切った時の その声がもう非常に可愛くて 耳に
ついて離れないんです というわけで それからと言うものの 私はもう寝ても覚めても 頭のなかは辻ちゃ
んのことばかり 胸がピコピコ高鳴ります さて 私は今 歯を磨きながら おとめ組とやらの楽屋で 女神
の帰りを待っているわけです シミュレーションは完璧 捕まえて チューしてチューしてチューしまくるという
我ながら 完璧な計画
- 199 名前: 投稿日:2003/10/20(月) 19:26
- だったのに 何故か辻ちゃんは 私に近寄ろうとしない 警戒しきった上目遣いで 「なんかごっちん気持ち
悪い」 とか 意地悪なこと言うのだ カオリとか梨華ちゃんとかが へらへら笑ってるので 私は懐から取り
出した麻酔銃を 一発 二発 すると誰かが大声で 「たいへんごっちんがおかしくなった」 と言ったので
そちらにも一発 誰かが後ろから私を 押さえつけようとしたので 一発 それから弾切れになるまで 私は
襲ってくる敵相手に 冷静に 正確に 右に 左に 後ろに 銃を撃ちつづけた そして気づくと辻ちゃんは
私の膝の上で 安心しきったように眠っている 視野が広いところを見せちゃったせいか 無防備な唇を私に
向けて すやすやと 眠っているのです これはもう ねえ どうなの
- 200 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/25(土) 06:14
- 「…後藤しゃん…」
- 201 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/31(金) 18:07
- 作者さんがんば
- 202 名前: 投稿日:2003/11/04(火) 00:06
- 「へんな夢」
- 203 名前: 投稿日:2003/11/04(火) 00:07
- 一枚の肖像画があった 描かれていた少女 それはまだ加入した当時の私 13歳の 精一杯の笑顔がそ
こには閉じ込められている 誰が描いたか知らないが 私はなんだか感動した いつまでも見て居たいと
そんな気持ちになれた
- 204 名前: 投稿日:2003/11/04(火) 00:07
- 「わたしが書いたんです」 と背中から声がした 私は振りかえる そこにはどこかで見たことのある顔が
笑っていた 端正な顔立ち 少年のような瞳 ああその顔は確かにどこかで 見たことがあるのだけれど
思い出せない 「如何でしたか、もっともっと見て居たいと、そんな気分になるでしょう」 私は頷いた 女は
にっこりと笑って 指を立てた 「ならば、その願いをわたしが、叶えてあげましょう」 途端に私の足は まる
で地面に釘付けにされたように ぴくりとも動かなくなってしまった そして正面には あの絵
- 205 名前: 投稿日:2003/11/04(火) 00:08
- 「ああ後藤、お前はこのまま石になるんだよ」 と 女が私に頬擦りをしながら ねちっこい口調で言う 「そう
すれば、わたしの後藤コレクションも完成するんだ」 なるほど と思った 部屋は確かに肖像画からはじま
って 私の人形 私のシール 私のポスター 私のカレンダー 他にも私の使用済みのアレとか コレとかで
溢れていた 「市井ちゃんはやっぱり変態だったんだね」 と私は 下半身石になりながら 言った 市井ちゃ
んは涎を垂らしながら 笑った 「ああ、もっと、言ってくれ」
- 206 名前: 投稿日:2003/11/04(火) 00:09
- 「えちぜんさん」
- 207 名前: 投稿日:2003/11/04(火) 00:10
- 梨華ちゃんと よしこが 楽屋で揉めていました 私が入っていくと 二人 同時くらいに振り向いて 「ごっち
んいいトコに来た」 と 声をそろえて言う 「なに、どしたの」 「それがさぁ」 「それがねぇ」 と 二人また
同時くらいに喋り出して 睨み合ったりして それを私は宥めたりして 聞き出した事情はこうだった どうや
らよしこが 梨華ちゃんに頼まれて香水を買ってきて それはいいけど お釣りを払わないとのこと 「だって
ぴったりだったんだよ」 とよしこは怒る 「ウソ、わたし定価知ってるもん、六千円くらいのおつり、あるはず」
と梨華ちゃんは半泣きで言う 「よし、じゃあここはあたしに任せなさい」 と私は胸を叩く
- 208 名前: 投稿日:2003/11/04(火) 00:11
- しばらく考え 私は 指を立てた 「判決、よしこは、梨華ちゃんと私に二千円ずつ払いなさい」 「えぇ」 合
点が行かない顔の二人 私はゆっくりと説明した 「そうしたら、梨華ちゃんはとりあえず、戻ってこないはず
のお釣りが二千円戻ってきたから、二千円の得、よしこも六千円のところが四千円で済むから二千円の
得、それからあたしも二千円の得」 私は得意げに笑った 「なんと、みんな二千円ずつの得になるわけよ」
二人はしばらくぶつぶつと頭をひねっていた が やがて納得したらしい 「なるほどぉ」 「さすがごっちん、
頭いいね」 「まぁね」と笑って私は 財布に二千円をしまいながら 立ちあがった 長居は無用だった
- 209 名前: 投稿日:2003/11/04(火) 00:13
- 翌日 二人はまた揉めていました ので 事情を聞いた 実はよしこは香水を 加護ちゃんに頼んで買って
きてもらったそうな そして お釣りを間違えたことに気づいた加護ちゃんが 昨日返しに来たらしい 「という
わけで、これがあるんだよ」 とよしこは 六千円入りの封筒を取り出した 「でもこれをどう分けようかで困っ
てるんだ」 よしこが腕組みをする 「どうにも計算が合わなくて」 と梨華ちゃんも眉を寄せる 当たり前だ
と私は思ったが 顔には出さずに 「ここはあたしに任せなさい」 と言った そして封筒から 二千円をよしこ
に 二千円を梨華ちゃんに それぞれ渡した 合点がいかない顔の二人 私は指を立て ゆっくりと喋り出す
「よしこは昨日四千円払ったから、これで二千円の損、梨華ちゃんは四千円しか戻ってきてないからこれで
二千円の損、今四千円払ったあたしも二千円の損、なんと、みんな二千円ずつの損に・・・」
- 210 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/04(火) 19:51
- お帰りー
- 211 名前:210 投稿日:2003/11/04(火) 19:52
- ほんとにすいません
- 212 名前: 投稿日:2003/11/07(金) 23:35
- 「バカだから」
- 213 名前: 投稿日:2003/11/07(金) 23:35
- 楽屋では 中学生の子達が 一生懸命勉強をしていた それを端から見ながら 辻ちゃんと加護ちゃんが
何やら感慨深げに呟いていた 「ああ、なんで人は勉強なんかしなきゃいけないんだろうね」 「ね」 「数学
なんて、大人になれば何の役にも立たないのに」 「そうそう、xがどうしてyがこうしたなんて、何の役にも立
たない」 「それなのに」 「ああ、それなのに」 聞こえよがしに ぶつぶつと呟く二人 煩わしそうに眉をし
かめながら 無言で勉強を続ける中学生たち なんだかシュールな光景だった
- 214 名前: 投稿日:2003/11/07(金) 23:35
- しばらくの間 二人は呟きつづけた やがて 「そうだよ、なんで勉強なんてするんだろう」 と立ちあがった
のは 何の関係もないよしこだった 隣に居た梨華ちゃんも ついにはうんうんと頷き始め 「やめちゃいなよ
勉強なんて」 とか言い出す始末で もちろん 中学生チームは そんな言葉には誰も耳を貸さずに カリカ
リ勉強していたのだが 「勉強する意味もわからないで勉強なんて」 「そんなの悲しすぎる」 「つーか意味
ないよね」 とか あまりにもうるさいので ついに田中が立ちあがって 言った 「つーか別にウチら、すきで
やってるわけじゃないんで」 そして肘をつき ふてくされたような顔で 田中はノートを差し出す 「宿題なん
ですよね、コレ」 それから 無表情になって ぼやく 「ああ、誰か手伝ってくれれば、早く終わるのになぁ」
- 215 名前: 投稿日:2003/11/07(金) 23:35
- ちょっとの間があって よしこが口を開いた 「所詮中2の問題だろ、あたし達が手伝ってやるよ」 梨華ちゃ
んが鼻で笑いながら 「つーか田中、もしかしてウチらを舐めてるでしょ」 と続いた 田中は答えずに じっと
口を結んで 四人を見据えている 加護ちゃんが眉をあげて 「しょうがないな、お姉さんがやってあげよう」
と笑いながら 言った そして もちろん誰も ノートに手を伸ばそうとしない 田中は未だ無言で 四人を見
つめつづけ 開かれたノートを ぼんやりと眺めながら 辻ちゃんが思い出したように 口を開く 「つーか、な
んで勉強しなきゃいけないのか、っていう答えがまだ、出てない」 「あ、そうだ」 と加護ちゃんが続いて 梨
華ちゃんも頷き よしこが残念そうに 首を振って 「それじゃ勉強に手を貸すわけにはいかないな」 あはは
ははと笑う四人 さめた目の田中 なんで勉強しなきゃいけないのか 答え知ってたけど 私 黙ってました
- 216 名前: 投稿日:2003/11/07(金) 23:38
- 「なげやり」
- 217 名前: 投稿日:2003/11/07(金) 23:39
- 「百物語、しようぜ」と言ったのが梨華ちゃんだったか それともよしこだったか 私には思い出せないのだが
とにかく私は独りで みんな相手に怖い話をしているのだ 大体 よく考えれば いやよく考えなくても 百個
も物語を語れるはずがなくて 案の定十を数えたあたりからグダグダになってきて あげくに梨華ちゃんとき
たら 長々と話したあとにオチを忘れたとか言い出すし よしこに至っては 「ああそれ知ってる、ドアの隙間
から覗いてるやつでしょう」なんて 話の途中でオチを言っちゃう始末だ 自然と雰囲気も悪くなる 誰も話さ
ないので仕方なく私が さっきから連続で話をでっちあげているのだが それももうそろそろ限界だった
- 218 名前: 投稿日:2003/11/07(金) 23:39
- 「それでね、そのお坊さんに聞いたら、実はそこって昔事故でひとが死んだ場所だったんだって」 「うわぁま
じかよ」と やぐっちゃんが大袈裟に呟いてくれた それを受けてみんなも 「こわーい」 「祟りだねぇ」 など
と言っている ここ数回全く同じ おざなりなリアクションが続いている 私はため息まじりで蝋燭を吹き消し
た 「今いくつになった」 「えっと、これでちょうど50かな」 げっそりした これでやっと半分とは
- 219 名前: 投稿日:2003/11/07(金) 23:39
- 「もういいんじゃないの、キリのいいところで」と 言おうと思って止めた 誰かが言うだろうと思ったからだ し
かし誰も口に出さない とっくに飽きてるはずなのに みんなあとちょっとの勇気が足りない 仕方なく私は
口を開く 「ねぇ、50まで来たけどさぁ」 気持ち悪いくらい同時に みんなが私を振り向いた 「これさ、まだ
続けんの」 誰も答えない 誰もなんにも言わない 不気味なほど黙りこくっている 「ねぇ、どうすんの」
「ごっちん、もしかしてやめたいの」 と 辻ちゃんが言う 「いや別にやめたくないけどさ」 「ののはもっと聞
きたいな」 「あたしも聞きたーい」 「あたしも」 みんながばらばらと手を挙げる そして梨華ちゃんが言う
「だってさ、ごっちんの話ってすごい怖いんだもん」 笑顔で言い切れる 梨華ちゃんのほうがよっぽど怖い
- 220 名前: 投稿日:2003/11/10(月) 07:07
- 「市井ちゃんの引退がショックすぎてマトモなモノが書けそうにありません」
- 221 名前: 投稿日:2003/11/10(月) 07:07
- 人生を戻せるスイッチを手に入れた ので 私は そっこうであの人の元へと向かいました 場末のきったな
い飲み屋で くだを巻いているところを見つけました 私は 隣のきったない椅子に腰掛けて あの人に声を
かけます 「ねぇ、こんなもん手に入ったんだけどさ」 するとあの人は顔をあげて 鈍い目つきで私を睨むと
「うるせーかえれ」 と言いました 仕方なく私は立ちあがった そしたら寂しそうな顔になった
- 222 名前: 投稿日:2003/11/10(月) 07:07
- 私はまた座った 「お前も飲むか」 といわれたけどテーブルの上のコップもビンも全部空でした 「空じゃ
ん、これ」と言いました 「そんなことよりお前なんか持ってきたんだろ」 とあの人は言いました 私は例の
スイッチを取り出して 「そうそう、見てよこれ、これ押せば人生がやり直せるんだよ」 「マジか」 あの人は
鋭い目つきになりました まるで1999年末のような 少年のような 涼しげな 鋭い目つきに
- 223 名前: 投稿日:2003/11/10(月) 07:08
- 「そうだよ、全部やり直せるんだよもう一回」 「でも、記憶は」 「もちろん記憶もそのままで、やり直せるん
だ」 私は自慢げに解説して スイッチを差し出した 「あんなことやこんなこと、あったけど、全部良い風にや
り直せばいい、これを押して」 するとあの人はスイッチを見ながら 遠い目で 「そうだな、あんなことやこん
なこと、あったなぁ」 としみじみ言うのでした 場末のきったない飲み屋の きったないテーブルで あの人
はスイッチを押し出すようにして 言いました 「やっぱり、いいや」
- 224 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/11(火) 02:43
- 。・゚・(ノД`)・゚・。
それでこそ市井紗耶香、か。
- 225 名前: 投稿日:2003/11/14(金) 22:28
- 「落書き」
- 226 名前: 投稿日:2003/11/14(金) 22:29
- 「これからは脚本家として生きていくことにしたよ」 とあの人は笑いながら レポート用紙の束を取り出した
表紙の真ん中にはでっかく 「題名:おきざりハート」 と書いてあった 主演:後藤真希 というクレジットは
なかなかに気に入った 私は「どんな話なの」と聞いた あの人は自信ありげに 言った 「とりあえず中見
てみろよ」 私はぱらっとページをめくった
- 227 名前: 投稿日:2003/11/14(金) 22:29
- シーン1:喫茶店にて見つめ合う二人 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ご
とー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市
井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃ
ん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「い
ちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後
藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ご
とー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市井「ごとー」 後藤「いちーちゃん」 市
井「ごとー」
- 228 名前: 投稿日:2003/11/14(金) 22:29
- 2ページ目をめくっていいものか どうか 逡巡していると あの人の心配そうな目が 私の顔をのぞきこむ
「どうなんだおい」と 尋ねているかのような その目 「大丈夫だよ」という目で 私はあの人を見返した そ
れで二人 言わなくてもわかった それってアレですよね 私笑いながら あの人も笑いながら 声が揃った
「練習してみようか」 そしたら実は二人 ちょうど喫茶店にいたんですよ ついてたです
- 229 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/15(土) 19:07
- このスレでこんなあったかいのが読めるとは…
それだけに切ないなあ。すばらごい。
現実のバカヤロウ…小説マンセー。
- 230 名前: 投稿日:2003/11/27(木) 16:54
- 「意地悪クイズ」
- 231 名前: 投稿日:2003/11/27(木) 16:55
- 「クイズです」 あの人は笑いながら言いました 「正直者の村とウソつき村があって 正直者の村のひとは
ほんとのことしか言いません また ウソつき村の人はウソしかつきません さて」 言いながらあの人は指
を立てた 私はと言えばえんぴつを手に さらさらと問題を書きとめていた 真剣なのだ 「次から挙げる五
人のうち ウソつき村の人が何人か混じっています ただし人数はわかりません 全員かもしれないし は
たまた ぜろ人かもしれない」 そこで言葉を切って あの人はこほんと咳をひとつ それからふふっと笑う
「ウソつきは誰だかを当ててくださいね」 私はごくりと唾を飲んだ えんぴつを握る手に力が入る 「じゃあ
問題続けますよ」 やがて あの人が続ける まだ笑いながら 一本ずつ 指を立てていく
- 232 名前: 投稿日:2003/11/27(木) 16:56
- 「一番目の男が言いました 安心せぇ、せいぜい一年や、そしたらソロでデビューさしたる」 「二番目の男
が言いました お前は絶対ビッグになれる、だから今回は我慢してくれ」 「三番目の男が言いました 最終
的にはソロで行くつもりだから、今回は、な?」 「四番目の男が言いました 大丈夫俺に任せとけ、今回の
曲なら絶対行けるから」 「五番目の女が言いました みんな、必ずかえって・・・」
- 233 名前: 投稿日:2003/11/27(木) 16:57
- 「ごめんごとーバカだからわかんないや」
- 234 名前: 投稿日:2003/11/27(木) 16:58
-
- 235 名前: 投稿日:2003/11/27(木) 16:58
- 「さきょうさん」
- 236 名前: 投稿日:2003/11/27(木) 16:59
- 「ねぇみんな、『くだん』って知ってるかな」と 梨華ちゃんが言う 「何それ」 「しらなーい」 みんな気楽な感
じで答える ゆっくりと どこか芝居がかった仕草で 梨華ちゃんはあたりを見まわすと 口を開き 「あの
ね、くだんっていうのは、化け物のことなのね、それも言い伝えによると、とても怖い化け物で」 梨華ちゃん
は淡々と 笑いながら 話す 「まともに正面から見たら、気が狂うと言われていて、ちらっとでも見た人は口
を揃えて、こう言うの、あんな怖い化け物は、見たことがない・・・って」 梨華ちゃんはいったん 言葉を切っ
た それから 息をふぅっと吸いこんで 「実はわたし、その、くだんなの、人間じゃないの」 怖いくらい真剣
な顔で 言うのだ
- 237 名前: 投稿日:2003/11/27(木) 16:59
- みんな いまいちリアクションに困っていると 「似たような話なら知ってるけどね」と やぐっちゃんが明るい
声で 笑いながら 口を開き 「『牛の首』っていう題名の、めちゃめちゃ怖い話がある、っていう噂があって
ね、それってどんな話なの?って聞くと、みんな口を揃えて答えるの、あんな怖い話は聞いたことがな
い・・・って」 梨華ちゃんはにこにこしながら聞いている やぐっちゃんは悪戯っぽく笑って 「それでオチが
あってね、ほんとに誰も聞いたことのない話だった、っていう、ね」 「なぁんだ」 安心したようにみんな笑う
「要するに、無い話なわけね」 「そんなことないよ、ホラ」 と言って 梨華ちゃんは仮面を取った
- 238 名前: 投稿日:2003/11/27(木) 16:59
- 全員 発狂した
- 239 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/28(金) 22:11
- 小松左京か…二つも。
懐かしい。
- 240 名前: 投稿日:2003/11/30(日) 02:02
- 「decadant」
- 241 名前: 投稿日:2003/11/30(日) 02:03
- あの人 常日頃から 脚本家になるって 息巻いてたんだけど 唯一の読者である私が 半端なことばっか
り言って誉めてたから ついに行っちゃったらしいんです どっかの事務所に持ちこみに 私 そんなことちっ
とも知らなくて ある日 家に帰ると 包丁を持ったあの人が ドアの前で立ってました 「アタシはもう絶望し
た」 とあの人は逝った目で言った 「でも一人で死ぬのはアレだからお前も一緒に行こう、ナアいいだろ」
それはもう 完全にぶっ壊れた目でした 顔も 声も 雰囲気も 角度も いつもとは全然違う感じで
- 242 名前: 投稿日:2003/11/30(日) 02:03
- 「何があったの」 と私は言いました するとあの人は激しい勢いで何かを言おうとして次の瞬間に激しい勢
いでそれを取りやめたんだけど何故言うのをやめたのか自分でもわからないといった表情になりました 「何
があったの」 と私はもう一度聞いた あの人はもどかしそうに眉根を寄せて 悩んでいる様子で しばらく二
人黙り込んだ そして 遠くのほうから電車の通り過ぎる音なんか聞こえてきて すぐにがたんごとんと再び
通り過ぎていって また静かになった頃 あの人はぽつりと呟いた 「むしろ何もなかった」
- 243 名前: 投稿日:2003/11/30(日) 02:03
- 「何もなかったんならいいじゃない」 と私は言った あの人はしかし私の言葉などまるで耳に入らないと言っ
た風に 自嘲的に笑って 「そうだ、何も無かったんだ」 とぶつぶつ呟きます 私は苛々して繰り返す
「だ、か、ら、何もなかったんならいいじゃない、なんでそんなもん持ってんの」 するとあの人は包丁に今気
づいたような顔になった そして ぶつぶつと口の中で 「何も無かったから持ってるんだ」 と繰り返しなが
ら 私のほうへゆっくりと近づいてくる 「何かあると思ってた、のに」 そんな言葉が耳をかすって 次の瞬間
私 下腹部に 異変を
- 244 名前: 投稿日:2003/11/30(日) 02:14
- 「ピスタチオ」
- 245 名前: 投稿日:2003/11/30(日) 02:14
- 大声で怒鳴る人の気配がして 音がうるさい 真っ白な世界にいるような気がしていた 意識を「上げ」ると
痛い目にあうと私は知っていて だからわざと意識を潜めていて それがよくなかったらしい ピーという音が
響いた ああ私死んだんだな と思ったその時 私 楽屋にいた そこはモーニング娘。の楽屋だった
- 246 名前: 投稿日:2003/11/30(日) 02:15
- なつかしの顔が6つ並んでいた 心配そうな顔 怒った様な顔 みんなは 思い思いの顔を私に向けていた
「新入りの癖してええ度胸やわ」 と聞こえよがしに呟く関西弁 「いいじゃん度胸あって」 とちょっと蓮っ葉
な口調がつづいて 「ほらマキ、おきなって」 「挨拶しないと」 懐かしい思いで胸がいっぱいになった とり
あえず私は挨拶をしながら そばにあった酢コンブに手を伸ばした
- 247 名前: 投稿日:2003/11/30(日) 02:17
- かじりながら そう言えばとくるくる視線をまわす けれどあの人は何故かどこにもいなくて ぼんやりとした
頭のまんま私は あの人のことをたずねた すると みんな不思議そうな顔で 「誰のこと?」 「イチ・・・?」
「知らない」 「2期で入ったのはうちらだけだよ」 「あんなー自分、今から一緒に仕事せなあかんグループ
の話やろ、メンバーくらい覚えなあかんで」 どういうことなんだろう 「そういやさ、マキね、なんか寝言でぶ
つぶつ言ってたよ、そのイチ・・・なんとかって人のこと」 「ああ言ってた言ってた」 「なっちも聞こえた」 な
るほど 夢オチだってさ 夢でもいい なら また 君に会えるじゃないか 入ったばかりのころ 私が寝て
ばっかいたのには そうゆうワケがあったからなのです。
- 248 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/01(月) 22:03
- ええ話や・゚・(ノД`)・゚・。
- 249 名前: 投稿日:2003/12/04(木) 00:37
- 「墨」
- 250 名前: 投稿日:2003/12/04(木) 00:39
- 色々あって いやほんとうに色々あって ついに私とあの人は 全世界ランキングでチャート一位を獲得する
ことが 出来たのです 「いやほんとに長かったなぁ」 とあの人は笑いながら 感慨深げにつぶやく 「一時
はどうなることかと思ったぜ」 「これは夢だよちゃむ」 と私は答えた 「ちゃむって誰だよ」 とあの人は怪訝
そうな顔だ 私はしかたなくさいしょから説明した 「かくかくしかじかで そう こんなことは有り得ないんだ」
- 251 名前: 投稿日:2003/12/04(木) 00:39
- 「元々芸能界なんて夢みたいなモンじゃねぇか」 とふてくされたようにあの人は 腕を頭のうしろにまわして
「でもどうせ夢ならメチャクチャしてやろうぜ、なんでも思うとおりになるじゃないかっ」 そう言えばそうです
私も笑いながら 「じゃああの辺のビル燃やしちゃおうか」 と言いました 「ダメだよ火事になるから」と言わ
れました
- 252 名前: 投稿日:2003/12/04(木) 00:41
- 調子こきすぎた私が反省していると とつぜんあの人はマイクを握って 客席に向かって 「じゃあ一曲うたっ
ちゃおうかなっ」 と叫び 両手を振った なんと私達はおおきな劇場にいたのだ ステージからあの人は
ビッグスターさながらに 満面の笑みをたたえて 客を煽る 「ほらほら、行くぞ!」 客の反応は しかし ど
こかうつろだ 良く見ると客席も半分くらいしか埋まっていない 「どうしたー、元気ないぞ!」 さらに良く見
ると 客は全員ロシア人だ どうなってるんだ 「声が小さい!」と あの人は笑いながら もう悲鳴混じりの
金切り声で 怒鳴り散らして 客はもう気づくと全員黙っちゃって 座っちゃって 冷え切った雰囲気に包まれ
ながら 私はもうひたすらに祈るだけで 夢ならはやく覚めてと
- 253 名前: 投稿日:2003/12/10(水) 23:36
- 「ナオミ」
- 254 名前: 投稿日:2003/12/10(水) 23:36
- 辻ちゃんと 加護ちゃんが 写真集を持って 楽屋へ遊びに来た 「ごっちん、これあげる」 と言って 机に
二冊並んだそれを ぺらぺらとめくりながら私は 何気なく呟く 「二人とも大人になったねぇ」 すると二人
顔を見合わせて 「大人になっちゃったらしいよ」 「みたいだねえ」 しみじみとそう言う二人の横顔が 不意
にぐにゃっと変化したように 見えた 「あれっ」 そんな呟きをよそに 二人は身長までぐんぐんと 伸びて
- 255 名前: 投稿日:2003/12/10(水) 23:37
- 「つーかそろそろ行かないとヤバクない?」 「あー本番か、超ウゼー」 口調どころか声まで変わった 二人
はもう辻ちゃんと加護ちゃんではなく 辻さんと加護さんだった 「じゃ、あたし等もう行くから」 「まあ後藤も
せいぜい頑張りや、ほな」 と言って 手を振って出ていく二人 カツカツとヒールが 廊下にリズムを刻んで
それが遠ざかっていき 聞こえなくなる頃に やっと正気を取り戻した私は 跳ね起きて二人を追いかけた
- 256 名前: 投稿日:2003/12/10(水) 23:37
- すぐに追いついた 自販機で バージニアスリムライトを買っているところだった ので 取り上げた 「アイド
ルがタバコなんて」 と言いかけるや否や いきなり辻さんにビンタされた 「オマエ生意気だよなーほんと」
と 苛立たしげに辻さんが言い 加護さんが悪そうな笑顔で 続く 「ウチらは女優やからええねん、文句あ
るんか?」 そして私は楽屋に連れこまれ 正座させられ 説教が始まった 12歳の頃から業界で育った
二人の態度のデカさはそりゃもう半端じゃなくて 呼びに来たADさんも 怒鳴りつけられ 追い返されて 私
はいつか涙目になっていた 「おい聞いてんのか後藤?」 加護さんが私をげしげしと蹴り 辻さんが顎をつ
かんで上にあげる 私はもう限界だと思って 叫ぶ 「もういい加減にしてくださいよ、タバコすうの止めたくら
いで、二人とも、ガキみたいに」 すると二人 顔を見合わせて 「ガキ?」 しゅるしゅると 縮んでいき・・・
- 257 名前:名無し 投稿日:2003/12/11(木) 23:21
- 懐かしいな
- 258 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 01:49
- 「イメージ的には夕暮れ、四畳半」
- 259 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 01:50
- 家に 何やらでかい箱が届いた 中には人形が 15体 詰められていた どこかで見たことがあるような 可
愛い人形たち 私はとりあえず箱から一体 一番大きい奴を取り出して 軽く撫で撫でしたり 眺めてみたり
その時とつぜん携帯が鳴った カオリからだった 「ごっちんー、久しぶり、カオリだけど」 「ああ久しぶりだ
ね」 言いながら私は 内心びっくりしていた カオリの人形を手にしてたら カオリから電話があるなんて
噂をすれば 影というやつか 「つーかさ、今仕事中なんだぁ」 とカオリは 声を張り上げて言った 周りが
騒々しいらしい 「あー、うん」 「だからさ、くすぐるのやめてね、マジで」 「えっ?」 「じゃー、頼んだよほん
とに」 と言って電話は切れた
- 260 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 01:50
- 切れた電話を見つめながら 私はしばらくぼんやりとしていた 意味がわからなかったからだ 悪戯電話か
と思ったが 仕事中にイタ電もないだろう などと 考えながら私は 無意識に膝の上の人形を弄っていたら
しい また携帯が鳴った カオリからだった 「つーか、マジやめて、ほんとに」 今度の声は はっきりと怒っ
ていた 私はぼんやりしたまま 「ごめん」 と言って 電話を切った
- 261 名前: 投稿日:2003/12/15(月) 01:50
- どうやらこの人形はカオリらしい それだけが辛うじてわかった そして それだけで充分だった それから一
時間後 私の膝の上には まだカオリがぐったりしたように 居て 携帯の着歴は 『カオリ』 で埋め尽くさ
れていて 受話器の向こうからは 「お願い、もう許して・・・仕事になんないから」 と言う 弱弱しい声 どう
考えても逆効果だろう と思うのだが 言わない 「わかったよ」 ニヤニヤと答えて私は 電話を切った さ
て 次は何を あ そう言えばお風呂場に アレが
- 262 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/15(月) 23:56
- 萌える…
- 263 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 18:39
- 「嘘八百」
- 264 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 18:40
- シロクマにがぶっと噛まれる夢を見ました 面白かったんでみんなに話した おもしろおかしく話したから み
んな大笑い けれど ひとりだけ真顔のやつが混じっていました 誰かと思えば よしこ 「あのね、ごっち
ん」 とよしこは立ちあがって みんなの視線を集めながら 厳かに まるで演説でもするような感じで 言う
「それはただの夢じゃないよ、そもそもただの夢なんてものは存在しないんだ 夢というのは深層心理を反
映するものだからね、この場合は、いわゆる正夢というのがあるでしょう、きっとそれの一種だと思うよ」
- 265 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 18:40
- ざわっと楽屋の空気が揺れる よしこはことさらに大声で 「だからごっちん気をつけて、きっと近いうちに
ごっちんはシロクマに噛まれるんだ、もっともシロクマがそのままシロクマを表すとは限らないけどね もしか
したら噛まれるってのも何かの暗喩かもしれないね、例えばさ・・・いや、やっぱやめとくけど」 言葉を切って
意味深に笑うよしこを 真正面に睨み据えながら 私は口を開いた 「なんでそんなウソつくのさ」
- 266 名前: 投稿日:2003/12/19(金) 18:40
- するとよしこはへらっと笑って 「なんでばれたんだろう」 なんて 悪びれてる様子もない 私は眉間にシワ
を寄せ こわい顔を作って 言う 「いやあきらかに適当だし、冗談にもなってないし」 しかし こわい顔を
作った意味など まるでなかった よしこはもう私の話なんか全然聞かずに すでに立ちあがって ゆうらり
ゆうらり 揺れるように こっちへ向かって 近づいてくる へらへら ぶつぶつ 「でも、ごっちんにウソつきだ
と思われるのは、イヤだなあ」
- 267 名前: 投稿日:2003/12/22(月) 08:29
- 「B級シネマ」
- 268 名前: 投稿日:2003/12/22(月) 08:29
- 夜道 「火を貸してもらえますか」 と言われた 女の声 顔は 逆光で見えなかった やたらと背の高い女
だ 私はにっこり笑って 丁寧に 「あたしタバコ吸わないんですアイドルだから」 と言った すると 「じゃあ
検査しますね」 と言って女は顔を近づけてきた 水色のシャツに 青いスカート まるで警官のような装い
「はーってしてください、はーって」 私は仕方なく 女の顔に向けて はーってした すると女は嬉しそうな声
で 「いい匂い・・・」 と言った
- 269 名前: 投稿日:2003/12/22(月) 08:30
- 「ふざけないでください失礼ですよ」と言って 私は女を突き飛ばした すると女は後ろ向きに倒れ 続いて
ごきっ というような鈍い音が響く 「ひとごろ・・・し」 微かな声で女は言い がくっと崩れ落ちた 何はとも
あれ まずい と思った とりあえずこの場を離れようと 思い 振りかえった が そこには青っぽい格好を
した女が 行く手を塞ぐかのように 腕組みをして立っていた 「殺人の現行犯で、逮捕する」 何故かおなじ
声だった そして水色のシャツに 青いスカード つまりおなじ格好だった 街灯に照らされ 微かな銀色に
光るのは 手錠か それとも 「手を挙げろ」 と言って女は私に近寄ってきた 仕方なく私は両手を挙げた
- 270 名前: 投稿日:2003/12/22(月) 08:30
- 「身体検査をするからな」 うー おほん とか言って女は 私の体をさわさわと触り始めた さわさわ さわさ
わ さわさわさわさわ 「ちょっとそこはもう終わったはずじゃ」 「うるさい」 さわさわ さわさわ 「っていうか
そんなとこ調べてどうするんですか」 「うるさい」 さわさわ さわさわさわさわ 「ちょ、ちょっと、そんなとこ
何も入るわけないじゃない」 「うるさい」 「うるさくない!」と言って 私はその顎をがこんと蹴り上げた 女
はぴくりとも動かなくなり まずい と思った私は振りかえり するとそこには一人の女が 何回振りかえって
も 逆光で顔は見えないけど どうせまたおなじ声なんでしょう 「公務執行妨害の、現行犯で逮捕する」
思ったとうりだった
- 271 名前: 投稿日:2003/12/23(火) 05:21
- 「マイタイム」
- 272 名前: 投稿日:2003/12/23(火) 05:21
- 「明日世界が終わるとしたらどうしますか」 と 紺野が不敵な笑いを浮かべ たずねてきた 「どうするって
やっぱり、そのう」 私は頭をひねった そんなもの 言われてすぐにはやっぱり 思いつかないわけです
「そんなことではダメです」 と紺野は 呆れたように首を振って 言う 「いざ終わりだって言われて、あたふ
たしてしまうのが関の山です」 いやな笑顔だ 私はムキになって 答える 「じゃあいい、あたふたする」
- 273 名前: 投稿日:2003/12/23(火) 05:22
- 「えっ、いいんですか」 と紺野は目をまるくした 「いいよそれでっ」 私は切れ気味で言い放った 紺野は
申し訳なさそうに頭をかくと 「実はその、明日世界終わるんですよねえ」 と言った 「なんで」 「ちょっと遊
びで作ったミサイルがあるんですけど、ついスイッチ押しちゃって」 「ふぅん」 紺野はちょっと泣きそうな顔に
なっていた 私は慰めるようにその頭をぽんぽんと叩いた 「まっ、気にすんなよ」 「そう言ってもらえるとあ
りがたいんですけど」
- 274 名前: 投稿日:2003/12/23(火) 05:22
- 「ところでいつ落ちるの、ミサイル」 「えっと、たぶん12時ぴったりに」 「じゃあもうそんな時間ないねえ」
「はい、急ですいません」 「他に誰、知ってるの、このこと」 「いえ後藤さんと」 「私だけ?」 「はい、私と
それだけです」 「ふうん」 「すいません」 「いいよ謝んなくて、ところでミサイルってどうやって落ちてくる
の」 「ミサイルですか」 「うん、ピューって落ちてくるの、それともゴオって飛んでくるの」 「うぅん、どちらか
といえば、ピュー、ですかねぇ」 「ピュー、なのかあ」 「あれ、後藤さんどこ行くんですか」 「いや、うどんで
も食べようかなと思って」 「・・・」 「あんたも食べる?」 「・・・」 「おいしいサヌキウドンのお店があるん
だ・・・泣いてる場合?」
- 275 名前: 投稿日:2003/12/23(火) 05:22
- 「煙突のある家」
- 276 名前: 投稿日:2003/12/23(火) 05:23
- たまにはみんな揃って集まろう という話になったとある水曜日 みんな奇跡的にスケジュールも合い 広い
からという理由で 私の家にずらっと集まった 笑って 歌って 楽しい時間をすごした のはいいが 加護
ちゃんがいつまで経っても来ない それどころか連絡もとれない 時間が経つにつれ みんな次第に苛々し
てきた 「あのさオイラちょっと用事あるんだけど」 「あたしもなんだよね」 「まああいぼんが来るまでは待と
うよ」 「待つけどさ」 と やっと加護ちゃんからメールが入った 『着いたけど、家に入れないの』
- 277 名前: 投稿日:2003/12/23(火) 05:23
- ピンポン鳴らせばいいのに と思いつつ私は立ちあがって 鍵だけ開けて戻ってきた ところが 加護ちゃん
はいつまで立っても入ってこない 五分 十分 しびれを切らして私は電話をかける 「ちょっとあんた何時間
待たせる気なのさ」 すると受話器の向こうで 加護ちゃんはしばらく黙ったあと ぽつり 「だってエントツが
ないから入れないの・・・」 悲しげな声で電話は切れた
- 278 名前: 投稿日:2003/12/23(火) 05:23
- 「またみょーな遊び思いついたもんだね」 とカオリが笑い 「幼稚なんだよ幼稚」 とやぐっちゃんも続く 「そ
ういやマフラーとか編んでたね」 「あのヘンテコなマフラーでしょ」 「あたし見たのセーターですよ」 「手袋
らしきものも編んでたような」 「こっそり編んでたつもりだろうけど、バレバレで」 「もしかして全員ぶん揃え
たのかねえ」 「意地でも入ってこないつもりでしょうね、この寒いのに」 「煙突なんて、普通の家にあるわ
けないのにね」 みんなでひとしきり笑って 盛りあがって 私はゆっくりと立ちあがって 言った 「ところで
暇な人、屋根の修理を手伝って欲しいんだけど?」 そしたら全員手が挙がった 私はうなずいて物置へと
向かった 確かでかい金づちがあったような なかったら ノコギリでもいいや
- 279 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:37
- ロマンチストさんめ
- 280 名前: 投稿日:2003/12/26(金) 18:37
- 「アントステラ裕子さん」
- 281 名前: 投稿日:2003/12/26(金) 18:38
- 突然裕ちゃんが訪ねて来た 私の部屋にあがりこんで 仏頂面で腕組みをしたまま もう1時間も なんにも
喋らずにいるのだ 「ところで裕ちゃん一体なんの用なの」 しびれを切らした私はついに口を開いた すると
裕ちゃんはとつぜん懐から カラフルな巾着袋を取り出して 私に向けてそれを放った 「遠慮せんと、もらっ
てくれ」 何やら決意にみちたその表情は いやがおうでも緊張感を煽る 私はどきどきしながら 袋を開け
る するとそこには なんと
- 282 名前: 投稿日:2003/12/26(金) 18:38
- 「何これ、クッキーじゃん」 すると裕ちゃんは照れくさそうに 言う 「ああ、ちょっと焼いてみた」 クッキーくら
いで そんなにもったいぶらなくても と思ったが いわない 「アンタやったら絶対正直なとこ言うてくれると
思ってな、、、」 食え そして感想を言え ということなのだろう 照れながらそう言う裕ちゃんは 頬も赤く染
めちゃったりして なんだか こう 来るものがあったりして とにかく私はそれを 一つつまんで口にいれて
みた すると なんと
- 283 名前: 投稿日:2003/12/26(金) 18:38
- 「おいしいじゃん」 と私はびっくりしながら言った 「すごいすごいこれならハロプロやめてクッキー屋やって
も成功するよ」 と 言わなくてもいいことまで言った 裕ちゃんは最初嬉しそうに それから寂しそうに 笑っ
て それからしばらく黙って やがて ぽつりと呟くように 「なら、あんたも手伝ってくれるんやろな」 と言っ
た 私は笑いながら そりゃあ無理だよゆうちゃん と言った 裕ちゃんは笑わずに あんたも手伝ってくれる
んやろな と繰り返した それからバタンとドアを 後ろ手に閉めて
- 284 名前: 投稿日:2003/12/29(月) 00:02
- 「蛆虫」
- 285 名前: 投稿日:2003/12/29(月) 00:02
- 目が覚めると 部屋じゅうを蛆虫の群れが埋め尽くしていた 気が狂いそうになるのを堪えて 私はなんとか
携帯に手を伸ばした アドレスをかちかちと探して この状況から救い出してくれそうな人 心当たり全員に
向け 震える手でメールを打つ 『蛆虫が』 それだけで限界だった 送信するとともに 私は携帯を放り出し
て ふっと気を失う
- 286 名前: 投稿日:2003/12/29(月) 00:02
- 次に目覚めると蛆虫はやっぱり居て 壁を 床を ベッドを 私の背中を 体を 這い回る 無数の蛆虫 気
絶しそうになるのを堪えて 私は携帯を手に取る 返信が幾つか有る 『誰が蛆虫よ』 『はあ意味わかんな
いんだけど ていうか何』 『ひどいよごっちん一体なんのつもり』 とんだ誤解だ しかし私にそれを訂正する
余裕などなく 考えをめぐらそうにも もうちょっとで気絶しそうなのだ 私は薄れる意識のなか 素晴らしい
案を思いついた 携帯のカメラを部屋に向け この有り様を撮る そして 送る 手っ取り早いSOS
- 287 名前: 投稿日:2003/12/29(月) 00:03
- 最後に目覚めると もう蛆虫だらけで 呼吸も出来ないくらい 部屋なのか蛆虫なのか私なのか わからな
いくらいに 蛆虫に埋め尽くされていた 私は蛆虫に埋まりながら もう死にたい気持ちをぐっと堪える ふと
右手に違和感を感じた 携帯だった そうだ誰か助けてくれないかと 私は最後の力を振り絞って携帯を開
く 『気持ち悪い画像送らないでよ』 『ちょっとさっきからなんなの、あたしが蛆虫だって言いたいの』 『友達
やめます』 私はへらっと笑った なんでわかってくれないんだろう そして どうしたら分かってもらえるだろ
うか 方法があるとしたら一つだけ 同じ目にあってもらうしかないでしょう そう思ったら私 蛆虫になった
- 288 名前: 投稿日:2003/12/31(水) 00:56
- 「良いお年を」
- 289 名前: 投稿日:2003/12/31(水) 00:57
- 「今日は誕生日でしょう一つだけ願いを叶えてあげるよ」 と私は花束を渡しながらあの人に言った すると
あの人は飲んだくれ過ぎてトロンとした目をぼんやりと私の胸のあたりに向けて ガラガラの声で呟くように
「じゃあ一曲歌ってくれ」 と言った
- 290 名前: 投稿日:2003/12/31(水) 00:57
- あの人がリクエストしたのは私のしらない歌だった 「そっかお前覚えてないか、乙女の心理学って言うん
だ」 とあの人はどこか嬉しそうに説明をした 私はテープを聞きながら必死で歌詞とメロディを覚えた そこ
へ圭ちゃんがやってきて 言う 「ちょっとそれはアンタが歌っていい歌じゃないのよ」 私は困る 困ってあ
の人を見る するとあの人はやわらかく笑って 「いいんだよ圭ちゃん、あたしが頼んだんだ」 圭ちゃんはし
ぶしぶ黙る けれどこんな雰囲気じゃ歌えるもんか 私はあの人に向かって首を振った するとあの人も圭
ちゃんも 悲しげに笑った
- 291 名前: 投稿日:2003/12/31(水) 00:58
- それから3人でケーキを食べました 20本ぜんぶ立てた 蝋燭はなかなか 壮観
- 292 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/31(水) 17:07
- やめてくれ!やめてくれ!
なんでこんな話をのせるんだ!
……泣いてしまうじゃないか
- 293 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 03:47
- 「レミング」
- 294 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 03:47
- スタッフが急に叫び出した 収録中だからみんなが止めに入る みんなに取り押さえられながら 力のない
目で大声を張り上げる様は まさに狂人 「あいつはもう72時間も起きているんだ」 と 誰かが感情のない
声で言う 私は聞こえないふりで ぼんやりとスタジオの天井を見上げる 据え付けられている 幾つものラ
イトに視点をあわせる やたらに眩しくて目に染みる
- 295 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 03:48
- 収録はやがて再開される 私はまたマイクを手にして 歌い踊る きらきらと輝くライトの向こうに 目をこらせ
ば何人もの人が居て それぞれ疲れを残した目で 鋭い顔つきでこちらをにらんでいる カメラマン よれよ
れのトレーナー 襟元はフケだらけ そばには病人のように頬のこけたカメラ・アシスタント もしかするとほ
んとうに病気なんじゃないかって顔色 歌が終わる 間奏だ ライトに照らされ 私は笑い ステップを踏む
ADは必死で欠伸をかみ殺す 血走った目 ディレクターはたるんだ頬を揺らしながら 何事かをぶつぶつぼ
やき続けている 誰も彼も疲れていて 誰も彼も狂っている 間奏が終わる ふたたび私は歌いだす
- 296 名前: 投稿日:2004/01/03(土) 03:48
- 「はいOKでーす」の声とともに 一番近くに居たスタッフが倒れた 口元には泡のようなものが見える 「後
藤さんお疲れ様でーす」 と 死んだ目で 違うスタッフがつぶやきながら バケツを手に 倒れたスタッフに
駆け寄る 「こいつ死んでんじゃねえのか」 「水ぶっかけて、だめならしょうがない、倉庫に・・・」 私はスタ
ジオを後にする マネージャが真っ赤な目で 後ろをあるきながら 手帳を読み上げる 「コノアトイチジジュ
ウゴフンカラハザッシノシュザイデソノアトハマタシュウロク ソレガオワッタライッタンジムショニモドッテ・・・」
- 297 名前:ロン 投稿日:2004/01/04(日) 21:51
- この短い文の中に拡がる世界にクラクラします。
- 298 名前: 投稿日:2004/01/11(日) 21:34
- 「逃避行ディリュージョン」
- 299 名前: 投稿日:2004/01/11(日) 21:34
- 加護ちゃんが 夜更けにたずねてきた 「あたしほんとはモーニング娘。やめたくないの」 と 震えながら言
う その手をひいて 玄関から私の部屋へ 行こうと思ったその時 ドアが叩かれる 「追っ手だ」 と 加護
ちゃんはおびえた声で言う 私は だいじょうぶだよとその頭を撫でて こんなこともあろうかと作っておいた
抜け道から 下水道をつかって表通りへと抜け出る
- 300 名前: 投稿日:2004/01/11(日) 21:34
- しかしマンホールから顔を出すと どうやら手は近所中にまわっているらしい あちこちに 目つきの鋭い
スーツ姿の男が徘徊している スーツにスニーカーなんて履いてる 「どうしよう」 と涙目の加護ちゃんを抱
き寄せて 私は小声でささやく だいじょうぶだよ加護ちゃん 隠れ家があるんだ こっそりマンホールを抜け
出して 忍び足で裏道を行く 私達はやがて一軒の廃屋へとたどり着く
- 301 名前: 投稿日:2004/01/11(日) 21:34
- ひとつだけ付いている窓から私は どこかまがまがしく赤い明け方の空を見つめる こんなことをしてもなん
の解決にもならない と 最初からわかっていたことだけど それでも私は 出来る限りずっとこうしていよう
と思う 加護ちゃんはすやすやと 私の腕の中で眠っている 見ていると不思議な気持ちになる 顔のところ
だけ白く浮き上がって それが真っ暗な部屋のなかで どこか非現実的な色合いを醸し出している 非現実
という言葉が 私をはっとさせた そう言えば体もずいぶん冷たい気がする ほんとうにこれは加護ちゃんな
のだろうか 現実なのだろうか そう気づいた時 二人だけの基地はとたんに味気ない廃屋と化し がらんと
した部屋には 私一人しか居ない 残り香も ない
- 302 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 22:27
- 「パロディ」
- 303 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 22:27
- 「さるかに合戦の話をします」 カオリはゆっくりと話し出した 「あのね、今からずーっとずっと昔にね、さると
かにが居ました 聞いてる? そう、さるとかにがいたの かにさんはある日おにぎりを持っていたの そし
たらさるが来たの で かにさんに言うの そのおにぎりとこの柿の種を交換しよう おにぎりは食べちゃった
ら終わるけど でも柿の種は育てればたくさんの おいしいおいしい 柿が成るんだよ」
- 304 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 22:27
- 「なるほどかにさんは納得したの それでおにぎりは食べられちゃって そのかわりもらった柿の種をね庭に
さ埋めてさ くる日もくる日も雨の日も風の日も台風の日も体調が悪い日も熱出した日も声が枯れた日もドラ
マで疲れてるときも失明した日もくる日もくる日も世話をしたの そう くる日もくる日も そしたら 長年の苦
労が実った きづいたら木にはおいしそうな柿がいっぱいいっぱいいっぱい実っていたの ところが なんと
かにさんは大変な事実に気がついてしまいました 木に登れないのです 衝撃の大展開 せっかくおいしい
柿がたくさん成っているのに 手に入らないの かにさんはもう すっかりセンチメンタルになっちゃった」
- 305 名前: 投稿日:2004/01/12(月) 22:28
- 「そしたら さるが来て こう言ったの じゃあ俺にまかしとけ そして さるはするする木に登ると ビシバシ
柿を取り始めたの もうすごいの かにさんには目もくれなくなった 木もずいぶん高く育ったから もしかす
ると 下を向いてもかにさんが見えなかったのかもしれない でもかにさんは待ちつづけたの 待つのが辛く
なって 時々呼んだの 柿どうなったんですかって そしたら遥か空の上から さるが言うの もうちょい待っ
てくれ 俺かて辛いんや って それがあんまり度重なるもんだから ついにかにさんは ね」 カオリは言葉
を切ると 私にそっとちいさな 飛び出しナイフを手渡し 物凄い顔で 笑う 「臼と牛の糞と栗はもうスタンバ
イしているの あとたりないのは蜂だけ わかるよね? 骨に当てないように刺すんだよ」
- 306 名前: 投稿日:2004/01/23(金) 00:17
- 「忘れてたこと」
- 307 名前: 投稿日:2004/01/23(金) 00:17
- いしよしごまの 三人で集まった なんとなく だ 「やっぱり芸能人ってのはトークも面白くなきゃいけないと
思うの」 と梨華ちゃんが熱っぽくまくしたてるのを 苦笑しながらよしこと二人で聞いていた そんな真夜中
の出来事なんですけど
- 308 名前: 投稿日:2004/01/23(金) 00:18
- 2時間ほど喋りつづけて やっと梨華ちゃんがトイレに立った やっと一息ついた私は よしこと二人顔を見合
わせて 含み笑い そんで 罪の無い言葉をかわしあった 「でもやっぱり梨華ちゃんは寒いよね」 「だよ
ね」 ふふふと二人 笑って 「トークも面白くなきゃいけないとか言っといて」 「ね」 「その話がまるごと寒
いんだから」 「梨華ちゃんは雪女なんだよ」 と私が言ったとき よしこが急に立ちあがって 「あっ急用を思
い出した」 と言って とつぜん逃げる様に窓から 部屋を出てってしまった あっけに取られる私 ふと振り
返ると 梨華ちゃんがわなわなと 部屋の入り口で震えていた どうやら全部聞かれていたらしい
- 309 名前: 投稿日:2004/01/23(金) 00:18
- 「ごめん梨華ちゃん」 と私は 素直に頭をさげた しかし梨華ちゃんはつめたい目で首を振る どうやらなか
なか許してもらえそうに無いな と 私が覚悟を決めたその時 ふっ と 梨華ちゃんは真っ白な和服姿に
なった なんと 髪まで真っ白だ 口をぱくぱくさせる私 「絶対誰にも言わないっていったでしょ」 と 梨華
ちゃんは言い 白い息を吐き出す 「えっ」 と呟くももう遅い 「誰かに言ったら殺すって・・・」 梨華ちゃん改
め雪女は もう私の30センチ向こうに迫ってる ひゅるりら 冷たい風が 私の顔をしびれさせる 意識も
- 310 名前: 投稿日:2004/03/04(木) 07:52
- 「流れ星を見たら」
- 311 名前: 投稿日:2004/03/04(木) 07:53
- 市井ちゃんが こないだからずっと家に居る 「ほら、今動いたぞ、触ってみろよ ほら」 と ひっきりなしに
言う 「全然動いてねえよ」 と 私は思うのだが 言えない 市井ちゃんが テレビを指差して言う 「おい
チャンネル変えろよ 胎児の教育に悪いだろ」 流れているのは普通のバラエティだ 「エヌエッチケーにしろ
よ、エヌエッチケー」 仕方なく私はエヌエッチケーにする おじさんが堅苦しい顔でニュースを読み上げてい
て いかにも無機質だ 「腹減ったな、なんか食おうぜ」 と市井ちゃんが言う 「二人ぶん食べなきゃいけな
いからな、なんせあたしの体には」 「ああそうだね」と話をさえぎり 私は立ち上がる
- 312 名前: 投稿日:2004/03/04(木) 07:55
- 大盛りのオムライスを市井ちゃんはうまそうにかきこむ 私は真っ暗な空を眺めながらそっとカーテンを閉め
る 「あ、流れ星見たら、じょうぶな子供が生まれますようにって祈ってくれ」 市井ちゃんの声が背中から聞
こえる その時 レースのカーテンの向こうに流れ星が微かに見えた 気がした 反射的に私は祈る 「市井
ちゃんがいい加減帰ってくれますように」
- 313 名前: 投稿日:2004/03/04(木) 07:55
- それがほんとうに流れ星かどうかはわからなかった 市井ちゃんの携帯が鳴る 「・・・あ、もしもし・・・え マ
ジで?・・・うん、今後藤ん家・・・わかった タクシーすっ飛ばして帰るわ」 慌てて立ち上がる市井ちゃんを
玄関まで見送って 私はひとりリビングへと戻る ソファにばふっと倒れこむ アレもコレモ祈ればよかった
噴きあがる後悔に 私は二十分ほどバタ足を繰り返す そんな私をよそに テレビではやたら深刻なニュー
スを流していて ちょっと おかしくなった
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 02:05
- やっぱここいいね
- 315 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/24(月) 03:57
- 待ってます
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