バトル・リアル
- 1 名前:abook 投稿日:2003/09/12(金) 23:39
- 今更ながら、時代遅れのサバイバルものです。
まともに小説を書くのは殆ど初めてなので至らないところが多々あるかと思います。
なので感想、指摘など、お気づきの点があればじゃんじゃん突っ込んでやってください。
様々な諸問題については表現を変えるなり出来る限りの努力をしていきます。
ですがもし、「お前回線切って首(ry」と思うような表現、文章等があれば、
遠慮なく警告してやってください。
よろしくお願いします。
なお、時期はほぼ現在のものです。
- 2 名前:1 映画のようなワンシーン 投稿日:2003/09/12(金) 23:39
- 「えーと、これで合わせて41名が集まったわけやな」
水を打ったように静まり返った教室で、淡々とした男の声だけが響く。
石川梨花は50音順に座らされた席、右端の列の前から五番目で顔を俯けてかたかたと震えていた。
「なんやー、自分ら久しぶりの対面なんやでー?もうちょい嬉しそうな顔せーやー」
そんなこと出来るわけがない。
教卓で話す男の横には武装した迷彩服の男たちが立ち並び、こちらを睨んでいる。
教室の前と後ろにある出口にも見張りがいて、逃げ出すことだって出来ない。
「まったく辛気臭いのー、お前ら」
石川はこの状況が何を意味するのか知っていた。
いや、石川だけではなく、ここにいる全ての者がこの状況を理解していた。
いつの間にか付けられていた首輪も。
教室と兵士というシチュエーションも。
(同じだ……一緒だ……)
石川の想像はどんどん恐ろしいものになっていく。
それでも『もしかして、これはドッキリか何かじゃないのだろうか』という一縷の望みも石川の中には残っていた。
「あのー、ちょっといいかな」
不意に、女性の声が後ろから聴こえた。
石川は振り返らない。
怖くて、振り返れなかった。
「これって何の冗談なわけ?全然話が見えないんだけど」
それでも、声だけでも分かる。
夏まゆみだった。
- 3 名前:2 夢と現実と死と 投稿日:2003/09/12(金) 23:40
- 「あたしはアンタに頼まれてここに仕事で来たわけよね、合宿の。
それにまたツアーもあるし振り付けも新しいの教えなきゃならないでしょ、
忙しいのよ、時間ないのよ」
毅然とした声で夏は続ける。
そこには恐らく迷いはない。
事実、誰が考えられるだろうか?
自分たちの作り上げた金の生る木に殺し合いをさせるなんて。
「これもテレビのドッキリかなんかなわけだよね?
アタシもアンタが悪趣味なのは知ってるけどさ、
こういうのは仕事に影響が出ない程度にしてくれない?
ホラ、みんな怖がってるでしょ?」
(良かった…… やっぱりウソなんだ……)
石川は内心胸をなでおろすと、俯けていた顔を少しだけ上げた。
上目遣いで教卓の男を覗き見る。
「ねえ、何とか言いなさいよ」
男――つんく♂はただにやにやと笑っていた。
(え・・・? なんで? ウソなんでしょ? つんくさん! ウソって言って下さい!)
石川の心の叫びは届かない。
つんく♂は懐から黒く光る何かを取り出し、それを真っ直ぐに構えた。
「お前、うるさいわ」
- 4 名前:2 夢と現実と死と 投稿日:2003/09/12(金) 23:41
-
――――――――ッ!!
一瞬、耳が聴こえなくなった。
四方を壁で囲まれた狭い場所でのその音は、
反響し、びりびりと、その音だけで肌を焼く。
(今の…… なに?)
石川は改めてつんく♂の持っている黒い何かを見た。
――――銃だ。
銃口からはゆっくりと煙が立ち昇り、それは今しがた発砲したばかりであることを示している。
「キ――――――――ッ!!」
まだ耳がおかしい。
事実としては、誰かの悲鳴らしいその音は石川のすぐ斜め後ろの席からするものだったのだが、
石川には遠くのほうからするように聴こえる。
きぃんと耳鳴りする耳を押さえながら、石川は音のする方を向いた。
(――――えっ?)
映画のような光景だ、と思った。
これは夢なのだ、と思った。
「嫌ァァァァーーーーッ!!!」
石川はあらん限りの悲鳴を上げて、失神した。
振り向いた石川が見たものは、
額にぽっかりと穴が空いた夏の死体と、
その死体に寄りかかられ、
血塗れで悲鳴を上げ続ける亀井絵里の姿だった。
【番号なし 夏まゆみ 死亡】
- 5 名前:3 発表 投稿日:2003/09/12(金) 23:43
-
「あー、静かに 静かに!」
つんく♂は銃――"IMI Jericho 941"を懐にしまい込むと、皆に聞こえるように呼びかけた。
悲鳴を上げ続けていた亀井はいつの間にか失神していた。
夏の死体は兵士の手により亀井からどけられたが、それでも教室の後ろに転がったままだ。
皆、泣き出しそうな表情で、出来る限りつんく♂と目を合わせないようにしている。
席順の関係でつんく♂の目の前にいる辻希美などは恐怖のあまり俯いたまま動けなくなっている。
辻の目からは際限なく涙が溢れていた。
(つーじー…… ファイトだよ……)
安倍なつみは右端の一番前の席から、辻だけではなくメンバーのそれぞれを見守る。
それは、ここで安倍が出し得る最大限の勇気だった。
「あー、多分みんな気付いてる思うけどー……」
つんく♂はそこで一旦言葉を切り、少し間をおいて言い放つ。
「合宿なんてのはウソです」
ASAYAN時代スタジオで見ていた彼の姿を、安倍は思い出した。
今でこそ「軽いお兄ちゃん」みたいな姿でしかないが、昔は違った。
「勿論元メンバーに言ったいろんな話、あれも全部ウソ」
何気ない話からいつの間にか話を進めている詐欺師。
メンバーの、視聴者の感情さえも弄ぶ悪魔。
つんく♂はあくまで淡々と続ける。
「さて、本題やけどな」
そう言うとつんく♂は教卓の周りをゆっくりと歩く。
その姿は安倍に、そして娘。のオリジナルメンバーたちに既視感を抱かせるものだった。
- 6 名前:3 発表 投稿日:2003/09/12(金) 23:44
-
「殺しあいましょか、みんなで」
安倍はその言葉に驚愕する。
(どうして……そんなことしなくちゃいけないの……?)
安倍はそう問いたかった。
しかし、息を吸い込めない。
しかし、口が開かない。
しかし、体が動かない。
そんな安倍の胸中を読んだかのようにつんく♂は言葉を続ける。
「お前らは、ハロプロは、増えすぎました。それも単に増えただけやない。お前らみんな驕っとる。
……ええか、現状で満足した人間はそれ以上のところまではいかれへん。
娘。でいれば、あるいは娘。にコシギンチャクみたいにくっついていれば、それで万事オーケーか?
それで全てが上手くいくか? ……お前らな、芸能界いうんは、人生いうんはそんな甘いもんちゃうで?
騙して、奪って、殺して、返り血を浴びて這い上がる。
それが芸能界や。人生や」
つんく♂は芝居がかった大仰な手振りで言う。
「だからな、お前ら殺しあえ。
殺して、奪え。
お前らが忘れた飢えた心をもう一度呼び覚ましてこい。 以上や」
- 7 名前:4 笠木新一 投稿日:2003/09/12(金) 23:45
-
「ちょっと……いいか」
つんく♂の話が終わったところで、再び後ろから声が聴こえた。
二列目五番目に座っている加護亜依は目を少し動かしただけで、振り向くことは出来なかった。
自分のすぐ後ろの亀井絵里は夏まゆみの血を肩口からかぶり、まるで死体のような姿で失神している。
自分の右隣の席、早々に気絶してしまった石川を横目で見る。
(ウチも気絶したいわ……)
加護は押しつぶされそうな気持ちでいっぱいになっていた。
「一応話は分かった。つまり、俺も夏もこいつらと一緒に騙されたわけだよな?」
教室内で目を覚ましたときから、今声を発している男がいたことは加護も確認していた。
笠木新一先生だ。
加護にとっては勿論、以前の合宿に参加していない二期を除く、四期までの娘。メンバーにとって、
笠木新一とは恐怖の対象、鬼の代名詞だった。
「ああ、そうやな、それで?」
つんく♂が聞き返す。
「ああ、単刀直入に聞くが、俺はどっちにつけばいい?」
腕を組み、つまらなそうに笠木は言った。
- 8 名前:4 笠木新一 投稿日:2003/09/12(金) 23:45
-
(えっ? ……どっちって、どういうこと?)
笠木の言っていることの意味が加護には理解出来なかった。
「偉そうに教訓たれてたが……、まあ確かにお前の言ってることは無茶苦茶だが正しい。
所詮人生は食うか食われるかだからな。
でもな、夏はどうか知らんが、俺はお前に享受されるほど若くはない。
……とは言っても俺はそこの間抜けみたいに無様に死にたくはないがな」
笠木はそう言って夏まゆみの死体を顎で示す。
その仕草は見えてないが、加護は彼の言う「間抜け」が誰なのか把握できた。
と同時に、ついさっき死んだ知人を間抜け呼ばわりできる笠木にいっそうの恐怖を覚える。
(なんで……?なんでそんな……)
若干15歳の加護にとって笠木の言葉は衝撃的なものだった。
だが笠木はそれに増して衝撃的な言葉を放つ。
それはここにいる皆に、もう昨日には戻れないという現実をハッキリと理解させるものだった。
「もう一度言う、俺はどっちにつけばいい。
俺はこいつらを殺せばいいのか?
それともこいつらが殺しあうのを見てればいいのか?」
笠木の顔がにやりと笑った、そんな気がした。
- 9 名前:5 ゲーム・スタート 投稿日:2003/09/12(金) 23:46
-
「もうヤだぁーーーー!!」
癇癪を起こし、喚きだした加護を見て、とっさに安倍の体は動いていた。
加護の席へ駆け足で向かい、抱きしめる。
「大丈夫、ね、加護ちゃん、大丈夫だから」
何度も「大丈夫、大丈夫」と言いながら、頭を撫でる。
そんな二人の様子をつんく♂は冷めた様子で見ていた。
「オイ、安倍、何勝手に出歩いてんねや、お前も死にたいんか?」
言いながら、ゆっくりと懐からジェリコを取り出して安倍の額にポイントする。
安倍はつんく♂からは目を逸らし、加護をなだめ続けている。
「ほぉ……無視かい、ええ根性しとるわな」
つんく♂がハンマーを起こす。
ガチャリ、と嫌な音が教室に響いた。
安倍は息を呑み、体は震え、それでも加護を抱きしめたままだ。
加護も状況を把握したようで、すでに泣き止んでいる。
しかし動くことはままならず、安倍の胸に顔を埋めて震えていた。
「お祈りは死んでから済ませるんやな」
そう言うと、つんく♂はトリガーに力を込めた。
- 10 名前:5 ゲーム・スタート 投稿日:2003/09/12(金) 23:47
-
「あのー」
唐突に、誰かの声がした。
三列目二番目、後藤真希だ。
「早く始めません?わたし、殺したくてウズウズしてるんです」
後藤はそんな不穏当なセリフを飄々と言ってのけた。
周囲の視線が後藤に集まる。だが後藤は相変わらずの無表情だ。
「ふん、そんなもん俺が安倍殺してからでも大して変われへんやんけ、
大体41人やし、一人減らして40人スタートのほうが――」
「困るんです」
つんく♂の言葉を遮って言う後藤。
「だって、つんくさんが殺しちゃったらわたしが殺せなくなるじゃないですか、安倍さん」
周囲が困惑している中で、あくまで無表情の後藤。
安倍に至っては恐怖と驚きで顔が引きつっている。
「ハハハハッ! おもろいやないか後藤!! めっちゃおもろいわ自分!!」
――――ドンッ!!
つんく♂は笑いながら天井に向けて発砲した。
教室中から悲鳴が上がり、ワンテンポ遅れてパラパラとコンクリートの破片が彼女たちに降りかかる。
「さすがやね! さすが元センターや! エースや!! みんなも後藤を見習えよー。
でないとすぐに死ぬでー、見捨てられんでー、裏切られんでー?
後ろに転がってる夏みたいになあ! アハハハハッ!!」
――――ドンッ!!
高らかに笑いながらもう一度天井を撃つ。
「よっしゃーはじめんぞ! まずは安倍からやな! 俺についてこい!
武器渡したる! 次の奴、アヤカからはコイツの指示に従え!」
そう言って右隣の自衛官を親指で指す。
「失神してる奴は後回し! 笠木は俺らと一緒におれ! 以上や!」
そのつんく♂の宣言が、ゲーム始まりの合図だった。
- 11 名前:五十音順リスト 投稿日:2003/09/12(金) 23:48
-
1 安倍なつみ 21 柴田あゆみ
2 アヤカ・キムラ 22 高橋愛
3 飯田圭織 23 田中れいな
4 石井リカ 24 ダニエル・デラネイ
5 石川梨花 25 辻希美
6 石黒彩 26 戸田鈴音(りんね)
7 市井沙耶香 27 中澤裕子
8 稲葉貴子 28 新垣里沙
9 大谷雅恵 29 福田明日香
10 小川真琴 30 藤本美貴
11 加護亜依 31 平家みちよ
12 亀井絵里 32 本田ルル(RuRu)
13 木村麻美(あさみ) 33 前田有紀
14 後藤真希 34 松浦亜弥
15 小湊美和 35 ミカ・T・トッド
16 紺野あさ美 36 道重さゆみ
17 斉藤瞳 37 村田めぐみ
18 斉藤美海(みうな) 38 矢口真里
19 里田まい 39 保田圭
20 信田美帆 40 吉澤ひとみ
41 レフア・サンボ
- 12 名前:バトル・リアル 投稿日:2003/09/12(金) 23:50
-
〜第一章 合宿初日〜
- 13 名前:6 汚れた人形 投稿日:2003/09/12(金) 23:52
- つんく♂が二人の兵士と安倍とともに消えてから、簡単な説明があった。
曰く、期間は今日を含めて3日間。
4日目の夜明けまでに最後の一人が決まらなければ首輪に内蔵された爆弾を一斉に作動させる。
勿論首輪を外すのもNG。無理に壊そうとしても分解しようとしても爆発するとのこと。
首輪には脈拍、体温を感知する機能があって、絶えずその情報をつんく♂側に送っている。
つまり、誰が死んだかすぐに分かるらしい。
それと進入禁止区域というものもあって、
今日の深夜0時から半日が経過するたびに段々増えていく。
その範囲は定時放送で知らせるのだそうだ。定時放送は三時間おき。
この学校とその周囲100mは全員が外に出てから10分後に進入禁止区域になるらしい。
どうやらここが彼らの本部となるようだ。
配給される食料は取り敢えず2日分。水は500mlPETボトル二本。
……と、ここまでのことをきっちりと頭の中に叩き込む。
紺野あさ美は冷静だった。
- 14 名前:6 汚れた人形 投稿日:2003/09/12(金) 23:52
- 普段の自分ならすでに泣き出してしまっているだろうこの状況で、
自分がこうして冷静でいられる理由はなんだろう、と考える。
それはきっと、取り乱した加護を見たから。
そしてそれを身を挺してなだめた安倍を見たから。
自分も泣いてはいられない。
殺して生き残るのではなく、
どうにかしてみんなと一緒に帰るために、
今、自分の出来る限りのことをやらなくては。
暫く経って、紺野の番となった。
連れ立って歩く兵士は二人、配給の間隔は大体5分おきというところだった。
教室の壁には時計はかかっていなかったし、
持ってきていたはずの携帯や腕時計は旅行の荷物とともに没収されていたので正確な時間は分からない。
前後を歩いている男たちにそれとなく聞いてみようかとも思ったが、
迂闊なことはするべきでない。窓から見える景色はすでに薄暗く、完全な暗闇ではないがすでに日は落ちていた。
それと、時間以上に気になっていることは、ここが何処なのかということ。
時差は特別感じない。長時間寝過ぎた後のだるさもない。
2時過ぎに出発して今は恐らく(国内であれば)およそ6時。
眠っているうちに教室内にいたためどういうルートでここまで来たのかは分からないが、
取り敢えず当初つんく♂に聞かされていたような「海外」ということはなさそうだった。
(ということは…… 脱出のチャンスは必ずある……)
紺野の目標に少しだけ希望が湧いてきた。
- 15 名前:6 汚れた人形 投稿日:2003/09/12(金) 23:53
- 暫く歩いた後、前を行く男の足が止まった。
「入れ」
一言だけ呟いて、紺野を促す。
紺野は言われたとおりに「校長室」と書かれたドアを開けた。
「おー、紺野、来たかー」
中に入ると仰々しい椅子に座ったつんく♂が見える。
その両隣には兵士が二人。
中にある調度品は皆高そうなものが多く、確かに「校長室」の趣はある。
ただ、紺野から見て右側の壁際に無造作に詰まれたリュックサック類はデニム地の地味なもので、
それだけは他の物品と一線を画していた。
「そんじゃま、選べ」
言いながら、つんく♂は荷物のほうを指した。紺野は黙ってそれに従った。
「どれでもええで、ただ触って確かめるのはなしな、取るときはこいつらに言い」
そう言って二人の兵士を示す。
紺野は視線を荷物のほうへ向け、全体を見回す。
どれも似たようなものだったが、何故だかそれぞれにキーホルダーがついていた。
それらはどれも女の子っぽい可愛らしいもので、大半はウサギやクマなど動物の形をしたものである。
「どや、人形かわええやろ? まあ、好きなの選べ、はよせんと殺すけどな」
そう言われて紺野は焦った。
いったいどれがいいだろう?
たとえ自分の目的がみんなを助けることでも、武器はそれなりに持っておきたい。
最悪、つんく♂との戦争も考えなくてはならないのだから。
きょろきょろと動いていた紺野の目がひとつの人形に止まる。
ひとつだけ薄汚れた感じの、周りのものに比べると可愛らしくもない人形だった。
それは裸の赤ん坊の人形で、キューピー人形のようにも見えるが、なんだか表情が邪悪で薄気味悪い。
それでも、何故だか紺野はその人形に惹きつけられていた。
「……それにします。 その、赤ちゃんの」
紺野が指を指し、兵士の一人がそのリュックを持ち上げる。
手渡されたリュックはそんなに重くなかった。
(あっ、軽い…… 失敗だったかも)
兵士に促され、紺野はドアの方へと歩いていく。
そしてそのまま、ドアを開ける。
「んじゃま、元気で頑張れや。ほなな」
つんく♂の声には振り返らなかった。
- 16 名前:7 遭遇 投稿日:2003/09/12(金) 23:54
- 部屋の外で待機していた兵士らに連れられて、紺野は昇降口へと案内された。
彼らは立ち止まり、行け、と命じる。どうやら案内はここまでらしい。
昇降口を出てすぐのところに見張りが二人いた。
学校の回りは木々とフェンスに囲まれていたが、学校を中心とした半径100mの敷地はまったくの更地になっていた。
(なるほど……、この更地の分だけ禁止区域になるのかぁ)
紺野は周りを見回してみる。
昇降口から真っ直ぐ向かった先には外灯があり、どうやらそこから道が続いているようだった。
敢えてそちらへは行かず、見張りの二人を気にしながら学校の裏のほうへ回ってみる。
特別呼び止められたりはしなかった。
禁止区域になる前に、とりあえずここの周囲の状況くらいは把握しておきたい。
裏のほうへと慎重に歩いていく。
建物の陰から見やると、裏にも出入り口はあったようで、そこにも見張りが二人立っていた。
裏のほうからも敷地外へ行く道はあるらしく、遠くに外灯が見える。
暫し、どちらへ行こうか迷ったが、結局紺野は最初に出たほうから出ることにした。
そちらのほうが仲間になってくれる誰かに出会いやすいだろう。
つい先程、教室から出たときはまだ薄暗い程度だった辺りは、すでに星空が見えるほど暗くなっていた。
北極星の位置が裏門側であることを確認してから、紺野は正門側の外灯のほうへと歩いていく。
外灯のところまで来ると、紺野は一旦立ち止まり、リュックの中身を確かめてみることにした。
「アローハー、こんばんわー」
紺野がリュックを下ろしたそのとき、誰かに後ろから声をかけられた。
紺野はすぐに振り返り、リュックを拾って後ずさる。
「だ、誰ですか……?」
相手が外灯の明かりの外にいるので顔が良く見えない。
声の主は無造作に歩いて茂みの中から出てきた。
ゆっくりと、その姿が暗闇の中から浮かび上がる。
「ハロー、紺野ちゃん アヤカだよッ」
底抜けに明るい声で、アヤカ・キムラはそう言った。
- 17 名前:8 ナイフとフォーク 投稿日:2003/09/12(金) 23:55
- 「ねー、紺野ちゃんそんなにおびえないでよー」
アヤカは紺野のほうへ近づきながら言う。
アヤカならば紺野にも多少の面識はあった。
「アヤカさん……だったんですか ごめんなさい」
紺野は素直に謝り、アヤカに近づく。
「ごめんねー、わたしが後ろから声かけたりしたからー、アハハー」
アヤカは上機嫌にそう言った。
ここで紺野は違和感を覚える。
はたしてアヤカはここまでアップテンポな性格だっただろうか?
「ねえねえ、こんちゃんはどんな武器だったの? ちなみにわたしはこれー」
そう言って、アヤカは自分のリュックを紺野に手渡した。
渡された紺野は目を丸くして驚く。
この状況で自分の武器を誰かに渡すなんてことは有り得ない。
(よかった…… アヤカさんは敵じゃないんだ)
紺野は安堵の息を吐いた。
「わたしはまだ……見てないんですけど……」
言いながら紺野はしゃがみこみ、アヤカから渡されたリュックを調べた。
「えっと、ナイフとフォーク?いっぱいありますね。……ああ、お皿もあるんだ」
紺野は独り言のように呟きながら、ごそごそとリュックを探る。
(――えっ……、これって……)
頭上でヒュオッ、と風を切る音がした。
紺野は必死で横に転がる。
「あれー? どうして分かったのかなー?」
紺野が先程までいた場所には、アヤカの振るったフォークが深々と突き立っていた。
- 18 名前:8 ナイフとフォーク 投稿日:2003/09/12(金) 23:55
- 紺野がそれに気付いたのは殆ど奇跡に近い。
アヤカのリュックを調べたとき、皿に比べてナイフとフォークの数が足りなかったのだ。
紺野がそれらの数を確かめたのは、やはり最初に感じた違和感によるものだった。
「なに……するんですか、アヤカさん」
胸の鼓動が瞬間的な恐怖によって早くなっていることを感じる。
自分のリュックはアヤカの後ろに落ちている。アヤカのリュックは本人の足元だ。
(に、逃げなきゃ……)
紺野は四つん這いの状態から起き上がろうとするが、膝が笑ってしまい上手く立ち上がれない。
そのまま後ろ向きに倒れ、尻餅をついてしまった。
(い、いや、死にたくない。まだ娘。のみんなとだって会ってないのに…… こんなところで死にたくないよ……)
尻餅をついた状態のまま紺野は後ずさる。
背中が外灯のポールにぶつかった。
これ以上後ろには進めない。
「ごめんね、こんちゃんに恨みはないけど…… 私たちのために死んで?」
外灯に照らされたアヤカの顔は微かな笑みを湛えている。
(いや……、誰か……助けて……!)
「じゃあね」
一言だけ呟いて、アヤカはギラリと光るフォークを高々と掲げた。
- 19 名前:9 好転 投稿日:2003/09/12(金) 23:56
-
――――バンッ!!
アヤカがフォークを振り下ろそうとした瞬間、
乾いた銃声が響き、高速の弾丸がアヤカの眼前を通り過ぎて数メートル先の地面に穴を空けた。
「――クッ……!」
アヤカは苛立たしげに呻き、自分のリュックに飛びつくと皿を一枚取り出して銃声のしたほうへ投げつける。
――――バンッ!!ガシャン!!
再度銃声が響き、宙を飛ぶ皿が粉々に砕けた。
「ふん……クレー射撃でもさせるつもり?」
女性の声が聴こえてくる。紺野には聴き慣れない声だった。
足音が聴こえ、それは徐々に近づいてくる。
「アンタはフォーク、アタシは銃。……これって、決定的じゃない?」
「……っ、何を――」
「分かんない? 見逃してあげるって言ってるの。 早くしないと殺すよ?」
ガチャリ、とハンマーを起こす音が聞こえる。
「ヒッ……!」
アヤカは自分のリュックを引っ掴み、駆け出した。
そんな二人のやりとりを、紺野はただ呆然と眺めていた。
「やれやれ、ハッタリは成功、と。 ……ね、大丈夫だった?」
声の主が外灯の作る光のサークルに入ってくる。
彼女は照れ笑いを浮かべながら言った。
「あなたは紺野……あさ美ちゃんだったよね?」
紺野はこくりと頷く。
「――アタシは……多分知ってるよね、石黒彩。よろしく、あさ美ちゃん」
声の主――石黒彩はそう言って右手を差し出した。
- 20 名前:10 BOSSと呼ばれた女 投稿日:2003/09/12(金) 23:57
-
(まったく……、なんでまたこんなことに)
斉藤瞳は廊下を兵士に連れられて歩きながら胸中でぼやいた。
つい先程、つんく♂のいる部屋で荷物を受け取ったばかりである。
兵士に促され、彼らとともに歩きながら、特にすることもないので渡された荷物の中身を歩きながら調べていた。
(これは……当たりなのかな?)
斉藤が選んだリュックに入っていたのは紛れもなく拳銃だった。
エアガンなどではない。ちゃんと弾薬の箱も入っている。
リュックの中にはその他に武器についての簡易の説明書きも入っていた。
斉藤はリュックのジッパーを閉じ、安堵とも不安とも取れるような溜息を吐いた。
(こんなもんで……なんとかなるのかねぇ)
正直な話、斉藤はこの合宿(と、斉藤は敢えてこう呼称する)に対して、あまり乗り気ではなかった。
例え自分が生き残って元の世界に戻ったとして、メロン全員がいればまだしも自分ひとりではどうしようもない。
それに、皆を前につんく♂が言った言葉――娘。のコシギンチャク。悔しいが、それは斉藤自身も認めていることだ。
(なんとかしてメロンのみんなと、娘。のみんなと帰らないと)
それが、初志として斉藤が決めたことだった。
- 21 名前:10 BOSSと呼ばれた女 投稿日:2003/09/12(金) 23:58
-
――――バンッ!
そろそろ昇降口に着こうかというそのとき、何処からか銃声が聴こえてきた。
斉藤は最初、それが教室のほうから聴こえてきたものだと思った。
失神していたメンバーあたりが起きだして暴れて殺されたのだと思ったのだ。
――――バンッ!カシィン……
再び銃声と、そして何かが割れる音。
今度は聴き間違えなかった。
(間違いない…… この音、外のほうからしてる)
昇降口に着くと、見張りの二人が慎重に銃を構えていた。
その前に出るのはなかなか度胸のいるものだったが、斉藤は構わず歩を進める。
斉藤が歩き出すとすぐに、誰かがこちらへ走ってきた。
「――アヤカ!?」
月明かりにかすかにしか見えないが、確かにアヤカだ。
アヤカは斉藤の呼びかけには気付かず、逃げるように学校の裏のほうへと走っていった。
(なに……? アヤカ…… どうしちゃったの?)
暗くて分からなかったが、もしかしたらアヤカは泣いていたのかもしれない、と斉藤は判断する。
事実を言えば、このときのアヤカは石黒に邪魔をされた口惜しさに顔を醜く歪めていたのだが、
それは斉藤の知るところではなかった。
(街頭の下…… 誰か、いる!)
外灯まで残り50mほどの距離で、斉藤は人影を二つ視認した。
リュックから拳銃――"Glock19"を取り出すと、
先程廊下で確認した説明書きどおりに安全装置をそっとはずした。
- 22 名前:abook 投稿日:2003/09/13(土) 00:03
- 今日はここまでです。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。
こんな今更な小説でアレなんですが、
よろしければまたお付き合いください。
- 23 名前:abook 投稿日:2003/09/13(土) 11:51
- ケアレスミスです。
×「石川梨花」→○「石川梨華」
- 24 名前:abook 投稿日:2003/09/13(土) 14:19
- さらに訂正。
×「小川真琴」→○「小川麻琴」
ホントに申し訳ないです。
- 25 名前:11 紺野と石黒 投稿日:2003/09/13(土) 23:48
- 「……ってわけでね、矢口を待ってたんだ」
外灯の下で石黒は紺野に現在までの状況を話していた。
彼女は当初飯田圭織を探していたのだが、なかなか見つからず、
それならばと今度は矢口真里に会うためにここまで戻ってきたのだった。
アヤカに襲われていた紺野を見つけたのはまったくの偶然だった。
「あの……わたしの、ほうは……まだ……でてきたばっかりで……」
ぼそぼそと話す紺野はまだ地面に座ったままでいる。
先程石黒が立たせようとしたのだが、腰が抜けているようで立ち上がれなかった。
「ああ、いいよいいよ、無理して話さなくても。それに大体の事情は分かるから」
石黒は萎縮してしまっている紺野をなだめるようにして言う。
(あんなことがあったんだ、わざわざ思い出させることはないよね)
石黒は紺野のそばにしゃがみ込んだ。
「立てる?あさ美ちゃん。そろそろ次の人が来るからね、早く移動しよう」
紺野の顔を覗き込むようにして言う。
(そう、早く移動しないとまずい)
紺野に対してはけして見せなかったが、石黒は内心焦っていた。
- 26 名前:11 紺野と石黒 投稿日:2003/09/13(土) 23:48
- 学校にこんなに近い位置で二発も発砲してしまったのだ。
これからやって来るだろうメンバーを興奮させるには十分なものだ。
そしてさらに石黒にとって不利な条件は重なる。
それは石黒の持っている銃だった。
"Hi-Standard derringer"
全長180mmと小型で、形態性に優れた銃だが、その分弾数が2発と極めて少ない。
しかもその2発は先程アヤカを追い払うのに使ってしまった。
弾薬を詰め替えようにも、ついさっき殺されかけたばかりの紺野の前でそんな無神経な真似は出来ない。
そのため、石黒彩が今現在しなければならないのは、
まず紺野をなぐさめ、そして一刻も早くこの場から立ち去ることだった。
「あ……はい。もう多分、大丈夫です」
紺野はそう言うと、少しだけよろめきながらも立ち上がった。
「うん、それじゃあ行こうか」
石黒は二つの荷物を拾い、紺野の分を彼女に渡した。
「――ちょっと待って」
その声が聴こえたのは丁度そのときだった。
石黒も、紺野も、同時に振り返る。
二人の視線の先、暗がりの中に、誰かが立っていた。
その人影はこちらへ歩み寄ってくる。
「少し……、話を聞きたいんだけど」
人影――斉藤瞳は、こちらへ向けて拳銃を構えていた。
- 27 名前:12 対峙 投稿日:2003/09/13(土) 23:49
- 「ついさっき、こっちのほうから銃声がしました。撃ったのはどっちですか?」
斉藤は石黒と紺野、それぞれにグロック19の銃口を向けて言った。
(少し、先走りすぎたかもしれない……)
少し前から暗がりで彼女たちの話を聞いていた斉藤は、
思わず銃を構えてしまったことを少なからず後悔した。
二人の様子から察するに、彼女たちが自発的にゲームに乗っているようには思えない。
しかし、銃声が聴こえてきたのも事実だ。
撃ったのがアヤカならばわざわざ逃げる必要はないだろうし、
やはりこの二人のどちらかがアヤカに向けて撃ったのだろう。
石黒が黙ったまま右手を挙げて質問に答える。
斉藤は狙いを石黒のみに絞った。
「じゃあ次のしつ――」
「ちょっと待って」
石黒が右手をスッと前に出し、斉藤を制止した。
「それよりもその銃しまってくれないかな、この子が怖がってる」
斉藤を真っ直ぐに見据えながら言う。
その顔に恐怖はない。
銃を構えているこちらのほうが逆に萎縮してしまうほどだ。
「だ、ダメです。石黒さんは銃を持ってますよね?それにもう2発も撃ってる、そうでしょ?」
斉藤は出来る限り石黒のほうに気を置いたまま、紺野をちらりと見やる。
「質問はすぐに終わるから紺野ちゃん、ちょっとだけ我慢してね」
紺野は名前を呼ばれただけでも過敏に反応し、びくりと肩を震わせる。
石黒の言うとおり、紺野はおびえていた。
- 28 名前:12 対峙 投稿日:2003/09/13(土) 23:50
-
(ああ……!!なにやってんだ!アタシは!!)
自分は彼女たちを救いたいのに。
彼女たちと一緒に帰りたいのに。
斉藤は後悔を振り切るように言葉を続ける。
「誰を撃ったんですか?」
「…………」
斉藤の短い言葉の後、暫く沈黙が続く。
「ココナッツ娘。の……アヤカって言ったか、あの子だ」
石黒は少しだけ苛立たしげにそう答えた。
「でも威嚇しただけ。怪我はさせちゃいないよ」
「そう……ですか」
斉藤は銃を構えている自分に苛立ちを感じる。
早く、終わらせたかった。
「それじゃ最後の質問ですけど……」
『何があったんですか?』
そう言おうと口を開いたところで、目の前の光景に言葉が詰まった。
「紺野……ちゃん」
口から意図せず言葉が漏れる。
紺野あさ美が泣いていた。
- 29 名前:12 対峙 投稿日:2003/09/13(土) 23:51
- 石黒は紺野にゆっくりと近寄り、左手で自分のほうに抱き寄せる。
それでも視線はけっして銃口からは外さない。
「もう……いいです」
斉藤はグロック19を下ろし、そのままリュックに突っ込んだ。
(ホントに……何やってるんだろな、アタシは)
恐らく、アヤカは紺野を襲おうとして石黒に追い払われたのだ。
(クソッ……なんで、なんでよアヤカ……)
それは、二人の話を隠れて聴いていたときから気付いていたことだったのかもしれない。
けれど、斉藤は意識的にその考えを否定していた。
あのアヤカがこのゲームに乗るはずなんてない。
そう、思い込んでいた。
「ごめんね、紺野ちゃん……」
「…………」
紺野は黙ったまま俯いている。
「石黒さんも、ごめんなさい」
「ん……、ああ」
「アタシは、アヤカを探してみます。まだそんなに遠くには行ってないはずだから」
そう言って、斉藤は立ち去ろうと背を向けた。
「……気をつけてな、斉藤」
背を向けた斉藤に石黒が声をかける。
それは先程までの声とは違う、優しい声だった。
どうしてこの人はそんな声をかけられるのだろう?
ついさっきまで自分は銃を向けていたのに。
居た堪れなさを感じ、斉藤は自分の軽率な行動を恥じた。
振り返ってもう一度謝ろうかとも思ったが、
自己嫌悪の情が強すぎてまともに二人の顔を見られそうにない。
「ふたりも……、気をつけて」
ただ一言呟いて、斉藤は裏門のほうへ歩き出した。
- 30 名前:12 対峙 投稿日:2003/09/13(土) 23:52
- 暗闇と、蒸し暑い空気が肌に粘りつくような感触。
それが斉藤の心にいっそうの影を落とす。
暗闇はさらに深く澱み、斉藤の体を包み込む。
空気はいっそう暗く沈み、斉藤の体にのし掛かる。
見えない壁を押しのけるようにして斉藤は進んでいく。
アヤカを追う斉藤の足取りは、それでも力強いものだった。
【6番 石黒彩 所持品 Hi-Standard derringer】
【16番 紺野あさ美 所持品 未だ分からず】
【17番 斉藤瞳 所持品 Glock19】
- 31 名前:13 みうな 投稿日:2003/09/13(土) 23:53
- (いやだ……死にたくない……)
斉藤美海(みうな)に番が回ってきたとき、彼女の神経はすでに衰弱しきっていた。
隣には血に塗れた亀井が死んだように眠っている。
そして後ろには額に穴の空いた夏まゆみの死体。
もしかしたら『それ』が急に立ち上がって自分に襲いかかってくるんじゃないだろうか。
そんな幻想が頭の中から離れない。
(どうして……?私、入ったばっかりなのに、なんで?なんでこんなことになるの?)
兵士に呼ばれ、乾き始めている血の海を避けるようにして席を立つ。
みうなは二人の兵士に連れられて歩きながら、独り恐怖と戦っていた。
(さっき聴こえた銃声……外からだった……)
ついさっき前のことを思い出す。
斉藤が出て行ってしばらくたった後、聴こえてきた二発の銃声。
それはみうなの恐怖心をよりいっそう掻き立てていた。
(きっと後藤さんだ……後藤さんがもう二人も殺したんだ……)
それは事実とは違っていたが、みうなはそう信じきっていた。
- 32 名前:13 みうな 投稿日:2003/09/13(土) 23:54
- 『殺したくてウズウズしてるんです』
『わたしが殺せなくなるじゃないですか』
あのとき、後藤が言った言葉がみうなの耳から離れてくれない。
みうなの中で、後藤に対する恐怖が募る。
それはみうなの想像。
後藤に殺されるみうなの虚像。
銃弾が、ナイフが、散弾が、自分の体を破壊していく表象。
あるいはそれは起きながらにして見た夢なのかもしれない。
むしろこの現実が夢ならば、どれだけ楽だろうか。
夢と現実の境界は曖昧になり、想像は恐怖と相まって、際限なく膨らんでいく。
銃弾が、ナイフが、散弾が、自分の体を破壊していく心象。
夢の中のみうなは何度も何度も後藤に殺されていた。
それを止める術は、今のみうなにはなかった。
「イヤだぁ……」
思わず声が漏れた。
(もうやだ……怖い……みんな、怖い……)
たどり着いた部屋で荷物を渡され、そこからまた出口まで案内される。
その間のことをみうなは覚えていなかった。
学校を出た後は外灯を頼りに道なりに歩いていく。
自分が何処へ向かっているのかは分からない。
ただ、出来るだけ人のいないところへ行きたい。
今は誰にも会いたくない。
月は雲に隠れ、その影すらも落とさない。
ただ、闇だけがみうなの周りには広がっている。
- 33 名前:14 安倍なつみ 投稿日:2003/09/13(土) 23:55
- 紺野と石黒が斉藤と対峙していたとき、安倍はすでに銃声の届かないところにいた。
安倍の道程はこうだ。
学校から正門方向(南)へ降りていくと5分ほどで舗装された海岸沿いの道路にぶつかる。
安倍はそこを右に曲がり石で出来た小さな橋を渡った。
少し歩くと民家や商店が立ち並ぶ場所があったが、安倍はそこを通り過ぎる。
恐らく、殆どの者が通るだろうと推測されるそこに立ち止まるのはあまり得策ではなかった。
商店街を通り過ぎ、暫く歩くと小さな診療所があった。
取り敢えず中に入り、急いで適当な救急用具をリュックに詰める。
一番で学校を出た安倍にはある程度の時間的余裕があった。
誰も来ていないことを確認してから外に出ると、それほど遠くないところに灯台が見えた。
そこへ続く道らしい道はなかったが、腰まである草原を分け入り歩いていった。
灯台についたとき、すでに辺りは真っ暗になっていた。
(イヤ……、やっぱり怖いよ……)
震えが止まらない。
泣きたくなってくる。
安倍はその灯台――丁度島の南西にある灯台の中でうずくまっていた。
みんなを助けたい。
確かにそう思っている。
しかし、酷くおびえている自分がいるのも事実だ。
後藤の発した言葉は、安倍の心にもやはり大きな傷を与えていた。
- 34 名前:15 閑話 投稿日:2003/09/13(土) 23:57
- RuRuRuRu…………
安倍が灯台に着いたとき、つんく♂のいる校長室に電話の呼び出し音が響いた。
丁度みうなの次、里田まいが部屋を出て行ったときだった。
つんく♂が受話器を取る。
「おう、どうした?」
短く、発する。
『つんく、俺や』
受話口から聴こえる男の声はかなりフランクなものだ。
『今、灯台に安倍がきよった。どうする?』
男の言葉につんく♂の顔色が幾許か変わる。
『何人かこっちから下に偵察送るか?』
つんく♂は暫く受話口を耳に押し当てたまま沈黙する。
『……つんく?』
男の声につんく♂は口を開いた。
「いや、ええわ。あんま俺らがいじくると上がうるさいからな。
それにアイツ独りじゃなんもできんやろ。カギは俺が持っとるし」
言いながら、胸ポケットに入れてあるカギを意識する。
「安倍はこっちでなんとかする。とりあえず、海上の警戒だけは続けてくれ」
『わかった』
プツンと通信が切れる。一拍おいてつんく♂も受話器を置く。
「ふぅ……」
自然と、溜息が漏れた。
- 35 名前:abook 投稿日:2003/09/13(土) 23:58
- 今日はここまでです。
かなりゆっくりなペースでまだ参加者誰一人として死んでいません。
こんなダラダラした文で宜しければ今しばらくお付き合いくださいませ。
- 36 名前:16 石黒の決意 投稿日:2003/09/14(日) 16:07
- 斉藤と別れた後、紺野と石黒は山を下りて行き着いた舗装道路を渡り、
ガードレールを飛び越えてさらに下へ向かう。
2mほどの高さがあったが、下が砂浜になっていたため二人とも怪我せず降りることが出来た。
二人は、飛び降りたそこで暫し休憩することにした。
湿った空気のわりに浜辺の砂はサラサラとしていて、
周期的に寄せて返す波の音もまた心地よい。
月が雲に隠れてしまっていたのは残念だが、
それでも白い砂浜は不思議と神秘的な輝きを放っていた。
素直に、奇麗だな、と思う。
しかしすぐに思い直す。
ここの空気は今の石黒にとってむしろ不必要なものだ。
幻想は所詮、波間の泡のようなものでしかない。
現実と向き合うためには、この景色に見惚れている時間はない。
「大丈夫?」
石黒は紺野に声をかけた。
「はい……もう大丈夫です……」
そうは言うが、紺野の声には力がない。
無理もない。
紺野はすでに二度も死を眼前に突きつけられたのだから。
何とかして、この子を助けてあげたい。
石黒は紺野を元気付けるために何か話でもしようと考えた。
「そういえばさ、さっきの斉藤、まだ21歳なんだって? 見えないよねー。
アタシはあっちゃん辺りとタメかと思ってたんだけどさ。
せめてみっちゃんとタメとかアタシとタメくらいなら分かるけど21って……、ねぇ?」
「…………」
紺野からの反応はない。
(ああ!もう! アタシが思い出させちゃってどうするってのよ!)
紺野は石黒とともに斉藤に銃口を向けられたばかりなのだ。
斉藤には危害を加える意思はなかったにしろ、この話題は禁句だった。
(他のメンバーの話も……やっぱダメよね)
石黒はそう判断する。
自分はなんとか信用してもらえたかも知れないが、
恐らく、紺野の中では殆どのメンバーが敵に見えてしまっているに違いない。
(はあ、どうしたものかな……)
石黒は困り果てていた。
- 37 名前:16 石黒の決意 投稿日:2003/09/14(日) 16:08
-
「あの……」
不意に、紺野が言葉を発する。
「あの、石黒さん……は、どうして……わたしを助けてくれたんですか?」
紺野はおどおどしながらも、はっきりとした声で話す。
「えっと……、困っている人がいたら助けるのが普通……でしょ?」
石黒は恥ずかしそうに笑いながら答えた。しかし、紺野の表情は暗いままだ。
「そう……ですか……」
「…………」
再度、沈黙が訪れる。
(あーもう、しょうがないなー)
石黒は再び口を開いた。
「あのね、あさ美ちゃん。 これは言わないでおこうと思ってたことなんだけどね」
そう言って石黒は紺野を見据える。
「アタシ、最初はみんなを殺して帰るつもりだったんだ」
紺野が、恐怖と驚きが混じった表情で石黒を見た。
石黒はかまわず言葉を紡ぐ。
「でもね、あのとき……、
泣いてる加護ちゃんを抱きしめたなっちを見てさ、
アタシは何やってんだろうって、 そう思った」
それは、石黒彩が望む姿。
母親として、石黒彩が望む姿。
石黒は紺野から視線を逸らし、水平線を眺める。
「知ってると思うけど、アタシには子供がいるんだ……女の子、二人ね」
紺野は黙って石黒を見つめる。
「りむとそなっていってね、かわいいんだぁ……」
石黒は嬉しそうに微笑む。
紺野は黙って石黒を見つめる。
「最初はね、あの子達のために、あの子達のところに帰るために、
みんなを殺してでも生きて帰ろうって思った。でも、それは違うんだ」
石黒は微笑を湛えたまま言葉を続ける。
紺野は黙って石黒を見つめる。
- 38 名前:16 石黒の決意 投稿日:2003/09/14(日) 16:09
- 「だって、アタシがみんなを殺したら……アタシは、あの子たちの笑顔をまともに見られなくなる。
それに誰かを犠牲にして生きる生き方なんて、アタシは絶対にあの子たちにはさせたくない」
石黒は向き直り、紺野の顔を見た。
「だからね、あさ美ちゃん」
紺野は黙って石黒を見つめる。
石黒が真っ直ぐに見つめ返す。
「アタシは、守るって決めたの。誰も死なせない。
誰にも殺させない。それは、全員助けられるかは分からない、でもね」
紺野と石黒の視線が交錯する。
愛情にも似た感情が、そこにはあった。
「アタシは、アタシの出来る限りのことをする。そう、決めたんだ」
それは、石黒彩の決意。
奇しくも紺野あさ美が考えていたそれと、同じ決意。
紺野の薄れかけていた決意はこの瞬間、輝きを取り戻した。
石黒が照れくさそうに笑う。
紺野もつられて微笑んだ。
信用が、信頼に変わる瞬間。
それは、石黒に出会って初めての笑顔だった。
- 39 名前:17 足音 投稿日:2003/09/14(日) 16:10
- 「さて、そろそろ移動しなきゃね」
石黒がそう言って立ち上がる。
紺野も遅れて立ち上がり、砂を払った。
「でも……どっちに行ったらいいんですかね?」
東か、西か。
海岸線は東に繋がっていて、西には小さな漁港がある。
「うーん、海岸線を進んでも……下手すると行き止まりだし……。
でも漁港に行ったら人がいそうなんだよね……。
出来るだけ人と会うのは日の出てるうちにしたいしさ……」
石黒は呟きながらデリンジャーの弾倉から空薬莢を外し、弾を詰めた。
弾を詰め終え、バレルを戻す。シャコン、と金属のぶつかり合う音がなかなかに小気味良い。
「まずは今日寝るところを探さないと」
「そうですね……。 ん?」
ジャリ……ジャリ……
足音が聞こえ、石黒と紺野は顔を見合わせた。
- 40 名前:17 足音 投稿日:2003/09/14(日) 16:11
- 学校のほうから誰か降りてきたようだ。
石黒と紺野はともに音を立てないように腰を落とし、壁面に背をへばり付けた。
ペタンッ……ペタンッ……
足音の質が変わる。どうやら舗道に入ったらしい。
万一に備えて石黒はデリンジャーを構える。
ペタンッ……ペタッ
足音が止まる。
辺りは静寂に包まれ、自分の心臓の鼓動が大きく聴こえる。
実際二人のそれは大きく、速くなっていた。
ペタンッ……ペタンッ……
また足音が再開し、二人は息を飲む。
しかし足音はそのまま西のほうへと遠ざかっていった。
どうやらどちらに進むか迷っていただけのようだ。
だが足音が完全に聞こえなくなってからも二人は警戒を解かない。
黙ったままじっと待つ。
1分弱ほど経過した後で、石黒がようやく小さな溜息をついた。
「いやぁ……心臓にわりぃ……」
「まったくです……」
壁に背をつけたまま、互いを見やり、力なく笑う。
「……てことで決まったね、アタシらは海岸線を進む、オーケー?」
壁から背を離し、石黒は紺野に右手を差し出した。
「はい」
紺野はその手をとり、同じく壁から背を離した。
手をつないだまま海岸線を東へと歩く。その手の温もりが、紺野には心地よかった。
「にしてもさっきの足音……なんか不気味だったよね」
「そうですね……生きている人間の足音じゃないみたいでした……」
紺野の比喩は、ある意味では当たっていた。
- 41 名前:18 崩壊 投稿日:2003/09/14(日) 16:12
- (わたしはこうやって無防備に歩いてて……それできっと後藤さんに撃たれて殺されちゃうんだろうな)
みうなはよろよろとした足取りで歩きながら、ぶつぶつと呟いていた。
(でも別にいいか……どうせみんな死んじゃうんだ。みんな後藤さんに殺されて……)
先程、紺野が言った『生きている人間ではない』という比喩。
それは一部分では当たっている。
肉体そのものは健康体であったが、すでにみうなの心は死にかけていた。
(どうせ死ぬんなら楽に死にたい……)
みうなは、夏まゆみの死体を思い出す。
額に風穴を空けられて絶命した彼女は、きっと一瞬も苦しむことはなかっただろう。
(どうせ死ぬんなら……あたしもあんな風に……)
みうなは想像する。
夏と同じく額に穴の空いた自分の死体を。
「う……あ……」
みうなは搾り出すように呻いた。
疲弊し、麻痺しきっていたみうなの心に再び恐怖が襲ってくる。
形のない闇が、姿のない闇が、じわじわとみうなの心を蝕む。
(イヤだ!死にたくない! わたし……まだ死にたくない!!)
みうなは駆け出し、近くの民家に逃げ込む。
乱暴にドアを閉めると、バタンッ!と大きな音が響く。
居間らしきところに入って、すぐに手探りで電灯のスイッチを探して点けた。
今のみうなに、誰かに見つかる危険を考える余裕はなかった。
(怖い……!怖い!怖い!)
その場にしゃがみ込み、頭を抱えてみうなは震えていた。
- 42 名前:18 崩壊 投稿日:2003/09/14(日) 16:13
- どれくらい時間が経っただろうか。
恐らくは数分も経っていないだろう。
しかし、みうなにはそれが永遠にも感じられた。
「いやだ……助けて……あさみちゃん……まいちゃん……」
がたがたと震えながら呟く。
それは、消え入りそうな声だった。
わたしは一体どうすればいいのだろう?
まだみんなともそんなに親しくなれてないのに。
まだまだ知らないことばかりなのに。
芸能界にも全然慣れていないのに。
突然こんな島に連れ出してわたしに人を殺せと言う。
そんなこと出来ない。
出来るわけがない。
だからわたしは殺されるんだ。
きっと、みんな、後藤さんも、
よく知ってる相手よりもわたしみたいなやつの方が――――
「――――みうな?」
突然、奥のドアが開いて声が聴こえた。
(だれ……?)
みうなはおそるおそる顔を上げて、ドアから半分だけ体を出してこちらを見ている女性を見た。
木村麻美(あさみ)だった。
(あ、ああ……あさみちゃん……あさみちゃんだぁ……)
緊張の糸が切れ、涙がこぼれそうになる。
きっと、あさみちゃんはわたしの味方だ。
きっと、わたしをこの闇から救ってくれる。
一緒に笑って、一緒に泣いて、
きっと、また一緒に歌を歌えるんだ。
みうなは、立ち上がって駆け寄ろうとした。
「えっ――――?」
しかし、あさみの全身を、ドアに隠れていた半身を見て、みうなは凍った。
「よかったー、別の人だったらどうしようかと思ったよー」
あさみは右手に包丁を携えていた。
- 43 名前:19 バイバイ 投稿日:2003/09/14(日) 16:13
- あさみには、みうなに危害を加えようという意思はまったくなかった。
その包丁は単に護身用として持っていたものだった。
しかし、みうなの心はそれを見た瞬間完全に崩壊した。
包丁を振りかざして襲い掛かってくるあさみの姿が、ありありと想像できる。
「わたしもここに隠れてたんだけど、なんか声が聴こえてきたから。
で、わたしとまいちゃんの名前呼んでたし、もしかしたらって思って」
あさみは微笑みながら近づいてくる。
「――っ、いやっ、いやっ!来ないで!」
みうなの叫び声であさみは足を止めた。
みうなは震えながら後ずさる。
「ど、どうして……そんな、もの、も、持ってるの? わたしを……こ、殺すつもり、なんでしょ?」
それは、あさみに石黒ほどの配慮があれば避けられた事態だった。
右手に包丁を持って近づいてくるその姿は今のみうなの目には『敵』としか映らない。
「殺すつもりって……みうな……」
あさみは困惑していた。
目の前にいるみうなは興奮していて、少なくともあさみの知らないみうなだった。
それ故に、あさみは包丁を捨てることが出来ないでいる。
「ねえ、どうしちゃったの? そんな、おかしいよみう――」
「来ないで!!」
再び近寄ろうとしたあさみにみうなが喚く。
きっと、殺すんだ。
きっと、その包丁でわたしを殺すんだ。
お腹を刺して、首を切って、
きっと、そうやってわたしを殺すんだ。
想像ばかりが膨らみ、まともな判断が出来ない。
みうなはあさみを睨みながらじりじりと後退する。
- 44 名前:19 バイバイ 投稿日:2003/09/14(日) 16:14
- 「来ないで……おねがあっ――」
みうなは敷居に踵をぶつけて背中から倒れてしまった。
上体を起こし、尻餅をついたような姿で、それでも這ってでも逃げようとする。
「みうな……」
再び、あさみはみうなに近づいた。
今度こそ、みうなを刺激しないように床に包丁を置いた。
しかし、みうなの目にそれは映らない。
包丁を構えたあさみが近づいてくる。
頭上に掲げてゆっくりと近づいてくる。
みうなは自分の作り出した幻影を見ていた。
(いやだ、いやだいやだ!!)
信じちゃいけなかったんだ。
自分がばかだったんだ。
きっと、まいちゃんに先に会ってても、
きっと、まいちゃんもわたしを殺すんだ。
お腹を切って、首を刺して
きっと、そうやってわたしを殺すんだ!
(いやだいやだいやだいやだ!!!)
みうなは必死の形相で這いずりながら、今まで開けていなかったリュックを開く。
(死にたくない死にたくない死にたくない!!!!)
――――ゴツッ……
中に突っ込んだ手が、何か硬いものに当たった。
(これ……な、に……?)
リュックの中を覗き見る。
その瞬間、その中身を確認した瞬間、みうなの中で何かが目覚めた。
体の震えがピタリと止まる。
霧散していた思考がひとつに固まる。
氾濫していた感情がひとつに収束する。
あさみはなおも足を止めず、ゆっくりとみうなに近づく。
近づいて、彼女を抱きしめてやるつもりだった。
しかし、それはすでに遅すぎたのかもしれない。
- 45 名前:19 バイバイ 投稿日:2003/09/14(日) 16:15
-
「――――えっ?」
自分の身に起こったことに、あさみの思考が停止する。
「ぎゃあああああぁあぁぁぁぁぁ!!!」
気を失いそうなほどの痛みを感じ、両目で事態を確認し、あさみは絶叫した。
「あああ!!がああああぁっぁあああ!!!!」
みうなに差し出していた右腕が、穴だらけになって千切れかけている。
「うあああ、うう……っがあああああぁぁぁあ!!!」
あさみは獣のような悲鳴を上げ、床の上に大量の血を撒き散らしながらのた打ち回る。
「……バイバイ」
その声の後、けたたましい騒音が鳴り響き、あさみは全身を貫かれて絶命した。
- 46 名前:19 バイバイ 投稿日:2003/09/14(日) 16:16
- みうなはリュックに入っていた簡易の説明書きを見ながら、
すでに弾切れになったそれからマガジンを外し、予備弾倉をリュックから取り出してはめた。
取り外したマガジンはリュックに放り込んでおく。
(なんだ、意外と簡単なんだね)
みうなは穴だらけになったあさみの横を通り過ぎ、先程まであさみがいた部屋へと向かう。
予想通り、あさみの荷物がそこにはあった。
(おなべとおたまと……なべつかみ?)
チッ、と舌を打つ。どうやらあさみははずれを引いたらしい。
その他にリュックに残っていたものは水と食料だけだった。
とりあえずそれらを全て自分のリュックに放り込む。
――――殺して、奪う。
なるほど、つんく♂が言っていたことはこういうことだったのだ。
みうなは今、ハッキリと理解した。
居間へ戻り、床に転がっていた包丁を取る。
鞘がないのが心配だったので、あさみが着ているシャツから袖を破り取り、包丁に巻きつけてリュックに放る。
(バイバイ、あさみちゃん)
みうなは心の中で呟いた。
感情のベクトルが収束したその先――それは、狂気。
きっと、わたしは生き残る。
きっと、生きて帰ってみせる。
腹に銃弾をぶち込んで、首を包丁で掻っ捌いて、
きっと、一人残らず殺してみせる。
(ありがと、大切なことを教えてくれて)
あさみに、もう一度語りかける。
そのときすでに、みうなの心は死んでいた。
あさみをその手にかけたそのとき、あさみとともに死んでいた。
彼女の小さな手に残ったものは、
サブマシンガン――"Ingram M10"と、『殺して奪う』という目的。
そして、今も膨らみ続けている、狂気だけだった。
【13番 木村麻美(あさみ) 死亡】
【18番 斉藤美海(みうな) 無傷 所持品 Ingram M10 ――包丁取得】
- 47 名前:20 ぐっちまり 投稿日:2003/09/14(日) 16:17
- (ハァ……ったく、なんでこんなことになるかなぁ?)
矢口真里はまだ教室にいた。
安倍が教室を出てからすでに二時間が過ぎている。そろそろ自分の番になる頃だ。
当初は恐怖で何も考えられなかった矢口だが、今となってはすでに普段の落ち着きを取り戻していた。
(どうしたもんかねぇ……)
それでも頭の中では大量の情報が氾濫し、殆どパンク寸前といったところだ。
取り敢えず、整理してみることにする。
まず、この状況について。
これは考えるまでもない。
自分も、他のメンバーも、そろって夏まゆみの死を目の当たりにしている。
これが夢であるならば別だが、手の甲をつねると痛みが感じられる。
残念ながら、これは現実だ。
次に、このゲームの意図について。
これについては色々考えてみたものの、その推測全てにおいてどうも辻褄が合わない。
ただ、こんなことをしても事務所側にメリットはまずない、ということ。それだけはハッキリしている。
つんく♂が言っていた「飢えた心を取り戻す」というのもおかしな話だ。
たとえこのゲームの中で精神的な強さ、
ハングリーさを身に着けられてもハロプロ自体が崩壊してしまっては元も子もない。
たとえ元の世界に帰ったとして、自分ひとりではどうすることも出来ないだろう。
それに、マスコミへの対処がどうなるのか、それも疑問だ。
「ハロプロ集団失踪」
なんて話題がスルーされることはまずない。
飛行機事故などに見せかければ何とかなるかもしれないが、
それでも情報とはどこからでも漏れるものだ。
これをもみ消すには少々の金では済まないだろう。
どう転んでも事務所にメリットはない。
- 48 名前:20 ぐっちまり 投稿日:2003/09/14(日) 16:17
- だとすると、むしろ事務所よりももっと大きな組織が関わっている可能性が考えられないだろうか。
つまり、国だ。
これは単なる憶測に過ぎないが、それでもこの可能性は捨てきれない。
何しろこんな違法行為が一介の芸能プロに簡単に出来るはずはない。
今の段階ではどれほどの関与があるのかは分からないが、
それでも国がこのゲームに乗っている可能性は大だ。
まあ取り敢えず、推測できるのはここまで。
ここから先はまったくの情報不足だった。
そして最後に、自分がどう行動するのかについて考える。
即ち、ゲームに乗るか、乗らないか。
これが、恐らく最大の難問だろう。
矢口にはこんなところで死ぬつもりはまったくない。
ただ、そのためにメンバーたちを殺す、という手段はなるべくならば取りたくない。
もしそれを選択しなければならないとしても、それは最後の手段だ。
まずは、なんとかしてみんなとここから脱出する方法を探さなくては。
『最後の最後まで、足掻いてやる。』
それが矢口真里の決意だった。
(ハァ……にしても気が滅入るなぁ……)
それでも矢口はまだ若い。
自分の決めた目標に対して弱気にもなる。
(なんでこんなことになったかなぁ……?)
しかし、弱気を他人に見せたがらないのもまた若さゆえのもの。
だから矢口は誰に言うでもなく、一人呟くでもなく、
顔に出すわけでもなく、胸中で愚痴をこぼすのだった。
- 49 名前:abook 投稿日:2003/09/14(日) 16:18
- 今日はここまでです。
明日か明後日あたりまではこのペースで更新できると思います。
やっと一人、死んでくれました。 ……ペース遅いです。
ただ、殺人に至るまでの少女たちの心の過程を描きたいと思ってこれを始めたので、
まだ暫くはこんなペースで続くと思われます。
それでも宜しければ、またこの駄文にお付き合いくださいませ。
- 50 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/15(月) 17:21
- 狂気に向う描写がリアルだ。面白いです。期待してます。
- 51 名前:21 勇気をください 投稿日:2003/09/15(月) 23:23
- 程なくして矢口の番が来た。
吉澤ひとみは二人の男に連れられて教室を出ていく矢口の背中をぼんやりと眺めていた。
残すところは自分と、保田圭と、レフア・サンボの三人だけだ。
早々に気絶してしまった石川と亀井もまだ残っていたが。
二人は未だ眠りから覚めず、石川はともかく亀井の姿は正視に耐えない。
なるべくそちらのほうは見ないようにしていたが、
暇を持て余し気味の吉澤はついそちらのほうを見てしまう。
その度に見なければよかったと思うのだが、それでも何度も見てしまうのだ。
これが怖いもの見たさというものだろうか。
人間はどうしてかスリルを求め、それを快楽として変換する。
ブラウン管越しの有り得ない現象に、
フィクションの中の恐怖に、
安全バーで保障された危険に、
身をゆだねて一瞬の恐怖と快楽を得ようとする。
吉澤にとって亀井の凄惨な姿は、後ろに転がる夏の死体は、
それと同じものなのかもしれない。
この状況においてなお、吉澤ひとみには現実感がなかった。
亀井の姿を見るたびに恐怖を覚えている自分がいるのも確かだが、
その恐怖が現実であるのか偽物であるのか、酷く曖昧だった。
頭では理解しているものの、気持ちが付いていかない。
(こんな状態で外に出たら……きっと死んじゃうんだろな……)
それでも吉澤はこの現実を、現実と認める覚悟が出来ないでいた。
- 52 名前:21 勇気をください 投稿日:2003/09/15(月) 23:24
- 「保田、お前の番だ」
暫く経って、教壇の上に立つ男が短く告げる。
保田もまた矢口同様、二人の男に促されて席を立った。
吉澤はまた、その後ろ姿をぼんやりと眺める。
(――――えっ?)
そこで、吉澤はあることに気が付いた。
(圭ちゃん…………?)
保田の背中が、小刻みに震えている。
あの気丈な保田圭が、震えていた。
吉澤は保田の背中から目が離せなくなっている自分に気付く。
常に、どんなことがあろうとも、
雄々しく逞しかったその背中が、
今は壊れかけの玩具のように震えている。
保田の、ここまで弱々しい姿を見るのは初めてだった。
「ん? オイ、何してる」
男の声。
保田は教室の出口のところで立ち止まっていた。
そして震える体を、
錆び付いてしまったかのようなその体を、
ギギギ、と軋む音が聴こえそうなほどにゆっくりと、
無理やりに吉澤のほうへ振り向かせた。
吉澤は一時も逃さずその姿を、その顔を見つめる。
(圭ちゃん…………)
それは、今にも崩れそうな笑顔だった。
泣きそうな顔を必死に笑顔の形にしているのが良く分かった。
「オイ、何をしてる。早く行け」
後ろに立っている男が保田の背中を銃口でつつく。
保田はそれでも笑顔を崩さず、吉澤を見つめながら教室を出て行った。
(……圭ちゃん、ありがと)
自分の中で、ゆっくりと何かが目覚めていくのを吉澤は感じる。
保田が伝えたかったこと、それが痛いほど分かった。
(……もう大丈夫。 あたしは……負けない!)
心の中で、何度も呟く。何度も叫ぶ。
現実に、そして自分に、けっして負けない。
負けてたまるか!!
吉澤は自らを奮い立たせ、席から立ち上がった。
- 53 名前:21 勇気をください 投稿日:2003/09/15(月) 23:24
- 「オイ、勝手に立つな。指示があるまで座ってろ」
教壇から男の声がする。
吉澤はその姿をまっすぐに見据え、口を開いた。
「あの、ちょっとだけでいいんです。すぐに終わりますから」
言葉は自身の予想に反してスムーズに発せられた。
恐怖も不思議と感じなかった。
吉澤はそのまま返答を待たず教室の後ろのほうへと歩みを進める。
「オイ、ちょっと待て!死にたいのか!」
男は声を荒げて銃を構えた。
ジャキ、と嫌な音がする。
それでも吉澤は足を止めない。
「止まれ!」
男は警告の言葉を発する。
吉澤は足を止めない。
あの男は自分を撃てない。
それは予測ではなく、むしろ確信。
不思議なまでの自信と、自分の進む道を見つけた高揚感が、吉澤を優しく包み込む。
事実として、教壇の男には撃つ気などなかった。
己の身の危険を感じない限りは参加者に手を出すなと上から命令されていた。
吉澤は今、それを、何故だか感じ取れている。
これが野生の勘というものだろうか?
吉澤は目的の場所へ着き、歩みを止める。
(夏先生……)
夏の死体に近づき、薄目が開いた状態の彼女の両目を閉じさせる。
夏の顔を赤く染めている血が手の平にへばりついたが、そんなことは一向に構わない。
両目を閉じられ、少しだけ安らかな表情になった夏の死体の前で、両手を合わせる。
吉澤もまた目を閉じ、暫くの間そうしていた。
- 54 名前:21 勇気をください 投稿日:2003/09/15(月) 23:25
-
夏先生、こんなことに巻き込んじゃってごめんなさい。
先生の夢は、きっと私たちが受け継ぎます。
『国民総ダンサー化』でしたよね?
ダンスの楽しさは、きっと全ての人にあるものだから。
みんなが笑いながら踊りあう、そんな日がきっと来るから。
だから、わたしは生きて帰ります。
帰って、きっと先生の夢は成し遂げます。
絶対に、叶えてみせるから。
だから、見守っていてください、先生。
そして生き残る勇気と、戦う勇気を、わたしにください。
吉澤はゆっくりと目を開けた。
心なしか、夏の死に顔が微笑んでいるようにも見える。
夏に向かい一礼をしてから、何事もなかったかのように自分の席へ戻った。
教壇の男もいささか面食らったようで、嘆息とともに銃を下ろした。
その後すぐに吉澤が呼ばれ、二人の男と教室を出る。
廊下を歩く吉澤の心には、迷いはひとつとしてなかった。
明日へ飛び立つための翼が、けして折れることのない翼が、吉澤の心にはすでにあった。
- 55 名前:22 どうでもいい会話 投稿日:2003/09/15(月) 23:26
- 全ての参加者を送り出してから、
正門側の見張りの一人は、疲れたように溜息をついた。
参加者は正門側と裏門側、六番ずつの交代で出されることになっていた。
つまり1〜6番は正門側、7〜12番は裏門側、というものである。
それ故、一番最後に学校から出た石川梨華(5番)は正門、
その少し前に出た亀井絵里(12番)は裏門からのスタートだった。
「なあ、知ってるか?」
見張りの一人、先程溜息をついた男がもう一人の見張りに声をかける。
彼は痩せ型で、背もそんなには高くない。
「あ?」
もう片方の男は鬚をたくわえ、身長もかなり大きくがっしりとした体をしている。
「補給の奴から聞いたんだけどさ、奴らに渡した武器の中にグレーテがあったって……」
痩せの男が心配そうに言う。
「ああ、俺も聞いたよ。それがどうかしたのか?」
髭の男はつまらなそうに答えた。
「いや、どうかしたのかって……いくらなんでもやばくないか?」
「は?俺らがってこと?」
髭の男は胸のポケットから煙草を取り出しながら聞き返す。
痩せの男は頷いた。
「はっ、心配すんなって。グレーテったって30クラインだしな、渡されたのは。ここまで届きゃしねーよ」
言い終えて、煙草に火をつける。
「で、でもよ。禁止区域になるの10分後だろ?もしその前にやられたら……」
痩せの男は未だ心配そうな面持ちだ。
髭の男はフゥー、と煙を吐き出すとともに嘆息する。
「……まあ、そんときはそんときだ」
そう呟いて、まだ一口しか吸っていない煙草を地面に落とし、踏みつけて捻り消した。
- 56 名前:22 どうでもいい会話 投稿日:2003/09/15(月) 23:26
- 見張りの男たちが言っていたグレーテとは対戦車ロケットランチャー"Panzer Faust"の愛称である。
『鉄拳』の意味を持つそれには様々な種類があり、それぞれ射程、弾速など違いがあるのだが、
今回誰かには支給されたであろう"30k"などは弾速が遅く、射程も30mしかない。
禁止区域100mの半分にも満たないのだ。
しかし痩せの男が危惧していたようにその威力は絶大である。
ただ、それは上手く扱えなければ意味のない話だ。
パンツァーファウストの利点の一つに、『後ろから吹き出す爆風のおかげで反動が殆どない』というものがある。
それ故、女性でも比較的簡単に撃てるのだが、それでも何か目標を狙うには技術と覚悟が必要になる。
それに上手く扱えたとして、残り10分足らずで禁止区域になるここを攻め落とせるはずもなかった。
そしてその予測のとおりに、痩せの男の危惧は無用のものとなる。
- 57 名前:23 魔法の杖 投稿日:2003/09/15(月) 23:27
- 最後に学校から出された石川梨華は、
道を少し下りたあたりの街灯の下で、妙に重いリュックを下ろした。
最初にあれだけの光景を見せられたのは、石川にとってむしろ良い影響を与えていた。
今ではむしろ肝が据わって、石川もまた自分なりの覚悟が出来ていた。
(さっきから気になってたけど……なんだろこれ……)
リュックを――というより石川の渡されたリュックはむしろドラムバックに近い大きさで、
上の部分から二本の太い金属棒が連邦の白MSよろしく飛び出ている。
石川はそれを一本引き抜いてみることにした。
ゴツッ、と中で金属棒がぶつかる音がする。
(ううー……重い……)
石川はへこたれながらも何とかその棒を引き抜いた。
(新体操の……棍棒?)
それは太い軸にずんぐりとした頭のようなものが付いていて、
石川の例えの通り新体操に使われる棍棒によく似ていた。
もっとも大きさは何倍もあったが。
恐らく4kg近くあるだろうそれを石川は両手で抱えた。
(棍棒……だよね。 それとも杖……かな?)
まさか魔法の杖ということはないだろうけど、まったく役に立たないものでもないだろう。
石川はその棍棒らしきものを再びリュックに押し込んだ。
非力な石川にとって、合わせて8kg近いリュックを背負うのは正直きつかったが、なんとかして背負い直した。
(たぶんきっと、これは凄い武器に違いないわ)
石川はまだ知らない。
石川自らが『魔法の杖』と揶揄したこれが、
まさに自らを、皆を救う『魔法の杖』になることを。
(そうよ、凄いに違いない)
石川の予測は当たっていた。
石川に支給された武器こそ、紛れもなく"Panzer Faust 30k"そのものであった。
これもまた、野生の勘というやつだろうか。
――否、そうではない。
(だってコレ、すっごく重いもの!!)
石川はただ、ほんの少し、基準とズレているだけだった。
【5番 石川梨華 所持品 Panzer Faust 30k 二本】
- 58 名前:24 定時放送(一回目 初日午後9時過ぎ) 投稿日:2003/09/15(月) 23:29
-
――ザザー……ガガ……キィィィィイイイイイイ!……プツッ
――プツッ……テステス、あーあーあー
『えー、ちょっと遅れたけど一回目の定時放送、いくでー』
『まず、補足説明や。 島から抜け出そうと考えてる奴はおるか? 絶対に無理やでー。
あきらめやー。 あらかじめ漁船は動かんようにしといたけど、もし直しても無駄やで?
この島の周りには俺らの用意した船が配置されとる。見つけ次第ドカンや。
まあ海の奴らが気付かんでもこっちのほうで爆発させたるけどな。 ハハ』
『だからあんま海には近づくんやないで。
間違って起爆装置押しちゃったら先生心苦しいやんか、
……って誰が先生やねん! 誰が先生やねん!』
『…………』
『……んじゃま、死亡発表いきまーす』
『はい、これはもうすっごく残念。 なんやまだ一人しか死んどらんやないか。
ちょう不本意やけど、ま、最初やし。我慢しといたる。
……でもな、明日までこんな感じやったら大変やで?
多分4、5体は首のない爆死死体が出来上がってることやろなぁ。 ハハハ』
『んじゃ、発表でーす』
『13番 木村麻美! カントリーのあさみ! 以上!』
『……あー、つまらん』
『んじゃ、また三時間後な』
――プツッ……
- 59 名前:25 発見 投稿日:2003/09/15(月) 23:30
- その放送が流れる前、ほんの数分前。
山を降りて最初に立ち寄った民家の中で、矢口は独り、立ち尽くしていた。
(な、なんなんだよ……コレ)
破片、あるいは残骸、というような言葉が頭に浮かんでくる。
肉の破片が血溜まりの中あちこちに落ちている。
胸や腕、足や腹など、殆ど体中隈なくといっていいくらいに無数の弾痕がぽっかりと口を開けている。
右腕に至っては原形すら留めていない。
傷痕の間隔が狭く、獣に食い千切られた跡のようにも見えた。
小さな右手は、中指と小指がそれぞれ第ニ関節、根本から千切れ、手の平には無数の穴。
そのグロテスクな造形にはむしろ不気味な美しさすら感じられる。
矢口は、暫く呆然と眺めていた。
噎せ返るような血の匂い。
こんなもの、未だかつて嗅いだことがない。
排泄系の臓器でも傷つけられたのだろうか、
それとももうすでに腐敗が始まっているのだろうか、
発酵したような、腐乱したような、そんな異臭もする。
それらはまるで黄金比でもあるかのように混じり合わさり、
互いを余すところなく強調していた。
噎せ返るような、匂い。
噎せ返るような、死の匂い。
「ぐぅ……っく、ぅぷ……」
矢口は嘔吐しそうな自分を何とか自制し、よろめきながらも何とか立っていられた。
(ちくしょう! なんなんだよ、コレは! 誰がやったんだよ!?)
憎悪にも近しい感情が矢口の中で渦を巻く。
これ以上、その死体を見続けることは出来そうになかった。
感情が、暴発しそうになる。
(……あさみぃ……なんでアンタが死ななきゃなんないのさぁ……)
矢口の目の前に横たわるあさみ。
奇跡的にも無傷だったその顔は、
恐怖に歪み、白目を剥いて、その耐え難い苦痛を物語る。
開いたまま閉じようとしない大きな口は、
肉体が死した今でも悲痛な叫びを上げようとしていた。
- 60 名前:abook 投稿日:2003/09/15(月) 23:31
- 今日はここまでです。
更新ペースは昨日書いたとおりに明日までは
一日5節ペースでいけるかと思います。
17日からは少し間が空くかもしれません。
それでも遅くても週間ペースで必ず更新はしたいと思っているので、
読んでくれている方、これからも宜しくお願いします。
>>50
感想ありがとうございます!
初小説での初レスなので本当に嬉しいです!
ああ、この幸せを向こう三軒両隣まで配って歩きたい……。
- 61 名前:50 投稿日:2003/09/16(火) 02:06
- 拍宴激X…。いや、まじでかなり面白いですよ。あまりレス付けないし底スレも
漁らない自分が更新チェックしてるぐらいですから。全員助かる方向で行動しそ
うなので、その上での悲劇(ぉと奇跡を期待してます。
- 62 名前:26 北の砂浜 投稿日:2003/09/16(火) 23:04
- この島に砂浜は北と南にひとつずつしかない。
東と西は、丸っきりの崖。
言い尽くされた言い方をすれば、断崖絶壁である。
加護亜依は独り、北の砂浜で足を抱えて座っていた。
学校を出た当初は教室で自分を助けてくれた安倍のことを探そうと考えていた。
けれど誰かに殺されるかもしれないという恐怖が、
知らず知らずのうちに加護を人気のない砂浜へと運んでいた。
「……あ〜した〜はな〜かな〜い……も〜おな〜かなああ〜い……」
囁くような声で、ひっそりと歌う。
それは最近レコーディングしたばかりの曲で、加護はその曲をとても気に入っていた。
レコーディング中に泣き出してしまったほどに、歌詞に対する思い入れがある。
『明日は泣かない もう泣かない』
けれどもし、その明日が来ないとしたら、
一体その決意は何処に行ってしまうのだろう。
それに、本当に泣いてはいけないのだろうか?
こんな状況なのに。
明日なんてもう来ないかもしれないのに。
本当に、泣いてはいけないのだろうか?
(わたし、これからどうしたらいいんよ……)
加護は、むしろ泣けなくなっている自分に気付いていた。
――ザザッ……ガガ……キィィィィイイイイイイ!!……プツッ
突然、港のほうから大音量の耳障りな音が聞こえてきた。
加護はそのハウリング音を聞いて、身を縮める。
――プツッ……テステス、あーあーあー
再度、港のほうから、今度は人の声が聞こえた。
つんく♂の声だ。
加護は教室で聞いた説明を思い出す。
定時放送が始まったのだ。
- 63 名前:26 北の砂浜 投稿日:2003/09/16(火) 23:05
-
―― えー、ちょっと遅れたけど一回目の定時放送、いくでー ――
スピーカーから聴こえるつんく♂の声は、
その話している内容に比べ、あまりにも軽い。
話を、放送を、漏らさず聴いて、
その内容に体が自然と震えだす。
―― んじゃ、また三時間後な ――
放送が終わり、辺りは再び静寂に包まれる。
海に出るな、という命令があった。
もっと人を殺せ、という命令があった。
そして、あさみが死んだ、という報告があった。
体の震えが止まらない。
止めようと肩を抱いてみても、ますます震えが大きくなっている気がする。
(いや……や……、そんな……)
あさみが死んだ。
その事実が加護の身に重くのしかかる。
そして、海へ出るな、という命令。
早くここから離れなければならない。
なんとか、懸命に自らを立ち上がらせる。
足はがくがくと震え、視界すらもぼやける。
それでも、わたしは行かなければならない。
確実に死へと向かっている心を何とかして奮い立たせる。
まだ、これから、やりたいことだってたくさんある。
大好きな歌を、またみんなの前で歌いたい。
大好きな友達と、また一緒に遊びたい。
そして、大好きなあの人に、大好きだと伝えたい。
それは何よりも大切なこと。
誰よりも大切な人。
誰よりも大好きな人。
それが恋なのか愛なのかは分からない。
それでも、
押しつぶされそうな気持ちの中でも、
楽になりたいという気持ちの中でも、
この想いを伝えるまでは、まだ死にたくない。
死にたくは、ない。
【11番 加護亜依 所持品 サバイバルナイフ】
- 64 名前:26 北の砂浜 投稿日:2003/09/16(火) 23:06
- ダニエル・デラネイもまた、独りで北の浜辺を歩いていた。
ダニエルがココナッツを卒業したのは大学進学のためだ。
ただ、そこにも事務所側の方針がないわけではない。
だから今回、
『再度ココナッツをやらないか』
と事務所の人間に言われたとき、ダニエルは不審に思った。
それでもここまでついてきてしまったのは、
未だダニエルの中に歌手としての夢が残っていたということなのだろう。
しかし、それは簡単に裏切られた。
それも、こんなに最悪な形で。
ダニエルは日本語が殆ど分からない。
だから先程聴こえてきた放送も何を言っているのかさっぱり分からなかった。
これほど不利な状況があるだろうか?
ダニエルはそのことについて不安というよりも怒りを覚える。
自分を騙した事務所の人間への怒り。
人を殺したつんく♂への怒り。
自分を不利な状況においている主催サイドへの怒り。
様々な種類の怒りの感情が溢れ出てくる。
ただ、それに流されるつもりはなかった。
出来る限り、冷静に行動しなければならない。
今は仲間を作ることが先決だ。
ともにこのゲームを潰すために、
自分をこんな目に遭わせた人間に復讐するために、
ダニエルは行動を開始する。
その右手には拳銃――"H&K MK23"
俗に"SOCOM PISTOLE"と称されるそれは、
女性としては大柄なダニエルの体にも不釣合いなくらい大きかった。
【24番 ダニエル・デラネイ 所持品 H&K MK23】
- 65 名前:27 月明かりに 投稿日:2003/09/16(火) 23:07
- (だれ…………?)
ふと、加護は自分の進む先に人影があることに気付く。
その人影もまた、こちらのほうへ近づいてきていた。
月は未だその姿を雲の上に隠している。
外灯もないここではその人影が誰であるのか分からなかった。
とっさに、どこか隠れられる場所はないかと確認するが、
砂浜に期待できるような遮蔽物はない。
それに恐らく、すでに向こうもこちらに気付いているのだ。
今更隠れられたとしても無駄なことだった。
加護は足を止め、人影が近づいてくるのをじっと待つ。
動きを止めると、体の震えが先程よりも増しているのが良く分かった。
心臓の鼓動もまた、判別できていない相手への恐怖に早鐘を打つ。
今すぐにでも逃げ出したい気分だった。
しかし、加護がそれをしなかったのは、
もしかしたら自分を助けてくれるような相手かもしれない、という期待。
そして、背を向けたら撃たれるかもしれない、という恐怖によるものだった。
ダニエルは人影に向かって歩いていた。
辺りは暗く、それが誰かは分からない。
しかし、確実に歩みを進めるダニエルに恐怖はない。
それは『まさかこんな馬鹿げたゲームに乗っている人間がいるわけがない』
というある種の確信にも近い感情によるものだった。
もし、先程の放送の内容を把握できていればそうは思わなかったかもしれない。
すでに一人、ゲームに乗った人間によって殺されていることを知っていれば、そうは思わなかったのかもしれない。
しかしダニエルはあさみの死を知らず、その確信が妄信であることを知らない。
すでにゲームに乗っている人間がいるということも知らず、
その人間によってすでに一人が殺されているということも知らず、
その事実によって情緒不安に陥っている人間がいるということも知らない。
今のダニエルはあまりにも無知で、
それ故歩みを止めることも知らなかった。
- 66 名前:27 月明かりに 投稿日:2003/09/16(火) 23:09
- 人影がギリギリで視認できるか出来ないか位の距離で立ち止まったとき、
その人影は陽気な声を発した。
「Aloha !」
最初は、ミカかアヤカ辺りだと思った。
加護は少しだけほっとしたような、そんな気分になる。
しかし、そのあとに聴こえてきた声によって、また加護は不安に陥った。
「My name is Danielle. Is it in your name? Please let me know. 」
ネイティブによる、流暢な英語だった。
「Would you fight together with me, although I'm looking for the friend who fights against with the administrator of this game?」
道を歩いていて外人に話しかけられたときに似ている、と感じる。
「As for me, dying in such a place is disagreeable. Probably, so are you !」
そういうとき、英語を知らない人間はどうしようもない不安に襲われるものだ。
「Let's rise, if disagreeable. Let's beat an enemy with me !!」
相手の言っていること、考えていることが分からない不安。
それは相手が誰か分からない不安よりも強く、加護の心を締め付ける。
人影が再び近づいてきても、加護は動けないままでいた。
言葉もまったく発することが出来ない。
ナイフを持つ右手が汗でぐっしょりと濡れている。
下手をすれば取り落としそうなそれをぎゅっと握り締めた。
それは加護の持つ唯一の武器。
己の身を守るためにも、これだけはけして放してはいけない。
- 67 名前:27 月明かりに 投稿日:2003/09/16(火) 23:10
- その声から、人影――彼女が、ダニエルであることは分かっていた。
ダニエルのことは知っている。
ただ、加護が娘。に入って数ヶ月で脱退してしまったのでさほど親しいわけではない。
それ故、いっそう不安が募る。
『もしかしたらあさみを殺したのは彼女なのかもしれない』
そんなことまで考えてしまう自分に恐怖した。
自分自身が分からなくなってくる。
自分は、こんなに他人を信用できない人間だっただろうか?
けれど事実としてあさみは死んでいるのだ。
幾度となく振り払っても、疑念は頭から離れてはくれない。
加護はナイフを握る手にさらなる力を込める。
その存在を確認するかのように、加護はナイフを握り締める。
それだけが、今の加護の支えだった。
- 68 名前:27 月明かりに 投稿日:2003/09/16(火) 23:10
- 用意していた言葉を言い終えて、ダニエルは相手の様子を窺う。
未だその姿は闇に隠れていたが、それでもその人影は小さく、どうやら幼い少女のようだ。
自分が語った言葉の意味は、恐らく伝わっていないだろう。
もう少し日本語を勉強しておけばよかったな、と思う。
『コンニチワ』と『オツカレサマデス』と『ヒャクマンエン』
すでに日本を離れて二年以上になるダニエルにとって、
日本にいたときですら殆ど英語を使っていたダニエルにとって、
覚えている日本語はそれくらいのものだった。
一歩ずつ、ゆっくりと歩みを再開する。
進む先にいる少女がおびえているように見えるのは見間違いではないだろう。
何とかして、身振り手振りだけでもいい、
とにかく自分を信用してもらわなければならない。
言葉は通じなくても互いを理解することは出来る。
そう信じていた。
銃はリュックにしまったほうが良いかもしれない。
そう思い、リュックに手をかけたとき、それは起こった。
雲が動き、月は数時間ぶりにその姿を現す。
青白い光が、二人の姿を照らしだす。
その曇りのない顔を。
そのおびえきった顔を。
その右手に鈍く光る拳銃を。
その右手に眩く光る刀身を。
リュックに手をかけたとき、それは起こった。
あまりにも、タイミングが悪すぎた。
- 69 名前:27 月明かりに 投稿日:2003/09/16(火) 23:12
- ダニエルの右手に拳銃が見えた瞬間、加護の体は動いていた。
駆け出し、ダニエルに体当たりを食らわせる。
(……いやや!ぜったいに死にたない!)
倒れたダニエルの上に馬乗りになり、拳銃を持つ手を砂地に押さえつける。
自由の利く左手のほうでバレル部分を掴み、ぐいぐいと引っ張る。
まだ、人を殺す覚悟は出来ていない。
右手にナイフを持ちながらも、加護はそれを使えないでいた。
ダニエルは初め何が起きたのか分からなかった。
倒れた自分と、その上にのしかかる少女。
少女の顔には見覚えがある。
――加護亜依。
自分がココナッツを辞める数ヶ月前、娘。に加入された当時の新メンバーだ。
未だ幼さを残すその少女は、必死に自分の腕を押さえつけている。
そのぐいぐいと押し付ける右手には、月光を反射しギラリと光るサバイバルナイフ。
それを視界に納めた瞬間、ダニエルの体は跳ねるようにして加護を弾き飛ばした。
自分から見て右の方向に加護の体は転がっていく。
ダニエルは立ち上がり、ソーコムの銃口を加護へと向ける。
- 70 名前:28 はじめて人を殺した日 投稿日:2003/09/16(火) 23:14
- 弾き飛ばされた加護は体制を立て直し、立ち上がる。
すぐにダニエルのほうを見ると、彼女はこちらへ向けて銃を構えていた。
「What joke is this...? Are you going to kill me...?」
何を言っているのか全然分からない。
ただ、『kill』という単語だけは聞き取れた。
そしてその意味も勿論知っている。
やはり、彼女は自分を殺すつもりなのだ。
自分はまだ死にたくない。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
生きて、帰って、会って、伝えなければならない。
ならば自分がしなければならない行動は決まっている。
決意し、加護はナイフを両手で握る。
冷や汗が、どっと噴き出してくる。
喉が、カラカラに渇いてくる。
ナイフを握る手が、両腕が、ぶるぶると震える。
これから、わたしは人を殺さなければならないのだ。
撃たれるかもしれない恐怖よりも、
殺されるかもしれない恐怖よりも、
人を殺すかもしれない恐怖のほうが、よっぽど恐ろしかった。
- 71 名前:28 はじめて人を殺した日 投稿日:2003/09/16(火) 23:14
- 「Place a knife slowly... raise both hands....」
言いながら、ダニエルはソーコムの安全装置を外す。
ナイフが反射する月光が、ダニエルの心を急き立てる。
この少女は……どういうつもりなんだろう。
危害を加えるつもりはないのに。
ただ、仲間になって欲しかっただけなのに。
加護はゆっくりと、こちらへ近づいてくる。
丁度へその前辺りに構えたナイフはぶるぶると震え、
それはまるで麻薬中毒者が見せるような仕草にも見える。
(いや……だ……)
こんな年端も行かない少女に、
こんなに小さな体をしている少女に、
いつの間にか、恐怖を覚えている自分がいた。
「ヲネガイ、knife……オ、ヲイテ。 テ、アガッテ?」
今度は片言の日本語で言ってみる。
しかし、加護の足が止まることはない。
「Freeze... !」
静止の言葉をかけてみても、加護の足が止まることはない。
「Freeze... !!」
(いやだ……お願い、止まってよ……、止まって!!)
いくら呼びかけても、心の中で叫んでみても、加護の足が止まることはない。
さくっ……、 さくっ……、 さくっ……
砂を踏む加護の足音が静かに響く。
さくっ……、 さクッ……、 サくっ……
ゆっくりと、しかし確実に、近づいてくる。
サクッ……、 サクッ……、 サクッ……
それは、ナイフを肉に突き立てる音に似ていた。
自分の腹に刀身がおさまる音。
ゆっくりと、何度でもそれは繰り返される。
(いやだ……、やめて……、こないで……)
グリップを握る手に、
引き金にかけた人差し指に、
意図せず力がこもる。
「Freeze!!」
――――ドンッ!!
叫ぶと同時に、引き金を引いていた。
- 72 名前:28 はじめて人を殺した日 投稿日:2003/09/16(火) 23:15
- 鮮血が、加護の体から飛び散り、霧のように宙を舞う。
加護は左半身を強力な力で引っ張られたかのように仰け反りながら倒れた。
そのまま、ピクリとも動かなくなった。
「Oh, no... my god...」
ああ、とうとうやってしまった。
はじめて、人を殺してしまった。
ダニエルは自分の手に握られている大きな拳銃を見つめる。
ずっしりと重いその拳銃は月の光に凶悪な陰影を作る。
しかしその姿に似合わず、その反動は小さかった。
これが、
こんなものが、
本当に人を殺した感触なのだろうか?
人を殺すというのは、こんなに軽いものなのだろうか?
がたがたと銃を持つ両手が震えだす。
それが今にも爆発して、
自分の両手を吹き飛ばしてしまう、
そんな妄想に駆られる。
恐ろしさのあまり、銃を地面に叩きつけていた。
その眩さ故に、人の決意というものは余りにも脆く、余りにも儚い。
すでに、ダニエルには戦い続ける力など残っていなかった。
ダニエルはおぼつかない足取りで加護のほうへと歩いていく。
加護の顔を、
自分が殺した少女の顔を、
もう一度、しっかりと目に焼き付けておきたかった。
それが、自分に出来る、唯一の贖罪だった。
ゆっくりと、歩みを進め、横たわる加護のすぐそばまで来る。
(えっ…………?)
目の前で横たわる少女の、その傷口を見る。
左肩に、えぐれたような痕。
それだけだった。
(死んで……ない?)
銃弾は加護の左肩の肉をえぐり取っていたが、それでも掠めた程度だった。
ダニエルは安堵し、その場にへたり込む。
(よかった……わたしはまだ人を殺していない……)
思わず涙が溢れてくる。
少女が生きていたとことを、
人を殺さずにすんだことを、神に感謝する。
しかし、安心するにはまだ早すぎた。
- 73 名前:28 はじめて人を殺した日 投稿日:2003/09/16(火) 23:17
- ダニエルが自分の横で座り込んだのを薄目で確認し、加護は飛び起きた。
心臓が馬鹿になってしまったみたいにドンドンと身を震わせる。
しかしそれは恐怖から来る震えではない。
常軌を逸した興奮が、加護の身を震わせる。
右手にはナイフ。
左手には一握りの砂。
『殺らなければ、殺られる』
『生きるために、殺す』
『死にたくなければ、殺せ』
どこかで聞いたような台詞が、加護の頭の中を埋め尽くしていた。
それは、加護自身が自分に言い聞かせていただけだったのかもしれない。
言い聞かせて、恐怖を、怯えを、体から追い出す。
これから、人を殺さなければならない自分に、甘えなどは許されなかった。
左手に握っていた砂を、ダニエルの顔めがけて思いっきり投げ付ける。
ダニエルの目に、鼻に、口に、大量の砂が入る。
彼女は悲鳴とともに砂を払うが、すぐにそれもままならなくなった。
加護はダニエルを押し倒し、再び馬乗りの状態でのしかかる。
『反撃の暇など与えるものか』
『彼女は銃を持っているのだ』
誰かの声が遠くに聞こえる。
それは、自分の声に良く似ていた。
加護は逆手に持ったナイフを高く掲げ、胸を目掛けて渾身の力で振り下ろした。
――――ザクッ!!
「――――――――――ッ!!」
目を見開き、
口を限界まで開け、
それでもその口からは声にならない息が漏れるだけだった。
――――ザクッ!! ザクッ!! ザクッ!!
加護は一心不乱にナイフを突き立てる。
突き立てるたびに、抜くたびに、
ダニエルの胸からは鮮血が噴き出し加護の腹を、胸を、顔を、赤く染めていく。
――――ザグッ!! ぐちゅっ!! ずぐっ!!
噴き出した血はダニエルの衣服に溜まり、
ナイフの手ごたえすらも変える。
――――ぐちっ!! ずぶっ!! づぐっ!!
口から、血が吐き出される。
目から、ようやく涙とともに砂が流れ出す。
助けを求めるように宙を彷徨っていた腕が、パタリと落ちた。
- 74 名前:28 はじめて人を殺した日 投稿日:2003/09/16(火) 23:18
- 加護は鼻息を荒くしながら、今なお一心にナイフを突き立て続ける。
返り血に、ナイフを持つ手がすべった。
保持する力を失ったそれは、力なく下方へと向かい、ダニエルの胸に突き立った。
加護は荒い息を何度も吐き出しながら、自分の下にいるダニエルの姿を見る。
すでに刺せる場所がなくなっているくらいに、その胸はメッタ刺しにされていた。
「ぐぅ……、ぅえ……ぉ……、うぐぅ」
ようやく落ち着いてきた加護は、その無残な死体を見て吐き気を催す。
これは、自分がやったのだ。
これが、人を殺すということだ。
そのことは、加護自身が一番分かっている。
それは加護をさらに責め立てる。
でも、それは仕方のないことだ。
わたしはまだ死にたくない。
殺さなければ、自分が殺されていた。
『だって彼女は、銃を持っているのだから』
そう、自分に言い聞かせる。
はじめて人を殺してしまった。
まだ感触がこの手に残っている。
刀身が柔らかい肉に分け入る感触。
これが、人を殺すということだ。
でもそれは仕方のないことだ。
まだ死にたくはない。
殺さなければ殺されていた。
『だって彼女は銃を持っていたのだから』
何度も、自分に言い聞かせる。
肉を切る感触。
頬にぶつかる暖かい血。
仕方のないことだ。
死にたくない。
殺されていたんだ。
『だって彼女は銃を――――』
加護はそれに気が付き、愕然とする。
ダニエルの手には、銃など握られていなかった。
- 75 名前:28 はじめて人を殺した日 投稿日:2003/09/16(火) 23:18
- 辺りをゆっくりと見回すと、彼女がさっきまで立っていたところに、それは落ちていた。
「そ……んな……」
呟きが自然と漏れ出す。
自分は無抵抗の人間を、
殺すどころか傷付けるつもりもない人間を、
「ころ……、した……?」
まだ、その感触がその手に残っている。
これが、
こんなにも酷いものが、
人を殺した感触だというのだろうか?
人を殺すということは、こんなにも重いものなのだろうか?
がたがたと、体全体が震えだす。
(そんな……、 わたし……、 だって……)
自分の下にいるダニエルの顔を見る。
力なく目を、口を開き、
溢れ出た涙がこめかみを伝い、
溢れ出た血が頬を伝い、
砂浜を赤く染めていった。
「いやぁぁぁぁああああぁぁあああぁあぁああ!!!!」
月がもう少し遅くに出ていれば、
ダニエルがあのまま立ち去っていれば、
加護が銃のことに気付いていれば、
それは、避けられたことだったのかもしれない。
加護が、はじめて人を殺した日。
それはあまりにも不幸な偶然が重なった結果だった。
【24番 ダニエル・デラネイ 死亡】
【11番 加護亜依 左肩負傷】
- 76 名前:29 役立たずの百万円 投稿日:2003/09/16(火) 23:21
- 信田美帆は北の住宅街近くのスーパーの倉庫にいた。
適当に食品を見繕って、リュックの中に詰める。
そのまま奥のほうへ行くと、『保冷室』と書かれたドアがあった。
信田はその中に入ってみることにする。
中は予想以上に寒く、夏服の信田には肌寒い。
(やっぱ電気は……使えてるんだね……)
先程倉庫で食品を探していたときも蛍光灯を使うことが出来た。
まあ、当たり前と言えばそうかもしれない。
室内の明かりはドアを開けるとともに勝手に点いていた。
中はそれほど広くはなく、大きな牛肉の塊が何本かぶら下げられている。
(何でこんな島にこんなのあるんだろ?)
疑問に思ったが、深くは考えないことにする。
むしろこんな大きなスーパーがあるということ自体がそもそもおかしい。
それよりも、こんなものがあるということは、アレもあるということだ。
信田は部屋の中を見回す。
壁際に置かれた巨大なまな板の上に、それは無造作に置かれていた。
(あったあったー。 これでなんとか武器は取得できたわ)
信田の腕の長さよりも長い刃物。
それは牛を切るために使われる牛刀だった。
(よっ……と、重いわね、コレ)
両手でそれを支えながら外に出る。
外の空気はむわっとしていて、冷気の漏れ出すドアを閉めるとすぐに保冷室が懐かしくなった。
- 77 名前:29 役立たずの百万円 投稿日:2003/09/16(火) 23:21
- 信田がこのスーパーに立ち寄ったのは食料を調達するため、
そして武器を調達するためだった。
(ったく、こんなのどうしろってのさ……)
牛刀を壁に立てかけて、
信田はジーンズのポケットに入れておいたビニール袋を取り出す。
その中には束ねられた百万円が入っていた。
(ダニエルだったら『ヒャクマンエン!ヒャクマンエン!』って騒ぐのかな……)
そんなことを苦笑しながら考える。
懐かしい、ハワイでの思い出だった。
しかし、信田は知らない。
すでにダニエルが死んでいることを。
ビニール袋に入っているのは、役立たずの『ヒャクマンエン』。
信田の頭に印象として蘇ったダニエルの姿は、笑顔と力に満ち溢れていた。
【20番 信田美帆 所持品 百万円 ――牛刀取得】
- 78 名前:30 ギャグキャラの憂鬱 投稿日:2003/09/16(火) 23:22
- あさみの死体に隣の部屋にあったシーツをかけ、矢口は民家をあとにした。
隣の部屋にはあさみのものらしきリュックがあったが、手はつけなかった。
矢口には、そんなハイエナのような真似は出来なかった。
南の集落を離れ、もと来た道を戻りながら、矢口はあさみのことを想う。
(あさみ、アンタの死はきっと、無駄にはしないから)
その踏み出す足は一歩一歩力強く、
そこからは彼女の想いの強さが窺い知れる。
人が、知人が死ぬと言うことは、
人を強くも弱くもする。
その衝撃に、死という衝撃に、
ギリギリ押しつぶされない程度の強ささえあれば、
人はさらに強くなれる。
死者の想いは受け継がれ、思い出は褪せることなく光を放つ。
矢口真里は、押しつぶされることなく立っている。
それは、その強さは、あさみがくれたものだった。
- 79 名前:30 ギャグキャラの憂鬱 投稿日:2003/09/16(火) 23:23
- (ふぅ、そういやまだ荷物チェックしてなかったね)
学校へ続く道を通り過ぎ、駐在所らしき建物の前に来たところで、矢口は足を止めた。
駐在所の壁に寄りかかり、電灯の明かりでリュックの中身を確かめ始める。
(えーと……、なになに……)
ごそごそとその中身を探る。
「…………はぁ?」
思わず、素っ頓狂な声を上げていた。
再度確認するため中身を取り出し、地面に並べてみる。
棒と、フタと、服。
それだけだった。
(えっと、これは『おなべのふた』だよね……)
フタを、持ち上げて掲げてみる。
(んで、これは……さわり心地は木綿だよね……もしかして『ぬののふく』……?)
服を、両手で持ってしげしげと見つめる。
(はは……、まさかコレ、『ひのきのぼう』ってことはないよね……?)
棒を、軽く地面を叩くなりして、材質を確かめる。
まったくもって、矢口の予想通りだった。
『ひのきのぼう』、『おなべのふた』、『ぬののふく』からなる『DQ三点セット』。
「なんだよソレぇぇぇぇぇ!!!」
矢口の悲痛な叫びは静かな夜空に鳴り響いた。
- 80 名前:30 ギャグキャラの憂鬱 投稿日:2003/09/16(火) 23:25
- (あさみ……、ごめんね……、わたし、もうダメみたい……)
今までの様々な思い出が走馬灯のように駆け抜けていく。
オーディションに参加したときのこと。
合格が決まって死ぬほど喜んだこと。
はじめてのレコーディング、歌収録、コンサート。
それらは全て懐かしく、美しい思い出だった……。
(……ってオイオイ、まだ死んでねっての)
矢口は夢の世界に飛んでいた思考をなんとかして呼び戻す。
それくらい、この支給品の与えた影響は大きかった。
取り敢えず、現状を把握する。
この中でなんとか使えそうなのは『ひのきのぼう』くらいのものだろう。
他の二つはまったくあてにならない。
もしかしたら、防弾効果でもあるのかもしれない、とも思ったが、
リュックの中に残っていた簡易の説明書きを見て、その期待は夢と砕けた。
曰く、
『ひのきのぼうです。 レベル1でも6〜8Pくらいのダメージは与えられます』
『おなべのふたです。 守備力が1くらいあがるかも』
『ぬののふくです。 まあ気休め程度に着とけばいいんじゃねえの?』
なんだか最後のほうはかなりぞんざいな口調になっていた。
さらにそれぞれに付随して、『特殊な効果はありません』とだけ簡潔に書かれていた。
「はぁ〜……」
溜息が、ハッキリとした言葉となって口から漏れる。
気分は最悪だった。
(でも、やんなきゃなんないんだよね)
矢口は地面に広げた支給品をそれぞれ拾い、服だけは奇麗に畳んでリュックに入れた。
右手にひのきのぼう。
左手におなべのふた。
なんだか滑稽な格好だった。
それでも何とか気を引き締める。
(ふぅ……、よし)
矢口は歩みを再開する。
- 81 名前:30 ギャグキャラの憂鬱 投稿日:2003/09/16(火) 23:27
- 「……矢口さん?」
一歩、踏み出したところで向かっている方向から声が聞こえた。
矢口は暗がりを、眉間にしわを寄せながらじっと見つめる。
人影が、こちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
(まさか、あさみを殺した奴……?)
それは杞憂かもしれなかったが、それでも矢口は身を縮こませる。
ぎゅっと、ひのきのぼうを握る手に力が入る。
おなべのふたはカタカタと震え、
それは矢口の不安を物語っていた。
(何か……カッコつかねえなあ……ハハ)
矢口は胸中でぼやく。
幾分か、不安が薄らいだ。
たとえ、こんな武器しかなくても、
こんな武器しかないからこそ、
笑うことが出来る。
それもまた、矢口の強さなのかもしれない。
人影は無造作に歩いてこちらへ近づいてくる。
自分のことを信用してくれているのだろうか?
(それとも……向こうの絶対的優位を信じているか、だね)
矢口は焦りを感じていた。
もし、あさみを殺した奴のようにマシンガンを持っていたら……。
それは絶望的な想像だった。
何しろ矢口の所持品には武器と呼べるような代物はない。
申し訳程度の攻撃力のひのきのぼうと、
申し訳程度の防御力のおなべのふた。
もし、その予測が当たっていたとしたら、
今すぐにでも逃げ出さなければならない。
ただ、敵意がないだけかもしれない可能性を考えると、すぐには行動できなかった。
「よかったぁ……、やっぱり矢口さんやったやよぉー」
その声は、本当に、喜んでいるように聞こえる。
外灯の光が、淡い月の光が、近づいてくる少女の顔を暗闇から映し出す。
少女――高橋愛は、泣き出しそうなくらい嬉しそうに、笑っていた。
【38番 矢口真里 所持品 DQ三点セット】
【22番 高橋愛 所持品 不明】
- 82 名前:abook 投稿日:2003/09/16(火) 23:30
- 今日はここまでです。
これからは毎日は更新できなくなると思いますが、
それでも頑張って続けていきますので、たまに覗いて頂ければ嬉しいな、と思います。
話のペースが遅いので、その分更新ペースを上げられるよう努力していきます。
>>61
ありがとうございます!
応援っていうのは本当に嬉しいものですね。
全員は助からないかも知れませんが、
それでもハッピーエンドにしたいと思っているので、
これからも宜しくお願いします。
あと、また訂正です。たびたびスミマセン。
>>26 「紺野と石黒」
においてデリンジャーの全長が「180mm」ってなってますが、本当は「120mm」でした。
斉藤のグロック19と勘違い。申し訳ないです。
さらに訂正
>>69
タイトルが「27 月明かりに」になってますけど
本当は「28 はじめて〜」です。
ホント、申し訳ありません。
- 83 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/17(水) 00:24
- 面白過ぎる。緩急うまいなあ。作者さんにこの気持ちをどうやって伝えたらいい
んだろう。ダニエォ格好良すぎて氏にそうです(俺が) 矢口も格好いい。加護
は――ああネタバレせずにはいられない。危険なのでメール欄に書く。
- 84 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/17(水) 00:44
- やばい。今までのバトロワものの中で一番かも。既存の作品では蔑ろにされ続けてきたダニエォの細かい描写がいい。バトロア系では大抵見せ場なく即死してるココナッツカントリーT&C辻新垣らにも見せ場がありそうなので楽しみです。
- 85 名前:31 孤独 投稿日:2003/09/19(金) 00:18
- 今までずっと、孤独と戦っていた。
学校を裏門から出されて以来、勝手の分からない道をただただ歩き続けた。
住宅地を抜け、集落を通り過ぎ、島の東側をぐるりと回ってここまで来た。
誰とも、会わなかった。
定時放送は聞いていたから、すでに人を殺した人間がいることは知っている。
誰かに会うことが危険かもしれないことも知っている。
けれど、
危険だと分かっていても、
殺されるかもしれなくても、
無性に誰かに会いたかった。
孤独とは、ただ独りでいるということではない。
他者を望んでも、それが自分の周りにない、という喪失感。
独りでいることではなく、独りになること。
独り、知らない場所に放り出される。
それだけでも充分すぎることなのに、その上「人を殺せ」と言われた。
殺されるかもしれない恐怖。
独りでいることに対する不安。
どれほど心細かったろうか。
「よかったぁ……ほんとによかったやよぉ……」
だから矢口の姿を見つけたとき、
信頼できる人に一番最初に出会えたとき、
高橋はたまらなく嬉しかった。
- 86 名前:31 孤独 投稿日:2003/09/19(金) 00:19
- 「ぅぐっ……ふぇ、うぅ……やぐちさぁん……」
「高橋? ちょっと、だいじょぶ?」
矢口は泣き出してしまった高橋を見て、武器を捨てて駆け寄った。
杞憂はすでに消えていた。
目の前で泣いているこの少女が敵であるわけがない。
逃げなくて良かった。
本当にそう思う。
「ねえ、高橋、だいじょうぶ? とりあえずさ、中、はいろ?」
「ぅくっ……はいぃ……」
駐在所の中に高橋を誘導する。
デスクからキャスター椅子を引っ張り出して座らせた。
自分のリュックから水を一本取り出す。
まだ封は開けていなかった。
「ホラ、高橋。これでも飲んで落ち着いて?」
言いながら封を開け、それを高橋に渡す。
「はいぃ……」
高橋はPETボトルを両手で持ち、口をつけて傾けた。
こくっ、こくっ、と液体を飲み下す音。
(うわぁ……、うまそ〜……)
透明な容器であるが故に水かさが減っていく様子がよく分かる。
(そういやオイラまだなんも飲んでなかったっけ……)
思えばこの島について以来、水分は一度も摂っていない。
先程までは気付かなかったが喉はかなり乾いていた。
心なしか、と言うよりまず間違いなく、お腹も空いている。
(まあいいか、とりあえず高橋が残したらそれを……)
と、高橋のほうを見る。
丁度、飲み干すところだった。
「はぁ〜、ごっつぉさまやったざぁ〜」
高橋は先程の涙は何処吹く風で、のん気な声でそう告げた。
表情もにこにこと、罪のない笑顔とはこのことだろう。
コロコロと、賽の目のように感情が、表情が変わる。
十代の少女特有のそれは可愛らしいと言えば可愛らしいのだが、
(オイラのみずぅ……)
矢口の胸はやるせない思いでいっぱいだった。
- 87 名前:31 孤独 投稿日:2003/09/19(金) 00:19
- 「んで……んぐ、何があったのさ……んぐ、高橋」
矢口はリュックから二本目の水を取り出し、要所要所で飲みながら話す。
「いや、とくべつなんもないんですけどぉ」
福井訛りの、独特のリズムで話す高橋。
「なんかぁ、ずっとひとりでいたら怖くなっちゃってぇ」
「まぁ……それはそうだろうね」
無理もない。
こんな状況、普通の人間に堪えられるものじゃない。
それに、それは高橋に限ったことではない。
矢口は娘。の、そしてハロプロのメンバーのことを想う。
皆、矢口より背は大きかったが、それでも半数は矢口より年下である。
辻は、加護は、吉澤は、石川は、五期は、六期は、みんなは、
この状況で、頑張って堪えていてくれているだろうか?
血に塗れた亀井。
穴だらけのあさみ。
思い浮かべたその姿は、
恐怖よりも先に、悲しみと母性を矢口に与える。
(わたしが守ってやらなくちゃ……!)
再度、決意を新たにする。
「……よし! 高橋、お腹空いてない? 奥の部屋で一緒に食べよ!」
甲高く響いたその声は、改めて高橋に確認させた。
自分が、独りではないこと。
自分が、孤独ではないこと。
また、泣き出してしまいそうな自分がいる。
ほっとして、泣き出してしまいそうな自分がいる。
目を潤ませ、それでも涙をぐっと堪え、高橋は矢口を見つめる。
「――はい!」
暖かい優しさに包まれて、高橋は幸せそうに微笑んだ。
- 88 名前:32 1202号室 投稿日:2003/09/19(金) 00:20
- この島には東と南に民家の立ち並ぶ集落、そして北に新興住宅地のようなものがある。
その北の住宅地にそびえ立つマンション。
その影はこんな島には不釣合いに大きい。
その一室で、里田まいは自分のリュックを抱くようにして座っていた。
家具などは何もない、がらんとした部屋。
(うそだ……、うそだ……)
定時放送でつんく♂が言っていた言葉。
真実だとはとても思えなかった。
(うそだよ……そんなの)
里田は信じる気にはなれなかった。
信じたく、なかった。
それでも、心の中には暗雲とした不安が根付いている。
本当かもしれない、と思っている自分がいる。
(うそだよ……あさみちゃんが死んだなんて……)
だから里田は嘘だと自身に言い聞かせる。
言い聞かせて、そこで思考を止めようとする。
けれど、けっして止まってはくれない。
頭の中であさみが死ぬときの映像が構築され、再生される。
銃弾が、ナイフが、あさみの体を貫いていく。
あさみを殺した人間の全身は、漫画のように黒く塗りつぶされていた。
- 89 名前:32 1202号室 投稿日:2003/09/19(金) 00:21
-
何も出来ない、からっぽのこの部屋のような自分。
自分はこれからどうしたらいいのだろう?
いや、どうしたいのだろうか?
あさみの死が本当かどうか、確かめてみたい自分。
あさみを殺したやつが誰なのか、知りたい自分。
それでも、自分は動けない。
震えてしまって動けない。
確かめて、知って、それで何になるというのだろう?
あさみの死を確かめて、それでどうするつもりなのだろう?
殺したやつの正体を知って、復讐でもするつもりなのだろうか?
分からない。
全てが、自分自身が分からない。
ただ、自分は動けないままでいる。
自分が一番に思っていることは、死にたくない、ということ。
それだけは、ハッキリと理解できた。
- 90 名前:32 1202号室 投稿日:2003/09/19(金) 00:21
- ――コン、コン……、
静かな音が響く。
音は遮蔽物のない部屋の中を微かな振動として伝わり、里田の肌を震わせる。
(だれか……、来た)
――コン、コン……、
再度、静かな音。
無論、これはノックの音だ。
不安げにドアのほうを見やり、様子を窺うが、
ドアを一枚挟んだ先にいる人間の顔が見えるわけもない。
――コンコン、コン……、
次第に、恐怖が膨らんでいくのがハッキリと分かる。
(いやだ……、助けて……、りんねさん……)
さっき想像した、あさみを殺した黒い人影。
その姿が思い起こされる。
今にもドアが蹴破り、中に入ってくる。
銃を、ナイフを振りかざし、自分を殺す。
そんな想像。
けれど、その不安は次の瞬間、聞こえてきた声によってかき消される。
『まいちゃん?いるんでしょ?ドア、開けてくれないかな?』
りんねの声だった。
(りんね……さん?)
里田はリュックを脇に捨て、出口へと飛び出していた。
【19番 里田まい 所持品 不明】
【26番 戸田鈴音(りんね) 所持品 不明】
- 91 名前:33 助けたるけんね 投稿日:2003/09/19(金) 00:22
- 田中れいなは独り、闇の中を駆け抜ける。
この数時間で、島の北側の地理についてはある程度把握できた。
北側にある主な建物、場所は四つ。
住宅地と、それを北西に抜けた先にある港、西にあるスーパー、そして東にある公民館。
丁度、その公民館に入ろうとしたそのとき、定時放送が聞こえたのだ。
(少し……時間かけすぎたっちゃね……)
そして今、田中は学校を目指して走っている。
「はっ、はっ、はっ……」
急激な運動によって息が荒くなっている。
心臓の鼓動も激しさを増し、痛みを感じるほどだ。
脇腹が、刺すように痛む。
体全体が熱を帯び、汗が止め処なく噴き出してくる。
それでも、田中は走るのを止めない。
定時放送が流れたと言うことは全員が学校の外に出たということだ。
――つまり、亀井絵里も外に出たということ。
正直、あさみが死んだことはそれほど問題ではなかった。
確かに、人が死ぬということは、悲しいことかもしれない。
けれどそれにかまけている余裕は今の田中にはなかった。
(さゆ……! えり……!)
恐らく、教室での亀井のあの状況から、最後に出ただろう事は容易に想像できた。
だとすればあの放送からまだ数分の今、まだ学校周辺に亀井はいることだろう。
(さゆ、えり、まっとってや! うちが、助けたるけん!)
きっと二人はおびえているだろう。
自分にもおびえがないわけではないが、
それを振り切るかのように、田中は闇の中を駆け抜ける。
(ぜったい、ぜったいに助けたる! 助けたるけんね!)
仲間と会うために、仲間を助けるために、
闇を切り裂き、駆け抜ける。
- 92 名前:33 助けたるけんね 投稿日:2003/09/19(金) 00:22
- 住宅地を通り抜け、学校へ繋がる道の分岐点に来たとき、田中は足を止めた。
急に止まったせいか、心臓の鼓動や荒がる息がよりいっそう強くなる。
「はっ、はっ、はっ……」
酸素を求める体が横隔膜を激しく収縮させる。
脇腹の痛みも限界まで来ていた。
「くぅ……ふぅ……ふぅーっ、ふぅーっ」
仕方なく、近くの家の外壁に、もたれ掛かろうと近づいた。
――その時。
「――――ッ!!」
目に映る光。
瞬間、田中は首を窄めてひざを曲げる。
銀色の軌跡が、今まで田中の首があった空間を通り過ぎた。
光は煌き、再度田中を、今度は左から斜めに襲う。
――――ヒュウッ!
曲げていたひざをバネのように使い、田中は右に飛び出す。
軌跡は田中を捉えることなく、地面に吸い込まれた。
ザクッ、と地に何かが突き立つ音。
地に転がった田中はすぐさま体勢を立て直して向き直る。
「はぁ、はぁ……、あんた、なんば……、しよっと……」
未だに息が荒く、発声がうまくいかない。声が震えている。
未知への恐怖も、それに拍車をかけている。
少しずつ、ゆっくりと、呼吸を整える。
泣き言を言っている暇はない。
死が、確実に迫っているのだ。
「はぁ……、なに……、はぁ、黙っとうと……? なぁ……、答えんね」
月が、刃に映り、妖しく光る。
問いかけられた女――前田有紀は、
仕込み杖を片手に薄く微笑を浮かべていた。
【23番 田中れいな 所持品 不明】
【33番 前田有紀 所持品 仕込み杖】
- 93 名前:34 月を映す刃 投稿日:2003/09/19(金) 00:23
- 「正直さぁ、どうでもいいんだよねぇ……」
夜の住宅街に、前田の声が響く。
静かに発せられたその声は妖艶な何かを感じさせる。
「アタシはさぁ、もう……、アレ?なに言おうとしてたんだっけ……」
薄く笑いながら言葉を発する。
「まあいいや……、あ、そうだ。よくかわしたよねぇ、息上がってるのに」
話の辻褄が合っていない。
この人は、自分の言っている言葉が理解できているのだろうか?
(いかん……、予想よりはやか……)
田中は自分の心臓を左手で押さえつける。
脈打つ鼓動はその激しさを増している。
こういうやつが、こんなに早く出るとは思っていなかった。
せめて、明日になるまでは大丈夫だろうと思っていた。
(コイツ……、狂っちょる……)
前田は地面に突き立てていた刃をゆっくりと抜き、
流れるような動きで持ち上げ、顔の前で横一文字に構える。
月を映す刃と、それを眺め三日月に歪む前田の目。
空恐ろしさを感じさせるその姿を前にしても、田中れいなは冷静だった。
ズボンのポケットからバタフライナイフを取り出し、慣れた手つきで翻し、刃を出す。
(よし……、うまくいった)
歩きながら練習していた甲斐もあるというものだ。
『蝶々』の名前を冠したそれは見た目以上に切れ味が鋭い。
刃渡りも人を殺傷するには充分な長さである。
これが、田中に支給された武器だった。
「でさぁ、アタシは死にたくないのよ」
前田の声には耳を傾けず、呼吸を整え、間合いを測る。
――およそ、2.5メートル。
普通で五歩、大またで三歩といったところだろうか。
まだ、田中の得物の間合いではない。
なんとか隙を見て懐に潜り込まなければ。
前田は仕込み杖を中段に構え直すと、
それで間合いを測るかのようにゆらりゆらりと刃を翻す。
――ピタリ、とその動きが止まった。
「だから……、死んで?」
- 94 名前:34 月を映す刃 投稿日:2003/09/19(金) 00:24
- (…………来た!)
田中を目掛け、前田が飛び込んでくる。
一瞬で爆発した興奮物質が田中の目から色を失わせ、
その代わり動きを伝える情報量が何倍にも跳ね上がる。
即ち、前田の動きがコマ送りのように見える。
時間が、ゆっくりと流れる。
――一歩、まだ早い。
――二歩、まだだ。
――三歩、あと少し。
――四歩、今!
――――ヒュオッ!
田中は左半身を下げるように体の軸をずらし、
上段から振り下ろされた刃は左肩ギリギリのところを通る。
遅れてなびいた黒髪が数本、切断されて宙を舞う。
そんなものは一向に構わない。
引いていた左足はそのままに、右足を大きく、深く、低く踏み込んだ。
――――ヒュン!
刹那、刃が田中の頭上を通り過ぎる。 予想通りの結果だ。
すでに刀は振りぬかれている。 体は流れ、隙だらけだ。
前田は刀を返そうと腕を止めるが、そんな暇は与えない。
――第三撃は、ない。
田中は低く構えていた体勢から右足をバネにして跳ね上がった。
喰らい付くのは、前田の首。
彼女の振り上げた腕が障害になっているが、他の場所を狙うつもりはない。
猟犬というものは、すべからく首を狙うものだ。
――――とすっ、
田中の繰り出したナイフは前田の両腕の間を通り抜け、その首元へ突き立った。
- 95 名前:34 月を映す刃 投稿日:2003/09/19(金) 00:24
- そのまま捻るように手首を返し、肉をえぐる。
すぐにナイフを引き抜き、後ろへと飛び退った。
「はーっ、はーっ、はーっ……」
再び、体が酸素を求めて喘ぎだし、田中はその場にへたり込む。
体は、もう限界だった。
これ以上、戦うことは不可能だった。
「がっ……、はっ……ぐふぅ……」
ぼたぼたと、大量の血が垂れる音。
田中のナイフは前田の頚動脈を切断していた。
血を、首から垂れ流し、口から吐き出しながら、前田はよろよろとこちらへ近づいてくる。
「いや……だ、しに……、しにたく……ない……」
その両目からは痛みからか、それとも恐怖からか、涙が溢れて頬を伝う。
――ぼたっ、ぼたっ
血の垂れる音に合わせるようにゆっくりと前田は進む。
左手で首を押さえ、右手の仕込み杖を引きずるようにして、前田は進む。
「いた……、い……、いや……だぁ……」
田中の目前まで、前田が来る。
「ひっ…………!」
田中は、思わず小さな悲鳴を上げていた。
目から口から鼻から喉から、液体を撒き散らして醜く歪める。
これが、人が死ぬときの顔なのだ。
「う……、うあああああぁぁぁああぁぁあ!!!」
田中は渾身の力で前田を蹴り飛ばした。
胸を蹴られ、前田は血を大量に吐き出す。
血が、ぱたぱたと田中の顔に降りかかる。
頬につく、生臭い感触。
前田はそのまま後ろに倒れ、動かなくなった。
- 96 名前:34 月を映す刃 投稿日:2003/09/19(金) 00:24
- 血が、大量に流れ出て、意識が、どんどん薄れていく。
(なんで……だろな……)
前田は、薄れ行く意識の中、これまでのことを思う。
自分は、ただ一生懸命にやってただけなのに、
なんでこんなことになってしまうのだろう。
こんな、どこかも分からないような島で、
独り、死んでいく自分。
(なにか……、まちがったこと……したかな……?)
一生懸命なだけでは、夢は叶えられないのだろうか?
ただ頑張ってるだけでは、ダメなのだろうか?
みんなに、自分を、認めてもらいたい。
自分が、ここにいることを、知ってもらいたい。
それは、願ってはいけない夢だったのだろうか?
いくら考えても、答えは出てこない。
(ま……、しょーがないか……)
けれど何故だか、前田に悔いはなかった。
- 97 名前:34 月を映す刃 投稿日:2003/09/19(金) 00:25
- (ああ、ひとつだけ……悪いことしちゃったよね……)
田中に、襲い掛かったこと。
あんな可愛らしい少女を、殺そうとしたこと。
(ああ……、わたしは……地獄行きかな……)
きっとそうだ。
それは仕方ない。
素直に地獄に行こう。
(でも……、その前に……)
必死で、ぼやける視界の中で田中の姿を探す。
いくら探しても、見つけることは出来ない。
前田は諦めて、目を閉じる。
(一言……、謝りたかったなぁ……)
そして、意識すら、完全に途絶える。
――もし、誰かが、
事の成り行きを知らない誰かが、
その顔を見たとすれば、
きっと彼女は天国へいけたのだと、そう思うだろう。
前田のその死に顔は、
安らぎと慈愛に満ちていた。
【33番 前田有紀 死亡】
- 98 名前:35 目撃 投稿日:2003/09/19(金) 00:26
- 前田が完全に動かなくなったのを確認して、
田中はゆっくりと立ち上がった。
足が震えているのは恐怖のためだろうか。
それともただ単に疲れているだけか。
前田の横たわる場所に近づき、落ちている仕込み杖を拾う。
そのとき、前田の顔を見たが、思っていたよりも酷い顔はしていなかった。
むしろ微笑んでいるようにも見える。
この人は単に死にたかっただけなのだろうか?
そんな疑問も浮かぶが、深くは考えないことにする。
戦いの最中、殺気もずっと感じていた。
(こん人は、うちを殺そうとした……)
その事実だけで充分だった。
無理をした体を引きずるようにして学校へ向かう。
予定外の時間のロス。
それでも、学校側からは誰も来ていない。
恐らく、まだ亀井は道の途中にいるだろう。
早く、迎えに行かなくては。
田中は、再び歩き出す。
しかし、田中の予測は外れていた。
亀井は、一番最後ではなく、そのすぐ前に学校を出ていた。
その差、五分。
少し急げば山を降りるには充分な時間である。
付け加えれば、放送自体もすぐにではなく、
学校が禁止区域になった後に流されたものだった。
亀井は、すでに山を降りていた。
- 99 名前:35 目撃 投稿日:2003/09/19(金) 00:26
- 田中は知らない。
自らの行く先に、亀井の姿はすでにない。
田中は気付かない。
亀井は、すでに近くにいたのだ。
田中が去って、建物の影から少女が一人、姿をあらわす。
亀井は、田中が前田を殺すのを、ずっと見ていた。
【12番 亀井絵里 所持品 不明】
【23番 田中れいな 無傷 所持品 バタフライナイフ】
- 100 名前:abook 投稿日:2003/09/19(金) 00:28
- 今回はここまでです。
前回まで心理描写が多かった分、
その感じで進めるとどうしても似通った表現が多くなってしまい、
仕方なく今回はあっさりめになってしまいました。(特にまいたん)
作者の力不足。本当に申し訳ないです。
>>83
>この気持ちを……
いえいえ、それはこちらのセリフ。
嬉しさのあまりモニタの前で小躍りしちまいましたYO!
>>84
ありがとうございます。何か涙が出てきそう。
みんなそれぞれに違う、死や想いを描ければな、と思っています。
でも今回前田さんが不幸なことに……っぅぅ。
作者は暫くハロプロから離れていたので、
キャラがSDガン〇ムくらいデフォルメされているかと思いますが、
(六期なんか勝手なイメージしかないですし)
(博多弁も福井弁もかなり大嘘ですし)
それでも頑張って精進していきますので、これからも宜しくお願いします。
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/19(金) 21:26
- うひー。かっけー。6期燃えの自分にはたまらん展開。勝手なイメージで充分ス。
更新されているたびに小躍りしてます。ゆっくりいそいで(ぉぃ)頑張って!
- 102 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/09/23(火) 20:41
- めっちゃくちゃ面白いです。
れなぽん最高。続き激しく待ってます。
- 103 名前:36 あやっぺさん 投稿日:2003/09/26(金) 00:08
- 石黒と紺野は島の東端を北に向かって歩いていた。
南の浜辺の東端には錆び付いた階段があり、それを上ると崖の上に出られる。
そこをひたすらに北へ向かって歩いていた。
舗道や集落からは少々離れているので傍に外灯などはない。
そのため道は暗いし、すぐそこは崖である。
二人はかなりゆっくり歩いていた。
「ほら、言ってみ。あやっぺ」
「あやっぺさん」
これで何度目かになるやり取りをしながら、石黒は苦笑した。
「だから、『さん』はいらないの」
「分かりました。あやっぺさん」
ここまでくると、最早漫才でしかない。
「だからぁ……」
これもまた何度目かになる嘆息を吐きながら、石黒は肩を落とした。
数分前から、二人は似たようなやり取りを繰り返していた。
事は石黒の何気ない一言に端を発する。
『私のことはあやっぺって呼んでいいよ。みんなそう呼ぶし』
それ以来、ずっとこんな調子である。
信頼しあう関係にある以上、敬語などは別としても自分のことは気安く呼んで欲しい。
そう思っての言葉だったのだが、なかなか上手くはいかないものだ。
(まあ、しょうがないのかな……)
さすがに、歳の差というものを感じてしまう。
自分と紺野、その差九つ。
姉妹とか、従姉妹とか、血の繋がりでもなければ出会うことすらないくらいの年齢差。
こうして出会い、会話をしていることのほうがむしろ奇跡的なのだ。
ただ、横を歩く紺野の顔は何だか楽しげに見える。
年上の人間と一緒にいるときの緊張感だとか、
変に気を使おうとしているような素振りなどはまったく見られない。
(まあ、それならそれでいいのかな)
紺野さえ良ければ、わざわざ自分が気を揉む必要もないのかもしれない。
今はまだ、このままでいいのだろう。
取り敢えずは、『あやっぺさん』のままで。
- 104 名前:36 あやっぺさん 投稿日:2003/09/26(金) 00:08
- 「あやっぺさん。なんか建物がありますよ」
紺野は視線の先に大きな影を見つけ、横を歩く石黒に声をかけた。
『あやっぺさん』という呼び名。
紺野はこれを気に入っていた。
『あやっぺって呼んでいいよ』
そう言われたとき、紺野は嬉しい反面かなり照れくさかった。
何度か『さん』を付けずに呼ぼうと試みては見たものの、
口から出る言葉はその意に反して必ず『さん』付けになってしまう。
それでも、『さん』付けでもあだ名で呼べるというのはとても嬉しかった。
「ん、そだね……」
石黒は呟くように答え、そのまま歩き続ける。
暫く黙ったまま歩き、建物の近くまで来たところで石黒は足を止めた。
「さて、……どうしようか?」
こちらを見て、石黒が短く訊ねる。
その言葉だけでも彼女の言いたいことは分かった。
中に入るか、入らないか。
中に入れば寝床を確保出来るし、歩き回るより比較的安全である。
ただ、もうすでに中に誰かいる可能性もある。
もしかしたら、敵意を持っているかもしれない誰かが。
自分を殺せる武器を持っているかもしれない誰かが。
(ああ、嫌だなぁ……)
紺野はそんな想像をしてしまう自分が堪らなく嫌だった。
アヤカに殺されかけたこと。
斉藤に銃口を向けられたこと。
すでに感情の整理はついている。
けれど、あのとき感じた瞬間的な恐怖、それは拭えない。
死の恐怖とは本能的なもの。
本能は感情とは別物で、それを制御することはけして出来ない。
――けれど、
「中、入りましょう」
葛藤を振り切るように紺野は言った。
おびえていては何も出来ない。
恐れていては前に進むことは出来ない。
今、本能的な恐怖は鳴りを潜めている。
ならば、前に進まなくては。
「……よし。あさ美はアタシの後ろに隠れててね」
そう言って、石黒はデリンジャーを胸の前に構えた。
今、一番頼れる人、『あやっぺさん』。
自分はきっと、この人がいるから冷静なままでいられるのだ。
- 105 名前:37 靴 投稿日:2003/09/26(金) 00:09
- 石黒は、中に入る前に玄関の上のほうを眺める。
木目の美しい板に『北地区公民館』と楷書で書かれていた。
公民館、と言うよりは集会所のような建物なので、
むしろその表札の立派さは逆に滑稽だった。
磨りガラスが張ってある格子戸を開け、中に入る。
カギは掛かっていなかった。
誰もいないのだろうか、とも思うが、まだ安心は出来ない。
周囲を気にしながら紺野を中に招き入れる。
靴を脱ごうと視線を下ろしたとき、
あるものが視界に入り石黒は動きを止めた。
そして紺野を見やる。
紺野も同じく気付いたようで、何か言いたそうにこちらを見ていた。
「あやっぺさん……これ……」
眼下にある物体を指差しながら、囀るような小声で紺野は言う。
「うん……靴……だよね」
何もない玄関に女性用の靴が一足、きちんと揃えられて置いてあった。
これはどういうことなのだろうか。
まさか元々置かれていたものではないだろうし、
参加者が靴を玄関に置きっぱなしにするとは考えにくい。
よっぽど慌てていたのだろうか?
だがそれでは靴がきちんと揃っていることに説明が付かない。
ならば単に素でやってしまっただけか。
それとも……。
「罠……かもね」
思わず、声に出てしまっていた。
慌てて紺野の様子を探るが、彼女は特別気にした様子もない。
どうやら彼女もその予測は立てていたようだ。
「気を……つけてね、アタシの後ろにいればいいから……」
小声で話す石黒に、無言で頷く紺野。
靴を脱ぎ、それを脇に抱えて、二人は足を踏み入れた。
- 106 名前:37 靴 投稿日:2003/09/26(金) 00:10
- ゆっくりと、足音を立てないように二人は歩く。
それでも板張りの床はキシキシと小さな音を立ててしまう。
これが罠だとしたら、良い場所を選んだものだ。
肌が泡立つような緊張感に、デリンジャーを握る手に力がこもる。
入ってすぐのところに階段があったが、そちらへは行かない。
まずは一階から探索するつもりだった。
途中の物陰、柱の陰などは特に気を配って通過する。
キッチンらしき部屋。
トイレらしき場所。
それぞれ探ってみたが人影すら見当たらない。
廊下の奥には引き戸。
恐らくこの奥は大きな和室になっているのだろう。
自分の後ろにいる紺野を隠すようにしながら、ゆっくりと戸を開ける。
中は予想通り畳張りの和室だった。
蛍光灯に付いている赤い豆電球が頼りなく室内を照らしている。
左右を覗き込むようにして、様子を窺う。
けれど、戸の陰には誰も待ち構えてはいなかった。
少し拍子抜けだったが、まだ安全であるとは限らない。
石黒は注意深く、室内を見回す。
(んっ……、あれは……)
部屋の隅の方に布団が敷いてあった。
こんもりと人の形に膨らんでいるように見える。
(やっぱ……、罠……かな)
左手だけで紺野に待つように指示し、石黒はそちらのほうへ向かう。
布団のすぐそばまで来たとき、石黒は安堵と自嘲の溜息を付いた。
(はあ……なんだかなぁ)
すーすーと穏やかな寝息。
それに合わせて上下に動く布団。
なんだか急に馬鹿らしくなってきた。
ありもしない脅威におびえて、足音を殺して進んできた自分。
いざとなれば、紺野の盾になろうとしていた自分。
ここに来るまで耐えてきた心労がどっと押し寄せてくる。
(でも、まあ、良かったのかな……)
石黒は眼下に広がる光景を眺める。
それはすやすやと幸せそうに眠る道重さゆみの姿だった。
【36番 道重さゆみ 熟睡中】
- 107 名前:38 轟く銃声 投稿日:2003/09/26(金) 00:11
- 「ああ、結構おいしいねコレ。……でさ、たかはひの武器はなんふぁったの?……んぐ」
奥の和室で、支給された携帯食料を食べながら矢口は言った。
米軍で野戦時に支給されるMREレーション。
カイロのようなもので暖めてから食するそれは案外に美味であったりする。
「えっとぉ……」
高橋は食べる手を止め、自分の横に置いていたリュックからそれを取り出した。
「コレなんですけどぉ……」
一瞬、矢口は固まる。
それはマシンガンの形をしていた。
(まさか…………)
飛躍しそうになる思考を必死で抑える。
そんな矢口の様子を見て取ったのか、高橋は慌てて付け加えた。
「あ、コレ、エアーガンなんですよぉ、ホラ」
軽い軽い、といった感じに片手でそれを上げ下げする。
さらにごそごそとリュックの中を探り、
大量のBB弾の入った袋を取り出して見せた。
矢口はほっと安堵の息をつく。
「なんだよたかはしー、びっくりさせんなよー」
「ごめんなさ〜い……」
それでやり取りは終了し、何事もなかったように食事は再開された。
(あぁ……でもよかったなぁ。 ちゃんとした武器じゃなくてさ)
それは自分の身が危険であるとか、そういうことではなかった。
こんな純粋な少女に、人を殺して欲しくはない。
それもまた純粋な願いだった。
もしも、何かあったとして、
もしも、それが避けられないとしたら、
それは、自分の役目だ。
殺すのは、自分の役目だ。
- 108 名前:38 轟く銃声 投稿日:2003/09/26(金) 00:11
- 食事を終え、リュックを背負い、部屋を出ようとしたところで矢口は思いつく。
ここは駐在所。
もしかしたらアレがあるかもしれない。
これから、自分は高橋を守らなければならないのだ。
武器が棒切れとエアガンでは正直心もとない。
和室に来る前に、一応棒とフタは拾っておいた。
今、リュックの中にそれらは入っている。
「高橋、ちょっとここで待ってて?」
そう言って、部屋を出る。
恐らく、ロッカールームあたりだろうか。
食事をした和室の目の前、恐らくはここだろう。
自分たち以外に人の気配を感じなかったので、矢口は無遠慮にドアを開ける。
中は暗かったが電灯のスイッチを点けるとすぐに明るくなる。
窓のない小さな部屋にロッカーが三つ。
島の駐在所ならばこの程度だろう。
(なんか……ゲームみたい)
そんなことを思いながら、無造作にロッカーを開ける。
(……よっし)
心の中で、小さくガッツポーズ。
ロッカーの中には制服とホルスター、そして予想通り拳銃が一丁入っていた。
続けてもうふたつのロッカーも開ける。
それぞれ入っていたのは弾薬の箱とジュラルミンの盾。
本当にTVゲームのようだ。
矢口が昔から疑問に思っていたことなのだが、
TVゲーム内では何故だかひとつの宝箱からはひとつの宝しか出ない。
もうちょっと入りそうなものなのに。
(ま……、趣味か)
思えば、銃が入っているのにも関わらず、ロッカーにはカギが掛かっていなかった。
これも多分、余興の一つなのだろう。
誰でも取れる場所に銃を置いておく。
その意図はわざわざ推し量るまでもなく、明確に理解できる。
だが、彼らの思い通りになるつもりは毛頭ない。
(これは……できるだけ使わないようにしないと)
矢口は右手に握った拳銃――“New nanbu M60”を緊張した面持ちで見つめた。
- 109 名前:38 轟く銃声 投稿日:2003/09/26(金) 00:12
- 弾薬を詰め、リボルバーを戻す。
ホルスターを胸に装着し、そこに拳銃を収めた。
上着のせいで外見上は大した違いはないが、
伝わってくる冷たい感触がその異質な存在を矢口に伝える。
正直、あまり良い気分ではなかった。
弾薬の箱はリュックに入れておく。
大分荷物が増えてしまったので、おなべのふたとはここでお別れだ。
短い間だったけれど、苦楽を共にした戦友との別れ。
(まあ……、そんなに大仰なもんでもないか)
ロッカーに置かれた役に立たない支給品に取り敢えず、『ありがとう』とだけは呟いておく。
一応、ぬののふくは着替えのために持っておくことにした。
ロッカーを閉め、矢口は出口へと向き直る。
(さて、コイツは高橋に)
ジュラルミンの盾は高橋に渡すつもりだった。
自分の身長くらいあるそれを持ち上げて、前に進む。
部屋を出て、和室へと戻るが、高橋の姿はなかった。
「あれ? 高橋? どこいった?」
頭に疑問符を浮かべるようにして呼びかける。
けれど返事は聞こえない。
前がよく見えないので、盾を壁に立てかけた。
けれど、やはり見当たらない。
- 110 名前:38 轟く銃声 投稿日:2003/09/26(金) 00:13
- (どこいったんだろう……)
仕方なく、部屋を出て左側、駐在所の奥のほうへ向かう。
幾つかコップが置かれた小さな流し台。
そこに高橋はいた。
「高橋?何してんの?」
「あっ、矢口さん」
矢口の呼びかけに高橋が振り返る。
その手には水が半分くらいまで入ったPETボトル。
どうやら水を汲んでいたようだ。
「ちょっと待ってて下さい、今終わりますから」
そう言って、また作業を再開する。
500ml入りのPETボトルはすぐに満杯になった。
作業を終え、こちらへ向き直る高橋。
「はい、矢口さん」
そう言いながら、PETボトルをこちらへ差し出す。
矢口は受け取り、そして気付く。
それは先程まで高橋が水を汲んでいたものではなかった。
「えっ? コレ、いいの?」
それはまだ封が空けられていなかった。
キャップの形がそれを示している。
恐らくは高橋の支給品だろう。
「いいんです。矢口さんのわたしが飲んじゃったからぁ」
にこやかに笑いながら高橋は言う。
そして水を入れたばかりのボトルを自分のリュックにしまい込んだ。
「……ありがと、高橋。貰っとくね」
矢口は高橋の小さな気遣いに胸を打たれながら、渡された水を自分のリュックに入れた。
- 111 名前:38 轟く銃声 投稿日:2003/09/26(金) 00:13
- 「さて、行こうか」
とりあえず、準備は整った。
上着の下にある拳銃のことを言うかどうか迷ったが、それは歩きながらでも話せるだろう。
それにまだ、『人を殺せる武器を持っている』ということを上手く話せる自信がなかった。
(あっ……と、忘れるとこだった)
外に出たところで、矢口は思い出す。
ジュラルミンの盾が和室に置きっぱなしだった。
「ゴメン、高橋! ちょっと待ってて、忘れ物!」
言うが早いか矢口は駆け足で和室へと向かう。
勿論、ジュラルミンの盾はそこにあった。
丈夫そうな、銀色の盾。
(高橋を……守ってね)
なでるようにその表面をさする。
それは、どんな銃弾も跳ね返すような、そんな効果は無いのは知っている。
それでも信じることでいくらかは防弾効果を増してくれそうな、そんな気がした。
壁に立てかけておいたそれを両手で持ち上げ、玄関のほうへ向き直る。
のぞき穴から見える視界は狭かったが、
身長の足らない矢口はそこから前を見るしかない。
それに、片手で持つには少し重かった。
狭い視界、小さな穴。
そこから玄関先に佇む高橋の姿が見える。
小さいその姿はこちらにむかって微笑んでいた。
- 112 名前:38 轟く銃声 投稿日:2003/09/26(金) 00:14
-
――――ドンッ!!
「…………えっ?」
大きな銃声。
驚きとともに辺りを見回す高橋。
何が起きたのか分からない、そんな表情だった。
矢口もまた高橋同様、何が起きたのか分からなかった。
――――ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
再び、今度は続けて三度、鳴り響く銃声。
膝をがくりと落とし、くず折れる高橋。
小さな視界に、その姿だけがハッキリと見えた。
頭から、足から、血を流して倒れる高橋。
矢口の視界は、もう小さなものではなかった。
盾はすでに捨てている。
拳銃を引き抜き、いつの間にか走り出していた。
【22番 高橋愛 負傷(詳細不明) 所持品 電動ガン(“UZI SMG”タイプ)】
【38番 矢口真里 所持品 ひのきのぼう、ぬののふく ――New nanbu M60 取得】
- 113 名前:39 狙撃者 投稿日:2003/09/26(金) 00:15
- (アレ……、わたし……どうしたんやろ……)
頭から血が流れ出る感触。
ぼやける視界。
(あ……なんか……足……痛い……)
右足から心臓の鼓動にあわせて鈍重な痛みが響いてくる。
見ようと思って頭を上げようとするが、上手くいかない。
まるで麻酔でも打たれたかのように体全体が重い。
目を開けているのも億劫になってくる。
ドォン……、ドォン……
遠くのほうから、花火のような音。
それを聞いて、自分がどうして動けないのか、やっと理解出来た。
(ああ……そっか……撃たれちゃったんだ……)
ハッキリと自覚する。
それでも頭はもやがかかったような状態のままだった。
思考と同じようにぼやける視界に知人の顔が映る。
(あ……矢口さん……)
矢口はこちらの顔を覗き込んで何かを叫んでいるようだった。
けれど、何故かその声は聴こえない。
(なに……なんですか……矢口さん……)
その両目からは、涙が流れ出ている。
(なんで……泣いてるんですか……矢口さん……)
涙がポタポタと、自分の顔に向かって落ちていくのが見える。
けれど、頬を濡らすような感触はすでに感じられない。
(聴こえない……もっと大きな声で……しゃべってください……)
声に出そうと思っていたのに、口が上手く動いてくれない。
次第に、瞼が下りてくる。
(眠いな……)
瞼が完全に閉じられる。
まどろんだ思考は、そこで停止した。
- 114 名前:39 狙撃者 投稿日:2003/09/26(金) 00:16
- 矢口は自然に溢れ出てくる涙を拭いながら目の前に横たわる高橋の状態を観察した。
右太ももの外側に銃弾が貫通した痕。
左側頭部にかすったような裂傷。
(よかった……、まだ生きてる)
高橋はまだ生きている。
その事実が、幾分か矢口を救ってくれていた。
自分は、まだ取り返しの付かない間違いはしていない。
(よかった……、ホントに良かった……)
ただ、まだ死んでいないとしてもこの出血量はまずい。
早く止血しないと命に関わる。
矢口はリュックからぬののふくを取り出して、ふたつに裂く。
そしてそれを頭と足それぞれにきつく縛り付けた。
(まさか……、これがこんなところで役に立つとはね……)
自嘲気味に胸中でぼやく。
使えないと思っていた支給品が役立ち、
高橋を守ってくれると思っていたものは結局何の役にも立たなかった。
矢口は駐在所内に転がっているジュラルミンの盾を横目で見やる。
その力ない姿に、自らの不甲斐なさを重ねてしまう。
自分が忘れたりしなければ、高橋はこうならずに済んだかもしれないのに。
そんな思いが矢口の中で巡る。
(でも……、悔やんでる暇なんてない)
今、右手に握られているニューナンブで応戦し、今は沈静化している狙撃者。
弾丸の来る方向から大体の居場所は分かったものの、その姿は確認できなかった。
彼女が、またいつ攻撃を再開するとも分からない。
早く高橋を連れてこの場から離れなくてはならない。
矢口はリュックを一度下ろし、それに前から腕を通した。
丁度リュックを抱きかかえるような体勢になる。
そしてゆっくり高橋を引き起こし、背負う。
さすがにちょっと重かったけれど、愚痴を言っている暇はない。
とにかく、今は高橋を安全に休ませられる場所に。
【22番 高橋愛 右足、側頭部負傷】
- 115 名前:39 狙撃者 投稿日:2003/09/26(金) 00:20
- 狙撃者はずっと、駐在所の裏の森の中に隠れていた。
高橋と矢口が出会い、駐在所に入った頃から、
再び二人が出てくるときをずっとそこで待っていた。
「意外と当たらないな……」
自分の手に握られた拳銃――“PM”、通称マカロフを眺め、ぼやく。
すでに全弾八発撃ちきっていたので、マガジンを交換し、スライドを引いた。
「さてと……どうしますか」
ここはわりと見晴らしの良い高台になっているので矢口と高橋の姿は確認できた。
矢口は高橋をおぶって北東へ向かっている。
ここで再度襲撃すれば、二人とも殺すことは容易いだろう。
ただ、先程撃ってみて確認したものの、拳銃はやはりこの距離の射撃には向かないようだ。
この距離――高さも考えておよそ40mくらいだろうか。
これは自らの安全を最優先にした結果なのだが、よくよく考えてみるとやはり無理がある。
高橋の様子から少なくとも一発は当たったようだが、それは偶然の産物である。
実際、矢口には一発も当たっていない。
「どうすっかなぁ」
もう一度、同じ事を呟く。
矢口が拳銃を持っていたのは誤算だった。
当初の予定では、ここからある程度ダメージを与えて、それから近づいて止めを刺すつもりだった。
けれど、矢口が銃を持っている以上、今それをするのはかなり危険だ。
まずは、傷を負わないようにしないと出血や発熱で満足に動けなくなる。
初日から傷を負っていたのでは到底生き残ることは出来ない。
『まずは自分の安全を確保して、それから数を少しずつ減らしていこう』
それが、狙撃者の当面のプランだった。
「ま、今は見逃してやるとしますか」
呟いて、セーフティをかけてから銃をリュックにしまう。
と同時に、中から携帯食料を取り出した。
「ごはんごはん〜」
上機嫌に、歌うように言葉を発する。
狙撃者――藤本美貴は、至って冷静だった。
【30番 藤本美貴 所持品 PM(Makarov)】
- 116 名前:40 力強い手 投稿日:2003/09/26(金) 00:21
- 「りんねさんは……どうして私がここにいるって分かったんですか?」
りんねを部屋に招き入れ、何もないフローリングに向き合って座りながら里田は訊ねた。
りんねは何も言わず、ジャケットの胸ポケットから何かを取り出して里田に見せる。
「これ……なんですか?」
少し大きめの携帯電話のような黒い機械。
箱型のそれには液晶のスクリーンが付いていた。
「支給された武器。人物探知機。 まあ、ラッキーっちゃラッキーなのかな」
りんねは人物探知機の画面の下にあるカバーをスライドさせて何やらボタンを押し始めた。
「ホラ、26番が私、19番がまいちゃん」
画面の真ん中に『19』と『26』という数字が重なるようにして大きく表示されている。
「これってもっと範囲広げたりできるんですか?」
画面には自分とりんねの分しか表示されていない。
こんな範囲だけで自分を探せるわけはない。
それは当然の質問だった。
「うん、でもね」
そう言って、りんねは再びボタンを押す。
「ホラ、見て」
里田はりんねが向けた画面を見つめる。
確かに画面が移す範囲は広くなったようだ。
自分たち以外にもちらほらと光点が表示されている。
――光点、しかない。
「そ、一番狭い範囲じゃないと番号が見られないようになってる。……まったく、悪趣味だよね」
そう言って、再び探知機をポケットにしまいこんだ。
「だからね、まいちゃんを見つけられたのは単に偶然だったりする」
少しおどけて、りんねは言った。
「で、まいちゃんの武器は?」
「私のはこれです」
リュックから支給された武器を取り出して床に並べる。
奇麗な装飾の付いた儀礼用らしき小剣と、似たような装飾の付いた丸い盾。
「レイピアと……盾か……」
独り言を呟くようにりんねが言う。
その顔は何か考え込んでいるようにも見えた。
けれど、その顔はすぐにいつものぼ〜っとした表情に戻る。
「なんかジャンヌダルクみたいだね」
そう言って、りんねはクスッと笑った。
- 117 名前:40 力強い手 投稿日:2003/09/26(金) 00:22
- それから暫く、里田とりんねは話をした。
りんねが卒業してから約一年間、積もる話もたくさんある。
ハロプロのコンサートのこと。
今年のシャッフルのこと。
新しく入ってきたみうなのこと。
里田が色々話すたびにりんねは微笑みながら相槌を打つ。
やっぱり、りんねは変わっていない。
なんだか急に懐かしさを感じてきた。
りんねと、あさみと、自分と。
三人一緒にいた九ヶ月間。
――けれど、
「……ねえ、りんねさん」
「……ん?」
それは、否定したいこと。
それは、信じたくないこと。
だから、口に出したくなかったこと。
けれどもしかしたら、りんねなら、答えを出してくれるのかもしれない。
「あの……ね」
否定したいこと。
信じたくないこと。
口にしたら、それが本当のことになってしまいそうだった。
けれど、これを聞かないと、自分はここから出られない気がする。
意を決して、口を開いた。
「あさみちゃんは……ホントに死んじゃったのかな」
- 118 名前:40 力強い手 投稿日:2003/09/26(金) 00:22
- その言葉を聞いても、りんねに特別変化はなかった。
いつも通りのマイペースな表情で暫く黙り込む。
きっと、話している最中から気付いていたのだろう。
自分が意図的にその話題を出さないようにしていたことを。
「さあ……ね。でも多分、放送で言っていたのは嘘じゃあないと思う」
りんねのその言葉に、少し、突き放されたような感じがした。
きっと自分を励ますようなことを言ってくれる、そう期待していた。
「どうして死んだのかは分からないけど……、多分もう……」
そのあとに続く言葉はなかった。
けれど、それだけですでに絶望的な響きを持っている。
「私は……信じたくないです……」
反射的に、呟いていた。
けれど、頭では違うことを考えていた。
(やっぱり……あさみちゃんは死んだんだ……)
急に、その認識が形を持って里田の頭に芽生える。
笑っているあさみ。
怒っているあさみ。
泣いているあさみ。
今まで出会ったいろんなあさみが脳裏に描かれる。
いつの間にか、里田の目からは涙が溢れていた。
潤んだ視界にりんねの微笑が映る。
「どうして……平気なんですか……? りんねさんは……悲しくないんですか……?」
思わず、口からこぼれていた。
言ってしまったあとで、後悔する。
自分より長くあさみと一緒にいたりんねが、
あさみの成長を見守ってきたりんねが、悲しんでいないはずがない。
「うん、悲しいよ……」
辛そうな声で、りんねは言う。
それでも、りんねのその顔は悲しんでいるだけのものではなかった。
「でもね、まいちゃん。悲しんでるだけじゃダメなの」
そう言って、りんねは真剣な顔になる。
「泣きたくても頑張って、前に進まないといけないの」
りんねの言葉が、里田の心に響く。
「信じたくないのも分かるよ。 でも全部嘘だって思って閉じこもってちゃ何も出来ないままだよ」
それは、りんね自身に言い聞かせているようにも聴こえる。
- 119 名前:40 力強い手 投稿日:2003/09/26(金) 00:23
- 「今はまだ、本当かどうかは分からない。
あさみはまだ死んでないのかもしれない。
ただ、おびえて隠れているだけなのかもしれない」
りんねはそこで言葉を切り、こちらへ向かって手を差し伸べた。
「だったらせめて、確かめに行こうよ。ね? 悩むのはそれからでもいいじゃない」
それは、里田の一部が自分自身に言い続けていたこと。
けれど、言う人間が違うと、こうも違った響きを与えてくれる。
里田はりんねの手を見つめる。
酪農の作業で小さなまめの出来た、力強い手。
その手と同じくらい、彼女の言葉には力があった。
自分は何を悩んでいたのだろう。
確かめてどうするかは今悩むことじゃない。
(それは、確かめてから決めればいいことなんだ)
認識して、ようやく、里田は自身の闇から抜け出せた気がする。
もう一度、この闇から自分を救ってくれた力強い手を見つめる。
「…………はい!」
力強く返事をして、里田はその手を握った。
――グゥゥゥゥゥ……
その瞬間、獣の唸り声ような低い音。
「…………」
「…………」
唖然とするりんね。
顔を赤らめる里田。
「ごはん……食べよっか」
「……そうですね」
それが、里田の腹の音であったのは言うまでもない。
【19番 里田まい 所持品 小剣、盾】
【26番 戸田鈴音(りんね) 所持品 人物探知機】
- 120 名前:abook 投稿日:2003/09/26(金) 00:24
- 一週間ぶりの更新です。
待っていてくれた方、申し訳ないです。
>>101
あう、レスから一週間、、、。
本当に申し訳ないです。
なるべく三日四日で5節うpできるよう、ゆっくりいそいで頑張ります!(w
>>102
ありがとうございます。
前述したように勝手なイメージでしかないのですけれど、
喜んでもらえて嬉しいです。
六期メンはまだ未知な部分が多いので暫く出番がなくなるかもしれません。
ザッピング形式なのでまだ未消化なメンバーもたくさんいますし、、、。
なので、なるべく更新ペースだけは上げられるよう努力いたします。
今回は、ホント、申し訳。
- 121 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/09/26(金) 21:13
- 大量更新お疲れ様です。
良い感じに話しが進んでますな。すっごく良い。とにかく良い。
続き待ってますで〜
- 122 名前:41 寝起きに微妙に微笑な寸劇 投稿日:2003/09/28(日) 22:38
- 「重さんは今までどうしてたの?」
暗い部屋の中に紺野の声が響く。
「わたしは……れなちゃんと……えりちゃんをさがしてました……」
眠そうな声で道重が答える。
「……でも重さん今寝てたよね?」
「はい……ここ入ったらお布団あったから……」
今、この部屋には紺野と道重しかいない。
石黒は今二階のほうを探索している。
丁度石黒が『上を見てくる』と言って部屋を出た辺りで、道重が目を覚ましたのだ。
ちなみに、道重の第一声は『おはようございます……』だった。
この子には危機感とかそういうのはないのだろうか?
紺野は布団の中で上体を起こして座っている道重を見る。
豆電球の明かりしかないのではっきりとは見えないが、
ぼ〜っとした表情でこちらを見ていることは分かる。
「紺野さんは……どうしてここにいるんですか……?」
相変わらず寝ぼけたような声。
思わず紺野は溜息をついていた。
「重さんが寝てる間に来たんだよ……」
「はぁ……、そうですか……」
口を押さえて、ふわぁ〜っと可愛らしいあくび。
まったくと言っていいほど緊張感の欠片もない。
「あれっ? 起きちゃったんだ」
不意に、後ろから声が聴こえた。
振り返ると、石黒が部屋に入って来るところだった。
「お疲れ様です、あやっぺさん」
「ん。 二階には誰もいなかったよ。
って言ってもなんか納屋みたいにガラクタが
積み重なってたからよくは調べてないけど。
……ま、多分大丈夫でしょ」
石黒は後ろ手でふすまを閉めて、こちらのほうへ歩いてきた。
すぐそばまで来ると、紺野の隣に腰を下ろす。
- 123 名前:41 寝起きに微妙に微笑な寸劇 投稿日:2003/09/28(日) 22:39
- 「って言うかさ、あさ美」
「はい、なんでしょう」
呼びかけられて振り向いた紺野の額をぺし、と叩いた。
「あやっぺでいいっつってんでしょ?」
「スミマセン……あやっぺさん」
「ったく……」
今度は石黒が溜息をつく番だった。
「で、アタシとこの子は初対面なわけだから……」
言いながら、道重を見る石黒。
道重はやはり初対面の人間に緊張しているようで、幾分か身を引いている。
石黒はその視線を紺野に移した。
「あさ美、紹介お願い」
「はい」
紺野はすっと立ち上がり、石黒と道重、その両方を見やる。
「重さん、こちらはあやっぺさん。 あやっぺさん、こちらは重さんです」
「とりゃ」
「あう」
反射的に石黒は紺野の膝裏にチョップを繰り出していた。
体勢を崩し、その場に倒れこむ紺野。
「なにするんですかあやっぺさん。 今どきひざかっくんなんて子供でもやりませんよ?」
倒れこむときにぶつけたのだろうか。
紺野は右膝を大事そうに抱えてさすっていた。
「うっさい。 そんなコントみたいな紹介するアンタが悪い」
詫びる気などさらさらないように石黒は告げた。
「いいから、もっかいちゃんと紹介しなさい」
「はーい……」
少し唇を尖らせるようにして答えてから、紺野は再び立ち上がった。
- 124 名前:41 寝起きに微妙に微笑な寸劇 投稿日:2003/09/28(日) 22:40
-
「重さん、こちらは元娘。の石黒彩さん。
って言っても石黒さんが卒業したのは
三年も前の話だから重さんは覚えてないかもだね?」
「とりゃ」
「あう」
また、膝裏にチョップ。
「あやっぺさん……同じボケを多用するのはちょっと……」
紺野は先程と同じ部分をさすりながら言う。
「うっさい。 さりげなく失礼なことを言うな」
悪びれることもなく石黒は言う。
「それにボケてるのはアンタ。 さっさと続けなさい」
「は〜い……」
三度、紺野は立ち上がる。
「あやっぺさん、こちらは娘。六期メンバーの道重さゆみちゃん。
顔の割にかなりのナルシストです」
「せいや」
「はう」
膝裏チョップ。
「あやっぺさん……、いいですか……? 同じボケは三度までですからね……?」
膝さすり紺野。
「うっさい。 顔の割にとか言うな。 失礼にも程がある」
悪びれもなく石黒。
「まだ紹介終わりじゃないでしょ? もう少し詳しく説明してよ」
「はぁ〜い……」
四度、紺野は立ち上がる。
それから数回、同じようなやり取りが続いた。
- 125 名前:41 寝起きに微妙に微笑な寸劇 投稿日:2003/09/28(日) 22:41
-
無論、いつの間にかケンカになっていた。
「大体天丼って言うのは少し間を置いてからやらないとウザがられるだけなんですよ!」
「そんなもん知るか! ボケてんのはアンタだろアンタ!」
しかしながらその方向性はかなりずれていた。
「たとえばコントの冒頭のセリフを最後に一回だけ言ってオチをつけるとかですね……」
「アンタはそんな知識を何処で覚えてきたんだよ……」
頭を抱えながら石黒はふと気付いた。
石黒が部屋に入ってきてから道重は一言も喋っていない。
「あっと、さゆみちゃん?でいいのかな? ごめんね、こんな先輩たちで……」
言いながら、道重のほうを見やる。
さっきまでは萎縮していた彼女。
けれど、
(はは……これはまた……)
石黒はその道重の姿を見てにやりと笑った。
「あやっぺさん、まだ話は終わってませんよ! これから私の持つ全ての笑いの知識を――いてっ」
蒸し返そうとしてきた紺野を無言で引っ叩く。
そしてその頭を脇に抱えるように抱き寄せ、道重のほうへ向けた。
紺野もまた、その姿を見て納得したようだ。
じたばたと暴れていた手足がピタリと止まる。
「なんか……いい結果にはなったみたいだね」
「そう……みたいですね」
小声で、会話する。
二人の視線の先にいる道重さゆみは、くすくすと声を出して笑っていた。
素人二人に贈られるものとしては、なかなかに最高の笑顔だった。
【6番 石黒彩 16番 紺野あさ美 初舞台終了】
【36番 道重さゆみ 苦笑い】
- 126 名前:42 森の中 投稿日:2003/09/28(日) 22:42
- 中澤裕子と辻希美は山中の細い道を歩いていた。
一応道らしく砂利は敷いてあるものの、所々に生い茂る木々や雑草が行く手を邪魔している。
加えて斜面も結構急なため、歩くのにかなりの労力を必要としていた。
けれど、道があるということはその先に何かしらあるということ。
山小屋のようなものがあるはずなのだ。
「がんばれー、辻ー。 あと少しやからなー」
中澤は歩きながら振り返り、少し後ろを着いてくる辻に声をかける。
「ハァ、ハァ……」
辻からの返事はない。
代わりに息切れの音だけが聞こえる。
道が険しいと言えど、ここまで困憊するほどではない。
予想以上に辻は疲れていた。
中澤は足を止め、辻が来るのを待つことにした。
(ま、しゃーないか)
荷物の重さで言えば自分のほうが上のはずだった。
中澤は自分の肩から提げられているものを眺める。
サブマシンガン――“Beretta M12”
3,73kgと女性が持つには結構な重量がある。
それでも辻のほうが疲弊しているように見えるのは恐らく精神的な疲労からくるものだろう。
教室では銃を持ったつんく♂の目の前に座らされ、
学校を出されてからも自分が見つけるまではずっと一人で森の中に隠れていたのだ。
- 127 名前:42 森の中 投稿日:2003/09/28(日) 22:46
- 暫らくして辻が中澤に追いつく。
「辻、大丈夫?」
「ハァ、ハァ……、なんとか……」
息も絶え絶えに、辻は答える。
その頭には防空頭巾。
肩にはボロの甚平を羽織っている。
それらともんぺとブリキ缶入りのドロップス。
それが辻に支給された武器だった。
とある名作映画を連想させるその支給品を身につけた辻を最初に見たとき、
中澤は失礼ながら大笑いしてしまった。
(ふたすじみたいな顔してんだもんなぁ……)
眉を八の字、口をへの字にして上目遣いにこちらを窺う辻の姿。
思い出すだけでもまた笑いがこみ上げてくる。
「……なに笑ってんの?」
「あっ、いや、なんでもない」
なんとか想像を打ち消して、笑いを噛み殺す。
辻の息遣いが戻ったのを確認して、今度は二人並んで歩き出した。
「荷物重かったらアタシが持つで?……ええんか? そうか」
中澤の提案に首を横に振って答える辻。
『これ以上迷惑はかけられない』
そういった表情だった。
- 128 名前:42 森の中 投稿日:2003/09/28(日) 22:47
- 「まったく……、こんなんでもきっちり大人になっとるんやなぁ」
「……何それ」
思わず口から出た言葉に辻がじろりとこちらを睨んだ。
「いや、怒んなや辻ちゃん。褒めてるんやないかぁ」
言いながら、中澤は辻を、自分の半分程度しか生きていない少女を見る。
たとえ辛そうな顔をしていても、涙は見せずに歩いている。
自分が促したとは言え、文句も言わずに歩いている。
自分が卒業した当時の彼女なら、ここに来る途中で泣き出していただろう。
自分の不遇を嘆いて、それを中澤にぶつけていただろう。
けれど、彼女はそれをしない。
自分の足で、一歩ずつ歩いている。
(ホント、大人になったね……辻)
それは、中澤の本音。
今度こそは口に出したほうが良かったのかもしれない。
けれど、あまりの気恥ずかしさに心の中で噛みしめるに留まった。
【25番 辻希美 所持品 せっちゃんセット 移動中】
【27番 中澤裕子 所持品 Beretta M12 移動中】
- 129 名前:43 少女 投稿日:2003/09/28(日) 22:48
- 中澤と辻が進む道の先にあるロッジ。
その中で少女が独り、膝を抱えて座っていた。
傍らには拳銃――“Colt M1911 A1”、通称ガバメントが転がっている。
たとえ人を殺せる武器を持っていたとしてもそこに意思が伴わなければ何の意味も持たない。
リュックから取り出して以来、それには触れてすらいない。
むしろ、彼女にとってそれは邪魔なくらいだった。
(なんであんなこと言っちゃったんだろ……)
人のいそうな所から逃げるように森の中を彷徨い、このロッジへ辿り着いた。
自分以外の全ての人間は、きっと自分を殺そうと思っているのだろう。
そうまでは思わなくても近寄りたいとは思わないはずだ。
(もうちょっと他の言い方とかもあったのかな……)
少女は自分が完全に孤立していると感じる。
山中を走り、泥の撥ねた跡が付いたズボン。
振り払った木々の汁が付いた薄手のパーカー。
それと同様に、自分の心も汚れているような、そんな気がした。
(嘘だとしても……、あんなこと言っちゃったんだもんね)
助けるにはああするしかなかった。
ああ言わなきゃ、きっと彼女は死んでいた。
そうやって自分を正当化する度に、自分がどんどん嫌いになっていく。
(これで……、あたしが誰かに殺されればいいのかな……?)
きっと、そうなのだろう。
『自分が死んだ』と放送されれば、少しはみんなの恐怖も和らぐはずだ。
それが、自分に出来る最大限の罪滅ぼし。
それでも、傍らに落ちている拳銃を拾い、
自ら銃口をこめかみに押し当てるまでの覚悟はなかった。
死んだほうがいい。
死にたくない。
心の中の葛藤は、ますます自分を貶める。
嫌悪は募り、やがて憎悪へと変わる。
そうなる前に、早く誰かに来て欲しかった。
ここへ来て、決意の薄れないうちに自分を殺して欲しかった。
- 130 名前:43 少女 投稿日:2003/09/28(日) 22:49
- ――ギィィィィ……
そんな少女の心の内を読みとったかのように、ロッジの扉が音を立てて開く。
月明かりの中に、二つの人影。
それを視界に収めた瞬間、少女はガバメントを拾って迷わず引き金を引いた。
――――ドンッ!! ガシャァァン……!!
弾丸は人影からは大きく左に外れ、格子状の窓を粉々にする。
これでいい。
これは単なる威嚇なのだから。
少女はゆっくりと言葉を発する。
「誰だか知らないけどさ……、こっちきたら殺すよ……?」
これでいい。
これで相手は逃げるか、それとも自分を殺すかしてくれる。
人影の大きいほうがゆっくりと近づいてきた。
彼女の得物はナイフか何かなのだろうか?
銃ならばわざわざ近づく必要はない。
(出来ることなら……、銃であっさり死にたかったけどね……)
ロッジの中は暗いので顔はよく分からない。
自分を殺すだろうその人間の顔をよく見ておきたかったけれど、どうやらその自由すら自分にはないようだ。
(まあ、贅沢言っちゃいけないよね……)
少女は再び口を開く。
「くんなっつってんでしょ?」
――――ドンッ!!
発射された弾丸は人影の横を掠め、今度は天井に穴を穿つ。
「――――――――ッ!!」
声にならない悲鳴を上げた人影はすぐさま少女目掛けて走り出した。
人影が少女を押し倒し、少女の視界には天井だけが映る。
これでいい。
これで、きっと彼女は自分を殺してくれる。
心臓を一突きにして、楽にしてくれる。
やっと、楽になれる。
- 131 名前:43 少女 投稿日:2003/09/28(日) 22:49
- けれど、予想していたような衝撃はいくら待ってもやってこなかった。
ただ、暖かく抱きしめられているだけだった。
「アホかアンタは……! こんなことして……!」
涙交じりの声が響く。
少女はその声に聴き覚えがあった。
「長い付き合いやん……。
アンタがウソついてんのは分かる……。
なっちのためにウソついたんも分かってる……」
暖かい抱擁。
肩越しの声。
優しい、声。
「だからこれ以上ウソつかんでええんよ……、な? 後藤?」
「裕ちゃん……」
少女――後藤真希は、人影――中澤裕子に抱きしめられながら笑った。
(ありがと……裕ちゃん……)
細められた目じりに、小さな雫が光る。
自分を抱きしめる中澤の背中に、後藤はそっと両手を回した。
「裕ちゃん……震えてるね」
「アホッ! 誰のせいや……!」
「裕ちゃん……」
「ん……? なんやごっちん」
「……重い」
「うっさい!」
【14番 後藤真希 所持品 Colt M1911 A1】
- 132 名前:44 生き残るために 投稿日:2003/09/28(日) 22:50
- 今日は高校の卒業式。
わたしは彼を待っている。
あんまり話したことはなかったけれど、きっと大丈夫。
校庭の桜の木の下。
ここには伝説があるんだから。
ここで告白すれば、きっと願いは叶う。
わたしは待っている間、彼のことを思い出す。
いつの間にか、好きになっていた彼。
その優しい声。
その精悍な横顔。
ちょっと寝癖の付いた頭。
身長の割に細い体つき。
その全てが好きだった。
約束の時間に少し遅れて、彼はやってきた。
走ってきたのだろうか、少し息が上がっている。
その姿を見て、やっぱり自分は彼が好きなんだな、と改めて確認出来た。
「あの、ね……」
桜が空から舞い降りる雪のように風に乗って私と彼に降りかかる。
二年前に撮ったPVを思い出して少し顔が緩んだ。
「前から言おうと思ってたことなんだけど……」
制服のスカートが風でなびく。
二年前に比べて長くなった髪も穏やかな風にそよいでいる。
「あの、ね……」
早く言わなくちゃ。
この日のために頑張って練習もしてきたんだから。
友達が協力してくれて、今も校舎のどこかから見ていてくれている。
早く、言わなくちゃ。
- 133 名前:44 生き残るために 投稿日:2003/09/28(日) 22:51
- 顔がどんどん赤くなっているのを感じる。
心臓の鼓動も早くなっている。
わたしは、意を決して口を開いた。
「ウチ……あんたのことめっちゃ好きやねん」
顔がますます赤くなってくる。
心臓はもう張り裂けそうだった。
「あの……さ、なんていって言いかよくわかんないんだけど……」
彼はがしがしと頭の後ろを掻き回している。
大丈夫、きっと上手くいく。
だって、練習したんだから。
この木の下には伝説があるんだから。
彼が、今まで俯けていた顔を上げた。
彼は笑っているだろうか?
それとも真剣な顔だろうか?
――でも、彼の顔は、そのどちらとも違っていた。
蔑むような、汚いものを見るような目。
突き放すような、冷たい目。
そして、彼は口を開いた。
「俺、人殺しと付き合う気はさらさらないから」
- 134 名前:44 生き残るために 投稿日:2003/09/28(日) 22:51
-
「――――ッ!!」
そこで、加護は夢から醒めた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
息が荒い。
胸に穴が開いたみたいに苦しい。
海水で血を洗い落としたあと、いつの間にか眠っていたらしい。
そして、この夢だ。
なんて夢だろう。
夢にまでこんな酷いものが出てくるなんて。
こんなのは現実だけで充分なのに。
自然と涙が溢れてくる。
潤む視界に自分の両手が映った。
返り血は落とせるだけ海水で洗い流していた。
なのにチカチカと、血に塗れた手の平の映像がフラッシュバックする。
「人……ごろし……」
ダニエルを殺したときの感触が加護の脳裏に蘇る。
がたがたと、目の前にかざした両手が震える。
「ぉえ……、くぅ……っぅぐ……」
生暖かい血の感触。
生臭い血の匂い。
「ぃややぁ……、いややぁ!」
暗い砂浜で、加護は首を振り泣き喚く。
助けてくれる友人は、慰めてくれる友人は、誰一人としていない。
- 135 名前:44 生き残るために 投稿日:2003/09/28(日) 22:52
- 彼に想いを告白する日。
それは、すでにもう遠い夢。
こんな自分が。
人を殺した自分が。
いったいどんな顔で会えばいいというのだろうか?
彼だけじゃない。
友達も、家族も。
昨日まではすぐ近くにあったはずなのに。
その全てが、手の届かない所へ遠く離れていく。
『待って!』
いくら叫んでも振り向いてすらくれない。
『待って! 置いてかないで!』
泣き喚いても、どれだけ走っても、その背中はみるみる小さくなっていく。
『お願い……! 待ってよぉ……』
闇の中で、独り。
加護は独りぼっちだった。
- 136 名前:44 生き残るために 投稿日:2003/09/28(日) 22:53
- いつしか、涙すらも枯れ果てる。
腫れぼったく熱を持った両目は、ただ虚空を見つめ、彷徨う。
加護はふらふらと立ち上がり、海に背を向けて歩き出した。
ダニエルの死体を通り過ぎ、拳銃が落ちているところまで辿り着く。
血と海水に塗れた衣服は薄赤色に染まっている。
けれど、そんなことはもう気にしない。
(どうせ……わたしはもう終わってるんやから)
感情がどんどん希薄になっていくのを感じる。
まるで、涙と一緒に流れ出てしまったかのように。
(なんで……、わたしは生きてるんやろな……)
足元の拳銃を拾い上げ、それを片手にまたふらふらと歩き出した。
サバイバルナイフはダニエルの胸に刺さったままだが、それもまたどうでもいいことだった。
(いっそ……、死ねたらええねんけどな……)
右手に握られた大型の拳銃を眺め、そんなことを考える。
けれど、加護の本能の部分がそうはさせてくれない。
生きてるのが辛い。
でも死ぬのは怖い。
相反する二つの想いは確実に精神を蝕んでいく。
だんだんと、麻痺していく心。
ゆっくりと、一歩ずつ砂浜を踏みしめる。
(ああ……、安倍さんに会いたいなぁ……)
そんなことを考えながら、堤防を上った。
感情は見る間に薄らいでいく。
死を恐れるのは感情ではなく本能。
ただ『死にたくない』という本能だけが、加護を動かしていた。
【11番 加護亜依 サバイバルナイフ紛失 ――H&K MK23(残弾11発)取得】
- 137 名前:45 頼りになる人 投稿日:2003/09/28(日) 22:53
- かなり遅めの夕飯を終え、里田とりんねは立ち上がった。
「んじゃ、そろそろいこうか」
リュックを背負い、傍らに置いていた靴を履く。
フローリングに白い足跡がついたが、もう汚さないように気をつける必要もなかった。
そのまま玄関のほうへごつごつと足音を立てながら二人は向かう。
「でも、どこを探せばいいんですかね……?」
「取り敢えずはこの探知機使ってしらみ潰しに探すしかないと思う」
言いながら、りんねは片手に持った探知機をお手玉のように投げ上げる。
放物線を描いたそれは、ぱし、と音を立てて投げ上げた手の内に収まった。
「充分……注意してね」
「……はい」
里田はベルトに差した小剣と、左手に持った盾を意識する。
せめて、自分の身は守らなければならない。
りんねの足手まといに足手まといにならないように。
「まずはこのマンションから。 それから別のところを探してみよう」
がちゃ、と音を立ててドアが開いた。
入ってきた夜の風は幾分か肌寒く感じる。
暦の上では未だ夏。
この島の気候がこうなのだろうか。
それとも不安がそう感じさせているだけなのだろうか。
里田には分からなかった。
前を行くりんねに続いて里田も部屋を出る。
その後ろでばたん、とドアが閉まった。
もう、後戻りは出来ない。
後戻りをするつもりも、ない。
里田は『1202号室』と書かれたプレートを見つめる。
何もない空虚な部屋と、何も出来ない空虚な自分。
そのそれぞれに、心の中で別れを告げる。
(バイバイ……)
不安は、確かにある。
けれど迷いは、すでになかった。
- 138 名前:45 頼りになる人 投稿日:2003/09/28(日) 22:54
- 「これから……あさみを探しに行くわけだけど……」
二階の廊下を歩きながら、前を行くりんねが独り言のように呟く。
「覚悟だけは……しておいてね」
ゆっくりと、諭すようにりんねは呟く。
「…………はい」
里田は決意を固めるように、はっきりとした声で答えた。
元より、覚悟は出来ていた。
あさみが死んだということは、すでに現実として受け止めている。
それは、現実を受け止められたのは、りんねのおかげだ。
あさみはもうこの世にはいない。
けれどせめて、その姿だけでも見ておきたかった。
どんな風に死んだのかは分からない。
たとえ比較的楽に死ねたとしても、
きっと苦しかっただろう。
きっと悔しかっただろう。
だからその苦しみを、その悔しさを、少しでも受け取ってあげたい。
そう、思うのだ。
先を行くりんねは探知機を頼りに別の棟へ向かう。
それに倣って里田も第二棟への渡り廊下に足を踏み入れた。
ただ、里田には少し不思議に思うことがあった。
りんねの右手にある人物探知機。
恐らくは主催者側と同様に首輪から発信される信号を受信しているのだろう。
だとすれば死んだ人間は探せないはずである。
りんねはすでにあさみが死んだことを事実として受け止めている。
ならば何故、探知機を使って探そうとしているのだろうか?
自分に対する気遣いなのだろうか?
もうそんなものは無用なのに。
それとも……
- 139 名前:45 頼りになる人 投稿日:2003/09/28(日) 22:55
-
「あ、ひとつ言い忘れていたんだけど」
思索に耽る里田に、りんねが振り返って声をかけた。
「あさみ以外にもうひとり、探してる人がいるから」
何の気なしに、りんねは告げる。
それは里田が考えていたことについての答えだった。
けれど、納得すると同時にまた疑問が生じる。
「誰を探してるんですか?」
そう、なんだか不思議な感じだ。
りんねは当時のカントリー以外に誰を探しているというのだろう?
仲の良かった飯田圭織あたりだろうか?
それとも新メンバーのみうなだろうか?
飯田は確かに信頼できるかもしれないが、
面識のないみうなにりんねがそれほど情を寄せているとも考えがたい。
となるとやはり飯田なのだろうか?
りんねは黙ったまま歩いている。
けれど、だんだんその歩調が遅くなっているのが見て取れた。
「――――番」
足を止めると同時に、りんねはぼそっと呟いた。
(えっ? 今、なんて?)
蚊の羽音くらいの声。
里田には殆ど聴き取れなかった。
「……大丈夫だよ」
聞き返そうか迷っていた里田に、振り返りながらりんねは言う。
その顔は、穏やかに笑っていた。
「あの人は……、頼りになる人だから」
【19番里田まい 26番戸田鈴音 あさみ捜索中】
- 140 名前:abook 投稿日:2003/09/28(日) 22:56
- 今回はここまでです。
どうも30節以降作者の脳の構造がユルくなってきちゃいまして、
全体的に軽め、41節に至っては微妙なコント紛い、といった事態になってしまいました。
次回更新あたりからまた重くなりそうなので、ひとまず箸休め、ということでご勘弁を。
>>121
ありがとうございます。
十月に入ると実生活のほうが忙しくなるので
更新ペースが下がるかと思われますが、気長にお付き合い下さいませ。
なんとか30日までにもう一回うpしたいなぁ、、、。
作者自身手探りで進めてるようなものですので
見苦しい点多々あると思いますが、
なんとか満足のいくものを仕上げられるよう努力していきます。
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/29(月) 13:54
- 一気に読まして頂きました。
いやー後藤に関しては意外と言うか驚きというか(てっきり悪役かと)
でも安心しましたw。他のバトロワ物と違って個々のキャラに血が
通っていて、妙に情が入ってしまい、死んでしまうのかと思うと
今の内から心痛いです。
次の更新も期待大。
- 142 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/09/29(月) 17:20
- 自分もごっちんは完璧に悪だと思ってたので驚きでした。
コント紛いでも面白いので無問題(w
更新がんばってください。アタタカーク見守ります。
- 143 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/01(水) 01:01
- くーっ、加護がんばれー。6期ヲタだけど応援しちゃうぞー。
しかし藤本……。
- 144 名前:46 邂逅 投稿日:2003/10/02(木) 21:58
- 「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
島の西端、崖に程近い道路。
ガードレールの向こうの地面は数メートル先で寸断され、何もない空間だけが横たわる。
時折り聴こえる、岸壁に打ち付けられる波の音だけが静寂を打ち崩していた。
そのため、斉藤のその問いは自身の予想以上に辺りに響いた。
立ち止まった少女に斉藤は迷わずグロックの銃口を向ける。
「アヤカを、ココナッツのアヤカを見なかった?」
微妙にポイントをずらして頭の横の空間を向くように狙いを修正する。
これ以上人を徒に傷付けるようなことはしたくなかったが、斉藤には時間も余裕もなかった。
あれ以来、紺野と石黒と別れて以来、まだ誰とも会えていない。
山を降りるまでは急ぎ足に、降りてからは早足でアヤカを探し回ったが、どこにもその姿は見つからなかった。
住宅地を駆け回り、スーパーの中を探索し、港のほうへも行ってみた。
そのまま西へ抜け、コンクリート製の橋を渡った頃には辺りからは人気がまったく感じられなくなっていた。
(……どこかの家にでも隠れてたのかな?)
何度か戻ろうかとも考えたのだが、『もし、この先にアヤカがいたら』と考えると立ち止まることさえ出来なかった。
「もう一度言うよ。 アヤカを見なかった?」
丁度、その少女は斉藤の進む方向からやってきたところだった。
なのでこの先にアヤカがいるならば、きっと見かけているはずである。
彼女は今、外灯の下に立ち止まっている。
おぼろげだが、見覚えのある顔。
自分がまだハロプロに所属する前に娘。を辞めていった少女。
(福田……明日香)
あれからすでに四年。
背や、体つきなど大まかな印象は変わっていたが、
ふてぶてしいまでに落ち着いた目。
小さいながら、厚みのある唇。
常に膨れたように見える頬。
当時の面影はそのままに、福田明日香はそこに立っていた。
- 145 名前:46 邂逅 投稿日:2003/10/02(木) 21:59
- 彼女はこの状況を理解しているのだろうか?
斉藤は暗がりの中にいるので、福田にはよく見えていないのかもしれない。
「見えないかな? 今、アタシはあなたに銃を向けてる。 早く質問に答えて」
簡単に説明を終え、福田の様子を窺う。
けれどその姿にはまったくと言っていいほど変化は見られない。
先程と同じ位置、同じ体勢で震えもせずに立っている。
むしろ、その姿は威風堂々。
こちらのほうが薄ら寒いものを感じてしまうほどだ。
(まったく、石黒さんといいコイツといい……、オリメン連中ってのは心臓に毛でも生えてんの?)
自分が銃口を向けた人間は三人しかいないが、その内の二人は怯むことなく対峙していた。
唯一取り乱したのは涙まで見せた紺野あさ美のみ。
なんだか自分の持っている銃が子供の玩具のように思えてきた。
それでも今、福田に銃口を向けている事実は変わらない。
出きることなら、こんな嫌な作業は早く終わらせたい。
沈黙に耐え切れなくなった斉藤は再度口を開く。
「あのさ……」
「知ってますよ」
ぽつりと、抑揚のない福田の声。
斉藤はその答えに歓喜し、殆ど間を置かず聞き返す。
「見たの!?どこで!?いつ!?どっちへ――」
「待って、そうじゃないです」
斉藤の言葉を遮り、福田は早口で告げる。
「知ってるっていうのは『銃を向けてる』の件だけ。 私はこの島でまだ誰とも会っていません」
「…………そう」
期待させられた分、気落ちもまた激しい。
がっくりと肩を落とすようにしてグロックを持つ手を下げた。
ただ、福田が言っていることが本当ならば、こちらにはまだアヤカは来ていないということだ。
これまでの道のりが無駄足だったのは悔しいが、それでも探す上での収穫はあった。
「悪かった、銃なんて向けて。 本当にゴメン。 それじゃあ……」
そう言って、斉藤は立ち去ろうと踵を返した。
「待ってください」
- 146 名前:46 邂逅 投稿日:2003/10/02(木) 22:00
- 福田がその背に向けて、声をかける。
斉藤は踏み出そうとした足を止め、再び向きを変えた。
「…………何?」
訝しみながら返答する。
福田はゆっくりとこちらへ歩き出した。
「あまりに無用心すぎます。 未知の相手に背を向けるなんて」
歩きながら、やはり抑揚のない声で話す。
けれどその声は澱みなく、はっきりと斉藤の耳に飛び込んできた。
「…………は?」
斉藤は福田の意図するところが分からず、ただ口を大きく開けて聞き返した。
福田は依然歩みを止めず、外灯の下から一歩ずつこちらへ歩みを進める。
だんだんと、その姿が闇に包まれていく。
「そんなだから大切な人に逃げられる。 そしてこれからも大切な人を守れない」
まるで未来さえ見てきたかのように、福田は言う。
「……何が言いたいの?」
その物言いにカチンときた斉藤は感情を隠そうともせず、福田を苛立たしげに睨んだ。
だが福田はその問いには答えない。
ただ、ゆっくりと近づいてくる。
(なんなの……? コイツ……)
だんだんと、大きく、長く伸びていく影。
「貴女は余りに無知。 知らないことは罪ではないけれど、ここでのそれはすぐに死に繋がるから」
抑揚のない声。
異質な声。
得体の知れない人間。
得体の知れない恐怖。
(なんなんだよ……、コイツは……)
いつしか怒りは、恐怖によって頭の隅に追いやられていた。
粘性を持ったかのように空気が重い。
金縛りにあったかのように体が動かない。
斉藤の本能の部分が『逃げろ』と叫ぶ。
けれど、足が向きを変えてくれない。
ぴたり、と福田が足を止める。
「だから、私が教えます。 現実というものを」
福田は言葉を切ると同時に、斉藤目掛けて駆け出した。
- 147 名前:46 邂逅 投稿日:2003/10/02(木) 22:00
- 福田の影が斉藤へと迫る。
その瞬間、斉藤の体は金縛りから解けた。
反射的に、グロックを持つ手を上げる。
狙いなど、つけている暇はない。
――――ドンッ!!ドンッ!!
立て続けに二回、引き金を引く。
銃口から射出される二発の銃弾。
そのどちらもが、福田の長く伸びた影の上を通過する。
そのまま向かえば福田に着弾していただろうそれは、しかし何もない空間を切り裂いたのみだ。
影は途切れることなく伸びている。
――――ドガッ!!
正面から、全身を震わせる衝撃。
左の膝裏と、右肩を尋常じゃない力で掴まれている。
斉藤はそのまま仰向けに倒れた。
「がっ……、はぁっ……」
それでも、後頭部だけは打たなかった。
ずっと福田だけを見ていたのが幸いしたのかもしれない。
リュックが衝撃をある程度吸収してくれているため、背中にも大した痛みはない。
ただ、ぶつかった瞬間に肺を圧迫されて息が出来なくなった。
「無闇に銃を抜くのは感心できません。 発砲なんて論外。
ただでさえ興奮している人たちを余計に煽ってどうするんですか」
斉藤は自分の上に乗っている福田を見る。
いわゆるマウントポジション。
その左手は頭を、右手は肩をがっちりと捕まえて離さない。
銃を所持している優位などとうに消え失せている。
(いや……、コイツに出会った時点ですでに決まってたようなもんだわ……)
斉藤が発砲した瞬間、福田はギリギリまで身を屈めて銃弾をやり過ごし、
そのままアマレスのタックルの要領で斉藤を押し倒したのだ。
(銃弾を……かわすか? 普通……)
ぎりぎりと押さえつけられる頭と左肩。
斉藤の視界には自分を押さえつける福田の顔。
そこには一片の感情も見受けられない。
完璧なまでの鉄面皮。
「これから、あなたが今発砲したことによってあることが起こります。
業あるところに果報あり――つまり因果応報。 分かりますよね」
まるで、他人事のように福田は告げる。
- 148 名前:46 邂逅 投稿日:2003/10/02(木) 22:01
- 「あること……って……、それを……決めるのはあんただろ……」
肩と頭を固定され、それでなくても全身が軋んで言うことを聞いてくれない。
斉藤の命はすでに福田の手の内にあった。
「残念ながら、いえ、幸いなことに、それを決めるのは私ではないです。
生殺与奪の権は人の身で持てるものではないですから」
「どういう……意味……?」
その言葉の意図を測りかねて、斉藤は弱々しく呟いた。
福田は少し逡巡し、考えるようにしながら口を開く。
「……もうすぐ、分かりま――」
――――ガガガガガッッッ!!!
福田の声と、そのけたたましい破壊音が鳴り響いたのはほぼ同時だった。
誰かに抱きしめられるような感覚とともに斉藤の視界が目まぐるしく回転する。
――――ガガガガガガッッッ!!!
今度は一瞬の加速度のあと浮遊感。
そして抱きかかえられているような背中と膝裏の感覚。
「ほら、言ったとおりです。 人を殺すのは人ではない」
耳元に、福田の声。
――――ガガガガガガガガッッッ!!!!
横への重力。 慣性に引っ張られる感覚。 反転しながら宙を舞う浮遊感。 一瞬の重力からの開放。
いつの間にか背中と膝裏にあった感覚がなくなっていた。
支えを失った体は中空へ投げ出される。
――――ガガガ……
――――ドンッ!!
斉藤の体が地面に叩きつけられるより早く、騒音を掻き消すように一発の銃声が木霊した。
「人を殺すのは――鬼」
福田の呟きは立ち昇る硝煙に乗せて夜空へと舞い上がる。
地面に這いつくばった斉藤は、片膝を立てて構えた福田を見上げる。
その右手には、いつの間にか斉藤のグロックが握られていた。
- 149 名前:46 邂逅 投稿日:2003/10/02(木) 22:04
- 「今のうちに逃げましょう」
「う、うん……」
福田に引き起こされ、斉藤は戸惑いながらもそれに従った。
いろんな方向に無理やり動かされ、叩きつけられた体はあちこちに痛みを生じている。
それでもなんとか福田の後を追いかけた。
100m程走ったところで福田は駆け足を止め、ゆっくりとしたペースで歩き出す。
「ここらで充分でしょう。 足を撃ち抜きましたから。 そんなに早くは追ってこられないはずです」
そう言って、後ろにいる斉藤を見やる。
「何で……、助けてくれたの……?」
斉藤は福田の後に続きながら、息も絶え絶えに肺から空気を搾り出すように声を発した。
「初めから殺すつもりはありませんでしたよ。 私はただ身を以て分かって貰いたかっただけです。
これで分かったでしょう。 不用意な行動は自らの首を絞めるのみ」
歩きながら、福田はすらすらと話す。
相変わらず、その声には無駄なものが一切ない。
この人は、一体何者なんだろうか。
斉藤の放った銃弾を掻い潜り、斉藤を抱えてなお銃弾の雨をやり過ごし、
傷ひとつ負わずに的確に外敵の足を打ち抜く。
そんな芸当、普通の人間に出来るわけがない。
「彼女が私をつけていたのは分かっていたのですけれど、
ちょっと武装が心許なかったもので。貴女を利用させて貰いました」
ごめんなさい、と付け加えてから福田は振り返る。
その顔に浮かぶ、ほんの僅かな笑み。
- 150 名前:46 邂逅 投稿日:2003/10/02(木) 22:04
- この、福田明日香という人間は一体何者で、何を考えここにいるのだろうか。
自分に敵対する意思はないようなので今は特別問題でもないのかもしれない。
けれども、やはり気になる。
気心どころか、得体すらも知れない人間と行動を共にする度胸は、斉藤にはない。
「あんたは……、なんなの? 一体何者なの?」
気付いたときには、声に出していた。
「ああ、そう言えば自己紹介がまだでした」
福田は数歩だけ戻り、斉藤にグロックを手渡した。
二人はそのまま真っ直ぐに向かい合う。
「福田明日香、17歳。 今はわけあってフリーターをやってます」
結局、謎は謎のまま。
取り敢えず、それが嘘だ、ということだけは分かった。
【17番 斉藤瞳 所持品 Glock19】
【29番 福田明日香 所持品 不明】
- 151 名前:47 こもり 投稿日:2003/10/02(木) 22:08
- 「まこっちゃん、着替えとバスタオル、ここおいとくでー!」
『あっ、はい、はーい』
磨りガラス越しに、少し慌てたような少女の声。
平家みちよはタンスから引き出してきた衣類をカゴの中にどさっと置いた。
島の西端の道路は大きく弓なりに曲がっていて、その弦に当たる部分にも道が一本通っている。
その両脇に一軒家が数件、ぽつんぽつんと立ち並んでいる。
平家と小川麻琴は、道路を挟んで西側に立ち並ぶ家々、その内の一軒に滞在していた。
いや、平家と小川だけではない。
平家は一仕事を終え、意気揚々と居間へ凱旋する。
「あっ、平家さんお疲れ様です」
「おう、新垣ちゃんの分も置いといたから。 まこっぴが上がったらすぐ入りや」
居間で平家を出迎えた少女――新垣理沙。
彼女もまた平家と行動を共にしていた。
とは言え、平家が彼女に出会ったのはこの家に着いてからなので、厳密にはまだ行動は共にしていない。
平家がスーパーの裏に隠れていた小川を発見し、ぶらぶらと歩きながらここまで来たのはつい先程。
二人とも特に怯えることなく接してくれているのは平家にとってありがたいことだった。
新垣の場合は小川がいたから、ということもあったのかもしれないが、
これはやはり平家の人柄に寄るところが大きい。
人なつっこく人情に厚い。
加えて話し上手。
スーパーの裏で『でっかい包丁こわいっす……』と震えていた小川をなだめるのに、5分とかからなかった。
(でっかい包丁ってなんなんやろね……?)
平家は何となく小川の言葉を思い出して疑問符を浮かべたが、すぐに考えるのをやめた。
小川が落ち着いた今となってはどうでもいいことだ。
平家はどっかりとソファに腰を下ろし、テーブルに並べられた武器類を眺める。
「しっかしまあ……、爆弾ばっかようさん集まったもんやなぁ」
小川の支給品、ダイナマイト6本。
新垣の支給品、焼夷手榴弾6個。
計1ダースの爆発物が転がっている。
それらを類別に隔てるように平家の支給品、薙刀が置かれていた。
- 152 名前:47 こもり 投稿日:2003/10/02(木) 22:08
- 「お風呂あがりましたよー」
肩にかけたバスタオルで頭をごしごしと擦りながら、小川が居間にやってきた。
ほんのりと赤い頬。
そしてぽかぽかと湯気の昇る体に似つかわしく、小川はぽ〜っと口を開けている。
まるで小川にしか見えないお花畑でも眺めてるような表情だった。
(イヤ……、いつもこんな感じやったね、この子は)
と、平家は思い直す。
「新垣ちゃん、お風呂あいたで、入り」
小川が居間へ来た時点で分かりきっていたことなのだが、平家は一応新垣に声をかける。
「は、はい。 じゃあお先に失礼します」
そう言って、新垣は居間をあとにした。
「新垣ちゃんてやー……」
「はい?」
平家の呟きに小川が反応する。
「いつもあんな感じなん? なんか、かなり馬鹿丁寧な感じやん。 言い方悪いかも知れんけど」
「うーん……、よく分からないですけど……先輩にはそうかもしれないです」
言いながら、小川は平家の隣に腰を下ろす。
ぽふっ、と沈み込むソファクッション。
「何か気を遣いすぎてるような感じがするんよね。 もうちょい気楽になったほうがええ思うねんけど」
「はあ……」
相変わらず、口を開けて何も考えていないような小川。
平家はその気の抜けたような顔に嘆息し、
「まあ……、アタシがあれこれ考えんでもええことかもしれんけどな」
と話を一方的に閉めてしまった。
急に沈黙が居間を支配する。
テレビでもつけようと思ってリモコンを探したが、見つからない。
見つけたところで映るかどうか分からないので、すぐに諦めた。
- 153 名前:47 こもり 投稿日:2003/10/02(木) 22:09
- (しっかしまあ、難儀な話やで)
こんなわけの分からない島でわけの分からない殺し合いをさせられる。
まったくもって意味が分からない。
(こんなことして会社にメリットあるのかしらね)
恐らくは、ないと思う。
不可解な意図。
不愉快な現実。
もがくことさえも出来ない自分に少し腹が立った。
このまま待っていれば誰か助けに来てくれるのだろうか?
警察とか、自衛隊とか、この国は世界一安全な国じゃなかったのか?
「あ〜、は〜や〜く、こ〜な〜い、かっな〜」
歌に合わせて助けを呼んでみる。
勿論、小川がいきなり歌いだした平家にびっくりしたくらいで、
ヘリの音とか、拡声器の声とか、救出を匂わせるような音はまったくしなかった。
――ガガガガガ……
その代わり、遠くから銃声のような音が聞こえた。
「――――ッ!?」
(――銃声!?)
ソファに沈ませていた背中を弾ませ、平家は飛び起きた。
窓枠まで近づき、カーテン越しに外の様子を窺う。
「へっ、平家さん……」
「しっ!」
唇に人差し指を当てて、『黙っとき!』と催促をする。
――ガガガガガガ……
再び、銃声が重く響く。
平家は小川のほうへ顔を向けた。
「まこちゃん……、聞こえたな?」
「は、はい…………」
身を固めて小川は呟く。
その顔はすでに青白く、湯気を立てていた体はぷるぷると震えていた。
「よし……」
平家はひとつ呟くと、テーブルに駆け寄り薙刀を手に取った。
ついでに焼夷手榴弾をひとつ、拝借してパンツのポケットに入れた。
リュックはテーブルの下に置いたままにしておく。
その隣にある自分のスニーカーを取り出し、ソファに腰掛けて履きだした。
- 154 名前:47 こもり 投稿日:2003/10/02(木) 22:10
- 「平家さん……?」
靴を履き始めた平家を見て、小川はますます顔を青くした。
平家は黙々と準備を進めている。
「な、何してるんですか……?」
この人は、何をしてるんだろう。
今、銃の音が聞こえたじゃないか。
何で、外に行く準備をしているの?
そんな思いが小川の頭を目まぐるしく飛び交う。
平家の両足の靴紐が、蝶の形に結ばれた。
「ちょっと、外見てくるわ」
そう言って、平家は窓際のほうへ向かう。
カーテンを開け、カギを開け、縁側に歩みを進める。
ゴトゴトと音を立てるスニーカー。
「まっ、待ってくださいよ平家さん!」
小川が呼び止めるが、平家は「よっ」と掛け声をかけて縁側を降りる。
雑草を踏みつける音が聞こえた。
「なっ、なんで見に行くんですか!? 危ないじゃないですか!」
「ん? 大丈夫よ。 アタシひとりでいくんやから。 すぐ戻ってくるさかい。
あ、そうそう。 そこのカギはちゃんとかけとき。 カーテンも閉めてな」
「そんな……」
まるで、ちょっとそこまでおつかいに行く、といったような平家の声。
そしてそのまま森の中、銃声の聞こえてきたほうへ歩いていこうとする。
「どうして……、そんな平気なんですか……?」
小川はその背中にむけて弱々しい声を放った。
ぴたり、と平家の足が止まる。
「なんで……、そんな……」
「あんな、まこちゃん」
夜空を仰ぎ見ながら平家はぽつりと呟く。
「さっきの話やねんけど。 ホラ、新垣ちゃんが礼儀正しすぎるゆうやつ。
アレな。 アンタら五期全員に当てはまることやと思うんよ」
- 155 名前:47 こもり 投稿日:2003/10/02(木) 22:12
- 「……はい?」
急に違う話を切り出した平家に、小川は戸惑った。
思わず変な声を上げてしまう。
しかし平家は変わらず空を見上げながら話を続ける。
「アンタら五期が入ってきたときはそれまでのときとはかなりちゃう。
入った時点ですでにトップアイドルやったゆうんは四期のときと一緒かもしれんけど、
でもアンタらには娘。に対する憧れがあった。 そこがちゃうねん。
正直『歌手になりたい』っちゅーのは二の次にしか見えんかったわ」
「…………」
「娘。に憧れてる、だから娘。になった。 そこまではええのよ、夢を叶えたんやから。
でもな、アンタらの場合いつまでもその憧れが見え隠れしてんのよ。
心のどっかで一線を引いてもうてる。 だからよそよそしく見える。
憧れの中に信頼なんて絶対に生まれへん。
どこまで行っても憧れは憧れのまま。 それ以上でも以下でもない」
夜空を見ながら平家は続ける。
- 156 名前:47 こもり 投稿日:2003/10/02(木) 22:12
- 「相手を信頼するゆうんは自分を信頼するのと同じこと。
信頼する自分と信頼する相手の仲に始めて『信頼関係』ゆうのは生まれるわけやね。
自分を信じんと一体何を信じるんよ。 なあ、まこちゃん?」
「…………」
小川は答えない。
平家の言葉は痛いほど彼女の胸を締めつける。
「アタシはな。 ハロプロのみんなを信頼してる。 まこちゃんも、新垣ちゃんも、みーんなや。
つんくさんかて……、あの人も好きでやってんのとちゃう……のやと思う。 確証はないけどな」
平家は上に向けていた視線を下ろし、小川のほうへ向き直る。
「せやから、アタシは全然平気なのよ。 せやから、絶望なんてしてやらん。 これが答え、アンダスタン?」
そう言って、にやりと笑う。
「…………はい」
小川もまた、弱々しくも微笑む。
「……よし。 んじゃ、早めに戻るから」
そして、平家は行ってしまった。
正直、小川には平家の話の内容はちんぷんかんぷんだった。
けれど平家が伝えたかったことは、小川の心にしっかりと届いている。
信頼する自分、信頼される自分になること。
小川はほんの少しだけ、平家みちよという人間性について理解できた気がした。
【10番 小川麻琴 所持品 ダイナマイト 6本】
【28番 新垣里沙 所持品 焼夷手榴弾 6個】
【31番 平家みちよ 所持品 薙刀】
- 157 名前:48 エスパー 投稿日:2003/10/02(木) 22:13
- 「うん。 とりあえずはこれで平気ですね」
静まり返った民家で、ぽつりと呟く。
自分の目の前にはあどけない少女が右足と頭に包帯を巻かれて横たえられている。
それらの包帯は、自分に支給された武器のうちのひとつだった。
島の東にある集落のうちの一軒。
学校から出されて今に至るまで、石井リカはここにずっと隠れていた。
「ほんとなら痛み止めでもあればいいんだけど……」
苦しそうに呻き声を上げる少女。
その額に浮き出た汗をガーゼでそっと拭いてやる。
確か、高橋愛という名前だ。
石井がこの深夜の訪問客に出会ったのはほんの数分前。
高橋をここまで連れてきた小柄な少女は、
今は石井の横から苦しそうなその顔を心配そうに眺めている。
「だいじょぶ……なの?」
小柄な少女が石井に話しかける。
石井はしゃがみ込んだ体勢のまま、その少女を見上げた。
――矢口真里。
ここに来た当初は凄い剣幕だった彼女だが、今では借りてきた猫のように大人しくなっている。
(ま、しかたないか)
何も聞かなくても、近くにいるだけで、何が起こったのか全て分かった。
(誰かに撃たれて、逃げてきた)
(自分のせいだ。 自分がもっとしっかりしてれば)
(これ以上傷つけさせない)
(自分が守ってやるんだ)
矢口の抱える様々な感情が石井の中に流れ込んでくる。
「大丈夫ですよ。消毒もしたし。 あとは安静にしてれば暫くは問題ナシです」
けれど、それは顔には出さず、石井は勤めて普通に振舞った。
「じゃ、私は向かいの部屋で寝てますから。 何かあったら言ってください」
そう言って立ち上がると、ドアへ向かって歩き出す。
- 158 名前:48 エスパー 投稿日:2003/10/02(木) 22:15
- 「ちょ、ちょっと待って」
丁度ノブに手をかけたとき、矢口に呼び止められた。
体をひねり、顔を矢口のほうに向ける。
「あの……聞かなくていいの? 何があったのか……とか」
矢口は申し訳なさそうに、俯き加減に話す。
どうやら出会い頭に石井に銃を突きつけたことをまだ気に病んでいるらしい。
襲撃を受けてから程ないときだったから、疑心暗鬼になるのは当たり前のことだ。
石井自身は大して気にも留めていない。
「いいですよ。 その……、なんとなく分かりますし」
石井ははぐらかすように答えた。
別に矢口に気を遣ってそう答えたわけではない。
自身の言った『なんとなく』という言葉に、石井は思わず笑みを浮かべる。
『なんとなくではなく、確信をもって分かる』
はぐらかしたいのはそのこと。
それは、石井の隠さなければいけない能力だった。
- 159 名前:48 エスパー 投稿日:2003/10/02(木) 22:15
- 「……矢口さんは凄いですね」
けれどときどき、そのことを話したくなるときがある。
例えばそれは、とても素敵な心を持っている人に出会えたとき。
石井は矢口の心を除き見る。
自責、後悔、反省、心配、義憤、決意。
様々な感情が飛び交っているけれど、そこには一片の憎悪もなかった。
「矢口さんは……どうして高橋さんを撃った人を憎まないんですか?」
今まで、人間の醜悪な部分を幾度となく見てきた石井だから分かる。
人を憎まないことがどれだけ難しいかを。
いきなりの質問に矢口は少したじろいだように見えたが、ひとつひとつ、言葉を考えながら答える。
「えっと……高橋をこんな風にしちゃったのはオイラのせいだし……。
それに……撃った奴を恨むのは何か筋違いな気がして」
「筋違い?」
思ってもみなかった答えに石井は少し驚いた。
表面的な感情は読めるものの、その深いところまでは測り知ることは出来ない。
それが石井の能力の限界である。
「うん。 これで誰かを恨んだらつんく……さん、の思惑通りでしょ?
だから決めたんだ。 みんなで生きて帰るために、誰かを恨んだりは絶対しない」
それはあさみと高橋に教えてもらったことだ、と矢口は心の中で付け加える。
その想いは、石井にも聞こえていた。
- 160 名前:48 エスパー 投稿日:2003/10/02(木) 22:16
- 「なるほど……分かりました」
ドアノブを回し、ドアをゆっくりと内側に開ける。
けれど、まだそこから外へは出ない。
「……でもなんで急にそんなこと言い出したの? オイラ石井ちゃんに何も説明してないよね?」
思い出したように矢口は言う。
石井はその顔をじっと見つめる、暫しの間どうしようかと迷ったが、
意を決し、無理やりに笑顔を作りながら口を開いた。
「あはっ、知りませんでした? 私、エスパーなんですよ」
冗談交じりにそう言って、呆気に取られる矢口を尻目に部屋を出る。
小さな音を立てて閉まるドア。
廊下へ出るとすぐに、石井は作り笑いをかき消した。
暗く、誰もいない廊下は何故だか少し寒く感じる。
取り敢えずは、こんな感じでいいのだ。
本当は、冗談ではなくちゃんと目を見て伝えたかったけれど、
石井にとって矢口の決意はあまりに眩しすぎる。
(住む世界が違うって……こういうことをいうのよね)
自分がかつて見てきたものと、矢口が胸に抱いているもののギャップ。
全てを否定し駆逐し尽くす絶望と、全てを肯定し容赦する希望。
奇麗なものは好きだけれど、それを自分が持ち得るかどうかはまた別問題だった。
「さてと……、寝なおしますかぁ」
なんとなく寂しさを感じながら、石井は向かいの部屋に戻った。
【4番 石井リカ 所持品 救急セット】
【22番 高橋愛 休養中 所持品 電動ガン】
【38番 矢口真里 所持品 ひのきのぼう、New nanbu M60】
- 161 名前:49 その先にあるもの 投稿日:2003/10/02(木) 22:17
- (なんか……山賊みたいやね)
うっそうと茂る雑木林の中で、そんなことを思う。
手には薙刀。
それで背の高い草を掻き分けながら、平家は進んでいた。
これで尼僧の格好でもしていれば丸きり山賊である。
(まあ、それはそれとして)
銃声が聞こえなくなってから数分。
駆けつけたところでもう遅いのかもしれない。
けれどそこに誰かがいるとしたらば、自分は行かなければならない。
自分が行ってどうなるわけでもないのかも知れないが、
それでも無駄にはならないはずだ。
できる限り多くの人を説得して、不用意な行動を起こさせないようにする。
その後はじっと救助を待つのもいいだろうし、
何か方法を見つけて主催側と戦うのもいいだろう。
少なくとも、こんな馬鹿げた殺し合いに乗ってしまうよりは遥かにマシだ。
とにかく今は、みんなを冷静にさせなければならない。
(急がんとね……)
平家は早足で山林をかける。
暫くして、遠くに舗道が見え隠れしてきた。
木々の隙間から見える灰色の地面と白い外灯。
(アレ……人やろね?)
その丁度真下辺りに、誰かが座っているのが見えた。
平家はさらに足を速めて林を抜ける。
森の部分と道路を分ける側溝をひょいと飛び越え、倒れている人間のすぐそばまで近寄った。
少女はガードレールに持たれかかりながら座り込んで、両足はだらしなく道路に投げ出されている。
「ちょっとアンタ! だいじょぶか!?」
平家は、思わず声を荒げる。
少女の左足には白い布切れが巻かれ、じんわりと血に染まっていた。
それでもある程度きつく縛られているようで、道路に溢れるほどの量ではない。
「アンタ、これどうしたん! 生きとるか? 足、痛いか?」
「…………」
少女からの反応はない。
死者の様相を思わせるかのような、生気のない顔。
一応目は開いているものの、焦点が合っていない。
虚ろに何かを見つめ続けるように、何もない中空を見つめ続ける。
- 162 名前:49 その先にあるもの 投稿日:2003/10/02(木) 22:19
- もしかしたらもう死んでしまっているのだろうか?とも思ったが、
彼女の胸は定期的に収縮を繰り返し、
それはつまり呼吸がまだある、ということを示している。
それでもその呼吸は弱々しく、耳を済ませないと聞き取れないほどだった。
(こりゃ……、ちょいとまずいかな……)
平家は不安げに顔をしかめながら目の前の少女を眺める。
左足の傷はどうやら裏側に貫通しているようで布切れの下側にも赤い痕が見て取れる。
考えるまでもなく、銃痕。
恐らくさっきの銃声はこの子が被害を受けたときのものなのだろう。
足を貫通するほどの深い傷だ。
かなりの痛みを伴っているはずなのに少女からは呻きひとつない。
感覚が麻痺しているのだろうか。
それともそれほどまでに衰弱しているのだろうか。
「他に……誰かいる?」
平家の問いかけにゆっくりと首を振る少女。
まだ意識ははっきりしているようだ。
(にしてもあんだけの銃声で被害がこれくらいで済んだのは、奇跡みたいなもんやね)
道路に付けられた無数の銃痕。
蹂躙された破壊の痕。
コンクリートがえぐられ、剥がされている。
この惨状の中で受けた傷が足にひとつだけ、というのはまさに奇跡でしかない。
「取り敢えず、どっか安全なとこいこ?」
そう言って、平家は右手を差し出した。
ゆっくりと、少女の視線が平家の顔へと向けられる。
生気のない、感情のない、感覚さえ見当たらない少女の顔。
(いやー、辛そうな顔やねー……。なんかこっちまで辛なってくるわ)
それでも平家は顔を作り、にっこりと微笑みかけた。
「アタシは平家みちよ。 よろしくね、みうなちゃん」
【18番 斉藤美海(みうな) 左足負傷】
- 163 名前:50 定時放送 二回目(初日深夜十二時) 投稿日:2003/10/02(木) 22:20
-
――プツッ……テステス、あーあー
『えー、定時放送二回目やね。』
『今回はいきなりお悔やみ放送からいくで。 って言っても
別にこっちは悔やんでないからな。 単なるアメリカンジョークや。
……って誰がアメリカンやねん! 誰が薄いねん! サブないっちゅーねん!』
『…………ハハ』
『……はい、死亡発表でーす』
『24番 ダニエル・デラネイ! 33番 前田有紀!』
『おう、お前らいい感じにノってきたなぁ。 でもまだまだやで?
このままのペースやと三日間では終われへん。 そしたらみんな爆死やで?
爆死はあかんでー? 痛いし。 しかも爆弾が首についとるからなおさらあかん。
みんなそろって首なしやったら死姦するとき誰が誰だか見分けつかれへん。
なるべく傷つけんと殺せやー? 死体も大事な商品なんやからな。 ハハハ』
『……ま、冗談はさて置き、
ここからは六時間毎のお楽しみ、進入禁止区域の発表や。
えーと、どこにしよかなー? ……ってなんやお前ら、
数人で固まって動かへん奴らがぎょーさんおるやんけ』
『せやなー、どうしようかなー……。 うし、決めた。
安倍! 安倍がおるとこ! 南西の灯台付近全体や!』
『この放送終わってから十分後に禁止になるからなー。 安倍、用心せえよー?
距離とかは敢えて言わんからなるべく遠くまで逃げるんやでー?
あ、あと後藤! これで安倍の居場所も分かったやろ?
あんじょう殺しにいっったってやー。 ハハハハ』
『んじゃ、また三時間後な』
――プツッ……
- 164 名前:abook 投稿日:2003/10/02(木) 22:23
- 10月2日(木)更新。公約果たせず、、、。・゚・(ノД`)・゚・。
なんだか少しずつアンリアルな方向へ。
っていうかバ○ロワな時点でアンリアルなんですがねヘッヘッヘ。
>>141 一気読み、お疲れ様&ありがたい限りでござい∬ ´▽`×<MAX !!
>>142 ありがとうございやす。 なまアタタカーク見守って頂ければそりゃあもう。
>>143 帝の内面はいずれ必ず、、、
返レス短めですみませぬ。
長く書くとネタバレしてしまいそうだったんで。
ゆっくりでもなんとか続けて行きますので、お暇なときに覗いてやってください。
- 165 名前:訂正 投稿日:2003/10/02(木) 22:31
- >>156
×人間性→○人間
ごめんなさいです。
- 166 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/02(木) 23:32
- 登場人物が多いと、あれはどうなったあいつはどうしてると気になるねー。
おもしろい。大量更新ありがとう。
- 167 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/10/04(土) 11:09
- 臨場感がある(;´Д`)
またも面白い展開。期待を裏切りませんなヽ(´ー`)ノ
- 168 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/07(火) 00:15
- 一気に読みました!いいです!!!
いしよしはないのかな???
- 169 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/08(水) 18:51
- >>168 無くていい
- 170 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/09(木) 18:23
- 168じゃないけど確かに吉澤は気になるな。
いつもバトロアものでは活躍してるし。
あと、悪役になることが多いあややと吉澤と同様いつも活躍している市井さんも気になります。
楽しみに待ってます。
- 171 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/13(月) 16:18
- 待ちますよ
- 172 名前:51 逃げなきゃ 投稿日:2003/10/13(月) 18:25
- 放送が途切れ、島に再び夜の静寂が戻る。
安倍なつみは自分の置かれた状況を理解し、縮こまった体をゆするように伸ばして立ち上がった。
長時間同じ体勢にあった体は固まっていて、上手く動いてくれない。
よろけながらも壁を伝って外へと進む。
(早く……早く逃げなきゃ)
外へ出るのはまだ怖い。
けれど身に迫った危険は遥かに切迫したものだ。
早く逃げないと、死んでしまう。
皮肉なことに、その事実は今までぼんやりとしたままだった安倍の思考を明瞭にしていた。
(誰も……いないよね)
灯台の出入り口に寄りかかり、安倍は辺りの様子を探る。
一面に広がる背の高い草原。
それが風に揺らぎガサガサと音を立てるたびに、体は過敏に反応してびくりと肩を震わせる。
それでも安倍は一歩ずつ、恐る恐る先の見えない夜の世界へと歩き出した。
(どうして……こんなことになったのかな)
歩きながら、安倍は教室での一件を思い出していた。
あのことで自分がつんくに目を付けられたのは、多分間違いない。
けれど、そのことについて後悔はしていなかった。
自分がこうなるかわりに、加護は助かったのだ。
安いものだ、と安倍は自分に言い聞かせる。
自分はまだ生きているし、今までの二回の放送からも分かるとおり、加護もまた死んでいない。
生きてさえいれば、希望はきっとそこにある。
そう、自分に言い聞かせる。
安倍は、一歩ずつ前に進む。
草を掻き分け、周囲を気にしながら、なるべく音を立てないように進む。
たとえその先に何も見えなくても、
今はただ、月が照らす微かな光を頼りに、前に進むしかなかった。
- 173 名前:51 逃げなきゃ 投稿日:2003/10/13(月) 18:25
-
――うぅ……ぁ……
その音が聞こえてきたのは草原の中ごろまで歩いてきたときだった。
(これ……声……?)
誰かの呻き声のようなその音は、断続的に聞こえてくる。
――ぐぅ……、くっ……、ハァ、ハァ……
苦しそうに響く、呻き声と荒い息。
「誰か……いるの……?」
思わず安倍は声をかけていた。
同時に、聞こえていた呻き声が途絶える。
警戒されているのだろうかと思い、安倍は声のしたほうにゆっくりと歩き出した。
「大丈夫……、わ、私は何も……しないから」
姿の見えない誰かに声をかけて、安倍は自分のその声が震えていることに気付く。
怖い、と思っていることは確かだった。
けれど、苦しんでいる人間を放って置くことは出来ない。
リュックには診療所で詰め込んだ救急用具がある。
きっと助けることも出来るはずだ。
そう思い、安倍は再度声をかける。
「ねえ……、大丈夫……だから……」
その呼びかけに答えるように、
安倍が向かう方向より少し左にずれたところからかさかさと草を揺らす音が聞こえてきた。
- 174 名前:51 逃げなきゃ 投稿日:2003/10/13(月) 18:26
- ゆっくりと草を分けて、辺りを気にしながら、その音を頼りに安倍はさらに歩みを進める。
進んでいくうちに、草が倒れて空間が出来ている場所があることに気が付いた。
恐らく、そこに誰かがいるのだろう。
逃げ出そうとする自分を必死に押さえ、背伸びをしてその空間を覗き見る。
――その瞬間、安倍の体は固まった。
「そん……な……」
目に飛び込んできた光景に、言葉が詰まる。
緊張と畏怖が、背筋を駆け抜ける。
まるで、ホラー映画で殺人鬼が出てきたときのような、
頭から冷水を浴びさせられる感覚。
冷や汗が、どっと噴き出してくる。
これはきっと、何かの間違いなんじゃないだろうか?
そんな考えが頭をよぎる。
けれど目の前に見えるものは、紛れもない事実なのだ。
「よぅ、なっち……、おつかれさん……」
立ちすくむ安倍の目の前で、平家みちよは血塗れで弱々しく笑っていた。
【1番 安倍なつみ 禁止区域内】
【31番 平家みちよ 重傷 禁止区域内】
【第二禁止区域……開始まで残り8分23秒】
- 175 名前:52 選択 投稿日:2003/10/13(月) 18:26
- そのあまりに悲惨な姿に、安倍は思わず目を覆いたくなる。
けれど何とか自制し、足早に駆け寄って平家の傍らにしゃがみ込んだ。
「どうしたの……? ねえ……、何? 何があったの?」
「ハァ、ハァ……、別に、大したことやあらへんよ……。 ちょっとばかし、ドジっただけや」
安倍の切実な声に、平家は荒い息を吐きながら答える。
言葉は軽いものだったが、その状態は酷いものだ。
流れ出た血が、草の根を赤く染めている。
それとは対照的に、青白い顔。
白地のTシャツの腹部が真っ赤に染まっている。
薙刀を持った左手は草むらに投げ出され、右手は腹部を押さえていた。
「ちょっ、ちょっと待ってて、とりあえず安全なとこに行って話そ?」
そう言って、安倍は平家の左腕を自分の肩に回す。
右手を腰にまわして、ゆっくりと平家の体を引き上げる。
「あかんて……、アタシのことはいいから……、アンタ……だけでも、はよ逃げ……」
「何言ってんのさみっちゃん……、そんなこと出来るわけないでしょ?
もうすぐここ、禁止区域になっちゃうし。 こんな体のみっちゃんを置いていけないよ」
言いながら、少しずつ歩き出す。
揺られる体に合わせて、鮮血が右腕を伝って肘の先からぽたぽたと垂れ落ちる。
本当ならば動かすべきではないのかもしれない。
けれど今はそうも言っていられない。
平家が何とか自分の足で体を支えられているのがせめてもの救いだろうか。
安倍が歩くと、平家も歩く。
引きずらなければならないほどには消耗してはいないようだった。
「近くに診療所があるから……、そこに行けば……」
「なっち」
安倍の声を遮り、平家が声をかける。
- 176 名前:52 選択 投稿日:2003/10/13(月) 18:27
- 「……ちゃうのよ。 アタシといると……危ないんよ」
「危ないって……どうして?」
平家の押し殺した声のトーンに、安倍は思わず足を止めた。
すぐ傍にある平家の横顔からは、苦痛以外にも何かが見て取れる。
不意に、平家は安倍の肩から左腕を外した。
その手に持っていた薙刀を杖代わりに、体を支える。
ふぅ、と息を吐いて、平家は右腕で安倍の体を横にのけた。
そして視線をそのまま前へと向ける。
その目に浮かぶのは、色濃い緊張の光。
「もう……、追いついてきよったわ……」
苛立たしげに呻いて、平家はよろよろと歩く。
丁度、何かから安倍を隠すような場所で、平家は立ち止まった。
「なっち、アンタはすぐに逃げるんやで……。 ここはアタシが食い止めるから……」
平家は振り返らずに、前を向きながら語りかける。
安倍は背後から顔を除き見るように平家の様子を窺う。
平家は真剣な顔つきで、ただ前方を睨んでいた。
「……みっちゃん? 何……、言ってるの?」
安倍自身、本当に状況が分かっていないわけではない。
傷を負った平家の言葉から、ある程度のことは予想出来ていた。
けれどそれを確証とするまでの覚悟は、今の安倍にはない。
「ねえ……、なんなの? 食い止めるって……どういうこと?」
だから、安倍は質問する。
答えをもらって、自分の予測を確かめたかった。
出来ることなら、自分の予測が間違いであって欲しいと、そう思ったわけではない。
そこまで幼い発想が出来るような状況ではないし、安倍もまたそこまで幼くはない。
彼女はただ、ハッキリとした答えをもらいたいだけだった。
- 177 名前:52 選択 投稿日:2003/10/13(月) 18:27
-
――ざくっ……、ズズッ……、ざくっ……
何かの音が聞こえてくる。
平家の見据える先から聞こえるその音は、だんだん大きくなっていく。
「あれ? 何で安倍さんがいるの?」
唐突に、緊張感のない誰かの声。
平家の肩越しに、その声の主の姿がちらりと見える。
「みうな……ちゃん?」
安倍の呟きは、ただ自分に事実を確認させるためだけのもの。
――ズズッ……、ざくっ……、ズズッ……
片足を引きずるようにして歩くみうなの肩には、サブマシンガンのベルトが掛かっている。
左手はダラリと垂れ下がり、右手だけでグリップを掴んでいた。
「まったく……、酷いよ平家さん。 いきなり左手切るなんて。 おかげで左手使えなくなっちゃったよ」
「フン……、ようゆうわ。 アンタが先に……アタシの腹に風穴開けたんやろが……」
子供っぽく怒るみうなに、苦しげに呻く平家。
平家の姿、みうなの姿、二人の会話。
(みうなが……みっちゃんを……?)
みうなが平家を撃った。
みうなが平家を殺そうとした。
ようやく、安倍の思考は正解に辿り着きある。
「でも運が良かったよね。 弾切れになってなかったら平家さん死んでたよ?」
「へへ……、せやな。 そらアンタの言うとおりやわ……」
皮肉げに呻く平家。
「でも今度はちゃんと弾補充したからさ。 きっと二人とも殺せるよ」
あっけらかんとしたみうなの声。
ようやく、事実が明確な形を持って、安倍の目の前に現れた。
- 178 名前:52 選択 投稿日:2003/10/13(月) 18:28
- 「なっち……」
顔はみうなのほうを向きながら、小声で平家が声をかけてきた。
無性に喉が渇いてきて、安倍はごくりと生唾を飲み込む。
「アタシが合図するから……、そしたらすぐに逃げるんやで……」
返事をすることは出来ない。
はいと答えれば平家を見捨てることになる。
イヤだと答えれば平家の決意を無下にすることになる。
「殺してさ、奪うんだよ。 教えてくれたんだ。 あさみちゃんが」
ぶつぶつと呟きながら、みうなが近づいてくる。
「きっとね、あさみちゃんは天国に行けたんだよ。
だってさ、わたしにこんないいこと、教えてくれたんだもん」
ふらふらと視線を中空に漂わせ、銃口を右に左に振りながら、足を引きずって近づいてくる。
「きっと二人も天国へ行けるんだよ……だから、ね」
まだ、安倍は答えを出せていない。
自分がどうするべきなのか。 どうしたらいいのか。
けれど、決断の時はすぐそこまで迫っていた。
- 179 名前:52 選択 投稿日:2003/10/13(月) 18:28
-
「――今やっ!!」
平家は叫ぶと同時にみうなに向けて駆け出した。
その背中がスローモーションのようにゆっくりと遠ざかる。
――早く、早く決めなければ。
薙刀を両手で腰だめに構え、血を撒き散らしながら平家は進む。
奥に見えるみうなが子供のように笑い、マシンガンを構え直すのが見える。
――早く、早く決めなければ。
逃げるのか。
それとも戦うのか。
平家の体はまだ自分とみうなの間にある。
恐らく平家は自分の盾になるつもりなのだ。
自分がこのままここにいたのでは平家は迂回することも出来ない。
――早く、早く決めなければ。
平家の両腕に力がこもり、みうなの右腕がすっと上がる。
「うおおおぉぉおぉおあああああああ!!!」
――――ガガガガガガッッッッ!!!!
平家の裂帛と、けたたましい銃声が重なる。
その瞬間、安倍の足は無意識のうちに動いていた。
怪我をしていない安倍は、恐らくこの場にいる誰よりも早く動けた。
後方から聞こえてくる断続的な銃声を耳にしながら、安倍は夢中で草原を駆ける。
安倍は、その場から逃げだしていた。
【1番 安倍なつみ 逃走 禁止区域内】
【18番 斉藤美海(みうな) 戦闘中 禁止区域内】
【31番 平家みちよ 戦闘中 禁止区域内】
【第二禁止区域……開始まで残り5分58秒】
- 180 名前:53 戯言 投稿日:2003/10/13(月) 18:30
- 少し時を遡り、場所は灯台から真北、島の北西へと移る。
舗道から小さな雑木林を挟み、断崖に建つ岬の小屋。
第二回の放送が終わって少し経ったところで、
大谷雅恵は少々腑に落ちない心持ちで椅子の背もたれに身を預けた。
「ミカちゃん……、大丈夫?」
「ダ、大丈夫……、平気……。 ごめんネ……柴チャン……」
小屋の中には大谷の他に柴田あゆみとミカ・T・トッドがいた。
今、二人は向かい合いながら床にへたり込んでいる。
ミカが放送で告げられたダニエルの死に泣き崩れ、それを柴田が懸命に介抱したのだ。
暫く喚きながら柴田に当たっていたミカも、だんだん落ち着きを取り戻していた。
けれど、ここまで落ち着かせるのは大変だった。
その証拠に柴田のノースリーブから伸びた白い腕には、
引っかき傷や爪の食い込んだ痕がくっきりと残っている。
(やっぱアメリカンの感情表現は凄いなー)
などと、不謹慎な想像もしてみたくもなる。
ただ、完全に柴田に任せきりだったこともあり、罰の悪い気持ちもないわけではない。
- 181 名前:53 戯言 投稿日:2003/10/13(月) 18:30
- 途中、『手伝ってよぉ〜』という顔で助けを求められたのだが、大谷はそれを笑顔でかわした。
そのうち向こうも諦めたらしく(というより怒ったらしく)、こっちの顔を見ることすらしなくなった。
それを簡単な言葉で表現すると、『そっぽ向いてツーン』である。
(あー……、こりゃまずいかな〜?)
少しばかりの罪の意識を感じながら、それでも大谷には謝罪する気持ちはなかった。
ノーテンキな自分に慰める才能なんてあるわけもないし、
ただオロオロするだけならどっかりと椅子に座っていたほうが邪魔にならない。
ただ、『どっかりと』よりも『こじんまりと』の方が肩身が狭い感を出せたのではないか、という気もする。
(まあ、どっちにしろやってることは変わんないよね)
取り敢えず、柴田との関係にちょっとばかりヒビが入ったくらいで、まずは結果オーライだった。
- 182 名前:53 戯言 投稿日:2003/10/13(月) 18:31
- 「さて……、落ち着いた? ミカちゃん」
すっと腰を上げ、大谷がこちらへ近づいてくる。
その姿を柴田は恨めしげに睨んだ。
(何が『さて』だよ。 なんもしてなかったくせに)
苛立たしげに、柴田は胸中で呻く。
大谷はこちらの視線など意に介さないように進み、近くにしゃがみ込む。
そして、ミカの手をとった。
「悲しいことはさ、笑って吹き飛ばすといいよ。 勿論それを忘れるっていうことじゃなくてね?
きっとさ、それを笑って乗り越えることで人って強くなれるんじゃないかな?」
にこやかに微笑みながら、大谷は言った。
(この野郎ぉ……! おいしいとこ全部持ってきやがったぁ!!)
柴田は心中大いに叫び、さらに凶悪な目つきで大谷を睨む。
きっと、いや、絶対にだ。
大谷は自分がミカを慰めていた間ずっと、上手いセリフを考えていたに違いない。
先程まで自分にすがり付いていたミカは、目を潤ませてじっと大谷の顔を見つめている。
大谷の目尻には、うっすらと涙のようなものまで見て取れた。
(演技だ! 絶対演技だ!! っていうか『泣き』までいれるかこの悪魔は!!!)
- 183 名前:53 戯言 投稿日:2003/10/13(月) 18:32
- 今、目の前にいるのは、自分が普段見ているドライな大谷マサオとは似ても似つかない別人である。
その別人はにっこりと笑顔を作り、ぶんぶんとミカの手を軽く振っている。
「ね? だからさ、無理にとは言わないけど……、笑お?」
「……ハイ! 優しいんですネ! 大谷サンって!」
(オマエも簡単に騙されんなよ)
柴田は胸中悪態をつく。
「そう? うふふー、照れるなー。 気軽にマサオって呼んでいいよ?」
(調子にのるなボケ!!)
柴田は心中大いに叫ぶ。
「ハイ! マサオサン!」
(のっかんなヤンキー!!!)
最早八つ当たりだった。
だんだん自分の居場所がなくなっていくにつれ、柴田の怒りのボルテージが上がっていく。
「……お? 柴っちゃんどうしたの? 顔が赤いよ?」
よくもまあいけしゃあしゃあと大谷の声。
無論、柴田の理性がそれに堪えられるわけもなく、
「なんでもねえよこの野郎!!!」
キレた。
- 184 名前:53 戯言 投稿日:2003/10/13(月) 18:32
- 「……で、ひとつ気になることがあるんだよね」
左頬に赤い紅葉をつけ、鼻血を一本垂らしながら大谷は真剣な顔で言った。
勿論それは柴田によるものだったのだが、
ミカにはどうして柴田があそこまで怒ったのか不思議でならなかった。
「放送でさ、『なっちのところの〜』って言ってたじゃない?」
「……それがどうかしたの?」
日本人が尻上がりに何かを訊ねるときは、その殆どが同意を求めているケースが多いらしい。
そんなことを誰かから聞いたことがある。
なので柴田の返答はあからさまに悪意を剥き出しにしているということなのだろう、とミカは判断した。
(やっぱり怒ってますネ……、ナんでだろ?)
柴田が怒っていることは大谷にも瞭然のことだったろうが、彼女はそのまま話を続ける。
「で、なんでなっちなのかな〜って思ってね」
「そんなの教室でつんくさんに歯向かったからでしょ?」
大谷の疑問を一蹴する柴田。
それでもだいぶ怒りは静まってきたようで、口調が少しずついつもの柴田に戻ってきている。
「うーん……、それだと理由にするにはちょっと弱いんだよね」
大谷は小首を傾げながら言う。
- 185 名前:53 戯言 投稿日:2003/10/13(月) 18:33
- 「たとえば柴ちゃん。 私情は抜きにしてさ、自分がつんく側にいたらどこから禁止にする?」
人差し指を立てて、かっこよく足を組んでみたりしながら、大谷は問う。
問われた柴田のほうは暫く考えた後、「さあね」と肩を竦めて答えた。
恐らく大谷には自分なりの回答があるのだろう。
柴田の回答に対し、大谷は満足げに頷く。
「ミカちゃんはどう?」
こちらに質問が回ってきて、少なからず驚く。
ミカはただ首を横に振るだけで答えた。
「そっか……、まあ、そうだよね」
大谷は組んでいた足を直して、すっと立ち上がる。
そのままゆっくりと辺りを歩き、こちらへ振り返ってこう言った。
「アタシならね。 一番人の多いところからにする」
多分恐らく、それは誰が見てもかっこいい仕草なのだろう。
でも、かっこつけるのはいいから早く鼻血を拭いて欲しい、というのがミカの率直な感想だった。
- 186 名前:53 戯言 投稿日:2003/10/13(月) 18:35
- 「ホラ、アタシらも三人でしょ? 他にもっと多く固まってる人らは絶対いると思うんだよね」
鼻血を垂らしながら大谷は続ける。
「一緒に行動してなくてもさ、隠れてる人たちが偶然固まってる場合もあるじゃん。
そこら一帯を禁止区域にすればやっこさんたちには嬉しい状況になるんじゃない?」
鼻血を垂らしながら大谷は続ける。
「だったら何でなっちなのかなってね、思ったのよ」
「……なっちのとこに5、6人ぐらいいたんじゃないの?」
柴田の辛辣な言葉にもひるまず、鼻血を垂らしながら大谷は続ける。
「ん〜、それもあるかしんないけどさ、灯台ってここから遠くに見えるアレでしょ?
あんな南西の端にわざわざ人が集まる? ありえないでしょ。逃げ場ないんだもの」
「マサオ、私たちがいるの北西の端だよ」
柴田の辛辣な言葉にも大谷はひるまなかったけれど、
彼女が発言する前に柴田がさらに付け加えた。
「逃げ場ないね、私たち。 ありえないよね」
柴田の辛辣すぎる言葉に大谷は、
「……ピンチじゃん!」
ひるんだ。
- 187 名前:53 戯言 投稿日:2003/10/13(月) 18:36
- 「やばいよ柴ちゃん! 場所変えようよ!」
「いや、ここまで連れて来たのはマサオでしょ?『外れのほうは人いないって』とか言いながらさ」
「そうだけどさ、やばいって! 囲まれたら蜂の巣か海の藻屑だよ!? 逃げ場ないって!」
「全部マサオのセ・キ・ニ・ン〜♪ 死んだら化けて出てやるんだから」
「え〜と、そんときはアタシも多分死んでるんだけど……」
「……んじゃ、地獄に化けて出てやる」
「既に地獄決定!?」
話がだんだんと脇のほうへ逸れていく、というかドロ沼にはまっていく。
ただ、この場合は柴田が完全に確信犯で意図的に逸らしただけだったのだが。
きゃいきゃいと水掛け論を繰り広げる二人に、ミカはただ嘆息を漏らすだけだった。
(どうでもいいから早く鼻血拭いて欲しいナー……)
- 188 名前:53 戯言 投稿日:2003/10/13(月) 18:38
-
大谷は思う。
(やばいよやばいよ囲まれちゃうよ!! まったくもって魚の餌だよ!!)
ミカは思う。
(これからどうすればいいのかナ……)
柴田は思う。
(ま、私らの持ってる武器ならなんとでもなるでしょ)
日本刀と、拳銃と、ショットガン。
それはここに着く前に道中でそれぞれ確認済みだった。
特筆すべきは、やはりショットガン。
これさえあれば余程大勢に襲われない限り、確かになんとでもなる。
適当に大谷をからかいながら、柴田は胸中で安堵する。
笑っていられる間は、きっと大丈夫なのだ。
(余裕があるってのはいいことだ)
心にも、懐にも。
柴田は友人が好みそうなダジャレを思いつき、にやけそうになる顔をぐっと堪えた。
【9番 大谷雅恵 所持品 FRANCHI SPAS12】
【21番 柴田あゆみ 所持品 日本刀(打刀)】
【35番 ミカ・T・トッド 所持品 Beretta M92FS】
- 189 名前:54 真意 投稿日:2003/10/13(月) 18:39
-
「あーあ、逃げられちゃった。 つまんないなー」
みうなは夜空へ銃口を向けながら、「がががががっ」と口で銃を撃つ真似をした。
星が宝石のように散りばめられ、その真ん中で月が笑っている。
その一つ一つに一発ずつ、大きな月には五発くらいは必要だろうか?
今の自分なら、月でも星でも、なんだって撃ち落せそうだった。
「あんときはちょっと調子が悪かったんだよね。 えい、えい」
掛け声とともに、怪我していない方の足で周りの草を蹴ってみる。
軸足の方にも振動が来たけれど、あんまり痛みを感じない。
虫とかは足が切れたら痛覚を遮断するらしいし、特別不思議にも思わなかった。
でも痛覚と同様に左足の感覚自体ぼやけてるので、これじゃハニーパイは出来ないな、と思った。
「とりあえず左手の敵は討ったし、今度は左足だね。 ばらららら」
弧を描くように右腕を動かして、そこらに見える星たちに銃弾をばら撒くふりをする。
少し腕が疲れてきたので素直に下ろすことにした。
片手で持つにはイングラムは少し重かった。
「ん〜ふふ〜ふふ〜 んふ〜ふ〜♪ ん〜ふふ〜……っあれ?」
適当な調子で鼻歌を歌いながらぶらぶらしてると、
さっき殺したはずの平家の死体がなくなってることに気付く。
「あれ〜?っかし〜な〜、なんで消えてんの?」
血の跡がべったりとついたそこを、みうなはまじまじと覗き込んだ。
- 190 名前:54 真意 投稿日:2003/10/13(月) 18:40
-
――――ヒュオッ!
瞬間、断頭台の刃のように銀色の三日月がみうなの首筋へと迫る。
とっさに、イングラムを上げて防御するが、擦れて滑った三日月はみうなの右肩を浅く切り裂いた。
「あああぁぁぁああぁぁああっっ!!!」
――――ガガガガガッッッ!!
みうなは雄叫びとともに振り返りつつ連射する。
しかし向き直った先、銃弾が撒かれた先には誰の姿も見当たらない。
「……へっ? なんで?」
混乱したみうなに、下からすくい上げるような動きで三日月が迫る。
――――サクッ
三日月はみうなの顔を通り過ぎ、頬に赤く線を引く。
脳に近いからだろうか、鮮烈に感じた痛みにみうなは思わず後ろに飛び退いた。
着地した衝撃で、左足からもまた血が滲み始めた。
「いったぁい……、酷いなあもう」
みうなは少しよろめきながら、半歩先で倒れている女性の姿を見据える。
彼女は先端に三日月のついた棒、つまり薙刀にすがりつき、
ぼたぼたと血をこぼしながらこちらを睨んでいた。
「ねえ、なんで生きてんのさ、平家さん」
- 191 名前:54 真意 投稿日:2003/10/13(月) 18:40
- (なっちは……逃げてくれたみたいやね)
平家は穴だらけになった体を無理やり立ち上がらせようとする。
けれど膝が笑い、腰が抜け、まったく動こうとしてくれなかい。
(あの子の左腕が使えてたら……もっとやばかったかもしれんね)
今、みうなは右腕しか使えない状態にある。
そのため発砲のたび、その反動に銃口が向きを変え、うまく狙えないようだった。
もっとも、イングラムは弾をばら撒いて制圧するための銃器なので、とくに狙いを定める必要はない。
即死に繋がるような箇所、心臓や頭などに被弾しなかったのは奇跡のようなものだった。
杖を突く老人のように薙刀に体重を預け、平家はみうなの様子を窺う。
玩具を見つけた子供のような微笑みと、その裏に見える歪んだ感情。
そこには自分を殺そうとする意思がハッキリと見て取れる。
今の自分の状態では、切り抜けることは不可能に近い。
(はあ……、結局アタシは何がしたかったんやろね)
血に滑り、薙刀から手が離れる。
草むらに落ちた薙刀を追うかのように、平家の両手が地面に着く。
見上げるように、みうなとその後ろに輝く月を眺めた。
- 192 名前:54 真意 投稿日:2003/10/13(月) 18:40
- 「なんで生きてんのか……、ってか……」
かすれた声が、口から漏れ出す。
腹部の傷のせいで、声に力が入らない。
柳を揺らすことも出来ないくらいのか細い声で、それでも平家は言葉を紡ぐ。
「自分でもよう……分からんわ……何でなんやろね……?」
自分がどうして生きているのか分からない。
それはこんな怪我でどうして生きているのか、ということではなく、
自分が何のために生きているのか、それが分からない。
こんな状況に置かれているのに、どうして自分は生きているのか。
死んだほうが楽なのではないか。
でも、平家はそれを選択しない。
「きっと……、守りたいからとちゃうんかな……」
こんな状況に置かれているからこそ、死ぬことが出来ない。
自分の帰りを待ってくれている人がいる。
守ってあげたい人がいる。
だから平家は、生きることを望む。
結局、思い通りになることなんてひとつもなかった。
けれど、最後まで諦めない。
傷に触らない程度に、平家はゆっくりと溜息をついた。
- 193 名前:54 真意 投稿日:2003/10/13(月) 18:41
- 「ふぅん……、まあ、どうでもいいよ。 どうせ平家さん死んじゃうし。
残りの弾全部あげればいくらなんでも死ぬよね?」
少しだけ苛立ちを感じながら、みうなは言う。
目の前に倒れている平家はもう虫の息で、
ほっといても死んでくれそうなのに、
けれど何故か顔だけは笑っていた。
「なんで笑ってるの? 死ぬの怖くないの?」
なんだか、馬鹿にされているような気分になる。
少しだけ、いや、かなりイライラする。
あさみは苦しんで、おびえながら死んだ。
けれど平家にはそれがない。
あんな体なのに、何故かこっちを見て笑っている。
四つん這いの状態でこちらを見上げているのに、
その顔は自分を見下しているように見える。
まったくもって、理解できない。
武器だって捨ててる。
体も殆ど動かないだろう。
この人のどこから、こんな余裕が生まれてくるのだろうか?
「なあ……、みうなちゃん……」
笑みの形に歪んだ口から漏れ出す平家の呟き。
彼女の両目はみうなというより、むしろその後ろを見つめていた。
「アンタ……、正義の味方って……信じるか?」
みうなは、思わず振り返る。
そこに見えた、小さな人影。
それが、平家の余裕の正体だった。
- 194 名前:54 真意 投稿日:2003/10/13(月) 18:41
-
――――ドンッ!!
目の眩むような閃光。
耳を塞ぎたくなるような炸裂音。
みうなは思わず息を呑んだ。
煙が立ち昇る銃口。
黒光りする銃身。
「動かないで」
彼女はハッキリとした声で言い放つ。
拳銃を構え、まっすぐにこちらを見据えている。
「ハハ……、逃げたんじゃなかったんだ」
乾いた笑いが、みうなの口から漏れる。
逃げ出したはずの彼女は、しかししっかりと地に足をつけ、そこに立っていた。
「さて……、こっからが本番やで。 ……なぁ、なっち?」
- 195 名前:54 真意 投稿日:2003/10/13(月) 18:42
-
“FN M1935 High Power”、通称ブローニングハイパワー。
それが安倍に支給された拳銃である。
灯台の中で荷物を整理していたとき、安倍はそれを初めて確認した。
人差し指に少し力を加えるだけで、簡単に命を奪えてしまう兵器。
多分、持っていれば自分の身は守れたのだろう。
けれど安倍はそれを灯台に置いていった。
自分はこれを使うことはない、そう思って置いていった。
自分の身を守るためだけに誰かを傷つける、そんなのはイヤだった。
「……動いたら撃つからね。 今度は……外さない」
言いながら、安倍は平家の姿を見る。
生きているのが不思議なくらい、傷だらけになった彼女。
彼女を守るために、この武器を使う。
守りたいから、自分は戦う。
守るために、戦うために、戻ってきた。
灯台へ戻り、武器を手に取り、戻ってきた。
それが、安倍なつみの選択だった。
【1番 安倍なつみ 所持品 FN M1935 High Power 禁止区域内】
【18番 斉藤美海(みうな) 禁止区域内】
【31番 平家みちよ 禁止区域内】
【第二禁止区域……開始まで残り2分32秒】
- 196 名前:55 遺言 投稿日:2003/10/13(月) 18:43
- 下を向いていたイングラムの銃口がすっと持ち上がる。
安倍はみうなの右肩に照準を合わせ、躊躇わず引き金を引いた。
――――ドンッ!!
銃弾が僅かにみうなの右肩を掠め、その体勢が崩れる。
「あああぁぁぁああぁぁああっ!!」
――――ガガガガガガッ!!!
それでも無理やりに体をひねって、みうなはイングラムを乱射した。
安倍はとっさに右に転がり、狙いの定まらない銃弾の雨をやり過ごす。
みうなもまた、距離を置くようにしてこちらから見て左へと転がっていた。
安倍はそれを確認し、追撃するために片手で上体を起こす。
そしてクラウチングスタートの要領でみうなのほうへ駆け出した。
みうなのほうは足の怪我のせいかまだ立ち上がっていない。
(……チャンス!)
安倍はそのままスピードを落とさずにみうなへと突っ込む。
同じ距離ならば撃ち負けてしまうけれど、至近距離ならば勝機はある。
銃を押し付けて武器を捨てさせる、それが目的だった。
(――いけるっ!!)
みうなを目前に捉えた瞬間、その姿がすっと消えた。
(――えっ!? なに?)
――――ガッ!!
背中に、強烈な打撃。
安倍はそのまま数歩つんのめりながら、前方に倒れこんだ。
うつ伏せに、地に叩きつけられる体。
殆ど間を置かずして、ブローニングを持つ右手を踏みつけられた。
「ふふっ、近づけば勝てるとでも思った?」
顔を横に向け、何とかしてその姿を確認する。
みうなが、こちらへ向けてイングラムを構えて見下ろしていた。
- 197 名前:55 遺言 投稿日:2003/10/13(月) 18:43
- (なんで……あんな動き……できんのさ……)
今のみうなには痛覚というものが殆どない。
そのため、たとえ傷付いた箇所であれ、
完全に筋肉が断裂していない限りは遜色なく動かせる。
それを、安倍は知らなかった。
弱点を見せ、相手に隙を作らせる。
それは、みうなが平家との最初の戦闘のときに覚えた手段でもあった。
「ゴメンね。 悪いけど死んでもらうよ」
みうなの言葉に、安倍は左手を使って上体を跳ね上げようと準備した。
多分、タイミングを誤ればこのまま死ぬ。
なんとか、ここを乗り切って平家の元へ行かなければ。
「じゃあ――――」
「なっち!! そのまま伏せろ!!」
みうなの言葉に被さるように、草むらから平家の叫び声。
安倍は起こそうとしていた上半身をすぐさま元に戻した。
一瞬遅れて、身を震わせる衝撃。
――――ドオォォンッッッッ!!!!
背後から響く爆音。
地に伏せていた体をいっそう押し付けるような重圧。
同時に、後頭部と背中の上を熱風が通り過ぎた。
髪の毛がちりちりと焦げる感触。
突然の出来事に思考がまったく追いついていかない。
熱気がある程度収まったのを確認してから、安倍は上体を起こした。
みうなが、自分から数メートル離れたところでうつ伏せに突っ伏している。
「これって…………」
後ろを振り返り、辺りを見回す。
そこにあったのは一面の火の海。
目の前の草原が、ごうごうと燃えていた。
- 198 名前:55 遺言 投稿日:2003/10/13(月) 18:44
- 「みっちゃん! どこ!?」
燃え広がる炎の中で平家の姿を探す。
けれど炎が壁のように立ちはだかって探すこともままならない。
安倍は回りこむようにしてそれを迂回する。
炎の勢いが一番強い所のすぐ近くに、平家が仰向けに倒れていた。
それを見つけ、駆け足で向かった。
火の粉が散り、風に乗って飛んでくる。
なんとか振り払いながら、安倍は平家の元へ辿り着いた。
「みっちゃん大丈夫!? 今、何やったの!?」
声をかけながら、安倍は平家の体を引きずるようにして炎から遠ざける。
炎が照らすその体は、前にも増して傷ついていた。
腹部や手足に無数の銃痕、全体に渡る大火傷。
息があるのが不思議なほどだ。
「爆弾……つこてんけど……。 思ったより威力……あったわ……」
かすれた声で平家が答える。
(爆弾って……なんで……、どうして……)
どうして、そんな無茶なことを。
折角、助けに来たのに。
絶対に、守るつもりで戻ってきたのに。
「もうちょい……、遠くまで投げられる、思ててんけどね……」
「もういい、もういいよ……! 分かったから喋らないで……」
安倍は問い詰めたくなる自分をなんとか抑えた。
平家の状態から、彼女が声を出すことすら苦しいのは窺い知れる。
これ以上、彼女を苦しめたくはない。
- 199 名前:55 遺言 投稿日:2003/10/13(月) 18:45
- 「なあ……なっち……」
「あ、痛い? 背負ったほうがいい?」
言うが早いか安倍はリュックを片手にぶら下げ、平家を背負う。
じわ、と背中に血の感触が伝わる。
力の入っていない平家の体はやたらと重く、
熱気もまた安倍の体力をじわじわと奪っていく。
「あんな……なっち……」
「なに?みっちゃん」
耳元で呟く平家に安倍は前を向いたまま答える。
早く、炎が草原を包む前に、
そしてここが禁止区域になる前に、抜け出さなくてはならない。
安倍は息を切らしながらもしっかりとした足取りで前に進む。
「この先に……そんな遠くないとこに……家があるんよ……」
独り言のような平家の呟き。
「分かった、そこに行けばいいのね?……よっと。 大丈夫、連れてってあげるから」
平家の体がずり落ちそうになり、
安倍はなるべく傷に触らないようにそっと体勢を直した。
「そこに……、マコと……新垣がおるから……」
「……うん、分かった。 分かったからもう喋らないで……」
だんだん平家の声が小さくなっていくのがハッキリと分かった。
どうしても、平家のその声色に、嫌な想像をしてしまう。
「なっち……、二人のこと……頼むな……」
「な、なに言ってんの?みっちゃん。 一緒に帰るんだよ?ウチらは」
気持ちとは裏腹に頭は理解してしまう。
安倍は頭をふるふると振ってその考えを打ち消した。
「ホラ、まだまだ平気だよ。 ちゃんと手当てをして、
ゆっくり休めばこんな傷きっと治っちゃうんだから」
「ハハ……せやな……、そうやとええなあ……」
乾いた笑いと、弱々しい呟き。
勿論、安倍自身も自分の言葉が嘘であることは分かっている。
けれど、認めたくなかった。
認めてしまうのが、怖かった。
- 200 名前:55 遺言 投稿日:2003/10/13(月) 18:46
- 平家を背負い、草原を抜ける。
もうそろそろ診療所につく頃だ。
「だいじょぶ? 痛くない? この体勢で平気?」
「……うん、ええ感じやで……、ええ気分やわ……」
度々、平家の体をゆすりながら声をかけ、安倍は歩いていた。
振動が傷に障るのか、平家は苦しそうに呻いていたけれど、
それでも意識を保たせるためにはそうするしかなかった。
だんだん返答が遅れ、その体がまたずんと重くなってくる。
その度に安倍は歩くスピードを上げた。
「なっち……訊きたいことあんねんけど……」
「な、なに?」
唐突に、平家が声をかける。
ここまで平家は自分からは話をしていなかったので、安倍は少なからず動揺した。
もしかしたら、という気持ちが持ち上がる。
「『でっかい包丁』……って……、なんやと思う……?」
けれど、予想に反して平家の言葉はなんでもないような言葉だった。
「……へ?でっかい包丁? えーと、マグロとか切る奴かな?」
安倍は少し拍子抜けしたような気分になる。
その答えに平家は「なるほど……」と呟き、ゆっくり溜息を吐いた。
「ハハ……、そういやスーパー……やってんな……、だからか……」
「? みっちゃん? なんでまたそんなこと聞くの?」
困惑した安倍が聞き返すが、平家からの返答はない。
暫く、沈黙が続き、空気が一段と重くなる。
通り抜けていく風だけが、妙に薄ら寒い。
- 201 名前:55 遺言 投稿日:2003/10/13(月) 18:47
-
「まこっぴ……、強くならなアカンで……」
「まこっぴ? や、やだな、みっちゃん。 なっちはなっちだべさ」
それでも、安倍は認めることが出来ない。
死に瀕した平家の言葉を、受け止めるだけの余裕がない。
「新垣ちゃん……、勝手に爆弾つこてごめんな……」
「あ、ホラ。 診療所が見えてきたよ? ね、みっちゃん。
あそこいけば助かるよ? ね?ね?」
安倍は、早口でまくし立てる。
ただ、生きていて欲しいから、死んで欲しくないから。
それだけの、幼稚な発想。
「なっち……、みんなを……頼むわ……。
あの子も……、みうなも……、助けてあげてくれ……」
それは、平家みちよの遺言。
自らを省みず、安倍を助けようとした女の、別れの言葉。
- 202 名前:55 遺言 投稿日:2003/10/13(月) 18:48
- 「そんな……やだよ……みっちゃん……」
心臓の鼓動がどきどきと早くなり、目の奥がじんと熱くなる。
もう、茶化すことも出来なくなっていた。
背中から伝わる平家の体温が、急激に下がっていく。
「ね? もうすぐだから。 頑張ろうよ、みっちゃん」
声をかけ、平家の体を揺する。
両足が、ぶらぶらと力なく揺れる。
助けたい。 死なせたくない。
自分を助けてくれたこの人を、絶対に死なせたくない。
けれどすでに、平家の体は安倍にはどうすることも出来ないくらいに衰弱していた。
「ふふ……、なっちはあったかいなぁ……」
嬉しそうに、平家は呟く。
安倍の首元に回されていた平家の両腕が離れ、ぶらりと垂れ下がった。
- 203 名前:55 遺言 投稿日:2003/10/13(月) 18:49
-
「みっちゃん? ね、ねえ、すぐそこなんだから。 平気だよ? ホラ、もう着くんだから」
声をかけながら、ぐらぐらと平家の体を揺さぶる。
両足だけではなく両腕もまた、それに伴って揺れる。
はずみで、右腕が安倍の肩から外れた。
ずるり、と滑るようにして左腕もまた外れる。
平家の上半身が宙を泳ぎ、どさっ、と音を立てて地に落ちた。
「そんな……、なんでさ……、みっちゃん……」
両足を掴んでいた手を外し、平家の体を横たえる。
診療所は、もう目と鼻の先だった。
「なんで……、どうして……」
言いたいことは沢山あるのに、それ以上の言葉が出ない。
安倍はよろけながら平家の顔の傍に座り込み、その顔を覗き見た。
涙が零れ落ちて、平家の頬を濡らす。
「みっちゃん……、起きてよ……、目……開けようよ……」
安倍がいくら声をかけても、体を揺すっても、平家が二度とその目を開けることはなかった。
【1番 安倍なつみ 無傷 禁止区域外】
【31番 平家みちよ 死亡 禁止区域外】
【第二禁止区域……スタート】
- 204 名前:abook 投稿日:2003/10/13(月) 18:50
- 一週間以上、、、開けちゃいましたね、、、。
公約どころか、、、もうナニやってんだか。 ┐∬;´▽`)┌ =3
レスつけてくれた皆さん、どうもすみませぬ。
申し訳なさ杉で鬱なためまともに返レスできなさそうです。
よって、自分に代わり高橋がマジレス致します。
>>166
川 ’−’川<書いてる人も気になっとるやよ。 自分で書いて自分で気になって、
その都度自分で自分の首を絞めとるんやよ。 史上稀に見るアホがしね。
>>167
川 ’−’川<そう言ってくれるとありがたいやよ。 でも書いてる人は小心者やし、
いつも((((゜Д゜;)))ガク2プル2しながら更新しとるであんま期待せんと待ってて欲しいやよ。
>>168
川 ’−’川<一気読みありがとうやよ〜。 でもCPはないと思うやよ。 絡みだけならあるやもしれんけど
それもまだどうなるか、ハッキリしたことは言えんがし。 こればかりはどうしようもないやよ。
>>169
Σ川;’−’川<ああっ、この高橋を差し置いて先にマジレスされてしまったやよ。 悔しいやよ。
これも全部書いてる人の更新の遅さが原因やよ。 藁人形で呪ってやるがし。
>>170
川 ’−’川<41人もいるとなかなか大変らしいやよ。 初日の区分では全メンバー消化できんゆうとったがし。
でも高橋は所詮中間管理職やからこれ以上詳しいことは言えないやよ。 これも悲しい運命がし。
>>171
川;’−’川<あう、本当に申し訳ないやよ。 平謝りがし。 もう更新ペース云々について多くは
語らないことにするやよ。 高橋も嘘をつくのは心が痛むがし。
書いてる人も放置だけはせんで、やから気長に待ってくれると嬉しいやよ。
はい、というわけでマジレスでした。
えっ? 別にふざけてませんよ? 、、、いてっ! 石を、石を投げないで!
、、、えーと、ではお別れの言葉も高橋に代わってもらうことに致します。
川 ’−’川ノシ<したっけの〜
_| ̄|○<ごめんなさい、、、。
- 205 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/10/13(月) 19:55
- 作者様、そんなにお気になさらずw
日が開いた分、相応の更新がされとるんで無問題。
- 206 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/14(火) 02:07
- 更新お疲れさまです。
シリアスな雰囲気の中にも適度にコメディチックな話が混ざってて和まされます。
今後の展開にも期待。でも作者さんのペースでゆっくり続けてくださいね。
- 207 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/14(火) 02:17
- 柴田まじかっけー。惚れる…
村やんと田中亀井とその他が気になるよ…
ああでも作者さん愛してる
- 208 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/15(水) 13:28
- みっちゃん・・・。・゚・(ノД`)・゚・。
- 209 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/18(土) 15:22
- みっちゃん格好良かったぁ〜。
続き期待。
- 210 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/26(日) 17:03
-
- 211 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/26(日) 17:03
-
- 212 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/26(日) 17:04
-
- 213 名前:56 青いスポーツカーの男 投稿日:2003/10/26(日) 17:05
-
――Pruru……
耳に押し付けられた受話器から漏れ出す、単調な呼び出し音。
それを苛立ち混じりに聴きながら、男はただ沈黙していた。
おかっぱの髪が特徴的なその男の目前には、巨大なモニタ。
それは幾つかに分割され、真ん中に大きく島の全体図が、
そしてその周りを囲むように無数の赤外線画像が表示されている。
今、そこに映っているのは何の変哲もない監視画像でしかない。
しかし、ほんの数分前まで流れていた映像を思い返し、男は眉間にしわを寄せる。
殺し合い。
それも、自分の見知った少女たちが殺しあう映像。
こんなもの、正直見たくはなかった。
罪の意識、だろうか。
あるいは単なる船酔いか。
ともかく、はっきり言って今の気分は最悪だった。
- 214 名前:56 青いスポーツカーの男 投稿日:2003/10/26(日) 17:06
-
――Ruru……pッ
『おう、どうした?』
一分弱ほど続いていた呼び足し音が途切れ、受話口からは聴き慣れた男の声。
「俺や、つんく」
おかっぱの男はずっと閉じていた口を開き、声を発する。
「お前何してたんよ。 電話ぐらいはよ出てくれや」
『いやー、スマンスマン。 ちょっとヤボ用でな』
つんくの声は軽く、いっそう気分が悪くなる。
『んで、何の用?』
彼は何も感じていないのだろうか?
自分より遥かに少女たちに近しく、また愛着もあるだろうに、
その声からは悲しみや辛さなどは一切感じられない。
男は軽く嘆息し、用件だけを伝えることにした。
- 215 名前:56 青いスポーツカーの男 投稿日:2003/10/26(日) 17:06
- 「はたけがな。 灯台のほうに行ったわ」
『は? 何でや。 俺に断りもなしに』
「断ろうおもて電話したけど出えへんかった、ゆうとったわ。
それにこれは上からの命令や。 灯台の近くで爆発あったやろ。
点検すんねんて。 イカレてへんかどうか」
『……“G”か?』
「そや」
『なんでまた……、そんなヤワなもんとちゃうやろ?』
「せやけどまだ試験運用段階やてゆうとったやろ、お偉いさん方が。
色々とあるらしいわ。 俺らの知らんことは。」
『…………』
「あとな、近くで倒れとる斉藤美海やけど。 取り敢えず離れるまで爆破はなし。
やっこさんが離れてからはたけが上に行く。 コレも命令や、文句はないよな?」
『……ああ』
「……ま、用件はそれだけや。 せいぜい頑張ってくれ、司令官殿」
- 216 名前:56 青いスポーツカーの男 投稿日:2003/10/26(日) 17:07
- 男は言葉にありったけの侮蔑を込めて言い放ち、電話を切った。
そしてぐったりと背もたれに身を預ける。
つんくに悪態をついたところで自分の罪が消えるわけではない。
むしろ気分はさらに悪くなっている。
(俺は……アホか……?)
こんなもの、単なるガキの八つ当たりだ。
いや、我侭を通せない分、ガキ以下かもしれない。
詮ないことと自分に言い聞かせて、納得はしなくてもただ従うだけ。
仕事に徹しているのか、はたまた本気で狂っているのか。
どちらにせよ今の自分に比べればつんくやはたけのほうがよっぽどマシに思える。
(一番最悪なんは……俺なんかもしれんな)
男は深く溜息をつき、天井を仰いで目を閉じた。
(教えてくれつんく……。 俺は……どうしたらいい……?)
- 217 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:08
- 北の舗道を、うろうろと人影がさまよう。
民家を見ては中に入り、慎重に中を探る。
そして誰もいない家をあとに、再び月明かりの下へと舞い戻る。
それを何回繰り返しただろうか。
(さゆ、えり……、どこにおると……?)
田中は未だ、道重と亀井を探し続けていた。
前田とやりあってすでに三時間弱、
すでに何か間違いが起きていてもおかしくはない。
それは、田中にとって絶望的な時間だった。
ぶるぶると首を振り、頭に浮かんだ想像をかき消す。
まだ、決まったわけではない。
今はただ、探し続けるだけ。
そして放送に二人の名が挙がらないことを祈るだけだ。
(やっぱ……あのマンションにおったとね……?)
歩きながら、思い返す。
学校からの下り坂に程近い場所にあった巨大なマンション。
規模も部屋数も無数にあったため後回しにしたのだが、
もしかしたらあそこに二人は、少なくともどちらかはいたのではないだろうか?
(やけん、あそこばおるとしたら……)
そう、あのマンションに隠れているとすれば当面は安全なはずだ。
(まずは危なっかしいところから探さんと……)
自分の行動は理にかなっている。
全て計算づくとはいかないまでも、合理的な判断。
そう思ったとき、ほんの少しだけ身が軽くなった気がした。
―――――――――
―――――
――
- 218 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:09
-
「探し物はなんですか〜♪ 見つけにくいものですか〜♪」
空の弾装に弾薬を詰め終えた藤本は、それをマイク代わりにして歌っていた。
何故この曲なのかはよく分からないが、気分的にそんな感じだった。
「鞄の中も〜♪ 机の中も〜♪ 探したけれど見つからないのに♪」
そう、自分は今、標的を探している。
遅めの夕飯を食べ終え、高台にごろんと横になりながら下の舗道を眺めている。
「まだまだ探す気ですか〜♪ それより僕と踊りませんか〜♪」
ここのくだりを歌う、あるいは聴く度に、『井上用水はやっぱすげえ!』と思ってしまう。
よっぽどキレてないとこんな詞は出てこない。
『それより僕と踊りませんか』
本気にその状況でそんなこと言う奴がいたら百点満点のスタオベものだ。
(間違ってもつんくには出来ない芸当だな、うん)
歌いながら、一人で納得する。
「夢の中へ〜♪ 夢の中へ〜♪ 行ってみたいとおも……、っと」
丁度、調子よく気分がノってきたところで邪魔が入った。
もとい、邪魔ではない。
探し物が見つかったのだ。
―――――――――
―――――
――
- 219 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:09
- 田中は目の前にある建物を眺め、溜息をついた。
結局、ここへ戻ってきてしまった。
掲げられた看板だけがでかでかと、威圧感たっぷりにこちらを睨む。
それほど大きくないその建物にしては立派過ぎるそれに、田中はふん、と鼻を鳴らした。
ここに二人はいるだろうか?
無駄足を食った焦燥感と、ほんの少しの期待感。
そして民家に足を踏み入れるたびに感じていた、漠然とした不安感。
『大丈夫、大丈夫』と自分に言い聞かせ、心の波が静まるのを待つ。
大丈夫、なんとかなる。
大丈夫、きっと上手くやれる。
ポケットのバタフライナイフを意識しながら、田中はゆっくりと引き戸に手を掛けた。
- 220 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:10
- ――ガタッ
しかし、引き戸は開かない。
――ガタッ、ガタガタッ
数回揺さぶってみるが、びくともしない。
間違いなく、鍵が掛かっている。
それはつまり、中に人がいるということ。
再度、田中の胸に期待感と不安感が去来する。
『もしかしたら』と思い、田中は引き戸から手を離し、
すばやく身を翻して戸の横の壁に身を隠した。
暫くそのまま、時が経過する。
ぎしぎしと床が軋む音。
それがだんだん近づいてくる。
万一に備え、田中は右手をポケットに突っ込んだ。
「誰か……いるんですか……?」
ちょうどナイフのグリップを握ったとき、中のほうから声が聞こえた。
それは聞き覚えのある声。
けれど、まだ油断はできない。
田中はすでに、狂ってしまった人間を一人見ている。
いつ誰に殺されるか分からないこの状況で、
信じられるのは自分と同じ六期メンの二人のみ。
――カチッ……
戸を揺すったときに聞こえたのとは違う、異質な金属音。
壁に身を寄せ、息を殺し、ただじっと刻を待つ。
――ガラガラ……
戸が、ゆっくりと開いた。
- 221 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:10
- その動きは一瞬だった。
引き戸が開いた瞬間、田中は壁から身を離し左足を軸に回転する。
そして恐る恐る顔を覗かせた少女の胸倉を、空いていた左手で引っ掴んだ。
「えっ? 何? きゃっ――」
玄関から無理やりに引き出し、壁に叩き付ける。
左手はまだ胸倉を掴んだままだ。
少女は引きつった顔で何度も瞬きをしている。
「さゆかえりはおるか? 隠してもためにならんと」
田中は締め上げる拳に力を込め、そう言い放つ。
そしてポケットからナイフを取り出し、翻して刃を出そうとしたとき、
「ストーップ」
頭上から声が聞こえた。
―――――――――
―――――
――
- 222 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:11
- (さがしものは〜、誰でしょね?)
眼下に横切る舗道をよろよろと歩く少女の姿。
遠目にしか確認できない上に今はまだ彼女は外灯の範囲にいない。
つまり、まだその少女が誰なのかは分からない。
ふらふらで今にも倒れそうなその少女は、少しずつではあるが外灯のほうへ向かっていた。
ゆっくりと足首から、その全身が光に照らされ出す。
「うげ……、まじっすか」
思わず、呻いていた。
元気いっぱいの幽霊ってのにはついぞお目にかかったことはないが
ここまで元気ない幽霊ってのも中々ないんじゃないだろうか?
(いや、まあ、普通の幽霊にも出会ったことなんてないんだけどね)
――と、
そんなことを考えてしまうくらいにその少女の姿は異様だった。
血を吸ったシャツ。
ゆらゆらと揺れる体。
ホラー映画の中に独り、迷い込んだようなその少女。
- 223 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:11
- 「うわー、どうすっかなあ」
言いながら、頭の中では緊急脳内会議。
『見逃したほうがいいんじゃない? ヤバイ奴はほっとこうよ』
『いや、アイツ弱ってそうじゃん? やっちゃえ、まず殺っちゃえ!』
『いや、ありえないから。 マジで。 ちょっと鳥肌立っちゃったし』
『先生! バスケがしたいです!』
『( ^▽^)<4714!』
頭の中の98人の藤本が、様々な意見を出してくれる。
内訳は、見逃せ―72票、殺せ―26票、バスケがしたい―1票、( ^▽^)<4714!―1票。
「よし、お前、行ってよし! うん、決定!」
殆ど即断の形で決がとれた。
無論、決議の邪魔をした三井と石川を98人がかりでフクロにしておくことも忘れない。
脳内会議はつつがなく終了し、藤本の意識は再び少女のほうへと向けられる。
―――――――――
―――――
――
- 224 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:12
- 思わず、田中は顔を上げる。
「はい、そこまで。 これ、何だか分かるよね? 分かったらあさ美を離す。 ホラ、早く」
目に映ったのは、二階の窓から身を乗り出して銃口をこちらに向ける女性の姿。
(くっ……、計算外っちゃね)
それは別に銃器云々のことではない。
たとえ中に複数人いたとして、その内の誰かが銃を持っていたとしても
捕まえた人間を盾にすればいいだけの話だ。
それで問題はなかったはず。
けれど地の利を計算に入れていなかったのは痛い。
頭上から狙われたのでは盾にも出来ない。
しかも自分の得物はまだ刃を隠したままだ。
仕方なく、田中は目の前の少女――紺野あさ美から手を離した。
「よし、んじゃ取り敢えずそのままそこで待機。 あさ美は中に入ってなさい」
二階の女性の指示通り、紺野は皺になった衣服を直しながら中へと退散する。
去り際に恨みがましい目で見られたが、なるべく気にしないようにする。
こっちだって必死なのだ。
この程度でいちいち恨まないで欲しい、と思う。
- 225 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:13
- 紺野がいなくなり、玄関先には田中が独り、取り残された。
二階の女性の手には、すでに銃は握られていない。
「さてと、アナタはたしか……」
「田中れいなです」
「あ、そうそう。 なっちゃんの人と同じ名前なんだよね」
彼女の物言いに、何となく侮蔑されたような感じがして腹が立った。
同姓同名のタレントがいることで自分が芸名をひらがなに直したのは記憶に新しい。
それがワイドショーなどで取り沙汰されるのを見て田中が気分を害したのは言うまでもないことだ。
「……そうですけど、何か?」
「いやいや、別にそれは関係ない。 ところでれいなちゃん」
「……は?」
今度は彼女の自分に対する呼称に、むずがゆさを感じる。
(なんなんよコイツは。 出会って五秒でちゃん付けか。
頭に幸せ回路でも仕込んでんじゃなかとね?)
知らない人間にちゃん付けされて喜ぶような性格はしていない。
むしろ呼び捨てで『田中』と呼んでもらったほうが全然気楽だ。
かなり居心地が悪い。
早く解放して欲しかった。
――けれど、
- 226 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:14
-
「さっき『さゆ』って言ってたよね? ……それって道重さゆみちゃんのこと?」
彼女のその言葉に、田中の目が見開いた。
『アンタ! さゆを知っとうと!?』
半ば反射的に出かかった言葉を喉元で留め、注意深く言葉を選ぶ。
「そうですけど……何か知ってるんですか?」
そしてその動向を探るように、彼女を見つめた。
次に出る言葉、その返し。
いくつかのパターンを頭の中で想定する。
けれど彼女は、あっけらかんとした口調でこう言っただけだった。
「知ってるも何も、中にいるもの」
- 227 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:14
- 「…………は?」
正直、拍子抜けだった。
もっと何か……、こう、腹の探り合いのようなものがあってもいいのではないだろうか?
「さ、中入って。 お茶ぐらいなら出せるよ」
困惑する田中をよそに、彼女はそう言って二階の窓から姿を消す。
少し逡巡しながらも、田中は公民館の中に入った。
戸を閉め、靴を脱ぎ、それを片手に持って廊下に上がる。
すぐにトントンと足音を立てて女性が階段を下りてきた。
そしてこちらを視界に入れると、首を傾げてにこっと微笑む。
その意図するところが、どうもよく分からない。
単にお人好しであるようには見えないし、かといって敵意があるようにも見えない。
(石黒彩……どうにも分からん奴ちゃね……)
なんと言うか、今まで出会ったことのないタイプの人間だった。
―――――――――
―――――
――
- 228 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:16
- 眼下を横切る少女を眺めながら、藤本は人差し指でその体を狙った。
「――バァン」
B級映画の女優のように呟き、ごっこ遊びのガンアクション。
ふうっ、と指先に息を吹きかけ、その指で空想上のウエスタンハットをくいっと持ち上げる。
そんなくだらない遊びに、意図せず頬が緩む。
「別に美貴はさ、怖いわけじゃないんだよ。 うん」
強がりではなく、本心からそう思う。
狂人を相手するともなればいささか面倒なことになる。
彼らは――いや、今の場合彼女らは、だが、
彼女らは、まともな行動理念を持っていない。
自分は日常生活においても常に先手を取るタイプだ。
それ故、先の読めない状況に身を置くことは避けたい。
「臆病と慎重は似てるようで違うってことだよね」
この判断は全て経験と観測と計算に基づくもの。
けしてびびっているわけではない。
『君主危うきに近寄らず』とはよく言ったものだろう。
逆に『虎穴にいらずんば孤児を得ず』という言葉もあるが、
言わばすでにこの島全体が虎の穴のようなもので、
ここで敢えて危険を冒すのは愚の骨鳥というものだろう。
「ま、のんびりやりましょ〜」
それは、自分に言い聞かせているのではなく、ただの確認。
否定を肯定にするのではなく、肯定をさらに肯定するための単なるプロセス。
やがて、少女の姿が再び闇に紛れる。
月にぼんやりと浮かぶ少女の背中に向けて、
「とりあえずバイバイ。 亀井ちゃん」
藤本は小さく手を振った。
【12番 亀井絵里 移動中(島の南西)】
―――――――――
―――――
――
- 229 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:17
- 「あやっぺさん」
「ん?」
今、石黒と紺野は台所にいる。
コンロの上にはシューっと音を立てる薬缶。
お茶を入れるために湯を沸かしているところだった。
「よかったんですか……? その……、簡単に中に入れちゃって」
「れいなちゃんか」
「はい……」
紺野の言葉に、石黒は少し溜息をついた。
田中は今、奥の部屋の中にいる。
道重も一緒だ。
二人が同期であるというのは石黒も知っていたから
気を利かせて紺野を連れてこちらへ来たわけだ。
「まあ、ちょっと突っ走り過ぎなところもあるけどさ、なんつーか健気ないい子じゃん」
「それはまあ……そうなんですけど」
目の前にいる紺野の表情は暗い。
まあ、無理もないことだ、とは思う。
けれどずっとこの状態でいられるのは石黒としても辛かった。
- 230 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:18
- あれは、自分が判断したこと。
二階から田中の姿を確認したときに、そうしようと決めたこと。
相手が田中だと分からなければ、自分が玄関に行っていた。
安全だ、とタカを括っていた。
けれど、結果的に紺野を囮役にしてしまったことになる。
図らずとも紺野を危険な目に合わせたことに、石黒は後悔の念を消せない。
「信じてあげなよ、自分の後輩をさ」
「……はい」
紺野の声色は重く、ますます居たたまれなくなる。
(はあ……、どうしたもんか)
暫し考え、ひとまず気持ちを切り替えた。
相手の気分が暗いときこっちまで暗かったら、ただ二人で沈み込んでいくだけだ。
寄りかかっていた冷蔵庫から背を離すと、丁度よく薬缶からピーッと音がする。
「おっと、湯が沸いたね」
石黒はコンロから薬缶を取り、
テーブルの上に置いておいた魔法瓶に湯を移し替え、
「んじゃ、これを部屋に運ぶ前に」
紺野に向けてこいこい、と手招きをした。
「?」と不思議そうな表情で、こちらへと近づいてくる紺野。
「ゴメンな、あさ美」
その頭を、優しく撫でてやった。
- 231 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:23
- 少し、びっくりしたような表情の紺野。
「さっきのはアタシのせいだからな? 恨むんならアタシを恨めよ?」
にやっと笑いながらそう告げると、紺野もつられて少しだけ笑顔になる。
「おっ? いいねぇ。 やっぱあさ美は笑ってなきゃな」
「何言ってんですか。 恥ずかしい」
「黙れ甘えんぼさんめ。 ホラ、もっと甘えてこいよ。 抱きしめろ、そっと口づけろ」
にやけた笑いを浮かべたまま、両手を広げて「カマーン」と挑発。
紺野の顔にますます笑みの色が濃くなる。
「ふふ、嫌ですよ。 シゲさんならともかく何であやっぺさんなんかに」
「お? 今なんかっつったか?なんかって。 お仕置きだ、うり、うり」
「きゃっ、やっ、やめてくださいよぉ。 もう、先行ってますからね?」
そう言って、紺野は急須と湯のみ四つが載った盆を持ち、足早に台所を後にした。
その残滓を、暫し味わう。
自分は今、とんでもなくしまりのない顔をしていることだろう。
でも、別に恥ずかしくはない。
以前の自分なら、強がってみせたかもしれない。
それ以前に、こんな風に馬鹿みたいに振舞う事だって出来なかっただろう。
それは、子供を生んで初めて手に入れた、新たな自分。
- 232 名前:57 さがしもの 投稿日:2003/10/26(日) 17:23
-
いつか、きっといつか、
こんな風に自分の娘とも馬鹿話で盛り上がれる。
たまに紺野が遊びに来て、みんなでやかましく騒ぐ。
そんな、幸せな未来。
それを実現させるために、今、自分は生きている。
【23番 田中れいな 道重と再会】
- 233 名前:58 ロッジにて 投稿日:2003/10/26(日) 17:24
- 「え……と、これが安全装置で……、弾込めんのはここ……と。 えー、なになに。
『弾薬はマガジンに込めて、それを銃にはめ、コックを引くことで初弾が装填されます』
……なんやら難しいなぁ。 コック……? これかな?」
島の丁度真ん中に位置するロッジの中、
エントランスホールの床にぺたんと座り、荷物を広げ、
中澤裕子は説明書き片手にサブマシンガンと格闘していた。
それほど覚えることがあったわけではないが、それでも未知の道具。
慣れるのには時間がかかる。
床に銃器本体を置き、その横に置いてあった空のマガジンを手に取る。
取り合えず弾を込める練習から始めることにした。
「よいしょ……、結構力いるねんね、コレ……っと。 あらら、飛んでもうた。」
ぴょーん、と弾薬がスプリングに弾かれて弧を描く。
「いてっ」
そしてそのままソファに座っていた辻の頭に命中した。
「あー、あー、辻ちゃんごめんなー」
慌てて床から立ち上がり、中澤は辻のほうへ駆け寄る。
「もー、いてーよみそじー」
『ぷんすか』という表現がよく似合う怒り方で、辻は中澤の肩をばしばしと叩いた。
最近、テレビ的な絡みがなくなって以来の辻は、
だんだんと大人になってきたのか中澤相手にも平気で軽口を叩くようになってきている。
ただ、方向性が少し矢口よりなのが心配だった。
「うおっ、いてっ。 ちょっ、やめろ力馬鹿。 あーもう、わかった、わかったから」
言いながら、自分でも何が分かったのか良く分からなかったが、
ともかく辻をソファーに座らせ、中澤もまたその隣に腰を下ろす。
「とりあえず力馬鹿。 これ、手伝え」
辻にぽん、とマガジンを手渡し、テーブルの上に弾薬の箱を置く。
「押し込めばいいんだよね?」
「うん、説明はコレ。 見ながらやって」
説明の書いてある紙切れも渡して、中澤は深く沈むソファに身を委ねた。
- 234 名前:58 ロッジにて 投稿日:2003/10/26(日) 17:25
- (はあ……、やっぱ何事も一筋縄にはいかんのよね)
天井でくるくると回るプロペラのようなものを眺めながら、中澤は小さく溜息をつく。
横目でちらりと辻を見るが、作業に没頭しているようで、それを聞かれた様子はない。
要らぬ心配をかけずに済んで、中澤は内心ほっとする。
視線を再び上に戻し、中澤はついさっきのことを思い返した。
(ダニエルに……、前田……か)
丁度三人で食事をしていたときに聞こえた定時放送。
そこで、その二人の名前が挙がった。
放送が確かならば、間違いなくこの島には人殺しがいることになる。
信じたくはなかったけれど、自分は二人の命を預かる身だ。
悠長なことを言っていられる場合ではない。
隣で、黙々と作業を続ける辻。
奥のバスルームで、シャワーを浴びている後藤。
二人とも、いや、二人だけではなく、せめて娘。たちだけでも助けてあげたい。
それは多分、年長者としての気概。
自分の娘。を守りたい、という想い。
(たとえ他のみんなを……殺すことになっても)
そう思うことは、エゴなのだろうか。
- 235 名前:58 ロッジにて 投稿日:2003/10/26(日) 17:25
- 小さく頭を振り、中澤は飛躍しかけた思考を止める。
これ以上考えても気分が悪くなるだけだろう。
横にいる辻はなかなか弾の入らないマガジンを睨みながら、
えいえい、と声でも掛けそうな雰囲気で懸命に弾を押し付けている。
こういうところは、やっぱり子供だ。
こういうところが、自分の中にある母性をくすぐる。
(こいつらを守る、今アタシにあるんはそれだけや)
何も今、全てのことを決める必要はない。
今はただ、守ることだけを考える。
それだけでいい。
中澤はそこで思考を落ち着け、ふぅ、と一つ息を吐く。
閉ざされていた感覚が戻り、今まで気にならなかった静寂が無性に気になった。
「ごっちん、シャワー長いなあ」
「そうだねぇ」
なんとなく呟き、辻もなんとなく返す。
ロッジの中には、シャワーの音だけがさらさらと響いていた。
【25番 辻希美・27番 中澤裕子 ロッジ内(エントランス)】
【14番 後藤真希 ロッジ内(バスルーム)】
- 236 名前:58 ロッジにて 投稿日:2003/10/26(日) 17:26
-
――ッ……
「ん……?」
何となく、何かの音が聞こえたような気がして、中澤は眉をひそめる。
「どうしたの? なかざーさん」
「いや……、なんか聞こえへんかったか?」
耳をすませて、音をたどる。
――ッ……、ッ……
「ホラ、外から聞こえてくるやん」
「そう? 辻には聞こえないけど……」
――ッ……、ザッ……、ザッ……
その音が、次第に大きくなってくる。
それに合わせて、辻の顔色が変わった。
急におびえたような目になり、こちらを見つめる。
中澤は黙ったまま頷き、音を立てないようにソファから立ち上がる。
- 237 名前:58 ロッジにて 投稿日:2003/10/26(日) 17:27
- ――ザッ……、ザッ……、ザッ……
誰かの足音のような、その音。
中澤は床に転がっていたサブマシンガンを手に取り、その場で注意深く玄関を睨んだ。
割れた窓にかかるカーテンが、穏やかな風にゆっくりとそよいでいる。
エントランスは広く、盾になるような物は何もない。
――ザッ……、ゴツッ……、ゴツッ……
音が、急にその形態を変える。
砂利の音から、木の音へ。
(もう……すぐそこにおる)
張り詰めた緊張感に、息が苦しくなる。
額に浮き出てきた冷や汗を、空いている左手でぬぐう。
扉の向こうを想定する時間も、
自らの心を決める時間も、
すでに残されていない。
――ギィィィィッッッ……
ゆっくりと音を立てて、扉は開かれた。
【25番 辻希美・27番 中澤裕子 何者かと遭遇】
- 238 名前:59 学園の七不思議 投稿日:2003/10/26(日) 17:28
- (これは一体……どういうこと?)
保田圭は、山林に埋もれるようにしてあった建物の前で、独り思索に耽っていた。
どこかで見たことがあるような、木造の建物。
これとは別に、これと同様に区別される建物がこの島にはもうひとつある。
ほんの数時間前までは保田はそこにいた。
何故この場に、これがあるのだろうか。
こんな小さな島に、どうして同じ施設が二つもあるのだろうか。
普通に考えれば、まず有り得ない。
(なんで……ここに学校があるの?)
保田は昇降口に近づき、薄汚れた白い壁を眺める。
看板の跡が、そこだけ真っ白に残り、
最近になって外されたのだろうということは分かった。
開けっ放しだった戸をくぐり、保田は中に踏み入る。
木で出来た廊下は歩を進めるたびにぎしぎしと軋む音を立てる。
長年放置されていたらしく、空間全体にかび臭い匂いが充満していた。
- 239 名前:59 学園の七不思議 投稿日:2003/10/26(日) 17:30
- (どう考えても……おかしなことが多すぎるわね)
それは、この島についてのこと。
この数時間、保田は早足で色々な場所を歩いてみた。
民家、商店、駐在所、マンション、スーパー、漁港。
今まで見てきた場所をひとつずつ思い返してみる。
その全てが今も人が暮らせる環境ではあった。
けれども、保田はもやもやとした違和感を禁じ得ない。
つまり、『この島には生活の気配がない』ということ。
スーパーに陳列された商品や、民家に揃った家具類。
環境としては申し分ない。
けれどこの島に住んでいただろう人間の生活の様子、それがまったくトレース出来ない。
違和感があるのだ。 その全てに。
暮らしの様子が、まったく思い浮かばない。
加えて、もうひとつあった学校の意味。
『この環境は意図的に作られたものではないのだろうか?』
その結論に達するまでに、さほど時間はかからなかった。
- 240 名前:59 学園の七不思議 投稿日:2003/10/26(日) 17:31
- (…………ん?)
昇降口を抜け、廊下に入り、ふと目に留まったものに保田は立ち止まる。
床に積もった埃に、足跡が点々と続いている。
(誰か……ここにいるのね?)
その足跡は二人分。
どちらとも似たようなスニーカーの跡だったが、
横並びに二足分、前へと続いている。
(……気を引き締めないとね)
木製の床を叩く靴音はこの際仕方なかったが、それでも慎重に進む。
こちらにはまともな武器がないのだ。
慎重すぎるくらいが丁度いいだろう。
進んでいくとすぐに、階段が見つかった。
足跡がそのまま一階の奥へと続いているのを確認してから、保田は階段を上る。
これでまずは一安心、といったところだろうか。
二階に出ると、星空が窓の外に広がっているのが見える。
森の中、そして一階にいたときは木々に隠れて見えなかったため、思わず見惚れる。
ガラス戸を開けると、新鮮な空気が頬を撫でて気持ちよかった。
- 241 名前:59 学園の七不思議 投稿日:2003/10/26(日) 17:32
- そのまま窓枠に腰かけ、向かいの教室と空を交互に眺める。
学校とは基本的に外界と遮断された空間であると思うが、
ここのように荒廃しているとそれをさらに強く感じた。
流転する星。
外れかけた黒板。
緩やかに動く雲。
積み重なった椅子と机。
今なお動き続ける時間と、止まってしまった時間。
自分は一体どちらにいるのかと、皮肉混じりに自問する。
(今はまだ……この学校と同じか)
娘。を卒業して、次の一歩を踏み出せていない自分。
ここと同じように、止まってしまっている自分。
――けれど、
「うし!」
掛け声とともに窓枠から降りる。
だん、と床が音を立てて、靴底を迎えた。
「んーっ」と呻きながら伸びをし、郷愁と共感を振り払う。
(別にいいじゃない。 今は止まってたって)
今はまだ、過程の段階。
止まってはいても、進む意思はまだ自分の中に残っている。
ならば今は、それでいい。
今は足踏みを続けているだけだとしても、きっといつかは歩き出せる。
そう、信じている。
【39番 保田圭 所持品 不明 廃校(二階廊下)】
- 242 名前:59 学園の七不思議 投稿日:2003/10/26(日) 17:34
- 保田は気持ちを切り替え、視線を廊下の奥へと向けた。
(えっ……?)
踏み出そうとしていた足が、そのままの形で固まる。
――ガシャン……
学校という場所には不釣合いな金属音。
――ガシャン……
重厚な鋼の擦過音。
(ウソ……、なんで?)
どうして気付かなかったのだろう。
こんなに大きな音だったのに。
――ガシャン……
それは、本来こんな場所にあるはずがないものだ。
――ガシャン……
いや、校長の趣味が美術品の蒐集なら有り得ないことではないかもしれない。
――ガシャン……
でも、これが、こんなものが、動くはずはない。
のっぺりとしたマスク。
十字の飾り。
銀色に輝く全身。
ゆらゆらと揺れる長剣。
(勘弁してよ……)
それは、中世の時代から這い出たような、甲冑だった。
【?番 さまようよろい 所持品 長剣】
- 243 名前:60 来訪者 投稿日:2003/10/26(日) 17:35
-
「誰か……いませんか……?」
開かれた玄関口から、消え入りそうな誰かの声。
その声が誰の声か、中澤にはすぐには分からなかった。
「あいぼん……?」
だが、辻の口から漏れた言葉に中澤はすぐに反応する。
「加護……? 加護なんか?」
マシンガンを捨て、慌てて駆け寄る。
辻もソファから立ち上がり、それに続いた。
「加護、だいじょぶか? どっか痛いとこ……」
言いながら中澤はゆっくりと近づく。
だが、目に入った加護の姿に言葉が詰まった。
「あんた……、それ……」
薄赤色に汚れたブラウス。
若干痩けた頬。
青ざめた表情。
そして何より、生気のない、目。
「何が……あったん?」
自分の声は、はっきりと分かる形で震えていた。
* * *
- 244 名前:60 来訪者 投稿日:2003/10/26(日) 17:37
- ひっ、と小さく息を呑む。
目の前の光景が、信じられない。
(どうしちゃったの……? あいぼん……)
確かにそれは自分の知っている『あいぼん』の姿だ。
けれど、彼女のこんな表情は今まで見たことがない。
その虚ろで黒目がちな目と、目が合いそうになり辻は思わず視線を逸らした。
「それ、血か? どっか怪我してんのんか?」
中澤の声に、ふるふると首を振って答える加護。
その瞬間、辻の頭にある言葉が浮かんだ。
――即ち、『返り血』。
でも、その想像をすぐに消した。
まだそうと決まったわけではない。
誰かに庇ってもらったときに付いた、
とか、他にも考えられることはある。
「と、とりあえず中入りや。 フロも着替えもあるさかい。
そんなばっちいまんまやったらあんたもええ気分ちゃうやろ?」
恐らく中澤も自分と同じ想像をしてるはずだ。
それを紛らわしているのか、中澤は早口で捲し立てる。
- 245 名前:60 来訪者 投稿日:2003/10/26(日) 17:38
- 「まあ、フロは今ごっちんがつこうとるねんけどな」
その言葉に、加護の肩がびくりと動いた――気がした。
それは多分、ほんの僅かな心の揺れ。
『あいぼん』に一番近かった辻だから分かること。
現に、中澤はその変化に気付いている様子はない。
「後藤さん……ですか?」
「おう、そうや。 ごっちんやでごっちん」
中澤はそう言いながら、気付いてはいない。
今、加護は『後藤さん』と言ったのだ。
『ごっちん』ではなく、『後藤さん』。
それは、単に気分の問題だったのかもしれない。
けれど今はその『気分』が、重大な問題となり得る。
(あいぼん……違うよね?)
そう願いながらも、辻は芽生えた嫌な予感を消せずにいた。
加護がずっと後ろ手を組んでいるのが、無性に気になった。
* * *
- 246 名前:60 来訪者 投稿日:2003/10/26(日) 17:39
- 「後藤さん……ですか」
加護は口を開き、同じ言葉をもう一度、トーンを下げて発する。
なんとなく、自分の不遇さが馬鹿らしくなってくる。
中澤に、辻に、会うことが出来て嬉しかった。
それは加護の素直な感情だった。
けれど、その名前が出てきたことで、それはぼろぼろと崩れ始める。
「加護……?」
こちらの変化に気付いたように、中澤が声をかけてくる。
(今更気付いても……もう遅いわ)
表には出さず、心の内で溜息をついた。
気付かなかった中澤への嘲りではなく、壊れていく自分への侮蔑。
(もう……何もかも遅いねん。 ……なんでこうタイミングが悪いんかなぁ?)
自分が何をしたかったのかも、曖昧になってくる。
でも、今、自分がしなくてはいけない行動は、すでに決まっている。
- 247 名前:60 来訪者 投稿日:2003/10/26(日) 17:40
-
「ごめんなさい」
――中澤裕子。
関西出身の加護にとって、
彼女のキツくも聞こえる言葉遣いはどこか暖かかった。
叱られるときも、褒められるときも、
まるでお母さんにして貰っているような、そんな心地がした。
でも、裏切られた。
自分はやっぱり独りぼっち。
だから、ここでお別れだ。
「――さよなら、中澤さん」
言い切らない内に、ずっと後ろ手に隠していたソーコムを持ち上げる。
それでもなお状況が掴めていない中澤に銃口を向け、加護はそっと引き金を引いた。
【11番 加護亜依 所持品 H&K MK23(残弾10発)】
- 248 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/26(日) 17:41
-
- 249 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/26(日) 17:41
-
- 250 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/26(日) 17:42
-
- 251 名前:abook 投稿日:2003/10/26(日) 17:43
- 何やらどんどん更新の間が空いていってます。
非常にマズい状況です。 シンクロ率一桁台です。
ダミープラグ使ったほうが遥かにマシな数値です。
本当に、申し訳ないです。
……といつもの逃げ口上を使ったところで、レス返し。
>>205
ごんざれっさ有難いお言葉、恐縮です。
>相応の更新……
今回はされてましたでしょうか……? (((;゚Д゚)))ガクガクプルプル、、、
>>206
自分は本質的に悪ふざけが好きなもので時々あんな話を入れたくなります。
>作者さんのペース……
_| ̄|○<コンナペースデヨケレバ コレカラモヨロシクオナガイシマス、、、
- 252 名前:abook 投稿日:2003/10/26(日) 17:45
- >>207
たなかめがチラリと。
柴やんは自分より年下ですけど気分的にはなんかお姉さんです。
>ああでも作……
(((;゚Д゚)))ガクガクプルプル、、、
>>208
。・゚・(ノД`)・゚・。ミッチャンイ(ry
>>209
( ^▽^)<アリガトゴジャイマース!
遅れ出した理由は色々あるのですが
あれやこれやという言い訳は見苦しいので
その一部だけをメル欄に書こうと思います。
今回の終わり方が終わり方だけに、次回は何とか早めに更新したいものです。
- 253 名前:abook 投稿日:2003/10/26(日) 17:51
- メル欄のことはメル欄で訂正。
- 254 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/27(月) 09:39
- 毎回続きが楽しみです!作者さんがんばって!
あと、小湊ちゃんがんばれ!
さらに、つんく以外のシャ乱Qも登場ってとこも嬉しいです!
(あのベーシストも出るのか!?…って変わったこと期待してすいません)
- 255 名前:◆rO98BbgY 投稿日:2003/10/29(水) 01:07
- 加護ー!?どうなるんだぁー?!
続き期待してます!!
- 256 名前:みっくす 投稿日:2003/10/29(水) 03:30
- ageないでくだし。
きたいしちゃうでし。
- 257 名前:名も無き読者 投稿日:2003/10/29(水) 18:48
- か…加護ちゃーん!?
思わず書き込みいれてしまいました(汗
気になるのでできるだけ早い更新を期待ッス(w
- 258 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/10/30(木) 16:59
- どうなるのー(;´Д`)
めっちゃ良いところで切りますなぁ。さすが。
相応の更新されてますよ。てかそれ以上です。えぇ。
- 259 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/30(木) 22:18
- 彩紺なんてこれ一作なんだろうけど、最高のコンビに思えてくる。
- 260 名前:みっくす 投稿日:2003/10/30(木) 23:23
- おちすれをあげてはだめでし。
- 261 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/03(月) 02:22
- うぁぁ姐さん…゜・(ノД`)・゜・
加護ちゃんどーするんだろ、辻・後藤はどーなるか…
- 262 名前:まっちゃん 投稿日:2003/11/03(月) 23:14
- ああー・・・きになるぅ!
- 263 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/04(火) 18:52
- だからageては駄目。
気持ちは分かるけどマターリ
- 264 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/05(水) 21:22
-
- 265 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/05(水) 21:22
-
- 266 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/05(水) 21:22
-
- 267 名前:61 羨望 投稿日:2003/11/05(水) 21:23
-
――――ドンッ!!
引き金は思った以上に軽かった。
反動も殆どなかった。
放たれた銃弾は中澤の体に食い込み、目の前にぱあっと血の華が咲く。
霧のように宙を舞う、真っ赤な鮮血。
ほんの数滴、頬に触れる。
けれどもう、自分は何も感じない。
(ハハ……、ホンマにいかれてしもた……)
声には出さず、加護は胸の内で乾いた笑いをこぼした。
面白いわけではない。
悲しいわけでもない。
今の自分には、もう何も残っていない。
帰る場所も、友人も、自分の心さえも消え去ってしまった。
「なんでやろ……、なんでうまくいかへんのやろな?」
自分はただ薄笑いを浮かべるだけ。
床に転げておびえる少女を、ただ眺めるだけ。
「この距離やで? なんで外れんねん」
中澤の身に覆いかぶさり、こちらを見上げるその顔には、自分と同じく数滴の血の跡。
「ホンマ……、間の悪いやっちゃで、自分」
今にも泣き出しそうな彼女を、加護は笑い顔のまま睨みつけた。
「――なんでジャマすんねん、のの」
* * *
- 268 名前:61 羨望 投稿日:2003/11/05(水) 21:24
- 拳銃が見えた瞬間に、辻の体は動いていた。
とっさに中澤に飛びつき、わき腹に右肩をぶつけ、タックルするように押し倒した。
「『なんで』って……、それはこっちのセリフだよ……」
そして今、辻の下には中澤がいる。
彼女は気絶してしまったらしく、目を閉じ、死んだように眠っている。
銃弾はその左肩に突き刺さり、しかし貫通はしていない。
血を吸った空気が鼻先に漂い、辻は小さくむせた。
どきどきとする心臓。
引きつったような呼吸。
ゆっくりと呼吸を整えてから、辻は言葉を発する。
「なんでこんなことすんの……?」
その問いに、加護は答えない。
ただ気味の悪い微笑を浮かべたまま、こちらを見下ろしている。
「ウチらなんも悪いことしてないよね……?」
辻の問いに、加護は答えない。
黒く大きな瞳は三日月に細められ、何も語ってはくれない。
「ねえ、なんで……? わけわかんないよ……」
自然に、目が潤んでくる。
目じりに、じんわりと涙が溜まる。
歪む視界は見づらくて、何度も目を擦る。
- 269 名前:61 羨望 投稿日:2003/11/05(水) 21:25
-
「答えてよあいぼん……」
それでも目を逸らさずに、辻は加護の顔を見つめる。
暗い愉悦に浸ったような、親友の顔。
『あいぼん』はいつも明るくて、
『あいぼん』はいつも笑ってて、
『あいぼん』といると楽しくて、
『あいぼん』は一番の親友。
そして、一番身近にいる、自分の目標だった。
なのに……、
「なんで? は? 分からんの? やっぱアホやなー自分」
分からない。
『どうして撃ったの?』とか、『何があったの?』とか、
それも勿論分からないけど、
それ以上に、その笑みの意味が、分からない。
* * *
- 270 名前:61 羨望 投稿日:2003/11/05(水) 21:25
- 「ソイツもののも後藤真希の仲間。 それで充分やん」
言い放った言葉は、あるいは加護の本心ではないのかもしれない。
裏切られた気持ち。
安倍への恩義。
それも確かに、一つの理由。
けれどそれ以外の何かが自分の中にあるのを、ぼんやりと感じる。
(なんやねんこのモヤモヤは……)
その歪みは少しずつ大きくなり、麻痺している自分の心をぐらぐらと揺する。
少しずつ、壁が剥げ落ちていく。
それが、とても気持ちの悪いことに思えて仕方がなかった。
「なんで? ごっちんなんか悪いことしたの? なんもしてないでしょ? だったら――」
「ハハ、なんもしてないことあるかい」
辻の言葉を遮って、加護は疲れた声で吐き捨てる。
――どうしてだろう?
その顔をまともに見られない。
一昔前みたいに、泣きべそをかいている辻の顔。
- 271 名前:61 羨望 投稿日:2003/11/05(水) 21:26
- 「あの人は安倍さんを殺すゆうた。 ウチを助けてくれた安倍さんをやで?」
言葉を発しながら、頭は別のことを考える。
目の前にある、辻の顔は、
銃口の先に見える、辻の顔は、
恐怖と困惑に歪み、涙でぐちゃぐちゃに汚れ、それでも――
(なんでやねん……、なんでそんな顔すんねん……)
それでもこの自分を――『あいぼん』を信じている。
加護にはそう見えた。
胸が締め付けられる。
呼吸が止まる。
(なんでやねん自分……、壊れたんとちゃうかった?)
自らに、何度も問いかける。
次第に焦点が合わなくなる。
顔の輪郭がぼやけてくる。
壊れているなら、何を見ても平気なはずだ。
壊れているなら、親友だってきっと殺せる。
それなのに……、どうして自分は見られないのだろう。
どうして、自分は震えているのだろう。
- 272 名前:61 羨望 投稿日:2003/11/05(水) 21:26
-
「違う、それは違うよ……。 ごっちんは……」
それは、子猫の鳴き声。
助けを求める、子猫の声。
その音を耳が拾い、振動を鼓膜が感じ取る。
(ああ……、なんや……、そういうことやったんか……)
――その瞬間、胸の奥に根付いていたモヤモヤが消えた。
ゆっくりと思考は覚醒していく。
ぼやけた輪郭は、はっきりと辻の形を象る。
「助けるためには仕方なかった……、か?」
あとはただ、その思考を受け入れるだけ。
それは恐らく、今の自分には造作もないことだ。
「そんなんウチも考えたわ。 ……でもなぁ、ののは知らんからそんな呑気なこと言えるんよ」
それは、今の自分にひとつだけ残っていた感情。
いつも感じていながら、けれど心の内に留めていた感情。
「ののは知らんねん……。 “殺されるかも知れへんゆう恐怖”ゆうのをな……」
言いたくて、言えなくて、ずっと胸の内に閉じ込めていた言葉。
――ようやく、それに気付いた。
(ああ……、ウチは……、ののが羨ましかったんやな……)
【27番 中澤裕子 所持品 Beretta M12 左肩負傷、失神】
- 273 名前:62 別れ 投稿日:2003/11/05(水) 21:28
- 「……ののには分かれへんよ」
加護の様子は、はっきりと分かる形で変わっていた。
さっきまではへらへらと笑っていたのに、今はそれが消えている。
その双眸は中澤を撃つ前までの虚ろなものではなく、はっきりと何かの意思を宿していた。
「あいぼん……?」
小さな声で、ぽつりと呟く。
親友の顔を覗き見る。
それもまた、自分の知らない、親友の顔。
「ののには……、分かれへんねん……」
分からない。
もう、何もかもが、分からない。
でも、それはただ、自分が分かろうとしていないだけなのかもしれない。
自分がただ、答えを待っているだけだからなのかもしれない。
「いっつも誰かに守ってもろてるののには……分かれへん」
笑ったり、沈んだり、怒ったり、ころころ変わる『あいぼん』の顔。
どうして、そんな顔が出来るんだろう。
* * *
- 274 名前:62 別れ 投稿日:2003/11/05(水) 21:29
-
「ののはずっこいねん……。 なんでののだけひいきやねん……」
お荷物。
劣等生。
それがつい最近までの辻のキャラクター。
聞こえは悪くても、それは周りを優しくさせる。
「ウチかて甘えたかったわ……、でも周りがそうさせてくれんかった」
自分は辻が羨ましかったんだ。
誰彼なく甘えられて、
そして、いつの間にか自分を追い越していた『のの』を、
何よりもただ羨んでいたんだ。
「この島でもそうや。 ののは中澤さんとごっちんに守ってもろて。 ウチは独りぼっちや……」
『のの』は、それに気付いていない。
多分、ずっと気付かない。
彼女の親友の『あいぼん』が、こんな暗い感情を持っているなんて、きっと夢にも思わない。
「だ、だったらこれから一緒に……」
だから、そんな優しい言葉は、自分にとってもう苦しみでしかない。
何故なら自分は気付いてしまった。
自分がどれだけ歪んだ人間か、思い出してしまった。
- 275 名前:62 別れ 投稿日:2003/11/05(水) 21:30
-
「遅いねん」
そう、もう遅い。
「もう遅いねん。 なんもかもな」
動いてしまった時計の針は、もう二度と戻らない。
「この銃、ウチのとちゃうのよ。 ダニエルのや」
だから、終わりにする。
鬱屈した捻じ曲がった自分にもバイバイ。
人懐こく甘えんぼで優しい、大好きな親友にもバイバイ。
「この――血もな」
そのための、お別れ。
「へっ…………?」
『のの』の目が、驚きとともに見開かれる。
「じゃ、じゃあ……」
『のの』の顔が、一瞬で青ざめる。
その顔が、悲しくて、
裏切られた、というその表情が悲しくて、
「ふっ、あははっ、あはっ……」
気付いたときには、声に出して笑っていた。
- 276 名前:62 別れ 投稿日:2003/11/05(水) 21:30
-
「おう、おう、殺したったわ。 殺されそうになったから持っとったナイフでぐちゃぐちゃにしたった、ハハ」
とことんまで、『のの』を裏切ってやりたい。
『のの』の中の『あいぼん』の幻想を、全てぶち壊してやりたい。
「はは、だからオマエを殺すのんも別に何でもあらへん」
それは多分、愉悦でもなく、嫉妬でもない。
ただ、そうしなければ今の自分を認めることが出来ないだけ。
「ん?なんや。 けったいな顔しくさって。 せやな、アンタ今まで裏切られたことないもんな?」
泣いている辻の顔。
恨めしげに、こちらを睨む。
胸がちくりと痛むのは、多分気のせいではないのだろう。
「ま、せいぜいそのオバハンとあの世で仲良くな、ハハ……」
力なく笑いながら、加護はソーコムを握る手を意識した。
- 277 名前:62 別れ 投稿日:2003/11/05(水) 21:31
- あと、ほんの少し人差し指を動かすだけで、自分は解放される。
『あいぼん』という呪縛から、解放される。
そう、引き金を引くだけ。
引き金を引いて、銃弾を発射するだけ。
その泣き顔に、冷たい雨を降らせるだけ。
その亡骸に、暖かい血を降らせるだけ。
――なのに、
「言いたいことは……それだけ?」
なのに、やっぱり上手くいかない。
やっぱり自分は、心底間が悪い。
- 278 名前:62 別れ 投稿日:2003/11/05(水) 21:32
- 「なんや立ち聞きですかぁ……? 人が悪いなぁ」
ホールの奥に見える通路へ向けて、声をかける。
照明の灯っていない暗がりから、スッと人影は歩み出た。
「ま、ええですわ。 どのみちアンタも殺すつもりやったし」
その手には拳銃。
ゆっくりと持ち上げ、こちらをポイントする。
「っちゅーかアンタが一番の標的やで? なあ、後藤さん?」
その問いかけに、後藤はふんと鼻を鳴らして答えただけだった。
【11番 加護亜依 所持品 H&K MK23(残弾10発)】
【14番 後藤真希 所持品 Colt M1911 A1】
- 279 名前:63 学園の七不思議(解決編) 投稿日:2003/11/05(水) 21:33
-
(まさかオバケ……なわけないよね)
ガシャンガシャンと音を立てて近づいてくる甲冑。
耳を澄ますと「コフーッ、コフーッ」と仮面の奥の息遣いが聞こえてくる。
恐らく、先程見つけた足跡の主の内一人が、その中にはいるはずだ。
(……どうする?)
甲冑を睨みつけながら、保田は考える。
ポケットの中に押し込まれたライターと煙草。
そしてリュックに入っている酒のボトル。
それが、保田に支給された物品だった。
この所持品だけではアレを撃退するのはまず不可能。
いや、やり方によっては可能かもしれないが、今はまだそれをするべきではない。
まだ、この馬鹿げたゲームは始まったばかり。
一度きりの戦法をここで使うべきではない。
(……逃げるか?)
甲冑の挙動に注意しながら、ついさっき上がって来た階段のほうをちらりと見やる。
甲冑との距離はまだ十数メートルある。
今の段階では逃げることも可能だろう。
(でも……、足跡は二人分あった)
そう、逃げたとして、もしそこにもう一人が待ち構えていたら……
――いや、むしろ待ち構えている可能性のほうが高い。
保田は向こうの戦略を一瞬で想定する。
(まず、甲冑で威嚇して逃げさせる……。 そして待ち構えていたもう一人が不意打ち……)
なるほど、悪くない作戦だ、と保田は素直に思う。
- 280 名前:63 学園の七不思議(解決編) 投稿日:2003/11/05(水) 21:34
- (――でも、相手が悪かったね)
すでに自分は腹を決めている。
決意した人間は、こんなことで動じたりはしない。
(まあ、さすがにちょっとはびっくりしたけどさ)
たとえ甲冑に身を包んでいても、人間相手ならいくらでも対処の仕様はある。
隙を見つけて、叩けばいい。
隙がなければ、作ればいい。
相手の思惑を外し、掻き回し、揺さぶればきっとボロを出す。
(……よし、まずはステップワン)
甲冑を真正面に捉え、保田は口を開いた。
「誰かは知らないけどさー、そんなんじゃちっとも驚かないよー」
声を張って、未だ遠くにある甲冑に呼びかける。
強気なその発言に、予想通り甲冑の足は止まった。
恐らく、こちらに強力な武器があるのかと訝しんでいる、といったところだろう。
甲冑は上半身をこちらへ乗り出すようにして、覗くようにこちらを眺めている。
その、えらく人間臭い動作に保田は苦笑した。
「あらら、止まっちゃった。 びびってんの?」
牽制と挑発を同時に行う。
これで動くようなら後退したほうがいい。
しかし、もし動かないのならば――
(……ステップツー!)
「そっちがこないならこっちから行くよ!?」
言い終わらない内に、保田は甲冑目掛けて駆け出した。
- 281 名前:63 学園の七不思議(解決編) 投稿日:2003/11/05(水) 21:34
- 狼狽する甲冑の横をすり抜けてそのまま逃げる――それが彼女の作戦だった。
あの甲冑、確かに防御効果は高いのだろう。
しかし、その分機敏な動作が出来ない。
もし中にいる人間が瞬間的に判断して行動出来る人間なら、突撃は危険だ。
(けれど今――中の奴は完全にキョドってる)
保田はそう判断する。
ならば反撃があったとしてせめて一撃。
つまり一撃さえ躱すことが出来れば自分は逃げられる。
中々悪くない賭けだった。
みるみる大きくなっていく甲冑。
保田はさらにスピードを上げた。
(――っ、マズっ!)
と、その瞬間に後悔する。
甲冑が長剣を翻してこちらに飛び出してきたのだ。
- 282 名前:63 学園の七不思議(解決編) 投稿日:2003/11/05(水) 21:35
- けれど、そこで勢いを殺すのは自滅行為。
相手が動いている分タイミングを取り難いが、行うことに変わりはない。
(一撃だけでいい――必ず避ける!)
そのまま踏み込む足に力を込め、保田の体は最加速する。
甲冑の右手に握られた長剣の動きにのみ、意識を集中させる。
(いつ……動く?)
もうすでに甲冑との距離は4・5メートル程度しかない。
上下に揺れる長剣は木造の床を所々引っかきながらこちらへ迫る。
それを支える腕に、力がこもるのが見えた気がした。
(――今か!!)
長剣は横薙ぎに大きく後方へ振られ――
「やっすださぁぁぁぁぁん!!」
そのまま甲冑の手からすっぽ抜けた。
- 283 名前:63 学園の七不思議(解決編) 投稿日:2003/11/05(水) 21:36
- 「――へっ?」
後方へ、つまりこちらから見て奥の方へすっ飛んでいく長剣。
加えて甲冑の上げた間抜けた声。
緊張の糸が切れ、保田の膝はかくんと折れ曲がる。
スプリントの勢いはそのままに、体勢だけは前かがみ。
前方には、何故か両腕を大きく広げている甲冑。
(あっ……、これはちょっとヤバイかも……)
――――ごっち〜ん
保田はその胸板に、見事な頭突きをお見舞いしていた。
- 284 名前:63 学園の七不思議(解決編) 投稿日:2003/11/05(水) 21:37
-
きらきらと星が、くるくると回る。
「ぬおぉぉぉぉ…………」
言うまでもなく、鋼鉄製の胸板は保田の頭より固い。
保田は両手で頭頂部を押さえながら、その場にしゃがみ込む。
「だ、大丈夫ですか? 保田さん?」
甲冑が慌てて駆け寄ってきた。
がしゃんがしゃんと鳴り響く騒音。
(だあぁぁぁぁっっ! うるせぇぇぇぇぇぇっっっ!!)
その音を聞く度に、また自らの心臓の打つ鼓動の度に、保田の頭はずきずきと痛んだ。
「ふぐぬぅぅぅ…………、だっ……、大丈夫なわけっ、ないだろ……!」
頭を押さえ、思いっきり気合の入ったガンを飛ばす。
甲冑はつるりとしたマスクをがしゃりと上げ、顔を晒す。
「ごめんなさ〜い保田さ〜ん」
その、のほほんとした表情に、保田は大きく溜息をついた。
(ああ……、やっぱりコイツだよ……)
やはり気分というものは人間の体にかなりの影響を及ぼすわけで、
何となく、頭痛が倍加したように感じた。
- 285 名前:63 学園の七不思議(解決編) 投稿日:2003/11/05(水) 21:38
-
「何でまたアンタそんなもん着てんのさ……」
「えっ? これ? かっけーっしょ?」
「かっけーってアンタ……。 アイタタタ……」
「アイタタ、って保田さん……。 おばさん臭いですよ?」
「うっさい! ほっとけ!」
怒鳴ると、甲冑は申し訳なさそうに床に膝をつく。
ごとり、と木を叩く鋼鉄。
お互い床にぺたりと座った状態で、見合う。
「引きました? 痛み」
「うー、まだ痛いけど取り敢えず平気」
少しずつだけれど痛みが引いてきたのを確認し、保田は頭から手を下ろす。
(しっかしまあ、何で気付かなかったのかね、アタシは)
仰々しい兜の中の、朗らかな顔。
こんなモノ、好き好んできるような奴なんざ、他にいそうにないだろうに。
- 286 名前:63 学園の七不思議(解決編) 投稿日:2003/11/05(水) 21:39
- 保田は両手を後方に突き、ぐいと伸びをするような姿勢をとる。
そのまま、あーあと呟き、苦笑した。
色々と策を巡らしていた自分が馬鹿らしい。
でも、それ以上に、無策にこんなものを着込んでいたこの子が、堪らなく可愛かった。
「まあ、何にせよ。 アンタも無事で良かったわよ、吉澤」
【39番 保田圭 所持品 Zippoライター、煙草、酒】
【40番 吉澤ひとみ 所持品 長剣、甲冑】
- 287 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:40
-
「言っとくけどさ、アタシは裕ちゃんみたいに優しくはないよ?」
吐き捨てるように、後藤のセリフ。
その眼光は苛立ちに満ち、怯むことなく加護を睨みつける。
「裕ちゃんを、辻を傷付けたアンタを許さない」
明確な意思を、言葉にすることでさらに強くする。
そして、自分のすべきことを確認する。
これは、自分の責任なのだから。
「許さない? は? 許さなかったらどうするんですか?」
にやにやと笑いながら加護は言う。
その右手には拳銃。
銃口の先には辻と中澤。
(まったく……、どうしてこうなっちゃうかな)
こんなことになるならもっと早く出ていれば良かった、と思う。
実際、銃声が聞こえた頃にはすでに脱衣所へ上がっていた。
素早く服を着て、柱の陰に隠れ、辻と加護の会話をずっと聞いていた。
けれど恨まれている自分が姿を見せてもどうにもならない。
そう思って出て行かなかった。
(けど…………)
その結果がこれだ。
親友のはずの辻の言葉も通じない。
それどころか平気で辻を貶める言葉を吐いた。
――だから、
「こうする」
――――ドンッッッ!!!
- 288 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:41
- 放たれた銃弾は加護の顔ギリギリの所を通り抜け、玄関の扉に穴を穿つ。
もし瞬間的に加護が横に飛んでいなければ、恐らく額に命中していたはずだ。
その判断、挙動が少しでも遅かったら、恐らく左耳くらいは吹き飛んでいたかもしれない。
「……ハハ、後藤さん……本気ですね?」
震えるように、加護は笑う。
そう、確実に殺すつもりで撃った。
もう、それしかないから。
そうすることでしか、加護を止められないから。
* * *
- 289 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:42
-
「アンタは……本気じゃないの?」
蔑むように笑いながら、後藤は再度片手で狙いを定める。
「ハハ、言うやんか、上等や」
見得を切り、加護は両手で銃を持ってこちらへ向ける。
両者から同時に、カキリと撃鉄を起こす音。
両者の拳銃はブローバック式だから、無論これは威嚇でしかない。
ただ、すでにそれは威嚇の意味を成さなかった。
――――ドドンッッッ!!!!
重なるように、二つの銃声。
銃弾はそれぞれ、右腿と左肘を射抜く。
銃弾は肉を突き破り骨を削ぎ、それでも衝突の威力は収まらない。
後藤は膝をがくりと落とし、加護は左半身を大きくのけぞらせた。
「うあっ……」
「……っく」
重なる呻き。
後藤も加護も、眉間に皺を寄せ、互いを睨む。
- 290 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:42
- 「……ハハッ。 アンタ、どこ狙ってんのよ。 ここは足でしょ?」
よろよろと腰を上げながら、後藤は負傷した右腿を顎で示す。
銃口と視線は外さない。
「ケッ……、アホか。 そっちこそよく狙えや……。 これは腕やで?」
肩で息をしながら、加護は垂れ下がった左腕を顎で示す。
銃口と視線は外さない。
「でも、これで左手は使えない」
「へっ、そっちも満足に動かれへんやろ?」
互いにじりじりと近づきながら、言葉を交わす。
「アタシの勝ちだね」
「ウチの勝ちやな」
顔を見合わせ、へへ、と笑う。
- 291 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:43
- そのまま、加護は後藤目掛けて飛び出した。
――――ドンッッ!!
走りながら、一発発砲。
銃弾は後藤の右耳の肉を千切り、吹き飛ばす。
「――――くっ……、あああぁぁっ!!」
――――ドンッ、ドンッッ!!
衝撃と痛みに後藤の体が流れる。
狙いの定まらない二発の銃弾は、一つは外れ、しかしもう一つは加護の脇腹を突き抜けた。
けれど、加護は止まらない。
「あああああぁぁぁああぁぁぁぁああああっっっっ!!!!」
目を見開き、壊れたように叫びながら、後藤に突っ込む。
――――ドンッ、ドンッ、ドンッッッ!!!
滅茶苦茶に揺れている拳銃にまともな狙いなど付けられるわけもなく、
三発の銃弾はどれも後藤の体に当たることはない。
けれど、それで充分だった。
至近距離での発砲は後藤を怯ませ、自然と腰を引かせる。
体勢を崩した後藤目掛けて、加護は体当たりをかました。
- 292 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:44
- 右肩を使い腹を押し、銃底を後藤の右腿に思い切り振り下ろす。
「あぐっ…………!」
後藤は呻きとともにバランスを崩し、尻餅をつく。
加護はすかさずのしかかる。
ダニエルのときと同じように、馬乗り。
腹の上に尻を置き、銃口は額にポイント。
「チェックメイトやで、後藤さん」
単純な体力で言えば、後藤のほうが加護よりも数段上だった。
けれど、一つ勝っているもの。
それは、あまり自慢できるものではないが、体重だ。
ダニエルのような大柄な米国人ならともかく、
一度馬乗りになりさえすればそう簡単には動けなくなる。
「ホラ、銃捨ててや」
自分の下でもがく後藤の頬に、銃口を押し付ける。
ぐに、とその顔が歪んだ。
横目で、ぎろりと睨まれる。
「なんや、死にたいんかボケ。 はよせえや」
ぐいぐい、と何度も頬を押すと、後藤は目を逸らして銃を捨てた。
ごつごつ、と音を立てて転がっていく拳銃。
それを見やり、加護は少し満足げに微笑む。
- 293 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:45
-
「なんや、えらい素直やね」
非力な加護に大型のソーコムはやはり扱いにくい。
その重さは反動を吸収してくれるけれど、その分狙いが付け難くなる。
左手が使えなくなった時点で、こうしなければ勝てないことは明白だった。
かなり、分の悪い賭け。
けれど自分は、それに勝った。
血をダラダラと流し続けるわき腹は痛いけれど、こんなもの、別に大したことじゃない。
「それじゃ、お別れですわ」
きりり、と引き金を絞る音は、静かなロッジではやけに大きく響いた。
* * *
- 294 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:46
- 後藤の右手に、もう拳銃は握られていない。
けれど、まだ諦めたわけではなかった。
頬に押し当たる冷たい感触、そこから伝わる、僅かな振動。
確かに、絶体絶命のピンチかもしれない。
けれど、まだ手はある。
(なんとか……余所見でもしてくれたらね……)
自分は、その時が来るのを待っている。
多分それは、すぐにでもやってくるはずだ。
* * *
- 295 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:47
-
「――待って!!」
その声に、人差し指の動きはピタリと止まった。
「なんで? どうして? ごっちん殺すの? なんで?」
自分の背後から聞こえてくる、親友だった彼女の声。
「……さっきゆうたやん。 なんで分からんの」
振り返らずに、後藤を注視したまま、加護は答える。
「わかんないよ……、わかんないもん……」
どうしてだろう。
「コイツが安倍さんの敵やからゆうたやろ? それが答えや」
何故か、指が動かない。
「そんなの……ウソだ……」
体が、震える。
* * *
- 296 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:47
-
「ウソだよ……絶対」
辻は、加護の背中をじっと見つめる。
「は? 嘘? なんで嘘やって思うん?」
強がって、意地っ張りで、本当のことを言えない『あいぼん』の背中。
「辻、ずっと考えてた。 何であいぼんがごっちん殺すのかってことじゃなくって、もっと別のこと」
それはとても小さくて、きっと何かにおびえている。
「あいぼん、さっき会ってからずっと、変な顔してた」
嘘はきっと、守るためにつく。
「無理に笑ったり、怒ったり、なんか別の人みたいで怖かった」
怖がってる自分を、逃げ出したい自分を、守るためにつく。
「……それがウチの本性や。 オマエは騙されとっ――」
「でも、それは違うの」
だから、それも嘘。
- 297 名前:64 仮面 投稿日:2003/11/05(水) 21:48
-
「あいぼんが変な顔しててもさ、辻にはずっと、同じ顔が見えてたんだよ」
だから、分からなかったんだ。
同じ顔してるのにさ。
なんで笑ったり怒ったり、別な風に見えてたのかが、分からなかったんだ。
「ねえ、なんで泣いてるの? あいぼん……」
【11番 加護亜依 左腕・腹部負傷】
【14番 後藤真希 右足・右耳負傷】
【25番 辻希美 所持品 防災セット】
- 298 名前:65 銃弾 投稿日:2003/11/05(水) 21:50
-
「怖かったんだよね……?」
まるで、心臓を鷲掴みにされたような、
体がばらばらになってしまうような、痛み。
「寂しかったんだよね……?」
泣いている?
この自分が、泣いている?
この、壊れきった自分が、血に汚れた自分が、泣いている?
「あいぼんは『もう遅い』って言ったけど……」
そんなことはない。
そんなことは、有り得ない。
「遅くないよ……、まだ、間に合うよ……」
そんなもの、全部まやかし。
自分にはもう、何も残っていないのだから。
……なのに、
なんで、震えているんだろう。
- 299 名前:65 銃弾 投稿日:2003/11/05(水) 21:50
-
「だまれボケ……、オマエに……、何が分かるゆうんや……」
そんなもの、信じたくない。
怖くなんてない。
寂しくなんてない。
「分かるよ……、ずっと一緒だったもん……」
なのにどうして、そんな言葉で惑わすの?
今更そんなこと言われて、どうしたらいいって言うの?
* * *
- 300 名前:65 銃弾 投稿日:2003/11/05(水) 21:52
-
「ねえ、あいぼん……」
「うっさいうっさいうっさいっっ!!」
加護は子供のように喚き、髪を振り乱す。
「甘っちょろいことぬかすなボケェッ!! クソッ!クソッ!オマエから殺したらぁ!!」
そして拳銃を横に振り、辻へと向ける。
――その瞬間を、後藤は待っていた。
加護の人差し指が引き金を引くより速く、
空手になった右手で加護の左肘を思いっきり掴む。
「うあっっ!!」
――――ドンッ!!
痛みに加護は悲鳴をあげ、その上体は大きく揺らぐ。
間を置かず、後藤は左手で加護の脇腹を打つ。
「――――ぐっ!!」
完全にぐらついた加護を、腹筋の要領で弾き飛ばした。
すぐさま横に転がり、投げ捨てたガバメントに飛びつく。
片膝を立てて体勢を整え、うずくまっている加護に寸分違わず狙いを定めた。
(辻は…………?)
ちらりと目を動かし、加護の奥に見える辻の姿を確認。
どうやら銃弾は外れたらしい。
ますます不安げな表情になりながらも、無傷でそこに立っている。
- 301 名前:65 銃弾 投稿日:2003/11/05(水) 21:53
-
(よかった……)
後藤は少しだけ安堵し、笑う。
けれどすぐにまた、真剣な顔を作った。
――多分、もう無理だ。
これ以上説得を続けても、辻にも加護にも苦痛でしかない。
ほんの少しだけ、期待していた。
辻なら、まだ、加護を助けてあげられるんじゃないかって。
――でも、もう限界。
加護が辻を殺すくらいなら。
そんな悪夢を見させるくらいなら。
どれだけ恨まれてもいい。
自分が、加護を殺そう。
これは、自分の蒔いた種なのだから。
- 302 名前:65 銃弾 投稿日:2003/11/05(水) 21:53
-
(加護……、辻……、ごめん)
よろよろと起き上がろうとする加護を真正面に捉え、
引き金に掛かる指に、ゆっくりと力を込める。
――けれど、
「加護ぉぉぉおおおおぉぉぉおおっっ!!!!」
それは、怒声によって止められた。
* * *
- 303 名前:65 銃弾 投稿日:2003/11/05(水) 21:54
-
――憤怒、憎悪、骨を砕く痛み。
それは自分が感じているもの。
そんなものはどうだっていい。
ただ自分が我慢すればいいだけの話なのだから。
――悲哀、悲嘆、心を裂く痛み。
それは彼女が感じているもの。
だから自分にはどうにも出来ない。
だから、自分はもっと辛くなる。
貫通しなかった銃弾は左肩に残り、
砕かれた骨は大量の熱と痛みを以って自らを苛む。
加護に、殺させるわけにはいかない。
後藤にも、殺させるわけにはいかない。
中澤は、拾い上げたサブマシンガンを痛みに耐えながら両手で構える。
銃口の先には、ふらふらとこちらへ拳銃を向ける、加護の姿。
- 304 名前:65 銃弾 投稿日:2003/11/05(水) 21:55
-
――――とととととっっ……
中澤は迷わず引き金を引く。
それが自分の務めだから。
――――どんどんどんどんっ……
加護もまた、迷わず連射する。
結局最後まで、彼女のことを分かってあげられなかった。
辻は大人になり、そして加護もまた大人になった。
成長することには痛みを伴う、と誰かは言う。
ならば問う。
ここまで傷付いて進んだ先に、一体何がある?
経験は人を強くする、と誰かは言う。
ならば問う。
全ての経験が、本当に人を強くするのか?
- 305 名前:65 銃弾 投稿日:2003/11/05(水) 21:56
-
答えはすでに出ているかもしれないし、そうでないかもしれない。
たとえ先が見えなくても、前に進む。
経験を乗り越えることで、人は強くなる。
中澤は今まで、そう思っていた。
けれどこの経験は彼女たちにとって、また自分にとってもあまりに酷なものだった。
それは、嘆きの銃弾。
そのどれもが肉に食い込み、あるいは貫き、一斉に血を噴き出させる。
* * *
- 306 名前:65 銃弾 投稿日:2003/11/05(水) 21:57
-
辻は思う。
どうしてこんなことになったのだろうかと。
辻は思う。
どうしてみんな仲良く出来ないのかと。
別に、中澤や後藤を非難したいわけじゃない。
二人の気持ちは、充分分かる。
けれど、自分は二人ほど大人じゃない。
仕方ないと割り切れるほど、大人じゃない。
結局、自分は加護を助けてあげられなかった。
『あいぼん』の心の闇に、気付いてあげられなかった。
親友の、明るく振舞う仮面の下にあった、人懐こく臆病な、もうひとつの顔。
『あいぼん』は自分よりずっと大人だから。
『あいぼん』は何でも出きるから。
こんなことになるまで、気付けなかった。
自分はずっと、気付かない振りをしていた。
* * *
- 307 名前:65 銃弾 投稿日:2003/11/05(水) 21:58
- 銃声が止んで、一番最初に動いたのは後藤だった。
床を蹴る度に、床に着く度に、血を噴き出す右足の痛みを無視してホールの中央へ駆け出す。
(裕ちゃんの馬鹿! 加護の馬鹿!)
自分に任せていれば、きっとこんなことにはならなかったのに。
死ぬのは加護と自分だけで済んだはずなのに。
(なんで……? なんでこんなことになっちゃうの?)
絶対に起こしたくなかった、最悪の事態。
それが今、現実となってそこにある。
ホールの中央、倒れている小さな体。
穴だらけになったその体からは止め処なく血が溢れ出している。
後藤はその横に座り、その体を抱え上げた。
「なんで……こんなことすんのよ……、つじぃ……」
溢れ出す涙は、止めようがなかった。
【25番 辻希美 重傷】
- 308 名前:abook 投稿日:2003/11/05(水) 22:00
- 以上、更新でした。
>>254
小湊とは、、、中々の通ですなぁ。
太シスの曲は良い曲が多いな、と思う今日この頃です。
>あのベーシスト……
出るかもです。(まだ予定は未定ですけど、、、
>>255◆rO98BbgYさん
>どうなるんだぁー?!
こうなりましたぁー!?
>>257
>できるだけ早い更新……
連休の内にageたかったんすけどねぇ、、、。
結局一週間以上空いてしまいました、、、_| ̄|○<ゴメソ
>>258
「更新の量だけなら誰にも負けねえ!」ってな気概で書いております。
>めっちゃいいところで……
本当なら引っ張るつもりは中田ですけど(大嘘つき
一回やってみたかったもので、、、つい。(でも今回も中途半端に引っ張ってしまう罠
- 309 名前:abook 投稿日:2003/11/05(水) 22:02
- >>259
最高ですか。 ヨカタ。
ヽ川o・д・)ノ<あやこん萌え一人ゲトォォォォッ!!
>>261
次回でつじかごまちゅー編、一応決着。
、、、つくかなぁ?
>>262
川o・-・)ノシ<気にするな。(ヲイ
>>263
あぁ、、、なんて良い響きの言葉だろう、、、。
( ^▽^)<マターリ
川;・-・)<……
>>みっくすさん
sage ochi進行ご協力感謝。
- 310 名前:abook 投稿日:2003/11/05(水) 22:03
- >>読者様各位へ
自分としては(あくまでこのスレ内の話ですが)期待ageもアリだと思います。
実際「うわ、早めにあげな」と思いましたし。
駄馬に振るう鞭みたいなもんだな、と解釈いたしました。
ですが内容が内容ですし、出来ることなら底辺に埋めててやってください。
頻繁に上がったり落ちたりすると他スレの皆様に迷惑ですし。
って言うかコレ普通は>>1に書いとくべきことですよねぇ、、、。
まだまだ修練が足りませんです、ハイ。
というわけで、通常営業中はきっちりsage ochi進行でお願いします。
二週間以上音沙汰無かったら晒しageも可。
ウワァ、、、カイチャッタヨ、、、>○| ̄|_
- 311 名前:abook 投稿日:2003/11/05(水) 22:04
- 流し忘れてしまった、、、鬱
- 312 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/06(木) 01:18
- あまりにも大きな犠牲・・・
- 313 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/07(金) 21:15
- 面白すぎます!!!最高です!!!
ちょー期待して待ってます!!!
- 314 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/08(土) 01:25
- おいおい!辻どうなっちゃうんだよ〜(泣
次の更新も期待大。
- 315 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/08(土) 09:43
- な、泣けるっ(つД`)
スピード感ってのが出てますわ。凄い。
- 316 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/08(土) 15:08
- >>314 どうなったか常識の範囲で考えればわかることなので無粋なレスはしないほうがいいよ。
- 317 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/08(土) 23:31
- 加護はこのあとどんな行動に出るのか…
すごい面白いです。
無粋なレスというのは>>316のことだと思うよ。
- 318 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/12(水) 23:32
-
- 319 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/13(木) 00:37
- 落としましょう。
作者殿、がんがれ。
- 320 名前:abook 投稿日:2003/11/15(土) 11:28
-
- 321 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/15(土) 11:29
-
- 322 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/15(土) 11:29
-
- 323 名前:66 のの 投稿日:2003/11/15(土) 11:30
- 辻の体は、目の前で踊る。
慌てて引き金を戻してもすでに遅い。
撃ち出された無数の銃弾は吸い込まれるようにその背中に突き刺さった。
小さな体はぐらり、と陽炎のように揺れ、ゆっくりと床に崩れ落ちる。
それを見ても――いや、見てしまったから、中澤は動けない。
力をなくした両腕は重みに耐えられず、ぶらりと垂れ下がる。
右手から離れた小銃はごとん、と床に落ちる。
「ぁ……、ぁぁ……」
呻きは意味をなさず、ただ漏れるだけ。
ちたん、ちたん、と蛇口の水のように漏れ出ていく。
加護の放った銃弾は、自分には届かなかった。
けれどその代わり、大きな穴が空いてしまった。
胸にぽっかりと空いた、大きな穴。
支えを失った中澤の体はずるりとその場に倒れ伏す。
(辻……、なんで……アンタが……)
中澤の視線は、彼女と加護の丁度中間で倒れている辻に向けられていた。
* * *
- 324 名前:66 のの 投稿日:2003/11/15(土) 11:31
- 「つじ……、ねえ、大丈夫……? ねえ……、生きてる……?」
後藤は辻の体を抱え、呼びかける。
小さなその体からは止め処なく血が流れ続け、体温は徐々に失われていく。
傷は、見えるだけでも胸に二発、腹部に二発。
さらに背に回した手から伝わる、ぐっしょりとした血の感触。
「だいじょぶ……まだ……生きてるよ……。これくらい……平気だよ……」
辻はぼんやりと目を開け、小さく笑った。
こほ、と小さく咳き込むと、喉の奥から真っ赤な血が溢れる。
言葉とは裏腹に、どう考えても助かるような状態ではなかった。
「なんで……こんな……馬鹿なこと……」
こんなはずじゃなかった。
「アタシも……裕ちゃんも……、ただ……ただアンタを……」
自分も中澤も、ただ辻を守りたかっただけなのに。
- 325 名前:66 のの 投稿日:2003/11/15(土) 11:32
- 「ごめんね……勝手なことして……」
そう言って、辻は悲しく微笑む。
「なに……、言ってんのよ……、ばか……
アンタが謝る必要なんて……どこにもないじゃない……」
引きつるような声で、後藤は言う。
――そう。
――彼女は。
――辻希美は。
ここにいる誰よりも正しく、誰よりも勇敢な行動をとった。
加護のように狂気に押しつぶされるでもなく、
自分のように与えられた環境を受け入れるでもなく、
ただひたすらに、自分の意思を貫き通した。
それは単に、辻が自分らより子供だったから成せたことなのかもしれない。
けれどそれ故にその想いは純粋で、何よりも美しい。
後藤は、そう思う。
- 326 名前:66 のの 投稿日:2003/11/15(土) 11:33
-
「ふたりは……だいじょうぶ……?」
辻の言葉に後藤は顔を上げ、中澤と加護の姿を確認する。
中澤は床にへたり込んでいた。
左肩の傷以外に新しい傷はない。
加護は呆然と立ち尽くし、こちらを見ている。
加護にもまた、左腕と脇腹以外の傷はない。
「だいじょぶ……、ふたりとも……」
辻の体に撃ち込まれた銃弾はその殆どがその体内に留まり、
貫通したものもその方向を変え二人に届くことはなかった。
「アンタが……守ったんだよ……?」
辻が自らの命を削って起こした、小さな奇跡。
願いが叶ったことを知り、辻はへへ、と満足げに笑う。
- 327 名前:66 のの 投稿日:2003/11/15(土) 11:34
-
「ごっちん……。 ののね……、やっと分かったんだ……」
子供の化粧のように、大きく唇をはみ出したルージュ。
真っ赤に染まった小さな口は、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「ののはさ……、甘えてたんだよ……。 ごっちんにも……なかざぁさんにも……あいぼんにも……」
喉はごろごろと鳴り、流れ出る鮮血は顎を伝い首元に落ちる。
それでも辻はへへ、と笑いながら言葉を続ける。
「あいぼん、ごめんね……。 気付いて……あげれなくて……」
後藤は、ただ黙ってそれを聞いている。
うん、うん、と何度も頷きながら、それを聞いている。
「ホントは……あいぼんが……、けふっ、一番辛かったんだよね……」
辻はその死を受け入れた。
そんな辻を前にして後藤に出来るのは、ただ彼女の想いを受け取ることだけ。
「ののは……何も出来ないから……こんなことしか……出来ないから……」
だから、後藤は聞いている。
ただ黙って聞いている。
- 328 名前:66 のの 投稿日:2003/11/15(土) 11:34
-
「だから……これで……ゆるし――ッ!」
ごほっ、と一際強く辻が咳き込む。
喉の奥から血の塊が飛び出し、べたりと後藤の頬に張り付いた。
――頬を濡らす、生温い感触。
「つじ!? 大丈夫!? つじ!?」
後藤は堰を切ったように呼びかける。
「へへっ……大丈夫……だって……」
何度も「大丈夫、大丈夫」と呟きながら、辻は後藤の頬を拭う。
自らの飛ばした血糊を撫でるようにして拭き取っていく。
ある程度奇麗にし終えると、そのままゆっくりと引き寄せた。
「ごっちん……、顔……もっとよく見せて……」
ほんの数センチ程度の距離。
視界いっぱいに広がる、辻の顔。
「なんか……見えなく、くふっ……、なってきちゃったんだ……」
頬に触れる指先が、ふるふると震える。
その指も、頬に付いた血も、すでに冷え切っていた。
- 329 名前:66 のの 投稿日:2003/11/15(土) 11:38
-
――怖いよう怖いよう
その顔は泣いている。
――嫌だよう嫌だよう
ぶるぶると、怯えている。
けれどその顔は、それ以外の何かを、きっと宿している。
錯覚かもしれないけれど、そう、見える。
- 330 名前:66 のの 投稿日:2003/11/15(土) 11:38
-
「ごめんね……ごっちん……」
辻の指が、ゆっくりと後藤の頬から離れる。
「今まで……ありがと……」
満足げに微笑み、ゆっくりと息を吐く。
その顔の、なんと幸せそうなことだろう。
「ごっちんも……、なかざぁさんも……、あいぼんも……。 みんな……―――――っ」
声は掠れ、ひゅうと喉がなり、最後のほうは音にならない。
ただ、口の動きだけが、後藤の目に焼き付けられる。
「つじぃ……、つじぃ……」
ぎゅう、とその細い肩を抱きしめて、何度も呼びかける。
けれどもう、答えは返ってこない。
ゆっくりと閉じていく、両の瞼。
微弱に届いていた鼓動が、遠ざかる波音のようにそっと消えていった。
- 331 名前:66 のの 投稿日:2003/11/15(土) 11:39
- 後藤は暫くその体勢のまま、動けずにいた。
血に染まった両手も、衣服もそのままに、ただ辻の体を抱きしめていた。
このままずっと抱きしめていたい。
ただただその死を、悲しんでいたい。
――けれど、
まだ終わりじゃない。
まだ、やるべきことが残っている。
このままじゃ、辻の気持ちが浮かばれない。
辻の体から身を離し、後藤は立ち上がる。
ぐしぐしと両目を擦り、鼻をすする。
もう、こんな馬鹿げたことは終わらせなくてはいけない。
それが辻の一番の願いだったのだから。
(ありがとね……、辻……)
自らを盾に二人の命を救った少女の口は、最後にこう動いていた。
「大好きだよ」と。
【25番 辻希美 死亡】
- 332 名前:67 軽い引き金 投稿日:2003/11/15(土) 11:40
-
「それで……、アンタはどうすんの?」
後藤さんの声は、止まっていた時計の針をそっと動かす。
私が撃った、四つの銃弾。
その全てがののの体に吸い込まれたとき、私の時間は止まった。
「アンタ……まだアタシを殺したい……?」
――――冷たい、声。
後藤さんは右手に拳銃を持って、じっとこっちを睨んでいる。
きっと怒ってるんだろう、とぼんやりと思う。
「ねえ、加護……どうなの? 殺したいの?」
ずっと、考えていた。
止まってしまった時間の中で、ずっと考えていた。
私は何がしたかったんだろう。
私は本当に後藤さんを殺したかったんだろうか?
そんなものは本当は二の次で、
ただ自分だけが狂っていくのが嫌だっただけじゃないんだろうか?
ただ子供みたいな八つ当たりをしたかっただけなんじゃないだろうか?
- 333 名前:67 軽い引き金 投稿日:2003/11/15(土) 11:41
- 分からない。
自分のことなのに、分からないことだらけだ。
だから、私は頷く。
こくり、と首を縦に振って、「殺したい」という意思表示をする。
「そう…………」
後藤さんは悲しそうに呟いて、右手をこっちに向けた。
黒くてごつごつした塊は、こっちに向けて小さな口を開けている。
私も黙ったまま拳銃を向ける。
きっとこれで、全て終わる。
もう何もかも嫌だった。
自分自身が分からないことも。
この島の状況も。
死んでしまえば、全て終わる。
死んでしまえば、楽になれる。
「そんじゃ、仕方ないね」
楽に……なれるのに……。
「なんで……?」
後藤さんは構えた拳銃をあさっての方に投げ捨てていた。
- 334 名前:67 軽い引き金 投稿日:2003/11/15(土) 11:41
-
「理由なんてないよ、ただ死にたいからこうするだけ」
冷たい声で、後藤さんは言う。
「アンタ、アタシを殺したいんでしょ? 絶好のチャンスじゃん」
嘲るようなセリフなのに……、なんでだろう。
その顔は今までになく真剣だった。
「ごっちん……アンタ何考え――」
「裕ちゃんは黙ってて」
口を挟んだ中澤さんを、底冷えのする声で制止する。
「ねえ、はやくしなよ。 死にたいんだよ。アタシは」
言いながら、一歩ずつこっちに近づいてくる。
(なんで……? 怖くないの……?)
拳銃を持つ手が、ぶるぶると震える。
後藤さんに、ののの姿がダブって見える。
- 335 名前:67 軽い引き金 投稿日:2003/11/15(土) 11:42
-
「結局アタシは辻に何もしてあげれなかった」
なんでだろう。
「こんなダメな先輩、生きてる価値なんかないでしょ?」
死にたいのはこっちなのに。
「だからさ、はやくパパッと手っ取り早く撃ち殺しちゃってよ」
分からない。
後藤さんも、ののも。
なんでそんなに死にたがるの?
- 336 名前:67 軽い引き金 投稿日:2003/11/15(土) 11:42
- 分からないまま、私は撃鉄を起こす。
ぎりりと絞られるバネの音。
「でも、ひとつだけ約束して」
けれど引き金にかけた人差し指は固まってしまって動かない。
「辻とアタシを殺したこと、絶対に忘れるな」
ごめんなさいごめんなさい。
もう悪いことはしません、だから……
「そして絶対に死ぬな」
だから、そんなこと言わないで。
お願いだから……。
「絶対に、最後まで生き延びろ」
嫌だ……、嫌だよ……。
わたし……、これ以上生きてたくない。
- 337 名前:67 軽い引き金 投稿日:2003/11/15(土) 11:43
-
「ぁ……、ぁぁ……」
拳銃を持つ右手が、がたがたと震えだす。
まるで腕の中に蟲でも住んでるみたいに、ぶるぶる揺れる。
腕だけじゃない。
全身の筋肉が勝手に痙攣する。
がたがたと震えだす、『わたし』の体。
「やぁ……、嫌だ……、嫌だぁ……」
それが、気持ち悪くて。
このまま、バケモノにでもなってしまいそうな気がして。
「うわあああああぁぁぁぁああああっぁぁあっっっ!!!」
私は自分のこめかみに銃を押し付け、引き金を引いた。
いつもより、引き金は軽かった。
意識は、すぐに途切れた。
* * *
- 338 名前:67 軽い引き金 投稿日:2003/11/15(土) 11:44
-
「ふぅ……、あーやばかった」
事が終わり、後藤は安堵の息とともに呟く。
先程までの冷酷な顔とは別人のような、柔和な表情。
視線の先には倒れている加護。
「ごっちん……、加護は……大丈夫なんか?」
左肩を押さえ、よろよろと近寄りながら中澤が問いかける。
「うん。 脇腹と腕の傷は早くなんとかしないとだけど、取り敢えず生きてると思うよ」
後藤の言葉通り、倒れている加護は単に気絶しているだけだった。
その頭部には風穴どころか銃傷ひとつ付いてはいない。
「アンタ……、気付いてたんか……?」
「……加護が撃った数はずっと数えてたから」
中澤に一発、自分に六発。
そして、辻に四発。
計十一発。
自分の拳銃の装弾数――七発と示し合わせて、残弾はもうないと踏んだ。
「かなり危なっかしい賭けだったけどね……」
げっそりとした表情で呟く。
加護は、単に極度の緊張と多量の失血に意識を失っただけだった。
―――――――――
―――――
――
- 339 名前:67 軽い引き金 投稿日:2003/11/15(土) 11:45
- 「よ……っと、……でも、なんであんなことしたん?」
加護の体を抱き上げながら、中澤は問いかける。
「他にも方法あったんと違うの?」
「ダメなんだよ……」
横たわる辻に寄り添い、沈痛な面持ちで後藤は呟く。
「ごとーの言葉じゃダメなんだよ……」
確かに、他にも場を上手くまとめる方法はあったかもしれない。
辻の、文字通り命がけの行動によって、加護に若干の変化は生じた。
けれど多分、あそこで何かを言って聞かせても、全て無駄だったろう。
何故なら自分は命を張っていないのだから。
自分は、辻に守られていたのだから。
「加護が……自分で気付かないと、ね」
だから、自分も命を張った。
そうやって辻の行動を、その想いを、
もう一度はっきりと考えさせる必要があった。
「そっか……」
中澤は優しく微笑み、そのまま階段に向かう。
一歩、足をかけたところで、立ち止まった。
「ごめんな……」
背を向けたままの小さな声は、涙声。
後藤はその背に向けて、声はかけず、ただにへら、と笑った。
- 340 名前:67 軽い引き金 投稿日:2003/11/15(土) 11:46
- 中澤は加護を抱えて二階へ消え、残されたのは後藤と辻。
後藤は、辻の顔を衣服の袖で拭う。
「へへっ……奇麗にしたげるね……」
口元に張り付いた血は乾いていて、なかなか落ちてくれない。
袖を自分の口に運び、唾液をつけてもう一度拭う。
少しずつ、赤い化粧が剥げていく。
「ははっ……逆に汚いかな……、これじゃ……」
何度も何度もその口を擦り、ようやく洗い落とせた。
薄いピンク色をしていた小さな唇は、すでに青く変色している。
指で触れると、氷のように冷たかった。
「ごめんねぇ……、つじぃ……」
うっすらと微笑む、安らかな寝顔。
覗きこむようにして見つめると、涙が一滴、閉ざされた瞼の上に落ちる。
ゆっくりとこめかみを伝うそれは、まるで辻が流したかのように見えた。
【11番 加護亜依 左腕・左脇腹負傷】
【14番 後藤真希 右腿・右耳負傷】
【27番 中澤裕子 左肩負傷】
- 341 名前:68 学園の七不思議(エピローグ) 投稿日:2003/11/15(土) 11:47
- 保田と吉澤は、廃校の廊下を校長室を目指して歩いていた。
そこにもう一人がいるらしい。
先程「誰なの?」と聞いた保田に、吉澤は「トミーフェブラリーです」と簡潔に答えた。
保田は「あぁ……」と頷き、吉澤は「はい、トミーフェブラリーです」と何故かもう一度言った。
まあ、無論ハロプロにトミーがいるわけもなく、だとすると間違いなくあの人である。
しつこく「トミーフェブラリーです」と言ってくる吉澤(顔はニヤニヤ)に「うるさい!」と怒鳴ると、
吉澤は「トミーフェブラリーです?」と尻上がりに言ってきた。
保田は「なんで疑問系なんだよ……」とは言ってあげなかった。
吉澤は少し寂しそうにしていた。
んで、現在に至る。
(しかしまあ、良くも悪くも吉澤だわね)
礼儀礼節をきちんと弁えておきながら、そのスタイルは自由奔放。
そんな吉澤らしさがこの島でもまったく損なわれていない。
それが嬉しくもあり、少し心配でもあった。
(ま、コイツはしっかりしてるからだいじょぶだと思うけどね)
と、浮かんだ不安をかき消す。
吉澤に足りない思慮は、自分が補えばいいだけの話だ。
- 342 名前:68 学園の七不思議(エピローグ) 投稿日:2003/11/15(土) 11:48
- ただ、歩きながら色々話していて少し気になったことがある。
「にしても吉澤、何で『保田さん』なの?」
そうなのだ。
今はもう吉澤の保田への呼び名は、
『保田さん』から『圭ちゃん(あるいはケメ子)』
に変わっているはずなのだ。
『保田さん』と呼んでいたのはプッチに入って暫く経つまで。
何かの心変わりだろうか?と不思議に思う。
「へへー、それはですねー、あれですよあの」
「どの?」
「ヒ ・ ミ ・ ツ ・ です♪」
意味ありげに区切って話し、照れたように笑う吉澤。
保田は「へーへー、そうですかい」と適当に返し、けれど心の中では少し寂しく思う。
(あーあ、折角『圭ちゃん』って呼んでくれるようになったのになぁ)
でもまあ、吉澤のことだ。
特に深い意味もないのだろう。
- 343 名前:68 学園の七不思議(エピローグ) 投稿日:2003/11/15(土) 11:49
- 「ここです」
左隣にいた吉澤が立ち止まり、親指でかしゃかしゃと扉を指差す。
保田もまた立ち止まり、その扉の上のほうを眺めた。
勿論、そこには『校長室』の文字。
吉澤がノブに手をかけると、かしゃりと金属の擦れる音がする。
「入りますよー」
間延びした声とともに、吉澤はドアを押し開けた。
とともに、ぎぎ、と耳障りな音。
どうやら蝶番が錆びているらしかった。
吉澤の後に続き、保田もまた中に入る。
「…………は?」
その瞬間、保田の視覚は戦国時代にタイムスリップした。
甲冑の肩越しに見える、変な人。
――武将。
- 344 名前:68 学園の七不思議(エピローグ) 投稿日:2003/11/15(土) 11:50
-
(は? な、なん……、へ?)
思考すら、まともな言葉を発してくれない。
頭の中では「ぶおほ〜、ぶおほ〜」と法螺貝の響き。
(ありえない……、ありえないってアンタら……)
声に出してツッコミたかったけれど、あまりにその立ち居振る舞いが自然すぎて、
口をぱくぱくとするだけで声を出すことは出来なかった。
「村田さ〜ん、保田さん一丁お届けにあがりました〜」
まるで、それがここの風習であるかのように。
鎧を着ていない自分がマイノリティであるかのように。
村田めぐみらしき人は武者鎧を身に付け、
兜にきっちりと鬼を模した仮面も付け、校長室の椅子にゆったりと座ってこちらを眺めていた。
「うむ、ご苦労。 大儀であった」
「ご苦労、じゃねえ!!」
【37番 村田めぐみ 所持品 武者鎧】
- 345 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 11:51
- お父さん、お母さん。
元気にやってるかな?
久しぶり、麻琴だよ。
麻琴は今、よく分からない島にいるんだけど、
よく分からないから場所も名前もよく分からないんだよね。
取り敢えずよく分からないけど今は元気だから大丈夫だよ。
ところで話は変わるんだけど、
普通の人はみんな、待たされるのが嫌いみたい。
私は嫌いって程じゃないんだけど、
それでも待たされることはあまり好きじゃないんだよね。
でも待とうと思えば何時間でも待てる。
麻琴はお母さんに似てガマン強い子だから。
でもさ、この島だとその待ってる時間がかなりしんどいんだ。
「平家さん遅いね……」
「う……、うん……」
だから何気ない里沙ちゃんの呟きに、私は内心どきどきしながら答えたよ。
そう。
お揃いのパジャマを着た私たちは、居間で平家さんの帰りを待ってたの。
- 346 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 11:52
- 壁に掛かっている時計が指しているのは深夜一時二十分。
丁度その時計が零時を指したとき、二回目の放送が聞こえて、
その放送じゃ平家さんの名前は呼ばれなかった。
正直ホッとした。
けれどそれからもう一時間以上経ってるからちょっと怖い。
『すぐ戻ってくるさかい』
平家さんはそう言っていたのに、まだ帰ってこない。
もしかしたら、ってことを考えちゃう。
「もしかしたら……」
だから、その里沙ちゃんの呟きにかなりドキッとしたのを覚えてる。
……もしかしたら、死んじゃってるかもしれない。
「う……、うん……」
そんなことを考えちゃったから、また私は曖昧にしか返事できなかった。
お母さん。
こんなにやきもきする待ちぼうけは、生まれて初めてだよ。
―――――――――
―――――
――
- 347 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 11:53
- 「ここかな……?」
何件目かになる民家の前に立ち、安倍は独り呟く。
その背には、物言わぬ平家の亡骸。
「結構歩いてきちゃったけど……こっちでいいんだよね?みっちゃん」
診療所からここまで、だいぶ距離はあった。
さほど体力のない安倍にとっては平家を背負うだけでも一仕事。
息はすでに荒く、額にはじっとりと汗が浮かんでいる。
けれど、けして休むことはしなかった。
彼女を駆り立てるのは、早く平家を帰してやりたい、という想い。
平家の遺志を、生き様を、その死を、
放送なんかじゃなく自分の口で伝えてやりたい、という想い。
それが、その死を見届けた、自分の役目なのだから。
- 348 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 11:54
- ただ、安倍が休まずに歩いてきたのにはもうひとつ理由がある。
それはみうなの存在。
平家の爆弾によって吹き飛ばされたみうな。
彼女が倒れている姿を安倍は確認している。
暫くはあのまま動けないだろうと思っていた。
けれど、あるべきはずの音がない。
彼女の首に、そして自分や平家の首にも付けられた首輪。
もしみうながあのまま動けないでいたとしたら、
自分が診療所に付いた頃にはもう爆発していてもおかしくなかったはず。
けれど、何もなかった。
爆発音は、聞こえなかった。
首輪の故障とか、あるいは禁止区域自体が嘘だったとか、有り得ない話ではない。
けれど、みうなが自力で立ち上がり禁止区域を脱したという方が安倍にはよほど自然に思えた。
狂った笑みを浮かべて追いかけてくる彼女の姿が、容易に想像できる。
それ故に、安倍は立ち止まることが出来ない。
- 349 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 11:55
-
「ごめんね、みっちゃん……。 もうちょっと待っててね」
背負った平家に、小さく声をかける。
勿論返事はないけれど、暖かい気持ちになれた。
それは恐怖に、後悔に、憎悪に、
流されてしまいそうな自分を繋ぎ止めるための、たった一つの手段。
平家の死をこんな形で利用するのは卑怯なのかもしれない。
それでも自分にとって、その背で揺れる平家の感触だけが心の支えだった。
安倍はひとつ深呼吸し、右手を軽く上げる。
「お豆……、まこちゃん……、ここにいてね……」
願いごとのように呟いて、その手で軽くドアを叩いた。
―――――――――
―――――
――
- 350 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 11:56
- ――コンコン……
その音は私たちのいる居間まで届いたんだ。
私はびっくりしてちょっと固まっちゃった。
「まこちゃん、今の……」
「う……、うん……」
それは間違いなくノックの音で、それも玄関の方から聞こえてきた。
何となく不安になって、膝に載せてたクッションをぎゅっとする。
柔らかいものって触るとなんとなく気持ちが落ち着くから、あって助かったよ。
「平家さん……かな……?」
里沙ちゃんはあんまり動じてないみたい。
里沙ちゃんのこういうところ、素直に羨ましいと思う。
私が一歩引いちゃう場面でも里沙ちゃんは前に出られるんだよね。
私のほうが年上なのにな……。
- 351 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 11:57
- それで、取り敢えず、
「多分……、そうかな……」
って言ってはみたんだけど、ちょっと自信なかったんだ。
多分……もし平家さんだったら、そこの縁側から上がってくると思うし。
……やっぱり違うのかな?
とか考えてる内に、里沙ちゃんそろ〜っと立ち上がっちゃった。
「私……ちょっと見てくるね」
リュックの中から手榴弾をひとつ、手に取って。
「あ……、あぶないよ……」
私はそう言ったんだけど、里沙ちゃんは「大丈夫だよ」って言って玄関に行こうとするんだ。
私はなんだか心細くて、独りになるのが嫌で、
「わ、私も一緒に行くよ」
って言っちゃったんだ。
本当は「行かないで」って言いたかったんだけど、それはさすがに恥ずかしい。
そしたら里沙ちゃん、ちょっと嬉しそうだった。
なんだ。
やっぱり里沙ちゃんも怖かったんだね。
―――――――――
―――――
――
- 352 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 11:58
- 何度かノックした後で、安倍はノブを握り、何度か捻ってみる。
けれどガチガチと鳴るだけで回らず、扉は一向に開く気配は無い。
(カギが……かかってるんだ……)
今まで立ち寄った民家はそのどれにもカギなど掛かっていなかった。
思わずごくり、と生唾を飲み込む。
この奥に、誰かがいる。
カギが掛かっている以上それは間違いのないことだろう。
ただ、それが自分の探している人か、そうでないのか、知る術は無い。
安倍は再度ノックし、できる限りドアに口を近づけて声をかける。
「誰かいませんかー?」
―――――――――
―――――
――
- 353 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 11:59
- ――コンコン……
ドアをノックする音。
――誰かいませんか……?
ドア越しに聞こえる、誰かの声。
玄関の半分近くはガラス張りになっていて、人の影がちらちら映る。
それをちらちら見ながら、私は里沙ちゃんと相談してた。
「どうしよっか……」
「平家さんじゃないみたいだね……」
これ以上ないくらい、小声で会話。
里沙ちゃんがドアを指差して「誰だか分かる?」って聞いてきた。
私は慌てて「分からない」って答えた。
困ったような表情でむー、と唸る里沙ちゃん。
だってしょうがないよ。
ホントに分かんないんだもん。
なんだか聞いたことのある声だってことは分かるんだけど、記憶と思考が繋がらない。
多分ね、緊張してたんだと思う。
矢口さん風に言うと、テンパってた。
- 354 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 12:00
- そいでもって、
「開けてみるね……」
なんて里沙ちゃんが言うもんだからますますテンパる私。
「あぶないよ」って言ったんだけど、「大丈夫だよ」って里沙ちゃん。
確かにドア越しの声は怖いようには聞こえないけど、
でもそこまで自身もって大丈夫、って言えるほど根拠はないじゃない?
だからもう一度止めようと思ったんだけど、
里沙ちゃんはすぐに玄関に下りてカギを開けちゃったんだ。
そしてそのままドアを外に押し開けた。
もうね、祈るしかなかったよ。
どうか危ない人じゃありませんように、って。
―――――――――
―――――
――
- 355 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 12:00
- 何度か繰り返し呼びかけた後、急にドアが開く。
安倍は半歩ほど下がって体勢を直す。
「……なっちか」
ドアから半分だけ、覗かせた顔。
それは、安倍の探している二人の、どちらのものでもなかった。
【1番 安倍なつみ 所持品 FN M1935 HP】
―――――――――
―――――
――
- 356 名前:69 マコたちの失敗 投稿日:2003/11/15(土) 12:03
- ドアの向こうにいたのは二人。
片方、奥にいたほうはメロンの斉藤さんだった。
ちらちらこっちを見ながら足は貧乏揺すり。
なんだかだいぶ焦ってるみたいに見えた。
「ええと、新垣さんと小川さん……ですね?」
手前にいる人はなんだか凄く生真面目に話しかけてくる。
その顔を見ても、多分私より年上だろう、ってことくらいしか分からなかった。
だってそうだよ。
この人とは私初対面だし。
勿論里沙ちゃんだってそう。
でも、この人の声なら、何度か聞いたことがある。
顔も昔のなら、何度か見たことがある。
「宜しければ……、こちらに泊めて頂けますか?」
CDとか、テレビとか、何度か聞いたことのある声。
でも、彼女の声はそれよりずっと大人びて聞こえた。
私と里沙ちゃんが顔を見合わせて戸惑っていると、
「私は福田明日香。 17歳。 けして怪しいものではありません」
彼女――福田さんはそう言ったんだ。
お父さん、お母さん。
「怪しくない」って言う福田さんを思いっきり「怪しい」って思った麻琴は、悪い子かな?
【10番 小川麻琴 所持品 ダイナマイト 6本】
【17番 斉藤瞳 所持品 Glock19】
【28番 新垣里沙 所持品 焼夷手榴弾 5個】
【29番 福田明日香 所持品 不明】
- 357 名前:70 さよならは言わないで 投稿日:2003/11/15(土) 12:05
- 静まり返った部屋に、すぅすぅと寝息だけが響く。
気丈に振舞ってはいたものの、やはり疲れていたのだろう。
後藤は加護の眠るベッドにもたれ、久方ぶりの休息をとっている。
辛い夢でも見ているのだろうか。
時折り悲しげに眉をひそめ、「うぅん……」と小さく唸る。
中澤はそんな後藤の背に、ふわりと毛布をかけてやった。
そして足音を立てないように気をつけて部屋を出る。
そのまま廊下を奥の方へと進んだ。
加護を二階の一室に運び、ある程度の応急処置を施した後、
中澤は後藤と二人で辻を運んだ。
もう二度と動くことのないその体は何故か重く、とても中澤一人では運べそうになかった。
あるいはそれは彼女の気落ちのせいだったのかもしれない。
――二階の最奥、西に面した部屋。
中澤はその前で立ち止まり、ゆっくりとドアを開ける。
後藤と二人で動かし、わざわざ北向きに直したベッド。
その上で、辻希美は眠っている。
- 358 名前:70 さよならは言わないで 投稿日:2003/11/15(土) 12:06
- 血は奇麗に拭き取られ、衣服もクローゼットにあったシャツに着替えさせてある。
男物のワイシャツはぶかぶかで、それはまるで死に装束のようにも見えた。
「すまんなぁ……、辻……」
そのいとおしい寝顔を、じっと見つめる。
彼女は、いつの間にかぐんと大人になっていた。
「アタシは……なんであそこで撃ってしもたんやろね……?」
自分が守らなくても。
後藤が守らなくても。
もしかしたら大丈夫だったのかもしれない。
自分がいなかったら。
後藤がいなかったら。
辻は加護を癒すことが出来たのかもしれない。
「ごめんな……辻ちゃん……」
中澤は、先の後藤の言葉を思い出す。
『こんなダメな先輩――っ』
その言葉が、中澤の背に重く圧し掛かる。
- 359 名前:70 さよならは言わないで 投稿日:2003/11/15(土) 12:07
- 辻を守りきれなかった、ダメな先輩。
加護を信じてやれなかった、ダメな先輩。
後藤の決意を無駄にした、ダメな先輩。
「ごめんなぁ……、つじぃ……」
何が年長者としての気概、だ。
何が自分の娘。を守りたい、だ。
結局自分は何も出来なかった。
自分を頼ってくれた辻に、何もしてやれなかった。
それどころか辻を、
自分の半分程度しか生きていない彼女を、
殺した。
『こんなダメな先輩、生きてる価値なんてないでしょ?』
それは、後藤の言葉。
けれどそれは多分、この自分にのみ、当てはまる言葉。
- 360 名前:70 さよならは言わないで 投稿日:2003/11/15(土) 12:08
- 中澤は冷たくなった辻の手を握り、甲にそっと口付けをする。
そして胸の前で、その両手を合わせてやる。
お祈りをするように、静かに眠る少女。
「全部終わったら……絶対連れて帰ったるからな……」
全て終わったら。
この島にある悪夢の全てを消し去ることが出来たなら。
きっとここへ戻ってくる。
「それまで……、待っとってや……」
自らの魂にかけて、固く誓う。
だから今は、さよならは言わない。
- 361 名前:70 さよならは言わないで 投稿日:2003/11/15(土) 12:09
- 涙と後悔を振り払い、中澤は部屋を出る。
今の自分には、もう娘。たちを抱きしめることなど出来ない。
自分には、辻を手にかけた自分には、その資格がない。
けれどまだ、今の自分にもやれることは残っている。
――いや、それは今の自分だからこそ出来ること。
未だ銃弾が残る左肩。
腐り落ちるのも時間の問題だろう。
それまでになんとか、事を終える。
全てを、終わらせてやる。
一階に下り、放置したままだったリュックとサブマシンガンを拾う。
そしてそのまま、ロッジを出た。
木々の分け目から見え隠れする月は、辻とともに歩いてきた林道を頼りなく照らす。
中澤はそれを左手に見るように東に向かって歩き出す。
(後藤……、加護のことは頼んだで……)
目の前に広がるのは鬱蒼と茂る森。
月明かり程度ではぼんやりとしか視界が開けない。
(アタシは……、つんくさんと話つけに行く)
けれど、中澤は前へ進む。
迷いはない。
道はなくとも、自分が向かうべき場所はこの先にある。
【27番 中澤裕子 所持品 Beretta M12】
- 362 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/15(土) 12:10
-
- 363 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/15(土) 12:10
-
- 364 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/15(土) 12:10
-
- 365 名前:abook 投稿日:2003/11/15(土) 12:11
- 以上、更新。
では返レスです。
>>312
のの推しの皆様、本当にごめんなさい、、、。
>>313
ストレートな感想ありがとうございます。
って言うか褒めすぎですって。
川 ’ー’)<ブタモオダテリャ キニノボルヤヨー。
∬;´▽`)<……
>>314
のの推しの皆様、本当に本当に本当に本当にごめんなさい!
∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( ;´Д`;)< 麻琴に申し訳!
/, / \________
(ぃ9 | ∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/ /、 ( ;´Д`;)< 申し訳!
/ ∧_二/, / \_______
/ / (ぃ9 |
/ \ / /
/ /~\ ./ ∧_二∃
/ / >./  ̄ ̄ ヽ
/ ノ / / /~ ̄ ̄/ /
/ / (⌒ _ ノ / ./ (;゚д゚;)<モウシワケ!
/ ./ | /、 ( ヽ、゜( )ー
( _) し __つ \__ ./ > _| ̄|○<ゴメンナサイ、、、
- 366 名前:abook 投稿日:2003/11/15(土) 12:13
- >>315
いやはや、勿体無いお言葉。
ありがたいっす。
>>316
│皿 ゜)<……
ひぃっ! なんかいるっ!
>>317
どんな行動に出るのでせう。一旦は幕引き。
問題は山積み。どうなることやら。
>っていうか……
│皿 ゜)<ッテイウカ ブスイナノハ ムシロ サクシャノヘンレス ヨネ。
ネタ カクナラ クウキヨメ。
ひぃっ!また来たぁっ!
>>318
│≡川ノ゜皿 ゜)ノ<ガオーッ!!
ひぃっ!
- 367 名前:abook 投稿日:2003/11/15(土) 12:14
- >>319
ochiどうもです。
やはり週間ペースで上げたほうが良いんでしょうけど、
なかなか思い通りには行きませぬ。
ザッピング形式なもんだから頭こんがらがりますし。
脳の容量と時間がせめて1.5倍あればな、と思う今日この頃です。
さて。
市内を適当にぶらついてると何やらガンヲタたちの
井戸端会議が聞こえてきまして、
あー、何話してるのかな、って聞いてみますと
リックドムとドムの違いについて延々と討論してるわけですよ。
ガンヲタってのはやはり
とんでもない人種なんだな、と思いました。
うん。
与太話失敬。
ですが本心です。
- 368 名前:abook 投稿日:2003/11/15(土) 12:15
- で。
メル欄の中の人がうるさいのでまだ出てない人リストを作りました。
3 飯田圭織
7 市井紗耶香
8 稲葉貴子
15 小湊美和
32 本田ルル(RuRu)
34 松浦亜弥
41 レフア・サンボ
作って初めて気付きました。もう34人も出てたんですね。ちょっとびっくり。
まあ上に名前が出てなくても放置気味のメンバーとかいるわけですが。
( ^▽^)とか(信`▽´)とか。 まあ、気長に待ってやってください。
さて。
長々とコメントが伸びましたことを深くお詫び申し上げます。
その割に肝心のお話の中身が薄い罠、、、。
_| ̄|○
こんな不定期更新なスレですが、今後ともお付き合いの程を。
- 369 名前:abook 投稿日:2003/11/15(土) 12:16
- ついでに今回更新分。
>>323-361
では。
- 370 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/16(日) 10:24
- 辻、死ぬんだったら「重傷」の表現はないかな、と思った。どうなっちゃうんだろう、と思わせる効果を狙っての演出かもしれないけど。読んでいてあそこは「重体」のほうがしっくりくるなとは思った。辻は別に推しメンじゃないが、もし自分の推しメンでこれをやられたらちょっときついかな。何だかクレームみたいになってしまったけどいつも楽しみにしてるし、これからの更新も待ってます。まあこういう意見もあるよ、くらいな感じで軽く受け取って下さい。
- 371 名前:北都の雪 投稿日:2003/11/16(日) 23:17
- はじめまして。
緊張感がありつつちょっと息を抜けるとこがあり、
大変面白いです。
今回の展開からまた他の人がどう動くか楽しみです。
なんにせよ合言葉はマターリで。
さりげなしにごまのの?とか言ってみる(エ?
- 372 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/17(月) 21:13
- 辻に泣いた・・・。
やっぱバトロワ物って、辻に天使みたいな役割をやらせるとベストマッチやね。
そして中澤が気になる。
- 373 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/19(水) 16:21
- うひょー素晴らしい。最高です。泣いた。
そして吉さんと村さんに爆笑してしまう。
いいらさん、期待してますんやよーニヤニヤw
- 374 名前:254 投稿日:2003/11/21(金) 09:28
- 素晴らしいですねぇ…。
明日香のキャラが自分の福田観とすっごくマッチしていて良すぎです!
でも、「トミーフェイブラリー」って、誕生日からして
りんねのことかと最初思っちゃいましたよ…
- 375 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/26(水) 15:38
- (−Θ ΔΘ)9m<ずばい!むあたはとみーふぇぶらいーほんにんだぉ!
(−Θ ΔΘ)<けっこんもしてしわせだにぇ
- 376 名前:abook 投稿日:2003/11/28(金) 18:01
- どうも、更新が遅れている作者でございます。 ……スマセン>○| ̄|_
土日中にはなんとか上げますので ホントニモウ ナンテイッタライイノカ>○| ̄|_
>>310に書いたような晒しageは勘弁願います。 ヤッパリ クビヲシメルケッカニ、、、>○| ̄|_
返レスは更新時に。 ゴメンナサイ トシカイエナイボクヲ ユルシテ>○| ̄|_
では。 ニシュウカンハ ナガイヨウデ ミジカイデツ>○| ̄|_
- 377 名前:PAN吉 投稿日:2003/11/30(日) 14:42
- なんか、深いっすね。
辻が命張ったところヨカッタです!
- 378 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/30(日) 20:38
- 川‘〜‘)||ワタシキライ?
- 379 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/01(月) 02:51
-
- 380 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/01(月) 02:51
-
- 381 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/01(月) 02:52
-
- 382 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 02:53
- テーブルの上に無造作に置かれたボウガン。
これが彼女に支給された武器だった。
先程玄関に出る際に用心して携帯していたのだが、
来訪者が安倍と分かった以上、今は無用の物である。
「そっか……、大変やったな……なっち」
安倍は今、自分と向かい合わせに座っている。
その隣には平家みちよ。
もう、彼女が息をすることはない。
「随分傷だらけになってもうたんやね……」
見つめていると、目の奥がじん、と熱くなる。
その体の至る所に空いた銃創からは、すでに新たな血は流れ出ない。
衣服や肌に張り付いた血が、ぱりぱりと乾いていき、ぱらぱらと崩れていく。
傷の割りに安らかな寝顔も。
華奢な割りに頼り甲斐のある肩も。
血糊とともに崩れてしまうような。
全て消え去ってしまいそうな。
頭によぎったそんな想像を振り払い、彼女は正面の安倍に向き直った。
- 383 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 02:54
- 「私が……、ダメだったから……」
安倍はずっと頭を垂れたまま話していた。
その顔に映るのは自らへの叱責。
そして深い悲しみだ。
「私、みっちゃん助けたかった。 でも、ダメだった……
なんでだろうね……? なんでダメなんだろうね……?」
彼女はずっと必死だった。
話を聞いただけの自分でも、それは痛いほど分かる。
「なんで……守れないんだろうね……?」
必死に願って。
必死に戦って。
それでも守れないものがある。
「やっぱりなっちじゃダメだったのかな……?」
それが彼女のせいとかそういうことではなく、
ただ、それは人間一人の力ではどうしようもない事態だっただけだ。
その存在を、自分は知っている。
それはこの島に限らず、至る所に存在する。
――つまり、運命。
- 384 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 02:54
- 自分もまた、運命に行く手を遮られたことのある人間である。
自分の場合は所属するグループの解散、という壁にぶち当たった。
いや、安倍が今日体験したことからすれば壁と呼べるようなものですらない。
せいぜい小石に蹴つまづいたくらいのもの。
それでも、そんなときどうすれば良いのか、ということは重々理解しているつもりだ。
「なっち、それはちゃうよ」
前へ進みたいのなら、
立ち止まりたくないのなら、
「なっちがいてたからみっちゃんはそんな顔ができとるんやないか」
失ったものを嘆くのではなく、
それがほんの小さなものであれ、
得られた何かを受け止める。
「なあ、見てみい。 幸せそうやないの」
血に染まりながらも、微笑んでいる平家の顔。
それは、ちっぽけに見えるけれど、何物にも代えがたい大切なこと。
「それになっち、今も、話してる最中もずっと、泣いてへんかったやろ?」
そして、やり残したことがあるなら、
まだ全てを終えていないのなら、
「それはアンタがまだ折れとらんゆうこっちゃ」
けして挫けてやらない。
「大丈夫。アンタはアンタが思ってるより、ずっと強いで?」
それはきっと、安倍にも分かっているはずのこと。
* * *
- 385 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 02:55
- そして、彼女は押し黙る。
彼女は、きっと分かっているのだろう。
自分が、どういうつもりで話をしたのかも。
自分が、どんな気持ちでいるのかも。
だからこそ自分は話したのかもしれない。
安倍はそんなことを思う。
「なっちね、みっちゃんが死んだとき……、大泣きしたんだ……」
それはきっと、分かっていたはずのこと。
彼女に話す前に、すでに分かっていたはずのこと。
「馬鹿みたいに声を上げてさ、うわぁんうわぁん、って」
心細いけれど。
どうしようもなく弱い自分だけれど。
「多分さ、そのときに一生分の涙出しちゃったんだよ」
深い悲しみを感じながらも、涙すら流さない自分。
己の無力を感じながら、前に進もうとしている自分。
「だから泣かないんじゃなくて、もう泣けないんだ……」
それは、弱さの裏返し。
だから、強く見えるだけ。
「なっちは強くなんてない。全然ダメ。 でもね、だから頑張らなきゃって思う」
それはきっと、分かっていたはずのこと。
彼女に話す前に、分かっていたはずのこと。
心細いけど。
どうしようもなく弱い自分だけれど。
何か出来ることを探して、やり遂げたい。
ただ、それを、その決意を、聞いて欲しかった。
- 386 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 02:56
- 「そっか……、うん。 そやな」
彼女は感慨深げに呻き、小さく微笑む。
全てを受け入れる母性を湛えた、優しい微笑み。
安倍の目には、そう映る。
本当は、誰でも良かった。
自分の、この愚痴のようなものを聞いてくれるなら、誰でも良かった。
けれど彼女のその微笑を見たとき、彼女に話せて良かった、そう思えた。
自分はもう娘。ではお姉さんになってしまったけれど、
まだ誰かに甘えたい、そう思うことは幾度となくある。
もしかしたら自分は、そんな弱い自分を受け入れてくれる誰かを、
甘えさせてくれる誰かを、いつの間にか探していたのかもしれない。
そして、ここへ辿り着いた。
彼女――稲葉貴子の下へ。
考えすぎかもしれないけれど、そう思った。
―――――――――
―――――
――
- 387 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 02:57
- 平家の遺体は稲葉が預かることとなった。
安倍が小川と新垣を連れてくるまで、稲葉はここにいなければならない。
けれど、どのみち自分から動くつもりのなかった稲葉にとっては特別無茶な頼みごとでもなかった。
「なっち、もう行くよ。 マコとお豆を探しに行かなきゃ」
「そっか……」
安倍は玄関に下り、つま先で地面をとんとんと叩いて靴を履く。
その背中にはリュックしかない。
「ありがとね、話、聞いてくれて」
稲葉としては出来ることなら引き止めたかった。
けれど安倍の決意は固いだろう。
「あっちゃん……みっちゃんをお願いね……」
「おう、心配せんでもちゃんと守ったるわ」
腰のベルトに拳銃を差し、右手に薙刀を携えたその姿。
前に進み続ける彼女を、戦うことを決めた彼女を、
ただ何も出来ないでいる自分が引き止めることは出来ない。
――けれど、
「なっち」
「なに? あっちゃん」
外に開いたドアのノブに手をかけ、安倍が振り返る。
「え……っとな」
呼びかけたは良いが、事を伝えるべきか暫し迷う。
言葉に詰まったままあれこれと考えてはみたが、
「頑張ってな」
たった一言だけ、稲葉は言葉を贈った。
それぐらいしか言えなかった。
「ありがと」
安倍はそう言って笑い、踵を返して行ってしまった。
【 1番 安倍なつみ 所持品 FN M1935 HP】
【 8番 稲葉貴子 所持品 ショートボウガン(矢1ダース)】
- 388 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 02:59
-
* * *
強いとは、なんだろう。
弱いとは、なんだろう。
ある者は戦いに勝ち得た者を強者と讃え、戦い敗れた者を弱者と罵る。
またある者は他者を救済する者を強者と崇め、自らに驕れる者を弱者と蔑む。
他者を守れる強さと、他者を守れない弱さ。
他者を労われる強さと、他者を傷付ける弱さ。
強さとは人それぞれで、その価値は比較対照では得られない。
それは芸術にも似ている、と稲葉は思う。
それは、確固として定義出来ないものだ。
『これのみが唯一の芸術だ』と言えない様に、
『これが強さだ』『これが弱さだ』と断言することはけして出来ない。
ただ、稲葉は思うのだ。
涙を流すことのない強さ。
悲しみを振り払う強さ。
前に進む強さ。
ともすればそれは弱さの裏返しなのかもしれない。
けれど自らを弱いと認めた上でそれでも前に進める安倍は、誰よりも強いのではないかと。
* * *
- 389 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 02:59
- 稲葉は閉められたドアの前に立ち、鍵をかけ、居間へと戻った。
どっかりと椅子に腰掛ける。
その隣には、平家の遺体。
ゆっくりと眺め、後でちゃんとした部屋に運ばな、と思う。
けれどその前に、稲葉にはやることがあった。
「もうええで。 なっちは帰ったから」
稲葉は食器棚の方へ声をかける。
殆ど間を開けずに、その扉が独りでに開く。
「アンタ……、そんな狭いとこよう入れんな?」
「狭いとこ……好きなんです……」
中から出てきた少女はよろよろと立ち上がり、答えた。
酷く顔色が悪い。
彼女は出会ってからずっとこんな調子だった。
- 390 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 03:00
- 別れ際に言おうとしていたこと。
それは彼女のことだった。
けれどこれ以上重荷を科すべきではないと思い、自重した。
「にしてもこれで良かったんか? 顔くらい見せたほうが……」
稲葉の声に、ふるふると首を左右に振る彼女。
今にも泣き出しそうなその表情。
「……そっか」
稲葉はそれを見て悲しげに呟く。
つい先程まで少女が着ていた衣類には赤黒い刺繍が貼り付けられていた。
人間の血液で出来た、死の刺繍。
今ではもう着替えているのだが、と言うより稲葉が無理やり着替えさせたのだが、
服は替えられても心は簡単に変えられない、ということだろうか。
「その人……安倍さんを守って死んじゃったんですね」
「ああ、そっか。 アンタはみっちゃんのこと知らんのやね」
こくり、少女は頷く。
その答えに少し寂しいものを感じた。
この少女にとっての平家の死は、
ニュースで流れる他人の死と同様の物でしかない。
そんな思いを抱く。
けれど、それは仕方のないこと。
それでその死が穢されるわけではない。
死の重みは、受け取る者だけが受け取れば良いことだ。
「まあ、大切な誰かを守って死ねるゆうんは、幸せなことやと思うけどな」
受け取る者が一人でもいさえすれば、その生の煌きは失われない。
少なくとも、彼女の生きた証は自分と安倍の内にある。
- 391 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 03:01
- 「幸せ……ですか?」
「お、おう。 少なくともウチはそう思うわ」
不思議そうに聞き返す少女に、稲葉は少々どもりながら答えた。
ちょっとキザすぎたかもしれない。
気恥ずかしさに、鼻をぽりぽりと掻く。
けれど少女は別に笑うでもなく、ただ平家を眺めているだけだった。
いや、視線の先に平家がいる、というだけでその焦点は定まっていない。
アヒルのようについ、と突き出した口を小さく動かし、何かを呟いている。
血を被り、こんな島に独り立たされた彼女の心労は、自分が考えるよりも遥かに酷いのだろう。
自閉気味の今の状態も善しとは思えないが、まだ望みがあるだけ幸いなのかもしれない。
下手をすれば、発狂していた。
そう断言出来る危うさが、今の彼女にはある。
(ウチがしっかりせんとな……)
安倍に黙っていた以上、自分が何とかしなければならない。
自分は、安倍のように強くはないけれど、だからこそ、強くあろうと願う。
- 392 名前:71 強いこと、弱いこと 投稿日:2003/12/01(月) 03:03
- 「稲葉さん」
彼女は呟く。
「幸せっていいことですよね」
壊れそうな微笑を浮かべ、呟く。
自分は、前に進むことは出来ていない。
けれどせめて、この少女だけでも、助けてあげたい。
「うん。 せやね」
平家の死も。 みうなの変容も。
この島の全てを受け入れて、その上でなお強くありたい。
そのために何をすればいいのかまだ分からないけれど、
手探りでもいい、何かをしていれば、きっとそれは見えてくる。
――だから、
「それはそうと亀井ちゃん。 お腹すかへん?」
まずは、腹ごしらえ。
【12番 亀井絵里 所持品 不明】
- 393 名前:72 マコたちの失敗〜ラフ&ポップ〜 投稿日:2003/12/01(月) 03:04
- お父さん、お母さん。
新潟はもう雪ですか?
……ってそっちもまだ夏だよね。
しっぱいしっぱい、マコ失敗。
ども、またまた麻琴です。
あれから里沙ちゃんは二人を簡単に家に上げちゃって、
居間で四人、ソファに座って、色々お話をしたんだ。
って言っても喋ってたのは殆ど里沙ちゃんと福田さんで、
私は平家さんのことを訊ねたくらい。
福田さんも斉藤さんも、平家さんの姿は見てないって。
もしかしたら二人は平家さんに頼まれてきたのかな、
なんて思ってたから、やっぱり少しがっかりしたよ。
その後は、ずっと黙ってた。
斉藤さんもずっと黙ってた。
斉藤さんはここに来たときからずっと、焦ってる。
手はせわしなく動くし、足も小刻みに揺れて、
なんだか怒ってるみたいにも見えて、ちょっと怖い。
何かあったのかな、っても思ったんだけど、でも聞けなかった。
福田さんは色々里沙ちゃんと話してて、
時々笑ったりしてくれてたんだけど、
正直、怖い。
多分、斉藤さんより。
今日初めて会った人にこんな感想を持つのはいけないことだし、
ついさっき平家さんに「信頼しろ」って言われたばっかりだけど、
でも、ダメだ。
だって福田さん、何考えてるのか全然わかんないんだもん。
- 394 名前:72 マコたちの失敗〜ラフ&ポップ〜 投稿日:2003/12/01(月) 03:06
- はっきり言って里沙ちゃんのバイタリティは凄いと思う。
今日初めて会ったばかりの福田さんにも全然物怖じしないで話してるし。
私には、到底真似できない。
でもさ、それは多分里沙ちゃんが必死だからなんだよね。
話してないと不安だから、沈黙が苦手だから、
つい声を出しちゃうんだと思うんだ。
「まこっちゃん、寝た……?」
「ん……、まだ起きてる」
今、私と里沙ちゃんは寝室で布団に入ってる。
暫く経って「もう寝るね」って私が居間を出ようとしたら、
里沙ちゃんも「あ、私もそろそろ……」ってついてきた。
そりゃそうだよね。
里沙ちゃんだって心細くないわけない。
「平家さん……だいじょぶかな……?」
「うん……」
私は曖昧に返事をする。
「他のみんなも……だいじょぶかな……?」
「うん……」
私は曖昧に返事をする。
でも、それじゃダメなんだ。
- 395 名前:72 マコたちの失敗〜ラフ&ポップ〜 投稿日:2003/12/01(月) 03:07
- 考えるよりも先に、行動できる里沙ちゃん。
それでも何も不安がないわけじゃないんだよね。
私は知ってる。
里沙ちゃんが色んな壁にぶつかって、大きくなったことを。
今でも色んな悩みを抱えながら、それでも明るく振舞ってるのを。
「きっと……だいじょぶだよ」
だからさ、私は同期だけどさ。
「平家さんも、飯田さんも、安倍さんも矢口さんも」
ちょっとだけお姉さんなわけだし。
「辻さんも加護さんも石川さんも吉澤さんも藤本さんも」
里沙ちゃんを守ってあげなきゃいけないんだって。
「あさ美ちゃんも愛ちゃんも、六期のみんなも」
ううん、守りたいんだって。
「みんな、だいじょぶだよ」
そう、思うんだ。
- 396 名前:72 マコたちの失敗〜ラフ&ポップ〜 投稿日:2003/12/01(月) 03:09
- 「あ、もちろんモーニングだけじゃないよ?
保田さんも中澤さんも後藤さんもメロンさんもだいじょうぶ。
それから松浦さんもアヤカさんもミカちゃんも里田さんもだいじょうぶ。
でもって……」
私が続けようとすると里沙ちゃん、いきなりくすくす笑い出した。
「へっ? なんかおかしかった?」
「まこっちゃん、欲張りすぎだよ」
うん、そうだね。 知ってるよ。
「そうかなー?」
「うん、食べてるときのあさ美ちゃんみたい」
「えーっ、それはちょっと心外」
私も、里沙ちゃんも気付いてる。
みんな、無事では済んでない。
「……っく、でもさ、案外あさ美ちゃんあたり今頃食べ物に囲まれてるかもね」
「あはは、ありえるありえる」
「石川さんあたり武器をピンクに塗ったりとか……」
「あはははは、ありえるありえる」
でもさ、だからこそ笑わなきゃ、だよね。
- 397 名前:72 マコたちの失敗〜ラフ&ポップ〜 投稿日:2003/12/01(月) 03:10
-
「矢口さんは今日も小さいんだろうなぁ……」
「ぶっ! 里沙ちゃん、思い出したように言わないでよ!」
笑え笑え笑え笑え笑え、笑顔のパワー。
「加護さんは今日も三倍!」
「あはははは! 里沙ちゃん、それ言いすぎ」
そっか、こういうことだったんだね、平家さん。
「吉澤さんも三倍!」
「あはははははは!」
私も、みんなを信頼する。
だから、絶望なんてしてやらない。
ありがとうございます、平家さん。
お父さん、お母さん。
今日、麻琴は少しだけ大人になれました。
【10番 小川麻琴 所持品 ダイナマイト 6本】
【28番 新垣里沙 所持品 焼夷手榴弾 5個】
「まこっちゃんも三倍!」
「あはははは……、…………は?」
そして友人の物言いに、ちょっとだけムカつきました。
―――――――――
―――――
――
- 398 名前:72 マコたちの失敗〜ラフ&ポップ〜 投稿日:2003/12/01(月) 03:11
- 後藤と加護のいるロッジから数百メートルのところに、キャンプ場がある。
キャンプ場、といってもただ森を更地にしたようなところで、
島の一番高い場所にある上、貯水施設などもなく、そのため水道はない。
とは言え近くに川が流れているが。
茶色い腐葉土の上には砂利が敷き詰められ、
ぽつりぽつりと煉瓦で出来た簡易の竈が置かれている。
「あのー、もしもしーし、生きてますかー?」
そんなただ広いだけの場所に、甲高い声が響いた。
「あのー、もしもーし」
ぐったりと横たわる体。
揺さぶる、揺さぶる、揺さぶる。
返事はない。
- 399 名前:72 マコたちの失敗〜ラフ&ポップ〜 投稿日:2003/12/01(月) 03:12
- 「やだ、ちょっとこんなとこで寝ないでくださいよ〜」
乱れた長い髪は亜麻色。
うつ伏せになっているためその顔は見えない。
けれどその髪、その香り、それだけで分かる。
――その、倒れてる人が誰なのか。
「なんで寝てるんですか、ねえ、ねえ……」
こんな状況にも関わらず甲高く通る自分のアニメ声。
自分の声をこんなに恨めしく思ったのは初めてだ。
信じたくない。 絶対に。
こんなの、一番有り得ないと思っていたのに。
「返事してくださいよ……飯田さん……」
石川は、飯田の背をずっと揺らし続けていた。
【3番 飯田圭織 所持品・生死ともに不明】
【5番 石川梨華 所持品 Panzer Faust 30k 2本】
- 400 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:13
- 少しだけ欠けた月が、穏やかに動く低い雲を照らす。
霧のような雲の切れ間に、星はきらきらと宝石のように輝く。
満天の星空、とまではいかないけれど、こういう朧月夜というのもまた趣がある。
何にせよ、こんなに奇麗な夜空は久しぶりだった。
東京に出て以来、あまり奇麗な星空には出会えていない。
空気が汚れているせいだろうか?
東京の夜空には星が少ないように思える。
『東京で見る星も故郷での星も同じだと教えてくれた』
とは自分たちの曲の一節である。
もしかしたら、そうなのかもしれない。
いや、多分きっと、そうなのだろう。
東京に空がないと思うのは、恐らく望郷の想いではない。
何故だろうか?
自分は東京に星空を見つけることが出来ない上に、
故郷の星空を懐かしむことも出来ないでいる。
そう。 別に故郷が。
北海道の空が懐かしいわけではないのだ。
ただ、夜空を見上げたとき、そこにいつもの景色がないことが、ただ純粋に悲しい。
思い通りにいかないことに腹を立てる子供のように、ただ何となく寂しくなる。
そう、自分はまだまだ子供なのだ。
何にせよ、こんな奇麗な夜空を見ると、故郷のことを思い出す。
―――――――――
―――――
――
- 401 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:22
-
「そんなとこいると風邪ひくよ」
声が聞こえ、紺野は振り返る。
「あ、あやっぺさん」
「ホレ、お茶」
そう言って石黒は片手の茶碗をすい、と差し出してきた。
「あんま夜遅くに飲むもんじゃないけどね」
「あ、いえ、頂きます」
緑茶にはコーヒーより多くのカフェインが含まれる。
それは紺野も知っている。
けれどどのみち眠れそうになかったので、素直に受け取ることにした。
それに彼女自身、人の好意を無碍に断れない性格である、というのもある。
「隣、いいかな」
「あ、はい」
窓枠に腰掛けていた紺野は少し桟寄りに身を寄せ、スペースを開けた。
そこに石黒が腰掛ける。
公民館にはシャワーも着替えもなかったので、汗の匂いが気になった。
けれどそれは石黒も同じ。 気にしてもしょうがないことだ。
暫く、黙ったまま空を眺める。
ずず、と茶をすする音だけが静かな世界に響き渡る。
少し、気まずい。
- 402 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:24
- 「なかなか奇麗な夜空だね」
「あ、はい。 そうですね」
受け答えをしてから、はっと思い出す。
そう言えば、石黒もまた北海道の出身だった。
それも紺野と同じく札幌だ。
「なんとなくですけど……北海道の空、思い出しません?」
取り敢えず、探りを入れてみる。
「北海道? うーん……、そうだね。 似てるかもね」
けれど石黒は気のない返事。
紺野は少しがっかりした。
道産子トークでも出来ればこの気まずい雰囲気を打破出来そうだったのだが。
「アタシは上京してからもう6年になるしね。 もう懐かしむことすらないよ。
……ま、そんだけ歳をとったっつーことよ。 アタシもおばちゃんになったもんだ」
そう言って、石黒は笑う。
つられて、紺野も笑う。
石黒は笑みを作ったまま、まだ湯気を立てるお茶をぐい、と飲み下す。
そしてこちらに向き直ると、こう言った。
「で、ふるさとを思い出して眠れなかった……ってわけじゃないよね?」
眩くも映る、優しげな微笑。
それを見て、心臓がどきりとする。
ああ、やっぱりそうか。
やっぱり、あやっぺさんは気付いてた。
- 403 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:25
- 「れいなちゃんのことでしょ?」
その言葉に、紺野は「はい」とだけ答える。
「そっか」
石黒は両手で持った茶碗をくるくると回し、室内の中空を眺める。
何を言おうか考えているのだろう。 紺野は黙って待つことにする。
殆ど間を開けずに、石黒は口を開いた。
「……気付いちゃったんだね?」
それは、想定していたこと。
だから考える間もなく「はい」と簡潔に答えた。
「まぁ、さゆみちゃんみたいに寝起きじゃなけりゃ誰だって気付くか」
そう言って、はは、と乾いた笑いをこぼす。
今度は、つられなかった。
石黒はこちらの様子を察したのか、また茶碗を回し、言葉を選んでいる。
けれど、今度は待つつもりはなかった。
「私は……」
ぽつり、呟く。
これを言っていいのかどうか、正直迷う。
けれど、言わなきゃいけない。 そんな気がする。
「私は……、人を殺した人と……、上手く付き合う自信はありません……」
言ってしまった後、少しだけ後悔した。
―――――――――
―――――
――
- 404 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:26
- 最初から、なんだか違和感があった。
田中を玄関前で見たときから、違和感があった。
それに気付いたのはそれぞれの経緯を話し終えたとき。
道重が「れなちゃんの武器はなんだったの?」と聞いたのがきっかけだった。
まずは道重が自分の武器――鉈を見せ、
それから田中がバタフライナイフを見せた。
その後石黒がデリンジャーを見せ、
紺野もまた自分の武器を見せた。
余談ながら紺野はそのとき初めて自分の武器を知ったのだが、
それはここでは問題ではない。
さらに余談ながら田中のバタフライナイフを見て石黒が何やら懐かしむようにしていたのだが、
それもまた別の話である。
- 405 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:27
- 問題はその後。
道重が田中のリュックを見て、「それ、なに?」と言った。
田中のリュックからは棒のようなものが突き出ていた。
――仕込み杖だった。
田中はそれは拾った物だと言い、取り敢えずその場は何事もなかった。
紺野もその場では、特別不思議にも思わなかった。
それでも違和感は、まだ心の奥に留まっていた。
確信に至ったのは、皆で布団に入ろうとしたとき。
田中が、そのときまで上着代わりに羽織っていたジャージを脱いだとき。
田中の服装は、この島に来る前、皆で成田に集まったとき、すでに見ていた。
勿論島についてからも、教室でその姿は見ている。
だから、気付いた。
違和感の正体に、気付いた。
田中の、ジャージの下に着ていたTシャツが、別のものに変わっていた。
―――――――――
―――――
――
- 406 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:28
-
(なーんかヤバげやっちゃね)
田中は、布団の中で独り、考えていた。
狸寝入りをする田中の隣には、穏やかな寝息を立てる道重。
逆隣にいるはずの紺野の姿はなく、
その奥にいるだろう石黒の姿もまたいつの間にか消えている。
恐らく、二人は気付いたのだろう。
自分が、人を殺したことを。
少し慎重さが足りなかったかもしれない。
田中は布団の中でむう、と唸る。
ただ、ここに着いてからの自分は、慎重すぎるほどに慎重だった。
自分なりに、害のない13歳の少女を演じられていたはず、と思う。
問題は、ここに着くまでの行動。
やはり、穴があったことを認めざるを得ない。
- 407 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:30
- 事実を言えばこうだ。
田中は学校への道の途中で、Tシャツに付いた数滴の返り血に気が付いた。
学校から引き返し、最初に入った民家でそれを着替えた。
腕だけ通すような形で着ていたジャージには幸か不幸か血は付いておらず、
中のシャツだけ替えることにした。
勿論、この判断は間違っていないだろう。
ただ、問題だったのは仕込み杖を拾ってしまっていたこと。
武器は多い方が良い。 少なくとも、持ち歩ける範囲では。
そう思って拾った武器が、逆に自分の首を絞めることとなった。
当然のことながら、前田を殺したことは話していない。
絶対に、隠さなければいけない。
道重に、そして亀井にだけは、知られてはいけない。
幸いなことに、石黒も紺野も人が良い。
それはこの数時間で確認済みである。
道重にあからさま伝えることはないだろうが、それでも不安は消えてくれない。
(隙を見て……、さゆと逃げるか……?)
そんなことを思う。
恐らくそれが一番手っ取り早い方法だろう。
けれどまだ夜が明けない今、自分一人ならともかく道重を連れて出歩くのは危険だ。
言い方は悪いが、足手まといだ。
(あーもう! どうしたらよかね!)
田中は声には出さず叫び、布団の中に引きずり込んだ枕を八つ当たり気味にぼふっと叩いた。
―――――――――
―――――
――
- 408 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:31
- 「まだ、決まったわけじゃないよ」
片眉を上げ、顔を顰めながら石黒は言う。
『まだ、決まったわけじゃない』
そんなことは分かってる。
けれど、『もしかしたら』という状況は、確定された状況よりも数段居心地が悪い。
「本当に拾っただけかもしれないし、着替えたのだって単に汗かいたからかもしれない。
まだ決め付けるのには早すぎるよ……」
「決め付けてるわけじゃ……ありません」
秘密に気付く、ということは気付かれるよりも何倍も辛い。
それが重い事実ならば尚更だ。
「私だって……、れいなちゃんを信じたい……。 でも……」
人を信じるということは、人を疑うということ。
疑いもせずにただ信じるのはただの妄信でしかない。
紺野はずっと、そう思ってきた。
そうやって、信頼できる人の数を増やしてきた。
「でも、やっぱり怖いんです……」
けれど、人を殺したかもしれない、と疑うのは初めてだった。
田中が、人を殺したかもしれない。
それは自分独りで抱え込むには、重すぎる秘密だった。
- 409 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:34
- 「もし、本当に誰かを殺したとして、だよ?」
石黒は相変わらず茶碗を弄びながら呟く。
ふざけているようにも取れるその動作だが、顔つきは真剣だ。
「……れいなちゃんだってさ、好きで殺したわけじゃないと思う。
それはあの子を見てて分かるよね?」
「はい……」
勿論、それも分かっている。
この島に集められた人たちに、好き好んで人を殺すような人はいない。
田中にだって何か理由があるということくらい、分かっている。
「だったら……さ。 さっきも言ったけど、信じてやらないと、ね?」
だから、その言葉に少しだけ腹が立った。
自分にだって信じたいという気持ちはある。
けれど信じたくても信じることの出来ない自分は、一体どうすればいい?
信じたいという気持ちだけが空回りする自分は、どうすればいい?
答えてください、あやっぺさん。
私は、あやっぺさんみたいに強くない。
* * *
- 410 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:37
- ゴメソ、>>409を訂正します。
――――――――――――――――――
「もし、本当に誰かを殺したとして、だよ?」
石黒は相変わらず茶碗を弄びながら呟く。
ふざけているようにも取れるその動作だが、顔つきは真剣だ。
「……れいなちゃんだってさ、好きで殺したわけじゃないと思う。
それはあの子を見てて分かるよね?」
「はい……」
勿論、それも分かっている。
この島に集められた人たちに、好き好んで人を殺すような人はいない。
田中にだって何か理由があるということくらい、分かっている。
「だったら……さ。 さっきも言ったけど、信じてやらないと、ね?」
だから、その言葉に少しだけ腹が立った。
自分にだって信じたいという気持ちはある。
けれど信じたくても信じることの出来ない自分は、一体どうすればいい?
信じたいという気持ちだけが空回りする自分は、どうすればいい?
答えてください、あやっぺさん。
私は、あやっぺさんみたいに、大人じゃない。
* * *
- 411 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:38
- 「それは……仕方ない、って思えってことですか?」
苛立ちは、言葉になって外に出る。
止めようと思っても、止まってくれない。
「……いや、そういうことじゃなくてさ」
「私は」
あやっぺさんの言葉を遮って、私の声は外に出る。
止めようと思っても、止まってくれない。
それは言ってはいけないこと。
私を守ると言ってくれた、この人にだけは言ってはいけないこと。
でも、ここで言わないと、
口に出して伝えないと、
何かとんでもない間違いが起きてしまいそうで、
「私は、たとえ何があっても人を殺すのは良くないことだと思います」
私の声は、外に出た。
- 412 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:39
-
――――パァンッ
熱を帯び、ひりひりと痛む頬に、『やっぱりか』と言う思いを禁じ得ない。
それは叩いたあやっぺさんに対する失望とかじゃなくて、むしろその逆だった。
あやっぺさんならこうしてくれる、と信じていた。
間違ってるのは、確実に私なのだから。
「……ゴメン」
そうやって謝るのも、予想通り。
いいんです。
分かってますから。
「あさ美が言ってることは多分正しいよ」
知ってます。
正しい、というのは、あくまで正論という意味でのこと。
「でもね、あさ美。 それはこの島では絶対に言っちゃいけないことだ」
うん、知ってます。
それは多分、れいなちゃんを思いやってのこと。
でも、それは違うんです。
「月並みな言い方かもしれないけど、あの子だって被害者なんだよ?」
あやっぺさんは優しいから、
れいなちゃんのことしか頭にないみたいだけど、
でもね、違うんです。
- 413 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:40
- 「そんなの分かってます……」
人を殺すのは良くないこと。
そんなことをいちいち言うのは、単に私が子供だから。
我侭を言って、あやっぺさんを困らせてる。
それは、私が子供だから。
「じゃあなんでそんなこと言うの?」
でもね……、あやっぺさん。
子供だって、困らせたいから我侭を言うんじゃないんですよ?
我侭を言うのは、遠くに行ってしまいそうだから。
我侭を言うのは、振り向いて欲しいから。
「だって……」
――自分の気持ちを、はっきりと伝えたいから。
「私は……、あやっぺさんに……人を殺して欲しくない……」
私は、あやっぺさんに人を殺して欲しくない。
それがたとえ、私を守るためだとしても。
* * *
- 414 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:41
- 「うぐっ……、ひっ……、うぅ……」
紺野は声を殺して泣いた。
冷め始めている中身入りの茶碗を畳に落として。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を石黒の胸に押し付けて。
ああ、この子はただ心配だったのだ。
自分が田中を殺すんじゃないかと。
田中が自分を殺すんじゃないかと。
ううん、それだけじゃない。
きっと紺野は、誰しもに誰も殺して欲しくない、そう思ってる。
「大丈夫」
「うぅ……、ふぇ……、ひ……っく……」
ただただ泣きじゃくる紺野の頭を、石黒は髪を梳くように何度も撫でる。
「心配すんな。 言ったろ? アタシは誰も殺さない。 誰にも殺させない。
アタシはみんなで帰るために、今ここにいるんだから」
それは、嘘偽りのない石黒の本心。
石黒もまた、誰しもに誰も殺して欲しくない。
- 415 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:41
-
「あの子も、さゆみちゃんも、あさ美も、みんな守ってやるって」
それは、叶わない願いであるかもしれない。
そう、例えばこの夜空に輝く星々。
その全てが一夜にして流星に変わったとして、
その全てに願いをかけたとして、叶う願いではないかもしれない。
けれど、願いとは願うことだけに意味があるものではない。
願って、目標に向けて努力して、初めて叶うもの。
――だから、
「だから、今日のところはおとなしく寝とけ」
―――――――――
―――――
――
- 416 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:45
- 石黒は独り、夜空を見上げる。
紺野はすでに階下に下りている。
今頃はもう夢の中だろうか?
つい、と視線を自分の胸元に移す。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったTシャツ。
思わず、笑みがこぼれる。
あの後すぐに紺野は落ち着き、押し付けていた顔を離した。
そして気が付く。
彼女と自分のTシャツの間に、見事な橋が出来ていることに。
手で拭こうとする紺野を石黒は慌てて遮った。
そんなことをしたら染みが広がるだけだ。
紺野の涙と、鼻水の付いたTシャツ。
別に汚いとは思わない。
……まあ、着替えたいとは思うけれど。
Tシャツから視線を外し、そのまま部屋の中を見回す。
足元に何か小さな物が落ちているのに気付いた。
「あの鼻たれ……」
にやりと口の端を上げながら呟いて、音もなくそれを拾い上げる。
――お守りだった。
- 417 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:46
- どうしてか「安産祈願」と書かれたお守り。
それが紺野に支給された武器だった。
それぞれの武器を確認したときの状況を思い浮かべ、石黒はまたにやりと笑う。
この世の終わりが来たかのような、紺野の顔。
かと思えば自分たちと一緒になって笑う。
そしてついさっき見た、鼻を垂らした間抜けな顔。
……まったく、ころころとよく変わるものだ。
しかしこのお守り。
「無病息災」ならまだしも「安産祈願」である。
「そんな祈願、してどうする」
と、故ナンシー関風につっこんでみても、虚しくなるだけ。
人差し指で何度か弾き、感触を確かめると、金属のような硬い感じがした。
厚さを考えると銃弾は防げそうにないが、刃物程度なら防げそうだった。
まったくの役立たず、と言うわけではないらしい。
(ま……、一応持たせておくか)
胸ポケットに入れておくか、あるいは首から提げていれば多少なりとも安全かもしれない。
そう思い、取り敢えずジーンズのポケットにしまう。
「ふぅ…………」
何となく、溜息が漏れた。
- 418 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:47
-
今日一日、余りにいろんなことがありすぎた。
朝、娘たちと亭主に見送られて、タクシーで事務所に向かった。
出迎えたのは自分の知らない人間。
勿論、3年も顔を出さなければ知らない人間も出てくる。
だから何も不思議には思わなかった。
そこで出された麦茶を飲み、猛烈に眠くなり、暫くして意識が途切れた。
多分、睡眠薬でも入っていたのだろう。
考えてみると、冷房の効きも悪かったし、
相手も話を伸ばして麦茶を飲ませようとしていたように思う。
迂闊だった、とは言わない。
誰が想像できるだろうか。
自分の権利の話し合いの場で、睡眠薬を飲まされるなんて。
昏睡したまま、拉致されるなんて。
殺し合いをさせられるなんて。
朝、家を出たときには、考えもしなかった今日の出来事。
余りに、いろんなことがありすぎた。
- 419 名前:73 星に願いを 投稿日:2003/12/01(月) 03:48
- 夜空を見上げながら、石黒は思う。
東京に空を見つけられないのも。
故郷を懐かしむことが出来ないのも。
それはまだ、自分が子供だから。
それはまだ、自分が何かをやり遂げていないから。
二児の母になった自分だけれど、きっとまだ、子供なのだ。
【 6番 石黒彩 所持品 Hi-Standard derringer】
【16番 紺野あさ美 所持品 お守り】
【23番 田中れいな 所持品 バタフライナイフ・仕込み杖】
【36番 道重さゆみ 所持品 鉈】
- 420 名前:74 焦燥 投稿日:2003/12/01(月) 03:49
- 斉藤瞳は焦っていた。
彼女を探してここまで来たはずなのに、何故かソファでくつろいでいる。
いや、くつろいでいるわけではない。足も手も、せわしなく動いている。
矛盾している、と自分でも感じる。
まったくもって不甲斐ない。
表面にそれが現れるほどに焦っているくせに、動こうともしていない。
何故、動けないのか。
理由は簡単。
福田明日香の存在だった。
斉藤はちらりと横目で福田を見やる。
福田はどこからか見つけてきた雑誌を読み耽っているところだった。
「……なんですか?」
そのまま、雑誌から視線は外さずに訊いてくる。
「いや、別に……」
斉藤は慌てて目を逸らす。
まったく、どうして気付けるのか。
彼女のそれは、視線を感じる、なんてレベルのものではない。
(はっきり言って……異常だよね……)
こちらの考えを全て読まれているような気がして、酷く落ち着かない。
- 421 名前:74 焦燥 投稿日:2003/12/01(月) 03:50
-
* * *
『今からではもう無理です。 今日のところはどこか体を休められる場所を探しましょう』
それは、福田のセリフ。
『日が昇ったら探しに行けばいい。 いつ、また先程のようなことになるとも分からないのですから』
合理的で、鋭敏で、整然としていて。
『他人よりもまず、自分の身を案ずることです。 先程の彼女、貴女独りで退けられましたか?』
理知的で、聡明で、洗練されていて。
『貴女はまだ、誰かを守れるほど強くない』
それ故に、冷酷で、残酷だ。
* * *
- 422 名前:74 焦燥 投稿日:2003/12/01(月) 03:52
- 確かに、福田の言ったことは正しい。
福田がいなければ先程の彼女――みうなを退けることは出来なかっただろうし、
そんな自分が、この島をこんな夜中に歩き回るのは危険だ。
それに、歩き回った疲れだってないわけではない。
けれど感情は、そんな合理的な考えで変えられるものではない。
そもそも感情と理性は対極にあるもの。
たとえ間違っているとしても、本当なら今すぐにでも探しに行きたい。
でも、出来ない。
死ぬのが怖いから。
得体は知れなくても、こと戦いに関しては頼りになる福田に縋っていたい。
そんな、自分がいる。
ああ、なんだ。 そうだったのか。
ふう、と一つ溜息をつく。
結局、自分は理性でここに留まっているのではないのだ。
恐怖という名の感情が留めているに過ぎないのだ。
まったくもって、福田の言うとおり。
自分は、誰かを守れるほど、強くない。
- 423 名前:74 焦燥 投稿日:2003/12/01(月) 03:53
- こち、こち、こち。
時計の針はリズムを刻む。
こち、こち、こち。
動け動けと責め立てる。
けれど、自分は動けない。
ただ焦りだけが手足の震えとなって表れる。
休んだ方が良いと考える自分。
今からでも探そうと考える自分。
そのどちらもが存在するから、こうやって無駄な時を過ごしている。
考えるのは、彼女のこと。
すれ違ったきりの、彼女のこと。
――アヤカは、今頃どうしているだろうか?
時計の針は、二時を回ろうとしていた。
【17番 斉藤瞳 所持品 Glock19】
【29番 福田明日香 所持品 防刃グローブ】
―――――――――
―――――
――
- 424 名前:74 焦燥 投稿日:2003/12/01(月) 03:54
-
「おっ……?」
矢口真里は、思わず声を上げる。
眼下を横切る道路。
視界の端に、人影が見えた気がしたのだ。
それを視界の中心に捉え、目を凝らす。
――見覚えのある髪型、服装、体のライン。
(あれって…………)
そう思ったときには、体は動いていた。
ベッドで眠る高橋を起こさないように部屋を出る。
そして急いで階下に向かう。
玄関に着き、鍵を開け、外に出る。
丁度、彼女は門の前にいた。
- 425 名前:74 焦燥 投稿日:2003/12/01(月) 03:55
-
「――っ!?」
突然開いたドアに驚いたのだろう。
彼女はこちらに向かい半歩下がり、片手に持った何かを突き出し身構える。
銀色に光るそれは、フォークのようだった。
到底武器とは言えないそれを、彼女はひらひらと動かして牽制をする。
そんな姿が健気で可愛らしく、そして少し悲しかった。
「心配しないで、敵じゃない。 大丈夫」
ゆっくりと諭すように言ってやると、彼女は一瞬固まった。
「その声……、矢口さん……?」
ぶんぶん、と首を縦に振って頷くと、彼女の肩から力が抜ける。
そのままこちらに向かって駆け出した。
「おっ? ……うおっ! ちょっとちょっと!くるしいって!」
抱きつかれた。
「良かった……、矢口さん……、生きてた……」
彼女の両目の端には小さな涙。
フォークを取り落とし、矢口の小さな体に腕を回し、すすり泣き始める。
- 426 名前:74 焦燥 投稿日:2003/12/01(月) 03:56
- 「いや、そんな大げさに……、ぐえ」
「良かった……、良かった……」
同じことを何度も呟きながら、彼女は両腕にさらに力を込めていく。
矢口の体を揺さぶるように、また自身の体も揺らしながら、ぎゅっと抱きしめる。
これがハグというものだろうか、とぼんやりと考える。
あー、やっぱりアメリカンの感情表現は激しいなー、とぼんやりと考える。
無論、ぼんやりと、というのは精神的なことではなく、単に脳に酸素がいっていないため。
「く゛る゛し゛い゛……、く゛る゛し゛い゛って゛……、ア゛ヤ゛カ゛……」
矢口は何とか力を振り絞ってパンパン、とタップをした。
それはクリス・ベノワのフェイスロックが如く、解放されるまで暫くかかった。
【 2番 アヤカ・キムラ 所持品 キッチンナイフ・フォーク・お皿 5セット(皿は四枚)】
【38番 矢口真里 所持品 ひのきのぼう・New nanbu M60】
- 427 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 03:58
- ゾンビ(Zombie)
――中南米はハイチに伝わるブードゥー教に伝わる秘薬を使い生きた屍となった者。
ブードゥーには、死者を送る、病人を治療する等の正しい儀式を行う司祭(男性の場
合はオウンガン、女性はマンボ)と、邪悪な呪術を扱うボコールがいる。(余談ながら、
オウンガン、マンボにもボコールの技を持つ者も少なくない)
ゾンビはこのボコールの技により作られ、その対象となる者はブードゥーの7つの掟を
破った者である。ゾンビと化した者はボコールの奴隷として労働を課せられる。
ゾンビ、と聞くと殆どの方は腐った死体が動く、と考えがちだが、そうではない。ゾンビ
とは単に幻覚剤によりボコールの手足として働かされる者たちのことである。
まずフグ毒であるテトロドトキシンを用い仮死状態にし、葬儀を行い、しかる後墓を掘り
起こし、ダツラという植物を与え、それに含まれるアトロピンによって幻覚状態にする。
この、意識が朦朧とした状態が、ゾンビなのである。
ゾンビはそのまま再び死ぬまでボコールの奴隷として働かされる。
つまり魔術と言う概念が成り立つブードゥーのような宗教においても、なんの下準備なし
に死人が蘇る、というのは有り得ないことなのだ。
まして近代国家においては言わずもがなである。
- 428 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 03:59
-
――ということを石川が知るはずもなく。
「きゃーっ!う、動いたー! ゾンビ! ゾンビーっ!」
むっくりと起き上がった飯田におびえまくった。
「誰がゾンビだ……」
頬に垂れた髪を払い、土埃を落としながら飯田は言う。
だが、痛みに顔をしかめ、ふらふらと立ち上がるその姿は、
自分でもゾンビそのものであると思う。
あながち的外れな意見じゃあないのかもしれない。
払っても払っても垂れてくる髪をかき上げ、そのまま後ろ向きに倒れこむ。
ぺたん、と尻餅をついた。
「ふぅ……」
肩を落とし、溜息を一つ。
視線の先には、こちらに背を向けしゃがみ込み、がたがたと震える石川の姿。
「ナンマンダブナンマンダブ……」
両手を合わせてぶつぶつと経を唱えてたりする。
(ゾンビにお経が効くのかよ……)
と、飯田は声には出さずツッコんだ。
- 429 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 04:00
- 「だいじょーぶ、カオはまだ死んでないよ」
言ってやると、恐る恐る、といった感じで石川が振り向く。
「し、死んでないんですか……?」
「うん」
おっかなびっくりな足取りで、こちらに歩み寄る。
「本当に……?」
「うん」
「本当に本当に本当?」
「うん」
「本当に本当に本当に本当に……」
「あー、もう! しつこいってば!」
怒鳴ると、びくりと後ずさる。
(あー、扱いづらい)
飯田は再度、溜息をついた。
―――――――――
―――――
――
- 430 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 04:01
- 「なんですかもー、寝てるんなら寝てるって言ってくださいよー」
「いや……、アンタ。 カオの話ちゃんと聞いてた?」
事の経緯を話し終え、石川が漏らした感想に頭を抱える。
「寝てたんじゃなくて、気絶してたの!」
それに寝てたら寝てるなんて言えるわけない。
「でも気絶って寝てるってことですよね? あれ? 違いましたっけ」
まったく、コイツは……。
脳までピンク色してるんじゃないだろうか?
そんなことを思う。
――けれど、
「あーもうどっちでもいいよ」
そう、そんなことはどうだっていい。
- 431 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 04:02
-
とにかく今は、時間が惜しい。
放送があれば、自分が生きていることを知られる。
そしたら、きっと戻ってくる。
「とにかく場所を移そう。 いつまでもここにはいられない」
真剣な顔で言うと、石川の顔色が一瞬で変わった。
黙ったまま頷き、立ち上がる。
さっきまでのピンク色のキショイキャラはどこへやら。
その顔は真剣そのものだった。
ハハ、なんだ。
カオ、ちっとも分からなかったよ。
アンタ。 アタシを元気付けようとしてたのか。
―――――――――
―――――
――
- 432 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 04:03
- 星を見る限り、川は北へと延びているようだった。
「飯田さん。これ、なんだと思います?」
「うーん……。 棍棒……かなぁ」
その川沿いの道を歩きながら、手渡された物体をしげしげと見つめる。
ずんぐりとした頭の付いた、金属の棒。
それは見た目通りに重く、殴れば中々の破壊力になりそうだった。
「石川、これ二本担いできたんでしょ? 重くなかった?」
「そーなんですよぉ〜。 すっごく重くって。 肩こっちゃいましたよ」
そう言って、石川は自分で自分の肩を揉む。
顔は笑っているが、やはり疲れが見え隠れしている。
取り敢えず、道中は一本持ってやることにした。
「でも重いから、きっと凄い武器に違いないんです」
「へえ、そうなんだ」
石川の理屈は、分かるようでいてよく分からなかった。
- 433 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 04:05
- 「でも……、良かったですね……」
思い出したように石川は言う。
「そうだね、コイツのおかげだよ」
言いながら、ぽんぽん、と胸を叩く。
三つほど穴の空いたカッターシャツ。
勿論、これのことではない。
コイツ、と言ったのは、その下にあるもの。
指先に伝わるごわついた感触が、最初は慣れなかったものの今では妙に頼もしい。
――防弾チョッキ。
風通しがいいように、少し大きめのものを着ていたのが幸いして、
前を閉じれば傍目からはそれと分からないようになっている。
少々ずんぐりとした印象にはなってしまうが。
けれど今のような夜中であればそうそう気付かれない。
現に、自分を撃った彼女を欺くことは出来た。
- 434 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 04:06
- 「飯田さんは……どう思うんです?」
「どう思うって、何を?」
「その……」
石川は自分から話しておきながら閉口してしまう。
まあ、はっきりと言わなくても、言いたいことは良く分かった。
自分を殺そうとした、彼女のこと。
「うーん……、どうもこうもない――ってのが本心かな」
少しだけ考えるようにしてから、答える。
旧知の人間に殺されかけたのにこんなに冷静でいられる自分が、少し不思議だった。
「カオが銃を持ってたら、って考えてみても、全然分かんない。
カオリは血とか苦手だし、火薬の匂いもあんまりダメな人だから、撃てないと思う」
そう言って、ふふ、と笑う。
勿論本気でそう思っているわけではない。
ただ、場を和ませるためにおちゃらけているだけだ。
「なんであんなことしたの?――って聞いても、答えてくれないだろうし、
それに多分、答えてくれたとしてもわかんないと思うんだ。
どうして、とか。 なんで、とか。 そういうのって人それぞれじゃない?」
理由なんてのは人それぞれ。
推し量ることは出来ても理解することは出来ない。
ただ一つ言えることがあるとすれば、
自分が銃を持っていたとしても彼女のような行動は取らなかった、ということくらい。
手を振り、駆け寄ろうとした人間に、有無を言わさず銃弾を放つ、などという行動は。
- 435 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 04:08
-
「だから、分からないってしか言いようがない」
そう言って、言葉を区切る。
これ以上の意見は自分にはない。
石川は暫く黙り込む。
反芻し、言葉の意味を考えているのだろう。
それともどうして明るく振舞えるのかが疑問なのだろうか?
そう、どうして自分はこんなにも前向きでいられるのだろう。
それは自分でも疑問だった。
生きていられた喜びからだろうか。
それとも単なる諦めか。
いずれにせよ、折角ポジティブな状態でいられているのに、
わざわざ暗くなる必要はない。
やがて、考えるのを諦めたのだろうか、石川は再度口を開く。
「もし……、もしですよ? また会っちゃったらどうします?」
今度は簡単な質問だった。
「逃げるね」
一言で事足りる。
- 436 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 04:10
- 「……って言っても逃げられないかもしれないけどね」
体力にはある程度自信はあるけれど、
まさか銃弾より速く走れる脚力なんて持ち合わせていない。
けれど、逃げる以外に選択肢がないのも事実。
「その時にはチョッキのことはバレちゃってるだろうし、こっちには武器もない。
まあこの棍棒はあるけどさ。 それ以上にカオは戦いたくないんだよ」
自分を撃った彼女は勿論、出来ることなら誰とも戦いたくない。
自分は誰も殺したくないし、誰にも自分を殺した重荷を背負って欲しくない。
たとえば、このままゲームが進まずに四日間が過ぎたとして、
恐らくつんくの宣言通り、自分たちは首輪で殺される。
それは、一つの結果ではあるが、自分にとって最悪なものではない。
どうせ殺されるのなら第三者に殺された方がマシだ。
「なんでこんなことになっちゃったんでしょうね……」
石川は俯きながら呟く。
多分、それが一番分からない質問。
自分の知らないところで、色んな意図が動いているのは分かる。
けれどそれが見えない人災は、天災と同じで避けようがない。
「なんでだろうねぇ」
なんでだろう。
本当に、分からない。
日頃の行いはそんなに悪くなかったはずなんだけどな。
- 437 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 04:11
- まあ、過ぎたことを考えても仕方がない。
折角ポジティブでいられているのだから、これからのことを考えなくては。
「ねえ石川。 これからアタシたちは一緒に行動するわけだけど」
これから、ここで、この島で。
何があるかは分からない。
「もし、アタシとはぐれたとしても、絶対に探さないでね」
多分、神様にもそれは分からない。
この島に着いた時点で、とっくに見放されているのだから。
だから、ここで、この島で、生き残るためには。
「自分が生き延びる。 それだけを考えること」
それだけを考えて行動する。
それ以外に、道はない。
- 438 名前:75 黄泉がえり 投稿日:2003/12/01(月) 04:12
-
「そして」
そして、ここで、この島で、私が初めて出会った人。
私が出会った、初めての脅威。
「紗耶香に、市井紗耶香に会ったら、なんとしてでも逃げること」
紗耶香が、私を撃った。
今でも半信半疑だけれど、それは紛れもない事実。
信じたくはないけれど、紛れもない事実なのだ。
「分かったね?」
顔を覗きこみながら訊ねると、石川はこくりと頷いた。
【 3番 飯田圭織 所持品 防弾チョッキ】
【 5番 石川梨華 所持品 Panzer Faust 30k 2本】
- 439 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/01(月) 04:13
-
- 440 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/01(月) 04:13
-
- 441 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/01(月) 04:14
-
- 442 名前:abook 投稿日:2003/12/01(月) 04:16
- 以上、更新でした。
>>370
>「重傷」の……
読み返してみると確かに仰る通りです、、、。
書いてるときもどっちにしようか迷ったんですが、それまで
「○○負傷」の表現だったために重傷を取ってしまいました。
>どうなっちゃうん……
というわけで演出ではないです、ハイ。
>軽く……
いや、こういう意見は有難いので軽くは受け取れないですよ。
フィクションとは言え、人の生き死にに関わることを
軽い気持ちで決めてはダメだ、と改めて確認致しました。
>>371
あ、その節はどうも。
感想ありがとうございます。
マターリワッショイ!!マターリワッショイ!!(AA略
>さりげなく……
作者自身( ´D`)(´ Д ` )→( ´(`* )を想像してしまい萌え死に(バカ
- 443 名前:abook 投稿日:2003/12/01(月) 04:17
- >>372
>辻に天使……
( *´D`)ゞ<テヘテヘ、てれるのれす
(●´ー`)<天使はなっちだべ
>中澤が……
ネタバレになるので、どっかに。
見ない方がいいです、、、。
>>373
ありがとうございますニヤニヤ。
( `.∀´)y-~~ニヤニヤ
( O^〜^)ニヤニヤ
( ´ Д `)ンアンア
川o・-・)<後藤、空気読め。
>>374
>明日香の……
そうですか、余程間違った福田観をお持
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
>トミー……  ̄ ̄
すげー深読み、思わず感嘆の息を漏らしました( O^〜^)<YO!
いや、嫌味でなく。ホントその半分でも推理力が欲しいです。
- 444 名前:abook 投稿日:2003/12/01(月) 04:19
- >>375
あ、どうも川瀬さん。ご結婚おめでとうございます。
>>377
>深……
いやはや、ありがたい。
川VvV从<作者自身は底の浅い人間だがな。
_| ̄|○<……
.○ ま、精々惨めな努力を続けろよ。
l|l ノ|)
_| ̄|○ <し
>>378
そそそそんな! めめめっそうもない!
マジレススルト イイダサンハ サイキンミョウニ イロポクテ カナリスキ
- 445 名前:abook 投稿日:2003/12/01(月) 04:20
- さて。
>>376で土日中に更新と言っておきながら結局月曜になってしまいました。
まったくもって不定期。待ってくれている方には本当に申し訳ないです。
今回更新分でまだ出てない人は5人になりました。
他の人は、、、まあぽつぽつと出していきます。
あの人あたりは、、、そろそろ出さないと拙いんでしょうねぇ、、、。
取り敢えず、今回はこの辺で。
それでは。
- 446 名前:abook 投稿日:2003/12/01(月) 04:23
- 今回更新分
>>382-438
おやすみなさい。
- 447 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/01(月) 10:12
- 更新乙です。
そうか…石川はパンツァーファウストもってたんですよね、パンツァーファウスト3
だったら誰でも武器だろうと思うんだけど説明書とか付いてないんですか?
バックブラストで後ろの人が死にますよw
- 448 名前:名も無き読者 投稿日:2003/12/01(月) 19:36
- 更新乙彼です。
不謹慎ですが…メル欄の中の人に笑ってしまいましたYO。
メル欄だけでなく本編でも活躍してくれることを願ってます。
- 449 名前:北都の雪 投稿日:2003/12/01(月) 23:22
- 更新お疲れ様です。
いやーまた大量に(w
読むの大変かなあと思ったらぐいぐいと引き込まれ一気にいきました。
名も無き読者さん同様メル欄の彼女に期待…イ`
>>371 も、萌え… いつの日にか短編書いてくださることを期待します(爆
それではまた。 マターリマターリ
- 450 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/02(火) 16:32
- いいらさん登場したぁ。活躍してくれるとええなぁ(*´∀`*)
いやー何故か石川さんが物凄く格好良くみえるw
そして自分もメル欄の中の人に禿げしく笑ってしまった。
川*`ー’)<続き期待してるんやよ
- 451 名前:abook 投稿日:2003/12/02(火) 18:38
- _| ̄|○、、、やっちまった。
本文で書かなかった武器は【】内に書かないようにしてたんですが
書いちゃいましたよ、ええ。 >>423ですよ。 福田さんですよ。
_| ̄|○、、、はぁ。
取り敢えず防刃グローブ423のことは防刃グローブ忘れてやってください防刃グローブ。
返レスはいつになるか分からない更新時に。
では。
- 452 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/06(土) 20:23
- ( `.∀´)<マンコマンコ!
- 453 名前:おくとぱす雅恵 投稿日:2003/12/13(土) 18:04
- ついに…ついに紗耶香様が(名前だけ)登場ですか!大期待です!
- 454 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 13:42
- 期待大です
- 455 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 01:32
-
- 456 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 01:37
-
- 457 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 01:38
-
- 458 名前:76 乾杯 投稿日:2003/12/25(木) 01:41
-
「ダハ〜……、死ぬかと思った」
「……ごめんなさい」
「いや、いいよいいよ。 オイラがいきなし声かけたりしたのもマズかったし」
アヤカの熱い抱擁からようやく解放された矢口は、アヤカを引き連れて玄関に上がる。
開けっ放しだったドアと、鍵を閉め、そのまま居間へと向かった。
「適当にそこらに座ってていいよ」
「あ、はい」
返答のあと、少し躊躇しながら椅子を引いて座るアヤカ。
矢口もその向かい側に腰を下ろした。
「で、アヤカはここまでずっとひとりだったの?」
聞くと、こくりと頷く。
「そっか。 まあそうそう都合よく誰かに会えるわけでもないしね」
言いながら、少しほっとする。
誰かに会う、というのが必ずしも良いこととは言えないこの島で、それは幸運なことだと思う。
この島にいるのは高橋や石井のような好意的な人だけではない。
高橋や、あさみを撃った人間のように、ゲームに乗ってしまっている人間がいるにはいる。
だから、そういった危険にアヤカが遭っていないことに安堵した。
ただ、目の前にいるアヤカは少し様子がおかしい。
きょろきょろと視線を這わせ、かと思えば借りてきた猫のように身を縮こませている。
『大丈夫?』と聞いてみたい気持ちもあったが、
それはそれで無神経なような気がして止めておいた。
- 459 名前:76 乾杯 投稿日:2003/12/25(木) 01:42
- まあ、単に疲れているだけなのだろう。
誰とも会わない、というのは危険からは遠い代わりに、
その分孤独と戦わなくてはいけない。
自分だって開始からの半日、ただ独りでいたとしたら、
今のような落ち着いた状態でいられたかどうかは分からない。
ひとまずは、余計な気を焼かずに近くにいてやるだけのほうがいいだろう。
「あの、矢口さんは……」
そんなことをぼんやりと考えていた意識が、アヤカの声で覚醒される。
言いよどんだ彼女の顔に焦点を合わせ、「ん?」と聞き返す。
「矢口さんも今までひとりだったんですか?」
まあ、話の流れから言えば当たり前の質問だった。
「あ、オイラ? オイラはね……」
呟くように答えて、暫し考える。
今のアヤカの状態からすると、重い話になるのは避けるべきだろう。
銃で撃たれた、なんて朝食にうなぎが出るのと同じくらい重い話題だし。
さてさてどうしたものかと思うが、まあ何も今全てを話す必要はない。
細かい事情は後々話せばいいだけだ。
「えっとね……」
取り敢えず、高橋と石井、二人がいるということだけ、
「あれ、お客さんですか?」
伝えようとしたところで遮られた。
- 460 名前:76 乾杯 投稿日:2003/12/25(木) 01:43
- 声に驚き、振り返る。
見えたのは扉と、こちらを覗き込んでいる石井。
丁度部屋に入ろうとしているところだった。
「あ、石井ちゃん、起きたんだ。 ごめんね、オイラうるさかった?」
「いえ、別にそんなんじゃないですよ。 ただ何となく寝付けなかったんで何か飲もうかと」
すたすたと横を通り過ぎて冷蔵庫の方へと向かい、食器棚からグラスを三つ取り出す。
どうやらこちらの分も用意してくれるみたいである。
石井ちゃんは気が利いてるなあ、とほのかに思いながら、アヤカの方へ向き直った。
「えっと、こっちは石井ちゃん、知ってるよね?」
「はい」
わざと石井にも聞こえるように紹介すると、
石井はグラスに麦茶を注ぎながらひらひらと手を振る。
アヤカも会釈でそれに返す。
まあ、取り敢えずはコミュニケーション成立だろうか。
何となく場の雰囲気が明るくなってきたのを感じながら、話を続ける。
「で、ここには石井ちゃんと、あと高橋がいる」
「高橋……、 高橋愛ちゃんですか?」
「うん。 元々はオイラ高橋と一緒に行動してたんだけど……、
色々あって、高橋怪我しちゃったんだ。 それでここに着いて、助けてくれたのが石井ちゃん」
そこまで説明したところで、スッ、とグラスが目の前に出された。
少し見上げるような形で「ありがと」と言うと、石井はにこやかな笑みを返してくれる。
アヤカにも同様にグラスを出して、一言二言やり取りをする。
ちょいちょい、とそこに横やりを入れる。
すでに、話題は高橋のことから逸れていた。
いやはや、ありがたい。
どうやら彼女のおかげでうなぎを出さずに済みそうである。
- 461 名前:76 乾杯 投稿日:2003/12/25(木) 01:44
- 「んじゃ、とりあえず乾杯しますか」
何がとりあえずなんだか自分でもよく分からないけど、まあなんとなくそんな気分だった。
「何に乾杯します?」
「うーん、再会を祝して、でいいんじゃない?」
と石井と適当にやり取りした後、改めてグラスを取る。
互いに顔を見合わせながら、それを掲げ、
「んじゃ、再会を祝して」
矢口の音頭の元に、
「「「かんぱーい」」」
かちんかちんと打ち鳴らす。
それを口元に運びながら、矢口は思う。
今はまだ暫定的な乾杯で、その上麦茶でしかないけれど、
この島から抜け出すことが出来れば、そのときこそもう一度、
今度はきちんとアルコールありで乾杯したいものだ、と。
「あ、矢口さん。 これ麺つゆでした」
「ぶーっ」
吹いた。
【 2番 アヤカ・キムラ 所持品 食器セット】
【 4番 石井リカ 所持品 救急セット】
【38番 矢口真里 所持品 ひのきのぼう New nanbu M60】
- 462 名前:77 藤本美貴は静かに眠りたい 投稿日:2003/12/25(木) 01:45
- 人間の行動を左右するのは何だろう。
藤本美貴は考える。
それはその人の意思であるか知れないし、
あるいは他人の意思であるか知れない。
自分のやりたいことをやる、という意思。
他人の期待に応えたい、という意思。
なるほど。
それはそれで辻褄があっているように思う。
ただ、藤本に言わせればそれは真実の一部の姿でしかない。
確かに、最終的な決断は感情によるところが大きい。
けれど感情など所詮はものの数秒で移ろい行くもの。
その全てが感情で決まるような、そんな短絡的な動物であるならば、
人間はここまで繁栄しなかった。
人間の行動を左右するもの。
それは『立場』であると、藤本は考える。
- 463 名前:77 藤本美貴は静かに眠りたい 投稿日:2003/12/25(木) 01:46
- それが意図的に得たものであれ、単に周囲から押し付けられたものであれ、
たとえば職業であれ、グループ内での役割であれ、長女、次女といった生来のものであれ、
その人間の持つ立場はその行動に密接に関係する。
人間は様々なしがらみに囚われながら生ある時を過ごす。
しがらみとは何も周囲の環境のみを指すのではない。
その者の行動理念、それ自体がすでにしがらみであり、つまり自らの創った立場なのだ。
他人に流される人間は、ただ決められた役割を演じているに過ぎず、
確固とした己を持った人間ですら、ただ自らが決めた役割を演じているに過ぎない。
主観とは、己の理念を具象として明らかにしたものであり、
つまるところ己の立場のポジフィルムであると言える。
そして、主観に従わぬ行動をする人間はこの世に存在しない。
立場は、人間の行動を左右する。
いや、むしろ立場のみが人間の行動を決め得るのだ。
* * *
- 464 名前:77 藤本美貴は静かに眠りたい 投稿日:2003/12/25(木) 01:47
- ――と、
そこまで考えたところで藤本は両の瞼を開けた。
いつの間にか変な妄想をしていたらしい。
だいぶ疲れているようだ、と自己分析する。
自分にとってすればそんなことは当たり前のことで、当たり前のことをわざわざ考える必要はない。
考える必要もないことをわざわざ考えるのは、即ち疲れているということ。
この高台に来てから随分経つが、
思ってみればこれまでまともな休息は取っていなかった。
ずっと寝そべっていたり木に寄りかかったりと、
比較的楽な姿勢ではいられたが、野外で、しかも下に敷くマットすらない状況。
目に付く小石などは払ったが、それでもまっ平らというわけではなく、
地面の微妙な凹凸が気になって仕方がない。
(そろそろ別の場所にいこうかな)
この場所、確かに標的を探すには向いているが、休むには及第点以下だ。
地面等の状況もさることながら、何より狭い。
後ろに寄りかかれる木などはあるものの、すぐそこは崖である。
寝返りをほんの数回しただけで数十メートルの自由落下とあらば、
当然快適に眠れる場所であるとは言えなかった。
- 465 名前:77 藤本美貴は静かに眠りたい 投稿日:2003/12/25(木) 01:48
- (もうそろそろみんな寝てるだろうしな)
亀井の姿を見かけて以来、誰も見ていない。
二度目の放送が終わってからかなり経過している。
三回目の放送まであと数十分といったところだろう。
少なくとも深夜二時は回っているはず。
いくらなんでもこんな時間に外を出歩く者はいないだろう。
勿論普段ならば皆まだまだ起きていられる時間帯だろうが、状況が状況である。
誰に襲われるか分からないこの島で、もしこんな時間に出歩くものがいるとすれば、
それは状況を把握していない世間知らずのバカか。
あるいは把握した上で出かける命知らずのバカか。
そのどちらかである。
まあ、どちらにしろそいつはただのバカ。
わざわざ睡眠時間を削ってまで付き合ってやる義理はない。
(んじゃ、美貴も寝ますか)
立ち上がり、土埃を払う。
少々裾の短いチノパンと、胸に「漢」とかかれた赤いTシャツ。
飛行機の中で上に羽織っていたチェックのシャツは今は腰に巻いている。
そんなラフな格好。
勿論ラフだからといって汚れていいわけではないけれど、
特別お気に入りの物ではないのでそれほど気にもならない。
ある意味では、幸運なのか知れない。
気合を入れてオシャレをしなかったのは、幸運なのか知れない。
この服は、この先さらに汚れていくのだから。
泥にも、砂にも、汗にも。
血にも。
- 466 名前:77 藤本美貴は静かに眠りたい 投稿日:2003/12/25(木) 01:48
- 「あーあ、かったるいなー」
木々の合間を抜けながら、ぼやく。
これまで二回の放送で、すでに三人の名前が挙がっている。
それは単純に考えて、すでに三人の人殺しがこの島にいると言うこと。
勿論一人で三人殺したと言うこともあるかも分からないけれど、
ひとまずは自分の取りたいように解釈しよう。
して、三人の人殺しがこの島にいる、とする。
ゲーム開始から六時間で、彼女らはそれぞれ一人を殺したわけだ。
彼女たちが今後もこのペースで事を運ぶとして、また、夜明けが午前六時前後であると仮定して、
第二回の放送終わりから終局までの間に彼女たちが殺す人の数は54÷6×3で27人。
都合で30人しか死なないことになる。
11人も余ってしまう。
さて、ここで彼女らとは別の人間を考えてみるとしよう。
新規の人殺しが一日の初め、午前六時に一人ずつ増えるとして、
さらに彼女らもまた先駆者である三人と同様のペースで事を運ぶとして、
二日目に増えた人殺しは8人、三日目に増えた人殺しは4人殺せる計算になる。
これで都合42人。 充分な数だ。
勿論これは仮定の上に成り立つ空論であるし、
人殺しが人殺しを殺す可能性を考えていないから、
どう少なく見積もっても±5人の誤差はあることだろう。
となると、少なくとも自分は4、5人は殺さなくてはいけないことになる。
勿論、その中には三人の人殺し、または新規の人殺しが含まれていることも忘れてはいけない。
だから、かったるいのである。
- 467 名前:77 藤本美貴は静かに眠りたい 投稿日:2003/12/25(木) 01:49
- 自分は、まだ一人も殺せていない。
それがとても気にかかる。
それは他の人からすれば喜ばしいことなのかもしれない。
つまるところ人を殺すに伴う危険に触れてすらいない、ということなのだから。
勿論、その点については自分も喜ばしいことだと思う。
けれど、それは同時に自分が人を殺す感覚を得ていないということでもある。
そしてその感覚はこの島で生き残るために必要不可欠なもの。
銃を撃ったときの感覚。 高橋の体から血が吹き出たときの感覚。
ぴん、と張った背筋に冷や水を垂らされたような、
それでいて体の芯は焦げ付くほど熱い。
――それを、思い出す。
ある種の快感にも似た感覚。
その中でも冷静でいられた自分。
けれど、それはあくまで発砲の感覚であり、人を殺す感覚ではない。
本当に人を殺したとき、自分がどんな反応をするのか、まだ分からない。
後悔するかも知れないし、何も感じないかも知れない。
けれど、先の計算からしてみても、それほど時間はない。
出来るなら早いうちに、経験しておきたいのだ。
- 468 名前:77 藤本美貴は静かに眠りたい 投稿日:2003/12/25(木) 01:50
- 覚悟は、とうに出来ている。
自分の立場を狩猟者としてものと定めたときに、すでに覚悟は出来ている。
懸念するのは、感情による揺らぎ。
敵を目の前にしてほんの少しでも揺らぎがあれば、それは命取りになり得る。
だからこそ、一度本当に人を殺してみて、その感覚を覚える必要がある。
ただひとり、生き残るために。
「ま、何にせよ。 今日のところはお休みだけどね」
藤本の足は、北へ向かって進んでいた。
【30番 藤本美貴 所持品 PM (Makarov)】
- 469 名前:78 これから 投稿日:2003/12/25(木) 01:50
- 静かに揺れる波を、ちかちかと明滅する明かりが照らす。
船はストロボの光の中をまるでダンスでもするかのように揺れ動く。
ワルツにも似た緩やかなステップ。
ふわりふわりと揺れ動く。
月の青い光と、明滅する白い光。
海は月光を吸い藍色に染まり、
船体は灰色にも似た白色に輝く。
そんな、どこか幻想的な光景。
「よ……っと」
掛け声とともに、船が傾ぐ。
縁に足をかけ、彼女は甲板から波止場へと飛び移る。
ふわりと宙を舞う体。
殆どよろけることもなく、奇麗に着地。
「大丈夫でした? りんねさん」
「うん。 中は誰もいなかったよ。 つくりもしっかりしてるし、安全だと思う」
りんねはそう言って目を細め、とろんとした笑顔を見せた。
- 470 名前:78 これから 投稿日:2003/12/25(木) 01:51
- りんねと里田は北の港へと来ていた。
マンション内を捜索し終え、道なりに歩いてたどり着いたのがこの港だった。
夜も更け、取り敢えず休もうということになり、手近にある船を探っていたわけである。
「色々調べたけど、やっぱり動きそうにないね。 キーを回してもエンジンかかんない。
電気は使えるからバッテリーは大丈夫なんだろうけど、エンジンがいかれてるみたい」
「はあ」
「取り敢えず、中はいろっか」
「そうですね」
先にりんねが飛び移り、彼女に手を引かれながら里田もまた船に乗り込む。
ぐらぐらと揺れる足場は不安定だったが、
りんねがしっかりと手を握ってくれていたおかげで危なげなく移ることが出来た。
「へえ……、中は結構広いんですね」
船室を覗き込むと、まず目に映ったのがガラスのテーブル。その向かって左側にソファ。
右奥に――寝室、あるいはバスルームだろうか――扉が見える。
左奥の壁はクローゼットになっていた。
視線を落とすと、床が一面カーペット張りになっているのが分かる。
ふわふわと毛布のような見た目で、土足で入るのに少し気が引けた。
けれどりんねはまったく臆せず、土足のまま上がる。
多少の気後れを感じながらも、それに続く。
- 471 名前:78 これから 投稿日:2003/12/25(木) 01:52
- 「電気、付けたほうがいいかな?」
「あ、別に大丈夫ですよ。 見えなくはないですし」
りんねの言葉に、思わず上を見る。
丸窓から差し込む光でうっすらと光るシャンデリア。
結婚式場にあるような馬鹿でかいものではなく、小さなもの。
それでも結構な値段はしそうだ。
左右に二つずつ付いた丸窓の縁は金色に光り、
それがメッキなのか純金なのかは分からないが、
その表面に浮かぶ細工だけでも高級そうな印象は受ける。
こうなると、四方に張られた壁紙ですらも高級そうに感じてしまう。
(なんか……、場違いな感じ)
それは勿論、この船がこの島に、ということではなく、自分がこの船に、ということだ。
クルーザー、と呼ばれるタイプのものだろうか。
かなり大きめであるし、内装を見る限りでもかなりの額はするんだろうな、と思う。
「高そうな船ですね……」
「うん? ああ、そうだね」
りんねはクローゼットを開け、中腰で何かを何かを探していた。
里田はその背をぼんやりと眺めながら、ソファに座る。
ふかふかとした感触が気持ちいい。
- 472 名前:78 これから 投稿日:2003/12/25(木) 01:52
- そのまま体を前後に揺らしながらその感触を楽しんでいると、
りんねがやってきて何やらこちらに差し出してくる。
「ほい、ジュース」
「あ、どうも」
どうやらクローゼットの中に冷蔵庫があるようだった。
手渡された缶は適度に冷えていて、
輪切りのオレンジが描かれた缶の表面に水滴がぽつぽつと浮かび上がってくる。
「眠たくなったら言ってね、奥に寝室あるから」
「あ、はい」
人差し指の爪をひっかけ、プルタブを起こす。
牧場を離れてからも爪はそれほど伸ばしていなかったから
封を開けるのに苦労はしなかった。
こくり、と一口飲むと疲弊していた体がほんの少し休まる。
「りんねさんは飲まないんですか?」
「うん。 っていうかさっきもう飲んじゃったんだよね。 船探ってるときにさ」
ごめんね、と付け加えてから、りんねは隣に座った。
- 473 名前:78 これから 投稿日:2003/12/25(木) 01:53
- 「結局……、今日見つけられたのは三人だけでしたね」
「うん、まいちゃん入れると四人だけどね」
「ああ、まあ、そうですけど」
マンション内で、探知機には三つの光点が映った。
マンション以外の住宅付近も色々探しては見たものの、探知機は反応せず。
ここに来るまでの道にも、勿論港にも、誰もいなかった。
「確か小湊さん、ルルさん、レフアさんでしたっけ」
りんねの探知機では番号しか見れないため、はっきりとは分からない。
けれど15番、32番、41番、という数字から教室での席順を思い出して、
恐らくその三人だろう、ということになった。
「うん。 多分ね」
席順を思い出したのはりんねだった。
一緒にカントリーとして活動していたときはぽ〜っとしていて
あまり記憶力がよさそうには見えなかったりんねだけれど、
番号を見てから殆どタイムラグなしに答えていた。
その記憶力は当時からあったものなのか、
あるいはカントリーを離れてから身に付いたものなのか、
里田には分からない。
- 474 名前:78 これから 投稿日:2003/12/25(木) 01:54
- 「良かったんですか? みんなと会わなくて」
言いながら、自分でも考える。
どうしてりんねは三人に会おうとしなかったんだろう。
何人かでぞろぞろと歩くのも得策ではないのかもしれないけれど、
せめて顔くらい見せてあげて、敵じゃないってことを伝えるだけでも
しておけば良かったんじゃないんだろうか?
「ん? うーん……」
りんねが考え込んでいる間、里田はマンション内でそれぞれの番号を確認した部屋を思い出す。
勿論部屋番号を覚えているわけもなく、ただそれぞれの番号が一箇所ではなくばらばらの部屋にあった、
つまり三人とも独りでいた、ということだけ思い出す。
そう、みんな独りで部屋に閉じこもっていたのだ。
「……部屋にひとりでいるってことはさ、『誰とも会いたくない』ってわけじゃないだろうけど、
やっぱ怖いんだろうし。 あまり刺激するようなことはしたくないしね」
そのりんねの答えは、確かに正しいと思う。
実際自分が部屋に隠れていたとき、玄関のドアをノックされて良い心地はしなかった。
けれどそれはりんねの声を聞くまで。
りんねはハロプロ在籍時も他の人と衝突するようなことはなかったから、
他の人でも自分と同じようにドアの向こうにいる人がりんねだと分かれば
抵抗なく受け入れてくれるんじゃないだろうか、と思う。
けれどもそれはこっちの思惑だし、向こうがそう思ってくれるという確証はない。
「それに寝てるかもしれないしさ。 こんな時間帯だし。
出来るなら人と会うのは日が出てるうちのほうがいいじゃない?」
「まあ、そうですよね」
その選択は、妥当なのだろう。
- 475 名前:78 これから 投稿日:2003/12/25(木) 01:54
- りんねが何を考えて行動しているのか、里田には分からない。
何か脱出手段を見つけて、逃げようとしているのか。
はたまた主催者側と戦って、彼らの移動手段で逃げようとしているのか。
これから、どうしていこうというのだろう。
「あー、やっぱ何か飲もうかな?」
「あ、よければこれ、余ってますから」
ちゃぽちゃぽと缶を振りながらオレンジジュースを差し出すと、
りんねは笑ってそれを断る。
「いいよいいよ、飲んじゃって」
そのまま立ち上がってクローゼットに向かう。
冷蔵庫から缶を一つ取り出し、ぷし、とプルタブを開ける。
ごっごっごっ、音が聞こえてきそうなくらい、豪快にそれを飲み下す。
まるで銭湯でフルーツ牛乳を飲んでいるときのような、そんな姿。
そんな感じの姿も、彼女には良く似合う。
「はー、生き返るねー」
彼女が、何を思って行動しているのか、
これからどうするつもりなのか、
自分に、何を期待しているのか、
それは分からない。
ただひとつ確かなことは、彼女がこのゲームにのるつもりはない、ということだけ。
取り敢えず今は、それだけでいいのかもしれない。
「ふふ、りんねさん。 おばさん臭いですよ」
そう言ってやると、りんねは照れたように笑った。
【19番 里田まい 所持品 レイピア・盾】
【26番 戸田鈴音(りんね) 所持品 人物探知機】
- 476 名前:79 異音 投稿日:2003/12/25(木) 01:55
- 変な音が聞こえた気がした。
しゅる、と乾いた何かが擦れる音。
きゅ、と濡れた何かを擦る音。
その両方であるような、小さな音。
その音で目が覚めたとき、
いつの間にか自分の肩に掛かっていた毛布に、
そして部屋の中に彼女の姿がないことに気が付いた。
(どこにもいない……)
部屋を出て、方々探してはみたものの、
彼女の姿はおろかその所持品であるリュックすら見つからない。
(それって……、やっぱそういうことだよね……)
リュックすらない、ということがどういうことを意味するのか、分かっている。
- 477 名前:79 異音 投稿日:2003/12/25(木) 01:56
- (なんで……、なんでだよ……)
すぅ、と顔から血の気が引く。
筆舌し難い感情が、どこからか染み出してくる。
(なんで……、何も言わないで出てっちゃうのさ……)
見捨てられた、と思ったわけではない。
むしろこれは予想出来ていたはずのこと。
――なのに、
自分は、何もしなかった。
辻のときと同じように。
彼女の強さに甘えて、大丈夫だろうと高を括って。
一番傷付いている人を、さらに傷つけるようなことを言って。
一番傷付いていたのは、彼女だったのに。
- 478 名前:79 異音 投稿日:2003/12/25(木) 01:57
- 自分は大馬鹿だ。
なんでこう、口下手なのか。
どうしてもっと要領よく出来ないのか。
あんなこと言わなければ、こうはならなかったかもしれないのに。
一言だけでもいい。
「ごめん」と謝ることが出来れば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
(こんなんじゃ……、辻のときと同じじゃないか……)
加護のことで、頭がいっぱいだった。
中澤の気持ちを、全然分かってなかった。
* * *
- 479 名前:79 異音 投稿日:2003/12/25(木) 01:58
-
――――カタン……
それから暫く経ち、聞こえてきた小さな物音に後藤ははっとする。
すでに彼女は加護の眠る部屋に戻っていた。
(今の音……、空耳じゃないよね?)
――――カタカタ……
木枠が揺れるような音に、思わず窓の方を見る。
透き通ったガラスも、ロッジを囲む木々も揺れていない。
ということはつまり、それは風によるものではないということ。
そして、それはここではない別の場所から漏れてきている音であるということ。
(裕ちゃん……、帰ってきたの……?)
すぅすぅと寝息を立てる加護を横目で見ながら、静かに部屋を出る。
念のため、拳銃も携帯しておく。
廊下に出ると、その音はよりいっそうはっきりと聞こえた。
かたかたと何かが揺れる音。
板張りの床がぎぃぎぃと軋む音。
それらは全て、一階のほうから聞こえてきた。
音だけではなく、微妙に感じ取れる空気の変化。
これが気配というものだろうか。
どこか確信じみたそれは、極度の緊張を後藤に与える。
(誰か……、一階にいる)
その誰かは、中澤であるのかもしれない。
けれど中澤ならばわざわざ足音を押し殺して一階をうろつくようなことはしないはずだ。
そう、その物音は、まるで誰かを探し回るかのようにうろうろと移動していた。
- 480 名前:79 異音 投稿日:2003/12/25(木) 01:59
- ごくり、喉がなる。
脇を締め、胸の前に構えた拳銃がいっそうの重みを増す。
(裕ちゃんじゃないんなら……、一体誰?)
踵からつま先へと流れるように着かせ、膝のクッションを使って足音を殺す。
穴の開いた右腿も、なんとか気力で動かす。
エントランスホールをぐるりと囲むように降ろされた階段からは
ホール全てを見渡すことが出来た。
そこには、誰の姿もない。
――――ぎっ、ぎっ……
軋みによる空気の震えは、一階奥のほうから聞こえてきていた。
そちらにあるのは、バスルームと管理人室、そして厨房だ。
一階に降り立った後藤は、なるべく壁に沿ってゆっくりと移動する。
これだと通路の角が衝立になって向こうからこちらが見えない分、
こちらからも向こうを確認できなくなる。
そのため、後藤は殆ど這い進むようなペースで歩き出した。
じりじりと近づく。
ぎぃぎぃと音はなり続ける。
張り詰めた緊張感の中で、ただそこにいる誰かが出てくるのを待つ。
足音が少しずつ大きくなり始めたとき、
壁に這わせていた左手が蛍光灯のスイッチにぶつかった。
チャンスは、一回。
すぅ、とまるで幽霊のようにその人影はエントランスに歩み出る。
彼女の体はゆっくりと壁から離れ、後藤が下りた方とは別の階段へと向かう。
頃合は充分。
意を決し、電気を付けた。
- 481 名前:79 異音 投稿日:2003/12/25(木) 02:00
- ちかちかと数回の明滅。
彼女は足を止め、こちらを振り向く。
ショートの髪がそれに伴って円状に広がる。
すかさず後藤はその影へ銃を向け――
「――――っ」
ぴたり、止まった。
「あー……、びっくりした」
影は――否、もはや影ではなく、彼女の全身は煌々とした明かりに照らされている。
――彼女は、左手を胸に当てながら、はは、と笑った。
「いきなり電気付けるなよ。 間違って撃っちまうところだったじゃんか」
そう言って、右手に持ったいかつい拳銃をひらひらさせる。
口の端をにぃと吊り上げ、皮肉げな笑みを作る。
「なんだよ。 アタシの顔を忘れたか?」
そんなわけない。
いつもどんなときも想っていたわけではないけれど、
けれど忘れたことなんて一度もない。
そして、これからも絶対に忘れることはないだろう、その笑顔。
――懐かしい、笑顔。
「いちーちゃん……!」
「ひさしぶり、 ごとー」
【 7番 市井紗耶香 所持品 拳銃】
【14番 後藤真希 所持品 Colt M1911 A1】
- 482 名前:80 眠れない夜 投稿日:2003/12/25(木) 02:01
- 眠れない夜というのは、いつも唐突に訪れるものだ。
どれだけ疲れていようとも、どれだけ目を開けてるのが辛くたって、眠れないことはある。
そしてそれは、特別珍しいものじゃない。
不眠症の人は言う。 眠ってると不安だ、と。
寝ている間に誰かに先を越されるんじゃないかと。
何か致命的なことが起こるんじゃないかと。
人間、物を考えて動いている以上、悩みは必ず付いてくる。
悩みは自らを苛み、追い立てる。
だから、何かをしていないと不安になるのだ。
そしてそれは、今の自分も同じ。
どうして自分は、こんなところに独りでいるのだろう。
今にも誰か大切な友人が命の危険に晒されているかもしれないのに。
自分だけ、比較的安全と思えるこのマンションに隠れている。
どうして、動かないのか。
どうして、動けないのか。
「ああーっ、もうっ」
ベッドも何もないフローリングの床に横になりながら、
小湊美和は何度目かになる苛立ち混じりの嘆息を吐き捨てた。
- 483 名前:80 眠れない夜 投稿日:2003/12/25(木) 02:03
- 寝苦しい、というわけではなかった。
島特有の湿った空気は確かに気分のいいものではなかったが、
それでも気温は大してない。 暑さはそれほど感じない。
何故自分が眠れないのか、というのは全て前述したような精神的な部分から来るもの。
自分が何をすべきなのか。
分からないから動けない。
分からないから眠れない。
稲葉はどうしているだろうか。
信田はどうしているだろうか。
ルルはどうしているだろうか。
考えれば考えるほど、眠れなくなる。
はっきりと感じるのは焦りと、自らの不甲斐なさだけ。
「まったく……、どうしようもないね、アタシは」
呟き、小湊は上体を起こした。
そして自分のリュックに手を伸ばす。
持ち上げると、がちゃり、音がした。
- 484 名前:80 眠れない夜 投稿日:2003/12/25(木) 02:04
- ジッパーを開け、中の物を取り出す。
扇の弧のように反り返った長細い両刃の剣。
剣の根元には短い金属棒が横に突き出る形で付いている。
そして、剣と同じくらいの長さの棒が一本。
その棒の片方の先端には半円型の小さな刃物が付けられている。
それぞれの棒の逆の先端――刃物の付いていないほうの先端にはネジとネジ穴。
ネジ穴の方には固定のための丸ネジが四つ、対角上に付いている。
それは組み立て式の武器だったのだが、組み立てるまでもなく、
それぞれのパーツの形からそれが何であるのか容易に理解できる。
「ふん……」
説明書きの通りに、ネジ穴にネジを回し入れる。
ギリギリいっぱいまでねじ切ると、丁度大小の刃物が平行になるところで止まった。
それから動かないように丸ネジで固定。
それに合うような大きさのドライバーも付属として付いていたため、難なく締められた。
微妙な曲がりを修正し、真っ直ぐに伸びたそれを持ち上げて掲げる。
弧を描く刃。 長細い柄。
柄の下端に、小さな独鈷。
あぐらをかいた体勢で、掲げたそれをじっと見つめる。
「鎌……、か」
死神が持つような、大鎌。
優に小湊の背丈の半分以上はあるその得物は、禍々しい光を放つ。
両手でそれを持ったまま、小湊は立ち上がる。
この部屋を出るつもりだった。
- 485 名前:80 眠れない夜 投稿日:2003/12/25(木) 02:04
- 誰に会えるという保障はない。
けれど会えないと言い切れる根拠もない。
どうせ眠れないのなら少しでも動いていた方がいい。
誰を助ける、とか。
誰を守る、とか。
そんな大層なことなんか考えちゃいない。
そこまで増長しちゃいない。
自分がやるべきことなんて知らない。
使命感なんてない。
今、自分がそうしたいだけ。
ただ、自分の知らないところで仲間が死んでいく、それが嫌なだけだ。
【15番 小湊美和 所持品 大鎌】
- 486 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 02:05
-
- 487 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 02:05
-
- 488 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 02:06
-
- 489 名前:abook 投稿日:2003/12/25(木) 02:07
- というわけで更新でした。
>>447
>説明書……
簡易のものなら持ってるには持ってます。 でも石川さんは気付いてません。
で、とりあえずみんなに渡された武器にはそれぞれ説明書きがついてます。
事細か、ってわけではないですけど、まったくの素人でも安全には扱える程度の。
例えば銃器なら銃器なりの……、セーフティのかけ方とかリロードの仕方とか。
まあ他にも矢口さんのDQセットについてたようなアホな説明書きもあるにはあるんですけど、
大体のものにはまともな説明書きが付いてると思って欲しいです。
ってつらつら書いちゃいましたけど……、これ、ネタバレかな?
(ネタバレ嫌いな人は上段全スルーして下さい。
>誰でも武器だろうと……
……ま、まあ、石川さんですし。 大目に見てやってください。
>>448
>メル欄の中……
ノ○ <ワーイ、 ワロタ モラター。
↑
ワロタ
- 490 名前:abook 投稿日:2003/12/25(木) 02:08
- >>449
毎度のご愛顧、琴美にありがとうございます。
お待たせしてスミマセン。
>メル欄の……
飯田さん大人気だー。
ビクッ. ∧ ∧ ∧ ∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(゚Д゚ ;≡; ゚д゚) < うお!な、なんか予想外のメル欄効果だぞゴルァ!
./ つ つ \___________________
〜(_⌒ヽ ドキドキ
)ノ `Jззз
>>450
>メル……
ノ○ <ワーイ、 マタ ワロタ モラター。
↑
ワロタ
ノ <アー、 ワロタ トラレター。
ヒョイ ミ○←ワロタ
ミ川o・-・)ノ
ノ <クワレター
ムグムグ
川o・〜・)
つ(,,,)と
↑
ワロタ
>川*`ー’)
_n
( l _、 _
\ \ ( <_,` )
ヽ ___ ̄ ̄ ノ グッ!!
/ /
- 491 名前:abook 投稿日:2003/12/25(木) 02:10
- >>452
( ;`.∀´)<ペレ!ペレ!ペレ!
#)ノシ
>>453
こみなっさんでましたよー。
>ついに……
さーて、どうなることやら、、、
>>454
待っててくれて有難うございます。
感謝、感謝。
なんだかどんどん更新の間、空いてってます。 ヤバイです。
下手するとオソロなみの刊行ペースになってしまう。
それだけは避けたい。
なんとか頑張ろう、自分。
短いですが今回はこの辺で、それでは。
あ、あと、次回更新でようやく初日の区分が終えられるかと思います。
- 492 名前:一人がかりのクリスマス 投稿日:2003/12/25(木) 02:11
- 今回更新
。 o .☆ , o
彡*ミ。 ゚ 。
o , 。彡゚ミ:ミ。 , o 。
彡+ミヘ*ミ _Å_
o 。 ,。彡ミo*ミミ;;ミノハヾ☆ o
。彡゚彡 由 ソミ*’ー’) 。
, 。 彡〃oソ\。人゚;ミと ノ ゚ ,
o 彡[>>458-485]ミミ ,
彡ミ*。+〃 ○ ヾペゞミミ。 。
゚ , 。 彡〃ミ彡 由 ミヾ* Д べミミ , o
彡ミ彡oソミ J 彡ミミ G ゞミソヘヽミミ
o . _Å_ ♭ |il i ;i;l| 由 _Å_ o
ノノノヽnn .|il i ;i;l| ノノハヽ
。 , 川;’‐ノ ,-|il i ;i;l| -, (’ー’*川 。
( ノ □□□□:| (0田と)
゚ .(ソ^(ソ 田田田田,! (_)^ヽ_)≡3 ゚
(AA無断借用)
よい年末を。
- 493 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 03:12
- >>492
川 ’−’川<一人がかりのクリスマスねぇ。某掲示板では高橋のネタが
流行ってるみたいやけれども、そんなことありませんやよ。
川 ’−’川<もっとも、高橋はいつもメンバーに囲まれてて幸せということは
付け加えさせてもらうがし。
- 494 名前:おくとぱす雅恵 投稿日:2003/12/27(土) 16:11
- この世界でこみなっさんを拝めるのはいつ以来だぁ!ありがとうございます!
(まあその直前のいちごまの邂逅ですでに興奮しておりましたが)
T&Cが今もいたら、ごっちんの『抱いてよ!〜』のダンサー、やって貰いたいな
なんて思ったり…。『やる気!〜』のメロンみたいに。
- 495 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/28(日) 20:15
- 読んでると緊張する((((川;’д’)))ガクガクブルブル
オソロにならんようにがんがって作者様!更新待ってます(w
∬∬´▽`)人(’ー’*川<レス面白すぎるんやよー
- 496 名前:PAN吉 投稿日:2004/01/02(金) 01:11
- おお!更新されてる〜!
新年明けましておめでとうございます。
- 497 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/03(土) 22:15
- ( ´D`)
( ‘д‘) 卒業
- 498 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/10(土) 21:43
- 藤本美貴は静かに眠りたいて・・・ジョジョからでつか?
- 499 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/14(水) 17:35
- 保全
- 500 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/14(水) 19:54
- あげてはだめ
- 501 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/17(土) 03:28
- さげてもだめ
- 502 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/17(土) 14:00
- 期待しちゃうからやめてくれ。
ochi
- 503 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/19(月) 23:57
-
- 504 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/19(月) 23:57
-
- 505 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/19(月) 23:57
-
- 506 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/19(月) 23:58
-
自分がまだ子供だった頃 自分は全てを知った気でいた。
けれど全ては錯覚で 自分は何も知らなかった。
自分がまだ子供だった頃 彼女は素敵な先輩だった。
何も知らなかった自分に 色んなことを教えてくれた。
彼女は多くは語らなかった。 直接それと言うではなく、
ただその背で、その仕草で、それとなく教えてくれた。
好きな先輩。
大好きな先輩。
その背を遠く感じたのはいつだったか。
走り出そうとしていたその背を 遠く感じたのはいつだったか。
そのことすら もう遠い昔のようで
その背は ますます遠く霞む。
低く飛ぶ雲のように いつの間にか。
ふわりふわりと 風に吹かれ。
たとえ遠くでも そこにあったはずのその背中さえ もう見えない。
- 507 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/19(月) 23:59
-
* * *
- 508 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:00
- 「はい、コーヒー」
「お、サンキュ」
キッチンから戻った後藤は両手に持ったカップの内一つを市井に手渡す。
ソファにゆったりと座っていた市井は、緩慢とも見えそうなゆっくりな動作で
渡されたコーヒーを静かにすすった。
少し距離を置いて、その横に後藤も座る。
「ん……、結構苦いな」
「あっ、お砂糖とか必要だった?」
「いや、別にいいよ。 ブラックも嫌いじゃない」
慌てて立ち上がろうとした後藤を市井が止める。
そして持っていたカップをテーブルに置き、こちらに向き直った。
それに倣うかのように、後藤もまた一度も口をつけていないカップをテーブルに置く。
こちらの反応を見て面白がっているのだろうか。
市井はただにやにやと微笑む。
- 509 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:01
- 気まずさと気恥ずかしさを同時に感じてしまい、どうにも落ち着かない。
きょろきょろと目を動かしながら後藤は口を開いた。
「あ……、っと…… お、お茶菓子とかないね」
「そだね」
片や市井はまったくの余裕で、覗き込むようにこちらを見ている。
ああ、もう。
どうしてこんなに興奮しているのだろう。
コーヒーだってまだ一口も飲んでいないのに。
ゆらゆらと立ち昇る湯気と、それに伴う芳ばしい香り。
ただそれを嗅いだだけで、普段より何倍ものカフェインを
取り込んでしまったかのような、そんな気がする。
「何か――」
――持ってくるよ。
言いかけ、立ち上がろうとした後藤の左腕を、市井が掴んだ。
- 510 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:03
- 「別にいいよ」
「そ、そう……」
その手に引かれるまま、座りなおす。
「ぷっ……ははっ、やっぱごとーはかわいいなぁ」
「っ……、」
「ははっ、なんだよ。 照れてんのか?」
「そ、そんなんじゃないよ」
今、全身が、火傷したみたいに熱くなってるのは。
それはきっと、傷口からの発熱だろう。
そう思い込むことで、後藤はなんとか自制しようとした。
―――――――――
―――――
――
- 511 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:03
- 草木も眠る丑三つ時。
それを邪魔する影一つ。
――カサカサ……
かさかさと草木を揺り動かし、
「もーっ、なんなのよーっ」
ぶつくさと文句を呟きながら、
そろりそろりと森を行く。
「ホント、なんでこんなことになっちゃったんだろ……。 わっけわっかんない」
己の不幸を呪いながら、
「はぁ……、みんなだいじょぶかなぁ……?」
皆の無事を祈りながら、
そろりそろりと森を行く。
そろりそろりと影は行く。
「はぁ……」
其の行く先は淡き夢か。
或いは儚き幻か。
答え得る者は何処にも在らず。
「たん……、どうしてるかなぁ……」
影の名は、松浦亜弥と云った。
- 512 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:04
-
* * *
- 513 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:04
- 「……ま、あんま考えこんでもしかたないかぁ」
松浦はふぅと一つ息を吐き出すと、近くの樹木に目を留めた。
その幹は彼女の肩幅より少し大きいくらいで、丈もなかなか。
大木、と呼んでも差し支えないくらいの大きさだった。
「よいしょ……っ」
その大木に身を寄せ、背を預ける。
リュックは邪魔にならないよう前に抱えた。
ぎゅう、と肩を寄せるようにそれを軽く抱きしめる。
ごわごわした表面はお世辞にも気持ちがいいとは言えないけれど、
今、すがれるものはこれくらいだ。
目の前にあるジッパーの金具を唇であぐあぐといじる。
ほんの少しだけ、気分が安らいだ。
(ホント……、みんなどうしてるのかなぁ)
そのまま唇を離さないで暫く考え込む。
彼女は、これまで誰とも出会っていなかった。
- 514 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:05
- 学校を裏門から出された松浦は出来るだけ人と会わないようにと森の中にその進路を向けた。
出来るだけ光の見えない方へ。 奥へ奥へと進んでいった。
勿論、この島はそれほど面積があるわけではないからいずれは舗道に辿りつく。
彼女はその度に向きを変え、今の今まで森の中をさまよい歩いていた。
「あ〜あ……、足いたいなぁ……」
呟きながら、自分の足元を見つめる。
歩き通しでむくんだ甲。
擦れて真っ赤になった箇所もある。
けど、そんなことは問題じゃない。
問題なのは、履いているもの。
――最近買ったばかりのサンダル。
海外の、それも島での合宿だと聞いて買ってきたものだった。
白いエナメル革に小さな金具がきらきらと銀色を照り返して、中々にオシャレ。
ごてごてした装飾も付いてないから履き易いし、スマートな印象がどことなくセクシー。
最近大人っぽくなってきた(とみんなに言われる)自分にはピッタリだと思う。
ショップで一目見ただけで「買おう!」と即決で決めたくらいの、そんなお気に入りの一品。
「……なんだけど」
森をあちこち動き回ったために靴底は泥でべっとり。
ベルトや金具の部分にまでこびり付いている。
元が白いだけに腐葉土の真っ黒な泥は余計目立った。
- 515 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:06
- 「はぁ……」
思わず、ため息。
「むぅ〜……」
むぐむぐとリュックに唇を押し付けながら、背中を丸め、膝を折ってかがむ。
左腕と両膝でリュックを抱え、手ぶらになった右手でサンダルの泥を拭う。
森の、それも日の届かないような深い場所にあった腐葉土はたっぷりと湿り気を帯び、
少々払っただけでは落ちてくれない。
こそぎ落とすように爪で削ると、なんとかぽろぽろと剥がれてくれた。
あらかたの泥を落とし終え、リュック越しにその姿を確認し、
「うぅ〜……」
思わず、呻く。
案の定、その白い革の地には泥の跡がくっきりと付いていた。
(あ〜あ、なんだかな〜……)
膝を伸ばし、背を伸ばし、立ち上がって再び幹に背を預ける。
枝葉が風に揺れる音や、その振動が背中越しにも伝わってくるようで、
悪い気分はしなかった。
―――――――――
―――――
――
- 516 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:07
- 「市井ちゃんは……、今までどうしてたの?」
「ん? 特別。 なんもなかったよ」
「あ……、そ、そっか。 はは、良かったね」
何か話のきっかけを。
そう思って話してみるものの、続かない。
こういうとき、自分の口下手さ加減に辟易する。
加えて市井は市井で言葉を発しないでもその場を楽しめるような人だから、
この沈黙はある意味当然なのかもしれなかった。
ゆっくりと、聞こえないように深呼吸。 静かに心を落ち着ける。
なるべく動揺を顔に出さないよう努めながら、
後藤は辻が倒れていたあたりの床を眺める。
そこに残っていた血液はすでに拭き取った後だ。
そのため、傍目では分からない。
それでも……、
「……やっぱ、何があった、とか言ったほうがいいのかな?」
ん?と市井は表情だけで聞き返した。
- 517 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:07
- 暫し、向き合ったまま沈黙してしまう。
自分自身まだ整理が付いてないことだけに、返答を待っている時間は永遠にも思えた。
どう話せばいいのか。
加護のこと。 辻のこと。 中澤のこと。
取り敢えず何か喋ろう、そう思うのだが、胸の所でつかえてしまって全然出てこない。
ひと時ではあったにせよ隅に追いやられていた後悔が、再び戻ってきてしまっていた。
感情は重圧となって後藤の心を押さえつける。
まるで、見えない手に首を絞められているような感覚。
「えと……、あのね……?」
「いや、いいよ。 話さなくて。 何があったかは大体知ってるから」
沈黙に耐え切れず始めようとした話を、市井はやんわりと遮った。
「へ? 知ってるって……なんで?」
殆ど間を置かずに聞き返す。
市井は、答えないままこちらを眺めていた。
まるで後藤が正解を導き出すのを待つかのように。
- 518 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:08
- その視線に刺激され、後藤は暫し考え込む。
彼女は今、「知ってる」と言った。 「分かる」ではなく、「知ってる」。
まさかあのとき、あの銃撃戦を外から見ていたということもないだろう。
見ていたならば逃げるか止めに入るかしているはずだ。
それに加護を寝かせてから、中澤と二人である程度見回りは行った。
もしそのときすでに彼女が周辺にいたのならば、
こちらが気付いていいだろうし、彼女の方から声をかけてくるはず。
後藤か、中澤のどちらかが、あるいはそのどちらかに。
…………中澤?
(――――あ、そうか)
思わず、声を上げそうになる。
それは考えてみれば簡単なことだった。
- 519 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:09
- 不思議なもので、思索を巡らしている間は緊張とか、後悔とか、そういったものを忘れられる。
そして、それだけじゃない。
事象を冷静に分析、判断することで、また自らも冷静になれた。
ずっとこちらを見つめ続けていた市井の顔を、真正面から捉える。
その顔は「少しは落ち着いた?」と言っているように見える。
ああ、そうか。
だから市井はわざわざこんな回りくどいことをしたわけか。
――まったく、手の込んだことを。
後藤は、ゆっくりと口を開く。
「裕ちゃんに……会ったんだね?」
市井は、落ち着きを取り戻した後藤の口調ににやりと笑い、
そしてこくりと頷いた。
- 520 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:11
- 回りくどい気配りだったけれど、効果はあったと思う。
感情の波は嘘のように引き、穏やかな心地でいられている。
もし、あのまま市井に「裕ちゃんに会ったんだ」と言われていたら、
きっと取り乱していただろう。
彼女は、自分のせいでここを出て行ったのだから。
きっと詰め寄ったり、なんで止めなかったのかと責めたり、
市井を困らせるようなことになっていたはず。
そう考えると、彼女の応対は的確だった。
「裕ちゃんとは森の中で会った。 ここに来る前、30分くらい前かな?
ここにはごとーと、あと、加護と……辻がいるんだろ?一応ある程度のことは聞いた」
気を遣われているのだろうか。
市井の言葉遣いにちくり、と胸を刺されるような痛みを感じたが、
顔には出さないよう、こらえる。
「で、まあ5分くらい話を聞いて、別れて、ここまで来て現在に至るってわけだな」
――5分。
中澤なら、5分もあればここで起こった全てを話すことは出来る。
辻がもうこの世にはいないことを、彼女はすでに知っている。
やはり気を遣われているのだ。
そう思うと、少しだけ気が重くなった。
- 521 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:12
-
「裕ちゃんの様子は……、どうだった?」
訊ねながら、考える。
中澤は、何も言わずに出て行った。
辻のことを悔やんで自殺するつもりじゃないか。
そんなことも考えた。
その発端を作ったのは自分。
あのとき、辻を止められれば。
あのとき、加護を止められれば。
あのとき、教室であんなことを言わなければ。
「いや、特別。 なんか決意染みたものは感じられたけどね」
だから、市井のその答えに後藤は安堵する。
「ヤケになってたりとか……」
「いや、それはない。 あの人の強さはごとーも知ってるだろ?」
「……うん、そうだね」
ようやく、肩の荷がひとつ下りる。
けれどまだ全てではない。
ただ自殺の可能性が薄くなっただけ。
もしかしたら、という思いは、けして頭から離れてくれない。
「それで、裕ちゃんの行き先は……、聞いてない?」
だから、後藤は訊ねる。
- 522 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:13
- 「ん…………」
その問いに市井は表情を曇らせた。
戸惑ったような、困ったような。
その様子に、後藤は胸騒ぎを禁じえない。
「聞いたには聞いたけど……」
「教えて」
口を濁し、市井は答えようとしない。
そんな様子がますます後藤を不安にさせる。
「うーん……、聞いてもどうしょもないと思うぞ?」
「でも、知りたいの。 お願い」
まさか。
もしかしたら。
考えいていた中でも最悪の想像が、急激に膨らみだす。
「うーん……」
「お願い」
胸騒ぎは、もう止めようがないまでに膨らんでいた。
- 523 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:15
- たとえば、仲間を集めに行ったのだとして。
たとえば、物資を集めに行ったのだとして。
彼女はきっと大丈夫。
きっと生きて帰ってくる。
彼女なら、何処へ行ったとしてもきっと大丈夫。
中澤なら、たとえ何があったとしても生きて帰ってくると信じている。
けれど、胸騒ぎは消えてくれない。
予想する行き先の中で、たったひとつ、明らかに絶望的な場所がある。
もしも彼女がそこへ向かったのだとしたらば、彼女はもう二度と戻ってこないかもしれない。
それは、最悪の予想。
次第に、焦りを感じ始めている自分がいることに気が付く。
自分の予想に、想像に、焦りを感じ始めている自分がいることに気が付く。
そんな様子を見るに見かねてか、
「はぁ……、ま、仕方ないか」
呟き、市井は重い口を開けた。
- 524 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:15
-
――急がば回れ。
焦りは、不運を招くと言う。
ならばこれもまた、焦りの呼んだ不運なのだろうか。
「裕ちゃんはね、学校に行ったよ。 つんくと話をつけに行くんだとさ」
最悪の予想は、当たってしまった。
―――――――――
―――――
――
- 525 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:16
-
――ザッ、ザッ、ザッ
疲れが少しでも取れたせいか、それともただ苛立っているだけなのか。
再び歩き出した松浦は、幾分か早足だった。
深い森の中では夜空すら満足に見えず方角はようとして知れない。
けれどたとえ夜空が見えたとしてそれで方角が分かるかどうかも疑問だった。
勿論、何処に向かっているのか、という問題は彼女の頭の片隅にはある。
しかし彼女の頭の大部分を占めているのはある一つの問題。
(サンダルどうしよっかなぁ〜……)
歩を出すたびにますます汚れていくサンダルを、彼女は憂鬱な気分で見つめる。
一度は泥を拭ったものの、やはり気休めでしかない。
傘を忘れた日の夕立のように、普段の彼女なら仕方ないと割り切れるのだろう。
けれど、今の場合は何故か違った。
- 526 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:17
- 不安なのだろうか。
サンダルがどうこう、ということではなく、
未だ誰とも会うことのできていないこの状況が。
勿論、それは彼女が決めた行動の結果であり、自業自得と言えばそうなのだが、
それでも数時間前までの自分を反省する気にはなれなかった。
――本当に、怖かったのだ。
誰かに、それも自分が親しくしていた人たちに殺されるかもしれない。
そんな想像、妄想は、彼女を限界まで責め立て、森の奥へと追いやった。
今はむしろ誰かに会いたいとさえ思っている彼女だが、
その想像、妄想は、心のどこかに残っている。
だから、不安。
誰にも会えなくて、不安。
誰かに会うことが、不安。
そんな矛盾をかき消すために、彼女は早足で歩いているのかもしれなかった。
「えっ…………?」
けれど図らずもそれは、悲劇への近道。
―――――――――
―――――
――
- 527 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:18
- 瞬間、後藤は立ち上がる。
「後藤? ちょっと。 どうしたんだよ」
呼び止める市井を、キッと睨みつける。
「どうして……? なんで……、なんで裕ちゃん止めてくれなかったの?」
そんなことしたらどうなるか、分かるはずなのに。
市井にも、中澤にも、分かるはずなのに。
恨みにも似た感情が、後藤の中で氾濫していく。
分かっている。 これは自分が言えたことじゃない。
単なる八つ当たり。 そんなことは分かっている。
「ねえ、 いちーちゃん!」
叫び、当り散らしても、憂さが消えるわけなんてない。
それは市井への怒りではなく、自分への怒りなのだから。
- 528 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:19
- 「いや、だってそれは……、とにかく今はそういうことじゃなくてだな……」
ゆっくりと、なだめるように肩を撫でつけながら、市井は言う。
「助けなきゃ……、 そうだよ、助けなきゃ! 裕ちゃん殺されちゃうよ!」
その手を振り払い、後藤はテーブルに置き晒しにしてあったガバメントを左手でさらった。
そのまま、玄関に向かう。
「ちょっ、待てって、 落ち着け。 ……ああ、もう、 後藤!」
その肩に、再度市井の手が伸びる。
掴み、ぐぃと引き寄せる。
「ひとまずは話を最後まで聴いてくれ、 な?」
無理やり振り向かされる形で、後藤は市井と向き合った。
視界は、潤み始めていた。
- 529 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:21
- 「だって、あたしのせいで裕ちゃん……、 っく……、 死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「そう簡単に結論付けるな。 裕ちゃんは学校に行ったけど、何も死にに行ったわけじゃない。
勿論、殺し合いをしに行ったわけでもない。 さっきも言ったろーが。
あの人はヤケになんかなってないってさ。 大丈夫だって。 『策はある』って言ってたし」
『死にに行ったわけじゃない』
『殺し合いをしに行ったわけじゃない』
『策はある』
「でも……、でも……」
それでも、危険なことには変わりない。
もしも策が失敗し、当てが外れたら……
ぶるりと首を振って、後藤は想像をかき消す。
「まんががいち……、ってことがあるじゃない」
「まあ、確かにな。 でもな、お前が行ったらここにいる奴らはどうなる? 守る奴がいなくなるだろーが」
「それは……、そうだけど……でも……」
市井の言っていることはもっともだ。
これで自分が出て行ってしまったら、一体誰が加護を守れる?
きっと、多分、中澤は自分に加護を託したのだ。
だったら、ここで自分が無策に追いかけるわけには行かない。
分かっている。 分かっているけれど、 分かりたくない。
「でも……、だったら……なんで……、市井ちゃん……、裕ちゃん止めてくれなかったの……?」
「……頼まれたんだよ。 ……お前らを守ってやってくれって」
こぼれそうだった涙は、重力に引かれ頬を伝う。
- 530 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:22
-
「う……、ぅぅ……」
声にならない声は、果たして何を伝えようというのだろう。
何もできない自分。 無力な自分。
自分は、何もできていない。 何もできない。
ただただ守られることしかできず、そしてそのことに苛立っている、ただの子供。
「ああもう泣くなよ……、」
辻にも、中澤にも、そして市井にも守られている自分。
そう、守られているだけ自分。
それなのに、その程度の力しかないくせに、みんなを守りたいと思っている自分。
――無力な自分。 それが、今の自分。
今もって変わらない、無力な自分。
- 531 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:23
-
「嫌だ……、嫌だよ……」
子供の頃、自分は世界の中心なんだと思っていた。
過信はしていなかったけれど、きっとそうなんだろうな、って思っていた。
それは小さな世界 ――モーニング娘。という小さな世界。
でもそれは間違いで、ずっとみんなに守ってもらっていたのだということを
少しずつ理解し始め、確信できたのは後輩ができたとき。
守る立場になったとき、初めてそれが分かった。
「嫌だよ市井ちゃん……、守られてるだけは……、苦しいよ……」
そして、守られるだけという辛さが、痛いほど分かった。
- 532 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:25
-
「ごとー……」
市井紗耶香。
彼女は一番近しい先輩だった。
別に優劣をつけるわけじゃないけれど、きっと一番自分を守ってくれていた人。
けれどそれが分かったときには、もう彼女は卒業していた。
だからこそ、今。
少しだけでも大人に、強くなれた今。
「あたしだって……、裕ちゃんや、いちーちゃん、みんなを守りたいんだから」
守りたい ――そう、強く思う。
後藤はごしごしと両目をこすり、流れ出る涙を飲み込んだ。
―――――――――
―――――
――
- 533 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:26
- 目の前の光景は、到底信じられるものではなかった。
(な……、なんで……?)
木に寄りかかり、だらりと手足を投げ出している。
肌は透き通るように白く、まるで雪のようにも見える。
暗くてよく見えないのは幸運なのだろうか、それとも、不運なのだろうか。
木の影に隠れている頭の部位は、だらりと俯き、
――恐らく鼻先辺りからだろうか――垂れ落ちる雫がぽつぽつと音を立てる。
雫は胸元を染め、腹部へと侵食していく。
雫の色は――――赤い。
(もしかして……、死んで……)
ゆっくりと、足音を殺して近づく。
勿論それは意図してやったことではなく、自然と忍び足になってしまっただけのこと。
それぐらいに動揺、そして恐怖は大きい。
「ひっ――――!!」
思わず小さく悲鳴を上げた。
――赤黒い穴から流れ出るゲル状の固体。
それは黄土色にも、緑色にも、ピンク色にも見える。
「ぅぐ……、ぅえぇえ…………」
口元を押さえ、なんとか吐き気を堪える。
そして出来るだけそれが見えないような位置に、松浦は移動した。
松浦の目の前にいる彼女、その彼女の側頭部には、大きな風穴が開いていた。
―――――――――
―――――
――
- 534 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:27
-
「ったく、 ……ごとーも言うようになったね」
やれやれ、と肩をすくめながら、市井はふぅと息を吐く。
そして掴んだままだった後藤の右肩を離し、テーブルの方へ向かった。
「これか? ごとーのカバン」
「あ……、うん、そうだけど」
指差し、確認すると、無造作にそれを引っつかむ。
振り上げるように動かし、それを離す。
「――、ぅおっと」
思わず出した後藤の両手に、投げ放たれたリュックはすっぽりと納まった。
「ほれ、行ってこいよ。 ここはアタシが守っててやるから」
「いいの……?」
「いいも何も、お前がそうしたいんだろ? 裕ちゃんを止めたいんだろ?」
真剣な眼差し、
交錯し、
ふいに市井の目元が緩む。
「だったら行ってこい。 その方が、ごとーらしい」
市井はにやりと笑い、そう言った。
―――――――――
―――――
――
- 535 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:28
-
(なんで……? どうして……?)
その松浦の問いに、答え得る者は其処にはいない。
其処にあるのは物言わぬ屍と、立ち尽くす松浦自身のみ。
いや、彼女は最早立ち尽くしてもいなかった。
猛烈な吐き気に襲われ、立っていることさえできず、
地面に両手両足を着け、なんとか這いつくばっている。
(そんな……、ウソ……だよ……)
今までも二回、放送は聞いていた。
その度にうろたえていた松浦だったが、
もしかしたらこれはドッキリで、本当はみんな生きているんじゃないだろうか、
そんな僅かな願いも彼女の中にはあった。
そう、教室で死んだ夏まゆみも、きっと特殊メイクか何かだったんだ。
そんな風にさえ思っていた。
「ぅ……ぇ……、 ぇぐぅ……ぉぇ……」
けれど、目の前にある彼女の死体は、明らかに本物だった。
視覚だけじゃない。 嗅覚もまた鮮烈な死のイメージを脳に与える。
土の匂い――泥臭い匂い。
森の匂い――青臭い匂い。
血の匂い――生臭い匂い。
それらと湿り気が混ざり合った濃密な匂いが、鼻腔に粘りつく。
「ぉぐっ…………、ぇええええええ……!!!」
堪えきれず、松浦は呻きとともに嘔吐した。
―――――――――
―――――
――
- 536 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:29
- リュックを背負い、ガバメントの弾装を確かめ、靴紐を結び直す。
中澤はもう学校に着いているだろうからなるべく早めにここを出たかったけれど、
準備は万全にしておきたかった。
目的はどうあれ、自分は今からこの島で最も危険な場所へと向かうのだから。
勿論、心の準備も忘れない。
ゆっくりと深呼吸し、ざわめく心を落ち着けさせる。
むしろ、先の外面的な準備もそのためだったかもしれない。
「お前らを守るよう頼まれた手前、本来ならアタシも行くべきなんだが、
……この状況じゃそういうわけにはいかんしな」
市井は玄関横の壁に寄りかかり、こちらを腕組みしながら見ていた。
その姿が、なんとも頼もしい。
彼女がいるから、自分は心置きなく動くことが出来る。
「ありがと……、いちーちゃん」
「はっ、 別に礼を言われるようなことはしてねーよ。 むしろ恨まれて然り、だな」
「そんなことないよ……」
『恨まれて然り』
中澤を止められなかったことを言っているのだろうか。
だとしても、恨むのは筋違いというもの。
全ての発端は自分にあるのだから、その責任もまた、全て自分にある。
- 537 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:30
-
「あいぼんは二階にいる。 辻も……二階に」
「ああ、任せろ」
責任は、取らなければならない。
決意は、果たさなければいけない。
「それじゃ、いってくるね」
だから、自分は助けに行く。
中澤を守りに、迎えに行く。
今でも守られている自分だけれど。
市井に守られている自分だけれど。
守られる"だけ"じゃない。
みんなを、守る。 市井も、守る。
きっと、守れる。
そう、信じていた。
信じようとしていた。
「おう、ただし絶対に死ぬんじゃねーぞ? 勿論、アタシも二人は絶対に死なせねーから」
――――そのときまでは。
- 538 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:31
- どくん、と老人の不整脈のようにひとつ、胸に大きな鼓動を感じた。
野外ライブのウーハーのように、その音が血流に乗って体の隅々に行き渡る。
「あれ? ごとー、どうした?」
「……、どういうこと……?」
勢いに乗った鼓動は止まろうとせず、さらに加速する。
どくんどくん、どくんどくんどくん、どくんどくんどくんどくん。
汗が、額に滲み出してくる。
「ん? なにがだ?」
「市井ちゃん、言ったよね? 裕ちゃんに会って話を聞いたって……。
ここには、ごとーたちを守るために来たって……」
それはささいなきっかけ。
もし、あの言葉を聞き逃していたら、ここで立ち止まることはなかったかもしれない。
もしかしたら、その方が良かったのかもしれない。
「ああ、それがどうかしたか?」
「じゃあ、なんで入ってきたとき声かけてくれなかったの……?
なんで足音殺して歩いてたの……?」
おかしいな、と思うことはあったはず。
けれど冷静じゃなかった自分は、市井に会えたことで興奮していた自分は、気付けなかった。
- 539 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:33
- 「それは……、お前が寝てるかと思ってな」
「…………ソだ……」
声は、はっきりと外に出てくれない。
自分だって半信半疑。
まさか、とは思うけれど、もしかしたら、とも思う。
でも、だからこそ、確かめなければいけない。
「なんだなんだ。 どうしたんだごとー。 言いたいことがあるならハッキリ……」
「――さっき、」
市井の言葉を遮って、後藤は語る。
「さっき、市井ちゃん、言ったよね? 二人は絶対に死なせねーって」
「ああ、ここにはお前とあと辻と加護がいるんだろ?
なんだ、アタシじゃ守れねーってか? アタシが信用ならねーってのか?」
「違う」
「だったら」
「違うんだよ……、市井ちゃん」
その言葉が、何を意味するのか。
「辻は……、もう死んでるんだよ……」
自分の中で、形作られる。
「市井ちゃん、裕ちゃんと5分くらい話したって言ったよね?
5分もあればさ、当然、その話は出てくるよ……」
あとは、それを確かめるだけ。
「市井ちゃんは……、裕ちゃんと会ってない。 話もしてない。 ……違う?」
それが、導き出された答えだった。
- 540 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:34
- 「ねえ……、本当のこと言って、市井ちゃん。 どうして私たちが一緒にいること知ってたの?」
納得できる理由があるならば、早く言って欲しい。
たとえば、支給された武器が盗聴器だった、とか。
あるいは先の自分の推論が外れていて、中澤と会ったけれど辻の話はしなかった、とか。
無理やりな言い訳かもしれないけれど、それでも今、後藤が考えていることに比べたら、数倍マシだ。
そう、出来ることならこんな予想、外れて欲しい。
どうして、執拗に自分を止めていた市井が、
手の平を返すように突然外へ出ることを許可したのか。
どうして、自分が行く、と言わなかったのか。
勿論、話の流れからして、おかしいところはひとつもない。
中澤に頼まれたから。 その一言だけでこと足りる。
けれどもし、中澤に会っていないのだとしたら……。
「はぁ……、 ちょいと冷や水をかけ過ぎたかな?」
市井は首を小さく振りながら、片眉をしかめ、呻く。
その反応は、勿論後藤の期待していたものではなかった。
- 541 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:35
-
「それって……、」
「まあ、いちおー正解だ。 満点はあげられないがな」
あぁ、
小さく呻き、
後藤はうな垂れる。
「裕ちゃんとはね、会ったんだよ。 でも話はしてない」
やっぱり、そうなんだ。
やっぱり、市井ちゃんは……
―― プツッ……あー、テステス ――
雑音は、突然。
それは最早聞きなれた音。
聞きなれていた声。
―― みんな元気にしとるか。 つんくさんやで。 定時放送も…… ――
馬鹿みたいにひとり喋り続ける能天気な声。
神経を逆撫でされているようで、気分が悪くなる。
- 542 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:36
-
「おっと、放送も始まっちまったか。 どうもタイミングが悪いね。 ――ま、この際好都合だけど」
市井は皮肉めいた笑みを浮かべ、そう言い放った。
「裕ちゃんがどこにいるか、知りたかったんだよな?」
どうして、こう最悪の予想ばかりが当たるのだろう。
どうして、もっとはやく気付けなかったのだろう。
きぃん、と耳が鳴り、世界は止まる。
市井の顔が、醜く歪む。
目は三日月に曲がり、口角はつつと吊り上がる。
「教えてやるよ」
―― んじゃ、死亡発表いきまーす ――
彼女のそんな顔は、かつて一度だって見たことはなかった。
「――――あの世さ」
―― 27番 中澤裕子 ――
【 7番 市井紗耶香 所持品 不明】
【14番 後藤真希 所持品 Colt M1911 A1】
- 543 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:36
-
―――――
- 544 名前:81 災厄の予想 投稿日:2004/01/20(火) 00:37
- この島の湿った空気のせいか、歩き疲れたせいか、
何にせよ食欲がなかったため、松浦は殆ど何も食べていなかった。
それが幸いしてか、吐しゃ物はさほどの量はなく、殆どは胃液だった。
「ハァ……、ハァ……、 ぃゃぁ……、ぃゃだよぉ……、」
己の吐き出したものから離れるように、松浦はよろよろと立ち上がる。
今の彼女には考える力は残っていない。
単に強烈な匂いから離れようとする本能が、そうさせているのみだ。
「ぅぐっ……、ぅうっ……、ぁぁっ……」
再びえずき、ふらふらとさ迷う足はそれでもなんとか吐しゃ物、
そして屍から離れる方へ向かう。
死の匂いが薄い方へと、頼りないながらも松浦を運ぶ。
雑草に足を取られ、木にぶつかりそうになっても、なんとか逃げ惑う。
「ぁぁぁぁぁ……、みきたぁん……、たすけてぇ……、たぁぁん……」
松浦は涙と鼻水、そして口元には胃液が張り付いた顔をぐしゃぐしゃに歪め、
中澤裕子の死体から離れていった。
【27番 中澤裕子 死亡】
【34番 松浦亜弥 所持品 不明】
- 545 名前:82 定時放送(三回目 初日深夜三時) 投稿日:2004/01/20(火) 00:39
-
――プツッ……あー、テステス
『みんな元気にしとるか? つんくさんやで』
『定時放送ももう三回目、ゲーム開始から九時間になるわけや。
どや? もう慣れたか?お前ら。 もうそろそろここの生活に慣れんと後々大変やで?
あと丸二日くらいあるわけやからな』
『あ、そうそう、二日ゆうたら大体俺が一曲作るくらいの時間や。
そう考えたらなんや短いなぁ。 曲作っとると時間なんかあっちゅーまやしな』
『……そうそうそう、ある程度スジを思いついたらコピーライターに任してやね、
あとは出来上がるのを待って寝る。 んで目ぇ覚めたら「アラ、もう出来上がり?」……ってドアホッ!!』
『誰が張りぼてやねん! パクリ作家やねん! 名前だけやねん!
誰が 「名前だけ貸し取ったらええでっしゃろぉ〜? あとはこちらでなんとかしますさかいにぃ〜」 やねん!
コピーライターなんかつこうとらんわ! ボケ!!』
『…………ハハ』
『……はい。 んじゃ、死亡発表いきまーす』
『25番 辻希美! 27番 中澤裕子! 31番 平家みちよ!』
『おうおうおう、三人死んだか。 凄いな、お前ら。 どうやらこれを見る限り、そろそろ慣れたみたいやね。
勿論この島に、ゆうことやないで? 人を殺すんにーゆうことや』
『しかしなぁ、辻やら平家やらはともかくとしてまさかこんなとこで中澤が死ぬとは思わんかったわ。
お前らもお前らできっちりわきまえとるんやね。
――強そうな奴から削っていく。 ま、セオリーっちゃセオリーや』
『まあ、何にせよこれで残り35人。 これからもあんじょう殺したってや。
……精々、返り討ちにはあわんようにな。 ……ハハハ』
『んじゃ、また三時間後』
――プツッ……
- 546 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/20(火) 00:40
-
- 547 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/20(火) 00:40
-
- 548 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/20(火) 00:41
-
- 549 名前:abook 投稿日:2004/01/20(火) 00:44
- 更新終了……です。
ヽ(`Д´)ノフザケンナ!あるいは(゚Д゚)ハァ?という皆様の声が聞こえてくる、、、。
今回のは載せて良いのかかなり迷いました。
迷った挙句この更新遅れ。 本当に申し訳ない。
しかもか2節しかあげてないし、、、。
ごめんなさい。 本当にごめんなさい。
代理で元IWGPヘビー級王者が謝罪しますので、どうかご勘弁の程を。
______
/_ |
/. \ ̄ ̄ ̄ ̄|
/ / ― ― |
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||| (6 > |
| | | ┏━┓| / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ┃─┃| < 正直、スマンカッタ
|| | | | \ ┃ ┃/ \________
| || | |  ̄  ̄|
というわけで以下超亀レス。
>>493
これはこれは、狩狩高橋さん(イメチェン前)ではありませんか。
こんなところまでご足労、ヒバゴンにありがとうございます。
高橋さんのスレはいつも欠かさずROMらせて頂いております。
今度なんか質問しに行きますね。
- 550 名前:abook 投稿日:2004/01/20(火) 00:47
- >>494
>こみなっ……
こないだ調べてみたらなんと同郷だということが判明。
ちょっと吃驚。 ってかもっと前から知っとけ自分。
現在も精力的に活動なされているようで、何よりです。
>今も……
想像してみるとめちゃ(O^〜^)<カッケー。
でも不憫、、、。・゚・(ノД`)・゚・。
>>495
>オソロ……
オソロって元々の予定は月刊だったんですよねぇ。
それが伸びに伸び季刊、廃刊、そして伝説へ、、、_| ̄|○
>((((川;’д’)))ガクガクブルブル
そ、そんな緊張なさらずに。
<取り敢えずお茶どうぞ。
∬
つ旦
<先日頂いたものですが……
)) ゴソゴソ
<お茶うけにワロタはいかがです?
∬
つ(:;;) ←カビテル
- 551 名前:abook 投稿日:2004/01/20(火) 00:49
- >>495続き
>∬∬´▽`)人(’ー’*川
(O`〜´)<マコ! おめーアタシというものがありながら!
( `.∀´)y-~~<三年目の〜浮気ぐらい〜
( ‐ Δ‐)<愛のボタンをれんだれんだぁ〜
川;・-・)<……(CDTVの月イチTOP100みたいになってる、、、)
>>496
>新年……
(O^〜^)<あけ!
( `.∀´)y-~~<お○こ!
( ‐ Δ‐)<とよろぉ〜
川;・-・)<……(この人たちには悩みなんてないんだろうなぁ、、、)
>>497
>卒業
最近みるみる大人っぽくなってきて、さりとて子供たちからの絶大な支持は未だ衰えず。(多分
そんなぶりんこ自体は問題ナシに思えるのですが、娘。本体が心配。
一般層(娘。に積極的に関わろうとしない人ら)には、
「娘。≒辻ちゃん加護ちゃん」という大塚アナ的娘。観がまかり通ってますし。
テレ東深夜だけでなく、全国ネットでどんどんゴロツキ推していかないと拙いでしょうね、、、。
まあ、ぶりんこ卒業はそのためでもあるのでしょうが。
何はともあれ、ぶりんこ二人のことだけを考えるなら、
卒業おめ、と心から思うわけであります。
- 552 名前:abook 投稿日:2004/01/20(火) 00:51
- >>498
>ジョジョ……
ヾ( ;´ Д `;)ノ<処女じゃないもぉぉぉん!
l|l
_| ̄|○
改めて>>498
>藤本……
ビンゴ。 書いてる人は第五部が好きです。
でも好きなキャラはアブドゥルだったりします。
- 553 名前:abook 投稿日:2004/01/20(火) 00:52
- >>499-502
(O^〜^)<いえ〜い♪
( `.∀´)y-~~<め〜っちゃ♪
( ‐ Δ‐)<放置です♪
川;・-・)<……(いや、正直これはシャレになりませんて、、、)
_| ̄|○<……(はい、反省してます、、、)
というわけで返レスの名を借りた小ネタコーナーでした。
一ヶ月近く待たせた上に今回こんな内容で、
しかも2節しか上げないという暴挙に出ているのに
不謹慎極まりないネタコーナーやるのは正直気が引けるのですが、
重い物ばかり食べていると胃がもたれますゆえ、
かっぱ寿司のガリ、吉野家の紅生姜、ココイチの福神漬けのように適当につまんでやって下さい。
残りの3節、83〜85節についてはなるべく早いうちに書き上げたいな、
と思っているのですが、今月はちょと無理そうです。
来月の第二週以降あたりにならないと時間が取れなそうなので、、、。
では、今回はこのへんで。
石川さん&矢口さん、誕生日おめ。
(一昨日のあなやぐのマジへこみ具合がどうにも面白かったです)
- 554 名前:abook 投稿日:2004/01/20(火) 00:59
- 今回更新
>>506-545
でした。
- 555 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/20(火) 19:30
- 更新お疲れ様でぃす。
相変わらず素晴らしいですなw
コレが読めるならいくらでも待ちますゆえ、
放置も気にせんでください^ ^
では次回もマターリ待ってます。。。
- 556 名前:名無し飼育読者 投稿日:2004/01/21(水) 04:04
- オメーはマンモーニなんだよ…
「面白い」って読者が心の中で思ったのならッ!
その時スデにいつまでも待てるんだッ!
- 557 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/23(金) 03:22
- ノ(゜皿゜)ノ<コウシンチュゥゥゥゥゥッッ!!!
- 558 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/24(土) 20:19
- 面白過ぎる。
自分もいつまでもマターリ待ちます!ヽ(*`Д´)ノ
川;’ー’)つ旦(:;;)<頂いくやよー
- 559 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/26(月) 19:32
- 市井さん、カッケー!>(O^〜^O)
不謹慎かもしれないけど、カッケー…
ヽ^∀^ノ<知りたかったんだよな?教えてやるよ。あの世さ。
…惹かれます。
小湊ちゃんがなっちのこと、ちょこっと語ってくれました♪(公式HPで)
- 560 名前:おくとぱす雅恵 投稿日:2004/01/26(月) 19:37
- >>559
間違って名無しで…。すいません…。
- 561 名前:561 投稿日:2004/01/27(火) 21:53
- 四ヶ月ぶんいっきに読ませて頂きましたがいやすごいですね。
>>537
「おう、ただし絶対に死ぬんじゃねーぞ? 勿論、アタシも二人は絶対に死なせねーから」
――――そのときまでは。
↑ここ秀逸。推理小説さながらの構成力。なるほどそれで、やっと登場した松浦と市井の節が同じだったわけか!
ほかにも( ‘д‘)×(´D`) ×从~∀~#从とか(●´ー`●)×μ ’ヮ ’μとか、数え上げればキリがない名場面の数々。
かなりマターリ待ってます。後二日分たっぷり楽しませてください。個人的に( `_´)川σ_σ|| ( ‐ Δ‐) の今後に期待。
- 562 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/29(木) 00:11
- >>561
ネタバレ寸前。
気をつけて。
- 563 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/29(木) 03:58
- ( `.∀´)<マンコマンコ!
д‘)<オメコ
- 564 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/30(金) 00:24
- (●´ー`)<あなたとはいや!・・・なーんちゃって♪
( `.∀´)<わたしは高いわよ〜
(〜^◇^)<セクシービームゥゥゥッ!
( ‐ Δ‐)<むあたの弱点料理作られやすいぉ・・・
- 565 名前:名無し 投稿日:2004/02/04(水) 15:00
-
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
O 。
, ─ヽ
________ /,/\ヾ\ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|__|__|__|_ __((´∀`\ )< というお話だったのサ
|_|__|__|__ /ノへゝ/''' )ヽ \_________
||__| | | \´-`) / 丿/
|_|_| 从.从从 | \__ ̄ ̄⊂|丿/
|__|| 从人人从. | /\__/::::::|||
|_|_|///ヽヾ\ / ::::::::::::ゝ/||
────────(~〜ヽ::::::::::::|/ = 完 =
で終わらしたくなることがありませんか?
- 566 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 23:07
- 、、、
- 567 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 23:47
- ochi
- 568 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/22(日) 15:28
- 待ち待ち待ち
- 569 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 20:23
-
- 570 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 20:24
-
- 571 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 20:24
-
- 572 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:25
- その言葉の意味は多分、簡単に分かること。
今際に出会っただけだとか、そういうことじゃないのは、簡単に分かること。
壁につけていた背を離し、腕組みを解き、彼女はゆっくりとこちらに近づく。
「意味は分かるよな?」
徐々に大きくなっていく、歪んだ微笑。
もしも何もしていないなら。
もしもただ出会っただけなら。
彼女は、こんな顔で笑わない。
「もうちょっとはっきり言ったほうがいいか?」
それを予想してなかったわけじゃない。
けれど、けして望んでなんかいない。
そういうこともあるかもしれないという、ひとつの仮定。
「アタシが 裕ちゃんを 殺した」
だから、すれ違いざまのその言葉は、耳の奥に粘りつく。
だから、すれ違いざまのその微笑は、瞼の裏に焼き付けられる。
「ふふっ、朝になったら行ってみな。 ここから東……、
そうだね、学校の方、そう遠くないとこでくたばってるから」
聞こえるのは、声を殺した笑い声。
くすくすと嫌らしく、背筋を、拳を、心を震わせる。
彼女は両手を広げ、自分の右肩越しにこちらを横目で見る。
見える片方の三日月は、蔑むように笑っていた。
- 573 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:25
- * * *
- 574 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:25
- テーブルに置いたままだったリュックを拾い、市井はそれを背負った。
その中には自分に支給された弾薬と、替えの弾装、
そして中澤から拝借したサブマシンガンとその付属品類が入っている。
中々に重いが、両肩でしっかりと背負えば大したことはない。
「残ってるのは……加護だっけ? ここにはね。 そいつを殺しに来たんだよ。
まあ、元々は辻と加護両方殺しに来たわけだけどさ。
ちょうどごとーに気付かれないで済むような武器もあるしね」
言いながら、市井はベルトに差していた拳銃を取り出した。
ひらひらと動かし、見せつける。
「これ、ほら、銃のさきっちょに筒みたいの付いてるだろ?
減音器っていうらしくて、その名の通り発砲音を減らしてくれる」
顎で示す先には言葉の通り、円筒形の部品が付いている。
市井は曲げていた肘をゆっくり伸ばし、それを後藤のほうへと向けた。
「こんなふうに」
――――きゅぽっ
言葉尻に重なり、奇怪な音。
衝撃は腕を揺らし、弾丸は後藤の右横を通り抜け、びしりと木壁を打った。
「な?」
引き金にかかった人差し指。
円筒の先から、少量の煙が昇っていく。
市井には知る由もないが、後藤はすでにこの奇妙な発砲音を聞いている。
二階の、加護のいる部屋で聞いた異音。
後藤の目を覚まさせた、小さな音。
乾いたような、けれど濡れた何かを擦ったような、その音。
それが、市井が中澤を撃った音だった。
- 575 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:26
-
「でもまあ、仕方ないね。 計画は断念」
片手で撃った拳銃をわずかに動かし、市井は後藤の額に向ける。
もしも銃口に目があるとすれば、きっと今後藤と目が合っていることだろう。
市井自身、想像してみてあまり気分のいいものではない。
けれど、後藤からは怯えの色は一切見受けられなかった。
(ふふ、まあそれでこそごとーだね)
思わず、小さく微笑む。
しかし先程から彼女が一言も話さないのが気に喰わない。
何か考え事でもしているのだろうか、と思う。
あるいは、事態についていけていないだけか。
(いや、それはないか)
その表情を見る限り、状況に当惑しているようには見えない。
まあ、後藤が何をどう思おうと、自分にとっては問題ではない。
自分はあくまで自分のやりたいようにやらせてもらうだけだ。
「で、だ。 どうせだからさっきの質問にも答えようか」
開いている左手を上着のポケットに入れ、
取り出した数枚の紙切れを後藤のほうへ飛ばした。
散らばりながらも、それらは全て彼女の足元へと届く。
「それ、裕ちゃんのカバンに入ってたんだよ。 俗に言う遺書ってヤツだな」
「えっ――――」
その言葉に、咄嗟に後藤は下を向いた。
- 576 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:27
- 瞬間、しまったと思ったのだろう。
びくりと身を固めて動かなくなる。
けれど、市井は何もしない。
恐る恐る顔を上げる後藤に、ただ歪んだ笑みを見せるだけ。
(まったく、怖いなら怖いって言えばいいのになぁ?)
さすがに戸惑っているのだろうか。
何か言いたそうな顔でこちらを見る。
けれどどうしてか彼女は口を開かない。
ただ黙ったまま紙片を拾い、目を通さないままそれをポケットに入れた。
少し拍子抜けだったが、市井は説明を続けることにする。
「で、それがさっきの質問の答え。 アタシはそれでキミらのことを知ったわけ。
さすがにキミらが何処にいるかは書いてなかったけど、裕ちゃんの来た方向を辿ってって、
いっちゃん最初に見えた建物がここ。 で、家捜ししてたらごとーがいたってわけだ」
一息に話したためか、少しだけ疲れた。
ずっと上げたままの右腕も痺れてきている。
(まあ、もう充分だろうしね)
市井としては今ここで後藤を殺すつもりはない。
こうやって銃口を向ける意味も、今となっては然程ない。
そろそろ潮時だろうか?
そう思い、右腕を下げようとした瞬間、
「ひとつだけ……質問してもいい?」
ずっと閉じたままだった後藤の口が、開いた。
- 577 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:27
- * * *
- 578 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:28
- 後藤はずっと考えていた。
今、自分の目の前にいる人間は誰なのかと。
姿かたちはまず間違いなく市井紗耶香本人だ。
けれど彼女は自分の知っている市井紗耶香とは似ても似つかない。
市井はこんな笑い方はしないし、何より人を殺せるような人じゃない。
それは、後先考えずに突っ走ってしまうところはあったかもしれないけど、
市井紗耶香はいつだって前を、光の差すほうを見据えていた。
仲間のことを邪険にしたことだって一度たりとない。
呆れたように眺めながら、それでも大切に思っていたはず。
さっき、彼女は自分を殺せたはずなのに、それをしなかった。
それはあるいは望みがあるということなのかもしれない。
けれど、彼女はもうすでに、一人の人間を殺している。
仲間だったはずの人間を、殺している。
「市井ちゃんは……」
まるで頬の筋肉を確認するかのように、後藤はゆっくりと声を発する。
発することで息を整え、考えを整理する。
恐らく、これを問いさえすれば、答えは出る。
手遅れなのか、まだ間に合うのか。
これを聞けば、答えは出る。
「市井ちゃんは……、このゲームに乗っちゃったの……?」
彼女が誰なのか。
もし市井紗耶香なら、どうしてそんな風に変わってしまったのか。
その意図はなんなのか。
そんなことは、もうどうでもいい。
答えの出ない問いをしたところで、そこに意味はない。
――敵か、味方か。
ただ、明確な事実だけが欲しい。
- 579 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:29
- 後藤はベルトに差した拳銃を意識する。
取り出すときの右腕の動き、安全装置のはずし方を思い浮かべ、
頭の中で想定する。
抜きざまにセーフティを外し、構え、撃つ。
想像上の後藤はそれを一秒とかからずに流れるような動きでこなす。
実際にはその半分のスピードでこなせれば上出来だろうか。
シミュレートしながら、彼女の様子を窺う。
彼女は、何がおかしいのか、小さく声を出して笑っていた。
「何がおかしいの……?」
「ククッ……、いや、さすがごとーだなって思っただけだよ」
にやにやと笑ったまま彼女は呟く。
まるでピエロのマスクのように、それは彼女の顔に張り付き、
口を開け、言葉を発している間もそれは変わらない。
「何をもってゲームに乗ったと言うかはよく分からんが、
取り敢えず、アタシは全員殺して生きて帰るつもりだよ」
そこに、いつかの面影はない。
- 580 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:29
- 「そう……」
彼女の回答はもう分かっていたことだった。
ただ彼女の口からはっきりとそれを聞きたかっただけのこと。
「じゃあ、仕方ないよね……」
「……ごとー?」
それでも気落ちしている自分がいないわけではない。
それをなんとか意識の外にやり、再びシミュレートする。
抜き、外し、構え、撃つ。
頭の中で想定する。
敵か味方か、答えは出た。
後は、もう考える必要はない。
「いちーちゃんは……、 ごとーの敵だ」
考える必要は――ない。
そして、後藤は想定した動作を実行する。
それは一秒の半分とかからなかった。
- 581 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:29
- * * *
- 582 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:30
-
(そう、そうだ……)
市井は叫びだしたい気持ちを堪えて、胸中で感嘆の呻きを洩らす。
あの距離で、あの速さで撃たれたら、避ける暇などありはしない。
(そう、それでこそごとー。 ……エクセレントだ)
上がったままだった口角はさらに上がり、歪んだ三日月はさらに弧を鋭くする。
――歓喜の、笑み。
あの一瞬の煌き。
それは市井が求めていたもの。
市井が求めていた、彼女の姿。
持ち上げたまま固まっている右腕をゆっくりと下ろす。
これでもう完全に、彼女に銃口を向ける意味は失われた。
それはあの一瞬のため。
自らを魅了してやまない、あの一瞬の"美"を愛でるため。
これでもう、彼女は死ぬことはない。
絶対に、ありえない。
全ては最後の時のため。
自分と彼女の、最期の時のため。
- 583 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:30
-
「うん、素晴らしい動きだね。 満点だ」
言いながら、市井は自分の体をゆっくりと眺め、確かめる。
細い手足。それほどあるとは言えない胸。しまった腹。
それぞれについて不満がないわけではないが、今まで19年間付き合ってきた自分の体。
「でも、最期がいただけない。 どうして撃たない?」
その、どれもが健在だった。
銃痕どころかかすり傷ひとつ付いていない。
市井は拳銃をベルトに差し、空手になった両手を天井に向け、肩をすくめる。
あの速さで"撃たれたら"、確かに危なかっただろう。
未だ固定されたままの銃口の狙う先は、自分の心臓。
撃たれていたら、間違いなく、即死だった。
「う……、ぅぅ……」
泣いているのだろうか?
後藤の口から漏れ出す呻き声。
彼女の指は、引き金にかかったまま止まっていた。
- 584 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:31
- * * *
- 585 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:31
- 滲む視界は動かない引き金と震える腕を捉える。
真っ直ぐに向かうその先には笑みを消した彼女。
「ま、分かってたことだけどな。 ごとーには、アタシは殺せないよ」
言いながら、彼女は無造作に足を出し、そのまますたすたとこちらへ近づいてくる。
「こ……、来ないで!」
叫び、わずかに拳銃を振る。
けれど彼女はそんな威嚇など意に介さず、止まることはない。
どうしてだろうか。
銃を向けられていたときより、今のほうが余程恐ろしい。
自分が、彼女を撃てないと分かってしまったから?
それとも……
「なんだよ、別にとって食おうってんじゃねーんだぞ?」
彼女は呆れたように笑い、そして僅かに向きを変える。
ほんの少し、あって十五度程度。
けれどすれ違うには充分な角度。
「そう怖がるなよ。 大丈夫。 アタシも、今はごとーを殺さない」
横を通り過ぎながら、後藤を横目で見る。
後藤もそれを見返しながら、体の向きを変えた。
意味を成さない拳銃を、それを保持する両腕も、上げたまま。
- 586 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:32
- どうしてだろう。
なんで撃てないんだろう。
目の前にいるのはただの敵、ただの敵なのに。
言い聞かせても、現状は変わらない。
現実が、突きつけられた現実が、今まで耐えてきた分重く感じる。
緊張の糸が両端から引っ張られ、繊維が一つずつほどけていく。
弱い。弱い。
呆れるほどに、自分は弱い。
撃てもしない銃を向けたまま、ただその背中を見ているだけ。
困惑するこちらをよそに、彼女はだんだんと遠ざかる。
「予言するよ、ごとー」
立ち止まりもせず、また振り返ることもなく言い放つ。
彼女は今、どんな顔をしているだろうか。
ここからでは、背中しか見えない。
デニム地のリュックを背負う、小さな背中。
その向こう側には、どんな顔があるだろうか。
- 587 名前:83 遠い背中 投稿日:2004/02/25(水) 20:33
- いつも優しく微笑んで、暖かく包んでくれて。
慰めるの下手なくせに、不器用なくせに。
落ち込んでいると「大丈夫か?」なんて言ってくれて。
泣き出すと慌てて「泣くなよも〜」とか言いながら困って。
頭を撫でてくれて。
いつも子ども扱いして。
それがとても恥ずかしかったけれど、でも――――。
「最後に残るのは、ごとーとアタシ」
ぼうぼうと豪雨のような耳障りな声。
あの人の声は、そこにはない。
目の奥に焼き付けられた歪んだ微笑。
きっと今振り返ったとして、あの人の顔はそこにはない。
あの人は、もう、どこにもいない。
「これからごとーがどこに行くのか知らないけど、4日目の明け方になったらここへ戻ってきな」
その背を遠く感じるのは、おそらく気のせいじゃない。
その背は段々と光源を離れ、次第に闇に紛れていく。
段々とまだらに黒く染まり、そして。
「そんとき、決着をつけよう」
声は遠くから静かに響く。
いつか見たはずの遠い背中は、もう見えなくなっていた。
【 7番 市井紗耶香 所持品 Beretta M12・拳銃――"Walther P99(サプレッサー付)"】
【14番 後藤真希 所持品 Colt M1911 A1】
- 588 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:34
- 「どこへお出かけですか? 斉藤さん」
玄関の扉を開け、外へ出ようとしていたアタシは背後からの声に呼び止められた。
「…………」
無言のまま立ち止まる。
振り返りはしない。
「夜道の一人歩きは危険だと、先程申し上げたはずですけど」
振り返らなくても分かる。
抑揚のない声と、気配のない気配。
福田明日香だ。
アタシは、そのまま背後の福田に向けて言葉を発する。
「……アンタだって聞いたでしょ? さっきの放送」
「ええ」
「辻も、平家さんも、中澤さんまで死んだ……」
「はい」
その声は、相変わらず。
感情なんて、微塵も感じられやしない。
『なんでそんなに平気でいられるんだ!?』
そう、声を大にして叫びたかったけれど、それは今必要なことじゃない。
彼女から学んだ。 誰かと駆け引きをするときは、けして感情的になっちゃいけない。
自らを律し、冷静に徹する。 つまりは、冷徹。
「……くっ、」
分かっている。 分かっているけれど。
「アタシは……もう嫌なんだよ」
感情は、もう爆発してしまいそうだった。
- 589 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:35
- 「嫌なんだよ……、何もしないで、出来ないで、みんな死んでくのが……!」
それは、紛うことなきアタシの本心。
抑圧されていた分、それは何倍にも膨れ上がり、アタシ自身さえも押しつぶそうとする。
動かなきゃ。
動かなきゃ。
足を棒にしても。
たとえ危険が待っていても。
重圧は、どんどん増していく。
「気持ちは分かります。 けれど貴方が行けばそれを止められるとでも?」
「そんなの――! ……っ、 やってみなきゃ……分かんないじゃないか……」
振り返り、息巻いて答えようとしたアタシは、けれど弱々しい声で答えた。
情けない。
アタシはびびってる。
すぐ目の前にいる彼女に。
そしてすぐそこに広がる闇にも。
だって、分かっているから。
自分に力がないことを。
気を張ってなければ倒れてしまいそうなくらい、不安なことを。
――はぁ……、
ため息の音。
福田の発した、溜め息の音。
「斉藤さん……、前にも言いましたが、貴女には無駄が多すぎます」
ゆっくりと、呆れたような言い方で、福田は言葉を発した。
- 590 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:36
-
「自分が何がしたいか、それをぼんやりとですが理解している点は評価に値すると思います。
けれどそのために何をするのか、それを分かっていないのでは意味がないどころか何も
しようとしないよりなお悪い。 ここは戦場です。一歩間違えれば死に繋がる。
一体何をしようと言うのです? この死地において、貴女は」
一息で、殆ど息継ぎなしで、彼女はまくし立てる。
早口ではない。 穏やかな口調。
けれど言葉の一つ一つに、静かな、かつ有無を言わせぬ迫力がある。
「そんなの……分かんないよ」
「では、このまま行かせるわけにはいきません」
どうして、この人の言葉にはこんな力があるんだろう。
どうして、この人はこんなにも強いんだろう。
「っ……! 人が……、死んでるんだぞ!? なんでそんなに平気でいられるんだよ!!」
分からない。
分からない。
強いって、一体なんだ?
- 591 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:37
-
「くっ……! アンタは! ……そりゃ、正しいかもしれない……、
でも……、でも! そんな風に割り切って考えられないんだよ!アタシは!」
人間なら誰だって、大切な人を守りたいと思う。
「助けたいんだ! みんなを! 他の誰かと戦ってもいい! 助けたいんだよ!」
大切な人と、大好きな人と、いつまでも共にいたいと思う。
それが、アタシの信じる人間の姿。
「それで、また傷つけるのですか? 私にしたように。 銃口を向けて。
昨日の友だった人間を。 明日の友かもしれない人間を。 傷つけるのですか?」
理詰めで行動して、自分の身を一番に考えて、大切な人のために何もしない。
人を傷つけて、自らのために切り捨てて、倒れた者に手を差し伸べようともしない。
そんなものが強さだというのなら――
「――だったら! こんなものいらない!」
アタシは、強さなんて要らない。
「……いいんですか?」
福田はアタシの投げつけた物体を片手で受け止め、問いかけてくる。
鈍く光る黒い物体――――拳銃。
- 592 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:38
- 「ふんっ、別に構わないよ。 アタシはアタシのやり方でみんなを助ける。
いざとなったら、そんなもんに頼んないでもなんとかする。 してみせるさ」
そうだ。
アタシは何を血迷っていた?
馬鹿みたいに怯えるだけで。
気持ちだけが先走ってさ。
なあ。
ちょいとそこの福田明日香。
アタシはなんだ? 言ってみろよ。
ほら、ホラ。
なんだ、どうした。
言ってみろよ、さあ。
言わないんなら、アタシが言うぞ?
「――――アタシは、BOSSだ」
- 593 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:39
- * * *
- 594 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:40
-
アタシの発した言葉を聞いて、福田はポカーンと口を開けた。
ううん、口だけじゃない。 両の目も同様に見開いている。
これは、驚きの表情と受け取ってもいいのだろうか?
そんなことを考え込み、アタシもつい黙ってしまう。
そんな、唐突に訪れた沈黙を破ったのは、
「……プッ………、く……っはは…………、」
意外にも福田の笑い声だった。
「くっ……、 そんな……、見得の切り方が……ありますか……、っくふ……」
彼女は笑いを堪えながら、息も絶え絶えに言う。
「フン、悪いか」
アタシはそうやって毒吐いたけれど、この憎たらしい小娘に一泡吹かせたことに
内心『うおおおっっしゃああ!!』と勝ち鬨を上げた。
っていうかもう大フィーバー。
一人10人祭り&一人猪木祭り&一人サップVS曙である。
こうなりゃ矢でも鉄砲でもロケットでもICBMでも石川の面白くない面白い話でもなんでもこいって感じだ。
うーん、 さいとーさんキレてます。
「あー、やっとなんか本調子な感じがするよ。 やっぱ鬱憤は晴らしてなんぼだ、うん」
言いながら、アタシは福田の様子を窺う。
余程ツボにはまったらしく、時折り「ブッ!」って吹き出しながら未だ笑いを堪えていた。
それを見て、アタシはふと思う。
そういや福田のこんな顔なんて初めて見たな、と。
思わず、アタシもにんまりと笑ってしまった。
- 595 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:41
-
どれくらいそうしていたろうか。
数分、いや、あって数十秒程度だろうけど、
アタシは福田の笑いがおさまるのを見計らって話を切り出した。
「とにかく、アタシは行くよ。 もう止めても無駄だかんね」
「あっ、ちょっと待ってください」
背を向けたアタシに福田は再び声をかけてくる。
「なんだよ、無駄だって言ったで――」
ぼやき、振り返ったアタシに向かって何かが飛んでくる。
とっさに構えた両手に、それはずしりと収まる。
「餞別代わりです。 まあ、元々貴女のものですけど」
「アンタ……」
それは拳銃――アタシがさっき投げつけたグロック19だった。
- 596 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:41
- 「それともう一つ」
また、何かが飛んでくる。 再びキャッチ。
今度はさっきと違って軽かった。
軍手の、一回り大きいバージョンのような手袋。
「……これは?」
「防刃グローブ。 勢いをつけて刺されない限り大抵の刃物は防げますから、
常に左手に装着して盾代わりにお使いください」
へぇ。
思わず、しげしげと見つめる。
どことなく冷たいさわり心地がするのは金属繊維が編み込まれているせいだろうか。
よくよく感触を確かめると拳の部分に金属のプレートが縫いこまれているのが分かる。
これで殴ったらかなり痛そうだ。
「でもいいの? アンタの武器でしょ?これ」
「私は両利きですし、盾は一つあれば充分ですよ」
「そ、そう……、」
その言い草からすれば、福田にとってこれはあくまで牽制の道具なのだろう。
右利きの人間が牽制のためにナイフを左手で扱うのと同じような考え方だろうか。
ということは……、
「……助かる」
福田は、アタシに良い方を渡してくれた、ということか。
- 597 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:42
- 「くれぐれも、銃の扱いには気をつけて。 もう分かっていることと思いますが、
その力に頼り過ぎないように。 銃はあくまで道具なのですから」
「うん、分かってるよ」
防刃グローブを左手にはめながら、アタシは考える。
福田明日香。
不思議な人だ。
まったく人間味がないみたいに見えて、そのくせ世話焼き。
頭はえらく切れるし、饒舌だし、語い豊富だし、身体能力バツグンだし。
なんせ銃弾よけちゃうし。 マシンガンかわしちゃうし。
ハッキリ言って、強い。 っていうか無敵だ。
でも、この人の強さはそれだけじゃない。
知人の死にも動じない、心の強さ。
空恐ろしさすら感じてしまうほどの、強さ。
この強さは、一体何処から来るんだろう?
アタシは今の今まで、ついさっきまで、この人は単に非情なだけの人なんだと思っていた。
でも、そうじゃない。
「じゃあ、私はこれで。 二階の二人の様子を見てきます」
ちゃんと、人の気持ちを分かってる。
その上で、自分のすべきことを見据えて、合理的に、極めてシャープに動いてる。
勿論、この人が何を目的として、何をしようとしているのかは分からない。
でも、あの二人――まこっちゃんやガキさんを、そしてみんなを助けようとしてるのは分かる。
アタシの思い違いかもしれない。 でも、そう信じたい。
いや、信じさせるような何かを、この人は持ってる。
- 598 名前:84 仕切りなおし 投稿日:2004/02/25(水) 20:43
-
「あ……、あのさ……」
アタシが発した声に気付き、福田は立ち止まる。
振り返りはしない。
聴き返しもしない。
まあ、そりゃあそうだよね。
嫌われるようなこといっぱいしちゃったしね。
でも、別にいいさ。
アンタがアタシをどう思ってるかなんて、この際どうだっていい。
これは、アタシがアンタを信頼した証。
「ありがとね……、あ……、明日香?」
名前で呼んでやるから、ありがたく思えよ? 明日香。
明日香は、顔を傾けてほんの少しだけ振り返る。
横顔すら全然見えなかったけれど、その顔は、アタシには笑っているように見えた。
【17番 斉藤瞳 所持品 Glock19 ――防刃グローブ(左手用)取得】
【29番 福田明日香 所持品 防刃グローブ(右手用)】
- 599 名前:85 挿話 投稿日:2004/02/25(水) 20:44
-
―― おうおうおう、三人死んだか。 凄いな、お前ら ――
おかっぱの男はスピーカから流れてくる放送を聞きながら、受話器を耳に押し付けていた。
単調に流れる電子音。音色は数時間前と変わらない。
無論呼び出し音がかけるたびに違うなどという無駄な機能は搭載されていないから、それは当たり前のこと。
けれど今回は呼び出す相手が違った。
と、コンソールをいじっていた軍人が席を離れ、こちらへ近づいてくるのが見える。
「艦長、初日終了しました。昨日午後6:00からの映像を本部へ送信します」
「おう、わかった」
電話を耳から離さずに、また相手の顔も見ずに男は答える。
とは言え向こうが嫌な顔をするわけでもなかった。
当たり前だ。艦長とは名ばかりで、彼はただ報告を受けるだけの飾りの存在。
これまでの指示は全て、目の前にいるこの男――この艦の副艦長によって行われている。
勿論おかっぱの男に操艦の技術などありはしない。
「監視カメラの状況は至って良好です。引き続き監視並び録画を続けます」
「おう」
それどころか、普通のビデオカメラの録画方法、
いや、Gコード予約すらままならない男である。
はっきり言ってそんな報告は無意味だ。
向こうは完全にこちらを見下している上、これは任務だ。
余程腹に据えかねない限りは表情一つ崩しはしない。
そのまま、副長である彼は続ける。
「それとはたけ氏がこちらに乗艦を願い出ています。先程、副長権限で許可しました」
「はたけが?この船に?」
そこでようやく男は彼を見るが、「報告は以上です」と踵を返し元の席へ戻ってしまった。
――――はたけ。
男が今電話を取り次ごうとしている相手である。
- 600 名前:85 挿話 投稿日:2004/02/25(水) 20:46
-
(はたけがこっちに来る?どういうことやねん)
湧き上がった疑問に思わず副長を呼びつけそうになる。
が、どの道こちらへ向かっているのだ。来てから問いただせばいい。
―― んじゃ、また三時間後 ――
そうこう考えているうちに、放送がその言葉を最後に途切れた。
ようやく終わったようである。
知己の中であるとは言え、いや、そうであるからこそ、
今の彼の下卑た声を聞くのは耐え難い。むしろ拷問に近い、と男は思う。
(本当に……どうにかなってしもたんか?)
そんな、頭を巡る女々しい問いかけを振り払い、男は受話器を置いた。
直後、その電話のベルが鳴る。
呼び出し音と同様の電子音は静かな管制室にはよく響いた。
慌てて、受話器を取る。
『おい、いつまで電話してんだよ。腕がしびれっちまったじゃねーか』
電話越しの声は、まさしくはたけだった。
- 601 名前:85 挿話 投稿日:2004/02/25(水) 20:47
- 「あ、スマン」
受話口の強い口調に思わず謝ってしまう。
元々が気の弱いこの男は仲間うちでこういった状況になることも多かった。
けれどはたけに取り次ごうとしていた以上、
自分に非があるわけではないと言い訳を始める。
「っていうかな、オマエに電話してたんよ」
『は?俺に?』
「オマエ艦長室おれへんかったんか?どこいっとった?」
おかっぱの男がかけていたのははたけの艦、それも艦橋ではなく艦長室だった。
この艦にもそれはあるが、おかっぱの男は一度もそこへ向かってはいない。
豪華ではないが揺れの少ない快適な空間ではあるそうだ。
自分とはたけ以外のもう一人、この飾りの役職についている男が
電話越しにそう言っていたのを思い出す。
彼はこのゲーム――と呼んでいいのかおかっぱの男には分からなかったが――が始まって以来、
ずっとそこに篭っているらしい。
それ故はたけもまた同様にそこに篭っているのだと思っていた。
『いやな、今までずっと島にいたんだよ』
「島?まだおったんか?オマエ」
『ああ、まいった。あのガキいつまでも起きやしねーもんだからよ』
数時間前、彼が島に上陸したことは聞いていた。
すでに戻っているとばかり思っていたが、どうやら違ったようである。
- 602 名前:85 挿話 投稿日:2004/02/25(水) 20:50
-
『で、戻ろうと思ったら俺の船島の反対側にいるらしくてな、
面倒だから……、もう聞いてるだろ?一番近いお前の船に乗せてもらおうかと思ったんだよ』
「うん、聞いてるけど、でも……」
――でも、戻らなくていいのか?
続けようとしたその言葉を男は喉元で押し留め、飲み下す。
聞く意味がないからだ。
『でも、なんだよ』
このはたけという男――大阪人のくせに関西弁を使おうとしないこの男が、
派手と権力と金をこよなく愛することはおかっぱの男も知っている。
けれどそれ故、彼はその権力が本物かどうかに異常なまでにこだわるのだ。
今の自分たちが置かれたこの立場について、彼もまた同様の回答を得ているだろう。
自分たちは販促用のコピーでしかないと、彼もまた気付いているはずだ。
ただ、気まぐれな彼のこと、単に退屈しているだけかもしれない。
「いや、ええわ。用件はそれだけか?ほんなら切るで」
一方的に話をやめ、受話器を置く。
かけ直してくるかとも思ったが、それはなかった。
これで何度目だろうな、と思いながら、ふぅと溜め息をつく。
むしろ男は乗船して以来――いや、このゲームの開催が決まって以来、――でもなく、
あの日、仲間だった男の変わり果てた姿を見たときから、溜め息しかついていない。
自分たちが信じたものは、一体なんだったのだろうと思う。
けれど、すぐに考えるのをやめた。
それは考えても仕方のないこと。
- 603 名前:85 挿話 投稿日:2004/02/25(水) 20:51
-
遠く、声が聞こえる。
従うしか、方法はない。
従うしか、自らが生き残る道はない。
それは逃げだろうか。
他人を見捨て、生き延びることは果たして逃げだろうか。
男には分からない。
何故なら男は飾りだから。
男たちは、飾りだから。
それがかつては業界の頂点に登りつめた男たちの、最後の仕事だから。
考える意味も理由も、そこにはない。
男が艦長室に行かないのは、全てを見届けるため。
この島の惨劇を、余すところなく見届けるため。
それが逃げ出した彼に出来る、唯一の贖罪だった。
- 604 名前:85 挿話 投稿日:2004/02/25(水) 20:52
- ―――――
- 605 名前:85 挿話 投稿日:2004/02/25(水) 20:53
- 彼女は浜辺を歩いていた。
雲が薄くかかった空は水平線のずっと先まで続き、
静かに波立つ母なる海は輝く星々を映している。
(水平線……か)
島国であるこの国は、見渡す限りの水平線が視界を覆っている。
その代わり、地平線と言うものがない。
彼女は地平線を見てみたかった。
自分の、今立っている大地が無限と思えるほど長く延び、その先に建物はもとより山すらもない。
視界を遮るものなど何もない。
大地はやがて空へと続く。
大地と空との境界はじんわりとぼやけ、
やがて溶け合い交じり合う。
想像するだけでもなんとも素敵ではないか。
山の稜線や水平線ではこうはいかない。
何より、自分が今立っているところが空に繋がることが大切なのだ。
歩いているだけで、空に昇っているような、そんな気分にさせてくれるはず。
天国、というものがあるなら、それはきっと地平線の先にある、と彼女は思う。
- 606 名前:85 挿話 投稿日:2004/02/25(水) 20:55
-
(…………ん、あれは)
と、彼女は数メートル先になにやら人影を見つける。
それは仰向けに倒れ、息をしている様子もない。
さらに近寄ってみると周りの砂が赤く染まっていることに気が付いた。
胸に刺さったナイフ、そして彼女の顔も遠目だが確認できる。
(ああ、そっか……)
放送でその名前は聞いていた。
まさかこんなところで対面を果たすとは思わなかったが、けれど驚きはしない。
近づきながら、彼女は地平線の先にいけただろうか?なんてことを思う。
すぐ傍まで近寄り、片膝をつく。
血はとっくに固まっていたので、それが付着する心配はなかった。
ぼんやりと見開かれたままだった両目を左手で閉じさせる。
硬直でまた開くことがあるかもしれない、と思ったが、それはなかった。
どうやら彼女の神様は優しいらしい。
「ごめん、安らかに眠ってね」
呟き、赤く染まったナイフを引き抜く。
内部はまだ乾いていなかったのだろう。雫が一つ、彼女の胸に垂れ落ちた。
- 607 名前:85 挿話 投稿日:2004/02/25(水) 20:57
-
それから砂浜に穴を作り、彼女の遺体をそこに埋めた。
海水でナイフを洗いながら、星空を見上げる。
空には十字に輝く星座。
どうやら本土より南であることは確からしい。
(出来るなら、ハワイとかに近ければいいんだけど)
その希望は別に彼女の魂が故郷に帰れるよう、とかそういった意味ではない。
万一自分たちだけで脱出しなくてはいけなくなったとき、国外に逃げた方が安全だろうからだ。
けれど恐らく、それはない。
星の位置を見てもそうだし、向こうのリスクを考えれば
恐らく沖縄か鹿児島の方が近いだろう。
どうにも微妙なところだ。
(ま、とりあえずはあたしたちだけで動くしかないんだけどね)
胸中呟き、人一人分こんもりと盛り上がった砂山を背にし、
彼女は寝床へ戻ることにした。
帰り際に、再度水平線を見つめる。
もしも地平線が天国に繋がっているとしたら、
水平線は何に繋がっているのだろうか?
地獄だろうか? 冥界だろうか?
あるいは地平線を含め全て、この島と同様の混沌に繋がっているのかもしれない。
そんなことを思い、軽く微笑む。
答えなどない。それはただの妄想。
かぶりを振り、彼女は足早にそこを去っていった。
【2003/9/--AM3:00 初日終了】
- 608 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 20:57
-
- 609 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 20:57
-
- 610 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 20:58
-
- 611 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 20:59
- と言うわけで更新でした。
一ヶ月も間が空くとやはり文体も違ってくるようで、
83、84節と85節ではなんだか別人が書いたみたいになってます。
個人的には今の文体の方が好きっぽいのですが、どうでしょう。
では返レス。
>>555
毎度レス感謝です。
>いくらでも……
いいんですか?いいんですね?ならいちね
(省略されました・・全てを読むにはCoccoを押しに行ってください)
 ̄ ̄ ̄
>>556
わかったよプロシュート兄ィ!! 兄貴の覚悟が!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『言葉』ではなく 『心』で理解できた!
>オメーは……
この書き出しを見て心臓が止まりそうになったのは秘密にしておこう。
>>557
>ノ(゜皿……
か、火星の……、いやいやいや、まさか、それはない。
- 612 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 21:00
- >>558
毎度ありがとうございます。
人 ウエーイ♪
ヽ( 0w0)ノ
( へ)
<
>川;’ー’)つ
…は、腹、壊しませんでした?
>>559-560
悪いちーさん好評のようで何より。
おいしい位置にいる美味しい人です。
>小湊っ……
ホントにちょこっとだ……。
>>561
一気読みお疲れ様&ありがとうございますです。
そうか、、、もう四ヶ月…2月に入って五ヶ月になるのか、、、。
>推理小説……
むぅ、ありがたいお言葉。ベタな展開ながらなんとか先読みされないよう、
また辻褄が合うよう日夜労苦しております。
>あと二日分……
今までのペース(五ヶ月で9時間)を踏まえて単純計算すると
4日目の朝を迎えるまで(≒51時間)にはあと28ヶ月とちょっと必要。
ズゥン……
l|l
_| ̄|○
- 613 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 21:01
- >>562
大丈夫ですよ〜。
充分に下がってるからパッと見のネタバレの危険はないかと。
流しつけてるのも容量に比べてレス数に余裕があるためと、
返レスと本編とで異様なまでにテンションが違うためですし。
あ、でもIndexから飛んで本編を見る場合ちらっと見える可能性もあるか、、、。
自分は推理小説でない限り小説を最後から読んでも平気な変人ですので、
どうにもまともな判断が出来そうにありません。
(新しい本買うときは冒頭と最後を読んでどう繋がるか楽しみなら買うような人ですし)
よってそこらへんは皆様に委ねます。
>>563
川━┏||y━~~~
>>564
从●"▽"●从 <It is a last shot!! ←を言わせたかった、、、。
でもこれって川 "▼"||| のセリフでしたっけ?
"I'm expensive なんたら〜"は確かどっちも言ってたと思うんですけど、、、。
ってか↑の顔文字初めて使いました。どっちとも。
>>565
キッパリ
_| ̄|○<ないわけではない!!
∬;´▽`)<……いや、まあ、男らしいと言えば男らしいですけど
( ・e・)<そこは力説するところじゃないニィ
>>566
ブルガク
((_| ̄|○))<ア、、、アゲンナ、、、ゴルァ
∬;´▽`)<……言葉だけは強気ですね
( ・e・)<ただの馬鹿だニィ
- 614 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 21:02
- >>567
sage-ochi進行ご協力感謝。
>>568
☆・+*〜・+*〜・+*〜・+*〜・+*〜・+*〜・+*〜・+*☆
連載小説「ごめんなさいが言えなくて」
第一話 遅すぎた更新
第一回
☆・+*〜・+*〜・+*〜・+*〜・+*〜・+*〜・+*〜・+*☆
芭9( ‐ Δ‐)<はじまるぉ!
…始まりません
- 615 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 21:05
- というわけで返レスでした。
前回、前々回更新時にも書きましたとおり、これで初日の区分は終わりです。
区分うんたらは午前3時から翌日、という方式を取っていますが、それほど厳密ではないです。
午前3時の放送を含む五節が終了した時点で一旦区切り、というあからさまな後設定です。
なんだかな〜。
それでもなんとか、それこそ引っ張っちゃいそうだった別のお話を
次回に回したりした結果の85節。
区切りがいいのか悪いのかよく分かりませんが。
多分"彼女"が誰なのかはバレバレでしょうけど、
それは皆様の心の内にしまっておいて頂けたらと。
色々やり残したこともありますし、回した分のストックを使って
次回はなるべく早く上げたいと思います。
600KB超えるまではとりあえずこのスレで。
それでは。
- 616 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 21:06
- 今回更新
>>572-607
でした。
- 617 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 21:52
- きた!!
待ってました
ネタバレしそうなのであまり多く語れないことが残念ですが
これからも頑張ってください
- 618 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/25(水) 23:09
- 待ってました〜w
行間とかも程よく配慮されてるので
大量更新でも読むのが苦になりませんねw
ではこれからも頑張って下さい。。。
- 619 名前:名無読者 投稿日:2004/02/26(木) 01:53
- ´ー`)オモシロイベ
〜‘)||オモシロイヨ
・ゝ´)オモシロイワネ
~∀~#从オモロイデ
−°0)オモシロイネ
- 620 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/26(木) 12:51
- おちすれあげちゃだめッスよ。
- 621 名前:名無読者 投稿日:2004/02/27(金) 16:55
- あげすれあげちゃだめッスよ。
- 622 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/28(土) 01:14
- ochi
- 623 名前:名無読者 投稿日:2004/02/28(土) 15:35
- age
- 624 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 22:10
- ochi
- 625 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/07(日) 00:36
- ´ー`)オモシロイベ
〜‘)||オモシロイヨ
・ゝ´)オモシロイワネ
~∀~#从オモロイデ
−°0)オモシロイネ
- 626 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/08(月) 01:23
- なんで空には常駐基地外がいるんだろう・・・
sageスレageたり、ageスレochiしたり
- 627 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/08(月) 01:44
- なんで空には常駐基地外がいるんだろう・・・
sageスレageたり、ageスレochiしたり
- 628 名前:abook ◆IN1jFtWI 投稿日:2004/03/08(月) 07:12
- まだ更新分が出来てないので書き込みは控えてたんですが、
う〜ん、、、この空気はどうしたもんかな、と。
元はと言えば僕が>>1にsage-ochi進行と書かなかったのが&
>>310で期待ageもアリ、とか書いたのがいけないんですが。
このsage-ochi進行というのも僕のエゴであるわけですし、
ageたい方にはその方なりの考えがあるのでしょうし、
その気持ちも一部分からないではないのですが、
けれどそれもその方のエゴであるわけでして…
って何言ってんだか全然分かりませんね。
要は、皆様それぞれに思うところはあるでしょうが、
このスレに限っては僕のエゴ(sage-ochi進行)に従っていただきたい、
ということです。
と言うわけで、
※※ このスレはsage進行です。メール欄に半角英数でsageと入れて書き込んでください ※※
朝っぱらから不快な気分になられた方がいらっしゃったら申し訳。
次回更新はなるたけ近日中に。トリップに特に意味はありません。
では、ochi
- 629 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 02:14
-
| ⊂⊃/ ̄\
| /WWW⊂ ⊃ 艸艸艸
| / ∬´▽`∬\ 艸艸 \艸
| ⊂⊃ \ 艸艸\艸艸/艸
| ⊂⊃ 〜〜〜 \/
| / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
| | ねぇ、まだなの? |
─\___ __________/─
/ ────∨────────────
/ / ∋o/ | | | |ヽ ノハヽヽ∂
/ / 川;`〜`) (´ー`●;)
/ / 〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜
ソウイエバ・・・
- 630 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/25(木) 14:21
- 前の更新から1ヶ月なわけだが。
激しく期待してますよ。
- 631 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/03/31(水) 10:55
- そろそろ腹壊しそうです…w
更新で治るやも。なんつて。
マターリ待ってますやよー
- 632 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 01:06
-
- 633 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 01:08
-
- 634 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 01:09
-
- 635 名前:86 瀬戸 投稿日:2004/04/01(木) 01:10
- 瀬戸由紀男は、ふと少年時代を思い返していた。
学校の裏山に作った秘密基地。
彼はいかなる意図を持ってそれを作り、隠れたのだろうか、と瀬戸は当時の自分を振り返る。
恐らくその幼稚な遊びは単に友人と秘密を共有していたいがために行われたのだろうが、
今となってはかつての友人の顔、そして自身の心情さえ曖昧だった。
ただ、当時の瀬戸もまさかこの年齢になってまで、自分が隠れ家を持つようになる、
とは思っていなかったことは確かだろう。
その数も片手で利かないほどで、今いるここもそのうちの一つ。
その用途は違うか知れないが、されど意図は似たようなもの。
瀬戸は50を過ぎよう今になっても昭和の遊びを続けている自分が酷く滑稽に思えた。
「はい、初日は終了しました。夜が明けるまでに編集は終わるかと」
静かに重く、声は響く。
すでに人払いは済ませてあった。
今現在ここにいるのは、目の前で電話をしている彼と、瀬戸、
そして扉の外に待機している物言わぬSP二人、その四人のみ。
「ええ、レセプションまでには確実に。ええ、はい、……は?
……はい、大丈夫ですよ。脱走者も出ておりませんし、情報が漏れる心配もありません」
不遜な彼の常日頃を知っている者ならば、その様は奇異に映ったか知れない。
電話越しに頭を下げ、媚びるような声を発するその姿は。
しかし瀬戸は知っている。
彼のそのどちらの姿も等しく偽りでしかないのだと。
- 636 名前:86 瀬戸 投稿日:2004/04/01(木) 01:10
- 「全ては順調です。事故に見せかける手筈も整っております。何も心配は要りませんよ。
責任は全て私どもにあるのですから、もし事が公になるようであれば、
貴方はただ第三者として私どもを断罪すればよろしい。
……ええ、勿論。信じておりますよ。万一のことを申し上げたまでです」
――信じる。
彼の口から零れた言葉に、苦笑いを浮かべたくなる。
果たして彼が何かを信じたことなど、瀬戸の知る限りない。
瀬戸が彼と出会う前も恐らく、あるいは彼がこの世に生を受けたときから、
彼は信じるという行為をしていないか知れない。
彼の中にあるのは、底知れぬ野心のみ。
全てを演じ、欺き、騙る。
時折り見え隠れする弱みすら、演技でしかない。
それ故、彼は強大であり、それ故、瀬戸は湧き上がった苦笑を表には出さず、努めて黙し、彼を見つめる。
「はい、はい、分かっております。それでは、今夜またお目にかかります――首相」
押し付けていた受話器を置き、彼は小さく溜め息をつく。
ふぅ、と嘆息するのではなく、ふん、と嘲りを込めたような溜め息。
「いやはや、臆病者の相手は疲れるな」
一言だけ発すると、にやり、笑う。
「事が事ですし、先方の反応は当然かと」
「ふん、そうかもしれんな。まあ、凡俗の価値観など理解する気も起きんが」
――凡俗。
この男からすれば一国の首相ですらその程度なのだ。
いや、彼にとっては全ての人間がそうなのだろう。
「思ったより疲れた。やはりお前に頼むべきだったかな、瀬戸」
瀬戸は彼の言葉に恐縮するようにかぶりを振り、
「いえ……、私など所詮末端の人間ですから」
事務的な答えを返しながら、自分もまた彼にとっては凡俗なのだろうな、などと思った。
- 637 名前:86 瀬戸 投稿日:2004/04/01(木) 01:11
- 「ふん、冗談だよ。こんなくだらない仕事だからこそ私がやることに意味がある。
まったく……、体裁だとか地位だとか、下らんな」
苦虫を噛み潰したような表情を作り、彼は半眼で呻く。
同意を求めているのだろうか、とも思ったが、彼はそのまま返答を聞くこともなく立ち上がる。
主を失った重々しいキャスター椅子がきぃ、と小さく鳴き声を上げた。
「準備は出来ているな?」
「すでに」
「そうか。 まあ、まだ事を起こすには早い」
彼が出口へと向かうのを見て、瀬戸はすぐさま身を翻し、辿り着く前にドアを開ける。
「私はとりあえずホテルに戻ることにするよ。8時に迎えを寄こしてくれ」
「はい」
扉を閉めると、三つの足音はかつかつと遠ざかっていった。
まるで秘書の仕事だな、と自嘲する。
会長相手であるとは言え、少なくとも一社長のする仕事ではない。
だが、今はこれでいい。
瀬戸は休止状態にしてあったノートPCを開くと、残務整理に取り掛かった。
キーボードが、カタカタと鳴る。
- 638 名前:86 瀬戸 投稿日:2004/04/01(木) 01:12
-
と、それからものの数分だろうか、机上に置かれた電話から呼び出し音が聞こえた。
ここの番号を知っている者はごく限られている。
自分か、取締役クラスの一部か、あるいは……、
瀬戸は躊躇わず受話器を取る。
『私だ』
聞こえてきたのは先程ここを出た彼の声。
「は、どうかしましたか?」
口頭で伝えるだけの時間がなかったということはないだろう。
それでもなお電話を用いて話をするというのはつまり、例えば忘れ物のような何らかのイレギュラがあったか、
あるいは返答を聞かずに用件のみを伝えたいか、どちらかだ。
勿論前者のようなミスを彼が犯すはずもなく、
つまりは後者、何かこちらに対して不利と取れる何かを伝えようと言うこと。
瀬戸は電話越しの彼に対し、気を引き締め、身構える。
それが何の役に立つとも分からないが、けれど何の役に立つとも分からないからこそ、
心得は必要だった。
- 639 名前:86 瀬戸 投稿日:2004/04/01(木) 01:13
-
『言い忘れていたが、試験体どもは明け方全て処分するそうだ。
もし暇が作れるようなら見に行ったらどうだ?』
"試験体"の言葉に、どくん、と瀬戸の胸は脈動する。
「私が……ですか?」
と同時に自分にまだ人間らしい部分が残っていたのか、と安心もした。
『ああ。 と言うよりもうすでに手配してあるんだ。すまん、どうにも最近忘れっぽくてな。
本部にはすでに直彦を行かせている。どのみち準備は整っているんだろう?
お前が戻ったところでするべき仕事ももう残ってはいないさ』
受話口から彼の声が聞こえたときから分かり切っていたことかもしれないが、
どうやら逃げ道はなく、
『夜が明けたら報告ついでに奴の最期がどうだったか、教えてくれ。
もっとも、ヒトとしての奴の時間はとっくに終わっているがな』
「……分かりました」
気乗りはしないが、従う他にない。
- 640 名前:86 瀬戸 投稿日:2004/04/01(木) 01:13
- 瀬戸自身はすでに直接的なマネージメントからは足を洗っているが、
それでも愛着がないわけではない。
まして瀬戸は人の命を物として扱う行為に、人道以前に生理的嫌悪を覚えている。
だが、それを今言うつもりは瀬戸にはなかった。
ここで何を発言しようと、何も進展はしない。
命さえも、彼にとっては商品であり、駒である。
それに彼はこう返すはずだ。
今までも似たようなものだったろう?――と。
『では、楽しみにしているよ』
くつくつ、と笑う彼に、瀬戸は何も言葉を返さない。
音もなく通信は途絶え、不通を知らせる電子音もない。
受話器をそっと置きなおすと、瀬戸は再び残務整理に取りかかった。
キーボードが、カタカタと鳴る。
仕事はしていなければならない。
折角都合のいいように転がってくれているのだ。
けして誰にも怪しまれてはいけない。
今はまだ、これでいい。
- 641 名前:86 瀬戸 投稿日:2004/04/01(木) 01:14
-
*
- 642 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:15
-
(ん……、…………ん?)
廃校の保健室。
埃臭いベッドで満足とはいえないながらも睡眠をとっていた保田は
ふと目を覚まし、そして奇妙な風切り音に気が付いた。
――――ヒュンッ、 ヒュンッ……
耳を澄ましてみるが、それは単調に変わらず、一定の周期で聞こえてくる。
それは外からの音のようで、保田は身を起こし、ベッドから降りて窓に近づく。
念のため、校長室から拝借してあった太刀を左手に携えていた。
―――ヒュンッ、 ヒュオッ、ヒュンッ……
(なんだ……?この音……、……ああ、そうか)
近づいていくとだんだん音が大きくなっているのが分かる。
同時に、それが何の音なのかも理解できた。
保田が眠る前と起きた後では二つの違いがあった。
まずひとつ、彼女が眠りに着いたときはほんの少し開いていたはずの窓。
誰かが近づいてきたら分かるようにそうしておいたはずだった。
それが今は閉まっている。
もうひとつは決定的で、それは窓際にいたはずの見張り役がいない、ということだ。
睡眠の満足度からいって、見張り役が変わっているということもまずないだろう。
それに当初決めていた順番からすれば次は自分のはずである。
ならば彼女は何処へ行った?
手をかけ、力を入れると、からからと音を立ててアルミサッシの窓が開く。
――ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……!
ことさらに大きくなった音を聞きながら、保田は桟に足をかけ、そのまま飛び越えた。
- 643 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:16
- 保健室から少しだけ離れた場所に、彼女の姿。
大量に汗をかき、前髪が額に張り付いている。
「……っ、……ふっ、……くっ、」
力強く息を吐き出しながら、彼女は一心不乱に剣を振り回していた。
「おーい、なーにやってんだよー」
「っ、……ふっ、……っ、……えっ?あ、あれ? 圭ちゃん?」
声をかけると、咄嗟だからか、いつもの呼び方で返してくる彼女。
剣を振るのを一旦止め、それを柴の生えた地面に突き立てた。
「あっ……と、ゴメン、起こしちゃった?」
「ん、別に平気。どうせそろそろ交代の時間でしょ?」
「……そっか」
そのまま、倒れこむように枯れた芝生に尻餅をつく。
はぁはぁと息は荒く、汗を吸ったTシャツがその度に上下に揺れている。
頬を伝う汗と前髪を横に払い、彼女はへへ、と笑った。
「なんか、かっこ悪いとこ見られちゃったね」
「ん、そんなことはないよ」
保田もまた、ふふ、と声を殺して笑う。
(まったく、健気だねぇ、アンタは)
いつの間にか甲冑を脱いでいた目の前の彼女――吉澤は、そのままごろん、と寝転がった。
- 644 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:16
-
―――――
- 645 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:17
- 「放送……、聞きました?」
ぽつりと吐き出された石川の呟きは小さいながらも、せせらぎ以外に音がないためか、よく通った。
先を行く飯田はそれを聞いて足を止める。
川沿いは当然舗装されているわけもなく、削られた丸い砂利のほかに所々大きな石なども転がっている。
それほど良いとは言えない足場に気をつけながら、飯田は振り返った。
「うん、聞いたよ」
――っていうかあんなでかい音、聞き流すほうが難しいよ。
そう付け加えようとも思ったが、今にも泣き出しそうな石川の様子に、口をつぐむ。
「また……、三人……、その……」
名前を挙げることが怖いのか、石川は言葉を濁してぽつぽつと呟く。
無理もない。
放送で名前が挙がるのは初めてのことではないが、娘。から名前が挙がるのは初めてのことだ。
それも、元娘。を含めれば二人も。
「……そうだね」
飯田もまた、言葉を濁す。
ここで開けっぴろげに誰彼と名を挙げ、思い出話をすることも出来ようが、
けれど石川を見るにそれを望んでいるようには見えない。
石川は大分息も上がっているようで、加えて顔色も悪い。
飯田よりも疲弊していることはまず明らかだった。
事実として今、石川のリュックは飯田が預かっている。
- 646 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:18
- 石川の武器のうち一つは河原に来たときすでに預かっていたが、
そのときもう一つが入ったリュックは石川が背負ったままだった。
けれど道中、小石につまづいた石川が転びそうになったとき、両方とも預かることにしたのである。
せめてリュックだけでも、と言う石川の疲労の色はあまりに濃く、飯田はそれを却下した。
それ故今、飯田の背には武器入りの石川のリュック、
そして右肩には引っ掛けるように自らのリュックがあった。
重くないわけはないが、収穫が一つあったのでまあ良しとする。
それに石川の状態を考えると、泣き言を吐きたくはなかった。
- 647 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:19
- いつ、森の暗がりから何者かが襲ってきてもおかしくないという
まるでスクリーンの中のような状況下で、石川はよく頑張っていると思う。
ホラー映画が好きだと言う石川でもこの状態なのだから他のみんなはどれほど怯えているだろうか。
近づいてくる石川を見ながら、そんなことを思う。
「大丈夫? 石川」
出来るだけ重い話題をさけ、なんでもないような声をかける。
「あっ、はい……、なんとか……」
それほど差をつけて歩いていたわけではないので、石川はすぐに追いついた。
石川も気遣いに気付いてくれたのか、あるいは気を遣ってくれているのか、
先の会話の続きはやめたようだ。
これで泣かれでもしたら……、と考えていた飯田は心中胸を撫で下ろす。
が、よくよくその顔を見てみると目の周りが赤く腫れていた。
遅れている間ずっと泣いていたようだ。
ただ追いついた今は弱いところを見せたくないのか、気丈に振舞っている。
それをなるべく見ないよう、飯田はすい、と目を逸らした。
「もう少しでちゃんとした道に出ると思うから、頑張ろっ」
「……はい」
今度は横に並んで歩くようにする。
重い荷物のせいで汗が浮いた顔を見られるのは嫌だったが、
飯田としてはこれ以上石川を追い込むわけにはいかなかった。
- 648 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:19
-
* * *
- 649 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:20
- 「あたしは、多分なんとかなると思うんだよね」
「なんとかなる、……ですか?」
唐突に出た飯田の言葉に、石川は少々面食らいながら聞き返した。
荷物を二つも持ってくれている彼女の額には、ぽつぽつと玉の汗が浮き出ている。
後ろを歩いていたときには見えなかったそんな様子も、こうやって並んで歩けば当然のことだが見えてしまう。
どうしたって、気後れを感じずには居られない。
けれど今の自分の状態を考えれば、たとえ荷物を返すよう言ったとしても断られるのが見えていた。
足元がふらふらと落ち着かない。 感情も昂ぶって落ち着かない。
こんな自分が重い荷物を背負い、果たして足手まといにならずにいられるだろうか?
それ故、石川は何も言い出せないままただ飯田の横を歩いていた。
「うん、多分。何となくそんな気がするってだけだけど、きっとなんとかなると思うんだ」
「はあ」
体力はそろそろ限界に近く、一言返すのにも苦労する。
ずっと歩き詰めだったのに加え、この島の状況に飲まれ、精神的にも衰弱している。
はっきり言って今が自分の人生の中で最悪の状況であり、状態だった。
今、自分が置かれている現実が、飯田が言うように『なんとかなる』で済ませられるほど
甘いものではないことは石川も重々承知している。
たとえばかつて見てきたホラー映画のように、一歩間違えればバッドエンドだ。
足元に続いている川沿いの道も、けして自分たちを安全な場所へ連れてってくれるとは限らない。
この方向に誰がいるとも、どんな危険があるとも知れないのだ。
先のキャンプ場に居座り続けるのが危険であるのは分かりきったことだったが、
それ以上の危険がこの先にあるかも分からない。
延々と堂々巡りをする思考は、石川の中で絶えず渦を巻く。
- 650 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:20
- けれど、だからこそ飯田が話しかけてくれるのはありがたかった。
話していれば、あるいは聞いているだけでも、憂鬱な気分は幾分か紛れてくれた。
「……うん、そうですよね。 私も、そんな気がします」
暫し間を置かれてからの石川の言葉に、飯田は黙ったまま頷く。
満足したのか、あるいは適当に合わせたと思っただけか、その表情からは分からない。
事実としてその返答には合わせた部分が多かったし、
飯田もまた自らの言葉を本気で信じているわけではないだろう。
彼女自身『なんとなく』と言ったとおり、そこには確たる根拠も証左もない。
けれど石川はその言葉を信じてみよう、とも思う。
たとえそれが子供だましの慰めだったとしても、
明るい未来を考えることは、果たして悪いことではない。
- 651 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:21
-
―――――
- 652 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:21
-
「そう、……辻と裕ちゃんが……」
「うん」
仰向けに寝転がる吉澤の隣に腰を下ろしながら、
保田は喉もとに引っかかった言葉を今度は心の中で反芻する。
(辻と、裕ちゃんと、平家さんが、――――死んだ)
それが今、隣にいる彼女からもたらされた報。
その目はこちらを見るではなく、ただ夜空を眺めている。
「ねえ圭ちゃん」
ちらり、その目がこちらへ向けられた。
平静を保とうとしているのか、彼女の表情はまったくの無表情と取れるものだ。
けれどその目は僅かに潤み、微かに揺れて、その内心の動揺をこちらに伝える。
『死んだのは、辻と、中澤さんと、平家さん』
つい先程彼女が言った言葉を思い返す。
彼女は今と同じく、なるべく平静を装いながらそう言った。
「なに?」
だから保田もまた、敢えてなんでもないような顔を取り繕う。
それが薄情だとは思わない。
二人の死に何も感じていないわけではない。
――そう、平家には悪いが、また吉澤にとってどうかは知らないが、保田にとっては二人の死だ。
それは薄情であるのかも知れないが、けれど共に過ごした時間があまりに違いすぎる。
今まで苦楽をともにしてきた、辻と中澤、二人の死。
吉澤も、勿論保田も、こんなに短時間にそれを乗り越えられるわけはない。
- 653 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:22
-
「どうして、こんなことになったんだと思う?」
吉澤の、その言葉の意味。
それは二人の死について、あるいは彼女らを含めて
すでに名を呼ばれた六人の死についてのみ言及するのではあるまい。
それはおそらく、この島でのこの不可解な状況について。
映画ならまだしも、これは現実である。
保田もまた、彼女と同じ疑問をずっと抱いていた。
そして今、保田には一つの考えがある。
「さあ……、正直、何がなんだか」
けれどまだそれを言うべきときではない、と口を濁した。
もしも予想が確かなら、現状は最悪。
その上吉澤も、保田自身も未だ精神状態が不安定なままだ。
今、敢えてそれを露呈することはない。
「今はまだ、知らないことが多すぎる。もう少し調べないことにはね」
「そっか……」
期待してくれていたのだろうか。
吉澤は少しがっかりしたような面持ちで視線を逸らし、
「そっか……」
同じ言葉をもう一度呟き、無表情を作り直して天を仰いだ。
- 654 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:23
- それは既製の仮面のような無表情。
そこに悲しみがないわけではない。
彼女もまた、大切な人を失った。
特に辻とは同期だ。
保田の知らないような思い出だって、それこそ今頭上に輝く星の数よりあるだろう。
悲しくないわけはない。 悔しくないわけはない。
「あたしらはこれから……、どうすればいいのかな?」
けれど吉澤はそんな感情を内にしまい込み、なんとかしようともがいている。
自分の使命を見つけようと、必死に。
吉澤は多分、怖がっているのだろう。
この環境自体にじゃなくて、この環境に慣れてしまうことに。
だからこそ不安なのだ。
変わっていくかもしれない自分が、たまらなく不安なのだ。
「吉澤は、どうしたい?」
むくりと身を起こし、吉澤は真っ直ぐにこちらを見据える。
「そんなの……、決まってるよ」
その目に宿っている意思は、多分、たった一つだけ。
「あたしは、もう誰も死なせたくない。みんなと一緒に帰りたい」
その気持ちは、保田もまた同じだった。
- 655 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:24
- にやり、と擬態語の音が聞こえそうなほどの笑みを見せ、保田は吉澤の顔を眺める。
「なんだ、分かってんじゃんか。 だったらそうすりゃいいんだよ」
吉澤は上体だけを起こし、突っ張るように立てた膝の上に両腕を乗せ、
再度張り付く前髪もそのままに保田を真っ直ぐに見つめている。
「うん……、でも……」
しかし呟くとその目は微かに下を向き、顔は僅かに向きを変えた。
眉をひそめ、頭をがしがしと掻き、微妙な表情をつくり彼女は言葉を続ける。
「……なにしたらいいのかわかんないんだ。 逃げる方法とかさ、思いつかないし。
それに……、二人に迷惑かけちゃいそうで……」
小さな失敗をしたときに見せる苦笑いのような、その表情。
けれど保田にはどうしてかそれが苛立ちの表情のように思えた。
むしろそれが苛立ちでないとしたらなんだろう。
困惑か、ないしは焦りか。
いや、やはり苛立ちだろう。
彼女はこの環境に、そして自分自身に苛立っている。
それでおそらく、この深夜の特訓というわけか。
- 656 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:24
- 汗に濡れた髪。 赤みを帯びた肌。
息はもう整っているが、その名残だけでも余程長いこと剣を振るっていたのだろうことは容易に窺える。
恐らくは放送があってから――いや、放送がある前からずっと、彼女は剣を振るっていたのだ。
動いていさえすれば、悩みごとは寄ってこないから。
あるいは辻の死が彼女を駆り立てたのかもしれない。
どちらにせよ、健気と取れる彼女の行動。
けれど保田はどうにも腑に落ちないものを感じる。
口を小さく開き、すぅ、と息を浅く吸い込む。
そのまま溜め息とともに吐き出そうかとも思ったが、
けれど保田はそれを怒気に似た何かに変え、言葉とともに吐き出した。
「吉澤、それは違うだろ。アンタらしくもない」
そう。
らしくない――物足りないのだ。
- 657 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:25
- 「……らしくない?」
返ってきた思わぬ言葉に戸惑っているのだろうか。
片眉を下げ、返してくる吉澤。
「うん、全然。 …って言うか何よ迷惑って。アタシはあんたの重荷なの?」
「いや、迷惑ってのはそういうことじゃなくて……」
「そういうことでしょ?他人を気にして満足に動けないってのはそいつが足手まといだってことだ」
「そ、そうかもしれないけどさぁ……」
次第に弱々しくなる声。
保田はじろりとその顔を睨みつける。
別に怒ってるわけではない。
ただ不満なのだ。
おろおろと狼狽する彼女の顔。
『やばい、怒らせた』とでも思っているのだろうか。
そんな顔はかつて何度も見たことがあったが、けれどけして今ここでして欲しい顔ではなかった。
「悪いけど、アタシはあんたに心配されるほどヤワじゃないよ。勿論、村っちゃんもだ」
はっきり言って全然ダメだ。
今、保田が望む吉澤ひとみの面構えではない。
- 658 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:25
-
「……ねえ、吉澤」
たとえば彼女がプッチに入ってきたとき。
当時の彼女は今と同様、ずっと悩んでいた。
保田に、そして後藤についていけないことに対して、ずっと悩みを抱えていた。
思うように動かない手足。通らない声。
それが彼女を苦しめていた。
いや、それだけではない。
踊れない体や、揮わない震える声は元より、それで思い悩む自分。
自信を失い、へたばりそうになる自分。
それ自体、つまり葛藤に埋もれる自分自身が彼女を苦しめていたのだろう、と保田は思う。
- 659 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:26
-
「あんたはそんなんじゃないでしょ?」
けれど彼女はそんなことで終わりはしない。
新曲の振り付けでも何でも、出遅れた分は死に物狂いで練習した。
遅くまで残って、自宅で、余り得る全ての時間を使って。
それでも足りなきゃ運動量でカバーした。
悩む暇があれば、動く、動く、動く。己が駆り立てるままに。
それがどうにも稚拙で暑苦しく、痛々しく見えたこともあったけれど、けして不様ではなかった。
いつ何時もひたむきなその姿は、今でこそ気分屋な面を見せさえすれ、けれど今も彼女の中にある。
そんな少年のようなひた向きな姿が、努力家と称される自分にとってはシンパシーを誘うところであり、
それこそが彼女の中の最も吉澤ひとみらしい部分である、と保田は思う。
そして――
保田は固いままだった表情を崩し、微笑みをたたえて言葉を続ける。
「考える前に体が動いて。 いつだって妙な自信があって。失敗したってへこたれない。
それがあんた、吉澤ひとみでしょうが」
――そして、保田はそんな吉澤が大好きなのだ。
- 660 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:27
-
「最善の方法なんてのはね、吉澤。あくまで理想なんだよ。そして理想が現実化するなんてことはまずあり得ない。
この島だけじゃない、何処だってそうさ。誰だって葛藤しながら生きてる。
それが正しいかどうかとか、こうすれば夢が叶うとか、そんな定義や保証なんてのは何処にもないんだよ」
いつもの吉澤だったら、自分や村田を叩き起こしてでも辻の下へ急いだだろう。
あるいは激昂して学校に攻め込むとか、それくらいの馬鹿をやってのけるはず。
方法がないから何もしない、とは愚かな選択。
それを自分の弱さと勘違いするのも、また然り。
「もっと気楽に考えてさ。別に最善じゃなくたっていいじゃないか。方法なんてのは探せば幾らでもあるんだから。
……うん、そう。逃げる方法だっていつかは見つかる。これは映画じゃないんだ、絶対にどこか穴がある。
今は分からないけど、絶対にアタシが見つけてやる。 考えるのは、アタシの担当」
やり方が分からないなら手探りにでも進めばいい。
考えあぐねて止まるよりは何ぼかマシだ。
それはかつて自分たちのしてきたことであり、それこそがこの先を示す導なのだ。
だから、
「だから、アンタはただやりたいことを思うがままに。 好きなようにやってりゃいいんだよ。 ね?
別に、悩む必要なんてないだろう? アタシらプッチは、モーニングは、ずっとそうしてきたはずさ」
保田は自信を持ってその答えを導き出した。
- 661 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:27
-
* * *
- 662 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:28
- 保田の口は閉じられ、沈黙が二人の間に訪れる。
吉澤は、暫く黙ったままでいた。
そして考える。保田の言った言葉を反芻する。
正直回りくどい説明だとは思ったが、言いたいことはよく分かった。
「そっか……、そうだよね」
そしてそれは、見事に自分の悩みを晴らしてくれていた。
(やりたいことをやればいい……か)
考えてみれば、それは単純なことだった。
まったく、自分でも呆れてしまう。
辻が死んだ、と聞いて取り乱していたからか知れないが、
確かに保田の言うとおり、自分はらしくなかった。
もともと考えるのは苦手なのだ。 考えるのは、彼女に任せればいい。
自分はただ、信じたままに動けばいい。
- 663 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:29
-
「……うん、ありがと。 なんかふっ切れそう」
「そ、よかった」
そっけなく返す保田。
ほんの少しだけ、寂しさを覚える。
けれど、照れているのかもしれない、と思うとむしろ嬉しくなった。
「圭ちゃんってさ……」
「ん?なによ」
湧き上がる笑みを隠さずに呟くが、後の言葉が思いつかない。
色々と考えてみるものの、どれもがびたりとはまらない。
あれこれと考えていると、
ただひとつ、的確にこの気持ちを表す言葉が見つかった。
「やっぱ、圭ちゃんは保田さんだねぇ」
「はあ?なんだそりゃ」
保田さん。
頼れる先輩保田さん。
それ以上的確に彼女を表す言葉は、少なくとも吉澤の辞書には載っていない。
- 664 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:30
- 「うーん、なんつーのかなー」
呟きながら考える。
たとえば……、そう、先の保田の言葉。
吉澤にとっては悩みが晴れたことよりその言葉に含まれた意味のほうが嬉しかった。
それが真意なのか、自分の深読みなのかはよく分からない。
けれどどちらにせよ深く考える必要はない。
言葉なんてのは、受け止めたままに感じ取ればいいだけのこと。
『考えるのは、アタシの担当』『アンタは好きなことをやればいい』
それはつまり、どういうことか。
彼女は自分が何処へ向かおうと、自分についてきてくれる。
彼女は自分のことを信じてくれている――信頼してくれている。
――――自分には、信頼を向けてくれる仲間がいる。
「……こぉれほど嬉しいことはナァイ」
にっこりと歯を見せ、おかしな口調で喋りながら、吉澤は笑う。
それが照れ隠しの笑みだと分かっているのか、
「いや、だからさっきからなんなんだよアンタは」
そんな言葉を吐きながら、保田もまたにやにやと笑っていた。
【39番 保田圭 所持品 ジッポライター・煙草・酒――太刀取得】
【40番 吉澤ひとみ 所持品 長剣・甲冑】
- 665 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:30
-
―――――
- 666 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:31
- 今、置かれている状況に、もはや不満はない。
まったくないわけではないが、逃れようのないことを認めないわけにもいかない。
諦めにも似ているが、それも一つの心構え。
ただ、石川には一つだけ疑問に思うことがあった。
「……ね?カオはそう思うんだけど友達は違うって言ってカオがなんでよーっって怒る……」
隣を歩く飯田は大量の荷物のせいで息が荒いものの、先程からずっと話し続けている。
「はあ」と所々相槌を打ちながらも石川はそれを殆ど聞き流してしまっていた。
勿論、疑問とはそのことではない。
飯田の話し好き――最近はおとなしくなったと思っていたが――はいつものことだし、
前に一度話したことでも喜々として話すのもまたいつものことだ。
それを聞き流すのもいつものことだし、最初は飯田が話しかけてくれることをありがたいと思ったが、
こうまでどうでもいい話過ぎるとむしろ邪魔に思うのもまあ当たり前のこと。
それでも気が紛れることには変わりはないのだけれど。
- 667 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:33
- 「……たらなんか友達も怒っちゃってー、『圭織は業界によご……」
飯田はかなり疲れているはずなのに息と汗以外に目立った変化はない。
はたして彼女はここまでの体力を持ち合わせていたのだろうか、と思う。
けれど、疑問とはそれのことでもない。
この場合体力は問題ではない。
自身の状態が示すとおり、この環境において必要となるのは体力ではなく気力である。
バテバテの中気力だけで動く彼女を見るのは初めてのことじゃない。
おそらく前々から――それこそ『愛の種』のころから培われたものだとは思うが、
特に娘。のリーダーになってからの彼女の精神力は並大抵ではない。
これがリーダーの気概という奴だろうか、と思う。
では疑問とはなんなのか。
それは、それこそその気力についてだ。
「……だんじゃないよ!カオは忘れてないかんね!』『いーや、圭織はかわ……」
聞かれることのない話を延々と続ける飯田。
彼女には、目立った変化はない。まったくないと言ってもいい。
それが、疑問なのだ。
- 668 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:34
- 石川がここまで疲弊した直接的な原因。
この島の現実に打ちのめされた最後の一打。決定的な打撃。
それは、同期の辻の死。
自分がここまで追い詰められているのに飯田がどうして平気でいられるのか、それが疑問なのだ。
話を聞いていても、意図的に避けているのか辻の話は出てこない。
勿論それは常識としてそうなるだろうし、実際そのほうが石川としてもありがたい。
けれどあまりにも平然としすぎているのだ、彼女は。
最近はそれほどベタベタすることもなくなっていたけれど、
辻が加入した当初飯田が彼女の教育係だったこともあってか、
飯田は今でも辻を本当の妹みたいに可愛がっていたはず。
「……したらね。『変わったんだよ。大人の女に』だってー、アハハ。 なーんかもう拍子ぬ……」
なのに、彼女は涙一つ流そうとしない。
ほんの少し前、数分前、後ろを歩いていたとき、自分は泣いていたのに。
今でも辻のことを考えると泣きそうになるのに、どうして飯田さんは泣かないんだろう。
そんな疑問が、石川の中で大きくなりつつあった。
- 669 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:36
-
「そしたらさっ――――――」
――と、
今までBGMのように垂れ流しだった飯田の声が途切れ、同時に足が止まる。
「飯田さん……? どうし――――」
どうしたんですか?と続けようとした口が、飯田の左手によって塞がれる。
そのまま飯田は右手の人差し指を自らの唇にあてた。
『……しゃべっちゃだめ』
眼前に飯田の顔。小声で、僅かに聞き取れるくらいの声で、語りかけてくる。
聞き返そうとするが口は未だ塞がったまま。
右手で飯田の手をゆっくり押しのけ、慎重に声量を考えて話す。
『……何があったんです?』
『……ほら、あれ』
飯田が指で示す方向を目で追うと、人影がだんだんと近づいてくるのが分かった。
じゃりじゃりと足音を立てて近づいてくるその人影は――――
(――――えっ? えっ?)
瞬間、パニックになる。
『なんですかあれ! なんなんですか!?』
『馬鹿!おっきい声だすな!』
思わず声を上げてしまい、飯田にたしなめられた。
これ以上余計な音を立てないように、と自ら口を手で押さえる。
いや、押さえざるを得なかった。
(なんなのよ……、あれ……)
人影の肩には、巨大な刃物が月光を受けぎらぎらと輝いていた。
- 670 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:37
- 『まずいね……、あっちも気付いたみたいだ』
飯田の言葉に、胸がどきりと高鳴る。
……気付いたみたい?
あんなバケモノじみた武器を持っている人が?
極度の緊張に全身は酸素を求め、押さえつけた指の隙間に吸い込まれる風が、ひゅうと音を立てる。
あるいはそれは喉がなった音か。
石川は押さえる右手にさらなる力を込める。
頬の肉がぐに、と変形しているのがよく分かる。傍から見ればかなり不細工になっていることだろう。
けれどそんなことを気にしている余裕はない。
向こうが気付いた以上もう音を立てる立てないもないとも思ったが、
飯田の勘違いの可能性もあるため、これ以上音を出したくはなかった。
「石川。 武器、借りるよ」
けれどそんな心配をよそに、飯田は平然と普通の声量で言葉を放つ。
思わず『ばか!』と叫びそうになったが、それでは本末転倒だ。
人影がまだ気付いてないことを祈りながら、石川はこくりと頷いた。
飯田はリュックから飛び出した金属棒を一本、抜き取る。
そして他の荷物すべてを石川に預けた。
「これ持って、あたしから10m以上離れて」
飯田が何をするつもりなのか分からなかったが、こうなったら従うしかない。
少なくとも石川にはあの人影に対応する方法がない。
慌てて今来た道を戻ろうとすると、
「――っ、そっちじゃない!ばか!森のほうに逃げるの!」
どうしてだろうか。飯田は必死に制止の声をかけ、右手の森へ逃げるよう忠告する。
逃げるならばどこでも構わないだろうに、と不思議に思うが、とりあえず従うことにする。
重い荷物を担ぎ、ある程度の距離まで離れたのを確認し、石川は木陰に身を隠した。
- 671 名前:87 信頼と疑念 投稿日:2004/04/01(木) 01:38
- そこから、覗き込むように顔だけ出し、飯田の様子を確認する。
(――――えっ?)
と、目に飛び込んできた光景に、思わず声を上げそうになった。
飯田は金属棒を右肩にかけ、片膝をついた体勢で固まっていた。
長い後ろ髪を左に流し、首は曲げずに真っ直ぐに
おそらくその視界の先にいるだろう先の人影を見据えている。
ただの金属棒だとばかり思っていた石川は飯田のその体勢が気になる。
あれではまるで……
けれど、そんな武器のことなど、飯田の体勢のことなどどうでもよかった。
元より石川が声を上げそうになった理由は、そんなことではない。
目に飛び込んできた光景は先程の疑問と相成って、鮮烈な情報として脳へと伝えられる。
たとえるなら背中に冷や水、あるいは熱湯でも浴びせられたようなものだろう。
むしろその両方かもしれない。
どくどくと脈打つ鼓動は熱く、吹き出る汗は至極冷たい。
それらは互いに触れ合い、温度差は薄れていくけれど、
空いた隙間を埋めるように心の中に奇妙なもやもやが湧いてくる。
蛆が湧くようにゆっくりと、そしてそれは心を喰らう。
疑問だったものは、やがて疑念へ。
どうしてだろう、と思う。
もしかしたらあの武器と何か関係があるのかもしれない、と思う。
金属棒の後ろに見え隠れする、彼女の口元。
(飯田さん、もしかして……、 笑ってる?)
見間違いなどではなく、確かにその口元は笑っていた。
【 3番 飯田圭織 所持品 防弾チョッキ】
【 5番 石川梨華 所持品 Panzer Faust 30k 2本】
- 672 名前:88 馬鹿と二人 投稿日:2004/04/01(木) 01:40
- 折れぬ心、とはあのようなものを言うのだろう。
揺れはしても、けして折れない。
凛とした月のような美しさではなく、朝焼けの空のような勇ましさ。
それは多分、彼女に一番良く似合う。
枯れた芝生に腰を下ろし、保田はそんなことを思う。
吉澤が今やろうとしていることは、まず間違いなく彼女の手に余る。
そしてそれはこの島にいるみんな、勿論保田自身も含め、皆において同様のこと。
独りで事を収めることは、最早不可能。
皆が力を合わせたとしても、状況を打開するのは極めて難しいだろう。
保田は視線を落とし、視界の下方ギリギリに映る首輪を苛立たしげに見つめる。
この首輪がある限りは、たとえ皆で攻め込んだとして犬死にするのが見えている。
ブラフかもしれない、と思う気持ちもないわけではないが、
わざわざ自分の命を懸けてまでそれを確かめる意味はない。
- 673 名前:88 馬鹿と二人 投稿日:2004/04/01(木) 01:41
- 窮地に追いやられたときは常に最悪を予想して行動する。
それが最善の行動だ、と何かの本で読んだ気がする。
それが小説だったか、ただのサブカル本であったか、記憶は定かではないが、
誰の発言にせよ、確かに一理ある言葉だと思う。
ただ、それがいつ何時も言えるかとすれば、そうではない。
特に今のような最悪だらけの状況においては、あまりにビジョンが浮かばなすぎる。
浮かぶものがあるとすれば、自分の死に様、あるいは独り死体の山の上に立つ自分の姿。
保田はそんな想像をかぶりを振って消し、反吐を吐きそうな気分を抑え、ふんと鼻から息を抜いた。
今はまだ、最悪の過渡にいる。
光はまだ、差し込んでいない。
- 674 名前:88 馬鹿と二人 投稿日:2004/04/01(木) 01:42
- ふと、保田は思い出したように左手に置いた太刀を手に取った。
彼女には刀の目利きなど出来ようもなかったが、
けれどそれが模造刀などではないことは手に取っただけで分かる。
ずしり、と重い。
二尺二寸八分――70cm弱と太刀としてはさほど大きい部類ではなかったが、
女の保田の身からすれば大きく感じる。
元より保田も、時代劇などで見る打刀より大きいから太刀だろう、というだけで、
明確にそれを太刀と判断しているわけでもなかった。
黒糸巻きの柄に板鍔には梅の花が一輪。濃い目の茶の鞘には唐獅子牡丹と鳳凰の紋様。
ちん、と引き抜き見える波紋は静かに波立ち、
ぷつぷつと浮き上がる粒が岸壁に打ち付けられる飛沫のようにも見える。
こうして刀を手にとって眺めるなど生まれて初めての経験だったが、
それ故その美しさが理屈ではなく心に染み込んでくる。
名のある剣なのだろうか?と憶測するが、刀自体にも、飾られていたショーケースにも
銘は記されていなかったため、分かりかねる。
――まあ、刀なんて見たことのない奴が勝手に思ってるだけだし、本当はただの無銘なんだろうね。
と保田は四半ほど引き出していた刀身を戻すと、それをまた地面に置き直した。
どのみち彼女にとって銘があるかどうかは関係ない。
- 675 名前:88 馬鹿と二人 投稿日:2004/04/01(木) 01:50
- 暫くそのまま辺りを眺めていると、後ろからガラス戸の開く音が聞こえる。
振り返ると、村田が先程自分がしたと同様に桟に足をかけ、外へと出てくるところだった。
「ああ、村っちゃん、起きたんだ?」
「いえ、起きたって言うか、起きてました。 あんまり寝つきがいいほうじゃないんで」
あの暑苦しい武者鎧は吉澤同様就寝前に脱いでいたようだ。
プラスチックフレームの眼鏡がきりり、と格好よい。
右手には支給品である円錐形の西洋槍を逆手に携え、村田はこちらへと歩いてきた。
そのまますとん、と隣に腰を下ろす。
「ってことはさっきの話は……」
「……ごめんなさい、聞いてました」
その顔を覗き込むように訊ねると、村田は一瞬だけ視線を合わせ、俯き加減に答えた。
両の口角は僅かに下がり、への字の形を作っていて、いささか難しい顔をしているように見える。
「いや、謝ることはないよ。 むしろ聞いて欲しかったくらいだし」
「はあ、すいません」
「いや、だから謝んないでってば」
盗み聞きしてしまったことが心苦しいのだろうか?
村田は普段はおちゃらけているけれど、こういったところではとても生真面目だ。
ため息をつくようにしながら、保田は言葉を続ける。
- 676 名前:88 馬鹿と二人 投稿日:2004/04/01(木) 01:51
- 「あれで……、よかったと思う?」
「なに?今更迷ってるんですか?」
「いや、迷ってるわけじゃないけど。ちょっと危険かなって……」
言葉ではそう言ったものの、保田に後悔などはない。
確かに危険かもしれないが、とにかく吉澤に普段どおりでいて貰わないと、この先足手まといになりかねない。
保田としては、それでは困る。
ただ、村田が果たして自分の考えに賛同してくれるかどうか、それが問題だった。
一から説明するのも、何だか馬鹿にしているようで気が引けるし、何より面倒くさい。
どうしたもんかな、と考えていると、村田は小さく笑うようにしながら、こう言った。
「あの子はあれくらいでいいと思いますよ。あたしなんかは前に出るタイプじゃないんでね、
引っ張ってくれる人がいないと逆に困るし」
思わず、目を丸くする。
もしかしたら、と思うが、けれどまだ分からない。
「ってことはなにか。気付いてるわけだ」
カマをかけるつもりで保田は問う。
「ええ、ウチら3人組のリーダーはよっさんで決定ですよね?」
間髪いれずに村田は答える。
完璧だった。
どうやら彼女、思っていたより遥かに頭が切れるようだ。
勿論保田としても侮っていたわけではないが、完全に過小評価だったということだろう。
簡単の息を漏らすようにしながら、保田は呟いた。
「ご名答」
- 677 名前:88 馬鹿と二人 投稿日:2004/04/01(木) 01:53
- 保田がこの学校で二人に会い、初めに思ったこと、それが今村田の口から出たことだった。
即ち、吉澤をリーダーに据えること。
自身がその器でないこと、サポートに回ったほうが自分の能力が生かされることを、
保田は経験上身に染みて知っている。
勿論この特異な状況で今までの経験も何もないだろうが、それでも二人を、
ひいてはこれから行動を共にするかもしれない誰かを率いる力は自分にはない。
彼女はそう断定する。
「あの牛に引っ張ってもらわないと、ウチらおばちゃんはいざってとき尻込みしちゃうしね」
「おばちゃんは保田さんだけですよ」
「きっついなぁ」
今、冗談めかして言った理由もあながち間違いではない。
歳の差がそれほどあるわけではないが如何せん一般的に女性は精神的に早熟である傾向にある。
一度守ることを覚えてしまえば、進むことができなくなる。
守るような何かは保田にはないが、10代のようなパワーもまた、保田にはない。
危うく、脆い。それ故肝心なときに引いてしまうことを、保田は恐れている。
けれど吉澤ならば、保田ほどのそれはない。
「むしろあたしはメガネですし」
「メガネ?」
「ええ。 メガネです」
くいくい、とフレームを動かす村田。にやにやと笑う。
保田もまた苦笑する。
- 678 名前:88 馬鹿と二人 投稿日:2004/04/01(木) 01:54
- 「なんだそれ」
「いや、だからメガネですって」
とぼけ顔の村田を見て、やはり改めて彼女の評価を直す必要があるな、と感じた。
あのふざけた武者鎧もそうだが、彼女の普段からのおちゃらけたポーズ。
全てが周りを油断させるためであるかのように思える。
けれど油断させて何かをするとか、そういうことではなく、
それは単に油断させた相手との会話を楽しみたいだけなのだろう。
あるいは楽しませたいだけか。
おちゃらけて、肩肘張らず、一見本気には見えないようなそのスタイルが、彼女の本気なのだ。
「村っちゃん、人生楽しい?」
「ほあ? ……あー、まあまあ楽しいですよ? ラーメンみたいで」
「ラーメン?」
「いや、特に意味はないんですけど」
皮肉を言っても暖簾に腕押し。まったく稀有な人格だ、と思う。
危うく、脆く、恐れを知る自分だからこそ、あの恐れを知らない馬鹿と、この知って尚とぼける馬鹿、
馬鹿二人の存在が、とてもありがたく、頼もしく――
――そして、とても羨ましい。
- 679 名前:88 馬鹿と二人 投稿日:2004/04/01(木) 01:55
- 「まあいいや、ともかくリーダー云々、ってのは吉澤には内緒ね?
アイツには奔放に動いてもらわないといけないからさ」
「分かってますよ。 あたしとおんなじような思いはさせたくないですしね」
「ああ、そっか。 村っちゃんは元リーダーなんだっけね、メロンの」
「ええ。 でも向いてないんですよ、そーゆーの。……ふぁ、くふー」
そろそろ眠くなってきたのだろうか。
村田は言葉尻に浮かんだ欠伸を噛み殺す。
「スイマセン、そろそろ寝ますね?あたし」
「あ、ちょっと待って」
立ち上がり、背を向けた村田に、保田は声をかけた。
けれどその後に言葉は続かない。
暫く考えるようにした後、
「……ゴメン、やっぱいいや」
会話を閉じてしまう。
「? そうですか」
村田は少し不思議そうな顔をしたが、そのまま背を向けて校舎へと戻って行った。
- 680 名前:88 馬鹿と二人 投稿日:2004/04/01(木) 01:56
-
独りになった保田は、ごろり、と寝転がる。
話す内容を考えていなかったわけではない。
ただ、それを吐露するのが怖かった。
娘。を離れて数ヶ月。
自分の弱さを知ってしまった自分は、それを目の当たりにしてしまった自分は、
それを見せることに臆病になっている。
だから、あの二人がとても羨ましい。
仲間がいてくれること。それはとても嬉しいことだ。
けれど、だからこそ弱さを吐き出せないでいる。
二人を支えなければいけないから。
自分で、そう決めたから。
自分でも、酷く不器用だと思う。不器用な生き方だと思う。
誰かの弱さを受け入れることはできても、自分の弱さを受け入れる事ができない。
それは自尊心から来る下らない拘泥、執着なのだと分かっている。
それでも、それを認めることは、けして出来ない。
だから、危うく、脆い。
悟ったようなことを衒学的に語るだけで、それ以上のことが出来ない。
自分は、独りでは何も出来やしない。
弱さなど、誰にでもあるというのに、だ。
- 681 名前:88 馬鹿と二人 投稿日:2004/04/01(木) 02:01
-
誰もいなくなった校庭で、保田は独り呟く。
「辻………、アンタは、幸せだったかい……?」
その問いの答えは、恐らく、出ることはない。
果たして彼女には看取ってくれる仲間はいたのだろうか?
そんなことを思う。
弱さを受け入れてくれる誰かはいたのだろうか?
守ってくれる誰かは、いたのだろうか?
そんなことを思う。
想いが錯綜し、どうしていいのか分からない。
何が答えかも分からない。
確かなことがあるとすれば、自分は彼女を看取る"誰か"にも、
守ってあげる"誰か"にも、なれなかった、ということ。
「出来ることなら、なってやりたかったんだけどね……」
空を見て、呟き、
果たして自分は、誰かの"誰か"に、なれるだろうか?
そんなことを、保田は思う。
【37番 村田めぐみ 所持品 西洋槍・武者鎧】
【39番 保田圭 所持品 太刀・ジッポライター・煙草・酒】
- 682 名前:caution !! 投稿日:2004/04/01(木) 02:02
- 今回更新分が大変な容量になってしまっているのでちょいと小休止。
一時間程したら再開の予定。あるいは翌日かも。
なお、以下にグロテスクな表現があることを、先にお詫びしておきます。
心臓の弱い方、並びにホラー物などに弱い方、注意して読み進め下さい。
ではのちほど。
- 683 名前:89 少女と少女 投稿日:2004/04/01(木) 03:07
- 満足な睡眠も休養もしていなかった少女は、
自分の足が一体何処へ向かっているのか、分からなかった。
なんとか持ち前の気力で前に進むことだけは出来ているが、それもいつぷつりと切れるとも分からない。
目に映る景色もただただ流れるだけのようで、そこに尋ね人がいるかも知れないと思わないではないが、
けれど自分の足は立ち止まることをしない。
まるで誰かに呼ばれているような心地だった。
そう、きっと自分は呼ばれているのだ。
助けを求める彼女が、自分を呼んでいるのだ。
妄想に取り憑かれている、とは思わない。
むしろそれは確信だった。
- 684 名前:89 少女と少女 投稿日:2004/04/01(木) 03:08
- 彼女は、きっと待っている。
自分のことを待ってくれている。
この道の向こうで、きっと待ってくれている。
心の中で何度も唱えると、少しずつ嬉しくなってくる。
疲れはやにわに和らぐ。
早く会いに行かなくちゃ。
自分の選択は間違っていない。
自分のことながら、半ば病的だと感じないでもないけれど、
それでも自分の判断は間違っていない、と断言できる。
- 685 名前:89 少女と少女 投稿日:2004/04/01(木) 03:09
- 自分がたとえ死んだとしても、彼女はきっと守られる。
そのことに軽く嫉妬を覚えないわけではないけれど、彼女はそういう星の下に生まれた人だ。
けれど彼女は違う。
みんな、彼女の姿を見ている。
みんな、彼女を怖がってる。
だから、自分が助けに行かなくちゃいけないんだ。
少女は、そう思う。
- 686 名前:89 少女と少女 投稿日:2004/04/01(木) 03:09
-
―――――
- 687 名前:89 少女と少女 投稿日:2004/04/01(木) 03:09
- 少女は森の中をただひたすらに歩く。
自分が助けを求めているのかもしれないなんて、思いもしなかった。
妄想に取り憑かれたまま、ひたすらに歩く。
ただ、彼女に会いたかった。
学校の敷地のフェンスが見える。
一瞬、飛び越えて中に入ってしまいたい、爆発して楽になってしまいたい、
そんなことを思うけれど、勿論そんなことは出来ようもなかった。
もたつく足、からみつく雑草。
全てが自分をジャマしているように感じた。
- 688 名前:89 少女と少女 投稿日:2004/04/01(木) 03:10
-
「あっ…………」
思わず、声が漏れる。
溢れる涙で視界が歪む。
(よかったぁ……、やっぱり……生きてた……)
フェンスからほんの少し離れた木の幹にもたれかかって、
くぅくぅと寝息を立てながら、彼女はそこにいた。
ゆっくり、起こさないように足音を殺して近づく。
(よかった……、よかったぁ……)
彼女が生きていたこと、それだけでもう充分だった。
これからどうするとか、そんなことは考えられなかった。
口を小さく開け、少しよだれが垂れているその顔をじっくり見て、
少女は喜びを隠すことなく表に出す。
- 689 名前:89 少女と少女 投稿日:2004/04/01(木) 03:10
- これほど近くで彼女を感じたことなど、今まであっただろうか?
距離的にはもっと近づいたこともあったかもしれない。
けれどそういうことじゃない。
心が求めている。
かつてないほどに彼女を、その存在すべてを。
自分は彼女に再び会うため、きっと今まで生きてきた。
だから、この身に変えても彼女を守る。
少女は、それが妄想だとは思わなかった。
- 690 名前:89 少女と少女 投稿日:2004/04/01(木) 03:11
-
* * *
- 691 名前:89 少女と少女 投稿日:2004/04/01(木) 03:11
-
やがて、緊張の糸が切れたせいか、
少女はどさり、と地面に倒れ、そのまま気を失った。
木にもたれかかり眠る少女と、その横で幸せそうに眠る少女。
――――少女と、少女。
傍にあるのがフェンスではなく湖であれば、
また、木漏れ日の一つも差し込みさえすれば、
それは、一枚の絵のようでもあった。
- 692 名前:89 少女と少女 投稿日:2004/04/01(木) 03:11
-
―――――
- 693 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:12
- 居間は、どうしてかさっきより広く感じました。
はじめに言われた「斉藤さんは出て行かれました」という福田さんの言葉も、
それに拍車をかけたように思います。
「放送は聞かれたのですよね?」
そんなことは問われる前に分かりきっていたことで。
私はこくりと頷きました。
「そうですか」
予想していなかったわけじゃないけれど、突然聞こえたあの放送。
そう、突然――です。実感はありません。
こういうのを恐らく"喪失感"というのでしょう。
ぽっかりと穴が空いてしまって、それを塞ぐことはできません。
今まで築き上げてきた何かが、がらがらと崩れていくのが分かります。
それを、止めることは出来ません。
目の前にいる福田さんはぴったりと口を閉じ、その表情は、語ることが見つからない、
と言うより、何も語るつもりはない、と言ったほうが正しいくらいで、
けれどそれは私としてはありがたいようにも思います。
同情するような目で見られたら、私はきっと、体裁なく泣き喚いてしまうでしょう。
そしたら福田さんにも、そして隣に座っているまこっちゃんにも、迷惑をかけてしまいます。
それは、嫌です。すごく、嫌です。
- 694 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:13
-
「平家さんって……、福田さんから見てどんな人でした……?」
そう言ったのはまこっちゃんでした。
まこっちゃんは、声こそ震えず裏返らず、しっかりとした口調で話しているのですけれど、
両目の弧の真ん中から、ぽろぽろ、真珠のような珠の涙をこぼしています。
私は、ちらりとそれを見ただけで、あとは福田さんに視線を戻しました。
まこっちゃんの辛そうな顔を、これ以上見たくありませんでした。
「合理的……、ですね」
口元に手をやり、下唇を人差し指と中指でなぞり、福田さんは呟きます。
私には、その言葉の意味が分かりませんでした。
けれどまこっちゃんは分かっているようで、こくり、と頷くのが視界の端に見え隠れします。
どういうことなのか、考えなかったわけではないのですけれど、私は、すぐに考えるのをやめました。
考えても、答えは出そうになかったし、それに、口を挟む余裕もなかったからです。
「そうですね……」
そして、福田さんは語り始めました。
- 695 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:14
-
「それほど親しかった訳ではないので、どれだけ答えられるか微妙なのですけれど……、
しいて言うならあの人は実に真っ直ぐで、実に正直な人でした。 そして何より、歌が好きだった」
淡々とした声。表情もまた、相変わらず。
「あの人は正直な分不器用で、回り道ばかりしていたように思います。
最近の話はよく知りませんけど、今回ここにつれて来られたことも、その正直さが裏目に出たのでしょう。
……もっとも、三行半を叩きつけに来ただけだったのかも知れませんけど」
福田さんはそこで一旦言葉を切り、私のように、と付け加えます。
私はそれが冗談だと思ったんですけれど、福田さんはにこりともしません。
「私に言えることはのはこれくらいです。稲葉さん辺りになら更に詳しく聞けるとは思うのですが」
「……そうですか」
まるで事故報告みたいな福田さんの話でしたが、私にはそれに憤慨するほどの知識も、
言葉も、思い入れもありません。
多分、これがのんちゃ――辻さんの話だったとしたら、
それこそ殴りかかるくらいのものだったように思います。
やけにあっさりとしている自分の感情と、最後にほんの少しだけ片眉を下げた福田さんの顔に、
私はもやもやとした違和感を感じていました。
- 696 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:15
-
―――――
- 697 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:16
-
マンションを出て、島の北部を道なりに歩いていた小湊は、
緩やかなカーブに差し掛かったところで、あることに気付いた。
カーブは西へ向かっていた道路が左折する形、つまり南に抜けるようになっている。
その道路の真ん中辺りに、点々と、赤い跡が続いていた。
(これ……、血の跡……だよね?)
さすがに直立の状態で匂いなどが分かるわけもなく、
ただ電灯を反射する色のみでそれを判断しているに過ぎないが、
それはドラマなどで見る血糊などより濃く、赤黒く、まさしく人間の血液であるように思える。
小湊はそれほど目が良いほうではないが、それでも南へ向かう岸壁沿いの道路には電灯が点々とあり、
今、自分の足元にあるこの血液らしき跡がまさしく南へ続いていることは分かった。
慎重に振り返り、辺りを探る。
もしこれが誰かの血液ならば、何処かに彼女を襲った誰かが潜んでいる可能性もある。
ゆっくりと、足音を立てないように電灯の作り出すサークルから離れた。
(これ……どっちから……)
右から左へ、あるいは左から右へ、その血の跡は小湊の前を横断している。
南から北へか、北から南へか。この血液の持ち主はどちらから来たのだろうか。
暫し、考える。
――――と。
- 698 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:17
- 点々と続く血の跡の中にちらほらと、スニーカーの靴跡が混じっていることに気付いた。
恐らく踏みつけたのに気付かずにそのまま歩いていってしまったのだろう。
つま先の向かう先は――北。
目を凝らしてその先のほうを見つめると、電灯の列が途絶えた辺り、
つまり前述のカーブの南側からの始まり辺りから、
その先の草むらへと真っ直ぐに続いていることが分かった。
暫し、迷う。
怪我をした人間がわざわざあんな草むらに入り込もうとするだろうか?
確かに人気はなさそうだが向かう先は恐らく袋小路。罠の可能性もあり得る。
ただ、怪我をした人間が取るだろう行動など――ましてこの島の異常な状況下である――
皆目予測は立たない。
あるいはこの先に丁度いいねぐらでもあるのだろうか。
ただ、その場合は更に罠である危険性が高まる。
大いに、悩む。
- 699 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:17
- この出血量だ。たとえこの先にその誰かがいたとして瀕死であろうことは分かる。
手持ちに医療用具はない。
その誰かが敵か、味方か。どっちに転んだとして、血の跡を追う意味はない。
「まあ、無難なのは来た道を戻る。 ってーのだけどさ」
北には、その誰かがいる。
南には、その誰かが傷を負わされた何かがいる。
行くべきか、行かざるべきか。
再三再四悩んだ挙句――
「 よし、行っかぁ 」
――結局、小湊は進路を北に取った。
後戻りする、という選択は避けたかった。
折角自分に折り合いをつけて外へと出たばかりだ。
たとえ未知のものであっても、少しでも可能性がある限りは確かめておきたい。
まずは、かつての仲間に会いたかった。
- 700 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:18
-
―――――
- 701 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:19
-
「何故、彼女たちが死ななければいけないのか、そんなこと、考えてません?」
再び訪れた沈黙を破ったのは、やはり福田さんでした。
「そう思うのは当然のことでしょう。けれど、それは幼稚な妄執に過ぎません」
そこで一旦言葉を切り、私たちを――いえ、まこっちゃんを真っ直ぐに見つめて、
「今、ここでは全ての未練は断ち切るべきです。未練は、やがて憎しみに変わりますから」
そう、冷たく言い放ちます。
彼女の視線の先にいるのはまこっちゃんで、私は少しばかりの疎外感を感じ、
そしてそのあんまりな物言いに憤慨しました。
――どうして悲しんじゃいけないんですか?
そんなことを言おうと口を開きかけ、
「福田さんは……、勉強するために娘。を辞めたんですよね?」
けれど言葉を発したのはまこっちゃんでした。
「まこっ……、ちゃん……?」
私は小さく呟きます。
そして、見てしまいました。
まこっちゃんの顔を、見てしまいました。
ひっ、と息を呑みます。
そのまこっちゃんの顔は、かつて見たことないような形相でした。
- 702 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:20
- 涙がぽろぽろと落ちているのは変わらないのですが、
でも、その顔は真っ赤に染まって、垂れ目がち、細めがちなはずの目が見開かれ、
濃い目の睫はまるで怒ったときの飯田さんを思わせます。
いえ、それ以上です。
私はこれほど怒っている誰かを見るのは初めてのことだったので、
それに状況も状況ですし、もしかしたらまこっちゃんは……、なんてことを考えてしまって、
目を逸らすことさえ出来ませんでした。
本当に、こんなむき出しの感情を目の当たりにしたのは、初めてのことなんです。
「それで、今はフリーター? 満足なんですか?それで」
「ええ、それはもう」
「未練は! ないんですか!?」
「ええ、皆目。 まあ未だに歌唱印税を頂いている訳ですし、あまり大きなことを言えた身ではありませんが」
横で見ている私ですら怖いのに、直接それをぶつけられているはずの福田さんは、
まるで何事もないかのような顔でそれをかわします。
どうして怒っているのか分からない、そんな顔にも見えます。
あるいは福田さんはまこっちゃんに怒ってもらいたいのかもしれません。
どうしてそんなことを考えたのかは、自分でもよく分からないのですが。
- 703 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:21
-
「ともかく、くれぐれも敵討ちなんて考えないで下さいね、小川さん。
それは誰のためにも……、何より、貴女のためにならないのですから」
「待ってください!話はまだ………!」
まこっちゃんの気を昂ぶるだけ昂ぶらせて、福田さんは席を立ち、居間を出ようとします。
引き止めるまこっちゃんには目もくれず、すたすたと出口まで向かいます。
「今夜一晩ゆっくり休みながら考えて、それでもガマンできなければ、言ってください」
廊下に出る間際に立ち止まり、向こうを向いたまま言い放ちます。
そして振り返り、
「そのときは、私が手伝いますから」
冷たく、笑いました。
- 704 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:21
-
―――――
- 705 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:22
-
そこに辿り着き、一番初めに気が付いたのは、匂い。
戸を開くまでもなく、こんな木造のボロ屋ならば隙間はいくらでもあるのだろう、
どこからか漏れ出た濃密な匂いが、小湊の鼻腔に侵入してくる。
鉄が酸素に反応し、錆びていく様がありありと脳裏に浮かぶような、その匂い。
「クソったれ………、」
即ち、血の匂い。
血中のヘモグロビンの主成分である鉄が、急激に酸化していく匂い。
小湊が嗅いでいるものは、まさしくそれだった。
じり、と戸口へにじり寄る。
これほど濃密な血の匂いを出しているのだから、もう罠も何もないと思ったが、
これがこの先に構えている誰かのものであるとしたら、むしろ逆に危険である、と判断した。
手負いの虎――とまで言ってはさすがに言い過ぎか知れないが、
もしもそれが敵であるとしたら、なりふり構わず襲ってくる可能性がある。
どうするのが果たして正しいのか。考えながら戸口を見やる。
小屋の戸は蝶番の留め金がこちら側からは見えず、それはつまり、
押し開くタイプのものであるということ。
方法は、即座に決まった。
- 706 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:23
-
――――ドゴッッ!!
鈍く、ゴム底が木壁を叩く音。 即ち、小湊が木戸を蹴った音。
渾身の力と体重をかけて右足を打ち込み、蹴破るつもりで放った一撃は、
けれど小屋を揺らしたのみ。
どうやら閂でもかけてあるようだ。
感触は固く、小湊は衝撃でしびれる右足に顔を顰める。
『ぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ――――っ!!!』
小屋の中からは誰かの悲鳴がひとつ、聞こえた。
暫し物音を聞いてみてもそれは一定で、大勢で待ち構えている様子はない。
だが、これで後には引けなくなった。もはや友好的な解決は望めそうにない。
あるいは血の匂いに興奮させられたのだろうか?と思う。
手痛いミスと、いまだしびれる右足に、苦虫を噛み潰すような心地で小湊はぐぅと呻いた。
「クソったれ! がぁ!」
呻き、吼えながらも、ドゴッ、ドゴッ、と何度も右足を打ち付ける。
建物同様、閂も老朽化が進んでいるのか、
何度か打ちつける毎にみし、みし、と木材の割れていく音が聞こえる。
戸も内側に開きつつある。
続けていればなんとか開きそうだった。
- 707 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:23
-
―――――
- 708 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:24
-
私は、分かりませんでした。
どうして、福田さんはあんな態度を取ったのでしょう。
どうして、私はこんなにも冷めているのでしょう。
どうして、まこっちゃんはどうしてあんなに怒ったのでしょう。
どうして、私はその理由が分からないのでしょう。
私は、分かりませんでした。
「まこっちゃん……、大丈夫?」
「うん……、平気だよ」
まこっちゃんにかけた私の声は、いつものようなごく自然なものではなく、
所々裏返って聞くに堪えないものです。
まこっちゃんの顔は、すでにいつものまこっちゃんの温和で柔和なそれになっていましたが、
でもあの形相――まさしく鬼のような形相――は、忘れたくても忘れられません。
近くにいたはずなのに、今も近くにいるはずなのに、遠くへ行ってしまったような。
これもまた――やはり、喪失感なのでしょうか?
ですが……、何故でしょう。
それだけではなく、いつだったか、こんな気持ちが持った事があるような、
そんな何かを見たような、そんな気もします。
それが……、何と言う名前だったか、覚えていません。
よく、心の傷は時間が解決してくれる、と言います。
けれど私にぽっかりと空いてしまった穴は、縮まるどころかますます広がっているようで、
それは、解決どころかまだ治療が始まってもいないということなのでしょうか?
分かりません。
私のことだから、私が一番分からないのかもしれません。
――――と。
「まこっちゃん……」
「なに?」
「何か……、音、聞こえない?」
音、というより、それは獣の息遣いのようでした。
- 709 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:24
-
ふぅーっ、ふぅーっ
「ほら……」
ふぅーっ、ふぅーっ、ふぅーっ
「…………ね?」
「ほんとだ……」
遠くから、それは微かだったのですが、その音はだんだん近づいてきているように聞こえます。
「福田さん……呼びに行ったほうがいいかな……?」
囁き声で、私はまこっちゃんに話しかけます。
まこっちゃんは答えません。
でも、表情から、その提案を快く思っていないことは分かりました。
- 710 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:25
-
「あっ! ――――っ、そうだ、電気、電気消さないと……」
今までは福田さんがいるから、それに福田さんが電気つけても大丈夫、
と言っていたからそうしていたのですけれど、
今のこの状況では、福田さんのあの様子では、まこっちゃんのこの様子では、
大丈夫なわけはありません。
すぐさま私は電灯の紐に手を伸ばします。
けれどそれはまこっちゃんの手によって阻まれます。
どうして?と思っているとまこっちゃんはこう言いました。
「ダメ。 今消したらここに誰かがいるってすぐに分かっちゃうでしょ?」
それはつまり、付けっぱなしで外に出たとかでなく、
電気を消せる場所に誰かがいる、ということが瞭然である、と言う意味です。
私もなんとかそれを察知して、すぐに手をひっこめます。
- 711 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:25
-
―――――
- 712 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:27
-
ただ、開いたとしてその先どうするか、それが問題だった。
悲鳴に聞き覚えはない。
知っている誰かだったとして、例えばドラマの登場人物のような、
悲鳴を聞き分けられるような特異な技能など持ち合わせてはいない。
『―――――っっ!! ――――っっっ!!』
未だ叫び続ける彼女の声からして、正常な判断能力があるとはとても思えない。
もっとも、その原因を作っているのは小湊自身ではあるのだが。
けれど、それを知りつつもなおそうする他に、彼女には方法がない。
たとえば即座に駆け出し、この鎌で切りつける、あるいは脅す。
それは穏便に済ます一つの方法。
たとえば一度落ち着き、向こうをなだめる。
危険がないわけではないが、それも一つの方法。
たとえば諦めてどこかへ向かう。
それが恐らく最善の方法。
けれど、それを取るつもりは小湊にはない。
考えるのは、扉を破った後どうするのか。
扉が30度ほど内にめり込み、感触も弾性を伴ってくる。もう少しだ。
- 713 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:28
- 蹴り始めて30秒弱、中にいる誰かも慣れてきたか、悲鳴は時たま小さく上がるくらいになっている。
どん、と叩くたびに、ひっ、と息を呑むような音。
さてどうしたものかと考える。
――――ごめんごめん、ノックしすぎちゃった
そんな台詞がベストだろうか?
血の匂いに慣れてきたこともあって、小湊は少しずつ冷静さを取り戻し始めていた。
血の匂いにはやはり本能が反応してしまうのだろうか?とそんなことを考える余裕も出てくる。
だが、もう遅い。穏便に済ませるにはあまりに派手にやりすぎた。
つくづく、最初の手痛い失敗を悔いる。
けれど、後に引くことはない。
引いてしまっては動けなくなる。
そう思い、小湊はなお蹴り続ける。
――――ゴッ、ゴッ、……メキッッ!!
ようやく、閂は折れ、戸は開いた。
- 714 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:29
- 「――――ひっ!」
開くと同時に、鳴き声のような音が奥から聞こえてくる。
小湊はゆっくりと呼吸を整えながら、内部を眺める。
左手に小さなテーブルと椅子、奥には壁に張り付くように座り込んでいる人影。それ以外に、何もない。
当初は部屋の中が一面血塗れ、などという想像をしていたものだから、
思ったより奇麗な内壁に、内心がっかりしたものを感じる。
勿論期待していたわけではないが、的外れの想像をしていた自分が馬鹿らしかった。
けれど、やはり血臭は中から漏れ出ていたようで、足を一歩踏み出すと、
むわ、と生暖かい匂いが肌に、髪に絡みつく。
「――――っ! ――――っ!!」
扉を開ける前のあの剣幕からしてもっと騒ぐものかと思っていたが、
しかし人影は想定していたよりかは静かだった。
何やら板状のものを抱えて咥え、声を出さないようにしているようにも見える。
確かに、聞こえてくる微かな呻きにはくぐもったような響きがあり、
それは何かを咥えたときに発せられる声に良く似ていた。
ふぅ、と一つため息。
手負いの虎などではなく、単に怯えているだけの兎だったか、
と年寄り臭い揶揄を胸中でこぼす。
元々何でもかんでも手にかけるつもりではなかった小湊は、
予定していた台詞を笑顔とともに吐き出そうと――
「いやー、ごめんごめん。 ノックしすぎちゃ――――」
――けれどそれは止まり、そして笑顔は凍る。
彼女の抱え、咥えているもの。
人間の腕だった。
【15番 小湊美和 所持品 大鎌】
- 715 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:30
-
―――――
- 716 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:30
-
――――だ……、誰か! 誰かいない……?
聞こえてきた声は、私が、そのとき一番聞きたかったものでした。
この世に奇跡があるとしたら、それはまさしくこのことだ。
私は、そう思いました。
夢中で立ち上がり、玄関へと駆け出します。
――――い……、いるんでしょ? 誰か……!
運命は私に味方している、そんなことも思いました。
視界の端に、まこっちゃんが私を必死に止めているのが映りました。
でも、私の足は止まりません。
- 717 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:31
-
どたどた、と足音を立てながら玄関に向かいます。
声、声、声。
それはとても数時間前に別れたばかりとは思えなくらいに懐かしく、胸がいっぱいになります。
そのときだけ、私の胸に空いた穴は、すっかり埋まっていました。
「待っててください! 今、開けますから!」
叫んで、鍵と、チェーンを外し、そして、ドアを押し開けます。
そして、それが視界いっぱいに広がりました。
穴も、再び広がりました。
- 718 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:32
-
私の顔を見て、彼女は微笑みます。
暫く黙ったまま私の顔を眺めて、こう言います。
「……ああ、よかったぁ。 お豆。 無事だったぁ……」
彼女は、天使のような笑顔でそう言うと、ふら、と倒れそうになりました。
私は、彼女を支えることが出来ませんでした。
- 719 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:33
- 彼女は膝から地面に吸い込まれ、背負っていた何かがその背に覆いかぶさります。
何か、ではありません。――誰か、です。
「――――――っ!!」
上げそうになった悲鳴は、けれど誰かの手に口をふさがれ、鼻から抜けます。
驚いて懸命に振り返ると、それはまこっちゃんでした。
けれど、それはさっきの怒っていたまこっちゃんでも、
いつものとぼけたまこっちゃんでも、どちらでもありません。
まこっちゃんは私の口から手を離さないまま、彼女に語りかけます。
「……安倍さん、どうしたんですか? 何があったんです?」
彼女――安倍さんは、両手を地面に立て、必死で起き上がろうとしながら、
荒い息も絶え絶えに、こう言いました。
「麻琴……、お願い、助けて。 ……ちから、貸して………」
安倍さんの背中には、左腕の、肘から先のない誰か。
血は巻きつけられたシャツを染め、それでも、息はまだありました。
【 1番 安倍なつみ 所持品 FN M1935 High Power・薙刀】
【10番 小川麻琴 所持品 ダイナマイト 6本】
【28番 新垣里沙 所持品 焼夷手榴弾 5個】
【29番 福田明日香 所持品 防刃グローブ】
- 720 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:34
-
―――――
- 721 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:35
-
(くそっ……、迂闊だった……!)
彼女は胸中毒を吐き、自分の不甲斐なさを恨む。
自ら決めた見張りの役を、たとえ無意識のこととは言え中断していたことに腹が立つ。
あそこで寝てさえいなければ。
激しい後悔が彼女を急き立てる。
慌てて足元で眠る少女の頬を手の甲で叩いた。
「おい、起きろ! 大丈夫か? おいって!」
「う……、ん……、なんで……クー……」
(ああ……、よかった……)
声が聞こえたことで最悪の事態だけは免れたことは分かる。
けれどまだ問題は解決していない。
まったくの、ひとつもだ。
自分が不本意にもうたた寝をしてしまってからどれくらいの時が経っただろう。
多くて小一時間だろうか?時計がないから正確な時間は分からない。
けれど遠く離れるのに充分な時が過ぎていることは容易に予想がつく。
放っておけば事態は悪くなる一方だろう。
(……畜生、なんでだ、なんでだ?)
ここにいれば、少なくとも夜が明けるまでは安全だっただろうに。
どうして、彼女は自ら出ていった?
色々予想は立つものの、今はじっくり考えている時間はない。
- 722 名前:90 夜明けにはまだ早い 〜三つの事象〜 投稿日:2004/04/01(木) 03:36
- 再び眠りについた少女の頬を、彼女は再度叩く。
「あさ美、起きろ、起きろって、ホラ」
「うー……、あやっぺさん、なんなんですか……、こんな夜中に……」
紺野は頬を叩く石黒の顔を見定めると、恨めしげに呻いた。
「みんな……ふぁ……くぅ……、起きちゃいますよ……」
欠伸を噛み殺しながら、紺野はゆっくりと上体を起こす。
きょろきょろと周りを見ると、敷かれている布団に対して人の数が足りないことに気付いた。
自分の右隣に寝ているはずの石黒は今目の前にいる。
一番左に寝ている道重はそのまま。
呼吸で布団が揺れていることからそこにいることが分かる。
「あれ……、れいなちゃんは……?」
けれど、自分の左隣にいるはずの田中の姿がない。
――――一瞬で、目が冷める。
「いないんだよ……、何処にも、 いなくなっちゃったんだよ……」
くしゃくしゃに歪めた顔を俯かせ、石黒は呻いた。
【 6番 石黒彩 所持品 Hi-Standard derringer】
【16番 紺野あさ美 所持品 お守り】
- 723 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 03:37
-
- 724 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 03:38
-
- 725 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 03:38
-
- 726 名前:abook 投稿日:2004/04/01(木) 03:40
- というわけで一ヶ月ぶりのご無沙汰。
、、、なくせして短編バトルに浮気してみたりと皆々様方には本当に申し訳なく。
たまには真面目に返レスします、反省。
>>617
毎度のご愛顧、真にありがとうございます。
>待ってまし……
スイマセン、また待たせてしまいました。申し訳ないです。
>ネタバレ……
お気遣い感謝です。
先読みし易い展開ではあると思いますが、
お心のうちに仕舞って頂ければ幸いです。
>>618
毎度毎度、レスありがとうございます&作家デビュー、おめでとうございます。ミテマスヨー
、、、って飼育暦は自分のほうが間違いなく浅いんですが。
いいないいな〜、オリジナルのバトルものいいな〜……ゲフンゴフン。
感想レス苦手なんで普段は書き込まないんですけど、
今度隙を……ゲフン、折を見て書き込んでみますね。
でも小心者なんで恐らく名無しだろうと思います。
あと620ではochiどうもです。
>sageはた……
大丈夫。思い出せる人のほうが稀有ですから。
>ではこ……
頑張ります。
- 727 名前:abook 投稿日:2004/04/01(木) 03:41
- >>619
アリガトウ ゴザイマス×5
>>629
本当に申し訳ないです。
2週間は近日の内に入りません>自分。
>>630
>激しく……
というわけで激しく更新してみました。
具体的に言うとBGMにhideの"D.O.D"、片手に下町のナポレオン。
…
……
………
…………ごめんなさい。
>>631
毎度どうもです。
>そろそろ……
狽ヘう! も、申し訳ない…w
>更新……
な、治りました? ,,._.,,
- 728 名前:abook 投稿日:2004/04/01(木) 03:43
- というわけで返レスでした。
まったく、自分のことながら情けないったらありません。
早朝同時多発テロを録画してる暇があるなら、
あまつさえ塊作ってる暇があるなら更新しろよ、って話です。
今回更新分は見ての通り、だいぶ引っ張っちゃってますし。
ってか引っ張りまくりですし。しかもグロいし。申し訳ないです。
次回更新からは次スレを立てる予定なのですが、いつまでも月刊連載ペースというのもなんですので、
色々と試行錯誤をしてみることにします。
つまりは更新の方式を色々と試してみようかと。
本決まりになるまではわたわたするかもしれないんですが、ご了承の程を。
今のままでよい、あるいはこのくらいのペースで読みたい、等、
ご意見あれば気軽に書き込んでやってください。よろしくお願いします。
それでは。
- 729 名前:abook 投稿日:2004/04/01(木) 03:44
- 今回更新
>>635-722
でした。
- 730 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/01(木) 11:10
- 更新お疲れサマでございます。
グロいのには多少免疫あるので大丈夫ですよw(←意味深
次スレの更新ペースですか・・・?
これだけ大量に更新していただけるなら月刊連載でもダイジョウブかと。。。
まぁ作者さんが無理なく続けられるペースならいくらでもついて行きますので・・・。w
次もマターリ待たしてもらいます。
- 731 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 18:04
- 更新お疲れ様です。このストーリーだと多少のグロも仕方ないのでは?
今回が特別だったのかもしれませんが、自分はこの大量更新量だと半月に1回がいいです。
>>名も無き読者さん
良かったら作品名教えてください
- 732 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/01(木) 20:27
-
>>731の方へ、
一応人様のスレなので直接作品名は出しませんが、(一度やったことありますけどね、便宜上)
同じ板で二文字違いの名前の作者見つければわかると思います。作品名は三文字。
興味を持っていただき有難うございます。
作者サマ、スレ汚しごめんなさい。
- 733 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/02(金) 16:56
- (0^〜^)<保田さんカッケー!
この3人に期待大
- 734 名前:はれ 投稿日:2004/04/08(木) 17:59
- はじめまして!!本日初めてこのお話を目にしました。長かったけど、一気に読ませて
頂きました。懐かしい顔ぶれも出てきてこの先楽しみです。頑張って下さい!!
- 735 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/08(木) 23:06
- パンツァーファーストってLAMの仲間っすよね?
- 736 名前:abook 投稿日:2004/04/15(木) 23:57
- まずは返レス。
>>730
毎度ありがとうございますです。
>免疫……
(((( ;゚Д゚)))
>無理なく……
ちょっと無理してみることにします。
>>732
>スレ汚……
全然まったく問題なしです。
逆にお気を遣わせてしまったようで申し訳ないっす。
>>731
レスありゃーとーございます。
>半月に……
確かに一度の更新がこうまで多いと疲れますね。読むのに。
考慮してちと無理をしてみることにします。
>>733
(0`〜´)<吉!
( `.∀´)y━~~~<保!
( ‐ Δ‐)<むぁ!
(0`〜´)( `.∀´)y━~~~<きっぽむらぁ!
( ‐ Δ‐)<むぁぁ!
-・).oO( ;…、村田さん、言えてませんよ…… )
>(0^〜^)<保田さんカッケー!
(#`.∀´)y━~~~<オホホホホ……、まあ当然よね。
( ‐ Δ‐)<むぁわ?むぁわかっこよくないのかにぇ?
>3人……
さてさて、どうなります事やら、、、。
- 737 名前:abook 投稿日:2004/04/15(木) 23:58
- >>734
狽、お! 一気読みですか……、嬉しいなあ。
>懐かしい……
連載始めてから気付いたことなんですが……、出てない人らもチラホラといたり。
赤道さんとか、千木さんとか、ママの味の飴の人とか、四月とか。
これからチョイ役で出るかも、出ないかも。
>>735
レスさんくすです。
>パンツ……
麻琴に申し訳なのですが自分は兵器に関して博識であるわけではないです。むしろ薄識です。
本文中の注釈なども殆どがネト上からの転載だったり資料用の雑誌からの転載だったりです。
なので、ぐぐりました。でも、正直分かりません。(;
なにやらネトゲの装甲だったり「DCのゲームCDの中にはこれらが入ってる」だったり、
もろこのスレの735だったり。
ただ、にちゃんやザ・掲示板を見る限りでは「パンツァーファウスト∈LAM」で良いようです。
で、「LAM」とはなんぞや、と思ってまたぐぐってみると一番信用できそうなのが「Loitering Attack Missile」。
直訳すると「道草をくって攻撃するミサイル」? ……なんでしょう、これ。(;
意訳すると「ひゅるひゅると飛ぶミサイル」ってところでしょうか?
これならなんとなく分かる気がします。イメージとして近いのは高橋留美子の漫画かw
というわけで、ご期待に添えたかどうかは微妙ですが、そんな感じです。
あ、あとザ・掲示によると自衛隊の人はパンツァーファウスト自体をLAMと呼ぶそうです。
- 738 名前:abook 投稿日:2004/04/16(金) 00:00
- ……なんだか( ‐ Δ‐)のある返レスでしたが気にしないで下さい。
さて。
実際に前回の更新分を読んでみたのですが、大いに疲れました。
読者的立場で読んだので結構な時間もかかりましたし。
その上読み返さないとよく分からない部分も多々あり、やはりこれでは拙いな、と。
731さんの意見を考慮に入れて、色々考えてみた結果、
無理かもしれないですが暫くは週一ペースでやってみることにしました。
とは言え恐らく1/2〜1/3節ごとくらいになってしまうでしょうが。
ただ、一回の更新量が減る分毎回アホレスすると興ざめになってしまうので、
と言うか「更新量より返レス量の方が多い」なんてアホなことになり兼ねないので、
∬ ´▽`)に勝手ではありますが、返レスはまとめレスにさせて頂きます。
申し訳。
で、このスレについて。
残り60KB程ありますが、再利用の目処もないので落としておきます。
もし何か思いついて、その時にまだこのスレが残っていたら、ひっそりと何かやります。
あくまで"残っていたら"なので基本的には倉庫行き待ち、ということで。
んで、次スレはこちらになります。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/sky/1082039720/
では、また。
- 739 名前:abook 投稿日:2004/04/16(金) 00:12
- しまった、、、。
「ママの味の飴の人」じゃなくて
「アーヌターニモー ワーケテー アーゲテー の飴の人」だった、、、。
……あるのはこんな無駄な知識ばかり。
しかもミスってるし。ダメダメです。
では、、、また、、、。
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