みんなの進路希望
- 1 名前:みや 投稿日:2003/09/13(土) 23:21
- 小川麻琴一人称アンリアル。
田舎に暮らす中学三年生、小川、高橋、辻の卒業までを描く。
平凡だったり、夢があったり、さまざまな三人。
うまくいったりうまくいかなかったり。
そんなお話。
本文はレス2から
- 2 名前:第一話 修学旅行の一幕 投稿日:2003/09/13(土) 23:23
- 私達中学三年生は、そろそろ卒業した後のことを考えないといけないらしい。
私は、愛ちゃんやのんちゃんと一緒に高校にいければいっか、くらいに思ってたけど、
最近、二人はどうやらそう考えてないみたいな感じがして来た。
小さいころからずっと一緒だった三人。
愛ちゃんやのんちゃんだけじゃない、小さな村だから、みんなずっと一緒だった。
だから、一緒に高校行ければいいなあ、って思ってたけど、そうはならないみたいだ。
二人には目指す先があるらしい。
夢っていうのかなあ、そういうの。
よくわからない。
私には、そういうのないから。
変なのかなあ、私。
夢。
夢ってなんだろう?
- 3 名前:第一話 投稿日:2003/09/13(土) 23:27
- そんなことを思いながら、目の前でひたすらしゃべっている愛ちゃんの言葉を聞いていた。
今日は修学旅行一日目。
夜になって大きなホテルにたどり着いた私達は、もう布団をひいて部屋にこもってる。
もうそろそろ寝ようという時間になって、愛ちゃんが騒ぎ出したんだ。
明日の自由班行動の予定はちゃんとあったのだけど、愛ちゃんがそれを全部ひっくり返そ
うとしてる。
「まことー。ねー。おねがい。一生のお願い」
「愛ちゃんの人生何回目?」
「そんなん何回でもいいから、けち臭いこと言わんと」
- 4 名前:第一話 投稿日:2003/09/13(土) 23:29
- 愛ちゃんは言い出したら引かないお嬢様育ち。
そんな愛ちゃんの隣で、のんちゃんはお菓子を食べながらけらけら笑って見てるだけ。
小さなころからこうだった三人の関係。
愛ちゃんをなだめたりすかしたりしながら、結局愛ちゃんの望む方向に舵を切るのは私の
役目みたいになってる。
「でもさあ、行っても中に入れるわけじゃないんでしょ。外から建物見るだけでしょ」
「いいの。それでもいいの。行きたいの。お願い。行ってみたいの」
「行ってあげたらー」
「もう、のんちゃんひとごとじゃないんだよ。勝手に予定変えたらみんな怒られるんだ
からね」
「まこっちゃん班長だから代表で怒られてよー」
「もうー」
- 5 名前:第一話 投稿日:2003/09/13(土) 23:30
- 私は、枕をのんちゃんに投げつけてやった。
愛ちゃんが何を駄々こねているのかと言えば、宝塚へ行きたいと言っているんだ。
別にチケットを持ってるわけじゃない。
なのに、建物だけでもみたいと今になって言い出して。
班行動は大阪市内だけって言われてるから、兵庫県にある宝塚まで行ったら怒られるに決
まってる。
「じゃあ、愛ちゃんが勝手に抜け出すのは見逃して上げる」
「それじゃあ、だめなんだってばさあ。電車のらんとあかんし、まことがおらんと」
- 6 名前:第一話 投稿日:2003/09/13(土) 23:31
- はあ。
分かってる。
昔からそう。
私は愛ちゃんの言うことに結局さからえないんだ。
一人抜け出されるだけでも絶対怒られるのに、班長の私がコース変えたら・・・。
もう、考えるだけで嫌だ。
「まことー」
「ああ、もう、分かった。分かったから」
「やったー。だからまこと大すきー」
「だぁー。やめろー。抱きつくなー」
愛ちゃんが抱きついてきて、私は布団の中に埋もれた。
もう勝手にしてくれーと抵抗しないままでいたら、さらに布団がまきついてきて、重さも
増えたから多分のんちゃんがのっかっているんだろう。
しゅうがくりょこーたのしーなー、と、思うことにした。
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/13(土) 23:52
- こういう高橋さんと小川さんの関係性大好きです。
頑張ってください。
- 8 名前:作者 投稿日:2003/09/16(火) 22:56
- >>7
初レスありがとうございます。
頑張ります。
- 9 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 22:57
- 翌日、お昼ご飯のチェックポイントを過ぎて、私達は急いで宝塚へと向かった。
五人班だったんだけど、愛ちゃんとのんちゃんと三人で抜け出す、っていうか、二人ごめんね。
次のチェックポイントまで三時間十五分。
宝塚の駅にたどり着くと、愛ちゃんのテンションが一気に上がった。
「はやく。はやく」
「愛ちゃん元気だねー」
- 10 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 22:59
- 今にも走り出しそうな愛ちゃんの後ろをのんちゃんがイチゴポッキーを片手についていく。
私は、ちょっと肩を落としてとぼとぼと後をついていった。
梅雨の合間の晴れた空、駅前の阪急デパートの横を抜けて少し歩くと、レンガ畳がひかれ
て花も植えられたきれいな道に出た。
愛ちゃんの解説によると、花の道、って言われるらしいこの道は、宝塚がよく分からない
私も、なんだかうきうきした気分にしてくれる。
次第次第に、それらしい建物が近づいてきた。
「あれー?」
「うん。たぶん」
愛ちゃんの歩くペースがゆっくりになった。
いつの間にか追いついて、並んで歩く感じになっていた愛ちゃんの顔をのぞき込むと、な
んだかちょっと上の空みたいだった。
私達は、劇場の敷地の入り口までたどり着いた。
- 11 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:00
- 「愛ちゃん、中まで行かないの?」
建物を遠くに見て愛ちゃんは固まっている。
のんちゃんがポッキーを一本私にくれた。
「ありがと」
「愛ちゃんもたべる?」
胸の前で両手を合わせて、愛ちゃんはぼーっと建物を見あげている。
私とのんちゃんのポッキーをかじる音が心地よく響いている。
ホントにすきなんだなー愛ちゃん、なんて思って私も建物を見上げると、突然愛ちゃんが
早口でしゃべりだした。
- 12 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:00
- 「すごい。すごいよ。ここに、樹里さんとか、朝海さんとかいて、演じてるんだよ。あっ、
今は、月組の公演だから、紫吹さんとくららさんがいて、専科から汐風さんとかも参加してて、
すごいよ。ねえ、まことー、すごいよねー」
「そうだねー」
何言ってるんだか全然分からなかったけど、とりあえずそうだねーと答えておいた。
こんな風に突然ハイテンションになってしゃべりだす愛ちゃんに、いつも戸惑わされる
けど、こんな愛ちゃんが私は結構好きだ。
長い付き合いだから、愛ちゃんが次にどうするかも分かってる。
思った通り、劇場の建物に向かって走り出した。
私とのんちゃんは顔を見合わせてちょっと笑いながら愛ちゃんを追いかけて走り出した。
建物のすぐ前で愛ちゃんは立ち止まった。
- 13 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:01
- 「急に走り出すなよー」
「まこっちゃん体力なさすぎ」
「のんちゃんはありすぎなの」
そりゃあ、ぼけーっと毎日過ごしてる私は、バレーボール頑張ってるのんちゃんと比べ
たら体力はないに決まってる。
「見たいなあ・・・」
愛ちゃんはポツリとつぶやいた。
気持ちは分かるけど、チケットなんかもってないし、もし当日券とか買えたとしても、
最後まで見てたら夜になっちゃう。
こればっかりは、私にだってどうして上げることも出来ない。
- 14 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:02
- 「写真撮ろうよ。せっかく来たんだから」
のんちゃんが明るい声で言った。
お金もチケットも時間もない私達に出来るのは、せいぜいそれくらい。
愛ちゃんは、私達の方を振り向いて、弱弱しく笑ってからうなづいた。
最初は、カッコイイ役者さんの映った看板と愛ちゃんのツーショットで一枚。
それから、愛ちゃんとその背景に建物が入るようにして一枚。
最後に、三人並んでの写真を、パンフレットを抱えた通りすがりのおばちゃんにとっても
らった。
いつもは、なんとなく私が真ん中になるけれど、今日は、右側にいた愛ちゃんを引っ張っ
て、真ん中に立たせた。
- 15 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:03
- 「帰ろっか」
名残惜しそうに建物を見つめる愛ちゃんに私が言う。
背中を向けたまま愛ちゃんは首を横に振った。
「もう一つ行くところがあるの」
そう言って、愛ちゃんは歩き出した。
なんか、とめる間も、どこ行くの? って聞く雰囲気もなくて、私とのんちゃんは黙って
愛ちゃんの後ろをついていった。
しばらく歩くと、また大きな建物にたどり着いた。
入り口には門があって、なんだか学校みたいな雰囲気だった。
- 16 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:04
- 「これ何? 学校みたいだけど」
「うん。学校やもん。私が来年から通う学校」
私とのんちゃんは愛ちゃんの方を見る。
愛ちゃんは、きりっとした目で、建物を見ていた。
「宝塚音楽学校。宝塚に入るにはここに入らなきゃいけないの。だから、ここに入りたいの」
ほとんど見たことのない愛ちゃんの真剣な表情だった。
来年からここに通う、そう言い切る愛ちゃんが、とてもすてきに見えた。
一分くらいじっと建物を見つめていた愛ちゃんは、やがて私達の方を振り向いた。
「満足した?」
私がそう言うと、愛ちゃんは笑ってうなづいた。
- 17 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:04
- 駅までの帰り道、愛ちゃんは静かだった。
何考えてるのかな、なんて思いながら斜め後ろから愛ちゃんを見つめる。
私にとってはすごく遠い世界の宝塚。
愛ちゃんも、その遠い世界に行ってしまうのかな?
私には、村から離れてこんな遠い所で暮らそうと思うなんてことありえなかった。
村から出て高校の寮に入るってだけでピンと来ないのに。
- 18 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:05
- 駅前までたどり着くと愛ちゃんは言った。
「お買い物していこう」
満面の笑みを浮かべる愛ちゃん。
ちょっと肩を落とす私。
「時間なくなっちゃうよ。早くもどらないと」
「大丈夫。宝塚に来て阪急デパートで買い物して行かないなんてありえない」
- 19 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:05
- ありえないとか言われても・・・。
それでも結局私は、愛ちゃんに従うしかなくて、三人でお店の中に入っていった。
あれこれいろんな服を見ながら、愛ちゃんは解説してくれた。
宝塚歌劇団は阪急デパートの系列なんだそうだ。
系列、とか言われてもよく分からないけど。
だからって買い物しなくてもなー、と思うけど今からそれを言っても時間が余計にかか
るだけだから言わない。
結局、愛ちゃんは一番安い黒のブラウスを買っただけだった。
お嬢様とは言っても、都会のこんな大きなお店でいろんなものを買うほどのお小遣いは
もらってない。
その後、なんでか分からないけれど、男の子の服のコーナーへ連れて行かれて、あれや
これやと私の前に並べられた。
まことに似合うよ、とか勝手なことを愛ちゃんは言ってたけれど、サイズも合わないし
お金も無いと全部断って、私達はようやく電車に乗って帰ることにした。
- 20 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:06
- 愛ちゃんは、電車の中で立ったまま宝塚のすばらしさについてずっと話している。
帰りの電車、途中で人が降りていって、二人分の席が空いた。
「座りなよ、ふたりで」
「のんちゃんは?」
「いいよ。別に疲れてないもん。まこっちゃんと違って鍛えてるから」
「どうせ私は体弱いですよーだ」
そんなことを言いながら、私は一番端に座った。
愛ちゃんは隣で、私の腕に右腕を絡めてきた。
電車が動き出すと、愛ちゃんはすぐに寝息をたてはじめた。
- 21 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:07
- 「はしゃぎ疲れちゃったのかなあ?」
「そうだね。私も試合の帰りとか電車乗ると寝ちゃうし、寝かしといてあげよう」
愛ちゃんは腕を絡ませたまま、私の左肩に頭を乗せていた。
「宝塚の夢見てるのかな?」
「男役の人に抱えられちゃったりしてさ、まこっちゃん男役の人になって愛ちゃんの夢に
出てるんだよきっと」
「私、別に男の子っぽいつもりないけどなぁー」
「似合ってるよその格好。遠くから見てうらやましー、って言いたくなるような二人っ
て感じ」
「わたしは女の子だよー」
なんて言いながらも、愛ちゃんの頭をなでてみた。
村の男の子達の憧れのまとなのに、なんで宝塚かなー? とか思ってしまう。
- 22 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:08
- 「私にその気はないからなー」
眠っている愛ちゃんに語りかける私を、のんちゃんは笑って見ていた。
私達は大阪まで帰りつくと、急いでチェックポイントまでダッシュしたけれど、たどり着
いた先には前田先生が仁王立ちして待っていた・・・。
- 23 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:09
- 「小川麻琴班長様! どちらへ行かれていらっしゃったのですか?」
「いや、あの、ちょっと」
仁王立ちして笑顔になった前田先生に、逆らえる人は多分この世にいない・・・。
「どちらへいらっしゃってたんですか?」
「ちょっと、あの」
「高橋、宝塚どうだった?」
「たのしかったです。あっ」
愛ちゃんの方を私とのんちゃんで見た。
愛ちゃんは口を押さえて前田先生の顔を見つめていた。
- 24 名前:第一話 投稿日:2003/09/16(火) 23:10
- 「あんた達のやってることなんかお見通しなんだよ。はい、三人はホテルまで帰ったら
夕飯まで私の部屋で正座して反省文な」
「えー、私ついていっただけだもん」
「甘い。辻も同罪」
「えー。なんでー」
「うるさい。お菓子禁止とどっちがいい?」
「反省文でお願いします」
- 25 名前:第一話 修学旅行の一幕 終わり 投稿日:2003/09/16(火) 23:11
- 私達は、このあとの日程を前田先生監視付でまわって、最後には先生の部屋に連行された。
先生の部屋で反省文を書いてる時、となりで結構真面目に書いてる愛ちゃんを見てたら、
行ってあげて良かったかな、とほんのちょっとだけ思った。
愛ちゃんと違って、私ってそういう思い入れのある物ないなあ、って思ったけど、足が
痛かったから考えるのをやめて、反省文をさっさと書いた。
- 26 名前:第二話 のんちゃん大活躍 投稿日:2003/09/23(火) 21:50
- 一学年二十五人くらいしかいない私達の学校で、まともに活動してる部活はバレーボール部
と合唱部くらいだった。
夏休みに入って、のんちゃんのバレー部最後の試合がやってくる。
私と愛ちゃんは、町の塾での夏季講習を午前中だけサボって試合を見に来た。
「あっ、吉澤さん」
愛ちゃんが目ざとく見つけたのは、二つ上の先輩の吉澤さん。
前はこのチームのキャプテンだった人。
愛ちゃんはその頃から白いタキシード着れば似合うのに、とかぶつぶつ言ってたような気
がする。
今日の吉澤さんは白いタキシードじゃないけど、チェックのスカートとワイシャツってい
う高校の制服を着ていて、なんだか、りりしくて確かにかっこよかった。
- 27 名前:第二話 投稿日:2003/09/23(火) 21:51
- 「吉澤さんの方行こうよ」
「あそこベンチじゃーん。だめだよ」
「えー、いいじゃーん。一生のお願い」
「無理だからホント・・・」
ごねてる愛ちゃんを必死になだめていると、ボールが飛んできて私の後頭部に当たった・・・。
「ごめーん、まこっちゃん。事故じゃないんだ。わざとなんだ、ごめんね」
私は、頭を抱えて体育館の床にしゃがみこんだ。
多分軽く投げただけのボールぽくて、全然痛くはなかったけど、大げさに痛がってみた。
- 28 名前:第二話 投稿日:2003/09/23(火) 21:52
- 「よちよち、いい子でちゅねー。良い子は危ないからコートから離れまちょーねー」
のんちゃんが、私の頭をなでていた。
声を上げて笑う愛ちゃんの声も聞こえた。
私は、むすっとして立ち上がる。
「へなちょこサーブ当てるなよー」
「本気でアタック打って当てていい?」
「ごめんなさい」
ボールを構えるのんちゃんに、私は腰が直角になるくらいまで曲げて頭を下げた。
顔を上げると、二人は笑ってた。
- 29 名前:第二話 投稿日:2003/09/23(火) 21:52
- 「のんちゃんがんばれー」
「おう。のんは負けないのです」
私と愛ちゃんは、村の人達が集まる席へ行った。
のんちゃんはコートに戻って後輩達のレシーブ練習に、軽くアタックを打っている。
隣村との年に一度の定期戦。
これが、三年生の最後の試合になる。
でも、今日ののんちゃんには、これが最後、みたいな雰囲気は全然なかった。
- 30 名前:第二話 投稿日:2003/09/23(火) 21:53
- 試合が始まる。
のんちゃんのサーブでゲームが始まった。
セッターの役割ののんちゃんは、一番背が低いのにキャプテンでチームの中心。
勉強は出来ないけど、バレーボールの作戦には頭がよくまわる。
身長はたぶん相手のチームのがあると思うけど、のんちゃんの出すサインと、きれいな
トスで私達の姫牧中がリードする。
第一セットは25-22で取った。
- 31 名前:第二話 投稿日:2003/09/23(火) 21:54
- 「のんちゃんさあ、この前の英語17点だったよねえ」
「うん」
「のんちゃんさあ、この前の社会21点だったよね」
「うん」
「のんちゃんさあ、今日すごく頭良く見えるんだけどなんでだろうね?」
なんでだろうね?
あんまり勉強と頭の良さって関係ないのかな?
チームメイトに指示を送るのんちゃんは、ホントに頼もしく見える。
何度かのんちゃんの試合を見たことはあった。
いつ見ても、バレーボールをしてるのんちゃんはカッコイイ一人の選手。
いつも一緒にバカやってる友達には見えないのが不思議だし、ちょっと寂しくもある。
そして、うらやましくもある。
- 32 名前:第二話 投稿日:2003/09/23(火) 21:56
- 第二セットになっても、姫牧中のペースで試合が進んだ。
私達は、周りの、スイカを食べながら見ているような村のおじちゃん達と一緒に声を出し
て応援する。
17-14のリードのところで、相手のアタックを一年生の子が必死でレシーブした。
そのボールがこっちへ向かって跳んでくる。
それを追いかけてのんちゃんが飛び込んできた。
慌ててみんなスペース空けたけど、ボールは床に落ちて、のんちゃんは届かなかった。
- 33 名前:第二話 投稿日:2003/09/23(火) 21:56
- 「大丈夫?」
「あ゙ー取れなかったー!」
それだけ言って、私や愛ちゃんの方を見ることなく立ち上がってコートに戻っていった。
体育館の中に拍手が響く。
私は、ぽーっとのんちゃんのことを見つめていた。
試合は、そのまま姫牧中が勝った。
- 34 名前:M.ANZAI 投稿日:2003/09/25(木) 13:24
- こちらへは初めまして。
このシリーズ、楽しみにしておりました。
とうとう最上級生になっていたんですねぇ。
- 35 名前:第二話 投稿日:2003/09/29(月) 22:23
- バレー部の選手達は、相手のチームとの握手をすませると、私達の応援席の方にやってきた。
「きょうつけー。礼。ありがとうございましたー」
一列に並んでのんちゃんの号令でみんな頭を下げる。
体育館の中は拍手で一杯。
頭を上げたのんちゃんも笑顔で一杯だった。
一二年生達がのんちゃんを取り囲もうとする。
のんちゃんは必死に逃げるけど、数の多い一二年生にあっという間につかまった。
- 36 名前:第二話 投稿日:2003/09/29(月) 22:23
- 「やめろー」
「せーの」
のんちゃんが胴上げされてる。
私や愛ちゃんや、他に三年生のクラスの子たちもその輪の中に入っていった。
のんちゃんは、いやがりながらもなんだか笑顔でたのしそうだった。
「辻先輩ひとことー」
「ひとことー」
後輩達から声が上がる。
胴上げしてた輪がちょっと広がって、その真ん中に立ってるのんちゃんがしゃべりだした。
- 37 名前:第二話 投稿日:2003/09/29(月) 22:24
- 「なんだよー。はずかしいじゃんかー」
照れてるのんちゃんは、さっきまでのかっこいいのんちゃんじゃなくて、かわいいのん
ちゃんだった。
「つじはー、もうこのチームで試合には出ないけど、練習は出るんで、これからもよ
ろしく」
ちょっと真面目な顔してそれだけ言うと、はずかしーなーと、いつもののんちゃんに
戻った。
それから、他の三人の三年生の胴上げがされる。
私と愛ちゃんも一緒になって、輪にまじった。
一通り胴上げがすむとなんとなくそのへんにみんな散らばって行く。
私と愛ちゃんは、スイカをそれぞれ持って、体育館の横の風がよく通るドアの所に座った。
そうしたら、のんちゃんもスイカを持ってやってきた。
- 38 名前:第二話 投稿日:2003/09/29(月) 22:25
- 「勝ったねー」
「とうぜん」
そう言ってにこっと笑ってスイカにかじりつく。
太陽はまぶしくて、校庭はすごく暑そうだったけど、ここは風が気持ちいい。
体育館に入ってくる風ってなんでこんなに気持ちいいんだろう。
私と愛ちゃんも、のんちゃんに負けないようにスイカにかじりついた。
- 39 名前:第二話 投稿日:2003/09/29(月) 22:26
- 「うち上げ二人は来る?」
「行きたいけどー」
「塾やし」
「さっき愛ちゃんのお母さんいたよ」
「げっ。ばれたら怒られる」
世界が終わりそうな大げさな表情をする愛ちゃんは面白いけど、よく考えたら私も同罪だ
から、ちょっと笑えない。
バレー部員だけじゃなくて、他の三年生もけっこう出るんだけど、私と愛ちゃんは結局塾
だからって理由でうち上げには出ないことにした。
- 40 名前:第二話 投稿日:2003/09/29(月) 22:26
- 「のの!」
振り向くと、バレーボールを左手に持った吉澤先輩がいた。
のんちゃんは立ち上がって手を振っている。
その横で愛ちゃんがあわててスイカを置き、ハンカチで口と手を拭って、軽く髪を整えて
いた。
男の子の前だとたとえどんな人でもそんなことないのに、カッコいい女の人の前だと急に
女の子になる愛ちゃんは、いまだに私の理解を越えている。
「のの、また上手くなったなー」
「よっすぃー、もう私のトスのスピードについてこれないよ」
「なんだとー、トスはアタッカーのタイミングに合わせて上げるもんだろー」
近くで見る吉澤先輩は、やっぱり確かにカッコイイ。
愛ちゃんの目からは、明らかにハートマークが出ていた。
- 41 名前:第二話 投稿日:2003/09/29(月) 22:27
- 「うちの先生が、ののによろしくって言ってた」
「うん」
「来年はののが入ってくれば、絶対インターハイ出れるからさあ。待ってるからな。試合
なくてもサボらずに練習しとけよー」
「うん。そだね」
のんちゃん期待されてるんだなー。
私の隣の愛ちゃんは、吉澤先輩のことをじっと見つめている。
私はなんだか寂しくなって持っていたスイカを一口かじった。
「私、先生に挨拶したりとか、いろいろしてくるから、またうち上げでなー」
「オッケー」
吉澤先輩は、私や愛ちゃんの方も見て笑ってくれて、それから手を振って歩いていった。
- 42 名前:第二話 投稿日:2003/09/29(月) 22:28
- 「私、うち上げ出る」
「いや、だから、塾」
「出るの!」
私はのんちゃんの方を見て力なく笑った。
「愛ちゃんのお母さん打ち上げくるって言ってたよ」
「もう、お母さんのばかぁー」
わけわかんないよもう・・・。
一人で勝手にはしゃいだり怒ったりしてる愛ちゃんに背中を向けて、のんちゃんに聞いてみた。
- 43 名前:第二話 投稿日:2003/09/29(月) 22:28
- 「のんちゃんは、吉澤先輩の学校行くんだ」
「うーん。よっすぃーの学校さあ、二年続けて県大会の決勝で負けてるんだよねー・・・」
「えー。すごいじゃん。二年とも決勝まで行ってるの?」
「うーん・・・。だけど、決勝は全然ぼろまけって感じだったからなー」
でも、それでも十分すごいんじゃ・・・。
吉澤先輩ってカッコイイだけじゃないんだなー。
とは思うけど、愛ちゃんのリアクションまではまだ理解出来ない。
- 44 名前:第二話 投稿日:2003/09/29(月) 22:29
- 「いいなー。のんちゃん勉強しなくていいんだもんなー」
「勉強じゃ高校行けないもーん」
のんちゃんはへらへら笑ってこんなこと言ってるけど、私は素直にすごいなー、と
思う。
そりゃあ、勉強の成績は私のが大分いいけど、でも、のんちゃんのバレーみたいに、
すごいところは全然なくて、普通。
インターハイがどうとか、決勝がどうとか、夢以前に、そんな言葉私の辞書にはの
ってない。
目の前ののんちゃんが、なんだかすごく大きな存在に見えてきた。
私が座ってて、のんちゃんが立ってるからってだけかもしれないけれど。
- 45 名前:第二話 のんちゃん大活躍 終わり 投稿日:2003/09/29(月) 22:30
- 「あっ、愛ちゃんのお母さんこっち来るよ」
「げっ。麻琴、行こう。早く行こう」
「ちょっと、ひっぱらないでよー」
あわてた愛ちゃんが、自分のカバンを抱えて、私の左手を引っ張っている。
微妙に湿ってるのはスイカかなあ。
いやだなあ、と思うけど、私も急いで自分の青いリュックを背負った。
「ばいばーい。勉強がんばれー」
そう言って、またスイカにかじりつきながら手を振るのんちゃんに見送ってもらって私達
は体育館を出た。
- 46 名前:作者 投稿日:2003/09/29(月) 22:40
- >M.ANZAIさん
はい、シリーズ第四弾です。
第五弾も同時進行(交互進行?)で進みます。
しばらくしたら、スレが立ちます。
次の更新は、そちらが少し続いてからになります。
今後もよろしくお願いします。
- 47 名前:M.ANZAI 投稿日:2003/09/30(火) 14:16
-
二年前から見ると確実に成長しているのんちゃん、まさに大活躍でした。
新作&同時進行を楽しみにお待ちしております。
- 48 名前:みっくす 投稿日:2003/10/13(月) 22:33
- 今日の休みで1弾から全部読ませてもらいました。
今後も楽しみにしています。
で、初歩的な質問してよろしいですか?
姫牧は何県になるのですか?
どこかに書いてあったらごめんなさい。
- 49 名前:名無しダム 投稿日:2003/10/25(土) 23:11
- 第4弾始まってたんですね。いまさら発見しました。
夏休み、冬休み、林間学校と楽しませていただきました。
中学生っていい時期ですよね。
第4弾、第5弾にも期待してます。
がんばってくださいね。
- 50 名前:作者 投稿日:2003/10/28(火) 23:43
- >M.ANZAIさん
二年って長いですよねー・・・。
>みっくすさん
姫牧の村は、この辺! っていうイメージはあるのですが、何県ってのは、表に出してません。
>名無しダムさん
実は、第四弾は修学旅行編だったのですが、イメージが広がってこんな形になりました。
- 51 名前:第三話 二社面談 投稿日:2003/10/28(火) 23:44
- 夏休みが終わった。
一応受験生だけど、あんまり関係なく宿題がたくさんあって、八月の終りの方は大変だっ
た。
ドリルなんかは愛ちゃん達と一緒にやってなんとかなったけど、読書感想文とか、弁論大
会の文章とかは九月一日の朝までかかった。
そんな苦労した宿題を提出するのは、達成感があるかなあ? と思ってたけれど、そうで
もない。
ただ、眠いだけだ。
- 52 名前:第三話 投稿日:2003/10/28(火) 23:45
- それから三週間くらいして、二者面談があった。
放課後に順番待ち。
私は結構後の方で、同じ日の早い時間に愛ちゃんやのんちゃんがある。
部活をやっていない私は、放課後学校に残っていることは結構珍しくて、なんだかイベン
トみたいなドキドキがあった。
「おまたせー、麻琴の番だよー」
「あーい」
私まで回ってくるころには、予定の時間をずっと過ぎていた。
のんちゃんも愛ちゃんも、いろいろ先生と話してたみたいだ。
私も、勉強しろーっていわれるのかなぁ?
そんなことを思いながら、進路指導室に入っていった。
- 53 名前:第三話 投稿日:2003/10/28(火) 23:46
- 「ああ、小川か」
「なんですか、そのリアクションはー?」
「ああ、ごめん、別に意味はない」
前田先生は、ちょっと疲れた顔をしてる。
なんだかちょっと安心してあくびがでた。
「こら、まじめにやれ」
「待ち疲れちゃったんですよ」
「しょうがない奴だな。まあ、こっちも小川とはあんまり話すこともないけど」
「なんですかそれー」
話すことないって・・・。
私は、もう一回あくびをした。
- 54 名前:第三話 投稿日:2003/10/28(火) 23:47
- 「成績的にも今のままいけば十分受かるだろうし点数の乱高下とかも無いからなあ。都会
の学校なんかだと、もっと上のランクがどう、とかやるんだろうけど、そうもいかないし。
村の子が普通に進学するなら大体あそこ行くからなあ。あとは、まあ、滑り止めの私立とか
どうする? なんてのあるけど、まだ、そんな時期でもないし」
「ああ、私、私立は受けないです。お金ないし、うち」
- 55 名前:第三話 投稿日:2003/10/28(火) 23:48
- うちは農家だけど、あんまり広い畑を持っていない。
それで、あんまり収入が無いから、お母さんは、造り酒屋の愛ちゃんちで働いている。
ご奉公、とか言ってるけど、家政婦みたいなもんだと思う。
お金も無いのに三年生になってから塾に行くようになったのは、愛ちゃんがどうしてもって
言ったからだ。
お母さんは話してくれないけれど、私の塾のお金は愛ちゃんの家から出ているのを、私は知
っている。
「ああ、そうかあ、小川んちなあ、まあ」
先生も、うちのことはよく知ってるから、それ以上は言わない。
- 56 名前:第三話 投稿日:2003/10/28(火) 23:48
- 「先生、もう終りですかぁ?」
「ああ、終りでいーよ」
「みんな、もっと長かったじゃないですかー。なんで私だけ、短いんですかー!」
一人十五分の予定のはずだけど、私は、ほんの三分しかたっていないのに、終りとか言わ
れている。
「他の連中、いろいろあるんだよ」
前田先生はため息をついた。
いろいろかぁ。
愛ちゃんとかのんちゃんとか、そうだよね、いろいろあるんだよね。
私と違ってさ。
- 57 名前:第三話 投稿日:2003/10/28(火) 23:51
- 「私も、なんかいろいろが欲しいなあ」
「ははは、結構大変なんだぞ、いろいろって」
「何にもないよりいいじゃないですかー」
先生は、笑っていた。
「ああ、そうだ。小川の夏休みの読書感想文。県のコンクールに出しといたから」
「えー!!!」
思わず大きな声を出してしまう。
コンクール?
聞き慣れない言葉だった。
- 58 名前:第三話 投稿日:2003/10/28(火) 23:51
- 「小川のやつさあ、なんか、独特な味があっておもしろかったんだよね。だから、出し
ちゃった」
出しちゃったって、出しちゃったって・・・。
あれを? あれを?
私の書いたのを?
「口を半開きにしてパクパクさせない!」
「で、でも、えー、私のですか?」
「うん。本当は手直しとかしてもらおうかと思ったけど、コンクールとか言うと、小川絶対
考え込みすぎてわけのわからないことになるから、あのまま出しちゃった」
それは、なんとなくあたってるかもしれない。
- 59 名前:第三話 投稿日:2003/10/28(火) 23:52
- 「とりあえず、小川のなんかいろいろは、これだな」
「出しちゃったなら、もういろいろも何も、何も出来ないじゃないですかー」
「まあ、どきどきしながら結果を待ってろって」
結構機嫌がいい感じになった前田先生を前に、私は、力なく笑うしかなかった。
「小川の文章さあ、面白いよ。上手くは決してないんだけど、小川っぽくて面白い」
「それ、褒めてるんですかー?」
「褒めてるんだよ。小川の雰囲気が文章に出てて、独特の世界があっていいって。多分、
名前見なくても小川の書いた感想文なら見分けられる気がする」
「はぁ・・・」
そんなにかわったこと書いたつもりはないんだけど、先生は、何度も何度もうなづきなが
ら言っている。
- 60 名前:第三話 投稿日:2003/10/28(火) 23:52
- 「小川さあ、なんかないかな、なんて言ってるくらいなら、なんか書いてみたら?」
「書くんですか?」
「うん。小説とかさあ、面白いんじゃない? 小川の文章でどんな小説が出てくるか読ん
でみたいなあ」
「無理ですよー! そんなー! 小説なんて、私に書けるわけないじゃないですかー」
「そう言わずにやってみなって。まあ、小川も一応受験生になるから、あんまり根詰めて
やられても困るけど、何か新しいことにチャレンジしてみるってのもいいんじゃないか?」
新しいこと、チャレンジ。
今までの私にはなかったこと。
小説を書いてみろ、なんていわれても、何をどうしていいのかはさっぱり分からない。
だけど、やってみたら、愛ちゃんやのんちゃん達に、ちょっとは追いつけるかなあ?
- 61 名前:第三話 投稿日:2003/10/28(火) 23:53
- 「なんか、結局進路とあんまり関係ない話になっちゃったな。まあ、小川の場合、進路そ
のものについては特に心配してないから。なんかあったら、早めに言えよ」
「はあ」
二社面談は終わった。
なんだか、進路の話じゃなくて、読書感想文とか、小説とかそんな話ばっかりだった。
コンクールかぁ・・・。
小説かぁ・・・。
教室に戻るまでの間、なんだかよく分からない言葉が頭の中を回っていた。
- 62 名前:第三話 投稿日:2003/11/02(日) 21:59
- 待っていてくれた愛ちゃんやのんちゃんと三人で帰る。
部活をやっている二人は帰りが遅いから、三人一緒になるのは結構珍しいことだった。
「麻琴は、なに話たん? 面談」
「うーん」
なんとなくためらってから答えた。
- 63 名前:第三話 投稿日:2003/11/02(日) 22:00
- 「夏休みの読書感想文、コンクールに出すんだって」
「すごーい!」
「すごいじゃん。のんなんか、早く出せって言われたよ」
出してもいないのかよ!
私と愛ちゃんで、両側からのんちゃんの頭を小突いた。
- 64 名前:第三話 投稿日:2003/11/02(日) 22:00
- 「ずっとそんな話してたの?」
「うーん、なんか、小説書いてみろとか言われてさあ」
「しょうせつー?」
二人でハモル。
そりゃあ、びっくりもするさ。
私だってびっくりしたんだから。
「どんなの書くの?」
「そんなのわかんないよー」
小説なんて言われたってさー・・・。
- 65 名前:第三話 投稿日:2003/11/02(日) 22:01
- 「のんは見てみたいなー、まこっちゃんの小説」
「私も読みたーい」
私は・・・。
「麻琴が小説書いたらさ、絶対一番で見せてよ。一生のお願い」
愛ちゃんが、私の前に飛び出してそう言った。
目の前に愛ちゃんに立たれて、立ち止まる。
- 66 名前:第三話 二者面談 終わり 投稿日:2003/11/02(日) 22:02
- 「愛ちゃんいっつもずるいよ自分ばっかり。のんだってみたいよー」
「のんちゃん、小説とか読まないじゃーん」
「読むよー。ハンターハンターとかー、ヒカルの碁とかー」
「それ全部マンガ」
「うるさーい!」
大きな声を出すのんちゃんを見て、私と愛ちゃんはおかしくなって笑った。
ちょっと実が付いてきて垂れてきた稲が育っている田んぼ道を歩く。
小説かぁ。
ちょっと、書いてみたいと思った。
ちょっと、自分で書いたものを読んでみたいなって思った。
- 67 名前:第四話 小説家 小川真琴 投稿日:2003/11/26(水) 22:02
- 小説を書いてみる。
人に言うのは簡単だ。
自分にだって言うのだけなら簡単だ。
だけど、何を書くの?
- 68 名前:第四話 投稿日:2003/11/26(水) 22:03
- 黒板を見ながらぼんやり考える。
小説を書くのに必要なものってなんだろう?
黒板の二次方程式を見ながら考える。
紙とシャープペン。
とりあえず、それだけあれば書ける。
あとはペンネーム。
男か女か分からない名前がいいなあ、と思って最初に浮かんだのが自分の名前だった。
そのまんまじゃつまらないから、字を変えて小川真琴にしてみる。
いっつも間違えられる名前をわざわざペンネームにしてみるのってなんかいいかも。
- 69 名前:第四話 投稿日:2003/11/26(水) 22:04
- 「おがわー」
「は、はい」
「口開いてぽかーんとしてるんじゃない! これ解いてみろ」
小説家小川真琴から、二次方程式を解かされる小川麻琴に逆戻りした。
- 70 名前:第四話 投稿日:2003/11/26(水) 22:04
- 「それで、まこっちゃんはどんな小説書くの?」
「わかんないよそんなの」
「なんかないのー?」
お昼休み。
お弁当を食べながら。
ちょっと油断をするとのんちゃんが私のお弁当からソーセージを取ったりしてる。
- 71 名前:第四話 投稿日:2003/11/26(水) 22:05
- 「何書いていいのか、全然わかんないんだよねー」
小説でも書いてみたら、なんて言われたって、簡単には書けないわけで。
読書感想文ですら何書いていいかわからなくて時間かかったんだから。
「なんかさあ、小説って、いろんなこと知ってなきゃ書けなそうでさー、だけど、私、難
しいことなんかわかんないもん。知ってることなんて、この村の中のことくらいだし」
「じゃあ、姫牧の村のこと書いてみたらいいじゃん」
「そうだよ。私がお姫様で、魔女ののんちゃんが私の美貌を憎んで襲ってくる話とか」
「誰が魔女だってー!」
それ、白雪姫だし。
全然、姫牧の村関係ないし。
- 72 名前:第四話 投稿日:2003/11/26(水) 22:07
- 「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだあれ? それは、高橋愛様でございます」
「一生やってろ」
「いったーい」
のんちゃんが、ぐーで愛ちゃんの頭を叩いた。
「罰として、玉子焼きは没収です」
「あ、食べた! じゃあ、私まことのプチトマトもらい!」
「なんで、わたしのー?」
気づいたときにはプチトマトはすでに愛ちゃんの口の中。
口をもぐもぐさせながらにっこり笑っている愛ちゃんが、やたら可愛いのが、なんだかす
ごく悔しかった。
- 73 名前:第四話 投稿日:2003/11/26(水) 22:08
- 気づいたときにはプチトマトはすでに愛ちゃんの口の中。
口をもぐもぐさせながらにっこり笑っている愛ちゃんが、やたら可愛いのが、なんだかす
ごく悔しかった。
「取材とかしてみたらー?」
「取材?」
取材、なんて難しそうな言葉がのんちゃんから出てくるからちょっと戸惑ってしまう。
私は、一個だけ残っていたプチトマトを口にした。
- 74 名前:第四話 投稿日:2003/11/26(水) 22:09
- 「なんかさあ、記事とか書く時取材とかするっていうじゃん。だから」
「記事と小説って違うんじゃないの?」
「でも考えてるだけじゃ書けなさそうじゃない?」
「うーん」
確かに、今のまま考えてても、何にも書けなさそうな気がする。
- 75 名前:第四話 投稿日:2003/11/26(水) 22:09
- 「それじゃあ、主役の私の取材から始めよう! 放課後の合唱部の練習来てよまこと」
「まだ言うか、愛ちゃんは」
のんちゃんは、今度は頭を叩かなかった。
「だって、お姫様のお話は、やっぱり私が主役でしょ」
「一生のお願い?」
「え?」
愛ちゃんの口癖を私が先に言うと、愛ちゃんはびっくり顔を見せてくれた。
- 76 名前:第四話 投稿日:2003/11/26(水) 22:09
- 「主役になるの一生のお願い?」
「うん、一生のお願い」
そう答えた愛ちゃんは、お弁当を脇に寄せて、かばんから手鏡を取り出した。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ? それは、高橋愛様でございます」
「まだやるか!」
のんちゃんが、また愛ちゃんの頭をはたく。
今度は、私も同時にはたいた。
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/29(土) 20:57
- 放課後、合唱部の練習についていった。
遊びに、じゃなくて、取材、だからノートと筆記用具を抱えながら。
部員は13人で、男子が7人、女子は6人。
ピアノを弾けるのは3人だけで、部長は愛ちゃんで・・・。
メモを取る。
あんまり意味無いかも。
合唱部みたいな部活で男子のが多いのってちょっと不思議な感じだけど、なんとなく理由
の想像はつく。
愛ちゃん、なんだろうなきっと。
そんな男子の一人と愛ちゃんの恋の物語でも書こうか。
なんてことも思うけど、それを書いたら愛ちゃんはきっと嫌がるだろう。
相手は王子様! とか、宝塚の誰々さん! とか言いだすに決まっている。
まあ、そんな多分、不純な理由で入って来たっぽい子が多そうな男子も、練習を聴いてい
る限りちゃんと歌っているからきっと問題は無いんだろう。
ただ、女子部員で大問題な子が一人いた。
さゆみ・・・。
- 78 名前:第四話 投稿日:2003/11/29(土) 20:58
- 愛ちゃんがピアノに向かって座り、その横に一人の一年生が立っている。
道重さゆみ13才。
小さい頃から愛ちゃん家の近所に住んでいて、村の中ではそこそこお金もってる方の家で、
愛ちゃんになついていた。
合唱部にさゆみを引っ張り込んだのは愛ちゃん。
なんとなく取材っぽくメモを取ってみるけれど、そんなことは全部知っている。
私だって小さな頃から一緒だったのだから。
あんまり私にはなついてくれなかったけれど。
そんなさゆみが、この合唱部の一番の問題みたいだった。
- 79 名前:第四話 投稿日:2003/11/29(土) 20:58
- 「あー♪あー♪あー♪あー♪あー♪」
愛ちゃんのピアノ伴奏に合わせて声出し。
他の子達がパート練習してる中で、さゆみだけ個人練習。
愛ちゃんつきっきり。
見た目には微笑ましい光景なんだけど・・・。
- 80 名前:第四話 投稿日:2003/11/29(土) 20:59
- 「最初のパート歌うよ。私の声をよく聞いて、ちゃんとついて来るんだよ」
愛ちゃんがお姉さんしてる。
さゆみと愛ちゃんの関係って、昔から好きだ。
私達といる時の愛ちゃんよりもずっと大人っぽくに見えるし。
「いまー♪ わたしのー♪ はい!」
「ぃまぁー」
「ちがう!」
愛ちゃんのピアノ音が止まる。
さゆみは、一音目から合っていない。
合唱部に入ってから、もう七ヶ月経つはず。
ちょっとはうまくなってるんじゃないかと思ってたけど・・・。
- 81 名前:第四話 投稿日:2003/11/29(土) 21:00
- さゆみは、小さい頃から、歌声が、その、あれで、いじめられたりしたこともあった。
それをよく助けてたのが愛ちゃんだ。
しょっちゅう泣かされてたのを、なんかよく覚えてる。
「ピアノの音と、私の声を良く聞いて歌ってごらん」
愛ちゃんお姉さんしてるなー。
そんな風に思いながら、練習風景をずっとぼんやりと見ていた。
- 82 名前:第四話 投稿日:2003/11/29(土) 21:01
- 「どうだったー?」
練習が終わって愛ちゃんが声を掛けてくる。
離れた所からこっちを見ているさゆみをちょっと気にしながら、私は答える。
「愛ちゃんって、先輩なんだねー」
「そうじゃなくて! 小説! 小説!」
「ああ」
「もう、ちゃんと見てたのー? しょうがないなあ。帰るよまことー」
「うわぁ、ちょっとー」
愛ちゃんは、私の制服のえりをつかんでひきづっていく。
そんな私達を、さゆみがまだ見ていた。
- 83 名前:第四話 投稿日:2003/11/29(土) 21:01
- 小説のネタはちょっと浮かんだけれど、愛ちゃんがまた調子に乗るから言わない。
さゆみに歌を教える愛ちゃんは絵になってた。
歌がうまくなるさゆみの話とか面白いかもなぁ、なんて思う。
でも、歌のうまいさゆみがイメージできない・・・。
- 84 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/01(月) 14:13
- 色んな方向に話が進んでておもしろいです
- 85 名前:作者 投稿日:2003/12/03(水) 23:14
- >84
小川、高橋、辻、三者三様なので、あっちこっちへ話が跳んでいきますが、最後にはきっと収束すると信じています。
- 86 名前:第四話 投稿日:2003/12/03(水) 23:15
- そのまま帰るのかと思ったら、愛ちゃんは私を体育館へと引きずって行った。
体育館では、バレーボール部が後片付けをしていた。
「おう、愛ちゃん今終わったの?」
「うん」
「まこっちゃん、ほんとに取材とか言って合唱部付き合ったんだ」
「ははは」
私は、力なく笑った。
- 87 名前:第四話 投稿日:2003/12/03(水) 23:15
- 「片付け終わるまで待っててー」
のんちゃんは、そう言ってネットを片しに行った。
「まことはいつもさっさと帰っちゃうから、三人で帰るの久しぶりだよねー」
「そうだねー」
「まこともどっちか部活入れば良かったのに」
「しょうがないじゃーん。うちの手伝いとかいろいろあったんだもん」
中学に入った頃は、弟達の世話や内職なんかもあって、ホントに大変だったから、部活な
んかやる余裕なかったんだ。
最近は、お母さんが愛ちゃん家で働くようになって内職もなくなったし、弟達も少しは大
きくなったから、ずいぶん楽になってるけど。
- 88 名前:第四話 投稿日:2003/12/03(水) 23:17
- 「でもさぁ、三年生で二学期も部活やってるのって珍しいよねー」
「帰ってもつまんないし、合唱コンクールは秋だし、いいじゃん、楽しいんだから」
「そっかー」
夕方の体育館にぺたんと座る。
愛ちゃんが、スカートなのにあぐらかいて座ってパンツ見えそうだから座りなおさせた。
「愛ちゃんさあ、いつから宝塚好きなの?」
ずっと一緒にいたつもりだけど、愛ちゃんがいつ頃から宝塚にはまったのか、あんまり覚
えてない。
いつから愛ちゃんは遠くを見るようになったのだろう?
- 89 名前:第四話 投稿日:2003/12/03(水) 23:18
- 「四年生くらいの頃かなー? ばあちゃにね、宝塚の地方公演に連れてってもらったんだー。
それからかなー。ちょっとづつポスターが増えたり、ビデオとかDVDとか。でも、あれ以来一度
も生で劇場で見てないんだよなー」
愛ちゃんは、足を伸ばして後ろに手をついて体育館についている天井の電気のあたりを見て
いる。
「宝塚に入りたいって、その頃から思ってたの?」
「うーん、どうだったかなー? すごい! とは思ったけど、その中に自分が入りたいとか、
あんまり思わなかったかも。入る方法とか知らんかったし」
愛ちゃんも、あんなすごい化粧したりとかするのかな、なんてちょっとおもった。
「すごいよねー。別世界って感じだもん宝塚なんて。愛ちゃんはそんな夢に向かって頑張っ
てるわけか」
そう言って愛ちゃんの方を見ると、愛ちゃんが答える前に、入り口の方からのんちゃんが
走ってくるのが見えた。
- 90 名前:第四話 投稿日:2003/12/03(水) 23:19
- 「おまたせー」
「かえろっか」
「うん」
愛ちゃんが笑顔でこっちを向いたので、私も笑顔で答えた。
- 91 名前:第四話 投稿日:2003/12/03(水) 23:19
- 太陽が山の向こうに大分落ちて、薄っすら暗くなってきた帰り道。
田んぼの稲が大分実ってきている。
今日は、半そでがちょっと寒い。
「今度の日曜日さあ、ちょっと付き合ってくれる?」
リュックを背負ったのんちゃんが言う。
ミンミンゼミとつくつくほうしの鳴き声が入り混じって聞こえてくる。
- 92 名前:第四話 投稿日:2003/12/03(水) 23:21
- 「まこっちゃんは、取材だから当然参加だよね」
「えー!」
「そうだね。取材だもんねー」
「ちょっと、関係ないよー」
「いやあ、バレーボールの試合も勉強になると思うよ小川君。そんなわけで、君は決まりだ」
「なんで? 勝手に決めるなー」
のんちゃんは、私の肩をぽんぽんと叩くと、なんだか偉そうに何度もうなづいた。
私に、断わる権利はないらしい・・・。
いいけどさ、別にいいけどさ。
- 93 名前:第四話 投稿日:2003/12/03(水) 23:22
- 「愛ちゃんは?」
「私、今週バレエ教室入ってる」
「何時頃?」
「午前中」
「じゃあ、終わったら行こうよ。ののが見たいのは夕方の試合だから」
のんちゃんが出る試合に私達が行くことはこれまでもあったけど、ただ、誰かの試合を
見に行くってことは、今までなかった。
「うーん、どうしようかなー」
「よっすぃー出るよ」
「行く」
愛ちゃんは、即答だった。
- 94 名前:第四話 投稿日:2003/12/03(水) 23:22
- 「まこっちゃんの取材を手伝って上げるんだから、感謝しろよー」
「関係ないよー」
「まこと、じゃあ、私のバレエ教室も取材しよう」
「なんでだよー」
「まこっちゃん、じゃあ、この荷物も取材で持とう」
「関係ないじゃんかー」
- 95 名前:第四話 投稿日:2003/12/03(水) 23:23
- 私の叫びは無視されて、愛ちゃんのバレエ教室について行くのも決定らしい。
取材とか言って、土曜日の時は塾帰りに愛ちゃんの付き添いで行ってるよー。
だから、全然新しいことなんか無いよー。
がっくり肩を落としている私の前に差しだされたのんちゃんのかばん。
私が首を振ると、のんちゃんは笑って自分で背負ってくれた。
今日、唯一拒否できた取材依頼だった・・・。
- 96 名前:第四話 投稿日:2003/12/06(土) 22:06
- 日曜日、お休みだけど朝から起きて愛ちゃんと町のバレエ教室へ。
土曜日の塾と一緒で、愛ちゃん家の車が迎えに来て駅まで送ってくれる。
それから電車に揺られて一時間、町へと向かう。
「お、日曜日なのに珍しいな」
「今日は、まこともいるから車じゃなくて電車なんです」
愛ちゃんは、一人でバレエ教室に行く時は車の送り迎えがついている。
町まで行くのに監視がいるのがいやで、私を塾に誘いこんだんだ。
別に私はいやじゃないからいいけど、いつもこんな役周りなんだなあ。
- 97 名前:第四話 投稿日:2003/12/06(土) 22:07
- 「小川も大変だなあ、わがままな高橋さんとこの娘のお守りは」
「はぁ」
「なんで、まことうなづくのー」
「頑張れ、小川」
「はい・・・」
土曜日に塾に行く時にいつもいる車掌さん。
私と愛ちゃんよりもちっちゃいけど、でも、いつも元気な人で、私は結構好きだった。
なにより、私の大変さをちゃんと分かってくれてるのがいい。
- 98 名前:第四話 投稿日:2003/12/06(土) 22:07
- ダンス教室でのレッスンは、いつもと一緒だった。
一時間くらいのレッスン。
バレエの練習着を着ている愛ちゃんはいつ見てもとてもきれいだ。
写真を取ろうとすると恥ずかしがって嫌がられちゃうけど。
- 99 名前:第四話 投稿日:2003/12/06(土) 22:08
- きれいな愛ちゃんを見ているのはいいのだけど、その度に敗北感と言うか、なんていうか
ちょっと悔しい気持ちになる。
顔、可愛い、スタイル、抜群、歌、上手。
私なんか、どうせ・・・。
そんな愛ちゃんも、私がいないと町まで一人で来ることも出来ないんだけどね、なんて自
分をなぐさめる。
でも、ちょっと不思議なのは、四月からずっと見てるのに練習の内容がほとんどかわらな
いことだった。
修学旅行の前くらいに一度発表会があって、その時は少し違ったけど、最近はずっと同じ
練習をしてる。
私がいない日曜日は違う練習なのかな? って思ってたけど、今日もいつもと一緒だし、
そうでもないみたい?
宝塚うけるのに特別な何かとかやらないのかなあ? と心配になったりもするけど、基礎
が大事と言っていたから、そんなもんなのかな。
- 100 名前:第四話 投稿日:2003/12/06(土) 22:08
- 練習が終わってお昼ご飯。
のんちゃんが合流する前に二人で食べる。
一軒のドーナツ屋さん。
塾に入って町に毎週来るようになってから知った時間の使い方。
なんだか大人になった気分になれて楽しい。
- 101 名前:第四話 投稿日:2003/12/06(土) 22:09
- 「バレエのレッスンさあ、いっつも変わらないけど、試験に向けて何かしたりしないの?」
「試験?」
「うん。宝塚の」
「ああ、宝塚」
愛ちゃんは、食べ終えたドーナツの皿を横にどけ、コーラをストローで吸いながら、スク
ラッチカードを削りはじめた。
十点貯めると景品がもらえるってやつ。
- 102 名前:第四話 投稿日:2003/12/06(土) 22:09
- 「受験用に練習とかしても、宝塚はうからないから。基本をきっちりやらないと」
「難しいんだねー」
「まことのちょうだいよ」
「あ? ああ、うん」
愛ちゃんは私の分のスクラッチカードを削りだす。
私は、前かがみになっている愛ちゃんを見ながら、残っているオールドファッションを口
にした。
- 103 名前:第四話 投稿日:2003/12/06(土) 22:10
- 「バレエ以外の試験ってどんなのあるの?」
「やった、三点! 十点たまった!」
「それ、私のだった気が・・・」
「クッションとかえてくるー」
愛ちゃんは、お財布からもう二枚カードを取りだして、今日の二枚と持ってレジの方に行
ってしまった。
四枚中二枚は私のなのに・・・。
- 104 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:21
- お店を出て、駅でのんちゃんと合流して私達はバレーボールの試合会場に向かった。
駅からまた電車に乗って一時間。
のんちゃんに連れられて行った場所は、県で一番大きなスポーツセンター。
その中でも大きな体育館だった。
「入場券とかは?」
「ないよ。ただの高校生の試合だもん」
体育館の入り口には、バレーボール県高校新人戦と縦書きで書かれた看板が立っていた。
- 105 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:21
- 周りは背の高い人がいっぱい。
高校生のバレーボールの試合なんだから当たり前だけど。
私達は二階の観客席に向かう。
席には、あんまりお客さんって感じの人はいない。
いかにも、さっきまで試合してました、とか、そんな人だらけ。
背の低い三人組の私達は、なんか風景の中で浮いてた。
- 106 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:21
- 「どんな試合なの?」
「新人戦の決勝」
「吉澤さんだー。吉澤さんがいる」
コートの上にはアップをしているチームがいる。
その片方に吉澤さんの姿もあった。
- 107 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:22
- 試合は、私が観客として期待してたような展開じゃなくて一方的なものだった。
第一セット、25-17 第二セット25-15
吉澤さんのチームは、簡単に負けてしまった。
「負けちゃったね」
「うん」
コートの片方では優勝を祝う胴上げ。
コートのもう片方では、暗い表情で汗を拭いている選手達。
スポーツって大変だなあ、と思う。
頑張ってる人ってたくさんいるんだね。
私は、あんまり頑張ってないなあ。
- 108 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:22
- 「行こう」
「吉澤さんとこ?」
「行かないよ、よっすぃーのとこは」
ぱっと明るくなった愛ちゃんの顔が一瞬で暗くなる。
のんちゃんは、真面目な顔だった。
そういえば、体育館についてからずっと真面目な顔だった気がする。
めずらしいことかもしれない。
- 109 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:22
- 階段を下りて、試合会場の方にのんちゃんは向かう。
やっぱり吉澤さんのとこに行くのかな? と思っていると、向かった先には喜びで沸いて
いるチームがあった。
「おめでとうございます」
のんちゃんが挨拶したのは、優勝したチームの監督さんだった。
- 110 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:23
- 「おお、見に来たか。どうだった、うちのチームは」
「アタッカーの数もそろってるし、それにセッターのトスがきっちり振り分けられてて、
相手のブロックもマークをつかみ損ねて、強いチームだなって思いました」
「まだまだだけどな今年のチームは。どうだ、うちに来る気になった?」
「すいません、もう少し考えさせてください。なんか、私なんかいなくても十分強いチー
ムって感じもするし」
「強いチームに勝ちたい! とか、そういう発想でよそに行くんなんてのは勘弁してくれ
よ。うちだって、全国で強いチームに勝つためにやってるんだから、勝ちすぎてつまらない、
なんてこともないし、目標持って出来ると思うから」
「分かってます。だけど、もう少し考えさせてください」
のんちゃんは、真面目な顔のまま監督さんとしゃべってた。
言葉使いもちゃんとしてて、いつもののんちゃんじゃないみたいだった。
- 111 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:24
- コートを出て通路へ。
声を掛けづらくて、のんちゃんの後ろを二人で歩いていた。
前から、吉澤さんのチームが疲れきった感じで歩いて来た。
「のの、見に来てたんだ」
「うん」
「かっこ悪いとこ見られちゃったな」
「そんなことないよ。相手強かったし、よっすぃーは頑張ってたと思う」
「昭栄に勝てないんだよなあ、どうしても。のの、うちに来てくれよー。あいつらに勝ち
てーんだよ、力貸してくれよ。ののとバレーやるの楽しいしさあ」
「昭栄強いよねえ。のんの力でどうにかなるとかそんなレベルじゃないと思うよ」
「はは、まあ、一人の力でどうとかって相手じゃないけどさあ、一緒にバレーしようぜ
また。前みたいにさ」
「うーん」
「そんな顔するなって。なんか困らせちゃってるみたいだな。向こうにも誘われてるのは
聞いてるけどさ。私としてはののと一緒にバレーやりたいわけよ。だから、ゆっくり考えて
みて」
「うん、分かった」
吉澤さんはチームメイトに合流して行った。
- 112 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:24
- 「帰ろ」
「そだね」
愛ちゃんがポツリと答える。
吉澤さんが近くにいる間も、ハートの目線をしてなかった。
なんだかどんよりした空気の中、私達は帰ることにした。
- 113 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:24
- みんな頑張ってるんだな。
それに、みんな大変なんだ。
私は、とりあえず小説なのかなあ?
それが夢とか目標とかになるのかはいまいち分からないけれど。
- 114 名前:第四話 投稿日:2003/12/10(水) 22:25
- 「よっすぃーのチーム、一度も勝ったことないんだよね、決勝」
ぽつりとそうつぶやいたのんちゃんは、うつむきながら歩いている。
私は、そんなのんちゃんの左手を取った。
のんちゃんの方を見ると、のんちゃんも私の方を見る。
のんちゃんは、薄い笑顔を見せながら私の手を握り返してくれた。
半歩後ろにいる感じになった愛ちゃんは、左側から私に軽く体当たりして来た。
- 115 名前:第四話 小説家小川真琴 終わり 投稿日:2003/12/10(水) 22:26
- 「何するんだよー」
のんちゃんの左手を握ったまま愛ちゃんの方を見る。
愛ちゃんは、私の左腕に腕をからめて来た。
秋の夕暮れの帰り道。
二人に挟まれてなんだか歩きにくい帰り道。
私も頑張らなきゃなっておもった。
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/12(金) 21:48
- 更新乙です。
- 117 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/13(土) 23:58
- いつも読んでます。ほのぼのとしていて大好きです。
がんばってください。
- 118 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 10:20
- はじめまして!楽しく読ませてもらっています。中学時代を思い出させてく
れます。暖かい気持ちになれました。
- 119 名前:作者 投稿日:2003/12/29(月) 22:46
- >116
ありがとうございます。がんばります。
>チナ犬さん
ワンパターンなもので、ほのぼのと進んで行きます。
>118
ありがとうございます。
そう言ってもらえるとすごくうれしいです。
今年の更新は、緑板の初めての決断の方で終わってしまいました。
こちらは、来年の1月4日の週以降になります。
今のやり方だと、どちらかの更新が空く、という形になってしまうので、ちょっとやり方変えるかもしれません。
わかりませんが。
本年はありがとうございました。
来年もまたよろしくお願いします。
- 120 名前:第五話 おやすみ愛ちゃん 投稿日:2004/01/05(月) 22:20
- 愛ちゃんが学校を休んだ。
秋の雨が振り続いた金曜日、愛ちゃんが学校を休んだ。
勉強はあんまり好きじゃなさそうだけど、学校は嫌いじゃないし多分好きな愛ちゃんが学
校を休むのはめずらしかった。
よっぽど高い熱があるとか、風邪ひいたとかかな? とちょっと心配だけど、土日にゆっ
くり休んで来週にはきっと元気に出てくるんだろうな、なんて思う。
でも、十七人しかいない教室の机が、一つぽつんとしているとすごく目立つ。
体育の時間にまとわりついてきたり、お昼休みに振りまわされたりすることがないってい
うのはなんだか寂しい。
のんちゃんも、なんとなくいつもよりおとなしい気がした。
- 121 名前:第五話 投稿日:2004/01/05(月) 22:21
- 帰りの学活も終り、帰ろうと思って準備をしていると、一年生の子が教室へやってきた。
「愛先輩、どうしてお休みなの?」
「なんだ、さゆみは心配か? 愛の顔見てないと寂しくてたまらない?」
合唱部の一年生のさゆみだった。
きょとんとした目で私の方を見ている。
- 122 名前:第五話 投稿日:2004/01/05(月) 22:23
- 「愛先輩がいないと練習にならないから」
「そっか、さゆみはまだ愛の個人練習が終わってないんだ」
「私もそうだけど、全体練習も先輩いないとみんなまじめにやらないから」
愛ちゃんは合唱部の部長をやってる。
歌は間違いなくうまいし、人望もある。
だけど、だから逆に、愛ちゃんがいるから合唱部がなり立ってるような感じになってて、
来年とか大丈夫かなあ? なんて思ったりもする。
- 123 名前:第五話 投稿日:2004/01/05(月) 22:23
- 「昨日は元気だったし、はりきってたのに、どうしちゃったのかなあ・・・」
心配そうな顔をするさゆみの頭をなでてやる。
そういえば、この季節は愛ちゃんが一番はりきる季節。
県の合唱コンクールが近づいてきてる。
いつもならちょっとくらい無理してでも出てくるはずだなあ。
心配になって来る。
- 124 名前:第五話 投稿日:2004/01/05(月) 22:24
- 「愛先輩のところにお見舞いに行きたい」
小さな声で恥ずかしそうにさゆみが言う。
いいなあ、こんな慕ってくれる子がいて、愛ちゃんがうらやましい。
「練習はいいの?」
「先輩いないと、できない・・・」
あーあ、連れてって上げなきゃねえ、こういう子は。
- 125 名前:第五話 投稿日:2004/01/05(月) 22:24
- 「のんちゃんも行く? 愛ちゃんとこ」
「のん、部活だもーん」
「心配しよーよちょっとは。試合はないんでしょーもう?」
「一二年生は新人戦だもん。あったかい布団でのうのうと寝てる人より後輩のが大事だもーん」
「そのまま言っちゃうぞー」
「ホントに病気で寝てるなら、たくさんで行ってもしょうがないよ」
「そっか」
のんちゃんは、よく食って寝ろーと伝えて、と言ってカバンを抱えて体育館に向かう。
私とさゆみは、愛ちゃんの家へと向かった。
- 126 名前:第五話 投稿日:2004/01/05(月) 22:25
- さゆみは、愛ちゃん家につくまで無口だった。
私はさゆみにとって、そこそこ知ってて嫌いじゃないけど、愛ちゃんほど心を開ける相手
ではないらしい。
ちょっと、哀しいな・・・。
愛ちゃん家につくと、お母さんが出迎えてくれた。
「うーん。別に重い病気で寝込んでるとかじゃないから、心配しないで大丈夫よ」
「部屋にいるんですか?」
「まあ、いるけど。ホント心配しないで大丈夫だから。暗くなっちゃうから帰りなさい」
- 127 名前:第五話 投稿日:2004/01/05(月) 22:26
- おばさんは、愛ちゃんの部屋に上げてくれようとしない。
いつもは、私が来ると何も言わず部屋に上げてくれるのに。
さゆみが横で私のことをじっと見ていた。
「上げてあげなさいよ。せっかく二人来てくれたんだから」
「おばあちゃん、余計なこと言わないで下さい」
「いいじゃないか。友達が一番の薬だよ。な、上がってき、二人とも」
- 128 名前:第五話 投稿日:2004/01/05(月) 22:27
- 愛ちゃんのおばあちゃんが出てきてそう言うと、おばさんはちょっといやそうな顔をした
けれど、私達を上げてくれた。
私は、何度も来たことあるし、案内されなくても玄関から愛ちゃんの部屋までいける。
だけど、今日はおばあちゃんがついてきてくれた。
広いお屋敷だから、愛ちゃんの部屋にたどり着くまでにおばあちゃんとお話する時間もある。
「麻琴ちゃん、いつもありがとね」
「いえいえ」
おばあちゃんはいつでも優しい。
今日もにこにこと優しい笑顔だけど、急に真面目な顔になった。
- 129 名前:第五話 投稿日:2004/01/05(月) 22:27
- 「愛はね、風邪でも病気でもないんよ」
「どうしたんですか? 怪我でもしたんですか?」
「うーん。まあ、愛が話すじゃろ。麻琴ちゃん、愛の力になってやってくれ」
「はい」
どうしたんだろう?
なんだか不安な気持ちの中で愛ちゃんの部屋のドアを開けた。
- 130 名前:名無しくん 投稿日:2004/01/05(月) 23:17
- えっ?なんか悪い予感…愛ちゃん…更新おまちしております!
- 131 名前:名無しくん 投稿日:2004/01/05(月) 23:27
- えっ?なんか悪い予感…愛ちゃん…更新おまちしております!
- 132 名前:作者 投稿日:2004/01/12(月) 21:11
- >名無しくんさん
悪い予感、どうなるでしょうか?
っていうか、どんな予感なんだろう?
さて、続きです。
- 133 名前:第五話 投稿日:2004/01/12(月) 21:11
- 愛ちゃんは枕をクッションにしてベッドの上に座っていた。
私とさゆみの方を見て、弱弱しく笑顔を浮かべてくれた。
「どおしたの? 大丈夫?」
「愛先輩大丈夫?」
愛ちゃんは薄っすらと笑顔を浮かべるだけで答えない。
おばあちゃんは、よろしくね、と言って部屋を出ていった。
- 134 名前:第五話 投稿日:2004/01/12(月) 21:12
- 「風邪引いたの? それともお腹壊したとか? 怪我はしてないよね?」
私は、ベッドのすぐ横に座る。
うつむいて力無い感じの愛ちゃんは、ただ首を横に振っている。
さゆみも心配そうに愛ちゃんの顔をのぞき込んでいる。
「月曜日は学校行くよ」
蚊の鳴くようなってこういう時に使うんだろうな、という声で愛ちゃんは言った。
私もさゆみも、言葉をつなげられない。
沈黙に耐えられなくなって、私は立ち上がり、カーテンを開けた。
部屋に、夕日が差しこんできた。
- 135 名前:第五話 投稿日:2004/01/12(月) 21:12
- 「愛ちゃん、どうしたの? なんかあったの?」
私はまたベッドの横に座る。
ベッドの上に両手を乗せて、愛ちゃんを見ながら語りかけると、愛ちゃんは右手で私の手
を握った。
冷え切っていて冷たい手だった。
「宝塚、ダメになっちゃった」
愛ちゃんは、握った手を見ながらそう言った。
それから、膝を抱えて泣きだした。
- 136 名前:第五話 投稿日:2004/01/12(月) 21:13
- あんなに憧れていたのに・・・。
何がなんだか分からないけれど、事実だけ聞かされて、目の前に泣いている愛ちゃんがいる。
私は、愛ちゃんの右手を両手でつつんだ。
両手で愛ちゃんの手をつつんで、愛ちゃんが落ち着くのを待った。
「ごめん」
「なに謝ってるんだよー。別に悪いことしてないよ」
鼻をすすりながら、ごめんと言う愛ちゃんに、私は明るい声で答えようと努力する。
だけど、そんな私の声は、この部屋の空気にはまるで合っていなかった。
窓の向こうの夕日が沈んで行くのが分かる。
電気をつけていない部屋は、だんだんと暗くなってきていた。
- 137 名前:第五話 投稿日:2004/01/12(月) 21:14
- ドアをノックして、おばあちゃんが入ってきた。
「もう、暗くなるけど、帰るかい?」
私は、愛ちゃんとさゆみの顔を交互に見た。
こんな愛ちゃんを置いて帰りたくない。
そういう想いはあるけれど、でも、そういうわけにもいかない。
私とさゆみは小さくうなづきあって立ち上がろうとした。
だけど、愛ちゃんは、私の手を放さなかった。
- 138 名前:第五話 投稿日:2004/01/12(月) 21:14
- 「まこと、行かないで」
「愛ちゃん・・・」
私は、なんて答えていいのかわからなかった。
「一生のお願い。帰らないでまこと」
愛ちゃんが、今日初めて私の目を見て話した。
いつも気まぐれで、子猫みたいな愛ちゃんが、今日は、何も出来ない子犬のような目を
している。
私は、愛ちゃんにうなづいてからおばあちゃんの方を見た。
- 139 名前:第五話 投稿日:2004/01/12(月) 21:15
- 「麻琴ちゃん、愛に付き合ってくれるかい?」
「はい」
「じゃあ、お母さんには私から泊まってくって言っとくから。一緒にいてやってや」
「はい」
愛ちゃんの方を見ると、笑顔を見せてくれた。
- 140 名前:第五話 投稿日:2004/01/12(月) 21:15
- 「さゆみ、ごめん。一人で帰れる?」
「うん」
「さゆ、月曜日一緒に歌おうね」
「はい」
はい、っていうさゆみの返事は、私への時と愛ちゃんへの時で倍くらい違った。
おばあちゃんがさゆみをつれて出ていった。
日が暮れて、さゆみが出ていって二人で残された部屋は、ひんやり冷たくなっていた。
- 141 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/13(火) 00:49
- 更新おつかれさまです。
続きがものすごく気になります。
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/15(木) 22:17
- 気になりますうー更新待ってます
- 143 名前:作者 投稿日:2004/01/20(火) 22:19
- >チナ犬さん
たいした続きじゃないですが、ありがとうございます。
>142さん
更新します(笑)
- 144 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:21
- 「もうすぐ冬だね。ずいぶん寒くなってきたや」
「入って」
愛ちゃんは、ベッドの中央からちょっとずれて、私が入るスペースを開けてくれた。
私は、愛ちゃんのベッドに上がり、足を布団の中に沈めて愛ちゃんと並ぶ。
目線の先には、宝塚の男役の人達のポスターが並んでいた。
- 145 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:21
- 「愛ちゃん家泊まるの久しぶりだなあ」
私は、明るい声を出そう出そうと心がけてしゃべっているけど、愛ちゃんはそのテンポに
ついて来てはくれない。
よく似合った薄いピンクのパジャマが、今日はなんとなく病気の人みたいな雰囲気を出し
てしまっている。
愛ちゃんは、私の言葉に笑ってうなづくだけだった。
愛ちゃんが黙ったまま、また私の手を握ってくる。
私も握り返す。
- 146 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:22
- 今、どんな心境なんだろう?
考えるけれど、はっきりとは分からない。
隣にいるのに、はっきりとは分からない。
落ち込んでいる、とか、そういうことは分かるけれど、どうしてあげれば元気になるのか
は分からない。
私から聞いて上げた方がいいのか、話出すのを待った方がいいのか分からない。
正面に貼ってあるポスターを見つめながら、考えていると、愛ちゃんが自分で話し始めて
くれた。
- 147 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:23
- 「お母さんには秘密だったんだ、宝塚受けること。お父さんにも秘密だった。話したら
反対されるの分かってたから」
私は話はじめた愛ちゃんの方を見る。
愛ちゃんの横顔は、白い肌と長いまつげが目立つ。
きれいな顔立ち。
「ばあちゃにね、頼んで願書取り寄せてもらったんだ。宝塚の願書。ポストからこっそり
取ればばれないと思ったのに、書留だとさ、印鑑下さい、とか言われるやろ。それで、お母
さんが受け取りに出て、ばれちゃった」
膝を抱えて話す愛ちゃん。
私は、うん、うん、とあいづちを打つことしか出来ない。
- 148 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:24
- 「怒られた。なに考えてるんだ! って。普通の高校行って、普通に短大や大学行って、
幸せになればいいんだ、って怒られた。願書は、捨てられた」
普通ってなんだろう?
夢ってなんだろう?
私は普通で、愛ちゃんやのんちゃんには夢がある。
わかんない。
- 149 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:25
- 「分かってたんだ、全部。こうなるって分かってた。宝塚、受けられないって、絶対受け
られないって、分かってた」
あきらめちゃダメだよ、とか、言うものなのかなあ、こういう時。
だけど、私は、なんとなく、そういうことが言えない。
自分がなにも出来ないのがわかりきっていて、弱りきっている今の愛ちゃんに、あきらめ
るなとか、そんなことは言えなかった。
- 150 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:26
- 愛ちゃんはまた黙り込む。
私は、部屋の隅にあるヒーターを見つけた。
部屋がどんどん寒くなってきたから、ヒーターをつけようとベッドから降りようとするけ
れど、愛ちゃんは私の手を放してくれない。
「愛ちゃん」
「行かないでまこと」
「ヒーターつけるだけだよ。どこにも行かないよ」
愛ちゃんは、不安そうな顔で私のことを見たけれど手は放してくれた。
私は、ヒーターをつけてすぐにベッドに戻る。
顔をあわせると、愛ちゃんは薄く笑った。
- 151 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:26
- 「宝塚の試験ってさ、いろんなのがあるんよ。声楽とか、バレエとか。バレエは週に一、
二回通ってるだけだし、歌なんか合唱部で歌ってるだけ。ちゃんとした練習したこともない。
私、合唱曲しか歌えないもん。でも、イタリア歌曲とかミュージカルの曲とかが課題曲でも入
ってるんだ。それも、知ってた。ずっと前から知ってた。だけど、練習しようともしなかった
。分かってたんだ。宝塚には入れないって。きっと、私が受験することはないって。どっかで
分かってたんだ。だから、練習しなかったんだと思う」
愛ちゃんはポスターをじっと見つめていた。
ヒーターが風を送りだすモーターの音がする。
夕日は沈んで、部屋は暗くなっていた。
- 152 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:27
- 「分かってたのに。分かってたのに、あんなに宝塚宝塚言ってた自分がバカみたい」
そう言って、愛ちゃんは膝を抱えた。
私は、愛ちゃんの背中に手を回し肩を抱く。
それくらいしか、して上げられることはなかった。
「口だけだったんだよ、私。何にもしなかった。何にもして来なかった。夢、とか言って、
憧れてるだけで、私は何にもして来なかった」
隣の建物の光が差しこんでくる。
愛ちゃんは泣いていた。
暗闇の中、少しの光に照らされて私達を見ている宝塚のポスターが、私にはなんだかすご
く怖く見えた。
- 153 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:28
- 「あたりまえだよ。宝塚に入れないのは。何にもして来なかったんだもん。それが、分か
るから、分かっちゃったから」
また、愛ちゃんは膝を抱えて顔をうづめる。
それが分かっちゃったから、哀しい。
自分が哀しい。
誰のせいにもしないで、自分のせいにして泣いている愛ちゃんの隣にいるのは、哀しかった。
私は、歌っている愛ちゃんが、踊っている愛ちゃんが好きだった。
宝塚で歌う愛ちゃんを見てみたかった。
- 154 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:29
- 愛ちゃんは、しばらく泣いた後、顔を上げ私の方を見てにっこり微笑んだ。
「すっかり暗くなっちゃったね。電気つけよっか」
私をまたいでベッドから降りて部屋の電気を点けに行く。
いつもなら、「まこと、電気つけて」で済ませるのに。
今日は、愛ちゃんが自分で電気を点けに行く。
- 155 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:30
- 「まことがうち泊まるのひさしぶりやねー」
すっかりいつもの愛ちゃんの口調に戻っている。
私も、いつもの私の口調で答える。
「お腹空いたねー」
「ばあちゃになんかお菓子もらってこよっか」
「いいよー、夕飯までがまんしよ。愛ちゃんのお母さんの作るご飯、私好きなんだー」
「えー、ふつーだよ。それにお母さん、すぐ私になす食べさせようとするんだもん」
- 156 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:31
- くだらない話をした。
なすが嫌い、でも他の野菜は好き。
私はかぼちゃが好き。
赤いタオルまだ使ってるんだね。
ばあちゃはやさしい。
かぼちゃは煮ても焼いてもゆでても、プリンにしてもおいしい。
愛ちゃんにはスカートがよく似合う。
空ってなんで青いの?
雲になれたらぷかぷか浮かんで気持ちよさそう。
くだらない話をした。
学校のことと、宝塚のことと、進路のことと関係ないくだらない話をした。
静かにならないように、くだらない話をたくさんした。
- 157 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:31
- いつもと同じように笑う愛ちゃんが隣にいる。
いつもと同じに見える愛ちゃんが隣にいる。
- 158 名前:第五話 投稿日:2004/01/20(火) 22:32
- 夕飯をご馳走になって、お風呂に一緒に入って、またくだらない話をいっぱいして、
一緒のベッドで眠る。
私が電気を消して、ベッドに入ると愛ちゃんが言った。
「まこと、ありがとね」
私は何も言わず、布団から左手を出し、愛ちゃんの頭をぽんぽんと二回軽く叩いた。
「おやすみ」
「おやすみ」
ちょっと目を合わせて、おやすみの挨拶。
布団の中に手を戻すと、愛ちゃんがしっかりと握ってきた。
私はそれからすぐに眠った。
愛ちゃんが眠れたのかどうかは、だから、わからない。
- 159 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/20(火) 23:53
- 待ってました!すごくいいです(ToT)愛ちゃんがこれからどうなっていくのか、まこっちゃんの小説もきになります!楽しみに待ってます
- 160 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/21(水) 23:09
- 同じく待ってました。
>たいした続きじゃないですが
そんなことは決してないです。
私にとって大事で大好きな作品のひとつです。
更新お疲れ様です。
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/28(水) 18:38
- 初めてここに来ました。
とても面白く読ませていただきました。
これからも楽しみにしています。
初めてここにきて不躾なお願いなんですが、この話は5話目(?)
とのことですが、以前の話のありかを教えていただけると嬉しいのですが。
勝手なお願いですので、スルーでも結構です。
- 162 名前:第五話 投稿日:2004/01/28(水) 22:15
- 翌朝、私は愛ちゃんのおばあちゃんに起こされるまでぐっすり眠っていた。
いつ来ても人がたくさんいる愛ちゃん家は、朝から活気がある。
純和風な朝ご飯はおいしかった。
- 163 名前:第五話 投稿日:2004/01/28(水) 22:15
- 今日は土曜日。
町の塾へ愛ちゃんと二人で行く日。
だけど、愛ちゃんは行かないと言う。
もうちょっと休ませてと言う愛ちゃんは、やっぱり元気はなかった。
だけど、今日は、パジャマから着替えて白のセーターを着ていた。
私を送ってくれる車を待っている短い間に、愛ちゃんが言い出した。
- 164 名前:第五話 投稿日:2004/01/28(水) 22:16
- 「まこと、合唱コンクールで一緒に歌って」
びっくりして愛ちゃんの顔を見る。
ちょっと固まった。
合唱部?
「まことと一緒に歌いたい」
私は中学に入る時合唱部に誘われたけど、断った。
しかたなかったんだ、あの頃は
答えないで考え込んでいると、部屋のドアがノックされた。
- 165 名前:第五話 投稿日:2004/01/28(水) 22:16
- 「麻琴ちゃん、車の準備できたよ」
「はい」
私は部屋を出て玄関に向かう。
愛ちゃんも、見送りに出て来てくれた。
「ノートとっといてね」
「オッケー」
私は車に乗り込む。
ドアを閉めて、窓を開けた。
「考えとくよ、合唱のこと」
「うん」
私達は手を振りあって別れた。
- 166 名前:第五話 投稿日:2004/01/28(水) 22:16
- 愛ちゃんは心細くなったのかもしれない。
自信がなくなっちゃたのかもしれない。
それで、私を誘ったのかなあ、なんて思う。
どうしよう?
- 167 名前:第五話 おやすみ愛ちゃん 終わり 投稿日:2004/01/28(水) 22:17
- 家に一回戻って荷物を抱えて駅まで送ってもらった。
一人で電車に乗って一人で町へ行って一人で塾に行く。
愛ちゃんはいない。
一人ぼっちの塾はつまらなかった。
私は、何がしたくてここにいるんだろう?
そんなことを考えているだけで、授業は終わっていた。
- 168 名前:作者 投稿日:2004/01/28(水) 22:26
- >159
イメージされているような今後になるかは分かりませんが、これからもよろしくお願いします。
>チナ犬さん
ありがとうございます。
こんな感じよければ、しばらくお付き合いください。
>161
第五話、というのが、このスレの全体の中の五話目、という意味では、それまでの四話は、上から順に読んでいけばあります。
過去のシリーズという意味では、あっちこっちに散っています。
最初に記したつもりになってましたが、まったくちゃんと記していないことに161さんのレスで気づきました。
この“みんなの進路希望”は、前あった話しからシリーズで続いている第四弾です。
とは言っても、辻さんはともかく、高橋さん小川さんというところは、過去にほとんど出てきていないので、読まずとも支障はありませんが。
次レスに一覧を貼ります。
- 169 名前:作者 投稿日:2004/01/28(水) 22:32
- 初めての夏休み 加護と辻の姫牧村での物語り
http://mseek.xrea.jp/flower/1000386419.html
みんなの冬休み 初めての夏休みスレ255より その後赤板へ移転
これも加護と辻の物語。ただし、辻が加護の家に上京している。
http://mseek.xrea.jp/red/1015079839.html
初めての林間学校 新垣が加護と紺野と林間学校へ行く話
http://mseek.xrea.jp/wood/1033398621.html
そして、第四弾がこのみんなの進路希望で、
第五弾として、“初めての決断”を緑板で同時に進めています。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/green/1065618084/
これは、中学三年生の紺野加護新垣のお話で、連載中です。
お暇な方は、御一読いただけるとうれしく思います。
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/29(木) 05:23
- >>169
全て読みましたw
作者さんの執筆する作品はどれもサイコー!
続きまったり期待してますワ(* ̄∇ ̄*)
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/29(木) 05:54
- 下がって無かったので下げさせて頂きます。
- 172 名前:161 投稿日:2004/01/29(木) 08:39
- 書き方が紛らわしかったですね。
作者さんがおっしゃるようにシリーズ物を読んでみたいということでした。
すべて読ませていただきます。
- 173 名前:作者 投稿日:2004/02/05(木) 22:33
- >170
ありがとー。続き頑張ります。
>172
ありがとうございます。
結構な分量たまっていますが、よろしければ目を通してみてください。
- 174 名前:第六話 合唱部 投稿日:2004/02/05(木) 22:35
- 月曜日、私は音楽室に向かった。
合唱部に入って合唱コンクールに出る。
そう決めた。
愛ちゃんのことが心配。
それもある。
愛ちゃんが私に来て欲しいと言わなければ、私は合唱コンクールに出るなんてことはな
かったと思う。
だけど、それだけじゃなかった。
- 175 名前:第六話 投稿日:2004/02/05(木) 22:36
- 私は、歌うのが好きだ。
好き、というか楽しい。
小さなころからそうだった気がする。
いつも歌っている愛ちゃんが隣にいて、それで私も歌っていた。
だから、本当はもっと前から合唱部でやってみたかったのかな。
そんなことを思った。
- 176 名前:第六話 投稿日:2004/02/05(木) 22:37
- 「はい、みんな、今日から麻琴が一緒に歌ってくれることになりました。麻琴、自己紹介!」
愛ちゃんは、すっかり元気に振る舞っている。
振る舞っているように見える。
朝、私が合唱やるよって返事した時から、もう、ずっとハイテンションだった。
「いや、自己紹介って、うん、まあ、小川でーす。よろしく」
「なんかあるでしょー、他に。学年とか」
「みんな知ってるって。いまさら、自己紹介って・・・」
「じゃあ、意気込みを」
みんな、私と愛ちゃんのやり取りを笑って見ている。
なんで、愛ちゃんが相手だと普通の会話がコントになるんだろう。
「足引っ張らないように頑張るのでよろしく」
私が敬礼ポーズを取ると、みんな拍手してくれた。
- 177 名前:第六話 投稿日:2004/02/05(木) 22:37
- 私はアルトのパートに入る。
ソプラノの愛ちゃんとは別々。
三年生だけど、パートリーダーとかにはならない。
新入部員だから。
最初の日は、パート練習と全体練習。
私だけ、譜面を片手の練習。
合唱コンクールまでは一ヶ月。
それまでに、課題曲と自由曲、しっかりと頭に入れないといけない。
- 178 名前:第六話 投稿日:2004/02/05(木) 22:38
- 愛ちゃんは、パート練習の間はずっとさゆみにつきっきりだった。
さゆみといる時は、お姉さんの顔をしている。
ホントに隣に誰がいるかで愛ちゃんの表情はころころかわる。
ああしていると、すごくしっかりしてるように見えるのにな、と思った。
- 179 名前:第六話 投稿日:2004/02/05(木) 22:38
- 練習が終わると、体育館によってのんちゃんを待って帰る。
部活って、こういうリズムなんだなあ。
「まこっちゃん、ホントに合唱部入ったんだあ」
「一ヶ月だけしか出来ないけどねー」
「愛ちゃんに強引に引っ張りこまれたんじゃないのー?」
「それもある」
「ひどーい!」
うんうん、とうなづく私とのんちゃんを見て、愛ちゃんが不満の声を上げる。
笑いにしてごまかしてるけど、誘ってくれてうれしかったよ。
あんな形だったけれど・・・。
愛ちゃんが、元気なのがちょっとつらかった。
- 180 名前:第六話 投稿日:2004/02/05(木) 22:39
- 「でさー、のんちゃんはどうなのよ?」
「どうって?」
「うーん、バレー」
ホントに聞きたいのは、進路のことだけど、なんとなく直接は聞きにくい。
だから、ちょっと遠まわしに聞いてみる。
「あー、うーん。試合がないとねー、つまんないよ。一二年生に混ざって練習してるだけ
だからさ。いいよねー合唱部。来月だっけ? コンクール」
「うん、来月のコンクールで終わり。私も引退」
愛ちゃんにとっては最後の合唱コンクール。
私にとっては最初で最後。
愛ちゃんの足引っ張らないようにしないとな。
- 181 名前:第六話 投稿日:2004/02/05(木) 22:39
- 「のんちゃんは、三月まで続けるの?」
「どっちにしても、高校でバレーやるからねー。体は動かしとかないとさ」
「どっちにしても、か」
愛ちゃんが寂しそうに言った。
四月から、のんちゃんはどっちに進むんだろう。
四月から、愛ちゃんはどうするんだろう?
「なんかさー、卒業して高校行って試合一杯したい気もするけどさ、それには選ばなきゃ
いけないんだよねー」
道の石を蹴っ飛ばして、のんちゃんは続ける。
- 182 名前:第六話 投稿日:2004/02/05(木) 22:40
- 「何にも考えずに、よっすぃーにくっついてバレーやってる時が一番楽しかったのかなー?」
「吉澤さんのとこ行けばいいんでないの?」
「うまい人達と一緒にやるのが楽しいとかさ、上の大会に行きたいとかさ、いろんなこと
知っちゃったからねー。よっすぃーが一番強いとこにいればなんにも考えないんですむのになー」
のんちゃんは、それだけ言うと大きく息をはいた。
- 183 名前:第六話 投稿日:2004/02/05(木) 22:41
- 「どっちにしても、卒業したらみんな村出るんだよねー」
「そうだねー」
「もう、半年ないんだよねー」
みんな黙り込む。
どんな進路にしても、高校に進むとすれば私達は村を出ないといけない。
それだけは、確かだった。
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/06(金) 10:01
- 更新乙です!なんかとてもほのぼのしてていいですね!自然と文章に引き込まれちゃいます 次回も期待してます
- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/08(日) 06:19
- 今から卒業する直前の三人の会話に期待MAX!デス。
文章に引き込まれる…私も解る気がしますワ☆
- 186 名前:作者 投稿日:2004/02/13(金) 23:03
- >184
ありがとうございます。
あんまり文章褒められたことないのでうれしいです。
>185
卒業・・・ いつになるだろう・・・。
この界隈、卒業と言う言葉が不吉だったりひますが(笑)、この世界の中では、
平和に卒業していってくれると良いなと思います。
- 187 名前:第六話 投稿日:2004/02/13(金) 23:04
- 部活に入って新しい暮らし。
でも、何日かすれば練習にもすぐ慣れる。
みんな知ってる子だから、あんまり違和感とかもないし。
ただ、アルトのパートで歌う時、隣がさゆみだと、音程に違和感はあった・・・。
- 188 名前:第六話 投稿日:2004/02/13(金) 23:05
- 「さゆ、ちゃんと音聞くんだよ。まこととか、みんなおるから、ちゃんとあわせるんだよ」
「はい」
愛ちゃんはソプラノなのに、さゆみにかかりっきり。
過保護だなあって思うけど、さゆみの外しっぷりを見てると心配で仕方ないのはわかる。
フォローして上げたいのは山々だけど、私も、自分が曲を頭に入れるのに必死だ。
課題曲と自由曲で二曲あるから、なかなか大変。
だけど、自由曲の“一つの朝”は、お気に入りの曲だった。
- 189 名前:第六話 投稿日:2004/02/13(金) 23:05
- 「みんな、集まってー。じゃあ、全体であわせましょう」
声出し、パート練習、全体練習の流れ。
一日の最後にみんなで合わせる。
そろうと気持ちいい。
だけど、そう簡単には行かない。
出だしから大体16小節位で、ストップがかかる。
理由は、いつもアルトの私達だった。
「ちょっと、アルトだけ出だしやってみよう」
愛ちゃんの指示で私達だけ出だしを歌う。
そうすると、技術的なレベルはともかく、まともにちゃんとそろう。
それで、またみんなで合わせると、どうしてもひきづられる。
- 190 名前:第六話 投稿日:2004/02/13(金) 23:06
- 「並び方かえてみよっか」
今度は、隊列の変更。
一番ソプラノ側で愛ちゃんの隣にいたさゆみを、アルトの中央に入れる。
私も、その隣へ。
愛ちゃんは、名前をはっきり出さないように気を付けていたけれど、うまくいかない一番
の理由はさゆみだった。
そこにいる全員が同じ旋律を歌うパート練習では、なんとか合わせることが出来る。
だけど、全体練習になると、すぐ隣のソプラノパートにひきづられてしまう。
他の子も、そういう傾向がないわけじゃないけれど、さゆみの場合は、それがあまりに
はっきりと出すぎていた。
- 191 名前:第六話 投稿日:2004/02/13(金) 23:06
- 並び方を変えたら、今度は、距離が近づいたテナーの旋律が混ざってたりする。
結局最後には、さゆみがほとんど声を出さないようになって、それでアルト全体が安定
してきて、みんなのハーモニーが出来上がって終わった。
みんな、じゃないけどね、本当は・・・。
- 192 名前:第六話 投稿日:2004/02/13(金) 23:07
- 練習が終わって、後片付け。
今日は、のんちゃんが高校のバレー部の練習を見に行ってるから、体育館に寄ることはない。
私と愛ちゃんが、帰り支度をしていると、一年生の輪の中で、さゆみがこっちを見ていた。
「さゆも一緒に帰る?」
愛ちゃんがそう言うと、さゆみは笑顔でうなづき、こっちに走ってきた。
- 193 名前:第六話 投稿日:2004/02/13(金) 23:07
- この三人で帰るのは初めて。
さゆみは、愛ちゃんとは小さい頃から仲がいいけど、私はちょっと遠い感じなんだよな。
「さゆは、一年生で帰らなくていいの?」
「たまには、うん」
真ん中に立つ愛ちゃんの問い掛けに、さゆみはぼそぼそと答える。
二人の方を見ると、さゆみと視線がぶつかった。
「麻琴先輩、どうして急に合唱部入ったの?」
急に私に振られた。
それが聞きたくて、私達について来たのかな?
- 194 名前:第六話 投稿日:2004/02/13(金) 23:08
- 「うーん、なんかねー、愛ちゃんに誘われてさ」
さゆみからすれば、私は、大好きなお姉ちゃんにくっついている邪魔な人、とかそういう
扱いなのかな?
ちょっと、からかってみたくなったりして。
「わたしが入っちゃいやだった? いない方がいい?」
「そんなことないけどー」
拗ねた顔してる。
分かりやすいねーこの子は。
- 195 名前:第六話 投稿日:2004/02/13(金) 23:08
- 「わたしが下手だから、アルトに麻琴先輩呼んだの?」
「え? え? そんな、そんなんじゃないよー」
さゆみの問い掛けに、愛ちゃんがうろたえていた。
気にしてたのか・・・。
もっと奔放な子だと思ってたけど。
「まことはね。暇そうだから呼んだの」
「暇そうってなんだよー」
「えー、ちがうー?」
「ちがうよー」
私と愛ちゃんのやりとりを見て、さゆみが笑っている。
- 196 名前:第六話 投稿日:2004/02/13(金) 23:09
- 「まことさ、基本的に歌うの好きそうだし、暇そうだったから誘ってみたんだ。別に、
さゆみがどうとか、アルトのパートがどうとか、そんなの考えてないって。まこともいた
らもっと楽しいかなーって、それだけだよ」
愛ちゃんは、そう言ってさゆみの頭をぽんぽんって叩いた。
背伸びしてお姉さんしてる、そんな姿がなんだか微笑ましかった。
「ま、私も楽しいからいいけどさ。暇じゃないから。さゆみも、一年生に麻琴先輩は暇、
とか言ってまわらないでよね」
「はーい」
「そのいたづらっぽい目が不安だなあ」
さゆが微笑む。
ますます不安だ・・・。
それから、方向が別れる私は、途中で二人と別れた。
二人が、帰り道でわるだくみしないか、やっぱり心配だった。
- 197 名前:第六話 投稿日:2004/02/18(水) 23:18
- 合唱コンクールまで後一週間。
私も、すっかり合唱部員になった。
ずっと前から一緒に練習しているような感じ。
だけど、合唱そのものは、やっぱり前と同じ問題点を抱えていて。
そんな中で、歌詞読み会、というのが開かれた。
音楽室で、机を輪にして、曲の解釈をみんなで話す。
楽譜もらって初見の時や、コンクールの直前なんかにいつもやるらしい。
今日は、合唱コンクールの自由曲に選んだ、ひとつの朝。
私にとっては初めてのことだから、とても楽しみだった。
- 198 名前:第六話 投稿日:2004/02/18(水) 23:18
- 「未来に向かって頑張って行こう、っていう曲だと思います」
二年生の、お堅いお言葉。
始まる前に愛ちゃんに言われた。
「まこと、お願いだから、なるべく変なこと言って」
何のことかと思って聞き返すと、みんな答えが優等生だからまことが崩して、と。
私をなんだと思ってるんだ? と思ったけれど、言われた意味がよく分かった。
これじゃ、面白くもなんともない。
- 199 名前:第六話 投稿日:2004/02/18(水) 23:20
- 「じゃあ、さゆ、どう?」
四人五人とお堅い答えが続いて、愛ちゃんは次にさゆみを指名した。
ホントは、指名とかそんなんじゃなくて、意見が飛び交う感じにしたいんだよねー、って
言ってたけど、全然そんな感じにはならない。
愛ちゃんは、さゆを指名してすぐに私の方をみる。
つぎ当てるからよろしく、そうはっきり言っていた。
- 200 名前:第六話 投稿日:2004/02/18(水) 23:21
- 「東京に行く歌」
「とうきょう?」
何を言い出すんだ? って目でみんなが、そして愛ちゃんまでもがさゆみの方を見る。
さゆみは続けた。
「先輩達が、卒業して東京に出て行っちゃう歌」
「なんで東京なの?」
「遠くて、怖くて、わかんないけど、いろんなことがありそうなところ」
半分笑っていたみんなが、真面目な顔になってさゆみの方を見る。
- 201 名前:第六話 投稿日:2004/02/18(水) 23:21
- 「学校は楽しかったけど、ずっとここにはいられなくて、まだきれいなうちに村を出てい
かなくちゃいけなくて、さみしいしつらいけど、でも、きっと東京でもいいことがあるよっ
て歌」
みんな、微妙な表情をしながら、納得していいんだかわるいんだかって感じ。
私は、さゆみの解釈、なんだか好きだった。
若いうちに、じゃなくて、きれいなうちに、って言い方が、なんだかさゆみっぽかった。
- 202 名前:第六話 投稿日:2004/02/18(水) 23:22
- 「まこと、どう? このさゆの解釈」
「うん。おもしろいね。東京かー。うん。わかる」
「じゃあさあ、さゆの解釈は、最初と最後の部分が主じゃない。まことは二番目と三番目
の部分どう?」
机には、歌詞の描かれた楽譜が置かれている。
光の洪水で世界が沈まないうちに旅立とうという最初のパラグラフ。
まだ見ぬ大地へ自由を求めて旅立とうとい最後のパラグラフ。
さゆの解釈は主にここの部分。
愛ちゃんは、私に、それに挟まれた部分の解釈を求めている。
なるべく変なことって言われてたけど、さゆみが空気を崩してくれたから、私は思った
ままに話す。
- 203 名前:第六話 投稿日:2004/02/18(水) 23:24
- 「二番目は、たとえば、なんとかって三つ並んでるのが、人生いろいろだよねーって感じで、
三番目は、つらいこととかあっても頑張ろう!ってとこで」
「たとえば? つらいことって?」
「じゃあ、怒涛の攻撃ってのは、さっきのさゆみの解釈に合わせて言えば、年を取っていって
しまうってことで、それで砕かれないうちだから、しわとか出来ちゃわないうちにってことかな
ー」
しわとか出来ちゃう、のところで、みんながちょっと笑った。
- 204 名前:第六話 投稿日:2004/02/18(水) 23:24
- 「じゃあ、たとえばんとこは? たとえば愛を語ること、ってあるけど、まことは愛とか
語っちゃうの? だれと? どんな?」
「なんで、私だけそう具体的な話しになんのさ!」
ちょっと怒った顔してみたら、みんな大笑いした。
「それじゃ、みんな、今のまことのになんか突っ込みあるでしょ」
「突っ込みって、なんか他の言い方ないの?」
「まあ、突っ込みは置いといて、指名方式やめるから、みんなフリーで何か言って!」
愛ちゃんがみんなに振ると、すぐに意見が出て来た。
- 205 名前:第六話 合唱部 終わり 投稿日:2004/02/18(水) 23:25
- 「最初のパラグラフの、箱舟に乗って旅立とうってのは、電車に乗って行くってこと?」
「ひとつの朝、なんだから、朝出ていくんだよね」
「じゃあ、八時くらい?」
「光の洪水は、朝日なんだよ」
みんな、好きかってにしゃべりはじめた。
愛ちゃんも、あまり上から入る感じじゃなくて、愛ちゃんの意見を言っている。
私も、言いたい放題言ってみた。
全部、さゆみの東京へ行くっていうのが土台になった歌詞解釈。
それから二時間くらい、大まかなイメージから、やたら具体的なシチュエーションまで、
みんなでわいわいと話が広がっていった。
- 206 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 21:33
- がんがれ
ミヤサンダイスキ。
- 207 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 23:15
- >206
ありがとう。
がんばる。
- 208 名前:第七話 愛とさゆみ 投稿日:2004/03/06(土) 23:16
- 合唱コンクールの日の朝は早い。
遠くにある会場まで電車とバスを乗り次いで行くから、すごく時間がかかる。
朝、私達は駅に七時に集合した。
「みんな、おはよー」
まだ薄暗い中に自転車で乗りつけた私。
一時間近く自転車をこいで来たから、息は切れ切れになりつつもテンションが高い。
みんな普通は車で送ってもらって来るけどね・・・。
- 209 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:17
- 「あ、まことおはよー・・・」
眠い目をした愛ちゃんが、車の後ろの座席から降りてきた。
「テンション低いなー」
「車つくまで寝てたんだもん。おやすみまこと」
「おーい、寝るなー」
愛ちゃんは、私に抱きついて、そのまま左の肩に頭を乗せている。
ほっとくとホントに寝そうだから揺さぶり起こす。
愛ちゃんは、あくびを一つして、待合室の空いている席に座った。
- 210 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:17
- 「大体そろったか?」
私と同じように自転車で現れた前田先生。
車で送ってくれる人はいないらしい。
「さゆが来てないですー」
「まったく、マイペースな奴はしょうがないなあ」
一年生の答えに、前田先生は顔をしかめる。
さゆみの他は全員そろっていた。
今は七時五分、電車は二十一分発。
おっとりさゆみは、ちゃんと間に会ってくれるのだろうか?
- 211 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:18
- 「誰か、一応電話してみてくれる?」
「あー、私かけまーす」
前田先生の言葉に、愛ちゃんがあくびをしながら答える。
この無人駅にあるたった一つの施設、公衆電話に向かった。
愛ちゃんが私を手招きするので、私もついて行く。
「今電話してさあ、家にいたらどうやったってこれないよねえ」
愛ちゃんは、愚痴愚痴言いながら手帳をさぐる。
都会の人だと、こういう時携帯電話で済ますんだろうなあ。
まあ、電波届くようになっても、うちで買ってもらえるとは思えないけど。
- 212 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:19
- 「道重さんのお宅ですか? 愛ですー。高橋愛ですー」
電話がつながったらしい。
コードを左手で絡ませながら、愛ちゃんは話していた。
「えー、まだいるんですかー? 替わって下さい! さゆみに替わって下さい!」
愛ちゃんと私は顔を見合わせる。
「まだいるって? 家にいるってこと?」
「みたい」
それって、間に合わないんじゃ・・・。
- 213 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:19
- 「出ないってどういうことですか? そんな・・・」
愛ちゃんが、戸惑ったような声をしている。
ひどい風邪とかかな?
「行きたくないって、そんな、いまさら、そんな。はい。はい・・・」
愛ちゃんは、見た目にはっきりと分かる位に落ち込んだ感じで受話器をおいた。
「どうしたの?」
「行きたくないって」
「どういうこと?」
「歌うの嫌だって」
暗い顔をした愛ちゃんは、前田先生に報告に行った。
- 214 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:20
- 「あいつ、当日になってそんなこと言い出すなんて。しょうがない、置いて行くか」
いらだたしそうに前田先生は言う。
愛ちゃんは、少し考えてから言った。
「迎えに行きます」
「おまえ、今からじゃ無理だろ。間に合わないし、説得もできるのか?」
「なんとかします。開会式には間に合わないけど、歌う番までには、なんとか行きます」
「大丈夫か? 会場まで来れるのか? 高橋一人で」
「まことがいるから大丈夫」
分かっていたことだけど、やっぱり私も愛ちゃんについて行くことになるらしい。
だけど、なんとかするって言ったって、なんとかなるんだろうか?
- 215 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:20
- 「絶対行きます。大丈夫です。だから、さゆみを迎えに行かせて下さい」
「小川!」
「はい」
前田先生は、頭を下げる愛ちゃんじゃなくて、私の方に声を掛けてきた。
「高橋頼むな。分けのわかんないことしないように、見ててくれ」
「はあ」
その言い方もあんまりだなあ、とか、なんだかのん気に思ってた。
- 216 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:21
- 「じゃあ、車呼んで、行っていいから。絶対来いよ」
「はい。まこと、行くよ!」
「待って、車は?」
「車無理、まことの自転車!」
「えー?」
戸惑う私にかまうことなく、愛ちゃんは自転車の方に向かう。
「みんな、絶対行くから、先行ってて」
愛ちゃんは、私の手を引っ張り走り出した。
- 217 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:23
- 「早く! まこと!」
「車呼んだ方が早いよー」
「無理、うちの車、朝は買い出しに出てる。いいから早く」
そう言って、愛ちゃんは自転車の後ろに立つ。
わたしが愛ちゃんを運ぶのねやっぱり・・・。
なんて、ため息をついている場合じゃなくて、早くさゆみを迎えに行かないといけない。
なんで今になって行くの嫌だなんて拗ねてるのかよくわかんないけど。
ずっとさゆみにつきっきりで練習してきた愛ちゃんが、ちょっと怒りながらもさゆみを
連れて行きたいとすごく強く思っているのだけは分かった。
- 218 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:23
- 「よし、しっかり捕まっててよ」
「まことー、いけー!」
愛ちゃんを乗せて、私は自転車をこぎ出す。
腰に手を回した愛ちゃんは、わたしがスピードを上げるとご機嫌になった。
「早く! 早く! 早く!」
「だー、暴れるなー。こぎづらいー」
そんなやり取りをしながら、一時間ちょっとの時間ペダルをこぎ続ける。
ようやく上ってきた朝日を背にしながら、私達は、さゆみの家にたどり着いた。
- 219 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:24
- 足はもうガクガク。
愛ちゃんは、私と比べればそりゃあ軽いけれど、でも人一人乗せて一時間自転車をこぐの
はやっぱりつらい。
膝に手を置いて、息を整える私の横で、愛ちゃんはさゆみの家を見つめていた。
「行くよ、まこと」
背筋を伸ばして玄関に向かう愛ちゃんの後を、私はおいかける。
愛ちゃんは、何も断わりなしに玄関のドアをがらがらと開けた。
「愛です! さゆみいますか?」
玄関から、家の中に響く声。
おばさんが出て来た。
- 220 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:24
- 「あら、愛ちゃん。わざわざ来てくれたの? さゆみねえ、部屋に引きこもっちゃって」
「上がっていいですか?」
「ええ。どうぞどうぞ。でも。大丈夫なの? さゆみなんかほっといて行けばよかったのに」
おばさんは、結構ひどいこと言いながらも、私達を部屋に連れて行ってくれた。
「さゆみ! 高橋さんと小川さん来てくれたわよ。開けるからね」
あとはよろしくね、と言い残しておばさんは部屋を出ていった。
- 221 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/07(日) 13:15
- シゲさんどうしてしまったのか…
フツーにパシられてるのはウケました。
- 222 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 21:49
- >221
二人はそういう関係なもんで・・・。
- 223 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:50
- 部屋は雨戸が閉まっていて、電気もついていなくて暗い。
愛ちゃんが手探りで電気をつける。
さゆみは、机に向かって座っていた。
椅子に足を乗せ、膝を抱えて座るさゆみの前には、楽譜が置いてあった。
- 224 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:51
- 「どした? 可愛いさゆに暗闇はにあわんよ」
愛ちゃんが、さゆみの隣にしゃがみこんで微笑みかける。
さゆみも、薄っすらと笑みを返した。
「楽譜も用意してあって、準備万端やし、いこ」
そういう愛ちゃんに、さゆみは首を振っている。
愛ちゃんは、部屋の隅っこにあった座布団を引っ張ってきて、さゆみの横に座りなおした。
「どおしたん? さゆはなんで行きたくないの?」
愛ちゃんは、椅子に座るさゆみを見上げている。
私は、さゆみのベッドに座った。
「私、歌は下手だもん。みんなと一緒になんか、たくさんの人の前でなんか歌いたくない」
そう言って、さゆみはひざに額を乗せた。
- 225 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:52
- 「さゆもさ、大分上手になったと思うよ私は。油断しなければ、ちゃんとメロディー追え
るようになったじゃない。それにさ、最近隣のパートにひきづられちゃうこと増えてたけど
さ、それって、ちゃんと音が分かるようになってきた証拠だよ」
合唱部に入って半年ちょっと。
さゆみは、確かに昔ほど音痴じゃなくなった。
だけど、それでも、音を外すことは多いし、はっきり言って、私は合唱部です! みたい
に胸を張れるようなレベルじゃない。
合唱コンクールに出たくないって気持ち、よく分かる。
- 226 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:53
- 「でも、私いない方が、みんなうまく歌えるし」
膝を抱えたままのさゆみの隣で愛ちゃんは立ち上がる。
そして、机に座った。
今度は、愛ちゃんがさゆみを見下ろしている。
「私は、さゆと歌いたいな。一緒に歌いたい」
「私は、いない方がいいんだきっと」
「なに言ってるのさー。そんなことないって」
「私がいなければ、賞とか取れるかもしれないし。最後に足引っ張るのいやだし」
ぼそぼそっと、さゆみが言う。
愛ちゃんにとっては、最後の合唱コンクール。
みんなと歌うのは、これが最後。
もちろん、私もそうではあるんだけど、一ヶ月だけだから、思い入れとか、そういうのは
やっぱり愛ちゃんとは比べものにはならない。
- 227 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:54
- 「なに言ってるんよ! 賞とかどうでもええから。うちは、さゆと一緒に歌いたい! みん
なで歌わんで賞もらっても、そんなんいらんし」
愛ちゃんは、立ち上がって言った。
さゆみは、顔を上げて、愛ちゃんの方を見ていた。
「みんなで歌うから楽しいんよ。みんなで練習して、みんなで歌って。そりゃあ、賞も欲
しいけんどー、そうやなくて、みんなで歌いたいのうちは」
愛ちゃんがそう言うと、さゆみは立ち上がった。
- 228 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:54
- 「私は、私は、別に歌なんか歌いたくない! 可愛いね、って言われて、笑顔をかえして、
そんな毎日でいいの! それを、かってに愛先輩がひっぱりこんだんじゃんか!」
それだけ言って、さゆみはこっちに来て私を押しのけてベッドに倒れこんだ。
愛ちゃんは、呆然と見ている。
私は、初めて口を挟んだ。
「さゆみ、言いすぎだよ。そんな、ずっと、愛ちゃんと練習してきたんでしょ」
「いいよ、まこと。ごめん。私、全然さゆがそんな、いやがってるとか、考えたことなかった」
「ちょっと、愛ちゃん。ほら、さゆみ、なんとか言ってよ」
愛ちゃんが力なく椅子に座る。
私は、愛ちゃんの方に歩みつつ、さゆみの方を見たり、どうしていいのか分からない。
- 229 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:55
- 「ごめん」
「愛ちゃん。落ち込んでる場合じゃないよ」
椅子に座りこんで、すっかりふさぎこんでしまった愛ちゃん。
わたしが声を掛けても、答えてくれない。
ベッドでは、さゆみが起き上がった。
「愛先輩は行かなきゃ。みんな待ってるよ」
さゆみがベッドに座りなおす。
今度は、愛ちゃんは、まるでさっきのさゆみのように机に向かって膝を抱えて座っていた。
- 230 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:56
- 「いやや。さゆが行ってくれんと、うち行かん」
愛ちゃんのか細い声。
さゆみは、困ったようにベッドで足をばたばたさせている。
わたしも、どうしようもなくてさゆみの隣に座った。
静かな時間が流れる。
重たい空気。
愛ちゃんもさゆみもうつむいている。
私は、立ち上がりカーテンを開けた。
- 231 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:56
- 「朝だし、雨戸をあけよう」
暗い雰囲気に耐えられなくなった私は、動きをつける。
窓を開けて、雨戸を片して朝の光を部屋に差しこませる。
蛍光灯の電源も落とした。
「ずいぶん寒くなってきたよねー。もうすぐ雪の季節かー」
窓を開けたまま、私はさゆみの隣に座る。
さゆみは、寒いとつぶやいて窓を閉めた。
- 232 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:57
- 「愛先輩、みんな待ってるよ」
「さゆが行かなきゃ嫌だ」
「私、合唱部にはじゃまなだけだよ」
「そんなことない!」
愛ちゃんは、振り向いてさゆみの方を見た。
- 233 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:58
- 「さゆは、じゃまなんかじゃないよ。歌は、確かにあんまり上手じゃないけど、でも、
歌解釈とかさ、面白い見かたするし。それに、楽しく歌えればいいんだよ。こんな田舎の
さ、ちっぽけな合唱部なんだから」
「でも、愛先輩ずっと私につきっきりで、足引っ張って・・・」
「そんなこと言ったら、今のが足引っ張ってるよー。ね、細かいこと気にせんでいいか
ら、行こう。一生のお願い。一緒に歌おう」
さゆみは、私の隣で考え込んでいる。
愛ちゃんは、こっちへ歩いてきてさゆみの前にしゃがみこんで、両手でさゆみの右手
を包んだ。
「さゆ。行こ」
見上げる愛ちゃん。
さゆみは、小さくうなづいた。
- 234 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 21:59
- 「よーし、いくぞー!」
愛ちゃんのテンションがいきなり上がる。
私とさゆみは、それをぽかんと見つめていた。
「行こう」
「どうするの? 電車の時間は?」
「大丈夫。うちまでいけば、買い出しに出た車が戻ってるから、それで会場まで」
「遠いよ」
「いいの。私が言えば、連れてってくれる。ほら、さゆ、はやく荷物準備して」
- 235 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 22:00
- さゆみは、のそのそとカバンを用意する。
楽譜をしまって、財布を出してきて。
「あー、もう、さゆはのんびりしてるからー。まこと、後お願い」
「どこ行くのー?」
「うち行って車用意させるから、まことはさゆを連れてきて」
それだけ言って、愛ちゃんは出ていった。
- 236 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 22:00
- さゆみは、相変わらずのんびりモード。
おかーさんおべんとー、とかやってる。
部屋のベッドに座って十分は待たされたころ、やっと、準備が出来ました、と部屋に戻ってきた。
私は、今度はさゆみを後ろに乗せて自転車で愛ちゃん家へ。
さゆみは、愛ちゃんよりは重たかった。
多分、私よりは軽そうだけど・・・。
- 237 名前:第七話 投稿日:2004/03/14(日) 22:01
- 「おそーい!」
車の横に愛ちゃんは立っていた。
私達は、自転車から降りて車へ。
後ろの座席に三人並んで、一番奥に愛ちゃん、真ん中にさゆみ、助手席側に私が座る。
ようやく、合唱コンクールの会場に出発した。
- 238 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 20:53
- 合唱部キタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!
- 239 名前:作者 投稿日:2004/03/20(土) 23:42
- >238
道重さゆみが合唱部っていう設定は、他にあるんでしょうか・・・。
と、思いつつ、今後もよろしくお願いします。
- 240 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:43
- 車が動き出すと、すぐに眠たくなった。
往復で二時間も自転車こいだんだから当たりまえだ。
歌う前に寝ちゃまずいよなー、と思って我慢してるけど、横を見たら愛ちゃんはぐっすり
眠ってる・・・。
その上、さゆみは私の肩に頭を乗せていた。
もういい、私も寝る・・・。
- 241 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:44
- ・・・・・・。
どれ位、車に揺られただろう。
私は、頭に痛みを感じて目を覚ました。
隣を見ると、さゆみも頭を押さえている。
「ぶつけちゃったみたいだね」
さゆみははにかんで笑っている。
なんだか、可愛かった。
- 242 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:45
- 「愛ちゃんはよく眠ってるね」
さゆみの肩に、愛ちゃんは頭を乗せてねむっている。
はなでもつまんじゃおっか、って私が言うと、さゆみは左手で愛ちゃんの髪をなでた。
「さゆみ、よく来てくれたよね」
さゆみは、愛ちゃんの髪をなでながら微笑んでいる。
悔しいくらい可愛かった。
「私いないほうが、うまく歌えると思うんだけどな」
「なんで来てくれたの? あんなに嫌がったのに」
愛ちゃんの髪から手を離して、さゆみは前を向く。
ちょっとかしこまった感じで、私の問に答えた。
- 243 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:45
- 「愛先輩好きだから。困らせたくないし」
うつむいたさゆみは続ける。
「歌うのとか、やっぱりあんまり好きじゃないし、苦手だけど、うまくいった時は楽しい
なって思った。わたしがいない方がうまくいくんじゃないかなって思うけど、愛先輩が私が
いなきゃやだって言うなら、行ってあげなきゃなって」
それだけ言って、さゆみは、また愛ちゃんの方を見た。
愛ちゃんは、相変わらずさゆみの肩に頭を乗せてぐっすりと眠っている。
「さゆみは、本当に愛ちゃんが好きなんだなあ」
私がそう言うと、さゆみは照れたように笑った。
- 244 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:46
- 「じゃあさ、さゆみは、自分と愛ちゃんでどっちのが可愛いと思う?」
「えー、それは、やっぱり私かなー」
「そこは自信あるんだ」
「うん、それで二番が愛先輩」
「私はー?」
「えー、麻琴先輩はー、うーん、わかんないや」
「なんだよー、三番とかせめて言ってよー」
私は、左手でさゆみをたたくまねをする。
すると、車が突然がくんと揺れた。
さゆみは私の方に倒れこんでくる。
それで、肩から頭が外れた愛ちゃんが目を覚ました。
- 245 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:46
- 「着いた?」
「まだみたいだよ」
「はーあ。じゃあ着くまで寝る。おやすみ」
愛ちゃんは、またさゆみの肩に頭を乗せる。
そして、今度はさゆみの右手も握って眠りに落ちた。
私とさゆみは、顔を見合わせてちょっと笑った。
- 246 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:48
- それで、私達は、なんとか歌う順番までには間に合った。
全員そろって歌うことは出来たのだけど、やっぱり賞なんかは取れなかった。
でも、歌い終わって袖にはけた時は、終わったー! ってみんなおおはしゃぎで、会場の人にしかられたりして。
愛ちゃんなんかは、泣きながら抱きついてきたりで大変だった。
- 247 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:49
- 「おわったねー」
「おわったね」
帰りの電車。
遠足みたいで楽しかった一日が終わる。
私と愛ちゃん、たった二人の三年生はまだはしゃいでいる後輩達を一番すみっこで見つめる。
「愛ちゃん、三年間おつかれさまでした」
「いえいえ、こちらこそ、最後にありがとうございました」
らしくない挨拶をして、お互いおかしくなって笑う。
- 248 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:49
- 「でも、ホントありがとね。まことと歌えてよかった」
「私も、短い間だったけど、部活気分が味わえてよかったよ」
たった一ヶ月だけだったけど、すごく楽しかった。
出来るなら、最初から、三年間やれればよかったなって思う。
もう、戻れないから出来ないんだけど。
「まことがいてくれて、ホント助かった」
「私何もしてないよ」
「ううん、まことと、それにさゆかな。二人がいなかったら、最後に投げ出してたと思う」
真面目な口調の愛ちゃん。
私は、愛ちゃんの方を向いた。
- 249 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:50
- 「宝塚のことがあったでしょ。それでさ、なんか、もう、全部どうでもいいや、みたいな
気分になってたんだよね。だけど、まことがいつもいてくれるしさ。さゆなんかは、もう、
わたしがいないとダメって感じだったから、わたしが頑張らなきゃって思ったし。うん、だ
から、二人にはホント感謝してる。なんてね、言ってみたりして。あー、でも、ホント最後
はみんなで歌えてよかったー。さゆが行きたくないって言った時はどうしようかと思ったも
ん」
愛ちゃんは、私の方を見てはにかむように笑った。
私は、それに答えて愛ちゃんの頭をなでた。
- 250 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:51
- 「愛せんぱーい」
二年生の子がやってくる。
愛ちゃんは立ち上がり、その子達に抱きついた。
私は知っている。
さゆみは、本当は歌っていなかったこと。
アルトパートで私とさゆみは並んでいた。
さゆみは口は動かしていたけど、声はまったく聞こえなかった。
- 251 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:51
- 後輩達に囲まれて満面笑顔の愛ちゃん。
そんな姿を見ていると、こんなことは言えない。
きっと、小さな声で歌っていた、ってことにしておこうかな。
「まことー、歌うぞー」
愛ちゃんは、私の手を取りひきづって行く。
そして、自由曲で歌ったひとつの朝を歌い出した。
愛ちゃんは、座っているさゆみもひきづり出す。
さゆみも、音を外しながらも愛ちゃんと一緒に歌い出す。
私達も歌い出す。
電車の中、他のお客さんも何人かいるけど気にしない。
- 252 名前:第七話 投稿日:2004/03/20(土) 23:53
- 東京に行く歌っていう、この曲のさゆみの解釈。
私は好きだった。
東京じゃないけれど、私達はもうすぐ旅立つ。
そんなことを思いながら、私も歌の輪に加わった。
- 253 名前:第七話 終わり 投稿日:2004/03/20(土) 23:55
- 入れ忘れたけど 252で第七話終わりです。
- 254 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/21(日) 01:19
- 更新乙です。
そろそろ、辻の出番ですかね?
- 255 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 23:56
- >254
よまれてる・・・。
今後もよろしくお願いします。
- 256 名前:第八話 のんちゃんの決断 投稿日:2004/03/28(日) 23:57
- 冬休み、のんちゃんの友達が都会から来ていた。
二年前の夏休みに偶然知りあったっていう、のんちゃんの友達が来ていた。
のんちゃん達が二年前に山で遭難騒ぎを起こした時に一緒にいた子。
なんとなく覚えてる。
その子が、また村に遊びに来た。
大晦日の日、愛ちゃん家に集まる。
そこに、のんちゃんとその子もやってきた。
- 257 名前:第八話 投稿日:2004/03/28(日) 23:57
- 「うーんとね、亜依ちゃんです。中1だっけ?」
「中3や中3! ののより年下なわけないやろ!」
そう言って二人で笑ってる。
のんちゃんの悪ガキっぷりが、私や愛ちゃんといる時よりもアップしてるように見える。
なんか、いいコンビ。
ちょっと悔しい。
- 258 名前:第八話 投稿日:2004/03/28(日) 23:57
- 「あいちゃん?」
「うん、そや」
「私も愛ちゃん」
愛ちゃんが自分を指差す。
のんちゃんと私は、愛ちゃんと亜依ちゃんを見比べる。
なんか、おかしくなって笑った。
「なんで笑うのー」
「だって、おかしいんだもーん」
「どこがー」
「なんかねー」
「ねー」
のんちゃんが私の方にふるから、とりあえず、ねー、と答えておく。
- 259 名前:第八話 投稿日:2004/03/28(日) 23:58
- 「どっちかがあいちゃんで、どっちかがあいちゃんじゃないよねー」
「うーん、その方がええやろか?」
「一生のお願い、私、愛ちゃん」
三人で愛ちゃんの方を見る。
いつものことだー、と思っていたけど、いつもを知らない人がいた。
「おもろーい。おもろいで。ええよ、ええよ。あいちゃんゆずる。うち、かごちゃんでも、
なんでもええは」
あいちゃん改め、加護ちゃんは、けらけら笑ってる。
慣れない人にとっては愛ちゃんはそうとう面白いらしい。
なんとなく、分かるような気はする。
愛ちゃんは、よく分かってないで、ありがとーとか言っている。
私達は、加護ちゃんともすぐにうちとけた。
- 260 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:12
- 愛ちゃん家はお正月の準備で大忙し。
うちのお母さんも頑張っておせち料理作りに参加してる。
子供達は、誰にも相手にされず四人だけで愛ちゃんの部屋に集まっていた。
でも、のんびりしててそれもいい。
紅白を見ながら、お菓子をつまんで、おしゃべりをする。
「セクシーなの? キュートなの? どっちがすきなの?♪」
歌っておどるのんちゃんと加護ちゃん。
加護ちゃんってちょっとものまねうまいかも。
紅白って、最初の方しか面白くないんだよなー、なんて思ったりもする。
- 261 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:13
- 「愛ちゃーん、なんか他におかしないのー?」
「まだ食べるのー?」
「だって、冬休みだもーん」
「のの、それ、関係あらへん」
「いいじゃーん」
「じゃあ、おせちの味見分とって来るよ」
愛ちゃんはそう言って部屋を出ていった。
テレビは演歌コーナーにいつの間にかなっている。
お母さん達はこっちの方が好きみたいだけど、中学生の私達に演歌を集中して聞けという
のは無理な話だ。
ほんのちょっとだけ三人で黙ってテレビを見ていたけれど、すぐにのんちゃんがあくびを
しながらテレビと関係無い話をしだした。
- 262 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:13
- 「学校どーなのよ?」
「どーなのよってなんや?」
「うーん、あんまり学校の話聞いたことなかったなあって思って」
こたつに入っていた加護ちゃんが両手を後ろについて、天井を見るみたいになった。
それを正面からのんちゃんが見上げるようにして身を乗りだしている。
- 263 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:14
- 「うちさあ、中高一貫なのね。っていうか、大学まで付いてるんやけど。だからな、みん
なずーっと一緒にいられる思ったんよ。受験なんかないしな。だけどな、友達の一人が、成
績悪うて、進級出来ないかもしれへんって。まあ、二学期になってそこそこの成績とっとっ
たし、今勉強すごいがんばっとるし、そっちはまあ大丈夫やと思うんやけど、別の友達がな
、よその学校行くかもしれんって言いだしたんや」
「大学まであるのにわざわざ受験するの?」
多分大丈夫とは言われながらも、頭の中には受験という言葉がこびりつきっぱなしの私と
しては、わざわざ外の学校を受けようっていう感覚が分からない。
- 264 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:16
- 「受験やないんよ。あんな、陸上やってるんやその子。それで、強い高校に誘われた言
うてた」
「そっかー、それじゃあしょうがないよね。そっち行くよ」
「なんで?」
「なんで?って、強い学校から誘われたらそっち行くよ」
同じことで悩んでるのんちゃんは、こたつに頬杖をついて言った。
「そんな、おかしいて。陸上って、別に一人で出来るやん。走るだけなんやし」
「でも、強い学校なら、強い人と一緒に練習出来るし、先生だって専門の人がいるだろう
し、そっちのがいいに決まってるよ」
「納得いかんて。ずっと一緒やって言ったんやで。ずっと一緒やって。なのに、他の高校
行きたいとか言い出してさ、うちらより陸上がええっちゅうんかまったく」
こたつの中で、誰かの足が私にぶつかった。
のんちゃんと加護ちゃんの会話。
頬杖をはずしてのんちゃんは、うーん、とうなる。
少し間があいてから、のんちゃんが静かに言った
- 265 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:18
- 「違うんじゃないかなあ」
いつもより低い声。
のんちゃんの頬が緩んでいなかった。
「なにがや?」
「誰が好きとか、誰かより大事とか、そうじゃないよきっと。その子もさ、亜依ちゃんの、
加護ちゃんのことより陸上が大事とか、そうじゃなくてさ、速くなりたいだけなんだよ。陸上
も大事、友達も大事。悩んでるんじゃないかな。それを、足引っ張っちゃダメだと思う」
「なんや、ののは、うちが悪い言うんか?」
「いいとか悪いとかじゃなくてさー、しょうがないんだよ。一緒にいたいって亜依ちゃんの
気持ちはすごい分かるしさあ、亜依ちゃんからはどうすることも出来ないのわかるけどさあ、
やつあたりしたらかわいそうだよ」
のんちゃんは、うつむいていた。
こたつのみかんを見つめてうつむいていた。
- 266 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:18
- 「やつあたりなんかやあらへん! うちらのことが大事なら、迷ったりなんかせえへんは
ずや! よその学校行くかも、なんていいださへんはずや!」
「違うよ。全然違う!」
「ののは、全然分かってないんや。うちのことも、紺ちゃんのことも全然分かってへんで
、勝手なこと言うな!」
「わかる。わかるんだよ。その子の気持ちも、分かっちゃうんだよー」
「わかってへん! ののに分かるわけあらへん!」
「わかっちゃうんだよ。わかっちゃうの」
のんちゃんはそう言って立ち上がった。
立ち上がって、ドアの方へと歩き出した。
- 267 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:19
- 「のの! どこ行くんや!」
「知らないよ、もう」
私は、加護ちゃんとのんちゃんを交互に見る。
のんちゃんが、ドアに手を掛ける前にドアが開いた。
「おまたせー。お餅持って来たよー。きなことー・・・」
そこまで言って愛ちゃんお盆を持ったまま固まった。
のんちゃんが、自分のコートをつかんで愛ちゃんの横をすり抜けて部屋を出ていった。
- 268 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:19
- 「な、なんだって言うねん。うちや、紺ちゃんの気持ちが、ののにわかってたまるか・・・」
加護ちゃんは、コタツに突っ伏した。
鼻をすすっていた。
ドアの前に立つ愛ちゃんは、わけもわかない感じでのんちゃんが出ていった廊下の方を見ている。
私は、コタツを出て自分のコートを取った。
「愛ちゃん、こっちお願い」
「まこと。どこ行くん?」
「のんちゃんとこ、愛ちゃんは加護ちゃんをお願い」
「ちょっと、まことー!」
愛ちゃんの叫びを無視して、私はのんちゃんの後を追った。
のんちゃんは、玄関で靴をはいて座っていた。
- 269 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:19
- 「どうしたの?」
声を掛けると、のんちゃんはこっちを向いて頬を緩ませた笑顔を見せてくれた。
「帰っちゃうの?」
首を横に振る。
それから、玄関の扉の方を見ながら言った。
「愛ちゃんのお餅食べてくればよかったかなぁ」
「今からでも間に合うよ」
のんちゃんは首を横に振る。
私も、のんちゃんの横に座った。
- 270 名前:第八話 投稿日:2004/04/02(金) 23:21
- 「行かなきゃ」
「どこに?」
「まこっちゃんもついて来て」
「どこに?」
「うん、ちょっと」
のんちゃんは立ち上がり、玄関の扉を開けた。
私の方を見て笑って、出ていった。
私は、慌てて靴をはいて後をついていった。
- 271 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/02(金) 23:50
- 更新乙です!どこいくんだろ?今更ながら向うの話とリンクしてるって、今気付きました。続きが気になるよー
- 272 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/05(月) 11:10
- どうなるんだろう めっちゃ楽しみ&ハラハラドキドキ
- 273 名前:作者 投稿日:2004/04/09(金) 00:23
- >271
そうです。向こうとリンクしてます。
>272
どうなるんでしょう・・・。
- 274 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:23
- 雪が振っている。
のんちゃんはそれも気にせず歩いていく。
私は、一度戻って傘を持ってからのんちゃんの後を追った。
のんちゃんに傘を差しかける。
歩きながらずっと何もしゃべらなかった。
大晦日でも、外はあんまり関係なくて、寒くて静かだ。
積もった雪を踏む足音だけが聞こえる。
のんちゃんがどこまで行こうとしているのかは歩きながらだんだんわかってきた。
そして、たどり着いた先は、予想通りの場所だった。
- 275 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:23
- のんちゃんは、立ち止まったまま家を見上げていた。
「行かないの?」
「うん」
しばらく考えてから、小さくうなづいて庭に入って行く。
そして、玄関にあるインターホンを押した。
辻です、と語りかけるとしばらくしてドアが開いた。
中から吉澤さんが出て来た。
- 276 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:24
- 「どうした? こんな日のこんな時間に」
「おそくにごめん。でも、決めたから。すぐに言いたかった」
ドアから顔だけのぞかせていた吉澤さんが、ちゃんと靴をはいて外へ出て来た。
「じゃあ、聞こうか。辻の決断」
吉澤さんがのんちゃんのことを辻と呼んだのを初めて聞いた。
「私は、よっすぃーと一緒にバレーボールは出来ない」
のんちゃんは、吉澤さんの顔をしっかりと見て言った。
- 277 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:24
- 「向こうに行くのか?」
「行く。昭栄に行ってよっすぃーに勝ってインターハイに出たい。だから、よっすぃーと
一緒にバレーボールは出来ない」
「分かった」
「ごめん」
のんちゃんが頭を下げる。
それを見ている吉澤さんは笑顔だった。
だけど、なんだか寂しそうに見えた。
- 278 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:25
- 「謝ることないよ。辻が選んだんだから」
「でも、ごめん」
「気にするなって。ただ、試合の時は容赦しないからな」
「のんだって、よっすぃーの癖知ってるからレシーブ拾いまくるもんねー」
いつものおバカな掛け合い。
のんちゃんも笑顔を浮かべている。
「寒いし、上がって暖まっていくか?」
「ううん。帰る」
「そっか」
バイバイとのんちゃんが手を振って吉澤さんの家を離れる。
吉澤さんも引きとめることはせず、家の中へ消えていった。
- 279 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:25
- 帰り道も雪。
のんちゃんはうつむいて歩く。
私は、傘を差しかけながら何度も何度ものんちゃんの方をむいていた。
「分かっちゃったんだ、どうしたいのか。亜依ちゃんと話してて、分かっちゃったんだ」
隣を歩くのんちゃんがつぶやく。
私は、黙ってうなづいた。
- 280 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:26
- 「のんは、よっすぃーが嫌いなんじゃないんだよ」
そう言って、のんちゃんが急に立ち止まった。
私は、数歩歩いてから気づいて振り向く。
のんちゃんは泣いていた。
降って来る雪に濡れたまま泣いていた。
「よっすぃーは大好きなの。一緒にバレーがしたいの。だけど、だけど、のんは、強くな
りたいの。もっとうまくなりたいの。勝ちたいの。インターハイも出たい。だから、だから」
私は、のんちゃんのことを見つめていた。
傘をさしたまま、のんちゃんを見つめていた。
- 281 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:26
- 「のんは薄情なのかな? 友達よりバレーを取ったのんは冷たいのかな?」
私は首を横に振る。
のんちゃんが、吉澤さんの学校に行こうと、そうでなかろうと、私達とは離れることになる。
私や愛ちゃんと、同じ高校に行くことはない。
寂しいと思う。
一緒に高校に行きたいと思う。
だけど、それは出来ないんだ。
そんなのんちゃんを冷たいとは思わない。
仕方のないこと、なんだと思う。
さみしいけれど。
- 282 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:27
- 「なんで、ずっと一緒にいられないんだろう? なんで、ずっと同じでいられないんだろ
う? なんで? なんで?」
そう言って、のんちゃんは私に抱きついて来た。
雪に濡れたコートを着たのんちゃんは、冷たく冷え切っていた。
「みんなと一緒にいたいよ。よっすぃーと一緒にバレーボールしたい。この村にずっといたい」
震えていた。
震えるのんちゃんを抱き止めるだけで、私は何も出来ない。
何も言うことが出来ない。
みんなと一緒にいたい。
私だってそう思う。
だけど、のんちゃんは、泣きながら夢を選んだんだ。
応援して上げたいな、って思う。
それしか出来なかった。
- 283 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:27
- 「ごめんね、寒いのに付き合わせちゃって。かえろ」
「うん」
「帰ってお餅食べよ。でも、亜依ちゃん全部食べちゃってるかなー」
のんちゃんは歩き出した。
傘もささずに。
「あー、だけど、のん、けんかして出て来ちゃったんだっけ?」
「大丈夫だよきっと」
「そうかなあ?」
「うん。大丈夫だよ」
私が笑って言うと、のんちゃんも笑顔を返してくれた。
- 284 名前:第八話 投稿日:2004/04/09(金) 00:28
- 「まこっちゃん、傘さして優雅にあるってるとおいてくぞー」
「まってよー」
のんちゃんは走り出した。
雪の積もった道を、ちょっと滑りながら走り出した。
私も傘を閉じのんちゃんを追いかける。
雪道を最後までは走れなくて、途中からは二人で並んで歩いて愛ちゃんちまで帰りついた。
- 285 名前:Assy 投稿日:2004/04/10(土) 01:04
- こっちも読ませていただいてます。
これからもがんばってください。
- 286 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/12(月) 09:55
- 小川もほんのちょこっとずつだけど成長していってるんだね
- 287 名前:作者 投稿日:2004/04/18(日) 22:02
- >Assyさん
大分あいてしまいましたが、こちらもよろしくお願いします。
>286
そうですねえ。
この話しも、スタートから半年以上(物語世界で)経ってますからねえ。
- 288 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 22:03
- 忙しく動き回っている大人達の間をかき分けて、愛ちゃんの部屋まで帰る。
ドアを開けると、千と千尋の主題歌を歌う愛ちゃんと、それを前にして笑い転げてる加護
ちゃんがいた。
「ただいまー」
先に私が入る。
のんちゃんは、やっぱりちょっとさっきのけんかのことを気にしてる感じだ。
「あー、おかえりー。愛ちゃんっておもろいなー」
加護ちゃんが笑顔で言う。
私達がいない間に、紅白を見ていた二人。
愛ちゃんが、私のがうまい、と言って歌いだしたらしい。
愛ちゃんと加護ちゃんは向かい合って座っている。
私は、テレビに向かって正面になる空いている所に座った。
のんちゃんは、私の隣の愛ちゃん側に座る。
こたつの上には、さっき愛ちゃんが持ってきていたお餅が、まだほとんど残っていた。
- 289 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 22:04
- 「のの、高校、バレーボールの学校行くんやって?」
テレビの方を見たまま加護ちゃんが言った。
「うん」
のんちゃんはこたつの上にぺたっと腕を乗せて、合わせた両手の上にあごを乗せている。
「愛ちゃんに聞いた。愛ちゃんや、麻琴ちゃんと別の学校になるんやろ?」
「うん」
「ええな、なんか。教えてくれた愛ちゃん、さびしそうやったけど、でも、普通に受け
入れてるんな」
加護ちゃんは、愛ちゃんの方を見ていた。
愛ちゃんは微笑んでいる。
私は、こたつの上に載っているのんちゃんの横顔を見ていた。
- 290 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 22:04
- 「ののだけ別の学校行くんやろ? それでも仲ようしてられるって思えるんやな。そうや
なあ、ずっと一緒だったんやもんな三人。生まれてからずっとずーっとこの村で一緒だった
んやろ? だからかなあ?」
「みんな卒業したら村から出て行くからねえ」
愛ちゃんの言うとおりだった。
私達は中学校を卒業すると、村を出て行く。
遠くへ行くのはのんちゃんだけじゃない。
- 291 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 22:05
- 「どこへ行っても、のんはのんだもん。友達は友達だよ。そりゃあ寂しいけど。亜依ちゃん
だってさ、ここからずっと遠い所に住んでるけど、こうやって遊びに来るでしょ」
「うん」
のんちゃんは、加護ちゃんのことを亜依ちゃんと呼ぶ。
加護ちゃんって、改めて呼びかたを変えるのが不自然なくらい亜依ちゃんって呼び続けてき
たんだろうなって思う。
奈良の町から来た加護ちゃんをのんちゃんが連れてきて、こうやってお話してる。
人と人のつながりって、なんだか不思議だな、なんて、ちょっと真面目なことを思った。
- 292 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 22:06
- 「けんかしてるのもったいないよ。後三ヶ月しかないんでしょ」
「そうだよ。その陸上部の子? 悩んでると思うよ。亜依ちゃんが力になって上げなきゃ」
愛ちゃんとのんちゃんの言葉に亜依ちゃんは考え込んでいる。
私は、自分のことを考えていた。
加護ちゃんみたいに、遠くに行くな、と言ったことは無いけれど、私も、宝塚へ行くと言っ
ていた頃の愛ちゃんや、別の学校に行くと言うのんちゃんに、同じ高校に行きたい、という気
持ちはあった。
愛ちゃんはいろんな事情で、宝塚は受けられなくなって泣いていた。
のんちゃんは、泣きながら自分で行く学校を決めた。
二人とも、きっとたくさん悩んだんだろうなって思う。
私は、そんな二人の力になれたのかなあ?
そう考えると自信が無い。
愛ちゃんの時は側にいることしか出来なかったし、のんちゃんからは結論を聞かされただ
けだった。
そして、私は、どこに進んで行くんだろう?
- 293 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 22:06
- 「なんか、暗い話にしてもうたな。ごめんな、のの、さっき」
「ああー、うーん。ちょっとのんも自分のことあったから、むきになっちゃった」
「二人にな、お餅残しといたから。はよたべーや」
「そうだよー。これ食べたくて急いで帰ってきたんだからー」
「そういやあ、どこ行ってたん? 怒ってうちに帰ったんかおもったで」
のんちゃんは、二人にも吉澤さんのところでしてきた話をした。
ちょっとだけ、のんちゃんが大人っぽく見えた。
- 294 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 22:07
- それから、忙しい中大人の人達が作ってくれた年越しそばを食べて、紅白が終わって、
新しい年を迎えた。
加護ちゃんは、年越しの瞬間に起きてるのが初めてだと言っていた。
都会の子って夜に弱いのかな?
よくわからない。
「みんなー、初詣に行くよー」
「はーい」
愛ちゃんのお母さんがお迎えにきた。
愛ちゃん家は、毎年元旦の0時過ぎにみんなで初詣に行く。
私達は四人で、愛ちゃん家のワゴンに向かった。
- 295 名前:第八話 のんちゃんの決断 終わり 投稿日:2004/04/18(日) 22:07
- 今年は中学を卒業する年。
いい年になればいいなって思った、いい年明けだった。
- 296 名前:Assy 投稿日:2004/04/19(月) 11:24
- 更新お疲れ様です。
人生とは出会いと別れの連続なんだと
気づいたのは何時頃だったでしょうか。
- 297 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/21(水) 13:59
- この世界感がすごく好きです。
みんな段々大人になってゆくなー。。。
- 298 名前:作者 投稿日:2004/04/25(日) 22:53
- >Assyさん
なんだかさびしいですねえ。
>297
そうですねえ。ちょっとづつ、ちょっとづつ。
- 299 名前:第九話 静かな日々 投稿日:2004/04/25(日) 22:54
- 三学期が始まった。
毎日、積もった雪を踏みしめながら通う学校も、後二ヶ月もすれば卒業式がやってくる。
そんなことを思うと、時々通学路に立ち止まって後ろを振り向いたりしてしまう。
雪に埋もれた畑の間の通学路。
ようやく昇ってきた太陽の光が、雪に反射してきれいに見える。
ここを通るのも後何回だろう?
朝からそんなことを思った。
- 300 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:55
- 三学期に入って、ちょっとは前と変わったところもある。
先生が受験という言葉を結構使うようになったり、あんまり勉強出来ない子が勉強するよ
うになったり。
受験生なんだなあ、という気分も出てくる。
もう、推薦で学校が決まっていて、三年生では一人だけ部活に参加しているのんちゃん以
外は、話題は受験のこと、勉強のこと、ほとんどそれだけ。
私や愛ちゃんは、成績的には多分大丈夫と言われているけれど、それでもなんとなく勉強
しなくちゃいけないのかなあ、という雰囲気が、私達の周りに出来初めていた。
- 301 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:55
- 変わった事は他にもある。
帰りに愛ちゃんと二人なことが増えた。
合唱コンクールが終わって、愛ちゃんも部活を引退して、授業が終わればすぐに帰るよう
になったから。
それで、なんとなく勉強しなきゃいけない雰囲気もあって、私達は愛ちゃん家で勉強をす
るようになった。
- 302 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:56
- 「まことー、休憩しない?」
「うーん、いいけどー・・・」
愛ちゃんの部屋で、こたつに入ってお勉強。
成績は、ほんのちょっとだけ私の方が良いみたい。
ほとんど変らないけど。
私も愛ちゃんも、落ちちゃうかも、って成績じゃないし、あんまり気を詰めて勉強しよう
って気にはならない。
なんとなく、勉強しているような雰囲気を作らなくちゃいけないのかなあ、って思ったか
ら、こうしてるだけ。
そんな私達は、多分、勉強している時間よりも休憩している時間の方が長かった。
- 303 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:56
- 「なんかお菓子もらって来るねー」
愛ちゃんが部屋を出て行く。
私は、こたつに足を突っ込んだまま、仰向けに大の字になった。
愛ちゃんの部屋は、前と変らない。
宝塚の人達のポスターも、前と同じように貼ってある。
あれから、ちゃんと宝塚のことを聞いたことはなかった。
いつのまにか、みんなと一緒の高校に行くことになってたけど、本当はどうなのだろう?
どんなことを思ってるんだろう?
- 304 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:56
- 「おまたせー。ようかんもらってきたよー」
逆さまの私の世界に、愛ちゃんが帰って来た。
お盆にようかんとお茶を載せている。
相変わらずこの家は純和風だ。
「何してるん?」
愛ちゃんは、お盆をこたつに置いて、仰向けなままの私の顔をのぞき込む。
私は、逆さまな状態で愛ちゃんのほっぺたを両手ではさんだ。
- 305 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:57
- 「何するんよ?」
「愛ちゃんほっぺ冷たい」
「廊下は暖房きいとらんし」
私がほっぺから手を離すと、愛ちゃんは私の隣に座った。
「とらやのようかんやって」
「とらや?」
「なんか有名なお店らしいよ。東京から来た人が持ってきてくれたんだって」
私も体を起こす。
湯気の立った湯飲みとようかんが置いてあった。
愛ちゃん家で勉強しててよかった、と思う。
- 306 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:57
- お茶を飲んで、ようかんを食べて、こたつの上にはみかんがあって。
なかなかに幸せな光景だ。
なんとなく愛ちゃんも私も、お互い言葉をかわすことなく、黙ってお茶をすすっている。
ちょっとだけおばあちゃんな感覚。
穏やかなそんな空気の中、愛ちゃんが話はじめた。
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/29(木) 23:35
- 更新乙です!
何の話かな??気になる気になるぅ
- 308 名前:作者 投稿日:2004/05/01(土) 23:13
- >307
まあ、とんでもない展開をするような話しじゃないので、のんびりと付き合って下さい。
- 309 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:14
- 「ようかんおいしいよね」
「そだねー」
「寮とかに入ったらさー、こうやっておやつが出てくることも無いのかなあ」
「ああ、そうかもー」
うちは、おやつが出てくるような家じゃないし、ましてや高級なようかんを食べるような
家じゃないから、そんなこと考えたこともなかった。
だけど、寮に入ったら、確かに今までの暮らしとはずいぶん違う暮らしになるんだろうな。
- 310 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:14
- 「高校ってどんなところかなあ?」
愛ちゃんがつぶやく。
どんなところなんだろう。
「お母さんもいなくてさ、ばあちゃもいなくてさ、まことはいるけど。寮に入って、自分
で全部やらなくちゃいけなくて、ちょっと怖いなあ」
十五年間ずっと村で暮らしてきた私達。
それが、急に村の外に出て、寮で暮らすとか、私だって不安が一杯だ。
愛ちゃんの言葉に、答えを返すことは出来ない。
- 311 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:16
- 私は、またお茶をすすった。
愛ちゃんは、こたつの上のみかんをむいている。
なんとなく良いタイミングのような気がして、私は気になったことを聞いてみることにした。
「愛ちゃん」
「ん?」
「愛ちゃんさあ、あのさあ、あの、宝塚は、いいの?」
一瞬、私の方を向いた愛ちゃんが、わたしが宝塚って言葉を口にしたら、視線をそらして前を向いた。
私達の正面にも、宝塚の人のポスターは貼ってある。
愛ちゃんは、ぼーっとそのあたりを見ている。
私は、残っていたお茶を飲み干した。
- 312 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:16
- 「宝塚かあ・・・」
愛ちゃんがポツリとつぶやいた。
私は、愛ちゃんの方を見つめる。
「私にとっては、まだ、遠い場所だったみたい」
そう言って視線を落とす。
愛ちゃんは、両手で湯飲みを包みこんだ。
「遠い場所?」
「うん。行きたい、とは思うけど、行こうって頑張るには、遠いみたい」
両手を湯飲みから離してこたつの中へ。
愛ちゃんは、大きく息をはいた。
- 313 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:17
- 「のんちゃん頑張ってるよねー」
「うん、そうだね」
「頑張ってさ、それでさ、いろいろ迷ったみたいだけど、結局バレーの学校行くでしょ、
のんちゃん」
「うん」
「すっごいうらやましい。それで、すごいくやしかった」
私は、愛ちゃんみたいに、はっきりした夢、みたいなものをもったことがない。
だけど、愛ちゃんの気持ちは何となく分かる。
のんちゃんは、正直私もうらやましかった。
「頑張るとこから始めなきゃいけないな、って思うんだ」
「頑張るとこ?」
「うん。私さ、宝塚に入りたいって思ってただけで、なんもしてこんかった。それでも、
なんか入れる気になってた」
この部屋で、泣いていた愛ちゃんを思い出す。
同じようなことを言っていた。
- 314 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:19
- 「ちゃんとさ、頑張ってから受けようと思うんだ。バレエのレッスンも宝塚用のを受けて、
合唱曲だけじゃなくて声楽の勉強もして。高校入ったら、一年間頑張ってレッスンして、それ
で受けようと思う」
愛ちゃんは、何度か自分で小さくうなずきながら、正面の宝塚のポスターを見つめていた。
「そっかあ」
「うん」
愛ちゃんは、湯飲みを口に持って行く。
わたしが愛ちゃんの方を見たら、愛ちゃんもこっちを見た。
目と目が合って、なんだかおかしくなって笑った。
- 315 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:19
- 「でも、受けさせてもらえるか分からないけどねー」
「バイトもしてお金貯めちゃえば平気だよ」
「そっか、それいいかも」
「ねえ、部活は? レッスン通うなら部活はやらない?」
「うーん、合唱部か演劇部に入りたいけどなあ。まことはー?」
「そうだねー、どうしようかなー?」
「一緒にやろうよまた。合唱とか演劇とか」
「出来たらいいねー」
高校かぁ。
どんな暮らしが待ってるのだろう。
もうすぐなはずなのに、まだなんとなくずっと先のことのような気がする。
とりあえず、高校に行っても、愛ちゃんは隣にいるらしい。
これからもよろしくね、と心の中で思ったけど、恥ずかしいから言わないことにした。
- 316 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:19
- 「それでさあ、まこと」
「何?」
「小説どうしたん?」
宝塚のポスターを見ていた私は、愛ちゃんの言葉ではっとする。
隣にいる愛ちゃんと顔を見合わせた。
「どうしたん? ぽかんと口開けて。忘れとった?」
笑みを浮かべている愛ちゃんに向かって、私は何度もうなづいた。
- 317 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:20
- 「もう、私のこと書いてくれるって言ってたくせにー」
「そんなこと言ってないよー。愛ちゃん書くなんて一言も言ってないからー」
「書いてよー。ていうか、全然書いてないの?」
「うん、全然。まったく」
言われるまで、まったく頭の中から抜けていた。
小説・・・。
そういえば書くって言ってたっけ・・・。
書こうと思って、書けることが身近にしかないってことになって、取材とか言ってみんな
と歩いたんだった。
そんなことは思いだすけれど、どんなことを書こうとしていたかはまったく頭に残ってい
ない。
結局のところ、何もしていないのと同じ状態だった。
- 318 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:20
- 「書くんでしょ?」
「うーん、どうしようかなー・・・」
私は、また、仰向けにばったりと倒れた。
「書こうよ」
「でもなー、なんかいまさらな感じするしー」
愛ちゃんが私の顔をのぞき込む。
私は、大きく息をはいた。
私の息が愛ちゃんの顔に当たって、前髪が揺れた。
- 319 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:21
- 「今さらも何も、別に何かに応募するとかじゃないんでしょ?」
「うーん、あんましそういうのは考えてないなあ」
「じゃあ、書こうよ。私読みたいもん、まことの書いた小説。一生のお願い」
「えー、どうしようかなー」
「書くの!」
仰向けの私に、愛ちゃんが顔を近づけてきて言う。
私は、愛ちゃんに抱きついて、それを支えに起き上がった。
- 320 名前:第九話 投稿日:2004/05/01(土) 23:21
- 「わかったよー」
「よーし、まことー、卒業式までに仕上げてね」
「勉強どうすんのさ」
「そんなのいいって。卒業式までに仕上げて、最後の学活の時に読み上げてよ」
「無茶苦茶なー・・・」
私は、せっかく起き上がったのに、今度はこたつの上に突っ伏した。
隣で、愛ちゃんが勝手に一人で盛り上がっていたけれど、私は、まさか学校で小説を読み
上げるつもりなんかない。
だけど、せっかく思い出してしまったし、書いてみようかな、とは思った。
- 321 名前:遥 投稿日:2004/05/03(月) 22:55
- 初めまして。遥といいます。
実はずっと前から拝見させていただいていたんですが…なかなか書き込みに
踏み込めなくて(苦笑。
それでも大好きです、作者様の書くお話。
何だかいい感じですね。ののがかっこよかったっスww
みんな色々考えてますねぇ。自分はここまで深く考えてなかったデスw
自分的にはまこっちゃんに小説を朗読してほしいです。
それではまた感想書きにきます。
- 322 名前:作者 投稿日:2004/05/09(日) 23:10
- >遥さん
踏み込んでください(笑)
私の時もあんまり考えてなかった気がします。
- 323 名前:第九話 投稿日:2004/05/09(日) 23:11
- 私達の学校には、開かずの間がある。
いつか入ってみたいってずっと思っていたけれど、入ったことはない。
だけど、卒業が近づいてきて、卒業したらもう入るチャンスもないなんて思った。
それで、ある夜、私達は学校にしのびこんで、その部屋に入ることにした。
「先生とかもういない?」
「大丈夫」
「お母さんとかは?」
「私の部屋にみんな集まってることになってるから」
私達は、学校の周りを一周して、人がいないのを確かめてから中に入る。
暗いろうかが怖かった。
三人で手をつないで開かずの間の前に行く。
- 324 名前:第九話 投稿日:2004/05/09(日) 23:11
- 「どうする?」
「かぎないよ」
「ドアずらせば外れるよ多分」
二人が私を見るから、しかたなくわたしがドアを開ける。
ガタガタって音が、暗いろうかにひびいてこわかった。
ドアはいきおいよく外れて、私は後ろにたおれそうになった。
「行こう」
暗い部屋の中へ入る。
何があるんだろう?
そう、思いながら入って行くと、後ろで悲鳴がした。
「キャー!!!!」
振り向くと、血まみれの顔がある。
「うわー!!!」
私達の前で、血まみれのままばったりとたおれた。
「きゃー!!!」
開かずの間から、私達は走って逃げた。
- 325 名前:第九話 投稿日:2004/05/09(日) 23:11
- はぁ・・・。
だめだこれじゃ・・・。
一週間考えてこれだけ。
小説になってないような気がするよ。
さんざん考えて、小説を書いてみようとしている。
王子様とお姫様みたいな話し。
東京で恋愛してる大学生の話し。
大魔王を倒しに行く勇者の話し。
全部どうしていいのかわからなくてボツ。
それで結局、学校の怪談みたいなの書こうとしたけれど・・・。
どう見ても、私と愛ちゃんとのんちゃんで。
愛ちゃん血まみれにしたら怒るだろうな。
まあ、でも、それ以前の問題な感じするけど。
- 326 名前:第九話 投稿日:2004/05/09(日) 23:12
- どう考えても、まともな小説が書ける気がしない。
なんで、小説書くことになったんだっけ?
それを思い出してみると、どうも、自分で小説書きたいと思った記憶が無いことに気がつ
いたりする。
私は、そんなことを考えながらお昼休み、机に向かい、シャープペンを持って固まってい
た。
「のわっ」
突然、後ろから抱きつかれた。
「どした、暗いぞー」
のんちゃんだった。
- 327 名前:第九話 投稿日:2004/05/09(日) 23:12
- 「体育館行こ」
「体育館?」
「そ、体育館。まこっちゃん、そんな考えてたって小説なんか無理だから、行こう!」
無理とかいわれた・・・。
私は、のんちゃんにひきづられるように体育館へ連れていかれる。
愛ちゃんも当たり前のようにくっついて来る。
お昼休みの体育館だけど、広さの割に生徒数が少ないから、十分にスペースがあった。
「寒いよー」
「動けばあったかくなる」
「何するの?」
「バレーボールにきまってるから」
待ってて、と言ってのんちゃんは用具倉庫に入って行った。
- 328 名前:第九話 投稿日:2004/05/09(日) 23:13
- 「寒いね」
「体育館もストーブ欲しいよね」
私と愛ちゃんは、手の平を合わせて、息をはーはーしながらのんちゃんを待つ。
のんちゃんは、バレーボールが二十個くらい入ったケースをガラガラと押し出してきた。
「そんなにどうするの?」
「まこっちゃんを鍛えなおす」
「なんでー?」
私の抗議を無視して、のんちゃんはボールを構える。
- 329 名前:第九話 投稿日:2004/05/09(日) 23:13
- 「まこっちゃん、早く構えて」
「レシーブするのー?」
「当然。愛ちゃんはボール拾ってねー」
「オッケー」
「オッケーじゃないよー」
私の言葉をさえぎるようにボールが飛んで来る。
頭はともかく、体はボールに反応して、レシーブでのんちゃんにボールを返していた。
「はい、どんどん行くよー」
ボールが次々と飛んで来る。
段々と、レシーブするのが難しいところへ。
制服着て、スカートなのに、私はボールに飛びついたりしてる。
愛ちゃんは、散らばって行くボールを集めながら、「まことファイトー」とか、適当なこ
とを言っている。
私は、次第にヘロヘロになって、最後は結局座りこんだ。
- 330 名前:第九話 投稿日:2004/05/09(日) 23:14
- 「もう、だらしないなー」
「無茶言わないでよー」
スカートを広げて、ペタン床に座りこんだ私の前にのんちゃんは仁王立ち。
愛ちゃんは、二個のバレーボールをお手玉しながら帰って来た。
「ていうか、なんでいきなりバレーボール」
「だって、つまんないんだもーん。みんな、受験モードになっちゃってさー。それでなん
か、引っ張り出せそうなのがまこっちゃんしかいなかったから」
「私はのんちゃんのおもちゃか・・・」
「まこっちゃんだけ、小説とか言って、勉強してないみたいだから、邪魔してもいっかなー、
って思ってさ」
私達は、ボールをカゴに入れて、体育館の隅っこで、壁によりかかって座る。
お昼休みが終わるまでに、まだ十五分くらいあった。
- 331 名前:第九話 投稿日:2004/05/17(月) 22:20
- 「のんちゃんいいよねえ、一人だけさ、勉強から開放されちゃって」
「そうでもないよ。勉強しなくていいのはいいけど」
真ん中に座ったのんちゃんは、伸ばした足のひざの上に両手を置いている。
うつむいて、その両手のあたりを見ながら言った。
「なんかさ、一人だけ仲間はずれってかんじでさ、つまんないんだもん。問題だしあい
っこしてるとことかさ、絶対入れないし。そりゃあ、入ってものんには答えられないんだ
けどー」
受験が無いのんちゃんにものんちゃんなりに悩みがあるらしい。
そう言えば、授業中にあてられて答えられなくて困っているのんちゃん、っていう姿を
二学期まではよく見かけたけれど、三学期になってからは、そんな光景もなくなった。
先生が、のんちゃんには当てることがなくなった。
- 332 名前:第九話 投稿日:2004/05/17(月) 22:20
- 「みんなして、いいよね、受験なくて、とか言うんだもん」
「でも、受験あったら、絶対、勉強嫌だー、とか言うんだよ」
「そうだけどさあ、やっぱ、なんか、うーん」
考え込みはじめたのんちゃんは、膝を抱えて、その上に額を乗せて丸くなった。
「そんなこと言っても、正直うらやましいもんのんちゃんが。やりたいことやって、頑張
って、目標見つけて、認められて。それで高校行くんでしょ。私、夢とか無いからさ。ちょ
っとやきもちみたいな感じで、のんちゃんにいいよねー、なんて嫌味みたく言っちゃう時も
あるかも。それはごめんって思うけど、でも、頑張ってほしいとは思ってるよ」
顔を伏せているのんちゃんの向こう側で、愛ちゃんもうなづいていた。
のんちゃんは、膝の上に頭を乗せたまま、首を何度か横に振って、顔を上げた。
- 333 名前:第九話 投稿日:2004/05/17(月) 22:21
- 「そうじゃなくてー。みんなわかってないよー。後二ヶ月ないんだよ。三月には卒業しち
ゃうんだよ。みんなは一緒の学校行くかもしれないけど、のんは、高校行ったらみんなと会
えないんだよ」
私達の方を見ることなく、のんちゃんは足元を見つめながら言っている。
分かっているようで分かっていなかったこと。
高校に行ったらのんちゃんはいない。
明るくないのんちゃんの声で、改めて聞かされると、それは結構ずっしりと来ることだった。
- 334 名前:第九話 投稿日:2004/05/17(月) 22:22
- 「ごめん。ちょっとさ、当たってみたかっただけ。つまんないんだもーん、似合わないく
せに勉強とかしちゃってさー。みんな、のんじゃないんだから受かるって」
明るい声に戻ったのんちゃん。
笑いを返してはみるけれど、肯定して良いんだか悪いんだか。
のんちゃんの向こう側で、ずっと黙っていた愛ちゃんが立ち上がって言った。
- 335 名前:第九話 投稿日:2004/05/17(月) 22:22
- 「まこと、学校で勉強しよう」
「学校で? 放課後?」
「うん。なんか、授業終わってすぐ帰るの、なんか、うん、変な感じだから」
腰に手を当てている愛ちゃんを、のんちゃんが見上げていた。
「そだね。じゃ、学校で勉強しよっか」
「まことは、勉強じゃなくて小説!」
「私も一応受験生なんだけど・・・」
愛ちゃんは突然後ろを向くと、カゴからボールを取り出して私に投げた。
- 336 名前:第九話 投稿日:2004/05/17(月) 22:22
- 「なにすんだよー」
キャッチした私は、それを愛ちゃんに軽く投げ返す。
そしたら、愛ちゃんはカゴの中からさらにボールを追加して二つ同時に投げてきた。
「わー、やめろー、やめろって」
立て続けにボールが投げられてきて、私は逃げ回る。
すると、のんちゃんが私の後ろに回りこんでがしっと捕まえられた。
- 337 名前:第九話 投稿日:2004/05/17(月) 22:22
- 「まこと、もうにげられんよ」
「なんだよー。私がなにしたっていうんだよー」
そう言って、じたばた暴れてみても、のんちゃんの力にはかなわない。
両手にボールを持って、にやにやしながら近づいてくる愛ちゃん。
私は、両方のほっぺたに、バレーボールをぐりぐりされた。
「だー、やめろー」
「うわ」
私は、バレーボールをヘディングみたいな感じで押し返す。
それがうまい具合に愛ちゃんの頭に当たった。
そんなところで、お昼休みが終わるチャイムが鳴った。
- 338 名前:Assy 投稿日:2004/05/18(火) 22:39
- 久しぶりに覗くと大量の更新が…(・o・)
いいですね、昼休みのほのぼのとしたひととき。
二つのお話両方とも、段々卒業シーズンに向かってますね。
続き楽しみにしてます。
- 339 名前:作者 投稿日:2004/05/23(日) 22:08
- >Assyさん
ホントは世の中の卒業シーズンに合わせようとしてたなんて言えない・・・。
今後もよろしくお願いします。
- 340 名前:第九話 投稿日:2004/05/23(日) 22:09
- それから、私と愛ちゃんは放課後、学校で勉強するようになった。
のんちゃんの部活が終わるのを待って三人で帰る。
冬だから、帰る時間にはもう暗くて、積もった雪の中を歩くのは一人だとなんだか寂しい。
だけど、三人いるから全然平気。
二学期までとちょっとづつ変化してるけど、でも、ちょっと変化したその暮らしが、すぐに
私達の日常に馴染んでくる。
そんな風にして時間は過ぎて行った。
- 341 名前:第九話 投稿日:2004/05/23(日) 22:10
- 一月の終わりに卒業テストがあった。
卒業テストと言っても、出来ないと卒業出来ませんってことはない。
受験があるから、期末テストが出来ないのでその代わりみたいなものらしい。
その結果を持って、最後の面接があった。
ホントの確認の確認のための面接。
私も、特に進路について話すことはなかった。
だけど、普段と違って一対一でテストを返されるのはなんとなく緊張する。
- 342 名前:第九話 投稿日:2004/05/23(日) 22:11
- 「小川って、英語苦手だよな。あとは、まあ、満遍なくって感じなのに」
「なんかダメなんですよー」
「数学は出来るんだけどな」
「数学はー、あの、考えて解く感じが好きなんですよ。でも、英語は、なんか、わかんな
いんですよー」
「なんかわかんないって、説明になってないだろ」
58点の英語の答案に向かって、ちょっとやつあたりしてみる。
数学は85点まで行ったし、理科も80点越えてるんだけど。
これって、高校で言ったら理系ってやつになるのかなあ?
成績で言えば、小説書くタイプの成績じゃないよなあ、とか思った。
- 343 名前:第九話 投稿日:2004/05/23(日) 22:12
- 「まあ、小川は、受験に関しては体調さえちゃんとしてれば大丈夫だから」
「そうは言っても、やっぱり不安はありますよー」
「試験会場にたどりついて右手が動かせさえすれば、あとはどんな状態でも受かるよ。そ
れは心配ない」
喜んで良いところなのだろうけど、冷たくあしらわれてるだけみたいな気がして、なんだ
かなって思う。
結局、受験の話し自体はこれだけで終わってしまった。
- 344 名前:第九話 投稿日:2004/05/23(日) 22:12
- 「あとちょっとで卒業だな」
「そうですねー」
「まだ終わったわけじゃないけど、どうだ? 振り返ってみて」
振り返ってみて、どうだったのだろう。
いろいろなことがあった。
いろんなことがありすぎて、なんだか分からない。
分からないけど、これだけは言えた。
- 345 名前:第九話 投稿日:2004/05/23(日) 22:13
- 「楽しかったかな」
「そうか」
卒業したらどうこう。
もうすぐ卒業だからあーだーこーだ。
最近そんな話題が多い。
ちょっと寂しいかも。
先生は、進路の話しとあんまり関係無い雑談ばかりしていた。
それで、私は気になっていたことを聞いてみた。
- 346 名前:第九話 投稿日:2004/05/23(日) 22:13
- 小説をまた書こうとし始めてから気になってたんだ。
自分の文章ってのが、どんな風に評価されるのかって。
コンクールなんてのに参加するの生まれて初めてだったし。
「あー、あれなー。結果送られてきたけど、ダメだったみたいだぞ」
がっくし・・・。
そんなに期待してたわけじゃないけど、やっぱり、ちょっと残念だった。
やっぱり文才無いのかな。
- 347 名前:第九話 投稿日:2004/05/23(日) 22:14
- 「ちゃんと推敲とかしてないやつ出しちゃったしな。あんまり気にするな」
まあ、九月一日の朝までかかって無理やり仕上げたただの宿題だし、仕方ないか。
「そろそろ、次呼んでくれるか? あー、もう、後何人いたっけ・・・」
先生大変そうだなー、なんてのん気に思いつつ、指導室を出た。
- 348 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/25(火) 14:58
- 更新乙です!
マコの小説どんな展開になっていくか楽しみです
- 349 名前:作者 投稿日:2004/05/28(金) 23:11
- >348
小説は、実は、(ry
- 350 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:11
- 教室に戻って次の子にバトンタッチ。
席に座ると、私は机からノートを二冊と英語の問題集を取り出す。
小説のノートと問題集用のノート。
二冊並べて、ため息をつく。
とりあえず小説用のノートを開いた。
ちょこちょこ書いては、バツが引いてあるページだらけ。
どうしよう。
全然書ける気がしない。
というか、書く気がしない。
机の上のノートに額を乗せて、またため息をついた。
- 351 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:12
- 「まことー、面接どうだった?」
呼ばれて顔を上げる。
目の前の椅子に愛ちゃんが座っていた。
椅子の背もたれに乗せた顔が、目の前にある。
「大丈夫なんじゃないって」
「そっか」
平和に笑っている愛ちゃん。
なんか、よくわからないけど、目の前に顔があるからでこぴんしてみた。
- 352 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:12
- 「いったーい。何するんよ」
怒っている愛ちゃんを無視して、また私は机にへたりこむ。
愛ちゃんは、そんな私のつむじを指でぐりぐり押していた。
それでも無視していると、髪の一部をつかんで何やらやっている。
引っ張られる感触では、三つ編みにしようとしているみたい。
私は、顔を上げた。
「あー、いいとこだったのに」
「散歩してくる」
「私も行く」
「一人で行かせて」
立ち上がって言うと、愛ちゃんはぽかんと私を見ていた。
- 353 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:13
- そんな愛ちゃんを置いて、私は廊下に出る。
ぼんやりと廊下を歩いて階段を上った。
合唱部の歌声が聞こえてくる。
きれいなハーモニー、じゃなくて、各パート練の入り混じった声。
愛ちゃんが抜けたらどうなるかと思っていたけれど、それなりにちゃんと活動はしている
みたいだ。
ちょっとよっていこうかな、と思わなくもないけれど、邪魔しちゃ悪いし素通りする。
- 354 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:13
- 視聴覚室があって、理科室があって、家庭科室があって。
ぶらぶら歩いて階段を下りる。
外の渡り廊下を通って体育館へ。
コートを着ずに外へ出ると風がすごく冷たい。
体育館の中からはボールが床を叩く音が聞こえてくる。
私は、扉を開けて中に入った。
バレー部の子達が練習をしている。
私は、邪魔にならないように、はしっこの壁によりかかって座る。
ボールが床を跳ねる音が体育館に響く。
アタックがきれいに決まるたびに部員達の声が出ていた。
- 355 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:13
- のんちゃんが声を掛けて集合させる。
キャプテンっていうんじゃなくて、コーチって感じ。
たぶん、そういう役周りなんだろう。
今度は、二チームに別れて試合形式っぽい練習が始まった。
一本決まるごとに、決めた側から歓声が上がっている。
みんな、楽しそうだった。
時折ゲームをとめて、のんちゃんがあれこれ指示をしている。
うらやましいなあ。
見ていてそんなことを思ってしまう。
小説、書いてても楽しくないんだよな。
ぼんやり見ていたら、一試合終わったらしい。
台から降りたのんちゃんは、なぜか私の方に歩み寄ってきた。
- 356 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:14
- 「まこっちゃんもやらない?」
「へ?」
「やろうよ。着替えておいでよ」
「無理。無理。絶対無理」
首をブンブンと横にふる。
だけど、コートの一二年生からも、麻琴先輩もやろうよーと声が飛んで来る。
なんだか断われない雰囲気になっていて、私は気づけば着替えてコートに立たされていた。
- 357 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:14
- 「部員と一緒になんて無理だよー」
「いいから。じゃあ、のんもまこっちゃんの方入ろう。よーし、やるぞー」
アタックなんかは絶対無理だからって、リベロとかいうポジションにさせられた。
レシーブだけの役目らしい。
それって、面白くないんじゃ・・・。
とりあえず、のんにボール上げてね、とか言われたけど、無理、絶対無理。
そんな、私の戸惑いを無視してゲームは始まった。
- 358 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:15
- いきなりサーブが私をめがけて飛んで来る。
きれいにのんちゃんへ、なんていくわけもなく、ボールはどこかへ飛んで行く・・・。
「しっかりしろよー」
「無茶言わないでよー」
私の不満は相手にされず、すぐに次のサーブが飛んでくる。
今度は、ちゃんとレシーブが上がった。
狙い通りの所には帰らないけれど、のんちゃんがフォローしてくれる。
のんちゃんのトスを、一年生の子がアタックして、きれいに決めた。
「ナイスレシーブ」
「いや、どうもどうも」
みんなとハイタッチしてみる。
でも、よく考えたら、私は決めたわけじゃなくて、レシーブ拾っただけだけど。
まあ気にしない。
- 359 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:15
- それから、点を取ったり取られたり。
私も、時折はきれいにレシーブを上げることもある。
全部うまくいったわけじゃないけど、なんだか楽しくバレーボールをしていた。
ゲームは、結局相手側のチームの勝ち。
周りの雰囲気的には、相手側がレギュラーチームらしかったから、負けたのは私のせい
じゃない、たぶん。
「それじゃ、メンバーちょっと変えてもう一ゲーム行こう」
「あ、私、これで抜けるよ」
「えー、まこっちゃんつめたーい。最後まで付き合えよー」
「そうだー」
のんちゃん、だけじゃなくて一二年生の子まで抗議の声を上げる。
だけど、私の体力がついて行かない。
なんとかお許し願って、私は体育館を抜け出した。
- 360 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:16
- 更衣室で着替える。
大分陽が落ちていて、外は少し暗くなってきている。
外に出て息をはいたら白かった。
ぼんやりと歩きながら校舎へ。
みんな楽しそうだったなー、とバレー部を思い出す。
楽しいから、ちょっときつくても頑張れるんだろうな。
バレーをしているのんちゃんは、いつも笑顔な気がする。
勝ってうれしいとか、負けてくやしいとか、そんな話しをしている時も、笑顔な気がする。
そういえば、宝塚の話しをする愛ちゃんも、だいたいはそうだった。
受験できないってときは泣いていたけれど、そうじゃない時、宝塚の話しをしている時の
愛ちゃんは、幸せそうだった。
- 361 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:16
- 夢って、そういうところから見つけるものなのかもしれないなあ。
夢、目標、頑張ること。
楽しいこと。
やりたくてしかたないこと。
夢。
愛ちゃんにあってのんちゃんにあって、私にはないもの。
- 362 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:17
- 無理をして小説を書こうとしているけれど、私にとって小説は、楽しいことでも、やりた
くてしかたのないものでもない。
小説の話しをするのも、別に楽しいってわけじゃないし。
どちからというと、ゆううつな感じ。
宿題かかえちゃったなあみたいな。
- 363 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:17
- 二階に上がって、窓の外の雪のグラウンドを眺める。
小説、やめよう。
書けない、と思った。
書きたいことが無いんだもん。
書けないよ。
書けない。
無理に書いてもしかたない。
- 364 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:17
- のんちゃんや愛ちゃんが、正直うらやましいと思う。
夢、欲しいなって思う。
だけど、無理してもしょうがない。
今は、ただ、みんなと楽しく暮らそう。
夢は無いけど、ゆっくり探せばいいや。
そう、思うことにした。
ただしいのかどうかは分からないけれど、そう、思うことにした。
- 365 名前:第九話 投稿日:2004/05/28(金) 23:18
- 私は一人、窓の外を眺めながら廊下で何度か小さくうなづいた。
そして、大きくため息をはく。
その息で、窓が曇った。
音楽室からは合唱部の歌声が聞こえてくる。
最後の全体練習なのだろう、ハーモニーが出来ていて心地よかった。
- 366 名前:第九話 静かな日々 終わり 投稿日:2004/05/28(金) 23:20
- 階段を下りて教室へ戻る。
扉を開けると、愛ちゃんがこっちを向いた。
「遅かったねえ」
「ちょっとね」
あいまいに言葉を濁しておく。
愛ちゃんは、ノートをしまいはじめた。
「のんちゃんとこよって帰ろうっか」
「そうだね。そんな時間だね、もう」
私も、机に置いてあるノートとテキストをしまう。
小説ノートは、これで封印。
受験生だし、勉強しなくちゃ。
荷物をまとめた私達は、体育館へと向かう。
半歩前を歩く愛ちゃんを見ながら、こんな暮らしも、後一ヵ月半で終わるんだなあ、
と思った。
なんだか寂しいな、と思った。
- 367 名前:Assy 投稿日:2004/05/30(日) 17:04
- ついに最終話ですか…なんだか寂しいですねぇ。
どんな風になるか楽しみです。
- 368 名前:作者 投稿日:2004/06/04(金) 23:29
- >Assyさん
はい、最終話です。
あと四、五回ってとこでしょうか。
というわけで、最終話に入ります。
別に、今後の展開がどうのこうのという話しじゃないのですが、気分出すために、作者は今後発言を控えます。
もう一個今書いてる方をそういう風にしたので、なんとなくあわせたかったので。
作者は書き込みしませんが、読者さんは自由に書きこんでください。
- 369 名前:最終話 卒業 投稿日:2004/06/04(金) 23:30
- 残りの時間はあっという間に過ぎ去っていく。
三学期は、ありえないほどに短い。
三年生は受験があるからなおさらだった。
その受験もあっという間に終わる。
受験当日はさすがにちょっとドキドキしたけれど、でも、大丈夫ってずっと言われていた
から、やっぱりどこか余裕があった。
- 370 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:31
- 合格発表の日。
私達は、みんなでそろって高校まで見に行く。
発表に関係ないのんちゃんだけは学校でお留守番だった。
- 371 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:31
- 試験はまあまあ出来たような気がする。
過去問に載っていた合格最低点なんかは、多分楽に越えているはずだ。
そう思っていても、やっぱりなんかドキドキしてしまう。
それは、愛ちゃんもおなじみたいだった。
「大丈夫やろか?」
愛ちゃんが不安そうな声を漏らす。
歩いて行けば、すぐ先に受験番号が張られた掲示板がある。
それを遠くに見つめたまま立ち止まった。
- 372 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:31
- 「大丈夫だよ」
繋いだ手をぎゅっと握った。
私は愛ちゃんを見る。
愛ちゃんも私を見る。
掲示板の前では、歓声が上がっていた。
「行こう」
愛ちゃんは小さくうなづいた。
- 373 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:32
- 春一番の風がふくロータリーを歩く。
白い掲示板の前には、うちの学校の子達。
発表はもう大分前から張られていたみたいで、他の人はほとんどいなかった。
元気に騒いでいるところを見ると、みんな受かっているみたいだ。
私も、自分の番号を探す。
手元の受験票、掲示板、交互に見ながら。
自分の番号より、三十番近く前から探してしまう。
たどって行くと、私の番号もしっかりと見つかった。
- 374 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:33
- 「あったー!」
隣で愛ちゃんも声を上げている。
愛ちゃんの方を見ると、にっこり笑って抱きついてきた。
「高校でも一緒だよー」
そう言って、私の肩に額を乗せてくるから、私は愛ちゃんの頭をなでて上げる。
しばらくして顔を上げた愛ちゃんは、目に涙を浮かべていた。
「何泣いてるんだよー。オーバーだなー」
「だってー」
涙声が混ざった愛ちゃん。
目と目が合って、また笑った。
- 375 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:33
- 私達は建物の中に入って、事務室に向かう。
そこで、受験票と引き換えに入学手続きの案内をもらった。
結構厚い封筒。
中には、合格通知書や誓約書、なんかもある。
それに、学校案内や寮の案内も入ってた。
「ホントに高校生になるんだね」
隣で、封筒を見つめながら愛ちゃんがつぶやく。
私にも、何となく実感がなかった。
- 376 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:33
- 封筒を抱えて外に出る。
グラウンドでは、何年生か分からないけれど体育の授業をやっている。
校舎を見上げると、校章がかかっていた。
私達が、三年間過ごすことになる高校。
そんな気持ちで、ちょっと浸っていたいのに、強い風が私達をうちつける。
乱れた髪を右手でかきあげながら、愛ちゃんが左手で私にしがみついてきた。
「ずっと一緒だよ」
愛ちゃんがそう言うから、私も愛ちゃんの方を見る。
- 377 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:34
- 「ずーっとずーっと一緒だよ」
愛ちゃんの目が、うなづけ、って言ってるから、私はにっこり笑ってうなづいてみた。
そしたら、愛ちゃんが笑って言った。
「まことだいすきー」
「うわぁ、ちょっとー」
愛ちゃんは、まるでタックルのように横から抱きついて来る。
それで、よろけながら、私は、愛ちゃんの頭をぽこすか叩いた。
- 378 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/05(土) 20:41
- 更新乙です!
もうすぐ終わっちゃうんですか・・・寂しいですね
- 379 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/05(土) 23:45
- 更新おつかれです。
高校生編もできれば見てみたいです。
- 380 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/11(金) 13:01
- 〉〉379同感です
- 381 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:50
- 前田先生が待つ校門のとこにみんな集まる。
元々難しい学校じゃ無いから、みんな合格してる。
暗い顔は一つもなかった。
ここにいるみんなが、また一緒に同じ高校へ行く。
村からは離れるけれど。
のんちゃんだけはいないけれど。
- 382 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:51
- みんなで帰る。
村まで帰る。
お母さんが作ってくれたお弁当を食べながら、電車に揺られて村へ帰る。
みんな受かっていたからみんなご機嫌でみんな元気で。
途中で乗り換えもして、村まで帰る。
遠かった。
すごく遠かった。
みんな、ほっとしたのかはしゃぎ疲れたのか眠っている。
愛ちゃんも眠っている。
私一人、目が冴えていて、窓の外の景色を見つめていた。
- 383 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:51
- 村まではなかなかつかない。
高校に行ったら、この距離が家に帰るまでの距離になる。
本当に遠い。
私は、結局中学にいる間に、夢みたいなものは見つけられなかった。
小説は、あまりその気になれなくって挫折。
元々、自分で書きたいって思って始めたものじゃなかったし。
高校では、どんな暮らしになるのだろう。
夢とか、そういうの見つかるのかなあ?
わからない。
のんちゃんにおいていかれて、愛ちゃんにもおいていかれて、みんなにおいて行かれて。
いつか独りぼっちになっちゃうのかなあ。
みんなが眠っている電車の中で、一人起きている私は、なぜだかすごく不安な気分になっていた。
- 384 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:52
- 「なんだ、静かになったと思ったらみんな寝てるんだ。小川だけ? 起きてるの」
「はい」
車掌さんが入ってきた。
小さな小さな車掌さん。
私達の誰よりも小さな車掌さん。
「みんな受かったんだな」
「はい」
「そっか。しかし、よく寝てるなあ。小川だけ寝そびれたの?」
「いや、まあ、なんとなく」
「せっかく高校受かったってのに、なんか辛気臭い顔してるなあ」
「そんなことないですよー!」
座っている私と、あまり変らない位置に目線のある車掌さんに、ちょっとむきになって答え
てしまう。
車掌さんは、そんな私の頭を、背伸びをしてなでた。
- 385 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:52
- 「一人でつまらないだろ。車掌室来てみるか?」
「いいんですか?」
「ん? うーん。合格祝いに見せてやるよ。車掌室からの景色。後ろ側だけだけど」
私は、車掌さんに連れられて車掌室に入って行った。
「結構いい眺めだろ」
雪がまだ残っている山や畑の間を電車が抜けて行く。
山の間を抜けたあと、どんどん視界が広がって行く感じが、なんだかよかった。
- 386 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:53
- 「こんな眺め見ながらいつも仕事してるんですか?」
「まあな。役得役得」
車掌さんが胸を張っている。
この人いつも楽しそうだなあ、なんて思う。
「車掌さんって、小さいころから、っていうか、子供のころから車掌さんになりたかった
んですか?」
「小さいを言いなおすのはどんな意味だよぅ」
「いや、別に、深い意味じゃないですよー」
妙なところで絡まれたけど、浅い意味くらいはあったからちょっとあせる。
車掌さんは、それでも私の質問には答えてくれた。
- 387 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:53
- 「別に車掌になりたいってわけじゃなかったけどさあ。本当は東京とか行っておしゃれし
てさあ、合コンとかして、彼氏作って、楽しく暮らすはずだったんだけどなあ」
なんだか遠い目。
合コンとか、ちょっとしてみたいかも。
ちょっと。
こわいけど。
- 388 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:54
- 「結局地元が好きだったんだろうな。こっちでのんびり働くか、って思って、正直なんと
なくだったんだよ。世の中の鉄道少年には悪いけど。それで、やってみたら結構楽しくてさ。
いろんな人がいるのな。買い物に行くおばあちゃんとか、高校に通う子達とか、小川みたい
に、塾通いで使う子もいれば、夏なんかは、都会から旅行で来たり、こっちの生まれの人が
帰ってきたり」
なんとなく、か。
そんなものなのかな?
前田先生が、小説書いてみろって言ったのも、そういうことなのかなあ?
- 389 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:54
- 「小川は、なんかなりたいものとかあるの?」
「あんまり、なんか、うん」
「そっか。見つかるといいな、高校で」
「はい」
電車は進んで行く。
いくつかのトンネルを越えて、私達の村へ。
本当は、駅からも村は遠いのだけど。
- 390 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:55
- 「まあ。高校行って、寂しくなってママのおっぱい吸いたくなったら、私がちゃんと運んで
やるから安心しろ」
「そんな、そんなこと言うわけないじゃないですかー」
文句を言う私の顔を見て、車掌さんは、高らかと笑っていた。
「そろそろ駅に着くから、席戻ってくれるか? 私もちょっとは仕事しないとな」
「あ、すいません」
「あと、あんまり言うなよ、車掌室入れてもらったとかって。本当はいけないことだから。
ばれたら私、首になっちゃうから」
「えー、そうなんですかー!」
「大声出すなって。ほら、帰った帰った」
車掌室のドアが開けられて、私は追い出されてしまった。
「合格お目でとな」
「ありがとうございます」
私は、みんなの元へと戻った。
- 391 名前:最終話 投稿日:2004/06/11(金) 22:56
- みんなはまだ眠っている。
電車はどこかの駅に着いた。
何人かのホームで待っていた人達が乗りこんでくる。
二つある車両の私達のいる側は、ちょっと覗き込むだけで誰も入って来ない。
起きている人がいないから、なんだかまったりした空気が流れていた。
暖房が利いた車両は、電車の揺れる音だけが聞こえている。
村は、まだ遠い。
みんなに囲まれたのんびりした雰囲気の中で、私も眠ることにした。
- 392 名前:Assy 投稿日:2004/06/12(土) 13:17
- 夢…今思うとなんだったんだろと思いますね…。
- 393 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/12(土) 19:10
- 相変わらず、いい味だしてますね
皆さんと同じで、自分も残り僅かだと思うと寂しいです
- 394 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/12(土) 21:34
- あぁ・・・なんか昔を思い出しましたよ・・・
寂しくなりますね・・
- 395 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:44
- 気持ち良く眠っていた私の肩を、誰かが揺さぶる。
目を開けると、となりで愛ちゃんが笑っていた。
「もう着くよ、まこと」
「ん? うーん」
「もう、よだれたらしてー」
顔を拭うと、あごのあたりがべとっとしていた。
・・・。
なんだかなあ・・・。
- 396 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:44
- 電車が駅に着く。
前田先生に従って、私達はホームに降りた。
車掌さんが、体を半分外に出して、私達に手を振ってくれている。
私達もみんなで振り返す。
電車は、ゆっくりと駅を出ていった。
- 397 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:45
- 駅からは、役場が用意してくれたバスで学校に帰る。
行って帰ってくるだけで、半日がかり。
何度も思う。
遠いなあ。
あまりの遠さにつかれている私達は、バスの中でも、また眠った。
- 398 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:45
- 夕方近い時間。
いつもなら帰りの学活をしているような時間に、やっと学校まで帰りついた。
ばらばらと校舎に入って行く。
教室の中では、一人お留守番をしていたのんちゃんが、窓際にぼんやりと座っていた。
「おかえりー」
「ただいまー」
のんちゃんの正面の机に座る。
頬杖をついて、のんちゃんは私の方を見上げた。
- 399 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:45
- 「疲れてるね」
「遠かったからねー」
「受かったんだ?」
「うん。みんなね」
「そっか、おめでと」
あっさりとしたもの。
ドキドキするような受験を、ちょっとしてみたかったな。
なんて、受かってしまったから言えること。
疲れきって、テンション下がってて、目線も下に落ちる。
のんちゃんの机を見ると、レポート用紙になにやら書かれていた。
- 400 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:48
- 「なに、それ?」
「なんでもない」
私が聞くと、のんちゃんはあわててレポート用紙をしまう。
なんだろう? ってちょっと考えてすぐに思いあたった。
「答辞だ! 答辞でしょ!」
「違う、違うから」
「絶対答辞だよ。そうじゃなきゃ、のんちゃん、文章なんか書かないもん」
「そんなことないよー」
のんちゃんは、卒業式で答辞を読むことになっていた。
答辞って、普通は勉強が一番の人が読むらしいけど、のんちゃんはが選ばれたのは、もち
ろんそんな理由じゃない。
受験しないで暇でしょー、とかいう、けっこうひどい理由。
でも、それだけじゃなくて、みんなの人気者だし、スポーツ頑張ったし、卒業生の代表に
なるには、なんとなくふさわしい気がした。
- 401 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:48
- 「やめろよー」
レポート用紙を取ろうとする私にのんちゃんが抵抗する。
私も、本気になって奪おうとか思ってるわけじゃないし、そんなにテンション高くもない。
すぐにあきらめて手を離し、のんちゃんの顔を見ると、のんちゃんは言った。
「絶対当日まで誰にも見せないもん」
「やっぱり答辞なんじゃんかー」
「いいだろー、別に。もう、大変なんだぞー」
そりゃあ、たいへんだろう。
みんなの前で、それも、学校の子だけじゃなくて、お母さんとか、村の人とか、村長さん
まで来る卒業式で読むんだから。
- 402 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:49
- 「あー、愛ちゃんもおかえりー」
「うん」
暗い顔した愛ちゃんが、私達の方へやってきた。
「愛ちゃんも疲れたの?」
「うん」
うん、しか答えない。
どうしたんだろう?
「どうしたの?」
「うん。あのね・・・」
のんちゃんの問い掛けに、愛ちゃんは口ごもりながら答えた。
- 403 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:50
- 「あのね、落ちちゃった、高校」
私とのんちゃんは顔を見合わせる。
それから、愛ちゃんの方を向きなおした。
「みんな受かったのに、私だけ落ちちゃった」
のんちゃんが、私の方を見て、それから笑い出した。
「愛ちゃん、私のことだまそうとしてるの? おかしいって。そんな、みんな受かったっ
てもう聞いてるもん。だますならもっと頭使おうよ頭」
そう言って、自分の頭を指差すのんちゃん。
愛ちゃんは、驚いてさるがおになってのんちゃんを見ていた。
- 404 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:50
- 「もう、まことのばかぁ。なんで先に言っちゃうんだよー」
「なんでって、帰って来たら最初に報告するよ普通」
「知らないよそんなの」
「いや、知らないよじゃないから。のんちゃんだますなら、帰ってくる前に相談すれば良
かったのに」
勝手に一人で愛ちゃんが怒っている。
なんだか妙にハイテンションで、今度は後輩をだましてくると合唱部に行ってしまった。
無理だと思うけどなあ・・・。
私は、のんちゃんとそんな愛ちゃんを見送る。
- 405 名前:最終話 投稿日:2004/06/19(土) 22:50
- 受験も終わって一安心。
みんなの進路も決まった。
私達の村にも、春が近づいて来ている。
あとは、もう、卒業式を待つばかりになっていた。
- 406 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/06/20(日) 20:06
- 更新乙です。
辻の・・・どんな内容になるのやら!
楽しみです。だんだんと終わりが近づいてくるのはやはり切ないですね。
次回も楽しみに待ってます!レスも後何回できるんだろう・・
- 407 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:36
- 「卒業生答辞。卒業生代表、辻希美」
「はい」
のんちゃんが返事をして立ち上がった。
背筋をピンと伸ばして、壇上に上る。
制服の内側から紙を取り出しゆっくりと開いていく。
私達にも絶対見せてくれなかったのんちゃんの答辞。
何を話すのだろう。
のんちゃんは、答辞を読み出した。
「答辞」
一言だけ言って止まる。
のんちゃんは、大きく息を吸ってから本文を読み出した。
- 408 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:36
- 「冬の厳しい寒さも和らぎ、心なしか、春の温かさも感じられるようになりました。答辞
というのはこんな風に書き始めて進めて行くと本で読みました。だけど、それはなんとなく
私には難しいし、この卒業式には似合わないような気がするのでやめます。私の、自分の言
葉で話したいと思います。
- 409 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:37
- 私達は、みんな、この村で生まれ、この村で育ち、今日の卒業式を向かえました。私達に
とって中学校を卒業すると言うのは村から卒業するということです。来月には、もう、みん
な、高校の寮に入り姫牧の村を離れます。そして、私は、そんなみんなとも離れて一人ぼっ
ちで高校へ行きます。
正直言って怖いです。ずっと村にいたい。村で暮らしたい。私は、姫牧の村が好きです。
いままで、小さなころから、いろいろなことがありました。みんなとけんかもいっぱい
した。畑のきゅうりを盗んで怒られたりもした。山で遭難して大騒ぎを起こしたこともあ
ります。
- 410 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:38
- 学校でもいろんなことをしていろんなことがありました。バレー部は勝ったり負けたりで
あんまり強くはなかったけれど、私は楽しく出来ました。授業は、勉強は嫌いだし、出来ま
せんでした。テストのたびに叱られていた気がします。修学旅行では行ってはいけないとこ
ろへ行って分厚い反省分を書かされたり。怒られた記憶がたくさんあります。
私は、そんなことを全部入れて、この学校が好きでした。この村が好きでした。みんなが
好きでした。
ここにいる友達は、やっぱりみんな小さいころから一緒で、仲が良くて、でも時々けんか
して、そんな友達です。どれだけけんかをしても、私達は、すぐに仲直りをして、今日まで
一緒に暮らしてきました。
そういうのが、全部終わるんです。一人だけ、違う高校に行く私は、みんなと会うことも
ほとんどなくなります。十五年間、村の中にずっといて、村の外で暮らしたことなんかない
私が、村の外へ出て、友達のいない場所へ行って、お父さんもお母さんもいな場所へ行って
暮らすことを決めました。
- 411 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:39
- 一人ぼっちになる自分は、何が出来るだろう。本当に大丈夫なのだろうか? 不安が一杯
です。私と違って、他のみんなは同じ高校に行くけれど、それでもやっぱり不安だと思いま
す。
高校に行き、その先どうなるかなんて遠いことは分かりません。だけど、きっと何人かは
この村に帰ってきて、何人かは、どこかの大学へ行き、何人かは、どこかで就職して行く。
東京に行く人も、大阪に行く人もいるかもしれない。きっと、ばらばらになって行きます。
だから、この十九人がこうやってそろうのは、今日が最後かもしれません。
- 412 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:39
- 姫牧の村は、何も無い小さな村だけど、私は、この村に生まれて、本当に良かったと思っ
ています。これから先、どうなって行くかは分からない。だけど、私は、どこへ行っても、
いつになっても、この村のこと、この学校のことを忘れずにいたいし、忘れられないと思い
ます。
私は、姫牧の村が好きです。この学校が好きです。みんなが好きです。
だから、ずっとみんなのことは忘れない。そして、みんなにも忘れないでいてほしいと思
います。
卒業生代表 辻希美 」
- 413 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:39
- 読み終わったのんちゃんは、答辞をたたんで、制服の内ポケットにしまう。
周りは、泣いていた。
期待があって、不安があって、高校へ行く。
今までの暮らしはもう終わる。
周りがみんな泣いていた。
私も、鼻をすする。
のんちゃんは、きりっとした顔をして壇上から降りてくる。
席まで戻ってきたところで、私達は着席した。
- 414 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:40
- 「全校合唱、ひとつの朝。卒業生、在校生起立」
先生の号令でみんな立ち上がる。
卒業式ではいくつか歌を歌う。
校歌とか、仰げば尊しだけじゃなくて、他にも歌う。
その選曲は、卒業する合唱部の部長がする伝統があった。
今年は愛ちゃんが選んでいる。
ひとつの朝。
最後の合唱コンクールで歌った曲。
卒業式にも、確かに似合うこの曲を歌う。
- 415 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:40
- 歌いながら、いろいろなことを思い出した。
曲が曲だから、合唱部での一ヶ月のことが一番思い出す。
よくとおる愛ちゃんの声が後ろから聞こえる。
少し涙が混ざってるけどきれいな声。
私も、同じような感じだけど、最後だから大きな声で歌う。
思い出す景色には、いつも愛ちゃんやのんちゃんがいた。
いつもみんながいた。
箱舟に乗って、今日飛び立つ私達。
体育館を包むハーモニーが心地よかった。
- 416 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:40
- 一曲歌って、涙が引いていく。
最後に仰げば尊しが入って、そして、閉会の言葉で卒業式が終わった。
拍手に送られて退場する。
本当に卒業するんだなあ・・・。
一二年生がいる。
先生がいる。
お母さんも来ていた。
村の人もたくさんいる。
私達の卒業式。
体育館から外に出ると、陽の光がとても眩しかった。
- 417 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:41
- 卒業式も終わり、最後の学活。
前田先生の泣きながらの挨拶を聞く。
ちょっとたまに怖いけど、いい先生だったなって思う。
卒業アルバムを配られた。
入学したての頃の写真とかもある。
誰だろうこの人、と自分の顔を見て思ったり・・・。
三年の間に、ずいぶん変わったんだなあ、私も。
のんちゃんや私は、ページをめくるたびに、体重の増減が見えて、笑えるような哀しいような。
それぞれが、卒業アルバムを見ながら笑っている教室の真ん中で、前田先生が言った。
- 418 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:41
- 「よし、ずっとこうししてもしかたない。解散にしましょうか」
みんな、顔を上げて先生の方を見る。
先生は、涙を拭いてもうすっきりとした顔をしている。
「なんかあったら、また帰って来ていいからな。私は、多分、一生この学校にいるだろう
からさ」
「先生、お嫁にいけないのー?」
「うっさい。あんたは、最後までそうやって・・・」
突込みを入れたのんちゃんに、前田先生は笑いながら答えようとしたんだけど、ちょっと
詰まって鼻をすすった。
しばらく間が開いてから、顔を上げる。
- 419 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:42
- 「ああ、年とると涙腺弱くなってだめだなあ。まあ、ともかく、正月とか、お盆とか、
村に帰ってこいよな。それじゃ、最後の挨拶しよう」
「起立!」
学級委員の合図。
全員立ち上がる。
「さようなら」
帰りの挨拶。
いつもと同じように、挨拶をして、最後の学活も終わった。
- 420 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:42
- なんとなく私は席に座る。
力が抜けた。
真ん中の列の一番後ろ。
みんながよく見える席。
- 421 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:42
- 中学生のうちに、夢、みたいなものは結局見つからなかった。
それで、結構悩んだりもしたのかな?
悩むってほどでもなかったかもしれないけど。
のんちゃんや愛ちゃんを見て、ちょっとあせってた。
小説なんか無理に書いてみようとしてたし。
でも、結局見つからなかった。
高校行ったらみつかるのかな?
どうだろう?
やっぱりわからない。
わからないけど、ゆっくり探してみようと思う。
楽しく出来ること。
ゆっくりと。
- 422 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:43
- 「まこっちゃん、なんか書いてよ」
のんちゃんが、卒業アルバムを抱えてやって来る。
「あの答辞、一人で考えて書いたの? 先生とかには見せずに」
「えー、うーん。前田先生には見せろ! って言われたけど、見せなかったよ」
アルバムの終わりの方の白紙ページ。
ちょっと考えて、バレーボール頑張れ、と書いた。
「みんな、そればっかだよ。さびしい、とか、いかないでー、とか無いのかよ!」
「いかないでー」
「きもい」
抱きついてみたら、厳しい一言・・・。
真顔で言われて、ちょっと傷ついたり・・・。
- 423 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:43
- 「のんせんぱーい」
入り口のドアから一二年生がのぞく。
声を掛けられたのんちゃんは、後輩の元へと向かった。
他のみんなは、なんとなく帰らないで教室にいるけど、お別れという感じはお互いにはない。
同じ高校行くし。
それよりも、学校とお別れ、って感じの方が強かった。
- 424 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:43
- 「愛せんぱーい」
合唱部の子がやってくる。
部活っていいなあ。
私も、高校行ったら絶対やろう。
合唱部か演劇部か、でも、運動系もいいかもしれないし、どうしようかなー。
「麻琴先輩もー」
「わたし?」
ドアのところから呼ばれる。
愛ちゃんも私の方へ手を振っていた。
- 425 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:43
- 私達は、一二年生に連れられて音楽室へ。
みんなはともかく、一ヶ月だけ合唱部の私もいれてもらっていいのかな?
そんなことを思うけど、周りはあんまり気にしてないみたい。
一二年生が、若い翼は、を歌ってくれた。
あれだけ嫌がっていたさゆみも、しっかりメンバーに入っている。
歌ってるのかどうかは、はっきりしないけど。
それから花束と寄せ書きの色紙をもらう。
愛ちゃんを囲んで輪ができた。
私の方に来るのは、輪に入りきれなかった子かな?
なんて、ちょっと思ったり。
- 426 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:44
- 「麻琴先輩も、たまには来てね」
「さゆみは、合唱部続けるんだ」
愛ちゃんを囲む輪から外れて、私の前に立つのはさゆみ。
さゆみは、にこにこと微笑んでいた。
「うん」
「そっか」
なんで? って聞こうと思ったけどやめた。
続けてくれるなら、それでいいやって気になった。
- 427 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:44
- 後輩達に解放された愛ちゃんと連れ立って教室に戻る。
教室には、まだ何人か残っている。
のんちゃんは、窓際にバレーボールを持って座っていた。
「ボールどうしたの?」
「もらった」
「もらった?」
「うん」
白のバレーボールに部員達の寄せ書き。
のんちゃんは、そのボールをしっかり持って見つめている。
「持っていけって。こんなのもらっちゃったら帰ってこれないよねー、簡単には」
そう言って、ボールを投げ上げる。
落ちてきたボールをつかんで立ち上がった。
- 428 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:44
- 「帰ろう」
「うん」
三人でお互いの顔を見た。
三人とも笑顔だった。
- 429 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:45
- 下駄箱で靴を履き替える。
上履きも、持って帰るから袋にしまった。
玄関を出て校門に向かう。
急に愛ちゃんが立ち止まって校舎の方を見た。
「卒業だね」
「そうだね」
もう、生徒としてここに来ることはない。
さよなら、私の学校。
- 430 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:45
- 「ねえ」
愛ちゃんが振向く。
胸に花束と色紙を抱えて。
「一生のお願い。ずーっと友達でいようね」
ちょっと真顔の愛ちゃん。
私とのんちゃんは、顔を見合わせてから言った。
- 431 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:45
- 「とーぜん!」
「そだね。どこ行っても、ずっと」
どこに行っても。
離れてても。
ずっと、そうありたい。
- 432 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:45
- 愛ちゃんが笑顔になった。
「よーし、これで春休みだー。あそぶぞー」
のんちゃんが走り出す。
それを追いかけて愛ちゃんも。
卒業式が終わったから、高校に入るまでの、いつもより長い春休みが始まる。
- 433 名前:最終話 卒業 終わり 投稿日:2004/07/03(土) 00:46
- 「待ってよー」
私も、二人を追いかける。
まだちょっと寒いけど、春の近づく日。
私達は、まぶしい太陽に照らされて、姫牧中学の門を駆け抜けた。
- 434 名前:みんなの進路希望 終わり 投稿日:2004/07/03(土) 00:47
-
みんなの進路希望 終わり
- 435 名前:あとがき 投稿日:2004/07/03(土) 00:47
- とうとう卒業ですよ・・・。
シリーズの第四弾、みんなの進路希望。
ようやく終わりました。
ホントは三月には完結してるはずだった(笑)
何も起こらない平穏な田舎の世界。
口でそういうのは簡単ですが、何も起こらないのを書くのがこんなに大変だとは思いませんでした・・・。
まあ、プチ事件くらいは、田舎なりにいろいろおこってたみたいですけど。
- 436 名前:あとがき 投稿日:2004/07/03(土) 00:47
- シリーズが始まったのはもう二年以上前。
シリーズ内時間でも二年以上経過してとうとう中学を卒業しました。
こんなに続くと思わなかったなあ、最初に書いた時には。
最初からずっと追ってる人っているのかな?
まあ、それはともかく、その時その時読んでくれている読者さんがいることで、ここまで長いシリーズになって来ました。
本当に感謝したいと思います。
続編希望とか、完結前に言われちゃってましたが(笑)、しばらくは他のことを・・・。
全然別世界の、高校生がバスケをする話しを書こうとしています。
みんな身長低すぎて困ったりしてますが。
近いうちとはいかなそうですが、ちょっと遠い程度のうちにスレが立てられたらいいなと思っています。
ありがとうございました。
みや
- 437 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/07/03(土) 06:18
- みやさん
更新・脱稿、お疲れ様でした。
加護ちゃんの中学入学後、初めての夏休みからから始まったおはなしも、とうとう中学卒業。
仲間とともに悩みながらもそれぞれが成長し、それぞれの道へ進んでいく彼女たちを、父親のような気持ちで応援してしまいます。
新作も楽しみに待ってます!
ほんとうにお疲れ様でした&楽しい作品をありがとうございました。
PS:新作も保存させてください!
- 438 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/07/04(日) 18:39
- 完結お疲れ様です!!!
答辞の部分では思わず目頭が・・・・泣いちゃったよ・・
本当にご苦労様でした。毎回とても楽しみにしてました。
清々しさと切なさがとてもマッチングしていてとても感動しました。
新作もとてーーーーーも楽しみに待ってますので!
ほんとうによかったよ。作者さん
- 439 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/05(月) 17:11
- ののたんの答辞でうるっときた
自分は「冬休み」からリアルタイムで読んでたかな
林間学校の時は作者さんの「放置しちゃうかも」のレスにどきっとして
必死で「続きキボン」ってカキコしたの思い出したw
次回作も楽しみにしてます
- 440 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/05(月) 18:23
- 緑板と同時に読んでいたので
リンクしているところに感激しました。
完結お疲れ様でした。
- 441 名前:作者 投稿日:2004/07/20(火) 22:13
- >ななしのよっすぃ〜さん
新作でも何でも、サイトの容量があまっているようでしたらどうぞ。
って、両方で同じ答え返してますが(笑)
>438
ありがとうございます。
新作は、方向性も雰囲気も全然違う感じに(スポーツだし、三人称だし)なりますが、よろしければお付き合いください。
>439
放置しちゃうかも・・・ そういえばそんなこと実際に書き込んだこともありましたねえ・・・。
実際は、最近でもそういうことを考えることもあります(なんか、書き進まない時とか、レスが全然・・・ とか)
>440
ありがとうございます。
あっちとこっちと、それぞれに楽しんでいただけたでしょうか。
こっちの方はあんまり読んでる人いないのかなあ、と思っていたので、最後に感想が四つついて少しほっとし真下。
みなさん、ありがとうございました。
このスレは、まだ使います。 きっと、きっと・・・。
- 442 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/07/22(木) 19:38
- みやさん
>サイトの容量があまっているようでしたらどうぞ。
ありがとうございます。新作が始まり次第、保存させていただきたいと思います。
これからも、末永くよろしくお願いいたします。
- 443 名前:作者 投稿日:2004/08/13(金) 00:04
- >ななしのよっすぃ〜さん
こちらこそよろしくお願いします。
さて、バスケの話書く、なんて言ってましたが、その前にこの話のおまけができました。
タイトルは、“みんなの春休み”
頭使おうよ・・・と自分でも思うタイトルですが。
卒業後の春休みに、なんか遠くから同い年の子が来たから一緒に遊びました、っていうだけの話です。
それでよければお付き合いください。
一ヶ月程度の短期連載になると思います。
シリーズの第六弾! とかそんなもんじゃなくて、この話のおまけなので、4.5弾になるのかな?
真夏に春休みの話とか・・・。
- 444 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/13(金) 00:05
- 「まことー、なにやってんのよー! 電車来ちゃうでしょー」
「ごめん。ごめんって」
玄関から愛ちゃんが叫んでいた。
私は、あたふたと着替えを済ませて、ようやく出て行く。
- 445 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/13(金) 00:05
- 「もう! 一時に迎えに行くって言ったでしょー」
「ごめんって」
春休みに入って、ゆっくり起きてゆっくり過ごす生活が身についてた。
それで朝ご飯が遅くなって、そのせいでお昼ご飯も遅めになる。
そのお昼ご飯を食べてる真っ最中に、愛ちゃんが迎えに来た。
百パーセント私が悪い。
- 446 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/13(金) 00:06
- 「まこと、髪はねてる」
「うそ」
「早く直してきて」
今日は、遠くからお客さんが来る。
姫牧の村に都会から同い年の女の子が三人やって来る。
服と髪型はちゃんと整えて行かないといけない。
なのに、愛ちゃんがせかすから・・・、って今回は私がいけないんだけど。
- 447 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/13(金) 00:06
- 「はーやーくー!」
「ちょっと待ってー!」
鏡に向かって必死に髪をとかす。
水つけて、むりやり髪の毛に言うこと聞かせて。
なんとかさまになる。
「おまたせ」
「ほら、行くよまこと!」
愛ちゃんは、私の手を引いてワゴンに乗りこんだ。
- 448 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/13(金) 00:06
- それからワゴンはのんちゃんを回収する。
「遅い!」と当然怒られて、愛ちゃんは、まことが、まことが・・・、と延々繰り返す。
悪かったよー・・・。
愛ちゃんの機嫌が直ったのは、もう駅に大分近づいてからだった。
「どんな子なの? のんちゃんはみんな会ったことあるんでしょ」
「亜依ちゃん以外はもう二年前に一度会っただけだからなあ」
「なんか覚えてないのー?」
「うーん、大食い大会やったんだよね、確か」
のんちゃんが背もたれによりかかって遠くを見ながら言う。
- 449 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/13(金) 00:07
- 「大食い大会? 大食いな子なの?」
「どうだったかなー? あのねえ、おもちにあんこが入ってたの」
「あんこ?」
「うん、お雑煮のお餅にね、あんこが入ってたの。それしか覚えてないんだよなあ」
お雑煮のお餅にあんこ?
それは、確かに変ってるけど、でも、今日来る子がどんな子なのかはさっぱり分からなかった。
- 450 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/13(金) 00:07
- 駅に着く。
なんとかぎりぎり電車の到着には間にあったみたい。
悪いとは思ってたからほっとする。
「どんな子なんだろうねー」
「亜依ちゃんが連れてくるんだから大丈夫だよ」
そんなに変な子が来るとは思ってないけど。
でも、都会の子だし、すごい派手な子とか来たらどうしよう。
- 451 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/13(金) 00:08
- 「あっ、電車来た!」
遠くに見えるトンネル。
そこから電車が出てくるのが見えた。
私達は駅舎に入る。
人は誰もいない。
「どんな子かなあ?」
「愛ちゃん、そんなにあわてなくてももうすぐわかるんだから」
「でもー、気になるよー、ねえまこと」
「そうだね」
なんてことをはなしてる間に電車が駅についた。
私達は駅舎の物陰から降りてくる三人をのぞき見する。
向こうから見つからないようかくれながら。
- 452 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/13(金) 00:08
- 「そんなに大きい子とかはいないね」
「なんか、みんな可愛いかも」
愛ちゃんの言うとおり、なんかみんな可愛いかんじ。
一人の子は、まさに都会の子ってかんじで服装がかっこいい。
もう一人の子は、都会って感じじゃなくて、どちらかというと田舎っぽいような気もする。
加護ちゃんも入れた三人は、こっちに続く歩道橋を昇って、降りてきた。
私達は、駅舎の中で三人揃って並ぶ。
そこに、加護ちゃん達が入ってきた。
- 453 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/13(金) 02:01
- また、この三人のお話しを読めて幸せです。
自分はこちらしか読んでなかったのですが、
向こうが気になって見に行ったら別視点で同時進行なんですね。
凄い面白いです。このお話しは向こうと一緒に読みます。
- 454 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/08/14(土) 12:00
- みやさん
新作スタート、おめでとうございます&ありあとうございます。
春休みに遊びに来た加護ちゃん。両作品のリンクも楽しみです。
では、更新を楽しみに待ちつつさっそく更新作業にかかります。
- 455 名前:作者 投稿日:2004/08/17(火) 00:19
- >453
今回はおまけのワンセットという感じです。
しばらくよろしくお願いします。
>ななしのよっすぃ〜さん
リンク、というか今回はそのまま全部ワンセットですが。
またしばらくよろしくお願いします。
- 456 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:21
- 「いやあお迎えご苦労ご苦労」
加護ちゃんが、なんか偉い人のようにゆっくりと手を振りながら言う。
その両脇は、ジーンズのかっこいい子と、ほっぺぷっくらの女の子らしい可愛い子がいた。
「疲れたでしょ」
「遠すぎや」
「何度も来てるでしょー」
「でも、遠すぎや」
のんちゃんと加護ちゃんは、もう三年の付き合い。
すごく遠くにいるのに、こうやって仲良く続いてるっていいなって思う。
- 457 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:22
- 「この子らな、村の子。のんと愛ちゃんとまこっちゃん」
「のんです。よろしく」
「たかはしあいです。よろしくー」
「あー、おがわまことでーす」
急に加護ちゃんにふられて自己紹介する。
私だけよろしくって言い忘れちゃった。
- 458 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:23
- 「こっちは、里沙ちゃんと、紺ちゃん。あの、ののの答辞手直ししたのがこの紺ちゃんな」
「え゙―、自分で書いたっていったのにー!」
「なー、違う! 違うよー! 書いたの。のんが自分で書いたの! もう、亜依ちゃんなんで言うの!」
なんてことを・・・。
あれだけ、答辞は自分で書いたって言ってたのに。
ちょっとのんちゃんの方を冷たい目で見てみる。
- 459 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:23
- 「なんでって、そんなん見栄はって秘密にしとくのが悪いんやろ」
「先生に見せないで自分で書いたって言ったじゃんかー」
「だってー、先生には見せてないもん。嘘じゃないもん」
加護ちゃんと愛ちゃんに責められて、のんちゃんちょっと押され気味。
でも、助けては上げない。
ちょっと感動したりしたのにあの答辞、ひとに書いてもらったなんて・・・。
- 460 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:23
- 「あ、あの、手直しって言っても、ほとんど、語尾とかそんなのだけだから」
「なんか、のんちゃんにしてはきれいな文章だと思ったら、やっぱり直してもらってるんじゃーん」
「もういい、行こ!」
ほっぺの丸い子、紺ちゃん? が助け舟を出してくれる。
でも、愛ちゃんの厳しい言葉にのんちゃんは逃げ出した。
語尾とか直してもらっただけなら有りかなあ。
でも、それくらいなら先生に見せればいいのにとか思う。
答辞をなおす、なんてのを遠くからわざわざ頼むってことは、この紺ちゃんって子は頭いいのかな?
- 461 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:23
- ワゴンに向かう。
愛ちゃん家のワゴンだから、愛ちゃんが助手席に座る。
のんちゃんが真ん中に乗って、都会の子二人を後ろに。
加護ちゃんがのんちゃんの隣に座った。
あれ?
「私どこすわんのよ」
「麻琴、走ってついて来る?」
「なんで!」
「走るのやなら後ろすわんなよ」
後ろ、確かに隙間はある。
でも、狭いよね・・・。
- 462 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:23
- 「大丈夫? 狭くない? 狭かったらまこと走らせるから」
「大丈夫です。狭くないです」
愛ちゃんの言葉に、紺ちゃんさんは丁寧に答える。
そりゃあ、そう答えるしかないと思うけど。
一番後ろは、たぶん三人座るようになってるから大丈夫とは思う。
だけど、私は、今の自分の体型考えると、ちょっとわるいなって思ってしまう。
それでも、どうしようもないので私はその一番後ろの座席に座った。
- 463 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:24
- ワゴンは動き出す。
隣には初めて会った女の子。
これから四日間一緒に遊ぶ。
ちょっと緊張するけど、話しかけてみることにした。
「遠かったでしょ。何時間くらいかかった?」
「うーん、七時間くらい?」
「そうだね。乗り換えいっぱいしたもんねー」
- 464 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:24
- 隣の、ほっぺが丸い紺ちゃんさんに話しかけたら、こっちを見ずに向こうのジーンズのかっこいい子と顔を見合わせて答えが帰ってくる。
うーん、馴染めるかなあ。
会話が続かない。
ちょっと黙っていたら、隣の子は眠ってしまったようだ。
それでよく見ると、前の加護ちゃんも、奥のジーンズの子も寝ている。
ずっと電車に乗ってきたんだろうし、しょうがないのかな。
隣の子は、私にもたれかかってきて肩に頭を乗せる。
気持ちよさそうに寝ていた。
- 465 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:24
- ワゴンはやがて、加護ちゃんのおばあちゃん家についた。
揺れが止まって気がついたのか、隣の子が、私の肩からはっと顔を上げる。
「あはは、長旅お疲れ」
驚いて上げた顔が、なんだか可愛かった。
「あ、ごめん、ごめんなさい」
「よく寝てたよねー」
私が笑ってそう言うと、笑顔を返してくれた。
- 466 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/17(火) 00:25
- 三人はワゴンから降りていく。
とりあえず今日はお別れ。
明日、またワゴンでここに迎えに来て、みんなでスキーへ行く。
「なんか、加護ちゃん以外の二人も可愛かったねー」
「ジーンズの子、里沙ちゃんだっけ? なんか洗練された都会のファッションって感じ」
のんちゃんの口からファッションなんて言葉が出てくるほうが驚くよ。
でも、確かに、そんな感じで、こっちの田舎じゃ絶対無理な、いいセンスしてるように見えた。
「答辞書いた方の子は、頭よさそうだったよねー」
「そうだよねー。よその学校の答辞書いちゃうくらいだし」
「もう、手直ししてもらっただけだもん。のんがちゃんと書いたもんほとんど」
それは分かってるけど、わかってないことにしておく。
まだ、あんまり話せなかったけど、悪い子じゃなさそうだし、これから三日間、楽しく過ごせそうな気がした。
- 467 名前:みんなの冬休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:45
- 翌朝、昨日と同じに愛ちゃんが迎えに来て、のんちゃんを回収して、それから三人を迎えに行く。
朝がちゃんとはやくてちょっと眠い。
「加護ちゃんは大丈夫なんだけどさあ、後の二人、ちょっとまだ話しづらいよねー」
ちょっと愛ちゃんに同意。
でも、駅で会って、車で移動しただけだもんしょうがない。
その車の中だって、ほとんど寝てたわけだし。
- 468 名前:みんなの冬休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:46
- 翌朝、昨日と同じに愛ちゃんが迎えに来て、のんちゃんを回収して、それから三人を迎えに行く。
朝がちゃんとはやくてちょっと眠い。
「加護ちゃんは大丈夫なんだけどさあ、後の二人、ちょっとまだ話しづらいよねー」
ちょっと愛ちゃんに同意。
でも、駅で会って、車で移動しただけだもんしょうがない。
その車の中だって、ほとんど寝てたわけだし。
- 469 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:47
- 「ほっぺ丸いからほっぺちゃんとか」
「いきなりそれはなんか失礼やし」
「もう一人の子は、おしゃれちゃんとか」
「都会じゃ普通なのかもしれんし」
のんちゃんの提案は次々と愛ちゃんに否定されて行く。
そりゃあ、いきなりそれは、ちょっとなれなれしいかも、というのもあるし。
名前呼ぶだけで難しい・・・。
加護ちゃんとは、去年の末に会ったけど、それ以外だと村の外の子と遊ぶことなんて、誰かの親戚とかそういうのしかなかったから、考えたこともなかった。
知らない子とコミュニケーションとるのって、難しいかも。
高校行ったら、なんか不安。
- 470 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:47
- 「とりあえず、名前にちゃんづけでいいんじゃない?」
「なんだっけ、名前?」
みんなで固まる・・・。
そういえば、覚えてないかも・・・。
「まあ、なんとかなるよ、きっと」
のんちゃんのまとめで、なんとかなることにした。
あとで、こそこそと加護ちゃんあたりに二人の名前をちゃんと聞いてみよう。
なんて結論にまとまった所で、加護ちゃんのおばあちゃん家についた。
- 471 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:48
- 席順は、なんとなく昨日と同じになる。
やっぱりちょっと狭い。
「三人はスキーとかやったことあるのー?」
愛ちゃんがこっちを振り向いて聞く。
私も、隣の方を見るけれど、答えを返したのは加護ちゃん。
- 472 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:48
- 「みんな初めてだよ。初心者初心者」
「加護ちゃん結構この村来てるみたいだけどないのー?」
「なんやこわくてな。雪のある時に来たのこの前の冬休みだけやけど、ばあちゃんちで大人しくしとったもん」
三人に話しを振ると加護ちゃんしか答えを返してくれない。
なんかうまくいかないなあ・・・。
一番後ろの三人席は、なんだか座りごこちが悪い。
- 473 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:49
- 「板持ってる新垣さんはスキーでいいんだよね。後二人はどうする? スキー? スノボー?」
「スキーでええよ。だって、三人ともスキー板抱えてて、どう見てもスノボ教えてくれる人いないやん」
会話が弾むのは愛ちゃんと加護ちゃん。
このままじゃいけないような気がするので話しに混じる。
「一応スクールもあるよ」
「なんで、わざわざここまで来て、一人で別れてスクールなんか受けなあかんのよ」
入ってみたけど、やっぱり答えは加護ちゃんから帰って来る。
うまくいかない・・・。
「紺ちゃんはどうするん?」
「私もスキーでいいよ」
加護ちゃんが話しを振って、やっと隣の子がしゃべってくれた。
- 474 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:51
- スキー場へ到着。
二人分の板とかウェアなんかを借りる。
いよいよ、スキーだ。
初心者が三人。
ちょっと、なんだか、自分が滑ることよりも、初心者三人の滑りが楽しみだ。
「じゃあ、板履いてみて。かかとで思いっきり踏むとかちって履けるから」
「板くらい履けるっちゅうねん」
「亜依ちゃん、舐めると痛い目見るよきっと」
仕切るのはやっぱり愛ちゃん。
一番うまいのはのんちゃんなんだけどな。
- 475 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:51
- 「簡単や、こんなの。ほら、履けた、うわ、うわ」
「だからのんが言ったのに」
履いた瞬間に板が動き出して、しりもち。
「亜依ちゃん、ださっ。あ、あー・・」
加護ちゃんに突っ込みを入れたおしゃれさんも、同じようにしりもち。
難しいもんね、最初はバランスとるの。
- 476 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:51
- 「滑らないようにね、ちょっと内側に体重掛けるといいよ」
せめて最後の一人くらいフォローして上げないと。
ゆったりとしたペースで板を履いていく。
左足、履けた。
次に右足。
かちっとはまると同時に、やっぱりおきまりのように滑って行く・・・。
- 477 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:51
- 「あ、あ、とまんない」
さっきの二人よりバランスがいいのかな。
転ばないで滑って行ってしまう。
止まるやり方なんか知らないから、どんどん滑って行ってしまった。
「転んで! 転んで! 危ないから! 後ろに転んで」
私達は、油断してて板を履いてないから止めに行ってあげることも出来ない。
結局、横に転んでやっと止まった。
- 478 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:52
- 「大丈夫? 立てる?」
雪の上をどかどかと歩いて助けに行く。
こっちを向いて、恥ずかしそうに笑う笑顔が可愛かった。
「紺ちゃん、いきなりすべっとったやん」
「すべったねー。それで、派手に転んだねー」
紺ちゃんか・・・。
紺野さん、だったかな、確か。
突っ込まれて、何も答えを返さずに、帽子についた雪を払っていた。
「はい、三人にリフトはお預けです。しばらくここで練習です」
愛ちゃんが決めつける。
三人は大人しく従った。
- 479 名前:習志野権兵 投稿日:2004/08/20(金) 01:36
- 更新、お疲れ様です。
迂濶だった。こっちでもやっていたのか・・・。
- 480 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/21(土) 14:28
- 更新乙です!
こっちでもやってたんですね。視点が反対ってのもやっぱいいですね。
今度は完全同時進行ですか!紺野と小川の!でもまるいのって・・・
ジブンでもわかってるんですね。小川・・・・
- 481 名前:作者 投稿日:2004/08/23(月) 23:53
- >習志野権兵さん
こっちでもやってます。一石二鳥と見るか、二兎を追って一兎を得られない作者とみるか・・・。
>480
“まるいの”が、なんか、ひっかかられてるー・・・。
- 482 名前:作者 投稿日:2004/08/23(月) 23:53
- お昼までは練習。
ちょっとづつ三人ともうまくなる。
いっぱい転んでたけど。
それでも、なんとかボーゲンでは滑れるようになっていた。
「お昼食べて、それからリフト乗って上あがろうか」
「さんせーい」
やっぱり仕切る愛ちゃん。
それに、加護ちゃんが賛成した。
- 483 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/23(月) 23:54
- お昼ご飯を食べにロッジの売店へ。
ロッジの中は、暖房が効いていて暖かい。
「何食べるー、っていうほどたくさんメニューはないんだけどね」
あるのは、カレーとかラーメンとかそういうのだけ。
でも、しょうがないよね、どうせ田舎だもん。
私はラーメンを選ぶ。
テーブルに五人まではすぐにそろったけれど、紺野さんだけがなかなか来ない。
待ってあげなくていいのかな? と思ったけれど、「紺ちゃん、いつもああやから先食べよ」って加護ちゃんが言うから、先に食べ始めた。
紺野さんは、ようやくカレーを抱えて戻ってきた。
- 484 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/23(月) 23:54
- 「リフト乗るの楽しみやなあ」
「うーん・・・」
期待いっぱいって感じの加護ちゃん。
それに答える紺野さんは、ちょっと不安そう。
一番上達したの紺野さんだったのに。
「ねえ、ホントに上行くの?」
「スキー来たんやから、リフト乗って上いかなしゃーないやろ」
「でも、あんまり滑れないし」
「大丈夫やって、なあ」
一番不安そうなのはジーンズの似合うおしゃれさん。
名前は、まだ覚えてない・・・。
- 485 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/23(月) 23:54
-
「一人に一人づつつくから大丈夫だよ、心配しなくても」
「でもー。うん・・・」
不安を解いてあげるつもりで言ったのだけど、脅しみたいに聞こえちゃったかなあ。
おしゃれさんは、黙り込んでしまう。
でも、それで結局、おしゃれさんの不安はうやむやになったまま、リフトで上にあがることになった。
- 486 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/23(月) 23:54
- お昼を食べ終わって外に出る。
みんなもう、板を履くだけで転ぶようなことはなくなった。
「組み分けどうする?」
「グーチョキパーでいいんじゃない?」
というわけで、それぞれ三人づつ二組でじゃんけん。
パーを出した私は、おしゃれさんとのコンビになった。
- 487 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/23(月) 23:55
- 「新垣里沙です。よろしくお願いします」
「あ、あの、小川です。よろしく」
丁寧なご挨拶。
でも、そのおかげでちゃんと名前を覚えられた。
新垣さん。
新垣里沙さん。
忘れないようにしないと。
呼び方は、新垣さんはちょっと固いから、里沙ちゃんと呼ばせてもらおう。
- 488 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/23(月) 23:55
- とにかく、リフトで上に上がる。
私たちの組は一番最後。
前の四人はスムーズにリフトに乗っていく。
「あわてないであそこまで滑れば、あとはリフトが来るから座れば大丈夫」
「うん」
返事が頼りない。
前のリフトが行って、その間に座る場所まで入っていく。
里沙ちゃんは、ストックで思い切り地面を押して進む。
平坦で、ボーゲンじゃなくて板をそろえているからバランスがとれない。
リフトに座る位置のところでとまろうとして、板同士がバツの字に重なって転んだ。
- 489 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/23(月) 23:56
- 「大丈夫?」
返事は返ってこない。
リフトは停止。
里沙ちゃんは必死に立ち上がろうとする。
「おちついて。大丈夫リフト止まってるから」
里沙ちゃんは、ストックを使ってちょっと不自然な体勢になりつつ何とか立ち上がった。
ゆっくりとリフトが私たちの足元まで来て座る。
なんとか上に向かって動き出した。
- 490 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/23(月) 23:56
- 「ごめん。なんか、迷惑かけちゃって」
「最初はみんなそうだよー。大丈夫」
「でも、紺ちゃんも亜依ちゃんも、転ばずに乗れてたし」
「たまたまだって。えっとー、里沙ちゃんも、慣れれば大丈夫だよ」
ちょっと抵抗があったけれど、里沙ちゃん、と呼んでみる。
里沙ちゃんは、私には答えずにうつむくだけだった。
- 491 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/23(月) 23:56
- リフトは終点へ。
結局、ほとんど会話できないでなんとなく気まずい雰囲気。
「板の前をちょっと上げた感じで待ってて、後ろが地面についたら椅子から降りる。出来る?」
「わかんない」
不安だなあ・・・。
乗るときは乗れないととまってくれるけど、降りるときに降りれないと一周して下まで運ばれちゃうからなあ。
- 492 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/23(月) 23:56
- それでも、なんとか里沙ちゃんは地面に板をついて着地には成功した。
だけど、板の前を上げていたせいで、たぶん重心が後ろになってて尻餅をついていた。
坂になってるから、そのままづるづると下りてくる。
私は、止まらずに来てしまったから、何も出来なかった。
「ストックついて立ち上がれる?」
里沙ちゃんは答えずにストックをついてなんとか立ち上がる。
どうにかこうにか、上までたどり着くことが出来た。
- 493 名前:習志野権兵 投稿日:2004/08/26(木) 06:15
- >481
いやいや、『1+1=』が3にも4にもなっている感じです。
それにしても、もうひとつの方で、俺の前に書いていた名無しさんが、
リンクしているって書いているにも関わらず気づかない俺って・・・。
- 494 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/28(土) 00:59
- 乙です!向こう見てから来ました。
なんか小川視点と紺野視点、どっちも違った味があっておもしろいですね!
>>481
まるいのは・・・ひっかかってしまいました・・
- 495 名前:作者 投稿日:2004/08/30(月) 00:14
- >習志野権兵さん
第四弾第五弾はリンクでしたけど、今回のおまけ二つは、リンクどころかまったく同じ場所にいますから。
ある意味、どっちか読めば用は足りちゃうんですけど。
>494
同じところにいても、それぞれ立場とか、まあいろいろと違いますからねえ。
- 496 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:14
- 六人で記念写真。
前の列は加護ちゃんが真ん中で、左右から里沙ちゃんと紺野さん。
後ろは真ん中が愛ちゃんで、私は左側、のんちゃんが右側。
なんとなく、後ろは三人で肩を組んでみた。
- 497 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:15
- 「見晴らしええなー」
「でしょー」
「でも、傾斜急すぎて怖いんだけど」
「見た目より怖く無いから大丈夫だよ」
いつ来ても、天気さえよければ上からの見晴らしはすごくいい。
さっきまでいたロッジは豆粒見たく小さく見える。
「まだ頂上まではどんどん上にリフトあるけど行く?」
「無理、絶対無理、無理だから」
のんちゃんの誘いに、里沙ちゃんが本当におびえるように答えた。
大丈夫かなあ、この子・・・。
- 498 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:15
- 「じゃあ、それぞれ滑って行こう」
愛ちゃんが仕切って、滑り始めた。
順番は、リフトであがってきた順。
最初は紺野さん。
「大丈夫。紺野ちゃん滑れてるから。それに転んでものんがいるから大丈夫だよ」
坂になってる入り口のところで、こっちを振り返った紺野さんにのんちゃんが声をかける。
紺野さんは、微笑んで滑り出した。
- 499 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:15
- 「紺野ちゃん、ターンしてターン」
左にターンしなきゃいけないところでなかなか曲がれない。
それでも、ボーゲンの格好のまま何とか曲がりきって、ずいぶん滑ったところで止まった。
「出来たよー、うわ」
こっちを向いて手を上げたところで派手に転ぶ。
のんちゃんが滑って助けに行った。
紺野さんは、のんちゃんに体だけ起こしてもらって、その場に座り込んだ。
- 500 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:15
- 次は加護ちゃん。
紺野さんとは逆のほうに進んでいって、右に向けてターン。
きれいに曲がりきって止まった。
愛ちゃんがその後に続いて滑っていって、ご機嫌な加護ちゃんとハイタッチ、を交わすのかと思ったら、そのまま力任せに加護ちゃんを押し倒した。
- 501 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:16
- 「何んすんねん。うわ、うわ、やめ、やめてやー」
愛ちゃんは、倒れた加護ちゃんの首の服の隙間から雪を詰めていく。
ただもがくだけでやられっぱなしの加護ちゃん。
ちょっとはなれたところでのんちゃんは笑い転げていた。
「にゃろー、おぼえてろー」
「やれるもんならやってみろ」
満足したのか愛ちゃんは加護ちゃんからちょっと離れたところに逃げて、腰に両手をあてて加護ちゃんを見ていた。
- 502 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:17
- 「次ぎ行くよー」
今度は私たちの番。
坂を目の前に明らかに不安そうな里沙ちゃん。
私は、隣に立つだけで何も言ってあげられない。
なんとなく声がかけづらい。
- 503 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:17
- 足をハの字にして滑り出した。
最初はいい感じ。
だけど、ターンのところでなかなか曲がりきれない。
左に曲がりたいんだけど、ちょうど板が下に向かったところからそれ以上曲がれなかった。
スピードがついていって、また板の前のほうが交差になって転んだ。
雪に埋もれて動かない。
どうしよう・・・ と思っていたらようやくストックを使って立ち上がろうとし始めた。
でも、もがいてもうまく立ち上がれない。
私が後ろから抱え起こした。
- 504 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:17
- 「しばらくばらばらに滑ろうっか」
愛ちゃんが言う。
今日始めて滑る三人は、午前中だけでずいぶん差が出ちゃってる。
一緒に滑るには、ちょっともう無理があった。
四人はどんどん先へ行く。
私と里沙ちゃんだけが取り残された。
- 505 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:17
- 「ごめんね、なんか、迷惑ばっかかけて」
「いいよ、そんなの」
暗い顔で、里沙ちゃんは滑る。
滑るというか、進む。
滑っている時間よりも、転んで立ち上がる時間のほうが長い。
転んで転んで、ちょっとづつ下へ降りていく。
半分も行かないうちに、愛ちゃんたち四人がリフトでまた上っていくのが見えた。
- 506 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:17
- 滑りがうまくいかない。
そして、会話も弾まない。
私がいろいろアドバイスしてあげなきゃいけないんだろうけど、なんとなく声をかけづらい。
里沙ちゃんが、そういうオーラを出している。
途中、端のほうで里沙ちゃんが雪に埋もれている間に、のんちゃんと紺野さんのペアに追い抜かされた。
紺野さんはずいぶん上手になってる。
それでも時折転ぶけど、転んだときもなんだかのんちゃんと二人楽しそうだった。
- 507 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:18
- 里沙ちゃんは、ほとんど曲がるたびに転んでいる。
たぶん、きれいに曲がりきれなくて、板の向きが下向きになってスピードがついちゃうのが怖いんだと思う。
問題は、ちゃんと曲がれないことと、怖がっちゃうことかな。
でも、うまくいかなくてへこんでる里沙ちゃんに、ここがダメ、とかは言いにくい。
何度も転びながら、ほとんど会話もなく私たちは下まで滑り降りた。
- 508 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:18
- 「ごめんね」
「いいよ、そんなあやまらなくて」
重い・・・。
とにかく空気が重い・・・。
会話が弾まない。
どうしよう・・・。
里沙ちゃんは、疲れたのか座り込む。
ふと後ろを見ると、あとちょっとというところで転んでいる紺野さんの姿があった。
立ち上がり、のんちゃんと二人、ここまで滑って下りてきた。
- 509 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/30(月) 00:18
- 「紺ちゃん、うまいよねー」
「そんなことないよ。何度も転んだし」
「でも、私がやっと一回滑る間に三回も滑ってきてさ」
はあ・・・。
どうしたらいいんだ・・・。
紺野さんは、私たちを置いてまたリフトへ。
里沙ちゃんは、上行かないの? と聞かれて、考え中、と答えていた。
- 510 名前:習志野権兵 投稿日:2004/08/30(月) 17:56
- 更新、お疲れ様です。
はぁ・・・、昔を思い出すなぁ。
ちょっと、滑れるようになり調子に乗り、直滑降で滑ったらスピードがつきすぎて
止まれずにワイヤーへ・・・。
- 511 名前:作者 投稿日:2004/09/02(木) 22:40
- >習志野権兵さん
最初は、大変ですよねー、いろいろとスキーって。
- 512 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:41
- 「ちょっと休む?」
答えが返ってこない。
考え中、という顔。
こまっちゃうなあ・・・。
「滑らないと、差つけられちゃうよね」
それはそうだけど。
そんなに考え込まなくてもいいと思うんだけどなあ。
「でも、リフト怖いし」
そうか、それが問題か。
まずはそこからなんとかしよう。
- 513 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:41
- 「じゃあさあ、リフト乗る練習からしようよ」
座り込んでいた里沙ちゃんが顔を上げる。
やっと目線があった。
「何度もリフト乗るの?」
「それはちょっと無理だよ。そうじゃなくて、ちょっとの距離を板そろえて滑って止まる練習。それが出来ればリフト乗れるし、下りられるでしょ」
「そっか」
やっと笑ってくれた。
里沙ちゃんも立ち上がる。
完全に平坦なところまで移動した。
- 514 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:42
- 「板と板が重なっちゃうから転ぶのね。だから、しっかり平行に」
「でも、動いちゃうんだけど」
「最初は、ひざの内側に力入れる感じ。板と板は平行にして少し離す」
「こう?」
「そう。そんな感じ。それで、ストックで体重支えたまま、その場で片足づつ前に出して」
「進まないよー」
「前の足戻したら進まないよー。今度はストックで地面押してみて」
その場で足ふみ、みたいな感じだった里沙ちゃん。
今度はちゃんと進む。
- 515 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:42
- 「止まる時は、ハの字にしてみて。ボーゲンなら止まれるでしょ」
「でも、隣とぶつかっちゃわない?」
「大丈夫。そこは私が合わせるから」
里沙ちゃんはボーゲンの格好になって止まる。
こっちを向いて笑ってくれた。
- 516 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:42
- 何度か練習。
ちょっと歩いて止まる。
これだけだから、里沙ちゃんもすぐ出来るようになる。
「リフト行く?」
「大丈夫かな?」
「大丈夫だよ」
まだちょっと不安げ。
だけど、私たちはリフトへ向かう。
お客さんはほかにいない。
里沙ちゃんのペースでいける。
- 517 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:42
- 「しっかり板そろえて、前のリフトが行ったら入る」
「うん」
リフトを一つ、二つと見送って、里沙ちゃんがストックをつく。
三つ目が行った後、入っていった。
私は、ちょっと離れて見守る。
里沙ちゃんはちょっと進んでボーゲンの格好になる。
リフト乗り場の停止線のちょっと手前に止まった。
- 518 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:43
- 「あとちょっと進んで」
そう声をかけて私も入る。
後ろからリフトが迫ってくるけど、里沙ちゃんはしっかりと停止線のところに立っていた。
「はい、座って」
リフトの来るタイミングで声をかける。
ちょっと里沙ちゃんのタイミングが遅れたけれど、無事にリフトに座れた。
「いたーい。ふくらはぎぶつけた」
「ちょっと座るタイミング遅かったね」
「跡残ったりしないかなあ」
「大丈夫だよ多分」
やっと、やっと、なんだか会話になるようになって来た。
- 519 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:43
- 「世話のかかる生徒で、ホントごめんね」
「そんなのいちいち気にしなくていいよー」
「私いつもこうなんだよねー」
そう言って、足をぶらぶらさせて、里沙ちゃんは空を見る。
そんな里沙ちゃんのほうを見ていると、続けた。
「紺ちゃんやさあ、亜依ちゃん、すぐうまくなってすいすい滑ってるでしょ。いつもそう。二人はなんでも器用に出来て、私だけ落ちこぼれ」
なんだか答えが返しにくい。
私は黙って聞いていた。
- 520 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:44
- 「だめなんだよねー。いっつも二人においてかれちゃう」
もしかしたら、私とちょっと似たところがあるのかも。
スキーみたいな、わかりやすい形じゃないから、はっきりこうやって落ち込むみたいなのはないけど、私も、おいてかれちゃう感じってのはなんとなくわかる。
「ちょっと違うけど、私も一緒かも。のんちゃんや愛ちゃんって、なんかずっと先のこととか考えててさ。得意なこととか、人より目立つこととかあるし。私だけ、なんかすごい普通で。どうしよー、とか思うし」
ホント、のんちゃんや愛ちゃんと、まともに自分を比べると嫌になることもある。
人は人、自分は自分、ゆっくり追いつけばいいかな、と思っても、あせることもある。
「あーー、もっと何でもできるようになりたいなー」
「それはみんななりたいよ」
「そっか」
言われてから気づいたみたいで、里沙ちゃんは声を上げて笑った。
- 521 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:44
- 「もうすぐつくよ」
「どうすればいいの?」
「乗るときと一緒だよ。ただ、地面に下りるときに、しっかり両足で板の向きを合わせないとダメだよ」
「やってみる」
地面が迫ってくる。
足をつけ腰を上げてリフトから離れる。
私は、里沙ちゃんのスペースを作るためにちょっと横に離れた。
里沙ちゃんはちゃんと板を平行にして、坂を下りる。
ちょっと下りたところでハの字にしてブレーキをかけた。
ちょっとづつスピードを落として止まる。
転ぶことなく、リフトから下りた。
- 522 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:44
- 「はー、下りれたー」
「簡単でしょ」
「簡単じゃないよー」
不満そうな声だけど、里沙ちゃんは笑顔だった。
- 523 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/02(木) 22:44
- それから三回同じコースを滑った。
やっぱり何度も転ぶけれど、それでもだんだんとうまくなっていくのはわかる。
最初のころみたいに、転んでも暗くなったりはしない。
リフトでは会話も弾む。
陽も傾いたころ、やっと私たちはロッジにもどった。
待っていたみんなともう一回同じコースを滑って終わり。
三人を加護ちゃんのおばあちゃん家に送って帰った。
- 524 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/03(金) 05:40
- 更新、お疲れ様です。
こっちでは、丸い子とオシャレさんが奮闘中。
頑張れ新垣!
- 525 名前:作者 投稿日:2004/09/05(日) 22:54
- >習志野権兵さん
こっちはこっちで、あっちはあっちで。
それぞれだったり、同じ場面だったり。
- 526 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:55
- 翌日、またワゴンで迎えに行く。
今日は、私はポシェットを巻いていた。
ちょっと荷物が入れてある。
たぶんリフトで一番上まで行くから、そしたら開けようと思う。
- 527 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:55
- 今日は板を借りてすぐにリフトで上に上がった。
「今日は組替えね」
愛ちゃんの通知。
ということで、チーム替え。
今日は私は紺野さんとの組になった。
- 528 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:55
- とりあえず、最初のゲレンデをみんなで滑り降りる。
何度か転んでいたけれど、みんなそれなりに滑れてる。
昨日の感覚は忘れてないみたい。
紺野さんは、確かに里沙ちゃんよりはだいぶうまかった。
「今日はさ、上まで行ってみない?」
「上ってどこまであるの?」
「今降りてきた所から、後リフト二回」
「ちょっと怖いかも」
上手なのに怖がる紺野さん。
それでも今までのところより一つ上までリフトで上がった。
- 529 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:55
- 「上に行くほど景色いいんだよ」
「きもちいーねー」
今日も晴れ。
見晴らし良好。
隣には紺野さん。
のんびり雰囲気の紺野さん。
茶色のニット帽が微妙に似合ってる紺野さん。
「なんか滑るのもったいないね」
「降りたらまた昇ってくればいいんだよ」
そう、下りたら登ってくればいい。
何度でも、何度でも。
紺野さんは、ストックに力を入れて斜面に下りていった。
- 530 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:55
- 最初のゲレンデよりは傾斜がある。
紺野さんも一回目はだいぶ転んだ。
だけど、二回目からは大分慣れて、あまり転ばなくなる。
もう、私がついてる必要とかは、多分あんまりないくらいには上手。
ちょっと練習すればボーゲンも卒業できそうな気もする。
何度か滑ってから、私はもう一つ上に行こうって誘った。
ちょっと怖がったけれど、紺野さんはついてきた。
- 531 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:56
- 「きれー」
太陽に照らされた雪山が一面に見える。
風は冷たい。
やっぱり、ここでのんびりしたいなって気分になった。
「お腹すかない?」
「うん。すいたねー。下まで戻る?」
「その必要は無いのです!」
なんとなく、ちょっとおどけてみる。
紺野さん、おとなしい感じでちょっと距離があるから、なんとなくおどけてみる。
「てれれれってれー♪ お・に・ぎ・りー」
むりしてドラえもんのまねとかしてみたら、何とか笑ってもらえた。
- 532 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:56
- 「しゃけとたらことおかか。あとお茶もあるよ」
「しゃけ」
「おっけー」
ポシェットにしまっておいたおにぎりセットを取り出した。
ここで、のんびりご飯を食べるのが私は好きだった。
二人で並んで座る。
スキー板は雪につきたてて、ストックは板にかけて。
二人で並んでおにぎりを食べる。
- 533 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:57
- 「やっほー!!」
なんとなく、叫んでみたくなって叫んだ。
やまびこは返ってこない。
そのまま仰向けになって空を見た。
「やっほー!!」
紺野さんも一緒になって叫ぶ。
そして横になった。
- 534 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:57
- 冷たい雪の上に横になる。
まぶしい太陽。
おにぎりでちょっとだけ満足したおなか。
隣には紺野さん。
おととい初めて会った紺野さん。
「卒業旅行楽しい?」
「うん、たのしー」
「私も、遠くに卒業旅行行きたかったなー」
遠くまで旅行なんて、お母さん行かせてくれないもんなあ。
なんだかうらやましい。
「ずっと住んでた村から離れるのってどんな気分?」
仰向けになったまま話す。
顔を見ないで、太陽を見ながら話す。
- 535 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:57
- 「まだ、よくわかんない」
あまり、実感はない。
もうすぐ引っ越すんだってのは頭にあるけど。
荷造りとかちょっとはしてるけど。
まだ、あんまり新しい暮らしへの実感はなかった。
「わかんない?」
「うん。ただ、村は好きだなーって思った」
「そっかあ」
実感はないけど、でも、村が好きなのはわかる。
ここにいたいなって、思う。
絶対無理なんだけど。
だから、なおさら思う。
- 536 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:57
- 「誰も知らない町の学校に通うのって怖くない?」
紺野さんは、今まで通ってた中学から同じところにある高校に上がるか、遠くにある高校に通うか迷って、遠くの高校に決めたんだってのんちゃんに聞いた。
私は、村にいたまま高校に通うって選択肢はなかった。
だから、自分で遠くに行こうって決めるのってすごいなって思う。
「怖いよー。友達もいないし、お母さんもいないし、一人で暮らすんだもん」
「そっかあ、そうだよねー。すごいよねー。そんなところに飛び込んでいこうって決められるんだもん」
「そんなことないよ。決めるまでずいぶんいっぱい考えたし、やっぱりやめようとか思ったし」
みんなそんなもんなのかなあ?
のんちゃんもずっと迷ってた。
最後は泣きながら決めてたし。
- 537 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:58
- 「のんちゃんもやっぱり怖いのかなあ」
「怖いと思うよ。絶対」
「そっかあ、そうだよねー。みんなすごいよねー、夢とかあって。それを追いかけて」
「夢とか、そんなすごいもじゃないよ」
私にとっては十分すごいけどね。
のんちゃんも愛ちゃんも、そして紺野さんも。
「私もほしいなあやっぱり。そういう目標みたいなの」
「目標?」
「うん。ただなんとなく暮らしてる感じ。楽しいは楽しいんだけどさ。なんか、置いてかれてる感じして不安」
「大丈夫だよ。目標とか、そんなたいしたもんじゃないから。あった方が楽しいかな思うけど」
「そんなもんなのかなあ」
あんまりこういう話、のんちゃんや愛ちゃんにはしないんだけどな。
なんで、ほとんど初めて会ったような子にしてるんだろ。
よくわからないけれど、なんとなく話しやすかった。
- 538 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:58
- 隣を見ると、紺野さんは胸に手を当てている。
起き上がって顔をのぞきこむと寝ているように見えた。
「寝ちゃった?」
返事がない。
茶色のニット帽をかぶって、胸に手を当てて、首を傾けて眠っている紺野さん。
なんだか妖精のようにかわいい。
でも、そのまま眠られても困るので、ちょっかい出してみることにした。
- 539 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:58
- 「みんなまってるよ、多分」
そういいながら、両手で雪を握って、紺野さんの両側のほっぺたそれぞれにつける。
紺野さんは目を開いた。
目と目が合う。
そして、紺野さんは目を閉じた・・・。
「ダメだって、寝ちゃダメだって」
反応がない。
どうしても寝るつもりですか。
そうですか。
だったら、こっちにも考えがある。
私は、周りの雪をかき集めた。
紺野さんは動かない。
集めた雪を全部抱えて、そして紺野さんの顔の上にどさっと落とした。
- 540 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:58
- 「ひゃ、冷たい!」
「起きた」
「起きたじゃないよー」
「こんなところで寝てるからいけないんだ」
やっと起きた。
体を起こす紺野さん。
顔の雪を払っている。
それを笑ってみていたら、紺野さんは雪を集めて大きく丸め始めた。
そして、こっちを見て笑う。
- 541 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:58
- 「や、やめて、やめろー」
私は、逃げた。
逃げたけど、後ろから雪玉は飛んでくる。
逃げたけど、後ろから紺野さんは追いかけてくる。
私たちは、そんな風に追いかけっこをした。
たまに、私が反撃して、紺野さんが逃げて。
追いかけっこをして、息が切れて、疲れて横になる。
雪がひんやりしてて気持ちよかった。
- 542 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/05(日) 22:59
- 「いい加減戻らなきゃねえ」
「そうだねー」
なんて言ってからも、なかなか動く気にならない。
二人でのんびりと頂上で過ごしてから、私たちはロッジに戻った。
みんなはとっくにお昼ご飯を食べ終わってて、愛ちゃんとかちょっと怒ってた。
- 543 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/05(日) 23:26
- o( (=´▽`))o<オガワえもん 11
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1093539531/
を思い出してしまいました
- 544 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/06(月) 05:05
- 更新、お疲れ様です。
遂に夢のコンビが・・・。
果たして、ほっぺちゃんは丸い子の名前を覚えたのか。
今から楽しみだ(今から読みに行きます)。
- 545 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/06(月) 12:05
- ほのぼの、ほのぼの
イイネー
- 546 名前:作者 投稿日:2004/09/09(木) 22:39
- >543
なんとそんなものが・・・。初めて見ましたけど、笑いました。
>習志野権兵さん
丸い子は・・・。 丸い子かあ・・・。
>545
今回はストーリーもないですが、最後までよろしく。
- 547 名前:みんなの冬休み 投稿日:2004/09/09(木) 22:40
- 午後もそれぞれの組で滑る。
私たちは、やっぱりさっきの頂上へ行ってみたり、ちょっと別のゲレンデに行ってみたりもした。
紺野さんはまだボーゲンだけど、大体どこへ行ってもちゃんと滑れるようになった。
それぞれ好きに滑って、一番最後、私たち六人は最初のゲレンデに集まった。
- 548 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/09(木) 22:41
- 「それじゃ、最後に下まで降りてかえろっか」
「最後は転ばずに降りたいなー」
六人で並んで斜面を見下ろす。
一番端の里沙ちゃんから滑り出す。
それに紺野さんと加護ちゃんが続いていく。
私たち三人は、その後からゆっくりとついていく。
- 549 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/09(木) 22:41
- 「紺ちゃん、先行くでー」
「まってよー」
「下まで競争や、負けた方がジュースおごりねー」
「ずるいー!」
加護ちゃんが紺野さんを追い抜いていった。
いつの間にか競走になってる。
二人ともボーゲンだけど。
と、思ったら加護ちゃんは時折板がそろっててスピードが出ていた。
愛ちゃんが教えたのかな?
紺野さんも、板そろえて無理しちゃってる。
やっぱり、陸上の学校に行こうなんて子は負けず嫌いなのかな?
二人とも里沙ちゃんを追い抜いていく。
- 550 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/09(木) 22:41
- 紺野さんは、曲がるところがどうしてもボーゲンになっちゃう。
それでも、二日間で覚えるには十分上手になったと思うけど。
そのボーゲンになったすきをついて、加護ちゃんが抜いていく。
後ろから見てて楽しい。
ロッジが大分近づいていくる。
加護ちゃんは、やっぱりまだ板をそろえて曲がるのは窮屈そうだった。
あとちょっと、でも、もう一回は曲がらないといけない。
そんなところで加護ちゃんは苦労してる。
- 551 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/09(木) 22:42
- 「まがれ、まがれ、まがれって、あーーー」
と、思ってたら転んだ。
雪まみれになって悔しそう。
「いえー、勝ったー、うわぁあ・・」
その横を、紺野さんが抜けようとして同じように転んだ・・・。
顔を起こすと、紺野さんもやっぱり雪まみれ。
後姿がなんだか悔しそう。
そんな紺野さんと加護ちゃんを横目に、ずっとボーゲンで慎重に滑っていた里沙ちゃんが無事に一度も転ばずに最後まで滑り降りた。
「わーい、私がいちばーん!」
止まるときまで慎重に、ボーゲンの格好のまま減速。
そのまま、振り返った里沙ちゃんの笑顔は、なんだかかわいかった。
- 552 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/10(金) 10:18
- 更新、お疲れ様です。
なんか兎と亀を思い出した。
何はともあれ、オシャレさんの初日のパートナーが、
きれいでえげつない高橋さんじゃなく、面倒見の良い丸い子で良かった・・・。
- 553 名前:作者 投稿日:2004/09/13(月) 22:12
- >習志野権兵さん
最初の日の組み合わせが違っていたら、どうなっていたことでしょう(笑)
- 554 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/13(月) 22:12
- 明日、三人が帰るっていう最後の晩、
今日はみんなで愛ちゃん家に泊まる。
私やのんちゃんもそろって、六人で愛ちゃんちに泊まる。
- 555 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/13(月) 22:12
- 晩御飯はお鍋だった。
人がいっぱい集まるときは大体そう。
どこから集めたのかと思うほど具が一杯のおなべ。
なんだか騒いでいる加護ちゃん。
しゃべりに身振り手振りがつく里沙ちゃん。
もくもくと食べている紺野さん。
和気あいあいの晩御飯は楽しかった。
- 556 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/13(月) 22:14
- それからお風呂に入る。
お風呂は順番。
一人づつ入ると時間かかっちゃうから二人づつ。
またじゃんけん組み分けやって、私は加護ちゃんと一緒に入る。
「二日しかなくても、うち結構うまくなったやろ」
加護ちゃんは湯船につかる。
先に私は体を洗わせてもらった。
- 557 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/13(月) 22:14
- 「最初はどうなるかと思ったけどねー」
「最後、悔しかったなあ。里沙ちゃんに抜かれると思わんかった」
まだ悔しがってる。
手を動かしつつ、加護ちゃんのほうを向くと、加護ちゃんもこっちをじっと観察するみたいに見てた。
「まこっちゃんもあれやな。うちと一緒やな。ちょっとお肉がつきすぎな」
「もう、はっきり言わないでよー」
気にしてるのに・・・。
事実だからしょうがないけど。
- 558 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/13(月) 22:15
- 「里沙ちゃんはなんかほっそりしとるし、紺ちゃんはうちよりお菓子ばっかり食べとるの
に膨らんでるのはほっぺだけやし。一緒に並んでると、ちょっと傷つくやん」
「里沙ちゃん、おしゃれさんだよねー」
「まこっちゃんは、なんかほっとする」
どう答えたらいいんだ?
私は、顔を正面に戻してシャワーを取った。
「どうしたら愛ちゃんみたいになれるんやろな?」
「あー、愛ちゃん。スタイルいいよねー」
こんな話をしてるときに、自分の体につけている泡を洗い流すのはちょっと、なんか抵抗ある。
シャワーで流さないわけいかないんだけど。
- 559 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/13(月) 22:15
- 「愛ちゃんって、服脱いでもやっぱきれいなん?」
「加護ちゃん、なんかおじさんくさいよー」
「だって、気になるやん。顔かわいいしさあ、スタイルいいしさあ。ちょっとわがままっぽいけど」
「わがまま。そう。愛ちゃん、ホントわがまま」
もうとっくに慣れたけど。
あのわがままに振り回されるのも。
「でも、きれいやなあ。ホンマ。うちもあんななりたいわ」
「そうだねー」
ホント、あんな風にきれいになれたらなあ・・・。
そんなことを思いながら、体の泡を落とした私は頭を洗う。
- 560 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/13(月) 22:15
- 「なあ、まこっちゃんは彼氏とかおる?」
「え、え、い、いないよ、そ、そんなの」
と、突然なんてことを。
そんな、彼氏とか、そんな、ありえないし。
「じゃ、じゃあ、加護ちゃんは、どうなの」
「うちー? うちかー? うーん、おらんよ、多分」
多分って・・・。
意味がいまいち、わかんないけど・・・。
- 561 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/13(月) 22:15
- 「町の子って、結構そういうのあるんじゃないの?」
「あー、結構あるよ。つきあったりとか」
「里沙ちゃんとか?」
「里沙ちゃん? あー、ないない。ないはず」
「えー、かわいいのに」
町の子でも、意外とそういうのないのかなあ?
紺野さんは、なんとなくおっとりしてて疎そうだけど、里沙ちゃんとかは結構人気あるかとおもった。
- 562 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/13(月) 22:16
- 「でも、ナンパならされたことあるで」
「えー、ホント? どんな風にされるの?」
ナンパかあ・・・。
村じゃ絶対ありえないな。
みんな顔知ってるし、大体。
私は、加護ちゃんの話しを聞きながら、シャンプーの泡を流した。
町は村とはやっぱりずいぶん違うような気がする。
だけど、加護ちゃんとか、町から来た子も、別に普通に馴染んでる。
テレビに映る東京なんかの子達は、絶対話とかできない、って子に見えるけど、そういう子ばかりじゃないのかな?
そんなことを思った。
- 563 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/13(月) 23:51
- 更新、お疲れ様です。
>553
高橋・新垣の組み合わせも気になるが、紺野がもし初日に丸い子と組んでいたら・・・。
それにしても紺野・高橋、小川・加護の会話を知ると、辻・新垣の会話が気になる・・・。
- 564 名前:作者 投稿日:2004/09/18(土) 23:28
- >習志野権兵さん
>辻・新垣の会話が気になる・・・。
さすがにそれは無理です(笑)
- 565 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:29
- お風呂から上がって愛ちゃんの部屋へ。
相変わらず宝塚のポスターはすごい。
これ、全部高校の寮にももっていくのかな?
のんびりテレビなんかを見ながら、お風呂からみんな上がってくるのを待つ。
最後に戻ってきた愛ちゃんは、お盆を抱えて抱えて部屋に入ってきた。
- 566 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:29
- 「なにそれー?」
お盆に乗ってるのは一本の瓶。
加護ちゃんに聞かれて、愛ちゃんはにんまり笑っている。
なんか、やな予感。
「じゃーん、おさけで〜す」
「えーー」
やな予感的中・・・。
「飲んでみようよ」
「でもー、お酒でしょー」
あんまりよくない気がするけど。
みんなはどうなんだろう?
- 567 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:29
- 「やめた方がよくない?」
「なんや里沙ちゃん、度胸あらへんなあ」
里沙ちゃんはためらいがち。
加護ちゃんはなんか乗り気だし。
やめたほうがいいと思うんだけどな。
「愛ちゃん怒られないの?」
「ばれなきゃ平気やし」
「ばれるでしょ!」
ばれるって。
絶対ばれるって。
のんちゃんは、笑ってみてるだけでとめてくれない。
結局、愛ちゃんはコップに日本酒を注ぎだした。
言い出したら聞かないもんな、愛ちゃん。
まあ、見つかっても怒られるのは愛ちゃんだし、いっか。
- 568 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:29
- コップに入っている日本酒を眺める。
見た目は水と変わらない。
でも、なんか匂うし。
お酒、って感じのにおい。
当たり前だけど。
誰が最初に飲むんだろう。
みんな顔を見合わせる。
- 569 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:30
- 「愛ちゃんもってきたんだから飲んでよー」
「やっぱ、まことでしょー」
「なんで! 加護ちゃんのみたそうだったし、飲んでよ」
「うち、うちは、やっぱ、ほら、お酒の味をな、ちゃんと確かめてからやないと。里沙ち
ゃん、味見したってや」
「私! 私は、ほら、法律はさ、ちゃんと守るいい子だから。その辺はね。うん。そうだ
よ、紺ちゃん家お酒作ってるんだから飲んだことあるでしょ。ほら、味見して感想をさ、ね」
紺野さん家も造り酒屋なんだ。
みんなの視線は紺野さんに。
紺野さんは戸惑った感じだけど、コップを持ってじっと見つめている。
ゆっくりと口に持っていって、一口飲んだ。
- 570 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:30
- 「どう?」
「うーん、おいしいよ」
のんきな答え。
おいしいのか。
紺野さんの感想を聞いて、みんなそれぞれコップを口へ。
私も、一口飲んでみる。
「にがーい」
「おいしくなんかないよー」
あれ、紺野さん以外の反応は、あんまりよくないみたい。
結構おいしいと思うけど。
- 571 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:30
- 「愛ちゃん家のお酒、失敗作なんじゃないの?」
「そんなことないもん」
のんちゃんに突っ込まれて、愛ちゃんも自分で飲んでみる。
口にした瞬間、愛ちゃんの顔色が変わった。
「苦いんでしょー」
「そんなことない。おいしいもん」
苦い、かなあ?
確かに、ちょっと引っかかるけど、でも、結構おいしいけど。
- 572 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:31
- 「まこっちゃん、おいしいのー?」
「なんか、おいしい気がする。わかんないけど」
「もう一杯いってみる?」
気がつくと、コップ一杯空になっていた。
紺野さんが注いでくれる。
ついでに、自分のコップにも注いでいる。
紺野さんもお酒が気に入っちゃったみたい。
「紺ちゃん、なんで平気な顔して飲めるの?」
「なんでだろう?」
一番乗り気だった加護ちゃんは、あんまり口に合わなかったみたい。
紺野さんはあいまいに笑う。
- 573 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:31
- 「にがいよねー」
「おいしくないよー」
のんちゃんと加護ちゃんは、そんなことを言いながらもコップ一杯空にしていた。
私も、テーブルに置かれたお菓子をつまみながら二杯目を飲む。
やっぱり、おいしいような気がする。
ちょっと、気持ちよくなってきたし。
「なんか、気分悪くなってきた」
コップ半分残ったお酒を置いて、里沙ちゃんはうつむいている。
ちょっと、なんか息が荒い。
大丈夫かな?
- 574 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:31
- 「高橋さん、トイレどこにある?」
「出て、左のつき当たり」
「里沙ちゃん、トイレ行こう」
紺野さんが、里沙ちゃんを連れて出て行った。
「まことー、もっと飲めー」
「な、なに? 急にどうしたの愛ちゃん!」
愛ちゃんのテンションがなんだか上がっている。
加護ちゃんとのんちゃんは、けらけら笑って私たちを見てる。
いつも笑顔の二人だけど、なんか、今日の笑顔は、何かが違うような気がする。
- 575 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:32
- 「飲め!」
「あ、愛ちゃん、どうしたの?」
「いいから飲め」
酔っぱらってる?
愛ちゃんは隣に座り、コップを私の口元へ持ってくる。
抵抗できなくなって私は、そのコップを口にした。
「もっと!」
「もっと?」
「もっと! ぜんぶー」
愛ちゃんはそういってもたれかかってくる。
なんなんだ、いったい・・・。
私は、仕方なく残りも飲み干した。
こうなると、おいしいとかにがいとか、そんなの全然関係なくなっちゃうよ。
- 576 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:32
- 「全部飲んだー。まことの酒飲みー」
「酒飲みって、愛ちゃんが飲めっていったんでしょ!」
「もう、だからまこと大すきー」
「やめろって!」
私にもとれかかってた愛ちゃんは、体重をかけて押し倒してくる。
それから、私のほっぺにチュウをしようとした。
- 577 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:33
- 「まこっちゃんと愛ちゃんラブラブだー」
「ラブラブだー」
「笑って見てないで助けてよー」
のんちゃんも加護ちゃんも助けてくれない・・・。
愛ちゃんは、ほっぺにチュウしまくるし・・・。
「まこと、ちゃんとやせて、もーっとかっこよくなって。もーっと素敵になって。高校行
っても、ずーっとずーっと、私を守って。ね」
そう言って、またほっぺにチュウ。
愛ちゃんの勢いは止まらない。
- 578 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:33
- 「わかった。わかったから」
「ラブラブやー」
「ラブラブだー」
「まこと、大すきー」
なんとかしてくれー・・・。
もう、身動きも取れない。
「のの、うちらもラブラブやなー」
「ラブラブだねー」
あ、あ、あーーー。
のんちゃんと、加護ちゃんが・・・。
のんちゃんと、加護ちゃんが、口と口で、その、あの、その、口と口でチュウしてる。
口と口で。
な、なんてことを・・・。
- 579 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/18(土) 23:33
- 呆然と、のんちゃんと加護ちゃんを見てる間に、愛ちゃんは私にのっかったまま眠っていた。
愛ちゃん、お酒飲んでこんなになるなんて・・・。
ちゅうとかしてくるし・・・。
まあ、愛ちゃんだからいいけど。
でも、高校行ったら飲ませないように気をつけないとなあ。
眠っている愛ちゃんの頭をなでる。
私も、なんだか気持ちよくなってきたし、身動きも取れないから、そのまま、眠りに沈んで行った。
- 580 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/19(日) 08:59
- 更新おつです。
愛ちゃんはキス上戸ですか。ののとあいぼんも楽しいお酒のようで何より?です。
- 581 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/19(日) 20:11
- 更新、お疲れ様です。
2人がいない間にこんな惨事が起きていたのか・・・。
- 582 名前:作者 投稿日:2004/09/23(木) 21:34
- >580
将来が心配な15才たちです。
>習志野権兵さん
惨事って! 惨事って!
- 583 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:34
- 次の日は、三人が帰る日。
午前中しか時間がないからスキーには行かない。
みんなで加護ちゃんのおばあちゃん家に行って、のんびりと。
里沙ちゃんが、スキー場との往復だけで村の中を歩いていないから散歩がしたいって言い出した。
雪が田んぼや畑に積もっている村の中を歩く。
- 584 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:35
- 「ひゃー、つめたーい」
言いだしっぺの里沙ちゃんは、用水路の水に手を浸していた。
雪解け水なんだし、冷たいに決まってる。
昨日、あんなふうに、なんだかみんな酔っ払っちゃってたけれど、二日酔い、っていうの
かな? そういうのになってる子はいない。
のんびりと歩く。
のんびりと、目的地もなく。
- 585 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:35
- 「まこっちゃんはいつ引越し?」
「まだ決まってないけど、四月になってからかなあ」
「そっかあ。じゃあ、のんのが先に引越しだね」
「今月中にもう行っちゃうの?」
「うん。入学式前から練習はあるから」
「大変だね」
「うん。でも、自分で選んだんだし」
のんちゃんは、すごいなー、ってやっぱり思う。
それから、遠くに行っちゃうんだなーってのも感じる。
- 586 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:37
- 「どんなとこ住むの?」
「あのね、学校には寮とかないんだ。それで下宿するんだけど、聞いてよ。あの、ちっちゃ
な車掌さんいるでしょ」
「うん」
「あの人にねすすめてもらったんだ。のん、自炊とか無理だし、ちゃんと料理作ってくれ
る寮母さんみたいな人もいてさあ、気に入っちゃった」
「見に行ってきたんだ?」
「うん。よかったよ、なんか」
「そのうち遊びに行くよ」
「うん。来て来て」
春から、どんな暮らしが待ってるんだろう。
私にも、のんちゃんにも、みんなにも。
不安もあるけど、楽しみでもある。
- 587 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:37
- 「ねえ」
愛ちゃんが間に入ってくる。
交互に私とのんちゃんの顔を見てから前を指差した。
「なんかしたいよね」
なんかって、なによ・・・。
とは思わない。
言いたいことはわかっちゃったから。
のんちゃんはうなづいて雪のあるほうに歩いていった。
愛ちゃんも続く。
また、愛ちゃんは、もう、こういうことするのホント好きだなあ・・・。
- 588 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:37
- 私は、何もしないで見てる。
のんちゃんと愛ちゃんの二人は、雪を抱えて、前を歩く紺野さんと加護ちゃんに忍び足で近づいていった。
「ひゃーー」
「なにするん!」
のんちゃんは加護ちゃんに、愛ちゃんは紺野さんに、抱えた雪を首筋に押し付けた。
二人はちょっと逃げて、おどろいて冷たがる加護ちゃんや紺野さんを笑って見ている。
- 589 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:38
- 「冷たいよー」
「むかつくー。まて、このばかののー」
加護ちゃんは、すぐに道端の雪をつかむとのんちゃんを追いかけて走り出した。
紺野さんは、道端に座り雪を丸めている。
ちょっとはなれたところにいる愛ちゃんは、恐る恐る紺野さんの様子を伺っている。
「紺野ちゃん、それ作りすぎ。やめよう。ねえ、やめようよ」
「ゆ・る・さ・な・い」
面白そうなので、私も紺野さんの味方になることにした。
雪の玉を並べる。
合計六個。
そのうち二つをもって紺野さんは立ち上がって、逃げ腰の愛ちゃんを追いかける。
- 590 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:38
- 「まった! タイム! タイム!」
「タイムとか無いの!」
見事に二個とも愛ちゃんに命中。
紺野さんは私のところに戻ってきた。
今度は雪を抱えて愛ちゃんが反撃してくる。
投げた雪だまは、え、標的は私?
「やったな、このー」
やられっぱなしじゃいられない。
私も、作った雪玉を拾って投げ返す。
投げた球は愛ちゃんに命中したけれど、反撃は意外なところからやってきた。
- 591 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:38
- 「ゆだんたいてきー」
いつのまにか、里沙ちゃんが靴を脱いで用水路に入っていた。
両手で水をすくってかけてくる。
「紺ちゃん、覚悟しろ!」
さらに加護ちゃん、ついでにのんちゃんまで。
三ヶ所から雪の玉、うしろからは水、もう、どうしようもない・・・。
もう、どうしようもない。
私は、雪だまを拾った。
- 592 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:38
- 「覚悟しろ!」
裏切って、紺野さんに雪を投げつける。
四人で雪を投げて、一人が水をかける。
ちょっとかわいそうかな、って手を緩めてると、紺野さんは雪を大きく集めて抱え上げた。
「この、裏切りものー」
そう言って、私のほうに走ってくる。
いや、いやだー・・・。
それ、雪抱えすぎ・・・。
私は必死に逃げるけど、陸上部の紺野さんにかなうはずもなく、簡単に回り込まれた。
- 593 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/09/23(木) 21:40
- 「いや、いや、許して」
「ゆるしません」
両手で投げられた雪。
私の顔面にヒット。
冷たい。
すごく冷たい。
それに、ちょっと痛い・・・。
雪まみれになった私を見て、みんな、おなかを抱えて笑っていた。
- 594 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/24(金) 20:32
- 更新、お疲れ様です。
小川は敵にする相手を間違えたな・・・。
- 595 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/25(土) 00:31
- 更新お疲れ様です。小川らしくって良いですね。
- 596 名前:作者 投稿日:2004/10/03(日) 22:40
- >習志野権兵さん
成り行きでうごいて、えらいめにあってますね。
>595
らしいというかなんと言うか(笑)
- 597 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:40
- お昼、愛ちゃん家の車が迎えに来て、三人を駅まで送っていく。
もう、今日でお別れ。
みんな、口数が少ない。
なんとなく、窓の外を見ていたりする。
車は静かなままで駅に着いた。
- 598 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:40
- 今日はだいぶ暖かい。
もう春だなーって感じもする。
他のお客さんは駅には誰もいなかった。
「帰ったら着くの夜くらい?」
「そうやなあ。暗くはなっとるやろな」
まだお昼。
なのに、帰ったら夜。
遠いんだね。
すごく、遠いんだね。
- 599 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:41
- 「何にもなかったでしょ」
「そうだね」
「紺野ちゃん、フォローなさ過ぎ」
「何にもないって言ったの自分でしょー」
紺野さんが微妙に冷たい。
さっきの雪合戦、うらぎったの怒ってるのかなあ?
でも、顔は笑ってるから、本気で怒ってるってわけじゃないだろうけど。
- 600 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:41
- 人もいないし、いい天気だから屋根のある駅舎を出てプラットホームへ。
線路を渡って、プラットホームによじ登る。
三人の荷物は、持ち上げるのが結構重そうだった。
「そういう服って、普通に売ってるの?」
「売ってるよ」
「いいよねえ、かわいくて」
「今度おいでよ。私が服選んであげるからさ。夏休みとか」
「うん。行けたら行くね」
里沙ちゃんは服のセンスがなんだかすごくかわいい。
村では愛ちゃんが圧倒的にかわいいんだけど、それともまた違う、なんかセンスを感じる。
村の外の子が、みんな里沙ちゃんみたいにセンスある子ばっかりだったらどうしよう、とかちょっと思ったけれど、すくなくとも紺野さんは、かわいいけど服自体はちょっと・・・、って感じだし、私でも大丈夫かな?
- 601 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:41
- 「まこっちゃん、一緒にやせような」
「もう、気にしてるのに」
「ええやん、別に、うちが言うんなら、里沙ちゃんとかにいわれるんはへこむやろうけど、うちかてかわらんのやし」
そうだけどー・・・。
やせなきゃね・・・。
あんまり気にしててもしょうがないけど。
- 602 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:42
- 「加護ちゃん、村来るの何回目だっけ?」
「うーん、何回目やったっけ? 結構来た。うん」
「また、来てね」
「みんなおるときにな。まこっちゃん達も村出るんやろ」
「そっかあ、そうだよね。誰もいないんじゃ来てもしょうがないもんねえ。でも、多分、夏休みとかは帰ってくるよ」
「うん、またな、みんなおるときに」
夏休み、さっきは遊びに行くって言って、今度は村にいるって言って。
結構、いい加減。
でも、どっちでもいいかな。
たぶん、どっちでも楽しいし。
- 603 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:42
- 電車が入ってきた。
三人が乗り込んでいく。
「また来るよ」
「うん」
「夏休み、こっちに来てね」
「うん。行く」
「楽しかった、ありがとう」
「気をつけてね」
順番に、一人一人と握手する。
加護ちゃん、里沙ちゃん、紺野さん。
楽しかった。
また、みんなと会いたい。
- 604 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:42
- 「またね」
「うん」
ドアが閉まった。
電車はゆっくりと動き出して離れていく。
手を振る私たちに、三人も窓を開けて身を乗り出してこたえてくれる。
それでも、電車は離れていって、どんどん小さくなっていってしまう。
「また会おうやー」
加護ちゃんの声が聞こえた。
両手で、大きく大きく手を振って答える。
電車はトンネルの中に入って行った。
- 605 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:43
- 「行っちゃったね」
「帰っちゃったね」
帰っちゃった・・・。
電車が消えていったトンネルをぼーっとみつめる。
村の外の子と、こんなに長い時間一緒にいたのは初めてだった。
加護ちゃん、里沙ちゃん、紺野さん。
みんなそれぞれいい子で、楽しくて。
- 606 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:43
- 「村の外の子って、結構違うのかもって思ってたけど、そうでもないんだね」
「そりゃあそうだよー。中には愛ちゃんみたいに変わってる子もいるだろうけど。試合とかでよその子と会っても、普通だよ」
「うちは変わってないよ!」
ちょっと怒り気味の愛ちゃんを見て、私ものんちゃんも笑う。
「でも、なんかほっとした。高校行っても、ちゃんと友達できそう」
「わかんないよー、まこっちゃんは大丈夫だろうけど、愛ちゃんは」
「なんでー!」
「だって、無茶無茶わがままだもん。ねー」
うんうん、とうなづく。
だまってうなづく私を見て、愛ちゃんが言った。
「まことのばかぁ!」
- 607 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:44
- なんで、私だけ・・・。
こうやって、三人で馬鹿なことやってられるのもあとちょっと。
加護ちゃんたちみたいに、卒業旅行なんて行けたらよかったけれど、当てもないし。
卒業旅行の代わりとして、この四日間は楽しかった。
六人で会えること、もうないかもしれない。
そう思うと、さびしい。
だけど、きっとどこかで、一人一人には会いたいって思う。
- 608 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:44
- 私たちはみんな四月から高校生になる。
どんな明日が待ってるか、それは全然わからない。
とりあえず、それまでの短い春休みを楽しもう。
そう、思った。
- 609 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:44
- 「帰ろうっか」
「うん」
三人でワゴンに戻る。
車に乗るとき、愛ちゃんが言った。
「今日は気分がいいから、みんなで宝塚のDVDを見よう」
「絶対やだ!」
- 610 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/10/03(日) 22:45
- みんなの春休み おわり
- 611 名前:作者 投稿日:2004/10/03(日) 22:45
- ずっとsageだった理由。 番外編だし、まあ、sageかな、と思った。
- 612 名前:作者 投稿日:2004/10/03(日) 22:47
- さいごにageる理由。番外編だけど、やっぱり読んで欲しいから(笑)
- 613 名前:習志野権兵 投稿日:2004/10/04(月) 00:56
- 更新、お疲れ様です。
そして、完結、ご苦労様でした。
今はとりあえず、今回分のコメントを。
小川は最後まで小川だった。
- 614 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/04(月) 21:40
- 更新乙です。
なんかとてもらしい終わりかたっていうか・・思わずにやけてしまいました。
はじめての決断とあわせて読むとなおしっくりきますね!
なごやかで楽しくてにやけっぱなしでした。
続編期待してます!!!
- 615 名前:マシュー利樹(旧名:習志野権兵) 投稿日:2004/10/05(火) 02:02
- 他の人の言う通り、いづれは確かに続編は見たいと思います。
ただ、バスケの奴も正直、見たい気持ちがあります。
どっちを書かれるのかはわかりませんが次回作を楽しみに待ってます。
とにかく、みやさん、お疲れ様でした。
そして、ありがとうございました。
- 616 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/12(火) 15:30
- 脱稿乙です
相変わらずな3人で最高でした
次回作も期待してます
- 617 名前:みや 投稿日:2004/11/07(日) 23:08
- みなさん、読んでいただいてありがとうございました。
続編か次回作か。
出てきたのは、次回作になりました。
ファーストブレイク@空板
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/sky/1099835648/
高校生がバスケをする話です。
ここで出てきたメンバーは、最初にはまるっきり出てきません(笑)
中盤の入り口くらいからの登場になります。
シリーズもキャストも違うものでも読む! という方は、どうかお付き合いください。
このメンバーが出てこないといやだ! という方は、中盤までお待ちください。
このシリーズじゃなきゃいやだ! という方は、・・・。
いつまで待てばいいのだろう・・・。
少なくとも、今年中はありません。
いつかはきっとありそうですが。
とりあえず、しばらくはバスケの話、よろしければお付き合いください。
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