夏の殺人犯
- 1 名前:オープニング 投稿日:2003/09/14(日) 16:09
-
───やわらかくて あったかい光に満たされながらも
生死が渦巻いていた
あの残酷で どこか優しい夏を
───今でも覚えている・・・
- 2 名前:オープニング 投稿日:2003/09/14(日) 16:45
- 真夜中はとても静かで微かに草むらの方から虫の鳴き声がする。
山奥にひっそりと立っているこの建物の中から、バリンッと小さく
窓の割れる音がすると、中からぬっ、と人影が出てきた。
建物の窓から出てきたのは───
「うんしょっと・・・」
十七、八歳くらいの少女だった。
目が少し離れ気味で、髪は栗色、細い身体からは長い手足が
伸びている。
少女はきょろきょろと辺りを見渡すと、首から提げているロケットを
手にして、中を開いた。
- 3 名前:オープニング 投稿日:2003/09/14(日) 17:02
- 中には猫っぽい目を細めてかわいらしく微笑んでいる、黒くて長い髪が
とてもよく似合う少女の姿があった。栗色の髪の少女は、その写真を見て
優しく微笑んだ。その写真を何秒か見つめた後、栗色の髪の少女は、
緩んだ顔を少し硬直させて、開いたロケットのふたをやさしく閉じた。
(お姉ちゃん、絶対迎えにきてやるからな・・・!)
そう心の中でつぶやくと、少女は一目散に走り出した。
とても人間とは思えない速さで、山を駆け下りていく。
栗色の髪の少女はあっというまに、消えていってしまった・・・。
少女がこの山からいなくなった数秒後、建物の影から金髪の小さな少女がにやりと
怪しい笑みを浮かべ、立っていた。
一度止まっていた物語は、少女が逃亡したことによりここからまた動き出した。
- 4 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/14(日) 17:03
- ちょっと暗めになるかもしれません。
よろしくおねがいします。
- 5 名前:第一章 子羊達の賛美歌 投稿日:2003/09/14(日) 17:12
- 「紺野あさ美は死んだよ」
「君のためにね」
「君があの時逃げ出さなければあの子は───」
「───きみがころしたんだ」
───キミガコンノアサミヲコロシタンダ
- 6 名前:第一章 子羊達の賛美歌 投稿日:2003/09/14(日) 17:27
- 雨が道路にうつぶせに倒れる少女の弱った身体をうちつける。
でもどこかその雨は遠慮がちで少女は
「雨にまで同情されちゃったかな・・・?」
と、小さなかすれた声で途切れ途切れにそういって微笑んだ。
その笑顔は痛みで少しひきつっていた。
少女の鼻を雨のあの独特のにおいがくすぐった。
彼女の身体からは血が流れていて、目の前の車には血がべっとりと、ついていた。
目の前がだんだん霞んでゆく・・・
──美しい夕日を浴びて、彼女の身体から流れる血は鮮やかに輝いた。
彼女は震える指に力をいれ、道路を染めるその真っ赤に輝く血に触れた。
「本物だぁ」
「ほんものだよぉ・・・」
声にならない弱弱しい声でそうつぶやくと、血のついた指を空に掲げた。
そして、息を呑むほど美しい顔で微笑んだ。
その光景は、儚げで、美しくも奇妙でもあった。
そう─まるで死を望んでいるかのように・・・
- 7 名前:第一章 子羊達の賛美歌 投稿日:2003/09/14(日) 17:47
- 遠くから救急車のサイレンの音が聴こえる。
少女は一度、目を閉じる。
胸の太鼓が、やけにリアルに体中に鳴り響く。
───あのときの僕らは、ただ不器用にがむしゃらに互いの道を
歩んでいたんだね
少女は再び目を開けて、目の前に広がる景色を見つめる。
正面に輝く夕日の美しさに、少女は心を奪われていた。
そして 彼女は想った。
───今日は何人の子供達が 産み落とされたのだろう?
少女の瞳が、どんどん光を失っていく
───でも心配要らないさ
まぶたがどんどん重くなり、閉じてゆく。
もう身体は動きそうもない・・・
───ホラ 世界は 今日もこんなに・・・
───美しい。
とうとう彼女は気を失って地面に突っ伏してしまった。
───たとえどんなに儚くても・・・。
その顔はとても穏やかだった。
オレンジ色に照らされた身体はとりのこされたまま。
救急車がやっと到着した。
空が泣いているかのように、さっきより強い雨が降り、どんよりとした雲が
彼女が見とれた夕日を隠してしまった。
- 8 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/14(日) 18:14
- ※※※※
ここは都会からずぅーっとはなれた田舎町。
もちろん辺りは畑や田んぼが広がっていて、社会化の教科書の
表紙に大抜擢されそうなほど、田舎くささが漂っている。
ここに住んでいる人たちは比較的温厚で、やさしくてのほほんとしていた。
みんな今日もいつもと変わらない日を終えようとしていた。
──でも今日は違った。平穏な毎日はここから少しずつ、狂っていくことになる。
ココの病院にはこばれてきた少女によって──
- 9 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/14(日) 18:39
- 高橋愛はあわただしく救急車から運ばれてくる、重傷な怪我を負った患者を
心配そうに見つめていた。この田舎の病院では、めったに重症な患者は
運ばれてこない。ココに来る患者のほとんどは骨折や捻挫、風邪くらいだ。早寝早起き、
野菜は必ず食べる、というような習慣があるせいか皆身体が丈夫で、患者もそんなに多くない。
そのせいか儲けはそんなにないのだが、この病院を建てた医師が金持ちで、しかも
患者は食べ物を分けてくれるのでそれほど生活に困らなかった。ここにいる看護婦も
給料目当てじゃなく、ボランティアみたいなかんじで働いていたので人事費もそんなにかからない。
というより、彼女らは自ら給料を多く取ることを断っていた。
──全ては患者さんのために
そんな優しい医師や看護婦さん達や町の人たちに囲まれて
愛はこの病院で一応働いていた。
重傷をおった患者は、その患者をあわただしく運ぶ医師や看護婦に隠れて
よくみえなかった。やがて、患者を運ぶ医師たちの声や足音が
廊下の向こうへ遠ざかっていくと、愛はさっきより落ち着いたものの、
まだとまどいを隠せずにいた。
- 10 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/14(日) 19:13
-
「ダメだよ、愛ちゃん。冷静に、落ち着いて」
いきなり背後から声をかけられて、愛はびくっと身体を強張らせた。
その拍子に、もっていたカルテを床に落としてしまった。
バサバサッという音が、静かな病院に響いた。
その後
「うわぁ〜!ご、ごめんなさいっ!!」
澄んだ高く綺麗な声・・・だがどこかマヌケな声もついでに響いた。
その瞬間、ソファーに座ってTVを見ていた患者達は プッとふきだした。
ほかの看護婦達は苦笑いを浮かべるものもいたり、思いっきり噴出しているものもいたりと
まばらだった。
愛の名を背後から呼んだ少女は、やれやれといった様子で頭を抱え、
眉をハの字にして情けないような顔でカルテを拾う愛を手伝った。
しゃがみこんだ拍子に少女の少し高めに結んだポニーテールが揺れる。
彼女の冷静振りをみると、愛がこのようなドジをするのはいつものことのようだ。
愛は自分を手伝ってくれる相手をおそるおそる見つめた。
その瞬間、その強張った表情は一瞬で笑顔になった。
「なんだぁ!れいなかぁ。びっくりしたぁ〜もぉっ、なかざーさんかとおもっとったでぇ」
(─ビシッ!今頃気づいたのかよ!)
れいなと呼ばれた少女は、自分の肩をおばさんくさく笑いながら
バシバシたたく愛におもわずつっこみたくなるのを必死で
心の中にとどめて・・・・・・おくつもりだったが
「よりによって中澤さんかよっ!」
と、そりゃねーだろ、という心の底からあふれてくる怒りと悲しみと
がっかりしたのが混じりあった感情をおさえきれず、思わず口に出して
つっこんでしまった・・・。
──ヤバイ
いまさらながられいなは生命の危機を感じていた。
れいなの顔は凍りつき、首筋に冷や汗がたら〜っと流れた。
そんなれいなの顔を見ても、愛は事の重大さに気づかずに
呑気に腹を抱えてケラケラと笑っている。
- 11 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/14(日) 19:22
- 「ごめん、ごめん。それよりさっきのナイスつっこみやよー!あーお腹いた・・・」
二人の視界にはいっている、自然と目がいく床に、あきらかに
二人ではない人物の人影がうつる。
その頭だと思われるシルエットから、にょきにょきと鋭い角がはえてゆく。
その鬼へと変貌を遂げたシルエットをみて、さすがの愛も凍りついた。
愛の額から、汗がにじみでてきて、二人同時に息を呑んだ。
そして、ゆっくりと顔を強張らせながらその鬼のシルエットの持ち主を
見つめた。 その鬼は こういった。
「だれが三十路やって!!??」
───そんなこといってねーよ!!
そう突っ込む暇もなく、二人はげんこつをくらった。
- 12 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/21(日) 17:27
- ※※※※
その夜──
愛とれいなは寮の中にいた。
自室にはベッドが二つ、机やタンスが二つあり、二人の机には
「看護婦になるには」というような看護婦の資格の取り方の参考書
のようなもの、学校の教科書が並んでいた。
ドアを開けると、二人はほぼ同時に自分達のベッドに飛び込んだ。
「ふぅ・・・疲れたぁ」
「うん。まだなんかあの張り詰めたような空気になれないんだよねぇ・・・」
「あっ!あたしも、あたしも!」
れいなの言葉に愛は同意する。二人は顔をあわせると微笑んだ。
「もうこの寮に来て二ヶ月たってるのになぁ・・・」
「そっかぁ・・・もう二ヶ月かぁ・・・」
二人はそれぞれ今までのことを思い返していた。
離れて暮らす家族のこと、看護婦になる決意、この田舎の寮に
住みながら看護婦の勉強をしようと真剣に考えたこと、
故郷からここへ旅立つとき、わざわざ見送ってくれた友人達・・・。
今でも鮮明に思い出される。
とくに離れて暮らす両親を思うと、胸が熱くなった。
- 13 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/21(日) 17:51
- 「ねぇ、れいな」
「んっ?何??」
愛が目を輝かせながられいなを見つめる。
いきなり名前を呼ばれたれいなは、少しびっくりしながらも
愛に返事を返した。
「れいなはさ、なんで看護婦になろうと思ったん?」
「な、なんでって・・・」
意外な質問に少し戸惑った。今まで聞かれたことがなかったからだ。
れいなが少し戸惑い、口ごもってるのをみて、愛は
「なんやのー、れいな、照れとるんかぁ?可愛いなぁ、このこのっ!」
と、ひじでれいなの身体をつっついた。
「可愛い」なんて両親ぐらいにしか言われなれていないので、
れいなはすぐ赤くなって何も言い返せなくなってしまった。
──かっ、可愛いのは愛ちゃんのほうだよ!
ってか、いつの間にアタシのベッドにいるのさ!!
心の中でそう叫んだものの、やっぱり口には出せない。
愛はますます赤くなるれいなを見て楽しそうに笑った。
「もうっ!れいなってば、かぁいい♪」
「ちょっ、やめっ・・・」
いきなり愛に抱きつかれたため、また照れて顔が赤くなる。
抵抗しても無駄だということは知っていたが、やはり抵抗せずにはいられなかった。
無理やり愛の身体を引き剥がそうとするが、年が3つくらい離れているせいもあり、
力の差は大きい。れいなは諦めて、別の方法で愛を離れさせようとした。
その方法は結構簡単に思いついた。
- 14 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/21(日) 18:04
- 「じゃあ聞くけど・・・愛ちゃんはどうして看護婦になろうと思ったの?」
「ふぇ??」
逆に質問を聞き返すというこの方法はかなり効果的だったらしい。
自分も同じ質問をされることを予想してなかった愛は呆然とれいなの顔を
見つめていた。
──今だっ!!チャンス!!
愛が力を抜いた隙にれいなは愛の身体を自分の身体から引き剥がした。
また抱きつかれる危険性もあったが、どうやら大丈夫らしい。
愛は身体を引き剥がされても、無反応でぼーっとしている。
「あ、愛ちゃん?お〜い」
「・・・・」
──身体引き剥がされたのがそんなにショックだった?
まさかねぇ・・・いつものことだし。
じゃあなんだろう・・・?
なんか今日、変だよ・・・愛ちゃん・・・
あっ、変なのはいつものことか・・・・
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/21(日) 21:38
- なんかおもしろそう!期待しちょる
- 16 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/22(月) 18:41
- いろいろ頭の中で考えを巡らせたものの、答えは一向に見えてこない。
れいなは「はぁっ・・」と軽くため息をつくと、深呼吸をし始めた。
──そして・・・
「愛ちゃんっ!!!」
「うわぁっ!!!!・・・ふぇ??」
大声で名前を呼ぶと、やっと愛は反応してくれた。
大きな目をさらに大きく見開いて・・・。
そんな愛を見て、れいなは安心して「ほっ・・」と胸をなでおろした。
「もうっ!愛ちゃんたらっ。目ぇあけたまんま寝てんのかと思ったよぉ」
「・・・あっ、ごめん。」
意識を取り戻した愛は、すまなそうな顔でれいなを見つめた。
──愛ちゃん・・・切ない顔もこりゃまた綺麗・・・。
・・・って、何言ってんだ・・アタシは!!!
一人で心の中でノリツッコミをした後、れいなは、まだ浮かない顔を
している愛に話しかけようとした・・・
「愛ちゃん、だいじょう・・・」
──その時っ!!!
ガチャッ!!!
「お前らっ!今何時だとおもっとんねん!!!」
いきなりドアから入ってきた人物に、また愛とれいなは
本日二回目のげんこつをくらうことになる・・・。
- 17 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/22(月) 19:02
- 「いてっ!!」
「いたいやよー!!」
部屋に二人の間抜けな声が響く。
その後に続いて・・・
「さっき部屋で大声出してたの、お前らやろ??」
と、いうドスのきいた声が響く。
「・・・・」
「お前らかって聞いとんねん!返事くらいしいや!!」
「「ひっ・・・ひぃ!!す、すみません。中澤様!!!」」
「うむっ、正直でよろしい。」
中澤様こと中澤裕子は、ここで看護婦をしている。
少し怖いがそれは愛やれいなにそれだけ期待をし、想ってるからこそ。
それは中澤の優しさなのだ、ということは愛もれいなも十分わかっているし、
なんでもテキパキとこなす中澤を、二人は尊敬もしている。
───でも・・・
「ところで、今・・・何時やと思ってんの?」
「「じゅ、十一時ですっ!!」」
やっぱり怖いものは怖いのである・・・。
ぺこぺこと頭を下げ続けるれいなと愛をみて、中澤は「はぁっ・・・」
っと深いため息をついた。
- 18 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/22(月) 19:24
- 「あのな、もう自分らもうそろそろ騒がんで寝ろや。
小学生じゃあるまいし。ほらっ、あしたも仕事あるんやで?」
さっきより優しい声で中澤は二人にもう寝るように促した。
二人は首を思いっきり縦に振って頷くと、急いでベッドにはいった。
中澤はそんな二人を見つめて微笑んだ。
そして二人の部屋から出て行こうとした時──
「あっ!!忘れとったわ。れいなっ!!」
──びくっ!!
「はっ、はいっ!!!」
──今度は何なんだろうか?
れいなは自分だけが名前を呼ばれたことに驚いた。
愛は心配そうにれいなを見つめている。
中澤はベッドの中で身体を硬直させているれいなを見つめ、
苦笑いしながらこういった。
「そんな怯えることないやん。ただな、えりが、お前に逢いたいって」
「えっ・・・」
「言いたかったのはそれだけや。明日にでも逢ってあげてや。あの子お前に逢うの楽しみにしとんねん。」
「は、はいっ!」
緊張と驚きで声が裏返っているれいなを見て、中澤はふきだした。
その後、愛とれいなを交互に見つめ、
「おやすみ」
と、つぶやいて二人の部屋から出て行った。
中澤の足音がだんだん遠ざかって聞こえなくなっていく。
そして、それが完全に聞こえなくなったとき、
二人はほぼ同時に
「「ふぅ・・・」」
と、安堵のため息を漏らした。
そしてため息がほぼ同時に出たのに驚いた二人は
顔を見合わせて、くすくすと笑った。
笑えば笑うほど、おかしさがこみ上げてきた。
笑いつかれて、しばらく二人はしゃべれずに、肩で息をしていた。
静かなへやに、二人の荒い呼吸だけが響いた。
- 19 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/22(月) 19:42
- 「れいな・・・」
その部屋の沈黙を破ったのは愛のほうだった。
綺麗な澄んだ声がれいなの耳のなかで木霊した。
静かな部屋は、愛の綺麗な声をいっそう、ひきだたせた。
れいなはこの声を聴くたびに、いつも「この声が好きだ」と思う。
初めて愛に話しかけられたときもそうだった。
──(うわぁ・・・澄んでいて綺麗な声だなぁ。)
─声に人の性格は表れるのだろうか・・・?
愛の声を聴いたあとは必ずと言っていいほど、
そんな疑問が頭をよぎる。
だって高橋愛という人物の人柄は、れいなの感じた愛の声の印象と
まったく同じだったからだ。
──汚れのない、高く澄んだ綺麗な声。
高橋愛という人物は信じられないくらい
──純粋で汚れのない、澄んだ綺麗な心を持った少女だった。
しばらくれいなはあの時、愛と初めて会ったときのことを
思い出していた。
- 20 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/22(月) 19:54
- 「れいな・・・?もう寝たんか??」
「へっ??ああ、ごめん。起きてるよ・・・」
そう返事をして、れいなは愛のいるベッドのほうを見た。
愛は自分のベッドのなかで小さく縮こまっている。
愛は、れいながまだ起きていることを知ると、
安心して微笑んだ。
そしてすまなそうな顔でれいなをみつめた。
「あのさぁ・・・」
「ふっ??」
(───そっちいってもいい?)
きっと愛はそういうに違いない。
れいなはそう確信すると、言いにくそうに口ごもってる愛の言葉を
さえぎって、少し自分の身体をベッドの端に寄せる。
そして、ひとつのベッドに一人分のスペースをあけると、
かぶっていたタオルを片手で上にあげて、さっきあけた一人分の
スペースを ぽん、ぽんっ とたたいて
愛にこっちにくるように促した。
- 21 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/22(月) 20:10
- 愛はびっくりした顔でこっちをしばらく見つめていた。
その後すこし照れたように笑うと、自分の枕を持ってきて、れいなのベッドのほうへ
とことこ、と歩いてきた。
そしてれいなの枕の横に自分の枕を置くと、
れいなのあけてくれたベッドのスペースに、すっぽりと
身体をおさめた。
その後、れいなは上に掲げたタオルをおろして、
愛にもしっかりそのタオルをかぶらせた。
愛は照れくさそうにれいなに抱きついてきた。
──こうされるのはいつものことだ。
昨日の夜だって、おとといの夜だって・・・。
愛は仲良くなった日から、当たり前のようにれいなのベッドで
れいなとひっついて寝るようになった。
だからこんなのにはもうなれているはずだった。
それなのにれいなはいつも、引っ付いてくる愛にドキドキするのだ。
- 22 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/22(月) 20:27
- 「れいなぁ」
くぐもった甘えた声がする。
その言葉の続きもいつもいっしょにいるれいなには
簡単に理解してしまう。
返事をする前に、すばやく愛の足にれいなは自分の足を
巻きつけた。
「・・・!?」
「・・・知ってるよ。足巻きつけてもいい??でしょ?」
また愛は驚いた顔でれいなを見つめる。
見つめられたれいなは思わず照れてしまった。
顔を赤くさせて、目線をそらすれいなに愛は
「・・・ありがと」
と、つぶやいて、赤い顔を隠すようにしてれいなの胸に
顔をおしつけた。
「う、うん・・・。あのさ、愛ちゃ・・・」
照れながらやっとれいなは返事を返した。
──しかし・・・
「すぅーすぅ・・・」
───って、もう寝てるのかよ!!!
せっかく人が照れながらも返事返したのに・・・
れいなはなんだか自分が情けなくなった。
その原因の本人はもうすでに気持ちよさそうに寝ている。
れいなは、また少しため息をついた。
そしてその後自分の胸の中で気持ちよさそうに寝ている親友の寝顔を見つめた。
- 23 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/22(月) 20:37
- 自分よりいくつか年上のくせに、自分より頼りなく、ドジで寝顔も幼い。
だけど優しくて、思いやりがあって、だれよりも純粋で、そして真剣な顔は
とっても綺麗で、大人びていて・・・。
そんな愛はれいなの中で一番の親友となっていた。
たった二ヶ月しかまだ一緒にすごしていないけれど・・・。
でも、それでもれいなの中で愛の存在はとても大きい。
いつも、いつでも一緒にいたいと思う。
愛が喜んだとき、落ち込んだとき、怒ったときも、泣いたときも・・・
──そばにいたいのはじぶんでありたい・・・。
れいなは優しく微笑みながら、親友、愛の顔をみつめた。
まるで女神のように綺麗で・・・美しい。
そう思うのは少し大げさだろうか・・・?
いや、でもまったくそのとおりだとおもった。
- 24 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/22(月) 20:39
- ×そばにいたいのは自分でありたい
○そばにいるのは自分でありたい
ですね・・。
すみません。
- 25 名前:第二章人の優しさ 投稿日:2003/09/22(月) 20:50
- 「愛ちゃん・・・大好き」
そっと隣で眠る唯一無二の親友にむかってつぶやいた。
きっと寝ているのでその言葉は届かないだろう・・・。
れいなはそう思って自分も寝ようとした
──そのとき・・・・
「れいなぁ・・・あたしもれいな、だーいしゅき」
一瞬れいなは愛がまだ起きているのかと思い、驚いたが
その後すぐ寝息をたてて気持ちよさそうに眠る愛の姿を見て
「なんだ、寝言かぁ・・・」
と、胸をなでおろした。
そしてれいなは
「おやすみ、愛ちゃん」
とつぶやくと、そっと愛のおでこにキスをおとした。
その後、れいなは愛がベッドから落ちないように、自分のほうへ
愛の身体を優しく引き寄せると優しく微笑んで、愛と同じように寝息をたてて
気持ちよさそうに眠った。
- 26 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/22(月) 20:55
- >15 うわぁ〜!!レスありがとうございます!!
がんばります!!
- 27 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/23(火) 19:27
- ※※※※※
ちゅん、ちゅん
──んっ・・・
外では小鳥がさえずっている。
カーテンの隙間から、太陽の光が差し込む。
朝のあたたかい光に包まれながら、れいなは
──ああ、朝がきたんだ・・・。
と、他人事のように感じていた。
「あと五分・・・」っといいたいところだが、仕事に少しでも
遅れると中澤にこっぴどく叱られてしまうので、仕方なく
れいなは眠い目をこすりながらも身体を起こそう・・・とした。
でもそれを実行するにはまず、足にからまっているものをほどかなければならない。
そう、愛の・・・足だ──。
「愛ちゃん、朝だよ。愛ちゃん・・・」
「ふっ・・・?」
「ふっ?じゃないよ。愛ちゃんの足どかさないとアタシが起きれないの!」
そう言うと、愛は「ああ・・・」とつぶやいて、しばらくぼーっとしていたが、
その後いたずらを思いついたような顔をして、れいなのパジャマをぎゅっ、とつかみ、
れいなの胸に顔をよせた。
- 28 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/23(火) 23:12
- 「!!あ、愛ちゃん・・・・?」
急に甘えられて、れいなはドキドキした。
「へっへー♪起きれないようにしてやる!」
愛はそんなれいなにおかまいなしに甘えて、無邪気にはしゃぐ。
れいなが途方にくれていた──その時・・・
「おーい!!仕事やで、おきとるかぁ??」
ドアが開く音と同時に中澤の声が響いた。
二人は突然のことに驚き、身をすくめた。
「なんや、おきてるんか。さっさとしたくしいや」
二人に着替えをするように促すと、中澤はドアからでていこうとした。
- 29 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/23(火) 23:30
- でもその後「あっ、そうや」とつぶやくと、愛とれいなに
「昨日運ばれてきた患者さん、目をさましたらしいでぇ」
と、うれしそうに言った。
二人はしばらく呆然としていたが、顔を見合わせると
「「本当ですか??やったぁ!!!」」
と飛び上がって喜んだ。
うれしそうにはしゃぐ二人をみつめ、中澤は満足そうにうなずくと、
「あ、れいな。今日仕事終わった後、時間あいてるやろ?えりに逢ってやってな?
うちにくればいいから。じゃあよろしくな。」
という言葉を残して、れいなの返事も待たずに去っていってしまった。
──げっ、返事もまだしてないのに・・・。
ま、いっか。特に用事もないしね。
絵里・・・どうしてるかなぁ??
絵里のことを考えると、何故かれいなは顔の筋肉が緩んでしまう。
なんだかそれが照れくさくて、れいなはすぐ隣りにいる愛に話しかけようとした。
「ねぇ、愛ちゃ・・・」
その時れいなは、気づいた。
親友の異変に・・・!!
- 30 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/23(火) 23:44
- 「・・・・」
「・・・あ、愛ちゃん??」
──愛ちゃん、また昨日みたく意識飛んでるのかな?
そう思い、れいなが深呼吸をはじめると・・・
「大声出す必要はないよ・・・ちゃんと起きとるし・・・」
と、隣りにいる愛がつぶやいた。
そして切なそうな顔でれいなを見つめる。
──愛ちゃん・・・もしかして、怒ってる??
切ないながらも目がどことなく怖い・・・。
れいなはなんて言葉をかけていいのかわからず、しばらく黙っていた。
でも沈黙は長くは続かなかった。
「れいな・・・絵里って誰??」
「へっ・・・?」
「あたし、そんな話全然聞いてないよ。」
愛は悲しそうに(でもちょっと怖い)れいなを見つめ、
れいなの答えを待っていた。
れいなはというと・・・
──愛ちゃん、怒った顔もこりゃまた可愛い・・・
ってなんでやねん!!
いつものようにノリツッコミをしていた。
「ねぇ」とにじりよってくる愛にれいなはたじたじになっている。
れいなが答えようとしないため、沈黙がまた続いた。
- 31 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/23(火) 23:59
- 「・・・ふぅ」
二度目の沈黙も、愛のため息のおかげで長くは続かなかった。
れいながおろおろとしていると
「いいよ、別に。言いたくないんだったら・・・」
「愛ちゃん??」
意外な言葉にれいなが驚いて顔を上げると、
愛はれいなの目をしっかりと見据えて、こういった。
「ふーんだ!れいななんてもうしらんっ!!」
──・・・へっ??
あっけにとられているれいなをよそに、愛はさっさと
着替えて、一人だけ仕事に行く準備をはじめてしまう。
れいなが気づいたときには、愛はもう部屋から出て行こうとしていた。
──愛ちゃん!!待って!!
そう言おうとしたときにはもう遅く、愛は部屋から出て行ってしまった。
結局れいなは愛になんにもいえぬまま、ただ途方にくれていた。
出て行った愛が残していったのは、愛のシャンプーの残り香と愛の香水のにおい、
そして愛が思いっきり閉めたドアの音・・・。
──なんだか今日は朝から大変な一日になりそうだ・・・。
れいなは頭を抱えてそう思った。
- 32 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/24(水) 02:49
- ひょっとしてちょっと田亀もあるのかな?
おもしろいから期待してます☆
あと最初の目の離れた17、8歳の少女も気になるなあ…
なんとなくわかるような気もしますが(w
- 33 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/24(水) 23:04
- ──あーあ。なんであんな態度、とってしまったんだろう・・・。
愛はれいなに冷たい態度をとってしまったことを、後悔していた。
れいなのことが気にかかり、患者さんと話しているときも
どこかうわの空で、逆に患者さんに心配されたぐらいである。
中澤もいつもれいなと仲良く病院に行っている愛が
一人で仕事に来ているので、「なにかあったんじゃないか」と少し心配しているようだった。
──なかざーさんや患者さんにまで迷惑をかけるなんて・・・
あたし・・・これじゃあ、いくら勉強しても看護婦になんか
なれないよね・・・。
「はぁ・・・」っと、愛が小さなため息を漏らすと
突然、後ろから声をかけられた。
「どうしたの?!ラブリー!!いつもの元気がないわよ」
かん高い、耳がキンキンするような声をきいて、愛は一瞬で
この声の持ち主をあてた。
「あっ、いしかーさん・・・」
後ろを振り返ると、愛と同じナース服を着た
石川梨華が立っていた。
「ラブリー、悩みがあるならいつでも相談にのるわよ!
看護婦石川梨華、先輩としてラブリーの悩みを解決してみせるわ!!」
「ちょっ、ちょっといしかーさん・・・」
「さぁ!ラブリー、うちあけてごらんなさい!!あなたの抱えている、大きな悩みを・・・」
一人でなんだか盛り上がっている石川を見て、愛は思った。
──たとえ一人では抱えきれないような大きな悩みをもっていても
間違ってもこの人にだけは相談しないでおこう・・・。
- 34 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/24(水) 23:16
- 精一杯の笑顔で(でも少しひきつっている)愛は
「いえ、今日もあたしは元気です!!」
と、答えた。
石川は納得いかないような顔をしていたが、
なかなか愛が悩みを打ち明けてくれないので、仕方なく諦めた。
「わかったわ、ラブリー。先輩石川梨華、今日のところは勘弁してあげる・・・。
そんなにいいたくないのなら・・・」
「・・・勘弁してくれてありがとうございます」
「いえ、いいの。でも次こそは、ちゃんと相談してね!私、ラブリーが相談してくれる日を待ってるわ」
「はい、ありがとうございます・・・(一生その日はこないだろうけど・・・)」
また精一杯の笑顔を作ると、愛はその場を立ち去ろうとした──
──その時・・・
「あっ!待って、ラブリー!!!」
「はいっ??」
「あなたに中澤さんからお願いがあるの・・・」
石川は、眉をハの字にしながら、愛に中澤の伝言を伝えた。
- 35 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/24(水) 23:37
- ※※※※
愛は今、階段をのぼって、ある病室にむかっていた──
階段を一段一段登るたびに、さっきの石川との会話が思い出された。
──(昨日、事故にあって運ばれてきた患者さん知ってるでしょ?)
はい、知ってますけど・・・
──(その患者さん女の子でね、あなたと年が近いの。・・・たしかラブリーの
一個下だったはず・・・。)
へぇ!そうなんですか・・・
──(それでね、やっぱ知らない人だらけの病院じゃあ、心細いと思うの)
・・・・。
──(って事で、年が一番ちかいラブリーには・・・これから毎日その女の子の病室に通って、その女の子とお友達になってもらいまーす!!)
はい・・・って、えぇっ!!!
──(そういうこと、じゃあよろしくねー!!これも看護婦になるために必要な仕事よ!!)
そんなこといったって・・・あっ!いしかーさんっ!!
※※※※
- 36 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/24(水) 23:54
- ──そのあと、石川は愛の返事も聞かずに、逃げるように去っていった。
ひとり取り残された愛は仕方なく、その女の子の病室に向かうことにしたのだ。
──いきなりお友達になってもらうように頼まれても・・・
そう簡単に仲良くなれるかなぁ・・・?
いろいろ考えてるうちに、いつの間にか目的の場所についていたらしい。
たしか病室は2階の右に向かって一番奥の部屋──
病室の表札には
───『小川麻琴』
と記入されていた。
その病室のドアの前で、愛は軽く深呼吸をすると、
ノックをしてから少し気合を入れて、ドアを開けた。
「失礼しまーす!!」
ドアの向こうには、綺麗な黒髪と長いまつげをもった少女がいて、
その少女は、黒い瞳でまっすぐに愛をみつめていた・・・。
- 37 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/25(木) 00:03
- 名無し読者さま>れなあい(?)に見せかけて実は田亀だったり(笑)
面白いなんて・・・光栄です!!ありがとうございます!!
目の離れた少女は・・・その「なんとなく」で当たってると思います(笑)
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/25(木) 14:31
- おがたか!れなあいに見せかけて田亀!!
作者さん、最強です!!!
- 39 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/25(木) 21:33
- ※※※※
「なぁ、れいな」
れいなが患者さんの昼ごはんを運んでいると、いきなり
後ろから声をかけられた。
振り返ると中澤が立っていた。携帯を片手に、困ったような顔で頭をぽりぽり掻いていた。
「なんですかぁ?中澤さん・・・」
「実はさぁ・・・」
中澤は少し言いにくそうにしていた。
──もしかしたら、愛ちゃんとのケンカ(?)の話かもしれない・・・
そう考えると、れいなは少しドキドキした。戸惑いながらも中澤の
次の言葉を待った・・・。
しばらくすると、中澤はこういった。
「あんたの仕事、かわりにあたしがやっとくから・・・」
「はいっ!・・・・へっ???」
愛とはやく仲直りするようにと、怒られると思っていたれいなは、
中澤の意外な言葉に驚いた。
- 40 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/25(木) 22:05
- 口をあんぐり開けて、「ぽかーん」としているれいなに
中澤は苦笑した。
「いやぁ、そのかわり・・・お願いがあるんやけど・・・」
「・・・お願い?」
※※※※
──PM1:00
れいなは今、病院の廊下じゃなくて田舎町の道を歩いている。
何故かというと・・・これが中澤のいう『お願い』なのだ。
中澤の願いを聞き入れた後、すぐにれいなはナース服から
普段着に着替え、病院の外に出た。
そして今、あるところに向かっている・・・。
しばらく歩いてから、れいなは一軒のアパートの前で足をとめた。
そして、そのアパートの階段をのぼって、三階を目指す。
三階につくと、れいなは左から三番目のドアの前まで移動して、立ち止まった。
ドキドキ高鳴る胸をおさえながら、ドアの横のインターホンを鳴らした。
すこしの沈黙の後、しばらくして中から
「はーいっ!」
というかわいらしい声がきこえ、ドアが開かれた。
- 41 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/25(木) 22:30
- 「ええっと、どちらさま・・・って!れ、れいな!!?」
「う・・・うん」
ドアの中から出てきたのは、れいなのよく知るかわいい少女・・・
──亀井絵里だった。
絵里はれいなを見ると、目を見開いて驚いた。
あまりにも驚いて、声がでないらしい。
れいなはというと、この沈黙がなんだか恥ずかしくて顔を赤く染めながら、
自分を見つめ続ける絵里を前に少し戸惑っていた。
絵里はしばらくして「はっ」と意識を取り戻すと、れいなと同じように
顔を赤く染めながら、れいなに部屋に入るように促した。
「へ、部屋どうぞ・・・」
少しうつむきながら、部屋に招く絵里にれいなは・・・
「う、うん・・・ありがと」
とくぐもった声で言うのが精一杯だった。
──そう、中澤の『お願い』というのは・・・
※※※※
(今日いきなりで悪いんやけど・・・絵里に逢ってあげてほしいんやけど)
(なっ、このとおりや。どっか遊びにでもつれてってあげて。なっ?頼んだで??)
※※※※
「仕事は自分がやっとくから、絵里に逢ってあげてほしい」
それが中澤の願い。れいなは先輩に仕事をやってもらい、自分は
遊びに行くだなんてなんだか悪いような気がしていたが、
中澤が必死に頼むのでその願いをききいれることにしたのだった。
- 42 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/25(木) 22:45
- ちょっと中途半端ですが、今日の更新はここまでにしたいと思います。
体育祭の練習で身体のふしぶしが・・・痛い(泣)
本当はもっと更新したいけど、また明日にすることにします。
名無し読者様>見せかけ・・・はたしてうまくいってたのか心配です(笑)
田亀好きなのに、あんまりないのでちょっと凹んでたんですけど、
その後「あっ、自分で書いちゃえばいいんだっ!」
と考えてしまったのがそもそもの間違(ry
ちなみに私は「最強」じゃなくって「貧弱」です(笑)
明日は絵里とれいなの出会いについて書きたいと思います(ホントか?)
でわ、おやすみなさい!
- 43 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/26(金) 22:12
- 部屋にはいると、れいなはお茶を出そうと冷蔵庫にむかう絵里の背中に
声をかけた。
「お昼・・・食べた?」
「えっ・・・まだだけど」
「・・・じゃあちょっと遠くの街にいってご飯でもたべようか?その後買い物でも・・・」
単刀直入にそう言うと、絵里は目を見開いてふりかえってれいなを見つめた。
その表情には「行きたい!・・・でもいいの?」という絵里の微妙な気持ちが
表れていた。れいなは、絵里の表情からそれらの気持ちを読み取ると
「行こうよ」と絵里に優しく笑いかけた。
そんなれいなに絵里はうれしそうに頬をピンク色に染めて、
「うん・・・」と笑った。
ズキューン
───かっ、かわいい・・・
思わず声に出して言ってしまいそうになり、れいなは少しあせった。
お茶を出した後、「ちょっと着替えてくる」と言って
自分の部屋に入ってく絵里の背中を見送ってから、れいなは深いため息をついた。
───自分の部屋には愛ちゃんという美少女がいるし、
今アタシがいるところには絵里という美少女がいる・・・
これじゃあ毎日ドキドキで心臓がもたないよぉ・・・。
これは普通の人から見たら、少し贅沢な悩みかもしれない。
でもれいなにとっては大きな悩みだった。
絵里を待つ間、れいなは絵里と初めて出会ったときのことを
思い出していた・・・。
- 44 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/26(金) 22:52
- ※※※※※※※※※
───今から一ヶ月前・・・
中澤からおつかいを頼まれたれいなは、田舎町からバスでおよそ30分ほどかかる遠くの街にきていた。
田舎では手に入らない物も此処では手に入るため、田舎に住んでいる人々は
買い物や外食をするときはほとんどここにきている。
おつかいをさっさとすませて、れいなははやく病院に戻ろうと道を急いでいた・・・。
───その時
たまたま前を通りかかろうとした果物屋さんの前に、自分と同じか、少し年上っぽい少女をみつけた。
もしその少女が普通の女の子であったら「あっ、かわいいな」くらいに思うだけで、さっさと通り過ぎていたかもしれない。
でもその少女の周りに流れる空気はどこか異質で、れいなの目は
自然とその少女に惹きつけられた。
少し立ち止まって、じっとその少女を見つめていると
その少女は何を思ったか、果物屋の店員がよそみをしている隙に
ものすごいスピードでりんごをつかみとった。
すこしでも油断していたら見えなかったかもしれないが、その時れいなにはその少女の腕の動きが
はっきり見えていた。「なぜだろう」と考えている暇はなかった。
───ま、万引き!!?・・・止めなきゃ!!
「待てよ!」
その少女が逃げ出そうとしたとき、れいなは少女のリンゴをつかんでいる手を
つかまえた。少女は見つかったときのことは頭にいれてなかったようで、
とても驚いた顔をしてれいなをおどおどしながら見つめていた。
- 45 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/26(金) 23:18
- 近くでよーく見ると、その少女の身体は、ところどころ泥がついていて
少し汚れていた。少女の目を覗き込むと、その瞳は不安や恐怖感で
少し潤んでいた。
その目を見たとき、れいなは一瞬周りの景色が、時間が止まってしまったかのように思えた。
───あのとき抱いた気持ちが、今も忘れられずにいる
しばらくその少女に見とれていると、れいなが力を緩めた隙に
少女はれいなの手を振り払った。
その勢いで持っていたリンゴは地面に落ちてしまったが、
少女は気にもとめずに全速力でれいなに背を向けて走っていってしまった。
れいなが気づいたときには、少女はもう見えなくなっていた。
───あーあ。・・・逃げられちゃった・・・
少女が落としたりんごを拾い、果物屋の店員のほうをみると、
その店員は「何が起こったのかさっぱりわからない」というように
唖然としていた。
れいなは苦笑いをすると、その店員にこう言った。
───「これください」
- 46 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/26(金) 23:38
- ※
さっき買ったリンゴをひとつ、牛乳をひとつ、細長いパンをひとつ
・・・それから中澤から頼まれていた物を抱えて、
れいなは昼なのに薄暗く、人通りが少ない裏道を歩いていた。
少し警戒しながらも奥へ、奥へと進んでいく。
もう行き止まり・・・というところまでくると、れいなは少し大きな声でこういった。
「そこに居るんでしょ?出てきなよ」
しばらくの沈黙の後、上から「ひゅっ」という音がしたと思うと、
れいなの目の前にさっきの少女がたっていた。
その瞳は、さきほどと変わらずに少し不安げに潤んでいる。
「・・・どうしてここが?」
はじめて少女が口をきいた。
何故か妙にそれがうれしかったのを、れいなは覚えている。
れいなは顔がほころぶのを必死でおさえると、
「・・・自分の靴をみればわかるよ」
といい、少女に自分の靴を見るように促した。
「あっ・・・・」
思わず少女は声に出して驚いてしまった。まるではじめてそれに気がついたかのように・・・。
その靴は泥だらけで、少女が逃げてきた道にしっかりと足跡を残していた。
恥ずかしさのあまり少し顔を赤らめた少女を見つめて、れいなは優しく微笑むと
さっき買ってきたリンゴと牛乳とパンを少女の前に差し出した。
少女は驚いた顔でれいなを見つめた。
- 47 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/26(金) 23:50
- かなり中途半端ですみません・・・
のこりは明日、更新します。
- 48 名前:リエット 投稿日:2003/09/27(土) 14:38
- 田亀どうなるんだろう…。
れなあいも密かに期待していたりw
ドキドキしながら更新待ってます!
- 49 名前:ティモ 投稿日:2003/09/27(土) 23:22
- こんにちわ32です!
田亀さいっこうですね♪でも少ないですよね。。。
まだまだこれからですよ☆自分もそのうち田亀を書こうと企んでますので一緒に
田亀を広めましょう!(w←ずうずうしぃ
出会い編最高です!続き楽しみにしてまーす☆☆
- 50 名前:38 投稿日:2003/09/28(日) 00:22
- いいっすねぇ、田亀。
見せかけうまくいきましたよぉ。ばっちりハマりました(w
間違ってなんかいません!もうあれです、信じた道を突っ走(ry
とりあえず、作者さん、頑張って!
- 51 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/28(日) 15:27
- 「のこりは明日更新します」ってぬかしたくせに
昨日更新しなくて・・・嘘ついてすみません。
では続きを・・・どうぞ!!
- 52 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/28(日) 15:55
- 「お腹・・・空いてるんでしょ?これ食べなよ」
「・・・なんで?」
───へっ?
のどからしぼり出すような、かすれた声で少女はたずねた。
「どうしてそんなに優しくするの・・・?」
「ど、どうしてって・・・」
───どうしてだろ・・・?
れいな自身何故こんな見ず知らずの女の子にこんなに世話を焼いてるのか、
わからずにいた。
───何故こんなにまでこの少女に惹きつけられるのか・・・・。
答えに詰まっているれいなを、少女は不思議そうにみつめた。
考え込んでいるれいなに、少女は淡々とまた質問をした。
「・・・手下?」
「はぁ??」
間抜けな声が響いた。
その返事に、今度は少女が困ったような顔をする。
───手下ってなんだよ!?アタシが?じゃあいったい誰の??
この娘・・・ちょっと変・・・かも。
突拍子のない質問にれいなはたじたじになった。
そんなれいなに、少女はまた質問を投げかけた。
- 53 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/28(日) 16:17
- 「・・・違う・・・の?」
疑うように、少女は途切れ途切れにそういった。
れいなは軽くため息をついた後、少女を安心させるため
少し微笑みながらこう言った。
「・・・違うも何も、あなたの質問の意味がわからない。
手下って何?いったいアタシが誰の手下だっていうの??」
微笑みながらそういうれいなをまだ少し少女は疑っているようだ。
───そんなにアタシって信用できない人間なのかな・・・?
少女に疑われることを少しれいなは、むなしく思った。
少女はしばらくれいなを見つめた後、今度は今までと比べ物にならないくらい、
はっきりとした口調で、こう言った。
「世界が滅びて、いっそうの船がありま・・・」
「はぁっ??!ちょっ、ちょっとタンマ!!」
───なっ、なんだよ!その質問はよぉ!!世界が滅ぶのかよ!!
次はどんな質問がくるのか、ひそかに構えていたれいなは、
突拍子のない質問にズッコケた。
少女は、急に質問を遮られて少しムッ、とすると
また最初から質問をしはじめた。
- 54 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/28(日) 17:55
- 「世界が滅びて、一艘の船があります。
『馬、孔雀、虎、・・・羊』
この中で一緒に自分と船に乗るとしたら・・・」
少女は少しためらった後、こういった。
───「誰を・・・選びますか?」
ひどくおびえた声だった。
少女は不安げな瞳で、れいなをみつめている。
れいなはというと・・・・・
───あっ!?この質問・・・・どこかで・・・
確か昔、さっきと全く同じような質問をされたことがある・・・
れいなはそのときのことを、必死で思い出そうとしていた・・・・。
- 55 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/28(日) 19:26
- ───いまから一年前・・・・
れいなは紺色のお花畑の真ん中につっ立っていた・・・。
上を見上げると雲ひとつない青空が広がっていて、
丸い太陽が一面に広がるお花畑と、れいなを照らした。
太陽がまぶしく、れいなは目を細めた。
風が静かに流れて、紺色の花たちを揺らした。
何故自分がここにいるのか、ここは一体どこなのか・・・
あの時は不思議と何も疑問に思わず、れいなはただ・・・人を待っていた。
───その人が誰なのかさえ、思いつかなかったのに・・・。
それでも・・・ただずっと待っていた。
紺色のお花畑の中、たった独り立ち尽くしていた。
───そのとき、声が聞こえた。
「れいなちゃん!!」
───ああ、懐かしい。この声・・・・この声だ。
振り向くと、黒い髪と大きな黒い瞳をもった可愛らしい女の子が
こっちに走ってくる。
とても優しい微笑を浮かべて・・・
その姿を見たとき、れいなはその女の子とどこかで逢ったことがあるような気がした。
懐かしさで、胸がいっぱいになった。
───まるで、天使のようだ・・・
れいなはそう思いながら、その天使がここまで走ってくるのを待った。
- 56 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/28(日) 19:59
- 「はぁ、はぁ・・・お、お待たせ」
天使のような彼女は、れいなのすぐ目の前まではしってくると、
肩で息をしながらそういった。
「・・・うん」
れいなが返事をすると、彼女はうれしそうに微笑んだ。
その笑顔は、美しさを感じさせると同時に
儚さも感じさせた。
───もう 彼女には二度と 逢えないような気がしてた・・・
彼女はきっと、どこか遠いところへ行ってしまうんだ・・・。
なんとなく、れいなはそう思った。
こんなに近くにいるのに・・・・。
れいなはなんだか急に寂しくなって、彼女の笑顔から目をそらした。
それでも天使のような彼女は微笑んでいる。
そして、しばらくしてから俯くれいなに話しかけた。
その声が、今にも消えてしまいそうなほど
か細くて、優しかったのをれいなは今でも覚えている。
- 57 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/28(日) 20:18
- 「私ね・・・もう行かなきゃいけないの」
「・・・・どこに?」
「遠いところ」
れいなのはじめの予感は的中した。
───今日はじめて逢ったかもしれない、そんなよく知らない女の子なのに
どうしてこんなに離れることが、別れが悲しく思えるんだろう・・・?
どうしてこんなに・・・懐かしいんだろう・・・?
れいなの中で、答えの見えない疑問が次々と溢れてきた。
───どこに埋めたらいいんだろう・・・?この行き場のない寂しい感情を
気づくと涙が溢れていた。
泣くのはかっこ悪いと思っていた。
しかも何も知らない、逢ったかもわからない女の子の前で
泣くのはバカらしいと思っていた。
でも涙は止まらなかった。
彼女は微笑んだまま、こう言った・・・。
「たぶん、天国・・・かな」
「てん・・・ごく?」
れいなは顔を上げて、彼女の顔を見つめた。
彼女はまだ微笑みを浮かべたまま、れいなを見つめて
れいなを抱きしめた。
花のいいにおいがした。
- 58 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/28(日) 20:36
- 「だからあなたにお別れを言いに来たの・・・
伝えたいことがあって・・・」
「伝えたい・・・こと?」
「そう・・・伝えたいこと・・・。その前にあなたにききたいことがあるの」
彼女はそういうと、抱きしめていたれいなの身体を少し離した。
彼女はれいなの瞳を見つめながら、こういった。
「世界が滅びて、一艘の船があるの。
『馬、孔雀、虎、そして・・・羊』
この中で一緒に逃げ出すとしたら・・・誰を選ぶ?」
「・・・えっ」
「お願い、時間がないの。答えて・・・」
真剣な顔でそういわれ、れいなは少し考えた後
彼女の耳元で答えをささやいた・・・。
その答えに彼女は満足したように笑った。
この笑顔がもう見れなくなると思うと、れいなはまた悲しくなった。
「どうしても・・・いくの?」
彼女の服のすそをつかみ、そう言うれいなに、彼女は少し寂しそうに笑ってこういった。
「・・・・・もう時間がきちゃった。いかなきゃ」
太陽がさっきより、まぶしい光で二人を照らした。
風がふくたびに、紺色の花のやさしい香りがする・・・。
どこからか、セミの鳴き声が聴こえてきた。
- 59 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/29(月) 00:12
- 彼女がれいなから背を向けて歩き出したとき、れいなは大声でこう叫んでいた・・・。
「あのっ!」
「んっ?」
彼女がふりかえる。
「名前っ!」
「・・・・」
「名前・・・教えてください・・・」
何故もっと気が利いたことがいえなかったのか、とれいなは思う。
でもあの時はとにかく必死だった。
少しの沈黙の後、彼女は笑って(たぶん最後の笑顔だろう)こういった。
────「私は・・・・」
彼女が名前を教えてくれたとき、空からとても強い光が差し込んできて
それがすごく眩しくて・・・・・・・
気づいたときには、周りには紺色のお花畑もなく、上を見上げても
太陽と青空はなくて、天井だけが目に映った。
そう・・・れいなは自分の家の部屋のベッドで昼寝をしていたのだ。
───ゆ・・・夢??
ああ、たしかに・・・・。
と、れいなは思った。夢の中に出てきた女の子なんか現実には逢ったことなんて
ないし、第一、紺色のお花畑なんて見たこともない。
全ては夢だった。
だけどあの時のセミの鳴き声がやけにリアルにれいなの耳の中で木霊していた・・・・。
- 60 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/29(月) 00:38
- ※
───ああ、あの時は・・・なんて答えたんだっけ?
あの質問の答えに・・・・・
『馬、孔雀、虎・・・羊』
アタシはっ・・・・・!
れいなは不安げに見つめる、自分の目の前にいる少女に微笑みながら
こういった。
「羊・・・かな」
「えっ・・・?」
「アタシは羊を選ぶ」
れいなの答えに、少女は唖然としている。
れいなが心配そうに少女を見つめると、少女は初めてうれしそうに笑った。
ずきゅーん
───やっば!!すっごい可愛い・・・!!
その質問の答えに少女はかなり満足したらしい。
その質問がどんな深い意味をもっていて、どの答えが一番いいのか、
夢の中の女の子と目の前にいる少女が何故、質問の答えに満足したのか・・・
気にはなったが、少女の笑顔を見たあとのれいなにはどうでもよくなっていた。
少女はやっと警戒をといたらしく、少しずつれいなの持ってきた食料に手をつけていく。
パンをおいしそうに頬張る少女を見て、れいなまでうれしくなった。
- 61 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/29(月) 00:55
- ───そ、そういえば!!
れいなは「はっ」とした。
そんなれいなを不思議そうに少女は見つめる。
「名前!」
「・・・?」
「名前・・・なんていうの?」
れいながそう聞くと、少女は少し困ったような顔をした。
名前をきくのはまずかったか・・・・
そう思い、れいなが話題を変えようとしたとき・・・・
「絵里・・・・」
「えっ??」
「亀井・・・絵里」
顔を赤らめながら、目の前の少女───亀井絵里は
細い声でそういった・・・・。
「絵里かぁ・・・」
「・・・あなたは?」
「んっ?アタシ??・・・アタシは田中れいな」
「れいな・・・」
「そうだよ・・・絵里」
───思い返せば何故アタシが絵里に惹きつけられたのか・・・
簡単に答えられる
それは・・・・・・
─── 一 目 ぼ れ
そうじゃないときっとおかしい。
だって一目ぼれなんてしないかぎり、見ず知らずの・・・
しかも万引きしようとしていた女の子に、その後
「ねぇ・・・よかったら家来ない?」
なんてアタシは絶対言わないだろうから・・・・。
※※※※
- 62 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/29(月) 01:25
- その後、ひそかに寮に絵里を泊めようとしたら
中澤にみつかり、れいなはあわててれいなは絵里のことを説明した。
絵里に、帰る家がないことを知ると中澤は
「そんなんやったらあたしの家に住めばええ!」
と言い、絵里とれいなの了解も得ずに、さっさと絵里を自分のアパートに連れて行ってしまった。
翌日、れいなは中澤に頼まれた物を渡すついでに、絵里のことを聞いてみた。
「あの、絵里・・・なかなか心開いてくれなかったでしょ?」
「えっ?なんで??かなりフレンドリーでしゃべりやすかったでぇ」
ズルッ
「えーっ!!なんでぇ!!」
───アタシのときはかなり警戒してたのに!
そういうと、中澤は意地悪そうに笑い、
「まっ、経験の差かな」
といった。今でもれいなはあの時の悔しさが忘れられない。
絵里はもう、中澤さんの家の暮らしに慣れたようで、
中澤によると家事も手伝ってくれて、助かっているらしい。
中澤から絵里の話を聞くと、れいなはたまらなく逢いたくなるのだが
仕事が忙しくてなかなか逢えなかった。(でも仕事がはやく終わると、愛はいない間にこっそりあうときもあった)
しかも、もし逢うとなると、いつも一緒の親友の愛に絵里のことを紹介しなければ
ならなくなる。
そう考えると、照れくさくてなかなか逢いにいけないし、
愛に自分の恋愛話をするのが恥ずかしかった。
───あっ!そういえば愛ちゃん・・・
まだ怒ってんのかな??
ふと、愛のことを思い出した。
愛のことを思い出したとき、れいなは過去から現在へ引き戻された。
そのとき、絵里の部屋のドアがひらいて、絵里が出てきた・・・。
- 63 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/29(月) 01:27
- ○愛がいない間に
×愛はいない間に
ミスです・・・すみません。
- 64 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/29(月) 01:49
- うわぁ〜!!レスだ、レスだ!!!
リエット様>こんな駄文にもドキドキしてもらって
うれしいです!!更新一日おくれてすみません。
レスありがとうございました!!
れなあい、実は書いてる自分もたのしかったり(笑)
ティモ様>田亀いいですよね〜!!(←かなりなれなれしいw)
広めましょう、是非広めましょう!!
でもあれですよね、ネットでは「れなさゆ」が
多いのにTVとかみると「さゆえり」が多かったり!
どっちにしろ可愛い絡みだけどやっぱ田亀!!ですよねぇ?(←強制w)
出会い編・・・はたしてうまくかけてたのかしんぱ(ry
ごほん、ごほん・・・聞かなかったことに(笑)
田亀、書いたらおしえてください!絶対読みますんで(←迷惑)
38様>つっぱしっても大丈夫ですか(笑)
じゃあ思う存分つっぱしります!
たぶん勘違い大魔王の私を誰もとめられな(ry
みなさんのレスをもらうと、かなりがんばれます!!
つーかうれしくてニヤけてます、私(←キショッ)
ではあしたの更新のためにもう寝ます!
おやすみなさーい。
- 65 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/29(月) 11:53
- 隠し
- 66 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/29(月) 12:56
- 絵里は白いワンピースをきて、れいなの前に立った。
その顔は少し赤く染まっている。
れいなは高鳴る胸をおさえながら、
「に、似合うよ・・・。すごく・・・」
と絵里に言った。
絵里はさっきより頬を赤く染めて
「あ、ありがとう・・・」
とれいなにしか聞こえないくらいに小さな声でつぶやいた。
───そ、そんなにもろに照れられると・・・こっちまで照れちゃうよ・・・。
動揺しているのを悟られないように、冷静なフリをしながられいなは
「じゃあ、いこうか」
と、絵里に右手を差し伸べた。
絵里はしばらく呆然としていたが、真っ赤な顔を縦に振り、笑顔でこう答えた。
「───うんっ!」
れいなの右手に絵里の左手がつながれる。
二人はなんだかくすぐったい気持ちになったが、
その手を離すことはなかった。
そのまま二人は、アパートを出た。
しっかりと、手をつないで・・・。
外ではセミが鳴いている。
じーわっ、じーわ、じーっわ・・・・
もう・・・夏が来た。
- 67 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/29(月) 13:33
- ※
「───ねぇ、愛ちゃん。これは・・・何?」
「ああ、これ??これは『お味噌汁』っていうんだよ。」
「へえっ・・・おいしいなぁ・・・!」
真っ白い病室に、可愛らしい二人の少女の声が響いた。
二人の少女の名前は、愛と麻琴だった。
はじめ部屋に入ったとき、愛はどう話しかけようか戸惑っていたが
麻琴の人懐っこい性格のおかげで、もう二人は仲良くなっていた。
二人は昼食を一緒に部屋の中でとっていた。
麻琴の頭には包帯が巻かれている。
車にひかれたせいで身体にもあっちこっちに傷跡があるらしい。
愛はこんな小さな身体に大きな傷を抱えているのだ、と思うと
胸が苦しくなった。
麻琴は愛の視線に気づくと、
「たいしたことないよ。もう全然痛くないもん!」
と笑った。
その無邪気な笑顔に、愛はドキドキした。
───なんでこんなにドキドキするんだろ・・・?
なんだか恥ずかしくなって、愛は麻琴から目をそらした。
麻琴はそんな愛を見て「?」という顔をしている。
でも、しばらくするとまた麻琴は愛に話しかけた。
「愛ちゃん、これ・・・この黄色いの・・・なぁに?」
麻琴は顔をしかめながら、一生懸命おはしをつかってその『黄色いの』を
つかんだ。おはしがぷるぷる震えているのを見て、愛は
ああ、まだおはしを使い慣れていないのだな、と悟った。
愛の目に、麻琴はまるで小さな子供のように映った。
「ああ、これ?『かぼちゃ』っていうんだよ。」
麻琴は、「へぇ・・・」と声を出すと
それをおいしそうに頬張った。
「うわっ!これおいしいや!!」
麻琴は、驚いたような嬉しそうな顔で感嘆の声をあげた。
どうやらかぼちゃがとても気に入ったらしい。
麻琴の笑った顔を見て、愛も自然と微笑んだ。
- 68 名前:第三章君にはいえない秘密 投稿日:2003/09/29(月) 14:23
- ───あっ!そうだ・・・
愛は自分のかぼちゃをおはしでつかんだ。
そして麻琴の目の前にそれをもっていく。
───そして・・・・。
「麻琴!はい、あ〜んして」
「えっ!あ、愛ちゃ・・・」
「・・・いらないの?」
かぼちゃを食べさせようとする愛を目の前に
麻琴は焦った。
でも愛に上目遣いで見つめられて、断ることなどできるはずもなかった。
「・・・いただきます」
「うむ、素直でよろしい。じゃあ、はいっ・・・あ〜ん」
「あ〜んっ」
麻琴は顔を赤く染めながらも、おいしそうにかぼちゃを食べた。
そんな麻琴に愛は満足そうに笑う。
二人はドキドキしながらも、楽しく昼食時間をすごした。
昼食時間が終わる頃になると、愛は仕事に戻らなければいけなくなった。
まだ麻琴と話していたかったが、仕事も大事なので仕方なく
「じゃあ、また明日ね」
と笑顔でそうつぶやいて、愛は病室を出て行った。
出て行った後、麻琴が泣きそうな顔をしていたのを
───愛は知らない・・・・。
麻琴は泣くのをこらえると、セミの鳴き声に耳をふさいだ。
───ああ、また・・・夏が来る。
小声でそうぽつりとつぶやいた。
- 69 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/29(月) 14:23
- 隠し
- 70 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/29(月) 14:24
- 隠し
- 71 名前:チナ犬 投稿日:2003/09/29(月) 14:24
- 隠し
- 72 名前:38 投稿日:2003/09/30(火) 12:22
- おがたかやん!!!
作者さんどんどん突っ走(ry
中澤さんやるなぁ。さすが三(ry
小川さんの過去に期待。てかおがたかに期待。
- 73 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/10/01(水) 19:36
- ※
───その頃、れいなと絵里は・・・
街のレストランで食事をすませ、買い物をしているところだった。
レストランでは絵里がハンバーグセットにしようか、オムライスにしようか
迷っていたため、れいながハンバーグセットを頼み
絵里がオムライスを頼み、はんぶんこして仲良く食べた。
「ねぇ・・・」
絵里の声に、れいなは足を止めた。
その間も絶え間なく、二人の傍を人々が通り抜けていく。
買い物をしている人の邪魔になるだろう、と気をつかって
れいなは何か言いたそうにしている絵里を
人があまり通らない、道の端のほうまでつれてきた。
「何??」
「あのね・・・」
この街は人が多いせいか、少し騒がしい。
だから絵里の声が少し聞き取りにくい。
れいなは顔を絵里のほうに近づけて、少しでも聞き漏らさないようにした。
いきなり顔を近づけてきたれいなに、絵里はすこしドキドキしながらも
れいなに聞こえやすいようにいつもより大きな声で話しかけた。
「なんで今日、逢いに来てくれたの?」
「えっ?!そっちが『逢いたい』って言ってくれたんじゃないの?」
「中澤さんに頼まれたんだよ」と、続けてれいなが返事を返すと、
絵里は驚いた顔をしていた。
「冗談で頼んだのに・・・」
「えっ!?冗談だったのかよ!!」
なんだよ・・・と拗ねるれいなに、絵里はあわててこう言った。
「違うよ!本当は逢いたかったけど・・・れいな忙しいから、本当に逢えるとは思ってなかったの」
「・・・?」
「だから半分冗談で頼んでみたの、中澤さんに。『れいなに逢いたい!』・・・って」
───なんだ、そういうことか。
本当は自分になんか逢いたくなかったんじゃないか、というれいなの不安は
一気に消えた。
- 74 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/10/01(水) 19:50
- 「本当に逢いたかったんだよ・・・ホントに」
顔を赤らめながら、絵里がそういう。
その顔はどこか不安げで、れいなと目があうとあわてて目をそらした。
───あっ・・・
れいなは絵里のそんな不安げな顔を見て、はじめて出会ったことを
思い出していた。
───あの時も・・・絵里はこんな顔をしていたっけ・・・
不安げに自分を見つめる絵里の瞳・・・
あのとき、れいなは誓った
決して独りにはしない────と。
れいなは絵里の手をとって、自分の手をつないだ。
そして人ごみの中に向かって、歩き出した。
「れ、れいな!?」
「・・・・・」
絵里は何か言いたそうしていたが、気づいていないフリをして
さらに強くギュッと手をつないだ。
───この手、はなれないように・・・。
絵里は突然のことに戸惑っていたが、やがて安心したように
やさしく微笑んだ。
その顔が太陽に照らされて、れいなには眩しく映った。
────この幸せな日々がいつまでも続きますように・・・
心の中でれいなは静かにそう願った。
- 75 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/10/01(水) 20:16
- ※
愛が仕事を終え、自室に戻る頃にはもう夕日が沈む頃だった。
オレンジ色の光がカーテンからもれて、部屋を染めた。
愛は想った。
───麻琴といると、不思議な気持ちになる、・・・・と。
───麻琴だけやない、れいなもだ。
れいなとはじめて逢ったはずなのに、どこかで逢ったような気がしていた・・・。
いつも不思議に想っていた。
でもきっと気のせいだと思い、愛はあまり気にしないことにした。
「よくあることだ」と。
れいなが帰ってきたとき、愛は今朝のことをどう謝ろうか考えていた。
───その時・・・・!
────ドックン、ドックン、ドックン・・・・
「・・・!!?」
胸が突然苦しくなり、愛は胸を抑えた。
身体は床にくずれおちた。
───(ああ・・・まただ)
愛は苦しさにもがきながらも、一方でそう想っていた。
「いつものことだ」・・・と。
───聞こえる・・・?私の心臓の音・・・・。
頭の中で声がする。女の子の声。
儚げで、すぐに消えてしまいそうな・・・・
───ドックン、ドックン、ドックン・・・・
「うっ!ぐぁっ・・・はぁっ、はぁ・・・」
あまりの苦しさに、思わず口から声がもれてしまう。
- 76 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/10/01(水) 20:36
- ───聞こえているはず・・・この音が。
「はぁっ、はぁっ・・・うぅ・・・」
身体から汗がにじみでた。
───(苦しい・・・だれかっ・・・たすけて・・)
心の中の弱い自分が、そう叫ぶ。
───(心の中でそう叫んでも、誰も来ないのは・・・誰も助けてくれないのは
知っている。)
「ヒーローなんて存在しないのだ」と、愛は心の中でそうつぶやいた。
───その時・・・!
「あ、愛ちゃんっ!!!どうしたの!!?」
突然部屋のドアが開き、れいなが部屋に入ってきた。
慌ててれいなは、床にくずれおちて苦しそうにもがいている
愛にかけよった。
その身体はひどく汗ばんでいる。
うつぶせになって縮こまっている愛の身体を、れいなは仰向けにすると
お姫様だっこをして愛をベッドに運んだ。
- 77 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/10/01(水) 21:02
- ───あなたにも解るときがくるはず・・・・。
きっと・・・・。
・・・・・・声が・・・・。
───どっくん、どっくん、どっくん・・・!
「うあぁぁぁっ!!!うっ・・・はぁっ、はぁっ、はぁ・・・」
「あ、愛ちゃんっ!!しっかり!!今、お医者さん呼んでくるから!!」
「自分の力では、苦しそうにもがく愛を助けてあげられない」と思ったれいなは
急いで医師を連れてこようと、部屋をでていこうとした・・・
───しかし・・・・
「はぁっ・・・れいなぁっ・・・。」
「・・・・?!愛ちゃん!だめだよ!!はやくお医者さん呼ばないと・・・」
部屋を出て行こうとしたれいなの手を、愛は力の入らない弱弱しい手で
つかんだ。
その目は恐怖に怯えている。
「いかんとって・・・!そばにいて・・・独りに・・し・・・ないで」
「・・・・あ、愛ちゃん!!」
愛は怯えた瞳のまま、れいなをまっすぐ見つめた。
そんな目で見つめられ、れいなは何も言えなくなった。
愛はまた、苦しそうに途切れ途切れにこう言った。
「独りは、もう・・はぁっ・・い・・・や」
「愛ちゃん!!愛ちゃん!!独りにしないから!だからっ・・・」
愛はその言葉に安心したように、少し微笑んで静かに目を閉じた。
目を閉じた拍子に、愛の目から涙があふれて、愛の頬を静かに伝った。
- 78 名前:第三章 君にはいえない秘密 投稿日:2003/10/01(水) 21:22
- 「あい・・・ちゃん??」
れいなはおそるおそる愛の顔に自分の顔を近づけた。
・・・・・どうやら寝てるようだ。
「すぅ、すぅ」と可愛らしい寝息が聞こえてきた。
発作はもうおさまったらしい。
れいなはやっと安心して、「ふぅ・・・」と小さなため息をついた。
そしてタオルを少しぬらすと、それで愛の汗ばんだ身体を拭いてあげた。
その後、れいなは愛の寝顔をみつめた。
───愛ちゃんが・・・発作・・・。
れいなは愛が発作をおこすような体質や病気だという話は
本人から一度も聞いてないし、周りからも聞いたことはない。
だから愛が部屋でもがいているのを見たときは信じられなかった。
───愛ちゃん・・・・もしかして心臓病?
それとも・・・今日はたまたまだったのかな?
いずれにせよ、本人に確認しなければならない。
れいなは、静かに眠る愛の手を握り締めた。
───愛ちゃんには、誰にも言えずに独りで抱えている秘密がある・・・
・・・・・アタシにもそれがあるように
れいなは親友の頬にそっと口付けをした。
オレンジ色の光が、二人をつつみこんだ───
- 79 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/01(水) 21:26
- >38様 おがたか大好きさんですか??
おいらもですw
小紺もいいけど、やっぱ小高!!!
小川さんの過去はきっと壮大(ry
かもねw
ザッピィの小高を見たときはもうっ!!(←もう古いか笑)
- 80 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/01(水) 21:27
- 隠し!!
- 81 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/01(水) 21:27
- 隠し!!!
- 82 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/01(水) 21:31
- 隠し
- 83 名前:ティモ 投稿日:2003/10/01(水) 23:28
- ぬわぁ〜♪返信ありがとうございます!
ここの田亀最高でございまする!!
出会い編もツボですた☆
自分も今田亀挑戦中ですんで書けたら報告しますねっ♪
現実にもっと田亀絡んで欲しいですね!
では、更新頑張ってください☆
- 84 名前:38 投稿日:2003/10/02(木) 18:10
- た、たかはすぃ〜〜〜!(汗
死ぬなよ!死ぬ前におがーと結ばれろ!
って田中もなんかあんのかい!
翻弄されっぱなしです。
おがたかといえばやっぱハロモニのキス未遂っすよ。(笑
- 85 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/04(土) 22:01
- ──────
・・・・ここは・・?
暗闇の中、愛は独りたたずんでいた。
周りにはだれもいない。
───またひとりぼっちだ・・・
どこにも光は見えない。
だから出口がどこにあるのかさえ、わからない。
愛の小さな胸に、孤独感や不安や恐怖が一気に押し寄せてきた。
たまらなくなって、愛は泣きべそをかきながら
その場にしゃがみこんでしまった。
・・・・・その時。
────こつ、こつ、こつ
誰かの足音が聞こえた。
愛はその音にビクッと身体を強張らせた。
────だ、誰ッ??
その足音は、愛の前でピタリと止んだ。
愛はびくびくしながら、ゆっくり顔を上げた。
暗闇の中にいるせいで、ほとんど何も見えないのだが
気配でそこに人が立っているのがわかった。
- 86 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/04(土) 22:27
- その「人」は、無言で立っている。
その静けさが、愛にたくさんの恐怖感を抱かせた。
しばらくして、『ひゅっ』という音がすると、次に
────がたん
という音がして、愛とその「人」の間に光が射した。
その「人」は黒い布のようなものを頭からかぶっていて、
よく顔がみえなかった。
華奢で小さな体つきから女の子だろうと、愛は思った。
女の子は手を胸のほうにもっていった。
そのとき
────ぐちゃぁっ
という何かをえぐったような音がした。
愛がその音に顔を歪ませて、その音が「何の音」か理解する前に
「はい、私のあげる」
その女の子は、か細い声を発して愛に何かを差し出した。
その「何か」を、二人の間に射す光が照らした。
・・・・それは
────どっくん、どっくん、どっくん
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
血のにおいがした。
どっくん、という音がするたび、女の子の手のひらで
それは膨らんだり、縮んだりした。
────心臓だった。
愛が悲鳴を上げて、後ろに倒れこんだとき
その闇の世界は終わりを告げた。
- 87 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/04(土) 22:52
- ───あい・・・あいちゃん!愛ちゃんっ!!
身体を揺さ振られる感覚に、愛が目を覚ますと、すぐ近くに愛のよく知る人物
れいなの顔があった。
れいなの顔を見ると、愛はやっと安心して
また泣きたくなった。
「どうしたの?愛ちゃん、うなされてたよ!!だいじょう・・・ぶ?」
れいなは心配そうに愛の顔をのぞきこみ、その後部屋の電気をつけた。
愛が時計を見ると、時計の針は三時をさしていた。
────明日も仕事があるのに・・・
愛の胸は今、夜中から起こしてしまったれいなに対する罪悪感でいっぱいだった。
れいなは少しぬらしたタオルで、愛の汗ばんだ顔や首周りを拭いてくれた。
ひんやりとして気持ちよかった。
「れいな、昨日の朝冷たくして・・・」
───『ごめん』
そう言おうとしたのに、れいなはそれを遮るように愛を抱きしめた。
愛は突然のことに言葉が出なかった。
- 88 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/04(土) 23:19
- 「・・・何にも言わなくていいよ。」
───えっ・・・
「愛ちゃんが何を言おうとしてるのか・・・
聞かなくてもちゃんとわかってるから・・・」
れいなの優しい声と言葉が、愛の胸に沁みた。
その心遣いが温かすぎて、ふいに泣けてきた。
───自己嫌悪。
そんな言葉が、頭に浮かんでは消えた。
泣き出す愛を、れいなは優しく抱きしめた。
「愛ちゃんはさ、ただでさえ人より頑張ってるんだよね。
アタシは知ってるよ・・・。だからさ・・・」
れいなは少し黙り込んだ。
愛は泣きながら、その言葉の続きを待った。
「・・・それ以上頑張る必要はないんだよ。疲れたらもっと甘えてくれていいし、
弱音吐いたっていい。言いたくないことは、必ず人に言わなくてもいいし
あせらなくたっていいよ・・・」
───「自分をそれ以上責めたりすることは、しなくていいんだよ。
アタシはずっと愛ちゃんの親友だし、傍にいるから・・・ねっ?」
- 89 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/04(土) 23:42
- ────なんだ・・・れいなには全部わかってたんか・・・
愛はれいなの言葉を聞いた後、れいなの胸の中でゆっくり目を閉じた。
まだれいなの優しい声が、耳の中で木霊していた。
愛が最も恐れることは、長い間誰にも言えずに溜め込んできた
───秘密を打ち明けること。
死ぬことと同じくらい、愛にはそれが恐ろしく感じる。
気がつけば、いつもその秘密に縛られていた気がした。
誰といても、心はいつも寂しかった。
そして───怯えていた。
この秘密を打ち明けてもこの人はまだ自分を好きでいてくれるだろうか、
それとも・・・・
いつだってそのことばかりが頭の中でぐるぐる回っていた。
きっとそれは「信用していない」ということになるのかもしれない。
でもやはり、愛にはそれが怖くて仕方がなかった。
いつも「言わなければならない」と思いながらも、なかなか秘密を
打ち明けられない自分に焦っていた。
劣等感を抱いていた。
れいなにそれを打ち明けたことはなかったのだけど、
れいなには愛が何かを打ち明けようと焦っているのを感じ取っていたようだ。
- 90 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/05(日) 00:17
- 『アタシはずっと愛ちゃんの親友だし、傍にいるから・・・』
───その言葉、信じてもいいの?
愛はそっと、心の中でれいなに問いかけて微笑んだ。
抱きしめられるということが、こんなに「優しく」て「あったかい」
ものだとは思わなかった。
ついさっきまでは悪夢を見たときの恐怖感で胸がいっぱいだった。
でも今ではこんなに・・・穏やかな気持ちでいられる。
れいなのぬくもりが、れいなが傍にいてくれることが
愛にとってはありがたかった。
「・・・・ありがと」
なんだか照れくさくて、声が途中でくぐもってしまった。
でもその言葉はちゃんとれいなに伝わったということが、愛にはわかった。
だってその言葉を伝えたとき、盗み見たれいなの顔は赤くなっていたから。
安心すると、また眠気がおそってきた。
今眠ったら、またあの夢をみてしまうかもしれない───
でも不思議と怖くなかった。
れいなの胸の中で、愛は眠りについた。
れいなはその後も、愛を抱きしめつづけた。
とおくへいってしまわないように───
- 91 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/05(日) 00:28
- 更新短くてすみません。
ティモ様>出会い編、気に入っていただいて・・・もう嬉しいです!!
ティモさんの田亀、楽しみに待ってますね!!
田亀・・・もっと絡んでくれないかなぁ・・・・(遠い目)
38様>キス未遂はもうw最高としかいいようがないですよね!!
おがーさん、もしかしてわざとやったんじゃないかって
私は勝手に思ってるんですけど・・・(妄想)
岡女のおがーさん、高飛びのところで「かっけー!」ってつい叫んでしまったw
あれはきっと高橋さんも惚れ直したはず!!ですよね(強制
- 92 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/05(日) 00:28
- 隠し
- 93 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/05(日) 00:28
- 隠し
- 94 名前:38 投稿日:2003/10/05(日) 03:48
- あれは確かにおがーさんから迫ってましたからね。
わざとだったら嬉しすぎて死ぬかもしれません(w
おがーさんがどこまで高く飛べるのか測ってみたいっすね。
高橋さんはきっと三回ぐらい惚れ直したことでしょう。
背面飛び恐るべしです。ハイ。
加護さんの根性は見上げたもんです。さすが関西人。
あとMステで田中さんがピースの後藤さんの部分を歌ってたのにビクーリ。
あんたいったいどこまで伸びるんだ、と小一時間問い詰めたいです。
- 95 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 03:58
- 田高もいいかも…と思った自分はNGですか?
いや、作者さんの描かれる世界にただノックアウトされてるだけですが(w
- 96 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/05(日) 10:31
- うわっ!みなさん、いったい何時までおきてたんですかw
ところでおいら、新スレたてちゃいました。
白版の『白痴』というやつです!
両方がんばるんで、よろしくお願いします!!
38様>田中さんは歌うまいですよねー!
声結構でてるし、貫禄あるし。
加護さんは番組終了後、きっと辻さんに慰められたことでしょう(笑)
おがーさんの背面飛び・・・おいらも惚れたよ!!
高橋さんの銀メダルに小川さんは大変喜んだことでしょう(妄想)
名無し読者様>田高!!いいですよね(何)
広めたい・・・つーか広めましょう!
田亀とともに(強制)
レスありがとうございました!!
- 97 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/19(日) 14:23
- ────
───
──
・・
その後はぐっすり眠れた。
愛が目を覚ましたときには、もうれいなはいなかった。
慌てて立ち上がると、自然と机の上に目がいった。
・・・置手紙があった。
──────────────────────────────
愛ちゃんへ
中澤さんにはアタシから適当に言っとくから
今日はゆっくり休んでください。
無理しないでね?
仕事おわったらすぐ愛ちゃんのところいくから待ってて!!
──────────────────────────────
「・・・ばーかぁ」
愛にはれいなの心遣いがうれしかった。
なんだかくすぐったい気持ちになって、自然と顔の筋肉が緩んだ。
手紙をていねいに折りたたんで、机の引き出しに大事そうにしまうと、
床に置いてある新聞をとって、ベッドに寝転がった。
仕事を頑張っている仲間たちに少し申し訳ない気がしたが
今日は休むことにした。
新聞はあんまりすきじゃないが、中澤に「読んで損はない」と言われ
毎日読むようにしている。
・・・まぁたまに読んでる途中で寝てしまうこともあるが
新聞を開くと、『臓器移植』や『医療ミス』という文字が目に入り、
頭が痛くなった。
───・・・あとで読もう
そう思って、次のページをめくった。
- 98 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/19(日) 14:39
-
『クローン羊、ドリー誕生!?』
その見出しに、愛の目は釘付けになった。
なんとなくこれは読んでおかなければいけない気がした。
───クローン・・・かぁ
心の中でそうつぶやいたとき、心臓がチクリと痛んで、
愛は胸を抑えた。
───もう戻れない気がした・・・・。
- 99 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/19(日) 14:47
- ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
時は止まったまま 心はまだあの日のまま
全部あのときのまま
風の音 セミの声 水道の水の音
全部・・・あのときのままなのに何かが足りない
───それはきっとこの先どんなに待っていても
来ることのない人。
────どんなに、待っていても。
- 100 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/19(日) 14:58
- 麻琴は虚ろな目で、窓の外を見ていた。
───セミの声が聞こえる。
夏はあまり好きではなかった。
できればはやく過ぎ去ってほしいと思った。
「・・・今日は愛ちゃん来ないや。」
窓から視線をはずして、ドアを見つめた。
たしかに、人が来る気配がない。
麻琴はなんだかとってもがっかりした。
・・・そして、寂しい気持ちになった。
- 101 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/19(日) 15:23
- ───「じゃあ、また明日ね。」
昨日の愛の声が頭の中で響いた。
麻琴はフッと鼻で笑いながらこう言った。
「明日は来ないんだよ、愛ちゃん。」
そしてドアから視線をはずし、また窓の外を見つめた。
「明日はこないし・・・愛ちゃんも来ない。」
何かをあざ笑うような麻琴の顔は、なんだかとても悲しそうだった。
そのとき、ドアのほうからノックする音が聞こえた。
麻琴は驚いて、ドアのほうに振り向いた。
────愛ちゃん?・・・まさかねぇ
「・・・失礼しまーす」
遠慮がちにドアを開けてはいってきたのは、たしかに愛ではなかった。
麻琴は内心少しがっかりしていたが、せっかく来てくれた人に失礼だと思い、顔には出さなかった。
「あの・・・朝食」
「あ、ありがとうございます!」
朝食を持ってきてくれたのは・・・実はれいなだった。
でももちろん、麻琴は名前すら知らない。
「じゃあ、またあとで片付けに来ます」
「あっ、はい・・・」
れいなは朝食を麻琴のベッドについているテーブルに置くと、
失礼しました、といって忙しそうに去っていった。
麻琴はなんだか違和感を覚えた。
「あのこ・・・どっかで」
麻琴はしばらくれいなの去っていったドアを見つめていた。
しかし・・・
「ま、いっか」
勝手に開き直って、朝食を食べ始めた。
「うわぁ!かぼちゃだぁ〜♪」
麻琴は意外とおちゃめさんだった・・・。
麻琴は嬉しそうに、かぼちゃを頬張った。
- 102 名前:でぃどる(38) 投稿日:2003/10/21(火) 21:38
- 更新乙です!
田中さん・・・えぇ人や・゚・(ノД`)・゚・
おちゃめさんて・・・(w
頭とか撫でてもらってるんでしょうね、高橋さん。
で、勢い余ってあいごろに(ry
- 103 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 16:30
- 仕事を終えたれいなは、寮に向かっていた。
もう外は暗くなりかけている。
仕事をしているときも愛のことが気がかりでならなかった。
寮にむかう途中に逢った看護婦達に挨拶をしながら、
れいなは道を急いだ。
───(愛ちゃん・・・大丈夫かな?)
自分がいない間に発作をおこしていないか、心配でしょうがなかった。
寮のドアを乱暴にあけると、れいなは愛のいる自室にむかった。
そしてそのドアをすごい勢いであける。
- 104 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 16:47
- 「愛ちゃんっ!!?」
ガタンッと勢いよく開いたドアの音とともに、れいなの声が部屋に響いた。
もし中澤がこの音を聞いていたら「うるさい!」と怒鳴りにくるかもしれないが、
今のれいなにはそんなことはどうでもよかった。
れいなは名前を呼んだのに返事がないことに焦り、目をあわただしく、きょろきょろと動かして
愛の姿を探した。
嫌な予感がして、自然と額に汗がにじみ出てきたが、
やがてれいなはベッドで寝ている愛の姿を見つけると、
「ふぅ・・」と安堵のため息を漏らした。
愛は可愛らしい顔で、小さな寝息をたてながらベッドに縮こまって眠っていた。
「なんだよ・・・せっかく心配してやったのにさ・・・」
れいなは拗ねたようにそういうと、優しく微笑みながら、愛の髪を撫でた。
シャンプーのいい香りが、れいなの鼻をくすぐった。
- 105 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 16:59
- 夜中、愛が発作をおこさないか心配だったので、れいなは寝巻きに着替えても
眠る準備はせずに、しばらく起きていることにした。
はじめはここに来る前に買ったファッション雑誌を適当にぱらぱらと
めくっていたが、やがてそれに飽きてくると、本棚にファッション雑誌を戻し、
れいなは自分の机の一番下の引き出しに手をのばした。
そこには、もう溢れそうなほどたくさんの手紙がはいっていた。
一番奥にある手紙がいくつか引っかかって、引き出しが途中までしか
開かなかったほどだ。
れいなはそれに苦笑すると、乱暴に無理やり引き出しを引っ張った。
ビリッと手紙が破ける音がしたが、気にしなかった。
適当に一番上にある手紙を手にとった。
- 106 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 17:15
- 引き出しの中の手紙は、住所が全て一致していた。
れいなは手に取った手紙を読み始めた。
封筒は適当に下に捨てた。
手紙の内容はこうだった。
───────────────────────────
れいなちゃんへ
元気?風邪はひいてない?
いじめられたりなんか、してないわよね?
家が恋しくなったら遠慮せずにいつでも帰ってきてもいいのよ?
パパもママもれいなのことが心配でたまりません。
一体いつ逢えるの?
パパはいつもれいなに会いたがっています。
もちろん、ママもよ。
今日はパパとママの写真を送ります。
パパとママのこと、忘れないでね?
それとなるべく早く帰ってきてね?
れいなちゃんがいないと寂しくて仕方ないの。
じゃあ、また手紙を送るわね。
さようなら
20××年 6月20日
───────────────────────────
- 107 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 17:23
- 「・・・・」
れいなはその手紙をぐしゃぐしゃに丸めた。
そして乱暴に引き出しに放り込んだ。
れいなはしばらく眉間にしわをよせて天井をにらんでいたが、
やがて思い出したように下に捨てた封筒を拾った。
中をのぞくと写真がはいっている。
れいなは丁寧にその写真を封筒から引っ張り出すと、空になった封筒を
先ほどの手紙とおなじようにぐしゃぐしゃにまるめて、引き出しに突っ込んだ。
勢いあまって、その封筒は引き出しの奥のほうへ転がり落ちた。
れいなはそれも気にせずに、ただ右手にとった写真を見つめている。
- 108 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 17:41
- 写真の中で、長身ですらっとした男性と長身ではないが身体の線が細く、笑顔が可愛らしい
女性が仲よさそうに寄り添っている。
さわやかに微笑んでいる二人とは対称的に、れいなは複雑な顔をして
写真の中の二人をみつめている。
れいなはしばらく写真を眺めていたが、やがてそれを机の上にほうりなげ、
ため息をつきながら椅子にすわり、机に顔をうつ伏せた。
そして手紙のたくさんはいった引き出しを見て、また深いため息をついた。
実は先ほどの手紙に「今日はパパとママの写真を送ります」
とあるが、『今日は』ではなく『毎回』れいなの父親と母親は
れいな宛ての手紙に自分達の写った写真を送ってくるのだ。
つまり引き出しの中の手紙全てに、れいなの両親の写真がはいっているのだ。
しかもその手紙の量が、はんぱじゃない。
毎日ほぼ同じ内容の手紙が写真入りできて、ひどい時には
一日五通もくるときもあった。
一度そのことでれいながキレて、やっとそういうことは少なくなったが、
それでも手紙は毎日きた。
- 109 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 17:57
- でも先ほど読んだ手紙を最後に、ここ二週間、手紙がぱったりとこなくなった。
正直れいなは両親の束縛にうんざりしていたので、
このことを大変喜んだが、日が経つごとに喜びよりも寂しさがどんどん増していった。
───(あんなにうざったい手紙がこなくなったんだ、いいことじゃないか。
きっとパパもママもアタシを束縛するのを止めにしたんだ。そうにちがいない)
素直に寂しいという感情が認められずに、れいなは心のなかでそう自分に言い訳をした。
でも寂しさは、消えることなくどんどん増していった。
手紙が来なくなってから今日までの間、引き出しの中の手紙はなるべく読まないようにしていた。
読んだら未練があるようでかっこ悪いと思ったからだ。
でも今日は耐え切れずに読んでしまった。
れいなはうざいと思いながらも、両親から完全に離れなれない自分を情けなく思った。
「はぁっ・・・なんなんだよ、いまさら」
しぼりだすように、れいなはそうつぶやいた。
れいなの頭の中に、昔の思い出がフラッシュバックした。
- 110 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 18:07
- ※※※※※※※※※※
あれはたしか、幼稚園の頃・・・
「ママ、りさちゃん家に遊びに行ってくるね?」
「ダメよ!!りさちゃんのところは車多くて事故が多いんだから!!」
「大丈夫だよ、ちゃんと気をつけていくから。それにもう、約束しちゃったんだからね!!」
「・・・わかったわ、じゃあママが車で送ってあげるから。帰りも電話しなさい。迎えにいくから」
「・・・?・・・わかったよ」
当時仲良かった「りさちゃん」の家の近くは確かに道が狭く、事故が多かった。
ママは心配してくれているんだと、子供ながらにそう理解していたが、
その心配は年を重ねるにつれ、どんどんエスカレートした。
- 111 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 18:18
- 小学生にあがると・・・・
「ただいま・・・」
「・・・れいな!!一体、こんな時間までどこで何をしていたんだ!!?」
「パパ、こんな時間って・・・まだ5時じゃん。ちょっといつもより遅いからってさぁ・・・」
「・・・れいなっ!!お前、パパとママがどれだけ心配したかわかってんのか!?
ママはリビングで泣いてるんだぞ!!」
「はぁ??なにそれ、大げさだよ!みんなは普通に6時過ぎくらいに帰るんだよ?
アタシだけだよ、遊ぶの我慢してこんなにはやく家帰ってんのは!!」
「パパに口答えをするなんて・・・お前はいつからそんな子になったんだ・・?
昔は素直でいい子だったじゃないか・・・。な、頼むからパパとママにこれ以上
心配をかけないでくれ・・・。」
「・・・・わかったよ、ごめんなさい」
「よし、素直でいい子だ。はやくママに元気な顔見せて安心させてあげなさい」
「・・・・・はい」
- 112 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 18:32
- 門限はなんと4時半・・・。
高学年になると6校時まであるため、遊ぶ暇もなく
れいなは家に帰るしかなかった。
れいなは人懐っこく、明るく、しゃべるのもうまかったので
友達も多く、よく遊びに誘われたが、その門限のせいで
苦笑いをしながら断るしかなかった。
友人達もはじめは不思議そうにしていたが、やがてれいなを
遊びに誘うこともなくなり、せっかくできた友達も「学校のみの友達」
となってしまった。
いつもそのことで両親を恨んでいたが、反抗するたび泣かれては
戦闘意識も薄れ、反抗する気もやがてなくなった。
中学にあがると、「夜遊びを覚えるのではないか」と両親が心配し、
休日はあまり外にも出してもらえず、部活も帰宅時間が遅くなるので禁止になった。
それが決まったときは、もう何もいえなくなった。
毎日がとてもつまらないものになった。
いつも頭の片隅で
「ああ、きっと自分はこの先も両親に縛られながら生きていくんだ」
と考えていた。
- 113 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 18:46
- そんなときである。
学校の教室の掲示板に、ここの寮のチラシを見つけた。
れいなはこのチラシを見つけたとき、これは両親の呪縛から逃れられる絶好のチャンスだと思い、
急いで担任に詳しくこの寮のことを聞いた。
担任もれいなのクラスメイトや友達も、れいなが看護婦になりたがっていることに驚いていた。
仲のよい男子はとくにれいなを「患者さん、殺す気かよ?」といって冷やかした。
れいなは冗談っぽくその男子をにらんで、笑いをとったが、
はやく寮にはいりたい想いでいっぱいで、焦っていた。
担任はしばらく驚いた顔をしていたが、やがてにっこり笑うと
「おいで」と進路指導室に呼び出し、ここの寮のパンフレットをくれた。
正直、看護婦になりたいとは一度も思ったことはなかったが、
そのときのれいなは「はやく自由になりたい」という想いでいっぱいだった。
- 114 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 18:54
- 家に帰って「寮にはいって看護婦の勉強がしたい」と
両親に伝えた。
が、案の定否定された。
しかし、ここで負けるれいなではない。
担任にも両親を説得してもらえるよう頼み、れいなも必死で両親を説得した。
やっと両親のほうが折れて、れいなは寮に入れるようになった。
そのときの嬉しさは、いまでも忘れない。
やっと晴れて自由の身になれるのだ。
れいなはうきうきしながら、寮にむかう準備をしていた。
結局中学は、入学して一ヶ月ちょっとで辞めることになった。
れいなが旅立つ日、クラスメイト達はお別れ会を開いてくれた。
途中別れが寂しく、何度か泣きそうになったが恥ずかしいので必死でこらえた。
- 115 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 19:00
- 旅立つ朝は、空港に両親と友達が見送りにきてくれた。
両親はもうすでに泣いていて、情けなかった。
見送りにきてくれた友達も両親を見て、少し引いていたので、れいなは恥ずかしくてしょうがなかった。
むこうでちゃんとうまくやっていけるか、心配や不安もあったが
自由になれる嬉しさのほうが勝っていた。
れいなは泣いている両親とはちきれんばかりに手を振る友人に
大きく手を振ると、力強く一歩を踏み出し、ゲートをくぐった。
れいなは長かった両親の呪縛からついに逃れた・・・・
・・・はずだったが。
- 116 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 19:19
- 前と比べれば、断然今のほうが自由だ。
でも手紙のせいでいつもれいなは離れても両親の影を感じていた。
両親の束縛から、完全には逃れられずにいた。
しかも今はその束縛が恋しいと心のどこかで思っているのである。
自分の都合のいい我侭さに、れいなは苦笑した。
そもそも看護婦になるためにこの寮にきたのではないのだ。
だからこの寮にきて、先輩の看護婦達に挨拶をしたときは
後ろめたい気持ちになった。
れいなはなんとなく後ろを振り返った。
さっきと変わらず、愛は寝息を立てて寝ている。
今のとこまだ、発作はおきていない。
そのことに安心すると、れいなはまた机に顔をうつぶせて
またさっきの写真を手に取った。
純粋に看護婦になりたいという気持ちを持たずにここにきた自分を
愛はどう思うだろうか・・・?
気にならないはずがなかった。
最悪の場合、嫌われてしまうかもしれない。
それだけは嫌だった。だから愛に「どうして看護婦になりたかったのか?」と
聞かれたとき、戸惑った。
きっと時が経つにつれ、言いにくくなるだろう。
でもいずれ話さなければいけないことだ。
そうしなければきっと、後ろめたい気持ちが募って愛と居ずらくなるだろうから・・・。
- 117 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 19:31
- 愛がおきてしまわぬうちに、れいなは写真をさっさと引き出しに詰めた。
そしてその引き出しを手紙がはみ出てしまわぬよう、丁寧にしめた。
愛はまだすやすやと眠っている。
「・・・おやすみ」
そのおでこにれいなはキスをおとすと、欠伸をして部屋の電気を消した。
ベッドにはいってから眠りにつくまでの間、れいなは絵里のことを思い出していた。
そういえば、昔こんなことがあった。
- 118 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 19:43
- 中澤の家でふたりっきりになったときのことである。
TVではニュース番組がやっていたが、れいなは興味がなく、
れいなの耳にはなにも内容が入ってこなかった。
一方絵里は、複雑な表情でTV画面を見つめていた。
ニュースが終わってCMに入ると、絵里はやっとTV画面から目を離して
れいなを見つめてこういった。
「れいなは・・・・私のこと、好き?」
「はぁっ??」
いきなりの質問にれいなは顔を赤く染めて、戸惑った。
動揺を隠そうとすればするほど、ますます動揺してしまった。
絵里は真剣な目をして、れいなの目をじっと覗き込んでいる。
れいなはいつもと違う絵里に戸惑いながらも、その質問に答えようとしたが
次の絵里の言葉に遮られてしまった。
「・・・たとえ私が誰かのコピーであっても?」
- 119 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 19:53
- ───意味がわからない
とれいなは思った。
でも悲しそうに目を逸らす絵里をみて、れいなは「きっと人と壁をつくってしまう
悲しく、重たいなにかが絵里を支配しているんだなぁ」ということはわかった。
なんだか二人でいるのに独りぼっちになってしまった気がして、
急に寂しい気持ちになったのを、れいなは覚えている。
───絵里も同じ気持ちなのだろうか?
そう思うと抱きしめたい衝動に駆られたが、なんだかそのときの絵里は
触れると壊れてしまいそうで・・・なんだか触れてはいけないような気がして
その後は気まずい空気が流れていた。
・・・翌日あったときはいつも通りだったけれど。
- 120 名前:第四章 遠い記憶の中で 投稿日:2003/10/26(日) 19:55
- 絵里があの時どうしてそんなことを言ったのか、
いまでも気になっていた。
でもその答えを探り当てる前に、れいなは深い眠りについた。
- 121 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/26(日) 20:02
- でぃどる様>田中さんはちょっと誤解されそうな性格だけど
「友達思い」なイメージが自分の中ではあるんですよー。
岡女ではオガタカはなかったけど、新小、高紺が!!
亀井さんに寄り添う田中さんに萌えました(笑)
実は田中さんより亀井さんのほうが六期でモテてたりして(笑)
つーか高橋さん、きゅうり生で食べてる??!
レスありがとうございました!!
- 122 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/11/01(土) 16:19
- ───あたしが本当のこと言ったら、キミはどうするだろう?
それでも 言えるかな?
───「スキだ」って・・・・
・・・もう誰の言葉も 信じられないんだ
───たとえこの傷が 癒えたとしても。
- 123 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/11/01(土) 16:26
- ───昨日の夜はよく眠れなかった。
麻琴は今日も窓の外を眺めていた。
鳥のさえずる声がして、その声をかわいいと思った。
そう思いながらも、「あと何日ここにいれば、外に出られるのだろう?」
と淡々と考えていた。
ここを出れば、また昔のようにどこかを彷徨って生き延びるしかないだろう。
でも
- 124 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/11/01(土) 16:39
- ──でも少なくともここよりはマシだった。
せっかく好きになったかぼちゃも食べれなくなるだろうけど・・・。
病室にいると、閉じ込められているような気がして息が詰まりそうだった。
『閉じ込められて』という言葉が頭をかすめたとき、麻琴はふいに昔のことを
思い出した。
───アルコールと知らない薬品と血のにおい
聞き覚えのある だれかの叫び声
それをずっと聞かないフリをして ふさぎ込んでいた
・・・・自分の姿。
檻のような狭い、灰色の部屋から見た 青い空。
そして───それから・・・・
思い出しかけて、麻琴は自ら思考を停止した。
・・・思い出したくも、なかった。
- 125 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 13:01
- ───ガチャ
ドアが開く音がして、はっと麻琴は我にかえった。
ドアのほうを見ると・・・
「麻琴・・・?」
愛がひょこりと顔をだした。
綺麗な目が、麻琴をみつめている。
愛は麻琴と目があうと、うれしそうにかけよってきた。
「昨日はごめん。ちょっと身体の調子、わるくてさ・・・」
すまなそうにそう言う愛に、麻琴は驚いたような顔をした。
「愛ちゃん、大丈夫?だめだよ、無理しちゃ。身体には気をつけないと・・・」
心配そうにそう言う麻琴を見て、愛はふきだした。
麻琴はというと、愛がなんで笑ったのか理解できずに、「?」というような
顔をしている。
愛はクスクスと笑いながら、
「麻琴が言うと全然説得力ないよ〜!」
と言った。
- 126 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 13:10
- 麻琴の身体は包帯があらゆるところに巻いてあり、痛々しい。
麻琴は自分の身体を改めて確認すると、
「・・・確かに」
と苦笑した。
そんな麻琴に、愛はまたふきだした。
「はやく元気ならんと・・・」
優しい声でそういう愛に、麻琴はドキっとした。
そんな麻琴の様子にも気づかずに、愛はケラケラと楽しそうに笑っている。
麻琴の目に、愛の笑顔がまぶしく映った。
───その笑顔に触れれば、もう一度 あたしは心から笑えるだろうか・・・?
気づけば麻琴の右手は、愛の頬に触れていた。
───もういちど・・・・
- 127 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 13:14
- 「ま、麻琴・・・!!?」
愛は目を大きく見開いて、驚いた顔をして麻琴を見つめている。
麻琴はただ、ぼーっと愛の顔を見つめている。
愛はドキドキしながらも、優しげな麻琴の瞳から目を逸らすことができなかった。
しばらくそうやって見つめあっていると・・・
───ガチャ
「愛ちゃん?・・・・ってうわぁ!!?」
- 128 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 13:21
- ドアから女の子の声が聞こえ、その後二人はやっと我にかえった。
麻琴は自分の手が愛の頬に触れていることを知り、慌てて愛の頬から
手を離した。
「ご、ごめん・・・」
麻琴の顔は真っ赤になっている。
愛もつられて、さきほどより顔を赤く染めた。
またはっとして、二人はドアのほうを見た。
そこに立っていた女の子は・・・
「れ、れいな!!?」
なんと愛の親友のれいなだった。
れいなは二人と同じように顔を赤く染めると、
「し、失礼しました!!!」
と言って、愛の言葉も待たずに部屋から慌てて出て行ってしまった。
───どうやら勘違いされたらしい・・・
二人してそう思い、勘違いされたことを恥ずかしく思った。
でも不思議と嫌な気持ちはしなかった。
むしろ・・・
- 129 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 13:25
- むしろ・・・嬉しかったり・・・。
そう考えて、二人はまた赤面した。
───(あたしのバカ!!なに嬉しがってるの!!麻琴に迷惑だよ!?
・・・ああ、れいなに説明しないと・・・)
───(あたしのバカ!!なに愛ちゃんに触ってるんだよ!!愛ちゃんに迷惑だよ!?
・・・ああ、嫌われたらどうしよう・・・)
・・・二人は意外と鈍感だった・・・・。
- 130 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/07(金) 18:20
- 初めて読ませてもらいました!
田中と亀井がいい感じですね。
続き期待しています。
- 131 名前:まりも 投稿日:2003/11/21(金) 23:47
- 初めまして!
田亀!!!Σ(゜〇゜)
なぜかため息ばかり出ますよォw
最高ですww
このまま田亀でいくのか・・・。
祈りますw
れーな視点の田亀って好きなんですよねww
これからも頑張って下さい!!
- 132 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/27(木) 16:03
- まこあい(;´Д`)ハァハァ
キレイな描写ですな。大変憧れます。
続き楽しみにしてます。
- 133 名前:チナ犬 投稿日:2003/11/27(木) 16:55
- 更新おくれてすみません・・・。
来週のテストが終わったら更新しようと思ってます。
レスだけでも・・・・
>名無し読者様 気に入ってもらえて光栄です!
期待を裏切らないようにがんばります!!
>まりも様 田亀じゃなくてもしかしたら田高かもしれませんよwふっふっふ・・・(何
田亀が広がってきてうれしいです。
田高もいっしょに(ry
はい、がんばります!!(汗
>名無しどくしゃ様 もしかしてなんですが・・・『白痴』のほうにもいます?
違ったらすみません・・・。
キレイな描写って褒めてもらえてうれしいです!
更新頑張ります!
レスありがとうございました。
- 134 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/28(金) 17:07
- んまーテストがんがってくださいね。
Σ(゚д゚)!い、今確認したら白痴と同じ作者様…
よそよそしいレスして申し訳_| ̄|○
んでもって同一人物でございます。
それでは、更新マターリ待ってます。
- 135 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/07(日) 18:46
- 続きはなんとなく考えてあるんですが、どうやってつなげようか迷ってるので・・・。
間を埋めるために短編書きます。
長い間待たせてすみません。(ってか待ってる人いるのか?ww
でわ、暇潰しにでもどうぞ!
- 136 名前:君が背伸びした日、 投稿日:2003/12/07(日) 18:54
-
あたしの彼女は年下で、でもあたしなんかよりずっとクールで、
度胸があって・・・。
あたしよりも身長低いくせに・・・。
いつだって君はあたしをドキドキさせたりして惑わせるんだよ?
あたしよりも身長低いくせに・・・。
- 137 名前:君が背伸びした日、 投稿日:2003/12/07(日) 19:00
-
「いたっ!れいなぁ〜!!」
合唱部の練習が終わって、友達と靴箱まで歩いていると
正門に立つあの子の後姿を見つけた。
名前を呼ぶと、はっとしたようにこっちを振り返る。
あたしは一緒にいた友達に「バイバイ」と手を振ると、
急いで正門でいつもずっと待ってくれているあの子のところへ向かった。
- 138 名前:君が背伸びした日、 投稿日:2003/12/07(日) 19:16
-
「はぁ、はぁ・・・。いつもごめんね?」
息を整えてそういうと、彼女──れいなは表情ひとつかえずに
「べっつにー。愛ちゃん待つの、嫌じゃないですから・・・」
と俯きがちにそう言ってくれた。
表情は変わらないくせに、耳はすこし赤くなっている。
照れながらもちゃんと素直に言葉を伝えてくれるれいなが、可愛いと思えた。
やっぱりこういうところは、年下なんだよね?
もうっ・・・こっちまであかくなってきたよ・・・。
嬉しい気持ちを必死で抑えながら、二人で家への帰り道を歩いた。
- 139 名前:君が背伸びした日、 投稿日:2003/12/07(日) 19:25
- 恋人同士になってから、手をつないで帰るのが当たり前になった。
はじめはれいなは「恥ずかしいから嫌です」と嫌がったけれど、
上目遣いでお願いしたら、顔を赤く染めながらやっと頷いてくれた。
れいな曰く
「年上の女の上目遣いにはかなわない」
らしい。偉そうにそう言った彼女の頭を、あたしは軽く小突いてやった。
しばらくは今話題のドラマの話や好きな芸能人の話をしていたけど、
急に身長の話になった。
あたしはいつものように、彼女をからかった。
- 140 名前:君が背伸びした日、 投稿日:2003/12/07(日) 19:52
- 「れいな、ちっさくてかわいい〜!!」
「そ、そんなに変わらないじゃないですか!!」
頭を撫でて年上ぶるあたしに、れいなは慌ててそう反論する。
それもそうだ。あたしとれいなは実際3pしか変わらない。
でもあたしはなんだか面白くなって、また彼女をからかった。
「これじゃあ、れいなからあたしにキスする日はまだまだ遠いね・・・」
「ぐっ・・!」
「だっていつもあたしからだし、第一届かないし・・・ねぇ?」
あたしがそういうと、れいなは繋いでいた手を解いて、すたすたと黙って先に歩いていってしまった。
さすがにそろそろからかうのはやめようと思って、あたしは何歩か先に歩く彼女の後姿に
声をかけた。
「ねぇ、怒った?」
「・・・・」
「・・・ごめん、言い過ぎた。」
「・・・・」
あたしが謝ると、れいなはこっちを振り返った。
そしてすぐ、こっちにむかって歩き、あたしの正面に立った。
彼女は真っ直ぐな目で、こちらを見つめ返している。
あたしは内心おろおろしながらも、大好きな彼女から目を離せずにいた。
少しして、彼女が口を開いた。
「別に怒ってないし、それに・・・」
──・・・それに?
「・・・こうすれば届きますよ」
耳元でそうつぶやくと、彼女は背伸びして自分の唇をあたしの唇に重ねてきた。
「んっ・・・」
驚いて、思わず声がもれる。
しばらく呆然としていた。
キスされたと気づいたとき、顔がカーっとなった。
それなのに、目の前にいる彼女は、表情ひとつ変えていない。
なんだかとても悔しかった。
しかもひとりだけ赤くなっているあたしに声をかけることもなく、れいなはさっさとひとりだけあるいていってしまった。
自分だけ動揺してるのが馬鹿みたいで、なんか言い返してやろうと思った──
───けど・・・
- 141 名前:君が背伸びした日、 投稿日:2003/12/07(日) 20:02
-
───あれ?・・・れいな??
前を歩く彼女の耳が赤くなっていたから、あたしはもう許してあげることにした。
「もうっ、待ってよ〜!!」
そういってれいなの後を追いかける。
そうしたられいなの歩くスピードが、少し遅くなった。
──知ってるよ?いつも前を歩くときはあたしがすぐに追いつけるように、
追いつける速さで、歩いてくれているんだよね?
れいなの気遣いに、いつも嬉しくなる。
嫌なことだってすぐに忘れられる。
───君が いるから。
彼女に追いついて、解かれた手を、もう一度繋ぎなおす。
そしたられいなは黙って手を強くにぎり返してくれた。
その行動ひとつひとつに、あたしはいつもドキドキさせられているんだよ?
───ねぇ、知ってる?
尋ねる前に、あたしは彼女の唇を奪った。
この唇を離したとき、彼女の顔は真っ赤だろうか──?
そんなことを考えながら、あたしはゆっくり、唇をはなした。
- 142 名前:君が背伸びした日、 投稿日:2003/12/07(日) 20:08
-
君がいつか、あたしの身長を追い越すときがくるだろうか?
そしたら今度はあたしが背伸びして、君に口付けをしよう。
年下のくせにクールで、度胸があって・・・
でもやっぱり身長は低い、あたしの大事な彼女。
end
- 143 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/07(日) 20:11
- 田高(れなあい?)です。
すみません、書いてみたかったんです。
何気に前々からマイブームなんです(爆
- 144 名前:のどあめ 投稿日:2003/12/07(日) 20:27
- あいつはあたしのこと、どうおもってんだろ?
あたしより年上で、身長も高くて・・・
でもどこか頼りない、あたしの───
「れーいなっ!!何食べてんの?」
「う、うわぁっ!!」
驚いてふりむくと、彼女は頬をぷくりと膨らませた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃん・・・」
───そうです、これがあたしの好きな人です。
「ご、ごめん。絵里、ごめん」
───亀井絵里。
あたしはなんとか彼女の機嫌をとろうと謝った。
- 145 名前:のどあめ 投稿日:2003/12/07(日) 20:37
- 「・・・ホントに反省してる?」
「う、うん」
そういうと、彼女はにっこり笑って
「じゃあ許す」
とつぶやいた。
───うわっ・・・かわいい・・・
しばらく彼女の笑顔に見とれていると・・・
「ん?・・・れいな?」
「うわぁ!な、何っ!?」
「『何食べてんの?』って聞いたの」
もう、聞いてなかったの?、と彼女が拗ね始める。
君に見とれてました、なんて言える筈もなく、あたしは慌ててその質問に答えた。
「ええと、梅のど飴!!」
「ええっ!梅!!?」
「・・・?う、うん・・って、ああ!!」
───そうでした、あたしの好きな人は梅ぼし大好きなんだっけ?
絵里はぱっと目を輝かせてあたしをみつめる。
あたしは絵里の表情に、いつもドキドキしている。
- 146 名前:のどあめ 投稿日:2003/12/07(日) 20:49
-
「ちょーだい!」
「えっ?ちょーだいって・・・」
「あたしにも一個ちょうだい!!」
・・・あ、あげたいのはやまやまなんだけどさ・・・
「ご、ごめん。一個しかないんだ・・・」
その一個はあたしの口の中。
あーあ、こんなんならもっと持ってくればよかった・・・。
あたしの言葉に絵里は「えぇ〜」と残念そうな顔をした。
そんな顔も可愛くて、あたしはまた、ついつい見とれてしまう。
「あっ、そっかぁ!!」
さっきまで拗ねていた絵里が、急にぱっと顔を輝かせる。
そしてあたしの目をみつめて、こう言う。
「あたしがれいなからもらえばいいんだよ!!」
・・・はぁっ!?
意味が分からなくて、あたしは絵里に尋ねる。
「それ、どういう───んんっ!!」
口の中に、なにか柔らかいものが入ってくる。
そしてそれは、あたしの口の中にある梅のど飴を奪っていった。
あたしはしばらく呆然としていて───
でも目の前の彼女は満足そうに笑っていて・・・。
絵里は口をもごもごさせながら、ピースサインをしてこういった。
- 147 名前:のどあめ 投稿日:2003/12/07(日) 20:59
- 「えへへ、れいなの梅のど飴GETS!!」
あたしはそんな彼女になにも言い返せずに、ただ赤くなっていた。
口にのこる少しすっぱい、だけど甘いこの味は
さっきまで食べてた梅のど飴の味なのか、それとも大好きな彼女の唇の味なのか・・・。
きっと答えは要らないのだろう。
きっとあたしが彼女を好きだという気持ちは、変わりないのだから───。
───今度はこっちがびっくりさせてやるから、覚悟しとけよ!!
のど飴を嬉しそうになめる絵里を見つめながら、あたしは心の中でそうつぶやいた。
- 148 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/07(日) 21:00
- うわ、甘い・・・。
一応田亀です。
文ヘタクソでごめんなさい。
更新遅くてごめんなさい。
- 149 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/07(日) 21:00
- ・・・
- 150 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/07(日) 21:00
- ・・・・
- 151 名前:ありちゃん 投稿日:2003/12/07(日) 21:19
- 更新は遅いけど作品が好きなのでOKです♪田中絡みいっぱい書いて下さい。
- 152 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/07(日) 21:33
- やっべ〜短編の田亀に萌え死にました!
口移し最高でつ(w
やっぱこの二人はいいなぁ。
本編も無理しない程度にがんばってください☆
- 153 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/13(土) 21:22
- 長い間お待たせしてすみません・・・。
本編を更新したいと思います。
ころころと視点が変わるので読みにくいと思いますが、よろしくお願いします。
- 154 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/13(土) 22:13
- □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
河原沿いの道を、栗色の髪をした少女は歩いていた。
やや強い風が少し汗ばんだ身体を冷やしてくれた。
少女はただ黙々と、前に伸びている道を歩いている。
でも、しばらくすると急に立ち止まってこう言った。
「いつまでついてくるつもり?」
少女が後ろを振り返ると、黒髪で背が高く、色の白い、大きな目をした少女が身体を硬直させて立っていた。
栗色の髪の少女は、後をつけてきたその少女をただにらみつけている。
黒髪の少女は少し戸惑った後、やがて決心したように栗色の髪の少女を真っ直ぐ見つめて、こう言った。
「マリを・・・ころさないで」
それは震えていて、とても頼りない声だった。
しかし、頼りないその声に、栗色の髪の少女は顔色をみるみると変えていった。
「ねぇ、マキ・・・」
黒髪の少女が、すがりつくような切ない声でそう言う。
栗色の髪の少女──真希は、その声を振り払うように頭を横に振ると、また
黒髪の少女をにらみつけた。
「あたしがあいつを殺そうが、あんたには関係ないね!
それにあいつはそれだけのことをしてきたんだから!!
あいつを恨んだまま死んだやつだって、たくさんいるんだ!!」
真希の冷たい言葉に、黒髪の少女は悲しそうな顔をした。
その顔を見て、真希の胃は、キリキリと悲鳴をあげた。
──(・・・なんだよ。そんな顔するなよ。なんで・・・なんでお前は
いつもあいつを庇うんだよ。・・・なぁ、ひとみ・・・?)
真希は内心泣きそうになりながらも、必死でこらえていた。
───ここで負けちゃいけないんだ・・・
そんな言葉が、頭の中で繰り返されていた。
- 155 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/13(土) 22:24
- ふいに訪れた沈黙が痛くて、真希はまた言葉を発した。
「あたしは・・・あいつが許せないんだ。たぶん・・・」
少し間を空けて、真希はまた言葉を吐き出した。
「たぶん、一生」
短いがその言葉は、真希の背負ってきたものの大きさを表わすには十分すぎるくらい、
冷たく、重かった。
黒髪の少女──吉澤ひとみは、また傷ついたような顔をした。
真希もまた、その顔を見て傷ついていた。
- 156 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/13(土) 22:43
- 真希は、ふいに胸のロケットに手をあてた。
そして、中を開く。
中の写真にいる少女の姿を見て、真希は何故かほっとしたような気持ちになり、
思わず顔が緩んだ。
ひとみは、さっきまでとは違う、優しい顔をした真希を見て驚いた顔をした。
「あたしはさ・・・」
ロケットの中の写真を見つめながら、真希は話をきりだす。
「あたしは・・・・」
さっきまでの強気な態度や声とは違う、弱弱しい真希の声に、ひとみははっとした。
いや、『強気な』少女なんてはじめからいなかったのだ。
ひとみの目の前にはただ、肩を震わせて、泣き出しそうな顔をした少女が立っているだけだった。
- 157 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/13(土) 23:09
- 「あたしは、もう失くしたくないだけなんだよ」
真希の言葉が、ひとみの胸に突き刺さった。
その言葉で、忘れもしない、あの記憶がひとみの頭の中でフラッシュバックした。
「マキ・・・」
ひとみは今にも泣き出しそうな声をあげる。
マキもあの日のことを忘れられずにいるのだと、そう思っただけで、胸が締め付けられるような気持ちになった。
───あの日のことを・・・
真希はロケットから目を離して、ひとみの目を見つめた。
真希の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
喉からしぼり出すようにして、真希はこう言った。
「紺野のことが、忘れられない」
そのことばに、ひとみの心は凍りついた。
真希の目から、ますます目が離せなくなった。
「絵里が、今度は犠牲になるかもしれないって聞いた。 あたしはただ、守りたいと思った。
紺野を守れなかった分、絵里だけは絶対守ろうって・・・そう誓ったから」
真希はロケットを握りしめる。
その中には、絵里の写真がはいっていた。
写真の中の絵里の姿を見るたび、真希はいつも「守りたい」と思っていた。
そのために生きてきた。ここまで生きてきたのだ。
「・・・あたしは間違ってるのかな?」
真希がぽつりとつぶやく。
「誰かを守りたいとか、そんな気持ちを持つのって・・・やっぱり間違ってるのかな?」
「・・・そんなことないよ!」
真希のことばに、堪らなくなってひとみが声をあげる。
- 158 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/13(土) 23:38
- 間違ってるはずはない、そんなはずはないのだ。
「じゃあ──」
真希が再び言葉を吐き出す。
「じゃあ、なんで止めるの?」
「えっ・・・?」
そのたった一言で、ひとみの身体は硬直した。
ひとみはなにも言い返せなかった。
───ひとっことも、言い返すことができなかった。
真希はひとみから目を逸らすと、空を見上げた。
そして、ぽつりとつぶやいた。
「あたしはもうなにも、失いたくないだけなんだよ・・・」
真希の気持ちが痛いほど伝わってきて、ひとみの胃は熱くなった。
真希は再び、ひとみの目を見つめる。
「だから、あたしはあいつを許さない。・・・絶対に」
「・・・マキ」
「止めても無駄だよ!忘れないから、紺野のこと。ううん、犠牲になった仲間達のことも。そのためには・・・」
ひとみは息を呑んだ。できればその続きは聞きたくなかった。
「あいつを・・・矢口真里を殺す。そして───」
真希はキッとひとみをにらみつけた。
「───小川麻琴も許さない」
その言葉を残して、真希はひとみに背をむけて歩き出した。
ひとみには、止めることができなかった。
・・・・風が冷たかった。
真希の姿が見えなくなっても、ひとみはずっと、真希の歩いていった方向を見つめていた。
・・・ただずっと、見つめていた。
- 159 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/13(土) 23:39
- ・・・
- 160 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/13(土) 23:40
- ・・・・
- 161 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/13(土) 23:48
- 少ないけど更新終了です・・・
151 ありちゃん様>こんな作品を気に入ってくださってありがとうございます。田中さんファンですか?w
短編もちょくちょくかいていけたらなぁ、と思っていますんで、よろしくお願いします。
152 名無し読者様>本編やっとかけました・・・・。長かったぁ・・・。
田亀好きさんですか?w田亀好きが増えてきていてなんだか嬉しいです!
はじめはれなさゆが多かったからなぁ。あ、れなさゆも好きですけど(汗
短編気に入ってもらえたようで・・・ありがとうございます!!
レスありがとうございました!!
- 162 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/14(日) 09:20
- Σ(;´д`)マコマデ!
シリアスになってきましたね…
続きが気になります。
- 163 名前:ありちゃん 投稿日:2003/12/14(日) 21:53
- はい田中れいなのファンです。てか本編の続きが気になります。
がんばって書いてください。
- 164 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/16(火) 22:31
- □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「はぁ、はぁ・・・」
そのころ、れいなは一階の廊下にいた。
例の二人───愛と麻琴を見て驚いて、気づいたらここまで来てしまった。
ここまで来る途中で誰かに「コラッ!廊下は走るな!!」に怒られたような気がしたが、
今はそんなことはどうでもよかった。
「・・・さっきの・・・愛ちゃん?」
ぽつりとそうつぶやくと、れいなの頭にさっき「見たこと」がフラッシュバックした。
───麻琴と見つめあう愛の姿、その頬には麻琴の手が添えられていて・・・
「・・・マジかよ」
吐息と共に漏らした言葉。
その後、れいなはなんだか急に寂しくなった。
- 165 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/16(火) 22:43
- 出会ってたった二ヶ月とはいえ、やはり愛はれいなにとって唯一無二の親友である。
だから自分が知らない間に、れいなのあまりよく知らない人と仲良くしている愛を見て、
なんだか腹が立ち、また寂しくもあった。
自分勝手な感情だとは知っている。
れいなは『嫉妬』していた。
それを認めるのに、少し抵抗があった。
でも、それは事実だった。
──いつの間にあんなになかよくなったんだろう?
アタシより付き合い短いのに、どうして愛ちゃんとあんなに親しくなっているんだろう?
・・・どうしてだろう?
なんだか寂しいな・・・
れいなの中に複雑な感情があふれ出てくる。
- 166 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/16(火) 22:58
-
しばらくして、れいなははっとした。
───(もしかして、愛ちゃんも同じ気持ちだった?)
『絵里』の存在を知り、腹を立てつつもどこか寂しそうだった愛の顔
不安に揺れる、黒い瞳。
───(・・・なんで気づかなかったんだろう?)
れいなの頭の中に、愛の顔が次々と浮かんでくる。
愛が怒っていた理由は簡単だった。
───それは
「嫉妬してたんだ・・・」
愛も嫉妬してくれていた。
そう考えると、少しくすぐったい気持ちになった。
でも不思議と嫌な気はしない。
むしろ、うれしかった。
「へへ、愛ちゃんもあたしのこと好きなんだ・・・」
少し照れくさくて、自然と顔が緩む。
もうさっきまでの苛立ちや寂しさは消えていて、清々しい気持ちになっていた。
- 167 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/16(火) 23:18
- そんなとき、後ろから声が聞こえた。
「へぇ〜、れいなは絵里よりも愛のほうが好きなんか?」
「な、中澤さん!!?」
れいなが背後を振り返ると、そこには意地悪そうにニヤニヤ笑っている中澤が立っていた。
れいなの額に汗がにじむ。
「中澤さん・・・さっきのこと」
「ああ、バッチリ聞いとったで〜」
あまりの恥ずかしさにれいなの顔がみるみる赤くなる。
中澤はそれを見て、また笑い出した。
れいなはぷくりと頬を膨らませて、拗ねながらも中澤に尋ねた。
「・・・それで、何のようです?」
「そんな怒らんでも〜」
「・・・・」
「わかった、ごめん。まじめに頼むわ」
そう言うと、中澤は胸ポケットから鍵を取り出した。
唖然としているれいなの目の前にそれを差し出して、中澤はこう言った。
「はい、今日あたしのかわりに絵里と寝てやって」
二人の間に沈黙が流れる。
その後れいなの
「はあ!??」
という声が廊下に響いた。
近くにいた看護婦や患者達は一斉にして、二人のほうを振り返る。
中澤はれいなに軽くげんこつをくらわせた後、強制的にれいなを自分の家に向かわせた。
- 168 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/16(火) 23:31
- ※ ※ ※ ※ ※
「くっそー、いてー」
れいなは寮で着替えた後、中澤の家にむかった。
げんこつをくらった場所は、ひりひりと痛んだ。
中澤の家のドアの前にたつと、れいなはインターホンを鳴らした。
でも誰も出ない。
「絵里ー?いないの??」
そう呼びかけても、一向に人が出る気配がない。
ノックをしても出ないので、れいなは仕方なくその鍵で開けて入ることにした。
家に入る許可を得たとはいえ、自分の大先輩に当たる人の家に入るのは緊張した。
鍵をドアノブに差し込もうとしたところでれいなは異変に気づいた。
───(・・・開いてる?)
ドアノブに手をかけると案の定、鍵はかかっておらず、ドアはすぐに開いた。
田舎とはいえ無用心だな、と思いつつ
「おじゃましまーす」
とつぶやき、れいなは中澤の家にあがった。
- 169 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/16(火) 23:53
- すると、れいなの目にソファーで眠っている絵里の姿が目に入った。
「・・・絵里?」
「・・・・すぅ、すぅ」
絵里は寝息を立てながら、気持ちよさそうに眠っていた。
───(か、かわいい・・・・)
その寝顔を見て、れいなはたまらなくドキドキしていた。
───(さわっても、いいよね・・?)
れいなは絵里のほうに手を伸ばすと、絵里の黒いきれいな髪を撫でた。
自然と顔が緩んできて、愛しい気持ちが溢れてきた。
しばらくそうしてると、絵里がふと顔をしかめた。
さっきまで気持ちよさそうに寝ていたのに・・・と、れいなは心配して絵里を見つめた。
すると、絵里の唇が微かに動いていることに気づき、れいなは急いで絵里の口元に自分の耳を近づけた。
うわごとのように、絵里は確かに何かをつぶやいていた。
はじめは小さすぎてなにを言っているのか、よく聞き取れなかったが
繰り返されるその言葉を知ったとき、れいなは目を大きく見開いた。
「・・・さん、お母さん」
───お母さん・・・
絵里はそう呪文のようにつぶやきながら、静かに涙をこぼした。
れいなは自分自身も泣きそうになりながらも、絵里の頬を流れる涙を指でぬぐった。
その指を口にいれると、しょっぱい味がした。
「・・・お母さん」
そうつぶやいた後、れいなは少し泣いた。
その涙もやはり、しょっぱい味がした。
人間って変なところでつながっているんだな、と淡々と思いながらも、
また新たに生まれてきた寂しさはぬぐえなかった。
- 170 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/16(火) 23:57
-
───寂しいって 舐めたらどんな味がするんだろう?
涙がしょっぱいんだから きっと寂しいのはしょっぱいんだ
しょっぱい味を知らないようにするためには、どうしたらいいんだろう?
ねえ、どうしたらいいんだろう?
- 171 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/16(火) 23:58
- ・・・
- 172 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/16(火) 23:58
- ・・・・
- 173 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/17(水) 00:06
- 162 名無しどくしゃ様>なるべく暗くならないように努力してるんですが
おいらが書くとどうしてもなんか・・・重いですね(笑)
白版のやつも暗(ry
163 ありちゃん様>はい!本編がんばります!!
田中さんはとても新メンバーとは思えないくらい度胸あってカッコイイですよねw
レスありがとうございました!
てか更新少な(ry
が、がんがります(汗
- 174 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/17(水) 20:57
-
────
「──んっ」
「・・・おはよ」
絵里が目を覚ますと、隣で声が聞こえた。
絵里は寝ぼけながら
「おはよう・・・」
とかすれた声で返事をかえす。
でもその後、目を大きく見開き、がばっとソファーから飛び起きた。
「・・・れ、れいな!??」
絵里の目の前には、ひざを抱え込むようにして床に座っている、れいなの姿があった。
れいなは絵里の驚いた顔を見て、まるでいたずらが成功した子供のように無邪気に笑った。
「なんでれいながここに──ってか・・・い、いつからいたの!?」
慌ててそう尋ねる絵里に、れいなはまたおかしそうに笑いながら、冷静に答えた。
「さっき来たばっかだよ。中澤さんがね、今日は遅くなるからかわりに絵里といてやってほしい、って・・・」
「中澤さんが・・・?」
うん、とれいなは小さく答えた。
- 175 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/17(水) 21:19
- 寝ぼけた頭をフル回転させて、絵里は必死で今の状況を呑み込もうとした。
そんな絵里を見つめながら、れいなはぽつりと小さな声を漏らした。
「・・・あのさ」
「ん・・・?」
何?と絵里が首をかしげてれいなを見つめると、れいなは顔を赤く染めて慌てて絵里から目を逸らした。
そして、また小さな声でつぶやく。
「可愛かったよ・・・」
「・・・えっ?」
絵里がそう声を漏らすと、れいなは今度は真っ直ぐに絵里を見つめた。
れいなにみつめられて、絵里はドキドキした。
れいなは顔を真っ赤にしながら、照れくさそうに笑って、こう言った。
「寝顔、可愛かった」
(───えっ・・・?)
絵里はしばらくぼーっとしていたが、やがてその言葉を理解すると、
自分の顔がカッと熱くなっていくのを感じた。
恥ずかしくてれいなとまともに顔をあわせられず、絵里は下をうつむいた。
しばらく二人で顔を赤くしながら沈黙していると
「・・・ありがとう」
絵里がぽつりとつぶやいた。
「うん・・・」
れいなは頬をかきながら、嬉しそうに笑った。
- 176 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/17(水) 21:40
- その笑顔を見て、絵里はまた顔が赤くなってしまう。
それをごまかすようにして、絵里は立ち上がり
「ご、ごめん。お茶、出してなかったね・・・?」
と言い、冷蔵庫に向かった。
れいなはその手をつかまえる。
「あ、何・・?れいな」
絵里が驚いて、れいなにそう尋ねると
「あー・・・うん」
とれいなは曖昧に答えた。
何かいいたいはずなのに、言葉にできない歯がゆさが、れいなを支配していた。
───(・・・?れいな、どうしたんだろ??)
絵里がそう考えていると、いきなり手を引っ張られ、引き寄せられた。
絵里は、あぐらをかいたれいなのひざの上に座らされている形になった。
- 177 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/17(水) 21:51
-
「ちょっ、れいな!!?」
「んっ・・・」
突然のことに、絵里は慌てた。
れいなは絵里の背中に顔をうずめている。
背中にれいなの体温を感じて、絵里の心臓は高鳴った。
「れいな・・・恥ずかしいよ・・・」
顔を真っ赤にしながら、やっとのことでそういうと、れいなは
「二人だけだし・・・いいじゃん、ね?」
と笑って、両手で絵里をぎゅっと抱きしめた。
- 178 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/17(水) 22:17
-
「・・・もうっ」
絵里は呆れたようにそういいながらも、顔は嬉しそうに笑っている。
れいなは甘えるようにして、絵里の背中に顔をこすりつけながら、こう言った。
「絵里にはアタシがいるから・・・」
───(・・・えっ?)
絵里が驚いていると、れいなはさっきよりぎゅっと絵里を抱きしめる腕に力を入れた。
・・・そしてまた、こうつぶやいた。
「絵里にはアタシがいるからさ・・・だから心配しなくてもいいよ?
アタシは独りになんか、しないからさ」
「・・・うんっ」
れいなの言葉のひとつひとつが嬉しくて、絵里は泣きそうになった。
れいなは満足気に笑って、絵里の背中に顔をうずめながら、そっと目を閉じた。
絵里は自分に回されたれいなの手を、ぎゅっと握りしめた。
しばらくはこのままでいたいな、と思いながら。
- 179 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/17(水) 22:18
- ・・・
- 180 名前:第五章 彼女の傷跡と秘密と復讐と・・・ 投稿日:2003/12/17(水) 22:18
- ・・・・
- 181 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/17(水) 22:19
- 更新完了です。
少ないですが・・・
- 182 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/17(水) 22:44
- れなえり…えっらい萌えました
萌え死ぬかと思いました
- 183 名前:名も無き読者 投稿日:2003/12/18(木) 12:37
- 良さげな作品見っけ(w
すごいおもしろいんでこれからもがんがって下さい。
- 184 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/18(木) 23:12
- うあー田亀て萌える(w
暗くて上等!堪えてみせる!(つ∀`)
- 185 名前:第六章 思い出すのは・・・ 投稿日:2003/12/27(土) 23:40
-
「まこっちゃん・・・ずっと一緒だよね?私達は離れたりなんか、しないよね?」
────うん。
「違うよ!無駄なんかじゃ、ないんだよ!!」
────・・・うん。
「・・・逃げる?こ、ここから?」
────うん!逃げようよ。二人で、一緒に逃げよう!!
「ふた・・りで」
───うん!ふたりで!!ねっ・・・?
「・・・うんっ」
きみはしっていたの?あたしたちがもう、ノアの方舟には乗れないことを・・・。
「ごめん・・・やっぱ私はいけないよ」
───どうして!?一緒に逃げるってこの前約束したじゃん!今しかないんだよ!!ここから・・・抜け出すのは。
「ごめんね。でも、今はいけないの・・・」
あの日、どうしてひとりで逃げてきてしまったんだろう・・・?
きみ一人を、置き去りにして。
あたしはどうして・・・
「・・・紺野あさ美は死んだよ」
「───きみが殺したんだ」
・・・殺してしまったんだろう?
- 186 名前:第六章 思い出すのは・・・ 投稿日:2003/12/27(土) 23:50
-
「・・・麻琴?」
「んっ・・・?」
はっとして声がしたほうに顔を向けると、心配そうな顔をしてこちらをのぞきこんでいる愛と目があった。
「どうしたん?なんかさっきから顔色悪いよ?」
「そんなことないよ」
「・・・本当に?」
「うん!元気、元気」
そう言って、麻琴はニッと笑った。
その笑顔を見て、愛は少し安心したらしく、安堵のため息を漏らした。
「なら・・・いいんだけどさ」
そうつぶやいた愛の顔が、少し寂しそうだったのに麻琴は気づかなかった。
- 187 名前:第六章 思い出すのは・・・ 投稿日:2003/12/28(日) 00:15
-
「あっ、そうだ・・・」
麻琴が何か思いついたように声を上げる。愛はその声に首をかしげた。
そんな愛を、麻琴が優しく微笑んで見つめる。
「あたし、愛ちゃんに聞きたいことあった」
───(か、かわいい・・・)
ふにゃっと笑う麻琴の人懐っこい笑顔に、愛はしばらく見とれていた。
「んっ?・・・愛ちゃん??」
「あっ!ごめん・・・」
───(あ、あたし・・・今見とれてた・・・?)
急に麻琴に話しかけられて、愛は動揺し、同時に麻琴に見とれていた自分に気づき、途端に恥ずかしくなった。
それを麻琴に悟られないようにしようとすればするほど、余計に意識してしまって、愛の顔はまたさらに赤くなった。
麻琴はそんな愛を不思議そうに眺めながら、
「変な愛ちゃん」
と言って、またふにゃっと優しく笑った。
───(だ、誰のせいだと思ってるんやよ〜・・・)
そう言い返したくても言い返せない愛は、ただ唇を噛み締めて、ぐっとこらえるしかなかった。
- 188 名前:第六章 思い出すのは・・・ 投稿日:2003/12/28(日) 00:51
-
「あ、話の続き、つづき・・・」
愛の気持ちも知らないで、麻琴はずれた話をあわてて元に戻し始めた。
「世界が滅びて一艘の船があります。自分以外にもうひとり、誰かをつれていけるとしたら
・・・ええと『羊、虎、馬、孔雀』のうち、誰を選びますか?」
「えぇ〜!!ちょっと待って!」
突然の質問に、愛は戸惑った。
少し考えた後、頭にぱっと浮かんだものを選んだ。
答えを言おうとして顔を上げると、少し寂しそうに微笑む麻琴と目があい、息をのんだ。
「んっ?答え・・・決まった?」
「う、うん・・・」
いつものふにゃっとした笑顔と違うことにドキドキして、遅れて返事を返した。
「羊にしたよ・・・」
- 189 名前:第六章 思い出すのは・・・ 投稿日:2003/12/28(日) 00:55
- そう答えると、麻琴は嬉しそうに笑った。
「そっか、そっかぁ〜!愛ちゃんならそう言うと思ってたんだよ!!」
麻琴の嬉しそうな顔をみて、愛もうれしくなった。
でも何がそんなに嬉しいのか、いまいちわからない。
そんな愛の気持ちを知ってか、麻琴が話し始めた。
- 190 名前:第六章 思い出すのは・・・ 投稿日:2003/12/28(日) 01:13
-
「これは『何を一番大切にするか』っていう心理テストで
羊を選んだ人は『愛情』を大切にするんだって!」
「へぇ〜そうなんだ」
愛がそういうと、麻琴は
「そういえば『愛情』の『愛』って『愛ちゃん』の『愛』と同じだね?
いい名前だね〜!!」
とまたいつものようにふにゃっと笑った。
名前を褒められただけでもなんだか照れてしまって、愛は
「あ、ありがと・・・」
とつぶやくのが精一杯だった。
麻琴も
「・・・うん」
と照れたように笑った。
- 191 名前:第六章 思い出すのは・・・ 投稿日:2003/12/28(日) 01:34
- 愛もつられて笑い、しばらく二人で顔を赤くして笑いあった。
その後、今度は愛が何か思いついたような声を上げた。
「そういえば、麻琴は何を選んだの?」
「えっ?」
「ホラ、さっきの心理テストのやつ」
愛の言葉に、麻琴は表情を変えて、俯いた。麻琴の顔が、悲しそうに歪んでいく。
愛は聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないかと不安になり、心配そうに麻琴を見つめた。
「・・・麻琴?」
「・・・・」
「ごめん、あたし・・・なんかいけないこと・・・」
「・・・あたしは乗らないよ」
───(・・・えっ?)
強くそう言い放った麻琴の言葉に、愛は驚いた。
麻琴は顔を上げて、愛の目を真っ直ぐ見つめて、こう言った。
「あたしは船になんか、乗らない」
そう言い放った麻琴の目には、深い悲しみの色が見え隠れしていた。
- 192 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/28(日) 01:59
-
>182様 田亀萌えましたか(w
よかった、よかった・・・。
最近田亀、小高不足でほかの作者様の小説読んで補充してたり(w
>183様 他の作者さまの小説を読んでるとき、
あなたの名前を見かけたことがあります!たしか金版の(ry
おもしろいと言ってもらえて、うれしいです!
がんばります!!更新はおそ(ry
>184様 暗いのOKですか(w
だぶんこれからもっと暗(ry
最近田亀、小高不足です・・・汗
なんか、ないかなぁ〜(←何だよって感じですがw
ではレスありがとうございました!!
- 193 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/28(日) 01:59
- ・・・
- 194 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/28(日) 01:59
- ・・・・
- 195 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/29(月) 10:01
- マコたむ…(;つД`)
オイラも重度のまこあい不足で死にそうです。
だがしかし、FCが2月にまこあいを届けてくれる!(w
その日を支えになんとか生きています_| ̄|○
作者様ガンガテのー更新待ってるでー
- 196 名前:名も無き読者 投稿日:2003/12/31(水) 00:50
- 狽ン…見られてた。。
節操も無く色んなトコに書き込んでるせいですな…
ま、これからも気にせず書き込んでいくのでよろしくお願いします。
- 197 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/01(木) 23:27
- 田亀&小高サイコ〜です!!
- 198 名前:真那実 投稿日:2004/01/04(日) 14:22
- 続きが読みたいです!!
- 199 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/08(木) 22:10
-
きみが笑うたび、なんだろう・・・ココロが落ち着かなくなる。
きみがナミダを流すたび、なんだろう・・・ソワソワするんだ。
きみがそばにいることで、ミキはもっと、おおきくなれるんだよ?
だからもっとそばにいてよ。
ミキがもっとおおきくなれるように。
- 200 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/08(木) 22:18
-
「たんっ!」
アヤの声に、ミキが顔を上げる。
「みきたん!!」
とびっきりの笑顔を振りまいて、ミキのほうにアヤが駆け寄ってくる。
ミキは微笑んで、ただアヤがここまで来るのを待った。
- 201 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/08(木) 22:40
-
「はぁ・・・はぁっ」
「大丈夫・・・?」
目の前で息を切らしているアヤに、ミキは心配そうに声をかけた。
アヤはまだ苦しそうに息を整えながらも、
「えへへ・・・大丈夫」
と笑った。
そんなアヤの表情を見て、ミキは安心したように微笑んだ。
「そんなに急がなくてもいいのに・・・」
ミキが少し乱れたアヤの髪を撫でながらそう言うと、アヤは頬をピンク色に染めながら照れたようにこう言った。
「だって・・・みきたんに早く逢いたかったんだもん!」
アヤの真っ直ぐな言葉に、ミキは動揺した。
- 202 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/08(木) 23:03
-
「逢いたい?・・・ミキに?」
眉をひそめて、アヤに尋ねる。
「うん、そうだよ?」
アヤは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに笑ってこう答えた。
「私は、みきたんに逢いたくてここまできたんだよ」
ミキがまだ動揺していると、アヤはミキに抱きついてきた。
「!?・・・ア、アヤちゃん」
「へへへ、みきたんあったかい・・・」
─── アッタカイ・・?
アヤの言葉に、ミキは身体を強張らせる。
そんなミキに気づいて、アヤが悲しそうな顔をしながら
「・・・そんな顔、しないでよ」
右手でミキの頬に触れた。
ミキの冷たい頬が、アヤの体温によって暖まっていく。
- 203 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/08(木) 23:29
-
「・・・・ごめん」
頬に添えられたアヤの手に、自分の手を重ねながらそうつぶやいた。
「・・・あやまらないでよ」
「うん、ごめん」
「だぁーかぁーら!あやまらないでってば!!」
頬をぷくりとふくらませて、怒るアヤ。
膨らんだアヤの頬を、人差し指でつんつんとつついて、ミキは笑った。
アヤは「もう!怒ってんだから。からかうな〜!」としばらくそうやって頬を膨らませていたが、
ミキの笑顔を見ると、しだいに怒るのをやめて、笑い出した。
- 204 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/08(木) 23:37
-
「あははははっ!」
「えへへへへ・・・」
笑いながら、アヤはまたミキに抱きつく。
今度はミキもしっかりアヤを受け止めた。
しばらく笑いあったあと、少しの沈黙の後、アヤがぽつりと静かな声でつぶやいた。
「しってる?ごっちん、逃げたって・・・」
アヤの言葉にミキは一瞬きょとんとしながらも、数秒遅れて返事を返した。
「・・・・ああ」
ミキの返事の後、アヤはミキを抱きしめる腕に力を入れた。
- 205 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/08(木) 23:45
- 「・・・アヤちゃん?」
「みんな、どんどんいなくなっていくんだね・・・」
「えっ・・・?」
アヤの言葉に、ミキは言葉を失う。
ミキはアヤの表情を窺おうとしたが、アヤがそれを拒むようにして
ミキの胸に顔をうずめた。
「みきたんはっ───」
胸の辺りから、アヤのおびえたような小さな声が聞こえる。
「いなくなったりとか・・・しないよね?」
「・・・・・」
───イナクナッタリトカ、シナイヨネ?
頭の中で、アヤの声が響く。
- 206 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/08(木) 23:56
-
「みきたんだけは、私をおいていかないでね?
・・・ひとりにしないでね?」
「そんなこと、絶対しないよ!!」
───ゼッタイ、キミヲヒトリニシナイ
「みきたん・・・」
「ひとりにしないからね?」
今度はミキがアヤを抱きしめる腕に力をこめた。
アヤはうれしそうに
「うんっ・・・」
とうなづくと、ミキの腕の中で目を閉じた。
ミキは微笑んで、アヤの髪を優しく撫でた。
ミキの冷えた身体が、アヤの体温によって、どんどんあったまっていく。
こんなにあったかいものなのかと、ミキは内心驚いていた。
- 207 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/09(金) 00:07
-
「あっ、そうだ!!」
「ん?どうしたの?」
突然声を上げたアヤにそう尋ねると、アヤはミキから少し身体を離して、
ミキの目を見つめながら、こう言った。
「あたしもみきたん、ひとりにしないからね?」
突然のアヤのその言葉に、ミキは目を丸くしながらも
「・・・うん」
と笑ってうなづいた。
- 208 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/09(金) 00:22
-
ココロはソワソワして、なんだか落ち着かないんだけど、
身体はぽかぽかしている。
ずっとそばにいてよ。
ひとりぼっちにはしないでよ。
ミキがもっともっと、おおきくなれるように。
もっともっと、きみに触れられるように。
あの太陽に、・・・希望の光に手が届くように。
いつか、いつか・・・。
- 209 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/09(金) 00:28
- 名無しどくしゃ様> 二月なんてあっという間にきますよ!
その日までガンバ♪(←キショ
まこあい短編書きたいけど・・・ネタがない(泣
名も無き読者様> おいらもお気に入りの小説がありすぎて困ってます。
白版の友達の背中(名前出していいのか?)がツボで。
あんな文章書きたいなぁ・・・。
- 210 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/09(金) 00:36
- 名無しさん様>おお!同士!!最近田亀と小高大好きですっていう人が増えて
うれしいですなー。でもおいらは結構なんでも(ry
真那美様>続きおくれてすみません。
テスト終わったんで、思いっきり更新できるかと・・・(←ホントか?
- 211 名前:あやみきだったり・・・ 投稿日:2004/01/09(金) 00:41
- 皆さん、レスありがとうございました!
てか更新すくなくてすみません・・・。
テスト終わったんでここも白版のやつもはやく更新したいと思います。
- 212 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/10(土) 13:45
- 乙で〜す♪
この二人も出てきましたか…
この先、登場人物達がどう絡んでいくのかが楽しみです。
- 213 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/12(月) 10:46
- □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
れいなが隣を見ると、絵里は気持ちよさそうにねていた。
よく見ると、毛布から身体がはみ出している。
そんな絵里を見て、れいなは微笑むと、毛布を絵里の身体にかけなおしてあげた。
「しょうがないなぁ・・・」
「んっ・・・」
絵里が突然声を漏らした。
───(あ、起こしちゃったかな?)
と思い、顔を覗き込むと、絵里は起きる様子もなく、すやすやと眠っていた。
───(なんだよ・・・人がせっかく心配してやってんのに)
でもれいなはまんざらでもないような顔をしている。
れいなは絵里の髪を撫でると、おやすみ、とつぶやき、絵里の額にキスをしたあと、自分も布団の上に横になった。
そういえば布団に寝るのは久しぶりだな、なんて思いながら。
あっという間に、意識は遠のいてしまった。
- 214 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/12(月) 10:52
- ───※
絵里が今、立っている場所は闇だ。
周りを見渡しても、誰もいない。
心細くなって、絵里は心の中で、強くあの名前を呼んだ。
───(れいなっ!!たすけて・・・)
泣きそうになりながらも、絵里は泣いてもしょうがないと自分に強く言い聞かせ、泣かないように唇をきゅっとかんだ。
そして少しずつ、前に進む。
そのときである。
「・・・ひさしぶりだね?絵里・・・」
聞き覚えのある声に、思わず絵里は身を強張らせた。
おそるおそる声のしたほうを振り返る。
そこには残酷なにおいのする、忘れもしないあの人物が立っていた・・・。
- 215 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/12(月) 15:02
-
「・・・どうして」
「あれっ?言わなかったっけ?おいらは君らの身体なんて簡単に動かせるんだよ?」
その言葉に、絵里は目を大きく見開く。
「う、嘘・・・。」
「本当だって〜!だからこそ君の夢にもこうして出てこれるんだ。頭にチップを埋め込んだからね」
そう言って、金髪の少女は自分のこめかみを人差し指でさした。
おびえる絵里とは対称的に、金髪の小柄の少女は楽しそうに笑っている。
しかし、その目は冷たく、憎しみがにじみでていた。
絵里は思わずぞっとする。
「ああ、そうだそうだ!!あと三ヶ月、いや、もうそんなにないか・・・」
金髪の少女はそんな絵里を見て、さらに楽しそうに話しかける。
それに比例して、絵里の表情はどんどん曇っていく。
「この夏が終わるまでに逃げ切れなかったら、GAMEOVER。
君は紺野あさ美と同じ運命を辿ってもらう」
「・・・!?」
───紺野あさ美
その言葉に、絵里は敏感に反応した。
金髪の少女はニヤリと笑い、わざとその名前を頻繁に会話に出した。
- 216 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/12(月) 15:33
-
「いやぁ・・・紺野もかわいそうだねぇ。あのバカが逃げ出さなければ・・・」
「・・・止めてください」
絵里がきっぱりと言い放つと、金髪の少女は驚いた顔をした。
「いやあ、驚いたなぁ〜!君の言うようになったねぇ?外に出すと野生化がすげえのかな?」
「・・・・・・」
絵里は金髪の少女をキッとにらんだ。
でも絵里がにらめばにらむほど、金髪の少女は嬉しそうな顔をする。
「研究室にいるときは怯えてばかりだったのにね?・・・まあいいや」
「ひとつきいてもいいですか?」
「ん?何・・・?」
「何のためです?あなたは何のために・・・こんなことを」
絵里の顔が悲しみに歪む。
- 217 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/12(月) 15:57
-
「何のため・・・?ああ、たしか紺野にも死ぬ前にそう訊かれたなぁ・・・・」
「・・・・」
金髪の少女は笑うのをやめて、考え込むような顔をした。
絵里は金髪の少女の横顔をじっと見つめて、返事を待っていた。
しばらくして、金髪の少女が顔を上げる。
絵里はいよいよ質問の答えが聞けると思い、緊張しながら金髪の少女を見つめた。
しかし、その返事は絵里が期待していたものとは違っていた。
「・・・君が死ぬときに教えてあげる。」
「・・・逃げるんですか?」
絵里は震える手を後ろに隠して、必死で相手に自分が怯えていることがばれないようにした。
「・・・逃げる?おいらが?ハハハ、逃げるのは君でしょ?」
金髪の少女は鼻で笑うと、絵里のほうにゆっくり近づき、右手でその頬に触れた。
絵里はびくっと身体を硬直させる。
金髪の少女はニヤニヤしながら、絵里の耳に口を寄せた。
そして、こうつぶやく。
「君は───」
その言葉に、絵里は目を見開いた。
- 218 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/12(月) 16:25
- ───※
目を開くと、天井が写った。
「はぁ、はぁっ・・・・ゆ、夢」
身体が火照り、額には汗がにじんでいる。
はやくあの悪夢を忘れたくて、絵里は頭を横に振った。
「んっ・・・絵里?起きてたの?」
声のしたほうを見ると、れいなが眠たそうな顔をしてこちらを見ていた。
しかし、絵里の顔色がよくないことに気づき、がばっと起き上がり、絵里の顔を覗き込んだ。
「大丈夫?顔色・・・悪いよ?」
れいなが絵里の頬に触れて、こちらに顔を向けさせると、
「・・・なんでもない」
「えっ・・・?」
「なんでもないよ?」
絵里は顔色が悪いのを隠すように、にっこり笑った。
れいなはただ呆然として、その笑顔を見つめている。
- 219 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/12(月) 17:26
- 「もう、寝ようか?」
絵里はその視線から逃れるようにして、また目を閉じた。
───(きっと大丈夫、もうあんな夢は見ない)
と言い聞かせながら。
そのとき・・・
───ぎゅっ
手にあたたかいものを感じて、絵里は目を見開いた。
手のほうを見ると、れいながこちらをみながら、両手で絵里の左手を握り締めていた。
「アタシがいるって言ったじゃん・・・」
「・・・れいな?」
「たまには・・・頼ってくれたっていいじゃん」
- 220 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/12(月) 17:27
- れいなは上目遣いで絵里を見つめたあと、悲しそうに目を伏せた。
そんなれいなの様子を見て、絵里は胸がきゅんとなった。
「ご、ごめん」
小さな声でそうつぶやくと、れいなは顔を真っ赤にしながら頷いて、こう言った。
「じゃあアタシのお願い、ひとつきいてくれる?」
「えっ・・・いいけど」
絵里がそう言うと、れいなは絵里の表情を窺いながら、自分の身体を絵里のほうにくっつけた。
「れ、れいな?」
「これがお願い。・・・いっしょにくっついて寝よう?」
───(か、かわいい・・・)
- 221 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/12(月) 17:28
- れいなの表情を見て、絵里の胸は高鳴った。
れいなのお願いを断れるはずもなく、気がつけば絵里は何度も首を縦に振っていた。
れいなは絵里の返事に嬉しそうに笑った。
そして、絵里の胸に額をくっつけると
「・・・おやすみ」
とつぶやき、眠った。
絵里はというと、心臓の音がれいなに聴こえてしまうのではないかという不安で、なかなか寝付けなかった。
しばらくして、れいなのほうから笑い声が聞こえた。
「な、なに?」
「絵里の心臓の音、すごいはやいよ」
「ほ、ほっといてよ・・・」
案の定心臓の音はバッチリ聴こえていたらしい。
絵里が拗ねると、れいなはもっと笑った。
「可愛い女の子がいるから緊張する?」
「それ、誰のこと?」
絵里がそう尋ねると、れいなは自分自身を指差した。
「は〜い!アタシ、アタシ!!」
「ふぅ〜んだ。絵里のほうが可愛いもん!!」
「えぇ〜っ、アタシだよ!!」
「絵里だもんっ!!」
───(たしかにれいなは可愛いけどさ・・・)
しばらくそんなやりとりをしたあと、二人でわらいあった。
- 222 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/01/12(月) 17:46
- 「ほら、笑った!!」
すると、れいなが声を上げた。
絵里は何が、というように首をかしげた。
「やっと本当に笑ったね?さっき無理して笑ってたでしょ?」
「えっ・・・?」
「わかるんだからね?ちゃんと絵里のこと」
───(もしかして私を元気付けるために・・・?)
れいなの優しさを感じて、絵里は胸が熱くなった。
れいなは再び絵里の胸に顔をうずめた。
「無理しなくてもいいよ?あたしの前では」
「・・・うん、ありがと」
絵里がお礼を言うと、れいなは顔を赤くさせて、
「・・・うん」
と小さな声で返事を返した。
しばらくして、れいなの寝息が聞こえた。
絵里はれいなの頭を優しく抱え込むと、れいなの頬にキスをして、目を閉じた。
───(これからももっと、二人で一緒にいられますように・・・)
そう願いながら。もうさっき見た嫌な夢のことは忘れていた。
- 223 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/12(月) 17:49
- 名も無き読者様>本当は出す予定じゃなかったんですが、出してみました。
松浦さんも藤本さんも好きなんで、楽しんで書ければなぁと。
では、レスありがとうございました!!
- 224 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/12(月) 17:49
- ・・・
- 225 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/12(月) 17:50
- ・・・・
- 226 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/12(月) 23:00
-
なんとなく短編書きます。
なんとなく感想書いてもらっても結構。
「な、なんだ!このつまらなさは!!」と思ったら無視して結構。
なんとなく読んでくれたらうれしいです。
- 227 名前:ヤキモチ 投稿日:2004/01/12(月) 23:33
- 楽屋の入ると、恋人の麻琴はあさ美ちゃんと仲良く話していて、
いつもは「おはよう」なんて言ってすぐ三人で話すんだけど、今日はなんか二人の間に入りづらくて
あたしは仲良く話す二人を見ない振りして、あたしのあとから楽屋に入ってきた里沙ちゃんと話していた。
「そういえば、愛ちゃんと二人っきりで話すの、久しぶりだね?」
「ああ、そういえばそうだね。いつもは三人とか四人で話すもんね〜」
そういえば里沙ちゃんとこうして話すのは久しぶりだった。
「そういえばさ、ここの近くでおいしいケーキ屋さん見つけたんだ!!」
───け、ケーキ!!?
里沙ちゃんの言葉に、あたしは笑顔になる。
「ケーキ久しぶりに食べたいなぁ〜」
「今度一緒に行こうよ!!すっごくおいしいんだよ!」
「うん!行こう!!」
そのあとは二人でケーキの話で盛り上がった。
はじめこそは麻琴のことが気になり、麻琴とあさ美ちゃんのほうをちらちらみていたけど、
里沙ちゃんと話していたらいつの間にか気にならなくなった。
「ほら、みんな!そろそろスタジオいくよ!!」
飯田さんの声に、みんな話をやめて元気よく返事をする。
あたしは里沙ちゃんに笑顔で
「行こう!」
と言って、里沙ちゃんの手をとった。里沙ちゃんも
「うん!」
と頷いて、あたしの右手を握ってくれた。
そうやって手を繋いで、二人で笑って楽屋を出た。
- 228 名前:ヤキモチ 投稿日:2004/01/12(月) 23:51
- ━━━※
「おつかれー!!」
「おつかれさまでーす!!」
仕事が終わって、みんな次々に帰っていく。
あたしが自分のかばんをあさっていると、急に肩をたたかれた。
振り返ると、里沙ちゃんが笑顔で立っていた。
「愛ちゃん、おつかれー!!またね!!」
「うん!里沙ちゃんこそ、おつかれ!!じゃ、いつか一緒にケーキ屋さんいこうね!?」
「うん!楽しみにしてる。じゃ、バイバーイ!」
「バイバーイ!!」
あたしは楽屋から出る里沙ちゃんの後姿を見送った。
そして自分も帰る準備をした。その時・・・
- 229 名前:ヤキモチ 投稿日:2004/01/12(月) 23:52
- 「愛ちゃん!!」
声のしたほうを振り返ると、そこには
「麻琴!!?」
麻琴がどこか落ち着きのない様子で立っていた。
「麻琴、あさ美ちゃんと帰ったのかと思った」
「あさ美ちゃんは先帰ったよ。それよりさ、一緒に帰らない?」
「うん!帰る!!」
いつもは一緒に帰ろうとか誘うのはあたしなのに、めずらしく今日は麻琴から誘ってくれた。
それが嬉しくて、あたしはつい笑顔になってしまう。
- 230 名前:ヤキモチ 投稿日:2004/01/13(火) 00:06
- 「じゃっ、はい!」
「・・・?」
「手!!繋ごう?」
そう言ってあたしが左手を差し出すと、麻琴はその手を黙ってただずっと見つめていた。
その間あたしは、「あたしと手なんて繋ぎたくないのかな?」
「あさ美ちゃんのほうが好きになったとか言われたらどうしよう」
なんてことを考えていて、少し泣きそうになった。
「あたし・・・そっちの手がいいな」
「えっ・・・?」
「そっちの手と手繋ぎたい」
麻琴の言葉に顔を上げると、麻琴は無表情のまま、あたしの差し出した手じゃなくて、あたしの右手を握った。
どうしてその手なのか、尋ねようとすると、あたしはあることに気がついた。
「あっ・・・」
そういえば、今日は里沙ちゃんと手を繋いだんだ。
そしてその手は右手だった。
- 231 名前:ヤキモチ 投稿日:2004/01/13(火) 00:17
- ━━━これって・・・もしかして
麻琴はあたしの手をひっぱると、そのまま楽屋をでた。
二人で廊下を歩いている間、麻琴は口を開こうとしなかった。
だから思い切って尋ねてみた。
「ねぇ、麻琴・・・」
「んっ?なあに、愛ちゃん?」
「今日・・・嫉妬した?」
「えっ・・・」
図星だったようで、麻琴は顔を真っ赤にさせて小さく頷いた。
素直な麻琴が可愛くて、あたしは胸がキュンとなった。
そして、あたしだけじゃなくて麻琴も嫉妬してくれていたことが嬉しかった。
だからこう言った。
- 232 名前:ヤキモチ 投稿日:2004/01/13(火) 00:19
- 「・・・ありがとう」
「えっ、なんで??」
「嬉しかった。嫉妬してくれて・・・。愛されてる証拠でしょ?」
「・・・うん」
麻琴の手をぎゅっとにぎって、あたしはそう言った。
麻琴はまた顔を赤くして頷いてくれた。
ふいに立ち止まって、麻琴がこう言った。
「なんか、愛ちゃんが里沙ちゃんと仲良くしてて、手までつないでるの、嫌だった。
あたしのなのに、あたしの愛ちゃんなのにって思ったらなんだか落ち着かなかった・・・」
「麻琴・・・」
そこまであたしを想ってくれたんだ・・・。
ありがとう、麻琴。
「あたしもだよ?あたしも麻琴があさ美ちゃんと話しているのみたら、
不安でしかたなかった」
━━━もう少し、素直になってもいいよね?麻琴みたいに。
- 233 名前:ヤキモチ 投稿日:2004/01/13(火) 00:30
-
あたしがそういうと、麻琴は
「ええっ!愛ちゃんも嫉妬してたの??」
なんて驚いた顔をしていた。
あたしはむっとして、麻琴の唇を奪った。
━━━当たり前だよ・・・
「━━━んっ、愛ちゃん・・・」
唇を話したあと、あたしは呆然としている麻琴にこう言ってやった。
「当たり前でしょ!?あたしのほうがずっと麻琴のこと好きなんだから!!?」
そのあと、自分が今、とても恥ずかしいことを口走った事に気づき、顔が真っ赤になった。
もう・・・麻琴の顔、恥ずかしくてまともに見れないよ・・・。
ずっと下のほうを俯いていると、頬に手が添えられて、無理やり上を向かされた。
考える間もなく、唇にあたたかいものがふれた。
「━━━んっ、ちゅっ・・・麻琴・・」
麻琴はあたしにキスをしたあと、とびっきりのあたしの大好きな優しい笑顔でこう言った。
「ありがとう、愛ちゃん」
「・・・ば、ばかぁ」
余計に顔が上げられなくなって、あたしはまた下を俯くしかなかった。
麻琴はにやにやしながらあたしの顔をのぞきこんでいる。
もう・・・このすけべ。
- 234 名前:ヤキモチ 投稿日:2004/01/13(火) 00:45
-
「ね、もっかいキスしていい?」
「・・・嫌だっ!」
「もっかいだけ!」
「絶対ヤダ!!」
そう言ってぷいっと横を向くと、麻琴はニヤニヤ笑ってこう言った。
「・・・じゃあ無理やりするからいいよ」
「えっ・・・ちょっ、まこ・・・んっちゅっ」
許可をとらずに勝手に唇を奪った麻琴に、あたしは拗ねてこう言った。
「・・・変態スケベエロ麻琴」
「じゃあその変態と付き合ってる恋人はだれですかね?」
「ぐっ・・・」
「ねぇ、愛ちゃん?」
・・・すみません、あたしです。
なんて悔しくて言えるはずもなく、あたしは一人で歩き出した。
「もう!麻琴なんてしらん!!」
でも離れるのは嫌だから手は繋いだまま。
こんなの矛盾してる。でもいいよね?二人なら。
「待ってよ、愛ちゃん!」
後ろから麻琴の慌てた声が聴こえた。
その声に思わず笑みがこぼれる。
━━━もう、麻琴にはかなわないなぁ・・・
そう痛感した、でも幸せな一日だった。
- 235 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/13(火) 00:46
- ところどころおかしくても見逃してください。
そして子供を見守る母親のように見守っていてください。
- 236 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/13(火) 16:26
- ハァ━━━━;´Д`━━━━ン!!
萌えましたよ。萌え萌えだよ(;´Д`)
家宝にすます…
- 237 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/13(火) 23:38
- ぢゅわ〜〜〜〜!!!!
なんじゃこのれなえりのかわゆさは!
作者さんのおかげでれなえりにはまりそうです…
責任とってください(w
- 238 名前:夢じゃない 投稿日:2004/01/19(月) 22:26
- 波に呑まれそうになりながら 時折溺れそうになりながら
必死で自分の居場所、探していた。
「今日は暖かいね?」
太陽の陽に照らされながら、笑ってそういう君を
ただただ見つめていた。
- 239 名前:夢じゃない 投稿日:2004/01/19(月) 22:27
-
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
- 240 名前:夢じゃない 投稿日:2004/01/19(月) 22:35
-
「今日はふたりでお散歩しよう」
笑顔でそういいながらも、不安げに揺れる黒曜石のような君の瞳。
断る気などさらさらなくて、ただ君を安心させたくて
そっと、その柔らかい頬に触れてうんと、頷いた。
その返事にぱっと輝く笑顔を見せる、素直で真っ白な君がただ愛しくて、
抱きしめてその唇を奪った。
驚いた君の後に出てきた照れ笑いが、やけに可愛くて、どうしようもない気持ちになる。
そんな気持ちを押し殺して、ただその瞬間をふたりで分かち合った。
- 241 名前:夢じゃない 投稿日:2004/01/19(月) 22:50
-
───※
「ねえ、麻琴。海が見えるよ!!」
そう言ってはしゃぎすぎて躓きそうになる君に、危ないよと、声をかけた。
君はそんな注意を無視して、あたしの手をひっぱった。
「それより海だよ!すっごく綺麗なんだよ!!」
緑の丘からみた海は、君の言うとおりとても綺麗だった。
「ホントだ!!」
おもわず声を漏らしたあたしに、君は得意そうにでしょ?と、目を細めて笑った。
ふいに愛しさがこみ上げてくると同時に、寂しさや切なさまで喉までこみ上げてくる。
ああ、きっと愛することは切ないことと=(イコール)なんだ。
きっとそうなんだ。そうに違いないんだ。
だからこそ、君を好きになれば好きになるほど、君を愛せば愛するほど、
心は寂しくてたまらないんだ。
このごろ君を失うことばかり考えてしまうのは、きっとそのせいなんだ。
- 242 名前:夢じゃない 投稿日:2004/01/19(月) 23:03
-
「麻琴?どうしたの?」
悲しみの渦に呑まれそうなあたしの意識を、君の声が呼び覚ました。
心配そうにこちらをのぞきこむ君に、精一杯の笑顔を見せて
なんでもないよと、つぶやいた。
「ならいいけど・・・無理しちゃダメだよ?」
そう言って、君はあたしの手をそっと握った。
その小さな手を離してしまわないように、いや、離されるのが怖くて
あたしは少し強く握り返した。
君は何も言わなかった。
君はただ笑っていた。
- 243 名前:夢じゃない 投稿日:2004/01/19(月) 23:09
- その笑顔、ずっと自分のものにしていたくて。
それができないことも知っていながら、その頬に触れた。
君はなあに?と、優しく微笑みかける。
そうされると、やっぱりあたしはその華奢な身体を抱きしめて唇を奪うことしかできないんだ。
- 244 名前:夢じゃない 投稿日:2004/01/19(月) 23:33
-
「──んっ・・・どうしたの?ほんとに??」
なにかあった?
子供に語りかけるように優しくそう尋ねる君にやっぱり何も言えずに、
なんでもないよと、ただつぶやいた。
「ほんとに本当??」
納得いかないような顔をして、心配そうな顔をする。
きっといつも元気いっぱいの彼女にこんな顔させるのはあたしだけなんだ。
そう思うと、なんだかすごく嬉しい。
だけど同時にその独占欲が、自分でも嫌でたまらなくなる。
「誰かの前で強がるのはいいけど、あたしの前だけでは弱いままでいいよ?」
心からそう言う君の言葉に、ただ胸が熱くなって泣きそうになった。
君は何にも言わずに、ただ抱きしめてくれた。
そのぬくもりをずっと、永遠のように感じていたくて、そっと目を閉じた。
再び目を開けば、そこに海があった。
- 245 名前:夢じゃない 投稿日:2004/01/19(月) 23:33
-
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
- 246 名前:夢じゃない 投稿日:2004/01/19(月) 23:43
-
波に呑まれそうになりながら 時折溺れそうになりながら
ただ君に触れていたくて ただ君を見つめていたくて
必死で君の居場所、探していた。
たとえもう綺麗な存在には戻れなくても
たとえもう夢は見れなくても
消えてしまいそうな君をただ守りたい。
きえてしまいそうな君と、ただ一緒にいたい。
照れくさそうに笑う君の笑顔を、ただ見つめていた。
- 247 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/19(月) 23:45
- 一応おがたか・・・。
意味わかんねーっていうひとごめんなさい。
おいらもよく意味わかんないです。
ただ頭に浮かんだの、そんまま書いただけなんで。
- 248 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/19(月) 23:54
- 名無しどくしゃ様>こんなのでよければ家宝にしてくださいw
ラブシーンは何度書いても恥ずかしい。
とにかくおがたか最高!!
名無飼育様>れなえりはまっちゃえよ、はまっちゃえよ(悪魔吉澤さん風
本編の更新は遅れそうです。
今更新したら中途半端になりそうなので。
ふふふ・・・みんなれなえりにはまっちゃえばいいんだ・・・(怖ッ!
- 249 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/19(月) 23:57
- 更新遅れててごめんなさい。
短編ばっかでごめんなさい。
- 250 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/21(水) 07:20
- ハワワ何故だか涙が。
やたら切ない。作者様最高。
息抜きも必要だと思うし、短編楽しんでるのでかまいませんてw
- 251 名前:君の幻 投稿日:2004/01/21(水) 21:46
-
───好きというだけでなにもかも越えていける気がしてたっけ?
新しいアパートに引っ越して、もう二ヶ月になる。
あの娘と別れてもう二ヶ月ちょっと。
そんなことが頭をよぎって、急いで頭を横に振った。
もうあの娘とは終わったんだ・・・もうあの娘とは・・・。
必死でそう言い聞かせて、あたしはふと蘇りそうになる思い出に蓋をした。
- 252 名前:君の幻 投稿日:2004/01/21(水) 21:47
- 気を紛らわすために部屋のベランダに出る。
上から見下ろした世界を見て、なんだかスカッとするような気持ちいい気分になる。
少し強い風が、すこし火照った頬を冷やしてくれた。
見下ろしたひとつひとつの家々を見ながら、そのひとつひとつの家庭を想う。
毎朝よくみかけるあの男の人は今、何をしているんだろうとか。
昼ごろ集団で遊んでいる子供たちは今、何して遊んでいるんだろうとか・・・。
あたしには関係のないことだ。知らなくたっていいことだ。
でも、他人の家庭を想うたび、壁を感じて虚しくなる。
どんなに親しい仲でもきっと、その人の生活や心の中はその人だけにしかわからないし、その人だけのものだ。
あたしは特にそれを感じるせいか、人に引け目を感じることが多かった。
友達は多いほうだし、大好きだ。
でもその人の家庭のことを考えるたび、自分は入ってはいけない領域に知らないうちに踏み込んでしまっているのではないかと不安で仕方なかった。
───そういえば君もいつかそんなこと言っていたっけ?
そこまで考えて、目を閉じた。
風の吹く音がやけに大きく聴こえる。
───あの頃はふたりで目を閉じるだけでいろんな大きな夢見れたんだっけ?
目を閉じても、新しい生活を始めても・・・思い出すのはやっぱりあの娘のことばかりで。
今何してるんだろうとか、別れた後もそんなことばかり考えていて。
- 253 名前:君の幻 投稿日:2004/01/21(水) 21:50
- 「麻琴、好きだよ?・・・愛してる」
「・・・ずっとこうしていたいなぁ」
「もっと一緒にいようよ・・・」
あの娘の声が蘇る。
あの日諦めかけた夢も君とならふれられるような気がしてた。
そんな毎日が、日常がずっと続いていく気がしてたっけ・・・?
───「・・・さようなら」
いつもとなんら変わらない日があたしに牙をむいた日。
君があたしに「さよなら」言った日。
泣きそうな顔でこちらを見つめる君を、ただ呆然と眺めていた。
───どうして?
そうたずねる勇気がなくて、あたしは黙って頷いてあの娘の部屋を出て行った。
泣き虫なあたしが最後にみせたつよがりだった。
「さようなら」
その一言で終わってしまう世界が未だに信じられなくて。
だからこうして今も抜け出せずにいる。あの世界の続きがまだ知りたくて。
- 254 名前:君の幻 投稿日:2004/01/21(水) 21:51
- 「・・・繋いだ手、離さないでよ」
こっそりつぶやいてみる。
誰にも聴こえない、もちろん君に届くはずもないあたしの言葉。
繋いだ手がこんなに脆く離れてしまうことなんて知らなかった。
何もかも、ふたりで受け止められる気がしていた。
ずっとふたりで受け止めていくのだと思っていた。
・・・でも違った。
あたらしい町に引っ越して、あたらしい生活をすれば全て忘れられるような気がしてた。
忘れられるつもりだった。
でも、ふと蘇る記憶を捨てることなどできなかった。
だれも知らない世界へ、ふたりで飛んでいってしまいたいと未だに思ってしまう。
- 255 名前:君の幻 投稿日:2004/01/21(水) 21:54
- 「・・・愛ちゃんっ」
久しぶりに呼んだ君の名前は小さく掠れていて。
また君が遠くなった気がしました。
視界がナミダでどんどん滲んでいく。
見下ろしていた世界が霞んでいく。
───繋いだ手はいつからほどけていた?
君はいつからさよならを決めていたの?
ねえ、いつからその手離していた?
そう問いかけても、君はもういなくて。
あたしは部屋にひとりぼっち。
捨て切れなかった、君といたあの世界でただ君を待ち焦がれている。
あの日のふたりを繋ぐ恋や愛が、たとえ偽物で幻だとしてもかまわなかった。
ただあたしは・・・あたしは・・・。
泣き崩れるあたしを、ただ太陽の光が優しく照らし続けていた。
- 256 名前:君の幻 投稿日:2004/01/21(水) 22:02
-
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
- 257 名前:君の幻 投稿日:2004/01/21(水) 22:13
-
少しはこの場所に慣れました。
あの日君と手を繋いで見上げた空を、今はひとり見上げています。
時たま顔を見せる鳥達が「一緒に遠くへいこう」と鳴くけれど、
その誘いを断って、ただ君を待ち焦がれている。
忘れられるものなど見つからなかった。
あの日君と繋いだ世界が嘘で幻でも・・・
それでもいいと思っていた。
- 258 名前:君の幻 投稿日:2004/01/21(水) 22:17
- 名無しどくしゃ様>ううっ・・・そういってもらえると助かります。
今回も暗くて意味分からん文ですが、これからもよろしくお願いします。
てか歌に影響されすぎですね、私(笑)
- 259 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/22(木) 10:38
- せ、切ねぇ・・・(涙
本編のみならず、短編も素晴らしいです。。。
両方期待させていただきます。
- 260 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/22(木) 17:02
- ・゚・(ノД`)・゚・ブォォオオ
言葉に表せない切なさがありますw
ありがとう作者様
- 261 名前:変わらない 投稿日:2004/01/22(木) 19:35
-
「変わらないよ?」
好きすぎていなくなるのが怖い。
いつか君にそう漏らしたことがある。
その時君が照れくさそうに口にした言葉が嬉しくて、嬉しかったから。
今度は私が言い返してやろうと思って、連絡もなしに彼女に会いに行った。
でもいざ彼女の家にいくと、逢いたい彼女はいなくて、しばらく彼女の家のドアの前でうろうろしていた。
「どこいったんだろう・・・?」
そうぽつりと独り言を言って、ふと頭にあの場所が浮かんだ。
───ああ、きっとあそこだ!
しばらくいた彼女の家の前から離れて、あたしはさっき頭に浮かんだあの場所へと急いだ。
- 262 名前:変わらない 投稿日:2004/01/22(木) 19:36
- ───※
排気ガスがあふれた、コンクリートだらけのあの街と違って、ここは海のにおいがする。
強い風の向きに逆らって、私は彼女を探した。
そして、やっぱりいつもの場所で壁にもたれて寝ている彼女を見つける。
「れいな、みっけ」
起こさないように、彼女のとなりに腰をおろして、そっとつぶやく。
風にのって、彼女の愛用しているシャンプーの香りがした。
どこまでもつづく広い海を見ていたら、なんだか急に人恋しくなって、彼女の身体に自分の身体をくっつけて、その小さな肩に顔を乗せた。
目を閉じれば、彼女の寝息が聞こえてくる。
───今、どんな夢見てるの?
君が楽しいって本気で笑えるような幸せな夢なら、覚めなくてもいいよ?
きっとそばにいるだけで、私も幸せだから。
そんなことを思いながら、ずっと目を閉じていた。
彼女の寝息が、すぐ近くで聞こえる。
いつものように、今感じてるもの、そっと数えてみる。
今感じるのは彼女の体温、シャンプーのにおい、海のにおい。ええと、それから・・・・・・
───君と今こうしていること、永遠のように感じていたい。
たとえそれが夢であっても。
- 263 名前:変わらない 投稿日:2004/01/22(木) 19:37
- 「─りっ!絵里!!」
「──んっ・・・?」
名前を呼ばれて目を開けたら、少し霞んだれいなの顔が見えた。
空にはもう、星が見えていた。
「ん?じゃないの!もうっ!起きたらいきなりとなりで寝てるんだもん、びっくりしちゃったよ!!」
れいなが頬を膨らませる。
「えっ?私、寝てた??」
目をこすりながらそう言う私に、れいなは呆れたような顔をした。
そしてすぐに頬を膨らませる。
私は彼女の機嫌をとろうと笑ってごめん、ごめんと、謝った。
元々気前のいいれいなは、すぐ許してくれた。
彼女は表情豊かで、さっきまで拗ねて怒っていたくせに、もう笑っていた。
- 264 名前:変わらない 投稿日:2004/01/22(木) 19:39
- 「じゃーん!!これ見て!!絵里が寝てる間に買ってきた!!」
得意そうに彼女が見せたのは、500円の花火セット。
まだ頭がぼーっとしている私は、それをぼけっと眺める。
れいなはまたもうっ!と怒って頬を膨らませた。
「いいっ?夏と言ったら花火じゃん!で、心優しきれいなちゃんは、絵里という恋人に
最高の思い出をつくってあげようと・・・・・」
れいなが偉そうにしてそう言いかけたとき、少し離れたところからロケット花火の音が聴こえた。
高い場所に放たれた大きな火の花は、一瞬で空でおおきな花びらとなり、散ってしまった。
それを合図に、たくさんのロケット花火が次々空へと打ち上げられる。
れいなはただ唖然としてそれを見つめている。
私は空で散る花火と、れいなの持っている500円の手持ち花火セットを交互に見つめていた。
- 265 名前:変わらない 投稿日:2004/01/22(木) 19:41
- ───ぱち、ぱち、ぱち
「うわーきれい・・・!!」
れいなの買ってきてくれた手持ち花火に火をつけると、ちいさな火の花が飛び散った。
うっとりする私とは対称的に、れいなはつまらそうな顔をする。
「ふーんだ、どうせ500円だもん!他人が買ってきたロケット花火には負けるもん・・・」
そう拗ねるれいなに私は精一杯気持ちを伝えた。
「ロケット花火もすごいけど、私にとってはこれが一番だよ?
だってれいなが私のために買ってきてくれたものだもん。
こっちのほうがずっといい・・・。」
そう笑って言うと、れいなはやっと笑ってくれた。
「そこまで言われちゃったらしょうがない。
開き直ってあたしも500円のしょぼい花火でも楽しむかな」
- 266 名前:変わらない 投稿日:2004/01/22(木) 19:42
- そういいながら、れいなが手持ち花火に火をつける。
私の持っている花火のように、地にむけた先から火の花が飛び散る。
そのとき、私の持っている花火は消えてしまった。
れいなの花火の音だけが、私の耳に響いた。
───ぱち、ぱち、ぱち
しばらくしてれいなの花火も消えてしまった。
「あーあ、消えちゃった」
れいなのその言葉がやけに虚しくて、少し寂しくなった。
だから、そっとつぶやいてみた。
君が私に言ってくれた、あの言葉を・・・。
- 267 名前:変わらない 投稿日:2004/01/22(木) 19:43
- 「・・・変わらないよ」
「えっ?何??」
───変わらないよ?
急にそうつぶやく私に、れいなは怪訝そうな顔をしていたけど、やがてだまって手を握ってくれた。
「れいな・・・?」
「・・・来年もずっとこんなふうにふたりでいられたらいいね?」
れいなの言葉が優しく胸に響く。
目を閉じて、私は頷いた。
「・・・うん」
「来年だけじゃないよ?再来年もその先もこうして・・・」
そう言い掛けたれいなの手をさらに強く握った。
れいなは驚いた顔を笑顔に変えて、優しく握り返してくれた。
ふたりで顔を赤くさせながら、それから他愛のない、お互いの日常を話し合った。
- 268 名前:変わらない 投稿日:2004/01/22(木) 19:47
- ───変わらないよ
その言葉を胸張って、はっきり君に伝えるまで、まだまだ時間がかかりそうだけど。
でも、一緒に歩いていくよ。そばにいるよ。
来年も再来年もその先も、こんなふうに変わらないふたりでいよう。
バカみたいな他愛のない話を笑って話そう。
これからも部活のこと、クラスのこと、学校の先生の文句やくだらない話、ふたりではなそう。
花火はもう散ってしまったけど、そこには変わらずあたたかいものがあった。
- 269 名前:変わらない 投稿日:2004/01/22(木) 19:56
- □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
───君と今こうして話していること、ふたりでいること
永遠のように感じていたい。
何年たっても変わらないと信じていたい。
ずっとずっと変わらず永遠のように感じていたい。
君がくれた言葉、しっかり抱きしめてあるいていくよ?
いつかはぐれそうになったとき、そっと手を繋いで
ひとりぼっちにならないように互いを繋ぎとめていけるような・・・
───そんなふたりに、いつかなろう。
- 270 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/22(木) 20:12
- 一応れなえりです。
名も無き読者様>レスありがとうございます。
期待していただけるなんて嬉しいです。
いろんな曲聴いてたらこんな話が浮かんできたもので。
暗いから嫌がられるとおもってたのに(笑)
名無しどくしゃ様>いえいえ。お礼を言うのはこっちのほうです。
いつもレスありがとうございます。
いつも励まされてます!!
- 271 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/22(木) 20:15
- まさかレスもらえると思わなかったです(笑)
最近どことなく暗いものしか浮かんでこないんで。
詞がちょっと切なくて暗い歌ばっか聴いてるからかもしれないです(笑)
- 272 名前:清 投稿日:2004/01/22(木) 20:31
- 初めてカキコします。
チナ犬さんの書く田亀&小高めっさ好きです!!
これからも更新楽しみにボチボチ覗きに来てますんで、自分のペースで頑張ってください。
あ、あと今回の「変わらないよ」は元ネタありますよね?
オイラあのマンが結構好きなんで(笑
でも、ほんわかというかなんかれなえりに合っててよかったっすよ。
元ネタ(?)は少し暗い背景がありますが…。
でわでわ、これからも読み続けるんで頑張ってください!!
- 273 名前:君の隣で死にたい 投稿日:2004/01/23(金) 19:39
-
「死ぬのが怖い」
「じゃあ手を繋げばいいよ」
公園の砂場、下俯いて情けない声でそう言ったあたしに、君が優しくそう呟いた。
あの頃はわからなかったその言葉の意味が今、ようやくわかったから、あたしは君に逢いにいく。
外の風が冷たくて、あたしは君の家に向かう途中でマフラーを何度も顎のほうまで引っ張り上げた。
携帯で連絡したほうがいいと思ったけど、指がかじかんで思うように動かなかったから途中でやめた。
上着のポケットに手を突っ込むと少しはマシになった。
ため息をつくと、白い息がでてくる。
それが消えていくのを目で追っていくと、冬の空が目に入った。
うんと晴れているわけじゃない。白い雲が薄くあちこちに広がった曖昧な天気。
少し靄がかかったあたしの心の中みたいで、少しおかしくなった。
- 274 名前:君の隣で死にたい 投稿日:2004/01/23(金) 19:41
-
その後、いろんなこと考えたよ?
君とはじめて出会ったときのこと、はじめてふたりでどこかへ行ったときのこと、手を繋いだこと・・・。
そうやって君のこと、ずっと考えていたらもっと君に逢いたくなって、道を急いだ。
本当にはじめてだった。
好きなのに。楽しいのに。
こんなに淋しくて、苦しいのは。
「君に逢えないまま、このまま死んだらどうしよう・・・」
ふと、そんなことが頭に浮かぶ。
そんな縁起でもないような、バカみたいなこと。
本気で考えて怖くなって、もっともっと君に逢いたくなった。
早歩きが駆け足に変わる。
さっきよりもっともっと、早く走る。
途中で躓いて、転んで、そのせいであたしは余計に焦って泣きそうになった。
痛いから泣いてるんじゃない。君に逢えなくなるのが、怖いから。
とっても、とっても怖いから。
息を切らして、また躓きそうになって、でも走って。
やっと君の家を見つけて、急いでインターホンを鳴らす。
このドアのむこうに君がいる。
そう思ったら落ち着かなくなった。
- 275 名前:君の隣で死にたい 投稿日:2004/01/23(金) 19:45
- 「はい・・・って愛ちゃん!?」
ドアが開いて、一番最初に見た君の顔は驚いた顔。
ずっと逢いたかった、ずっと見たかった君の顔を見て、なんだか安心して。
「・・・麻琴ぉっ」
あたしは前みたく情けない声で、泣きそうな顔をして、君の胸に飛び込んでいく。
勢いよく飛び込んできたあたしの身体を、少しよろけながら、君はしっかり抱きとめてくれた。
肩が震える。
君は何も言わず、強く抱きしめてくれて。
あたしの聞きたかった言葉、ただ呟いてくれた。
「・・・好きだよ」
君の声が耳で木霊している。
そっと息を止めてみた。
あたしのなかで、時が止まる。
ああ、ずっとこのまま・・・こうして・・・
- 276 名前:君の隣で死にたい 投稿日:2004/01/23(金) 19:47
-
もうなにもこわくないよ?
死ぬのさえ、もうこわくないんだよ?
───君がいるから。
死ぬなら君の隣で死にたい。
柔らかな、君だけのその香りにつつまれながら。
そうやって、ずっとこのまま・・・こうして・・・
このまま、君の隣で死にたい。
ふたたび呼吸をしたら、君の柔らかな声があたしを呼んだ。
目を開けて、君を見つめたならきっとこう言うよ?
「手、繋いでよ」
あたしが死ぬまで君のとなりにいられるように。
あたしは深呼吸して、ゆっくり目を開けた。
───ゆっくり、ゆっくり・・・・。
- 277 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/23(金) 19:56
- ああ、バレました?(笑)てかやった!元ネタ見抜ける人発見!!嬉しい!!
どうしてもあのシーンがつかいたくて、ていうかあのシーンを読み返して
この話が浮かんできて「これはつかうっきゃない」って思って。
元ネタありってかこうと思ったけど「その漫画しらない」って言われたらやだなーって思って(笑)
あの漫画おもしろいのにあんまり自分の周りに知られてないんですよ。
「バスケの漫画でおもしろいのがあるんだよ!!」っていっても
「何それ?スラムダンク??」って返されるし(泣)
でも昨日弟をその漫画のファンにさせました、感染させました(笑)
「この漫画おもしろいよ?読む??←(ちょっと強制ぎみ」とか言って読ませたら
はまっちゃったらしくあいつ一日で13巻まで読破しちゃいましたよ(笑)
あまり熱すぎないところがいいですよね。弟もそういってました。ギャグもあって、でも鳥肌立つくらい感動するところもいっぱいあって。
でもあんまり有名になるのもなんかやだなぁ・・・。あまのじゃくですみません(笑)
てか元ネタの漫画でこんなに盛り上がっちゃったよ!
13巻は泣きました(ほかでもいっぱい泣いてるけど)
こんな話、できるとは思わなかった。楽しかったです、ありがとう。
ちなみに壁紙もその漫画のやつ使ってたりw
初めてのレス、ありがとうございました。
作品が好きといってもらえてとても嬉しかったです。
てか長いレス、すみませんw
- 278 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/23(金) 19:58
- ↑清さんへのレスです。
名前抜けてました、すみません・・・。
- 279 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/23(金) 22:59
- 何故かは分かりませんが、やたらと心に響きます。。。
ホント素晴らしい(涙
次も期待ですw
- 280 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:10
- ○
。
○
。
。
○
───君とあたしのなかで揺れてる、風のブランコ。
。
○
○
。
。
○
.
- 281 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:11
-
「好きって、言えばよかった・・・」
冬の張り詰めた空気、熱くなる身体、はやくなる鼓動。
ああ、きっと立ち直れずにいるんだ。
あのときから・・・。
「ずっとそばにいたのにね?」
- 282 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:14
-
誰もいない公園。
回転ジャングルが揺れて、足元にある影が動き始める。
あたしはそれを眺めたまま、目を閉じて思い出す。
君とふたりで来たときも、こんな感じだったね?
ちょうど今と同じ頃、冬の夕暮れ。
あたしは白いニット帽に黒のジャケット、ジーパン。
あたし、あのときとおんなじ服着てるんだよ?知ってた?
ほら、あのときもここで、公園の真ん中でふたりで・・・
- 283 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:15
-
───記憶の中、蓋をしていたつもりだった思い出の中の君の影が揺れる。
「うっ・・・麻琴ぉ」
たまらなくなって、途端にしゃがみこんでしまう。
ナミダが、止まらない。
肩が、身体の震えが止まらない。
どうしたらいい?どうしたら・・・。
だって泣いても君は戻らないから。
微かな期待を込めて、唇噛み締めて、ゆっくり息を吐く。
そして、覚悟を決めて顔を上げる。
たしかにそこに、君はいた。
いつもと変わらない、後姿。
ねえ、振り向いて見せてよ。いつもと変わらない笑顔で・・・。
つかもうとして手を伸ばす。
そしたらやっぱり君は、消えていってしまった。
ただあたしの手が、むなしく宙に舞う。
空っ風さえもこの手、すりぬけていく。
あたしはうなだれて、やむなくその手を下に下ろした。
目を閉じれば、瞼の裏に浮かんでくる、君との思い出。
その後姿。
- 284 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:16
-
ここで、夕陽に照らされながら、君の耳におでこ寄せた。
うんと遠くへいってしまいそうなその香り、すぐそばに感じていたくて。
肩まで伸びた髪から、シャンプーのいい香りがする。
「んっ、なに?くすぐったいよぉ」
白い肌を赤く染めて、君はくすぐったそうに笑った。
夕陽ですこし赤く染まった栗色の髪が、あたしの記憶の中で揺れてる。
帰り際に不器用に自分から繋いだ手が、揺れている。
君は素直じゃないあたしの手を笑って強く握りしめてくれた。
- 285 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:18
-
「もっと、傷つけばよかった。」
「もっと、もっと。傷つけてくれたらよかったのに・・・。」
掠れた、絞り出した情けない声でそう呟く。
いつも笑っている君の気持ちが読めなくて、傷つくのが怖くて、
あたしは君のそばに誰よりも近くにいたいと思いながらも、ずっと遠くにいた。
不器用にうまく近づけずに、あたしはただ大好きなその笑顔、遠くから見つめてた。
・・・君はどこか遠いところへいってしまった。
あたしはまだ、おそらく行けそうにない。
行き方は知っているのに・・・。
君に逢う方法はあたしの記憶の中、夏の陽炎、冬の幻。
人ごみの中にいても、いつも君の後姿、探してしまう。
───愛ちゃん・・・
ねえ、名前呼んでよ。
その癖のある声で。
- 286 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:19
- 風でブランコが揺れてる。
あたしは目を閉じたまま、その音を聴いていた。
同じリズム、そういつも同じリズムで。
揺れていた、揺れていた、君への想い。
好きでありながら、常に淋しかったこと、苦しかったこと。
でも、同時に常に楽しかったこと。
忘れない。
すこし癖のある、優しい君の声を目を閉じて聞いていたこと。
忘れない。
息をするのを忘れるほど、ずっと見つめていた、君の横顔。
胸が苦しくて、息ができないほど苦しい鼓動。
胃が熱くなるほどの熱い想い。
- 287 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:21
-
長いまつげ、揺れていた。
息を呑むあたしに、微笑みかける君。
あたしはただ、見つめていた。
マバタキも忘れて、息をするのも忘れて───
───ただ君を見つめていた。
- 288 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:22
-
あたしはきっと、この先ずっとずっと縛られている。
冬、この公園で見る、君の幻。
あたしが記憶を失くさない限り。
この命を、神にささげない限り。
あたしはずっとずっと縛られている。
あの日、あの時、あの場所で。
君と立ってた公園。
君が死んじゃって、あたしはきっともっと君より年上になる。
「え?愛ちゃんあたしよりひとつ上?でも精神年齢はあたしと同じくらいじゃん!すぐに追い越しちゃうよ」
得意げにそう言ってたくせに。
どんどん、君との距離がひらいていく。
この公園もきっと、あたしとともに老いていく。
でも君は、あのときのまま。あのときのままの笑顔で。
夕陽が沈んでいく。
- 289 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:25
- 夕陽の赤い光が、どんどん濃さを増しながらも、だんだん消えていく。
いつか言おうとして結局言えないまま、使えなかったままの言葉が命を吹き返す。
胃が熱くもだえる。思い出すのも苦しい想い出。
誰にも言わず、忘れないことを誓う。
「好きだよ・・・ずっと」
そっと、つぶやいてみた。
それに答えるように、風がブランコを揺らした。
───風でブランコが揺れてる。
カゼデブランコガユレテル。
ギィ・・・ギィ・・・ギィ・・・
───君とあたしのなかで揺れてる、風のブランコ。
・・・風のブランコ。
- 290 名前:風のブランコ 投稿日:2004/01/25(日) 13:29
- ●
.
。
。
○ 風のブランコ/完
。
.
●
- 291 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/25(日) 13:32
- 名も無き読者様>何故かは分かりませんが、やたらと心に響きます。。。
そういうのが書きたいと思っていたので、すごく嬉しいです!
ありがとうございます。
レスありがとうございました。
- 292 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/25(日) 13:41
- あぅぅ・・・
切ないってばぁ(涙
リアルタイムで感動させてもらいました。
ホント、天才ですか?
次も期待してまつ。。。
- 293 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/25(日) 13:46
- いまだにAAができない・・・(ダサッ!
だから勝手にコピペ(ヲイ
田中さんのやつ、つり目より↓のほうがかわいい。
从 ´ ヮ`)<それよりれなの出番、まだ〜?
本編のれなえりまだ〜?
ご、ごめん・・・・。
从 ;´ ヮ`)<・・・頑張れ。
・・・・はい。(泣
- 294 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/25(日) 21:51
- 切ないっす・・・。・゚・(ノД`)・゚・。
思わず泣いてしまいますた。
作者様最高。
おがたか最高。
- 295 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/27(火) 15:57
- また涙してもーた。
まこあいがたくさんで(;´Д`)ハァハァ状態ですw
あせらずマターリとガンガッテください。見守ってます。
- 296 名前:六月の憂鬱 投稿日:2004/01/31(土) 10:13
- 雨が柔らかな音を立て、街を濡らす。
家にいても、雨の日の独特のにおいが、美貴の鼻をくすぐった。
目を閉じれば、雨が草や花を打ち付ける様子が浮かんできた。
───ザァザァザァ・・・・
「みきたん・・・」
その声で、美貴は目を覚ました。
目の前には、大好きな女の子。
つかみどころがなくて、いつも美貴を困らせる女の子。
「おいで・・・あやちゃん」
両手を広げてそう言うと、あやちゃんはうんと、頷いて、美貴の胸に素直に顔をうずめてきた。
美貴はその身体を、ぎゅっと抱きしめた。
今日は香水つけてないのかな?
今日のあやちゃんからは、あやちゃんのお家のにおいがした。
- 297 名前:六月の憂鬱 投稿日:2004/01/31(土) 10:21
-
───ザア、ザア、ザア
雨がだんだん強くなって、雨の音がさっきよりも大きく聴こえる。
また目を閉じて、雨に打ち付けられる植物達のことを想った。
痛いかなあ、痛いかなあ。
雨は痛いかなあ。
そんなのこと、考えながら。
- 298 名前:六月の憂鬱 投稿日:2004/01/31(土) 10:53
-
「みきたん、みきたん」
雨の音に負けないような声が、美貴の名前を呼んだ。
ずっとその名前を呼んでほしくて、わざと返事をしなかった。
「みきたん、みきたん」
柔らかな彼女の声が、耳に吸い込まれるように優しくはいってくる。
雨の音は、もう気にならなくなった。
「みきたん・・・?」
もう一度名前を呼ばれたら、いつか、彼女の言っていたことを思い出した。
───みきたん、生まれ変わった何になりたい?
そのときはこんな雨は降っていなかった。
あのときは太陽の日差しの中。
一歩先を歩く彼女が、ふと立ち止まって、ぽつりと言った言葉だった。
「わからないな。あやちゃんは生まれ変わったら何になりたいの?」
昔だったらうさぎとか犬とか、可愛い動物になりたいと言ったかもしれない。
でも、そのときはわからなかった。
わからなかった。何にも浮かんでこなかった。
だからそう答えた。
急に美貴に話をふられたあやちゃんは、難しい、困ったような顔をして。
───私もわかんないんだあ・・・
いつもの柔らかな声で、そう言った。
きっと昔の美貴のように可愛い動物になりたい、それか自分とあやちゃんなら答えるだろう。
そんな美貴の考えは、簡単に打ちのめされた。
───わからないなあ
───わかんないんだあ
あのときの自分の声とあやちゃんのこえが、ずっと耳に焼き付いて離れなかった。
- 299 名前:六月の憂鬱 投稿日:2004/01/31(土) 11:07
-
「みきたん、どうしたの?」
───あのときわからなかったこと。
今ならはっきりわかるよ。
今ならはっきり答えられるよ。
目を開いて、口を開いて。
美貴はやっと、あやちゃんに返事を返す。
「あやちゃん・・・」
その声が、雨の音に負けたか、負けてないか。
そんなの、どうでもよかった。
きっとどうでもいいんだ、そんなこと。
「美貴、もう生まれ変わりたくなんかないんだ」
ぽつりとそうつぶやいた。
そしたら急に雨の音が耳に入ってきた。
あやちゃんの声と違って、胸を打ちつけるような雨の音。
この声が、君に聞こえていますように。
聞こえていますように。
- 300 名前:六月の憂鬱 投稿日:2004/01/31(土) 11:30
-
「私と同じだね」
そんな彼女の声に驚いて、美貴はあやちゃんの顔を覗き込んだ。
あやちゃんは笑って、美貴に顔を近づけて、こう言った。
「私も、もう生まれ変わりたくなんか、ないんだあ」
その後、彼女は唇を重ねてきた。
時間がとまってしまったように思えた。
───もう生まれ変わりたくなんか、ないんだあ
彼女の声が、耳の中で優しく、でもどこか淋しく響いた。
───ザア、ザア、ザア・・・。
雨の音が聞こえる。
- 301 名前:六月の憂鬱 投稿日:2004/01/31(土) 12:01
-
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
生まれ変わって、君に逢えなくなるのが怖い。
君がいない世界で、美貴は何を想い、何を感じて何を幸せに想うのだろう。
息を吸い込んで、少し息吐いて。
美貴はやっぱり、こう言うしかなかった。
「あやちゃん、好きだよ」
息が詰まりそうだった。
君は微笑んで、あたしの頬に触れて、こう言った。
「私も」
どうか、こんな日がずっと続きますように。
どうか、どうか。
ふたりが生まれ変わりませんように。
ああ、今はただ。
神様、神様───。
きっとこんなこと想うのは、雨のせいなんだ。
美貴は泣きそうになりながら、全てを雨のせいにした。
「みきたんが好きで好きでたまらないよ」
そんな彼女に「美貴もおなじだよ」と返そうとしたら、唇がふさがれて言えなかった。
- 302 名前:六月の憂鬱 投稿日:2004/01/31(土) 12:12
- もし生まれ変わって、君を忘れて、君に逢わないまま日々を過ごすとしたら。
美貴は晴れの日の、あの日差しの中で、生まれ変わったときのこと、考えるでしょう。
雨の日は、誰かとこうして話していたこと、ふと思い出して。
灰色の雲見上げて、なにか物足りなさを感じて、淋しさを感じて。
きっと泣いてしまうだろう。
君がこうしてそばにいる。
それ以上の幸せなんて、美貴には残されていないだろうから。
きっと、残されていないだろうから。
「みきたん・・・」
その声を、目を閉じて、ずっと聞いていた。
- 303 名前:六月の憂鬱 投稿日:2004/01/31(土) 12:13
-
六月の憂鬱/完
- 304 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/31(土) 12:32
- 名も無き読者様>メール欄にも返事ありがとうございます。
自分ので感動してもらえるなんて思いもしませんでした。
いつも言う側だったので。
レスありがとうございました。
最後に、私は天才になれなかった。
名無し読者様>おがたかはおいらも大好き!
年が近いから親近感があるんですよ。
でも今回はおがたかじゃな(ry
・・・でも頑張る。
最高って言ってくれてありがとう。
名無しどくしゃ様>見守って(ry
放棄はしないと言っても、態度で示さなきゃ意味がないと思っているので
更新頑張って完結させようと思ってます。
もうすぐ最後のテストあるんで、それ終わったら書き溜めていたもの、一気に更新しようと思っています。
いつもレスありがとうございます。
- 305 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/31(土) 15:38
- うん、やっぱり天才だw
ていうか今って・・・(冷汗
ほんと、どのCPも上手いですねぇ。。。(シミジミ
でわ次も短編、本編問わずに楽しみにしてますvv
- 306 名前:最後の嘘 投稿日:2004/02/02(月) 21:07
-
「ねえ、神様って信じる?」
明らかに場違いな、あたしの科白。
君は俯いたまま、でもしばらくして顔を上げて涙目であたしを睨んでこう言った。
「信じないよ、そんなの」
少しの沈黙があって、それを破るのはやっぱり君で。
「だって、本当にいたら今頃、みきたんとさよならなんてしないもん」
あたしは笑った。
笑うしか、なかった。
- 307 名前:最後の嘘 投稿日:2004/02/02(月) 21:15
- ────※
「嫌いになった」
ふと、そんな嘘を思いついた。
君といままで笑ったり、怒ったり、泣いたり、でもやっぱり笑ったりしながら。
あたしは探していた。ずっと探していたんだと思う。
────さよならの理由。
あたしの部屋で雑誌を読んでいた君が、がばっと顔を上げて驚いた顔であたしを見つめていた。
信じられないといったように。
───悪いけど、あやちゃん。・・・事実なんだよ。
そのあと、あやちゃんの手から雑誌がバタンと落ちた音がした。
あたしは心の中で、何故か笑っていた。
───ああ、こんなドラマみたいなこと、本当にあるんだ。
さよならは意外にも、思い描いていたものよりもずっと、静かなものだった。
- 308 名前:最後の嘘 投稿日:2004/02/02(月) 21:18
-
「嫌だよ・・・みきたんとさよならするの、嫌だよ」
「・・・・」
「もっと一緒にいようよ。いなくなったら、やだよお・・・」
あやちゃんは初めはそんな風に泣き喚いたり、あたしの腕にすがりついたりしていたけど、
やがて諦めたように、深い、深いため息をついた。
目を閉じれば、今でも思い出せる。
世界が、世界中の人が不幸になってしまうんじゃないかと思えるくらい。
透明ななにかが曇ってしまいそうな。
悲しい、悲しい君のため息。
- 309 名前:最後の嘘 投稿日:2004/02/02(月) 21:19
-
笑ったり、はしゃいだり、駆け回ったりしながら。
そうやってなんとか誤魔化しながら。
あたしはずっと抱えていた。
ずっと胸の中にとどめていた叫び声。
今、きっとそのときが来たのだろう。
だから、この胸はなにかを訴えかけている。
もう誤魔化せないほどに。
もし神様がいたとして、臆病なあたしをつかまえて、鳥籠に閉じ込めていたのなら。
あたしは君とずっと一緒にいれたかなあ?
今以上に臆病にならずにいられたかなあ?
今さら大事ななにかを手放さずに、君を手放さずにいられたかなあ?
- 310 名前:最後の嘘 投稿日:2004/02/02(月) 21:20
-
───「嫌いになった」
あたしの一言で、あたしを辛うじてとどめてくれた鳥籠のドアは開いてしまった。
あたしはきっと、君との未来より、自由という孤独をとったんだ。
だから、もう戻れないよ。
もう戻れない。
鳥籠は開いてしまった。
神様は二度と、あたしを捕まえてはくれない。
あやちゃんは黙って、あたしの部屋を出て行った。
あたしは何も、声をかけなかった。
「さよなら」はもう言う必要がなかったし、「ありがとう」と言うのもなんだか間違っている気がした。
バタンと小さく閉まったドアの音と引き換えに、あやちゃんはいなくなった。
きっともう、彼女がここにくることはないだろう。
あたしは泣かなかった。
あやちゃんは泣いたけど、あたしは泣かなかった。
あたしは目を閉じて、思い出していた。
「ねえ、もっかいだけ、キスさせてよ」
甘く囁くあやちゃんの声。
最後の、二人の最後のキス。
あたしがなにかを言う前に、あやちゃんはあたしの唇に口づけをした。
あたしはあやちゃんの体温を感じながら、胸に湧き上がった想いを、一生涯忘れはしないだろう。
───このまますべて、終わらせてくれたらいいのに。
世界が、あたしの中の何かが、変わってくれたらいいのに。
柔らかな感触の後、あたしはさよならを決心した。
- 311 名前:最後の嘘 投稿日:2004/02/02(月) 21:23
-
あやちゃんが出ていって、あたしは初めて気づいた。
いや、初めてじゃない。
あたしは気づいていながらずっと、認めなかった。
認めるのが怖かったんだ。
あたしはきっとずっとずっと、怖かった。
君に、君から「さよなら」を言われるのが。
だから探していた。君と出会ってから、君をこうして好きになるまでの間、ずっとずっと探していた。
君とさよならするための理由。
あたしは怖かったから。臆病者だったから。
だから君とさよならした。
もう、なにかに怯えないように。
もう、なにかを失うことに怯えないように。
- 312 名前:最後の嘘 投稿日:2004/02/02(月) 21:30
-
自由になった鳥は、ずっと飛んでいかなきゃならない。
淋しくても、明日が怖くても。
ずっと、ずっと。
オアシスを探すために。安らげる場所やなにかを探すために。
さらに遠くへ、もっと遠くへ。
もし砂漠の中、オアシスにたどり着く前に力尽きたのなら、
あたしは朦朧とする意識の中、きっと君を思い出すだろう。
ああ、やっぱさよならなんて、するんじゃなかった。
ああ、やっぱしてよかったのかな?
もっかい、キスしたいなあ。
そんなちっちゃなこと考えながら、やっぱり君の事、想って考えて笑って死んでいくんだろう。
この世界が終わってしまう前に、あたしの中の何もかもが本当に終わってしまう前に。
死んでしまう前に言う言葉があるとして。
「好きだよ・・・?」
最後はそう言うことに決めた。
- 313 名前:最後の嘘 投稿日:2004/02/02(月) 21:36
- ・
・
・
・
・ 最後の嘘/完
・
・
・
- 314 名前:チナ犬 投稿日:2004/02/02(月) 21:42
- 名も無き読者様>うん、テストがんばる・・・。
てかテスト二週間前で更新してるよ(ヲイ
いつもレスありがとうございます。
なんかレスついたら嬉しいんだけど何書いていいか分からない(爆
あまり気の利いたことや面白いレスなんて返せないけど
レスにはむちゃくちゃ感謝してます。
ありがとう。
- 315 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/04(水) 18:18
- お疲れサマです。
よくもまぁひらめいたままでこれだけの作品書けますねぇ…w
>>314 あまり気の利いたことや面白いレスなんて返せないけど
作品だけで十分ですってばぁ(涙
こちらこそありがとうございますですよ、ええ。
ではテスト、健闘を祈ります(オマエモナー
- 316 名前:失くしたもの、失くせなかったもの 投稿日:2004/02/07(土) 10:57
-
「もう出会ってこんなに経っちゃったよ」
左手であたしの右手を揺らしながら、君は言う。
「そうだね」
その後、ふいに沈黙が訪れようとしていたから、あたしは必死に何を話そうか考える。
君も同じだったようで、心なしか落ち着きがない。
いつか君が「好きな人の前になると無口になる」と、顔を少し赤くさせながら話していたのを思い出した。
恋人同士になるずっと前。
何故その顔が赤かったのか、今は手に取るようにわかる。
こんな簡単な理由だった。
- 317 名前:失くしたもの、失くせなかったもの 投稿日:2004/02/07(土) 10:58
-
「ふたりの写真も、たくさん増えてきたよ」
やっと会話を見つけた君の顔が、パッと輝く。
その顔があまりにも可愛かったから、あたしは思わず笑ってしまった。
「なに?何で笑ってるの??・・・人が頑張って話してるのに」
拗ねた君がまた可愛くて、また噴出してしまった。
余計に君は拗ねてしまうだろうと思ったら、盗み見た君の顔は笑っていた。
ずっと一緒にいたから、ずっと一緒にいすぎて、そのせいで話す会話も減ってきて。
何を話せばいいのか、時々わからなくなるけど。
出逢ったばかりの新鮮さはもうないかもしれないけど。
それでも。
「!?・・・麻琴?」
これまでひとりで歩いてきた道。
失くしたもの、自ら捨ててしまったもの。
たくさんある。
後ろを振り返れば、きっともっとたくさんある。
そんななかで失くせなかったもの。
捨てきれなかったもの。
- 318 名前:失くしたもの、失くせなかったもの 投稿日:2004/02/07(土) 11:03
-
握った手に力をいれた。
驚いた君に、言ってみた。
手のひらから、溢れそうな、こぼれそうな。
見失いそうな、でも見失わなかった、ずっと抱いていた想い。
「好きだよ」
他に何か言うべきだったかなあ?
でも盗み見た君の顔は笑っていたから。
きっとこれでいいんだと思った。
ふたりの未来にこの先なにがあるかは知らない。
でもこの道の歩き方、二人だけしか知らないのなら、そんなときは。
そんなときは。
───こんな風に手をつないでいよう。
「・・・麻琴」
「なあに?愛ちゃん」
「あたしも好き」
───こんな風にずっとずっと、手をつないでいよう。
- 319 名前:失くしたもの、失くせなかったもの 投稿日:2004/02/07(土) 11:06
-
───
- 320 名前:チナ犬 投稿日:2004/02/07(土) 11:12
- 名も無き読者様>作品だけで十分ですってばぁ(涙
そういってもらえると嬉しいです。
なんだか安心しました。ありがとうございます。
最近暗いのが多かったので、すこしほのぼの系にしてみました。
・・・テスト、お互い頑張りましょう(笑
- 321 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/07(土) 11:26
- 乙で〜す。
いやぁ勉強で疲れた心が和む。。。
ほとんど何もしてないですけどw
お忙しい中ありがとうございました。
- 322 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/02/08(日) 13:04
-
────何も心配することはないわ。
あなたはただ、待っていればいいの。
そう、ただ、待っていればいいの。
───・・・お母さん。
違うよ。違う。
欲しかったのはそんな言葉なんかじゃなくて。
ただ、ただあたしは・・・。
・・・お母さん、お母さん・・・。
ああ、その言葉で、思い出すものは。
- 323 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/02/08(日) 13:06
- 愛は仕事を終え、寮にある自分の部屋に戻っていた。
れいなが中澤の家に泊まっているため、今日はひとりで夜を過ごさなければいけない。
それは愛にとって苦痛だった。
愛はいい加減寝ようと思い、電気を消し、ベッドに横になったがそれでもなかなか寝付けずにいた。
───(羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が・・・)
そうやって寂しさをごまかしていたが、羊を数えるのにもやがて飽きてしまった。
残ったのは部屋の静寂と、ひとりの寂しさだけ。
───(ひとりはヤだな、ひとりはヤだな)
そうつぶやいても誰かが来てくれるはずもなく、愛はベッドでひざを抱えて、縮こまった。
隣のベッドを見ても、れいなはいない。
そっと目を閉じると、ふと昔のことを思い出した。
- 324 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/02/08(日) 13:07
- 白い部屋で、ベッドに横たわっている愛に囁く、母親の声。
───もうすぐよ、愛。
もうすぐであなたもここから出ることができるわ。
また普通に暮らすことができるの。
だから、待ってればいいの。
そういって、母親は愛の胸のあたりにそっと触れた。
心臓がちいさく、でも一生懸命、音を響かせていた。
───お母さん、お母さん。
あのとき、自分から離れようとする母親の手を捕まえて、引きとめていたら、何かが変わっていただろうか。
───じゃあね、愛。
あの声を、また聞くことができただろうか。
もう遅すぎることは知っている。
それでも、考えずにはいられなかった。
愛はさらにぎゅっと強く目を閉じる。
ひとりで過ごす夜は、いつもより長く感じた。
───お母さん、お母さん。
母親の強い香水のにおいが蘇ってきて、愛は泣きそうになった。
- 325 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/02/08(日) 14:16
-
「あ、月だ・・・」
ミキは茶色い電気椅子のようなものに座り、窓の外を眺めていた。
真っ暗な部屋を、月の光だけが照らしてくれた。
ミキの頭にはたくさんのコードやボタンが着いたヘルメットのようなものがつけられている。
電気椅子のようなものにもたくさんコードが繋がれていた。
ミキはふと、アヤのことを思い出した。
───「みきたん!お月様には何があるかしってる?」
───「えっ、なにがあるの?」
───「うさぎさんが住んでるんだよ!可愛い可愛いうさぎさん!!」
アヤはそう言って、両手を頭の上にのせて、うさぎのものまねをした。
───「ぴょん、ぴょん、ぴょん!」
ミキはそんなアヤを優しく見つめていた。
- 326 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/02/08(日) 14:17
-
───(うさぎさんかあ・・・)
ぼんやりと空に浮かぶ月を眺めながら、ミキは月にすんでいるうさぎのことを想像した。
向こうの世界から、こっちはどう見えるのだろう?
そんなことを考えていると
「みきたん・・・」
「・・・アヤちゃん!?」
後ろからアヤの声が聞こえた。
ミキは驚いて振り向こうとしたが、身体が椅子に繋がれているため、振り向くことができない。
おろおろしていると、アヤのほうからミキのほうにきてくれた。
視界にあった月はアヤの身体で隠れた。
「・・・みきたん」
アヤはミキの前に立つと、そっとミキの頬に触れた。
頬から伝わるアヤの体温を感じて、ミキの胸は震えた。
- 327 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/02/08(日) 14:18
- 「どうしたの?アヤちゃん。こんな遅くにここにきたことバレたらおこられちゃう・・・」
そう言いかけたミキの唇に、アヤは人差し指を当てて、話を中断させた。
「いいの、怒られても。いいの・・・」
伏し目がちにそう言うアヤは、普段の子供っぽい可愛いアヤとは違って、大人っぽい綺麗な顔をしていた。
そんなアヤの表情に、ミキはドキッとした。
「・・・なにかあった?」
心配してそう尋ねるミキに、アヤは俯きながら首を横に振った。
「ううん、なんにもないよ。ただ・・・ただ、淋しかっただけ」
アヤはそう言うと、ミキにしか聞こえない、ちいさな声でごめんなさい、と呟いた。
いつもの元気で明るい声とは違って、今のアヤの声はとても弱弱しかった。
ミキはそんなアヤを引き寄せて、抱きしめた。
アヤは驚いて、「みきたん?」と小さな声を上げた。
- 328 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/02/08(日) 14:18
-
「なんにもなくないじゃん。そんな、強がらないでよ」
「・・・みきたん」
ミキの胸の中で、アヤは安堵のため息を漏らした。
───(あったかい、あったかいよ。みきたんの身体)
そう心の中で呟いた後、アヤは震える声でこう言った。
「みきたん・・・ここは寒いよ。寒いの、寒すぎるの」
「・・・アヤちゃん?」
「つめたいよ。なんか、怖いんだよ。寒すぎて・・・」
さっきより震えるアヤの身体を、ミキはさらに強く抱きしめる。
大丈夫、大丈夫だよ、と呟きながら。
何が大丈夫なのか、自分でもさっぱりわからなかったけれど。
アヤは何も言わずに震えている。
ミキが真っ直ぐ見つめた先には、アヤの身体でさっきまで隠れていた月あって、抱きあう二人を照らしていた。
- 329 名前:第七章 冷えた身体 投稿日:2004/02/08(日) 14:24
-
うさぎさん、うさぎさん。
ミキが見えますか?
ミキの胸の中で泣いているアヤちゃんが見えますか?
どうすればアヤちゃんを笑わせてあげられますか?
おしえてください、うさぎさん。
どうすればアヤちゃんを暖かくさせることができますか?
おしえてください、うさぎさん。
うさぎさん、うさぎさん。
- 330 名前:チナ犬 投稿日:2004/02/08(日) 14:26
- やっと本編かけました!
これもレスくれた人たちのおかげです。
ありがとう!
更新少なくてごめんなさい。
- 331 名前:チナ犬 投稿日:2004/02/08(日) 14:33
- 名も無き読者様>いやいや。
やっぱ書くの楽しいんで。
勉強お疲れです。
おいらは受験は去年終わったんで今はかなりだらけてますw
でも二年後また受験・・・。
レスありがとうございました!!
- 332 名前:チナ犬 投稿日:2004/02/08(日) 14:52
-
川’ー’川川VvV从从‘ 。‘从
- 333 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/02/08(日) 16:13
- 本編待ってましたやよー
何やらぁゃιぃ過去…
作者様の作品にはオイラも癒されてます。
- 334 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/09(月) 16:46
- おっ!本編だ!!
短編にハマリ過ぎて内容思い出すのに時間かかりましたYO(爆
受験、去年終わったってことは自分の一つ下ですか…
あまりだらけてると自分のようになるのでお気をつけを。。。(w
- 335 名前:第八章 再会 投稿日:2004/02/21(土) 10:32
- ────ふわふわ、さんさん
揺れる濁った月の下。
この情景を思い出すとき、蘇るのはいつも、あの人のこの言葉。
「紺野あさ美は死んだよ」
嘲笑うかのように高く響く、あの人の声。
月明かりで、金髪の髪が眩しく輝く。
「何故だか、わかる?」
歩み寄ってくる、手を伸ばしてくる。
嫌だ、嫌だ。
触らないで。こっち来ないで。
震えながら後ろに後ずさりする麻琴に、彼女は言った。
「紺野は君のことが好きだったんだよ」
────君のことが好きだったんだよ
- 336 名前:第八章 再会 投稿日:2004/02/21(土) 10:33
- ※
「嘘だ・・・」
がばっと、麻琴はベッドから起き上がった。
そのときやっと、さっきまでのことは夢だったのだと知る。
麻琴は額の汗をぬぐって、ため息をつく。
そっと、窓の外を眺めてみた。
あの時と同じ、濁った月が麻琴を照らしている。
嫌だ、嫌だ。
今はまだ、照らさないで。
あの日以来、麻琴は月明かりが罪人を照らすスポットライトのように思えてならない。
月から身を隠すように、麻琴は自分の足を引き寄せて抱きしめて、そこに顔をうずめた。
そんなの、嘘だ、嘘だよ。
そうつぶやきながら。
- 337 名前:第八章 再会 投稿日:2004/02/21(土) 10:35
- ───※
「んっ・・・」
カーテンの隙間から入ってくる日差しに、れいなは顔をしかめる。
そして、目を少し開けて、近くにおいてあった目覚まし時計を手にとって、時間を確かめる。
八時・・・。
「なぁんだ、まだ八時・・・」
れいなはそういいかけて、また目を閉じる。
でもその数秒後。
「って、えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
れいなの叫び声に、絵里が隣で眠そうな目をこすりながら、呑気に尋ねる。
「なに・・・?どうしたの??」
「ち、遅刻!!八時半までに病院行かなきゃいけないの!!」
れいなは起き上がって、ばたばた忙しそうに支度を始める。
絵里はまだ完全に脳が目覚めていないようで、ぼーっとしている。
ちょうどれいなが顔を洗っているときだった。
- 338 名前:第八章 再会 投稿日:2004/02/21(土) 10:36
- ───(ちょ、ちょっと待て、アタシ。そういえば目覚まし、ちゃんとセットしたよね?昨日。)
昨日のことを思い出してみる。
自分は確かに昨夜、寝る前に目覚まし時計を七時になるようにセットしていたはずだ。
・・・まさか。
「ねえ、絵里。朝七時ごろ、目覚まし鳴ってなかった?」
おそるおそる洗面所から顔を出して、まだぼーっとしている絵里に尋ねてみる。
絵里は考え込むような顔をしたあと、小さく声を漏らした。
「あっ・・・・・」
「犯人は君ですか・・・」
絵里の話によると、七時にちゃんと目覚ましは鳴っていて、その音にれいなよりはやく目覚めた絵里は
それを消してしまって、れいなを起こさずにそのまま寝てしまったらしい。
れいながため息をつくと、絵里は申し訳なさそうに目を伏せながら謝った。
「ごめんね・・・・・」
───(うっ・・・・・)
絵里の切なげな表情に、れいなの胸は高鳴った。
- 339 名前:第八章 再会 投稿日:2004/02/21(土) 10:49
- ───(そんな顔されちゃ、怒れないじゃんか・・・)
年上の少女に振り回されている自分の苦労を、誰かに分かって欲しいとれいなは思った。
その願いが、もう少しで叶うことをれいなは知らない。
「べ、別にいいよ。早く起きれないアタシのほうが悪いし」
「で、でも・・・・」
「もういいって。ああ、アタシはやく支度しなきゃ」
れいながそういいながら、自分のかばんから着替る服を取り出している時だった。
「ねえ、私も行っていいかな?」
控えめな、小さな声にれいなが驚いて振り向く。
「・・・・・ダメ?」
「・・・・・・」
不安げに尋ねる絵里の願いを断ることなど、れいなにはできそうもなかった。
───このことが二人の一日を大きく変えることを、二人はまだ、知らない。
- 340 名前:チナ犬 投稿日:2004/02/21(土) 10:57
- >>333 >作者様の作品にはオイラも癒されてます。
あ、ありがとう・・・(感涙
テストもおわったので更新がんばります!
>>334 >短編にハマリ過ぎて内容思い出すのに時間かかりましたYO(爆
実は作者も本編の内容忘れてたっていう(ry
う、嘘、嘘!!覚えてるよ、本編の内容(汗
最後のテストも終わったところでオイラのだらけっぷりにも
さらに磨きがかかると思われます(笑
・・・・でも、がんばる。
いつもレスありがとう。
励みになります!!
- 341 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/21(土) 11:55
- お疲れッス。
えりりん、か〜わ〜い〜い〜(キモッ
自分もテスト――二つの意味で――終わったんでダラけまくりですw
でわ時間あること祈ってます。。。
- 342 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/02/21(土) 14:43
- (*´д`*)ポワワ
この作品を励みにオイラテスト頑張る!(w
- 343 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/10(土) 03:22
- 放置?
- 344 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/05(水) 02:31
- スレを放置しすぎ。
完結してから立てて欲しい。
- 345 名前:第八章 再会 投稿日:2004/05/08(土) 11:59
- ※
「すみません、この子知ってますか?」
「───はい?」
病院に向かう途中、突然後ろから声を掛けられた。
愛が振り向くと、そこには十七、十八歳の少女が立っていた。
綺麗に真っ直ぐ伸びた栗色の髪が陽に照らされながら、風で揺れている。
少し儚げな雰囲気をもった少女に、愛は思わず見とれてしまった。
「あ、あの・・・」
「は、はい!すみません」
「いえいえ」
はっと我に返った愛に、少女は苦笑しながらもいつも首にかけていたロケットの中身を愛に見せた。
「この子なんですけど・・・」
ロケットの中の少女は、猫のような目を細めて笑っている。
黒髪はよく似合っていて、八重歯が可愛いと愛は思った。
───年はれいなと同じくらいかな・・・?
- 346 名前:第八章 再会 投稿日:2004/05/08(土) 12:00
- 「ごめんなさい。知らないです」
「そうですか・・・」
愛の言葉に、少女は落胆した顔を見せた。
その表情を見て、愛は本当に申し訳ない気持ちになった。
「あの、お役に立てなくてすみません」
そう言う愛に、少女は一瞬驚いた顔を見せ、その後にっこり笑った。
「いえ、別にそんな顔しないでくださいよ。また探せばいいし」
少女の笑った顔は綺麗で、どこか懐かしい気がした。
そう思ったとき、急に耳鳴りがした。
───ご、とうさん・・・
- 347 名前:第八章 再会 投稿日:2004/05/08(土) 12:00
- 「うっ・・・」
「ちょっ、大丈夫ですか!?」
突然苦しそうに心臓を押さえだす愛に、少女は驚いた顔をした。
何かしてやりたいと思ったが、どうしたらいいのかわからずに、少女の手は宙を舞うばかりだった。
───ゴトウさん・・・私はっ
あの時と同じ声が聞こえる。
発作を起こす時にいつも聞こえてくる、あの声・・・。
愛に触れようとする少女の手を遮って、愛は無理に笑った。
「もう、大丈夫です。いつものことですから・・・」
「でもっ───」
でも、ほっとけない。
そう言おうとした少女の言葉は、次の愛の言葉でかき消された。
「本当、もう大丈夫ですから。ゴトウさん・・・」
「えっ・・・?」
少女が目を見開いたとき、愛はもう少女に背中を見せて歩き出していた。
少女は驚いて、愛を引き止めることができず、ただそこに立ち尽くしていた。
- 348 名前:第八章 再会 投稿日:2004/05/08(土) 12:01
- ※
「もう夏か・・・」
中澤は病院の窓から、外の景色を眺めていた。
遠くからセミの鳴く声が聞こえてくる。
───違うよ!なっちはまだ、死んでなんかいないんだよ!!
目を閉じた。
蘇るのはあの日のこと。
───ゆうちゃん。ヤグチはね・・・・・
「中澤さん?」
- 349 名前:第八章 再会 投稿日:2004/05/08(土) 12:07
- 自分を呼ぶ声に、中澤は我に返った。
振り返ると、そこには自分よりいくつか下の看護婦が立っていた。
「あの、中澤さんに手伝ってほしいことがあって」
「あ、はい」
「すみません、ではお願いします」
「いえいえ、じゃあ、行きましょっか?」
看護婦に笑顔を見せて、中澤は頼まれた仕事を手伝いにいった。
夏は中澤の心を少し憂鬱にさせ、セミの声は耳の奥でいつまでも鳴り響いていた。
- 350 名前:第八章 再会 投稿日:2004/05/08(土) 12:08
- ※
「れいなは夏は好き?」
「うーん、別に嫌いじゃないよ」
「ふうん」
「絵里は?」
病院に向かう道の途中で、二人はそんな会話を交わした。
どうせ今から走っても遅刻だし、ゆっくり歩こう。
そう言ったれいなに、絵里は「れいならしい」とクスクス笑った。
「私はあまり好きじゃないかな」
「どうして?」
「だって、いい思い出がひとつもないんだもん」
下を俯いてそうつぶやいた絵里の手を、れいなはぎゅっと握り締める。
- 351 名前:第八章 再会 投稿日:2004/05/08(土) 12:08
- 「じゃあ、今年は二人でつくろう」
「えっ?」
驚いた顔をした絵里に、れいなはにっこり微笑んだ。
「二人でいい思い出いっぱいつくろう?」
「・・・うん!」
繋いだ手を絵里もぎゅっと握り返す。
「じゃあね、二人で海いこっか?そして、その後スイカ割りして──」
弾んだ声で未来の計画を立てるれいなの顔を、絵里は愛おしそうに眺める。
夏の暑さが心地よかった。
熱くなった身体は、きっと夏の太陽のせいだけじゃないと、二人は思った。
- 352 名前:第八章 再会 投稿日:2004/05/08(土) 12:08
- ・・・
- 353 名前:第八章 再会 投稿日:2004/05/08(土) 12:09
- ・・・
- 354 名前:第八章 再会 投稿日:2004/05/08(土) 12:17
- >>341 同じくテスト結果→_| ̄|○
てか更新大幅に遅れててすみません(汗
空版のあれ、楽しみにしてますw
>>342 テストもう終わっちゃいましたよね?さすがに・・・。
長い間更新しなくてごめんなさい。
そしていつもレスありがとう。
>>343 長い間放置しててごめんなさい。
気をつけます。
>>344 わざわざ注意してくれてありがとうございます。
おかげで気が引き締まりました。
これからは間があかないように更新頑張りたいと思っています。
ありがとう。
- 355 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/08(土) 21:57
- 更新お疲れ様です。
なんのなんのコレくらいならいくらでも待てますともw
なにせ物語が興味深いんですから♪
で、さっそく気になるシーンがいくつかあったりしましたが、
それを考えつつ続きも楽しみにしてます。
- 356 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/13(金) 12:30
- 更新待ってます
- 357 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/14(土) 16:38
- この作品大好きなんで、頑張ってください!
- 358 名前:第八章 再会 投稿日:2004/11/07(日) 21:28
- 「麻琴ってなんも知らんなあ」
「えーそう?」
「うん。世間知らずや!」
「そ、そこまで言わなくても・・・」
苦笑する麻琴をよそに、愛がくすくす笑う。
「あ、そうだ。どう?身体の調子は?」
「大丈夫。元気だよ。ありがとう」
「どういたしまして」
ぺこりと頭を下げる麻琴に対して、愛も丁寧に頭を下げる。
二人は顔を見合わせた後、また笑った。
- 359 名前:第八章 再会 投稿日:2004/11/07(日) 21:28
- ───がちゃ
ふと、後ろでドアが開く音がした。
「愛ちゃん」
愛が呼ばれたほうを見ると、れいなと見覚えのある女の子が立っていた。
「れいな・・・そのこ・・・」
「絵里・・・・?」
愛の言葉を遮るかのように、隣で麻琴が口を開く。
「麻琴姉ちゃん?」
絵里は名前を呼ばれ、震える声でそう呟いた。
「絵里・・・どうして」
「麻琴姉ちゃん、生きてたの・・・?」
お互いの顔を見つめたまま固まる二人を、れいなと愛は口をぽかーんと開けたまま見つめていた。
「は、ちょっと待って。意味がわからないんだけど」
れいなは頭を抱える。
「あれ、二人は知り合いなの?」
愛が麻琴にたずねたそのとき、病室のドアが大きな音をたてて開いた。
- 360 名前:第八章 再会 投稿日:2004/11/07(日) 21:29
- 「絵里!!」
「真希姉ちゃん・・・!」
愛はまた目を大きく見開く。
「あなた・・・さっきの」
「小川麻琴・・・お前、ここにっ!!」
真希はつかつかと麻琴のベッドに近づいてくる。
そして、麻琴の白い首を掴んだ。
「うっ・・・」
「や、やめてください!なんですか、いきなり!!」
うめき声を上げる麻琴を守ろうと、愛は必死になって真希の手を麻琴の首から離そうとする。
- 361 名前:第八章 再会 投稿日:2004/11/07(日) 21:30
- 「離せ!あんたはしらないんだ!こいつが今までどうやって生き抜いてきたかを!」
「そんなの知りません!離して!」
「こいつのせいで死んだ人間がいても、それでもあんたはっ!!」
真希が麻琴から目を離し、今度は愛を睨みつける。
真希の言葉に、愛は呆然として自然と身体の力が抜けた。
真希は麻琴の首を乱暴に離すと、もう一度大声で叫んだ。
「全然知らない、構わないっていうのか!?あぁっ?」
「そんな・・・」
- 362 名前:第八章 再会 投稿日:2004/11/07(日) 21:30
- しん、となる部屋の中、麻琴の咳き込む音だけが苦しげに響く。
その重い音が随分遠くに聞こえた。
れいなは言葉に詰まって下を俯く愛と、憎しみを燃やした目で愛を睨みつける真希を見比べたあと、ぼんやりと絵里を見つめた。
なにがなんだかわからない、という表情で。
絵里は悲しく目を伏せたままだった。
れいなは身震いした。
もし、本当にこの人が人を殺していたら・・・・・
そう思ったのだった。
───こいつのせいで死んだ人間がいても・・・・
怒りの感情が篭った真希の声、それから目をそむける絵里。
とても、嘘をついているとは思えない。
「あらら、包帯なんか巻いちゃってさぁ。被害者づらかよ」
- 363 名前:第八章 再会 投稿日:2004/11/07(日) 21:31
- 急におとなしくなった愛をよそに、また真希は麻琴に目を向ける。
麻琴は唇を噛み締めて、じっと下を向いている。
愛ははっと顔をあげて、また麻琴の前に立ちはだかる。
ふと顔をあげた麻琴と目が合う。
こんなときも、麻琴は愛に笑いかけた。
今にも泣き出しそうな精一杯の麻琴の笑顔が、愛の目に焼きついて胸が震えた。
真希が包帯に触れようとすると、愛は固く拒んだ。
「やめてください!怪我を負ってるんですから!」
「は?あんた何言ってんの?」
愛の大声に真希はくすくす笑って返す。
愛は軽くあしらわれ、なんだかイライラした。
「なにがそんなに・・・・」
「そいつ、死ねない身体だよ」
「え?」
「聞こえなかった?」
愛の反応を楽しんでいるかのように真希はニッ、と笑い、その後目が合った麻琴をキッとにらみつけた。
「そいつは死ねない身体だって、そう言ったんだ」
パタパタ
固まって動かない五人。
その部屋の中で風とカーテンだけが生きてるかのように音をたてて揺れていた。
そんな中、絵里は汗ばんだ手でぎゅっと隣に居るれいなの手を握り締めた。
- 364 名前:チナ犬 投稿日:2004/11/07(日) 21:35
- >>355 六ヶ月ぶりの更新です・・・。
やっと書きたいシーンが書けたよ!(感涙
>>356 待たせすぎてごめんなさい・・・。
>>357 ありがとう・・・(涙
おかげで更新できました。
- 365 名前:チナ犬 投稿日:2004/11/07(日) 21:36
- 隠し
- 366 名前:チナ犬 投稿日:2004/11/07(日) 21:36
- 隠し
- 367 名前:名も無き読者 投稿日:2004/11/08(月) 17:49
- ・・・こ、更新、、、キタ━━━━(*´Д`*)=○)3゚)<グハッ!?━━━━━!!!!
おまけに急展開ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!!!
失礼、取り乱し過ぎました、改めて更新お疲れ様です。
やー、待ってましたともw
しかしいや、充電期間に見合う物語急展開の予感に、
待った甲斐ってヤツを見出しましたとも♪
これからも全然待つので作者様のペースでマターリ頑張ってくださいね?
それでわ続きも楽しみにしてます。
- 368 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:53
- 放棄じゃなかったんだよかったー
パーツが噛み合って急展開、とかなるかな
期待してます
- 369 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 19:40
- 待つ
- 370 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/05(土) 20:54
- 一気に全読みしてしまいました 汗
途中短編などもあり続きが分からなくなったりと大変でしたが、かなり興味深い
です。 汗
これからも応援させていただきます!
更新待ってます。
- 371 名前:作者 投稿日:2005/02/12(土) 18:09
- 生存報告。
時間はかかると思いますが必ず完結させます。
いつも待たせてばかりいてすみません。
- 372 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/18(金) 22:29
- 報告サンクス
信じて待つ
- 373 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 16:31
- いつまでも待ってますよー。
- 374 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/06(日) 19:41
- まだまだ待ってます。
- 375 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/20(金) 21:59
- 保全します。
- 376 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/19(日) 08:37
- 超待つ
- 377 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/25(土) 22:06
- 最終生存報告から4ヵ月が経ちます。 作者様、信じていつまでも待ってますので、更新をお願いしますm(__)m
- 378 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/30(土) 18:08
- まだまだ・・・
- 379 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/01(月) 22:45
- 半年経ってもまだまだまつよぉ↑あせらずマターリ頑張ってぇw
- 380 名前:爽快者 投稿日:2005/08/13(土) 00:07
- 同じくまだまだ待ってますよぉ☆
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