かみさまのこえ

1 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/27(土) 15:48
初めまして、書かせていただきます
長くなるか短くなるか今はまだ未定ですが、放置はしないつもりです

よろしくお願いします
2 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/27(土) 15:49
───ここは、どこだろう。
少女は、己の脳に広がるその疑問を持って初めて、自分を知った。
何も知らない彼女は白い衣を纏っており、年齢的には10代の中頃か後半くらいだろうか。
目を覚ましてみても、頭の中に残る物は一つもない。
自分が誰かも、そしてこれ以前に何をしていたのかも解らない。いや、解らないというより知らない。
彼女は、今この瞬間にこの世に"生まれた"のだから。

空は白かった。空と言わずに眼前全てが白く覆われている。
自分を覆う全てが、白い壁だったのだ。
肌に触れる空気は冷たくはなく、暖かくもなく、柔らかくも厳しくもない。
不思議な感覚だった。宙に浮くような足取りで今いる場所から自然と歩みだし、
白い壁の中へと進んで行く。壁は越えても越えても白いままで、全てを受け入れながら、そして受け入れてくれはしない。

「どうしろってのよ、もう」
悪態をついてみてもどうにもならず、そもそも歩けど進んでいるのか。
終いに不快を感じた少女はそこで立ち止まり、白い壁の中でしゃがみこんでしまった。
3 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/27(土) 15:49
何もわからないし、何も知らない。
でもきっとわかるし、きっと知ってる。
でも、それが何かはわからないし、知らない。
そんな不思議な脳内。考えても考えても、何も浮かばないし、でも何かを知っているみたいだった。
さっきみたいに、言葉だって自然に出る。何も知らないはずなのに。
試しにちょっと頭に浮かんだメロディーをなぞってみれば、きちんと歌になった。
でもその歌が何の歌なのか、どんな歌なのかも知らないのに。

「ハァ…そっか、そういう事ね」
少女はニヤニヤしながら立ちあがり、独り言を続けた。
「これはあれよね、夢なのよ、夢。あれ、でも夢って何かしら」
そんなチンプンカンプン。
「もーっ、何ここっ。意味わかんないっ」
どこを見ても白いだけ。そろそろ頭が痛くなりそうだ。
「だれーかーっ。いませんかー。ここはどこですかぁー」
「いませーん」
「…えっ、今の人の声よね?あれっ?何?何なの?」
呼び掛けたにも関わらず、予想してなかった返事にはしばし迷ったものの、
そこに誰かいる事はわかった。とりあえず話してみたくなった。
4 名前:名無し 投稿日:2003/09/27(土) 15:49
「誰かいるのー?」
「いませーん」
「いや、いるじゃんっ。いるんなら出て来て!」
その言葉に呼応してか、なぜか白い壁が灰色になり、徐々に黒く変色していく。
あっという間に真っ黒になったかと思えば、壁の一部がぽっかりと門のように開いた。
「通ってー」
間抜けな声がしたのでそこを通ると、緑の草が伸び盛り蔓を伸ばし、赤い花が咲き乱れ、蝶が舞った。
見たこともないはずなのに、どこか優しいその風景。
少女が手を伸ばせば小鳥の群れがやってきて、その上に広がった。
「わぁ…すごいすごい!」
「ねぇ、入ったんならとっとと入ってきてよー」
「あっ、ゴメンナサイ…」
その先に、小さな小さな門が見えた。
さっきのように壁に穴が開いたような門とは違って、今度は正真正銘の門。
金色に光る小さな綺麗な門だった。
5 名前:名無し 投稿日:2003/09/27(土) 15:49
「あの、ここ通るんですか?」
「そうだよ、何でもいいから後つっかえてんだから早くしてー」
「は、はい…」
(後ってなんだろう?)
言われた通りに人が一人通れるほどの小さな門をくぐり、ようやくその声の主と出会えた。
彼女は先ほどと同じような白い壁の中で、あぐらを掻いて座っていた。
金髪に白い衣を纏い、背には羽を携え───そうつまり、彼女は天使だった。
あぐらを掻く天使というのも想像しがたいが、実際に目の前にいる彼女がそのものなので仕方ない。
「んあ。やっと来たね。遅いよ」
「あの…えっと…」
「んー。何も聞かないでいいよ。順番だから。後2人来るまで待ってね」
「…あ、はい…?」
天使はそう言うとあぐらのまま門の方に目を向け、どうやら次が来たのか「そう、そこ入ってね」と声をかけていた。
6 名前:名無し 投稿日:2003/09/27(土) 15:50
少女はまず、天使から目を離すと2つの道があって、門に閉ざされているのを見た。
1つの右の道は先が光に覆われていて、先は見えない。
もう一つの左道は先が白い雲に覆われていて、やはり先は見えなかった。
あの道を先に進むと、何かがあるような気がする。気にはなかったが、天使にここで待つよういわれた以上、
そこで待つしか今はできない。
更にキョロキョロしながら周りを見渡すと、天使のすぐ近くに大きな鏡が置いてあった。
鏡のはずなのに、それは何も映し出しておらず、周りの白い壁と同じように真っ白になっていた。

(何なんだろう、ここは…)

しばらくすると、気の強そうな少女が一人やってきて、そしてその少し後にも、大人しそうな少女が入って来た。
これでこの門の中の壁の中には3人の少女と天使たちが揃った。
気の強そうな少女も、大人しそうな少女も、お互いに顔を合わせながら、疑問符が重なったような顔をしている。
けれど3人とも一言も喋らず、天使の説明を待った。
7 名前:名無し 投稿日:2003/09/27(土) 15:50
「んっ。3人ともよく来たね。3人とも可愛いねぇ」
天使は初めてあぐらを解くと、腕を伸ばしてあくびをし、それから指をパチンと鳴らした。
天使の指が擦り合わさった瞬間に、天使の後ろに白い椅子が突然"存在"し、
何事もなかったかのように、天使はそれに座ってくつろいだ。
「ほれっ」
更に天使が3回指を鳴らすと、3人の少女たちの下にも椅子が現れ、勝手に座るようなカタチになった。
「おし、さっすがあたし。完璧」
「あのさー」
「んあ?」
天使が自分の魔法に自画自賛した時、初めて気の強そうな少女が声をあげた。
「何なんですか、ここ?なんか、すげー意味わかんないんだけど」
少女は見た目に劣らず、口調も激しい。
「んー。そう、強気にならない。ちゃんと説明するし」
「ハァ」
そうして天使はようやく、3人が召集された理由を語り始めた。

「まぁつまりね。ここは"始まりの場所"なんだわ」
「始まりの、場所?」
「そー。もっと詳しく言えば、あんたたちがこれから生まれるとこ」
「生まれる、とこ?」
「ん。…何か、毎回人が来るたび説明すんのめんどいなー…。 
 まぁいいや、それが仕事だし」
8 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/27(土) 15:51
「人間てさ、どっから生まれてくるか知ってる?知らないはずはないよ、あんたたちは全部知ってるんだから」
天使がそう聴くと、少女たちは顔を見合わせ合って顔を赤くした。
そして一番目の少女が小さな声で、「お、おかあさんの……」と声を漏らした。
他の2人も恥ずかしそうにしているが、そもそも天使の言った通り知らないはずなのに知っている。
「…あのね、そうじゃなくて。確かに生まれてくるのはお母さんの…だけど」
そう言われて少女は更に顔を真っ赤に染めた。
「んあ、えっとね。ここはさ、あんたたち人間が生まれる前にやってくる場所なのよね」
「はぁ…」
「生まれる人間は全員ここを通っていくのよ。そうして門をくぐった人間は生きる事を許可され、
 お母さんが妊娠する事になるの。心配しないでも、生まれたらここでの記憶は全部忘れるよ」
「え、でも…」
3番目の少女がはじめて声をあげた。舌足らずな声だ。
「私たち、生まれてないのに人間の姿だし、それに…体だって…」
「んー。それはさ、あくまで仮の姿なんだよね。
 ちょっと難しい話だけど、可能性の問題でさ。あんたたちが可能性的に辿る容姿がそれなんだね、きっと」
「へぇ…でも自分の顔は見えないのね」
3番目の少女は気づいていたようだが、1番目と2番目の少女は気づいていなかった。
自分の顔がどんな風であるかなど、全く知らないのだ。
他の2人の顔はわかるのに。
「そういう事。他の2人からはわかってるだろうけど、顔って言葉で説明できないでしょ」
「そうなんだ…」
9 名前:名無し 投稿日:2003/09/27(土) 15:51
「さて、なんか色々めんどいから、まずはあんたたちの名前を決めようか」
天使はまず、指を鳴らして羽付の筆を出した後、自分の羽を3本引きぬいた。
「ふぅ。あ、心配しなくてもすぐ生えるし。これでちゃんとあんたたちの名前つけてやんないと、
 無事に生まれることができないかもしんないから」
「え…名前って、でも、それって生まれてから親がつけるものじゃないの?」
「名前は生まれたときから決まってるもんなのよ。親がその名をつけるのは必然。
 そしてあんたたちは生まれたら、当然この名前を忘れる」
天使が羽にすらすらと名前を書いていった。
まるで決まっていたかのように、筆が動くと3人分の名前がすぐに決まった。…いや、決まっていた。

1番目の少女には、「えり」という名が与えられた。
2番目の少女には、「れいな」という名が与えられた。
3番目の少女には、「さゆみ」という名が与えられた。

こうして少女たち3人は、自分の名前を与えられた。
10 名前:名無し 投稿日:2003/09/27(土) 15:52
从*^ー^)
11 名前:名無し 投稿日:2003/09/27(土) 15:52
从 ´ ヮ`)☆
12 名前:名無し 投稿日:2003/09/27(土) 15:52
从*・ 。.・)<レス待ってます
13 名前:名無し 投稿日:2003/09/27(土) 15:53
>>4レス目、ちょっと誤字ありました。ゴメンナサイ。
×入ったんならとっとと
○来たならとっとと
です。慣れないものでスミマセン。
14 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/27(土) 16:07
面白い!!すごく楽しみです!!
15 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/27(土) 16:23
さゆえりのキャライメージは作者さんと逆だなぁ
16 名前:ティモ 投稿日:2003/09/27(土) 23:01
おお!6期メン主役ですな☆
めっさ期待してます♪
17 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/28(日) 10:04
すげー面白そう
天使の正体はあの人?とにかく期待!
18 名前:名無し 投稿日:2003/09/29(月) 03:55
>>14
初レスありがとうございます
頑張ります

>>15
そうでしょうか?というか、まだほとんどキャラ的な色は出してないのですが…
これからに期待ということで

>>16
ありがとうございます
6期メンバーが好きなので6期主役です

>>17
バレバレですね、あの人です
19 名前:名無し 投稿日:2003/09/29(月) 03:55
「えり、れいな、さゆみ。うん、3人ともなかなかいい名前だね」
天使が満足そうに呟き笑い、3人はそれぞれ自分に与えられた羽をボーっと見なおしていた。
命を与えられる前に、授けられた名。天使はそれが必然だと言った。
「あの、それで私たちはこれからどうすればいいんですか?」
えりが聞く。天使はそれを片手で軽く促し、まずは長い長い説明を始めた。

「さっきも言ったけど、人間は誰しもこの門を通るのよ。この門を通って生まれる事を決められた者だけが、
 人間の世界に旅立てるの。まぁ、巡り合わせって言うやつよね。
 そうして初めて命が与えられ、あんたたち人間はお母さんのお腹の中に宿る事ができるの。
 “生まれた”っていうのは、命が宿ったって事で、“産まれた”っていうのとは違うのよね。
 どう、わかる?わかんないかなぁ」
淡々と早口で天使は話を進め、気難しい表情をしている3人の少女たちをたまに見た。
20 名前:名無し 投稿日:2003/09/29(月) 03:56
少女たちはそれこそ、わかるようなわからないような…と言った感じで天使の話を聴いている。
「じゃあさ、こう言えばわかる?“運命”ってやつよ」
「アタシ、運命なんて信じてない」
れいなが気の強い口調で言う。それを聞いた天使はピクン、と眉をひそめた。
「まっ、生まれる前から信じないなんて面白いねぇ。
 きっとれいなは産まれたら、すごく個性的で気の強い子になるんだろうね」
天使の言葉を聞いたれいなは少し呆れた顔をして、そして黙った。
唇をとがらせて、天使を睨み付けていたけれど。
21 名前:名無し 投稿日:2003/09/29(月) 03:56
「でも、私たち、まだ生まれてないのにこうして人格ができあがってる…。
 それも、生まれる前から決まっているものなの?」
今度もえりが聞いた。天使は質問のたびに嬉しそうな顔をしている。
「まぁ、そういう事かもね。今あるアンタたちの人格こそ、本来の性格なんだよ。
 だけど性格なんて環境で変わっちゃうものだしさ。下手すれば180度逆の性格になるかも知れないね。
 本当にそこにあったものが、ちょっとした事で変わっちゃう」
「じゃあ、今は見えないけれど私たちの顔もそう?」
「そういう事、だからさ。もーーーっとわかり易く言えば、ここでできたものはあんたたちであってあんたたちじゃない。
 魂の存在っていうんだよ。魂は生まれてから持っているものだから、決して変わる事はない。
 魂の外身を形成するのは人間として産まれてからだけどね。
 例えば、紙があるよね。えりは四角形、れいなはハート型、さゆみは星型の紙だとするよ。
 元々の土台がまずそれぞれ違うでしょ。そしてそこに何を書き足していくかは自由だけど、
 何を描いても紙そのものが変わる訳じゃない。魂は変わらない」
天使がまたまたガーっと説明を続けた時、3人の頭はもうチンプンカンプンになっていた。
何を言っても解るようで解らない、そんな言葉ばかりで、一つとして答えは見えて来ない気がした。
「わかんないなら、それでよし。わかったところで大した事じゃないんだよ。
 要は、産まれてから何をするか、って事でしょ」
22 名前:名無し 投稿日:2003/09/29(月) 03:56
「はーい、何かちょっとわかったかも」
さゆみが手を挙げた。それまで天使の話を聞いているんだかいないんだか、
虚ろな視線を泳がせていたのだが、どうやらちゃんと聞いていたらしい。
「つまり、あの門をくぐれば産まれられるんだね!」
「……あんた、そんな勝ち誇った顔でそんな事わからないでも、最初からそう言ってるでしょ」
「私、早く自分の顔見てみたい!すごく可愛いかも知れないじゃない!ねっ、そう思わない?」
さゆみは隣にいたれいなの腕を掴んで同意を求めていた。
「…さゆみは、すごくとぼけた子になりそうだね」
さっき、自分の姿が何やら…と鋭い質問をしたのは、
ただ単に自分の顔が可愛いかどうかが気になってだけなのではないだろうか。
「ね、ね、そう思わないれいな!でも大丈夫、れいなもえりも可愛いから、私もきっと可愛い!」
何故か他の2人にも賛同を求めてるさゆみだったが、れいなもえりもあまり関心はなさそうだった。
「私たちって、仲良くなっても、産まれたら出逢えないのかな…」
ポツリと呟いたのはえりだった。
その言葉にれいなはまたも無関心そうで、さゆみは驚いた。
23 名前:名無し 投稿日:2003/09/29(月) 03:56
「まぁ、記憶はなくなっちゃうけどね。
 でも、同じ門に選ばれた人たちはきっと巡り合う事ができるよ。
 数千もある門の中でたった3人だけが、同じ時にここに集まったんだから。
 今のうちに仲良くしておけば?」
「えーっ!?産まれてもこのコと一緒ぉ!?」
れいながさゆみを見て本気で嫌がった。どうやらやたら馴れ合ってくるさゆみの態度が気に食わなかったらしい。
だけどさゆみはそれをどう思ったのか、輝かしい表情でれいなにくっ付いた。
「よろしくねっ、れいなぁ」
「くっつくな!」
「クスクス」
「そっち!笑うな!」
どうやら3人は、仲良くなれそうだった。
生まれるまでのたった少しの時間だけでも、友達になれそうだった。
天使も微笑んでそれを見ていたけれど、これから辛い現実が待っている事を告げなければならない。
心が少し痛んだ。

産まれる事が本当は、素晴らしい事であると同時に辛い事である事を、教えなければならなかった。
24 名前:名無し 投稿日:2003/09/29(月) 03:57
从*^ー^)
25 名前:名無し 投稿日:2003/09/29(月) 03:57
从 ´ ヮ`)☆
26 名前:名無し 投稿日:2003/09/29(月) 03:57
从*・ 。.・)<短くてごめんなさい
27 名前:リエット 投稿日:2003/09/29(月) 14:20
面白いです!
道重さんのうざかわいいところがまたいいw
28 名前:名無し読者 投稿日:2003/09/29(月) 15:23
面白いです。続きが気になる・・・。
更新期待。
29 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/01(水) 11:57
れなさゆですね!大好きです!!
更新も早そうなので期待して待ってます!!
30 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 13:38
>>27
どうもです。道重さん可愛いですよね。

>>28
マターリ待っていただけるとありがたいです。

>>29
れなさゆ…ではないかも?
更新は早くないと思います。

すごく短くなりそうな気がします。100レスくらいで終わっちゃうかも?
31 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 13:38
「そんで、これからウチらどうしたらいいの?」
口を開いたのはまたれいな。どうやらこの3人の中の主導権を握ったのは彼女のようだった。
えりは先ほどから曖昧な笑顔を浮かべたままだったし、さゆみはれいなにピッタリと寄り添っている。
天使は頭の後ろをわざとらしく掻きながら、薄ら笑いを浮かべて椅子に戻った。

「んー、あのさ。あんたたちに質問があるのよ」
「質問?」
「ん。これは、この門を通る人全員に聞く義務がある。そんで、これから話す事も全部。
 …あんたたちはそれを自分自身で決めなきゃ、いけないんだよね…。
 それができて初めて、あんたたちは門を通る事を許される」
白く細い腕が、背面に位置する2つの道を指す。
そもそも、何故道が2つあるのか。それが問題だという事に3人はまだ気づいていない。
天使も、とある片方の道を見るのが辛いほど、彼女たちにそちらの道を歩ませたくはなかった。
32 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 13:39
「あんたたち、どんな未来が待ってても…人間として産まれたい?」
金髪が揺れる。
吹きもしない一陣の風が、3人の間を駆りたてたように。
その言葉に、冷たい衝撃が込められていた。
「あの、どういう意味ですか?」
えりが聞くと、他の2人も同じようにして頷いた。
それは質問の意味が解らなかったのではなく、意図がわからなかったという意味だろう。
天使もそれを重々承知のようで、困った顔を3人に向けるしかなかった。
「意味としては、そのまんまだね」
「いや、そうじゃなくて、どうしてそんなこと言うんですか…?」
「……そりゃ、伝えたくない事もあるわけさ」
天使が遠くを見つめたのを見て、3人は不安げになった。

「希望ばっかりの人生じゃないって事なのよね」
天使はまず、そう切り出した。この始り方もそれと言って優しくはなかったが、
いきなり「辛い事ばかりが人生」といわれるよりは幾分もマシな気がした。
33 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 13:39
「あのさ、人間誰もが生を望むと思う?あ、思う?思うんならいいんだけど」
「でも、産まれるために集められたんなら、産まれたいけど…」
「同感」
「…わかった」
天使は神妙な表情で頷き、そして例の鏡に手をかざした。
天使が撫でるように鏡の前で掌を舞うと、鏡が反響して光を放ち始め、
放射能のように光が広まっていく。
次第に光はまぶしくて目が開けられないほどの明るさになって、3人を取り囲んだ。

「何っ…?」
「どういうことっ」
「眩しい…」
34 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 13:39
「運命を、信じてる?」
天使は振り返らない。
振りかえらないまま鏡に手をかざし、増大していく光を操った。
その声は穏やかで、だけどさきほどまでの気の抜けた声とは少し違う。
「この鏡はね、未来を映すの」
天使の言葉に呼応するように、鏡から放たれる光が強まったり収まったりする。
「未来はね、一つだけじゃない」
光が強くなった。
「だけど、用意された未来を避ける事は簡単じゃない」
光は弱まった。
「あんたたちに、試す度胸はある?」

風が流れる。
天使の身体を、えりを、れいなを、さゆみを包む暖かくて強い風。
吹いた風と光が融合し、3人は暖かい何かに包まれて目を閉じた。
35 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 13:39
「いってらっしゃい」
天使が目を閉じた。
鏡の中に吸い寄せられるように、3人は消えて行く。
「グッドラック」

天使が鏡を覗きこむと、鏡の中には3人の少女たちの姿が映し出されていた。
36 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 13:40
从*^ー^)
37 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 13:40
从 ´ ヮ`)☆
38 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 13:41
从*・ 。.・)<また短くてごめんなさい。
39 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 14:22
───えり。

───えり?

───えり!

「…誰?」
何かの声が自分を呼ぶ声だと悟り、えりは目を覚ました。
空は白かった。空と言わずに眼前全てが白く覆われている。
自分を覆う全てが、白い壁だったのだ。
そう、天使に導かれ"生まれた"時と同じように、えりは白い壁に囲まれていた。
でもさっきまでと明らかに違うのは、今は先ほどまでの記憶がきちんと残っている事。
すでに生まれた存在である事の証明だった。
40 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 14:22
とにかく目を覚まして体を起こしてみても、辺り一面が真っ白なだけ。
れいなも、さゆみの姿も見当たらない。
「れいな?…さゆみ?れいなーっ!さゆみーっ!」
最初は小さな声で、次第に大声をあげて2人を呼ぶにも、声は白い中に吸い込まれて行くだけで、
れいなにもさゆみにも届かずに消えて行く。
誰の返事もしないまま、えりは途方にくれた。
そうしていても仕方ないと気づき、とりあえず立ち上がって白い壁の中を探索し始める。
「鏡の中…?」
(そうだよ)
「えっ…!?て、天使さん?」
(そう。魂に呼びかけてるの。…って、まぁあんたは元々魂だけの存在だけど)
「お、教えて下さい。ここからどうしたらいいの?」

(運命って信じる?)
41 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 14:22
えりの頭の中で、天使の声がフラッシュバックし、それと同時に周りの風景が高速で“疾って”行く。
つまり、えりを中心にして、白い壁が通り過ぎて行くのだ。
「何これ…」
(目を閉じて。そう、ゆっくりと手を伸ばして)
天使の声だった。
「う、うん…」
えりは言われるがままに瞳を閉じると、身を委ねるように立ち尽くす。
光がえりを包み、緩やかなお湯の中に浸かるようなぬるい感覚が肌を伝うと、羽を纏うように体を浮かせていった。
(暖かい。さっきの光とおんなじ…)
(自分を感じて)
(自分を?)
(そう。自分の未来を感じるの。それを受け入れて)
頭の中が軽い。考えても考えても何も頭の中には浮かんではこなく、
ただ何かを考えようとすればするほど、頭の中が軽くなった。
(未来を?)
(頭が軽くなってきたでしょ。さぁ、目を開けてごらん。未来が見えてくるよ)
目を見開いた瞬間、えりは目を閉じた。
───つまり、目を開いた瞬間に意識を再び失ったのだった。
42 名前:名無し 投稿日:2003/10/04(土) 14:23
ごめんなさい、ここまででした。
スレ流しはめんどくさいんでしません。
43 名前:名無し娘。 投稿日:2003/10/07(火) 03:59
Good By! MY・・・?
44 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:37
>>43
えっと、意味がよくわからないんですが…。
「Goodbye! My Pride」の作者さんではありません。
話が似てるわけでもなさそうですが。
45 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:38
◇◇◇

───絵里───
46 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:38
「絵里、起きなさい」
母の呼ぶ声で絵里は目を覚ました。
目を覚ましてからもすぐに立ちあがって支度をする訳ではなく、しばらくベッドの中に潜ったまま、
時が過ぎて行くのをじっと待った。
けれど残酷にも時間は過ぎて行き、もう一度母の声がして結局起きるはめになる。
堪忍して起き上がるにも、それから足を動かして支度をする気には到底なれない。
だけどそうしているうちにまた母が来て、今度は叱られながら支度をする事になるに決まっている。
そうなる前に、きちんと起きあがって支度を始めた。
「お母さん、今日…学校休みたい」
「何を毎日毎日言ってるの。あなた、今年受験でしょう。
 中学から私立の高い学校に通わせてるんだから、ちゃんと進学してもらわなきゃ困るのよ」
無駄だとわかっていながらそう伝えたが、相手にされずにやっぱり支度を進める事になった。
母親は二言目にはお金お金。そればかりで、うんざりした。
47 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:38
(…中学なんか、公立で良かったのに)
絵里は心の中で呟いたが、実は絵里には近所の公立学校に行けない理由がある。
それは、小学校時代にいじめにあっていたせいで、地元の中学に通いたくなかったのだ。
いや、絵里自身は別に通っても仕方ないな…と思っていたのだが、母がそれを許さなかった。
当時受けていたカウンセラーにも、私立中学に進ませて環境を新しくした方が言われ、
裕福でもないのに高い私立の中学に絵里は通わせられた。
成績は悪くなく、むしろテスト前でなくても毎日勉強するくらいに真面目な子だから、
それに関しては何の問題もない。そもそも、絵里の現在通う中学は対して学力に力の入った学校でもない。

今、約3年の月日が流れて、私立の中学に通っていてもあまり立場は変わらなかった。
見た目が大人しそうなせいで、クラスメイトから嫌がらせを受ける毎日。
それでも強く物を言えないせいで、やられてもいつまでもやり返せない。
だから今日も、学校に行きたくなかった。
48 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:39
(学校…行きたくないな)
朝食のトーストも一口もかじる気にならなくて、憂鬱な朝に輪をかけた。
母親は食べなさいといったけれど、「ダイエットしてるから」と返しまた怒られそうになった。
結局、また言われるがままにトーストを1/4だけ食べて残し、席を立った。
校則で決められてるため、髪の毛は毎朝二つ縛りにしていかなければならない。
そうこうしているうちに家を出る時間が来てしまって、いつもと同じように家を出た。

11月も半ばの寒い空気が肌をさした。
「寒いなぁ…学校、行きたくないな…」
靴下のすそを伸ばしながら歩く絵里。
公立中学に通っている近所の友達と登校時間が違うため、会わない事だけが救いの通学路。
今日もまた、学校に行ったら悪口ばっかり言われるんだろう。
それが嫌なのに何も反論できずに、本を読みながら聴かないフリをするんだろう。
そんな空間にいることすら苦痛なのに…。
「はぁ、行きたく…ないな…」
そればっかりしか考えは浮かばないが、逃げ出せるほどの度胸もない。
またまた結局、学校について自分の席に座るしかなかったのだった。
49 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:39
「亀井さんおはよう」
「お、おはよう」
あまり親しくもない、クラスで割りと明るい女の子から挨拶をされても、
それが皮肉に聞えて気持ち良く挨拶は返せない。
静かに席をつくと、すぐ様、絵里の席に寄って来る人影があった。
絵里はその気配をすぐに感じ取ったが、それが嬉しい人でないせいで気は憂鬱になるばかりだった。
「亀井さんおはよう」
絵里の傍に寄ってきたのは、細見の体に小顔、それに眉毛が特徴的な少女と、
彼女に取り巻くようについている3人の少女たちだった。
「あ、う、うん…おはようございます…新垣、さん…」
愛想笑いを浮かべても、無理はバレバレ。新垣は太く立派な眉をひそめた。
50 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:39
「まぁ、いいけど。今日も地味な髪型だねー。さすが貧乏人だよねー。
 ねぇねぇ、見てよこれ。昨日パパに買ってもらっちゃったんだけどさ。
 ちょっとパパに、里沙これ欲しい〜って言ったらさぁ、こんなくだらないものでいいのか?って言われちゃったんだけどぉ。
 いくらすると思う?当ててみてよ。ま、貧乏人の亀井さんじゃ一生かかっても買えないと思うけど」
新垣はそう言いながら、指にはめた指輪を絵里に見せびらかした。
後ろにくっついている少女たちは「すごぉい」とか「さすが里沙ちゃん」とか口々に言っている。
この、金持ちのお嬢様が絵里は大嫌いだ。
何かにつけて絵里をバカにし、貧乏人貧乏人と罵ってくる。
金魚のフンみたいに自分を取り巻く少女たちを引き連れて。
もっとも、このお嬢様なら、たった一人でも絵里を罵倒しに来るのだろうが。

51 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:40
「え、えっと、一万円…くらいかな?」
絵里が苦笑いを浮かべて、鼻から予想する気もない値段を答えた。
すると里沙はとっさに驚きの表情を作りあげ、「うっそーありえなーい」と悲鳴をあげてみせた。
そして指輪を絵里の至近距離、1cmほどのところまでわざわざ近づけると、
「いちまん!?いちまんだって!皆聞いた!?いちまん!!」
と、ひときわ大きな高笑いをあげて絵里をけなした。
「やだ〜。亀井さん冗談うまいんだからぁ。一万の指輪なんて、里沙さんがもってる訳ないじゃない」
「もし一万円の指輪なんかつけてたら、指が腐っちゃいますよねぇ里沙さん」
取り巻きの女たちがドッと笑った後で、里沙が“わざわざ”指輪をチラチラさせて、
“わざわざ”絵里の耳元でその値段を教えてくれた。…いや、くださった。
「この指輪、100万よ。安物でしょ」
必死に笑いを堪え、軽々と100万の金額を言いのけた彼女を、絵里はあわよくばバチでもあたらないかと願った。
全世界の不幸な人が彼女の周りを取り巻いて、その指輪を巡って一斉に殺し合いして欲しいくらいの。
52 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:40
(100万円の指輪なんか買う暇があったら、その性格直したら?)
心の中でそう吐きかけても、口に出して言えないのが彼女の弱みだった。
「それにしても、皆聞いた!?いちまんって!」
「聞きました聞きました。いちまんですって!」
絵里には愛想笑いを浮かべ、ただ時が過ぎるのを待つしかできなかった。
(バカみたい)
ホント、バカみたい。

新垣たちが退散しても散々で、ほとんど仲の良い友達のいない絵里はやっぱり孤独になった。
ご飯を食べるのも一人、授業で班を作るのも一人、休み時間もずっと一人。
とにかく何をするのも一人ぼっちで過ごした。

悲しくない、私は一人でも大丈夫と言えるほど、大人でも強くもない。
だけどそれ以上に人と関わり合う事が苦手すぎた。
里沙のような悪意があって自分に近づく者も、無関心で自分に接する者も、好意を持ってくれる者も全部同じ。
絵里自身が他人に対して心を開けないせいなのだが…。
53 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:40
親にも、未だにこうしていじめにあっている事はいえない。
凄く怒られるか、悲しまれるかのどっちかだろう。
裕福ではない家庭に生まれ、父は平凡なサラリーマン。母は昼間にパートで共働き。
家に帰ってもひとりぼっち。そんな寂しい環境では、絵里が活発になれるはずもなかった。
だから絵里は、今までもこれからもひっそり生きて行く事を誓った。
目立たなくていい。いつも壁の隅から人を見てるような、そんな自分でいい。
だから誰にも構われたくない。
そんな歪んだ心を生み出して、しまっていた。
54 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:40
学校が終わって、誰にも挨拶をしないままとぼとぼ歩き、家に着いた。
リビングのソファに腰をかけながら、温かいココアを入れてくつろぐと、その時こそ生きた心地がした。
(やっぱり、一人でいる時が一番好きだな…)
一人で生きて行くのはつらいけれど、一人の時間は好きだ。
誰にも干渉されないし、気分を害す事も害される事もない。
ココアをすすりながら、優雅にクラシックを聴いたりするのが少しセレブな感じがする。
セレブというと、あの新垣里沙の指輪の件を思い出して少し憂鬱になったりもするが、
こんな簡単な気持ちでセレブになれるのだから、新垣なんて大した事ないと思えた。
(何が100万円の指輪よ。ただの無駄づかいじゃない)
ピアノを小さい頃習ってた事もあるため、クラシックはなかなか好き。
流行りの音楽はあまり聴かなくて、カラオケなんかにも行った事がない。
ココアは好きだけど、コーヒーは飲めないし、紅茶もあまり好きではない。
絵里にだって、好き嫌いはあるのだ。
壁のように生きていたって、好き嫌いはある。一人の人間だ。
自分にしっかりとした意見が、小さいながらもある事。
絵里はまだそれを知らずにいる。

いつのまにか、ソファに横たわって絵里は眠ってしまっていた。
クラシックの音楽につつまれながら、ゆったりと流れるように。
そして夢の中へ優しく導かれるように。
55 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:40
───
──


夢を、見ている。
もしかしたら、天国といわれるところはこんなところなのかも知れない。
白い空間に覆われて、まばゆい光に包まれた世界。
殺風景なのに、とても温かい風景。
懐かしい空気が呼んでいるような気がする。
(どこへ、行ったらいい?)
夢の中でえりは、確かにそう聞いた。
その問いに答えるように、「未来へ」とも聴こえた。

夢の中なのに、確かな感覚。
えりが腕を伸ばすと、目の前には絵里より少し背の低い少女が待っていて、
気の強そうな笑顔で笑っていた。

「おせぇよ」
「れいな」
えりが微笑んだ時、景色が変わって“れいな”が目を覚ました。
56 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:41
从*・ 。.・)
57 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:41
从 `,_っ´)
58 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:42
从*^ー^)<スレ流しするのは2chブラウザ使ってない人のためですよー。
59 名前:名無し 投稿日:2003/10/07(火) 19:43
( ・e・)<スレじゃなくてレス流しだニィ!
60 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/08(水) 00:06
うわー!新垣嫌な人すぎる!!
面白いですねぇ〜期待期待期待!!です!!
61 名前:リエット 投稿日:2003/10/08(水) 00:51
更新お疲れ様です!
次は田中さんですか…。
田中さんはどんなことに巻き込まれるんだろう…。
62 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:33
◇◇◇

───れいな───
63 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:34
「あぁ?」
間抜けな声をあげて、田中麗奈は目を開けて飛びあがった。
「??」
見ると不思議そうな顔をして、彼女の先輩が麗奈の顔を覗きこんだ。
「何があぁ、なの。それともなに、怖い夢見たの?」
先輩はニタニタと笑って麗奈を冷やかしたが、当の麗奈はそれどころでなく
ボーっとする頭の中から、夢の記憶を懸命に引き出そうとしていた。
「…なんだろう。大事な夢だった気がすんですけど」
思い出そうとしても結局思い出せず、頭が痛くなりそうだったので考えるのを止めた。
頭を上げて周りを見渡し、そこが自分の部屋でない事をようやく思い出した。
「あ…そっか、ここ…」
「何寝ぼけてんの?家出少女のくせに」
ボーっとしたままの頭を抱えて、自分が寝ていたソファベッドから起き上がる。
部屋の主がクスクス笑って麗奈を見下ろしていた。
田舎街の1LDKの小さな安アパート。少女の1人暮らしの押し掛け。
要は麗奈は、居候だった。
64 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:34
「目覚めたら、洗濯しちゃってよ。それが条件って言ったからね」
「わかってますよー…もーっ」
まだ重い頭を何とか活発にさせようと、空気を思いきり吸いこんだ。
幾分、目は覚めてきたがまだ眠い。
それもそのはず、時計をチェックすれば、昨晩寝てからまだ4時間程度しか経っていないのだから。
昨晩の喧騒から、まだそれほど刻が経っていない事が気にくわず、
ついついとドアに伸ばした手も乱暴になってしまった。
「狭い家でドタバタすんな」
ピシャリと指示した家主はといえば、今日の仕事の支度を始めており、丁寧に髪を梳かしているところだ。
短いながらも綺麗にまとまった髪に、端整で小柄、美しさと可愛らしさを秘めた顔。
胸はもう少し欲しいところだが、スタイルは抜群に良い。特にスレンダーなウェストに麗奈も憧れる。
藤本美貴、18歳。麗奈の先輩に当たる彼女は、これでも社会人1年生だ。
麗奈が今14歳だから、学年的には5つ年上なのだが、美貴は早生まれなので年齢は4つの差になる。
65 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:34
この先輩の家に、麗奈は昨晩から居候させてもらうことになった。
それがいつまで続くかは、わからないのだが。
(多分、そんなに長くないんだろーけど)
麗奈はそう思っている。というのも、ここに家出して来たのが一度や二度ではないからだ。
その度に厄介になり、美貴は何食わぬ顔で「掃除と洗濯と食事、任せた」とだけサッパリ言い放つ。
その日のうちか翌日には、頭も冷めて家に帰る事にする…のが、今までは多かった。
だけど今回だけは何が何でも家には帰らないつもりだ。
いや、家だけじゃない。もう学校にも行かないし、どこへも行くつもりはない。
66 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:35
「いててて…ったく」
頬のあちこちに貼った大きなバンソウコウ。血が滲んでいてみっともない。
それを一枚一枚丁寧に剥がしながら、新しいものに張り替えて行く。
その姿は自分で見てあざ笑ってしまうほど滑稽なもので、同時に怒りともどかしさと切なさも込み上げる。
「ちっくしょー…」
14歳の少女が使うべきではない、乱暴な言葉遣い。
それもその怪我を見れば、何となく納得できてしまうだろう。
これは喧嘩の傷。そしてそれは切り傷であり、殴られてできた傷ではない。
つまり、麗奈は昨晩のうちに何者かと喧嘩をして傷つけられ、美貴の家に転がりこんできたという訳だったのだ。
67 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:35
洗濯機に美貴の服やらを乱暴にポンポン投げ込んでいると、
美貴が遠くから声をかけてきた。
「麗奈、ミキ仕事行くけど…できれば今日は一日家にいなさいよね。
 あんた、外出ると何やらかすかわかんないからさ」
「わかってますよぉ…」
「あ、でも学校はちゃんと行きなさいよー。中卒なんて恥ずかしいよ」
「えーっ…嫌ですよ。学校行ったら親に連絡されるし…」
「あんたんちの親が学校に連絡なんてすると思ってんの?」
「…まぁ、そりゃそうだけど…」
かなり麗奈の親に対して失礼な美貴の言葉も、麗奈は素直に受けとめた。
それもそうだ、その親が原因で今のこんなくだらない生活になってしまったんだし。
「じゃ、洗濯終わったら学校行くコト。オーケー?」
「はいはいはいはい。行ってらっしゃい」
そう言ったあと、ポツリと小声で「ったく、さっさと行けってんだよ」と悪態ついてやった。
「な・ん・だ・と?」
「うあっ…」
それがどうやら聞こえていたらしく、思いっきり牽制されてから、
ようやく美貴は家を出て行った。怒らせるのが怖いので、早急に見送り出してあげた。
「ふー…」
大きなため息をついてようやく、麗奈は学校へ行く事に決めた。
行くのはめんどうだが、行かないと知れた時の美貴がそれよりも怖いせいだ。

「…行くかぁ」
洗濯物を干し、朝食を取り身支度を整え、正午を過ぎる頃にようやく学校へ向かったのだった。
68 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:35
◇◇◇

「あーっ、麗奈きた!」
「おはよ」
「おはよ、じゃないよー麗奈。もうお昼過ぎてるよー」
教室の戸を開けると、丁度給食の配膳をしている頃で、教室中がわいわいと活気に包まれていた。
麗奈がそーっと自分の席につこうとすると、グループの少女たちに囲まれる。
5人の少女が麗奈を取り囲み、いつものようにワイワイガヤガヤと麗奈を中心に盛り上がってくれた。
誰も傷の事には触れてこなくて、麗奈は少し安心した。
「麗奈ちゃん麗奈ちゃん」
「あん?」
「先生がね、麗奈ちゃんの事探してたの」
「あそー。まぁなんとかなるっしょ。怖くない怖くない」
担任に見つかれば、きっとまた遅刻と頬の怪我についてあれこれ言われるのだろうが、
とりあえず「自転車で転んだんで、病院に行きました」とでも言っておけばいいだろう。
どうせ親に連絡されても、親は何も言ってこないし、言えないだろうから。
69 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:36
学校は好きだった。友達がいるし、家にいる時より楽になれた。
けれどそれ以上の何もなく、決して満たされる事がない。
それよりも、街へ出てそこらをたむろしてる悪い顔見知りたちとつるんでいる方が楽しかった。
こんな風に怪我をしたり、家出をしたりも日常茶飯事で、それを嫌だと思う事もある。
それでも今はそれを受け入れる事が、生きている理由に感じた。

昼休みになり、麗奈は先程と同じように輪の中心になって騒いだ。
私立の女子中学は規律には厳しいが、麗奈はそれを物ともせず、
マイペースに周りを巻きこんで、明るく振舞い続ける。
そんな彼女の魅力に、周りの者も惹かれていった。
今日も机の上に立って、掃除用具のホウキをマイクにして、オンステージだ。
「麗奈ーっ!」
「麗奈ちゃん素敵ーっ!」
と、友人たちもノリにノッて麗奈を褒め称えると、調子にのってまたテンションがあがっていく。
こんな様子を教師に発見されればまた指導を受けるが、発見されるまではこのままでいるだろう。
「みんなーっ、今日は麗奈のために集まってくれてありがとーっ」
なんてアイドルみたいに手を振ると、友人たちから歓声があがった。
更に調子に乗って、また次の曲を歌おうとした…その時だ。
70 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:36
「静かにして」

騒音を縫うようにして、冷たい声がハッキリと聞こえた。
それが耳に入った瞬間、麗奈は機嫌が悪くなったように思いきり声の主を睨みつける。
視線の先には昼休みだというのに参考書を広げ、勉強をしている少女の姿があった。

「あぁ?」
机上から麗奈がハッパをかけても少女は気にもせず、
数学の参考書に視線を落としながら、面倒くさそうに呟く。
「集中できないから静かにして、って言ったんだけど」
「ハァ?昼休みに勉強してんじゃねーよ」
麗奈は机から飛び降りて、ただその様子を怯えながら見守っている取り巻きの友人たちの間をすり抜けた。
怒りで肩が震えるのが、自分でも解る。
だけど、ここで怒りを爆発させるべきではないのも解っていた。
「おまえ、自分が勉強できるからって調子こいてんじゃねーよ」
「……」
麗奈のその言葉に少女はピクリとも反応せず、数学の問題を解く手が止まる事はない。
71 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:36
「勉強勉強って、勉強できれば人に指図してもいいのか?え?」
見下す麗奈を、少女がはじめて見た。
麗奈にしてみれば少し冷やかすつもりだったが、そういう訳にもいかなかった。
「バカじゃない?」
「てめぇっ…」
当然、麗奈はその言葉に激怒した。少女の机をガン、と蹴り上げ、更に参考書も手で払ってやった。
少女はそれを冷静に片付けると、また椅子に座りなおして上目遣いで麗奈を蔑んだ。
「そういうのがバカだって言うのよ」
今度こそブチ切れた麗奈は、無言で少女の胸倉を掴みつけると、鬼のような眼光で少女を睨んだ。
「死ねよてめぇ」
「……」
「お前みたいに勉強しかできねーやつの方がバカだ」
「違う。私は利口だから。あなたとは違う」
「一緒にされたくないし」
「私だって」
2人はいがみ合うと、そのまま麗奈は踵を返して少女から離れた。
72 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:36
ムカつきが抑えきれずに周りの机を蹴飛ばしたりもしたが、そんなことで苛立ちは抑えられない。
友人たちはオドオドしたまま彼女の後をつけてこようとしていたが、「ついてくんな!!」と一喝して追い払った。
(あぁぁぁ…マジムカつく)
とにかくムカついたまま、麗奈は鞄を乱暴に掴みとって教室を後にした。
少女たちがまだ何か言いたさげだったが、物とも言わせない勢いだ。

あのガリ勉少女と言い争いになるのは、これが初めてではない。
中2で同じクラスになってから、何度も何度も言い争いになっている。
どちらともなく何もかも気に食わず、共存する事ができないくらいの仲の悪さだった。
「あああ、ムカつく」
結局その日はそのまま美貴の部屋に帰宅し、バンソウコウを張り替えて寝た。
73 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:36

───
──


(あ、またこの感じ)
夢であるはずなのに、感覚を覚えている。
それが現実であるのか、はたまた夢は夢なのか。
(どっちも、だね)

白い壁が一面を取り囲んでいた。
見た事あるこの景色。誰かから受け取った、未来行きの切符。
(ここから始まるんだね)
誰にでもない。ただ心の中でそう問いかけると、白い壁の丁度中央の辺りに触れてみた。
れいなが手を伸ばすと、思ったとおりにそこに人影がうっすらと現れる。
やがて白い壁が光を放ち、れいなの瞳の中に、人影が鮮明に映し出された。

「待ってたよー」
「なんでお前なんだよ…」
「次は私の番だもん」
74 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:37
光の中に現れた少女───麗奈が口論したあの少女───がれいなの手を取ると、
そこからまた現実の世界が始まっていった。

「行ってらっしゃい。さゆみ」
「うん。行ってくる」

3番目の少女はそうして、目を覚ました。
本当の自分とは、少し違う“自分”で───
75 名前:名無し 投稿日:2003/10/22(水) 03:37
更新遅れました。申し訳ないです。
从*・ 。.・)<ゴメンネ!
76 名前:リエット 投稿日:2003/10/23(木) 01:49
更新お疲れ様です!
次はさゆみですね〜。
「少し違う」彼女は一体どんななんだろう…。
77 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:56
◇◇◇

───さゆみ───
78 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:56
「…ん…寝てしまったのね…」
頭が少しクラクラするのは、机に突っ伏して眠ってしまったからだろう。
参考書は相変わらず開いたままだ。
「さっきの夢…田中さん?」
ハッキリ覚えていないが、記憶の糸を辿ると確かに夢の中にあの田中麗奈がいた気がする。
そして自分と仲が良さそうに笑いあっていた。
あんなに楽しそうな自分は、初めてみた気がした。
「…楽しそうな自分…」
さゆみはそう呟き、腕を伸ばして深呼吸すると、再び参考書に目を落としていた。
79 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:56
◇◇◇

さゆみは今日、激しい喧嘩をした。
もう皆さん薄々お気づきだと思うが、彼女こそ田中麗奈と口論したあのガリ勉少女である。
見た目は大人しそうで、柔らかい印象を受けるが中身は180度違った。
ものすごーく勤勉でキツくて、固い人だったのだ。

麗奈と昼休みに口論になってから、さゆみは機嫌が悪かった。
いつもならすらすら解ける数学の問題が、いつもの2/3しか解けなかった。
頭がちっとも冷静に働かず、イライラしながら迎えの車の中でも落ちつかない。
「人間のクズだわ」
頭の中に蘇ってくる麗奈の顔にそう吐き捨てた。
それを聞いた迎えの運転手は驚いたが、さゆみは気にせずいつまでもブツブツと呟いていた。
そもそも、私立の女子中学にあんな不届きな者がいる事自体が許せない。
そしてそれを信仰するように取り巻く馬鹿女たちも。
全てを愚弄したい気分だった。
80 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:56
“道重”と書かれた表札と、数メートルはある塀に、大きな門。
明らかにその付近の家よりは遥かに大きいこの家こそが、道重さゆみの暮らす家である。
というのも、道重家はこの変一帯も有名な地主の家系であり、
道重の家自体も日本屋敷というような、立派な家なのであった。

「お母様、今帰りました」
「ええ、さゆみさん。お帰りなさい。
 あさ美さんがいらしてますのよ」
「…あさ美姉さんが?」
「ええ。奥に通しておりますので、急いで顔を見せて差し上げなさい」
「…はい」
それだけ言うと母は早急に去ってしまい、さゆみは居間に取り残された。
せっかく来てくれたあさ美に挨拶をしない訳にもならない。
仕方なくさゆみは部屋を出、あさ美の待つ部屋へと向かった。
81 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:57
「さゆちゃん」
あさ美は奥の部屋でテレビを見ながら、高級煎餅をかじっていた所だった。
「…こんにちわ」
無愛想にさゆみがそう言うと、あさ美は笑顔に疑問を混じらせる。
煎餅はかじったままだったが。
「久しぶり、学校はどう?」
2つ年上のこの従姉妹の少女と会うのは、2ヶ月ぶりくらいだ。
それほど遠いところに住んでいる訳でもないのだが、彼女は全寮制の女子高に通っている。
県内でもトップクラスの私立の高校だ。
あさ美は見た目は大人しそうでゆったりしていそうだが、こう見えて学年トップクラスの成績を誇っている。
「…別に、どうも…」
「そうなんだー。あ、私ねっ、こないだ…」
嬉しそうに話題を変えようとするあさ美の声を、申し訳なさそうにさゆみが遮った。
「あの、私勉強あるし」
それを聞いてあさ美は当然むくれた。
煎餅を食べる手も、やっと止まった。
「えー?ちょっと、もう少しだけ話そうよ、ね?」
「いや、でも…今日遅れた分やりたいし」
「むー…でも私、もうすぐ帰るよ?」
「でも、もうこんな時間だし…姉さんとはいつでも会えるし…」
「むぅ…」
どちらも1歩も引かず主張したが、あさ美が結局折れる事にした。
82 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:57
「さゆちゃん、変わったね」
退室しようとするさゆみの背に、あさ美が呟き掛けた。
さゆみはそれに釣られて足を止め、振り向かないまま疑問で返す。
「…何が?」
煎餅を持つ手はまたまた活発になるが、だけどシリアスだ。
あさ美は思い出すように、さゆみの肩に語りかけていた。
「昔はさ、もっとこう…可愛かったよね」
「私は今でも可愛いよ」
こればかりはさゆみも真剣だ。
彼女は真面目で頑固でガリ勉だったが、自分のルックスに揺るがない自信を持っている。
“可愛い”の意味はそういう意図で使われたのではないのだが、ハッキリそういう意味で答えた。
変なところで抜けているのである。
「ほらぁ、そういうところとか…」
あさ美からしてみれば、そうして少し抜けているところに、昔の彼女を映し出して見えた。
「昔のさゆちゃんはさ、もっとこう…ほんわかしててさ。
 喋り方も今みたいにキッチリしてなかったし、舌足らずで“おねぇちゃん”って…」
83 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:57
「………」
さゆみは相槌を一つもいれなかったが、あさ美はそれでも続けた。
煎餅を手にしながら。
「何でそんなになっちゃったの?無理してるんでしょ、本当は?」
「…別に、無理なんか…」
「勉強なんか、そんなに続けて何になるのかな。
 私を目指して勉強だけ続けたって、意味ないよ?」
「……」
「さゆちゃん??」
「私は姉さんみたいになりたかっただけだもん!!」
さゆみは大声でそう叫んで、とうとうあさ美の前から去った。
取り残されたあさ美はというと、煎餅を手にして昔のことを思い返すだけだった。

あさ美の記憶の中のさゆみは、今よりもっとよく笑う子だった。
家柄の割には自主的に勉強なんてほとんどしてなかったし、
習い事などどれをやらしても巧くできた試しがない。
おねぇちゃん、と舌足らずな喋り方であさ美にもよくなついていたものだ。
お習字もお華もできなくて、あさ美に抱き着いてよく泣いていた。
そのたびにあさ美が、たった2つしか変わらない小さな“妹”をあやして、
一生懸命成功するように諭したのを思い出す。
84 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:57
それがいつからか、気づいたら現状のようなさゆみになっていた。
そしてその責任の一端が、自分にあったという事を、つい最近知った。

それというのも、一族の間でも特によくできた娘であったあさ美は、
さゆみにとって親類から比較の対照にされる事が多かったのである。
何でもこなすあさ美と、何もできないさゆみ。
そんな彼女を裏で中傷する親族も、少なくなかった。
道重の本家に産まれながら、甘やかされ育った子とレッテルを貼られるようになった。
だからこそ、彼女の両親はまずあさ美を尊敬するように仕向け、
自発的にさゆみが“できる子”になる事を望んだ…はずだったのだが。
逆にそれがコンプレックスとなり、さゆみとあさ美の間には溝ができ、
更にさゆみはそれに負けじと、勉強ばかりに集中するようになり悪循環で今のようになってしまった。

「全部、環境が悪い」
あさ美はとうとう煎餅の袋が空になったのを確認し、それから帰宅の準備を始めた。
何のために来たのかわからなくなってしまったが、まぁいいだろう。
「お煎餅食べにまた来なきゃ」

85 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:58
◇◇◇

翌日、さゆみは何の躊躇いもなくきちんと学校へ行った。
当然だ。あんな喧騒くらいで学校へ行かないなんて、子供のする事だ。
少なくともさゆみは自分を子供だとは認識していないので、それが当然の行為になる。
そして、当の田中麗奈は当然のように欠席だった。
まぁ、昨日のように遅刻して来るかも知れないが。元々遅刻常習犯ではあるし。

誰にも挨拶などする事なく、静かに自分の席に着く。
独特の近寄りがたいオーラを発しているせいか、誰も彼女には近寄らなかった。
(どーせ、私なんか)
不思議とそう思う事もあるが、それよりも勉強する事の方が大事。
今日も彼女は参考書を開いて、ただそれだけを片付けていった。

そうして、1日を過ごした。
勉強ばかりするだけで、他にはする事もなく。
学校にいる時間も自分の学力を伸ばすためだけの利用時間で、
授業よりはむしろ、休み時間の自主学習の方が集中している。
それ以外の時は鏡を覗いて自分の可愛らしさを密かに研究したりもするが、
それよりもやっぱり勉強に時間を費やす方が多かった。
多分、食事と睡眠以外の時はいつも頭をフルに動かしているのではないだろうか。
このスタイルを、さゆみ自身当面変えるつもりはないし、変えてもどうにもならないと思っている。
もうすでに、彼女から勉強を取っても何も残らない物になっていた。
86 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:58
───

「亀井さん、あんたさ、里沙に掃除なんてさせる気?このお嬢様の里沙が?」
「ご、ごめん…。でも、お当番は新垣さんだから…」

そんな会話に出くわした。
放課後、調べ物をしたくて、図書室に向かう廊下で。
さゆみには、その彼女に見覚えがある。
少し霞んだ低い声。声変わりする前の少年のような声。
声だけでなく、アクの強い濃い顔立ちに、何と言ってもあの立派な眉毛。
…できれば、あまり関わりたくない人材だ。
どうやら同じクラスの少女に、掃除当番を押し付けているようだった。
87 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:58
「掃除当番くらい、やりなさいよ」
彼女の背後から、皮肉っぽく言ってやった。
それに気づいた彼女は、一瞬「なんだとー!?」と言いながら振り向いたが、
すぐに勝ち誇った顔をして見せた。ものすごく生意気そうな顔で。
「学校で見るなんて久しぶりー。元気だった?」
「それなりに。あなたほどじゃないですけど!」
すぐに立ち去りたい一心を押さえ、これも皮肉に返してやった。
だいたい、話しかけたのはこっちだ。ここで立ち去ればさゆみの負けになる。
里沙も里沙で余裕の表情を浮かべ、更に皮肉の3倍返しだ。
「相変わらず勉強ー?そんなに勉強ばっかしてるから陰気くさいんだよ」
「私は可愛いけど」
「ふん。アンタんちなんか、ウチのパパがすぐつぶしてやるんだから。
 だってウチの方がお金持ちなんだからね!」
「それは私には関係ないし。あなたもう中学3年生でしょう?
 そろそろ勉強なさらないと、新垣グループの名が泣きますわよ」
ご存知、大金持ちで有名な新垣グループ一人娘、新垣里沙。
ここでもしっかりその性悪の悪さを見せつけてくれている。
88 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:58
「くーっ。うるさいうるさい!私んちはお金持ちなんだからっ、それだけで偉いのよ!」
それだけ言うと、先に話しかけてきた彼女は一目散に退散した。
昔から、里沙はどこかさゆみを目の敵にしてきた。
片や地元の有名な地主の家系で、片や日本屈指のグループの令嬢…。
勝負する意味があるのかは知らないが、ともかく里沙はさゆみをライバル視するのだ。
そればかりは、里沙の心内しかわからないが。
「なんだったのかしら」
だから、それは誰にもわからない。里沙以外。

「あの、ゴメンなさい。ありがとう…」
里沙に掃除当番を押しつけられていた少女───亀井絵里───が、
箒を右手に握り締め、深々と頭を下げる。
さゆみはというと、ピクンと片眉を跳ね上げ、憎たらしく言ってやった。
「何でありがとうなの?あの人、さっさと逃げたけど」
「う、ううん。えっと…なんでもないんです。ごめんなさい」
絵里はそれだけ言うと、やはり箒を握りしめたまま、小走りで教室の中へ入って行った。
「…暗い人…」
絵里の去った廊下と、入っていった教室の戸を眺めて、ポツリとさゆみは呟いた。
そしてそれに付け加えるように、「顔はまぁまぁ可愛いのに。…私ほどじゃないけど」とも言い、
そうしてようやく本来の目的通りに図書室へと向かう事ができたのであった。
89 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:59
───

その夜、さゆみは不思議な夢を見た。
亀井絵里と田中麗奈の2人が何故かさゆみと一緒にいた。
その傍には、白い羽を生やした金髪の少女もいた。

笑っている。楽しそうに。
絵里も、麗奈も、さゆみも、そして天使も。
希望に満ち溢れたその笑顔。
穢れのない、純白の空間。

そう、知っている。
この刻を。

その刻のために、これから始まる事を。

「これで、全員だね」
そんな言葉が、聞こえた気がした。
90 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 04:59
前回の更新があいたので、少し早めに更新してみました。
こんなのさゆみんじゃねぇー!って人、ごめんなさい。
91 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 05:03
急いで書いたから文章が変なとこが多々ありますね。
読みにくくてごめんなさい。
92 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 05:07
>>88
×先に話しかけてきた

はい、読めばわかると思いますが先に話してません。間違いです。
93 名前:リエット 投稿日:2003/10/24(金) 22:28
道重さんの設定そうきましたか!
これで一周しましたね。
このままじゃ終わらないような……。
94 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/25(土) 15:52
道重のキャラ、驚きました
でも、各編のリンクが出てきていい感じになってます!
作者さんのペースで頑張って下さい
95 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/10(月) 16:55
待ってますよ〜!(汗)
96 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/22(土) 01:56
案内板にも書きましたが、報告くらいしてくれると嬉しいです。
更新待ってます。
97 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/22(土) 10:38
案内板でパクり疑惑出てるけどどうなんですか?
98 名前:作者 投稿日:2003/11/22(土) 22:09
おろ。更新しようと思って覗いたらパクリ疑惑が…。
えーと、悪いんですけどパクリじゃないです_| ̄|○
案内板読みましたけど、グッドマイフレンズっていう小説も知らないし…。
>>43の意味が今わかりました)

とりあえずパクリじゃないんで、叩かないで頂けるとありがたいです…。
99 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/23(日) 13:31
パクリとか私は思いません。
作者さん頑張って!

それより・・・。
>更新しようと思って覗いたら
待ってるんですけど。
100 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 19:22
>>99
すんませんね、昨日はスポフェス後で疲れてたんでそのまま寝てました。
更新遅れて申し訳、です。
101 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 19:22
◇◇◇

「おい」
「え…っ?」
亀井絵里は突然、背後から声をかけられて飛びあがった。
いつもの憂鬱な通学路の途中で、である。
もうすぐ学校につく少し手前、絵里しか通っていないような人通りのない裏道。
そんなところで突然、声をかけられた。
その口調が穏やかでない事くらいすぐに解る。
振り返るか否か少し迷った末、もう一度背後から「おい、お前だよ」とかけられて、
無視できずに仕方なく振りかえった。
「は、はい?」
見ると、目前に金髪でいかにも不良です、という感じの少女が3人ほど構えている。
驚いて猛ダッシュで逃げたくなる気持ちを抑える。
「逃げたらきっと、無抵抗でも乱暴される」、と直感で悟ったからだ。
絵里が引き気味に答えると、少女たちは思いきり険悪そうな顔をしてみせた。
「お前、あそこのお嬢様中学の生徒だよな」
「え、えっ、あ、は、はい…そ、そうです…」
もはや言葉一つまともに言えぬ、蛇に睨まれた蛙状態。
しどろもどろな絵里の返答に、少女たちは続けた。
102 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 19:23
「何年?」
「えっ、えっ?私?」
「てめーしかいねーだろーがボケ!ブッ殺すぞ!?」
「ごっ、ごめんなさい……わ、わた、わたし、3年ですっ、3年A組、亀井絵里ですっ」
ついつい気が動転して、自分のクラスと自己紹介をしっかりしてしまった。
少女たちはそんな事、当然気にしなかったが、一瞬我に帰ってみるとだいぶ恥ずかしい。
しかもこの少女たちに顔と名前を覚えられてしまったではないか。
(ど、どうしようっ…)
「3年かよ…どーする?」
「いいんじゃん?聞いてみなよ」
少女たちは絵里の葛藤をよそに、何事かの相談を始めてしまっていた。
(ああ、私きっとヤンキーにスカウトされて暴走族とかに入っちゃうんだ。
 そうなったら一番に、あの新垣里沙を単車でひいてやるわ。…ガクガクブルブル)
「おい」
「はっ、はいっ!!!!」
妄想の中で新垣を引きそうになったところで、現実に戻された。
「2年に、タナカレイナっていうのがいるだろ。そいつ、ちょっと呼んでこい」
「…え、っ…」
「行けよ早く!2年の田中麗奈だよっ!早くしねーとてめぇここで…」
「は、はいっ、今すぐっ今すぐ行きますっ!!」
絵里は彼女の言葉が終わる前に、すっ飛んで学校へ向かった。
103 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 19:23
2年のタナカレイナ、なんて知らない。
そもそも部活に入ってるわけじゃないし、後輩もいない絵里が知るはずもない。
なのに何組かもわからないその少女を、今すぐに呼んでこないといけないなんて…。
あんな裏道通ったのが間違いだった。

絵里は急いで制服のスカートを翻して走る。
校門を潜ったら2年生の昇降口のあたりをうろうろし、ゲタ箱の一つ一つを見て回った。
「田中…田中…」
何しろ全部で9クラスもあるわけで、それを片っ端から見て回るのは困難。
まだ他の生徒たちの登校前のかなり早い時間であったことが救いだが、
そもそも、こんな時間にきちんと登校しているような生徒が、あんな暴走族風の少女たちに追われるだろうか?
きっとタナカレイナはあんな少女たちと同類の不良少女に違いない。
(タナカレイナのバカァ!)
「ない、ないよぉ…どこのクラスなのよぉ…」
半分以上泣きそう…というより、もう泣いたような声で絵里は必死にゲタ箱を見て回った。
ちらほらと生徒たちが登校しはじめて、奇妙な行動を取っている絵里を不思議そうに見ている。
それも恥ずかしくて、絵里はどんどんどんどんチェックをしていった。
…が、結局一通り全て見たのに、見落としたのか見つける事ができなかった。
104 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 19:24
「なんで、ないのぉ…?」
もう一度A組から見て回ろうか。
そんなことより、さっきから15分くらい経ってる。あの少女たちはもう諦めて帰ったんじゃないだろうか?
もうこのまま何もしないで、さっさと教室に行く方がよっぽど賢明な気がする。
「ダメッ、私、名前教えちゃった…ああ、私のバカ…」
ついつい名前を教えてしまったことを、今更に思い出すと後悔だけがそこには残っていた。
「田中…あったけど、レイナじゃない…」
“田中”というありふれた苗字だけでは、どうにも見つけにくい。
“レイナ”という名前も見当たらない。
(もう、自分で探すのは無理…)
絵里はもう観念して、とうとうそこを行く女生徒に尋ねて見ることにした。
(最初から、そうしてれば良かったんだ…)
またまた後悔の絵里は、丁度自分の横をすらりと追い越した少女に声をかけてみた。
105 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 19:24
「あ、あの……」
絵里がか細い声で呼びかけると、声をかけられた少女がゆったり振り向く。
絵里はなかなか顔があげられず、その少女の顔を見なかった。
「はい?何か?」
「あの、2年生ですよね」
「そうですけど、何か用?」
「あの、えっと、突然で悪いんですけど、タナカレイナさんって知ってますか…?」
年下だとわかっていても敬語を使ってしまう気弱な絵里に対し、
話しかけられた方は厳しい表情でその名前に反応した。
「タナカレイナ?」
「し、知ってるんですか?」
「……………………同じクラスですけど」
「えっ!?ほ、本当!?あの、ちょっと呼んできてもらえますか!?」
絵里は大変喜んで、少女にそう御願いしたけれど、
少女が絵里の要求にこたえるはずがなかった。
「嫌です。喋るのも嫌」
そう言われて、絵里はようやく少女の顔をハッとして見た。
「あっ!」
目の前には、見た事のある少女がいた。

…なぜなら、絵里が不運にも話しかけた少女は、“あの”道重さゆみだったからである───
106 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 19:25

(…何、この人?)
当然、さゆみは絵里の事をしっかり覚えていた訳であり、その上で
自分に話しかけてきたのだと思っていた。
だから、いきなり「あっ!」といわれても、何に対しての「あっ!」なのかわからなかった。
「あの、こないだは、すみませんでした…。ありがとうございます」
先に切り出してきたのは絵里の方で、今は“タナカレイナ”の話題そっちのけで、
こないだ新垣里沙のイジメから助けてもらった事を詫びた。
この前は、しっかり「ありがとう」と言えなかった絵里。
今度はさゆみに何を言われても、「ありがとう」と言うつもりである。
「だから、何がありがとうなんですか?」
案の定、さゆみはそう切り返してきた。
「あの、新垣さん…ワガママだから、私、あの、言えなくて…」
本人が聞いたらきっと憤怒してまたイジメられるだろう。
だけど、さゆみが明らかに新垣を嫌っている事はわかったので、一応話してみた。
「だから、それは───」
「わ、わかってます!」
案の定、こないだと同じ主張をしようとしたさゆみの言葉を、絵里は強く遮った。
「あの、わかってます!私、あの、あなたが、…その、別に私のためなんかじゃなくって…えっと…。
 私のためなんかじゃなくても、だから、えっと…」
言葉が続かない。
頭の中は真っ白で、顔は真っ赤で、何を言ってるのかもわからなくなった。
さゆみもあきれた顔して聞いていたし、もちろんそれもわかった上で、だ。

「あのっ!私、嬉しかったんです!!」
絵里は、さゆみに言った。
107 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 19:25
短いですがキリがいいんでここまでで_| ̄|○
できるだけ早めにかけるように頑張ります_| ̄|○
108 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 19:27
从*^ー^)<お待たせして申し訳ないです。
109 名前:名無し 投稿日:2003/11/23(日) 19:27
从*・ 。.・)<です。
110 名前:まりも 投稿日:2003/11/24(月) 17:48
頑張って下さい^^
続き期待してます。
111 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 02:30
告白(?)キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
えりさゆ?れなさゆ?続きが気になります!
112 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/25(火) 17:38
ずっと待ってました!
おかえりなさい。

ぱくりだなんて思ってませんよ。
これだけたくさんあれば、ぐうぜん話が似てしまうこともあるでしょうし。
最終的には作者さんにしかかけない作品になると思います。

…フォローになってませんね;


とうとう3人が絡みますね…
次も楽しみにしてます♪
113 名前:作者 投稿日:2003/12/15(月) 00:33
遅筆なもんで、申し訳。更新です。例によってまた短し_| ̄|○
114 名前:名無し 投稿日:2003/12/15(月) 00:34
◇◇◇

一方その頃、田中麗奈はと言うと、藤本美貴に追い出されて学校へ向かう途中だった。
とは言っても、このままノロノロ歩いても、遅刻である事は明確だ。
(それにしても、いくらなんでも1週間も家出してるのになぁ…)
などと、いらない事を考えてしまった。
いくらなんでも、学校くらいには連絡して欲しい。
麗奈本人はそう思うのが嫌で、自分では認めなかったが、やはりそこはまだ中学生の感情。
あんな親でも、心配して欲しいと思う。
自分が家出した事に気づいて欲しいし、目にかけて欲しい。
それがいくら口でうざったいと言ったところで、想いが満たされる訳じゃなかった。
そのせいで一気に気分がブルーになり、学校へ行く気も完璧に失せた。
だからといって、学校をサボった事が美貴に知れたら、本当に家に戻され兼ねない。
心の奥底では親に心配されたい気持ちはあっても、素直に家に戻ろうとは思わないのだ。
いや、思えないと言った方が正しいが。
(…ハァ〜。もう嫌。こんな生活)
115 名前:名無し 投稿日:2003/12/15(月) 00:34
麗奈は通学路を少し急いで走りながら、学校へ向かったのだった。
学校近くの細い裏道など、全く見向きもせずに。
空気が肌に触れる感覚。
麗奈は次第に速度をあげた。

走ったせいか、他の生徒の登校時間に間に合うように学校へ着いた。
走ったせいで心臓がバクバクしていたけれど、すぐに収まり、気分が爽快になる。
朝の運動が気持ち良い事なんて、こんな風に走ってみなけりゃわからない。
まだ11月後半だと言うのに寒い空気が、一転して気持ちの良いものに変わった。
さっきまで学校へ行くのが憂鬱だった麗奈ではなく、むしろ何もかもがどうでも良くなってくる。
今日も一日頑張るゾ。という気持ちになってくるのだ。
「麗奈は毎日元気がモットーだかんね」
自分に言い聞かせるように、麗奈はそう言うと、昇降口に入る。
自分のクラスのゲタ箱の前で、少女2人が話をしているのが目についた。
他の生徒は何食わぬ顔でその横を通りすぎるが、麗奈だけはそれに気づいた。
直感的なものだったのかも知れない。
何せその片方は、さゆみである訳で、普段なら見向きもしない。
だけど、もう片方…。
絵里の顔を見て、同時に何かを感じたわけだった。
116 名前:名無し 投稿日:2003/12/15(月) 00:34
「何見てるの」
先に切り出してきたのはさゆみの方で、麗奈はハッとしてさゆみを見る。
絵里はというと、恥ずかしそうに顔を両手で隠していて、表情は読み取れないが照れているのは解る。
「別に。そこにいるから見てただけ」
「あなたには関係ないでしょ。それとも、何。私が見つめるほど可愛かったの?」
「ハァ??」
麗奈は鼻で笑ったが、さゆみはそれを軽くスルーすると、
「私、もう行くから」と言って、2人の前から去った。

「あっ……」
本来の目的を忘れていた絵里は、さゆみの後ろ姿を追いかけようとしたが、
麗奈の声がそれを制した。
「どーかしたの?3年生?」
「あ、あ、はい…」
「あのコになんか用あったの?」
「あ、そうじゃなくて…。あの、用はあったんですけど、あの…」
(……うっとうしい喋り方する人だなー)
麗奈は正直、心中穏やかではなかったが、年上の絵里が必死に喋っている姿を見ると、
どこか頼りなさと同時に可愛らしさを見出した。
自分にはない、奥ゆかしさを彼女の中で感じる。
117 名前:名無し 投稿日:2003/12/15(月) 00:35
用って?あたしにできることなら、聞いてあげるよ」
「あ、ほ、本当!?困ってたの、教えてくれるとすごく助かる!」
絵里はそう言って満面に笑みを浮かべると、思わず麗奈の手を握り締めた。
が、すぐに離すと恥ずかしそうに顔を俯かせた。
「ご、ごめんなさい」
「で、用って?」
「えっと、あの…2年生…ですよね?」
「そうだけど」
麗奈は頷く。直後に質問される事を知らずに。
そして、それが目の前の彼女だと知らない絵里は、麗奈に質問する。
「タナカレイナって言う人、知ってますか?」
「え?…あたし、だけど」
「えっ!?」
麗奈がキョトンとして答えると、絵里はその3倍は驚いて跳びあがった。
目を真ん丸くして、麗奈をマジマジと見つめている。
「あの、それ本当?」
「嘘ついてどうするの。あたしが、田中麗奈だけど」
「田中麗奈さん…!あのっ、私と一緒に来てください!!」
「え?」
半ば絵里に強引に引きずられるように、麗奈はせっかく学校に来たのに遅刻するはめになるのであった。
118 名前:名無し 投稿日:2003/12/15(月) 00:35
麗奈の前に、例の少女たちが立ちはだかる。
絵里はと言うと、おろおろとして彼女たちの様子を伺っていた。
「……あたし、これから学校なんスけど」
先に話を切ったのは麗奈の方で、その口調は淡々豹々としていた。
それが気に喰わないのか、少女たちは麗奈をいっそう強く睨みつけた。
「てめーよぉ、美貴さんとこに転がりこんでるらしいじゃねーかよ」
「マジチョづいてるし。美貴さん味方につけたと思ってイキがってんじゃねーよ」
「はぁ?あたしがいつイキがったんスか?」
「そういう態度とかマジムカつくし!」
その様子をまだ、陰でおどおどと見ていた絵里。
ようやく事態に気づいた。
麗奈はヤンキーで、今目の前にいる3人の少女もやはりヤンキーなのだと。
麗奈が美貴を味方につけたことで、3人の少女たちが何故か麗奈に当たっているのだと。
絵里とは全く関係のない世界が、不幸なことに目の前で繰り広げられていた。
(怖い…私、関係ないのに!)
「悪いケド、あたし学校なんで。じゃ…」
さっさと後を去ろうとした麗奈が、目線で絵里に合図した。
絵里も慌てて麗奈と一緒に去ろうとするが、そういう訳にも行かなかった。
119 名前:名無し 投稿日:2003/12/15(月) 00:35
ドスッ、という空気を切る音が絵里のすぐ傍でした。
音に反応するより前に、麗奈の身体が前のめりに崩れ、思いきりよろめいた。
それからようやく、何があったのか気づいた。
麗奈が、少女の1人に後ろから蹴りを入れられたのだ。
そして、絵里がそれに気づいた時にはもう、麗奈は振り返って少女の1人に殴りかかっているところだった。
(えっ、えっ、えっ?何?これってもしかして……)
麗奈も少女たちも何事かを叫びながら、殴り合いをしているではないか。
(これって、け、喧嘩!?)
さっきから1人で何もかも取り残されてしまった絵里。
不幸にも、その反応の遅さが自分の身に起きている事の認知を遅らせた。
「邪魔だてめぇ!」
(え?)
横頬に熱い感覚と、視界が真っ白に電撃のように走る。
それと同時に、絵里は一発でノックアウトしてしまったのだった…。

120 名前:名無し 投稿日:2003/12/15(月) 00:39
>>110
こんな遅いのでよければどうぞ期待しててくださいませ

>>111
えりさゆ、といえばえりさゆですね
でもわたくしはれなさゆが好きだったりします。いいですよね、れなさゆ

>112
目からウロコです
とりあえず遅いですが更新しましたので、どうぞ
121 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/16(火) 16:55
時間軸がきちんと重なって、気持ちいいです。
当分終わる様子がないので、
大変でしょうけど、嬉しいです(笑
122 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/16(火) 20:31
ずっと待ってましたw

れなさゆも、えりさゆも大好きです♪
亀井さん推しなので…。

次も楽しみにしています。
123 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/20(土) 01:14
作者さんあの人だったんですね!
知ってから読むと「ああなるほど」というところがたくさんありました(w
がんばってください!!
124 名前:作者とか 投稿日:2003/12/29(月) 02:10
◇◇◇

「あ、起きた。良かった」
「うーん…?」
「一発くらいで気絶するなんて、脆いよね」
「……え?」
先程の喧騒の事など、一つも記憶に残っていない。
わからないといえば、ここがどこかもわからないし、目の前にいる女性が誰なのかもわからない。
「ここどこですか?あなた誰ですか?私、何で…」
「ここはミキん家でミキはアタシ」
女性はニヤニヤしながらそう答え、絵里の頬に置いてあった濡れタオルを剥ぎ取った。
「あー。やっぱ腫れてるね」
絵里はそれから、自分が気絶してここに運びこまれた事を悟った。
言われた通りに、頬が少し腫れている。
口の内部が、口内炎を潰したようにザラザラして、舌で触れると、鉄さびのような生臭い味がした。
「カッコ悪いけど湿布貼っとく?」
「あ、いいです…」
「そう?じゃ、濡れタオルで我慢してて」
美貴から再びタオルを受け取った絵里は、その名前をようやく思い出した。
さっきから何度か耳にした名前。多分そうだ、というよりそれしか思い浮かぶ答えもない。
美貴、ミキ、みき、MIKI。田中麗奈の先輩である、という情報しか、絵里の頭の中にはない。
125 名前:作者とか 投稿日:2003/12/29(月) 02:11
「あの、美貴…さんって、田中さんの…先輩…です…か?」
絵里がたどたどしく聴くと、美貴は驚いた顔をしてみせ、そして逆に質問を返した。
「え!なんで知ってんの!?っていうかアンタ、麗奈の友達?」
「あ、いや、友達っていうか…友達じゃ、ないんですけど…。あの、田中さんは…?」
「麗奈はねぇ、学校に戻ったよ」
「えっ!?あっ、やだっ…学校始まっちゃってる…」
絵里は慌てて立ちあがろうとしたが、美貴に上から肩を抑えられて、立ちあがる事ができなかった。
「あの……?」
「まぁ、いいから。ちょっとゆっくりしときなよ」
「で、でも…。私……」
「ってか、もう三時過ぎだし。学校、終わりなんじゃない?」
「え………?」
例えるなら大きな矢印が頭を貫く画。
美貴の言葉は、絵里に多大なる衝撃を与えたのだった。
「えっ!わ、私そんなに気絶してたんですかっ!?」
「してたよ。ミキが帰って来た時には、いびきまでかいて」
「………ッ………」
「ミキ今日ねー、仕事半休だったのよね。でさ、帰ってきたら麗奈が半泣きになりながら出迎えるワケ。
 そこでミキ、言ってやったのよ。"お前、学校行けって言ったじゃねーか"ってさ。
 そしたらね、麗奈もう泣き出す寸前って顔になっちゃってー。"違うんですよぉ"って言うのよ。
 でさ、よく見たらアンタがぐったりして横たわっててさ。ミキももうビックらこいたわね…っていう感じ」
126 名前:作者とか 投稿日:2003/12/29(月) 02:11
饒舌に喋る美貴を余所に、絵里は恥ずかしさに心を染めていた。
何という醜態を晒してしまったのだろうか。初めて会う人間に。
恥ずかしさが込み上げ、ついには耳の先まで真っ赤になってしまっていた。

「学校…サボったの…。怒られちゃう…」
美貴の前だという事を忘れ、絵里はポツリと呟く。
その視線の先には、愛用だがあまり気に入ってない通学鞄がある。
学校に来なかった理由を、教師、もしくは親に問いただされた時になんと答えるべきか。
次には、絵里の頭の中はそれでいっぱいに埋まった。
「ねぇ」
「えっ…?」
「あのさ、学校行かないと、怒られちゃうの?」
美貴の言葉に、絵里はただ静かに頷くだけ。
コクン、と首を少し傾け、すぐに憂鬱な表情で美貴を見つめ返した。
「どうしよう…私…家に、帰れない…です…」
「家に帰らなかったら、もっと怒られちゃうんでしょ?」
「…でも…家には…」
「どっちよ?帰るれるの?帰れないの?」
「…そうです…よね。ごめんなさい、お邪魔しました…」
返事をした途端に、絵里はスカートの裾をヒラリと浮かせてみせたが、
美貴がそれを止めた。
127 名前:作者とか 投稿日:2003/12/29(月) 02:11
「待った待った。まだ今すぐ帰ることないんじゃない?ほら、お昼もまだでしょ?」
美貴は美貴でかなり気を遣ってみたのだが、同時に自分で、それに少し自答してみた。
(こういうコには、そんな余裕ないかな?)
美貴の思った通りに絵里は首を横に振り、一目散にその場から逃げ様としているオーラすら発している。
「わかったわかった。そんな怖い顔しなくていいからさ、ね。ちょっとだけミキの話、聴いてかない?」
「…でも…」
「いいからいいから。ほら、そこ座りなさいって」
「…はい…」
"断る術を知らない。゛
絵里にはその言葉が他にない程に当てはまった。
美貴が何の言葉を向けても「はい」「はい」で済ませて、自分を押し殺してしまう。
(何でもかんでも反抗しようとする麗奈とは、まるで反対だね、こりゃ)
果たしてどちらがお得か、なんていうのは今はなしにしておいた。

美貴は冷蔵庫から、買い置きのペットボトルの烏龍茶を取り出すと、
自分の普段から使うマグカップと、自分が普段使う事のないゲスト用のグラスに、それぞれ一杯ずつ注いだ。
128 名前:作者とか 投稿日:2003/12/29(月) 02:12
「烏龍茶、飲める?」
「大丈夫…です」
(このコなら、苦手でも飲んじゃいそう)
そんな風に思いながら、絵里にグラスを差し出し、まずは自分が口をつけた。
それに釣られるように、絵里もグラスに口をつけはじめる。
じっと、観察する様に…もとい、観察したのだが、特に嗚咽する様子もなかったので、
本当に烏龍茶は大丈夫なようだ。
美貴はただ、「無理してくれなくて良かった」と心の中で安堵した。

コクコクとグラスを傾ける絵里を尻目に、美貴は自分で「少し唐突かな」と思いながらも、
先程から気になっていた質問を、あえて絵里にぶつけてみた。
「親が、苦手なの?」
「えっ……」
当然、絵里はグラスを傾ける手を止めて美貴を凝視する。
元々、終始おどおどしっぱなしだったのが、更に萎縮してしまったように見える。
「苦手…っていうか…。あの…」
「怒られる事、気にしてたでしょ、さっき。アレね、親以外に考えられないじゃない?」
「…あっ…」
ニュアンスを少し強めたせいか、ついには肩まですくめてしまった。
会話のペースが合わない。絵里は自己の意見らしい意見を発していない。
129 名前:作者とか 投稿日:2003/12/29(月) 02:12
(あちゃー…)
「あの、ね。ほら、そういう意味じゃないんだって。ゴメンってば。ミキちょっと言い方悪かった」
「…あ、いえ…」
「言いたい事あるなら、ちゃんと言った方がいいんだよ。
 えーと…あ、そういえば、名前聞いてなかった」
「あっ…亀井…。亀井絵里です…」
「絵里ちゃんね。えーとね、そうそう。だからね、言いたい事があるなら言った方がいいんだって。
 親にも先生にも、友達にもさ。でしょ?」
「……でも……」
「ほら、また言った。絵里ちゃんさ、今日、ミキと話してから何回その言葉言った?」
「……………」
絞るような声で、絵里が美貴に返すと、そこを突き刺すように美貴からのツッコミが入る。
絵里も、お互いに会話のペースが合わない事を、ようやく感じとれたようだった。
130 名前:作者とか 投稿日:2003/12/29(月) 02:12
「麗奈もね、あ、麗奈ね。田中麗奈。
 アイツもさ、素直じゃないんだよね。親に言いたいこと言えなくて。
 あげくの果てにミキんちに飛び込んできて。ったく、こっちは生活費稼ぐのに必死だっつーのに。
 あ、何ていうかさ、ミキ、もうすぐ19になるんだけど、こうして一人暮らししてようやくわかるんだよね。
 あんたたちくらいの時ってさ、親の存在が以下にでかいかってコト」
そこまで一気に喋り続けて一息つき、自分のマグカップを傾けて烏龍茶を口に含む。
絵里はというと、その間も、美貴とは目を合わさないように気をつけながら、美貴を見つめていた。
「でも、ミキもわかるよ。親に対する気持ち」
「………?」
「親の言葉って絶対だもんね。だからさ、絵里ちゃんみたいに思いっきり従っちゃうか、
 はたまた麗奈みたいに反抗するしかできないか、どっちかじゃない?」
「…私は、別に、従ってる訳じゃ…ないんです」
「あら、そうなの?」
「はい…。でも、思うようには…できなくて…」
「だから、親が苦手なんでしょ?」
「………はい」
うんうん、と美貴は頷いてみせた。
131 名前:作者とか 投稿日:2003/12/29(月) 02:12
「よしよし、言いたい事、すこーしだけだけど、言えたんじゃない?」
「…はい」
はにかみながら、絵里が少しだけ微笑んだ。
笑顔というには足らないくらい、明るさも、幸せさも感じられないけれど。
それでも、今日初めて会った美貴ですら、「あ、これは笑ってるんだな」と理解できるくらいの微笑みだった。

「絵里ちゃんさ、また明日ここにおいで。
 明日はミキ、今日よりは遅いけど、一緒に遊んであげる。麗奈もいるしね」
「えっ……」
少し細めの目を、まん丸に見開く絵里。その先には、美貴の優しい笑顔がある。
「それとも何?ミキと麗奈じゃ不満?」
「そっ…そんなことっ…ないですっ…でも…」
「でも?」
「迷惑じゃ…ないですか?」
微妙な苦笑を浮かべてうつむく絵里の頭を、美貴はわしゃわしゃと撫でて言った。
「そーゆーときはっ、"よろしくおねがします"って言えばいーの!」
「あっ…はいっ!」
そうしてようやく、美貴は、絵里の精一杯の笑顔を見れた気がした。
たどたどしくて、ぎこちない笑顔だけれど、純粋な笑顔だった。
「うしっ。じゃあ、明日、学校が終わったら麗奈に迎えに行かせるから」
「よろしく…おねがいします!」
132 名前:作者 投稿日:2003/12/29(月) 02:13
遅筆で大変申し訳ない_| ̄|○
年内最後の更新でございます。
133 名前:作者 投稿日:2003/12/29(月) 02:13
ちなみにあまり知られてない話ですが、この物語の主人公は亀井さんだったりします。
134 名前:作者 投稿日:2003/12/29(月) 02:14
でも、田中さんと道重さんも主人公です。(どっち
135 名前:作者 投稿日:2003/12/29(月) 02:16
>>121
さっさと終わらせるつもりだったんですがねぇ…。あぁ!_| ̄|○

>>122
わたくしめも、亀井さんが大好きです。あと、道重さんと田中さんと、
この話には出てないけど○○さんも大好きでございます。

>>123
どなたと勘違いなされているんでしょうね(´д`)?
136 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/29(月) 12:04
ミキティいい人やぁ・・・・゚・(ノД`)・゚・
137 名前:121 投稿日:2003/12/29(月) 12:09
すごくいいです。
絵里の笑顔の具合を示す表現とか、
文章にワクッとさせられるものがあります。
138 名前:作者ッス 投稿日:2004/01/02(金) 02:45
あけおめー。
正月なのに風邪引いて置いてかれたから更新・゚・(ノД`)・゚・

>>136
いやー。ミキティってこんな人ですかね?

>>137
そりゃどうもですー。みっともない文章で恐縮です(*´∀`)

139 名前:作者的 投稿日:2004/01/02(金) 02:50
◇◇◇

次の日から、絵里と麗奈の2人きりの下校が始まった。

(…どうしよう、何を話していいのかわかんない…)
(この人、アタシが話してもシカトしそーな気がするー…。イヤだなー)
お互いに思うところは全く同じであり、多分相手もそう思っているであろう事は容易に想像できる。
とりあえず、先に切り出したのが活発な麗奈からであるのは、当然といえる状況だった。
「あのー」
「あっ、はい…」
「昨日、大丈夫だった?多分、アタシのせいでケンカの巻き添え食らっちゃったみたいだし」
「あ、…はい。大丈夫です…」
「あ、そう」
「はい……」
「…………」
「…………」
「あ、学校サボったの…バレなかった?一応、アタシが先生に言っておいたんだけど」
「あっ、はい…。少し“昨日どうした?”って聞かれたけど、大丈夫でした…」
「あ、そう」
「はい……」
「…………」
「…………」
思った通りに、会話は全く弾まなかった。
美貴の家まで15分間、重たい空気を引きずったまま、2人は仲良く(?)歩いたのだった。
140 名前:作者的 投稿日:2004/01/02(金) 02:50
「はーい。お帰り、お嬢さんたち」
ガチャリ、と荒々しくドアを開けた麗奈と、その後ろからそそくさとついてきた絵里を、
スウェット姿の美貴が出迎えた。
中のTシャツがズボンの上からはみ出ていて、みっともない。
「………先輩。なんでこんな早く帰って来てるのさー!?
 昨日、“美貴、今日よりは遅いけど”って自分で言ってたじゃないですか!」
「ん?いやさぁ、絵里ちゃんが来るから早退してきちった。てへっ」
「きちった。てへっ。じゃないッスよ!ちゃんと仕事して下さい!!生活費稼いでください!!」
詰め寄る麗奈の両頬を、美貴がうにうにとつねった。
「むー。うるさいわよ。居候の分際で」
「………はい………」
「絵里ちゃんきてくれてサンキュー。美貴うれしー」
「あ、こんにちわ…」
相変わらず絵里の表情は固い。その分、美貴はフランクでフレンドリーだが。
「ちょっと、麗奈。ちゃんと絵里ちゃんとお話したんでしょうねぇ?」
「しましたよー。もー」
141 名前:作者的 投稿日:2004/01/02(金) 02:50
麗奈は洗濯機に靴下を投げ込んだ後、美貴と絵里の目の前でおもむろにスカートを脱いでいた。
麗奈の行動を何気なく眺めていた絵里は、それを見て思いきり赤面してしまい、
更にそれを見ていた美貴にツッコミを食らった。
「あ、赤くなった。絵里ちゃんってレズレズ?」
「ちっ…違いますっ…」
「っていうか麗奈、あんた、恥じらいなさすぎ」
「別にいいじゃん…。男の前じゃないんだし」
「おっ…男……?」
「おーおー。絵里ちゃん想像しちゃった?いやらしー」
「ち、違いますっってば!」
「可愛いねぇ、そんなことで真っ赤になっちゃって。美貴なんか…」
「処女のくせに」

ピシッ。
パシッ。
ゴスッ。
ガクンッ。
ガタッ。

「ああああああっ……」
その後には、ピクリとも動けなくなった麗奈と、慌てるしかない絵里と、
全く目が笑ってない笑顔を浮かべる美貴がいたのだった…。
142 名前:作者的 投稿日:2004/01/02(金) 02:51
───

「ほんじゃ、もう遅いから麗奈。絵里ちゃん送ったって」
「はいはい」
「あ、本当に、今日は…お邪魔になりました」
窓の外はもう真っ暗。時計を見ると、もう6時を回ったところだった。
3人一斉に立ち上がり、玄関先に向かう。
その間に美貴は麗奈にお金を渡して、「晩御飯ついでに買ってきてね」と言っていた。
絵里はスカートの裾を直しながら、靴を履いた。

「それじゃあ、本当に…お邪魔しました」
「うん。それじゃあね」
「じゃあ、送ってくるよ」
麗奈と絵里がドアに向かうと、美貴がそれを止めた。
「あっ、待った絵里ちゃん」
「はい?」
「……あ、いや。何でもない」
「……?それじゃ…」
「あ、待った」
「…え、はい?」
「………えーと…あ、うん。何でもない…んだけど、ほら。ね?」
「???…あ、お邪魔しました」
「あ、うん」
「……あ、絵里ちゃん」
「あの…?どうか、なさいました?」
「えっ…。いや、何でも…」
「……?そうですか…」
143 名前:作者的 投稿日:2004/01/02(金) 02:51
不思議そうな顔をしている絵里の耳元で、とうとう我慢できなくなった麗奈が呟いた。
美貴には聞こえないように、だ。聞こえたと思ったが。
「…アンタも、言いたい事、あるんじゃない?…」
「えっ……あ……」
それは、絵里自身も気づいていたことだったのだが、きっと自分からは口に出せなかった。
だから、最初から頭の中で考えようともしていなかったのだ。
それを、美貴が気づいて、その上で麗奈が助け舟を出してくれた。
だけど2人とも、答えは言わなかった。

(2人とも、優しい人)
今まで絵里の中に、人を信じる心がなかったとしたら。
きっとその時はじめて、ほんの少しだけかも知れないけれど、それが生まれたのかも知れない。
心の中が温かくなる。優しい気持ちに浸れる。

「あの、また…来ても、いいですか?」
美貴の顔がパアッ、と一瞬で晴れたのがわかった。
その言葉を待っていた事も、同時に確信していた。
「当然!また、来てね」
絵里は笑顔に頷き、麗奈と共に玄関を出た。
美貴はというと、その後ろ姿を、優しく、優しく見守っていた。
144 名前:作者的 投稿日:2004/01/02(金) 02:52
───

「美貴さんって、いい人でしょ」
下校時と同じように、麗奈と絵里の2人きりの帰り道。
だけど、さっきとは明らかに空気自体が違う。
お互いの顔は、辺りが暗くてよく見えないけれど、さっきよりも自然に言葉が出た。
「いい人…です。優しいです、すごく」
「でしょ!?ちょーっとうっさいとこあるけど、アタシ、美貴さんのこと誰よりソンケーしてんだぁ」
「わかります…。お二人の息もピッタリで…。あの、私、羨ましいと思います」
「そっかな…へへ」
灯りの少ない裏路地。きっと絵里の横で、麗奈は照れまくっているのだろう。
声のトーンもいつもより少しだけ高かった。

「あの…聞いても、いいですか?」
「うん?」
「田中さんは、どうして美貴さんのおうちで暮らしてるのかな、って…。
 あっ、言いたくなかったら、あの、言わなくていいんですっ。少し…気になって…」
「……んーっと、ね。話せば長いからかなーり省略しちゃうんだけどね」
「はい…」
「アタシ、家出中なのヨ」
「…えっ…本当に?あの、失礼なこと、聞いてもいいですか?」
「うん」
「……田中さんって、あの、やっぱりヤンキーってやつなんですか…??」
145 名前:作者的 投稿日:2004/01/02(金) 02:52
「…………」
「あっ、お、怒ったらごめんなさいっっ」
「…まぁー、マジメではないと思うけどね。
 でも、アタシは自分なりにやりたい事があってやってるんだよ。悪ぶりたいのとは違うね」
「はぁ……」

絵里からすれば、麗奈みたいなタイプの人間と付き合うのは初めてだった。
そもそも、あまり友達なんていないし、仮に絵里に友達が100人いたとしても、
自ら好んで麗奈と付き合う事はなかっただろう。

逆に麗奈にしても、絵里のようなタイプの人間は好きではなかった。
初めて絵里に会ったとき、「うざったい」と感じたように、生理的にうじうじした人間とは合わない。
それに、絵里には、あの道重さゆみのような“どこかもどかしい気持ち”を一方的に感じていたからである。

それが今、こうして並んで歩いている。

絵里は、決めた。
なかなか人には言えない本当の気持ちを、言おうと。

「田中さん。私と、友達になってください」
146 名前:作者的 投稿日:2004/01/02(金) 02:52
麗奈はその言葉を受け、ピタリと歩む足を止め、ちょうど真横。
自分を見つめている絵里の目を見つめ返す。
絵里が一瞬、目をそらそうとしたのを、麗奈は見逃さなかったが、結局一点で交わったまま反れる事はなかった。
「一つ」
「え?」
「敬語は使わない」
「あともー一つ」
「アタシのことは、れいなと呼ぶこと」
「あ……」
「ということで、明日もよろしく。“絵里”」
「はい…じゃなくて、うん!よろしく、れいな!」

───今日、友達ができました。
147 名前:作者なかんじで 投稿日:2004/01/02(金) 02:52
れなえり
148 名前:作者なかんじで 投稿日:2004/01/02(金) 02:53
みきれな
149 名前:作者なかんじで 投稿日:2004/01/02(金) 02:53
亀美貴
150 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/02(金) 23:30
れなえり最高じゃ!
151 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/03(土) 00:15
れなえりよいww
152 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/03(土) 00:24
亀井と田中・藤本と田中の微妙なやり取りがすごく良いです
153 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/03(土) 01:21
絵里りん大好きなんで毎回読ませてもらっています。
自分の想像してる絵里りん、こうであって欲しいなと思う絵里りんの
性格がぴったりで最高です。
これからも頑張ってください。
あ、れいなもみきてぃもいいです(笑
154 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/04(日) 03:31
毎回楽しみにしてます。

れなえりの2人の関係がすごくいいです!
ミキティーのポジションも好きです。

155 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:48
◇◇◇

「麗奈ちゃーん。3年生の先輩が呼んでるよ」
「あ、うん。今行くー」
友達から呼ばれて席を立つと、教室の外で絵里が待っていた。
2年生の教室に来るのを、少し恥かしそうにモジモジしながら。
「あ…れ、…れいな。あの、今日…行ってもいい…かな?」
もう友達宣言をしてから、1週間も経つのに、絵里は毎度毎度こう恥かしそうに麗奈を誘ってくる。
今まで自分から友達を誘う事がなかったせいもあるのだが、元より絵里が恥かしがり屋なせいもあった。
「うん。でもさ、宿題やり忘れちってさ。
 残ってやってかないと行けないんだけど、サボると美貴さんに怒られるからさ」
「あ…そうなの?じゃあ、私、待ってようか?」
「いいよ。いつ終わるかわかんないし。今日は美貴さん早番だからもう少しで帰ってくるでしょ。
 鍵、いつもんとこにあるからさ。勝手に入って待っててよ」
「うん、わかった。じゃあ、一旦家に帰ってから、後でまた行くね」
「はいよ〜」
そう言うと、麗奈は教室へ。絵里は廊下を進んでそこで別れた。
156 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:48
「麗奈ちゃん、今の人友達?先輩だよね?」
席についた途端に、先ほど自分を呼んだ友達が話しかけてきた。
「んっ。先輩だけど、色々あって友達になった」
「へぇ〜。やっぱ麗奈ちゃんは先輩たちにも人気あるんだねぇ」
「そんなことないよ」
雑談しながら、全く適当に宿題を進めていく。
早く宿題を終わらせて、絵里と美貴と一緒にたくさん話をしたり、テレビを見たりしたいのだ。
「あ、雨降りそうだね。やだなぁ、私、傘持ってきてないや」
「あー。ホントだね。さっさと切り上げて、帰ろうか」
「そうだね」

後に振り出したその雨こそ、運命の歯車の中の一つだったのかも、知れないけれど。
157 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:49
───

一方その頃、道重さゆみは珍しく道を歩いていた。
普段なら迎えの車で下校するのだが、今日は少し所用があったために、歩いて帰ったのだ。
所用というのは、家の者に内緒で買い物に行く事だったのだが。

研究というか、観察というか、まぁとにかくそういう事が好きなさゆみであるが。
それは何も、勉強だけに発揮されている訳ではない。
自分の容姿にも絶対的な自信を持っているだけあって、オシャレの研究も欠かさないのである。
幾ら勉強ばかりしている優等生だからといって、持って生まれた自分の"センス"を台無しにはしたくないのだった。
今日も本屋で参考書をいくつか立ち読みするついでに、
年頃の少女たちが見るような、ファッション雑誌やらを何冊か購入してきた。

「ふぅ、遅くなっちゃった。帰ったらすぐにやらないと」
本屋を出ると冷たい空気が肌をさし、突風が吹き荒れて髪を乱した。
空全体が雲で覆われていて暗く、今にも雨が降り出しそうな勢いだった。
158 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:49
「やだぁっ…こんな日に限って、歩きなんだから」
ぶつぶつと文句を垂れながら、本屋から真っ直ぐ、自宅への道を歩む。
自宅までは、歩けば20分程度だろうか。普段は車だから5分もあれば着くのだが、
風が邪魔をして、足取りも少しずつ重くなっていく。
「もう冬なのに…ありえない」
綺麗にトリートメントされたツヤツヤの髪が、風でバサバサと揺れるのが気にくわない。
「迎えに来てもらえば良かった」と、少し後悔した。

本屋から歩いて少しのところで、ガードレールに囲まれたドブ川に差し当たる。
その川を辿っていって、その近くにさゆみの家はある。
ついでに言うと、藤本美貴のアパートもその途中にあるのだが、さゆみは当然知る由もない。
川に沿うように、さゆみはとにかく歩いた。
向かい風なので、相変わらず歩くペースは亀のようだったが。
159 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:49
ポツン、ポツ…。
「あっ…やだっ、降ってきちゃった…」
生憎、朝は快晴だったために、傘は持っていない。
朝のニュースでは、今日は一日晴れだと言っていたし、普段は車なので傘を持ち歩く事も少ない。
本屋まで戻って、公衆電話で迎えにきてもらうべきか。
それとも、このまま歩いていくべきか。
「……戻るよりは、歩いた方が早いわね」
一瞬のうちに残りの距離を計算してしまうと、さゆみは足早に歩き出した。
さっきよりも力強く歩むのだが、風は強くなるばかり。雨は本格的に降り出してくる始末。
髪の毛がしっとりと濡れ始める頃、ようやく家までの半分の距離を歩いた。

ふと、雨音に混じり、赤ん坊の鳴くような声が聞こえる。
「……?」
少し足を止め、それに耳を傾けた。
錯覚かどうかを確かめるためであり、その後どうするつもりも全くなかったのだが。

ャォ…

「……鳴き声、する」

ニャ…

「ニャァォ…?って、猫?」
160 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:50
次第にその声が聞き取れるようになり、ハッキリと猫のものとわかる鳴き声が耳に入った。
「猫が、鳴いてるんだ」
たったそれだけで済ませられてしまえば、きっと良かったと、後で後悔するのだろう。
さゆみは、見てしまったのだ。
ガードレールの下。段差になっているところに、仔猫が立ちすくんでいるのを。
ミルク色の、真っ白な仔猫。見た限りでは、野良猫だろう。
恐らく、降りたままあがってこれなくなったのか、それとも滑ってそこへ落ちてしまったのか。
ともかく、下手に動けば、猫はこのドブ川に真っ逆さまになる。
普段はそれほどの水量でもないが、降り出した雨で少し水が増しているのと、この強い風で川の流れも少しある。
この小さな仔猫がそこへ落ちたなら、流されて溺れてしまうに違いない。

見て見ぬ振りなど、できなかった。
161 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:50
「動いちゃ、ダメッ」
ガードレールの上から、さゆみは仔猫に声をあげた。
助けを求めるように、仔猫は鳴き続け、さゆみに救出されるのを待っているようだった。
「お願い、動かないで…。今、今、何か…」
ガードレールから降りれば、さゆみ1人でも何とか立てるほどの段がある。
肝心なのは、この強風に煽られて、川に落ちてしまうかも知れない恐れがある事だ。
「どうしよう…誰か…誰か…」
ロープを探そうとか、大人を呼んでこようとか、いざとなると思いつかないものだった。
全く混乱しきってしまい、どうしていいかわからず、ただ仔猫に動くのを制するように怒鳴るしかできずにいる。
「どうしたらいいの…っ…」
髪はグチャグチャに濡れ、鞄も、制服もビショ濡れになっている。
仔猫の毛も雨に塗れてぐっしょりと張り付いてしまっている。
ガードレールから降りようとしても、怖くて足が進まない。
「誰かっ…助けてよぉ…」
とうとう、さゆみはその場にへたりこんで、泣き出してしまっていた。
「道重さん?アンタ、何やってんの?」
彼女が通りかかったとき、さゆみは真っ青な顔をしながら、呆然としていたのだった。

その人物とは、さゆみが死んでも助けて欲しくない相手だったが。

162 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:51
「…田中さん…」
「ちょっと、何で泣いてんのっ!?」
「………っ」
「意味わかんない人。…ん?」
麗奈の耳に、先ほどから泣きっぱなしの仔猫の鳴き声が入ってくる。
ようやくそれに気づき、ガードレールの下を覗き込んだ。
「猫がいるっ。大変、早く助けないと!」
「やめてっ」
ガードレールをまたぎ越そうとした麗奈を、さゆみが制した。
麗奈だけには、助けを借りたくない意地のせいで。

「いいからっ、そのコは私が助けるんだからっ!勝手な事しないでっ!!」
大声を出して麗奈を跳ね除けたさゆみ。
麗奈がバランスを崩して、地面に倒れこんだ。
「なっ……何考えてんだよ!?バカじゃねーの!?」
「あなたの助けなんか欲しくないっ!私、自分で助けられる!」
「ハァ!?」
自棄になってしまっている事は、一目瞭然だった。
麗奈の目に映るさゆみは、いつも清まして参考書に向かうさゆみではなく、
まるで幼い子供が駄々をこねるようなヒステリックな姿だったのだ。
163 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:51
さゆみはというと、さっきまではあんなに怖がって段差を降りれなかったのに、
今は恐怖も忘れ、仔猫の所まで、ゆっくり、ゆっくり歩んだ。
逆に麗奈は冷静で、その様子をただ眺めていた。

「こっち、おいで…ね?」
さゆみが仔猫の体を掴む。仔猫は抵抗する事なくさゆみに擦り寄ってきて、
問題なく救出に成功した。
そのままガードレールの隙間から仔猫を通し上げる。
仔猫は無事に道路に着地し、麗奈の足元に擦り寄った。
「よしよし。怖かったね」
麗奈が仔猫の頭を撫でると、仔猫も安心したように鳴いた。
それを見てさゆみも安心し、ガードレールに手をかけて、段を上がろうとする。
手に力をこめ、足を踏みこみ、上半身をまず持ち上げようとした…時。
「!?」
雨と突風のせいで、滑りやすかったせいもあったかも知れない。
足のバランスを崩し、思わずガードレールから手を離してしまった。
164 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:51
「危ないっ!!!」

麗奈がまさに間一髪で手を受けとめなかったら、そのまま真っ逆さまに落ちていただろう。
「引き上げるから、思いっきり足蹴って」
麗奈はそう言って、両手でさゆみの手を掴み、体重を後ろにかけ引っ張ろうとした。
しかし、思わぬ罵声が入った。
「離してよっ!あなたに助けられたくないって言ったでしょ!?」
それには麗奈も絶句してしまった。
「ハァ!?お前、ホント、バカじゃねーの!?」
「離してよっ!別に落ちたって、下は川だし、死にはしないから!」
「そういう問題じゃないでしょ!?つまんねー意地張ってんじゃねーよ!」
「嫌っ!!」
「何の意地張ってんだよ!?こっちだって、助けたくて助けたんじゃないし!
 いいから、早くあがって来い!」
「……っ……」
そのまま麗奈が一気に引き上げると、さゆみは観念して足に力をこめた。
ガードレールの上にあがった時には、もう涙なんだか、雨なんだかで、
とにかく顔中グショグショに濡らしてしまっていた。
165 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:51
「ったく、あんなとこで滑って。狙ったとしか思えないし」
「………」
「だからアタシが下に降りるって言ったのにさ!ねぇ、聞いてんの!?」
「………もん」
「あぁ?」
「……できるもん」
「何が…」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ…うわぁぁぁぁん」
「!?」
「うあぁぁぁぁん…できるもんできるんだもん…うわぁぁぁん」
これにはさすがに麗奈も驚いた。
あの優等生、道重さゆみが、さっきまで意地を張りまくっていたさゆみが、
あろう事か、麗奈の前で大声で泣き出したではないか。
いや、さっきから泣いて自体はいたのだが、本当に子供のように泣き出してしまった。
(…な、なんだぁ?)
麗奈も動揺せざるを得ず、その様子を伺っていた。
166 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/01/09(金) 03:51
(これは、アレ?新手のいやがらせ?)
だが、そうは見えない。というか、そんなメリットもないはず。
(っていうかこいつ、"もん"とか言うキャラだっけ?)
麗奈の記憶の中では、いつも清ましていた姿しか浮かばない。

(つーかどうするべき?)

いつまでも泣き止まないさゆみを前に、麗奈も動揺するしかないのであった。

167 名前:作者かもしれない 投稿日:2004/01/09(金) 03:54
コソーリ更新。
目標は毎日更新。絶対無理。

>>150 >>151
れなえり(゚∀゚)イイッ!!と言われた瞬間に、れなえりじゃな(ry
ゴフゴフ

>>152
6期CPはどれもいいですよね。れなみきサイコー

>>153
そりゃまたどうもです。絵里りんはリアルでは、ああ見えて強気という感じはしますが。

>>154
ああっ…またれなえりに期待されてるっ_| ̄|○

ちゅーわけで、次はいつだろう。
168 名前:作者かもしれない 投稿日:2004/01/09(金) 03:54
sage
169 名前:作者かもしれない 投稿日:2004/01/09(金) 03:54
HPKSK
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/11(日) 23:15
どのカップリングでも、すごくいいですw

れなえり、れなさゆ、さゆえり(+ミキティ)が上手く絡んでますよね。
次の更新、いつなんでしょう?!
作者さんのペースでいいですが、いつまでも待ってます!
171 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/21(水) 21:31
まだかなまだかな〜?早く読みたいっす!!
172 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/01/26(月) 19:21
先生、まだですか?
173 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/01/27(火) 23:13
生存報告くらいはしてほしいです。
174 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/27(火) 23:59
>>173
1ヶ月も経ってないのに上げてまで催促しないほうが…
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/28(水) 00:16
あげんな
176 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/01/28(水) 02:42
>>175
あげちゃいけないってどういうことですか?
ただ更新してほしいだけなんですけど!!
177 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/28(水) 02:47
ageくらい覚えてから催促してね
178 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/28(水) 19:06
>>171-173
作者さんにも作者さんなりのペースがあると思うので
催促はよした方がいいかと…
それで書く気を削がれてしまうこともあるらしいので・・・ね?
なんかエラソウですんません。。。
179 名前:名無 投稿日:2004/01/30(金) 18:49
もっと注意の仕方考えろや!!
180 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/31(土) 15:06
>>179
そういう貴方も書き込みの仕方を考えましょう。

それからひたすらageで催促してる人。
Musume-seekは初心者に優しいサイトではありません。(FAQより)
知らないっていいわけはここでは通用しません。
FAQぐらい目を通しましょう。
181 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 21:10
書いてるから…書いてるから…(;´Д⊂)
つーかage・sageは構わないんで荒らさないでね。
182 名前:さゆみん 投稿日:2004/02/03(火) 16:43
おもしろい。さいこー。早く最新して
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/04(水) 12:57
マダマダマダー?
184 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/04(水) 13:55
あげてあると、期待しちゃいます…;

変な荒しで、作者さんが書けなくなっちゃうのが怖いです。
応援してますので、荒しに負けないで下さいね。
185 名前:作者 投稿日:2004/02/04(水) 19:46
>>184
ありがd。
頑張って書いてるから気にしないでくださいw
186 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/26(木) 18:45
ん???
187 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/01(月) 23:09
放置・・・ですか?
188 名前:作者 投稿日:2004/03/02(火) 03:15
放置は( ^▽^)

でも更新するのはいつかわからない(爆
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/02(火) 07:01
気長に待ちます
190 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/11(木) 00:54
ありゃ??
191 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/19(金) 18:35
お?
192 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/27(土) 01:43
オラオラ!早くかけよ!!!




・・・・お願い・゚・(ノД`)・゚・
193 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/01(木) 13:24
ぐわっ!
194 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/02(金) 16:49
ノノ;^ー^)ハァハァ
195 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/05(月) 00:53
う〜ん、続きが読みたいのですがもう更新は無いのでしょうか?
催促するわけでは無いのですが経過など書いて頂けると嬉しいです。
196 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/05/01(土) 05:55
「バスルームあっちだから。先使ってもいいよ」
「………ぐすん」
麗奈も対応に困る程、ずっと泣きじゃくったままのさゆみ。
ビショビショに濡れたままではいけないと、麗奈がとりあえず促してみたものの、
さゆみは顔を両手で隠しながら、まだクスンクスンやっていた。
(どうしろっちゅーんじゃい…)
実際、ついさっきまで悪態を突き合っていた仲だ。
こんな風に突然の変化を見せられても、戸惑う事しかできずにいる。
「ほら、濡れたまんまじゃ寒いでしょー。早く入んなよ」
「………ぐすぐす」
「だーっ、うぜぇ!さっさと入れっ!!」
さゆみは、半ば麗奈に無理矢理押し込まれるようにバスルームに入った。
麗奈がドアに耳をつけて聞き耳立てると、しばらく室内に「クスンクスン」が漏れていたが、
1分もした後には、シャワーの音が聞こえてきて、ようやく安心できた。
197 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/05/01(土) 05:55
(はぁ〜。まさかコイツまでうちにあげることになるとは…)
と、腕の中で無邪気に鳴いている仔猫を少し恨んだ。
「あんたのせいだかんね。ったく」
「ミャ?」
当然、仔猫にそう言っても解る筈もなく、仔猫はあくまで無邪気に、麗奈の腕の中で転がっていた。
「無邪気だね、あんた…」
「ニャーオ」
憎らしいくらいに、仔猫は無邪気だった。

(つーかホントに、どうしたらいいんだろ)
とりあえず美貴が帰ってくれば何とかしてくれるだろうが、
明らかにさゆみがシャワーから上がる時間の方が早いに決まっている。
となれば、後は絵里だけが頼りなのだが、一向に現れる気配がない。
「絵里ぃ…早く来てよぉ…。あたしとあいつだけじゃ間が持たないよぉ…」
そう独り言を呟いた瞬間に、バスルームの戸が開いた。
198 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/05/01(土) 05:56
麗奈はビクっとなって心臓が数cm飛びあがりそうになったが、敢えてそっちを見ないようにした。
シャワー後の女性を待つ…。なんて、
麗奈にしてみれば、まるで、初体験を迎えるカップルの男の方のような心境だ。
ドキドキして胸が止まらない。

「道重…さん?」
「ぐすん…」
シャワーを浴びても、まださゆみは泣き続けたままだ。
正直なところ、少しそれは麗奈には報われた。なぜなら、シャワーから出てきたら、
いつものさゆみに戻っていた…なんてやり難くて仕方がないと思ったからである。
「あんた、下着姿で出てこないでよっ!!」
「ぐすん…濡れてるから…ぐすん…」
「ったく…」
麗奈はそう言って、タンスの引き出しから、白いTシャツと、ジャージのズボンを取り出して、
そのままさゆみに投げつけた。ちなみにそれは美貴の所持物である。
「着なよ」
「…ぐすん…ピンクがいい…」
「アホかーっ!」

(絵里ィィィィ、早く来てよぉぉぉ)
199 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/05/01(土) 05:57
さゆみが着替え終わって、少し落ちついて二人して床に座りこんだのだが、
麗奈はどうもやるせなくて、立ちあがってあれこれ客人をもてなす様に、
お茶を出したり、テレビをつけたり、とにかくさゆみに気を遣った。
さゆみはというと、あの「グスングスン」はとりあえず収まったようなのだが、
いつもとは全く別人のようにボーっとしながら、仔猫の頭を撫でていた。
「…あのさぁ。どーでもいいけど、服乾いたら帰ってよね」
「………うん」
「はぁ…」
何を言っても上の空。もはや、いつものさゆみではないようである。
いつものような気迫も、生真面目さも、全く持って感じられない。
そこにいるのは、気の抜けた風船のように、しょぼくれた少女だけ。
麗奈の眼には、とにかくそれが、異質なもののようにしか見えない。
200 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/05/01(土) 05:57
「あのさ、あんたさ」
「……うん」
「何であんな、必死になってたの?」
「ワタシニダッテデキルモン」
「それ…意味わかんない」
「できるんだもん」
仔猫がさゆみの膝の上に登り、そこでゴロゴロと気持ち良さそうに転がり始めた。
さゆみはそれを優しく撫でながら、ぼーっとした目で、虚ろに宙を見つめている。

今、さゆみの心の中で二つの人格が戦っている事など、麗奈には知る術もない。

(帰って勉強しなきゃ。こんなことしてる場合じゃないのよ)
(でも…なんで勉強なんかするの?何のため?)
(私には、あさ美姉さんのようになるという目標があったじゃない)
(でも、私は、いくら頑張ってもそうはなれないのに?)
(なぜ、そうなれないと決めつけるの?)
(私にだって、できるの?)
(私にだってできる)
(…ワタシニダッテデキルモン…)
201 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/05/01(土) 05:58
「…ーい」
「………」
「おーい?」
「………できるのかなぁ」
麗奈が自分を呼んでる事に気づかない程、自分の世界に入りこんでしまっている。

(来年は受験よ?今勉強しないで、いつするの?)
(でも、私は本当にそれだけのために勉強してたっけ?)
(認められるためには、それしかないじゃない)
(私は、認められたかったのかな?)
(私にだって、できるんだって)
(私にだってできるもん)

「れい……」

「私にだって、できるんだからね!!」
そう叫んださゆみの眼前には、丁度、ドアを開けて室内に入ろうとしたまま、
目を真ん丸くしている絵里の姿があった。
202 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/05/01(土) 05:58
「は、はい」
突然の事にパニくりながら、ご丁寧にも返事までしてしまっている。
「え?あ、あれ…私…?」
その返事を聞いてようやく、さゆみは我に返ったのだった。

「はぁ。ま、とにかく座りなよ。絵里」
「うん…?」

めんどくさそうなことが、また増えた。
麗奈は心の中で、それはもう大きな大きなタメ息を吐き、先ほどの全てを話す事を決めたのだった。
203 名前:作者 投稿日:2004/05/01(土) 06:01
_| ̄|○_| ̄|○_| ̄|○_| ̄|○_| ̄|○

ホント、皆様ごめんなさい・゚・(ノД`)・゚・
一日一行ずつな勢いくらいのペースですが生きてます。
ゴメンネ(;´Д⊂)

次の更新がいきなりキッズ登場!とか期待してた人がいたらゴメンナサイ。
というわけで次の更新まで「な る べ く」あかないように頑張ります。

从 `,_っ´)<お前のなるべくはどれくらいだ?

Σ(゚д゚|||)
204 名前:作者 投稿日:2004/05/01(土) 06:02
从*^ー^)
205 名前:作者 投稿日:2004/05/01(土) 06:02
从*・ 。.・从
206 名前:作者 投稿日:2004/05/01(土) 06:03
ノノl∂_∂'ル人州*‘ o‘リ人ル ’−’リ

曝ク*^ー^)
曝ク*・ 。.・)
曝ク `,_っ´)
207 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/02(日) 05:36
あはは・・・はは・・・やっときたよ・・゚・(ノД`)・゚・ ・
おかえりなさい
208 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/03(月) 11:54
復活してくれてうれしいです!ハァーン!!
209 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/03(月) 17:54
更新お疲れ様です。
おかえりなさいませw
まぁまぁ、僕はいくらでも待つので
ご自分のペースで頑張って下さいまし。
次も楽しみにしてます。
210 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/07(金) 21:15
れなさゆ(・∀・)イイ!!
211 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/30(金) 23:34
続きお待ちしております!
212 名前:作者 投稿日:2004/08/19(木) 01:35
どもども、作者ッス。
なんだか数週間ぶりくらいにネットした気が…。

続き書きたいんですけど、マジ時間ないんです…。申し訳ない。
という事で、続きには期待しないで下さい_| ̄│=====○
という事で、作者自ら保全。
213 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 03:53
「…という訳なのよ」
疲れの色というものが実際に具現化されるとしたら、
麗奈の顔は、それで一杯に塗りたくられていたところだろう。
いや、疲れというよりは、心の底から面倒臭そう…というのが正しいだろう。

ソファに腰かけた絵里に、床にへたり込んださゆみ。
交互に二人の顔を見比べて、麗奈はとうとうため息を吐いてしまった。
ほんの数日前には、赤の他人だった絵里に、犬猿の仲だったさゆみが今、
自分の家(正確には居候先ではあるが)で、仲良く座って話を聞いているのだ。
麗奈でなくても、ため息の一つも、吐きたくなる。

「そっかぁ」
絵里は丁寧に折り畳んだ脚を伸ばし、踵を空中にブランとさせる。
返事はのほほんとしていたが、どうやら事の次第が解ったようだ。
214 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 03:56
「それは、大変だったんだね」
絵里は脚を伸ばしたついでに床につま先を付け、腰を上げる。
そのまま勢いを付けて床に座り込んだ。…さゆみの隣に。
「あの、道重さん」
「…はい??」
さゆみはまだボケーっとしたままで、あまり先程の話も聞いていないようだった。
絵里の眼から見ても、いつぞやのさゆみの剣幕とは、全く違うものだ。
これには絵里自身も、少し驚いた。
そのまま、返す言葉もなく、唇を噛み締めて黙り込む絵里。
それに見かねて、麗奈が呆れ顔で助け舟を出した。

「絵里、何か言いたい事でもあんの?」
「えっ…あ、うん…。あのね、ちょっと、ね…。
 あの、麗奈。話してなかったんだけどね…?」
絵里はいつも以上の挙動不振で…、というか、どこか気まずそうにしている。
麗奈としても、それは何となく察知できて、面倒臭さをさっきの3倍くらいに感じていた
215 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 03:56
「あの、私ね…あの、“こういう時じゃない”道重さんと話した事があるの…」
麗奈は一瞬、眉をピクリと動かしたのだけれど、当の本人は全く何の変化もない。
相変わらずにボケーっとしたままで、終いには口まで半開きになっているではないか。
絵里が“こういう時じゃない”なんて形容をした事に、麗奈は思わず笑ってしまいそうになった。
確かに、改めて見ても、ギャップが大きすぎる。
「でね…その時にね」
絵里は続ける。さゆみの事をやはり気にしながらだったが、
さゆみ自身が気にしていない様子を見ると、少し安心しながら続けた。

「私、道重さんに助けて貰った事がある…の…」
「ふーん…」

麗奈は興味なさげに、ただそう相槌を打つ。感情的なものは、篭っていない。
ただ単に、相槌を打っただけ…という感じだった。
絵里は構わず続ける。
216 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 03:57
「あの、私ね…。本当は、道重さんは…悪い人じゃないと思ってて…」
絵里の性格上なのか、最後の方は気まずさ故に、ほとんど声になっていなかった。
きっと、こう言えば麗奈が怒るとでも思ったのだろう。
しかし、麗奈は特に怒る様子もなく、絵里の言葉の続きを待っていた。
「……それはね、私、何でかよくわからないんだけど…。
 何かを、感じたの。道重さんと、会った時」
「……ふーん」
「でも、ね」
声のトーンが上がる。必死に取り繕う、というような声の上げ方だった。
部屋中の気まずさが、一点に集中したような雰囲気だ。

「麗奈と出会った時も、そう感じていたの…」
絞り出すような声で、絵里はそう告げた。
217 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 03:59
「あたしはさ」
ようやく麗奈が、絵里にまともな返答をした。
「あたしは、ホントに、こんな奴と、こうしてここにいるってのが不思議なんだけど。
 でも、何となく、解る。…絵里の、言いたいコト」
麗奈も、どこかで感じていた。
嫌悪しながらも、どこかさゆみを認めざる───認めたくはない反動でいっぱいだった。
それは、直感的なものがあったからかも知れない。

麗奈がそう白状すると、絵里は頬を真っ赤に染めてうつむいた。
自分の幼稚な発言に、麗奈が合わせてくれたのだと思ってしまったのだ。
「違う、違うって。絵里のコトを、バカにしたワケじゃない」
「…だって、何か、そんな風に聞こえたんだもん…」
少し拗ねたように、絵里が言う。
麗奈が何か反論しようかと、口を開きかけた時に、違う所から声が上がった。

「───私たちは、出逢う運命だったの」

そう呟いたのは、他でもない。
今までボケーっとしたままだった、道重さゆみなのであった。
218 名前:作者 投稿日:2004/12/13(月) 04:02
どうも、作者です。
こんなに放置しておいて、今更読んで下さる方がいらっしゃるでしょうかorz

少しずつですが、ペースを取り戻して完結させたいと思っております。
ただ、久しぶりに書いた文章なんで、いつも以上の変な文ですが。
再開歓迎レスとか頂けると幸いとか思っちゃったりなんかだったりします。ハイ。
ちゃんと終わらせられるように、がんばります。ハイ。
219 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 04:02
更新しました。
220 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 05:22
面白い!
続き楽しみに待ってまつ。
221 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 17:38
待ってました!!続き、頑張って下さい。
222 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:18
───えり。

───えり?

───えり!

「…誰?」
何かの声が自分を呼ぶ声だと悟り、“絵里”は目を覚ました。
空は白かった。空と言わずに眼前全てが白く覆われている。
自分を覆う全てが、白い壁だったのだ。
そう、天使に導かれ"生まれた"時と同じように、絵里は白い壁に囲まれていた。

「誰なの?」
声のする方に、導かれるように歩み出す。
白い壁に囲まれているはずなのに、何故か壁をスイスイと通り越し、
やがて、何か光の渦のような所に足を踏み入れた。

それきり、また意識を失った。
223 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:19
ほんの一瞬の間だった。
絵里が意識を失い、次に目を覚ましたのは。
「…あれ?」
確かに、三人は、あの藤本美貴のアパートに集まっていたはずだ。だがどうであろう。
絵里が、目を覚ましたこの場所は、美貴のアパートではない。
───絵里の通う、クラスの教室だった。

「ここは…?」
徐々に意識が戻ってくる。
あのアパートにいた事が、どれ程前の事だっただろうか。
そんなに刻は経っていないだろうか。むしろ、遠い遠い昔の事だったであろうか。
それすらも、思い出せない程に、頭の中が朦朧としていた。
224 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:19
「…れいな?道重さん??」
二人の名を呟いてから、自分の中で、恐ろしい程早く答えが出てしまった。
───誰───?
確かに、さっきまでは記憶の中に、彼女たちの姿があったはずだ。
だが、その名前を呼んでも、誰の事だかさっぱり思い出せない。
知らない人間の名前を、どうして口に出したのだろうか。
「私…どうしたんだっけ…」
白昼夢でも見ていたかのような、変な違和感が、頭の中から拭えない。
どんどん、頭の中で、色々な事が消滅していく感じがする。
頭を抑えようと、他の事を考えようと、次々と何かを失っていく虚無感があった。

「今日、何日だっけ…」

不意に、黒板に目をやる。
白いチョークで描かれた日付けは、3月10日だった。
225 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:19
黒板には日づけの他にも、「卒業おめでとう」の文字が色とりどりに描かれている。
「───卒業式?」

絵里の中に、何故か不安感が募っていく。自分でも解る。
同時に、胸の鼓動が急に激しくなった。額には、うっすらと汗をかいている。
この寒い時期に、だ。
これは所謂、「悪寒」というやつだという事は、絵里にも理解できた。
「待って、そう、今は3月…10日。今日が卒業式よね…」
頭の中で、ゆっくり、ゆっくり確認していく。
解る事だけを、明確に。
「3月…2月…1月…12月…?」

(そうだ、私、2月に私立の女子高受けて落ちたんだ…)
(1月には何度も風邪を引いて、学校を休んで家で勉強して…)
(12月には、お父さんが事故で入院したんだよね…)

どうして、こんなに大事な事をいっぺんに忘れていたのか。
こんなところで寝てしまって、頭が寝ぼけていたせいだろうか。
226 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:19
「11月…」
そう言いかけて、急に何かを思い出したかのように、振り返った。
11月より前の記憶は、確かにある。
いつに何をしたとか、自分がどうだったとか、鮮明に思い出せる。
しかし、その後の記憶が、どうにも継ぎ接ぎだらけなのだ。

(そんな事、あったっけ───)
(本当に、私、高校に落ちたっけ!?)
(本当に、風邪ばかり引いていたっけ!?)
(本当に、お父さんが入院したっけ!?)
(それに私、卒業式にいた?)

「あれ、亀井さん。まだいたの?」
突然教室の戸が開き、クラスの女子数名が中に入ってきた。
どうやら一通りの送別をしたらしく、全員が全員、涙顔だ。
227 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:19
「卒業式、感動したねー」
「ねっ。亀井さん、マジ泣きだからビックリしたよ、ホント」
「そ、そう、えへ…」
どうやら、卒業式にはきちんと参加していたらしい。
絵里の記憶には、式に出たような出てないような、虚ろな記憶だけが残っているだけなのに。
彼女たちは、ハッキリと、絵里が泣いていたと告げた。

(…私、いつの間に、こんなにクラスの人と喋れるようになったの…?)

「でもさー、アレだよね」
少女たちが絵里の周りに取り巻き、次々とお喋りを続ける。
絵里はもう、一人で考えに浸ってる余裕もなく、「う、うん」と相槌を打った。
「亀井さんさー凄いよねー」
「え、え?何が?」
「新垣さんにあんなに強く言えたの、亀井さんだけじゃない?」
「ねー!それ思った。それで転校させちゃうなんてやるよね」
228 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:20
「───え?」

意味が、よく理解できなかった。
少女たちはあくまで思い出の笑い話を語っているように見える。
いや、彼女たちからしてみれば、ただの思い出話をしているのだ。
だが、絵里にだけは都合が違う。
新垣里沙の記憶は、今でも残っている。
いつも絵里を貧乏、貧乏と罵って虐めていた大金持ちのお嬢様。
彼女を憎いと思った気持ちは確かにあった。いなくなってしまえば、という気持ちもあった。
だが、彼女に実際に何かを言った記憶がないのだ。
どこをどう思い返しても、記憶の欠片もない。

「まっ、あの人、いつもいつも亀井さんの事虐めてたしねー」
「ねっ。やな人だったよねー。転校して、清々したよ」
絵里の頭の中で、理解できる範囲をとうに超えていた。
229 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:20
「12月くらいじゃなかった?ほら、亀井さんが怒ったじゃん」
「そうだっけ───あ、そ、そうだったよね。
 うん、ゴメンね。怒っててあんまり覚えてなくて…」
「そりゃそうだよね、あんなに怒った亀井さん、初めて見たし」

もうすでに、彼女たちの言葉が遠くに聞こえる。

(どうして、どうして何も思い出せないの…?)
(重要な事ばかりなのに、一つも自分でした記憶がない…!)
(どうして、こんな事になってるの!?)

本当に、どれもこれも、重要な事ばかりを忘れてしまっている。
もっと前の、暗かった頃の自分とか、そんなくだらない事はよく覚えてる。
(自分の体験した事は、よく覚えてる…でも…)
230 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:20
自分の考えに我に返り、思わず口に出していた。
クラスメートたちの耳には入らなかったようで、彼女たちは
相変わらず、思い出話に花を咲かせている。

(私、本当に体験した…?)

新垣里沙を怒ったとか、高校に落ちたとか。そういうあやふやな記憶を、
“体験していない”事は、どう考えてもそうとしか考えられない。
だが、本当に、「覚えている事を体験した」のか。
その疑問を抱いてようやく、絵里の頭の中の糸が、少しだけ繋がった気がした。
(でも、どうして…体験してないのに、覚えてるの?)
まだあやふやな点がたくさんある。
矛盾と矛盾の繰り返し、何をどう考えても、線が完全に繋がる事がない。
あと何か、足りないものがある。

(思い出せない、どうして!?何を忘れているの!?)
231 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:20
「でもさ、亀井さん、その後大変だっ…」
「あっ、バカ!その話は……」
一人の少女が漏らした言葉を、他の少女がほんの僅かな差で制した。
本当に、聞き逃す程に僅かな差で。だが、聞き逃さなかった。

今までにない程、動悸が早くなっていくのが、自分でも解る。
血が滲み出そうな程に握り締めた拳は、汗で濡れている。

直感というものが、どれだけ頼りになろうか。
最後のヒントは、彼女が握っている。
覚悟はもう、決めていた。

「言って」
静かな、だけど力強い一言だった。
彼女たちの口から、それを聞き出すには十分過ぎるほど、重鎮な。
232 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:21
「亀井さんの友達が、二人揃って亡くなった時───
 ほら、修学旅行で同じクラスだったんでしょう?二人とも…」

少女が、気まずそうにそう述べたその瞬間の事であった。

絵里の意識が、再び混沌の渦に飲み込まれていったのは。


233 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:21
スレ隠し
234 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:21
スレ隠し
235 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/15(水) 05:22
待たせてしまったお詫びに、一気に更新しました。
次回で最後の更新です。






ヤレバデキルジャン、俺。
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/15(水) 13:11
怒涛の展開ですね・・・待ってます
237 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/12/15(水) 19:15
凄いなぁ・・・
映画見てるみたい。
ラスト楽しみにしてます。
238 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/16(木) 23:23
もう終わっちゃうんですか……次回、楽しみに待ってます
239 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:39
◇◇◇

二つの花が添えられている。

赤色と桃色の花で、どちらもただ一輪ずつ、ひっそりと置かれているだけだった。
その二つの花と、“えり”以外、誰もいない。何も存在しない世界。
荒廃的な訳でも、破滅的な風景でもない。
本当に、何も存在しない。大地も、空もない。

えりの覚えている限りでは、この風景はもっと心地のいいものだったはずだ。
緑の草、赤い花が咲き乱れ、美しい蝶の舞う楽園のような風景。
知らないはずの彼女が知っていた、楽園の風景。
彼女たちの、生まれた場所。
あの美しさは、鮮やかなものは失われてしまった。
だが、楽園がなくなってしまった訳ではない。
楽園そのものがここであるのだから。
240 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:40
「れいな、さゆ…」

えりは二つの花に向かって、彷徨うように歩む。
その距離はどれ程だったのだろうか。
永遠の時を彷徨ったのか、それともほんの一瞬の出来事だったのか。
二つの花を手に取るまでは、その時間すら存在しなかったのかも知れない。

両端に広げた腕で、そっと、抱きしめるように花たちに触れた。

刹那、れいなとさゆみの声が、頭の片隅…いや、もっと遠いところで聴こえる。
いや、正確には聴こえたような気がしただけだったが、本当に呼んでいたのかも知れない。
えりにとっては、どっちでも良かった。

(二人とも、泣いているんだね)
幼い子供が母を呼ぶような、泣きじゃくるような悲しい泣き声で。
二輪の花を両手に広げると、不思議な程穏やかな気持ちになった。
241 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:40
「れいな、さゆ…そうだったんだね」
二つの花を胸に抱き、えりは大粒の涙を流して泣いた。
いつまでもいつまでも、涙は枯れ果てる事はなく、永遠に思われるくらいに泣いた。
悲しいからではない。だけど、えりの意識とは関係なく、涙は流れた。

声をしゃくり立て、赤ん坊のように泣きじゃくった。
二つの花を優しく撫でると、れいなとさゆみがいるのではないかという錯覚すら起きる。
そう、花は確かに、二人を───二人の気持ちを残していた。

頬を流れる涙は、えりの身体を伝って大地へ零れ落ちる。
零れた涙が大地を創造し、大地からは緑の草が伸び育ち、色とりどりの花が咲き乱れる。
花のそばには蝶が舞い、蝶の舞う先には、美しい虹がかかる。
虹の先には、見たこともないような蒼い空が広がっている。

蒼い空は、少しばかり目に染みた。
242 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:40
知らぬ間に、えりの周りの風景も随分変化していた。
えりの創った美しい楽園に、運命を決めるあの二つの門ができあがっている。
色鮮やかな世界は華やかで美しく、そして───悲しかった。

「そうだったの、そうだったんだね…」
指先に感じる、しなやかな花びらの感触。
温かくも、冷たくも、硬くも、柔らかくもない質感。
指先を伝って、二人の気持ちがどんどんどんどん、えりの心の中に流れ出して行く。
胸を伝って行く温かな感情。零れ落ちて行く冷たい涙。
心の中で混ざり合うのを、確かに感じている。
(───わかった)
やがてそれも溢れ出し、そうしてようやくその意味を理解する時がきた。

えりは、今この場所にいる意味を知った。
あの二人は、もうここにはいない。
(私の知らない間に、遠い存在になってしまうんだ)
(私はもう───)

天使の言葉が、今更になって、鮮明にフラッシュバックする。
243 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:41


「あんたたち、どんな未来が待ってても…人間として産まれたい?」




244 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:41
その言葉が、今は酷く辛く、重い言葉のように聞こえる。
振り向けば、そこにあの金髪の天使が立っていた。
初めて出会った時よりも、ずっとずっと、寂しそうな顔で。

「決意は、できた?」
えりにも理解ができる。
彼女が寂しそうな表情を、こうして浮かべている事。
───道を、選ぶ時が来たのだ。

「れいなと、さゆは…」
穏やかな気持ちが、途端に激しい憎悪に色を変える。
天使の姿を目にしたら、穏やかな気持ちも、冷たい涙も、全てが変化していく。
今は鋭い目つきで、ただ、天使を睨み付けるだけだった。

天使は、何にも応じなかった。
「それは、言えない。あんたはあんた自身で決めなければいけないから」
「そう…」
二人はもう、先に道を進んでしまったのだろうか。
そればかりが、頭の中を巡って行く。
だが、えりにはまだ、確かめなければならない事がたくさんある。
245 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:41
どうして───」
「わかったんだろ?もう」
えりの言葉が、天使に遮られる。
天使の言葉は、ただ淡々としているだけで、それがえりを余計に苛立たせる。

「あんな未来、何のために見せたっていうの!?」
苛立ちは、もはやえり自身には抑え付ける事ができなかった。
もしも、楽しいだけの未来だったら───えりは、こんな風には思わなかっただろう。
だが、彼女はその先を知ってしまった。

“愛する人たちの、いない世界を。”

その意味を確かめずには、素直に全てを決める気にもなれない。
「ねぇ、どうしてなの?私だけが、どうして、あんな風に…ねぇ」
「……」
えりは、激しい口調で天使に食って掛かるが、天使は無言で首を横に振る。
答えられない、という意味だろう。
だが、冷静さを欠いた今のえりでは、その事に気づく事はできない。
246 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:42
「どうして、ねぇ」
「……わからないの?」
「あんな未来を見せておいて、私、私…」
えりはそう言い掛けて、ハッと口を噤んだ。
(私、今…何を言おうとしたの…)

「わかっているんだろ?」
天使は先程から、ずっとそればかりを続ける。
えりも少しだけ、自分の気づかないところではもう気づいたのだろう。
だけど、気づかないふりをしているんだろう。
「お願い、教えてよ!どうして、」
頑なに、狂った様にそれだけを繰り返して、言葉に紡いだ。

えりの言葉だけが、美しい風景にかき消えていくだけで、
何もかもが、静止しているかのように、静かだった。
無論、天使も口を開きすらしない。

「何で、何で黙ってるの!ねぇ、教えてよ!」
「…………」
247 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:42
「お願いっ…お願いだから…ねぇ…」
悲痛な願いに、天使はむしろ困惑すらしていた。
もちろん、天使にも理由があり、そして規則がある。
産まれていく人間の全てを司る身である以上、下手な事は口にできない。
だが、目の前の少女が、果たしてそれで納得するのだろうか。

天使の脳裏に、苦い思い出が蘇ってくる。
あれは、ずっとずっと、遠い昔の事だった。
今の彼女と同じように、いや、今の彼女より、ずっとずっと辛い未来を持った少女がいた。
彼女は言った。「どうして、こんな未来を見せるの」と。
天使は決まった答えを、答えるしかなかった。「それが私の仕事だから」と。
彼女は結果、生きる道を選んでいったのだけれど、今でも忘れる事ができない。
彼女の、睨み付けた眼を。
何度も何度もこなしてきた“仕事”なのに、何度もそう言われてきたのに、
彼女の鋭い眼光だけが、いつまでも消えずに残っている。
248 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:42
産まれた人間は、ここでの記憶を亡くして行く。
だが、天使には、彼ら・彼女らとの出逢いは記憶の中に残っていくものだから。
どんなに辛い未来が待ちうけていても、天使は彼らを送り出して来た。

───だから、彼女にも、生きて欲しいと願う。

天使は少しの迷いを経て、口を開いた。
「本当に、聞いていいの?」
天使の言葉は、ただ重かった。
ナイフで抉るようでも、包丁で切りつけるようでも、ハンマーで殴るようでもない。
ただ言っただけ、の言葉だ。

「全てを知ってしまえば、産まれる事ができないかも知れない」
こんな言葉、口に出す事は禁じられている。
だが、天使には、他に言う言葉がなかった。

脳裏に焼きついた、れいなの笑顔。さゆみの笑顔。
それに未来の中で味わった、たくさんの想い。
それが無駄なものだと、彼女は思いたくなかったのかも知れない。
249 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:43
「それでも、構わない…」
恐怖とか、不安とか、そんなものが、ないと言えば嘘になる。
だが、えりはそれ以上にただ、真実を知る事しか、
未来へ続く道はないのだと、そう判断した。
未来での出来事が、本当に起こり得るものならば。
「お願い、知りたいの…。知らなければ私、決める事ができないと思う…」
えりも、全ての力を振り絞って、そう言葉にした。

天使はただ、無言で頷く事しかできなかった。

「本当は、皆、運命を知っても産まれて行く。大体はね。
 そうするように、あたしが道を拓く。
 …何も、言わないんだ、本当は。
 いや───言ってはいけない。
 
 それに、産まれない道を選ぶ意味なんて、本当はない。
 生まれた人間だからこそ、産まれる道を選ぶ。
 誰もが、そうやって産まれて行くのさ。
 そのために、幸せな未来を体験させる。

 あんたが知りたいなら、知ればいい。
 だけど───いや、もういい。あたしは言うよ」
250 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:43
「あんたにとって、一番幸せな時と、一番辛い時を、見せただけ。
 あの二人には、幸せでない時なんてなかった。それだけの事だよ。
 辛い未来を体験したのは、あんただけ…。
 ───今までにも」

「えっ…!? どうして、私だけ…?」
「あんただけが、あの二人の死に直面するから。
 あんただけが、あの二人へ強い想いを持っているから。
 あんただけが…あの二人の道を、変える事ができるから…」

「………」
天使の羽が、ふわりと羽ばたき、羽根が空に舞う。
少しずつ、少しずつ。白い羽根が、美しい楽園に。

「どうして、あの二人の死が、私にとって一番辛いというの?」
「あんたが、一番解ってる事でしょう」

「じゃあ、どうして、あの二人には辛い時を見せなかったの」
「あんただけが、特別だから」

えりは気づいていない。
天使の羽が、異様に短くなっている事に。
空に舞う羽根の量が、おびただしい程になっていく。
一面を、天使の羽根が多い尽くす程の。
251 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:43
「それでも、二人は産まれる決意をしたの…?」
「───そう」

ふわっ…と、涼しげな風が辺りに舞う。
大量に空に浮かんでいた羽根が、一片も見当たらなくなった。
「…っ!!羽が───」
えりは驚き、天使の背中に触れようとしたが、天使自身がそれを制す。
羽は、もう一本すら生えていなかった。

(掟破りには、こういう仕打ちって事か)

「どうやら、これが最後の仕事になりそう。
 あんたも、早くしないと産まれられなくなるよ」
「…あ…あ…私の…せいで…?」
えりの膝が、ガクガクと震え、ついには地面に膝を付いてへたり込んでしまう。
天使はそれに「チッ」と舌打ちをすると、えりの腕を引っ張りあげて、無理矢理に立たせた。
「時間がないんだ、早く決めな」
「さ、さいごに……」
252 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:43
「最後に、聞いても…」
「早くして、時間がない」

本当にもう、時間がないのだろう。天使の脚が、半分消えかかっている。
どうして、彼女にだけは、真実を告げてしまったのか。
今までどんなに責められても、真実を告げる事を閉ざしてきたというのに。
その代償が、これだと言うのに───
253 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:44


「私に出会わなければ…、二人とも、生きていられる…?」


254 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:44
えりの中の、全ての想いが───託されていた。
天使が「あんただけが特別」と言った時には、全てを理解していたんだろう。
自分さえ、“いなければ”と。
自分さえ出会わなければ、“二人の生きる道を、変える事ができる”と。
天使は、そういう意味で、えりを“特別だ”と告げた。

顔は満面の笑みを浮かべていたが、両の眼から零れ落ちる涙が頬を伝っていく。
精一杯の、強がりだったんだろう。
口をへし曲げながら唇を噛み締め、笑顔を崩さないように必死で笑っていた…。

「そうだよ。あんたさえいなければ、あの二人は生きていられる」

笑顔だった。
天使も、心からの笑顔で、えりにそう答えた。
笑顔だけれど、悲しいくらいに、涙を流していた───
255 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:44
◇◇◇

「あれぇ、なにかな、これ」
「麗奈、ちょっと、こら、待ちなさい…」
「とーった」
「あら、何を取ったの?」
「これーしろいのー!
「麗奈、それはね、羽って言うんのよ」
「はね?」
「うん、でも、凄い真っ白な羽。何の鳥かしら」
「はね…」
「どうしたの?じーっと羽を見つめて」
「れいな、このはね、しってる」
「えっ?あ、麗奈、ちょっと待ちなさい、どうしたの!」

「まってる…まってるよ!」
「もー。どうしたの、この子は。急に走り出して…」

◇◇◇
256 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:45
◇◇◇

「ちょっとさゆ、何であんた、いつもそんな天然なの?」
「えっ、嘘。私、全然天然じゃないんだけど!」

「あーもう、静かにしてよ!自習の時間くらい!」

「…何あれー、何か、ヤな感じだよね」
「ね…、私だったら、絶対あんなガリ勉にならないと思う」
「何言ってんのよ、さゆにそんなキャラ似合うわけないじゃん」
「わかんないよー?私だって、ちょっと違う風に生まれてたら、
 あんなガリ勉かも知れなかったじゃん!」
「ないない、ぜーったいないって!」

「んっ?」
「どうかしたの?」
「え、ううん、何か、これ…」
「あれ、その羽、いつの間にそこに落ちたんだろ?」
「ね…すごーい、白ーい、きれいー。私にピッタリ」
「何の鳥の羽だろうねぇ」
「クスクス」
「何がおかしいの?」

「これはね、きっと、天使の羽だよ。絶対そう!」

◇◇◇
257 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:45
◇◇◇

かみさまのこえが、聴こえる。

生きろ。

それは、ずっと、ずっと昔のことだったのだろう。

だけど、この胸に、まだ残っている。

あたしの羽は、なくなった。

少女たちは、自分の生きる道を決めた。

あたしという存在は、あの門からは消えていった。

きっと、生まれ変わるって言葉を、知ったんだと思う。

かみさまのこえが、言った。

あたしは…、天使じゃなくなった。

あたしに与えられた最後の仕事───

それは、人間として、生きること。

あの子たちを、導くこと。

あたしの名前は───マキ───


◇◇◇
258 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:46
◇◇◇

「いっせーのーせ、でトントン、ってするんだからね」
「緊張する〜」
少女たち三人が、灰色のドアの前で立ち止まっていた。
いや、正確には中に入ろうとして、入れずじまいというのが正しい。

「憧れの、後藤さんさんばい!どうすると!?」
茶髪の、元気で活発そうな少女が、今にも溶けそうな勢いで、顔を真っ赤に染めた。
「えー、怖くないかなぁ」
少し舌足らずで、色白な、黒髪の少女が答える。喋り方も、随分子供じみている。
「………」
「どうしたの?」
「え、え?ううん、何か、ほら、やっぱ緊張してて」
もう一人、少し釣り目で、こちらも黒髪の少女だ。
余程緊張しているのか、とても不安そうに、閉じた掌の中を覗き込んだ。
「あー、なんか持ってる」
「ちょ、ちょっと!」
「ほら見て見てコレ。ほら」
少女たち二人が、彼女の掌を無理やりに開くと、
掌の中で温かくなった、白い羽が出て来た。
259 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:46
「あっ…」
「えーっ!」
二人の少女が、同時に驚きの声をあげた。
「どうか、したの?」
羽を取り上げられた少女が聞くと、二人ともポケットから、同じような羽を取り出していた。
「偶然って、あるんだね」
「ホント。すっごい似てるよ、これ」

「あっ、これの事は後にしてさ、早くしないと…。
 ドアの前でいつまでも煩くしてたら、怒られるかもっ…」
「大丈夫。ホントに、臆病たいね」
「ちょっとー、そんなんじゃないよ!さ、行こう」
「はーい、じゃあ…」

いっせーのーせ!
260 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:46
「後藤さん、初めまして!田中麗奈と言います!後藤さんに憧れて、この世界に入りました!」
「道重さゆみですっ。山口県出身です。好きな人は自分です」
「私っ、亀井絵里って言います。えっと、後藤さんに会える日を、ずっと楽しみにしてました」
261 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:46
「あたしは、知ってるよね。後藤真希。
 
 あんたたちを───ずっと、待ってたよ!」

262 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:47




             ◇◇◇END◇◇◇
263 名前:ごっつ 投稿日:2004/12/18(土) 04:48
どうも、作者です。今更完結してみました。
本当に長い間待たせてしまって、ごめんなさい。

色々と構想したものを削ったりしました。だって忘れちゃった(ry

…6期メンも、随分キャラが変わりましたね。
後半もう訳わかんなくて大変でした。

何はともあれ、読んで頂いてありがとうございました。
264 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:48
265 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:48
266 名前:かみさまのこえ 投稿日:2004/12/18(土) 04:49
─────完結─────
267 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 03:00
お疲れ様でした。最後のシーンは感動しました。
268 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 04:16
完結するとは思ってもみなかったので、まさに晴天の霹靂でした。
やはり作者さんの話が大好きです。ありがとうございました。
269 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/20(月) 10:22
ラストシーンが最高でした・・・
完結、おつかれ様でした
270 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/19(水) 03:49
どうも作者です。1ヶ月経ったので今更なあとがきを載せてみます。ついでに落とします。

えーとまず言い訳です。
話をはしょり過ぎてしまいました。今読み直すと納得いかない結果になってます。
しかし丁度書き終えた頃は本当に時間がなく、とにかく完結させることしか頭になかったのです…。

物語で一番省かれた部分(新垣の存在とか)は実はきちんと描かれるはずで、
そこからこの展開に繋がる予定なのでした。しかし強引な手法でラストまでつなげてしまい、
まぁ最後の場面を特に書きたかっただけなので、良いかなぁという判断なのでした…。

ああ何を言っても今更言い訳にしか聞こえないorz

ってなわけで、これはこれでいいんだ!最後の場面が書けたからいいんだ!
と納得していただけると幸いです。

それでは、読んで下さってありがとうございました。
271 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/19(水) 15:56
納得いかないなら外伝とか書いて補完したら?
272 名前:作者 投稿日:2005/01/19(水) 20:01
>>271
それもあれなので、これはこれで、ってことで。
自分じゃなくて読んだ人が納得いかない結果かなぁと思ったのです。はい。
それの言い訳が>>270ですから。
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/21(金) 21:43
言い訳もなにも読者はみんなわかってたと思われ
274 名前:作者 投稿日:2005/01/24(月) 03:29
ちょっと補完してみようって気になってみたので、とりあえず保全
275 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 22:00
書いて書いて保全するから
276 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/03(日) 21:56
まだ待ってみる

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