CLOSE RANGE
- 1 名前:山人 投稿日:2003/10/03(金) 22:43
- あやみきです。
長さなど完全に決まってはいませんが、
よろしくお願いします。
- 2 名前:山人 投稿日:2003/10/03(金) 22:44
-
モーニング娘。に入って変わったこと。
団体行動に慣れた。
大人数で動くの、あんまりスキじゃなかったのに。
オフの日が少なくなった。
今の仕事の量はソロだった時よりも多い。
(ちょっと悔しい)
覚える曲が増えた。
新曲はもちろん、いままでの娘。の曲も覚えなきゃだし。
(あ、カントリーもだ。)
食べることが多くなった。
入った直後はそうでもなかったんだけど、最近はまわりの子につられて食べちゃう。
(辻ちゃんとか、辻ちゃんとか、辻ちゃんとか)
仕事の中身に幅がでた。
歌だけじゃなく、演技もするし、コントもするし、クイズにも出るし。
(バラエティー的な内容が多いのは気のせい)
でもそんなことより何よりも。
1番変わったのは、すっごく気の合う大親友、亜弥ちゃんに対する美貴の気持ち。
- 3 名前:山人 投稿日:2003/10/03(金) 22:47
-
*******
最近の美貴はおかしい。
そりゃあ、ハロプロ自体に変わった人が多いのは十分わかってる。
交信王飯田さんを筆頭に、辻ちゃんでしょ、よっすぃーでしょ、
村田さんでしょ、見た目から変わってる保田さんでしょ、ボスでしょ…
数え上げたらキリがない。
だからって美貴もその中に入ってるって思わないでよ?
…って前だったら自信を持って言えた。
前だったらね。
けど娘。に入ってからはホントやばいんだ。
美貴はハロプロ内の数少ない常識人だと思ってたのに。
- 4 名前:山人 投稿日:2003/10/03(金) 22:48
-
どうおかしいかって?
たとえば。
楽屋でメンバーとファッション雑誌を見てる時。
「ねえねえ、これかわいくない?」
「……」
「ちょっと美貴ちゃん?」
「……」
「…ねえ?」
他人から話しかけられている途中に、とんでしまう。
まあ一緒に雑誌を読んでいたのは梨華ちゃんだったから、
ちゃんとした受け答えができる状態でも、
質問が質問なだけに、答えにつまってたかもしれない。
- 5 名前:山人 投稿日:2003/10/03(金) 22:49
-
移動中の車の中でメンバーと話してる時。
「美貴の実家でさ、トイプードル飼い始めたみたいなんだあ」
「へ〜、どんな感じ?」
「美貴もまだ直接見てないけど、
ふあふあでモコモコしててすっごくかわいいんだって」
「すげー!かっけ〜!」
「……」
「うちもなんかペット飼おっかな」
「……」
自分から話しかけている途中でも、とんでしまう。
「『かっけ〜』ってそこで使う言葉なの?!」というツッコミも忘れて。
- 6 名前:山人 投稿日:2003/10/03(金) 22:50
-
そう、時間も場所もおかまいなしで、飯田さんのようになってしまうのだ。
意識して何か他のことを考えてないと、自然に出てきてしまうのが怖い。
いつでもどこでも寝れるのは特技になるかもしれないけど、
いつでもどこでも交信中は自慢にならないよ…
とんでいる最中(いわゆる交信モード)に美貴の頭の中にあることは。
『あ〜この服亜弥ちゃんに似合うだろうないやいやどんな服でも似合うんだろうけどさでも美貴的にはあーゆーカッコとかこーゆーカッコのが好きかも』
とか
『トイプードル美貴んちに連れてきたら亜弥ちゃんうちに見に来るかな亜弥ちゃん犬好きだしそーいえば亜弥ちゃん自身動物っぽいよねえ』
とか。
亜弥ちゃんのことばかり。
- 7 名前:山人 投稿日:2003/10/03(金) 22:51
-
理由は大体わかってるつもり。
娘。に入って忙しくて、ずーっと一緒にいた親友に会えないから。
何かひっかかるものはあったけど、どうにか
無理やり自分を納得させた。
- 8 名前:山人 投稿日:2003/10/03(金) 22:54
- とりあえずプロローグ部分終了です。
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/05(日) 02:42
- おっ、あやみきですか。しかも藤本視点。好きです。
最近は飼育にあやみきの時代がやってきた感じがしますね。
あやみきだからって訳じゃなく、素直に話の続きが気になります。
無理しすぎずに頑張って下さいね。
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 03:35
- わ〜いあやみきだあ。
どっっちかつうとあやみき小説においては
藤本は求められる側が多いのでこういうお話は萌え萌えっす。
マイペースで頑張って!
- 11 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:30
- *******
季節は梅雨の真っ只中。
娘。として本格的に活動を始めてから、1か月ほどが経っていた。
今年も例年のようにシャッフルユニットが編成され、今日はそのPV撮影。
久々に亜弥ちゃんに会える!
メールや電話は毎日のようにしてたけど、
やっぱり顔見て話したいよ。
毎日一緒でも疲れない。
ずっと楽しい。
こんな風に感じられる友達は、亜弥ちゃんしかいないんだ。
亜弥ちゃんもそう思ってくれてるといいなあ。
たかが1か月。されど1か月。
この期間は、美貴の中の亜弥ちゃんの存在を大きくするのに充分だった。
- 12 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:34
- うれしくって、ワクワクして、昨日の夜はなかなか眠れなかった。
遠足前の小学生みたいじゃん、なんてベタなツッコミはなしで。
そんなこと、美貴もよーくわかってるよ。
寝不足のくせに、今朝に限っておそろしく目覚めの良かった美貴は、
手早く支度を済ませて家を出た。
おっと、おじさん。眠いからってそんなに寄りかかってこないでね。
そこのお姉さん。今美貴の足踏んでったでしょ。ヒールで。
いつもならサングラスごしでもわかるぐらいに睨みつけるところだけど、
今日は機嫌がいいから、許してあげよう。
- 13 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:35
- はやる気持ちを加速させるかのように電車の乗り継ぎもスムーズで、
美貴が楽屋に着いたのは、なんと集合時間の一時間前。
亜弥ちゃんは別のユニットなので、楽屋も美貴とは別だ。
さっそく顔出しにいきたいけど、
こんな早い時間にはまだ来てないよね。
とりあえず自分の楽屋に入ることにするか。
11WATERの楽屋のドアを開けると、
飯田さんがカバンを下ろしているところだった。
ありゃ、美貴が1番だと思ったのに。
- 14 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:38
- 「おはようございまーす」
「おう、おはよー。
珍しく早いじゃん。美貴にしては。いつもはもっとギリギリでしょ?」
「うぅ…いつもギリギリってわけじゃないですよ」
苦笑しながらカバンを置き、真ん中に並べられている長机のそばの椅子に腰掛ける。
飯田さんは、部屋の端に置いてあるソファに身を沈めた。
普段は下から見上げることの多い彼女を上から見下ろすのは
不思議な感じだ。
「飯田さんこそどうしたんですか?こんなに早くに」
「圭識は普段も早いんだよ。
今日は立ち位置の確認しとこうと思って」
- 15 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:40
- おぉ、えらい。さすがリーダー。
仕事熱心だ。美貴も見習わなきゃ。
その前にまず人の話に集中できるようにならないと。
話の途中に意識飛んでたんじゃ仕事になんないよね。
「美貴も最近ボンヤリしてることが多いみたいだから、気ぃつけなよ」
美貴の考えを読み取ったかのように、飯田さんが言う。
飯田さんに言われるのは少し複雑だった。
が、口ごたえした時の説教時間の長さを思い出し、素直に頷いておく。
「よしよし」
ワシャワシャと頭をなでられる。
ちっちゃな子供になったみたいで恥ずかしかった。
- 16 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:42
- その後、スタッフの人と話があると言って出ていく飯田さんを見送った美貴は、
ものすごい睡魔に襲われた。
昨日あんまり寝てないからな。
あと30分もすれば亜弥ちゃんは来るだろう。
それまでちょっとくらい寝ててもいいよね。
飯田さんが座っていたソファに移動し横になると、
昨日あれだけ寝つけなかったのがウソのように眠りに落ちていった。
- 17 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:43
- *******
―――フフッ
誰かの笑う声。
飯田さん?
もう戻ってきたのかな。なんで笑ってんの?
いたずらとかはやめてくださいよ。
それとも他のメンバーがきたのかな?
……。
…いや、違う。
最も耳になじんだ、この声は。
- 18 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:46
- 「亜弥ちゃん!!」
顔を確認する前に名前を呼んで、飛び起きた。
ああ、やっぱり…!
目の前には、会うのを心待ちにしていたその人。
自然と笑顔がこみあげてくる。
んん?ちょっと亜弥ちゃん静かすぎじゃない?
パッチリ二重の大きい瞳をさらに大きく開いた亜弥ちゃん。
息をのんだまま、固まっている。
そっか。
寝てると思ってた人が叫びながら体起こしたらビックリもするよね。
悪い悪い。
「亜弥ちゃん?」
もう一度名前を呼ぶと、金縛り状態が解けたらしい。
亜弥ちゃんは上目づかいでちょっぴり頬をふくらませた。
「もう、ホンットにビックリしたんだから!」
- 19 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:47
- そしてにっこり笑って。
「みきたん、久しぶりぃ!」
抱きつかれた。
…ああ、亜弥ちゃんだあ。
ソファの脇にかがみこんでいた亜弥ちゃんは、
いつの間にか美貴の上に。
- 20 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:49
- お互いの背中に手をまわし、ギュッと力をこめる。
亜弥ちゃんは美貴の首筋に甘えるように鼻をこすりつけてきた。
亜弥ちゃんの柔らかい髪に指を通す。
うんうん、この感じ。
久しぶりだねえ。
ハロプロ内でも一、二の仲の良さを誇る美貴たち。
スキンシップの過剰さを指摘されることも少なくないけど、
そんなの知ったこっちゃない。
友情のカタチなんて、人それぞれじゃん?
- 21 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:51
- 「そういや亜弥ちゃん、なんで笑ってたの?
ってかなんでここにいるの?」
おでことおでこをくっつけながら聞く。
部屋に備え付けの時計をチラッと見ると、まだ集合時間の30分前だった。
「早めに来ちゃったの。
みきたんに会うの待ちきれなくて」
おぉ。うれしいこと言ってくれるね。
「でも久しぶりに見た最初の顔がいきなり半目なんだもん。
笑うなっていう方がムリだよ」
そうだったのか。
ちょっぴりショック…
亜弥ちゃんの前だとどうしてこうきまらないんだろ。
- 22 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:52
- 軽く凹んでいると、くっついていたおでこを離してデコピンされた。
「なーに落ちこんでんの。
初めて見られたわけじゃあるまいし。
そんなことよりみきたん!
今日はたーくさんお話しようねぇ」
綺麗な顔をくしゃくしゃにさせて笑う亜弥ちゃんを見たら
どんな顔で寝てたかなんてどうでもよくなった。
- 23 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:54
- 川VvV从< 更新終了だよ。
- 24 名前:山人 投稿日:2003/10/06(月) 22:56
- レスありがとうございます。
>9 名無しさん様
あやみきの時代、いいですね!
できるだけ間をあけずに更新していきたいと思うので、
よろしくお願いします。
>10 名無し読者様
自分の中のあやみき不足を補いたくて始めました。
ご期待に添えられるよう、頑張ります!
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/07(火) 00:19
- 早めの更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
きっと松浦さんは一ヶ月ぶりの藤本さんの匂いを堪能したんでしょうね。
ああああ。
- 26 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/07(火) 12:33
- あやみきは良いのぉ…
あやみきが絡んでるところを見ると癒されます。
そしてこの小説を読んでまた癒されました(マジで)
あやみき最高!!!!!
- 27 名前:リエット 投稿日:2003/10/08(水) 01:03
- 更新お疲れ様です!
ここまでらぶらぶなあやみきは意外と少なくて新鮮です(w
- 28 名前:山人 投稿日:2003/10/08(水) 22:37
- 完全に目が覚めた美貴。
なんだか離れるのが惜しくて、
しばらくそのままの状態で亜弥ちゃんとじゃれ合う。
亜弥ちゃんも美貴の上から降りようとしない。
「ん〜」
今度は鼻どうしをくっつけてくる。
なんだかくすぐったくて、思わず目をつぶった。
どこにでも鼻をくっつけようとするとこ、犬みたいだねえ。
- 29 名前:山人 投稿日:2003/10/08(水) 22:38
- ねえ、最初にも思ったんだけどさ。
亜弥ちゃん、ちょっと痩せたんじゃない?
元から軽いのに、これ以上痩せてどうすんの。
確か今はツアーの真っ最中なハズ。
体調とか大丈夫なのかな。
送られてくるメールや電話での話し声なんかは元気いっぱいって感じだった。
けど頑張り屋の亜弥ちゃんのことだから。
皆に心配かけたくなくて、元気そうに振舞ってるのかもしれない。
水臭いなあ。
しんどかったらしんどいって言いなよ。
何でも言っていいんだよ。
美貴たち親友でしょ?
- 30 名前:山人 投稿日:2003/10/08(水) 22:40
- いろいろと考えている間、無表情になっていたらしい。
「みきたん?顔怖くなってるよ」
亜弥ちゃんは不思議そうな顔をしながらも美貴の髪をいじって遊んでる。
口を開こうとしたその時。
スタッフの人との話が済んだのか、飯田さんが戻ってきた。
美貴一人が部屋に残っていると思っていたのか、
亜弥ちゃんを見て意外そうな顔をする。
- 31 名前:山人 投稿日:2003/10/08(水) 22:42
- 「松浦じゃん。おはよー」
「おはようございまーす」
かわいく返事する亜弥ちゃん。
飯田さんは、そのまま美貴たちのいるソファの前までやってくる。
そこで、やっと自分たちがどんな体勢でいるのか思い出した。
あわわ。
急いで亜弥ちゃんを降ろそうとすると。
「いいの。続けて」
真剣な顔をした飯田さんの一言。
- 32 名前:山人 投稿日:2003/10/08(水) 22:43
- ………。
…『続けて』って何を?
目で問いかけると、飯田さんは何かを含んだ表情でニヤリ、と笑った。
コワイ…。
なんで美貴たちのこと、そんなにジーっと見てるんですか。
そのままの体勢でいるのが気恥ずかしくなり、
亜弥ちゃんを降ろしてソファに腰掛ける。
亜弥ちゃんが名残惜しそうな顔をしたように見えたけど仕方ない。
- 33 名前:山人 投稿日:2003/10/08(水) 22:44
- 結局美貴たち3人は、他のメンバーが来るまでなんでもない話をして過ごした。
その間も、美貴と目が合うたびに意味深な笑みを浮かべる飯田さん。
一体ナニ?なんなの?
- 34 名前:山人 投稿日:2003/10/08(水) 22:46
- 从‘ 。‘从<更新終了でーす。
短くてすみません。しかも中途ハンパですみません。
- 35 名前:山人 投稿日:2003/10/08(水) 22:47
- レス感謝です!
>25 名無し読者様
ええ、それはもう思う存分に。
匂いフェチの松浦さんは大好きな犬の匂いよりも
藤本さんの匂いが好きなんです。きっとそのハズ!
>26 名無し読者様
从‘ 。‘从川VvV从<美貴たち癒し系?
いいですよね、あやみき。
並んでるだけでうれしくなります。
ごまっとう新曲出してくれないかなあ。
>27 リエット様
コンセプトは『いつでもどこでも甘々』で!
今決めました(w
- 36 名前:リエット 投稿日:2003/10/08(水) 23:25
- 更新お疲れ様です!
飯田さんがおもしろいですw
一体何を期待しているんだろうw
- 37 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/08(水) 23:58
- 飯田さん、僕と同じ考えをお持ちのようで。
気にしないでどんどんやっちゃってくれた方がね。
僕のことは空気とでもほこりとでも思ってくれれば。
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/09(木) 02:00
- や、山人さん、鼻キスは禁じ手ですよ…(暴萌)
もう少しいちゃつくあやみきを見たかった。
飯田めー。。。
- 39 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/09(木) 09:11
- 飯田さんという邪魔者が……。くそー(笑)
まだ始まったばかりですが、作者さんの書き方、好きです。
これからも甘々なあやみきをほんのりと期待してますよー
- 40 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/10(金) 03:28
- 更新ない日はごまっとうSPで飢えを癒します。。。(泣)
- 41 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:05
-
- 42 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:06
- ***
撮影は、同じ建物の中でユニットごとに分かれて行われる。
もちろん、撮影する部屋は別。
「そろそろ戻ろっかな」
集合時間になったため、
SALT5の楽屋に戻らなきゃいけない亜弥ちゃん。
美貴、まだ亜弥ちゃんとほとんど話してないよ…
その原因はまだ目の前にいるんだけど。
ソファの隣には亜弥ちゃん。
そして向かい合う位置に置かれた椅子には飯田さん。
- 43 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:08
- 「え〜松浦もう行くの?あとちょっとぐらい話してっても大丈夫だって」
リーダーらしからぬことを言ってくれる。
楽屋に来たばっかの時に美貴が尊敬した人はドコ行ったのかな。
それにアナタ、今まで十分話してたでしょうが。
美貴の分まで。
他のメンバーももうとっくに来てるのに。
今日に限って美貴のそばから離れないのはなぜ?
ほら、あそこで矢口さん暇そうにしてますよ!
誰かこの人連れてってよ!
矢口さん!矢口さーん!!
そんな美貴の心の叫びが聞こえるはずもなく。
- 44 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:09
- 「早く行かないとみんなに叱られちゃいます」
飯田さんの誘いを冗談ぽく笑って断りながら、
亜弥ちゃんはソファから腰を上げた。
「みきたん、また遊びに来るね!」
指先を握って軽く上下に振られる。
まだ帰ってほしくない。
指を絡ませ、手にギュッと力を込めて離さない。
今の美貴、どんな顔してるんだろ。
きっとすごく情けない。
- 45 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:11
- 少し困ったような、でもどこか嬉しそうな様子の亜弥ちゃんは。
軽く唇を尖らせて美貴との距離を縮めた。
反射的に美貴も顔を近づける。
って、ん!?
やっばい。一瞬忘れてたよ。
飯田さんがいること。
- 46 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:12
- 至近距離から、突き刺すような視線を感じる…
唇が触れそうになる寸前。
体をすばやくずらして、亜弥ちゃんの頭を美貴の肩に埋める。
「み、みきたん?」
突然のことに、亜弥ちゃんは何が起きたのか分かってない様子。
横に振り向いてギョッとした。
- 47 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:14
- 増えてんじゃん…
真剣にこっちを見つめる飯田さんの隣には、
これまた楽しそうな表情を浮かべてる矢口さん。
電波で呼んだの?
「亜弥ちゃーん!こんなところにいた〜。
もう皆集まってるから早くおいでよ」
わざわざSALT5の楽屋から探しにきた加護ちゃんによって
亜弥ちゃんが引っ張られていく。
美貴は力なく笑って手を振るしかできなかった。
- 48 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:14
- ***
- 49 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:15
- 11WATERの衣装に身をつつんだ美貴。
さっきの楽屋での出来事は忘れて、気持ちを切り替えよう。
ハァ…
最初は全員での撮り。
ラインダンスを取り入れた振り付けを、11人が精一杯の力で踊りきる。
美貴今回の曲スキなんだよね。
明るいし、衣装も気に入ってる。
幸い、重要なパートもまかされることができたんだ。
- 50 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:16
- 何回か通して踊ったところで、短く休憩が入った。
一息ついて、壁にもたれて。
改めてメンバーを見回してみる。
…よくもまあ、これだけ面白いメンバーが揃ったもんだね。
つんく♂さん、漫才でもやらせたかったのかな。
美貴としては、楽しいから全然OKなんだけど。
一つだけ欲を言えば、亜弥ちゃんも一緒だったらよかったのにな。
- 51 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:17
- 少し離れた場所で、よっすぃーと辻ちゃんが顔をつき合わせてにらめっこ中。
あらあら。
アイドルがそんな顔しちゃっていいの?いいのか。
………プ。
二人とも顔変形しちゃうよ。
テレビじゃ絶対に放送禁止だよ。
ヤバイ、ツボにはまった。笑いがとまらん。
一人でお腹を抱えて声を殺して笑っていると。
ちょうど美貴の前を紺ちゃんが通りかかった。
- 52 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:18
- 訝しげな視線を美貴に送る紺ちゃん。
あれ見てよ!
慌ててよっすぃーと辻ちゃんの方を指差す。振り向く紺ちゃん。
が。
終わってる!
美貴が目を離した一瞬の隙ににらめっこは終わっていた。
さっきまでの変顔はどこにいったやら。
二人は無邪気に笑ってる。
- 53 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:19
- 残ったのは同情するような紺ちゃんの視線と、
リンゴのように真っ赤になった美貴。
「あの…」
「はーい。じゃそろそろ始めまーす」
スタッフさんの声にさえぎられ、
美貴は言い訳をする時間すら与えてもらえなかった。
- 54 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:20
- ***
- 55 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:20
- 全員での撮影が半分ほど終わったところで、
今度は個人の撮りに入ることとなった。
11人もいれば、待ち時間は長い。
幸い美貴の撮影はまだまだ先だ。
亜弥ちゃんのところへ行こう。
- 56 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:21
- 川VvV从<おでかけ前更新♪
- 57 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:22
- 話がなかなか進まない(焦)
- 58 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:23
- >36 リエット様
( ゜皿 ゜)<カオ、オモシロイ?(ニヤリ
飯田さんも喜んでます。
彼女には後で活躍してもらうかもしれません。
>37 名無しさん様
川#VvV从<は、恥ずかしいよお
藤本さん、意外と恥ずかしがり屋なようです。
まわりなんて気にならないくらいになってもらうのが目標(w
>38 名無し読者様
萌えてくださってありがとうございます(w
飯田さん、今回も邪魔しちゃってます。
>39 名無し読者様
ありがとうございます!うれしいです。
正直どのように書いていいか分からなかったので。
甘々、頑張ります。
>40 名無し読者様
从;‘ 。‘从<泣かないで〜
あわわわ。更新しました。
- 59 名前:山人 投稿日:2003/10/11(土) 14:25
- age忘れ
- 60 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/11(土) 21:55
- 更新キタ━━━(・∀・)━━━!!!
毎日チェックしてましたよ(w
- 61 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/12(日) 01:50
- 飯田、今回ばかりは許せん・・・。(怒)
- 62 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:07
- 亜弥ちゃんのいるスタジオまでは歩いてすぐ。
スタジオの真ん前まで来てから、キョロキョロと辺りを見渡す。
誰も付いてきてないことを確認してホッとする。
また邪魔されたんじゃたまんないかんね。
撮影の途中かもしれないことを考えて、
扉をそっと開き、体をすべり込ませた。
ドアのすぐ向こうには薄暗い空間が広がってる。
手前にはカメラや音響機具、そしてスタッフさんたち。
対照的に、奥の方はライトの光に満ちた明るい空間。
スタッフさんたちに軽く会釈しながら、奥へと進んでいく。
- 63 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:08
- 急にまわりが明るくなり、スタジオ中の緊張が解けた。
ラッキー。
ちょうど休憩に入ったみたい。
まだ明るさに慣れない目を瞬かせながら、早速亜弥ちゃんを探す。
いた。
加護ちゃんの隣だ。
ニコニコ笑って向かい合わせに立つ亜弥ちゃんと加護ちゃん。
二人の前では、小さめのカメラがまだ動いてる。
あれ?休憩じゃないのかな。
少しぐらい美貴が近づいていっても二人とも全く気づく気配がない。
楽しそうに笑い合う二人を見て、
寂しいような悔しいようななんともいえない気分になる。
- 64 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:10
-
むう。
ちょっと二人とも距離近すぎじゃない?
カメラがまわっている手前、
勝手に割り込んでいいものかどうかためらってしまう。
一歩踏み出しては引っ込み、また踏み出しては引っ込みを繰り返してる間に。
カメラに向いていた目線をお互い見合わせ、
亜弥ちゃんと加護ちゃんの顔が近づいていく。
ああっ!ちょっと待った!
このままじゃ、このままじゃ…
「「鼻ちゅう〜♪」」
そう、ちゅーしちゃうよ。
ん?鼻?
- 65 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:11
- あ、なんだ。口じゃないのね。
セーフ。
って何がセーフなんだろ。
「次アゴねっ」
「いーよっ」
まだやんのか。
「あややとぉ〜」
「あいぼんのぉ〜」
「「あごちゅう〜♪」」
………。
- 66 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:13
-
ん〜なんだろ。なんなんだろこれ。
すっごいムカムカする。
口だろーが鼻だろーがアゴだろーがイラついた気持ちが残ってることには変わりない。
今までハロプロの他のメンバーと仲良くする亜弥ちゃんを見て、
寂しく感じることはあってもムカついたことはない。
そこで腹を立てるのはお門違いだって分かってる。
分かってるんだけど…。
んむむむむ…
…っはぁー。
なんかワケわかんなくなってきたや。
考えるのやーめたっと。
楽しいことはスキ。難しいことはキライ。
- 67 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:14
- 知らないうちに険しくなってた目つきを、元に戻した。
どうやらさっきのはメイキングのサービスカットだったらしい。
カメラはもうまわってない。
さて。
完全に休憩に入ったことだし。
そろそろこんな真っ赤なカッコした美貴に気づいてもいい頃じゃないですか?
松浦亜弥さん。
てか気づけ。
- 68 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:15
- じっと見つめていると、加護ちゃんと目が合った。
ブンブンと手を振られる。
さっきのことがまだ尾を引いているらしく。
油断したら睨みつけてしまいそう。
無理やりに笑顔をつくって控えめに手を振り返す。
「あ!たん!」
やっと気づいた。遅いよ。
「みきたぁんっ」
でも走ってくんのは速いね。
加護ちゃん置いてけぼりだけどいいの?
「来てくれたんだ。あたしも今休憩入ったからみきたんのとこ行こうと思ってたの」
亜弥ちゃん越しに加護ちゃんが何か叫んでいるのが見える。
なになに。
『ごゆっくり』?
…いい子だ。
睨みそうになってごめんよ。
- 69 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:16
- とりあえず。
亜弥ちゃんの細いあごを少し持ち上げ、美貴のあごにくっつける。
「これでよし」
美貴もやっとかないと気がすまない。
「あははっ。何が『よし』なのぉ?」
聞きながらアゴをグリグリされる。
痛い。痛いけどイヤじゃない。
「いや、こっちの話」
そっけなく答えてあごを離した。
- 70 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:17
- グリグリされたアゴをさすっていると。
「あ!そうそう」
急に目を輝かせて亜弥ちゃんが言った。
「みきたん今日うち泊まりに来ない?」
なに。いきなり。
とても嬉しいんですけど。
「いいの?亜弥ちゃん明日朝早いんじゃないの?」
「それがね、あたしも朝から仕事だって聞かされてたんだけど、
マネージャーさんが勘違いしてたらしいのね。」
うんうん。
「仕事昼からだったんだって」
ほほう。
「で、久しぶりにみきたんにも会えたし、ここからだったらうちの方が近いし、
どうせだったら泊まりにきてほしいなって…」
「行く」
- 71 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:18
- 「は、早いね。みきたんがよかったらだったんだけど…」
「そーんなこと言って。美貴が断っても無理やり連れてくつもりだったんでしょ?」
「えへへ、バレたあ?」
「そりゃ、わかるさ」
「えへへへ」
「んふふふ」
我ながら単純だ。
さっきまで胸の中にあったモヤモヤしたモノはどっかに吹き飛んでしまった。
- 72 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:19
-
その後。美貴は撮影が終わるまでゴキゲンだった。
たとえ亜弥ちゃんと歩いてる最中に飯田さんに割り込まれようとも。
並んで座ってるところを隣から飯田さんに邪魔されようとも。
美貴、飯田さんに何か悪いことでもしたんだろうか…。
- 73 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:20
- 从‘ 。‘从<更新しましたぁ
- 74 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:20
- 雀の涙ほどのストックがなくなりました(涙)ここからが頑張り時。
- 75 名前:山人 投稿日:2003/10/13(月) 23:21
- レスありがとうございます。
>60 名無し読者様
チェックありがとうございます。
できるだけ早く更新しようと思うのですが、
なかなか書く時間がとれないもので…
>61 名無し読者様
煤i ゜皿 ゜)
ごめんなさいごめんなさい!
- 76 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/13(月) 23:24
- 飯田さんワロタ
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/13(月) 23:30
- リアルタイムキタ━━━!!
おおおお泊まりですか!
焦らず作者さんのペースで続けてやって下さいな
- 78 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/14(火) 23:16
- 今度こそ二人っきりのあやみきが見れる!
しかもお泊り!
次回更新を想像するだけで・・・
あああっ
- 79 名前:リエット 投稿日:2003/10/17(金) 22:13
- 更新お疲れ様です!
飯田さん面白すぎです(w
松浦ラブの藤本さんがどんな行動に出るのか……。
次回更新が楽しみです(w
- 80 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 00:52
-
- 81 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 00:54
- *****
「お待たせー」
スタジオの入り口に立ってる亜弥ちゃんを見つけて走り寄る。
人数の多さからか、撮影が終わったのは美貴のいる11WATERの方が後。
着替えを済ませて時計を見ると、時刻は8時少し前だった。
下を向いて携帯をいじっていた亜弥ちゃんが素早く顔を上げてこっちを見る。
ニカっと笑った、と思ったらすぐに膨れて拗ねた顔。
目元の笑いが隠しきれてないからフリだっていうのが丸わかりだ。
「おっそーい」
「けっこう待たせちゃったね。ごめん」
「許してあげないっ」
顔を背ける亜弥ちゃん。
冗談だってわかるから気にしない。
「仕事だからしょうがないじゃん」
笑いながら頭をナデナデするとすぐに笑顔に逆戻り。
美貴の腕に腕を絡ませる。
美貴より少しだけ小さい亜弥ちゃんの手を引いて外に出た。
- 82 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 00:55
- 梅雨特有の湿った空気を孕んではいるものの、雨が降り出す気配はない。
帽子とサングラスで顔を隠しながらタクシーを待つ。
「長いこと待たせたおわびにさ、美貴がごはんつくるよ」
「やった!何つくってもらおうかな〜」
「もうこんな時間だから簡単なのしかできないけど。それにあんまり難しすぎるのもやめてね」
「みきたん全然料理得意じゃないもんね」
かわいい顔してかわいくないこと言うね。
つなぎっぱなしの手を揺らしながら考え込む亜弥ちゃん。
「ん〜と…それじゃねー、パスタ食べたい!」
「はいよ。了解」
やってきたタクシーに乗り込んで、人目につかない所で降ろしてもらう。
近くの店で食材を買い込んでから、亜弥ちゃんの家に上がり込んだ。
- 83 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 00:57
-
「上がって上がって」
「お邪魔しまーす」
約1か月ぶりの亜弥ちゃんち。
この前きた時となんにも変わらない。
白が基調の部屋。
カーテンやベッドカバーなどは亜弥ちゃんの好きなピンクでまとめられている。
置いてある小物も女の子らしい。
脱ぎ捨てた服はそのまま、置いてあるものは珍味な自分の部屋を思い出した。
アイドルうんぬんより女の子として問題なんじゃないか。
とにかく帰ったら掃除しよう…
- 84 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 00:58
- 「台所かりるね。亜弥ちゃんはテレビでも見て待っててよ」
気を取り直してさっそく晩御飯の支度に取り掛かる。
台所に食材を広げかけたところで気がついた。
包丁、まな板、食器、その他もろもろ。
最近使った形跡がない。
冷蔵庫の中を確認しても、使えるような食材はほとんどなかった。
亜弥ちゃん、どうやって食事してたんだろ?
仕事柄、外で食べることが多くなってしまうせいか、基本的には外食を好まない亜弥ちゃん。
1か月の間にいきなり外食好きになったとは考えにくい。
それに、もともと美貴より自炊する気はあったハズだけど。
- 85 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 00:59
- 「みきたん、お腹すいた!ボーっとしてないではやく〜!」
「はいはい」
後ろからせかされて思考を中断させられる。
二人とも空腹なので、早く食べれるようにと
買ってきたものは茹でればいいだけのパスタとレトルトのソース。
それに野菜を少々。
今からつくるものは料理とよんでいいのかな。
ソースを温め、パスタを茹でている間に、野菜を適当に切ってサラダを作る。
隣の部屋からはテレビから流れ出る音が響いてる。
- 86 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 01:01
-
野菜を切るのに集中し始めてすぐの、きっとまだ5分程しかたってないってとき。
後ろから急に抱きすくめられた。
「ちょっ…!危なっ!」
驚いて手を切りそうになり、ヒヤリとする。
「暇だよぉ」
肩にあごをのせて話されるもんだから、手元が不安定なことこの上ない。
「テレビは?」
「おもしろくないもん」
「じゃあ自分の出てるDVDでも見てなよ。もうすぐできるから」
「ヤダ。せっかくみきたん来てるのに」
「美貴が来た時はよく見せるじゃん」
「一緒に見るのはいいの」
- 87 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 01:01
- どういう理屈かよく分からないけど。
美貴のそばにいようとしてくれるのは嬉しい。
「美貴今は相手できないよ」
「こーやって見てるからいいの」
離れる気はないみたい。
頬っぺたに亜弥ちゃんの髪があたってくすぐったい。
「んじゃ早く終わらせるから動かないよーに」
「ラジャー」
最後に切るつもりだったのは玉ねぎ。
切り終わった後に二人とも涙目になってて、お互いの顔を見て大爆笑した。
- 88 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 01:03
-
パスタもすぐに茹で上がり、簡単な夕食ができあがる。
「「いただきまーす!」」
「おいしーい」
「レトルトだけどね」
「うん、レトルトだから」
かわいくない発言本日2回目。
亜弥ちゃんも料理のうまさ、そんなに変わんないよね。
でも、ニコニコしながら言われたら言い返せなくなる。
久しぶりの二人だけでの食事。時間をかけて楽しもう。
- 89 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 01:03
-
食事が終わり、洗い物も終えてお風呂を沸かす。
沸くまでの間は隣合わせに座っておしゃべり。
「みきたん最近忙しそうだね」
「うん、仕事増えたし。でも亜弥ちゃんも大変でしょ?ツアーとか」
「それはそうなんだけどね。でも仕事があるのはいいことでしょ。
感謝しなきゃ」
こういう時、やっぱ亜弥ちゃんはセンパイなんだなって思う。
約1年早く仕事を始めたせいか、美貴より仕事の重みが分かってるというか…
そのせいで無理しすぎることも多いけど。
- 90 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 01:05
- 思い出す。
痩せたように感じた亜弥ちゃんの体。
からっぽに近い冷蔵庫。
最近ちゃんと食べてる?心配だよ。
美貴が言葉に出す前に、亜弥ちゃんが口を開いた。
「忙しくてお疲れのみきたんを、あたしが癒してあげましょー」
- 91 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 01:06
- 頭に手を添えられ、そのまま体ごと横に倒される。
伸ばした亜弥ちゃんの膝の上に美貴の頭がのった。
俗にいう、膝枕。
ホントならお疲れの亜弥ちゃんを美貴が癒してあげないといけないんだろうけど…
アタマ、上げらんない。
ファンの人たち、ごめんね。
美貴だけこんないい思いしちゃってます。
優しく何回も頭をなでられ、安心する。
気持ちいー…
微笑んでる亜弥ちゃんの顔をいったん視界に入れてから、目を閉じた。
- 92 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 01:07
- 川*VvV从<更新終了です
- 93 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 01:07
- 土日中にまた更新します。
- 94 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 01:08
- レスありがとうございます。
>76 名無しさん様
飯田さん、どうしても藤本さんを邪魔したいみたいです。
実写版がシャッフルシングルVのメイキングに入ってます(w
>77 名無し読者様
お泊まり編はまだもう少し続きます。
見捨てずにお付き合いください。
>78 名無し読者様
从‘ 。‘从人川VvV从
今回は二人っきりです(w
>79 リエット様
こんな行動に出ました。
川;VvV从<まだ何も…
- 95 名前:山人 投稿日:2003/10/18(土) 01:09
-
- 96 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/18(土) 07:38
- 後ろから抱きつく松浦さんキャワ!
二人の甘い夜に期待です!!
- 97 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/19(日) 13:39
- 萌えるなぁ・・・次の更新楽しみにしてまつ。
- 98 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:35
-
- 99 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:37
-
「んん…?」
息がしづらい。
目を開けると亜弥ちゃんがいなかった。
目に入るのはピンクのベッドカバーと白い壁だけ。
どうやらほんとに寝ちゃってたみたいだ。
膝枕してもらってた美貴の頭の下には何もない。
かわりに首のまわりになんか巻きついてるよーな。
苦しい。
そのせいで起きちゃったんだ…
巻きついているものをクルクルまわして引きはがしてみると、
ピンクのサルのぬいぐるみが。
えー、アレだ。たしか名前はアヤンキー。
シッポの部分が巻きついてたのか。
ヘタしたら首絞まって死んじゃうじゃん。コワッ!
こんなカッコ悪い死に方したくないよ。
- 100 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:38
- 寝起きなのと酸素が十分にまわってなかったのとで頭が重い。
体を起こして頭を振る。
亜弥ちゃんはどこ?
まさかアヤンキーになっちゃったなんてことはないよね?
ボンヤリした頭で考えるせいでありえないことが浮かんでくる。
「亜弥ちゃん…?」
混乱してアヤンキーに話しかけてしまう。
なにやってんだ、美貴は。
他の部屋を探してみようと立ち上がり、ドアを開けた。
- 101 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:39
- わっ!
目の前には亜弥ちゃん。
むこうもドアを開けようとしてたみたいで。
「あ、起きたんだ」
パジャマ姿で濡れた髪を拭きながら入ってくる。
普段より大人っぽく見えて、不覚にもちょっとドキッとしてしまった。
お風呂あがりの亜弥ちゃんなんて見慣れてるはずなのに。
久しぶりに見たからだ。
うん、そーだよ。きっとそーだ。
「お風呂もう入っちゃったの?」
「うん。みきたんあまりにも気持ち良さそうに寝てたから。起こすのも悪いなーと思って」
起こしてもらって全然オッケーだよ。むしろ起こして欲しかった。
一緒に入ろうと思ってたのに。くぅ〜…
- 102 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:41
- 「起こせよぉ〜」
首に腕をまわして軽く締めつけた。
ドキドキに気づかれたくなくて、少し距離をおきながら。
「あはっ。ギブ、ギブ」
パシパシと美貴の腕をたたく。
そろそろ許してやるか。
腕を解くと、亜弥ちゃんは呼吸を整えた。
「みきたんも入っておいでよ。タオルもパジャマも置いてあるから」
「はーい」
お風呂場に向かう。
脱衣所に置いてあるパジャマを見た。
つい1か月前まで少なくとも週に2,3回は着てたパジャマ。
美貴がお泊り用に亜弥ちゃんの家に置いてあるものだ。
ここ最近全く着ていなかったことに、寂しさを覚えた。
- 103 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:41
-
- 104 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:43
-
「ふぃ〜気持ち良かったぁ」
体を取り巻くジメジメした不快感から開放され、さっぱりした気分で部屋に戻る。
亜弥ちゃんはベッドに寝そべって雑誌を読んでいた。
「おーい今帰ったぞぉ」
雑誌を閉じて、亜弥ちゃんは美貴を見て笑った。
「みきたんオヤジみたい」
「いいも〜ん。美貴オヤジだもん」
言われ慣れてるから気にしなーい。
「ドライヤー借りるね」
「………」
美貴の言ったことには答えずに、
ベッドに寝そべったままジッとこっちを見つめる亜弥ちゃん。
- 105 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:44
- 「な、なに?」
急に黙んないでよ。
「早く」
「え?」
「だから早く」
ドライヤーを指差す亜弥ちゃん。
ああ、早く乾かせってことね。
急いで髪を乾かす。
その間もずっと見られてる。なんで?
ねえ亜弥ちゃん、そんなに見られるととっても落ち着かないんですけど。
- 106 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:45
- あらかた髪を乾かし終えてドライヤーを置く。
まだ完全に乾かしきれたとはいえないけど、まあいっか。
「終わりましたよ、お嬢さん」
振り向くと、手招きする亜弥ちゃん。
疑問に思いながら近づいていくと。
ガバッ!
飛びつかれた。
『抱きつかれた』なんて表現じゃおさまんないほどに。
ビ、ビックリした…
一瞬呆然としてしまったけれど、意識をしっかり取り戻す。
美貴の胸に顔を埋めたまま動かない亜弥ちゃん。
「な、なにしてんの?」
「甘えてんの」
「はあ」
そんなストレートに返されると、なんて言っていいか…
- 107 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:46
- やばい、またドキドキしてきたよ。
体がムズムズする。
友達相手になにキンチョーしてんだ。
気づかれるのもなんとなく恥ずかしい。
なんか話でもして注意をそらさないと。
部屋をキョロキョロ見回すと、ベッドの脇にきちんと座ったアヤンキーが。
これだ!
「あああ亜弥ちゃん!アレさっき美貴の首に巻きついてたんだけどさ。
絞まっちゃってホントに苦しかったんだけど」
どもっちゃった。
亜弥ちゃんはゆっくりと顔を上げ、美貴の視線をたどった。
「ああ、アレね」
アヤンキーを見てうなずく。
「起きた時あたしがいなかったら寂しいでしょ。みきたん寂しがり屋だから」
顔を上向き加減にして自慢げな表情。
- 108 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:47
- 寂しいからって巻きつける必要はないよね。そばに置いてればいいじゃん。
ツッコミはおいといてとにかく話を続ける。
「よく言うよ。寂しがりは亜弥ちゃんの方でしょ。
長いこと会えなくて寂しかったんじゃないの?『みきたんに会いたいよーう!』って」
1か月間の自分の気持ちを亜弥ちゃんにすり替えて言う。
「……」
あれ。また黙っちゃうの?
アヤンキーのおかげでせっかく注意そらせたのに。
…もしかして美貴、墓穴ほっちゃった?
「うん、寂しかった。だから甘えてんの」
…やっぱり。話は逆戻り。
他の話題を探そうと思った。けど。
- 109 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:48
- 「会いたかったよ。すごく会いたかった」
「けどみきたん娘。さん入ったばっかりで忙しそうで、あたしと会ってたら大変だろうなーって思ったり」
「そうやって考えてるうちに誘いそびれて」
「娘。さんが出てるテレビ見たらみきたんすっごい楽しそうに笑ってるし」
「あたしがいなくてもあれだけ笑えるんだあって悲しくなっちゃって」
「ごはんも一人で食べるんじゃおいしくないからあんまり手つけられなくて…」
とめどなく流れ出る亜弥ちゃんの言葉。
口をはさめなかった。
- 110 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:50
- いつも二人で遊びに誘うのは亜弥ちゃん。
どちらかというと美貴は受身になってばかりだった。
遊びに誘ってこないってことは、きっと亜弥ちゃんすごい忙しいんだ。
勝手にそう思い込んで、この1か月間メールや電話でしか連絡をとらなかった。
変な遠慮なんかしてないで、ちゃんと会いにこればよかったね。
話し終えた亜弥ちゃんは、寝転んだまま美貴に背中を向けてしまった。
見えてる耳が赤い。
「ごめんね」
それだけつぶやいて、いつも亜弥ちゃんがするように、首元に鼻を寄せてみる。
亜弥ちゃんのにおい。
今日は美貴も同じにおいに包まれているんだと思うと嬉しくなる。
首筋に口付けた。何度も、何度も。
こんなこと、美貴からはめったにしない。
「えへへ、くすぐったいよ」
亜弥ちゃんが身をよじらせて笑う。
我慢できなくなったのか、180度体を回して美貴を止めようとする。
- 111 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:51
- その時にはもう遅かった。
止まらない。止められない。
最初は軽く唇をつけるだけだった。
ずっと、そのつもりだったのに。
いつの間にか夢中になってた。
いまだに続いてる喉元へのキスは、ライトなものとは決していえない。
どうしよう?
- 112 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:52
- 突然、視界が真っ暗になった。
顔に、熱い、柔らかい感触。
亜弥ちゃんに手で塞がれたらしい。
「亜弥ちゃん…?」
ゆっくり手をどけると、目の前には初めて見る亜弥ちゃんの表情があった。
ほんのりピンクに上気した頬。
潤んだ薄茶色の瞳。
綺麗に整った少し下がった眉。
薄く開かれた唇。
かわいい、かわいい、かわいい!
こんな顔するんだ…
- 113 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:53
-
お互いしばらく言葉を発せず、見つめ合ったまま。
先に口を開いたのは、まだ頬の赤みが引ききらない亜弥ちゃんの方だった。
「もーう!いきなりなにすんのよ。ビックリするでしょ!」
「あはは、ごめんごめん」
そう返すのがやっとな美貴。
覆いかぶさるようになっていた体を離す。
さっき亜弥ちゃんが止めてくんなきゃ自分でも何してたか分かんない。
やばい。このままじゃ同じところで寝られない。
また変なことしちゃったらどーしよう。
下に布団でも敷いて寝ようか。
でも今までベッドで一緒に寝てたのにいきなり変えるのも変だと思われる?
「どしたの?ブツブツ言っちゃって」
すっかり普段通りに戻った亜弥ちゃんは美貴の焦りに全く気づいていない。
「変なみきたん。もうそろそろ寝るよ」
電気を消すとまた美貴にピタッとくっついて眠ろうとする亜弥ちゃん。
やめてぇ…!
「みきたん、おやすみ」
- 114 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:54
- 从*‘ 。‘从<更新です
- 115 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:55
- 藤本さんの安全装置、解除。
- 116 名前:山人 投稿日:2003/10/19(日) 21:55
- レスありがとうございます!
>96 名無し読者様
松浦さん、かわいいと言ってくださってありがとうございます。
彼女をいかにかわいく書くかが目標ですので。
>97 名無し読者様
ありがとうございます。
なんとか日曜のうちに間に合いました。ホッ
- 117 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 09:36
- 藤本さん、もっとやっちゃってw
キスする場所がちょっと違う事によってこんなに興奮(オイ)するなんて……
っと、これ以上書くとネタバレになっちゃいますね。
ほんと萌えます、作者さんありがとう。
- 118 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/21(火) 00:41
- こりゃあ藤本さんたまんないだろう。
安全装置も解除されたということで。暴走しちゃったり。
無理矢理はよくないですが…ガマンもほどほどにね、青少年!!
- 119 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/21(火) 21:04
- 藤本さん欲求不満にならなきゃいいんですが…(w
- 120 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 00:19
- 読んでるこっちが欲求不満だよぅ…(w
- 121 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 23:08
- 藤本さんはこの甘い拷問に耐えられるのか^^
次回に続け。。。
- 122 名前:山人 投稿日:2003/10/24(金) 01:35
-
- 123 名前:山人 投稿日:2003/10/24(金) 01:36
- ***
…き……が……匹、…き…るが225匹、みきうーるが226匹、みきうーるが227匹…
うぅ…。
眠れない。
どれだけ寝ようと頑張っても、ますます目が冴え渡る。
普段寝付けないなんてことはまずないから、こんな時どうすればいいのか分からない。
隣からは可愛らしい寝息が聞こえてくる。
美貴の顔から亜弥ちゃんの顔まではたった数センチの距離。
近すぎだよ。
無防備な寝顔しちゃってさ。
真上を向いて固まってる美貴に体全体で抱きついてる亜弥ちゃん。
美貴は抱き枕じゃないっての。
いつもこんなくっついて寝てたっけ?
今のこの状態で思い出すのなんかムリだ。頭が働かない。
- 124 名前:山人 投稿日:2003/10/24(金) 01:37
- 部屋が暗くなって目から入る情報が少なくなった分、他の感覚が研ぎ澄まされる。
感じない方がいいようなことまで伝わってくる気が。
美貴より少し高い体温、とか
サラサラの髪から香るシャンプーの匂い、とか
腕に当たる柔らかい感触…、とか。
思わず手を伸ばして抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。
けど、それだけで止まれる自信はゼロ。
身を硬くして自分を抑えつけなきゃなんない。
あーもう!!亜弥ちゃんのせいだよ。
亜弥ちゃんが甘えるから。
亜弥ちゃんがかわいいこと言うから。
亜弥ちゃんがあんな顔するから。
- 125 名前:山人 投稿日:2003/10/24(金) 01:38
- とにかく寝なきゃ。
美貴は朝から仕事が入ってるんだ。寝過ごしちゃったら大変だ。
できるだけそっちを見ないようにして、体にまわってる亜弥ちゃんの腕をはずした。
なんとか無事にはずし終えてホッと一息つく。
が、次の瞬間。
グイッ
「んん…」
さっきよりもっと強い力で抱き寄せられた。
これ以上顔を寄せるなあっ。
- 126 名前:山人 投稿日:2003/10/24(金) 01:39
- …あのですね。イマ亜弥ちゃんに何するか分かんない状態になっちゃってるわけですよ、美貴は。
そろそろ我慢の限界ってもんが。
あー。背中にヤな汗かいてきた。
もう一度亜弥ちゃんの腕に手をやる。
今度はガッチリなかなかはずれそうにない。
やっぱこのままで寝ないとダメか。
美貴頑張って我慢するからさ、これぐらいは許してよね。
- 127 名前:山人 投稿日:2003/10/24(金) 01:40
- 細く息を吐き出して。
緊張で固まっていた首をゆるめて横を向く。
間近にあった亜弥ちゃんの顔を少し見つめてから、静かに唇を合わせた。
柔らかさに頭がクラクラしたけど、強制的に首を回してまた上を向いた。
まったく、どうしちゃったんだ。
こんな変な気分初めてだ。
自分の変化に戸惑いながらも、ギュッと目をつぶった。
- 128 名前:山人 投稿日:2003/10/24(金) 01:41
- 川;VvV从<更新しました。
またまた少ない更新ですみません。
こんな場面で足止めくってていいんだろうか、自分…
- 129 名前:山人 投稿日:2003/10/24(金) 01:42
- 苦悩する藤本さん。
- 130 名前:山人 投稿日:2003/10/24(金) 01:43
- レスありがとうございます!書く力のモトです。
>117 名無し読者様
もっとやらせちゃってもよかったんですが、
話が終わってしまいそうなのでこうなりました。
ごめんね、藤本さん。
>118 名無しさん様
上と同じ理由で暴走させられませんでした。
すみません。
そのうち暴走するときがくるはず…
>119 名無し読者様
川;VvV从<心配ありがとう
すでにヤバヤバです(w
>120 名無し読者様
藤本さんも読者様も不満が解消するのはいつのことになるやら分かりません。
って作者が考えてないだけなんですが(w
>121 名無し読者様
耐えました。今回は。
川;VvV从<うう…
- 131 名前:山人 投稿日:2003/10/24(金) 01:43
-
- 132 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/24(金) 07:50
- 朝一からあやみキッスキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
松浦さんは藤本さんに抱きつくと安心して眠れるんですね。
さて無防備な攻撃にいつまで耐えられるのか。
藤本さんの受難は続く・・・(w
- 133 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/25(土) 15:41
- 藤本さん、よく耐えた・・・。
- 134 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/25(土) 23:52
- ヒュ〜!男藤本、よくがんばった!
- 135 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 11:54
-
- 136 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 11:56
- ***
窓の外がぼんやりと明るくなった。
ほどなくして、カーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。
真っ白な光が眩しくて手をかざす。
ああ…朝だぁ。
あれからずっと眠ったり起きたりを繰り返してた。
これ以上横になってても寝れる気なんかしないよ。
知らないうちにある程度緩められていた腕をすり抜けて、ベッドを降りた。
ふらふらと立ち上がって伸びをする。
う〜ん。ずっと緊張してたせいで体痛いや。
睡眠不足の頭をすっきりさせようとシャワーを浴びることにした。
バスルームから出て。
タオルで頭を拭きながらベッドを見やる。
亜弥ちゃんはまだグッスリ夢の中。
肩にタオルをかけたまま、ベッドに肘をついて亜弥ちゃんの寝顔を覗き込む。
かあいいねえ。ちっちゃい子供みたい。
こんな顔して寝てるけど、昨日の顔にはほんとまいったよ。
なんて表現したらいいか……えーと…そう、あれは『女の人』の顔。『女の子』じゃなくて。
いつからあんな表情できるようになったんだ?
- 137 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 11:58
- 濡れた髪からポタリと雫が落ちる。
あっと思った時にはもう遅く、一気に2、3粒落ちた水の塊は亜弥ちゃんの白い肌の上で撥ねて散らばっていた。
「……?」
亜弥ちゃんが眩しそうにゆっくりと目を開いた。
あちゃー起こしちゃったよ…
焦点の定まらない瞳を覗き込んで朝一番の挨拶。
「ぅはよっ」
小さく欠伸をして、少し涙目の亜弥ちゃん。
「みきたん、おはよー」
目が合った途端心臓が跳ねた。
どうにかなんないのかね、コレ。
潤んだ目が昨日の夜を思い出させる。
『見ちゃいけない』。本能がそう言ってる。
目を見ないで済むように、軽く寝癖のついた髪に両手を差し入れてワシャワシャとかき混ぜた。
「あ゛〜!何すんの!」
「寝癖直してやってんじゃん」
「そんなことしても直んないよぅ」
「ふはっ。すっごい頭」
「もー!」
- 138 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 11:59
- 寝転んでる亜弥ちゃんの手を取って立ち上がらせ、一緒に朝ごはんを食べて仕事に行く準備をする。
「亜弥ちゃん仕事昼からなんだからまだ寝てていいんだよ」
何度そう言っても美貴が家を出るまで起きてると言って聞かなかった。
着ていく服は亜弥ちゃんに借りた。
こんな時、身長や体型が似てると便利だ。
美貴の方が胸ないけど。
あっという間に家を出る時間になった。
玄関まで見送りにきてくれる亜弥ちゃん。
「泊めてくれてありがとね。久しぶりで楽しかったよ」
それ以上に大変だったけどね。
「うん。また泊まりにきてね」
今度はガマンできないかもしんない。
そんなこと言えるわけもないので、うん、と頷いておく。
「あ、服返すのいつになってもいいから…」
急に翳りを含んだ表情になって亜弥ちゃんが言う。
- 139 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:00
- この前会ったのが1か月前。
こんなに離れたのは初めてだった。
友達との距離が開いていってしまう不安感。
次会えるのはいつになるのか。
娘。のように周りに近しい人が少ない分、ソロの亜弥ちゃんの方が不安が大きかったはずだ。
休みが不定期な美貴たちの仕事。
ましてや売れっ子同士だと休みが合うなんてことはほとんどない。
だけどね。
今度は間をあける気なんて毛頭ないよ。
「すぐ返しにくるよ」
夜じゅうずっと変なことばかり考えていたわけじゃない。
会わなかったことで亜弥ちゃんに寂しい思いをさせてたんなら。
どんな時でも会いに来ようじゃん。
…ううん、それは言い訳かな。美貴がただ亜弥ちゃんに会いたいだけなんだ。
- 140 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:01
- 「ちょっとぐらい忙しくてもさ。全く会いに来れないわけじゃないし」
「みきたん…」
「亜弥ちゃんも美貴んちどんどんおいでよ。変な遠慮してないで」
「でも…」
美貴が着ている服の裾をギュッと握って俯き加減の亜弥ちゃん。
会えないと思って本気で落ち込んでたんだ。亜弥ちゃんには悪いけど、嬉しい。
「亜弥ちゃんちの方が仕事場近いこと多いんだよね。自分の家に帰るより泊めてもらった方が都合いいや。帰ってくんのも行くのも楽ちん」
おどけた調子で言う。亜弥ちゃんが遠慮しなくて済むように。
「ありがと」
ようやく顔を上げて亜弥ちゃんが笑ってくれた。
- 141 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:02
- いつもの亜弥ちゃんだったらこっちが痛がるぐらいギュウギュウ抱きついてくるところ。
だけど今は違った。
手は服の裾を握ったままで、おでこを美貴の胸のあたりに軽く置くだけ。
亜弥ちゃんは心からの大きな感情を表す時、控えめな行動に出ることが多い。
それは元からの性格のせいなのか、仕事上大きなリアクションを求められることへの反動ゆえなのかは分からない。
それでも。
付き合いの長い美貴は、喜んでもらえてることが分かってあったかい気持ちになった。
「それじゃ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
高さを増した朝日を浴びながら仕事場に向かう。今日も暑くなりそう。
梅雨にも関わらず、珍しく空は晴れ渡っていた。
- 142 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:02
-
- 143 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:03
- 「おはよーございまーす」
ほんわかした気分のまま楽屋のドアを開ける。
昨日とは違って楽屋にはほとんどのメンバーが集まっていた。
今日は娘。単体での仕事。
相変わらず騒がしいなあ。
安倍さん、飯田さん、矢口さん、梨華ちゃんのお姉さん組はひとかたまりになって落ち着いて話をしている。
5期、6期の子はまだ何人か来ていない。
すでに来ている子達の間に交じってよっすぃーが騒いでいるのが見えた。
元気だね。
部屋の中を見回していると。
ふと、安倍さんと目が合う。
「珍しいね。藤本がそんな感じの服着るの」
撮影ではいろんな服を着るけれど、普段は動きやすい、ボーイッシュな服を着ることが多いから目についたみたいだ。
ちなみに今日の美貴の服装は、淡い花柄トップスに白いスカート。
ジーンズでも借りようと尻込みする美貴に亜弥ちゃんが半ば無理矢理着せたもの。
「あ、これ。亜弥ちゃんに借りたんです。昨日久しぶりに泊めてもらったんですよ」
- 144 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:05
- ピクッ。飯田さんが反応するのが分かった。
ビクッ。強張る美貴の体。
PV撮影では亜弥ちゃんといるところをさんざん邪魔された。
何か企んでるんじゃないだろうか。
いいまっとうをつくろうとか…
飯田さんが美貴の方を見ているのに気づかないふりをして梨華ちゃんの隣に腰掛けた。
座ってすぐ梨華ちゃんに話しかけられる。
「あややの家泊まったんだ」
「うん。ゆっくり話す暇はなかったんだけどね。風呂入る前からうたた寝しちゃって」
一呼吸おいて。
「いいね、泊まりに来てくれる人がいると」
独り言っぽくポツリと呟く梨華ちゃん。
あらやだ。石川さん。
遠い目しちゃってるよ。
ここ頬染めて言うとこじゃないっしょ。
誰か家に泊めちゃいたい人でもいるの?
- 145 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:05
- 「りぃーかちゃん。泊まりにきてくれる友達なんてたくさんいるんじゃないかなあ?」
柴ちゃんとか矢口さんとか。
梨華ちゃんの耳元に顔を寄せて、誰にも聞こえないくらいの小声で言う。
「誰泊めたいの?」
どこの誰?
吐け。吐くんだ。
ほっぺが赤みを帯びたと思ったら、だんだんそれが広がって。
耳まで真っ赤になって焦ってる梨華ちゃん。
最初の方こそ『早く吐きやがれぃ』なんて思ってた美貴だけど。
赤い顔して困ってる梨華ちゃん見てたら、どうしても昨日の亜弥ちゃんとダブっちゃって。
またしても飛ぶ思考。
今度泊まりに行くのいつにしようか。
半日でも休みが合うんなら遊びにも行きたい。
- 146 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:06
- 「何やってるんだよ。怪しいぞ二人とも」
矢口さんの声でハッと我に返る。
げ。
梨華ちゃんの横顔スレスレまで顔寄せてボーっとしてる美貴と
ピンク色にまで落ち着きはしたものの普通の顔色からはほど遠い梨華ちゃん。
これじゃ誰が見ても…ねえ?
「あははは」
白々しい笑いを浮かべながら改めて深く椅子に座り直す。
ゾクッ
急に悪寒が美貴を襲った。
背筋を冷たいものがはしる。
なんだ!?
- 147 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:07
- 恐る恐る周りを見渡してもいつも通りのメンバーがいるだけ。
しばらくそのまま警戒してた美貴だけど、紺ちゃんの
「藤本さん。実家から鮭トバ送られてきたんでおすそ分けします」
という神のようなお言葉に気味悪さなんてどこ吹く風。
トバ送ってきてくれる実家。素晴らしいね。
物事を深く掘り下げて考えることをしない。
その性格のおかげで今までの人生、大してストレスをためずにやってこれたんだ。
だけどあの時。
その悪寒が何を意味するかよぉぉく考えておくことをしておけばその後の美貴の運命は変わってたのかもしれない。
- 148 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:07
-
- 149 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:08
- 家に帰って。
この2日間の気持ちを整理する。
もう疑いようがないよね。
亜弥ちゃんが好き。
でないとあんなコトやこんなコトをしたいと思ってしまった自分に説明がつかない。
女の子相手にこんな気持ちになったのは初めてだけど、今まで一番近い距離にいた彼女のことだからありえるかもしんない。
友達としてこれ以上ないほど近くにいた美貴たち。
もっともっと距離を縮めたい。
そのためにはどうしたらいいんだろう。
- 150 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:09
- 思い切って告白する?
『亜弥ちゃんのこと、好きになっちゃいました』って。
…いや、それはダメだ。
たとえもし気持ちを伝えたとしても。
亜弥ちゃんは優しいから。
最初こそ驚きもすれ、その後嬉しそうに微笑んでくれるに違いない。美貴に合わせてくれるに違いない。
そういう子だ。
拒絶して美貴という友達を失うぐらいなら、たとえ自分の気持ちを抑えつけてでも一緒にいようとするだろう。
そんなのはイヤだ。
無理強いはしたくない。
美貴が欲しいのはカラダだけじゃない。
亜弥ちゃんの全部が欲しいんだ。
もちろん、ココロも。
- 151 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:10
- 持ち前の負けず嫌いに火がついた。
待ってろよ、絶対手に入れてみせるから。
覚悟しろい。
とりあえず亜弥ちゃんにメールを送って次に会う日を決めることにする。
地道に、コツコツとね。
でも自分の気持ちを確認して開き直った美貴に、好きな子を目の前にして我慢し続けることができんのかな。
……。
亜弥ちゃん。…ちょっとぐらいは変なことしちゃっても許してね。
- 152 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:11
- 从‘ 。‘从<更新終了です。
- 153 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:11
- 風邪ひいてダウンしてました。きつかった…。ようやく復活です(嬉
- 154 名前:山人 投稿日:2003/10/28(火) 12:12
- レス感謝です!
>132 名無し読者様
从‘ 。‘从<だってみきたんあったかいんだもん
川*VvV从<あ、亜弥ちゃんのがあったかいよお
はい、藤本さんの受難はまだまだ続きます。
どうか見捨てずに見守ってやって下さい。
>133 名無し読者様
川*VvV从<ありがとー。頑張ったよ
>134 名無しさん様
川;VvV从<お、男?
今回、さらに男っぽくなっちゃってるような気がします。
- 155 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/28(火) 14:22
- 風邪、引いてらっしゃったんですか。治って何よりです(w
藤本さんが燃えてる小説って、あんま見ないですよね。
藤本さんはどっちかって言うといつも受身な方ですから・・・・・・
だから山人さんの作品は新鮮な感じですごくいいです。ハマってます(w
お体に気を付けてマターリ書いていってやって下さい。
- 156 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/28(火) 22:59
- 大丈夫ですか?作者さん一人の体じゃないんで大事にして下さいね。
藤本さんがとうとう目覚めちゃいましたね。
これからの更新が楽しみです。
- 157 名前:山人 投稿日:2003/10/31(金) 12:48
- 一区切りついたので、ここで1つ短編をば。
3回くらいで完結します。たぶん。
- 158 名前:山人 投稿日:2003/10/31(金) 12:49
- その前にレスのお返事を。
>155 名無し読者様
ありがとうございます。うれしくって涙出そうです…
あなたにはコレ↓あげます。
川V3V从<ちゅー
頑張りますです、ハイ。
>156 名無し読者様
ありがとうございますありがとうございます!
あなたにもコレ↓を。
从‘ 3‘从<チュッ
もっと暴走させたい気持ちで一杯なんですが、藤本さんには思い通りに動いてもらいたいもんです(w
- 159 名前:山人 投稿日:2003/10/31(金) 12:50
- 【落として 拾って】
- 160 名前:山人 投稿日:2003/10/31(金) 12:52
- 「はーあ、疲れたぁ」
部屋に戻るなり制服のままベッドにダイブする。
制服が皺になろうとそんなことはお構いなし。
部活から帰ってきてご飯を食べ終わったのが午後10時。
普段だったらそこまでは遅くならないはずだった。
今は試合前だから。念願のレギュラーに選ばれたから。
好きで入ったテニス部なので、体が疲れることはままあっても精神面では充実していた。
今日もレギュラー数人で残って自主的に練習をしていたのだ。
「んしょっと」
ともするとベッドに引き寄せられそうになる体を無理矢理起こす。
少し早いけど、明日学校に持っていく物を用意しておこう。
お風呂から上がった後だったら寝てしまうかもしれないから。
「教科書でしょ。筆箱でしょ。財布でしょ。手帳でしょ。雑誌でしょ。お菓子でしょ。ケータイ…は朝カバンに入れるとして」
勉強に必要ない物の方が明らかに多い。
最後の最後に定期入れを確認しようとしたところ。
- 161 名前:山人 投稿日:2003/10/31(金) 12:53
- 「ない!」
どこにもない。鞄の中も、机の上も、部活用のテニスのラケットバッグの中も。
どこいったんだろう?
明日も学校があるのに定期がないと困る。きっとどこかで落としたんだ。
「う〜ん…」
こめかみに人差し指をあて、目を閉じて考える。
運動した後の気だるさが残っているせいで頭がボンヤリしてなかなか思い出せない。
記憶がはっきりしないのがもどかしくて人差し指をグニグニと動かしていたら頭が痛くなった。
えーと。学校出て部活の友達と駅まで歩いて。そこから電車に乗って2駅。
まだもう少し先の駅で降りる友達に手を振って一人電車から降りた。
改札を過ぎて人の波をかきわけながら駅を出て。お腹減ってたから家まで走ろうとしたんだ。
駅と家を結んだ真ん中らへんに位置する曲がり角を曲がった直後、ものすごい勢いで人にぶつかってしまった。
どう考えても自分に非があった。
全速力で走っていて角の先をちゃんと見てなかったんだ。だからできるだけ丁寧に謝った。
ぶつかった相手の顔はよく覚えていない。ネオンの光が逆光になって輪郭しか見えなかった。
ここだ。
定期を落としたと考えられるのは、この時しかない。
まだ拾われずにそのまま残ってるかもしれない。
今からでも遅くない。
家族に外に出る旨を告げてから家を出た。
- 162 名前:山人 投稿日:2003/10/31(金) 12:54
-
走る、走る。今度はぶつからないよう、周りに注意して。
夜特有のひんやりとした風はあったが、それでもじんわりと汗ばんでくる。
お風呂に入る前でよかった。
走って5分程でその場所に着いた。
学校からの帰りとは違って周囲の店はもうほとんど閉まっている。
街灯の明かりだけでは少し心許ない。
思ったより暗いなあ。探すの大変そう…
見つかるといいんだけど。
まだ弾む息とともにため息を吐き出して腰を屈めた。
しばらくその姿勢のままで地面を見回すが、目につくのは空き缶やゴミばかり。
この辺りは閑静な住宅街。時々車が行き交う際のエンジン音を除けば、物音はほとんどないに等しかった。
周りには誰もいない。
シンと静まった空間。そんなに気温が低いわけでもないのに寒々しさを感じる。
- 163 名前:落として 拾って 投稿日:2003/10/31(金) 12:55
- 怖いな、一人でいるの。
そう感じ始めた頃だった。
「松浦亜弥さん」
急に名前を呼ばれて飛び上がりそうになった。
心臓がすごい速さでリズムを刻んでいる。
慌てて周囲を見回す。肩に自然と力が入るのが分かった。
「誰?」
どうしてあたしの名前知ってるの?
…怖い。
「ここだよ」
上の方から声が聞こえてハッと顔を上げる。声の高さから女の人だと分かった。
あたしの名前を呼んだその人は、あたしがいる所から少しだけ離れたマンションの塀の上に座って手を振っていた。
「ちょっと待ってて。今そっち行くから。…よっと!」
かなりの高さがあるその塀からいとも簡単に飛び降りる。
- 164 名前:落として 拾って 投稿日:2003/10/31(金) 12:56
- 勝手にそんなとこ座ってていいんですか。
名前を呼んだのが危険な人物ではなさそうだと分かった途端、どうでもいいような考えがあたしの頭の中を巡った。
真っ直ぐあたしの方に向かってくる。薄暗い場所にいるから相手の顔も雰囲気もつかみ難い。
電灯の明かりに照らされて彼女の姿が浮かび上がった。
「やっぱり。今日ここでぶつかった子だよね?」
「あ…」
近づいたことで分かった彼女の顔。
今度は逆光になってないからはっきりと見える。
光に照らし出された整った顔立ち。綺麗…。
ちゃんとした返事をすることもできずに見とれてしまった。
「はい、これ。落としてったでしょ」
そう言って差し出されたのは、あたしが探していた定期入れ。
よかった。持っててくれたんだ。
「ずっとここで待っててくれたんですか…?」
「んー。探しにくるかもしれないと思って。届けようにも家分かんないし」
苦笑しながら言う。
- 165 名前:落として 拾って 投稿日:2003/10/31(金) 12:57
- あたしとここでぶつかったのが確か8時半ぐらい。
ということは。
2時間近くも待たせちゃったの!?
定期に名前だけじゃなく電話番号か住所でも書いとくんだった。
そしたら拾ってくれた人もすぐ連絡できただろうし。
でも、まさか落とすことはないだろうと高をくくってたんだ。
「ありがとうございます。あの、お礼したいんですけど」
「そんなのいいから」
「いえ!ぜひお礼したいんです!させてください」
意気込んで言うとなんだかすごく強い調子になってしまった。
それでも彼女は嫌な素振り一つ見せずに笑ってくれた。優しく目を細めて。
「それじゃさ、バイト先の売り上げに貢献してよ。夕方からならだいたいいるから」
そう言ってここからすぐの所にあるカフェの名前を告げられた。
聞いたことのある名前だった。オープンしてまだ間もない店だったはずだ。
- 166 名前:落として 拾って 投稿日:2003/10/31(金) 12:58
- 「場所、わかる?」
「は、はい!わかります」
それならよかった、と頷いたそのままの流れで腕時計に目をやる。
「帰らなくて大丈夫?かなり遅いよ」
そんなことよりも長い間待たせてしまったことの方が気にかかる。
どうにもできずモジモジしていると、そんな心情を察してくれたんだろうか。
「もう帰りなよ。危ないから。ね」
声をかけてくれる。
「はい、じゃあそろそろ…」
『さようなら』と続けようとしたところで肝心なことを聞いていないのに気づいた。
「名前。なんていうんですか?」
「美貴。藤本美貴」
藤本さんていうんだ。
- 167 名前:落として 拾って 投稿日:2003/10/31(金) 12:59
- 「それじゃね、亜弥ちゃん」
それだけ言うと藤本さんは背を向けて、駅の方に歩いていってしまう。
なんとなく動くこともできずに立ったまま彼女を見つめていると、曲がり角の手前で彼女が振り返った。
『バイバイ』
声を出さずに口元だけが動く。
そして、笑った。
さっき見たあの優しい笑顔。
そのまま曲がり角の奥に吸い込まれていく。
柔らかい微笑みが頭に焼き付いて離れない。
一人になった後も。
頼りない街灯の光に照らされてしばらくあたしは立ち尽くしたままだった。
- 168 名前:落として 拾って 投稿日:2003/10/31(金) 13:00
-
- 169 名前:落として 拾って 投稿日:2003/10/31(金) 13:01
- 翌日。
部活を終えたあたしはすぐに藤本さんが働いているカフェへ向かった。
家には少し遅くなると言ってある。
夜ご飯あんまり食べられないかもしれないけどごめんね、ママ。
「いらっしゃいませ」
店の扉を開けてすぐに店員さんの声に迎え入れられた。
店の中はかなり広い。
夕飯時もそろそろ過ぎようという頃なのに、まだ多くの客が残っていた。
店の片隅に、落ち着くことのできそうな一人用のテーブルを見つける。
鞄を置いて席に着く。
藤本さん、どこにいるのかな。
店内をキョロキョロ見回していると店員さん数人から不思議そうな目で見られた。
注文だと勘違いされそうなので、テーブルに立てかけられているメニューに目を通す。
あたしが注文できるものなんて限られている。
家に帰ったらごはんがおいてあるので、お腹の膨れるものはまず却下。
肌寒さを感じ始める季節にコールドドリンクなんて飲む気はしない。
コーヒーは苦すぎるから無理。
残ったものはホットミルクか紅茶ぐらい。
最近紅茶はよく飲むので、これにしようと決めた。
- 170 名前:落として 拾って 投稿日:2003/10/31(金) 13:02
- 「ご注文はお決まりでしょうか?」
聞き覚えのある声にメニューから顔を上げた。
藤本さんだ。
白いシャツに黒いパンツ、その上から黒のギャルソンエプロンをつけてテーブルの前に立っている。
パリッとした制服がとても似合っていた。
「ミルクティー、ホットでお願いします」
「かしこまりました」
間近で目を合わせて話すと落ち着かない。
視線をテーブルに落とすと、視界に長くて綺麗な指が入ってきた。
指はテーブルをトン、とたたく。
もう一度顔を上げると、さっきのかしこまったものとは違う、照れくさそうな表情が。
「来てくれて、ありがと」
そんな。お礼を言わなきゃいけないのはあたしの方なのに。
どうしてそんなに優しいの?
- 171 名前:落として 拾って 投稿日:2003/10/31(金) 13:03
- てきぱきとホールの仕事をこなしていく藤本さんを見ていた。
ママが心配して携帯に電話をかけてくるまでずっと。
藤本さんは目が合うとニコッと笑いかけてくれる。
恥ずかしいのを我慢してこちらからも笑顔を向けると彼女は本当に嬉しそうに微笑むんだ。
頬が熱い。胸が苦しい。
初めて抱く奇妙な感情に、あたしはなかなか名前をつけられずにいた。
- 172 名前:山人 投稿日:2003/10/31(金) 13:04
- 今日はここまで。
- 173 名前:山人 投稿日:2003/10/31(金) 13:05
- 最初の方、題名入れるの忘れてました。
申し訳。
- 174 名前:山人 投稿日:2003/10/31(金) 13:05
-
- 175 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/01(土) 01:11
- 短編イイ(・∀・)!!ですね(w
シチュエーションも自分の好きな感じで(嬉)
期待してまつ。
- 176 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:19
- ***
あたしが藤本さんに出会ってから一ヶ月。
部活の試合も無事終わり、オフに入ってからは前よりも頻繁にカフェに足を運ぶようになっていた。
一体どれくらい通ったんだろう。
最初に座った席はあたしのお気に入りになっていて、空いていれば必ずそこに座る。
店内は広く開けているにも関わらずいつも落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
味の評判がいいことも手伝って、老若男女関わらず様々な人が訪れる。
週に2,3回、いつもの席でのんびり本を読みながら紅茶を飲んで過ごすのがあたしのひそかな楽しみだった。
藤本さんはほとんど毎日お店に入っている。
仕事中の藤本さんを見れることがあたしの一番の楽しみかもしれない。
凛とした空気をまとって、仕事を無駄なくこなす。
どんなお客さんに対しても常に丁寧に接する彼女。
彼女に好意を寄せているお客さんを何人も見てきた。
その都度何か大切なものを奪われてしまうような焦燥感に駆られるあたし。
ごくたまに藤本さんがお休みの日もある。
そんな日は店に行っても物足りなさがつきまとう。
いつもの席にいつもの紅茶。本を読んで普段通りのことをしているのに。
- 177 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:21
- カフェのお仕事は随分忙しいみたい。
店の中で長時間藤本さんと話せることはなかった。
お店が終わるのは遅くて、あたしが最後までいることはできないのだけれど
藤本さんが早くあがる日には何回か一緒に帰ることがあった。
帰り道が一緒なのはほんの少しの距離。
その間毎日起こったことを話してるだけなんだけど、あたしはすごく楽しい。
ものの5分も歩けば藤本さんは駅へ、あたしは家へと分かれて歩き出す。
別れ際、寂しくなって足も動かさずに俯いてしまうと藤本さんは少し困ったように笑って。
「亜弥ちゃんは素直でかわいいね」
そう言って頭を撫でてくれる。
余計帰りたくなくなっちゃうじゃない。
もうこの頃には自分が彼女に対してどういう気持ちでいるのか理解してしまっていた。
笑った顔が好き。
高くも低くもない、ちょうど良い高さの声が好き。
照れくさそうに鼻をこする癖が好き。
まだ知らないところの方が全然多いけど。
きっと全部。全部好き。
- 178 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:22
-
カフェ通いが始まってから何もかもが薔薇色(ちょっと大げさかな)、という訳じゃない。
あたしが座るいつもの席。
通路を挟んだその斜め向かいにいつからか男の子が座るようになった。
あたしがお店に行くとほぼ毎回と言っていいほどいる男の子。
ちょっと、いやかなりこわい感じの男の子。
椅子の背もたれにだらしなく体をあずけて、雑誌を見たり音楽を聞いたり。
注文したものを持ってくるのが遅いと言って店員さんに怒鳴りつけるときもあった。
全身を舐めるように眺め回される。
人を品定めするような目つきにあたしは好感が持てなかった。
試しに席を変えてみてもあたしの近くに移動するので無駄だと思ってやめた。
カフェに来なければいい、なんていう考えはあたしの頭には全くなかった。
藤本さんに会えなくなるなんて。
そんなことになるくらいだったら、あんな男の子どうってことない。
あたしと藤本さんの間にある繋がりを、あたしは必死で守ろうとしていた。
- 179 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:22
- ***
- 180 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:23
- 秋も深まってきたある日。
いつものように本を読んでいたあたしは内容に夢中になりすぎて、帰るはずの時間をまわっているのに気が付かなかった。
本を閉じると外は完全に真っ暗。
そろそろ帰らなきゃ。またママが心配しちゃう。
本を鞄にしまい、椅子から腰を上げる。
その瞬間、斜め向かいに座っている男の子がこっちを見たような気がした。
鞄をつかんで早足でレジへと歩く。
後ろの方で椅子を引く音が聞こえる。
嫌な予感がした。
- 181 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:24
- 急いで会計を済ませて出口へと向かう。
そして、ドアに手をかけたところで後ろを振り返る。
店を出る時にはいつも藤本さんを確認して、手を振るようにしていた。
勤務中なこともあって大きく手を振り返すことこそなかったけれど、
藤本さんはいつも軽く手をあげて応えてくれた。
これが一ヶ月間二人の間で欠かさず行われてきた決まり事。
でも今日は違った。
振り返って最初に目に入ったのはあの男の子。
あたしの後を追うようにレジへと向かっている。
男の子ごしに藤本さんが見えた。
目が合う。
心配そうにこっちを見つめている。
ずっと気にかけてくれてたんだ。
男の子が会計を終えようとしているのに気づいて、あたしは急いで店を出た。
店を出た瞬間走り出す。
周りには人が全くいないというわけではなかったけど、誰かを頼りにできるとは思えなかった。
- 182 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:25
- 案の定、十メートルほど走ったところですぐにつかまってしまった。
「ちょっといいかな。話したいんだけど」
よくないです。ほっといて下さい。
そのまま無視して早足で歩き続ける。
「なあなあ、ずっと気になってたんだよ。ちょっとお話しするぐらいいいだろ?」
どちらかといえば小柄な方に入るあたしに、大の男―それも怖そうな―がまとわりついていれば嫌でもみんな目につくはず。
それでも誰も止めに入ってこないということは、やっぱりこの男の子に敵いそうにないと判断したからなんだろう。
すごい力で腕を引っ張られる。
「…ぃたっ」
「無視すんなよ!」
どうしてあたしがこんな目に合わなきゃなんないの。
目まぐるしいスピードで膨らんでゆく恐怖心。
だけど、怖がっている素振りを見せるのは絶対に嫌だった。
「やめてください!あたし、好きな人いるんです」
あたしが言葉を発したのと、男の子の腕が?まれたのとは、ほとんど同時だった。
- 183 名前:山人 投稿日:2003/11/02(日) 00:29
- >182
最後の一行変換ミスです。
正しくは
『あたしが言葉を発したのと、彼の腕がつかまれたのとは、ほとんど同時だった。』
ごめんなさい。うぅ…(涙
- 184 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:30
- すぐ目の前には藤本さん。
彼女の指先にはありったけの力が込められているんだろう、爪先が白く変色していた。
急に腕をつかまれた男の子は呆然としている。
男の子の方を向いているのかと思いきや、藤本さんは手に力を込めたままあたしを見つめていた。
感情を読み取ることのできない、乾いた目。
三人それぞれが張り詰めた緊張感を持って、微動だにできずにいた。
時間にすればきっとすごく短かったんだろうと思う。
それでもあたしには途轍もなく長い時間に感じられた。
- 185 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:31
- 「おいそこ!何してる」
誰かが呼んできてくれたのか、警官が走ってくるのが見える。
その声を皮切りに、あたし達3人に動きが戻った。
「くそっ」
警官を見た途端、男の子は身を翻して逃げ出した。
「大丈夫?」
労わるように藤本さんはあたしの背中に手をやる。
撫でてくれる手つきはいつものように優しい。
それとは裏腹に、悲しそうな笑顔。見ているこっちが悲しくなってしまうような。
少し遅れて、堪えていた涙がポロポロと溢れ出す。
肩を強く抱き寄せられた。
服越しに伝わる藤本さんの体温は、とても温かかった。
- 186 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:31
- ***
- 187 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:32
- また藤本さんにお世話になってしまった。
今度こそちゃんとしたお礼をしなきゃ。
あたしはずるい。
『お礼』という口実を使ってもっと藤本さんに近づこうとしてる。
助けてもらったあの日から、藤本さんに会っていない。
あたしがカフェに行っても店員さんの中に彼女は見当たらない。
店に入って中を見回してため息をつく、そんな日々が2週間程続いた。
風邪でも引いたのかな。
そうだったら看病しに行きたいけど、家どこか知らないし。
家だけじゃない。
よく考えたらあたし、藤本さんのこと何も知らないんだ。
恥ずかしがらずに携帯番号でも聞いておけばよかった。
どこにいるの?何してるの?誰といるの?
- 188 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:33
- 今日こそ会えるかもしれないという期待を抱いてカフェへと向かう。
カフェの前までたどり着いた時、ちょうどバイトを終えたらしい店員さんが入れ違いに店から出てきた。
大きな目に、通った鼻筋。
藤本さんとは違う系統の美人顔。
親しそうに藤本さんと話してるのを何度かみたことがある。
ちょうどいい。
この人なら知ってるはず。
「あの、すみません」
「んあ」
…んあ?
大人びた容姿からは想像できない返事にしばし絶句する。
- 189 名前:落として 拾って 投稿日:2003/11/02(日) 00:34
- 「なに?」
「ここで働いてる藤本さんってどうしてますか?最近見かけないんですけど」
「ああ、ミキティね」
ミキティって呼ばれてるんだ。可愛い。
思わず口元を綻ばせていると、予想だにしていなかった言葉が飛び出した。
「あの子、バイト辞めちゃったんだよ」
「…え?」
藤本さんで一杯になっていたはずのあたしの頭の中が真っ白になった。
――あたしと藤本さんを繋ぐもの、あたしが必死で縋ってきたものは、こんなにも簡単になくなってしまった。
- 190 名前:山 投稿日:2003/11/02(日) 00:35
- 今日はここまでです。予定通り次回で終了します。
- 191 名前:山人 投稿日:2003/11/02(日) 00:37
- あんな場面で変換ミスしただけじゃなく名前まで打ち間違えるなんて…
アホだ、自分…
- 192 名前:山人 投稿日:2003/11/02(日) 00:39
- 落ち込んだままレスのお返事を…
>175 名無し読者様
ありがとぉーう!
眠いのといっぱいミスしたのとでテンションおかしい…
ありきたりなネタですが、楽しんでもらえるとうれしいです。
- 193 名前:つみ 投稿日:2003/11/02(日) 07:19
- どこいったんだぁぁぁぁミキティ!!!
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/03(月) 22:29
- ぅぉ!?
そんな展開っすか!?
- 195 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:48
- ***
「亜弥、バイバーイ」
「バイバイ!」
最後の授業、帰りの挨拶を終えると同時に校門へダッシュする。
一緒に帰ろうという友達の誘いも断って、あたしはわき目もふらずに走った。
向かう先は例の曲がり角。
あたしと藤本さんが初めて会った場所だ。
駅に着いて階段を駆け上がる。今にもホームを動き出しそうな電車に滑り込んで2駅。
『辞めること、知らなかったの?』
少し先の駅で降りる友達に手を振ることもなく一人電車から跳び降りた。
『ミキティと仲良さげだったからてっきり知ってるもんだと思ってた』
改札を過ぎて人の波をかきわけながら駅を出て。今日はお腹なんて減ってないけど走る。
途中、見知った顔がないか周囲に気を配る。
目的としていた場所に着いた。
下校時間ということもあいまって、周りには学生や買い物帰り主婦の姿がちらほらと見られる。
会いたいその人がいないのを確認して塀に凭れかかった。
- 196 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:49
-
昨日、ショックを受けて茫然としていたあたしに正気を取り戻させてくれたのは、
カフェから出てきた藤本さんのバイト仲間。名前は後藤さんといった。
『明日、店来るよ。表には出てこないけど。急に辞めちゃったから置きっぱなしの荷物とか取りに来るってさ』
『いつ!?いつ頃来るんですか?』
『さあ…夕方かそれより遅くなるってことしか聞いてないけど』
『十分です!ありがとうございました!』
『…んあ』
バイトを辞めてしまうこと、あたしには言ってくれなかった。
あたしってその程度の存在だったんだ。
下を向いて唇を噛みしめる。手を強く握りしめる。
何度か一緒に帰ることで分かった数少ない情報の一つ。
バイト先であるカフェへの行き帰り、藤本さんは必ずこの場所を通る。
あたしとぶつかった時もバイト帰りだったそうだ。
今日しかない。
今日を逃したら藤本さんに会えなくなってしまう。
後がない今日こそ、藤本さんとの繋がりを絶対に揺るぎないものにしたかった。
- 197 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:50
-
待つこと3時間。
日はもうとっぷりと暮れ、数少ない街灯が道に光を落としている。
30分ほど前にサラリーマンらしき人が通ったきり、あたしの前を通り過ぎていった人はいなかった。
藤本さんはなかなかやってこない。
まさかもう帰っちゃったとか?
それとも今日は来ない?
避けよう避けようとしていた結論に行きつきかけて、慌てて首を振る。
寒い…
冬に足を踏み入れかけたこの時期。
夜の気温はかなり低い。
手の平に息を吹きかけ、手を擦り合わせる。
制服のブレザーの隙間から寒気が入り込んできた。
小さく身震いして顔を上げると。
少し離れた所に待ち焦がれていた姿があった。
全身を棒立ちにして、動きを止めた藤本さんが立っていた。
- 198 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:51
- 辺り一面薄暗い。
そんな場所でも相手の顔も雰囲気も手にとるように分かる。
あれだけ見つめてきたんだもん。
無表情で固まっている藤本さん。
何かを解放したがっているような。何かを抑え付けたがっているような。
矛盾する二つが打ち消しあって彼女の表情をなくしてしまっているように思えた。
初めて感じる雰囲気に戸惑う。
やっぱ、迷惑だったかな…
藤本さんの方に歩み寄る。
綺麗な目をしっかりと見据える。
「藤本さん、落し物してます」
「…え?」
2週間ぶりに聞く、藤本さんの声。
掠れている。
「…あたし。拾ってください」
- 199 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:52
-
……。
沈黙。
藤本さんからの返事はない。
しまった、と思った。
こんな言葉じゃ分かってくれないかもしれない。
こんな告白ってないよ…
もっとハッキリ言えばよかった。
後悔の念が頭の中をグルグル飛び交う。
と。
藤本さんの口が動いた。
「美貴、知らない人の為に2時間も待ってるほどお人好しじゃないよ」
拗ねたような口ぶり。
「ぶつかったのが亜弥ちゃんだから待ってたんだ」
顔には表情が戻ってる。
「なんてかわいい子なんだろって。もう一度会いたいって」
ちゃんと伝わってたんだ。
- 200 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:53
- 急に腕を引かれた。
あたしの体は、藤本さんの腕の中へ。
「ずっと、こうしたかった」
直接抱きしめられているのは体なのに。
胸の中が一番締め付けられるのはどうしてなんだろう。
「好きだよ」
涙が出そうになった。
しばらくの間そうして抱き合っていた。
藤本さんはあたしから体を離すと、照れくさそうに鼻を擦った。
- 201 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:54
- 手をつなぎ、肩の触れ合う距離を保って、二人で塀に凭れかかる。
「バイト、辞めちゃったんですね」
「…うん。店長やってる人が知り合いでね。
いろんなバイトで接客に慣れてる美貴が手伝わされてたの。
最初から店が軌道に乗り始めるまでっていう約束だったんだ。」
「そうなんだ…」
「…っていうのは言い訳。ホントはずっと働いててもよかったんだけどね。店長も引き止めてくれてたし」
じゃあなんで?
疑問を声にする前に答えが返ってきた。
「とあることがきっかけで、めちゃくちゃ気になってる子に好きな相手がいることを知ってしまいまして。
臆病な藤本さんは、見れば見るほどその子を好きになっていくのが怖くなって、バイトを辞めてしまいましたとさ。マル」
「…」
「亜弥ちゃんの口から好きな人のこと聞くのヤだったんだ。ほんとコドモみたいだよね。ごめんね」
なんだ、そんなこと。
あたしたち、お互い遠回りしてたんだ。
- 202 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:55
- 「あたしが好きなのは最初から藤本さんだけですよ?」
確認の意味を込めてもう一度言う。
ほんとは逃げ出したいくらい恥ずかしかったけど、今言わなきゃいけないような気がした。
藤本さんはとろけそうな顔をして、フニャと笑った。
周りをキョロキョロ見回して。
あたしの頬を両手でくるむ。
静かに、柔らかくキスされた。
- 203 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:57
- 熱が唇を去った後も、藤本さんが手を離す気配はない。
一点に集中していた熱は、顔中に広がった。
「えへへ。亜弥ちゃんのホッペ、あったかいや」
ふいに藤本さんの表情が真剣なものへと変わる。
「亜弥ちゃん」
「はい」
「美貴の落し物ってことは、美貴のものってことだよね?」
「え」
頬に当てられていた手に力が入ったのが分かった。
「家、持って帰っちゃっていい?」
え?今から?
「や、それはちょっと…」
あたしが持ち帰られる日は、…近い?
…continue?
- 204 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:58
- ( ( ( 从*‘ 。‘)川*VvV)ノ
- 205 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:59
- 終了です。
お目汚し失礼致しました。
最後の方のある言葉を松浦さんに言わせたかった為だけに書き殴った駄文。
どの言葉かお気づきの方も多いと思います。
ほとんど何も考えずに書いたせいかダラダラした文が多くてすみません。
今後の参考の為、感想等お聞かせ頂けると嬉しいです。
- 206 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 22:59
- 次回更新から『CLOSE RANGE』に戻ります。
- 207 名前:山人 投稿日:2003/11/05(水) 23:00
- >193 つみ様
>194 名無し読者様
レスありがとうございました。
こういうことでした。
捻り足りなくてすみません…うぅ
- 208 名前:つみ 投稿日:2003/11/05(水) 23:48
- 持ち帰ってくれ〜〜!!
いやー短編のあやみきとしてはトップクラスですね^^
- 209 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/06(木) 00:37
- 最後の思わせぶりな締めに期待せずにはいられません。
ぜひ持ち帰られちゃうとことか読みたいです(w
- 210 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/06(木) 01:43
- 短編すごい良かったです!本編の方も期待してますね。
それと、上の人に同じく持ち帰られたとことか見てみたいです(w
- 211 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/06(木) 09:00
- 私も持ち帰られるところが見たいぃ
- 212 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/07(金) 00:17
- 皆さん、ネタバレになっちゃうようなレスは
なるべく避けた方がいいと思いますよ。
と、いいつつ自分も気になってますが(w
- 213 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:45
- *****
- 214 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:46
- フフン♪
『セックシーなのぉキューットーなのぉどっちが好きなのっ』っと♪
愛しい人の持ち歌でも口ずさんでみる。
どっちも好きだよ♪亜弥ちゃんなら。
なんつって。
恋の花咲いて浮かれモードな美貴。
最近亜弥ちゃんと会う回数増えてシアワセなんだあ。
この前借りた服もすぐ返しに行ったし。
今はない暇をむりやりつくってでもお互いの所を行き来してる。
あ、もう両思いになれたとかいうわけではないのであしからず。
まだ片思いの域は脱してない。
努力はしてるんだけどね。
美貴からくっつく回数を増やしてみたり、手をつなぐ時は恋人つなぎにしてみたり。
でもまぁこんなことで鈍な亜弥ちゃんが美貴の気持ちに気づくわきゃない。
気づいてもらうには、もうちょっとわかりやすくいかないと。
美貴は今、思い切った行動に出ようか出まいか足踏み中。
- 215 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:47
- ***
「おつかれさまでした〜」
朝から晩まで何本も続いたレギュラー番組の収録を終え、楽屋に向かう。
ぞろぞろと引きずられるようにして歩くメンバー。
いつも元気なはずの中学生メンバーでさえ口数が少ない。
そりゃ疲れるよね。収録中、あれだけはしゃいで笑ったら。
「あ゛ーマジしんどい。歩くのムリ」
矢口さんなんかは自分で歩くのを放棄して安倍さんの背中に乗っかってる。
張り付く様はまるで死霊。
疲れた顔して憑かれてる安倍さんは、引き剥がす気力がないのか無言で黙々歩く。
そんな身長変わらないのに大変ですね。
おっと。もう一人。
梨華ちゃんだ。
こっちは疲れてるっていうか…落ち込んでる?
近づくモノ全てを吸い込んでしまいそうな、黒いオーラを放ってる。
- 216 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:48
- 今日の収録で、梨華ちゃんは特に目立ったミスなんてしていない。
と、いうことは。
美貴がからかいすぎたか。
梨華ちゃんに好きな相手がいることを知ってしまって以来、ことあるごとに問い詰めてきた。
時には笑いながら。
時には真剣に。
時には脅し気味に。
『梨華ちゃんが好きなのってどんな人?』
何回も聞いてきたにもかかわらず、結局答えは得られないまま。
いつもうまくかわされちゃうんだよね。
気になるじゃん。
他のメンバーは一体どんな恋愛をしてるのか。
自分に好きな人ができたから気にかかるってのもあるんだろう。
それにしても梨華ちゃんに対してやりすぎた感は否めない。
近いうちに謝っとこう。
- 217 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:49
-
「藤本さん、元気ですね」
「ん〜、まあね」
隣を歩いていた田中ちゃんは不思議そうに美貴を見る。
同期の子たちとは最近よく話す。
普通にしてても不機嫌そうに見られる美貴に、ようやく慣れてくれたようで。
嬉しいけれど、2か月近くかかったことが悲しい。
美貴が疲れた素振りも見せず、周りを観察できているのにはワケがあるんだ。
別に収録をお座なりにしたとかじゃなくって。
今日は今から亜弥ちゃんに会いに行くのです。
えへへ。楽しみ楽しみ。
スキップしちゃいそうだよ。
ほんとにやると気持ち悪がられるからしないけど。
- 218 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:50
- 亜弥ちゃんの誕生日には一緒にいられなかった。
去年は友達としてなんとなく隣で過ごしたけど、今年は美貴の中での意味が違ってきてる。
それなのに。
6月25日。
亜弥ちゃんは前日からコンサートで東京にいないわ、美貴はミュージカル抜けられないわでどうしようもなかった。
お祝いコールしかできなかったのが何とももどかしい。
誕生日前に美貴の家に遊びにきていた亜弥ちゃん。
当日会えないことが分かっていたから、この日に亜弥ちゃんが欲しい物を聞いておくことにしていた美貴。
『亜弥ちゃん、誕生日プレゼント何がいい?』
『みきたんとお揃いのもの!』
即答かい。
- 219 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:51
- 『それじゃいつもと一緒じゃん』
ちょっとくらい高い物言ったっていいんだよ。
美貴だって一応稼いでるんだから。
『でも、ほんとにお揃いがいいんだもん。ダメ?』
腕に手を添え、目を覗き込まれる。
…ダメなことがありますか。
そんな上目遣いしちゃって。
もしかして亜弥ちゃん、わかってやってる?
『い、いい、いいよ。次会うとき持ってくるね』
『やったぁ!』
腰に腕を回されて。
頬に感じる柔らかい感触。
はあ〜しあわせ。
もうね、亜弥ちゃんの言うことなすこと全部ツボ。かわいすぎ。
美貴としては指輪でもあげて左手薬指に付けさせたい。
そんな希望が叶うはずもないので、
次の日空いてる時間を見計らって亜弥ちゃんが好みそうなペンダントを二つ購入。
今日はそれを渡しに行くというわけ。
- 220 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:52
- 楽屋に着いてマッハで着替えて。
いの一番に楽屋を飛び出した。
こんな日に限ってタクシーはなかなかつかまらない。
イライラ。
ちぇっ。
軽く舌打ちして、鞄をゴソゴソ漁って時間を確認。
腕時計をする習慣はないから携帯をみようとしたんだけど。
あ、やばい。
ケータイ忘れちゃったよ。
余りにも急いでたから、着替え中邪魔にならないよう机の脇に置いたままだったのを忘れてた。
クルッと回れ右して元来た道を走り出す。
うぅっ…早く亜弥ちゃんに会いたいよう。
- 221 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:54
- 川VvV从<更新でーす
ハイ、ワケわからん所で切りました。すみません。
どこで区切っていいかわからなかったんだい!
- 222 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:55
- この話を書いてる時のBGM『Go Girl〜恋のヴィクトリー〜』。
テンション上がる上がる(w
- 223 名前:山人 投稿日:2003/11/10(月) 23:57
- レスありがとうございます。ペコリ。
>208 つみ様
ありがとうございます!
こんなありがたいお言葉が頂けるとは(嬉泣
励みになります。
>209 名無し読者様
続きが書きたくなった時の為にあのような締め方をしました。
最後のハテナマークは自分への問いかけです(w
>210 名無し読者様
楽しんで頂けたみたいで嬉しいです。
『CLOSE RANGE』とは別人のような藤本さん、新鮮な気持ちで書けました。
本編の方ではもうちょっとハジけていくと思われます。
>211 名無し読者様
この辺を読んだあたりで続編を書く気になってきたり(w
>212 名無し読者様
ありがとうございます。
一応隠していく方向でお願いします。
あってないようなネタなんですけどね(w
短編の続編、たぶん書きます。
自分の中でも消化不良の部分が多々ありますので。『予定は未定』にならなきゃいいんですが(ドキドキ
- 224 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/11(火) 00:20
- 続編やったーーー!!
期待してますね…とかさり気なく?プレッシャーかけてみたり(w
本編もまた気になりますなぁ。
積極的なみきたん萌えです。
続きが待ちきれない〜
- 225 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/12(水) 09:15
- 藤本さん浮かれモードですな(w
- 226 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:38
-
- 227 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:39
- 10分程で楽屋に戻った美貴。
走って乱れた呼吸も落ち着いたというのに、いまだ楽屋に入れずにいる。
えーと、どうしたらいいんだろ。
ドア開けて入ればいいんだよね、うん。
そんなことは分かってるんだけど。できたら美貴もそうしたいんだけど。
今は、無理だ。
「言いたいことがあるんならはっきり言ってよ!」
「ほっとけよ!」
中から聞こえてくる、言い争う二人の声。
どちらにもよく聞き覚えのある、メンバーの声。
娘。に入ってからまだ日が浅い美貴は、メンバーが本気で喧嘩してるところなんて見たことがない。
この様子はただ事じゃない。
- 228 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:41
- 気の昂りが悲鳴のような声音となって表れ出てる梨華ちゃんに、
ハスキーな声をさらに低め、ドスをきかせてる…よっすぃー。
二人とも、本気だ。
扉一枚隔てた向こう側の迫力に気圧される。
中に割って入って止めるか。
そっとしておいて二人が帰るのを待つか。
基本的に、亜弥ちゃん以外の他人に不干渉な美貴は、後者をとった。
仕事のことならともかく、二人のプライベートな問題には首を突っ込まない方がいい。
梨華ちゃんにしてもよっすぃーにしても、相談したいことがあれば言ってくるだろう。
突き放してるわけじゃない。プライバシーの尊重だ。
考えてる間にも怒鳴り声はバンバン飛び交う。
どこか座れる場所でも探して待とう。
溜め息を吐き出し、楽屋に背を向ける。
- 229 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:42
-
「どうせ、ミキティの方がいいんだろ!」
へ?ミキ?
いきなり飛び出した自分の名前。
立ち去る準備万端だった体を、再び元の向きに戻す。
自分が関わっているかもしれないとあっては話は別。
ドアに近づき聞き耳を立てる。
梨華ちゃんの声が止んだ。
む?
何も聞こえない。
中の様子をもっと探ろうと、ドアにピッタリ耳をくっつけた。
だんだん大きくなる足音。
うわわっ。出てくる!
- 230 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:43
- ドアから顔を引き離し、左右に目を向けてもただただ廊下が続くのみ。
隠れる場所なんかどこにもない。
えーい、なるようになれ!
ドアが開く方向からは死角になる側の壁にベッタリ背をつける。
ああ、こんな格好見られたくないよ…
見つかりませんように見つかりませんように。
心の中で祈りを捧げる。
「もう好きにすれば!」
怒声と共に乱暴な音を立てて扉が開く。
ガン!
勢いよく開かれたそれはスピードを緩めることなく反転し、美貴の顔面にクリーンヒット。
- 231 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:44
- 目の前を無数の星がちらついた。
時間差をもって、痛さの波が襲ってくる。
鼻の痛みが脳天まで突き抜ける。
遠ざかっていく荒々しい足音のみが耳に残った。
う゛ぅ…
ズルズルと背中を壁に擦りつけながら、鼻とおでこを押さえてうずくまる。
鼻、折れてるんじゃ。
せっかくの商売道具が使い物にならなくなる。
勝手に聞き耳を立てていたのはこっちなので、誰も責めることはできない。
行き先のない怒りは自分の中に仕舞い込むしかなかった。
- 232 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:44
-
しばらくしゃがみこんでいると、前に人の立つ気配。
涙目で見上げてみると、美貴とは比べ物にならないくらい目を赤くした梨華ちゃんが立っている。
帰ろうとしてたんだろうか。
そんな顔で。
梨華ちゃんは鞄を探ると、無言で美貴にハンカチを差し出した。
ツ――――――
鼻の下を熱いものが流れる。
…マジですか。
- 233 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:45
-
- 234 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:46
- 美貴と梨華ちゃんは再び楽屋に逆戻り。
鼻は無事だったけど、鼻血が止まらなくてめちゃくちゃ焦った。
血あり余ってんのかな。
鼻にはティッシュ。おでこには梨華ちゃんが濡らしてきてくれたハンカチ。
情けない。
亜弥ちゃんが見たら大笑いするんだろうな。
下を向いたまま座っている梨華ちゃんをチラリと見遣る。
よっすぃーがいなくなってから梨華ちゃんは一言もしゃべってない。
重苦しい雰囲気を漂わせながら、沈黙が部屋中を満たしていた。
どうして美貴の名前が出てきたんだろう。
よっすぃーの口から名前が出た以上、美貴が喧嘩の原因に関わっていることは間違いない。
早いとこ理由を聞いてスッキリしたい。
「なんで?」
「…え?」
「なんでよっすぃーと喧嘩してたの?」
「……」
「美貴のせい?」
「……」
- 235 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:46
- 梨華ちゃんは黙ったまま。
言いたくないというより、どう説明していったらいいか、言葉を探している風だった。
少し腫れた目で、美貴との間にある何もない宙を見つめている。
あまりにもその時間が長いので、美貴の頭の中に亜弥ちゃんが浮かび出した。
「私ね」
突然梨華ちゃんは呟くように喋り出した。
「よっすぃーと付き合ってるの」
…は?
おでこにのせたハンカチがずり落ちそうになるのを手で防ぐ。
答えになってない。
あれだけ考えといて。
面倒くさくなったんだろうか。
「えーと、順番に話してくれると嬉しいんだけど」
「あ、え、んーとね…」
- 236 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:47
- 混乱してるのか。無理もない。
恋人とあんな大喧嘩した後じゃね。
コイビト。
こいびと。
…恋人!?
今さらながら梨華ちゃんが言った言葉に驚愕する。
文字通り、開いた口が塞がらない。
美貴があれだけ知りたかった相手はよっすぃーだったんだ。
こんな近い所にいたなんて。
美貴の口の中を眺めだす梨華ちゃん。
そんなとこ覗き込んでも何も出ないよ。
- 237 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:48
- 今の梨華ちゃんから答えを得るのは難しそうなので、必要なことは美貴が聞きだした。
要は、こういうこと。
まず梨華ちゃんとよっすぃーは恋人で。
二人とも5、6期メンが入ってから下の子たちの面倒見るのに追われて。
その上仕事が分かれることも多くなって。
二人きりでなかなか会えなくてイライラしてるところを、
美貴が梨華ちゃんに近づいてよっすぃー爆発、と。
つまりはただのヤキモチだ。
梨華ちゃんといる時にやたらと感じた冷たい視線はよっすぃーのものだったのか。
割って入ったつもりなんて全くない。
確かに暇あるごとに梨華ちゃんの所に行っては色々聞き出そうと迫ってたけど。
美貴は亜弥ちゃん一筋だ。
それにしても疲れた。
本っ当に疲れた。
付き合うまでのプロセスだの二人っきりの時のよっすぃーはホントに優しいだのかっこいいだの
聞かなくてもいいようなことまで聞かされたので、予想以上に時間がかかってしまった。
結局はお互いすごく好き合ってるってことだよね。
喧嘩らしい喧嘩をしたのも今日が初めてだって言ってたし。
自分が聞かされたのが半分以上ノロケだと気づいた瞬間、帰りたくなった。
亜弥ちゃんに、会いたい。
- 238 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:49
-
梨華ちゃんと二人、建物を出る。
もう美貴の鼻の詰め物は必要なくなっていた。
「元気出しなよ」
「…うん」
「仲直りするの手伝うからさ」
「…うん」
梨華ちゃんもだいぶ落ち着いた様子。
目の赤みもパッと見じゃ分からないくらい。
喧嘩の直接の原因をつくったのは美貴だ。
今回は協力しよう。
梨華ちゃんに近づく人がいれば相手が誰だろうとよっすぃーは怒ったんじゃ、
なんていう考えが美貴の頭を掠ったけれど、起こってしまったことは仕方ない。
「ありがとう。すごく助かる」
安心したように微笑む梨華ちゃんの横顔を見た。
よっすぃーも罪作りだね。
こんなかわいい子泣かしちゃうなんて。
あ、もちろん亜弥ちゃんのかわいさには負けるけど。
- 239 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:50
- 「今回だけだからね。次からは自分で何とかしなよ」
「えー。美貴ちゃんひどーいつめたーいおにー」
「文句言わない」
軽口叩けるくらい元気になったんならもう大丈夫。
比較的車通りの多い道路に出てからタクシーを拾うことにする。
「美貴、亜弥ちゃんち寄ってくからタクシーで帰るよ。」
背中を押して梨華ちゃんを送り出す。
「また明日ね!」
大して離れてもいないのに、高い声を張り上げて腕全体を大きく振る梨華ちゃん。
そんなでっかい動きしたらばれるって。
「はいはい、バイバイ」
美貴が控えめに応えたのを確認して、梨華ちゃんは歩き出した。
- 240 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:52
-
梨華ちゃんに別れを告げた後、
タクシーをつかまえようと周囲に向けた美貴の意識は、ある一点に集中した。
…ああ、なんだ。
安心とも呆れともつかぬため息が漏れる。
梨華ちゃんが去っていった方向に見えるのは、隠れるようにして立っているよっすぃーの後ろ姿。
やっぱり心配なんだ。
素直じゃないんだから。
仲直りは時間の問題、かな。
微笑ましい気持ちを胸に抱きながら、やってきたタクシーに向かって手を挙げた。
後部座席に乗り込みかけて気づく。
…携帯、忘れた。
- 241 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:53
- 从‘ 。‘从<更新終了です
あやみきなのに松浦さんが出ていない…
- 242 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:53
- 次回は、出ます。
- 243 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:54
- レスありがとうございます。
>224 名無し読者様
短編の続編はこの話が終わった後にのせることになると思います。
必ず書きますので待ってて下さい。
川VvV从<計画性ゼロだからいつ頃になるか分かんないんだってさ
>225 名無し読者様
そうですな (w
短編の大人しい藤本さんを書いてた反動で浮かれモード2割増です
読み直してみて自分でも恥ずかしくなってきました(w
- 244 名前:山人 投稿日:2003/11/14(金) 20:54
-
- 245 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 18:54
- ***
ピンポーン
インターホンを鳴らしてすぐに、バタバタと近づいてくる足音。
ドアの先の亜弥ちゃんを想像しながら待つこのわずかな時間が好きだったけれど、今日は警戒してしまう。
ぶつかりゃしないか。
もう鼻血は勘弁だよ。
親切なタクシーのおっちゃんは、美貴が携帯を取って戻ってくるまでそこで待っていてくれた。
必死な顔でお願いした甲斐があるってもんだ。
「いらっしゃーい」
ガチャ、とドアが開いて亜弥ちゃんが笑顔を覗かせた。
はぁぁ。
一気に気が緩む。
- 246 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 18:55
- 「亜弥ちゃ〜ん」
抱きつかれる前にこっちから抱きつく。
お風呂上りなのか、亜弥ちゃんからはいい匂い。
思いっきり息を吸い込む。
柔らかい抱き心地に、溜まった疲れがスーッと抜けていく。
「みきた〜ん」
美貴の口調を真似て、同じように抱きしめ返す亜弥ちゃん。
お互いの肩にあごを乗せて締め付けあった。
苦しくなってきたところで体を離す。
亜弥ちゃんに手を引かれ、玄関から上がった。
「はやく、はやく」
急かす亜弥ちゃんはほんとに嬉しそう。
そんな顔されたら勘違いしちゃうよ。
まるでもう恋人のよう。
- 247 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 18:56
- 食事は軽く済ませてあったので、お茶だけ頂くことにした。
亜弥ちゃんが紅茶を入れてきてくれる。
広い部屋の中。
離れて座ることもせず、二人でベッドに凭れかかって座った。
「忘れないうちに。はい、これ」
鞄を引き寄せ、綺麗にラッピングされた包みを取り出す。
「お誕生日、おめでとう」
わあ、と声を上げて大事そうに両手で受け取る亜弥ちゃん。
「開けてもい?」
もちろん。
笑顔で頷くと亜弥ちゃんは丁寧に包装を解きだした。
中から取り出されたのは、トップにシンプルなリングのついたペンダント。
これなら私服にも衣装にも合わせやすいし、美貴も亜弥ちゃんも好きな感じ。
- 248 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 18:57
- 「ありがとーみきたん」
「気に入ってくれるかな?」
「うん!すっごく!」
みきたんのは?
目線で聞かれる。
服の襟で隠していたお揃いのペンダントを手で引き出した。
先に付けちゃってたんだ。
「よし」
満足そうに笑って亜弥ちゃんは後ろを向いた。
「つけて」
自ら髪を上げる亜弥ちゃん。
白くてキレイなうなじが露わになる。
夏だから服装も薄着で。
キャミソールだから背中も見えちゃったりして…
- 249 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 18:58
- くうっ…!
なんだかとっても色っぽい。
思わず声を出してしまいそうになり、手で口を押さえる。
胸の奥が騒ぎ出す。
体がウズウズする。
ゴクリ。
動揺を悟られないようさりげなくペンダントを受け取って、首の後ろで金具を止める。
「えへへー」
ペンダントトップを弄びながら、そのまま美貴の方に倒れこんできた。
亜弥ちゃんが後ろ向きでよかった。
真っ赤な顔、見られずに済む。
- 250 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 18:58
- 時々、亜弥ちゃんをめちゃくちゃにしてしまいたい衝動に駆られる。
例えば今みたいな状況。
あまりにも無意識に、無邪気に誘惑されるもんだから、美貴としては手を出しかねてるんだ。
亜弥ちゃんは気づいてないよね。
美貴がこんな風に思ってるなんて。
不意に亜弥ちゃんが首だけでこちらへ振り向いた。
黙ってるのを不思議に思ったのかな。
口を開きかけてやめて、美貴の顔をじっと見る。
「みきたん、ちょっと鼻赤い?」
「あー…今日ドアにぶつけたから」
「ドア?ぶつけた?」
「そう。開いたドアがこう、バーンて」
手の平をドアに見立てて顔に近づける。
- 251 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:00
- 一瞬目を丸くした後。
「コントみたい!」
そう言って吹きだした亜弥ちゃん。
美貴だってぶつけたくてぶつけたわけじゃないんだよ。
そんなネタ作りのために体張る気ないし。
「ちょ…く、くるし…」
笑いすぎて涙拭ってる。
鼻血まで出たなんて言えないな、こりゃ。
一体何がツボにはまったのか、亜弥ちゃんは笑い続ける。
そこまで笑い転げるほどのことでもないと思うんだけど。
ぶつけたのはよっすぃーのせいだし。
少しむくれてみせると、それに気づいた亜弥ちゃんは美貴の鼻に手を伸ばした。
「痛い?」
…まだ声に笑いが残ってるな。
「ん。ちょっとジンジンする」
- 252 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:00
- 「それでは」
亜弥ちゃんはかしこまって美貴の方に向き直った。
肩に手を置かれる。
「イタイのイタイの飛んでけ〜」
チュッ
鼻にキスされた。
「絶対すぐ治るよ。なんたってあたしのおまじないだもん」
顔を離した亜弥ちゃんは得意げに笑う。
…甘い。甘いね亜弥ちゃん。
こんなんじゃ満足できないよ。
美貴が普段どれだけ我慢してると思ってるんだ。
「亜弥ちゃん」
「ん?」
「美貴、おでこもぶつけたんだよね。ここもおまじない、して」
- 253 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:01
- え〜、とかいいながらもけっこうノリノリな亜弥ちゃん。
おでこに、鼻に、温かな感触が次々と訪れる。
ぶつけてよかった。痛くてよかった。
よっすぃーに感謝だね。
チュ…チュ……チュッ…
「…まだ?」
「ダメ。まだ痛い」
ああ、また変な気分になってきた。
「もういいんじゃない?」
「まだまだぁー」
閉じていた目を開いてみると、すぐ前に開いた胸元が。
み、見えちゃうよっ!
もう一度目をギュッと瞑る。
- 254 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:02
-
しばらくして亜弥ちゃんが離れる気配がした。
「もういいよね」
さすがに恥ずかしかったのか、照れ笑いしてる。
そんな顔もかわいくてたまんない。
ああもう…我慢…できません。
亜弥ちゃんの体をベッド脇に押し付けて。
形のいい唇を、自分のそれで深くふさいだ。
- 255 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:02
- 「んんっ!」
軽く押し返される。
そんな力じゃ止まれないよ。
ほんとに嫌なら、突き飛ばすくらいしてくれないと。
角度を変えて何度も何度も口内を味わう。
強弱をつけて。
舌を絡ませてみたり。
唇を唇ではさんでみたり。
気持ちいい。
いつの間にか亜弥ちゃんの腕が背中にまわされてることに気づいた。
拒絶されなかったことに、嬉しさが込み上げる。
「…んっ…ふっ……ぁっ」
息継ぎの合間に漏れた声が静かな部屋に響き渡る。
- 256 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:03
- 初めて、亜弥ちゃんと深いキスをした。
じゃれ合ってすることはあっても、本気でしたのは今日が初めて。
好きな人とするキスがこんなにいいものだったなんて。
癖になりそう。
長いようでいて短い時間が過ぎると、お互い顔を近づけたまま息を整える。
濡れて艶を帯びた唇を舐め取ると、亜弥ちゃんは小さく体を震わせた。
色素の薄い瞳を覗き込む。
少しの怯えが走ったのを美貴は見逃さなかった。
- 257 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:04
- 亜弥ちゃんとの距離を広げて。
ポンポンと頭をたたく。
「お返しだよ、お返し」
にひひ。
笑いながら、努めて、できるだけおどけて言う。
「なーんだあ」
亜弥ちゃんに笑顔が戻る。
大丈夫、これ以上はしないから。
…今日はね。
お返しのつもりが、さらに何万倍もお返ししてもらっちゃったね。
ありがとう、亜弥ちゃん。
- 258 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:05
- 川VvV从<更新終了♪
まつーらさんが出てこないのは自分でもヤなので、早めに更新。
- 259 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:06
- こういう場面だと
- 260 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:06
- おそろしく書くの早いんです
- 261 名前:山人 投稿日:2003/11/15(土) 19:06
- 妄想力の賜物か
- 262 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/15(土) 22:01
- 今日はね…か(ニヤリ
- 263 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/16(日) 23:38
- 自分もこういう展開大好きですw
- 264 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/28(金) 13:52
- 続きまだかな・・・
- 265 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/03(水) 23:41
- 山人さ〜ん…カムバーーック
- 266 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:22
-
- 267 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:23
- *****
はぁ…
たまんないな、もう。
ニヤける顔を抑えつつ、机に肘をつき頬に手をやる。
15人も詰め込まれて騒がしい楽屋の中。
メンバーのおしゃべりに加わることもお菓子をつまむこともせず、
美貴はただボンヤリと亜弥ちゃんに想いを馳せていた。
キスする時の亜弥ちゃんが脳内で何度も何度もリプレイされる。
何が忘れられないかって。
し終わった後の目がね。
もう、トロンとしちゃってんの。
いつもの元気ハツラツ健康的!って感じの亜弥ちゃんじゃなくなっちゃうの。
無防備で、けだるげで。
年不相応の色気なんか出しちゃって。
あんな目されたらそれ以上のこともしたくなっちゃうでしょ。
…って実際しかけたんだけど。
キスに味を占めた美貴は、亜弥ちゃんに会う度に唇を奪っちゃってたんだ。
それくらいなら別にいいじゃん、減るもんじゃなし。
すればするほどもっと欲しくなっちゃうから不思議だよね。
- 268 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:24
- キスを深くしたことに対して、亜弥ちゃんはそれほど何とも思っていないよう。
怖がる素振りを見せたのは最初の一回だけだった。
それ以降は特に嫌がってる風でもないし。
適応能力が優れてるんだろうか。
芸能界で仕事しちゃってるぐらいだもん。
ちょっとやそっとのことでいちいち気にしてたらやってけない。(それとこれとは違う気もするけど)
それともキス慣れしてるのか。
…これはヤだな。美貴以外の人とキスなんて。
とりあえず。
かわいいから、いいや。
結局行き着く考えはいつも同じ。
毎回振り出しに戻る美貴の思考は、ぐるぐるとループを描いて回り続ける。
愛しさ、恋しさ、戸惑い、せつなさ、その他もろもろ。全部巻き込んで。
- 269 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:25
-
ふと気がつくと、お菓子を食べてたはずの紺ちゃんが、手を止めて心配そうに美貴のことを見ていた。
笑いかけると怯えたような引きつり笑いが返ってくる。
失礼な。
話し中にトリップするだけならまだしも、最近はニヤニヤ顔まで加わったせいか、
メンバーも気味悪がってそのことについては何も言ってこない。
文句なんて言えないよね。
自分でもキモイ顔してるだろうなって分かるから。
頭の中は治せそうにないので、せめて顔だけでも引き締める。
プニ。
「うぇ?」
不意に後ろから誰かが美貴の頬っぺたを突いた。
- 270 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:26
- 背後に感じる存在感。
誰かなんてすぐ分かる。
引き締めたばっかりの顔が再び緩んでいくことに気づきながらも振り向くと。
そこにはやっぱり亜弥ちゃんがいた。
「みきたん!」
衣装を着てかわいらしく微笑んでいる亜弥ちゃん。
お馴染みのヘソ出しルックで、露出度、かなり高め。
…イイ!
意識がそんなとこに集中してるだなんてことはおくびにも出さずに、にっこり微笑み返す。
今日はハロプロコンのリハーサル。
シャッフルに引き続き亜弥ちゃんと一緒の仕事。
美貴の方が先にリハーサルを終えたから、一緒に着替えようと思って待ってたんだ。
「はや…」「ただいまあ」
…かったね。
言い終える前に抱きつかれる。
ギュウゥゥ…
ぐぇぇっ!…ぐるじぃ……。
- 271 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:29
- 美貴が苦しんでるのを知ってか知らずかますます抱きつく力を強める。
この細い腕のどこにそんな力があるんだろ。
「亜弥ちゃん…痛い!」
背中を叩いて腕を緩めるよう促す。
体はくっつけたまま、顔だけこっちに向ける亜弥ちゃん。
「降参?降参?」
嬉しそうだね。
何がそんなに楽しいのか。
してやったりって感じの表情。
「はいはい。まいったまいった」
別に勝負とかしてたわけじゃないし。
「ふははぁ」
いたずらな笑み浮かべて目ぇキラキラさせて。
ほんとにこの子の表情はクルクルよく変わる。
どんな表情してもかわいいんだからずるいよねぇ。
- 272 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:32
- 何回キスしても、こっちが拍子抜けするぐらい自然に接してくる。
亜弥ちゃんにしたら、きっと親愛の情が深まったぐらいにしか考えてないんだろう。
普通あんなキスしたら何かあるって思うでしょうが。
かえって仕掛けた美貴の方が意識しまくっちゃってるってのにさ。
複雑な気分で黙りこくってる間にも、スリスリ頬こすりつけられちゃったり。
だからさぁ。
そんな風に甘えた顔されたらね。
変な気起こしちゃうのも仕方ないよね。
…キスしたくなっちゃったじゃん。
とはいえ、ここじゃちょっと人目が気になる。
さっさと着替えて帰っていったメンバーもいるけど、まだ半分ぐらいは残ってるし。
飯田さんもどこから湧いて出るかわからないし。
ゾッ…
考えるまでもなく、ここを出ること決定。
立ち上がり、亜弥ちゃんの背を押して楽屋の外へ出る。
亜弥ちゃん。二人っきりになれる所に行こうね。
くふふふ。
- 273 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:33
- 心の中で美貴がほくそ笑んでるなんてつゆ知らず。
いきなり連れ出された亜弥ちゃんは不思議な顔をしながらも美貴についてくる。
「どこ行くの?」
んー。どこだろ。とりあえずなんか答えとかないと。
「えーと、落ち着ける所?」
「なんで疑問形なのさ」
苦笑いを含んだ声が返ってくる。
だって自分でもどこ行けばいいのか分かんないんだもん。
邪魔者がいなかったらどこでもいんだよ、美貴は。
曖昧に笑ってごまかした。
- 274 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:34
- 「とうっ」
さっきのが気に入ったのか。
人差し指で美貴の頬をさしてくる。
大きく口を開けて伸ばした指を食べるフリをすると
「みきたんに食べられるぅ」
と言って美貴に背中を向けて走り出した。
ほんとに食べてやろうか。別の意味で。
特上のミキティスマイルを顔に貼り付けて、本気モードで亜弥ちゃんを追いかける。
走りながら廊下を進んでいくと、人気が少なくなってきた。
適当に人がいなさそうな部屋を見繕ってドアを開く。
よし、誰もいないなっと。
無人なのを確認し、後ろから亜弥ちゃんの首根っこを掴み、引き込む。
- 275 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:35
- 「わっ、とっと」
足をもつれさせるようにして転がり込んできた亜弥ちゃんを抱きとめて。
後ろ手にドアを閉めた瞬間、美貴のあいてる方の手は亜弥ちゃんの顔近くに向かっていた。
「なにっ?いきな……っんぅっ…」
首の後ろに回した手で引き寄せて。
言葉を発しようとするのを、キスで止める。
「…ん…むっ……」
いきなりのキスに驚いた亜弥ちゃん。
顔を離そうとするけれど、そう簡単にやめてたまるか。
両手でしっかり頭を固定する。
んん〜。きもちー。やっぱ好きだなあ。
- 276 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:36
- 薄目を開けて間近にある亜弥ちゃんの顔を観察する。
ギュッと瞑られた目。
切なげにしかめられた眉。
必死な感じがこれまた…いいねえ。
最近美貴がキスばっかりするもんで、
亜弥ちゃんにも余裕が出てきたところだったからなんか新鮮。
いつもはことわり入れてからだったからね。
いきなりってのもたまにはいいかも。
だんだん亜弥ちゃんの抵抗が弱くなってくる。
こうなりゃもう完全に美貴のペース。
もっとじっくり亜弥ちゃんの唇を味わおうとしたところ。
ピクッと体を動かしたかと思うと、いきなり亜弥ちゃんが美貴から顔を背けた。
ガーン!
いいところだったのに…
- 277 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:37
- 亜弥ちゃんの顔はドアの方に向けられ、固定されている。
ねえ…こっち向くのすらイヤなの?
ようやくドアから視線を外した亜弥ちゃんは、そぉとぉ悲しそうな顔になってるハズの美貴の顔を見て
「わっ、ちょっと。みきたん、そうじゃなくって」
わたわたと弁解を始める。
「なにがそうじゃないの?」
予想以上に拗ねた口振りになってしまった。
「なんか変な音しなかった?」
「変なってどんな?」
「カチャって感じの、金属っぽい…」
「“カチャ”…」
その擬音語から連想されるものは一つしかない。
なーんとなく、やな予感がするんだけど。
そして、美貴のそういう予感は当たることが多い。
不信感丸出しで扉に近づいていってドアノブをガチャガチャ回す。
開かない。
…やっぱり。
- 278 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:38
- 「はあっ!?」
握り拳でドンドン叩きつけてみても。
「誰かぁ!開けてくださーい!」
声の限りに叫んでみても。
返事どころか物音一つしやしない。
亜弥ちゃんは、ただ呆然とするばかり。
……。
顔を見合わせる。
「「……うそでしょ?」」
力ない声が仲良く重なり、むなしく響いては消えていった。
- 279 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:39
- 从‘ 。‘从<更新しました
PCの前に座ったの久しぶり(涙
- 280 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:40
- 間空きすぎて、本当に申し訳ないです。
年末に向けて忙しくなり、なかなか書くのもままならない状態です。
もう少ししたら暇もできてくると思いますので、お待ち頂けると嬉しいです。
- 281 名前:山人 投稿日:2003/12/06(土) 09:40
- >262-265 名無し読者様
レスありがとうございます。
絶対完結させますので、親切な方はもちょっと待っててやって下さい。
川;VoV从<ごめんよぉ
- 282 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/07(日) 01:06
- ぉおっとぉ萌えな展開になっちまいましたねぇ(;´Д`)ハァハァ
- 283 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/07(日) 03:39
- お二人さんピンチですね。でもこっちからしたらハァハァ(;´Д`)てな感じですw
- 284 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/19(金) 17:07
- お待ちしてます。
- 285 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:15
- クリスマスイブ記念。
- 286 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:16
- 【Love came down】
- 287 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:17
- 鳴り響くクリスマスミュージックに、飾りつけされたツリー。
赤と緑の割を増やして、キラキラと輝くイルミネーション。
街には、嬉しそうに手を取り合って歩く恋人達。
そう、今日はクリスマス・イブ。
一年の中でも、五本の指に入るほどに特別な日だ。
しかし、そこいらを取り巻くクリスマス気分からは程遠い少女が二人。
一方、極度に緊張しており、他方、極度に恐怖を感じていた。
二人とも、ほとんど誰もいない公園で向かい合わせに立ったまま無言である。
気温がかなり低いにも関わらず、妙な汗を流しながらガチガチになっている少女、藤本美貴は思う。
はやく…!はやくなんか言わないと…!
その前で、蛇に睨まれた蛙よろしく金縛り状態になっている少女、松浦亜弥は思う。
…もうヤだ、早く帰りたい。
美貴は突然顔を上げたかと思ったら、亜弥と目が合った瞬間に下を向く。
その度、体を強張らせる亜弥。
ほぼ一定の時間をおいて、同じ流れを繰り返す。
二人の視線が交わることはあっても、互いの心の内を知ることはなかった。
今のところは。
- 288 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:17
-
- 289 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:18
- 事の発端は亜弥が目を覚ました頃にまで遡る。
クリスマスが何!?
イブが何さ!!
半分キレ気味でフテ寝を決め込んでいた亜弥は、ベッドの上、携帯の着信音で目を覚ました。
ディスプレイで時間を確認すると、正午少し前。
「まだこんな時間じゃない」
不機嫌丸出しで呟いて携帯を手に取る。
眠たい目を擦りつつボタンを操作すると、受信メールが5件。
全て、亜弥の友達からだ。
1件目。
『今彼氏とデート中!外いっぱい飾りつけしてあってきれいだよ〜』
……。
2件目。
『今寂しい者同士で集まってご飯でも食べようかって言ってるんだけど、亜弥もおいでよ』
………。
3件目も似たような内容。
- 290 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:19
- そりゃ、あたしだって出かけたいよ。
イブに一人なんて寂しすぎる。
でも、どうせ出かけるんなら好きな人と腕組んで歩きたい。
一緒にケーキだって食べたいし、ロマンチックな夜景を見ながらキス、なんてのもしちゃいたい。
…なんてったってお年頃だし。思春期だし。
なのにこうして自分の部屋で一人寂しく過ごしてるのは、もちろんそんな相手がいないから。
なにも亜弥がモテないわけではない。
むしろ、モテすぎて困るぐらいだった。
しかしいくら告白されてもこの人だ!と思えるような相手には巡り合わない。
高校に入学して1年半と少し。
同じ学校内に、夢中になれそうな人がいないことは、すでにチェック済。
学校と全く関係ないところで愛を打ち明けられたりもしたが、いまいちピンとこない。
そんな感じでズルズルとイブを迎えてしまっていた。
- 291 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:20
- どうせあとの2件も同じようなメールだろう。
なんだか読む気にもなれなくて、携帯を折りたたもうとする。
ところが。
半分覗きかけのディスプレイに、見慣れない文字が映し出されているのに気づいてしまった。
『mikitty』で始まるメールアドレス。
今までにこんなアドレスを見た覚えはない。
首をかしげて考える。
なんだろ?新種のキティちゃん?
いくらクリスマスだからって、キティちゃんからメールがくるわけなんてないよね。
こんなアドレスの友達、いたかな?
閉じかけた携帯を再び開き、内容を確認。
『○○公園に集合!』
亜弥の通ってる高校のすぐ近くにある公園だ。
その次の1件に、付け加えるようにこうある。
『ずっと待ってます』
- 292 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:21
- 中身だけだとさっき見たものと大して変わりない。
『待ち合わせ』じゃなく『集合』と書いてあるからには、何人かに対してのメールなんだろう。
ただ気になるのは、『ずっと待ってる』というその続き。
これ、一人に向けて言ってるよね。
前のと矛盾してる。
差出人は同じなのに、変なの。
それに、時間すら書いてない。
こんな怪しいメールは無視するに限る。
そう思ってもう一度布団に潜り込んでみたが、完全に頭は覚めきってしまった。
もしかしたらとっても素敵な人が待っているのかもしれない。
行こうかな。
しかしそれ以上に怪しさがつきまとう。
やめとこうかな。
…行こう。どうせ、暇なんだから。
行ってみて誰もいなかったりしたら、ご飯を食べに行くという友達に合流することにしよう。
決めたなら話ははやい。
勢いづけてベッドから起き上がった。
- 293 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:21
-
- 294 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:22
- 30分後。
亜弥は公園の前に立っていた。
学校のすぐ近くにあるのに、今までは前を素通りするだけだった公園。
初めて足を踏み入れる。
へえ、結構ちっちゃいんだ。
今日は特に風が強いせいか、公園にいる子供は少ない。
少しでも風に晒される部分が少なくなるようマフラーに顔を埋める。
申し訳程度に備え付けられている数少ない遊具の中。
黒いコートを着た少女が一人、ポケットに手を突っ込んで、足をブラブラさせながらベンチに座っていた。
ジャリ、と亜弥の足元で砂が乾いた音を立てる。
その音に反応して少女が振り向く。
亜弥がいることに気づき、ベンチから立ち上がって歩いてきた。
近づいてくる少女を見つめながら、
頭の中ではたくさんいる友人の顔が次から次へと浮かんだり消えたりしていた。
最近会ってない友達に当てはまる顔がないかどうかよぉぉく思い出す。
う〜ん、やっぱりこんな人知らないよ。
- 295 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:22
- 「…あなたですか?メールくれたの」
「う、うん」
少女は視線をそらし気味で、亜弥の前に立つ。
どうしてあたしのことを知ってるんですか。
どうしてあたしのアドレスを知ってたんですか。
アナタ、一体誰なんですか。
聞きたいことは山のようにあるけれど、向こうの用件を先に聞くことにした。
- 296 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:23
- 「あ、あのですね…」
うわあ…
思い切って顔を上げたその子の目には、かなり凄みがあった。
正直、すごくこわい。圧倒されて動けない。
視線を合わせたままでいいのか外した方がいいのか、分からない。
「は、はい?」
相手の目を見ながら言うことを待つ。
目を逸らしたくなるのを我慢して、めちゃくちゃ無理してる。
直視するのが怖いせいで、上目遣いになっていることに亜弥は気づかない。
険しいだけだった少女の顔にみるみる赤味がさしていく。
ほ?
亜弥が不思議に思っているうちに、少女はまた俯いてしまった。
キツい目つきから逃れられてホッと一息。
- 297 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:24
- が。
今度はなかなか顔を上げない。
沈黙がこんなに気まずいものだとは。
周りも自分も常に何かしら喋っている亜弥は、沈黙には慣れていない。
帰りたい。
けれど帰れない。
話も聞かずに帰ろうとしてシメられちゃったらどうしよう?
考え込んでいたせいで再び少女が顔を上げていたのに気づかなかった。
ハッと気づいた時には、不意を突かれて、恐怖は倍に。
知らず知らずのうちに、眉尻が下がる。
もぉ…
なんで呼び出された上に睨まれなきゃなんないの?
- 298 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:24
-
- 299 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:25
- お昼時が近づいて、さらに人数の少なくなった公園。
もう随分長い間突っ立ったままだ。
風がびゅうびゅう冷たい中。
目の前の相手は、壊れた人形みたいに同じ行為を繰り返している。
顔を上げては亜弥を見て。再び地面とご対面。
どんなに怖い目つきだろうと、何回も見てしまうとさすがに慣れてきた。
落ち着いて見れば、かわいい顔してるんだよね。
下を向いてる顔を、チラっと観察。
唇を真一文字にキュッと結んで真っ赤になったその顔は、焦っているようにも照れているようにもとれる。
今日何回目になるか分からない。
少女がまたガバっと頭を上げた。
そう、勢いはいいんだよね、勢いは。
その調子でちゃっちゃと言いたいこと言っちゃってくれないかな。
このままじゃあ、埒があかない。
そろそろ、寒さも限界だし。
思い切って亜弥から話しかけてみることにする。
- 300 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:26
- 「アナタ、名前は?」
「み、みみみ、みき!」
「え?何?」
大きな声で答えてくれるのは嬉しいけど、どもりすぎてて分かんない。
「ふ、藤本美貴!」
名前を聞き出すだけでも一苦労だ。
「で、藤本美貴さんはあたしに何の用?」
「ええ?そのぉ…」
肝心なところでモジモジウジウジはっきりしない。
再び沈黙。
ああ、じれったい。
「えーと…寒いよね。何かあったかいもんでも買ってくるから待ってて」
「へ!?」
美貴は、亜弥が返事をするよりも前に公園内に設置されている自販機の方へ走っていってしまった。
- 301 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:27
- ガックリ。
いや…そんなことよりもアナタが早く用件を言ってくれれば済むことでしょ。
脱力していると、すぐに美貴が戻ってきた。
「ん」
手には買ったばかりの缶が2本。
温かい紅茶の入った缶を手渡される。
走って帰ってきたせいで息を切らしてる。
「嫌いじゃなきゃいいんだけど」
紅茶嫌いな人なんてそうそういないでしょ。
ぶっきらぼうな言い方だけど、必死な感じが強く伝わってきて、笑いそうになってしまった。
やっぱ普通にしてれば、怖くないじゃない。
「ありがと」
目を見つめてお礼を言うと、フイと横を向いてしまった。
もう、そんなことは大して気にならない。
ほんのり赤くなってる頬で、感謝の気持ちが伝わったことがわかるから。
いただきます、とありがたく紅茶を頂く。
体中で凝り固まった寒さが、内側から溶かされていくようだった。
藤本さんとやらの用事を聞くのは、これを飲み終わってからでもいいだろう。
- 302 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:27
- 「なに?」
二人してベンチに座っていると、美貴が亜弥を見つめている。
「あ、と…。飲み物飲む時ってそんな感じなんだ、と思って」
「???」
あたし、変わった飲み方でもしてるのかな。
今まで飲み方が変だとか言われたことない。
普通の飲み方ってどんなよ?と美貴の缶に目をやると、まだ開けられてすらいない。
「飲まないの?」
「えぇと、その、ね?今そういう気分じゃないから」
ね?って言われても。
じゃあなんで2本も買ったんだろう?
会ってからわけの分からないことだらけで振り回されっぱなしだ。
- 303 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:28
- 指先を見ると、缶に触れた部分が真っ赤になっている。
もしかして…
一瞬の隙を見て缶を奪う。
「あぁっ!」
「つぅぅ…めたぁい!!」
キンキンに冷えていた缶。
「どうして冷たいのなんか買ったの?」
「…さっきは冷たいのがほしかったんだよぉ…」
口を尖らせてモゴモゴと言い訳をする
どうしても買い間違えたことを認めたくないんだね…。
見かけによらずけっこう抜けてるじゃないの。
- 304 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:28
- 「しょうがないなあ」
ハイ、と自分が持っていた温かい缶を隣の彼女に握らせる。
「半分コ、しよ」
「へ?」
「はんぶん、はんぶん」
「…いいの?」
「アナタが買ってくれたんでしょ」
「ありがとぉ」
両手で大事そうに缶を持って、目を細めながらくぴくぴ飲んでる。
リスかなんかの小動物に似てる。
飲み終わった頃にぷはぁ、とちっちゃく聞こえた。
かぁわいい。
さっきまであんなに怖かったのが嘘のよう。
- 305 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:29
- まだぬくもりの残った缶で暖をとっていた美貴は、急に口を押さえだす。
その視線は、缶の飲み口と亜弥の唇をいったりきたり。
はあ。何考えてるか、わかり易すぎ。
この子が言いたいことも、だんだんわかってきた気がする。
「ねえ」
「うん?」
「あたしに言いたいこと、あるんでしょ」
「……。」
強く目で捕らえる。今度は逃げられないように。
一瞬のためらいの後。
「…つきあって、くんない?」
美貴が言った。
最初からその顔してくれてたらなぁ。
たぶん、怖がることもなかったのに。
泣きそうな顔。必死な顔。
そんなウルウルした目で見られたら。
コクン。
無意識のうちについ頷いてしまっていた。
ああ、あたしはギャップのある人に弱かったのか。
- 306 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:30
-
- 307 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:30
- パッと見怖いが、中身のぬけた彼女は、なんと亜弥よりも年上だった。
美貴が亜弥の高校に転校してきたのがほんの二ヶ月前。
転校してすぐに亜弥のことを気にかけていたようだが、亜弥はその間全く気づかず。
お互いの緊張もとれ、亜弥は思っていたことを口にする。
「さっき、目つき、怖かった」
「緊張してたんですぅ」
「こういうことはもうちょっと前に言ってくれたらよかったのに」
「言おうかどうか迷ってたら、今日になっちゃったんだよぉ」
「メール、おかしかったよ」
『集合』とか。
「うぅ…。」
まあ、あんな不可解な内容でもない限り、あたしがここに来る気になったとは思えないけれど。
「時間も言わずに、あたしが来なかったらとか考えなかったの?」
「あ…」
やっぱり馬鹿だ。
でもなんか、微笑ましい。
- 308 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:31
- 「そういえば、どうやってあたしのアドレス知ったの?」
「お友達に聞いた」
ちょいと睨みをきかせれば、アドレスを聞き出すことぐらい美貴にとってわけはない。
人はそれを恐喝という。
「亜弥ってさあ、目つきの悪い軽ヤンの友達なんていちゃったりする?」
少し前、何かに怯えた風な友達からこんなことを聞かれたのを思い出した。
その時は変なこと聞くなぁ、ぐらいにしか思ってなかったんだけど。
納得がいった。
アナタでしたか。
- 309 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:33
- 「せっかくだから、遊び行こ」
公園から連れ出そうと手を握ると、瞬間湯沸かし器のように美貴の全身が真っ赤になった。
首まで赤いよ。おもしろぉい。これからかなり、楽しめそう。
あたしと、藤本さん。
意外としっくりくるんじゃない?
来年こそは。
朝から愛しい人とイブを。
繋いだ手をウットリ見つめたままついて来る、後ろの彼女を見てそう思った。
- 310 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:34
- 〜FIN〜
- 311 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:34
- 久しぶりに書いたので文章がおかしなところもあるかもしれません。
というか、あります。
探したりせず見逃してやってください。
- 312 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:35
- レスありがとうございます。
>282-283 名無し読者様
最近、以前にも増してあやみき不足な気がします。
(;´Д`)ハァハァさせてくれるようなことが現実でも起こってくれないでしょうか(涙
こんなのでも書いてないとやってられん!てな感じです。
>284 名無し読者様
全然更新していないにもかかわらず待っていただいて、本当に感謝しています。
やっと忙しさから開放されたので近いうちに更新します。
- 313 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 01:37
- いい加減本編完結させないと(焦
- 314 名前:あやみき信者 投稿日:2003/12/24(水) 02:17
- ・・・・・
短編イィ!!
確かに本編はなかなか進んでませんがw
でも山人さんの短編はどれもかなりグーです♪
こういうみきててぃもいいっすな〜(←おやぢ)
- 315 名前:山人 投稿日:2003/12/24(水) 03:06
- しまった!変換ミスが・・・
>312
×忙しさから開放
○忙しさから解放
すみません・゚・(ノД`)・゚・
- 316 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:40
- 「誰も来ないね…」
誰かに見つけてもらうため、大声で叫びまくってた美貴と亜弥ちゃんだけど、
30分もするとさすがに疲れてきた。
今は二人、頭を凭せかけ合って静かに座る。
気づいてもらえるかどうかも分からないんなら、
誰かが通るまでじっとして、体力が減るのを防ぐ方がいい。
閉じ込められて、たぶん一時間くらい。
『たぶん』っていうのは、部屋の中には時計すらついてないから。
どうやらここは機材室みたいだ。
普段そんなに使われることがないのか、どの機材もうっすら埃をかぶってる。
そして、どういうことなのか、この部屋の電気は切れたままだった。
一体どれぐらいの頻度で人が出入りするんだろう。
- 317 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:41
- 「ねえ」
「ん?」
「窓から出るとかできないかな?」
「や、無理だから。ここ三階だし」
脱出のしようがないじゃん。
ほんと、ツイてない。
いや、ある意味ツイてんのか。
薄暗闇の中、亜弥ちゃんとふたりっきり。
邪魔者はいない。
望んだ以上のシチュエーション。
明日はコンサートだ。
今日中に見つけてもらえなかったら、
二人も主要なメンバーが穴をあけることになってしまう。
こんな状況で真っ先に仕事のことを心配してしまうなんて。
亜弥ちゃんの影響かな。
- 318 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:41
- このまま何日も閉じ込められていたらどうなってしまうか。
そんなことはさほど気にならない。
まさか死ぬなんてことはないだろうし。
それどころか。
このままずっと二人っきりでいられたら。
閉ざされたこの部屋で、お互いだけを見つめていけたら。
心の奥底でそう願ってしまっている自分がいることに気づく。
隣にいる親友がこんなこと考えてるなんて知ったら、どう思うだろ。
美貴、もう病気みたいだよ。
亜弥ちゃんと一緒なら、不思議と不安はなかった。
- 319 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:43
-
窓から入り込む日差しがだんだん弱くなっていくにつれ、
真夏にそぐわないひんやりとした空気が入り込んできた。
今年の夏は冷夏になるんだろうか。
体を寄せてきた亜弥ちゃんを背中から抱きしめ直す。
怖いのとか暗いの、嫌いだったね。
美貴の腕の中で、亜弥ちゃんはふ、と溜め息をもらした。
「みきたんて、あったかいよね」
「そかな」
『あつい』の間違いじゃないの?
今8月だよ。真夏だよ。
そう言うと、ちっがうの、という返事が返ってきた。
「ほら、あたしの衣装って薄着なこと多いでしょ?」
「美貴もだよ」
「でもあたしの方がおヘソ出してる時多いでしょ?」
「そりゃそうだけど」
ヘソ出しが露出の基準なのか。
- 320 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:44
- 「結構寒いときあるのよ、あれ。
楽屋なんかじゃクーラーガンガンだし。
そんなときにみきたん見つけちゃうとさあ、
もうとんでいってくっつかないと気が済まないわけよ」
「アハ。美貴カイロ代わり?」
「そ。たんって冷え性って言ってる割には体温高めでしょ」
体温が高いように感じるのは、亜弥ちゃんが近くにいる時だけ。
それも数ヶ月前からだけど。
冷え性解消へのご協力、感謝してます。
「眠くなった時とか手、ぬくくなってるし。赤ちゃんみたい。ほら、今も」
美貴の手をとって自分の頬に当てる。
今はそんなに眠たくなんてないのに。
「それにね、みきたんにくっついてると安心するの」
- 321 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:45
- 首筋に吐息を感じた。
亜弥ちゃんの頭が埋められた。
預けられる心地良い重み。
背中のあたりを、何かがゾクゾクと駆け上がる。
体中の毛が逆立つような感覚。
乱れかける呼吸。
腰に、白い腕が回される。
閉鎖的で特殊なこの状況に、自分が自分でいられる自信がなかった。
気づかれたくなくて、感づかれたくなくて、話しかけた。
頭の中でいろんな言葉が飛び交って、どれを発したのかよくわからない。
自分の意識を散らすことができるんなら、内容なんてどうでもよかった。
「不安でしょ。さすがに今は」
「?」
「こんなとこ閉じ込められちゃって」
「すっごい不安。」
予想通りの答えが返ってくる。
そりゃ不安だろうね。暗いし、狭いし、埃っぽいし。
それが普通の反応だ。
美貴がおかしいんだ。
- 322 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:45
- 「ってなってるところだけど、今は全然平気」
え?
「だって、みきたんと一緒だもん」
嬉しかった。
今はまだ言葉にできないありったけの想いを込めて、亜弥ちゃんの頬を撫でる。
好きだ。ほんとに、大好きだよ。
窓から差し込む、若い月の柔らかい光を受けて、亜弥ちゃんの瞳が濡れて見えた。
やめて。そんな目で見るのは。
理性、飛ぶから。
亜弥ちゃんの気持ちが、少しずつ、確実に自分に向かってきているような気がした。
- 323 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:46
- 亜弥ちゃんの髪に鼻をうずめ、思い切り息を吸い込む。
とても、良い匂い。
落ち着くと同時に、ドキドキする。
耳朶を甘噛みする。
ピクッと身を縮めた亜弥ちゃんに苦笑して、今度は美貴が甘える。
胸元に顔を寄せて、軽く唇をつけた。
亜弥ちゃんを見上げると、慈しむような、労わるような、そんな表情をしていた。
「みきたんの恋人になる人は幸せだね」
「ふふっ。急に何言ってんの?」
「だって、トモダチでもすごく優しいんだもん」
『トモダチ』
その言葉が胸に突き刺さる。
鈍く痛み出した傷を、今は無視する。
- 324 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:47
- 「恋人だったら、これ以上ないってくらい大事にしてくれそう」
「大事に、してるよ」
「…え?」
美貴の髪を撫でる手が止まった。
…しくった。余計なことを言ってしまった。
亜弥ちゃんのこと考えてたら、つい。
急に体を引き剥がされた。
亜弥ちゃんの顔が強張っている。
「みきたん、恋人いるの?」
「い、いないいない!」
「でも、さっきの言い方だと」
「間違いだって!ほんとにいないから。
信じてよ。いたら真っ先に亜弥ちゃんに言ってるって」
大きく手を振って潔白を主張する。
- 325 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:48
- それでも納得のいかない様子の亜弥ちゃんは。
「じゃあ、好きな人でもいるの?」
「……。」
「どうして黙っちゃうの」
答えられなかった。
目を逸らしてしまった。
亜弥ちゃんだよ。今目の前にいる、あんただよ。
こういう時、うまく嘘がつけない。
バカ正直なのか、惚れた弱みか。
亜弥ちゃんの前では嘘をついたことがなかった。
「ねえ!答えてよ。いるの?」
亜弥ちゃんが、鼻先まで距離を詰めてきていた。
外していた視線を亜弥ちゃんに戻して、ハッとした。
綺麗な両の目に湛えられているのは、涙。
- 326 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:49
- 弾けるように一滴落ちたのを始まりに、透明な線が何本も亜弥ちゃんの頬に跡を引いた。
「…亜弥ちゃん?」
カチャ。
再び静まった部屋に、小さな金属音が響く。
扉のところまで歩いていってノブに手をやると、何の抵抗もなしに回った。
俯いて動かなくなった亜弥ちゃんを立ち上がらせ、半ば強引に部屋から押し出す。
亜弥ちゃんの肩越しに、廊下の角を曲がっていく人物の、長い髪がなびいているのが見えた。
- 327 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:50
- 川;VvV从<更新しました
真冬に真夏の話書いてるなんて変な感じです。
川 V)<自分がダラダラ書いてるからでしょーが
_| ̄|○
- 328 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:51
- 年末の忙しい時期に読んでくださる方なんているんだろうか…
- 329 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:52
- >284 あやみき信者様
御感想ありがとうございました。
HNに深く惹かれてしまいます(w
実は本編、軽くスランプだったりするのです。
久々に書こうと思ったら、なぜか本編書けずに短編ができてしまったという…
時間のあるうちにできるだけ書き上げてしまいたいです。
- 330 名前:山人 投稿日:2003/12/29(月) 12:55
- ああ、もう…
また間違えてしまいました。
>329
× 284
○ 314 です。
ダメダメだ_| ̄|○
- 331 名前:つみ 投稿日:2003/12/29(月) 14:52
- なんでふたりは・・・
松浦さんが切ないですね〜。
少し謎があるけど次回もまってますんで!
- 332 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/29(月) 15:17
- 短編も良ければ本編も最高だ!!
…でも焦らしちゃいやん_| ̄|○
- 333 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:40
-
2日間に渡って行われたコンサートは、普段通りつつがなく終えられた。
美貴と亜弥ちゃんがあの部屋に閉じ込められたことは、
たった一人を除いて誰も知らない。
- 334 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:41
-
選ばれた人間しか上がることのできない、巨大なステージ。
色とりどりの照明によって作り出される光と影のコントラスト。
薄暗い舞台脇から、壁に寄りかかってひっそりと亜弥ちゃんを眺めていた。
眩いばかりの光を全身に受けて、一際輝いてみえる。
小さな体から放出されるエネルギー。
澄んだ歌声に、圧倒的な存在感。
きれいな容姿に愛らしい仕草。
そこには隙が見られない。
かつて、アイドルサイボーグと呼ばれた所以はここにある。
だけど、美貴は知ってる。
ひどく人間的なところのある彼女。
- 335 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:41
- 一昨日見た亜弥ちゃんが、残像となって美貴の頭の中に残っている。
声をあげることなく静かに涙した亜弥ちゃん。
大歓声の中、ステージを所狭しと駆け回っている彼女と重ね合わせようとするが、
丸に四角を当てはめるかのようにうまくいかなかった。
どうして急に泣き出したのか分からなくはない。
昨日散々考えたんだ。
美貴に好きな人がいると知って、置き去りにされたような気分になったか。
それとも…?
- 336 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:42
- 亜弥ちゃんがこっちを見た。
まるで、美貴がここにいるのに最初から気づいていたかのよう。
歌う合間に何回も視線を送ってくる。
その熱っぽさにたじろいでしまう。
ちゃんと歌に集中しなさいよ。
動揺する気持ちを表に出さず、かわりに眉を顰めてお怒りの表情をつくる。
なんてことはない、ただのフリだ。
すると、亜弥ちゃんは艶っぽく微笑んだ。
ずるい、ずるいよ。
ここからじゃ何も言えないの知ってて。
瞬時に熱をもった顔を悟られまいとステージに背を向ける。
美貴が亜弥ちゃんを意識するきっかけになった、あの時の目だ。
もう一度振り返ると、亜弥ちゃんはいつも通りの笑顔に戻っていた。
- 337 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:42
-
「わっ」
コンサート終了後、荷物を鞄に詰め終えて一息つくと、横から腕を取られた。
知らないうちに、隣に亜弥ちゃんが立っている。
気づかないなんて、どうかしてるよ。
「なになに?どしたの?」
「今日みきたんの家泊めて!」
疑問形じゃなくて命令形なところが笑える。
よかった。いつもの亜弥ちゃんだ。
「珍しいね、亜弥ちゃんが美貴んち来るの」
「ダメ?」
「なわけないでしょ。…あ、でも」
でも、今日は確かめなきゃいけないことがある。
コンサート中は慌しくて確かめたくても確かめられなかったこと。
- 338 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:43
- 「でも?」
「亜弥ちゃん、先帰ってて。
美貴ちょっと用事あるんだ。終わったらすぐ帰るから」
「ええ〜…」
家の鍵を、不満気な亜弥ちゃんに握らせた。
「用事終わるの待ってる」
「ひょっとしたら長くなるかもしれないからさ。
あんまり待たせるのも悪いし、美貴んちで待っててよ」
渋々、という感じで亜弥ちゃんは首を縦に振った。
「よぉーしよしよし。えらいぞ〜」
両手を使って無造作に頭をかき回す。
「もうっ!人を犬みたいに」
「んー?一人で帰れるかなぁ?」
「みきたんっ!!」
- 339 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:43
-
その直後に起こったことは、強烈すぎてあまりよく覚えてない。
急に首に腕が掛かって引き寄せられたかと思うと、唇が触れ合った。
強い力で固定されたそのキスは、深く、長く、続いたように思う。
うまく呼吸することもままならない時が過ぎ去った後、
耳元に吹き込まれた微かな言葉は。
『子供扱いしないで』
- 340 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:44
-
「それじゃみきたん、また後でねっ」
美貴の心をかき乱すだけかき乱して、
体を離した亜弥ちゃんはさっさと楽屋から出て行ってしまった。
たっぷり30秒おいて、周りからひゅーう、と囃し立てる声が上がる。
「こんなところでおアツイね〜」
「いきなりビックリするべさ」
矢口さんに安倍さん。
一番ビックリしたの、美貴だと思う。
亜弥ちゃんからキスしてくるの、いつぶりだ?
しかもあんな大胆な。
最近美貴からしてばっかりだったから…
喉がからからになって声が出ない。
- 341 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:44
- そんな美貴を尻目に、次々と楽屋から人が減っていく。
しまった!呆けてる場合じゃなかった。
高い背を縮めて、そそくさと帰ろうとしている後姿に声をかける。
「いーださん♪」
美貴の声に反応して、しゃんと背筋が伸びた。
「少しお話があるんですけどいいですかぁ?」
イエス以外の答えは受け取らないぞばりの笑顔を貼り付けた。
このまま帰らせたりなんかするもんか。
美貴に対して疚しいところがあるはずの飯田さんは、
やっぱり、という感じで項垂れ、頷いた。
- 342 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:45
- 从‘ 。‘从<更新終了!
今年最後の更新です。
この話も来月中には終わらせます。
さぁーて、気合い入れていくべ。
- 343 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:45
- レスのお返事です。
>331 つみ様
ダラダラ更新なのに、待ってくださってありがとうございます。
甘々のあやみきだけを書いていくつもりが、いつの間にかこんな展開に。
ごめんよ、松浦さん。
できるだけ更新速度を上げていきたいと思っていますので、
よろしくお願いします。
>332 名無し読者様
ありがとうございます。
本当に励みになります。
今回の更新が今年中に間に合ったのも読者様のおかげです。
作者も知らないうちに焦らし癖がついてしまったようで。
直していくよう努力します(w
- 344 名前:山人 投稿日:2003/12/31(水) 13:46
- それでは皆様、よいお年を。
- 345 名前:つみ 投稿日:2003/12/31(水) 16:52
- ほう・・・
いーださんが・・・
これは次回が楽しみだ。来年もよろしくです!
- 346 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/04(日) 12:53
- 一体どういう事なんでしょう?
続きをドキドキしながら待ってます。
- 347 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/19(月) 15:45
- 保全
- 348 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/25(日) 20:31
- そろそろ更新お願いします(ノД`)
- 349 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/01/30(金) 03:26
- 更新は頼むものじゃない
待つものだ。
- 350 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/15(日) 23:50
- 早く続きが読みたい。
- 351 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/17(火) 13:20
- 続き楽しみにしてますよー。
- 352 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/22(日) 22:22
- 山人さんカムバーック!
- 353 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/29(日) 21:49
- 今日初めて読みました〜
続き楽しみにしてま〜す☆
- 354 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/07(日) 17:03
- どうした山人?放棄したのか?
- 355 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/09(火) 03:48
- >349
すばらしい格言です。
山人さん、更新お待ちしています。
- 356 名前:349 投稿日:2004/03/10(水) 15:06
- >>355
メル欄が本心です…
- 357 名前:名無しマスク 投稿日:2004/03/23(火) 11:57
- あの〜、もし来月になっても作者さんが来てくれないようなら、どなたか書いてくれませんかねぇ。。。
最近はみきあやが増えてきてみきあやファンにとってすごく嬉しいんですが、放置は気に入っていた小説だけあって
読者側としては結構キツイです。
ほんとはちゃんと作者さんに書いてもらうのが一番良いんでしょうけど、どういう状況だから更新出来ないのか
というのもわからないですし、どなたか書けるかもという人いませんか?
- 358 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 12:36
- >>357
まだ半年も経ってないだろうに。
そんな小説はたくさんあるよ。
プロじゃないんだから、それなりに忙しいでしょうし。
ちょっと気が速過ぎるよ。
俺は待ってる。
- 359 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 14:04
- 4月15日になっても山人が来なかったらその時は皆で考えよう
- 360 名前:山人 投稿日:2004/03/24(水) 23:42
-
楽屋から少し離れた自販機の脇。
飯田さんと隣り合って座ったベンチの周りには、時間が遅いこともあって、人ひとり見当たらない。
紙コップを握りしめ、ポヤンと一点を見つめたまま、
何か考え事でもしているのかいないのか、よくわからない飯田さん。
この前同じような状態の時にうっかり話しかけたら、
怨めしい目つきで見られたんだよね、たしか。
正直、話しかけにくい。
少し前に買った紙コップ入りのジュースは、氷が溶けきってしまった。
濃さも冷たさも中途半端なものへと変わりきったそれを、なんとなく口に運ぶ。
「あたしね、二人には幸せになって欲しいって思うの」
「…ぶっ!!!」
開口一番、飯田さんの口から飛び出したのはそんな突拍子もない言葉だった。
黙りきっていた飯田さんの突然の言葉に思わず噴き出してしまいそうになる。
いきなりなに言い出すんだ、この人は。
「二人って…誰のこと言ってんですか?」
気管にジュースが入って苦しむ美貴の背中を、飯田さんはするりと撫でた。
「隠さなくてもいいの。あたしにはわかる。松浦のこと、好きなんでしょ?」
- 361 名前:山人 投稿日:2004/03/24(水) 23:43
- 亜弥ちゃんの名前まで告げられて、固まってしまった美貴を見て、飯田さんはふんわり笑った。
客観的に見れば天使と見紛うほどにキレイなその笑顔の裏側に、美貴は悪魔の笑みを見た。
美貴と亜弥ちゃんが一緒にいようものなら、
必ずといっていいほどその近くにいた飯田さん。
あれだけべったりくっつかれてたら、感づかれてても仕方ないか。
「知ってたんなら、邪魔しないでくださいよ…」
友情の裏に隠しおおせていると思っていた亜弥ちゃんへの想いが
あっさりバレていると知り、ぐったり脱力。
「美貴がオロオロしたり不機嫌な顔になったりするのおもしろくってさ」
なんなんですか。それ。
美貴が握った紙コップが潰れそうになっているのを見て、飯田さんは慌てて付け加える。
「でもね、いつも邪魔してばかりじゃ悪いから、今回は気を利かせたつもりだったんだよ」
はあ?何のこと言ってるのかさっぱりだよ。
少しだけ考えて、美貴が飯田さんに問いつめようとしたことと関係しているんだと気付く。
美貴に無理矢理引き止められていてもどこか楽しそうだった飯田さんは、
さっきの表情とは一転して、眉尻を下げた。
- 362 名前:山人 投稿日:2004/03/24(水) 23:43
- 「あの日、スタッフさんが楽屋閉めるっていうから他のメンバーは早く帰ったんだけど、
気がついたら美貴のカバンだけが置かれたままだったのね。
鍵閉められちゃったらかわいそうだから、スタッフさんから鍵預かって
待っててあげることにしたの」
そうだったのか。
その頃美貴は、亜弥ちゃんと二人っきりになるのに必死だったはず。
周りのことなんて全然考えてなかった。
「…すみません」
「いいの。リーダーだし」
その一言で済ませてしまう飯田さんは、少なくとも美貴よりは大人だ。
「でね、着替えに行ったにしては遅すぎるから探しに行ったら、
ある部屋の前から美貴の声がしたの」
「それって…」
「そう。機材室」
飯田さんはニンマリ微笑んだ。
- 363 名前:山人 投稿日:2004/03/24(水) 23:44
- 機材室って…。
亜弥ちゃんとキスしてた場所じゃん!
まさか…その時の声とか、全部…聞かれてた?
「もちろん松浦の声もしたよ」
「うぁぁ…」
テンパる美貴に飯田さんは追い討ちをかける。
「その時の声ったらさぁ」
「言わないでください!」
かみつくように言うと、飯田さんはしぶしぶ口を閉じる。
自分でもどんな声出してたかなんて覚えてないのに、
他人様に詳しく解説なんてされちゃったら恥ずかしくて生きていけないよ。
や、でも亜弥ちゃんの声ならどんな風に聞こえてたのか聞いてみたい気も…
ってダメだダメだ!
ブンブン首を振る美貴を、飯田さんは不思議そうに眺めながら話を続ける。
- 364 名前:山人 投稿日:2004/03/24(水) 23:45
- 「とにかく、いつ誰が入って来ちゃうかわかんない状態なわけでしょ。
せっかくいい雰囲気の二人に邪魔なんか入らないように…」
「鍵、閉めちゃったんですね」
「そうそう。預かってた鍵の束の中に機材室のもあったから、それ使っちゃった」
…使っちゃった、って。
大人なんだか子供なんだかよくわからない人だ。
あの後美貴たちがどれだけ大変な思いをしたかも知らないで。
大事な鍵をあっさりと渡してしまうスタッフもスタッフだ。
もしなくしちゃったりしたらどうするつもりなんだろう。
まあ、そんなこと、美貴の知ったこっちゃないか。
「だからって閉じ込めっぱなしはないですよね」
「それは本当に悪いと思ってる。ホント、ごめん」
- 365 名前:山人 投稿日:2004/03/24(水) 23:45
- 飯田さんが言うには、こういうことだった。
美貴と亜弥ちゃんの居場所を確認して満足した飯田さんは、
ずっと聞き耳を立てているのも悪いと思ったらしく(当たり前だ)、
鍵を閉めるとすぐに楽屋に戻り(本当にすぐかどうかは怪しい)、
ちょっとだけ時間を置いてから開けに行くつもりだったのだそうだ。
が、ぼんやりしているうちに恐ろしく時間が経ってしまっていることに気付き
(美貴が思うに交信してたんじゃないかと)、こっそり鍵を開けにきたらしい。
運悪く、走って逃げ去ろうとしても、
すぐに気付いた美貴に後ろ姿を見られてしまったわけなんだけど。
美貴と亜弥ちゃんがやっとの思いで戻ってきた楽屋には、誰かの荷物が置きっぱなしだった。
見覚えのあるそれを見て、あの後ろ姿はやっぱり飯田さんだったんだと確信したんだ。
鍵を預かってしまったからには、最後に楽屋を閉めなければならない。
律儀な飯田さんはきっと、美貴と亜弥ちゃんが帰った頃を見計らって楽屋に戻ってきたんだろう。
…荷物置きっぱなしなんて、ツメが甘いね。
- 366 名前:山人 投稿日:2004/03/24(水) 23:46
- ありえない、ありえないよ。
いくら気を利かせたからって、閉じ込めるなんて。
鍵開けに来んの、忘れちゃうなんて。
けれど、高い背を縮めてコソコソ廊下を移動する飯田さんを想像したら、なんだか憎めなくて。
話し終えた後も謝り通しの飯田さんを見てると、怒る気にもならない。
この人がメンバーのことを一番気にかけているのは
娘。に入る前、美貴がソロとして活動してる頃からよくわかってた。
やることぶっ飛んでるけど、ここまでズレてるとは思わなかったけど。
結果はどうあれ、本当に気を使ってくれたんだということはわかる。
「もういいですよ。全然怒ってないです」
飯田さんはようやく頭を上げて、美貴の顔色を窺った。
「ほんと?」
「ホントです」
- 367 名前:山人 投稿日:2004/03/24(水) 23:46
- ホントだから。
すんなり許したからって美貴のオデコに手を当てるのはやめてください。
熱なんてないです。
それに、そうされるとちょっとだけムカつきます。
グループに入ってまだ一年にも満たない新人が
リーダーにここまで頭を下げられるってどうなんだろう。
どれだけ怖がられてるんだって話だよね。あぁ、なんだか悲しくなってきた。
「これからは閉じ込めるのだけは勘弁して下さいよ」
デコの手をやんわり払ってから言うと、飯田さんはやっと安心したように息をついた。
「美貴、そろそろ帰ります。家に亜弥ちゃん待たせてるんで」
「そう。あたしも、もう少ししたら帰るよ」
さすがに、今日の飯田さんは深く追究してこようとはしなかった。
帰りがてら、空になった飯田さんの紙コップを取り、自分のも重ねて捨てに行く。
ちらっと後ろを向いて手を振ると、飯田さんはいつもの笑顔で美貴を見送ってくれた。
再び背を向けた美貴に投げかけられた、その日最後の飯田さんの言葉。
「今までのお詫びに、なんでも協力するね」
うえぇ…
「遠慮します」
- 368 名前:山人 投稿日:2004/03/24(水) 23:47
- 更新しました。
ちなみに、機材室の扉は外側からしか鍵の開け閉めができません。
- 369 名前:山人 投稿日:2004/03/25(木) 00:06
- >>345-359
読者の方に放置かと思わせてしまうほどに更新を怠ったこと、
それに対して今まで何のお詫びもできなかったこと、本当に申し訳ありませんでした。
理由はいくつかあるのですが、ここで並べ立てても言い訳にしかならないと思うのでふせておきます。
ただ、待っていてくれる読者の方がいてくださることはすごく嬉しかったです。
重ね重ね言うようですが、本当にすみませんでした。
当分はひっそりとsage更新でやっていこうと思います。
- 370 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/25(木) 06:44
- 更新お疲れ様です。
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/28(日) 23:28
- ありがとう。待ってたかいがあった。
- 372 名前:名無しマスク 投稿日:2004/03/29(月) 12:32
- 更新ありがとうございます。
作者さんが戻ってきてくれて嬉しいです。
私も少し早まりすぎたようで不快にさせてしまってたらすみませんm(_ _)m
上でも書いてますが、この小説好きなのでこれからも頑張ってください。
作者さんとここのみきあやに期待してます。
- 373 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/29(月) 14:59
- 更新キタ━━━━从‘ 。‘)人(VvV从━━━━ !!!!
作者様、帰ってきてくれてありがとうございます。
あまり無理なさらずに、作者様のペースで頑張ってください。
待ち続けますよ。次回更新も楽しみにしています。
- 374 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:41
-
「ただいまぁ」
『おかえりー』
みきたぁん。
廊下の奥から亜弥ちゃんの声が聞こえて。
可愛らしい顔が覗いたと思ったら、パタパタ小走りでやってきて、そのまま美貴にキュッと抱きつく。
『おそいよぉ』
『ごめんごめん。寂しかった?』
『当たり前じゃない』
ちょい拗ね顔で見つめられ、緩んだ美貴の口元にはチュッとキスが落とされる。
―――ああ…!カワイイ!!
- 375 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:42
- なーんて。
美貴の甘ーい妄想は、一歩玄関に踏み込んだ瞬間、跡形なく消え去った。
シ―――――ン
おかしい。何か、妙に家の中が静まりきってるような…
亜弥ちゃんが来てる時は、いつも何かしら物音がしてるのに。
「亜弥ちゃーん。美貴だよぉ」
声を張り上げても返事がない。というか人の気配すらない。
もしかして、亜弥ちゃんが泊まりにくるっていってたの、今日じゃなかったのかな。
そう思い当たった途端、何だか無性に悲しくなってしまった。
「いないの?」
靴を脱いで上がって、声をかけながら順々に部屋を覗き、一番最後に奥の部屋を見渡す。
「はあぁぁ…」
誰もいないことに落ちこみ、荷物を放り出して大きくため息をつくと、足元から突然声が聞こえた。
- 376 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:43
- 「おそいよ」
「ぅあ!!!」
ドアのすぐ脇の壁際に、亜弥ちゃんがちっちゃく丸まって座っている。
そんな端っこにいるとも思わなかったから、死角になって全然気が付かなかった。
亜弥ちゃんの口からはさっきの美貴の妄想と同じ言葉が出てきたけど、
声のトーンは全くと言っていいほど正反対。
そこには甘さの欠片もない。
「そこまで驚くことないじゃない」
「そんなとこ座ってたら誰だってビックリするって」
「いたら悪い?」
「そういうことじゃなくてさ」
今日はやけにご機嫌斜めだね。珍しい。
そういう顔は美貴がした方が似合うんだろうな。
自分で自覚しちゃってるところがなんとも悲しいけど。
笑顔のイメージが強い亜弥ちゃんの、久々に見る不機嫌な顔は新鮮だ。
それどころか。
そんな顔にまで胸くすぐられるなんて、末期症状もいいとこだ。
- 377 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:43
- 「なんか怒ってる?遅くなったこと怒ってるんなら謝るから」
「別に。怒ってなんかないもん」
『もん』のあたりが拗ねた感じを窺わせる。
困ったなあ、どうしよう。
せっかく来てくれたんだから、やっぱり笑った顔が見たい。
いつもと違った慣れない状況をどうしていいかわからなくて。
目をキョロキョロさせると、ふと亜弥ちゃんが何か抱えていることに気付く。
三角座りした腕と足の隙間から覗く、大きさはわからないけれど黒い布。
気になるので端っこを掴んで引っ張ってみた。
「ね、なにそれ?」
「なんでもない!」
引きずり出そうとするのを拒むように、亜弥ちゃんはさらに身を縮める。
そのまま体を横に倒したかと思うと、
丸くなったままボールみたいにコロコロと転がって美貴から遠ざかる。
器用だねえ、なんて感心して眺めていたら、亜弥ちゃんは壁に突き当たって動かなくなった。
- 378 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:44
- そうまでして見られたくないのか。
可愛い抵抗に、顔がニヤける。
亜弥ちゃんにしたら必死なんだろうけど。
「見せてくんないなら、こうしちゃうよ」
亜弥ちゃんに近づいていって、弱い部分をできるだけ思い出しながらくすぐった。
「ちょっ…。きゃはははははは!!」
力が緩むタイミングを見計らって、亜弥ちゃんの腕から目的のモノを勢い良く引き抜く。
「ああっ」
「いひひ」
してやったり。
勝ち誇った美貴が笑いかけると、亜弥ちゃんは観念したように大の字になって寝転んだ。
- 379 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:44
- 弾む息に合わせて上下する胸。
気だるげに横たえられたカラダ。
閉じられた目の端には、溢れた涙が僅かに光る。
艶っぽい亜弥ちゃんを直視してたら、考えが変な方向にいってしまいそう。
またか。これ以上見てたらヤバイ。考えちゃ駄目だ。
美貴の中の危険信号が、赤を灯した。
顔をしかめてそっぽを向いた美貴に気付いて、亜弥ちゃんが体を起こす。
「どしたの?みきたん」
「…なんでもない」
不埒な気分を追い払おうと、手の中の物に視線を移した。
「あれ?これって」
「……」
美貴が掴んでいたのは、女の子が着るには少し大きすぎる真っ黒なフード付きパーカ。
少し前から美貴の部屋に置いてあった物。
そんなもの、どうして亜弥ちゃんが抱え持ってたのか、不思議に思わずにはいられない。
すぐに聞こうとしたけれど、それは不可能なこととなってしまった。
なぜなら、亜弥ちゃんが美貴のとっても近くまで距離を詰めてきていたから。
- 380 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:45
- 「みきたんこんなの持ってたっけ?サイズ合わないよね?なんでここにあるの?」
亜弥ちゃん、身乗り出しすぎ。
圧しかかる亜弥ちゃんの重み。
知らないうちに、美貴が押し倒されるような体勢になってる。
こうも次々と質問されたんじゃあ、何から答えていいかわからないよ。
しまいには、みきたんのバカァ、なんてことまで言い出す始末。
そりゃ美貴は決して賢い方じゃないけど、そんなの前からわかってたことじゃんか。
今さら改めて馬鹿なんて言われても…
「ちょっと待ってよ。落ち着いてってば」
混乱してわたわた身を起こそうとする美貴を押さえつけ、亜弥ちゃんは最後にポツリと呟いた。
「…誰のよ?」
二人の間に沈黙が流れる。
覗き込むと、亜弥ちゃんは困ったような泣きそうな、なんともいえない表情をしていた。
「これ、兄ちゃんのだよ?」
「ふぇ?」
「この前遊びに来た時に忘れてったの。亜弥ちゃんも見たことあるでしょ?うちの兄ちゃん」
「う、うん。…じゃあこれは?」
- 381 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:46
- 目の前に突き出されたのは、フォトスタンドに入った一枚の写真。
前に実家に里帰りした時に撮られたもので、兄ちゃんが持ってきたんだ。
そこら辺に放り出しておいたのを亜弥ちゃんが見つけたらしい。
この写真がどうしたっていうんだろう。
まさか、写りに文句があるとか?
それとも、美貴が亜弥ちゃん以外の人と写真に写ってるの、気に障ったのかな。
美貴としてはこの方がうれしいんだけど。
「これ、誰?」
亜弥ちゃんが指差す部分を見ると、大勢の男女がそれぞれポーズを取っている中に、
無表情な美貴と、それに寄り添うようにして立つ男の子が写っていた。
「ああ、これねぇ、兄ちゃんの友達。つまんなそーな顔してんでしょ、美貴」
何度見てもおもしろくない写真だ。
撮った時のことを思い出す。
この隣の男の子、美貴のファンだとか言って
プライベートなことまでいろいろ聞かれてかなりムカついたんだ、たしか。
兄ちゃんの友達だから邪険にするわけにもいかないし。
『良く撮れてるだろ』とか言って、わざわざ焼き増して持ってきてくれた兄ちゃん。
どこがだよ、とか思ったけど、久々に会って喧嘩するのもなんなので黙っておいた。
これが原因で亜弥ちゃんの機嫌が悪くなったっていうんなら、恨むよ、兄ちゃん。
- 382 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:47
- けれど。目を戻すと、さっきまで不機嫌だった亜弥ちゃんはもうどこにもいなかった。
「そうなんだ」
そう言って、安心したように亜弥ちゃんは微笑む。
「みきたん。もいっこだけ聞いていい?」
「うん?」
互いの息がかかりそうなくらい近い位置で話すのが、照れくさくて、うれしい。
「用事ってなんだったの?」
「えーと、飯田さんとちょっと話あって」
「いいださん?」
「そ」
さすがにちょっと、内容までは言えない。
飯田さんが二人を締め出すことになったわけ、美貴の気持ちまで説明しなきゃならなくなる。
この気持ちは、亜弥ちゃんに伝えるにはまだ早すぎると思うから。
これ以上聞かれたくない雰囲気をなんとなく感じ取ったのか、
亜弥ちゃんはそれ以上何も聞いてこない。
代わりに、支えとなっていた二本の腕を曲げて、
下に組み敷かれた状態になっている美貴に体を重ねた。
- 383 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:48
- 「ふぅ…」
気が抜けたように漏らされた吐息が、美貴の耳元をくすぐる。
―――熱い。
触れ合う亜弥ちゃんの頬は、不自然なほどに熱をもっていた。
その熱が美貴のものと同じように感じられて。
都合良く解釈してしまおうとする自分に歯止めをかけようとするけれど、
案の定、膨らみ続ける期待は止まってはくれなかった。
一度顔を離して確かめるように頬に触ると、亜弥ちゃんは気持ち良さそうに目を細めた。
何もかも吸い込んでしまいそうな、甘く濡れた瞳。猫みたいだ。
「今日の亜弥ちゃん、なんか変」
正確に言えば、二人っきりで締め出しにあったあの日から。
反論するかと思いきや、亜弥ちゃんは困ったように笑って頷いた。
「うん。自分でもそう思う。なんかね、一人でいると不安なの。
いろいろ余計なこと考えちゃって、どうしていいかわからなくなるの。
だから、前よりもっと、みきたんといたい」
―――この子、自分が何言ってるかわかってるんだろうか?
- 384 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:48
- この瞬間、美貴はようやく理解した。
亜弥ちゃんが急に家に泊まると言ってきた理由。
男物のパーカや、美貴が他の人と写ってる写真に異常に反応した理由。
よく見ると、棚にしまわれてたアルバムなんかもほとんどが引き出され、積み上げられている。
あの日、美貴に恋人がいるかもしれないと知って、涙を流した亜弥ちゃん。
それって、それって、…そういうこと?
美貴、自惚れてもいいの?
大声で叫びだしたいくらいのこの気持ち、伝えてもいい?
美貴の気持ちに気付いてか知らずか、亜弥ちゃんはますます抱きつく力を強めた。
こちらはといえば、背中に手をやり、撫でるのがやっとのこと。
二人の間に言葉はなかった。
体中がシアワセで満たされて、他には何もいらないと思った。
- 385 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:49
- 「あ…やちゃん…」
舞い上がってしまったのと、緊張しているのとで、声が掠れてうまく出ない。
「亜弥ちゃん」
二回目はうまく出た。
けれど、伝えたいことがあり過ぎて、何から話したらいいのかわからない。
ホントは大事な一言だけでいいっていうのはわかってるんだけど、
それだけではとてもじゃないけどおさまらない。
言いたいことを全部伝えられそうにない口下手な自分がもどかしい。
「あのさ」
ポンポンと華奢な背中を叩く。返事はない。
あれ。ちょっと、うそでしょ?
お約束。亜弥ちゃんは気持ち良さそうに美貴の上で寝入ってしまっていた。
おやすみも言わないで眠ってしまうなんて、めったにないことだ。
美貴のこと、たくさん考えてくれて疲れたのかな。
「ははっ」
全身の力が抜ける。緊張でガチガチだった自分がおかしくって、一人で笑った。
次こそはちゃんと、『好きだ』っていうよ?
だから今度は寝ないで起きてて。
しっかりと、美貴の言うことを聞いて。
体を揺らすと、無意識にしがみついてくる亜弥ちゃんが愛しい。
その夜は。
しばらくの間、亜弥ちゃんの柔らかい体を抱きしめて、心からの幸福感に酔いしれていた。
- 386 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:50
- 本日はここまでです。
- 387 名前:山人 投稿日:2004/04/03(土) 06:54
- >>370 名無し飼育さん
ありがとうございます。頑張ります。
>>371 名無し飼育さん
こちらこそ。
待っていて下さって、本当にありがとう。
>>372 名無しマスク様
話を好きといってもらえて、本当にうれしいです。
再び筆をとる気になったのも、実はその言葉があったからでした。
期待して頂いたからにはできるだけ応えていきたいです。できるだけ…(w
>>373 名無し読者様
心強いお言葉ありがとうございます。
更新速度が少し遅いですが、マイペースにやっていきたいと思います。
- 388 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/03(土) 08:49
- ああ、もう!!
本当にうまいこと焦らしますねw
ますます次への期待が膨らみます。
またーり頑張って待ちますが、どうか、お早めの更新お願いします。
- 389 名前:名無し飼育 投稿日:2004/04/03(土) 11:24
- 繋がってるのに未だ一方通行だなんて…。
モッさん、次こそは頼みますよ!!
それにしてもこの小説の松浦さんは本当に可愛いです。ありえれいなです。
こんな可愛い子に愛されている藤本さんが羨ましいw
更新は頼むものじゃなく待つものだと頭では分かっているんですが…
嗚呼、早く続きが読みたい。山人さんお願いします。
- 390 名前:名無しマスク 投稿日:2004/04/03(土) 13:22
- やきもちを焼く松浦さん可愛いですねぇ・・。
なんか仕草が目に浮かんできます。
そしてその仕草に反応する藤本さんも負けず劣らず可愛いです。
二人が結ばれる日が来るのはもうすぐ?なんでしょうかねぇ。
次回も期待しているのでできるだけ頑張ってくださいw
これからも応援し続けます。
- 391 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/04(日) 22:53
- やっぱり山人さんの書くあやみきは最高です!また見れて本当に良かった・・・。
次回更新も首を長くしてお待ちしてます。
- 392 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:22
-
「…それで?その後どうしたの?」
「いや、どうもしませんでしたけど」
こそこそ交わされる密やかな会話。
収録の合間、美貴はスタジオの端で飯田さんに首根っこを掴まれ、
最近の状況報告をさせられていた。
亜弥ちゃんを家に泊めて以来、デレデレした顔で毎日を過ごす美貴。
亜弥ちゃんとの電話やメールは、今まで以上に、確実にその頻度を増やしている。
残念なことにコンサートや遠方での収録なんかがお互い続いて、
あれから一週間、たったの一度も会えてない。
素直な亜弥ちゃんは、『会いたい』『寂しい』なんて言葉を恥ずかしげもなく
使ってくるもんだから、美貴の顔がにやけきってしまうのもどうにもならないわけで。
情けないことに、自分でもうまく表情をコントロールできずにいた。
今でこんなだったら、亜弥ちゃんと
気持ちを通い合わせることができた時にはどうなっちゃうんだろう?
怖いからあまり考えたくない。
とりあえず仕事中だけでも気・表情ともに引き締められるよう、努力だけはしてみた。
けれど、撮影中にも不気味な笑みが漏れてしまうのを見かねて、とうとう飯田さんが声をかけた。
とはいっても言い咎める気なんて全くないらしく。
メンバーの手前、表向きは説教を装っていた飯田さんは、
周りに声が届かない所まで来ると目を爛々と光らせて美貴に迫った。
『松浦とはどうだったの?』って…懲りてないな、この人も。
- 393 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:22
- 「せっかく松浦の気持ちがわかったっていうのに、何もなかったの!?」
シー!飯田さん、声デカいです。
人差し指を自分の口に持っていき、
空いた方の手で飯田さんのも塞ぐけど、もう手遅れかもしれない。
うわ、梨華ちゃんがめちゃくちゃ吃驚した顔でこっち見てるよ…
バレたな、こりゃ。
喧騒の中、梨華ちゃんだけが少し離れた位置で、パイプ椅子に静かに腰掛けている。
そのワケは、肩に凭れかかって眠るよっすぃー。
疲れが溜まっているのか、目を閉じたままピクリとも動かない彼女を起こさぬよう、
梨華ちゃんは細心の注意を払っているように見えた。
やっと仲直りしたんだよねあの二人。いや、仲直りさせたといった方が正しいか。
意外や意外、恋愛に関しては頑固者のよっすぃーを美貴が直接説き伏せたのはつい先日のこと。
美貴と梨華ちゃんはなんでもない。
梨華ちゃんが好きなのはよっすぃー。
仲直りするよう長い時間かかって説得しても渋っていたよっすぃーが最後に
ようやく納得してくれたのは、『美貴も他に好きな人いるから』という言葉を聞いたからだった。
- 394 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:23
- それ以来、美貴は二人に感謝されっぱなし。
本当にうれしいんだろうな。
喧嘩していて離れ離れだった時間を取り戻すかのように、
二人のツーショット姿を見かけることが多くなった。
これでこそ、亜弥ちゃんと会えるはずの時間を割いてまで、
仲直りに協力した価値があるというもの。
けれど、ちょっぴり羨ましい。
分かれて仕事をすることが増えたっていっても同じグループにいる以上、
美貴と亜弥ちゃんよりは一緒にいる時間が多いはずだから。
ぼんやり物思いに耽る美貴の視線を、すらりとした手が遮った。
「おーい。美貴、聞いてんの?」
「聞いてます」
手を飯田さんの口元にあてがったままなことに気付いて、膝の上に戻す。
飯田さんは気にしてはいなかった。
- 395 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:23
- 「美貴もそのまま寝ちゃったんですよ。亜弥ちゃん上に乗せて。なんか、気持ち良くって。」
「朝は?」
「起きたら結構遅かったんで。亜弥ちゃん大急ぎでシャワー浴びて仕事に行っちゃいました」
「一緒に入ったりとかは…」
「ないです。そんな時間ありませんって」
アナタ、なに期待してるんですか。
出て行き際、頬にキスされたことは絶対に教えてやんない。
わざわざからかいの種を提供してやることなんてない。
「はーあ」
残念そうに溜め息をついてみせる飯田さんを軽く睨みつけた。
「期待するようなこと教えてあげられなくてスミマセンね」
皮肉たっぷりに言ってやる。飯田さんは心底つまらなさそうだ。
これでようやく解放される。
そう思った美貴が馬鹿だった。
目の前の悪魔は、そう簡単には獲物を逃がしてはくれなかった。
「で、いつ言うの?」
「……?」
- 396 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:24
- …何を?
言葉の省略が過ぎた物言いに少し戸惑ってしまったけれど、
今までの流れから内容を想像するのは容易いこと。
―――『松浦に』いつ『好きだって』言うの?
「さぁ…これから当分、亜弥ちゃんと会えそうにないんですよね」
いつ会えんだろ、なんて他人事のように言ってみたりして。
本当にわからないんだからそうするほかない。
憎むべきは殺人的なスケジュール。んでもってそれを組み立てた事務所。
もう少し休ませろっての。そりゃ、近いうちに伝えたいとは思ってるけど。
飯田さんは大きな目をまん丸くして言った。
「それじゃ駄目。こういうことはしっかり計画立てとかないと」
「そうなんですかぁ?」
「そうと決まったら話しあわなきゃ。早い方がいいね」
「ええ!?」
何も決まってないし、承諾もしてない。
それに、こういうことは他人にとやかく言われてどうこうするもんでもないと思う。
- 397 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:25
- 一旦取り上げかけられたオモチャを再び手に入れて歓喜する子供。
飯田さん、美貴でとことん遊び尽くすつもりだ…。
悪寒に身が震える。
「そういうわけで、今日美貴の家行くから」
「はあ!?ちょっとやめてくださいよ!」
相手の都合は蚊帳の外。
自分の中だけで勝手に話を進めていた飯田さんは、美貴の言葉にショックを受けたようだった。
いや、フリだ。目が笑ってる。くそぉ。
「松浦はよくって、あたしは泊めてくれないの…?」
よよ、と泣き縋るふりをする飯田さん。
美貴がそういう意味で言ってるんじゃないってこと、絶対わかっててやってる。
「聞いてよ亀井。美貴ったらえこひいきするんだよ」
たまたま通りかかった新人3人にそう訴える。
一番怖がりそうな新メンバーを狙うあたり、かなりの曲者だ。
って美貴も一応この子たちと同期だった。
もう、泣きたいのはこっちなのに…。
「わかりましたよ」
こうして、美貴の部屋は、家族と亜弥ちゃん以外の初めての客を迎え入れることとなった。
- 398 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:26
-
「思ったより綺麗にしてるじゃない」
数時間後、美貴の家に上がるとすぐ、飯田さんは驚いたように部屋中を見回した。
そりゃそうだ。亜弥ちゃんがいつ来てもいいように一生懸命掃除したんだから。
これがもうちょっと前だったら、目もあてられないくらい悲惨な有様だったけど。
「ほんとだ。服とか散乱してて汚いって松浦に聞いてたのに」
「ちょっと。失礼なこと言わないの」
そうそう、飯田さん以外に、お客さんが二人ほど増えた。というか増やした。
あの時、ビビる六期メン(美貴除く)の後ろでこちらを見つめる梨華ちゃんに気付いた瞬間、
美貴の頭に名案が浮かんだ。
『飯田さんが今日うちに遊びに来ることになったんだけど、梨華ちゃんたちも来ない?』
―――お願い!
飯田さんから見えないよう表情と口の動きで伝えると、梨華ちゃんは快くOKしてくれた。
『いいですよね?飯田さん』
『え?ああ、うん』
贔屓云々を理由に美貴の家に来ることになっていた飯田さんは、何も言い返すことができなかった。
飯田さんと二人っきりで顔つき合わせて話してたんじゃ何言い出されるかわかったもんじゃない。
ここは第三者をおいて飯田さんの暴走を食い止めるのがテだ。
だって飯田さん、美貴の言うことほとんど聞いてくれないんだもん。
- 399 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:26
- とりあえずお風呂を沸かして一人ずつ順番に入ることにする。
どの順で入るかはじゃんけんで決めた。
最初に飯田さん、続いて梨華ちゃん、三番目によっすぃー、でもって最後に美貴、と。
飯田さんが入っている間に梨華ちゃんとよっすぃーに事情を説明する。
「そうだったのかあ」
「あたしたちにできることあったらなんでも言って」
二人の心からの親切に涙が出そうになる。
他人の恋の手助けなんて、慣れないことでもやっておいてよかった。
「あ。そうだ」
おもむろによっすぃーが立ち上がったと思ったら、
ちょっと待ってて、と言い残して部屋を出て行ってしまった。
「なんだろ?」
「さあ…」
梨華ちゃんにわからないんなら、美貴にもわかるわけないか。
そうこうしているうちに、飯田さんが浴室から出てきて、入れ替わりに梨華ちゃんが入っていった。
- 400 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:27
- 10分ほどして帰ってきたよっすぃーの手にぶら下げられているのは、
家のすぐ近く、歩いて30秒の所にあるコンビニの袋。
ビニールの膨らみから、何が入っているかはなんとなくわかる。
思いきりたくさん詰め込まれた缶と瓶。なーんか、ヤな予感。
「ホレ」
よっすぃーは買ってきたものを自慢げにテーブルの上にぶちまけた。
ジュースやお茶などのソフトドリンクなんてものは全くなく、転がり出たものは全てアルコール飲料。
チューハイ、カクテル、ビール、ワイン、さらには焼酎、日本酒、ウイスキーまである。
一体どれだけ飲む気なんだろ。
未成年、しかも芸能人が夜中によくアルコールなんて買えたもんだ。
自販機を選ばず、あえてコンビニ。肝っ玉の据わったよっすぃーに感心することしきり。
長い髪を乾かし終えた飯田さんを見ると、既に缶を開け、口に運んでいる途中だった。
え?それでいいの?お咎めなし?
「ささ、カオリ、飲んで飲んで」
「いやー悪いわぁ」
ホスト仕様のきりりとしたよっすぃーが飯田さんの肩に腕を回してビールを注いだ。
はあ、梨華ちゃんがお風呂入ってる途中で良かった。
また浮気しただのしてないだの、面倒なことになったんじゃたまんない。
お酌しながらよっすぃーは美貴に向かってニカっと笑った。
そうか、そーいうことかぁ。
早い話が、飯田さんを酔っ払わせてしまえばこっちのもの。
ベロベロの状態で真剣に考え事ができる人間なんていない。
よっすぃーと梨華ちゃんのおかげで、今日は無事に切り抜けられそうな気がする。
- 401 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:28
- やっと人心地ついた美貴が風呂からあがると、すでにドンチャン騒ぎが始まっていた。
「藤本もこっち来て飲もうよー」
よっすぃーまで飲んでるの?顔真っ赤だよ。
うわっ!なんか蹴った!
足元に柔っこい感触がして見下ろすと、
梨華ちゃんがうつ伏せになりながら手酌で日本酒を味わっていた。
…結構イケるクチとみた。
うわわっ!飯田さん、暑いからって脱がないでください!
飯田さんの服に手をかけて必死で食い止める。
それにしても。皆ビックリするくらい酒癖が悪い。
大口開けて馬鹿笑いするし、人の肩とか平気でバンバン叩くし、
かと思ったらネガネガ日頃の不満を呟き続けるのもいるし。
まったく、そんなに飲んで、明日の仕事どうすんだよ。
- 402 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:29
- うるさくて酒臭くて痛いけど、それでもこの状況をちょっと楽しんじゃってる自分がいて。
美貴一人だけが素面だったけど、そんなことも気にならないくらいテンション上がった。
だから、普段は心待ちにしている亜弥ちゃんからの電話もメールも、
今日に限っては気付くことができなかったんだ。
他のどんな日をさしおいてでも、今日だけは、気付いておくべきだったのに。
- 403 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:30
- 本日はここまで。
- 404 名前:山人 投稿日:2004/04/08(木) 16:31
- レスありがとうございます。
>>388 名無し飼育さん
焦らし癖が自慢の作者です(^^;) (ヤな奴だ…)
書いてる本人もかなりじれったいので、早いとこ決着をつけたいです。
>>389 名無し飼育様
ありがとうございます。
松浦さん、可愛いと言っていただけてうれしいです。
あやみきの場面を書いてると自然に力が入ります。
のわりには今回松浦さん出てませんね。ツッコミなしでお願いします(w
>>390 名無しマスク様
>二人が結ばれる日が来るのはもうすぐ?なんでしょうかねぇ。
ラストまでは(頭の中で)大体できあがっています。
文字に起こすのに少し時間がかかりそうですが、まったりお待ちいただけると幸いです。
>>391 名無し飼育さん
またお付き合いいただけてうれしいです。
見ててくださる方はいるんですね。安心しました。
- 405 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/08(木) 18:36
- 気付いておくべきだったって一体何なんだ!?ものすごい気になる・・・
- 406 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/08(木) 20:13
- うおーなんだなんだ!?
ミキティの代わりにあややに言い訳したいw
なんてもどかしい、でも面白い
- 407 名前:名無しマスク 投稿日:2004/04/09(金) 14:44
- 自分も一体何の電話だったのか、ひじょ〜に気になります。
このせいで二人の関係が崩れなければいいですが・・。
それにしてもこのアイドルグループは一体?!ってな感じですw
危なすぎる・・・w
次回がほんとに気になるところですが、更新頑張ってください。
- 408 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:50
-
「はぁーあ」
部屋中に散乱した缶や瓶を掻き集め、水道で中身をすすぐ。
他のゴミとは別にしてそれらを袋に入れ終えると、溜まっていた疲れがどっと押し寄せてきた。
大きく伸びをして頭を回すと、首の骨がゴキっと鳴った。
みんな散らかすだけ散らかして寝ちゃうんだもんな。
梨華ちゃんとよっすぃーは部屋の隅っこで並んで寝息を立てている。
このままだったら風邪引いちゃう。
大きめのタオルケットを並んだお腹に行き渡るようにかけてあげた。
この二人はまだかわいいもんだ。かわいくない方は、というと…。
持ち主の許可なく堂々とベッドを占領してしまっている飯田さんに目をやる。
ほんとに気持ち良さそうに寝てるよ。誰のベッドだと思ってるんだ。
しかもこの人、美貴が必死で止めたのに全部脱いじゃった。
マジで勘弁してほしい。素っ裸で寝るの、矢口さんじゃなかったっけ?
まあ、布団にくるまってくれてる分には見えないからいいんだけど。
そう考えると、このまま飯田さんを動かさずにベッドを譲るのは妥当なとこか。
もうちょっとで日付も変わろうかという頃。
あと少しくらいは起きてても苦にならないはずの時間だけど、今日はもう我慢の限界だった。
おそろしく瞼が重い。
- 409 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:51
- 飯田さんには悪いけど、一緒のベッドで眠る気になんて絶対なれない。
これが亜弥ちゃんだったら喜んで隣に潜り込むとこなのに。
どうしてるかな、亜弥ちゃん。
雑誌の撮影が今日で終わって、明日の朝東京に帰ってくるって言ってたっけ。
一日の終わりに亜弥ちゃんのことを考えながら、
押入れからもう一枚タオルケットを取り出そうとしたところだった。
ピンポ――――ン
夜遅い時間にはそぐわない軽快な音を立ててインターホンが鳴った。
かなり大きな音だったにもかかわらず、美貴以外の三人は起きる気配がない。
誰だよ?こんな遅くに。
不審に思いつつ、眠い目を擦りながら玄関まで移動してそっと覗き窓を見る。
その瞬間、美貴の眠気は吹っ飛んだ。
えぇっ?うそぉ!
急いでドアの鍵に手をやる。真夜中近いっていうのに、ドアは盛大な音を立てて開いた。
- 410 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:52
- 「えへへ。来ちゃった」
でっかい鞄を腕に抱えて、ドアのすぐ外に亜弥ちゃんが佇んでいた。
美貴の大好きないつもの笑顔で。
「ど…して?こっちに帰ってくるの、明日って言ってなかった?」
「思ったより早めに帰ってこれたんだぁ。
どうせだったらあたしんち帰るよりみきたんちに帰ろうと思って」
美貴の家に『帰る』。
その言葉に、美貴はたまらなくうれしなった。
心にポッと明かりが灯る。まさにそんな感じ。
突然舞い降りた幸せをしばらくは受け止めることができず
ポカンと口を開けて亜弥ちゃんを見つめていると、
歓迎されていないと思ったのか亜弥ちゃんはぷっくり頬を膨らませた。
「むーぅ。あたしが来ちゃヤだ?あたしはみきたんに会えてめちゃくちゃうれしいってのにさ」
「や、うれしい。すごいうれしい」
首を横にブンブン振ると、亜弥ちゃんは満足そうに頷いて、一歩、美貴の方へと歩みを進めた。
- 411 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:53
- 「ただいま」
お互い顔を寄せて微笑み合う。亜弥ちゃんからの挨拶に美貴も返さなきゃ。
「おかえ…りぃ!?」
突然美貴の背中に何かが伸し掛かった。
予想外のことで、前につんのめってしまい、亜弥ちゃんに凭れかかってしまう。
視界の端に見えるこの長い髪は、奴か。
ここぞという時に出てきては美貴の邪魔をする例の悪魔だ。
美貴の頭の上から声が聞こえた。
「あれぇ、松浦ぁ?こんばんわぁ」
「飯田さん!」
しまった、亜弥ちゃんに言うの忘れてた。今夜うちには三人のお客さんが…。
「いらっしゃーい」
まだ酔いと眠気から醒めきっていないのか、
飯田さんはへらへら笑って美貴の首に腕を巻きつける。
美貴から体を離した亜弥ちゃんは、呆気にとられていた。
「放して下さいよ!」
「えー?やだぁ」
- 412 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:53
- 美貴が邪魔者を引き剥がそうと苦心している間、亜弥ちゃんはずっと、
飯田さんとその腕を絡められた美貴の首元を、穴が開きそうなほど凝視していた。
視線は、腕、肩と辿って、飯田さんの体へ。亜弥ちゃんがすっと表情を無くした。
なんだ?
体を捩らせ、手は動かしたままで一瞬の逡巡。
らしくない亜弥ちゃんの様子を気にしながらも、どうにかこうにか、腕だけでも外し終える。
次の瞬間、外気に晒された剥き出しの肩を目の当たりにしてギョッとした。
そういえば飯田さん、服、着てなかったんじゃ。
恐る恐る後ろを振り返ってみると、幸運なことに飯田さんは完全に裸というわけではなかった。
ほっと胸を撫で下ろす。美貴のベッドの上にあった掛け布団。
飯田さんはそれを風呂あがりのバスタオルのようにして体に巻きつけていた。
しなやかな長い髪は少し乱れ、肩から上と腿から下には何も着けられていなかったけれど。
「酔っ払いは寝ててください。亜弥ちゃん。そこで待っててね」
亜弥ちゃんはぼんやり突っ立ったまま何も言わなかった。
ぶつくさ言う飯田さんの背中を押して元の部屋に連れ帰す。
無理やりベッドに寝かしつけた後、再び玄関に戻ると。
「……亜弥ちゃん?」
亜弥ちゃんの姿は、もうそこにはなかった。
- 413 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:54
-
鍵をかけることすら眼中になかった。無我夢中で家から飛び出す。
エレベーターホールに着くと、エレベーターはたった今しがた下りていったばかりだった。
タイミングからして亜弥ちゃんに間違いない。
戻ってくるのを待つのももどかしく、エレベーター脇の階段を二段飛ばしで駆け下りる。
もしかしたら、という懸念が頭の中で形を成し始める。
真夜中、飯田さんのあの格好を見て、亜弥ちゃんはどう思っただろう。
押し潰されそうな不安と急激な運動に、心臓が破れそうなくらいに脈打つ。
キュッと胃が締め付けられ、込み上がる胃液と押し込まれる酸素が一箇所で行き当たる。
気分が悪い。必要以上に汗が噴き出す。
階段を下りきったところでちょうどエントランスに出た。
すぐ外に目を向けると、走り去ろうとする亜弥ちゃんの後ろ姿が見えた。
ここは、何が何でも追いつかなければいけない。
美貴と同じく全力疾走しているであろう亜弥ちゃんの背中めがけて足を動かす。
今日の亜弥ちゃんは速かった。
息遣いが聞こえるほどの距離まで来てもなかなか捕まってくれない。
「「はぁっ…はぁっ…」」
ぴったり重なり合う呼吸が、今は悲しい。
勘違いしないで。美貴には亜弥ちゃんだけなんだ。
伝えたい一心で、混乱する頭と体を抑えつつ、美貴はひた走りに走った。
- 414 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:55
- どれぐらい走ったんだろう。あたりが急に明るくなった。
華やかなイルミネーションが赤に、黄色に、緑に、美貴と亜弥ちゃんを照らし出す。
駅前か。頭の隅でそう認識しながら、ストライドをさらに広げて亜弥ちゃんへの距離を縮めた。
あと、もう少し。
十センチ。
五センチ。
一センチ。
「亜弥ちゃん!」
腕を捕まえて叫ぶと同時に、亜弥ちゃんは今までの動きを一切止めてぴたりと立ち止まった。
肩で息をしている。それは美貴も一緒だ。
- 415 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:56
- 「亜弥ちゃん、聞いて。違うんだよ。飯田さんは…」
飯田さんの名前を出した途端、亜弥ちゃんは美貴の手を思いきり振り払った。
頬を何かが掠った。亜弥ちゃんの後ろ頭ばかり見ていたから、それが何かはわからなかった。
それに今は、そんなものどうだって良かった。
「触らないで!」
聞いたこともないような金切り声が辺りを切り裂いた。
それが亜弥ちゃんが発したものだと気付くのにはしばらくかかった。
肩が大きく上下していたのは、息がきれていたからだけじゃない。
ゆっくりと振り向いた亜弥ちゃんは、全身を震わせ、本気で泣いていた。
- 416 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:57
- 呆然とする美貴の顔を見て、亜弥ちゃんの視線が一点に集中し、固まった。
けれど、すぐにそれを解くと、美貴の目を睨みつけて言った。
「…来ないで」
綺麗な顔を苦しそうに歪ませてしゃくり上げる亜弥ちゃんの目が、
言葉以上のものを物語っていた。
汚らわしいモノでも見るような目つき。
そう、それは。美貴に対する、―――嫌悪感。
亜弥ちゃんに拒絶されたのは、初めてのことだった。
全身から体温が失われたように寒なり、悪寒が渦巻いた。
言い捨てて走り去る亜弥ちゃんを、美貴はもう追いかけることができない。
赤ら顔のサラリーマンが一人、道の真ん中で立ち尽くす美貴の横を訝しげに通り過ぎる。
闇を彩る原色のネオンの中、美貴だけが一人、時を止めていた。
- 417 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:58
-
- 418 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:58
-
『明日の仕事午後からなんだ』
『早く帰ってこれたから、会いたいな』
『みきたんち泊まりに行ってもいい?』
どうやって帰ったのかよくわからない。ただ、気付いたら自分の部屋にいて。
家に辿り着いた美貴を待っていたのは、携帯に残された三件のメールと四件の不在着信。
鞄の中からはみ出るようにして転がっていた携帯は、精一杯自己の存在を主張していた。
―――みきたん、たん。あたしを見て。
どうして気付かなかったかな。
ようやく、涙が溢れ出す。亜弥ちゃんからのメッセージが霞み、滲んで見えなくなった。
後ろめたいことなんて何もないはずなのに、次に亜弥ちゃんに会うことを考えると怖くなった。
あんな目で見られるのは、もう二度と嫌だ。耐えられない。
頬のあたりがやけに沁みるので人差し指と中指で擦ると、指先が紅く染まった。
ああ。亜弥ちゃんが見ていたのはこれだったのか。
きっと腕を振り払われた時に、亜弥ちゃんの爪が掠ったんだ。
頬を伝った涙を舌で舐めとると、しょっぱさなんてものは全然なくって。
代わりに、口一杯に血の味が広がった。
- 419 名前:山人 投稿日:2004/04/11(日) 23:59
- 今日はここまでです。
- 420 名前:山人 投稿日:2004/04/12(月) 00:06
- 更新した途端訂正です。
>>416
× 体温が失われたように寒なり
○ 体温が失われたように寒くなり
申し訳ありません。
どうしてここぞってところで間違えちゃうんだ(ノД`)
- 421 名前:山人 投稿日:2004/04/12(月) 00:25
- >>405 名無し飼育さん
いきなり答えが出てしまいました(w
>>406 名無し飼育さん
言い訳、是非してあげてください。
藤本さんは使い物にならないので…。
さて、これからどうしよう(w
>>407 名無しマスク様
あまり何も考えずに書けるのがこの話のいいところです。
その結果、こんなグループが生まれてしまったと(w
二人の関係、見事に崩してしまいました。ごめんなさい。
- 422 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/12(月) 01:30
- んはぁ!!(*´Д`*)
あぁ…またまたなんてところで…
早く助けて下さい作者さん〜!!
- 423 名前:名無しマスク 投稿日:2004/04/12(月) 17:26
- あぁ〜、思ってはいたんですけどやっぱり崩れちゃいましたか。
勘違いってつくづく恐ろしいものですね^^;
まぁ、その原因を作ったのはあのお節介悪魔?のせいですけどねw
作者さんがなんとかしてくれることを願って次回も待ってますw
- 424 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 16:40
- はぅ・・・心臓が痛い
- 425 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:00
-
「良かった。これなら見えないわ」
顔の上をせわしなく動き回っていたブラシがピタリと止まる。
メイクが施されている間中うわの空だった美貴は、一通り終わったことに気付いて我に返った。
後ろでメイクさんがほっと息をついて腰を上げる。
鏡の中の美貴と目が合うと、安心させるようにニッコリ微笑み返してくれた。
左頬、斜め約三センチほどの切り傷。
昨日の夜の出来事が夢でない証拠として残った鋭い傷跡。
顔を洗っている最中に誤ってつけてしまったことになっているそれは、
プロの手によってぱっと見ではわからないほどうまく隠されていた。
…たぶん、嘘はバレてるんだろう。
今まで爪を伸ばしていてこんなヘマは一度もしなかったのに、
たかが洗顔でこれほどの傷がつくわけない。
おまけに、傷のあるなしにかかわらず、今日は顔全体がボロボロ。
目と鼻は真っ赤に腫れてるわ、クマはできてるわ、表情は冴えないわ。
明け方まで涙と鼻水まみれになってティッシュ二箱空けたのが悪かった。
ゴミ箱に入りきらなくなったおびただしい量の紙の山を思い出す。
帰ったら片付けないと。
- 426 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:01
- とにかく、今日のメイクにはいつもの倍以上時間がかかるはずだった。
それでも馴染みのメイクさんは嫌な顔ひとつせず手間のかかるメイクを引き受けてくれた。
肌のコンディションだけじゃなく、美貴の心の状態までわかってんのかな。
「ネイルもいいけどほどほどにしてね。気をつけないと危ないんだから」
「はい。ありがとうございました」
感謝の気持ちも含めて素直に返事すると、メイクさんは満足気に笑って行ってしまった。
さっさと支度を済ませた他のメンバーは先にスタジオに行ってしまったから、
今この部屋には美貴一人。
改めてまじまじと顔を見る。
つまらない顔だ。亜弥ちゃんに愛想を尽かされた、つまらない人間。
なぜか急に腹が立った。
どうしてこんなに運が悪いんだ。
家に誰も呼んでいなければ。
飯田さんにお酒なんか飲ませなければ。
亜弥ちゃんからのメールに気付いていれば。
頭の中を渦巻くのは、文尾が全て『たら』『れば』の後悔の世界。
- 427 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:01
- 怒りに転化したってどうにもならないのはわかってる。
結果はどうあれ、皆を家に招くことに決めたのも、飲酒を黙認することにしたのも、
メールに気付かなかったのも、全部自分なんだから。
自業自得だ。飯田さんのせいなんかじゃない。…うん、たぶん。
左手でそっと頬に触れる。
コンシーラーで見えなくなったこの傷みたいに、
やり場のなくなった気持ちもどこかに消えてしまえばいいのに。
「藤本さーん、本番いきまーす」
遠くから呼ばれる声が聞こえて、舌打ちしながら、乱暴に立ち上がった。
- 428 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:02
-
それからの毎日は、もう、ほんと苦痛の連続。
亜弥ちゃんのことを思い出さないようにしようにも、メディアがそれを許さない。
テレビが映す笑顔が、オーディオが流す歌声が、ポスターが放つ視線が、
美貴を執拗に責め立てる。
悪いことは何もしていないのにそう感じてしまうのはきっと、亜弥ちゃんを泣かせちゃったから。
朝起きて真っ先に考えるのは亜弥ちゃんのこと。
夜寝る前最後に考えるのも亜弥ちゃんのこと。
それなのに亜弥ちゃんは隣にいない。美貴に笑いかけちゃくれない。
亜弥ちゃんのいない生活は、ひどく精彩を欠いていた。
一人で過ごす時間がたまらなく寂しく、身を切られるほどにつらかった。
救いはなかった。
直接家まで行ってインターホンを押しても扉が開けられることはなかった。
部屋の電気は明々とついていて、中からはテレビの音だって聞こえていたのに。
それ以来、美貴がやって来るのを嫌ってか、亜弥ちゃんが家に帰るのは少なくなった。
電話で連絡を取ろうとしても出てくれない。
一度非通知でかけてみたら、声を出した途端に切られた。
メールはもちろん返ってこない。
ここまで徹底して避けるなんて。
どれだけ美貴が願っても、亜弥ちゃんはもう美貴を望んではいないんだ。
自分を殺して機械的に営業用スマイルをつくる、そんな日が続いた。
いつの間にか日差しは弱まり風は涼しくなっていて、季節は秋に移り変わろうとしていた。
- 429 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:03
-
- 430 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:03
-
秋。
季節の変わり目にはどこのテレビ局も高視聴率を獲得すべく、
こぞって単発のSP番組―――いわゆる特番―――を放送する。
なんていったら聞こえはいいけど。
実際いうと特番なんて、番組改編にしかたなくついてくる
レギュラー番組どうしの開きのつなぎ合わせ。ただ、それだけ。
北海道にいた頃の美貴はそんなふうに思ってたんだ。
だけど、デビューしてからはその考えはガラリと変わった。
作る側の苦労がよく見えてきたってのもあるけれど、
何より、音楽番組の特番は歌手にとって本当にありがたいもんなんだ。
いろんなアーティストをゲストに迎えての番組が多いから、その分見てくれる人たちの層も広がる。
イコール、いろんな人に覚えてもらえる。
しかも新曲を出しているわけじゃなくても出演できちゃう。
一石二鳥、とはちょっと違うけど、こっちにとって都合のいいことが多いのは間違いない。
出るゲストの数が多すぎて埋もれちゃうって可能性もあるけど、
そこは大所帯のグループのいいところ。
全員揃ったハデなカッコで十人以上も女の子が並んでたら嫌でも目に入るでしょ。
目立たないなんてことはないからまず安心。
―――でも、亜弥ちゃんなら一人でも毅然と輝いてるんだろうな。
- 431 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:04
-
その日はでっかいスタジオを目一杯使っての特番の収録。
収録直前、スタッフでごった返す廊下を通り抜けて一人でトイレに向かう。
個室から出て手を洗っていると、美貴が入っていた隣の個室のドアが開いた。
蛇口を閉めて水気を切ったところでポンと肩を叩かれる。
「あれ?ごっちん?」
「やーキグウだねえ」
ごっちんはふにゃりと笑った。
そういえばごっちんは娘。の前に収録が入ってたんだったっけ。
「もう終わったの?」
まさかとは思うけど、スタジオの方を指して聞いてみる。
「んにゃ、今からだよ」
「やっぱり」
- 432 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:04
- まだばっちり衣装着込んでるもんね。
この余裕はどこからくるんだろう。美貴でも急いでんのに大丈夫か?
そわそわする美貴とは逆に、ごっちんはこれまた美貴の隣の洗面台でのんびり手を洗い出す。
その様子を見ていて、ふと気付いた。
「ごっちん、さっき美貴の肩触ったよね?」
ごっちんは水に濡れた自分の手をキョトンと見つめた。
そう、それだよそれ。洗う前の手でポンって。
「んあー、そーいやそうだったかも。ごめんねぇ」
アハハー、なんて笑ってる相変わらずのごっちん節に苦笑する。
今の美貴が見習うべきは何事にも動じないこの年下の先輩かもしれない。
ごっちんが手を洗い終えるのを待って、一緒に廊下へ出て並んで歩く。
「そういやさ、熱、大丈夫?」
どこから聞いてきたのか、さりげなくごっちんが尋ねた。視線はまっすぐ前。本当にさりげなく。
「んー、まあね。もう下がったよ」
- 433 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:05
- ここ二週間ほど考え込むことが多かったせいか、
使い慣れない頭がオーバーヒートを起こして初めて知恵熱なんか出してしまった。
幸い微熱だったから仕事は休まずにすんだし、
心配してくれたメンバーがいろいろ助けてくれたからすぐに下がったけど。
熱が引くと同時に脳内の余計な膿もどこかへいってしまったようで、
体だけが完全復活をとげた美貴の頭の中は、今は真っ白だ。
ごっちんが知っていたってことはよっすぃーあたりから聞いたのかな。
熱の理由がわかっているよっすぃーと梨華ちゃんは特に美貴を心配してくれた。
もちろん、飯田さんも。
家に泊まった翌日、ひとしきり謝罪してからパッタリ美貴に近づかなくなった飯田さん。
酔ってる間に自分がしでかしたことの大きさに、これ以上ないほどショックを受けたらしい。
よっすぃーいわく、ふさぎ込む美貴を見て一番痛々しい表情をしていたのは飯田さん。
梨華ちゃんいわく、鞄の中に入れた覚えもない解熱剤が入っていたり、
コンサート中ペットボトルの中のドリンクが美貴だけジュースになっていたりしたのは
飯田さんの仕業、もとい、おかげらしい。
陰でいろいろ支えてくれたことになるけど、手放しでそれを喜べるほど美貴は大人じゃない。
複雑な気分だった。
- 434 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:06
- 「よかったぁ」
短く呟いたごっちんを見ると、本当に嬉しそうで。
美貴の知らないところで心配していてくれたことがわかって、こっちも嬉しくなる。
固結びになって捩れていた心の糸がほろほろと解けていくような感じ。
全身の力が抜ける。
こんないい気分は久しぶりだった。
いい歌が歌えそうだと思った。
だけど、ほんわかした気分は長くは続かない。
「あー。まっつーだぁ」
前を見たまま歩いていたごっちんがのんきな声でそう言ったから。
心の準備が全くない状態での、久々の再会だった。
- 435 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:09
- 短いですが、ここまでです。
もう季節感なんてあったもんじゃありません。
半年もずれてます。でも気温はだいたい一緒だからいっか(w
おそらくあと2,3回で終わる予定です。
- 436 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:33
- レスありがとうございます。
>>422 名無し飼育さん
毎回毎回変なところで区切ってしまってすみません。
書いてるうちにどこで区切っていいのかわからなくなり、
結局はテキトー(良い意味でも悪い意味でも)なところで落ち着きます。
計画性が欲しいです。
>>423 名無しマスク様
こんなに痛くするつもりは全くなかったんです。
全部お節介悪魔のせいです。作者のせいじゃありません(w
最後は大団円…になるといいなぁ。
>>424 名無し飼育さん
はわわわ!
今回更新分で治りましたか?…治りませんよね。
週に1回は更新していくつもりなので完治するまでお付き合い願います(w
- 437 名前:山人 投稿日:2004/04/18(日) 23:33
-
- 438 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/19(月) 02:23
- 気温はだいたい一緒だからって…なんですかその納得の仕方(w
前回の更新であんなことになったんで、今回はどうなるんだろう、と
すごくハラハラしながら待ってました。
しかし今回はそれ以上にハラハラさせられる展開で…非常に困ります(w
- 439 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/19(月) 03:17
- 痛い痛い痛いいたいイタイ〜〜〜(´Д`)
もう、ほんと助けて…
- 440 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/19(月) 05:03
- あ゙あ゙あ゙…胃が。徹底的に容赦のないアヤヤが怖い…更に時間の経過が拍車をかけて…私がもしミキティなら、この状況、確実に胃に穴が…。助けて〜山人さん。
- 441 名前:名無しマスク 投稿日:2004/04/19(月) 19:37
- ミキティ痛いよミキティ・・・。
季節が変わっても二人の間は変わらないままって普段の二人からするとまずありえないですね^^;
大詰めに入ってきたようですが、この後の二人がどうなるのかめっちゃ気になります。
ラストまで頑張ってください!!
- 442 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/21(水) 21:47
- 気になる気になる!!毎回楽しんでもらっています。
これからのまつーらさんの反応に期待です!
- 443 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/04(火) 14:46
- この小説にどっぷりハマってます。
二人が幸せになれることを願っております!
次がめちゃめちゃ気になります!><
- 444 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:00
- 「……っ…」
いるのを確かめるより先に心臓が痛む。
亜弥ちゃんの名前を聞いた、ただそれだけなのに。
ごっちんにならって恐る恐る前を向くと、数十メートル先にピンと背筋を伸ばして歩く後ろ姿。
バランスのとれた細身の体。肩の上にちっちゃく乗っかってる頭。
見間違えるはずなんてない。間違いなく亜弥ちゃんだ。
喜ぶべきなんだか悲しむべきなんだか。
あれだけ会いたいと願っていた彼女は、こんなにも簡単に現れた。
最後に会った時のあの冷たい目が頭をよぎる。
冷水を浴びせかけられたかのように、一瞬で全身が冷えた。
どーしよ、どうしよ。どうすればいい?
誰よりも好きなあの人に、また泣かれるのが、また逃げられるのが、また拒絶されるのが。
どうしようもなく、こわい。
なのに、手は亜弥ちゃんを求めて無意識に宙を掻いた。
もう、自分がどうしたいのかもわからないよ…。
- 445 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:01
- ごっちんの声が聞こえた様子はなく、亜弥ちゃんは前に突き進む。
行き交うスタッフさん達の中に馴染みの顔を見つけたらしい。
こんにちはぁごぶさたしてますーはい元気ですよぉー今日もバッチリ歌いますねぇ
顔は見えないから想像するにおそらく人懐っこさ丸出しの表情を貼り付けながら、
誰に向けたって無難なことを亜弥ちゃんが言うのが聞こえた。
皆を圧倒してやまない華やかなオーラ。
前より翳りを帯びてしまっているように感じるのは、美貴の気のせい?
「おぉいまっつぅー」
「…ちょっ……」
今度はちゃんと聞こえるように、ごっちんは声のボリュームを上げた。
隣で美貴があたふたしてるのにごっちんは気付かない。
亜弥ちゃんが、くりんとこっちに向きを変える。
その瞬間、下を向いて美貴は石になる。
心臓が早鐘を打った。
咄嗟に目を瞑ってしまったから亜弥ちゃんがどんな反応をしているかはわからない。
- 446 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:01
- まだ怒ってる?それとも嬉しい?…わけないか。
吃驚は…してるよね。
一番近くにいたからこそ、顔を見るだけで何を考えてるかがわかってしまう。
見たくない。知るのが怖い。
喉元のあたりが妙に苦しい。
「ごっちんだぁ。おひさー。あれ、みきたんもぉ?」
美貴の予想を見事に外したバカ明るい声に、思わず目を見開いた。
力を込めすぎたせいで少しぼんやりする視界。
その中を、亜弥ちゃんは小走りで駆け寄ってくる。
いつも通りに明るい亜弥ちゃん。
いつも通りに笑顔を振り撒く亜弥ちゃん。
『いつも通り』だからこそ感じる違和感は、美貴の恐怖心をさらに煽る。
亜弥ちゃんはごっちんと美貴の間に体を滑り込ませた。
「久しぶりだね、三人揃うの。ごまっとうだ」
美貴たち二人を交互に見て、手を後ろに組んで笑う。
「だねえ」なんて力の抜けた相槌を打ちながらごっちんも顔を綻ばせる。
…笑えない。
- 447 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:02
- 「まっつーも今から録り?」
「そうそうそう。ほんとはもっと後のはずだったんだけど
他のアーティストさんの都合つかなくなったとかでずれたんだって。
急になんて困っちゃうよねえ。
ま、あたしからしたら早く終わるからうれしいんだけど」
ああ、それで、こんな所で。
浮かんでいた疑問の答えが得られて合点がいった。
よくよく考えるまでもなく、娘。とごっちんが出演する番組なら
亜弥ちゃんが出ない方が不自然というもの。
スタジオでばったり出くわしたとしてもなんらおかしくはない。
だけど、それはお互いの収録が近い時間にあると仮定した場合の話。
今日はそんなはずじゃなかった。
プライベートで会えないんなら、仕事で一緒になることを期待するしかない。
仕事が絡んでるとなると、亜弥ちゃんもさすがに逃げやしないだろう。
言いたいこと、伝えたいこと全部、頭を冷やして整理してから会おうと決めた。
問題はいつ一緒の仕事があるかということ。
こっちとしてはかなり必死で、スケジュールもらった瞬間
片っ端から目を通して合いそうな日を探してたってのに。
それも全部水の泡。
- 448 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:02
- なんでこうなるワケ?
頭の中ごっちゃごちゃの最悪な状態で会わなきゃなんないなんて。
もし、普段は良くない頭の回転が、今日に限ってスムーズだったとしても、今はごっちんがいる。
とても腹を割って話せるような雰囲気じゃない。
かといって、何もなかったようなフリして普通に話すこともできそうにないし。
何も言わない(内心ヒヤヒヤもんの)美貴を見て、ごっちんが不思議そうに首を傾げ、
それから視線を亜弥ちゃんに移した。
「今日はくっつかないの?珍しいね。喧嘩でもしてるとか?」
地雷的中。まさに真っ只中です。
痛い所を突かれて動けなくなってる美貴に亜弥ちゃんが近づく。
「そんなことないよ。ねっみきたん」
「……」
…美貴に、どう言えと?
引き攣り笑いを浮かべると、亜弥ちゃんは固まったままの美貴の腕をとり、
自分のものと絡ませた。触れた部分から熱を持ち始める。
喧嘩したのかと聞いた本人は全くの冗談で言ったらしく、
亜弥ちゃんに押され気味の美貴を見てぷっと噴き出した。
だから笑えないってば。
- 449 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:03
- 「ねっ」
亜弥ちゃんは有無を言わせぬ強い口調で繰り返す。
視線を合わせて、その笑顔にぞっとする。
丁寧につくりこまれた完璧な仮面。
キレイだった。綺麗すぎた。
美貴の前でこんな薄っぺらい顔で笑ったことはなかった。
…見るんじゃなかった。
一般大衆に向けてするのと寸分違わない表情。
それが意味するのは―――。
回された腕には
微かな、だけど、遠い距離。
- 450 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:03
- 向こうからごっちんのマネージャーさんがやってきて、ごっちんの名前を呼ぶのが聞こえた。
「あ。急がなきゃいけないんだった」
ごっちんはいまいち緊張感のない声でぼそっと呟いて、
「それじゃまた」とだけ言って去っていってしまった。
ごっちんが見えなくなるのを確認してから、亜弥ちゃんはそっと腕を離した。
そのまま無言で美貴から遠ざかる。
離れた所からすきま風が入り込んでくるような気がした。
さっきの時間、ごっちんは間違いなく二人の間の緩衝材だった。
そのありがたみに気付いたのは、亜弥ちゃんが美貴に無表情で背を向けてから。
美貴とは別の、独立した意思を持った右手が、また亜弥ちゃんに伸ばされる。
届かない位置にいることが知れて、そのまま力なく落ちた。
美貴と亜弥ちゃんの間に、ハッキリと見えない壁。
放っておけばこうやって、ちょっとずつ距離を置きながら、もっともっと離れてくんだろう。
ちりちりちりちりちりちりちりちり
燃え燻っているのは触れられた腕?混乱する頭?
―――それとも、ココロ?
プ ツ ン
張り詰めていた何かが、キレた。
- 451 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:04
- 「ちょっと待ってよ」
亜弥ちゃんに近づいて両肩をがっちり押さえつける。
前は腕を掴んで振り払われた。
これならもう振り払われることもないはずだ。
抵抗する亜弥ちゃんを廊下の端まで追い詰め、壁に押し付けた。
「いっ…たぁ…なにすんの。やめてよ」
キツい目つきが痛い。
けど、今さらそんなことは気にしていられない。
「どういうつもり?
何も言わずに逃げるなんて卑怯じゃん!
一対一で話もできないんだったら、美貴、どうしていいかわかんないよ。
連絡取ろうとしても避けてばっかで、亜弥ちゃん、美貴の話まだなんにも聞いてくれてない」
一気に捲し立てると亜弥ちゃんは掴まれた肩を震わせた。
まわりには美貴たちの尋常ではない様子に気付いた人たちが集まってきていた。
いつもベッタリ仲の良い二人が言い合ってるのが珍しいんだろう。
当たり前だ。今まで喧嘩なんかしたことなかったんだから。
興味本位の視線。好奇の目。
ザワザワザワザワ…あー、うるさい!
- 452 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:04
- 「……に…がわかるの?」
「え?」
「みきたんに何がわかるっていうの?
あたしがどう思ってどう考えてどう動こうが、あたしの勝手でしょ。もうほっといてよ!」
ものすごい剣幕。
完全に突き放された気がして、泣きそうになった。
力が緩んだ隙を狙って、亜弥ちゃんは体を捩りながら美貴を押し退けた。
バランスを崩して、よろよろと後ずさる。
その先がまずかった。
美貴がぶつかったのは、遠巻きにして見ていたスタッフさんの一人で。
運の悪いことに、そのスタッフさんは両手いっぱいに
積み上がったダンボールを運んでいる途中だった。
- 453 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:05
- 「あぶないっ!」「きゃー!!」「うわっ!」
幾重にも重なる誰かの声が聞こえた直後、頭のどこかで、ゴン、と鈍い音が響いた。
突然、目の前がモザイクのように歪んだかと思うと、真っ白に染まる。
なに?なにが起こったの…?
ぶるぶる頭を振ると、激痛がはしった。
「…ったぁ」
頭を押さえて立ち上がろうとすると、視界が揺れて膝をついてしまう。
落ちてへしゃげたダンボールから、大型のハンディカメラが数台転がり出ていた。
これが落ちてきたのか。こりゃ痛いはずだよ。
人を呼ぶ声。呼ばれる声。
ばたばた走る音や振動が、横になった体に直に伝わって、気分が悪い。
一気に落ち着かなくなった雰囲気の中、頭の上から亜弥ちゃんの不安気な声が聞こえる。
「…みきたん?」
うう…、キモチ悪ぅ。ひどい乗り物酔いみたいだ。
目を閉じると、亜弥ちゃんの残映だけが残った。
白色の背景に浮かび上がる黒い影。
おかしいな。美貴にとっての亜弥ちゃんは、いつだって太陽みたいに明るい存在で。
これじゃ、逆じゃん。
- 454 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:05
- 「ねえ、みきたんっ。みきたん!」
肩と頬に触れられてもう一度目を開けると、影はぴったり亜弥ちゃんと重なった。
白い肌、伝う涙を見て、なぜだかひどく安心する。
立つことはできなくても、腰を落としたまま移動するくらいはできそうだ。
すぐそばまで来てしゃがみこんでいた亜弥ちゃんの腰に腕を回す。
思い切り抱きしめたいのに、力が入らないのがめちゃくちゃ悔しい。
「返事してよぉっ…」
美貴のために流してくれる涙があるんなら、それでいいや。
泣かせてるのにうれしいだなんて。ごめん、亜弥ちゃん。
ぐるぐる回る意識を繋ぎとめるのがほんと辛くて。
朦朧としながらゆっくり瞼を下ろした。
- 455 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:05
-
- 456 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:06
-
微かな消毒液の匂いに混じって、心地良い香りが鼻をくすぐる。
頭の後ろにどんよりとした重みを感じながら目を覚ますと、真っ白な天井があった。
同じく真っ白で堅いベッドに、体を横たえている自分がいる。
開いた窓から風が入り込み前髪を揺らす。
フワリ
どこかで嗅いだことのある香りが再び風に舞う。
亜弥ちゃん…?
- 457 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:06
- 「気がついた?」
顔を横に向けると、亜弥ちゃんは消えていて、
代わりに私服姿の飯田さんがパイプ椅子に腰掛けていた。
部屋の中には、美貴と飯田さん以外誰もいない。
「飯田さん」
見上げて言うと、飯田さんはやっと安心したというように大きく息をついた。
ちっ、亜弥ちゃんじゃないのか。
本音が表情に出てしまったらしい。
「そんな残念そうな顔しないの」と言った飯田さんは美貴の頭を小突こうとして、やめた。
「ここは?」
「医務室だよ。美貴、脳震盪だって。頭打ったの、覚えてない?」
「そういえば…」
後頭部に手をやると、でっかいコブ。
触っただけではあまり痛みは感じなかったものの、押してみるとズキズキ痛む。
- 458 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:07
- 「あれだけ重いものが当たってこの程度で済むなんて、運が良いって。大した石頭だよ、美貴は」
「はあ」
そんなこと褒められてもちっとも嬉しくないんですけど。
第一、物が落ちてくること自体運が良いとはいえないんじゃ…。
「とりあえず今は寝かしてただけだから、後で病院行こう。
ここでも一応診てもらったけど、もっと詳しく検査してもらった方が安心だから」
「収録…、仕事はどうするんですか?」
「さっき終わったとこ。もちろん、美貴抜きで、だけど」
「そうですか…」
仕事に穴をあけてしまった。
やりきれない気持ちで項垂れると、飯田さんの手が美貴の頭を撫でた。
凹みついでにもう一つ気になっていることを口にする。
どうせ落ち込むんなら、まとめて落ち込む方がいい。
あの時そばにいたのに今いないということは、きっとそういうことなんだろう。
「――亜弥ちゃんは?」
- 459 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:07
- 返ってきたのは、少し的の外れた飯田さんらしい答え。
「松浦、離れようとしなかった」
「はぁ?」
「収録の時間になっても、美貴のそばにいるって聞かなかったんだよ。
あの、プロ根性の塊、スーパーパーフェクトアイドルの松浦亜弥が。」
「……」
「美貴から引き剥がされた後にね、松浦、『みきたんみててあげて下さい』って言ったの。
まわりに他のメンバーいっぱいいるのに、わざわざあたしに言ったんだよ?
だから教えてあげたの。誤解だよって。
美貴が今、一番一緒にいて欲しいと思ってるのは、松浦だよって。
あの子まだ、ひどく勘違いしてそうだったから」
飯田さんは医務室備え付けのテレビのリモコンを取り、スイッチをオンにする。
体を起こすと、画面にはちょうど今収録が行われているらしい
スタジオの様子が映し出されていた。
たくさんあるカメラのうちの一つをここにも繋げているみたいだ。
「よーく見とくんだよ。松浦をこんなにしたのは他の誰でもない、アンタなんだから」
- 460 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:07
- 飯田さんの指差す先を覗き込むと、数人のゲストに混じって亜弥ちゃんが座っているのが見えた。
視線をあちこちに彷徨わせつつ、そわそわしながらトークの合間に頷いている。
様子がおかしい。
急に、司会者が亜弥ちゃんに話をふった。
「―――――ということですが、どうでしょう?松浦さん」
「……え?」
多忙な芸能生活のおかげで
悲しいかな無意識にも相槌を打つタイミングを心得てしまっている亜弥ちゃんは、
周りで繰り広げられている会話を聞いているようで聞いていなかった。
白けた雰囲気がその場を覆う。
順調に進んでいるかに見えた撮影は中断されてしまった。
亜弥ちゃんが他の出演者やスタッフに必死で頭を下げている。
…何だよ。なんなんだよ。
自分が喋ってて聞いてなかったんならともかく、
ボーっとしてて人の話聞き逃すなんて、らしくない。
ほっとけって言ったの、亜弥ちゃんじゃん。
こんなんじゃ、ますますほっとけないよ。
- 461 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:08
- 「収録始まってからずっとこう」
飯田さんは溜め息をついて言った。
「というか、あたしが松浦と話してからだね。
ねえ。なんで松浦がこんなに落ち着きないか、わかる?
仕事中もうわの空になっちゃうほど、誰のこと考えてるか、わかる?
こんなこと、さんざ邪魔してきたあたしが言えた義理じゃないけどさ。
楽にしてあげてよ。松浦のこと。もちろん、美貴、あんた自身も。
…お願い。リーダー命令だよ」
頼み口調なのに飯田さんはそう言った。
言葉の端々から彼女なりの誠実さが滲み出ている。
飯田さんは答えを促して、じっと美貴を見ていた。
どう答えるかって?
そんなの、決まりきってる。
どれだけ本人に避けられたって美貴の気持ちは変わることはなかったんだから。
今さら諦められるわけない。
「命令じゃなくてもそうします」
はっきりと伝えると、飯田さんは表情を和らげて椅子の背凭れに体を預けた。
- 462 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:08
- 「そろそろ交代の時間かな」
「え?何がですか?」
「美貴のお守り」
飯田さんは腕を組んでテレビの方へ顎をしゃくる。
気が付くと、画面の中に亜弥ちゃんはいない。
「録り終わっちゃったんですかね」
「終わってるね」
「亜弥ちゃん、ここの場所知ってるんですか?」
「知らないね」
「えぇ!?じゃあ、美貴、行かないと」
立ち上がろうとする美貴を飯田さんの手が押さえつける。
「大丈夫。迎えの者を遣ってるから」
「迎えの者ぉ?」
バン、と乱暴な音がして、突然部屋の扉が開いた。
現れたのは、なぜか必死な様子の梨華ちゃん、よっすぃー。
それに、衣装姿で息を切らしている亜弥ちゃんだった。
スタジオから直接走って来たんだろう。スカートの裾が翻ってる。
- 463 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:09
- 「あやや、危ないって!」
亜弥ちゃんは一緒にやってきた二人が止めようとするのも聞かず
こちらに向かって飛び込んできた。
起こした体に強い衝撃。
「みきたん、みきたん、みきたん…」
抱きついたままうわ言のように美貴の名前を呼び続ける亜弥ちゃん。
首元に鼻を擦りつける癖も、全てを委ねるように預けられる重みも、何も変わらない。
あまりにも自然で懐かしくて、
時間が逆戻りしてしまったんじゃないかと錯覚してしまいそうになる。
夢とかそういうオチはイヤだよ?
「…亜弥ちゃん?」
怖くなっておずおず名前を呼ぶと、亜弥ちゃんは肩を小さく震わせ始めた。
飯田さんは座っていた場所を空け、『迎えの者』二名を促しながら部屋を出て行く。
リーダー命令とやらで、梨華ちゃんとよっすぃーがただこの為だけに残らされたんだとしたら。
これって職権乱用っていうんじゃないの?
でも。ありがと、梨華ちゃん。ありがと、よっすぃー。ありがとう、飯田さん。
二人きりになった途端、亜弥ちゃんは本格的に泣き出した。
- 464 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:09
- 清潔な室内に、亜弥ちゃんが湿った声を響かせる。
回していた腕を少し動かして背中をさすった。
「ふぇ…っく…」
「なに泣いてんの」
「だって、みきたん、頭」
まともに交わした最初の言葉がこれってどうなんだろ?
こんな風に言われると頭おかしくなったみたいじゃん。
まあ、頭の中身は亜弥ちゃんにやられちゃってるわけだから
あながち間違いでもないのかもしれない。
「もう大丈夫だって。一応コブだけで済んだみたいだし」
「ほんと?」
「うん」
亜弥ちゃんは美貴の髪をくしゃくしゃにしながら打ったあたりを探る。
優しく撫でられるだけだから痛くなかった。
やめさせる気は起きない。触れられてるだけで嬉しいから。
「よかった」
そう言って亜弥ちゃんは美貴の頭に伸ばしていた腕を下ろす。
そして飯田さんが空けた椅子ではなく、美貴がいるベッドの端に座った。
- 465 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:10
- 「みきたん、何回呼んでも起きなかったでしょ」
「へ?そだっけ?」
そういえば、意識が途切れるすぐ前まで亜弥ちゃんの声を聞いてた気がする。
「返事しなかったでしょ」
「…キモチ悪くてできなかったんだってば」
「うん。わかってる。
わかってるんだけど、悲しかった。
何言っても、どれだけ呼んでも何も返ってこないのがすっごいヤだった」
その時のことを思い出したのか、亜弥ちゃんは顔を歪ませた。
「だから。あたしもめちゃくちゃひどいことしてたんだなって。
みきたんいっぱい連絡とろうとしてくれてたのにね。
わかってたよ。
自分でもすごいヤなことしてるって。
あたし絶対やな子になってるって。
でもさ。怖かったんだもん。ホントのこと聞きたくなかったんだもん」
「ホントのことって…。飯田さん遊びに来ただけだったんだよ。梨華ちゃんとよっすぃーもいたし」
「うん、聞いた。うれしかった」
亜弥ちゃんはやわらかく笑った。
- 466 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:10
- ペロッ
左頬に濡れた感触。
間近でちょこんと舌を出してる亜弥ちゃんを見て、何が起こったかがようやくわかった。
完全に見えなくなったはずの傷跡を亜弥ちゃんの舌がなぞったんだ。
頭を打ったときとは別の眩暈が美貴を襲う。
「ここも、痛かったでしょ?」
「…覚えてたんだ?」
「あったり前じゃん。これでも結構悩んだんだから。
みきたんの顔に傷残しちゃったらどーしよ、って。
なんかみきたん、あたしといると怪我させてばっかだね」
ま、たしかに。
でもそんなことは大して気にならなかったし、気にしようとも思わなかった。
正直、亜弥ちゃんが離れていきそうになったことの方がこたえたよ。
「ほんとにいろいろ、ごめ…」
頭を下げかけた亜弥ちゃんの口を手で塞ぐ。
「謝んなくていいよ」
亜弥ちゃんは大きな目をパチパチと瞬かせる。
- 467 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:10
- 「いいから。その代わり、美貴のお願い聞いて」
亜弥ちゃんは口元にある美貴の手に自分の手を重ねた。
「そばにいてよ。できるだけずっと、美貴のそばにいて」
手をスライドさせて頬に沿わせると、亜弥ちゃんの手も一緒についてきた。
障害物のなくなった口に顔を寄せる。
唇同士をそっと重ねると亜弥ちゃんはキュッと目を瞑った。
押し付けることも離れることもせず。
頬、顎、首、耳朶と順に唇を滑らせた。
美貴が息を漏らす度、ビクッと素直に反応する体。かわいい。
最後に、唇の端にチュッと音立てて口付けると、
重ねられたままの亜弥ちゃんの手に心なしか力がこもった。
潤みを帯びた瞳を見上げる。
「簡単なことだよ。だって、うちらの気持ちはおんなじでしょ?」
言った瞬間。
一方的にされるがままだった亜弥ちゃんは美貴の顔を抱き寄せて、熱のこもったキスを。
それが、返事だった。
- 468 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:11
- 「浮気したら許さないんだからね」
腕の中の美貴を見下ろしながら亜弥ちゃんはわざと低い声音をつくった。
あ、またアヒル口。
プルンプルンな唇がさらに誘ってるみたいで困る。
ここで押し倒すわけにもいかないから、視線を外して誤魔化すしかない。
「ふはは。こわっ」
「冗談じゃないよっ。ほっといたら誰とでもべたべたべたべたするでしょあなた」
亜弥ちゃんは、やれテレビで抱きついただの、
コンサートでチュー(実際はしてない)しただの、
メンバーのうちの数人の名前を挙げた。
ごく最近記憶にあることまで出てきたから、連絡を取っていなかった間も
美貴のことを気にかけてくれていたんだと気付く。
「今度やったら怒るよ」
「しないよぉ。したいのは、亜弥ちゃんとだけ」
「えぇー?ほんとにぃ?」
「ほんとだよ」
ここは譲れない。だって。
「ダイスキだもん」
- 469 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:11
- 亜弥ちゃんがポカンと口を開いたまま固まった。
美貴の意地っ張りな性格を知り尽くした亜弥ちゃんは、
ここまでストレートな言葉が飛び出すとは思っていなかったはず。
こんなこと言えるなんて自分でもビックリだけど、今ぐらいは言わせて。
「めちゃくちゃ、どうかなっちゃいそうなくらい、亜弥ちゃんが好きだよ」
「……」
「あ。間違えた。どうかしちゃいたいくらい、だった」
タコ並みに赤くなって唸った亜弥ちゃんは、美貴の手を取ってすっくと立ち上がる。
「病院行こ」
「へ?」
なんでまたいきなり?おかしくなったと思われた?
それとも亜弥ちゃんの気に障ることでも言った?
さっき言ったことが亜弥ちゃんを不快にさせたっていうんなら、かなりショックなんだけど。
呆然とする美貴を、亜弥ちゃんは恥ずかしそうに見つめる。
- 470 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:12
- 「まだちゃんと検査してないんでしょ」
「う、うん。そりゃそうだけど」
「じゃあ、早く行こ。それで一緒に帰って、一緒にゴハン食べて、一緒にお風呂入って、一緒に寝るの」
そうすることの意味。
今までとは全くわけが違うということ。
きっと、亜弥ちゃん自身わかって言ってる。
その証拠に、亜弥ちゃんの言葉は最後に行くに従ってだんだんちっちゃくなっていった上、
掠れ声で聞き取りづらかった。
「なんか文句ある?」
「ないね」
ベッドを降りて亜弥ちゃんの隣に並ぶ。
今度はすきま風の入る余地はなかった。
- 471 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:12
-
- 472 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:12
-
「ぅあー。ねむーい」
大きめの声でぼやいて長椅子に倒れ込む。
傍にあった鞄を引き寄せ枕にして目を閉じると、
近くにいるはずのメンバーの声が心なしか遠ざかる。
ここのところ睡眠不足が続いている。
仕事の合間に楽屋で寝てばかりの美貴を見て、矢口さんや安倍さんは
『昔のごっちんみたい』だなんて笑うけど。
理由はある。でも言えない。
人には言えない理由がある。
- 473 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:13
- 昨日の夜も亜弥ちゃんは美貴の家にやってきた。
御飯の食べさせ合い、テレビ見ておしゃべり、一緒に泡風呂、といういつものコースが続いた後。
「みきたん、カモーン」
照れ笑いしながら美貴をベッドに導いた。
「大胆だねぇ。亜弥ちゃん」
そう言ってからかうと耳まで真っ赤にして美貴の頬っぺたを引っ張る。
恥ずかしくなるなら言わなきゃいいのに。
でも、やっぱりやめないで欲しい。
背伸びするのも恥じらうのも、すごく可愛いから。
美貴が触れると亜弥ちゃんは驚くぐらい反応を示して乱れる。
いくら触れても足りなくて。
指で、唇で、舌で体中に想いをぶつけると、
亜弥ちゃんは息をするのも苦しそうに切なげな瞳で美貴を見る。
「…っ……たぁん……」
甘さと依存と羞恥心の入り混じった声が。
もっともっととせがむように縋りつく手が。
熱でもあるんじゃないかと思ってしまうくらい紅潮する肌が。
目に、耳に、心に焼き付いて離れない。
そういう意味では離れている時も二人ずっと一緒だった。
もしかして美貴、やらしすぎ…?
- 474 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:13
- 「うぅー…」
一眠りするつもりで寝転んだのに、昨夜のことを思い出していたら眠れなくなってしまった。
幅の狭い椅子の上でゴロゴロと寝返りを打つ。
「ミキティーどうしたんだろ?」
「さあ…ヘンな夢でも見てるんじゃない?」
「落ちないかなあ」
辻・加護コンビの明らかにわくわくした口調。
普通心配するでしょーが。
近くでキィキィキィキィ笑いやがって。絶対に落ちてなんかやらない。
急にまわりの声がピタリと止んだ。
人の被さる気配がして、狸寝入りを続ける美貴の耳元にふっと囁き声が入る。
「起きてんでしょ。みきたん」
- 475 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:14
- 「……。はあっ!?」
がばりと身を起こすと亜弥ちゃんが後ろにちびっこ二人を従えながらくすくす笑っていた。
「空き時間できたから、来ちゃった」
やばい。うれしい。うれしいぞ。
そりゃ、昨日も会った。確かに会ったさ。けど、何度会っても会い足りない。
慌てて椅子を降りようとすると、手を着こうとした先の場所では椅子が途切れていた。
バランスを崩して転がり落ちてしまう。
「わーい。やっぱり落ちたぁー」
「……」
顎を上げ気味で睨み付けると
小悪魔コンビは悲鳴とも奇声ともとれる声を上げながら逃げていく。
邪魔者二人を追い払って、美貴は亜弥ちゃんが座れるよう隣を空けた。
「えへへぇ」「うふふぅ」
お互いの体に片腕をくるり。
意味を成さない笑い声を二人漏らして、亜弥ちゃんが美貴の肩に頭を乗せたところで
大きな影が部屋の明かりを遮った。
- 476 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:14
- 「あらぁ。仲の良いこと。お二人さん」
「げ」
今度は別の最悪にして最大級の悪魔がやってきた。
さっきのは前座だったのか。
「どっこらしょ」
オバサンくさいかけ声つきで、美貴と亜弥ちゃんがくっつこうとしているのにも構わず、
飯田さんはムリヤリ間に割り込んだ。
この前の一件、何がショックだったって、この人と美貴の仲が疑われたことだ。
ある意味一番の衝撃かもしれない。
ありえないんだけど実際。
普通にしてたら綺麗なお姉さんなのに。
飯田さんは、怪しい笑みを浮かべて美貴と亜弥ちゃんを交互に見た。
「最近美貴ずっと眠たそうだよねー。なんでかなあ?何か眠れないことでもあるのかなあ?」
かけ声はオバサンで話す内容はオッサンか。
こんな人が国民的アイドル集団のリーダーになれるなんて世も末だ。
珍しく言葉に詰まってオロオロする亜弥ちゃんは見るに見かねた。
だめだよ亜弥ちゃん。そんなじゃ飯田さんの思う壺だよ。
よし、ここは美貴が。
「仕事に一生懸命すぎで疲れてるんです」
「ふぅーん。そーなの?松浦」
「だからなんでそっちに聞くんですか!?」
- 477 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:15
- なおも亜弥ちゃんに話を持ちかけようとする飯田さんと言い合っているうちに思った。
この人が前と変わらずうちらに干渉するのは、美貴と亜弥ちゃんがこの前のことを思い出して
気まずくならないようにする為じゃないのかな。
わだかまりをなくす為じゃないのかな。
そう考えると、この小競り合いも楽しいことのように思えてくる。
飯田さんを挟んで亜弥ちゃんと視線を交わす。
亜弥ちゃんは意を汲んだようにして立ち上ると、美貴の前までやってきて
膝の上に横座りになった。
これなら邪魔できませんね。
勝った気になって隣を見ると、なぜか飯田さんの方が勝ち誇った顔をしている。
何も言わずに不敵に笑って、美貴の頭にポンと手を置くと、立ち上がって行ってしまった。
「へーんなの。飯田さん、どうしたんだろうね?」
いつもはしつこいぐらい纏わりついてくるのに。
そう言いたげな亜弥ちゃん。
そこで、美貴が自分とは違う表情をしていることに眉を寄せた。
「うん。変だよ。飯田さんは」
くくっと笑いながら目の前の体を腕の中に閉じ込める。
- 478 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:15
- 「なぁに、みきたん!隠し事ぉ?」
「そんなんじゃないって」
亜弥ちゃんはしばらく暴れて、それでも腕の力を緩めようとしない美貴に
諦めておとなしくなった。
「怒った?」
「……」
「亜弥ちゃーん?」
そっぽを向いて何も言わなくなった亜弥ちゃん。
顔を覗き込むと、美貴の大好きな亜弥ちゃんの香りが鼻を掠める。
その瞬間、心の中に潜んでいた悪戯心が首をもたげた。
突き動かされるままに服の裾から手を差し入れ、滑らかなお腹をするりと撫でる。
「ふわぁ!?」
素っ頓狂な叫び声に苦笑しつつ、亜弥ちゃんに顔を近づける。
亜弥ちゃんはとてもうれしそうに目を閉じた。
狭まる空間。
二人の間は今
確かに、ずっと、近いキョリ。
- 479 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:16
- ムギュ
「「?」」
んん?
予想外の位置に思いも寄らない圧迫感。
お互い目を開くと鼻と鼻とがくっついていた。
ひとまず顔を離しては、互いの鼻のさすり合い。
近すぎるのも考えものかな?
…なんてね。
- 480 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:17
- fin.
- 481 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:17
- 『CLOSE RANGE』終了です。
最後までお付き合い頂いた読者の方々、ちらりとでも目を通して下さった方々も
本当にありがとうございました。
なんとか終わらせることができてホッとしています。
気軽に楽しんでいただけるものをと思って書き始めた話でしたが、
どこから逸れ始めたのかワケのわからない展開になったりイタイ話になりかけたり。
時系列がおかしいところも多々ありますが、なにせ半年近く前の話ということで勘弁して下さい。
書いた本人が一番混乱しておりました。
誤字・脱字が多かったこと、途中で長時間更新を怠ってしまったことも
改めてお詫びさせていただきます。
最後の方は小分けにしようかとも考えましたが、また区切る所で悩まされそうなので
一気に上げることにしました。ダラダラした内容で申し訳ないです。
更新が遅れたのは連休中遊び呆けてたせいだなんて言えません。(言っちゃってますが)
このスレの残りは短編や中編で埋めていけたらと思っています。
とりあえず例の短編の続編は書き上げるつもりです。
いつ上げられるかはわかりませんが、気長にお待ち頂けると幸いです。
- 482 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:18
-
- 483 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:18
-
- 484 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:18
-
- 485 名前:山人 投稿日:2004/05/08(土) 00:34
- >>438-443
たくさんのレス、ありがとうございました。
最後まで書ききることができたのはひとえに読者の皆様のおかげです。
更新する度に半端なところで切ってしまい、さぞかし嫌な思いをさせてしまったことと思います。
申し訳ありませんでした。
また長い話を書くことがあれば(あるのか?)、もう少し定期的に更新していきたいです。
それでは、また。
- 486 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 07:07
- 山人さん連載お疲れ様でした。
- 487 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/08(土) 07:49
- 連載お疲れ様でした。
本当、面白かったです。やっぱあやみき最高!
例の短編の続編すっげー期待してますので頑張ってください。
- 488 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 09:08
- めちゃめちゃ萌えました。
ほんと、あやみき最高!山人さん最高!!
俺も例の短編の続編楽しみにしてます!!
- 489 名前:名無しマスク 投稿日:2004/05/08(土) 14:27
- 今までの更新お疲れ様でした。
毎度毎度ワクワクしながら読ませて頂いていました。
確かに半ば痛い話になったりで、この後一体どうなってしまうのだろう・・と
少し心配して読んでいました。
でもそういう話があってこそこのみきあや小説が出来上がったわけで、ほんとに素晴らしく
萌えさせていただきましたw
これも作者様の小説の醍醐味だと思います。
またいつか作者様のみきあや小説に出会えることを期待しています。
本当にお疲れ様でした。そして有難う御座いました。
- 490 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/09(日) 00:07
- お疲れ様!そしてありがとう!
ビバあやみき!ビバ山人さん!
- 491 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/13(木) 14:13
- すっごいおもしろかったです!
山人さんのあやみきもっと読みたいです!
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