白痴

1 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 01:09
───何も知らないということは、とても幸せなことだ

例えば、そこが光の射さない暗い部屋だとしても
あたしが「ここは とてもあかるくて 一番あたたかい部屋だ」と
嘘をつき続ければ、きっと無邪気で素直で純粋なあの子は
疑いもせず「しっている」と答えるだろう
疑わないから 「信じる」という疑う余地のあることを示す言葉はつかわない
彼女はきっと「とてもあかるくて 一番あたたかい部屋」にすんでいる自分に幸せを感じるだろう

彼女が幸せなら それでいいじゃないか

あたしは彼女に何も教えないことで 彼女を幸せにできると思っていた


───そう信じていた・・・・・。



   
2 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 01:38
※※※※※※※※※※※※※※※

───また当たり前のように、朝がくる。

石川梨華は、今日もいつものように眠い目をこすりながらも
窓のむこうの景色を眺めながら、コーヒーを飲んでいた。

────でもいつか・・・この「当たり前」の朝は「当たり前」ではなくなる

梨華はコーヒーを飲み干すと、コーヒーカップをテーブルに置いた。
そして 二階に上がる。

─────この島は あと 数年で

階段を登りきって、目の前のドアを軽くノックする。

──────沈む

「がちゃっ」という音とともに、ドアが開いた。









3 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 01:55
中から可愛らしい少女が出てきて、笑顔で(でも少し眠たそう)
梨華を迎えた。
その笑顔は 何も知らない子供そのものだった。
梨華はその笑顔を見て、嬉しそうに頷くと

「お買い物、してくるね」

と笑って言った。
その言葉に、少女は心配そうな顔をした。

「きをつけてね、りかちゃん。おそとのせかいはとってもきけんなんでしょ?」

少女の心からの言葉に、梨華はチクリと胸が痛んだ。
でも何事もなかったかのようにいつものように笑顔でこう言う。

「うん。大丈夫よ、昨日だって大丈夫だったんだから・・・」

その「嘘」の言葉に、少女はとびっきりの笑顔をみせた。

「ぜったいだよ。むりしないでね」



4 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/05(日) 02:19
これ以上、その綺麗な言葉を聞いていられなくなって
梨華は少女の部屋を出て行こうとした。
でもいつもしている「注意」は忘れない。
「いい?カーテンを開けてはダメよ。悪い人にさらわれてしまうかもしれないから。
 そして家に誰かがきても、でてはだめよ。いないフリをするの、いいわね?」

梨華のその言葉に少女は、素直に頷く。
梨華はその反応に満足するすると、部屋を出て行った。
階段を下りて、外に出る準備をする。

────この島は、あと数年で沈んでしまうけど

サイフをとって、着ているジャケットのポケットにいれる。

────そのことさえ あの子はしらない

鏡の前に立ち、容姿をチェックする。
そして外の世界と家の区別をつけるドアのノブに手をかけた。

────ああ、それと

がちゃっという音がした。
ドアを開くと同時に、梨華の右足は先に外の世界へ踏み出した。

───おそとのせかい っていうのはそんなに危険じゃない

ドアの向こうには 「平和」で「平凡」な世界が広がっていた。
みんなが笑っていて、天気は昨日と同じように晴れていて
上を見上げると、青い空がひろがっている。
梨華は家のドアの鍵をしっかり閉めて、歩き出した。
そしてそっとつぶやいた。
「そしてあの子はあたしの嘘にさえ気づいていない・・・」
誰も聞くことのない言葉だった。

5 名前:リエット 投稿日:2003/10/05(日) 04:12
思わせぶりな引き…。
これからどうなるんでしょう。
6 名前:でぃどる 投稿日:2003/10/06(月) 21:39
どうもー。某所の38です。
新作、おもしろそうで楽しみっす。
期待してます!!
7 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/08(水) 17:09
買い物に向かう途中、数人の子供たちが梨華の傍を通り抜けていった。
子供たちはキャッキャ、と無邪気にはしゃぎながら
太陽の光を浴びて、笑っている。
「何も知らない人」から見れば、それは微笑ましい光景であっただろう。
でもこの島やこの島に住んでいる人達の運命を知る梨華たちにとってみれば
それはかなり痛々しい光景であった。
だけど、子供達を見る人々の目は優しく、笑顔さえ浮かべている。


────みんな 知らないフリをしている
    
梨華だけは、笑うことができずに無表情で道を歩いた。

────この島が、沈んでしまうこと 

   そして・・・・

梨華はふと、ある白い建物の前に足を止めた。
少し考え込んだ後、そっと細い腕をのばしてその建物のドアを開けて
中に入った。
中には梨華に背を向けながら、机の上のカルテを整理している
背が高く、色の白い・・・梨華と同じくらいの年の少女がいた。


────自分の命が、肩寄せ合って暮らした島の人々の命が、
    
             もう長くはないことを・・・

梨華は、小さなため息をついた。

────みんな 知らないフリをしている
8 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/08(水) 17:34
背の高い少女───吉澤ひとみは振り返らずに、感情のこもっていない声で

「・・・ああ、きたの」

とぽつりと言った。
梨華も負けずに感情のこもっていない声で

「ええ、きたわ」

と短く返事を返した。
その会話はとても奇妙なものだったが、二人にはこれが普通らしい。
しばらくの沈黙の後、ひとみが初めて梨華と向き合った。

「で、何の用?」

ひどく冷たい言葉だったが、梨華には全く気にならなかったらしく、
無表情のままこう答えた。

「さゆみのことなんだけど・・・」

その言葉を聞いたとき、ひとみの顔は何故か少し歪んだが
梨華は全く気づいてないようで、ただひとみの言葉を待っていた。

「ああ・・・あの子」

そうつぶやくと、ひとみはまた梨華から背を向けた。
梨華はまともな返事を返そうとしないひとみに
少し機嫌を悪くしたようで

「診断の結果はもうでたんでしょ?はやく教えてよ」

と、イライラした声で言った。
でも無表情なのは変わらなかった。
ひとみはその声をきいて、意地悪そうな笑顔を浮かべて
振り返り、こういった。

「君はあの子に何も教えてやらないくせに、自分は知りたがるんだな」

その言葉に、梨華は初めて顔に感情を表し、
ひとみを睨みつけた。
ひとみはその反応にも、ひるむことなく嬉しそうに、楽しそうに笑っている。



9 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/08(水) 18:08
「まあ、まあ。落ち着いてよ。かわいい顔が台無しだよ?」
意地悪そうに笑ったまま、ひとみはそういった。
梨華はまだひとみを睨んでいる。
でもやがて諦めたように、「ふぅ・・・」と小さくため息をつくと
梨華はひとみに背を向けて、建物から出て行こうとした。

「・・・診断結果はまだでていない」

ひとみのその言葉に、梨華は立ち止まった。

「・・・そう。忙しいものね、ひとみちゃんは」

「そういうわけじゃなくて・・・」

ひとみは頭をかきながら、相変わらず感情のこもっていない声で
そういった。

「あの子のこと、まだわからないことだらけなんだ。
 だからもうちょっと待っていてくれないかな?
 結果がでたらこっちから知らせに行くよ」

ひとみの意外なその言葉に、梨華は内心少し驚きながらもうなづいて
ドアをあけて建物から出て行った。

ひとみはその後も、梨華がでていったドアを見つめていた。
10 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/08(水) 18:24
隠し
11 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/08(水) 18:24
隠し
12 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/08(水) 18:25
隠し
13 名前:リエット 投稿日:2003/10/08(水) 22:40
更新お疲れ様です!
道重さんのことも島のこともどうなるのか楽しみです。
14 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/08(水) 23:16
>リエット様  レスありがとうございます!
        もうすぐテストがあるんで更新遅れるかもしれないんですが
        がんばりたいと思います!!

>でぃどる様  期待していただいてうれしいです!!
        テスト終わるまであまり更新できないと思いますが
        スレ両方ともがんばります!!
        レスありがとうございました。
15 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/12(日) 17:59
───
──


梨華の家の2階に住む少女──さゆみは、
いつものように白い壁にもたれかかって
カーテンのかかった窓をみつめていた。
梨華が「危険だ」と言っていた『おそとの世界』を
こうやって想像するのが、さゆみの毎日の楽しみだったりする。
梨華のいうとおり、『おそとの世界』には危険なものであふれているかもしれない。
でもさゆみの想像する『おそとの世界』には不思議と
梨華のいう『危険なもの』は何一つ出てはこなかった。
朝、梨華に言われた『怖い人たち』も全く出てはこない。
実はさゆみは『危険なもの』についてあまりよく知らなかったりする。
『怖い』『危険』というキーワードで思いつくものと言えば
『雷』、『暗い夜』、『怒った梨華ちゃん』くらいである。
でも怒った梨華を見て、「怖い人たちっていうのはこういうことなのかな?」
と、なんとなく理解していたりもする。
さゆみがまた独りでいつものように『おそとの世界』について考えていた・・・

───そのとき

16 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/12(日) 18:23
───ガチャッ!

突然閉めていたはずの窓が開き、たくさんの光が部屋に射しこんだ。
さゆみは何がなんだかわからずに、ただ太陽の光の眩しさに
目を細めていた。
やっと目が慣れて、ちゃんと窓を直視できるようになったとき
さゆみの目に、女の子の姿が映った。
その時、

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

気づいたときにはただ、驚きのあまり叫んでいた。
窓から入ってきた少女は、その悲鳴を聞いて
はじめてさゆみの存在に気づいたようだった。
急いでその少女は窓を閉めると、さゆみの口を手でふさいだ。

───怖いっ!怖いよぉ!!りかちゃん!!!

さゆみは必死で心の中で梨華の名をさけんでいた。
そのとき、窓から入ってきた少女は苦しそうな顔をしてこういった。

「なんにもしないよ!!だから・・・ちょっとアタシを隠しててくれない?」

───えっ・・・?

さゆみがおとなしくなると、少女はやっとさゆみの口から手を離した。
さゆみはまだすこし恐怖で体が震えていた。
そんなさゆみに

「大丈夫、アタシもうすぐでいなくなるから・・・。だから安心しなって。」

窓から入ってきた少女は少し悲しそうに微笑んでこういった。
その微笑みを見て、さゆみはなんだか恐怖心が少し薄れていくのを
感じていた・・・・。

17 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/12(日) 18:24
隠し
18 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/12(日) 18:24
隠し
19 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/12(日) 18:24
隠し
20 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/16(木) 13:57
少女は窓のほうへ駆け寄って、おそるおそる窓の外を覗き込んだ。
しばらくそうやって外を眺めていたが、やがて「ふぅ」とタメ息をつくと
さゆみのほうへ戻ってきた。

「ああ、もう大丈夫みたい。だからアタシいくね?」
「えっ??」

さゆみが今の状況を必死で理解しようとしている間に、少女はまた窓のほうへむかった。
さゆみはどうしていいのかわからずに、ただ少女の背中を見つめていた。

「ああ、あと──」

突然窓に向かっていた少女が振り返った。
その声にさゆみは肩をびくっ、とさせた。

「───脅かして悪かったよ。ごめんね・・・ありがとう」

少女の活発そうな容姿とは似つかないほど、静かで優しい声だった。

「あ・・・」

さゆみは何かを言おうとしたが、声が出てこない。
その間に少女は窓に足をかけて、外に出ようとしていた。

───その時

「あ、あのっ!!」

「・・・えっ?」

気づいたときにはもう、大声で話しかけていた。
さゆみの声に、少女は振り返り、窓から出ようとする動作を止めた。
なぜわざわざ知らない人間──しかも勝手に人の部屋に入り込んできた人間を
引き止めたのか、さゆみ自身よくわかっていなかった。
でもなんだか引き止めなければいけない気がしていた。

さゆみは一度大きく深呼吸をすると、窓のほうで目を丸くして
こちらを見つめている少女にむかってこういった。


───「・・・・なまえ  おしえてください」


二人のあいだに、窓からはいった光が射しこんだ。
21 名前:梨華のささやき 投稿日:2003/10/16(木) 14:11
───幸せを見つけた先には 一体何が待っていると言うのだろう?

やっと大切な何かに気づいても、それを守ろうと誓っても

そこにはもう 『悲しみ』が水面の泡のように浮き上がっている

───一体 幸せってなんなんだろう?

私達は普通に、平凡に退屈に暮らしていくことさえ儘ならない

しあわせってなんだっけ・・・?

死ねば今まで頑張って積み重ねたものさえ 一気に・・・


───崩れ去ってしまうというのに

ねぇ・・・小さい頃に描いてきたものは  


・・・なんだっけ?

22 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/16(木) 14:45
梨華は買い物を終えて、家にかえってきた。
梨華が魚を買った店の隣の店では、万引きがあったらしく
ちょっと騒がしかった。
「餓鬼なんぞにウチの商品が盗まれるとは・・・!」
というそこの店長の言葉が印象的で、今でもしっかり覚えている。
テーブルの上に荷物を降ろすと、二階にあがって
さゆみの様子を見に行った。

───コン、コン

軽くノックをすると、可愛らしい少女──さゆみがいつものように梨華を迎える。

「りかちゃん、おかえりなさい」

笑顔でそう言うさゆみに梨華は満足げに

「ただいま」

と言った。

梨華は自分の身体に抱きついてくるさゆみを受け止めながら、
さゆみの部屋を見回した。
カーテンは開いてないか、変わったところはないか、さりげなくチェックした。
みたところ、変わったところは見つからない。
梨華は、さゆみの部屋のチェックをし終えると、
「晩御飯つくってくるね」
と言い、部屋から出て、一階に下りた。
梨華が部屋からでていくと、さゆみは机の引き出しをこっそりあけた。
中にはスケッチブックが一冊にクレヨンの箱があった。
そのスケッチブックを、さゆみはドキドキしながら開いた。
スケッチブックの最初のページに、活発そうなポニーテールの女の子の絵がクレヨンで描かれていた。
その女の子の絵の横には『れいな』という文字がかかれている。
さゆみは嬉しそうに微笑みながら、その文字をそっと指でなぞった。

23 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/16(木) 14:45
隠し
24 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/16(木) 14:45
隠し
25 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/16(木) 14:45
隠し
26 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 18:37
田中れいなは、夜道をたった一人歩いていた。
皆夕飯の時間らしく、誰かの家の前を通るたびに
ご飯のいいにおいがした。
夕飯の時間になると道を歩いていても、あまり人に逢わなくてすむので
内心れいなはホッとしていた。
夕方は一番嫌いだった。
───公園で遊ぶ子供を迎えに来る母親、
   
   当たり前のように手をつなぎ、楽しそうに会話をしながら家へと帰っていく親子の後ろ姿、
  
   逆に誰にも迎えに来てもらえずに、 たった一人夕陽の中に取り残される自分・・・


───思い出すだけで頭が痛くなった。胸が切なさでいっぱいになった。
   
誰かの家を通るたび、小さな子供の声と笑い声を上げる父親と母親の声がした。
・・・うんざりした。
忘れたくて、そんな声はもう聴きたくなくて
れいなは暖かそうな明かりが灯る家々を、次々と追い越していった。




  
   

27 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 18:54
───(・・・見ていたいのはそんなもんじゃない)

気づいたられいなは駆け出していた。
一人でこの道を歩くには・・・孤独すぎた。
息が切れそうになったが、立ち止まりたくはなかった。
息を切らしながら、少し泣きそうになりながら
れいなは一人で夜道を駆け抜けた。
風をきる音が耳で響いた。

───(・・・聞いていたいのはそんなもんじゃない)

やがて、明かりが灯る家々が見えなくなると
れいなはやっと立ち止まった。
そこにはコンクリートで作られた家が建っていた。
その家には明かりがなく、とても真っ暗だった。
周りにはその家以外、建っている家はなかった。
しかもその家の周りは草がボーボーで、とても普通の人が住めるとは思えない。
でもれいなはその家にたったひとりで住んでいた。
コンクーリートでできた家はもうボロボロで、ところどころに穴が開いていて
手抜きの後があった。
28 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/20(月) 19:07
れいなはそっと家のドアをあけた。
木でできたドアがギィ・・・と音をたてた。
家には当たり前だが誰もいなかった。

「・・・ただいま」

れいな一人の声が、家の中に響いた。
返事が返ってこないのは、知っていた。
でも返さずにはいられなかった。

───(家になど・・・帰りたくはなかった)

れいなは上から羽織っていたカーディガンを椅子にかけた。
そしてなぜか二つあるベッドの片方をみつめた。

───(あの家々に住む人々の持っている当たり前の団欒や夢もぬくもりも・・・
    
    きっとアタシには何一つ手に入れることができないんだよ・・・)

れいなは力なく微笑んだ。

今日も孤独で長い夜が続きそうだ。

月がれいなが生き延びるために盗んできたテーブルの上の食料を照らした。

外で虫の鳴く声がした。


29 名前:幸せになんか、なれない。 投稿日:2003/10/21(火) 18:40
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

また、いつものように朝がきた。
梨華は眠い目をこすりながらコーヒーを飲んでいる。
買い物も昨日のうちに済ませたので、特に外に出る必要もなかったが
なんとなく今日はそこら辺をぶらぶらと散歩したかった。
コーヒーを飲み終えて、コーヒーカップを流し台に片付けて
ドアのノブに手をかけた・・・。
その瞬間、さゆみの顔が頭をよぎった。

───(ちょっと出かけてくるだけだし・・・いいよね?)

少し迷ったあげく、さゆみには声をかけずに外に出ることにした。
・・・・この選択が、少しずつ平凡な日々の何かを変えていってしまうことを

    梨華はまだしらない。





30 名前:幸せになんか、なれない。 投稿日:2003/10/21(火) 19:09
ドアの向こうには、いつものように平凡な世界が広がっている。
でもこの世界もあと数年では、姿を変えてしまう・・・。
なんだか寂しい気がした。
「目的」もないまま、梨華はただ目の前の道を歩いた。
しばらく歩くと、自然とひとみが働いている診療所の前で足が止まった。
・・・逢いにいってもどうせ意地悪な顔をされるだけだ、と思い
梨華はさっさとその場を立ち去ろうとした───が

ふと診療所の窓に目をやると、二人の少女の姿が目に映った。
一人目は黒髪の少女、
二人目はオレンジ色の髪の少女。

梨華の頭に、見覚えのある二人の少女の姿が浮かび上がった・・・。

   ───高橋愛   小川麻琴・・・

黒髪の少女、高橋愛はベッドに横たわりながらオレンジ色の髪の小川麻琴をじっと見つめている。
麻琴はただ唇をぎゅっとかみ締めて、愛のベッドの横に突っ立っている。
・・・その顔には「怒り」という感情が表れていた。
二人の話し声がかすかに漏れて、外にいる梨華の耳にまで届いた。
───盗み聞きはよくない、と思いながらも、梨華はつい聞き耳を立ててしまった。
どんな話をしているのか、非常に興味があった。



31 名前:幸せになんか、なれない。 投稿日:2003/10/21(火) 19:25
「それっ・・・どういうこと!!」

まず麻琴の声が聞こえた。
叫ぶように愛に問いかける麻琴の声は、微かに震えていて、
「怒り」だけじゃなく「悲しみ」の感情が見え隠れしていた。
目にうっすらと涙を浮かべながら、キッと睨み付ける麻琴を目の前にして
愛はただ微笑んでいる。
何故この場において微笑んでいるのか、梨華には全く理解できなかった。
きっと、愛の目の前にいる麻琴もそうに違いない、と梨華は思った。
愛はしばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。

「・・・・そのままの意味だよ」

澄んだ綺麗な声が聞こえてきた。
麻琴はその言葉にさっきよりも愛を睨み付けた。
愛は全く動じることなく、次の言葉を発した。

「『あーしがもし記憶を失くしたら、あーしのことはもう忘れてもいいよ?』
  って、・・・そう言ったの」

・・・そういう意味だよ、と愛は悲しそうに笑って
初めて麻琴から目を逸らした。

梨華にはようやく、話がみえてきた。
麻琴の肩が震えている・・・。
32 名前:幸せになんか、なれない。 投稿日:2003/10/21(火) 19:46
「ずるいよ!愛ちゃんは!!」

麻琴は大声で叫んだ。
愛はその言葉に、肩をすくめた。

「忘れられるわけないじゃん!・・・それ知ってて言ってるんでしょ!!?」

泣き喚くようにそう言う麻琴の姿をみて、梨華は驚いた。
あんなに泣き喚くほど怒りくるっている麻琴を、梨華は初めて見た。
愛はなにも言えずに、ベッドの端で縮こまっている。

───麻琴から目を離したまま、唇をかみしめて・・・

愛の身体も、麻琴の身体も震えている。
その光景は、梨華の目に寂しく映った。
麻琴はその場にいられなくなったのか、愛の傍を離れてどこかへいってしまった。
一人取り残された愛は、声を押し殺して泣いている。
愛のすすり泣く声───嗚咽が梨華の耳で木霊していた。

梨華は窓から目をそらして、空を見上げた。
こんなに悲しいことが起こっているのに、空は雲ひとつなく晴れている。
なんだかそれが梨華には寂しくて・・・悲しかった。
同時に何も変わらない世界にたいして、怒りを感じていた。


────あたし達のだれかが死んでも、世界は変わらない

太陽の光が、眩しかった。

────孤独や寂しさや恐怖感で・・・・

      喉はいつも    カラカラなんだ・・・。

すぐ近くで愛のすすり泣く声が聞こえる。
でも梨華にはどうにもできないまま・・・。
すぐ近くにあるのに救えない悲しみが、決して幸せにはなれないと
いうことを梨華に教えてくれた。




33 名前:生きていたい気持ち 投稿日:2003/10/22(水) 21:43
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

コンクリートの穴から、太陽の光が差し込んでいる。
外で小鳥がちゅんちゅん、と鳴いている。

「んっ・・」

くぐもった声を上げながら、れいなが目を覚ました。
もう少し寝ていても別に問題なかったが、もう目を閉じていたくはなかったので、ベッドから
身体をおこした。
一人でこの家に住むようになってから、夜はあまり眠れなくなった。
その『眠れなくなった』理由はもうわかっていたが、死んでも認めたくないと思った。
だからあまり思い出さないようにしている。
れいなは少し疲れきった顔をしながら、洗面台で顔を洗い、それから
歯磨きをした。
遠くのほうから、微かに子供のはしゃぐ声がした。
その姿は見えないのに、れいなには子供たちが無邪気に遊ぶ光景が
見えた気がした。
・・・・正直、うんざりした。

────(きっと、アタシはあの子達のようにはなれない・・・)

力いっぱい、水道の蛇口をひねった。
水がいっぱい噴出して、流し台の底に当たって跳ね返った水滴が
れいなの顔を少し濡らした。
しばらく、その水が飛び散る音を聞いていた。
・・・全て忘れてしまえたらいいと、思った。
蛇口を閉めると、今度はタンスから適当に服を引っ張り出し、それに着替えた。
そして少しひび割れた鏡の前に座り、プラスチックでできた『くし』で
髪を梳いた。
髪型はいつもと同じ、ポニーテール。
出かける準備が整うと、れいなはさっさと家を出た。
食料をまた盗んでこなければいけないし、なにしろ
・・・家にはいたくなかった。
一歩一歩踏み出すたびに、下でサクサクッ、と
草を踏み潰す音が聞こえる。
なんだか寂しくて、れいなはもっとはやく、歩いた。
そうすればするほど、草を踏み潰す音は速くなり、
れいなの後を追っかけてくるようだった。

───その音が、リアルに死の恐怖を感じさせた 。

歩きながらふと、まだ死にたくないな、とれいなは思った。






34 名前:生きていたい気持ち 投稿日:2003/10/23(木) 16:53
朝から万引きをするのも気が引けた。
足が重く感じる。
れいなはそんな自分に苦笑して

───(全く「今さら」なことだなぁ・・・)

と心の中でつぶやいた。
万引きをし始めて、もう数年の月日が流れていた。
──今さら心を痛める必要はないのだ、
心を痛める資格さえ、自分にはないのだと、れいなは思った。
35 名前:生きていたい気持ち 投稿日:2003/10/27(月) 18:31
れいながふと立ち止まると、目の前に一軒の家があった。
この前、万引きをしたときかくまってもらった女の子の家だった。

「・・・・・・」

何も用はないはずなのに、れいなはしばらくその家の前で立ち止まっていた。
ふと、あの女の子の顔が頭に浮かんだ。

『・・・なまえ おしえてください』

名前などここ数年聞かれたこともなかったので、すごくドキドキした。
女の子の透き通るような白い肌に太陽の光が差し込んで、とても眩しかったのを覚えている。
あの女の子の持つ自分には届きそうにない何かが、れいなを惹きつけてやまなかった。



36 名前:生きていたい気持ち 投稿日:2003/10/27(月) 18:44
れいなは急にきょろきょろと、あたりを見渡した。
そして誰もいないことを確認すると、女の子の家の隣にある木によじ登った。
その木の一番上は、女の子の部屋の窓と同じくらいの位置にあり、
気をつければ簡単に女の子の部屋までたどりつくことができた。
しかし、いざ女の子の部屋の窓に飛び移ろうとすると、
れいなは少し考え込んでしまった。

自分は一体、その子に逢ってどうする気なのか、と。
また脅かしてしまって、迷惑なのではないか・・・・。



37 名前:生きていたい気持ち 投稿日:2003/10/27(月) 18:53
少し戸惑ったあげく、れいなは窓に飛び移った。
相手にとっちゃ迷惑かもしれないし、怖がらせてしまうかもしれないけど・・・
───逢いたい、という気持ちにはかえられなかった。
・・・れいなはそれを認めようとはしなかったけれど。

「別に、好きで逢いたいわけじゃない・・・。ただお礼言わなきゃね・・・」

れいなは自分自身にいいきかせるようにそうつぶやくと、思い切って女の子の部屋の窓を開けた。

「・・・おはよー」

何を言ったらいいのか、よくわからなかったので、適当にそういってみた。
部屋ではあのときの女の子が、目を見開いてこっちをみつめている。
れいなはその姿を見て苦笑すると、いたずらっこみたいに舌をだして
左目を閉じてウィンクしながらこう言った。
38 名前:生きていたい気持ち 投稿日:2003/10/27(月) 19:03
「・・・名前 教えてください」


れいなのその言葉をきいて、目の前で目を見開いている女の子は
しばらくぼーっとしていたが、やがて嬉しそうにうなづいて、
れいなにこっちに来るよう手招きした。
れいなは慣れていないのか、照れくさそうに顔を赤く染めて
恥ずかしそうに笑いながら、女の子の隣に座った。

「いしかわ・・・さゆみ」

れいなみたく照れくさそうに顔を赤らめて、途切れ途切れの小さな声で
女の子は隣りにいるれいなにそうつぶやいた。
39 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/28(火) 23:00
今日始めて読みました。これからもっともっと、とても面白くなりそう
な予感にわくわくします。
ゴロッキーズにメロメロな自分は、この作品にかなり期待しています。
40 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 18:08
※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※


───・・・そのままの意味だよ。


────あーしがもし記憶を失くしたら、あーしのことはもう忘れてもいいよ?


        それで麻琴が幸せになれるのなら・・・


       それでも・・・・・。


41 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 18:21
笑顔をつくりながら、でも悲しそうに目を伏せて

彼女はあたしに確かにそう言った。

彼女の幸せって、一体何なのだろうか?

ガラにもなく、あたしはそのことを一生懸命、考えていた。

仮に今、彼女が『幸せ』であっても、彼女の未来には全く『関係のない』ことなのだ。


だって、彼女は─────



そう、あたしは『愛ちゃん』のことを


───今までずっと、考えていた

42 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 19:12
朝のケンカから、一時間ほど経った。
麻琴は診療所の椅子にただ座っていた。
本当はこの場を一刻も早く去りたかったが、
やはり泣いている愛を独りには、できなかった。
──気まずい空気が流れる。
麻琴の後ろには愛の病室があって、そこから鼻をすする音が聞こえた。


43 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 19:27
──まだ泣いているのだろうか・・・?

少し、いや、かなり愛のことが気になってしょうがなかった。
でも麻琴は意地を張って、なるべくそのような素振りを見せないようにした。
それが子供じみた行為だというのは、麻琴が一番理解していた。
でもやっぱり、認めるのは少し悔しかった。

「愛がいなきゃ、自分はだめだ」と・・・。
44 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 19:47
愛と麻琴が出会ったのは、たしか麻琴が四歳の頃だ。
麻琴は産まれてから今まで、この島で育ったが、愛は違った。
愛は「どっか」の島で産まれて、その「どっか」の島からこの島にきたらしい。
その「どっか」の島が何処にあるのか、麻琴は知らない。
今さら知る必要はあまりない、と麻琴は考えていた。
愛のほうが一個年上で、「お姉ちゃん」と言って慕っていたのを、今でも覚えている。
それが今では名前で呼びあうような関係になっている。
今考えると、それはとても不思議なことのように思えた。
・・・さすがに麻琴はまだ、愛を呼び捨てにはできないけれど。

45 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 20:09
「そういえば、こういうこともあったなぁ・・・」

少し微笑みながら、ぽつりと麻琴はつぶやいた。

あれはたしか、二人が付き合う前のことだ・・・。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

・・・・二人で海に出かけた。

大好きな彼女の澄んだ瞳は、海をしっかりと捉えていた。


「のう、麻琴」

「ん?何??愛ちゃん」

オレンジ色の夕陽が、彼女の横顔を照らした。
その横顔に見とれていると、ふいに彼女が海から目を逸らして
こっちを見つめ返して、ドキドキする暇も与えずにこう言った。

「・・・好き」

「へっ!!!?」


「・・・って、あーしが言ったら・・・どうする?」

「・・・ど、どうするって・・」

───迷う必要などなかった。自分はずっと、愛のことが好きだったのだから・・・。

でも、告白する勇気がなかった。

「女同士」という壁が、越えられずにいた。

46 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 20:33
愛は冗談っぽく笑っている。
だからさっきの言葉が本気なのか、それとも冗談なのか、
麻琴には判断できずにいた。
でも今、「好き」と言わなかったら、この先ずっと
言えなくなる気がした・・・・。
麻琴は覚悟を決めた。
きっと───後悔はしない。

「・・・愛ちゃん」

ん?、と愛が顔をこちらに向けた。
まだいたずらっぽく微笑んでいるが、目は真剣で、しっかりと麻琴を捉えている。

夕陽が、眩しかった。

その時、麻琴は思った。

──愛が自分のことをどう思っているかが問題ではなく、

  ただ今は自分のこの「気持ち」が、しっかり愛のほうへ向かっているということが
 
  一番大切なことではないだろうか、と。

「あたし、好きだよ。愛ちゃんのこと・・・」

「・・・・麻琴・・?」

少し緊張で声が上擦った・・・けれどしっかり彼女の耳には届いたと思う。
だって目の前の彼女はとても、驚いた顔をしていたから・・・。

「これからももっと、好きになるよ・・・愛ちゃんのこと」

47 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 20:43
自分の気持ちを正直に伝えた。
すると、なんだか心が軽くなった気がした。
胸がスッとした。

──(ああ、きっとこれで十分だ。後悔は、しない)

麻琴はそう、心の中でつぶやいた。
「好き」という気持ちが、これほど大事だとは思わなかった。
きっとそれだけで満足だった。

愛は目を大きく見開いたまま、麻琴を見つめている。
麻琴もしっかりと、愛の目を見つめた。
すると、しばらくして愛のその大きな目から、
涙がこぼれた。

「あ、愛ちゃん??」

──自分の告白がそんなに嫌だったのだろうか?と麻琴は少し不安になり、
同時にショックだった。
愛は手で顔を覆って泣いている。

48 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 21:16
「・・・・も」

「えっ?何??」

愛が突然口を開いた。
が、よくきこえなかったので麻琴は愛の口元に耳をよせた。

───そのとき・・・


──ちゅっ

「・・・・!!?」

ふいにほっぺたにキスをされ、麻琴は一気に顔が赤くなった。
愛は泣きはらした顔を笑顔に変えて微笑んでいる。

「・・・あーしも好きだよ」

「へっ??」

麻琴はさきほどのキスにかなり動揺していて、頭が混乱していた。
そんな麻琴を見て、愛はくすくすと笑ってこう言った。

「あーしも麻琴のこと、好きって・・・そう言ったの」

・・・波の音が遠のいた気がした。
49 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 21:32
「ほんとに?!ほんとに本当??」

「あはは。ほんとだよ」

何度も聞き返す麻琴に、愛は無邪気に笑ってこたえる。
麻琴はまだ信じられないようで、もう一度不安げに聞き返した。

「『友達』としてじゃないよ・・・?そのっ・・・」

麻琴が照れたようにもじもじしながら、言葉を詰まらせた。
愛はそんな麻琴を目を少し細めながら、見つめた。

「・・・分かってるよ。『恋人』として、でしょ?」

「・・・うん。でも愛ちゃん本当にいいの?あたし・・・女だよ?」

「・・・関係ないよ。あーしは麻琴と一緒にいたいんだもん。他の誰でもなく麻琴が好きなんだもん」

愛のそのまっすぐな言葉を聞いたとき、麻琴は何度も疑った自分を馬鹿らしく思った。

───(性別とかそういうのは関係ないんだ。あたしが愛ちゃんのことが好きなら、きっと

    それでいいんだ・・・。間違いはない)

麻琴がそう考えていると、ふとシャンプーのいい香りがした。
・・・愛が抱きついてきたのだ。
麻琴は少し驚いたが、笑って受け止めた。
麻琴の胸に、顔をうずめながら、愛がつぶやいた。

「好きになるよ、麻琴のこと。今以上にもっと・・・」

・・・夕陽が沈みかけていた。
夜が近づいて少し肌寒かったけれど、心はぽっと、火が灯ったように暖かかった。

その日は、手をつないで帰った。
50 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 21:37
その日から、二人の距離は急激に縮まった。
手をつなぐのも普通になった。
二人で毎日を過ごすのも、当たり前になった。
時にはケンカもするけれど、二人でいるときは笑顔が絶えることがなかった。
51 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 21:58
──しかし、そんな幸せな日々も長くは続かなかった。

付き合ってから一週間経ったある日、愛が高熱をだして倒れた。
愛の両親が急いで診療所に愛を運び、麻琴はその後を急いでついていった。

・・・ひとみの診断の結果、

───急性脳炎の疑いがある

と告げられた。
高熱をだした結果、愛は小さい頃の記憶を失くしてしまったらしい。
ひとみは「今『現在』のことは何も忘れてないようなので、あまり今の日常生活には問題ない。
 運がいいほうだ」
といっていた。
なんだか頭が真っ白になって、くらくらしてきた。
愛の両親が
「そ、それで!!娘は・・・愛は直るんですか??」
と聞くと、ひとみは眉間にしわをよせて悲しそうに目を伏せてこういった。

「残念ですが・・・・直る見込みはほとんど・・・それに」

──そんな言葉など、聞きたくなかった・・・

「今までの記憶だって、失くしてしまうかもしれません・・・」

──本当のことなど、もう知りたくもなかった

──愛ちゃんはその日以来、入院することになった。

愛の病気を知った日・・・麻琴はそうやって家に帰ったのかさえ、覚えてなかった。

──ただ、頭が真っ白になって、何にも考えられずに無気力になっていたことを覚えている。

その日の夜、麻琴は夜中、独りで声を押し殺して泣いた。


52 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 21:59
×そうやって家に帰ったのかさえ
○どうやって家に帰ったのかさえ

すみません、ミスです・・・。
53 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/29(水) 22:06
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

麻琴は愛が入院して以来、毎日病院にいった。
なんでもなかったかのように、なるべく普通に振舞った。
愛も自分の病気の話はあまり持ち出さなかった。

だから今頃になって、愛が「自分のことは忘れてもいい」などと
言い出したことに、麻琴はとても驚き、同時に悲しかった。
54 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/29(水) 22:07
隠し
55 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/29(水) 22:07
隠し
56 名前:チナ犬 投稿日:2003/10/29(水) 22:09
名無し読者様>レスありがとうございます!
       期待にこたえられるようにがんばります!!
       中途半端な更新で、すみません・・・。
57 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/30(木) 22:46
「ふぅ・・・」

麻琴は深いため息をついた。
もう、今は愛のことだけしか考えられなかった。
いつか、愛の言っていた言葉を思い出した。


───麻琴、ずっと一緒にいてくれる?・・・絶対やよ??


・・・明るい笑顔とは対称的に、その声は不安げに震えていたっけ?

その時、麻琴は何もできずに、ただ愛の手を強く握り締めていた。
二人でいても独りぼっちな気がして、少し寂しかった。





58 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/30(木) 22:58
───(・・・結局は同じなんじゃないだろうか?)

麻琴は振り返って、愛のいる病室のドアを見つめた。
かすかにまだ、愛の嗚咽が聞こえる・・・。
愛を泣かせたことに対する罪悪感が、麻琴の胸を痛めた。

───(愛ちゃんが望むものも、愛ちゃんの幸せも、結局は・・・同じことなんじゃないだろうか?)

しばらくして、麻琴は椅子から立ち上がった。
行き先はもちろん・・・・


───(・・・戻ろう。きっと一番つらいのは、愛ちゃんだ)


麻琴は愛のいる病室のドアのノブに手をかけた。

───ガチャ・・・

その音が鳴ると、鼻をすする音や嗚咽は一気に止んだ。
麻琴はしっかりと、ベッドに横たわり、泣いている愛を見つめた。
59 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/30(木) 23:06
「・・・愛ちゃん」

「ま・・・こと?」

愛の目は赤くなっている。
愛は慌てて、頬を伝う涙を掌でぬぐった。
その様子を見て、麻琴はまた、胸が痛んだ。

「・・・さっきは、ごめん」

くぐもった声でそういうと、愛は目を大きく見開いて、驚いた顔をした。

「なんで!?なんで麻琴が謝るの??」

愛のその言葉に、今度は麻琴が驚いた顔をした。

「えっ、だって・・・」

「麻琴はなんも悪くないって!!あーしのほうが悪いんだよ!!」

そう叫んだ後、愛は悲しそうに目を伏せてこうつぶやいた。

「だから・・・ごめんね?」

60 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/30(木) 23:15
たまらなくなって、麻琴は愛を抱きしめた。
華奢な身体は、触れただけでも壊れそうだった。
でも、抱きしめずにはいられなかった。

「・・・!?まこっ・・」

「・・・ずっと、考えてたことがあるんだけど」

愛の言葉を遮るようにして、麻琴はつぶやいた。

「愛ちゃんの幸せって・・・一体何なんだろうかって。
 
 愛ちゃんのためにあたしにできることって、一体何なんだろう?って」

愛は黙って麻琴の話を聞いている。
数秒の間をおいて、また麻琴がつぶやいた。

「そうやって今までずっと、愛ちゃんのことばかり考えていた」

61 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/30(木) 23:28
愛はまだ黙って麻琴の次の言葉を待っている。
少し軽くため息をついたあと、麻琴はまた、話を再開した。

「愛ちゃん、いつか言ってたよね?
 ・・・あたしが『麻琴が傍にいてくれることが、一番の幸せだ』って」

「・・・うんっ」

愛が泣きそうな声で返事をする。
その声を聞いて、麻琴は泣きたくなった。
またすこし間をあけて、麻琴は言葉を発した。
62 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/30(木) 23:49
「・・・あたしも同じだよ?」

「えっ・・・?」

愛が顔を上げて、麻琴を見つめる。
麻琴もまた、抱きしめたまま、愛を見つめ返した。

「あたしも愛ちゃんが傍にいてくれることが・・・
 
 愛ちゃんと一緒にいるときが一番幸せ・・・」

顔をほんのりと赤く染めて、麻琴はそうつぶやいた。
愛はまだ驚いた顔をしている。
麻琴はそんな愛を優しく微笑んで見つめたが、すぐに悲しそうな顔をしてこう言った。

「だから・・・『忘れてもいい』なんて、言わないでよ・・・」

麻琴の声がだんだん湿っぽくなってきた。
目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
そんな麻琴を見て、愛は泣きそうな顔で

「ごめんっ、ごめんね・・・」

と何度もつぶやいて、麻琴の頭を自分の胸に引き寄せて、抱きしめた。

見えない悲しみに押しつぶされそうになりながら、麻琴は思った。

───どうして好きな人と一緒にいるのに、こんなに寂しいのだろう・・?、と。

───幸せなはずなのに・・・・


疑問は心の中で繰り返されるだけで、決して消えることはなかった。




63 名前:傍にいてほしい人・・・ 投稿日:2003/10/30(木) 23:50
・・・
64 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/30(木) 23:50
・・・・
65 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/30(木) 23:50
・・・・・
66 名前:∬´▽`)川’ー’川 投稿日:2003/10/31(金) 00:23
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
切ない、切な過ぎるよぉ∬´▽`)川’ー’川。
こういうのもろ好み!
作者さんがんがってぇね^^
67 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/10/31(金) 21:19
な、なんて切ないまこあいなんだ・゚・(ノД`)・゚・
作者様、続き期待してますよ。
68 名前:籠の中の鳥 投稿日:2003/11/02(日) 23:44
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「はぁ!?」

部屋にれいなの声が響いた。
さゆみはというと、頭に「?」マークを浮かべながら
首をかしげて不思議そうにれいなを見つめている。
れいなは二、三回瞬きした後、ようやく言葉を発した。

「アンタ・・・ホントに何も知らないんだね・・・」

すこし震えながらそういうれいなに、さゆみはいたって普通にこう答える。

「・・・そうかな?」

「そうかな?じゃないよ!知らなすぎだよ!!」

れいなが大声でそういうと、さゆみは驚いて、肩をビクッと反応させた。
そんなさゆみの様子を見て、れいなはバツの悪そうな顔をして、さゆみから目を逸らせた。

「・・・ごめん。脅かすつもりはなかったんだ・・・」

急に謝られたさゆみはまた、頭に「?」マークを浮かべている。
きっと謝られた理由について、彼女なりに一生懸命考えているのだろう。
れいなはそんなさゆみを見て、今度は苦笑した。

「・・・いいや、わかんないなら・・・」

69 名前:籠の中の鳥 投稿日:2003/11/03(月) 00:04
れいなのその言葉を聞いて何を思ったか、さゆみは優しく微笑んだ。
その無垢な微笑みに、れいなは息を呑んだ。

その一方で、自分はもうこんな風に笑うことはできないだろう、と諦めにも似た何かを抱いていた。

小鳥のような愛らしい、小さな口から、歌うようにスラスラと彼女は言葉を紡ぎだした。


「・・・れいなは優しいね」

───まるでその声は小鳥のさえずりのように。

れいなはしばらくぼーっとしていたが、さゆみの言葉の意味を理解すると、
顔を一気に赤く染めた。

「そ、そんなんじゃないよ!!」

動揺しすぎて、最初の部分はすこし裏返ってしまった。
動揺するれいなの様子を見て、さゆみはクスクスと笑っている。
70 名前:籠の中の鳥 投稿日:2003/11/03(月) 00:16
「あっ!それ知ってる!!」

さゆみはいきなりそう言うと、れいなの顔を両手で優しく挟んで、自分の顔に近づけた。
突然のことに、れいなはまた動揺して、驚いた。
そんなれいなにお構い無しで、さゆみは楽しそうに笑いながら、こう言った。

「熱もないのに顔が急に真っ赤になるのは『照れている』ってことなんでしょ?
 それか『恥ずかしい』んだ!?」

そう言い終えた後、さゆみはじっと、れいなの顔を見つめた。
見つめられているれいなは、顔を赤くしながら固まっている。
しばらくの後、眉間にしわをよせながらさゆみが口を開いた。

「れいなは『照れてる』の?それとも『恥ずかしい』の?・・・どっち??」

「はぁっ!!?」


───なんだよ!その質問はぁ!!?
71 名前:籠の中の鳥 投稿日:2003/11/03(月) 00:28
こんなストレートで恥ずかしい質問に、れいなが素直に答えられるはずがなかった。
いや、きっとれいなだけじゃないだろう。
れいなはどう答えればいいのか、戸惑っていた。
その間も、さゆみは不思議そうな顔でれいなの顔を見つめている。

「ねぇ・・・どっち?」

澄んだ目でれいなの目を覗き込んでくるさゆみに、れいなはたまらなく
ドキドキしていた。

「どっちって・・・ど、どっちでもいいじゃん!」

もうどうでもよくなって、れいなは適当にそう答えた。
その答えにさゆみはしばらく考え込み、その後また笑顔を見せた。

「それって私が決めていいってこと?」

「はぁ!?どうしてそうなんの?」

れいなにはさゆみの思考が理解できなかった。
72 名前:籠の中の鳥 投稿日:2003/11/03(月) 00:40
さゆみはじっとれいなの言葉を待っている。
れいなはため息をつくと、

「はぁ・・・もう勝手にしてください」

と答えた。
その言葉に、さゆみは嬉しそうに笑う。
本当に笑顔の絶えない娘だなぁ、とれいなは思った。
こんな他愛もない会話で嬉しそうに笑うのだから・・・。

さゆみはれいなの顔から手を離して、今度はれいなの首に手をまわした。
さゆみの行動に、いちいちれいなはドキドキしてしまう。
そんな自分にれいなは心の中で苦笑した。

「れいなは・・・優しいね」

そう囁くさゆみの吐息が、首のほうにあたってくすぐったい。
再度言われたその言葉に、れいなはまた顔を赤く染めた。
一度目よりももっと近くにさゆみを感じて、照れくさく、恥ずかしいような
くすぐったい気持ちになった。

一刻もはやくこの状況から抜け出したいと思ってるくせに、
不思議と悪くないと思っている自分がいる・・・
矛盾した自分の想いに、れいなはまた苦笑した。
73 名前:籠の中の鳥 投稿日:2003/11/03(月) 00:46
・・・その時

───ガチャ

下のほうから、ドアの開く音が聞こえた。

───誰かが帰ってきた

そう思うと同時に、さゆみが

「りかちゃんだ・・・」

とつぶやいた。
れいなは急いで窓から出る準備をした。
そんなれいなをさゆみが服の裾をひっぱって引き止めた。
れいなは驚いてさゆみのほうを振り返る。

74 名前:籠の中の鳥 投稿日:2003/11/03(月) 00:58
「また・・・逢ってくれる?」

上目づかいで不安気にそう尋ねるさゆみに、れいなは優しく微笑んで
首を縦に振った。
それだけのことなのに、目の前の彼女はパッと嬉しそうに微笑んだ。
その顔を見て、れいなも思わず嬉しくなってしまう。

そうこうしている間に、誰かが階段を登る音が聞こえてきた。
その音を聞いて、二人ははっ、と我にかえった。
れいなはさゆみに軽く手を振ると、窓に足をかけて、急いで外に出た。
器用に木に飛び移って、下におりていく。

───(れいな、すごーい!!)

そんなれいなに、さゆみは見とれていた。
しかし、階段の音でまた我にかえり、急いで窓とカーテンを閉めた。

───全ての作業がちょうど終わったときに、梨華はさゆみの部屋のドアを開けた。
75 名前:チナ犬 投稿日:2003/11/03(月) 01:02
>66様  はい!頑張ります!!
      好みだと言ってもらえて嬉しいです。
      レスありがとうございました。

>67様  期待してくれてありがとうございます!
      その期待を裏切らないように頑張りたいと思います!
      レスありがとうございました。
76 名前:チナ犬 投稿日:2003/11/03(月) 01:03
・・・
77 名前:チナ犬 投稿日:2003/11/03(月) 01:03
・・・・
78 名前:籠の中の鳥 投稿日:2003/11/03(月) 08:53
───ガチャ

「ただいま、さゆみ」

「お、おかえり。りかちゃん・・・」

緊張して声が上擦った。
何事もなかったかのように振舞おうとすればするほど、さゆみはそわそわして
落ち着かなくなった。
れいなのことを内緒にしなければならない、という思いがそうさせた。
笑顔だって引きつっている。
梨華はどこか落ち着きのないさゆみを、不思議そうに見つめた。
そして悟った。

───さゆみはきっと何かを隠している・・・と。

部屋を見渡してみるものの、何も変わったところはない。
窓もカーテンもしっかり閉まっているし、部屋だっていつものように綺麗だ。

───じゃあ どうして?




79 名前:籠の中の鳥 投稿日:2003/11/03(月) 09:07
梨華の疑問は消えることはなかったが、あえて問い詰めることはしなかった。
聞かなくても特に問題はないと判断したからだ。
梨華はいつまで経っても嘘がヘタなさゆみを、愛しく想った。
・・・汚れを知らない、純粋で、天使のような子供。
梨華は思った。

───きっとさゆみほど純粋な子供は、どこを探してもいないだろう、と。


しかし、『どこを』といっても、範囲はすごく限られている。
此処以外の島はもうほとんど、沈んでしまったらしい。
そう考えて、梨華はすこし憂鬱になった。


80 名前:籠の中の鳥 投稿日:2003/11/03(月) 09:17
「・・・じゃあ朝食できたら、また呼ぶから」

さゆみには元気なふりをして、精一杯の笑顔でさゆみにそういった。
さゆみは首を縦に激しく振った。
その様子を見て、梨華はふきだした。

───(嘘ばれちゃうよ・・・)

不思議と少し、穏やかな気持ちになった。
さゆみは梨華が何故突然笑い出したのか、不思議に思って
首をかしげている。
そんなさゆみをみて、梨華はまたふきだしそうになるのを必死にこらえて、
さゆみの部屋を出て、一階のキッチンにむかった。
その途中で、愛と麻琴のことを思い出した。

───「何も知らないほうが、幸せだったのかもね。愛も麻琴も・・・」


誰に言うわけでもなく、梨華はぽつりとそうつぶやいた。



81 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 09:46

───たとえば 誰よりも高く飛べる翼があったとして

   空を飛びながらも必死で空に触れようと、つかもうと 手を伸ばしているあたしの姿は

   とても無様で、惨めだろうか・・・?

   『幸せ』を掴もうともがいて、決して掴めないと分かっていても

   それでも手をのばして 「きっといつかは・・・」って もがいてるあたしは


───やはり無様で、惨めなのだろうか・・・?


   『幸せになりたい』と願うのは


───そんなにおかしなことなのだろうか?


   ああ、きっとそれでも構わないね・・・?

   誰かが笑っても、それでも・・・


しっかり『幸せ』見失わないように、また手を伸ばして・・・


───いつかはきっと。


あの空の向こうへ・・・。




   
82 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 10:06

「麻琴・・・」

「ん?なに??」

「・・・外にでたい」

「えっ!!そんなの無理だよ!!危ないよ・・・?」

「・・・ダメ?」

「だ、ダメって・・・」

「ねぇ・・・?麻琴・・・」

「ぐっ・・・」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


───(あたしが上目遣い弱いの知っててやってるんですか・・・?)

仲直りしたあとの診療所での愛とのやりとりを思い出して、麻琴は少し赤面した。
愛と麻琴は、病院をこっそり抜け出して今、外にいる。
手をつないで、なるべく人の少ない道を歩いた。
甘えた声をだして上目遣いをする愛に、麻琴は勝てなかった。
・・・惨敗だ。

───きっと吉澤さんに見つかったら怒られるだろうな

と考えていると、愛が話しかけてきた。
83 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 10:24
「こうやって手つないで二人で歩くの、久しぶりやね・・・?」

嬉しそうに微笑みながら、愛は麻琴とつないだ手を見つめて、そっと揺らした。

「・・・そうだね」

たった一言そう返しただけなのに、その答えに愛はまた嬉しそうに笑う。
そんな愛に、麻琴は胸がきゅん、となった。
麻琴の目に、愛はとても生き生きとして映った。

「おー麻琴!犬や、犬!!かわいいなぁ・・・あっ、あそこに鳥もいる!!」

「そうだね・・・」

久しぶりに外に出たため、愛はとてもはしゃいでいる。
麻琴がいつも当たり前に見ているものも、愛にとっては久しぶりに見るものだから
新鮮に映るのだ。
愛の言葉に、麻琴は優しく微笑んで、一言一言丁寧に返していく。

84 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 10:34
「おいで・・・おっ!きた!!」

愛が麻琴の手を離して、しゃがみこんだ。
そうすると、茶色の毛をした子犬が嬉しそうにしっぽをふって
愛のほうへかけよってくる。
急に手を離された麻琴は、ちょっぴりその子犬に嫉妬した。
でも後から、そんな自分に苦笑した。

───犬にまで嫉妬するなんて・・・

そう思いながら麻琴は、自分は相当愛が好きなんだ、と改めて自覚した。

「うわっ・・・くすぐったい!!」

愛が子犬を抱き上げると、子犬は愛の顔をぺろぺろとなめた。
愛はくすぐったいと言いながらも、嬉しそうに笑っている。
嫉妬しながら麻琴は思った。

───よし、今度生まれ変わったら 犬になろう ・・・と。


85 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 10:45
麻琴の手からは徐々に、愛の手のぬくもりが消えかけている。
なんだか麻琴は寂しい気持ちになった。
そして一向に子犬を離さない愛に、麻琴は拗ね始めていた。
そんな麻琴の気持ちを察してか、愛はやっと子犬を離した。

「ほらっ・・・もう行きな?」

愛がそう言うと、子犬はしっぽを振りながら「ワン!」と一回元気よくほえて
どこかへ行ってしまった。
愛は立ち上がると、麻琴の手をとって、いたずらっこのように微笑んだ。

「今・・・嫉妬したやろ?」

ストレートにそう聞く愛に、麻琴は戸惑った。

「そ、そんなんじゃないよ!」

本当はそうなんだけれど、つい素直じゃない言葉がでてしまう。
そんな麻琴の気持ちなどまるでお見通しのように、愛はいたずらに笑う。
86 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 10:52
「素直じゃないねー、麻琴は」

「・・・っ!だからそんなんじゃ・・・」

否定しようとしたけど、語尾が弱くなる。
これじゃあ、素直に「はい、そうです」と認めたようなもんじゃないか、と
麻琴は思った。
愛は自分のあいたもうひとつの手で麻琴の頬に触れると、
少し背伸びをして、麻琴の唇に自分の唇を重ねた。
87 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 11:00
「・・・!!?」

麻琴はそんな愛の行動に驚いて、目を大きく見開いた。
キスされたということを理解するのに、少し時間がかかった。
キスの後、愛はうっとりとした顔をして、麻琴に抱きついてきた。
そして、麻琴の胸のあたりに顔をこすりつけながら、こう囁いた。

「麻琴は本当に好きなんだね、あーしのこと・・・」

胸の辺りに愛の吐息があたって、少しくすぐったい。
麻琴はふっ、と微笑むと、愛の背中に手を回した。

「随分 自信満々だね・・・」

麻琴が意地悪くそう答えると、愛は麻琴から少し身体を離して、麻琴の目を見つめた。



88 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 11:04
「だってそうやろー?嫉妬ちゃんとしてくれるし・・・」

「ま、まぁそうだけどぉ・・・」

そういうと、愛は嬉しそうに微笑んで、麻琴の胸に再び顔をうずめた。
愛の耳は心なしか、すこし赤くなっている。

そんな愛を見ながら、麻琴は

───(愛ちゃんにはかなわないな・・・)

と心の中で苦笑した。
その後、愛が再び口を開いた。
89 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 11:14
「あーしも麻琴大好きやよ。・・・本当に大好き」

くぐもった声で照れたように愛はそう言った。
照れながらも素直に自分の気持ちを伝えられる愛を、麻琴はすごいな、と思った。
愛のその言葉を聞いて、麻琴は心がなにか、温かいものに満たされたような気持ちになった。

───きっと同じだと思うよ?
  
・・・あたしも愛ちゃんも。


心の中でそうつぶやくと、麻琴は愛の耳に口を近づけて囁いた。

「好きだよ、愛ちゃんのこと。・・・大好き」

90 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 11:23
愛が今どんな顔をしているのか、抱き合ってるせいで見えないけれど、
麻琴には愛の表情が分かる気がした。

愛は麻琴を抱きしめる手に、少し力をいれると、くぐもった声で

「同じやね・・・」

と嬉しそうに言った。
麻琴もその言葉に嬉しそうに返事をする。

「・・・同じだね」

愛にだけ聞こえるようにぽつりとつぶやいた言葉は優しく、
吐息と共に消えた。

───ずっとこんな日が 続けばいいのに・・・

麻琴はそういいかけて、やめた。
きっと愛も同じ気持ちだろうから・・・・。

───『同じ』だけどどこか寂しい、二人の関係。

二人は抱きしめる手に、また少し力をいれた。
91 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 11:24
・・・
92 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 11:24
・・・・
93 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/03(月) 11:24
・・・・
94 名前:読者 投稿日:2003/11/03(月) 15:45
読ませていただいてる者です!
小高・・いいですね。
なんか切なくて締め付けられます・・。
がんばってください!
95 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/03(月) 15:46
(*´д`*)ポワワ
もうっ…作者様最高だよ。鼻血止まらんがなw
萌え萌えだけど切ないね…そこがまた良い。
96 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 21:23
「ねぇ、愛ちゃん・・・」

「ん?なぁに、麻琴・・・」

「・・・海に行こうか」


────海に行こう。
97 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 21:31
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「うわっ!・・・ちょっと寒いね」

「うん、風結構あるね。」

海に着く頃にはもう、夕陽が沈もうとしていた。
水平線のむこうに、真っ赤に燃える夕陽が半分だけ見える。
それは息を呑むほどに美しかった。
愛はさっきよりももっとはしゃいでいる。
麻琴もそんな愛を見て、自然と心がうきうきした。

───診療所から抜け出したのは、間違いじゃなかったな・・・

嬉しそうに砂場を走り回る愛を見て、ふと麻琴はそう思った。
そうだ、きっと二人でいることに間違いはないのだ、と。

・・・そんな想いを 永遠に感じていたかった。
98 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 21:40
「麻琴ぉー!!こっち、こっち!!」

声のしたほうに顔をあげると、愛がぴょんぴょん飛び跳ねながら
手招きしている。
その姿はまるで、小さな子供のようだ。

───・・・あたしより年上のくせに

麻琴は普段より幼く見える愛に、優しく微笑みながら
首を縦に振って、愛のいるほうへ駆け出した。
砂に足をとられて走りにくかったが、精一杯走った。
99 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 21:52
「はぁ・・・はぁっ・・・」

愛の傍までいくと、麻琴は息を整えた。
少し疲れたような顔をした麻琴に、愛は

「お疲れ様」

と笑いながら、麻琴の背中をぽん、と優しく叩いた。
そんな愛に麻琴は

「おう!」

とグッと親指をたてて、冗談っぽく笑った。
愛もつられてまた笑う。
二人で笑いながら、麻琴は

───昔だったらこんな他愛もない話をして笑いあうだけで それだけでよかったのにな

と思った。
何も考えずにただ笑っていられたあの頃に、少し戻りたいとも思いはじめていた。
100 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 22:06
「・・・寒いね」

さんざん笑った後、愛がそうもらした。
麻琴は少し寂しそうなその横顔を見つめながら、

「うん、そうだね・・・」

と返事を返した。
愛は真っ赤な夕陽を、まっすぐ見つめている。
儚げなその横顔を見て、麻琴は改めて「この人を失いたくないな」
と思った。
愛が今、何を想いながら夕陽を見つめているのか、麻琴は気になった。
でもなんとなく、きっと何か悲しいことを考えているんだ、と悟った。
夕陽に照らされながら、じっと夕陽を見つめ続ける愛を見て、
麻琴はなんだか愛がこのまま知らない人になりそうで、急に怖くなった。
101 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 22:19
どこでもいいから愛に触れたい、と思い、麻琴は愛の右手を
左手でつつんだ。

「・・・麻琴?」

いきなり手をつながれて、愛は少し驚いて、やっと夕陽から目を離して
麻琴のほうを見つめた。
麻琴はそんな愛に構わず、ぐっと愛の手をひっぱって、
愛の身体を自分の方へ引き寄せた。

「・・・!?まこっ」

「こうしたら寒くないよ?」

驚く愛の言葉を遮って、麻琴はそうつぶやいた。
愛はしばらく驚いた顔をしていたが、その後嬉しそうに麻琴の背中に腕をまわした。

「・・・あったかいね、麻琴」

「・・・うん、あったかいね」

そう言って、二人はクスクスと笑った。
互いの体温が、心を満たしていった。




102 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 22:36
「・・・やっぱり忘れたくないや」

突然、愛がぽつりとつぶやいた。
小さくて、かき消されそうなその声を、麻琴は聞き逃さなかった。

───遠くで、波の音が聴こえる 。


「えっ・・・」

やっとのことでだした声は、かすれていて、頼りなかった。
愛は麻琴の胸に顔をうずめると、泣きそうな声でこう答えた・・・。


「忘れたくないよ・・・麻琴のこと」

「・・・愛ちゃん」

「・・・ずっと一緒にいたいよ」

忘れたくない、とつぶやきながら、愛は麻琴を抱きしめる腕に力を込めた。
麻琴もそれにこたえて、愛をぎゅっと抱きしめる。
麻琴の視界が、だんだん涙でにじんでいく。
はじめて麻琴は、愛の本当の気持ちに触れたような気がした。
愛は病気のことを知っても、弱音をあまり吐かなかったからだ。

103 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 22:47
愛の身体が、震えている。
麻琴にはただ、それを抱きしめてあげることしか、できなかった。
麻琴は向こう側にある夕陽を見つめながら、思った。

───どうしてこんなに 苦しまなければいけないんだろう? ・・・と。


─── ただ二人でいたいだけなのに・・・



ほかに望みはいらない。
ただ二人でいることが、こんなに難しいことなのだろうか?
それともそれは願ってはいけないことなのだろうか?
・・・間違っていないはずだろ・・・?


───あたしはただ 愛ちゃんといたいだけなのに・・・
104 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 22:52
泣きじゃくる愛を、麻琴は背中を撫でてなだめた。
心が針にさされたようにチクリと痛んだ。
胃がキリキリする。

・・・夕陽はもう消えかかっている。
愛をずっと抱きしめながら、麻琴は自分に言い聞かせた。

───きっとこの道に 間違いはないはずだ・・・と。

何度も何度も、言い聞かせた。
105 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 22:54
───いつかはきっと・・・ 



    いつかはきっと・・・届くだろう



      ・・・あの向こうへ。
106 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 22:56
・・・
107 名前:いつかはきっと・・・ 投稿日:2003/11/04(火) 22:56
・・・・
108 名前:チナ犬 投稿日:2003/11/04(火) 23:06
94様>いいですか?ありがとうございます!!
    がんばります!!
    レスありがとうございました。

95様>は、鼻血!!ティ、ティシュ、ティシュ!!(笑)
    最高って言ってもらえてうれしいです!!
    レスありがとうございました。

カラオケいって思ったんですが、小高編はBGMをスピッツの
「君が思い出になる前に」にすれば結構・・・いい感じ(意味不
別に参考にしたわけじゃないんですがw
109 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 18:27

───願い事 もうひとつだけ


     もうひとつだけ・・・その願いは叶うだろうか?


   愛だの正義だの わめくつもりはないよ?


     だけど・・・・


───願い事 もう一度だけ・・・



   ・・・もう一度だけ 叶えさせてほしい。



        ───もう一度だけ・・・。
110 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 18:51
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

れいなは夕陽で赤く染まる、家への帰り道を歩いていた。
さゆみの部屋から出たあと、商店街のほうへ向かったが
いざ何かを盗もうとすると、さゆみの顔が頭に浮かんできて、なんとなく後ろめたい気持ちになり、
さんざん悩んだ挙句、れいなは何にも盗まずにその場から立ち去ったのだった。

───(・・・ばっかみたい。なんであの娘の顔が浮かんだだけで・・・)

れいなはさゆみのことを気にする自分に、困惑していた。
そんな自分に少し苛立ちながらも、やはり戸惑いは隠せなかった。
気を紛らわすために、足元にある小石をおもいっきり蹴っ飛ばした。
小石が音をたてて溝に落ちると、ふとれいなはさゆみとの会話を思い出した。



111 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 19:12
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「はぁ!?外に出たことがない!?」

驚いてそう叫ぶれいなに、さゆみは首をひねって不思議そうな顔をして

「うん、そうだよ?」

と普通に答えた。
れいなはそんなさゆみを口をぽかんと開けて、見つめている。

「・・・嘘でしょ?」

疑ってそう尋ねるれいなに、さゆみは少しムッとして

「嘘じゃないよ!本当だもん」

と答えた。
れいなはしばらくぼーっとした後、

「マジかよ・・・」

と小さく漏らした。
さゆみはそんなれいなをまた、不思議そうな顔で見つめた。
少ししてから、れいなはさゆみにまた尋ねた。

「なんで出してもらえないの?」

れいなのその問いに、さゆみは当然のことのように答える。

「えっ?だっておそとの世界はとっても危険なんでしょ?」

その答えに、れいなは驚いた。

「へっ?そうでもないよ?」

「えーっ!でもりかちゃんが・・・」

「りかちゃん?」

「うん、りかちゃん」
112 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 19:25
いきなり知らない人の名前がでてきて、れいなは少し嫌な気持ちになった。
さゆみは「りかちゃん」の話をするとき、うれしそうな顔をした。
れいなは「りかちゃん」の話を聞きたくなくて、なるべく話を別の方向へもっていこうとした。

「・・・たしかにさ、人間って何考えてるのか分からないから少し怖いかもしれないけど

 そんな・・・外に出れないほどじゃないよ?優しい人もちゃんといるし・・・」

そう言い掛けて、れいなは黙り込んだ。
そして苦笑いをしながら

「勝手にアンタん家に侵入してきたあたしが言うのもなんだけどね・・・」

言った。

「しんにゅう・・・?」

「ああ、なんつーか『他の場所に勝手に入っちゃうこと』かな?」

「へぇ・・・」

「ってか、アンタ本当に何にも知らないんだね?」

「・・・そうかな?」

「そうだよ」

「れいなはなんでも知ってるね?」

「・・・そうでもないよ」
113 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 19:32
そんな会話を淡々と続けた後、しばらく黙ってまたれいなが口を開いた。

「なんか外にも出してもらえなかったり、知ってて当然のことを知らなかったり、
 不法侵入者のあたしに名前を聞いたり、そしてそのあと普通にこうしてしゃべってたり・・・」

途中でれいなは話をいったん止めて、しばらく考えこんだ後、また言葉を付け足した。

「やっぱりアンタ・・・変だね」

そう言うと、さゆみは首をかしげてこう答えた。

「・・・そうかな?」

「そうだよ!絶対変!!ありえない!!」

れいなが少し声を大きくしてそう答えると、さゆみは少し照れたように笑った。
114 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 19:40
「・・・?なに照れてるの??」

照れるようなことは何も言ってないのに、とれいなが不思議に思って
そう尋ねると、さゆみはまた照れたように笑った。

「・・・変って初めて言われたから」

「はぁっ!!?」

「いや、なんか照れるなって・・・」

しだいに頬を赤く染めていくさゆみをみて、れいなは心の中で

───(いや、褒めてないから!!むしろ、けなしてるから!!)

とつっこみをいれた。
さゆみはそれに気づかずに、笑っている。
れいなは思った。

───(こいつ・・・やっぱり変だ)

でもれいながそんなさゆみに惹かれているのは事実で・・・。
しかし認めたくなくて、れいなはその気持ちに背を向けた──。
115 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 19:47
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

さゆみのことを思い出すと、自然と頬が緩んだ。
そんな自分に気づいて、れいなは首を激しくぶんぶんと横に振った。

───(なにニヤついてんだ、あたしは!)

意識しすぎて、顔が赤くなる。
そんな自分に戸惑ったが、不思議と嫌じゃなかった。
そう思うと、また顔が赤くなった。



116 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 20:01
家との距離が近づくたび、足が重くなった。
途中で立ち止まって、ふと思いついた。

───(そうだ、海に行こう!・・・)

思い立ったら即行動派のれいなは、急いで家とは反対方向にある
海へ向かった。
家に今すぐかえらなくてもいい理由が見つかって、れいなはうきうきした。



───しかし れいなはこの後、海へいったことを後悔することになる・・・

117 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 20:13
海に着くと、れいなは夕陽の美しさに息をのんだ。

───・・・おそとには でたことないの

ふと、さゆみの言葉を思い出した。
・・・さゆはこんな綺麗なものも見たことないんだ、なんだかもったいないなとれいなは思った。

───(さゆがこれを見たら、なんていうんだろう?きっと綺麗過ぎて声もでないだろうな・・・)

と真っ赤な夕陽をみながら、れいなはそう思った。

───その直後、人の声がした。

「!?・・・だれか来た!!」

そうつぶやいて、いそいでれいなは岩陰に隠れた。
しばらくして、おそるおそる顔をだすと、少し遠くの砂浜で二人の少女が立っていた。
れいなのほうには全く気づいていないようだった。





118 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 20:19
ふと変な胸騒ぎがした。
でもれいなは二人の少女のうちの一人から、目を離せなかった。


───「ま、まこ姉ちゃん!!?」


驚きのあまり、れいなは声を漏らした。
でも遠くにいるれいなの知っている少女、『小川麻琴』にはその声は届かなかった。
れいなの身体は自然と震えた。
足ががくがくする。
頭が何も考えられなくなる。
それでもやはり、麻琴から目が離せなかった。
喉がカラカラにかわいた───。
119 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 20:29
れいなは目を大きく見開いたまま、楽しそうに話す二人の姿を見つめていた。
ふと、麻琴が隣りにいる少女に優しく微笑んだ。
あんなに優しそうに笑う麻琴を、れいなは初めて見た。
麻琴は一瞬少し寂しそうな顔をすると、隣りにいる少女を引き寄せて抱きしめた。


───!!!?



頭を何かで強く殴られたような感覚に陥った。
頭が真っ白になった。
れいなは目に涙を浮かべながら、とにかく走った。


「・・・嘘つき!まこ姉の嘘つき!!」


震える口で、何度もそうつぶやいた。
120 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 20:37
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

───気づいたら家の前だった。
自分がどのようにして帰ってきたのか、れいなには思い出せなかった。
放心状態のまま、家の扉を開けた。
・・・『ただいま』はいえなかった。

「・・・・・」

無言のまま、れいなはベッドに向かい、横たわった。
もう、何も考えたくなかった・・・。
もう、何も考えられなかった・・・。
胃がキリキリと悲鳴をあげた。



しばらくして、れいなは声を押し殺して泣いた。
長い長い、夜だった・・・。
121 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 20:37
・・・
122 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 20:37
・・・・
123 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/05(水) 20:37
・・・・・
124 名前:∬´▽`)川’ー’川 投稿日:2003/11/06(木) 01:06
おがーさんと田中さんの間に何があったの?
つ、続きが激しく気になるよぉ・゚・(ノД`)・゚・
作者さんがんがって!
125 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/06(木) 20:41
毎回ドキドキさせてくれますねー。
にしてもまこれな姉妹(;´Д`)ハァハァ(違
126 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/09(日) 14:43
□  □  □  □

目を開けると、まず天井が見えた。
ゆっくり上半身を起こす。
窓からは光が差し込んでいる。
───朝だ。
いつの間にか、寝ていたらしい。
自然と昨日の出来事を思い出したが、れいなはそれらから背を向けるようにして
洗面台にむかい、思いっきり蛇口をひねった。
・・・いきおいよく出た水が、激しく音をたてる。

───(昨日の記憶も、この水と共に流れてしまえばいいのにな)

ふと、れいなはそう思った。
昨日生まれた感情や出来事を洗い流すかのように、れいなはその水で顔をばしゃばしゃ洗った。
気持ちよかったが、心までは晴れなかった。
ついでに寝癖を直して、水を止めた。
・・・急に静かになった。
127 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/09(日) 14:55
耐え切れなくなって、また蛇口をひねる。
そうすると、さっきみたく水が勢いよく出てきた。

やることがない時、人は自然と考え事をしてしまうようだ。
れいなは慌てて自分の今やるべきことを見出そうとした。
しばらくおろおろしたあと、れいなは思い出した。

───(そうだ、歯磨きがまだだった)

口を軽くゆすいだ後、歯ブラシを手にとって、れいなは歯をみがきはじめた。
その間も水は、じゃーじゃーと音をたてて流れ続けている。
変わらず絶え間なく流れ続けるそれは、時間の流れとよく似ていた。
128 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/09(日) 15:06
歯磨きも終えて、身支度も全て終えると、れいなは外に歩き出した。
腹が減った。昨日から何も食べていない。
だけど、昨日のあの出来事を思い出すと吐きそうになる。
今日も商店街のほうには行かなかった。
そしたら必然ともう、行く場所は決まってしまう。
れいなはさゆみのことを思い出した。

───早く逢いたい。

その想いは、昨日の嫌な出来事から背を向けようとする自己防衛からきてるのか、
それとも、本当に心から芽生えた感情なのか、れいなには分からなかった。

でもなんとなく、後者だと思った。
きっと、そうだったら・・・
129 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/09(日) 15:19
そんなことを考えているうちに、気づいたらもう目的地についてしまった。
さゆみの部屋の窓を、れいなはじっと見つめた。
しばらくそうしてると、玄関から誰かがでてくる気配がした。

───(やべっ!)

急いでれいなは草むらに身をかくした。
さゆみの家のドアのほうを見ると、なかから色黒の美少女がでてきた。
れいなはその人をどこかで見たような気がした。
色黒の美少女は、ドアに鍵をかけると、れいなに気づかずにどこかへ出かけてしまった。
それから少しそこで時間がたつのを待った。
もしかしたらまだそこにいて、引き返してくるかもしれないと思ったからだ。
でもそんな気配もないので、れいなは草むらから出た後、用心深く辺りを見渡してから
木に登りだした。
登りながら、ふと思った。

───(りかちゃんってあの人かもしれないな)

さゆみの部屋の窓のほうまでくると、れいなは器用に木からその窓に飛び移った。
そして窓を勝手に開けて、さゆみの部屋にはいる。
130 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/09(日) 15:38
「さゆみ、いる??」

そう言って部屋をきょろきょろと見渡した。

「れいな!!」

耳に澄んだきれいな声が届いた。
それだけで、れいなは昨日の嫌な出来事を全て忘れられる気がした。
嬉しそうに、さゆみが駆け寄ってくる。

「今日も、来てくれたんだ・・・」
顔を少し赤くしながら、照れたようにさゆみは笑った。

「ま、まあね」

その笑顔を見て、れいなはくすぐったいような気持ちになった。
少しうつむきながらそう言うれいなの手にふれて、さゆみはもっと嬉しそうに笑った。

「今日もお話しよ?」

どきどきして返事を返せずにいるれいなに、さゆみは抱きついてきた。
れいなはさゆみのその突然の行動に驚き、さっきよりどきどきした。
でも必死で何もなかったかのように装う。
そんな素直じゃない強がりな自分を、れいなは心の中で苦笑した。

131 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/09(日) 15:47
「・・・あのさ」

れいなが言葉を発すると、さゆみは顔をあげて、れいなを見つめた。

「ん・・・なあに?」

「あの、さっき出て行った人・・・」

「ああ、りかちゃん?」

さゆみのその言葉をきいて、れいなは

───(やっぱり・・・・)

と思った。さゆみは首をかしげている。

「あのさ今日は───」

そう言って、れいなは言葉をいったん止めた。
さゆみはもっと首をかしげて、れいなの言葉を待っている。
れいなはいたずらっこのように笑って、ウィンクしながらこういった。

「───今日は外にでてみない?」

さゆみは目を大きく見開いた。
132 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/09(日) 22:06
・・・
133 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/09(日) 22:06
・・・・
134 名前:チナ犬 投稿日:2003/11/09(日) 22:11
>124様 いつもレスありがとうございます。
      田中さんと小川さんは・・・(遠い目
      がんばります!(何

>125様 いつもレスありがとうございます。
      まこれな姉妹、いいですか?w
     
田中さんと小川さんの関係については明日にでも・・・(ほんとかよ!
更新少なくてすみません・・・
135 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/10(月) 17:20
いいねぇれなさゆ。ここので好きになった。
更新待ってますよ(;´Д`)ハァハァ
136 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 20:21
「・・・で、でも・・・りかちゃんが・・・」

弱弱しく俯いてそうつぶやくさゆみに、れいなはしっかりとした口調でこう言った。

「『りかちゃん』は関係ないよ。さゆはどうなの?外に『出たい』の、『出たくない』の?」

その言葉に、さゆみは眉をひそめて考え込んでしまった。
そんなさゆみの肩を、両手でつかんだ。

「さゆ・・・」

はっとして、さゆみは顔を上げた。
しばらく二人で見つめう。

「さゆ、外に行こう」

───── 籠から出よう。

さゆみはしばらく黙っていたが、やがて顔を少し赤らめて

ゆっくり頷いた。
137 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 20:29
「よし、決まり!!」

さゆみの返事にれいなはうれしそうに声を上げた。
そんなれいなの顔を見て、さゆみも嬉しくなった。

「さあて、じゃ『りかちゃん』とやらが帰って来ないうちに、さっさと行こう!」

さゆみの手を、れいながひっぱる。
さゆみはまさか、と思い、れいなに慌てて尋ねた。

「ま、窓から?」

その問いに、れいなは一瞬ぽかーんとした顔をすると、後から
くすくすと笑い出した。

「まさかぁ〜。危ないじゃん。ま、あたしは慣れてるけど・・・」

さゆみの手をひきながら、れいなはさゆみの部屋のドアを開け、廊下に出た。
れいなの返事に、さゆみはほっ、と胸を撫で下ろした。
138 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 20:36
廊下を歩いている途中、さゆみが

「りかちゃんの許可なしで初めてでた・・・」

とわくわくしたような、弾んだ声で言った。
そんなさゆみに、れいなは嬉しそうに微笑んだ。
階段を下りて、玄関に向かう。
階段をひとつひとつ下りるたび、さゆみの胸はどきどきと高鳴った。

───憧れの世界に、一歩一歩近づいているのだ。


139 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 20:45
二人は玄関のドアの前に立ち止まった。
さゆみはごくりと唾をのみこんだ。

───(このドアの向こうに・・・)

れいながゆっくり、ドアのノブに手を伸ばす。
さゆみは高鳴る胸を抑えながら、それを見届ける。

───がしかし、

「ど、どうしたの?れいな」

「ん・・・」
140 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 20:52
れいなは途中でドアのノブに伸ばしていた手を、下ろした。
そして俯いて、黙っている。
さゆみはそんなれいなを不思議そうな顔で見つめた。そして考えた。
何故、れいなはドアをあけるのをためらったのか・・・。

しばらくして、れいなは顔を上げてさゆみを正面から見つめた。
そして、口を開いた。

141 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 21:02

「・・・さゆが開けなよ」

「えっ!!?」

驚いて声をあげるさゆみに、れいなは

「出たいのはさゆの意志だろ?・・・ほら、開けてごらん。
 望んでたものが、そこにはあるよ」

と言って、優しく微笑んだ。
しかし、さゆみはまだ少し、戸惑っていた。

───(もしここで、りかちゃんがかえってきたら・・・)

そんなことを考えておびえながらも、一方でそのスリルを楽しんでいる
自分がいる・・・。
さゆみはドアのノブを見つめた。

───(このドアを開ければ、『おそとの世界』が・・・)
142 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 21:10
さゆみはそっと、ドアのノブに手を伸ばした。
しかし、手が震えてなかなかドアのノブを掴むことができない。
そのとき、さゆみの手に、何かあたたかいものが重なった。


───れいなの手だった 


その手はしっかりと、さゆみにドアのノブを握らせた。
さゆみは驚いて、れいなのほうを見た。
れいなはにっこり笑って、こう言った。

「一緒に開けよ?そしたら怖くないでしょ?」

その言葉を聞いて、さゆみの恐怖心は一気に薄れた。

「うん・・・」

───手の震えは止まっていた


ふたりはゆっくり、ドアのノブをまわして

ドアを開けた・・・。
143 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 21:13
─────────────────


─────────


────
144 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 21:17


空は果てしなく、広く青々としている。

太陽の光が射しこむ。

眩しいけど、あったかい。

鳥達が歌を歌っている。

風が少し汗ばんだ身体を、冷やしてくれる。

大きな木々が、美しい緑を生みだしている。
145 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 21:23

「うわぁ・・・」

そう言うだけで、精一杯だった。
さゆみは目を大きく見開いて、立ち尽くしている。
そんなさゆみを見て、れいなは嬉しそうに笑った。

「どう?全然危険じゃないでしょ??」

れいなの言葉に、さゆみはれいなのほうをみつめて、うんうんと
声もださずに、ただ頷いた。
何回も、何回も。

初めて出た『おそとの世界』は・・・

あったかかった。
146 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 21:29

「すごいなぁ・・・」

空を見上げて嬉しそうに微笑んださゆみを、れいなは眩しそうに見つめた。
急にさゆみは、れいなのほうを振り返った。


「・・・ありがとう」


さゆみのその言葉をきいて、れいなはまた眩しそうに目を細めて、
優しく微笑むさゆみを見つめた。

さゆみの笑顔のむこうには、青い空が広がっていた・・・。

147 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 21:38
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

その後は、「りかちゃん」がかえってくるまで、
さゆみの部屋に戻って、ふたりで話した。
あの後、さゆみは『おそとの世界』についてもっと知りたがり、
れいなにいろんなことを質問した。
れいなは、できるだけわかりやすく、その質問に答えた。
「りかちゃん」がかえってくると、れいなは急いで窓からでて、
木に飛び移った。
さゆみはれいなに手を振ると、急いで窓とカーテンを閉めた。
今日もれいなが来たことはばれなかった。
もちろん、そとにでたことも。
148 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 21:42
れいなは家への帰り道を歩いていた。
すっかり昨日の嫌な出来事を忘れていた。
ほかの家からする家族の笑い声も、もう気にならなかった。
今、頭のなかはさゆみのことでいっぱいだった。
もう日が暮れている。
夕陽をみて、れいなはさゆみとの約束を思い出した。
149 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 21:52
「すごかったぁ・・・」

さゆみは外から部屋に戻った後、またそうつぶやいた。

「今度はもっとすごいの、見せてあげる」

「もっとすごいの!?」

れいなの言葉に、さゆみは嬉しそうに声を上げた。
その目はきらきらと、輝いている。
れいなは嬉しそうに、でも得意げにこう言った。

「太陽、あるじゃん?」

「うん」

「夕方になったら 真っ赤になってすっごいきれいなんだよ!」

「ホントに!うわぁ・・・みたいなぁ」

さゆみは頬をピンク色に染めた。
きっと頭の中で、夕陽を思い浮かべているのだろう。

───真っ赤に燃える、太陽を。
150 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 21:58

「・・・今度、つれてってあげる」

「ほんと!?」

さゆみの目が、またきらきらと輝いた。

「うん、約束する」

「約束!!」

そう笑ってはしゃぐさゆみに、れいなは小指をさしだした。
さゆみは「ん?」と首をかしげて、れいなとれいなの小指を交互に見つめている。
れいなは笑って

「こうするの」

とさゆみの手に触れて、小指を立たせて、自分の小指に巻きつけた。
さゆみはまだ、不思議そうな顔をしている。
151 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 22:07
「約束をするときはこうするんだよ」

そう言ってれいなは綺麗な声で歌いだした。

「ゆびきりげんまん 嘘ついたら はりせんぼんのーます ゆびきった」

そういって、れいなはさゆみの小指から、自分の小指をはなした。
さゆみは

「そうなんだぁ・・・」

とつぶやくと、れいなのまねをしながら、ゆびきりの練習をし始めた。

「ゆびきりげんまん・・・」

小指を立てながら、とぎれとぎれにそう言うさゆみの姿を、
れいなは微笑みながら見つめた。
さゆみといると、れいなは心が洗われるような気持ちになった。
152 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 22:19
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

さゆみのことを想いながら歩いていると、急に声をかけられた。

「れいな!!」

びくっとれいなは肩を震わせた。
そして、足を止める。
聞き覚えのある声に、胸がざわついた。

「れいな・・・だよね?」

後ろから足音がどんどん、近づいてくる。
れいなは逃げ出したい気持ちになったが、足が動かない。
そのあいだに、その声の持ち主はれいなの前に立ちはだかった。

「・・・やっぱり」

昔だったら大好きであっただろうその優しい笑顔も声も、今では
れいなの胸をきりきりと締め付けた。
身体が震える。
れいなはおびえた目で、目の前の人物を見つめた。

「久しぶりだね・・・れいな」


忘れていたはずの昨日の嫌な出来事が一瞬で、よみがえってきた。
背中に汗が流れる。
れいなの目の前には、今最も会いたくない人物───


───『小川麻琴』が立っていた。

153 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 22:19
・・・
154 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 22:20
・・・・
155 名前:もう一度だけ・・・ 投稿日:2003/11/10(月) 22:25
>135様 れなさゆ、ここので好きになったって書き込みを見て
      一人で喜んでました!
      ありがとうございます。
      もうめっちゃうれしいですw
      レスありがとうございました!

田中さんと小川さんの関係は・・・伸びます・・・。
嘘ついてすみません・・・。・゚・(ノД`)・゚・
156 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/11(火) 01:13
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
すん止め心臓に(・A ・) イクナイ!
続きが激しく気になるのっ!
作者さんがんがれ
157 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/11(火) 17:47
ここのれなさゆがとても好き(w
雰囲気が大変良いのです。
ええよーええよー気長に待ちますえー。
158 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/13(木) 19:27

「元気だった?」

「・・・・・」

麻琴の問いにれいなは無反応で、ただ俯いている。
麻琴はそんなれいなに構わず、話しかけた。

「まだあそこで暮らしてるの?」

「・・・今さらなんだよ」

れいなの冷たい言葉に、麻琴は驚いた顔をした。
れいなは顔を上げて、麻琴をキッと睨んでいる。
麻琴は開いたままの口から、小さく声を漏らした。

「えっ・・・」

「今さらいい人ぶんの、やめてくんないかな?」

目を大きく見開いたまま、麻琴はただ、呆然としている。



───(違う!・・・言いたいのはそんなことじゃ・・・)


れいなは心の中でそう叫んだが、もう止まれなかった。
そして、ついに言ってしまった。



「───迷惑なんだ」



───(・・・・・・そんなことじゃないのに)


れいなの中で、何かが音を立てて壊れた。
麻琴は傷ついた顔をしている。
でも、もう・・・・・


  ─────────止まれない。





159 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/13(木) 19:42


れいなは罪悪感を感じながらも、自己防衛のための言葉を次々と吐き出した。

「ああ、まこ姉はいいよな?傍にいてくれる人、ちゃんといるんだから」

「れいな、話を・・・」

「もう、ほっといてよ!」

麻琴の言葉を、れいなは遮った。

「もう・・・かまわないでよ。アンタは・・・まこ姉は幸せなんでしょ?
 あの女の人と二人でいてさ?」

その言葉をきいて、麻琴ははっとした。

───(知ってたんだ・・・れいな)

れいなはばつが悪そうに、目を逸らした。

「じゃあそれでいいじゃんか。あたしに、もうかまう必要はない」

そうつぶやいて、れいなはその場を立ち去ろうとした・・・・が、
しかし、麻琴に腕を掴まれた。
160 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/13(木) 19:51
「れいな!!!」

大声でそういう麻琴に、れいなはびくっと肩を震わせた。
それでも顔をあわせようとしないれいなの顔をつかんで、
麻琴は自分のほうへ向かせた。

二人の視線が、ぶつかる。


沈黙を破ったのは、麻琴のほうだった。

「素直に言えよ!寂しいって・・・」

麻琴のその言葉に、れいなはムキになって反論した。

「別に、寂しくなんか・・・」

「嘘だ・・・!!」

自分の言葉を遮る麻琴の言葉に、れいなはまたカッとなった。

「言ったところで何が変わる!?教えてよ!!
 素直に『寂しい』と言ったところで、誰がそばにいてくれるんだよ!
 アンタなら・・・自分でわかってるはずだろ!
  どうせみんな・・・みんな離れていくんだ!!」
161 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/13(木) 20:04

───そうさ  どうせみんな・・・

     離れていくんだ ───

吐き出した言葉は、涙声になっていた。
れいなの目から、涙がどんどんあふれた。
それでもれいなは、ぐっと唇を噛み締めて、嗚咽が漏れないように必死でこらえている。

「・・・れいな」

震えるれいなの身体を、麻琴は抱きしめようとした。
しかし・・・

「さわるな!!」

れいなは麻琴の手を振り払った。

「アンタも結局同じだろ!?どっかへ行っちゃうんだ!!」

麻琴は黙って、れいなの言葉を受け止めている。
れいなは麻琴から顔をそむけて、俯いて鼻で笑った。
その横顔はとても寂しそうだった。

「そうだよね?あたしは『悪い子』だからね?!
 だから捨てるんだよね?あたしのこと」

「違う!!」

「何が違うんだよ!!」

れいなはまたキッと、麻琴をにらみつけた。
その目は真っ赤になっている。

162 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/13(木) 20:17
麻琴がなにも言えずにいると、れいなは急にしゅんとした顔になった。

「・・・もう、いいんだ」

「・・・れいな?」

先ほどと明らかに態度が違うれいなに、麻琴は戸惑った。
れいなの声は、先ほどまでの大声と違って、いまにも消え入りそうな声になっている。
・・・様子がおかしい。

「もう、いいんだ・・・」

れいなはぼそぼそと、その言葉を繰り返している。

「ひとりで・・・いいんだよ」

「よくなんか・・・」

麻琴がそう言うと、れいなは力のない目で、麻琴をみつめた。

「もう、いいよ。優しい言葉だけじゃ、何も救えないんだよ・・・」


───(そうだ。おじさんが死んだときだって・・・)

れいなは空を見上げた。
163 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/13(木) 20:26

「───どうせ みんな死ぬんだ」

れいなの言葉に、麻琴ははっとした。
れいなは空を見上げたまま、話をつづけた。
晴れていた空は、いつのまにか灰色の雲に蔽われていた。
・・・まるで、れいなの心のように。

「幸せになんか、なれない」

麻琴は目を見開いたまま、何も言えずにいる。


「届かないものに手を伸ばすのは─────」


れいなは空を見るのをやめて、麻琴を見つめた。
その目は虚ろで、とても悲しそうだった。


「────惨めだよ」


はっきりとした口調で、れいなはそう言い放った。
164 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/13(木) 20:40

その言葉に、麻琴の顔が一気に青ざめていく。
れいなは麻琴から目を逸らすと、一目散に逃げ出した。

───二度と、後ろを振り返ることはなかった。


麻琴は追いかけようともせず、ただ呆然と立ち尽くしている。

・・・・・・急に、雨が降った。

雨がはげしくなっても、麻琴はそこを動こうとはしなかった。
麻琴の頭の中で、れいなの言葉が何度も繰り返されていた。


────届かないものに手を伸ばすのは

     
            惨めだよ────


麻琴の頬を、何かが伝った。
それが雨なのか、それとも自分の涙なのか・・・


───麻琴は 知らない・・・。






165 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/13(木) 20:41
・・・
166 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/13(木) 20:41
・・・・
167 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/13(木) 20:41
・・・・・
168 名前:チナ犬 投稿日:2003/11/13(木) 21:07
>156様 心臓悪くしてすみませんw
      がんばります!!

>157様 >雰囲気が大変良いのです。
      そういってもらえると嬉しいです!!
      ありがとうございます!
      なるべく待たせないように頑張ります!

レスありがとうございました。
169 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/14(金) 14:52
れーなの言葉にズキっとしましたよ。
続きが待ち遠しい(w
更新がんがってくださいね〜
170 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/16(日) 15:19

身体が冷たい。
喉が渇く。
頭が──キンキンする。
耳鳴りがする。
鼻がつーんとする。




───君に言いたかったのは、伝えたかったのは・・・・



      そんな言葉なんかじゃ、なかったのに ───
171 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/16(日) 15:35

「どうしてっ・・・あんなこと」

家に戻ってきて、まず最初に言った一言。
外はどしゃぶりの雨。
れいなが立っている床には、あっと言う間に水溜りができた。
結った長い髪から、水が滴り落ちる。
それに気にもとめず、れいなはドアにもたれながら、そのまま下にずるずると力なくしゃがみこんでしまった。
その後、冷えた身体をぎゅっと自分で抱きしめながら、嗚咽を漏らして泣いた。

「うっ・・・」

雨は嫌いだ。
泣き虫だから。
でもこのときだけは、自分の泣き声をかき消してくれる雨に感謝した。
泣きながらふと、こんなに泣いたのは久しぶりだなと、思った。


さんざん泣いて、泣きつかれて、れいなはそのまま目を閉じた。
雨の音を、聴きながら・・・。

172 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/16(日) 15:53
       □   □   □   □

「んっ・・・」

次に目を開けたときは、朝だった。

───(あっ・・・そのまま寝ちゃったんだ)

そう思い、立ち上がろうとしたとき───

「!!?」

れいなは身体の異変に気づいた。

───(か、身体が・・・・・熱い)

立ち上がろうとしても、うまく立ち上がることができない。
身体に力が入らない。
喉が、渇く。
声がうまくでない。

れいなは苦しそうに息をしながら、昨日、着替えずに雨にぬれたまま寝たことを後悔した。

───(まずは・・・着替えなきゃ・・・)

壁にもたれながら、れいなはなんとか立ち上がった。
力をいれるたび、頭が余計に痛くなった。
なんとかタンスまでたどりつくことができ、湿った身体をタオルで拭いて、新しい服に着替えた。

173 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/16(日) 16:23
その後、ベッドに移動して、そのまま寝転がった。
身体がだるくて、もう動けそうにない。
れいなは天井を見ながら、笑った。

「ははっ・・・ざまあみろ」

誰に言うでもなく、自分に───。
掠れた小さな声で、そうつぶやいた。
喉のほうから笑いがこみ上げてきて、また笑った。
でも本当はちっともおかしくなかった。
だけど、気づかないフリをして笑い続けた。

ふと、麻琴とさゆみの顔が浮かんだ。
そしたら、視界が霞んだ。
れいなはそれをごまかすようにして、目を閉じた。

「・・・ごめん」

何かあたたかいものが、頬を伝った。
れいなはそのまま、眠った。
174 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/16(日) 16:24


           ・・・
175 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/16(日) 16:30
   
 ─── どうせ みんな死ぬんだ
       

        幸せになんか、なれない


 届かないものに手を伸ばすのは・・・

  

            ────惨めだよ
     
        


176 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/16(日) 16:58

「──こと・・・麻琴!?」

「えっ!?」

愛の声で、麻琴は我にかえった。
麻琴はきょろきょろと辺りを見渡し、ここが病室だと理解した後、

「あ・・・ごめん」

とすまなそうな顔をして、謝った。
愛はそんな麻琴を、心配そうに見つめる。

「何かあったん?」

「えっ?」

「・・・だって麻琴、今日ずっとぼーっとしとるし」

「・・・そんなことないよ」

麻琴が無理に笑ってそういうと、愛は悲しそうな顔をした。

「・・・そっか」

それっきり、愛は話さなくなった。
麻琴は急にできた沈黙に、焦って何か話そうとした。

「あのさ───」

「ええよ、別に」

話を遮る愛に、麻琴は驚いて小さく「えっ・・・」と声を漏らした。
愛は麻琴から目を逸らして、ベッドのシーツを握り締めている。

177 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/16(日) 17:34
話をすることを拒否された麻琴は、黙り込むしかなかった。
愛は何も話そうとせず、ただ悲しそうな顔をして俯いている。
気まずい空気がふたりの間に流れた。
その間も、麻琴の頭の中は、昨日のれいなとの出来事が支配していた。
麻琴は再び、れいなのことを考え始めた。
昨日のれいなの言葉が、頭を何度もよぎった。
そのたびに、麻琴の心はチクリと痛んだ。
またぼーっとしている麻琴の顔を、愛がじっと見つめている。
・・・悲しそうな、寂しそうな顔で。


このとき、麻琴は気づくべきだった。
愛の身に、起こっている何かに。

───気づいてやるべきだった。
178 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/16(日) 17:38
・・・
179 名前:壊れる、心 投稿日:2003/11/16(日) 17:38
・・・・
180 名前:チナ犬 投稿日:2003/11/16(日) 17:39
>169様 いつもレスありがとうございます。
      更新がんばります!
181 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/16(日) 20:46
やべーかなりやばい。続き気になっちゃってしょうがない。切ないしね。
もうね、おまい放課後グラウンド55周バク転で廻れ。そんな感じ。
最高です。
182 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 08:13

「・・・異常なし」

「・・・・・」

さゆみの部屋で、ひとみの声が静かに響いた。
梨華は黙ったまま、ひとみの言葉の続きを待っている。
二人の目の前では、さゆみが無邪気に微笑んで、積み木を積み上げて遊んでいる。
積み木が倒れて崩れると、さゆみは驚きの混じった小さな歓声を上げて、キャッキャと喜んだ。
そしてまた、楽しそうに積み木を積み上げていく。

そんな単純な遊びを、飽きずに何度も繰り返して、楽しそうに遊ぶさゆみを見て、
梨華の心は、チクリと痛んだ。
ひとみもまた、同じだった。



183 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 08:25

「梨華ちゃん、話がある」

ひとみのその言葉を聞いて、梨華はさゆみから視線を外して、ひとみを見つめた。
ひとみは無表情で梨華を見つめて、

「廊下で話そう」

とつぶやいた。
梨華はやや緊張気味に、首を縦に振って頷く。
そんな梨華を見て、ひとみは立ち上がって、部屋のドアを開けて廊下に向かう。
梨華はさゆみに、

「すぐ戻ってくるから、ね?」

と声をかけると、急いでひとみの後について廊下に出た。
部屋のドアが閉まる音がしたとき、さゆみの積み上げてた積み木が、突然音をたてて崩れ落ちた。

───少し、嫌な予感がして、さゆみは胸を抑えた。

184 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 08:36

廊下に出たひとみと梨華は、しばらく黙ったままだった。
二人の間に流れる沈黙を、最初に破ったのは、ひとみだった。

「さっきパズルや簡単な算数とかを教えたんだけど・・・」

「・・・・」

「決して早くはないけどね、正確に解けてたし、悪くはない」

「・・・そう」

「『普通』の人とそこらへんは何の問題もないね」

やや嫌味っぽく、ひとみがそう吐き捨てた。
梨華はムッとして、ひとみを睨み付けた。
ひとみはいつもなら、余裕たっぷりに意地悪な顔をして梨華をからかうのだが、今日は違った。
無表情なので、怒っているようにも見えた。
185 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 08:49
「いつまでだ・・・?」

「・・・えっ?」

「・・・いつまであんなところに閉じ込めておく気だ?」

ひとみは表情こそは変わらないが、声は明らかにイライラしていた。
そんなひとみに、梨華は驚いた。
梨華の返事も待たずに、ひとみはまた、イライラした声で話を続けた。

「あのままで、あの子が本当に幸せになれるとでも・・・?」

「・・・!?」

梨華の顔が、サーッと青ざめていく。
ひとみはそれに構わず、責めるように話を続けた。

「君はあの日、あの子が何も知らないことをいいことに、昔の記憶がないのをいいことに・・・」

「ひとみちゃん!!」

梨華が大声で怒鳴った。
ひとみは今日初めて、意地悪く笑った。

冗談だよ、って。

梨華はワナワナと握った拳を震わせている。
ひとみは笑うのをやめて、静かにそれを見つめた。
梨華がなにかを言い返す前に、ひとみが言葉を吐き出した。

186 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 08:59

「あの子、今日外出すから」

「・・・なっ!?」

「そうじゃなきゃ、ばらすよ?あの子に・・・全部」

「・・・・・」

「それでもいいの・・?」

梨華の出す答えがわかっていながら、ひとみは梨華に意地悪く問いかけた。
梨華はくやしさのあまり、震えながら、くっ、と声を漏らした。

そんな梨華を見て、ひとみは

「じゃあ、決まりだね・・・」

と意地悪く笑って、さゆみの部屋のドアを開けた。
そのとき後ろで、梨華の声がしたが、聞こえないフリをした。

───でもその言葉は、ひとみの胸の中に、いつまでも刻み込まれることとなった。

ドアを開けたとき、ひとみが一瞬悲しそうな顔をしたのを、梨華が気づくことはなかった。
187 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 09:20

───  がちゃ

ドアの開く音がして、さゆみは積み木を積み上げるのをやめて、後ろを振り返った。
ドアのほうでは、優しく微笑むひとみが立っていた。
さゆみがひとみに笑いかけると、ひとみは嬉しそうに笑いながら、こう言い放った。

「───外にでようか?」

その言葉に、さゆみは小さくえっ、と声を漏らした。
その後、一瞬にして、さゆみの頭の中は、れいなのことでいっぱいになった。

スケッチブックに描いたれいな、何も知らないさゆみに驚いた顔をしたれいな、

さゆみを眩しそうに見つめたれいな、悲しそうに笑ったれいな、そして・・・優しく微笑むれいな。

さゆみの楽しい記憶の中ではいつも、彼女、れいながいた。
それに気づいたとき、さゆみの心は震えた。
心が、何かを叫んでいる。何かを、求めている。
さゆみはそっと、目を閉じた。
最後に「なまえ おしえてください」と照れたようにいたずらに笑った、彼女の顔が浮かんできた。

さゆみは目を開けると、ひとみの目を見つめて、しっかりとこう言い放った。

「外に・・・出たいです」

───逢いたい 。

さゆみの返事に、ひとみは驚いたような嬉しそうな顔をして、満足そうに頷いた。

「ああ」

───二人は外に出た。

188 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 09:32
・・・
189 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 09:32
・・・・
190 名前:チナ犬 投稿日:2003/11/22(土) 09:35
>181様 私は運動神経がよくないのでバック転は無理です(w
      最高って言ってもらえて・・・嬉しいです!
      レスありがとうございました。
      ってか更新少なくてごめんなさい・・・・゚・(ノД`)・゚・
191 名前:チナ犬 投稿日:2003/11/22(土) 14:29
外に出たのは、これで二度目だ。
でもさゆみは、初めて出たフリをした。
れいなのことはなるべく内緒にしたかった。

空は青く晴れていて、太陽の光は、さゆみの身体を暖かくつつんでくれる。
風はひんやりとして気持ちいい。木々の緑が、鮮やかに揺れる。

さゆみは湧き上がってくる気持ちを必死で抑えながら、ひとみと並んで道を歩いていた。
もし隣がれいなだったら、素直にはしゃいだり、歓声を上げていたことだろう。
しかし、それでもやはり、自然と笑みがこぼれてしまう。
さゆみは喜びを噛み締めながら、一歩一歩、力を込めて歩いた。

192 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 14:59

「何か、知りたいこととかある?」

「えっ・・・」

「初めて外に出るんでしょ?不思議に思ったこと、山ほどあるんじゃない?」

ひとみの質問に、さゆみは困惑した。
知りたいことはいっぱいある。数え切れないほどだ。
でも、いざ聞かれると、何が知りたいのかわからなくなる。
いや、それだけじゃない。
きっと・・・

───(私に何かを教えてくれる人は・・・れいなだけでいいや)

さゆみの脳裏に、目を輝かせながら外の景色の美しさを教えてくれた、
れいなの姿が浮かんだ。
それだけで、さゆみはとても穏やかな気持ちになった。

「・・・今はまだいいです」

「えっ・・・?」

さゆみの言葉に、ひとみは驚いて立ち止まる。
さゆみも立ち止まって、ひとみを見つめ、きっぱりこう言い放った。

「急がなくてもいいんです。・・・ゆっくりで、いいんです」

その言葉に、ひとみは首をかしげた。
さゆみはそんなひとみの反応をみて、いたずらが成功した子供のように無邪気に笑った。
呆然と立ち尽くすひとみを置いて、さゆみは歩き出した。
我にかえったひとみは、

「あ、ちょっ・・・待てよ!」

といい、さゆみの後を慌てて追いかけた。
追いかけてくるひとみに、さゆみはキャッキャとはしゃぐ。無邪気に・・・。
そんなさゆみをみて、ひとみも自然と笑顔になる。
そして、そんな自分に気づき、ひとみは驚いた。

───(なんて・・・・)

さゆみがひとみの手に触れる。
驚くひとみに構わず、その手を引っ張って

「はやくいこー!!」

と促した。そんなさゆみに、ひとみは微笑む。
さゆみも嬉しそうに微笑み返してくれた。

───(なんて・・・純粋な子なんだろう)

左手に、小さなぬくもりを感じながら、ひとみはたまには振り回されるのも悪くないな、
と思った。

193 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 15:14
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

───「幸せになろうよ」

なんて簡単で、単純で、安っぽい言葉なんだろう

でも、あたしたちは そんな簡単な言葉さえ 口にできなかったよね?

ただ片寄せ合って 抱き合って キスをして・・・


───優しさだけで、何を救えただろう?


君を取り巻く恐怖さえ、消し去ることのできないあたしに


─── 一体 なにができるのだろう?


きみの涙さえ、 止められずに 。

□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
194 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 15:25

「愛ちゃん・・・?」

麻琴が買い物から戻ってくると、病室のベッドに愛の姿はなかった。
麻琴ははっ、として買い物袋を下に落とした。
買い物に行く前に閉めたはずの窓が、大きく開いていて、風でカーテンが揺れている。

「・・・なにそれ」


麻琴は急いで診療所から飛び出した。
愛がどこにいるのかわからない。
でもなんとなく分かる気がした。きっと愛はそこにいるに違いない・・・。
根拠のない自信があった。


麻琴の向かった先は───

ざざーん ざざーん

「──愛ちゃん!!」


    海だった───。

195 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 15:37

「愛ちゃん!!」

麻琴の声に、海を見つめていた愛が振り向いた。
その目は心なしか、少し潤んでいる。
麻琴は足早に愛のほうに歩み寄る。
その顔は明らかに怒っていた。
麻琴は愛の前に立つと、愛の頬を、手のひらでたたいた。

───パシン

その音が、波音とともにしずかに響いた。
愛は驚いて目を見開いて、たたかれた頬を片手で押さえながら、麻琴を見つめた。
愛をにらみつけた麻琴の目からは、涙が溢れている。
麻琴は一度唇を噛み締めて、下に俯くと、また愛を見つめて抱きついてきた。
愛は慌てて麻琴を抱きしめ返す。
愛の胸の中で、麻琴は肩を震わせながら、つぶやいた。



196 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 15:44

「なんでっ・・・なんでも独りで背負い込もうとするんだよ・・!」

「・・・!?」

麻琴の言葉に、愛は目を見開いた。
そんな愛に構わず、麻琴は話を続ける。

「あたしがいるのにさ・・・独りじゃないのに」

「・・・ごめん」

愛の言葉が、麻琴の耳の中で響いた。
悲しい響きだった。

「違うよ!!」

麻琴が顔を上げて、愛を見つめた。
愛は突然大声を上げる麻琴に驚いた。
悲しそうに何かを訴えかける麻琴の顔を見て、愛の胸はキリキリと痛んだ。

ああ、こんなに悲しくさせているのは、自分なのだと・・・。

これ以上麻琴の悲しい顔を見ていられなくなって、愛は麻琴から目を逸らした。
それでも麻琴は、愛を見つめている。
麻琴は愛を抱きしめる腕に力をこめながら、こう言った。
197 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 16:57

「ちがう・・・全然ちがうよ。聞きたいのはそんな言葉なんかじゃないんだよ。

 『ごめん』とか・・・そんな悲しい言葉なんか、聞きたくないんだよ」

麻琴の言葉に、愛はまたごめん、と言いそうになり、慌てて口をつぐんだ。
そんな愛から、麻琴は急に俯いて、離れた。
愛は麻琴の行動に驚きながらも、麻琴に触れていたくて、麻琴の腕に手を伸ばした。

「愛ちゃんはさ・・・」

伸ばしかけてた愛の手が、止まる。
麻琴は下を俯いている。

「もう、嫌いになった?・・・あたしのこと」

「そんなことっ・・!!」

「じゃあもうこんなこと・・・しないでよ・・・」

愛の言葉を、麻琴が遮る。
愛が顔を上げると、麻琴はいつの間にか俯くのをやめて、愛を見つめていた。
愛と目があうと、麻琴は

「寂しいよ・・・こんなの」

と苦しそうにつぶやいた。

「・・・麻琴」

愛は今度こそ、しっかり手を伸ばして、麻琴の腕をつかんだ。


198 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 17:15

麻琴は愛の手の冷たさに驚いた。
そんな麻琴に、愛はすまなそうな顔をして

「あ、ごめん。つめたかったよね・・・?」

と言い、麻琴の腕から手を離そうとした。
しかし、その手を、麻琴が捕まえる。

「麻琴!?」

「・・・・・」

麻琴は黙って愛を引き寄せて、抱きしめた。
愛はただ、驚いている。

「何も隠す必要なんてないんだよ。ひとりで何かを背負おうなんて考えなくていいんだよ?

 寂しいなら素直に『寂しい』って言ってもいいんだよ?あたしも・・・同じだからさ」

麻琴の言葉に、愛は泣きそうな声で

「・・・うんっ」

と頷いた。その後、

「やっぱ麻琴じゃなきゃ、だめだね?あーしは・・・」

と、愛は笑ってそう言った。

二人でそんなやり取りをして、少し笑った後、
麻琴が真剣な顔をして、こう言った。
199 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 17:38

「今日は・・・なんかあったの?」

その言葉に、愛ははっとしたような顔をした。
抱きしめた愛の身体が、少し震えている。
麻琴は嫌な予感がした。

───聞くな!耳をふさげ・・・!!

どこかから、そんな声が聞こえた。
でも、聞くしか・・・なかった。

「あ、あのね・・・」

愛の声が、震えている。
目にも、涙が浮かんでいる。
身体はさっきよりもがくがく震えている。

麻琴はたまらなくなって、さっきよりも強く、愛を抱きしめた。

「あ、あーし・・・・」

───聞くな、聞くな 耳をふさげ、耳をふさげ!!

また声がする。
うるさい、うるさい、うるさいうるさい!!

麻琴はゴクリと唾をのみこんだ。
その直後、愛が震える声で、こう言い放った。



「───昨日のことも、もうほとんど・・・覚えてないんだ」




───頭が真っ白になった。
   愛ちゃんの泣く声がする。
   海の音がする。
   
忘れる?・・・・──なにを?
あんなに長く一緒にいた日々を?時間を?

忘れるの?きみは・・・。

少しずつ?・・・あたしのことも?

『好き』っていう言葉も?想いも?



───忘れないで・・・?幸せになろうよ・・・?


その言葉は、声にならなかった。
目の前の愛しい彼女に届くこともなく、麻琴の中でしずかに消えた。
麻琴は泣きじゃくる愛を、ただ抱きしめることしか・・・できなかった。

波の音が聴こえる。
寄せては返す、波のように、
二人の悲しみも、決して消えることはなかった───。

200 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 17:38
・・・
201 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 17:38
・・・・
202 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/11/22(土) 17:38
・・・・
203 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/11/23(日) 18:50
衝撃がでかすぎて動悸が止まりませんよ。
今ものすごい胸がぐるぢぃ。
はわわ涙で画面が良く見えません・゚・(ノД`)・゚・
あなた素晴らしいです。
204 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 18:04
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

「くぅ〜ん」

───(・・・・・・?)


目を覚ましたれいながドアのほうに顔をむけると、一匹の茶色の毛をした子犬が
ドアの隙間から顔をのぞかせていた。
れいなは笑って、その子犬のほうへ行こうとしたが、身体がだるくて思うように動かない。
そんな自分に苦笑しながら、れいなは子犬を自分のほうに来るように手招きした。

「おいで」

しぼり出すように出した声は、かすれていた。
子犬は意味を理解したらしく、尻尾を振って、れいなのほうへ向かってきた。
そんな子犬の駆け寄ってくる姿を見て、れいなはさゆみのことを思い出し、噴き出した。
子犬は急に笑い出したれいなをみて、首をかしげている。

───(なんだかこいつ、さゆ みたい。見知らぬ人になついてくるところとか・・・)

そう思いながら、れいなはベッドから上半身をなんとか起こして、子犬を抱き上げた。
子犬は嬉しそうに、れいなの胸のあたりに顔をこすりつけた。

205 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 18:18

「あはは・・・っ」

れいなは少し寂しそうに笑って、子犬に話しかけた。

「・・・おなか空いてるの?」

子犬はれいなの言葉に首をかしげる。
言葉が伝わっていないことも知っていながら、れいなは子犬に話しかけ続けた。

「悪いけど、ご飯はないんだ。あたしはそういう時、人から物を盗むんだけどね。
 君はそんなことしないよね?でもあたしは生きたいんだ、・・・生きたかったんだ
 そこまでしても、やっぱり───」


────やっぱり・・・


子犬の目が、れいなの目をまっすぐ見つめている。
れいなは息を吐き出すようにして、しっかりと言い放った。

「───生きたかったんだ」

いつしかこの子犬の中に、さゆみの姿を見ていた。

「あたしがどんな人間か知っていたら、きっと此処にも来なかっただろう?そうだろう?」


───もう、身体が・・・・


れいなは子犬を床に下ろし、ベッドに倒れこんだ。
身体が熱い。
喉はカラカラだ。
でも水を飲む気力もない。
額には汗がにじんでいた。
子犬は心配そうな顔で、れいなのほうを見つめている。








206 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 18:29

「やっべぇ・・・もう、きついや」

途切れ途切れに、れいなはそうつぶやいた。

「へへへ・・・あたし、もう死ぬのかな?」

ふと、さゆみの顔が頭をよぎった。

───(こんな温かい気持ちを抱いたまま、死ぬのも悪くないかもしれない)


嘘だった。たった一つの、今できるたった一つの強がりだった。

本当はもっと、本当はもっと・・・



─── 生きたい 。


「生きたいよ、さゆ。逢いたいよ・・・」

視界が涙でにじんだ。
そんな弱音を吐いても、救われないことは分かっていた。
───それでも


「死にたくなんか、ないんだ」


吐き出さずには、いられなかった。
途切れ途切れの言葉は、とても弱弱しかった。
涙が、溢れた。
207 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 18:37

───この島が沈むことも知っている。

   今、死ななくても どのみちあと数年で死ぬことも知っている。


でもね、でもさ・・・・・


───あたしは・・・


「くぅ〜ん」

子犬は悲しそうに鳴いた。
れいなは涙を流しながら、微笑んで

「君がなくことはないんだよ」

とつぶやいて、手を伸ばして子犬の頭を撫でた。
その後、れいなは

「ほら、もういきな」

子犬にもう帰るように促した。
子犬は悲しそうな顔をしている。


208 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 18:41

「ほらっ、行けって・・・」

そう強く言うとやっと、子犬は時折振り向きながらも、ゆっくりとれいなの家から出て行った。
れいなはその後姿を、見送った。

「お前はもっと、幸せになれるよ・・・」

子犬が出て行った後、れいなはぽつりとそうつぶやいた。
子犬がいなくなった後も、涙が止まることはなかった。
209 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 19:07
□ □ □ □ □ □ □ □ □

「よしざわさん!!こっち、こっち!!」

さゆみが弾んだ声で、ひとみを手招きした。

「わかったから、わかったから」

ひとみは呆れたような、それでいて嬉しそうな顔をしてさゆみのほうへ向かった。
ひとみがさゆみの傍までくると、さゆみは頬を膨らませて、怒ったフリをした。

「もうっ、おそいよぉ!」

「ごめん、ごめんってば」

ひとみは笑いながら、さゆみに謝った。
さゆみはそんなひとみを見て、急に笑いだした。

───(・・・?)

何故笑われたのかわからないひとみは、首をかしげるしかなかった。
さゆみはしばらく笑った後、こう言った。

「・・・いい人なんだね?よしざわさんって」

「へっ!?」

さゆみの意外な言葉に、ひとみは驚いたような顔をした。
さゆみはまた少し笑いながら、こう言った。

「はじめはあまり笑ったりしないから、なんか怖いって思ってたけど・・・」

少し言葉をきったあと、さゆみはひとみの目をしっかり見つめながら、また言葉を付け加えた。

「本当はいっぱい笑うんだね?そうだよね?」

さゆみのまっすぐな言葉に、ひとみはなんだか嬉しいような、くすぐったいような
気持ちになった。
その後ひとみは、さゆみといると自然と微笑んでしまう自分に気がついた。


───(何も知らないということはこういうことか?こういうことなのか・・・?

     梨華ちゃん・・・・)

一瞬、悲しそうな梨華の顔が、頭をよぎった。
ひとみは少し目を閉じた後、また目を開けて、さゆみを見つめながらこう言った。


「───ありがとう」


一瞬、時間が止まってしまったかのように思えた。
ひとみの言葉に、さゆみは優しく微笑んで頷いた。
ひとみも照れたように笑った。

二人は仲良く並びながら、また歩き出した。


210 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 19:19

しばらく歩いた後、二人の目の前に、一匹の茶色の毛をした子犬が姿を表わした。

「わん、わんっ!!」

子犬は息を切らせながらも、必死で何かを二人に伝えようとしているようだった。
さゆみとひとみは、二人で顔を見合わせると、同時に首をかしげた。
子犬はさゆみの服の裾を口でくわえて、軽く引っ張った。
さゆみはその様子を見て、やっと子犬の伝えたいことを理解した。

「・・・ついてこいってこと?」

「わん、わんっ!!」

さゆみの言葉に、子犬は正解だというように吼えた。
その後子犬は、さゆみたちがついてこれるスピードで、走り出した。

「あっ、待ってよ!!」

子犬の後を、さゆみも走ってついていく。

「おい!どこいくんだよ!!?」

ひとり残されたひとみも、慌ててさゆみと子犬のあとをついていった。




211 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 19:28
子犬の後をしばらくついていくと、ある一軒の家にたどり着いた。
コンクリートでつくられているその家は、ところどころ穴があいており、
雑草が伸び放題で、とても人が住んでいるとは思えない。
子犬はそのまま、少し開いたドアの隙間から、その家に入っていった。

「・・・ここに入れってこと?」

さゆみの言葉に、ひとみは

「そうらしいね」

と、冷静に返した。
二人はしばらく考え込んだ後、ゆっくりその家のドアをあけた。
ギィッという音が、その家に響いた。

子犬はベッドのほうで

「くぅ〜ん」

と鳴いている。
二人はゆっくりそのベッドのほうに向かった。
誰かがそこで眠っていることを知った二人は、おそるおそる
ベッドで眠っている人の顔を覗き込んだ。
212 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 19:39

「れいなっ!!?」

見覚えのある顔に、さゆみはとても驚き、声を上げた。

「知り合いなのか!?」

そんなさゆみの様子に、ひとみもまた、驚いた。
ベッドで眠っている人物、れいなは顔をしかめながらも、ゆっくりと
目を開いた。

「さ・・・ゆ?」

眠たそうにしていた目が、大きく見開かれた。
さゆみはただただ頷いた。

「ど・・・うして・・・?」

───どうして此処がわかったの?

そう尋ねようとしたとき、子犬の鳴き声が遮った。

「わん!わんっ!!」

れいなはまた驚いた顔をして、子犬のほうを見つめた。
そのあと、ゆっくり微笑んだ。

「ああ、お前が連れてきてくれたの?」

「わんっ!」

れいなの言葉に、子犬は元気よく返事をした。
れいなはまた子犬に微笑んだ後、ゆっくりさゆみのほうを見つめた。
213 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 19:52

そして、さゆみのほうにゆっくり手を伸ばすと、その頬に触れた。
さゆみはその手を、優しく握り返した。
ひとみはそんな二人を、黙って見つめている。
しばらくして、れいなが口を開いた。

「さ・・・ゆ、もっと・・・もっと」

声がかすれていて、うまく伝えられない。
さゆみは慌ててれいなの口元に、耳を近づけた。
れいなの苦しそうな息が耳にかかり、さゆみは心が締め付けられるような感覚に陥った。
れいなは息を整えながら、苦しそうに言葉を吐き出す。

「・・・一緒にいたい」

れいなの言葉に、さゆみは目を見開いた。
れいなはただ、言葉を続ける。

「さゆと・・、一緒に」

「うん、うんっ!私はここにいるよ?ずっとそばに、一緒にいるよ?」

れいなの言葉を最後まで聞いていられなくて、さゆみはれいなの言葉を遮った。
さゆみの言葉に、れいなは嬉しそうに目を細めて笑った。
その目からは、涙が溢れている。

「・・・よかった」

れいながそうつぶやいた後、涙が一筋、頬を伝った。
れいなは目を閉じたまま、何もしゃべらなくなった。

214 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 20:02

「れいなっ!れいなっ!!」

さゆみは泣きそうな顔をしながら、必死でれいなの名前を呼んだ。
れいなは苦しそうに息をしている。
ひとみはれいなの額に手をあてると、

「ひどい熱だ。急いで診療所に!!」

と言い、れいなを背中におぶった。
そしてさゆみに

「ほら、いくよ!!?」

と声をかけると、急いで診療所にむかって歩き出した。
さゆみは子犬を抱くと、慌ててそのあとをついていった。

「れいな、大丈夫だからね?」

さゆみは時々、ひとみの背中で眠っているれいなに声をかけた。
そのときも、れいなの頭の中で、さゆみの言葉が繰り返されていた。


───ずっとそばに、一緒にいるよ?


その言葉だけで、何も要らないと思った。
215 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 20:03
・・・
216 名前:素直な気持ち 投稿日:2003/12/05(金) 20:03
・・・・
217 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/05(金) 20:06
>名無しどくしゃ様 いつもレスありがとうございます。
          とても励まされます。
          更新遅いですが(とくに花版はry
これからもよろしくおねがいします!!
218 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/06(土) 12:25
んまー涙がチョチョ切れる。犬イイ!w
どちらもマターリ待ってますよー。
219 名前:寂しいということ 投稿日:2003/12/28(日) 13:49

目を開けると、見慣れない天井があった。
真っ白な天井を見て、もしかしたら自分ひとりがこの世界に置いてきぼりにされたのではないかと、少し不安になった。

「れいな!!」

だから、聞きなれたその声をきいて、とても安心した。
れいなが声のしたほうにゆっくり顔を向けると、そこには心配そうな顔でこちらを覗き込んでいるさゆみがいた。

「さ、ゆ・・・」

かすれた声でそうつぶやいたとき、右手が妙にあたたかいことに気がついた。
れいなはゆっくり右手のほうに視線をうつし、驚いた。

「ずっと・・・握っててくれたの?」

れいなの右手は、さゆみの小さな手につつまれていた。
れいなの問いに、さゆみは泣きそうな顔でうん、と頷いた。

「さゆ・・・?」

───(泣いているの・・・?)

れいなは診療所のベッドから上半身をおこして、さゆみの顔をのぞきこんだ。
220 名前:寂しいということ 投稿日:2003/12/28(日) 14:03

「うっく・・・・れい、な、もう起きてこなかったらどうしようって・・・」

「えっ・・・・?」

「そう考えたら、怖くなって・・・」

さゆみの目から、涙がこぼれおちてくる。白い、小さな病室に、さゆみのすすり泣く声が響いた。

「・・・ごめん」

れいなはさゆみの言葉をこれ以上聞いていられなくなって、その震える小さな肩を抱きしめた。
シャンプーのいい香りが、れいなの鼻をくすぐった。
221 名前:寂しいということ 投稿日:2003/12/28(日) 14:10

「いいよ・・・ちゃんと、目開けてくれたから」

涙でくしゃくしゃになった顔を笑顔に変えて、さゆみは笑った。

「よかった・・・。れいなが、れいなとまた逢えて・・・よかった」

「うん・・・」

───また逢えてよかった

その言葉を聞いて、れいなの胸はいっぱいになった。
だれかに必要とされることが、こんなにも嬉しいことだとは思わなかった。

222 名前:寂しいということ 投稿日:2003/12/28(日) 14:22

「れいな・・・」

「んっ・・・?」

抱きしめた身体を少し離して、れいなはさゆみの顔をみつめた。
さゆみはいつものように優しく微笑んでいた。

「なんだよぉ・・・」

なんだか照れくさくなって、れいなは早くさゆみに話をするように促した。
さゆみはそんなれいなを見て、くすくす笑った後、口を開いた。
223 名前:寂しいということ 投稿日:2003/12/28(日) 14:33

「ずっと傍にいるからね・・・?」

「えっ・・・・?」

思いもよらないさゆみの言葉に、れいなは驚く。さゆみは握り締めたれいなの手を、さらに強く握り締めた。

「だから・・・一緒にいてほしいとき、れいなが寂しいときは・・・」

さゆみはそう言いながら、れいなの手を握り締めた手とは、また違うほうの手をれいなの頬に添えた。
れいなの頬がびくんと、震えた。
顔を上げれば、やはりさゆみの真っ直ぐな目が、れいなを見つめている。
224 名前:寂しいということ 投稿日:2003/12/28(日) 14:42

「私が傍にいるよ?・・・そばにいるから」

「・・・うんっ」

さゆみの言葉に、今度はれいなが泣きそうな顔で頷く。
そんなれいなを見て、さゆみは

「れいなは泣き虫さんだね」

と笑って言った。
れいなはその言葉にムッとして、拗ねながらもやっぱり笑ってこう言った。

「っ・・・バーカ」



───小さな病室に、ふたりの少女の笑い声が響いた。



225 名前:寂しいと言うこと 投稿日:2003/12/28(日) 14:47

寂しいと言うことは、かっこ悪いことだと思っていた。

同時に、・・・怖いことだと思っていた。

───ずっと傍にいるよ

その言葉がたとえ嘘でも、信じていたと思う。

何かを信じる勇気を、君がくれたから───。

226 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/28(日) 14:48
・・・
227 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/28(日) 14:48
・・・・
228 名前:チナ犬 投稿日:2003/12/28(日) 14:54
名無しどくしゃ様>やっと無事更新できました(ホッ
         てかおいら年賀状さえまだだしていな(ry
         
         >どちらもマターリ待ってますよー。
         そういってもらえると助かります。
         一応下書きみたいのはできてるんですけどね。

         では、レスありがとうございました!!
229 名前:約束 投稿日:2003/12/31(水) 21:31

□ □ □ □ □


「・・・もう帰ろっか?」

「・・・・」

「身体、冷えちゃうからさ」

「・・・・」

「・・・ねっ?」

───帰ろう?
二人は砂浜に腰をおろしていた。
麻琴は何度も愛に話しかけるが、愛は俯いたまま、返事を返してくれない。
麻琴はため息をつくと、砂浜から立ち上がろうとした。

───そのとき・・




────ぎゅっ・・・


「・・・愛ちゃん?」

「・・・・」

立ち上がろうとする麻琴の腕を、愛の手がつかむ。
突然のことに麻琴が驚いていると、いつのまにか愛は俯いていた顔を上げて、麻琴を見つめていた。

「・・・もう少しだけ、もう少しだけでいいから」

「・・・愛ちゃん」

「今だけはそばにいてよ・・・」

愛の目が、寂しいと訴えてくる。
麻琴はなにも言えなくなり、ただ愛の言うとおりに愛のそばに座り込んだ。
そうすると、愛は麻琴の肩にもたれかかってきた。
それに応えるように、麻琴は黙って愛の小さな肩を抱く。
二人はそうやってしばらく目の前に広がる海を、見つめていた。




230 名前:約束 投稿日:2003/12/31(水) 22:06

───(・・・そういえば、告白した場所もここだったっけ)

ふと、友達から恋人同士になった日を思い出した。

「此処で恋人同士になったんだよね・・・」

その言葉に、愛の顔が一気に青ざめる。
それに気づかずに、麻琴は話を続ける。

「あたしそんときむちゃくちゃ緊張してたんだよ!・・・って愛ちゃん?」

左肩から、重みとぬくもりがなくなる。
麻琴は愛の異変に気づき、視線を愛のほうにうつす。
愛は麻琴の肩にもたれるのをやめて、下を俯いていた。
麻琴はしばらくそんな愛に首をかしげていたが、やがてはっとしたような顔をした。

「愛ちゃん・・・・もしかして」

愛が俯いていた顔をゆっくり上げる。
その目は、麻琴ではなく、海を見つめていた。麻琴を見ないようにして───。
麻琴はそんな愛の気持ちが痛いほど伝わってきて、胃が痛くなった。

231 名前:約束 投稿日:2003/12/31(水) 22:13

「ごめん・・・覚えてない」

「・・・・」

予想していた言葉が、麻琴の胸を貫いた。
愛は麻琴に悲しい顔を見せないように、また下を俯いている。
麻琴はしばらく黙っていたが、やがて両手でパンッと自分の頬をたたくと、勢いよく立ち上がった。
そして、思いっきり深呼吸をする。


232 名前:約束 投稿日:2003/12/31(水) 22:58

「・・・麻琴?」

「あ、愛ちゃん。あたし、今から愛ちゃんに告白するから!!」

「えぇっ!!?」


───だから、ちゃんと聞いていてね?


驚いている愛に構わず、麻琴は海にむかって、叫んだ。


「高橋愛が、死ぬほど大好きだぁー!!!」


麻琴の言葉が、愛の胸の中で響く。
愛はしばらく呆然としていたが、やがて照れたように笑って、砂浜から立ち上がり、麻琴のそばに立った。
そして、大きく息を吸い、叫んだ。


「あたしも、好きー!!」

「愛ちゃん・・・」

「小川麻琴が、死ぬほど大好きだぁー!!!」



麻琴の胸の中にも、愛の声が確かに響いた。
告白した後はやけに辺りがしんとしていて、目があうと、二人で照れたように笑った。
互いの顔が火照っているのは、やがて沈もうとしている夕陽のせいなんかじゃないのだと、確信した。
これまでの悲しみを、全部吹き飛ばしてしまうくらい、ただ思いっきり笑いあった。
233 名前:約束 投稿日:2003/12/31(水) 23:25

「はぁ、はぁ・・お、お腹いた〜い!!」

「あははっ!あーしもやよ〜!!」


笑って、息を整えながら、麻琴は愛を抱きしめた。
愛も笑いながら、麻琴を抱きしめかえす。

しばらく二人でそうしていると、麻琴が口をひらいた。


「へへへっ・・・これで記憶、元通りだね?」

「えっ・・・?」

愛が目を大きく見開く。
そして、やっと気づく。
ああ、この告白は、このおそらく二度目の告白は───。

「忘れたら、つくりなおせばいいんだよ。昔に囚われなくてもいいんだ。
 いつもそばにいるから・・・愛ちゃんの記憶をつくりなおせるように
 いつでもそばにいるから・・・・ね?」

「・・・うんっ」


愛が泣きそうな顔で、泣きそうな声で、返事を返す。
ふたりの胸は、ぽっと明かりが灯ったようにあたたかくなった。
麻琴は抱きしめる腕を緩めて、愛の顔を見つめながら

「・・・かえろっか」

と、つぶやいた。麻琴の顔は優しく微笑んでいる。
それに応えるように、愛も微笑んで、こうつぶやいた。

「・・・かえろっか」

ふたりでまた少し笑いあったあと、手を繋いで歩き出した。
砂浜から歩道にもどるまでの間、愛が今日あった出来事を話始めた。
そんな他愛のない話を、麻琴は優しく微笑み、ときには相槌をうちながら聞いていた。
聞きながら、表情のころころ変わる愛の顔を見つめながら、そっと心の中でつぶやいた。


───好きだよ?世界中で一番、誰よりも・・・。


隣で愛は笑っている。つられて麻琴も笑う。
ふたりは繋いだ手に、力をいれた。
もう離れないように───。

234 名前:約束 投稿日:2003/12/31(水) 23:38

「麻琴ぉー・・・」

「んー?」

「・・おんぶ!!」

「はぁっ!?」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


あっと言う間に夕陽は沈んでいて、麻琴は病院への道を急いだ・・・愛を背負いながら。
麻琴の背中で、愛は満足げに微笑んでいる。
麻琴の背中に甘えるようにして顔をくっつけながら、愛は麻琴に話しかけた。

「ねぇ、怒られるかなぁ?」

「ん?誰に?」

「吉澤さん」

「そりゃあ怒られるでしょう。前だって怒られたじゃん、ふたりで」

「あはは」

「あはは、じゃないよ、全く!誰のせいだと思ってんの!?」

「ごめんね・・・?」

「べ、別にいいけどさぁ」


文句を言うくせに、謝られると照れる麻琴を、愛は愛しいと思った。
だから、だからこそ・・・思い切って聞いてみた。
235 名前:約束 投稿日:2003/12/31(水) 23:53

「麻琴はさ・・・」

「んーっ?」

「あーしを好きになったこと、後悔してる?」

「・・・・・」

とたんに麻琴が黙り込む。愛は不安になった。

「ばっかじゃないの!?」

「えっ・・?」

「後悔なんて、するわけないじゃん!!」

「・・・麻琴」

麻琴の真っ直ぐな言葉に、愛の胸が熱くなる。

「たしかに・・・つらいとか悲しいって思ったことも、正直あるよ?
 でも・・・」

一息ついて、麻琴が続ける。

「好きにならなければよかったとか、思ったことは一度もない」

麻琴の言葉に、愛は安心した。

「麻琴ぉ・・・」

「なあに、愛ちゃん?」

「・・・ありがとう」

「・・・おう」

麻琴はそう短く返事をしながら、顔を赤く染めた。

236 名前:約束 投稿日:2004/01/01(木) 00:02
もう少しで診療所につく。
月が、そっとふたりの帰る道を、優しく照らしてくれる。
話が少し途切れたところで、また愛が麻琴に話しかけた。

「麻琴ぉ」

「今度はなあに?」

少し間を空けた後、愛がこうつぶやいた。

「あーし、麻琴を好きになってよかった」

「・・・・・」

「麻琴と出逢えて、本当によかった」

「うん・・・」

愛はまた麻琴の背中に顔をうずめた。
背中に愛のぬくもりを感じながら、麻琴は帰り道を急いだ。
耳の中で、愛の言葉が木霊していた。
237 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/01(木) 00:03
年明けちゃいました。
とりあえずあけましておめでとうございます!!
238 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/01(木) 00:04
・・・
239 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/01(木) 00:04
・・・・
240 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/01(木) 03:04
おめでとさんww
241 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/01(木) 07:38
新年早々切ない更新乙(w
こちらこそよろしくおながいすます…
242 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/02(金) 16:32
あけおめれす
新年そうそういいモノ見れました
243 名前:名無し 投稿日:2004/01/03(土) 19:33
れなさゆよいよいvv
244 名前:名無し 投稿日:2004/01/03(土) 19:34
更新まってます。
245 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/12(月) 11:28
れいなが辺りを見渡すと、コンクリートが見えた。そこですぐに此処が自分の家だと気づく。


───(・・・夢?)


なんとなくそう思った。そうだ、本当の自分は今頃診療所のベッドで寝ているはずなのだ。
夢だと思ったら、なんだか少し安心して、れいなは安堵のため息をついた。
そのときである。

真っ暗な部屋に、スポットライトのような光がさした。
その眩しさに、れいなはおもわず目を細め、顔をそむける。
そのあと、少女のすすり泣く声がして、れいなは思わず目を見開いて、光のさしたほうを見た。
もう眩しさは気にならなかった。
その部屋は・・・

───(・・・おじさんの部屋・・・?)

れいなの育ての親の部屋だった。
246 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/12(月) 11:35
れいなのじゃないもうひとつのベッドの上には四十代くらいの男が寝ていて、
少女はその男の手を握りながら、ベッドに顔をうずめて泣いている。
その光景を、れいなはどこかで見たような気がした。
そうだ、今泣いているのは・・・


───(あれは・・・昔のあたし?)


少女と男はこちらに気づいていない。
れいなは悲しみに顔をゆがめながら、ただその場に立ち尽くしていた。
247 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/12(月) 12:01

「おじさん・・・死んじゃいやだよう!診療所に行こう?助けてもらおう?ねっ、ねっ?」

少女の言葉に、男は首を静かに振った。その返事に少女はまた泣きそうな顔をした。
男は眉をひそめ、右手で少女の頭を撫でた。

「そんな顔をするな、れいな。お前にそんな顔は似合わないよ。ほら、笑ってくれ。最後に、もう一度・・・」

「・・っく、ひっく。・・・笑えるわけっ、ないじゃん」

「・・・れいな」

今度は男が悲しそうな顔をした。その顔を見て、れいなの心は痛んだ。

───(おじさん・・・・)

心の中でそうつぶやいたとき、男が話し始めた。

「れいな、これは運命なんだよ。人は必ず死ななければならない。たとえどんないい人間でも・・・」

「・・・・・」

少女はすすり泣きながらも、男の話に静かに耳を傾けた。
男は天井を見ながら、静かに口を開いた。

「お前は昔、私にこう言ったね?『どうしてあたしなんかを引き取ったんだ』って・・・」

「・・・・・」


───(・・・ああ。)

れいなはそのときのことをよく覚えている。
親にも見捨てられた自分を、どうしてわざわざ引き取ってくれたのか、ずっと疑問に思っていた。
それを尋ねたとき、思わず声が震えてしまったことを今でも覚えている。
訊いたはいいが、その答えを訊くのが怖くて、おじさんが答えを言う前に

「やっぱ、いい」

と言って逃げ出したことも。

───(あのとき、おじさんはなんていってくれたんだっけ?)

そう思い出そうとしたとき、ベッドの上の男が口を開いた。
248 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/12(月) 12:30

「それはね、お前の声が聴こえたからだよ。」

「声・・・?」

「そう・・・声がね」

少女は顔を上げる。
いつの間にか男は天井を見るのをやめて、少女のほうを優しく見つめていた。

「お前の目には光がなかった。でもたしかに叫んでいたよ。『助けて』って・・・」

少女は首をかしげた。男はふっと笑って、また少女の頭を撫でた。

「あの時、お前を引き取ることを決めたんだよ。自分の身体が病原体によって蝕まれていることも知っていた。
 もう長くは生きられないことも。でもお前を・・・お前に光を見せてあげたかった」

男は頭を撫でるのをやめて、少女の頬にふれた。
少女もその手に自分の手を重ねる。

「お前に私は光を見せてあげられたかい?・・・たとえそれが本当にちいさなちいさな光であっても。私はお前に・・・」

「うん!見えたよ?おじさんに引き取ってもらえてよかった。おじさんがお父さんとお母さんに私を引き取ると言ってくれたとき・・・・」

少しの間を空けて、少女がまた口を開いた。

「嬉しかった・・・。すっごく、嬉しかった」
249 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/12(月) 12:51
その言葉に、男は嬉しそうな顔をした。
しかしそのあと、苦しそうに咳き込んだ。

「おじさん!!?」

少女は声を上げた。

───(おじさん!!?)

れいなも思わず声を上げる。
そして慌てて口を押さえた。
終わりは見えているはずなのに、つい期待してしまう。
もしかしたら、助けられるんじゃないかって。

咳き込んだあとも、男は笑っていた。もうすぐ死ぬの知っていながら。
きっとおじさんの精一杯のつよがりだったんじゃないかと、れいなはそのとき気がついた。
少女に目から、また涙が流れる。
男は親指で、その涙をぬぐった。


250 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/12(月) 13:24

「れいな、お前はもっと生きなさい。生きて光を見つけなさい。私が見せた光より、もっと大きな光を・・・」

男の優しく、力強い声が響く。でも少女は首を横に振った。

「でも・・・ひとりは嫌だよ。おいていかないでよ・・・お願いだから・・。」

少女はそういいながら、男の手を強く握り締めた。
男も少女のちいさなちいさな手を握り返す。

「お前はひとりじゃないよ。もうすぐ、お前も分かるだろう。お前は一人じゃない」

男がそうつぶやいたとき、れいなの視界は、光によって遮られた。
眩しくて思わず目をつぶると、男の声が聴こえた。

「れいな、お前を引き取ってよかったよ。お前を愛しているよ。これからも・・・」

「おじさん!!嫌だよ、嫌だ!!おいていっちゃ嫌っ!!」

男のあとに、少女の声が続く。
男の声は聴こえなくなった。そのかわり、少女の声が聴こえた。

「いやぁぁぁぁぁっ!!!」

思わずれいなはしゃがみこんで、耳をふさいだ。
もう何も思い出さないように。もう何も聴こえないように。
胸が何か抉り取られたように痛んだ。
251 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/12(月) 13:36
240 名無しさん様>おめでとうございます!がんばります!

241 名無しどくしゃさま>気がつけばもう後半突入です。
          いつもレスありがとうございます!!

242 名無し読者様> そういってもらえると助かります。
        わざわざレスありがとうございました!

243 名無しさま>気に入ってもらえて嬉しいです!
      レスありがとうございました!!

244 名無しさま>更新遅れました。待ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます!!
        
252 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/12(月) 13:37
・・・
253 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/12(月) 13:37
・・・・
254 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/13(火) 16:38
・゚・(ノД`)・゚・ブォォオオオオ
れーなぁ…おじさぁん・゚・(ノД`)・゚・
思わずホロリ…。後半ガンガテ!
255 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/30(金) 23:47

───いな、れいな!!

柔らかな声が、自分の名を呼んだ。

「れいな!・・・だいじょうぶ?」

目を開けると、心配そうにこちらをのぞきこむさゆみと目が合った。

───あたし、今まで寝てた?

そう尋ねようとしたら、さゆみの手が、れいなの頬に触れた。

「うなされてたよ?・・・悲しそうな顔してた」

さゆみが悲しそうにそう言うと、れいなは優しく笑って

「・・・さゆまで悲しそうな顔しなくていいの」

と言い、両手でさゆみの顔をはさんだ。
さゆみはれいなの笑顔に少し安心したのか、やっと少し笑ってくれた。
れいなもつられて笑顔になる。
窓の外の景色は、もう真っ暗になっていた。


256 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/31(土) 00:30

「さゆさぁ、もう帰らなくていいの?」

「えっ?」

れいなの問いにきょとんとしているさゆみを見て、れいなはずっこけそうになった。

「だってさあ、もう外暗いよ?・・・梨華ちゃんって人、待ってるんじゃない?」

そう言ったとき、れいなはしまった、と思った。
自分がさゆみと出会うずっと前からさゆみと一緒にいて、さゆみの会話にたびたびでてくるその人物。
石川梨華にいつのまにか嫉妬していたらしい。
さゆみの口から梨華の名前が出るたび、いつもそわそわして、落ち着かない自分がいた。
・・・だから、少し刺々しい言い方をしてしまったかもしれない。
心配になって、さゆみのほうを見てみると・・・。

「ああ、そうだね。もう帰らなきゃ」

即答。
れいなはまたずっこけそうになった。
さゆみはれいなの刺々しい言い方にも、全く気づいていないようだった。
さゆみはそんなれいなをみて、どうしたの?と不思議そうな顔をしている。
れいなは知らなくていいよ、と弱弱しくつぶやいた。
さゆみは首をかしげた後、

「変なれいな」

と言って笑った。

───・・・変なのはどっちだよ!

そう言い返してやりたかったが、へらへら笑っているさゆみを見て、そんな気も失せてしまった。
さゆみはケラケラ笑っている。
れいなは呆れた顔でそれを見つめていたが、やがてさゆみと一緒に笑い出した。

───誰かと笑うことで、こんなに心が軽くなるんだな。

そんなことを想い、驚きながら。







257 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/31(土) 01:04
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

「もう・・・どこか遠くに行きたい」

緑の丘の上、擦り切れた唇の血をぬぐいながら、泣きそうな顔をしながら。
あなたは遠くを見ていた。ずっと遠く。

「もう、消えてしまいたいよ。・・・梨華ちゃん」

何かをつぶやくたび、その唇から新たな血があふれ出す。
私はその震える肩を抱いてあげることしか、できなかった。
消えそうになるその身体を、この地に繋ぎとめることができなかった。


深い海におぼれながら、「息ができない」ともがいている彼女を救ってあげられなかった。
私はただ見ていただけだった。
震えながら。
手も差し出せずに、ただ、見ているだけだった。

そして、彼女はいなくなった。

この世界から。

・・・いなくなった。

□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
258 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/31(土) 01:30
「君はあの日、あの子が何も知らないことをいいことに、昔の記憶がないのをいいことに・・・」

ひとみの言っていた言葉が、梨華の脳裏に焼きついて離れない。
梨華はその言葉を忘れてしまおうと頭を横にふると、ぎゅっと目を閉じた。

───(・・・罪滅ぼしのつもり?)

「えっ・・・?」

───(こんなことして、自分の罪が許されるとでも?)

突然、頭の中で、もう一人の自分の声がした。
梨華はおもわず、目を見開く。
もうひとりの自分が、冷めた目でこちらを見ているような気がして、落ち着かなくなった。

───(もうあの人は死んじゃったんだから。もう無理だよ。)

その言葉で梨華がずっと蓋をしていた記憶が、瞬時に蘇る。
梨華の身体が小さく震えだした。

───(今さら救助活動したって、もう遅いんだから。無駄だよ、無駄。全部投げ出してしまえばいい)

「や、やめて・・・」

梨華の震える声を無視して、その声は続ける。

───(どうせ、幸せになんかなれないんだから。)

「ううっ・・・」

梨華はしゃがみこみ、耳をふさいだ。
それでも、声は聴こえてきた。

───(守ってあげられなかったくせに。見ているだけだったくせに・・・)

その言葉に、思わず息を呑んだ。
その言葉が、全てを思い出させてくれた。



259 名前:過去との決着 投稿日:2004/01/31(土) 01:57

「・・・梨華ちゃん」

───遠い記憶の中から、あの人の声が蘇る。
   
「梨華ちゃん、またネガティブになって〜!ポジティブ、ポジティブ!!」


「もう、どこか遠くに行きたい」


「梨華ちゃん・・・好きだよ」


───いつも見つめていた瞳曇っていた。
   傷だらけの身体、震えていた。
   いつも端が上がっていた唇は、切れて血がでていた。


真っ赤な、真っ赤な血。まっかな・・・まっかな。


「ううっ・・・・」

梨華の目から、涙があふれてきた。
身体はぶるぶる震えている。
胃から何か熱いものがこみ上げてくるような感覚に陥る。
心臓がドキドキと高鳴った。

「し・・・柴ちゃ、・・・ごめん」

梨華のすすり泣く声が、部屋で響いた。

260 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/31(土) 01:58
名無しどくしゃ様>レスいつもありがとうございます。
         更新遅い&少ないですが、よろしくお願いします。
261 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/31(土) 12:28
ムムム。またも気になる展開…ハワワ
262 名前:過去との決着 投稿日:2004/02/01(日) 21:26
───※

「──ちゃん、愛ちゃん」

麻琴の声で、愛は眠そうな目を開いた。

「ん・・・眠ってなんかないもん」

「何それ」

愛の言葉に、麻琴は笑った。
愛もつられて目を細めて笑う。
少し顔を見合わせて笑いあった後、麻琴が前を見て、静かな声でこう言った。

「もうついたよ」

「えっ・・・」

愛が慌てて顔を上げると、目の前には診療所があった。
暖かい光が、中から外に漏れている。
愛はしばらくその様子を眺めていたが、その後、麻琴の背中に顔をうずめた。
263 名前:過去との決着 投稿日:2004/02/01(日) 21:28
愛ちゃん・・・?」

自分の背中からおりる気のない愛を、麻琴は疑問に思い、振り返ろうとした。
でも背負っているせいで、愛の表情がよく見えない。
愛はぎゅっと、麻琴の首にまわした腕の力を強めた。

「もうちょっと・・・」

「・・・・」

「もうちょっと、こうしてたいなあ・・・」



───もうちょっと、こうしてたいなあ


愛の柔らかな声が、麻琴の耳に優しく響いた。
それはいつもと変わらない、大好きな愛の声だったが、このときは麻琴の胸を締め付けて止まなかった。
しばらくして、愛が続ける。

「・・・覚えてたいんだ、もう少し。こうしてたこと、すぐ思い出せるように」

そう言った後、愛は少し後悔する。

───言わなければよかったかな?心配、かけちゃうかなあ?・・・でも


264 名前:過去との決着 投稿日:2004/02/01(日) 21:29

───忘れたくないんだあ、・・・麻琴のこと。

心の中で、そっとつぶやいてみる。
麻琴はどんな顔しているだろうか。
後ろからは表情が読み取れない。
きっと、笑ってればいいと思った。
笑える状況じゃなくても。
笑っていてほしいと思った。

───もう、悲しい顔、させたくないんだあ。麻琴には。

できることなら、ずっとそばにいたい。
でも、タイムリミットは確実に近づいている。
自分の身体のことは、自分が一番よく知っていた。
265 名前:過去との決着 投稿日:2004/02/01(日) 21:32
「・・・あたしも、しばらくこうしてたいな」

「えっ?」

麻琴の言葉に愛は驚いて顔を上げた。
そんな愛に、麻琴は構わず続ける。

「愛ちゃんとずっとずっと、こうしてたい」

───できることなら、ずっと。

そう言いかけて、麻琴は慌てて口を閉じた。
言ってはいけない気がした。
まだ、いや、きっとこれからも。

そんな麻琴の言葉に、愛は嬉しそうな、でも泣きそうな声でこう言った。


「・・・ありがとう」


たった五文字の言葉が、今はとても重く感じられた。
麻琴は泣きそうになるのを必死でこらえて、涙が出ないように顔を上にあげた。
空には星が数え切れないくらい散らばっていて、ちいさく、でも強く輝いている。
月が風で流れていった雲から顔を出した。
そこから、自分達はどう映るのだろう?
考えてみた。
ちっぽけだけど、輝いているだろうか?
この空に散らばる星たちのように。

愛が再び、麻琴の背中に顔をうずめる。
その顔は、きっと笑っているだろうと、麻琴は思った。
愛もまた、顔は見えないが、麻琴はきっと笑っているだろうと思った。

───もうすこし、あとすこし、こうしていよう。
   そしたら明日はもっと、強く輝けるだろう。

「もし忘れたら、もっかいまた、おんぶしてあげる」

「・・・うん」
   
空に浮かぶ月が、微笑む二人を金色の優しい光で照らしていた。


266 名前:チナ犬 投稿日:2004/02/01(日) 21:35
名無しどくしゃ様>いつも親切にレスありがとうございます。
         また頑張れそうです。
267 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/02(月) 04:35
石川さんの過去が気になりますね。
頑張って下さい!
268 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/02/02(月) 15:04
更新お疲れさまです。
この2人をずっと待っておりました…w
269 名前:過去との決着 投稿日:2004/03/02(火) 17:58


れいなは一人、ベッドに横たわりながら、じっと天井を眺めていた。
さゆみは先ほど部屋を訪れたひとみに連れられて、家に帰ってしまった。
やることがなくて暇になったれいなは、深いため息をついた。
ちょうどそのときだった。

────ガチャッ

「・・・・ただいま」

ドアが開く音と共に、誰かの声が聞こえた。
・・・一体誰だろうか?
れいなは一人のせいか、心細く、不安になった。

「あれ?吉澤さん、いないみたいよ」

「ほんと?・・・あ、ほんとだ」

「やったじゃん!ラッキー!!」

次の会話で、診療所に入ってきた人物が二人で、二人とも女だということが分かった。
内心ちょっと怖がりながらも、れいなはひそひそ声で話し続ける二人を、気味が悪いと思った。
一人はのんびりとした、高くもなく低くもない、平均的な声。
もう一人はイントネーションがおかしく、早口で訛った、だけど澄んでいて綺麗な声。
訛っているほうは分からないが、もう一人ののんびりとした声は聞き覚えがある気がして、
れいなの胸はざわついた。
人違いだといいと、心の中で強く願った。

二人組みは二人でなにやら話しこんだ後、のんびり声の持ち主が先にさよならを告げた。

「もう帰んなきゃ。じゃあね、愛ちゃん。また明日!」

「うん、また明日ね。麻琴」
270 名前:過去との決着 投稿日:2004/03/02(火) 17:58
───麻琴。

その名前を聞いて、れいなは身体をびくんと震わせる。
これでもう、人違いではないと証明されてしまった。
心臓が鼓動を早める。
それは麻琴が診療所をでていった後も、しばらく続いていた。
少しした後、少女の足音が聞こえ、その足音は隣の病室に消えた。
れいなは麻琴やもう一人の少女に、自分が此処にいるのがばれずに済んだので、ふう・・・と、安堵のため息を漏らした。
でもしばらくして、れいなの頭にある考えが浮かんだ。

───もしかして、あの時まこ姉が一緒に海にいた人って・・・

一瞬にしてそのときのことがフラッシュバックする。
寂しそうな顔をしたあと、一緒にいた少女を抱きしめた麻琴。
抱きしめられて驚く少女。
それに胸を痛めた自分。

れいなは少し考えた後、ベッドから起き上がった。


◇───きっと、今しかないんだって思ったんだ。もう逃げちゃだめなんだって、声が聴こえたから───。

271 名前:過去との決着 投稿日:2004/03/02(火) 18:02


れいなは自分の病室を出て、少女のいる隣の病室の前に立つ。
唾を飲み込んだ後、緊張して少し震えた自分の手で、そのドアをノックした。

「あの・・・田中れいなって言います。お話がしたくて───」

れいなは言いかけて、頭が真っ白になった。
この後なんて言えばいいのだろう。
元々人間嫌いのため、話すのはあまりうまくない。
初対面の人ならなおさらだ。
れいなは少し自信を失くして俯いて、ただおろおろと相手の返事を待った。

───ガチャ

ドアの開く音がして、れいなは顔を上げる。
目の前には優しく、愛らしい笑顔をこちらに向ける少女が立っていた。

───うっわ・・・可愛い・・・。

れいなが見とれていると、少女はれいなに優しく声をかけた。

「あーしでよければ・・・どうぞ」

素朴で柔らかい訛りが、れいなの緊張の糸をだんだんと解いていく。
れいなは言われるままに、少女の病室へと足を踏み入れた。
272 名前:過去との決着 投稿日:2004/03/02(火) 18:03
「お、おじゃまします・・・」

「いえ、いえ。どうぞ」

少女は相変わらず無防備で、優しい笑顔をれいなに向ける。
立ちながらおろおろしているれいなに、少女は自分のベッドに腰掛けるように言った。
れいなはやはり、言われるがままにベッドに腰掛ける。
少女は少し部屋の片づけをしたあと、れいなの横に腰をおろした。
そのとき、少女の身体から女の子らしい、甘いにおいがして、れいなは少しドキドキした。
なんと話をきりだしていいか、分からずに戸惑っているれいなに、少女は優しく話しかけた。

「えーと、まずは自己紹介からしたほうがいいのかな?」

「あ、ああ、それです」

少女の言葉に、れいなは慌てて返事をする。
後から自分の声が少し裏返っていたことに気づき、ひとり赤面した。
そんなれいなを見て、少女がおかしそうに笑う。

「あはっ、可愛いな。あ、あーしは高橋愛っていうんやよ。よろしく」

可愛いと言う言葉に、また顔を赤くしながら、れいなは緊張した、震える声で自己紹介をする。

「た、田中れいなです。よ、よろしくお願いします・・・」

俯いたまま、小さな声でそういうれいなの肩を、少女──高橋愛は軽くたたいた
273 名前:過去との決着 投稿日:2004/03/02(火) 18:04


「そーんな緊張せんでもいいよ!敬語とかも使わんでいいし」

愛の屈託ない笑顔に、れいなの警戒心は薄れていった。
自然と頬が緩んでいる自分に気づき、れいなは驚く。
愛は微笑を浮かべたまま、話を続けた。

「で、今日は?・・・何か話したいこと、あったんじゃない?」

「あっ、は、はいっ・・・」

「それは麻琴のことかな?」

俯きがちだったれいなが顔を上げて、愛を見つめる。
愛はやっぱり笑顔で、れいなが話を切り出すのを手伝ってくれた。
れいなはごくりと唾を飲んだ。

「はい・・・」

今度は声は震えなかった。
愛は優しく、頷いてくれた。

「決着をつけたいんです。自分の過去と・・・」

目の前の愛は、真っ直ぐにれいなを見つめて、もう一度優しく頷いてくれた。

「あーしでよければ、手伝うよ」

その言葉に、れいなの愛に対する警戒心は、完全に溶けていってしまった。
274 名前:過去との決着 投稿日:2004/03/02(火) 18:11



◇ずっとそばにいたのにね?あたしは何もしてあげられなかった────。




『きっと───何も知らないほうが幸せなんだよ』

頭の中で、声が響いた。
梨華は微笑を浮かべて、頷く。

「そうだよね?あたし、間違ってないよね?柴ちゃん・・・」

───あたしは間違ってない、間違ってない。

梨華が自分にそう言い聞かせているときだった。

───ガチャ

「ただいま!」

玄関のドアが開く音と共に、さゆみの声が聞こえた。
梨華は急いで玄関に向かう。
そこには履きなれない靴を一生懸命脱ごうとするさゆみと、それを苦笑しながら手伝うひとみの姿があった。
275 名前:過去との決着 投稿日:2004/03/02(火) 18:14
「おかえり」

さゆみの小さな背中を見て、梨華は安心してそう声を漏らす。
梨華の声を聞くと、さゆみはこちらを振り返り、ぱっと顔を輝かせて梨華にしがみついてきた。

「りかちゃん、ただいま!」

笑って抱きついてくるさゆみの頭を、梨華は優しく撫でてやる。
ひとみは脱がしてやったさゆみの靴の片方を持ったまま、呆然と二人の様子を見ていた。
梨華と目があうと、慌ててひとみは目を逸らし、さゆみの靴を玄関に並べてやる。

「さゆみ、ご飯できてるから手、洗ってきて」

「うん!」

梨華の言葉に元気よく頷いて、さゆみは手を洗いに洗面所へ行った。
梨華はその小さな後姿を、しばらく見つめていた。
そんな梨華にひとみは声を掛ける。

「驚いたよ。すごく純粋な子なんだね?」

そんなひとみの言葉に、梨華は嬉しそうに振り返って頷く。
梨華のあんなに嬉しそうな笑顔を、ひとみは久しぶりに見た。
276 名前:過去との決着 投稿日:2004/03/02(火) 18:15

「うん!でしょ!!柴ちゃんの子なの」

「えっ・・・」

「あたしと柴ちゃんの子なの」

梨華は嬉しそうに笑ったまま、そう続ける。
その言葉に、ひとみの身体は凍りついた。
思わず息を呑む。

「今日はありがとう。さゆみ、嬉しそうだったから」

「あ、いや・・・」

「よかったら一緒に食べていく?」

「ありがと。でもいいや。診療所いかなきゃ」

「・・・そう」

梨華はまるで何にもなかったかのように話を続ける。
でも、ひとみの心は決して穏やかではなかった。

「じゃあ・・・」

「うん、気をつけて」

ひとみは梨華に背を向けて、その家をでた。
後ろでドアの閉まる音が聞こえて、やっと安心する。
少しため息をついた後、ひとみは足早に歩き出した。
一歩一歩足を踏む出すたび、先ほどの梨華の声が蘇ってきた。
277 名前:過去との決着 投稿日:2004/03/02(火) 18:16



───『うん!でしょ!!柴ちゃんの子なの』

───『あたしと柴ちゃんの子なの』


その声が響く回数を増すたび、ひとみの心は落ち着かなくなった。
胸の中である感情が、小さな火がちかちかと点滅した。

───忘れてしまえばいい。昔のことなんか、忘れてしまえばいい。

怒りのような愛しいような切ない感情が、ひとみの胸を苦しめた。



◇いつも、君の中から彼女の存在が消せないんだ。見つけられるのに────負けそうなんだ。


278 名前:チナ犬 投稿日:2004/03/02(火) 18:23
>>267 様 はい、頑張ります!
     レスありがとうございました。

>>268 様 この二人には頑張ってもらう予定です!
     いろいろな意味で(意味ありげw
     いつもレスありがとうございます!

言い訳させてもらうと、胃炎で死んでました(笑)
毎日おかゆばっかで違う意味でも死にそうでした。
なるべく早く更新できるよう、頑張ります。
できれば今月で完結させたいな・・・。
279 名前:チナ犬 投稿日:2004/03/02(火) 18:25
一応隠します
280 名前:チナ犬 投稿日:2004/03/02(火) 18:26
隠し
281 名前:名無し。。。 投稿日:2004/03/02(火) 20:50
更新おつかれさまです。
透明感のある文章が好きでずっとROMってました。
だいぶ繋がってきましたねー。いよいよクライマックスですか?
体調つらいみたいですが(胃炎はきついですよね)最後まで頑張ってください。
282 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/03/03(水) 17:44
更新.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。.
石川さんの言葉にドキッとしましたよ。
体調がすぐれないのでしたら無理せずに休んで下さい(つД`)
283 名前:交差するさまざまな想い 投稿日:2004/05/05(水) 21:20
「あれ?よしざわさん帰っちゃったの?」

洗面所から顔をだしたさゆみが梨華に尋ねる。

「ええ、ひとみちゃんは忙しいのよ。さゆみ、うがいはした?」

「あ、今からやる」

梨華にそう言われて、さゆみは慌てて洗面所に顔を引っ込めた。

「もう、いつも帰ってきたらうがいと手洗いは先にしなさいって言ってるでしょ」
284 名前:交差するさまざまな想い 投稿日:2004/05/05(水) 21:21
呆れたようにそう言いながらも、梨華の口の両端は上がっている。
世話を焼かせるさゆみが愛しくてたまらなかった。
さゆみは何も知らない。
だから、さゆみは自分を必要としてくれている。
さゆみは自分がいなきゃ何もできない。

───だから、さゆみはあたしを・・・

そんな錯覚に陥ってしまう。
また、そう思い込むことで梨華の心は安らいだ。
一方で「そうさせているのは他の誰でもなく、自分なのだ」という罪悪感を抱きながら。
285 名前:交差するさまざまな想い 投稿日:2004/05/05(水) 21:22
孤独からなんとしてでも逃れたかった。
誰にも邪魔してほしくなかった。
───たとえ、二人の関係が偽りであっても。
そんな想いがさゆみを縛り付けていることを、梨華はいつものように知らないふりをした。

「じゃあ、あたし台所にいるから、終わったら来なさい」

自分の心に入り込んでくる暗い影を振り切るため、梨華は洗面所にいるさゆみに声を掛ける。
台所に向かう途中、「はい」というさゆみの声が聞こえた。
いつも聞きなれているはずのさゆみの声が、今日は何故か梨華の胸に小さく響いて止まなかった。
286 名前:交差するさまざまな想い 投稿日:2004/05/05(水) 21:22
「・・・はいっ」

梨華の言葉に慌てて返事をしたあと、さゆみは鏡に写った自分をじっと見つめた。
自分の顔にたいして特に何も思わなかったが、このごろ、自分の外見を意識するようになった。
さゆみはそっと、右手で自分の頬に触れる。
鏡の中の自分も同じことをしていた。
そっと目を閉じると、れいなの声が耳に蘇った。
287 名前:交差するさまざまな想い 投稿日:2004/05/05(水) 21:23
『れいなは可愛いね』

病室でそう言うと、れいなは照れたように顔を赤くしながら、俯いて

『さゆのほうが可愛いよ』

と言ってくれた。
梨華に可愛いと言われたときより、れいなに言われたときのほうがドキドキして、嬉しかったような気がする。

───なんでだろ?

そっと自分の胸に触れる。
そのときのことを思い出して、また胸の鼓動は早くなった。
この気持ちがどこからきて、またどこに行き着くのか、さゆみはまだ知らない。

『さゆのほうが可愛いよ───』

れいなの言葉を思い出して、さゆみのれいなに対する想いは膨らむばかりだった。

288 名前:チナ犬 投稿日:2004/05/05(水) 21:27
>>281感想ありがとうございます。
   すごく励まされました。
   最後まで頑張ります!!

>>282いつもレスありがとう。
   体調はおかげさまでよくなりました。
   本当、ありがとう。  
289 名前:チナ犬 投稿日:2004/05/05(水) 21:32
春休みに完結目指してたんですが、自分で下書きを読み返して
おかしいなあと思ったところを訂正し、いろいろ迷っているうちに
長い間放置してしまいました。
更新少なくてすみません。
某所で応援してくれた人に背中を押され、少ないですが更新できました。
応援してくれた人、ありがとうございます。
完結目指して頑張ります。
290 名前:チナ犬 投稿日:2004/05/05(水) 21:32
隠し
291 名前:ティモ 投稿日:2004/05/07(金) 21:39
ご復活おめでとうございます!
チナ犬さんの小説は二作大好きなんでまた読めて嬉しいです!
チナさんの小説を読んでると自然と風景が浮かんでくるんです。すごい!
無理はせず、チナさんのペースで頑張ってください。
さりげなく応援してますw
292 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 17:51
初めてカキコします。
ここも花板の方も、まったり待ちますので
マイペースで頑張ってください。
293 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/31(火) 11:21
待っています いつまでも
294 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 13:11
待ってます
295 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/01(金) 20:50
mattemasu
296 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/14(木) 12:21
待ち
297 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/10/24(日) 23:46
ぶっ通しで読みました、すごく興味深い話だったので。
何日かかっても結構です、更新待ってます。
298 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/10/28(木) 21:09
更新待ってます。
299 名前:美貴帝 投稿日:2004/10/30(土) 20:30
早くみたいです
300 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/11/03(水) 09:53
待ってます。
301 名前:作者 投稿日:2004/11/07(日) 22:12
放棄はしないつもりです。
すみません、もう少しおまちください・・・。
302 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/11/08(月) 23:50
すみません、急がせることを言ってしまって。
ゆっくりでいいんで更新待ってます。
303 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/17(金) 14:08
待ってます
304 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/16(日) 16:18
更新待ってまーす。
305 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/29(土) 14:56
更新いつまでも待ってます。
306 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/12(土) 16:15
待ってますよ〜。
307 名前:作者 投稿日:2005/02/12(土) 18:06
生存報告をしにきました。
もしかしたら三月にならないと更新できないかもしれませんが
必ず完結させるので。
待たせてばかりですみません。
308 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 17:39
いつまでも待ってますよー。
309 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/05(土) 14:57
まだまだ待ってます。
310 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/21(月) 22:38
どこまでも待たせて頂きます。
311 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/08(金) 13:21
待ってます
312 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/28(木) 13:21
待つわ〜
313 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/18(水) 19:34
保全します。 生存報告だけでもお願いします。
314 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/10(金) 21:17
待ってます
315 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/22(水) 13:58
まだまだ!
316 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/22(水) 14:13
……上げないで…

作者様、応援しています。頑張ってください!
317 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/22(水) 15:28
318 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/30(土) 18:19
なんのこれしき・・・まだまだ待つよぉ〜
319 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/08(月) 23:56
最終更新から約一年が経過しました。 生存報告だけでもお願いしますm(__)m
320 名前:爽快者 投稿日:2005/08/16(火) 01:18
まだまだ待ってますよぉ
321 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/23(火) 13:11
待ってます

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