真空回路

1 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 22:35
初めまして。
紺野さんと藤本さんのお話です。
よろしくお願いします。
2 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 22:36
高校生で最初の夏休みも終わり、2学期が始まった。
そんな中、あさ美は一つの疑問を感じ始めていた。
まだ4限の授業が終わる前、12時に必ず向かいの校舎の屋上に現れる一人の生徒。
窓際の席であるあさ美は、いつもその生徒をぼんやりと眺めながら不思議に思っていた。

まだ4限の授業も終わってないのに何をしてるんだろ・・・

昼休みの間もその生徒はずっと屋上にいた。一人ぼっちでずっと。
弁当を食べながらも、あさ美にはどうもその生徒が気になった。
3 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 22:36
その生徒にあさ美が気付いたのは2学期が始まり、授業も正規の時間割で動き出してから。
1学期にはそんな光景はなかったのだが。
最初はただ授業をサボってるだけだと思っていた。
だが、1週間が過ぎても必ずその生徒は屋上に現れた。

みんなも気付いてるのかな・・・

あさ美には不思議だった。
4限の授業が終わってもいないのに一人の生徒が屋上に毎日のように現れる。
どう考えても普通の光景ではない。
それなのに、クラスの他の生徒はその生徒に関する話をまったくしない。
それがあさ美の感じている疑問を大きくさせていった。
4 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 22:37
一体、屋上で何をしてるんだろう・・・
12時って時間帯から考えればお昼御飯だし・・・
でも、何で授業を抜け出してまで12時に来るんだろ・・・
それに、いつも一人ぼっち・・・

考え出したらキリがなくなる。謎だらけの人。
5 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 22:37
昼休みは必ず友人の愛があさ美の席までやってきて二人で一緒に弁当を食べていた。
愛は高校に入って最初に出来た友達。
普段から二人で一緒にいることが多い。
お昼休みの時間に二人で一緒に弁当を食べながる他愛もない話をするのは当たり前のこと。
それは1学期から全然変わらない。

だけど、最近は昼休みの時に愛の話をちゃんと聞いていないことが多い。
適当な相槌を打ちながら、ちらちらと向かいの校舎の屋上を眺めるばかり。
だから、愛はそんなあさ美によく怒るのだが。
6 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 22:38
「ねぇ、あさ美。ちゃんと私の話聞いてんの?」

今日も愛を怒らせてしまった。
悪いとは思っていた。だが、それでもあさ美の意識は屋上の方にいってしまう。

「あ、うん・・・ちゃ、ちゃんと聞いてるよ。で・・・何?」

「ほら〜、やっぱり聞いてないんだからぁ」

そう言って頬を膨らませる愛。
最近はいつもこんな調子で二人の会話はイマイチ成り立っていない。

「ねぇ、最近、昼休みになると話聞いてないことばっかりなんだけどさぁ。
 何かあったの?」

愛からの何気ない質問。
きっと、愛はあんまり会話を聞いてないあさ美に何か悩み事でも
あるのではないかと心配しているのだろう。
7 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 22:38
悩み事と呼ぶほどのものなのかはわからない。
しかし、あさ美が考え事をしているのは事実。
屋上にいる謎の生徒のことで頭の中が一杯になり、ついついあれやこれやと
色んな想像をしてしまうのである。

一体、誰なんだろう・・・

何とも漠然とした問題。
8 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 22:39
「ううん、大丈夫。何でもないよ」

あさ美は適当な返事で誤魔化した。
愛にもあの人のことを話すことはなかった。
人から聞いても事実は見えない。自分の目で確かめた時に初めて真実は見える。
どこで覚えた言葉なのかわからないが、これはあさ美のモットーだった。
だから、もし、愛がその謎の生徒に関して何か知っていて、あさ美に何か話したとしても、
おそらく疑問が晴れることはないだろう。
9 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 22:39
「そっかそっか。何かあったらいつでも言ってよ?
 私はいつだってあさ美の味方なんだからさ」

いつの間にやら怒るのをやめていた愛は、あさ美に優しい言葉をかけた。
そんな言葉にあさ美はただ頷いた。

でも、ゴメン・・・愛ちゃんでもこのことは話せない・・・

何となく罪悪感を感じ、心の中で愛に謝っていた。
10 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/22(水) 23:35
めっちゃおもしろそ〜。
紺藤の絡みが楽しみです。
11 名前:sai 投稿日:2003/10/23(木) 09:59
一目見ておもしろいと感じました。読み進めて行って確信
しました。続きもまったり待ってますね。紺野さんと藤本
さん楽しみです。
12 名前:名無し 投稿日:2003/10/23(木) 16:36
古典の授業はどうにも集中できないものである。
おそらく、多くの生徒は古典に興味がないから。
それは優等生のあさ美も例外ではない。
だが、あさ美はそれなりに先生の話に耳を傾けながら、黒板の文字を追っていた。
ふと、黒板の上に掛けられている時計を見てみる。
針は二本とも12を指していた。
13 名前:名無し 投稿日:2003/10/23(木) 16:37
今日もあの人は屋上にやってくる・・・
だって、2学期になってからあの人が屋上に来なかった日なんて雨の日ぐらい。
曇りの日でも、風が強い日でも、あの人は12時になれば屋上に来てたんだから。

先生の話を聞きながら、屋上の方をちらっと眺めてみた。
やっぱり、今日も屋上には例の謎の生徒。
右手にはコンビニか何かのビニール袋をぶら提げて。
14 名前:名無し 投稿日:2003/10/23(木) 16:37
初めて見た時から3週間は過ぎている。
でも、何もわかったことなんてない。
12時に屋上に現れて、昼休みの間を一人で何をするわけでもなく過ごす。
ただそれだけ。それだけのこと。

あさ美の中の知的好奇心は高まるばかり。
それなのにまったくわからないワケで、謎は深まるばかり。
あさ美には誰かに尋ねるという選択肢がない。
そうなると、答えを導き出す方法は一つだけ。

直接、屋上へ会いに行くこと。

それが出来ていれば今頃考え込むこともなかった筈なのだが。
15 名前:名無し 投稿日:2003/10/23(木) 16:38
しかし、どうにもあの屋上には行きづらい。
いきなり知らない人に「あなたは誰ですか?」と尋ねられても
向こうもイヤだろう。

それでも、この謎が晴れないと、どうにもすっきりしない。
いつまでも親友の会話に適当に相槌を打ち続けるのもイヤである。

何とも難解なジレンマがあさ美を悩ませ続けていた。
16 名前:名無し 投稿日:2003/10/23(木) 16:39
しかし、今日は違った。
ようやく、あさ美は大きな決心をした。

屋上に行ってみよう。

やはり、自身の知的好奇心、知的探究心の深さには勝てない。
終わりなく膨らむばかりの謎。
ついにあさ美の中の好奇心、探究心が限界を超えた。
17 名前:名無し 投稿日:2003/10/23(木) 16:40
>>10 名無し読者様

最初のレスありがとうごさいます。
このような駄文に目を通していただけて嬉しい限りです。
よろしければ今後ともよろしくお願いします。


>>11 sai様

レスありがとうございます。
まだまだ文章力が足りませんが、どうぞ見捨てずに読んでやってください。
あと、いしよしではなくてごめんなさい。
18 名前:名無し 投稿日:2003/10/23(木) 22:00
わくわく。楽しみ
19 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/23(木) 23:04
いよいよですねー。ほんま楽しみ。
20 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 23:24
「あさ美〜、弁当食べよ〜」

いつものようにあさ美の席にやって来たのは親友の愛。
もちろん、お昼休みの弁当を一緒に食べようと思ってるのだろう。
だが、今日のあさ美はちょっと忙しい。

「愛ちゃん、ゴメン。今日はちょっと用事が・・・ね・・・」

一緒に弁当を食べている場合ではない。
何せ、謎を解くために屋上に行かねばならないのだから。
昼休みの時間はまだまだあるのだが、どうにもあさ美は急いでいた。
ここで油を売ってる場合ではないのだ。
21 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 23:25
「そっかそっか。先生に何か呼ばれたとか?」

「あ、うん。まぁ、そんな感じかな。じゃあ、行くね」

また今日も適当な返事で誤魔化してしまった。

今日は特別。仕方ないよね・・・

心の中で言い訳をしながら、あさ美は教室をあとにした。
22 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 23:26
向かいの校舎はどうにも居心地が悪かった。
どことなく多くの視線を感じていた。
それもそうだ。2年生や3年生が使っている校舎。
この校舎に1年生が深いワケもなく来ることなんて滅多にない。
いや、あさ美にとっては深いワケがあって来てるつもりなんだが。
それでも、昼休みにこの校舎に来る1年生なんてほとんどいない。
だから、周りの上級生達は物珍しそうに1年生のあさ美を見ていたのだが。

そんなこともあって、足早に屋上に続く階段を目指していた。
この校舎のどこに何があるかなんてあさ美は知らない。
だが、屋上に続く階段だけは別の話。
自分の教室のちょうど向かい側にある。
実際に見たことあるワケでもないが、これは確実。
23 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 23:26
ようやく辿り着いたその階段。随分と薄暗いとこだった。
ただ、階段の上は扉の窓から少しだけ光が漏れていた。

毎日、こんな暗いとこ通ってるんだ・・・

やはり、あの人は謎が多い。
この階段を昇って、扉を開ければきっと謎は解決する。
そう思うとあさ美は緊張した。
そして、一つ深呼吸をしてから、ゆっくりと階段を昇り始めた。
24 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 23:27
階段を昇る間は何も考えられなかった。
行き当たりばったり覚悟でここに来たまではいい。
だが、あさ美は顔見知りするタイプの人間。
一体、これからどうやって話掛けるつもりなのか。
もっとも、今のあさ美にはそんな自分の性格のことなんて
頭の中にこれっぽっちもないのだが。

高校に入った時がそうだった。
愛に初めて話掛けられた時だって、まともな会話にはならなかった。
結局、愛が無理矢理あさ美に喋らせるとこから、今の二人の仲が始まったワケで。

しかし、今回の場合はどう考えても前のケースとは違う。
自分から積極的に話をしなければならない。
しかも、突然現れて話掛けるのだから、どう考えても最悪な状況としか言えないのだが。
それでも、今のあさ美はとにかく屋上の謎の生徒のもとへ行くことしか考えていない。
25 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 23:27
気が付けば階段を昇り終えていた。
目の前には屋上の扉。
窓からの光はほんの少しの間とはいえ、真っ暗な階段を
昇ってきたあさ美には少し眩しく感じられた。
扉のノブに手を掛け、ゆっくりとノブを回して扉を開ける。
ギーッという音と共に、外の光が一気にあさ美の体を照らした。
そして、光の向こうには一人の影が・・・
26 名前:名無し 投稿日:2003/10/24(金) 23:28
>>18 名無し様

レスありがとうございます。
このような微妙な内容のモノを楽しみと言っていただけて
ホントに光栄です。


>>19 名無し読者様

レスありがとうございます。
同じく楽しみと言っていただけて嬉しい限りです。
そのお言葉を励みに頑張っていきたいと思います。
27 名前:sai 投稿日:2003/10/25(土) 00:55
次はいよいよあの人が出てくるのでしょうか?気になる
なぁ。そしてちょっと変わったのかなぁ?(w
28 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 16:56
あさ美は光の向こうに現れた一人の影に視線を向けた。
フェンスに凭れながら座り込む一人の生徒。
扉の音に反応したのだろう。顔を上げたその生徒と視線がぶつかった。

とても鋭い視線・・・

その視線に圧倒されたあさ美は、扉を開けたままの姿勢で硬直してしまった。
29 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 16:57
鋭い視線・・・それはこっちの校舎で何度も感じていた視線とはまったく異質のもの。
明らかに自分に敵意を表してるようにあさ美は感じた。

だが、ここまで来ておきながら、もう、後戻りすることは出来ない。
もう、何が目的でここに来たのかあさ美は忘れそうだった。
ハッと我に返ったあさ美は一歩づつその生徒に近づいた。
30 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 16:58
とてもじゃないが、歩いている間は顔を上げられなかった。
地面を見つめながらゆっくりと進む。
気が付くと、地面しか映っていなかった視界に足が映った。
あさ美はその足からすーっと視線を上げていった。

足、そして、スカート。
更に顔を上げてゆくと、胸のあたりで組まれている両腕。
そして、尚もゆっくりと顔を上げてゆくとそこで・・・
31 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 16:59
本日、二度目となる視線の交換。
初めて間近で見るその姿。
それはどう見たって不機嫌そうで。
鋭い視線があさ美を突き刺す。
あさ美の頭の中は真っ白。
じっくりと顔を見ることも出来ずに、再び顔を伏せてしまった。

もう、ダメ・・・どうしよう・・・

これはあさ美が人見知りをし易いとかの問題ではない。
明らかに周りの空気は冷めている。
さらに、追い討ちをかけるような秋の冷たい風。
32 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 16:59
それでも、精一杯に頭を回転させて、自分のすべきことを思い出す。

そう、私はこの人が誰なのか知りたくて来たんだ・・・

どうやら、自分の目的は、はっきりとわかっているらしい。
だが、それを行動に移せない。
あさ美は、視線を下に向けたまま完全に止まってしまった。

その時、目の前の生徒が痺れを切らしたのか、言葉を発した。
33 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 17:00
「何か用?」

止まっていた時間が再び動き出す。
質問する筈のあさ美が逆に質問を受けているこの状況。
さらに、不機嫌さ丸出しなその声。
単純な質問であるのに、あさ美には答えられない。

「あ、あの・・・えっと・・・そ、そのぉ・・・」

まったく言葉にならない。
おまけに、最後の方なんて声が出ているのかさえもはっきりしないぐらいに
か細いものになっていた。
34 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 17:00
「何?」

追い討ちを掛けるような言葉。
この言葉であさ美の思考力は完全に停止した。

「・・・・・・・・・・・」

「用がないなら、私、行くわ」

その言葉だけを残して、目の前の生徒はゆっくりと立ち上がり、
階段へと消えていった。
35 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 17:02

>>27 sai様

レスありがとうございます。
えっと、あの人は出たような出ていないような・・・
それから、少し変えました。
ホント少しなんですけどね。
36 名前:silence 投稿日:2003/10/26(日) 20:13
ついに出てきましたねぇ。これからどんな展開になっていくのか
楽しみです。そして、ちょっと変わってましたね(W
37 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 23:22
教室に戻ってきたものの、あさ美の頭の中は相変わらず真っ白のまま。
何が何だかわからないといった感じである。
先生の言葉はもちろん、周りの音でさえあさ美の耳には届いていなかった。
38 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 23:22
あの後、目の前にいた生徒が去ったあとのこと。
呆然と立ち尽くしたままのあさ美の姿。
何も考えられなかった。

あたし、何してるんだろう・・・

ここに来た意味なんて最早わからない。
あさ美の中の時間は再び止まってしまった。
39 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 23:23
キーンコーンカーンコーン

我に返ったのは昼休みの終わりを告げるチャイムの音。
このまま立ち尽くしてる場合ではない。

授業に遅れちゃう・・・

何を考える間もなく、急いで自分の教室へと向かった。
40 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 23:23
結局は授業の開始には間に合った。
しかし、席に着くと再び屋上にいた時のようにあさ美の思考は止まった。
何も考える気にならない。
ただ呆然と窓の向こうに見える屋上を眺めるだけ。
今のあさ美には屋上を見ても何も感じることはないのだが。
41 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 23:23
窓際の席特有のぽかぽかした陽気がそっと体を包みこむ。

疲れた・・・

何をしたワケでもないのに。
屋上に行って、頭の中が真っ白になって、結局は何も聞けなくて。
あの生徒が去ってからは、意識が飛んでただぼんやりとしていただけ。
たったそれだけのこと。
それでも、あさ美は物凄い疲労感を感じていた。

だんだんとぽかぽか陽気に眠気を誘われ始めて。
瞼は重くなり、机にうつ伏せてしまった。
そして、ゆっくりと意識は遠くへと向かってゆき・・・
42 名前:名無し 投稿日:2003/10/26(日) 23:27
>>36 silence様

レスありがとうございます。
微妙にしか話進んでないです・・・いや、この話自体が微妙?
どんな展開になるんか書いてる自分でもよくわかんないです(w
43 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/27(月) 12:02
話はめちゃおもしろいけど進まねーのが。。。
44 名前:名無し 投稿日:2003/10/27(月) 18:22
「あさ美!あさ美!」

どこから聞こえる声なのか。
あさ美は、はっきりとしない意識の中で声の主を探した。
天の声なのだろうか。
それにしても、聞き覚えのある声・・・
45 名前:名無し 投稿日:2003/10/27(月) 18:22
「あさ美!ねえ、起きてってばぁ。もう、授業終わったよ」

次第と覚醒してゆく意識。
周りはクラスメートの声が広がっていて。
そして、すぐ近くでは自分の名前を呼ぶ声。

「んん〜・・・」

ゆっくりと顔を上げてみると、目の前には愛の姿。

「あれ?授業中じゃ・・・」

「何言ってんの。もう、とっくに授業終わったよ」

「ええ!?」

たしかに愛は授業が終わったと言っている。

終わっちゃったんだ・・・

ようやくあさ美は自分が寝ていたことに気付いた。
46 名前:名無し 投稿日:2003/10/27(月) 18:22
「まったく・・・あさ美ったら、5限の開始ギリギリに戻ってきたと思ったら
 寝ちゃうし。おまけに、6限の間も寝ちゃうんだもん」

6限?寝てしまったのは5限の時のこと。

おかしいなぁ・・・

そう思って時計を見てみるとすでに3時半。
2時間以上も寝ていたことになる。
47 名前:名無し 投稿日:2003/10/27(月) 18:23
「ええ!?授業全部終わってるよ!」

「だから、さっきから言ってるじゃん。授業終わったよって」

ようやく愛の言っている意味がわかった。

「なんで5限終わった時に起こしてくれないのさぁ」

「だって、あんまりにも気持ち良さそうに寝てるんだもん。」

「それに、先生も
『紺野が授業中に寝てるなんて珍しいな。まぁ、そのまま寝かしといてやれ』
 って言ってたしさぁ」

「でも・・・」

「まぁ、いいじゃん。今日ぐらいはさ。それより、早く帰ろうよ」

結局、愛の言葉に押されたあさ美は、授業中に寝ていたことを反省する暇もなかった。
48 名前:名無し 投稿日:2003/10/27(月) 18:23
しかし、何故、そんなにも寝てしまったのか。
あさ美は、少し考えてようやく昼の出来事を思い出した。
屋上に行ったこと。そして、何も聞けなかったこと。
ただ、不思議と今は寝る前までのように頭が真っ白になることはなかった。
今は自分の失態を素直に受け止められる。
一眠りしたことで、あさ美は落ち着きを取り戻した。

「ほらほら、帰ろうよ」

「あ、うん」

愛に堰かされて、あさ美は家路についた。
49 名前:名無し 投稿日:2003/10/27(月) 18:24
ただ、一つだけ眠っても変わらなかったことがある。
それは、謎が何も晴れなかったこと。
50 名前:名無し 投稿日:2003/10/27(月) 18:26
>>43 名無し読者様

レスありがとうございます。
ホントに話進まないですね・・・ごめんなさい。
見捨てずにもう少しお付き合いしてもらえれば幸いです。
51 名前:sai 投稿日:2003/10/27(月) 23:42
紺ちゃんがんばれ〜。それにしてもあの方はどんな人
なのか。かな〜り気になりますね。
52 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/28(火) 23:06
こんなおもしろい小説見捨てるだなんてもう無理です!
きっちり責任とって下さいねw
53 名前:名無し 投稿日:2003/10/29(水) 20:19
昼が近づくにつれて高まる緊張感。
そんな緊張感を打ち消すつもりなのだろうか、
あさ美は何度も頭の中で屋上に行く自分の姿を想像していた。
だから、当然、授業なんて集中できない。
54 名前:名無し 投稿日:2003/10/29(水) 20:20
「おい、紺野。ここの問題を解いてくれ」

数学の教師からの指名。

「えっ!?あ、あの・・・わかりません・・・」

今のあさ美が答えられるワケがない。
教師がどこの問題を言ってるかさえもわからないのだ。

「おいおい、紺野。お前ならこのぐらいの問題解けると期待してたのに」

「すいません・・・」

成績優秀なあさ美が答えられなかったことがよっぽど珍しかったのだろう。
教室の隅からは苦笑いが漏れる。
でも、今のあさ美にはそんなことは気にならない。
いや、正確に言えば聞こえてさえいないのだが。
55 名前:名無し 投稿日:2003/10/29(水) 20:20
時計の針が12時を指す。
果たして今日もあの生徒は、屋上に現れてくれるだろうか。
もしも、昨日の出来事を気にしていたら・・・
そんなあさ美の不安をよそに彼女はいつものように現れた。
その姿を見て、より一層緊張感が高まる。

今日は大丈夫。ちゃんと質問だって考えてあるんだから。

そう心の中で自分を落ち着かせようとするのだが、
どうやったって心は治まらない。
56 名前:名無し 投稿日:2003/10/29(水) 20:21
キーンコーンカーンコーン

4限の終わりを告げるチャイムが教室に響く。
その音と共に、購買に向かう生徒やらで教室が騒がしくなる。
もちろん、あさ美も屋上に向かおうと席を立った。
それを昨日と同様に愛の声が止める。

「お〜い、あ〜さ美〜」

「あっ、愛ちゃん。ゴメン!今日も弁当無理なの!」

「え〜っ?マジで?」

「うん、ホントにゴメン!じゃあ、私、ちょっと行くから!」

そう言い残してあさ美は足早に教室を去った。

「あらら、二日続けて昼御飯そっちのけで行くなんて珍しいねぇ」

そんな愛の独り言があさ美に届くことはなかったのだが。
57 名前:名無し 投稿日:2003/10/29(水) 20:25

>>51 sai様

レスありがとうございます。
相変わらず進まない話ですね・・・
あの人・・・どんな人なのか作者の自分もよくわかりません(w


>>52 名無し読者様

レスありがとうございます。
責任・・・ちゃんと果たせるか不安なダメ作者です(w
とりあえず、完結目指して頑張ります。
58 名前:名も無き読者 投稿日:2003/10/29(水) 22:35
果たして紺ちゃんはどんな質問を…?
期待しつつ待ってます。
59 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/29(水) 22:37
紺野さん、ファイト!
60 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:40
気が付けば9月も終わりが近い。
まだどこか夏の名残を感じるが、それでも随分と過ごし易くなった。
キレイに澄み切った空。
そんな空の下で今日も昼休みを屋上で過ごす一人の生徒。
名前は藤本美貴。
61 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:40
突然、屋上の扉が開く。
現れたのはもちろんあさ美である。

やっぱり・・・

今日も美貴はフェンスに凭れながら座っていた。
昨日と同じ視線。
別にあさ美は悪いことをしてるワケではなかったけど、
昨日のこともあってか、どことなくビクビクしながら近づいてゆく。
62 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:41
美貴の前まで進んでゆき、そこであさ美は俯いていた顔を上げて彼女の顔を見た。
相変わらず不機嫌そうなその表情。
二人の間には微妙な空気が漂っていた。
こんな雰囲気になることはわかっていたけれど、
あさ美は考えてきた質問を尋ねるのを躊躇ってしまう。

「今日も何か用?」

あさ美の戸惑っている様子に気付いているのか、今日も美貴の方から
話を振られる展開。

「えっと・・・その・・・」

どうしてなんだろう。
声を出したくても、この雰囲気に飲み込まれてしまう。
63 名前:川o・-・) 投稿日:川o・-・)
川o・-・)
64 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:43
「何?」

「あ、いや・・・」

「用がないなら行くよ?」

昨日とまったく同じ展開。
このままでは昨日の二の舞になってしまう。

「ちょ、ちょっと待ってください!あのですね、」

焦ったあさ美がようやく話をしようとした時だった。
65 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:43

ぐぅ〜〜〜〜っ


屋上に響く怪しげな音。
それはあさ美のお腹から聞こえた。

「ぷっ・・・」

突然噴き出した美貴は、それを合図に一気に笑い出す。
さっきまでの張り詰めた感じの雰囲気はなかった。
豪快な笑い声だけが屋上に響く。
あさ美はあさ美であまりの恥ずかしさに俯いてしまった。
66 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:44
「はぁはぁ・・・ごめんごめん。いきなりお腹鳴るんだもん」

「・・・・・・・」

「もしかして、お腹空いてる?」

そう言われてみれば弁当を食べてない。
おまけに、朝は緊張とかであまり食べられなかった。
そんなことを思い出すと急にあさ美を空腹感が襲った。

「・・・ちょっと・・・」

「ならさぁ、ハイ、これ」

「えっ?」

そう言って、美貴はコンビニ袋から焼きそばパンを取り出して
あさ美に差し出す。
67 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:44
「美貴さぁ、今日はちょっと買い過ぎちゃってさ。余ってたんだよね」

「で、でも・・・」

「いいから、いいから」

そう言うと美貴はあさ美の手にパンを無理矢理渡した。

「ほらほら、ここに座って食べなよ」

自分の隣のスペースをポンポンと叩いて座るように促した。
何か今この好意を断るのは美貴に悪い感じがして、結局、あさ美は
素直に美貴の言葉に甘えることにした。
68 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:45
あさ美もフェンスに凭れながら座り、貰ったパンを食べ始めた。
それを隣に座る美貴はじっと見つめる。

「ん?何か付いてますか?」

「えっ?違う、違う。何かさ、おいしそうに食べてる顔が可愛くてさ」

笑いながらそう話す美貴の言葉に恥ずかしくなった。

こんな風に笑ったりするんだ。

昨日と今日の二回しか会ってはいないけど、美貴に対しては
近づき難いイメージしかなかった。
それが、今、隣で自然に笑う美貴の姿がある。
69 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:45
「少しはお腹膨れたかな?」

あさ美がパンを食べ終わると美貴が尋ねた。

「ハイ!おいしかったです。ありがとうございました」

「よかった。でさ、用があって来たんでしょ?
 まさかパンを食べに来たとかじゃないと思うし・・・」

そう言われて自分の目的を思い出す。
パンを食べるのに夢中ですっかり忘れていた。

「あ、はい。あの・・・一つ質問してもいいですか?」

「ん?」

「あの・・・名前は?」

やっと一つ質問できた。
まだ答えてもらっていないのに少しだけホッとする。
70 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:45
「ぷっ・・・やっぱり・・・」

それなのに、美貴の方はまた吹き出す。

「えっ?やっぱり?」

「ううん、気にしないで。てゆーかさ、いきなり来たかと思えばお腹は鳴るし
 質問かと思えば名前をだしさ。なかなか面白いね」

「・・・・・・」

「あ、ゴメンゴメン!名前はね、藤本美貴」

「藤本美貴さん・・・ですか・・・」
71 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:46
「そっちは?」

「私ですか?私は・・・」

「紺野あさ美・・・」

「ええっ??」

どうして自分の名前を知っているのだろうか。
名前を教えたことなんてあるワケがない。
それなのに、美貴は自分の名前を言い当ててしまった。

「ちょ、ちょっと、どうして私の名前を知ってるんですか?」

「い、いや・・・ほ、ほら、有名だもん、紺野さん」

「私がですか?」
72 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:47
そんなことある筈がない。
高校に入って今日までそんな目立つようなことをした記憶なんてない。

「まぁ、色々とさ、ね。」

「色々って言われましても・・・」

あさ美はもう少し問い詰めようとした。
なのに、タイミングの悪いチャイムの音に阻まれる。

「おっと、昼休みも終わり。ほら、教室に戻んないと」

「そうですけど・・・」

気になる。もの凄く気になる。
でも、時間切れ。
美貴は教室に戻ろうと立ち上がってるし、
あさ美だって授業に遅れるワケにはいかない。
渋々教室に帰ろうとした。
その時、ふと、あさ美は思いついた。
73 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 03:47
「あの、お邪魔じゃなかったら・・・明日も来ていいですか?」

「ここに?」

「はい」

「ん〜、別にいいよ」

不思議な疑問を残したままではいられない。
だから、あさ美はこんなお願いをしたのだ。
それを美貴はイヤな顔もせずに答えてくれた。

「じゃあ、また明日来ますから」
74 名前:名無し 投稿日:2003/10/30(木) 04:02

>>58 名も無き読者様

レスありがとうございます。
ここの紺ちゃんはこんな人です(w
こんなのでいいのか、自分・・・


>>59 名無し読者様

レスありがとうございます。
紺野さん、頑張りました、たぶん(w
いや、これって頑張ったのうちに入らないかも・・・
作者は頑張っているつもりですが、いつも空回りです。

75 名前:名も無き読者 投稿日:2003/10/30(木) 10:26
紺ちゃんのキャラ…
ナイスです(w
ミキティ恐い人かと思ってたらそんなことはなく、一安心。
今後の展開に期待しつつ待ってます。
76 名前:sai 投稿日:2003/10/30(木) 12:09
かなりいい感じじゃないですか二人。よかったな〜。
これからどんな感じになるのかな〜楽しみです。
77 名前:ひっそり読者 投稿日:2003/11/02(日) 03:35
紺野と愛ちゃんの仲が壊れないか心配してます。
お弁当連続2日も断るなんて普通じゃないじゃないですか。
どうか壊れないようにご配慮下さい。
78 名前:チビ読者 投稿日:2003/11/02(日) 16:21
自分、藤本さんも紺野さんも好きなんで
続きたのしみにしてまっす!!
79 名前:名無し 投稿日:2003/11/04(火) 22:24
「ふぅ・・・」

屋上を去ってゆくあさ美を見送りながら、美貴は一つ溜息をついた。

「危ない、危ない・・・」

バレてはいけない秘密。
さっきは自らの粗相であさ美に怪しまれてしまった。
とりあえず、適当な誤魔化しとチャイムに救われたけど、
再び会う約束をしてしまった。
果たして明日は大丈夫なのだろうか。
そんな心配をしながら美貴も屋上を後にした。
80 名前:名無し 投稿日:2003/11/04(火) 22:24
藤本美貴。
誰が見ても極々普通の女子高生と感じるだろう。
少々キツい感じもするけれど。
でも、美貴には誰にも話したことのない不思議な力があった。


人の心の内が読めてしまうという不思議な力が。

81 名前:名無し 投稿日:2003/11/04(火) 22:25

人の心が読める

と言っても漠然としすぎている。
第一、普通の人でこんな力を持ってる人はいないのだから、
当然どんなものなのかわかるワケがない。

不思議な力。

美貴の場合は、人に質問した時に相手の心の中の声が聞こえるといったものである。
口では違うことを言っても、心は正直に答えてくれる。
82 名前:名無し 投稿日:2003/11/04(火) 22:25
この力に気付いたのはいつのことだっただろうか。
はっきりとは覚えていない。
ただ、幼稚園の時にはすでにこの力を使っていた記憶があった。

まだ無邪気に遊び感覚で使っていたあの頃。

汚れを知らない純粋な少女だった自分。
83 名前:名無し 投稿日:2003/11/04(火) 22:26
人々の中にはこんな力を羨ましがる人がいるかもしれない。
でも、美貴はこの力が嫌いだった。

人の心の中が見える。

それは当然いいものばかり見えるワケではない。
否、むしろイヤなことばかり。
世の中、偽善と欺瞞に塗れた世界。
この力の所為でイヤでもそんな世界を直視させられる。
まだ幼かった美貴には、それを受け入れられるほど心は成長していなかった。
そして知らぬ間に自分と周りとの間に壁をつくるようになっていった。
84 名前:名無し 投稿日:2003/11/04(火) 22:27
そんな美貴にも唯一心を許せる相手がいた。
記憶にないほど小さい頃からの幼なじみ。

彼女はとても純粋だった。
心の中を覗いてみても嘘、偽りがない。
世の中、表と裏で出来ているのに彼女には表しかなかった。
少なくとも美貴はそう思っていた。

でも、知ってしまった彼女の気持ち。
覗いてはいけなかった彼女の気持ち。
胸の内に秘められていた美貴への想い。

どうすればいいのか。
美貴は自分の気持ちがわからなかった。
答えが見つからないまま時は流れてゆき、いつの間にか二人の間に距離が出来ていって。
85 名前:名無し 投稿日:2003/11/04(火) 22:27
彼女の口から直接その思いを聞く前に。
自分の答えも見つからないままで。
彼女から逃げてしまった。

失ってから気付いた自分の気持ち。
でも、遅すぎた。


美貴はこの力の所為で大切なモノを失ってしまったと思っている。
86 名前:名無し 投稿日:2003/11/04(火) 22:28
>>75 名も無き読者様

レスありがとうございます。
紺ちゃんのキャラ、ナイスと言っていただけてよかったです。
でも、この藤本さんはどうなんでしょう・・・


>>76 sai様

レスありがとうございます。
あの二人、いい感じですか。
嬉しいかぎりです。
でも、今回でこんな感じになっちゃいました。


>>77 ひっそり読者様

レスありがとうございます。
紺野さんと高橋さんは心配ですね・・・
って、作者がそんなこと言ってどうする。
ネタバレになるんであんまり詳しくは話せないです。
すみません。


>>78 チビ読者様

レスありがとうございます。
紺野さんも藤本さんも素晴らしい方達です。
これからも楽しみにしていただけるよう努力していきます。
87 名前:sai 投稿日:2003/11/04(火) 23:43
なんか、めちゃめちゃ痛いよ。悲しいよ。
でも、気になるよ。藤本さん・・・
88 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/05(水) 05:40
もしかしてその幼馴染は鉄板の人でつか?
だったら最高…
89 名前:名も無き読者 投稿日:2003/11/05(水) 10:05
藤本さんにそんな力が…
なんか切ないですが、次回も期待して待っております。
90 名前:名無し 投稿日:2003/11/09(日) 02:59
午後の授業も終わり、帰りのSHRも終わった。
担任の教師の去った教室では、生徒達が帰り支度を始めている。
もちろん、あさ美も帰る準備を始めていた。
そんな中、すでに帰り支度を終えていた愛があさ美の席にやってきた。
91 名前:名無し 投稿日:2003/11/09(日) 02:59
「何だか嬉しそうな顔してるねぇ」

「えっ?そう?」

「うん。さっきの授業の時も何か嬉しそうに見えたしね。
 昼休みが終わって教室に帰ってきてからずっとだよ」

愛は少しからかうように言った。

「そうかなぁ」

そんな愛のからかいをあさ美は誤魔化した。
ホントは、あさ美も愛が言うように嬉しそうにしている自分のことはわかっていた。

少しだけ。そう、ほんの少しだけだけど。
美貴に近づくことが出来た。
まだまだ謎ばかりだけど。
少しだけ近づけたという事実が嬉しかった。
92 名前:名無し 投稿日:2003/11/09(日) 03:00
「あっ、あのさぁ、愛ちゃん」

「ん?何?」

「実は明日も昼休みは一緒に食べられないんだよね・・・」

「そうなの?」

「うん。その・・・い、委員会で色々忙しくてさ」

もちろん、そんなのは嘘。
屋上に行く約束をしたから。
ホントは美貴のことを愛に話しても良かったのだが、
何故だか愛に美貴のことを話せなかった。
いや、話せなかったワケじゃない。
自分だけの秘密にしておきたかったから。
93 名前:名無し 投稿日:2003/11/09(日) 03:01
「ありゃ、風紀委員でも仕事あるんだねぇ」

「う、うん。最近、忙しくてね」

「へぇ〜。大変なんだねぇ。まぁ、頑張ってくださいな」

当然、ホントのことを知らない愛は、あさ美の言葉を
そのまま受け止めていた。

「うん。ありがとう」

「じゃ、今日は部活あるから行くね」

そう言って愛は教室をあとにした。
94 名前:名無し 投稿日:2003/11/09(日) 03:01
小さな嘘を積み重ねること。
もちろん、愛に対して罪悪感を感じる。
でも、誰だって自分だけの秘密を持ちたがるもの。
それはあさ美だって同じ。

だけど、あさ美は知らない。
美貴の秘密を。
不思議な力のことを。
悲しい想い出に縛られていることを。
95 名前:名無し 投稿日:2003/11/09(日) 03:03
>>87 sai様

レスありがとうございます。
何で自分は明るいことが書けないんですかねぇ。
たまには頑張ってギャグも書いてみます(w

>>88 名無し読者様

レスありがとうございます。
鉄板・・・飼育にそんな板あったかな・・・
って、凄く寒いですね。
えっと、ネタバレってのになるかもなんで何も言えません。
ごめんなさい。
名無し読者様の期待されてるお方であることを願っております。

>>89 名も無き読者様

レスありがとうございます。
何だか切ないかもしれませんね。
明るい話を書けよ、自分。
96 名前:sai 投稿日:2003/11/09(日) 19:30
紺野さんよかったね。それにしてもかわいそうなのは
藤本さん。紺野さんに救ってあげてほしい
97 名前:名無し 投稿日:2003/11/12(水) 02:29
何気なく見上げれば、相変わらず秋の空は澄んだ水色に染まっている。
その広い空の中を小さな雲がところどころ泳いでいる。
しばらく眺めていると空の中に吸い込まれそうだ。
美貴は空が好きだ。
空には嘘が無いから。
晴れの日はただただ青色が一面に広がり。
雨の日は一面に鉛色の雲達が空を覆いつくすだけ。

ここは学校の屋上。
12時から5限が始まるまでの間は美貴だけの空間。
二日前からそうでもなくなったけど。
98 名前:名無し 投稿日:2003/11/12(水) 02:30
午前の授業の終わりを告げるチャイムの音が校内中に響く。
それを合図にまるで止まっていた時間が動き出したかのように
生徒達の声で一気に騒がしくなった。
しばらくすると屋上の入り口の扉にある小窓に人影が映った。
ゆっくりと開かれた扉から現れたのはあさ美。
昨日の約束通りに来たみたいである。
ただ、昨日とは少し違って、手ぶらではないようだ。
99 名前:名無し 投稿日:2003/11/12(水) 02:30
「それ、弁当かな?」

美貴の傍までやってきたあさ美に問いかけた。

「はい。昨日とか弁当を食べる時間がなかったんで」

「ふふふ、またお腹が鳴るといけないしね」

「そ、それは・・・」

よっぽど昨日のことが恥ずかしかったのだろう。
美貴のちょっとしたからかいにあさ美は顔を赤くして俯いてしまった。

「ゴメンゴメン。冗談だって。ほら、座って食べなよ」

「あ、はい」

そう言われて、あさ美は美貴の隣に座り、弁当を食べ始めた。
100 名前:名無し 投稿日:2003/11/12(水) 02:30
「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「あの・・・」

「ん?」

「顔に何か付いてます?」

「ううん。何も付いてないけど。何で?」

「さっきから視線感じるんですけど・・・」

「あ、ゴメンゴメン。何か弁当食べてる時の顔が凄い幸せそうなんだよね。
 それが可愛いくてさ」

昨日も同じことを言っていた。

か、可愛いって・・・

良い意味で言ってるのか、悪い意味で言ってるのかもわからずに
ただその言葉が恥ずかしくて、あさ美の顔は再び赤くなった。
101 名前:名無し 投稿日:2003/11/12(水) 02:31
「ごちそうさまでした」

随分とゆっくり食べる為に食べ終わるまでに時間がかかったけど、
弁当箱はキレイに空箱になっていた。

「おそまつさま。って、美貴が作ったワケじゃないけど」

そんな美貴にノリツッコミに二人で顔を合わせて笑った。

「ところで、昨日のことなんですけど・・・」

「昨日のこと?」

「私の名前を知ってたことなんですけど。何でですか?」

ドキッ。
そう言えば、昨日はそんなことがあった。
自分で名前を聞いておきながら、あさ美が答える前に
あさ美の心の中に見えた答えを口に出してしまったのだった。
102 名前:名無し 投稿日:2003/11/12(水) 02:31
「えっと・・・ほら、昨日も言ったけど、有名だからさ」

「私がですか?」

苦しい言い訳である。
あさ美は美貴の言葉に納得してないようだ。

困ったなぁ・・・

ふと、美貴はいいことを思いついた。
こんな時こそ自分の力を上手く使わないと。

「あれだよ。ほら、あれが得意じゃん?」

何気なくあさ美の得意なものを質問してみた。
今の内に心を覗けば、何とかなるかも。
103 名前:名無し 投稿日:2003/11/12(水) 02:32
「あれ?」

そんな美貴の意図も知らずに、色々と考えてしまうあさ美。
自分が得意なもの。
特にないとは思うのだが、あえて挙げるなら勉強だろうか。
学年でも成績はかなりいいし・・・

「そうそう!勉強!成績いいから有名なんだよね、うん」

「はぁ・・・」

それでも、まだイマイチ納得いかない。
第一、今までに勉強のことで自分が有名だなんて話を聞いたことなどない。
もっとも、そんなウワサ話とかにはあさ美は関心を示さないから、
実際に有名でもそんな話のことに気付くことなどないのだが。

「ね!勉強で有名なんだって!」

だが、そんな風に言い切られてしまうと、あさ美も納得せざるおえない。
これ以上疑問を持つことを仕方なく諦めた。
104 名前:名無し 投稿日:2003/11/12(水) 02:32
突然、あさ美の携帯が震えた。
携帯を取り出してみると、愛からのメール。

「あっ!次に授業は体育だったんだ!」

愛からのメールは次の体育に遅れないようにという
親切なものだった。
すっかりそんなこと忘れていた。
教室に戻って体育の用意をしなければ。

「どうしたの?」

「すみません!次、体育なんで用意しないといけないんで」

そう答えると、あさ美は弁当箱を持ち、立ち上がった。
105 名前:名無し 投稿日:2003/11/12(水) 02:32
「あっ、そうだ!」

帰り際、あさ美はふと思いついた。

「あの、明日からもここに来てもいいですか?」

「まだ何か質問あるの?」

質問ならまだたくさんある。
美貴は謎ばかりの人だから。
それに、ここで美貴と過ごす時間は何だか自分に合ってる気がするから。

「やっぱり、ダメですか?」

「ううん。そんなことないよ。弁当食べてる時の可愛い顔が見れるしね」

「そ、それは言わないでくださいよ・・・」

「あはははは。ほら、早くしないと体育に遅れちゃうよ」

「じゃあ、また明日来ますね」

そう言って、あさ美は体育の授業へと急いで向かった。
106 名前:名無し 投稿日:2003/11/12(水) 02:35
>>96 sai様

レスありがとうございます。
今回はきっと暗い話じゃない・・・筈。
いや、毎回明るい話を書こうよ、自分。
107 名前:sai 投稿日:2003/11/12(水) 23:59
とりあえずは仲のいい友達みたいな関係になるのかなぁ?
何気ない高橋さんの気遣いが温かいですね
108 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 12:43
更新がないのよ〜ラララ〜♪
109 名前:名無し 投稿日:2003/11/22(土) 05:16
気まぐれな秋の空もここ1週間は晴れ続き。
もちろん、美貴は相変わらず屋上で昼休みを過ごしている。
これは前から変わらない。
でも、今は少しだけその光景に変化がある。
一人じゃない。
隣にはあさ美の姿が。
110 名前:名無し 投稿日:2003/11/22(土) 05:16
美貴は屋上に来ることを約束して以来、
ここ1週間の間、毎日やってくるあさ美が嫌ではなかった。
こうして二人で過ごす昼休みも悪くない。
特に二人の会話は盛り上がるワケでもないけれど。
あさ美の独特のまったりした雰囲気は、居心地がいい。
普通なら他人に対して壁を作ってしまうのに。
どうして、あさ美のことは受け入れられるのだろう。
美貴はその答えをわかっている。
きっと、彼女の心が真っ直ぐだから。
111 名前:名無し 投稿日:2003/11/22(土) 05:17
あさ美の方もこの時間が好きだ。
きっと、愛と過ごしてた昼休みの方が会話に花が咲いていただろう。
でも、美貴と過ごす昼休みが好きなのだ。

少しづつ美貴に近づいていってる筈なのに。
まだまだ美貴の姿を掴むことが出来ない。

そして、そんな掴みきれない姿に少しづつ魅かれていってる。
自分では気付いていないけれど。
112 名前:名無し 投稿日:2003/11/22(土) 05:17
今日も二人で過ごす昼休み。
隣り合わせで屋上のフェンスに凭れながら座っている。
もちろん、会話はそんなに盛り上がってる感じでもないのだが。

ふと、あさ美はあることを思い出した。

「そういえば、何で藤本さんはいつも12時にここに来るんですか?」

前から一番疑問に思ってたことかもしれない。
なのに、今まで質問し忘れていたこと。

「12時?あぁ・・・」

何だか答えるのに困ってる様子。

「12時っていったらまだ授業中じゃないですか?」

「そうだね。ん〜・・・」

しばらく沈黙した後、美貴は口を開いた。
113 名前:名無し 投稿日:2003/11/22(土) 05:18
「美貴、転向してきたってことは前に話したじゃん?」

「はい」

美貴が2学期から転向してきたことは少し前に聞いた。
この話を聞いて、美貴が屋上に現れる光景が
2学期からのものであるという一つの疑問が晴れた。

「転向する前の話なんだけど、ちょっと約束してたんだよね?」

「約束・・・ですか?」

「待ち合わせって言うのかな・・・12時の屋上である人と会う約束したんだよね」

そう言うと、美貴は空へと視線を移した。
114 名前:名無し 投稿日:2003/11/22(土) 05:18
この姿、あさ美は何度か見たことがある。
二人の会話が少し休みに入った時、美貴はこうして空を眺めることがあった。
何だか寂しそうに空を見つめる美貴の姿。
その視線の向こうに何が映っているのだろうか。
もちろん、あさ美は気になっていたのだけど、
美貴のその寂しげな表情を見ていると何も聞くことが出来なかった。

そして、今、少しだけその表情の理由が分かった気がした。
きっと、その視線の向こうには何か悲しい想い出が映し出されているのだろう。
115 名前:名無し 投稿日:2003/11/22(土) 05:19
「あっ、ゴメン。美貴、今、意識飛んでたよね。
 ま、その時の待ち合わせの約束を破っちゃったことを反省してるって感じかな」

「そういうことだったんですか・・・」

「そっ。そういうこと」

そう笑って話す美貴の姿にほんの少し前まで覗かせていた寂しげな表情は無かった。
でも、間違いなく美貴の心には何か悲しい出来事があったに違いない。
そう思うと、あさ美の心は何だか少し苦しくなった。
116 名前:名無し 投稿日:2003/11/22(土) 05:21

>>107 sai様

レスありがとうございます。
この二人の関係、一体何なのでしょうかね。

>>108 名無し読者様

レスありがとうございます。
更新ないですね・・・ダメな作者で申し訳ないです。
117 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:44
「英語ってホント難しいよね」

「うん・・・」

「愛ちゃんは得意だからいいよなぁ」

「うん・・・」

「どうすれば英語を克服できると思う?」

「うん・・・」

こうしてあさ美の机で愛と一緒に弁当を食べるのは何日ぶりだろうか。
美貴と屋上で昼休みを過ごすようになる前までなら、当たり前の光景だったのに。
今では、愛と教室で昼休みを過ごしてた頃が、随分昔のことに思えてしまう。
雨の所為で美貴と過ごせないのは残念だけど、愛と過ごす昼休みは
それはそれであさ美には嬉しかった。
けど、愛の方は様子がいつもと違う。
いつもならあさ美が愛の話を聞いてないってことが多いのに。
今日は何故だか愛があさ美の話をちゃんと聞いてないみたい。
118 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:45
「何かさっきから変だよ?」

「え?私のこと?」

「うん。何か上の空って言うか・・・」

「あ、いや・・・その・・・」

「何?」

「今はちょっと話しづらいから・・・授業終わった後でもいい?」

「いいけど・・・」

一体なんだろうか。
愛の表情は何だか深刻そう。
それに、今は話しづらいという言葉から何か深い内容のような気はする。
けど、その内容が何なのかまではあさ美には見当が付かなかった。
何となく変な胸騒ぎがするばかりで、結局、二人の間にはぎこちないまま空気が
漂ったままで昼休みは過ぎていった。
119 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:45
放課後の教室。
愛に言われたとおり、あさ美は教室に残っていた。
周りを見渡すと、まだ何人かの生徒達が他愛もない話に花を咲かせている。
愛の方はさっき教室を出ていっていないのだが、鞄は机の上に置いてあるので
そのうち戻ってくるだろう。

それにしても話とは一体何だろうか。
午後の授業の間はあれこれ考えてみたが、やはり見当はつかないまま。
昼休みの愛の様子からすると、きっといい話ではないのだろう。
そう考えると、あさ美の中に不安感が広がってゆく。
120 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:45
教室に残っていた数人の生徒達も、盛り上がっていた話に区切りがついたみたいで
彼女達はやがて教室を出ていった。
それと入れ替わるようにして教室に入ってきたのは愛。
無言のままあさ美の席へと近づいてくる。

少し俯き加減の愛を見ていて、あさ美はふと思った。
よく考えてみれば、愛はいつも笑っていた。
どんな時でも愛は笑顔でいて、だから、二人の間にはいつだって自然だった。
なのに、今の愛にはもちろん笑顔はない。
121 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:46
あさ美の席にやってきた愛は、一つ前の席の子の椅子に座った。
あさ美の机を挟んで向かい合う二人。
教室には二人だけしかいない筈なのに、妙な空気が流れている。
少し張り詰めた空気が苦しいのだろうか。
愛は一呼吸おいてから話を切り出した。
122 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:46
「あのさ・・・あさ美、私に嘘ついてない?」

「嘘?」

「昼休みのこと・・・」

「あ、いや・・・」

「知ってるんだよ、屋上に行ってること。いつも、あさ美の姿を教室から見てた」

「・・・・・・」

自分が愚かだとあさ美は思った。
教室から屋上の美貴の姿を眺めていたんだから、
当然、愛だって屋上を見ることが出来る。
屋上にいるあさ美の姿に気付かない筈がない。
123 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:47
「いつから気付いてたの・・・?」

「最初から気付いてた。でも、あさ美が嘘ついてるなんて思いたくなかったから・・・」

そして、何より愛に嘘をついていた事実、その罪悪感が一気にあさ美を襲う。
愛は初めから気付いていたのにあさ美のことを信じようとしてたのに。
自分はくだらない嘘をついて屋上に行ってたのだ。
今更、本当のことをちゃんと話しておけばよかったと思っても、それはあまりに遅過ぎる。

「ゴメン・・・」

「何で?何で嘘までついて屋上に行くの?あんな人のとこなんか・・・」

「あんな人?」
124 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:47
「愛ちゃん、今、何て言った?あんな人って何のこと?」

「あぁ、あさ美は噂には疎いから知らないんだ。あの人のこと。有名じゃん」

「どういうこと?」

噂?有名?あさ美には何のことか意味がわからない。
たしかに愛の言うとおり、あさ美は噂とかには疎い。
だけど、そもそも、クラスの子が美貴に関する噂話をしてるとこを見たことなんてない。

「いつも4限の授業も終わってない12時に一人で屋上に現れてさ。
 不良だって有名だよ、あの人。でも、皆、恐くて表ではその話しないけど・・・」

「不良?」

「うん。3年の先輩も言ってたけど、友達いないらしいし。何だか近づき難いって。
 前の学校で問題起こしたっていう噂もあるし・・・」
125 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:47
「そんなの嘘だ!」

あさ美は少し語気を強めた。
そんな噂、信じるものか。
あさ美の知ってる美貴はそんな噂とは違う。
たしかに、初めて目の前にした時はどこか近寄り難い雰囲気だったけど。
でも、お腹の空いてたあさ美に自分のパンを差し出してくれた。
弁当を食べてるあさ美を見て、可愛いなんて冗談も言った。
それに、空を眺める時に見せたあの悲しそうな顔。瞳。
126 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:48
「藤本さんのことを何も知らないのに、愛ちゃんはそんな噂を信じるの?」

「いや・・・信じるっていうか・・・」

「何?」

「最近、あさ美が屋上に行くようになってから、あさ美の噂まであるんだよ?
 あさ美は変な噂流れててもいいの?」

「そんなくだらない噂なんて放っておけばいいじゃん」

「私は嫌だよ。あさ美のことをそんな風に言われるなんて・・・」

「私のことなんて愛ちゃんには関係ないじゃん」

「関係あるもん!あさ美のこと・・・」

何故だか少し口篭もる愛。

「何?私のことが何なの?」
127 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:48
「し、心配だから・・・」

「・・・・・・」

愛の心配してくれる気持ちはわかる。
ちゃんと頭では理解出来る。
けれども、口から出てくる言葉は思いとは違うもの。

「そんな愛ちゃんに心配してもらわなくてもいいよ」

「で、でも・・・」

「もう、いい。そんなくだらない噂話、信じるなら勝手にすればいいじゃん」

あさ美はそう言い残すと、鞄を持って席を立ち上がった。

「ちょ、ちょっと、あさ美・・・」

愛の言葉は聞こえないフリをして、あさ美は教室をあとにした。
128 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:49


「ハァ・・・」

教室には一人残された愛の大きな溜息が一つ。

129 名前:名無し 投稿日:2003/11/26(水) 05:51

いつだって目標は完結。
130 名前:名も無き読者 投稿日:2003/11/26(水) 18:08
微妙にスレ違いが…
心配です。
次回に期待しております(w
131 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/09(火) 00:50
待ってます。
132 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/21(日) 05:28
待っています!
133 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:54
窓の外にはどんよりとした雲がどこまでも広がっている。
ここのところ、ずっと晴れ続きだったのに、今日は太陽は顔を覗かせてはくれないらしい。

「はぁ・・・」

自分にしか聞こえないぐらいの小さな溜息。
2学期になってから授業中に何か悩んでばっかりだなぁとあさ美は思った。
何だか世界が変わったみたいである。
いや、変わったのはあさ美自身。

「はぁ・・・」

再び溜息を吐く。
溜息の色を例えるなら、空を覆いつくしている雲のように重い鉛色だろうか。
こんな溜息を吐く原因は、昨日の愛との喧嘩。
134 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:55
教卓の前に座っている愛の方に視線を移してみる。
朝から一言も話をしていない愛のその背中。
黒板の文字を追いながら、シャーペンを握る右手は忙しそうに動いている。


愛は何も悪いことをしてない。
どこからともなく流れてきたであろう噂話の一つを話しただけ。
好きでそんな噂話を口にしたワケではない。
むしろ、あさ美のことを心配してくれていたのだ。
それでも、美貴の悪い噂話を聞いて、ついカーッとなって声を荒げてしまった。

素直に謝るべきだよね・・・

わかってる。
けど、自分から謝るのはその噂話を認めることのように思えて、素直に謝れない。
135 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:55
昼休みになっても太陽は顔を出す様子はない。
それと同じようにあさ美の心も晴れてこない。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

いつものように屋上で美貴と隣り合わせに座り、弁当を食べているのだが、
今日は二人の間を沈黙が支配してる。
136 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:56
何も喋らないあさ美が美貴には気がかりだった。
いつもなら、何かしら話している。
他愛もないことを話している。
けど、今日のあさ美はどこか様子がおかしい。
ただただぼんやりとしているだけのあさ美に、美貴は痺れを切らした。

「わっっっ!!!!」

「ひゃっ!!い、いきなりどうしたんですか!?」

「どうしたもこうしたも、さっきからボーッとしてるだけじゃん」

「そ、そうですか?」

「そうですか?じゃないよ。ほら、箸も進んでないじゃん」
137 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:56
そう言って、美貴はあさ美の弁当箱を指差した。
おかずの南瓜の煮物には無数の穴。
ぼんやりしながら、無意識のうちに箸で何度も突っついていたらしい。

「美貴の話を無視して弁当に夢中になることはあるのに、
 箸も進まないなんて何か変だよ」

「そ、そんなことないです・・・」

そう答えてはいるものの、語尾は聞こえないぐらいに小さくなっていた。

わかりやすいよねぇ

こんな反応されたら、心の中を覗かなくたってあさ美の気分がわかる。
138 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:56
それでも、さすがにあさ美がこんな風に沈んだ気分になってる理由まではわからない。

仕方ない・・・

あまり使いたくないのだが、少しはあさ美の力になれるのではと思い、
美貴は自分のその不思議な力を使うことにした。

「何かあったの?」

たった一言。極々普通な質問。
それでも、美貴にはこれだけで十分。
 
「あ、いや・・・何でもないですよ・・・」

あさ美はそう答えた。
でも、心の中では違うことを思っている。

友達と喧嘩したなんて言っても藤本さんに心配かけるだけだよね・・・
139 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:57
「友達と喧嘩したん・・・でしょ?」

「はい!?」

あさ美には意味がわからなかった。
まったくそんなこと一言も言っていないのに、美貴はたしかにそう言ったのだ。

「いや、な、何で知ってるんですか??」

「あははははは、美貴はね、紺野さんのことなら何でもわかるんです!」

自慢げに答える美貴。
そんな答えで納得出来るワケがない。

「ちょっと待ってくださいよ!それじゃ・・・」

「まあまあまあ。そんなことより、喧嘩してるんでしょ?
 素直に謝ったらいいんじゃないの?」

結局、美貴にはぐらかされてしまった。
かなり引っ掛かるのだが、どうも追求出来そうな流れではないようだ。
仕方なく追求するのは諦めることにして、あさ美は素直に美貴の質問に答えることにした。
140 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:58
「そうなんですけど・・・謝り難いんですよね・・・」

「ん〜・・・友達の方がそうとう怒ってるとか?」

「いや、私が一方的に怒っただけなんですけど」

「それなら、なおさら素直に謝んないと。何か謝り難い理由があるとか?」

ドキッ・・・
謝り難い理由・・・
それはまさに今、目の前にいる美貴のことが原因だから・・・

「喧嘩の理由・・・美貴のことなんだ・・・」

「えっ!?」

まただ。何も答えてないのに、美貴にはバレてしまう。
これが偶然な筈がない。
そう思うあさ美なのだが、それを問い詰める間もなく美貴の言葉が続く。
141 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:58
「知ってるよ。美貴が学校の中で色々と変な噂されてるの。
 不良だ何だって言われてるんでしょ?」

「・・・・・・・・・」

「たしかにさ、美貴、この学校で友達いないもんね。ほら、普段とか目つき悪いしさ」

「・・・・・・・・・」

何も答えることが出来ない。
あさ美も初めて美貴を目の前にした時、あの鋭い視線に威圧されたから。

「こうやって一緒に昼休みを過ごすのって、やっぱり紺野さんには迷惑なのかもね・・・」

隣りを見ると、美貴は話すのを止めていた。
その表情。度々、目にするあの悲しそうな寂しそうな顔。
その顔を見ていると、あさ美の方も何だか苦しくなってくる。

「そ、そんなことないです!藤本さんは優しい人です・・・
 それに、私が勝手に屋上に来てるだけですし・・・
 こうやって一緒にお昼御飯食べるの楽しいですし・・・」

「ありがとう・・・」

嫌な重苦しさが少しの間、二人の間に流れる。
142 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:59
それを断ち切ったのは美貴の方。

「ほらほら、友達との喧嘩の話でしょ?」

今のこの空気を変えようとしてるのだろうか。
美貴は少し笑いながら話した。

「そんなに悩んでるなんて、大事な友達なんでしょ?やっぱり、素直に謝ろうよ」

「そうですよね・・・」

「そうそう。美貴、いつまでも気分の沈んでる紺野さんを見てるのつまんないし。
 弁当に夢中になってる時のかわいい顔がいいんだからさぁ」

「も、もう!おちょくらないでくださいよ!」
143 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 07:59
ほんのさっきまでクヨクヨ悩んでいたのが嘘みたいにあさ美は笑っていた。
それにしても、不思議なものだ。
美貴に悩みを話したら・・・いや、直接口にして言ったワケじゃないけれど、
こうして打ち明けたら何だか心の中が晴れてきた。

空は相変わらず曇っているけれど。
144 名前:名無し 投稿日:2003/12/31(水) 08:07
>>130 名も無き読者 様
レスありがとうございます。
こんな感じになりました。
いや、これだけじゃまだどうなったかわかんないじゃんか、作者よ・・・

>>131 名無し読者 様
レスありがとうございます。
すみませんでした・・・
パソコンを修理に出したり、忙しかったりでなかなか書けませんでした・・・
まだ待っていただけてるなら幸いです。

>>132 名無し読者 様
レスありがとうございます。
そして、申し訳なかったです・・・
こんなダメ作者、駄文を見捨てずに読んでもらえることを願っております・・・
145 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/02(金) 00:17
更新されたんですね!
面白かったです♪また続きを期待して待ってます!!
146 名前:sai 投稿日:2004/01/02(金) 13:19
久の更新お疲れ様。ミキちゃんと紺ちゃんの関係いい
ですね。どんな展開になってくのかなぁ〜。
147 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/02(金) 20:34
更新乙彼&あけおめで〜す♪
なんだかよさげ…
次回も期待してます。
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/09(金) 15:39
おもしろっっ・・・・・・・・・・・!
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 23:37
空一面を覆っていた昨日のあの雲は一体どこへ行ったのだろうか。
今日の空は気持ちが良いくらい晴れている。
そして、秋の深まりを告げる少し冷たい風が屋上を吹き抜ける。
昼下がりのこの場所には、今日も少女の影が二つ。


美貴は焼きそばパンを齧りながら、隣に座るあさ美の顔をチラッと覗いて見た。
昨日とは打って変わって、あさ美は弁当に夢中になっているようだ。
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 23:38
「アハハハッ」

「ど、どうしたんですか?」

突然笑いだした美貴にあさ美は不思議そうに尋ねた。
何かおかしなことでもあったのだろうか。

「いやね、紺野さんって、弁当食べてる姿で機嫌がわかるんだよねぇ」

そう答えた後も美貴は笑い続けている。

「はい!?」

「だって、昨日は全然、箸も動いてなかったのに、今日は必死になって食べてるしさ」

「なっ!・・・ひ、必死なんかじゃないですよ!」

そう答えてはみたものの、あさ美は恥ずかしくなって少し俯いてしまった。
151 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 23:39
「そう言えば、昨日はありがとうございました」

俯いたまま黙々と弁当のおかずに手をつけていたあさ美が、
突然、感謝の言葉を口にした。

「へ?何のこと?」

突然そんなことを言われても、当然ながら美貴には何のことなのかわからない。

「昨日、私が友達と喧嘩した話を聞いてもらって・・・
 あ、いや、自分で話したというよりは、藤本さんに
 代弁してもらったって感じなんですけど・・・
 藤本さんのおかげで、気持ちが楽になったっていうか・・・」

「美貴のおかげ?」

「ハイ!」
152 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 23:40
満面の笑みで頷くあさ美の姿。
自分のおかげという言葉が、美貴には嬉しかった。
余計なおせっかいだったかも・・・なんて思ったりもしたけれど。
感謝の言葉を口にするあさ美の笑顔が心に強く響いた。

「そっかぁ」

でも、何だか恥ずかしくて、美貴にはこんな風に一言でしか返事が出来なかったけれど。
153 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 23:41
時は一日前に遡る。
SHRが終わり、担任が教室を去ると同時に教室内の生徒たちは一斉に動き出した。
家路へつこうとする者。部活へ向かおうとする者。
そんな教室の中から愛を見つけたあさ美は彼女のもとへ駆け寄った。

「愛ちゃん!」

席を立ち、教室を後にしようとする愛を呼び止める。
愛はその足を止め、無表情であさ美のほうへ振り返った。

「その・・・昨日は・・・ゴメン・・・」

昼休みに美貴のおかげで気持ちが楽になったとはいえ、
こうしていざ謝ろうとすると、どうしても声は弱々しいものになってしまう。
それでも、あさ美の声が届いたのだろう。
硬い表情を浮かべていた愛の顔が少し緩む。
154 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 23:41
「ぷっ」

いきなり吹き出す愛に、今度はあさ美の表情が硬くなる。
ごめんと一言言っただけである。何も可笑しなことは言ってない筈。
そんなあさ美の顔を見て、愛は慌てて謝った。

「あっ、ゴメン、ゴメン!まさか、あさ美の方から謝るなんて思わなくてさ・・・」

「何で?」

「だって、変なこと話してあさ美を怒らせたのは私の方だよ?」

そんな愛の言葉に、あさ美は大きく横に首を振った。
155 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 23:42
「ううん。私の方が勝手に怒っちゃって・・・ゴメンね・・・」

「なら、私のこと許してくれるの・・・?」

「もちろん!私の方こそ、許してくれる?」

「当たり前じゃん!」

「「フフフッ」」

二人で謝り合ってるのが何だか可笑しくて、二人は顔を見合わせながら笑った。
156 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 23:42
「でも、あさ美があんな風に怒るなんて思わなかったよ。
 あさ美にとって大切な人なんだろうね、藤本さんってさ」

「大切な人?」

大切な人って一体何なのだろう。
少し考えてみたけれど、あさ美にはよくわからない。

「なら、あさ美にとって藤本さんってどんな人なの?」

「どんな人って・・・」

自分にとって、美貴はどんな存在なのだろうか。

友達?

いや、それは何か違う気がする。
友達というのは、自分と愛との関係みたいなモノで。
あさ美の中で、愛と美貴は違う存在・・・
なら、一体、美貴とは自分にとってどんな存在・・・・・・
157 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 23:43
「自分でもわからないの?」

「ん〜・・・うん・・・」

「フフフッ。そっか、そっか。でも、私はあさ美を応援するからね!」

「エッ!??」

「どうやら、私じゃ藤本さんには勝てないみたいだし」

「はぁ!?」

愛の言葉が理解出来ないあさ美をよそに、愛は「じゃあね!」と言い残して
部活に向かうため教室をあとにした。

「応援するって何をさ・・・」

残されたあさ美は、誰にでもなくただ一人呟いた。
158 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 23:54
>>145 名無し読者様
レスありがとうございます。
こんなモノを面白いと言っていただけて、嬉しい限りです。
そのお言葉を励みに頑張っていきます。

>>146 sai様
レスありがとうございます。
不定期更新で情けない作者です・・・
これからも、完結を目指して頑張ります。

>>147 名も無き読者様
レスありがとうございます。
そして、明けましておめでとうございます。
大晦日に更新してる自分って一体・・・

>>148 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
おもしろっっ・・・・・・・・・・・くないとか・・・
何だかグダグダな話でごめんなさい。
159 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 07:29
「・・・というわけで、太宰治は・・・」

定年間際の年老いた教師の柔らかい声が教室中に広がる。
が、その声に耳を貸している者など一人もいない。
皆、机に突っ伏して寝ているようだ。
教卓の前の席に座る愛でさえ、教師に構うことなく突っ伏している。
どうやら、彼の声は癒しのメロディーと化しているらしい。

それでも、特に眠気のないあさ美はとりあえず起きていた。
もっとも、彼の言葉など聞いてはいないのだが。
160 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 07:29
机の上に一応開いていた国語の教科書の隅にあさ美はシャーペンを走らせていた。

「藤本・・・美貴・・・」

さっきからこの名前を書いては消し、書いては消しの繰り返し。
別にこの名前を書いてることに意味なんてない。
ただ、頭の中に浮かぶ彼女の名前に手が勝手に反応しているだけ。
161 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 07:30
愛と喧嘩して仲直りしたあの日から一週間が過ぎていた。
あさ美と愛の関係は変わらない。
以前のように上手くやっている。
いや、少しだけ愛の方は変わった気も。
昼休みに屋上に向かおうとするあさ美に愛は何故か「頑張ってね」なんて
励ましの言葉を掛けるようになった。
あさ美には愛の真意なんてわからないのだけど。
162 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 07:30
そして、この一週間の間、あさ美を悩ませるモノが。
それはあさ美の中に生まれた新たな疑問。愛が口にした一言。

「あさ美にとって藤本さんってどんな人なの?」

あさ美にとって美貴の存在とは?
友達・・・?先輩・・・?
色々と考えてみるものの、どれも違う気がする。
でも、はっきりしていることがある。
美貴と一緒に過ごす時間は楽しい。
お互いにあまり話をしない時もあるけれど。
変にからかわれたりする時もあるけれど。
それでも、美貴と共有する時間はあさ美には大切なモノ。
163 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 07:31
それから、この疑問が生まれた時からあさ美に変化があった。
妙に美貴のことを意識してしまう・・・
昼休みに美貴の隣りで弁当を食べていても、美貴のことを意識しすぎるあまりに
おかずに入っていた大好きなかぼちゃの味もわからなくなったり。
美貴の自然な笑顔を見て、胸がドキドキしたり。

本当はもう、自分でも気付いている。
あさ美にとっての美貴の存在が何なのかも。
あさ美に生じたこの不思議な変化が何なのかも。


そう、それはつまり・・・
 
164 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 07:31
でも、あさ美は自分の中に芽生えた「それ」を認めることが出来なかった。
あさ美の知っている「それ」は、ドラマや漫画の世界ではもっと運命的な出会いをしていて。
いくつものすれ違いや喧嘩を繰り返したりしていて。
それでも、相手のことを深く深く理解していって。
そして、徐々に心の中に「それ」が生まれてくるワケで。

それなのに、あさ美の場合は運命的な出会いなんて
かっこいい表現が出来るほどの出会い方をしていない。
出会いというか、勝手にあさ美の方が美貴のもとへ訪ねて行っただけ。
すれ違いや喧嘩なんてしたことない。
ましてや、美貴のことを深く理解しているなんてありえない。
165 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 07:32
「藤本・・・美・・・貴・・・」

再び教科書の隅に書いてみた。
今度は消すことなく、この名前をじっと見つめてみた。

自然とあさ美の中に美貴の姿が浮かぶ。
楽しそうに笑っている顔。
時々見せる寂しそうな表情。
美貴の姿をただ思い描くだけであさ美の胸はドキドキし始める。

どんなに色んな言葉を並べて「それ」を否定してみても、
あさ美の中に生じたこの不思議な変化は止まらないらしい。
166 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 07:33
「藤本美貴・・・」



小さな小さな声で呟いてみた。



そして、あさ美は「それ」を認めることにした。



「それ」が「恋」であることを。
 
 
 
167 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 07:36
作者のマニフェストはこの作品の完結です。
168 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/24(土) 21:00
おお、進んでますね。進んでるかな?
いやだんだんと芽生えて育ってというのが伝わってきます。
ここからどうなっていくんだろう・・・
169 名前:silence 投稿日:2004/01/30(金) 14:06
政権公約キタ 気持ちに素直な紺ちゃんが好きです。
170 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/30(金) 16:00
おおっ!更新されてる!!(遅
なんだかエエ感じですなぁw
まったり待ってますのでその公約を果たしていただきたいw
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/02(月) 06:53

意識しないように・・・意識しないように・・・

心の中で呪文のように唱えてみるのだが、
まったく効果はないらしい。

ドキドキ・・・ドキドキ・・・

意識しないようにと思っても、結局は余計に意識することになって、
こうして胸の鼓動は妙に激しくなる。
172 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/02(月) 06:53
あさ美が自分の「恋」を認めた日から数日が過ぎる。
今までと同じように美貴と過ごす昼休み。
なのに、隣りに美貴がいると思うだけで妙に緊張してしまう。
ここ数日、いつもこんな調子。
美貴に話し掛けられると、頭の中は一気に真っ白に。
美貴の声だけが耳の中で鮮明に響くのだが、
自分が何を話しているのかはまったくわからない。

恋とは不思議なモノ。
一旦自分の気持ちを認めてしまうとその想いは物凄い速さで加速してゆく。
そして、普通に接することの出来た筈の相手と普通に接することが出来なくなる。
今のあさ美はまさにこんな状態。
173 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/02(月) 06:53
今日の昼休みも、あさ美は美貴の隣りに座っているのだが
その顔をまともに見ることが出来ない。
だから、弁当を食べながら美貴の横顔をチラッと盗み見するのだ。

焼きそばパンを齧っているその横顔。
別段どうってことのない横顔なのだが、
そんな横顔でもあさ美の胸は急に高鳴りだす。
174 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/02(月) 06:54
「ん?」

その視線に美貴は気付いたらしい。
美貴は焼きそばパンを齧るのを止め、あさ美の方へ振り返った。
当然ながら、二人の視線は交錯する。
美貴に見つめられ、あさ美の胸は限界を超えそうな勢いで高鳴る。
これ以上見つめ合っていたら、限界を超えてしまう。
そう思ったあさ美は、無言のまま視線を美貴から弁当箱へと移し、
恥ずかしさを隠そうと箸を握るその右手を忙しく動かし始めた。

もちろん、美貴にはあさ美の行動の意味なんてわからない。
とりあえず、焼きそばパンを齧り直そうと思った。
その時、隣りから奇妙な声が聞こえた。
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/02(月) 06:54
「んッッ!!」

一体、どこから出しているのだろうか。
その奇妙な声の主はあさ美である。
その顔には苦悶の表情が浮かんでいる。
どうやら、おかずが胸の辺りに支えたらしい。
あさ美は自分の胸を叩いた。
何度か叩くうちに、何とか支えたものが大人しくお腹の中に納まろうとした時・・・

「ほら、これで流しちゃいなよ」

そう言って美貴に差し出されたのは500mlサイズのペットボトル。
中身はお茶のようである。そう、何の変哲もないただのお茶。
だが、あさ美にはただのお茶ではなかった。

藤本さんの飲みかけじゃん・・・

変なことを考えてしまったあさ美は、再び胸におかずを支えさせた。
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/02(月) 06:54
「ちょっと・・・大丈夫?」

心配そうな美貴の声。
そして、空いているあさ美の左手にペットボトルを握らせた。

あさ美の瞳に映るのは、左手に握るペットボトル。
少しだけ美貴の方を見てみると、その表情は心配の色をしている。
どうにも、美貴のこの好意を受け取らなければならない雰囲気。
好意を受け取ること。それはつまりこのお茶を飲むこと。

お茶を飲むって・・・か、か、間接・・・キス・・・

胸にはおかずが詰まっていて苦しい筈なのに、
「間接キス」という単語だけがあさ美の頭の中をぐるぐると回っている。
物凄く恥ずかしい。が、せっかくの好意を受け取らないと悪い。
あさ美は意を決して、左手に握るペットボトルを口にした。
177 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/02(月) 06:54
「あ、あ、ありがとうございました・・・・・・」

感謝の言葉を伝えているのだが、その声は消え入りそうな勢い。
左手に握っているペットボトルを美貴に返すと、あさ美は俯いてしまった。
その表情がどんなものなのかはよくわからないが、
とりあえず、あさ美の耳は異常に赤くなっている。

ペットボトルを返すとすぐに俯いてしまい、おまけに耳は赤い。
この姿が何を意味しているのかなんて美貴には当然だがわからない。

首を傾げながらも、深く考えてもわかりそうにないと思った美貴は
食べ掛けの焼きそばパンを再び口にすることにした。

178 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/02(月) 07:05
>>168 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
そのようなお言葉を頂けて嬉しい限りです。
これからも精進して参りたいと思います。

>>169 silence様
レスありがとうございます。
政権が転覆したらごめんなさい・・・
いや、ちゃんと公約を果たせるよう頑張ります。

>>170 名も無き読者様
レスありがとうございます。
不定期更新のダメ作者で申し訳ないです・・・
公約違反だ!と言われないよう努力して参ります。
179 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/06(金) 00:19
おおっと、進むのでしょうか? 進めるか紺野さん藤本さん。
なんかこれまでになくふわふわとやらかく暖かい情景で
逆になんかドキドキしたりも。
しかし風通しのよい空気です。気持ちいい。続き期待です。
180 名前:帰ってきたたまごっち 投稿日:2004/02/22(日) 15:26
おぉ!!更新されてる!
紺野さんじぶんの気持ちに気づきましたね。
これから二人の関係はどうなっていくんでしょうかね。
楽しみです。
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 16:43
昨夜から降り始めた雨は昼休みになっても止むことなく降り続いている。
外の薄暗く厚い雨雲とは対照的に、教室の中は賑やか。
そんな教室の真ん中らへんには、すでに昼御飯を済ませて
机にうつ伏せたまま目を閉じている美貴の姿があった。
どうやら、この雨の所為でいつものように12時に屋上へと行くことはなかったようだ。
182 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 16:43
昼休みの教室はこんなにも騒がしいものなのだろうか。
周りの喧噪を耳にしながら美貴はふと思った。
尤も、その答えはいつも屋上で過ごす美貴にはわかる筈もない。

屋上で過ごす時間はいつだって穏やかな空気が流れている。
たぶん、あさ美が来るようになってからだろう。
いつも弁当に夢中になっていて。
ちょっとおっちょこちょいなところがあって。
急に顔を真っ赤にしたりして。
そんなあさ美の姿を可愛らしく思っていた。
最近ではあさ美が隣りにいると何だか落ち着く気がした。
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 16:44
きっと、あさ美の魅力はあの真っ直ぐで純粋な心なのだろう。
それがあさ美のことを受け入れられた理由なのかもしれない。
思えばいつも周囲に対して壁を造っているが故に自分は孤独だと感じていたが、
いつだって自分の隣りには誰かがいてくれた。
幼馴染みのあの子・・・そして、あさ美・・・
もしかして、今の自分はあの子とあさ美を重ねて見ているのかもしれない。
184 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 16:44
でも、もし、あさ美が本当の自分を知ったらどうだろうか。
人の心の中を勝手に覗いてしまう自分の力の存在を知ったらどうだろうか。
あの時の自分はそれが恐くて逃げてしまった。
自分の気持ちとあの子の気持ちが重なり合ったら、本当の自分の姿を気付かれるだろう。
いや、気付かれなくても、自分の口からそのことを伝えなければならない。
そうしないと、自分のことを想ってくれる気持ちに対して裏切ることになるから・・・
でも、そうしたら、きっと彼女は自分のもとを離れていっただろう。

それが恐かったから・・・

彼女から逃げてしまった・・・
 
185 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 16:45
だから、あさ美には傍にいてもらえるだけでいい。
隣りで優しく微笑んでもらえるだけでいい。
静かで温かい安らぎを与えてくれるだけでいい。
自分だけの存在になって欲しいなんて願いはいらない。
いや、願ってもそれは無理だろう。
本当の自分の姿を知ったら、あさ美もきっと自分のそばから離れていくのだから・・・
186 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 16:45
気付けば昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いていた。
5時限目の授業の担当教師が教室に入ってくると、騒がしかった教室の中は
一転して静寂の空間へと変わっていた。
そして、そんな静寂の空間の中を黒板とチョークとが
どこか気持ちのいいリズムでぶつかり合う音が響く。
自分の心との会話に疲れたのだろうか。
机にうつ伏せたままの美貴は教室に響くその音を子守唄代わりにして
夢の世界へゆっくりと引き込まれていった。
187 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 16:46
>>179 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
もう、進んでるのか進んでないのかよくわからない話ですみません・・・
でも、気持ちいいと言っていただけて光栄です。

>>帰ってきたたまごっち様
レスありがとうございます。
更新してるのかよくわからないようなペースで申し訳ないです・・・
これからも楽しみと言っていただけるよう精進して参ります。
188 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 16:47
ごめんなさい・・・レス番号が抜けてました・・・

>>180 帰ってきたたまごっち様
レスありがとうございます。
更新してるのかよくわからないようなペースで申し訳ないです・・・
これからも楽しみと言っていただけるよう精進して参ります。
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/05(金) 13:22
更新お疲れさまです。マターリマイペースで頑張ってください
マターリついて行きます
190 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/05(金) 20:24
おうageの更新とは
ここの時間の流れはいいなあ ゆったりゆったり
藤本さんの過去も明かされる気配皆無で知りたいんだけどのんびり出来たり
また待ってますよー
191 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/08(月) 21:31
乙ッス。
まったりいい感じですw
これからもマターリついて行くんでガンバです。
192 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/16(火) 07:51
ここで本編とは全く関係のない短編を一つ。
193 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:52

梅雨はあまり好きじゃない

あのジメジメした特有の風は体に纏わりつくし

何日も雨の日が続くと気分が下がる

でも、あの日、キミに出逢えてから

少しだけ好きになれたかも
 
194 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:52
朝の快晴とは打って変わって、お昼過ぎから真っ暗な雨雲が少しづつ空を覆い始め、
授業が全て終わる頃には雨が降り始めていた。

「ゲーッ!マジ、最悪ー!!」

「うっそ!?傘なんて持ってきてないよぉ・・・」

教室の中は悲鳴にも似た声が飛び交っている。
多くの生徒が窓の外に浮かぶ雨雲と睨めっこ。
とりあえず、このまましばらく様子を伺ってるみたい。
195 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:53
「あれ?美貴は帰るの?傘は?」

教室を後にしようとする私をクラスの友人が呼び止める。

「ん?あるよ」

「うそ!?」

「朝の天気予報見なかったの?」

「あれ、夕方ぐらいから降るとか言ってたじゃん」

「それを鵜呑みにしちゃダメだって。ほら、備えあれば・・・何とかって言うし、
 こんな時は一応、傘を持ってくるもんでしょ」

「だって、帰るまでは何とかなると思ったんだもん・・・」

最初は適当に受け流してたけど、尚も続ける彼女に次第に呆れてきた。

そんなに私が傘を持ってきてることが不満なんですか・・・

彼女の無意味な文句に付き合っててもしょうがないと思い、
私は「バイバ〜イ」と言い残して教室を後にした。
196 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:54
お気に入りの赤い傘を差しながら、家へ向かって一人黙々と歩く。
思っていたより、雨脚は強いみたい。
少なくとも教室から外を眺めていた時よりは強まっている。
傘に打ち付ける雨の音は妙に鮮明に聞こえるし。

さっきから何人かの生徒が傘も差さずに自転車を飛ばして私の横を通り過ぎて行った。

車道を走る車はまだ昼間だというのにヘッドライトを点けていて、
その光が濡れたアスファルトに反射して何だか眩しい。

その眩しさを見つめていると、あの日のことを思い出した。
たしか、あの日もこんな天気だったっけ・・・
197 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:54
ちょうど去年の今頃だった。
授業も終わり、さぁ帰ろうとした頃に突然降り始めた雨。
教室にいる傘を忘れた友人達は、今日みたいに教室で何だかんだと
文句を言いながら雨が止むのを待っていた。
私もみんなと同じようにそうするつもりだった。

ふと、置き忘れたままの傘があることを思い出す。
ある朝、学校へ向かう時に降っていたために差してきたのだが
帰る頃には空は真っ青に晴れ渡っていて持って帰るのを忘れたんだ。
そんな偶然に助けられて、私は学校を後にすることが出来た。
そう言えば、あの時も教室を出る時にクラスの友人に何か文句を言われてたっけ。
198 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:54
傘を差しながら、ただただ家を目指して歩く私。
ジメジメした風が肌に纏わりつく。
それが少し不快で、いつもより速足になっていた。

ちょうど学校と家との中間あたりだろうか。
私の視界に見慣れたコンビニが映る。
いつもなら別に何も気に留めずに通り過ぎるだけなんだけど。
私は家へと向かうその足を止め、コンビニの方を眺めていた。
199 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:55
コンビニの前に立つ一人の少女。
制服は私の着ているものと違うから、他の学校の子なのかな。
ふと、彼女の手に視線を移すと傘らしきものは見えない。
何度も厚く覆われた雲を眺めては下を向いて溜息を繰り返している。
きっと、雨宿りでもしてるのかな。

別にどこにでもあるような光景。
普段の私ならそのままコンビニを通り過ぎてる筈なんだけど。
その時の彼女の表情は、今にも泣き出しそうに見えた。
200 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:55
気が付くと、私は彼女の方へと向かっていた。
普段の私はそんなにお節介を焼いたりするタイプじゃない。
ううん、むしろ、無意味に他人に関心を示そうとはしない方だ。
なのに、何故かその頼りない姿が気になって、自然と足が動いていた。

彼女の隣りまで行くと、私は足を止め、傘を閉じた。
201 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:56
「ねぇ?」

見知らぬ人間からの突然の呼び掛けに、彼女の肩はビクッと揺れる。
そして、恐る恐るといった様子で彼女は顔を上げた。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

当たり前だけど、お互いに顔を知らない私たちは黙り込んでしまう。
考えてみれば、自分は何をしようと思って彼女に声を掛けたのだろうか。
あれやこれやと考えてる間も、私たちの沈黙は尚も続く。
このままでは埒が開かない。
202 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:56
あのさ、一緒に帰らない?」

「へぇ!?」

私の言葉に彼女は随分と驚いた表情を浮かべた。
いや、驚いたのは彼女だけじゃない。
当の本人である私でさえ自分の言葉に驚いた。

これじゃ、下手なナンパと変わらないじゃん・・・

このままでは変な誤解が生まれると気がした私は更に言葉を続けた。

「あ、いやね、そういう意味じゃなくて・・・って、どう意味なんだよ・・・」

「・・・・・・・・・」

「その・・・傘ないんでしょ?このまま待ってても、何時止むかわかんないよ?」

「・・・・・・・・・」
203 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:57
彼女はまだ私に不信感を抱いてるようだ。
もう、何で自分がこんなに必死になってるのかわかんない。
だけど、このまま中途半端に引き下がることも出来ない。

「そんな美貴は全然怪しい人じゃないし、うん」

「でも・・・」

「ほら、制服濡れてるし、このままじゃ風邪ひいちゃうって」

私の言葉の通り、彼女の制服は随分と濡れている。
まだほんの少し肩が震えてるのは寒いからなんだと思う。
彼女はしばらく考え込むとゆっくりと答えた。
204 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:57
「ありがとうございます・・・」

「じゃあ、一緒に帰る?」

そう尋ねると彼女は小さく頷いてくれた。

「よし。なら、行こっか」

そして、私は閉じていた傘を再び開き、彼女と歩き始めた。
205 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:58
コンビニから結構な距離を歩いている。
美貴の家ならばもう着くぐらいなのに、彼女の家はまだらしい。

一本の傘に二人が入るのはいくらオンナの子同士でも少し狭かった。
雨は幾分弱まったけど、傘からはみ出ている私の左肩は結構濡れている。
でも、それは大して問題じゃなかった。

「次はどっち?」

「あ、左です」

コンビニから今まで道案内しかしてもらっていない。
隣り合わせの状況なのに会話がない今の状況。
正直、あまり居心地がいいワケじゃない。
このままでいても、彼女の方から話し掛けてくれそうにもない。
とりあえず、何か話し掛けてみようと思った。
206 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:58
「あのさ、名前を聞いてないんだけど?」

「あ、紺野・・です・・・」

「へぇ〜。ってことは、紺ちゃんだね」

「・・・・・・」

「ゴメン・・・調子ノっちゃったね・・・」

ハァ・・・・・・
私とは会話する気ないのかな・・・
そうだよね・・・
いきなり、声掛けてきた人と普通に会話なんて出来ないよね・・・

私は無理にこの状況を打開することを諦めた。
207 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:59
それからしばらく、私は俯きながらボーッと歩き続けていた。
彼女の道案内にも「うん」と一言で答えるだけ。

「あの突き当たりを右に曲がったところが私の家です」

「うん」

また同じように軽く受け流すだけの返事。

ようやく、この状況から抜け出せるのか・・・

自分から「一緒に帰ろう」なんて言っておきながら、
こんなこと思うのは失礼だけど、正直なところ、少しホッとしていた。

「あれ?」

「ん?」

突然、彼女が何かに反応を示したので、私も無意識に同じように反応した。
208 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 07:59
「雨、止んでますね」

「え?」

たしかに雨は降っていない。
彼女に言われて初めて雨が止んだことに気付く。
私は差していた傘を閉じ、ゆっくりと顔を上げた。

「うっ・・・」

偶然にも私が顔を上げた時、雲に隠れていた太陽がゆっくりと顔を覗かせた。
そして、太陽の光が濡れたアスファルトに反射して
私たちの前に不思議な光の世界を造り出した。
私はその眩しさに耐え切れず、顔を空へと向けた。
209 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 08:00
「眩しッ・・・って、あれ?」

私とは対照的に、眩しさから逃れる為に俯いて目を閉じていた彼女が
私の声を聞き、私と同じように空へと顔を向ける。

「虹だ・・・」

「何がですか?」

「ほら、あれだよ!あれ!」

「あっ、ホントだぁ・・・」

私たちの視界に映ったのは雲と雲の切れ間に映る青い空と
そのわずかな切れ間に掛かる鮮やかな七色の虹。
二人してしばらくの間、その風景に目を奪われていた。

「何か・・・凄いですよね・・・」

「うん・・・キレイだよね・・・」

そう言葉を交わすと、私たちは空へと向けていた
顔をゆっくりと下ろした。
210 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 08:00
「あっ、もう、家はすぐそこなんでここでいいです」

「あ、うん」

「ありがとうございました」

その言葉と共に彼女はわざわざ頭を下げてお辞儀をしてくれた。

「そう言えば、私の方がまだ名前聞いてないんですけど?」

「そうだったね。私は藤本美貴」

「なるほど。ってことは、美貴ちゃん・・・ですね」

彼女が私の名前をそう呼ぶと、私たちは顔を合わせて笑った。

なんだ・・・結構、いい笑顔してるんじゃん

初めて見た彼女の笑顔に、私は素直にそう感じた。
211 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 08:01
「それじゃ、行きますね」

「うん」

彼女は数回手を振ると、こちらに背を向けて歩き出した。
少しずつ遠ざかる彼女の背中を眺めながら、私はさっきの笑顔を思い出す。


もっと、色んな表情のキミが見たい。


もっと、たくさんキミの声が聞きたい。


たしかにあの時の私の胸の中にはそんな想いが存在していた。
212 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 08:01
あれから一年以上が過ぎ、今に至る。

たしかにあの時、ふと私の胸には不思議なキモチがあった。

けど、別に彼女を探したりはしなかった。

あの日に彼女と過ごした時間は偶然で。

もし、再び彼女に会うことあるならばそれは運命で。

私は自分なりにそんな風に考えていた。
213 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 08:02
気が付くと、あの日、彼女に出逢ったコンビニの近くまで歩いていた。
結構、長い間、物思いに耽ていたみたい。
あの日のことを思い出していた所為だと思うけど、
コンビニの前を通ろうとする時、妙に懐かしく感じた。
この世に運命というものが存在してないかな・・・なんて
冗談半分に思いながら、ふとコンビニの方へと目を向けた。


そこにはあの日と同じようにキミがいた。

今にも泣きそうな表情をしたキミが。

本当に運命って存在したんだね。
214 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 08:03
何も迷いはない。
私の身体は私の意志で彼女の方へと向かっていた。
彼女の隣りまで進むと、私は差していた傘を閉じた。
俯いていた彼女の顔はゆっくりと私の方へ向く。
私はあの日と同じように言葉を掛ける。


「ねぇ、一緒に帰らない?」
 
 
215 名前:原色エレガント 投稿日:2004/03/16(火) 08:03
  
  
  
  
216 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/16(火) 08:05
駄文です。どう見ても駄文です。
本当にごめんなさい。
ochi更新ってことでお許し頂けると幸いです。
217 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/16(火) 08:15
>>189 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
またーり過ぎて申し訳ないです・・・
またーり過ぎて忘れられる前に更新出来るよう努力して参ります。

>>190 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
もう、ゆったり過ぎてグダグダ過ぎて・・・
あまりお待たせすることが無いように最善を尽くして参ります。

>>191 名も無き読者様
レスありがとうございます。
更新も話の展開も遅くて何だか申し訳ないです・・・
書くの遅いくせに中身が薄いってどうなんだ、自分・・・
218 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/16(火) 16:12
短編、グッジョブです(*´∀`)b
>>217
このまったり感もまた好きなので気にせんで大丈夫デスよ?
では次もマターリ待たしてもらいますw
219 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/16(火) 19:16
良い短編でしたー
本編と違う話と言いつつでも調和する空気で
やあ素晴らしい
のんびり待ちます
220 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/25(日) 21:32
待ちます。
221 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/08(土) 15:43
楽しみにしてます。
がんばってください!!
222 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/28(金) 00:51
なんていうか・・・うまく言えませんが、二人の距離感がすごくいい感じ
続きが楽しみです。マターリとお待ちしてますので、作者さんのペースで頑張ってくださいね
223 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/30(日) 22:36

224 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/06(日) 22:19
う〜ん・・・更新が・・・(・。・;)

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