四重奏
- 1 名前:取扱説明書 投稿日:2003/10/24(金) 15:31
- 川o・-・)<四話構成で一つのテーマのものを予定しています。
川 ’ー’)<といっても、それぞれの話は独立したものの予定です。
∬ ´▽`)<今回はとりあえず予告です。
「ふーん」と思っておいてください。
( ・e・)<雪板で『頭を悩ませること』というものを載せてました。
冒頭が気にならない人は読んでみてください。
- 2 名前:第一話 投稿日:2003/10/24(金) 15:32
-
川 ’ー’) まずは私、高橋愛です。少し前の話になるのかな・・
- 3 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/25(土) 02:20
- また野郎もんなのだろうか…
- 4 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/25(土) 22:58
-
- 5 名前:彼女のプライド 投稿日:2003/10/27(月) 13:04
-
夏
- 6 名前:夏の思い出 投稿日:2003/10/27(月) 13:05
- 私がモーニング娘。になって二回目の夏。
私達はミュージカルの真っ最中だった。
公演何日目かには、リハーサルと本番の区別すら怪しくなってきた。
とにかく、一日中慌ただしく駆け回る。
今から振り返ってみると、そんな夏だった。
- 7 名前:夏の思い出 投稿日:2003/10/27(月) 13:07
- 朝からずっと仕事っていう生活には、さすがに慣れた。
でも、この季節は夏休みなんだよなぁ・・
学校の生活習慣がまだ生きているらしく、そんなふうに感じた。
そんな日の出来事だった。
- 8 名前:夏の思い出 投稿日:2003/10/27(月) 13:08
- 私達は大きな部屋に全員呼び出された。
そこで、後藤さんがモーニング娘。を卒業することが決まったと聞かされた。
振り返ってみるに、始まりはこんなところだろう。
とりあえず、そういうことにしておく。
- 9 名前:一日の終わり 投稿日:2003/10/27(月) 13:09
- 部屋に入って、ドアを閉める。
一日の中で、ようやく一人になれた気がする。
仕事は大変だけど、充実感も楽しみもある。
家族は、気を使わないでリラックスできる場所だ。
でも、一人なら、そのどちらも考える必要がない。
本当の満足ってこんなものなんだろうな・・
- 10 名前:一日の終わり 投稿日:2003/10/27(月) 13:09
- 疲れる日だった。
後藤さんが辞めるって聞かされたからじゃない。
その後、それについて聞かれたり考えたりしなきゃいけなかったからだ。
- 11 名前:一日の終わり 投稿日:2003/10/27(月) 13:10
- 卒業は前から決まってたみたいだ。
よく考えてみれば、カメラもインタビューもあったわけだから、当然だね。
『仕事だから、しっかりしなきゃ』
とっさにそう考えた。
ん? 悲しんでることも仕事になるのかな? 仕事だから悲しいのかな?
そんな馬鹿みたいなことを考えた。
- 12 名前:一日の終わり 投稿日:2003/10/27(月) 13:10
- 後藤さんのことを思い出す。
優しくしてくれたこと。
何もしてくれなかったこと。
私に掛けてくれた言葉。
誰かに話していた言葉。
全く意味のない言葉。
そういうのを、思いつく限り考えてた。
- 13 名前:一日の終わり 投稿日:2003/10/27(月) 13:12
- あれだけ流した涙もようやく収まって、気分も少し落ち着いてきた。
──自分がどれだけ悲しかったのか、後藤さんのことをどれだけ思っていたのか──
それが分かっただけで、気分が少し晴れた気がする。
いつものようにお風呂に入って、いつものパジャマに着替えて、いつものように眠る。
そうすれば、明日もいつものように過ごせるだろうから。
そんなことを考えてるうちに、私は寝てしまったみたいだ。
分かっていたけど、単純な人間ね。
- 14 名前:毎日の続き 投稿日:2003/10/27(月) 13:13
- 次の日。
そのまた次の日。
そして毎日。
みんないつもの通りだった。
後藤さんも、はしゃぎもせず、悲しみもせず、いつもの通りみんなの中にいた。
誰かが決めたわけじゃない。
けど、悲しんだら負けみたいに、普通にしてるのが当然のように、みんなそうしていた。
- 15 名前:レッスン 投稿日:2003/10/27(月) 13:15
- 今は休憩時間。
ツアーの練習の途中だ。
それはいつものことだし、そうなったからきつくなるということもない。
でも、みんなが、自然と力が入っているのは感じる。
後藤さんは特に。
それは実際に気合を入れてという意味じゃなく、雰囲気として。
特別なことはしていないはずでも、特別な雰囲気を感じる。
それがすごいとこなんだよなぁ・・
- 16 名前:レッスン 投稿日:2003/10/27(月) 13:16
- 私は汗をふき取ると、そのまま頭からタオルをかぶった。
荒くなった自分の呼吸が聞こえる。
肌からは、また熱が汗になるのを感じた。
それ以上無駄な動きをやめて、体が落ち着くのを静かに待っていた。
- 17 名前:プロデューサー 投稿日:2003/10/27(月) 13:18
- 「高橋ぃ〜〜 いるか〜〜」
その声に振り返ると、つんく♂さんが手招きをしていた。
- 18 名前:プロデューサー 投稿日:2003/10/27(月) 13:18
- 「どうや、調子は?」
「はい、頑張ってます」
今日は時間が空いたらしく、さっきから私達のレッスンを見ていた。
「うん、だいぶいいと思う。安倍と並ぶとこなんかも、遜色ないからな」
それは、やっと足を引っ張らずに済むようになったということ。
私らしさというものには、まだ遠いらしい。
- 19 名前:プロデューサー 投稿日:2003/10/27(月) 13:19
- 「あと、紺野おらへんか?」
「あさ美ちゃ〜ん」
声をかけると、みんなが固まっている辺りからあさ美ちゃんが顔を出した。
- 20 名前:プロデューサー 投稿日:2003/10/27(月) 13:20
- 「紺野もだいぶ良くなってる。最初の頃よりもだいぶメリハリがついてきたからな。
あと、これは二人にやけど、もっと自信を持って思っきりやること。
それだけで、だいぶ違って見えるから。
ちょうどいい手本が隣におるんやから、もっと参考にしてみるといい」
つんく♂さんを、いつもと少し違うように感じた。
- 21 名前:川o・-・) 投稿日:川o・-・)
- 川o・-・)
- 22 名前:川o・-・) 投稿日:川o・-・)
- 川o・-・)
- 23 名前:時間の適用外 投稿日:2003/10/27(月) 13:26
- 「それで─ ─ ─ ───
───── ──────────────
──
─────
- 24 名前:時間の適用外 投稿日:2003/10/27(月) 13:28
- 突然つんく♂さんの動きが止まった。
喋ろうとして口を開いたまま動かなくなっている。
その後ろに見えていた飯田さん達の動きも止まっているように見える。
なんだこりゃ?
とっさに、隣にいるあさ美ちゃんに目を向けようとした。
- 25 名前:時間の適用外 投稿日:2003/10/27(月) 13:30
-
──動かない──
- 26 名前:時間の適用外 投稿日:2003/10/27(月) 13:31
- 何度も動くよう命令を送るが、体がまったく反応してくれない。
どうやら、私も止まってしまったみたいだ。
頭の中は、はっきりとしていて、いつもの通り。
でも、体だけが動かない。
睡眠の合間の金縛りみたいな感覚だった。
- 27 名前:時間の適用外 投稿日:2003/10/27(月) 13:32
- 脳の中身の方に意識をやってみたが、どうにもなりそうにない。
仕方なく目に意識を戻し、目の前の景色に注目してみた。
ゆっくりとつんく♂さんの口が動くのが見える。
いつかテレビで見た、超スロー映像もこんな感じだった。
- 28 名前:時間の適用外 投稿日:2003/10/27(月) 13:33
- まずい!
そんなのを待ってられなくなってきた。
目が乾く。
なにしろ、瞬きもできないから。
それだけじゃない。
呼吸・・息が苦しくなってきた。
どんなに吸い込もうとしても、体の中身も動かないのだから。
体は止まっているから平気かもしれないけど、私の意識が死んじゃうぞ。
こりゃまずい!!
- 29 名前:一日の残り 投稿日:2003/10/27(月) 13:37
- そしてまた突然、体の自由が戻る。
止まっている時の感覚が抜けず、そのままの勢いで少し前のめりになった。
息苦しさから、息も少し荒くなっている。
わけが・・わからないぞ・・
- 30 名前:一日の残り 投稿日:2003/10/27(月) 13:38
- 「どうした、高橋?」
つんく♂さんの声も元に戻っていた。
「あ・・大丈夫です」
あまり目立たないように大きく呼吸をすると、だいぶ落ち着いた。
「ほんじゃあ・・・・俺、そろそろ行くわ。練習頑張れよ」
みんなにそう一声かけると、つんく♂さんは軽く手を振って部屋を出ていった。
- 31 名前:一日の残り 投稿日:2003/10/27(月) 13:38
- 隣には、まだあさ美ちゃんが立っている。
「ねえ・・あのさ・・」
「ん?」
あさ美ちゃんはいつもの顔だった。
「・・やっぱりいいや。なんでもない」
私も、たぶんいつもの顔で言えたと思う。
- 32 名前:一日の残り 投稿日:2003/10/27(月) 13:39
- でも、あの時、つんく♂さんが言ってたこと・・
音には出ていなかったけど、確かに聞こえたような気がする。
『いつまでもあの二人に任しておくわけにもいかんからな』
今日は、二十四時間よりもほんの少し長かった。
- 33 名前:さわやかな目覚め 投稿日:2003/10/27(月) 13:41
- あれ・・何だろう?
私は目を擦った。
起き抜けだからかな・・目がしぱしぱする。
大きく欠伸をすると、涙で景色がさらに滲んだ。
- 34 名前:さわやかな目覚め 投稿日:2003/10/27(月) 13:41
- 目が覚めた時間の誤差は、昨日の十分遅れぐらいだ。
つまり、いつもの時間に起きられたということ。
準備を済ませると、今日はまず学校。
スイッチみたいにはいかないけど、切り替えは上手くなった。
- 35 名前:仕事モード 投稿日:2003/10/27(月) 13:44
- 部屋に入ると、みんなは、ほとんど揃っていた。
それぞれ準備してたり、休んでいたり・・
私は練習着に着替えると、準備運動もそこそこに、体を動かし始めた。
そうしていると一人、また一人と集まってくる。
全員が揃い、しばらくすると、先生が入ってきた。
「よし、みんな揃ったね」
そう、みんな揃った。
みんなの中にはもう後藤さんはいない。
十二人でのフォーメーションは、新鮮で楽しかった。
- 36 名前:感動の再会 投稿日:2003/10/27(月) 13:46
- 「おはよ〜 高橋」
「おはようございます」
後藤さんだ。
これがややこしいところだ。
モーニング娘。でなくなったからといって、まったく会わないかと言うと、そうでもない。
一緒に仕事することは、けっこうある。
それに、卒業してからそれほど時間が経っていないため、まだ次の展開を検討中。
しばらくは、番組でも一緒のコーナーが続くらしい。
その分、他のメンバーよりも会うことが多かったりする。
- 37 名前:後藤さん 投稿日:2003/10/27(月) 13:49
- 後藤さんはいつもと変わらないようだった。
モーニング娘。でないと言われても、ピンとこないくらい。
もともと、何かを抱え込んでいる時ほど、そんな素振りを見せない人だった。
そんな様子に、ホッとするような、淋しいような・・
それが後藤さんなんだと、改めて思ってみたり・・
- 38 名前:後藤さん 投稿日:2003/10/27(月) 13:49
- 「吉澤さんはどうしたんですか?」
「今、着替えてる最中。今日少し遅れたから、慌ててたよ」
「珍しいですね」
「確かにね」
後藤さんはすっかりスズメの格好になっている。
もちろん、私もだけど。
- 39 名前:後藤さん 投稿日:2003/10/27(月) 13:50
- 実際にこうなってみると、今までよりも気が楽になったかも。
もちろん、淋しいってのはある。
でも、それは自分一人の時や、みんなの中に後藤さんがいない時に感じることだ。
こうして会っている感覚は、今までとあまり変わらない。
それに、距離が遠くなった分、話がしやすくなったと感じる。
近すぎると威圧感のある人だから。
- 40 名前:後藤さん 投稿日:2003/10/27(月) 13:51
- 「どう、みんな元気にやってる?」
「はい。でも・・まだ一ヶ月も経ってませんよ」
「・・・・そうだね(〒)」
後藤さんは笑った。
よかった・・いつもと同じ後藤さんだ。
- 41 名前:後藤さん 投稿日:2003/10/27(月) 13:51
- そりゃそうか・・
後藤さんは一年ぐらい前から卒業のこと考えてたって言ってたもんな。
私とは、考えていることはまるで違うんだろう。
そんな後藤さんを、私は後藤さんだって思ってきたんだから。
- 42 名前:後藤さん 投稿日:2003/10/27(月) 13:52
- 後藤さんにとっては望んでたことで、私にとっては望まないこと。
違う。
びっくりしたことか。
後藤さんのソロ、私も期待しているから。
相変わらず、私が憧れてたままの人だった。
- 43 名前:がんばっちゃえ! 投稿日:2003/10/27(月) 13:53
- 今日はレコーディング。
私達だけでなく、後藤さんも一緒だ。
それだけでなく、ハロプロキッズ達も。
- 44 名前:がんばっちゃえ! 投稿日:2003/10/27(月) 13:54
- この全員で集まるとすごい。
もう、ほとんど、わけが分からないって、言っていいかも。
なにしろ、私達でも十分なのに、さらに小さい子達がたくさんいるのだ。
とても仕事という感覚がなかった。
このままオーディションでも始まるんじゃないか?
- 45 名前:がんばっちゃえ! 投稿日:2003/10/27(月) 13:56
- スケジュール上、できる時にできるだけ集めて、ということなんだろうけど・・
それでも『すべきこと』っていう最低限のことは全員できていた。
どんなに子供でも、レッスンを受けるっていうことは、こういうことなんだろうな・・
このまま伸びていくなら、今の私くらいの歳になったらどうなっているんだろう?
いつもより少し気合が入った。
- 46 名前:がんばっちゃえ! 投稿日:2003/10/27(月) 13:56
- そんな中でも、私は後藤さんを目で追っていた。
レコーディングの時の真剣な表情。
と言っても、責任や緊張で固まった顔じゃない。
今回の歌が映画用で、みんなで歌うという、少し気楽なものだからってこともある。
でも、それだけじゃなく『モーニング娘。の中』というプレッシャーが抜けたんだろう。
そんな感じの穏やかさだと私は思った。
だから・・うん・・いつもより楽しそうに見えた。
- 47 名前:保田さん 投稿日:2003/10/27(月) 13:58
- いつものようにレッスンに行く。
いつものように何人か先に集まってる。
たまには一番がいいと思うけど・・
そもそもメンバーによって集合時間が違うんだから、しょうがないんだけどね。
そして今日は、保田さんが遅れた。
- 48 名前:保田さん 投稿日:2003/10/27(月) 13:58
- ありゃ。
保田さん具合悪そうだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと起きるの遅れちゃってね。何とか間に合ったけど、心臓に良くないよ」
一生懸命走ってきたのだろう、保田さんは息を切らしながら椅子に座り込んだ。
- 49 名前:保田さん 投稿日:2003/10/27(月) 14:00
- 夕食の時間になって、みんな獲り合うように御飯の準備を始める。
やっぱり、保田さん、調子悪そうだ。
何でもないような顔してるけど、一目で分かるよ。
そう言えば、後藤さんに気をとられてたけど、保田さんも卒業するんだ。
まだ先のことだと言っても、結果が変わるわけじゃない。
それは、後藤さんの時で、嫌というほど分かっている。
- 50 名前:保田さん 投稿日:2003/10/27(月) 14:02
- 「高橋、ちょっといいかな?」
保田さんに呼び出された。
「何ですか・・」
「うん・・・・これからツアー始まるでしょ? その前にさ・・・・なんとなく話したくて・・・・
高橋は──
「私のことは大丈夫ですよ。それより、保田さん・・無理しないで下さい。
最後だって気持ちは分かるし。気合が入ってるのも分かりますけど・・」
「へっ? 普通のつもりだけど・・・・無理してるかなぁ?」
まさか私に言われるとは思ってなかったらしく、少し驚いていた。
- 51 名前:保田さん 投稿日:2003/10/27(月) 14:03
- 「違うんです・・その・・体調・・悪そうだし」
保田さんは少し考え込むと、にっこり笑った。
「あぁ・・・・うん、気をつけるよ。
それより、高橋はさ、頑張ってるのは分かってる。けど、もっとできるはずだから。
プレッシャーかけるつもりじゃないけど、それはいつも意識しといてほしい。
もうすぐ最後だけど、それまで頑張ろう」
保田さんは、少し照れたようにそう言った。
- 52 名前:保田さん 投稿日:2003/10/27(月) 14:04
- そうだ。
もっと頑張らなきゃ。
卒業していくのに、こんなにもパワーをくれるなんて・・敵わないな・・今は・・
だから、もっと頑張らなきゃ。
- 53 名前:1/12 投稿日:2003/10/27(月) 14:06
- 十二人になって初めての曲で、私は出番を多く割り当ててもらった。
特に最後の『自分をぶち破れ!!!』ってとこ。
ここは自分にぶつけるようにしてみた。
そうすれば、何か変わるんじゃないかって思って。
- 54 名前:1/12 投稿日:2003/10/27(月) 14:07
- 歌はいつも通り。
と言っても、変えないという意味じゃない。
良くしなきゃいけないとこはいっぱいある。
でも、同じぐらい、いいところもあるつもりだ。
それをめいっぱい生かすように。
やっと『自分らしさ』っていうのを分かってもらえるようになったんじゃないかな・・?
- 55 名前:1/12 投稿日:2003/10/27(月) 14:08
- いや・・それは言い過ぎだね。
私自身が『私らしさ』を分かったということ。
今度は、それをみんなに分かってもらわなきゃいけない。
だから、それが受け容れられやすいものであるように、改良してかなきゃいけない。
けど、その受け容れてほしいものは、元からある『自分らしさ』だ。
それは壊さないように。
でも、形を変えながら。
難しいな。
- 56 名前:1/12 投稿日:2003/10/27(月) 14:08
- ダンスもそう。
どれだけうまく踊れるようになっても『自分らしさ』ってないと駄目だ。
私なら、指先まで神経を使うとことか、体全部を綺麗に動かすとことか・・
今まで経験してきたことの上にある踊り方。
そういうのを、もっと磨きたい。
じゃないと、私じゃなくてもいいってことになる。
もっと性能のいい部品に交換されるかもしれない。
- 57 名前:1/12 投稿日:2003/10/27(月) 14:10
- 先生が一通り振り付けを終わると、早速、全員で合わせながら作っていく。
これまでは後藤さんが真ん中にいることが多く、私はその横や後ろが多かった。
だから、後藤さんの振りで、いいところはなるべく参考にしたりしていた。
それと、習ったことをベースに、自分なりにアレンジしていけばいい。
これまではそうだった。
でも、これからはそうするわけにはいかない。
それは辛くもあり、やりがいのあることでもある。
- 58 名前:1/12 投稿日:2003/10/27(月) 14:11
- まず、自分らしくやらせてもらえること。
他の人があって、それから自分があるのではなく、自分が中心になれること。
もちろん、全員で一つのものを作ることは変わらない。
だから『合わせる』という作業は、どこまでいってもしなくてはいけないけれど。
ただ、新しいやり方には、これまでより充実感がある。
それに、自分の望んでいたことでもあるということは、私にとっても大きなことだ。
- 59 名前:1/12 投稿日:2003/10/27(月) 14:12
- 「・・・・それじゃあ、もう一回! さっき言ったことに神経を集中させて!」
もう一度フォーメーションを組み直す。
担当する部分が多いということは、それだけ目につきやすいということ。
でも、だからといって、一番注目されるかと言うと、そうでもない。
だから『目立つ』っていうことも意識しなきゃいけない。
そんなことって、意識してできるもんなのかなあ・・
- 60 名前:1/12 投稿日:2003/10/27(月) 14:12
- 私は、とにかく自分のできることに集中していった。
それが答えだと思うから。
と言うより、それを答えにしたいから。
- 61 名前:悩みと一人 投稿日:2003/10/27(月) 14:13
- 昨日が昨日で、今日が今日というのは区別がつきにくい。
どちらも『忙しい』という一言で片付けられてしまうから。
ただ、少しずつモーニング娘。の曲が完成していくことが、時間の経過の証明になる。
そんなことだけが、私にとっての時間だったりする。
- 62 名前:悩みと一人 投稿日:2003/10/27(月) 14:14
- グループで活動していると、仕事をしている時に一人になるってことは、そんなにない。
そんなことは分かっていたことだし、そもそも嫌だなんて思ってない。
でも、どんなに恵まれた状態でも、そうじゃないことを望んでしまうもので・・
私は洋式トイレに座り込んで、こんなことを考えていた。
- 63 名前:悩みと一人 投稿日:2003/10/27(月) 14:14
- 微かに足音が聞こえた。
慌ててドアを開け、急いで手を洗うふりをする。
「おっ、高橋」
やっぱり吉澤さんだ。
この、トイレで一人になるって方法は、私だけのものじゃない。
出るタイミングを間違えると、吉澤さんの考え事まで一緒に過ごさなきゃいけなくなる。
最近では、こういうタイミングにも敏感になった。
- 64 名前:悩みと同期 投稿日:2003/10/27(月) 14:15
- それぞれの出演者に割り当てられている楽屋の外に、大きなホールがある。
そこにはあさ美ちゃんが一人で座っていた。
窓際のいつもの席で、ボーっとしてるのか・・その奥で考え事をしてるのか・・
いつものように、計り知れない表情をしていた。
本当ならこういう時は、個人の時間だから大切にしてあげなきゃいけない。
でも、その時の私は、つい声をかけてしまった。
- 65 名前:悩みと同期 投稿日:2003/10/27(月) 14:15
- 「あさ美ちゃん」
少しびっくりしたようだ。
「ああ、愛ちゃんか。ボーっとしてたよ」
その顔は、本当にボーっとしてた顔だった。
疑問が一つ解決した。
- 66 名前:悩みと同期 投稿日:2003/10/27(月) 14:16
- 隣に腰をおろす。
本当は話すつもりじゃなかった。
でも、トイレの個室の壁や、自分には相談できないことだから。
あと、そんな気分だったのかも知れない。
- 67 名前:悩みと同期 投稿日:2003/10/27(月) 14:17
- 「あさ美ちゃん・・保田さんのことだけど・・駄目だよ・・あんなんじゃ倒れちゃう・・きっと」
あさ美ちゃんは少し意外というような顔をしていた。
「・・・・・最後のツアーに向けて気合入ってるだけじゃないかな。
保田さんに限って、それで失敗するなんてことないでしょ。
そんなに気にしなくてもいいと思うけど・・・・・」
「でも、顔色悪いよ」
「・・・・・そうかな?」
「表情には何も出てないけど、やっぱり具合悪そうだよ」
「う〜ん・・・・・そう言われると・・・・・そうなのかな・・・・・?」
あさ美ちゃんの精いっぱいの同意だった。
- 68 名前:悩みと同期 投稿日:2003/10/27(月) 14:18
- 私は保田さんを食事に誘った。
すごく緊張したけど。
「珍しい・・・・と言うより、何? なんかのドッキリ? 罰ゲーム?」
そう思われるのも無理はないかな。
だって、私達の方から誘うなんて初めてだから。
「いえ・・たまには・・いいかなって思って」
「でも、私達ができる範囲ですから、高級料理とかは期待しないでください」
あさ美ちゃんが付け足す。
誘っておいて正解だった。
- 69 名前:レストランと先輩 投稿日:2003/10/27(月) 14:22
- 店員さんが気を使ってくれたみたいで、奥の方のあまり目立たない席に通してくれた。
もっとも、平日ということと、ピークを過ぎた時間だったこともある。
そんなに混んでいるというわけでもなく、普通の席でも大丈夫だと思うけど。
「それじゃあ、遠慮なくご馳走になろうかな」
準備は万全のはずだけど、そう言われると、急にお金のことが気になる。
保田さんが注文するのを聞きながら、頭の中でだいたいの値段を弾く。
あさ美ちゃんはもう料理の方に注意が向いてるらしい。
じっと目の前の空間を見つめながら、料理の到着を待っていた。
そんな状況で、本当は私から切り出さなきゃいけないところを、保田さんから話が始まった。
- 70 名前:レストランと先輩 投稿日:2003/10/27(月) 14:22
- 「二人とも頑張ってるね。
最初入ってきた時を思い出しちゃうんだけど、それとはもう比べものにならないよ」
「「ありがとうございます」」
でも、これじゃあ、いつもと一緒の会話だ。
こんなチャンスはそんなにないし、そのために誘ったということもある。
ちゃんと言わないと。
「でも・・保田さんは少し気をつけた方がいいと思います。
最後のツアーの前に体調を崩してしまったら、それが一番駄目だと思います」
- 71 名前:レストランと先輩 投稿日:2003/10/27(月) 14:24
- 「そう言えば、少し前にも同じこと言ってたね。そんなに疲れてるように見えるかな?」
保田さんはスパゲッティを食べる合間に、少し考えながら言った。
「愛ちゃん、ずっと心配してましたよ」
あさ美ちゃんはようやく一息ついたのか、さっきからずっと食べてる手をようやく止めた。
「そうかな・・・・紺野はどうなの? 私、疲れて見える?」
「私は・・・・・そう言われてみればって感じですけど・・・・・
でも、疲れてないかって言われたら、それは嘘だと思います。
絶対に溜まっているはずですから、気をつけるに越したことはないのかなって・・・・・」
あさ美ちゃんは考えがちではなく、自分のペースでそう言った。
- 72 名前:レストランと先輩 投稿日:2003/10/27(月) 14:25
- レストランの薄明かりに、もう一度保田さんの顔を見つめる。
確かに、今はだいぶ顔色も良くなってきたように見える。
心配しすぎたのかも。
これから気をつけてくれるなら、それで十分かな。
「じゃあ・・話・・終わりです。食べましょう」
言い終わる傍から、目の前のサラダに手を伸ばした。
- 73 名前:レストランと先輩 投稿日:2003/10/27(月) 14:25
- 『心配し過ぎも悪くない』
そんな楽しい時間だった。
- 74 名前:楽しい一日 投稿日:2003/10/27(月) 14:27
- タクシーは保田さんのマンションの前に止まった。
「じゃあ、明日ね。それと、今日はありがとう」
保田さんらしく軽く手を上げると、マンションの中に入っていった。
それを見送ると、タクシーのドアが閉められた。
- 75 名前:ズレ 投稿日:2003/10/27(月) 14:28
- ───バンッ────
────────────────────
──
────
- 76 名前:ズレ 投稿日:2003/10/27(月) 14:29
- 聞き慣れた音がした瞬間、まばたきで目を閉じる。
その一瞬、目の前にテレビのノイズが走る。
受信を受け付けないという意味の『ザー』という音が聞こえたような気がした。
世界の全部が少し歪んだみたいに感じる。
でも、隣のあさ美ちゃんだけは、なぜかはっきり見えた。
再び走り出したタクシーの窓からは、いつもと変わらない景色が見えた。
- 77 名前:中断 投稿日:2003/10/27(月) 14:39
- とりあえずここまで。
続きはすぐに。
>>4 名無し読者さん
出て・・・・きますね。でも、注意にないことはしないです。
>>22
削除依頼だしときます。気にしなくていいですよ。
- 78 名前:次の始まり 投稿日:2003/10/28(火) 12:30
- 「おは・・」
「どうしたの、高橋?」
ドアを開けたところで息を呑んで固まった私に、石川さんの声が聞こえた。
「・・あさ美ちゃんは・・どこですか?」
「紺野? たぶんマネジャーのところかな・・・・ひょっとしたら、ホールかも知れない」
私は荷物を置くと、すぐに部屋を飛び出した。
- 79 名前:次の始まり 投稿日:2003/10/28(火) 12:31
- あさ美ちゃんはいつものホールにいた。
「・・あさ美ちゃん!!」
「どうしたの?」
「駄目だ」
「何が?」
「違うんだ。保田さん・・」
「保田さん? 楽屋にいるはずだよ。さっきも昨日の話してきたとこだよ」
「・・薄いんだ」
「何が?」
「・・色・・」
- 80 名前:次の始まり 投稿日:2003/10/28(火) 12:33
- 保田さんがおかしく見える。
薄い白の絵の具を塗ったように、色がぼんやりとしている。
「最近、少し変なんだ。変なふうに見える」
「保田さんが?」
「うん。最初は顔色悪いなぐらいだったけど、だんだんひどくなるみたいで・・
でも、そうじゃない時もあったりしたから・・
だから、自分の体調が悪いんだぐらいにしか思ってなかったけど・・今日ではっきりした。
おかしいよ、私」
もう、自分の中だけにしまっておくわけにはいかなかった。
- 81 名前:次の始まり 投稿日:2003/10/28(火) 12:34
- 「あさ美ちゃんは何も感じなかった?
前につんく♂さんが練習見にきた時。
あの時だよ。
喋ってる時に変な感じがして、それから・・時間が止まったみたいになって・・
今考えると、あれがきっかけだったのかも・・」
私はすべてを吐き出すように喋った。
- 82 名前:次の始まり 投稿日:2003/10/28(火) 12:36
- あさ美ちゃんは何かを考えてるようだったけど、じっと私の話を聞いていた。
「保田さんだけ? 他に何か変わったこととかはないの?」
「・・うん。ね、あさ美ちゃんは何も感じない? だったら、私だけがおかしいってこと?」
あさ美ちゃんは何も答えなかった。
- 83 名前:次の始まり 投稿日:2003/10/28(火) 12:37
- 「これは、私の独り言だけど・・・・・」
しばらくして、あさ美ちゃんが話し始めた。
「すごく単純だけど、辞めていく人がそう見えるんじゃないかな?」
「・・私も・・そう考えるのが一番自然のような気がする。あさ美ちゃんも・・そう思う?」
「分からない・・・・・でも、愛ちゃんの言う通り、それが一番うまく説明できると思う。
とにかく、今はそう考えておいた方がいいよ。
理由が分からないより、間違ってても見当をつけておいた方いい。
余計な心配をしなくて済むから」
不確かなことだけど、今はそれにも縋りたかった。
- 84 名前:次の始まり 投稿日:2003/10/28(火) 12:37
- 楽屋に戻ると、やっぱり保田さんはさっきと同じだった。
薄いと言っても、透明というほどではない。
ほんの少し、白がかっているというくらいだ。
顔色が悪いと感じていたのは、肌色が剥がれていたからだろう。
今ではそれを通り越して、色が消えかかっている。
「おっ、高橋。さっきはどうした? 昨日のお礼渡そうとしたのに」
その他は何も変わらない。
いつもの通り元気そうな声だ。
もらったのは、高価そうなステンドグラスだった。
- 85 名前:次の始まり 投稿日:2003/10/28(火) 12:38
- 番組の収録の合間。
再開までは十五分というところだろう。
「どう? やっぱりそう見える?」
「うん・・あさ美ちゃんはどうなの? やっぱりそう見えない?」
「・・・・・ごめん」
小さな声でそう聞こえた。
「いいよ・・それに・・みんなもそう見えてないみたいだし」
保田さんは矢口さん達と固まり、私達は別に固まることが多い。
その輪が大きくなることも、小さくなることもある。
本当に変わらない、いつもの様子だった。
- 86 名前:航海 投稿日:2003/10/28(火) 12:40
- 答は見つけられないままだ。
誰も何も教えてくれない。
だからといって、ただ頑張れるかといえば・・
- 87 名前:航海 投稿日:2003/10/28(火) 12:41
- 『ひょっこりひょうたん島』
前に『モーニング娘。の』を付けようが、それには変わりない。
「何となく、昔の番組の特集で見たことありますよ」
雑誌のインタビューに石川さんはそう答える。
私にはまったくピンともこなかった。
- 88 名前:航海 投稿日:2003/10/28(火) 12:42
- 私はまったく知らない。
だから、新曲のつもりで歌う。
でも、みんなはそうじゃない。
見えないものと戦っているみたいだ。
それは今までの曲でも同じことだけど、今回は見えないものがはっきり分かる。
でも、それは今ここにはないもので・・
どうすればいいんだろう・・どうすれば一番いいんだろう?
- 89 名前:航海 投稿日:2003/10/28(火) 12:42
- 常に何かと比べられる。
相手はひょっこりひょうたん島か、それともモーニング娘。か?
・・後藤さん?
それとも、後藤さんなのかなあ・・
- 90 名前:春の季節 投稿日:2003/10/28(火) 12:43
- 保田さんとの最後の曲は、卒業をテーマにしたもの。
ダンスも歌も自分なりに上達していってると思ってる。
課された仕事を全力でやることには変わりない。
ただ、それがより多く、より高度になっていると思う。
- 91 名前:春の季節 投稿日:2003/10/28(火) 12:44
- 手ごたえを感じている。
自分は徐々に中心になっていけているのかもしれない。
ただ、それは望まれているからだろうか?
そこに誰もいないから私なのかも・・
それだって結果は一緒なのかもしれない。
でも、それで満足したくない。
- 92 名前:春の季節 投稿日:2003/10/28(火) 12:44
- 『みんなに認めてほしい』
それは分かる。
『みんなに悔しがってほしい』
同じくらい望んでいるかもしれない。
私はものすごく嫌な奴なんだろうか?
- 93 名前:春の季節 投稿日:2003/10/28(火) 12:45
- 矢口さんは余裕だし、安倍さんは普段通り、飯田さんはマイペースで、保田さんは優しい。
私はやっぱり、何もできてないのかなあ?
先輩達が『変わらなきゃいけない』と思うくらいに・・
私ができていると思っていることは、私だけにしか意味のないこと?
それでも成長しているのだろうか・・
- 94 名前:春の季節 投稿日:2003/10/28(火) 12:45
- 保田さんは、もうほとんど見えなくなってしまった。
でも、そこにいることだけは分かる。
それならいっそ、本当に消えてしまえばいいのに。
すぐに首を振る。
でも、そんなふうに考えることが、最近ではしばしば。
それは否定できない。
- 95 名前:春の季節 投稿日:2003/10/28(火) 12:46
- 「よっしゃー! 気合入れていくぞ!!」
最近の保田さんの口癖だ。
最後が近づくとは、こういうことなんだろうな。
ただ、その声は、聞き慣れたものじゃなく、音としてしか聞こえてこない。
本当にそこにいるのは保田さんなんだろうか?
そんなこと言えもしないくせに、考えている。
- 96 名前:飯田さん 投稿日:2003/10/28(火) 12:48
-
飯田さんが白くなり始めた。
- 97 名前:あなたとわたし 投稿日:2003/10/28(火) 12:49
- 「それって・・・・・次は飯田さん・・・・・ってこと?」
「・・分かんない」
「でも、そんな話聞いてないし・・・・・
じゃあ、ひょっとしたら辞める人じゃなくて、気持ちが──
「もういいよ!!」
私は叫んだ。
「もういい!! あさ美ちゃん、楽しんでるだけでしょ?
そうやって相談に乗ってるふりして、ほんとは心配なんてしてないんでしょ!?」
私は止めることができなかった。
「理由を見つけるゲームを遊んでるだけでしょ?
私がそれで悩んでるなんてどうでもいいんでしょ?
あさ美ちゃんがやってることはなんの役にもたってない!!」
- 98 名前:あなたとわたし 投稿日:2003/10/28(火) 12:49
- 「大きな声でなにしてんの? 喧嘩はよくないよ。平和が一番!」
飯田さんが部屋に入ってきた。
やっぱりいつもと同じように、透けて見える。
「どうしたの、紺野?」
飯田さんの声であさ美ちゃんに目をやる。
あさ美ちゃんは、飯田さんの顔に見惚れているようだった。
「あさ美ちゃん?」
「飯田さん・・・・・」
ポツリとそう呟いたのが聞こえた。
- 99 名前:紺野 投稿日:2003/10/28(火) 12:50
- 『愛ちゃん怒ってる。謝らなきゃ』
そう思っていた時、大きな音がしました。
ちょうどテレビの砂嵐のような音でした。
振り向くと飯田さんが居ました。
- 100 名前:紺野 投稿日:2003/10/28(火) 12:51
- 『ドアを開けた音だったのかなあ』
そう思ってました。
- 101 名前:紺野 投稿日:2003/10/28(火) 12:51
- 確かに口は動いているのですが、飯田さんの声は聞こえません。
ただ、その雑音が大きくなるだけで。
ふと、飯田さんの姿が途切れました。
私の目が混線したのでしょうか?
そうじゃないみたいで、私も愛ちゃんと同じみたいです。
- 102 名前:紺野 投稿日:2003/10/28(火) 12:52
- 「あさ美ちゃん?」
愛ちゃんの声に私は反応してしまいました。
また一つ、何かが壊れるような音が響きました。
その度に飯田さんの色が薄れていく。
愛ちゃんはこんなのを見ていたんだ。
皮が一枚一枚めくれるように、指輪の銀、ピアスの金、シャツの赤・・
一つ一つの色が白くなっていく。
- 103 名前:紺野 投稿日:2003/10/28(火) 12:52
- 飯田さんはそんなことにまったく気づかないようで、椅子に腰をおろしました。
それが何かの合図のように、形が壊れていく。
ゆっくりと、でも止まることなく。
私の隣には愛ちゃんが蹲り、静かに震えていました。
- 104 名前:ひとり 投稿日:2003/10/28(火) 12:54
- 「愛ちゃん、落ち着いて」
落ち着いてるよ。
私にも分かんないんだ。
「大丈夫だから・・・・・」
そんなこと望んでないのに。
消えていく。
何で?
「愛ちゃん、しっかりして!」
私がうまくできないから? 私が力不足だから?
「・・・・・駄目だよ」
頑張ればいいの? 何を? どこまで?
- 105 名前:穏やかな日 投稿日:2003/10/28(火) 12:55
- 珍しく晴れた日。
晴れた日は幾つもあるけれど、それに気がついた日。
それを楽しむだけの時間があった日。
私はベランダにいた。
ここで、この一日を満喫している。
それだけのことが、本当に嘘みたいだ。
- 106 名前:穏やかな日 投稿日:2003/10/28(火) 12:56
- 「飲む?」
振り向くと、あさ美ちゃんがいた。
手には、聞いたことのない名前のお茶があった。
味より、冷たい飲み物というだけで満足だった。
あさ美ちゃんは隣に腰をおろした。
- 107 名前:穏やかな日 投稿日:2003/10/28(火) 12:56
- 「飯田さん、卒業だって」
知ってる。
今日の朝、聞いたばかりだ。
「やっぱり、そういうことだったんだね」
「・・うん」
「でも・・・・・最初は信じられなかったな。
でも、あの時ああいうの目の当たりにしたら、信じないわけにはいかないから。
こう言ったら、愛ちゃんは怒るかも知れないけど・・・・・よかったよ」
温かくて、風がない日だった。
- 108 名前:穏やかな日 投稿日:2003/10/28(火) 12:57
- 「あさ美ちゃんはいいよ。結局、見えたのはあの時だけでしょ?
私なんて、今日までずっとだったんだから」
「じゃあ・・・・・直ったの?」
「うん。辞めるってのが決まったって聞いたらね」
「そう・・・・・」
- 109 名前:穏やかな日 投稿日:2003/10/28(火) 12:58
- 「聞かせてよ」
「・・・・・何を?」
「あさ美ちゃんの考え。もうこんなこと起きないように、原因を知っとかないと」
混乱が終わって、ようやく決着をつける気持ちになった。
- 110 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 12:58
- 「最初は保田さんだっけ?」
「そう」
「でも、それは保田さんが辞めるって聞いた時からじゃないよね」
「・・そうだね。後藤さんが辞めてからだったかな」
- 111 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:00
- あさ美ちゃんが間を取るようにペットボトルに口をつける。
「これは私の考えだよ?」
「いいから」
「始まりは保田さんじゃなくて、後藤さんだったんじゃないかな?」
「出発点はそうかも知れないね」
「そうじゃなくてさ。
違うものが見えるようになったのは、後藤さんが最初だったんじゃないかってこと」
「・・でも後藤さんは保田さんみたいに・・」
「何もマイナスばかりが目につくとは限らないんじゃない?
後藤さんが活き活きしてるように見えたって言ってたでしょ?
それも、今回のことの一種だったんじゃないかな?」
- 112 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:00
- 「なんで・・同じ卒業なのに・・」
「愛ちゃんは後藤さんが好きだって言ってたよね?」
「うん」
「尊敬してるって?」
「そうだけど・・」
「だからさ、比べちゃったんだよ」
- 113 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:01
- 「愛ちゃんにとって、後藤さんはヒーローだったから光って見えた。
でも、そのことに愛ちゃんは気がつかない。
だから、他のメンバーと比べてしまっていることにも気がつかない。
でも、無意識でもそれは続いていく。
で、そのコントラストが決定的になった時、そんなふうに見えたんじゃないかってこと」
私にはよく分からない。
「だから・・・・・こういうことかな・・・・・
愛ちゃん自身が、そこまで後藤さんを好きだってことに気がついてなかった。
知ってるつもりでもね。
だから突然、充実した後藤さんを見て、こんなことが起きたんだと思う」
でも、じゃあ・・後藤さんに憧れていたのも・・
そのために頑張るのってことさえ、いけないことだったのかな・・
- 114 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:02
- 「じゃあ、保田さんを・・」
私は馬鹿にしてたのかな? 後藤さんと比べて駄目だって、そんなふうに思ってたのかな?
あさ美ちゃんは何も言わない。
つまり、そう思ってるってことだ。
- 115 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:02
- 「じゃあ、飯田さんは・・」
飯田さんは、辞めるなんて言ってなかった。
それなのに、そう見えた。
つまり、私が飯田さんのことをそう思ってたせいで辞めることに・・
「そんなことないよ!」
あさ美ちゃんは私だけじゃなく、自分にも言い聞かせるように大きな声を出した。
- 116 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:03
- そんなことあるよ。
結局、私はみんなをそういうふうにしか見てなかったんだよ。
色が鮮やかとか、くすんでるとか。
だから、本当にそうにしか見えなくなった。
当たり前のことだったんだね。
同じ状況でも、あさ美ちゃんみたいに頑張るなんてできなかった。
- 117 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:03
- 私は自分のことしか考えてなくて、人のいいところを見ては羨ましがって・・
でも、自分にはできないから馬鹿にして・・嫉妬して・・そんなに弱いもので・・
ほら、今だって、そんなこと言いながら、認めてもらおうとしてる。
弱いなら強くなればいい。
それもしないで、弱いまま受け容れてもらおうとしてる。
怠けたいんだよ。
でも、それをどこかで悪いことだと思ってて・・
- 118 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:04
- 人の心の作用だよね『悪い』って感情は。
そういうふうに思うから前に進もうとするし、直そうとする。
でも、私は直すのが嫌で・・でも、悪い奴だって思われるのも嫌で・・
だから、弱い子ぶって・・そうすれば、みんなから悪い奴だって思われない。
そんなこと考えてるんだよ。
- 119 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:04
- 「何度も言うよ。愛ちゃんは悪くないし、私が正しいわけでもない」
じゃあ、なんであさ美ちゃんが羨ましく感じるの?
なんて言われたって、私はあさ美ちゃんを羨ましいと思うもん。
- 120 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:05
- きっと、自分と違うからじゃないかな?
それは自分より優れているとか、そんな単純なことじゃなくてさ。
どんな人だって、きっと他人だっていうだけで羨ましく思ったりするんだよ。
私は、愛ちゃんの声とか踊りとか、すごいと思うよ。
それができるってことは、やっぱりそれだけ強い気持ちがないと無理だから。
『負けたくない』とか『自分が誰よりも』とか、そうじゃないとできないことだから。
- 121 名前:高橋愛 投稿日:2003/10/28(火) 13:07
-
私って・・そんなふうに見える?
- 122 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:09
- あさ美ちゃんは少し笑った。
そして小さな笑い声が聞こえてくる。
「愛ちゃん・・・・・ひょっとして、気づかれてないと思ってた?」
- 123 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:10
- 「みんな分かってるよ、たぶん。
それでもちゃんとやってるし、やってこれたでしょ?」
でも、どこかで嫌な奴って思ってるんじゃ・・
「それは周りの人が思うことでしょ? 私達は同じ場所にいるんだよ?
そんなふうに思わないよ。
いや・・・・・思うこともあるかな。
でも、悪い意味じゃない。ただ嫉妬してるだけだよ」
あさ美ちゃんも?
「うん。愛ちゃんってすごいと思う。羨ましくなるよ」
- 124 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:11
- 嫉妬って・・いいこと?
「よくはないかもしれないけど、大事なものでしょ?」
- 125 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:13
- 私、どっかで間違ったのかな?
「間違ってなんかないよ。愛ちゃんのそういう力って、すごく大事だと思う」
でも、汚いよ?
「人間はみんな汚いよ。自分勝手だし。
でも、それが動く理由になる。ううん、それしか理由にならないよ」
人の不幸を願っても?
「愛ちゃんはそうじゃないでしょ? ただ一生懸命やっただけだよ。
もちろん、そうした人全部が報われたらいいと思うよ。
でも、そうじゃないなら、こうなることだってあるよ」
これが、私の望みなのかな・・
- 126 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:14
- じゃあ、これからどうなるのかな?
「元には戻らないよ、やっぱり」
私のせいで?
「そう」
嫌だよ・・そんなの・・
- 127 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:14
- 先輩が自分のしたいことを見つけるのが、そんなに不思議なことかな?
自然なことだと思う。
それがいつになるかは分からないけど、今だからといって、おかしくはないよ。
私達もそうだし、飯田さんだってそう。
自分のしたいことと、モーニング娘。が違ってくる。
いつかはね。
それって悲しいことかもしれない。
だから、今は頑張ろう。
そうやって、本気でやろうとしてる人達の力で進んでいくんだよ、きっと・・・・・
- 128 名前:二人の世界 投稿日:2003/10/28(火) 13:15
- あさ美ちゃんは笑った。
強い意思を持った人の笑顔は綺麗だと思った。
それは、私がずっと見惚れていたものにそっくりだった。
- 129 名前:居るべき場所 投稿日:2003/10/28(火) 13:18
- 白い壁は崩れ始める。
その向こうには現実の世界の息吹がある。
それが、この何もない世界を満たし始めた。
- 130 名前:居るべき場所 投稿日:2003/10/28(火) 13:19
- 私達だけなんだね・・
「うん。これから行くところは、そうなってるみたい。
私達がやらないと駄目なんだ。私達だけじゃ不安だから。愛ちゃんの力がいるんだよ」
できるかな?
「できるよ。
オーディションに受かった時、あんなに嬉しかった。あれは嘘じゃないよ。
私達は自分で望んだことをやれているんだよ。
その思いが一番大切なんじゃないかな?」
でも、みんなが望むモーニング娘。じゃないかもしれないよ。
「でも、私達はモーニング娘。だよ」
- 131 名前:居るべき場所 投稿日:2003/10/28(火) 13:20
-
何も光っていないのに、眩しくて目を閉じた。
- 132 名前:居るべき場所 投稿日:2003/10/28(火) 13:21
- 薄暗い部屋の中にいた。
少し開いたドアからは光が洩れている。
たくさんの人のざわめきが聞こえる。
零れた光が反射して、あさ美ちゃんを薄く映していた。
- 133 名前:「おかえり」 投稿日:2003/10/28(火) 13:22
- 「ただいま」
- 134 名前:「おかえり」 投稿日:2003/10/28(火) 13:22
- 幕は上がろうとしている。
集まってくれた人達のエネルギーを感じる場所。
そう、私はこの舞台に立ちたかったんだし、だから頑張ってこれた。
「愛ちゃーん」
「もう始まるよー あさ美ちゃんもー」
麻琴と里沙ちゃんの声が聞こえる。
この二人もいるじゃんか。
- 135 名前:私の望み 投稿日:2003/10/28(火) 13:28
- 「行こう」
私達は行かなきゃ。
そして、やることをやらなきゃ。
いや、やりたかったことをしにいくんだ。
- 136 名前:「おかえり」 投稿日:2003/10/28(火) 13:29
- 「おっし、みんなそろったね」
輪の中心には加護さんが。
隣には辻さん。
いつものように。
道重ちゃんも、れいなちゃんも、絵里ちゃんも、いつかの私のように緊張して立っている。
- 137 名前:わたしたちのすべて 投稿日:2003/10/28(火) 13:31
- そうだね。
やりたいって思ってる人がここにいるんだね。
自信はないよ。
それは分からない。
一生懸命頑張るだけ。
それで・・もし・・上手くいったらいいな。
- 138 名前:がんばっていきま〜 投稿日:2003/10/28(火) 13:36
-
それじゃあ・・・・・・・・・せーのっ!!
- 139 名前:DANCEするのだ! 投稿日:2003/10/28(火) 13:38
-
「「「「「「「「「ダンス、ダンス、す・る・の・だぁっ!!!!」」」」」」」」」
- 140 名前:彼女のプライド 投稿日:2003/10/28(火) 13:40
-
主演 高橋愛
- 141 名前:更新終了 投稿日:2003/10/28(火) 13:44
- 終わりました。
よければ感想など書いてみてください。
次の予定を残しときます。
少し日をおいての予定です。
- 142 名前:第二話 投稿日:2003/10/28(火) 13:47
-
( ・e・) 新垣です。まゆげなんとか。
- 143 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/28(火) 13:57
- 今初めて読んだんですけども、リアルタイム更新でビビった…。
若い二人の苦悩と成長、まだ未来はわからないけど、という感じがすごく良かったです。
次回も楽しみにしてます。
- 144 名前:連絡だけ 投稿日:2003/10/31(金) 13:43
- 予告しておいてなんですけど・・
もう少し時間かかりそうです。
放棄はしないんで、もうしばらく時間ください。
>>143 名無し読者さん
ありがとうございます。
他のものもこんな感じになると思います。
いつまでたっても悩みなんて尽きませんからね。
ただ、意味が分からないものにならないように頑張ります。
- 145 名前:贈る言葉 投稿日:2003/11/04(火) 11:35
-
飾りもつけずに
- 146 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:36
- 『春といえば、卒業の季節』
そんな言葉をよく聞くけど、あんまり実感がないですね。
理由は、私が学生だってことがあると思います。
だって、学校に行ってると、卒業式って三月じゃないですか?
つまり、三学期の最後ということになります。
私にとっては、三学期はまだ冬なんですよ。
- 147 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:36
- 三月。
つまり、三学期はまだ冬。
その最後にある卒業式も、冬の行事。
そして、授業の終わる終業式も、冬の終わりということで、春ではない。
終業式が終わって、休みになって、学校が始まる。
そして『ああ、やっと春がきたな』って思うんですよ。
だから、私にとっての『春』は、始業式ですね。
それも、新しい学年が始まる時の始業式。
- 148 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:37
- やっぱり、あの雰囲気は『春』って感じがしますね。
一回リセットがかかってるじゃないですか。
先生も、クラスも。
それに、新しい教科書とかも。
そうしたら、自分の知ってる学校でも、新しいものという気持ちになりませんか?
どう考えても『春』ですよね。
- 149 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:37
- モーニング娘。に入って、しばらく経ちます。
そうなると、そのリズムが普通になってきました。
『そのサイクルの中で生活してるな』
そういうのを感じます。
- 150 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:38
- 先輩達は違うかも知れないけど、現に、私は学校に通っています。
学校では学校で、あのリズムでの日常です。
で、この仕事では、また独特のリズムがあります。
そのどちらも過ごしているから、違いをよけいに感じるのかも知れないですね。
休日とかがあまり関係ない、この毎日ということです。
- 151 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:38
- で、そんな中、私は初めて『卒業』ってやつを体験しました。
もちろん、私自身のものというわけではありません。
そう・・・後藤さんです。
- 152 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:39
- ちょっと前になるけど、九月。
そう・・・覚えてますよ。
初めて聞いたのが、ミュージカルの終わり頃でした。
とにかく、びっくりしましたね。
それが一番大きかったです。
他のことまで頭が回らないって感じでした。
- 153 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:39
- それから、ほんの少し、一緒に活動する期間がありました。
悲しいって気持ちは・・・まだなかったですね。
後藤さん自身がそういうのを顔に出さないので、淡々と過ぎたのを覚えています。
もちろん、仲が悪いってことじゃないですよ!
- 154 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:40
- 後藤さんの中では、前から決まっていたことだからでしょうね。
そして『もう隠さなくていい』って開放感もあったんでしょう。
楽になったのか、むしろ楽しそうでした。
私も、それまででは考えられえないほど、後藤さんと話せました。
それが『卒業』ってものの魔法だってことは分かっていました。
それでも、嬉しかったですね。
- 155 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:41
- 『そうでもしないと仲良くなれないのか』
そう思いましたか?
そう言われると、その通りなんですけどね・・・
でも・・・違うと思います。
知らない人と仲良くなるのも、知ってる人とより仲良くなるのも、同じですよ。
どちらも『仲良くなる』ということに変わりはありません。
- 156 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:41
- 仲良くなるには、どちらかが一歩進まなくてはいけません。
それまでの距離を詰めないと、いつまでもそのままですから。
そういう意味においては『知ってる人と改めて仲良くなる』のも大変なんですよ。
『卒業』
それも、近づく理由としては有効です。
あまり正攻法ではないですけどね。
- 157 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:42
- 『何もないまま別れるより、どんな形でもいいから、お互いを知ることができればいい』
そっちの方がいいと思いませんか?
もちろん、そうなる前に仲良くなれれば、一番よかったんですけどね。
今回、後藤さんとは、こうなってしまいましたけど・・・
- 158 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:42
- ただ、そうじゃない人もいました。
例えば、加護さん。
一緒に過ごしてきた時間が全然違うし、特に『教育係』という関係があった二人でした。
他の人よりも感じるものがあるのは当然だと思います。
でも・・・これを言ったら怒られるかも知れないけれど・・・
シリアスが似合わない加護さん。
やっぱり笑顔で、今までと同じように、すごく楽しそうでした。
- 159 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:43
- それがなくなるという時にも、それしかできなくて。
どんなにそれを積み重ねても、なくなることを避けられなくて。
刻もうとするほど、なくなった時、淋しくなるのに。
他に方法を知らないように、そうしてました。
結局、最後のコンサートの時までそうしていました。
だから、分かっていても涙は出るんですよね。
- 160 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:44
- 他のみんなも、当然、同じ気持ちでした。
ただ、加護さんほど極端になれないというのも事実でした。
ある程度離れながらも、優しい関係で卒業までの時間を過ごしていました。
それも『卒業』の魔法というやつなのでしょう。
- 161 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:44
- 先輩達は私達とは違いました。
私達は、後藤さんのいいところしか見てなかったんだと思います。
だって、先輩達は、私達よりもずっと長く後藤さんと一緒だったじゃないですか。
後藤さんが今の後藤さんになるまでの、綺麗じゃない部分を、先輩達は知ってます。
私達は知りません。
- 162 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:45
- 『好き』だけじゃなくて『嫌い』っていうのも絶対にあるのでしょう。
でも、それにだって魔法はかかります。
『嫌い』というものも、かけがえのないものになる。
それって、すごいことですよね。
でも、そういう気持ちは、私には分かりませんでした。
悔しいけど。
- 163 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:46
- その差は最後まで言葉にできませんでした。
改めてですけど、悔しいなって思いました。
一緒に何かをするということは、すごく特別なことです。
そうでなければ、私と後藤さんは出会ってもいないはずだから。
それなら、その時間の中で、できる限りのことをしたかったです。
他の人と同じくらい、後藤さんのことを知りたかったです。
- 164 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:46
-
そんなふうに、最後のコンサートは過ぎていきました。
- 165 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:47
- それでも、気の休まる時はありません。
仕事はたくさんあって、忙しいし、それでもできないことや、足りないことだらけです。
あと、後藤さんが卒業するまでは、どうしても忘れがちだったこともあります。
そう。
保田さんの卒業も、まだこの後に控えています。
- 166 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:48
- そこで、分かったことがあります。
いや・・・分からなければいけないことかな。
じゃないと、私は何も変わったことにならないから。
何も学んでないことになるから。
だから、分かりました。
絶対。
- 167 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:50
- 『卒業』って迎えるものであったし、最初からこの先にあるものだと思ってました。
でも、本当は、突然現れるもので、どこにあるか分からないものだということです。
- 168 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:51
- 卒業って、時期がくれば自然にできるものだって思ってました。
でも、私の目の前で卒業していった人は、自分で決めてそうしていきました。
そのきっかけが何だったのかとか、なぜ今なのかは、私には分かりません。
でも、後藤さん自身が最後に決めたのは、確かだと思います。
人に認められるのではなくて。
- 169 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:52
- 卒業は迎えるものではなくて、自分で決断するものだということです。
それだけでも、私にとっては十分ショックでした。
勝手に訪れるものじゃない。
では、ちゃんと自分が卒業できるように成長していないといけない。
それからどうするかっていうのも、自分で決めなくてはいけない。
今まで思っていた卒業とは違って、すごく大変で、辛いものだということです。
今までの、のほほんとした考え方の自分が情けなくなるくらいのショックでした。
- 170 名前:春に思う 投稿日:2003/11/04(火) 11:52
- そして、後藤さんがいなくなった年が終わり、年が明けた頃です。
とっくに、それを『淋しい』という気持ちで整理をしました。
そして『やるか』という気持ちで頑張って、一年が終わって、気が抜けた頃です。
とにかく、目の前の難関に立ち向かおうと気合を入れ直した頃です。
保田さんの卒業に向け、後藤さんの時とは違う気持ちの準備をしようとしていた頃です。
そんな頃の話です。
- 171 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 11:54
- もう一度書いた答えを見直す。
何となく気に入らない字があったので、丁寧に書き直した。
一箇所でも直してしまうと、他の文字も気になってくる。
結局、時間いっぱいまで消しゴムをかけては、字を書き直すことになった。
もちろん、新しく答えを書き加えるということはしない。
ただ、見た目を整えただけだ。
- 172 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 11:55
-
私の期末テストは、そんな感じで終わっていった。
- 173 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 11:56
- これまでも、成績優秀というわけではなかった。
でも、学校に毎日通っていれば、習ったことが一つの繋がったものとして理解できる。
そうすれば、最低限、輪郭ぐらいは分かるようになる。
しかし、学校を休むと、例えそれが一日でも、おいていかれた気分になる。
気分だけじゃなく、事実、抜けた部分のせいで、すっきりと理解できない。
モーニング娘。に入ってからは、仕方ないんだけれど、そういうことが増えた。
そうなって初めて、先生のありがたさが分かったような気がした。
やっぱり、教科書を眺めるだけと、実際に授業を受けるのでは、全然違うものだ。
- 174 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 11:57
- 勉強は『理解するもの』から『テスト対策』というものになった。
元々楽しくない勉強も、これで完全にとどめを刺されたという感じだった。
残ったのは、結果をよくするための『効率』の問題だけ。
つまり『いかに必要最低限の点数を稼ぐか』ということだ。
- 175 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 11:57
- その成果が実り、成績は『まあ何とか』に収まった。
しかし、今の状況になってから、私のハードルはぐっと下げられた。
そして『その低い目標に照らし合わせれば』という条件付きだけど。
本当に必要最低限だ。
それまでの私は、少なくとも、これよりは良かったぞ!
- 176 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 11:58
- 次の日にはもう結果が出ている。
配られた個別の得点表には、私のすべてのデータが載っている。
意味のない数字だと思おうとしても、やはり気になってしまう。
学生の宿命というやつだ。
そして、それは、この学校の中では、非常に重要な数字でもある。
避けられるはずもないか・・・
- 177 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 11:58
- 「里沙、どうだった?」
「前よりは・・・良かったかな・・・」
学校での友達も、けっこういる。
みんな理解があるのか、気を使っているのかは分からないけど、普通に接してくれる。
良ければ『すげーな』で、悪ければ『最悪』と笑う。
友達じゃない子でも、本気で『バカ』にしてくる人はいない。
放っておいてくれることが、少しありがたかった。
そんなふうに思うようになった。
- 178 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 11:59
- 「里沙ちゃん、どうだった?」
それなら、この人達はどうか?
「すごいじゃん! 私、こんなだよ!!」
加護さんは私に自分の成績を手渡し、私のにまだ見入っていた。
どれどれ・・・
- 179 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 12:00
-
──なるほど──
- 180 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 12:01
- 確かに、私の方が上みたいだ。
ただ、比べる基準が・・・ね・・・?
同じ状況の人達とは、こういう感じになる。
学校の友達より分かり合っているということなんだろう。
けど、どうなんだろうか?
こうゆう仲間意識でいいのかなあ?
- 181 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 12:01
- 学校は違っても、この時期はだいたいテストだ。
学生組の話題は自然にそうなる。
「あさ美ちゃん、下がったね〜」
隣では優秀組の我が同期、紺野あさ美と小川麻琴も結果発表の真っ最中だ。
確かにあさ美ちゃんは(といっても、私より遥かにいいのだが)今回下がっている。
しかし、彼女は本来もっとよかったはずだ。
下がり幅の一番大きな人だっただろう。
私達よりも、きっと、複雑に違いない。
- 182 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 12:02
- 『環境が変わって仕方ない』
それは事実だけど、そんなに簡単に割り切れないものだ。
実際、最初は私でもショックだったから。
結果がしっかり出るものだから、自分が急に馬鹿になったような気がした。
- 183 名前:承久の乱 投稿日:2003/11/04(火) 12:03
- 「見て見て!! 奇跡!!!」
楽屋に入るなり、愛ちゃんは鞄を漁ると、自分のスコアシートを取り出した。
「「「すげ〜!!!」」」
一般の基準とは多少違うけど、それでも愛ちゃんの『日本史』はたいしたものだった。
この後しばらくして、稀代の天才辻希美を加え、話は尽きることなく続いた。
- 184 名前:前島密 投稿日:2003/11/04(火) 12:05
- 次の日、学校では個別の答案が一気に戻ってきた。
多勢に無勢。
まいった!
- 185 名前:前島密 投稿日:2003/11/04(火) 12:06
- 自分で書いたはずの答案用紙と再会するが、自分のことのような気がしない。
苦笑するばかりだ。
以前なら空欄はほとんど作らず、とにかく、何でも書いておくことにしていた。
だから点数の悪い時などは、×が何個も並び、壮観だった。
今では、空欄の数は倍ほどにもなっている。
- 186 名前:前島密 投稿日:2003/11/04(火) 12:06
- 『間違いようのない問題は正解。自信のない答えは不正解』
と、見なくても決まっていた。
推論して書こうにも、情報が途切れすぎて、手も足も出ない。
まったく適当に書くという方法もある。
でも、これは本当のテストだから・・・
- 187 名前:前島密 投稿日:2003/11/04(火) 12:07
- 埋めていた頃は、百点かも知れないし、零かも知れなかった。
もちろん、両極ということは一度もなかった。
でも、限りなくどちらかに接近した時もあり、ドキドキしたのをしっかりと覚えてる。
今では、上限をある程度で決められて、ハンデを背負ってスタートする。
そして、生息地域は下限付近で固定され、地に足が着くというのも、冗談ではない。
仕方ないので、答案を睨みつけて、一時限が過ぎていった。
- 188 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:09
- 「校長式辞」
そう言われてみればそんな顔だったような校長先生が、壇の前に立つ。
そして一礼した。
「次に──
途中を飛ばしているのに、テンポ悪く進む。
卒業式の予行練習なんて、そんなものだ。
- 189 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:09
- 昔は生徒の数が多かったため、卒業式は卒業生だけで行っていたらしい。
しかし、今では、一年生も二年生も全員参加しなくてはならない。
そうしないと、会場が隙間だらけになってしまうから。
こんなところでも、無理矢理現代日本を嘆いてみる。
- 190 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:10
- 事務所も行事は大切にしてくれるのか、私は、去年も今年も参加できそうだ。
特に思い入れがあるわけじゃない。
悲しくもないし、かといって、喜んでいるわけでもない。
そんな気持ちだった。
在校生代表にでもならない限り、見ているだけでいい。
楽は楽だけどね。
- 191 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:10
- クラブとか委員会とかに積極的に参加できず、あまり上級生との繋がりがなかった。
けど、他の人にとっては、特別なものだろうということは分かっている。
それに、式自体が持ってる雰囲気だけで、私にとっても、十分特別なものではある。
これで長い話がなければ、なんだけど・・・
「卒業生答辞」
まだ行程の半分といったところだ。
欠伸を我慢する理由もない。
でも、分からないように噛み潰した。
- 192 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:11
- 春のツアーに向け、いっそう練習に身が入る、この頃。
もちろんこっちだけじゃなく、一方の学校でも新年度に向け、慌しさを増す時期だ。
当事者の私は、意外と飄々とすり抜ける・・・はずだった。
去年もそうだったけど『卒業するのは三年だから』って思ってた。
もちろん、それは事実なんだけど・・・
- 193 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:11
- 「来年からはお前達が最高学年だ! しっかり自覚を持つこと!!」
しまった。
それを忘れてた。
やけにうるさい学年主任の声に、嫌なことに思い当たる。
そういうことで、二年生に余計なものを背負わせないでほしいなあ・・・
- 194 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:13
- 「できたよ! こんな感じでいいんだよね」
「OK! でも、休んでる暇はないよ。まだこんなにあるから!!」
「うえ〜〜」
山ほどある折り紙を、また一枚手に取る。
しかも、これは授業の間だけの作業で、それ以外にも、まだまだ時間はかかるはずだ。
- 195 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:13
- 作るものも、ダンボールとスチロールで文字を作ったり、絵を描いたり、色を塗ったり・・・
卒業式の前日に三年生の教室を飾るのは、二年生の仕事だ。
もちろん当日だけじゃなく、何日も前からしっかり下拵えしておかなくてはならない。
今やってる千羽鶴とかね。
私は放課後残ることはできないため、こうして、協力できる範囲でということだ。
- 196 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:14
- 「何やってんの、新垣ちゃん?」
今日は午前中で学校が終わり、仕事。
学校が短縮授業になったため、久しぶりにラジオに参加することができた。
それでも、タンポポの四人が揃ったわけではなく、柴田さんと二人。
打ち合わせが終わって、本番までのほんの僅かな時間だけど、私は鶴を折っている。
- 197 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:15
- 「卒業式で使うやつなんですよ。家で折って、持っていこうと思って」
「でも、すごい量だね」
そうだろうか?
ほんの五十枚ぐらいだけど・・・
学校で千枚の束を見ているから、感覚が麻痺してるのかな?
まてよ・・・うまく押しつけられたのか!?
クラスメイトの顔が浮かんだ。
- 198 名前:卒業予行 投稿日:2003/11/04(火) 12:15
- 「手伝おっか?」
「大丈夫です。私がやらないと意味がないですから」
こうなったら意地だ。
その日の収録は『卒業』の話題で話が弾んだ。
- 199 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:16
- あまり偉そうなことは言えない。
自分がきちんとできているかと言われると、そうでもないことは分かってる。
でも、結局バランスなんだと思う。
学校とこの仕事というものは。
- 200 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:16
- 結論から言っちゃうと、両立はかなり難しい。
私はそんなにスーパーマンじゃないから。
どちらにもきちんと望むために、その姿勢を作ることが一番大切だ。
そのためには、どこか抜いてもいい場所を自分で決めること。
例えば、移動時間とか、待ち時間とか、放課後とか、嫌いな授業とか・・・
そうして、本当に必要な場所のために、力を取っておく。
最低限のことだけは頑張るというふうにしていかなくては・・・
- 201 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:17
-
──無理ですね──
- 202 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:17
- やっぱり、どんなに偉そうなことを言ったって、学校を犠牲にしてる毎日だ。
私はモーニング娘。が大好きだし、入れたからには、一生懸命やろうと思う。
学校に対しては、正直に言うと、そこまで情熱を燃やしているわけじゃない。
気がついたら小学校に通い始めて、気がついたら中学生だった。
つまらないわけじゃないし、自分なりに楽しんでいると思う。
でも『楽しい』と思っているかと聞かれると・・・
『そうでもない』ってことになるんだよなあ・・・
- 203 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:18
- 例えば、曲をもらって、それを覚えなきゃいけないとする。
頭の中はそのことでいっぱいになる。
学校の勉強があるのを知ってるけど、確信犯で見過ごす。
完璧に覚えてからも、ついつい聞き入ってしまう。
聞いてるのが楽しいから。
自分の歌になるものだから、尚更に。
電気の配線みたいにスイッチが付いていたらいいんだけど、そう簡単にはいかない。
仕事に侵食されやすいのが私だ。
- 204 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:18
- そう・・・そのはずなんだけど・・・
たま〜に、それが逆転する時がある。
例えば・・・理科とか社会とかで『明日はビデオ見ます』という時とか。
学校行くのが、少しだけ待ち遠しくなる。
待ち遠しく・・・はないけど、何か期待してしまう。
そんな時は、モーニング娘。と学校の関係が逆転する。
そんなことだってある。
- 205 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:19
- 体育祭とか、文化祭とかの行事は、私はあまり好きじゃない。
何かあそこまで『イベント』にしてしまうと、ちょっと純粋に楽しめないかなと思う。
悪い意味で、普通の生徒ではいられないし、変に注目もされるし・・・
そんなことよりも『学校らしくないこと』の方が好きだ。
そういう時に、学校に期待してしまう。
ただ・・・今回はどうやって説明したらいいんだろうな?
- 206 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:20
- やっぱり、私は『卒業式』ってあんまり思い入れがない。
楽しみにしてるわけでもない。
それに、まさに『学校の行事』そのものだ。
だから、本当に、いつものように通り過ぎるだけだと思ってた。
そんなに重要なことではないはず。
少なくとも、春のコンサートよりは。
- 207 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:21
- 『卒業式の準備が忙しいから』だろうか?
忙しいから、特別に力を使っているのだろうか。
でも、知れている。
結局、スケジュールの範囲でしか参加できないという意味では、普段と変わらない。
やることは多くても、学校にいる時間は、普通の日と変わるわけではない。
持ち帰っての作業も、まあ、妥当な量だ。
五十枚でも、二十人いないと千にならない。
それに、三年生は一クラスじゃないし。
- 208 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:21
- 思い入れがあるわけではない。
忙しいから、自然、力を入れなきゃというわけでもない。
でも、なんか、生活のペースが学校寄りになっているのに気がつく。
モーニング娘。をやっていることが『学校の合間』のような感覚。
説明するなら、そんな感じになるのかな?
- 209 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:22
- 卒業式までの日数を数えている。
何度も言うけど、期待してるわけじゃない。
それなのに逆転してるのは、一体どういう意味なんだろうか?
後藤さんの卒業が目に焼き付いてるから?
保田さんの卒業と重ねてるから?
- 210 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:22
- 『密かに楽しみにしてるんでしょ? 気がつかないけどさ』
結局、こう考えることにする。
その自分の声は、我ながら、信憑性の欠片もないものだったけど。
- 211 名前:在校生の心 投稿日:2003/11/04(火) 12:23
- でも、理由が分かったところで、仕事に力が入らないという理由にはならない。
仕事って、そんなものだ。
つまり、自分が忙しくなるだけ。
だから、なるべく学校のことは考えたくないのだけれど・・・
まあ、卒業式が終わるまでの辛抱ということだろうか・・・
- 212 名前:私にできたこと 投稿日:2003/11/04(火) 12:24
- 「はい、折ってきたよー」
「ごくろうさーん」
装飾品は、全部まとめて視聴覚教室に置いてある。
私の折り鶴も、無事にそこに納められた。
- 213 名前:私にできたこと 投稿日:2003/11/04(火) 12:25
- 「すごいなー!!」
視聴覚教室の中には、所狭しと装飾品が置いてある。
これを全部用意するのには、どれだけ時間が必要だったのだろうか・・・
これは裏情報だけど、三年生でも手伝っている人がいるとかいないとか・・・
在校生の私ですら、まともに参加できていないのに・・・
そんなことより、三年生参加はルール違反なのでは・・・
- 214 名前:私にできたこと 投稿日:2003/11/04(火) 12:26
- 「これはどう飾るの?」
「それは、前のスピーカーのところから後ろまで、天井に吊るす」
「これは?」
「それは黒板に書くやつの原案。委員長、絵、うまいからね」
黒板いっぱいの卒業メッセージというやつだ。
すべての準備は整っているらしい。
そして、私は飾りつけにすら参加できない。
- 215 名前:私にできたこと 投稿日:2003/11/04(火) 12:26
- 『手伝えなくてごめん』とは言わない。
『分かってる』とも『ちゃんとやってくれたから大丈夫』とも言ってくれない。
お互いの距離を測りながら、それぞれできることをやる。
もちろん、これは私側からの、都合の良い言い方だ。
本当は、みんなが知っていて何も言わず、大丈夫だと言ってくれている。
クラスメイトは、私より、ずっと大人だ。
- 216 名前:私にできたこと 投稿日:2003/11/04(火) 12:27
- 私は、ただ大人みたいな仕事をしているだけ。
そうやって、どうしようもないって諦めてたりする。
『卒業』の季節だというのに、自分の未熟さを知らなきゃいけないって・・・
駄目ってことじゃないのかなあ?
- 217 名前:卒業式 投稿日:2003/11/04(火) 12:31
- その日は良く晴れた。
少し寒いけれど、ここのところそうだから、気になるほどではない。
まあ、いい日を持ってきてくれたと、感謝するべきだろう。
自分に関係がないなら気楽なもので、陽気に学校へ向かった。
- 218 名前:卒業式 投稿日:2003/11/04(火) 12:31
- いつものように教室に入るけど、やはり、普段とはまるで違う。
学校であまり感じることのない、外の空気が教室まで入ってきている。
『学校』って雰囲気が篭もっていない。
この後に授業をしないでいいというだけで、こんなにも変わるのだろうか?
毎回のことながら、そう思う。
- 219 名前:卒業式 投稿日:2003/11/04(火) 12:31
- 何となく友達同士で集まって、他愛のない話がすぐに始まる。
いつもと同じだけれど、今日は手ぶらで登校する大胆な奴もいる。
多すぎる荷物も、この後遊びに行く用意だったりする。
そんな特別な日だ。
- 220 名前:卒業式 投稿日:2003/11/04(火) 12:32
- 体育館はすっかり礼装になっていた。
小学校の時には、派手な飾りつけなんかをしていた。
しかし、さすがに中学校では、卒業は儀式みたいになってしまう。
紅白のカーテンとか、生け花とか。
あと、私達が着ている制服が、その場に似合う。
つまり・・・セレモニーっすね!
- 221 名前:卒業式 投稿日:2003/11/04(火) 12:32
- 身長のおかげで一番前の列だ。
少し伸びて一番前ではなくなったけど、大勢は変わらない。
でも、今回は後ろには見知らぬ人が並んでいる。
それも、カメラを構えて。
余計なプレッシャーを感じなくても済む分、今日だけは前でよかったと思う。
- 222 名前:卒業式 投稿日:2003/11/04(火) 12:33
- 静かな音楽と共に、アナウンスが響く。
いよいよ入場らしい。
体育館の前の入り口から、三年生が次々と入場してくる。
何もすることがない私としては、見ているしかない。
正直、退屈だ。
始まる前は、こんなものだ。
- 223 名前:卒業式 投稿日:2003/11/04(火) 12:33
- 実際始まってしまうと、思ったより時間を長く感じることはなかった。
あらかじめスケジュールがしっかりと決まっているものだから。
それに、やはり緊張感が違うからだろうか、やっぱり集中してしまう。
だらだら過ぎずに、時間はきちんと流れていった。
- 224 名前:卒業式 投稿日:2003/11/04(火) 12:33
- ピアノの音が響き、三年生にとって最後の校歌が始まった。
私にとっても、あと数回のものだろう。
- 225 名前:中断 投稿日:2003/11/04(火) 12:35
- 今日はここまでです。
ずいぶん間を空けてしまったのは、すいませんでした。
- 226 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:51
- 卒業式は終わった。
時間が過ぎたから終わったかのように、何一つ遅れることなく終わった。
三年生が退場すると、残った生徒は全員で会場の片付けをする。
それも終わると、いよいよすることがなくなった。
元々主役でないにもかかわらず、やることだけが多い。
損な役割だということは分かってはいた。
『来なけりゃよかった』と思ってしまうのも、仕方ないね。
- 227 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:51
- それでも、時間通りに終わったのは、今日の中で一番良かったことのはず。
ただ、そう単純にはいかないものだ。
正式に、完全に開放された三年生は、学校のあちらこちらに散らばる。
そして、それぞれに最後を楽しんでいた。
本人達にとっては大事なことかも知れない。
けれど、在校生にとっては、ただでさえ近寄りがたい上級生。
しかも、さらに羽目を外すのだから、迷惑このうえない。
部活の先輩とかでない限り、関わりたくないものだ。
- 228 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:52
- 「新垣ちゃーん! 写真撮ろうよー!!」
一回も話したこともなければ、見たこともない人だ。
『最後だから』ね・・・
- 229 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:52
- 私は一応モーニング娘。だ。
そのおかげで、一応みんなが私のことを知っていると思う。
偉そうにしてるつもりじゃないけど、もう、そういうものだと言うしかない。
それが良いことか悪いことかは分からないけど・・・
- 230 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:52
- ただ、大変だと思うことはある。
でも、そのおかげということも・・・でも、そうじゃないことのほうが多いかも・・・
とにかく、普段はみんな『私が生徒』ということに慣れてるし、気を使ってくれる。
けど『最後』というやつは曲者で、とたんに『最後くらいいいじゃん』になってしまう。
後藤さんの時と同じだ。
- 231 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:53
- 『写真は極力避けること』
一応、仕事上、そういう指示が出ているのは百も承知だ。
しかし、ここでの環境をあまりに悪くするわけにもいかない。
幸い、この後先生に呼ばれているということもある。
次から次ということになる前に、ここから離れられる理由がある。
それに、この先輩は私の友達の先輩らしい。
あまり気持ちがいい方法ではないけど、その子を従えて圧力をかけてきている。
その子は『ごめん』と口を動かした。
- 232 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:53
- 大丈夫だよ。
気にしなくていいよ。
それに、私だって、こういうやり方したことあるしね。
「はい、いいですよ」
はきはきと話すのが、私らしいということらしい。
- 233 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:54
- 「はい、いくよー!」
この写真、どうなるんだろう・・・
どっかにでるのかな・・・
そうしたら、怒られるかな・・・
でも、卒業式だってのは、格好で分かるか・・・
それなら『しっかり学校に行ってる』ってふうにとってくれるかな・・・
私は最低なことを考えていた。
- 234 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:54
- その時『キ・ム・チ』と聞こえた。
韓国ではポーズを取る時に、こう言うらしい。
そんなことより、うまく笑ってただろうか?
普段からの条件反射で、うまく乗り切ったとは思うけど・・・
- 235 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:54
- 「じゃあ、先生に呼ばれてるから、行くね」
友達にそう声をかけた。
「分かった。じゃあね」
電話する約束をして、時間が空いたら遊ぶ約束もした。
これは本当だ。
この子達とは、本当に友達だから。
ただ、それに私は少しでも応えられているのだろうか・・・
- 236 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:55
- こうして写真を撮ることが、応えるということ?
そんなわけないよね?
ただ、友達同士で写真を撮るだけのことなんて、普通のことだよね?
でも、友達じゃなく、私を有名人と見るなら・・・
やめよう。
友達は『上級生に頼まれて仕方なく』のはずだから・・・
- 237 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:55
- ちょうどチャイムが鳴った。
下校の合図だけど、普段から誰もそんなふうに思っていない。
しかも、卒業式に、誰がそんなことを守るだろうか。
肝心の先生も一緒になって、まだ騒ぎは収まりそうもない。
職員室の中からも、先生と生徒の声が漏れていた。
- 238 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:56
- 「おう、来たか。まあ、座れ」
担任の先生は学年主任でもある。
男の先生で、歳は・・・どれくらいだろう?
『禿ていないから、よく分からない』
言い過ぎかな?
- 239 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:56
- 「まあ、忙しい中、よく頑張ったな」
『普通に学校に来ているだけなんだけどな・・・』
そんな意地悪なことを言うつもりはない。
先生だって気を使ったはずだ。
私は模範的な生徒とは言えなかった(もちろん、不良って意味じゃないぞ)だろうし。
そんな中での『精いっぱい頑張った』ということなんだろう。
- 240 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:56
- 「はい」
素直に返事ね。
頑張ったということも、まったくの嘘じゃないし。
- 241 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:57
- 「新垣が真面目な生徒なのは分かってる。とにかく頑張れとしか言えないけどな」
真面目な生徒・・・
休みがちな分は、やっぱり、知らないところで考慮してくれてるんだろうな。
例えば、卒業式に出たらその分どこかにプラスとか・・・
だから今日だって、スケジュールを空けて最初から出席させて・・・
これ以上はやめとこう。
本当に馬鹿らしい。
- 242 名前:後夜祭 投稿日:2003/11/05(水) 11:57
- 「迎えは・・・もうそろそろか?」
早く終わったからな。
少しだけ時間がある。
でも、先生と話すのは嫌だしなあ・・・
「はい」
「じゃあ、みんなと待ってるか?」
みんなは帰った。
教室に帰っても、誰もいないだろう。
「そうします」
職員室よりは居心地がいいだろう。
教室に戻ると、荷物を持って、普段使ってない教室で時間を潰した。
- 243 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 11:59
- 「少し遅れたか?」
お迎えは、少し遅れた。
道が混んでいたらしい。
まあ、そういうことはよくあるしね・・・
慣れたのかな?
後ろの席に乗り込むと、座らないうちに車は動き出した。
- 244 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:00
- 「どうだった、卒業式?」
マネージャーさんが話し掛ける。
「うん、よかったですよ」
「新垣は来年だね」
ああ、そうだった。
不思議と卒業式の間は、そんなことは考えなかったな。
『こんなに間を抜かしているのに、卒業していいものだろうか?』
それが引っかかって、自分のこととして考えていなかった。
- 245 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:00
- 「しっかりしないとな。来年は最上級生だもんな」
なぜか辻さんと加護さんが頭に浮かんだ。
「そうですね」
「台本読んだか?」
「あっ・・・」
マネージャーさんは笑った。
「ほれ。着くまでに目を通しておくといい」
- 246 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:00
- ざっと流れだけを掴む。
そんな大層なことじゃなくて、ほんとに『今日はこれをする』というくらいのことだ。
そうして、窓の外に目を向ける。
ようやく時間ができたので、ボーっとした。
こういう時間も、きちんと取っていかないとね。
- 247 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:01
- 今日の三年生にとって、卒業式なんて意味はあったのだろうか?
どう考えても、ただ、時間が過ぎたから卒業したってだけだよね。
その場にいた時とは違ったことを考えた。
振り返って、過去のこととして考えると、そんなふうな感想になるのか・・・
自分でもびっくりした。
- 248 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:01
- もちろん、学校だからそれでいいのかも知れない。
入ってくる時に『これだけの時間でこれだけのことを教える』って決まっているから。
そして、それは義務だから。
とにかく、教室の自分の席に三年間通うことが一番大切なのだろう
それが大前提にあって、なるべく理解してもらえるように教え、できる限りのケアをする。
そうすれば、三年である程度の結果が出るようなシステムだから。
- 249 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:02
- それでいいと思ってた。
でも、そうじゃない人だっているんだなって分かったから。
後藤さんは、誰が決めたわけでもない卒業を選んだ。
もちろん、原因の全てが後藤さんではないのかも知れない。
周りの状況とかもあるのかも知れない。
でも、できたことも、できなかったことも、ひっくるめて卒業していった。
- 250 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:02
- あれが本当の姿なのかなって思う。
ただ与えられた卒業って、そんなに意味があるものだろうか?
後藤さんは、卒業証書なんてなくても卒業した。
私達は卒業証書をもらわないと、卒業したかどうかも分からないんじゃないかな?
- 251 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:02
- それであんなに飾って、練習して、祝って・・・
じゃないと、意味がないものだって気づかれてしまうから?
少なくとも『おめでたいこと』としての意味を持たせたいから?
- 252 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:03
- 「着いたよ」
そのくらい経ったのかな・・・
車を降りて、歩き慣れた道を進む。
最初の頃は、大きな建物にいちいち緊張していた。
- 253 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:03
- 「おはようございます」
「おはよー」
安倍さんだ。
矢口さんと、吉澤さんと、飯田さんと、辻さん、加護さん。
改めてだけど、多いなあ。
- 254 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:04
- 「制服じゃん! 懐かしい〜! 矢口もセーラー服だった!!」
結構この格好で来るのは多いはずだけど、矢口さんが改めて感動したようだ。
何となく恥ずかしくなって、早速、衣装に着替える。
- 255 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:04
- 「丈は大体同じだけど・・・・新垣、細いな〜」
矢口さんは私の上着を体に当てた。
「私もセーラー服だったな。全身紺のやつ。でさ〜胸のとこに名札とかつけんだよ!」
「あたしも中学の時はそうだった!」
安倍さんと飯田さんの話が盛り上がる。
私の制服は矢口さんから、辻さんと加護さんに渡る。
吉澤さんは一歩離れたところから、奇異なコメントを、求められていなくても述べる。
- 256 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:05
- 「何してるんですか〜?」
そこに石川さんが到着。
全員が一から説明をする。
それは人数が揃うまで続き、ただ、話しているだけで大騒ぎになる。
そんないつもの様子だった。
- 257 名前:片割れの世界 投稿日:2003/11/05(水) 12:05
- 「「おはようございます」」
あさ美ちゃんとまこっちゃんが揃った。
これで全員だ。
「よーし、揃ったね。二人とも早く着替えて!」
二人とも私と同じように制服だった。
- 258 名前:そんな一日の終わり 投稿日:2003/11/05(水) 12:06
- コンサートも無事に終わり、反省会も終わり、ミーティングも終わり、一日も終わった。
「疲れたー」
と言うのにも、慣れた。
なんか、嫌な奴かも知れない。
「うおー! 疲れたぞー!!」
まこっちゃんが荷物をベットに放り投げた。
「荒れてますなー」
「今のが最後のパワーだ・・・・」
そのまま荷物の上に倒れ込んだ。
- 259 名前:そんな一日の終わり 投稿日:2003/11/05(水) 12:07
- 「じゃあ、私が先にお風呂入るね」
まこっちゃんは、ほっといたら寝てしまいそうだけど、私だって疲れてる。
出てきた時には、案の定、洋服のまま眠るまこっちゃんだった。
無理矢理起こして、お風呂に入れて、ぐっすり眠る。
そして、そのまま次の日になる。
- 260 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:07
- 今日はテレビの収録で、全員が集まることになっている。
卒業式の次の日は、振り替えで休みになっている。
これでようやく学校の方も一区切りがついた。
そのうえ、コンサートも始まり、疲れが今日に残るくらい全力を出した。
- 261 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:08
- ただ、一つ。
やっぱり分からないことがある。
卒業式が終わっても、私はまだ仕事モードでなく、中途半端な感じがしていた。
- 262 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:08
- どうしたんだろうか、私は?
卒業式は終わったはずなのに・・・
それでも、まだ終わらないのか?
何が?
- 263 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:08
- 「おはようございます」
「おはよー」
楽屋にいたのは、保田さんと安倍さんだった。
私は、だいぶ早く着いたみたいだ。
- 264 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:09
- 「新垣、学校じゃないの?」
「卒業式の振り替えです」
「そう・・・・だっけか?」
私達はそこで準備をしながらも、のんびりしていた。
- 265 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:09
- 吉澤さん、飯田さん、石川さん・・・
いつかと全く同じじゃないかと思うぐらい、みんなが集まる過程は普通のことだった。
- 266 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:09
- さて、一時間前。
そろそろ動き出さなくちゃいけない時間になってきた。
「おはようございまーす」
あさ美ちゃんの声がした。
- 267 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:10
- 制服。
学校帰りなら、当然そうなる。
冬服のブレザーには、胸ポケットにリボンがついていた。
通学鞄代わりの手提げには、花が見える。
筒は卒業証書で、重そうなのはアルバムだろう。
- 268 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:10
- 『卒業』だ。
学校は違うけど、この時期は、どこもやることは一つ。
そうか・・・今日・・・卒業式だったんだ。
- 269 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:11
- 「ちょっと見せて!」
早速みんなは、アルバムや最後の成績表に飛びついた。
「あっ、こいつかっこいいじゃん!」
「で、紺野は誰が好きだったの?」
写真を覗く安倍さん達と、見せまいとするあさ美ちゃんの声がした。
- 270 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:11
- 私は、卒業ってものの意味が分からなくなってたんだっけ・・・
で、それを身近の後藤さんに見つけたんだっけ・・・
なら、このあさ美ちゃんのも意味がないのかな・・・
そういうことだよね・・・
私の言ってた通りなら・・・
- 271 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:12
- 私達はモーニング娘。だ。
・・・それは・・・私達が・・・勝手にやっていることなんだよね・・・
誰にやれと言われたわけでもなく、自分で選んで。
そうじゃなかったら、それぞれ別の何か(ほとんどが学生だと思う)をしてたはず。
私達も、他のみんなも、何も変わらないんだ。
だから、勝手に始めて、勝手に忙しいっていうのは、自分勝手なのかな・・・
- 272 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:13
- 私も学生を選んでいる以上、三年の中で動かなくちゃいけない。
それは、学生のみんながそうだ。
そのうえに、私はモーニング娘。をやっているだけだから。
そんなことで文句を言っちゃいけない。
言ってもいいけど、馬鹿にされるだけだね。
『それならしなきゃいいじゃん』って。
- 273 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:13
- 自分で決めなきゃ意味がないって言った。
それは本当だ。
でも、学生は自分で選んだものじゃないって誰が言った?
期限が来たから卒業するのはそうだ。
入る時、自分がそれでいいって言ったから?
三年でどれくらいのものを詰め込めるかやってみようって思ったのは自分だから?
義務だから?
なんでもいいや。
私が始めたことだから
- 274 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:13
- 私はごっちゃにしていたんだな。
こっちとあっちを。
全然違うものなのに。
で、どっちものいいところをとって、それで袋小路に入ってたんだ。
- 275 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:14
- 卒業式を楽しみにしていたわけじゃない・・・か・・・
そんなことなんてなかったんだな。
どっかで分かってたんだ。
少なくとも、自分は意識してなかったけど。
だから『卒業』の方が中心になったんだ。
自分もああなりたいって思ってたから。
後藤さんの卒業とまったく変わらず、私はあの卒業式を見ていたんだ。
- 276 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:14
- いろんな区切りがあるんだね。
年数とかで区切る方法もあれば、自分で決めることだってあるんだ。
その区切りをどれだけ自分のものにしたかで、自分は変わる。
中学生を卒業したら『中学生』というものが自分の一部になる。
モーニング娘。だって同じだ。
私はその二つを経験してる。
ラッキー?
- 277 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:15
- 私はどうなっていくのだろう・・・
『モーニング娘。になった現役中学生』
今はそうだ。
このどちらもが、一方の顔にまた違う意味を塗りつけていく。
『中学生のモーニング娘。』
『モーニング娘。の中学生』
ってことか?
どっちがいいかなあ?
- 278 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:15
- でも、どっちも私のことだ。
私に増えていく説明文。
そして、来年増えるであろう『中学卒業』というものに見合うだけ、頑張れたかなあ?
そしていよいよ・・・ジョシコーセー・・・
頑張れるだろうか?
- 279 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:15
- 天井から視線を戻すと、騒ぎはようやく収まっていた。
あさ美ちゃんは、改めてアルバムをじっと見ている。
その横顔は、私とは違うものを得たように見えた。
- 280 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:16
- 結局、自分の知っている人だからということかも知れない。
そういう人達の卒業だから違って見えるのかな?
偉そうな理由を考えたのは、それが後藤さんだったから?
つまらない理由だと思っても、あさ美ちゃんならば違うってこと?
そして、あまり知らない三年生だから意味がないってこと?
何なんだ・・・いったい!
- 281 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:16
- でも、あさ美ちゃんは変わりつつある。
現実に変わっているなら、それは間違いのないことだ。
そんな顔を見てると、私もできるのかなって思う。
でも、できないかも知れない。
モーニング娘。になる前の自分はどんなだった?
それがモーニング娘。で何か変わったか?
- 282 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:16
- ただ、年をとって、大きくなっただけなら、べつに、勝手にそうなっただろう。
それ以外で・・・?
ないんじゃないか?
なれたから変わったことなんて・・・
- 283 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:16
- 結局、ツケなのかな・・・
どっちも頑張らなかった自分への。
今になってしか分からない、最悪の展開になったのだろうか?
それじゃあ、取り返しのつかないことになるぞ!
- 284 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:18
-
・・・さて・・・
- 285 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:18
-
一通り落ち込んだところで、大きく欠伸をした。
- 286 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:19
- 何かある度にこうして悩む。
その都度、解決方法なんて見つかりはしなかった。
ただ、悩んだことや、考えたことが頭の中から消えるなんてことはない。
今度こういうことにぶつかった時、私の中にあるこれが役に立つのだろう。
- 287 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:19
- 差し当たっては、来年。
私は三年生になって、中学校を卒業する。
その時に自分は何を考えるのか?
何が自分の中に詰まっているのか?
- 288 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:20
- そして、いつか来るであろう『卒業』ね。
全く想像もつかないし、その時の状況は今と同じものとは限らない。
私のその『卒業』は、自分がどうなることであるのかも、まったく分からない。
ただ、その時にどう考えるか・・・ってことか!
- 289 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:20
- 要するに、出たとこ勝負だ。
決まっている卒業に対しても、自分で決める卒業にも対応しなきゃいけない。
なら、やってみる。
やってやる。
全力で。
- 290 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:20
- 考えをまとめることも、そこから一つのまとめを見つけることもしなかった。
自分の中を覗いたところ、グチャグチャだということが分かった。
それをそのままにして、一つ一つを認めた。
それだけで、ずいぶん楽になった。
- 291 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:21
- どうせ、大人になったら全部抱えられなくなる。
捨てるのはその時でいいんじゃないか?
何が必要なものかは分からないけど、このすべてを私は受け容れよう。
辛くなったら・・・捨てちゃえばいいか。
- 292 名前:卒業式再び 投稿日:2003/11/05(水) 12:21
- 私は偉そうに開き直った。
- 293 名前:在校生送辞 投稿日:2003/11/05(水) 12:24
- 「あさ美ちゃん、どれ?」
私はあさ美ちゃんの横に座った。
「これ、緊張して変な顔になってる!」
三年間の全てが詰まっているわけではないアルバム。
それでも、その中でいろんな顔をしていたんだろうな。
そして、最近撮ったはずの個人写真とも違う顔をしている本人は、すぐ隣にいる。
そんなことに気づいているのかどうか、思い出話は始まったばかりだ。
- 294 名前:贈る言葉 投稿日:2003/11/05(水) 12:34
-
主演 新垣里沙
- 295 名前:終了 投稿日:2003/11/05(水) 12:38
- 難産でした。
あと、次回ですが、今回ぐらい日をおいてしまうでしょう。
読んでくれた人、ありがとうございます。
- 296 名前:第三話 投稿日:2003/11/05(水) 12:44
-
∬ ´▽`) 小川麻琴です。かぼちゃ味の肉まんってないんですかね?
- 297 名前:未熟なグループ 投稿日:2003/11/10(月) 12:37
-
それでは、発表です。
- 298 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:38
- 映像が切り替わると、画面いっぱいにつんく♂さんが映った。
「えーっと・・・・まず、今回のオーディションも、非常にレベルの高いものでした。
でも、百点満点という子はいません。
でも、モーニング娘。というグループは、そんなやつらが──
なるほど。
私は座布団に座り直した。
- 299 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:38
- 「・・・・高橋愛」
名前を呼ばれた愛ちゃんは、涙を拭いながら列を離れる。
所定の位置まで進むと、堪えきれなくなり、愛ちゃんの顔はくしゃっとなった。
- 300 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:39
- 『そりゃそうだろう』
今もあの時も、同じ気持ちだった。
改めて合宿の様子を振り返っても、やっぱり愛ちゃんは抜けてるなって思う。
多分、このメンバーなら、何回オーディションをやり直しても受かるだろう。
この中では、それだけ目を引く子だった。
- 301 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:39
- 一瞬だけ、残っている候補者の列が映った。
さらにその中に一瞬、私の顔が映った。
「まさか・・選ばれると・・思ってなかった・・」
司会者の質問に、愛ちゃんは懸命に答えていた。
- 302 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:39
- 「・・・・新垣里沙」
これはショックだったなあ。
今回の募集の時に、つんく♂さんは『二人から三人』と言っていた。
もちろん、私も知っていた。
そして、二人目までに私は呼ばれなかった。
- 303 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:40
- だから『これで終わり』と言われれば、それまでだ。
もちろん、モーニング娘。のオーディションだから、普通に終わるとは思ってなかった。
けど、できれば早く選ばれたいのは、みんな同じだったからなあ。
テレビの前で、列を抜ける里沙ちゃんを、ボーっと見ていた。
あの場にいた時と同じように。
- 304 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:40
- だって『最後の一人は自分だ』って言い切れる人間なんて、どれだけいると思う?
じゃんけんでも、最後の二人になったら『やばいな』って思うでしょ?
あの時、私はちょっと諦めたっけ・・・・
ダンスも歌も十分手ごたえがあっただけに、本当にショックだったなあ。
乾いた喉にジュースを流し込んだ。
- 305 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:41
- 「・・・・素質がありますね・・・・それをもっと伸ばしていってほしい」
ついつい背筋が伸びる。
つんく♂さんは今の私に言っているんじゃない。
あの時の小川麻琴に言ってるんだ。
でも、私だって小川麻琴だから・・・・
「・・・・小川麻琴」
- 306 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:41
- 呼ばれた!
画面に私が大きく映った。
ただでさえ緊張している。
さらに呆気に取られて、顔が固まったままだ。
でも、なんとか反応し、列を抜けていく。
緊張しすぎだぞ! もっと落ち着いて!
- 307 名前:中断 投稿日:2003/11/10(月) 12:42
-
──ジリリリ──
- 308 名前:中断 投稿日:2003/11/10(月) 12:43
- タイマーの音が鳴った。
よっこらせっと。
発表の途中だったけど、時間だ。
台所では、鍋がぐつぐつと音をたてていた。
- 309 名前:中断 投稿日:2003/11/10(月) 12:43
- クリームシチューのグラタンをレンジから取り出す。
といっても、冷凍食品じゃないぞ。
ジャガイモが大きめに切ってあって、ニンジンを摩り下ろした甘いシチュー。
その上にチーズがたっぷりのって、カリカリになってる。
私の好みを十分に満たしてくれるもの。
お母さんの手作りだ。
- 310 名前:中断 投稿日:2003/11/10(月) 12:43
- 今日は用事があって朝から出かけるので、お昼用に作り置きしてくれたものだ。
鍋のコーンポタージュも、いい具合に温まっている。
半分ほどに減ったジュースを補給し、準備は万端だ。
いっぺんに抱え、かなり慎重な足取りでリビングを目指す。
- 311 名前:中断 投稿日:2003/11/10(月) 12:44
- 荷物を机に下ろすと、目の前に並べた。
準備万端で腰をおろす。
画面には、まだつんく♂さんが映っていた。
再び画面が切り替わる。
顔を濡らした愛ちゃんと、里沙ちゃんと、私が映った。
よかった!
ぎりぎり間に合ったね!!
- 312 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:45
- 「それではこれで、モーニング娘。の新メンバーが決定しました」
甘いな。
得意気に話す司会者に呟いた。
まだいるんだよね、赤点のあの子が。
突然の合格でさすがにびっくりしてたけど、誰よりも冷静だった顔を思い出した。
- 313 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:45
- 「どうですか、なっち? 新しく入ったメンバーは?」
「そうですね。
また新しく『十二人』でモーニング娘。を頑張っていきたいと思います」
安倍さんはいつもと変わらない笑顔で、そう言った。
- 314 名前:最終選考 投稿日:2003/11/10(月) 12:46
-
私達を加えた全員の場面で、そのまま番組は終わった。
- 315 名前:赤点の行方 投稿日:2003/11/10(月) 12:48
- ポカンとしたまま画面に見とれていた。
番組はとっくに終わり、少し懐かしいCMが流れている。
急いで『巻き戻し』を押した。
モーニング娘。が再び現れると、何倍もの速さで動き回り始めた。
- 316 名前:赤点の行方 投稿日:2003/11/10(月) 12:48
- 変わらない。
まったく同じ場面が繰り返されると、しつこいようにそのまま終わった。
最後にみんなで並んでいる時も、私達は三人だけだった。
その子は一瞬も映らない。
赤点は、当然のように失格になった。
- 317 名前:赤点の行方 投稿日:2003/11/10(月) 12:49
- ────どういうことだ────
- 318 名前:赤点の行方 投稿日:2003/11/10(月) 12:49
- 何回も巻き戻して再生をする。
でも、私が知っている結末にはならない。
番組自体がまったく別のものになっているというわけじゃない。
候補者も、全員私の知っている記憶と一致する。
でも、合格者は三人。
結果だけが違うものになっていた。
- 319 名前:赤点の行方 投稿日:2003/11/10(月) 12:50
- しまった!
あまりにも迂闊だった。
他にやらなきゃいけないことあったのに!!
急いで携帯のメモリーを確認する。
その番号はなかった。
その番号のメモリーの位置には、学校の友達の番号が入っていた。
- 320 名前:赤点の行方 投稿日:2003/11/10(月) 12:50
- まだだ!
番号なら覚えてる。
忘れてたまるか!!
呼び出し音が続く。
大丈夫・・・・だよね・・・・
- 321 名前:赤点の行方 投稿日:2003/11/10(月) 12:51
- 「誰だよお前!」
聞こえてきた声は、知らない太い声。
私は慌てて切った。
彼女が持つはずだった携帯電話は、違う人の物になっていた。
- 322 名前:赤点の行方 投稿日:2003/11/10(月) 12:51
- 「もしもし。どうしたの、急に?」
聞きたくない。
確かめたくない。
結果は、なんとなく分かっているから。
でも確かめないと・・・・
- 323 名前:赤点の行方 投稿日:2003/11/10(月) 12:51
- 「あの・・・・」
「何? どうしたの?」
何でもないように。
普通のことのように。
当たり前のように。
そうすれば、またいつもの時間に戻る。
- 324 名前:赤点の行方 投稿日:2003/11/10(月) 12:52
- 「実は『あさ美ちゃん』の番号忘れちゃって・・・・何番でしたっけ?」
「ん? 誰だそれ?」
マネージャーさんは、当たり前のように返事をした。
- 325 名前:新しい日常 投稿日:2003/11/10(月) 12:53
- 「おはようございます」
「「「「おはよー 小川」」」」
何人かの声が一声に出迎えた。
楽屋はいつものように騒がしい。
けど、私にとってはぜんぜん違うものだった。
- 326 名前:新しい日常 投稿日:2003/11/10(月) 12:54
- ────さて、どうするか────
- 327 名前:新しい日常 投稿日:2003/11/10(月) 12:55
- 「飯田さん『全員』揃ってますか?」
飯田さんが不思議そうな顔をして私を見た。
「・・・・何言ってんの? 見ての通り『十二人』全員いるでしょ」
飯田さんの手前に座っていた安倍さんが、呆れたような顔をした。
その安倍さんを遮って、矢口さんが口を開く。
「まだ起きてないのか? しっかりしてよ!
それより、今日は小川が一番遅かったんだから、気をつけてよ。
なっちだってちゃんと来てるんだからさ!」
「ちょっとー! どういう意味!?」
矢口さんの声に、安倍さんが切り返した。
- 328 名前:新しい日常 投稿日:2003/11/10(月) 12:55
- そこから先は、みんなが入り乱れて大騒ぎ。
こんな小さな波紋でも、全員が反応してくれる。
やっぱり、すごくいい仲間だ。
でも、やっぱり違う。
足りないよ。
- 329 名前:新しい日常 投稿日:2003/11/10(月) 12:56
- 「はい! じゃあ、揃ったみたいだから、行くよー!」
飯田さんがそう言うと、みんな準備を始めた。
みんなの表情は、すごく自然だった。
何の疑問もないみたいだ。
- 330 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 12:57
- 「まことー! あけてー!!」
ドアを引くと愛ちゃんと里沙ちゃんの顔があった。
私の同期だ。
- 331 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 12:57
- 「持ってきたよ、たっぷり」
愛ちゃんは二人分の夕食、里沙ちゃんは自分のと三人分の飲み物を抱えている。
「お茶でよかったよね?」
二人は、てきぱきと食事の準備を整えた。
- 332 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 12:58
- 今は、休憩時間を兼ねた夕食の時間。
「・・で、何? 話って?」
ここは食堂じゃなくて、その隣の控え室。
「あのさ、他の人には内緒だよ」
私は鞄からビデオを取り出した。
- 333 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 12:58
- 「なっ!? 麻琴! そんなの持ってきちゃ駄目だって!!」
「何それ? 呪いのビデオ?」
裏でも、貞子でもない。
「どっちも違うよ。大事な話なんだ。だから、ちょっと見てほしい」
- 334 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 12:59
- 今、私がいるここでは『紺野あさ美』は、いないことになっている。
オーディションには参加していた。
それはビデオでも分かる。
そして、最終選考で落ちたということらしい。
つまり、私が知っている今日までと、みんなのそれは違うものだということだ
- 335 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 12:59
- 「あっ、な〜んだ、オーディションのやつか」
「うわ〜懐かしいな〜〜」
- 336 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 12:59
- 焦ってみんなに確認して回ったりしては駄目だという結論に至った。
『無い』ものを『在る』と言い張ったって、無視されて終わりだ。
そうなったら『無い』ことが普通のこと、当然のことになってしまうだろう。
せっかくだから、私は一番大きなおにぎりを掴むと、口いっぱいに頬張った。
- 337 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:00
- 「あーっ、思い出してきた! やっぱりドキドキするな〜!!」
「こんな髪型だったっけ、私?」
- 338 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:01
- これは間違っている。
しかし、そう感じているのは私一人。
だから私が『あさ美ちゃんは?』と聞いても、必ず否定される。
そして、否定され続け、それが真実として確定されてしまうことになるかもしれない。
だから、みんなが思い出してくれるようにするしかない。
この現状はおかしいって。
みんなから分かってもらわなきゃ。
- 339 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:01
- 「「ほら、まこっちゃん映ったよ!!」」
- 340 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:01
- だから。
里沙ちゃんと愛ちゃんなら、きっと何か感じてくれるはずだ。
そして、そっちから『間違ってる』って言ってもらわなきゃ。
番組は終わり、やはりモーニング娘。は十二人になった。
- 341 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:02
- 「麻琴、食べないの?」
愛ちゃんの声に、私は味噌汁に口をつける。
「どうだった?」
二人に確認する。
違うよね。
分かってくれるよね。
- 342 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:03
- 「どうって・・・うん・・・初心を忘れずに頑張ろうと思った」
里沙ちゃんの表情からは、疑問は見つけられなかった。
「里沙ちゃん真面目だな〜 私は恥ずかしいよ! 昔の自分なんて!!」
愛ちゃんは、もっと純粋にそう言った。
- 343 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:04
- 「じゃあさ、じゃあさ!!」
私はテープを巻き戻した。
候補者の全員を紹介する場面だ。
「仲良かった子っている?」
二人は画面に向き合った。
- 344 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:04
- 「あっ、この子ダンス上手かったよね〜」
「うん、この子は絶対受かるって思ったな〜」
- 345 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:05
- 二人が覚えていたのは、背が高かったり、歌が上手かったり、可愛かった子だけ。
それでも、名前まで覚えている子は、何人もいなかった。
「『仲が良い子』って言われると・・いないな。
一応ライバルだったし・・たいしたことも話さなかったと思う」
愛ちゃんは、やけに冷静にそう言った。
「仲が悪い子もいなかったけど・・・良い子もいなかったかな・・・
それに、みんながそんな感じだったしね」
今度は里沙ちゃんが付け足した。
- 346 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:05
- 「・・・・じゃあ・・・・この子は」
私は意を決して言った。
「「紺野あさ美?」」
二人は画面を、一瞬きつく睨んだ。
- 347 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:06
- 「・・・いたのは覚えてる・・・セリフとか・・・一番に覚えてたよね」
「そうそう、いたいた! うん、何となく目につく子だった」
- 348 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:06
- それで? お願い! それで!?
「それ・・ぐらいかな。話したことも多分あったけど、はっきりとは覚えてないよ」
「・・・うん・・・私も・・・そうかな」
- 349 名前:第五期メンバー 投稿日:2003/11/10(月) 13:07
- 「まこっちゃん、早く食べちゃいなよ。ちゃんとデザートも持ってきたからさ」
里沙ちゃんは、とっておきというように苺のパックを取り出した。
まあ、食べたんだけどね。
- 350 名前:近況 投稿日:2003/11/10(月) 13:07
- 毎日は続いていく。
相変わらずの忙しい日々だ。
二ヶ月前に発売したという五枚目のアルバムは、今でも順調に売れているらしい。
その前に出されていたシングルは、モーニング娘。史上最大のヒットだった。
ミュージカルでは、私達三人は、演劇部の新入生という役だったらしい。
これ以上は望めないという盛況で、追加公演と次の舞台も同時に決まった。
それがきっかけで、三人で新しいユニットが作られている。
私は今までに加えて、ラジオ番組と新番組のコーナーを担当している。
- 351 名前:近況 投稿日:2003/11/10(月) 13:08
- 私が知っているものとは違う。
順調すぎる世界があった。
毎日がすごく濃密で、みんなはそれに疑問を抱いてもいないようだった。
ただ、驚くほどの体力でこなし、そのすべてが良い方向に転がったらしい。
個人として、グループとして、これ以上ないほどの。
私が経験してきたつらさや苦労はそこになく、成功と笑顔の過去が世界を作っていた。
- 352 名前:近況 投稿日:2003/11/10(月) 13:08
- 「はいっ! お疲れ様でしたー!!」
その先生の声に倍ほどの声で挨拶を残すと、すぐに移動した。
この後はテレビの収録だ。
- 353 名前:近況 投稿日:2003/11/10(月) 13:08
- あさ美ちゃんがいない生活が何日か経った。
手の打ちようがない。
スケジュールは私が知っているものより密度が濃く、休むなんて到底できなかった。
あさ美ちゃんと連絡を取ろうにも、どこに行ったらいいものか分からない。
でも、一番大きいのは『ほっといたら何とかなるだろう』という、私の性格だった。
- 354 名前:近況 投稿日:2003/11/10(月) 13:09
- 勝手になったんだから、勝手に終わるだろう。
それに、今の状況も悪くないかな。
『毎日を頑張る』
それでいいじゃないか。
あさ美ちゃんも、きっとすぐ戻ってくるよ。
そしたら一緒に頑張ろう。
もっともっと頑張ろう。
だって、頑張った分だけ返ってくるんだから・・・・
- 355 名前:オーディションの季節 投稿日:2003/11/10(月) 13:09
- 「すいませーん! 遅れましたー!!」
楽屋に遅れて入ると、いつもと違い、やけに静かだった。
といっても、それでやっと普通ぐらいの騒がしさなんだけど。
みんなが集まって『ワーワー』ではなく『ザワザワ』と。
- 356 名前:オーディションの季節 投稿日:2003/11/10(月) 13:10
- 「どうかしたんですか?」
矢口さんが私を輪の中に引っ張り込んだ。
「ほら、見てみなよ。今度入ってくる子の最終選考が決まったってさ」
- 357 名前:オーディションの季節 投稿日:2003/11/10(月) 13:10
- 表紙に『極秘』と書かれた台本をめくってみる。
そこには、恒例となった合宿の詳細が書いてあった。
こっちでは時間が少しずれていて、これから六期が決まることになっている。
最終候補に残ったメンバーはみんなすごく綺麗で、私と違い、自信を持った表情だった。
みんなは、年齢や簡単なプロフィールの欄で盛り上がっている。
亀井絵里も、田中麗奈も、道重さゆみもいない。
私は、そんなことを考えていた。
- 358 名前:オーディションの季節 投稿日:2003/11/10(月) 13:11
- 『やっぱりな』という感じだ。
どうやらこの先は、私が知っているものとまったく違うものになっていくようだ。
- 359 名前:オーディションの季節 投稿日:2003/11/10(月) 13:11
- 過去の部分には、まだ共通するものがあった。
例えば、後藤さんはやはり脱退した。
そのタイミングは、私達が入るのと同時で、一緒に活動したことになっていないけど。
- 360 名前:オーディションの季節 投稿日:2003/11/10(月) 13:12
- 少し同じで、少し違っていて。
まるで、どっちに合わせるか決めかねているようだ。
『だから六期の子も同じになるかもしれないし、違うかもしれない』
そんなふうに思っていたから、違う子になっても、あんまり驚いてはいない。
この先は本当に知らないものになっていく・・・・
それが不安と言えば、そうなるかな・・・・
- 361 名前:オーディションの季節 投稿日:2003/11/10(月) 13:12
- でもさ、元々これが正しいんだよね。
未来のことなんて、どうなるか分からない。
だから、それを不安に思うなんて、みんなそうなんだよね。
でも、だったらさ・・・・
あさ美ちゃんも一緒がいいよ。
あのみんなだったら、不安も恐くなかった。
きっと、そうだったんだな・・・・
- 362 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:13
- 「しゅーりょー!!」
吉澤さんの声が響く。
今日のレッスンは、これで終わり。
- 363 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:14
- 私は考え方を変えることにした。
もう受け容れよう。
仕方ないよ。
だって、誰も覚えてないんだもん。
『忙しい』ってことに逃げちゃえばいい。
そうすれば、何も考えなくていいから。
- 364 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:14
- 『本当にそれでいいの?』
うん。
でも、できる限りのことはする。
そして、その後に諦めるよ。
- 365 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:15
- 「これでいいのか?」
スタッフの人がダンボールを抱えて戻ってきた。
「ありがとうございます。すいません、無理言って」
「いや、別にいいけどさ・・・・でも、データリストに載ってなかったんだろ?
それだったら、直接探すのは二度手間だと思うけどな」
「実際に自分で確かめてみたいんです。終わったら、自分で返しに行きますんで」
- 366 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:15
- ダンボールを開けると、中にはぎっしりとファイルが詰まっていた。
その一つを手にとって開くと、不安と緊張の表情があった。
そうだよね。
最終選考の子が特別なんだよね。
それは、モーニング娘。のオーディションに送られてきた履歴書だ。
- 367 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:15
- なかった。
今度の六期生募集の中に、あさ美ちゃんのはなかった。
ふと思ったんだ。
確かに、六期の最終選考の中にはいなかった。
けど、ひょっとしたら、あさ美ちゃん、六期に応募したんじゃないかって。
でも、なかった。
- 368 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:16
- どんなに丁寧に探しても、イラついて探しても、あさ美ちゃんの名前はなかった。
どっかで期待してたんだ。
『六期であさ美ちゃんが入ってきて、元通り』
それで上手くいくんだって。
- 369 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:16
- ・・・・あさ美ちゃんも、諦めちゃったのかなあ・・・・
・・・・モーニング娘。になりたかったんだよね?・・・・
・・・・そう思ってたあさ美ちゃんは、もういないのかな?・・・・
- 370 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:16
- だったら・・・・私一人が思っててもしょうがないよね。
- 371 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:17
- みんなで諦めればいいよね。
みんなで分かったふりをすればいいよね。
それでいいんだよね。
これでいいんだよね。
私、あさ美ちゃんの分も頑張るよ。
- 372 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:18
- 知ってる?
今のモーニング娘。は、ずっと忙しいんだよ。
これじゃあさ、一緒に遊びにいく時間もないね。
だからさ、一緒に行ったお店にはいけなかったかもしれないんだ。
それに、あの時サインした子にも、出会ってなかったってことなんだね。
- 373 名前:夢見る人達 投稿日:2003/11/10(月) 13:19
- 私達・・・・何がいけなかったのかな?
私達、どうして最初からこうできなかったのかな?
やっぱり・・・・やっぱり、あさ美ちゃんのせいだったのかな?
あさ美ちゃんがいないと、こうなれるってことなのかなあ?
- 374 名前:北へ 投稿日:2003/11/10(月) 13:23
- 朝一番の便で、私は新千歳空港に着いた。
コートと帽子の完全装備で来たのだけど、やはり、かなり寒い。
小さなリュックと、手にはあさ美ちゃんの履歴書。
あの後、私達が応募した時の分も引っ掻き回して、見つけてきた。
ついでに『仕事をすっぽかす』との置き手紙も。
確かめないと。
引越しとかしてない限り、まだここにいるはずだ。
- 375 名前:北へ 投稿日:2003/11/10(月) 13:23
- 土曜日だから、そろそろ学校が終わる時間だ。
私は周りの目を気にしながら、張り込みを続けている。
とにかく、本人に会わないと。
もし家族の人になんて出てこられたら、どう説明していいか分からない。
もっとも、本人にだって上手く伝わるかどうか分からないけれど・・・・
- 376 名前:北へ 投稿日:2003/11/10(月) 13:24
- 来たかな!
と・・・・違うみたいだ
さっきから同じ制服の子をよく見かける。
もう学校終わったんだろう。
いよいよだな・・・・
- 377 名前:二度目のはじめまして 投稿日:2003/11/10(月) 13:25
- それから何分経った覚えていない。
でも、全身が冷えてたから、けっこうな時間だったんだろう。
マフラーに顔を埋めていた。
それでも、ずっと見慣れた顔を見つけた。
化粧をしていない。
私の知ってるあさ美ちゃんより、その純度が高いままのあさ美ちゃんだった。
- 378 名前:二度目のはじめまして 投稿日:2003/11/10(月) 13:25
- 「あの・・・・紺野あさ美さんだよね・・・・私、覚えてるかな?」
大きな目はさらに大きくなって、じっと私を見た。
「・・・・・はい・・・・・小川麻琴・・・・・さん・・・・・ですよね・・・・・」
- 379 名前:二度目のはじめまして 投稿日:2003/11/10(月) 13:26
- 覚えていてくれた!?
違う。
これは、そんな反応じゃない。
- 380 名前:二度目のはじめまして 投稿日:2003/11/10(月) 13:26
- 覚悟はしていた。
私はその時のための台本に切り替えた。
「うん。最終合宿で一緒だったよね」
『感動の再会で一気にゴール』
そう簡単にはいかないみたいだ。
「少し時間あるかな?」
- 381 名前:二度目のはじめまして 投稿日:2003/11/10(月) 13:29
- 「少し時間かかりますから・・・・・私・・・・・お茶持ってきます」
あさ美ちゃんはストーブに火をつけると、逃げるように部屋を出ていった。
私はコートを脱いで、炬燵に足を突っ込む。
一回来たことがあるはずだけど、まったく違う家のような気がした。
- 382 名前:二度目のはじめまして 投稿日:2003/11/10(月) 13:29
- 戻ってきたあさ美ちゃんは、制服ではなく、普段着だった。
お盆に乗っている二つのカップの中身は紅茶。
「ケーキとかあったら良かったんですけど・・・・・」
「大丈夫。私これも好きだよ」
艶っぽい蜜柑は、遠慮なく頂くことにした。
- 383 名前:二度目のはじめまして 投稿日:2003/11/10(月) 13:29
- 「お母さんとかいないの?」
「うん・・・・・今ちょっと」
さすがに丁寧語はおかしいと思ったのか、小さな声だけどそう言ってくれた。
それでも、こちらを伺うような姿勢は崩さない。
当然といえば、その通りなんだけど。
- 384 名前:二度目のはじめまして 投稿日:2003/11/10(月) 13:31
- 「これを見てさ。何とか見つけたってわけなんだよ」
私はあさ美ちゃんの履歴書を机の上に置いた。
あさ美ちゃんは、どうしていいか、何を話していいか分からない顔をした。
そんな物が残っているとは思ってなかっただろうし『いまさら何だろう』って・・・・
そうだね。
完全に怪しまれたようだ。
- 385 名前:二度目のはじめまして 投稿日:2003/11/10(月) 13:31
- オーディションの時のことをいっぱい話した。
レッスンの先生の話。
仲の良かった子の話。
昼食のカレーの話。
朝のランニングの話。
いっぱい、ぽつぽつと・・・・
- 386 名前:二度目のはじめまして 投稿日:2003/11/10(月) 13:32
- 分かってる。
距離は一歩も縮まってない。
お互いに共通の話題で、相手を探っているだけだ。
私よりも、あさ美ちゃんの方が、その気持ちは強いだろう。
『意味もなく突然尋ねて来た』
そう思ってるみたいだ。
『あさ美ちゃんの方から気がついてもらう』
無理みたいだ。
- 387 名前:中断します 投稿日:2003/11/10(月) 13:33
- 続きはすぐに。
- 388 名前:本当の合格発表 投稿日:2003/11/11(火) 11:37
- 「何で・・・・モーニング娘。になろうと思ったのか、聞いてもいいかな?」
「・・・・・うん・・・・・なんか・・・・・楽しそうだったし・・・・・」
違う。
こんなことを聞きに来たんじゃない。
- 389 名前:本当の合格発表 投稿日:2003/11/11(火) 11:38
- 「今度のオーディションには応募しなかったの?」
「前回で分かったからね。私じゃ無理だよ」
そんなこと聞きたくない。
何で、そんな顔をするの?
私より綺麗な目で、綺麗な顔で、どうしてそんなことしか言わないの?
- 390 名前:本当の合格発表 投稿日:2003/11/11(火) 11:38
- 「じゃあ、諦めちゃったんだ」
- 391 名前:本当の合格発表 投稿日:2003/11/11(火) 11:38
- 「・・・・・何を・・・・・しに来たの?」
怒らせちゃったね。
無理もないね。
失敗した人に『次も頑張れ』なんて、余計なお世話だよね。
『失敗しても落ち込むな』なんて、馬鹿なことだよね。
それも、成功した奴になんて言われたくないよね。
分かるよ。
私だって大して変わらないから。
でも・・・・違うんだよ。
- 392 名前:本当の合格発表 投稿日:2003/11/11(火) 11:39
- 「あさ美ちゃんを連れに来た」
あさ美ちゃんは失敗なんかしてない。
成功したんだよ。
自分で頑張れたんだよ。
認めてもらったんだよ。
だから、連れに来た。
やっぱり、一緒に頑張りたいから。
だから、そんなこと考えなくてもいいんだよ。
胸を張っていいんだよ。
- 393 名前:本当の合格発表 投稿日:2003/11/11(火) 11:40
- 「あさ美ちゃんは、本当はモーニング娘。なんだよ。だから行こう」
「・・・・・本当って・・・・・見てたでしょ? 私は選ばれなかったんだよ」
「信じられないかもしれない。でも本当なんだ。選ばれたんだよ」
「選ばれた? 私が?
小川さんも、あの時いたでしょ? 知ってるでしょ?
それに、もしそうなら・・・・・何で、誰も何も言わないの?
それに、現実に、私がいなくてもちゃんとやってるじゃない!?」
「みんな忘れてるんだよ! なんでか分からないけど、そうなっちゃったんだ!
それに・・・・なんか変なんだ! あさ美ちゃんがいないからだよ!
戻ってくれなきゃ困るんだ!」
「・・・・・駄目だよ・・・・・だって・・・・・私は選ばれなかったから・・・・・」
「何で?」
「何でって・・・・・ほら・・・・・言ってたじゃない・・・・・『赤点』だって・・・・・」
見つけた。
- 394 名前:本当の合格発表 投稿日:2003/11/11(火) 11:41
- 「赤点?」
「そう。つんく♂さんに言われた。ダンスも歌も駄目だったって。結果は赤点だって」
「いつ言われたの?」
・・・・・
「その後、なんて言われた?」
・・・・・
「『努力するところを見てほしい』って言ったよね!
『見ていきたい』って言われたよね!
それで、あんなに頑張ったよね!
私、羨ましかったんだよ。
悔しかったんだよ。
それなのに・・・・辞めちゃうの? 諦めちゃうの!?」
- 395 名前:あなたと私の時 投稿日:2003/11/11(火) 11:42
- ────
─────────
──
─
- 396 名前:帰ろう 投稿日:2003/11/11(火) 11:43
- 「あさ美ちゃん・・・・もう大丈夫だよね・・・・思い出したよね」
「けど・・・・・どうやって・・・・・」
私は笑顔になった。
あさ美ちゃんに言おうと思ってたこと。
この顔で言おうと思ってたこと。
「大丈夫。当たり前のように戻ってくればいいよ。みんな待ってるから」
- 397 名前:代償 投稿日:2003/11/11(火) 11:44
- 私はその日はあさ美ちゃんの家に泊まって、一日潰してみんなと合流した。
大人のみなさんには、これでもかというほど怒られた。
- 398 名前:代償 投稿日:2003/11/11(火) 11:44
- 「じゃあ、早く、みんなにも謝ってこい!!!!」
楽屋にはみんな揃っていた。
結局、私がとばした分の収録は、今日に延期になっていた。
「小川、私達は、今、大事な時だってこと分かる?」
普段は穏健な保田さんも、今回ばかりは、かなり怒っていた。
「すいません」
「十分反省すること!!」
飯田さんの締めの言葉で、元通りの楽屋になった。
- 399 名前:出合う世界 投稿日:2003/11/11(火) 11:46
- 「おはようございます」
ドアが再び開いた。
「あさ美ちゃん、おはよう」
声をかけたのは、私一人。
みんな呆気に取られたような顔をしている。
- 400 名前:出合う世界 投稿日:2003/11/11(火) 11:46
- 「誰?」
飯田さんが口の形だけで私に言った。
「あさ美ちゃんですよ」
世界に一瞬、ノイズが走った。
- 401 名前:出合う世界 投稿日:2003/11/11(火) 11:47
- 「小川の・友・・だ・・・ち・・・・?」
保田さんの声は途中で途切れながら聞こえた。
「モーニング娘。のメンバーです」
「ま・・こ───っちゃ・・・・んが連・・れてき・・──たの?」
その声の主は愛ちゃんだったのか、里沙ちゃんだったのか。
顔も姿も潰れ、景色は形を維持できず、全ての色が混ざっていった。
乱暴にかき回された世界は、スピードを上げて遠ざかっていった。
- 402 名前:はじまりの楽屋 投稿日:2003/11/11(火) 11:48
- 私の目に映ったものは、楽屋だった。
そして、誰もいない。
時間も流れない。
『静止画像に自分が溶け込んだ』
そんな感じだった。
ただ一人、正面には安倍さんが座っていた。
- 403 名前:はじまりの楽屋 投稿日:2003/11/11(火) 11:49
- 「まったく、無茶するね・・・・まさか、紺野を連れてくるなんて」
「そうしないと、元には戻らないと思いましたから」
- 404 名前:はじまりの楽屋 投稿日:2003/11/11(火) 11:49
- 「元にね・・・・それにしたってさ!!
普通の人間に二つ分の世界を詰め込もうとするなんて、危険すぎるよ!」
「あさ美ちゃんは分かってくれました」
「一人一人ならいいよ。
紺野一人だったらそれでもいい。
でも、これだけの人間をいっぺんにだよ!
そんなことしたら、そのエネルギーがどれほどのものになるか考えなかったの?
危うく、世界がショートするところだったよ。
やるなら、一人一人説得しないと・・・・」
「無理です。上手くみんなを誘導するのは、安倍さんの方が巧妙ですからね。
私はこうやって、一気にひっくり返すしかなかったんです」
「・・・・まあいいや・・・・
それより、早く決めてあげないと。
世界が形をとれないで、困ってるから」
安倍さんは私に、目の前の椅子を勧めた。
- 405 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:51
- 「安倍さんが始めたんですね」
「それは違うよ。
私は超能力者でも、宇宙人でも、超文明の生き残りでもない。
小川と同じ、普通の人間」
「じゃあ、これはどういうことなんですか?」
「たまたまみたいだよ。
はっきりしたことは分からない。
というより、分かる人なんていないだろうね。
偶然だと思う。
どんなにありえないことでも、嘘みたいな確率で起こることってあるでしょ?
その一つじゃないかなって思ってる」
- 406 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:51
- そんなことはどうでもいい。
「分かりました。でも、変えようとしたことは確信犯ですね。何でそんなことを?」
私は許せなかった。
『すべてが誰か一人の都合によって』
そんなふうに決められるのは、絶対に許せない。
私達のことは、私達が決めるんだ。
- 407 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:52
- でも、安倍さんの表情はまったく違った。
首謀者という感じがしない。
私を見下すこともなく、本当にいつもの安倍さんで、一人の人間だった。
- 408 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:53
- 「違うよ小川。
私はいつもの通りだったんだよ。
『モーニング娘。が今より良くなってほしい』って・・・・
いつもの通りにそう思っただけ。
良くなれば、それでいいと思っただけだよ。
みんなと一緒でもっと良くなるなら、それでもいい。
でも、同じように、誰かがいなくなることで良くなるなら、それでもいい。
小川でも、圭織でも、矢口でも、圭ちゃんでもね。
それが紺野だった。
私は何でもよかった。
だから、紺野だからって拒むこともない」
「そんなの・・・・分からないですよ! みんなでモーニング娘。じゃないですか!」
「そう・・・・『みんなで』だよ」
- 409 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:53
- 安倍さん?
・・・・安倍さん・・・・
「・・・・私は・・・・違います・・・・」
「違わないんだよ、小川。私も、最近やっと分かったんだ」
違うよ・・・・そんなことない!!!!
「みんなの意思だったんだよ」
- 410 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:54
- 「小川の思ってるような誘導なんてしてない。なっちがそんなに頭いいわけないよ」
安倍さんは少し笑った。
「私も悲しかったんだよ。
『できるならみんなで』って思ってた。
信じてくれないだろうけど、なっちだってみんながいいに決まってるよ。
でも、いい子ぶるつもりはない。
確かに、私は排除を選んだ」
- 411 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:54
- 安倍さんは一呼吸置いた。
「でも、それって、みんなが望んだことでもあったんだよ」
- 412 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:55
- ・・何となく覚えてる・・
・・話したことあるけど、それだけ・・
・・十二人・・
・・全員・・
- 413 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:55
- みんなも、私も、それがよかったの?
- 414 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:55
- 「・・・・紺野自身もだよ。たぶん・・・・」
- 415 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:56
- ・・選ばれなかった・・
・・無理だよ・・
・・赤点・・
- 416 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:56
- なんだ。
あさ美ちゃん、やっぱりそうだったんだ。
私にも、本当のこと言ってくれなかったんだね。
あっちの世界のいつも頑張ってたのは嘘で、こっちの臆病なのが本当だったんだね。
頑張るとか、思い出してくれたってのも嘘で、私のこと信じてなかったんだね。
- 417 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:57
- 「なっち、嬉しかったよ。
小川が本当に『紺野のことを必要だ』って言ってくれて。
一人でもそんな人がいてくれたこと、すごく嬉しかった。
でも、この世界は、みんなが選んだことなんだよ」
「そう・・・・なんですか?」
「そうだよ。
だから・・・・いつか思えるよ・・・・
最初の世界の方が幻だったって。
あっちのモーニング娘。は、不完全だったんだよ」
「・・・・そう・・・・かも・・・・知れないですね」
「つらいけどね。
でも、精いっぱい頑張れる形を、みんな求めてたんだよ。
それがこの世界なんだよ」
- 418 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 11:58
- はい
「紺野は、きっと大丈夫だよ・・・・」
駄目だ・・・・嘘っぽいねって、安倍さんは笑った。
- 419 名前:天地創造の手順 投稿日:2003/11/11(火) 12:02
- 「『あんただってこれを望んだんだろ!』って思ったでしょ?
いいよ。
それは嘘じゃないから。
それがなっち一人の考えだったら、ただの我儘だし、諦める」
あさ美ちゃん
「でも、みんなそうだった」
あさ美ちゃん
「でも、誤解しないで。
誰も紺野が必要ないなんて思ってない。
よりよいものを求めただけ。
それがこうだったってだけのこと。
いらないのはなっちだったかもしれないし、みんなだったかもしれない」
あさ美ちゃん
「きっと上手くやっていけるよ。
そう信じよう。
そうして、前に行こう。
みんなでだよ。
もちろん紺野も。
ただ・・・・違う方向になっちゃうけどね・・・・」
あさ美ちゃん
- 420 名前:昔のことになったこと 投稿日:2003/11/11(火) 12:03
- あさ美ちゃん。
そうなのかな?
あさ美ちゃんは、間違って入っちゃったのかな?
だから、モーニング娘。は上手くいかなくなっちゃったのかな?
- 421 名前:昔のことになったこと 投稿日:2003/11/11(火) 12:04
- 頑張ったよね、すごく。
楽しかったよ。
だから、つらくても、それでもいいって思ってた。
- 422 名前:昔のことになったこと 投稿日:2003/11/11(火) 12:04
- でも、それだけじゃ駄目だって。
みんな満足してくれないって。
だから、みんなでそれを望んでたんだって。
- 423 名前:昔のことになったこと 投稿日:2003/11/11(火) 12:05
- 悔しいよ。
あの時の四人じゃ駄目だってことだもんね。
すごく悔しい。
- 424 名前:昔のことになったこと 投稿日:2003/11/11(火) 12:05
- 何で・・・・どうして間違えちゃったんだろうね?
それなら、出会いたくなんてなかったよ。
初めから知らなければよかったよ。
- 425 名前:昔のことになったこと 投稿日:2003/11/11(火) 12:06
- 初めは丸かった顔も
すっきりして綺麗になった顔も
それでもまだ少し丸かった顔も
泣かなかった強さも
決めゼリフも
あさ美ちゃんしかできない歌もダンスも
そこにいたことも
そこにいることも間違いだったんだって。
- 426 名前:帰る場所は 投稿日:2003/11/11(火) 12:06
- 「小川、そろそろ元に戻るみたいだよ」
周りの世界が少しずつ形を取り戻してきた。
- 427 名前:帰る場所は 投稿日:2003/11/11(火) 12:06
- きっと、あさ美ちゃんは、私が望んだからいてくれたんだね。
新しく入る私の不安だった気持ちが、あさ美ちゃんを求めたんだね・・・・
- 428 名前:帰る場所は 投稿日:2003/11/11(火) 12:10
-
──────────いやです──────────
- 429 名前:帰る場所は 投稿日:2003/11/11(火) 12:10
- 動き出した世界に戻ろうとした安倍さんが、こっちを振り返った。
いつものように、少し笑って。
「私は望みました。
いてほしいって。
愛ちゃんも、里沙ちゃんも、同じはずです。
安倍さん達だって、新しく入ってくる私達を望んでくれたんじゃないんですか!
つんく♂さんだって、応援してくれる人だって、みんな望んでくれたはずです!!」
「小川・・・・みんなが望んだのは『新しい仲間』なんだ・・・・紺野じゃない」
「そんなの嫌です! そんなのおかしいよ!!」
- 430 名前:帰る場所は 投稿日:2003/11/11(火) 12:11
- 世界はもう一度形をとり始めた。
さっきのままで固まったみんなが、薄っすらと浮かび上がってきた。
あさ美ちゃん
私はあさ美ちゃんの影に近づいた。
「駄目だよ。あさ美ちゃん、私じゃ駄目なんだ。
『力になってあげる』って言ったけど、私じゃ無理なんだ。
どんなに望んだって駄目なんだ!」
目の前の影に、私はそう呟いた。
- 431 名前:帰る場所は 投稿日:2003/11/11(火) 12:12
- ゆっくりと血が通っていく。
髪の黒も、肌の白も、色を取り戻し始めた。
私は、誘われるように抱きしめた。
「あさ美ちゃんが望んでくれないと。
ここにいたいって、モーニング娘。やりたいって、努力するって、頑張るって!!!!
関係ないよ! 他のことは関係ない!!
それだけでいい。
それだけを──
- 432 名前:帰る場所は 投稿日:2003/11/11(火) 12:12
-
聞かせて欲しい
- 433 名前:帰る場所は 投稿日:2003/11/11(火) 12:13
- 大丈夫だよ
そう言って笑った顔を、最後に見たような気がした。
- 434 名前:辿り着いた部屋 投稿日:2003/11/11(火) 12:14
- いつもの楽屋。
相変わらず忙しい毎日。
そんな世界に、私は目を覚ました。
- 435 名前:辿り着いた部屋 投稿日:2003/11/11(火) 12:15
- 「小川、おはよ」
吉澤さんが一人だけ楽屋にいた。
私はテーブルに、腕を組んだ上に寝ていたらしい。
- 436 名前:辿り着いた部屋 投稿日:2003/11/11(火) 12:15
- みんなは?
「吉澤さん」
「んっ?」
肉まんに噛りついたまま、吉澤さんが振り返った。
- 437 名前:辿り着いた部屋 投稿日:2003/11/11(火) 12:15
- ゼスチャーで『少し待って』
全力で、口の中を掃除してるみたいだ。
「マネージャーさんが買ってきてくれたんだ。小川も、もらってくるといいよ」
「みんなは?」
吉澤さんは納得したようだった。
「ああ、それでか。だったら早く行かないと! みんな、すごい勢いで食べてたからね」
- 438 名前:辿り着いた私 投稿日:2003/11/11(火) 12:16
- 急いで楽屋を出た私は、会議室へ走った。
そこにみんなが・・・・
ホールを抜けて階段へ。
ホールには人はいない。
いや、一人だけ。
窓のそばに座っている人が。
- 439 名前:辿り着いた私 投稿日:2003/11/11(火) 12:17
- 「安倍さん・・・・」
「ああ、小川か・・・・」
安倍さんは、やっぱりいつもの通りに笑っていた。
「終わったね」
「じゃあ・・・・終わったんですか?」
「そうみたい」
「元に・・・・」
「うん。元に戻ったみたい」
- 440 名前:辿り着いた私 投稿日:2003/11/11(火) 12:17
- 安倍さんは、誰に話すでもなく続けた。
「結局、私達が何をしようと、関係なかったのかも知れないね。
私は勝手に変えた気になってさ、小川も自分で戻したって思ったでしょ?
でも、それも全部、私達とは関係なく、勝手にそうなっただけなのかもしれない」
「誰かの意思とかじゃなく・・・・ですか?」
安倍さんは笑った。
「あっ! やっぱりなっちがやったと思ってたな〜 あんなに言ったのに!!」
- 441 名前:辿り着いた私 投稿日:2003/11/11(火) 12:18
- 「私もびっくりしてたんだ。
気がついたら、あんな世界になってた。
で、それが、なっちが考えてた世界と、本当にそっくりだった。
だから、『ああ、なっちがやったんだ』って気分になったんだ。
でも、よく考えたら、それ以上どうにもならないし、どうすることもできなかった。
私が『もっと変えよう』と思っても、変わらなかったしね。
最初からあの世界はなっちと関係なく、独り歩きしてた。
そりゃそうだよね・・・・私は、そんなに頭よくないしね」
安倍さんは続ける。
- 442 名前:辿り着いた私 投稿日:2003/11/11(火) 12:19
- 「そう・・・・ゴムみたいなものだったのかも。
どんなにねじっても、手を離したら戻っちゃう。
ただ『ねじった箇所が見えた二人だけが騒いでた』ってだけなのかもね」
「・・・・そうですね・・・・
それに、私達がやらなきゃいけないことは、形を変えることじゃないと思います。
形を創ることなんじゃないかって思うんです。
それより先は、私達には手が届かないことだし、考えてもしょうがないんだと思います」
安倍さんの笑顔が消えた。
- 443 名前:辿り着いた私 投稿日:2003/11/11(火) 12:20
- 「分かってる・・・・分かってたはずなんだよね・・・・
それでも認めてほしくて、少しでいいから見返りがほしくて・・・・ね・・・・
失敗するものだって、上手くばかりはいかないものだって。
分かってたはずなんだ!
でも、分かってても、そんなの嫌で・・・・」
こんなに苦しそうに、搾り出すように話している。
そうじゃないと言葉にできない。
そんな思いだってあるんだな。
- 444 名前:辿り着いた私 投稿日:2003/11/11(火) 12:21
- 「私にはモーニング娘。が一番大事。
だから、今のこの形がモーニング娘。なら、それでいい。
全力を尽くすよ。
紺野のことも大丈夫。
これからも、きっと、上手くやっていけるよ!
それが、私が望んだことだからね!
ただ・・・・私は弱いから・・・・あの世界を惜しいって思うこと・・・・許してね・・・・」
安倍さんは強いですよ。
- 445 名前:辿り着いた私 投稿日:2003/11/11(火) 12:21
- 「あんなふうにしかモーニング娘。を見てなかった・・・・
でも、それでも一人は嫌で・・・・
みんなも同じように考えてくれてたらいいって・・・・
それで、勝手にあんな話をして・・・・
『みんなもそう思ってる』って・・・・」
本当に。
- 446 名前:辿り着いた私 投稿日:2003/11/11(火) 12:23
- 「小川がいてくれてよかったよ。
そうじゃなかったら、私、きっと、止まれなかったと思うから。
『みんな』だもんね!
違って当然だもんね!
小川の『他の人は関係ない! 自分がやりたいって思わなきゃ!』ってセリフ・・・・
かっこよかったよ!」
私じゃ敵わないよ。
- 447 名前:辿り着いた私 投稿日:2003/11/11(火) 12:23
- 「会議室でしょ。早く会ってきなよ」
私はもう一度走り出した。
- 448 名前:赤点と肉まん 投稿日:2003/11/11(火) 12:24
- 「あさ美ちゃん!!」
「ふ?」
ドアを開けた正面に、口いっぱいに肉まんを詰め込んだあさ美ちゃんがいた。
感動の再会なんかじゃない。
本当に、当たり前のように、そこにいた。
- 449 名前:赤点と肉まん 投稿日:2003/11/11(火) 12:25
- 「まこっちゃん〜 どうしたの〜〜 なかないで〜〜〜」
うつむいて目を力一杯こすっている私に、加護さんの声が聞こえてきた。
「大丈夫。ちゃんとまこっちゃんの分も、とっておいてあるよ」
里沙ちゃんの笑顔の隣には肉まんがあった。
「最後のピザまんは、あさ美ちゃんが食べちゃったけどね」
愛ちゃんはピザの匂いがした。
- 450 名前:赤点と肉まん 投稿日:2003/11/11(火) 12:25
- 「ごめん・・・・・起こそうとしたんだけどさ・・・・・気持ちよさそうに寝てるから・・・・・」
あさ美ちゃんはそう言った。
- 451 名前:いちばんのつぎ 投稿日:2003/11/11(火) 12:26
- それでいいよ。
おいしいものの次でいい。
だからさ、そばにいてよ。
それでさ、もっと頑張ろう。
自分でやりたいって、あの時選んだことだもんね。
- 452 名前:いちばん 投稿日:2003/11/11(火) 12:27
- だからさ
それまでは
もっといっしょにいよう
- 453 名前:未熟なグループ 投稿日:2003/11/11(火) 12:29
-
主演 小川麻琴
- 454 名前:第三話終了 投稿日:2003/11/11(火) 12:33
- 終わりました。
読んでもらえると幸いです。
次でラストの予定です。
- 455 名前:第四話 投稿日:2003/11/11(火) 12:36
-
川o・-・) 最後は、私です。
- 456 名前:いも 投稿日:2003/11/14(金) 12:30
-
いつかの話
- 457 名前:時間 投稿日:2003/11/14(金) 12:31
-
─
──
────
────────
- 458 名前:記憶 投稿日:2003/11/14(金) 12:32
-
少し昔のことを思い出していた。
- 459 名前:帰郷 投稿日:2003/11/14(金) 12:32
- 空港に着いた時も、電車に乗ってからも、雪の積もった景色は変わらない。
真っ白。
それはいつもの北海道の色で、本当に変わらなくて、すごく嫌いだった。
- 460 名前:帰郷 投稿日:2003/11/14(金) 12:33
- そういえば、出発する時、雪はなくて、たくさんの色があった。
『出発する最後の日に、そんな景色になった』
それがすごく特別なことに思えて、嬉しかった。
『本当に離れられる』
そんなことを考えていたっけ・・・・
- 461 名前:帰郷 投稿日:2003/11/14(金) 12:33
- 私は、帰ってくる季節を選べなかった。
窓の外を流れる景色は、いつまで見ていても変わらない。
本当に真っ白だった。
白が私の視界を流れていく。
それを私は、何も感じることなく、頭の中に映し続けていた。
- 462 名前:帰郷 投稿日:2003/11/14(金) 12:34
- 車内に視線を戻す。
鈍行列車は人が疎らで、ぽつりぽつりと席が埋まっていた。
昼間を過ぎた、ちょうど隙間の時間。
それなのに、しつこいくらいに雪が降っていた。
わずかな日の光が雪に反射する。
そのせいで明るいだけの陽だった。
- 463 名前:帰郷 投稿日:2003/11/14(金) 12:34
- 大きいといっても、連れて歩けるくらいのトランク。
足元に、抱えるようにして置いてある。
そして、もう家に着いているはずの、ダンボール何個かにまとめた荷物。
私が東京で得たもののすべてだ。
ようやく、ひとつ前の駅に着いた。
そして、外の冷たい空気が乗り込むと、電車はドアを閉め、ゆっくりと走り出した。
- 464 名前:帰郷 投稿日:2003/11/14(金) 12:35
- 駅に降りると、降りた人と待っている人が一瞬入り混じる。
そして、そのすべての人の吐く息が、白く変わった。
平日のこんな時間なのに、駅にはけっこうな人がいた。
そういえば、この駅は、人の出入りが多かったな・・・・
もう・・・・本当に・・・・すごく昔のことのように思い出していた。
- 465 名前:帰郷 投稿日:2003/11/14(金) 12:35
- 降りた私とすれ違いに、たくさんの人が乗り込む。
そして、この駅で降りた人は、外気の寒さに触れ、足早に歩き始める。
私は、少し取り残されていた。
体に積もる雪は、私の温かさに負け、融けていった。
- 466 名前:帰郷 投稿日:2003/11/14(金) 12:35
- 改札に向かうと、その向こうの駅の入り口に、手を振る人が見えた。
こんな場面は御免だと、ずっと思っていた。
恥ずかしくて、情けなくて、かっこわるくて・・・・
でも、知らせないわけにはいかない。
だから私は、いつものように、平気なふりをして歩いていく。
「お帰りなさい」
お母さんはいつもの通りに迎えてくれた。
それがすごく嫌だった。
- 467 名前:帰郷 投稿日:2003/11/14(金) 12:36
- 少し歩いた場所に車が止めてある。
本当なら、駐車禁止の場所だ。
運転席にはお父さんが見えた。
まるで、出発する時のリプレイのようだ。
もし、あの時のまま時間が止まっていたなら、出発する前に戻ったのなら・・・・
私はどうしていただろう?
それでも振り切って、東京に行ったかなあ・・・・
- 468 名前:帰郷 投稿日:2003/11/14(金) 12:36
- 行っただろうね。
こうなることなんて、分からなかったからね。
それなら、今のまま、あの時に戻ったら?
私はすごく意地悪な質問を自分にしてみた。
答えが分かってる、残酷な質問。
- 469 名前:ドライブ 投稿日:2003/11/14(金) 12:38
- 「荷物は届いたよ」
「そう」
私は後ろの席で、窓の外を見たまま答えた。
「部屋も掃除しといたから、そのまま使えるよ」
「分かった」
仕方がない。
どんなに避けようとしたって、私はここで生活しなきゃいけないんだから。
でも、少しでも目を逸らせるのならば・・・・
そんなことを考えていた。
- 470 名前:ドライブ 投稿日:2003/11/14(金) 12:38
- 「仕事の方はいつから始まるんだっけ?」
「明後日から」
なるべく抑揚をつけないように話す。
なんでそんなことをするの?
分からないけど・・・・感情を殺したいから。
そうでもしないと、私はここに居ることもできないから。
- 471 名前:ドライブ 投稿日:2003/11/14(金) 12:38
- 「・・・・準備はできてるのか?」
お父さんだ。
何か話さないといけないと感じたのだろうか?
「できてるよ」
やることはきちんと済ませておいた。
余計な手間はかけさせたくない。
親孝行という意味じゃなく、かまってほしくないからだ。
- 472 名前:若さ 投稿日:2003/11/14(金) 12:39
- 自分にはしたいことがある。
そんなふうに意識したのは、いつのことだったか。
そして何となく、踏み出してみることにした。
- 473 名前:若さ 投稿日:2003/11/14(金) 12:39
- 幸運にも、それが叶うことになった。
私は東京に行った。
そこで頑張るために。
楽しいことはたくさんあった。
自分なりに、精いっぱい頑張った。
でも、終わりが来るなんて、思ってもみなかった。
- 474 名前:若さ 投稿日:2003/11/14(金) 12:40
- 本当は・・・・少し分かっていたのかもしれない。
必要とされなくなった私が居る場所は、そこにはなかった。
そう。
だから、分かりたくなかったのかもしれない。
でも、分からないふりをしてみても、やっぱりそれは辛いことだった。
本当に、どうしようもないくらい。
無視なんてできないくらいに。
- 475 名前:若さ 投稿日:2003/11/14(金) 12:41
- 絶対に帰らないと言ったことはない。
だから、二人とも何も言わないのだ。
昔のように私が帰ってきただけだと思ってる。
札幌で就職も決めて、本当に昔の通りになると思っているんだろう。
私がどんなに情けなく思っているのかも知らずに。
車は赤信号にうまく引っかからず、思ったより早く家に着きそうだ。
- 476 名前:二人の自分 投稿日:2003/11/14(金) 12:42
- 家に着くと、早速、自分の部屋に入る。
ずっと見慣れていた部屋も、すごく懐かしく感じた。
東京に行ってからも、まったくこっちに帰ってこなかったわけじゃない。
そして、帰ってくる度に、自分の部屋を使っていた。
それなのに、まるで知らない人の部屋のように感じた。
- 477 名前:二人の自分 投稿日:2003/11/14(金) 12:43
- その時は、東京が自分の部屋だと思っていたから。
でも、これからは、ここが自分の住む場所だ。
そんなふうにこの部屋を見るのは久しぶりだから。
だから、懐かしく感じたのかな・・・・
- 478 名前:二人の自分 投稿日:2003/11/14(金) 12:43
- 綺麗に掃除されて、まるで生活感のない部屋。
当たり前だけど、この部屋には、時間しか住んでいなかったから。
机の上には、あの頃使っていたシャープペンが、鉛筆立てにそのまま残っている。
まだ残っていたノートには、もう書くことのできない文字がある。
所々に昔の自分が顔を出してくる。
それは、今の私の気持ちとは関係なく、少しうきうきするような、そんな気分にさせる。
残酷だと分かっていても。
- 479 名前:二人の自分 投稿日:2003/11/14(金) 12:43
- 部屋に積まれているダンボールに手をかける。
とりあえず、明日の入社式に持っていく書類が入っているはずだ。
そのダンボールには、書類と一緒に、本やCDが入っている。
そこには、東京にいた自分がいた。
そして、この部屋には昔の自分がいる。
そして、それを見せつけられる今の私。
こんな形で出会うなんてね。
どうやって理解すればいい? 納得すればいい?
- 480 名前:仕事と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:44
- 「・・・・じゃあ、頼んだよ」
「はい」
私の第二の職場は、出版関係の会社だった。
その事務職に配属された。
渡された資料は、搬入済みの書籍のリストと、追加注文のリストだ。
これをまとめるのが今日の仕事。
そこには、仕事でなければ決して目にしない文字と数字が並んでいた。
それを私は、手際よくまとめる。
- 481 名前:仕事と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:45
- 「分からないところがあれば聞いてね」
私の隣の席は、二年先輩の女性社員だ。
気軽に話し掛けてくれる、優しそうな人だった。
「はい」
私は仕事に没頭していった。
- 482 名前:仕事と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:45
- 「そんなに気にしなくていいよ」
まさか自分がお酒を飲めるようになるなんて、あの頃は考えもしなかった。
「新入社員には、ああやってビビらすのが手なんだから」
今日は、上司にこっぴどく怒鳴られた。
そして仕事帰りに、こうして先輩に誘われた。
先輩のよく行く飲み屋らしい。
「はい、頑張ります」
素直な新入社員が、そこには居た。
- 483 名前:仕事と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:45
- 実は、そんなに落ち込んでなんかいない。
いや、何も感じていなかった。
よく分からないからだ。
ここにいるのは、本物の自分なのかどうか。
- 484 名前:仕事と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:46
- もちろん、仕事をうまくできなかったことについては、反省してる。
逆に、うまくいったことは、素直に嬉しい。
でも、それって何なんだろう?
どっちに転んだって、今の状況に納得していない自分が居る。
じゃあ、何ができたって、何ができなくったって・・・・
- 485 名前:仕事と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:46
- 「ほら、まだ肩に力が入ってるよ。
そんな完璧にできる人間なんていないんだからさ、もっと力を抜いて!」
『完璧』
・・・・か・・・・
今の自分には遠すぎる言葉だった。
- 486 名前:家族と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:47
- 「そんな大事なこと、どうして黙ってたの!」
「別に、いちいち報告しなきゃいけないようなことじゃないでしょ?」
興奮する母親に対して、私はいつものように静かに話した。
「そんなんじゃ、いつまでたっても、私はお母さんの言いなりだから」
「報告しなかったことを怒ってるんじゃないの!
自分で決めたことだったら、反対なんてしないわよ!
そうしたいんだったらそうで、何で相談してくれないの!!」
「相談したらどうするの? どうなるの?
そうしたら、また余計な手出しするんでしょ? それが言いなりじゃなくて何なの?」
母は言葉を失った。
- 487 名前:家族と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:48
- 「いいかげんにしろ!」
今度は父だ。
昔は、こうやって怒鳴られることが、恐くてたまらなかった。
「いいかげんにしてほしいのは私の方だよ。
私はもう大人だよ。
自分一人で生活していける。
干渉されるのなんて、余計なお世話だよ」
冷静というのを通り越して、完全に見下していた。
「自立か・・・・
ただ食べていけるだけで一人前気取りか。
心配してくれる人の気持ちを、分かっていながら無視する奴が大人気取りか!!」
- 488 名前:家族と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:49
- 五月蝿い。
「分かっていながら?
二人の考えてることなんて分からないって言ってるでしょ。
自分を勝手に親切だと思い込んで、私に押し付けてるだけで──
「分からないなら、お前は大人でも子供でもない! ただの馬鹿だ!!」
私は席を立つと、真っ直ぐ自分の部屋に向かった。
ドアを力いっぱい閉める。
机の上の辞書を掴むと、思いっきり壁に叩きつけた。
私は冷静を装い通すことも、両親にぶつかっていくこともできなかった。
- 489 名前:一人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:49
- 「・・・ただいま・・・」
呟いて靴を脱ぐ。
自分で灯りをつける。
蛍光灯に照らされた部屋は、一応明るくはなった。
しかし、その明るさは嘘だと思う。
黒い絵の具の上にどんなに白を足したところで、白にはならないように。
自分でしなければ、何も起こらない。
そんな新しい自分の家にも慣れてきた。
両親には結局、何も言ってこなかった。
- 490 名前:一人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:50
- 休日は、いつものように本を読む。
寝転がりながらでは寝てしまうので、新しく座椅子を買ってきた。
どこまでも深くもたれながら、目で字を追った。
昔はそんなに好きじゃなかったけど、今では、特にすることがない時なんかはこうする。
その代わり、あんまり音楽を聴かなくなった。
- 491 名前:一人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:50
- 自分で言うのもなんだけど、けっこう綺麗好きでしっかりしてる。
一人暮らしといっても、特に不便や不自由を感じない。
それに、通勤時間が短くなった分、仕事に打ち込めるようになった。
生活や孤独という意味では、本当に不満なんかないし、満足している。
- 492 名前:一人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:50
- じゃあ、不満に思うところは?
自由な時間にしたいと思うことが、自分にはほとんどなかったこと。
あと『何か足りない』『このままじゃ駄目だ』って、なぜかいつも思ってしまうこと。
どちらも自分が原因だった。
一人暮らしのせいじゃない。
- 493 名前:一人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:51
- 元を辿れば、そんな自分が嫌で一人暮らしを始めたはず。
でも、そんなことをしたところで、変わりはしなかった。
分かってたんだ。
こうなることは。
- 494 名前:一人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:51
- でも、何かやってなきゃ駄目なんだ。
そうしないと、本当に、こんな自分が本当の自分になってしまいそうで。
馬鹿なもがき方でも、何かしていればそれでいいと思ったから。
そんなことのために、こんなことをしている。
そんなことのために、親と喧嘩して、怒って、逃げて・・・・
- 495 名前:大人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:52
- 「・・・・はい。分かりました。すぐに確認して、こちらから折り返し連絡します。
・・・・はい。失礼します」
電話を切り、主任に声をかける。
「問い合わせの在庫確認行ってきます」
書類を手にして立ち上がると、先輩が小さな声で話しかけてきた。
「もうすぐお昼だよ。そのまま抜け出してさ、御飯行かない?」
私もひそひそと返す。
「すぐに済みそうですから。さっさと終わらせてから行きます」
「じゃあ、食堂のいつもの席ね。奢ってあげる代わりに、先に食べてるよ。
今日、朝、食べ過ごしちゃってさ」
廊下を歩きながら、昼食に思いを巡らした。
- 496 名前:大人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:53
- 「あんまり心配かけちゃ駄目だよ」
月見うどんの後にコーヒーを飲みながら、先輩は話し始めた。
先輩に私の親から電話があったらしい。
今どこに住んでいるかとか、最近の様子とか・・・・
「私は、知っていることは話した。
これからも、聞かれたらなるべく話すようにする。
正直にね。
嫌だったら、自分で何とか解決することだね」
先輩は正しい。
- 497 名前:大人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:53
- 「・・・・はい・・・・でも・・・・今はどうしても、会ったり、話したりしたくないんです。
だから、しばらくは相手してやってください・・・・迷惑でしょうけど・・・・」
先輩はにっこり笑った。
「『迷惑ついでに』でしょ?
もう十分迷惑してるよ。
でも、あなたの気持ちは分かるな。
生きてれば、親が鬱陶しくなるのは当然だからね。
だから、私は、どっちの味方もしない。
ご両親には先輩として、あなたには先輩として、接していくつもり。
どっちにとっても『良い先輩』でね。
少し、調子よすぎるかな?」
本当にすごい人だ。
- 498 名前:大人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:54
- 「いえ・・・・自分で解決しなきゃいけないことだって分かってますから・・・・やってみます」
「そうだね。
こればっかりは、逃げるわけにもいかんからね」
経験者の余裕というやつだろう。
とても敵わない。
- 499 名前:大人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:54
- 「これは、本当にお節介になると思うけど・・・・」
先輩は説教してるみたいで、少し嫌そうな顔をした。
「あんまり心配かけちゃ駄目だよ」
「・・・・はい」
先輩は一言だけ私を責めた。
- 500 名前:大人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:55
- 結局、そうなんだ。
どんなに反発したところで、戻らなきゃいけないことってあるんだ。
好きになるんじゃない。
ただ、無意味に対立しててもしょうがないから。
特に、自分の方が理不尽だと分かっているから。
- 501 名前:大人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:55
- 『それだからむかつくんだよ』
それは正しい感情だと思ってる。
相手が正しいからこそ、腹が立つ。
その気持ちは、当然のものだと思う。
でも、そんな理不尽な怒りを受け止めてくれるのは、家族だから。
他の人には、絶対成立しない関係だ。
- 502 名前:大人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:55
- これは、親に甘えているということだ。
私は、それが嫌だと言った。
なら、正当じゃない喧嘩なんてしちゃいけない。
親にも、他の人と同じようにしなきゃいけない。
自分に都合のいいようにだけじゃいけないんだ。
- 503 名前:大人と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:56
- 覚悟しなきゃ。
一人でできるって胸を張りたいなら、これもできなきゃ駄目だ。
あれだけ偉そうに言ったんだから、できなきゃ駄目だ。
- 504 名前:親と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:56
- 「荷物を取りに来た」
やっぱり駄目だった。
言うのは簡単だけど、実際に目の前にしちゃうと、どうしても・・・・
それに、父のいない時間を、姑息にも狙っている自分。
母の返事も待たず、家にあがった。
- 505 名前:親と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:57
- 部屋に行き、荷物を整理し始める。
といっても、持っていくものなんてほとんどない。
ここに来る口実みたいなものだから、当然なんだけどね・・・・
それに、昔の自分も、東京の自分も、今の私には必要ないからだ。
- 506 名前:親と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:57
- 忘れたわけじゃない。
ただ、もう付き合いきれない。
どっちの私も、今の自分には邪魔だから。
それだけ。
- 507 名前:親と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:57
- 「それだけでいいの?」
いつの間にか、お母さんが部屋の入り口に立っていた。
「うん」
「他のものはどうするの?」
「捨てていい」
「全部?」
「ん」
- 508 名前:親と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:58
- 荷物は、持ってきた大きな手提げの半分にもならなかった。
「これ・・・・住所と電話番号」
私は、それだけを書いたメモを、机の上に置いた。
- 509 名前:親と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:58
- 「会社・・・・仕事はどうなの?」
「まあまあかな。一応ちゃんとやってるよ」
「部屋は開けとくね」
「いいよ。物置にしていい」
「帰ってくるつもりはないの?」
「今は分からない」
「分かった」
「・・・じゃあ」
- 510 名前:親と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:59
- 部屋に帰った自分は、やっぱり元のままの自分だった。
一人暮らしの部屋のものは、誰一人として私を迎えてはくれなかった。
持ってきた荷物は、そのまま出すこともない。
『一人前』
それってどういう意味なんだろう?
お父さん・・・・そういえば、そんなこと言ってたな・・・・
私には分からないよ。
- 511 名前:親と私 投稿日:2003/11/14(金) 12:59
- これで・・・・いいわけないよね。
でも・・・・いいよね?
大目に見てもらえるかな?
恥ずかしくて一人前だなんて言えない。
けど、スタートダッシュに失敗した短距離走者ぐらいにはなれたよね?
どんな結果でも、棄権でも、記録に残るぐらいの存在にはなれたよね?
- 512 名前:君と私 投稿日:2003/11/14(金) 13:00
- 「それじゃあ、確かに」
「はい。では、これからも宜しくお願いします」
今日は昼から系列店に挨拶に来ている。
仕事に慣れてきただけでなく、少しずつ信頼されてきたということかもしれない。
さて、今日はこれで終りだ。
しばらくぶらついてから、終業前に帰ればいい。
- 513 名前:君と私 投稿日:2003/11/14(金) 13:00
- 「・・・・すいません」
驚いて後ろを振り返る。
コートを着込んだ男性だ。
少し長めの髪を持て余していて、男性であるということ以外に特徴のない顔をしていた。
私以上に小さな声でボソッと喋るのが、特徴といえば特徴だろうか。
- 514 名前:君と私 投稿日:2003/11/14(金) 13:01
- 「・・・・はい」
「あの、経営の本ってどこにありますかね?」
『それぐらい自分で探せよ』
心の中で呟く。
それに、私はここの店員じゃないんだけど・・・・
しかし、そんなことを言うわけにはいかない。
「実用書でしたら・・・・」
私の立っている二つ後の列だ。
「こちらです」
- 515 名前:君と私 投稿日:2003/11/14(金) 13:01
- 何も言わずに、必死に探している。
後ろ姿からでもその顔が想像できるようだ。
少しでも売上に貢献しておくべきかな・・・・
「どのような本をお探しですか?」
「・・・・店をやろうと思うんですよ。でも、なんにも知らなくて・・・・
だから、いちばん簡単で、最低限知ってなきゃいけないことが載ってるやつが・・・・」
- 516 名前:感情の理論 投稿日:2003/11/14(金) 13:02
- 偶然とか、何となくとか、その時の雰囲気とか、気分とか・・・・
そういうのを理論化して、解明できたら、きっと、人類史上最大の発見だろう。
- 517 名前:設問 投稿日:2003/11/14(金) 13:02
- もしあなたが『二人っきりで、どこに行きたい』と相手に聞いたとします。
相手は『映画でも』と答えました。
どう思いますか?
私は『そのまんまだなあ』と思いました。
といっても、私が聞かれたなら、同じようにしか答えられなかっただろうけど。
- 518 名前:二人の声 投稿日:2003/11/14(金) 13:04
- 普通に待ち合わせをして、普通にデートをした。
そんなことをしたこともない私は、ほとんど、全部、うわのそらだった。
嬉しいとか、どきどきしたとか、そういうことではない。
相手には悪いけど。
『知らない人と一緒にいると疲れる』というのによく似ている。
そんな気分だった。
- 519 名前:二人の声 投稿日:2003/11/14(金) 13:05
- 優しい人ならたくさんいる。
ほとんどの人がそうなのかな・・・・
理由がない限り、人間は、そんなに残酷にも攻撃的にもならないものだから。
それなら、誰でもいいってことなのかもしれない。
自分がしっかり相手に合わせてあげるつもりになれば、それで大概うまくいく。
その中でも選んでしまうのは、きっと、自分勝手だから。
その条件は、人によって様々なものです。
- 520 名前:二人の声 投稿日:2003/11/14(金) 13:05
- 「どうでしたか?」
まいったな・・・・
そう聞かれるとつらいんだよな。
正直に言って、あんまり面白くなかったから。
相手から『こうだったね』と言ってくれれば、こっちとしても楽なんだけど。
『おもしろかった』でも『つまらなかった』でも、私が合わせることができるから。
- 521 名前:二人の声 投稿日:2003/11/14(金) 13:06
- 「・・・・うん・・・・動機が少し弱い気がした・・・・かな・・・・
人を殺すって、よっぽどのことですよね?
それを、あんな理由だけで決めちゃえるものなのかなって・・・・」
彼は答える。
「『殺したい』って言うのは、そんなに特別ことじゃないと思うな。
誰かを好きになるのと同じくらい、頻繁に頭の中を過ぎったりするもんだと思う。
そんなふうにさ、人間の中って、いろんなものが常にあると思う。
その中から自分がどれを選ぶかってことだと思うな。
主人公にとっては、あの些細なことが十分引き金になった。
その人にとって何が大事かなんて、結局のところ分からないから」
- 522 名前:二人の声 投稿日:2003/11/14(金) 13:06
- 平気で分からないと結論を出す。
そんな人だった。
私とは合わない人だった。
望んだ答えをくれたわけでもない。
かといって、私をひっくり返らせるようなすごい答えというわけでもない。
そして、彼も私の考えを求めてはいない。
ただ、お互いに自分の考えを話しただけだ。
- 523 名前:二人の声 投稿日:2003/11/14(金) 13:07
- でも、私はそうすることに決めた。
ただ私の話を聞いてくれて、それに答えてくれる。
彼なりの考え方で。
そうしてくれる限り、そばに居られる。
そう思うから。
- 524 名前:中断 投稿日:2003/11/14(金) 13:09
- 今日はここまでです。
もう少しですね。
- 525 名前:縮まらないもの 投稿日:2003/11/15(土) 11:20
- 「俺さ、自分で商売やりたいんだよ」
この言葉を聞くのは、何回目だろう。
付き合いだしてから、会う度に同じことを言っているし、私も同じように聞いている。
とくに、今日みたいに、外で食事している時なんか。
しかも、お酒が少し入っている。
覚悟はしていたよ。
- 526 名前:縮まらないもの 投稿日:2003/11/15(土) 11:20
- 自分から動くことは簡単じゃない。
それで成功するなんて、さらに難しい。
私はもう、言葉だけを純粋に信じることなんてできない。
願っても叶わないことなんて、山ほどあるのだから。
そして、彼がそれに含まれていないと言い切ることなんて、できないから。
- 527 名前:縮まらないもの 投稿日:2003/11/15(土) 11:22
- 彼は彼なりに勉強をしているみたいだ。
でも、はっきり言って、上手くいくかどうかなんて分からない。
もっとはっきり言うと、考え方が甘いし、たぶん駄目なのかもしれない。
でも、それなら、何で一緒に居るんだろう?
この先どうするつもりなんだろう?
自分でも分からない。
- 528 名前:ばらばらの出来事 投稿日:2003/11/15(土) 11:25
- 「私ね・・・・東京に行ってたことがあるんだ・・・・やりたいことをするために・・・・
でも、結局駄目だったよ。
だから、私は抜け殻なんだ。
大切なものが抜け落ちちゃったんだ。
これから先も、そんなふうに考えて、そういうふうにしか生きていけないと思うんだ」
『だから別れよう』
それは言葉にできなかった。
恐すぎて。
そして、臆病すぎる私には。
- 529 名前:ばらばらの出来事 投稿日:2003/11/15(土) 11:28
- 彼は少し考えると、いつものようにゆっくりと話した。
「俺もそうだよ。昔、行ってた。
東京行って、もっといろんなことができると思ってた。
でも駄目だった。
落ち込んだね、さすがに。
それに、やっぱり、誰でも同じなんだな・・・・
そうなると、すごく居づらくなる。
ここに居ちゃいけないんじゃないかって思うようになった。
それで帰ってきたんだ。
足掻いたよ・・・・たくさん。
でも、貧乏と、自由時間がないのと、体力的にきついってだけだけどね。
それから・・・・大事だって思ってたことがなくたって、死なないもんだって思った。
死ねないのかな・・・・そう簡単に・・・・
だったら、自分が変わっていかないといけないと思った。
それが負けたってことなんだろうな。
『結局、諦めたんだろ』って言われたら、返す言葉ないしな。
でも・・・・いいだろ? そう思うしかないだろ?
ちゃんと生きてやろうって思った。
そうしたらやりたいことも見つかって・・・・なんとかなるもんだよな」
- 530 名前:ばらばらの出来事 投稿日:2003/11/15(土) 11:29
- 彼の顔は変わらない。
なら、変わったのは、きっと私の方だ。
距離が近付いた日。
- 531 名前:ばらばらの出来事 投稿日:2003/11/15(土) 11:32
- 「だから、今までずっと言ってきただろ! 今がチャンスなんだよ!」
「そんな夢みたいな話、いつまで言ってるの!!」
絶対にならないと思っていた、頭の固い人間に、私はなっていた。
「よく考えてよ。それが失敗したら、これからどうするの? 一緒に居れなくなるんだよ」
そう言っておけば諦めるだろうという打算。
驚くほど保守的だった自分。
「分かってるよ! でも、少しでも自分のやりたいことがないと・・・・」
- 532 名前:ばらばらの出来事 投稿日:2003/11/15(土) 11:35
- イラつく。
理由は分かっている。
自分がなくしたものを持っている人間だからだ。
しかも、自分の一番近くにいる人間が。
嫉妬してる。
- 533 名前:ばらばらの出来事 投稿日:2003/11/15(土) 11:37
- 「したいこと? とっくの昔になくしたんでしょ? 今の夢はそれの代わりでしょ?
言い訳のために、つぎはぎして作ったもんでしょ!?」
彼は何も言わず出て行った。
- 534 名前:ばらばらの出来事 投稿日:2003/11/15(土) 11:38
- 怒らせた。
それだけじゃない。
傷つけた。
誰よりも好きだから。
誰よりも近くにいて、言いたいことを言えるから。
私はそれを、最低な方法で使った。
二度と戻れないだろうと思った日。
- 535 名前:ばらばらの出来事 投稿日:2003/11/15(土) 11:39
- 「・・・・仕事は?」
「辞める。いろいろできるほど器用じゃないから。私も手伝うよ」
「それじゃあ、自分のしたいことは・・・・」
「だから、今決めた。一緒に暮らしていきたい。それがしたいこと」
「大丈夫かなあ?」
「自分で言い出しといて、いまさらそれ?」
「実際にそうすることになったら違うよ。そうなると、失敗はできないんだぞ」
「だから二人で頑張らないと。何としても成功させるために」
- 536 名前:ばらばらの出来事 投稿日:2003/11/15(土) 11:40
- あの時になくしたものは取り戻せなかった。
でも、私は立ち向かうことにした。
これからと、札幌に。
とにかく踏み出していくこと。
歩いていくこと。
そんな自分になれた。
今の自分につながった日。
- 537 名前:将来の入り口 投稿日:2003/11/15(土) 11:43
- 「寿退社ね。まさか、そうくるとは思わなかったな」
先輩はいつものようにビールを呷る。
「はい。
しばらくは、とにかく協力してやってかなきゃいけないんで・・・・
もっとも、それでも、うまくいくかどうかなんて分かんないんですけど」
「それでいいって。
食べていく分ぐらいはさ、仕事選ばなきゃ、誰だって稼げるよ。
そうやって、やりたいことを見つけた方が、絶対いい。
大変かもしれないけど、そっちの方が充実するからさ」
私も少し口をつける。
- 538 名前:将来の入り口 投稿日:2003/11/15(土) 11:44
- 「式はいつ?」
「しないことにしました。
開店資金に回しちゃったんで。
でも、オープンしたら、ぜひ招待しますよ」
「うん。楽しみにしてるよ」
- 539 名前:将来の入り口 投稿日:2003/11/15(土) 11:46
- 「・・・・よかった」
時計は一日の仕事を終え、休まずに次の日になった頃だった。
先輩は私にそう言った。
「よかった?」
「うん。最初に入ってきたときからさ、ず〜っと疲れてた顔してたでしょ?」
「そうですかね・・・・一応しっかりと頑張ったつもりですけど・・・・」
「そりゃ、仕事は違うよ。
そういうことじゃなくてさ、簡単に言うと、元気がなかったってこと。
しっかりしてるし、仕事も、私より優秀なくらいだった。
でも、あらゆることに関心が薄いっていうか・・・・生命力が弱いって感じだったよ。
最初は『仕事に慣れないからだ』って思ってた。
でも、ずっと変わらないし、まずいもの抱えてるんじゃないかって心配してたよ」
- 540 名前:将来の入り口 投稿日:2003/11/15(土) 11:47
- いい具合にアルコールが回ると、喋るペースも遅くなる。
でも、それは、人が物事を理解するのに、ちょうどいい間だったりする。
「まあ、本当は、私も自分のことで手いっぱいなんだけどね・・・・
人のこと心配してる場合じゃなかったんだけど・・・・
でも、誰かに目の前で暗い顔されるのは嫌だから・・・・
かっこつけすぎたかな?」
- 541 名前:将来の入り口 投稿日:2003/11/15(土) 11:48
- そんなことない。
分かってる。
この人は、本当にそういう人だった。
こんな人、本当に居るんだなって。
私の人生で、一番の奇跡なのかもしれない。
この人に逢えたことが。
- 542 名前:将来の入り口 投稿日:2003/11/15(土) 11:49
- 「彼氏ができてからは、ほんと変わったね。
なにやってる時も、いい顔してたよ。
その調子で仕事に目覚めて、上までいこうって気にならないかって、期待してたんだ」
「すいません。期待に応えられなかったみたいで」
「そんなふうに思ってないよ。
やりがいを見つけたもんの勝ちだってこと。
それはもちろん、誰かを好きになるってことでもいい。
同じ理由で、仕事でもいい。
何でもいいんだよ。ただ、どっちもほしがるとはね・・・・きついよ?」
「何とかなりますよ。これまでもそうでしたから」
- 543 名前:将来の入り口 投稿日:2003/11/15(土) 11:50
- 自分でもびっくりした。
昔のことを『これまで』って・・・・
『つらかった』じゃなくて『なんとかなった』って・・・・
私は少し大きな声で笑った。
「もう酔ったか? よし、もっと笑わせてやる」
グラスには、新しいビールがなみなみと注がれた。
- 544 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 11:51
- 窓の外は、まだ少し暗い。
徐々に見えてくる景色は、これまで見たどれとも違う。
出発した日も、帰ってきた日も、白い景色だった。
そんなものだと思っていた。
札幌って、そういうことだと思っていた。
雪のない、こんな季節があることも知ってたはずなのに・・・・
それは特別なんかじゃなく、昔から私のそばにあったのに・・・・
- 545 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 11:53
- こんこん
- 546 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 11:54
- ドアが開くと、彼の顔が見えた。
「お疲れさん」
「うん。自分でも頑張ったと思う・・・・」
いつもと変わらない声。
いつもと変わらないこと。
自分が選んだものは、間違っていなかったんだと思う。
- 547 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 11:56
- 「見てきた?」
「うん・・・・」
「で?」
「正直言うと、実感がないな。はっきりしない・・・・こういう言い方、不安にさせるか?」
「そうでもないよ。私もすごく疲れて、頭がはっきりしないんだ。
ただ『やった!』っていう充実感だけかな・・・・」
- 548 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 11:57
- 彼が熱っぽく続ける。
「うん・・・・あやふやなんだけどさ、あの顔見てると、何か・・・・満足? 充実?
とにかく、満たされる感じで・・・・
普段なら余計なこととか考えるだろ?
どんなに嬉しいことでも、何か裏があるんじゃないかとかさ。
でも、違うんだよな・・・・はっきりしないものに、こんなに感動するなんてな・・・・」
「答えが出たね」
「ん?」
「子供。
付き合ってる時からずっと言ってたでしょ? 何だろうって。
こうしてみて、初めて分かったでしょ」
「ん・・・・そうだな」
- 549 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 11:58
- 「忘れられたか?」
「ん?」
「つらいこと。
初めて会った時も、それからも、これまでも、ずっとそんな顔してただろ?
そういうの、なくなったか?
俺と結婚して、仕事手伝わせて、家族作ってくれて、その間ずっと一緒に居て・・・・
ちゃんと楽しかったか?」
「そのことか・・・・つらいことだったら・・・・まだある。
たぶん、これからもずっと。
忘れられるわけなんてない。
変わりなんかしないよ。
私は、やっぱり、やりたいことをなくしちゃったってことは・・・それは変わらない」
まだ外は少し暗い。
- 550 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 11:59
- 背中越しの窓に真夜中を感じる。
「時間だよ」
「時間?」
「うん。
それが、つらいことを圧縮しちゃったのかな?
もう、私の中では、そんなに大きなことじゃないんだ。
あの時は、つらいことがすごく私の中を占めてて、余裕なんてなくなってたんだよ。
でも、時間が経って、それを何年間っていうフィルターを通して、覗いてみた。
そうしたら、大したことないって思えたんだ」
「そうか・・・・」
「なくなりはしない。
でも大丈夫。
私、頑張れるよ、絶対。
あなたともう一人を抱えてるのに、落ち込んでる暇なんてない。
どっちも手がかかるからね」
少し笑った。
- 551 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 12:00
- 「時間か・・・・」
「そう」
「違う。
俺は違うふうに考えてた。
それって、昔のことを圧縮したりなんてしないと思ってさ。
きっと、俺達の方を大きくしてくれるんだと思う。
確かに、悲しさとかを小さくしてくれるけど、忘れさしたりはしてくれないだろ?
逆に悔しかったこととか、嬉しかったことは強くなっていく。
そういう我儘なもんだって思う。
それって、人間を図太く、そういう意味じゃ、成長させてくれてるってことじゃないか?」
- 552 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 12:01
- 彼のこと本当に好きだ。
ずっとこうして、いろんなことを受け止めていきたい。
「・・・・そうだね」
本当に嬉しかった。
- 553 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 12:03
- 町は明るくはならず、暗闇が薄れていく。
春の札幌は日本のどこよりも暖かいって、今日なら言い切ってもいいかもしれない。
そんな一日になるような予感がする。
「美人になるよな、きっと」
彼はもう親になっている。
「どうかな・・・・私に似たら、丸い顔になっちゃうし・・・・」
「だからといって、俺に似たらまずいだろ。それに、お前は美人だよ。自信を持て」
- 554 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 12:04
- 苦笑する。
そんなこと、言われたことがない。
子供の頃、私にそれを言う人は居た。
でも『冗談だ』というように笑っていたことを、この人は知ってるのだろうか?
- 555 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 12:05
- 「でも、目なんかは、あなたそっくりだったよ」
「そうか?」
「母親が言うんだから間違いない」
- 556 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 12:07
- 「楽しいこと、いっぱいしような」
「うん」
「絶対」
「うん」
「絶対。忘れられないことの分も、絶対。俺、頑張るからさ」
「・・・・うん」
- 557 名前:遠くない過去 投稿日:2003/11/15(土) 12:08
- 私達は、取り留めのないことをいっぱい話した。
新しく始まる生活。
それは今までの上に作られていく。
そう感じた日だった。
- 558 名前:中断 投稿日:2003/11/15(土) 12:10
- 一気に更新するはずでしたが、駄目そうです。
本当に申し訳ありません。
いったん中断します。
- 559 名前:時間 投稿日:2003/11/17(月) 12:21
-
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- 560 名前:家族 投稿日:2003/11/17(月) 12:21
- 気がつくと、時計の針は、最後に見た時から一周していた。
眠っていたわけじゃないけど、たくさんいろんなこと思い出した。
私が過ごしてきた、これまでのこと。
何故だろう?
考えなくても、答えはやってきた。
「帰ったぞー!!」
- 561 名前:家族 投稿日:2003/11/17(月) 12:22
- 彼。
いや違う。
今では、もうすっかりお父さん。
「ただいまー」
そう。
今日、帰ってくるからだ。
- 562 名前:時間 投稿日:2003/11/17(月) 12:23
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- 563 名前:意味みたいなもの 投稿日:2003/11/17(月) 12:26
- 「名前どうしようか?」
ふと思いついたように、彼が言った。
「私はあまり考えてないんだ。何か考えてた?」
少し困った顔をする。
「考えてない。自分で言い出しといて・・・・駄目だな・・・・」
「うん・・・・なんか、あっという間だったからね。私も、妊婦やるだけでいっぱいだった」
- 564 名前:意味みたいなもの 投稿日:2003/11/17(月) 12:27
- 「両親の名前から一文字取るっていうのが、オーソドックスなのかな?」
私は、はっきりと言った。
「それは嫌だな。
新しい名前を付けてあげたい。
自分にしかできないことをしてほしい。
だから、自分にしかない名前をつけてあげたい」
窓の外は太陽が、街にほんの少しだけ赤みをかけていた。
綺麗な朝だった。
- 565 名前:時間 投稿日:2003/11/17(月) 12:29
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- 566 名前:娘 投稿日:2003/11/17(月) 12:33
- 「あーーもう疲れたよ!!」
部屋に入るなり、床に寝転がる。
顔は、やはり私に似て丸い。
「ちゃんと待ち合わせの場所に居ないからだ! おかげで探し回ったんだからな!」
お父さんも後から続いて、どっかと腰をおろす。
「私じゃなくて、お父さんが間違えたんでしょ!」
大きな目と穏やかな雰囲気は、彼からそっくりそのまま受け継いでいる。
「おかえりなさい」
「うん、ただいま」
早速、冷蔵庫を開け、コップに牛乳を注いでいる。
- 567 名前:娘 投稿日:2003/11/17(月) 12:37
- あさ美。
朝、美しいように。
それが、私達にとっての名前の意味だ。
これまでも、これからも、ずっとそうだと思っていた。
でも、生まれた時から、あさ美という名前は、私のものじゃなくて彼女のものになった。
それは、私が込めた意味を越えて生きていくということ。
現に、彼女の名前はすごく大きくなった。
- 568 名前:娘 投稿日:2003/11/17(月) 12:39
- 私の娘はモーニング娘。になった。
突然オーディションを受けると言い出した時は、本当に驚いた。
どうなるかなんて私には分からない。
そんなレッスンだって受けさせたこともない。
それに、そんなことを考えてるって、私は知らなかった。
ということは、他の誰も、そんなことを考えていたなんて知らなかっただろうから。
- 569 名前:娘 投稿日:2003/11/17(月) 12:40
- でも『それも面白いかも』っていうのは、ずっと思ってたよ。
何か面白いことになるんじゃないかって。
だから、私はつんく♂っていうのを少し見直したね。
『よくぞ選んだ!』ってね。
- 570 名前:娘 投稿日:2003/11/17(月) 12:42
- そして、私と同じように、やりたいことをしに東京へ行った。
その時は私と違って、少し不安な顔をしていたっけ。
今では、毎日のようにテレビで見る。
それは嬉しいことであるけれど、それがどんなに大変なことなのか私には分からない。
彼女は、それに対して愚痴をこぼすこともない。
やりたかったことだから。
それに、今、楽しくて仕方がないから。
そうなのかな?
- 571 名前:川o・-・) 投稿日:川o・-・)
- 川o・-・)
- 572 名前:娘 投稿日:2003/11/17(月) 12:43
- それでも、私はこんなことを考えてしまう。
もし、そのバランスを崩してしまったらどうなるのか?
やりたいことに負けそうになってしまったらどうなるのか?
そうなることを避けるなんて、できないのかもしれない。
それに、いつかは思う通りにいかなくなる時がくるのかもしれない。
その時に、私と同じように負けたと思うのかもしれない。
いや、必ずそうなるだろう。
うまくいかないことの方が多いはずだから。
- 573 名前:娘 投稿日:2003/11/17(月) 12:44
- 私にはそれが分かっている。
でも、分かっていても、何もできない。
それは、今、どんなに言って聞かせても、分かるものじゃないから。
自分で実際に目の当たりにして、考えて。
そうじゃないと、乗り越えていけないものだから。
- 574 名前:娘 投稿日:2003/11/17(月) 12:46
- 分かってるはず。
でも、躓いてほしくない。
そんなことを感じてほしくない。
結局、一番の悲しみを防いでやれないんだ。
教育というやつも、親というやつも。
- 575 名前:娘 投稿日:2003/11/17(月) 12:47
- そうなった時に、見つけられるだろうか?
それ以外に大切なもの。
変化した自分についていける自分。
特に、特殊な仕事だから。
- 576 名前:娘 投稿日:2003/11/17(月) 12:48
- たくさんの人の期待。
それを、自分にとって一番大事なものにしてしまわないだろうか?
それを、自分がそれまで知っている愛情と置き換えてしまわないだろうか?
それがマイナスに振れた時に、あの子なんて簡単に潰れてしまうんじゃないか?
- 577 名前:母親と父親 投稿日:2003/11/17(月) 12:50
- 「じゃあ、いってくるねー」
一息つく暇もなく、飛び出して行った。
- 578 名前:母親と父親 投稿日:2003/11/17(月) 12:51
- 「大丈夫かな。一人で行かせて」
「友達の家に遊びに行くだけだ。心配することないよ」
彼はいつでもゆったりとしている。
- 579 名前:母親と父親 投稿日:2003/11/17(月) 12:51
- まだ、じっとしているより、動き回ることの方が多い。
ああいう姿を見ていると、まだ子供だ。
私は分かっているけど、分かってない人の方が多い。
分かってなくても、それ以上のことを求められる。
それにだって応えていかなければいけない。
- 580 名前:母親と父親 投稿日:2003/11/17(月) 12:52
- 「大丈夫だよ」
私の話を聞いても、彼はゆったりとしている。
「俺達が思っているより、ずっとつらいことにだって、もう出会ってるはずだよ。
そういう仕事だからな。
そんなのを抱えてたって、やっていってるじゃないか」
「でも本心は・・・・」
「本当のことなんて分かってやれないよ。それでも・・・・って言ってただろ?」
- 581 名前:母親と父親 投稿日:2003/11/17(月) 12:53
- そうだね。
そうだった。
私達にできることは、いつでも戻ってこられる場所であることだけだ。
自分で言ったじゃないか。
『自分で経験しなきゃ分からないことがある』
それなら、あの子を信じるしかない。
- 582 名前:あなたへ 投稿日:2003/11/17(月) 12:56
- きっと、つらいのかもしれない。
それでもあの子は笑っている。
それなら、それを信じる。
- 583 名前:あなたへ 投稿日:2003/11/17(月) 12:56
- いや・・・・それだって、私の思い込みだ。
きっと、私が思っているより、ずっと楽しいことなんだろう。
少し羨ましいくらいに。
- 584 名前:あなたへ 投稿日:2003/11/17(月) 12:58
- ここに戻ってくることがそんなに嬉しいのなら、時間ができたら帰ってくればいい。
それが友達に会うのが目的ならば、それもかまわない。
少し淋しいけれど。
- 585 名前:あなたへ 投稿日:2003/11/17(月) 12:59
- 駄目になるなら、それもいい。
上手くいかなくて私にあたるなら、それもいい。
私だって、お母さんほどじゃないかも知れないけど、あなたのことぐらい受け止められる。
- 586 名前:あなたへ 投稿日:2003/11/17(月) 13:00
- それに、そんなに弱い子じゃないんだね。
心配していることは取り越し苦労?
あなたの笑顔は、意外にしたたかなのかもしれないね。
- 587 名前:あなたへ 投稿日:2003/11/17(月) 13:01
- 『完璧です』
意外と本気?
泣かない強さも、泣いてしまう弱さも、抱えながらで笑っているならば・・・・
あさ美、あなたの勝ちだ。
私の負け。
- 588 名前:あなたへ 投稿日:2003/11/17(月) 13:02
- 休みが終わって、あなたを送り出す駅はすっかり変わった。
私が出かけた時とも、帰って来た時とも、あなたが出発した時とさえ、違っている。
同じように、私達もみんな変わっていく。
そんな中、自分や、北海道や、札幌や、雪のないこの季節を感じているのだろうか?
- 589 名前:あなたへ 投稿日:2003/11/17(月) 13:03
- この変わらないものを求めているから、たまに帰ってくるのかな?
それを知ってるから、変わっていくことや、変わる自分を楽しんでいるのかな?
だから、それがやりたかったことなのかな?
それがモーニング娘。なのかな・・・・
- 590 名前:あなたへ 投稿日:2003/11/17(月) 13:05
- 結局のところ、分からないね。
私はあなたじゃないから。
だから、楽しみにしてるよ。
同じようなことが起こった時、どうするか? どう感じるか?
- 591 名前:あなたへ 投稿日:2003/11/17(月) 13:06
- 聞きたくなったら、教えてあげるから。
私がどうやってそれを乗り越えたか。
それはみんな知ってることだし、経験することだから。
だから『自分だけだ』とか『誰も分からない』というふうにだけは思わないように。
親の私にだけじゃなく、仲間にも。
同じように、みんなで成長していってほしい。
- 592 名前:いつかの場面 投稿日:2003/11/17(月) 13:08
- そして、また、いつもの駅から帰っていった。
彼女の誕生日を少し過ぎた五月は、いつものように雪のない北海道でした。
- 593 名前:いも 投稿日:2003/11/17(月) 13:11
-
ほんの少しだけ 紺野あさ美
- 594 名前:終了 投稿日:2003/11/17(月) 13:13
- 終わりました。
異性はこんな感じになりました。
- 595 名前:一言 投稿日:2003/11/17(月) 13:18
- とりあえず、これで予定していたものはすべてです。
次どうするかは、少し時間をおいてからにだと思います。
最後に、読んでくれた人。
本当にありがとうございました。
- 596 名前:あとがき 投稿日:2003/11/21(金) 11:42
- ここはこれで終わりにします。
最後に、あとがきみたいなものを残しておきます。
この話の発想は、特定の人物を外から見た形だけで表現できればというものでした。
紺野あさ美を選んだのは、自分にとってはっきりしない人物に思えたからです。
最初はメンバー全員分やろうとしましたが、あっさり諦めました。
そこで、近い存在であろう、同期のメンバーを使いました。
もっと言うなら、紺野の章も本当は予定していませんでした。
最初の予定通り、本人側からの視点は使いたくなかったので。
しかし、最後の話の展開を思いついてしまったので、このような形になりました。
ですから、一貫したテーマというのは間違ってましたね。
構成上、一つの話だったということでした。
長編板に乗せたのは間違いでした。
そう言ったわりに、紺野があまり登場しなかった話もあったりしました。
全体のバランスを考えないと、一つの話とするには無理があったのかと反省しています。
でも、内容的には、頭を振り絞ったつもりです。
自己満足でしょうが、納得はできました。
最後に、読んでくれた人には、重ねてありがとうございます。
また、何か思いついたらやってみようと思ってます。
それでは。
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