Novelette

1 名前:大塚 投稿日:2003/10/27(月) 16:00
初めまして、大塚と申します。

題名の単語の意味はしばしば軽蔑的にも捉えられることがありますが、
この場合にはただ単に短(中)編小説、と思って下さい。

感想などくださる方がいたら、基本的にsageでお願いします。
それでは始めます。
2 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:06
彼女はあたしの腰にしっかりと腕を回している。
彼女は体をやけに密着させてくる。あごをあたしの肩の上に乗せている。
あたしは少し後ろを向いて話している。二人の距離は近い。

彼女は至極楽しそうに、にこにこ笑ってる。
あたしは少々、不機嫌である。
3 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:07
「亜弥ちゃん、ジャマ。どけ、今すぐどけ。」
「えぇ〜ひどいよみきたん!あたしすっごい暇なんだから!」
「…は?暇だと?あんた今暇とか言いました?バカじゃないの?」
「バカって言わないでよ!せめてアホって言って!」
「どっちでも一緒だよ。」

バカと言われると、彼女はすぐさまほっぺを膨らまし怒ったような顔をした。
でもそんな顔をして本気で怒る人なんかいない。
イコール、これは怒ったフリである。

「ふ〜んだっ。バカって言った人がバカなんですよ〜。」
…下らない。そんな勝ち誇ったような顔をされても。

「…ま、どうでもいいけどさぁ。亜弥ちゃん、ほんとジャマなんだって。」

溜息をつきつつ彼女に冷たい視線を送る。彼女と目が合う。
あたしは冷たい目のまま彼女と目を合わせ続けている。
しかし、それにもかかわらず彼女はにこにこ笑っている。
4 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:09
「みきたん冷たーい。」
「冷たくていいから離れてよ。」

ためらいも何もない。さくっと言葉を返す。
こんなあたしの話し方は冷たいとよく言われる。一応、自覚はしてるけど。
彼女にもよく非難されるが、本気でそう思っているわけじゃないだろう。
彼女はあたしとのケンカのようなやりとりを楽しんでいるところがある。
あたしもそれをよくわかっているから、直そうという努力はしない。

「嫌。離れないもん。…みきたん、かまってよぅ。」
彼女はかまってかまって、とそれこそ馬鹿みたいに連呼している。

しかし今のあたしの置かれてる状況から言って、彼女の要求に応えるのは難しい。
だから、別にわざと冷たい言い方をしていたわけじゃない。
彼女があたしに甘えたいんだろうということはよくわかっている。
わかってはいるけれども。
5 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:10
「亜弥ちゃんが暇でもあたしは暇じゃないんだけど。」
「むぅ…みきたんほんとに冷たい…。」
「………。」
「…みきたん?」

彼女があたしの顔を覗き込むように見てくる。
身長なんて大して変わらないはずなのに、あたしを見る目は完璧な上目使い。
自分を可愛く見せる事に関してはプロ中のプロだと思う。

それをわかっていても、素直に可愛いと思ってしまう自分。
認めたくはないけどこの時点であたしの負けなのかもしれない。
いくら口で冷たい事を言っても、本当は彼女が可愛くてしょうがないのだ。
我侭も出来るだけ聞いてあげたいと思っている。

ただ、何事も限界がある。あくまでも出来るだけ、聞いてあげたいのである。
6 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:11
「………亜弥ちゃんさ、あたしが今何してるかわかってるよね?」
「え、うん。あたしのために晩御飯作ってくれてるんでしょ?」

満面の笑みで彼女はそう答えた。体から力が抜ける。
なんだこいつ。さらっと言いやがった。
もはや反論する気持ちにもなれない。

「…その通り。」
「へへっ、みきたんありがと〜ね。愛してるっ。」
「そりゃどうも…。」

何を隠そう、今のあたしは料理の真っ最中なのだ。
それなのにこんなにくっつかれちゃ、やりにくいことこの上ない。
その上かまってくれなんて言われても…一体どうすれば。

「しかも亜弥ちゃんがあたしに作れって言ったんだよね。」
「だってみきたんの手料理が食べたかったんだもん。」
「じゃあ黙って待ってればいいじゃんか。いつもみたいに自分のDVDとか見てさ。」
「んー…そうだけど…。」

「ん?」
なぜか歯切れの悪くなる彼女。
あたしに抱きついていた腕を離し、俯いてしまった。

「…何?どうしたの?」
いきなりの彼女の変化に、あたしは少し戸惑った。
7 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:15
自分のDVDや写真集やらを見ることが大好きな彼女にしては珍しいリアクションだった。
彼女の家に遊びに来るといつも強制的に見せられていたことを思い出す。
今となっては自分のソロ時代のダンスの振りより、彼女の方をよく覚えている気がする。
それほど長い時間を彼女と一緒に過ごしていたということなんだけど。

…そう言えば、彼女の家に来たのは久しぶりだ。
そこであたしはようやく思い当たった。いや、本当は気付かないフリをしていただけだった。
最近あたしと彼女との間に距離が出来ていたこと。
何か足りないと感じながらも、そこから目を背けてきた。
彼女の存在がなくても平気だと、不安な気持ちを隠して振舞っていた。

そうしないと、自分のバランスが保てなかったのだ。
前のように会いたいときに簡単に会えるような状況じゃなかったから。
8 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:16
そして、それはあたしだけじゃない。
自信過剰だと思われるかもしれないけど、彼女もあたしを必要としているのがわかる。
あたしより二歳年下の彼女は、あたしより不安な気持ちが大きかったかもしれない。
ご飯を作れと言いながら、その上かまってなんて言ってみたり。
甘えたい気持ちからそんな行動に出てしまったのだろう。

手元に視線を落とす。切りかけの野菜が目に入った。
…とりあえず、今は料理のことはおいておこう。
彼女のほうに体ごと向き直ると、あたしは優しく手を握った。

「みきたん…。」
彼女はゆっくりと顔を上げると切なげにあたしの名前を呼んだ。

あたしはつないだ手を引き寄せると、そのまま彼女を抱きしめた。
優しく、体全体で包み込むように。

「亜弥ちゃん…。」

そうやって抱きしめていると、彼女のいい匂いとか体の柔らかさを直に感じる。
どうしようもなく切なくなって思わず腕に力を込めた。
9 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:17
「みきたん、痛いよ…。」
「…ちょっと我慢して。」

彼女の肩口に顔を埋め、大きく息を吸い込む。いい匂いに頭がくらくらした。
しばらくそうしていた後、彼女の細くて白い首に軽く口付けた。

「んっ……はぁ…。」

彼女の口から漏れる吐息を聞きながら、ちゅっ、ちゅっと何度も口付ける。
あたしは脳がだんだんと麻痺していくのを感じていた。

「亜弥ちゃん…好きだよ…。」
「……あたしもみきたんのこと、大好き…。」

頬を少しピンク色に上気させた彼女が、あたしの首に腕を回しながらそう言った。
それを合図に、あたしは左手を彼女の頭に添えて、ゆっくりと唇を合わせ始めた。
優しく、それでいて深く口付ける。
味なんてしないはずなのに彼女の唇はいつも甘く感じる。

ゆっくり舌を差し込んだら、彼女が恐る恐るそれに応えてくれた。
あたしはそれが嬉しくて夢中で彼女に口付けていた。
10 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:19
そんな意識が遠くなりそうな中で、彼女の頬を撫でる手に何か濡れたものを感じた。

「はぁっ…亜弥、ちゃん…?」
「ん…?」

ゆっくり顔を離してみる。彼女は、泣いていた。
ふと、目に溜まりきらなくなった涙が頬に零れていった。
あたしはしばらくその様子をただ見ていて…すごく綺麗だと思った。

「あれっ…?なんで涙出てるんだろう…。おかしいな、へへっ。」
「…こすっちゃだめだよ。」

あたしは彼女が目をこする手を掴み、涙の流れたあとを優しく舌でなぞる。
彼女はくすぐったそうに身を捩った。

「みきたん、くすぐったいよ。」
「…ねぇ。」
「ん…何?」

「……寂しかった?」
あたしの急に核心をついた言葉に、彼女はわずかに目を見開いた。

そのまま見つめ合っていると、また彼女の目に涙が溜まってきたのが見えた。
あたしは、胸がきゅうっと締め付けられるのを感じていた。
11 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:20
「ずっと寂しかったよ…みきたんがそばにいてくれなくて。」
「…うん。」
「だから、かまってよぅ。娘。さん達だけじゃなく…あたしのことも、見てよぅ…。」

彼女はそう言いながらあたしの肩にぐりぐりとおでこを押し付けてきた。
あたしは子猫が母親に甘えているときのようだと思った。
彼女があたしの前だけで見せるしぐさや表情。甘えた声。

本当に、可愛くて可愛くてしょうがない。ずっとそばにおいておきたい。
でもそんなことは許されないから。
自分に歯止めをかける意味でも、あたしは彼女に対して優しく接しきれない。
彼女にどっぷりとはまってしまうのが怖かったのかもしれない。

「…ほんとはあたしも、亜弥ちゃんがいないとだめなんだ。」
「えっ…。」

あたしがこんなことを彼女の前で言ったのは初めてかもしれない。
案の定、彼女は驚いたように目を見開いた。
12 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:24
そして彼女はあたしの顔を見るとプッと吹き出した。

「…何、なんで笑ってるの。」
素直に自分の気持ちを話しただけなのに、なんで笑われてるんだ。
あたしはちょっとムッとしながらも彼女の言葉を待った。

「だって〜…みきたん、顔真っ赤なんだもん。みきたんのそんな顔初めて見たよ。」
あーおかしい〜写真撮りたーい!と言いながら涙を拭う彼女。

そこか。そこに注目するか。
自分の顔に手を当ててみる。…確かに火照っていた。
ちらっと彼女を見る。明らかにさっきまでとは違う涙を流しながら笑っている。
そこまで笑うか。多少腹が立つ。あたしの言葉は完璧にスルーですか。

だけど…まぁ、いいか。あたしの目の前には笑顔の彼女がいる。

「…ちょっと、亜弥ちゃん。」
「えっ?な、何?」

怯えたような顔をする彼女。あたし、そんなに顔怖いですか。
でも優しく頭を撫でると、彼女は安心したように笑った。
13 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:26
「あのさ…。」
「うん?」

頭を撫でる手をそのままにして、あたしは微笑んで言った。

「とりあえず、ご飯作ろっか。…二人で一緒にさ。」












                       E N D
14 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:26
 
15 名前:necessity 投稿日:2003/10/27(月) 16:27
 
16 名前:大塚 投稿日:2003/10/27(月) 16:30
necessity、終了です。

これからも気が向いたら更新していきたいと思います。
CPはこればっかりじゃないと思いますが…。
やっぱり好きなので多めになるかもしれません。

それでは、また。
17 名前:エムディ 投稿日:2003/10/31(金) 00:04
更新お疲れ様です!
あやみきだ〜
最 高 で す !
これからもいっっぱいあやみき読みたいです〜♪
頑張ってください。
18 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/05(水) 18:12
あやみき多めでお願いします。
最高です。
19 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/06(木) 02:51
笑みと共に涙が…。良いです。
20 名前:大塚 投稿日:2003/11/07(金) 00:15
>エムディさん
初レス、ありがとうございます。
最高だなんて恐れ多い。
期待に応えられるよう、頑張ります。

>名無し読者さん
やはりあやみきの需要は高いんですかね。
考慮します。

>名無し読者さん
お褒めの言葉、ありがとうございます。



次の更新は来週くらいにはいけると思いますが、
どうなることやら。なるべく頑張ります。
基本的に自分のペースでゆっくりとやりたいと
思ってますので、その辺はご了承下さい。
21 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/09(日) 15:06
あやみき多めがいいなぁ
22 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:34
おかしい。この人おかしい。ありえないよ。
む〜、と一人で唸ってみる。
あたしの下にはみきたんの体がある。
つまりあたしがみきたんに乗っかっている状態である。
いつもなら苦しいとか、重いとか(そんなことありえないけど)言われるのに。
今日のみきたんはあたしがこんなことしても文句の一つも言わない。

顔を見たくなって、腰の辺りに座っていたのを押し倒すような体制に変えた。
ぐいっと顔を近づけてみる。…やっぱり可愛いよぅ。
こんなことするといつもならウザイとか言われるのに、反応なし。
顔を近づけたついでに、とりあえず親指と人差し指でほっぺを挟んでみた。
みきたんの口がタコのように突き出る。

「…ふはっ。」
結構間抜けな顔だったから、思わず笑ってしまった。
それでも反応はない。彼女はずっと黙ったままである。
あたしの目の前には、愛しのみきたんの可愛い可愛い……寝顔。
23 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:35
しばらくみきたんの声、聞いてないな…そろそろ限界かも、なんて。
だって二人で一緒にいて話さないなんてこと、めったにない。
でもまじまじとみきたんの顔を見れる機会もめったにないな、と思い直した。

今みたいにじっくり見るのが楽しくないわけではない。
やっぱり好きな人の顔だし、見てて飽きる事なんて絶対ない。

少し鼻がつまっているのかピーピーと音がした。
今度は鼻をつまんでみると、「ふがっ」と言って眉間に皺がよった。
おもしろかったからもう一回やってみる。
すると、露骨に嫌そうな表情になる。
ちょっと目が開いた気がしたけど、彼女は寝る時によく半目になる。
本人に言うと怒るから言わないけど…結構不気味ではある。
24 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:36
あたしがこんなこと考えてるなんてみきたんは思いもしないんだろうな。
自分でも十分自覚してるけど、あたし甘えるの大好きだし。
みきたんはみきたんで口は悪いけどいつも結局甘やかしてくれるし。

こんなんじゃだめだってわかってるけど、好きな人には甘えたいもん。
みきたんはそういう風に思ったりしないのかな。

あたしばっかり、甘えてていいのかな?

腕の力を抜いて彼女の体にもたれる。心臓の音が聞こえてきて、妙に安心した。
でも何かが足りなかった。こんなに近くに愛しい人がいるのに。
どこかが満たされなかった。彼女はまだ寝息をたてている。
25 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:37
「…いいかげん起きてよ、みきたんのアホっ。」

正体のわからない胸の中のもやもやをかき消すように文句を言ってみる。
それでも彼女は規則正しい寝息をたてている。
そんな彼女に腹が立ったけど、愛しく思う気持ちもあった。
あたしの腰にはいつの間にか彼女の腕が回されていて。
そんな風に無意識でもちゃんと受け入れてくれたことが嬉しかった。

ゆっくりと顔を近づける。鼻と鼻をくっつける。
しばらくそのまま彼女の顔を眺めていた。

「…みきたん、大好き。」
そして、まだ夢の中にいる彼女にキスをした。
26 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:38
あたしはすぐ顔を離した。ふと気付いたこと。
みきたんが寝てる間にキスしたの、初めてかも…。

自覚したら急に恥ずかしくなって、顔に熱を持ったのがわかった。
腰に回された彼女の腕が妙に気になる。

「…なんか、やばいかも…。」
そう呟き体を起こした。その拍子に彼女の腕がだらんと落ちる。
やばっ、と思ってベッドに腰掛けて彼女の様子を窺う。
…よかった、まだ寝てる。

「さて、お風呂でも入ろうかなぁ。」
一人小声で呟いて立ち上がる。

みきたんが泊まるときは、いつも二人で入っていたけど…今日はしょうがない。
せっかく気持ち良さそうに寝ているのに、起こしたら可哀相だもんね。
27 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:40
そしてお風呂場に行こうしたら…あたしの体はなぜかベッドに沈んでいた。
その次の瞬間には、背中に慣れ親しんだ温もりを感じていた。
腕が回され、ぎゅっと抱きつかれる。

顔を見なくても誰かすぐわかるくらい、あたしはその温もりをよく知っていた。

「…みきたん、起きちゃったの?」
「うん。…つーか、実は結構前から起きてた。」
「あ、そうなの……って、えっ!?何、い、いつから!?」

ちょっと待ってちょっと待って。
まさか、キスしたとき、起きてたとか。
恥ずかしさが込み上げてきて、思いっきりみきたんのほうに振り返った。

「さぁ、いつでしょう?」
そう言いながら彼女はあたしの唇に指を触れた。
あたしにはその行動が何を意味しているのか、すぐわかった。

「う…。」
「へへ。ごめんね、寝たふりとかして。なんかびっくりしてさ。」

彼女が私に対してよくする、意地悪そうな表情で謝罪される。
28 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:41
あたしは恥ずかしさとか色んな感情が溢れてきて、それに耐え切れなくなって俯いた。
そして、うぅ〜っと唸りながら、彼女の胸に顔を埋める。

「亜弥ちゃんってば…ごめんって。許してよ、ね?」
頭の上から楽しそうな笑い声が聞こえた。

…この人、少しも悪いなんて思ってないよ。
顔を上げるとニヤニヤと笑っている彼女の顔が見えた。
思わず睨んだけど、みきたんには「なに変な顔してるの」と言われただけだった。

「そうだ、亜弥ちゃん、さっきお風呂入るとか言ってなかった?」
「え…うん。」
「じゃあ一緒に入ろうよ。で、そのあとは映画でも見よ?」

頭を撫でながら、今度は優しい笑顔で彼女はそう言った。
それに対してあたしはこくん、と頷いた。
29 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:43
みきたんに比べると、あたしってやっぱり子供だなぁ…。

湯船に浸かりながらぼんやりと思った。二歳の差は意外に大きい。
さっきのことにしても、引き際をわかっているというか。
あれ以上何か言われていたら、あたし恥ずかしさでどうにかなってたかも。

鼻歌を歌いながら頭を洗う彼女を眺める。

あたしが何をしても結局この人にはかなわないんだな、きっと。
彼女は時々意地悪だけど、本当は優しいことを知っている。
甘やかされてるなぁと思うこともたくさんある。

それはこのお風呂と同じような、ぬるま湯に浸かっている感じ。
できることならいつまでもこうしていたいけど…。
30 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:45
「…見てろよ。」
「んん?亜弥ちゃん今なんか言った〜?」
シャンプーを流していた彼女がこっちに振り向く。

「別に何も?」
「そう?ならいいけどー。」

続きは胸の中でそっと思う。

どうせいつまでも子供だなぁなんて思ってるんでしょ?
もうちょっと待ってて。これから自分磨いて、あたしどんどんいい女になるよ。
そしたら一人で色んなこと溜め込まないで、あたしに頼ってね。

彼女はやっぱり鼻歌を歌いながらリンスに手を伸ばしていた。
そんな姿を横目に、あたしは密かに決意を固めたのだった。
31 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:46
        E N D
32 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:46
 
33 名前:resolute 投稿日:2003/11/11(火) 00:46
 
34 名前:大塚 投稿日:2003/11/11(火) 00:47
更新しました。
35 名前:大塚 投稿日:2003/11/11(火) 00:52
>名無し読者さん
こんな感じです。相変わらず短いですけど。
短編って普通どれくらいなんでしょう?
36 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/12(水) 00:30
大人なみきたんがステキです。
楽しみにしてますんで頑張ってください
37 名前:エムディ 投稿日:2003/11/12(水) 10:13
更新お疲れ様です!
松浦さんかぁいい〜♪
藤本さんってやっぱり大人ですね☆
あやみきバンザーイ!!
38 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/12(水) 10:39
やっぱりこの二人は最高!!
39 名前:大塚 投稿日:2003/12/01(月) 13:47
>名無しさん
ほんとは子供っぽい藤本さんのが好きだったり…。

>エムディさん
あやみきバンザイ!…運動会、すごかったらしいですね。
正直言って見たかったです(w

>名無し読者さん
次はあやみきかどうかわかんないんですけど…。
八割方、あやみきでしょう。それもこれも運動会のせい…。


しかしもう十二月ですか。早いですね。
そろそろ更新したいと思っているので、お待ちください。
40 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/04(木) 21:58
作者さんのペースで頑張ってください。
できればあやみきがいいなぁ…。
41 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/19(金) 11:22
やっぱりあやみきはいいなぁ
癒されます
42 名前:大塚 投稿日:2003/12/24(水) 16:59
さて、更新です。
43 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:03
今日、12月24日はいわゆるクリスマス・イブ。
恋人達がイルミネーションに彩られた街を幸せそうに
歩いているのが見える。
あたし、藤本美貴にとって大学に受かってから、初めての
クリスマスイブだった。
予定では今頃恋人と一緒に過ごしているはずだったけど、
あいにくそんなものは存在しない。
どうも周りの男からは男友達程度にしか思われていないみたいで。
彼女や好きな子の相談役ばっか。
まぁそのおかげで男の心理ってやつには詳しくなった気がする。
かと言ってそれを発揮できるような機会があるわけでもなく、
そう思える男の人もいないわけなんだけど。
そんな美貴は今現在バイト中。
彼氏のいない女友達みんなで闇鍋パーティーをやろう、と
誘われていたんだけど断った。
なんか悲しいじゃん…それよりだったらバイトしてお金を
稼ぐ方がまだいい。
別にお金に執着してるとかケチだからとかじゃないよ。
ほら、一人暮らしってお金かかるからね。そういうこと。
44 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:05
ちなみに美貴がバイトしているのは雑貨もおいてあって、
昼間はカフェで夜はバーになる、ここら辺ではわりと人気のあるお店。
高校生の頃に発見して、一目惚れしちゃったというか。
大学生になったら絶対バイトしてやる、ってずっと思ってた。
それで大学に受かった時点ですぐこの店に駆け込んだ。
その時美貴はよほど必死だったらしく、今でもその時のことを店長に言われる。
バイトは募集してなかったのに、そのあまりの必死さに思わず
雇ってしまったそうだ。
ボソッと「…目が怖かったんだよ、目が。」と言った店長の言葉は忘れない。
でも店長にはいつもお世話になってるんだよね。
大学の事とか将来の事、相談したりして。
まだ四十前だからお父さんって言うにはちょっと若いけど、
美貴にとってはそんな感じ。
バイトの他にも、大学に入ってからは念願の一人暮らしも始めた。
高校はこの近くで電車通いしていたんだけど、大学は家から高校以上に遠い。
実際高校の時は寝坊・遅刻するのは当たり前で、よく大学に受かったなと
自分でも思う。
45 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:08
そんな理由で、それプラス社会勉強にもなるから、と家から追い出された。
でも今美貴は毎日が楽しい。充実してるって言える。
もちろん勉強も…それなりに頑張ってる。うん、それなりにね。

それにしても…平日にも関わらず、さすがクリスマスイブ。
昼間から店は結構な混み具合だった。美貴もだけど、学生はすでに
冬休みに入っているからだろう。しかも当然と言っちゃ当然なんだけど、
カップルばかり。店内も街を歩く人々もカップルがやはり目立つ。

そして比較的若いカップルで溢れていた店内も、外が暗くなるにつれて
年齢層が上がってきた。大学の友達や高校の同級生なんかも結構来ている。
ちょっと前には大学のサークルの先輩が彼女を連れて来たと思ったら、
第一声が「お前今日バイトなのかよ。ほんっと寂しい奴だな〜。」という
からかいの言葉だった。
…ほっといて下さい。それに美貴は、誰とも付き合ったりするべきじゃないから。

先輩のところで注文を聞いたあと、お客さんが来たらしく、ドアのところの
鐘がチリン、と鳴った。
46 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:10
営業用スマイルを作りつつ顔を上げる。
三十代半ばと思われる男の人と、服装から見て十代の女の子。

「いらっしゃいませ…。」

どう見ても、いわゆる援助交際にしか見えない二人組だった。
やや下向き加減だった女の子が顔を上げる。

思わず声が出そうになった。

…そう遠くない記憶が蘇る。胸のずっと奥のほうにしまっていた記憶。
それが、罪悪感とともに蘇ってくる。
あれから一年経ったけど、もう会うことはないと思っていた。
戸惑いを隠せないままあの子と目が合うと、反射的に逸らしてしまった。

「…こちら空いてるお席にどうぞ。」

なんとか平静を装い、いつものように接客をする。
強い視線を感じる。美貴はそれには気付かないふりをして早々にその場を去った。
早足で厨房へと向かい、そのまま勝手口から外へ出た。
ドアを閉める瞬間、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
店長あたりだろうから、別にどうってことない。
47 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:11
気分を落ち着かせようと、空を見上げて深呼吸を一回した。星は全く見えない。
そしてゆっくりと溜息をつくと、美貴はその場に膝を抱えるようにしゃがみ込んだ。

「……ありえない。」

ほとんど声にならないほどの呟きだった。
あの男の人とはどういう関係だろうとか、色んな考えが頭の中を巡っていた。

しかも…よりによって、クリスマス・イブに再会するなんて。
徐々に思い出してくる。浮かんでくるのは、あの時の彼女の笑顔…。
48 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:14
あれは美貴がまだ高校生の頃。…ちょうど、一年前のことだ。
クリスマス・イブだというのに、学校で冬期講習が朝からみっちりあったのだ。
母親に叩き起こされる。この時点で遅刻は決定していたんだけど、
家を出ないと母親がうるさいのでとりあえず家を出た。

電車の中では朝からカップルがいちゃいちゃしていて、美貴を苛立たせた。
美貴だってクリスマス・イブは彼氏とラブラブに過ごしたいなぁなんて
淡い期待を持っていたけど、彼氏と呼べる人がいないのも余計美貴を
苛立たせていた。

その時の美貴には、勉強なんてもう何をやっても無駄なようにしか思えなかった。
スランプ状態というか、やらなきゃいけないのはわかっているのに、
勉強に身が入らなかったのだ。

学校へ着くと、教室へと向かうべき足は自然と他の場所へと向かっていた。
つまり…講習をさぼろうとしていたのだ。

最初に保健室に行った。さぼりの王道の場所である。
が、残念ながら美貴を受け入れてくれるベッドがなかった。
すでに先客がいたのだ。みんな考えることは同じか…。
49 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:16
「大丈夫?」と本気で美貴の心配をしてくれる保健室の先生に免じて、
舌打ちしそうになるのを堪える。

しょうがない、別の場所を探そう。

条件として、第一に講習に使われていない教室。
第二に誰も邪魔者が入らなそうな所。
第三に…できれば、暖房がちゃんとあるところ。
美貴は冷え性なんで。

この条件に合いそうな教室を頭の中でピックアップしてみる。
化学室…薬品臭いから嫌。生物室…なんか気持ち悪いホルマリン漬けの
やつがあるから嫌。う〜ん…なかなかないな、いいところ。

そこで気づいた。
…そもそも鍵は開いてるのか、と。
特別室は普通は鍵がかかっているものだ。
ちょうど通りかかった家庭科室。開いてれば、結構いい場所だけど…。
ドアに手をかけるが、危惧していた通り鍵がかかっていた。

「…ちっ。」

今度は誰に気兼ねすることなく舌打ちをする。
50 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:17
「…さて、どうすっかな。」

腕を組んで思案する。…が、めんどくさくなったため考えるのをやめた。
とりあえず行動しよう。黙っているのは好きじゃない。
ドアを片っ端から開けようと試みる。

階段を上がり同じくドアに手をかけると、今までと違う感触を得た。

「…お、開いてる…。」

嬉々として顔を上げてみると、音楽室だった。
…もしかして合唱部が部活中とか?

少しだけドアを開けて様子をうかがう。人の気配はしない。
…よし。

周りをきょろきょろ見回して、先生がいないか確かめると、
美貴はそのままするりと音楽室の中へと入った。
51 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:18
「へへっ、ラッキ〜。」

一人呟いてカバンをどさっと近くの机においた。
ふと、なぜか違和感のようなものを感じた。
あたりを見回す。

「…あ。」

音楽室には、美貴の他にも女の子が一人いた。
少しびっくりしたようにこちらを見ている。
その意志の強そうな瞳が、とても印象的だった。
52 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:20

「えっと…合唱部の子?」
「いえ、違います。」

彼女は窓の近くに立っていて、まっすぐに美貴を見詰めていた。
制服のリボンの色から後輩だとわかる。一年生だ。

それにしても…なんて意志の強そうな瞳だろう。
初めて美貴に会って、こんな強い視線をぶつけてくる人はなかなかいない。
昔から第一印象は怖かった、と言われるのは慣れっこだった。
いつもと違う反応に調子を狂わされる。でもなぜか嫌な気分はしなかった。

「…じゃあ何してるの?こんなところで。」

一年生は講習なんてないし、合唱部じゃないならここにいる理由がないはずだ。
思いっきり不審な目で見ていたら、彼女はくすっと笑った。

「ごめんなさい…嘘です。あたし、合唱部員なんですけど…
実は部活の時間間違えちゃって。」
「はぁ?」

なんだそれ。…なんかよくわからない子だ。
53 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:21
「藤本先輩こそ、講習中じゃないんですか?」
「いやそりゃそうなんだけど…。」

んん?…あれ、今…。

「なんで名前知ってるの?うちらどっかで会ったことあるっけ?」
「…あたしが、一方的に知ってるだけです。」

言いながら、彼女は初めて顔を俯かせた。
耳が少し赤くなっているのが見えた。

「あ、そう…。」
そういうことか…気付かれないように溜息をつく。

女子校でもないのに美貴にはこういうのが多い。
部活をやっていた頃は特にすごかった。
お友達になって下さいとか、中には付き合って下さいなんてのも。
美貴にはもちろんそんな気はなかったし、まわりの男子に申し訳なかったくらいだ。

でもそういう子達は、美貴の上辺だけしか見てない。
クールな藤本先輩。バレー姿がかっこいい藤本先輩。
強そうだし守ってくれそうだとか、実に勝手なもんだ。
54 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:24
「…とりあえず美貴ここで講習さぼるからさ、邪魔だけはしないでね。」
そう言ってイスに座ると、机に突っ伏して寝る体勢に入った。

あぁ…音楽室って暖かいなぁ…幸せ…。
早くも眠りかけたその時だった。

「あの…藤本先輩、あたし…。」
顔を少し上げるとすぐそばに彼女が立っていた。

この出だしは…嫌な予感がする。
告白とかは勘弁してよ。どうせ断るのにめんどくさい。

「…何、邪魔しないでって言ったじゃん。」
横目で見ながら一言。
…あ、こういうところが怖いって言われるのか。まぁいいや。
美貴は眠いんだよ、ほっといてくれ…。

イライラしながらその子の言葉を待つと、意外な言葉が聞こえてきた。

「ずっと言おうと思ってたんですけど…一年前は、ありがとうございました。」
「へっ?」
一年前って…どういうこと?

「…会った事ないんじゃなかったっけ?」
「ごめんなさい、藤本先輩が覚えてないみたいだったから、咄嗟に
ああ言っちゃって。…本当は、前に一度だけ会った事あるんですよ。」
55 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/24(水) 17:25
「あぁ、そうなんだ…。ごめん、美貴全然覚えてないや。」
「…ですよね。すいません、邪魔しちゃって。それだけ、ずっと
言いたかったんです。忘れてもらって結構ですので…それじゃ。」

ぺこっと頭を下げると、彼女はそのまま音楽室を出ようとした。

「ちょっと待って。」
頭を下げた後、彼女が一瞬だけ悲しそうな顔をしたのが見えて、
気付いたら美貴は立ち上がって彼女の腕を掴んでいた。

「え…。」
彼女は戸惑ったように美貴を見つめてきた。

「美貴さぁ、ひまなんだよね。」
掴んでいた手を離す。

「…なんでありがとうなのか、教えてよ。一年前に何があったの?」
美貴がそう言うと、一瞬の間をおいて彼女は嬉しそうに笑った。

その笑顔を見た瞬間、なぜか少し胸が高鳴ったのを今でも覚えている。
56 名前:大塚 投稿日:2003/12/24(水) 17:31
途中ですが。
57 名前:大塚 投稿日:2003/12/24(水) 17:31
いったん更新を切ります。
58 名前:大塚 投稿日:2003/12/24(水) 17:33
クリスマス・イブの間に更新終えたかったんですけど…。
なかなかうまくいかないもんです。

もうストックはあるので、あとは更新するだけなんですが。
次の更新はクリスマスが過ぎてからになるかもしれません。
時期はずれだと言って責めないで下さい…。すいません…。

レスありがとうございます。返事はこの次の更新の時に。
59 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:05
彼女は最初に立っていた窓の近くに行くと、窓に寄りかかるように立った。
美貴もそれに習うように隣に行くと、彼女はポツポツと話し始めた。

「あたし、去年受験生だったんですよね。ここの高校に受かりたくて
一生懸命勉強してました。でも…なぜか成績は上がらなくて。どんなに
頑張っても成果が出てこなくて。正直どうでもよくなってた時期が
あったんです。ちょうど、去年の今頃でした。」

その話を聞きながら、彼女が今の自分にダブって見えて、
美貴は思わず彼女から目を逸らした。

「冬休みも塾通いしてて、クリスマス・イブも当然塾がありました。
その日は朝から憂鬱で、なんでクリスマス・イブまで勉強しなきゃ
だめなんだろう…って落ち込んでました。勉強しても、全然意味が
ないように思ってたし。」

…ダブってるどころか、今の美貴の状態そのものだった。
淡々と話す彼女に、美貴は妙な親近感が沸いていた。
60 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:12
「でもとりあえず塾には行ったんですけど、やっぱり勉強には身が入りません
でした。家に帰るとき、いつものようにここの高校の前を通って…あたし、
本当にこの高校に入りたいのかなぁ…と急に思って、気付いたら校門の辺りに
立ち止まってぼーっとしてたんです。そしたらいきなり校門から人が走って
曲がってきて、あたしもその人も避けきれずにぶつかっちゃったんです。」

「…もしかして。」
「そう。それが藤本先輩でした。」

そして彼女ははにかんだように笑った。
それを見てこの子可愛いなぁ、なんて場違いな事を思った。

「持ってたカバンを下に落としちゃって、運悪くプリント類がファイルから
落ちちゃったんですね。もうバラバラになっちゃって。拾おうとしたら
藤本先輩がすでに拾い始めてて、あたし大丈夫ですから、って言ったんですけど…。
藤本先輩、自分が悪いからって全部集めてくれたんです。…覚えてないですか?」

「…そういえば…。」

そんなことがあったような気がする。
確か部活が終わって…電車に間に合うかどうか、ってとこの瀬戸際で…。
61 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:15
「そしたら藤本先輩、突然あぁ〜!って叫んだんですよ。携帯取り出したと
思ったら、ガクッと肩落として、電車間に合わなかった…って言って。」
「…うん、覚えてる。いま思い出した。」
「ほんとですか!?」
「え?う、うん。部活帰りでさぁ、美貴家遠いから電車の時間がなかなか
ないんだよね。だから焦って走ってたんだけど。そしたら、あんたに
ぶつかったってわけ。」

美貴が覚えてると言ったら彼女はものすごく嬉しそうな顔をして、
それは美貴を戸惑わせた。
そんな思い出したからといって、喜ぶようなことでもないと思うんだけど…。

「でもあたしのプリント拾ってくれたばっかりに、間に合わなかったんだと
思ったらものすごい申し訳なくて。ひたすら謝ったんですけど、藤本先輩は
気にしなくていいよって言ってくれました。」
「…そんな感謝する事?ぶつかってプリント拾っただけじゃん?」
62 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:16
「あのですね…。実はその中に、この高校のパンフレットがあったんですよね。
それを見たらしく、藤本先輩があたしにここ受けるの?って聞いてきて。」
彼女はちらっと美貴を見るとすぐ前を向き、言葉を続けた。

「あたし、そのつもりですけどって答えたんです。そしたら藤本先輩が…。」
「美貴が?」
「待ってるよ、って言ったんです。頑張って勉強して受かったら、会いに
おいでって。あんたみたいな可愛い後輩できたら嬉しいし、って。だから
頑張れって。」

「…美貴、そんなこと言ったの?」
彼女はこくり、と頷いた。

なんてことを。初めて会った子に口説いてるとしか思えないセリフ。
もしかして無意識にそんなことを言ってるのも女の子が寄ってくる原因なのかも
しれない。少し頭が痛くなった。

「そっか…何言ってるんだろう、美貴…。」
自己嫌悪に陥った美貴を見て、彼女は不思議そうに頭を傾けた。
63 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:17
「それで、あの、話戻るんですけど…それからあたし、勉強が苦痛じゃなく
なったんです。藤本先輩が頑張れ、って言ってくれた日から。」
「…うそぉ。」
「嘘じゃないですよ。自分でもよくわからなかったんですけど、実際成績が
上がっていって、結果的にここの高校に受かることもできました。」

そして彼女はまたありがとうございます、と言った。

「…藤本先輩の頑張れって言葉は、あたしにとって一番の
クリスマスプレゼントだったんです。」
「クリスマスプレゼントね…。」

思わず苦笑いする。美貴の言葉が、そんな効力を発揮したとは。
美貴としては、なんの感情も込められていない、おそらく
その場限りの言葉だったろう。

それに対してお礼を言われても、正直なんとも言えなかった。
64 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:19
「あれ、でもさ…なんで会いに来なかったの?」
「…会いに行きましたよ?何回も。」
「えぇ?嘘?声掛けなかったの?」
「…そうしようと思ったんですけど…藤本先輩が覚えてなかったらどうしよう、
と思ったら怖くなっちゃって。」
「いやいや。4月くらいに声掛けられたら、いくら美貴でも覚えてたよ。」

そこまで他人に興味がないわけではない。
…それに、可愛い子だし。なんですぐ思い出さなかったのか不思議なくらい。

「でも、藤本先輩っていつも周りにたくさん人いたし…でもまさか今日、
こんな形で会えるとは思ってなかったです。…すごい、偶然。」
「あぁ、そうか…去年もクリスマス・イブに会ったんだ。」

自分で言ってから気付いた。
二人が出逢ったのはクリスマス・イブ。そして、再会したのもクリスマス・イブ。
いったいどれだけの確率だろう。

…運命みたいだ。
口には出さないけど、美貴はごく自然にそう思っていた。
65 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:20
ふと彼女と目が合い、美貴はなぜか逸らす事ができなかった。
そのままで不自然な沈黙が二人の間に訪れた。
そんな中突然に、衝動的に思った。この子の事をもっと知りたい、と。

「…藤本先輩。」
「え?」

一瞬、心の中を見透かされたのかと思った。
そんな美貴の動揺も知らずに、彼女はまっすぐ美貴を見つめて言った。

「あたし、今ならわかるんです…頑張れた、理由。」

「…理由?」
「わからないですか?」

その目が何か言いたげだった。
目は口ほどにものを言う…なんて、昔の人はよく言ったもんだ。

「…わかる…気がする。」
こういうシチュエーションには慣れているはずなのに。
美貴は今だかつて無いほど緊張している自分に気付いていた。
軽く握っている手に汗をかいているのにも気付いていた。
66 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:22
「藤本先輩…あたし。」
彼女の瞳が切なげに揺れる。

「藤本先輩のこと、ずっと…。」

「…あのさ。」
言葉を遮られた彼女が困惑したように美貴を見つめる。
それにもかまわず美貴は言葉を続けた。

「去年のクリスマスプレゼントのお返しくれない?」
彼女は何を言ってるのかわからない、というような顔で「え…。」と呟いた。

隣にいる彼女の手に軽く触れてから、指を絡ませる。
自分は何をしようとしてるんだろう。体が勝手に動いているようだった。
そんな美貴の突然の行動に、彼女はますます困惑していた。

「くれる?」
耳元で囁くと、目をギュッと瞑ったのが見えた。

「…だめ?」
催促するようにもう一度耳元で囁く。
彼女の閉じられた瞼が少し震えたのが見えた。

そして数秒後、彼女はゆっくり目を開けると、美貴の方に顔を向け軽く頷いた。
その瞳が熱っぽく潤んでいたのは気のせいじゃないだろう。
67 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:24
「…じゃあもらうよ?」
彼女との距離を縮める。そして二人の唇が重なった。

彼女の体が強張ったのを感じたけど、それも一瞬だった。
…何をしてるんだろう。
頭の中は妙に冷静だった。でも体は止まることを知らなかった。
女同士でキスなんて、それまではありえないと思っていたはずなのに。

それなのに、なぜかわからないけどそうしたくなった。
彼女のことを知りたかった。感じたかった。

軽いキスを繰り返したあと、腰に手を回してキスをもっと深くした。
彼女は抵抗しない。それどころが首に腕を回してきた。
そこからは二人とも無我夢中だった。

キスの合間に聞こえる彼女の吐息に、冷静だった思考回路が徐々に狂ってくる。
最後に考えたのは…そういえば彼女はなんて名前なんだろう、ということ。
68 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:27

逃げたのは、美貴だった。

突然のチャイムの音に我に返り、体を離す。
現実に引き戻され、この状況にどう対処していいかわからなくなった。
彼女が縋るような目で美貴を見ていた。

何か言わなきゃ、と思って口を開きかけた時だった。
ドアが開き、数人の生徒が音楽室に入ってきたのだ。
彼女が口を開く。

「…部活、始まる時間みたいです。」
「あ、そうなんだ…。」
どんどん人は増えていく。

三年である美貴がなぜこんなところにいるのか、と不思議そうな子達。
「…美貴邪魔だよね?」

美貴は自分のした事の理由がわからなくて、どうすればいいのかわからなくて。

「あの、藤本先輩…。」

「…帰るね。」
彼女の言葉を遮ると、そのままカバンを掴んで教室を出た。

彼女が何か言いたそうなのはわかっていたのに。
美貴は彼女に対してしたことに弁解も何もせずに逃げたんだ。
69 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:29
そして三学期はほとんど学校へ行く事もなく、美貴は彼女と
会うこともないままに卒業した。

あの時、音楽室を出る直前にチラッと見た彼女の顔。
卒業してからもしばらく、その時の彼女の悲しそうな顔が
頭から離れなかった。…美貴は最低だ。
あんな事しておいて、なんのフォローもせずに逃げるなんて。

自分がその立場だったらどう思うだろう。罪悪感でいっぱいだった。
それが、まさかこんな形で再会するなんて。

…いつまでもこうしててもしょうがないか。

しゃがんでいた体を起こすと、美貴は勝手口のドアを開け中に入った。
そしたら、ドアのすぐそばに店長がいて心配そうに美貴を見ていた。
70 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:29
「…大丈夫か?急に外出て行くなんて。」
「すいません、突然…。でももう大丈夫です、仕事戻ります。
店長こそ仕事さぼんないで下さいよ?」

笑顔を作ってそう答える。
そんな美貴を見て、店長は溜息をつきながらぽん、と美貴の頭を撫でた。

「ま…何があったか知らんけど、無理すんなよ。」
一言そう言うと、店長は厨房へと戻っていった。

…ばれてるなぁ、やっぱ。
苦笑いしながら美貴もその後へと続いた。
71 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:32
オーダーされたものをお客さんの元へと運ぶ。

相変わらず大学の先輩がからかってきたりしたけど、美貴の
全神経は彼女に向いていた。

食事を楽しむ二人。
普通の仲じゃないのは見てるだけでわかった。

なんであんな人と一緒にいるんだよ…。
美貴には何も言う筋合いはないんだろうけど、そう思わずにはいられなかった。
…それに犯罪じゃんか、あんなの…。

いたたまれない気持ちでいっぱいだった。
あの時自分がもう少しでも違った行動をしていたら、今どうなっていたんだろう。
もしかしたら、彼女の隣にいるのは美貴だったのかもしれない。

…って、なんだそれ…ばかじゃん、美貴…。
頭を抱えたくなった。叫びたくなった。

今さら気付いたのだ。自分が、一年前彼女に恋をしていたことに。
恋に落ちるにはあまりに短い時間だったかもしれない。
でもこの気持ちを説明するには、そうとしか言えない。
72 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:35
一年も何やってたんだよ、美貴…。自分が情けなかった。
それでも、全てはもう過去のことなんだろう。
彼女にはクリスマスを一緒に過ごす相手がいるし、美貴の出る幕なんかない。
それに、きっと彼女は美貴のことなんてもうすっかり忘れてる…。

美貴の恋は、気付いた時にはすでに終わっていた。

やるせない気持ちのままオーダーをとったり、空いたお皿などを片付ける。
そしてできれば近づきたくないテーブルに、オーダーされた飲み物を
運ぶことになった。誰か別の人がいないのかと思ったけど、美貴以外に
空いてるスタッフはいなかった。

…しょうがない。気持ちを奮い立たせてあの二人のテーブルに近づく。

「…お待たせいたしました。」
できるだけ早くここから去りたい気持ちでいっぱいだった。

美貴はグラスをおくと、すぐ立ち去ろうとしていた。
もちろん彼女のことは全く見れなかった。
その時、彼女と一緒にいる男の人が美貴を呼び止めたのだ。
73 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:42
「は、はい。何でしょうか?」
予想外の展開に動揺して思わずどもる。

「さっき他の店員さんにも言ったんだけど…ここの店長さん呼んでくれるかな?
古い友人なんだよ。奴も忙しいのか、まだ姿見せないもんでね。」
にこっと人の良さそうな笑顔で彼は言った。
…どこかで見たことのある笑顔のような気がしたけど、気のせいだろう。

「しょ、少々お待ち下さい。」
そして店長を呼びに行こうとしたら、店長の方からここへ向かってきたのだ。

「あっ、店長!」
「ん?どうした藤本?」
「あの、こちらのお客様、店長のお知り合いだそうで…。」
「あぁ、今聞いてきたよ。」
まさか店長の知り合いだったなんて…。

「…ん?…松浦?松浦か?随分久しぶりだなぁ、おい!」
店長は彼女と一緒にいた男の人の肩を親しげにバシバシと叩いた。

店長と同じくらいの年なのかな…。なんでこんなおじさんと一緒に…。
74 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:45
「何年ぶりだろうな…仕事が忙しくて全然会う暇なかったな。」
「ほんとになぁ、あんなに小さかった亜弥ちゃんも大きくなって。」
「年頃になったらうちのに似てきただろ?」
「いや、でもやっぱりお前にも似てるぞ。ほら、目の辺りとか…。」

その場を立ち去ろうとしていたところに、思いがけない会話。
…今、なんて言った?
思わず振り向いていた。

「ん?藤本どうした?」
店長がそんな美貴に気付く。

「いや、あの…こちらのお客様…親子、なんですか?」
恐る恐る店長に尋ねてみる。

「あぁ。若いだろ、こいつ。なんてったって18のときに結婚して
亜弥ちゃんが産まれたんだからなぁ。あんときは驚かされたな〜。
高校卒業してからすぐだもんな。」

「ははっ、親子に見えないとはよく言われるけどね。」
彼女の…お父さん、はそう言って笑った。
75 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:47
美貴はその瞬間、体中の力が抜けるのを感じていた。
…なんだよそれ…。
お父さんって…笑顔も似てるわけだよ…。

そしてここに来てから初めて彼女が美貴に言葉をかけた。

「藤本先輩…お久しぶりです。」
美貴は彼女がここに来てから、初めてまともに彼女の顔を見た。

目が合う。美貴は何も言えなかった。ただ見つめる事しかできなかった。

「お、なんだ知り合いだったのか?」
そんな店長の言葉も美貴にはあまり聞こえていなかった。

美貴の目の前には、あの時と同じ、笑顔の彼女がいる。

76 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:50
その後。
美貴と彼女が仲が良いもんだと思い込んだ店長は、娘を心配する彼女の父親に、
「こいつに責任持って送らせれば大丈夫だよ。な〜藤本。」
と言って無理矢理飲みに行った。

しかも仕事をサブの人に任せ、美貴も予定より二時間早く上がらせて。

そして今現在。
あまり事態を飲み込めないまま、美貴は彼女と一緒にいた。
せっかくだからどっか行きませんか?と言う彼女のあとをただついて歩く。

今日は本当はお母さんも一緒に食事するはずが、前日になって急に風邪を
引いたからお父さんと二人で食事帰りに美貴のバイトしている店に行った
こととか、とりとめもなく話している。

美貴はなんで彼女がこんなに普通なのかわからなくて、ずっと黙っていた。
何を言えば良いのかわからなかったのだ。

…一年経っても進歩ないな。マジ、情けない…。
彼女の後姿を見ながらぼんやりと思う。
そしたら、彼女が急に振り返って立ち止まる。
77 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:52
「…藤本先輩。」
街灯に照らされた彼女の顔は、一年前より少しだけ大人びて見えた。
そのことに気付き心拍数が少し上がった。

「…何?」
「あたし、ずっと先輩に言いたいことがあったんです。」
思わず身構えた。何を言われるのかは、だいたい予想がついている。
自分が悪いんだから、何言われても受け止めなきゃ…。
握りこぶしを作り、目をギュッと瞑る。

「…すごい傷付いたんですよ、あたし。あの後先輩に会おうにも、
三年生はほとんど学校ないし。先輩は何であたしにキスしたんだろうとか、
もしかしたら、からかわれただけなのかなってずっと悩んでたのに…。
結局先輩からも何もないまま、そのまま卒業しちゃった。」

言いながら彼女が近づいてきているのが、目を瞑っていてもわかる。

「ほんとありえないですよ。しかも先輩、あたしの名前すら知らなかったでしょ?」
そして、足音が美貴の前でピタッと止まる。
恐る恐る目をあけると、思ったとおり彼女は美貴の目の前にいた。
78 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:54
「でも、もういいです。昔のこと混ぜ返してもしょうがないし。あたし、
過去にはこだわらない主義なんです。何より大事なのは今ですから。」

…過去か。勝手だけど、その言葉に傷付く自分がいた。

「それでも、やっぱり傷付いたのには変わりないんで。だからその代わり…
先輩、あたしのお願い聞いてくれますか?それを聞いてくれたら、昔の事は
すっぱり忘れてあげます。」

「…お願いって…。」
…なんだかんだ言ってこだわってるじゃん。
美貴は自分がしたことは棚に上げて、そんなことを思った。

「そう、お願いです。」
にこっと彼女は笑い、言葉を反復した。

「クリスマスプレゼント、欲しいです。去年先輩にはあげたけど、
あたしまだお返しもらってないじゃないですか。」
「クリスマス、プレゼント?」
「はい。ちなみに欲しいものはもう決まってるんですけどね。」
「…何が欲しいの?」

「何だと思いますか?」
彼女はじっと見つめてくる。いつか見た、熱っぽく潤んだ瞳で。
79 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 00:58
「それは、美貴じゃないと叶えてあげられないこと?」
「…先輩以外の人には絶対に、無理です。あたし、ずっと欲しかったんです。
ずっと、ずっと、それだけが…。」

それって…。でも、そんな都合いい話ってある?
彼女の顔を思わず凝視する。美貴の勘違いかもしれない。
でも、また逃げるよりはずっといい。

「えっと…亜弥、ちゃん。」
名前を呼ぶのは初めてだった。…ほんと、ありえないけど。

彼女は美貴の顔を黙って見てくる。

「プレゼントさ…たぶん、もう亜弥ちゃんのものになってるよ。」
これは正解なんだろうか。不安な気持ちが襲ってくる。

「…ほんとですか?」
「たぶん…美貴の勘違いじゃなかったらね。」
「…先輩。」
「ん?」

「あたし、手離す気ないですよ?…いいんですか?」
言いながら美貴の手を握ってくる。その手がすごく冷たくて。
思わず強く握り返していた。
80 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 01:01
「…ていうかさ、そっちこそいいの?美貴って、すごい情けない奴じゃん。」
「いいんです。あたし、自分でもよくわからないけど、そんなダメな先輩が
他の何よりも欲しいんです。」

そこまではっきり言われると…ヘコむ。本当のことなんですが。
でも美貴の勘違いじゃなかったことが嬉しかった。

こんなんでもいいと言ってくれる彼女のことを、すごく愛しいと思った。

「そっか…もう、逃げたりしないからさ。」
苦笑いしながら言う。

「ほんとに?」
「うん。心配ならさ、美貴のことずっと捕まえてて。」
「…どんな風に?」

「こんな風に、かな。」

唐突に彼女を抱きしめる。
美貴と同じくらいの身長は、意外に抱きしめやすかった。

「すごい遠回りした気がするけどさ…。」
抱きしめる腕に力を込める。
81 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 01:02
「…亜弥ちゃんの事が好き。美貴、たぶんずっと好きだった。」
「…ほんっと気付くの遅いよ。一年も何してたの?先輩の、あほっ。」
「うん、ごめんね?」

少し涙目になっている彼女の頭を撫でる。
そのままほっぺに触れてみると、その冷たさに驚いた。

「…ほっぺ冷たいよ、亜弥ちゃん。暖めてあげる。」
両手で優しく包む。

「先輩の手、あったかい…。」
「亜弥ちゃんの手は冷たいよね…心が暖かいんだね、きっと。」
「じゃあ先輩は手があったかいから心が冷たいんだ。」
「んん?何だって?このっ。」

頬を包んでいた手で彼女のほっぺを軽くつねった。

「ひゃ、痛いよ先輩!」
「うっそ。力入れてないもん。」
82 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 01:04
じゃれあいながら、自然に距離が縮まっていった。
本当の意味で、二人の初めてのキスをする。

「先輩…好き。」
「ん…美貴も…。」
触れるだけのキスなのに、心が満たされた気持ちになった。
少し照れくさくてごまかすように彼女の手をとって歩き出す。

…あ、今日でクリスマス一緒にいたの、三年目だ…。
すごいなぁ…ほんとに運命かもしれない。
まだお互いのことは何も知らないけど、きっと大丈夫だろう。
なぜかわからないけど、そんな風に自信が持てた。
83 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 01:07
少し歩いたところで彼女が何かブツブツと呟いているのが聞こえた。

「亜弥ちゃん?」
「みきすけ…いや、もっと可愛いのがいい…。」
「…ねぇ、どうしたの?」

「うん、美貴たんがいい!!ね、いいでしょ?今から美貴たんって呼ぶからね。」

「は?なに美貴たんって!?」
いきなり呼び名が変わっていて驚く。しかも美貴たん、って。

「可愛いでしょ?」
首を傾けながら言う彼女を見ながら、思わず亜弥ちゃんのが可愛いよ、
なんて言いそうになる。違う、そうじゃなくて。

「いや、ていうか美貴たんとか美貴のキャラじゃないから。」
「…ふ〜ん、そういうこと言うんだ。あ〜ぁ、去年のクリスマスはひどかったなぁ…。」
「え、いや、その、ご、ごめんって…。許してよ、美貴何でもするし。ね、ね。」

確かに美貴が悪いんだけど…過去にはこだわらないって…。
…思いっきり根に持ってるじゃんか。
それにしても、いつのまにか敬語もやめてるし…。
亜弥ちゃんて、なんか思ったより勢いがある子なんだな。
84 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 01:09
「じゃあ美貴たんって呼んでもいいでしょ?」
「…いいよ。」
「へへっ、よかったぁ。」
彼女が笑うのを見ながら、美貴ってすでに尻に敷かれてんのかな、と思った。

「…亜弥ちゃん。」
「なぁに?」
「来年も、再来年もずっとずっと…一緒にいようね。」

急に真面目な顔でそう言うと、彼女は少し恥ずかしそうに笑った。

「クリスマス・イブ以外にもだよ?」
「…もちろんです。」

少し寒いクリスマス・イブの夜、あてもなく二人は歩き続けた。
どこまでも、どこまでも…二人で一緒に。
85 名前:Destiny…? 投稿日:2003/12/26(金) 01:17
「そういえば美貴たん、パパのこと何だと思ってたの?」
「…え?いやぁ、別に何とも?」
「うっそだぁ。顔に出てたもん。すごい顔でパパの事見てたし。
…どうせ変な関係だとでも思ったんでしょ。」
「いやいやいや、まさか!!若いパパだなぁって思ってただけだよ!
それに亜弥ちゃんがそんなことするわけないし!」
変な関係だと思ってましたといわんばかりの受け答えだった。

「…あっそ。」
「ほんとだって!」








        E   N   D
86 名前:大塚 投稿日:2003/12/26(金) 01:18
更新終了です。
87 名前:大塚 投稿日:2003/12/26(金) 01:20
あぁ…やっぱりクリスマス過ぎてる。
もう26日…。
88 名前:大塚 投稿日:2003/12/26(金) 01:24
>名無し読者さん
あやみきで頑張ってみました。
ペース遅くてすいません…。

>名無し読者さん
あやみき癒されますよね。
可愛い女の子二人…見てるだけでいいです。

えっと、色々と指摘したい点があることと思いますが…。
あえて何も突っ込まないで下さい。お願いします。
自分が一番よくわかってます。これが精一杯だったんです…。
89 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/26(金) 02:15
癒されました。
こういうあやみきって意外と少ないので余計に嬉しかったです。
素晴らしいクリスマスプレゼントをありがとう!!
90 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/01(木) 03:27
会話のやり取りがおしゃれな感じで
とってもよかったです。
やっぱりあやみきはいいですね〜
91 名前:大塚 投稿日:2004/01/04(日) 15:29
あけましておめでとうございます。
一年が早いなぁ…今年もそれなりにがんばろう。

>名無し読者さん
少し遅いクリスマスプレゼントでしたが、
喜んでもらえて何よりです。
こんな駄文なのに、ありがたいです。

>名無し読者さん
おしゃれ…どこらへんがだろう…。
えっと、お褒めの言葉ありがとうございます。

プリンセスあややを見れました。
ちょうどいいタイミングで家に帰ってきたもんで。
自分、アホなので信じかけましたね。
「あややが落ちたーーー!!」
一人叫びました。恥ずかしい。

でもあれってわかってても精神的によくないですよね。
小さい子も見てるでしょうに…。
そんな子たちからしたらものすごいショックだったと思いますよ。
いい大人な自分でさえショック受けましたから。
藤本さんの泣いてる姿とかに(笑
いやそれは半分冗談ですけどね、ええ。
あれじゃあ藤本さんもわかってたとしても心配だったでしょうね。
マジックというかドッキリですもん、あれ。しかもタチ悪い。
92 名前:大塚 投稿日:2004/01/04(日) 15:33
こんなところに書くことじゃありませんでしたね、失礼。
それでは次の更新をお待ちください。
きっと次の駄文もあの二人だという予感がしております。
93 名前:大塚 投稿日:2004/01/05(月) 03:10
急に思い立って書き上げました。
短編です。
94 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:11
「みきたんみきたんっ、こっち!」
「うん。」
「あっ、やっぱあっち行こっ!いいもの発見!」
「うん。」
「ねぇこれすっごい可愛くない?あたしに似合うでしょ?」
「うん。」
「あのさぁ、みきたんあたしの話聞いてないでしょ?」
「うん…あ。」
「……藤本さぁん?」
「ごめんなさいごめんなさい。聞いてる、ちゃんと聞いてますとも。」
95 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:13
一月某日。
某デパートに美貴と亜弥ちゃんは買い物に来ていた。
…というか、あたしが亜弥ちゃんの買い物につき合わされていた。

お正月にお年玉を手にした途端これだ。
高校生はいいよなぁ〜。
美貴なんて大学生になったからと言って、今年からくれない人が多くなった。

はっきり言うとおばあちゃんからしかもらってない。
今の大学生の感覚からいくと、ほんの小遣い程度。
でもおばあちゃんが少ない年金を貯めてくれたお年玉だもん。
大事に大事に貯金させてもらいました。

バイトするようになってから、お金のありがたみがわかるようになったからね。
就職して最初の給料をもらったらおばあちゃんに何か買ってあげよう。
小さい頃から美貴の面倒たくさん見てくれたし。

あ、お父さんとお母さんもだった。お兄ちゃんとかは…いいや。
96 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:15
そういう訳でさっきからバンバンお金を使う亜弥ちゃんを見てると、腹が立ってしょうがない。

最近の子はダメだね。全然ダメ。
自分もつい一年前までそうだったことは棚に上げている。

そんなことを考えていたから、亜弥ちゃんの言葉が耳を通り抜けている状態だった。
そのことに気付かれ睨まれると、美貴はすぐさま謝った。平謝りである。

あれ?こんなはずじゃ。

「みきたん、ハイこれ。お願いね?」
「うん。」

それどころか会計の済んだ袋を次々と持たされる。
それに逆らうことなく素直に従う自分。笑顔のオマケつき。
心の中とは対照的に、とる行動は全て亜弥ちゃんの言いなり。

美貴って二重人格なのかもしれない。
97 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:16
会計のとき以外、しっかりあたしの右手を握って歩く亜弥ちゃん。
左手だけで荷物を持たされる美貴としてはかなりキツイ。

せめて利き手の右手で持ちたい。それすらも言い出せない自分。

左手の荷物はどんどん増えていく。
高校時代、バレーで鍛えた腕の筋肉にも限界が近いようだ。

手と額に汗がにじみ始める。

「みきたん、これも持ってちょうだい?」
「うん。」

ダメなのは自分だ。
98 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:17
美貴より二つ年下の彼女は、お隣の松浦さんちのお嬢さん。三人姉妹の長女。
美貴に対してはこんな扱いだけど、妹ちゃんたちにはものすごく甘い。

…なんで?美貴と亜弥ちゃんって一応他人だよね?
そりゃ亜弥ちゃんが産まれた時からずっと一緒だけどさ。

いわゆる幼馴染という関係は、血の繋がった姉妹よりも遠慮がいらないものなのか。

教えてください。世間一般ではどうなんですか。
幼馴染の言う事を何でもほいほい聞くのって、おかしいですよね?
99 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:18
お昼も過ぎたころ、ようやく買い物が終わったらしい。

「みきたん帰ろ〜。」
「もういいの?」
「うん。みきたんもそろそろキツイかなと思って。一つ持ってあげるね。」
「まじで?ありがと〜。」

いや違うだろ。この荷物は全部亜弥ちゃんの荷物だろ。
美貴のものなんか一つもないはずだ。
亜弥ちゃんが持つのなんて当たり前じゃん?
しかも亜弥ちゃんが持った唯一の荷物、一番軽いやつだよ。
小さい紙袋に入った、持っても重さなんてまったく感じないアクセサリー。
なんで美貴お礼とか言っちゃってんの。

そんなツッコミは全て美貴の心の中だけで繰り広げられる。全て自己完結。
もう自分がどうしたいのかさえわからない。
100 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:19
ヒイヒイ言いながら家に到着。

「ただいま〜。」
「あら、おかえり亜弥ちゃん。」
「すいませーん、またみきたん借りちゃった〜。」
「いいのいいの、どんどん使ってやって。家にいても役立たずだし。」

ええと、ここは松浦家ではありません。藤本家です。
まるで自分の家のように亜弥ちゃんは入って行ったけど、いつものこと。

それより今の会話はなんだ。
お母さん、娘のことを何だと思ってるんですか。
おかえり亜弥ちゃんて。美貴は?

やっぱり初給料はおばあちゃんのためだけに使おう。決定。
101 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:20
美貴の部屋に行くと、さっそく松浦亜弥のファッションショーが始まる。
美貴はベッドに座ってその様子を眺めていた。

もちろん着替えをしている時は後ろを向けと怒られた。

「みきた〜ん見て見て可愛い?」
「うん、可愛いよ。」
「へへーやっぱね〜。」

こう言わないと怒るし。いや、実際可愛いんだけどさ。
…そうだ、亜弥ちゃんは可愛いんだよ。誰よりも可愛い。

オーディション受ければ即アイドルになれるだろう、ってくらいの可愛さ。
それは言い過ぎかもしれないけど、去年一年間同じ高校だったからよくわかる。
かなりもてまくっていた。男女関係なく。

いや、ほんとに男女関係なく。

美貴の出身校って、色んな意味で大らかな校風だったからさ。
102 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:22
誰かが亜弥ちゃんに言い寄ったと聞くたびに、とりあえずそいつらをシメた。

もっと平和に解決すればよかったんだろうけど。
美貴も若かったからさ、ちょっとばかし羽目はずしちゃったわけよ。

今は悪い事したなって反省してるよ。ほんの少しだけ。

いやいや、全然おかしくないって。
大事な大事な亜弥ちゃんを、そこら辺の男やら女には渡せないでしょうが。

そして亜弥ちゃんが入学してから半年。
美貴の努力のおかげで、亜弥ちゃんに言い寄る身の程知らずはいなくなった。
美貴が高校を卒業した今も、亜弥ちゃんの身の安全は守られている。

卒業する前に色々手を打っておいたからなぁ。
そりゃもう考えられるだけの色んな手を尽くして…。
103 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:24
「えへへ〜みきたぁん。」
「お?」
ちょっとほろ苦い思い出に浸っていたら、背中に柔らかい感触。

「なにさーどしたの急に?」
「あのね〜あのね〜…。」
「だからなにさー。」

ふにゃふにゃと甘えてくる。首筋に髪の毛が触れてくすぐったい。
それ以上に抱きついてくる体が柔らかくて気持ち良いから、全然かまわないんだけど。

そうしてひとしきり甘え終わった後、亜弥ちゃんは美貴の両足の間にちょこんと収まった。
最強の上目遣いをまともにくらう。

あぅ…これは…。
だめだ、やっぱり可愛い。美貴こんな可愛い子ほかに知らないよ。

さっき受けた扱いに関したことは、完全に忘れてしまっている。
104 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:26
「みきたん、今日は大変よく頑張りましたぁ。」
そのまま向き合った状態で、亜弥ちゃんはよしよしと美貴の頭を撫でた。

ああ…気持ち良いな。あったかくて、優しい手。

「なのであたしからご褒美がありま〜す!」
「んーなにぃ?」
頭を撫でられ、その気持ちよさに目を閉じてひたる美貴に、亜弥ちゃんの近づく気配。

ちゅっ。

目を開けたあと、くちびるにかすかに残った熱。

「いひひ、これがご褒美でしたぁ。」
少し赤くなったほっぺがその証拠。

「……亜弥ちゃん…。」
「ん?」


「好き、だぁぁぁ〜。」


「ぅえ!?…ちょ、待ってみきたん!ダメだってば!……ん、あっ…。」
105 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:27
言ってなかったけど、美貴達、そういうことなんです。
亜弥ちゃんは美貴のもの。当然、美貴は亜弥ちゃんのもの。

美貴が亜弥ちゃんにひたすら甘い理由。
…要するに惚れた弱みってやつなんですよ、ええ。
不満とかあるのは事実だけど、でも本気で嫌なわけじゃない。
ぶっちゃけ亜弥ちゃんに使われるのは好きだからさ。

…他の人だったらキレるけど。

亜弥ちゃんに対してだけ、何かしてあげたい衝動に駆られるというか。
とことん尽くしてあげたくなっちゃうんだよね。

それも愛があるからこそ。愛って偉大。

神様…亜弥ちゃんに出逢わせてくれてありがとう。
それだけで死ぬ間際にいい人生だったと言える。
いい仕事したよ、神様。
106 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:29
「亜弥ちゃん…愛は偉大だよね。」
「…いきなり何言ってんの…みきたんのばーかっ。…ついでに、えっち。」
「はいはい。」
「…聞いてんの?」

キッと睨まれてもさっきより怖くない。

「あとで全部聞くからさ……今は、続きしていい?」
「もぅ…ほんと、ばか。」

首の後ろに回された腕に導かれ、そのままキスをされる。それが答えだった。

美貴、亜弥ちゃんにだったら何されてもいいって本気で思ってるよ。
でもこっから先のことに関しては、主導権握るのは美貴だからね。
そこら辺はよろしく。
107 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:30


108 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:31
次の日。

「みきたん、部活あるから学校まで送って〜。」
「うん。」
「その前に髪やって〜。」
「うん。」

テキパキと亜弥ちゃんの髪をセットし、朝食もとらずに家を出る。
亜弥ちゃんは髪をやってもらっている間にしっかり朝食を済ませていた。
そしてチャリの後ろに亜弥ちゃんを乗せて、早朝の街を走る美貴。

ちなみに時間はこの時点でちょうど午前七時を過ぎたころだった。
一応言っておくが美貴はまだ冬休み中である。
109 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:32



あぁ、人生って素晴らしい。愛こそすべて。



110 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:33




111 名前:Life without love is meaningless 投稿日:2004/01/05(月) 03:34




112 名前:大塚 投稿日:2004/01/05(月) 03:35
アホな話を書きたくなった、それだけのことです。
こんな夜中にどうもすいません。
113 名前:大塚 投稿日:2004/01/05(月) 03:36
すいませんあげてしまいました。
恥さらしだ…。
114 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/05(月) 15:28
真夜中の更新乙!です。
いいですよぉ〜!かなりくいこんできましたね。自分の妄想範囲に(蹴
全部読み終えてから、この二人がそうなるまでの経緯が読みたくなった
のは自分だけでしょうか・・・。
次回も期待しまくってますんで是非頑張ってください!!
115 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/05(月) 19:56
萌えまくっております(*´Д`)ポワワ
アホ話ほど最高なものはありませんw
いいものありがとうございました
116 名前:あやみき信者 投稿日:2004/01/08(木) 01:30
思いつき?
全然いい作品です〜〜☆☆
一番しっくりくるあやみきスタイルですね^^

旅行から帰ってきたとたんにいいもん見れました♪
117 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/21(水) 21:29
次回作も楽しみにしてます。
118 名前:大塚 投稿日:2004/02/01(日) 00:08
>名無し読者さん
…実は次回作、名無し読者さんの要望通りのものに
しようと目論んでおりました。
この二人、書いてて楽しかったもので。

>名無飼育さん
お褒めの言葉、ありがとうございます。アホ話は自分も大好きです。
アホだけど愛を感じられるものを目指してます…なんて。

>あやみき信者さん
素晴らしいお名前ですね…あやみきへの愛を感じますよ(w
旅行ですか、羨ましい限りです。

>名無飼育さん
次回作、もう少しお待ちください。
119 名前:大塚 投稿日:2004/02/01(日) 00:31
今、PJであやや見てぼーっとしてました(w
それはそうとお返事が遅くなってすみません。
私生活で疲れきってまして…言い訳ですが。
その反動と言っちゃなんですが、次の話は前回の続きになってます。
つまりアホな話です、色んな意味で。いわゆる現実逃避です。

次の更新は藤本さんの誕生日前までにはしたいと思ってます。
それでは、また。
120 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/10(火) 14:53
現実逃避、おおいに結構です!!(w
楽しみにしてます
121 名前:大塚 投稿日:2004/02/11(水) 03:42
これは、前の短編の続編というか過去の話です。
二人の子供時代の様子をたんたんと、なんの意味もなく。
小さい頃の二人を想像(妄想)するという、所謂、自己満足の世界。
…嘘つきました。むしろ続編でもなんでもありません。ただ書きたいだけです。
少し疲れているのかもしれません。見逃してください。
122 名前:大塚 投稿日:2004/02/11(水) 03:45
ちなみに題名考えてません(コラ
それではいきます。更新です。
123 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 03:46
あれは今から17年前の初夏のある日。

お隣の新婚の松浦さんちに、待望の赤ちゃんが生まれた。
藤本家ではその知らせをまるで家族の一員のように喜んだ。
そして松浦さんちの奥さんはしばらく入院したあと、赤ちゃんとともに松浦家に帰ってきた。
藤本家では家族総出で赤ちゃんを一目見ようと松浦家に訪れた。

もちろんその中にはようやく一人で歩けるようになった美貴もいた。

赤ちゃん用のゆりかごに寝かせられたその姿を見て、藤本家の面々はちょっとお猿さんみたいだけど可愛いねぇ、とみんな口々に誉める。
その様子を見て松浦夫妻は心底幸せそうに笑っていた。
124 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 03:50
でも美貴はまだ小さかったから、ゆりかごにつかまって精一杯背伸びしても赤ちゃんが見えない。
それに気づいた松浦さんちの奥さんは、「あっ、美貴ちゃんにも紹介しないとね。」と言って、
赤ちゃんをゆりかごから抱きあげると、美貴に見せてくれた。

そのとき美貴は生まれて初めて、自分よりも小さな命を目の当たりにしたんだ。
なんか、すごく不思議な気持ちだった。

恐る恐るその小さな手を握ってみる。
すると意外に強い力できゅっと握り返され、少し笑ったように見えた。
125 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 03:53
「あっ笑ったよ!」お兄ちゃんが嬉々とした声をあげる。
「あら、美貴のことが気に入ったのかしらね。」とお母さん。

「ふふ、そうみたいですね。美貴ちゃんにこの子のお姉ちゃんになって欲しいなぁ。」
「ずるい、美貴ばっかり。あたしの方がお姉ちゃんなのに。」
松浦さんちの奥さんの言葉に口を尖らすお姉ちゃん。

小さな手と、それよりちょっとだけ大きな自分の手。
まだ繋がれたその手を見ながら、なぜかはよくわからなかったけど、
この子の存在がとても大事なものに感じられたんだっけ。

これが美貴と亜弥ちゃんとの出会い。
家族のようでいて、家族とは違う。これは、そんな美貴と亜弥ちゃんのお話。
126 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 03:54



127 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 03:56
そして時は流れ、美貴は幼稚園に通うようになっていた。
亜弥は誕生日がくると二歳。
成長が早いようで、結構言葉を話せるようになっていた。

いつもの朝。幼稚園バスならではの音楽を流しながら、お迎えのバスがやって来る。
美貴はお母さんと手を繋ぎながらバスを待っている。
バスが停まると、その中から美貴と幼稚園が一緒のひとみと梨華が手を振っていた。
美貴も笑顔で手を振ってバスに乗ろうとしたところで母親が何かに気付く。

「あらぁ〜。美貴、今日も亜弥ちゃん来ちゃったよ。」
「え?ほんと?」

すぐ亜弥の家の方を見ると、玄関に亜弥の姿が見えた。
よちよちと歩き「やぁ〜!」と喚きながら美貴に近づく小さな女の子。
あの頃より少しだけ大きくなった、亜弥である。
128 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 03:58
亜弥の目には溢れそうなほど涙が溜まっている。

「あやちゃん…。」美貴は困ったように呟く。

四月に幼稚園に入学してからというもの、亜弥は美貴が帰ってくるまで泣き喚く日々であった。
最近ではこのお迎えのバスが来ると美貴がいなくなることを覚えたらしく…。
毎朝泣きながら美貴が行くのをなんとか阻止しようとする。

そしてその後ろからは泣きそうな顔で、すみませんいつも、と亜弥の母親。
その様子を見ていると、なぜか美貴とその母親の方が申し訳ない気持ちになってしまう。

そして亜弥は美貴のところまで来ると、ぽふっ、と美貴に抱きついた。
泣きながら美貴の制服をギュッと握る。

…最後に「やぁだぁ〜。」と一言。
129 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:03
…こんなにも自分を慕ってくれる亜弥ちゃんの言うことは聞いてあげたい。
美貴の可愛い妹みたいなもんだしさ。
でも幼稚園には行かなきゃだめだし…。むむむ。困った。

美貴の心の葛藤はいつものことである。
そして幼稚園教諭は、このいつもの光景に困ったような顔をしている。
亜弥は幼稚園の園児じゃないから自分が口を出しても…。
そんなことを考えているであろう、平家みちよ。

だがここだけに時間をかけてもいられない。
迎えに行く園児はまだまだいるのだ。
それでも何も言えない、平家みちよ。

みっちゃんいい子なのにね…。
130 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:05
美貴は溜息をつく。でもそれは悪い感情が込められた溜息ではなかった。
しょうがないなぁこの子は、という気持ちからの溜息であった。
美貴はよくわかっていたのだ。亜弥が、自分の言う事だけはよく聞くことを。

「よしよし、ないちゃだめだよ。いいこ、いいこ。」
「…ん〜…。」
それまでぐずっていた亜弥は、美貴が抱きしめて頭を撫でてやると少しずつ落ち着いてきた。
くりっとした大きな目で美貴の顔をじっと見つめている。

…可愛いなぁ。お人形さんみたいだぁ。
131 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:06
自然と頬が緩んでいる自分に、美貴が気付いているのかどうか。

「あやちゃん、みきがかえるまでいいこでいたら、きょうはあやちゃんのすきなことしてあそぼ。
おままごともみきがおとうさんやるしさ。」
「…みきたんが、パパやゆの…?」
「うん、そう。やくそくできるよね?」

すると亜弥は素直に頷いてにこっと笑顔になった。

「じゃあみきいくね。いいこでまってるんだよ?」
美貴がそう言うと、亜弥は元気よくその小さな手を上げて「あいっ!」と答えた。
132 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:07
バスに乗り込むと、ひとみと梨華が「おはよ〜」と声をそろえて挨拶をしてくる。

「おはよっ!」
美貴も笑顔で答え、二人の前の座席に座る。

髪が短くて背が高くて、一見すると男の子みたいなこの子は吉澤ひとみ。
でもよく見ると色白で、大きくくりっとした目がとても可愛い子である。

そしてちょっと色黒だけど、将来アイドルにでもなれそうなこの子は石川梨華。
悲観的に物事を捉えがちなのがたまにキズである。

二人とも幼稚園で美貴が仲の良い子達だ。
133 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:10
もう一人仲の良い子はいるのだが、いつもバスに乗り遅れるため今はいない。
朝は少し苦手だけど、お遊戯もお絵かきもすごく上手なその子は後藤真希という名前である。
彼女はお母さんの自転車の後ろに乗って毎日幼稚園に通っている。
そして幼稚園に着いてもしばらく寝ている。自然に起きるのを待つしかない。

この三人は生まれた頃から一緒で(もちろん誕生日は違うけど)、その関係は
美貴と亜弥との関係によく似ていた。

少し違うのは、美貴と亜弥の場合は幼馴染というか、むしろ姉妹のような関係であるところだ。
亜弥の母親に言われたからというわけではないが、どうもあの子の世話を焼きたがりな自分。
134 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:13
ふと下を見ると、亜弥が母親に抱きかかえられながら美貴に手を振っていた。

さっきまでとは180度違う、えくぼつきの満面の笑み。
自然と美貴も笑顔になり亜弥に手を振っていて、曲がり角を過ぎるまでそれは続いた。

するとそれを見計らったように梨華が話し掛けてくる。

「きょうもあのこすごかったね。ないちゃって。」
「あぁ、あやちゃん?」
「そうそう。まいにちすごいよなぁー。」

ひとみがさっきのことを思い出したのか、にひひっと笑う。
135 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:14
「つーかさぁ、かわいいよなーあのこ。」
「ねー。おめめパッチリだし。それに…いろも、しろいし…。」
「そいでさーほっぺがプニッとしててさーおもちみたいなの。おもちかっけー!さわりてー!!」

…ピクッ。

「ひーちゃんだってほっぺぷにぷにだよ?」
「ちがうんだって!ちっちゃいこのとは!」
「じぶんだってようちえんじのくせに…。」
「あぁ!?なんかいったかアゴ!?」
「ひっ!あ…アゴって…!!」
「ひーもあんないもうとほしいなぁ。そしたらさぁーまいにちさわりほうだいじゃん!」

ピクピクッ。
136 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:16
「ねぇみき、こんどあやちゃんといっしょにあそばせてよ。」
「………だ…。」
「ん?なに?」

「…ぜったいだめ!よっちゃんエッチだもん、あやちゃんがあぶない!」

「ええ!?なんだよそれ!?」
「とにかくだめなものはだめ!それにあやちゃんは………。」

「…なんだよぉ〜?」
ひとみが不満そうに美貴の言葉の続きを促す。

「…なんでもない。それよりよっちゃん、りかちゃんがなんかへん。」
「ん?りかちゃん?…かおいろわるいよ?あお…っていうかくろいよ?」


「………!!」


「え?どうしたのりかちゃん、だいじょうぶ?」
137 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:19
ひとみの意識が梨華に向かったところで、美貴は前を向いて座りなおした。

「…………」
自分がたった今発しようとしていた言葉を思い浮かべ顔が赤くなる。
(…あやちゃんはみきのものだもん、なんてはずかしくていえないよ…)
頬に手を当てて熱を冷まそうとする。

アゴ…黒…アゴ…。ブツブツとお経のような梨華の声が後ろから聞こえたような
気がしたが、あえて聞こえないふりをした。

もうすぐ、幼稚園に到着だ。
138 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:20



139 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:21
時はさかのぼり、幼稚園バスが行ったすぐあと。
残されたのは母親二人に、母親の腕の中で一瞬にして眠りに落ちた愛くるしい子。

「……ほんと美貴ちゃんにはかなわないですね。どっちが親だか…。」
「いやいや、そんな落ち込まなくても大丈夫だって。」
「そうですかね…。」
「そうそう。あんま思いつめちゃだめだって。」

「………でも…。」

「ん?」
140 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:26
「…でも……でもでもでも!亜弥が一番最初に話した言葉は『みきたん』だったし、父親に
抱っこされて泣いた時は美貴ちゃんの名前言うだけで泣きやむし、私がどんなに頑張っても
絶対口にしない大嫌いな食べ物は美貴ちゃんが食べさせるとすんなり食べるし、それに」

「わっ、わかった、わかったって!わかったから!!」

どこまでも続きそうな愚痴を必死で止める。育児ノイローゼだろうか。
すでに三人の子供を育てている美貴の母親にとっては、遠い過去に経験したこと。

今となっては子育てなんて適当そのもの。親はなくとも子は育つ、とはよく言ったものだ。
しかし、この松浦さんの奥さんの場合、厄介なことに自分の娘、美貴が原因のようだ。
というか明らかに美貴が原因である。
141 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:29
めんどくさいことが嫌いな美貴の母親は、その場をなんとか丸く納めようと考えた。
が、そもそも考えること自体嫌いなので一瞬でどうでもよくなった。

そう、きっとなんとかなる。彼女の口癖である。

この親にしてこの子あり…将来の藤本美貴という人間が見えたようだった。

「でも…。」

ギクッ。まだ言うか。

一瞬身構えた美貴の母親だったが、何か言いかけた松浦さんの言葉を遮るように、
すぐ横を自転車が通り過ぎる。ナイスタイミング。

それは、必死の形相でバスを追いかけるように自転車をこぐ、後藤真希の母親だった。
後ろに乗っている子供は、口を開けて寝ていた。しかも半目である。

「ほら、世の中にはああいう子もいるのよ。亜弥ちゃんなんてまだ可愛いもんよ。」
「……そうですよね。」

そんなことを言われているとも知らずに、真希は眠り続けている。
彼女が目を覚ましたのは、結局いつだったのか。
142 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:33


143 名前:  投稿日:2004/02/11(水) 04:34


144 名前:大塚 投稿日:2004/02/11(水) 04:36
…すっごい中途半端ですが。ここで終了です。
ちなみにまだまだ適当に色んな話を書いていくつもりです。
自分が飽きるまで。計画性なくてすいません。
145 名前:大塚 投稿日:2004/02/11(水) 04:39
>名無し飼育さん
…いつも思うんですが、敬称はつけるべきでしょうか。
名無し飼育さんさん?名無し飼育さん様?

ええと、アホになっていくのはこれからだと思われます。
このころの藤本さんはまだまともだった、と(w
146 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/11(水) 05:08
んー…素敵だ…w
147 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/11(水) 13:27
計画性?んなもんいらねーれすよ!
萌えられればいいのれす
つーか幼稚園児・・・(*´Д`)ポワワ
この時点で最高ですよ
148 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/11(水) 14:36
妄想力をフル活用して読ませて頂きました。
よちよち歩く亜弥ちゃん、か………。
………ハアハアハアハアハアハアハアハアハア
149 名前:ss.com 投稿日:2004/02/11(水) 19:50
幼稚園児の85年組の様子にメッチャ、ツボりました。
ってか、ホント、こんな感じだったんじゃないかって…。
で、サリゲにキャラの濃い母親とか…。
チョウ、期待です!頑張って下さい。
ちなみに、私も無名飼育さんへのレス返しはいつも悩みます(W
150 名前:あやみき信者 投稿日:2004/02/15(日) 19:23
他の赤ちゃんあややにもはまっているのですが、この短編最高です〜〜☆☆
おねぇさん美貴ティと駄々っ子亜弥ちゃんマッチしすぎ^^p
また短編期待ですw〜☆
151 名前:あやみき信者 投稿日:2004/02/15(日) 19:24
申し訳ないです><><;
下げ忘れ><><;
152 名前:大塚 投稿日:2004/02/16(月) 23:22
遅いよと言われても気にしません。バレンタイン絡みです。
例によって題名は思いつきません。
決して考えるのがめんどくさいというわけではなく。
153 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:23
「ねぇねぇみきちゃんってさ、チョコだれかにあげたの?」
幼稚園での休み時間中に、梨華が目を輝かせて美貴に尋ねる。

「べつにだれにもあげてないけど。」
当たり前のようにそう答える。

姉が「美貴も誰かにあげるんなら一緒に作ろうよ」と誘ってきたのも断った。
結局、姉は母親と二人でチョコ作りに励んでいた。

そして失敗作を貰って食べたりして、バレンタインはそんな感じに終わった。
154 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:24
「えー!じゃあみきちゃんってすきなひといないの?」
梨華があからさまに面白くなさそうな顔をする。

「すきなひとって…そんなのいないよ。」
「なぁんだ〜つまんないのぉ。」
「そんなこといわれてもさぁ。りかちゃんこそだれかにあげたの?」
「え?あたしぃー?あたしはね〜。」
くねくね体を動かしながら、恥ずかしそうに顔を赤く染める。

「あのね、実は…。」「りかちゃんはよしこにあげたんだよぉ。」
めずらしく起きていた真希が割り込んでくる。

「ま、まきちゃん!!」
「へぇ〜よっちゃんにあげたんだぁ……って、よっちゃんに!?」
美貴は目を丸くして梨華を凝視する。
155 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:25
「そうそう。あたしチョコつくるのてつだったんだよ〜。」
「や、ちょ、まきちゃんってば!」
得意げな真希とは反対に梨華はすでに泣きそうだった。

「なんで?りかちゃんなんで?なんでよっちゃんなの?」
美貴は頭が混乱していた。梨華に迫って問い詰める。

「なんでって…だって、りか、ひーちゃんのことすきなんだもん…。」
「…すき!?」
「に、にらまないでよ!…ひーちゃんのことすきだからチョコあげたんだもん…。」

え、だってバレンタインって、女の子が男の子にチョコをあげるものだよね?
お母さんだってお父さんにあげてたし。
お姉ちゃんだって同じクラスの男の子にあげたらしいし。
156 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:27
「だって、よっちゃんはあれでもいちおう、おんなのこだよ?」
そう言いながら美貴はひとみを指差した。

すぐそこで、ひとみは男子に混じって遊んでいた。
しかし、何か揉めているような雰囲気だった。

「ひーがレッドやるんだよぉ!!」と叫ぶ声が聞こえてくる。

「…いちおう、おんなのこじゃん?」
どこか遠い目をしながら美貴が言葉を繰り返す。

「うるさいこのチビ!おまえはピンクでもやってろ!」
最後にはひとみが男の子を泣かせてしまっていて。
それを見ていた三人に妙な沈黙が訪れた。
157 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:29
その沈黙を破るように美貴が口を開く。
「えっと…りかちゃん、チョコはおとこのこにあげるものでしょ?」

美貴は疑問に思っていたことを素直に言っただけだった。
しかし、その疑問を口にしたとき、真希と梨華の二人はきょとんとした
表情で美貴を見つめてきた。

「なにさ、どうしたのふたりとも。」
「…あのさぁ。」
真希が口を挟む。

「みき、すきなひといないの?」
「すきなひと?いないってさっきもゆったじゃん」

周りを見渡しても、カッコいいと思える男の子はいない。
むしろひとみに泣かされるような男の子たちになんて、全く興味が持てない。
158 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:31
「いや、だからすきなひとだって。べつにおとこのこじゃなくてもいいじゃん。」

…男の子じゃなくても?

「…バレンタインってそういうもんなの?」
「さぁ、わかんないけど。」
「えぇ、そんな。」

「でも、じぶんがすきなひとにあげればいいんだし、そんなのかんけいないんじゃん?」
真希の言葉に、美貴は少なからず衝撃を受けた。

…自分が、好きな人。

「…みきちゃん、わたしってへんかなぁ?」
それまで口を閉ざしていた梨華が、真っ直ぐな瞳で美貴を見つめる。
159 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:32
そのとき、なぜか思い浮かんだのが、亜弥ちゃんの顔。
美貴を見て嬉しそうに笑う、あの笑顔。

…そうか、そういうことか。
美貴は何かを吹っ切ったようににやりと笑う。

「…ううん、へんじゃないよ。」
「ほんと?」
梨華が不安そうに美貴を見上げる。

「うん。だってみきもりかちゃんとおんなじ。だいすきなこ、いるもん。」
美貴がそう言うと、なぜか真希が満足したように笑った。
160 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:33
 
161 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:34
幼稚園から帰ってすぐ、美貴は母親にチョコを買ってとねだった。

「買わなくてもあるわよ、こないだの残り。」
「ほんと?」
「待ちなさい、今出してあげるから……ほら、あった。」
冷蔵庫をごそごそ探っていた母親の手にはチョコレート。

「やったぁ!」
「なぁに、あんたもしかして何か作る気?」
「うん!だからおかあさん、つくりかたおしえて!」
「いいけど…あんた今さら誰にあげる気なの?」

娘に好きな子がいたなんて、初耳だった。
娘にも好きな子ができるようになったのね…と感慨深げに思う。
ちょっと、時期は遅いけど。
162 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:38
「んーとね、あやちゃんにあげるの!」

美貴はとびっきりの笑顔でそう答えると「きがえてくる!」と言って
リビングを出て二階へと階段を上っていった。

美貴に好きな子ができたと父親に言ったら、どんな顔をするだろうか。
あとでからかってやろうとほくそ笑んでいた母親は、思いがけない
娘のその言葉に口をあんぐりと開け動きを止めた。

そしてはっと我に返ると、笑いがこみあげてくる。
ほんとに亜弥ちゃんのこと好きなんだから…。

娘の笑顔を思いだし、微笑ましく思う。
すると階段を下りてくる音がして、すぐにリビングのドアが開けられた。

「おかあさん、きがえてきたよ!」
「はいはい。じゃあまず手を洗って…。」
163 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:38
 
164 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:45
――――その三十分後。

お昼寝から目覚めた亜弥が、いつものように美貴の家にやってきた。

「たぁーん!」

「あ、亜弥!勝手に入っちゃダメだってあれほど言ってるのに!
…すいませんいつも…。」
「松浦さんそんな気にしないでよ〜。自分の家みたいに思っていいのよ。」
あっけらかんと答える美貴の母親。

「いやそんな滅相もない!」
「まぁまぁ、とりあえずそっち座ってて。いまお茶入れるからさ。
今日も相談事あるんでしょ?」
「実は…いつもすいません…。藤本さんに頼ってばっかで。」
「なによ、気にしなくていいのよ。子育てに関しては先輩なんだし。」

そしてそんな母親の気苦労も知らずに、亜弥はエプロン姿でチョコ作りを
している美貴を見つけると、嬉しそうに走ってくる。

「あっ、あやちゃん、もうおっきしちゃったの?」
「えへへぇ〜おっきしたのぉー。」
にこにこ笑いながら美貴にまとわりつく亜弥に、美貴は少し困ったような顔をする。
165 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:47
いつもより来るの早いな…もうちょっとで冷蔵庫で冷やせるとこだったのに…。
チラッとテーブルの上のチョコレートを見る。
まだ液状のそれはハート型の容器に入っている。

「みきたん、それなぁに?」
そんな未完成なチョコを、亜弥は目ざとく発見する。

母親二人はリビングのソファに座って何やら話し込んでいる。
娘のチョコ作りのことは、半分忘れかけていると思われる。

「ん…これ?バレンタインのチョコ。あやちゃんにあげようとおもって。」
「ばれんたいん?」
「…すきなひとに、チョコをあげるひのことだよ。」

美貴がそう言うと、亜弥は一瞬考えて、ひらめいた!という顔をした。

「たん、あやのことしゅきだもんね!」
自信満々に言われても困るが、本当のことなので頷いた。
166 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:50
「そうだよ。みき、あやちゃんのことだいすきだから、チョコあげようとおもったの。」

男の子とか、女の子とか関係ない。真希の言う通りだと思った。
美貴は亜弥のことが好き。ただ、それだけのことだった。

「たん、ちょこたべたい!」
「え、まだできてないから。もうちょっとまってて。」
「んー…たべたいぃー…。」

やばい。
美貴が焦りを顔に出す。亜弥がわがままを言い出したら、もう終わりだ。

「あのね、まだかたまってないからさ。いまからつめたくするから…あっ!」
必死で説得しようとする美貴の言葉も虚しく、亜弥はまだ固まっていない
チョコレートにいきおいよく指を突っ込んだ。

美貴は言葉も出せずにその指の行方を見つめていた。

ぱくっ。

それは、そんな音が聞こえてきそうな感じだった。
167 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:52
「ちょこ、おいちぃねぇー。」
にぱっと笑う亜弥を見て、美貴は文句も何も言う気になれなかった。

「あぁ、そう…よかったね…。」
「みきたんどうしたの?」
「ううん、なにも…。」

ああ、もう少しでできたのに。初めての手作りチョコレート。
がっくりと肩を落とす美貴を不思議そうに見つめる亜弥。

しかし、何の迷いもなく再びチョコレートに指を突っ込む。

もう、どうにでもしてくれ…。
藤本美貴、もうすぐ五歳。
世の中にどうにもならないことがあると悟った瞬間だった。

しかし、その時。
168 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:54
「みきたん、あーんして?」
チョコレートに突っ込んだ指を、美貴に差し出す亜弥。

「え…。」
「おいちぃよ?」

全く曇りのない目で見つめられ、美貴は促されるまま口を開けた。
それと同時に、口の中いっぱいに広がるチョコレートの甘さ。

「…ん、おいしい。」
「ねー?」



この時、美貴はすごくドキドキしていたんだけど…。
その理由はまだわからなかったんだ。

それがわかるのは、二人がもう少し大人になってからのこと。
169 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:55
 
170 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:55
 
171 名前:  投稿日:2004/02/16(月) 23:56
…幼稚園児にして、無意識にエロいっていうか。
さすが藤本さんですね。
172 名前:大塚 投稿日:2004/02/17(火) 00:02
>146 名無飼育さん
いや、素敵だなんて、そんな…。
もったいないお言葉。

>147 名無飼育さん
そうれすよね。このまま計画性なしでいきます。

>148 名無し飼育さん
名無飼育さんじゃなくて名無し飼育さん…間違えるとこだった…。
妄想力がこのような話を作る原動力です。はい。
173 名前:大塚 投稿日:2004/02/17(火) 00:08
>ss.comさん
これはこれは、よくこんな駄作を見る気になってくれました。
更新、いつも楽しみにしてますよ。お互い頑張りましょう。

>あやみき信者さん
素敵なHNですね…あやみきへの愛が溢れてます。
駄々っ子亜弥ちゃんをお気に召してもらえたようで。
age・sageは最初にあのように書いてますが、実際はそんなに気にしてないので。
いきなり落とされるのは勘弁ですが(w
174 名前:大塚 投稿日:2004/02/17(火) 00:10
次の更新はいつになるか未定です。ネタが思いつき次第ですね。
なので藤本さんの誕生日も普通にスルーかもしれません。
ほんとに計画性の欠片もなくてすいません。

それでは、次の更新で。
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/17(火) 13:27
>>156の部分で思わず笑ってしまいました(笑
吉子つえーw
176 名前:ss.com 投稿日:2004/02/22(日) 08:15
>>173
>更新、いつも楽しみにしてますよ。
こちらこそです!私の方こそ、何のひねりもない駄文で、お恥ずかしい。
二人にとっての始めてのバレンタイン。ニヤニヤしながら、かつ、萌えました。
負けずに頑張りたいと思います。
177 名前:大塚 投稿日:2004/02/24(火) 02:57
今から更新します。
ちなみに幼稚園児ではないです。
178 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 02:59


To be in the same boat.

179 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:00
朝の五時。目が覚めてすぐに、喉の渇きを感じた。
隣で寝ている彼女を起こさないようにベッドから静かに起き上がる。
キッチンへ行き冷蔵庫を開けミネラルウォーターを飲んだ。
そのあとベッドに戻ろうかとも思ったが、もう眠れそうになかったのでやめた。
リビングの窓際に立ってカーテンを少し開ける。
いくら春が近づいてきたと言っても、外はまだ薄暗い。
だがそれはどうやら雲のせいでもあるようだ。空は厚い雲に覆われていた。
それがまるで今の自分の気持ちを表しているようで、少し気分が悪くなる。
しかしすぐにそんなのは自分の勝手な思い込みだと気付く。
天気が曇りだということに対して、なぜ人は悪いイメージを抱くのだろう。
雲には悪いところなんて、何もないはずなのに。
180 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:01
昨日は彼女が泊まりに来ていた。
さっきまで一緒に寝ていたベッドに、今は一人で眠っているだろう。

自分自身は女だが、それでも付き合っているのは女の子だった。
同性愛を否定するつもりは毛頭ないが、元々女が好きだから彼女と
付き合っているという訳でもない。

男と付き合っていたことも今までに何度かある。
この人と付き合えば面白いかな、と思えればすぐ付き合った。
でもつまらなかったり束縛されたりしたらすぐ別れた。
自分は楽しい事が好きだし、何より自由であることが好きなのだ。
181 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:02
彼女に告白された時。

泣きそうなのを必死で堪えるような顔で、それでも瞳には強い力を感じた。
彼女と付き合ったら楽しいだろうかなんて、そんなことなど何も考えずに受け止めた。

女の子と付き合うのは何かと面倒くさそうだし、何より女とは束縛しがちな生き物だ。
事実、彼女は自分のことを全部知りたがるし、いつも一緒にいたがる。
ほんの数時間メールを返さなかっただけで怒り、なおかつ不安になっている。

本当に、面倒な事ばかりだ。

それでも彼女と別れようと思ったことは一度もない。
むしろ彼女に別れを仄めかされた時に必死で引き止めたくらいだ。
あの時は自分で自分のしたことに戸惑い、驚かされた。
彼女を手離したくないという自分に初めて気付いた瞬間だった。
182 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:03
窓からは少し隙間風が入ってきているようだった。
いつの間にか体が冷やされていることに気付き、身震いをする。

外は少しだけ明るくなってきたが、やはり厚い雲のためかどこか陰湿な感じがする。
雲には悪いが自然とそう思ってしまうのだ。しかし今のようにただ曇っている時の雲と、
雨が降っている時の雲とでは微妙に感じ方が違うのはなぜだろうか。

雨が降っていない状態の雲は、どこか中途半端だ。
晴れることも雨が降ることもなく、ただ曇っているだけ。

やはり今の自分のようだと思いつつカーテンを閉めた。
183 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:04
別に何かに悩んでいるとか、そういうことではない。
彼女との付き合いに何らかの問題があるわけでもない。
ただなんとなく気分が暗いのだ。原因もこれといって思い浮かばない。

自分にはなぜかこういう時期がある。
そういうときは何をしていてもつまらないし、心から笑える事がない。
楽しい事は好きなはずなのに、何もする気が起きない。
ある意味病気のようなものだ。

過去にこのことが原因で当時付き合っていた人と別れた事もある。
そんな状態のときに束縛なんてされて、それこそ死にたくなるくらいの苦痛だったからだ。
184 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:07
眠りが浅くなるのもそういう時の特徴だった。
昨日だって夜中彼女が隣で眠っている間、ずっと起きていた。
たぶん眠っていたのは一時間にも満たないだろう。

その間何か考えていたのか、何も考えていなかったのかは自分でもよくわからない。
ただ何かに追われているような、そんな胸騒ぎを感じていたのはいつものことだった。
しかしそれでも彼女の姿を見ると少しだけ落ち着いた。

顔を洗ったあと、テレビを見ようとして止めた。
まだ時間が早すぎるため、周りは静かだ。テレビの音は結構響くだろう。
もしかしたら彼女が起きてしまうかもしれない。
穏やかに眠っている彼女の邪魔はしたくなかった。
185 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:08
なぜ彼女と付き合っているのかなんて、聞かれても困る。

付き合っていて面白いか面白くないか、そういうことは全く関係がない。
人間は生きるために空気が必要で、自分にとって彼女はそういう存在なのだ。
自分の世界に彼女が存在していないなんてことは考えられない。

彼女は付き合うとか、付き合わないとかじゃなく、いて当たり前の存在。
そう思えてしまう人に出会うなんて、考えたこともなかった。
そのことに気付いてしまった今は彼女を絶対に離せない。

彼女は時に自分の母親であり、姉であり、妹であり、恋人だった。
何者にも変え難い、たった一人の。
彼女にとっての自分もそんな存在だといい。
186 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:10
以前「同性同士で付き合うなんて不毛だ」と言った人がいた。
二人の間に形として残せるものなんて、何もないからだとその人は言った。
世の中はそういう風に回っていて、自分でもその通りだと思う。

男と女が存在して、次の世代を担う子孫を残して、その繰り返し。
自分もその中の一人だし、この流れがなかったら自分は存在していない。

だからおそらく、二人の事を理解してくれる人は少ないだろう。
わかったつもりでいる人達だって、それはやはり「わかったつもり」でしかない。

自分達二人の形なんて、二人だけがわかっていればそれでいいのだ。
187 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:11
考える事は得意じゃないけど、彼女と出会ってからは色んな事を考えるようになった。
まるで今まで適当に過ごしてきた分を取り戻すかのように。

考える事といってもだいたいが彼女のこと。たまに自分のこと。
たったそれだけだけど、彼女と出会う前とは何かが変わったのは確かな事。
一人の時間には彼女のことを考えるし、会いたくなったりする。
そんな気持ちを押さえきれないときもある。

誰かの事をこんなにも考えるなんて、今まではなかったこと。
彼女と出会って、新しい自分をどんどん知っていった。
というより、変わったと言った方が正しいかもしれない。
188 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:13
憂鬱な状態の原因はまだわからない。
唯一わかることと言えば、彼女といると楽であることだ。
今までは一人でいたいと思っていた。
しかし今は彼女がそばにいないともっとひどい状態になる。

もし彼女が自分の目の前からいなくなったら。

きっともう生きていられないだろう。
だから彼女から離れるなんて考えられないし、離す気も全くない。
別に長生きをしたいと思っているわけではなくて、ただもっと二人でいたい。

ただ、それだけなのだ。
189 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:13




190 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:14
気付いたらソファの上で眠っていたようだった。
いつしか彼女は目を覚ましていたようで、膝枕をしてくれていた。
そして優しく髪の毛を撫でられる。
あまりの気持ちよさに、一回開きかけた目を再び閉じた。

「眠いの?」
「…ん、ちょっと。」

「そっか。寝てていいよ。…大丈夫だから。」
「…何が?」

もう一度目を開けて彼女を見上げた。
彼女は変わらずに髪の毛を優しく撫でている。
191 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:16
「何も心配することなんてないよ。」
「…だから、何の話?」

「あたしは、ずっとここにいるから。」
そう言って微笑む。

「……あっそ。」
「うん。」

思わず泣きそうになって体の向きを変えて、彼女から顔が見えないようにする。
するとカーテンが開けられて、外の景色が目に入った。

相変わらず曇りだったけど、どうしてかさっきまでの憂鬱な気持ちにはならなかった。
192 名前: 投稿日:2004/02/24(火) 03:17


To join forces with somebody and act together.

193 名前:大塚 投稿日:2004/02/24(火) 03:18

一蓮托生:他人と行動、運命を共にすること。
194 名前:大塚 投稿日:2004/02/24(火) 03:19
更新終了です。
195 名前:大塚 投稿日:2004/02/24(火) 03:23
>名無飼育さん
よっちゃんは強い子です。ビスコが大好物です。

>ss.comさん
これからも思う存分ニヤニヤして下さい。
かつ、ニヤニヤさせて下さい(w
196 名前:大塚 投稿日:2004/02/24(火) 03:30
今回の話は突然思いつきました。ぱぱっと。
私が病んでるのでは…と思われそうですが、まさにその通りです(w
文章にして吐き出してすっきりしているんでしょうね。

あえて名前は出してませんがあやみきです(やっぱり
どちらがどちらかはわかりやすく書いてみたので。
ちなみに藤本さん生誕記念日もネタを思いついたので更新します。
たぶん、きっと。
197 名前:大塚 投稿日:2004/02/24(火) 03:34
ああ、最初改行してませんね。
すいません。多少読みにくいですね。申し訳ない。
そして最初の英文が題名で、意味は上に書き込んだとおりです。
198 名前:大塚 投稿日:2004/02/25(水) 22:41
ちょっと早いですが、藤本さん誕生日記念に駄文を。
199 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:43
もうすぐ彼女が19歳になる。
200 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:44
カバンから鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。
ガチャッと鍵が開いた音が聞こえて、それを合図にドアノブを回して部屋に入る。
注文していたバースデーケーキを受け取りに行き、今帰ってきたところだ。
帰ってきたといっても、ここはあたし、松浦亜弥の家じゃない。

この部屋の主は恋人である藤本美貴。
あたしより二つ年上で、春からは大学二年になるその人だ。

テーブルに置かれた合鍵は、誕生日プレゼントとして彼女からもらったもの。
その頃はまだ出会って間もない頃だったから、実際は無理矢理もらったようなものだったが。
そして、目の前には今日彼女にあげようと思ったプレゼントがある。
でもそれを受け取るべき人物はまだここにはいない。
201 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:45


202 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:47
二月のある日、あたしは彼女のアパートに遊びに来ていた。
ベッドに腰掛けて、二人で仲良く雑誌を見ていた。
この服あたしに似合いそう、そうだね亜弥ちゃん、なんて会話をしながら。
すると、彼女が何かを思い出したように顔を上げた。

「そうだ亜弥ちゃん、美貴大学が春休みになったら、一回実家に帰ってくるね。」
「えっバレンタインこっちにいないの?!」

「はっ!そうそう、それも過ぎてから!」
「何その言い方…あんたバレンタインの存在忘れてたでしょ…。」

「えっ?そっそんなことないって!」
203 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:49
…みきたんって、一応女の子だよねぇ。ほんと、イベントに無頓着っていうか…。

「…まぁいいけど。そういえば冬休みは、バイト忙しくて帰れなかったもんね。」
「うん。バレンタイン過ぎればそんなに忙しくないじゃん?特にイベントもないし。
だから一週間くらいバイト休みもらって行ってこようと思ってさ。」

「一週間かぁ…寂しいけど、みきたんのお母さん達はもっと寂しい思いしてるんだもんね。
せっかくだからさ、思いっきり親孝行してくればいいよ。」
「うん、そう思ってる。」

そして彼女ははにかむように笑った。
204 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:51
それを見てあたしまで顔が綻ぶ。

彼女は本当に家族を大事に思っていて、少し妬けるくらいだ。
家族と離れたことのないあたしには、故郷を想う気持ちってやつがよくわからない。
みきたんと出会ってから、少しパパに優しくするようになったけど。

「北海道、雪すごいだろうね。」
「たぶんねぇ。いま二月だもん、ハンパないよ。」

彼女の実家は北海道にある。東京に来たのは大学進学のため。
そしてあたしはもともと東京で、高校生をやっていた。
接点がないように見えるあたし達の出会いは、焼肉屋。

ただしお客さんとしてではなく、店員として。
二人とも焼肉好きだったから、バイト先に焼肉屋を選んだという訳だ。
205 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:52
「…で、それはそうと、亜弥ちゃん。」
「んー?」

「…美貴、もうすぐ誕生日じゃん?」
「うん、知ってるよ。」

「それで、さ。」
「うん?」

「えっと…。」

いまいちはっきりしない態度。目が泳いでる。
何を言うつもりなんだろう。
とりあえず彼女の様子から、それがすごく言い辛い内容だってことはわかる。

今までの会話の流れからその内容を考えてみる。すると、そこで一つの考えがひらめいた。
206 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:53
「そうだよね、みきたん夏休み以来お家に帰ってないもんね。」
「え、うん。そういえばそうだね。」

「誕生日、祝ってもらうんでしょ?ほんとは当日、一緒に祝ってあげたかったけどさ。
あたしはいつでも会えるもんね。そんな我侭言わないよ。」

我ながらオトナな対応…なんてことを思っているうちは、まだコドモだってことには気付かない。
そしてなぜか目の前の彼女は、予想外に怪訝な顔をしていた。
207 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:55
「…亜弥ちゃん?何の話してるの?」
「ん?みきたんの誕生日の話でしょ?」

「いや、それはそうなんだけど。…祝って、もらう?誰に?」
「パパとママでしょ?あ、あとお兄ちゃんとお姉ちゃん?」

「はぁ?どこからそんな話になったの?」
「え?違うの?」

彼女を見ると苦笑いしていた。

「もう…また一人で先走ってるんでしょ。」
「うっ!…ていうかー、みきたんがハッキリしないのが悪いんだよ!」

「…ま、それはそうなんだけど。」
「そうそう、わかればいいの。じゃああたし黙ってるから早く言って!」

口を真一文字に結んで、彼女の顔を下から覗き込む。
208 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:56
「…そんな見ないでよ。」
「………………。」

「……顔近いよ。」
「………………。」

「………わかった、言います、言うって!」

それを聞いてからぷはあっと息を吐く。
黙ってたのはいいけど、無意識に息まで止めてたらしい。

「亜弥ちゃん、アホだねー。」
聞き捨てならないセリフを吐く彼女をキッと睨む。

でも「ごめんごめん」と言いながら、ぽんぽんと頭を撫でてくれたから許してやった。
209 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:57
「…いや。アホなのは、美貴か。」
「えぇ?」

彼女はふふっと笑うと、突然あたしを抱きしめた。

いきなりの展開に頭がついていかず、あたしは口をポカーンと開けていた。
だって、抱きついたりするのは、いつもあたしからで。

「…あのさ。」
彼女がいつもと違って積極的で、あたしの胸はうるさいくらい高鳴っていた。

そして彼女はあたしの耳元にそっと囁いた。
210 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:58
「誕生日は、好きな子と過ごしたいんだけど…亜弥ちゃんと一緒に。」

照れ屋な彼女からの、思いがけないその言葉。

小さな声だったけど、あたしの耳にはしっかり届いた。
そして次の瞬間には、あたしは思わず彼女から体を離していた。

「も…もう一回言って!」
「…えぇ!?なにその反応?」

「だってだって、みきたんがそういうこと言うのって、珍しいよ!」
あたしがそう言うと、彼女は眉間に皺を寄せる。
211 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:58
「そんなことないよ、亜弥ちゃんかわいいね、とかいつも言ってるじゃん。」
「そうじゃなくて、みきたん、めったに好きとか言ってくれないじゃんかぁ!」

「…そんなことないって。」
「じゃあ言ってよ。あたしのこと好きって言って。」

「む…。」
彼女は目を合わせない。そしてやっぱりしかめっ面。

でもあたし知ってるよ。恥ずかしい時とか、わざとそういう顔するってこと。
ほんとかわいいなぁ、みきたんって。
212 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 22:59
「ていうか、話ずれてるんだって!」
「あっ、気付いちゃった?」

「ったく……ま、そんなとこも好きなんだけどね。」
「でしょー?……って、みきたん、もう一回!リピートリピート!」

「イヤです。」
213 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:00


214 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:01
彼女は電車の中にいて、あたしは外にいた。
二人の間には微妙な距離があいている。

「じゃあ、行ってくるよ。」
「うん…。」

「こら、そんな顔しないの。たった10日じゃん。」
「…わかってるよ。」

じゃあなんでそんなむくれた顔してるの、って言葉が聞こえたけど無視した。

だって付き合い始めてから10日も離れるのなんて初めてのこと。
たった10日なんて言って、彼女は寂しいとか思わないのかな?
215 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:02
「亜弥ちゃん、もうそろそろ時間だから。」
「……………。」

「亜弥ちゃんってば……もう。」

いざという時に素直になれないあたしは、黙る事でしか自分の感情を表現できなかった。
そして彼女の溜息とともに、電車が発車するというアナウンスが聞こえた。
216 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:03
相変わらずそっぽを向いてむくれていたあたしを、彼女は軽く引き寄せた。

「待ってて。」という言葉が耳元に届き、そのまま滑るように唇へ軽いキスをされた。
気付いたら電車のドアは閉まっていて、彼女を乗せた電車はすでに発進していた。

完全に、完璧に、不意打ちだった。

「…やられた。」

こういう時に限って、普段からは考えられないような行動するんだから。
それが無意識なんだから余計タチが悪い。
217 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:04
なんだかんだ言って、いつだってドキドキさせられるのはあたしの方。
はたから見ればあたしが振り回してるように見えるらしいけど。
ほんとはその真逆。彼女の一挙一動に振り回されているのは、あたし。

「くっそぉ…。」

すでに小さくなった電車を見ながら一人呟く。

悔しいけど、めちゃくちゃ惚れてるよ。

そんな風に彼女への想いを再確認したのが2月15日。
その愛しの彼女が帰ってくるまであと10日。

そのあいだ、一人で大人しく待っていられるだろうか。
…ちょっと自信がなかった。
218 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:05


219 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:05
そして今日、彼女が実家の北海道から帰って来る。

あたしの人生の中で、この10日間は一番時間の流れが遅く感じられた。
離れている間はやっぱり寂しくて泣きそうになったけど。
指折り数えて待つ、まさにそんな感じだった。

「…みきたん、まだかなぁ…。」

掃除もしたし料理も完璧だし、いつ帰ってきてもいいのに。
時計を見ると、昨日「そんくらいに帰る」と聞いていた時間はとっくに過ぎていた。
220 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:06
「つまんない…。」

いつも二人でいたから部屋を広く感じる。
一人でいることが、こんなにも寂しいことだったなんて。

「……何やってんだよ、バカ。」

今日は朝から連絡が一回もない。
いつもだったらおはようのメールを送ると、少し遅れるけど返事をくれるのに。

電話もかけたけどやっぱり音沙汰なし。
なんかあったのかな、とか心配になって。
不安な気持ちががどうしようもなく膨らんでいた。
221 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:07
「何で連絡しないんだよ…帰って来たら覚えとけ。」

だいたい、いつもメールとか送っても返事は遅いし、内容は薄いし。
ちゃんと読んでるの、アンタ?って何回問い詰めたことか。
それに目つき悪いくせにヘタレだし。かと思えば変なとこで強気だし。
それに、それに……。

でも、いいところだっていっぱいあるの、知ってるよ。
222 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:09
「なんか冷たそう」って他の人によく言われている彼女。

彼女の笑った顔がすごく可愛いこと、みんな知らないのかな。
ときどき子供っぽくなって、どっちが年上かわからなくなるとことか。
でもやっぱり肝心なところでは大人で、優しいとことか…。

「あぁ〜…もう…会いたい、なぁ…。」


やばい、ちょっと泣きそう。


そう思ったとき、後ろでドアが開く音が聞こえた。
223 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:10


224 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:10
They are happy in the end.

…Maybe.
225 名前:不安は恋を掻き立てる 投稿日:2004/02/25(水) 23:13


226 名前:大塚 投稿日:2004/02/25(水) 23:14
「不安は恋を掻き立てる」更新終了です。
227 名前:大塚 投稿日:2004/02/25(水) 23:16
藤本さん19歳おめでとう。…フライングですが。
せっかくなので(何が)さらし上げ。
これからマシュー見ます。ではまた次の更新で。
228 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/26(木) 18:28
も・・・萌えました。
無意識にかっけー藤本さんと甘えん坊な松浦さん、かなり萌えです!!
229 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/29(日) 16:59
更新お疲れ様でした。
ここのあやみきは自分的にかなり萌えなので次回更新も楽しみにしていますw
230 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 22:18
次作待ってますよ〜
231 名前:大塚 投稿日:2004/03/19(金) 05:11
更新します。
232 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:12
喉が渇いてしょうがない。
体が異常に熱くて、体の中の水分がどんどん消耗されている気がする。
カーテンを締め切った薄暗い部屋では、二人の息遣いが静かに響いている。
熱っぽくて、それでいて切羽詰まったような。

「みきたん、すっごい可愛い……」

あたしの体の上に跨って、どこかうっとりとした様子で彼女はそう言った。
そしてゆっくりと顔を近づけると唇にキスを落とす。
あたしは彼女の首に腕を回して、それに応える。

「……ん…んっ………亜弥、ちゃんっ…」
「………はぁっ……みきたん……」
233 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:13
最初は軽かったそれが、だんだんと激しくなっていった。
口内で舌が厭らしく絡み合っていて、あたしの口の端からは透明な液体が流れ落ちた。

彼女はそれを舌で舐め取ると、今度は顔中に軽いキスをし始める。
あたしはくすぐったさに思わず顔を背けた。
すると彼女は何か勘違いしたのか、拗ねたような表情になった。

「……なんで横向くの」
「……え」
「イヤだった?」
「……ち、ちが…」
234 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:14
そして弁解する間も与えてもらえず、激しいキスが始まる。
頭が痺れるくらい口内を掻き回される。
…彼女はこんなにもキスが上手だっただろうか。

次第に彼女の唾液が口の中に溜まってきて、あたしはゴクリと飲み込んだ。
嫌だなんて全然思わなくて、自然とそうしていた。

それでもだんだん苦しくなってきて、彼女の様子を窺おうと薄目を開けた。
そしたら思いがけずに彼女も目を開けていて、これ以上ないくらいの至近距離で目が合う。
あたしが驚いたように目を見開くと、彼女は唇を離してにっこりと微笑んだ。
235 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:15
「びっくりさせちゃった?」
「……当たり前」
「だよね」
「もしかして、いつも…ああなの?」

「え、そうだけど」
何でもないことのようにそう言ってのける彼女。


「ふっ、普通は目ぇ閉じるもんでしょ」
「え〜だってぇ……」

「……なに」
「………あたしが何言っても引かない?」
236 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:16
「いつも引いてるから大丈夫」
「うわひっど」

今の状況も忘れて、いつものような軽口を楽しむ。
それなのに、彼女はだんだんと沈んだ表情になる。
いつも自信に満ち溢れている彼女には、珍しいことだった。

「…大丈夫だって」
あたしよりも華奢な肩を抱き寄せて、囁いた。
237 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:16
「あのね……みきたんは嫌かもしれないんだけどね」
「うん」
「あたしね…みきたんのこと、ずっと見ていたいの。どんなときも、ずっと」

「それくらい好きなの、みきたんのことが」
切なげな声。胸がきゅうっと締め付けられるような気がした。

「……大好きなんだよ」
「亜弥ちゃん……」

それから彼女は体を起こすと、すばやくあたしの両足の間に体を滑り込ませる体勢になった。
あたしが反応するより早く、彼女は両手で包み込むように胸を揉み始める。
あたしはもはや体に力が入らずに、彼女にされるがままになっていた。
238 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:17
胸への攻撃は止まることを知らずに続いている。
微妙な力加減で、胸の頂点の周りを撫でられる。抑えきれずに、声が小さく洩れた。

そして次第に手の攻撃から口の攻撃へと変わり、それはより多くの快感をもたらした。
今まで触れなかった胸の頂点をゆっくりと時間をかけて舐められる。
だんだんと固くなっていくのが自分でもわかって、恥ずかしくてしょうがなかった。

声を抑えようと口元にやっていた手をはずされ、両手とも固く繋がれる。
歯を食いしばって耐えようとしたけど、それよりも快感が勝っていた。
どんなに恥ずかしくても、感じるままに声がでてしまう。

どうすることもできなくて、あたしはただ彼女の愛撫を受け続けていた。
体の中心は、すでに熱く疼いている。
239 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:17
そしてあたしの息が切羽詰ったものへと変わってきた頃。
彼女は繋いでいた手を離すと、あたしの体の横に両手をついて上からあたしを見下ろした。
テレビや雑誌で見せるものとはまた違う、真剣な表情に思わず見とれてしまう。

その一瞬の隙をついて、彼女はあたしの両膝に手をかけて、足を開こうとした。
羞恥心から拒もうとしたけど、すでに体に力が入らない状態で。
彼女のなすがままにあたしの両足は思いっきり左右に開かれた。
すると必然的に一番恥ずかしい部分があらわになってしまう。

彼女が息を呑むのが聞こえた気がした。
240 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:18
「…みきたんのここ、すごい…」
「やだ……」

好きな人にこんなところを見られるなんて。これ以上恥ずかしいことがあるだろうか。
それなのに、彼女はあたしの両膝を押さえたまま、じっくりとあの部分を見つめる。

「こんなに濡れちゃってる…」
「……も、やだぁ……見ないで…」
「すごいよ、見てるだけなのに…どんどん溢れてくる…」
「……亜弥ちゃん、お願い、もうやめてよぉ……」

そう言いながらも、体は彼女を欲しがっている。
もう、頭がおかしくなりそうだった。
241 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:19
「みきたん、大丈夫だからね」
「…え…?」
「あたしがちゃんと、気持ち良くさせてあげる」

その意味を理解するより早く、彼女の頭はあたしの足の間へと埋められた。
それと同時にありえないくらいの快感に襲われる。

「…んっ、や、亜弥ちゃんっ…ダメ、そんなとこ汚いよぉっ……」
「……みきたんだって、あたしにいつもこうしてるじゃんか」
「…亜弥、ちゃんのはキレイだもんっ…」
「なにそれ」

ふふっと彼女は笑って、膝を押さえていた手を外し再びあたしの手と繋ぐ。
少しだけ、安心した。
242 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:20
舐めている舌が次第に奥まで入り込んでくる。
繋がれた手には力が入り、呼吸が荒くなってくる。
自分が自分じゃないような感覚。気持ちが良すぎて、意識が飛びそうになる。

それでもやっぱり羞恥心はあって、やめて、と何回も彼女に懇願する。
でもそれよりも多くあたしの口から出るのは、自分が嫌になるぐらいの甘い声。

舌の動きが激しさを増す。
中を掻き回されたり、すごい速さで出し入れされたり。
そんな風に執拗に責めたてられて、もう何もわからなくなっていた。
243 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:21
「……あっ、亜弥ちゃんっ……」
「…ん?」
「み、美貴……もぉ………」
「……まだダメだよ」

繋がれていたはずの彼女の右手は、いつの間にか離されていて。
あたしの中に、なんの予告もないままに突き立てられた。

「…あっ……ん、んんっ!」
「みきたんの中、すっごい熱いね…」

彼女の白くて細長い指があたしの中を掻き回している。

そう思ったらどうしようもないくらいに感じてしまった。
そのあまりに気持ち良さに、涙が出そうになったほど。
244 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:22
「……みきたん」
「…んっ?…」
「あたしのこと、好きだよね?じゃなかったら、こんなことさせないよね?」

また、切なげな声。
ぎゅっと瞑っていた目を開けると、泣きそうな彼女の姿。

突然、気付いた。
自信家の彼女が時折見せる弱さの理由。

彼女はあたしに関してだけは、自信が持てずにいたのだ。
だからいつも確かめるように問うのだ。
自分のことを好きか、と。
245 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:23
そうだ、きっといつもより不安に思う気持ちが大きかったのだろう。
彼女があたしのことを抱きたい、なんて言い出したのは。
いつもだったら照れて誤魔化すけど、今はきちんと答えないといけない。
もう彼女を不安にさせることのないように…。

「……好きだよ」
「…ほんとに?…」
「……うん、大好き。誰よりも一番大好き」
「へへ、嬉しい……」

泣きそうな笑顔の彼女を見て、愛おしさが募る。
腕を引っ張って、優しくキスをした。
246 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:23
「ね……続きして…」
キスしたあと、耳元でそう囁いた。

彼女を好きだという気持ちが、あたしにそんな言葉を言わせた。
やっぱり恥ずかしかったけど…どんな彼女でも受け止めたいと思ったから。

彼女は驚いたような表情を見せたあと、入れたままの指をゆっくりと再び動かし始めた。
すぐにものすごい快感の波が襲ってくる。

「…ふぅっ……ん…はぁっ…」
「みきたん…みきたん……」

彼女の自分の名前を呼ぶ声だけが、頭の中で響いていた。
247 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:24
体の至るところにキスをされながら、あたしの中でうごめく指の数が増えるのを感じた。
今までとは段違いの気持ち良さに、思わず意識を手離しそうになった。

「あ…亜弥ちゃんっ……美貴…なんか、へんっ……怖いよぉっ!」
「大丈夫、そのままで…」

優しい声に、少し安心しかけたとき。彼女の指の動きが一段と速くなった。

「…あっ、もぉ……ダメっ…!」

そして、今までよりひときわ高い声をあげた直後、あたしの意識は遠のいていった。
その間際に「…みきたん、大好き」という声が聞こえた気がした。
248 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:25



249 名前: 投稿日:2004/03/19(金) 05:26
目を覚ますと、隣で寝息をたてている彼女。
その安心しきった様子を見て、思わず微笑んだ。

ベッドサイドにおいた携帯を開く。
仕事が始まる時間までは、まだだいぶ余裕がある。

数時間前、一方的に責められた仕返しをしたい気もしたけど、やめた。
だって彼女はこんなにも穏やかに眠っている。
きっといい夢でも見ているのだろう。

あたしは優しく、起こさないように彼女を抱きしめる。
そして、そのままもう一度眠りについた。
250 名前:  投稿日:2004/03/19(金) 05:27



251 名前:大塚 投稿日:2004/03/19(金) 05:27
更新終了です。
252 名前:大塚 投稿日:2004/03/19(金) 05:31
中途半端な感じが否めない作品となりました。
いろんな意味で。ツッコミどころがたくさんあるはず…。

サッカーに熱中するあまりうたばん捕獲を忘れてました。すっかり。
日本が勝ったのは喜ばしいことですが…人生に負けた気分です。

ええと、レスありがとうございます。
お返事はまた今度させてもらいます。すいません。
253 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/19(金) 10:46
作者さん、素晴らしい!
こういう甘いエロ、大好きですw
次作楽しみしてます。頑張ってください。
254 名前:大塚 投稿日:2004/03/19(金) 11:05
>>228 名無飼育さん
甘えん坊なのは実は藤本さんのような気がしなくもないです。
末っ子には甘えん坊な人が多いと思いませんか?

>>229 名無飼育さん
そんな嬉しいお言葉、自分にはもったいないです。
…ええと、今回の更新はこんなんですが…どうでしょうか(汗

>>230 名無飼育さん
お待たせいたしました。
今回の更新は賛否両論に分かれそうな内容ですが…。
松→藤、作者自身はけっこう好きなので。
255 名前:大塚 投稿日:2004/03/19(金) 11:10
>>253 名無飼育さん
すすす素晴らしいですが、ありがとうございます。
攻めと受け、今まで書いてきた二人とは逆なんですが。
意外に受け入れてもらえたようでよかったです。
256 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 13:36
最高です!!
甘々な二人にこっちまで癒された気分になりました。
エロの中にもちゃんと愛があって、自分のツボにがっつりきました(笑)
作者さん、素敵なお話を有り難う。
257 名前:ss.com 投稿日:2004/03/20(土) 18:26
おお!藤本さん受け!!
恥ずかしながらも感じる藤本さんに、今回はニヤニヤではなく、激しく萌えです!
ありがとうございました!!!
258 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/21(日) 23:08
作者さんはエロも書くんですね、なんて(w
激しく萌えてしまいました……藤本さん受けっていいもんですね(ボソッ
最高でした。次回作にも期待大です。
259 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/21(日) 23:10
すいません上げてしまいました。
ちゃんと下げます。ほんとすいません。
260 名前:達吉 投稿日:2004/03/23(火) 00:07
初めてレスさせていただきます。
最初から全部読ませていただきました。
めちゃめちゃイイ!ですね^^
ことミックとマナー部のDVD見て、あやみきモードに入ってた時、この小説を読んだので、萌えすぎてかなりゾクゾクきましたw
藤本かわいすぎや〜ww
これからも頑張ってくださいね^^陰ながら応援してます。
261 名前:大塚 投稿日:2004/03/28(日) 03:51
更新します。
262 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 03:52

さよならなんて僕は言わない さよならなんて信じたくない

あなたをずっと待っているから おかえりって言ってやるから

あなたをずっと あなたをずっと 待ってるから 待ってるから

263 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 03:53
時間はまだ早い。ちょうど朝日が昇ってきた頃。
そんな爽やかな朝には似つかわしくない空気が流れていた。

「……ずっと一緒だって言ったじゃん」
「……うん」
「じゃあなんで!?なんで行っちゃうの?なんで…」

あたしから離れちゃうの?
涙が溢れてきて、それは言葉にならなかった。
264 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 03:54
「やだよ…行かないで」
「亜弥ちゃん、美貴は…」
「いや!何も聞きたくない!」
「……………」
「やだよぅ…ずっとそばにいてよぅ……」

抱きついてから、涙が彼女の服についてしまったかもしれないなんて、変に冷静に思った。
それでも彼女がぎゅっと抱き返してくれたから、そんな考えも一瞬で消えた。

「すぐ帰ってくるから、ね?」
優しく髪の毛を撫でられて、どうしようもなく切ない気持ちになる。
265 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 03:55
「…嘘つき。全然すぐじゃないよ」
「でも、しょうがないんだよ。美貴は行かなきゃだめなんだ」
「やだ!みきたんがいないと、あたし寂しくて死んじゃうよぉ…」

「亜弥ちゃん…わかってよ。美貴だって亜弥ちゃんと離れたいわけじゃないんだから」
抱きしめていた腕を緩めて、あたしの目を見つめながら諭すように言う。

…あたしだって、本当はわかってるんだ。
みきたんはもう行かなきゃならないってこと。
行かないで、なんて我侭は言っちゃいけないってこと。
それはみきたんを困らせるだけだから。
266 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 03:56
「……わかった…でも、ほんとにすぐ帰ってきてね?」
「うん、全部終わったら飛んで帰ってくるよ」
「みきたんが帰ってくるの、ずっと待ってるからね?」
「うん」
「じゃあ…」

名残惜しいけど、あたしはそこで彼女から体を離した。
このままだと別れがもっと辛くなっちゃうから…。
267 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 03:56
それなのに、彼女は再びあたしを抱き寄せた。
彼女の腕の中はあまりにも温かくて、その温かさに、せっかく止まった涙がまた溢れ出てきた。

「離れてても、美貴の一番は亜弥ちゃんだよ。それだけは忘れないで」
「…うぅー…みきたぁん……」
「ばっか、泣くなって。…ったく、ほんと可愛いんだから…」
「そんなの知ってるもん…」
「あはっ、そうだったね」

彼女の首筋に擦り寄るようにほっぺをくっつけたら、彼女はくすぐったそうに身を捩った。
268 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 03:58
「みきたん、大好き」
「うん」
「みきたんは?」
「…わかってるくせに」
「ちゃんと言わなきゃわかんないもん」
「……好き、だよ」
「……へへっ」

一回、大きく息を吸い込んだ。

そして今度こそ彼女から体を離す。大丈夫だよ、というサインの笑顔とともに。
それは彼女にもちゃんと伝わったようで、彼女は静かに微笑んだ。
269 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 03:59
「それじゃ…美貴、行くね?」
「うん…」

彼女の傍らにある大きな荷物。
それは彼女が遠くに行ってしまうことを嫌でも連想させるものだった。

それを見てまた少し切なくなったが、顔には出さないようにする。
彼女に余計な心配をかけたくなかったから。
あたしにできるのは、彼女を笑顔でここから送り出すこと。
270 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 03:59
「…行ってきますの、ちゅう」
「ん……」

二人は口内で軽く繋がり合った。
明日からはこの習慣もなくなってしまう。そう思ったら自然とそうしていた。
できるだけ、彼女と繋がっていたかったから。

「…じゃあね」
「うん……またね?」
「ん……じゃあ、行ってくるから」
「…行ってらっしゃい」
271 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 04:00
バタン、とドアが閉まる。その音がやけに無機質に聞こえた。
最愛の人は行ってしまった。あたしは一人、残された。

「あ〜あ……ほんとに行っちゃった…」

泣きそうになったけど、なんとか堪えた。
だって、彼女はいつか帰ってくるから。
そのときがいつ来てもいいように、あたしは笑って待ってるんだ。
そして、あたしはあたしの道へと進むために、ドアを開けた―――
272 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 04:00





273 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 04:01



あれから、一年が過ぎた。

274 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 04:02


というのは嘘で、あれから一週間後。
……そう、たったの一週間後。


「亜弥ちゃん、ただいまぁ〜!」
「みきたん、おかえりぃぃ〜!!」

靴を脱ぎ捨て、荷物を投げ出して、彼女はあたしの元へ駆け寄ってくる。
あたしは腕を広げて、彼女がくるのを待つ。
そして二人、満面の笑みで、ぎゅうっと抱きしめ合う。
275 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 04:03
「美貴、亜弥ちゃんに会えなくて何度キレたことか」
「あたしも、朝起きて隣にみきたんいないから毎日パニック」
「みきウールと一緒に寝なかったの?」
「ずっと抱きしめて寝たけどぉ、やっぱ本人じゃないと…みきウールは抱きかえしてくれないもん」
「……ふ〜ん…こいつは亜弥ちゃんにずっと抱きしめられてたってわけか…」

ベッドにちょこんと乗っかっているみきウールを物凄い目付きで睨む彼女。
276 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 04:04
「みきたんみきウールにヤキモチ焼いてんの?可愛い〜もう、ラブ!」
「別にヤキモチなんか焼いてないし。それに亜弥ちゃんのが可愛いよ」
「いやだからそれは知ってるから」
「ちょっとは謙遜しようよ」

今度はあたしに冷たい視線をぶつける彼女。別に怖くはない。

だってそんな冷たい顔も好きだから。
というか彼女のことは全部好きだから。
277 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 04:06
「まぁまぁ、それより愛しの松浦におみやげは?」
「…まったく、調子いいんだから……おみやげなら、この袋の中」
「やっぱあるんじゃ〜ん。みきたん好き好き!」
「言っとくけどね、大したもんはないからね。ツアーで行くとこなんて大体いつも同じだし…」
「それでもいいの!おみやげって響きが素敵だから!」
「ああ、そうですか…」

そして、こんなやりとりはお互いのツアーが始まるたびに行われる。
ツアー中は毎回毎回、全く飽きずに同じ事の繰り返し。
278 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 04:07
さよならなんて僕は言わない さよならなんて信じたくない

あなたをずっと待っているから おかえりって言ってやるから

あなたをずっと あなたをずっと 待ってるから 待ってるから
279 名前: 投稿日:2004/03/28(日) 04:08



280 名前:大塚 投稿日:2004/03/28(日) 04:09
……更新終了です
281 名前:大塚 投稿日:2004/03/28(日) 04:21
>>256 名無飼育さん
そうですか、がっつりきてしまいましたか。
最高ですなんて、いやいや、そんな。ほんと嬉しい限りです。

>>257 ss.comさん
自分はいつもニヤニヤさせてもらってます。
こちらこそありがとうございます。

>>258,259 名無飼育さん
はい、エロも書いちゃう人です(w
藤本さん受け、いいですよね。…萌え。

>>260 達吉さん
これはこれは、いろいろな所でよくお見受けするお方ですね。
こんな辺鄙なところまでわざわざ、ありがとうございます。
ことミックとマナー部はやばいですよね。あやみき教のバイブルでしょう。
……DVD持ってませんが(コソーリ
でもしっかり記憶に残ってるので問題なしです、はい。
282 名前:大塚 投稿日:2004/03/28(日) 04:27
最初と最後のレス、同じ内容なのに大分違った印象になりますよね。
ほんとはもっとまともな話になるはずだったんですよ。
おかしいな、どこで間違ったんだろう…。

ええと、感想待ってます。
そしてネタがないので誰か提供してください(切実
283 名前:名無し飼育 投稿日:2004/03/29(月) 02:02
何事かと思えば…w
でもこんな二人が大好きです。
284 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/30(火) 14:31
結局はラブラブな二人がすごく可愛いです!
ネタですが、作者さんの書く大喧嘩するあやみきを見てみたいなぁって思います。
でもやっぱりラブラブ前提でw
285 名前:ss.com 投稿日:2004/04/04(日) 03:54
何か、本当にこの二人はこんな事、日常的にしてそうな気が…。
作者さんの着眼点に脱帽です。
お互い、頑張りましょう。
286 名前:大塚 投稿日:2004/04/10(土) 01:56
更新します。
287 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:04
「これはどういうことだろう……」

土曜日の午後。いいお天気。
街を歩く人々の表情は、みんな明るい。
それに対して、仏頂面・仁王立ち・貧乏ゆすりのあたし。

この差は何でしょう。
原因は…待ち人が来ない、ということだった。
288 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:05
「…なぁーにしてんだよ」

ぼそりと呟く。周りに気付かれないくらいの小さな声で。
一人でしゃべってたら変な目で見られるだろうし。

携帯に新着メールがないか、問い合わせをしてみる。
…わかってたけど、メールはなかった。

せっかくの休みなのに。せっかく天気もいいのに。
今日はどこに行こうとか、色々考えていたのに。
289 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:06
わくわくするような、どきどきするような。まとめて言っちゃえば、恋してるって気持ち。
どうも二人の間では、そんな気持ちの大きさに差があるように感じられるのだけど。
それはあたしの勘違いであってほしいなぁ、なんて思うわけです。

空を見上げ、太陽の眩しさにきゅっと目を細めた。
雲ひとつない澄み切った青空。
それとは反対に、あたしの胸の中は、ぐるぐると黒い雲が渦巻いている感じ。

なんでいつもこうなるんだろう。
いつもいつも待たされるのはあたしだ。
たまには、ごめんね待った?なんてセリフ、言ってみたい。
290 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:06
そんな風に下らない事を考えているうちにも。
スピードを緩めることなく、胸の中の黒い塊はどんどん大きくなっていく。
291 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:06



292 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:07
「―――ごめんっ!待った?」

待ち始めてから、一時間ほど経った頃。
いつものように両手を合わせてあたしに謝っている彼女の姿があった。

「ほんとごめんね、こんな遅くなっちゃって」

今日の空のように清々しい笑顔で謝られる。
そんな風に謝るくらいなら、一度でいいから約束の時間に来てよ。
なんでいつも平気な顔して遅れてくるんだろう。何の罪悪感もなしに。

「あのー…亜弥ちゃん?怒ってる、よね?」
「……当然」
「いや〜ごめんごめん、今日あたし何でも奢るからさ、許してよ。ね?」
293 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:08
何なの。なんでこの人はいつもこうなの。お金で解決できると思ってるわけ?
第一、あたしのこと一体なんだと思ってるの?
あたしはみきたんにとって、ただの暇つぶしとか、都合のいい女なんかじゃないでしょ?


「ねぇ、なんで黙ってんのさ。早く行こうよ。時間もったいないじゃん」

あたしの不安に思う気持ちになんてこれっぽっちも気付かずに、あっけらかんとしている彼女。
っていうか、そんなセリフを遅刻したあなたが言うんですか。そうですか。

胸の中の黒い塊がもやもやと広がりをみせる。
294 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:10
「亜弥ちゃんってば」
「………」
「シカトかよ」

なんでそんなに態度大きいの。
何様のつもり?大体にしてみきたんは―――………。
………………………。
………………。
………。
…。


その時、急に頭の中がすぅーっと冷えるような気がした。
雑音が一切聞こえてこない状態。妙に冷静だった。
どういうことかと言うと、つまり――早い話、あたしはキレてしまったのだった。
295 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:11
「ったく、行こーよ、ほら」

ぐいっと腕を引かれる。反射的に、それを振りほどく。
彼女が少し驚いたような顔をした。
その顔を最後に見て、あたしはそのまま彼女に背を向け歩き出した。

「…ちょっと、亜弥ちゃん?!どこ行くのさ?」

一瞬の間をおいて彼女があたしのあとをついて来る。
あたしよりほんの少しだけ歩幅の大きい彼女に抜かれないように、早歩きで進む。
296 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:12
「ねぇってば!どこ行くの?!」
「行かない」
「はぁ?」
「どこにも行かない。あたし家に帰る。だからみきたん一人でどこでも行けば」
「ちょ、何言ってんの?」

歩きながら大きい声で言葉を交わす。
話しながら、彼女はきっと心底意味がわからない、という顔をしているだろう。

「だから、勝手にどこでも行けばいいじゃん。あたしは帰る」
「いやだからそれどういう意味?」
「どういうってそのまんま」
「…なに、遅れたことまだ怒ってんの?それならならもう謝ったじゃん」

その言葉を聞いて、進めていた足を止める。
297 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:13
「……そっか、そっか。そうだよね」
「…何言ってんの、亜弥ちゃん」

振り返ると、訝しげな表情を浮かべる彼女がいた。
でもあたしがニコッと笑うと、なぜか怯えたような表情に変わった。

「……あの…マジで…お、怒ってますか?」
「うん、でももういいの。あたしひらめいちゃったから」
「…えーっと、なにがでしょう」
「どうすれば一番いいのか」

特上の松浦スマイルを一つ。
そして。
298 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:14
「みきたん、あたしたち、別れよ?」


「は……」


「もうあたし疲れちゃった。みきたんといるの。だから、別れてくれない?」



あたしがその言葉を言うと彼女は全ての動きを止めた。
299 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:14



300 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:15
「……みきたん?どうしたの?」

「ねぇ、口開いちゃってるよ。せっかくの可愛い顔が台無し」

「おーい、みきたーん、藤本美貴さぁーん」

何度呼びかけても、何の反応もない。
どうしたものかと思ってほっぺをつついてみた。すると。

「あああああ亜弥ちゃん!!!」

まるでそれがスイッチだったかのように、突然叫びだした彼女。
301 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:16
「わっ!びっくりした!」
「わわわ別れるって、どどどどういうこと?!」
「みきたん、どもりすぎだよ」
「どっどもるとかそういうことはいいから!!なんでいきなり別れるとか!!」

こんなとこで、押し倒されるんじゃないか。
そう思うくらい彼女はすごい勢いであたしに迫り来る。
302 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:17
……今まででこんな必死になってる彼女は初めて見たような気がする。
まさかこんなに反応が返ってくるとは思わなかった。

あたしのことをどれだけ好きなのか、ちょっとばかし試してみようと思っただけなのに。


あたしがキレたのも一瞬のことで、すぐにいつものような悪戯心が湧いてきた。
みきたんがあたしのことを好きだってことは一応わかってるつもりだけど。

その気持ちの大きさの差が、あたしは気になっていた。
だから彼女の「好き」の大きさはどれくらいなのか知りたいと思っていた。
303 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:17
「ねぇ亜弥ちゃん、別れるとか言わないで、考え直してよ、ね?」

「マジで、もう時間に遅れたりしないし!」

「ハッ!……まさか、亜弥ちゃん……他に好きな人ができた、とか言わないよね…?」

「…なんで無言なの?ちょ、ちょっと…マジでそうなの?」

「……や、やだよ…そんなの…亜弥ちゃんが他の奴に取られるなんて……くそっ…そいつ、シメてやる」

「美貴じゃダメなの?つーか、美貴より亜弥ちゃんのこと好きな奴なんているの?」

「…ありえない。美貴より亜弥ちゃんのこと好きとか絶対ありえない」

「亜弥ちゃん、マジ考え直してよ。美貴もっと亜弥ちゃんのこと大事にするから…」

「美貴、亜弥ちゃんと別れたくないよ…もっとずっと一緒にいたいよ」
304 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:19
次から次へと言葉を紡ぎ出す彼女。
その全てがあたしへの想いが込められていたものだった。

自分で思っていたよりもずっと、あたしは愛されていたのかもしれない。
どうして今まで気持ちの大きさが対等じゃないなんて思っていたんだろう。


…あと五分くらい、このまま聞いていようかな。


彼女からこんなに「愛の告白」をされることなんてめったにないし。
それまで愛しさのあまり、彼女に抱きつかないでいれるかどうかは、微妙なところだけど。
305 名前:悪戯と恋心と。 投稿日:2004/04/10(土) 02:19



306 名前:大塚 投稿日:2004/04/10(土) 02:19
更新終了です。
307 名前:(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2004/04/10(土) 02:24
ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!!
308 名前:大塚 投稿日:2004/04/10(土) 02:25
>>283 名無飼育さん
そういうことだったんです。
アホですいません。

>>284 名無飼育さん
大喧嘩…って感じじゃないですね。
すいません、これが精一杯でした…。精進します。

>>285 ss.comさん
こういうアホなやりとりしてますよ、きっと。
いや、ただの妄想なんですが(w
お褒めの言葉、ありがたく受け取っておきます。
309 名前:大塚 投稿日:2004/04/10(土) 02:33
>>307 (*´Д`)ハァハァ さん
こちらこそハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!!(意味不明
こんな早く反応してくださってありがたいです。


今日のMステはすばらしかったですね。
完璧に捕獲もしたことだし…もう一回見るか。
ところで、そろそろここはあやみきスレだと認めようかと思う今日この頃です。
最初は他にも色々書くつもりだったんですけどね…。

えっと、引き続きネタ募集してます。
でも内容的に自分で書けなそうだったら普通にスルーしますが。
つまり、できるだけ書きやすいネタを募集してます(w
310 名前:284 投稿日:2004/04/10(土) 14:18
自分もハァ━━━━━━(;´Д`)━━━━━━ン!!
大喧嘩で、とリクした者ですが、自分が予想してたのより遙かに素晴らしかったです。ありがとうございます。
必死な藤本さん萌え〜てな感じでw

昨日のMステでやはりあやみきの間には切っても切れない絆があるんだなぁって思いました。
長くなりましたが、あやみき最高!!作者さん最高!!って感じです。次回更新も楽しみにしております。
311 名前:2526 投稿日:2004/04/11(日) 00:42
泣きました。ストレート過ぎて。
更新楽しみにしています。
312 名前:(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2004/04/11(日) 00:47
作者さんがんばってください。
あやみきこそ我が心のオアシス!

ニュルニュル入浴剤でじゃれるあやみき
ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!!
313 名前:大塚 投稿日:2004/04/20(火) 03:49
更新です。
314 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:52
出会ったのは中学の時で、校内だけでなくそこら中で桜が咲き誇っていた春。
仲良くなるきっかけは同じ図書委員になったこと。
この委員会では昼休みと放課後にそれぞれ、本の貸出と返却、本の整理の仕事をする。
貸出と返却、整理の仕事にはそれぞれ二人ずつの委員がペアとして割り振られた。
そのペアを決める時には、部活をやっている人とそうでない人との二つのグループに分類された。
部活のある人は昼休み、やっていない人は放課後に仕事をするというわけだ。
さらにその中で学年関係なく、名簿順でペアが決められた。
先生いわく、委員会は同学年だけでなく他学年の人と接するいい機会だから、ということだった。
そんなわけで藤本と松浦の二人がペアになったのだ。
315 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:53
あたしは三年で、彼女は入学したばかりの一年生。
まだ右も左もわからない状態なのに、いきなり先輩と一緒に仕事をするなんて、嫌だろうな。
しかも顔が怖いことで有名なあたしと。本人はそんな怖い顔してるつもりないんだけど。
でも周りがそう言うから、とりあえずは怖がらせないように、それだけ思っていた。
「よろしく。三年五組の藤本美貴です」
なるべく笑顔で言ったつもりだけど、なぜか彼女は驚いたように一瞬動きを止め、俯いた。
………あれ?さっそく失敗?
今日家に帰ったら鏡の前で笑顔の練習をしよう。
外は春らしくいい天気なのに、あたしの心はどんよりと曇っていた。
316 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:53
「あの、あたし、松浦亜弥っていいます。一年二組です。これからよろしくお願いします!」
窓の外を見ながら不貞腐れていたあたしの耳に、突然元気のいい声が聞こえてきた。
すっかり怖がらせていたと思い込んでいたあたしにとって、彼女の態度は意外だった。
この時のことを後から聞いたら、こう答えた。
「だって、顔も可愛いのに声まで可愛くてびっくりしたんだもん」
それはこっちのセリフだ、と思った。
あの時あたしは初めて彼女の顔をしっかりと見たわけだけど。
…あたしは、彼女のあまりの可愛さにしばらく見とれてしまったんだから。
そんなこと言ったら調子に乗るから、彼女には内緒にしている。
317 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:54
あたし達は二人とも部活をやっていなかったからいつも仕事は放課後だった。
しかも部活をやっている委員の方が多かったから、放課後の仕事をする委員は少ない。
そのため、週に二、三回は仕事があった。仕事をさぼったことは一度もない。
意外だとみんな思うだろうけど、あたしは昔から本が好きで、図書室にはよく来ていた。
図書委員はあまり仕事熱心でなくさぼる人がほとんど。
足繁く図書館に通っていたあたしが、図書委員の仕事を代わりにすることも少なくなかった。
そのせいもあって、あたしは先生にとても可愛がられていたように思う。
だからかもしれないけど、先生はたまにあたしにお菓子をくれることがあった。
それまで食べたことのないような外国のお菓子は、とてもおいしかった。
318 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:54
「他の子には内緒だからね?」と言いながら先生はお菓子をくれる。
それはあたしが正式な図書委員になっても変わらなかった。
隣の彼女はどうして先生がお菓子をくれるんだろう、と不思議そうにしていた。
彼女にとって委員の仕事をすることは当たり前で、ほめられることの意味がわからないようだった。
この頃は出会ったばかりだったけど、そういう真面目なところから育ちの良さが伝わってきた。
でもお菓子を食べたあと本当に嬉しそうに笑うから、そんなところは普通の女の子だなと思った。
先生もあたしからは得られない可愛らしい反応に、調子に乗って色んなお菓子を出してきた。
あたしがそれに対してつっこむと、「だって松浦可愛いんだもん…ついつい」
なんて、一応教育者であるにもかかわらず、立派な差別発言をしてくれた。
でもこの先生がいてくれたおかげで彼女との距離が自然に縮まったのは事実だ。
年下を相手にするのはどうも苦手なあたし。そこはちょっと感謝している。
319 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:55
いつだったか、先生が言った言葉がすごく印象的だった。
「私は二人が羨ましい。なんて言うのかな…中学生とか高校生くらいのときって、毎日がキラキラしてる感じなのよ。色んなことが楽しくて、ドキドキしてる感じ。今はわからないかもしれないけど、大人になるとそういうことすごく思い出すの。私にはもう味わえない感覚だからかもね。あの頃に戻ることは二度とできないから…」
そう言って曖昧に笑う先生はとても綺麗だったけど、あたしにはまだわからなかった。
それは彼女も同じようで、二人で顔を見合わせて肩を竦めた。
ただ、心の深いところでずっとその言葉を覚えていた。
320 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:56
彼女と二人で過ごす時間は、いつからかあたしにとって欠かせないものになっていた。
図書委員の仕事がない日はなんとなく憂鬱な感じが拭えなかった。
反対に仕事のある日は朝から気分が良くて、放課後が待ち遠しかったものだ。
もちろん仕事もしていたけど、それ以外はもっぱら彼女と話をしたり、じゃれあったり。
最初はぎこちなかった二人の関係も、仕事の回数を重ねるごとに自然なものになっていった。
そして夏服に衣替えした頃には、二つも年が違うということを、まったく感じなくなっていた。
彼女の呼び名も、「松浦さん」から「亜弥ちゃん」へといつの間にか変わっていた。
それに対して彼女は、敬語は少なくなったけど、あたしのことを「藤本先輩」と呼び続けた。
名前で呼ばれても別に構わなかったけど、彼女のそういう礼儀正しい部分には好感がもてた。
321 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:56
この頃のあたしは中学三年ということもあって、受験勉強に追われていた。
朝は早起きして、学校にいるときも昼休みに、そして夜も遅くまで勉強をするほどだった。
どうしても入りたい高校があったから。
そのために、委員の仕事を彼女一人に任せて、塾に通うことだってできた。
一人きりで勉強するよりも、その方が効率だってよかっただろう。
それに実際は委員の仕事量はそんなに多くはない。
でもあたしはそうしなかった。
だって、そうすると彼女との繋がりがなくなってしまうから。
自分の力だけで勉強する事に不安がなかったわけじゃない。
でもあたしにとって彼女との時間は、受験勉強よりも大事なことだった。
ただそれだけのことだ。
322 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:57





323 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:57
ついこの間まで夏の暑さに苦しむ日々を送っていたはずなのに。
今ではもう校庭の木々が赤く色づき始めていた。
早いもので、彼女と出会ってすでに半年以上が経っていた。委員の仕事はまだ続けている。
この頃には彼女の制服姿もすっかり板についていた。
あたしはと言うと、今まで努力をした甲斐があったらしい。
担任の先生から、進学を希望する高校への合格はほぼ間違いないだろうと言われていた。
だからといって勉強から手を抜きはしなかったが、彼女との時間をもっと大切にするようになった。
少しでも長く同じ時間を共有したいと思っていた。
324 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:57
その頃だった。自分の感情にどこか不自然さを覚えるようになったのは。
きっかけはきっと些細なことで、自分でもよくわからない。
いつの間にか、自分でも気付かないうちに、あたしは彼女を見つめていた。
何をするわけでもなく、ふとした時にその姿を目で追ってしまう。
それが図書委員の仕事中だったり、登下校の途中で見かけたときでも。
この時はただ「気になる」というだけで、自分の気持ちの説明が出来なかった。
ただわかっていたのは、彼女を見つけるとあたしは嬉しくて心が温かくなって。
それでいて、それと同時にひどく切なくなるということだけだった。
325 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:58
委員の仕事が始まる前に、あたしの教室まで毎回迎えに来る彼女。
上級生ばかりいる校舎を心細そうに歩きながら、それでも彼女はいつも迎えに来る。
そして、あたしの姿を見つけると嬉しそうに笑うのだ。
どちらかと言えばあたしが彼女を迎えに行った方がいいんだろうけど。
迎えに来るのは毎回決まって彼女の方だった。
それにどこかで彼女が来るのを待っている自分がいた。
彼女があたしを見つけたときの笑顔、それを見たかったから。
326 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:59
でも、全ては懐かしい思い出となってしまった。
嬉しくなったり、切なくなったり、ドキドキしたりする、色んな気持ち。
今思えばあの頃はほんの些細なことで感情が揺れ動いていた気がする。
あの頃は自分の気持ちのままに行動することができたし、それ以外の方法は考えられなかった。
でも今は感情だけで動くことはできない。
言い方を変えれば、それは大人になったということなんだろう。
でもふとしたことであの頃の自分を思い出すと、今の自分に窮屈さを覚えてしまう。
そういうときは、もっと自由に生きたいと思わずにはいられない。
それはあたしのまだ大人になりきれない、子供な部分がそう思わせるのだろうか。
327 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 03:59





328 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:00
季節はもうすぐ冬へと移り変わろうとしていた。卒業までもうあまり時間がない。
あたしはそのことを複雑な気持ちで受け止めていた。

「藤本先輩、希望校に受かりそうなんですよね?」
いつもの委員の仕事中、どこから聞いてきたのか、彼女がふとそう洩らした。

「ん〜まだわかんないよ。受けてみないとね」
「…でも、どっちみち先輩はもうすぐ卒業しちゃうんですよね」
「どっちみちって何さ、失礼な。落ちるかもみたいな言い方しないでよ。受かるし!…たぶん」
「大丈夫ですよ、先輩頭イイし。…あ〜あ、なんであたし先輩と同じ年じゃなかったんだろう」
「なんでよ?」

「だって、同じ年だったらもっと先輩と一緒にいられるもん」
少し口を尖らせて、拗ねてみせる。

その仕草に胸の奥がじわっと熱くなった気がした。そして次の瞬間には息苦しくなる。
最近はこういうことが多いけど、原因がわからなくて、どうすることもできないのだった。
329 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:01
「あっ、先輩が留年すればいいんだ!」
「いやいや、中学生で留年とかめったにできないから」
突拍子もないことを言い出す彼女に、思わず吹き出してしまう。

「えーそうなんですか?なんだぁ、いい考えだと思ったのに」
「亜弥ちゃんもっと世の中の事知った方がいいよ」
「…先輩あたしのことバカにしてる?」
「いや、全然?」

可愛いなぁこいつ、と思いながらよしよしと頭を撫でる。
サラサラとした髪の感触が心地良い。

「もぉ…やっぱりバカにしてるじゃないですかぁ」
ふにゃりと笑う彼女は、春に比べるとほんの少しだけ、大人になったように見えた。
330 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:01
なんとなく、会話が途切れて。
ちらっと彼女を見ると、彼女もあたしを見ていたようで。
目が合うと彼女は少し困ったような顔をしてみせた。

「…日が暮れるのが早くなりましたね」
放課後の図書室を、夕焼けが綺麗なオレンジ色に染め上げていた。

彼女は外を見ると少し眩しそうに目を細める。
あたしはただ黙ってその様子を見ていた。

「もうすぐ冬になって、冬が終わって春が来ると、先輩はもう…ここにいないんですね」

さっきまでとは違うその声色に、その表情に、あたしの心はすでに囚われている。
331 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:02
「あたしすごく寂しいです。先輩がいなくなったら」
あたしを真っ直ぐ見つめる瞳の中には、あたしの姿が映っている。
それと同じように、あたしの瞳の中には彼女の姿が映っているんだろう。

…そんな風に、潤んだ瞳で見つめるのはやめて欲しい。
このまま見つめ続けたら永遠に目が離せなくなりそうで怖い。
声が出せない。なんで、こんな、胸を掴まれるような。
二つも年下の子を相手に、こんなにも戸惑っている自分がわからない。
ただ胸の奥の熱と、息苦しさだけを感じていた。
そのことに気付かれないように振舞う自分に、そうさせる彼女に、不自然さを覚えていた
332 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:03
無言で見つめ合っているという、異常ともいえる時間が過ぎていく。
いつもだったら先生がお菓子を持ってきてくれる頃なのに。
でも仕事が長引いているのか、今日に限ってその姿を現さない。

「先輩は」
長い沈黙を破り、彼女が声を発する。
いつもより少しだけ掠れた、ハスキーな声だった。

「先輩はそういうこと思いませんか?あたしに会えなくなること寂しいって思いますか?」

あたしは相変わらず何も言えないでいた。
彼女とこんな時間を過ごせる時は限られているし、あたしだってもちろん寂しいって思っている。

そう、ただ「寂しいよ」と言えばいいだけなのに。
なぜかすごく大事なことを聞かれているようで、あたしはその一言が言えないでいた。
333 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:04
どうすればいいかわからなくて、ただあたしは彼女を見つめていた。
胸の中にあるいまだに名前のつけられない想いが、どうしたら伝わるのか考えた。

それはほとんど無意識だった。頭より体が先に動くような状態。
あたしはゆっくりと手を伸ばして、そっと彼女の手を掴んだ。
彼女の手はとても温かくて、心が解れていくような気がした。
思わず目の奥がツーンとして、涙が出そうになった。

あぁ、そうか。そうだったんだ。
なんで今まで気付かなかったんだろう。

あたしはこの温もりをずっと求めていたんだ…あたしはずっと、彼女が欲しかったんだ。
ぎゅっと手を握り返される。それだけで、二人は理解し合った。
彼女が柔らかく微笑むと、その目尻から一筋の涙が零れた。

それから、二人は――――――。
334 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:05





335 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:05
今年も中学校の校庭には、あの頃と同じ見事な桜が咲いている。
彼女と出会ってから、もう何度目の春になるだろうか。
あたしは大学二年、彼女は高校三年になっていた。

「みきたん」
名前を呼ばれて振り向くと、あの頃より確実に大人に近づいている彼女がいた。

変わらずに無邪気な部分もあるが、最近は思わず息を呑むくらいに大人びた表情も見せる。
お互いに気付かないうちに、どんどん成長しているんだ。
気をつけないと見過ごしてしまうくらい少しずつ、それでも着実に。
336 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:06
「今ね、思い出してた。美貴たちが出会った頃のこと」
「あたしもだよ……懐かしいね」
「中学一年生の亜弥ちゃん、可愛かったなぁ……セーラー服が」
「ありがと…って制服だけかい!ねぇ、どうなの、ほんとはどうなの」

びしっと容赦ないつっこみが入る。いた、痛いって。
あぁ、あの頃はあんなに素直で可愛かったのに。

「……亜弥ちゃんは優しくて思いやりがあって素直で可愛い子だと思います」
「そうそうそうそう」

少し皮肉をこめて言ったんだけど、そんなことには全く気付かずに彼女は満足そうだった。
フェンスに寄り掛かって校庭を眺めながら、鼻歌なんかを歌っている。
337 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:06
あたし達の関係はあの頃とは少しずつ変わってきていて。
いつまでも同じではいられないし、変わっていくものなんだな、と思う。

変わることは必ずしもいいことだけではないかもしれない。
それでもあたしは前向きに考えるようにしている。
二人の関係が少しずつ形を変えても、お互いを思いやる気持ちは変わらないって自信があるから。

ただ、あの頃のような気持ちで彼女を想うことはもうないんだな、と思った。
今だって彼女にドキドキする気持ちはあるけど、あの頃の気持ちとは全然違う。

ほんの少しだけ、そのことを残念だな、と思った。
338 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:08
校庭では陸上部の生徒がタイムを測っている。100m走だろうか。
一生懸命なその姿は、あたしにはとても眩しく見えた。
先生が言っていたのはこういうことだったのかな、なんて思う。

…毎日がキラキラしてる感じ、か。

「亜弥ちゃん、そろそろ帰ろっか」
「うん」

当たり前のようにあたしの腕を取って歩く彼女。
その横顔を見ても、いまいち何を考えているのかわからない。

う〜ん、まだまだだな、あたしも。勉強が足りないみたい。
339 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:08
「ねぇねぇみきたん、買い物行こうぜぃ」
「買った物は自分で持ってね」

先生から見て、今のあたしはどう見えるかな。
あたし的にはまだまだそこらの中学生には負けてないと思うんだけど。

どうかな、先生?
340 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:08





341 名前:ボーイズ&ガールズ 投稿日:2004/04/20(火) 04:09





342 名前:大塚 投稿日:2004/04/20(火) 04:11
更新終了です。
343 名前:大塚 投稿日:2004/04/20(火) 04:20
>>284さん
松浦さんのことになると必死そうな藤本さんっていいですよね。
Mステよかったですね。手を繋ぎながらにやけてる藤本さんを見てにやけました。
というか、ジュピター歌っている人が自分より年下で驚きました。10代って。

>>2526さん
直球ど真ん中は自分も大好きです。ごめんなさいほんとはよくわかりません。
そうか、ああいうのがストレートなんですね。

>>(*´Д`)ハァハァさん
ニュ、ニュルニュル?!なんとも魅惑的な響きですね。


レスありがとうございます。
今回の更新分は初めての年齢設定で多少ドギマギしました。
それでは次回更新で。
344 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/22(木) 00:53
イイ!!!!
この甘酸っぱい青春模様が何とも言えませぬ(*´Д`)
大塚さんの書く文章ってすごくふわふわしてて透明感がありますよね。それでいて芯の部分は
しっかりしていると言うか・・・かなり自分好みなんですけど(笑)
とにかく、自分は大塚さんの小説が大好きです!これからも頑張って下さいね。
345 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/26(月) 23:15
いいなぁこの話。青春時代って感じですね(ポワワ
346 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/27(火) 00:19
第三者が介入するようなのも読んでみたいな。
347 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/24(月) 02:34
そろそろ作者さんの新しい話が読みたいです。
348 名前:大塚 投稿日:2004/05/25(火) 01:31
更新です。
349 名前:五月、晴れの日 投稿日:2004/05/25(火) 01:32
なんかさぁ、と彼女は切り出した。声がこもっていた。
クッションを抱きかかえて頭を下げているからだ。

あたしは、なに?と問い掛けると、彼女は呟いた。あたし五月病かも、と。
外はめずらしく晴れているのに、部屋の空気はどんよりと重かった。

だってこの会話はもう三回目だった。あたしは少しイライラしている。
何度も繰り返される同じ内容の会話を続ける事に。
そしてそれにいちいち付き合ってやる自分に。
でもイライラしているだけで、嫌ではないんだよ。
350 名前:五月、晴れの日 投稿日:2004/05/25(火) 01:33
「五月病ってどんなんなの?」
「んーなんかだるい。色々めんどくさいの」
「だるい、ねぇ…そんなこと言うの珍しいじゃん」

ストレスというものを知らないんじゃないかと思うくらい、いつもは元気で溢れている彼女。
明朗活発という言葉はこの子のためにあるんじゃないか、とあたしは思っている。
でも今は世界中の誰よりもその言葉が似合わない気がした。

ころん、と転がってきた彼女の頭は、あぐらをかくあたしの足のすきまにおさまった。
351 名前:五月、晴れの日 投稿日:2004/05/25(火) 01:34
「だってーだるいもんはだるいんだもん。はぁ、このままだとうつ病になりそう」
「なんだそりゃ。意味わかんない」
「……あ〜あ、恋人に突き放されてるあたしって、かわいそう」
「…………」
「シカトですか」

でも気付けば髪の毛をすくうように頭を撫でてあげているし。

反射のように、勝手に動いてしまうあたしの体。
君と出会ってから、あたしの体はどんどん変わっていった気がするよ。
352 名前:五月、晴れの日 投稿日:2004/05/25(火) 01:35
あたしの膝の上でごろごろと甘える彼女は、まるで猫のようだ。

一瞬慣れてくれたかな?と思うと次の瞬間にはぷいっとどこかへ行ってしまう。
猫は気まぐれなもの。自分が甘えたいときだけ近づいてくる。

そのたびにどきどきして、このまま時が止まればいいと思う。
いつから自分はこんなことを考えるようになったのだろう。
353 名前:五月、晴れの日 投稿日:2004/05/25(火) 01:37
「みきたん、キスして」

彼女はいつの間にか起き上がって、あたしと向かい合わせに座っていた。
…やっぱり猫のようだ。
あたしを誘うその目からは、逃れる事ができない。

そんなあたしには彼女のお願いを断る理由なんてないし、断る気もない。
彼女の白くて細い指先をきゅっと握ると、ゆっくりと唇を寄せた。
軽く音を立ててすぐ離れると、彼女は不満そうな表情をしてみせた。
354 名前:五月、晴れの日 投稿日:2004/05/25(火) 01:39
「…なんで鼻なの」
「なんとなく」
「鼻じゃヤだ……ちゃんとして」
「うん」
今度こそは柔らかそうな、あたしのより幾分厚い唇に近づいていく。

優しく触れて離れたあと目が合った。
まだ足りない。そう言っているような気がした。

何度しても物足りなさそうな顔をするのはいつものこと。
あたしはそれに気付かないふりをして、彼女の顔が見えないように抱きしめる。
これもいつものことだった。
355 名前:五月、晴れの日 投稿日:2004/05/25(火) 01:41
彼女を完璧に満足させることはこの先もずっとないだろう。
でもあたしの全てを君のために捧げよう。

だから気が向いた時はいつでもあたしのそばに来て。

他の誰の所へも行かないで。ずっと、そばに。

356 名前:五月、晴れの日 投稿日:2004/05/25(火) 01:42
柔らかくて温かい体を抱きしめながら、あたしも五月病だろうか、と考えていた。
そうだといい。今まで悩んでたこと全部、そのせいにできるから。

カーテン越しに青い空を見ていたら、なぜかすごく切なくなって。
その気持ちをごまかすように彼女を強く抱きしめた。
357 名前:五月、晴れの日 投稿日:2004/05/25(火) 01:43
 
358 名前:大塚 投稿日:2004/05/25(火) 01:45
更新終了です。えっと…短くてすみません。
思いつきでパパーッと書いたものなので。
文章のおかしい所が多々あるかもしれません。
359 名前:大塚 投稿日:2004/05/25(火) 01:53
>>344 名無飼育さん
うわぁ、よくわかんないけどほめられてる…ど、どうしよう。
とりあえずありがとうございます、嬉しいです。
そしてごめんなさい。自分、そんな大それた人間じゃないですよ。

>>345 名無飼育さん
青春時代とはどんなものかよくわからないんですけど。
いや、一応現役ですけどね。オレン○デイズ世代なんで。

>>346 名無飼育さん
第三者か…自分、登場人物を増やせば増やすほど話がまとまらなくなるんですよ。
でもちょっとがんばってみようと思います。…思うだけかもしれないです(w

>>347 名無飼育さん
すいません、短くて(汗
レスありがとうございます。
360 名前:大塚 投稿日:2004/05/27(木) 23:43
松浦さんのCMようやく見ました。……転げまわっちゃいました。
あれはやばいです、相当がっつりきました。
きっと相手は藤本さんを想定してやったんだろうなぁ、と勝手に妄想(w
あやみきネタがほとんどない今、妄想で補うしかありませんからね。
……あ、別に更新するわけじゃありませんので。
ただあのCMが素晴らしすぎて、いてもたってもいられなくなっただけです。
361 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/08(火) 23:18
今ごろ更新に気づいたよ orz
ん〜やっぱ大塚さんの書くあやみきはイイ!!っすわw
次回更新も楽しみにしてます!
362 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 10:12
待ってます。
363 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/24(土) 04:41
もう更新はされないんでしょうか?作者さんのあやみき大好きなので密かに待ってますね(w
364 名前:大塚 投稿日:2004/07/27(火) 02:21
一言だけ。更新はしますよ。ただ…今いわゆるスランプ状態でして…。
ネタは何個かあるんですが、どうにも上手くまとまらなくて(汗
八月にはなんとか更新したいです。それが目標。
365 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/31(土) 03:02
良かった〜!
その一言があればまた生きていけますw
366 名前:大塚 投稿日:2004/07/31(土) 05:01
とりあえず前のボツネタをw
367 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:01
今日、亜弥ちゃんと久しぶりに一緒の仕事のある日だった。
前々から終わったら家に遊びに(というか必然的に泊まり)に行く約束をしていた。
だから美貴はそのあとの仕事が終わってから、一目散に亜弥ちゃんちに向かったんだけど…。

インターホンを押してしばらく待つ。
ガチャ、とドアが開く。もう、遅いよ亜弥ちゃん。
ここでみきた〜ん!って叫んでそれから抱きつかれて………って、あれ?

「いらっしゃい」
美貴のやり場のない両腕と、亜弥ちゃんの恐ろしく棒読みの言葉。
そして、完璧すぎる営業スマイル。

…え〜っと…美貴なんかしたっけ?
368 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:02
びくびくしながらリビングに入ると、すっかりリラックスした様子の亜弥ちゃん。
ジュースを飲みながら、テレビを見ていた。自分のビデオではないらしい。

「…あの、おじゃまします…」
「あ、適当に座っといて」
こっちを見もしない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう?
思い出せ…今日一日を思い出せ…美貴また何かやらかしたんだ、きっと。
絶対そうだ。絶対無意識に何かやったんだ。

いつもならゆったり座るソファに、背筋を伸ばして座りながら考えていた。
………何も思いつかないんですけど……。
369 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:03
こうなったら。そうだ、思い切って聞くしかない。
美貴だってやるときはやるんだ作戦で。
亜弥ちゃん、何で怒ってるの?美貴なんかした?
って一言、強気で……。

チラチラ亜弥ちゃんの様子を窺いながらそのタイミングをはかる。
すると亜弥ちゃんはテレビのリモコンを手にすると、電源をオフにした。
今?!今がチャンス?!強気で一言…!

「はぁー………」
深い溜息と、怖いくらいの無表情。

…ダメ、無理。聞けない。亜弥ちゃん本気で怒ってる。
すいません。ヘタレですいません。
370 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:04
そして美貴の次の策として、何も気付いてない作戦。
美貴がいつものように振舞ってれば、亜弥ちゃんもバカバカしくなって許して…くれるかな…。

いつも通りに、いつも通りに…。
自分自身に言い聞かせていると、亜弥ちゃんがすっくと立ち上がる。
そのまま寝室へと消え、帰ってくるとタオルやらパジャマやら持っていた。

「…お風呂入るの?」
「そうだけど」

…よし、これだ!心の中でガッツポーズする。
いつも通りに一緒にお風呂に入って、体洗ってあげたり、色々尽くしたら許してくれるはず。
それでお風呂上りにそのままベッド行って……あとはお楽しみタイム〜!

「亜弥ちゃん、美貴も一緒に入っても……」
よからぬ妄想に顔を緩ませながら振り向くと、もう亜弥ちゃんはいなかった。
あきらめずに洗面所へ向かったけど、カギがかかっていた…。
371 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:04



372 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:05
亜弥ちゃんのお風呂は長い。確実に二時間は出てこない。
ヒマヒマヒマヒマ…ヒマ!
藤本美貴、何が嫌いって、ヒマなのがいっちばん嫌いなんです。

とりあえず体の力を抜いてソファにごろんと転がってみた。
ヒマなときは、寝るに限る。これ美貴のモットー。

「…っていうか、殺風景な部屋だよね…」
知らない人が見たら女の子の部屋だとは思わないだろう。
たぶん世間の人が亜弥ちゃんに抱いているイメージとはかけ離れているんじゃないかな。
ピンクのものなんて一つもない。
必要最小限のものしか見当たらない部屋。

帰っても寝るだけだから、これで十分なんだと亜弥ちゃんは言っていた。
でも…こんな寂しい部屋に、亜弥ちゃんはいつも一人でいるんだ。
373 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:06
仕事だってソロだからいつも一人。
美貴はたまにソロの仕事があるくらいで、たいてい誰かと一緒。
だから今日の仕事は、前から楽しみにしていたようだった。

「みきたん、もうちょっとで一緒のお仕事あるね」
電話で何度も何度も同じセリフを聞いていた。
美貴は「あ〜そうだね」なんて適当に返していた。
そんなに、重要なことだとは思っていなかった。
美貴には仲間と仕事をすることは当たり前のことになっていたから。

でもよく考えれば、自分のソロ時代はどうだったっけ?
ごまっとうをやるって聞いたとき、複雑だったけど、素直に嬉しくも思った。
楽屋で仲間と一緒にわいわい騒ぐのも悪くないな、って思ったんだよね。
だっていつも一人ぼっちだったから…。

…あ〜あ、そうか、わかった。たぶんだけど、きっとそう。
亜弥ちゃんはたぶんまた下らないこと考えてるんだろう。
美貴が娘。のメンバーに取られちゃう、とかさ。
374 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:06



375 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:06
勘違いだったらあれだけど。
とりあえず洗面所の前にしゃがんで、亜弥ちゃんがお風呂から上がるのを待つ。
…時間的にそろそろだと思うんだけどなぁ。
なかなか出てこない。ドアに耳をくっつけて中の様子を探る。

ガチャッ。

「ん?」
ドアノブを見上げると同時に、それがカギを開ける音だと気付いた。
……でも気づいたときには遅かった。

ゴンッ!

「ぅあっ!いっ、痛ぁっ!」
思い切りオデコにドアがぶつかり、あまりの痛さにのけぞり回った。
376 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:07
「みっみきたん?!何してんのそんなとこで!!」
「あぅ……」
何ってそんなのこっちが聞きたい。
美貴、涙目になってるし。超カッコワル。

「もぉ…ここ赤くなっちゃってるよ?大丈夫?」
「…むぅ…だいじょぉぶ、だ、よ…」
「バカ、どこがよ。今タオル冷やしてくるから」
「あい…ごめんなさい…」
亜弥ちゃんはものすごい勢いで走っていくと、ぬれタオルを持ってきた。
優しい手つきでオデコに当てられる。

「……っ」
「冷たい…?」
「ん…大丈夫、なんか気持ちいい」
「…よかった」
ふにゃっと笑ったその顔を見て思った。
…あ、営業用スマイルじゃない。
377 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:07



378 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:08
場所は変わってリビング。
なぜか亜弥ちゃんに膝枕をしてもらって、オデコを冷やしている最中だった。
……もうあんま痛くないんだけど、もうちょっとこのままでもいいかな。
亜弥ちゃんの膝枕、気持ちよすぎ。柔らかすぎ。
ということで、もうちょっと堪能させてください…。

「みきたん」
「…うあっ、はっ、はい?!」
「にゃはは、なに焦ってんの?」
「あ、いや別に…」
ああびっくりした、やましい考えを声に出してたのかと…。
しどろもどろの美貴に、不思議そうな亜弥ちゃん。
しばらく見つめあってたら、亜弥ちゃんがプッと吹き出した。

「あ〜あ、なんか色々どうでもよくなっちゃったぁ」
「はぁ…そうですか」
「でも一個だけ聞いていい?」
「…なに?」
379 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:09

「みきたんはあたしのこと好きでしょ」
「うん、大好き」
「…うん、じゃあいい」
亜弥ちゃんだって美貴のこと相当好きだよね。
聞かなくてもわかってるから聞かないけど。

ただこれだけは言っておこう。
わかってないかもしんないから。

「亜弥ちゃんは一人じゃないからね」
「え?なに急に」
薄笑いを浮かべて、美貴を見下ろしている。

「つまんないこと考えなくていいよ。美貴がいるから、大丈夫」
美貴が真剣に話してるのがわかったのか、亜弥ちゃんの表情が引き締まったものになる。

今日のことを亜弥ちゃんが言わないつもりだとしても、美貴は気付いてしまったから。
亜弥ちゃんにちゃんと伝えなきゃいけない。大丈夫、君は一人じゃないよ、って。
380 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:09
「わかってる?美貴、いっつも亜弥ちゃんのこと見てるんだよ?」
「あたしのがみきたんのこと見てるもん」
「じゃあ美貴の方が亜弥ちゃんのこと考えてる」
「それもあたしの方が考えてるもん」
「美貴のほうが亜弥ちゃんのこと必要だって思ってる」
「あたしの方が必要だって思ってる」
「…美貴って亜弥ちゃんに愛されてるなぁ」
「………だって、愛してるもん」
口を尖らせながら、顔を真っ赤にしながらの言葉。

あれあれ?…ちょっと、かなり可愛いぞ?
がばっと起き上がり、ソファに座りなおす。
膝枕はかなり名残惜しいけど。…またやってもらおうっと。

よく考えたら、美貴って実践派なんだよね。
言葉で伝えるよりも確かな方法、思いついちゃった。
381 名前: 投稿日:2004/07/31(土) 05:10
「ということで、愛を確かめ合いましょうか?」
「は?」
「アイラブユー、アイニージュー……アイウォンチュー」
リズムに乗って押し倒したまではいいけど。

「……アホみきたん!!」
「ぁだっ!!」

結果はですね、思いっきり、ぶつけたとこ殴られたわけです。
いいけどね。亜弥ちゃんがいい笑顔で笑ってるから。美貴は涙目だけど…。
ま、最後寝る前にオデコにちゅっとされたから、それでよしとしましょう。
382 名前:大塚 投稿日:2004/07/31(土) 05:10
更新終了です。
383 名前:大塚 投稿日:2004/07/31(土) 05:14
すいません、今回はまとめてレスで勘弁して下さい。
えー前の更新から二ヶ月も間が開いてしまい申し訳ないです。
七月中に更新できてよかったです。
384 名前:大塚 投稿日:2004/07/31(土) 05:19
やっぱりネタが思い浮かばない今日この頃。
誰か提供してください、ってことでリク受け付けます。先着5名様。
CPはあやみきオンリーでお願いします。
あとシチュエーションとか細かくリクしてくれると助かります、マジでw

ということで晒し上げ。
385 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/31(土) 17:28
はじめまして。ここのお話はどれも大好きです。
じゃあリクエストということで、松浦さんに一目ぼれした藤本さんが
つれない松浦さんを落とすまで、とか読みたいです。
松→藤はよくみますが完全な藤→松ってあまりないので。
よろしくお願いします。
386 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/31(土) 17:42
リクですと?!
お、お言葉に甘えて…。

定番ですが、幼馴染み(もしくは親友)で
片方が告ったり、彼氏ができたりで一度気まずくなってからのあやみきをお願いできますでしょうか?
注文細かくてすいません…。
できる範囲でかまいませんので…
387 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/31(土) 22:47

はじめまして!!
リクよろしいでしょうか!?

二人は幼馴染か大親友で、あややが美貴帝の友達よっちゃんさんに憧れてて
その憧れの人の前ではしおらしく照れたりしちゃう〜あややv
そして憧れてるだけなのに、美貴帝が「よっちゃんさんのこと好きなんだ‥‥」
と、勘違いしてモンモンとヤキモチを妬いてしまう。
もちろん!あややは憧れは吉澤さん、大好きな人は美貴たんて感じでw
そして最後は勘違いしたままの美貴帝が、大好きな亜弥に我慢できずに
ぶっちゃけて(告白)ラブラブで終わりみたいな〜‥‥。
すいません!!!!コマカクしかも長い上にカナリわかりにくくて!!!
私の方もデキル範囲でよろしいので‥‥長々とスミマセンでした!!!
388 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/01(日) 12:54
「Life without love is meaningless」の続編、もしくは二人が幼馴染
から恋人になったきっかけ編が読みたいです。
このお話の二人のキャラがほんとに大好きで・・・
389 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/05(木) 19:48
どこへ行くのも一緒のラブラブな二人だが、ある日亜弥ちゃんが男にレイプされてしまう。
心と体に傷を負う。
自己嫌悪から「あたし汚れちゃった。みきたんとはもう付き合えない。
悲しいけどこれからは美貴たんとのキラキラした想い出を胸に一人で生きていこう。」ってな心境になる。
しかし当然美貴は納得いかないし、亜弥を救いたいと想う。
交差する二人の想い…
こんなのお願いしします。
390 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/06(金) 03:03
>>389
そんなのヤダん。
391 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/06(金) 06:58
>>390

気持ちは激しく分かるが、書くか書かないかは作者様の自由。
スレ違いスマソ。
392 名前:大塚 投稿日:2004/08/08(日) 00:55
>>385名無飼育さん
>>386名無飼育さん
>>387名無飼育さん
>>388名無飼育さん

はい、了解しました。時間はかかると思いますがご了承下さい。
385の名無飼育さんの分は少しずつ書き始めていますので…。
393 名前:大塚 投稿日:2004/08/08(日) 01:08
>>389名無し読者さん
すみませんが、少々内容はソフトなものに変えてもよろしいでしょうか?
それじゃあダメだということでしたら、自分には書けそうにありません。
未熟者で申し訳ありませんが…あやみき大好きなんで男絡みはきついです。
394 名前:大塚 投稿日:2004/08/08(日) 01:15
>>390名無飼育さん
>>391名無し読者さん

自分の力不足で、リクしてくださった方のご要望通りには応えられそうにないです。
お気遣いありがとうございます。もっと精進します。
395 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/08(日) 13:03
ソフトなものでお願いします!
やっぱレイプはキツイですよね。反省。
396 名前:大塚 投稿日:2004/08/23(月) 03:44
更新します。
397 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:45
季節は夏から秋へと移り変わり始めている頃。

まるで予想もしない出来事が起きた。
付き合ってまだ二ヶ月の、自分ではラブラブだと思っていた彼氏に振られたのだ。

新しい洋服着て、髪型だって可愛くして、彼氏にプレゼントされた香水もつけて。
久しぶりのデートだったから、すごい気合入れて出かけたのに。

うきうきしながら待ち合わせのファミレスに行ったら、彼氏はなんだか微妙な表情で。
元気ないな、ってちょっと心配したのもつかの間に、突然の別れ話。
あたしはただ黙ったまま、下らない言い訳めいた話を聞いてることしかできなかった。

言いたいことはあった。たくさん。
でも彼の話を聞いているうちに、どうでもよくなってしまった。
そんな無意味な時間についに我慢できなくなって、「わかった。じゃあ別れよ?」と一言。
注文したアイスティーに口をつけることもないままに、あたしは席を立った。
そのときにほっとしたような表情を浮かべた彼のことなんて、全然気にしないふりをして。
398 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:46
あんなにあたしのことを好きだと言っていたのに。
この人となら幸せになれるかも、なんて思ったのに。
彼の口から出る優しい言葉も甘い言葉も、全部上辺だけのものだった。

付き合ってみたら、なんか違った。いつもそう言われる。
あたしはどうやら人を好きになると、周りが見えなくなるらしい。
自分の気持ちを押し付けて、束縛して。

「亜弥ちゃんの気持ち、ちょっと重いんだ」
そんなことを言われてもそれがあたしの愛情表現なのに。
他にやり方を知らないのに。

確かにね、ちょっとおかしいと思ってたよ。
メールもあまりこないし、電話しても「明日早いから」というお決まりのセリフ。
でも盲目なあたしはその言葉を信じて。めげずに愛情を伝え続けた。
399 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:46
そして結果がこれだ。どうしていつも上手くいかないんだろう?
そうすると、いつも考えてしまうことがある。
自分のことを本当に好きなってくれる人はいないんじゃないかって。
あたしの外見じゃなくて、中身を好きになってくれる人はいないんじゃないかって。

自分で言うのもなんだけど、外見は平均より上だし、寄ってくる人は結構いる。
でもその誰もが本当のあたしを知ると、あたしから離れていってしまう。

何度そういうことを繰り返したかわからない。
今度こそは、そう思って付き合っても結局同じことだった。
でももういいかげん疲れてしまった。
もう、同じことを繰り返したくはない。

このまま家に帰る気も起きず、延々とそんなことを考えながら街を歩いていた。
400 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:47
ファミレスを出てから、あてもなく色んなところを彷徨っていた。
気付くとお気に入りのショップが目の前にあった。
目的地があるわけじゃないから、とりあえず中に入る。

こないだ来たときは夏物のセールをやっていたけど、店内の商品はすでに秋物へと変わっていた。
まだ夏といっていい時期だけど、世の中が動くスピードは速いのだ。

周りを見ると、みんな夏物の服を着ている。
でも彼女らが選んでいるのは次の季節に向けての服。
あたしが今着ている服も夏物で、この時期にはまだ使えるものだったけど。
それでも、もう着ることができないような気がしていた。

次へと目を向けなきゃ一人だけ取り残されてしまうから。
でもまだどこかで同じ場所にいたいと、そう思ってしまう自分がいるのも事実だった。
そういう思いを断ち切るように、あたしはもうすぐ迎える秋に向けての服を選んでいる。
401 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:47
店内をまんべんなく、ゆっくりと見てまわる。
いつもだったらすぐこれ!と言って次々と買いまくってしまうあたし。
でも今日はあまりピンとくるものがなくて、一つ一つ商品を手に取りながら溜息をついた。

そんな中、あたしはピタッと動きを止めた。
あ…これいいかも…。今日初めてそう思える服に出会う。
一応値段もチェックして、意外にお手頃な価格で驚いた。

どうしよう…買っちゃおうかな。あまりにもさりげない場所にあったその服。
他の人はその存在に気付いていないようだった。
人と同じものがあまり好きじゃないあたしにとって、運命的な出会いのはずだった。

いつもだったら、すぐにレジへと持っていっただろう。
それなのに、なぜか迷っている自分がいた。
その服を手に持ったまま、あたしはじっと見つめていることしかできなかった。
402 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:49
「よかったら、鏡で合わせてみます?」
店員さんのその声にもすぐに反応できなかった。
呆けたようにその店員さんを見ると、彼女は「どうします?」と言葉を続けた。

「あ…はい」
「じゃあ、こちらにどうぞ」
鏡のところへ誘導するその姿を見て、細いけどバランス取れてる体型だなあ、と思った。
こういう人はきっと何を着ても似合ってしまうんだろう。


あたしとあまり年が変わらないように見えるけど、やはり年上だろう。
こんなところで働いているくらいだから高校生ではないはず。
ふと、その横顔をどこかで見たような気がした。キレイな人だな…。
でもこの店にはよく来るから、見たことがあるのも当たり前かと思い直した。
403 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:49
鏡の前に立って、服を合わせてみる。
やっぱり可愛いな…欲しいけど、でも…。

「あ、やっぱ似合うじゃん。思ったとおり」
「え?」
突然親しげな話し方になって戸惑った。

「これに目をつける辺りセンスいいよね。他にもいたけどさ、お客さんが一番似合ってる」
「はぁ、そうですか」
「まじだって。なんか、お客さんのために作られたって感じだもん、この服」
「…口上手いですね、さすが店員さん」
思わず、そんなことを口走ってしまった。心の中の声が勝手に出てしまった感じ。
でもその店員さんは、少し目を見開いてあたしをまじまじと見たあと、やけに豪快に笑ったのだ。
404 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:50
「ぶふっ、お客さんおもしろいね」
意外な反応に、あたしは呆気に取られていた。

「やーでも営業トークじゃないんだけどな、これ。本気でそう思うんだけど。だって美貴、他のお客さんには似合うなんて言ったことないもん。そんなのって店員失格なんだけど。だからいっつも接客やらせてもらえないの。店長がお願いだからあんたは接客やらないで、ってさ。でも今はたまたま店長いないから、美貴が接客なんてしちゃってるわけだけど」
「…でも嘘でも似合うって言わなきゃ、売れないじゃないですか」
「そうだけどさ〜美貴、嘘つけないもん。どう考えても似合ってないのに『よく似合ってますよ〜』なんて言う方が人としてどうかと思うわけよ、美貴は。ここで働き始めた頃、『あんま似合ってないですね』ってあるお客さんに正直に言ったら、めちゃくちゃ怒られたけどね。お客さんと店長に」
「いやいや、そんなの当たり前ですよ!」
「えーだって〜」
「だってじゃない!」
あまりの親しみやすさにつられて、素で受け答えをしてしまった。

「ノリいいね〜美貴そういう子好きだよ」
彼女はまたおかしそうにくくっと笑った。
405 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:51
そして鏡の中のあたしと目を合わせながら、やっぱり似合うよ、ともう一度言った。
その目が思いがけずに穏やかなもので、なぜか少しだけ動揺した。

「買っちゃう?でもなんか悩んでたみたいだけど」
「あー…」
確かに、悩んでいた。いつもの自分だったらありえないほど。

「まー無理して買わなくてもいいけどね。お金もったいないし」
「…店員さんがそんなんじゃあダメですよ」
「あっ、そうだよね。…えーっと、じゃあ買ってちょうだい?」
「そんな言い方だとストレートすぎますよ」
ちょうだい、と言って首を傾けたのが可愛くて、思わず笑ってしまった。
彼女はそんなあたしを見て、ふわっと優しく微笑んだ。

「…よかった、やっと笑った」
「え?」
「なんかいつもより元気なかったからさ、ちょっと心配だったんだよね」
「…いつもより?」
「あっ」
しまった、というように目線を泳がせる彼女。
どういうこと?知り合いだっけ?いや、そんなはずない。
話したのだって、今日が初めてのはずだし。
406 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:54
「あーもうしょうがないから言っちゃうけど、お客さんのこと前から知ってたんだ。結構この店に来るじゃん?店長もいないから接客するのは美貴しかいないわけで、これはチャンスだと思ってさ。でもさ、こんな展開ありえないもん。美貴だって一応女の子だからさ、いきなりこんなチャンスとかきてもね、やっぱりそれなりに心の準備ってものが欲しいわけで……」
彼女はそれだけ一気に言うと、何か呟いた。
さっきまでの豪快な笑い声は聞き間違いだったのかと思うくらい、彼女が小さく見えた。

っていうか、何言いたいのか全然わかんない。

「…んーと…あたしのこと知ってたっていうのは?あとチャンスって?」
彼女は変わらず目を泳がせていたけど、やがて諦めたようにゆっくりとあたしのほうを見た。

「えっと、仕事中だけどもう勢いで言うしかないかな」
「何の話ですか?」
「実はお客さんのこと、前からいいなって思ってたんだよね」
「………はい?」
「一目惚れ、ってやつ」
「…………え?」
「冗談じゃないよ、本気中の本気」
そういう彼女の表情は、確かに、疑いようもなく真剣なものだった。
407 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:55
真剣なのはわかったけど、あたしにとっては突然の事で。
どうすることもできなくてその場に佇んでいた。
驚き、戸惑い、そんなような感情が生まれていた。ついさっき彼氏に振られたばかりなのに。
今は違う人に告られている、それも女の子に。あまりにも突然でありえない状況だった。
それなのに、どこかでそれを嬉しく思っている自分にも気付いていた。

「美貴、前まで一目惚れなんて信じてなかった。だって名前も知らないのに好きになるなんて、ありえないって思うじゃん。けど、実際好きになっちゃったんだもん。初めて見たときびっくりしたんだよ。こんな可愛い子がこの世の中にいるんだ、って思って…」

でもその言葉を聞いて、あたしは急に目が覚めた思いがした。
………今までと、同じだ。
今まで付き合ってきた人があたしに向けて言う言葉の数々。
408 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:56
もう、同じ事は繰り返さないって決めたんだ。
あたしはまっすぐ彼女の顔を見つめて、口を開いた。

「ごめんなさい」
一言だけ、きっぱりと。
そしてそのまま帰ろうと後ろを向いたときだった。

「悪いけど、美貴って実はこう見えてしつこい性格なんだよね」
「…気持ちは嬉しいですけど、でもあたしの気持ちは変わりませんから」
「美貴が変えてみせるよ」
「無理です。…あたし、もう疲れたんです、そういうの」
「やだ、諦めない」
「やだって、子供じゃあるまいし…」
何で分かってくれないんだろう。
あたしはあからさまに溜息をついた。
409 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:56
「だって、亜弥ちゃんはまだ美貴のこと何も知らないでしょ?美貴もそんなに知ってるわけじゃないし。だからどんな手を使っても美貴のことわかってもらうし、亜弥ちゃんのこと知りたい。それからあらためて答え聞くから、今のは聞かなかったことにする」
「…好きにして下さい」
「うん、そうする。でもね、亜弥ちゃんは絶対に美貴のこと好きになるよ」
どこからそんな自信が来るのか。
あたしはすっかり冷めた目で彼女を見ていた。

「…あ、ちょっと待って。この服、買わないの?売れちゃうかもよ?」
「いいです、いりません」
「そっか…じゃあまたね。ありがとうございました」
あたしはそのまま振り向くこともなく、店を出て行った。
410 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:57
今日はとんだ一日だった。どっと疲れが出てくる。
彼氏に振られたかと思えば、いきなりお気に入りのショップの店員さんに告られるなんて…。
そういえば、彼女はあたしの名前を知っているようだった。
「名前も知らないのに好きになるなんて」と言っていた気がするけど。

それにしてもあんな風に言われたのは初めてだった。諦めない、なんて…。
今まであたしのことを好きだと言った人たちは、あたしが断るとすぐにいなくなった。
たまに上手くいっても、本当のあたしの姿を知るとやっぱりすぐにいなくなった。
彼女だってあんなこと言ってても、本当のあたしを知ったらいなくなるだろう。

自分でもバカだよなぁって思うけど、どこかで今度の人こそは、って期待しちゃうんだ。
でもいつもその期待は裏切られる。もう限界だった。
それなのにあの店を出たときに、少し名残惜しいと思ったのは、服に対してか、それとも…。

帰り際、夕暮れ時の風はやけに冷たかった。やっぱりもうすぐ秋が来てしまう。
冷たくなった腕をさすりながら、本当は新しい服を欲しがっている自分には気付かないふりをした。
411 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:58





412 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:59
一週間に一回は行っていたお気に入りの店に行かなくなって、しばらく経つ。
バイトしているコンビニでは、機械のように仕事をこなしていた。
ただ、一つだけ変わったことがあった。

「いらっしゃいま…せ…」
「いらっしゃいました〜」
ひらひらと手を振りながら、あたしの元へまっすぐ歩いてくるのはあのときの店員。
あたしが彼女を振った次の日から、彼女はほぼ毎日ここへ通っている。

最初に来たとき彼女は「美貴は藤本美貴っていいます」と一言だけ言って何も買わず帰っていった。
あたしは口をぽかんと開けてその姿を見送った。何なの、あの人…。
ぼーっとしすぎて、そのあとお客さんがレジに並んでいるのにもしばらく気付かなかったくらい。

おそらく彼女の思惑通りにあたしは振り回されているんだろう。
そんな自分が悔しい。けどそんな状態が不思議と嫌じゃなかった。
413 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 03:59
「人いないね。ラッキ、話できるじゃん」
「…あの、話するのはまだいいとして、くっつかないでもらえます?」
あまりにヒマで、商品の前出し作業をしていたあたしの腰をつかまえて、肩にあごを乗せている。
普通におかしいと思うんですけど。

「スキンシップは大事だよ。てか敬語いいって」
「…一応、先輩なんで」
「えーそんなの美貴気にしないってば」
「そんなわけにはいかないです」
亜弥ちゃんってマジメだねぇ、なんてやけにのんびりした声が聞こえた。

…あー厄介。まさか高校の先輩だったなんて。
あたしが1年の時、テニス部の部長だった石川先輩とは友達らしい。
だからどっかで見たことあるような気がしてたんだ。

それは藤本さんも一緒のようで。
その…あたしに一目惚れしたときに、前にどこかで会ったような気がしていたらしい。
本人は「もしや前世で会ってたのかと思って、こりゃ運命だななんて思ったのに…まさか高校の後輩だったとはね。あっ、でもそれはそれ。美貴と亜弥ちゃんは現世では運命の相手同士だしね」なんてアホなことを自信満々に言うのだった。
414 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 04:02
「ねぇ、亜弥ちゃんさ、そろそろ美貴のこと好きになった?」
「全然です。むしろ迷惑です」
「えー美貴はこんなに愛してるのに〜?」
「何言ってるんですか。それが迷惑なんですって」
「も〜美貴の魅力がまだわからないなんて。困った子だね」
「じゃあいいかげんに諦めたらどうですか」
言ってから、言葉がきつすぎたかもしれない、と思って後悔した。
それなのにゆっくりあたしから離れた彼女は、優しく微笑むだけだった。
…と思ったのもつかの間で。
彼女の表情は意地悪そうな笑みに変わった。

「諦めない、亜弥ちゃんを色んな意味で頂くまでは。…色んな意味でね」
「…っ、何バカなこと言ってるんですか」
「あれ?顔赤いけど?なに想像したの?」
「何も想像なんてしてないよ、バカ!」
「亜弥ちゃんってえっちなんだねー」
「ほんとにえっちな先輩にだけは言われたくない」
確かにそれは否定できないや、と言って彼女は笑った。
この人の笑顔は意外にも人懐っこい。普段の表情からは考えられないくらい。
思いっきり顔の作りが変わる感じで、素直に可愛いと思う。
415 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 04:02
「でもさ、どんな亜弥ちゃんでも美貴は好きだよ」
「…からかわないで下さい」
思いがけずに真剣な顔で言われて、さすがに戸惑った。

「照れなくてもいいじゃん。…亜弥ちゃんはほんと可愛いねぇ」
「…照れてなんか」
よしよし、いい子いい子、と声に出して頭を撫でられる。

最近こうされることが多いんだけど、なんか複雑な気持ちになるのだ。
どうしていいかわからないっていうか。
嫌だとは思わないんだよ。むしろ、心がほわほわと温かくなる。
でもいつもあたしは不機嫌な顔をしてみせる。

そういう表情をしてみせる事で、何かから自分の身を守っているのかもしれない。
あるいは何かから逃げているのかもしれない。そんな気がする。
416 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 04:03
こんな風に、彼女はあたしの生活の中にいつの間にか入り込んでいた。
気付くと当たり前のようにそばにいたというか。
バイトのときに顔を出さないと、今日はどうしたのかな、なんて思う自分に戸惑って。
それなのにひょっこり現れるとなぜかひねくれた対応をしてしまう。
あたしって、こんなキャラじゃないんだけどなぁ?

自分で言っちゃえば、人当たりよくて、愛されるキャラ。
素直で聞きわけが良くて、優等生タイプ。

そういう人間だと思っていたんだけど、彼女の前だとなぜかあたしは可愛くない。
でもそんなあたしを見て、彼女は可愛いと言う。
どう考えても彼女といるときのあたしって可愛げないじゃん?
そんな可愛くないことばっかしてるあたしだけど、そういうのはすごく楽だった。

あたしって、ほんとはこんな人間だったんじゃないかって思った。
今までが無理をしていたのかもしれない。
親や先生の前ではいい子でいよう、彼氏の前では可愛い子でいよう、って思って。
417 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 04:03
本当は気付いているんだけど。
あたしはこの人に惹かれ始めているんだろう。
でもどうしてもあと一歩踏み込めないのは、怖いからだ。

彼女があたしを好きだという気持ちは、十分すぎるくらい伝わっている。
最初は見た目だけであたしを好きだなんて言っていると思っていた。
でもあたしがどんなに可愛くない言葉を放っても、彼女はいつもにこにこ笑っている。
そして眩しそうな目であたしのことを見つめるのだ。
優しいのにどこか熱っぽい視線。
誰だってそんな風にされたら、気付く。
彼女は本当にあたしのことを好きなんだろう。
彼女の気持ちは、本当だと信じてもいいかもしれないと思う。

そんなあたしが怖いのは、自分自身だった。
今はすごく彼女との関係は楽だけど、これが恋愛になったら?
あたしは、同じ事を繰り返すだろう。
彼女を束縛して、そうすれば彼女はきっと離れていく。
もう置いていかれるのは嫌…。
418 名前: 投稿日:2004/08/23(月) 04:04



419 名前:大塚 投稿日:2004/08/23(月) 04:07
今日はここまでです。

>>385名無飼育さん、更新は何回かに分けてします。
マターリお待ちしてもらえると助かります。
420 名前:大塚 投稿日:2004/08/23(月) 04:11
>>395名無し読者さん
いえいえ、とんでもないです。
お願いしたのはこっちなんで、すいませんでした。
このぶんだと更新はなかなか進まないと思いますが、気長にお待ちください。
おそらく今の話が終わったら次スレに行こうかな、と思っています。
421 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/23(月) 07:59
うっわ〜いいなぁーこれ…。
かなりツボきました。
次の更新心待ちにしてますね。
422 名前:385 投稿日:2004/08/23(月) 20:51
最高です。
リクエストしてよかった・・・・。
もちろん、続きはいくらでも待ちますので。
423 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/25(水) 14:00
あーこういう人いる。とてもリアルで、好きです。あの店員も面白くて好きだなぁ。期待大です。
424 名前:大塚 投稿日:2004/08/27(金) 14:50
続き、更新します。
425 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 14:50
もうジャケットを羽織るような季節になっていた。
彼女とあたしは、いわゆる「オトモダチ」という関係になっていた。
どっちかが友達になろうといって友達になったわけではない。
気付いたらあたしの中に彼女のスペースというか、居場所みたいなものがあったのだ。

なんとなく、呼び名の話になったときがあった。
彼女はあたしが「先輩」とか「藤本さん」と自分を呼ぶのが気にいらなかったらしい。
「心の距離を近づけようよ」なんておちゃらけて言うから、思わず笑ってしまった。

その頃、あたしは自分でも彼女を先輩だのさん付けで呼ぶことに違和感を覚えていた。
タイミングが合ったというよりは、あたしの微妙なその変化に彼女が気付いたんだと思う。
たぶんもうちょっと早くそのことを提案されても、あたしは応えられなかったんじゃないかな。
そのまま自分ではタイミングをつかめずに、「先輩」「藤本さん」と呼び続けていただろう。
426 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 14:52
彼女は人との距離のとり方が絶妙に上手い人だと思う。超えてはいけないラインを知っている。
他人の気持ちに敏感だし場の空気を読むのも上手い。

なにも考えていないように見えて、実はすごく周りに気を使っているんじゃないかなぁ…。
まだ彼女との付き合いは短かったけど、ほとんど毎日のように顔を合わせている中、そう思った。

そしていざ呼び方を決めよう、となったとき。
「じゃあミキティって呼んでよ。みんなそう呼ぶし」
彼女はそう言ったけど、あたしはそれが気に入らなくて。

響きがいまいち可愛くないし、ミキティ、なんて呼ぶのはあたしらしくない気がしたから。
それに人の真似をするのは好きじゃない。あたしらしい呼び名がいい、と思った。
そしてああでもない、こうでもないと考えた結果が「みきたん」。
427 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 14:53

彼女的にはこういう感じのはダメかもなぁ、と思ったけど。あまりにも可愛すぎるというか。
でも「みきたんか…いいね、それ」と意外にいい反応を見せた。

くしゃっとなる笑顔に、一瞬見とれてしまった。

不思議なことに、呼び方を変えただけで急速に彼女との距離は縮まっていった。
「心の距離を近づけようよ」という彼女の言葉通りになったのは、少し悔しいけれど。
428 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 14:54



429 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 14:56
「…そういえばなんであたしのバイト先知ってたの?それにあたしの名前も」
いつものようにコンビニに来て、いつものようにまとわりつく彼女に尋ねてみた。
あまりにも彼女はあたしの生活にすんなりと溶け込んでいた。
まだ知り合って一ヶ月ということを忘れそうになる。

「んっ、や、そんな昔のことはもういいじゃん」
「……みきたん、なぁーんかあやしい…」
あのとき、あたしは彼女の告白を断るとすぐに店を出た。
バイトの話なんて悠長にするような状況じゃなかった。
自己紹介をした記憶もないし、彼女があたしの名前を知ることはできなかったはずだ。

それなのに次の日から彼女は毎日ここへ来るし、当たり前のようにあたしの名前を呼ぶ。
おかしい。絶対おかしいよ。なんで今まで考えなかったんだろう。

「美貴は亜弥ちゃんのストーカーだから」
「そっか、じゃあ警察に連絡しなきゃ」
口を開いたと思ったらふざけたことを言う。
430 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 15:00
「冗談だって!…実はあのあと、ダメもとで高校の後輩達に亜弥ちゃんのこと知らないか
聞きまくってさ。少なくとも美貴よりは年下だろうなって思ってたから、違う高校でも
もしかしたら亜弥ちゃんのこと知ってる子がいるかもって考えて。…自信満々に美貴のこと
知ってもらうなんて言ったのに、実際は亜弥ちゃんのこと何も知らなかったからさ。
とりあえず亜弥ちゃんを探さなきゃ!みたいな」
力説、という言葉が相応しい勢いで彼女は一気にべらべらと話す。

「はぁ…それでよくあたしのこと見つけたね」
「美貴、超必死だったんだから。で、そんなかの一人、愛ちゃんが亜弥ちゃんのバイト先
教えてくれたの。まさか美貴と同じ高校の後輩だったとは思わなかったけどねー」
「はい?あいちゃん?」
「ん?愛ちゃんは愛ちゃんだよー。亜弥ちゃん、友達なんでしょ?」
「ちょっと待って。それって石川先輩のイトコの愛ちゃん?」
めちゃくちゃ知ってる子の名前が出てきて、思わず聞き返す。
431 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 15:03
「そうそうその子。梨華ちゃんつながりで美貴も知り合いだったの。あ、でも
そんな仲いいってわけじゃないよ。成り行きで番号交換したくらいの仲だから
嫉妬なんてしないでね」
「いや嫉妬はしないけど」
「うわ、そんなはっきり言わなくても。みきたんショックー」

一瞬の沈黙。

「さ、仕事しなきゃ」
「……亜弥ちゃん、シカトはきついよ」
よーし、本の整理でもしよっかな。
彼女の横をすり抜けて、本棚へ向かった。

「ねーでもさ、世間ってせまいよね〜。でもそのおかげで今こうしてるわけだけど」
「……あっ、この雑誌新しいやつだ」
「でもそう考えたら、うちらもっと早く出会ってても全然おかしくないのにね。
なんか損した気分だよ」
「……どうしようかなーこれ買おうかなー」
「ま、いいけどね。その分はこれから取り戻すから。っていうか、美貴の話聞いてる?」

不機嫌そうにしながら、またくっついてくる。
さっき離れた意味が全くない。
いつもだったら文句の一つも言うけど、あたしは別の事を考えていた。
432 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 15:04
「……ん?…あれ?なんで?」
「なぁーにぃがぁ〜」
「あたしの名前知ってたのは?名前すら知らなきゃ探すこともできないよね?」
「…あぁー……確かにね、そうだね、うん」
「それは?なんで知ってたの?」
「うーん………言わなきゃダメ?」
なぜだか彼女は苦しそうな、切ないような表情。

「なんか隠さなきゃだめな理由でもあるの?」
「そういうわけじゃないけど、さ」
「じゃあ言ってよ」
そう言ったら彼女は困ったように頭を掻いた。

「亜弥ちゃん前にうちの店に…たぶん、彼氏と来てさ。そんとき名前呼んでたの聞こえて」
「…みきたーん?盗み聞きしたの?」
「とんでもない!ただ亜弥ちゃんのそばにあった洋服をね、たたもうと思ってね、
それでそのぉ…ごめんなさい盗み聞きしました」
「やっぱそうなんじゃん」
「ごめん…でも何でもいいから亜弥ちゃんのこと知りたくて…てかあれって、やっぱ彼氏?」
決まり悪そうに、ぼそぼそと呟く。
確かに盗み聞きされたのはいい気はしないけど…。
433 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 15:05
「髪短かった?」
「え?」
「あたしと一緒にいた男の子」
「う、うん…確か…」
「うん、それ……元彼」
「え?も…元彼?…ってことは……いやー…そうなんだ…そっかぁ…」
彼女は、あからさまにホッとしたような顔をみせる。

「美貴さぁ、亜弥ちゃんに彼氏いるかと思ってたんだ」
「はぁ?!」
みきたんってば、何言ってるの?
あたしは思いっきり非難の目を向けた。

「う…だってその…美貴を振った理由、聞かなかったから…。あとから考えたら
もしかしたら彼氏いたんじゃないか、って思って」
「あたし今までみきたんに彼氏いるなんて言ったことある?」
「…だからぁ…美貴には言う価値もないのかな、なんて思ってたから…」
あたしは彼女の言葉をほとんど呆れながら聞いていた。
……でもなんか…今のすっごいむかついた。
434 名前:  投稿日:2004/08/27(金) 15:09
「あのねぇ、みきたんよく考えてみて。あんた、あたしにほとんど毎日会いにくるでしょ?
休みの日だって二人で遊んだりするでしょ?なんか気付けばいつも一緒にいるじゃん?
それのどこに他の人が入り込む余裕あんのよ。彼氏いるって思う方がおかしいよ」
「…は、はぁ…」
「っていうか、こんだけ一緒にいるのにそれくらいわかれよ、ばか」
そのことが気に入らなくて、あたしはむかついたんだと思う。

「あ、亜弥ちゃん?ちょっと落ち着いて…」
「もう、誰が興奮させてると思ってんの!」
「うぁっ、は、はい!ごめんなさい!」
「……ぷっ」
ばかみたいに頭をぺこぺこと下げている様子を見たら、笑えてきた。

「な、なんで笑うの…」
「んー別に?」
「なにさ…怒ったり笑ったりわけわかんないよ…」
ちょっと拗ねてみせるのが可愛くて、少しだけ和んだ。
435 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 15:11
そして今まで話に熱中しすぎて周りに注意を向けてなかったことに気付いた。
でも、案の定お客さんはいなかったから、話を続けることにした。
こんなにお客さんが来なくてあたしのバイト代大丈夫かな、とは思ったけど。
それはそれ。これはこれってことで。

「みきたんちょっと聞いて。マジメな話」
「うん」
「あたしはね、こんなに本音で話せる友達ってみきたんが初めてなんだ。最初はあたしのこと
好きだとか言うし、二つも年上だし、こんな仲良くなるなんて全然思ってなかった」
「何言ってんの、今も亜弥ちゃんのこと好きだよ」
「はいはい、わかってるって。まぁそれはおいといて…」
「おいとくんだ。ひどいよ亜弥ちゃん」
「もう、話進まないから黙ってて!」
「…はい」
一息ついて、また話し続ける。


436 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 15:11
「だから、たぶんみきたんはあたしにとって一番安心できる人。なんでも言えるし、ずっと一緒にいても飽きないし…大事な人だよ」
「…うん、ありがとう」
「でもね、だからこそ言えなかったんだけど…実はね、その人とはあの日別れたんだ」
今となっては、遠い昔のような気がする。

「あの日って…もしかして…。う、うそ、まじ?」
「ほんと」
「ちょっと…いや、待って…美貴最悪じゃん、タイミング悪すぎる」
「みきたん気にしないで、って言っても気にするかもしれないけど、気にしないで」
「なに言ってるかわかんないよ…」
「ごめん。でもほんと、気にしないで?みきたんはそのこと知らなかったわけだし。ただなんか…黙ってるのが嫌だったから。それにもう彼氏のことはどうでもよくて。…それって、みきたんのおかげだったり」
「…え?」
「なんかね、みきたんといると楽しくて、気付いたら平気になってた」
「そうなの?」
あたしとしてはマジメな話をしているつもりなのに…。
みきたんはなぜだかニヤけ顔になっていた。
437 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 15:13
「ちょっと…なんで嬉しそうなの」
「だって、それって亜弥ちゃんは美貴のことが好きって言ってるようなもんじゃん」
「はい?」
「え?違うの?」
「もう…こっちがマジメな話してるってのに…」
「美貴もマジメだよぉー」
ぷぅっとほっぺを膨らませて、まるで子供のよう。

あたしは、さりげなく話を逸らしたことに彼女が気付きませんように、と思っていた。
いつもだったら否定の言葉をすぐに返すのに、今は言えなかった。
思わず「うん」と言いそうになった自分に気付いていたから。

「…まぁいいけど。亜弥ちゃん、美貴フランクフルト食べたい」
「いいけど…ちゃんと買ってよ」
「えーケチィ。これくらい奢ってよー」
「みきたんがそういうこと言うとカツアゲみたく聞こえる…」
「亜弥ちゃんまでそんなこと…いいもん、どうせ美貴は元ヤンだよ」
「やっぱりそうなんだ?!」
「…じょ、冗談なのに……」
「あ…ごめん…」
「いいんだ…言われ慣れてるから…」
438 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 15:16
あたしはこの頃、明らかに自分の気持ちを自覚していた。
それでも今のこの関係がすごく楽で、それを壊すようなことを言えなかった。
友達なら、ずっとこうしていられる。みきたんと、いつまでもこうして…。

彼女は最初こそ積極的だったけど、その後は冗談交じりに好きだよ、とか言ってくるくらいで。
あたしはそれをうまくかわすことができたし、そんなやりとりさえも楽しかった。
まさにこの頃のあたし達は、友達以上恋人未満、という関係だったと思う。

あたしがはっきりとした態度をとらないことに、みきたんは何も言わない。
それが彼女の優しさだったし、あたしはそれにすっかり甘えきっていた。
自分のことしか考えていなかったと思う。
あたしは自分が彼女に苦しい思いをさせているなんて、全く思わずに。
439 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 15:20

440 名前:大塚 投稿日:2004/08/27(金) 15:23
今日はここまでです
441 名前:大塚 投稿日:2004/08/27(金) 15:32
>>421名無飼育さん
そんな言葉を聞けると、もっと頑張ろうと思います。
そしてこれからもどんどんはまってくださいw

>>422385さん
さささ最高ですか?ヨーシボクモットガンバッチャウゾーw

>>423名無飼育さん
リアルですか?嬉しいです。
あんま現実的じゃないかなぁと思ってたんで。
442 名前:大塚 投稿日:2004/08/27(金) 15:34
だらだらと長くなっているような気がしないでもありません。
このスレ内に納まんなかったらかっこわる…。
なんとか頑張ります。ではまた近いうちに。
443 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/28(土) 04:54
やばい…どんどんはまってくよ〜!!
444 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/28(土) 15:20
こんなところにあやみきがあったなんて。
今まで気づかなかったことが悔しい…。
続き、期待大です。
445 名前:385 投稿日:2004/08/28(土) 20:18
揺れる松浦さんがすごくいいですね。
続きがめちゃくちゃ気になります。
ちなみに長くなってしまうのもこちらとしては大歓迎です。
446 名前:大塚 投稿日:2004/08/29(日) 22:21
更新します。
447 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:22

今日は久しぶりに彼女の働くショップに行く約束をしていた。
彼女の仕事が終わる少し前に行って、そのあとは二人で遊ぶ予定だった。

「みきたん、しょうがないから迎えに来てやったよ」
「あー亜弥ちゃんだぁ、いらっしゃ〜い」
主人に呼ばれた犬のように、てててっと走ってあたしの元に来る。
どっちかっていうとあたしがそういうキャラっぽく見られるんだけど。
こいつ、意外に甘えキャラだからなぁ。

「ねぇ何か欲しいもんある?亜弥ちゃんなら特別にこっそり割引して…」
「そんな権限ないくせに」
「え?なに?亜弥ちゃん美貴のこと見くびってない?」
相変わらずアホだなぁ。
苦笑しながら店内を見渡す。

…そういえば、あの服はまだあるだろうか?
あたしとみきたんが出会うきっかけになった、あの服。
…もうあるわけないか。商品もそろそろ冬服に変わるもんね。
でも…もしかしたらあるかもしれない…。
そう思って、さりげなくあの服が置いてあった場所へ行こうとしたら、突然肩に重みが。
448 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:24

「あややぁ、いらっしゃ〜い」
店長の、飯田さんだった。…いつ見ても美人さん。
モデルみたいにスタイル抜群だし。密かに憧れの人だったりする。

「なぁーんか聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけどー」
「ああっ飯田さん?!何も言ってないっすよ!」
「ふ〜ん…ていうか、美貴の給料から引いとくから好きなの選んでいいよ、あやや」
「ええ?!」
「うわぁ、ほんとですかぁ飯田さ〜ん」
「あやや、私は嘘ついたことないよ」
「いやいやいや、ちょっと待ってよ二人とも!」
ここに来た時は、店長の飯田さんと二人でみきたんいじりをするのが恒例だった。
みきたんって外見的にはちょっと怖い感じだけど、実はやられキャラだったりする。

「…あ、時間だ時間!店長、それじゃお先しま〜す!亜弥ちゃん行くよ!」
「うぁ、ちょっとひっぱんないでよ」
「ほんとあんたたちって仲良しだよね」
微笑ましそうに、飯田さんが呟いたのが聞こえた。

結局あの服があるのかどうかは、わからないまま。
449 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:26
実際仲はいいと思う。こんなに仲が良くなるとは思わなかったくらい。
でもそれはやっぱり「友達として」仲がいい、のであって。
確かに縮まらない距離が、あたし達の間にはあった。

「亜弥ちゃんおなかすいてる?」
「もちろん」
「じゃあご飯食べに行こう。美貴は焼肉食べたい」
「うーん…それもいいけど…」
「なに、どした?」
「たまには自炊してみたいなぁって」
「え?亜弥ちゃんって料理できんの?」
「なにそれ。バカにしてる?」
「いや、してないって。だって美貴できないもん」
「え〜一人暮らしなのに?そういえば…みきたんが料理してるとこ、みたことないかも」
「う…だって、一人暮らし始めたの今年からだし。それまで実家だったからお母さんが
作ってくれてたし…料理する機会なんてなかったんだもん」
450 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:26
「じゃあせっかくだからやってみようよ。みきたんなに食べたい?」
「焼肉!!」
「それじゃ料理になんないよ…焼くだけじゃんか…」
「えー、じゃあ…」
みきたんはあれこれと考えているようだった。
あんまり難しそうなのは勘弁して欲しい。

「決めた。何でもいい」
「いや、それ決めてないから!」
「違うよー亜弥ちゃんが作るんならなんでもおいしいかなって」
「…そんなことないって」
「あるんだなーこれが。気持ちの問題ですから」
「…あっそ」
「うん、へへっ」

困る。彼女は時々思い出したように、直球で勝負してくるから。
あたしはいつもあいまいに返すことしかできない。
451 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:27





452 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:27
結局、オムライスにサラダ、スープというあまりに簡単メニューになってしまった。
それでもみきたんは「すごい」「おいしい」を連発。

あんまり誉めるもんだから、あたしは恥ずかしくて恥ずかしくて。
でも本当においしそうに食べる姿を見て、素直に嬉しいな、って思った。

「あ、美貴が後片付けするよ。あっちで座ってな」
「ほんと?みきたんありがとー」
「いいって」
照れたように笑う姿を見て、ちょっと胸が痛かった。
…あたしは、いつまでたっても彼女の気持ちに応えなくて。
のらりくらりとはぐらかしている。

ソファには座らず、ベランダに出て空を見た。残念ながら星は見えないけどいつものことだった。
風が冷たい。頭がすっきりと冴えていくようだった。
453 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:28
ご飯を食べている時のこと。「今日泊まってく?明日、学校休みだべ?」と聞かれた。
あたしは一瞬迷ったあと、笑顔を作りながら頷いた。
そしたら彼女は嬉しそうな、でも少し複雑そうな顔で頷いた。
最近のあたし達はどこかぎこちなかったけど、二人ともそれをうまくごまかしていた。

変な話だけど、あたしがこんな風に泊まりにきても、みきたんは何もしてこない。
はっきり言えばいくらでも手を出すチャンスはあったと思う。
けどみきたんは本当に、何もしなかった。そんな優しさに甘えてる自分。ズルイって思う。
でもこの状態はとても居心地がいい。あと少しでいいから、このままでいたい。

みきたんにあたしが見せるのは、「友達」としての顔だけ。
嫉妬や、独占欲なんて感情は境界線を飛び越えて出てくることはない。
454 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:29
「なにぼーっとしてんの」
「え?」
いつの間にか後ろに立っていた彼女に呼ばれ、ふっと現実に引き戻された。
彼女はベランダには出ずに、部屋の中からあたしの方を見ていた。

「なにも、ただ星見えないかなぁって思って」
「ふぅん」
彼女は興味なさそうに空を見上げると、「全然見えないね」と呟く。
そしてすぐあたしに視線を戻した。

「最近は夜寒いんだから。中入りな?カゼひくよ」
「うん」
言われるがままに中に入って窓を閉める。
窓に映ったみきたんと目が合って、思わずびくっとした。

「みきたん…どしたの?」
窓越しに合った目を逸らせずにいたら、そのまま彼女が近づいてきて。
あたしは後ろから抱きしめられていた。
455 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:30
「……もう、ふざけてるのも、限界」
耳元で頼りない声が聞こえた。みきたん、震えてる。

「好き。亜弥ちゃんが好き。大好き、大好きなんだよ」
「みきた…」
「だからもう一度聞く。亜弥ちゃんは美貴のことどう思ってる?」
「え…」
「お願い、正直に答えて。美貴いつも何でもないようにしてたけど、一緒にいすぎたからかも
しれない。こんな状態が続くのはもう耐えられないの。気は長いほうだと思ったんだけどさ…」

さらにぎゅっと強く抱きしめながらみきたんは言った。
「好きすぎて、もうどうしようもないんだよ」

こんなに真剣な彼女を見るのは初めてかもしれなかった。
いつも、冗談交じりに「好きだよ」なんて言うのとは、わけが違う。
あたしはいつものようにはぐらかすことはできないと悟った。
456 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:31
「あたし…あたしは…」
ちゃんと答えなきゃ。答えは出てるの。あたしは、みきたんを、好き。

最初は何だこの人、って思ったけど。
笑うとくしゃってなる笑顔とか、意外に甘えん坊なとことか。
彼女を知っていけば知っていくほど、どんどん惹かれていくのがわかった。

なのに。なんであたしの口は動かないの?

「…答えてくれないの?」
肩を抱いたまま、後ろからあたしの顔を覗き込むように様子を窺う彼女。
目を合わせられなかった。

「…そっか、うん、わかった…」
黙ったままのあたしに、みきたんは体を離す。
違うの、好きなの。あたしはみきたんが。
本当はあたしだけのものにしたいよ。あたしだけのものになって欲しいよ。

だけど…みきたんは、あたしの側から離れていかないって言い切れる?
457 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:32
「…美貴には、答える価値もない?」
…え?…それは違う、そうじゃないの!あたしは声にならない声を叫んでいた。
すると急に体の向きを変えられて、窓ガラスに体を押さえつけられる。

「美貴のこと大事だって言ったじゃん?ほんとにそう思ってんなら、答えてよ!」
怖い。初めて、みきたんが怖いと思った。
あたしを抑える腕の強さとか、まっすぐに見つめる瞳とか。
すべてが怖いと思った。

「………ふざけんな」
今までに見たことないくらいの怖い顔をして、みきたんの顔が近づいてくる。

腕を掴む力が、さらに強まった。
あたしに対してこんなに乱暴な彼女は初めてで、どうしていいかわかんなくて。
ただ体を強張らせているしかできなかった。
458 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:33
「……んっ…」
初めてのみきたんとのキスは、乱暴な言葉や態度とは裏腹に、とても優しいものだった。
嫌というほど彼女の気持ちが伝わってきて、あたしの目からは知らないうちに涙が溢れた。

何度かそんなキスを繰り返したあとで、ゆっくりとみきたんの顔が離れた。
もう目は合わなかった。

彼女は「ごめん」と小さい声で言って俯いた。
あたしは口を開きかけて、でも何を言えばいいかわからなくて、また口をつぐんだ。

「…もう寝よう。疲れたよ。…美貴、ソファで寝るから亜弥ちゃんはベッド使って」
あたしの答えを待たずに、みきたんは寝室から毛布を持ってきてソファに横になった。

すぐそこにいるのに、ものすごく遠い人のように感じた。
あたしはやっぱり何も言えず、静かに寝室へと入って行った。

いつも二人で寝ているベッドに、一人で寝た。
やけに広く感じて、あたしはまた涙を流した。
唇にはまだ彼女の熱が残っている。
459 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:34
ああ…どうしよう、あたし、みきたんが好きだ。
こんなに…こんなに好きだったなんて…知らなかった…。
あんなことになって、初めて自分の気持ちの大きさを知るなんて。

でも今さら何を言っても彼女は聞いてくれないだろう。
嘘じゃない。ほんとうに、大事な人だって思ってる。
でも彼女はあたしの言葉は全部上辺だけのものだって思っているかもしれない。

全部あたしが悪いんだ。全部あたしが壊してしまった。

どうして彼女の気持ちを疑ったりしたんだろう?
いつだって、まっすぐにあたしのことを見ていてくれたのに。
どうせ顔だけで好きになったんでしょ、なんて思っていて。
そんなんじゃないってことは、彼女の態度でわかっていたのに。

でもどこかで疑い続けていたのだ。
信じていなかったのは、あたしの方だった…。

あたしは最後まで彼女をまっすぐに見ようとしないで。
自分のことばかり考えていた。最低だ。
460 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:34
そばから離れていって欲しくなくて。
あたしを嫌いになって欲しくなくて。

だからごまかして、はぐらかして、伝えなかったのに。
そうして自分の身を守ることしか頭になかった。

伝えないことで彼女が離れていってしまうことも知らずに。
……あたしは、大バカだ。
461 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:35




462 名前: 投稿日:2004/08/29(日) 22:35




463 名前:大塚 投稿日:2004/08/29(日) 22:36
今日はここまで
464 名前:大塚 投稿日:2004/08/29(日) 22:51
>>443名無飼育さん
もっともっとはまって下さいw
ビバあやみき!!

>>444名無飼育さん
気付かれた!!(汗
それではこれからもご愛読お願いしますw

>>445385さん
まとまりなくてすいません…。
も、もうちょっとで終わる…といいな…。
465 名前:385 投稿日:2004/08/29(日) 23:33
いいっすね・・・。
何回も読み直してしまいました。
まとまりないなんてとんでもない。もう完全にはまってます。
466 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/29(日) 23:47
やっべぇ、涙が。・゚・(ノД`)・゚・。
467 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/30(月) 01:38
たまらなすぎますよ!!
ああ…
作者さんの焦らし上手゚・(ノД`)・゚・。
468 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/30(月) 19:44
藤本さんとなら絶対幸せになれるはず。
亜弥ちゃん頑張れ〜!
469 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/01(水) 02:14
チョッピリ((((;゚Д゚)))
気のせい気のせい(´-`)
470 名前:大塚 投稿日:2004/09/05(日) 01:25
スレ内に収まるかどうかハラハラしながらの更新。
ようやく完結します。
471 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:26



472 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:28
その夜あたしはあまり寝れなくて、ようやく寝付けたのは辺りが明るくなり始めた頃だと思う。
ずっと彼女のことを考えていた。
どうすればいい?どうすればあたしの気持ちを彼女はわかってくれる?
考えながら、ついに眠気に襲われたあたしは次第に瞼が閉じ始めた。

起きるとカーテンの隙間から光が差し込んでいて、枕元の携帯を見るともう昼過ぎだった。
おそるおそる起き上がって、寝室を出た。
しかしそこに彼女の姿はなく。
テーブルの上に不恰好なおにぎりと、小さなメモ用紙があった。
473 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:28
出かけてくる。帰るとき、鍵かけて郵便受けに入れといて。  美貴

メモ用紙にはそう書かれてあった。
勝手だけど、あたしは彼女がいないことにホッとする反面、寂しくも思っていた。

「…料理できないくせに…こんなの作っちゃって」
昨日の夜、あたしの手伝いをするといって包丁を持った彼女。
玉ねぎのみじん切りをやらせたら、それはそれはすごいことになったことを思い出す。

まだ温かいおにぎりを、ぱくっと一口、食べた。

「…おいし…」
見た目はぼろぼろだけど、味は最高だった。
あたしは一口一口噛み締めながら、少しだけ泣いた。
474 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:28



475 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:29
あの日からみきたんとは連絡も取ってないし、彼女がコンビニに来ることもない。
あたしには信じられないくらいの月日が経ったように感じる。
毎日学校に行って、たまにバイトに行って、帰ってきて、寝て、また学校に行って。
何も考えずそういう生活をしていた。

今日はみきたんの仕事がないことは知っていた。
彼女に会いたいけど、きっと彼女はあたしには会いたいなんて思ってない。
だから、少しでも彼女を感じられるところに行こうと思った。

でもそこであらためて気付かされた。
仕事のシフトを覚えてしまうくらい、彼女と一緒にいたことに。
476 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:29
「あっ…あやや…いらっしゃい」
「…こんにちは」
久しぶりに会った飯田さんはどこか気まずそうだった。
みきたんから何か聞いているのかもしれない。

「あのさぁ…えっと…げ、元気?」
飯田さん、明らかにおかしい。
あたしの様子を窺うような、そんな態度。

「…みきたんから聞きました?」
「…いや何も。ただ、明らかに何かあったなっていうのはわかるけど。
美貴、なんか生気がないっていうか。あやや…何があったの?」
「…ごめんなさい、言えないです…」
「そっか…うん、わかった」
何でもないように笑って、新作入ったよと飯田さんは話題を変えた。

「あ、飯田さん」
「んー?なに、気に入ったのあった?」
「んと、前この辺に一着だけあった服あるじゃないですか。それって売れちゃいました?」
「あ〜あれね、あややも目付けてたんだ。さっすが、センスあるね〜。あややなら似合いそうだし」
「あたしも、ってことは…やっぱり…」
売れちゃったんだ、と思って落胆する。
477 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:30
「あるよ」
「え?!」
「けど、ごめん。美貴の取り置きだから、売れないの」
「…取り置き?」
「うん、美貴がね。『絶対これ買う子いるから、売らないで』って。そのお客さんの名前聞いても絶対言おうとしないし…そんなんじゃ私にどうやって売れっていうのよね?」

もしかして。でも違ったら……。

「…飯田さん、それあたしのためかもしれないです」
「え?あややの?」
「…みきたん、似合うって言ってくれた…でもあたし結局買わなくて」
「美貴が?似合うって、そんなこと言ったの?!めずらしい!!」
あ、と口を抑える飯田さん。
よくわからないけど決まりの悪い表情をしている。

「…そういえばあの子、前にお客さんにひどいこと言って大変だったんだよね。
嘘でも似合うとか言えないから、お客さんすっごい怒らせちゃって」
懐かしそうにそう言う飯田さんは、ちっとも大変そうじゃなかった。
478 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:31
「あ…聞いたこと、あります」
「あ、ほんと?お客さんの手前、私あの子のこと怒っちゃったんだけどさぁ、
実は美貴の言うこと正しいって思ってたんだよね。…だって、ほんとに似合って
なかったから」
苦笑しながらそう言う飯田さん。どこか、彼女と被って見えた。
すると飯田さんは、急に真面目な顔になった。

「美貴って嘘つけない子だよ。それに、あややもね。……うん、ちょっと待ってて」
飯田さんは店の奥に引っ込むと、手に何かを持って出てきた。

「はい、これ」
「…いいんですか?あたしじゃないかもしれないのに?」
「いいの。私にはわかるの。あややに今これ売らなきゃ、私すっごい後悔しそう。
よくわからないけど、そんな気がする。…じゃあまた二人でここに来てね。待ってるから」
「二人って、飯田さん…」
「ふふ…ほら、美貴のとこ行くんじゃないの?」
「あ…はい。これ、ありがとうございます!」
「いーのいーの。ほら急げー」
まるで母親のような、姉のような微笑を見て、本当は全部お見通しなのかなって思った。
479 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:31
店の外に出て、気持ちを切り替える。
新しい洋服を着て、髪型だって可愛くして、お揃いで買った香水をつけて。
急いでいこう。彼女の元へ、今すぐに…。

何を言えばいいかなんてわからなかったけど、とにかく彼女の元へ行かなければ、と思った。
あたしはあなたに会いたい。今すぐに会いたい。
あなたは、あたしになんて会いたくはないかもしれないけれど。

嫌われているかもしれないけど、このまま終わるのは嫌だ。
今度こそ気持ちを伝えよう。勇気を振り絞って…。
480 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:31



481 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:32
はぁはぁと息を切らせながら、彼女のアパートの前にたどり着く。
あたりはもう真っ暗だった。

一度深呼吸をして、みきたんの部屋の前に立つ。
でも彼女は部屋にはいないようだった。
ドアの横にある小さな窓からは明かりが見えない。

「…そっか、今日休みだもんね…どっか遊びに行ってるのかな」
一人呟いて、しょうがないから、ドアの前によっかかって彼女の帰りを待つことにする。
はぁっと息を吐き出すと、その息は白くそろそろ冬になるんだな、と思った。

「なんかタイミング悪いな…あたしって」
でも彼女に連絡を取ろうとは思わなかった。
もしそうしても、彼女があたしに会ってくれるかどうかはわからなかったから。
482 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:33
待ち続けて、もう結構な時間が過ぎた。

「……ちょっと寒いかも。上着着てくればよかったなぁ」
でも、彼女が似合うといってくれたこの服を上着で隠したくなかった。
…さすがに無謀だったかもしれない。
体が冷えてきているのが自分でもよくわかる。

はぁっと息を吐き出して手を暖めながら、あたしは待ち続けていた。

あ、明日学校だったっけ。
でもどうでもいいや。進路はもう決まってるわけだし。たぶんだけど。
何気に成績のいいあたしは推薦なんかしてもらっちゃって。
このまま何もなければ、春からは大学生だ。

…って、こんなことどうでもいいんだけど…何か考えてないと不安に押し潰されそうで。
このまま待ってても彼女は来ないんじゃないかって。
帰ってきたところであたしと話をしてくれるかどうかもわからないし。
483 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:33
そのとき。アパートの階段を上がる音が聞こえた。
……みきたん?

「みきた…っ」
思わず立ち上がって名前を呼ぶ。
階段を上りきってあたしの前に姿を現した人は…全くの別人だった。
おしゃれな人だなぁと思った。雑誌の表紙を飾るような、そんな服装。
キャップを被って、かっちりしすぎずに、少しはずしているところもいい。
もうこんなに暗いのにサングラスをかけているのはどうかと思ったけど。

その見た感じ大学生くらいの男の人は、じろじろとあたしを見ていた。
あたしはその人となるべく目を合わせないようにしながら、彼女の部屋の前に座り直した。

「こんな寒い中外にいたらカゼひくよ?」
「……………」
まさか話し掛けられるとは思っていなかったから、とりあえず無視した。

「ここにいるってことは、美貴のこと待ってるんじゃねーの?」
「…はっ?」
美貴?…今この人、美貴って言った?
美貴って呼び捨てなんかして。何でこんな親しげなの、この人?
484 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:34
「そんな怖い目で睨まないでよ。せっかく可愛い顔してるのに」
にやにやしながら、やけに慣れた感じでそんなことを言う。
あたしのなかでこの人は一気に胡散臭い人になった。
一言言ってやろうと思って、再び立ち上がった。

「あなたみきたんの何なんですか?!」
「なんなのって、お隣さんですよ〜」
「ただのお隣さんがなんで呼び捨てなの?!」
「なんでって言われてもなぁ。美貴とは仲いいし、よく一緒に遊ぶからさぁ」
また呼び捨てにした…って、そんなことより。

「い、一緒に…って、まさか二人で?」
「んー?大勢で遊ぶ事もあるけど、大抵二人かなぁ。あんまり出歩かないけど。
金もねーし、いつもお互いの部屋行き来する感じだよ」
「ちょ、ちょっと待って…それって、それって…」
男と女がお互いの部屋に行き来するって…それも、二人っきりって…。

あたしは、予想もしていなかった展開にまだ頭が追いついていなくて。
でもどこかでわかっていた。みきたんはもうあたしのことはどうでもいいんだ。
だってもう恋人も作って…もうすっかりあたしのこと、忘れたんだ。
485 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:35
「……うっ…ふぇっ」
「え?!なっなんで泣くの?」
その人が何か言ってた気がするけど、あたしは何も頭に入ってなかった。
こうやって泣くのは勝手だと思ったけど、止められなかった。

もうあたしは、みきたんに必要とされていない。
その事実はあたしにずっしりと重く圧し掛かっていた…。

「ねぇ…大丈夫?どうしたの?美貴と喧嘩したの?」
あたしが何故泣いているのか、この人にはわからないだろう。
あんたが原因だと言えたらどれだけすっきりするか。
でもそんなことは言えなかった。ただの八つ当たりだ。

「美貴と連絡とってみた?」
「…とってない」
「だろうな。こんなとこで待ってるくらいだし。…つーか、ずっとここにいる気?」
「…うん…でも…」
こうなってしまった今、彼女に自分の気持ちを伝えるのは迷惑かもしれないと思った。
486 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:35
「でもまじでこのままじゃカゼひくって。…美貴来るまでウチで待ってたら?」
「や…いいです」
「ふはっ、変なことしたりしないよ」
「いや、そうじゃなくて……」
「ん?」
あ、なんかすごい優しい笑顔するんだ、この人。
…みきたんは、こんなところが好きになったのかな…。

胸がきゅうと締め付けられて、緩く息を吐く。
どうしよう。あたし、帰った方がいいかもしれない。

「あの…みきたんには、あたしがここに来たこと、言わないで下さい」
「なんで?帰っちゃうの?」
「…待ってる意味、なくなっちゃったから」
一旦止まったはずの涙がまた溢れ出す。
よりによってこの人の前で泣くなんて…悔しくて、下を向いて目をこすった。

「あ、こら。こすっちゃダメだよ〜」
腕を優しく掴まれて、こすっているのを止められた。
487 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:36
「ったく、こんな可愛い子泣かして…何やってんだ、あいつ」
「…みきたんは、その…関係ないです。…それじゃあ、あたし帰ります…」
「泣いてる女の子ほっとけると思う?つーかこんな暗い中、泣きながら
女の子一人で帰るとか危なすぎるし」
腕は掴まれたままだった。

「え?あのちょっと…」
「美貴なんかやめたら、亜弥ちゃん?」
「なんで名前……」
「あれ、違った?そうじゃないかなって思ったんだけど。…美貴からいつも聞いてるから。
でもこんな可愛い子だとは思わなかったけどなぁ。美貴があれほど力説するのもわかるや…」
「あの…腕、離してください」
「やだね。亜弥ちゃんほっとけないもん」
何言ってるんだろう、この人。みきたんの恋人じゃないの?
わけがわからず、戸惑いの表情でその人を見上げていた。

「……っらぁ!!何してやがるこのエロ大魔人!!」
聞き覚えのある声がしたと思ったら、あたしの目の前にいたはずの人が消えていた。
消えたというのは、みきたんがその人に飛び蹴りをして吹っ飛ばしていたから。
488 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:37
「…いっ、いてえ!いきなり飛び蹴りはねーだろ元ヤンめ!」
「うるさい!元ヤンって言うな!」
「…くそう、いてぇ…この怪力女…」
「あのね、あんた彼女いるくせにまたそうやって!」
「ご、誤解だって。泣いてる女の子慰めようとしただけじゃんかぁ…」
飛び蹴りされた衝撃でずれたサングラスを直しながらその人は言った。

「だからって亜弥ちゃんに手ぇ出してもいいってワケじゃあ……ん?泣いてる?」
彼女はそこでようやくあたしの方を見て、そして目を見開いた。

「…亜弥ちゃん、大丈夫?あのバカに何された?」
「ち…ちがう、よ」
「ほら、言ったじゃん!何もしてないから!」
「だぁっ、うるさい!アンタちょっと黙ってて…ね、じゃあどうして泣いてるの?」
「…うー…」
「黙ってちゃわかんないよ」
困ったようにあたしを見つめる彼女。
そう。あたしの目の前には、会いたくてしょうがなかった彼女がいる。
だけど彼女にはもう他に……。
489 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:37
「…みきたん、その人と付き合ってるんだね。彼氏なんでしょ?」
あたしは泣いている理由ではなく、一番聞きたかったことを聞いた。
少々過激ではあったが、確かに二人はお互いを信頼しあっているように思われた。

あたしの言葉に二人とも面食らったようだった。言葉が出ない、という感じだ。
それをあたしは「イエス」だと受け取った。
答えないのは、認めているのと同じだと思ったのだ。

「…わかった…あたし、帰るね」
目の前にいる彼女を見ないようにして、背を向けて歩き出した。

「ちょ…ちょっと、ちょっと待った!亜弥ちゃん!」
「……なに?」
これ以上何か言うことがあるのだろうか。
改めて「彼氏です」なんて紹介なんてしてもらいたくもない。
あれだけあたしを好きだと言っていたのに…結局、男の人の方がよかったんでしょ?
490 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:37
「なんか勘違いしてるみたいだけど、こいつ彼氏じゃないから!!」
「…さっき彼女いるくせに、って怒ってたじゃん」
「そりゃそうだけど、それ美貴じゃないし!それに、女だよこの人?
吉澤ひとみ。ちなみに彼女っていうのは梨華ちゃんのこと」
「は……何言って…」
思わず振り向いた。女?誰が?石川先輩の恋人?

「…もしかして、アタシのこと、男だと思ってた?そっか…そりゃそんな勘違いもするわ」
「あー…よっちゃん、今日いつもと感じ違うもんね。確かに美貴でも間違うかも」
「いやーこう見えて一応女の子なんで、夜一人で出歩くときは男っぽいカッコにしてみたり。
今の世の中何があるかわからないからねぇ」
そう言って…彼女は、キャップとサングラスを外した。

「あ……ほ、ほんとだ…女の人…」
「でしょ?顔だけは女の子だけど…言動がね。さっきだって、どう見てもあれ、
亜弥ちゃんのこと口説いてたでしょ?ん?違うって言い切れる?」
「…お願い、梨華ちゃんにだけは…その…」
「ったく、よっちゃんがそんなんだといつか捨てられるよ」
491 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:38
あたしは話の内容についていけず、ただ二人のやり取りを見ていた。
付き合ってない。恋人はいない。
それだけはわかった。あたしは安心して、いつしか頭がぼーっとして…。

「え?!亜弥ちゃん?!どうしたの、大丈夫?亜弥ちゃん…」
薄れていく意識の中で、あたしの名前を呼ぶ彼女の声だけが聞こえていた。
492 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:39



493 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:40
あたしは夢を見ていた。
いや、見ていたとは言えないかもしれない。
なぜならあたしは夢の中では目が見えないようだったから。
たくさんの音だけが耳に聞こえてきていた。

あたしの周りには大勢の人がいるらしい。
あちこちからざわざわと声が聞こえる。

最初は目が見えなくても声が聞こえるから、一人じゃないことに安心していた。
でもそのうち不安な気持ちが湧きあがってくる。
自分がどういう状態でここにいるのか、そして周りの状況はどうなっているのかがわからない。

たくさんの人の声は聞こえるけど、彼らは誰に向かって言葉を発しているのか。
あたしに気付いている人はいるのだろうか?
494 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:40
何もかもわからないことだらけで、あたしは「助けて!」と叫ぼうとした。
しかし肝心の声が出なかった。

あたしはパニックになってそこから走り出した。
しかし目が見えないため、途中でたくさんの人にぶつかってしまう。
そのうちあたしは大きくよろけてその場に倒れてしまった。

痛い。でもどこが痛いのかが分からない。
一人でもがいて、みっともないあたし。
確かに周りに人はいるはずなのに、誰もそんなあたしには関心を示さないようだった。

涙すら出なかった。例え泣いても誰も気付かないだろう。
そんなの、余計に惨めな気持ちになるだけだ。
495 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:42
そのとき突然人の気配を感じた。
あたしの周りを通り過ぎる人とは違う気配。
その人はあたしの側に立ち止まっているようだった。

何か言葉を発するわけでもない。
そしてその人が立ち止まったことで、他の人たちもあたしに気付き集まり始めたようだ。

前から後ろから右から左から。様々なところからあたしに声をかける人達。
あたしは何か言おうと思って口を開くんだけど、やっぱり声は出ない。
それを何度か繰り返して、もう少しで声が出るような感覚がした。

あたしは一生懸命、いまだ声にならない声を振り絞る。
しかしその間にも人々の気配はだんだん薄れていく。
あたしはほとんど絶望的な気持ちで、最後の気力を振り絞った。
496 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:42
「……あ…あ、たし、を、見て……」

それはあまりにも小さく、たどたどしい言葉だった。
それでもあたしの精一杯の、心から叫びたい一言だった。

しかし誰もその言葉を聞いていなかったのか、何の反応もない。
あたしは今度こそ絶望感に襲われた。

「……見てるよ。ずっと見てた」

優しい声と共にあたしの手を包む温もり。
どちらも覚えがあるものだった。
見えなくたってわかる、あたしの目の前にいるであろう人は。

誰でもいいわけじゃない。
あたしの言葉を、気持ちを、一番伝えたかったのはこの人だったんだ。
そして、あたしの目からはそれまで堪えていた涙が溢れ出て……。
497 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:42



498 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:43

目を開けると、彼女がいて。
あたしは急に目が見えるようになったのかと思って驚いた。

「亜弥ちゃん?…よかった…大丈夫?倒れたんだよ?」
「倒れた…?」
徐々にはっきりしていく頭の中で、その意味を考えた。
とりあえず、見慣れた家具などが目に入って、夢じゃないということがわかった。

「うん、熱あるみたいで…もう遅いからうちに泊めますって亜弥ちゃんちには連絡しといたから。あ…あと、すごい汗だったから、勝手に着替えさせちゃったけど…」
「え…あ…ありがと」
「う…うん」
なんでみきたん顔が赤いんだろう?と不思議に思って、すぐにわかった。

「あの…下着、は?」
「え?下着は…えっと、その、締め付けられて苦しいかな、と思って…取ったけど…。
でも、全然見てないから!ぜ、全然っていうか…あんま見ないようにして、だけど…」
「いいよ…女の子同士だし…」
「あ…そうだよね、うん、そうだった…」
二人の間に、微妙な空気が流れていた。
あたしに対して、どんな扱いをすればいいのか決めかねているようだった。
499 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:44
「その…この前は、ごめん」
彼女は顔を俯かせていて、それほど明るくない部屋ではその表情が窺い知れなかった。

「美貴、亜弥ちゃんにひどいことしたよね…許してくれるわけないのはわかってる。
でもそう言われるのが怖くて…連絡取れなかった。ごめん、卑怯者だね、美貴って…」
「…みきたん、待って」
彼女は言葉を遮られて、俯いていた顔をあげてあたしを見つめた。
あたしはベッドから体を起こして、ベッドの淵に腰掛けている彼女と同じ高さで目線を合わせた。

「あたしこそ謝らなきゃ…みきたんの気持ち、踏みにじるようなことしちゃったから」
みきたんはふるふるっと首を振った。
そんなことない、って小さな声で言うのが聞こえた。

「卑怯なのはあたしの方だよ…怖がって、自分の気持ち伝えなかった」
「…怖がって?何を?」
「……ごめんね、あたし、みきたんのこと信じてなかった。素直になれなかったの。
あたしは自分だけが相手のこと想って、裏切られるのが怖かったから…」
500 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:45
卑怯者のあたし。いくら謝っても足りないだろう。
それでも伝えなきゃ…そうすることが、あたしにできる精一杯。
たとえ彼女がそれを望んでいなくても。

「だから…もう遅いかもしれないけど、あたしの気持ち聞いてくれる?」
「……ん」
彼女は優しくあたしの手を握って、言葉を促すように穏やかな目で見つめてくれた。

どうしてそんなに優しくしてくれるの?
どうしてそんな風にあたしを見つめてくれるの?
あなたを信じなかったあたしに対して。

胸がいっぱいになって、涙があふれそうになる。
でもあたしは何とかそれをこらえて。

「あたしは…みきたんが好きです…大好きです。みきたんはあたしのことなんて忘れたいって
思ってるかもしれないけど、あたしは…あたしは、終わりにしたくないよ…」

伝えたいことはまだまだたくさんあったのに、あたしの目の前はすでに涙でぼやけて。
彼女の表情がどんなものかはもうわからなかった。
501 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:46
あたしの手を握る強さが増した。
そして、ゆっくりとあたしに近づく気配がして。

まるで慈しむようなくちびるの感触。
あたしの涙をすべて吸い取るような、優しい熱を感じた。

「やっと、答えてくれたね」
あの日とは違う。あたしを包み込むようなあたたかな腕。

「…あたしのこと、嫌いになってないの?」
「まさか。亜弥ちゃんは、美貴がどれだけ亜弥ちゃんのこと好きか、まだわかってなかったの?」
「…みきたん、あたしのこと、好きなの?」
「ずっとそう言ってるじゃん。そろそろわかってよ…」
ちゅっと不意打ちのキス。

「ほんとは今すぐにでも襲っちゃいたい気分だけど、亜弥ちゃん病人だからこれで我慢する」
「……バカ」
「でもこのバカが好きなんでしょ?」
「……ん、好き」
まさかあたしがそう答えるとは思ってなかったのか、まじまじと顔を見られた。
502 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:46
「素直じゃん?」
「…ダメ?」
「そんなこと言ってない。…素直な亜弥ちゃんも、可愛い」
ぎゅうっと音がするくらい抱きしめられて、耳元ではあっと息をつく。

「…ね、あの服…買ってくれたんだね。やっぱ似合ってた」
「気付いてたんだ…」
「当たり前じゃん。亜弥ちゃんのために取り置きしてたんだから」
「でもさすがにこの時期、あれ一枚じゃ寒かったかも」
「だね。熱出ちゃったもんね」
「…もっと早く、買ってればよかったな…そろそろ、秋物も着れなくなるもん」
そう。もっと早く気付いていれば。もっと早く…。

「大丈夫、まだまだ着れるって」
「うん…まぁ、ジャケットとかと合わせれば…」
「ああ、いらないってそんなの」
「だって寒いよ。カゼひいちゃったし…」
今考えても無謀だった。
昼間ならまだしも、夜は結構冷えるというのに。
503 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:47
「実際…そろそろジャケットないと厳しいよ」
「大丈夫、美貴がこうやってくっついてるから、上着なんていらないよ」
「……ん?」
一瞬聞き間違いかと思った。

「美貴が亜弥ちゃんの上着になる」
あまりに真面目な顔で、あまりにバカなことを言う。
あたしは一瞬呆けて、それからプッと吹き出した。

「…なんだよーこっちは大真面目なのに」
「みきたんも熱あるんじゃないの?」
「うわ、ひどいよ亜弥ちゃん…美貴はそれくらいの気持ちで亜弥ちゃんと一緒にいたいって
言ってるわけで…上着着なくてもいいくらい、亜弥ちゃんとくっついてたいから」
「うん、わかるよ。みきたんのそういう言動にはもう慣れたし」
「もーほんとにわかってんのかよ…」
拗ね始めた彼女を愛しいと思う。
504 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:47
「わかってるよ。あたしも、みきたんとずっと一緒にいたいもん」
耳元で呟いて、ほっぺにちゅっとキスを落とす。
心底びっくりした、という顔の彼女を見て思わず吹き出す。

「……不意打ちだ、こんなの」
「みきたんだってしたじゃん」
「美貴はいいの…亜弥ちゃんのは、破壊力が違う。…やばい」
「やばいって言われても」
…だってしたいって思ったんだもん。

「あのさ…亜弥ちゃんはカゼひいてるわけじゃん」
「うん、そうみたいだけど」
「治したくない?」
「そりゃ治したいよ。当たり前じゃん」
「美貴にいい考えがあるよ」
あれ?どうして押し倒されてるんだろう?
テンポのいい会話をしながら、気付いた時にはベッドに沈んでいた体。
505 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:48
「カゼって…人にうつせば治るって言うよね?」
「ん…そういえばそうだね」
ちょっと…まさか…とは思うけど。

「亜弥ちゃんのカゼ、美貴にうつす気ない?」
「それって…」
「むしろうつして欲しいんだけど…ダメ?」
ダメってそんな可愛い顔で聞かれても。
いきなりこんな展開になって、熱がある状態で、頭が上手く働くわけがない。

思い出した。みきたん、あの吉澤って人とあんま変わんないじゃん…。
それでも……嫌じゃない、なんて思う自分がいた。

「…みきたん、あたしとずっと一緒にいてくれる?」
「亜弥ちゃんが美貴から離れていかない限りは」
「じゃあ、ずっと一緒だね」
「うん、ずっと一緒」
あまりにも近いところにいる彼女の瞳には、あたししか映っていない。

あたしはそれが嬉しくて、彼女の首に腕を回して。
いつもの意地っ張りで可愛くない自分は、今だけはどこかに追いやった。

「…あたしのカゼ、引き取って」
「…了解しました」
506 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:49
明日、もしかしたら彼女はカゼをひいているかもしれないけれど。
お気に入りの洋服を着て、髪型を可愛くして、お揃いの香水をつけて。

くっついて歩けばきっとあったかいよ。
二人で、どこまでも一緒に。
507 名前: 投稿日:2004/09/05(日) 01:50


508 名前:大塚 投稿日:2004/09/05(日) 01:53
>>385名無飼育さん、ようやく更新終了です。
…お、収まってよかった…。
509 名前:大塚 投稿日:2004/09/05(日) 01:59
>>465385さん
長らくお待たせいたしました。
終わりました…長かった…。

>>466名無飼育さん
今回の更新でその涙が乾いてくれることを祈ります。

>>467名無飼育さん
焦らしてるつもりはなかったんですがw
いっぱいいっぱいですいません。

>>468名無し読者さん
亜弥ちゃんは幸せになったんでしょうかねぇ(他人事

>>469名無飼育さん
大丈夫、大丈夫…よくわかりませんが、きっと大丈夫…。
510 名前:大塚 投稿日:2004/09/05(日) 02:12
風板に新スレ立てました。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wind/1094317743/

ここの容量がもうギリギリなんで、感想などはあちらにお願いします。
勝手な作者ですいません。
残り四つのリクについても、向こうで書かせてもらいます。それでは。

Converted by dat2html.pl v0.2