読みきりサイズ
- 1 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:21
-
<<スイリ*レンアイ*カノジョ>>
- 2 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:22
- 「恋人ができたらしい。」
向かいに座っている梨華ちゃんがぽつりと言った。
おぉっと、ウワサ話ですか?!
女子高ってほんとそーゆーの好きだよね。
卵サンドウィッチを食べながらあたしはふぅんと言った。
「で、誰が?」
「・・・私。」
「あ、そ・・・。」
ついうなづきかけてはた、と止まる。
何?梨華ちゃん?!
ていうかその他人事みたいのは何?!
その前に“らしい”ってどーゆーこと?!
次々に浮かんでくるはてな達を抱えたまま、あたしは親友を見やる。
彼女はそぼろ御飯への箸を止めたまま、眉毛を八の字にしてあたしを見てる。
- 3 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:23
- 「・・とにかく話してよ、詳しく。」
できれば簡潔に、と付け加える前に梨華ちゃんは話し出してしまう。
あいかわらず話にはまとまりがなく、延々と続く。
まぁ、簡潔にと言ったところでこうなることは分かってたんだけど。
おろおろしながらおそるおそる話す梨華ちゃん。
戸惑っている様子がありありと見てとれる。
最後まで話した梨華ちゃんは動揺した表情でふっとうつむいてしまった。
・・・簡単に説明するとこうだ。
梨華ちゃんは昨日、放課後に学校の廊下を歩いていると、後輩の女の子に声を掛けられた。
その子は顔は知っているけど、そんなには話したことはない子。
梨華ちゃんは立ち止まり、「なぁに?」とその子に訊いた。
するとその子は笑顔で言った。
「先輩のことが好きです。私なら絶対に先輩のこと幸せにできます。だから恋人になりましょう、ね?」
押しに弱い梨華ちゃんはついうなづいてしまい・・・。
その後、とりあえず携帯番号とメアドの交換をし、別れたらしいのだが。
- 4 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:23
- 「何それ。」
「分かんない。」
「・・・。」
真顔で即答の梨華ちゃん。
見詰め合うこと数秒。
・・彼女、本当に分かってない。
訊いたあたしがバカだったと少し思う。
「向こうはね、私のこと、いろいろと知ってるみたいなの。部活とかクラスとか。」
「そりゃー好きならねぇ。」
「それから趣味とか好きなものとか。」
「ふぅん。」
「体重やスリーサイズも。」
「・・・。」
ストーカーか、おい?!
っていうかどーやって石川梨華のスリーサイズを手に入れたんだ。
恐るべし後輩・・・。
- 5 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:23
- と、あたしは今更ながら重要なことに気づいた。
「あのさ、その告った後輩って誰?」
あたしとしたことが名前を聞き忘れてた。
どんな奴か、まずそれじゃん。
梨華ちゃんは少し照れくさそうにそっと言った。
「うん、吉澤ひとみさんって言うんだけど・・。」
「吉澤ひとみさんね・・・ってよしざわっ!?」
梨華ちゃんはこくりとうなづく。
ちょっと、吉澤ひとみと言えば、一年でバレー部のレギュラーになってしまったという期待の新入生。
すでにファンクラブもでき、学校のアイドルとなった生徒だ。
「マジなの?!」
あたしの勢いに梨華ちゃんはこくこくと頭を縦に振る。
「・・!!」
梨華ちゃん、あんた、そんなすごい子にコクられたわけ・・。
さすがの柴田あゆみも絶句だよ・・。
- 6 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:24
- 「でもね、吉澤さん、すごくやさしかったの。私が吉澤さんのこと、何も知らないって言ったら、これから知って好きになってくださいって・・。」
ほんのり顔を赤くする梨華ちゃん。
それってのろけですか。
・・・誰が何と言おうがのろけですよ、それ。
あ、それから“でもね”の接続、少しおかしいよ、うん。
「柴ちゃんは吉澤さんのこと、何か知ってる?私、一年生ってことだけで、部活やクラスも全然分からないの。」
「は?」
この子は何を言い出すんだ?
梨華ちゃん、知らないってそこまで知らないの・・。
相手は学校のアイドルなのに。
一応あたしは部活、クラスなど出回ってるデータを梨華ちゃんに教えた。
「柴ちゃん、詳しいね。」
いや、君が知らなさ過ぎるから。
呆れてるあたしの前で梨華ちゃんはほぅっと溜息をつく。
「吉澤さんってそんなすごい人だったんだ・・・。」
今更知る梨華ちゃん、あんたもある意味すごい。
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:25
- 「ねぇ、柴ちゃん。もしかして私、からかわれたのかなぁ。そんなすごい人が私なんかに好きって言うはずないもん。」
ちょっとネガが入る梨華ちゃん。
う〜ん、そーだなぁ・・。
吉澤さんはかなり梨華ちゃんデータをそれもシークレットに近いとこまで知っていた、というあたりを見てみると、かなり本気だとは思う。
それから梨華ちゃんは自分が思っている以上にかなりモテる子である。
彼女自身、自分のかわいさに気づいていないところがあるので、きちっとストレートに告白しないと鈍な梨華ちゃんには伝わらない。
遠まわしに好きと言ったけれども全く伝わらなかったという被害者をあたしは数人知っている。
そういう梨華ちゃんの性格を考えると、吉澤さんの告白は実によかったと言える。
- 8 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:26
- いろいろと考えた結果として、あたしはその吉澤さんの告白は冗談ではないと予想した。
「梨華ちゃん、きっとそれは嘘じゃないよ。」
「そぉーかなぁ・・。」
未だに信じ切れていない彼女。
梨華ちゃんって騙されやすいくせにこうゆうのは疑い深いんだから・・。
あたしはしょうがない、と思った。
「じゃあ、あたしが確かめてあげるよ。」
「ほんと?!」
「うん。」
まぁ、ほんとだとは思うけどね。
「ありがと、柴ちゃん。」
誰もが見とれるような笑顔を向け、何だかすっきりした顔でお弁当を食べ始める親友にあたしはやれやれと溜息をついた。
- 9 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:26
- 放課後、吉澤さんの所へ向かう前にあたしはある部室を訪ねた。
ひょいっと中を覗くと、彼女は鼻歌を歌いながら帰宅準備をしていた。
「矢口さん。」
高校生とは思えないほど背は小さくて、金髪の彼女は見るからにカワイイ。
自分より先輩かと思うと世の中いろんな人がいるよなーって思ってしまう。
「お、柴田じゃん。どーしたの?」
人懐っこい笑顔をあたしに向ける。
あたしは自分の部じゃない部室ということもあり、矢口さん以外は誰もいなかったけれど、一応「失礼しまーす。」と一言言って足を踏み入れた。
矢口さんはあたしの中学の時からの先輩でいろいろとよくしてもらっている人だ。
彼女は今は新聞部部長で月一で発行している新聞のため、日夜ネタ探しに学校中を走り回っているという学校一の情報屋である。
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:27
- 「ちょっと矢口さんに聞きたいことがあって。」
「ん?何?」
「実はですね、梨華ちゃん、告白されたんですよ。」
「あ、そーなんだ。」
「・・・。」
やっぱりね。あたしの予想は当たってるかもしれない。
- 11 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:27
- 「吉澤さんに梨華ちゃんの情報流したの、矢口さんでしょ?」
一瞬ヤバって顔をした。
・・・梨華ちゃんのスリーサイズを知っているって聞いたときから薄々勘付いてはいたんだよね。
今だって梨華ちゃんが告白されたと言ってもあれしか反応しなかった。
いつもだったら「マジで?!」なんて目をキラキラさせてどっから出したんだか、カメラとメモ帳を手にしてる人だもんね。
もし先に知っていたら「もうとっくに知ってるよ。」なんてにやりと笑う人だもんね。
- 12 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:27
- 「矢口さん、何で取引したんですか?」
ちゃっかりものの矢口さんがタダで情報を売るはずは無い。
ましてや売る相手は学校のアイドル。
実は新聞部は学校の有名人、人気のある生徒の隠し撮り写真を裏で売っていたりする。
結構いいお金になってるとか・・。
いい写真ほど高値で売れるわけで・・。
「ま、吉澤さんの写真を撮らせてもらったとかじゃないかと思いますけどね。」
「それと今度のハロプロニュースのインタビュー。」
わ、それもですか。やっぱり侮れない人だよ。
- 13 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:28
- 「賄賂もらって幼馴染の情報を流すなんて・・。」
そう、梨華ちゃんと矢口さんは幼馴染。
矢口さんだったら梨華ちゃんの詳しいデータはほとんど知っているのだ。
あたしがじとーっと見ていると矢口さんは少し焦って言った。
「でもさ、よっすぃはいい奴なんだ。だから、オイラ応援したくってさ。それに梨華とよっすぃ、正直お似合いじゃん。」
「ま、美男美女ですけどね。」
うんとうなづく矢口さん。
自分で言っといて何だけど、吉澤さん、男じゃないし。
ここは矢口さん、つっこんでほしかったんだけどな・・。
きっとミキティだったら間も空けず鋭く切り返してくるだろう。
と、なぜかつっこみ王のクラスメイトを思い出した。
「あ、それから、ストレートに告白しろってアドバイス、しましたよね?」
「柴田には何でもお見通しってやつ?」
きゃはっと矢口さんは照れくさそうに笑う。
ストレートはストレートでも少々強引ですけどね、アレ。
- 14 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:28
- 「でもうまくいったんだろ?」
「うまくっていうかついうなづいちゃったみたいな・・。それに何だか告白が信じられてないみたいで、これからあたし、吉澤さんと話しに。」
「ったく簡単に騙される奴がこんな時に限って・・。」
あ、やっぱり矢口さんも思ったよね。
「大変だな、柴田も。」
「はい。」
まぁ、何年も親友なんてやってるんで、もう慣れちゃったけど。
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:29
- 「もう行きます。」と言って部室を出ようとすると、矢口さんに引き止められた。
「何ですか?」
「・・・あ、やっぱいいや。それより今回のこと、梨華には内緒にしといて。」
「高くつきますよ?」
「分かってるって。」
矢口さんが途中でやめた言葉が気になったけれど、とにかくあたしはこの後、吉澤さんに会いにバレー部の練習をしている体育館に向かわなければならない。
告白は嘘ではないと矢口さんのことで完全に分かり−その前から分かってはいたが−行く必要はない気はしたけど、梨華ちゃんに話つけてくると言ってしまったからね。
矢口さんと別れて、あたしはとぼとぼ歩く。
・・・ほんと、あたしってお人好しだよね、うん。
- 16 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:29
- うるさいほど掛け声の響いている体育館をそっと覗く。
まだ練習はやってるか。少し待たなきゃダメかな。
バレー部員はざっと見て三十人くらいはいるみたい。
学校でもかなり大きい部だもんね。
吉澤さん、吉澤さんっと・・・。
きょろきょろ見回してみる。
・・・いた!
他の人より少し背の高い彼女はすぐに見つかった。
でも、背で、というよりも彼女の無駄の無いプレーとか、その何ていうかオーラみたいなものが他の部員より断然強くて、だからすぐに分かった。
期待の新人というのも名前だけじゃないな。
- 17 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:29
- 「あの。」
少し不機嫌な声が聞こえてあたしは振り返った。
たくさんのタオルを抱えたジャージ姿の女の子がやはり不機嫌な顔で立っていた。
「そんなトコに立ってもらってると邪魔なんですけど。」
「あ、スミマセン。」
あたしは塞いでいた入り口をすっと開ける。
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:30
- 「先輩もよっすぃ、目当てですか?」
「はい?」
彼女はじっとあたしを見る。
「先輩みたいによっすぃを見に来る人、多いんですよね。こっちはうざくって大変だっていうのに。」
・・・それが不機嫌な理由ですか。
「はぁ・・。っていうかあたしは違うし。まぁ、吉澤さんに話があるのは確かなんだけど。」
「話・・?」
そんな時だった。
「あっ!!」
なんていう大きな声が中から聞こえてきて、あたしとその子は振り返った。
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:30
- 「柴田先輩、ですよね?」
笑顔と共にあたしの目の前に現れたのは吉澤さん。
「ウチ、一度きちんと先輩には挨拶しとかなきゃと思ってたんですよ。」
そう言うと、ちらりと女の子−きっとマネージャーだろうけど−を見る。
彼女は小さくうなづくと体育館の中に入っていった。
「あたしのこと知ってんだ。」
「石川先輩の大親友ですから。」
皮肉なまでにさわやかな笑顔。あたしの予想通りの答えを口にした吉澤さん。
別にあたしのことを吉澤さんが知ってることに驚きはしない。
だって梨華ちゃんデータには必ずあたしのことは入ってるはずだから。
- 20 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:30
- 「吉澤さん、梨華ちゃんに告白したんだって?」
いきなり本題に突入。
それでも吉澤さんは顔色一つ変えない。
きっとあたしがここに来たことは梨華ちゃん関連だってことくらい分かってるはずだしね。
「はい。っていうか、付き合うことになりました。」
めちゃくちゃ緩んだ笑顔。
「そのことなんだけどね。」
あたしは苦笑い気味に切り出した。
「梨華ちゃん、何だか信じてないみたいなの。吉澤さんに告白されたこと。」
「えっ!そうなんスか?!」
「うん。」
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:31
- 「だって告白したらOKしてくれたんスよ?!」
「梨華ちゃん、押しに弱いからね。あ、でも吉澤さんのことは結構気になってるみたいだけど。」
結構好きっぽいということは言っとかないとね。
「メアドも交換したし、今度デートする約束もしたんですよ?」
「あ、そうなんだ・・。」
デート?梨華ちゃん、言ってなかったよね・・?
「それにキスだってしたし・・。」
「そう・・って、えぇー!!」
おいおいおいおいおいっ!!何だ、それは!
何、何、もうキスしちゃったの?!
っていうかもう疑うも何も付き合い始めちゃってるじゃん!!
- 22 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:31
- とりあえずその時の話を吉澤さんから聞いてみた。
キスの話は吉澤さんの無理やり、ではなくお互い同意の上っぽいのだが。
「てっきりウチの恋人になってくれたんだとばっかり・・。」
「いや、それはもうなってるから。」
キスまでしといて信じてない梨華ちゃんがおかしい。
「石川先輩、ウチのこと・・。」
不安になってる吉澤さんの肩をあたしはぽんっと叩いた。
「大丈夫、もう梨華ちゃんは吉澤さんの恋人だから。あたしが認める。」
「ほんとっスか?!」
ちょい涙目になりかけてる吉澤さん。
あたしは大丈夫だともう一度強く言った。
- 23 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:32
- ぴしゃんっ!!
勢いよくテニス部の部室を開ける。
「し、柴田先輩?」
中には帰宅準備をしている後輩の子がいた。
「どうかしたんですか?」
「梨華ちゃんはっ?」
「あ、石川先輩なら職員室に・・。もうすぐ戻ってくると思いますけど・・。」
そのとき、「あれ、柴ちゃん?」なんていうアニメ声が廊下から聞こえた。
「どうしたの?」
にこにこ笑顔でほんわかと尋ねてくる梨華ちゃん。
「どうしたのじゃないよ。」
「え?なぁに?」
きょとんとして首をかしげる彼女の手を引っ張り、あたしは空いている会議室に連れ込んだ
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:32
- 「柴ちゃん?」
梨華ちゃんは訳分からない顔で訊いてくる。
「梨華ちゃん、あたし、聞いてないよ?」
「ほぇ?」
「吉澤さんとデートの約束したとか、キスしたとか。」
すると梨華ちゃんの頬は一気にぼっと真っ赤に染まる。
「どう見たって吉澤さん、梨華ちゃんのこと好きじゃん。話しにいったあたしはバカみたいだよ。」
「だって・・。」
梨華ちゃんは自分の頬に手を添え、あたしからすっと視線を外す。
「恥ずかしかったんだもん。」
おい。
・・何だかあたしは一気に力が抜けた気がした。
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:33
- この後、怒る気力もなく、というかもとより怒ることはできなかったと思うけど、とにかく「梨華ちゃんは吉澤さんの恋人なんだからね。」と確認というか念を押しておいた。
そしてタイミングよく梨華ちゃんの携帯に吉澤さんから連絡がかかってきて、そしたら近くにあたしがいるというのに「吉澤さんのこと、好きだよ。」なんてのろけてる。
きっと電話の向こうも愛の言葉の一つや二つ、なんかきっとそれ以上な気もするけど、囁いているんだろう。
バカップルだ・・・、誰がなんと言おうと二人はバカップルだ。あたしが認める。
梨華ちゃんは吉澤さんと帰ることになったらしく、お邪魔虫になったあたしは一人寂しく帰ることに。
恋人ができると親友はのけ者だよねぇ。
- 26 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:33
- 校舎を出て、ふと高等部横になる中等部を見ると、ある後輩の女の子の姿を見つけた。
あの子は確か前に梨華ちゃんに告白したことのある子だ。
名前は彼女のプライバシーのために言わないけれど、遠まわしに告って梨華ちゃんに伝わらなかった一人である。
あたしは実はその告白の場に居合わせてしまったのだ。
合唱部である彼女は何より歌が好きで、「歌より石川先輩のことが好きです。」と言った。
彼女にとっては一番好きだっていうことだったみたいだけど、梨華ちゃんは分かってなくて「ありがとう。」なんて笑顔で一言。
ただ伝わらなかった原因はそのことだけじゃなく、彼女特有のなまりと早口もあったと思うけど・・。
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:33
- 「柴田先輩。」
ぼぉーっと眺めていると声をかけられてあたしははっとして振り返った。
「あ、紺野さん・・。」
それは中等部三年の紺野さんだった。
清掃委員で一緒の子である。(ちなみに委員会は高等部、中等部は一緒に活動している。)
「まだ帰ってなかったんだ。」
「はい・・。」
紺野さんはふっとうつむいてしまう。
彼女はあたしと話すとき、あまり目を見て話すことはない。
あたしに限らないのかもしれないのだけど、人と話すのが苦手なんだろうか。
- 28 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:34
- 「中等部に何か御用でも?」
「ううん、そんなんじゃないよ。」
「・・・。」
沈黙。
紺野さんとの会話は結構止まってしまうことが多い。
あたしも何を話していいか分からなかったりして、うまく続けることはできない。
こういうことってあたしにしては珍しいことなんだけど。
- 29 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:34
- 「あのっ!!」
目をぎゅっとつぶって大きな声で、といっても紺野さんは普段が小さな声だから他の人の普通くらいの大きさではあったけど、切り出してきた。
初めてのことだったから、あたしはなぜか「はい。」と言ってしまう。
「柴田先輩。」
紺野さんがふっと顔を上げる。
何だか目がうるうるしてる。
・・あたし、こうゆう目、弱いんだよね。
梨華ちゃんがよく上目遣いに潤んだ瞳でおねだりとかしてくることがあり、そうこられると断りきれずOKしちゃうこともしばしば・・。
梨華ちゃんはそんな行動は無意識にしてるみたいだから、確信的なものよりたちが悪いのだ。
- 30 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:34
- 「私とお付き合いしていただけないでしょうか?」
「はい?」
彼女、今何て言った?
オツキアイ・・お付き合い・・誰と・・紺野さんと・・誰が・・あたしが・・・マジかよ?!
あたしの顔から視線を外すことなく、ずっとそのうるうるな目であたしを見つめてくる。
う・・・そんな目で見ないでよ・・。
心臓はバクバクで、めちゃくちゃ動揺してて、きっと顔も真っ赤だろうと思う。
頭は真っ白でどうしていいか分からない。
- 31 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:35
- 「え、えっとさぁ、紺野さんってあたしのこと、苦手とかじゃ、ないの?」
「どうしてですか?」
「だって、その、いつもさぁ・・話すときあたしの顔見ないとか・・。」
あれ?これってもしかして・・。
「それは柴田先輩が好きだからに決まってるじゃないですか。」
「あ、そう・・。」
こっちが恥ずかしくなるくらいストレートに答えた紺野さん。
なんかあたしと彼女、いつもと立場が逆転してない?
- 32 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:35
- 「先輩は私のこと、嫌いですか?」
何でこうまっすぐに聞いてくるかなぁ。
あたし、こうゆうのも結構弱いんだよ。
「いや、そのいきなり言われましても・・。」
なんであたし、敬語になってんの?
「じゃあ、まずは私とお友達になっていただけますか?」
今日はやけに積極的だね、紺野さん。
いつもの君はどこに言ったんだね・・。
何だかあたしの弱いとこ、狙ってる感じがするよ・・。
・・・まさか。
- 33 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:35
- あたしはこほんと一つ、咳払いをした。
「ねぇ、正直に答えてほしいんだけど。」
「はい。」
「あたしのスリーサイズとか知ってるでしょ?」
「・・・・。」
かぁーっと真っ赤になった紺野さん。
その反応、やっぱりそうだね。
やられた!あの金髪小人に・・!!
もしかして帰り際に声かけたのってこれ言おうとしてたの?
そんで直前に思いとどまって・・?
- 34 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:36
- 「あの、柴田先輩・・。」
あ、紺野さんのこと、放置しちゃってた。
「ごめんね。その、まずはお友達からでいいかな?紺野さんのこと、たくさん知りたいし。」
「はい!」
すっごくうれしそうな紺野さん。
何だかあたしも笑顔になれちゃうよ。
近いうち、あたしは彼女とお付き合いするようになるかもしれない。
- 35 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:36
- 「じゃあ、紺野さん。」
「はい。」
「まずは一緒に帰ろっか。」
「はいっ!!」
- 36 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:37
-
紺野さんとは駅で別れた。
あたしは電車なんだけど、紺野さんはバスらしい。
バスはちょうど着いていて、乗るのに躊躇してたけど、あたしが明日も会えるからと言うと、名残惜しそうにしながらも乗り込んでいった。
バスの中であたしを見てる紺野さんにあたしは姿が見えなくなるまで手を振った。
- 37 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:37
- あたしは自分の家の最寄り駅より一つ先の駅で降りた。
自分の家に帰るにはどっちの駅でもそれほど距離は変わることはないんだけど、これから行くところにはこっちの方が都合がいい。
駅を出て、商店街をまっすぐ進んでいくと、住宅地に入っていく。
最近このあたりは新しいマンションがたくさん出来てる。
昔と比べて景色もだいぶ変わってきてる。
白い二階建てのきれいな家。
表札には「石川」と入っている。
中学校からの親友なので、かれこれ五年はこの家に遊びにきてる。
ついこないだも梨華ちゃんと一緒にDVDを見た。
・・しかし、今日はこの家に用があるのではない。
あたしは石川家を通り過ぎ、隣のグレーの家の前に立った。
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:37
- チャイムを押すとインターホンから「はい。」と声がした。
「柴田です。」
そう言うと、少し経ってがちゃりとドアが開いた。
「どうしたんだよ、柴田。」
「ちょっと矢口さんに用がありまして。」
中から出てきたちっちゃな人にあたしはにっこり笑った。
- 39 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:38
- 矢口さんの部屋に通された。
ぬいぐるみ、カレンダー、フォトフレーム、時計・・・。
あいかわらずプーさんグッズが多い部屋だ。
昔と同じ、矢口さんよりでっかいプーさんがベッドを占領していた。
「で、何?」
オレンジジュースを小さなテーブルのあたしの前に置きながら、矢口さんは尋ねる。
あたしは立ち上がり、ベッドに近づくと大きなプーさんをベッドから椅子の上に移した。
「柴田?」
座っている矢口さん。立っているあたし。
あたしは彼女を見下ろすと、にやりと笑った。
「おしおきに来たんです。」
- 40 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:38
- 矢口さんが何かを言う前にあたしは彼女を抱き上げ、ベッドに押し倒す。
「しっ、柴田っ。」
「紺野さんにあたしの情報流しましたよね?」
「あ・・。」
「そういうことをする人には罰を与えなきゃいけないんですよ。」
そうしてあたしは矢口さんに立ち上がることのできないほど深い口付けを与えた。
- 41 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:39
- 「んっ・・・あ・・・、も・・ダメっ・・。」
「まだまだですよ、矢口さん。」
矢口さんの弱いところ、全部あたしは知ってるんだから。
「ごめんなさい。」なんて謝っても今日は絶対に許さないよ・・。
元カノを甘く見ちゃいけないんだからね、矢口さん。
- 42 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:39
-
END
- 43 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:40
-
* * *
- 44 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/19(水) 11:40
- 最初にしては少し長すぎたかな・・?
こんな感じで一回の更新で完結するようにします。
短編、中編中心になると思います。
感想などありましたらよろしくお願いします。
いろいろなCPで書きたいと思っていますが、好きなCP・苦手なCPがありますので、多少
偏ってしまうかも・・。
- 45 名前:センリ 投稿日:2003/11/20(木) 21:50
- どもセンリッス。やぐしば・・・他に見ないカップリングで
はまりました。頑張って下さいねv
- 46 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/29(土) 15:15
-
<<ひとり−RAINY DAY>>
- 47 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:16
- 昨日の夜から降り続いている雨は今日になっても止むことはなく、夕方になった今も一向に晴れる気配はない。
このままだと明日も雨かな。
そういえば天気予報は雨だった。二三日続くとも言ってたっけ。
私は一人、窓から空を見つめていた。
- 48 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:17
- 私は雨が嫌いだ。
灰色のどんよりとした空。大地を打ち付ける雨。
考えなくてもいいようなことさえ考えてしまう。
思い出したくもないことまで思い出してしまう。
どうせなら私のこの嫌な記憶も全て流してくれればいいのに。
でもそれは無理だから、よけいに私は雨を憎く思う。
・・私、嫌われてるのかな・・。
この間だって三人でディズニーランドに行ってた。
私、全然知らなかった。誘ってだってくれなかった。
後で偶然聞いた辻さんの話で知ったくらいだ。
何で?私は三人と同期だよね?
- 49 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:17
- 前に石川さんが話してくれたことを思い出す。
同期は特別な関係だってこと。
苦しいオーディションに一緒に合格して、モーニング娘。に入ってたくさんの試練を一緒に乗り越えて。
その時に築かれた絆はやっぱり他のメンバーとは比べ物にならないほど強いって。
「お豆にもいつか分かるよ。あ、もう分かってるかな?」
微笑んだ石川さん。彼女の表情が全てを語っていた。
私から見たって四期のつながりはまぶしいほどに強いって分かるもん。
だから私も、あんな関係に、愛ちゃん、まこっちゃん、あさ美ちゃんとなれるんだって信じてた。
- 50 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:18
-
・・・でも間違いだった。
それは私以外の三人で作られてしまったんだ。
- 51 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:18
-
「新垣?」
後ろから呼ばれ、私ははっとして振り返った。
「安倍さん。」
「こんなとこにいたんだ。」
安倍さんはかすかに笑って、私の横に立った。
「雨、止まないかなーって思ってたんですけど、やっぱり止まないですねぇ。」
「そうだね。」
しとしと振り続ける雨。
なぜか止むことはないと思ってしまうのは私の心も雨マークだからだろうか。
- 52 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:19
- 「もう越されちゃったね。」
「はい?」
私は意味が分からず、外を見つめたままの安倍さんを見つめる。
「身長。いつの間にかなっちよりおっきくなっちゃったね。」
「あ、あぁ・・。」
安倍さんが私を見上げ、私は安倍さんを見下ろす。
いつの間にか私は安倍さんより大きくなってたんだ。
ほんと、いつの間にか。
「いつか新垣はもっともっとおっきくなって、そしたらなっちはもっともっと見上げなきゃなんないね。首が大変だ。」
にこっと笑う安倍さん。
「新垣はそんなに大きくなりませんよ、きっと。」
私は視線を窓の外に向けた。
- 53 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:20
- 「最近、元気ないよ。どうかした?」
安倍さんの声のトーンが変わった。
「そう、ですか?」
「うん、そうだよ。」
二人の間に沈黙が続く。
最近、私って元気なかったかなぁ。そのつもりは全くなかったんだけど。
私ってば意外に鈍感?それよりも安倍さんが鋭いのかなぁ。う〜ん。
「ねぇ、新垣。何か悩んでること、あるんじゃないの?」
「え?」
「無理に聞くのはどうかと思ってた。でも待ってても話してくれないし。このまま放っておくのはやっぱ、なっち、できないよ。」
安倍さん、私のこと見ててくれたんだ・・。
- 54 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:20
- 「よかったら話してくれないかな・・?」
安倍さんのやさしい言葉に私は何だか涙が溢れてきて・・。
私は久しぶりに声をあげて泣いた。
まるで止むことの知らない雨のように、私の涙も枯れることなく頬を濡らしていく。
そんな私を安倍さんはふわっと抱きしめて背中を撫でてくれて。
そのあたたかさによけい私の涙は止まらなかった。
人前で泣くことに抵抗があった。
大好きなモーニング娘。に入れたんだから絶対にがんばらなきゃって。
泣いてる場合じゃないんだってずっとずっと。
そんな決意が安倍さんの前で簡単に崩れてしまった。
苦しかった。
ほんとは誰かに話を聞いてほしかったんだ・・・!!
- 55 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:21
- 散々泣きまくった私は、今、空いている楽屋に安倍さんと隣り合って座っている。
「落ち着いた?」
「・・はい・・。」
背中をぽんぽんって叩いてくれる安倍さん。
一定の心地よいリズム。そのやさしい振動が私を安心させた。
そうして私は今まで誰にも話すことのできなかった悩みを話したのだった。
「三人お揃いのペンダントがあって、私、それを見るたびにいつも悲しくなっちゃってたんです。」
つっかえつっかえの私の話に何も言わず安倍さんはただ聞いてくれている。
「私、先輩達を見て、同期の絆ってすごいなって思ってて、だから、私もああいう関係を作っていきたいってずっと思ってました。でも全然駄目で。何だか私、嫌われてるのかなって・・・。」
「同期か・・。」
安倍さんはふぅーっとため息をついた。
- 56 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:22
- 「今でこそ、圭織とはすっごく仲いいけれど、最初はいろいろ喧嘩とかも絶えなかったんだよ?まぁ、これは圭織に限ったことじゃなくて、裕ちゃんや、同期じゃないけど、矢口や圭ちゃんとだってそうだったけど・・。」
「四期の四人だって今はああじゃれてるけれど、最初からあんなに仲が良かったわけじゃない。あ、悪かったってことじゃないよ?でもさ、絆ってある程度の時間も必要だよ、やっぱり。新垣が娘。に入って・・・まだ二年くらいでしょ?」
「これからだよ、強い絆ができるのは。今はまだ上に先輩がたくさんいるけれど、これからずっといるわけじゃない。みんないつか・・もうすぐなっちだって卒業する。そうしたら新垣達が娘。を引っ張っていくんだから。その時に同期の強さってものが分かるようになるから・・。」
- 57 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:22
- 「はい。」
私はうなづくことしかできなかった。
目先の、表面的な仲良しさだけではなくて、もっともっと深いつながりが同期の本当の絆だってこと。
先輩達はお互いをもっと深い部分で強く信頼しているんだ。
「それからもっと三人に近づきたいのなら自分から行かなきゃ。自分の気持ち、もっと三人にぶつけなきゃ。なんか遠慮してるように見えるよ。ばしっといっちゃいなよ!」
「はい!」
安倍さんの笑顔につられ、私も笑顔になる。
「それでこそガキさんだ!」
「はいっ!」
- 58 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:23
- 楽屋を出て、私は安倍さんと並んで廊下を歩く。
「新垣はこれからもっと大きくなっていくんだね・・。」
「え?」
「いつかなっちも越されちゃって、もっともっとうーんと遠くに・・・。」
「そんなことありませんよ。」
「ううん、後輩は先輩を追い越していかなきゃならないんだ・・。」
「安倍さん・・・。」
遠くを見つめている彼女の手を私はぎゅっと握った。
今までは恥ずかしさと遠慮で出来なかったこと、今の私なら出来てしまう気がしたから。
安倍さんは何も言わず、ただ握り返してくれた。
いつか私は安倍さんの言う通り、先輩達を越していかなきゃならないのかもしれない。
でも今は、この人の背中を追いかけていくんだ。
きっとこれからもずっと。安倍さんを越すその日まで。
- 59 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:24
- ぴたっと安倍さんの足が止まった。
「安倍さん?」
前を見ている彼女の視線をたどる。
「こんなとこにいた。」
前から駆けてきたのはまこっちゃんと愛ちゃんとあさ美ちゃん。
「里沙ちゃん、どこ行ってたの。」
「あ、うん、ちょっと・・。」
「ガキさんと二人で雨見てたんだよね?」
隣の安倍さんがにこっと笑ったので私は小さくうなづいた。
「今度のオフに四人でデイズニーシーに行こうって言ってたから、その計画立てようと思って探してたんだよ。」
「え?ディズニーシー?」
「もしかして忘れてたの?まだ一回しかディズニーシーには行ってないって、だから行こうって。」
「あぁ・・。でもこないだ三人で・・。」
「あれはディズニーランド。あの日は里沙ちゃん、学校の行事だって前に言ってたから、だからこっちにしたんだ。」
- 60 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:24
- 安倍さんの手が離れ、軽く背中を押された。
「安倍さん?」
「ほら行ってきなよ。」
ちっちゃくウィンク。
「・・はい!!」
ペコリと四人でお辞儀をして安倍さんから離れる。
- 61 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:25
-
「あ、ガキさんっ。」
呼び止められて振り向いたその先には。
「おみやげよろしくっ!」
子供みたいに笑っている安倍さんがピースサインをしていた。
- 62 名前:ひとり−RAINY DAY 投稿日:2003/11/29(土) 15:26
-
END
- 63 名前:ひとり−RAINY 投稿日:2003/11/29(土) 15:26
-
* * *
- 64 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/29(土) 15:29
- >センリ様
確かにあまり見ないかもしれないですね。
あまり気にせず書いてしまったのですが。
これからもがんばりますので、よろしくお願いします!
- 65 名前:捨てペンギン 投稿日:2003/11/30(日) 23:44
- いいですね
HPWでのあの話、きれいにまとまってますね
- 66 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 13:26
-
<<BLUE EYES>>
- 67 名前:BLUE EYES 投稿日:2003/12/13(土) 13:27
-
あなたの綺麗な瞳。
カラコンのせいで青く見えるその瞳に私はいつだってときめいてる。
でも恥ずかしくてこんなこと、言えないけど。
- 68 名前:BLUEEYES 投稿日:2003/12/13(土) 13:27
-
コーラをぐびっと飲み込んで、しゅわっと喉を通るその刺激にくぅーっと声を上げる。
レッスン後の一杯は最高だね。
そんなこと言ったらきっと圭ちゃんに「ビールじゃないと感じないわよ。」なんて言われるんだろうなぁ。
オイラももう二十歳だけど、まだお酒のよさがいまいち分からないんだよねー。
「あ、こんなとこにいたんですか。」
パタパタと足音が聞こえ、誰か来たかなぁと思ってちらりと見ると、紺野がオイラに声をかけた。
「お、紺野。何?オイラに用?」
「用っていうか、私はないんですけど、その伝言というか、もし会ったら伝えてほしいと頼まれたものがありまして。」
「はぁ・・。」
「たまにはウチに愛あるメール送ってや。」
紺野の言葉にオイラはすぐに誰からかの伝言か分かった。
「・・・裕子、何言ってんだよ・・。」
「じゃ、確かに伝えましたから。」
「悪いね、紺野。」
オイラが苦笑いすると、紺野はぺこりと頭を下げて走り去っていった。
- 69 名前:BLUEEYES 投稿日:2003/12/13(土) 13:28
- 「ほんと、何言ってんだか・・。」
呆れたように溜息をつく。
メールなんかしなくたってさ、いっつも電話してんじゃん。
お互い忙しくてなかなか会えないから。
確かにメールは便利だよ。
でもメールじゃ、相手の温度とか何も感じられないじゃん。
やっぱ好きな人の一部を感じたいって思うもん。
会えなかったらせめて声だけでもってさ。
でも正直、声を聞くとどうしても会いたくなってしまう。
裕ちゃんに会いたい。
今すぐ抱き締めて欲しい。
裕ちゃんにオイラだけを見つめて欲しい―――。
- 70 名前:BLUEEYES 投稿日:2003/12/13(土) 13:28
-
四期メンバーが入った頃、辻と加護が何かの時に言った。
「中澤さんの目・・なんか恐いです。」
二人してうんうんうなづいてる。
「そう?確かにオイラも最初の頃は恐かったけど、結構やさしい目してるよ?」
ま、裕ちゃん、意外に人見知りっぽいところあるけどね。
そう言うと、加護は言った。
「中澤さんは矢口さんを見るときだけなんか違います。」
「は?何で?」
その頃はまだオイラと裕ちゃんは付き合ってなかった。
自分で言うのもなんだけど、好きな人を見る目って他の人を見るときとやっぱり違うもので・・・。
そのことを加護は敏感に捉えていたんだと思う。
「オイラは結構あの青い目、好きだけどね。」
青い目の奥にある光はいつだってオイラをやさしく照らしてくれた。
オイラが怒ったときも、泣いた時も、わがままを言ったときもいつだって。
そして裕ちゃんは「しょうがないなぁ。」って頭を撫でるんだ。
「裕子のバカ。」って口ではよく言うけど、オイラはきっと裕ちゃんには敵わない。
- 71 名前:BLUEEYES 投稿日:2003/12/13(土) 13:29
-
ポケットの中の携帯が振るえた。
「もしもし。」
「やーぐち。ウチやで。」
「・・・誰ですか?ウチなんて人、知りませんけどー。」
「ひどいなー、やぐちぃ。あんたの大事な恋人やで?」
「裕ちゃん、メールなんてしなくたっていっつも電話してんじゃん。」
今までの会話とはつながっていない言葉。
裕ちゃんはふっと笑った。
「あ、紺野、もう伝えてくれたんや。」
いい子いい子とつぶやいてる声が小さく聞こえる。
「・・裕ちゃんはさ、電話よりメールの方がいいって思ってんの?」
オイラがそう言うと、ニヤけた声が聞こえた。
「矢口、何か拗ねてんの?」
「はぁ?何言ってんのさ。」
「あ、分かったで!自分の声をもう聞きたくないって思ってるとか心配してるクチやろ?」
「ばっ、ばかなこと言わないでよ!!」
半分図星だった。
こんなときだけ勘がいいんだから。
いつもは鈍感でヘタレなくせにさっ!!
- 72 名前:BLUEEYES 投稿日:2003/12/13(土) 13:30
-
「ウチは電話だけじゃなくて、メールも欲しいんやで?」
さっきまでのからかい口調とはうってかわった真面目な声。
「ウチは欲張りだから、電話だけじゃ足りん。電話するには時間は短いって時間にも矢口とつながっていたいいんや。」
「裕ちゃん・・。」
見えない裕ちゃんの顔。
でも電話の向こうの裕ちゃんの青い瞳がオイラを映していることは自惚れじゃなくてもよく分かった。
・・矢口のこと、ちゃんと愛してくれてるんだ。
「オイラも、だよ。裕ちゃんといっぱいいっぱいつながっていたい。」
「矢口・・・。」
「ほんとは電話やメールだけじゃなくてめちゃくちゃ会いたいんだからね!」
「分かってる。」
お互い仕事忙しいもん、会うことが大変なのは分かってる。
でも自分達で選んだ仕事だから。
それに裕ちゃんがいるからオイラだってがんばっていけるんだよ。
裕ちゃんが娘。を卒業して、かなり仕事で会う機会は少なくなってしまったけど、テレビで矢口を見てくれたときはがんばってるオイラの姿、見てもらいたいから。
- 73 名前:BLUEEYES 投稿日:2003/12/13(土) 13:30
-
「ごめん、もう収録が始まっちゃうから。」
「そっか。仕事、がんばるんやで。」
「うん。・・また電話するから。あ、メールもする。」
「待ってるで。」
電話が切れた。
裕ちゃんとのつながりもぷちっと切れた。
一気にさびしい想いにかられた。
でも矢口、がんばるから・・。
「矢口さん、収録始まりますよ〜。」
紺野と小川がオイラを見てる。
二人目指してオイラは駆け寄り・・タックルした。
「わっ!」
「な、何するんですか、矢口さん?!」
驚いてる二人にオイラはにやりと笑った。
「おまえら腹立つ!」
「「えぇっ?!」」
- 74 名前:BLUEEYES 投稿日:2003/12/13(土) 13:31
-
二人は全然悪くないんだよ?
でもさ、裕ちゃんとハロプロワイドやってて、オイラよりも仕事で裕ちゃんと会うのは、ちょっと腹立つ。
そんな理由で勝手にいちゃもんつけられた紺野と小川にオイラはきゃはっと笑った。
「さ、仕事に行くよっ!!」
今度会うときはしっかりと裕ちゃんの綺麗な目を見せてね。
大好きな大好きな裕ちゃんの青い瞳。
- 75 名前:BLUEEYES 投稿日:2003/12/13(土) 13:32
-
END
- 76 名前:BLUEEYES 投稿日:2003/12/13(土) 13:33
-
* * *
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 13:35
- >捨てペンギン様
最近思った疑問を題材にしてみました。
なっちとガキさんペアはなんか好きなんです。
機会があったらまた書いてみたい二人です。
- 78 名前:スイートナイト 投稿日:2003/12/24(水) 02:13
-
<<スイートナイト>>
- 79 名前:スイートナイト 投稿日:2003/12/24(水) 02:14
-
チカチカ輝くカラフルライト。
部屋の隅に置いてあるのに存在感がありまくるのは小さくもなく大きくもないクリスマスツリー。
さっき星や鈴やちっちゃな長靴をたくさんぶらさげたそれはまるでおもちゃの詰め合わせのよう。
テーブルには二人で作ったたくさんのごちそう。
前菜のカルパッチョ、サラダ、ホワイトシチュー、ローストビーフ、バスケットには一口サイズに切ったフランスパン。
どれも赤と緑を基調にしたクリスマス仕様。
昔は料理が苦手なあたしだったけど、今じゃそれなりにできるようになった。
「でーきた!」
キッチンでは最後にちょこんとイチゴをのせてにっこり笑う君。
あたしは完成したまんまるのショートケーキをテーブルに持っていった。
- 80 名前:スイートナイト 投稿日:2003/12/24(水) 02:15
-
部屋の明かりを消す。
すると、テーブルの上のキャンドルの灯とクリスマスツリーのライトだけがぼぉーっと浮かび上がって、あたし達をかすかに照らした。
向かい合って座るあたし達。
見つめ合うことなんてしょっちゅうで今更なんだけど、今日はいつもよりやけに照れる。
今日がクリスマスイヴだからかな。
二人でたくさん過ごしている梨華ちゃんの部屋なはずなのに何だかロマンチックに思えてしまうのもきっとクリスマスという魔法のせいだ。
「何だか夢みたい。クリスマスイヴにひとみちゃんと二人で過ごせるなんて。」
「さっきまで仕事だったけどね。」
壁にかかっている時計の針は9を指したところ。
まだまだ平気。これからが本番じゃん。
- 81 名前:スイートナイト 投稿日:2003/12/24(水) 02:16
-
グラスに注いだシャンパンがキャンドルの灯によってキラキラと輝く。
子供だましのような炭酸のものじゃなくて、アルコールの入った本格的なもの。
まだ未成年だけど、今日だけは許してね。
ちょっとかっこつけてみたいんだよ。
「キレイだね。」
梨華ちゃんの方がキレイだよ、なんてクサイことをつい言いそうになって、あたしは慌ててうなづいた。
普段のあたしは言うどころか思うことだってしない。
・・きっとこれもクリスマスのせいだ。
- 82 名前:スイートナイト 投稿日:2003/12/24(水) 02:18
-
「メリークリスマス。」
カチンとグラスを合わせ、微笑みあうあたし達。
おいしいご飯は冷めないうちに。
あたしの目の前にはとっておきのごちそうがあるんだけど、それは最後に残しておこう。
シチューの中のハート型のにんじんは彼女のこだわり。
一口でパクリと食べちゃおう。
サンタののったショートケーキはとろけるように甘くて。
二人の間に流れる時間もゆったりと甘くて。
こんなに楽しいクリスマスを過ごせるあたしはなんて幸せ者だと感動した。
- 83 名前:スイートナイト 投稿日:2003/12/24(水) 02:18
-
揺れる揺れるキャンドルライト。
お互い交換し合うプレゼント。
赤い袋の中からは手編みの白と黒のマフラー。
いつかちゃんと長いものを作りたいってコメントしてたよね。
「ありがとう。」
恥ずかしそうにうなづく君はとてもかわいい。
「ねぇ。」
上目遣いで見つめてくる梨華ちゃん。
その目は反則だっていつも言ってるじゃん。
彼女はおずおずと自分の右手を差し出すから、あたしは少し真っ赤になってその細い手を手にとった。
薬指にすっと入るシルバーリング。
うん、サイズはぴったりだね。
- 84 名前:スイートナイト 投稿日:2003/12/24(水) 02:19
-
そろそろとっておきのごちそう、いただこう。
これでも結構我慢したんだよ?
・・・それではいただきます。
- 85 名前:スイートナイト 投稿日:2003/12/24(水) 02:19
-
ふわっとする君のくちびるは。
さっきのケーキより断然甘くて。
くせになるおいしさ。はまっちゃう味。
何度食べてても飽きることはない。
もっともっと欲しくてたまらない。
- 86 名前:スイートナイト 投稿日:2003/12/24(水) 02:19
-
二人今夜とけてしまおう。
キャンドルライトの光の中で。
ロマンチックなクリスマスナイト。
二人だけのホーリーナイト。
- 87 名前:スイートナイト 投稿日:2003/12/24(水) 02:20
-
END
- 88 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 02:20
-
* * *
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 02:20
-
クリスマスということで甘めに。
青板の「作者フリー 短編用スレ 5集目 」にもいしよし短編を一つ載せました。
お時間があれば読んでみてください!
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/31(水) 17:13
- ho
- 91 名前:夏服 投稿日:2004/06/14(月) 23:45
-
<<夏服>>
- 92 名前:夏服 投稿日:2004/06/14(月) 23:45
- 彼女は夏が嫌いだ。
「何で?」って訊いたら、「だって日焼けしちゃうんだもん。」と不機嫌そうに言った。
彼女は少し黒い自分の肌を気にしている。
あたしは、「たいして気にならないよ。」って言ったら、「だってよっすぃは色白だもん。」と反論された。
ま、確かにあたしは色白で、日焼けをしようにも赤くなってしまうだけなのでできない。
彼女にしてみればそれはうらやましいらしい。
- 93 名前:夏服 投稿日:2004/06/14(月) 23:46
- そんな彼女だが、夏は意外に薄着だったりする。気にするなら出すなって思う。
キャミソールにミニスカートなんてしょっちゅうで、「そんな格好日焼けするじゃん。」って言ったら、「たくさん日焼け止め塗ってるし、それに長袖は暑いもん!」と口を尖らせた。
それでもあたしは、「そういう格好はほどほどにした方がいいよ。」と言う。
「本当に日焼けしたくなかったら、日焼け止めも塗って、上着はおった方はいいって。」
すると彼女は、「やっぱりそうかなぁ。」とつぶやいて、「ありがとね、よっすぃ。私の為に。」とこれまた満面の笑みをあたしに返した。
- 94 名前:夏服 投稿日:2004/06/14(月) 23:46
- ちょっとだけフクザツ。ちょっとだけザイアクカン。
そう言ったのは確かに彼女のためでもあるけれど、ほんとは違っていたりもする。
梨華ちゃんの体を他のヤツらには見せたくないんだよ。
梨華ちゃんは鈍感で、全く気づいてないけどさ、男なんか視線向けまくりなんだよ。
横であたしがにらみをきかせてる苦労を少しは知ってくれ。
- 95 名前:夏服 投稿日:2004/06/14(月) 23:47
-
それとさ、あたしの理性がやばいんだよね。
そんな格好で最上級の笑顔なんか見せられたら、即「いただきます。」だっての。
なんとか必死で耐えてるあたしって我ながらがんばってる。
夏はいろいろな意味でストレスの溜まる季節なんだよ、あたしにとって。
- 96 名前:夏服 投稿日:2004/06/14(月) 23:47
-
「あ、そうだ、よっすぃ、夏休み、海に行こうね!」
六月に入って衣替え。
半袖のセーラー服姿の梨華ちゃんはあたしの横で子供のように笑ってる。
海、ってことは水着だよね・・。
気づかれないように小さく溜息。
- 97 名前:夏服 投稿日:2004/06/14(月) 23:48
-
もう夏はそこまで近づいている。
- 98 名前:夏服 投稿日:2004/06/14(月) 23:48
-
END
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/14(月) 23:54
- こっそり更新。
前の更新から約半年ぶり・・。
誰か気づいてくれる人いるのかな・・。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/15(火) 21:57
- |∀・) !!
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/20(日) 13:19
- ハケーン!
ストックできましたか?
- 102 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:28
-
<<ハッピークローバー>>
- 103 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:29
-
てっぺんに上っていた太陽はいつのまにか沈み始め、空は真っ赤に染まっている。
貴重なオフだというのにあたしは昼間から人影の少ない森の中に入り、一日中探していた。
ずっとしゃがんだままだったのでなんだか足も腰も痛い。
汗はかいてるし、泥だらけだし、体から草っぽいにおいもする。
・・・一応あたしはテレビ出てるし、しかもアイドルらしいからこんな姿はさすがにあまり見せらんない。
でも彼女のためならって思える。
もとはといえば、こんなことをしてるのも彼女の一言なのだ。
「四つ葉のクローバーなんて見たことないよ、なっちは。」
なかなかプライベートな時間がとれなくてデートもできない日々。
たまたま仕事が一緒になったときのちょっとした休憩中、あたしはなっちと二人っきりでまったりと過ごしていた時のこと。
何かの話でクローバーが出てきて、彼女はそんなことを言ったのだ。
- 104 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:29
-
「ごとーは見たことあるよ?」
「え、ほんとにあるんだ。」
きょとんとした顔でそう言って、それからなっちはぱっと笑った。
「なっち、一度でいいから見てみたい。だって四つ葉のクローバーは幸せになれるんだもんね。」
・・・ごとーってほんとなっちに弱いと思う。
あの笑顔であの言葉言われちゃ、見せないわけにはいかないっしょ。
そんなわけでごとーは気合をいれて朝から四つ葉のクローバーを探してるわけなのさ。
- 105 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:30
-
ここは昔、ごとーがユウキと一緒に遊びにきて四つ葉のクローバーを見つけた場所。
一面クローバが生えてるここはあの頃とちっとも変わってなくてちっちゃかった頃にタイムスリップしたかのような気分だった。
それにしてもこんなたくさんの中から、ごとー、四つ葉のクローバーを見つけることはできるのだろうか。
昔見つけた時は探したというより偶然あったという感じだったし、このたくさんの中に必ずあるとは限らない。
でも、でも、探さなきゃ。
見つけたらきっとなっちは喜んでくれる。
ごとーはなっちと付き合う時に決めたんだ。
なっちが笑顔になってくれるならどんなことでもしようって。
なっちの笑顔はごとーが守る・・・なんて、あは、照れる〜。
- 106 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:30
-
「ふはぁ〜・・。」
しかし。
やっぱり簡単に見つかんない。
探せど探せど三つ葉ばかり。
「ぶー。」
なーんで四つ葉のクローバーは出てこないかなぁ。
四つ葉さん、出てきてよ〜、なんて無理か・・・。
しゃがんだままのあたしは何だか疲れてよいしょって立ち上がった。
う・・・、やっぱり足とか曲げたままだったから伸ばしたら痛い。
同じ体制はやっぱ疲れるよ・・・。
- 107 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:31
-
あたりは真っ暗になってしまった。
これじゃ、三つ葉も四つ葉も判断できないじゃん。
懐中電灯持ってくればよかったかな。
とりあえず今日はもう探せない。
次の機会にしよう。
あたしはその森から出ることにした。
帽子を深くかぶって、なるべく目立たないように自転車で家まで帰る。
誰にもばれませんように、写真とかにもとられませんように。
ひやひやしながら自転車を漕ぐ。
「ごっちん。」
自分の名前を呼ばれ、どきっとした。
うわ、誰かに会っちゃった?!
あ、でもこの声・・・。
ゆっくりと振り返るとそこには愛しい彼女の姿。
でもいつものような明るい笑顔じゃなかった。
- 108 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:31
-
「あ、なっち、どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、すっごく心配したんだよ?」
「え?」
「メールもしたし、携帯にもかけたのに全然つながんないんだもん。」
「あ。」
肩から下げてるバックの中から携帯を取り出すと、なっちからのメールも着信も来ていた。
夢中になってて全然気づかなかった。
「ごっちんに何かあったんじゃないかって思って・・・。」
「ごめんね。」
「ごっちん、どうしたの?なんかすごく汚れちゃってるけど。」
「あ・・。」
突然見せて驚かせようと思ってたからなっちには何も言ってなかったんだった。
どうしよう、ほんとのこと言った方がいいかな。
あ、でも、ごとーの計画が・・。
「ごっちん?」
「えっとね・・・。」
言うべきか言わないべきか・・。
「なっちにも言えないこと?」
しゅんと悲しそうな顔のなっちにあたしはやっぱり嘘つくことはできなかった。
「実は四つ葉のクローバーを探してたんだ。」
- 109 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:32
-
「四つ葉のクローバー?」
「うん。なっち、見たことないって言ってたでしょ?だから見せてあげようと思って。でも、全然見つかんなくて・・。」
「ごっちん。」
「ごめんね。」
「謝らないで。なっちに見せてくれようとしただけでうれしいよ。」
なっちがにっこり笑ってくれてなんだか今日のごとーの一日が救われた気がした。
この後、ごはんでも食べようってことになって、まずはごとーはシャワーを浴びなければならないので、家に帰ることになった。
なっちと二人、とことことごとーの家まで歩く。
ほんとは二人乗りしたかったんだけど、今のごとーは汗っぽいから。
でもこうやってなっちと散歩するのは大好き。
- 110 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:32
-
自転車を止めて家に入ろうとした時。
「ごっちん、何か背中にごみが付いてるよ?」
そう言ってなっちがひょいって取ってくれた。
「あ、ありがと。」
お礼を言って、そのごみを見てみると・・。
「あ!」
それはさっきまで必死に探していた四つ葉のクローバーだった。
「ごっちん、四つ葉のクローバー!」
「うん。」
いつのまにか背中にくっついてたんだ。
なっちはクローバーを手にとって眺めながら、「これが四つ葉かぁ。」なんて目をキラキラさせながら関心してる。
よかった、すごい偶然だけど、なっちは喜んでくれてる。
「それ、なっちにあげるよ。」
「え?いいの?」
「うん、だってなっちにあげるために探してたもんだし。」
「わぁ、ありがとう。」
子供っぽい笑顔のなっちにこっちまで笑顔になっちゃうよ。
- 111 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:33
-
なっちにはごとーがシャワー浴びてる間、リビングに待っててもらうことにした。
「じゃ、すぐに浴びてくるから。」
「うん。・・あ、ごっちん。」
「何?」
「今度、なっちも四つ葉のクローバー探しに行きたい。」
「分かった。案内するね。」
今度は二人でクローバーを探しに行こう。
そして幸せの四つ葉のクローバー、二人で見つけよう。
- 112 名前:ハッピークローバー 投稿日:2004/06/21(月) 21:33
-
END
- 113 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/21(月) 21:46
- 意外に早く更新できました。
なちごまは結構好きです。
>100、101 名無飼育さん
見つけてくれた人がいるなんて驚きです。
これからはちょくちょく更新できたらと思ってますが、どうなることやら・・。
ストックは・・・突然の卒業発表とか変化が早すぎて、書いてもボツになるものばっかりです。
- 114 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 22:59
-
<<ステキな夢>>
- 115 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:00
-
それは私が卒業してから一年たった頃のこと。
私はつんくさんに呼ばれ、一人、事務所の会議室で待っていた。
- 116 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:00
- 卒業発表から一年後に卒業だったけれど、それはあっという間で、そして卒業してからもあの横浜アリーナでの卒業コンサートがついこないだのように、いつの間にかもう一年の月日が流れている。
この一年、卒業前に出来た新ユニットとドラマ出演などのソロ活動で毎日慌しく、けれども充実してる日々を過ごしていた。
ただ何かぽっかりと空いてしまった感は卒業して一年経った今もなくなってはいない。
一生あそこにいることは無理だと分かっていたけれど、いざ、そこから旅立ってしまうと、自分が思っていた以上に大切な、大切すぎる場所だったことに改めて気づかされる。
私のいない娘。をテレビで見るたびに、モーニング娘。の石川梨華は過去のものになってしまったんだとせつない気持ちにさせられた。
今まで卒業したメンバーもこんな風に思ったのかな。
- 117 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:01
-
けれども、卒業したことを後悔しているわけではない。
出会いもあれば、別れもあるということは当たり前のことだし、もっともっと上のことに挑戦してみたいという気持ちもあるから、そのためにはやはり卒業は必然のものだったんだ。
・・・久しぶりに何かいろいろと考えてちゃったな。
いや、考えていなかったわけではなかったんだけど、ただこういうことをなるべく考えないようにどこかしていた気がする。
- 118 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:02
- 「待たせたな。」
ガチャリというドアの音と共に、聴こえた声の方に私はふっと顔を向け、すっと立ち上がった。
「おはようございます。」
頭を下げると、つんくさんは「石川は真面目だなぁ。」と笑った。
「辻と加護なんかはここでがつがつ菓子食ってたわ。」
大事な二人の同期の無邪気な姿が想像できて、私も思わず笑ってしまった。
「忙しいとこ悪いな。」
「いえ。」
私一人だけ呼ばれたってことは何かすごく大事なことを言われるのではないかと思っていた。
ユニットのことだったら、他の二人も呼ばれるはずだし、ソロの仕事だってわざわざつんくさんが伝えることもそうそうないと思う。
何を言われるのだろうか。
ずっとずっとそれだけが頭の中をぐるぐる回っている。
目の前に笑顔で座っているつんくさんはこれから何を私に言うつもりなのか。
私にはその顔からは何も読み取ることはできなかった。
- 119 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:04
-
「まぁ、単刀直入に言うわ。石川、半年後に美勇伝から卒業や。」
すぐに私は反応できなかった。
卒業?まだ一年しか経っていないのに?
しかし、つんくさんが言うことは絶対で、私にはそれを拒否することは不可能だった。
「はい・・。」
- 120 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:04
- 「実はな、石川がモーニングを卒業したときに、俺としてはやりたいことがあってな。ただそのプロジェクトを進めるにはまだ準備が足らんかったから、その間、ユニットに入ってもらったんや。もともと美勇伝は三好と岡田の二人でやってこうって少し思ってたところもあって。でも、あいつらだけでは少し大変なとこあったし、それに、石川には新人の奴らが持ってる新鮮なエネルギーを間近で受けて、より大きく成長してもらいたかった。」
「はい。」
「石川は俺の目から見ても、モーニングにいるときよりもよりパワーアップしてる。それに向こうもそろそろいい頃合やしな。」
私はつんくさんが何を言いたいのかよく分からなかった。
とにかく私は美勇伝を抜ける。
娘。を卒業して石川はパワーダウンしたと言われないように全力でユニットに力を注いできた。
これからもっともっとというときに、私は卒業するなんて・・。
- 121 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:05
- 「で、本題はここからやで。」
つんくさんが満面の笑みで私を見る。
何か嫌な予感がするような・・。
私はごくりと喉がなった。
「石川には新しいユニットを組んでもらう。」
- 122 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:06
- 「はい?」
何?また新しいユニット?
「もう相方は決まってる。」
え?早くない?っていうか、そんな話全然聞いてないって、あ、そっか、今聞いてるのか・・ってちょっと!!
「入ってもええで。」
つんくさんはドアに向かって投げかけた。
え?そこにいるの?ちょっと急展開すぎない?私、まだ追いついていけてない。
パニクってる私のことなどおかまいなしに、ドアはゆっくりと開いた。
- 123 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:06
-
「おはようございまーす。」
少し低めの声。間延びした言い方。
彼女は私を見て、にやっと笑うとぺこっと頭を下げた。
「よろしくお願いします、石川梨華さん。」
「な、何で・・?」
どうしてここに、よっすぃがいるの?!
- 124 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:07
- 「吉澤、石川の隣に座れ。」
「はい。」
思考回路がぷつんと止まってしまった私の横にすとんとよっすぃは座った。
はっとして、私は動かない頭をなんとか稼動させ、回らない口を無理やり開けた。
「あ、あの、どういうことですか?すみません、ちょっと付いていけてないっていうか。だって、よっすぃは・・半年後に卒業して、新ユニットを作るって・・。」
一週間ほど前、よっすぃが半年後に卒業するということが発表されたばかりなのだ。
発表前に私は本人からそのことを聞いたのだけど、このことに関しては何にも言ってくれなかった。
「・・新ユニット?もしかして私との・・。」
「お、石川鋭いなぁ。」
つんくさんもよっすぃもいたずらっぽく笑っている。
- 125 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:07
- 「実は、石川とオーディションで受かったやつで新ユニットを組むって話してから数日後、吉澤が俺のとこに、履歴書持ってきたんや。」
「履歴書?」
「自分をそのオーディションに出させてくれってな。志望動機なんてストレートすぎやで。石川梨華とユニットを組むため、なんて。」
「だってそれしかなかったんですって。」
少し照れたような声。
「しかも、吉澤、石川のパートナーは自分しかいないって俺の前で言い切りよった。」
そんなことがあったなんて、全然私知らなかった。
- 126 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:08
- 「確かに石川と吉澤はベストだと思う。ただな、石川がモ−ニングにいる頃、二人を比べたら、石川の方が断然前にいっていた。ユニットを組むなら、吉澤自身も石川と並ぶくらい成長してなあかん。それに二人をバラバラにすることもそれぞれの成長には必要だと思った。近くにいれば自然と頼ってしまう。だから一度離れることが大事だと思った。だから吉澤には、俺がよしと思って、卒業を認めたときに石川と組ませるって言った。」
「あたしもさ、梨華ちゃんが卒業する頃の自分じゃ、全然だめだって分かってたんだ。でも、自分以外の人と組むなんて考えられなくて。だから、ダメもとでつんくさんに掛け合ったんだ。」
「よっすぃ・・。」
「吉澤は俺の想像以上にサブリーダーも務め上げたし、大きくもなってくれた。今がちょうどいい頃だと判断して、卒業を決めたんや。」
- 127 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:08
- 「よっすぃ、卒業するって連絡してくれたときや、いつもメールしてたのにどうしてこのこと言ってくれなかったの?」
「う〜ん、驚かせたかったから。」
相変わらずのよっすぃの性格に私は苦笑いするしかない。
「まぁ、そういうわけだから。けど、まだ半年あるからな。それまで、吉澤はモーニングで、石川は美勇伝で今まで以上にパワフルになってくれよ!」
「「はい!」」
- 128 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:09
- つんくさんと別れ、私はよっすぃと二人きりになった。
「びっくりした?」
「そりゃぁ、びっくりする決まってるじゃない。・・でも、うれしかった。」
「梨華ちゃん。」
「ののとあいぼんは二人でユニットなのに、私はよっすぃとじゃないなんて。」
拗ねた口調の私の頭をよっすぃはよしよしと撫でる。
それからにかっと笑った。
「何はともあれ、これでユニット組めるからいいじゃん。」
「そうだけど。」
そうして二人、見合わせて笑った。
- 129 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:10
- 「卒業してから会うの、久しぶりだね。」
「そうだね。意外に仕事でも会わないし、オフはお互いずれてるし。まぁ、メールや電話はしてたけどさ。」
実は、娘。にいた頃よりもメールの回数は増えていたりする。
「梨華ちゃん、この後の食事なんだけど。」
昨日のメールで、夕方は仕事がないって伝えていた。よっすぃもないということで久しぶりに二人で食事をしようって。
食事の前に会うとは思ってなかったけれど。
- 130 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:10
-
「実はさ、辻と加護も仕事入ってないんだって。だからさ。」
よっすぃがぐっと親指を立てる。
「ほんとに!」
「ちゃんと待ち合わせ場所と時間を決めてあるから。」
「もう、よっすぃ大好き!」
私はぎゅっとよっすぃに抱きついた。
よっすぃも私のことを抱きしめてくれた。
「二人にうちらのユニットのこと発表しようぜ!」
「うん!」
「実はあたし、もう一つやりたいことあるんだよね。」
よっすぃを見上げると、彼女の目はキラキラに輝いていた。
「何?」
「それはね・・。」
- 131 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:11
-
私の耳元でこっそりとよっすぃは大きな野望を明かしてくれた。
「Wとうちらのユニットでツアーするんだ。」
そんなステキな夢を私達は絶対に叶えてみせる。
- 132 名前:ステキな夢 投稿日:2004/08/10(火) 23:12
-
END
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/10(火) 23:17
- 妄想が暴走。
勢いだけで書きあげてしまいました。
今日、美勇伝のことを知り、ほんの少し、よく分からないけれど、ショックを受けました。
みなさまはどうお考えなのでしょうか・・。
めちゃくちゃな関西弁はお許しください。
感想などありましたらぜひ。
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/19(木) 11:17
- 自分もこういう夢をわりと思い描いてます。
作者さんアリガトウ。
お話の中とはいえ夢が叶った気がしました。
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/22(水) 10:00
- 最後の1レスにやられた。
すばらしすぎる夢だ。
作者さん乙です!
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/08(金) 18:47
- うわー、なちごまがある。うれしー。
他のも面白いです。
- 137 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:26
-
<<天使の贈り物>>
- 138 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:28
- * * * * * * * * *
生まれ変わっても、私はあなたを見つける。
だからその時は・・・。
* * * * * * * * *
- 139 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:29
- 今年もあと何時間で終わってしまう。毎年思うことだけど、一年あっという間だったなぁって思う。
今年は十代最後の年。
だからいろんなことにチャレンジしてみようって自分なりにがんばってみた。
勉強はもちろんのこと、テニスサークルにも力をいれたし、バイトだって気合入れて働いた。
資格を取ろうと思って、教職の単位もとり始めたし、これからは国際化の時代と思って、英語検定も受けた。
去年は一人暮らしを始めた最初の年だったし、大学に入学したばっかりだったから、あまり家のことをなまけてて、料理とかもしなかったのだけど、今年はちゃんと炊事もした。
最初は黒焦げになって見るも無残な姿になってしまってたものも一年間やってれば人前に出せるくらいになった。
他にもいろいろとやってみたけど、一つだけ心残りがある。それは、恋愛ができなかったこと。
今年は彼氏を作ろうと思って、初めて合コンに行った。でも、正直、あまり楽しくなくて、もう行く気にはなれなかった。
出会いがないのは、女子大っていう環境のせいなのかしら。うーん・・。
- 140 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:30
- 時計を見ると、二十二時になっていた。私は慌てて家を出る準備をする。
外に出るとあまりの寒さに思わず、巻いていたマフラーに顔を埋めた。
天気予報では雪が降るっていっていた。まだ空から天使の贈り物は届けられていない。
親友の柴ちゃんと一緒に十二時きっかりに初詣に行こうってことになって、私は柴ちゃんの家へ向かう。電車で三駅だからそう遠くはない。今日はこのまま、柴ちゃんちにお泊りということになっている。
都心とは反対行きの電車は空いている。都心行きの電車はカウントダウンを楽しむ人達が大勢乗っているのか結構混んでいる。大きめのトートバックを持っていたから座れてよかった。
ガタンゴトン・・・
静かな電車。電車ごと一緒に来年まで行ってしまいそうな変な感覚。
来年で私は二十歳になる。大人の仲間入り。タバコもお酒も誰の目も気にすることはない。
正直、実感は湧かない。十九歳から二十歳になって、今日から大人ですよって言われて、そうそう分かるものなんだろうか。
・・・来年は何かいいことあるかな。あるといいんだけど。
- 141 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:31
- 柴ちゃんちに着くと、なぜかテーブルの上に一升瓶が置いてあった。
「どうしたの?」
「こないだ姉ちゃんが持ってきたやつ。置いてみたら正月気分になるかと思ったけど、失敗した。」
少しは正月気分を出してみたかったんだけどねぇって柴ちゃんは苦笑い。
とりあえずその一升瓶は部屋の隅に置いて、私は柴ちゃんの淹れてくれた紅茶をすする。
「ほんと外は寒いね。」
「雪降るんだっけ?」
「うん、そうみたいなんだけど、まだ降ってなかったよ。」
つけっぱなしのテレビには赤い着物を着た有名な演歌歌手が映っている。
「今年も梨華ちゃんとかぁ・・。」
「何?嫌なの?」
「そうじゃないけど、うちら今年も恋人はできなかったなぁって。」
「・・そうだねぇ。うちら男運ないのかもね。」
「笑えないね。」
「うん。」
- 142 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:31
- そろそろ神社に行こうということになって、二人揃って外に出る。
「めちゃくちゃ寒いじゃん。」
「だって十二月だもん。」
「そりゃそうだけどさぁ。」
ホッカイロ持ってくればよかったとぶつぶつ柴ちゃんが言っているその横で私は空を見上げる。まだ雪は降っていない。
「梨華ちゃん、大丈夫?」
「何が?」
「何か疲れてない?」
「まぁ、バイトとかで忙しかったけれど・・。」
「あまり無理しちゃダメだよ。」
「うん、ありがとう。」
- 143 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:32
- 最近変な夢を見る私。
私(だと思う)は白い病室に一人ベッドに寝ている。
私の命はそう長くないことに私自身気づいている。
カタカタと風で鳴る窓の外にはお決まりのように一本の大きな木。けれど葉っぱは一つも残っていない。
その病室に毎日のように私に会いに来る人がいる。顔はぼやけていてよくは分からないのだけど、その人は私の恋人のようだった。
十二月になって初めてその夢を見たとき、やけにリアルだなぁと思った。細かい会話とかもしっかりと覚えていて、すぐに忘れてしまう私には珍しいことだった。
けれどもこの夢を頻繁に見るようになってからは、何て縁起の悪い夢だろうってすごく怖くなった。
もしかしてもうすぐ私は死んでしまうんじゃないかって。これは正夢なんじゃないかって。
そんな状態だったから、顔にも出ていたらしい。あまり気にはしないように心掛けてはいるのだけれど。
- 144 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:33
- 神社に着くと、すでに長い行列が出来てしまっていた。
混んでいると分かっていても、毎年こうして並んでしまう。
クリスマスの日に街に出かけるかのように、真夏の日に海に行くかのように。
コートを着込んでいても寒いのは変わらない。みんな無意識に体を丸くしている。
吐く息は白い。すぅーっと空気に吸い込まれていく。
私は空を見上げる。星は少ししか見えない。
隣の柴ちゃんが寒そうに両手をこすり合わせてるから、私はあたたかい飲み物でも買ってくるよ、と列から離れた。
私達の後ろにもずらっと人が並んでいた。
みんな来年を心待ちにしている。考えてみれば、明日になるだけだというのに。
昨日から今日になるのと、今日から明日になるのは同じようで違うのだから不思議だと思う。
- 145 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:34
- 自動販売機の明かりは他の明かりよりもまぶしい気がする。
それはどの明かりよりも人工的な強い白い光。だからすぐに見つけ出せるのかもしれない。
シャッターの閉まっているお店の横にちょこんと置いてある小さな自動販売機へとゆっくりと歩いていく。
コートのポケットからサイフを取り出して、中から小銭を取り出す。そして、お金を入れようと手を伸ばした時、同じようにお金を入れようとしている白い手が見えた。
『色白のあなたが羨ましかったのに、今は私の方が白くなっちゃったね。』
突然浮かんできた言葉。何かで頭を殴られたような衝撃を感じて、伸ばしていた手を自分の額に持っていく。
チャリン・・ピッ・・・ガチャガチャン・・・
すっと目の前にココアの缶を差し出されて、私は顔を上げた。
- 146 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:42
-
* * * * * * * * *
お願い。もうここには来ないでほしいの。
どうして?
・・・あなたのことが・・嫌いになったから。
嘘だ。
嘘じゃないわ。
じゃあ、僕の眼を見て言ってよ。
・・・・。
やっぱり・・。どうしてそんな嘘言うんだよ。
だって・・・。
僕は最期まで君と一緒にいると約束したはずだよ。
・・・でもね、このままだと私・・・言ってしまいそうで怖いの。
言うって何を?
- 147 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:43
-
あなたを束縛してしまう言葉。私はそんなこと言いたくない。
私がいなくなった後、あなたには私のことなんて忘れて幸せになってもらいたいの!
・・・君が隣にいないのに幸せになれるはずないよ。それに君を忘れることなんてできない。君は僕が愛したたった一人の人なのだから。
・・・・。
泣かないでよ。君を泣かせるために言ったんじゃないよ。
話してほしい。君が僕を束縛する言葉。僕にとってそれは本望だよ。
・・・後悔するわ。
後悔なんてしないよ。聞かなかった方がきっと悔いが残る。
・・・私・・・。
・・・・・・。
・・生まれ変わっても、私はあなたを見つける。だからその時はまた・・・。
僕はまた君を愛するだろう。どこにいたって僕は君を見つけてみせるから。
大丈夫。心配しないで。
・・・・・。
・・僕だけじゃないな。君の来世も僕の言葉で束縛してしまった。
・・私にとってもそれは本望だわ・・。
* * * * * * * * *
- 148 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:44
-
「やっと見つけたよ。」
やさしい瞳で見つめるその顔は遠い日に見た記憶のあるもので。
「会いたかった。」
私の頬に触れるその白い手はかつて何度も私を撫でてくれたもので。
「梨華。」
私を呼ぶ落ち着いたその声は確かに私が愛したものだった。
はらりと白い小さなものが舞い落ちてきて。
雪かと思ったそれはふわふわとした白い羽。
遠くでぼぉーんと鐘の音が聞こえる。
新しい年と共に、今、私の恋も始まる。
- 149 名前:天使の贈り物 投稿日:2004/12/31(金) 02:45
-
END
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/31(金) 02:56
- 四ヶ月ぶりの更新。
相変わらずの駄文ですが、年内にできてよかった。
>134 135 136 名無飼育様
読んでくださってありがとうございます。
これからも細々と書いていけたらと思いますので、ぜひまたよろしくお願いします。
- 151 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:44
-
<<graduation〜旅立つ君へ>>
- 152 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:45
-
「笑顔で送ってあげるよ。」
君が「私の卒業ライブ、泣いちゃうんじゃないの〜?」なんてからかうたびにそう言ってたあたし。
君が「私がいなくなったらさびしい?」と訊いてきたら「さびしいはずないじゃん。」なんて笑い飛ばしたあたし。
その後に見せるほんのかすかなさびしげな顔の君。
うそ、そんなのうそだよ。さびしい決まってんじゃん。
でも素直になれないあたしは強がってばかり。
こうして彼女も一緒に輪になって気合入れをするのも最後。
「がんばっていきまっしょい!!」
なぜかその一言に涙が出そうになって。
あたしは慌てて上を向いた。
時間が経つにつれて彼女との最後が増えてくる。
避けることのできない運命のとき。
あたしと彼女が一つのグループにいたということは過去の思い出になってしまうのだ。
- 153 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:46
- 卒業発表からあっという間の一年だった。
初めてそのことを告げられたとき、あたしはまるでどっかの国の知らない言葉を聞いたかのようだった。
『ライネンノハルイシカワガソツギョウシマス』
マネージャーかスタッフか誰かが言った言葉にあたしはすぐには反応できなかった。
一人きりになって涙が溢れてきて、そしてようやく理解ができた。
・・信じられないよ、今日であたしと梨華ちゃんが別々になってしまうなんて。
辻と加護のときもそうだった。
二人がいなくなって初めて卒業してったんだって実感した。
何かが足りない。丸い心は三日月のように欠けてしまって。
二人がそれだけあたしの支えになってくれていたか分かった。
そして今日、彼女がモーニング娘。から旅立つ。
あたしは一人、四期最後のメンバーとしてここに残るんだ。
- 154 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:46
-
みんなが彼女に話し掛けている。
ハイタッチするメンバー。
泣きそうになってるメンバー。
肩を組んでるメンバー。
抱きついてるメンバー。
そんな風に寄ってくるメンバーに笑顔で声をかけながらも立ち止まることなく彼女が歩いてくる先はあたしの前。
すっと左手を差し出して「行こう。」と笑って言うから、あたしはがしっとその小さな手を掴んで、彼女に負けじと笑顔を作った。
あたしの手を握る彼女の手が少し強まった。
- 155 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:47
-
舞台裏へ向かう二人の間にはしっかりと繋がれているあたしと彼女の手。
手を繋ぐことなんて何年ぶりだろう。昔はよく繋いでいたのにね。
なんかさ、変に意識するようになって恥ずかしくなっちゃったんだよ。
二人の間に会話はない。
それは決して気まずい沈黙ではなくて。
手から手へと伝わるここちよい温度が今のあたし達の気持ちを表している。
- 156 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:47
-
半歩前を歩く君の華奢な背中。
いつもあたしが君の手を引いていたと思っていた。
あたしの後ろを君はついてきていたと思っていたのに、いつの間にかあたしの手を離れて一人でどんどん走っていってしまって、原石からダイヤモンドに変化するように輝いていった。
君の背中が遠くなって改めて彼女とあたしの差を感じ、自暴自棄になったこともある。
それと同時に彼女があたしの前でよく泣いていたことが遠い過去のように感じて、もうあたしの役目は終わったのかなって悩んだ時期もあった。
けれど、たまに頼ってくる君に愛しさを感じて、勝手にあたしの役目は君を支えてあげることだなんて自惚れて。
- 157 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:48
-
飯田さんや圭ちゃんによく相談している彼女は甘え上手。
でも負けず嫌いだし、強がりなところもあるから、本当の、底にある苦しみは話すことだできなくて。
そんな部分をあたしにはほんの少しだけ見せてくれる。
ちゃんと知ってるよ、君があたしを信頼してくれてるってこと。
だから他の人には見せることのできない弱い部分を、あたしだって君に見せることができるんだ。ほんのちょっとだけどね。
お互い分かってる。
全ての弱い部分をさらけ出してしまったら、相手に依存してしまうってこと。
だから「ほんの少し。」それがとてもちょうどいいんだ。
どちらかが前を歩くとか、そんなんじゃなくて、肩を並べて歩いていく。
ときにはあたしが手を引っ張って、そして梨華ちゃんもあたしをひっぱってくれる。
それが二人にとってのベストな関係。
一緒に五年間がんばってきてたどり着いたあたし達の答え。
- 158 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:48
-
あたしは梨華ちゃんの横に並ぶ。
これからもあたしの隣は君で、君の隣はあたしでありたい。
ここがお互いの特等席なんだと信じていたい。
お互いの代わりなんて誰も出来ないのだから。
- 159 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:49
-
あたし達は立ち止まる。
上手行きと下手行きの別れ道。
上手から出る君と下手から出るあたし。二人目が合う。
「がんばろうね。」と言って、梨華ちゃんが手を離したその瞬間、あたしは彼女の腕を掴んだ。
「!?」
驚きの表情の中にとまどい、不安げなまなざしが揺れている。
そんな彼女をあたしはぎゅっと抱きしめた。梨華ちゃんが小さく息をのむ。
あたしは今、梨華ちゃんに伝えたいことがあるんだ。
これからも彼女に伝えていきたいことはたくさんあるけれど、今、このときに。
あたしは小さく深呼吸して言った。
- 160 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:49
-
「明日になってもあたし達の関係は変わらないよ。いつだって繋がっているから。」
・・梨華ちゃんの手がゆっくりとあたしの背中にまわった。
「・・・ありがとう、ひとみちゃん。」
久々にあたしのこと、名前で呼ぶのを聞いたからかな、ちらりと見えた梨華ちゃんの顔が一瞬加入当時の彼女の顔とだぶって。
彼女はとても変わったけれど、変わってない部分ももちろんあって、そして君への想う気持ちもやっぱり変わってなくて。
きっとこれからもそれは変わることはない。
- 161 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:50
-
あたし達はゆっくり離れる。
名残りおさげに、相手のぬくもりがなくなってしまったことにせつなさを感じながら。
でもお互いの目には笑顔の相手が映っていて。
『カンバロウネ』
アイコンタクトなんて二人の間じゃ、しょっちゅうだもんね。
上手へ向かう君のしゃんとした後姿を見送って、そしてあたしも下手へと向かう。
二人、別の道を歩いたとしても目指すゴールは同じだよね?
- 162 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:50
-
舞台袖に着くと、目についた隅の方の二人の姿。
下手でスタンバイしている田中と麻琴が何だかそわそわしているから。
あたしは二人の間に入ってぐっと肩を組む。
「諸君、今日は最高のライブにするぞ!」
ぱぁっと二人の顔が笑顔になって、「「はい、サブリーダー!」」
よし、いい返事だ。
さて、あたしもそろそろライブモード全開にしますか。
君との最高のライブを楽しむために。
すぅーっと深呼吸。
ドクドクドク・・・・
自分の鼓動が大きく聞こえる。
- 163 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:51
-
会場のライトがすっと消えた。
溢れんばかりの歓声。
・・・梨華ちゃん、卒業おめでとう。
そして、これからもよろしく。
- 164 名前:graduation〜旅立つ君へ 投稿日:2005/01/19(水) 11:52
-
END
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/19(水) 11:54
-
* * * *
- 166 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/19(水) 11:55
- 梨華ちゃん、誕生日おめでとう!ということで。
内容はありきたりな卒業ものですが。
明日は矢口さんの誕生日。なにか書けるといいんだけどなぁ・・。
- 167 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/04(水) 21:45
- 少し時期は前の設定で。
<<鏡ごしのあなた>>
- 168 名前:鏡ごしのあなた 投稿日:2005/05/04(水) 21:45
-
今日も私はカワイイ。
・・・でも、あのヒトの方がもっと・・・。
- 169 名前:鏡ごしのあなた 投稿日:2005/05/04(水) 21:46
- 私は鏡をじっと見つめる。
それは日課というか、くせというか、とにかく一日に何回も、多いときは何十回もしてしまうこと。
最初はみんな、「よく見るねー。」と驚いていたり、笑っていたりしてたけど、今では当たり前のことのように、何も言わなくなった。
かえって、見てないときに「今日は見てないじゃん。」といわれる方が多くなった。
目的はもちろんカワイイさゆを見るため!
でも最近・・その目的がずれてきてるんだよね・・。
鏡の角度をゆっくりと変え、自分の顔の右側にスペースを開ける。
うん、ばっちり。・・・今日もカワイイなぁ・・。
辻さんと小川さんと何やら楽しそうにはしゃいでるあのヒト。
その姿を見るとこっちまで何だか楽しくなってくる。
あ、藤本さんが近づいてった。何かつっこまれていて・・・少し怒ってる?
でも、そんな怒ってる顔もカワイイんだぁ・・。
本当はさゆもあんな風に話してみたい。
でも今は・・鏡ごしに見つめるだけで十分・・・。
- 170 名前:鏡ごしのあなた 投稿日:2005/05/04(水) 21:47
- そもそもどうして私があのヒトを見つめるようになったかというとれいなが原因だ。
れいなが石川さんファンなのは知ってたけど、あるとき、「私が一番カワイイよね?」って訊いたら、「さゆより石川さんの方が絶対かわいい。」なんて笑ったんだ。
それが何だかむっとして、石川さんのどこがいいんだって観察するようになって・・・そしたら・・・恋しちゃってました、てへ。
それ以来見つめちゃってるんだけど、ある日、自分の顔を鏡で見てたら、石川さんの姿が鏡に映ったのを発見したんだ。
いつも見ていたかったけど、しょっちゅうだとバレると思って、なるべく見ないように抑えてはいたから、これなら・・って思って、今では石川さんを見るために鏡を出すようになった。
石川さんの困った顔、怒った顔、心配そうな顔、一生懸命な顔、疲れてる顔、もちろん笑顔も、私は鏡からたくさん見てきた。
そのたびに胸がきゅんっってなるんだよねー。
- 171 名前:鏡ごしのあなた 投稿日:2005/05/04(水) 21:47
- ん?!
気のせい?何か今、石川さんと目が合ったような・・。
アレ?!
何か石川さんの顔がだんだんと大きくなっているような・・。
「今日も鏡見てるね、さゆ。」
ぽんっと肩に手がのって、はっと顔を上げると、そこには鏡ごしじゃない石川さんが・・。
「あっ、石川さんっ・・。」
突然のことで私が慌てていると、石川さんは、「今日もかわいいよ。」って笑って言った。
(チャーミースマイルだぁ・・!)
「いっ、石川さんの方がカワイイですっ!!」
私はうれしいやら、恥ずかしいやら、訳分からなくなってつい言ってしまった。
- 172 名前:鏡ごしのあなた 投稿日:2005/05/04(水) 21:48
- 「「え?!」」
その声は隣からも聞こえた。
「さゆが自分以外の人のことをかわいいだなんて・・何かあった?」
さっきまで一人雑誌を読んでいたれいなが目をまんまるにして、珍しいものを見るように私を見ている。
失礼だなぁ、さゆだって褒めたりするよ、ま、石川さん限定だけどね。
「なんかうれしいな。」
目の前の石川さんはふふって笑う。
あー、なんかそのふわって笑う感じ、かなりさゆ、好きかも。
「さゆがそういうこと言ってくれるなんて思わなかったから驚いちゃった。」
「そうですかぁ?」
石川さんにならたくさん言っちゃいますよぉ!
- 173 名前:鏡ごしのあなた 投稿日:2005/05/04(水) 21:48
- 「石川さんはかわいい。」
隣のれいなが石川さんを見上げて言う。ちらりと見ると、視線に気づいたれいながにやりと笑う。むっ。
「石川さんはカワイイです!」
「すっごくかわいい。」
「超―カワイイんだから!」
「マジでかわいい。」
「めちゃくちゃカワイイ!」
れいなと私が言い合っていると、二人の肩にすっと手が置かれた。
見上げると、石川さんは怒ったような困ったような照れたようなそんな顔をしていた。
「私のことからかってるの?」
「「違います!」」
れいなと声がはもって、石川さんは顔が少し赤くなった。
「そんなに言われると照れるからやめて・・。」
- 174 名前:鏡ごしのあなた 投稿日:2005/05/04(水) 21:49
- 「石川と道重いる?」
がちゃりとドアが開いて、マネージャーが顔だけ楽屋を覗き込んだ。
「あ、はい・・。」
石川さんが返事をしたので、私も「はい。」と返事をする。
「ちょっと会議室に来てくれる?」
私と石川さんは顔を見合わせると、すぐに楽屋を出た。
パイプイスから立ち上がったとき、ちらりとれいなの顔を見たら、何だかつまらなさそうにしていたことを思い出すと、ちょっと勝った気分になった。
- 175 名前:鏡ごしのあなた 投稿日:2005/05/04(水) 21:49
- 私と石川さんは並んで廊下を歩く。
なんかうれしいなぁ・・なんて。
ちらりと石川さんの横顔を盗み見。
「ねぇ、さゆ。」
「はっはいっ?!」
急に声をかけられて声が上がってしまった。見てたのばれっちゃった?!
そんな動揺している私に気づくことなく、石川さんは私の方を向いてにっこり笑った。
「今日もし暇なら、帰り、一緒にごはん食べよっか?」
「・・・はい!!」
誘われちゃった!誘われちゃった!
自分からはあまり誘えないって言ってた石川さんがさゆを誘ってくれたの!
石川さんはすっと私の手を握った。
どきっとしたけど、うれしくて、私も握り返す。
そうして来るように言われた会議室へ向かって歩き出す。
この後に起こること、このときの私は知るよしもなかった。
まさかすっごくうれしいニュースが待っていたなんて。
石川さんと私のユニット。他の人じゃない、私とのユニット。
- 176 名前:鏡ごしのあなた 投稿日:2005/05/04(水) 21:50
- これからもどんどんあなたと一緒にいたい。
あなたのこと、もっと知りたい。
でも、今は。
こっそりあなたを見てもいたい。
だから、明日も鏡を見ます。
大好きなあなたを見るために。
- 177 名前:鏡ごしのあなた 投稿日:2005/05/04(水) 21:50
-
END
- 178 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/08(日) 17:41
- エコモニいいね。
二人がすごくかわいらしかったです。
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