ジョギング
- 1 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:17
- 圭ちゃんからメールがきた。
タイトル:「久しぶり」
ああ、圭ちゃんらしい。実に。
- 2 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:17
- 私が芸能界を引退するということを知ったとき、圭ちゃんは心配してくれたんだろう。
かつて私が娘。を卒業することになったとき。その実態は「卒業」という言葉のもつある種清々しいイメージとはずいぶんかけ離れたものではあったけれど、
「紗耶香が自分で納得しているのなら、私はなにも言わないけど」
圭ちゃんはそう言っただけだった。
- 3 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:18
- いつだって、そうだ。彼女は自分の言いたいことを心のうちにしまいこむ。
かつてテレビで喋れないキャラだったのは、彼女が本来持っている奥ゆかしさというか謙虚さみたいなものがそのまま出ていたわけで、最近のやたら弾けたキャラというのはその裏返しみたいなものだ。
彼女のその本質を最初から理解していたのは、同期である私と、矢口だけだったろう。
- 4 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:18
- 「久しぶり」。そのメールのタイトルがどれだけ考えられたあとにつけられたのものか、私には容易に想像することができた。そして、このたった四文字に、どれだけの意味が込められているのかも。
いつかのセリフ・「私は何も言わないけど」。
「けど」、圭ちゃんは言いたいことはたくさんある。
そして・「久しぶり」。
いろいろ言いたいことがありすぎて、とりあえずの前置きなのか、あるいは敢えて的を外してなのか。分かるのは、私が引退を発表した当日に、久しぶりに送ってくれたメールのタイトルが本当に「久しぶり」なのは、ひどくそぐわないものだということだ。
- 5 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:19
- メールの内容を見る気にはなれなかった。
圭ちゃんは優しい。私は泣くに決まっている。
ここしばらく、自棄な気分が続いている。
芸能界から引退することを「本当に」決めたのは、私だったろうか?周りだったろうか?答えは両方だ。そのことに疑問はない。
なるべくして、なったということだ。
未練はある。後悔もある。でも、ほかに道がない。
- 6 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:19
- ただ。
私が復帰したとき、心から祝福してくれた人たちは確かにたくさんいた。身近なところにも、ファンの人たちも。
その多くの人たちの気持ちを裏切ることになったのは、申し訳ないと思う。
そしてなにより、復帰した当時の私が、現在この状況・こんな私を知ったら、
ひどく失望するだろう。
私自身の気持ちも裏切ったということだ。
こんなとき、誰に謝れば私は本当に許されるんだろう。
分からないから、すべてがいやになる。
- 7 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:19
- 夜。
携帯が鳴った。
液晶に表示される発信者は、案の定。
「メール、読んでないでしょう」
最初の一言がそれだ。
「さすが。なんでわかったの?」
「『夜、電話』って書いてあるだけのメールよ。読んで、もし紗耶香が電話したくなかったら携帯の電源切ってるだろうし、電話したかったらもうちょっと早い時間に電話をくれるでしょう?もう夜中の1時だよ」
もうそんな時間か。最近、時間が早く流れている。
- 8 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:20
- 「で。引退するんだって?」
圭ちゃんは単刀直入に切り込んできた。その口調は冷たく感じられるほどに感情が抑えられていた。
「うん。決めたんだ。ごめんね、圭ちゃん」
「なんで謝るの?誰に謝ってるの?」
「悪いと思ってるから。圭ちゃんに謝ってる」
ああ、こんな受け答えはよくない。圭ちゃんを怒らせてしまう。
言いながら私はそう思った。でも止められなかった。私は圭ちゃんに怒られたかったのかもしれない。
- 9 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:20
- 「・・・・・」
なのに圭ちゃんは怒ってくれなかった。自宅の部屋からかけているんだろう、圭ちゃんの沈黙の背後に、心地よいピアノ・ソロのBGMがかかっている。
そのピアノの旋律を、私は黙って聞いていた。なんだか心が安らぐ、気がした。
「私は、」
圭ちゃんがふたたび口を開くまでにどれくらい時間がかかったろう。数秒だった気もする。数分だった気もする。ピアノを堪能していたにしては、どちらにせよ、思いのほか短い。
「私は、・・・・」
でも、そこから言葉が続かないようだった。
ああ。圭ちゃんを悩ませている。
- 10 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:20
- 「もう、いいよ。圭ちゃん。また今度、ゆっくり話をしよう」
お互いに出したい感情がある。でもそれを言葉にできない。言葉では表現できない。すこし時間が必要だと思った。クールダウンさせる時間が。
なのに、圭ちゃんは、
「それはだめ。それだけはだめ」
許してくれなかった。なにがだめなんだろう?お互い言葉にならない気持ちをどうにか口からひねり出そうと、無駄に苦悩しているこの時間を終わらせることはいけないことなんだろうか?
「今じゃなきゃだめなのよ!時間を置いちゃだめなの。紗耶香、いまあんたは、なにをしている?」
唐突な質問をされた。
- 11 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:20
- 「いま・・、」
「『いま、圭ちゃんと電話をしている』?」
「あ。正解」
「ふーん。もう一度質問するけど。いま、あなたは、なにを、していますか?」
圭ちゃんの真意がいまいち汲み取れなかった。どう答えれば正解なんだろう?
「いま、私は、・・・」
答えに窮する。「無職です」とでも言えばいいだろうか。
- 12 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:21
- 「それは、紗耶香の悪い癖ね」
「悪い癖?」
「そう。悩んでいるくせに、それをはぐらかす。悩んでいないふりをする。悩みを悟られそうになると茶化す。自分ひとりで悩みたい。それはある種ヒロイックだけど、同時にバカね」
圭ちゃんは、やっぱり怒っていた。
「バカ・・ですかい・・」
「そう。あんたはバカよ。どうしようもないくらいバカ。勝手に娘。を卒業して、やっと復帰したかと思えば、今度は引退。バカね。大バカ。・・・これが世間一般のイメージ」
「・・・うん」
ただ、黙って聞いていようという気になった。
- 13 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:21
- 「バカだと思われることぐらい、分かるでしょう?で、あんたは『それでもいい。私の本当の気持ちは別にあるけど、今は何も言わずに身をひきます。みなさんごめんなさい。そしてありがとう』そんな自分がすこしは好きだったりするんじゃないの?違う?」
「・・・・・・・・・」
「なんで全部出さないの?悩みがあるなら言ってくれないの?なんですべて一人で背負い込んでしまうの?抱えて生きるのがそんなにかっこいいとでも思ってるの?」
圭ちゃんの声は、すこし涙声だった。
- 14 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:22
- 私は何も言えなかった。言わなかった。
圭ちゃんの言葉が耳から入り、私のなかに注がれていく。その言葉に私は洗われていくような気がした。
圭ちゃんの言うことに反論することも異議を唱えることもできる。けど、しない。したくない。聞いていることが、心地よかった。このまま、私は携帯と一体化して、ずっと圭ちゃんの声を聞いていたかった。
心から心配してくれることが、どれだけ嬉しくて・切ないことか、私は初めて知ったような。
- 15 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:22
- 「昔話をしよう」
圭ちゃん流のお説教が延々と続いたあと、突然お題目が変わった。
「昔話・・・?」
「そう。昔話。私と紗耶香が一緒にいたころの娘。の話。もっと昔でもいい・・・。そう、娘に加入した当時の話」
「・・・ふふ。圭ちゃん、あの時はおとなしかったのにねえ」
「あの時『は』ってどういうこと?」
いつのまにか、私は考えるのをやめていた。昔話が楽しかった。
- 16 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:23
- 「圭ちゃんさあ、いつからそんなキャラになったっけ?」
「んー、覚えてないけどねぇ・・そうだなぁ・・」
「変わったよね、圭ちゃん」
ふいに、電話の向こうの空気が変わったのが分かった。
「紗耶香・・・あんたは・・・変わんないね・・・」
それがいい意味なのか悪い意味なのかは知らない。
- 17 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:23
- 「それじゃ、そろそろ切るね。もう遅いし・・って、うわ!五時半?!・・・うそ!外明るいよー!あー今日も仕事なのに!それじゃ紗耶香、がんばれよ!」
しばらく他愛のない話で盛り上がったあと、
電話は圭ちゃんの都合で一方的におしまいになった。
携帯を床におく。ずっと同じ体勢で喋っていたので腰がすこし痛い。
- 18 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:23
- 立ち上がってカーテンをひく。空がすこし白みはじめていた。
私はそのまましばらく、徐々に明るくなっていく街並みをぼんやりと眺めていた。
こんな早朝に、ジョギングしたら気持ちよさそう。
そう思いついて、クローゼットをかきまわす。
見つけたのは、水色のジャージの上下。
いってこよう。
- 19 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:24
- 早朝の澄んだ空気と静寂のなかをジョギングするというのは実に爽快だった。これは発見だったかもしれない。
道中、小さな公園のベンチに腰をおろす。
背もたれに体をあずけて空を仰ぎ見る。もうすっかり明るくなっていた。
ふと。家に鍵をかけてくるのを忘れていたことに気がついた。
- 20 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:24
- 腰をあげて、家へとって帰す。公園を折り返し地点にして帰ろうと思っていたので、ジョギングの道程には影響がない。
要は、気持ちの問題だ。
鍵を取りに帰るのではなくて、そんなことは忘れてこのジョギングを完走するのだ。
- 21 名前:須賀 投稿日:2003/11/25(火) 04:26
- 短編用ということで、短いですが。
暇があったらまたここに書き込みます。
オムニバスで、つながりのない話になるでしょうが。
- 22 名前:名無し 投稿日:2003/12/02(火) 14:35
- 良いです。
静かに時間が流れてゆく感じ…。
次回も楽しみにしています。
- 23 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/03(水) 23:23
- リアルだ・・・。
ほんとにこんなやりとりがあったかも、なんて。
また、お話作ったら読ませてください。是非。
- 24 名前:須賀 投稿日:2003/12/05(金) 14:10
- >>22
>>23
ありがとうございます。こんな感じの話が続くわけではありませんが。
お気に召すと幸いです。
- 25 名前:須賀 投稿日:2003/12/05(金) 14:11
-
戯曲「黒子無(ほくろなし)」
- 26 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:12
- 或るアパルトメントの一室。緋色の壁と紫紺のカアテン。
ベツドの中に伏して眠つてゐる女あり。名は保田圭(やすだけい)と云ふ。
不意に鉄を打つやうな轟きあり。保田、跳ね起きて目覚まし時計を掴む。
- 27 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:12
- 保田 あゝこれでは仕事に間に合わぬ。
(厠にこもりそののち支度をして室から出やうとするも、ふと鏡に目をとめて立ちどまる。)
保田 けふの顔は何処か妙なものがあるな。
(仕事の時間は押しせまるゆえ、気に留めず玄関から飛びだす。)
- 28 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:13
- テレビ局の入り口にて、保田、警備服に腕章といふいでたちの男に呼びとめらる。
男、訝るやうな顔つきで保田に詰める。
男 失礼のやうだが、ここから先は関係ならぬものは通ることまかりならん。
(保田、怒気の色を顕にして男をねめつける。)
保田 私は保田圭。これから番組の収録が有るのだ。関係ないとは何事か。
男 しかし、そちは保田圭ではないやうだが。
保田 失礼なこと。私の顔をよく見るがいい。誰が見ても保田圭である顔ではないか。
(男、しばし黙る。)
男 成る程、確かにやうく見ると保田の顔だ。見れば見るほど保田ではないか。
保田 ならば私がここを通ること邪魔できぬはず。仕事に遅れたらだうするのだ。
男 むゝ、これは妙なことだ。なぜこの保田の顔を一目見て私は分からなかつたのだらうか。
保田 やい、やい、こん畜生。いいから私を早く通せ。
- 29 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:13
- 楽屋に向かううち幾人かが不可思議な顔をして保田の顔を見る。
保田 ははあ、これは私が見紛うほどの美人になつたので人が混乱してゐるのだらう。
(上段にモウニング娘様、下段に保田圭様と書かれた貼紙が貼つてある楽屋の前に着く。)
保田 皆と仕事をするのは久しぶりであるなあ。
(保田、扉を開ける。部屋の中に大勢の若い女子がゐる。長身の飯田、幼い安倍、低い矢口、黒い石川、男のやうな吉沢、痴児の辻、豊満な加護、訛る高橋、軟体の小川、泣きそうな紺野、眉毛が新垣、怖い藤本、また怖い田中、狭い亀井、自賛の道重、彼女たちはモウニング娘と云ふグルウプである。)
- 30 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:13
- 保田 やあ皆、久しぶり。美しく生まれ変わつた保田圭様であるぞ。
辻 やゝ、これはおかしな人が入つてきた。
矢口 部外者は帰るのだ。
飯田 加護、マネイジヤアを呼んでこい。珍妙な人が珍入してゐると云へ。
加護 はい。直ぐに呼んできます。
- 31 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:14
- 保田 ちよつと、おまへたち冗談にも程があるということを知らぬのか。
吉澤 私達はおまへを知らぬ。
保田 私は保田であるぞ。忘れたとは薄情ではないか。
安倍 下の子どもが怖がるゆえ帰られよ。保田とはそのような顔ではないぞ。
保田 えゝい、よく見よ。私が保田でなくて誰が保田であるか。
- 32 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:14
- 石川 なるほどこれはよく見ると保田ではあるまいか。
飯田 石川なにを云つてゐる。これは保田ではない。気狂いであるぞ。
保田 気狂いなどであるものか。そちもよく見るのだ。
飯田 なるほどこれは保田である。気狂いではなく保田ではないか。
安倍 そちこそが気が狂ったか。これは保田ではない。物の怪の類であるぞ。
保田 いい加減気づかれよ。私は保田であると申しておろう。
安倍 なるほどこれは保田の顔ではあるまいか。物の怪ではなく保田に相違ない。
- 33 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:15
- 保田 まつたくなぜに皆分からぬのか。
紺野 保田には黒子が顎にあろう。この保田にはそれが見当たらぬ。
吉澤 そうか。それで直ぐには分からなかつたのであろう。
高橋 成る程。さういうことであつたか。
小川 成る程。それならば安心である。
藤本 それよりも困つたことに、下の子らがびつくりしてさつきから泣いておる。
新垣 わあゝん。
亀井 わあゝん。
道重 わあゝん。
田中 うおゝん。
保田 おまへたち、私を見て泣くやつがあるか。
紺野 やあ、これは困つた。さらに泣き出したぞ。
- 34 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:15
- 飯田 しかしなぜに保田の黒子が無くなつたのであらうか。
保田 心当たりなぞない。今朝、目覚めたら既になかつたやうである。
安倍 無くなつた黒子は何処へ行つたのであらうか。
保田 それは私も甚だ疑問であるところよ。
(部屋のドアが開く。若い男が入つてくる)
男 失礼する。保田圭殿、先にピンで録りを頼むとのことである。
保田 分かつた。
男 おまへは誰だ。
保田 保田である。黒子がないが、私は保田であるぞ。
- 35 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:15
- 男 あゝ、これは失礼であった。しかし黒子がないとは奇怪な。さては罰でも当たつたか。
保田 こんな馬鹿げた罰があるものか。だいいち私は罰など当たることはしておらん。
男 まあよい。兎に角、来て頂こう。収録の前に皆に説明せねば誰も保田であると気づかぬであろうがな。
(保田、男に連れられて部屋を出る。閉めた扉に貼つてある張り紙を再び見る)
保田 むゝ、これは一体だういうことだ。よく見ると「モウニング娘。」の名前が「モウニング娘.」になつてゐる。これは一体だういうことだ。これはひょつとして、私の黒子ではないのか。
- 36 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:16
- 撮影を終えて保田が部屋に帰つてくる。部屋の中にはまた大勢の女子がいる。なにやら血相を変えている。
保田 おまへたち、この楽屋の張り紙を見たか。
矢口 分かつている。今、携帯でインタアネツトを見てみたら、私たちの名前が、何処を見ても「モウニング娘.」になつてゐる。新聞のテレビ欄もさうであつた。他にも色々調べたが、私たちの名前はもう「モウニング娘.」に取って代わられてしまつたやうであるぞ。
保田 あゝ、私の黒子がそんなところにまでいつたのか。私の黒子が変えてしまつたのか。
飯田 これは保田に悪いことをしたのかもしれぬ。
保田 そちはなにか心当たりがあるのか。
飯田 いつだつたか忘れたが、メンバアの皆で話をしたことがある。まだ保田がいてくれたらいいのにと。どんな形であつても、保田がいてくれれば心強いのにと。
保田 おまへたち・・・。
(保田、顔を伏せて泣く。)
- 37 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:16
- 飯田 私たちの願いが、このやうな形で叶つてしまつたのかもしれぬ。保田の黒子だけが私たちと一緒になつてしまつたのだ。望んだ形ではなかつたが、これは私たちの願いだつたのだ。
保田 ありがたう。私は嬉しいぞ。おまへたちがそこまで私を思つていてくれたとは。この保田、嬉しいぞ。たとえ黒子だけであつても、私はいつまでも一緒だ。いつまでも「モウニング娘.」なのだ。
- 38 名前:黒子無 投稿日:2003/12/05(金) 14:17
- 飯田 されど、私たちはこんな名前は嫌なのだ。黒子が一緒だなどと考えると気持ちが悪いのだ。
保田 この期に及んでなにを云ふのか。私の黒子はどうなるのか。
飯田 必要がないゆえ、改名するしかないであろう。
保田 ならば私の黒子を返せ。私の黒子を返せ。すぐに私の黒子を返すのだ。
(保田、泣きて倒れる)
−−−幕−−−
- 39 名前:須賀 投稿日:2003/12/05(金) 14:18
- ちょっと悪乗りしてみました。
旧仮名使いは適当なので、つっこまないでね。
- 40 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/05(金) 23:24
- >狭い亀井
なんだかよくわかんないけどワラタ(w
- 41 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:55
-
「ふたりで」
- 42 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:55
- 辻と加護の卒業の話を聞いたときには、そりゃもう驚いた。
いつまでも手のかかる妹のような、いや、この際言ってしまおう、娘のようなふたり。まだおいらはそんな年じゃないのに、母性本能を散々くすぐられてきたふたりが、卒業してしまう。
- 43 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:56
- はたして大丈夫なのか?あのふたりはやっていけるのか?おいらが目を光らせていないと何をするかわかったもんじゃないのに・・・。いろいろ思うところはある。
だけど。誰かの卒業というものに、正直、慣れてしまっている自分がいる。出て行くメンバーのことももちろん考えるけど、残るメンバーのことも同時に考えてしまう。年長組の性だ。
ましておいらはサブリーダー。おいらがうろたえちゃ、下の子たちに示しがつかない。こういう時こそ、おいらがしっかりしないと。泣いてる場合ではないんだ。
- 44 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:56
- 「笑顔で送ってやろうよ」
「まだもうしばらく時間はあるんだからさ」
「それまでは、思いっきりがんばろう」
落ち込んでいる下の子たちに声をかける。過去に何度も経験して学習した、こういう時の常套句だ。
おいらは、どこか冷めている。
- 45 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:57
- で、冷めている私は「その後」の娘。本体のことを考える。いや・・・ちがう。「その後」のアイツだ。アイツのケアを怠ると大変なことになりそうだ。なにせ、アイツは娘。のリーダーだ。
- 46 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:57
- 「のんちゃんとあいぼんが卒業したあとのことを考えてたんだ」
圭織がぼーっとしていた。目が合って開口一番、そう言った。
奇遇だね。おいらも、似たようなことを考えていたんだ。でもちょっと違うんだ。おいらが考えていたのは、ふたりが卒業したあとの、圭織のこと。
- 47 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:57
- 圭織もきっとおいらみたいにふたりに母性をヤられたクチだろう。辻は圭織の直々の弟子(?)だし、加護はかつてのタンポポで散々手を焼いた。それはおいらもだけど。
「なんかさー、・・・・なんていうんだろうな、寂しいよね」
「うん・・・寂しいね」
おいらと圭織の寂しさは、たぶんほかのメンバーのそれとはちょっと違う。「後輩に先を越された寂しさ」。ごっちんが卒業したときも、そうだった。
いやなわけじゃない。もちろん祝福すべきことだ。でも、ちょっと、やっぱり、寂しいんだ。それがあのふたりなら、なおさらだ。いっぺんにふたりなんだから、なおさらなおさらだ。
- 48 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:58
- 圭織は大丈夫なの?
口にしかかって、やめた。そんなふうにおいらに気をつかわれることを、圭織はきっと嫌う。
おいらは、たぶん、大丈夫。そりゃあ悲しいし寂しいけれど、圭織も知ってるでしょ?おいらの性格。「前しか見ない」。きっと、乗り越えられるんだ。乗り越えなきゃ。
でも、圭織は、どうなの?
そんなことでうじうじしてられないよ、って言うかな?
カオリはリーダーなんだから、って。口では言うだろうけど。
- 49 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:58
- 「なっちも卒業しちゃうし、私たちふたりだけ取り残されちゃうね」
「そうだね。・・・がんばろうね」
「うん。がんばらないと。カオリはがんばるよ」
そう言って、圭織は微笑む。
おいらは、ずいぶん強くなったけれど。圭織は、はたしてどうなの?
- 50 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:58
- リーダーの資質というものがある。
かつての裕ちゃんは、「まとめる」リーダーだった。もって生まれた性格というものもあるんだろう。時には強引すぎるリーダーシップで、娘。をひとつに見事にまとめあげてくれた。
圭織の場合は、違う。「まとまる」リーダー。一生懸命、娘。のために尽くそうとしている圭織を見て、メンバーたちが圭織のもとにまとまるんだ。
- 51 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:58
- ・・んー。これじゃあ圭織の力不足みたいじゃないか。ちがうな。
圭織はブナの大木。メンバーはカブトムシ。おいらたちメンバーは木陰の心地よさと幹から溢れ出る樹液に引き付けられて、自然とそこに集まるんだ。そしてそこは、とっても居心地がいい。圭織の大木じゃなきゃ、だめなんだ。
よし、きれいにまとまった。
- 52 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:59
- でも。
この大木は、集まるカブトムシが減るととっても落ち込む。もっとおいしい樹液をあげといたらよかった。もっと葉を茂らせて涼しくしてあげられたんじゃないか。大木のくせにやたら神経質だ。
なのに、
「ふたりのこと、応援してあげなきゃ」
そんなことを言ってしまうおいらの目の前の大木には、誰かが刃物で刻んだいたずら書きのようにはっきりと「やせがまん」の文字が刻み込まれていて、最古参のカブトムシのおいらにはそれが見えてしまうんだ。
- 53 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:59
- 「リーダーだからって、なにもかも背負い込むことはないと、・・・思う」
だからこらえきれずに言ってしまう。
「・・・・・・」
そして圭織はやっぱり黙ってしまう。言わなきゃよかったと後悔する。
- 54 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 03:59
- お互い様でしょう」
しばらく経ったあと、圭織は言った。
「ヤグチはヤグチなりに、ヤグチにしかできないことを背負っているわけでしょう?だからこうしてカオリに話をしに来てくれたんじゃない?」
それは、図星だ。さすがリーダー、すべてお見通しだった。
「・・・・・」
今度はおいらが無言になった。
- 55 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 04:00
- 「心配してくれてありがとう。でもね、ヤグチ。私はヤグチが思うよりも、たぶん、ちょっとは強くなってる。でも、それでもちょっとだけ足りないときもある。ヤグチもそう。のんちゃんとあいぼんのことで頭がいっぱいになってる下の子たちの世話とか、全部ひとりでこなそうとしちゃ駄目だよ。私もいるんだから。自分ひとりだけが、しっかりしようとなんて思わないで。ふたりで、しっかりしよう。ふたりで、一緒に」
圭織らしい言い方だった。
そうしておいらはやっと、泣いた。
- 56 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 04:00
- おいらはサブリーダーだ。だから何だ。
泣いたらいけない、なんてこともないだろう。
今はとりあえず泣こう。圭織と一緒に。
そして十分泣いたら、他のメンバーをまた励ましに行こう。
辻と加護も元気づけに行こう。
また泣きたくなったら、圭織のところへ来よう。
- 57 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 04:00
- おいらたちふたりは、まだまだ、弱いのかもしれない。
だから、まだまだ、泣きたいときはある。
- 58 名前:須賀 投稿日:2004/01/09(金) 04:03
- ちょっと間があきましたが。
敢えて、残るふたりの話。
>>40 ゴロッキーズネタらしいですよ。私も直に見たわけではないのですが。
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/29(土) 00:01
- 面白かったです。
こういった、「普通」の作品は書くのがむずかしいとも思うのですが。
次も期待しています。
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