追憶のブルースカイ
- 1 名前:名無し石 投稿日:2003/11/29(土) 16:32
- れなさゆです。
よろしければどうぞ。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:33
- リノリウムの階段がカンカンと威勢よく響いた。
息ついている暇なんてない。
後を来る人のことなんか気にもしないで、あたしは上だけをみて駆った。
外の冷えた空気と体の内側から来る熱気が合わさって張り詰めた緊張があたし達を包んでいた。
「道重さん!病院の中ですよ。」
スタッフの声が後から引き止める。
でもそんなことなんてあたしは構いやしない。
「でも、待ってますよ。きっと。」
あたしは笑っていた。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:35
- ヘビー級の大遅刻だった。
これだから東京の道路は困る。
この街は昔に比べて何も変わっちゃいない。
交差点には人と車があふれてる。
東京人が順番なんてモラルを持ってなきゃ途端に乱闘騒ぎだろう。
かくいうあたし達も、
「渋滞だ。しょうがないね」
なんて平静を装いながら、実は番組の撮影予定から1時間半も経過しているのだ。
笑って自分を許せるのも東京の街が為せる技か、はたまたあたしの性格に問題があるかは良く分からないけど。
「さぁ、行きますか?」
あたし達は目的の病室を前にして遅刻して罰の悪い顔を確認しあった。
とりあえず先頭のあたしが軽くノックをして部屋のドアをあける。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:37
- 「日本テレビです。遅れて本当にスイマセン。
あたし、女優をしてる道重さゆみです。」
中でりんごの皮を向いている女の人が見えた。
あたし達を見ると慌しく包丁を置いて本当にうやうやしく礼をした。
続いてちょこんとベッドに座っていた男の子がぺこりとお辞儀をした。
ほっとした和やかな空気が病室を包む。
「お世話になります。日テレですけど誠に申し訳ございません。今回、お子さんの遠藤優君と女優の道重さゆみさんの特集を24時間のチャリティー番組で企画してましてね。」
さっそく番組のディレクターが話しに入った。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:42
- あたしは一息つくと部屋を見回した。
病室はきれいに整頓されていた。
清潔にしかも整然と立ち並ぶ机、椅子、花瓶、風景画の入ったカレンダー。
中のもの全てが健全な美しいものに見えた。
そしてベッドの真横に貼られている一枚の小さなポスターに目が止まった。
空気が止まって思わず息を呑む。
壁に貼ってあるその人物は「田中れいな」のだったのだ。
れいなは、あごに人差し指をつけて自慢そうにいつものポーズだ。
この人は、写真でだってどこだって圧倒的な存在感を見せる。
あたしは思わず頬が緩んだ。
すぐ側にいた優君もあたしに何も話さずにゆっくりと微笑みかけていた。
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:44
- 「12番の道重さゆみです。」
ちょうど10年前、あたしは、モーニング娘。のオーディションを受けていた。
凍えるような日だった。
後は、何を言ったか分からない。
足はがくがくして崩れ落ちそうだった。
その頃あたしは、一人では何も出来ない子だった。
歌うことはおろか笑う事だって無理だったかもしれない。
そんな女の子が一大決心で人気絶頂だったモーニング娘。に入ろうと決めたこと自体、自分にとっては拍手喝采ものだった。
その娘。のオーディションで生まれて初めてあたしは東京の土を踏んだのだ。
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:45
- 東京会場の大きな楽屋みたいな部屋は、地方を勝ち抜いた何百人もの女の子が集まっていた。
あたしは、周囲のあまりの声の大きさとあまりの化粧の匂いにくらくらして今にも倒れそうだった。
それだけじゃない。
他の子達はあたしの何百倍も可愛くて、きらびやかな服を着て自信に満ち溢れていた。
ついそれに見とれていると、少しはあった自信も余裕も吹き飛んでしまって、あたしは人ごみの中にただ唖然と立ち尽くしていた。
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:47
- その時あたしの落ち着かない目がある女の子を見ていた。
その子は、海賊の絵の入った真っ黒なTシャツを着ててするどい眼光を放っている。
だぼだぼのズボンを履いていて男みたいにあぐら座りをしていた。
真中に寄った丸い瞳は、いつも先を見越している冷たい装いだ。
可愛いけど怖い。
一瞬目が合ってひねくれた薄ら笑いをあたしに向けてくる。
馬鹿にされたようなそれでいて、恐ろしい感覚。
「早く家に帰りたい。」
あたしは、その子を見て正直そう思った。
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:48
- そうこうする間に面接後の歌のテストが近づいていた。
練習しないと。
課題曲の入ったテープをセットしイヤホンをつける。
周りは他人なんかには一切構わず歌の練習をしていた。
自分と他人が隔絶されている気がした。
何も知らない大都会で山のように集まってる女の子達の中であたしは縮こまるばかりだ。
そしてプレイヤーのスイッチに手をかけた瞬間だった。
ものすごく大きな携帯電話の音が鳴った。
あたしはまたびくっとして思わず音の方を見る。
例の女の子が携帯を持って歩いてる。
あたしは顔を左右に振った。
- 10 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:51
- 「人になんて流されてたら駄目だ。」
あたしは、蝕まれた感覚を再生するようにSTARTを押した。
ところがテープはうんともすんとも再生しない。
あたしは何度も何度もスイッチを押しつづけた。
何故か脂汗まで出てくる。
「ロックかかっとるんじゃなかと?」
どこか聞きなれた訛りのある声が聞こえた。
見るとあの黒いTシャツの少女がまた戻ってきていた。
「やっぱそうとね。」
少女はそう言ってひょいとあたしのウォークマンを取るとロックを外した。
そして挨拶にもなってない笑顔をあたしに向けると、
さっさと元の位置に戻ってまたどっかり腰をおろした。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:52
- あっけにとられたあたしは、唖然としてその子を見た。
少女は、また時おりあたしに笑顔を見せたり、
またあたしが歌うのを見て馬鹿にするように笑ったりした。
あたしは、「不愉快極まりない女」だと思った。
とげとげしい笑顔とはまさに彼女にふさわしい。
そしてその言葉をその子に与えて自分の恥かしさとか怖さを打ち消そうとしていた。
こんな大都会に出てきてたっぷりと緊張する面接と歌の試験。
そんな最中で余裕しゃくしゃくなのが信じられなかった。
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:54
- 歌のテストは思ったとおりあいつのせいでぼろぼろだった。
歌ってて気付いたわけじゃない。
何となく苦笑気味の審査員のおじさん達からそう思えたのだ。
それでも「やっと帰れる」という安堵の思いであたしは、帰り支度をした。
見るとあの嫌味な子もテストが終わってさっさと自分の荷物をまとめあげていた。
周りになど目もくれる様子はない。
黒い帽子をかぶりでっかい袋を肩にかけ、独りで立ち去ろうとした。
その時あたしは単純に悔しかったのだ。
その子に携帯のことで文句の一つでも言ってやろうかと思った。
こっちからまた話しかけることでさっきの「お返し」ができると思った。
どこかでそいつと自分は同じ。
同じ度胸と余裕を持ち合わせていると思いたかった。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:56
- 黒い少女は急ぐでもなくゆっくりと廊下を歩いていった。
話しかけるタイミングがとりづらい。
適当な距離をとりつつあたしは彼女をつける。
不良っぽい風貌から途中で煙草でも吸うのかと思っていたけど
そういうわけでもなさそうだった。
そうこうする間にビルの出口の近くになって急に廊下の角を曲がった。
あたしは急いで後を追った。
突然、自分の肩に手が置かれる。
振り返ったらほっぺたに人差し指があたった。
いつのまにかあいつが後ろにいた。
鳥のように真っ黒な瞳があたしを見ていた。
「あんた、どっから来たと?」
突然発せられた質問にあたしは身構えてる余裕はなかった。
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:58
- 「あ、あたし?あたしは山口県から。」
動物的な少女の勢いにあたしはどぎまぎした。
「のどこ?」
「宇部じゃけど。」
「あぁ、空港あるとこっちゃね。」
少女は高笑いをした。
「あなた・・・あんたはどっから来たん?」
あたしはやっとのことで聞き返した。
「さぁ。どっからきたとやろ。」
少女はうれしそうに笑う。
「九州。福岡?」
「ばれたか。やっぱ近くやけんね。」
その言葉はあたしがよく聞く博多弁だからすぐに分かった。
福岡の親戚のおじさんがよく話していたし、
クラスにも福岡の言葉を使う子は何人もいて特に珍しい言葉でもなかった。
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 16:59
- 「あたしと話しばしたかったと?」
「誰が。あんたなんかに。」
あたしは、即座に答えた。
「だってずっとあたしの後ろついてきよるけぇそう思ったんよ。いる?あたしのサイン?」
「何であんたのサインなんか。」
「有名になったら簡単に手に入らんとよ。」
不愉快。この少女は好かん。あたしの中に嫌悪感が取り巻いた。
「あんたみたいな不良がモーニング娘。になんか死んでもなれんのじゃけ。」
あたしは、さっきの仕返しとばかりに叫んだ。
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 17:01
- 「さゆみちゃんはなれると?」
「あたし?」
少女の言葉でさっきの下手くそな自分の歌のテストが甦ってきた。
さらに自分の名前まで言われて恥かしくて目から火が出そうになる。
あたしの受け付け番号と一緒に書かれている名前を少女は覚えていたのだ。
「さゆみは顔だけとね。ここまで残れたの。」
彼女は黒目をまじまじとあたしに向けて言った。
「顔だけ?」
「さゆみは可愛いけんここまで残れたと。だってさゆの歌めっちゃ下手じゃなかと?」
言葉でぐさっと刺された気分。
あたしは最も不安だったことをさらりと言われてしまった。
「他に言い方があるじゃろ。」
あたしが思わず口にした言葉で少女はアハハと笑った。
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 17:02
- 「ごめん。じゃけど〜、高橋愛さんば目標てちょい無理やなかと?歌めっちゃうまかよ。」
今度ははくすくすと小気味よく笑って彼女は言った。
あたしは、モーニング娘。の中で誰が目標と審査員に聞かれたのを思い出した。
「何?聞いとったん?」
「部屋の隙間から覗いてみとった〜。」
それを言うと少女は荷物を抱えて走り出した。
「もう!許せん!」
あたしは叫んだけどそれより早く彼女はビルの外にダッシュしていた。
「あたし、田中れいな!さゆ!また会おうね。」
- 18 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 17:03
- その時のれいなの言葉は澄んだ透明な力を持ってあたしに飛び込んできた。
もう会うことなんてない。
あたしはそう思っていた。
だけどれいなに出会って彼女が放つまっすぐな眼光が不思議な説得力をもってあたしに覆い被さっていた。
あたしの中のどこかでまたれいなに会うことを期待していたんだと思う。
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 17:05
- 「これ、田中さんのポスターだよね。」
カメラマンの伊藤さんが隣から顔を出した。
走って重い器材を運んできたからか肩で息をして病室の壁によりかかっている。
あたしは、それを見て申し訳なさそうに少しお辞儀をした。
「重ちゃんの番組だからなぁ。どうせだったら昔のモーニング娘。のポスターにしたらどうだろ。それだったら全員映ってるだろ。ちょうどここの位置カメラに映るんだよね。」
「え?でも―」
「あ、外そうなんて僕もそんなつもりはないよ。ただ撮影の時一瞬、一瞬だけ貼り替えればいいと想っただけだけだから。」
あたしがすぐに反論しようとしたから伊藤さんはすぐに議論を引っ込めた。
- 20 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 17:05
- 「しかし、これは結構古いポスターじゃないの?」
伊藤さんは、ポスターの横に手を置いて聞いて来た。
「はい。このれいなの髪型はデビューしてそんなに経ってない頃ですね。」
「すごいな。髪型だけでいつぐらいか分かるの?」
「はい。れいなとは同期でずっと一緒でしたから。何となく分かるんですよ。」
あたしはれいなの真正面に立った。
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/29(土) 17:06
- 今日はこれで終わります
- 22 名前:名無し 投稿日:2003/11/29(土) 17:16
- リアルタイムで読ませて頂きました。
れなさゆですか
期待してます。
- 23 名前:みっくす 投稿日:2003/11/30(日) 08:12
- なんか面白そうですね。
10年後の世界ですか。
実際の10年後はどうなってるんですかね。
- 24 名前:作者 投稿日:2003/12/04(木) 20:39
- >>22
>>23
レス多謝。
ご期待にそうように頑張ります。
本当は毎週土曜更新する予定でしたが今週は親戚の不幸がありでき
ません。来週なるべく早く更新しますのでよろしくお願いします。
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/06(土) 16:59
- スゲー面白そう。引き込まれた。
更新期待。
- 26 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:37
- あたしとれいなは、あれから東京にオーディションに来るたんびに出会いつづけた。
「さゆ〜!さっき写真撮るときにしとったぶりっ子ポーズも一回やらんと?」
「もうれいな、ぶちうるさい。人がどんなポーズとっても勝手じゃろ?」
れいなは相変わらず生意気だった。あたしが気にしてることをずばずばと言ってくる。
でも、あたしはれいなに会うために次の審査を受けていたような気がする。
れいなに会いたくて仕方なかった。
- 27 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:38
- そしてれいなにぐさりと刺されることであたしの恥かしさは薄くなっていき、
オーディションの緊張を少しは楽しめるようになっていた。
オーディションのれいなはあたしなんて比べ物にならないぐらいに強かった。
れいなの歌う前の瞬間、舞台に出る一瞬前の爛々と輝いた目をあたしは忘れることが出来ない。
- 28 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:39
- そしてあたし達はとうとう最後の合宿まで辿りついてしまった。
初めて親元を離れての合宿試験はそれだけであたしにとって相当過酷なものだった。
お寺合宿というだけであたしは、お坊さんの過酷な修行を連想していたあたしは、
もしもれいながいないと分かっていたら逃げ出していたかもしれない。
それでも滅多にないチャンスというのと
「あたしって結構可愛いのかも」
と勝手な自惚れキャラが育ちつつあってあたしはまた東京にやってきた。
- 29 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:41
- 「ダダダダ」
削岩機が冷たい空気をつんざくように音を鳴らしていた。
3月であたりはまだ寒かった。
果てしなく続く住宅街の一角に合宿のお寺があった。
森の中にある寺しか知らなかったあたしは、都会のまん真中にあるってことがものすごい違和感があった。
でもその寺院はひたすらに厳粛に静かにその佇まいを見せていた。
そのせいでテレビカメラとか何とかがたくさんあったけど緊張感が度を越していて気にならなかった。
とにかく硬直した気持ちをほぐすために誰かと話がしたかった。
「取材のせいで待ち合わせ出来んかったね。」
あたしがれいなに残念そうに言うと、
れいなはそんなことは気にもとめていないようだった。
- 30 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:43
- 「こげん注目されたらやる気もでると!」
そう言って爽やかな笑いを見せた。
充足したやる気に満ち満ちている。
久しぶりに見たれいなは陽光に照らされて輝いて見えた。
それに比べて無難に終わらせて早く帰りたいと思っている自分は随分かけ離れて感じた。
れいなは合宿当初からとても強気だった。
「絶対に一番になりたい。合格してやります!」
歌や踊りの先生を紹介された時にれいなはそう宣言した。
「でも、今回の合宿はチームワークとか団体行動みたいなものもちゃんと見られてるからね。」
そう先生に言われた時に
「はい。気兼ねしないで勝負できるメンバーなのでもう大丈夫です。」
とはっきり言い切って絵里とあたしはあっけにとられた。
- 31 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:44
- 合宿に来たのはあたしとれいなに加えてもう一人、絵里がいた。
絵里は東京出身の物静かな子であたし達よりも一個年上だった。
細いけどくっきりとした目と整った顔。
何となく振舞っている絵里の仕草に都会の雰囲気が漂っていた。
「東京の女の子」に憧れていたあたしは少し絵里がうらやましかった。
絵里は、細かいところによく気がつく。
朝から晩までのレッスンで疲れ果ててもはや夕飯を食べる気も失せてるあたしとれいなにご飯を装ってくれたりもした。
だからというわけじゃないけどあたし達3人はすぐに仲良くなれた。
- 32 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:47
- れいなは刀で人をズバッと切り捨てるような言葉をあたし以外の絵里には言わなかったし、
絵里なりに人の気にしてることをぐさぐさと言うれいなのことは理解しているらしかった。
だけど合宿中に一度だけれいなが絵里に噛み付いたことがある。
それは朝ご飯を食べる前、みんなで顔を洗っている時だった。
洗面所はお寺の庭にあって外の空気と蛇口の水が凍えるように寒かった。
「誰が合格してもいいじゃん。終わったら二人に東京を案内したげるよ。」
絵里はあたし達にそう言った。
それは、この合宿があまりにも厳しすぎてついてこれなくてもいいじゃんっていう
甘い気持ちもみんなを励まそうっていう気遣いも両方含まれていたと思う。
- 33 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:49
- 「うちらは、普通に出会ったのとは違うよ。」
れいなが低い声で答えた。
「こんなかで誰かが合格して誰かが落ちる。そんなんで3人で遊びに行けると思う?」
れいなが語気を荒げた。
「ごめん。」
絵里がれいなを見てすぐに肩を落とした。
「れいな、別にそこまで言わんでええじゃろ?」
あたしがれいなの肩をつかんだら風のように振り払われた。
それかられいなは何も言わずに踊り稽古の道場に走っていった。
- 34 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:49
- その日は、れいなにとって最悪の日になった。
踊りでは一番出来ていない。センスがないと言われ、歌唱ではレッスンを受ける態度が出来てない。
話にならないと言われていた。
まるで少し生意気なれいなが標的になっているようだった。
あたしと絵里はその前日にぼろぼろに言われていて落ちようもない底まで落ちてることが先生達に悟られていたのかもしれない。
- 35 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:50
- 夜、お寺の空気は布団をすり抜けて底冷えしていた。
闇の中を空気がじっと沈んでくる気がした。
隣で寝ているれいなは、泣いているのかもしれない。
鼻をすする小さな音がさっきまで聞こえていた。
「れいな。起きとる?」
あたしは絵里を起こさないようにれいなを見て言った。
暗闇の中でもれいなの目は深遠な光を帯びていた
- 36 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:51
- 「これは勝負やけん。誰が合格してもっていうわけにはいかんけん。」
れいなは、暗澹の中で声を出した。
「まだ朝のこと言っちょる?」
あたしは、少しあきれた。
「そのことじゃったら気にせんでええよ。絵里もそう言っとったし。」
しばらく沈黙が続いた。
「う・・うん。」
れいなの声が崩れたとはっきり分かった。
- 37 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:52
- れいなは何も言わずにあたしの布団に入ってきた。
そしてあたしのお腹の辺りで丸くなった。
「れいな〜」
呼びかけてもれいなは何も答えてくれなかった。
ただあたしの側でうずくまっている。
あたしは、れいながそのままいなくなってしまうんじゃないかって不安でずっとれいなを抱いていた。
その時に感じたれいなはとても、とても小さく感じられた。
- 38 名前:作者 投稿日:2003/12/09(火) 20:52
- 今日の更新を終わります。
また早いうちに更新します。
- 39 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:40
- 春になりあたしは新幹線に乗っていた。
れいなの実家に遊びにいくためだ。
あたし達3人は、結局全員モーニング娘。のオーディションに合格した。
あたしの出身地の山口と福岡は海で隔てられているけど近い。
新幹線に乗れば1時間もたたずに着いてしまう。
博多へ行くのは久しぶりだった。
あたしの家では大きな買い物をする時は、いつも博多まで車で行った。
日曜日に博多に行くって時は、いつも土曜日から気持ちがワクワクしていた。
どんなものが見れるんだろうって楽しみで仕方なかった。
小さい頃のあたしにとって都会といえばいつも博多だったのだ。
そんな町にれいなが住んでいることは正直うれしかった。
- 40 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:41
- すべるように電車は動いた。
あっという間に目的の駅に到着した。
電車のホームの隙間から真っ青な空が望いた。
駅を出て階段を上ると博多のビル街が開けて懐かしい感じがした。
「さゆ!よう来たとね。」
弾ける笑顔を見た。
待ち合わせの20分も前なのにもうれいなは来ていた。
れいなは真っ白な犬を連れていて、子供っぽいジーンズのつなぎを着ていた。
いつも真っ黒なれいなの服装しかあんまり見たことがなかったあたしは少し驚いた。
でもさらに驚いたのはれいなが連れている犬だ。
あたしぐらいだったらひと呑みできそうなぐらい巨大な犬だった。
そしてれいなは、自慢そうにそのおっきな犬をあたしに紹介した。
- 41 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:43
- 「へへ。すごいっちゃろ?ジョンっていうと。ジョンはでかいだけじゃなくてめちゃ賢いんだ。」
「へーえ。」
あたしは、ジョンを見ながらあまりの迫力に身動き一つ出来なかった。
でもジョンはあたしを見ても一度も吠えずにれいなに付き従っている。
大人しくしている雄大なジョンと小さなれいなを見るとまるでもののけ姫を見ているようだった。
ジョンに連れられてあたし達は歩道を歩き始めた。
左右に立つ博多のビル街が動き始める。
ホテルニューオータニとか福岡放送のテレビ局とかが建ち並ぶ中心街だった。
息を吸い込むと西日本独特の匂いがした。
- 42 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:44
- 「れいな、こんな中心に住んどるとは思わんかった。」
あたしは絢爛たる町並みに魅入られて言った。
通りにはぎっしりとビルが詰まっていてオフィスビルもデパートでもありとあらゆるものが揃っていた。
あたしの故郷だとそうはいかない。
こんなに人が集まっている街なんて山口県には一つだってないのだ。
「ううん。だけど一本中入ったら田舎だよ。それにさ、最近は中ががらんどうのビルもあるっちゃね。」
れいなが一つの建物を指差した。
あたしははっとなった。
通りに見えるデパートらしき巨大なビルが廃墟のように立っていたのだ。
- 43 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:46
- この建物には確か見覚えがある。
小さい頃に家族でよく行ったデパートだった。途端に子供の頃の記憶が甦る。あそこの洋服売り場の近くに子供の遊び場があって、絵本も積み木も何でもあってよく遊んだ。
「あそこ、潰れたんだ―。」
あたしにとってそれはショックだった。
まるで子供時代の大切な遊び場が工事で潰された感覚。いやそれ以上だ。
あのデパートは否が応でも倒産してしまった。
そこには数え切れないぐらいの人が買い物に来ていたんだ。
そして無限の広さがあって広大な楽しさがあたしを包んでいた。
そんなところがまさか潰れてしまうなんて。
- 44 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:47
- 「こっちなんてもっとひどいよ。まるでゴーストタウン!」
れいなは自嘲的に笑った。
あたし達は、角を曲がって商店街に入った。
とたんに時代が戻ったように風景が一変した。
背の低い店が建ち並ぶ。
確かによく見ると商店街も半分くらいがガレージを閉めたままだった。
「おっきな店も小さい店も今はこんな感じ・・・。」
途端にジョンが別の方向に走っていこうとした。
「ジョン!そっち行っても誰もおらんよ。」
れいなが、ジョンの首輪をひいた。
走りかけたジョンはすぐにれいなの方を向き直った。
- 45 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:49
- 「一時はようなった時期もあったんじゃけど・・・3年ぐらい前から東京のデパートやお店が来るようになって、滅茶苦茶に店立てたり勝手に閉めたりするから、よう商店街の人が困っとったんよ。」
れいなががら空きとなった商店街を見つめながら言った。
昼間から痛々しいぐらいにお店は閉まっていた。
だけど何故か「さびれている」というよりも静謐な感じがした。
閉店したお店の植え込みには、
はなみずきが胸が透くぐらい力強く白い花をつけていた。
花壇のフリージアがきちんと世話されていて整然ときれいな花を咲かせている。
この町にはアンバランスなぐらい生命力があった。
- 46 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:50
- れいなは、ジョンを連れてさらに商店街の奥地に入っていった。
家の軒下や玄関の垣根が密集して並んでいた。
狭い通りに密集した古い住宅街だった。
でもこっちの方が逆に人通りは多かった。
途中れいなは、「あら、れいなちゃん」とか
「こんにちは。」という商店街の人の言葉に元気よく答えながら歩いた。
「れいなちゃん、モーニング娘?になったっちゃ聞いたよ。すごいんじゃね。」
「おばさん。ありがとう。れいなすごいうれしかよ。」
れいなは、はにかんでうれしそうに笑った。
あたしは少し意外だった。
れいなは地元でもきっと小生意気な娘で通ってるに違いないと思っていた。
だからこんなに素直に受け答えをするれいなが可愛く思えた。
- 47 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:52
- れいなはずんずん商店街の路地裏を歩いた。
そしてある家の前でジョンは急に走り出した。
そして垣根を飛び越えて庭で一声吠えた。
そこがれいなの実家だった。
路地裏と言ってもこのあたりの家はほとんど商店街の裏手に門を構えているようで、大きな道路に面しているのはお店をやっている家がほとんどだった。
ジョンの声で、れいなのお母さんが「静かにしなさい。」と出てきた。
そしてまるで外国人でも来たように物珍しくあたしを見た。
- 48 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:55
- 「あなたがさゆみちゃん?あんたえらい可愛い子連れてきたね。」
れいなのお母さんが目を白黒させながらあたしを見ていた。
「もう、お母さんあたしの友達じろじろ見んといて。」
れいながあたしをかばうように言ってくれた。
れいながジョンを犬小屋に連れて行ってる間あたしは中に通された。
「れいなはねぇ。オーディション受けてる間、さゆちゃんさゆちゃんってあなたのことずっと言ってたんよ。」
お母さんはあたしを見てさも楽しそうに言った。
- 49 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:57
- 「芸能界なんてあたしみたいな田舎の人間にはようわからんくて。あたしは何でも博多でやれることが一番て思うとるんだけど・・・。こんなこと言うとってもしょうがなかね。れいなが決めたことば応援するしかなかけんね。」
「れいなのことよろしく頼むわね。さゆみちゃん。」
「はい。」
あたしは、お母さんの話す勢いに押されてしまった。
れいなの家は純日本的な作りで折れ曲がるように縁側が連なっていた。
途中板張りできしむ廊下を通ると畳の匂いに混じってニスの匂いがした。
- 50 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:58
- 「うちねぇ、人形ば作っとると。」
お母さんがそう言ってあたしをある部屋に手招きをした。
そして引き戸を開けると中にはセメントの壁に焼却炉ぐらいに大きな香炉が置いてある。
側の棚には無数の人形が置かれていた。
そのうち一つは武者らしき男の人が掘り込まれていた。
「きれい。」
細部がものすごく緻密でしかも機械的に作り上げた感じがしない。
「すごいですね。」
あたしが感動して振り向いたら、お母さんの横にれいなが来ていてにっこりと返してくれた。
「こいねえ、うちのお父さんが作ったとよ。」
れいなが自慢そうに言った。
- 51 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:59
- 「れいな、元々芸術家の生まれなんじゃね。」
「芸術家?あはは。家は、ずっと昔から人形作っとるだけじゃけ。」
れいなはうれしそうに笑った。
あたし達は、それから博多の街へ遊びに行って買い物してカラオケで思いっきり歌った。
「しーんじーることーさー。必ず最後に愛は勝つー。イエイ!」
れいながタンバリンを叩いてはしゃいだ。
オーディション以来あたし達は、楽しんで歌うなんて忘れていた。
- 52 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 11:59
- 歌ってうまくなって自分が成長するのは楽しかった。
だけど「技術やレベルなんて関係ない歌」なんてこの時が本当に久しぶりで、
無くしてしまいそうな感覚だった。
取り戻せたのはれいなのおかげだったかもしれない。
その時れいなの故郷の博多に来れたこと、そしてれいながずっとそばにいたことがものすごくうれしかった。
- 53 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:01
- ハロープロジェクトは、超巨大な空間だった。
真っ暗な中に雷のように明るい照明が行き来する。
そこに存在するのは、モーニング娘。だけじゃない。
メロン記念日、カントリー娘。にソロの後藤真希さん、松浦亜弥さんを含めると、総勢30人以上になる。
あたし達は6期メンバーはハロプロのコンサートに来ていた。
モーニング娘。に入る前、
「ハロプロに所属するってことはものすごく厳しい競争をするっていうこと、だから一瞬の気だって抜けないよ。」
といつも厳しく言われてきた。
そのことが今、眼前に広がってあたしは恍惚感と焦りに似た怖さを感じた。
- 54 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:02
- 初めてのハロプロコンのリハーサルだった。
あたし達と同じ6期の藤本さんがモーニング娘と振り付けを合わせていた。
「藤本さぁ、そこの振り付けだけ違ってない?あとは大丈夫だと思うけど」
「は?あってますよ。」
飯田さんの言葉に藤本さんは一歩だって引く態度を見せない。
「だって飯田さんの腕で調子を取るってやつですよね。それだったら―」
藤本さんはふざけてるわけではなく真剣そのものだった。
藤本さんはソロ活動をしていた上に年齢的には石川さんと一緒で全く新メンバーの雰囲気なんてなかった。
じゃあ、とりあえずそれでみんなで合わせようか。」
安倍さんがリーダーに助け舟を出して声をかけた。
- 55 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:03
- 舞台の袖で後藤真希さんが少しだけ姿を見せて、対面にいる吉澤さんに手を振った。
そして藤本さんの様子を見ておかしそうに笑った。
これが、数万人を相手にするコンサートのリハーサルの直前だ。
あたしだったら卒倒してしまう。
煌びやかな社会がそこにあった。
ハロープロジェクトに所属している。
そのことだけで世の中のアイドルの中心に立っている。
自信と余裕が満ち溢れて、あたしには中世の社交界の貴族を見ているようだった。
有名でさえあれば何でもできる。
舞台の情景はそう物語っているような気がした。
- 56 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:04
- 視線を壮美なる世界から戻すと、あたしは舞台の最後列にいて、隣でれいながじっと舞台を見ていた。
美しいれいなの横顔がシルエットのように浮かび上がった。
れいなは鋭い視線を対岸の舞台に向けていた。
「わかんない。」
れいなが一瞬首をふった。
「何が?」
「何?この余裕。」
れいなが言った。あんまりにも当たり前であたしは少しあきれた。
- 57 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:05
- 「そりゃあ先輩達は、コンサートなんて何回も経験してるからに決まっちょーじゃん。
早くあたしもああなりたい。」
「さゆ、本気でそんなこと思っとーと?」
「うん。」
あたしが答えるとれいなが表情を変えた。
「なれるとよ。あんなのだったらいつでも。」
れいなの口調が突き放した言い方だった。
れいなは、東京にやってきてから何故か機嫌が悪い。
そしてものすごくつっけんどんになる。
- 58 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:07
- 「ふん。いくられいなでもあんなすぐに踊れるようにはならん。れいなだって本気で後藤さんみたいになれると思う?」
あたしはれいなに言ってやった。
れいなのつきあいも長くなってきてあたし自身、慣れてるつもりではあったけど、それでも時には頭にくる。
「そーいうことじゃなかと。」
「どーいうこと?」
あたしは即座に言い返した。
れいなの言うことはさっぱり分からない。
「あぁもういい。」
れいなは、もう一度あたしを突き放すとまっすぐに前を向いてしまった。
絵里があたしの顔を覗き込んで「まぁ落ち着いて」の仕草をする。
あたしはどうしようもないねと絵里に返した。
- 59 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:08
- コンサート間の移動はバス移動が多くなっていた。
6期メンバーは一しきり最後の挨拶を観客にしている。
他のメンバーは連日のライブで疲れきっていた。
あたし達6期はダンスも歌もしてない。
だけどあたしはステージに立つだけで足ががくがくするぐらいだった。
けど藤本さんだけは常に余裕綽々だった。
普通に会話している時の空気と本番一秒前で全くテンションに違いがないのだ。
この人は大物だと子供ながら思った。
バスがパーキングで休憩をとった。
夜の田園風景に道路わきの街路樹が窓に映っている。
ほとんどのメンバーは出払っていた。
藤本さんが一人バスに残って街灯に照らされている樹木を静かに見ている。
- 60 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:09
- 「行かないんですか?」
あたしは、思い切って話しかけてみた。
藤本さんに話し掛けるのには少し勇気がいった。
何かにつけばっさりと物事をぶった切るこの人には少し怖い印象を持っていた。
「え?」
「外に。みんなと一緒に。」
「あぁ、何か眠くて。疲れたのかな。あたし達最後に登場するだけなのにね。」
藤本さんは少し笑って言った。
「藤本さんてモーニング娘。に入りたかったんですか?」
あたしは少し疑問に思っていることを口にしてみた。
- 61 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:10
- 「入りたかったよ。だってあたし昔、梨華ちゃんとかと一緒にオーディション受けてたもん。でも今から入るなんて思ってもみなかった。」
藤本さんは答えた。
「あたしソロやってる時は亜弥ちゃんとばかりつきあっててモーニングとは違う路線で売っていくんだ!ってずっと思ってた。くやしかったのかな。でもモーニング娘。はね。隠してたけどずっと目標だった。自分と同い年ぐらいの子がたくさんいてすごい輝いてたから。」
それからコンサートのことやつらかった仕事のことを少し早口で教えてくれた。
「早く踊りたいね。みんなと。」
藤本さんはつぶやくように言った。
その時、がたっと音がしてれいなが戻ってきた。
あたしと藤本さんが話しているのを見ると目をくりっとさせて不思議そうな表情をした。
- 62 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:11
- 「しッかしさっきの梨華ちゃんのギャグには凍りつくね。」
それから藤本さんは辛口の石川さん批評を始めた。石川さんのことになると少し話が長くなる。
「でも、あれでもね。ごっつぁんがいない今、モーニングの中心だからね。」
藤本さんは言った。
「やっぱり藤本さんも後藤さんのことはすごいと思うんですよね。あたしなんて絶対追いつけない先輩ですよ。」
れいなが急に話に入ってきて言った。
- 63 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:12
- 藤本さんの表情が変わったような気がした。
「あたしはごっつぁんはモーニング娘。なんてイメージはないな。確かにすごいのは認めるけど。ごまっとうを一緒にやった大切な仲間だよ。」
藤本さんの言葉はさらっとしていた。
がやがやと娘。のメンバーが休憩を終えてバスにのってきた。
「あれ、ミキティバスで寝てたんだ。」
矢口さんに話しかけられてあたしがふと藤本さんを見たらすでに寝息をかいていた。
- 64 名前:作者 投稿日:2003/12/13(土) 12:13
- 今日の更新を終了します。
- 65 名前:名も無き読者 投稿日:2003/12/14(日) 22:20
- なんだか引き込まれる文章ですねぇ(w
次も期待してます。
- 66 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/17(水) 12:02
- なんだかいい感じですw
10年後の世界が楽しみ。
- 67 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:23
- レスありがとうございます。勇気付けられます。
>>65
私は悪文家なのでそう言ってもらえると少しは自身がもてます。
>>66
何とか期待そえられるよう頑張らねば・・
- 68 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:24
- ツアー周りが一通り終わると、ついにあたし達も本当のモーニング娘。として扱われるようになった。
ダンスレッスン、振り付け、ボイストレーニング、CDの収録は全て同等にこなさなければならない。
ついにその時がやってきた。そんな感じだ。
今日は、都内のダンススタジオに集合しての初の娘。全体でのダンスレッスンだった。
新曲の振り付けがあるのだ。
あの「後藤真希」だって大泣きしながら通ってきた道だと聞かされてきた。
入りたては地獄の日々が始まるんだ。
あたしは、子供ながら薄々は覚悟していた。
- 69 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:25
- 「はい、じゃあ各自ウォーミングアップして〜!今日から6期加わるからみんなよろしくね。」
リーダーの掛け声が響いた。全員がめいめい返答する。
あたしはいつもの緊張感を崩せない。
絵里にしても同じことで、ただ一人大張り切りのれいながあたし達3人のバランスを保っていた。
れいなは、口を真一文字にきゅっと結んでまるで運動会のリレーの選手みたいだった。
そして念入りに体を動かし始める。
あたしと絵里も、おずおずとウォームアップを始めた。
まもなく石川さんと飯田さんがやってきて言った。
- 70 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:26
- 「もう、6期にもなれば事務所もつんくさんも一週間で全部覚えろとか無茶は言わないですよね。」
「そりゃあ、今まで何回も同じこと繰り返さないでしょ。5期の時は案外早く慣れてうまくいったし。」
飯田さんが答えた。
石川さんは、出来るだけあたし達を不安がらせないようにしてくれてるようだった。
「えっと、とりあえずあたし達のいつものやり方から教えよっか。」
飯田さんが言った。
「6期に何か教えるときはあたし外さないでよ。」
そこに藤本さんが二人の間に割り込んできた。
- 71 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:28
- 「何であんたに。美貴は先輩扱いだよ。あなたあたしと同い年じゃん。」
「えぇー!あたし何もできないもーん。いしかわせんぱーい。」
藤本さんはおどけて見せた。
余裕の表情を見ていると、この人に超えられない壁なんてあるんだろうかと不思議に思ってしまう。
「分かった分かった。じゃあ一緒に教えるからさ。」
「あたし達は、基本的には最初にある程度教えてもらったら当分各自で自主錬するんだよ。
後は出来るだけメンバー間でお互いにチェックし合ったりしてね。
で、最後にみんなで合わせて夏先生とかにチェックしてもらう。このやり方ごっつぁんが提案したんだけどね。
ポイントはいかに自分の個性を出していくかよく考えることだよ。」
「名づけてごっつぁん方式だね。」
梨華がにこりと笑って言った。
- 72 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:29
- 「あの子、可愛い顔していろんなこと考えてるんだね。あたし、ごっちんいる時に娘。に入りたかったな。」
藤本さんが言った。
「まあ、あたしに負けてオーディション落ちたんだからしょうがないでしょ。」
「ムカツク。石川梨華!」
「はいはい。二人とも分かったから。とりあえず、夏のコンサートまではこの新曲一曲しかないから。何とか乗り切れるでしょ。その合間に少しずつ古い曲も覚えていければね。」
飯田さんが二人を制止して説明を開始した。
6期のあたし達は真剣に聞き入っていた。
横から石川さんが「楽勝、楽勝」と肩をぽんぽん叩いてくれた。
「新曲1曲で振り付け17セットぐらいか・・・3週間もあるし、案外大丈夫だね。
あたしごっつぁんみたいに号泣して、もう出来ません!とか言っちゃうのかと思った。」
藤本さんが新曲の振り付けの表を見て言った。
- 73 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:30
- 「あんたがそうなったら首だよ首。ごっつぁんの時と全然、状況違うじゃん。ごっちんはね。たった1週間で11曲の振り付けと全曲のキー合わせをやったんだよ。」
石川さんが言った。
「知ってるよ。それをさせる事務所もどうかと思うけどね。」
藤本さんは拘泥なくそう言った。
そうしてじっと振り付けの表を見つめている。
「後藤真希」、この名前はモーニングに入ってからものすごくよく聞く。
後藤さんはもう娘。を卒業していたけど、まだモーニングにいるようだった。
「1週間で11曲ってそんなにすごいことなんですか?」
れいなが突然身を乗り出して聞いた。
「うん。ありえないよね普通。」
このときだけ藤本さんと石川さんが同時にうなずく。
- 74 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:31
- 「そりゃ、ごっつぁんだからね。田中、なる?第二の後藤真希。」
飯田さんも話に加わる。
「なりたいです。」
「じゃあ自分で切らないとね。髪の毛!」
騒ぎを聞きつけてか吉澤さんが突然現れて言った。
それを聞いて藤本さんと石川さんが同時に笑っていた。
- 75 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:32
- 振り付けもダンストレーニングもあまりきついものではなくて安心した。
新曲の「シャボン玉」一曲のみだったし練習期間も十分取れた。
石川さんの話だと3期や4期で相当無理をやらせてきて事務所側もそのへんの反省をしてやっているらしい。
だからスケジュール的にもきちんとマスターできて余裕があるように組んであるようだ。
「何か分からないことあったらあたしに聞いてよ。当分あたしが面倒見るからさ。」
石川さんは、あたし達の前で言ってくれた。
- 76 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:33
- 石川さんほどテレビの印象と実際に会ったときのギャップが大きな人はいない。
石川さんはテレビではみんなから突っ込まれまくっていじめられっ子みたいな印象を少しもっていた。
それに女の子っぽい服装も話し方もどこか頼りないイメージがあった。
でも実際の石川さんは全然違う。
言うことはものすごくはきはきしてて、後輩の指導はいつも買って出るし誰かを励ましたり気配りはものすごい利く人だった。
頼りになるリーダータイプでその辺は、飯田さんも認めていた。
「石川さん達の時ってモーニングに馴染むの大変だったんですか?」
れいなが石川さんに尋ねた。
- 77 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:34
- 「大変だった・・けど、先輩達の方がもっと大変だったと思うよ。
あたしは結構内にこもって悩んじゃうタイプだからさ。
馴染むってより自分ひとりで悩んでた。
でもそれに比べ美貴とか何なんだろうね。新メンバーであの態度だよ。」
「石川さんと藤本さんてすごく仲いいですよね。」
あたしが二人がいつも言い合いをしてるのを思い出して言った。
「あたし美貴に最初に喧嘩売られた仲だからね。ごっつぁんのことで。」
梨華は、ステージのはしで騒いでる藤本さんを見ながら言った。
- 78 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:35
- 「美貴とごっつぁんがごまっとうやってた時のことなんだけど。
一度、ごっつぁんがお腹は痛いし熱もすごい出て体調崩してた時、
振り付けに無理して来てたときがあったんだって。
美貴もまっつーも夏先生もみんな早く帰った方がいいって言ったんだけど。
その時ごっちんが言ったのが、もし、モーニング娘。だったら絶対一緒に踊ってくれるよ。
だったんだって。」
石川さんはゆっくりと話し始めた。
- 79 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:37
- 「その時は結局美貴がごっつぁんを家まで送ってあげたらしいんだけど。
その後、美貴ものすごい剣幕であたしに電話かけてきて。
モーニング娘。ってのは仲間を思いやることもできないのかってさ。
あんなに苦しんでるごっつぁんにいつも練習させてたのか!って。
あたしにだよ。言う相手だったら先輩の安倍さんも飯田さんもいるのにさ。
そしたら美貴のやつ、あんただって年上なんだからきちんと見てあげる義務があるはずだって言ってね。」
あたしは、藤本さんがそういう熱いことをする人には見えなかったので少し驚いた。
もっとクールに他人に接しているイメージだったけどそうではなかったのだ。
- 80 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:37
- 「でもそん時、何かあたしだけじゃなくて娘。を信頼してくれたごっちんもモーニング娘。も否定された気がして逆にすっごい腹が立った。美貴にどこにいるのか聞いたら都営線の何とかって駅の近くだって言うからあたしそこまで行っちゃった。そしたら今ではすっごい笑えるんだけどお互いものすごい形相で出会って、夜が明けるまで喧嘩してた。これが美貴と仲良くなったきっかけ。それまではただの知り合いだったんだ。」
「すごい出会いですね。」
あたしはそこまで仲間を思いあうハロプロってすごいんだなと正直に思った。
「美貴ってさ。気が強くて生意気なことばっかり言ってるけど結局すごく優しいんだよね。そこはあたしもすごい好きなんだ。」
石川さんの表情は自信に満ちていた。
- 81 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:38
- そういう強くて優しい気持ちが今のモーニングを作っているのかもしれない。
あたし達はずっと石川さんの話に聞きいっていた。
だけど何故かれいなだけまるで怒っているような不満があるような浮かない顔をしていた。
- 82 名前:作者 投稿日:2003/12/20(土) 11:39
- 今日の更新を終わります。
少し見にくいところがあるかもしれません。
すいません。
- 83 名前:作者 投稿日:2003/12/27(土) 16:20
- 今週は正月休みのため更新はお休みします。
1月の第二週の初めには更新します。
- 84 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/28(日) 02:57
- はい待ってます。
- 85 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:49
- 練習が終わった後、あたしとれいなは休憩のための楽屋に向かった。
れいなが早足で先頭を歩いている。
それにあたしが続き絵里が遠慮がちに最後尾をついてきていた。
- 86 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:49
- 「何?この雰囲気?まるで仲良しクラブ?」
れいなの口調は自分が機嫌が悪いですよと言ってるのと一緒だった。
「仲良しクラブって?」
あたしはれいなが何を腹を立てているのか分からなかった。
「競争するなんて意識、全然ないじゃん。これじゃ後藤さんも抜けたくなるはずだよ。」
れいながあたしをきっと睨んだ。
「そんなことでいちいち怒らんでよ。それにあたし関係ないし。」
あたしは言った。
「そうだよ。さゆは関係ないじゃん。れいな性格悪。」
絵里があたしに続いて言ってくれた。
- 87 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:50
- 東京に来てからどうもれいなはおかしいとは思っていた。
でもれいなが何かに悩んでたり練習がうまくいってないとも思えない。
あたしはれいなと親しくなっていた分勝手なことを言ってるれいなには正直むかついた。
「れいな、東京来てから少し変だよ!何かあった?」
「知らないよ。あたしはいつもと同じ。」
れいながまたあたしを同じ目で見る。
そして思い切りよく楽屋のドアを開けて中へ入った。
中には先輩達があたし達に構う様子もなくおしゃべりをしていた。
- 88 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:52
- 「そう。ごっつぁんって友達が全部年上なんだって。同い年の友達がいないってずっと言ってたんだ。」
石川さんがジュースを飲みながら言った。
モーニング娘。の楽屋にはお菓子とかジュースとかがたくさん置いてあった。
「えー!あたしがいるのに!」
吉澤さんが変顔をして叫んだ。
「よしこは友達じゃないんだぁ。」
突っ込みの早い藤本さんがさっそうと言った。
「あぁよしこは特別な存在だから違うんだって。」
石川さんが言う。
「特別?しょうがない子だなぁ。真希も。」
「嘘嘘。よっすぃーは唯一の同い年の親友だって言ってたよ。」
石川さんが言い直す。
吉澤さんがそれを聞いてものすごく満足気だった。
- 89 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:53
- 「大人気だね。ごっつぁん。」
矢口さんが言った。
「普段すごい優しいのにむきになってるときって可愛いよね。ごっつぁんって。」
石川さんが言った。
「そうそう。料理の話してる時とかそれホントおいしいの〜?って聞くと本気であたしは料理できるんだよ!って必死でアピってんの。そういうとこすごい可愛いなと思う。」
藤本さんはうなずいて言った。
「ごっつぁんって。最初、ものすごい不良かと思ったらこれがすごく甘えん坊で手がかかる子だったな。最初だけだけどね。ねぇなっち。」
矢口さんが言った。
- 90 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:54
- 「あ、そうだったっけ?あたし一緒に遊びに行った記憶しかないからさ。」
安倍さんがきょとんとして返した。
「んもう。なっちは今でも手がかかるからさ。その分えらいよ。ごっつぁんは最後はなっちの面倒だって見てたんだから。」
矢口さんの言葉に場がどっと笑った。
- 91 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:55
- 「後藤さんに勝ちたいとは思わないんですか?」
あたしが振り返る間もなくれいながそう言っていた。
れいなの目が黒く、そして強く光を放っていた。
一同が急にしんとした。
「・・・勝つも何ももういないし・・・。」
安倍さんが小さく言った。
- 92 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:56
- 「でもハロプロにはいるじゃないですか?モーニング娘。はハロプロの中でも一番じゃないといけないんじゃないんですか?後藤さんに負けてちゃだめですよね?」
れいながはっきりと言った。
あたしはため息が出た。
こんな時にわざわざそんなことを言わなくてもいいのに。
クラスにもよくいた。場の空気が読めないやつ。
そんな人間の一人がれいなだということがあたしには悲しかった。
「一番とか一番じゃないとかそういうのどうでもいいっつーか。あたしは嫌い。」
矢口さんの言葉だった。
「みんな歌や踊りが好きだからここにいるんだよ。別にみんな競争するためにここにいるわけじゃないし。だから競争なんかよりももっと大事なことがあるよ。思いやりとかさ。新メンバーにはそういうのも分かって欲しい。」
- 93 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:57
- ほらそう言われた。
あたしの思った通りだった。
まだモーニングに入って間もないあたし達が先輩に一体何を言えるというのだ。れいな!馬鹿、アホ、間抜け!
心からそう思った。
そして矢口さんの言葉には何も答えないままれいなは楽屋を出て行った。
礼儀も何も知らない無神経なやつ。
- 94 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:58
- 翌日のオフ、あたしはれいなのマンションに怒鳴り込んでいく寸前で新垣さんに捕まっていた。
夏が終わって急に冷え込んだ日だった。
空気があたしと同じようにぴりぴりしていた。
「田中ちゃんの言いたいことも確かに分かるんだなぁ。」
新垣さんが歩きながらしみじみと言う。
「は?分かりませんよ。」
あたしは藤本さんの真似をして答えた。
住宅街を空気がさらりと流れた。
「とにかく昨日のこと謝らない限りあたしれいなと絶交しようと思うんです。」
そうでも言わない限り気がすまない。
- 95 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 11:59
- 「いや、田中ちゃんは別に間違ったこと言ってるわけじゃないんだから。」
新垣さんは先輩ぶらないし威張らない。
こんな6期のくだらない喧嘩にも真剣になってくれる。
でもれいなのことだけは絶対ゆずれなかった。
「間違ってますよ。あたしこれ以上れいなと一緒だと思われるのが嫌なんです。5期の先輩とかはきちんとしてるのに・・・。」
「いやぁ、5期だって大したことないよぉ。」
新垣さんはおどけてあたしを笑わせようとする。
新垣さんは本当にいい人であたしはそんな先輩を煩わせていることに気が引けた。
これもそれもれいなのせいだ。
そうこうする間にれいなの住んでいるマンションは見えてきた。
- 96 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 12:01
- 「ついてきてくれるんですか?」
「あ、いや邪魔だとは思うけどさ。ちょっと心配だから・・・いい?」
「それは全然いいですけど、れいなにはあまり関わらないほうがいいですよ。」
あたしははっきりと言ってやった。
「重さん、自分の友達なのにそういう言い方しちゃ駄目だって。」
「いいんですよ。れいな的にはみんなライバルらしいですから。あたしでさえ。」
あたしは新垣さんに言いたい放題に言うと玄関のチャイムを立て続けに3回連続で鳴らした
- 97 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 12:01
- そりゃあ今までだってれいなのことすごいなとか好きだなって思うことは何度もあった。
普段は生意気そうになのに、家であたしの何倍も曲の振り付けを練習してくることは正直すごいなって思ったし、いつでもあたしのメールや相手をしてくれるれいなは、確かに好きだった。
でもそれがだからと言って勝手に行動して勝手に先輩達にけんかを売るれいなをあたしは許せない。
- 98 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 12:02
- 「さゆ、またそんなぶりぶりな服着て。家来る時ぐらいやめといてよ。」
れいなはあたしのピンク色の服を見るなり言った。
あたしはそれを完全に無視して中に入った。
「田中ちゃん、お邪魔しまーす。」
新垣さんが言い終わらないうちにあたしは、昨日の楽屋での発言をれいなに問い詰めた。
「別に。そう思ったから。」
れいなはぶっきらぼうにそう答えただけだった。
「それにさ。さゆは関係ないじゃん。そういうこと。ただ可愛くぶりっ子してりゃいいんだよ。」
あたしはかなりカチンときた。
カチンというか完全に頭に来た。
- 99 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 12:03
- 「れいな、あんた本気でそんなことおもっちょる?」
「ま、まあさ二人とも座って話せば。」
新垣さんの言葉がなかったら、まだ子供だったあたしはれいなに組みついていたかもしれなかった。
3人は奥の部屋のテーブルに座った。
「新垣さんもなんか言ってよ。それに昨日も矢口さんにも注意されてまだ自分が正しいとか思っちょる?アホみたい。」
座ったって何したってあたしの気持ちはおさまらない。
- 100 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 12:04
- 「矢口さんが昨日言ってた思いやりと競争することって意味が全然違うよ。」
「あたしアンタのその分かりきったような言葉ぶち腹立つ。」
あたしは思っていたことをそのまま口にした。
「さゆはいいんだって。あたし別にさゆと喧嘩したいわけじゃないし。さゆはかわいけりゃ何でもいいんでしょ。今でも十分可愛いよ。」
れいなはあたしの頭を撫でようとした。
「馬鹿にせんで!」
あたしはれいなの手を振り払った。
れいなが一瞬びっくりした顔になる。
「あんたなんかね。絶対に後藤さんにはなれんよ。あんたみたいな性格の悪いの。藤本さんとか石川さんはそんなんじゃないから人気があるんだよ。」
あたしの言葉でれいなの表情は変わった。
- 101 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 12:05
- 「ふーん。どうだかね。」
れいなの顔がぐいっとあたしを見つめていた。
「あたしは、藤本さんと石川さんと吉澤さんの3人は後藤さんと勝負することから逃げてると思う。だから5期メンバーの先輩達だっていつまでたっても競争できないんじゃないですか?上があんなだから。」
れいなの視線が新垣さんに向かった。
「5期が未だにキャラクターが出ていないとかイマイチとかっていうのはずっとあるんだよ。特にあたしとかそうだし。」
新垣さんはあたし達に話し始めた。
あたしは新垣さんがその5期のなかでもうまくキャラクターが出せず苦労していることを知っていた。だからなおさられいなには腹が立った。
- 102 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 12:07
- 「新垣さん、れいななんかにまともに答える必要ないです!」
あたしは言った。
「でもね。あたし達5期メンが楽しくモーニングやれるのも後藤さんの影響はでかいと思うんだ。」
新垣さんはきっぱりと言った。
「あたし達、後藤さんのおかげでずっと夢見てられたから。後藤さんがいなかったらいつまでも目の前の競争に気をとられてたと思うんだ。あたし、4期の石川さんや吉澤さん、藤本さんもそうだと思う。後藤さんの存在があるからあの3人だって上手くやれてると思うんだよね。」
新垣さんのことはただの調子のいいお姉さんだと思っていた。
でもこのときの言葉はもういなくなってた後藤さんの存在をあたしにはっきりと分からせた。
- 103 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 12:07
- れいなはさっきとはうって変わってしゅんとなっていた。だけどまだ何か納得できない。そんな様子だった。
「あたしには分かりません。」
れいなが最後にまた言った。
何をどうしたって性懲りもない奴。
- 104 名前:作者 投稿日:2004/01/10(土) 12:08
- 今日の更新を終わります。
更新が遅れてスイマセン。
- 105 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:40
- その年は冬が来るのがものすごく早かった。
ニュースでは平年に比べ今日は寒いです。
また今日も寒いです。って繰り返してて結局一度も平年に戻らずに冬がきてしまった。
もう東京に来て丸一年が立つ。
今日の仕事は新曲発表の記者会見だったけど、そういう仕事ならだいぶ慣れっこになっていた。
「さゆ、あれ見てさゆ!」
隣に座っていた絵里が窓の外を指差して言った。
ぼうっとしていたあたしは思わずその方角を見る。
- 106 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:41
- 赤い木が何十本も見えた。
きれいな紅葉だった。
明治神宮の外苑をちょうどバスが通りかかっていた。
ふと見たられいなも同じ方をじっと見ていた。
あれかられいなは相変わらずで、練習中に石川さんをライバルみたいに言ったり先輩達の言うこと聞かなかったりでみんな扱いに困ってるみたいだった。
そのたびにあたしもれいなと口喧嘩が増えていく。
昔はもっと違うことを話していたような気がする。
喧嘩することなんてほとんどなかったのに。
なんかギクシャクした空気がずっとれいなとあたしの周りに立ち込めていた。
- 107 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:41
- 記者会見場では台本を渡される。
誰が記者に質問されてもいいようにだ。
大抵「すごい楽しい感じの曲です。みんなに聞いて欲しいな。」とかそういうことが書かれている。
この台本は記者会見場だけじゃなくてMステとかそういう音楽番組の時にも用意されているけど時おり台本が脱線してる番組もすごくある。
でもあたしの場合は忘れてしまってとんちんかんなことを言ったり意味不明の発言をしたりでよく飯田さんとか石川さんに注意された。
- 108 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:42
- 「でも適度に自分を出すのはいいことだよ。」
新垣さんはそんなことを言って時おりあたしを励ましてくれる。
新垣さんは小さい頃からモデルとかをやっていたからこういう仕事は慣れている。
でもそれを鼻にかけたりすることはない。
ただあたしやれいなや絵里を可愛がってくれた。
あたしは最初は高橋愛さんが一番すきだったけど次第に新垣さんの人柄に一番親しみをもつようになっていた。
- 109 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:43
- 「この曲でリリースするにあたっての目標はなんですか?」
またぼうっとしている間に記者会見は始まっている。
渡されたピンクのルーズトップスがすうすうしてとても寒かった。
緊張感があまりなくてもがたがたと震えてしまう。
何か嫌な予感をあたしは感じていた。
「この曲で走りつづけるあたし達のイメージをもってほしいと思ってるんです。」
飯田さんが話していた。
「田中さんはこの曲にはどんなイメージを持ってます?」
「同日に後藤さんの新曲が発売されますよね。」
れいなは素早く言った。
あたしの体がびくりとした。
台本にもそんなことはかかれてはいないはずだった。
- 110 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:44
- 「だから、後藤さんの新曲には負けたくないです。あたしたち新人だっていつまでも新人だと思われたくないし絶対に自分達の力で勝ちたいと思います。」
記者の間に「へぇ」とでもいうような雰囲気が流れた。
「同じハロープロジェクトのなかでもライバル意識もつこととかって大事ですよね。」
記者の人たちもれいなの真っ正直な意見に関心したみたいだった。
「目標は個人でみんな意識していると思いますよ。これだけ成長の早いグループだったらライバル心とかそういうのをもつのも当然だと思ってますし。」
つんくさんがれいなの後をまとめていた。
記者会見はそれで終了となった。
ただ隣にいた石川さんがずっと何かを言いたそうにしていたのが印象に残った。
- 111 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:45
- 「次はハロモニだよね。バス移動まで時間あるけぇ少し外出ようよ。さゆ。」
記者会見の後のれいなは妙にすっきりした表情だった。
あれだけ自分の言いたい放題に言えばそうなんだろうと思った。
「今週のオフさ。渋谷に買い物行こうよ。さゆにぴったりな可愛い服あるかもよ。」
れいなはずっと上機嫌だった。
「うん。いいけど。」
「やった。絶対約束だよ。」
れいなは笑って答えた。
- 112 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:45
- あたしは何だか腑に落ちない表情をしていたと思う。
先輩達への態度とか発言とか話題にしなければ普段のれいなは、あの博多にいたれいなだった。
話してても負けず嫌いな面や嫌な面なんて見ることはなかった。
あたしにはそれが分からなかった。
「ねぇ、れいなはさ。何で勝負とか順位とかにこだわるの?歌なんてうまくなれば誰かがそれを見ててくれるじゃん。あんなこと言ったら反感買うし。先輩達もよく思わんじゃろ?」
あたしは言った。
「よく思われるためにやっとるわけじゃないから。目立たないと上まであがれないじゃん。」
また言い合っても喧嘩になる。
れいなはそんな感じの口調だった。
- 113 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:46
- 「れいな。変わったね。前はそんなじゃなかったのに。」
あたしがぼそっと言うとれいなは困った顔をした。
あたしがれいなのその困った顔を見たのはそれが初めてだった。
あたし達は記者会見場となったホテルの中庭を歩いていた。
歩くごとに砂利がころころと音をたてた。
一本だけ楓の木がたっていてそれが真っ赤でとてもきれいだった。
- 114 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:46
- 外には11月の風がふいていた。
ハロモニの収録もれいなは相変わらずだった。
6期が先輩達の印象を答える企画があって、「石川さんってぶりぶりですよね。」とか「安倍さんは子供っぽい」とか。れいなの勢いはとまらない。あたしは呆気に取られて見ていたがそのうちものすごく腹が立ってきた。本人は競争するとか言ってたけどれいながやってることは単なるいやがらせとわがままだ。
あとでそれがオンエアでもされてファンの反応でも見て思い知ればいい。
れいなは少し痛い目にあえばいいのにと本気でそう思ってきた。
- 115 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:47
- 今日は朝からあたしの一番苦手なCDの収録だった。
踊りとかにはなれてはきていたけど歌がだけはどうしても駄目だった。
もうモーニング娘。に加入してから1年が経とうとしているのに。
モーニング娘。は歌を歌うためのグループなのにあたしは歌えない。
よく絵里がファンの人から「歌うまくなったねって言われちゃった。」とかたまに無邪気に言ってくると自分だけが取り残されているようでたまらなく悔しい思いをした。
- 116 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:48
- CDの収録は収録前に一人一人がボイスルームのような小部屋に入ってつんくさんの指導を受ける。
あたしがボイスルームに入ってもつんくさんの指導はなかなか終わらない。
何よりも後から自分の歌声を聞いてみてもどうしても「あぁあたしってホントに歌下手だなぁ」としみじみ思ってしまうのだ。
それに比べてれいなとあたしは正反対だった。
何と言ってもれいなは上達の速度が異常に早かった。
声の通りが少し弱いだけでキーを合わせるのも曲を覚えるのも早い。
そのことでよくつんくさんもれいなのことを誉めていた。
あたしは嫉妬じゃなく、
そういうことを言ったらまたれいなが調子に乗るのに・・・と苦々しく思った。
多分先輩達も同じように思っていたと思う。
- 117 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:49
- あたしは必死に歌を歌った。
学校の歌のテストみたいだった。
それでもあたしの歌は一部でもCDになってファンの人とかに買ってもらわなきゃいけない。
そのことはおぼろげながら分かっていた。
責任も感じていた。
でも全力なんだからしょうがないじゃん。
つんくさんが全員に曲のイメージを説明していた。
だけどあたしはままならないCDの収録のおかげで何も話を聞けてなかった。
- 118 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:50
- 「あの、変えて欲しいパートがあるんですけど。」
れいなが突然言った。
「ほう。どこや。」
れいながつんくさんに言ったパートは曲のリズムの中心になるパート、石川さんが歌っている部分だった。
石川さんがはっとしてれいなの方を向いているのがあたしにも分かった。
あたしはれいなよりも逆に石川さんが心配になった。
「ふん。おもろいなあ。」
つんくさんが答える。
- 119 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:53
- 当たり前なのかもしれないけどプロデューサーの人って常に人をのせようとするところがあるみたいでつんくさんもそうだった。
「だったらいろんなバージョン試してみてそれで決めようか。みんなも歌いたいとことがあったら言ってみ。おもろいことになるかもしれん。」
だけどそれはれいなに油を注ぐようなものだ。
元々歌にはそれほど自信をもっていない石川さんが不安そうな表情をしていた。
石川さんは入った当初はとてもなよなよしていて頼りない子だったと聞いていた。
でもあたし達が入った頃には不安とかネガティブな面はもうほとんど残ってなくて、あたし達6期がどんなことをやってもいつも笑顔だった。
それはあのれいなが何を話したとしてもだった。
だからあたしはそんな石川さんを見るのがいやでれいなには心底失望した。
- 120 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:54
- つんくさんが席を離れて個人練習になる。最初にれいなに言ったのは藤本さんだった。
「田中ちゃんさ。自由に意見言うっていいことだと思うけどさ・・・。梨華ちゃんだって自分のパート中心に練習してきてるし・・・勝手にあんなこと言ったら困るじゃん。」
藤本さんは普段そういうことを言う人じゃない。
だから相当胸に来るものがあったに違いないと思う。
「そうだよ。まずはさ。自分のパートとかを完璧にして。それから自分の意見とか言えばいいじゃん。」
次に言ったのは吉澤さんだった。
やはりこの二人は石川さんの大きな味方だった。
普段こういうことで意見を言ったりしない二人には迫力を感じる。
- 121 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:55
- 「だって完璧にしてたらパート変える時間なんてないじゃないですか?」
対するれいなは一歩も退かない。
「だからそれはまだパート変える実力がないってことだよ。それが出来てからだよ。次に進むのは。」
藤本さんが早口で返した。
「でも、でも後藤さんはパート決まった直後につんくさんに意見しに行ったって聞きましたよ。」
「それはパートを変えろって言ってたんじゃなくてさぁ。キーあわせとかどう歌ったらいいか聞きに言ってたみたいだよ。」
吉澤さんが答えた。
- 122 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:56
- 「じゃザピースの時に石川さんのセンターじゃ納得いかないって言ったのは何なんですか?」
れいなの目は爛々と輝いていた。
まるで自分がどんな状況にいるのか分からないみたいだった。
「違う!ごっちんはそんなこと言ったりしないよ!」
石川さんの言葉は叫びに近かった。
顔の表情は明らかに青ざめていた。
みんなの厳しい視線がれいなに集まった。
でもれいなにはまるで悪びれた様子は全くなかった。
- 123 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:56
- あたしは、藤本さんが何か言い始める前にれいなの腕を強く握るとボイスルームから無理やり外に引っ張っていった。
これ以上はあまりに腹が立って耐えられそうになかったのだ。
「さゆ!何!?あたし先輩達と話ししてたのに。」
れいなは如何にも不服と言いたげだった。
「話?話になってなってないじゃん!」
あたしの気配を察したのかれいなの顔が初めてびくっとしたような気がした。
- 124 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:57
- 「新垣さんに言われたこと。忘れたわけじゃないよね!?」
あたしはきつくれいなを睨んだ。
前れいなの部屋に行った時、新垣さんがれいなに頼んだのだ。
「先輩に生意気な態度をとってもいいことなんてないから。藤本さんはともかく石川さんとか吉澤さんってああ見えて結構体育会系だから上下関係とかきちんとした方がいいよ。」
それはれいなのためを思って新垣さんが言ってくれたのだ。
ただ波風立たないように言ったわけじゃない。
だから今度の事に対してはあたしはどうしてもれいなを許すことが出来なかった。
- 125 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:58
- 「もう、れいなとは絶交するけぇ。勝手にやったら。」
れいなに何を責めるわけではない。
あたしは単純にそう言ってその場を立ち去ろうとした。
れいなはさすがに驚いたのかあたしの後を追ってきた。
「さゆ!ちょっと待ってよ!」
あたしは振り返らなかった。
「あたしは別に間違ったことしたとは思ってないから。」
れいなは後ろからそう言った。
あたしは大きくため息をつくとそのまま訳も分からず廊下を歩きつづけた。
何故だか悔しくて涙が出ていた。
- 126 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:59
- それからあたしはれいなとは口を聞かなくなっていた。
言葉は交わすけど事務的なやり取りしかしない。
そう心に決めていた。
石川さんや吉澤さん藤本さんもれいなとはあまり話もしなくなったし、他の先輩もれいなの扱いには困っているように見えた。
ただ新垣さんだけは相変わらずれいなの面倒をあたしと同じように見ていて、あたしにはそれが理解できなかった。
- 127 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 10:59
- 今日の更新を終わります。
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/17(土) 21:42
- ん〜どうなんでしょう…れいなの意見も合ってない事ないと思っちゃうんですが…
それ故、先がすごく気になります。
次回の更新も楽しみにしています。
- 129 名前:読者M・K 投稿日:2004/01/17(土) 22:07
- 作者さん初めまして、いつも読ませてもらってます。
質問があるんですが、いいですか?作者さんれいなの事嫌いなんですか?
ちょっと気になったものですから。
この作品面白いと思います、次回も頑張ってください。
- 130 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/18(日) 00:22
- >>129
いやいや、そんなこと聞いても。
とりあえずレスは下げでお願いします。
作者さん、続きが気になってます。頑張って下さいね。
- 131 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 09:59
- >>128
レスありがとうございます。
更新がんばります。
>>129
コメントもいただいてありがとうございます。
田中さんのことはもちろん嫌いじゃないし好きです。
これからもお読みいただけると幸いです。
>>130
お気遣いありがとうございます。
がんばりますのでよろしくです。
- 132 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:12
- 一週間が過ぎた。
冬はますます勢いを増していて寒かった。
今日は久しぶりのオフというのに雨が降り続いている。
昨日の収録が夜遅くまで続いたせいで、部屋に暖房をつけたまま起き上がる気もしなかった。
れいなと買い物に行く約束の日だった。
でも当然、中止になると思った。
れいなとはここ一週間まともに口も聞いてない。
それに昨日あれだけ収録が長引いて、今日一日しか休みがないのに遊びに出かけられるメンバーなんていないに違いない。
- 133 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:13
- れいなからは朝になってメールが来ていた。
キャンセルしたいというのも返しにくかったからあたしはずっとほっておいた。
あれだけ自分中心主義に走れる人だ。
あたし一人のメールが何だっていうのだろう。
昼を過ぎてから雨がいっそう勢いをました。
窓を閉めているのに屋根をうつ雨の音が聞こえてくる。
カーテンの隙間からみえる薄暗い光景はぞっとするくらいに寒さを表していた。
今度は電話が鳴った。
れいなからだ。疲れて寝ていることにしてあたしは電話に出なかった。
れいなには極力謝りたくないし、夜にでもメールを打っておけばいいと思った。
とにかく今れいなと話はしたくない。
- 134 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:14
- でもそれから電話が何回も鳴り始めた。
何をそんなにあたしと話したがっているんだろう。
あたしはうんざりしながら電話に出た。
「もしもし、さゆ?」
れいなの声が聞こえた。
「もう、何!?」
あたしはむかっ腹をたてて言った。
「覚えてないの?今日の約束。」
れいなの声は小さくて少し不安げに聞こえた。
- 135 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:15
- 「昨日、あれだけ遅かったじゃん。だから無理。ごめん。寝る。」
あたしは電話を切ろうとした。
「さゆが怒っとるのは分かる。でもあたしはさゆと喧嘩がしたいわけじゃない。」
れいなの必死の声が聞こえた。
そんな都合のいい話があるもんか。あたしは思う。
自分だけ好き勝手なことを言って誰もがそれで納得するわけがない。
ようするにこの子はわがままなだけなんだ。
「待ってよ。」
あたしはれいなの言葉を無視して電話を切った。
- 136 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:16
- また寒い雨の音が聞こえた。
れいなのせいで布団から抜け出したからぶるっと体が震えた。
あたしはまた布団に潜り込んだ。
来週末はこんな寒い部屋じゃなく実家に戻りたい。
そして思い切り休みたい。
そう思ううちにうとうととして眠り込んでしまった。
気がつくと昼間には確かにあった薄暗い光はすっかり消えうせていた。
ただ雨だけが降り続いている。一日まるごと睡眠に使ってしまった・・・。
本当は覚えなきゃいけない曲の振り付けがあったんだけど。
あたしはのろのろと起き上がるとベッドから這い出した。
- 137 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:17
- 振り付けや練習のことを考えるといつも完璧にそれをこなしてくるれいなの顔が思い浮かぶ。
彼女は与えられた仕事には完璧だ。
とてもあたしには真似出来ない。
デビュー以来全くれいなに追いつけない自分をふりかえって少し気が滅入った。
雨はまだ降り続いているけど休みのうちに買い物に行かないといけない。
あたしは憂鬱な気持ちを押し切って外に出ることにした。
- 138 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:18
- 空は真っ暗で突き刺さるような雨が降っていた。
湿った冷たい空気が首すじにあたる。
思わず身震いをした。
そこでマンションの玄関先に誰かが座っているのをあたしは見た。
こんな寒い夜に。あたしはさらに身が震えた。
「どうしたん!?」
あたしは思わず叫んだ。
そこにはれいながいたのだ。
れいなはドアの横にうずくまっていた。
赤いウィンドブレーカーはすっかり水をすいこんでもはや何の役にもたっていない。
髪もぐっしょりと濡れている。
どれだけれいなは長時間外にいたんだろうか。
- 139 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:19
- 「れいな、中に入りなよ。」
そう言ってもれいなは何も喋らなかった。
「れいな?」
あたしがれいなの服をつかんだ時だった。
弾くような力であたしの手は振り解かれた。
れいなはあたしを凝視して言った。
「さゆがあたしのことそんなに嫌いだったとは思わんかった。この俗物!」
れいなは一言だけそう言うと雨の中を走り去っていった。
ゾクブツ???
- 140 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:20
- あたしには訳が分からなかった。
れいなの放った言葉の意味もわからなかった。
何でこんな雨の中をこんなことしてまであたしを待たなければならないのか。
一緒に買い物に行くのを断ったのがそんなに癪に障ることだったんだろうか。
あたしには何も分からなかった。
その日はただ雨が酷寒の街をひたすらに濡らしていた。
それからますますあたし達は口を聞かなくなっていた。
あたしはようやく先輩達とも楽しく仕事が出来始めた時期だったし、れいなの行動なんてあたしには到底理解できなかった。
それにれいなのせいでいつまでも先輩達に申し訳ない気持ちを持たないといけない。
あたしにはそれが絶対に納得がいかなかった。
- 141 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:21
- 病室の空調が静かに回り始めた。
温かくて落ち着いた空気が回りに漂っていた。
そう。れいなの目はあのときの目だ。
あたしはやっと思い出していた。
病室のポスターはずいぶん古くなって年代物になっていたけどれいなの目の力だけは失せることはない。
あたしはこんな写真写りなんてできないな。
モーニング娘。なんて解散してるのにまだれいなに対してライバル意識を持っている自分がいた。
- 142 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:22
- ふと気がつくとあたしと同じようにポスターを見つめている優君がいた。そしてゆっくりとれいなと同じ目であたしを見つめてきた。
「僕、お姉ちゃんのこと知ってるよ。よくテレビで見るもん。」
優君の目はれいなと同じ目をしている。
「ふふ。そう?ありがとう。」
この子はとってもいい子だ。
あたしは直感的に感じて優君の頭を撫でた。
「お姉ちゃんはぼくがふつうじゃないからここに来たんでしょ?」
優君の表情が突然悲しそうな顔に変わった。
- 143 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:23
- 「普通じゃない?」
「もうじこにあってから何年もたつのに歩けないんだ。僕。だけどお医者さんはもうとっくになおってるはずだってずっというんだ。」
優君は交通事故にあってだいぶたつのに未だに歩くことができないらしい。
それどころかまだ自分の足で立つことさえできないのだ。
ただ医学的には優君の足は完治している。
その原因はどうも事故のショックとか精神的なものらしいとあたしは聞かされていた。
それで本格的にリハビリをするために優君はこの病院に入院したのだ。
あたしはその話を聞いてすぐにハイジに出てくるクララを思い出した。
でも頭の悪いあたしは実際にそれがどういうことがいまいち理解できない。
風邪で熱が出たって普通に仕事できるし、足がしょうしょう痛くても立ったり歩くことはできる。
- 144 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:24
- 「優君は歩きたいの?」
「ぼく歩きたい。歩けるようになればがっこうに通えるしだいすきなサッカーだってできるんだ。」
やっぱりだなとあたしは思った。
こんな澄んだ目をしている子が座ったままでいいなんて思っているはずがない。
あたしは悔しかった。
でもあたしには歩けないもどかしさってどんなに苦しいのか分からない。
昔と同じだ。れいなのことが何も分かってやれなかった、あの雨の日と同じように。
あたしはまた同じことを繰り返そうとしているのかもしれない。
あたしの目はれいなのポスターに祈るように向けられていた。
- 145 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:26
- 春になってあたし達はハロープロジェクトのコンサートツアーを本格的に経験した。
ハロプロになると観客の数も並じゃないし、一人の失敗がハロプロメンバー全員に迷惑をかける。
モーニング娘。はさらにその中心なのだ。
だけどその頃、娘。自体はもう乙女組と桜組に別れていた。
安倍さんもすでに娘。からの卒業を決めていた。
だからみんなの注目がモーニング娘。というよりも他に移っているようにあたしは感じていた。
さらにれいなが記者会見やハロモニの発言が理由でれいなへの風当たりは厳しくなっていた。
特に週刊誌やスポーツ新聞への書かれ方がひどいらしくよくれいなは事務所から注意を受けていた。
モーニング娘。はもう昔の団結力はなくなっていたようにあたしは感じていた。
- 146 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:27
- そんな状況下でいざ観客に飛び込んでいくことを考えるとあたしは足が震えた。
もっともそれを感じていたのはあたしや6期だけじゃなくてモーニング娘。全体がそんな不安に包まれていた。
「亀井、衣装のそんなとこ気にしなくていいから。」
飯田さんが少し焦っているのをみんな感じとっている。
「はい。すみません。」
絵里はもう緊張で足ががくがく震えていた。
- 147 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:28
- 飛び出す直前に轟音のような音楽と歓声が聞こえる。
一人だけ俊然と時を待っているメンバーがいた。
れいなだった。
れいなは姿勢を低くしてただ一点舞台を見つめていた。
目は煌々と輝いている。
何者も恐れない。
そう言っているみたいだった。
れいなは考える間もなく先頭にたって飛び出していった。
あたしも思わずそれに続いた。
最初の曲はれいなの歌い始めだったから全員がれいなにひきつけられた。
重力がれいなから発せられてるようだった。
その時のれいなの向かっていく表情はもう忘れることはできない。
れいなの歌とダンスにモーニング娘。全員が吸い込まれていた。
- 148 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:29
- いったん曲が終わってステージから下がる。
れいなが息をきらしていた。
みんなが何と声をかけていいのか分からないみたいだった。
歌ってるあたし達自身がれいなのダンスと歌に魅了され「すごい」という形容詞以外に何も見つからなかったから。
「いや〜。田中ちゃん。よかったよ。」
そんな感情全く関係なしにれいなに声をかけたのは新垣さんだった。
「ハロプロの最初って雰囲気違うんだよね。だからみんな緊張しっぱなしでさ。いい切込みだったじゃん。飯田さんもそう思いますよね。」
「あぁ、うん。田中!よかったよ。」
少し呆然としていた飯田さんだったけどやっとれいなを見て言った。
「はい!」
れいなの答えは気まずさとか雰囲気とか全てを乗り越えていた。
- 149 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:30
- れいなはまた舞台に上がって踊りたくてしょうがないみたいだった。
あたしは後藤さんとはほとんど面識はない。
だけどもし後藤真希がモーニング娘。にもしいたらこんな人だったのかもしれないとあたしは思った。
- 150 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:31
- 出番がモーニング娘。から乙女組に変わる。
あたしは自分が踊るよりもれいなの歌って踊るところをみたかった。
会場はますます熱気を帯びステージが強いムーンライトを浴びたみたいに輝いた。
考えてる暇なんてない。
「愛の園」を歌うためにあたし達は飛び出した。
あたしはコンサートの時はいつも音と光のせいでいつも自分が見えなくなる。
会場に飲み込まれてしまうのだ。
必死に歌って踊って気がついたら終わってる。
ほとんどがそうだった。けど何故かこの時は違っていた。
- 151 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:32
- 真中で歌うれいながはっきり見えた。
それに合わせようと必死にもがいてる自分の姿もはっきり見えた。
「今のあたしには合わせることしか出来ないんだ。」
「あたしはれいなには到底勝てない。」
あたしはこのときになって初めて気付いた。
こんな大舞台でそれが分かるなんて悔しい。
どうしたらこんなもどかしい思いをなくすことができるんだろう。
もっと練習をしておけば、いろんなところで自分が出せたかもしれない。
それは自分が今までに感じたことのない思い。
そう。あたしは分かった。
だからみんなセンターに立ちたがるんだ。
- 152 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:34
-
れいなに変わって石川さんが真中に出た。
その次に藤本さんが真中に出る。
不思議とこの二人に存在感がなかった。
この二人は、乙女でもモーニングでも人気と実力はNo1だ。
人気でいえば後藤さんにだって負けないかもしれない。
だからたくさんのお客さんがこの二人には反応する。
その時の歓声と歌声が他の人にはないぐらいに存在感をかもし出す。
それがお客さんがついてくれてる。
人気がある強みなんだとあたしは思っていた。
- 153 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:35
- だけどあたしにはこの二人は決められたことをやっているようにしか見えなかった。
れいなだってそうなのかもしれない。
だけど根本的に何かが違う。
「どんな〜ことも、話して欲しいのよ」
藤本さんが歌う。
「Touch My Heart Touch Me Please」
曲が流れて石川さんが笑った。
やっとあたしは気付いた。
この二人は本気をだしていないのかもしれない。
要求されているダンスと歌は完璧かもしれない。
でも石川さんはもっとダンスを踊れるはずだし、藤本さんは抜群の歌唱能力をもっているはずだった。
- 154 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:36
- 二人に覆い被さるようにれいなが歌う。
れいなの小さな体が大きな力を持っていた。
大きく露出した背中にライトがあたって黎明と光が放たれていた。
敢然とした意志をもった歌と踊り。
それはれいなにしかなかった。
あたしはれいなに飲み込まれてしまった。
どうしたらあたしがれいなと同じように踊れるんだろうか。
れいなみたいになりたかったし、れいなをもっと自分に近づけたかった。
- 155 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:38
- 乙女組が終わり桜組の歌を聞いている間はもうずっとれいなの姿とれいなのことしか考えられなかった。
そしておぼろげながらあたしはれいなのことが分かりかけていた。
外で歓声が鳴り響いた。
桜組が大きな拍手で包まれていた。
れいなは奥の楽屋で一人で座っていた。
ステージを一通り終えたれいなは、まるで大きな戦いが終わった後の一人の剣士みたいだった。
黒い髪の間の肌ははっとするぐらいに白くて、芳香とした光を放っていた。
れいなは一瞬あたしを見たけどまたすぐに目をそらして下にうつむいてしまった。
れいなとは絶交状態でもうずっと口を聞いていない。
他のメンバーはほとんどその次の後藤さんのステージを横から見に行っていた。
- 156 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:39
- 「後藤さんのステージ見に行かんの?」
話す言葉が見つからなくてあたしはそう言った。
「もう何回もみたけん。」
ぶっきらぼうにれいなは返した。
それからしばらく沈黙が続いた。
今度はれいなの方があたしをずっと見ていた。
「今の後藤さんのやってることは安室奈美恵と全く一緒だよ。」
すぐ側で轟音が響いている。
なのにれいなとあたしの空間だけ静かで逆にれいなの声が響いた。
- 157 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:41
- 「あのダンスだって全部安室さんの真似てるだけじゃん。」
「それは違う。」
突然の吉澤さんの声があたし達の静謐を破った。見たらちょうど吉澤さんと石川さんと藤本さんの3人が部屋に入ってくるところだった。一番まずい3人に聞かれたとあたしは思った。
「田中ちゃん、ごっちんのステージ見てないんでしょ。何でそんなことが言えるわけ?」
石川さんの言葉がいつになく感情的だった。
「後藤さんのダンスは今まで何回も見てきましたよ。今の後藤さんと昔の後藤さんは違う。それでそう思っただけです。」
れいなの表情はいやらしさも何もなかった。
ただ整然とそう言っているだけだった。
- 158 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:41
- 「梨華ちゃん、田中ちゃんにそんなこと言ったってしょうがないよ。あたし達の方がずっとごっちんとつきあい長いしよく知ってるんだから。」
藤本さんが周りをなだめるために言った。
確かにそうだと思う。
でも何だかれいなが言っていることとは違うような気がした。
「別に何だっていいけど。これだけは覚えてといて。」
吉澤さんれいなの前に進み出た。
「ごっちんは自分のスケジュールもぎりぎりなんだ。それでもハロプロのコンサートにはお客さんのために限界まで練習してライブにきてる。だからそんな言葉、絶対にごっちんの前では言わないで。」
普段は冗談ばかり言ってる吉澤さんがものすごく厳しい表情だった。
れいなはそれを見て静かにうなずいた。
- 159 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:42
- 「そうだよ。ごっち・・」
「もういいよ。田中ちゃんもそれはよく分かってるって。」
石川さんが我慢しきれずに話し始めるのを藤本さんが制止した。
あたしはこの3人がどれくらい後藤さんのことを思いやってるのかすごくよく分かったし仲間を思いやることがものすごく大切なことなんだと思った。
石川さん達はやっと落ち着いて椅子に座った。
休憩時間なんてものの数分しかない。
またあの舞台にあたし達は飛び出していくのだ。
- 160 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:44
- あたしはこの先輩達の言ったことが至極正しいことなんて百も承知だった。
れいなの言葉を聞いて不愉快に思わないメンバーなんて一人もいない。
あたしだってそうだ。
みんなが助け合って励ましあって、だからこそモーニング娘。がずっとやってこれたんだと思う。
矢口さんとか安倍さんが助け合っているとかを見ていると本当にそう思える。
だからそのときのあたしは声に出して何も言えなかった。
でもあたしは不思議とれいなの言葉から何かを感じ取っていた。
- 161 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:44
-
吉澤さん、石川さん、藤本さん、先輩達は一度でも後藤さんと勝負しようとしたことありますか?れいなと同じダンスを踊ることができますか?
ポスターのれいなの前で空気が揺れたような気がした。
- 162 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:45
-
今日の更新を終わります。
- 163 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:45
-
- 164 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 10:46
-
- 165 名前:読者M・K 投稿日:2004/01/24(土) 19:05
- 更新お疲れ様です、すいませんこれからはsageでします。
そうですかれいなの事好きですか、そうですよね。
つまんない事聞いてすいません。
今回も面白かったです、次回も頑張ってくださいね。
- 166 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/27(火) 01:20
- 初めまして、石川と田中(最近道重も)が好きな読者です。今日初めて読んだのですが特にオーディションの頃のくだりなどのまるで側で見ていたかのような文に完全に引き込まれました。017の少し挑戦的な発言や態度は芸能界では大事だと思います、グループであれば調和も大事ですが。
では凄く楽しみにしていますのでこれからも更新お願い致します。
- 167 名前:読者M・K 投稿日:2004/01/27(火) 23:29
- >166の方レスはsageでしましょうね。
たしかにれいなの挑戦的な態度は芸能界では大事ですよね。
それに舞台が10年後とは作者さん、やりますね。
- 168 名前:読者M・K 投稿日:2004/01/27(火) 23:30
- すいません自分もageてしまいました、本当にすいません。
- 169 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:05
- >>165
レス多謝です。毎回読んでくださってありがとうございます。
ご期待にそえられるかどうか分かりませんが頑張ります。
>>166
励みになる感想をありがとうございます。
これからも更新がんばりますのでよろしくです。
- 170 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:06
- 「優君の足の具合はどうなんですか?あ〜。はい。今回は番組ってだけでそんなに無理する必要はないんで。えぇ。そりゃ歩けるになるに越したことはないですよね。」
そんなことおかまいなしにディレクターが優君のお母さんにさっそうと番組の説明を繰り返していた。
テーブルに腰かけて足を組んで敏腕さながらな様子だった。
お母さんはディレクターに「はいはい。」と言うがままに繰り返していた。
ディレクターの説明は何だかテレビの取材の受け方を諭しているように見える。
あたしは、優君とお母さんを何だか普通のバラエティ番組の出演者にさせてるようで何だか心苦しかった。
- 171 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:07
- 「えっとじゃあ後で一回練習してみましょう。私はスタッフの者に確認することがありますので。」
ディレクターが席を立った。
こんな時にこそあたしが間に入って少しでも場を和ませねば。
あたしはいつもの楽観ポジティブ思考で優君のお母さんに近寄っていった。
「こんにちは。今日は遅れてすいませんでした。」
あたしが丁寧にお辞儀をして笑顔をお母さんに見せた。
お母さんは何も言わなかった。
でも驚くほど柔らかくて明るい表情で首を振ったのであたしは少しびっくりした。
とても障害を持って苦労している子供の母親には思えなかったのだ。
- 172 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:09
- 「道重さんは山口県の宇部出身なんですってね。」
「あ、はい。そうです。」
突然、故郷の町の名前を言われてさらにあたしはびっくりした。
「私達、博多の出身なんですよ。だからその辺りはよく知ってるんです。いいところですよね。」
お母さんはそう言ってにこやかに笑った。
あたしの故郷は山口県宇部市の東に位置する静かな田舎町だった。
若い頃のあたしにとってその町は少し退屈な町に思えた。
- 173 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:11
- やたらと海側に工場ばかりが立ち並んでいて昼間は灰色の煙をいつも出していたし、夜には町の明かりよりも煙突の光ばかりが目立っていた。
CDや雑誌の発売が遅れてあたしはいつも不満だった。
長所といえば海と反対側に大きな山がいくつも連なってきれいな真緑の風景が拝めることと夜に満天の星空を見ることだけだ。
東京みたいに華やかなものは何もない。
才能だってもっと豊かな人が集まる場所がここ以外にあるのかもしれない。
あたしは漫然とそればかり思っていたようなが気がする。
- 174 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:11
- 「ねえ、お姉ちゃんは田中れいなのことを知っているんでしょう?」
ずっとポスターを見ていた優君があたしに話しかけてきた。
「うん。知ってるよ。」
「れいなちゃんて歌を歌ってた頃ってカッコよかったの?」
「うん。めちゃくちゃにね。東京にいるのがもったいないぐらいだった。」
あたしは言った。
「東京?東京にいちゃ駄目なの?」
優君は言った。
- 175 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:12
- あたしはれいなに出会ってから故郷のことがより強く心に住み着くようになっていた。
あたしなんて完全に東京の生活に埋没してしまって田舎なんて全く知らないみたいに傍からは見えると思う。
でもあたしはまだ東京と自分自身の違和感を未だに感じている。
それはれいなに教えられたことだけじゃなくて地域独特の感性はずっと心に残っているものだと思った。
- 176 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:13
- 「東京にいてもいいけど。れいなにはやっぱり博多が一番似合ってるのかもしれないな。」
「僕も早く博多に帰りたいな。おうちに戻りたいよ。」
「あはは。すぐに帰れるよ。そのために歩く練習をずっとしてるんでしょ。」
あたしは優君の頭を撫でた。
「そうなんだけどぉ。曜日によってもう少しで歩けそうってときとそうじゃないときがあるんだ。土曜はちょうしいいけど月曜になったらぐぎゃー。」
あたしは笑った。
「でもやっぱりぼくは学校にまた行けるようになりたいな。」
優君があたしの手をとり振り回して言う。
- 177 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:14
- えらいなと思った。
デビューしたあとのあたしなんて学校になんてほとんど行ってない。
こんなことするなら家で寝たいって思いながら学校から入ってくる情報を右から左に流していた。
ただ一度というかずっと覚えてる授業があった。
それは授業が印象的だったのではなくてあたしにとって何故か考えさせられることがあったのだ。
- 178 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:17
- 「えーっと。ここで萩の松下村塾で学んだ郷土の志士達が登場します。みなさんも知ってますよね。」
歴史の授業だった。
あたしの地元が明治維新で活躍した人を何人も出した長州だからか明治の歴史の授業はとてつもなく長い。
歴史はずっと明治維新の授業だったような気がする。
まるで歴史というより自慢話に近かった。
あたしは早く授業が終わればいいと思っていた。
閉塞した空気にあたしは眠りそうになる。
歴史よりなによりあたしには次のライブの方が大事だった。
- 179 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:18
- 「私達の郷土の志士は新撰組の暴力には屈しなかったということです。」
話は京都の新撰組の話になっていた。
新撰組が暴力であたし達の先祖がやろうとしたことを邪魔したことが話されている。
でもあたしは明治のことなんて映画の「幕末純情伝」しか知らない。
「刀という暴力だけで全てをねじふせることはできないんですね。」
先生は自慢げに言った。
そしてまた長々と地元の萩出身の志士達がどうとかソンノージョウイがどうとか難しい話に入る。
あたしの心はあっという間に授業から離れてしまった。
- 180 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:26
- 眠りに入るほんの直前、あたしは教科書の新撰組の写真に目がいった。
そこには一人の男の写真が映っていた。
その人は当時私たちの先祖だって着なかっただろう洋服を着ていた。
服装はきちんと整え目は遠くまではるかかなたを見据えているようだった。
その表情は先生が言っているような暴力団にはとても思えない。
「何かをしたい」そんな気持ちがはっきりとそこにはあった。
この人は本当に暴力だけで刀を振り回すだろうか。
映画の影響もあってあたしはそう思った。
- 181 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:28
- 「いつまでも新撰組のように古い時代に固執していてはだめだっていうことです。」
先生の説明が、あたしの考えていることとは全くの真逆だったからあたしはまた写真を見た。
写真の男の人は洋服を着て髪の毛は今の人の髪型とさほど違いはない。
長州の人たちが遠い未来を見据えていたというんだったら新撰組だってそうじゃないのか。
あたしは突然、この新撰組とれいなの姿が重なって見えた。
あたし達がもし閉ざされた世界にいるなら何かを為すために平等な武器が欲しい。
明治の時代は刀だったのかもしれないし、今だったら刀じゃなくたっていい。
歌や踊りだって十分に戦う武器になるんだ。
10年たった今だったらあたしはそう思えるんだ。
- 182 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:28
- それから石川さん達とれいなは例の一件があってから気まずい空気が漂うようになった。
それに当時の娘。は石川さんや藤本さんが中心だったかられいなはますます孤立を深めていた。
ホテルに戻っても移動する時もあたし達と一緒に行動しようとしなかった。
れいなはいつもさっそうとしていて毅然としているようにあたしには見えた。
それでもれいなが一人であることに変わりはないのだ。
- 183 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:29
- ツアー中ホテルのロビーで一人でぽつんと座っているれいなを見かけた。
いつものように話し掛けられたらよかったのかもしれない。
でもあたしにはれいなに話さなきゃいけないことが山のようにあって、結局一言も話すことが出来なかった。
話したいことがこんなにあるのに何も伝えられない。
それがこんなにつらいことだとは思わなかった。
それで苦しんで悩んでいるのはあたしじゃない。
れいなの方がずっとだということにもあたしはまだ気付けなかった。
- 184 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:30
- ツアーの最終日、れいなは高熱を出して倒れてしまった。
様子がおかしいことに気付いた新垣さんがマネージャーに言ってやっとみんなが気付いたのだ。
それまでれいなが高熱を出してることなんて外からは、全く気付けなかった。
あたしも含めて。
みんなはツアーが終わって一気に力が抜けたんだろうと言っていた。
最終日は北海道だったかられいなはそのまま飛行機に乗って福岡に帰ってしまった。
ツアーの最後まで仕事をやり遂げますとれいなは言い張ったらしいけど、実質ライブはもう終わっていたし、後はラジオに仕事しか残ってなかったから無理やり帰らされたみたいだった。
- 185 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:31
- 「さゆ?」
札幌のラジオ局に向かうバスの中で壁にもたれかかっていたら絵里に話しかけられた。
「心配だね。れいなのこと。」
絵里はぽつりと言った。
「でも大丈夫だよ。」
あたしはうなずく。
もう5月も近いのに札幌はまだ冬だった。
- 186 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:32
- あちこちに雪が人の高さぐらいまで積まれている。
三角形の雪のモニュメントは町明かりに照らされて青白く清楚な光を放っていた。
北海道出身のメンバーが多くてバスの中は、地元の話で盛り上がってたけどあたしはずっとうつむいていた。
あたしはれいなのことが心配だった。
ラジオの収録はすんなりと終わった。
この頃のあたしは、もう気がどうふさぎこんでいたって仕事になれば自動的にテンションが切り替わった。
ラジオだってテレビだってPVだって笑顔が作れた。
だけど自分を出さないことがあたし達の仕事だとしたら、今まで先輩達もずっとそうやってきたとするなら少し悲しい気がした。
- 187 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:33
- 札幌のホテルについたあたし達は、少し早く開放された。
めいめい個室に入っていく。
いつもだったら飯田さんから「明日も頑張って行こー」とか「今日はゆっくり休んで」とか声がかかるはずだったけど、今日はそれもなかった。
ライブで疲れて切っていたあたし達は睡眠だけを待ちわびていた。
「重さん、重さん、ちょっといい?」
あたしが部屋に入ろうとしたら新垣さんに呼び止められた。
- 188 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:34
- 「なんですか?」
あたしが思いっきり疲れた声をだしたら新垣さんは吹き出すように笑った。
「あはは。疲れたまってるねぇ。」
新垣さんはあんまり疲れてないんだろうか。
その声はあまりにも明るくて先輩と自分の間に差を感じてしまう。
「田中ちゃんのことでさ。ちょっと話があるんだけど。」
「れいな?」
れいなのことになるとあたしは即座に反応してしまう。
新垣さんはそんなあたしのことをもう気付いていたのかもしれない。
- 189 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:35
- 新垣さんを中に入れたあたしはベッドに倒れこんだ。
体が重くてそのまま眠り込んでしまいそうだった。
「ツアーの最後にさ、田中ちゃん言ってたんだけどさ。」
新垣さんは構わず話し始めた。
「あーあ、さゆ完全に怒らせちゃったなって。すごい気にしてるんだよ。重さんのこと。」
あたしは固まっていた。
あたしも気にしていた。れいなことはずっと。
あたしがれいなに言いたいことがあってそれを伝えられないだけなんだ。
れいなにはあたしなんかよりもずっと可能性があるのに。
もっと「うまく」やればいいのに。そしたらもっと輝けるのに。
それだけだった。
- 190 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:35
- でもあたしはそんなことを一度もれいなに言えた事はない。
「あたし怒ってなんていないですよ。」
あたしが新垣さんに返せたのはこの言葉だけだった。
「重さん、怒ってない。」
新垣さんは何故かあたしの言葉を反芻した。
「だったらそれ、伝えてあげてよ。そしたら田中ちゃん元気になるからさ。」
あたしが起き上がると新垣さんはにっこりと笑っていた。
その笑顔を見ていたら何だか安心してしまった。
- 191 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:36
- 「新垣さんて何でそんなに余裕なんですか?」
あたしは尋ねた。
「余裕!?余裕なんて全然ないよ。歌は全然歌えないしダンスもぱっとしないしさ。最初は慣れたらうまくなっていくのかなっと思ってたら全然。新人の頃と全く一緒。変化ないねー。」
新垣さんのしゃべり口調は疲れを知らない。
「でもさ、あたし何も教えられないからさ。それで相談とかに乗ってあげることしかできないかなーっと。」
新垣さんが自慢そうに笑う。
- 192 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:38
- 「いい先輩ですねー。新垣先輩。」
あたしは正直、娘。に入る前は新垣さんのことはほとんど知らなかった。
高橋さんに憧れていたし、もっと目立つ先輩がたくさんいたから。
もしかしたられいなもそう思っているかもしれない。
あたしと喧嘩しようが孤立しようが新垣さんはずっとれいなのことは気にかけてくれた。
あたしはこのとき決めていた。
れいなに会いに福岡に行く。
やっぱりれいなに会いたい。
れいなに伝えたいことがあたしにはあるんだ。
- 193 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:39
- 今日の更新を終了します。
- 194 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:40
-
- 195 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 10:40
-
- 196 名前:読者M・K 投稿日:2004/01/31(土) 22:41
- 更新お疲れ様です、ここの新垣さん最高です!!。
孤立したれいなの事気にかけてくれて、新垣さんあんまり小説では活躍しているの見かけないので。
これからも活躍させてくださいね、それにしても深い内容です。
次回も期待してます。
- 197 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 13:53
- 読者M・K様
いつも読んでいただいてありがとうございます。
よろしければまた感想いただけると幸いです。
- 198 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 13:55
- 翌日、オフだったあたしは福岡行きの飛行機に乗った。
新垣さんは一緒に行きたかったけど桜組の仕事があって無理だった。
空に雲が行き交っていた。
はるか下に粒の街が見えて強い太陽の光に反射しては消えていった。
飛行機はすさまじい速さで目的地に向かっているんだろうけどあたしはじれったかった。
早くれいなに会いに行きたい。
あの博多の街ならずっとすれ違ってきたあたしとれいなの関係を変えられる気がした。
- 199 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 13:56
- 福岡についたあたしは、電話なんて段取りが億劫で連絡もせずにれいなの家に向かった。
れいなの家なんて一度行ったきりだったから道なんて相当怪しかった。
だけどそんなことまったく気にならない。
れいなが過ごした入り組んだ商店街に入って周りの景色なんて気にもとめずあたしはれいなの家にたどり着いてしまった。
黄緑色の芝草が生えたこじんまりとした見覚えのある庭をあたしは見つけた。
- 200 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 13:56
- そこでれいなのお母さんが洗濯物を干していた。
「あぁ、あなた道重さん、さゆみちゃんじゃない。」
あたしは思わず会釈した。
「れいな・・・は。」
言いかけて庭にあの大きな白い犬がいないことにあたしは気付いた。
「犬の散歩ですか?れいなもう調子いいんですか?」
あたしは聞いたらおばさんは何ともいえない顔をした。
一瞬答えるまでに間があく。
「う、うん。れいなの調子はだいぶようなっとうみたいやけどねぇ。」
おばさんは何かを言いづらそうにしていた。
- 201 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 13:57
- 「ジョンなら死んだよ。」
突然れいなの声が聞こえた。
足をぶらぶらさせて縁側にれいなが座っていた。
「あたしが殺しちゃったんだ。」
言葉とは裏腹に腫れぼったいまぶたがここからでも分かる。
「れいな、大丈夫?」
「さゆ。上がんなよ。」
れいなはそう言った。
れいなの赤い目を見てるとあたしは、どうしていいか分からなくなる。
- 202 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 13:59
- 「ジョンを助けていたらあたしが死んでいたかもしれない。だから仕方ないんだ。」
れいなは自分の部屋にあたしを入れた後、静かに言った。
「ジョンは死んじゃったの?」
あたしが言うとれいなは静かにうなずいた。
それかられいなはあたしにジョンが近所の知り合いを見て道路に飛び出して車にひかれてしまったことを話した。
事故のあと、ジョンの体はまだ温かかったことも。
「あたしは臆病なんじゃないよ。ジョンが死んであたしは生きようと思っただけだよ。だってそうだよね。さゆ。」
れいながあたしの手を握ってくる。
すごく熱い手だった。
ふらっとれいなの体があたしに倒れかかる。
あたしはびっくりしたけどそのままれいなを抱きかかえた。
- 203 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:00
- 「れいな、もう大丈夫だから。ゆっくり休もうよ。」
あたしは、れいなをゆっくりとベッドにうながすと横にして布団をかぶせた。
れいなの額をさわったらまだすこし熱があるみたいだった。
それかられいなは眠るまでうわごとのように事故のときのことを話した。
どうやられいなとジョンは一緒に散歩をしていて事故にあったらしい。
近くの商店街はもうほとんど営業してなくて車なんて滅多に通らなくなっていたからまさか車が道を通るなんて思わなかったみたいだ。
- 204 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:01
- 後でおばさんから近所の商店はいよいよ景気が悪くなって商店街の組合まで解散に追い込まれてしまった話を聞いた。
れいなが寝ている間、おばさんがお茶をいれてくれた。
「うちも人形作りをやめてしまってね。」
居間でおばさんは、急須を揺らしてる。
「れいなに家計のやりくりたのむわけにもいかないしね。親としては情けないところよね。」
おばさんが額に手をあてて言った。
「もう、あの人形作ってないんですか。れいなのお父さん。」
あたしは言った。
- 205 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:03
- 前にれいなの家で人形を見た後、あたしはそれが博多人形であることを知った。
近くの箪笥の上に置いてある人形もきっとそうだろう。
博多人形は粘土を焼いて作る。
なのにその表面は柔らかく今動き始めておかしくないぐらいの繊細さをもっていた。
「うちの前の商店街、解散してしまってからはね。東京からたくさんお店が来てねぇ。」
お母さんは悔しそうだった。
あたしは自分の実家の方もそうだったことを思い出した。
コンビニはもう随分前からあちらこちらにできていたし、24時間営業のファミレスだってある。
回転寿司も牛丼屋もできた。
ただ大田舎ってことだけは変わらなかったけどすごく便利にはなった。
でもそのことがこんな痛みがあるなんてあたしは知らなかった。
- 206 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:03
- 「でも、れいなは今モーニング娘。を思いっきりやってますよ。」
「誰も敵わないぐらい。」
あたしは言った。
窓の外から陽光が燦然と入ってきて温かかった。
空は青く細かい粒子が一面に広がるようだった。
同じ日本でも札幌と博多じゃこんなに違うんだ。
あたしもれいなもこんなに離れたところから東京で夢をかなえようとしている。
- 207 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:04
- 「れいな?お茶入れたよ。」
あたしはノックしてれいなの部屋に入った。
れいなはすでに起きだして窓際に立っていた。
窓にはなみずきのきれいな花が映っている。
「れいな?大丈夫?」
あたしが言ったられいなは何も言わずこくりとうなずいた。
まるで子供がするみたいに可愛らしかった。
「きれいでしょ、外。もう春だね。」
あたしは言った。
「知っとーよ。そんなこと。」
れいなはわざと愛想なく言った。
あたしは少し安心した。
いつものれいなが戻ってきた気がした。
- 208 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:05
- 「あーあ。お店も潰れちゃったしな。」
れいながつぶやいた。
「ごめんねぇ。れいな。」
あたしは言った。
「何?何でさゆが謝んの?」
「何となく。あたしれいなに謝ろうと思って博多まで来たんだ。」
他に言うべきことがあったのかもしれないけど今のあたしにはそれしか思い浮かばなかった。
「ね、さゆ。」
れいなが口調を変えた。
- 209 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:06
- 「うちの前の商店街さ、みんな潰れてしまったんだ。うちのことすごい可愛がってくれたおじさんやおばさんがいたのに。」
「うん。おばさんから聞いたよ。つらいね。」
「でもあたしお母さんから聞いたんだ。うちのお父さんも商店街のおじさんたちも最後まで店潰さんようによう頑張ったって。今だってお父さん、商店街の人の代わりに人形を売ってくれるお店を探して福岡中を駆け回ってる。」
れいなは表情は今にも崩れ落ちて泣いてしまいそうだった。
だけどれいなの体全体からは明々とした力が放たれていて、何故だかれいなに近づけなかった。
- 210 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:07
- 「博多は東京の属国じゃない。」
れいなの目はきりっとして光った。
「だからあたしは勝負がしたいんだ。だってそれが普通じゃなかと?あたしはさゆのことが大好きだけど、戦うときにはちゃんと勝負するよ。みんなそうやってきたんだし。」
あたしは頬が熱くなった。
と同時にれいなの目からも涙があふれ出てきた。
「あたし、東京の子の適当に楽しくっていうのが分からない。確かに競争なんてしないでみんなで楽しくしたほうがいいに決まってるよ。でも何もしなくたって順位とかって自然についちゃうんだ。すっごい不公平にね。だったら思いっきり勝負した方がいいじゃん。」
れいなは自分の事を言いながら実は、お父さんのこととか商店街のことを必死に言っているんだと思った。
- 211 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:08
- あたしにだってその感覚は分かる。
中学校のクラスでも人気者が必然的にいるしそれはべつに人気投票やってるわけじゃない。
運動会でいくら順位がつかなくたって足が速い人は早いし遅い人は遅い。
人なんてイメージでとられわれちゃうから当たり前だ。
れいなが出窓のカウンターに手をつくと黒髪がさらりと落ちた。
泣いているせいではないと思ったけどその表情がひどく美しい。
- 212 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:09
- れいなは言った。
「石川さんだって藤本さんも吉澤さんも本当はもっとすごいんだよ。あたしのあの3人のことがすごく好き。だからなんで3人が後藤さんに遠慮してるのが分からない。先輩達があれじゃ5期の先輩がいつまでたっても前に出られないよ。」
その時、れいなの言葉はあたしのずっと昔にあった感覚を思い出させてくれたような気がしていた。
それはあたしが博多にいたせいかどうかは分からない。
だけどあたしは自分の中の最も深くて根源的な力をれいなから感じ取っていた。
- 213 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:10
- 「れいな、また一緒に踊ろうよ。」
あたしが笑顔を見せたからかどうかは分からない。
でもれいなが笑ってくれていた。
田中れいなって存在があたしの中でどんどん大きくなっていることに自分自身も気付き始めていた。
それはあたしだけじゃないかもしれない。
モーニングには誰一人としていないこの剣士が輝き始めたとしたら、あたしは田中れいなの最初の目撃者になれるかもしれないと思った。
- 214 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:10
- 今日の更新を終わります。
- 215 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:10
-
- 216 名前:作者 投稿日:2004/02/08(日) 14:11
-
- 217 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/09(月) 17:48
- この作品すごく好きです。期待!
- 218 名前:読者M・K 投稿日:2004/02/10(火) 17:49
- 更新待ってましたよ、いえいえとんでもないです。
たいした事香いてないのに。
れいなのやるからには思いっきり勝負したいというのは大事ですよね。
何時もながら深い内容です、次回も期待してます。
- 219 名前:読者M・K 投稿日:2004/02/10(火) 21:43
- >>218の訂正
書いてないのに、でした。
すみません。
- 220 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:02
- >>217
レスありがとうございます。
>>218
いつもありがとうございます。
今後ともよろしくです。
- 221 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:09
- 見上げると青い空。青、青、青。
空がたまらなく青くて思わず手をかざして叫びたくなる時があたしにはある。
やったことはないけど剣道の武具を着て思い切り「メーン!」と吠えたくなるときがある。
そして四角形の建物に囲まれて東京の生活をするのが時々ものすごく億劫になる。
- 222 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:10
- あたしには分からない。
あたしには分かる。
あたしには出来ない。
あたしには出来る。
そんなことを考えるのが正直あたしにはつまらない。
だったらやればいいじゃん。
至極単純な結論に達するまでどうしてもあの夏のMステのれいなを思い出す。
それはれいなが博多から戻って、もう初夏の香りがしている頃だった。
- 223 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:11
- 屋外での収録だったMステは、いつもどおり大げさだった。
ステージの外にゲスト用の豪華なテーブルが並んでいる。
観客は全員がアーティストで順番に歌を歌っていくいつもの方式みたいだった。
まるで芸能人のディナーショーだ。
「芸能人だけの内輪のお祭りじゃん。」
案の定れいなはそれをを見て不機嫌そうにしている。
確かにいつもだったらMステには一般のお客さんもいるのだが、今回は規模が大きい割には誰もいなかった。
れいなはいつもファンを意識して歌ってる。
あたしはそれが分かっていたらかられいなが機嫌が悪いのもよく分かった。
「まあさ、やるしかないけど〜。」
れいなは含み笑いのような余裕な表情を見せた。
- 224 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:12
- 今日の歌は乙女組の新曲でしかもれいなはセンターだったからいずれにせよ気合の入り方が違うのだ。
ゲストには後藤真希さんも呼ばれていてあたし達と一緒にいた。
「ごっちん、ここに来なよ。」
ステージ裏で石川さんが妙にハイテンションで後藤さんを呼んでいた。
「はいよ〜。」
後藤さんは吉澤さんとずっと話していたけど素直にかけよって言った。
誰も彼も後藤さんを呼んでいて後藤真希って存在自体がモーニング娘。にとってのアイドルみたいだった。
「何か後藤さん可哀そうじゃない?あんなにみんなに引きずりまわされてさ。」
れいなが言った。
れいなの言葉には嫉妬とか特別な気持ちはまるでなくて素直にそう感じたみたいだった。
あたしも同じ気持ちだった。
- 225 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:13
- 後藤さんとはあたしは、ほとんど面識がなかった。
でもこんなに会う人みんなから人気がある人って珍しいと思った。
もしハロプロやモーニング娘。のファンの人があたし達みたいに後藤さんと話すことができたらみんな後藤さんのファンになってしまうんじゃないかって思う。
でもあたし達と違ってファンの人には後藤さんは話すこともできない存在だ。
人の魅力を直接会わない人から感じるのってすごく難しいと思う。
だけどあたし達は伝えなければいけない。
たまらなく楽しくて苦しい挑戦なのかもしれない。
- 226 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:14
- れいなはふたたびセンターに立った。
そこには都会の喧騒も無味乾燥な四角形のイメージもなかった。
ただあたしとれいながステージに立っていて、屋外のテーブルに有名アーティストがずらりとならんでいた。
れいなの掛け声とともに一気に激しいダンスが始まる。
- 227 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:15
- 全員の気合であたしは外に投げ出されそうだった。
だけど不思議に笑顔になる。
れいなの存在がわずかに残っていたあたしの卑屈さを完全に吹き飛ばしていた。
れいなから湧き出ている輝きが照明の光を押し返しているみたいだった。
れいなのダンスのその後についていく長い影が不思議な幻想を次々と作っていく。
それはれいなが普段、練習に練習を重ねてきた蓄積が少しずつ形を変えて現れている。
観客席があたし達にひきつけられている。
一瞬一瞬であたしはそれを感じる。
何故だか涙が出るぐらいに心地よかった。
- 228 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:15
- 会場からの拍手を聞いて初めてあたしは気付いた。
自分が有名な歌手を前にしてものすごくコンプレックスを感じていたこと。
あたしの卑屈さはそこからきていたんだ。
「さゆ、うまくなったね。歌。ようなっとったよ。」
終わってステージを降りるときれいなが言った。
- 229 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:17
- ステージの裏に下がっても自分の情感と外の熱気はさめやらなかった。
れいなの同じステージには何度ものぼったはずなのに初めて感じる感情だった。
その時、場外に場違いなぐらいの歓声と拍手が上がった。
その時は確か会場に来れなかったつんくさんのビデオが合間に流されているはずだった。
アナウンサーの声が聞こえる。
「何とモーニング娘。の田中れいなさんがソロデビュー決定です。来年の新春のコンサートから田中さんがソロとしても活動を開始することがプロデューサーのつんくさんより発表されました!」
- 230 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:17
- 「え!?田中が。」
飯田さんが思わず叫ぶ。
当のれいなは唖然としていた。
口をぽかんと開けたままステージのバック裏を見つめている。
「田中さんがソロデビューが決まったみたいですね。」
撮影器材を運ぶスタッフが笑顔でそう言ってきた。
「れいな、何かつんくさんから話しあったん?」
あたしが話しかけてもれいなは表情を変えないまま首をふるだけ。
「あたし・・・ソロでやるの?本当に?」
何かうわごとのように言っている。
- 231 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:18
- 「そうだよ。田中ちゃんソロのアーティストになれるんじゃん。でも大変だよ。ソロって。」
藤本さんがれいなの肩を軽く叩いた。
その様子を見て石川さんが目を大きくしてれいなを見ていた。
- 232 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:19
- れいなのソロデビューが決まった瞬間だった。
れいなはモーニングキッズと「あぁ!」っていうユニットを組んではいたけど、ソロデビューなんて話は今まで全くなかったらしい。
ただれいながソロでやりたいっていうのはずっと前から知っていた。
れいなの目標はずっと「後藤真希」だったから後藤さんのように一人の歌手として歌っていきたいと思っていたみたいだ。
「れいな!やったじゃん。」
あたしはれいなに抱きついた。
- 233 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:20
- このときが正真正銘れいなの努力が認められた瞬間だと思った。
場内ではさらにどよめきが起こっていた。
屋外のライブには初夏の風が吹いた。
近くにはランドマークタワーなんかがそびえたっていて都会のど真ん中なのに、故郷の海の匂いがしている気がしていた。
れいなが一歩踏み出すことがあたしにとって何かが始まる瞬間のように思えた。
デビューしてやっと2年が経ってやっとあたしは自分もこれからどうなっていったらいいか考えるようになったのかもしれない。
- 234 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:21
- れいなは後でつんくさんからソロデビューの件を聞いたらしい。
半信半疑だったれいなはつんくさんに確認してやっとソロデビューを信じたみたいだった。
ただ、れいなはまだ16歳にもなっていなかったし、後藤さんのソロデビューに比べると2年近くも早かった。
れいなにとっては喜びいさむことだしあたしも何よりそれはうれしかった。
でも後になってみればあまりにも早いソロはいろんなことでれいなを傷つけて、その分周りの理解がれいなに追いつかなくなる原因になったかもしれなかった。
- 235 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:22
- 「あぁー。幸せになりたーい。」
れいなが通り過ぎる船を見て言った。
3階立ての船には観客が満杯で陽気な音楽が流れている。
当たり前だけど波も穏やかで、水車のようなスクリューと人の声だけが響いていた。
「幸せ?何が?」
あたしは言った。
れいなとあたしは遊園地に遊びに来ていた。
れいなのソロデビューが決まってから久しぶりに休みがとれたのだ。
今日は一生分笑った。そう思える日だった。
何せ気合を入れて朝の開園から遊園地に跳び入ってありとあらゆる乗り物に乗って食べて笑った。
だからまだ日がかげるには大分時間があるのにあたし達は一息いれないと動けないぐらいだった。
- 236 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:23
- 夏の水の香りがあたりに浮き上がった。
うっとおしくはなかった。
それ以上に空が澄み切っていていろんな夏の不愉快な暑さを飲み込んでいくようだった。
「だって幸せになりたいじゃん。」
「へぇ。れいなでもそんなこと考えるんだ。」
あたしは以外に思って言った。
「何で?あたしがそんなこと考えたらおかしい?」
「おかしいよ。」
「おかしくないよ。」
あたしは笑った。れいなのむきになってる顔がおかしかった。
- 237 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:24
- 「何で笑うの?」
「だって今日は楽しかったから。」
あたしが言ったら今度はれいなが笑っていた。
「あたしさぁ、さゆとはずっと一緒にいたいけどやっぱソロでやっていきたいんだ。」
れいなが笑うのをやめて言った。
分かってる。あたしは何度もうなずいた。
「れいながやろうとしてることをやればいいんだよ。」
あたしにはおぼろげにしかれいながやろうとしていることは分からない。
いや、れいなは何がやりたいというわけじゃなく、ただ歌を歌いたいだけかもしれなかった。
だけどあたしは誰よりもれいな自身のことを分かっていたかった。
それはあたしの意地だった。
- 238 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:24
- 「さゆ〜。ありがと。」
れいなに突然抱きすくめられた。
「へへ。さゆってお人形さんみたいっちゃね。」
れいなの顔がどんどん近づいていてくる。
大きくてとんがった目が優しく笑っていた。
れいなの唇がそのままあたしに重なった。
時間が止まった気がした。
力がぬけて空気に触れた。
夏の風が入り込んでくるようだった。
キスの味が濃くてあたしはれいなに包み込まれたみたいだった。
ただ空だけが切ないぐらい青くて深くて透明で、全てのものを覆い尽くしていた。
- 239 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:26
- あたしはれいなにいろんなことを教わった。
それはキスの味とかそういうことだけじゃなくてもっと根元的なものだった。
例えば今のあたしには毎日新しいものが舞い込んでくる。
舞台に出て演劇やったりバラエティ出たり映画出たり、はたまた番組の司会みたいなこともやらされてみたり。
いろんなことをしていきながらあたしは競争してるんだなと思う。
出来るだけ楽しみながらやっていけばいいとみんなは思っているかもしれない。
だけどあたしはやっぱり負けたくないって気持ちが強い。
特に同年代のタレントやアイドルには。
そういう気持ちって最近になって芽生えたきたものだって思ってきたけどもっと昔れいなの影響を強烈に受けて、モーニングにいたときにあたしの中でつくられたものだ。
- 240 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:27
- 当時、娘。のエースの石川さんはよくあたしにダンスの踊り方を教えてくれた。
だけど石川さんの悪いところは懇切丁寧すぎるところで、そんなことまでいちいち言われなくても分かるってとこまで説明する。
娘。にしてもハロプロにしてもライバル関係っていうのはある。
だからおいしいお店のリサーチ情報は丁寧に教えて欲しいけど、加入して2年も立つメンバーにダンスとか歌い方をそこまで親切に教えなくてもって時々思っていた。
その頃、れいなはソロデビューを控えてまっしぐらに進んでいたし何だか独立していけるれいなが眩しくてうらやましかった。
- 241 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:28
- 「道重。そこの入り遅くない?余計な動きしてるからだよ。」
石川さんにまた注意される。
「えっと。でもここで音響もキーも変わるからこっちの方がやりやすいんですけど。」
汗をぬぐった。
れいな初のソロデビューがある新春のハロプロライブが近づいていた。
「道重。それでいい。でももうちょっとGoodって言う歌詞で調整して動いて。出来るでしょ。」
夏先生があたしにそう言って石川さんがはっとして向き直る。
「はい。」
夏先生の言葉にあたしは力強く答えた。
- 242 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:28
- 出来るだけ早く新曲の振付けはマスターしてしまいたかった。
今回の新曲はあたしのメインのパートがかなりあった。
ということは必然的にあたしの歌う量が多いことになる。
歌が下手でそれがコンプレックスでどうしようもなかったあたしがだ。
でもだからこそ何とかしたい。
あたしにだって歌えることをハロプロメンバーの全員に知ってもらいたかった。
そして何と言ってもあたしを応援してくれたファンの人にもそんな姿を意地でも見て欲しかった。
- 243 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:29
- 今日の更新を終わります。
- 244 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:29
-
- 245 名前:作者 投稿日:2004/02/15(日) 18:30
-
- 246 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/02/21(土) 07:06
- れいなのキャラがすばらしい。
応援してます、頑張ってください。
- 247 名前:作者 投稿日:2004/02/22(日) 20:27
- すいません。体調不良で今日は更新できませんが、近いうちに
必ず更新します。よろしくお願いします。
- 248 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:27
- しばらく入院をしておりまして、更新が遅れました。
>>246
レスありがとうございます。
- 249 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:28
- 「重さん。お疲れ〜。気合はいってんねぇ。」
振り付けの練習が終わって一人帰ろうとしていたら新垣さんに話しかけられた。
「あたしもそろそろれいながうらやましくなってきました。」
あたしは笑って答えた。
「で、田中ちゃんは?」
「れいなは、居残って夏先生とソロ曲の練習です。」
「あ、そっか。待ってようかと思ってたんだけど、だったらいいや。」
新垣さんは言った。
「れいなに何か用があったんですか?」
「いやあ別にないけど。ほら最近いろいろ書かれてるじゃん。」
新垣さんの言葉は何か言いずらそうだった。
- 250 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:29
- 「あ〜。週刊誌とか。」
「そう。」
あたしは、最近の週刊誌とかの雑誌におもしろおかしくれいなの悪口が書かれているのをよく目にしていた。
先輩達を蹴落として無理やり奪ったソロデビューのチャンス。とか成り上がるためには何でもしかねない凶暴な女。とか。
記事の中身なんて読む必要もない。
そばにいるあたしがそんなことは大嘘だと分かっているから。
売上のために勝手なことを書き散らすマスコミとかには腹が立って仕方がなかった。
- 251 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:29
- 「別に気にはしてないと思うけどさ。あたしもコネで娘。に入ったとか書かれたから気持ち分かるなと思ってさ。」
「新垣さん、そんな噂があったんですか?」
あたしにはそんなこと聞いたこともなくて驚いた。
「うん。あのあたし、小さい時にモデル?やってたから。」
「それってもしかして自慢?」
「いや、違うよ。だからそういうことやってただけでいろんなこと書かれるってことさぁ。」
新垣さんがばたばたと手を振るのであたしは思わず笑ってしまった。
- 252 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:30
- 「あはは。でもれいなはそんなこと気にも止めてないと思いますよ。」
あたしは言った。
れいなは今だってソロが決まる前だって全くペースを変えてない。
ただ好きなものに全力で打ち込んでる。
「そうだとはあたしも思うけど。ソロになると目立つ分、いろんなことを周囲から言われちゃうと思うんだよね。ちょっとした言葉で風当たりが強くなったり。」
新垣さんが急に真面目な表情になった。
- 253 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:31
- 「大丈夫ですよ。れいなだったら。心配性な先輩ですねー。」
あたしは、調子に乗って新垣さん肩を思いっきり叩いてしまった。
「いたっ!もう頼むよ。ただでさえ今日は吉澤さんにいろんなことされて大変だったんすよ。」
「あ、ごめんなさい。」
ちょうどあたし達は笑いながらスタジオを出た。
ひゅうと風が吹く。体に寒さがぴしりと伝わってきた。
- 254 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:32
- 季節が変わっていくたび、あたしはれいなのソロデビューが近づいてくることを思った。
もしソロでうまくいけば次はまた卒業という話が出てくるかもしれない。
そうなったらもう一緒にモーニング娘。はやれなくなる。
後藤さんに追いつきたいとずっと思ってるれいなにとってはそれが一番いいことだとは思う。
だけどあたしは独立心なんてほんのちょっぴり芽生えただけだ。
れいなと離れ離れになることは寂しさと悲しさ以外想像できなかった。
- 255 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:33
- 「でも、重さん。田中ちゃんのこと頼むね。本当にさ。」
ふいに新垣さんが言った。
静かな冷静な言葉だった。
それはまるで外の寒さが言葉を紡ぐようにあたしに伝わってきていた。
田中れいなって人はいい意味でも悪い意味でも誰もがほっとかないだろうし、あたしはそのれいなの一番近くにいたかった。
- 256 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:34
- ソロデビュー間近のれいなはいつもスタジオには一番乗りしていて振り付けの練習やボイストレーニングをやっている。
「れいなー。頑張っとるぅー?」
あたしを言うとれいなはいつも右手をあげて笑ってくれた。
- 257 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:35
- れいなが自主錬しているダンスレッスン場に娘。全員でぞろぞろと着くとれいなの目は真っ先にあたしを探していた。
その瞬間がたまらなくうれしかった。
あたしはれいなを追いかけて支えているつもりになってる可憐な乙女になっていたのかもしれない。
でもとびきりかっこよくてきれいなれいなにはいつも会いたくて仕方なかった。
あたしはれいなを追いかけすぎていたかもしれない。
- 258 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:36
- れいなに対する批判が結構高まってるのは知っていた。
でもれいなは誰かの悪口になんて絶対めげる人じゃなかった。
だからあたしは、絶対にれいなは大丈夫って思ってきた。
でもれいなはそれ以上にモーニング娘。のことが大好きだったしモーニング娘。を傷つけるような人はたとえそれが自分であっても切り捨てただろうと思う。
- 259 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:37
- その日は珍しくれいなが自主練をしていなかった。
「あれ、今日田中、いないじゃん。」
「どうしたのかな。」
石川さんと矢口さんが口々に言っている。
れいなのいないスタジオの中は無人の体育館のようだった。
ただ照明だけが明々とついている。
今日はれいながソロの曲の振り付けが終わってからあたし達と合流することになっていた。
「会いづらいのかな・・・。さすがに。」
絵里が唖然と突っ立っているあたしに近づいてきて言った。
- 260 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:42
- 「亀井ちゃん、余計なこと言わなくていいから。」
横から新垣さんが突然言う。
「れいなに、れいなに何かあったんですか?」
「いや、別に何もないよ。何もないんだけどさ・・・。今日の週刊誌。その田中ちゃんのさ・・・。」
新垣さんがいいづらそうに記事の内容を話し始めた。
聞いてるうちに腹が立ってしょうがなくなってきた。
記事の内容は、ソロデビューは娘。の中で今人気が一番であることの証、だけど田中れいなは自分がモーニングの中で一番ではないのにも関わらず、他人を蹴落としてソロを奪い取ったというもの。
ただそこまではいつものことだった。
- 261 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:42
- つんくに言って無理やり曲のパートを変えさせたりした。
その内容は実は本当にあったことも含まれているだけにれいなやメンバーに与える影響は大きかった。
れいなは次にソロデビューをするはずの石川や吉澤の邪魔をした。
その後、れいなが記者に発言したらしいでたらめの言葉が並べられていた。
- 262 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:44
- 「あ、遅れてすいません。レッスンの場所、変更になってたんですよ。」
れいながひょっこり姿をあらわした。
ほっとした空気があたりを包んだ。
いつものように練習が始まった。
石川さんの真剣そのものの顔が目に映る。
飯田さんの指示も夏先生の教え方もいつも通りだった。
「梨華ちゃん!何やってんの。そんな基本のところで。」
藤本さんが珍しく石川さんに言った。
「あぁごめん。」
石川さんがふっとれいなを見た。
- 263 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:45
- やっぱりその日はみんな変だった。
記事のせいかもしれないしそうじゃないかもしれない。
そしてれいなのせいでは断じてない。
だけどみんなの空気が微妙にすれ違ってる気がした。
「そこは田中に合わせるんだからさ。無理やっても信じてついていかないと。」
矢口さんの言葉に息をきらして誰もが言葉を出せない。
- 264 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:45
- 「あたしもリズムが狂ってました。すいません。もう一回やります。」
れいなが言った。
それでも誰もれいなに声をかけれなかった。
理由がわからない。
だけど空気だけが重い。
昨日言われた事務所の経営が苦しいとかそういうことが原因なんだろうか。
そうじゃない。
結成して長い年月がたつモーニング娘。自体に金属疲労が生じている。
そんな気さえした。
- 265 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:46
-
「れいな、お茶して帰ろうよ。」
「ううん。」
れいなが珍しくどっちつかずの返事をした。
とりあえずれいなと話がしたくてあたしはそのまま楽屋に残っていた。
れいなは着替えが終わっても鞄の中身を整理したり、化粧品や香水を取り出してみたりで一向に帰る気配がなかった。
そんなれいなを見るのは初めてだった。
「お疲れ〜。」
メンバーが一人また一人と帰っていく。
最後の紺野さんが楽屋を後にした時だった。
- 266 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:47
- 「ねぇ、れいな?どうするの。今日?」
あたしは我慢し切れなくてれいなに言った。
「ううん。」
れいなは最初と同じ声を出して化粧台の机に手をついた。
ぐしゅん。
れいなはそばにあった音楽の本をつかんで強く握り締めていた。
あたしはやっとれいなが泣いていることに気付いた。
れいなの大きな目から大粒の涙ぼろぼろと出ていた。
- 267 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:48
- 「つらいよね。れいな。」
あたしはれいなを抱き寄せていった。
れいなが何を言ったわけでもなかった。
あたしがその時のれいなが何を思っていたかなんて分からない。
でも目の前にいるれいなをみてたら自然と言葉が出た。
あたしがれいなの右腕を触ったら、体からすっと力が抜けた。
音楽の本がばさりと落ちた。楽屋の空気が止まっていた。
少し古くなって緑がかった蛍光灯が煌々とついていてあたりの様子を映していた。
- 268 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:48
- 多分、れいなはその記事の内容なんかには全く臆することなんてなかったんだと思う。
それはあたしが一番れいなを良く知っていたから分かる。
ただそんな立場にいる自分が悔しかったんだと思う。
あたしはオーディション合宿の時、泣いてあたしの布団に潜り込んできたれいなを思い出していた。
あの時もれいなは何も言わなかった。
でもそれでいいとあたしは思う。
他人に弱いとこなんて絶対に見せないれいなが無力な姿をおしげもなくあたしに晒しているんだ。
あたしの足元にはくしゃくしゃになった音楽の本があった。それは今のれいなの気持ちを表していたのかもしれない。
- 269 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:49
- その頃のれいなはいつも毅然としていてさっそうとしていると周囲から思われていた。
確かにそれからのれいなは、あたしの心配をよそにつらい表情はもうあたしにだって見せなくなった。
だけどそれは、自分の思い通りにならないことや悔しいことを自分の中に閉まっておける強さをれいなが持っていただけだ。
とてもじゃないけど爽やかにやっていられるわけじゃないはずだった。
ソロデビューを16歳でするプレッシャーは相当なものだったし、明るくて元気いっぱいなキャラクターにしたいなんて思っても人の見方なんてそうそう簡単に変わるもんじゃない。
あの後藤さんだってクールなイメージを払拭するのに相当苦労したらしかった。
- 270 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:50
- 「ソロデビューのコンサが終わったらさ。どっかゆっくり遊びに行こうよ。」
例の一件があってからしばらくたった頃、れいなが言った。
それは楽屋で収録や練習が終わった後、れいなが口癖のようにあたしに言ってきた言葉だった。
それは本当にどこかに行こうというわけでもなく、れいなが自分の気持ちを落ち着かせるために言っているようだった。
れいながぼろぼろになった振り付けの資料や楽譜を机の上でトンと揃えた。
落ち着いたすました顔だった。たった今まで激しいダンスを踊って、夏先生に怒られて言い返してきたすぐ後だとは思えない。
- 271 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:51
- 「何で?別に遊びにいくならいつ行ったっていいじゃん。明日でもいいし。」
あたしがすねて言うとれいなは少しはにかんだ。
「うーん。気合っていうか気持ちがね。揺れちゃうから。」
「何でよー。」
答えながらもあたしは少し戸惑っていた。
れいなの言葉が何だか乾いてる気がした。
何故そう思うんだろう。
あたしもれいなも東京にきてからだいぶ時間がたって、うっすらと田舎のなまりが消えかかっていたからかもしれない。
- 272 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:52
- 「れいなはさぁ。うまくいってんの?ソロの準備?」
「さゆさぁ。ファンの人みたいなこと聞くよね。ずっと見てくれてるんだよね。あたしのこと。」
れいなに言葉にあたしはすこしほおがかっとなった。
「うまくいったりいかなかったりあんなもんでしょ。新曲の準備なんて。」
れいなはみんなのイメージ通りって感じで自信に満ちた表情はしていた。
それは、新垣さんや先輩達を安心させるには十分な顔だったけど、あたしは何だか不安な気持ちがぬぐいきれなかった。
- 273 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:53
- 「田中れいな」
れいなは、一人のアーティストとしてハロプロコンサートの出場者に名前が載っていた。後藤さんのすぐ後の順番だった。れいなの後には藤本さんが控えていている。あたしだったらすぐにでも失神してしまうぐらいのプレッシャーだ。
「田中、今日行けそう?」
リーダーがしつこいぐらいに聞いていた。
れいなが強いのかもろいのか先輩達は分からない。
だから余計に心配の仕方がわからないのかもしれない。
それはれいなが不器用だったのかもしれないし、あたしがれいなにはまり込んでいただけかもしれなかった。
- 274 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:53
- 「はい。」
とだけれいなは答えた。
れいなの踊りは先鋭だった。
だけどいつものように大きく道を切り開いていくほどの勢いはない。
その理由は後から分かった。
もうそのコンサートはあたしにはれいなの記憶しか残っていない。
それはれいなの歌声や踊りじゃなくてれいながそこで言ったことだ。
- 275 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:54
- 「あたしのこの曲はモーニング娘。としてもハロプロのメンバーとしても最後の曲です。」
最初その言葉が何を意味しているのかさっぱりわからなかった。
場内は騒然としていたし、またつんくさんが何か仕掛けたのかなとも思った。
「あたしのことで娘。のメンバーにはすごく迷惑をかけてしまってすごく反省もしてます。だけどあたしはあたしなりに考えて、モーニング娘。を脱退したいと思います。ファンの人には最初にこのことを伝えたいと思います。」
れいなは続いて言った。
観客が訳がわからないと言った声を立てていた。
- 276 名前:作者 投稿日:2004/02/29(日) 20:55
- 今日の更新を終わります。
何かご意見ご感想があればお願いします。
- 277 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/02(火) 02:47
- 初めてこの小説読んだ。凄い展開ですねぇ。
にしてもこの小説の田中の存在感は凄い。
ちょっと格好良い道重の語り口調も良い。ガキさんも良い味だしてますなぁ。
- 278 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:34
- >>277
レスありがとうございます。
3人は物語の中心なので誉めていただいてうれしいです。
今後ともよろしくです。
- 279 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:44
- モーニング娘。を脱退してハロプロにも残らない。
れいなの言ったことはものすごく「身勝手なこと」だった。
ハロプロのメンバーも全員そう思っただろうし、ファンの人だったそうだったと思う。
れいながモーニング娘。にいちゃいけない理由なんてどこにもなかった。
ただあたしがものすごく腹が立ったのはれいながそういうことをあたしに一言も言ってくれなかったことだった。
だかられいなが何を思って娘。から脱退することを決めたかなんて考えもしなかった。
「れいな!何、あれ!」
あたしは目の前にいるれいなに今にもつかみかかる勢いだった。
- 280 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:45
- 「みんなの雰囲気が悪くなったのあたしのせいでしょ。だからそう言った。それだけだよ。」
れいながあたしを見る。
その瞳だけであたしに訴えかけてくる強い力があった。
「わけわかんない。週刊誌とか周りの雑音とか関係ないじゃん!」
あたしはれいなの力を振り払った。
「でも、もう決めたことなんだ。」
「決めたってあたしにも相談もなしに?」
「相談すると気持ち揺れちゃうから。モーニング娘。にはさゆがいるからさ。」
「何でよ。何でそんなにすぐにあきらめちゃうわけ?」
「ごめん。でも、もう決めたから。」
れいなはそう繰り返すと楽屋を出て行った。
- 281 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:46
- あたしは思わず天井を仰いだ。
殺風景な世界が目の前にあった。
自分にひどく残酷なことがつきつけられてる気がしていた。
れいなの歌とダンスをもう見れなくなるんじゃないか。
そしてこれからしようと思っていた歌やダンスの話だってできなくなるんじゃないか。
思いがうずまいてやり場の無い焦りが立ち込める。
「道重、田中何だって?」
あたしたちを気遣って外にいた先輩たちが続いて楽屋の中に入ってきた。
「何も分からないです。」
いくら情けなくてもそれしか答えられなかった。
あたしはれいなのことなんて本当は何も分かってない。
ただの自惚れた人間だと思った。
- 282 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:47
- 「何も分からないってじゃあ何話したの?」
「梨華ちゃん!もういいから。」
石川さんを藤本さんが制止した。
「ここで重さん責めてもしょうがないし。田中ちゃんのことは田中ちゃんが決めたらいいんじゃない?卒業したいっていうんだったらそれもいいんだろうしさ。」
藤本さんが言った。
しばらく沈黙が全員を覆った。
あたしは一人楽屋の席に座ってうなだれていた。
- 283 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:48
- 他のメンバーとの距離が離れていて何だか隔絶されている気がした。
「田中はモーニング娘。やハロプロにおさまんないのかもね。それを無理やり押し込んどくのもかわいそうかもしれない。」
石川さんが少し声を落として言った。
あたしは何も言えなかった。
れいなのことなのに何も言えない自分がもどかしい。
- 284 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:49
- 何で!?何でそんなことが言えるの。
れいながいなくなってもいいの?
田中のためだとかそういうこと、あたしは聞きたくもなかった。
あたしはれいなのいない舞台で歌いたいと思わない。
れいなとダンスが踊りたい。
れいなと笑いながら一緒にバス乗っていろんなコンサート会場行って。いろんな仕事して・・・
時間がたてばれいなの娘。での存在が消し去られるようであたしは我慢の限界がきそうだった。
- 285 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:49
- 「でも、田中は本当にそれでいいのかはさぁ。聞いてみないと分かんなくない?」
どこかで聞き覚えのある声がした。
石川さんにそんなにため口で言う先輩なんて他にはほとんど残ってなかったから思わずあたしは顔をあげた。
娘。に混じって後藤さんがそこにいた。
違和感が無くて気づかなかった。
というより後藤さんはモーニング娘。という集団に簡単に入り込めてしまうみたいだ。
- 286 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:50
- 「梨華ちゃんもミキティも何も聞いてないの?」
二人は無言のまま首をふった。
「ごっつぁん、いいよ。ここはあたしが何とかするから。出番、すぐでしょ?」
石川さんが気を使って言う。
「あたしは平気。それより道重、何とかしないと可愛そうでしょ。」
さらっとした後藤さんの言葉。
後藤さんは派手な衣装とは対照的に柔らかくあたしを見つめていた。
- 287 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:52
- 春とはいえまだ寒かった。
れいなは黒いパーカに顔をうずめるようにうつむいていた。
露出した肌が鮮明に見えてひどく寒そうだった。
「ごめん。今暖房つけるからさ。」
あたしはリモコンを握って立ち上がった。
「あ、気にしないでよ。」
れいなの黒くてきれいな目があたしを下から見ていた。
このれいなの表情がいつもあたしを揺り動かす。
そのままれいなの上に倒れこんでいきたい。
そんな錯覚にとらわれた。
- 288 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:53
- 「あたしこの部屋好きだな。いっしょに住んだらだめ?」
「それはいいけど。」
一瞬れいなとの生活を想像しそうになって慌てて首をふる。
「でも今は、れいなのことでしょう。」
あたしは言った。
「この前れいなは、あたしはあたしのやり方で歌手目指すって前福岡で言ってたじゃん。あれはどうしたの?何でやめちゃうの?」
- 289 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:55
- 「やめるなんて一言も言ってないよ。」
れいなはすばやく答えた。
ぱっとれいなの顔に力が灯ったように見えた。
と同時に温かい風があたしに横を流れる。部屋の暖房が運転を開始したみたいだ。
「歌手は続けるよ。だけどもうハロプロにもつんくさんにもお世話になるわけにはいかない。ハロプロもモーニング娘。にもあたしの考えを押し付ける気はないしこれ以上迷惑はかけられないよ。」
- 290 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:56
- 「れいなの考え?」
「だってあたしがいたってみんなの雰囲気、悪くなるだけじゃん。あたしが生意気なこと言ってみんなを怒らせるのはいいよ。だけどあたしに関係ないところでみんなが傷ついていく。そういうのもう嫌なんだ。」
れいなの言葉は静かでそれでいて重かった。
誰も傷ついてなんていない。
本当に傷ついている人がいるとしたら今、あたしの目の前にいるれいなだ。
- 291 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:57
- 例えばそれは雑誌にのっているれいなの噂やデマみたいなことだけじゃなく、田中れいな自体がもう誰もがほっておかない存在になっていた。
最盛期のモーニング娘。にいた後藤さんの立場がそうだったのかもしれないし、れいな独特の鮮やかで激しい存在感がいやおうもなくモーニング娘。から発せられていた。
「でもさゆのそばにはちゃんといるよ。だってさゆ、このままほっとけないもん。」
れいながさっきと打って変わって急に甘い声になる。
あたしは何と答えたらよいか分からずそのまま時が流れた。
窓の外にはダークグレイの空が広がり太陽の光をひたすらにさえぎっている。
あたしが改めてなにか言おうとしたときにやっと玄関のチャイムの音がした。
- 292 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:58
- 「誰?お客さん。」
「うん。ちょっと待ってて。」
私は慌ててドアに向かう。
「おはよー。」
大きな目がぱちくりしていた。栗色の髪をした女の人。
あたしの目の前に後藤真希さんが立っていた。
チェックのブルゾンに超がつくぐらいのミニスカートが抜群に似合っていた。
その姿だけで石川さんや藤本さんの挫折を体現していた。
- 293 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 14:59
- 「後藤さん!?」
後ろからのれいなの驚く声にあたしは思わずにんまりしてしまった。
昨日、あたしは後藤さんと生まれて初めてゆっくりと話をしたのだった。
コンサートが終わって泊まったホテルで後藤さんに言われたとおりロビーであたし達は待ち合わせた。
暖房をききすぎるぐらいにかけていた。
コーラル色の幾何学模様をした絨毯がいかにも80年代ふうで、ひなびた感じの空間だった。
そのときやってきた後藤さんは拍子抜けするぐらいに普通な人だった。
- 294 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 15:00
- 「あたしもさ。娘。をやめようかなと思ったことがあるんだ。入って1年ぐらいたったときかな。このまま娘。にいてさ。あたしこのままどうなっちゃうんだろうってずっと不安だった。すっごい大好きだった先輩がいなくなっててさ。相談する人もいなかった。」
後藤さんが椅子にこしかけて言った。
でもあたしには信じられなかった。
ハロプロメンバー全員に慕われて可愛がられている後藤さんが相談する人もいないってことがあるんだろうか。
- 295 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 15:01
- 「え、だってその頃もう石川さんや吉澤さんっていたんじゃないですか?」
「あたしその頃、よっすぃーや梨華ちゃんともあんまり仲良くなかったよ。てか悪かった。」
後藤さんはなぜか笑っていた。
「よっすぃーは何だか怖いしさ。梨華ちゃんは敬語も使ってよそよそしいし。その頃のギスギスしたあたし達の雰囲気、見せてあげたいよ。」
後藤さんが今度は大まじめな顔をして言った。
石川さんも吉澤さんも事あるごとに後藤さんの話をしているし、先輩たちに仲が悪い時期があったなんてそれがすごい不思議だった。
- 296 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 15:02
- 「あの頃、あたし市井ちゃんもいなかったしなっちとか先輩たちもだんだん相手にしてくれなくなって。あ、これってなんかもうつまんないな。もうやめるしかないのかなって勝手に考えてた。」
「競争相手がいなくなったからですか?」
もしれいながいたらそう聞いたかもしれない。
後藤さんは少し困った顔をした。
「うーん。そんな簡単じゃないな。あたしって結構みせたがりで、メンバーの中でも誰かが見ててくれないと嫌なんだ。あたしをライバルだって思ってくれる人がいてももちろんいいんだけど。その頃、4期は先輩たちについていかなきゃ。先輩は4期のメンバーの面倒みなきゃしか考えてなかったから。」
- 297 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 15:02
- あたしは後藤さんの言葉に少し違和感を感じた。
「でもその頃のあたしに田中がすっごい似てる気がする。」
後藤さんが言った。
「自分ひとりで考えて、自分ひとりで結論だしてさ。もう脱退しかないって思い込んでるような気がするんだ。」
後藤さんの言葉が何度もあたしの中で反芻された。
体の中に絡み合う二つの電流が走っている。そんな気持ちになった。
- 298 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 15:03
- 「確かにれいなと後藤さんは似ているかもしれません。でも・・」
そのあとの言葉は続かなかった。
というよりその後の言葉はとても一言ではあらわせなかった。
話すとしたられいなのことをすべて話さなければならなかったから。
田中れいなだったらメンバーなんて気にしない。ただファンに向かって突っ走っていくだけだ。
その時、唯一はっきり言えるとしたられいなと後藤さんは真逆の存在だということだった。
- 299 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 15:04
- 「明日、田中と話してみるよ。田中を止められるかどうか分からないけど。」
最後に後藤さんは言って立ち上がった。
スレンダーな体が映える。
だけど後藤さんは安っぽいホテルのロビーで浮き立つわけでもなく馴染むでもなかった。
ただ自然にそこにいる。
それはコンサートの時とはまるで違う姿だった。
「あたしが役に立てばいいんだけど。」
そういってあたしに微笑みかけた。
後藤さんはすごくやさしい人だった。
- 300 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 15:06
- 「あたし、分かるような気がします。」
後藤さんは早い時期から娘。を引っ張っていってる手の届かない存在だと思っていた。
だけどそれは本当は違う。
「んぁ?何が?」
「石川さん達にとって後藤さんの存在が心の支えになってる理由が。」
「あはは。うそぉ。でも確かにごっちんといると癒されるぅ。ってよく言われる。あたしって全然癒し系じゃないだけど。でもねぇ。よっすぃーにとってライバルは梨華ちゃん。あたしは親友。梨華ちゃんにとってもライバルはよっすぃー。あたしは可愛い妹ってとこかな。ミキティだってそうだよ。たまにそれがわずらわしくなるときだってあるんだ。」
最後に後藤さんが言った。
- 301 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 15:07
- 今日の更新を終わります。
やっと。300到達。この作品も後少しで完結です。
- 302 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 15:07
-
- 303 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 15:07
-
- 304 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 21:59
- 更新お疲れ様です。
ここの田中や娘メンバーはとてもリアルに描かれていると思います。
ただひたすら意志の強い、でも純粋で不器用な田中に胸打たれます。
しかしラストが読めないですね。完結は寂しいですが
最後までついて行きます!
- 305 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:18
- >>レスありがとうございます。
リアルを書くのは難しくて四苦八苦していますが励まされます。
最後まで読んでいただけると幸いです。
- 306 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:44
- 「何で?何で?さゆの家なんかに。」
れいなはまだあっけにとられている。
「お邪魔しまーす。」
後藤さんは元気よくあたしの部屋に入ってくれた。
「田中、ハロプロやめんの?」
れいなは、後藤さんの言葉には答えずあたしを睨んできた。
「さゆ!あたしのことで後藤さん呼んだん?こんなことしたら後藤さんだって迷惑っちゃろ?」
後藤さんの登場とれいなの言葉にあたしは少し勢いが戻った。
- 307 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:46
- 「はあ?あんたみたいなわけ分からん頑固者、話聞くのに先輩頼るしかないじゃろ?」
あたしはれいなに怯みもしなかった。
「さゆ。少しは素直になった思っとったらそげん言うとね!」
「あんたこそ素直になったら?」
あたし達のやりあいに後藤さんは相当ひいてたと思う。
久しぶりの口喧嘩だった。
「もぉええ。あんた一人でやったら。そんでどっかでのたれ死んだら。」
あたしが言ったときに後藤さんがそっとと薄っぺらい紙を差し出した。
- 308 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:47
- 言い返そうとしたれいながはっとしてそれを見る。
紙には「挑戦状」なんて勇ましい言葉が書いてあった。
「出来れば読んで欲しいんだけど・・・」
対する後藤さんは紙の言葉とは逆におずおずと遠慮がちに言った。
れいなは急いでそれを受け取ると裏には一言だけこう書いてあった。
「あたしに勝ちたいのだったら勝負しろ!! 後藤真希」
「後藤さん?これ?」
れいながまた唖然として後藤さんを見た。
「あたしと一緒にデュオ組まない?」
あまりにも唐突な言葉が後藤さんの口から出てきた。
れいなが大きな目をますます大きくして後藤さんを見つめている。
- 309 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:48
- 「実はつんくさんにも、もう話は通してあるんだ。あたし前から誰かとユニットかデュオ組んだらって言われてて。それだったら田中とやってみたいって言ってあるんだ。だから田中がよければ組めると思う。てかぜひやらせてよ。」
あたし自身もあっけにとられた。
あたし達の知らないところでそんな話があったなんて。
でも後藤さんとれいながデュオを組むとしたられいなはまた歌を歌えるしハロプロにも残るということだ。
そんなことをずっと考えて、昨日後藤さんが話をしてくれていたとうことにあたしは気づいた。
- 310 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:49
- 「何であたしとデュオが組みたいんですか?後藤さんはソロでやっていきたいんですよね?」
れいなが怪訝な顔をして聞く。
暖房がとまって空気の流れが止まったような気がした。
あたしは自分の部屋にいるって感覚が薄れてきた。
後藤さんとれいながいるだけなのに。
この二人の存在感のせいかもしれない。
「それは・・・いろいろあるけど。」
後藤さんが言いよどんだ。そして改めて言い始めた。
- 311 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:50
- 「まだ発表されてないけど。ミキティと梨華ちゃんとよっすぃーが3人でユニットを組むんだ。それに絶対負けたくない。」
「石川さん達が??」
あたしとれいながびっくりして見つめあった。
「卒業してってことですか?」
「いや、分かんないけど。これからはモーニング娘。とかそうじゃないとかってあんまり関係ないみたい。今だって娘。だけで集まる機会あんまりないでしょ。」
後藤さんの言葉は冷静だった。
- 312 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:51
- 確かにあたしも娘。以外にも別ユニットを組んでいたし乙女での活動が断然に多い。
ただあたしは必死にしがみついて踊って歌っていた。
「勝つためにはあたしが必要ですか?」
れいなが後藤さん以上に冷静に聞いてきた。
「いや、田中とやりたいってのはそれだけじゃないよ。」
後藤さんがやっと笑った。
- 313 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:52
- 「いっしょに踊ってるときお互いの力がぶつかり合うって感覚分かる?あたしにとってDo it now!のなっちがそうだったしごまっとうのミキティがそうだった。いっしょに踊ってると相手の力が伝わってきて、自分もどんどん踊りたくなるんだ。そんな気持ちをもう一度味わいたいんだ。だからあたしと一度勝負して欲しい。」
後藤さんが言い終わったときれいなの顔が一瞬引き締まるのが分かった。
暖房がついてもいないのに空気が動いた。
それはあたしの体の中だけで何かが動いたのかもしれなかった。
後藤さんは張り詰めた弓の弦のように伝わってくるれいなの歌と踊りを知っているんだろうか。
多分後藤さんは本当のれいなを知らない。
だけど一緒に勝負したい人って感覚的に分かるんだと思う。
- 314 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:53
- 「それにあの3人を本気にできるのって田中しかいないと思うから。」
後藤さんは言った。
「分かりました。考えさせてください。」
れいなが凛として答えると後藤さんはあたしを見て微笑んだ気がした。
- 315 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:54
- 「よっし。んじゃあたしの話は終わり。重さん、お邪魔しました〜。」
後藤さんが顔をほころばせて勢いよく立ち上がった。
そして、そんなに急がなくていいのにっていうぐらいレザーバッグの中身を確認して黒い帽子をあたふたとかぶった。
「今日、何かあるんですか?」
れいなが興味深げに尋ねたたら後藤さんは梨華ちゃんに会うと早口で返した。
話している間にもバックの中身をあれこれ詮索している。
何だか後藤さんの様子を見ているとあたし達より子供っぽく見えた。
- 316 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:55
- 「ユニットのこととか話すんですか?」
「いいや。全然。いっしょに遊びに行くだけ。でも梨華ちゃん遅れるとうるさいから。よっすぃとかメケティだったら何も言わないんだけど。」
と焦りながら返した。
「うわー。どうしよ。また怒られるぅ!」
後藤さんは時計を見ると見送りもできない勢いで玄関にすっ飛んでいった。
そこで廊下でひどく物が倒れる音が聞こえた。
- 317 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:56
- 「いったぁい!!」
声が聞こえてきてあたし達が急いで廊下に出てみたら後藤さんが右足を抱えて片足で立っている。
「くつ・・靴箱に足ぶつけた・・。」
「あ、すいません。この靴ばこ・・」
あたしが靴箱のあけ方を説明する前に後藤さんがあっというまに消えていった。
残されたあたしとれいなはぽかんと口を開けていた。
- 318 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:57
- 「台風みたいな人・・・。」
「ていうより何だかドジっぽい。」
れいなはあきれたような顔をしていたけど、それでいて目にはきらりと光るものがあった。
「後藤真希さんってやっぱあたしファンだな。後藤さんのことが大好きな石川さんや藤本さんの気持ちよく分かるよ。」
れいなは楽しそうに笑っていた。
れいなの真っ黒な髪の中に一際明るく輝くものがあった。
あたしがれいなにプレゼントした赤いヘヤバンドに光が反射している。
次第に柔らかい陽光が部屋の中にしっとりと入ってきたのだ。
- 319 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:57
- れいなはその光に吸い寄せられるように立ち上がって窓際に寄っていった。
「後藤さん、今ごろ間に合わないよぉって泣きそうになりながらダッシュしてんのかな。」
れいなが窓の外を見て言った。
初春の太陽がれいなの白い肌をくっきりと映し出している。
「あはは、絶対そうだよ。」
あたしも外が見たくなってれいなのそばにかけよる。
やっぱり厚く覆っていた雲が薄くなって太陽の淡い侵食を許していた。
- 320 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 19:59
- れいなは、後藤さんの話があった後しばらく娘。を続けていた。
つんくさんからも後藤さんと同じ話があったらしい。
「少し考えて決めます。」
れいなはそう答えたみたいだ。
あたしにとってれいながデュオの話を受けるにせよ受けないにせよ後藤さんの言葉が死ぬほどありがたかった。
だってこのときは、あたしは笑ってはいたけどれいなが歌を歌いつづけられるかどうかというところだ。
もっと言えば、れいながあたしのそばにいてくれるかいないかの瀬戸際だった。
- 321 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 20:00
- だけどあたしにはあの後藤さんがきてくれた日からあたしにはある意味、嫉妬に近い安心があった。
れいなの顔は、あの「脱退宣言」をする前の血色の無い顔とはぜんぜん違う。
れいなにとっては後藤さんの言葉はあたし以上にうれしかったみたいだった。
れいなももうどうやっても転びそうにない。
やっぱりそれぐらい後藤さんっていうのは大きくてあたしにはとてもかなわない存在に思えた。
でもあたしには完全にれいなに対する淡い感情があって、それがゆるやかに心の中からせりあがってきたと思ったら胸の中できゅっと締め付けた。
- 322 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 20:02
- 「さゆ!仕事終わった?」
れいなはソロの仕事や打ち合わせが終わると電話でもメールでもいつもあたしにそう言ってくる。
「終わってない」なんてれいなの誘いを断った日なんて一日もなかった。
たとえ終わっていなくてもいつかは仕事は終わってまたれいなに会えるんだ。
「今日は星がきれい。」
休日が重ならないことが多くてそれからあたし達はいつも夜のお台場に行った。
真っ暗な空に輝く星を二人で見ていた。
あたし達がよく行くのは海浜沿いのとある駅でそこにはとてつもなく大きな船と古びた飛行機が置いてあった。
東京のお台場で海の近くだともう夏の香りがして心地よかった。
- 323 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 20:03
- 「うん。さゆの実家の方行ったらもっときれいなんだろうね。」
「一回来てみたらいいよ。うち。」
「じゃ、今度行く。」
「いつよ。」
「デュオ結成の発表、福岡でやるんだ。だからそのときに。」
れいながあたしを見てにっこりと微笑んだ。
「そっか。」
あたしは思わず恥ずかしくなって海を見た。
そして心の中でガッツポーズをした。
れいなはハロプロに残ってくれるんだ。
またあたしと一緒にいろんな歌歌ったり踊ったり出来るんだ。
海に程近い岸壁にそばにあたし達は並んでたっていた。
時々波と陸地がこすれあって静かなメロディーを奏でた。
- 324 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 20:04
- 「娘。も続けるよ。」
「うそっ。」
今度は驚いてあたしはれいなを見た。
「デュオもやるし、ソロもやるしモーニング娘。もやる。だってそうしたら一番ファンの人に見てもらえるじゃん。」
あたしはなんて言っていいのかわからなかった。
ただうれしい。
でもそれはあたし一人のためじゃない。
さっきの淡い感情がますます胸を揺らして、どうにも出来ない感情を押し込めてる気がした。
- 325 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 20:05
- 「よかった・・・。本当よかったよ。」
やっと声がついて出た。
「さゆ、そんなことで泣くことないじゃん。」
れいなに言われてしまった。
抱き寄せられた腕の中が温かかった。
周りの空気も十分心地よかったけどれいなの感触には比べ物にならなかった。
「やっと立場逆転だ。」
れいなが静かに言った。
- 326 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 20:06
- 「いつもあたしがさゆの前でよう泣いとったっちゃろ。オーディションの合宿とか楽屋でも泣いたし。」
確かにあたしはれいなの涙を何回も見た。
だけど今のあたしみたいに弱い涙なんてれいなは流してない。
強くてかっこよくてそれでも悔しくて泣いてしまう。
そんな聖水みたいな涙だった。
「でも、あたしはもう泣かない。その代わり後ろなんて見ずに突っ走るから。」
れいながあたしの額にキスをした。
- 327 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 20:06
-
何も言えずに時だけが流れている気がした。
どうにももどかしい思い。
沿岸に立ち並ぶビルの明かりを受けてれいなの顔が輝いて見えた。
- 328 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 20:07
- 今日の更新を終わります。
次回で最終回になります。
- 329 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 20:07
-
- 330 名前:作者 投稿日:2004/03/14(日) 20:07
-
- 331 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 01:03
- おお、更新早いですね。とても嬉しい。
次回で最終回ですか、とても楽しみに待っています。
作者さん、応援してますぞ。
- 332 名前:nanasi 投稿日:2004/03/18(木) 22:48
- とある板で小説を書いている者です。
田中のキャラには驚かされます。何て言うか心動かされるみたいな。
作者さんのキャラ作りは参考になります。
頑張って下さい。
- 333 名前:作者 投稿日:2004/03/21(日) 23:01
- >>331
レスありがとうございます。
応援ありがとうございます。今最終回練り中です。
>>332
作者さんからのレスとはうれしいです。キャラは一番練るんですが
誉めていただいてうれしいです。
ちょっと忙しくて今週完結できず来週になる
と思います。すいませんがよろしくお願いします。
- 334 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 15:55
- 品川駅から新幹線に乗ってあたしは一直線に福岡に向かっていた。
中の冷房のおかげで外のむっとした空気から少し開放される。
陽光が窓いっぱいにはいってきていて清涼とした空気と蒸し暑そうな外の風景が鮮やかなコントラストを作っていた。
明日がれいなと後藤さんのデュオ結成発表の日だった。
「東京じゃ夜空しか見れんかったから。真昼間の博多でさゆとゆっくり話がしたいな。」
大事な発表前なのにれいなからそんなすっとぼけた連絡がきたのは昨日だった。
でも多分話があるのはあたしの方だ。
この胸のつっかえを絶対にとらなきゃいけない。
ずっとれいなと一緒にいて、だけどどうしても言葉に出さなきゃ伝わらない思いがあった。
どうしようもないぐらいれいなのことが好きになってた。
「れいなに会って言わなきゃ。」
そんな思いを抱いていた。
- 335 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 15:56
- それから携帯電話が鳴って電話の相手が新垣さんだったことまではあたしは覚えている。
あたしは、最後にれいなに出会った夜の岸壁のことだけを思い出していた。
打ち寄せる波の音。
静まり返った空気。
乱反射する町の明かり。
輝いて見えたれいなの笑顔。
そして泣け叫ぶ新垣さんの声であたしはれいなの死を知ったんだった。
「交通事故。」
そんな言葉も左から右に流れ、その日あたしが見た景色とか会った人なんてもう全然思い出せない。
というより最初から覚えてない。
博多に行った後、新垣さんがあたしを心配して山口の実家まで送ってくれたらしいけどそれも覚えてない。
- 336 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 15:57
- 時間も記憶も感情も何もかも一致しない。
何もかもばらばらになっていく。
誰に何を聞かれても反応ができない。
それが別の世界であるみたいに。
記憶の中のれいなばかりがたくさん出てきてあたしの目の前にその肝心の人は来てくれなかった。
博多のビルを見てもれいなの実家に行ってもれいなはいない。
街からすっぽりと抜け出てしまった強烈な存在感が悲しく自分を包む。
ぴたりと自分の中の時間が止まる。
もうそれでいい。時間なんて進まなていい。
- 337 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 15:57
- あたしはただれいなに会いたかった。
せっかく博多まできたのに何でれいながあたしに会ってくれないのか分からなかった。
れいなに会いたいよ。
このままれいなのいない世界に生きてくなんていやだよ。
れいながあたしの言葉に答えてくれないなんて一度だってなかったのに。
「れいな、あたしと歌って踊りつづけたいって言ったじゃん。また一緒に娘。で頑張るって言ったじゃん。」
それでもれいなは笑うばかりで何も答えてはくれない。
「もう会えないなんていやだよ。れいな!れいな!」
れいなへの言葉が胸の中にあふれ出てきてとめられなかった。
- 338 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 15:58
- あんな負けず嫌いで意地悪なのにれいなはあたしにだけはものすごくやさしかった。
その理由をあたしは聞いてない。
悔しくて悲しくて苦しくてしょうがない。
このまま狂ってしまって何も分からない植物人間にでもなってしまったほうがよかった。
実家に戻って何も食べずにこのまま死のうと思った。
精神も体もこの世界にいないぐらいのめちゃくちゃな状態だったら少しはれいなに近づけるかもしれない。
れいなに会うためだったらそんなこと少しも構わない。
れいなが会いにきてくれないというならあたしが会いに行くしかない。
もう、それでいいよ。
れいながいてくれたから今までずっとずっとやってこれたんだから。
今のあたしじゃもう何もかもどうにもならない。
- 339 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:00
- だけど結局そんなあたしを止めたのはれいなで、実家で真っ暗な部屋で泣きつづけて半分意識が朦朧としたような状態でもれいなの言いたいことははっきり分かった。
それは「いいかげんご飯食べたら?」とか「散歩でもしてきなよ。」とか「今日も暑いね。」とかそんなことばっかりだった。
それで実家にひきこもってからたったの3日目で両親の説得どおりあたしはご飯を口にした。
あたしのすぐそばでれいながほっとため息をついた気がした。
漠然とした虚無感の中であたしは生きることを選んでしまった。
自分でれいなのことをあきらめたという感覚じゃない。
そのままれいなの死を受け入れて、他の人と同じように「悲しかった。」「でもこれから強く生きていこう」とか思うのがいやでいやで。
それが逆にあたしを突き動かしたのかもしれない。
- 340 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:01
- あたしは実家でようやくご飯を食べれるようになってから一人で博多に行くことにした。
「まだれいなにきちんとしたお別れをしてないから。」
と言っても両親が心配して猛反対した。
やっと立ち直りかけてきたのに今博多にいったらまたどうかなるんじゃないかって。
それでもあたしが博多に行くことができたのは、新垣さんがあたしの家までまた来てくれて一緒に博多まで付き添ってくれたからだった。
あたし達はお互いに何もしゃべらなかった。
話すゆとりも元気も無くて電車に乗ったり降りたりしただけで体に疼くような痛みが走った。
やっぱり両親が心配したとおりだった。
自分の体が自分じゃないみたいに感じる。
新垣さんがいなかったらもう何十分もれいなのことを考えていて何本も電車をやり過ごしていたかもしれない。
それでも一歩一歩あたしはれいなの所へ向かっていた。
新垣さんに支えられてずっとアスファルトを見ながら道路を歩いていた。
- 341 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:02
- れいなの家の近くだ。
強く目をつむる。
そのとき、れいなが横を通りかかった気がした。
目の前をよちよち歩きの男の子が車道に出て行く。
閃光のようにトラックの急ブレーキが聞こえた気がした。
思わず耳を塞ぐ。
あの日、れいなは偶然通りかかった歩道で幼い子供が猛スピードのトラックの前に出るのを寸でのところで助けた。
そしてそのまま車にはねられてしまった。
運良くその子は、れいなが道路の外に突き飛ばしたおかげで足を骨折しただけですんだ。
れいなの咄嗟の判断だった。
- 342 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:03
- 目の奥にじんじんとくる痛みを抑えてふと顔をあげた。
突然、鮮やかな「赤」が目に入ってきて一瞬花火を連想した。
道路脇の並木が一斉に紅葉していた。
そして真上に黎明とした空があった。
その空の記憶が今の今までずっと色あせない。
昨日見てきたと言ってもあたしには全く違和感がないのだ。
れいなと一緒に見るはずだった真昼間の博多の空だった。
- 343 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:04
- れいなの繋いだ命。それは今、あたしの目の前に元気でいる。
「私もこの田中さんのポスターは、正直あるっていうだけでもずっとつらくて。子どもが知らないうちに取り出して見てるとどきっとすることが何度もありました。あたしがちゃんと子ども見てたら田中さんは死ななくてすんだんじゃないかって。優は優でそういう負い目を感じてるから歩けなくなってるんじゃないかって。もうずっとあたしも自分を責めてばかりいましたから。」
気が付くと優君のお母さんがあたし達のそばにきていた。
れいなは電灯の明かりに照らされている。
窓の外に覗いていた太陽もすっかり落ち込んできた。
「でも、私、それは間違ってるってことに気づいたんです。田中さんのポスターをここに貼るようになってから。優が田中さんを見るたびとってもいい顔を見せるんですよ。それであたしも優につられるみたいに。何だか勇気付けられるっていうか。本当に厚かましい話なんですけど。」
- 344 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:06
- 「れいな。」
気が付いたらあたしはそう言っていた。
写真のれいなは自信に満ちて笑っている。
ここ何年間かあたしの中のれいなはいつもそうだった。
あたしが泣きそうになっていたらいつも怒ってる顔してるし演劇の舞台の前とかに「やるぞぉ。」って気合いれてたら途端に笑顔になる。
はっきり言ってとっても厳しい。
だけどそのれいなのおかげであたしはどんなことにも負けなくなった。
というより負けたくなくなった。
芸能界なんてハロプロ出身の人以外にもライバルや目標となる人はたくさんいるし、いろんな人にあたしは出会った。
どんな大舞台でもれいなみたいにワクワクして飛び出していきたくなる。
だけど大きな仕事や舞台が終わるたびに、自分に対する充実感と一緒にれいながいないってことがむしょうに寂しくなる時がある。
そんなときあたしはいつもれいなだったらどんなこと考えてどんな行動に出るんだろうって考えてしまう。
- 345 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:09
- 「田中さんももし優を助けてなかったらあなたぐらいのお嬢さんになっていたんでしょうね。」
お母さんが少し肩を落として言った。
「でも何歳だろうとれいなは優君を助けたと思いますよ。田中れいなってそんな人です。」
あたしは思い出していた。
れいなが可愛がっていた大きな犬。
ジョンがれいなの目の前で車でひかれて死んでしまったこと。
れいなはそのことをずっと心の傷にしていたに違いない。
だかられいなは何の迷いもなく優君を助けられたんだと思う。
あたしはあのときのれいなの泣き顔を思い出してため息をついた。
病院の窓を見ると少し雲が出てきてさらさらと雪が降り始めていた。
雪のかけらが残りわずかな陽光に照らされてダイヤモンドの粒みたいだった。
- 346 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:10
- ねえ。れいな。
博多の街はれいながいた頃と変わらないぐらいきれいで元気だよ。
道路脇の並木なんて紅葉しててまるで花火がずっと咲いているみたい。
でも並木も人もただ華やかにににぎやかにそこにあるんじゃないんだよね。
うん。もう分かってる。あたし走るし。戦うよ。でも一つだけね。約束して欲しいんだ。
れいなと一緒に見たあの博多の空があんまりにもきれいだったから、あたしが空を見上げてたら一緒に空を見て、そしてそっと背中を押して欲しいんだ。
あたしはその時れいなに誓ったのだ。
大粒の涙で大空がゆがんで見えた。
- 347 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:12
- 君はかけがえのない世界に一つしかない存在なんだから、その個性を活かしていければ十分だよ。
映画や演劇に出るとき先輩達からあたし達はいつもそういわれてきた。
ポジティブになれるいろんな本にもそう書いてあるしとっても大事なことなんだと思う。
自分は世界に一つだけしかない花。とてもいい言葉だ。
そう思えば順位とか一番だとか全く関係なくして困難にぶつかっていけるような気がする。
だけどふと今にして思う。
「あなたは大切なんだよ」って他人から言われたり自分に言い聞かせないとあたしは、自分がかけがえのない花だと思えないんだろうか。
れいなだったら「は?関係ないよ。さゆはさゆでしょ。」そうさらっと言ってくれる気がする。
- 348 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:13
- あたしはれいなと会ってるとき、もどかしてくて言いたいことも伝わらなくてれいなは一体なにを考えているんだろうと思うことが何度もあった。
だけど今だったらそれがわかりすぎるぐらい分かって結局あたし達って似た者同士だったのかなって時々思う。
いつだってれいなは美しいし、あたしはいつでもどんくさくて駄目なまんまだけど好きなことみつけて突っ走っている限り自分が大切かどうかなんて迷いは無い。
自分も出会った人たちもみんな大切に思える。
だからあたしはれいなみたいに戦い続けることができる。
れいなと心の中で会話して苦しいことを乗り越えてあたしが気づいたことだ。
- 349 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:14
- それから考えると昔のあたしの存在ってれいなにとってずいぶんうざったくて足手まといで頼りにもならなかったと思う。
だけど今は違う。
多分たった今までれいなが残してきた心残りとあたしが今感じている一番やらなきゃいけないことは同一でそれは今、私の目の前にあるのだ。
- 350 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:15
- 「ねえ、優君あたしは番組のためにここにきたわけじゃないんだよ。」
きょとんとした優君がいた。まだまだ優君は状況がわかっていない。
「あたしは田中れいなに頼まれてここにきたんだ。」
あたしが言うと優君の目がまじまじと開かれるのが分かった。
「自分に言ってあげようよ。よく頑張ったって。そのためにはどうしたらいいか分かる?多分天国のれいなもそう言ってるよ。」
あたしはベッドの優君のそばにゆっくりと腰掛けた。
「歩こう。自分の足で。」
そしてあたしは優君の足をやさしく撫でた。
そうするとあたし達は自然とれいなを見上げていた。
「頼むよ!さゆ。」
頭上のれいなが微笑んだ気がした。
「まかしといてよ。」
あたしはれいなにとびきりのウィンクで返した。
- 351 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 16:16
- 「追憶のブルースカイ」 完
- 352 名前:E.S. 投稿日:2004/03/28(日) 16:18
-
読んでいただいた皆さん、レスしてくださった皆さん、本当にありがとうございました。
Written by Easestone
- 353 名前:E.S. 投稿日:2004/03/28(日) 16:19
-
- 354 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/29(月) 00:05
- こんばんは、石川と田中と道重が好きな読者です、完結おめでとうございます。
また大変面白い小説を読ませて頂きありがとうございました。
れいなが死んでしまうという展開はいささか少し田中推しの私としては少し寂し
い気持ちもしたわけですがそれは小説ということで割り切ろうと思います。
本当に貴方の文章は登場人物の気持ちの表現が豊かで引き込まれてしまいました。
他に書いてるものがあれば読みたいので是非教えて下さい。
それでは長くなりましてが感謝の気持ちとさせて頂きます。
- 355 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/29(月) 02:15
- これから読もうとおもってたのに‥‥↑
はぁ‥‥
- 356 名前:みっくす 投稿日:2004/03/29(月) 06:55
- おいらも読もうと思ってたのに・・・
ネタバレレスはやめましょうね。
- 357 名前:E.S. 投稿日:2004/03/29(月) 08:03
- >>354
丁寧な感想ありがとうございます。
文章にあまり自信はないのでそう言われるとうれしいですね。
登場人物が少しでも魅力的に映っていたら幸いです。
最近スランプ気味ですが、このようなレスをいただいてやる気が出るというかまた小説を
書きたいという気持ちにさせられました。
本当にありがとうございました。
私はHP持っています。
http://easestone.hp.infoseek.co.jp/
です。遊びに来ていただけるなら幸いです。
- 358 名前:E.S. 投稿日:2004/03/29(月) 08:03
-
- 359 名前:結末を隠すための流し 投稿日:2004/03/29(月) 08:05
- >>355
>>356
すいません。一応レス流ししておきますね。
- 360 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/29(月) 12:37
- (ノд`;) 泣いた…。
- 361 名前:nanasi 投稿日:2004/03/29(月) 14:56
- 待ってました。
道重のもの悲しいけど、前向きな独白がじわじわと心に染みます。
そして田中。最後まで格好良すぎる。
作者さん良い作品を本当にありがとう。
- 362 名前:名無し 投稿日:2004/03/30(火) 02:14
- 感動しました。れいなの本当の意味でのかっこよさ。さゆの成長。二人の共通点。とてもいい作品です。ありがとうございました。そしてお疲れさまでした。
- 363 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/30(火) 12:02
- 最後の予想もしなかった展開でれいなに涙しました・・・。それでも最後は前向きなさゆにまた感動しました。最後までかっこいいれいなと成長したさゆが素晴らしかったです。作者さん、本当に最高の作品をありがとうございました。
- 364 名前:takatomo 投稿日:2004/03/30(火) 20:19
- 完結お疲れ様でした。田中と道重の二人の関係が素敵で、とてもかっこよかったです。
素敵な作品をありがとうございました。
- 365 名前:読者M・K 投稿日:2004/04/01(木) 21:15
- 完結お疲れ様でした。途中読んでなくてすいません。
いっきに読みました。とても素晴らしい作品でした。
最後にはびっくりで参りました。
いや〜あの田中と道重の二人とっても素敵でした。
ごっつあんのキャラもよかったです。
作者さん本当にお疲れ様そして素敵な作品ありがとうございました。
- 366 名前:ES 投稿日:2004/04/03(土) 22:41
- 360-365
皆さんレスありがとうございました。
最後にたくさんのレスをいただけてうれしいです。
>>361
ありがとうございます。道重一人称の作品だったんですが最後にやっと
道重の存在感が出せたみたいでよかったです。
お互いに小説頑張っていけたらいいですね。
>>362
ありがとうございます。自分の作品で感動いただけたならこれほど勿体無い
ことはないです。最後まで読んで頂いてありがとうございました。
>>363
ありがとうございます。れいなとさゆの成長を描くには自分には筆力がなさすぎて
少し自分には難産な作品でした。それでもこういうレスをいただいて最後まで
書ききってよかったなと思います。本当にありがとうございました。
>>364
ありがとうございます。セバタイ、赤鯛の作者さんからレスがあるとは思っても
いずうれしいです。本当にありがとうございました。takatomoさんも今後とも
ドキドキさせられる作品を期待しています。
>>365
いえいえ、最初に読んでくれていた読者さんに最後まで読んで頂いてうれしかった
です。途中のレスもすごく勇気付けられましたよ。最後の最後までありがとうご
いました。
- 367 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/04/04(日) 20:19
- ES さま
はじめまして。
今日、はじめて知って、一気に読んでしまいました。
田中さん・道重さんの心理描写に引き込まれ…。
次回作も楽しみにしています!
PS:娘。小説の保存もさせていただいているのですが、もしよろしければ保存させてください。
よろしくお願いします。ES さま自身もHPをお持ちとのことですのでできればですので…。
当方のHPは[http://kuni0416.hp.infoseek.co.jp/text/index.html]です。
- 368 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/04/07(水) 13:31
- Ease stoneさま
「Goodbye! My Pride」に続いての保存の了解ありがとうございます。
さっそくHTML化して保存させていただきました。
次回作も期待して待ってます!!
Converted by dat2html.pl v0.2