Hard Luck Hero
- 1 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/05(金) 23:07
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夜。
明るい闇の中へ一歩足を踏み入れると。
その瞬間。
HardLuckな物語の始まり。
Hard Luck Hero
FirstHeros...Sayaka Ichii and Hitomi Yoshizawa
- 2 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/05(金) 23:08
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story01〜特別な夜は平凡な夜の次に来る〜
何気なく東京を彷徨う無数の車。
それぞれ乗り手の意思の向くまま走り続ける。
乗り手の意思を尊重し、決して逆らうことなく進む。
街の中、一つ間違えれば事故になる。
夜の街、二つ間違えれば捕まる。
車の中、三つ間違えれば、死ぬ。
「なぁ、ちょっと車貸してくれないか?」
今思えば、全ての始まりはこの一言にあった。
市井は最近、自分の車で事故をして潰してしまった。
だから車は無い。
でも必要だった。
だから借りようとした。
ただ、相手が悪かっただけのこと。
「いいぜ、好きなだけ乗れよ」
ニット帽の男は、市井にそう言って外車をすすめてきた。
市井は素直に好意に甘え、車をレンタルした。
しかしここで、市井は一つ、ミスをした。
ニット帽の男は自分に好意を示すような男じゃなかった。
「じゃあ借りてく」
市井が車に乗り込んだ瞬間、男の口元が緩んだ。
市井は何も知らないまま、車に乗り込んで、街に出た。
街の中、一つ間違えれば事故になる。
この車のブレーキが、予め緩められていることを知らないまま。
- 3 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/05(金) 23:09
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普段、極平凡な私生活を送っている市井は、スリルを求めていた。
何をしていいか分からずに、街をフラフラしていると、声をかけられた。
「君ぃ、こんなところで何をやってるんだね?」
声は後ろから聞こえた。
振り返ると、見知らぬ奴が立っていた。
市井は人と極力関わらないようにしていた。
メンドクサイし、裏切られるのが怖かった。
奴は言葉を続けた。
「君ぃ、見たところ学生だね?勉強はどうしたんだね?」
『勉強はどうしたんだね?』だと?
市井は意識して、顔に不機嫌さを漂わせた。
「君ぃ、そんな顔してないで、なんとか答えたまえー」
市井が考えた結果発した言葉は。
「きみきみうるさいんだよ」
「ノンノンノン。きみ、じゃなくて、きみぃだよ」
奴は指を小刻みに振ると、市井の言葉を訂正した。
メンドクサイ、逃げよう。
そう市井が思った瞬間、奴は気配を消した。
それと同時に、姿も消えた。
正直、不思議だった。
しかし、逃げようと思っていた市井にとっては願ったり叶ったりだった。
奴は消えた。
消えた奴のことなど、市井にとってはどうでもいいことだった。
あまり深追いしないこの性格を、市井は気に入っていた。
一連の出来事から一週間あまりたった日の夜、市井は前と変わらぬ日々を過ごしていた。
ただ一つ変わったことがあった。
彼女と別れた。
別にそんな本気でもなかったし、良い女でもなかった。
しかし失恋はさすがに凹んだ。
振られたのだった。
顔と性格はまぁまぁ自信があった。
少なくとも、その辺の奴等よりはよっぽどマシなものだろう。
「君ぃ、また会ってしまったね」
ふいに背後に気配を感じた。
声も聞こえた。
その声は、一週間前に耳にした声とそっくりだった。
振り返り確認してみると、やはり同一人物だった。
- 4 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/05(金) 23:10
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「君ぃ、僕のこと、覚えてるかな?」
市井は覚えていたが、あえて言葉を発さなかった。
「君ぃ、無視する気かい?このままずっと」
ずっと?
「君ぃは目を付けられちゃったんだよ」
「あ?」
しまった。
次の奴の言葉を促すような発言をした自分を悔いた。
「だからぁ、目ぇ、付けられちゃったんだって」
「誰に」
しまった。
「矢口さん」
「誰」
しまったぁ…。
「HLHのリーダー…かな?」
「HLHって」
あぁ…やっちまった…。
市井は黙秘を決めた。
「Hard Luck Herosの略だよ」
無視無視。
「あれ?また無視?」
口を開いてはいけない。
「おーい」
奴はじっと市井を見つめると、おもむろに自己紹介を始めた。
「俺、吉澤ひとみ。よろしく紗耶香」
「なんで俺の名前知ってる…」
聞き返した市井の言葉に、『しまった』などの感情は全く感じなかった。
「えっとぉ話せば長くなる」
「話せよ」
「んースカウトしにきた」
「スカウト?」
「いぇす」
吉澤ひとみと名乗る奴と出会ったこの日は、生涯忘れられない日になる。
- 5 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/06(土) 23:47
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市井と吉澤は空き地に座り込んでいた。
さっきから市井は、しきりに会話の中に出てくる『矢口』という人物が気になっていた。
「矢口って誰?」
「あぁ、まだ言ってなかったっけ」
吉澤が言うぶんには、
この地域にはHard Luck Herosというグループがあるらしい。
そこそこ有名なグループだったので、市井も知っていた。
HLHのリーダー格の奴が『矢口』という名前らしい。
そして最近夜に街をうろつくようになった市井を、その矢口が見つけたらしい。
市井は全然気づいていなかった。
矢口が市井を気に入り、是非ともグループに入れたいとのことらしい。
市井の目は輝いた。
「んで、僕がスカウトにきた」
吉澤は一通り話し終えると、にかっと笑った。
その表情は、すでに市井が仲間になることを確信した表情だった。
「入ってくれるよね」
「おう」
市井は即答していた。
吉澤はそんな市井を見て、『こいつとなら組める』。
そう思った。
なんの刺激もない日常。
そんな日々から脱出するチャンスがきた。
市井はとても悦っていた。
HLHのことはよく知らないが、このチャンスは逃せないと思った。
それに、吉澤の存在も気がかりだった。
人と関わることが少ないせいか、友人は少なかった。
いないと言えばそれまでで。
いると言っても両手で数え切れた。
過去に自分を裏切っていった人々が脳裏をよぎったが、市井はまだ悦っていた。
「改めて自己紹介っす。吉澤ひとみです」
吉澤は右腕を市井に向かって差し出した。
「市井紗耶香」
市井は静かに吉澤と手を合わせると、吉澤はにっこり微笑んだ。
その笑顔は純粋で、市井は今までの自分を何故か恥じた。
自分もこんな顔で笑えたら。
どんなに幸せな人生だっただろう。
二人は手を握り合ったまま、数分を過ごした。
- 6 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/07(日) 20:45
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手を解き、先に言葉を発したのは市井だった。
「矢口って人は?」
市井の質問を無視して、吉澤は立ち上がった。
「移動しよう」
返事も聞かずに吉澤は空き地を出た。
市井も慌ててついて行く。
きっと行き着く先に矢口とかいう人がいるに違いない。
そう思って、黙ってついて行った。
数分歩いたのち、着いた場所は『シエスタ』という料理店だった。
市井は吉澤を追いかけシエスタに入っていった。
店内は普通のバーみたいな雰囲気で、若者で溢れていた。
でもそれは入り口付近だけで、奥に入っていくにつれ、料理店らしい仕様になっていた。
そこにはスーツを着込んだサラリーマンなどの姿が目立った。
そして、店の真ん中に位置するリング。
よくプロレスなどの中継で目にする。
吉澤は厨房の中に入っていった。
市井もそれに続こうとした。
しかし、厨房の入り口で煙草を吹かしていた男に止められた。
「吉澤が出てくるのを待ってろ」
男は面倒くさそうに市井に言う。
市井はおとなしく吉澤が出てくるのを待つことにした。
30分程待ったが、吉澤が出てくる様子はない。
我慢出来なくなった市井は男に話しかけた。
「どのくらいかかるんですか?」
「知らねぇよ」
男は市井に目もくれずただリングを見つめていた。
市井は暇だったので更に質問を続けた。
「あのリングは何に使うんですか?」
「試合」
「なんの?」
「ボクシング」
そこで会話は途切れてしまった。
市井が次の質問を考えていると、厨房から吉澤が出てきた。
「矢口さんが今日の夜に会いたいって」
「夜?」
「うん」
どうやら吉澤は厨房の中で矢口と話しをしていたらしい。
「分かった、何時に何処?」
「それはまだ分かんない。分かったらメールするからアドと番号」
市井と吉澤はそれぞれのアドレスを交換すると、店を出た。
- 7 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/08(月) 22:29
- 「あそこの店さ、料理店だと思った?」
店を出てからしばらくすると、吉澤が問いかけた。
「違うの?」
市井は店を思い出したが、リングがある以外は普通の料理店だったハズだ。
市井はリングのことについて聞いてみた。
「あのリングって何?ボクシングするって言ってたけど」
「ボクシングするんだよ」
吉澤はもっともな意見を述べたが、
市井が聞きたかったのはそんなことではなかった。
それを分かったうえで、わざと吉澤はそんな答え方をした。
「あの店のオーナーはMurder-Murderのボスなんだ」
「Murder-Muder?」
「略してMM。関西では有名な暴力団だよ」
「ふーん。で?」
「オーナーの名前は中澤っていうんだけど博打が好きな人でね」
市井は吉澤の真意が掴めなかった。
元々気の長い方ではなかった市井は、苛立ちを覚え、吉澤に返答を急かした。
「あのリングでやるボクシングは八百長なんだ」
「八百長?」
「んーっと…つまり賭けなんだよ。ボクシングが」
「えっ、それは競馬とかみたいな?」
「うん。そうだね」
「八百長って?」
「最初から勝ち負けが決まってるんだよ」
それって法律違反じゃないのか?
市井は思ったが、きっと秘密なのだろう。
「あの店に来る人は9割が博打しに来てんだよ」
「残りの1割は?」
「普通の料理店と勘違いして入ってくる人」
「あぁそっか」
「大抵はガラの悪い奴に絡まれて食事どころじゃないんだけどね」
吉澤の話を聞いた市井は、その試合を見てみたかった。
「なぁ、その試合っていつやんの?」
吉澤は市井が興味を持つとは思ってもみなかった。
「えっ今日だけど…」
「今日?何時から?」
「もしかして行くつもり?」
「だって見てみたいじゃん」
吉澤はしょうがないと言いたげな表情でどこかに電話をし始めた。
電話が終わると市井に顔を向け、笑いながら言った。
「今日の夜矢口さんと会うときに見るといいよ、店で待ってるって」
吉澤はきっと市井のために矢口って人と会う時間を調整してくれたのだろう。
市井は吉澤にお礼を言うと、夜起こるであろうことに胸をときめかせた。
- 8 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/11(木) 05:49
- (・∀・)イイヨイイヨー
- 9 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/13(土) 00:27
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吉澤と市井は、十字路で別れた。
その十字路の通り名は『The moonlight street』。
市井は夜までの間に何をしていいのかわからなかった。
時が来るまで寝よう。
そう思い、布団に身を沈めた。
夢を見た。
―――――――――――
―――――――
―――
夢の中の自分は宇宙にいた。
右隣には宇宙服を着た吉澤。
左隣には同じく宇宙服を着た見知らぬ人。
三人は微笑み合っていた。
そして吉澤が言葉を発した。
「IR.No5は、任務を続行します」
――――――――――――――
そこで夢は終わった。
夢から覚めた市井の手には、
『IR.No5』と書いてあるキーホルダーが握られていた。
訳が分からないといった様子の市井。
手には見覚えのないキーホルダーが握られている。
市井に考える時間を与えるのを拒むように、携帯が鳴った。
ディスプレーを見ると吉澤からの着信だった。
市井は吉澤からの電話を受けると、家を出た。
手に握られていたキーホルダーはポケットの中にしまった。
再びあの十字路に向かうと、すでに吉澤が来ていた。
- 10 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/13(土) 00:28
- >>8
どうも。
- 11 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/14(日) 18:50
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「悪い、遅れた」
市井が謝罪の言葉を発すると、吉澤はフッっと鼻で笑った。
それから親指をクイッっとシエスタの方に向けた。
吉澤のあとを追う形で、市井はシエスタに入った。
中は明らかに昼間とは雰囲気が違った。
みんな今か今かと、試合開始を待ち望んでいた。
吉澤が中央のリングから少し離れた席に座った。
市井はしばらく店内を見渡したあと、吉澤の向かい側に腰掛けた。
「なぁ。矢口って人は?」
「もうすぐ来るんじゃないかな」
「何時に約束したんだ?」
「えっとぉ…もうすぐだよ」
吉澤と5分くらい談笑していると、市井の隣に少し背の低い奴がきた。
「矢口さん、待ってました」
そう言うと、吉澤は自分の座ってた席を離れた。
その席に矢口が座った。
吉澤は矢口の隣に立つと、市井に紹介をした。
「矢口さんだよ」
市井はとりあえず挨拶を交わした。
「ども。市井です」
「ども。矢口です」
「名前は紗耶香っていいます」
「名前は真里っていいます」
言い終わったあと、矢口が笑い始めたので、市井は少しばかりホッとした。
おもむろに矢口が煙草を取り出した。
口元にくわえるだけで、吹かそうとはしない。
突如、吉澤の隣にいた男が吹き飛んだ。
「何やってんだてめぇ!!!矢口さんが煙草出したら火だろぉ!!?」
吉澤に殴られたらしい男は、すぐに立ち上がり矢口の煙草に火をつけた。
市井はこの出来事よりも、吉澤にもあんな声が出ることに驚いていた。
「よっすぃー、紗耶香びっくりしてるよ」
「すいません」
矢口に注意された吉澤は、市井と視線を合わせ、『すまない』といった顔をした。
市井は矢口が煙草をくわえたらすぐに火をつけよう、そう思った。
先ほど吉澤の肘鉄の犠牲になった男は、消え入るような声で言った。
- 12 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/16(火) 00:53
- 「あの…試合が始まりますが…」
吉澤は矢口が座っている椅子を少し引いた。
矢口は席から外れると、市井に問いかけた。
「ねぇ紗耶香、どっちが勝つと思う?」
「勝つ?…あぁ!えっと…その〜」
市井は今日の試合の内容を何一つ知らない。
だいたい誰と誰が対戦するのかも知らないのに、答えられるハズがない。
市井の考えていることがわかったのか、吉澤が助け舟を出した。
「今日の試合は昨年度のチャンプとインド人の試合ですね」
「そうだね〜矢口はインド人が勝つと思うんだ!」
市井は吉澤の好意に甘え、『インド人が勝つと思います』と言った。
本当はチャンプが勝つに決まってる。
でも矢口の手前、そう答えた。
このボクシング、八百長だったっけ。
市井はインド人と答えた自分に拍手を送った。
この試合は矢口の言う通りに進むはずだ。
ならばインド人が勝つのだろう。
矢口達は試合を間近で見るためにリングの方に進んだ。
市井もそのあとをついていく。
「赤コーナー、今回が初のチャレンジ、リカンワ・イシ!!」
遂に審判の合図とともに試合が始まった。
赤コーナーからは妙にキョドっている黒い奴が出てきた。
その隣にトレーナーらしい人が付き添っていた。
リカンワ・イシとかいう奴がリングにあがると、矢口は声援を送った。
「続いて青コーナー、昨年度のチャンプ、アツコ・イナバ!!」
青コーナーからは見るからに強そうな奴の入場。
筋肉が今にも張り裂けそうだ。
この試合、インド人が勝つというのか?
市井の脳裏そんな疑問がよぎった。
「ファイっ!!!!!!!!」
- 13 名前:Jimmy 投稿日:2003/12/25(木) 22:06
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両者は互いに相手の出方を待っている。
…ように見えたが、インド人の方はトレーナーと何やら言い合っている。
チャンプはもう戦闘態勢に入っていて、いつでもOKって感じだ。
しかし、インド人側の揉め事は続いている。
痺れを切らしたチャンプが殴りかかろうとした。
トレーナーはきっと必死だったのだろう、インド人を思いっきり突き飛ばした。
突き飛ばされたインド人は右手をチャンプの方に振った。
ジャストミート。
チャンプは倒れたまま動かなくなった。
インド人は何がどうしたのかよく理解しきれていない様子。
「勝者は、リカンワ・イシ!!!!!!!!!!!!!」
審判が宣言をすると、店内にどよめきが走った。
そんな中、矢口が奇声に近い声をあげた。
「どーなってんだよ!?あぁ!!?おいらに恥じかかす気かっ!!!!!!!!!」
言ったと同時に、矢口の手には銃が握られていた。
店内にさっきとは違ったどよめきが走った。
「約束が違うじゃないか!!ぶっ殺してやる!!!!!!!!」
矢口が銃を発砲した。
おそらくインド人を狙ったのだろう。
しかし弾はそれて審判の脳天を直撃した。
どさっとリングに倒れる審判。
矢口は狙いを定め、またインド人を狙った。
しかし、弾はまたもそれてしまった。
店内はパニックだった。
身の危険を察したインド人とトレーナーは、裏口から逃げていった。
その時インド人は日本語で「何?何なの!?」と言った。
しかしこの時点で、そんな言葉を聞いている者は誰もいなかった。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/16(金) 12:29
- 1ケ月で13レス? やっぱ放置なのか
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