トラブルメーカー

1 名前:jinro 投稿日:2003/12/06(土) 16:14

ごま中心の社会人もの、アンリアル。
こっちは軽い感じで進めていきます。
更新はのんびりですが放置は絶対しないのでのんびり見守ってください。



2 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/06(土) 16:23
 あーあ、めんどくさいなぁ…。

 地下鉄の駅から地上に出て、その空の明るさにアタシは目をしぱしぱ
させた。

 階段を昇りきったところで立ち止まったアタシを邪魔そうに次々と
追い越していく、スーツ姿のサラリーマン、OL。

 ああ、アタシもスーツ着てるからOLにみえるのかなぁ。
 …それにしてもめんどくさい。
 そりゃ、大学卒業しても就職先が決まらなかったアタシが悪いんだけど
も…。
 なんでわざわざお母さんの知り合いのオッサン(アタシは会ったことが
ない)に頼み込んでまで就職しなくちゃならないんだっての。

 まだアタシ、若いんだからバイトとかでもいーじゃん。

 頭の中でぶつぶつ文句言いながらも、アタシは鞄から手帳を出して今
から面接に行く会社の住所を確認した。

『株式会社UFA』

 はっきり言って、アタシはこの会社が何をしているのかも知らない。
3 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/06(土) 16:30
 え?それくらい勉強しておけ?
 だってアタシ、ここに就職する気なんてないもん。

 お母さんが行けってうるさいから面接に来たの。
 じゃないとその知り合いのオッサンに顔向けできないんだって。
 女手ひとつでアタシを大学まで行かせてくれたお母さんに頼まれた…ってか脅され
ちゃあね…仕方ないって言うか。

「んぁ…。でっかいビル…」

 思わずぽかんと口を開けて見上げちゃった大きなビル。
 前面ガラス張りで朝日を浴びてキラキラ反射している。

 いいのかなぁ…なんかアタシ、場違いだよ…。

 でもここで帰るわけにも行かない。
 アタシは珍しく少し緊張しながら『株式会社UFA』とでかでかと表札(?)がある
ビルの中へと足を進めた。


4 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/06(土) 16:39


「すげぇー…」

 ロビーに一歩踏み込んで、またアタシは足を止めてぽかんとしてしまった。

 吹き抜けのフロアにエスカレーター、正面にある社訓だかなんだかが彫られた多分
大理石のオブジェにゴージャズな生け花。

 はぁ〜…ほんとに場違いだよ…さっさと終わらせて帰ろ…。

 とりあえず受付に向かうことにする。

「いらっしゃいませ」
 スミマセン、とアタシが声をかける前に黄色の制服を着た受付嬢がふたり、深々と
頭を下げてきた。
「あ、あの…後藤といいますが…今日、10時に企画課で面接をお願いしてるんです
けど…」
 しどろもどろに用件を伝えると、小柄なほうの受付嬢は「少々お待ちください」と
言って受話器を取り上げた。

「ハイ…後藤さんと言う方が…はい。わかりました」

 受付嬢は簡単に話を終わらせるとこっちに向かって満面の笑顔。
「今担当の者が参りますのであちらにお掛けになってお待ちください」
 そう言ってロビーの一角にある椅子やテーブルが置いてあるところを指した。
5 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/06(土) 16:50

 わかりました、と素直に頷いてアタシは言われた場所に座る。
 そして小さく息をついて辺りを見回す。

 忙しなく動き回る人、人、人。
 スーツ姿のサラリーマンに制服を着たOL。
 掃除のおばちゃんに作業服姿の人。
 ほんとに色んな人がいる。

 …やっぱりアタシ、こーゆーとこって苦手だなぁ…早く帰りたい。

「後藤真紀さんですか?」

 ぼんやりしていたらいきなり声を掛けられた。
「は、はいい!」
 びっくりしてアタシは機械仕掛けの人形みたいにぴょこんと椅子から立ち上がった。

「元気いいね。わたしはあなたの面接を担当する安倍です。よろしく」

 声を掛けてきたその人は、にっこり笑って手を差し出してきた。

 でもアタシは手を握り返すどころか返事すら出来なかった。

 アタシより少し小さい身長、短く切られた茶色のショートカット、細められたおっきな瞳、
丸いほっぺに薄い唇。
「…後藤さん?」
「あ!は、はじめまして!ごとーまきです!」

 その人に見惚れていたアタシはハッと我にかえって差し出された小さな手を握って
言った。
 するとその人はもう一度「元気いいね」と言ってにこっと微笑んだ。

 …前言撤回。アタシ、ここで働きたいです!
6 名前:jinro 投稿日:2003/12/06(土) 16:52
>前作以上に駄文になる予感…。

>がんばって書き続けるのでよろしくお願いしまつ。

7 名前:jinro 投稿日:2003/12/06(土) 17:08
>さっそくミスハケーン!
 ( ´ Д `)<んぁ…「真紀」じゃなくて「真希」だよ。

 スマソ。
8 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/06(土) 17:23


「それじゃあ行こっか」
 安倍さんは手を離して歩き始めた。
 アタシも離された手を名残惜しく思いながら後を追う。

「おう、なっちー」
 
 受付の前に差し掛かった時、さっきの受付嬢がこっちに向かって声を
掛けてきた。
「おう、やぐちー」
 安倍さんはにこにこして受付に向かう。
 なんだかとてもよく笑う人だ。

「やぐち、こちらは後藤真希さん」
「知ってる。さっき聞いた。ってかオイラがなっちに内線したんじゃん」
「あはは。そだっけ」
「後藤さん?オイラは矢口真里って言います。んで、これが石川梨華」
 矢口さんは隣に座っていたもう一人の受付嬢を指して言う。
「これってなんですかぁ!矢口さん」
 石川さんと呼ばれた人は矢口さんに食って掛かる。

 でも…ふたりとも可愛いなあ。
 矢口さんはちっちゃくて小動物みたいだし、石川さんはちょっと色が黒い
けど整った顔立ちしてるし。

 …安倍さんもすごい可愛いし…この会社は顔で社員を選んでるのかな?

「したっけ行こうか」
「あ、はい」
「なっちー!今日の約束忘れんなよ」
「わーかってるって」

 受付を離れたアタシたちはエスカレーターに乗ってフロアをあがる。

「えっと、後藤さん?」
「は、はい」
「後藤さんはどうして今まで就職しなかったのかな?」
 突然の質問。
 もしかしてもう面接始まってんのかな…。

 どうしてって…決まらなかったし…てか、めんどくさかったから…なんて
言ったらマズイよね、やっぱ…。

「えと…なかなか決まらなくて…」
「不況だからねぇ。でも女の子だし、無理に就職することないかって思った?」
「え、あ…まあ…そうですね」

9 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/06(土) 17:35
「だよねぇ」
 安倍さんはやっぱりにこにこ笑いながら頷く。

 アタシは安倍さんに連れられて結構大きな会議室へ通された。
 ちょっと待っててね、と安倍さんが部屋を出て行ってしまったので、アタシはまた
なんとなく部屋を見回してみる。

 ロの字に並べられた机に折りたたみのパイプ椅子。
 二十人は座れるだろう会議室。
 正面にはホワイトボードと収納式のスクリーンがある。
 前面窓ガラスになっている東側はブラインドが半分だけ降ろされていた。

 ――コンコン。

 閉められている引き戸の扉が外からノックされた。
「失礼します」
 そう言って入ってきた制服姿の女の人はアタシの前にお茶を置くと「もうしばらくお待ち
ください」と言って出て行った。

 しかしほとんど入れ違いに安倍さんが片手に書類を持って戻ってきた。
「安倍さん、課長が探してましたよ」
「え〜?なんだべさもう…裕ちゃんには面接あるって言っといたのに…。悪いけど
亀井ちゃん、裕ちゃんに伝えといてくれるかい?」
「わかりました」

10 名前:つみ 投稿日:2003/12/06(土) 18:13
(・∀・)ニヤニヤ
新しい作品見っけ!
11 名前:LOVE 投稿日:2003/12/07(日) 18:31
新作ですね。同じ板なのでよろしくです(笑

・・・おいらもここの会社就職したいかも・・・(爆

今日の約束って・・・約束って・・・
気になる・・・。続き楽しみにしてます。
マターリがんばってください!!
12 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/08(月) 16:53
jinroさんの新作だ〜。
続き楽しみに待ってます。
13 名前:みどり 投稿日:2003/12/10(水) 14:04
jinroさんの作品いつも楽しみに見させてもらってます!
また1つ楽しみが1個増えました☆
新作も『なちごま』かなって期待しちゃってたり・・・。
作者さんペースで頑張ってください♪
14 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/16(火) 12:55
 ――今この人『だべさ』って言った?
 『だべさ』って言ったよね??
 ありえない…!『だべさ』だよ!?
 ありえないくらい可愛い…!『だべさ』バンザイ!!!

「さてと…待たせてごめんねぇ」
「いえ…」

 まだ『だべさ』ショックから抜け出せないアタシの前に安倍さんは何か書類を置いた。
「したっけ始めようか!」

 ――『したっけ』?
 『したっけ』ってなに??

「後藤さんはさ、コンビニとか良く行く?」
 
 頭に「?」マークをいっぱい浮かべているアタシを無視して安倍さんは話し出した。

「あ、ええ、まあ、それなりに」
「よくどこ行く?やっぱ『セブン○レブン』とか『ロー○ン』とか?」
「そうですね…家から近いし…」
「あ、そうなんだ…したっけさ『ハローマート』ってコンビニ知ってる?」

15 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/16(火) 13:02
 『したっけさ』!また言った!!!

 どうにも安倍さんの不思議言葉(どっかの方言なんだろうけど)がメチャ
可愛くて思わずアタシはニヤニヤしてしまった。
 すると安倍さんはなにを勘違いしたのか、

「知ってるっ!?うそ、ホント!?」

 と座っていた椅子を倒して勢いよく立ち上がった。

「まじで〜?いや〜、うれしいな〜」
 言いながら安倍さんは椅子を起こして座りなおす。

 いや、アタシなにも言ってないんだけど…。

「その『ハロマ』ね、うちの会社がやってるんだけどさ」
 『ハロマ』?
 ああ、『ハローマート』の略か…『ファミ○ーマート』の『ファミマ』
みたいな。
「なっちが任されてるんだけども」
「なっち?」
16 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/16(火) 13:11
 また不思議言葉かな?
 でもなんかステキな響き…『なっち』

「あっ、つい…。だめだべぇ〜油断すると…。忘れてたけど、ハイ」
 照れくさそうに笑った安倍さんがアタシに名刺を差し出してきた。
 アタシは素直にそれを受け取って、名刺を見る。

『株式会社UFA 企画課開発部主任 安倍なつみ』

 ――主任!?
 その二文字にアタシは目を丸くする。

 こんな子供みたいな人が主任?いったいいくつなの、この人…。
 でも面接担当するんだからエライ人なのはあたりまえか…。

「一応、開発部の主任やってます。って言ってもまだなりたてなんだけど」
「あの…安倍さんて、おいくつなんですか?」
「え?なっ…わたし?」
 なるほど、なつみ、でなっちか。
 でも似合あうなあ、そのニックネーム。
17 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/16(火) 13:19
 …んあ、そーいえば受付の矢口さん(だっけ?)も『なっち』って呼んで
たよーな…。

「八月に22になったばっかりだよ」
「22!?」
「…見えないでしょ?」
「あ、いえ…」
 
 見えない。
 はっきり言ってアタシと同じかそれより下に見える。

「わたしの話はこれくらいにして…。開発部ではさ、一応うちが出してる
お店の商品とか作ってるんだけど…あ、後藤さん『カントリーズ』は
知ってるっしょ?」
「カントリーズって…ファミレスのですか?」
「そうそう。あそこ、うちのレストランなんだけど、そこのメニューもね、
なっちのチームで開発したんだよ」
18 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/16(火) 13:26
 へえ…。
 あのファミレスってここの会社だったんだ。

「それでさ、お客様アンケートとか置いてあるじゃない?テーブルに。
それに「おいしかった」とか「また来たい」とか書いてあると、もー、
スッゴイ嬉しくなっちゃうんだよね」
「あ、でも本当にあそこ美味しいですよね」

 実は一回しか行ったことないんだけど…。
 しかもそん時、アタシ紅茶しか飲んでないんだけど…。

「ほんと〜?ありがと〜!…アレ?なんの話してたっけ…」
 いちいちオーバーアクションな安倍さん。
 
 ヤバイっす。まじで可愛いです。

「あ、そーだそーだ」
 ぽん、と手を打って、安倍さんはさっき持ってきた書類を指差す。
「見てみて。これ『ハロマ』の今年前半の売り上げなんだけど…どんどん
落ちてきてるっしょ?」
19 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/16(火) 13:33
 言われて指を指されたグラフを見る。

 …んぁ、確かに少しずつだけど下がってきてるみたい。

「オープンしたときは良かったんだけどね〜」
 今は最初の7割くらいしかないべさ、と安倍さんは続けて腕を組む。
「このままじゃ店舗数を増やすどころか撤退の危機なのさ」

 そういえばさっき、安倍さんが任されてるって言ってたっけ。
 上に立つのも大変なんだなぁ。

「後藤さんさ、いくつだっけ?」
「アタシは今年高校出たばっかです」
「えっ?若いんだねぇ」
 びっくりしたように安倍さんはアタシの履歴書を見た。
 
 ――おかーさん…そんなこともしらせなかったのかな…。

「うーーーーん」
20 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/16(火) 13:39
 安倍さんはアタシの履歴書を見つめてうなり声を上げる。
「ムムム…」
「あの…」
「後藤さん!!!」
「うわあっ、はいっ!」
 
 いきなり安倍さんはまた椅子を倒して立ち上がると、まじめな顔でこっち
を見た。
 あ、この人まじめな顔すると年相応に見えるなあ。
 そんなことを考えて見上げていたアタシの目の前に、安倍さんはヒラリと
一枚の紙を掲げた。

「コレ、書いて?」

 なんだろう、と思って目を凝らしてその書類を読む。

   『社員登録書』

「え?これって…」
「なっちは後藤さんにインスピレーションを感じたべさ!」
21 名前:はじめましてごとーまきです。 投稿日:2003/12/16(火) 13:45
 ――『なっち』って、『感じたべさ』って。

 興奮しているのか不思議言葉丸出しの安倍さんは楽しそうに書類を
アタシの前に置いた。

 なんど見てもその書類には『社員登録書』と書いてある。
 っていうか、あれで面接おわりなの?
 はっきり言ってアタシ、なんにも喋ってないよ?安倍さんがひとりで
熱心に話してるの聞いてただけで。

 狐につままれたような気分で書類に署名捺印。ポン。

「後藤さん」
 アタシから書類を受け取った安倍さんは満足そうに頷いて、最初の時
みたいに右手を差し出してきた。
 無意識に握手をしたアタシの手を握りながら、安倍さんはニコニコし
ながらこう言った。

「きみにはなっちの右腕になって働いてもらうべ!」

22 名前:jinro 投稿日:2003/12/16(火) 13:53
>>10 つみ様
 (●´ー`)<ニヤニヤされちゃったべ。
 ( ´ Д `)<んあ、こっちでもよろしくね〜。

>>11 LOVE様
 (●´ー`)<開発部くるべか?
 (〜^◇^)<受付にしる!石川は使えないから!
 ( T▽T)…。

>>12 名無し読者様
 (●´ー`)<新作〜♪
 ノノ*^ー^)<よろしくお願いします♪

>>13 みどり様
 ( ´ Д `)<なちごま?
 (●´ー`)<どうかな?
 (○^〜^)ニヤニヤ。

23 名前:jinro 投稿日:2003/12/16(火) 13:55


>レスありがとうございます。
 やっとプロローグが終わりました。

>次から新キャラがたくさんでます!…タブン(爆。

24 名前:jinro 投稿日:2003/12/16(火) 13:55


(〜^◇^)<一応ね。

25 名前:つみ 投稿日:2003/12/16(火) 16:09
なっちさんかわいすぎます
(●´ー`)<感じたんだべ
( *´ Д `)<・・・・
 このやりとりに顔が思わずほころびました^^
26 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/28(日) 17:05
ここのキャラクター、みんないい!
安部さん、なにしろ可愛いし。
後藤さんが普通の感覚なのがかえって新鮮だし。
これからも期待です。
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/13(火) 00:30
(●´ー`)<更新まだー♪
28 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 03:07

「したっけ、これから社内を案内するべさ」

 とんとんと書類を纏めて安倍さんが言った。

 え?いきなり?

 あたしが不思議そうな顔をしてると、安倍さんはそれに気づいたみたいで。

「あ…、今日は都合悪いかい?」

 と、上目遣いでこっちを見上げてきた。

 アナタ…本当に22歳なんですか…?その顔でそんな風に言われたら、例え用事が
あっても…。

「いいえ!大丈夫です!」

 って言っちゃうでしょ…ホラ、言っちゃった。

「そう?それなら良かった。したら行こうか!」
「ハイ…」

 返事をしながら、アタシはぼんやり今日、会う約束をしていた友人の顔を思い出す。

29 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 03:15
『ふーん。思い出したのに美貴との用事は後回しなワケだ。ふーーーん』

 あああ…ごめん、ミキティ…この埋め合わせはいつか必ず!

 この心の声がテレパシーで友人の元に届くことを無理だと分かってても
願いつつ、あたしは会議室を出た安倍さんを追った。



「最初は裕ちゃんに報告しなきゃ」
「裕ちゃん?」
 
 ――さっき、事務の女の子と話してたとき出た名前だ。
 課長って言ってたっけ?

「裕ちゃんはね、企画課の課長さんだよ。まあ、なっちの上司ってやつ?」
 ぜんぜんそんな風にみえないけどねー、と続けながら安倍さんは廊下を
進んでいく。
 その後ろを半歩遅れて着いて行くアタシに突き刺さる視線の矢。

 この建物は、廊下に面した室内の壁は一面ガラス張りになっていて、中の
様子が丸見えなのだ。
30 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 03:27
 いや…室内が丸見え、と言うより今はアタシがじろじろ見られてるワケで。

 ――居心地悪いな。

 そんなことを考えていたら、安倍さんが立ち止まって『企画課開発部』とプレート
が付いたドアを開けた。
「おはよー!」
 安倍さんが元気に挨拶をしながら室内に入ると、あちこちから「おはようございます」
とか「おはよー」と返事が返ってくる。

「安倍さん、新人ですか?」
 奥に進んで行こうとする安倍さんのカーディガンの裾を、キャスター付きの椅子から上体
を仰け反らせるようにして女の人が摘んだ。
「おうよ」
「早く紹介して下さいよー」

 よく見ると、まだ女の人という感じじゃなくて、女の子って感じだ。

「最初に裕ちゃんに報告しなきゃね。みんなに紹介はその後っしょ」

 そう言って安倍さんはその女の子の頭をぽんぽんと叩いた。
31 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 03:35


 ――コンコン。

 開発部の奥にある個室のドアを叩くと、安倍さんは返事も待たずに
そのドアを開けた。

「裕ちゃん!入るべさ」

 一瞬、いいのかなと思ったけど、今は安倍さんに着いていくしかない。
 慌てて後を追おうとしたら。

「うひゃああぁっ!」

 安倍さんの、ちょっと間抜けな悲鳴。
 びっくりして駆け込むと、安倍さんはちょっと派手なスーツを着た、 
派手な頭の女の人に抱きつかれていた。

「裕ちゃん!離すべさぁっ」

 安倍さんはその女の人に羽交い絞めにされてジタバタしてる。

「なぁっちぃ〜。なしてそんな冷たいこと言うん?今朝も最初にここ来て
くれへんかったし…。裕ちゃん、朝一番になっちの顔見ぃへんと一日が
始まらんのや〜」
「今日は面接あるって昨日から言ってたっしょやっ?とにかく離すべさぁ!」
「…面接?」
32 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 03:46
 そこで初めてその女の人はアタシの存在に気づいたらしく、安倍さんを
羽交い絞めにしたまま視線をこっちに向けた。

 じろじろじろ。

 つま先から頭のてっぺんまで、穴が開くんじゃないかってくらい、その人は
アタシを見つめて。

「…なかなか可愛いやん。名前は?」

 いきなりのことで少し意識が飛んでいたアタシは、そこで漸くハッとなった。

「後藤真希です」

「後藤さんな!あたしは企画課の課長なんぞをしてる中澤っちゅうモンや!」
 言いながら中澤さんはごそごそと派手なスーツの内ポケットから名刺を
一枚取り出してアタシに渡してくれた。
 もちろん片手にはまだジタバタしてる安倍さんを抱いたまま。

『企画課課長 中澤裕子』

 そう書かれた名刺と、中澤さんを何度も見返す。

 ――この人が課長さん?この、部下にじゃれ付くこの人が?

「裕ちゃんっ!離してくれないと、なっち、裕ちゃんのことキライになるよっ!」 
 
 一向に離してくれない中澤さんに業を煮やしたのか、安倍さんが一喝する。
 すると中澤さんは安倍さんの体に回していた腕をするすると解いて。

「そ…そんなぁっ!なっちぃ!ウソやろっ!?」

 と、その場に大げさに崩折れてしまった。ヲーイ。
33 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 03:54


「裕ちゃん。この子、今日からなっちの下で働いてもらうよ。いいっしょ?」
 漸く開放されて乱れた髪を直しながら安倍さんが言うと、中澤さんはブス〜〜っと
ふてくされた顔をして。

「いやや!」

 ぷいっと顔を背けてしまった。

 ――子供ですか、アナタ…。

「なぁんでそんなこと言うんだべかぁ!」
 腰に両手を当てて、床に座り込んだ中澤さんを睨み付ける安倍さん。

 怒ってるみたいだけど、なんだか迫力がなくって、逆に可愛らしい。

「だって、なっちがあたしキライなんて言うんやもん」
「…それは裕ちゃんが悪いからっしょ?」
「……」

 そっぽを向いたまま答えない中澤さんに、安倍さんはやれやれと目線を合わせるように
しゃがみ込んだ。
「なっちが本気で裕ちゃんのことキライになるわけないっしょ?」
「…ほんま?」
「…なっち、裕ちゃんスキだべ」

 ニコッと天使の微笑み。

 その笑顔に見惚れながらも、アタシの心がちくっと痛んだ。
34 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 04:00
『なっち、裕ちゃんスキだべ』

 スキって言った。

「じゃあ、今日裕ちゃん家泊まり来てぇな!」
 中澤さんは嬉しそうに安倍さんの手を握った。
 それに安倍さんは、ちょっと困ったように眉を八の字に下げた。
「あ〜。今日はだめなんだべ…」
「ええ〜?なしてや〜」
「やぐちと先約があるんだべ」
「やぐちとか…そりゃしゃあないなぁ…。じゃあ明日!明日はどうや?」
 
 ――やぐち…って、あの受付の小さい人だよね。

「ん。明日ならいいよ」
「約束な」
「約束っしょ」
 
 ――泊まりにって…。どういう関係なんだろ、このふたり。
 …付き合ってたりするのかなぁ…。

「したっけ後藤さん。今度は部署のみんなに紹介するべさ」

 最初のテンションとは打って変わって気分が沈んでしまったアタシに安倍さんが
覗き込むようにして声をかけてきた。
35 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 04:09
「ちょお待ちぃや、なっち」
 アタシが返事を返す前に立ち上がった中澤さんが安倍さんの後ろからアタシ
たちを引き止めた。

「なんだい?まさかまだ後藤さんのことだめだって言うのかい?」
 あきれた様な安倍さんの声。
「ちゃうって…ちょお彼女に話があるだけや。なっちは先に出ててな」
「…わかったべさ」

 素直に安倍さんは頷くと、アタシと中澤さんを置いて部屋を出て行った。

 中澤さんはドアが完全に閉じるのを確認してから、つつっとアタシのそばに
来て、髪を掻きあげながらニッと笑った。

「あたしのことは裕ちゃんって呼んでな」
「え…」

 そんな、初対面の、しかも自分の上司をそんな裕ちゃんだなんて呼べる
わけない。
 戸惑って返事に困っていると、それを察してくれたのか、
「これ、課長命令な」
「…はあ…」

 悪い人ではないみたいだ。
 ちょっと行動が理解不能だけど。

 こっそり失礼なことを考えるアタシに、中澤さんは笑顔のままそっと顔を
寄せてきて、トンでもないことを耳元に囁いた。
36 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 04:15


「あんな?なっちに手ぇ出したらアカンで?あれはあたしのやから」


 ――ハア?

 びっくりしすぎて反応すら出来ないアタシの腕を掴んで、中澤さんは何も
なかったようにドアを開けた。

「みんなーー!新人紹介するでぇ!」

 ――あたしのって、どういうこと?
 やっぱりそういう意味なワケ…?

 ぼーっとしたままのアタシの頭に、中澤さんと安倍さんの、なんだか破廉恥
なシーンが浮かんで、アタシは慌ててそれを打ち消した。

「えーと。今日から開発部で働いてもらう、後藤真希さん」

 安倍さんの声も右から左へ抜けていく感じだ。

「…後藤さん?自己紹介して?」
「あ、ハイっ!」
 肩を軽く叩かれて、慌ててアタシは当たり障りがないことを言った、と思う。

 正直、自分が何を言ったのか覚えていない。
 部署の人たちもそれぞれ挨拶してくれたけど、それもほとんど覚えていない。

37 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 04:24
 それでも、とりあえずの教育係として紹介された『いちーさん』の話を
聞きながらアタシはそれからの時間をやり過ごした。



「じゃあ後藤、今日はもうあがっていいよ」

 いちーさん(漢字すらわからない)に言われてアタシはとぼとぼと開発部を出る。
 部屋をでたところで誰かとぶつかりそうになったけど、ぶつからなかったから
そのまま通り過ぎようとしたら、いきなり腕を掴まれた。

「アンタ、ここの新しい人?」

 馴れ馴れしい口調に、むっとする。

「…そうですけど」

 無愛想に答えると、その人は腕を掴んだままへらへらとしまりのない笑みを
浮かべると、
「名前は?こんどお昼でも一緒にどう?」
 などと言ってきた。

 ナンパなどに構っていられるほど浮かれた気分じゃないアタシは、力一杯
掴まれた腕を解くと、その人の耳を摘んで耳元で叫んだ。

「ぜっっっっったい、お・こ・と・わ・り!!!!!」

 アタシのあまりの剣幕に、そのナンパヤローは耳を押さえて尻餅をついた。
 ヘン!ざまーみやがれ!!!
38 名前:なっちと愉快な仲間たち 投稿日:2004/01/14(水) 04:34
 尻餅をついたまま、まだ何か言ってるソイツを無視して、アタシはずかずかと
エスカレーターに向かった。

 ったく!なんてついてないのさ今日は!

 ぶつぶつ言いながら、アタシは携帯を取り出して、お昼に約束のキャンセル
のメールを入れた友人に一歩的なメールを送りつけた。

『もーーー!ミキティ!むかつくー!話きいてよー!!!』


 丁度その頃。
 真希に怒鳴られ尻餅をついたナンパくんはというと。

「――あれ?そんなとこで座り込んでなにやってんの、アンタ」
「あ…市井さん…今、出てった人、なんていうんですか?新しい…」
「後藤真希のこと?」
「…後藤真希さん…」
「そんなことより頼んでた書類は?」
 紗耶香が手を出しても、ナンパくんは書類を胸に抱えたまま渡そうとしない。
 それどころか書類を力一杯握り締めてくしゃくしゃにしてしまった。

「あーーーっ!!!アンタなにしての!」

 そんな紗耶香の声も聞こえていないのか、ナンパくんは廊下中に響き渡る大声で

「後藤真希!カッケェーーーー!!!」

 と叫んだ。


39 名前:jinro 投稿日:2004/01/14(水) 04:40
>>25 つみさま
 (●´ー`)<なっちはこれでもエライんだべ!
 (〜^◇^)<見えないけどね!

>>26 名無し読者さま
 ( ´ Д `)<んぁ、ごとーふつー?
 (〜^◇^)<まわりがみんな変なだけだったりして!

>>27 名無し飼育さん様
 (●;´ー`)<催促されちゃったべ…。
 ( ´ Д `)<んあ…お待たせして申し訳。

>レスありがとうです。
 次は…出来たら今月中に更新したいです。
40 名前:jinro 投稿日:2004/01/14(水) 04:41


(〜^◇^)<キャハハ!隠すぞ!


41 名前:jinro 投稿日:2004/01/14(水) 04:41



( ^▽^)<隠しま〜す。

42 名前:jinro 投稿日:2004/01/14(水) 04:44
> >>2 の八行目…「大学卒業しても」でなくて「高校卒業しても」です。

だめぽ_| ̄|○
43 名前:jinro 投稿日:2004/01/14(水) 04:48
>なんか…最初のほう、後藤さん大卒になってるけど、高卒です。
 大学ってあっても高校に脳内変換してください…。
44 名前:つみ 投稿日:2004/01/14(水) 15:46
いいっすねぇ〜♪
最後の方はもちろんあの人ですよね!
何か中澤さんの言葉が気になる・・・
45 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/09(月) 07:20
「危ないから降りろ〜〜〜〜!!!」
「何言ってんのさ!それでこそ青春でしょーが!」
「わけ分かんないし!お巡りさんでもいたらどーすんのさ!!!」
「あ、ごとーは免許ないから無問題♪」
「ざけんな〜〜〜〜!!!」

 ミキティを呼び出したあたしは、ミキティが乗ってきた原付『プリンセスあやや号』の後ろの荷台に無理やり乗ってファミレス『カントリー』に向かった。
 途中であたしを振り落とそうとして蛇行運転されたけど、無事にお店についておしぼりで顔を拭く。

「ったくさー。ドタキャンしたと思ったらイキナリ呼び出したりしてさー。もう亜弥ちゃんとこのあと予定入れちゃったんだから早く済ませてよ?」

 きりきりしながらミキティはあたしに話を促す。

「へっ?亜弥ちゃんはバイトでしょ?」
「そのあと。迎えにいくの」
「うへ〜。ラブラブでいいねえ。ごとーも早くラブラブしたいよ」
「ラブラブ?なに、もしかしてごっちん、好きな人でもできたとか?」
46 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/09(月) 07:22
 つまらなさそうな顔をしていたミキティが食いついてきた。
 んあ、たしかにあたしはあんまし今まで恋愛とか興味なかったからなぁ。

「まあねぇ」
 デレデレと顔を緩ませながらあたしは指でテーブルにのの字を書く。
「マッジ!?どんな人?」
「なんかねぇ…」

 ――ごとーの上司で年齢不詳で謎の方言を操る自称「なっち」さん。

 そういうと、ミキティは「ハア?」と呆れた声をあげた。
「ナニソレ」
「もうね、一目見てごとーは運命を感じたんだよ。一目惚れってあるんだねえ」
「そういや今日面接だったんでしょ?どうだったの?」
「もちろん採用されたよ!なっちさんがね、ごとーのこと気に入ってくれたんだよ」
「へえ、よかったじゃん…」
 そこまで言ってミキティはストローでアイスティーを飲んだ。
「じゃあさ、なんでさっきまでカリカリしてたの?」
47 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/09(月) 07:23
 
 ――その質問あたしーは漸く中澤課長のことを思い出した。
 中澤課長があたしに言ったことをミキティに聞かせて、意見を求める。

「付き合ってんじゃないの?」
「そ、そんなぁ」
「だってそれしか考えられないじゃん。手出すなとか自分のものだとか」

 やっぱりそうなのかなぁ…。

 必死で否定してきたことをあっさりと翻されてあたしは途端にテンションが下がるのを感じた。
 それに気づいたのか、ミキティは少しあわてたように言葉を付け足した。
「でもさ、まだハッキリとしたわけじゃないし…ここは一発、告ってみたら?」
「え、い、イキナリ?」
48 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/09(月) 07:23
「いいじゃん。押せ押せごっちん」
「でもさぁ…。もし付き合ってたらそのあとあたし、会社スゴイ行き辛くなるよね」
「まあね…。そんならさ、ちょっとリサーチしてみたらどう?」
「リサーチ?」

 そう、とミキティは大きく頷いて、テーブル越しにずいっと顔を近づけてくる。

「さりげなくさ、会社の人に聞いてみるとか…」
「そうか!まずは周りから固めるんだね!」
「そうそう。それからでも遅くないしね」

 よお〜〜し。
 とりあえず…あの受付の、矢口さん、って言ったっけ?あの人に聞いてみよう。さりげなーく…。

「ねえ、もう亜弥ちゃんバイト終わるころだから美貴、もう行くよ?」
「んあ…ありがとうね、ミキティ」
「お礼なんかいいから頑張りな。あ、ここはもちろんアンタのおごりね」
「んあ…」
49 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/09(月) 07:25

 あたしおごるなんて言ってないのに。
 でもまあいいか。

 明日からなっちさんのリサーチ開始!そうと決まったらまずは体力つけなくちゃね!

 一度下がったテンションもMAX状態に戻ったあたしは、大きな声でウエイトレスを呼んだ。



50 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/09(月) 07:26


「あの後藤って子、採用するんだって?」

 助手席に座った矢口がこっちを見上げて言った。
「うん。裕ちゃんもいいって言ってくれたし」
「まーったく…。またなんか交換条件出されたでしょ?」

 ぎく。
 やっぱりやぐちはするどいべさ…。

「明日、裕ちゃん家行くことになったべさ」
「やっぱりね…。なっち、いいの?それで」
 呆れた…というか怒ったようなやぐちの声。

「別に…裕ちゃんキライじゃないし…」

 なっちと裕ちゃんは付き合っているわけじゃないけど、たまにお互いの部屋に泊まりに行って夜を過ごしたりする。
 前に酔った勢いでそういうことになってから関係は続いてるんだけど、やぐちがなっちと裕ちゃんのこういう関係をよく思っていないことは知っていた。

「まあお互いが傷つかないならいいけどね」
「それは…大丈夫だべ」
51 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/09(月) 07:27

 なっちは裕ちゃんをそういう対象には見れないし。

 裕ちゃんもきっとそうだと思うし。

 お互い本気で好きな相手が出来たら自然とこの関係はなくなると思うから。

「ならいいけど。あ、なっち次の信号右ね」
「え?こっち?」
「ばっか!そっちは左だろーが!」
「きゅ、急に言うからわかんなくなったべさ!」

 右のところを左に曲がってしまったので大幅に時間をロスしてしまった。
 なっち、よく免許取れたよね、などと失礼なことを言うやぐち。
52 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/09(月) 07:28
「それよりやぐち、今日は車だからお酒飲まないよ?」
「なんだよー!大丈夫だよ。運転代行頼めば」
「やだよー!高いっしょや」
「高くねーよ!」
「したっけやぐちが払うべさ」
「やだよ!おいらの車じゃないもん!…ってアレ?」

 ぎゃーぎゃー言いあいをしていたら、急にやぐちが窓の外を見て声をあげた。
「どうしたー?」
「今さ、原付の二人乗りとすれ違ったじゃん?」
「うん?そうだった?」
 見てなかった、と笑うとやぐちは前見て運転しろよー!となっち叫んで。
53 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/09(月) 07:29

「すれ違ったの!でさ、その後ろに乗ってたの…例の新人さんだったと思うんだけど」
「まじで!?原付は二人乗りしちゃだめっしょ!」
「だめだね」
「追いかけて注意するべさ!」
「ええっ!?ちょ、おいらとのご飯の約束はっ?」
「それどころじゃないっしょ!」

 ――後藤さんはそんな犯罪を犯す子だったんだべか…?
 なっち、なまらさみしいっしょ!なっちの目にはイイコに映ったのに…。
 いやいや、今ならまだ間に合うべさ!追いかけて更生させるべさぁーーー!!!
54 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/09(月) 07:30

 手近の駐車場を借りて車をUターンさせる。
 急ハンドルになってしまってため窓ガラスに頭をぶつけてぎゃーぎゃー文句を言ってるやぐちは虫虫。…ん?まちがったっしょ。無視無視。

「なっちー!どこ行ったかわかんないじゃんかよ!」
「探すべさ!絶対探して立ち直らせるべさぁーーー!!!」

 いつになく正義感に燃えたなっちは愛車のミニクーパーのアクセルを床まで一気に踏み込んだ。


「ぎゃーーーーー!!!死ぬーーーーーーー!!!」



55 名前:jinro 投稿日:2004/02/09(月) 07:33
>>44 つみさま
(●´ー`)<裕ちゃんとはそういう関係だべ。
( ´ Д `)<んあ!ごとー負けないよ!


>約一月振り…スミマセン。


56 名前:jinro 投稿日:2004/02/09(月) 07:34



(●´ー`)<「一人ぼっち」絶賛発売中だべ



57 名前:jinro 投稿日:2004/02/09(月) 07:35



( ´ Д `)<「一人ぼっち」聴きながら隠すよ


58 名前:つみ 投稿日:2004/02/09(月) 14:10
あべさんはいいキャラですね!
やぐちさんはむ・・
それはさておきなちごまはやっぱり似合ってますね、性格とかも。
次回までまったり待ってます!
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/10(火) 00:01
待ってましたよー。
これでこそなっちですな。矢口といいコンビ、そして暴走癖あり。
期待が高まるというもんです。
60 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/26(木) 03:35

「あーあ」
 ミキティも帰っちゃったしアタシも帰ろ。

 会計を済ませて『カントリーズ』を出る。
 
 明日も仕事かぁ。
 
 でもハッキリ言って…変な会社だよね。
 課長さんも変だし社員も変だし…あ、そういえば帰る時ぶつかったナンパ野郎は社員なのかな?

 ――そんなことを考えながら歩いていると。

 ――パッパーーーーーーー!!!

 鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらいの大音量のクラクション。
 びっくりして立ち止まったアタシに突っ込んでくる一台の車。

「…へえっ!?なんでえっ!?」

 殺される!?

 思わず目を瞑ると、今度は耳をつんざく急ブレーキの音。
 マジで跳ねられると思ったけど、どうやら大丈夫だったみたい。
 瞑っていた目を開けると、アタシから一メートルも離れていない場所に小型の赤い車が止まっ
ていて、さすがにぞっとした。
61 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/26(木) 03:36

「やぐちっ!捕獲するべさぁ!」

 その車の中から顔を出したのは、なんと安倍さん。
 しかも捕獲って…なにごと?

 ポカーンとしていると、外車なのか右側の助手席から矢口さんが飛び出して来た。
 そしてつかつかとアタシの目の前に来ると、ぐいっと腕を掴んで。
「乗って」
 真剣な顔で言われた。

「…えぇ?」
 状況が飲み込めなくて動かないアタシの耳元に矢口さんは顔を近づけて言葉を続けた。

「殺されたくなかったら乗って」

「――…ハィ」


 なにがなんだか分からないまま、矢口さんの気迫に押されて車に乗り込む。
 矢口さんは集まってきた野次馬を蹴散らしてから助手席に乗り込んだ。

「――後藤さん」

 運転席の安倍さんの声に顔をあげると、バックミラー越しに目が合った。
「なっちはなまら悲しいべさ」
62 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/26(木) 03:37

 なまら?
 なまらってなんだろう。
 不思議に思って尋ねようと口を開きかけたら、がくんと車がいきなりバックして舌を噛みそうになっ
た。
「いいかい?後藤さん。なっちが交通ルールを守らない怖さを教えてやるべさ」

 はあ?

 わけが分からないんですけど。

 矢口さんに聞こうにも、矢口さんはシートベルトを両手で握り締めて固まっちゃってるし。

「安倍さん…なんの話ですか?」
「とぼけるのはやめるべさ…。原付で二人乗りしてたのを、なっちは確かに見たべさ」

 その言葉に、矢口さんがぼそっと「なっちは見てないじゃん」と突っ込みをいれたけど、安倍さん
に睨まれて首を竦めた。

「ああ…でもちょっとの距離ですし」
 だって駅から歩いて二分くらいの距離だよ?
「なに言ってるべさ!!!」
63 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/26(木) 03:38

 キキーっと今度は急ブレーキ。
 信号でもないのになに、と思って前を見ると、そこには横断歩道を渡れなくて困っていたらしい
お婆ちゃんの姿。

 ――安倍さん…。

 やさしいなあ、さすが…なんてポワワとしてたら今度はいきなり急発進。
 これ、この人わざとこういう運転してるの?それとも素なの?

 助手席の背もたれに掴まりながら、アタシはとりあえず安倍さんに謝っておくことにした。
 これ以上こんな運転の車に乗ってたらムチウチになるっての。

「スミマセンでした…もうしません」
 したら安倍さんはいきなりくるんとこっちを振り返って。
64 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/26(木) 03:47

「謝ってすむ問題じゃないっしょや!」

 や、てゆうか安倍さん…。

「いい?原付であんなことして、もし転んで怪我でもしたらどーするのさ!?」

 そうですよね、危ないですよね…でも。

「それだけならじゅごうじゅとく…自業自足…」

 自業自得でしょ。言えてませんよ、安倍さん、いや、それよりね。

「むう…それだけなら自分のせいだけども、もし人巻き込んじゃったらどうするべさ!」

 いや、それはいまのあなたですーーーーー!!!

「「あーーーーー!!!信号赤ーーーー!!!」

 ものの見事にアタシと矢口さんの声がハモッた。
 それに漸く安倍さんは前を向き直る。
65 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/26(木) 03:48
 そして横から来たトラックに豪快にクラクションを鳴らされながらもなんとか交差点を無事通過した。

「なっちー!ちゃんと前見て運転しろよぅ!」
 命の危険を感じたのか、青い顔をして矢口さんが叫んだ。
 きっとアタシも同じ顔色してる…まだ心臓バクバクいってるし。

「大丈夫だべ!信号なんて黄色当然赤勝負っしょ!」

 ヲーイ…。

「赤勝負って…とっくの昔に赤になってたぞ!」
「もー!やぐちはうるさいべ!今は後藤さんと話してるんだべさ!」

 そう言ってまたこっち向こうとするから。
「聞いてます!ちゃんと話聞いてますから!」
 慌てて前を向いてもらった。

「えーと…どこまで話したっけ?」
「危険なことして他人に怪我させたら大変ってとこまでです」
「そうそう…分かってるのかい?」
「…はい」
66 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/26(木) 03:49
 でもハッキリ言って安倍さんに言われたくないような…。

 アタシのそんな思いはどうやら顔に出ちゃったみたいで、ミラー越しにこっち見てた安倍さんは

「なんか言いたいことがあるって顔だべ」
「や、なんもないですよ」

 矢口さんがチラチラ後ろを振り返って目配せしてる。
 大丈夫…矢口さんが言いたいこと、アタシさっきまでの運転で充分理解してます。

「そうだべか?」
「はい」

 すると安倍さんは、ならいいっしょとにこっと微笑んだ。

「もう絶対あんなことしたらだめだよ?」
「はい」
「後藤さんになんかあったら悲しむ人が一杯いるって忘れちゃだめだべ」
「…はい。安倍さんも気をつけてくださいね」

 ――はっきり言って、迂闊だった。
 安倍さんの機嫌が直ったと思って、油断したよ、アタシ。
67 名前:愛と青春の大暴走 投稿日:2004/02/26(木) 03:51
「それはなっちの運転が危険だってことかい?」
「ちが、そういう意味じゃないですよ!」
 慌ててフォローするけど、時すでに遅し。

 矢口さんが泣きそうな顔でこっち睨んでるし。

「ふーん…。したっけ、なっちがいかに安全運転か証明してやるべさ!」
 その声とともに車はぐんとスピードをあげて、アタシの体はシートに押し付けられた。

『殺されたくなかったら乗って』

 ――矢口さん…乗ったほうが殺されそうなんですけど…。






68 名前:jinro 投稿日:2004/02/26(木) 03:56
>>58 つみさま
(●´ー`)<やぐちはむ?むってなんだべ?
(〜T◇T)<知ってるくせに…チクショー。

>>59 名無し飼育さんさま
(●´ー`)<なっちは安全運転だべさ
(〜^◇^)<…。
( ´ Д `)<…。


>レスありがとうです。

69 名前:jinro 投稿日:2004/02/26(木) 03:57



(●´ー`)<ドラマに出るべさ


70 名前:jinro 投稿日:2004/02/26(木) 04:04
∋oノノハヽo∈
  (●´ー`) =333 <マターリ隠すべ
  ( つ目O
   ヽ(^)‐(^)



71 名前:つみ 投稿日:2004/02/26(木) 16:18
あべさん・・・
すごすぎますここのあべさんは・・・
地獄のドライブが始まるのでしょうか?楽しみにしてます!
72 名前:rina 投稿日:2004/03/03(水) 11:07
なっち、すごいよなっち!
それでもって、恐いよなっち!
原付二人乗りより危ない事してるよ!

( ;´ Д `)<殺さないで>(^◇^;〜)
73 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/09(火) 11:24
恐ぇよなっち…。
あ、どうも初めまして。
ごま中心に引き寄せられてやってきましたw
二人の無事を祈りながら続きを待ってます。
74 名前:LOVE 投稿日:2004/03/15(月) 16:00
ひさびさにきてみたら・・・・・
なっち、こえぇ〜〜〜っっ!!!
地獄行きの車でつか・・・??(汗っ
やぐっちゃん、ごっちん、頑張れ!!
ってか、なっちさん、安全運転でね☆
75 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/03/31(水) 17:10
「あ〜…なんかまだ頭がぐるぐるする…」

 地下鉄の駅から地上に出て、太陽の眩しさにクラクラした。

 結局あのあと、深夜の2時まで矢口さんとあたしは安倍さんの『死のドライブ』に付き合わされた。
 いつまでこの恐怖が続くんだろう…がくがくと揺れる車内でぼんやり考えていたら、急に車が止ま
って、安倍さんが一言。

『眠くなってきたべさ!』

 叫んで『死のドライブ』は終焉を迎えた。

 送るべさーなんて眠くてしょぼしょぼする目を擦りながら言う安倍さんをなんとか振り切って車を
降りてタクシーで家に帰って、ぐるぐるする頭に悩まされながらも漸く眠りにつけた。
76 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/03/31(水) 17:10

「――後藤さん!おはよう!」

「…んあ?」

 ぽん、と後ろから肩を叩かれて振り返ると、見覚えのない顔。

「いい朝だね!会社まで送るよ!」

 フルフェイスの派手なヘルメットを持ったソイツはキラキラした笑顔を浮かべて、路肩に停車して
あるやたらデカイスクーターを指差した。

「んぁ…近いから結構です」

 …てか誰だよコイツ。
「そんなこと言わないで…風切って走るの最高だよ?」
「…知らない人のバイクになんて乗れませんから」

 その言葉に、ソイツは少しだけ情けない顔をしてあたしの前に回りこんだ。
77 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/03/31(水) 17:12

「知らない人って…昨日会社で会ったじゃん!」
「……?」
 
 昨日会社で…?
 
 ぐるぐるする頭を必死で働かせて思い出す。

「んあっ!?昨日のナンパヤロー!!!」

 大声で指を指すと、ソイツはナンパヤローは酷いな、などと笑った。

「ね?知らない人じゃないでしょ?」
「だったらなお更結構。ナンパするような人のバイクに乗れるわけないでしょ」

 目の前に立つソイツを睨み付けて通り過ぎる。
「ちょちょちょ、待ってよー。あの時はナンパだったけどさー。今は違うんだよ」
78 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/03/31(水) 17:12

 あーウザイ。無視無視。

「実はさー、後藤さんに一目惚れしちゃったんだよねー」

 早足で歩くあたしの隣に同じく早足で並んでヘラヘラとそんなことを言うナンパヤロー。
 いい加減イライラして、あたしはいきなり会社に向かってダッシュ。
 あたし、足には自信あるんだよね。

 まさか着いて来れないだろうとチラッと振り返ると。

「待ってよー!後藤さーーーん!!!」

 着いて来てるし!しかも振り切れないし!

「着いてくんなーーー!!!」
「いやだーーー!!!」




79 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/03/31(水) 17:13


 ぜえぜえ肩で息をしながら結局会社まで着いてきたソイツを睨む。
 この『下町江戸川のチーター』と呼ばれたあたしに着いて来るなんて…。

「なかなかやるじゃない、アンタ」
「そりゃ光栄」
「名前くらい覚えとくよ」
「自分、吉澤ひとみっす」
「吉澤ね…覚えときなよ。次は絶対あたしが勝つから」

 タメ張られたことがなんだか悔しくて、気がついたら頭のぐるぐるは納まっていた。

 ――それにしても、吉澤だっけ?なんでアイツあたしの名前知ってたんだろ。

「明日も迎えに行くから」
「うわっ!?」
80 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/03/31(水) 17:14

 エレベーターを待っていたら、後ろから声が上がって思わず飛び上がった。

「よ、吉澤さん!?なんでアンタ…!ここの社員なわけっ?」
「違うけど…それに吉澤さんだなんて他人行儀な呼び方やめてよ」
「だって他人じゃん」
「これから他人じゃなくなるから…ホラ、エレベーター来たよ」
「んあ…って、だからなんでアンタまで一緒に乗るのさ!」
「まあまあ。細かいことは気にしないで…」
「気にするっての!…ちょ、ちょっと、なによっ!?」

 気がついたらあたしの体はエレベーターの隅に追い詰められていて。
 目の前にはニヤニヤした吉澤ひとみ。
81 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/03/31(水) 17:14
「ひーちゃんって呼んでよ」
「な、なな、なに、わけ分かんないし!離れなさいよ!」
「じゃあよしこで」
「なんでもいーから離れろーーーー!!!」

 ――ポーン。

 エレベーターが止まって扉が開いた。
 そして開いた扉の先には。

「ありゃあ…朝から元気だねぇ…」
「…あんたら時と場所を考えんとアカンよ?」

 …安倍さんと中澤課長が立っていたのでした…。




82 名前:jinro 投稿日:2004/03/31(水) 17:22
>>71 つみさま
(●´ー`)<地獄のドライブ?
(〜;^◇^)<凄すぎて詳しくかけませんデシタ

>>72 rinaさま
(●´ー`)<…なっち恐いべか?
(〜;^◇^)<・・・

>>73 名も無き読者さま
(●つー`)<みんなしてコワイコワイって…ヒドイべさ
(〜;^◇^)。о(だって・・・

>>74 LOVEさま
(●´ー`)ノ<ヒサシブリだべさ〜
(〜;^◇^)<LOVEさんもコワイって
(●´ー`)<・・・・

>レスありがとうごじゃいます。
 ほんとにヒサブリな上に少ない更新で申し訳。
 いずれはババーンとドドーンと・・・・
83 名前:jinro 投稿日:2004/03/31(水) 17:24



(●´ー`)<ドラマの撮影頑張るべさ!


84 名前:jinro 投稿日:2004/03/31(水) 17:27



(●´ー`)<みんな見てね!


85 名前:つみ 投稿日:2004/03/31(水) 17:49
あら何かまたあの人の勘違い発言がまた生まれそう・・・
ドラマ見るべさ!
86 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/31(水) 21:22
更新お疲れサマです。
撮影頑張って・・・絶対見るからw
でもコワイものはコワ(ry
87 名前:rina 投稿日:2004/04/02(金) 08:06
更新お疲れ様です!
ドラマ絶対見るよなっち!
よっすぃ〜・・・チャラ男?
ごっちん!なっちに誤解されちゃうよ!?
88 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/05/31(月) 11:14
「後藤、コピーとってきて」
「…んぁ〜い」

 市井さんから受け取った書類を持ってコピー機に向かう。

 ――んああ〜…かんっぺきに安倍さんに誤解されちゃったよ…。

 これと言うのもあのナンパヤローのせいだ!
 さっきぶん殴ったけどまだ怒りが収まらない…今度会ったらもう一回殴ってやる。

「あ、後藤さん、コピーならわたしがやりますよ」

 先にコピー機の前でコピーを取っていた事務の制服を着た子が、アタシの手元を見て言った。

 ――てか誰だっけ?

「んぁ、でもごとーが頼まれた仕事だし」
「そうですか。もうすぐ終わるんで、すみません」

 話しながらその子の胸に付いてるネームプレートを見る。
89 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/05/31(月) 11:15

『亀井絵里』

「…亀井さんはここ長いの?」

 黙ってるのも気まずいから取り合えず話しかけてみよう。

「わたしですか?わたしは去年の春ここに来ました」

 コピーされて出てきた書類を手際よくまとめながら亀井さんは言葉を続ける。
「安倍さんに誘われてきたんです」
「安倍さんに?」
「ハイ。わたし、最初は『ハロマ』のアルバイトだったんですよ。たまたま安倍さんが視察にきたとき
にわたしがその店でバイトしてて…そのとき、一人急に休んじゃってて大変だったんですよ。
そしたら安倍さんが手伝ってくれて…それで仲良くなれて」
「…へえ」

 むむむ。
 なんだか面白くないですぞ。

 亀井さんはちょっとほっぺを赤くして、コピーを取った書類を胸に抱えてアタシに頭を下げて
行ってしまった。
90 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/05/31(月) 11:16

 ――しっかし…。

 頼まれたコピーを取りながらちょっと不思議に思う。

 安倍さんて、肩書きは確か主任だったような…主任て人事にも口出せるのかな。
 面接したとき、安倍さんの独断で即決しちゃってたような…。

「――んぁ…コピー終わりました」

 まとめた書類を市井さんに渡そうとすると、市井さんはこっちを見もしないで

「それ、なっちに渡してきてくれる?」
「なっち…安倍さんです、よね」
「そーそー、アベサンアベサン。急いで。待ってるはずだから」
 ――近いんだから自分で持ってきゃいいのに。

 そんなことを思いながら安倍さんのデスクに首を巡らせると、彼女の姿はなかった。アラ?
91 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/05/31(月) 11:17

「安倍さんいませんけど」

 市井さんにきくと、今度は顔をチラッとあげて持っていたボールペンで奥の扉を指した。
「あ、あそこだ」
 言われてボールペンで指された方を見ると、そこには課長室の扉。

「裕ちゃんのとこにいるはずだから」
「んぁ〜い…」

 ――やだなぁ…。なんか顔合わせづらいよ。

 でもまぁそんなこと言ってられない。お仕事お仕事。

 ――コンコン。

 閉められているドアをノックして声をかける。

「ごとーです。市井さんから書類を届けるように言われたんですが…安倍さんいますか?」
「入っていいよ〜」
「失礼します」
92 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/05/31(月) 11:18

 ドアを開けて中に入ると、こじんまりとした応接セットのソファに向かい合って難しい顔をしている
安倍さんと中澤課長。

「あの、コレ」
「ありがと。まったく沙耶香も近いんだから自分で持って来いっての」

 ねえ?と言いながら安倍さんはアタシの手からコピーしたてでまだほんのり暖かい書類を受け
取った。
「――じゃあ、失礼します…」
「後藤」
 ぺこんと頭をさげて部屋をでようとしたら中澤課長に声をかけられた。

「は、はい」
「ちょっとコレ食べてみてくれん?」

 真面目な顔をして中澤課長はテーブルの上に置いてあったおにぎりを指差した。

「ハア?」
93 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/05/31(月) 11:19

 よくよく見ると、テーブルの上にはいくつかのお皿があって、そのお皿に各三つずつ小さめの
おにぎりが乗せられていた。
「裕ちゃん?」
「まあ、一般的な意見も聞きたいやないか」
「――そりゃそうだけど」
 驚いた顔をしている安倍さんは、中澤課長とアタシの顔を何度か見て、小さくため息をついて
ソファから立ち上がった。

 そのままドアに向かっていって、隙間から顔だけ覗かせると、

「さーやかー!後藤さん、ちょっと借りるべさー!」

 と叫んだ。

 ドアを閉めて振り返った安倍さんは中澤課長に指でわっかを作ってOKサインを出す。

「よっしゃ。後藤、そっち座って」
94 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/05/31(月) 11:20
 言われるままアタシは安倍さんの隣に腰を下ろして、テーブルに置かれたたくさんのおにぎりを
まじまじと見つめる。

「これね、『ハロマ』の新製品の試作なんだけども」
「…ハア」

 言われてみればお皿にはそれぞれ小さなプレートが付いていて、小さく何か書かれている。

 ――なんて書いてあんだろ…。

 一番アタシに近い位置にあるお皿に目を凝らしてみると。

 『秋刀魚』と書いてあるのが見えた。

 秋刀魚――サンマ!?

 おにぎりの具に、サンマ!?!?
95 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/05/31(月) 11:21

「社員からアイデア募ってさ、良さげなのをいくつか作ってみたんだけど…なっちとか裕ちゃんは
変なところで舌が肥えてるってか…公平な判断ができないからさ」
「我が部署で一番新しい社員、後藤が味見係と急遽決まったんや」

 急遽って…たまたまアタシが来たからアタシに決まっただけじゃないの?
 それにアタシやだよ!こんな得体のしれないおにぎり食べるの!!!

「それじゃあ後藤さん」

 言いながら安倍さんは手に持っていたバインダーを開く。
 チラっと横目で開かれたバインダーを見ると。

 『茄子』『秋刀魚』『銀杏』…この辺りは比較的ましだった。

 『チョコレート』『焼きりんご』『バナナ』…………

 ご飯にチョコ…りんご…バナナ……アリエナーイ…

 縋るような思いで目の前に座る中澤課長を見ると、なんとにやにやとこっちを見ていて。

「さ、端から食べてみてや」

 そのにやにや顔のまま、アタシに罰ゲームのようなおにぎりを食べることを命令した。




96 名前:jinro 投稿日:2004/05/31(月) 11:23
コソーリ更新
近いうち更新しますんでレス返しはそのときに

97 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/31(月) 18:13
発見しちゃいました。更新お疲れです。

ごとーさん、がんばっつ…汗
意外といけるかも…よ?
jinroさん、無理せずがんばってくださいね。
98 名前:つみ 投稿日:2004/06/01(火) 23:01
ひっそり更新してもすぐに見つけますよ?

大変な役目に・・・
ごとーさんの体を心配しつつ次回まで待ってます!
99 名前:ケロポン 投稿日:2004/06/03(木) 02:19
更新お疲れ様です。

次回は近いうちにとのことで…楽しみに待ってます♪
100 名前:LOVE 投稿日:2004/06/04(金) 10:39
遅くなりましたが、更新お疲れ様です。

ごっちん・・・頑張れ!それも君のお仕事さ(爆
『秋刀魚』は食べてみたいかも・・・。
『焼きりんご』あたりは・・・ごっちん、ご愁傷様です(爆
101 名前:rina 投稿日:2004/06/10(木) 10:29
更新お疲れ様です。
うわぁ・・・後藤さん毎回損な役回りで・・・^^;
が、がんばれ!負けんな!ファイトだ!!;;
お、オイラは・・・食べたいとは思わないけど・・・。
安倍さんが見てるぞ!後藤さん!!逃げるなよ!!
次回も楽しみにしてます♪
102 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/19(月) 12:23
いつまでも待ちます
103 名前:ぱ0る 投稿日:2004/08/17(火) 02:03
そろそろかな?

(●´_`)<焼きリンゴ………


(●´ー`)<ごっつぁんにはわるいべさが、なっちはくえねぇ


(*´д`)<んぁ…
ぴどい
104 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/17(火) 13:56
おちん
105 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/20(金) 17:41
age
106 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/21(土) 01:22
o
107 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/27(金) 02:50
次回は近いうち・・・とのレスから2ヵ月半以上
作者さん元気ですか〜
108 名前:jinro 投稿日:2004/08/28(土) 10:45
>>85-87
>>97-103>>107 の皆様

ううう、忙しくて更新出来なくてスミマセンですた
これからも不定期更新になると思いますが、放置はしないのでよろしくお願いしまつ


(;´ Д `)<りんご…バナナ…んぁ…


109 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/08/28(土) 10:47
「――ご苦労さん!参考になったで」
「後藤さん、ありがとーね?」

 ニヤニヤしながら言う中澤課長と、にっこりと天使の微笑を浮かべる安倍さんに頭をさげて課長室を
でる。

 ムカムカする胃の辺りを押さえて自分のデスクに戻ると、市井さんが声をかけてきた。
「後藤、お昼いかない?」

 んあっ?もうそんな時間?

「あー…、すみませんけど、アタシはいいです…。今、中で…」
「そ?なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「んぁ、だいじょぶだと思います」

 ――秋刀魚はご飯に脂が染み付いちゃってベタベタだし、焼きりんごやバナナは言わずもがな
だし…思い出しただけでオエー。

「じゃああたしはお昼行ってくるから休んでな」
「いってらっしゃいです」

 市井さんに手を振って、アタシはデスクにぐったりと突っ伏した。

 ――お仕事って…タイヘン…。
110 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/08/28(土) 10:47

「後藤さん」

 重い胃をどうしようか考えていると、ぽんぽんと肩を叩かれた。

「…んぁ?」
「明後日、後藤さんの歓迎会をやるんですけど、時間大丈夫ですか?」

 顔を上げて振り向くと、事務の亀井さんが手に名簿みたいなものを持って立っていた。

「…うん、大丈夫」
「そうですか。場所は駅前の『此処夏』って居酒屋です。わかりますか?」

 ――ここなつ?ちょっとわかんないなぁ。

 素直に首を左右に振ると、亀井さんは
「それじゃあわたしと一緒に行きましょう。幹事なんで早めに行かなくちゃならないんですけど」
「ありがとー」

 歓迎会か…。
 とりあえず今日じゃなくてヨカッタ……ん?…今日、今日は…。

「んあっ!!!忘れてた!!!」
111 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/08/28(土) 10:49
 
 今日は安倍さんが中澤課長の部屋にお泊りに行く日だった!!!

 ムカムカする胃のことなんて一気に忘れた。
 思わず大声をあげて立ち上がってしまったアタシに他の社員の視線が突き刺さる。
 でも、そんなの気にしちゃいられない。

 勢いよく立ち上がったせいで後ろに滑っていった椅子を戻して、アタシは課長室を見た。

 ――そういえば、安倍さんさっきから戻ってこない…。
 ひょっとしてあの部屋で…。

 なんだかヤバイ妄想をしそうになって慌てて首を左右に振る。

 まさかね。
 ここは会社なんだし、しかもこんな真昼間から…。

 悶々としながら課長室のドアを見ていると、亀井さんと同じ制服を着た、もう一人の事務の女の子
…道重さん、だっけ?…が、カップをふたつ乗せたおぼんを片手に課長室に向かうのが目に入った。
112 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/08/28(土) 10:50

「み、道重さん!」

 考えるよりも体がうごいてた。
 名前を呼びながら早足で道重さんの元に向かう。

「それ、中に持ってくの?」
「は、ハイ…」

 アタシの勢いに押されたように怯えた顔をした道重さんの手からおぼんを奪い取る。

「あ」
「これ、アタシが持ってくよ」
「で、でも…」
「いいのいいの。ホラ、アタシ新米じゃん?こういうのは新米の仕事だから」

 戸惑う道重さんに笑顔で言う。
 これで合法的に課長室に入る権利を得た。

 それじゃあお願いします、と去っていく道重さんを見送ってから、アタシはドキドキしながら課長室の
ドアをノック……

「あ〜、お腹空いたべさぁ!」

 バン!!!!!!

 …しようとしたらドアが内側から勢いよく開いて、アタシは手に持ったカップの中身を豪快に被って
しまった。

113 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/08/28(土) 10:51



「――た、大変だべさぁあああぁぁぁ!!!!」

 カップの中身を被ったアタシを見て、安倍さんは青い顔をして大声をあげた。

「あ、そんな熱くないみたいだからだいじょry」
「ヤケドするべさ!大変だべさ!!!誰か救急車…ハッ!もしかしてなっち、逮捕されるべか!?
わざとじゃないべさ!!!なっちは無実だべさぁあああああぁぁぁ!!!!」

 テンパって大声で喚き散らす安倍さん。
 なんだなんだと他の社員も集まってくる。

「アタシ大丈夫ですかry」
「とにかく冷やすべさ!!!!」

 叫んで安倍さんはアタシの手を掴んで走り出そうとする。
 冷静見ればヤケドなんかしてないって一目でわかるのに。

「安倍さん…ちょry」
「ちょい待ちいや、なっち!」
114 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/08/28(土) 10:51

「裕ちゃん…」

 青ざめて泣きそうな顔をした安倍さんは急に大人しくなって声がした方を振り返る。
 アタシも安倍さんに倣って振り返ると、そこにはいつになく真面目な顔をした中澤課長が立って

いて。

「後藤、ほんまにヤケドはないんやな?」
「――あ、大丈夫です…お茶、そんな熱くなかったみたいで、ほとんど上着にかかっただけです」

 言いながらお茶まみれになった上着を脱ぐ。

 別に今日は寒いわけじゃないし、上着なくても困らないし。

「後藤さん、本当?本当に大丈夫?」

 脱いだ上着とアタシを交互に見て、安倍さんはうるうるの瞳のままアタシを見上げてきた。

 ――…!!!
 んぁああ!!!可愛過ぎ!!!
115 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/08/28(土) 10:52

「大丈夫ですよ…気にしないでください」
「…上着、なっち家で洗ってくるべさ!」
「そんな、お茶だから大した事ないしないし、悪いです」
「…それじゃあなっちの気が済まないべさぁ」

 ふにゃっと安倍さんの顔が泣きそうに崩れる。
 やばい、これじゃアタシが泣かせたみたいじゃん!!!

 慌ててなんとかフォローしようと口を開きかけたけど

「したっけなっち、今夜夕御飯ご馳走するべさ!」
「「――ええ!?」」

 ――ん??今ハモらなかった???

「なっち、なに言うてんねん!今日はうち来る約束やろ!?」

 あ、中澤課長か。
 …そーいえば思い出しちゃったよ、今日安倍さん、中澤課長の家に泊まるんだっけ…。

「裕ちゃんちはいつでも行けるっしょ!」
「そんなぁ〜なっち〜」
「わがまま言わない!裕ちゃんおとなっしょ!?」
116 名前:あなたのことが好きなんです! 投稿日:2004/08/28(土) 10:53

 びしっと言い放つと、安倍さんはくるんとこっちを向いた。

「後藤さん、今晩時間あるかい?」
「あ、はい…」
 じとーっと睨む中澤課長の視線が痛い…。
 でもでも、こんなチャンス二度とないかもしれないし!

「よかった!したっけ今日、なっちと御飯行こ?お詫びにご馳走するべさ!」

 ――…っしゃーーーーー!!!!

 恋愛のカミサマ。
 これは後藤にがんばれってことですよね?

 こっそりと体の後ろで握りこぶしを作って、アタシはゆっくりと頷いた。





117 名前:jinro 投稿日:2004/08/28(土) 10:54
次は早ければ来月中に…
118 名前:つみ 投稿日:2004/08/28(土) 15:16
ごとーさんやりましたね・・・!
次回が楽しみっす!
119 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/28(土) 19:22
よかった更新きた
安倍さんやばいよ安倍さん
後藤さん頑張れ
120 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/29(日) 20:42
ガンバレーガンバレー♪
チャンスを逃すなーごとーさん。
ここで一気に・・・ムフフ
121 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 23:59
更新待ち
122 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/29(金) 22:53
続いてほしい
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/23(火) 02:46
待ってます
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/26(日) 03:39
ずっと待ってます
125 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 02:20
ずっとずっと待ってます
126 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/06(日) 16:19
続き読みたいなぁ。

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