―― ヒミツの恋の育て方 ――
- 1 名前:kai 投稿日:2003/12/10(水) 14:42
- 4スレめになります。この板では、初めまして。
[岡女]―春の期末編の、ちょいヤン気味な矢口が可愛くて萌え萌えで。(w
そんな、矢口さん主役のお話をつくってしまいました。
今までとは、違った風味を、愉しんでいただければうれしいです。
- 2 名前:kai 投稿日:2003/12/10(水) 15:02
- 滑るように、国道をひた走る ――ZEPYER χ
風が頬をピリピリと突き刺した。
身体の奥に響かせる、爆音。
細い腰に、しっかりと腕を通して・・・。
「・・・ねぇ〜〜っ!!」
「・・・・・・。」
「・・ねぇ〜〜〜ってばぁ〜〜っ!!」
気づいた彼女は、一瞬だけ振り返った。
「んぁ?・・・なんやぁ〜〜っ!!」
鋭い視線。
アタシの知らない顔。
「・・サンタさんってさぁ〜〜〜〜」
「あぁ〜?・・もぉ、聞こえへんからっ、あとにしぃぃ〜〜!!」
ヘルメットから伸びる金髪が、バサバサと四方に弾け飛んで。
威嚇するように、アクセルをふかした彼女は、まるでライオンのようだ。
振り落とされないように、「ギュッ」っと、しがみついて。
ーーーもう、死ぬまで離さないから。
- 3 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 15:16
- ? ? ? ?
〜2年前の冬の夜、アタシはあなたに恋をした。〜
渋谷―国道246
スモークガラスの向こうでは、まばゆいネオンが広がっていた。
こんな遅くなのに、寒そうに寄り添って歩く恋人たち。
ラジオから流れる、お馴染みのクリスマスソングに「チッ」舌打ちした。
クリスマスなんて、大嫌い。
「おら、見てみろよ、あいつらキスしてんぜ!」
思わず指のほうを向いてしまって、「ハァ〜〜」シートにうな垂れた。
人が行きかう交差点の真ん中で、マジでサムイっつーの!
呆れ顔で通り過ぎるひとたちにも、気づいてない。
見せびらかしたいのか、それとも、おウチまで我慢できないのか。
だったら、ソコ曲がって、ちょっと行ったトコにあるホテル行ってやれよ!
これが、映画俳優並みのイケメンだったら、百歩譲って許してやってもいいけど。
こういうことする奴らってのは、大抵、ぶっさいくカップルなんだ!
これ、矢口の定義。
- 4 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 15:19
- どいつもこいつも、クリスマスなんかに浮かれちゃって、バッカみたい!
一年で、一番嫌いな日。
アタシは、ずっとそう思いながら生きてきた。
アナタに、逢うまでは・・・・・。
- 5 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 15:25
- 香ばしい匂いが、車内に立ち込めた。
信号待ちをいいことに、彼は、買ったばかりの“スターバックスラテ”を「ぐび〜」
っと、口に含む。
・・・・・そして。
「・・うぉ、あぢっ!!」
ぶははははっ。
ホント、学習しないひとだねぇ。
最近流行りだした、その小さい飲み口は、世間的にはとても評判なのかもしれない
けど、猫舌のアタシタチにとっては、かなり不評なシロモノだった。
だって、フーフーって出来ないんだもんっ!
「ねぇ和田さん・・・・・・お尻ですんのって、気持ちぃ〜の・・?」
茶色いものが、噴き出たのは、それからすぐのこと。
- 6 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 15:31
- * * * *
鉄格子のベットの支柱に括り付けられている。
大きく開かされた両脚の間には、黒い異物が音をあげながらくねっていた。
剥き出しになった肌。
彼は、そんなアタシの姿を、この上なくうれしそうに見下ろして・・・。
「・・・いやっ、やだぁ・・・もう、やめてぇ〜・・・」
洗濯バサミに挟まれた乳首がジンジンしてる。
泣いて、叫んで、身体を捩っても、カチャカチャと繋がれた手錠が音をたてるだけ。
彼の口角が、ますます上がった。
- 7 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 15:38
- 「厭じゃないだろ、ほぅら、丸見えだ。ちっちゃいお口がこ〜んな太いの咥えて
いるよ・・?」
性器を広げる手に、アタシはイヤイヤしながら訴える。
「・・っ、・・やめて、やめて、恥ずかしいよ・・いやっ!!・・・」
「ウソ言うなよ、気持ちぃくせに。・・ほら、もっとヒーヒーって、よがって
見せろよぉ!」
ペンペンお尻を叩かれて。
真ん中の棒を、グリグリと押し込められた。
てか、「ヒーヒー」って、なんだ?
この人は、いちいち言うことがおかしくって、いつもアタシは笑いを堪えるのに
一苦労で。
きっと、安物のSMビデオばかり観てるからだと思うんだけど・・。
首をブンブンと大げさに振って、泣きまねした。
- 8 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 15:47
- 「・・っ、ひどいよぉ・・・もう、やめてください・・あぁ、ダメぇ・・・そ、
そんなに、したら、・・おかしくなっちゃうよぉ〜〜〜っ!!!」
『おかしくなっちゃう』は、この人の、キーワードだ。
彼がその言葉に敏感に反応するのは、いつものことで。
だからアタシは、頃合を見計らっては、その言葉を口にする。
時計の針は、もうそろそろタイムリミットを示していた。
なみだ目になりながら、そんなアタシを見て、噴火するみたいに顔を赤らめてる。
転がったまま動けないでいる、顔を跨ぐ。
でばったお腹にくっつきそうなくらい膨れ上がったソレが、頬をペチペチと叩いた。
「フッ。・・そうか、これが欲しいのか、そうなんだな、ちゃんと言ってみろよ・・!」
上ずった声が、格好悪いって。
だけど、アタシの演技は続くんだ。
「・・・・ほ、欲しいですぅ・・」
得意の上目遣いですがるように見つめた。
目蓋を閉じたのは、笑いを堪えるためだ。
- 9 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 15:53
- 彼は、うれしげに「ふぅ」って息を吐く。
そうして、膨張したソレを、アタシの口の中に押し込んだ。
入ってきたものをねっとりと舌に絡める。
「ぷ〜ん」と、厭な臭いがしたけど、たっぷりの唾液で味を判んなくさせて。
アタマの中でマニュアルを思い出しながら。ただひたすらに舌を這わす・・。
アタシは、この行為のおかげで、ソーセージの類が一切ダメになった。
コンビニのレジのでは、足早に去るくらい。
これも、一種の職業病なのかなぁ。
「・・う・・っ・・」
- 10 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 16:00
- それは、あっという間に、口の中が解放されて。
慌てるように、カチャカチャと手錠をはずす音が聞こえてきた。
脚の間に納まっていたものが、「スポン」っと音を立てて取り除かれた。
自由になった両脚を抱えて、そのまま二つ折りにされる。
そうして、早急に推し進めようとする彼の身体を、慌てて制した。
「・・ちょっ、・・ダメですぅ・・つけてくださいっ!!」
やっぱり、冷静な自分がいた。
その強い口調に、「チッ」っと舌打ちするオトコ。
だけど、こればかりは、演技も何もないから。
こんな人の、コドモなんて持ちたくないし。
変な病気もらっても、かなわない。
ま、アタシが、もってるかもしれないけどねぇ〜。(苦笑)
- 11 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 16:08
- 「・・・・んっ・・・はぁ・・・・・」
ゆさゆさと揺すられながら。
上から、ポタポタと落ちてくる汗が、とても不快だった。
口の臭いが、鼻に付く。
さっきまで入ってたものよりもちいさなその感触に、痛みが軽減されてしまってる
というのは、いかがなものなのか。
アタシは、鼻で笑いながら、一刻も早く終わらせたくて、「きゅぅ」って力を込めた。
「・・・あ・・うぅ・・・」
そのまま、お腹の上でぐったりする人。
さっきまで、さんざんいたぶってたSMオヤジは、ただのしょんぼり髭オヤジに戻っていた。
・・・ちょろすぎる。
- 12 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 16:18
- アタシは、たったこれだけの行為で5万円を手にした。
SM込みだと、通常の行為に比べても、2万円も上乗せされるから。
他のオンナのコたちは嫌がるらしいけど、アタシは迷いなくそっちを選んだ。
縛られたって、少しくらい叩かれたって、おしっこしてみせるくらいなんでもないよ。
それで、こんなにお金がもらえるならね。
行為してるとき、お金のことばかり考えている。
時々、上に乗ってる人が“福沢諭吉”に見えちゃうくらい。(笑)
たった40分間我慢するだけで、これだけ儲かるのを知ったとき、初めて女に
生まれてよかったと思った。
身体を売るのに、罪悪感なんてないし。
需要と供給が成り立ってんだから、それのどこが犯罪なんだって思っちゃう。
だって、この世の中お金じゃんか。
お金さえ持っていれば、なんだって出来るんだ。
これが、15年間で学んだこと。
アタシは、すっとそうやって、生きてきた。
- 13 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 16:35
- * * * *
「ぶはっ!・・・な、なんだよ急にぃ、噴いちまったじゃねぇ〜かよぅ!!」
ティッシュで口を拭いながら。
軽やかにハンドルをさばく彼に、アタシは続けた。
「えぇ〜、なんでぇ。・・んじゃ、和田さんはしたことないのぉ〜?」
「・・・・や、それは、ま、あっけどよぉ・・あぁ!なんだお前、・・さっきの
客に迫られたのか・・!」
「・・・・うん。」
くちゃくちゃとガムを噛みながら、そう正直に頷くと。
ルームミラー越しの顔が、ニヤケるのが見えた。
でもそれは、急な話でもなかったんだけどね。
彼はどちらかというと、そっちの・・・方に興味があるらしくって。
いつも触りたがった。
まぁ、触るのくらい、舐めるくらいまでは、許してたんだけどぉ。
でも今日の帰り際、とうとう「入れたい」って切り出してきたんだ。
そりゃぁ、なんでもありのオイラだから・・?
んでも、さすがにそればっかは、経験ないし。つーか、怖いし。
そう素直に告げた後に、自慢の髭をさすりながら彼はこう言った。
「へぇ・・まだバージンなんだぁ。・・そりゃいいや。・・じゃ奮発して、10万、
や、15万、・・20万出すよ、・・・それでどう?」
「どう?」って・・。
てか、いまどきバージンて、言うか〜?(苦笑)
また、クスクス笑いが込み上げてきたけど。いたく真面目な彼の表情に、笑う
タイミングを逃してしまった。
- 14 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 16:45
- でも・・やっぱり、・・・だって、さすがに・・・。
「・・・痛そうじゃんか!」
アソコでするのだって、ようやく慣れてきたっていうのに。
あんなとこで、あんなものを。
想像付かないよっ。
恥ずかしいのは我慢できるけど、痛いのは絶対に厭だから。
でも、20万なんだよなぁ〜。
一回だけ、我慢で、20万か。
そりゃぁ、欲しいよぉ・・。
「お前、痛いなんてもんじゃないって!・・や、オレは入れられたことね〜けどな!」
苦笑いしながら、ぷか〜っとタバコをふかす。
「お前の場合は余計だろうなぁ、切れて痔主になったらどうするよっ!」
脅かしながら。
カッカッカッと下品に笑う後頭部をパンチした。
そして、思い出す。
そういやこのひとは、アタシの初めてのお客さんだった。
- 15 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 16:53
- その頃、たびたび家出を繰り返していた。
彼にあったのは、そんなかでもロングラン中で。
お金も底を尽きて、途方にくれてたとき、高島屋の前で座り込んでたアタシに
声をかけてきたのは、このオトコだった。
「・・・どうしたのぉ〜?」
人のよさそうな顔をして。
昔、大手芸能プロダクションに勤めてたというだけあって、物腰はいたく和らげ
だった。
彼に促されるまま、近くのマクドナルドに連れていかれて。
ハンバーガーを齧りながら、淡々と話したんだ。
「行くところがない」
「お金もない」
「お腹すいた」
「寒い」
「疲れた」
「もう、どうなってもいいや」
ホットココアを勧めながら、彼はニヤリと八重歯を見せつけながらこう言った。
『そんな君に、うってつけの仕事があるんだけど・・・』
って。
- 16 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 17:03
- ------------------
♪〜♪〜♪〜♪〜♪
軽快な着メロがなった。
アタシは、「ドカッ」っとシートに身体を埋めた。
カップルたちは、途切れることをしらない。
みんなどこに向かって、歩いているのだろう。
淋しいオトコなら、こんなにたくさんいるっていうのに。
ゆっくりと、目蓋を落とした。
『もしも〜し。・・はいどーもぉ。・・あぁ、おりますよ、いつものとこで?
・・それじゃ、30分くらいしたらいかせますんで、・・はい、よろしくぅ〜!』
『MILK』は、デリバリーを専門とする会社だ。
会社と言っても、事務所なんてものは、存在しない。
警察に踏み込まれたとき不都合だからというのが、彼の持論。
そういう商売ってわけ。
15人近くいる女の子たちは、みんなそれぞれ携帯を持たされていて。
仕事が入るまでは、どこにいても、なにをしてても自由だった。
だからアタシ達は、買い物したり、ゲーセンにいたり、マンガ喫茶などで
時間を潰しながら、お呼びを待つ。
もちろん、掛かってこない日もあったりするのだけど・・。
- 17 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 17:13
- その『MILK』の社長でもあり、運転手でもあり、スカウトマンでもある、彼、
――和田さんが、この会社の創立者で、一人ですべてを仕切っていた。
たった一人で、こ〜んな高級車に乗れちゃうほど、儲かってるってわけ。
メールを打ち終えた彼が、舌打ちする。
「くっそ、失敗した!・・ぜんぜん、動かね〜じゃんっ!!」
R246から、一本入ったその通りは、木々に電飾が彩られた街並み。
いかにも、恋人たちが好きそうな・・。
アタシもよく通るところだけど、最近では、なんか目がチカチカするから、自然と
足が遠ざかっていた・・。
「・・しっかし、キレイだなぁ〜・・」
「・・そう?・・・こんなのただの、電気じゃんっ!」
どうせ明日には、取り除かれる運命なんだ。
クリスマスなんて行事が、あったのかも忘れちゃうくらいに。
それも、毎年のこと。
- 18 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 17:19
- そんなアタシの声に、微笑を浮かべながら言うんだ。
「お前ね、フツーの女の子なら、キャーって喜ぶトコだろうがよっ。マリンちゃん
は、変わってんなぁ・・・」
マルボロを、ぷか〜っと、かけられた。
ゲホゲホと咽る。
「・・う、うっさい!・・・・てか、マリンゆうな!!」
そう、彼とはいつもこんな感じ。
社長という気がまったくしない。
そんなこの人も、うれしそうに肩を竦めるんだ。
- 19 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 17:25
- アタシは、源氏名を、“マリン”と、言った。
矢口真里だから、“マリン”じゃない。
たまたま彼に抱かれた日につけていた香水が、“ウルトラマリン”だったという
理由。
女の子たちは、みんなそれぞれ、香水の名前を付けられている。
“ティファニー”だったり、“ベリー”だったり、“フェンディ”だったり。
んじゃ、オイラもあのとき、“シャネル”なんかつけてたら、今頃“シャネルちゃん”
って呼ばれてたのかなぁ。
「・・・・・・・。」
それはそれで、どうかと思うけど・・。
まったく、ふざけたおやじだよっ!!
- 20 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 17:34
- * * * *
暗闇にオレンジ色が点滅する。
振り返った彼は、部屋の番号だけ告げた。
アタシは、「コクン」と、頷いて、重たいドアを押し開ける。
「・・・う・・っ・・」
ピュ〜っと、風が吹いて、整えた前髪が持ち上がった。
今夜は、雪が降りそうなほど寒い。
・・・って、ホワイトクリスマスなんて、冗談じゃないよっ!
「・・・・終わったらメールしろ。・・送ってくから。」
「ん、い〜よ、近くだから、タクシーで帰る。」
了解のポーズ。
「あ、この客、新規だからさ。・・・・・・・・・ま、がんばって!」
「????」
ニヤリと笑んだ顔が少しだけ気になったけど、首を傾けながらも、素直に頷いた。
そのまま走り去るベンツ。
なのに、50M走らないうちに、音を立てながら戻ってくる。
そうして、バリバリスモークガラスが「ビー」っと、開いて・・・。
- 21 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 17:43
- 「あっ、そうそう忘れていたよ。・・マリンちゃん、メリークリスマ〜スぅ♪」
「・・っ・・ゲッ、最悪ぅ!!」
苦虫を押しつぶしたような顔を見て、満足したのか、そのまま消えていった。
残されたアタシはというと、どうみても妖しげな黒塗りベンツに向かって、真っ赤な
舌を露出した。中指を立てながら・・。
「・・ふぅ。・・・さぁてと、お仕事、お仕事・・・」
白いマフラーをきゅっと締め直して。
アタシは、矢口真里から、『MILK』のマリンに変身する。(イヤだけど)
- 22 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/10(水) 17:53
- 本日4度めのホテルはというと、最後にふさわしいリッチそうな佇まい。
なのにその横で、オイラの3倍はあろうかというくらいの着飾ったツリーが、
我が物顔して、鎮座していた・・。
また、苦々しい気持ちになる。
どいつもこいつも・・。
人の気持ちを逆なでしやがって!!
思い切り回した、回転扉に飛び乗った。
大嫌いだったクリスマスの夜、アタシはアナタに恋をした。
運命って、ホントにあるんだねぇ。
だけどできることならアナタとは、もっと違うかたち出逢いたかったよ・・・・
- 23 名前:kai 投稿日:2003/12/10(水) 17:58
- アタシを知ってるかたには、多少驚かれたかもしれませんが。
なんか、ちょっと遊んでみたくなって。
はい、「海」では絶対に出来ないことをしてみました。
でもこれ、一応、学園物なんですぅ〜!(笑)
つーか、また長いエピローグで。しかも、相手出てきてないじゃ〜ん!(w
感想などいただけたらうれしいです。ちょっとドッキドキですが・・。
- 24 名前:kai 投稿日:2003/12/10(水) 18:04
- あと、3スレめの、「????」は、なんのこっちゃって感じですが。
単なる変換ミスです。お気になさらずに。(汗)
他にも誤字脱字あるかもしれませんが、多めにみてやってください。(ぺこ)
- 25 名前:マコト 投稿日:2003/12/10(水) 18:31
- 新作キターーーー!!
待ってましたよ!もしかして一番乗りっすか?!
矢口さんのお相手これからでますよね?
kaiさんの学園物読んだことないんで、めっちゃ楽しみにしてます!!
ではでは今日はこの辺で…
- 26 名前:ゆちぃ 投稿日:2003/12/10(水) 22:33
- 見つけた〜♪(w。
どうなるか、予想がつかないです☆
すっごい楽しみですvvv続きがかなり気になります!!!
がんばっちゃってくださいね〜。
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/10(水) 23:08
- kaiさん新作ハッケーン!!
最初の方読んでちょっと驚きましたw
今までとは違う感じで、でも、面白そうです。
- 28 名前:ミニマム矢口。 投稿日:2003/12/11(木) 00:59
- はっけん。
思考が変ってもついていきまふ
- 29 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 16:22
- 回転扉をくぐると、そこは、カップルたちで溢れていた。――
広いロビーは、きつい香水の入り混じったものすごい匂いがしていた。
執拗にくっついてる人たち。
おでこを突合せながら、キスしてる人もいる。
二人だけの世界を作って・・。
誰も、人目なんて気にしちゃいない。
それをとがめる人もいない。
だって、今日は、そういう日だから・・・。
みんなが、クリスマス熱に浮かれている。
そう、ここにいる人たちの目的は、たぶん、みんなおんなじなんだ。
アタシだけが、違う。
アタシの場合は、これが「お仕事」だということと、そこには「愛」が、
存在しないということだ。
- 30 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 16:29
- いつもは、ビシッとスーツを着こなしているフロントマンが、今日は、
真っ赤な服を身に纏っていた。
しかも、ご丁寧に顎鬚のおまけつきで。
「・・・はぁぁ・・」
ロビーを素通りして、ちょうど開いたエレベーターに飛び乗った。
その横に置いてあった、“サンタクロース”にひと蹴りいれてから。
回数ボタンを押して、徐々に上がってくランプを見つめながら。
やっと、一息つく。
アタシだって、最初から嫌いだったわけじゃない。
昔は、それなりに好きだったはずだ。
壁に凭れながら、ゆっくりと目を閉じた。
なんにも知らなかった、あの頃を思い浮かべる・・・。
- 31 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 16:41
- ちっちゃい頃は、毎年、家族でお祝いしてた。
テーブルいっぱいに並べられるのは、二人の大好物ばかり。
お母さんは、手作りケーキを二つ作ってくれた。
妹の大好きなショートケーキと、生クリームがダメなアタシ用にと、
くだものいっぱいのタルトケーキ。
アタシも、くだもの乗っけるの、お手伝いしたりして。
それから、3人で、キャーキャー言いながら、ツリーの飾りつけしたり。
この日だけは、忙しかったお父さんも早く帰ってきてくれた。
そうそう、お父さんが抱えてくる“ケンタッキー”のバスケットが、
楽しみだったなぁ。
それから、あったかい炬燵を囲んで、パーティーするんだ。
ワインを「チン」とかち合わせるお父さんとお母さんに、アタシたちは、
甘い味のするシャンパンを合わせるの。
この味を思い出すたびに、「あぁ、クリスマスだぁ〜!」って、実感
してた。
「・・ずっとあれが、シャンパンだと思ってたけど、ホンモノじゃなか
ったんだよねぇ・・・・」
- 32 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 16:55
- でも、次の年のクリスマスは最悪だった・・。
あれは確か、小一のときだ。
いつものようにパーティーしてから、お父さんは「早く、寝なさいよ」と、
言った。
だけど、アタシは、「サンタさんに会うまで起きてるんだ」と言い張って。
その日、クラスの男の子が、「サンタはいないんだ」って言ってきたんだ。
アタシは、「ぜったい、いるよ!」って。それから、喧嘩して。
だから、サンタさんと、ツーショット写真撮って、アイツに見せてやる
んだと意気込んでいたのに。
コーヒーは、10杯は飲んだ。
苦いブラックガムも、たくさん噛んだ。
それでも、コドモには、睡魔は勝てなくて、いつのまにかベットに
寝かされていた。
そのとき、ちょうど、おしっこに行きたくなって・・。
目を擦りながら、トイレに行こうと、ドアを開けたとき、大きな包みを
抱えたお父さんと鉢合わせしたんだ。
「・・・・っ・・うあっ・・ま、まり!!・・・」
あわあわする彼の顔を見て、すべてが判ってしまった。
やっぱりみんなの言うとおり、サンタさんはいなくって、その正体は
お父さんだったんだ・・。
欲しいものリストを聞かれた時に、気づけばよかった。
あんなにコーヒーのむ前に、教えてくれればよかったんだ。
お父さんも、横着しないで、サンタの格好くらいしてくれればいいのに。
- 33 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 16:58
- それから、プレゼントを開けて、また、布団を被って大泣きした。
欲しかったのは、ディズニーの“ドンじゃら”だったのに。
これは、ドラえもんの“ドンじゃら”じゃんかっ!
お父さん、ちゃんとリスト見たのかよぅ!!
「そういや、あの頃から、あぁだったよなぁ・・・・お父さんって。」
- 34 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 17:07
- オレンジ色のランプが、数字を越えていく。
アタシの思考も、ドンドン冴えていく・・。
そういや、中一のクリスマスは、よかったなぁ。
初めて、男の子とデートした。
駅で待ち合わせしてから、あの時は、ベタに映画に行ったんだ。
ホントは、アクションモノのほうが好きなのに、彼が選んだのは、
甘っちょろいフランス映画で。
正直、ホント退屈で、眠たかったんだけど、なんにもいえなくて。
でも、ちょっと肩が触れただけでときめいたり。
彼の息遣いを聞いてるだけで、ドキドキしたりして。
クリスマスプレゼントは、ゲーセンで取ってくれたプーさんのぬい
ぐるみになった。
「かわいい」って言ったら、何度も、挑戦してくれてんだ。
それが、すっごくうれしくって。
キスもしなかった。それどころか、あんまり会話が続かなくて、二人で
ずっとモジモジしてた。・・・可愛い思い出。
ま、・・・すぐに別れちゃったけどねぇ・・・。
「・・・・そういや、なんで、別れたんだっけか・・?」
- 35 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 17:15
- 一番、最悪だったのは、その次の年のクリスマスだ。
初めて自分から告って付き合った人と迎える、初めてのクリスマス。
相手は、ちょっと不良っぽい、でも、笑顔の可愛いい感じの人だった。
ずっと楽しみにして、いろいろ計画立ててたのに。
急に、「バイト入った、逢えない」って、言われて・・。
泣く泣く友達のクリスマスパーティーに参加しようと思って、出かけた
駅で、バッタリ会った。
しかも彼の横には、大人っぽいキレイな女性が腕を絡めていた。
別に、二股を掛けられていたことが、ショックだったわけじゃない。
それよりも、彼にとって、2番目の女だったことが、辛かったんだ。
「・・そういや、はじめて、えっちした人だったな・・・・・」
そして、その翌日、両親は、離婚届をだした。
- 36 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 17:20
- 「・・・ふぅ。」
溜息をついていると、「チン」軽快な音とともに、「パカン」と、扉が
開いた。
廊下に伸びる分厚い絨毯に、アタシは、一歩を踏み入れる。
さっきのホテルとは、まるで違う感触。・・ふっかふか。
迷路のようないりくんだ廊下を、ナンバープレートを頼りに進んだ。
格調高そうなドアが続く。
久しぶりの高級ホテルなはずなのに。
その足取りは重かった。
- 37 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 17:25
- どんな人だろう。
和田さんは、新規だって言ってた。
もちろん、そういうお客さんもいるけど、アタシの場合は、ほとんど
リピーターさんが多かった。
だから、新規と聞くと、少しだけドキドキする。
ドキドキと言ったって、別にそういう意味のドキドキじゃないけど。
ただ、ぶさいくじゃなかったらいいなとか。
変なセックス強要されたら、イヤだな〜とか、そんな感じ?
「・・・そういや、指名されたんだよな。」
- 38 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 17:30
- 「・・・8083・・8083・・・80・・83・・・っ、あった!」
もう一度確認する。
そして、一呼吸。
こんな高そうなホテルで。しかもこの時期に。
たぶん、予約入れないと取れなかっただろうに。
クリスマスみたいな日に、デートクラブの女の子を抱くなんて。
もしかしたら、去年のアタシみたいに、彼女に振られちゃったのかな。
そんで、仕方なく、電話したとか?
少しだけ、躊躇して、でも、勢いよくチャイムを押した。
部屋の中に響く音が聞こえる。
風で持ち上がってしまった前髪を直して、ポッケに入れてた鏡で、最終確認。
うっし、可愛い、オッケっ♪
- 39 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 17:40
- これから、一時間、アタシはお人形になる。
なんにも反抗しない、従順で、お利巧さんなお人形。
噛んでたガムを、「ぺっ」っと、包み紙に戻した。
足音が聞こえる。
続いて、ガチャガチャと鍵を開ける音も。
そうして、ゆっくりと開いた扉に向かって、いつものように頭を下げた。
「こんばんはぁ!・・・・MILKのマリンで〜す〜♪」
この名前を言うとき、少しだけ、耳たぶが赤くなる。
だけど、マリンちゃんの一番の売りは、“元気”と、“愛嬌”だからね。
とびっきりの営業スマイルで、顔をあげた。
でも、アタシの口は、その形のまま戻らなくなってしまうんだ。
- 40 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/16(火) 17:46
- そう、これが、アタシたちの出逢い。
こんな形で、運命の人が待っているなんて・・。
ホント、神様は、意地悪だよっ。
まばゆい室内ライトに照らされて。
真っ白いガウンに身を包んだ。
青い目をしたキレイな女の人が、そこに、立っていた・・・。
- 41 名前:kai 投稿日:2003/12/16(火) 17:51
- なかなか進みませぬ。(苦)
今日は、少しだけ更新してみました。
はい、次回こそは、お相手の登場です。
もう、誰だかはお分かりでしょうが。
てか、最初から、判ってたか・・・。(苦笑)
今回は、他のカップリングも組ませる予定です。
矢口さんのお相手は、相変わらずですがね。
- 42 名前:マコト 投稿日:2003/12/16(火) 17:59
- 次回ついにあの人登場ですか!?
いつもの事ながら楽しみにしてます!!
他のカップリングも期待してますよ〜(w
- 43 名前:kai 投稿日:2003/12/16(火) 18:02
- 早速のレス、ありがとうございますぅ〜!
>マコトさん・・はい、一番です。いつもご贔屓にありがとうです。(ペコ)
学園物というよりも、アンリアル自体がはじめてなんで。
おもしろいのかどうなのか謎なんですがぁ、読んでやってください。
>ゆちぃさん・・はい、がんばっちゃいますぅ〜ww
アタシ自身が結構、愉しんでやってるんで。(w
一緒に、愉しんでいただけたら、うれしいですぅ。
>27さん・・驚いてもらったようで。(w
アタシに、エロははずせないので。でも、ホントはもっとハードな
やつだったんですよぉ。(苦笑)
こんなんでも、読んでやってくださいませ。(ぺこり)
>ミニマム矢口。さん・・根本的には、あんま変わってないような。
でも、シリアスめで、いこうと思ってます。出来るのかって感じだけど。
そういえば、最初に言い忘れていましたが、エロありです。(笑)
つーか、ありありです。(汗)
それでも、よろしかったら、これからもお付き合いお願いします。
更新は、なるだけ早くがんばります!!
- 44 名前:ゆちぃ 投稿日:2003/12/16(火) 23:31
- 青い目の綺麗な人!?!?
ついにきましたね〜♪待ってました!!!(爆。
どこまでもついていきます☆
- 45 名前:ミニマム矢口。 投稿日:2003/12/17(水) 00:35
- ここの矢口さんとハロモニ。四休さんマリーンと一緒なのは…(^O^)
さて、お互いのファーストコンタクト楽しみだ
- 46 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/17(水) 20:13
- ついにあの人クル―――――!!!
自分も見てて四休さんのマリーンと一緒だなと思いましたw
- 47 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/20(土) 16:38
- 欲しい物がドンじゃらっていいなぁ。懐かしいですww
さぁて、裕ちゃんはどんな反応を見せるのでしょうか。
続きが待ち遠しいです。
- 48 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 13:14
- 「あんぐり」と、開いてしまった口が元に戻らなくなった。
そして、そこに鏡でもあるかのように、目の前にいる人もおんなじ顔をしていたんだ。
(・・・ハッ!!)
我に返ったのは、オイラのが早かった。
「わ、わっ、あの、す、す、す、すみませんっ!・・・部屋、間違いました〜〜っ!!」
ぺこりとアタマを下げて、その場から立ち去ろうとするも、動けなくなってしまう。
後ろ手を取られていた。
「いんや、・・ここで、間違ってへんけど?」
「・・・・・・・・・。」
驚いたのは、その手が冷たかったせいじゃない。
彼女の口から出た言葉が、初めて聞くイントネーションだったから。
おそるおそる振り返ると、ニッコリと微笑みかけてくる相手に、そのまま固まった。
たぶん、世間でいったら、美人の部類に入るだろう。トップクラス?
一見は、強面だけど、どことなく愛嬌のある顔立ちして。
それが、少しだけ上がった鼻のせいだと気づいてからも、しばらくその顔に見入っ
ていた。
- 49 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 13:19
- へっ?・・・あれ・・待てよ。
耳に残った言葉に、首を傾ける。
いま、この人、なんて言ったの?
なんか、「間違ってへん」とか、聞こえなかったか?
「間違ってない」ってことは、「この部屋でいい」ってことになる。
そしてそれは、この人が、アタシを呼んだってことにも、・・ならない?
(・・ええぇぇ〜〜〜〜っ!!!)
ちいさな脳みそに浮かんだ、不埒な単語に。
アタシは、彼女に気づかれないように絶叫した。
- 50 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 13:27
- 『MILK』のお客さんは、ほとんどが男の人だ。
しかも、年齢層は比較的高めだったりする。
他のクラブのなんて知らないけれど、料金は高めらしい。
こんな不景気な世の中なのにもかかわらず、こんなに儲かっているの
には、「可愛いコが多い」ってだけじゃなく、いろんなオプション
が付いくるという利点のせいでもあった。
「蝋燭」や「浣腸」なんて、ハードプレイはご勘弁だけど。
ソフトなものならばって女の子は多いし、ご要望とあらば、看護婦さん
にだって、・・今は、ほとんど廃止寸前のブルマー姿にだってなっち
ゃったりもするんだ。
こんなんのどこで興奮を得られるのか知らないけど。
オトコって、バカ?
- 51 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 13:35
- そんななんでもあり〜な「MILK」にも、たったひとつの禁じ手がある。
それが、「複数プレイ」だったりするんだ。(俗に言う3〇ってやつぅ?)
女の子への負担が大きすぎるという理由で、そういう注文が来ても断って
いるらしいと言うのは、マンガ喫茶で知り合った女の子に聞いた。
以前、それで酷い目にあったコがいたとかで。
ま、そのオトコどもは、ヤクザにボコボコの半殺しにされたって噂だけどね。
でも、あの人ならやりかねない。
っていうか、ヤクザがバックってマジぃ〜!!
なのに、あのスケベオヤジときたら。
- 52 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 13:42
- なぜか、そこに女が加わると、話は変わるらしいのだ。
オトコ×2はダメだけど、女×2は、オッケ!なんだと。
「レズプレイ」を見たがるマニアが、最近、増えているらしい。
二人の女の子を呼んで、客の目の前でやらされるっていう怖い話も
聞いたことある。
自分の彼女に、それを強要させるって人も、珍しくないらしい。
ハァ・・・。
この世界に足を突っ込んで、早三ヶ月。
大抵のことには、驚かなくなってはいたけど。
世の中にはいろんな人がいたもんだと、溜息も付きたくなるよ。
アタシは、ラッキーにも、今までお目にかかっていなかっただけの話。
そして、今日、とうとう・・?
- 53 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 13:49
- (・・うげぇ、最悪っ、・・・マジかよぅ!!・・・・)
ただでさえ、いつもより多めに相手して、疲れてんのに。
やっぱり今日は、トコトン付いてないらしい。
「なにしてんの、寒いから、早く入り?」
「・・・・はぁぁ。・・」
石鹸の香りのする低めのアーチをくぐって、おぞおぞと明るい室内に
踏み入れると。
そこは、少し広めのシングルルームになっていた。
セミダブルベットが、部屋の大部分を占領している。
あとは、クローゼットと、テレビ。ちっちゃな冷蔵庫が「ブーン」っと、
音を立てていた。
デスクの上には、乱雑に置かれた書類と、電源の入ったノートパソコンが
開けられている。
シンプルだけど、おしゃれな内装。
狭い感じがしないのは、天井が高いせいだ。
- 54 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 13:55
- ぐるりと見渡した。
なのに、いるだろうと思ってた人はどこにもいなくて、彼女もそれ
らしいそぶりは見せない。
かじかむ手で、マフラーを外しながら。
アタマの中で思い巡らす。
「部屋は間違ってない」と、言った。
その部屋にいるのは、二人だけ。
そう、彼女と、アタシだけ。
これから、人が来る気配もなければ、そこはシングルルームだ。
どういうこと?
そんなの、すぐにピン!とくるから。
そうなんだ。
アタシは、この人に買われたんだ。
女のアタシが、女の彼女に?
それが、判らないひど、アタシは純真ではなかった。
- 55 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 14:01
- 「・・外、寒かったやろ・・ほっぺた、真っ赤になってんでぇ・・・」
手の甲でさすられて、「ピクン」って、身体が揺れた。
真っ白いキレイな手。
そして、爪もキレイに、ネイルアートされていた。
いつも触れてくるゴツゴツしたのとは、まるで違う。
冷たいけど、やさしい感触。
彼女のそばは、なんだかいい匂いがする。
部屋中に漂うその香りが、いつもとは違うんだって、言っていた。
- 56 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 14:07
- コートはまだ、脱げないでいた。
それどころか、思うように口が利けなくて。
呆然と立ち尽くすオイラに、彼女は気にせず話しかけてくる。
だけど、その声は、耳から耳へと素通りしてしまうんだ
滑らかに動く口元を、じっと見つめてた。
こんなキレイな人が・・・なんだぁ。
同性を恋愛対象にする人。
それは、アタシにとって、未知の世界。
もちろん、そういう人がいることも知っていたし、別に偏見なんて
もんはさらさらないけれど。
実際に、そういう人を目のあたりにするのは、初めてのことだから。
ドキドキする。なんか、変な感じ。
- 57 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 14:14
- でも、そういう人って、それらしいオーラを持っているのかと思って
たけど。
全然、普通じゃんか。
これじゃ、道を歩いてても判らないよ。
「おーい、おーいって、どうしたんっ?・・・さっきから黙って?」
腰を屈みながら、目の前をヒラヒラさせるキレイな手。
覗いてくる瞳は、キレイなブルー。グレーに近い濃い青色だった。
なんだか、そのまま吸い込まれそうになる。
「・・あ、いえ、その、・・・・なんでもありませんっ!」
「そ?・・ならええけどぉ。・・しっかし、ビックリしたわ。まさか、
こんな可愛いコが来るなんて、なぁ?」
「・・・はぁ。」
ありがとうございますぅ。
それは、よく言われます。
- 58 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 14:21
- 「・・えっと、・・んじゃ、アタシでいいですよ、ね?」
しどろもどろに言うのを。
「よく判らん」って感じに首を傾げながらも、うれしそうに「コクリ」
と、頷いた。
「うん、アタシはええけど。・・ってか、仕事はちゃんとしてくれんねん
やろ・・?」
「・・・はぁ・・がんばります。」
っていうのも、変か。
だってでも、そんなちゃんとなんてできるかどうかは自信ないですよ。
なったって、こっちは、初めてなんだからっ。
そちらの相手は。
あーー、もう!
和田さん、それならそうと、早く、言ってよぉ!
オイラにだって、ココロの準備ってもんがさぁ。
帰り際の彼の態度を思い出して、顔を顰めた。
あのヤロー、わざと言わなかったなぁ!
今頃、温かいベンツのなかで、ほくそ笑んでることだろう。
ちくしょーー!
やられた!!!
- 59 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 14:25
- 「そんじゃ、頼むわ。」
「・・はい、判りましたぁ。・・一時間コースで聞いてますけど?」
「うん。そうして。」
アタシは、買われたお人形なんだから、断る理由なんてない。
いつもと少しだけ勝手が違うから、戸惑ってるだけだ。
落ち着かなく、部屋をキョロキョロと見渡しながら。
二つの扉を確認して、アタシは彼女に向かって言った。
「それじゃぁ、すみませんが、シャワーを、お借りします。」
- 60 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2003/12/22(月) 14:31
- なるだけ平静を装っていつものように、いうのに。
彼女の顔は、初めてご対面でしたときのように、ポッカリと口を開けて
いた。
その間から、ピンク色の舌が覗いてる。
「はぁ?」
「はぁ?」
なに?
「へっ?」
「へっ?」
なんだよぅ!
「・・あ?」
「・・あ"〜っ??」
オウム返しのような、繰り返し。
彼女は大きな瞳を、パチパチと瞬きする。
・・・そして。
そのまま、ベットに崩れて大笑いする姿を、アタシは呆然と見下ろして
いた。
- 61 名前:kai 投稿日:2003/12/22(月) 14:36
- ちょっとづつ更新。
はい、ようやく、出逢いましたね。(汗)
これから、どんな中澤さんになっていくのでしょうか。
続きは、しばらくの、お待ちを。(w
- 62 名前:ゆちぃ 投稿日:2003/12/22(月) 14:41
- リアルでこんにちわ(w。
って、ここでストップですかぁ!?!??!
気になるどころの騒ぎじゃないじゃないですかぁ…。
なんでマリンちゃん呼んだのかなぁ〜なんて思ってたのにぃ〜。
おとなしく待ってます…では!!
- 63 名前:kai 投稿日:2003/12/22(月) 15:03
- >マコトさん・・ついに登場です。
遅ればせながら、やっとこ、やぐちゅーらしくなってくかな、とか。
他のカプは、まだまだ先のようです。しばらくは、やぐちゅーでお楽しみください。
>ゆちぃさん・・青い目の綺麗な人。アタシはあの目が大好きなもんで。(w
この中の裕ちゃんの設定は、卒コンのあたりをイメージしてたりします。
どうぞ、最後まで、つきあってやってください。(ぺこ)
>ミニマム矢口。さん・・慌てて、四休さん見まして。
サンタ矢口に萌え〜♪・・はい、でもこれはあんま、色っぽくないので違うかと。(w
>46さん・・やっとこ登場です。
お待たせ(?)しまして。これからは、二人のシーンだらけなので。(w
愉しんでやってください。
>47さん・・ドンじゃら。懐かしいってことは、もしや、同世代?(w
クリスマスになると、家族で炬燵をひっくり返して、よくやったもんです。
それがいまじゃ、麻雀パイに変わってたり。(おい)
- 64 名前:マコト 投稿日:2003/12/22(月) 18:00
- kaiさん何でここで切っちゃうんですか〜!?
めっちゃ気になるぅぅぅ…!
中澤さんなんで笑っているのかっていうのも気になるし!
ではではやぐちゅー満載の次回更新をお待ちしています(笑)
- 65 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2003/12/29(月) 02:37
- こちらでは、初めてですね。遅れましたが新作おめでとうございます。
自分も次回更新楽しみにしてます!
- 66 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/03(土) 14:04
- 明けましておめでとうございます。
今年も続き、楽しみに待っております。
- 67 名前:kai 投稿日:2004/01/05(月) 15:06
- あけましておめでとうございます。(ペコ)
いやいや、元旦そうそう、驚かされましたねぇ。(苦笑)
やっぱ、矢口視点で見ちゃうなぁ。あんま実感ないけど。
いろいろと感慨深いものはありますが、こちらは関係なく進んでまいります。
それでは、新年最初の更新です。
少し、長めなので、分けるかもしれませんが。
今年もヨロシクお願いします!と、いうことで。
- 68 名前:秘密の恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 15:07
- あのぉ、これは、いったい・・・??
- 69 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 15:17
- * * * * * *
「・・あはははっはっ、・・・ひぃぃ〜、・・あははははっははっ・・・!!」
細い身体を丸めながら。
布団をパンパン叩くおかげで、羽が宙を舞う。
ほどよく暖まった室内は、エアコンの音と、彼女の笑い声だけが、大きく響いていた。
「あはははっ、・・ひぃ〜、・・はあぁ・・・もぉ、最高っ・・・・」
今度は枕まで取り出して。
ブンブン振り回す。・・・って、危ないよぅ!
て、いうか、これは、なに?
もしかして。・・いや、もしかしなくてもだけど。「大爆笑」ってやつじゃない?
そりゃ、ジブンがその原因だってことは、重々わかっているけど。
問いたくて伸ばした手は、所在無く空中をブラブラしていた。
タイミングを逃したというより、笑っている彼女の顔に見惚れていた、というほう
が正解かもしれない。
- 70 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 15:25
- 『・・こんなふうに笑うんだぁ・・・』
はじめの「ちょっと怖い」印象が。
ベットに突っ伏しながら、お腹を抱えてるその姿は、とても同じ人とは思えない。
子供のように大きく開けた、ピンク色の喉の奥で振り子のように揺れているちい
さな器官が見えた。
あぁ、そんなにしたら、もぅ、美人が台無しだぞぉ!
彼女自身の手が、真っ赤に腫れあがるまで、その豪快な笑いは止むことはなかった。
- 71 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 15:33
- 「・・ひぃ、・・ひぃぃ・・っ、・・・ふぅぅ・・・・」
ひきつるような呼吸のあと。
ベットのそばで、呆然と立ち尽くすオイラにようやく視線が向く。
涙で濡れた目頭を押さえながら、じっと見つめてくるブルーグレーの瞳の奥に、
マヌケ顔の見慣れた顔が映った。
途端に、ピクンと揺れる身体。
「トクトク」と、鼓動が早撃ちし始めて。
頬が熱くなってくのが、判った。
あ、あれ?・・・なんだ、この感じ・・。
「・・・ふぅぅ。・・・はぁぁ・・ごめっ、ごめんな・・・・・・」
笑いつかれて痛いのか、横腹を摩りながら。
そこから、這うように起き上がると、ごちゃごちゃしたデスクの上から、小さな
一枚の紙を取り出した。
そして、アタシに向かって、「ほい」と、手渡す。
「!!!・・・・っ、これ!」
- 72 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 15:41
- 紙と、彼女の顔を交互に見つめた。
その紙切れには、見覚えがあった。
・・・っていうか、これ、アタシんじゃんかっ!
ピンク色のそのカードは、名刺と言っちゃってもいいのかどうか。
赤いハートマークの真ん中に、自分の源氏名が書いてあるから、やっぱり間違い
ないよ。
こんなど派手なもの持ってるのなんて、キャバ嬢かウチらくらいなもんだろう。
奥さんや、彼女に見つかったら、ただ事じゃ済まないような、そんな代物。
そこには、コロコロと変わる「MILK」の携帯ナンバーが記されていた。
常連客や、悪くなかったお客さんにだけ渡してた。
だから、そんなに出回ってるはずがないんだけど・・・。
それを、どうして、アナタが持っているの・・?
- 73 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 15:51
- 疑問がそのまま顔に出ていたのか。
彼女はアタシを見るなり、クスクスと笑いを引きずりながらも、ベットの端に
腰掛けた。
アタシは、また、見下ろす格好になる。
「いやこれな、実は、あっこの本の間に挟まってたんよぉ・・、明日な、この
下で、論文発表みたいのがあって。・・・」
尖った顎でしゃくった先には、いつ雪崩が起きてもおかしくないほど、山積みされ
た書物があった。
アタシは、無言のまま、首を傾げる。
「いやさ、こっち来てから、ずっとこの部屋に缶詰させられててん。・・んまぁ、
さっき無事に終わったトコやねんけどなぁ。・・で、めっさ疲れて、寝とこう
思うたんやけど、どうにも眠れへんし、肩もコチコチで、どうしたもんかぁと、
思うてたら、・・・・それが、ヒラヒラヒラ〜っと、な。」
ポキポキと肩を鳴らしながら。
「な!」って強調されても。
さっぱり、なんのことだか。
「ほんで、よう確認もせんと、電話してもーたんや。・・・ごめんなぁ。」
- 74 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 16:08
-
いや「ごめん」って、謝られても。
えぇ、なにぃ〜、わかんないよぉ。
も、ぜんぜん、わかないって!!
それと、アタシがここに呼ばれたのと、どういう関係があるんだ?
ますます、首が傾くアタシに、彼女は困ったようにおでこに手をあてた。
「ん〜〜っ、どう言ったらええんかなぁ。・・・あっ、その本は、アタシのや
なくて、先生の借り物でさ。・・・先生ちゅーのは、ウチのガッコの教授さん
のことやねんけどぉ・・ほいで、アタシはてっきり、その、マッサージさんの
ほうかと思ってぇ・・・。」
ホンマびっくりやわ、と、ちいさくつぶやいた。
けど、アタシには、さっぱり、わかんなくて。
彼女は、困ったように唸りながら、髪をガシガシした。
「ふぅぅ・・判らんか。・・・いや、だからな、アタシが頼みたかったのは、
そっちのやなくて、ほら、あるやろ?・・ホテルで頼むやつ?・・マッサージさん
いてるやん?・・ほれ!」
「モミモミ」と手振りつきで説明されて。
あぁ!っと、両手を叩いた。
それって、もしかして、あの、よく、おじさんとかが、頼むやつ?
ドラマのシーンで観たことあるよ。・・・そうそう、アンマさんだ。
「・・ええええええぇぇぇ〜〜〜〜〜!!!!!」
叫んだまま、力なくベットに崩れた――。
- 75 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 16:18
- 「ごめんなぁ・・ホンマ、ごめん。・・あぁ、ごめんなぁ・・・」
真っ白いそのシーツは、甘い彼女の香りがしてた。
後頭部をやさしく撫でてくれる感触が、思いのほか気持ちが良くて。
やわらかい関西弁が、やさしく耳に響いてる。
アタシは、目を瞑ったまま、その感触を愉しんだ。
あぁ、だけど、そんなのって、ありぃ?
っていうか、フツー、この名刺で間違えるか・・?
だって、ピンクだよ、ハートだよ、てか、マリンだぞ!!
そんな、アンマさんいたらば、矢口もお願いしたいって!!
目の端に映った自分のそれ。
かばんの中にも、同じものが入ってる。
確かに、“癒し”とか、“マッサージ”とか、書いてはいるけど。
もう、そんなわけ、ないじゃんかぁ〜!!
「・・・・はあぁぁぁ・・」
思ったよりも、大きなため息がでた。
- 76 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 16:27
- 力がスーっと抜けてく感じ。
あんなに緊張してた、オイラが馬鹿みたいじゃんか。
最初は3Pかとまで思ってさ・・。
そうだよ、そんなはずないのに。
こんな綺麗な人が、レズビアンだ、なんて。
あるわけない。
「あぁ、ごめんな。ホンマ許して。ごめ、ごめん、ごめんやからぁ。」
よしよしと頭を撫でられて、徐々に正気に戻っていく。
そんな勘違いっぷりは普通じゃないと思うけど。
「眠たかったから、間違えちゃった」なんて、言葉で片付けられちゃっても困る
んだけど。
んでも、最終的にちゃんと確認しなかった和田さんのほうが、絶対に悪いと思うから。
ゆっくりと頭をあげた。
子犬のように、しょぼ〜んとしてる彼女と目があう。
やっぱり、あのときの威圧感みたいなのは、すっかり消えていた。
ホントは、やさしい人なんだと、思う。
- 77 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 16:37
- アタシは、ベット上に正座する。
すると、なぜだか、彼女も正座しはじめて・・。
改まって、お互いが見合う格好となった。
「ごめんなさい。アナタは悪くないです。こっちが勘違いしちゃってたんで。」
「いや、ちゃうよ。アタシや、アタシが悪いんよ。よぅ、見んと電話してもーたんや
から、アタシや。・・・ごめん。ごめんな・・?」
手をついて頭を下げるから、アタシも慌ててお辞儀した。
「ごめん。」
「ごめんなさい」
「アタシが」
「いや、こっちが・・」
なんかさ、これ、おばちゃんたちみたいじゃないか・・。
ホントに申し訳なさそうに言うのが、気の毒になって。
なのに、そんな勘違いしてしまったのが、おかしくて。
思わず口もとが緩んじゃった。
「・・プッ。・・・ふ、ははははっ!!!」
「・・・・ブッ!!」
噴出したアタシにつられて、彼女も吹いた。そして、見合ってお笑い。
「きゃはははっ!!!」
あぁ、もう、なんだよ、それぇ〜〜!
こんな、オチって、ありかよぉ〜!!
- 78 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 16:44
- お腹を抱えながら、ケラケラと笑っていると。
不意に視線を感じて、顔をあげた。
ブルーの瞳が、じっと、見つめていた。
変なふうに、口元が引きつって。
「ええなぁ。・・・そのほうがええのに?」
「・・・へっ?」
ニッコリと微笑むその表情に、また、身体が揺れる。
雪のように真っ白い手が、オイラの頬をやさしく撫でた。
人に触れられるのが苦手なはずなのに、彼女の感触は、全然イヤじゃなくて。
どうして?・・・女のひとだからなの?
また、心臓の音が聞こえてきた。
体温が、一気に上昇していくの。
あぁ、オイラ、変だ。
もう、どうしちゃったんだよぅ・・。
- 79 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 16:55
- 「そっちのほうがええのに。・・笑ったほうが、ぜんぜん、可愛いぃ・・」
「・・そ、そんなの、・・アタシ、ちゃんと、笑って、ませんでしたか・・?」
そんなの困るよぉ。
だって、この笑顔が自分のウリなんだからさ。
この笑顔に、コロっと騙されちゃう男はたくさんいた。
でも曖昧に微笑む彼女の顔では、それが、どういう意味なのか、判らなかった。
ポンポンと、頭を撫でられる。
そして、沈むベットに、身体がちいさく跳ねた。
そのまま、離れていく手のひらの感触が、残念だと思っている自分に、少しだけ
戸惑うんだ。
「そしたら、お詫びのしるしに、コーヒーでも淹れるから。」
「・・へっ?・・・あ、いいです。アタシ、帰ります。」
慌てて起き上がろうとしたけど、長いリーチに制された。
「このあとも、入ってんの?」
「・・・・・いえ。」
「コーヒー飲めない?」
「・・・・・いえ。」
「だったら、ええやないのぉ。・・つっても、インスタントやけどな。いいから、
飲んでいき、身体、冷たいやないの、少し、暖まってから、帰り。」
有無を言わせぬ雰囲気に、アタシは、黙って首を動かした。
満足そうに微笑む彼女に、また、ドキンと、胸がなる。
- 80 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 17:09
- コポコポとちいさい電気ポットからお湯を注ぐと、途端に香ばしい匂いが狭い
部屋に立ち込めた。
アタシは、正座したままだった、脚を伸ばして。
「ほい、どうぞ。・・熱いから、気をつけてな?」
「あいがとう」
白い湯気のたった、紙コップを受け取って。
でも、そのまま、固まっていると。
「あ、砂糖とか、いる?」
「・・・・・はい。」
覗いた中身はとても飲めそうにない色をしていたので、素直に頷いた。
シュガーステックとミルクのセットされたビニールを差し出される。
とりあえず、その手から3つ掴んでみる。
そんなアタシに、目を細めながらも、彼女は真っ黒いコーヒーにそのまま口付けた。
「・・・あ、あの、大学生なんですか?」
「うん。・・大阪のな、一応、教育学部や。・・・って、・ぜんぜん、見えへん
やろ?」
「・・うん♪」
笑いながら頷くと、コツンと、おでこを突付かれた。
手の中のコーヒーが波立つ。
ムぅと膨れる顔がなんだか可愛くて、思わず頬が緩んじゃうんだ。
もぉ、自分で言ったのにぃ。
- 81 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 17:20
- 彼女は思いのほか話やすかった。
なんか、うれしくなる。
「だってぇ、・・・え、んじゃ、将来は、先生になるの〜?」
「う〜ん。なれればやけどな。・・今は、先生も就職難やからねぇ。・・んでも、
今度、教育実習とか、やりに行くで?」
「へぇ〜、すご〜〜い!!」
そういや、そういう人、来てたことあったよな。
いまは、学校行ってないから、知らないけど。
それにしても、やっぱり、彼女には、驚かされっぱなしだ。
だって、金髪だぞ、カラコンだぞ。
もう、こんな派手な先生なんていないってば!
ヤケドしないように、フーフーしながら、茶色くなったものをゆっくりと口に含む。
それを、ニコニコしながら見つめてくる彼女の顔は、やっぱり綺麗で。
アタシは、見てられなくなって、慌てて逸らした。
ちょっとの沈黙が怖くて、次の話題を探してる自分。
今日のアタシは、やっぱり変だ。
- 82 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 17:25
- 「で、でも、ビックリしたなぁ〜・・」
「ん〜〜?」
熱い液体が、喉を通過していく。
「だって、ピンポンしたら、女の人が出てくるんだもんっ。そういうの、ときどき
あるって聞いてたけど、ホントにそうなのかと、思って、焦っちゃった。」
「ふっ、せやろなぁ。アタシはアタシで、ビックリしたで?・・ドア開けたら、
ちっちゃいコがいるんやもん。てっきり、年いった人がくんのかと思うてたからさぁ・・。」
彼女の言葉に、また思い出して、クスクスする。
そうか、あれは、そういう驚きだったんだぁ。
- 83 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 17:35
- 「あっ、やばっ、アタシ電話しなくちゃ。」
「あ、せやな。・・・・アタシ出たろか?・・・怒られたりするんちゃう?」
「へっ?・・あぁ、別に。・・多分、大丈夫です。悪いのお姉さんじゃないし、
それにアタシ、チェンジ多いから、慣れてる。」
「ふへっ?・・うっそ!・・そんなん、なんで?・・こんな可愛ええのに!!」
「うん。・・・それは、ジブンも思うけど。」
こればっかは、好みとかあるから。
巨乳じゃなきゃとか、美人系でとか、言われちゃうと困っちゃう。
笑いながらそういうと、
「・・アホやな、オトコって。」
苦笑いしながら、呟いた。
- 84 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 17:40
- ゆったりとした時間。
カップのものは、とっくに空になっていた。
アタシは、彼女の楽しい話に耳を傾ける。
久しぶりに、こんなに人と話した気がした。
いつもは、やるだけやって、「ハイ、さよなら!」って感じだったから。
会話らしい会話なんてしたことない。
それに、ここのところずっと家にも帰ってなかった。
学校だって行ってないし。
自分の席が、まだ残っているかどうかも、怪しいけど。
「おーい、おーい、聞いてるかぁ?」
心配そうに覗いてくるのに、慌ててブンブンした。
- 85 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 17:53
- 「・・・ごめんなさい。」
「うんん。ええけどな。・・・なんか、顔しかめてたから、具合でも悪いん?」
「・・いえ。」首を振る。
「・・そう、か。」
そのまま乱れた髪の毛を耳に掛けられて、手の甲で頬を摩られた。
さっきから、思ってたんだけど、この人って、すごくスキンシップ多いなぁ。
それが、ぜんぜん、いやじゃないから、困るんだ。
目の前に動く細い手首を掴んだ。そのまま自分の膝の上に下ろす。
きょとんって見つめてくるブルーの瞳に向かって、少しきつめに問うた。
「ねぇ、どうして?」
「・・・ん?」
持ってたカップがくしゃりと、音を立てて潰れた。
・・でも。
なにも聞いてこようとしないから。
だって、フツー一番に聞きたいことじゃないの?
「ねぇ、どうしてこんな仕事してるのか、って、聞かないの?」
- 86 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 18:02
- 今までの人だったら、真っ先に聞いてきてた。
自分が買ったことなんて、すっかり棚にあげちゃって。
さも、こっちが悪いんだっと、言わんばかりに。
「こんなこと、いつまでもしてちゃダメだよ?」
なんて、諭すように言われたって、しっかりやることは、やってくくせに。
んな、奴に言われたくねぇって言うの。
頷く振りしながら、「フン」って、鼻で笑ってたけど。
彼女は、そのことに一切触れようとしないから。
こういう気の使われ方は、なんか、嫌だった。
聞きたかったら、聞けばいいのに。
「ねぇ、どうして?」
- 87 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 18:11
- 髪をかき上げる仕草がやけに大人っぽくて。
漂うシャンプーの香りにクラクラした。
見上げてくる彼女の額には、3本の線が出来ていて。
「悪いことしてる、って、思うてるん?」
「・・・・・・・あんまり。」
素直についた言葉に、「プッ」っと、吹き出された。
そのまま、むにゅっと、頬を抓られる。
「ふふっ、なぁ、ジブンいくつ?・・・んま、それはええけどな。その年の頃は、
いろいろあるよなぁ〜。・・・アタシもあったし。アタシかて、それに近いこと
したことあるで。・・・・これでも、結構、苦労してるんやよ?」
離れた手で、自分の右手を擦ってる。
そこには、真っ赤なバラのタトゥーが施されていた。
アタシは、彼女に釘付けになる。
- 88 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 18:24
- 「女が大金稼ぐのは大変よなぁ。・・ちょっと欲しいもんあるくらいやったら、
ハンバーガーでも売ってりゃええねんもん。・・なんか、事情があるんやろ?」
「・・・・・・・・。」
伸びてきた手のひらが、頬を挟む。
見つめてくる瞳がやさしくて、ワサビの利いたお寿司食べたときみたいに、鼻が
ツーンとなった。
彼女は続ける。
「なぁ、昔の映画とか観たことない?・・・昔はさ、そういうのとか、結構あった
んやて。そういう時代もあったってことやろなぁ・・・。ま、それは、今もあるか。」
「・・・っ、・・・・ん。・・」
「・・まだ、オトコのほうが強いちゅうことなんかなぁ。でも、それも、一つの
生きる道やった、と、・・・アタシは思うけど・・?」
「・・・うん。」
「話たいんやったら聞くし。話したくないんやったら、別に聞かへんよ。・・・
でもな、悪いことしてるやと思うてたり、後悔してるんやったら、とっとと、
辞めることやで?」
目の下を拭われて。
見上げた彼女の顔は、ユラユラと歪んでいた。
こんなふうに言われたのは初めてで、込み上げてくるものが止まらずに、後から
後から溢れ出る。
- 89 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 18:31
- アタシは、いつのまにか彼女の胸に縋ってワンワン泣いていた。
後頭部を撫でてくれる感触がやさしくて、どうにも止められなくなる。
今日あったことを、全部話してた。
一人目のお客さんのことを、二人目の、さっきの客には縛られて、咥えさせられ
たことまで。
それから、和田さんに初めてあった日のこと、振られた彼氏のことも、ぜんぶ。
彼女は、そんな取りとめのないアタシの話を、黙って聞いてくれた。
ときどき、溜まった水を拭われて。
嗚咽に詰まる背中を、トントン叩きながら。
「・・アタシ、アタシね、・・早く、お金貯めて、一人暮らししたいの・・・」
- 90 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 18:40
- お母さんが、妹を連れて出て行った。
ふたりのいなくなった家は、太陽を失ったみたいに、暗く沈んでた。
「・・帰りたくないの、あの家に・・・・。」
そこにいるだけで、幸せだった日を思い出すから。
柱に引いてある線を見るたびに。
アタシと妹の成長記録は、一定のところで止まったまま動いてない。
キッチンに掛けられた埃の被ったエプロン。
そこに立つお母さんの笑顔が、鮮明に思い浮かんでくる。
なにもかもが、そのまんま。
出ていった日のまま。
・・・『真里』
「・・っ、やっ、・・やっ、いやっ、行かないで、行っちゃやだっ、やだぁぁ・・」
- 91 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 18:47
- しがみついたアタシを、ぎゅっと包んでくれた。
暖かい胸のなかは、ホントにお母さんのような、安心する匂いがして。
アタシは、また新しい涙を流す。
声が涸れるまで。
泣き叫ぶように、何度も、「お母さん」と、連呼する。
「逢いたい」「逢いたい」「逢いたい」
ずっとココロの奥に閉まってたものがあふれ出る。
みっともないと思う余裕は、なかった・・。
- 92 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 19:05
- -------------
随分、泣いていたと思う。
ローブが冷たくなっていたのが、その証。
我に返ると、「バッ!」っと、そこから離れた。
「・・ご、ごめんなさい。・・・あ、あの、アタシ、アタシっ・・・・」
なに、やってんだろ、初対面の人なのに。
こんなの、どうかしてるって。
あわあわと、パニくる自分。なのに、彼女は、にんまり微笑むんだ。
「そんなん、ええて。・・それより、少しは、すっきりしたんか?」
「・・・ごめんなさい。」
ピンと鼻を弾かれて、ずずっと出た鼻水をすする。
モヤモヤしてたものは、すっかり落ちていた。
そういや、久しぶりに泣いた気がする。
あの日から、ずっと泣けないでいた。
泣き虫な自分なのに、どんなに泣きたくても、涙は出でこなかった。
だから、人間は、つらいときほど涙は出ないんだって、そう思ってたのに。
「なんで謝ってんのぉ。ええの、誰かに話して楽になる、っちゅーのも、ありやろ?
・・・ええて、気にすんなや。・・・・それより、もう、ええの?」
強めにゴリゴリ撫でるから、髪の毛がクシャクシャになる。
俯いたまま、顔をあげることは出来なかった。
あんな泣き顔見せて、どんな顔すればいいんだって。・・・やだ、恥ずかしいよぉ。
- 93 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 19:12
- なのに彼女は、アタシの意思を無視して、強引に持ち上げてしまうんだ。
「あぁ、そんな顔も、可愛ええなぁ・・・」
見てられなくて、目玉がきょろきょろと逃げ惑う。
拗ねたように、唇をぎゅっと噛み締めた。
「フッ、真っ赤やわ。・・トナカイみたい、かわいっ♪」
頬を挟みこんで。
近づいてくる唇が、ペロンと、そこを舐めた。
(・・・えっ!)
見開いた瞳が、彼女を捉える。
でも、体が硬直して、動かない。
鼻の頭に残った濡れた感触に、思考が真っ白になる。
いま、なにした・・・?
- 94 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/05(月) 19:36
- 「・・アンタ、可愛いなぁ。・・めちゃ、可愛いぃって。・・あぁもっ、そんな顔
したらあかんてば。・・このまま、帰したくなくなったやないのぉ。・・あぁ、
どうしよっ。・・なぁ、どうする?・・どうしたらええの、アタシ?」
「可愛い」「可愛い」と連発されて。
回された腕に、また、胸の中へと戻された。
今度は、ぎゅっと、きつく抱きしめられて。
トクトクと鳴り響く心臓の音は、・・彼女のほうから聞こえてきた。
「なぁ、帰らんといて・・?」
耳元に囁く、妖しい声色。
ブルっと、身体が震えた。
頭の中を、何度もリフレーンする。
えっ、それって、・・・・どういう?
- 95 名前:kai 投稿日:2004/01/05(月) 19:40
- 今日のところは、この辺で。
久しぶりなので、一気にがんばっちゃいました。
次回は、早めにがんばりまーす。
- 96 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/05(月) 21:37
- むはーっ。素敵です…
- 97 名前:kai 投稿日:2004/01/05(月) 22:14
- レス、遅ればせながら・・・。
ゆちぃさん・・こんなオチって、あり?(w
ごめんなさい。待たせたわりに、こんなんで。なんか、もぉー。
こっからは、やぐちゅー三昧。それで、お許しを!
マコトさん・・だんだんと、いつものやぐちゅーらしくなってくかと。
エンジンかかって、更新スピードあげられそうです。
今年も、どうぞヨロシクで。(ぺこ)
やぐちゅー中毒者セーラムさん・・ありがとうございます。
初のアンリアル、どうなることか。いやはや、読んでいただいて、光栄です。
66さん・・あけまして、おめでとうございます。(遅い
なんか、いきなり、鬱なムードになりましたが。(苦笑)
今年もがんばっていきたいです。ガンガンいかせていただきまっす!
- 98 名前:kai 投稿日:2004/01/05(月) 22:22
- 96さん・・さっそくのレスどうもです。
・・こんなんは、お好きですか?(w
いやぁ、なかなか、ピッチが上がらなくて、これのどこが学園物なんだって、
感じなのですが・・。
ようやく、乗ってけそうな感じです。
やっぱ、やぐちゅーは、スラスラ書けるなぁ〜・・・。
- 99 名前:kai 投稿日:2004/01/05(月) 22:32
- つーことで、思うことは、いろいろですがぁ。
アタシは、まだまだ、がんばっていこーっと、思ってます。
やっぱり、矢口の笑顔が大好きなので。
ここの矢口さんは、幸せにしてあげたいなぁって思ってるんだけどぉ。
どうなることか・・・。(苦笑)
感想とか、いただけたら、うれしいです。
それでは、今年も、どうぞヨロシクお願いします。(ペコ)
- 100 名前:マコト 投稿日:2004/01/05(月) 23:57
- どーもあけおめです!
あの名刺で間違える中澤さん…ある意味すごいですね(笑)
ではでは次回更新お待ちしています^^&今年もよろしくお願いしますね(w
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/06(火) 00:38
- 二人ともすごい波乱万丈ですね。
この後どうなるか、楽しみに待ってます。
- 102 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/01/06(火) 01:15
- あけおめ&ことよろで〜すvvv
やっぱり裕ちゃん!!ヤグチも初対面なのに素直に泣けちゃうんですよね…。
それから、かわいいから離したくないなんて!!まさに裕ちゃん(笑)
これからはやぐちゅー三昧ってことで、めっちゃ期待してますvvv
- 103 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2004/01/06(火) 01:27
- あけおめです。
やっぱやぐちゅーいいですねぇ
裕ちゃん、もうこのまま帰さないでいっちゃてください!
- 104 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 12:53
- 「ん〜〜っ、かっわいいぃ〜♪」
ぎゅうっと、抱きこめられて、アタシの頬は、胸の上にと押しつぶされた。
やわらかいタオル生地。そのなかの、“ふにゅん”とした感触に気づいて、
耳たぶが赤くなる。
「んっ!!!」
抗議したくて、首を振ってもビクともしなくって。
だから、仕方なく、唯一自由だった腕を回して背中をドンドンした。
腕の力が緩む。
一度離れて、でも、名残惜しそうにもう一度ぎゅうぅってしてから、ゆっくりと
解放された。
やっと、息がつけた・・。
- 105 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 13:01
- 「ぷっはぁぁ〜〜!!・・なっ、死んじゃうじゃないですかぁ〜!!」
真っ赤になった頬は、息が出来なかったせいだけではなかったけれど。
アタシは、目の前にいる人に向かって、「むぅ」と、睨みつけた。
「あはははっ、ごめん、ごめんっ。つい、抱きごこちよくって、夢中に
なってもーたわっ♪」
「つ、ついじゃないよぉ、もぉ〜!!」
ドン!っと、ど突くと簡単によろけるその身体は、手首だってこんなに
細い。
彼女も、アタシといっしょで「か弱い女のコ」なんだってことを思い知る。
赤ちゃんのようにやわらかい肌。わずかに感じる石鹸の香り。
このひとの傍にいるだけで、穏やかな気持ちになる。
そんな、自分が不思議だった。
誰かと一緒にいて、こんなに落ち着けるのなんて、初めてのことだった
から・・・。
- 106 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 13:10
- 「はいはい、・・ごめん、な。」
ちゅっ。
前髪を持ち上げられて、そのままキスされた。
生暖かい吐息が、髪の毛をくすぐる。
そんな行動に、どういう顔を返していいのか判らなくて、モジモジと
膝を付きあわせていた。
ニヤケる顔が、目の前にあっても。
- 107 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 13:22
- 「フフっ。・・・・・・なぁ、帰らんで?」
・・・まただ。
条件反射のように、身体が震えだす。
わざと作った低め声で、直に耳元に囁きかける。
ジリジリと、アタシの気持ちを追い詰めるかのように・・。
ねぇ、それって、どういう・・?
「なぁ、帰したないよぉ、ここにおって?」
今度は、甘え口調だ。
彼女は、そうやって、いくつもの声色を使い分ける。
それに、しっかりと翻弄されている自分。
胸が、わさわさと騒ぎだして。
「なぁなぁ、ええやろ、お願いやよぉ〜♪」
手を取られて、ブンブンされた。
アタシも昔、したことがある。
コドモが欲しいものをおねだりするときに使う常套手段。
彼女が欲しいものは・・・アタシ?
- 108 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 13:35
- 「なぁ、って?」
ペチペチと頬を擦られた。
ようやく、彼女を見る。
さっきまでは、見せなかった、熱い眼差し。
それだけで、アタシの心臓はバクバクと、おかしいくらい音を上げて
いた。
「ゴクリ」と唾を飲み込んで、見据えてくる顔をもう一度見返した。
どういうつもり?
それって、・・・・そういう意味なの?
彼女は、アタシのココロの中を見透かしたみたいに、ニッコリと微笑んで
から、ゆっくりと頷いた。
「ふっ。そうやよ、そんままの意味や。・・アンタの時間をアタシに
頂戴?・・・・なぁ、どうしたらくれるん?・・アタシは、アンタに
なにしたらええんかなっ?」
可愛く首を傾ける。
ズルイや。そんなふうに聞いてくるなんて。
知ってるくせに。
アタシが、アナタに逆らえないことも。
だって、アタシはそのために呼ばれてきたんだ。
そのつもりで、ここへ来た。
だからって、素直に頷けない。
彼女の真意がいまいち、よく判らないから。
- 109 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 13:45
- 「・・・・で、でも、・・だって、アタシ、オトコじゃ、ないですよ・・?」
「そんなん、見たら判るって。」
苦笑しながら、ちょんちょんと鼻を突付く。
真っ赤なネイル。彼女の白い手にはとてもよく映えていた。
この手のひらに触れられたらどんなだろう、と、無意識に想像してしまう。
そんな自分に戸惑って、大きくカブリを振ってさえぎった。
「・・・だって、・・・でもぉ・・・だってぇ・・・・」
そのまま言葉に詰まっていると、顎を掴まれて持ち上げられた。
細めた瞳が、妖しく歪んでいる。
彼女は、視線を逸らせないようにと、そのままパチンと両手で挟んだ。
綺麗な顔が、間近で見つめてくる。
恥ずかしくなって、顔が火照っていくの。
- 110 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 13:55
- 「・・・・・ダメ、なん?」
「・・・ダメって、いうかぁ・・・・」
そんなに見つめないでよ。
「・・・女、だから、あかんの?」
「・・・・・ち、違う、けどぉぉ・・・」
アタシの反応を楽しむかのように、意地悪い笑みを浮かべている。
だけど、その顔は、ゾクゾクするほど綺麗だった。
「そんじゃ、「おんな」と、すんのは、気持ち悪いって、ことか?」
「・・・・い、・・・っ・・・」
含みのある、その直接的な言葉に、カーっと、顔が赤らんだ。
身体がブルブルと震える。
それを見た彼女の口元が。少しだけ吊りあがって見えた。
どうしよう。
やっぱりこの人は、「する」気なんだ。なんか、ドン!っと、心臓を
押された感じ。
どうしよう。どうしよう。
- 111 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 14:02
- ただ、おしゃべりがしたいのでは、なく。
コチコチの肩を揉んで欲しいのでも、なく。
当たり前だけど、この人は、アタシの身体を欲しているんだ。
本気で、アタシの身体を買う気なんだ、と。
判っていたことを、改めて確認させられたようで、どうにもいたたま
れなくなった。
目を伏せる。
首を動かしたくても、出来なかったから。
思考がついていけない。
だって、間違いだと判って、「ホッ」としたのもつかのま、今度は、
「しよう」って、誘われてるんだ。
どうして、こういうことになったのか判らないよ。
とてもそんな雰囲気じゃ、なかったはずなのに。
自分の勘違いをあんなに笑い転げていたのに、・・ねぇ、どうして?
- 112 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 14:10
- ここで、「ヤダ」と、言ってしまえば楽なのかもしれない。
けれど、それは、言えなかった。
なぜか、言えなかった。
この人は、どういうつもりでアタシを誘っているのだろうか。
考えて、考えて、考えながら、出した結論。
アタシが、泣いたからなの?
あんな話、聞かせたから?
だから、慰めようとしてくれているの?・・親に捨てられた可哀相な
おんなのこに。
キリリと痛む胸は、ココロのうちを話したときよりひどく辛く思えた。
水分がこみ上げて来る。
泣いちゃダメと、信号をかける。
なのに、その原因のひとは、アタシの苦悩を知らずに、にんまりと
微笑んでいた。
思ったことが、口をついていた。
- 113 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 14:22
- 「・・・・・同情、だったら・・・・・・」
「ちゃうっっ!!・・・そんなんと、ちゃうわっ!!!」
続けようとした言葉は、彼女の大きな声によってかき消されていた。
・・・判らない。
だって、判らないんだ。
「女」のアナタが、「女」のアタシを欲しがる理由が・・。
ポンポンと頭を擦りながら。
コドモに言い聞かせるような、穏やかなトーンで言う。
アタシは、また、流れそうになった涙を、顔を顰めて懸命に堪えた。
「それは、ちゃうよ?・・悪いけど、アタシはそんなええ人と違う。・・・
同情なんかで、人を抱こうなんて思わへんわ。・・・・・・ただ、アンタに
興味を持った。アンタと「して」みたくなった。・・・そういう理由
やったら、あかんの・・?」
「・・・・・・・・・。」
奥歯を噛み締めて。
濡れた睫毛をパチパチする。
それは、ずっと、聞きたかったこと。
「・・オネエサンは・・、レズ、・・・レズビアン、なんですか・・?」
- 114 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 14:34
- 頭の上をリズミカルに打っていた手が、止まった。
失礼なことを聞いたかと思い直して、おそるおそる見上げてみると。
彼女は、怒るというより、困ったように、はにかんでいた・・。
「う〜〜〜〜ん。」
随分、考えこんでから、首を振る。
「それは、たぶん、ちゃうと思う。・・・「結婚」しようと思うてた
こともあったし。・・・・・ま、別れてもーたけど、な。」
カラっとした笑顔で。なんでもないことを言うように。
「結婚」か。ーーーアタシもしたかった。
早くあんな家をでて、彼と一緒に暮らしたかった。
そう、思ってた。
「あぁでも、可愛いコは、みんな好きやよ。オトコのコでもオンナのコでも、
犬でも、猫でも、可愛いコは、みんな大好きっ♪」
ちゅっ。
今度は、頬にキスされた。
その冷たい感触に、そこが火傷しそうに熱くなっていたことを思い知る。
- 115 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 14:44
- 「ふふっ、ええなぁ。・・・アンタって、全部顔にでるんやね。・・・
・・よっし、買うわ、アンタを。・・・なぁ、いくら払えばええの?
・・・いくら、払ったら、アンタを抱けるの?・・・」
「!!!!・・・・・っ・・」
高ぶる鼓動は、彼女にも聞こえているだろう。
心臓が破れちゃうんじゃないかってくらい、ドキドキしていた。
いつもの、猛獣のようなギラギラした眼差しとは違うけれど。
目を細めて見つめてくる彼女の瞳の奥は、確かに欲情の色を表していた。
アタシは、震える手をぎゅっと、抱き合わせながら、静かに頷く。
だって、そのためにここへ来た。
アタシは、この人に買われるはずだったお人形。
断る理由なんて、どこにもないよ。
- 116 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/10(土) 15:03
- アタマの上から聞こえてくる感嘆の声に。
アタシは、そっと、瞼を落とした。
うれしそうに、グシャグシャと髪の毛をかき混ぜる。
アタシは、俯いたまま、顔を上げられない・・。
「ありがとぉ♪・・・・あぁ、シャワーやったよな?・・・そこの
奥の扉や。・・バスタオルは置いてあるし、好きなように使ってな?」
「・・・・はいぃ。」
ウキウキと楽しそうな彼女の声とは反面、アタシの口から出たのは、
蚊の鳴くような、ひどく弱々しいものだった。
「行っといで、待ってるから」
ペチペチと頬を撫でる。
もう一度、頷いてから、ノロノロとベットを降りた。
一瞬だけ見えた彼女の白い頬は、ほんのりと赤らんでいた。
じ〜っと、伺ってくる熱い眼差しを背中いっぱいに感じながら、
トボトボと、歩み出す。
あっという間に、着いてしまった扉の前。
回すだけのドアノブを、なかなか開けることが出来ないでいた。―――
- 117 名前:kai 投稿日:2004/01/10(土) 15:14
- 今日のところは、この辺で。
なんだか、風邪を引きまして。
ボーとしたまま、更新してみました。
もしかして、おかしなところがあるかもしれませんが・・。
えっと、こんな展開は、想像通りですかね?(w
今回のエロは、書き方を変えてみようかな、とか思ってて。(エッ?
いやいや、どうなることか。
では、早く風邪を治して、がんばりまーす!
- 118 名前:kai 投稿日:2004/01/10(土) 15:51
- >マコトさん・・あぁ、確かにちょっと無理がね・・・。(苦笑)
でも、中澤さんだったら、ありえるんじゃないかってことで、ひとつ。
はい、今年もご贔屓に、どうぞヨロシクお願いしまーす!!
>101さん・・裕子の過去は、そのうち、・・明らかに。
いやいや、なかなか進まなくって、困っております。(苦笑)
>ゆちぃさん・・そうなんですよ。
あの包容力に、つい矢口もメロメロになっちゃうんですなぁ。(笑)
はい、やぐちゅー三昧をお楽しみに♪
>やぐちゅー中毒者セーラムさん・・>このまま帰さないでいっちゃってください。
はい。そのつもりです。てか、この人が無傷のまま帰すはずがありません。(苦笑)
青板で、はじめましての方ですと、ご存知ないかもしれませんが。
じつのところ、アタシは、エロ書き作家でして。<自分で言うなよ!
この先、エロシーンが続くかと思われますが、それをふまえて読んでいただけたら、
幸いです。(ペコリ)
- 119 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/01/10(土) 17:32
- 今回もいいとこで止めますねぇ〜。
裕ちゃんがそのまま間違いで帰すわけないなぁとは思ってましたけど…(笑
裕ちゃん、めっちゃ嬉しそうだし、この先が楽しみですvvv
カゼも早く吹き飛んじゃうといいですね☆
次回も楽しみにしています。
- 120 名前:マコト 投稿日:2004/01/10(土) 23:39
- kaiさん相変わらずいいとこで切りますね〜
もぅ早く続きが読みたいっす!
あ、でもその前に風邪の方を治してくださいね^^
ではでは青板でも中澤さんの暴走が見れることを楽しみにしてます!
- 121 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/11(日) 20:20
- 姐さんに押されっぱなしで矢口さん弱々ですねw
お体の方も気をつけて、続き楽しみにしています。
- 122 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 13:56
- お姉ちゃんが欲しかった。
それも、う〜んと年の離れた。
サザエさんとカツオくらいの・・・。
ちっちゃい頃、仲良かった友達んチに年の離れたおねぇちゃんがいたんだ。
高校生くらいだったと思う。
大好きだった。
遊びに行くと、いつもいっしょに遊んでくれて。
オセロしたり、トランプしたり。ホントの妹みたいに可愛がってくれたんだ。
おかし作りが大得意で、いつもおやつの時間には、ケーキやクッキーを作ってくれた。
いつも、おねぇちゃんの身体から、甘〜い、バニラみたいな匂いがして。
そんなおねぇちゃんにべったり甘えている友達が、ホントウに羨ましかった。
だから、アタシも欲しいって。
その頃、一人っ子だったから。
- 123 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 14:06
- 「欲しいぃ、ねぇ〜、欲しいよぉ〜っ!!」
何度も何度もオネダリした。
どのおもちゃ買ってもらうときよりも、それは、必死だった。
だけど、オイラの願いは叶ったんだ。・・・の、はずだった。
お母さんのぼってりしたお腹から出てくるのは、アタシのお姉ちゃん
になる人だと思ってた。
本気でそう信じてた。
待ち遠しくて、毎日「早くでてこーい」ってしゃべりかけたりして。
「もう、早く出てきたら、大変なのよ」お母さんがクスクス笑っても。
・・・・なのに。
お母さんがくれたのは・・・・。
ある日、お母さんが大事そうに抱えてきた、サルみたいなコ。
ハッ?・・・なに、これ・・・。
「ほら真里、よかったねぇ。・・・今日からお姉ちゃんよ!」
- 124 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 14:14
- ・・・・・アタシが、お姉ちゃんになっちゃった。
もう、違うっ、違うよっ。
アタシは、お姉ちゃんになりたかったんじゃないぃ。
姉妹が欲しかったんでもない。
ただ、「お姉ちゃん」が欲しかったの!
ヤダヤダと地団駄を踏み鳴らす、ちいさい頃のアタシ。
「こんなコいらない!いらないっ!!」
泣きじゃくりながら、久しぶりのお母さんを独占してる、そのコが
ホントに憎らしかった。
- 125 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 14:23
- 「・・・・ふぅぅぅ・・」
「キュッ」っと、コルクを捻ると、熱いシャワーが飛び出す。
ユニットじゃないから、いつもみたくコソコソせずに済むのがいい。
オフホワイトを基調とした、清潔感溢れるバスルーム。
ひょうたん型のバスタブが可愛くて、広めのそれは、脚を伸ばしても平気
なくらいゆったりとしていた。
そんな外国映画に出てくるみたいなオシャレな内装に、アメニティーは、
言わずと知れた、有名ブランドのものばかり。
「バブルバスとかしたら、気持ちよさそう・・・」
蛇口を戻して、ボディソープを取った。
それを、両手で擦り合わせるように泡立てると、・・・・・・・あっ!
「・・・これ!」
あの人の匂いだ。
- 126 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 14:49
- 途端に、心臓がわさわさと騒ぎ出す。
浮かんでくる笑顔に、ブルブルと首を振った。
そうして、ふと、視線の先に止まったもの。
浴槽の隅にへばりついた、一本の髪の毛。
少しカールのかかった、金色は。
そう、これもきっと、・・・彼女のものだ。
治まりつつあった鼓動が一瞬にして跳ね上がった。
手がプルプルと震えて。
あーー、もう、なんだってんだよっ!
こんなのアタシらしくないじゃんかっ!
セックスなんて、何回もしてんだろっ!数えられないくらいしてるくせに。
な〜に、怖がってるんだって。
「・・仕事、仕事、仕事・・・」
相手が「オンナ」だからって、肌を重ねて抱き合うのは一緒だろ。
セックスに、そう違いなんてない。
言い聞かすように、何度も唱える。
なのに、頭の中は無意識に彼女の裸を想像してしまって、浴槽にヘナ
ヘナと崩れおちた・・・。
アタシの頬をサンドして、悪戯っぽく見つめてくる青い瞳。
それは、まるで、猫のよう。
- 127 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 14:56
- 雪のようにまっ白な手。
すらりと伸びた指は、女のアタシでもうらやましいと思ってしまう
くらいしなやかで。
真っ赤なネイル。
頬を包まれるときの、やわらかい皮膚の感触と、その冷たい爪の感じが
不思議と気持ちがよくて。
やさしく響く、イントネーション。
あの人に触られるだけで、ココロが踊る。
そんなの、とっくに、気づいていた。
アタシが、こんなにも落ち着かない理由。
- 128 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 15:02
- 「オンナ」・・・だからが、原因なんかじゃない。
相手が、あの人だから。
彼女に抱かれることを考えただけで、アタシの身体はおかしいほど
震えだす。
やさしかった、・・・あの腕の中の温もりを知っているから。
身体もココロもすべてを包み込んでくれるような暖かい胸だった。
たぶん、それは、ちっちゃい頃のアタシが欲しくて已まなかったもの。
だけど、・・・彼女は、「お姉ちゃん」には、なれないんだ。
ねぇ、・・その指で、・・・・どういうふうに触れてくるの?
- 129 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 15:14
- コルクを捻る。
一番「強」に回した。
白い湯気がモクモクと立ち込めて、目の前を霞めていく。
それは、アタシのココロのなかを、表すかのように。
温度が増す。
ジリジリと焼け付くような痛み、そして、痒み。・・・皮膚を痛めつけて。
それでも、滝に打たれてるみたいにじっと我慢した。
だんだんと、感覚も麻痺してきて。
そうして、痛感もなにも感じなくなった頃。
「ギュっ」っと、蛇口を止めると、「ハァ・・」息が洩れた。
自分の身体をみつめる。
括れも凹凸もない、幼児体系。
こんなの好んで抱くの、ロリコン趣味のオヤジくらいなもんだ。
レズじゃないのに、どこが気に入ったんだろ。
上がった口元は、引きつったまま元に戻らない。
白い肌がそこだけピンク色に染まってた。マーブル模様みたいにで、
ちょっと綺麗。
犬がするみたいに、ブルブルと首を振った。
水滴が飛び散る。
- 130 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 15:22
- 手に取ったフカフカのタオル。
その感触だけでも、ここの高級さが覗えるんだ。
その大きなバスタオルを全身に包ませながら。
ちょっと考えて、・・でも、下着はつけないことにする。
「・・・はあぁぁぁ・・」
思わず出てしまった溜息が思いのほか大きくて、苦笑い。
「する」のが、こんなに怖いと思ったのは初めてだ。
車のなかで、お尻がどうとか言ってたのが遠い話に思えて・・。
このドア一枚向こうに彼女はいる。
アタシの知らない世界が待っている。
「スーハ−」何度も何度も深呼吸してから・・。
「よし!」気合を入れ直して。扉はゆっくりと開かれた。−−−
- 131 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 15:30
- * * * * *
ドアを開けると、青い瞳とぶつかった。
そりゃ、彼女の部屋なんだからいて当然なんだけどさ・・・。
ノートパソコンに向かいながら、アタシに気づくとニッコリと微笑み
かけて。
そのまま、カチャカチャとカーソルを移動しながら、終了処理をし終える
と、ドアの前で佇むアタシに向かってコイコイっと、手招きした。
誘われるまま、おずおずと歩み寄る。
「おかえりぃ」
「・・・・た、ただいま。」
「・・寒くない?」
「・・・・・・はいぃ。」
「アタシは、さっき入ったから、ええ?」
「・・・・・・はいぃ。」
カチンコチンとロボットみたく。
そう応対するのに、苦笑されるんだ。
- 132 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 15:37
- 「ふはっ、・・・なんや、すっかり悪人の気分やなぁ・・・」
「・・・・・・・・・。」
「なぁ、・・厭やったらせえへんよ?・・無理矢理とかは好きやない
し、・・・・・・どうする?」
手を取って、ぎゅって握られた。
真面目に聞いてくれてるのが判って、ちいさく首を振る。
「・・や、・・・じゃないですぅぅ・・・」
「・・でも。・・・ホントに、ええの?」
「・・・・・・うん。」
「ホンマにホンマにぃ〜?」
悪戯っぽく首を傾げながら、アタシの顔を覗き込む。
もう、そんなに何回も聞かないでよぅ。
せっかくの決心が鈍るじゃんか。
「ほぅら、ヤダって言うなら、今のうちやよ・・?」
- 133 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 15:44
- ペチペチと頬を叩く。
間近に迫るその顔は、やっぱり綺麗で、思わず泣きそうになっちゃう。
その手に自分の手を重ねてから。
「・・ヤ、・・じゃないけどぉぉ・・」
「・・けど?」
「けど、アタシ、そんなのしたことないから、どうしていいのか判ら
ないよ・・?」
オトコの喜ばせ方なら、厭というほど知っている。
最初の日に、和田さんにさんざん仕込まれたから。
どうすれば気持ちよくさせれるかなんて、目を瞑ってても出来ちゃう
くらい。
ありとあらえる技巧の数々には自信があった。
だけど、そんなの女の人には使えないから。
オンナを気持ちよくさせる方法なんて、知らない。
そんな教育、受けてないよ。
- 134 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 15:52
- アナタはアタシを「抱く」っていうけど。
アタシは、アナタになにをしたりいいの・・・?
触ったりとか、舐めたりとか、しなくちゃいけないのかな。
そもそも、最後はどうすれば終わりなんだ?
普通のセックスがアレを入れることならば。
男同士だったら、ソレをお尻に入れることはできるだろうけど。
女同士の場合は、いったい、なにを入れたらいいんだか。
まさか、あのおもちゃとか?・・・んでも、ここはラブホじゃないし、
そんなもんあるわけない。
両方とも入れる器官を持っていなくて、どうしてセックスが出来る
って言えるのか。
あぁ、もぅ、ぜんぜん、わかんないよっ!
アナタを気持ちよくするために、アタシはどうしたらいいの?
- 135 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 16:00
- 「フッ。・・・そっか、いろいろ考えちゃったんだ・・?」
「・・・だってぇ。」
口を綻ばせながら言うのに、拗ねたみたいに口が窄まった。
「そんなん、アタシも知らんてば。・・ええからな。んな、小難しい
こと考えんと、アタシに任しといて?・・アンタは、黙ってゆうこと
聞く!」
「ええか?」って、ちょんと鼻を突付かれた。
そのまま、返事も聞かずに肩を抱かれて、すぐそばのベットまで運ばれる。
スプリングの上に、ドスンと沈む彼女を見下ろしながら。
白いローブから見えるすらりとした脚線美に釘付けになった。
さまになったバスローブ姿は、大人の匂いを醸し出す。
生唾を「ゴクリ」と飲み込んだ。
- 136 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 16:08
- 「そしたらさ、・・・・そのタオル、取ってみ?」
脚を組むから、白い太ももがチラリと覗く。
そのひとつひとつの動作に、いちいち胸が高鳴って。
「・・・・へ?」
言われた言葉に、睫毛をパチパチ。
いま、なんて、言ったの?
「ん、聞こえへんかった?・・・バスタオル取って、アンタの身体見せて
ごらん、って言ったの。」
「・・・い・・っ・・・」
「なんやの平気やろ?・・温度は上げたし寒ない、・・ほら、早くぅ!」
そう告げた彼女の口元は意地悪く歪んでた。
アタシは、睨み付けるように、じっと見つめるんだけど。
「・・・・うぅ・・・っ・・・・」
だって、そんなことしたら。
この下はなにも身につけていないのに。
タオルをギュって掴む。モジモジと脚が擦れあった。
- 137 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 16:15
- 「ほら、どうした、早くし!」
「・・・・・・・・・・。」
「なんや、時間、なくなっちゃうで?」
「・・・う・・・っ・・・」
でもでもぉ。
「フー。・・・あぁ、ほらな、やっぱりやんっ。・・だから、先に
聞いたんや・・厭なら・・・・・」
「で、できるよぉっ!!」
続けようとする彼女の声を遮った。
できるってば、・・・できるもんっ、そんくらい。
「ぐい」っと唇を噛み締めて、もう一度彼女を睨み付けたから。
抑えてた指の力を抜いた。
そのまま「スルリ」と落ちて行く包んでいたもの。
それは、いともあっさりと、足元を覆い隠して。
身体が外気に触れる。
明るい照明の下だったって気づいたのは、後の祭りだった。
- 138 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 16:23
- 暖房が行き届いた部屋は、そんなに寒くはなかったけれど。
ココロがシンと冷えたような、どこか心細い気持ちになって。
だから、少しでも彼女の目から遮ろうと、手を伸ばそうと・・・。
「コラコラ、隠しちゃダメやってばっ。・・・・ホラ、気をつけ!!」
先生がするみたく、号令を掛けられると。
思わず身体がすくんで、言うとおりにしてしまう。
直立したアタシの目の前で、やっぱり、彼女はニヤケていた・・。
「うわぁ〜、思ってたとおりや。綺麗な身体やねぇ〜。」
肌を辿る、その焼け付くような視線に、身体が縮み上がる。
「やっぱ、若いなぁ。つやつややし。・・あ、ホラ、ここも、可愛いっ♪」
「・・あっ、・・やあぁ!!」
- 139 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 16:31
- その先にあるものにイヤイヤと首を振った。
ふたつのその丘は、最近膨らみ始めたばっかりで。
だから、「可愛い」って言うのは褒め言葉じゃなことも知っているんだ。
同じものを持ち合わせている彼女のとは、ぜんぜん違っているだろう。
そう考えると、余計に恥ずかしさがこみ上げて、泣きそうになった。
「かわいいなぁ、触ってもええ?」
返事も聞かずに触れてくる。
首筋から、鎖骨に流れて、そのまま降りてくる爪先がちいさな膨らみの
回りを何度も旋回する。
左から右へ、・・右から左へって・・・8の字を描くみたいに。
それは、触れるか触れないかのギリギリのタッチで。
弄ぶように。
- 140 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 16:40
- 「・・・んっ、やあぁ!!」
だけど、大事なトコロにはなかなか触れてくれない。
焦らされてるようで、腰の辺りがムズムズしてきちゃう。
「うわっ、やらか〜いい、可愛いっ♪」
今度は、ぷにって押してきた。
アタシは、身を捩って逃れる。
「あっ、もうダメでしょ、動くなや。・・・じっとしてて!」
「・・・あぅ・・・っ・・・・・」
彼女の、視線が止まる。
足の指が折れ曲がって。
「あぁ、ここもホラ、めっちゃ可愛くなってるぅ。・・・ピンクやん!」
「ん、やだぁ!!」
顔と胸を交互に見つめられて、ガーっと顔が赤らんだ。
もう、いちいち、言わなくてもいいのに。
ホント、意地悪なんだから。
隠したくて、手を動かそうとすると、視線で怒られるから。
アタシの手は「気をつけ」のまま、外腿に傷をつける。
- 141 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 16:48
- 「あれれれーっ。・・・ここ、なんか、固くなってへん?」
「・・ちが、違うもんっ!!」
からかい混じりの口調に大きく首を振った。
・・って、なにを反論してんだか。
もう、すっかりペースが乱されて、いつものマニュアルが思い浮かばない。
「くくくっ。・・でも、ほら、見てみぃよ。・・・・なんや、こんだけ
で感じちゃったんや、マリンちゃんはビンカンさんなんやねぇ。」
意地悪い顔が、ホントよく似合う。
アタシのソコは、彼女の視線に曝されて、ヒクヒクと打ち震えていた。
必死に唇を噛み締めて堪えていると、目の前が霞んでくる。
でも、ここで泣いたら、彼女の思う壺になってしまうから。
「ほら、みたことか!」って、絶対言われちゃうもんっ。
奥歯に力を入れて堪えてみたんだけど・・・。
彼女の視線が降りていくのに、どうしようもなくなっちゃうんだ。
- 142 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 16:58
- 胸から、お腹へ、・・お臍・・・そうして辿りつくトコロ。
ブルーの瞳は、ビー玉のようにキラキラしていた。
視線が止まる。
アタシの手にも力が篭る。
なるだけ見えないようにと、肩を窄まらせて内股にして抵抗するけど。
そんな逃げ腰のアタシに、彼女はうれしげに矯声をあげた。
「あっららぁ〜、アンタのって、めっちゃ薄いんやねぇ♪」
「あっ、・・・やあぁ!!!」
「やらしいなぁ。あ〜ん、かわいいぃ♪」
「・・・っ、やっ、ヤダ、言わないでぇぇ・・・・」
ふるるとカブリを振る。
アタシの体温は、間違いなく急上昇だ。
それは、知られたくなかったことなのに。
だから、嫌だったのに。
- 143 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 17:19
- アタシの成長は人よりも、ちょっとだけ遅いみたいで。
生理が来たのだって、ついこないだった。
そして、どういうわけなのか、アタシのソコはなかな生えてくれないみたい。
大事な部分をガードしてくれない。すべてを見られてしまったという
羞恥心でぷるぷると身体が震えた。
「だってな。・・あぁ、も、そんなきつくしてたら見えへんやろ?・・
・・・ホラ、もう少し足、開いて?」
「・・いやっ!!」
「くふっ。・・んもっ、ヤ、じゃないよぉ。おー、ドレドレ、そんじゃ、
お姉さんが、マリンちゃんのココも、よ〜く見てあげるなぁ〜♪」
揶揄するように、アタシの気持ちを煽って。
ポンポンと太ももを弾かれた。
幼い性器に、甞めるような視線を感じて、膝頭をきつく合わせる。
それで、彼女の叱咤が飛んでも。
「んもっ、な〜にしてんの、見えへんて!」
「・・・っ、・・やあぁ・・・・」
「ホラ、早くぅ!!」
「・・やっ、・・ソコは・・・ヤダよぉぉ・・・・」
泣き言を零して、崩れるアタシの鼻を彼女は、「ぎゅっ」って摘んだ。
- 144 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 17:33
- 「なぁ。・・・そんなん言うたらあかんのとちゃうの?・・・それとも、
そう言って、焦らしてるつもりなん?」
「・・ち、ちがっ!!」
「ホラ、だったら、どうするの〜?」
やっぱり、彼女は意地悪だ。
困ってるアタシの顔見て、楽しそうに笑ってるんだもん。
だけど、アタシはこの人に買われたんだから、逆らうことなんて出来
ないし・・。
「・・・・う・・くっ・・・・」
ぎゅっと目を瞑って、ゆっくりと膝の力を抜いていく。
じわりじわりとくっつけたままの太ももを離して・・。
「そんだけじゃ、見えへんて!」
「・・・・っ・・・」
「あかんよ、もっと!」
「・・・っ・・んっ・・・・」
「もう少し、・・ホラ、見えてきた。」
強く言われれば、背中が震え上がる思いだけれど。
その声色はやさしさをおびているから、嘲笑れたような、そんな悲しい
気持ちにはならないんだ。
肩幅以上に開かされた足の間を、「ドレドレ」と観察でもするかのように
覗き込んでくる。
唇は、間違いなく内出血を起こして、紫色になってることだろう。
「ふ〜ん。こ〜なってるんや、かわいいっ♪」
「・・・・やぁぁ・・」
恥ずかしくて、死んじゃいそう。
なのに、彼女はまだ追い討ちをかける。
「なぁ?」
その声で、判ってしまうんだ。
次に、なにを命令されるんだって。
- 145 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 18:59
- 「なぁ、・・そしたら今度は、・・・開いて見せてよ・・?」
自分の指でねと、可愛く付け足されると。
アタシの羞恥心はパンパンに膨れ上がって、破裂した。
「!!・・・いやっ、もぅ、ヤダぁぁ!!!・・・・」
堪えきれずに零れる涙が頬を濡らす。
クスンクスンと鼻をならしながら、「お願いだから、許して」と、懇願する。
オトコの人の前でなら、平気でできる事が彼女の前では、どうしても出来なくって。
それが、「女のひと」だからなのか。
それとも、「彼女」が特別だからなのか、わからない。
流れる雫は、ドンドン増していく。
アタマのなかでは、止めなくちゃと思っているのに、どうしてもゆうことを聞いて
くれなくて。
- 146 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 19:07
- 「・・ふぇ〜〜〜んっ・・」
どうして、このひとの前だとこんなオイラになっちゃうんだろ。
彼女が腕を取った。
そのまま、引っ張られるようにして、胸のなかへ連れてかれる。
あやすように抱っこされて。
ひくつく背中をやさしく擦ってくれる。
首筋から漂うのは、おんじ匂い。
それに安心して、細い背中に腕を回すんだ。
さっきと違うのは、アタシが裸であるということだけ。
しばらくそうしてた。
涙が止まっても、やわらかいパイル生地の肌触りが気持ちよくて。
- 147 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 19:15
- 赤ちゃんになっちゃたみたい。
両手で挟まれて、そのまま顔を上げさせられる。
目の前にある、その綺麗な顔は、・・・・困ったように、でも、笑ってた。
「恥ずかしかったの?」
「・・・・・ん。」
やさしい顔。
やっぱり、こっちのがスキ。
そんなことを思って、また、胸のなかへ顔を埋めた。
「・・そっか。ゴメン、ゴメンなぁ。・・・んーーっ、なんかさ、アンタがあまり
にも強情やから、ちょっと、意地悪してみたくなってぇ・・・。」
チュ。
「ゴメン」て、つむじにキスされて、「ぷぅー」って息を吹きかけられた。
くすぐったいよぉ。
「ホンマにしてくれる気あんのかなって。テストしてみたってゆうかぁ・・・」
「っ、んなっ、・・・ひどいよっ!」
むぅって口を窄まらせて睨み付けると、クスクス笑う。
悔しくて、また、涙が溢れてくる。
それを見つけられて、また、笑われた。
- 148 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 19:29
- 「あははっ、ゴメンゴメン。・・・」
「・・・っ、・・バカぁぁ・・・」
「ん〜っ。・・・ヨチヨチ、もう、泣かないのぉ・・」
誰のせいだよぅ。
幼稚園児に話しかけるみたいにされても、なぜか、不思議と腹はたたない。
きっと、お姉ちゃんがいたら、こんなふうに慰めてくれたんだろうなぁなんて、
そんなふうに思ったりして。
「かわいいなぁ〜♪」
「・・・うるさい!」
「あぁ、怒っても、かわいいぃ♪・・ハァ、ってあかんな、アタシって泣き顔
に弱いみたいやわ。」
「・・・・・ん?」
自分だけで納得したみたいに、フムフムと頷きながら。
アタシの頬をパチンて挟むと。そのまま近づいてくる唇が、「あぐぅ」と、鼻の頭
を齧じった。
すっかり覚えてしまった手の温もりに、息が漏れる。
アタシは、そうされるまま、きょとんて、見上げて。
すると、見つめた彼女は、「フー」って、おっきいため息をついたん。
- 149 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 19:40
- 「あーもっ、だから、アカンて言うてるでしょ、そんな目しちゃ!」
「・・食べちゃうでぇ!」
悪戯っぽい眼差しが、色を変える。
ニンマリしながら、近づいてきたソレは、一度、涙の後を拭ってから、そのまま
下りてきて、チョンと、唇に触れた。
「・・んっ!!!」
キスされてるんだってやっと気付いたときには、すでに彼女の舌が口の中に侵入されて
いて。
モゴモゴと動く感触に、慌てて目を見開いた。
今まで、経験したことのないような生々しい感触に、頭の中が真っ白になる。
「キスはダメです」――なんて、常套文句を言うのも忘れちゃう始末だ。
- 150 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 19:47
- 舌を取られて、吸い付いて。
彼女の舌は、アタシの気持ちなんてお構いなしに、這い回る。
「・・んんっ、・・・んんんっ・・・・っ!!!」
息ができなくて、苦しい。
こんな背筋がゾクゾクするようなキス初めてだ。
力が抜ける。
抗議しようとして伸びた手は、途中で挫折した。
吐息の気配で、彼女が笑ってるのが判った。
「・・・・いっ、・・やぁ、噛まないでぇ・・・・」
引っ張られた下唇が、軽く噛まれた。
甘い痛みが、脳天を突き刺す。
- 151 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 20:02
- 「だって、おいしそうなんやもん。」
「・・・ったいよ、離してぇ・・・」
すぐに開放されて、指で唇を覆った。
「フッ、・・な〜にしてんの?」
「・・・・・も、やっ!!」
「判った。・・もう、噛まないから、ベロだして、み?」
フルフルと首を振る。
そんな力の抜けた手では、防御もあったもんじゃなかった。
簡単に除けさせらしまう。
「・・・ほらぁ!」
もっと、近づいてきて、唇が触れるか触れないかの距離でそう催促される。
背中が一気に、粟立った。
「出して!!」
「・・・うぅ・・」
従順に差し出すと、彼女はニッコリ微笑んでから、パクリと食べた。
身体の芯が蕩けちゃうような錯覚に陥る。
抗おうとする気持ちは、萎えていった。
- 152 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/01/26(月) 20:23
- 「・・ふぁんんっ・・・」
しなる身体を、抱きしめられて。
ピチャピチャとやらしい音が、遠くのほうから聞こえてた。
いつのまにか、寝かされてしまってたシーツの上。
うっすらと瞼を開けると、長い睫毛が目の前に迫ってて。
「・・・んあぁぁ・・・・」
薄れいく意識のなかで。
口の中だけが、別のものみたいに動いていた。
(・・・・も、このひとになら、食べられてもいいや・・)
そんなふうに思いながら。
細い首に腕を回すと。
意地悪な、甘〜いキスが降ってきたんだ。――
- 153 名前:kai 投稿日:2004/01/26(月) 21:54
- もう少し、行く予定でしたが、今日のところは打ち止めで。(w
な〜んか、相変わらずな感じですが・・。
ま、そう簡単に、好みが変わるもんじゃないなって、ことで。
「食べちゃいたいぃ♪」
・・て、あれを言ってたのは、確か、ハロプロニュースの時でしたっけか?
アタシには、「喰べちゃうでっ♪」ってニュアンスに聞こえてたけど。
すみません。一度、使ってみたかったもので。
しかし、改めて読み返すと、こっぱずかしいな・・・(苦笑)
- 154 名前:kai 投稿日:2004/01/26(月) 22:03
- >ゆちぃさん・・>間違いのまま帰すわけがないと思ってたけど(笑)
いやぁ、そのとおりです。(笑)
いかに、エロく持ってくかを常に考えているので。(おい)
インフルエンザにやられて、脳みそも侵されてしまった模様です・・。(苦笑)
>マコトさん・・お待たせしましたぁ!
風邪は治っても、仕事が忙しくってなかなか思うようにはいかなくて。
でも、出来るときには、大量更新とがんばってるつもりなんで、許してやってく
ださい。(ぺこ)
暴走は、・・・・はい、このとーりです。お好みに合いましたか?(笑)
>121さん・・あー、アタシのなかでは、どうしても。
[姐さん>やぐち]・・になっちゃってるもんで。逆転もいつかは、書きたいんだけど。
弱いやぐちってのが、なんかスキみたいです。(w
- 155 名前:kai 投稿日:2004/01/26(月) 22:16
- せっせとお仕事に励んでいるあいだに。
矢口は21歳になっているし、姐さんは連ドラ復活しているし。
そして、なっちは、あっという間に卒業ですか。(泣)
うれしいことも、うれしくないこともいっしょにやってくるんだなぁ、と。
なのにアタシは、相変わらずなアホな話ばっか書いていて。(苦笑)
本当は、tunagiものを考えていたのですが、間に合いませんでした。
いつか、ここで、あげられたらいいな、と思ってます。
そのまえに、早く、話、すすめろ!って感じなんですが。(汗)
久しぶりすぎて、誤字脱字多すぎでした。
すみません。・・・ニュアンスで読んでいただければ、幸いです。(コラ)
- 156 名前:マコト 投稿日:2004/01/26(月) 22:57
- 更新待ってましたーーー!!
矢口さんの友達のお姉さんが石黒さんに思えてしまったのですが・・・
あってます?(w
「食べちゃいたい」は多分“モーママ”のときかと・・・
アルバイト矢口さんにシロガネーゼ中澤さんだったと思います。
違ってたらすいませんm(_ _)m
ではではまた更新チェックしておきますね!
- 157 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/01/26(月) 23:35
- 更新お疲れさまでーす。
裕ちゃんがヤグチに『食べちゃいたい』っていうと、
やっぱり私も、ハロプロニュースを思い出します。
まだチャーミーのころ、ヤグチがナースの格好ででてきたコトがあったと思うんですが、
その場面が頭の中をぐるぐると巡ってます(笑)
ミニマム矢口さんでしたかねぇ…??
やっぱり食べられちゃうんだ…どーなるのか、めちゃ楽しみですvvv
次も待ってます☆
インフルさんに侵されてるみたいですが…お大事に〜〜。
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/29(木) 00:30
- キタキタキタ―――――!!!
矢口ついに食べられるちゃうんですねw
- 159 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/04(水) 23:40
- 姐さん、相変わらず意地悪で…(笑
さっきから泣かされてばかりマリンちゃん可愛いです。
とうとう食われちゃうのか矢口さん、続き待ってます。
- 160 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 13:49
- こんな情熱的なキスをする人だなんて、思わなかったよ。
* * * * * * *
深く入り込んでくる唇が、付け根のところを「きゅっ」て、挟んで。
そのまま取られちゃうんじゃないかっていうくらい、きつめに吸い付かれた。
アタシは、怖くて、されるまま、じっと我慢する・・。
「・・・あっ、・・あぁ・・んっ、・・あぁぁ・・・・・」
口の端から、ひっきりなしに洩れていく吐息。
上顎をくすぐられると、言葉にならないうめき声が鼓膜に響いた。
身震いしながら、しきりに睫毛を濡らす。
だって、すごいんだ・・。
悔しいけれど、めちゃくちゃ気持ちいいぃ。
- 161 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 14:03
- 女のひとの唇がこんなにやわらかいものだなんて、初めて知ったよ。
って、・・・・アタシも、そうなのかなぁ。
舌を蹂躙されながら、前に付き合ってた彼氏のことを思い出していた。
キスをした記憶なんて、ほとんどなかった。
あっても、えっち始める前に触れるくらい。それからすぐ、裸に
剥かれてしまってたから。
ファーストキスといっしょにファーストエッチもしちゃったような
もんだし・・。
いつも、一方的なえっちばっかりで。
気持ちいいとかは、無縁だった。
別に、それが不満だったわけじゃないけどね。
そんなもんなのかなぁって。・・・なんか、よく判らなかったし・・・。
アタシも、「ちゅうして♪」なんて、可愛く言えちゃうような女の子
じゃなかったから、人のことは言えないんだ。
- 162 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 14:11
- 「・・ほら!!」
「・・・っ、んっ。・・」
大きく口を開けることを強要されて、素直に従うと。
彼女は、やさしいくちづけを与えてくれた。
気持ちよくて、ふわふわする。縋るようにローブを掴む。
ーーーーーどうして拒めないのだろう。
そんなの考えるまでもないよ。
いつのまにか、飼い猫みたいに慣らされて、抱きしめられることにも
抵抗すら感じなくなっていた。
飴玉みたいに転がされてた舌先を軽く齧られると、足の先がジンジン
してきちゃう。
「・・・んんっ、・・・あぁ・・・んんっ・・・・」
息ができなくら口腔を貪られて。
痛さと甘さを交互に与えられるような刺激に、アタシの脳はすっかり
侵されていった。
痛痒さが、気持ちいい。
- 163 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 14:20
- 「・・・あぁぁ・・・」
「・・・ん・・」
さんざん、口の中を犯されて。
それは、ゆっくりと解かれる。
離れていく感触に、重く閉ざされていた瞼を開くと。
やらしげな銀の糸が、離れを惜しむかのようにふたりの間を繋いでいた。
プチンと切れたそれは、アタシの顎に流れてくる。
彼女の熱がまだ唇に、残ってるよ。
「ゴクン」っと、飲み込ん唾液は、アタシの知らない味がした。
すぐに、甦ってくる羞恥心。
恥ずかしくて、顔があげれない。
なんの抵抗も見せずに、恋人同士みたいなキスをしてしまった。
- 164 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 14:31
- 「ふふふっ。・・・かわいいぃ♪」
「・・・っ、・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・・」
息が続かないよ。
なんで、アナタは平気なの・・?
「うわっ。・・真っ赤っかやんっ♪・・・って、そんなに気持ちよか
ったのぉ〜?・・」
「・・・・・うん。」
思わずコクリと頷いてしまって、慌ててブンブンする。
「んやっ、ちがっ、違くてぇ。・・・って、あの、だ、だめ、ダメぇ・・
あの、キスは、・・・しちゃ、だめ、だめなのーーっ!!」
もう、なにを言ってんだか。
舌が縺れて、うまくしゃべれないんだ。
そんなアタシを見ながら、クスクス笑っているひと。
ちくしょー。・・・こんなはずじゃ・・。
「かわいいーっ♪」
「・・・・うるさいよ!!」
頬をツンツンしながら、覗き込んでくるのを、また反抗するも。
「コラ、ダメやろ、こっち向き!」
「・・・う・・うぅ・・・・」
顎を掴まれて、強制的に向かせられてしまうと、アタシは、また、
青い瞳の中に収まった。
ニタニタすんなよ。
なんだか、すっかり主導権を握られてしまってて。
キスだけで、こんなに息が上がってしまったのが、悔しいやら、情けな
いやら・・・もぉ・・。
- 165 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 14:44
- 「あはははっ。・・・なんで、そんな泣きそうな顔してんの?・・・
それとも、するのが、怖くなっちゃったのかな?」
「・・・怖くなんてないってばっ!!」
あぁ・・・またぁ。
もう、どうして、こういうこと言っちゃうかなぁ〜。
わざと、挑発するように誘うから、ついつい乗ってしまって。
なんか、彼女のまえでは、いつもの虚勢が張れないんだ。
突っかかるようなアタシの態度に、目の前の人は、怒った様子もなく、
いやむしろ、愉しそうに笑っていた。
「ふ〜ん。・・それじゃぁ、・・唇じゃないとこにキスするのは、
ええのかな?」
悪戯っぽい眼差しで見下ろして、その瞳の奥は、またなにかを企んで
いるようなそんな色をしていた。
って、これ以上されたら、どうなっちゃうんだろう。
やっぱり、怖くなって身体を捩って逃げようと・・・でも、肩を押され
てくたりとシーツの上に戻された。
彼女が覆いかぶさってくる。
- 166 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 14:54
- なんか、力が入らないんだ。
これも、キスのせいなの・・?
「・・っ、・・んやっ!!!」
「あ、コラ、どこ行くねーん。・・・って、なんで逃げんのぉ〜?」
それでも、なんとか交わして。
ベットの上を這いずり回る。
そして、行き着いたのは、壁際だった。・・・最初から、逃げ道なんてない。
「・・・残念やったね?」
「・・・・うぅ・・・・」
最後の悪あがきに、足をバタバタ。
だけど、その上にお尻を乗せられると、どうしようもなくなった。
「ふふっ。・・・もう、降参か?」
「・・・・・・・・」
ムフフと笑いの形を浮かべた唇が、おでこに落ちてきた。
そのまま、鼻、頬、顎、と順々にくちづけされて、行き着いたのは
首筋。
「・・・ちょ、待ってぇ・・・・」
「待ったはなし!って言うたやろ・・?」
「・・・ん、やっ!!」
- 167 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 15:10
- 笑いながら「あぐり」と噛み付く。
甘い痺れが、背中を通り抜けて。
「!!!・・・痛いっ、・・・いやっ、・・噛んじゃ・・・」
その痛みは、ホントに食べられちゃうんじゃないかって思った。
だから、アタシは怖くなって、じっとする。
「ふっ、・・・触っても、ええ?」
返事も聞かずに伸びてくる手のひらが肌の上をすべっていく。
聞く気がないなら、いちいち言わなくてもいいのに。
そう、訴えたくても、声がでなくて。
「・・・きれー。・・すべすべしてるぅ。・・気持ちいいぃ♪」
口と舌と、手も使って、彼女はアタシの身体のひとつひとつを探る
ように辿っていった。
鎖骨に舌を這わせながら、あやすように伸びてきた手のひらが、きゅっ
と、乳首を摘んだ。
「あっ!!・・・やあぁ!!!」
出たのは、えっちい声。・・恥ずかしい・・。
- 168 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 15:20
- 「ん〜?・・・アンタのこれ、ちっちゃくて、かわええなぁ♪」
「・・・んんっ、・・やあぁ・・・だめぇ、・・・・」
「ダメちゃうやん?・・・・なぁ、ここに、チュウしたってもええ?」
「!!!・・・っ、いっ、・・あううっ!!」
断りもなく落ちてきた唇が、乳首に吸い付いた。
そのまま、引っ張られて、「はむっ」と、挟まれる。
彼女の口内はひどく熱くて、それは、もう知ってるんだけど。
先端を擦られて、前歯で軽く噛まれると、また、戦慄がはしった。
さっき、焦らすだけ焦らされつづけたソコは、その愛撫を喜んでいる
かのように、ピンと立ち上がってく。
煌々と照らす明かりが気になる。
手探りで、彼女のローブをぎゅうぅって掴んだ。
- 169 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 15:35
- おそるおそる視線を這わせれば、目を細めながら、そんな恥ずかしがっ
てるアタシの顔を、じ〜っと、眺めて。
ちらりと覗くピンク色の舌が、捕らえている物は・・・・。
「やだぁ!!」
「ん、ダーメ、・・・ほら、顔、隠すなや!」
「ちゅぽん」と、音を立てて離れていく唇。
熱い息を吹きかけながら、顔を覆っていた両手をなんなく払いのけら
れて。
もう一本の手は、濡れたアタシの乳首を弄っている。
「ほら、見てみ、・・ちっちゃいのに、こんな尖らせちゃってぇ♪」
「あっ、・・やあぁ!!」
「ふふっ。・・「やあぁ!」・・や、ないってばっ。」
ねっとりとした視線が肌の上を這う。
ものまねするように揶揄られて、アタシの中心はますます熱くなって
いった。
たったこれだけで、泣きそうなくらい感じさせられてしまっている。
「なぁ、どっち?・・どっちがいい?・・・指と、お口でされるの?」
- 170 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 15:52
- 意識が飛んでいく。
伸びてきた指が、唇に触れた。
言葉を促すように、何度も何度もなぞられて。
薄い視界に入ってきたのは、真っ赤なネイルだった。
顔が、紅潮していくの。
「ほら、どっち・・・」
どうして、いつも答え難い質問ばかりしてくるんだよ。
それでも、強く問われれば、無意識のうちに、その口唇を求めた。
「かわいいなぁ♪」
コドモにするみたいに、ヨチヨチとアタマを撫でられてから。
むき出しの乳首に吸い付かれる。
「・・・あっ、あぁ・・・」
ぷつりと尖ったソレを、円を描くように縁取られると、「ぞわっ」と、
背中が粟立って、彼女の口の中で、ますます膨れ上がらせちゃうんだ。
きつく吸い付いて、やさしく撫でられる。
軽く齧られると、堪えきれない喘ぎ声が、部屋中を響かせて。
触れてもらえない、もう一つの乳首が物悲しくなってくる。
無意識に左肩をあげて、「して」と、縋るように懇願していた。
「こっちも、欲しいの?」
笑ってるのが、分かるの。
でも、首が勝手に動いちゃって。
- 171 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 16:07
- そう、前言とおりに。
彼女の唇は、アタシの身体の至るところに散りばめられていった。
普段、暴かしていないトコロにまで。
お臍のなかに舌を差し込まれると、魚みたいに「ピョンピョン」跳ね
上がって、また、彼女を喜ばせちゃう。
「・・・・・ひっ、・・・っ・・・」
いつのまにか、ひっくり返されて。生温かい舌は、骨を確かめるように
撫でられる。うめき声が洩れる。
こんなところまで、気持ちいいなんて知らなかった。
初めて感じる刺激ばかりに、脚の間が、ひくひくと蠢いて。
アタシのそこは、溶かしたチョコレートのように甘く蕩けている。
恥ずかしいのに、もっと「して」と、思ってしまう。
息があがる。
目の前が霞んできた。
快感に流されそうになるのを、必死に堪えながらも、なんとか口を開いて。
- 172 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 16:14
- 「・・・・しいよっ。・・だよ、これ。・・おかしいぃて・・・」
「・・・・ん?」
唇が放される。
と、同時に、前を悪戯してた指の動きも、ピタリと止まった。
「・・・なんて?」
「っ、・・んも、へん、変だよこれ。おかしい、・・おかしいよぉ・・」
掠れ気味の拙い言葉に、重なり合ってた彼女の体温が少しだけ下がった
気がした。
「・・・やっぱ、“オンナ”と、すんのは、気持ち悪い、か・・?」
背中に囁く声に。
それが、なんだか、すごく淋しそうに聞こえてきたので。
慌てて視線を向けると、引きつった笑いを浮かべながら、乱れた髪の毛
をやさしく梳いてくれた。
胸が、キューって、痛む。
そんな、顔しないで。
- 173 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 16:29
- 唇を噛み締めながら、ふるると首を振った。
「ち、ちがうの!・・そうじゃなくて、ちがう、・・んか、なんかさ・・」
指先からさらりと、髪の毛が零れ落ちてく。
そのまま離れていってしまう気配に、ぎゅうぅって、ローブを掴んだ。
アタシは、見上げながら、たどたどしく、言葉をつむぐ。
「おかしいよ・・おかしいじゃんこれ。・・・だって、さっきからアタシ、
ばっかが気持ちよくなってるよ。・・ホントはお姉さんが気持ちよく
ならなくちゃいけないのにぃ。・・・アタシ、買われたのに、なにも
していない・・」
たまに、愛撫してくれようとするお客さんもいた。
けど、最後に入れてあげればヨカッタから、その時は、こんな気持ち
にはならなかった。
だけど、彼女にそれをしてあげることは、出来ないわけだし。
そしたら、疲れさせちゃうだけじゃないの。
アタシが気持ちよくなっててどうすんだって。
上目遣いに見上げた彼女の顔は、きょとんとしたまま、パチパチと
瞬きして。
それから、ホッとしたような、そんな顔になった。
- 174 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 16:42
- 「な〜んや、そういうことかっ!」
「・・・・・そういうことってぇ・・・。」
ツンツンと頬を突付かれて、いつのまにか膨らんでいた空気が、零れた。
クスクス笑っているひと。
唇が、むぅってなる・・。
だって、そうじゃんか。
お金もらってるんだから、奉仕してもらうわけにいかないよ。
「ふぅ〜ん。・・・なぁ、それって、そんなに気持ちよかったって、こと?」
「・・・あ、あうぅぅ・・・・」
揶揄交じりの問いかけに、首が、真っ赤になっちゃう。
それでも、「どうなの?」と覗いてくる瞳。言葉に詰まりながらも
仕方なく「コクリ」と、頷いた。
どうせ、知ってて聞いてくるんだろうし。
ウソは、見破られるから。
「・・・・うん。」
「そっか、そっかぁ。なんか、うれしいなぁ♪」
いい子いい子と、アタマを撫でられて。
頬を挟みながら、じっと覗き込むブルーの瞳。
「・・んでも、アタシな、「される」ほうよりも、「する」ほうのが、
スキみたいやねん。」
「・・・えっ?」
「ん〜〜。なんか、アンタのかわいい顔とか見てると堪んなくなるん。
感じてる声とか聞くと、めちゃ興奮してくるもん。んだからな、そんな
言われるまで、気づかへんかったで?・・・・」
そう言って腕を取られた。
「かわいい♪」と、ぎゅっと抱きしめられて。
だけど、納得なんて出来ないよ。
- 175 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 16:52
- 「・・・・でもさ。」
「ええのぉ。・・・アタシが、ええ、て言うてるんやん?」
「うぅぅ、・・・で、でもぉぉ・・・」
モジモジと躊躇していると、「しゃあないな」と苦笑しながら、バサリ
と脱ぎ去ったローブが、宙を舞う。
目の前に現れた白いからだは。
想像以上に細かった。
キュッと締まったウエストライン。縦長のおへそ。
黒い下着から、すらりと伸びる脚がセクシーで。
プルンと揺れるふたつの膨らみは、やっぱり彼女のほうが大くて。
その上で、咲くちいさな蕾が、ひっそりと息づいていた。
初めて見る大人のオンナの身体に、呆然となる。
なんか、すっごく綺麗で。・・・・つい、見蕩れてしまって。
彼女が笑っているのにも、ぜんぜん気づかなかった・・・。
- 176 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 17:01
- 「・・・えっ、えとっ、・・・」
戸惑うアタシの声を無視して、強引に掴まれた手がゴムの間をくぐる。
って、・・・わぁ!!!
「・・・わかる?」
「・・・い、・・・っ・・・」
「な、めっちゃ濡れてるやろぉ?・・・アンタにしてるだけで、こんな
になってしまったの・・」
はにかむ彼女を前に、アタシがされたわけでもないのに、ミルミルウチに
真っ赤になって・・。
だって、指先に感じる熱さと滑りは。
気持ちよくなったときにでる、「おんなのこ」特有の液だ。
でも、どうして?・・・アタシ、なにもしてないよ・・・?
それよりもなによりも。
初めて触れた、アソコの感触に驚いた。
すっごくやわらかくて、ぷにんとしてるの。
カラダの中で、一番やわらかいとこなんじゃないのかな。
自分で触ったのを、思い浮かべても、ぜんぜん違うんだ。
甲をくすぐる毛が、湿り気を帯びていた。
なんか、ドキドキする。
- 177 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 17:07
- 「・・・あ。」
抜き取られた指を、丁寧に舌を這わせる彼女に、アタシはただただ呆然
と見上げる。
ピンク色の舌が、ちいさな爪の上をなぞる。
アタシの坑内を、悪戯していたあの舌だ。
指を咥えたまま、じっと覗ってくるのに。
泣き出しそうな気持ちになった。
「フッ。・・・・・・アンタのは?」
するりと伸びてきた左手が、脚の間に触れてくる。
太ももから、這うようにして、上ってきたそれは、そのまま・・・・・・。
- 178 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 17:12
- 「・・っ、・・・あぁ。」
「ふふっ。・・・いっぱい溢れてるなぁ・・・」
ウソみたいに粗相してしまっていたのを知られてしまい、あまりの
恥ずかしさに、じわりと涙が浮かんでくる。
「・・・・んも、泣くなや・・・」
「・・・・泣いてないもん。」
ぽとりと落ちて行く水滴を舐め取られて、甘く笑いながら、彼女は、
口の端にくちづけた。
ちゃんとキスしてくれないのが、寂しくて唇を噛む。
喉が、「ゴクリ」と、浅ましくなった。
こんなの、ヤダ。
したい。したいよ。
ちゃんと、キスして欲しい。
- 179 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 17:22
- それは、考えるよりも先に・・・。
「・・やぁ、やぁ、ちゃんと、ちゃんとしてぇ・・・?」
「ん〜?」
彼女は、やさしく微笑みかけて。
アタシは、細い肩にしがみつく。
「・・ねがいぃ。・・して、ちゃんと、チュウ、してぇ・・・?」
アタシがアタシじゃなくなってる。
だけど、もう、いいや。
彼女の前では、素直になりたいの。
素直でいさせて、今だけでも。
うれしそうに目を細めながら、近づいてくる唇に。
そっと、首を傾けた。
ちゅっ。
一瞬掠めるだけの。
どうして?・・・これだけなの・・?
- 180 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 17:33
- 縋るように見上げたとたん、勢いよくぶつかってくるのに、思わず顎を
引いた。
顔を挟まれて、逃げられないようにされながら。
歯列の隙間をくぐって、割り込んでくる舌は、甘く。
アタシも、舌を差し出して、夢中でそれに応えた。
首の後ろに腕を回すと、ますます近くに感じられるのがうれしくて。
固くなった乳首同士が擦れあう感触が、ひどくやらしく思えた。
涙は、ますます溢れていた。
困惑と羞恥と、いろんな感情に駆られながら。
だけど、アタシのカラダは、堪らなくこのひとを欲していて・・。
「・・・脚、開けるか?」
「・・・・・ん。」
低く甘く囁かれる言葉に、零れ落ちる涙を拭いもせずに。
彼女のせいで、こんなになってしまったという証を、その人の前に晒す。
- 181 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 17:40
- きつく閉じた瞼の奥が、明るい色に染まってる。
指先が、シーツを仰いだ。
「・・・ん。」
太ももに「ちゅっ」って、吸い付かれて。
そこから、流れ落ちてきた液を舐め取られる。
それでも、ガタガタと震えてしまう膝。
「・・・・だいじょうぶぅ。」
「・・・・っ、・・・」
「もっと、力、抜いて・・?」
「・・・あ、ぅぅ・・・・」
「・・・・やさしくしてあげるから。」
「・・・・ん。・・」
ミリ単位で移動してくる唇。
吐息といっしょに囁かれた言葉に、じわりと、腰の辺りが熱くなった。
伸びてきた白い手のひら。
綺麗だと。・・・・・憧れてもいたあの手のひらで、触れられるんだ。
そう思うと、堪らずに、また、新しい蜜を零れおちた。
- 182 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/09(月) 17:50
- 開いた脚の間に、膝が入り込んで。
これで、もう、閉じることは、できない。
恥ずかしい。すごく恥ずかしいけど、なにかを期待してしまっている
自分を、否めない。
そっと、シーツに横たえると。
沈んだ枕から、ふわりと甘い香りが広がった。
アタシは、大きく深呼吸をする。なんども、なんども。
- 183 名前:kai 投稿日:2004/02/09(月) 17:53
- お久しぶりです。
なかなか更新する時間が取れなくて。
もっと、スピードアップしたいんですけどねぇ・・・。
はい、相変わらずの内容です。(汗)
てか、このシーン、いつまで続くんだかって・・。
- 184 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/02/09(月) 18:04
- 今回もお疲れさまでしたvvv
リアルでおじゃまできたので、なんか嬉しかったです♪
ほんとに、裕ちゃんはもう止まらないですね…。
いやぁ〜びっくりしっぱなしです。
次回も待ってます☆
インフルさんは退治できましたか???
- 185 名前:kai 投稿日:2004/02/09(月) 18:06
- >マコトさん・・モーママかぁ。(w
そうでした。そうでした。・・・てか、いろんなトコで言ってんだな、あの人。
>友達のお姉ちゃんは、石黒さん・・?
はい、イメージはそのとーりです。・・・って、なんでわかるのぉ〜?(w
>ゆちぃさん・・矢口パパも大好物なミニマムですよね?
ビデオ引っ張り出して、見てしまいました。あぶないは、あの顔は・・・(w
インフルは、まだ、治っていない模様・・てか、こんなの書いてるからだー!
>158さん・・>矢口、ついに食べられちゃうんですね。
はい、そりゃぁ、もー、パクッとねっ♪(コラ)
>159さん・・こっちでは、矢口ぽくない矢口も入れていこうかな、とか。
姐さんは、相変わらずなんですが。(苦笑)・・マリンちゃんは、弱々かも。
- 186 名前:kai 投稿日:2004/02/09(月) 18:15
- なかなか、進みませんが、懲りずに遊びにきてやってくださいませ。(ペコ)
次回こそ、早めの更新でがんばりまーす。
- 187 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/09(月) 21:38
- こ、こんなところで切るんですかい?!Σ( ̄□ ̄|||)
あんた…殺生やぁ〜…
- 188 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/09(月) 21:42
- 作者さまお初です。
やばいです!抜けられそうに無いですね。
次回の最新楽しみにしております。
- 189 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/14(土) 00:51
- 素直すぎる矢口さんがイイ!
姐さん、さっさと食べちゃえw
- 190 名前:kai 投稿日:2004/02/16(月) 10:09
- 今日の更新は、多めです。(予定)
なので、途中、中断するかもしれませんが・・。<一応前置きで。
- 191 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 10:17
- なんど、深呼吸してみても、その震えが止まることはなかった。――
うっすらと、瞼を開ける。・・・・真っ白い天井が映った。
いつも見上げる壁と言ったら、低くて狭くて、ヤニがこびりついて
落ちない黄ばんだのが、ほとんどだったから。
そういや、ここって、「なかなか予約が取れないホテル」なんだって、
テレビで特集、やっていたな。
好きなひとと、こんなオシャレなホテルで迎えるクリスマス、か。
きっと、ここで「初めて」をする子とかもいるのだろう。
・・・・って、アタシだってそうじゃんよっ!
これ、初体験だよ。・・・・「女のひと」との、だけどね・・・。
- 192 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 10:24
- がんばって、他の事をいろいろ考えてみても、結局は失敗に終わった。
白い壁に反射するように、明るい光があたしたちを照らしている。
生温かい吐息が、肌をくすぐる。
熱い指先が、皮膚の上にかかった。
いま、彼女の目の中に映っているであろうものを、想像して、「グイっ」
っと、唇を噛みしめる。
まだ、毛も生え揃わないコドモのような性器。そのくせ、しっかりと
大人になっている場所。
それを、見られてしまうのは、ものすごく恥ずかしいことだけれど。
「このひとに・・・・」と、そう思うだけで、体の奥がすごく熱く
なっていた。
じっと、天井を見つめる。・・・・それを遮ったのは、微笑を浮かべた
彼女の顔、だった。
- 193 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 10:31
- 「・・・・怖いの?」
「・・・・怖いよぉぉ・・」
口元がへの字に曲がる。
あぁ、ぜんぶ見られちゃったよぉ。
もう隠すところなんて、なにもない。
顔の前に腕を交互してみるけれど。
それは、すぐに外された。
ニコニコ見つめてくる彼女に、どんな顔していいのか分からない。
顔を隠すことも、許してもらえなくて、ただ、じっと見上げた。奥歯を
噛み締めながら。
「なぁ、・・・・・アタシのこと、キライ、か?」
「・・・・・・・うんん。」
ちいさく首を振る。
今度は、彼女の口元が、ふにゃりと緩んだ。
「ありがと。」と、言ってから、そのまま落ちてくる唇。
やさしく啄ばんで、すぐに、離される。
「触ってみても、ええか?」
- 194 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 10:40
- 返事を渋っていても、その手が動く気配はない。
今度は、ちゃんと聞いてくれるみたいだ。
アタシは、仕方なく、視線で頷く。
そうして、そのまま裸の背中に腕を通すと、ぎゅうぅって、引き寄せた。
細いカラダは、少し頼りないけど、とても、やさしい匂いがして。
胸と胸とが密着すると、彼女の体温も熱くなっていたことを、知るんだ。
ふわりと、微笑む表情に、力が抜けていく・・・・・。
温かさが、肌いっぱいに染み渡って。
「・・・んっ。・・」
また、唇が降ってきた。やさしい感触。やさしい笑顔のまま。
髪の間を滑っていく指先の感触を心地よく感じながら。そのまま、ゆっ
くりと、瞼を落とした。
このひとならば、きっと、やさしくしてくれると思うから。
ねぇ、本当は、最初に逢ったときから、アナタに惹かれていたんだよ。
そう、ココロに、囁いて。――
- 195 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 10:53
- 指が顎の先を捕まえた。吐息が頬の上を掠める。
「・・そりゃ、怖いよなぁ。初めて会った人に、こんなことされん
ねんもんっ・・・」
「・・・っ、あぁ・・・・・」
「でも、だいじょうぶやよ。ひどいことはせぇへん。・・・いっぱい
気持ちいいことしてあげるから、な?」
「・・・あっ、・・ん・・・」
キスがたくさん落ちてきて、不安も緊張もいっしょに溶かされていく。
耳たぶを甘噛みしながら、なんとなく伸びてきた手のひらが乳首の
上を掠めた。
「・・・ひっ、やぁぁ!!!」
たったそれだけのことなのに、こんなに恥ずかしい声が出ちゃう。
おそるおそる瞼を開けても、彼女は、笑ってはいなかった。
「ここが、好きなの?」
「・・・ん。・・・うん。好き、好きなのぉ・・・・」
「そっかぁ。・・・・そんじゃ、いっぱい触ってあげるなぁ♪」
頬に、ちゅっ、って、くちづけてから。
モソモソと移動しながら、脚の間に正座する。その体制から両手が
伸びてきて。
人差し指で、周りをなぞるようにしながら、尖った先端を「きゅっ」
って、摘んだ。
グリグリされると、「ビクン!」と背中が撓って。・・・あっという
間に力が抜けていく。
ちいさな膨らみを揉みしだくその手はやさしくて、少し冷たい。
赤い爪に「ピン」って、弾かれると。
「・・っ、・・あぁんっ・・・・・」
やらしい声が口から洩れちゃった。
- 196 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 11:03
- 指の先で、ドンドン膨れ上がっていく突起。
アナタにされているというだけで、どうしてこんなに気持ちよくなって
しまうのだろう。
同じ、お客さんにされても、こんなには、ならなかったよ。
指と指に挟まれて、ぐにゅりと曲げられると、また、背中が仰け反って
淫らな音を撒き散らす。
「・・はぁんっ、・・んや、やだぁ。・・変になっちゃうよぉぉ〜・・」
「だいじょうぶ。変になってええんやよ。もっと変になり・・・」
唇が乳首を捉えて執拗に攻め立てる。おもちゃみたいに口の中で転が
されると、「おねだり」なんてしなければよかったと、後悔するくらい
甘い刺激が脳天を直撃する。
「・・・っ、はぁ・・はぁ・・・んっ、・・くぅ・・・」
呼吸がしずらくなって、変なふうに肺が動いていた。
でも、カラダは止まない。
いっぱい欲しいよ。触って。もっと、チュウしてって。
そこを触られたのは、突然だった。
- 197 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 11:12
- 腰が揺れるのに気づいて、慌てて目を見開くと、わき腹あたりを彷徨っ
ていた指が、下のほうまで降りていて。
アタシは、咄嗟に力を込める、んだけど・・。
「・・・・・・だいじょうぶや。・・・少し、触るだけ、な・・?」
「・・・・っん。・・うん。」
その声に頷いて、膝の力を和らげる。
ニッコリと微笑みながら伸びてきたもう一つの手のひらが、瞼の上を
覆った。
その手にならって、静かに瞼を落とす。
「・・・・ふっ、くふぅぅ・・・・・・・」
綴じ目にそって、ゆっくりと往復する指が。
最初は、一本から始まって、それがいつのまにか二本に増えて。
そのスピードも少しずつ速くなった。
「・・・っ、あぁ・・・・」
指と指が放される。
外気を感じて、目の前の人をぎゅって掴む。
- 198 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 11:23
- 「・・あぁん・・・やあぁ、・・やだぁ、やだぁっ!!・・・」
恥ずかしくて、耳まで真っ赤に染めながら。
抑えられない蜜が、中から落ちてくるのが判ったから。
だけど、動く腕を掴んでみても、やめてはくれないんだ。
ますます執拗に繰り返す愛撫は、意地悪く、でも、やさしく触れる。
彼女の指が、徐々にスピードを増していく。
「・・っ、やあぁ、やめ、お願い、やめて、やだ、やだぁ!!!」
「ん〜〜?・・いや?いやちゃうでしょ?・・ちゃんと感じてるよ。
ほら、ここも、こんな膨らんで・・・・・。」
親指で、上の蕾をくすぐられて、アタシのお尻はますます暴れまくった。
なんのためについているのか、そのためにあるとしか思えない場所を
探られる。
彼女の背骨をぎゅうって、掴むけれど。
「・・っ、やぁだぁ、やぁだっ、そこ、触っちゃ、イヤ!!!」
「ヤダ」とか言っているくせに、しっかりと腰を振らせている。
彼女の荒い呼吸が頬にあたった。間近で、顔を見つめられているのが
判って、そう思うだけで、また、新しい蜜を出して綺麗な手のひらを
汚してしまうんだ。
スプリングが、激しく軋む。
自分の声が、耳鳴りのように響いていた。
- 199 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 11:31
- 「・・・・っ、やぁ・・・あぁ、ああっ、・・あぁんっ・・・・」
知らなかった。
オイラって、こんな声出すんだ。
高くて、甘くて、なんかエッチビデオの女優さんみたい・・。
今日ばかりは、感じている演技も、する前にこっそり仕込むローション
もいらなかった。
そんなことをしなくても、勝手に溢れてくる・・・。
いつのまにか、「ぴちゃぴちゃ」から、「タプタプ」と重い音に変わっ
ていて。
それだけ溢れ出る蜜の量が、増えているということなのだろうか。
お尻の下が冷たくなっていた。
もう、閉じることを忘れてしまった口からは、からがらの甲高い声が
ひっきりなしに上がっている。
「・・・あぁ、ごめんなぁ。・・・・・指、しかなくて。・・・」
彼女が言った。
- 200 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 11:42
- それはそれは、申し訳なさそうに言うのに。
不信がって、そっと瞼を開くと、彼女は困ったように眉根を寄せていた。
アタシの顔をじっと見る瞳は青く。
一瞬なんのことなのか、と、軽く首を傾げてみるけど、すぐに理解する
ことになるんだ。
人差し指が、入り口付近を彷徨っていたから。
「・・・・・・うんん。」
ちいさく首を振った。
そっか、おんなのこ同士は、指を使うんだね。
な〜んて冷静に分析している余裕なんてなく、アタシはすぐに快楽の
波に飲み込まれる。
「・・・・・ゆっくり、入れたるから。・・」
「うん。だいじょ・・・・っ!・・んんっ!!!」
力を抜いていた隙に、進められていく指の感触に、唇を噛む。
「・・・あ、痛い?・・・痛いか?・・・痛かったらいいよ・・?」
「・・・っ、ふぅ・・ん・・。・・平気、だいじょうぶだよ・・・」
なぜか、彼女のほうが痛そうな顔をするから、おかしさがこみ上げる
んだ。
でも実際、痛みなんて、それほど感じてはいなかった。
溢れ出る蜜が、指の通りを促してくれている。
それは、いつも挿入されるものよりは、細くて短いけれど。
物足りないなんていう気持ちにはならない。
確かに感じる圧迫感。
すべてが入ったときには、感極まってポロリと涙が零れた。
- 201 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 11:50
- 彼女を、見上げる。
指でも、このひとの一部が入っているかと思うと、なんかうれしい。
自然と顔が綻んでいた。
「・・・・・・痛くないか?」
「・・ん。平気だよ。・・・・あ、ねぇ、お姉さんの指の形、なんか、
判るよ・・?」
「ふふっ。・・めっちゃ熱いなぁ。気持ちいいよ。あぁ、なんか、
アタシのほうが先に、イッちゃいそうやで・・。」
「あはっ。・・・指、なのに・・?」
「うん♪・・だって、すごいもん。ほら、いま、きゅってした。」
コツリとおでこをぶつけながら、クスクス笑いあう。
しゃべると中がピクピクと動いて、そのたびに彼女の指を包んでいた。
その存在感は確かにあった。・・・・一本だけでも十分に。
「・・・・ねぇ?」
おねだりするような甘い声。
彼女は、すぐに気づいてくれて、「クスリ」と、微笑む。
- 202 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 12:01
- 「・・・っ、んっ、はぁ・・・んっ、あぁ・・・・・・」
ゆっくりと動き始める指。
さらりと零れ落ちていた髪の毛が、頬をなんども往復した。
くすぐったいのが、気持ちがよくて。彼女みたいに甘い香りがするよ。
見つめてくれる瞳が、やさしいから。
瞬きを忘れちゃうくらい、じっと見ていた。
そっか、ずっと、こんなふうに、見ていてくれていたんだね。
「・・・気持ちいい?」
「・・ん。・・っはぁ・・っんんっ、いい、・・気持ちいいよぉ・・」
「かわいいぃ〜♪」
顎を持ち上げると、塞いでくれて。
舌をいっぱい出して、もっと強く求めた。
彼女の口の中は、すごく熱くって。舌に触れると火傷しそう。
出たり入ったりを繰り返す指に。
どこからか、親指が混じって、膨らみきった蕾を弄る。
指の動きが早くなる。
彼女の息があがっていくのがうれしくって。アタシは、腕を回してた首を
引き寄せた。
「・・・っぁぁ・・・きもち、・・・っ、い!!!!!」
ピリッと痛みが、走る。
すぐに笑おうとしたけれど、彼女は指を引き抜いてしまうんだ。
普段はぜんぜん、ばれないのに。
- 203 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 12:11
- 「っ、ゴメっ。・・・痛かった、か?」
「うんん。・・平気です。ごめんなさい。」
「なんでアンタが謝るのぉ。・・・痛くした?・・あぁ、ごめんなぁ。」
だって、違うんだ。
アナタは悪くないの。アナタのせいじゃない。
「ちがうの、あの、その、んと、・・・アタシのソコ、いま、少し、
切れちゃってて。ちょっと爪が掠っただけだから。もうだいじょうぶ
です。ごめんなさい。痛がったりして・・・・。」
「はぁぁ?・・・・・・切れてる、って?!」
「・・うん。・・えっと、・・アタシのって、なんか人より少しちい
さいみたいで。・・・その、大きいのとか、入れられちゃうと、下の
ほうが切れちゃうとき、あって。それでも、「する」からなかなか
治らないんだけどね。・・・あはっ。」
笑ってごまかしたつもりが、あまり上手くはいかなかった。
指先を見つめながら、眉根が寄る。
たっぷりと蜜の含んだ指先は、少し血が混じってピンク色になっていた。
あぁ、どうしよ。
気分を害しちゃったかな。
せっかく、いい雰囲気だったのに、ぶち壊しだよ。
この場を、どうしようかと思案していると、シーツの上に転がされた。
「!!!!!・・・・っ、えっ、えぇっ!!」
- 204 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 12:21
- 突然ひっくり返されて。
脚を割って、左右に大きく披かれる。
そのまま、「ぐいっ」と胸に押しつけられると、息苦しさから「ぐっへ」
っと、変な声が洩れた。
でも、すぐにさせられた体制に気づいて、悲鳴をあげるんだ。
「っ、あぁやだぁ!!・・やだよ、見えちゃう。・・やだっ、こんなの
いやぁ!!!」
「ダメや。じっとして。・・傷になってるかもしれへんやろ。・・
ちゃんと、よく見せて!」
「・・っ、・・あぁぁ・・・」
伸ばされた手が、スタンドライトのスイッチを押す。
途端に、視界が開けるのにのに、首をブンブン振った。
ただでさえ、明るくてイヤだったのに。
これじゃぁ、全部、見られちゃうじゃんかよ。煌々と青白い光が、
上を向かされたアタシのアソコを照らしていた。
「・・っ、やぁぁ、やめっ・・・」
指先で入り口を大きく披いて。
じっと視線をあてられると、堪らずにうめき声が洩れる。
- 205 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 12:26
- 「あぁ、赤く腫れてるなぁ。・・・痛かったやろ・・?」
「・・・っ、んくぅぅ・・・・」
「血は、もう平気みたいやけど。・・・こんなんしてもーて、可哀相に・・」
「・・・・やだぁー、見ないでぇ・・・」
苦しいのは息ができないせいじゃない。
変なところに息がかかるのが、恥ずかしくって、膝が震える。
「もう、入れたりせぇへんよ。・・・ごめんなぁ・・・」
どうして謝るの?
アナタが悪いわけじゃないのに。そんなの自業自得なのに。
お願いだから、そんなにやさしく笑いかけないでよ。
気持ちがおかしくなる。
脚の間から視線を外して、枕に横たえていた頬を「ぎゅ」って挟まれた。
泣きそうになってたのを知られたくなくて、奥歯を噛み締める。
「なぁ、・・・チュウしても、ええかぁ?」
- 206 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 12:36
- 見つめてくる瞳に、頬を紅潮させた自分の顔が映っていた。
アタシは、コドモみたいに「コクリ」と、頷いてみせる。
顎を上げながら、ゆっくりと瞼を閉じるけれど。
彼女は、クスクスしながら、「違うんやけど、一応、貰っとく!」
と、甘く笑いながら、そっと、くちづけて。
「あのな。そこちゃうくてさ。ここに、チュウ、したってもええかな?」
「ここに」と、指先が動いて、お尻が揺れた。
ビックリして、目の前の顔をマジマジと見つめながら、イヤイヤと
首を振る。
「ダメっ!・・・それは、ダメ。お願いだから、そんなことしないで!!」
「むぅ。・・・どうして?」
可愛く口が窄まった。
でも、それを許すわけにはいかないから。
「・・汚いってぇ。・・・汚いもんっ!」
「汚くなんてないよ。アンタのピンク色して、めっちゃ可愛かったで?」
「・・っ、言う、言わないでよ。・・・でも、ダメ。しないで。それは、
したらヤダぁ!!」
アナタの唇を汚したくないの。
精液まみれになった、そこを見つめて欲しくない。
ホントは、触れてもらうのだって、申し訳なく思っているんだよ。
- 207 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 12:45
- 「なんでよ。綺麗やし、ほら、石鹸の匂いしか、せぇへんよ・・・・?」
「・・っ、やあぁだぁ!!」
クンクンと嗅ぐまねをするから、アタシはそのアタマを押さえつける。
お腹が捩れてくるしいよ。
それでも、彼女は懲りないんだ。
「でも、アタシはしてあげたいの!なぁ、ぜんぶ、キスするって言う
たやんかぁ・・」
「・・・・いやっ!」
「ふぅ。・・しゃぁない、判った。んじゃ、これは命令やよ。アタ
シはアンタの客や。お客さんのいうことは逆らえないんやったよな!」
言葉はきついのに、口調がやさしいから、悲しい気持ちにはならない。
彼女の指先が、まだらな産毛の上をすべる。
「・・キス、するよ・・・・?」
さっきよりも、腰が持ち上げられて、お尻の下には膝が入り込んだ。
脚を閉じることも、彼女を止めることも出来ないんだ。
指先が触れる。
ぽってりとしたところに置かれていた真っ赤な爪が、ぐいっと、左右に
押し分けられると。
ひんやりとした外気を感じて、ぎゅっと目を瞑った。
涙が、一粒落ちていく。
- 208 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 13:00
- 「あぁ、もう、こんなんなってたら苦しいやろぉがぁ・・・いま、楽に
したるからなぁ・・・」
「・・・・っ、いやぁ・・めぇ・・・」
力ないその声は、すぐに甘い喘ぎ声に変わっていった。
唇が触れる。
キスするみたいに、「ちゅっ」って、やさしく啄ばんで。
「・・かわいいぃ〜♪・・アンタのすっごく綺麗やよ。・・・ヒクヒク
って、してる、なぁ〜・・。」
「・・っ、いやっ、言わないでぇ・・・・」
自分でさえ、あんまり見たことないところを、こんな近くで見つめら
れて。
また、唇が近づいてきた。
今度は、少し、上のほうに触れる。
指先で剥かれてしまった皮がめくれて、中なら飛び出していた突起に
やさしくくちづけた。
包皮に守られていない、その刺激はすごくって。
甘い疼きが、全身に走った。
おそるおそる目を開けてみる。
ピンク色の舌を大きく突き出して、舌が、舐めているところが見えた。
それを喜んでいる自分のソコにも目を見張った。
思いとは裏腹に、・・・考えるよりも先に、言葉がでていた。
「・・・熱いよぉ・・・」
「・・ん〜〜?」
脚の間から見つめてくる瞳。視線が絡み合うと、背筋が震えた。
「あぁ、熱いの。・・熱いよぉ・・もっと、ねぇ、もっと、キスしてぇ。・・」
- 209 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 13:06
- 突然、積極的になったアタシに、彼女は笑わなかった。
うれしそうに目を細めながら、「コクリ」と、首を振る。
そうしてまた、くちびるの愛撫が再開されると、自分の膝の裏に
「ぎゅっ」と、爪を立てるんだ。
唇は冷たいのに、口の中はひどく熱くって。
アタシは、その舌で、なんども、絶頂を迎えた。
なのに、彼女はいつまでもアタシを離そうとはしない。
あれから、どれくらい経ったのか。
とっくに、予定時間は過ぎていた。
「・・・はぁぁ・・・っくぅ・・・あぁんっ・・・・・・」
- 210 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 13:17
- 容赦なく攻め立てる舌が、粘膜の上を往復する。
「くちゃくちゃ」と、やらしい音を上げながら、溜まったそれを
「ゴクン」と、飲み込まれると、イヤイヤと首を振るんだ。
綺麗な顔が、ドロドロになっていくの。
顎に伝うのそれを拭いもせずに、膨らみきった突起に吸い付いた。
千切れそうな痛み。
そして、背骨を通り抜けていく甘い痛み。
アタシは堪えきれずに切れ切れの言葉を発す。
「・あぁ、もう、ダメぇ・・・許してぇ。お願い、だからぁ・・・・・」
「死んじゃうよぅ」
霞んでいく視界の中で言った言葉に、彼女は「クスリ」と微笑んだ。
「・・んじゃ、これで最後な。死なれちゃ困るから。・・・・」
「・・・・んぁ。」
「目ぇ開けてみてて。・・・ほら、起きて!!」
乳首をきゅって抓まれると、慌てて見開く。
「ちゃんと、見ているんやよ」と、念を押してから、もうひとりでは
閉じれなくなってしまった性器を両手で拡げられると、ちいさな穴を
至近距離から、あからさまに観察された。
大きく突き出した舌。
見せ付けるようにしながら、穴の中にそっと、押し込める。
そのあまりの感触に、お尻がのた打ち回った。
- 211 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 13:33
- 「・・・あぁ、・・っやあぁ!!!」
ぬるぬるの舌が熱くえぐる、すぐに内臓が悲鳴をあげた。
動かないようにと、お尻のほうから手を回されて、ゆっくりと舌が
上下される。
鼻が、わざと、突起に押し付けるようにするから。
アタシは、どうしようもなくなって、必死に髪の毛を掴むんだ。
「やめて」という言葉の変わりに洩れてくるのは、妖しい喘ぎ。
それでも、容赦なく抽挿する舌。
中から新たな蜜が溢れてきた。
こんなに・・どこに隠し持っていたのだろうと、思ってしまうくらい。
「・・あぁ、あっ、だめ、だめ・・・っも、んっくああぁぁ――!!」
舌が「グイッ」と、差し込まれた瞬間。
目の前に、火花が飛び散った。
背中が大きく仰け反って。彼女もいっしょに。
アタシは、生まれて初めて「イク」という意味を教えられた。
指と舌だけで。・・・女の人に。
意識はそこで途切れる。
彼女がなにか囁きかけても、言葉を発することは出来なかった。
汗と染みで重くなったシーツがふたりを包む。―――
- 212 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 13:43
- ----------------
後ろから抱きしめてくれるのは、すべすべの肌を持つ人。
朦朧とする視界。
アタシは大きく息を吐く。
やっと終わったんだ、と、マラソンをした後のように、ひどい倦怠感
に襲われていた。
終わってから、こんなふうにやさしく抱擁されたことなんてなかったよ。
背中に胸があたるのが、なんだか、照れくさくって。
アタシは、感情とは裏腹の声を出しちゃうんだ。
「・・・・・ウソつきぃ。・・」
「ん〜〜?」
お腹に回っていた手のひらが、肌の上をやさしくすべる。
彼女の甘い香りに、酔いしれながら。
「もう、ウソつきだぁ。・・女の子と「した」ことないなんて、ウソ
でしょ!!」
掠れ気味のアタシの声に、彼女はクスクス笑う。
「あぁ。いや、「したことない」とは、言うてないよ。あれは、「され
たことはない」っていう意味やで・・・」
「だからウソちゃうよ。」鼻で笑うのが悔しくて、おへそにあった
手の甲をぎゅぅってした。
もっとも、力が入らないから、あんまり効果はないと、思うけど。
- 213 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 13:50
- でも、少なからずショックを受ける。
やっぱり、女の子に「した」こと、あるんだぁ・・。
グルグルとわだかまる思いは、お腹の中に封印して。
「フッ。・・・・なぁ、気持ちよかった・・?」
相変わらずの意地の悪い質問。
アタシは掛け布団に包まりながら、「うん」と、ちいさく頷く。
気持ちよすぎて失神してしまうなんて、初めてだよ。
自分は、濡れにくい体質で、不感症なのかな、とまで思いつめていた
ってゆうのに。
思いだしただけども、顔が熱くなる。
「ハァ・・。・・・・・・オイラって、レズ、だったのかなぁ・・・」
もしかしたら、男の人がダメだったのかもしれない。
今まで、そういうチャンスがなかったから気が付かなかっただけで。
そう考えると、ちっちゃい頃大好きだったおねえちゃんは、初恋の
ひとに近いのかもしれないなぁ。
でも、彼女が聞きとめたのは、違うところだった。
- 214 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 14:01
- 「・・・・・・・「オイラ」・・?!」
「・・あっ。」
最近は、がんばって言わないようにと心がけていたんだけれど。
気が緩むと、ついポロリと出てしまう。
アタシは、小さい頃から自分のことを「ワタシ」と言わず「オイラ」
と言っていた。
お母さんになんど叱られても、それは、なかなか抜けてはくれなくて。
さすがに、この仕事には支障が生じるから我慢していたんだけど。
つい、ぽろっと零れてしまった言葉に、彼女はクスクスと笑った。
「ええやん。・・・無理して直すことなんてあらへんよ。アンタには
そっちのほうがあってる思うでぇ・・・?」
そう言ってくれる人は、初めてで、やっぱり変わった人だなって思った。
うれしくなって、振り返って抱きついた。おっぱいの感触がくすぐったいの。
アタシは、「ありがとう」の気持ちを込めて、チュってそこに吸いつく。
白くて綺麗なんだ。安心する匂いがした。
「そんで、何の話、やったっけ?・・・・あぁ、レズちゃうか・・て?」
「・・・・うん。」
- 215 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 14:10
- てか、男の人を好きになったこともあるから、この場合はなんて言う
んだっけか・・・・・・・。
「アホか!・・って、ちゃうよそれは。アンタは心配せんでも、立派な
ノーマルやで・・!」
「・・で、でもさぁ・・」
「ん〜、それな、あんまし濡れなかったのは、最初んときに怖い思い
したせいやろ。・・・・まだ、青いうちからしたら、おいしいもんも、
おいしくないやん。」
「・・・はぁ??」
「ほら、果物でもそうやろ。青くて固いのはおいしくない・・アンタ
のカラダは、そういうときに経験してしまったから、それを覚えてい
るんよ。・・・なんでも、じっくり時間をかけてすれば、おいしくな
っていくのになぁ・・・・。」
なんか、よくわかんないんだけど、すっごくやらしいこと云われてない?
アタシは、その顔をじ〜っと見つめた。
「・・・・・・・ねぇ、・・なんの先生になるの・・?」
アタシの問いかけに、彼女は長い睫毛をパチパチする。
それから、二ィって微笑んで。
「なんに、見える?」
「保健体育!!」
即答すると、くしゃりと顔を緩ませた。
- 216 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 14:22
- そのまま近づいてくる唇が、耳たぶを「カプリ」と齧りながら、息を
吹きかけて。
低く甘く囁く声に、ブルっと背筋が震えた。
「ふふっ。・・確かにな、それも勉強はしているで。・・なんなら
いまここで講義してみるか?・・・まずは、「女性器のしくみについ
て」からかな・・・。」
指先が脚の間に割り込んできて、それが、冗談ですまないことを思い
しる。
女同士には終わりがない。
出すものを出してしまったら、相手のことなんて見向きもしなくなる
男の人とは決定的に違う点だ。
・・・・いや、彼女だけが、特別なのかも・・・・。
「んじゃ、まずは、ここの名称からな。・・・テストにも出るから、
よく覚えておくように。」
「・・・っ、ひゃぁ!!」
指先を使いながら、実地の講義が続く。
揶揄を含ませる声に、アタシは、甘い声を返すだけ。
すぐに、なし崩しの2回戦に突入するんだ。
でも、このまま黙ってやられちゃうのは悔しいから、アタシは声を
張り上げる。
- 217 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/02/16(月) 14:59
- 「・・んもっー、いつもそうやって、いっぱい、女の子泣かせている
んでしょーう!!!」
切れ切れの声では、迫力をなくす。
そんなアタシの訴えに彼女は、「クスリ」と笑ってから、ちいさく
首を振った。
「・・・・・・・女の子を愛したのは、ひとりだけ、やったよ・・。」
「・・・・えっ?」
切ない色を滲ませるその瞳の奥で、いったい誰を見ているの・・?
聞きたくても聞いちゃいけない雰囲気に、ぎゅっと唇を噛み締めた。
ねぇ、胸が、苦しいよ。
自分の気持ちに混乱する。
僅かに聞こえた彼女の声がなんだか、泣いているように思えて。
アタシは、その背中に「ギュ」っと、しがみつく。
お願い、もっと、キスしてよ。
深く、いっぱいして。
このまま窒息して、死んじゃってもいいから。
呼吸が塞がれて。
舌が操られる。
アタシは、そのまま、カラダを披かせた。
皮膚の上を這う手のひら。
ねぇ、その子にも、こんなふうに、やさしく抱いてあげたの・・・?
ぐるぐると渦巻くお腹の中に。
アタシは、厭な予感がした。・・でもそれは、たぶん、もう手遅れで。
アナタの熱が、気持ちいい。
だけど、アタマから離れない、・・・アナタの言葉が。
『・・・・・・女の子を愛したのは、ひとりだけ、やったよ・・。』
- 218 名前:kai 投稿日:2004/02/16(月) 15:02
- がんばってみたら、なんとか今日のノルマは上げられました。
いつも遅くてすみませんです。
なるだけ速くがんばりますので、見捨てずヨロシクお願いします。
- 219 名前:kai 投稿日:2004/02/16(月) 15:17
- >ゆちぃさん・・あららら、なんだか、こんな展開に・・。(w
ビックリしてもらえるのは、うれしい限りです!てか、アタシが止まんないの。
ようやくエロが終わりまして、この先はどうなっていくのか。
また遊びにきてくださいねぇ〜♪
>187さん・・あぁ、・・・すみませんです・・。
でも、そういう反応は・・エロ書きには、うれしくて堪らない!(苦笑)
一気にあげてみまして、お腹いっぱいになりましたでしょうか?(心配)
>189さん・・初めまして。(ぺこ)
ありがとうございます。やばいですか?・・いやぁ、それも、うれしいお言葉です。
エロもエロじゃないのも、愉しんでってくださいねぇ。(w
>189さん・・最近の矢口は、お姉さんキャラが多いから。
んでも、昔はこんな感じだったんですよねぇ。<そんなことはないか。(汗
はい、まんまと食べられまして、ってか、喰いすぎか・・?(爆)
- 220 名前:kai 投稿日:2004/02/16(月) 15:23
- ようやく次回で一部が終了です。
ちょっとしたプロローグのつもりが、こんなに長くなってしまって。(汗
二部からは、メインの、「岡女」のはなしに突入します。
学園物は、初めてのことなのですが、そちらも引き続き読んでいた
だけたらうれしいです。(ぺこ)
- 221 名前:マコト 投稿日:2004/02/16(月) 20:31
- お久しぶりです!
なんかちょっと見ない間にずいぶん進んでてびっくりしましたよ(笑)
中澤さんの元カノは一体誰なんでしょうか…
これから出てきます?
>ちょっとしたプロローグのつもりが、こんなに長くなってしまって。(汗
いやもぉ長いの大歓迎です!
予定にないものまで書いちゃってください!
ではまた見にきますね!
- 222 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/02/16(月) 22:12
- 更新だぁぁ〜♪ってなかんじで、おじゃましました(w。
次回で一部終了ですか…なんかさみしいですよね。
って、2部に続くってコトなので、わくわくしてたりもします(w。
裕ちゃんがただ一人愛した人っていうのは、何よりも気になります。
次回わかったりしちゃうんですかねぇ〜♪
では、また遊びにきますねvvv
見捨てるとかありえないので☆
- 223 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2004/02/18(水) 10:12
- お久しぶりです。相変わらずの更新量に脱帽です。
長いの、大歓迎ですので頑張って下さい
- 224 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/26(木) 16:47
- やっと出会い編終了ですねw
中澤さんの過去に何があったのかな、続き待ってます。
- 225 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 13:41
- *********
「そろそろ、ええでぇ〜♪」
おでこに口付けられてから、くしゃくしゃっと髪を擦られた。
アタシは、両手をいっぱいに伸ばして、甘えた声をだす。
「・・・・・動けないぃ。」
「くすっ。はいはい、しゃあないな。・・・・・ほれ、だっこ♪」
まんざらでもなさそうに笑み浮かべながら。
キリンのように伸びてきた首に「ぎゅっ」と、しがみつく。
ふわふわの髪の毛からいい匂いがして。甘えるようにカラダを寄せた。
―――バブルバスとかしたら、気持ちよさそうなお風呂だったね。
それは、ベットのなかでの、たわいもない会話だった。
腕の中のひとは、ブルーの瞳をきらきらに輝かせながら。
『それやったら、いっしょに入ろうや』と、。
答えも聞かずに、バスルームへ走ってしまった。
- 226 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 13:48
- 「気持ちいい〜?」
「・・・・・あぁ、うん。・・・・・・」
こんな間近で、おとなの女の人の裸を見るなんて、お母さん以来だよ。
腕が動くたんびに、白いおっぱいが揺れるのが愉しくて。
気づかれていないのをいいことに、アタシの口はスケベオヤジのように
緩みっぱなしになっていた。
ふんわりと、鼻腔をくすぐるのは、カモミールの香り。
バスジェルをたっぷり入れたバスタブは、泡でモコモコになっていて。
それは、憧れの、想像通りの光景なんだけど・・・・・・・
「お客様、お痒いところは、ありませんか〜♪」
「・・・・・・・・・。」
って、陽気な声にがくぅぅ・・・。
んもーっ。
それじゃ、せっかくの雰囲気がぶち壊しでしょうが!
脱力して溜息つくけれど。
でも、この人のそんなところが可愛くて憎めないんだよねぇ。
あ〜ぁ、こんな人とは思わなかったなぁ〜。
- 227 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 13:56
- 長い指が、髪の間を滑りぬける。
指先にほどよく力を込めて、地肌を愛撫されているような感触に。
背中がゾクゾクってした。
思わずエッチな声が出ちゃいそうになって、慌てて口をつむぐ。
だって、すっごく上手なんだもん。・・・・・あぁ、シャンプーしてもらう
のって、なんか、やらしいよぉ。
「アンタのあたま、ちっこいから、洗いやすいわ。」
コロコロと笑い声が、頭の上から聞こえてきた。
アタシのお腹のなかの黒い虫が、グルグルと動きだす。
ねぇ、いま、だれと比べたの?
ねぇ、アタシ以外のコにも、そうやってしてあげたの?
慣れた手つきに、わだかまる想い。
口を開けば余計なことまで言ってしまいそうになって、ブルブルと
カブリを振った。
濡れた髪から、水滴が飛び散る。彼女はリンスを取りながら。
「ククっ。・・・・なんか、そうしてると、ワンコみたいやなぁ。」
白いおっぱいが、ぷるんと揺れた。
- 228 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 14:06
- 「やっぱり、ちょっと狭いな。」
「・・・・・そうだね。」
向かい合って座るバスタブのなかは、恥ずかしいけど、なんかうれしい。
「ん〜〜〜。」
彼女は、顎に手を当てながらしばらく考えて、それから、愉しそうに
手招きした。
ズルズルとお尻を引きずりながら云われたとおり近寄ると、強引に
腕を掴まれて、そのまま反転させられる。
アタシのちっこいカラダは、細い腕の中へ、スッポリと収まって。
「んなっ、ええ考えやろ・・・!」
フフンと得意そうに鼻を膨らませながら、ぎゅっと抱きつかれて。
背中に、胸があたる。
ドキドキの鼓動の音が、聞こえちゃうよ。
「・・・・・・ど、満足した?」
「へっ?・・・・・って、なにがぁ??」
チョンチョンと、頬を突付かれて、上ずりぎみな声がでた。
「「なに」って、したかったんやろ、こうゆうの〜?」
「あぁ、うん♪・・・・すっごいうれしい。ありがと。・・・・わ〜、ブクブク
だねぇ。なんか、カプチーノに入った気分だぁ。」
「はぁ〜??」
- 229 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 14:13
- だって、そうなんだもん。
上だけモコモコしててさ。
なんか、そんな感じじゃない?
車の中で飲んだコーヒーを思いだすよ。
そう言ったら、彼女は、「ブフッ」って、吹きだした。
「プッ。くはははっ、ええなぁ、そんなん思うの、アンタくらいやでぇ。」
「むぅ。・・・・笑わないでよぅ!」
「ほら、拗ねた顔も、可愛いって、あかん、ちゃんと、温まり!」
すっかりコドモ扱いに、不満はあるけど。
泡を両手ですくう。
「プー」って息を吹くと、しゃぼんがいっぱい広がって。
また、背中から振動が伝わった。って、笑うな!!
でもきっと、いまアタシを見てくれているその瞳は、やさしい色を
しているんだ。
だから、恥ずかしくて見れなくて、その体制のまま聞いてみた。
- 230 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 14:21
- 「ねぇ、お姉さんって、・・・・・・お姉さん?」
「はぁ?・・・・・てか、その「お姉さん」ってゆうの、止めようや。
なんか、それくすぐったいねんっ!」
肩にずしりと重みがかかって、きれいな顔が真横にきた。
頬にあたる髪の毛がくすぐったくて、肩を窄ませながら。
「むぅ。・・・・だって、それじゃぁ、なんて呼べばいいの?」
「あーっ、せやなぁ。う〜ん、そしたら、“ゆうちゃん”って、呼んで
よ!」
アタシは、ポリポリと頬をかく。
「ゴホン」と、咳払いをしてから、改めて。
「えと、・・・・・・ゆうちゃん?」
「うん♪」――うれしそうに笑う。
「ねぇ、ゆうちゃん?」
「うん、ええな。もっと、呼んでよ。」
「えぇ、やだよぅ。・・・・・・・ね、それより答えは・・・?」
照れくさくなって、俯くと濡れた後ろ髪をやさしく梳かれた。
隠れたところのほくろの位置まで知られちゃった仲だというのに。
こんなことで、恥ずかしがってるのは、おかしいと思うけど。
彼女は、そんなオイラの気持ちもすべてお見通しって顔しながら、クスリ
と微笑んだ。
伸びてきた赤い爪が、悪戯に鼻の頭をツンツンする。
- 231 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 14:29
- 「ここ、泡ついてる。・・・・・・んで、なにやったっけ、質問?」
「も、だからぁ、おね、じゃない、んと、ゆうちゃんはお姉ちゃん?
弟か妹、いるぅ〜?」
「あぁ、うん。三つ違いの妹がおるけどぉ。・・・・なんでぇ〜?」
ほら、やっぱりね。
絶対、そうだと思ったんだ。
なんか、ゆうちゃんといると甘えたくなっちゃうもん。
それはきっと、カラダからお姉ちゃんのオーラが出ているからだと思う
んだ。
お姉ちゃんと、こんなふうにしてお風呂とかいっしょに入るの、憧れて
たから、なんかうれしい。
想像以上だけどさ。
「ふ〜〜ん。それじゃ、妹さんにも、こうしてあげてたの・・・・?」
本当に聞きたかったのは、違うところだ。
あえて、「彼女に」とは言わずに尋ねてみると、彼女は首を横に振った。
「いいや。・・・そりゃ、いっしょに入ったこともあったけどな。でも、
髪とか洗ってあげるのは、初めてやで。あ、爪、痛なかった・・・?」
心配そうに覗き込むのに、首をふる。
「なら、よかった」とふにゃりと可愛く笑うから、アタシもつられて
微笑んだ。
- 232 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 14:34
- ふ〜〜ん。
そっかぁ。そうなんだぁ。へ〜っ。
こんなことしてあげるの、オイラが初めてなんだね。
うっ、それって、なんかうれしいよ。すご〜くうれしくて、ニヤケ
ちゃいそ。
あれ、でも、どうして??
なんで、オイラにはしてくれたの・・・?
首を傾けながら、そう口にしたら彼女は高笑いをしながらこう言ったんだ。
「だって、アンタって、イヌころみたいで、可愛いんやも〜んっ♪」
・・・ってさ。
がくぅぅ。
もう、そういうことかよぉ!!
- 233 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 14:45
- 少しぬるめのお湯で、ゆったりと浸かりながら。
なにも話さなくても、そうしているだけで落ち着けるから、不思議。
いつのまにか、甘えるように凭れかかっちゃったりして。
ゆうちゃんは、濡れたアタシの髪をやさしく梳いて遊んでいる。
触れてもらうだけで、気持ちいい。
もっと、いっぱい、触ってほしいよ。
「ねぇ、これ・・・・・・」
「ん〜〜?」
篭る音が響いた。
首に回っていた手の甲に、指を這わせると。
彼女は、クスリと笑みながら、アタシを見つめた。
「シールとちゃうで。ちゃんと、彫り物やよ。」
「えっ、そうなの?・・・・・あぁ、でも、すっごいキレイ。そうなんだぁ・・」
指で辿ると、ザラザラしていて。
彼女は、耳たぶを甘噛みしながら囁くの。
「フッ。ありがと。・・・・むかしな。ちょっと悪さしてたころの、置き
土産や。まぁまぁ、うまく、ごまかせてるやろ・・・?」
そう云われて。
よくよく見てみると、薔薇の蕾のなかにちいさな痣があった。
って、これってもしかして、「根性焼き」ってやつぅ〜!
アタシは、パタパタと忙しなく瞬きする。
ゆうちゃんは、なにもなかったように微笑を浮かべながら、泡のなか
に隠しちゃった。
「悪さ」・・・って、なに??
こんな穏やかそうな顔しているのに。気になるよ。
- 234 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 14:51
- 「なぁ、マリンちゃんは?・・・・・ひとりっ子か・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・やだ。ヤグチ。」
「ん??」
「・・マリンちゃんじゃなくて、ヤグチ。ヤグチって呼んで・・・。」
なんかそれ、恥ずかしいもん。
彼女は、一瞬、きょとんってしてから、ちいさく笑った。
「ヤグチ?・・・ヤグチか。うん、じゃ、ヤグチ、ヤグチは、姉妹とか
おるん?・・・・なんか、一人っ子って感じやよなぁ。」
「・・・・・・いるよ。・・・・ひとり、妹が。」
いま、一緒には暮らしていないけどね。
湯気で曇る視界のなかから、懐かしい顔が浮かんできた。
ずっと、逢っていないから、アタシの想像する彼女とは、随分、変わっ
ているだろう。
だからアタシは、むかし、お姉ちゃんが欲しかったというはなしをした。
ゆうちゃんは、後ろから抱っこしたまま、黙って聞いてくれた。
- 235 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 15:01
- 「・・・・・・・・だからね、キライなの。最初から、大嫌いだったよ。
生まれたときからカラダおっきくてさ、オイラ、小4で身長抜かさ
れて、それから、妹のお古着せられてきたんだよ。ねぇ、ひどくない!」
「・・・・・・そりゃ、ひどいなぁ・・・」
クスクスしながら、回された手がおなかの上をトントンする。
アタシは、興奮気味に鼻を膨らませながら、続けた。
「・・・・・・お姉ちゃんって、損だよ。喧嘩とかしても、ぜったいオイ
ラが怒られてさ。「お姉ちゃんなんだから・・・・」って、言われるの、
一番むかつく!なんでもかんでも、オイラが悪くって、・・・・ずるいんだ、
妹。大っ嫌い!!」
『お母さんたち、別れることになったの、あなたたちは、どうする?』
あのとき、妹は、真っ先に母の手を取った。
借金持ちのお父さんより、そりゃ、アタシだって、お母さんの手を繋ぎ
たかったよ。
我慢をするのは、いっつもアタシのほう。
だから、お姉ちゃんが欲しかった。
アタシのことをいっぱい甘やかしてくれる、やさしいお姉ちゃんが。
ゆうちゃん、みたいな・・・。
- 236 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 15:10
- 「・・・・・でも、ホンマは、大好きなんやよなぁ・・・・・・」
やわらかい関西弁。
耳元で囁かれた言葉に、息を呑んだ。
どうして、そんな優しい声をだすの?・・・ねぇ、それって、反則だよ。
幼い子をあやすように、背中を擦られて、堪えきれない水滴が、ポトリ
と湯船に落ちた。
だいすきだった、家族。
どこへ行くのにも、アタシの後ばかり追ってきた、妹。
いつも、オイラの真似事ばっかりして。
「おねえちゃん、おねえちゃん」
ちいさい手を、いっぱいに伸ばしてきた。
・・・・・たった二人きりの姉妹だから。
「・・・・・・うん。・・」
頷きながら、向き直って抱きついた。
当たり前のように背中に回る腕が、やさしく包み込む。
あぁ、どうして、このひとの胸はこんなに暖かいんだろ。
「ほら、泣いちゃい」
「ヤダ、泣かないもん・・・」
それでも、クスリと笑みながら、「我慢するな」と囁かれると。
必死にせき止めていたものを、抑えられなくなった。
やさしい胸が、悲しみのすべてを受け止めてくれるから。
彼女の胸の上に、冷たい雨を降らせる。
- 237 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 15:13
- ねぇ、オイラ、アナタみたいなお姉ちゃんが欲しかったよ。
そしたら、もっと違った人生が送れてた気がする。
涙を流すことは悲しいことなのに、少しだけうれしくて、なんか、
おかしい・・・。
ぎゅっと、しがみつく。
アナタに逢えてよかった・・・。
彼女の胸から、懐かしいお花の匂いがした。―――
- 238 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 17:42
- **********
「ヤグチ、来てごらん。」
ドライヤーで乾かした髪をブラッシングしながら、窓際で、手招き
するひとに歩み寄る。
さまになっているローブ姿が、格好いい。
「・・・な〜に?」
「ほら、見てみ・・・・・・・」
「うあっ。・・・雪だぁ。」
星、一つなにグレー色の夜空。
花びらのようにチラチラと舞い降りる雪が、アスファルトを濡らしていた、
アタシは、振りかえって彼女を見つめる。
ニッコリ微笑みかけられるのに、恥ずかしくなって、慌てて窓を向く。
「どうりで寒いと思ったらな・・・・・・・・」
「・・・・うん。」
「東京でも、雪って、降るんやね・・・・・」
「・・・っ、はっくしゅっ!!!!」
バスタオルを巻いていただけだったので、盛大にくしゃみすると、
彼女は、クローゼットの中から毛布を一枚取り出した。
「ほら、風邪ひくで」
「・・・・・うん。」
クリーム色の毛布に身を包んだゆうちゃんが、オイラを後ろから抱き
すくめる。
ガラス越しに、重なり合う二人の姿が映っていた。
ねぇ、なんかこうしてると、照る照る坊主みたいじゃない?
クスクス笑みを零すと、じっと窓の外を窺っていた彼女がちいさく
声をあげた。
- 239 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 17:53
- 「・・・あっ。・・・・・・今日って、クリスマスイブ、か・・・・?!」
「・・・・・・って、知らなかったの、ゆうちゃん?」
彼女の視線の先にある大きなクリスマスツリーには、緑の上に薄く
白が混ざって、むかし、手芸用の綿で雪に見立てたのを思いだす。
「・・・綺麗だねぇ。」
「・・・綺麗やなぁ。」
来たときの気持ちがウソのように、自然とそんな言葉が洩れて。
ささくれていたココロもすっかり溶かされていた。
ピカピカとイルミネーションが、雪道を照らしている。
彼女の手をぎゅっと握りしめる。
お返しに、きつく抱きしめられると、苦しいのに、うれしくて。
「ホワイトクリスマスだね・・・・・。」
「せやなぁ。」
「ねぇ、みんなも見てるかなぁ〜?」
こんなふうに抱き合って、夜空を眺めているのかな。
そう呟いたオイラの声に、彼女はクスクスしながら、顔を寄せた。
「さぁ、どうやろ。案外、気づいてないかもな。」
「・・・・・うん。」
まだ、ベットのなかで愛し合っているかもしれないし。
疲れてぐっすり寝ちゃったかもしれない。
そう考えると、なんだかこの景色を独り占めしている気分になって。
- 240 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 17:59
- 「なぁなぁ、いまごろ、地球、揺れてんちゃうっ!!」
ガラスに映る、いたずらっ子の眼差し。
彼女にロマンチックは似合わない。
クスリと笑みながら、向き直ってその顔を両手で挟んだ。
ゆうちゃんのこうゆうところ、大好きだよ。
そばにいるだけで、愉しくなる。
ココロが、ポカポカになるんだ。
だから、背伸びして、顔を近づけた。
「ん?」
慣れないキスは、的が外れて、鼻の頭がぶつかっちゃうという。
ぶさいくなキスになっちゃったけど・・・。
じっとお互いを見つめあう。
青い瞳に映る自分がいた。アタシの瞳の中にも、彼女の顔が映って
いる。
- 241 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 18:07
- 自分のせいで濡れた唇を見つめながら、紡ぎだした声は、思いのほか
甘く響いた。
「ねぇ、したいよぉ。・・・・・ねぇ、ゆうちゃんに、触りたいの・・・・」
「・・っ、ぅえ!・・・なん、どうしたん、急に、えらい積極的やなぁ・・・」
彼女は、少し驚きつつも、うれしそうにアタシの前髪をくしゃくしゃ
って混ぜた。
明日は、大事な日なのかもしれない。
とっくに日付が変わっているから迷惑かもと、アタマの中を過ぎるけど、
それでも、高ぶるこの熱を止めることはできなくて・・・・。
「なんかいま、すっごくしたくなっちゃってるの。・・・・・ねぇ、ダメ?」
もっと、近づきたい。
この綺麗なお姉さんを、独り占めしたい。
ただ、じっと抱きしめられてるだけじゃ、物足りなくなってる。
- 242 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 18:14
- 「クスっ。・・・・ダメちゃうよ。うれしい。アタシもアンタに触りたい。」
「・・・・・・・うん♪」
ピッタリと抱き合って、お互いの熱を混じあわせる。
くちびるを塞ぎながら、歯列を少し開くと、生温かい舌が滑り込んで
きた。
首に腕を回す。バサリと落ちて行く毛布とバスタオル。
舌を動かしながら、手探りで、彼女のローブの紐を解いた。
もどかしく、着けたばかりの下着を脱ぎ捨てて。
ベットに横たわる彼女の上に乗っかった。
スプリングが、激しく軋む。
それに、クスクスと苦笑されても、言い返す余裕なんてなくて。
披いたカラダに、唇を寄せた。
- 243 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 18:21
- 透けるように真っ白い裸体。
見ているのと触れてみるのでは、ぜんぜん感触が違うんだ。
「・・・・っ、あ、ヤグチ、そんな、慌てんでもええからな。」
「・・・・うん。」
甘くて、おいしい。
くせになっちゃいそ。
「なぁヤグチ、なぁって、・・・・・・・大事なことゆうの忘れてたわ。」
「・・・・・・ふぇ?」
胸元から視線を這わせると、ニッコリ微笑みながら。
おでこに、ちゅっ。
くちづけられた。
「メリークリスマスぅ」
「あ、・・・・うん。メリークリスマス。」
頬が緩んだ。
だって、やさしい瞳で見つめてくれていたから。
- 244 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 18:25
- カーテンは開けたまま。
夜空が、ふたりを明るく照らしている。
ねぇ、こんな姿、サンタさんが見たら、きっと、ぶっ倒れちゃうね。
女の子同士で、裸で抱き合っているなんてさ。
そんなことを想像したら、おかしくて、お腹が揺れる。
キレイなカラダ。
どんな声で、啼くのかな。
ゆっくりと唇を引き寄せて、もう一度、甘いカラダにキスをした。
夜は、まだまだ、終わらない。―――
- 245 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 18:40
- ***********
久しぶりに、夢を見た。
ちいさい頃の夢。
四角いテーブルを囲みながら、みんなでトランプをしているところ。
お父さんがいて、お母さんもいる。アタシも、妹も。みんな愉しそうに
笑ってた。
カードを一枚ずつ、隣の人に渡しながら。テーブルの真ん中にみかん
を三つ置いて。
誰から手を伸ばすと、慌ててみんなの手が伸びる。
どんくさいお母さんが、いつも取れないで終わるんだ。
あれは、なんてゲームだったかなぁ。
確か、オイラのお気にいのやつだった。
もう、忘れちゃったよぉ。
◇ ◇ ◇ ◇
ゆっくりと瞼を開くと、見慣れない天井がうつった。
もう、夢の中ではないことを知る。
そっと、首を動かすと隣でスヤスヤ眠っている人の存在に、自然と
目じりがさがった。
暖かいと思っていたら、ずっと抱きしめてくれていたんだね。
すべすべの腕がまくらになって。
- 246 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 18:48
- 「うわっ、寝顔かわいいっ♪」
ときおり、瞼がピクピク震えて。
それでも、スースーと寝息が聞こえている。
疲れてるのかなぁ。疲れてないわけないっか・・・。
『おはよ、ゆうちゃん』
起こさないように、ちいさく囁いて、白い胸に顔を埋めた。
暖かくてやさしい、やわらかくて気持ちいい。
この胸の上で、いっぱい泣いた。そして、いっぱい啼かされた。
ずっと、この体温に包まっていたいよぉ・・・。
「・・・・んっ、・・・・・・」
「・・・・・あっ。・・」
薄く開いた瞼から、色素の薄い茶色い瞳がのぞく。
それから、驚きの色に変わっていくさまを、じっと見つめていた。
「・・・んあっ、あ、あれ、あ、そっか。・・・・おはよ、ヤグチ。」
「おはよ、ゆうちゃん。」
二度目の挨拶はかすれ声。
声、ガラガラだよう。舌もなんかヒリヒリするし。
その原因を思い出して、顔が熱くなった。
- 247 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 18:52
- 「ん〜〜、よく、眠れたか?」
「うん。・・・あ、ごめんね。ずっと腕枕しててくれていたの、痛く
なかった・・・・・・?」
「あぁ、平気やよ。それより・・・・・・・・・」
ちゅっ。
口付けられて、一気に目を覚ます。
彼女の口元がふわりと微笑むのに、つられて微笑んだ。
頬を挟まれて、もう一度近づいてくる唇に。
薄く目を閉じて、しやすいように顎を傾ける。
照れくさくって、恥ずかしくって、しあわせな朝だった。―――
- 248 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 19:00
- 背中合わせに、着替えを済ませる。
全身に残る赤い鬱血を見ながら、夕べのことを反芻していた。
腰が重くてだるい。舌が痺れて痛いよ。
あんなにいっぱいキスをしたのは、はじめてだった。
いままでしてきたのは、キスではなかった。
閉じた瞼の裏に、いやらしく動く彼女の手や唇が鮮明に蘇る。
ゆうちゃんに、セックスの意味を、一晩かけてじっくりと教えられた。
・・・・・・甘い痛みが、心地いい。
「なぁ、ホンマにシャワー浴びてかないの・・・?」
「うん。おウチ帰ってから浴びるから、平気だよ。」
もう少し、アナタの香りに包まれていたいから。
着替えを済ませると、着てきたコートのポッケから携帯を取り出した。
『メルアド・・・』と、口を開きかけて、背中に掛けられた言葉に凍りつく。
「なぁ、そういやお金いくらやったっけ、まだ、払ってないよなぁ・・・・」
「・・・・・っ・・・。」
「んぁ?・・・・どうしたん、あ、忘れてたんか、ダメやろ、仕事なのに・・・・」
- 249 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 19:06
- ピンク色の靄から、突然、真っ暗闇に変わった。
歯がガタガタと軋んで、全身がブルブルと震える。
彼女の声が、耳鳴りのようにこだまする。
まただよ。
現実なんて、こんなもんだ。
アタシはそうやって、なんどもなんども裏切り続けられてきた。
・・・・・・・彼女は、違うと思っていたのに。
「・・・・・おい、どうした、ヤグチ??」
アナタは悪くない。
アタシが勘違いしてただけ。
恋人みたいに抱き合ったから、うっかりその気になっちゃった。
アタシタチの間にあるのは、売春と買春という立派な犯罪行為なのにね。
頬をペチペチと叩くその手から、やさしい温もりが消えていく。
- 250 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 19:15
- 「・・・・おい、ちょ、アンタ、顔色悪いで、だいじょうぶか・・・?」
「・・・・あぁ、うん、平気だよ。んと、お金、3万円だけど、いい?」
震える喉を懸命に堪えて、そう言葉を発すると、キレイな首筋に目が
止まった。
アタシが付けた痕が、薄く残っている。
アタシが悪い。
こんな仕事をしているから、誤解を招くんだ。
お金を貰う気持ちなんてなかったなんて、いまさら言えるわけがない。
アタシは、アナタのことを好きになってしまった、なんてどうして
云えるの。
あの行為が、「お金のためだった」と思われていたかと思うと、悔し
くて、悲しくて、辛い。
お互いの気持ちは、通じ合っていたと思ってたのに。
アタシのなかで、芽生え始めていたちいさな恋が、しゃぼんだまの
ように、パチンと弾け飛んだ。
なんか、油断したら泣いちゃいそうだ。
だから、差し出されたお金に手を伸ばして、すばやく、ポッケにしまう。
もう、用事は済んだ。
・・・・・帰ろう。
- 251 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 20:19
- 「あ、ありがと。・・・・じゃ、帰るね。・・・・・・さよなら・・・・・」
「えっ!・・あ、ちょ、待ちぃ。・・あっと、ご飯、・・・・あ、ドトール
くらいやったら、ご馳走するけど・・・・?」
3万円に抜けたお財布は、千円札が一枚しか残っていなかった。
広げて苦笑している彼女に、ちいさく首を振る。
「・・・・・いい。・・・・帰るね。・・・・ありがとうございました。・・」
ペコリとお辞儀してから、顔を向けずに。
そのまま、ドアに向かう。
扉の前で、抑えていた涙がこみ上げる。
よかった。泣いている顔を見られなくて・・・。
震える手でチェーンを外して、ノブに手を掛けた時、背中にかかる声に
足を止めた。
「・・・・・・あんまり、がんばりなや。」
「・・・・・っ、えっ?・・・」
「アンタは、なんでも一生懸命がんばりすぎなんや。もっと、肩の力
抜いて生きてもええんちゃう。・・・・ひとに頼ってもええんやよ。・・・・・
なんでもかんでも、ひとりで背負って、がんばりなや。・・・」
聞きなれない関西弁は、意味を噛み砕くのに苦労するけど、彼女の
声は、胸の中にズシリと響いてきた。
スーっと、力が抜けていく。
止まっていた血液が、走り出す。
- 252 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 20:25
- 両親が離婚したとき、周りから「がんばれ」「がんばれ」って、云わ
れてきた。
でも、なにをがんばったらいいのか分からなくて、無責任なその言葉に
正直、困惑していた。
なのに彼女は、「がんばるな」と反対のことを、言う。
その、いかにもな励まし方に、少しだけ笑えた。
気が付いたら、目の前に駆け寄って・・・。
見下ろす瞳がやさしくて、想いが溢れ出る。
ゆうちゃん、アナタが大好きです。
ヤグチは、はじめから、アナタに惹かれていました。ホントだよ。
声にできないけれど、伝わってよ、この気持ち。
彼女は、クスリと薄い唇を上げながら、おでこにキスをした。
まだ、あったかい。・・・・・涙が、ツーっと、零れ落ちる。
- 253 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 20:34
- 「なぁ、ヤグチは、運命って、信じるか・・・?」
「・・・・えっ?」――今度はタヌキやなと、笑われながら顔を挟まれた。
「クリスマスイブに、こうしてアンタと逢ったのは、運命やとは、
思わない?・・・なぁ、だから、約束せぇへん。もし、今度またどっか
で偶然出逢ったら、今度こそちゃんと恋愛するの。アンタとアタシで・・・」
「・・・・・・・偶然、じゃ、なきゃ、ダメ、なのぉ・・?」
もう、止まんない。
ボロボロと滝のように落ちて行く、涙。
鼻水といっしょに、ぐちゃぐちゃになった。
震える声で、切れ切れにそう尋ねると。
彼女は、それを指で拭いながら、やわらかい唇を押し当てた。
「そうや」と頷く視線に、「意地悪だ」と、唇を窄ませる。
「ホラ、もう泣いたらダメやよ、また襲いたくなるやん!」
おどけた口調に、口元がゆがむ。
「襲ってよ」の言葉を飲み込んで、小指を突き出した。
- 254 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 20:39
- 絡み合う指。
真っ赤な爪。
おなじみの歌は、彼女に任せた。
そして最後に、どちらからともなく目を閉じて、唇を合わせる。
「絶対、だからね!」
「うん♪・・・・・楽しみやなぁ。」
ゲームしているみたいに、ワクワクしながら彼女は言った。
それだけで、気持ちの重みの違いを感じて、切なくなる。
なんどもなんどもキスをして、アタシタチは、笑顔のまま別れた。
別れの言葉は云わなかった。
・・・・だってきっと、また逢える。そう信じているから。――
- 255 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 20:47
- なのに、一人になったとたん、収まっていたものが溢れ出す。
エレベーターの中で、しゃがみこんで号泣した。
「・・・・・うぅ・・・そんな、偶然、あるわけ、ないじゃんかぁ!!」
彼女は大阪で、アタシは東京。
それだけでも、確立はグッと減るのに。
そして、気づく。
あぁ言ったのは、彼女なりのやさしさだったんじゃないかって。
泣いている女の子が、ほっとけなかった。
キレイな想いでのまま、終わりにしてあげたかった。
知っている。
彼女は、やさしいひとなんだって。
だから、あんな言葉で救いの手を差し伸べた。
それが、ホントは残酷なことをしたのだとは、アナタは気づかない。
アタシは、このままずっと、アナタを思い続けちゃうんだよ。
- 256 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 20:54
- チン!
軽快な音とともに、重たい扉が開いた。
袖で涙を拭って、前を向いて歩き出す。
人で溢れかえっているエントランスを抜けると、ドアの向こうに、
雪道ができていた。
マフラーを包みながら、タクシーの列を無視して、歩いて帰ることに
する。
厚底靴で、ザックザックと音を上げながら、誰も踏んでいない綺麗
なところをわざと通って。
久しぶりの、雪の感触。
いつのまにこんなに積もったのか、雪だるま作れちゃいそうだよ。
ゆうちゃん、ビックリするかなぁ・・・。
忘れようと思うのに。
鮮明に思い浮かんでくる笑顔。
なんども立ち止まっては、彼女の部屋に戻りたい衝動に駆られた。
なかなか、思うように足が動いてくれない。
- 257 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/03(水) 21:03
- マフラーを解いて、セーターの襟首を広げた。
まだ、彼女の甘い香りが残っている。
苦しいよぉ。
胸が痛くて、死にそうに苦しい。
涙も鼻水も止まらない。
早く助けてくれないと、干からびちゃうよぉ。
「ゆうちゃん、好きだよ」
告白もできない恋だなんて、辛すぎて笑えない。
好き、大好き、ゆうちゃんが好きです。なんどでも言います。
アナタが大好きです。
15歳のクリスマス―――
アタシは、身を焦がすような恋をした。
相手は、関西の言葉を話す、年上の、オンナの人。
“ゆうちゃん”
「・・・・・・・あっ。」
ちゃんと、名前聞くの忘れた。
力が抜けて、膝から崩れ落ちる。
「・・・・・・寒いよぉ・・・・」
白い息が零れる。雫が、雪を溶かしていた。
どんなに泣いて叫んでも、抱きしめる腕は取り戻せない。
アタシを暖めてくれるあの人は、もういない。
夢は、終わったんだ。―――
- 258 名前:kai 投稿日:2004/03/03(水) 21:06
-
というわけで、ようやく一部、終了です。
このはなしをクリスマスにあげようと思っていたのですが、なんか、
ひな祭りになっちゃいました。(苦笑)
季節外れの内容です。
いったい、これ、いつ終わるのでしょうか・・・。(汗
- 259 名前:マコト 投稿日:2004/03/03(水) 21:15
- リアルタイムで読ませて貰いましたよ!
てかここで1部終わりっすか?!
矢口さんが切ないぃ〜!!!
もしよかったら中澤さんの心境ちょこっとでいいんで書いてください(w
>いったい、これ、いつ終わるのでしょうか・・・。(汗
いつまでも続けてください!
長いのは大歓迎ですよ!
そういや市井さんできちゃった婚するらしいですねぇ…
ニュース見たときびっくりしましたよ(笑)
- 260 名前:kai 投稿日:2004/03/03(水) 21:25
- レス、ありがとうございます♪
>マコトさん・・お久しぶりです。(ぺこ
>中澤さんの元カノは一体誰なんでしょうか…
あぁ、なんか予定していた人が、いきなし結婚しまして。(苦笑)
どうしましょって、感じなんですけど。ま、問題ないかなとか。
余計なシーン入れると、こんなになってしまいます。
長すぎて飽きられないかと、ちょっと心配。(汗
>ゆちぃさん・・寂しく思っていただけただけでうれしいです。
2部というか、岡女は、アホなはなしも織り交ぜながら、相変わらずの内容かと。
不定期ですが、また、遊びに来てくださいねぇ〜♪
>やぐちゅー中毒者セーラムさん・・お久しぶりでーす。
>更新量の多さに脱帽
やれる日がいつくるのか分からないので、出きるときにやっちゃおうと。(汗
でも、読んで疲れさせるとかはイヤなので、難しいです。
>224さん・・はい、やっとです。(w
過去編も、そうですね、回想でちょいちょい入れながら・・・。
お待ちくださいませ。(ぺこ
- 261 名前:kai 投稿日:2004/03/03(水) 21:35
- 一部とか二部とか言ってますが、そんなにたくさんあるわけでは
ありません。(汗
とりえず、長かった出会い編は終了ってことで。
次回は、舞台が変わります。
きっと、想像通りの展開で始まるとは思いますが・・・。(苦笑)
早めの更新で、がんばりますので、ヨロシクお願いしまっす!
- 262 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/03(水) 22:40
- かー…せつねぇ。
第2部にもすごくきたい。
案外、結婚しちゃったってのは現実っぽくていいかもしれないね。
- 263 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/03/04(木) 00:31
- おつかれさまです。
かなりサクサク、それからドキドキしながら読んでたんですが、
ふと気づくとボロボロと泣いてしまいました…。
久しぶりにきました…。お金かぁ…なんてなんか物思いに耽ってしまったり。
次も待ってます♪
あっ!ひなまつりおめでとーございました(何
- 264 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/06(土) 22:38
- 矢口が切ないっすね〜。
次が学園ストーリーに突入ですかね、楽しみです。
- 265 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/09(火) 03:33
- 痛いエロ小説ですね。
- 266 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/19(金) 22:37
- そろそろ続き読みたいなーなんて・・・
待ってま〜す。
- 267 名前:kai 投稿日:2004/03/23(火) 11:26
- ご無沙汰です。
なんだか忙しくて、なかなかパソコンに弄れなくてこんなに経って
しまいました。
いつも、不定期ですみませんです。(ぺこ)
そしてやっと、本編に入れそうです。
えと、この先、いろんな登場人物があると思いますが、年齢設定は
バラバラです。
テレビの岡女のように全員が同じクラスってゆうのはありえないので。(w
愉しんでいただけたら、幸いです。
- 268 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 11:37
- ゴオォォォォォォーーーー
上空に舞うジェット機が、爆音を響かせながら旋回していた。
いつもながら、どうしてあんなにでかい固まりが空を飛べるのかと首を傾げちゃう。
飛行機だけは、死んでも乗りたくないよ。
だって、ジェットコースターよりもスリリングじゃんか。
突風で、車体が傾く。
スカートがバサリと翻ると、真横を走っていたトラックの運ちゃんが、ニタリと
笑んだのが見えた。
「おらっ、飛ばすよ!!」
届かない返事の変わりに、つかまる腕を「ギュっ」てする。
彼女の金髪が、アタシの頬をなんどもなんどもビンタして。
飛行機なんか目じゃないくらいの爆音が、背骨をビリビリと刺激した。
息ができなくて苦しい。
油断していると、風でアタマが持ってかれちゃいそうになる。
『あぁ、カツラじゃなくてヨカッタ…』
ちいさく呟いた声は、そのまま風に吹き飛ばされて。
海を越えると、観覧車が見えてきた。
足早に走りすぎてゆくこの街の景色を見ているのが、なんとなくスキだった。――
- 269 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 11:49
- ◇◇ ◇ ◇
2年ほど前に、初めて「お台場」の地に学校が創立された。
それが、岡村女子高等学校。
一応は、カトリック系の女子高らしいが、お御堂やマリア像があるってだけで、
授業体系は、いたって普通高校と変わらない。(と、思う)
真新しい校舎。
作りたての制服。ーー濃紺色のセーラー服に、真っ赤なタイ。
都内では、ほとんどがブレザーにモデルチェンジするなか、セーラー服を取り
入れた。
それはそれでかえって斬新だと、意外と好評でもあった。
最初は、「女子高なんて・・・・」そう思って入ったのだけれど。
2年も過ぎれば、オンナばかりの生活にもすっかり慣らされて・・・。
気楽さが悪くないなぁ、て、最近は思っている。
まぁ、オイラのオツムのレベルじゃ、ここくらいしか受けられなかったんだけどね・・。
- 270 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 11:58
- [岡村女子高等学校]−−通称“岡女”
影では“バカ女”と呼ばれているらしいが、つまりはそういう学校ってわけ。
担任の国語教師、岡村せんせい曰く。
『おまえらはの偏差値は、いつまで経っても海底トンネルなんじゃ!!』
最近、羽田と、お台場を結んだ海底トンネルに喩えて使われるほど。
てか、それ、どうゆう意味だい!?
だから、他校からもバカにされているんだけど。
でもなんか最近、「美少女率が高い高校」とかって一目置かれているらしい。
◇ ◇ ◇ ◇
[2−C岡村学級]−−−教室の白い扉をガラガラと開くと、机に突っ伏しながら、
足を広げて下敷きで扇いでいる友人が見えた。
がくぅぅ・・・。
これの、どこが、美少女だって!
てか、カトリックがこんなんでいいのかよぅ・・・。
- 271 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 12:10
- 「おっはよォ!!」
いつもの空気。いつもの匂い。
いつも以上にだらけているのは、きっと、長引く梅雨のせいだろう。
「コラー!!・・・遅いぞヤグチ!・・・・いま何時だと思っているんだい!」
「あはっ。おはよ、なっち。・・・相変わらずだねぇ。」
「もう間違ってるぅ!・・・今の時間は“おはよう”じゃないっしょ。“こん
にちは”ほら、やり直し!!」
なんでこんなに元気がいいんだか。
腰に手をあてて、こんなお決まりのポーズで頬を膨らましている化石のような
この人は、親友の安倍なつみ。−−なっち。
北海道からの編入生のはずなんだけど・・・アレレ、すっかり馴染んでるなぁ。
「こんちはっス、ヤグチ!!」
高いところから揶揄るように声をあげてきたのは、飯田圭織ーーカオ。
彼女もなっちといっしょ、北海道出身。
クラスの委員長なんかをやったりしているけど、ちょっとおとぼけなところも
あって。委員長が出ばると、まとまるものもまとまらなくなると、最近、まこと
しやかに囁かれている。
スラリとした容姿をかられて、最近、モデルのバイトを始めたらしい。
って、ホントに、同級生かよぅ!!
- 272 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 12:19
- 「ちょっとぉ、後ろ跳ねてるてばっ。アンタ、またバイクで来たんでしょ!!」
「あ、おはよ、圭ちゃん。」
いってぇ。
ゴチンと後頭部を小突くのは、保田圭ちゃん。−−圭ちゃん。
こちらも、とても高校生とは思えない貫禄があって、なんて言ったら殺されちゃい
そうだから、口には出さないけどさ。
威圧的な切れ長の瞳は、きつい印象を与えるけれど、でもホントは、面倒見のいい
やさしい女の子なんだよね。・・・いや、たぶん。
みんな高校に入ってから、できた友達。
ウチのクラスはみんな仲良しなんだけど、それでもグループに別れるってのは
女の子のお約束で。
ウチらは、いつもこの4人でつるんでいた。
10分間の休み時間。
ダイエットに目がない女子高生と言ったって、さすがに3限ともなればお腹も
すくわけで。
教室のあちこちで、お菓子の袋を広げていた。
そうゆうオイラも、なっちの手から・・・・。
- 273 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 12:32
- 「・・っ、スキあり!!」
「あっ。あ、ああぁーー!!・・・コラぁ、なにすんだ、ヤグチィ〜〜!!」
「んま、おいひいよぉ〜♪」
口をモゴモゴさせていたら、圭ちゃんが「ギロリ」と、睨んでいた。
だから、怖いんですってば、やめて。
「ヤグチのバカぁ!・・人に物を貰うときはなんて言うのかって幼稚園のとき・・・・」
「あぁ、はいはい、なっち、も、いいからね。それよりアンタ!今日もバイク
通勤〜?!!」
いい加減にしなさいよと、窘められると、オイラは「ひょい」と、茶色い舌を
出す。
「ヤーグチっ!!」
「むぅ。・・・・いいじゃんかよ別にぃ。だってゆりかもめたるいんだもん。
それに今日は、ちゃんとおウチに帰ってから来たよ・・・?」
「そんなの、当たり前だ!!・・・・ったく、ほんとに、アンタはもう・・・・・」
ちょっとちょっと、そんなに溜息つかないでよ、圭ちゃ〜ん。
そう、お台場の高校なんていうと、ちょっと聞こえはいいけど。
実際のところは、交通の便が非常に悪くて。
それは、生徒たちの不満のところだった。
- 274 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 12:38
- バスもあるにはあるんだけど、そんなに本数出てないし。
唯一の手段の電車は、「ゆりかもめ」の一本だけだ。
大きい会社も隣接しているから、朝のラッシュ時は大変なことになる。
だって、ウチからここまで、3回も乗り継ぎしなくちゃいけないんだよ。
バイク飛ばせば、20分で来れちゃうのにさ。
ま、彼女に、赤信号は見えてないからなんだけどね・・・。
海が近いせいか、やたらと風は強いし。
学校帰りにショッピングを決め込んだって、一週間も過ぎれば飽き飽きする。
コンビには遠いし、少ない。
デートスポットを活用したくたって、オンナばっかりだい!
思ってたよりいいもんじゃないなって、今年、進入してきた一年生もそろそろ
気づく頃だろう・・・。
「ねぇねぇ、それより、なんか、あったの・・?」
- 275 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 12:47
- 話をはぐらかすようにいつも以上にザワザワしている教室を見渡してそう尋ねると。
圭ちゃんは、まだ、なにか言いたげな顔を曇らせながらも教えてくれたんだ。
「ほら、今日、新任のせんせいが来るんだよ、佐野っちの変わりの・・・・・」
「あぁ、だからかぁ・・・」
やっと梅雨も明けそうなという中途半端なこの時期に、なぜ、新任の先生が来る
のかというのには、もちろんわけがある。
佐野っちこと、佐野せんせいは、ウチらの副担でもあった数学の先生なんだけど。
そうなんだ。
外見はフツウ。もう少し痩せれば格好いいかなってくらいの。
どちらかと言ったら地味な感じだった先生が、やらかしてくれたんだ。
先月末に、行方不明になった。
ウチのクラスの女の子といっしょに。
そう、「駆け落ち」って、やつ、・・・いまどきに。
学園中を巻き込んで、大騒ぎになったあの事件から、はや、一ヶ月。
新しい先生が来るとは聞いていたけどねぇ。
「ふ〜〜ん。・・・・そんで、今度は、オトコ?オンナ?」
- 276 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 13:01
- さほど興味がないように、椅子を引いてそう尋ねると。
なっちが目をランランと輝かせながら身を乗りだしてきた。
「そりゃぁ、もち、オンナっしょ。それが、すっごいのよ、その先生。めちゃ
派手でねぇ。ね、カオ?」
同意を求めるようにカオリに向く。
「そうそう、てか。マジ派手だよねぇ〜。あれで、教師なんてありえなくない?」
「へぇぇ。そうなんだ、見たかったな。」
「なに言ってんの、次の授業なんだから、見れるでしょ!・・・それよりアンタ、
たまには、ホームルームの前に来なさいよ!・・・たく、毎日毎日遅刻ばっかし
てぇぇ・・・」
圭ちゃんの目がドンドン釣りあがる。
だから、お願いだからやめて。
夢に出てくるんだってばぁ・・・。
「・・・・だって、昨日、遅かったし・・・・・」
「そんな時間まで、なにしてたのよ!・・・・アンタ、また・・・・・」
毎朝恒例ともなった(オイラにはありがたくない)儀式が始まった。
傍観者の二人は愉しそうにニタニタと見ている。
てか、助けろい!
あぁ、これが始まると長いんだよなぁ。
先生よりもおっかない。
圭ちゃんは、とてもいい子なんだけど、説教魔なところがあるのが、たまにきず。
そりゃぁ、言いたいことも分かるし、心配してくれんのはうれしいけど・・。
でも、オイラにもオイラなりの生活もあるわけで。
「あんまり口だして欲しくない」なんて言ったら。
どんな落雷が落ちてくるのか分からないから、言わないけどね・・・。
縋るように、なっちを見つめた。
もう、はやく、なんとかしてください。
- 277 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 13:14
- 彼女は悪戯っぽい眼差しを浮かべながら、アイコンタクトしてくる。
あー、はいはい。
ジュースでもなんでも奢りますから、早くして、お願い。
「まぁまぁ、お二人とも。ほら、コアラのマーチでも食べてね。はい、圭ちゃん
にも、お一つどーぞ。・・・・って、あれ圭ちゃん、ちょっと小じわが増えたん
じゃないかい?・・うわっ、やばいっしょ。・・朝からカリカリしてるから。
ほら、糖分とってね・・・」
「はい」と、圭ちゃんの手のひらの上に置かれたコアラが二匹。
彼女はそれをみながら、ぐったりと肩を落とした。
真ん中に寄っていた眉根が元に戻る。
なっちのおばちゃんのような気の抜けた助け舟に、みんなが同時に息を吐いた。
「ねぇ、カオ。コアラのマーチって、なにが出るとあたりなんだっけぇ?」
こうゆうとき、天然の親友をありがたく思う。
場がなんとなく、静まり返った。
隣の席では、やはり新任の先生の話で盛り上がっていた。
聞くともなしに耳に入ってくる声。
「でも、ちょっと怖そうな感じだよねぇ・・・・」
「そうかなぁ。大阪弁だからじゃない?」
「えぇ〜、格好いいよう!・・・早く、逢いた〜い!!」
関西弁を話す先生だと聞いても、それを、驚く様子はない。
いや確かに、フツウの学校ならば、それは、多少衝撃的なことなのかもしれない
けど。
でも、ウチの高校は、なぜか関西出身の先生が半数以上を占めていたから。
そう、大阪弁の授業にも、慣れっこってわけだ。
- 278 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 13:23
- 彼女たちの話をなんとなく耳に止めながら、もう一度コアラのマーチに右手を
伸ばしかけたとき、それに気づいて、耳たぶが熱くなった。
「・・・・・・ぁっ。・・・・」
「・・・ん??」
オイラのちいさな呟きを聞きとめた圭ちゃんが、話を中断して顔を覗き込んでくる。
「ヤグチ?・・・・どうかした??」
「・・・・いや、別に。あ、ねぇ、誰かさぁ、リムーバー持ってない?」
3人の視線が、一斉にオイラの手に止まる。
そして、一様に首を傾げるんだ。
「・・・・・・・・・ねぇ、ヤグチ、なんで、片手だけなの・・・?」
言葉にしたのは、カオ。
オイラは、アワアワしながら、瞳をキョロキョロさせた。
別に、本当の理由なんて気づかれるはずもないのにね・・・。
「いやぁ、途中で、無くなっちゃってぇ。・・・・あはははっは・・・」
乾いた笑い声が教室に響く。
じっと見つめられて、口を開いたまま固まった。
「・・・・ふ〜ん。・・・・・てか、それさ、無くなる前に気づかないもん?」
なっちに言われて、さっきも同じようなやりとりをしたのを思いだした。
桜の木の下で・・・・・・。
- 279 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 13:32
- ◇ ◇ ◇ ◇
HONDA-CB400F
エンジンを切ったバイクはそこはかとなく、油のこげたような匂いがしていた。
「・・・っ、と。ありがと、ね。」
ピョンと飛び降りながら、スカートのプリーツを直していると、彼女は、ニカッ
と微笑んで、アタシを見下ろした。
脱色しすぎて、ウソみたいな色をしている。
ご自慢のクルクルパーマが少し歪んで、あぁ、この髪とこの顔じゃ、制服姿が
ひどく似合わないのも頷けるよ。
だって、このまま、お水のドアを開けそうじゃない。
そのほうがシックリするなんて、口が裂けても言えないけど、みんな思っている
ところだ。
彼女は、3年生。一つ先輩だった。
いや、確か、去年も3年生だったような気も・・・そしたら、来年は同級生??
このロングスカートも、彼女のお下がり。
そんな失礼なことを想像している後輩とも露知らず、彼女は笑いながら問いかけてくる。
「ヤグチ、今日はどうする??」
「あぁ、うん。どうしよっかなぁ・・・」
- 280 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 13:42
- エンジンの切ったバイクを木陰に移動させながら、アタシは二人分のかばんを
持ってその後を追う。
鳥の羽のように改造されたバイクは、桜並木には不釣合いで。
夜の街が似合うのは、彼女と一緒だな、と思った。
「それより、こないだの件は、考えてくれた・・?」
「・・・・う〜〜ん。」
「ふっ、なんだよ、気のない返事だなぁ。頼むよ。みんなもアンタならって、
言ってんだ。アタシもアンタしかいないって思ってる。」
「・・・・・・。」
「マスコットのいない族なんて、ハクにかけるしさ。・・・な、頼む。ちゃんと、
考えてよ、ヤグチ・・・。」
「・・・・で、でもぉぉ・・」
彼女はこうみえて、暴走族のリーダーなんかをしている。(いや、立派にみえるけどね)
湾岸線を拠点にしたレディースチーム、名前はなんだっけなぁ・・。
東京のほかに、千葉と茨城に支部を持っていた。
その数は、ざっと、200人を超えるっていうから驚きだ。
その統括のリーダーが彼女、斉藤さんで、ホントはものすごい人なのかもしれない。
リーダーじゃなくて、総長―ヘッド、っていうんだっけ。
でも、仲間内からは、“ボス”って呼ばれていた。そのほうがあってる。
- 281 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 13:50
- 夜の街をブラついていたときに、声を掛けられたのがきっかけだった。
もちろんそのときは、族の人だなんて思わなかったし、高校のセンパイだとも
気づかなかったんだけど・・。
内心、かつあげでもされるのかって、チョーびびってたアタシに、彼女は口元を
歪めながら・・・。
『おい、乗りなよ!この辺は物騒だよ・・・・んな、格好で、うろついてん
なって!!』
よっぽど物騒な人に、声を掛けられて、つい笑ってしまった。
バリバリのヤンキーなんだけど、実は気のいいネエちゃんで。だからこうして、
お願いすると、学校まで送ってくれたりするんだ。
こんなこと知ったら、みんなビックリすんだろうなぁ。
総長、直々のお出迎えなんてさ。
初めて、バイクに乗せてもらった。
それが、思いのほか爽快で、オイラはすぐに虜になった。
ホントは自分で運転したいんだけど、どう考えてもオイラの短い足じゃ届かない
と思うし、かと言って、原チャリじゃ、迫力に欠ける。
だから、むしゃくしゃするときとか、彼女の後ろに乗せてもらっていた。
- 282 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 14:02
- 「集会」っていうのにも、なんどか連れてってもらった。
彼女と出会わなかったら、こんな世界があるなんて知らなかった。
抗争、乱闘。
パトカーのサイリューム。
マフラーを吹かす、爆裂音が夜の街を響かせる。
学校では味わえない刺激的な世界。
何台も連なるテールランプをみながら、すごくワクワクした。
たぶん、オイラは、こっち側の人間なんだ、って、そのとき思った。
汚い言葉使いにも、やさしさが帯びていて。
仲間を大切にする。義理と人情を重んじるなんて、ヤクザの世界みたいだよね。
ときどきしか顔をださないアタシにも、みんな、とてもよくしてくれた。
斉藤さんがいなくても、しゃべれる友達もできた。
でも、こないだ、「マスコットにならないか」って誘われて。
アタシは、困っている。
- 283 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 14:09
- 『マスコット』っていうのは、そのまんまの意味。
暴走族のアイドル的存在のひとのことらしい。(なんじゃそりゃ)
詳しくはよく知らないんだけど、華を添えるために必要なんだって。
別に喧嘩するわけでもなく、バイクに乗らなければいけないわけでもない。
ただ、そこにいればいい。
「マスコットは、チームの看板。ヤグチがマスコットだったら、ウチらも鼻が高い
しよ。」
そうまで言われてうれしくないはずがない。
ちやほやされるのは、キライじゃないし、むしろ、スキだ。
でも、別に族に入ったってわけじゃないのにそんなの・・・・・。
ウンウンと唸ってみせると、彼女は、やさしく乱れた髪を梳きながら・・・。
「・・・・だったらさ、アタシだけのマスコットになって、くれない?」
- 284 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 14:19
- 一瞬、なにを言われたのかと、睫毛をパチパチする。
「・・・へっ??」
「アタシさ、アンタのことずっとかわいいと思ってたんだ。なぁ、アタシだけの
マスコットになってよ。アタシのオンナになってくんない・・・・?」
「・・・えっ、えぇーー、な、なに、急に、な、なんで・・・?」
って、これって正真正銘のアイの告白ってやつじゃんか!
オイラの脳みそは、クラッシュ寸前。
告られんのなんて、別に、初めてってわけじゃないけど、でもさすがにオンナのひと
からって、経験はない。
てか、あの斉藤さんが・・・・、って、そっちのほうが驚きだい。
その思いがすべて顔に出てしまっていたのか、彼女は目を細めながら、不敵に笑う。
「なんで、そんなに驚くかなぁ。アタシの気持ちに、気づいてなかった・・・?」
「ぜんぜんっ!!」
激しく首を振る。
だって、そんなの・・・。
いつも、背筋が凍るくらいおっかないのに、どうしてオイラの前だけは、やさし
い声に変わるんだろうとか、それは、思っていたけど。
甘やかされるのは、仔犬や子猫を可愛がるのと一緒だと思ってた。
まさか、そんな・・・・・。
- 285 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 14:32
- 「あのさぁ・・。このアタシがなんの意味なく毎日、送り迎えなんかすると思う
かぁ?・・・てっきり、気づいていると思ってたよ。・・・・ま、いいや。
そういうことだからさ、改めて、ヤグチ、アタシのオンナになってよ・・・?」
強風で、流されそうになっていた言葉をもう一度、アタマのなかに呼び寄せて。
ゆっくりと咀嚼しながら、それでも聞かずにはいられないこと。
「・・・・・・・斉藤さん、女の子がスキなの・・?」
恐る恐るそう、尋ねてみると。
彼女は、唇を歪ませながら、「そうだ」と、首を傾けた。
「アタシは、昔からスキになるのは女の子だけだよ。・・・ったく、そんなに、
驚くなって!・・・・それに、ヤグチだってさ・・・・・・」
途中で「ハッ」と、顔を顰める彼女の消えた言葉の先を探って、アタシのちいさな
胸はシクシクと痛んだ。
こうして、たびたび思いだす。
あの人との、想い出は色あせることはない。
あれから、どれくらいの年月を重ねていようと・・・。
アタシの記憶に残る、あの人の姿、声。
もう、おぼろげになりつつも、決して、忘れることはない。
「まだだめか?・・・・アタシがその人のこと忘れさせてあげる、なんて、格好
いいこと、言ってみたいんだけど、な?」
「・・・・・・・・ごめん、無理だよぉ・・・」
アタシをアタシに変えてくれた人。
彼女に出会って、生きることが苦しいことじゃなくなった。
いま、アタシがこうして息をしているのは、あの人のおかげなんだ。
「ごめん。ごめんね。」
- 286 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 14:41
- 誰かをスキになれたら、楽なのかもとトキドキ思う。
アナタをスキになれたら・・・。
そこいら辺のオトコの人よりも強くって。
自慢にならない武勇伝をいくつも持っている。
白い特攻服がこんなに似合う人はいないってくらい様になってて。
みんなに慕われている彼女は、素敵だなって思うんだ。
めちゃくちゃ怖くて警察官も逃げ出すような彼女なのに、オイラにだけはとびきり
やさしくて。
ゆりかもめと競争して、競り勝ったときの得意げな顔とか、結構、可愛いなって
思うけど・・。
でも、ダメなんだ。
もう、恋はしないって決めたの。
彼女に、あの人に、一生分の恋心を、使いきってしまったから。
「・・・・そっか。ごめんな急にこんなこと言って。ヤグチ、泣くなよ・・・」
「・・・・っ、ひっ、・・ごめ、ごめんね・・・っく・・」
「謝らなくていいから、泣くな。・・・・でも、初めてみたな、アンタが泣くとこ。
・・・・・そんなにスキなんだ、そいつのこと?」
「・・・っ、わかっんないよぉ・・でも、ダメなの。オイラはあの人じゃなきゃ
いけないんだと、思う・・・・」
嗚咽に詰まりながら、切れ切れにそう言うと。
彼女は、深い溜息をついた。
- 287 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 14:48
- 「あぁ、残念。アタシだって、結構、お買い得だと思うけどな。・・・アンタを
一生一人にしとくのなんて、もったいないよ。」
「・・・・・っ、う・・く・・・」
「でも、ま、いいか。誰のものにもならないってことだもんな。・・にしても、
そんなにいい女なのか、そいつ?」
フワリと抱きこめられて、少しきつめの香水が鼻をくすぐった。
頬にあたる胸の感触がやさしくて、思わず身をゆだねたくなっちゃう。
コクンと首を動かした。
すっごい、いい女だよ。
きっと、今は、もっといい女になってると思う。
彼女は、アタシをきつく抱きしめながら。
「一度逢ってみたいな。そのひとに・・・・」
そう言って、あの人がしたみたいに、髪をくしゃくしゃと混ぜた。
- 288 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 14:57
- ごめん。ごめんなさい。
思いに応えてあげられなくて。
でもね、オイラは、ホントはヒドイやつなんだよ。
いまこうして抱きしめてくれるのが、あの人だったらヨカッタのにって、お腹の
なかで考えているんだ。
だから、アナタには相応しくないの。
「んじゃ、行くか、遅刻するから!!」
とっくに日があがっている時間帯なのに、そう言って、ノートのひとつも入って
いなさそうな自分のかばんを、「ひょい」と、取られた。
アタシは、濡れた目をこすって、彼女のあとを追う。
慣れた仕草で、裏門を飛び越えると、地面が少しぬかるんでいて。
今朝方、また、雨が降ったらしい。
この時期は、雨が降ったり止んだり。やたらとジメジメしていて、海風がないと
やっていられない蒸し暑さだ。
草木が雨露に濡れて光っていた。
でももうすぐ、うっとおしい梅雨の時期も終わる。
そしたら、オイラの大好きな夏休みだ。
「なぁ、さっきから気になってたんだけど、その爪さ・・・・・・・・」
「・・・・へっ?」
彼女の視線を追って、オイラは、「ギュっ」と、唇を噛む。
- 289 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 15:06
- 「アンタは、この色より、ピンク系のほうが似合うと思うけどね・・・?」
「・・・・・・・。」
黒いマニュキュアをした人がそう言うと、アタシの顔はみるみるうちに赤く
なった。
真っ赤なネイル。
これをするには、わけがある。
彼女は、そのことを知らない。
初めて買ったのは、2年前のクリスマスの日だった。
あれから、何回、買っただろう。
その空き瓶が、アタシとあの人との年月ーー。
「・・・ていうか、なんで、片手だけなんだ・・?」
キーンコーンカーンコーーン。
彼女の問いかけに、けたたましいくらいのチャイムが重なる。
アタシは、ゆっくりと空を見上げた。
雨が明けたばかりの空は、青い絵の具を一滴落としたように、青々としていて。
ゆったりと流れていく雲を見つめながら、あの人の顔を思い浮かべてみた。
逢いたい。
逢いたい。
逢いたいよ・・。
「・・・・・ほんとだ。確かに、似合わないや・・・・・」
- 290 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 15:12
- ◇ ◇ ◇ ◇
キーンコーンカーンコーン。
チャイムの音とともに。
廊下から、コツコツとヒールを刻む音が聞こえてきた。
その音は、2−Cの扉の前でピタリと消える。
ザワザワしていた教室が、一瞬にして「シーン」と静まり返った。
ガラリと勢いよく扉を開けて入ってきた人に。
オイラの心臓は、確かにそのとき、一時停止した。
ウソ・・・・。
アタシが、いま、アタマの中で思い浮かべていた人。
おぼろげだった記憶が、一瞬にして、フラッシュバックする。
「おら、なにしてんねん、はよ、席、付けや。チャイムなってるでぇ〜!!!」
- 291 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/03/23(火) 15:17
-
ーーー「んじゃ、なんのせんせいに見える?」
ーーー「ふふっ。なぁ、帰らんでよぉ・・・」
ーーー「・・・あんまり、がんばりなや?」
ーーー「分かった・・もう、噛まないから、ベロだしてみて・・」
ーーー「ほら、泣いたらダメやよ、また、襲いたくなるやん!」
ーーー「今度、偶然逢ったら、恋愛しようや。アタシと、アンタで。」
ーーー「そしたらさ、ゆうちゃんって、ゆうちゃんって呼んでよ・・・?」
「・・・・・・っ、・・・ゆ、・・ゆう、ちゃ・・・・・。」
そこに、あの人がいた。−−−
- 292 名前:kai 投稿日:2004/03/23(火) 15:20
- 今日の更新は、以上です。
もっと定期的にいきたいんですけど、仕事が不規則なんで、なかなか思い通り
に出来なくて、早いときは早いと思うので、チェックしていただけたら幸いです。
- 293 名前:kai 投稿日:2004/03/23(火) 15:23
- えっと、新キャラの斉藤さんは、メロンの斉藤さん。(苦笑)
初めて使ってみましたが、よく知らない人なので、こんなしゃべりかたしない
よなとも思うのですが、いや、族の人の設定なので、こんな感じにしてしまいました。(w
斉×矢ってのも、なかなかなさそうでおもしろそうかなとか。
今後も、登場させる予定でーす。
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 15:23
- ついについに!!ですね。
リアルタイムで読ませていただきました。
大量更新嬉しいです。
またーりでいいので、続きに期待してます。
- 295 名前:kai 投稿日:2004/03/23(火) 15:25
- ちょっと、お仕事の時間が迫ってしまいましたので、レス返しは、夜にでも。
一応、上げとこ。(w
- 296 名前:マコト 投稿日:2004/03/23(火) 20:54
- kaiさんあなたは自分が斉藤さん(ていうかメロン)好きって知っててやってるんすか?!
もう嬉しいじゃないですかぁ〜(w
中澤さんも出てきたし、これからどうなるか楽しみです。
また見に来ます!
- 297 名前:kai 投稿日:2004/03/23(火) 21:08
- レスありがとうございまーす。
>マコトさん・・>もしよかったら中澤さんの心境をちょこっとでいいんで書いて
ください。
ヤグチの一人称なので、そうですよねぇ。確かに・・。
でも、これからは、中澤視点もちょこちょこ織り交ぜたいと思いますので。(w
それで、いいでしょうか?(w
三人称は、力量がないので書けないの・・。(おい
>262さん・・いつもアホめなものばかりなので。
こうゆうのもたまにはいいかなとか、思ったりして。(w
>案外、結婚しちゃったほうが現実っぽくていいかもしれないね。
そうですね。
過去の設定ですし、いる人を使うよりはいいのかな。
でも、読者さんが感情移入できなかったら・・・とか心配しましたが、それも、
作者の力量次第か・・・・。(汗
>ゆちぃさん・・うれしいお言葉、感激です。
ホント、書いている甲斐があるってもんで、まだまだ、がんばるゾー!!
ひなまつりから、だいぶ経っちゃいました。ごめんなさい。(ぺこ)
- 298 名前:kai 投稿日:2004/03/23(火) 21:17
- >264さん・・学園ストーリーはこんな出だしで。(w
お気に召されたらうれしいですが。他のカップリングも組ませたい
と思っていますので、そちらもお楽しみに。(w
>265さん・・>痛いエロですねw
ただ絡んでいるってゆうのも書いてて愉しいんですが、内容がない
のはイヤなので。
エロは、もう、今回もバンバン書かせていただきますw
・・・ってこれ、自分が愉しんでるだけ・・・?(ちょっと心配)
>266さん・・早速読んでいただいてありがとーございます。
内容がいかがなもんかと思っていたので、少し、ホッとしました。
だるだけ早めにがんばりますので、チェックしてやってくださいね。
- 299 名前:kai 投稿日:2004/03/23(火) 21:26
- いつも以上にスローペースですが、放置とかはありえないので。
気長に待っていただければうれしいですw
いま、改めて読み返してみたのですが、相変わらずというか、今回は
とくに誤字脱字が多くて、もう・・・。(汗
すみませんです。読みにくいでしょうが、いつものように、ニュア
ンスでサラっといっていただけたらな、と。(W
気をつけてはいるつもりなんですけどねぇ〜。(言い訳
感想とかいただけたら、忙しくてもはりきっちゃうかと思います。(w
それでは・・・。
- 300 名前:kai 投稿日:2004/03/23(火) 22:16
- さっそくの訂正。>舌の根もかわかぬうちにw
レス返しの、>266さん向けに書いたものは、>294さんへのお返事でした。
そして、改めまして>266さん・・失礼しました。(ぺこ
大変遅くなりまして・・。でも、待っていただけると思うとすごくホッとします。
長いだけに、途中で読んでもらえなくなるのは、寂しいですからねぇ・・・。
結構、小心者なもので、催促していただけるほうがうれしいし、力にもなります。
いや、書けるかどうかは別としてね。(ヲい)
姐さんの初主演に向けて、こっちもはりきってがんばりたいなー!
てか、お昼のとか言ってたから、愛憎のぐちゃぐちゃを期待してたんだけどw
コメディーなんですね。
ちょっと、残念。でも、めちゃ楽しみww
- 301 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/03/23(火) 23:13
- 更新おつかれさまです♪
ついに本編開始ですか〜〜。
どうつながるのか全く読めなかったので、ちょっとびっくりしました。
さて、出会っちゃってどーなるのぉ〜〜??ってかんじです(笑
裕ちゃんの初主演は本当にめでたいっ!!!それから新曲も。
サイコーですねvvv
- 302 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/24(水) 00:21
- 何年も想い続けて……一途っすね矢口さん。
そしてまた、いい所で終わってるw
登場人物も増えて岡女編も面白そうです。
- 303 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/24(水) 23:24
- 裕ちゃんの反応がきになる。つ、つづきを…
- 304 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 16:39
- 『強く願えば、想いはきっと叶う。』
小さいころの夢は、歌手になること。
いくつかのオーデションも受けたし、街でスカウトされたこともあった。
あれは、小学5年生のとき。
自分から志願して応募した、ミュージカル『アニー』のオーデション。
一生懸命練習したし、気合を入れてがんばった。
そして、自信満々だった合格発表――
いつまでも、オイラの名前が、呼ばれることはなかった・・。
『あぁ、努力が報われないのはこういうことなんだ・・・・』
悔しくて、悲しくて、その場に崩れて大泣きしてしまったオイラの
肩を抱きながら、お母さんが云ったんだ。
「・・・真里、夢はね、強く願えば必ず叶うのよ。その想いが強ければ
強いほど、いつかきっと、ね・・・・」
そのときは、落ちたことがショックで、お母さんの言葉の意味をちゃん
と理解することが出来なかった。
どうして? なんでなの? がんばったのに・・。
小学5年生の挫折。
順風満帆に育ったオイラに取って、それは、思いのほか大きなココロの
痛手となっていた。
あれからいつも、気持ちが後ろ向きだった気がする。
- 305 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 16:42
- いま、あのときのお母さんの言葉を思い出している。
お母さんは、
「夢は、あきらめちゃいけない」
そう、教えたかったんだよね?
ごめんね、お母さん。オイラね、いまごろになって判ったよ。
『強く願えば、想いはきっと叶う。』
それは、ほんとうだった。―――
- 306 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 16:53
- ◇ ◇ ◇ ◇
窓から差し込む木漏れ日を受けながら。
視線は、教壇に立つひとに向かって、まっすぐに伸びていた。――
少し、ウェーブのかかった茶色い髪の毛。
白い肢体に、明るい水色のスーツがよく似合っている。
いちばん後ろの席なのに、爪の先まで見えるよ。
今日は、ローズピンク。
リップとおんなじ色だ。
「ほら、授業始めるでぇ。はよう、席に着けやぁ〜〜!!!」
パンパンと手を叩きながら。
よく通る声が、後ろの壁までビンビンに響き渡った。
・・・あぁ、声も、変わらない。
笑い方がスキだった。
いつも、きまって思い出すのは、あの笑顔だった。
キレイな眉間に皺を寄せて、きつめの印象だった目元が、ふにゃんと
下がるの。
彼女が笑うと、コドモみたいにみえるんだ。
でも、こんなに綺麗だったかなぁ・・。
あ、そっか、・・・あのときは、お化粧していなかったから。
2年の年齢を重ねても、ますます綺麗になっていた。
見蕩れずには、いられないよ。
- 307 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 17:05
- 「ちゅーか、なんやねんなこの匂いは・・・。アンタらおかしばっか
喰うとったら、すぐにブタになりよるでぇ〜♪」
初対面のご挨拶に、こんな失礼なこと言うの、アナタくらいだ。
言葉はきついけど、彼女が言うとやさしく聞こえる。
それは、京都の血がはいっているからだ、と、ベットの中で教えて
くれたね。
ひとつひとつの仕草を思い出している。
チョークを持つ白い指先。
水色の袖から僅かに覗いた、薔薇の紋章。
教室が、ザワザワと波たった。
黒板に、大きく書かれた『中澤裕子』の文字に思わず苦笑する。
そっか、裕子ちゃんの、ゆうちゃんだったのか。
こんな形で、フルネームを知ろうとは・・・・。
なんどもなんども瞬きしては、その顔を見つめた。
今日はすごく逢いたくなっちゃったから。
幻想でもみているのかなぁ。
起きたら、“なんだ、夢かよぅ!”なんてオチ、笑えないよ。
ギューって頬を抓ってみたけど、痛いんだか痛くないんだかよく分か
らなかった。
「ええーと、朝もしましたが、もう一度自己紹介します。このたび、
一、二年生の数学教科と、このクラスの副担任をすることになりました
中澤裕子です。・・あ、中澤の“澤”は、こっちのやから、ちゃんと覚え
てな。・・・・よく、間違えられるねんっ!」
白いチョークでコンコンと指しながら、溜息と一緒に零れたぼやきに。
「は〜〜い!」と、どこからともなく黄色い声が上がった。
彼女は、眉根を寄せながら、微苦笑する。
- 308 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 17:18
- 「うわっ、しっかし、見事にオンナばっかりやんなぁ・・壮絶やわー。
んま、それもそのうち慣れるやろ。・・・あ、ほいで、この言葉な、
分からんこともあるかもしれへんけど、分からんときは、分からんって
遠慮なく言うてなぁ〜・・・?」
「中澤せんせい、だいじょうぶですよ、そんなのみんな慣れてるから、
ねぇ?」
カオリが立ち上がって、同意を求めるようにクラスメートを見た。
みんなが、コクコクと頷いてみせる。
彼女もつられるように、破顔した。
「・・フッ。せやった。確かに職員室おったら、ここが東京やって
こと忘れるわぁ。・・・ほいで、アンタがクラス委員の飯田さんやっ
たよな。・・・・よろしくぅ〜♪」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ペコリとお辞儀すると、窓から入った日差しにキラリとピアスが反射した。
そして、オイラは「あっ」と、息を呑む。
あのときしていたのと同じピアスだった。
そして、ようやく確信する。
やっぱり、正真正銘の“ゆうちゃん”なんだ・・・。
ぶわっと、涙が溢れてきた。
ドクドクと心臓が早撃ちする。
今朝、食べたものが、口から出ちゃいそうになって、慌てて口を紡いだ。
- 309 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 17:27
- 「そいじゃぁ、みんなの顔、早く覚えたいから名前呼んだら立って
返事してください。・・・一番からやな、安倍なつみぃ・・。」
「・・はぁい」
名簿を見ながら、視線を這わす。
前の席のなっちが、ガラガラと椅子を引いて立ち上がった。
オイラは、ビクンと跳ね上がる。
彼女は何事もなかったように、次の名前を呼んだ。
「・・・飯田圭織ぃ・・」
「はい・・。」
次々に呼ばれていくのに。
それに、比例するかのように、オイラの動悸も激しくなって。
だって、このままいってしまえば、間違いなく自分の存在を知られて
しまう。
僅かに芽生える「怖い」という、感情。
彼女は、どういう反応するのだろうか。
忘れていたら、どうしよう。
だって、あれから随分経っている・・。
怖い、怖い。
アタマのなかがドンドン悪いほう悪いほうへと陥って。
机の下で、震えの止まらない両手をギュと、抱きあわせた。
「・・前田有紀ぃ・・」
「はい・・。」
- 310 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 17:38
- ・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
それでも、時間は、止まってはくれなかった。
とうとうだ、・・・と、唇を噛む。
ギュっと握り締めていたハンカチが、汗と力でグチャグチャになっていた。
でもどこか、楽しみと思う自分もいて。
アタシは、瞬きをするのも忘れるくらい、次に自分の名前を紡ぐで
あろう、その形のいい唇を、じっと見つめていた。
名簿を追っていた青い瞳が、一瞬止まったように思えた。
それから、「ゴクリ」と唾を飲み込む音まで聞こえた気がした。
「・・・や、・・・・・・・・・やぐち、まり?」
十分の間を置いてから、おそるおそるといった感じに顔をあげる人に。
覚悟を決めて、それでもゆっくりと、椅子を引く。
「・・・・・・・・はい。」
正面を見据えながら、か細い声がでた。
すると、窓際の最奥の存在を見咎めた細いカラダが硬直したのが、判った。
信じられないものを見るかのように、長い睫毛が忙しなく瞬きを始める。
口が、半開きのまま固まって。
- 311 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 17:51
- お互いの顔を、じっと見つめあう。
彼女の瞳の中に、彼女を見つめるアタシの顔が映っていた。
そして、アタシの瞳の中にも、驚く彼女の顔が映っているはずだ。
「やぐち」と、ちいさく紡いだ口の動きを見逃さない。
涙がこみ上げてくる。
ちゃんと覚えててくれたのが、うれしくて。
ゆうちゃんに、もう一度出会えたことが、うれしくて。
ふたりの視界の中には、誰も入ることはできない。
そこだけ、時間が止まっちゃったかのように。
静寂の中、ただ、お互いの顔をじっと、見つめあっていた。
「せんせー?・・あの、せんせい??・・せんせいってば、どうし
たんですか〜?」
次の出番を待つ圭ちゃんの声に、ふたりの肩が同時に上がった。
慌てて、髪をかきあげる彼女。
「んあっ、あぁ、悪い悪い。ちっちゃくて、見えへんかったからさぁ・・」
「あはっ、ひどーいっ!!」
彼女の軽口にみんながどっと笑う。
なっちが、後ろを振り返りながら、「ひどいよね、せんせ」っと言って
きても、なにも言葉に出せなくて。オイラは、引きつる笑みを浮かべた
まま、零れ落ちそうな涙を堪えるのに、必死に戦っていた。
力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになる。
胸が、熱くて、ひどく苦しい。
だけど、この痛みは、しあわせの痛み、だから・・・・。
諦めなくてよかった。
信じていてよかった。
逢えた。
逢えた。
逢えたんだ。
もう一度、アナタに・・・・。
- 312 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 17:59
- ◇ ◇ ◇ ◇
クリスマスのあの日から、一度だけ、あのホテルに行ったことがある。
どうしてもゆうちゃんに逢いたくなって。
気持ちを抑えられなかった。
アタシとあの人を結ぶものは、あのホテルだけだったから・・・。
だけど、あたりまえだけど、そこにアナタの姿はなくて。
ホテルの人にどんなにお願いしても、名前すら、学校すら知り得ること
はできなかった。
すっごい後悔したよ。
ちゃんと、気持ちを伝えておかなかったことを。
どうして、あのとき、もっと泣いて縋らなかったのか、って。
なんで、メルアドのひとつも交換しなかったのか、って。
過ぎてしまった時間は、二度と取り戻すことは出来ないんだ。
あとで、後悔しても遅いんだ、と、あの日、身をもって知った。
いま、目の前で教科書を読み上げているひとに、気持ちがふわふわしていた。
まだ、どこか信じられていない。
数式を唱える滑らかな声が、耳の奥をやさしく擽って。
ベットの中で聞いた、甘い声を思い出してみた。
- 313 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 18:05
- 授業が終わったら、話に行こう。
まずは、なんて言おうかな。
ひさしぶりだね、とか。
元気だった?・・なんて、ありきたりか。
それから、アナタに逢えなかった時間、どうやって過ごしてきたかを
伝えたい。
アナタを忘れたことなんて、なかった。
いつも、アナタのことばかり想っていた。
そうだよ、あのときの、誤解も解かなくちゃ。
・・・・・そして、今度こそ、ちゃんと、「好きだ」と告白しよう。
――好き。
たとえ、ずっと逢っていなくたって、「好き」だと云える。
だっていま、なにげなくするアナタの仕草にココロが踊っているから。
アナタが微笑みかけるクラスメートに嫉妬している自分がいるもん。
だから、これは、恋なんだと胸を張って言えちゃうんだ。
- 314 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 18:17
- なのに、時間が経つにつれて、不安な気持ちがドンドン大きくなっていく。
彼女が動揺を見せたのは、名前を呼んだあの時だけだ。
いまは、卒なく授業をこなしている。ときどき冗談を交えながら・・・
あれから一度も目が合うことはなかった。
アタシは、ずっと、アナタばかりを見ているというのに。
こんなに不自然に視線が絡み合わないのは、彼女がそれを拒否している
からだと、否応なく思い知らされる。
そう思うと、ココロが張り裂けそうに痛くなって。
そして、「ハッ」と気づくんだ。
いままでは、自分の感情ばかりだった。
自分がうれしいんだから、彼女もそうなんだろう、って。
オイラがこんなに逢いたがっていたのだから、彼女もそうだろうと。
だけど、ゆうちゃんがオイラのことをどう思っていたのかなんて、
ホントのところは判らないよ。
アタシタチが、あの日犯したのは、紛れもなく犯罪行為だ。
だから、彼女があれは一時の過ちだった、と後悔していても
おかしくはない。
レズビアンじゃない人が、女の子を抱いたなんて、早く忘れたいことなの
かもしれないし・・。
そう予感するには、大きな心当たりがあった。
それは、彼女が教師だということと。
アタシが、生徒だということ。
紛れもない事実。
ロマンチックな幻想をいつまでも抱いていたのは、アタシだけだった
かもしれないじゃんか・・・。
- 315 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 18:28
- 「・・・はい。ちょっと早いけど、今日はここまでにします。判らん
とこあったら、遠慮なく聞きにきてな!」
「は〜い」
号令の後、彼女はやはり一度もオイラを見ずに教室を後にした。
オイラは、唇を噛み締めながら、汗でびちょびちょになった手を
きつく握り締める。
どうしよう。
どうしよう。
真実を知るのは、やっぱり怖いよ。
いままで夢みてきた淡い恋心を踏みにじられる想いだけは、絶対に
したくない。
あの凍えた雪の日。
体中の水分がすべてなくなるくらい、泣いて泣いて泣いた。
目が壊れちゃうかと思った。
このまま、雪の中で凍死しちゃいたいなんてそんなふうに思って。
辛かった。苦しかった。
目を瞑ると、あの日のことが鮮明に蘇ってくる。
あんな思いするのは、もうイヤだ。
このまま、先生と生徒の関係でもいいじゃないか。
それに、あんなに綺麗なんだから、彼氏の一人や二人いるかもしれないし。
「・・・・・・・・・・。」
・・・・いやだ。
ゆうちゃんは、ヤグチのものだ。
この機会を逃したら、もう二度と聞けないような気がする。
このままうやむやになんか、したくない。
でも、どうしよう。どうしたらいい。
- 316 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 18:35
- ふと、「運命」という文字が脳裏に浮かんできた。
彼女にもう一度出逢えたことがまぎれもなく運命だ。
あの日彼女は確かに言った。
『・・・・・二人がこうして出会えたのは運命かもしれへんな・・・』
「・・・ヤグチ、なっちね、今日はイチゴ牛乳にする。・・・・って、
あれっ、ヤグチっ、どこ行くの、いちご〜〜〜〜〜っ!!!!!」
バターン。
勢いよく立ち上がったせいで、椅子が倒れたのが判った。
気にせず、白い扉に向かって突き進む。
ガラリと開くと、そこは、静寂だった。
隣のクラスから、英文を繰り返す声が聞こえてきた。
まだ、チャイムはなっていない。
5分も早く終えたのは・・・・・。
都合のいい解釈だけど、そう思わずにはいられなかった。
- 317 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 21:48
- でも、やはりそこに彼女の姿はなかった。
また、ちいさく芽生え始める不安な気持ち。
だけど、ブルブルと首を振って一蹴した。
行き先は、分かっている。
別棟にある、職員室。
そこに行くには・・・・と、考えて。
「・・う、・・・そんなの、いっぱいあるじゃんか!・・あぁ、もう、
どっちだよぅ!!!」
広い校舎。
いくつもある階段。
焦る気持ちに、イライラとかかとを踏み鳴らす。
「後でもいいか・・・」
なんて、すぐに甘えた気持ちがよぎるけど、それも、首を振って遮った。
いま、逢いにいかなくちゃ。
いまじゃなきゃ、ダメなんだ。
ふと、窓から入る微風にのって、微かな香水の香りが鼻を掠めた。
それは、甘く、どこかスパイシーな香り。
「・・・・・・コレ・・」
あの人の匂いだ。
間違いない。ゆうちゃんだ。
縺れる足取りで、匂いのするほうへ駆け出した瞬間、なにかにぶつかって
よろける。
目を凝らすと。
階段の踊り場に、じっと佇むシルエット。
鮮やかな水色が、目の中に飛び込む。
風になびく茶色い髪の毛から、さっきの匂いが漂って。
彼女が、満面に笑みながら、「正解!」と、オイラのアタマをポンと叩いた。
目の前に、あの人が立っていた。
オイラを見ながら笑っているの。
なんどもなんども見た、あの笑顔で・・・。
- 318 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 22:00
- 「アンタ、ヤグチか・・・!!?」
クスリと笑みながら、くっきりとした二重瞼が覗き込んでくる。
「・・な、ヤグチやん。ヤグチや、ヤグチやろ、アタシのこと覚えてる?
ひさしぶりやな、ヤグチぃ〜♪」
「・・・・っ、・・っ・・・・」
「もう、さっきはビックリしたわぁ。なん、元気やったか?」
「・・っ、んっ。・・・っ、っ・・・・・」
矢継ぎ早に問いかけられて、嗚咽に詰まる。
声を出したら泣いちゃいそうで、だから口を噤んだまま、ウンウンと
頷いてみせた。
彼女が、アタシの名前を連呼する。
あの日、呼んでくれたようなやさしい声で。
風が、ふたりの間を通り抜けた。
焼け付く日差しが雲に隠れて、影を落とす。
「・・・・っゆ、・・ゆう、・・・んず、ゆうちゃ、なの・・?」
鼻水をすすりながら、そう問いかけると、彼女はクスリと笑みながら、
大きく頷いてみせた。
伝えたいことが、たくさんあった。
彼女にいちばんに逢ったら、こう言おうって、いつも想像している
のが愉しかった。
なにか、言おう言おうと思うのに、どれもこれも声にならなくて。
パクパクと魚のように口を開けたり閉じたりしているオイラを見ながら、
「・・鯉かい!」と、苦笑されるんだ。
- 319 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 22:09
- 「マリンちゃんは、矢口真里ちゃんの、マリンちゃんやったか・・。」
目を細めて、ツンツンとおでこを突付かれる。
懐かしい呼び名。そう呼ばれていた日のことを思い出す。
「それは、違うんだよ」と、否定の言葉を出せなくて。
口を一文字に結びながら、ただただ、じっと彼女を見上げていた。
「・・ひさしぶりやな。何年ぶりやろ・・・・・・・」
彼女は、なんども同じような言葉を繰り返しては、「信じられない」
と付け足して笑う。
「はぁぁ。・・・しっかし、アンタ、あんまり大きくなれへんかったな・・」
「・・っ、も、ひどいよっ!!」
「可哀相に」と髪を混ぜるから、オイラはその腕にパンチした。
ケラケラと愉しそうに笑ってる。
捕まえた腕。
やわらかい弾力は、あのころのまま。
この腕に包まれて眠った日のことを思い出した。
ずっとずっと、恋しかった。
この腕の中に、もう一度包まれたくて、なんども夢にみた。
もう、止まらないよ。
- 320 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 22:19
- 「・・・・・ゆっ、っ、ゆう、ちゃん・・?」
「・・ん?」
「・・・っく、あ、あの、あのね・・・・」
「うん?」
やさしいブルーの瞳が、顔を覗き込んできた。
「あ、あの、・・・っぐ、あい、あいた、あっ、あいたか、あいたた・・・」
「んもっ、なんやのぉ〜?」
嗚咽に詰まって、なかなか声にならない。
目からも鼻からも口からも、汁という汁がそこいらじゅうからあふれ出す。
こんなはずじゃなかった。
「久しぶりじゃん!」って片手をあげるくらい、クールにきめるつもり
だったのに。
こんなヘンテコな顔を晒すのは、予定外だ。
それでも、彼女が目の前にいることが信じられなくて・・・。
「フッ。相変わらず、泣き虫やなぁ、ヤグチは・・・。」
「・・・っく、だって、・・・ひぅ・・・・」
仕立てのいいスーツの袖で、涙を拭われてから。
ムギューと、鼻の頭を抓まれる。
「泣き方もぜんぜん変わってへん。ほらここ、真っ赤になってんで?」
チョークくさい指先が、チョンチョンと鼻のアタマを突付いた。
そうしてそのまま、両手で包まれると。
その温かい感触に、「ツー」と、新しい雫が零れ落ちる。
- 321 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 22:28
- 静寂に、オイラの乱れる呼吸の音がやけに大きく響いていた。
ポツポツと、雨音が聞こえてきて、すぐにザーという音に変わる。
この時期に多い、お天気雨だ。
きっと、すぐに止むのだろう。
視線を彼女から、窓へと移動させると。
「・・・・逢いたかったよ。・・」
「・・・・っ、うっ?」
耳を掠めたちいさな囁き。
慌てて視線を這わすと、ビー玉のように透き通った青い瞳が少し潤んで
みえた。
彼女が、ふわりと笑う。
「・・逢いたかった。ヤグチに、ずっと、ずっと、逢いたかったよ・・・」
「・・・っ、ひぅ・・・っ、・・・う・・ぅ・・」
言いたかったことを先に言われてしまって。
だけど、死ぬほどうれしくて。
オイラは、大粒の雨を彼女の手の上に降らせてしまった。
下唇を噛んで、痛みで止めようとしてもうまくいかなくて。
首をおおげさに振ってみたら、雫を飛散らせるだけだった。
- 322 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 22:37
- 微風が彼女の前髪を持ち上げる。
一歩一歩と近づいてくるのに、オイラは、壁際に追い詰められて。
長い爪先が、頬の上をやさしく辿る。
懐かしそうに目を細めながら、なんどもなんども往復させて。
そのまま、ゆっくり抱きこめられると、静かに瞼を落とした。
「・・・・・・やぐち。」
「・・・っ、ゆうちゃ・・」
彼女の唇が近づいてくるのに、濡れた睫毛が震える。
甘い香水に酔いしれて。
ザーザーと、雨粒が落ちる音を聞きながら・・・。
「・・・・・っ、・・」
唇が掠めた瞬間。
キーンコーーンカーンコーーーン。
けたたましいチャイムの音に、「バッ」とお互いの身をはがした。
いつのまにかタイムスリップしていたよ。
ここは、ホテルじゃなかった。学校だ。
いま、アタシタチは教師と生徒なのだ、と。
こんなところ、誰かに見られたらただ事じゃ済まないって。
- 323 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 22:49
- 甘い夢から一気に覚めて、現実に戻っていく。
間延びしたチャイムの音が、まだ、鼓膜に篭っていた。
まったく、間が悪いったらありゃしない・・・。
それは、たぶん、お互いの想いだろう。
顔を紅潮させながら、慌てふためく互いを見つめながら、「ブッ!」
と、どちらからともなく噴出した。
「・・・・なにさす気やねん、こんなところで、・・・ヤグチのえっち。・・」
彼女が、照れたようにちいさく呟く苦情と苦笑に。
また、沈黙が降りてくる。
彼女の名前を口にしかけた瞬間、ガラガラと扉が開く音がした。
そのまま、「ダダダ・・・」と、駆けてくる足音。
あっという間に、生徒たちの波に呑まれた。
カトリックといったって、お昼は戦争だから。
早く行かないと、お目当てのものが無くなっちゃう。
目の前を足早に通り過ぎていく濃紺色のセーラーカラーを見つめながら。
また、苦笑するんだ。
- 324 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 22:59
- 「さてと。・・・ご飯やご飯。・・んじゃな、ヤグチ・・・。」
「・・あぁ、うん。」
クシャクシャっと髪をかき混ぜてから、トントンと、リズミカルに
階段を下りていく人の後姿ををじっと、見つめてた。
少し、髪が伸びたね。
さすがに、金髪はないもんね。ずいぶん、教師らしくはない色だとは
思うけど・・。
そういえば、手が早いのは相変わらずなんだ・・。
クスリと笑んだ声を聞きとめたのか、それとも熱い視線を感じたから
なのか。
踊り場の中間点まで行ってから、クルリと振り返った。
「そうやった、矢口さん。・・明日からは、ちゃんとホームルーム
から来なさい。遅刻は、あかんでぇ〜!!」
「・・・はい。」
「よろしい。」
すっかり先生モードになっちゃって。
でも、うれしくて、口元が緩んじゃうよ。
「またな」と視線で合図してくるのに、「うん」と、笑って頷いてみせた。
彼女が視界に消えると、そのまま壁に凭れ掛かる。
自分の頬を両手で挟んでみた。
彼女の手の温もりが残っている。
やけに熱く感じるのは、アタシの体温が上がってるせいだ。
- 325 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 23:05
- 熱に浮かされたように、トボトボと教室に戻ると。
3人が、心配そうに駆け寄ってきた。
「ちょっと、ヤグチ、だいじょうぶなの?」
椅子にどっかりと座るころには、力が抜けてしまってた。
思いがけずいろんなことが、ありすぎて。
まだ、鼓動がドクドクと、浪打していた。
アナタに、出逢えたことが奇跡だよね。
オイラは、臆病者だから。
いいことがあれば、そのうちそれ以上に悪いことが起きるんだと思う
と、怖くなる。
でも、いままで辛いことばかりだったから、これからは、たくさんしあわせ
になれる番だから・・。
- 326 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 23:12
- 「ちょっと、ホントにだいじょうぶなの、ヤグチ?・・・・ちゃんと、
出たの?」
「ちょ!・・んもっ、圭ちゃんてば、女の子に向かってなんてこと言う
んだい!!」
「なによ、アタシだって女の子だよ。・・・そもそも、なっちが賞味
期限切れのおかしなんて持ってくるからいけないんでしょうがー!!」
「・・・って、そんなの、平気だったよ、北海道じゃこんくらい・・・。」
「あのね、ここは東京なの!・・しかも、こんなジメジメした季節に、
半年以上も前のやつだなんて、どういう神経してんのよーー!!」
「・・・・・・っ、う・・・っ・・・っ・・・」
緊張が解けてくると、彼女の言葉を思い出して涙がこみ上げてくる。
好きだ、と思った。
彼女と話して、もっともっと好きになった。
ゆうちゃんが、大好き。
恋しさが、口から溢れ出しちゃいそうだよ。
- 327 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 23:21
- 「!!!・・・えっ、ヤグチ?・・まだ、お腹痛むの?・・ど、どう
しよう、薬、あっ、保健室行く?」
「だったら、カオリ、正露丸持ってるよ。」
「って、なんで女子高生が、そんなもの持ち歩いてんのよーー!!!」
ゆうちゃんが、笑ってくれた。
「ヤグチ」って、なんども呼んでくれた。
「逢いたかったよ」って、言ってくれた。
「ヤグチ、恥ずかしかったの?・・だいじょうぶだよ、みんなだって
するんだから、ね?」
「そもそも、アンタの食生活に問題があるのよ。ちゃんと、野菜食べて
んの?・・・好き嫌いばっかしてるから・・・・・・・・」
「・・んもーっ、また、圭ちゃんはー、いまは、そういうこと言うとき
じゃないっしょ!!」
今度こそ素直になろう。
「またな」
彼女が言った。
あの日、別れでしかなかったその言葉が、いまは、その先がちゃんと
見えるから。
「ねぇ、ちょっと圭ちゃん、ヤグチがおかしくなっちゃったよぉ。
泣きながら笑ってるぅ。ヤグチ、なっち、もうイチゴ牛乳いらないからね。
ヤグチ、ごめんね。や、やぐち、ヤグチってば、しっかりしてーー!!」
- 328 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/03(土) 23:27
- 窓の外をみた。
ピーカン青空なのに、ザーザーと大雨が降っている。
なんとなく、いまのオイラの気持ちといっしょだなと、思った。
雨は、すぐに上がるだろう。
だから、オイラももう、泣かない。
今度、逢ったときは、なんて言おうかな。
まずは・・・
『あの、約束、覚えてる――?』
もし、彼女が返事を渋ったらこう言おう。
ふたりの未来は明るいよ。
なんてったって、神様が味方してくれているんだから――。
- 329 名前:kai 投稿日:2004/04/03(土) 23:33
- 今日の更新はここまでです。
やっと、再会しました。(w
こっから、どんなストーリーになっていくのか・・。
ちなみに。
裕ちゃんのイメージは、出逢い編は、娘。卒業ライブくらいで。
再会編は、〜紳士はミニがお好き〜のDVDあたりにしています。
- 330 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/03(土) 23:39
- めちゃくちゃおもろいです。
作者さん最高。
これから矢口は幸せになるといいなー。
更新おつかれさまです。
- 331 名前:kai 投稿日:2004/04/03(土) 23:48
- >マコトさん・・メロン、そうなんですか?(笑)
いや、なんか気が合っちゃうんですかねぇ・・。でも、メロンそんなに詳しくない
んでいま、勉強しているところです。何人か、出していこうと思っております。w
>ゆちぃさん・・ビックリしてもらえて、よかったw
出逢いはこんな感じで・・相変わらず、アタシの裕子さんは、格好いいんだか、
アホなんだかって感じなんですが・・・。
早く、ドラマ始まんないかなっ、楽しみだ。w
>302さん・・今回の話はヤグチをメインにしたくて。
一途ですね、姐さんはどうなのって、話なんですが。ヤグチさんは、健気な
いい子を目指そうかな、とか。<ホントかよぉ!
学園物とかって、いろんな人が絡むのが醍醐味だと思うので。
もっと、たくさん出していく予定です。どうぞ、愉しんでやってくださいww
>303さん・・お待たせしまして。まだ、出逢ったばかりなので、これから、
掘り下げていく予定です。このあたりのシーン、もう少し続くのかな。
- 332 名前:kai 投稿日:2004/04/03(土) 23:57
- なんとなく、スレ内で収まるのかなとか、不安になってきまして。
ま、だいじょうぶだろうとは、思うのですが・・・。(汗
次回こそ、早めにがんばります。
また、覗きにきてください。(ぺこ)
- 333 名前:kai 投稿日:2004/04/03(土) 23:59
- 一応、ageとこ。
- 334 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/04/04(日) 01:00
- 夕方はリアルでお邪魔してました。
あと1時間くらい早く来てれば…。なんか悔しいかんじで(w。
なんかですねぇ、泣いちゃいました。
かなり入り込みまくり系なので(爆。
裕ちゃん、覚えててくれてよかった…。
それから会いたかったって言ってくれたり。
こっちまで嬉しくなっちゃいました。
ヤグチにはもっともっと幸せがいーっぱい訪れるといいですね☆
kaiさんの裕ちゃんはかっこいいです!!(断言。
- 335 名前:マコト 投稿日:2004/04/04(日) 08:45
- 中澤さん覚えてたんですねぇ、2年間ってすごい…。
でも、ホントここの矢口さん一途で可愛いですよね、
中澤さんはカッコイイし…。
これからも読み続けますよ!
- 336 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/04(日) 12:50
- やっと再会、矢口さん泣いてばかりだな〜w
オトボケな仲間たちもいい感じですし、
どんな話になってくのか楽しみです。
- 337 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/06(火) 23:48
- ようやく中澤先生も矢口に気付きましたね
出席簿を読んでるところでコッチもドキドキしてしまいましたw
この後の展開が楽しみです
で、置き土産ですwいつまで残ってるかわかんないですが・・・
http://coimbra.on.arena.ne.jp/cgi-bin/bbs/entrance/img/1081260170.jpg
- 338 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/04/20(火) 02:07
- 中澤さん視点も楽しみに待ってます。
- 339 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 14:59
-
* * * * *
- 340 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 15:10
- 「・・・・・・・・・あれ? どこやここ。」
まだ歴史の浅い校舎の中は、学校特有のかび臭さや埃っぽさは、いっさい感じ
なかった。
真っ白に染め上げられたシックイの壁が、どこまでも清潔さを保って。
大きな窓ガラスに、弧を描くように設計されたモダンな造りは、学校というよりも、
むしろ、病院のようだな、と思った。
それにしても・・・・・・・・。
「分かりにくいねんっ!・・・・・・・あかん。どうしよ、迷子になってもーた。」
どこもかしこも似たようなつくりをしているおかげで、今、自分が、どの場所に
立っているのかさえ分からない。
人の気配の感じない長い廊下は、ひどく寒々しかった。
こんなバカでかい校舎を、一回、案内されたくらいじゃ覚えられるわけないやんかっ!
誰に言うともなしに、そう毒付いて。
ハァ・・・と、溜息が零れた。
「・・・・・・・・・学校で、迷子なんてシャレにもならんでぇ。」
- 341 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 15:18
- そう、職員室や、美術室や音楽室などの特別教室は、各教室とは別棟に建てられて
いた。
来た道をそのまま戻ればよかったのだけれど、考え事をしながら歩いていたせいか、
いつのまにか知らないところに入り込んでいたらしい。
・・・・・・・・・・って、だからここは、いったい、どこやの・・?
眉根を寄せながら、オロオロしていると。
突然、目の前の扉がガラリと開いた――
そこから出てきた白衣の人に、アタシは、パチパチと睫毛をしばたいた。
アンタが、ここにいてることに、まだ、慣れへんわ。
「・・・・あれ?・・・ゆうーちゃん、こんなところでなにしてますのん?」
人の気もしらずに。
彼女が陽気に声をかけてくる。
白衣のポケットに手を突っ込みながら、満面に微笑むオンナの姿は、一見、女医の
ようにも見えるが、もちろんここは学校だから、彼女は養護教員。つまりは、
保健室のせんせい。
・・・・てことは、ここは保健室か。
よく目を凝らせば、ちゃんと札が掛かっていた。
- 342 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 15:28
- 「なん、アタシに用事?・・・・あ、あぁ。なんや迷子かいな。たくっ、相変わ
らず方向音痴やなぁ。・・・ほら、職員室はアソコを右に曲がったところやで!」
「んなっ、迷子とちゃうぅ!!・・・・・・・雨がよく降るなぁって見てたんや!」
目の前に差し出された横向きの人差し指をおもいきり払うと、顎で窓の外をしゃく
ってみせた。
そこは、緑の生い茂った中庭だった。
色とりどりのアジサイの花が咲き誇っている。
なのに、あんなに降っていた雨脚はピタリと止んでいて。
眩しいくらいの太陽が、サンサンと顔をだしていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・フッ、雨ねぇ。・・・ま、そういうことにしときますけど。・・で、
初授業は、どやったの?」
興味津々といった面持ちで、顔を覗き込んでくるこの人の名前は、稲葉貴子。
彼女――あっちゃんとは、中学時代からの腐れ縁。
だから、こんな砕けた会話にもなる。
良くも悪くも昔の自分を知っているもんが、同じ職場におるっていうのは、
やり難いもんで。
・・・ま、それは、お互い様やろうけど。
- 343 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 15:33
- 「・・・・・・・・女の子は、ちょっとバカなくらいがええねんよ。・・・」
「はぁ〜?」
澄み切った青空を仰ぎ見ながら、そう呟いたアタシの声に、彼女は大きなはてな
マークをいっぱいおでこに浮かべながら、コトンと、真横に首を傾けた。
もう一雨くらいくるかな。
ジメジメと鬱陶しいこの季節ももうじき終わる。
コレが明ければ、アタシの大嫌いな夏がやってくる―――。ハァ・・。
- 344 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 15:42
- ◇ ◇ ◇ ◇
大学を卒業してから初めて勤めた学校は、府内でも有名な進学校だった。
しかも任されたのは、その中でもトップクラスの数学教科。
優秀な生徒を相手に、毎日、淡々とこなされていく授業。
それは、教師としてはとても名誉あることなのかもしれなけど、アタシには
どうにも肌に合わなかった。
脳みそいっぱいに詰め込まされた、教育で。
その結果出来上がったのは、アタマはええけど、ただそれだけのロボットだった。
なにも知らないうちから、立派な大人になることだけを強制させられて。
敷かれたレールに乗りながら、それが正しい道やと信じて疑わない。
希薄な友情関係は、幼い頃から「隣は敵や」と、叩き込まれているから。
喧嘩の仕方も知らないくせに、鉛筆しか持てない手で、この日本をしょってく
なんて、笑わせるで。
ときどき、彼らを見ていると泣きたくなるときがあった。
自分の意思がないんや。
ひとりで立ち上がることもできない。
自由のホントウの意味を、知らない。
「はぁ??・・・なんのこと?」
アタシには無理やった。
彼らを変えることは、できなかった。
あのコらと、人間らしく会話することも。
ココロの底から笑うところも見ることさえ・・・・・。
- 345 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 15:51
- 「なぁなぁ、それよりあっちゃん。いまって、みんなアレなんか?・・・・・
・・黒いアタマのヤツ探すほうが大変やったで?!!」
色とりどりに染められた髪の毛は、ここはどこの畑かと思ってしまう。
化粧をしているのは、当たり前。
制服姿とのギャップに、「それ、イメクラちゃうんっ!!」叫びそうになったわ。
なんもせんでも見られる期間は限られているっていうのに、もったいない。
無意識に右手の薔薇の痣を擦っていた。
そのまま懐かしい学生時代を呼び起こす。
あぁ、そんなん、人のことなんていえへんか・・・。
アタシだって、あんなもんやったよ。
いや、もっとヒドかったかな。
真っ赤なルージュをひきながら、オキシドールで散々痛めつけてきた髪の毛は、
未だにその残照を残す。
長いスカートを引きずって、ぺちゃんこのカバンを携えて、風を切って歩いていた、
あの頃。
ついでに、隣にいるヤツのことまで思い出してみた。
そういやアンタ、アフロ犬みたいな、爆発アタマしとったよな。
なんやったんや、あれ・・・・・・・・。
- 346 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 16:02
- 「あはっ。・・まぁ、ウチは校則もユルいからなぁ。・・・一年はまだマシやけど
二年からはもう手がつけられへんよ。岡村せんせいもがんばってるようやけど、
あれだけは、なんべん言うても直らへんわ・・・。」
そう言った彼女の髪の毛も、注意なんてできるような色はしていない。
上司とも言える岡村せんせいは、いまどき珍しい熱血教師だ。
毎朝、青ジャージに竹刀を携えて、校門の前で取り締まっているらしいのだが、
その成果はいまだ、あがらないという。
偏差値なんてあってないような学校だと聞かされ、そのランクは、都内でも、それは
それは、ヒドイものらしかった。
だから、教壇に立ったときはさすがに驚いた。
もちろんフツウっぽいコもおるにはおるけど、俗に云う、――ヤンキーに部類する
生徒も多く見てとれた。
いや、あれは、ヤンキーとはいわへんのかな。
アタシらの時代は色を抜いてたり、ど派手なカッコウをしているヤツが、――不良
って呼ばれてたけど。
いまは、誰でもあんなんするんやもんなぁ。
でも、いい。
そのほうがいろんなヤツおって。学校らしいやんか。
- 347 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 16:14
- 「・・・・・ええねん。ちょっとバカでも。顔が可愛けりゃ生きてける。」
「はぁ??・・・っも、だからそれ、さっきからなんなん?」
職員室に向かうあっちゃんの後ろを従えながら、さきほどの授業風景を思い出していた。
髪が赤かろうが黄色かろうが、死んだような眼をしているヤツは一人もいなかった。
自由を求めて、愉しいことだけを追求している彼女たちのほうが、よっぽど人間らしい。
こんな計算がひとつ出来たって社会に出れば、なんの役にもたたないことを
彼女たちはちゃんと知っているんや。
きっと、こうゆうコらのほうが、世渡り上手に生きていくんやろな。
「・・・・なんでもないって、独り言や。」
「・・・・でかい、独り言やでぇ・・・・」
溜息に苦笑を込めた彼女の声に、改めてその姿をじっと見つめた。
こんな落ち着き払った、オトナな顔をしているけど、アンタも昔はいろいろ
あったよなぁ。
そういや、体育倉庫でタバコ吸って、ボヤ騒ぎ起こしたのってアンタちゃうかった?
ブチブチうっさい教頭のハゲ、ぶん殴って停学くらったのは、それアタシか・・・。
じゃぁアレは、・・・・・夜中に校舎に忍び込んで窓ガラス全部ブチ割ったヤツ?
自慢にならない勲章の数を競い合った。
悪いことはすべてやりつくした。
毎日が戦争で、お祭りみたいだったあの頃。
それが、いまや二人して、こんなひなたを歩いている――。
- 348 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 16:18
- 「・・・・ところでなぁ、あっちゃん?」
「ん〜〜?」
「アンタのそれさ・・・・。」
「うんっ??」
「・・・・・それ、なんか、やらしない、その白衣。・・・・アンタ、“いけない
診察室”みたいやでぇ?」
背中をどつかれながら入った職員室は、そこはかと店屋物のいい匂いがしていた。
そういや昔はここが大嫌いやったんやよなぁなんて、そんなことを思い出しながら・・・。
- 349 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 16:29
- ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅぅ・・・・。」
校舎の雰囲気はぜんぜん違うけど、職員室の空気はさほど変わらなく感じた。
お菓子と香水の甘ったるい匂いも勘弁して欲しいけど、タバコ臭いおっさん臭
ちゅーのも、ちょっと参るな。
あまり座り心地がいいとは云えない椅子で、一息つきながら。
なんとなく物思いに耽る。
以前、ここに座っていた数学教師は、えらく真面目な先生やったという。
それは、残された私物を一目見ただけで、容易に見てとれた。
几帳面にとられたノートに、丁寧な文字が並ぶ。
分かりやすい指導内容テキストは、蛍光ペンでなんどもなぞる跡が残っていた。
テスト回答には、生徒たちへの励ましの一言づつ添えられていて。
これを見ただけで、一度も遭ったことのない彼の人となりが窺えた。
きっと、生徒想いのやさしい先生やったのやろう。
でもその彼が突然いなくなった。
――大事な生徒たちを残して。
- 350 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 16:40
- 「ゆうーちゃん、お疲れぇ〜。なん、遅かったですやん。・・・アタシ、てっきり
迷子にでもなっているのかと思って、いま、探しに行こうと思うてたんですよ!」
「う、うっさいっ!迷子迷子ゆうなや!!・・・・・てか、アンタらいい加減に
“ゆうちゃん”は、やめいぃ!・・ここ、学校やでぇ!!!」
アタシは、幼稚園かい!っての。
渡されたコーヒーを強引に奪い取りながら、眉根を寄せて「わうっ!」と吼えると。
彼女は、そんな態度にも慣れているかのように細い肩を窄ませて、ゆっくりと、
薄いコーヒーに口をつけた。
すらりとした容姿をもつこの人の名前は、平家みちよ。
みっちゃんは―――英語教師で、2−Bのクラス担任だった。
そう、彼女もあっちゃん同様、昔からのお友達。――いや、「友達」なんてそんな
可愛らしい呼び名の間柄じゃなかったけどな。
そういや、アンタ仕業やろ、窓ガラス事件な!
アタシと平家と稲葉は、大阪時代――それはそれは、とても可愛い生徒たちには
聞かせられないような、学生時代を共に送ってきた。
「若気の至りやった」なんて、笑って済まされないようなこともいっぱいした。
それが、いま、肩を並べてこんなところに座っている。
この現状を、あの頃知ってるおまわりさんがみたら、ひっくり返って腰を抜かす
ことだろうな。
- 351 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 16:49
- 前の高校は、3月いっぱいで退職願を出した。
それから、適当なバイトをしながら、プラプラしていたときにみっちゃんに声を
掛けられて。
最初は、「カトリックなんて・・・・・」そう渋っていたのだけど、いまじゃ、
誘ってくれた二人に感謝しているくらいだ。
「ゴクリ」と熱い液体を流し込んだ。
少し緊張していたせいか、それは、ほどよく喉に染み渡る・・。
彼は、毎日ここに座り、あの教壇に立ち、教科書を片手にいったいなにを考えて
いたのだろう。
生徒と駆け落ちなんて、そんなシャレにもならないことを。
いままで築き上げてきたものを、家族を、将来を。
なにもかもをかなぐり捨ててまで、そうする理由が、アタシには理解できない。
オンナと逃げるなんて、アホちゃうか!!
昨日までのアタシやったら、間違いなく、こう叫んでいたはずだ。
だけどいま、遭ったことのない彼の気持ちが、ほんの少しだけ分かる気がする。
恋は、どんなカタチでおとずれるかなんて、誰にも予測できないから・・・・。
あんなに大事にしてきた仕事よりも生徒よりも、もっと大切なものが、そこには
あったのやろう・・・。
- 352 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 16:59
- 「あのぉ、岡村せんせい、お食事中すみませんが、生徒名簿を見せて貰えますか?」
「んぁ?・・・あぁええよ。・・・・・・・なんや、気になる生徒でもおったん
かいな?」
ざるそばを「ずずず・・」と、すすりながら、箸で指す岡村せんせいに曖昧な笑み
を浮かべた。
手渡された名簿をパラパラと捲る。
その名前を見つけて、カラダが一瞬だけ跳ね上がった。
――――――矢口真里。
ヤグチマリ。
そういや、初めてフルネーム知ったな。
マリちゃんか、かわいっ♪
カラダは、ちっこいままだった。
あの頃よりも少しだけ髪が伸びて、オトナっぽくなっていた。
クスッと笑みながら、張られた写真をチョンチョンと弾く。
そこには、アタシの知らないこれまでの彼女の記録が事細かに記されていた。
「こんなんするの、職権乱用ちゃうんか。」
そう思って一旦は目を伏せて、だけど、そのページを閉じることは出来なかった。
夢中で読み耽っていると、頭上から海老の尻尾を咥えた彼が、興味深げに覗き込んで
くる。
- 353 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 17:10
- 「・・・あぁ。ヤグチか。・・・・なんやアイツやっときたんか!」
「・・はい?」
「アレの重役出勤にはホトホト手を焼いているんですわぁ。ずずっ、なんべん
云うてきかせてもあかんくてねぇ・・。」
「・・・はぁ。」
てんぷらでギラギラと光る分厚い唇を見つめながら。
やたらと×印の多い、出席簿に目を向けた。
『高校は義務教育やないんから、単位を落として落第なんてこともあるんやで!』
そう脅してみても、一向に改善されることはないらしい。
「・・・・アイツは、最近、悪いウワサもあって、心配してるんです。」
「・・・悪い、ウワサ??」
ザワザワと動く心臓の音を隠しながら。
彼の言葉に、じっと耳を傾ける。
「ほら、なん、暴走族ちゅーの?・・・・三年にな、ゾクのリーダー張ってる
コがいてるんやけど、ヤグチ、そいつと最近仲ええって。」
「そういや、夜中に単車のケツ持ってるヤグチ見たって先生もおりましたよね?」
乾いた蕎麦を箸で突付きながら、そう嘆いた岡村せんせいの横から、カツ丼を
頬張りながら、背の高い先生が口を挟んできた。
たしか、名前は矢部せんせい。
2−Aの担任で、教科は、現代社会やったかな。
しっかし、3クラスとも見事に関西出身の担任かいな。
- 354 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 17:23
- 『暴走族』―――そのどこか懐かしい響きを聞いて、背筋が寒くなったのは、
アタシだけやなかったはずや。
紫色の特攻服が夜風にヒラヒラと舞い踊る。
背中に大きく描かれたのは、「唯我独尊」の文字。
夜のネオン街を爆走する喧騒が、耳の奥に木霊する。
いまでも、あの頃の夢をみる。
全世界から否定されている気分だった。
お前らは生きている価値がないんだと。どこで野垂れ死のうと誰も困らないんだと。
だから、あんな無茶なことも平気でやれていたんや。
アクセルを全快に吹かして赤信号を突っ走るなんて。
鉄パイプで人を殴ったら、どうなるか分からないはずがないのに。
それで、いっぱい仲間が死んだ。
死なないまでも、アタシが手を下したおかげで、いまだに苦しんでいるヤツも、
いるはずだ。
自分が、いまこうして息しているのが、不思議なくらい。
血が流れない日はなかった。――
リーダーに祭り上げられて、チヤホヤされんのは気分がよかったけど。
毎朝、こまめに新聞はチェックしていたなんて誰も知らないやろ。
死んだヤツはいないかって。殺していないかって。
ビクビクしながら、新聞を捲っていた。
それでも、また夜になれば、おんなじことの繰り返し――ー
パトカーとの鬼ごっこが始まる。
いったい、なにがしたかったんやろうなぁ・・。
「ヤンキー」という言葉もなかったころの、遠い遠いむかしのはなし。
- 355 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 17:41
- 「・・・・・・・ゾク、って、東京にもいてはるんですか・・・?」
「あぁ、いてまっせぇ。大阪ほどやないけど、でも最近また増えてきたって。
なんでもでかい組織があるらしくって、ウチの生徒も何人か入っているらしいって。」
冷たい汗で滲むおでこを拭いながら、もう一度、写真に目を向けた。
いまよりも少し短めな金髪の髪は、あの頃の面影を残す。
黒目の多いアーモンド型の瞳がレンズを睨みつけるように捉えていた。
そのくせ、まだ抜けきらない幼い顔立ちのせいで、その迫力を無くしている。
誕生日は1月20日か。
身長は、145cmって、うわっ、ちっちゃ!!
なんだか、笑いがこみ上げてくる。
こんな形でアンタのことを知ろうとはな・・・・。
自分のことを「オイラ」と呼ぶオンナノコのことがずっと忘れられなかった。
出会い方は今、思い出してもおかしくなる。
顔も体もどこか幼くて、なのに目だけはしっかりとオトナの色をしていた。
アタシは、あの大きな瞳に捕まったんや。
自分の弱さを必死に見せまいと戦う彼女の姿は、たまごのように固い殻に覆わ
れていて。
昔の自分を見ているようだと思った。
だから、ほっとけなかった。
アタシが、割ってあげたかった。
アタシの肌に泣きながら縋り付いて来た彼女は、ホントウに可愛かった。
固い殻を破ると、すべすべの肌が温かくて。
慣れない仕草で、アタシのキスに夢中で応える。
平坦な胸の上で、ひっそりと息づくピンク色の乳首。
淡い茂みの奥で、蠢く内臓に触れるとそこは、驚くほど熱かった。
アタシの腕の中で孵ったヒナが、耳元で甘い産声をあげる―――。
「・・・・・・っあちっ!!!」
- 356 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 17:57
- 「ああー、あぁ、んも、なにしてますのーっ!!」
あっちゃんの手から放られたハンカチで、口元を押さえながら。
瞼の奥でチカチカしてるピンク色の靄を慌てて打ち消した。
なにを考えてんねん!
真っ昼間からっっ!!
ついでにおでこも拭うと。
その視線は、家族構成のところでピタリと止まった。
「・・・・・離婚て。」
ちいさくちいさく呟いたはずのアタシの声に、岡村先生が聞き止める。
「あぁ。・・・いまは、オヤジさんと二人で暮らしているらしいですわ・・・」
「まぁ、最近は離婚のケースも多くなりましたからねぇ。ウチのクラスにも3人
はいてますよぉ。親の浮気なんて話、コドモからしたら、きっついでぇ!!」
矢部先生がそう口を挟むのに。
アタシはまた、あの日の彼女のことを思い出していた。
そういえば、泣きながら話してくれた。
詳しくは知らないけれど。
お母さんが出て行ってしまったのだ、と。
妹さんを連れて。
自分は、ひとり残された、と。
「・・・・・いや。ヤグチんチは、離婚とちゃうで。なんでもな、オヤジさんの
取引している会社の親会社が倒産したとかって、その子会社も孫会社もあかんよう
になったって。離婚も、借金がかさんでどうにもならなかったから言うて・・・。」
「・・・・まぁ、それもいまは、ようある話ですよね。」
「どうにもならんで、親の離婚に巻き込まれたコドモはたまったもんやないで!!」
バン!と机を叩いて声を荒げた。
彼女の涙が脳裏を掠める。
大好きだった家族をバラバラにされた。
あげく。
「・・・・・・・・あのコだけが、置いてかれたんか・・・。」
犬猫じゃあるまいし。
母親が一番欲しい年頃やのに。
あのちいさな胸に、それが、どんな傷になっているかと思うと・・・・・。
- 357 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 18:07
- 「・・・・・アレ、なんでそないことまで・・・。いやでもそれ、ちゃうらしいで。
こないだの二者面のとき、オヤジさんが云うてくれたんやけど、アイツは自分から
おとんのほうを選んだんやて。おかんが何べんも連れて行くって云うてたんやけど、
どうしてもおとんといる言うて、きかんかったて。オヤジさん、泣きながら、
話してくれましたわ。」
「・・・・・・・えっ。」
そんなふうには云っていなかった。
彼の話は続く。
「中学の先生にもこないだ遭いに行ってきたんやけど、ヤグチ、中学んときも
ごっつ荒れてたんやけど、突然変わったんやて。3年の3学期から急に真面目に
出て来るようになったって、がんばって勉強してたって言うてましたわ。」
3年の3学期というと、アタシらが遭ったあの頃か・・・・。
なんだか、胸が熱くなる。
ずっと、ココロのどこかにあった。
いま、あのコが、しあわせでありますようにって。
- 358 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 18:20
- 「なに、岡村さん、それを、わざわざ聞きに行ってきましたん?」
矢部先生の声に、すっかりカピカピになってしまった蕎麦に一瞥してから、そっと
箸を置いた。
冷たくなったお茶をすする。
「そら、自分の生徒やし。・・・それに、せっかくがんばって高校に入れたのに。
また、悪い仲間に唆されてるんやったら、なんとかしたらな、思うて・・・。」
あぁ、ホンマにええ先生や。
こういう人が一人いるだけで、救われるんや。・・・・アタシもそうやった。
「アイツは、出来るコなんや!」
「・・・・・・。」
「ホンマは、気持ちのいい、やさしいコなんやで。」
胸がキュンと熱くなった。
ココロにポッカリと灯がともる。
「・・・・・そいで、中澤せんせいは、ヤグチが、どないしましたん?!」
長いことそれかけていた話を、みっつちゃんが強引に軌道修正する。
突然振られて、慌てふためきながら、口から出てきた言葉は・・・・・。
「あ、いやな、あ、そうそう、長いスカートが気になったんや・・・・。」
適当なことを云ってみたのに、4人は「ああぁ〜〜」と、同時に歓声をあげた。
でも、それが少し気になったのもホンマの話。
「まったくアイツは、人のゆーことを、ちーーっともきかんっ!!!」
岡村せんせいの溜息は続いた。―――
- 359 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 18:27
- ◇ ◇ ◇ ◇
外はすっかりオレンジ色に染まっていた。
窓を開けると、生温かい風が前髪を吹き上げる。
グランドから、部活を始める準備運動の声が聞こえてきた。
ブラスバンド部の演奏をBGMに、めんどくさそうに傘をブラブラさせて下校して
いく生徒たち。
なんか、カトリックって聞いてたけど。
ぜんぜん、そんな感じせぇへんな。
お嬢様みたいな子がいっぱいおるのかと思っていた幻想は、一日目にして早くも
崩れ去った。
きっと、お御堂のマリア様も泣いていることやろう。
でも、なんとなくこの学校を選んで正解やった気がする。
もう一度、ここで、がんばってみたい。
「ゆう、じゃなかった、中澤せんせ、この後はお暇ですか・・・?」
- 360 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 18:36
- みっちゃんの声に振り返ると、その後ろであっちゃんが、手をクイクイと揺らして
ジェスチャーしていた。
「ほら、せんせいの歓迎会ですって。新橋に酒のうまい店があるんです。行きま
しょー!!」
・・・無論。
酒好きのこのアタシが、そんな素敵な誘いに乗らないはずがなく。
「行く」と尻尾を振りながら、なのに思いとは違う声が出ていた。
「・・・・・・・いや。せっかくのお誘いなんですけど。荷物、片さな、寝られ
ない状態なんで。すみませんけど、また今度誘ってください・・・・・・。」
帰り支度をしている岡村せんせい達のほうへ向かって、頭を下げた。
「それやったら、アタシらも手伝いに行きましょか?」
すぐさま言うてくる二人に、ブルルと首を振る。
「いや、ええて。後は細々したものやし。昨日はありがとな。助かったわ。」
いくら年を重ねていても、アタシらの上下関係というのは一生付きまとう。
彼女たちとの師弟関係は、いまだ、健在やった。
それが職場までともなると、多少、わずらわしくもあったが、初めての東京とも
なれば、心強くもあった。
- 361 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 18:56
- ◇ ◇ ◇ ◇
東京の空は大阪の空と、さほど変わらなく感じた。
空気が澱んで、いろんなものが入り混じっているそんな匂いがする。
だけど、それはキライやなくて。
「・・・・・・・しっかし、この風だけは、なんとかならんのかっ!!!」
鬱陶しげに髪を押さえながら、駐車場の前で、その足取りはピタリと止まった。
見覚えのある真っ赤な中古車の前に、そっと佇むちいさなシルエット。
長いスカートがバサリと翻る。
そのカラダとどこかアンバランスな姿に、口元が緩むのが分かった。
――――きっと、こうなるだろうと、予想していた。
右足を一歩、踏み出して、思いとどまる。
もしかしたらこの先は、断崖絶壁なのかもしれない。
とんでもないところに、足を踏み入れるのだと。
彼女を不幸にしてしまうかもしれないと思うと、胸がチクチクと痛み出した。
だけど、両脚は勝手に動いていた。
だって、しゃあないやんか。
こうなる運命やったんやもん。
マリアさんも、目を瞑っていてよ。
・・・・・・そうか、あの先生も、こうやって、行ってしまったんかな。・・・・
- 362 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 19:03
- 彼女がアタシに気づいて、ビクンと肩をあげた。
アタシタチはクリスマスの夜に出会った。
そして、雪の日の朝に、別れた。
あの子の温もりが恋しいと思ったのは、彼女がつけた首筋の痕が消えかけるころ
やった。
だけど、もう探す手立てがなくて。
最初の半年間は、恋焦がれる毎日やった。
残りの一年間は、忘れようと努力した。
なのに、彼女はこうして、またアタシの目の前に立っている――。
- 363 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/22(木) 19:10
- ずっとココロのタンスの奥に閉まっておいたこの気持ちを伝えたら、アンタは、
なんて云うんかな。
あぁでも、なんとなく想像はできる。
あの大きな瞳のなかに、いっぱい涙を浮かべて。
・・・ひまわりのように、笑うんや。
そしたら、抱きしめる口実くらいには、なるかなぁ。
もう、ふたりの歯車は動きだしている―――。
なぁ、ゆっくり、いこうや。
- 364 名前:kai 投稿日:2004/04/22(木) 19:14
- 今日の更新は以上です。
大変、遅くなりまして。
待っていただいたかた、ありがとうございます。
中澤視点でお届けしてみました。
よかったら、ご賞味ください。
- 365 名前:マコト 投稿日:2004/04/22(木) 21:20
- 更新待ってました!
中澤さん視点も面白いっす!
HさんとIさんが出てくるとは思ってなかったんでびっくりだったけど、
やっぱ関西弁いいなぁ・・・。
(すいません久しぶりの更新で舞い上がっちゃってますけど、気にしないで下さい)
んでは、またの更新待ってます!!
- 366 名前:kai 投稿日:2004/04/22(木) 21:43
- レスありがとうございまーす。遅くなりました。(ぺこ
>330さん・・・そう言っていただけるとww
一応は、シリアス路線で始めようと思ってたんですけど。
当分は、バカ話が続きそうです。はい、お楽しみに!
>ゆちぃさん・・・>かなり入れ込みまくり系なので(爆
それは、うれしいっスねぇ。ありがとうございます。
そういうときって、どっちに感情を入れるのかなとか思って
みたり。アタシは、エロ書いてるときは、攻めのゆうちゃん
に入れ込みまくりなんだけど。(爆
>マコトさん・・・えっと、前にマコトさんにレスいただいた裕ちゃん視点を大幅に
入れてみました。こんなんでダメですか?(w
アタシ的に、言ってもらえたほうがうれしいし話も膨らませられ
るので、これからも、ドンドンご指導くださいねw
- 367 名前:kai 投稿日:2004/04/22(木) 21:52
- >336さん・・・まだまだ、泣かせる予定ですよ!
もうしばらくやぐちゅーが続いて、それから、
おとぼけな友達の中からCPを組む予定でーす。
なんか、この人たちいるとホントコメディーに
なっちゃうんだけど。(汗
>337さん・・・置き土産にかなり鼻血もんでした。(苦笑
えと、あれは、初めて見たんだけど、ちなみになに?
胸、触ってない?思わず目をゴシゴシしちゃいました。
エロが書きたくなったゾー!!(苦笑)
>338さん・・・お待たせしました。
中澤視点です。長めですが、こんなんでいかがで
しょうかw
- 368 名前:kai 投稿日:2004/04/22(木) 21:59
- なんだか、最近めっきり姐さんが可愛くみえるんですけど。
なんでなのでしょうか?
もうすぐドラマ始まりますね。
毎日、お顔が拝見できるなんて・・・・あぁ。(悶死)
相変わらずスローペースでありますが、ていうか、なかなか終わりが
見えませんが。(汗
どうぞ、また、遊びに来てやってくださいませ。では。
- 369 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/04/23(金) 00:13
- おつかれさまで〜す♪
私が入り込んでくのはヤグチの方ですね…大体は。
だって、もっすごいせつないじゃないですかぁ…たまらないです。
裕ちゃん、歩き出しましたねvvv
本当に誰よりも幸せになってほしいです・・・。
斉藤さんが気になってしかたがなかったりもします(笑
ついに来週ですねvvvドラマの裕ちゃん♪
パワーもらいまくりですよね〜♪
- 370 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/23(金) 22:24
- 関西トリオ面白いなー。
それにしても、姐さんの数々の悪行…すごすぎるw
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/24(土) 01:59
- なんか中澤さん視点は教育実習期間を思い出しました。
授業で美術コースと特別進学コース両方持ったんですが全く違ってましたよ。
個性重視の集団と勉強のことが最優先の集団ですからね。
聞き分けのいい子供ほど融通の利かない大人になるもんです。
枠からはみ出たことがないから外に世界があることがわからない。
ここの姐さんは枠の外を知り尽くしてそうで楽しみです。
- 372 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 21:30
- ーーー昼下がり。
大好きなコロッケパンをしっかりとお腹におさめて。
窓から差し込むポカポカ陽気に、うたた寝していた頃。
「ねぇ、ちょっと、今日の体育、やっぱ、持久走だってぇっ!!!」
「・・・っ、えええぇぇぇ〜〜〜!!!!!」
体育委員からの突然の悲報に、穏やかに談笑していたクラス一同を
一気に嘆息させた。
さっきまで、あんなに激しかった雨脚は、いまはピタリとやんでいた。
それでも、予定されていたマラソンが、てっきり中止されるものだと
ばかり、誰もが内心ほくそ笑んでいたところに、この仕打ち。
あぁ、これだから、気まぐれの天気にはやってられないっていうんだ!
「・・・・最悪。」
ボソリと呟いて。
そっと忍び足で立ち去ろうとしたところで、なにかにぶつかった。
ゆっくりと顔をあげると。
カオリが仁王立ちしている。長いリーチを最大限に生かしてとうせんぼ。
「ダメだよ。ヤグチ、行かせない。これ以上サボったら、単位ヤバイ
んだからね!」
「・・・カオリぃ〜〜!!」
それでも、高いところからすごい形相で睨まれると、オイラはシュンとなる。
あぁ、圭ちゃん並におっかないよ。
オイラは無言のままきびすを返して、乱雑に収まるロッカーから、ヒサぶり
のジャージを取り出した。
- 373 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 21:40
- ◇ ◇ ◇ ◇
「あのさぁ、どうでもいいんだけど。なんで、カオが相手なのかな?」
あれから、逃げられないようにとずっと手を握られっぱなしだった。
トイレの中まで付いて来ようとしたときは、さすがに怒鳴ったけど。
つーか、フツウ、そこまでする?
それは、クラス委員としての責務なのか。
それとも、友人としての親切心からなのか。
そんなにも、ヒトの単位の心配ことまでくれるのは大変うれしいん
だけどさ。
でも、いくらなんでもここまで来たらば逃げないってぇ!!
「ちょ、アブナイアブナイ、脚、浮いてるっ〜〜!!!」
同い年なのに、この身長差はいったいなんなの?
そもそも、アタマ一個分は軽く違う凸凹コンビがなんでわざわざ
一緒に組まなくちゃいけないんだか。
先生が来るまでの準備運動。
背と背をあわせてのおんぶするみたいに背筋を伸ばすストレッチ。
上背のあるカオリが思いっきり屈むおかげで、そのたんびにオイラの
ちっちゃいカラダは宙を舞う。
「っやぁ!!・・こ、怖いって、カオっ!!!」
- 374 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 21:51
- 日ごろの運動不足のおかげで、慣れない筋肉がピキピキと根を上げた。
今度は交代とばかりに、重く圧し掛かってくるのに。
身長ほど体重差はないはずなのに、思わず「うげぇ」と声をあげる。
・・・・んもっ、でちゃうよ、コロッケパン・・・・・・。
「ねぇカオ、もしかして、また背ぇ伸びた?」
「・・うん。バイト始めたからかな。こないだ計ったら、先月よりも
2センチ伸びてたみたい・・・。」
そう、しれっと言うヒトの顔をおもむろに見上げた。
そういえば、初めて遭ったときは、目線を上げる程度だったのに。
いまじゃ、ずいぶん、首を傾けてるもんなぁ。
1年で、15センチは伸びてんじゃん?
・・・・うっ、ズルイよ、オイラは小5から止まったまんまなのにぃ・・・
「あっ、ホラ、先生来た。集合だよ!!」
ポンとアタマを叩かれて、駆け出した彼女の背中を追う。
スラリと伸びる手足。サラサラの黒髪が左右に跳ねている。
憧れのカラダを持つ彼女。
それになんか、最近、綺麗になったよね?
背が伸びただけじゃなく、昔に比べてみてもいろんな表情をするように
なったと思う。
それは、モデルのバイトを始めたからなのか。
それとも、いい恋をしているからなのかが、とても気になるところだけど。
友達が綺麗になっていくのを見るのはうれしいけど、なんか、ちょっと
寂しい。
そんな思いをココロの中に収めながら、密集するオレンジ色の中に
溶け込んだ。―――
- 375 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 22:04
- 「ーー今日は、グランドがぬかるんで使えないから外周を走る。」
体育教師の言葉に、すぐさまブーイング。
「ええぇぇ〜〜〜!!!」
「――だったら、中でバスケにしようよ!」
「――それ賛成!・・外、暑いしぃ・・・。」
「なに言ってるんだ!来月になったらもっと暑くなるんだぞ。ホラ、
いいから早く準備して!!」
スポーツはわりかし好きなほうだけど。
マラソンとなれば話は別だ。
体育の授業は、3週にいっぺんずつ競技が変わっていくシステムで。
2年生は、来週までマラソンと決まっていた。
しかも、来月は校内マラソン大会なんてもんが開かれるから。
彼は、やたらと張り切っている。・・・・あぁ、サイアク。
ゾロゾロと移動する列に習って、スタートラインに近づいた。
すでに諦めモードで、手首足首をコキコキさせながら。
ふと、隣で憂鬱そうにしているヒトに目を向ける。
「アレ?・・・なっちだいじょうぶ、なんか顔色悪いよ・・?」
「う〜ん。ヤダなぁ。なっち、マラソン苦手だからさ。あ、ねぇ、ヤグチ、
一緒に走ろう?」
「・・いいけど。」
「ホラ、だらだら走るなよ!30分以上かかったヤツは、もう一周
走らせるぞ!!」
「げぇぇ!!」
くっそ、んなこと言うなら、自分も一緒に走りあがれってんだ!
そんな悲鳴の嵐にも気にせずに、彼は、スタートの警笛を鳴らした。
- 376 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 22:17
- ちょっと走りこんだだけでも、すぐに息が上がってくる。
東京の学校にしては、わりかし広めの校舎が、今日ばかりは恨めしく
思うよ。
圭ちゃんの言葉じゃないけど。最近、不摂生していたからなぁ。
隣で、もっと具合悪そうにしているヒトに視線を送る。
「なっち、だいじょうぶ?」
「・・・っ、ハァ・・ダメ。暑くて死ぬよ。・・・・・」
なっちは、北海道育ちだから。
ただでさえこの暑さがダメだって言ってるのにね・・・。
ごもっともな意見に無言のまま同意して。
彼女の呼吸に合わせながら、最後尾をゆったりと走っていた。
校舎の裏側に回ると、空気がひんやりしていて心なしか足取りも
軽やかになる。
桜並木に、自転車置き場と駐車場があるところを横切ったとき。
前のほうから聞こえてきた会話に、思わず耳をピンと立たせた。
「ねぇ、あの赤い車って、中澤せんせいのなんだって!」
「へぇ、そうなの?カワイイよね。」
黒やシルバーのダーク系が多いなか、そのど派手な真っ赤な車はかなり
目立っていた。
雨露に濡れて、ピカピカと光っている。
新車では、ないみたいだけど。
あ、あれ、知ってるよ、あの車。
たしか、昔、ドラマで流行ったヤツだ。
車椅子のオンナノコが、カリスマ美容師に恋をするはなし。
あのころ、妹と夢中で観てた。
そうそう、車椅子のオンナノコが乗っていたのがその車でさ。
妹と、「免許取ったら、あの車にしよう!」って言っていたんだ。
なんか、うれしくなった。
思わず息も弾んでくる。
彼女のことを考えただけで、あんなに憂鬱だったのがこんなにも上機嫌
になっちゃうんだから、オイラもゲンキンだよなァ・・。
「・・ちょ、ヤグチ、早いよ、待ってぇ・・・・・」
ダラダラと走るオレンジ色を見つめながら。
そうだ、いいこと思いついちゃった!
- 377 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 22:36
- そうだ、賭けをしょう!
もし、いまから20人抜くことができたら、この恋はきっとうまくいく。
そしたら、彼女に逢いに行って思いのたけをぶちまけるんだ。
昔は、こうやってマラソンを走っていた。
電柱から電柱までへ目標を決めて。
そうすると、達成感が得られるし、もっとガンバローって気にもなれた。
グングンとスピードをあげる。
風が、ほどよく頬にあたって気持ちいい。
ーーー「あんまり、がんばりなや」
それは、彼女からもらった最後の言葉だった。
辛くなったとき、苦しくなったとき、いつもこの言葉を思いだしていた。
肩の力を抜いて生きるのは、すごく楽なのだと初めて知った。
だけど、だからこそがんばっちゃうときもあった・・。
やっぱり、ゆうちゃんは、スゴイよね。
立った一言で、ヒトを、こんなに変えちゃうんだもん。
先生になって、正解だよ。
「ごめん、なっち、オイラ先行くね!」
「えっ?・・っな、ちょ、待ってよォ。・・ヤグチぃ〜〜!!!」
そうだよ、オイラ、昔からマラソンは得意だったじゃんか。
だから、今日はガンバル。
うっし!!!
「待って、ヤグの、バカァ、ヤグチの裏切りもんっ、・・・コラァ、
後で覚えてろよ〜〜〜〜ヤグチぃぃ〜〜!!!!!」
なっちの罵る声も、徐々に薄れていった。
それは、二人の距離が遠ざかったからなのか、それともなっちの力が
尽きちゃったからなのか、分からなかったけど。
あぁ、ごめんよ、なっち。
後で、イチゴ牛乳でもフルーツ牛乳でも奢ってあげるからね。・・・
ひとり、また、ひとりと抜き去って。
馬はニンジンをぶらさげるらしいけど、いまオイラの目の前にチラつく
のは、満面に微笑む彼女の顔だった。
ゴールテープは彼女だと思うと。
今度は、一着じゃなきゃ済まなくなって・・。
待っててね、ゆうちゃん。
ヤグチ、いま、行くからね!
- 378 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 22:48
- ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・んっ、はっ・・・・・・・・」
久しぶりの口づけに、アタシのカラダはブルブルと震えて、あっと
いう間に、熱を帯びだした。
アタシタチは、それが当たり前のように、彼女の部屋に来て、ベットに
座って、抱き合って、そうして、こうしてキスを交わしていた。
湾岸線を千葉方面にひた走ると、真横に見えてきたのはお台場のよりも
もっと大きな巨大観覧車。
正面には、シンデレラ城のてっぺんが覘いていた。
オイラの大好きなディズニーランドのすぐ近く。
彼女の部屋は、東京のはずれの街にあった。
肩を抱かれながら連れてこられたのは、マンションというよりも、
コーポと言ったほうがシックリくるようなこじんまりとした三角屋根
が特徴的な黄色くてカワイイおウチだった。
車の中では、ほとんど会話を交わさなかった。
まっすぐに、前を向いて運転している彼女の様子を横目でじっと盗み
見る。
なにもかもが初めて見る姿に、しきりに胸が高鳴って。
ドックンドックンと鼓動の音が聞こえちゃうんじゃないかって気が
気じゃなかった。
もう、早く着いてよ。
そしたら、誰にも見られずに、二人っきりになれるのに。
それは、たぶん、二人の気持ちだよね。
ゴォォォーーーーーー
彼女がアクセルを全快した。
- 379 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 23:02
- ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・急やったから、勝負パンツちゃうでぇ!!」
それは、彼女に組み敷かれたときに、耳元に囁かれた言葉。
クスっと笑みながら、そう言って、着ていた水色のスーツを脱ぎ捨てる。
そうして、現れたのはセクシーな濃紺色の下着とそこから伸びる
透き通るように白い肌。
まばゆい肢体に、思わず、「ゴクン」と喉を唸らせた。
耳に入ってきた彼女の声に、「プッ!」と、噴出す。
長い指先が、オイラの額の髪を持ち上げた。
そのまま視線を這わすと、彼女が安堵の表情を浮かべたのが判った。
相変わらず、やさしいね・・・。
オイラが、震えていたからでしょ?
冗談のようにそう言って、気持ちを和ませてくれたの。
いつのまにか脱がされてしまったセーラー服が、フローリングの床の
下に投げ捨てられていた。
久しぶりに人前に晒す裸体に、ブルブルと勝手に震えだす。
いいや、久しぶりが原因じゃないか。・・・相手が彼女だから。だから、
オイラのカラダはこうなっちゃうの・・。
恥ずかしくて、ドキドキしてて。でも、こうしてまた触れてもらえる
のは、すっごくうれしくて・・。
「シャワーを浴びさせて」なんて、そんな言葉を出せる余裕なんて
なかった。
玄関に入ったとたんきつく抱きしめられて。
キスを交わしながら縺れるようにここまで連れてこられた。
脱ぐのを忘れてしまった靴が、床の上に所在なさげに転がっている。
「・・・んっ、はっ、んあァ・・・・・・」
言葉を飲み込むように、深くされる口づけに。
陶酔しながらも、夢中でこたえた。
- 380 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 23:11
- でも、よかった・・。
体育終わってから、シャワー浴びといてさ。
だって、久しぶりの再会が、汗臭いなんてイヤだもんっ。
だけど、彼女言うとおり、下着を見られちゃうのはちょっと恥ずか
しかった・・。
もう、こんな展開が予想されるなら、毎日ちゃんとしたものを持ち
歩いていたのにぃ。
なっちとバーゲンでつかみ取りした、なんの変哲もないコットンのパンツ。
せめて、上下お揃いとかだったら、カッコウもつくのに、見事にてんで
バラバラだった。
・・・まだ、くたびれてはいないのが、せめてもの救いだ。
だけど、見られるのが恥ずかしいから脱ぎたいなんて、そんな言葉は
もちろん言えなくて。
モジモジと膝を突き合わせていた、そんなときの彼女の言葉に、うれ
しくなる。
「・・・んっ、やァ・・はっんっ・・・・・・」
再開される甘い口づけが。
徐々に深くなりながら、彼女は掛け布団を端へと押しやる。
そのまま、ゆっくりと肌触りのここちいいシーツの上に沈められると。
すぐに彼女のカラダが重なってきて、久しぶりの感触にココロが
甘く震えた。
- 381 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 23:21
- ちゅっ。ちゅっ。
僅かに感じる香水のカオリ。
顔にかかるフワフワの髪の毛がくすぐったくて。
なめくじのように首筋を這っていた舌が、ポッカリと空いていた隙間に
侵入してきた。
そのまま、隠れた舌を捕らえられると、艶かしい感触にゾワゾワっと、
背中が粟立った。
彼女の遣り方は、アタマよりもカラダのほうがよく覚えていた。
意地悪で甘〜いキスを丹念に施されると、オイラのカラダは彼女に
向かってあっという間に開かされる。
「・・・んっあ・・・・・」
鼻にかかる甘い吐息に、うっとりと瞼を開く。
肌理の細かい真っ白な肌が間近に迫っていた。
見つめられるだけで、ドキドキしちゃう青い瞳はいまは、閉じられている
けど。
色素の薄い長い睫毛。
くっきりとついた二重瞼が、ピクピクと痙攣していた。
「・・・・んあァ・・・っやァ・・・・・」
少し上を向いた鼻はあの頃のまま。
ピンク色に上気した頬。
特徴的な唇は、そのまま、アタシの呼吸を塞いでいた。
ゆうちゃん、すごい、綺麗になったよね?
なんか、ドキドキしちゃうよ。
力の抜けた両手で、熱の篭ったその頬をやさしく包みこんだ。
- 382 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 23:28
- 「・・・ん?」
きょとんと窺ってくる目が、かわいい。
すべすべの肌触りも気持ちよくて。
また、こんなふうに触れられる日がくるなんて思いもしなかったよ。
それは、夢だと思っていたのに・・。
「・・好き。好きだよ、大好き。・・好き、ゆうちゃんが・・・・」
なんどもなんども繰り返した。
なんど言っても飽き足らないんだ。
いままでぶんの思いを込めて。
唇が解かれたのと同時に、痺れる舌でそう言葉をつむぐと。
クスッと笑んだ彼女が、言葉のお礼になのか甘い口づけを与えてくれた。
照れくさそうに目を細めながら。
お返しの声が聞こえなくても、それだけで十分満足できた。
アタシから伸ばして絡めとる。
舌先を闇雲にこすり合わせると、彼女がまた、クスッと微笑んだ。
もっと、したいの。
キス。
なんで、彼女とのキスはこんなに気持ちいいんだろ。
- 383 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 23:38
- ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・ここ、好きやったよな?」
わき腹あたりを悪戯していたてのひらが、おもむろにそこを捕らえた。
両手でやさしく包むようにされると、それだけで腰が浮き上がっちゃう。
そんな図星の声に、言葉にならなくて、ちょっと困ったようにはにかみ
ながら、でも、「コクン」と、頷いてみせた。
・・・・だって、それは、ホントウのことだから・・・・。
「あれれ、ヤグチ、おっぱい大きくなったかな?」
パンの生地を揉みこむようにしながら、陽気な声で顔を覗き込んでくる。
指と指の間に挟まれた乳首を引っ張られると、そのまま腰も一緒に
跳ね上がった。
彼女は、「なぁなぁ」と、ヒトの悪い笑みを浮かべながら、しつこく
聞いてきた。
「・・・んっ、し、知らないよ・・・っ、あぁ!!!」
指の腹で転がされた、突起を抓まれる。
強く弧ねって、やさしく撫でられると、堪らずに甘い泣き声が零れた。
鼻にかかったようなエッチな声が、次から次へと溢れ出して。
なんども、ベットを軋ませた。
久しぶりなのに、時を忘れたように彼女は巧みにアタシを追い上げる。
あっという間に、コットンの大事な部分は染みでぐちょぐちょになって
いた。
なんで、こんなに巧いんだよぉ〜。
- 384 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 23:49
- 「フッ。・・相変わらず感度ええんやないの。なぁこれ、彼氏に揉んで
もらったからなんちゃうんっ!!?」
それは、どこか笑いの含んだ言い回しだった。
ギュっと瞑ったままだった瞼を開ける。
僅かに軋んだ胸の痛みを堪えて、アタシは、自分の胸の上に旋回
していた手のひらに、そっと自分の手を重ねあわせた。
溜っていた唾液を飲み込んで。
下唇を噛み締めながら、その言葉をつむぐ。
「・・・・いないよ、彼氏なんて。あれから誰とも付き合っていない。
あの仕事も、ゆうちゃんと別れてからすぐに辞めたんだ・・・・」
その頃を懺悔するかのように、そっと瞼を落とした。
仕事を辞めると告げるときは、さすがに勇気がいったよ。
なにせ、ヤクザが絡んでいるらしいっていうのがなによりも怖かったし。
仲間うちでは、奴隷市場に売られるんだとか。(←なにそれ?)
お風呂に沈められちゃうんだとか。(←だから、なんのこと?)
ビクビクしながら、掛けた電話は、ひどく呆気ないものだった。
彼は、すんなりと了承してくれた。
「そんなものなの?」――こっちが聞き返しちゃったほど。
エンコーをやりたがる少女は後を絶たないらしい。
しかも最近は、低年齢化がのニーズが進んで、だから相手は新鮮に
こしたことがないのだと力説された。
辞めたいやつは、辞めればいい。
オンナノコの変わりなんて、いくらでもいるから・・・・。
- 385 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/04/30(金) 23:56
- ホッとしたのも事実だけど。
別にオイラじゃなくてもよかったんだと思うと、それは、ほんの
少し寂しかった。
ここは、自分の唯一の居場所だと思っていたから。
アタシを必要としてうれるヒトがいるのだと思うとうれしかった。
たとえそれが、カラダ目当てだったとしても・・・・。
――「でも、またお金が欲しくなったら、電話してね!」
最後に会ったとき、そう言って握らされた彼の名刺は、帰り道、コン
ビニのゴミ箱のなかに捨ててきた。
だって、必要のないもの。オイラはもうしない。そう決めたの。
自分を大切にするのだと、彼女と約束したから。
「・・だからしてない。あの日から。ゆうちゃんしか・・・・・」
――このカラダに触れていないんだよ。
- 386 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/01(土) 00:06
- あの日、アナタに清められたカラダには、誰も触れさせなかった。
アナタに逢えなかったら、一生、このままだったかもしれないカラダ
だ・・。
「もう一生、ゆうちゃんしか知らなくていい。ゆうちゃんと以外こんな
ことしない。したくないの。」
それは、それまでいい加減に自分のカラダを扱ってきたことへの戒め。
あの日、雪を握り締めて、泣きながら、そう誓った。
「だから、お願いですから、もう一度、あのヒトに逢わせてください」と。
彼女が、そっと、頬に触れてきた。
「ふう」と、大きな溜息をついたのが分かって、アタシは、おそる
おそる瞼を開ける。
「ほら、あかんて。相変わらず、泣き方変わってへんなぁ・・・・」
噛み締める唇に、親指が触れる。
それでも、そのまましつづけると、今度は唇が触れてきた。
舌先で、なぞられるようにされるとたまらなくなって、ようやく解放する。
ちゅっ。
強めにキスされて、そのまま、バチンと頬を挟まれた。
覗き込んでくる眼差しに、ゆっくりと視線を這わせる。
そのブルーグレーの瞳は、少し、怒っているようだった・・・。
「ほんまに。アンタって子は・・天性のオトコ、いや、オンナ殺し
やね・・・。」
- 387 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/01(土) 00:13
- 困った子やで・・。
そう言って、ムギュって鼻を抓まれた。
知らずに零れ落ちていく涙は、彼女の指先が拭ってくれた。
「・・・・まったくぅ。そんなん言うてから・・・・。」
ぶつぶつと、文句の言葉を繋げるけれど、その瞳は少し潤んでいて。
オイラは、目の前の細い腰に腕を通した。
お互いの膨らみが、形を崩す。
そこから、ドクンドクンと激しく波打つのは、どっちのなのかな?
「・・・・どこで覚えたんや、そんな殺し文句・・・・・。」
今度は、あぐぅと鼻の先を齧られた。
怒っているからなのか、それは、歯型がつくくらい強かった。
「いてぇ」
思わず零れてしまった声に、彼女がクスクス笑う。
そうして、ようやくオイラも息がつけた。
- 388 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/01(土) 00:20
- 「今のはあかんて、もろに心臓にきたで。もう、これ以上抑えられる
自信ないで。」
「抑えなくたっていいよ。ゆうちゃんの好きなようにして・・・・・・」
回した腕に力を込めると、彼女が重力に勝てずに圧し掛かってくる。
そのほどよい重みを全身で受け止めながら。
「コラッ!」
窘めるようなその声も、どこか、迫力にかけていた。
二人分の熱気に、すっかり上昇してしまった気温。
洗い立てのシーツがぐっしょりしてた。
チョコレートみたいに、このままひとつに溶けちゃえばいいのにね。
「・・・・・・好きやで。」
耳元にちいさく囁かれた言葉は、聴きなれない関西弁だったけど。
彼女の口から紡ぎだされたものだと、実感するには十分だった。
涙が、こみ上げてくる。
まさか聞けるとは思ってもみなかった言葉がうれしくて、信じられなくて。
ねぇ、いま、ホントに「好き」って、言ってくれたの?
- 389 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/01(土) 00:30
- オイラも、アナタが好き。
アナタも、オイラが好き。
想いが交差すると、ゲンキンなカラダが、急に疼きはじめた。
脚の間が、ジュクジュクと唸りだす。
中途半端にほっとかれたままだったから。
ねぇ、もう、我慢できないよぉ・・・・。
「好き。ヤグチも好き。ねぇして?抱いてよ、お願い、早くぅ・・・」
おねだりするように、クネクネと腰を揺らしながら。
彼女の二の腕に縋った。
あとで、よくもこんなこっぱずかしいことが言えたもんだと顔が
熱くなったけど。
彼女は嘲笑うなんてこと、しなかった。
そんなアタシを、きつく抱きしめてから。
「・・・・・・・言われんでもな。」
そう言って、目の前で不敵に笑みを浮かべる彼女の姿がひどくカッコウ
よくて、その瞬間、ヤラレタと、思った。
夕日に反射して、キラキラとなびく髪。
口元から僅かに覘く白い歯が、妙にエロテックで、ドキドキと心臓が
早鐘していた。
堪らなくなって、その細いカラダにギュっとしがみつく。
(・・・お願い、早く・・・・・。)
- 390 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/01(土) 00:36
- 彼女のセクシーな唇が、近づいてくる。
されるままに口を開かされて、口の中へと舌を受け入れさせられた。
脚を大きく開かされる。
そのままカラダを入れられると、もう身動きができなくなって。
操られる舌の感触に、期待に胸が膨らむ。
それと同時に、久しぶりの逢瀬への不安。
強すぎる快感へに煩悶が、ちいさな胸をきつく締め付けた。
こんなに熱くなっちゃって、これから自分がどうなっちゃうのか怖い
よぉ・・。
「・・・んあぁ、やぁん・・・・・・」
だけど、その思いは、ますます深みをます口づけで、一蹴されるんだ。
カラダ中に愛のしるしを刻み込まれると、なんにも考えられなくなった。
(・・・・苦しい・・・息ができない・・・)
- 391 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/01(土) 00:40
- 目を開けて、愛してくれるヒトの顔をじっと見つめていたいと思って
いたのに。
いつのまにか、その瞼は頑なに閉ざされていた。
シーツに爪を食い込ませる。
足の指が、変なふうに折れ曲がった。
「好きやで。」
「・・んっ。」
言葉と行為と両方から刺激されるのに、アタシは、ただ、彼女の唇を
受け止めるだけ。
耳元で、艶かしい息遣いを聞こえてくる。
そのとき、初めて実感していた。
あんなに逢いたかったひとが、ここにいるのだと。―――
- 392 名前:kai 投稿日:2004/05/01(土) 00:43
- 今日の更新はここまでです。
またまた始めちゃいました。エロです。<ほんと、好きだなぁ。
まだ、ほんのジャブくらいですが、このあともうちょっとエロく
なる予定なのであしからず。(苦笑)
しっかし、相変わらず、アホなこと書いているなぁ〜。<しみじみ
- 393 名前:kai 投稿日:2004/05/01(土) 00:48
- 世間様がお休みのなか、アタシは相変わらずお仕事・・・。(泣)
最近はもっぱら、いずみさんにココロを癒されている毎日です。(笑)
いや、ヤバイっすねぇ。なんでしょ、あれ。
想像以上に愉しい展開で。毎日、テレビの前でにやけております。
てか、パジャマ姿とか、寝起きとか。マニアには、堪らん!(w
ところで、辻加護にも、“おばちゃん”呼ばわりはさせなかったのに、
あれは、いいのか!
- 394 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/05/01(土) 00:51
- 更新お疲れ様です♪
いや〜めっちゃリアルで読めましたvvv
なんか嬉しいなぁ〜なんて思っちゃってます。
エロきたー!!!ってなかんじで(w。
アホなんかじゃないっす!!ヤグチが幸せになれてるもん・・・。
ほんとよかった・・・(泣。
次も待ってます☆
- 395 名前:kai 投稿日:2004/05/01(土) 00:52
- 番組を見ながら、アタマのなかでいずみさんとヤグチのお話が出来上
がってくる自分が怖いです。
だって、不倫になっちゃうじゃんよぉ!マズイよそれは・・・。
だから、無理やりモヤモヤを追い払っているところ。<アホ。
天までとどけみたいに、永遠に続いていって欲しいドラマですね。
そして、姐さんが怖いヒトだと思っている世間のヒトにコレを見て
そんなほどでもないぞと、知ってもらえたらうれしいな!<なんで語り
なのよ?
- 396 名前:kai 投稿日:2004/05/01(土) 01:09
- レスありがとうございます。
>マコトさん・・にせ大阪弁ですが、愉しんでもらえてなによりです。w
意外な二人・・いや、じつはこのふたり大好きなんです。
姐さんの友達だし、使いやすいし。キャラも濃いし。<いやあのヒトがね・・。(w
どんどん舞い上がっちゃってください。うれしいです。
>ゆちぃさん・・斉藤さん、忘れているわけじゃありませんよ。w
でも、難しくっていまメロンをお勉強中なんです。近々再登場!
ドラマ、↑でも、語っちゃったけど、毎日、姐さんの顔拝めるなんてしあわせ。
パワーもらいまくりですよね?
今回のヤグチは、いかがなもんでしょうか?ww
>370さん・・ウワサの関西トリオ。
アタシ、ずっと姐さんは、元ヤンだと信じていたんですけど、姐本見てビックリ。
でも、いずみさんの過去がこんなんかなとか、思ってるんですが・・・・・。(笑
>371さん・・将来の教育者のひとに、こんな話を読ませてしまっていいのかしら
って感じなんですが・・。アタシも友人から話聞いて。いまは、そうらしいとか?
ウチは自由な校風だったんで、岡女並だと思います。
じっさいに、テレビの岡女も一応、カトリックなんですよね?
しっかり枠をはずしてきた姐さん。どんな教師になるのかは、お楽しみに!
- 397 名前:マコト 投稿日:2004/05/01(土) 11:10
- 更新お疲れ様です!
いやぁ、久しぶりのエロ・・・いいっす!(あほです)
自分は今日から連休なんで、じっくりいずみさんの鑑賞しようかと(w
では、いま以上のエロ、待ってます!
- 398 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/02(日) 15:25
- いずまりにも期待(w
- 399 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/02(日) 22:22
- 素直で積極的な矢口イイ!!
このまま姐さんの暴走に期待して…、続き待ってまーす。
- 400 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 14:58
- ◇ ◇ ◇ ◇
――ベットが二人の重みでギシリと軋んだ。
彼女は後ろ手を回して、ブラをホックを解く。
ポロンと現れた久しぶりの膨らみとのご対面に、コクンと喉が上下した。
改めて上半身が裸になって思い出すのは、アタシタチは女同士だという
ことだ。
透き通るように白い肌。ふんわりと甘い香りが鼻をやさしくくすぐって。
膨らみの中心に佇むピンク色の突起がほっこりと咲いていた。
キレイな彼女には、相応しい持ち物だと思う。
なんか、すごく、ドキドキするよ。
もっと触れて欲しいとも思うけど、でも、アタシも触れてみたくて。
自分の胸の上で悪戯しているその手に習って、おそるおそる手をさし伸べた・・・。
「・・・っ、んんっ。・・やぐっ!!・・・・」
彼女がすぐに気づいて、顎を仰け反えさせる。
敏感なカラダは、あの頃のまま変わらないんだね。
目の前で色っぽい顔を見せ付けられて、アタシの心臓はまた早鐘し
はじめた。
- 401 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:01
- ゆうちゃんって、すっごい綺麗だし、カッコいいんだけど、なんか
カワイイの。
色んな顔を持ってるんだ。センセイしてるときも素敵だと思ったけど。
いまのほうが、数倍、綺麗だよ?
ねぇ、そんな顔見せるの、オイラの前だけにしてよ。
ゆうちゃんをオイラのものだけにしときたい。
このまま、この部屋から出られなくなっちゃえばいいのにって思ってる。
ずっとずっと、ベットの上で過ごしていたいよ・・・。
「・・・好きぃ。・・・・オイラも、触りたいの・・・いい?」
「・・っん。・・・・っはあっ!!」
僅かに頷きながら片手だけで体重を支えられなくなった彼女が、コトン
と真横に倒れこんできた。
いまされてるのと同じように、彼女の先端を指の腹で転がした。
指の上で徐々に膨らみ始めてくるのがわかって、なんだかうれしくなる。
――アタシが気持ちいいように、ゆうちゃんにも気持ちよくなってほしい。
- 402 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:03
- 彼女の息遣いが少し荒めになってきた。
オイラは吐息ごと飲み込むようにその唇を塞いだ。
すぐに舌が伸びてきて。
ねっとりした唾液を分け合いながら、手だけは忙しなく動き回す。
舌を吸い付かれて、乳首をキュっと挟まれた瞬間。
「・・・っ、んやっ!!」
ビリッとなにかが背中を通過した。
一際、ベットが軋む音。
そして、また、ジワリと下着を濡らしてしまう。
餓えきっていたカラダは、あっという間に全身を弛緩させた。
アタシは、こうしてなんども彼女の手と唇で絶頂を迎えさせられる。
久しぶりすぎだから、といよりもむしろ、彼女が触っているのだと思う
だけで、胸が高ぶって、泣きたいくらい感じちゃっていた。
- 403 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:05
- 彼女は、やさしく唇を啄ばみながら、アタシの呼吸に合わせてカラダの
あちこちを撫でていた。
ごめん、もう、動けないよ・・・。
「・・・ゆうちゃ、好きぃ・・・」
「・・・ん。・・ありがと。・・・」
毎度、戯言のように繰り返すのに、いちいち微笑み返してくれて。
そのたびに、顔中にキスの嵐を降らしてくれた。
一気に駆け上る快感よりも、こんなふうにゆったりと上り詰めるのも
いいよね。
たぶん、それは彼女とだけしかできないことだと思うから。
「気持ちい?」
「ん。気持ちいいぃ・・・・。」
縋るものが欲しくて、彼女の背中を必死に掴む。
- 404 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:08
- 「ほら、やっぱり、少し大きくなったんちゃう?!!」
それは、胸を弄りながら、さっきのはなしの続き。
・・・そうだよ。
AAカップからAカップへ昇格ってとこだけどね。
彼女が揉み込むようにしながら、ちいさな胸をなんども揺らす。
アタシは口を窄ませながら・・・。
「・・っ、んぁっ!・・・だ、だって、2年も経っているんだよぉ!!」
「せやなァ。でも、ほらここは、カワイイまんまや!」
ピンと先端を弾いて、そのままパクンと吸い付かれた。
口の中特有の生温かい感触に、背中がムズムズする。
置き場に困った手は、そのまま、彼女の後ろ髪に通した。
「・・っやっ!!・・・っ、あぁ、そこっ・・・・・」
「んぁ?・・ここ?・・ここ、どうして欲しいん?」
舌でもっと弄って欲しいなんて・・そんなこといえないよ。
- 405 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:11
- だけど、彼女は意地悪しないで、そのまま舌で触ってくれた。
恥ずかしいくらいに空を向いてしまった突起をやさしく捕らえて。
舌先で擽られるようにされると、なんどもバタバタとカラダを揺らした。
「・・・っい!!・・やあぁ!!!」
ほどよい力加減で歯を立てられる。口からひっきりなしに洩れていく
甘えた喘ぎ声が自分のじゃないみたいで。
片手が首の下に伸びてくる。
そのまま、きつく抱き寄せられると、懐かしさにザワザワと胸が高
鳴った。
離れたくない。
この胸の中にずっといたい。もっときつく抱きしめてよ。
もう、あんな淋しい想いさせないで。
きつく抱きしめかえして、そう思っていたら。
「なぁ、・・・・ここの毛ぇも生えたん?」
アタシの気持ちとは裏腹に、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、
コットンの下着の上をさすっていたんだ。
- 406 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:13
-
慌てて目を見開くとバッチリと視線が絡み合う。
器用に脚を広げさせて、指先が布の上を行ったりきたりしていた。
「っやあぁ!・・やだ、ゆうちゃ・・・・」
「すっごく、ぐっしょりしてる。気持ちよかったんや?」
彼女の問いかけは決して意地悪してじゃないことはすぐに分かった。
微笑んでいる瞳がやさしそうに見てくれていたから。
だけど、そんな答え難い質問されても、どう返答してよいものか分
からなくて。
答えをあぐねいていると、また、あの質問。
「・・・なぁ、生えたん?」
「・・・・・ん。少しだよ。」
素直に答えてしまってから、「ハッ」と我に返った。
瞼をおそるおそる開くと、案の定、目をランランと輝かせる彼女がいて。
形のいい唇から、次に要求される言葉はだいたい想像できる。
- 407 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:16
-
「へぇ、そうなん?・・・そら見たいな。・・・なぁ見てもええ?」
彼女がズルイなと思った瞬間。
それは、計算づくなのか、それとも天然からなのか。
そんなふうにコドモみたいな顔しておねだりされたら、ウンと頷くしか
ないじゃないか。
「・・・・ここ、見たい。見てもええ?」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・ヤグチ?」
「・・・やあだぁ。恥ずかしいよぉ・・・・。」
それでも、お決まりの文句みたいに抵抗してボスンと枕に顔を埋めた。
彼女はゆっくりとアタシの上に圧し掛かってくる。
そのまま耳たぶを掴まれて、パクッと甘噛みされた。息を吹きかけ
ながら・・・。
「・・・なぁ、見せて?」
- 408 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:19
- 額に額をくっつけて。
色っぽい声で、そう、おねだりされると。
唇をキュっときつく噛む。
彼女はクスリと笑って、軽くにチュって、キスを落とした。
どうせ、ヤダって言っても見るくせに。
そうココロの中で毒つきながら、静かに首を動かした。
モゾモゾと移動していく彼女が、アタシの両脚を強引に引っ張って。
大きく脚を開かされたまま、ちいさなそのお尻は、正座した彼女の
膝の上に収まった。
とらされた体制にイヤイヤと首を振る。
「やっ、やだぁ・・・・」
「ええから、リラックスして・・・・」
内腿をやさしく擦りながら、そんな場所させも、彼女の手だと思うだけで、
熱くなっちゃうの。
視界に膜が張る。
顔が火照って、どうしようもなくて・・・。
- 409 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:22
-
「なぁ、アタシのこと好き?」
注意を逸らすように、そんな突拍子もない質問。
「・・・好きぃ。大好き。」
だけど、素直に答えた。
「アタシもや。ヤグチが大好き。カワイイ。それに、綺麗になったよな。
ゆうちゃん知りたいん。なぁ、2年分のヤグチを見せてよ?・・全部、
アタシに見せて?」
そんなふうに言われたら、抵抗する理由がなくなっちゃうじゃないか。
「・・・ん。・・うん。」
ちいさく頷いて、だけど、首は横を向けた。
どうしようもなく赤くなった顔を見られたくなくて。
彼女は、弛緩させた太ももをいい子いい子と撫でながら。
ゆっくりと、脚の間に視線を這わしていく。
- 410 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:24
- 水分を含んですっかり重たくなってしまったところに手を掛ける。
脇から捲るように取り除かれて、よく伸びるコットンは端のほうへと
押しやられた。
冷たい空気と一緒に、生温かい吐息がかかる。
一段高いところにあるということは、それだけ近くで見られている
ということだ。
羞恥心でボッとカラダが熱くなった。
「・・・っ、んんっ!!・・・・」
親指が、毛の上をやさしくなぞる。
歯の根がガタガタと軋み始めた。
- 411 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:27
- かぶりを振りながら、うっすらと瞼を開けると、ダンボールの山に
囲まれていて。
新築だと思われる真っ白な内装に、カーテンの変わりに掛けられていた
のは、なぜか茶色い紙・・?
はて?と首を傾げるけど、多分それは、受け渡す前の日よけなのかな?
家財道具の少ない部屋は、あまり人の匂いがしなかった。
ほんとに越して来たばっかりなんだぁ。
東京にでてきてすぐ、こうして逢っちゃうんだから、やっぱり運命を
感じるよね?
そんなことを思いながら、そんな部屋でされている自分の格好に、
息を呑んだ。
六月の夕暮れはまだ日が高くて、電気をつけていなくても十分明かり
が採れていた。
「・・や、やああぁ・・・・」
- 412 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:31
- 彼女が遠慮なく性器に手を掛けた。
そのまま指先で大きく広げられると、ギュっと瞑った瞼から、ポタポタ
と雫が零れ落ちて。
この世で一番大好きなひとに、一番見られたくない場所を晒すの。
こんな仕打ちひどすぎるよ。
ねっとりとした視線が皮膚の上を這う。
眼球に力を込めてこみ上げる雫を懸命に堪える。
だけど、恥ずかしさのなかにも、昂ぶりがあることも否定できなくて。
彼女の薄い膝の上で、腰が魚のように跳ね上がった。
すごい恥ずかしいことしてるのだと分かる。だけど、一方的に見られ
ているだけじゃ辛いよ・・。
触って欲しい。そのキレイな指で、ぐちゃぐちゃにして?
- 413 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:33
- 「・・・・ヤグチ?」
「・・っ、ちゃ、恥ずかしいぃ・・・おねがい・・・・。」
我慢できなくて、カラダの中からも雫が溢れ出す。
そんな自分にも我慢がならなくて、また、涙が溢れてきた。
「・・・あ〜ぁ、また泣いてるし、涙腺弱いんかなぁ・・・・。」
カシカシと髪を撫でられて。
膝に乗せられたままだったお尻が、シーツの上に下ろされた。
「なぁ、なんでなん? なんでそんなにカワイイの?」
パチンと挟まれた頬が、その部分だけ熱を帯びる。
ゆっくりと視線を這わせると彼女は少し怒っていて、だけどその声は
甘く掠れていた。
「そんな目ぇされると、アンタのこと、めちゃくちゃにしたなる。
ホンマは、やさしいしたりたいのに・・・。」
「・・・・・いいよ。ゆうちゃんにだったら、どんなことされても
いいもん。」
- 414 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:36
- 「メッ」って、怒っている人をじっと見上げた。
その視線を受けたまま、頬に止まっていたやわらかい右手を両手で
挟んで。
今日は可愛いいピンク色なんだ。
彼女の乳首と同じ桜色だね。
アタシはその爪ごと口に含んだ。
舌先を使って、舐めあげると彼女は困ったように眉根を寄せる。
そのまま、軽く噛み付くと、ますます眉根が寄った。
口の中に僅かに残るのが自分の味だと思うと、顔が火照るけど。
逢えない間、この白くて綺麗な指がずっとずっと欲しかったんだ。
熱に浮かされたカラダは、自分の行動を制御することさえ出来ない。
唾液で濡れた彼女の指を脚の間に下ろして、そのまま視線をあげた。
「−−−−お願い。ここ、して・・・?」
- 415 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:38
- ぶわっと耳たぶが熱くなる。
頬には、涙の列をつくりながら。
縋るように、じっと、彼女の瞳を見つめると。
「ハア」と、ちいさく息を漏らす声。
そのまま、コトンと皺くちゃのシーツの上に転げさせられて。
細い体が覆いかぶさってくる。
長い髪の毛に隠されてしまった視界。
「・・・・好きぃ・・。」
「んもうっ、まだ言うんかい!・・・ったく、アタシをこんなにさせ
てから、ジゴロかいな!!」
意味不明の言葉を吐きながら、彼女はそれ以上言わせまいとそのまま
唇を塞いだ。
噛み付くような激しいキスの応酬に、目の前が赤く染まって、体中に
ビリビリと電流が走った。
- 416 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:42
- いつのまにかカラダが折りたたまれていて、脚を大きく開かされていた。
口づけも解かれぬままに、その人差し指はアタシの中に入ってくる。
なんの抵抗も見せずに、アタシは彼女を受け入れてしまった。
「・・ああぁ。・・・いやあぁっ・・・・・・。」
「フッ。もう、イヤイヤは、聞きません。・・」
啜り泣きながら、重たい瞼を開けると、そう言ってフフンと得意そう
に微笑む彼女。
あぁ、そんな顔も好き。
意地悪な顔をしながら、その指先が細心の注意を払ってくれているの
が分かるから。
どろどろに意識が溶けて、体中が別の生き物になってしまったよう
だった。
側に佇むちいさな突起を弄られて、指が上下に動き出す頃にはなんにも
考えられなくなった。
自分の喘ぎ声が、脳の奥に響いてくる。
「ほら、なんも、考えられなくさせたげる。」
- 417 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:45
- 淫らさを含んだ甘い声で、そのまま喘ぎ声を封じ込めた。
痛いくらいに舌先を吸い付かれると、また、ポロポロと涙を零した。
ずっとずっと、こうされたかったんだ。
アナタにされている夢をなんどもみた。
なんどもなんども、繰り返しみて。
だけど、だんだん、アナタの顔がおぼろげになっていくのが悲しかった。
このまま、忘れちゃうのかと思うのとホントに辛かったんだよ。
そっと、瞼を開ける。
そこに、彼女がいた。
アタシを愛してくれる彼女の姿が・・・・ぼんやりとだけどちゃんと
見える。
- 418 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/08(土) 15:55
-
自分の声が、泣いているのか喘いでいるのか分からなかった。
彼女の指の動きが増す。
腰がガクガクと暴れだす。
「・・・ハッ、ああぁ、っ、・・やあぁ、あん・・・・・っきぃ、・・
・てる・・あい、してる。・・・っゆうちゃ、・・・っ、ん、・・・
はああぁぁぁあんっ!!!!!」
アタシは彼女の腕の中で、あっという間に尽き果てた。
ぐったりと沈んだシーツの上で、喉が、ヒューヒューと、悲鳴をあげて
いる。
「かわいい、好きやで。」
啄ばむようなキスをして、子守唄のように穏やかな声が耳の奥に聞こ
えてきた。
やわらかくて、あったかい腕のなかに、ちゃんと戻ることができた
んだ。
目が覚めたときも、ずっとこうしていたいよ。
そう思いながら、静かにまどろみの中へと連れて行かれる・・。
彼女の胸の中で、おやすみなさい・・・・・。
- 419 名前:kai 投稿日:2004/05/08(土) 15:57
- 今日の更新はここまでです。
遅めのGWを貰いまして、といっても短いですけど。
近いうちに、続きを出来たらなと、思ってます。
てか、このシーン、もうちょこっとだけ続きます。(汗
アタシ、エロより、ピロトーク書くほう大好きなので・・。(ヲい)
- 420 名前:kai 投稿日:2004/05/08(土) 16:00
- レスありがとうございます。
>ゆちぃさん・・エロ、はい来ちゃいましたぁw
ってか、しつこいとか思われていないか、ちょっと心配。(汗
今回のは、リアルでは出来なかったヤグチがいつになく積極的です。
書いていて愉しい。ゆちぃさんにも喜んでもらえるとうれしいです。
>マコトさん・・今以上のエロってほどでもなかったかも。(汗
いいっスと云われると、とりあえず、ホッとします。
ところで、いずみさんは、楽しんでますか〜ww
>398さん・・あぁ、いずまり・・・・。<遠い目。
そう言ってもらえるなら、やっちゃおうかなっとか思うけど、不倫に
なっちゃうんだよねぇ・・・。
tunagiで、三角関係のドロドロなんて構想もあったりして。
でも、3○はなぁ〜〜。<いい加減にしろ!w
>399さん・・おぉ、お褒めのお言葉うれしいです。
これからも、今まで以上にヤグチを可愛くしていきたいです。
どうぞ、お付き合いください。(ぺこ
- 421 名前:kai 投稿日:2004/05/08(土) 16:04
- ということで、続きはがんばって近いうちに。
これが終ったら、やぐちゅーも交えた別のカップリングが登場します。
やっぱ、学園物書いてるんだから、いろいろしてみたくてねぇ。
ただいま、実験的に、別カップリングでエロ書いてます。<またかい!
どんなふうになっていくかは、・・・・・・・・。(汗
- 422 名前:マコト 投稿日:2004/05/08(土) 21:24
- 更新お疲れ様です(w
やぁもぅここの矢口さん可愛い!
中澤さん共々大好きです。
>ところで、いずみさんは、楽しんでますか〜ww
は〜い楽しんでますよ〜!!
家に帰ってからビデオを見るのが習慣になっちゃって(笑)
でもいずみさんみたいな人が近くに居たら楽しいでしょうね〜
では、またの更新お待ちしてます♪
- 423 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/05/09(日) 04:01
- おつかれさまで〜す♪
喜んでますvvvバリバリ(w。
しつこいなんてとんでもないっ!!!
ヤグチがかわいく見えてしかたないですよぉ。
kaiさんのお話は、読んでると、
やっぱり私はやぐちゅーが好きだな〜って改めて実感します。
別カプも期待してますよ〜〜vvv
いずみちゃんと真里ちゃんのも
けっこーひそかに期待をよせてるんですけど・・・(w。
不倫でもいーじゃないっすか(爆。
次回も待ってますね〜〜♪
- 424 名前:371 投稿日:2004/05/09(日) 21:49
- kaiさん大丈夫ですよ教育者になる予定はないです。
実習終わりの日、泣いてくれるのみてヤバイと思いましたからね。
もともと教職免許もついででとったようなものなので…
友人はおいしい職業だといいますがそんなことでいいのかと。
あ…でもエロは嫌いじゃないですとゆうか好きです。
ピロトーク大好物です。
- 425 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/11(火) 00:11
- 相変わらず可愛い矢口で最高です。
別CPも楽しみにしてます。
いずまり・tsunagiも密かに期待…w。
- 426 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/11(火) 06:25
- んー
なっち…大輔が行ってる幼稚園の保母さん
矢口…そこの幼稚園児
……って普通に犯罪だな。(w
- 427 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/05/11(火) 20:31
- だいすけ=矢口さん
と思ってる自分は邪道だよねぇ・・・
どっちにしろ犯罪には変わりないか(w
続き、楽しみにしてます。
- 428 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:20
-
◇ ◇ ◇ ◇
荒い息を整えて、腕の中で瞼を落とす彼女の顔をじっと見つめていた。
汗ばむおでこに張り付く前髪を、そっと持ち上げる。
チークしたみたいにピンク色に染まる頬。
ときおり、瞼がピクピクと痙攣して。
たらこのように膨れ上がってしまった唇は、キスの激しさを物語っていた。
「クッ。・・・なんか、オバQみたいやんっ〜♪」
指先でなんどもなんども濡れた痕をなぞる。
薄くてやわらかい質感。
そこにあるだけで、顔を寄せたくなるくらい可愛いそれ。
今日、何べん云われたやろう。
「好き」って・・・。
胸がじんわりと熱くなった。
腕の中の子がどうしようもなく可愛くて。
だって、そんなふうに自分のことを好いてくれる子は、久しぶりだった
から・・・。
- 429 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:23
- 「かわいいなぁ〜。」
いつの間にか、平和そうにスースーと寝息を立て始めてしまった彼女に
苦笑いする。
云うてくることはイッチョ前のくせして、寝顔は、赤ちゃんみたい。
おでこに、チュっと軽くとキスを落として、ガシガシと髪を掻き混ぜた。
「・・・・んもうっ、寝んなや・・・・・・。」
毒つきながら、ちいさなアタマを枕の上に落としてあげる。
そのまま、横に寝そべって。
空いてる片手を首の後ろに通して抱き寄せた。
中途半端にほっとかれてしまったままのカラダの熱が、まだ奥のほう
でくすぶっている感じがする。
脚を捩ると、その部分がぐっしょりと濡れていることがわかった。
だからって、彼女にどうこうされたいなんてことは、これっぽっちも
思っていないけど。
与えられる側のセックスよりも、与える側の喜びを知った。
アタシの愛撫ひとつひとつに感じてくれるこのコを見ているのがうれ
しかった。
ヤグチが嬌声を上げるたびに、いつのまにかアタシの息も荒くなっていて。
指先に感じる熱い感触。
それは、アタシを受け入れてくれたという証。
- 430 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:26
- ふと、窓の外に目を向けると、すっかりオレンヂ色に染まってた。
二人分の熱気で窓ガラスが汗をかいている。
網戸から入ってくる海風が、熱いくらいの室内に心地よい風を送って
くれた。
ずっとこうして抱いててあげたいけど、でも、このままやったら、風邪
引くよなぁ。
そう思案しているときに、腕の中の子が「んんっ!」と唸り声をあげた――。
「・・・・・・・・だいじょうぶかぁ?」
ペチペチと頬を擦る。
アタシの声に、ゆっくりと反応して。
だけど、その瞳は、まだ夢の中へ片足を残したままらしい。
苦笑いしながら、チュと、重たそうな瞼に口づけた。
顔も鼻も口も、みんなちっちゃいくせして、目のパーツだけは異様に
でかい。
なんか、この子を見ていると、むかし、近所で飼っていた仔犬を思い
出す。
チビって呼ばれていたその仔は、オトナになってもちっちゃいまんま
やった。
めっちゃ可愛くって。かまわずにはいられなかった。
- 431 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:28
-
「・・・・・・んんっ!んあぁ?!」
「・・・・ん? 起きたんか?・・・カラダ、平気ぃ?」
トントントンと肩を叩きながら、コドモをあやすようにやさしく擦ると。
彼女は、寝ぼけ眼のままこっちの反応を窺いながら、パチパチと長い
睫毛をしばたいた。
「・・・ゆうちゃん?」
「うん?・・・もう、ちゃんと起きた?」
「・・・っう?・・うん。て、あれ?・・オイラ・・・・あっ。」
そのまま絶句してしまった彼女。
みるみる顔が赤く染まっていくのが可愛くて、苦笑しながらそんな姿を
見つめていた。
「・・・あ、ウソ、ごめん、ごめんなさい。オイラ、寝ちゃってたの?
どれくらい・・?」
「クスッ。5分くらいかな。今日は、いろいろあったから、疲れたんやろ?」
ひどく申し訳なさそうにする姿が、耳を垂らす仔犬のようで。
おかしくなって、口元が緩むけど。
- 432 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:30
- 「・・あっ。」
彼女は、また声をあげる。
「ん〜〜?」
その赤く濡れた大きな瞳の先は、自身の下肢へと向けられていた。
アタシも、つられるようにそこに収められている自分の右手を見つめ
た。
「・・あぁ。意識ないのに、抜いたらあぶないと思って。よかったわ
起きてくれて。」
「・・・っ、あ、あうぅ・・・。」
全身が、サーっとピンク色に染まっていく。
ホンマに分かりやすいカラダやね。
見てて飽きないわぁ。
そう、アタシの指は、彼女の中に繋がったままだった。
- 433 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:33
- みっちりとした肉が、指をギュっと締め付ける。
お漏らしをしたかのように、体内から溢れ出る蜜は、手首から腕の
ほうまで流れ出していた。
改めて繋がったところを見つめる。
うっすらと陰りをみせる陰毛が汗でべたりと張り付いていて。
その部分は、ピンク色なキレイな形をしていた。なんだか、彼女の
くちびるを思わせる。
よりピンク色のちいさな穴がアタシの指を呑み込んでいるさまは、
ひどくいやらしくって。
じっと見つめていると、腰がヒクヒクと慄いた。
「やあぁ。・・見ちゃヤダぁ・・・。」
そんな甘い声だして。
それが、煽っているって分からないの?
「・・・抜いてほしい?」
「・・・・・・。」
ホンマに正直。
だから、カワイイ。
「なぁ、動かさへんから、このままにしとっていい?」
- 434 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:35
- 温かくて、ぬるぬるしていて、気持ちいいから、まだもうちょっと
彼女の中に収まっていたい感じ。
ヤグチは、困ったように眉根を寄せながら、でもコクンってちいさく
頷いてくれた。
うれしくなって、ちいさなカラダを抱き寄せる。
恥ずかしそうに胸の上に縋ってくる子が可愛くて。アタシは、その背中
を何度も撫でた。
こんなこと、オトコとはでけへんよなぁ。
だから、うれしい。それが、うれしい。
「ねぇ、ゆうちゃん、ごめんね、オイラだけ・・・・・・・。」
胸の上で、くぐもった声が聞こえてきた。
一瞬、なんのことかと首を傾げるけど。
すぐに気づいて、やさしく背中を擦ってあげる。
「・・・ええよ。さすがにイビキかかれたときには焦ったけどな。」
「う、ウソだよ! ヤグチ、イビキなんてかかないもんっ!!」
「そうなん? でも、アタシをほって寝ちゃったくせに・・・。」
「うぅぅ。それは、・・・ごめんなさい。」
涙目になって。
あはっ、なんか、ちょっと苛めたい気分。
- 435 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:37
- 「・・・ていうか、アンタ、少し、早すぎちゃうん?!!」
指を貫いてから、一分足らずでイかれてしまっては。
さすがにちょっと、拍子抜けというか、なんというか・・。
イタズラにチョンチョンと鼻のアタマを突付くと、彼女は恥ずかしそう
にアタシを見上げてきた。
真っ赤に染まった濡れた瞳がじっと睨んで、唇を尖らせる。
「・・・だって、久しぶりだったんだもん・・・・・。」
「なんや、アタシのお手柄やないんかい・・・・。」
口の端をあげながら、不敵にそう笑うと、彼女はまた頬をボッと赤く
染めた。
そのまま、湿っぽいシーツの上にアタマを下ろしてしまうと、なんだ
か胸が淋しい気持ちになって・・。
ふと窓の外が騒がしくなって目を向ける。
ベランダを弾く水音。また通り雨がやってきたらしい。
酸の強い雨、独特の匂いが部屋の中に充満した。
もう、ええちゅーねん!いつまで降る気なんかい。
ああでもそろそろ、なんか着るかお風呂入るかしないと、ホンマに
風邪引くよな。
そう思い始めたころ、ふいに彼女が聞いてきた。
- 436 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:39
- 「ねぇ、ゆうちゃん? ゆうちゃんは、なんでセンセイになったの・・・・?」
彼女の声も行動も、まだホヤホヤしていて。
その聞き方は、どこか幼さを感じさせた。
「ん〜? なんでやろね。そりゃ、やっぱ、セーラー服を脱がせて
いけないことするためちゃう?」
「あ、あ、あ、アホっ!」
胸を叩く手も、頼りない。
苦笑しながら、その手をギュっと抱き込んだ。
「もう、真面目に聞いているのにぃ〜〜!!」
「あはは、ごめんごめん。ん〜〜、なんでやろな。なんとなくかな。」
「・・・・・・なんとなくで、センセイになれちゃうものなの?」
「ん〜〜〜。」
アタマは、昔から悪くなかった。
一年間、がむしゃらにがんばったらなんとか教育大学に受かった。
といっても、三流やけど。
教師にならないかと薦めてくれたセンセイがいた。
「お前のような教師がいたら、学校はおもしろくなる」と云って。
それ、どんな理由やねん!と、いまさらながら、思うけど。
自分を認めてくれた彼の一言は、素直にうれしかったんや。
- 437 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:42
- 「じゃ、なんで、数学のセンセイになったの?」
彼女がしゃべるたびに、中に収まったままの指がピクピクと動いた。
そのことに気づいているのか、いないのか。
サラリと前髪を避けると、甘えたように見つめてくるつぶらな瞳に
ドキっと胸がなった。
むかし、こうしてみてくれたオンナのコがいた。
アタシのことをホンマに好いてくれていたそのコは、もういない。
知らずに涙がこみ上げてくる。
あんなに泣いたのに、まだ、アタシは泣けるんや。
彼女に見せまいと、眉根をきつく寄せた。
「ゆうちゃん、ゆうちゃん、どっか痛いの?」
伸ばしてくる手のひらに頬を擦られる。
アタシは、彼女の手を握ったまま、そっとおでこに口づけながら。
「ごめん。指が気持ちよくて聞いてなかった。なに?」
「もう!!・・・だから、どうして数学のセンセイになったのって・・・」
ぷく〜っとおたふくみたいに頬を膨らますそんな怒った顔も可愛くて。
尖らせたそこに、唇を合わせた。
- 438 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:44
- 肩を抱き寄せながら、そのまま懐かしい幼少時代を思いだす。
真っ赤なランドセルを背負ってた頃の・・・。
「アタシな、ちっちゃい頃、算数がキライやってん。」
「・・・・へ?」
「足し算とか引き算とか、まぁ、割り算くらいまではよく出来るほう
やってんけど。分数になった途端に分からようになってな。」
「うん?」
「なんで、そうなるのか意味が分からなくて、でも、センセイはすぐ
に先に行きよるし、そしたらますます分からなくなってしもうて。
そんで、そのうち大嫌いになってしまったんよ。」
「・・・それ、オイラも分かるよ。オイラもそうだった。最初、英語
大好きだったのに、だんだん分かんなくなってきて、そしたらいつの
まにか、キライになってた・・・。」
「そう。それとな、そのセンセイのことあんま、好きやなかったんや。
だから、余計に苦手意識持ってしまって・・・・。」
「・・・うんうん。それも分かる。オイラもそうだったもん。・・・
で、でもさ、でも、だったら・・・・。」
興奮するように捲くし立てる彼女に苦笑いしながら、そのまま消えて
しまった言葉の先を探る。
『だったら、・・・どうしてキライな科目なんて選んだりしたの?』
- 439 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:47
-
アタシは、赤く腫れる耳たぶに唇を寄せて言葉を紡いだ。
「・・・・だって、それやったら、出来ないコの気持ちとか分かって
やれるやん。・・・」
彼女の大きな目がパチパチとしばたく。
そして、サーっと首が赤くなった。
ん??
いまのは、どういう反応やろう・・・。
アタシは続けた。
「それにな、数学ってやればやるほど面白いんよ。同じ正解にしてもな、
いろんな計算方法のやりかたがあって。わざわざ遠回りしてくるヤツ
もおれば、要領いいのとか、結構、性格が現れたりして、だけど、答えは
みんな一緒やねん・・。」
「うんうん。・・・オイラ、数学キライだったけど、ゆうちゃんの授業は
面白いと思ったよ?」
「そうか?・・・そら、うれしいなぁ。」
うれしくなって、額を寄せる。
ほんのり湿ったおでこが、コツンとぶつかってきた。
クスクスと笑いあいながら、すると彼女が、思い出したように。
「でも、今日はビックリしちゃった。いきなり、怒鳴るんだもん、
ゆうちゃん。」
- 440 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:50
- 「んあ?・・・あぁ、あれか。」
みんな真面目にとまでは云わないけれど、それなりに、ちゃんと聞い
てくれていた。
けど、携帯を取り出してメールをしていたヤツを見つけときに、アタシ
はぶちキレた。
『授業つまらんかったら寝ててもええ。どっか行っても、ちゃんと単位
はやるわい。だけど、ここに座っている以上、ちゃんと数学の教科書
広げぇや。そんなもんコソコソやってんのアタシに失礼ちゃうんかい!!』
校則のことをよやかく言う気なんてサラサラない。
高校生なんて、もう立派な大人や。
いいことと、あかんことの区別くらい自分でつけられるやろ。
だけど、この時間、この教室のなかでは、いま、アタシはセンセイで、
アンタらは生徒や。
最低限のマナーくらいは考えてくれやと、アタシは怒鳴った。
・・・まぁ、少しやりすぎたかもとは後でちょびっと反省はしたけど。
「そんなことないよ。みんなビビってたけど、カッコいいって云って
たんだから。」
「そうか?」
「うん。・・・・あぁ、でもやだなぁ。女子高ってオトナの女の人に
弱いから、絶対、ゆうちゃん、明日から、チョーモテモテだよ。」
「はぁ〜? なんやそれ。そんなんうれしくないわい!」
勢い余ったあげく、指を動かしてしまった。
彼女が、「うっ」とうめき声をあげる。
- 441 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:51
- ごめん。・・・・・すっかり忘れてた。
指、入れたまんまやったね。
「アタシはさ、好いてくれるコにだけモテモテやったらええねん。」
耳元にわざと低音で囁くと。
彼女が、ボッと赤くなる。
ははっ。分かりやすい反応。なんか、リトマス試験紙みたいやな。
クスクス声をあげると、彼女は眉根を寄せながら、ムぅと口を窄まら
せた。
「・・・センセイが、生徒にこんなことしていいのかよう!!」
そんな批難めいた声も、どこか甘く掠れていて。
だから、意地悪したくなる。
「そら、まずいやろね。セーラー服脱がせて、生徒のアソコに指突っ込ん
だら、大問題やで。」
「・・・・・・・・。」
- 442 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:53
- 指を抜く素振りをみせると、ちいさなお尻が後を付いてきた。
「なんやぁ〜?」
「・・・・・・・。」
もう一度繰り返してみても。
「なにしてんの、ヤグチ?」
「・・やあぁ・・・・。」
右へ左へと。
縋るように、揺らめくのが可愛くて。
「ヤグチ?」
「・・やあぁ、抜いちゃやだぁ・・・・・」
あぁ、なんてカワイイこと云うんやろ。
アンタは、アタシを喜ばす天才やね。
そんな自分の行動にビックリしているのか、泣き出しそうに眉を寄せた。
もっと、困らせたい欲望が疼く。
「抜いたら、ダメなの?」
「・・・・う、うん。」
「だったら、もう一回、暖まる運動しよっか・・・?」
- 443 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:55
- ほんのり汗もひいてきて、裸同然でいるには、さすがに肌寒くなってきた。
アタシのそんな声に、恥ずかしそうにポッと頬を染めながら、ちいさく首を
傾ける子に、やさしく髪を掻き混ぜた。
そっと抱きしめながら思いついたこと。
「そしたらさ、今度はヤグチからチュウしてよ。そしたら、いっぱい
気持ちいことしてあげるから。」
どの面下げてチュウなんて云うとんねん!
そうココロの中で毒付くけれど、でも、どこのカップルでもベットの
中ではこんな甘いやりとりしてるんちゃうん!と思い直した。
「ほ〜ら、早くぅ。」
「うぅっ!・・・耳、ヤダぁ・・・・っ!!」
耳たぶを甘噛みしながら、強く甘く囁くと、ブルブルと身震いした
敏感なカラダが堪らなそうに悶えはじめた。
アタシは調子に乗って何度も繰り返す。
- 444 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:57
- ちいさな空洞に舌を差し込んで、いつのまにかもとの大きさに戻って
しまった乳首を捏ねる。
「・・あっ! やあぁ・・や、そこぉ・・・・・・」
「うそ、好きなくせに・・。」
「ん。・・・痛い、抓ったら痛いよ・・・・。」
ここが、ひどく敏感なことには気づいていた。
中に収まったままの指がキュっと締め付けてくる。
こんなふうに甘い声だして、こんないやらしい顔を見せ付けて。
「なんやしてくれへんの?・・・んじゃ、ここだけでイっちゃう?」
こんな意地悪言うても、アタシのことが大好きなんやて。
こんなカワイイ女の子が、ホンマにアタシのものになるの?
「・・いやあっ!!」
「じゃぁ、どうする?」
- 445 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 21:59
-
おそるおそる顔を寄せてきて。
甘い唇が、軽く、くっついてきた。
それは、コドモじみたキスだったけど、お腹のあたりがムズムズする
ようなそんな感じがして。
アタシはライオンのように噛み付くキスで応酬する。
口を大きく開かせて。
唾液が流れ落ちるくらい激しく貪った。
舌をきつく吸い付きながら、逃げようとするカラダを押さえ込む。
そのままゆっくりと指を律動させた。
「んあっ!・・・ああぁ、・・・ひゃあぁ・・・・」
大きな瞳の中から大福みたいな雨粒がポタポタと落ちてくる。
近くで見ると、ホンマにカワイイなぁって思う。
こんなに可愛かったら、すぐに格好ええ彼氏見つけて、ゆくゆくは
結婚して、カワイイ子供作って、しあわせ将来が約束されているって
いうのに。
どうして、アタシみたいなタチの悪いのに捕まっちゃったんやろうなぁ・・・。
「・・うあぁ、はぁ。あんっ、だめ、あ、あ、い、イッちゃうよぉ。も、ダメっ・・・・」
「まだ、あかんてば。もう少し我慢してみ。もっと、気持ちよくなれ
るから・・・。」
「・・ん〜〜、できないよぉ〜〜〜!!」
- 446 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:01
- 泣き言を零す彼女が堪らなく愛しくって、ギュって抱き寄せる。
背中に爪を立ててながら、必死に掴まってくる彼女。
スポンと指を引き抜くと、縋るような目をしてブルルと首を振った。
なぁ、こんなことされても、アタシのこと大好きなの?
アタシの恋人になるってことは、そういうことやよ。分かってる?
熱く濡れる指先を、ちいさな口の中に突っ込んだ。
アタシの意図を理解したのか舌を使ってやらしく絡める彼女にアタシも
一緒に舌をだして。
彼女の味をふたりで分かちあう。
オトコになりたいとは思わないけど、もしアレがあったらどんなん
かなとは思う。
そういえば、この子は知ってるんやよな。
そういう行為を。こんな子供みたいな顔をして・・。
- 447 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:02
-
「やあぁ、ゆうちゃんっ!!!」
「ん〜〜?」
「やだぁ、意地悪しないでよ〜〜・・・。」
綺麗な顔をくしゃくしゃにして、口をへの字にしながらバタバタと
体を揺らす。
スーパーで、お母さんにおかしをねだる子供みたい。
「なにぃ〜な?」
「な、なんで、なんで、そんなに意地悪するの〜〜!!」
「別に意地悪なんてしてへんよ。」
「してるよ!ねぇ、んも、ゆうちゃ〜〜ん!!」
切羽詰った顔。だから、カワイイって。
なぁ、こんなに細くて短いもんでも、そんなにも欲しがってくれるの?
「これが欲しいの? どこに欲しい?」
意地悪が止まらないわ。八の字に眉を潜めるその顔をもっとみてたい。
- 448 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:04
- 彼女はキッと唇を噛み締めて、視線を下におろした。
アタシの見ている前で、じんわりと脚を開らいていく。
「どこ?」
「んくっ。ここ。ここに、はやくして・・・。」
震える指で、ダイヤ型に大きく曝け出したソコ。
充血したピンク色が目の前に現れた。小さな穴からとめどなくあふれ
出す半透明の液。
それは、アタシを欲しがっているという証だから。
吸い込まれるように、指を差し入れた。
ギシギシとベットが軋む。
「あ・・あ・・・あっ、・・・あ・・・・っく・・・・。」
瞳を合わせたまま、角度を変えて複雑にかき混ぜる。
うるうるの眼がアタシを捉えて。
力の抜けた腕を背中に回してきた。
「・・・好き、好きだよ、はぁん、・・大好き、ゆうちゃ、・・・・」
- 449 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:06
- こんなふうに試さなくても、この子は、ずっとアタシを好いていて
くれる。
オトコやないアタシを愛してると云ってくれた。
こんなに熱く蕩けながら、アタシの指を包んでくれているのだから。
「ヤグチ、ええよ。いっしょに、いこうや。」
もう一本差し込んだ指と一緒に、中でバラバラに動かした。
悲鳴じみた声を塞ぎこんで、吐息ごとそのままぜんぶ飲み込んだ。
目の前がチカチカと赤く染まって、酸欠で倒れそうになる。
腕の下で必死にもがいている彼女を早く楽にしてあげたい。
「・・ぷはっ!!・・ゆうちゃん、ゆうちゃん、ゆう、んも、苦しい
よぉ・・・・・」
「好きや、ヤグチ・・・好きや、ヤグチ!!」
二人に終わりなんてない。
もう、ダメ・・と、彼女が根をあげるまで。
アタシタチは、いつまでもお互いの熱を同じ分だけ分け合った・・・。
- 450 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:09
-
◇ ◇ ◇ ◇
瞼の奥が赤く染まっていた。
「ハッ!」と気づいて目を見開くと、見慣れない天井が映った。
暗闇に、白い肌が際立ってみえる。
細くもなく太くもなく、やわらかそうな肢体。
フワフワの茶色い髪が、風で靡いていて。
「・・ゆうちゃん。」
よかった。夢じゃないんだ。
ホントに彼女に逢えたんだ。
胸が、ちいさく上下して。
握りしめたままだった手は、ぐっしょりと汗ばんでいた。
ずっと繋いでいてくれたんだね。
一年半前のあの日も、こうして彼女を寝顔をみつめたことがあった。
穏やかそうな寝息を立てて、安心したようにアタシを包み込む。
愛されているのだと実感してた。
なのに、それは、アタシの独りよがりだったんだ――。
- 451 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:12
-
「クシュ!・・・・あっ。」
「んんっ。・・・・んあ?・・あぁ、風邪ひいちゃうでヤグチ。」
「うん。ごめんね、起こしちゃった?」
「おいで」と腕の中に戻される。
あぁ、ホントにあったかいよ。
「ん〜〜ウトウトしてただけ平気やよ。・・それより、いま、何時ぃ?」
ぐるりと辺りを見回すけれど、壁一面は真っ白なまま。
時計らしきものは見当たらない。
「えと、・・・・時計、どこにあるの・・?」
「んあぁ?・・・あ、あぁっ、まだ、付けてない。」
ガクっ。んも、なんだそれ。
彼女がモソモソと起き上がって、「ん〜〜!」と背伸びをした。
胸がぷるんと揺れるの。
もう、少しは隠して。こっちが恥ずかしくなっちゃうよ。
アタシは、水色の掛け布団に包りながら、そんな彼女の姿をじっと
見つめていた。
- 452 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:15
- 「さてと。・・・ヤグチ、お腹すかない?」
「・・うん。ちょっとぉ。」
ホントは胸がいっぱいでそれどころじゃないよ。
なんか、してるときは夢中で気づかなかったけど、ほんとにヤっち
ゃったんだよね・・・。
カラダの奥に、まだ彼女の指の感触が残っている感じがする。
胸の突起も、心なしかヒリヒリして痛いよ。
ドラマのベットシーンみたいに、ベットの中で暗転して、肩を抱かれ
ながら目が覚めるなんて都合よくはいかないみたい。
忘れたくても、忘れらないことはこの瞼の奥に鮮明に記録されていた。
あんなことやら、こんなことまで・・・。
あんなふうに取り乱すくらい感じちゃうことなんて今までなかった。
オイラ、なんか、めちゃめちゃ恥ずかしいことしちゃってたんじゃ
ないかなぁ。
って、思い出すのは、恥ずかしいからブンブンと首を振って、無理矢理、
外へ追いやった。
「あん? なにしてんの、ヤグチ?」
「な、なにも、なんでもないよ。」
- 453 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:16
-
パチンと電気をつけながら。
振り返る彼女に、また首を振る。
もう、なんで、ゆうちゃんはそんなにフツーにしていられるの?
オイラは、恥ずかしくって目もあわせられないくらいなのにさ。
「なにどもってんねん。おかしなコぉ。んじゃ、ゆうちゃんは湯加減
みてくるわ。」
「・・・へっ??」
いつのまに、そんなことしていたのか。
その余裕が、少しだけ憎らしく思う。
白いシャツを羽織ながら、行ってしまう彼女の背中に慌てて声を掛けた。
「ね、ゆうちゃん!!」
「ん〜〜?」
ゆっくりと、振り向く彼女。
前ボタンを留めていないからチラチラと肌が露出してなんだかとても
色っぽい。
アタシは、ゴクリと溜った唾液を飲み込んでから。
- 454 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:18
- 「あ、あの、あのさ、あの、ゆうちゃんは、あの、ヤグチと・・その・・。」
「はぁん?・・・なんやのヤグチ、はっきりしなさい!」
眉を潜めるだけのその顔も、どうしてこんなに格好よく見えちゃうのかな。
「うっ・・だから、あの、ゆうちゃんは、その、これ、遊び・・とか
じゃないよね・・?」
「はあぁ〜?」
ツカツカと寄ってきて、ベットがバウンドした。
「ヤグチ〜?」
「だ、だって、だってさ、逢っていきなりこんな関係になっちゃうし。
ヤグチは本気だけど、ゆうちゃんはチガかったら・・・・。」
また、あんな思いはしたくない。
一人で舞い上がって、勘違いなんてイヤダ。
「なぁ、アタシ、ちゃんと好きやって言わんかった・・・・?」
「う・・。でも、でも、ちゃんと聞かなきゃ分かんないじゃん。
カラダだけってこと・・・いてっ!」
おでこをパチンて叩かれて、ビックリして何度も瞬きする。
拗ねた口で見上げると、彼女は、顔を赤く染めながらキレイな眉間に
皺を寄せていた。
- 455 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:21
- 「たくっ、アタシは、どんな悪党やねんな! 失礼やっちゅーの。
・・・好きやなかったら、こんな子供になんて手ぇ出さんわい!」
「こ、子供って・・そりゃ、ゆうちゃんからしたら、オイラなんて
子供なんだろうけど・・。」
でも、だってさ、前のときもカラダだけだったし、今もそうじゃん!
不安になる気持ちも分かってよ。
唇を尖らせながら、おでこを擦っていると、彼女も眉間の皺を伸ばして、
ニンマリと笑ってくれた。
「フッ。せやな。ごめん。・・・・そしたら、アンタからちゃんと
言うてよ。アタシも答えるから。」
「・・・・う、うん。」
でも、こういうふうに改まってなんて云えばいいんだろ。
だけど、考える間もなく唇が勝手に動いていた。
「ゆうちゃん、あの、オ、オイラの、オイラの彼女になってください。」
もうちょっと格好よく決めたかったのに、紡ぎだされた声は、風邪を
引いたときみたいに少ししゃがれていた。
- 456 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:23
- 「フッ。そうきたか」
不敵に微笑む彼女の目をじっと見つめる。
ゆうちゃんは、蛇のようににょきって手を伸ばしてオイラをギュっと
抱き寄せた。
おでこにチュっと口づけられるのは、唇にされるときよりも、なんだか
特別な気がしてちょっとだけドキドキする。
そのまま、青い視線が戻ってきた。
「うん♪・・・よろしくお願いします。」
はにかみながら、そう言ってぺコンとアタマを下げる人。
そんなふうに云ってくるとは思わなくて、ボッと顔が熱くなった。
きっといま、完熟トマトみたいに、なっちゃってるよ。
あぁ、格好わりぃ・・・。
でも、だんだんうれしさがこみ上げてくる。
「うん。・・・うん。うん♪」
やったっ!
ホントにホントに、今度こそゆうちゃんはヤグチのものになるんだ。
そうだよね?
- 457 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:25
- 「でも、その代わり、これは誰にも、ヒミツやぞ!」
片目を瞑りながら、二人の唇の間に人差し指を立てる。
さっきアタシをさんざん苛めてくれた指だということに気づいたけど、
知らないふりをした。
彼女が唇を寄せてくる。
それにならって、オイラも顔を寄せた。
ヒミツの恋なんて、ドキドキするじゃん。
彼女が恋人になってくれるなら、そんなもんへっちゃらだよ。
「約束。」
「約束。」
小指を立てながら、前に唄ったときは、泣きながらだったことを思い
出す。
なのに、いまは、こんなにも晴れ晴れと笑っていられるの。
ふたりで盛大に大合唱したあと、絡めた指を離しながら、どちらから
ともなく唇を合わせた。
そして、見つめ合って照れくさそうに笑うんだ。
- 458 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:27
-
一年半ぶりの恋が実った瞬間。
アタシタチを祝福するかのように、ズドンと雷が落ちた。
もう、泣かなくていいんだよね。
彼女の動悸の音を聞きながら、しあわせを噛み締める。
今日という日を一生忘れないよ。
だって、オイラに初めて彼女が出来た日だから――。
- 459 名前:kai 投稿日:2004/05/12(水) 22:29
- ピロトークは、両視点でまとめてみました。
読みにくかったらスミマセン。
てか、ま〜た、エロ書いてるしぃ・・・。(苦笑
- 460 名前:kai 投稿日:2004/05/12(水) 22:35
-
レスありがとうございます。
>マコトさん・・大好きって言ってもらえてよかったww
アタシも、早くビデオが見たくて、毎日、おりこうさんに帰ってます。(w
>ゆちぃさん・・バリバリっすか。うれしい〜ww
やぐちゅーも、だんだん少なくなって淋しい限りなんですが、
やぐちゅー作家の端くれといたしましてはそう言ってもらえると、
うれしくなっちゃいますね。ウッシ、これからも、がんばるゾー!!
>371さん・・ついでに取れちゃう教員免許って、すごい!(w
ってことは、中澤さんみたいなセンセイが一人くらいいてもおかしく
はないですかね?
あー、でも、そんなセンセイがいたら、卒業したくなくなっちゃうかもw
ヤグチと机を並べたいって野望もあるんだけどね。(アホ
>425さん・・別カプはまもなく登場!(予定)
誰になるかはお楽しみにと言いたいところですが、なにせやりなれない
ことなので期待を外さないかとちょっと、不安です。
>426さん・・うわうわっ、やめてください〜〜ww
幼稚園児のヤグチは、ミニマム矢口ですか?
あれは、姐さんだけでなく鼻血もんでした。(コラ
変な妄想がチラつくぅ〜!(w
>427さん・・だいすけ=やぐち
邪道というより、それって、近親○姦とかになるんじゃ・・・・。
ってか、犯罪でも不倫でも誰も止めてはくれないわけですね。(w
- 461 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:37
- ◇ ◇ ◇ ◇
「はくしゅ!」
「ぐしゅ!!」
それは、ほとんど同時に。
六月後半と言ったって、夕方にもなればさすがに肌寒い。
ココロはポカポカに温かいけど、カラダはさすがにそうは都合よく
いかないみたい。
「あかんて、ホンマに風邪引いちゃうで。」
「うん。」
もうちょっとこうしていたかったけど。
季節の変わり目には必ず体調を壊すオイラだから、彼女の言うことに
従った。
「んじゃ、お風呂沸いてるから入ろうか?」
「・・・・・・・え?」
- 462 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:39
- 十分の間を置いて、アタシは彼女の胸から顔をあげる。
だって、その言い方だと、「一緒に」って形容詞が付いてくるんじゃ
ないの?
「ほら、なにしてんの、行こう!」
それが、当前のように彼女はアタシの手を取った。
そりゃ、あんなことをした後だし、いまさらなにを戸惑っているのかって
思われるかもしんないけど、でも、一緒に入るのはやっぱりちょっと
恥ずかしいよ。
気持ちを確認した後だからこそ余計に・・。
だけど、彼女は、そんなオイラの乙女心にちーっとも気づいては
くれないんだ。
右手を引っ張る白い指先を、じっと見つめていた。
そういえば、彼女に髪を洗ってもらうのは気持ちよかったよな。
一緒に入ったら、またしてくれるかなぁ・・。
華奢な背中を見つめながら、それは、思っていたよりも甘い声が出た。
「力抜けちゃったみたい。抱っこして?」
- 463 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:41
- あの日もこう云ったら、連れて行ってくれたよね。
なんか、いま、いっぱい、甘えたい気分なの。
彼女は、大げさに溜息をついて、でもうれしそうに両手を差し出した。
「たく、困ったちゃんやねぇ・・・ほら、行くで!」
自分でこんなにさせたくせに、棚に上げちゃってさ。
ひょいと持ち上げられる。・・・・・・って、アレ〜??
「ゆ、ゆうちゃん、あれ、なんか、想像と違うんですけど・・・・?」
「はぁん?・・・アタシやってヘトヘトやっちゅーの。てか、アンタ
ちっこいのに意外と重いな。」
るっさい、一言余計だい!!
「どっこらせ」と気の抜けた掛け声とともに、なぜか、オイラは彼女
の肩に担がれる。
って、これ、米俵じゃないんだからさぁ・・・。
こういうときの定番は、お姫様抱っこでしょ・・?
色気もへったくれもないけれど、でも、ソコに彼女がいれば、口元は
緩んじゃうんだ。
- 464 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:43
-
狭い湯船に重なるように浸かりながら彼女が聞いてきた。
「ところで、ずっと気になってたんやけど、その指、赤いの・・・?」
「あぁ、うん。」
それはね。
「ゆうちゃん、覚えてないかな?・・あの日、ゆうちゃんがしてた
色なんだよ。別れた日にね、コンビ二で買ったの。あれから、なく
なるたびにず〜っと買い続けてた。」
それは、願掛けのようなもの。
ずっとずっと、アナタを忘れないために。
でも、もう買わなくていいんだ。
だって、こうして逢えたんだから・・。
- 465 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:46
-
「・・・・・そっか。」
「うん。そうだよ〜。」
白い手が、抱きすくめるように回してくる。
アタシは、その手に手を重ねながら。
背中から、彼女の温もりがじんわりと伝わってきたころ。
「・・・・・・・でも、なんで、片手だけなん・・?」
「・・・・・・・・・・・・。」
今日、なんべん、その質問をされただろう。
斉藤さんにも、なっちにも、笑ってごまかしてきたけど。
どうも、彼女は、はぐらかせそうにないや。
似合っていない赤い指先を見つめながら、ギュッと唇を噛み締めた。
彼女の顔を見ないで、前を向いたまま。
「・・・・・淋しい夜してたの。ゆうちゃんを思いだして。」
- 466 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:48
- アナタの顔をアタマに浮かべながらアナタがしたように。
だって、赤い指を見れば、アナタにされているように思えるから。
そんな恥ずかしい告白、どう思っただろう。
云ってから、少しだけ後悔した。
「・・・ヤグチ?」
「・・・ん?」
「ヤグチ、こっち向き?」
「・・・やだ。」
「いいから!!」
強引にグルリと反転させられると、やっぱり見られなくて顔を横に
背けた。
なのに顎を捕まえて強引に軌道修正される。
捕らえられたまま、アタシは彼女の瞳のなかに収まった。
真っ赤になった茹蛸のような顔を晒す。
そんな顔を見つめられるのは、耐え難くて、涙がポタリと湯船に落ちて
いった。
- 467 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:50
-
「ヤグチ?」
「・・・ヤダ、見ないでよ・・。」
しばらくの沈黙の後。
彼女は甘く笑いながら、目尻にチュって吸いついた。
そのまま、頬に、鼻にと、口づけていく。
そして、最後に唇に落として。
「アンタのそういうところ、めっちゃカワイイ。アタシは、大好きやよ?」
イタズラに、ムギュムギュとほっぺを伸ばされて。
その瞬間、睫毛の上に止まっていた雫が、また一粒転がり落ちた。
オイラも、そんなふうに云ってくれちゃうゆうちゃんが好き。大好きだよ。
- 468 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/12(水) 22:54
-
初めて逢ったあの日よりも、もっともっと好きになってる。
怖いくらい、アナタが好き。
だから、明日はもっと。
今よりも、ずっと―――。
「今度見せてな、一人でしてるとこ。」
それは、聞かなかったことにしよ・・・・・。
- 469 名前:kai 投稿日:2004/05/12(水) 22:56
-
長くなったからやめようと思ったけど、載せちゃいました。
相変わらず、甘め路線のアホな話です。
自分的には、結構気に入ってはいるんですけどねぇ。<自画自賛
- 470 名前:kai 投稿日:2004/05/12(水) 22:59
- なんか、完結っぽくなってるような気がしなくもないですが。
ぜんぜん、終わりじゃありません。
てか、これからです。w
やっと、再会編が終了って感じなのかしらw
- 471 名前:kai 投稿日:2004/05/12(水) 23:03
- こっから、少しずつ学園物らしくなっていければなと思ってます。
相変わらず不定期更新ですが、よかったらチェックしてやってください。
- 472 名前:マコト 投稿日:2004/05/13(木) 18:52
- 大量更新お疲れ様です!
長くなるのなんて全然気にしません!
むしろどんどんやっちゃってください(いろいろとw)
いずまりも気が向いたら短編でもいいんで、やってみてください!
犯罪でも不倫でも自分は止めませんよ(笑)
では、また見に来ます!
- 473 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/15(土) 00:09
- 長いの大歓迎!これだけでお腹いっぱいな気分ですが
まだ再会して1日しかたってないないんですよね。
別CPとともに学園編も楽しみに待ってます。
- 474 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/16(日) 05:25
- >>465,466
感極まって泣いてしまいました
- 475 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/05/17(月) 22:58
- ちょっと遅くなりましたが・・・更新お疲れ様です。
やっぱりヤグチはかわいーです(w。
告白がなんかツボでしたvvv
裕ちゃんからのお返事ももらえたし、幸せだぁ〜。
それにしても、ヤグチは一人でやらされますよね・・・絶対(爆。
私もいずまり期待です(w。大輔くんも幼稚園通い始めたし(w。
では、また・・・。
- 476 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/18(火) 02:40
- たしかに学園ではモテそうだなあ。
がんばれ矢口
いずまりのほうも、なんだか理恵さんとあやしいし…
がんばれ矢口(w
- 477 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:32
-
―――ヒミツの恋をあげてみる。
ん〜と、まずはやっぱ不倫でしょ。それから教師と生徒に、あとは
そうだな近親相姦とか?
んでもって同性愛で。
他になんかあったっけ?・・・・・・・ん〜〜〜と、あ、動物っ?
うわっ、ないないない!!!
首をブルルと振りながら、慌てて怖い発想を拭い去る。
でも、こうして上げてみても意外と少ないんだな。
クラスを見渡しながら、何人がこの中に当てはまっているのだろうか
と考えてみた。
これだけいるんだもん、一人二人くらいは引っかかっているかもしれ
ないよね。
身近なところでは、佐野っチと関係を持っていたあの子はそうだった
わけだから。
とりあえず、ウチらは二つの項目に当てはまっているってわけで。
となると、やっぱり、内緒にしなきゃいけないのは、当然なんだ。
- 478 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:35
- 恋をするのは自由だとは思うけどさ。
好きになった人に旦那さんや奥さんがいたら家庭崩壊になっちゃう
それはやっぱしマズイでしょ。
てか、近親相姦ってなに〜?
家族とそういう関係になっちゃうってこと?
てことは、ヤグチの場合は、・・・・・お父さんかよう!?
うわっ、考えられねーー!! てか、キモいってば。おえっ。
だけど、・・・・同性愛だけは、どこが悪いのかとか思っちゃうよ。
オイラ、昔からそんなに偏見は持っていなかった。
もともと、人にあまり関心がなかったっていうのもあるのだけど。
だから、自分が女の人に恋をしたとき、ちょっとは焦ったけど特別
悩んだりはしなかったんだ。
それどころか、性別を超えてまで好きになった人が現れたということに、
誇りさえ覚えていた。
そりゃ、この世の中がそういう人ばっかりになったら、子孫繁栄は
絶たれるわけだし?
ゆくゆくは人類滅亡の危機にたたされるかもしんないけど。
でも、まあ、そのころまで、ウチら生きているとは思えないし。
ぶっちゃけ、未来の人のことなんてどうでもいい感じ。
つーか、クローン人間が出来ちゃうこのご時世なんだから、たいした
問題じゃないような気もする。
- 479 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:38
- それにさ、いま、同性愛者の数は増えていて、三十人に一人はいる
計算になるんだって。(←テレビでやってた)
てことは、クラスに一人はいるってことになる。
生徒手帳には、未だに不順異性交遊の禁止って項目あるらしいけど、
不順同性交遊禁止なんてのはもちろんないわけで。
とある女子高は、同性同士のいきすぎた交際は禁止なんてのが、
書いてあるって聞いた。
てーか、大きなお世話だってば。学校が、人の恋路を邪魔スンナ!っての。
あーーもう、さっきからお尻がムズムズするよーー。
オイラ、ホントは、いま、メガホン持って叫びたい気分なんだ。
『彼女ができましたーー! 実は、このひとが、オイラのコイビトでーす!!!』
ってさ。
ビシッと決まったグレーのスーツがチョー似合ってて。
スラリと伸びた脚なんかセクシーじゃん。
アタマもいいし。バリバリ仕事もできるし。おまけに美人だし。
ま、家事は苦手らしいけど。
その代わり、夜の方はいい仕事してくれるから問題なし・・・って、オイ。
- 480 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:41
- そんなパーフェクトな人がオイラの彼女になってくれたのだから、みんなに触れ
回って自慢したいじゃないか。
だけど、指きりを思いだして、ひたすら我慢我慢。
ハァァ・・・。
幸福なことを人に内緒にしなきゃいけないってことが、こんなに辛いもんだとは
思わなかったなぁ。
「はい、じゃーこの問題を、前にでてやって貰うで。えーっと、今日は、26日
やから・・・26番は、保田ァ。ほいで、16の、高橋。6番は、小川・・・・で、
ラストは安倍やな。」
「えええーー!! な、な、なんで、なっちなんですかぁ〜! それ、日にちと
全然関係ないっしょ!!!」
出席番号1番のはずのなっちが、机をバンと叩いて悲鳴をあげる。
「うっさいなぁ。しゃあないやろ、一人余ってもーたんやから。・・・それに、
アンタがバッって顔逸らすから目立つんやて。・・・・ホラ、ええから、さっさと
前にでてやる!!!」
「そ〜んなぁ〜〜〜!!!」
顔を真っ赤にしながら地団駄を踏み鳴らすひとに、みんなが哀れみの笑みを浮かべる。
彼女が、この学園に来てから一週間足らず。
ゆうちゃんは、あっという間にクラスに馴染んで、すっかり先生らしくなっていた。
- 481 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:44
- それは、うれしい反面、少しだけ面白くない感情が芽生えはじめて・・・。
みんなが彼女に向ける眼差しに、ときどき、オイラのちいちゃな胸を
チクチクと締め付けるの。
彼女が愉しそうにしているのを見るのはうれしいけど、ホントはヤグチ
のものなのにってどこかで思っちゃっているんだ。
クラスだけじゃなくて、すっかり学校中で人気者になっちゃったゆうちゃん。
美女校として名高い高校だからこそ、オイラの心配は耐えないんだ。
そう云ったら、こないだグーで殴られたけどさ・・・。
でも、ヤグチはもう知っているんだよ。
アナタが、かわいいオンナノコに弱いってことを。
可愛い一年生が、手作りお菓子作ってきたときも、まんざらじゃない
って顔してたでしょ。
ゆうちゃんの周りにはいつも取り巻きみたいなオンナノコがたくさん
いるの。
邪魔くさそうにしながら、鼻の下びよーんびよーんに伸ばしているの
分かってるんだからね。
- 482 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:46
- それにさ。
いつも、なっちばかり構うのも、きっと、そういう理由からなんだ・・・。
そう言うとゆうちゃんは、アホかってケラケラ笑いながら、よしよし
って抱きしめてくれるけど。
そんな言葉になんか騙されない。
あーあぁ。
彼女の告白を聞いたとき、これから薔薇色の人生が送れるんだって
胸をワクワクさせていたのに。
こんなはずじゃなかったよ〜〜。
右を向いても左を向いてもカワイイ子ばかり。女子高なんてヤダぁーー!!!
「ね、ヤグチ、これ、分かるーー?」
噂の彼女が、後ろを振り返って聞いてきた。
そうは云っても。
オイラは自分のことを可愛いほうだって思っちゃっているし、だから、
ホントは誰にも負ける気がしないんだけど、でも、この人にだけは、
どーしても負けてるなって気がするの。
- 483 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:48
-
「あーんと、分かんないけど、たぶん、ここに代入すればいいんじゃ
ないかな?」
「あ、そっか。そうだよ。 ウン、ありがとー、ヤグチ。やってみる。」
素直で明るいし、顔もチョー可愛いし、興奮するとついつい出てき
ちゃう北海道訛りがが堪らないってみんな云っている。
なっちは、もし自分がオトコだったら、彼女にしたい人1なんだって。
でも、判るよ。なっちみてると、ギューって抱きしめたくなっちゃう
もんね。
見かけによらず、そんなにアタマがいいわけじゃないところもバランス
が取れていていいんだ。
彼女は、科目ごとに極端にバラつきがあって、いつもオイラとどっこい
どっこいの成績を保っていた。
数学と社会科が苦手ななっち。
英語が大の不得意のオイラ。
- 484 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:51
-
「ええー、みんな行っちゃうの〜? 待ってよ〜〜!!」
黒板の前で、後ろを通り過ぎようとした圭ちゃんの袖をガバッと掴み
ながら、なっちがチョークを片手に悪戦苦闘している。
圭ちゃんも苦笑いしながら、そんななっちにガンバレと声援を送って
いた。
なっちのこういうところって、すごく可愛いと思う。
自然と遣ってるから嫌味がなくて。
みんなが、そんな彼女のことを温かく見守っている感じ。
だって、彼女は、クラスのアイドルだから・・・。
「ねぇ、ゆうちゃんさ! これ一番難しい問題じゃないの〜?」
うーーと唸りながら、恨みがましそうに窓際で腕組みしている教師の
顔を見つめて云い放った。
「まぁ、こん中ではな。でも、昨日の復習をちゃんとしてたら出来る
問題やで!!」
「・・・あうぅぅ・・。」
すぐに鼻をへし折られて、ギリリと歯を噛み締める可愛い子。
「カカ・・・」っと、高笑いをしながら、そんななっちをやさしく
見つめる瞳に。
また、黒い気持ちがおなかの辺りを苦しめた。
ゆうちゃんは、ヤグチのものなのに。
ゆうちゃんは、ヤグチの恋人なのに。
- 485 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:52
-
「ゆうちゃん」という呼び方が、すっかり定着してしまっている。
そう呼んでいいのは、オイラだけだったはずなのにさ。面白くない。
だって、オイラは彼女。
人のコイビトを気安く名前で呼ばないでよね!
知らずに爪が皮膚にめり込んでいた。
こんなときは、どうやって鎮めるか知っている。
彼女としたキスを思い浮かべるんだ。
彼女を真っ裸にして頭の中で想像するの。
- 486 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:55
- ――だって、みんなは、あの唇に触れたことないんでしょ?
徐々に近づいてくるやわらかな瞳。触れた唇は思いのほか温かくて、
口の中はやけどするくらいに熱を帯びている。
あの舌を口の中で転がされると、力が抜けちゃうくらい感じちゃうんだ。
キスという行為が、愛撫のひとつであることを、身をもって教えられた。
――きっちりと着込んだスーツの中身が、どんなに綺麗か知っている?
肌理の細かい白い肌は、しっとりとアタシの手に馴染んでくる。
なだやかな丘に、ひっそりと佇むピンク色の乳首が可愛いくて。
口の中で飴玉のように転がすと、ピクピクって腰を揺らしながら、
「ヤグチっ・・・・。」
って色っぽい声をあげておねだりするの。
あと、ぷにぷにの二の腕も好き。
お臍から腰骨あたりのラインもすごくセクシーでドキドキする。
下着に隠されたところが、どんなふうになってるかなんて、
みんな知らないでしょ?
ここに、触れてもいいのはアタシだけ。
ここを、見てもいいのはアタシだけ。
- 487 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 15:57
-
こうして、優越感に浸りながら、ココロを沈めるのはいつものことだ。
なのに、うっかり妄想しすぎちゃって、パンツがじんわりと熱くなって
いた。
カラダの内側にひどく熱が篭っているのを感じる。
彼女の愛撫を思い出して、腰がヒクヒクと疼くの。
湿った口の中で舌をぐるりと転がすと、今朝、空き教室でこっそりして
くれた口づけを思い出した。
まだ、彼女の唾液が残っている感じがする。なんだか急激に喉の渇きを
覚えて・・・・。
だって、好きなんだ。どうしようもなく、アナタが好き。
授業中なのに、こんな妄想を膨らませている。
あとで、また、「エロ目してたな」って云われちゃうよぉ。
膝をモジモジと付き合わせながら、教科書に目を向けた。
たぶん、オイラが男の子だったら、間違いなく立ち上がれない状態
だろう。
- 488 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:00
-
イライラする原因は、他にもあった。
あの日から、毎日、彼女の部屋に行っていた。
だけど、昨日、帰り際にしばらく部屋に来ちゃだめだやと云われたんだ。
最初は、期末試験が近いからという名目のはずだったのだけど・・・。
「なぁ、ヤグチ、テストのことだけやなくてさ、毎日こうして逢いに
くるのは、やめようや?」
「えっ!! どうして? ヤグチが来るの迷惑なの? ゆうちゃん、
ヤグチに逢いたくないの? ヤグチのこと好きじゃないの?」
目を丸くしながら矢継ぎ早に問いかけるのに、彼女は背中を擦りながら
笑っていた。
「ちゃうって、少し落ち着きや。そら、アンタに逢えるのはうれしい
けど。でも、そういうダラダラした関係ってアタシは、好きやないよ。
毎日会える身だからこそ、ちゃんとしよう、な?」
・・・そんなの。
たしかに彼女とは、毎日学校で逢っているけど、授業だって一日一回
しかないし。
二人っきりで会える時間なんて、限られているじゃん。
- 489 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:02
- 「ヤダよそんなの!! ヤグチはゆうちゃんに毎日逢いたいし、こうして
たいよ!!」
ギューってしがみつくと、彼女がきつめに腕を回していた。
「ま〜た、この子はそんな可愛いこというてから。」
グリグリとつむじを顎で押されても、オイラのココロは晴れない。
なんで、急に、そんなこと言い出すの?
「でもな、これは、真面目なはなしや。ヤグチとはずっと付き合って
いたいから・・・。」
「そ、そんなの、そんなこと云ってさ、それって、いつかオイラに
飽きちゃうってことそうなんだ、ねぇ、そうなんでしょ!!!」
こんなふうに云っちゃうなんて、オイラはホントに子供だよ。
駄々っ子みたいなことして、彼女の気持ちを確かめるなんて。
そんなことするの、恥ずかしいことだって思うのに、だけど、
気持ちが治まらないんだ。
涙目になってきたオイラを、ソファの上でギュと抱きすくめた。
彼女は子供に言い聞かせるように、一言一言、大事そうに言葉を紡い
でいった。
- 490 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:04
-
「ちゃうってば。アタシはアンタが大好きや。だから、ホントウは
毎日でもこうしていたい。・・でもな、アタシにもアタシの生活が
あるんや。友達もおるし。付き合いだってある。それに、ヤグチに
だって、今までしてきた生活があるやろ? 恋人が出来たからって、
それを、すべてかなぐり捨てることなんておかしいって。そうは思
わへん?・・・・・・アタシが云うてること、分かるか?」
膝に抱っこして。
やさしく頬に触れてきた。
「うん。」
ゆうちゃんの言いたいことはアタマでは分かるよ。
今までの生活も、大事にしなさいってことでしょ?
友達と遊んだり、家族と過ごしたり、ご飯を食べたり。テレビを見た
りして。
「勉強も入れんかい!」と、笑いながらでこピンされた。
- 491 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:07
- 「そうや。それにさ、逢えないぶん、愉しみにできるやん。早くヤグチに
逢いたいなーとか。ヤグチにしばらく触ってないなぁーとか。
ヤグチのおっぱいなかなか大きくなんないなぁーとか、な?」
「うわっ! なにすんだよ、ゆうちゃんのえっちぃ!!」
どさくさにまぎれて胸に置かれた手を、慌てて払いのける。
耳が、カーとピンク色に染まった。
もう、油断も隙もないんだから!・・・・ってか、いま、さり気に、
なんか失礼なこと云わなかった?
「あはははっ。でも、そういうことや。アタシは、ヤグチとはそういう
付き合い方をしたいんよ。ヤグチがいると迷惑やとか、そういうんや
ないから、それだけは判ってな?」
「・・・・ん。」
「もう、浮かない顔して、アタシの言葉を信じてくれへんの?」
「・・・・・・・」
温かい胸に顔を埋めた。
信じているし、その言葉はうれしいけれど、でも、オイラ少し淋しいよ。
だってこういうとき、自分のほうが、気持ちにいっぱいいっぱいに
なっているってことを思い知るから。
オイラとゆうちゃんの気持ちがシーソーに乗ったら、間違いなくオイラ
が下になる。
- 492 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:09
-
オイラ、ホントウは恋愛にまだ慣れていないだ。
だって、ちゃんと、向き合った恋愛をしたことがない。
彼女の気持ちは判るけど、自分のおなかの中でわだかまる感情をうまく
吐き出せなくてもどかしいの。
再会して抱き合ったあの日。
ベットの中でした会話を思い出す。
アタシが、逢えない間、ずっとずっとゆうちゃんのことばかり思って
過ごしていたのだと伝えたら。
彼女は、うれしそうに笑って抱きしめてくれたんだ。
だけど、腕を通されながら聞いた告白が、ひどく悲しかったのを
よく覚えている。
- 493 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:11
- 「でも、ゴメンな矢口。・・・アタシは、あれから3、いや4人の
オトコの人と付き合ったわ。」
「・・・・・・・・。」
低い声で、懺悔をするかのように彼女は言葉をオイラの背中に向けて
放った。
「アンタのことが忘れられなかったのはホンマやよ? でも、もう一度
逢えるなんて思っていなかった。・・・だから、告白されたら付き
合うたし、呑んだ勢いでセックスだけした人もおった。」
「・・・・・・・・・・。」
「ごめん、ごめんな、ヤグチ。アタシはそんなキレイな人間やなかった。
・・・・ごめんな?」
そんなふうに謝らなくていいんだ。
だって、オイラに彼女を怒る資格なんてない。
自分のカラダを売るなんて低俗なことをしてきたのに、彼女は一度も
それを責めることをしない。
それに、許すとか許さないとかのそういう問題じゃないし。
- 494 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:13
- 「ゆうちゃん、謝らないで? お願いだからゴメンなんて云わないでよ。
だって、こうして逢えたんだから。いままでのひとのことなんて関係
ないよね? いま、こーしてオイラを抱きしめてくれているからいいの。
だからお願いだから、そんなふうに云わないで?」
「・・・・やぐち。」
「でももし、これから先、別の子とそういうことになったら、そのとき
はめっちゃ怒るけどさ?」
泣きながらきつく付け足した声に、彼女がふははと声をあげる。
「あははっ。ないない。それはないって。アタシは、すっかりヤグチ
に骨抜きやよ・・?」
「ふ〜ん、ホントかなぁ〜?」
「そうやて。なんなら試してみるか?」
フフンと笑いながらコツンとおでこにぶつけてきた。
そのまま触れるだけのキスを交わす。
過去のことを懺悔するよりも。
これから先、お互いが、一生に一度の恋になれればいいなってそう
思ってる。
- 495 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:15
-
あの時は、そう言ってあげられたのに。
浮気もしてないうちからそんな詮索だなんて失礼だよね。
ごめんね、ゆうちゃん。
「出来たーー!!」
「は〜い、正解や。よしよしよ〜し、ようがんばったな!!!」
「あーー、もう、やめてよゆうちゃん、髪がぐちゃぐちゃになるぅ〜!!」
ムツゴロウさんみたいに、彼女を撫でるのに、みんながケタケタと
笑い声をあげた。
唇が少しだけむぅって形になったけど、でも、さっきまでの薄暗い
気持ちは消えてうせていた。
だって知っているんだ。
黒板に大きな赤丸を添えながら、うれしそうに微笑んでいる人が。
どんな人なのかって・・。
- 496 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:18
-
どうして、キライな科目なんて教えるの? って聞いたとき。
「だって、苦手な子の気持ちとか判ってやれるやん」と、彼女は応えた。
そんなこと云えちゃうセンセイって、素敵だなと思ったんだよ。
ヤグチ、あのとき、めちゃくちゃアナタにトキメいちゃったの。
それに、気づいてないでしょ。
まだ、彼女の授業を5回しか受けていないけど、それだけでもいい先生
なのだってことはすぐに判った。
判らない問題に、最後まで付き合ってくれて。
バカクラスで有名なウチらには、中学の基礎から教えてくれたよね。
ねぇ、ゆうちゃん、知ってる?
- 497 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:20
- 他の教科のときは、みんなだらけているのに。
数学の時だけは、ちゃんと前を向いているの。
あれは、アナタが一発目にシメタからが原因じゃないよ。
みんなアナタの授業を受けたいって思っている。
アナタの授業が愉しみだって思っている証拠。
だってさ、生徒のオイラが云うんだから、間違いないでしょ。
きっとそう云ったら、照れくさそうに目を伏せて、うれしいなァと
笑うのだろう。
早くその笑顔が見たいのに、次に彼女に逢えるのは3日後の土曜日なんて・・。
「ハァ・・・・。」
溜息も出ちゃうよ。
逢いたいなぁ・・・。いや、毎日、逢っているんだけどね。
でも、やっぱり、物足りない。
彼女に触れたいし、触れて欲しい。
いっぱいチュウもしたいし、エッチもしたい。
こんなことばっか毎日考えちゃってるオイラって、どっかおかしい
のかなぁ・・・。
- 498 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:21
-
「ん〜? どうしたの? あ、ヤグチ、さっきありがとね。助かっ
ちゃった。」
「うん。なっち、お疲れ様だね。」
席に戻ってきた彼女の労をねぎらってあげる。
てか、こっちこそゴメンよ。
関係ないのに、変な妄想に登場させちゃってさ。
「ふいぃー、あちぃ・・・。」
椅子に腰を下ろしながらパタパタと下敷きで煽いでいる彼女をボーっ
とみつめていた。
そんな、なにげない仕草でも、ホント絵になっちゃうんだもんな。
いや、オイラも、うかうかしてらんないって!
- 499 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:23
-
彼女の甘い香りが仄かに漂ってくる。
風に靡く髪の毛。
ふと、首筋に視線が止まった。
ま〜るく腫れた赤い痣。
透き通るくらい白い肌に、それは、よく映えていた。
「あれ、なっち、首んとこ、赤くなってるよ? なんかキスマーク
みたい。」
どうせ虫刺されかなんかだろうと。
さり気にそんなことを云ったのに。
「!!!・・・・っ、えっ?!!」
オイラの声に、振り向いてバッとそこを覆い隠す。
みるみる顔が赤く染まっていく様は、白い肌のせいか余計に際立って
いた。
オイラを見つめながら、恥ずかしそうにウルウルの瞳が見つめてくる。
ギュって下唇を噛み締めたまま。
ってか、この反応なに? まさかと思うけど。
- 500 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:25
-
「うえええーーーーーっ、うっそーーっ!!!」
「くぉーーら、なんやねんな、うっさいでっ、ヤグチっ!!!」
彼女の檄が飛んできても、アタシは目の前の人から視線を外せない。
そんなオイラの目に晒されるのが耐えがたいのか、なっちは椅子の
上でちいさくちいさくカラダを折りたたんでいた。
いつか、クラスの子がこのクラスの処女率は?
なんて下世話な話をしていたことがあった。
でもそんなときに、真っ先に上がったのは、彼女の名前だった。
それに否定の声をあげるひとは一人もいなかったし。
だって彼女は、女の子からみてもそういうイメージの女の子なのだから。
- 501 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:28
-
そういえば、なっちってなんか、天使みたいだよね? って誰かが
云っていたのを聞いたことある。
笑顔が可愛くて、慈悲深くて、お御堂にいるマリア像にも似ているよね、
とも。
そんなふうにいろんな人に讃えられちゃうような彼女。
もちろんオイラたちは親友だから、ホントはガサツで、平気で二日続けて
同じ靴下履いてきちゃうような子なのだとかは知ってるけど。
いくら云っても遅刻魔のくせが抜けなくて、だから彼女だけ約束の時間
は30分前集合にずらして設定してあることも実は本人には知らない
ところだけれど、ホントウの話だ。
でもさ、正直、そういう方面は、まっさらなんだって思っていた。
付き合っている人がいるなんてことも聞いたことなかったし。
だってさ、ウチらのエロ話をちょっと聞いただけで、すぐに耳を真っ赤
にしちゃう女の子なんだよ?
センパイに借りたエロビ見せたら、泣き出しちゃった子なんだよ?
そんなわけないって思うじゃん!!!
- 502 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/20(木) 16:30
- だけど、そういう行為をしなければ、そんな場所につくはずがない
痣だから。
アタシの見えないところにも、あの人がつけた同じような痕が残って
いるから見間違えるはずがない。
なにより、腫れあがるまでに赤く火照った顔が、すべての答えを出して
いた。
「・・・・・・・なっちぃ。」
あの生々しい行為が、親友のなっちの顔に置き換わって、頭の中で
どんどん膨らんでいく。
二人の間には、只ならぬ沈黙が続いていた。
ねぇ?
誰が、いったい、なっちのソコに痕をつけたの?
出来立てらしいその痣の痕を押さえながら。
彼女が、泣きだしそうな顔になっていたことに気づいたのは、
それからしばらくしてからだったんだ・・・。
- 503 名前:kai 投稿日:2004/05/20(木) 16:33
-
中途半端な感じですが、今日の更新はここまでです。
て、ことで、新たなカップリングのお相手はなっちさんでした。
・・・想像通り?
誰が痕を付けたのかってのは、次回、明らかになります。(多分)
それも想像通りだと思いますけどね。(汗
とりあえず、新キャラです!
ちなみに、クラスメートの高橋さんと小川さんは、名前をお借りした
だけで、本人たちが同級生では、ありませんので、あしからず。(笑)
- 504 名前:kai 投稿日:2004/05/20(木) 16:37
- レスありがとうございます。
>マコトさん・・
≫むしろ、どんどんやっちゃってください(いろいろとw)
なんだか、いろいろのほうが激しく気になりますが・・・。(w
アタシの頭の中は、アホなエロ話満載なので、お言葉に甘えてどんどん
いっちゃいそうなんですが・・。
止めてはくれないですよねぇ〜♪ てか、止められてもヤル!!(オイ)
>473さん・・うわっ、ホントだ。
たった一日しか経っていないのにこの長さって、なに?(汗
腹八分目くらいがちょうどいいのかと思いつつ、ついつい食傷気味に
なるくらいに更新してしまいます。
>474さん・・≫感極まって泣いてしまいました。
なんていうか、書き手としましては、サイコーのほめ言葉です。
ありがとう。(ぺこ
>ゆちぃさん・・≫告白がツボでしたvv
はい、てか、アタシも言われたいよ〜。w
こっから幸せ満開といきたいところですが、どうなるんだろう。
≫それにしても、ヤグチは一人でやらされますよね・・・絶対。(爆)
ハイ。当然です。てか、そこまで想像してもらっちゃってぇ。
まぁ、似たようなの書いたことあるので書きませんでしたけど。
いっぱい、妄想しちゃってください。ww
>476さん・・ご想像どーリ、モテモテです。
いや、じっさい姐さんみたいなセンセイが女子高に来たら、こうなる
でしょう、間違いなし!(←女子高出身なので云えちゃう
さて、矢口さんの心配は、どうなるのでしょうかって感じかな。
- 505 名前:kai 投稿日:2004/05/20(木) 16:44
-
ところで、いずまりですが。(←てか、この呼び方でいいんですか?
なんか書き始めると止まらなくなりそうだし、ドロドロしそうだし、
でも、書いてみたいし。実は、悩んでいるのですが。
なんですけど、どーも、このままいくとドラマが先に終わっちゃう
ような気がして・・・(汗
だから、パート2の頃に、出来たらいいかなとか思ってみたり。
(↑が、あるのかは、知らんけどね 笑)
とりあえずは、こっちをもう少しがんばりまっす!!
- 506 名前:マコト 投稿日:2004/05/20(木) 17:18
- 安倍さんの相手誰なんすか?!
めっちゃくちゃ気になります・・・
矢口さんも心配事多くて大変そうですが頑張ってほしいっすね・・・
いずまり、呼び方これでいいでしょう!多分異論はないはず・・・
kaiさんが書く気になったら止めませんよ(w
パート2が始まることを祈ってます!
- 507 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/05/21(金) 00:23
- おつかれさまで〜す♪
なっちの相手・・・
あのぉ・・・ドロドロになっちゃったりしちゃうんですか・・・??(爆。
なんか胸が痛くなったりしそうな予感が・・・。
すでにヤグチの嫉妬!?で、
あ〜そー思うよね・・・なんつってせつなくなったりしてたり・・・(爆。
次にめっちゃめちゃ期待です!!!
それから、いずまりvvv
呼び方は全然OKだと思います。
パート2が始まったらですか・・・。
たぶん、キャッチフレーズは、あの主婦が帰ってきた!!でしょうね(w。
絶対始まってほしい・・・。
裕ちゃんを見るのも楽しみですが、kaiさんのお話読みたいです☆
- 508 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/23(日) 19:29
- 矢口いろんな意味で元気だなー。
なっちの相手はごっ……
続き待ってまーす。
- 509 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/25(火) 22:07
- 毎日逢えなっていうのは、やっぱり、体がもたないとかそーゆー…(殴
- 510 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:01
-
屋上の給水塔の横の。
わずかな日陰に寄り添うように四人は並んで座っていた。
めずらしく風のない穏やかな晴天。
「わー!その玉子焼き、なっちのお手製? おいしそーー。」
「うん♪ おいしいよ。食べる?」
カオリの声に、なっちの手元に視線を向けると。
膝の上に置かれたちいさな2段重ねのお弁当箱に。
色とりどりのおかずがぎっしりと詰め込まれていた。
赤いお箸から「あ〜ん」とカオリの口元に運ばれていった甘めな味付け
の厚焼きタマゴ。
毎朝、自分で作ってくるんだって。
だから、いつも遅刻ギリギリの登校なのかどうかは知らないけど。
でも、ちゃんと、ウインナーを“タコさん”にして手間を掛けて
いるところがなっちらしいよね。
なっちは、2ヶ月前の中途半端な時期に北海道から転校してきた。
でも、誰にもそうは思わせないほど、今じゃすっかりこの学園に
馴染んじゃっているから。
彼女は、親元と離れて、一つ下の妹さんと一緒にアパートを借りて
生活をしているんだ。
- 511 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:06
-
じっとしているだけでも、汗が滲みわたってくる。
汗を吸い込んだTシャツが、ぺったりと背中にくっつかって気持ち
が悪かった。
グレープフルーツジュースをゴクリと飲み込んで。
ツナおにぎりを齧りついた。口の中がヘンテコな味になる。
徐々に太陽の位置も変わると、日陰の部分も僅かになって。
アスファルトに視線を向ければ、4つの影が凸凹に並んでいた。
ヤグチに、圭ちゃん、なっちに、カオリ。
顔も、性格も、体系も、てんでバラバラなオイラたち。
学校の中ではこの4人で行動することが多かった。
ハタから見たらその光景は、それはおかしいみたいで、ゆうちゃんも、
「変な組み合わせやなぁ〜っ」て、笑うけど。
でも、なんでか気があっちゃうんだよねぇ〜〜。
4人の中に流れているほんわかとした空気感が好きなんだ。
「あーあ、あちぃ〜なっ、海、行きたい〜〜!」
「海? あるじゃん、目の前に。」
「もう、そうじゃなくてさ、こう暑いと泳ぎたいじゃんか!」
圭ちゃんの声に唇を尖らせながら、顎まで滴り落ちてきた汗を手で
拭った。
視線の先に広がるそんな人口的な砂浜じゃなくてさ、もっと青くて
きれいな海。
さらっさらのビーチ。
そう、こないだ修学旅行で行った沖縄の海みたいな。
ウチらの修学旅行は、ついこないだの5月に行われたばかり。
大人数のため、北海道組と沖縄組の二班に別れてとり行われたんだ。
オイラたちのグループは北海道出身者が二人もいるということもあって、
沖縄班に決定。
まだちょっと肌寒かったけど、海にも入れたし、念願だったバナナボート
にも乗れた。
初めて食べた沖縄料理もめちゃおいしかったし、すっごく愉しかったん
だけど・・・。
でも、もう少しゆうちゃんの転勤が早かったら、一緒に行けたかと思う
と、すごく残念だよ。
- 512 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:08
- ゆうちゃんと、旅行したい。
うんん。旅行じゃなくてもいいから、また、デートしたいなぁ。
海じゃなくてもいいの。遊園地でも映画でも近所のスーパーでも、
どこでもいいから。
こないだの日曜日に、初めて二人で出かけたんだ。
あまりにも少ない生活用品を買うためという名目で。
強引に着いていったっていうのが正解だけどね。
なかなかいいのが見つからなくて、最終的にたどり着いたのは
横浜の本牧だった。
雑貨なら、お台場に可愛いお店いっぱいあるよと言ったのに。
「ん〜〜、でもな、もしも生徒に会うたら大変やろ・・・?」
困ったようにはにかみながら、彼女は、オイラのアタマをガシガシした。
センセイと生徒が二人で仲良くしてるとこ、見られていいわけがない。
だから、みんなが行きそうな渋谷とか新宿もダメなんだって。
「さすがにここまで来たらば・・・・」ということでドライブがてらこんなところまで、
来ちゃったわけなんだけど。
- 513 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:11
-
でも、それは正解だったんだ。
安くてオシャレなイタリアの輸入家具屋さんを見つけて。
彼女はもともと、あんまり部屋をごちゃごちゃ飾らない人らしいん
だけど、ソコのお店は、可愛いものがたくさんあってどれもこれも
目移りしちゃうくらい。
ソファやテーブルの予定外に、彼女が一目ぼれしちゃった洗面所に
置く青いチェアーも購入した。
赤いビータに乗り切れないほど・・・。
「あ、そうや、アンタのお茶碗とお箸も買わんとな?」
「え? う、うん♪」
そう言って、今度は雑貨屋めぐり。
今まで彼女の部屋でご飯を食べても、コンビニで貰った割り箸を使って
いたから。
当たり前のようにそう言ってくれた言葉に、胸があったかくなる。
「お、これなんかどうや?」
「あ、可愛いーー。うん、これがいい。これにしよ?」
彼女が選んでくれた色違いのお茶碗を両手にとって。
なんか、二つ並ぶと、同じ大きさなのに夫婦茶碗みたいだよね?
ねぇねぇ、どっちがお父さん?
ゆうちゃんが笑う。
つられて、おいらも笑う。
こんな青空の下で、眩しい彼女の笑顔を見つめながら茶碗をひとつ
選ぶだけのことがこんなに愉しいことだなんて。
アナタに会う前には、想像もしていなかったよ。
- 514 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:12
- 次から次へと籠の中に放り込まれていくものたち。
グラスや、マグカップ、フォークにスプーン。
それから、ボディタオルに、歯ブラシまで。
彼女の居場所のなかに、自分のスペースを与えてもらえたみたいで
すごくうれしかった。
手は握れなくても、肩が触れ合うくらいのこの距離感が、ひどくかけ
がえのないものに思えて。
やっと、コイビトになれたんだ、って気がしたんだよ。
ゆうちゃんと、いろんなところに行きたい。
一緒にいろんなものを見たいし、感じたい。
ずっと、ずっと、ゆうちゃんの隣を歩いてゆきたい。
「おーい、おーい、ヤグチ、ね、ヤグチってば!!」
「・・うわっ!」
- 515 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:14
- ドアップの圭ちゃんに思わず顎が仰け反った。
なんだよ、もーー、ビックリした。いきなり人の夢の中に入ってこな
いでよね!
「うわっ!てなによ失礼しちゃうわねぇ。・・・で、さっきの話、
夏休み、みんなで海行こうかって。ウチのおばあちゃんが民宿やっ
てるから安く泊まれるよ? 千葉なんだけどね。」
「・・ああ、うん。民宿かぁ、行きたいねぇ、海ぃ・・・・・・。」
ホントウは、行きたい人が別にいるんだけどね。
という思いはココロの中にそっと閉まっておいた。
だって、彼女は教師、アタシは生徒。
そう簡単にデートができないのは百も承知だ。
最初から、判っていたこと。だから、彼女を困らせるようなことを言っち
ゃいけない。
なのに、また、あの笑顔がもう一度みたいなって思っちゃうんだから。どうしよう
もないね。
沈むココロに追い討ちを掛けるかのように、ブリックパックのストローが
ポトンと中に落ちてしまった。
「んあっ!!」
- 516 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:16
-
げ、サイアク。
なんだよ、もーー!!
そんなオイラを見ながら3人がケラケラと肩を震わしている。
しかたなく空を仰ぎ見た。
カンカンと照りつける太陽が、彼女の笑みと重なった。
いつも、お日様のように温かいゆうちゃん。
今頃、なにをしているのかな。
逢いたい。キスしたい。抱きしめたい。
期末テストが終われば、すぐに夏休みがくる。
「・・・・海かぁ・・・。」
何回くらいデート出来るだろう。
愉しいことがたくさんあればいいのに。
おにぎりをパクンと齧りながら、大きな溜息を零したんだ。
- 517 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:18
- ◇ ◇ ◇ ◇
「帰りにみんな揃うなんて珍しいよねぇ〜〜。」
駅までの帰り道の途中、圭ちゃんがそう言って微笑んだ。
最近、まっすぐゆうちゃんちに行ってたから。
みんなとこうして帰るのは、久しぶりだった。
「んじゃ、せっかく揃ったことだし、このままカラオケでも行く?」
とても、まっすぐ帰る気分にはなれなくてそう誘うと。
二人は申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめん! アタシ今日、事務所行かないといけないんだ。あ、やっば、時間
ないや・・。」
「アタシもゴメン。いまお母さんが近くに来ててさ、んあ、もう着いて
るって。じゃぁね、ふたりとも!」
携帯を見ながら、そう言って、駆け足で去っていく。
残されたもの同士、肩をあげて、フーと息を吐いた。
・・・・・・結局は、こうなるのかよう。
- 518 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:20
-
なっちの白い首筋には、場にそぐわない絆創膏がぺタリと張られていた。
それは、「これ以上聞かないで」という暗黙の合図のような気がして。
だから、そのことに取立てて触れることはなかった。
4人もいれば、わざわざ二人がしゃべらなくても不自然じゃないし、
まぁ、なんとかなったのだけど。
ハァ・・・。
気になる。
口を開いたら余計なこと言っちゃいそうだ・・・。
二人の間に、重くるしい沈黙が続いていた。
なっちもさっきまで饒舌にしゃべっていたくせに、だんまりを決め
込んで。
さすがに、耐え切れなくなって。
「・・・・・んじゃ、オイラも帰るね? なっちバイバイ。」
手を振っていつものようにさり気に去ろうとするのに、グイッと後ろ手
を取られた。
なっちは、下を向きながらボソボソっと。
「・・・・なっちさ、昨日、バイト代入ったから、ゴチするよ?」
「・・・・・う?・・うん。」
折りしもそこは、マクドナルドの前だった。
アタシタチは冷房に誘われるように、ガーと開く扉の中に入って行った
んだ――。
- 519 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:22
- クラーの効きすぎだろうよと思えるほど空調の行き届いた2階の隅っこ
に二人は向かい合って座っていた。
ふと、窓の外に目を向ければ三角幌のヨットが優雅に海を渡っている。
てか、お台場って不思議なトコロだよね。
ここは、ホントに東京なのか、と思ってしまう。
トレーに置かれたLサイズのポテト。
シュワシュワしたのが飲みたくなって、めずらしくコーラを頼んだ。
なっちは、なかなか吸えないマックシェイクとさっきから悪戦苦闘し
ている。
ブッ。かわいいってぇ。
もう、なにしても可愛いんだもな。
ーーーこんな可愛いコを抱いたのは、いったいどんなヤツなんだろう。
- 520 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:23
- モグモグと忙しなく動く唇。
しゃべって。ポテト摘んで、ストローをチューチュー吸う。
彼女は、もう、知っているんだ。
恋のイタミを。
身もココロも焼け付くようなあの行為を。
もう、オトナになっちゃったんだね。
なんか、すごく複雑な気分だよ。
娘に彼氏が出来た父親の心境って、きっと、こんな感じなのかも
しれない。
ねぇ、なっちの好きなヒトはどんなヒト?
「・・・・・だよねぇ・・。」
「・・あ、うん。そうだねぇ・・・・・」
彼女は、二言三言しゃべって、ポイッと口の中にポテトを放り込んだ。
さっきから、その繰り返し。
空々しい会話が続いて、いい加減気持ちがげんなりする。
そして、また、沈黙。
ハァ・・・。
- 521 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:25
- なっちの会話の意図が見えなくて、いい加減「帰りたい」と思い始め
た頃、ようやく重たい口を開いたんだ。
「・・・ヤグチ、・・・・みんなに、云わないでくれてありがとね?」
右手で首を擦りながら、彼女はふにゃんと目尻を下げた。
「そ、そんなの云うわけないじゃん。」
「・・・うん。」
伏目がちにコクンって頷く。密集する長い睫毛がぷるると震えた。
あーもう、カワイイなぁ。
さっきから、男の子の視線を感じていた。
なっちは、男好きのする女の子だから。
オイラが威嚇していないと、すぐに言い寄ってきちゃう。
そういうの判ってないでしょ?
「ヤグチ、あのね、なっちね、実はヤグチたちに内緒にしてたこと
あるんだ・・・・。」
「・・・ん?」
ストローを咥えたまま彼女に視線を向けた。
彼女は言いずらそうに、ハンカチをギュっと握り締めながら口を
パクパクさせる。
こんなに涼しいのに、玉のような汗を掻いていた。
- 522 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:27
-
「な、なっちさ・・・・・・。」
「ねぇ! なっち、海行かない? ヒサぶりに・・・・。」
「えっ?・・・・・・。」
だって、なんだか、そのまま泣いてしまいそうな気がして、咄嗟に腕を
掴んでいた。
もしかして、辛い恋をしているのかもしれない。
オイラの声に、彼女はパチパチと睫毛をしばたたいてそれから、
俯いてちいさく「うん。」と首を振った。
「ほら、行こっ!」
強引に腕を取る。
泣かなくてもいいよなっち。オイラがちゃんと聞いてあげるからね。
オイラが泣いたときに、ゆうちゃんがいつもしてくれるみたいに、
ワサワサとアタマを撫でてあげる。
トレーを片付けて、二人分のドリンクを持った。
そうして階段に行く途中に、声を掛けてきそうな男たちを、斉藤さん
直伝本場仕込みのメンチを切って、しっかりと威嚇することも忘れずに。
アタシたちは、てくてくと歩いて数分の砂浜に向かったんだ――。
- 523 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:29
-
沖縄の海には程遠い、薄黒い海が広がっていた。
すっかり氷の融けてしまったコーラをグビっと喉に流し込んで。
メールを打ち込む彼女の横顔を、じっと見つめていた。
「ごめんね、ヤグチ。」
パタンと携帯を閉じた彼女が、おもむろに言う。
「・・ううん。・・・それ、彼氏に?」
「・・・・・・彼氏、じゃ、ないけど。・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
また、重苦しい沈黙。
二人の間をヒューっと風が通り抜ける。
オイラは気まずさに間が持たなくなって、「ちょうだい」と、彼女の
シェイクを口に含んだ。
なっちの好きな甘いバニラ味。
オイラのキライな牛乳の匂いがする。
「うげぇ」と顔を顰めると、彼女は、ようやく笑ってくれた。
ホッと、胸を撫で下ろす。コーラで口の中をブクブクした。
- 524 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:30
- 「ヤグチ、あのね、なっち、どうして転校してきたかってはなし、
まだしてなかったでしょ?」
「うん。」
「それね、なっちね、室蘭に・・・・居られなくなっちゃったから
なんだ・・・。」
唐突に切り出された声に、黙って耳を傾けた。
海風が、パタパタと赤いタイを持ち上げる。
彼女は、髪を押さえながら、風に流されてしまうくらいのちいさな
ちいさな声で言葉を紡いだんだ。
「なっちね、イジメみたいなのにあってて。・・・・・」
「・・・・えっ!!」
それは、想像していたようなものとは違っていた。
聞き取った言葉に目を丸くしながら俯く彼女の横顔を見つめると。
なっちは、初めてみるような険しい顔で眉を潜めていた。
なっちは、かわいくて。明るくて。
誰からも好かれるひとで。
だから、クラスの人気者なのに。どうして―――?
- 525 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:33
-
「なっちね、一年生のとき、好きな人がいたんだ。一目惚れだった。もう、すっごい好きでさ。」
会話の意図が見えない。
アタシは、混乱しながらも、初めて聞く話に耳を大きくさせた。
「見てるだけじゃ耐え切れなくなってきて、あるとき、告白したんだ。
・・・・・・ダメもとで。」
どうして、ダメもとなの?
なっちのようなコに告られたなら、どんな男の子でもホイホイ喜んで
くれるだろうに。
「・・・それで?」
「・・うん。最初は、あっさり玉砕しちゃったんだけどね。でも、
なっちどうしてもその人のこと大好きで、だから諦めきれなくて。
何度も何度もスキだって云ったら、彼女、とうとう根負けしてさ・・・。」
「!!!・・・・えっ。彼女、って?」
「うん。彼女だよ。その人、女の子なの。いや、女の子じゃないかな、
女のヒト。彼女ね、体育のセンセイだったんだぁ。」
- 526 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:35
-
ゆうちゃんのことを好きになってから、同性愛というものにひどく
関心を持った時期がある。
それは、テレビだったり、本だったり、ネットだったりしたけど。
取り立てて情報を掻き集めていたわけじゃないけど、その中で知り
得た知識。
人口の30人に1人は同性愛者であることが実証されているのだということだ。
そんなにいっぱいいるんだ。
だけど、そういう人が判りやすく歩いているわけじゃないから。
オイラのように、フツーに息をして生活をしているヒトを見分ける
ことなんてできない。
女の子に恋をしている子の気持ちを知りたかったけど、出逢い方が
よく判らなかった。
まさか、こんな近くにいただなんて。
そして、その事以上に、センセイと付き合っていたということが、
オイラの心拍数をバクバクと上げていたんだ。
「ねぇ、ヤグチさ、ウチらが友達になった日のこと、覚えている?」
「へ?・・・あぁ、うん。」
さきほどから彼女の会話の脈略もないことに、まだ、どこか戸惑いを
感じながら。
それでも、コクンと頷いてみせた。
フツーは、友達になるのに、そんな記念日なんかがあるはずがない。
だけど、ウチらの中には、ちゃんとそういうものが存在していた。
なっちの言うところの友達になった日。
- 527 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:38
- もともと、オイラと圭ちゃんとカオリは一年のときから、ずっと友達で。
クラス委員のカオリが転校生の面倒をみることになって、なっちが
ウチらのグループに入ってきたのが始まりだっだのだけど。
彼女は、最初から人懐っこい性格だったから、すぐにみんなと打ち
解けられた。
いつのまにか、4人でつるむことが自然となっていた。
あの日も、こんなふうによく晴れた日下がりだった。
圭ちゃんとカオリと別れた乗り換えのホームで、彼女は、オイラに
向かって徐に手を出してきたんだ。
「友達になってください」と。
それは、なんだか、昔、流行った“ねるとん”のようで。
オイラは戸惑いながらも、その手を取った。
なっちって、変わってるよね。
ねぇ、フツー友達にしないよ、こんなこと。
つーか、ウチらってもともと、友達じゃなかったの?
- 528 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:40
-
握った手のひらが、やけに汗ばんでいたことを覚えている。
顔をあげた彼女の頬は、ほんのり朱色に染まっていて、これじゃぁ
告白みたいじゃんかって言って笑ったんだ。
だけど、内心は、すっごくうれしかったよ。
「ヤグチはさ、最初から女の子を好きになったこと、ぜんぜん隠して
いなかったでしょ?」
「へ?・・・あー、うん。」
ーーーオイラの好きになったヒトは“オンナ”のヒトだ。
さすがに出会い方までは云えなかったけど、「彼女」への気持ちを、
特別隠したりはしていなかった。
むしろ、そういう人がいることを自慢気に話していたかもしれない。
・・・なんて言うと聞こえはいいけど。
正直に言うと、めんどくさかったからって気持ちも大きかった。
合コンを断る理由を、いちいち説明するのも。
コイバナをする時に、会話に入れないのも・・・。
そう話すと、最初は「え?」って、驚くけど、「へ〜〜」って感じになる。
それは、たぶん、女子高っていう環境がそうさせているんだと思うけど・・・・・・。
「なっちさ、ずっと、女のヒトを好きになったこと悪いことだと思って
たんだ。」
「・・・うん。」
- 529 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:43
- フツーはそう思うよね。
そんなの悩んで当然だよ。
「だから、ヤグチの好きなヒトが女の人なんだって聞いたとき、
すごくビックリした。ヤグチってスゴイなって思った。いいなって
思った。羨ましかった。」
「・・・・なっちぃ・・。」
彼女は、眉を寄せる。
キレイな眉間に3本の縦皺が残った。
「ヤグチぃ、なっち、なっちね、彼女と付き合い始めて2ヶ月目くらい
のとき、親友と思ってたヒトにコッソリ打ち明けたんだ。ずっと、好きな
ヒトがいたことと。その人と付き合ってもらえるようになったことと。
・・・・・彼女が、センセイだということも・・・。」
「・・・・・・・・。」
なっちが、フッと息を吐いた。
大きな瞳がユラユラと揺れている。
「もう、バカだよねぇ。なっち。彼女との約束破ちゃったんだ。
ヒミツにしよう!って云われたのに。つい浮かれてしゃべっちゃって。
次の日学校に来たらみんな知ってるんだもん。参ったよぉ・・」
「・・・・・・・・・・・・。」
- 530 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:45
- 彼女の言葉を聴きながら、いつのまにか自分の状況と照らし合わせていた。
ヒミツの約束。浮かれてしゃべっちゃいそうになる気持ちもすごく判る。
それは、オイラも一緒。お尻がムズムズして我慢するのが辛かったから。
「イジメられてたのも、それで。変態とか、キモいとか影で云われた
こともある。・・・イジメっつてもなにかされたとかじゃないんだけ
どね。・・・・みんなにシカトされてただけで。」
笑うところじゃないのに、彼女は不自然に唇を曲げた。
オイラの前で、そんなふうに無理しなくてもいいのに。無言のまま
髪を撫でてあげる。
言葉の暴力。無視の圧力が。
どれほどの苦痛なのかって判っているよ。
「それからが大変だったな。学校中の大騒ぎになっちゃって・・・。親とかも呼ばれてさ、
もう、サイアク。あはっ、なんか、ドラマみたいっしょ!」
「もういいよ、なっち。笑うな!おいらの前で、がんばんなくていい
から!」
そう言ってアタマを抱え込むと。
とうとう、堪えきれなくなったのかふえ〜んと泣き出してしまった。
震える体を抱きしめて、背中を擦ってあげる。
もういいよ。いいから、なっち。それ以上、云わなくて。
苦しかったんだね。
- 531 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:47
- 初めて聞く彼女の鳴き声が、ひどく切ない。
なっちは、どんなときでも笑みを絶やさなくて、悩みなんてないんだ、
いいなーって思ってた。
でも、そんなわけないよね。悩みがない子なんているはずがない。
・・・我慢していたんだ。
悲しみを1人で抱え込んで、その裏の笑顔だったんだ。
そう思うと、ひどく切なくなって目頭が熱くなった。
彼女は、息も切れ切れになりながら、アタシの胸の上で言葉を続けた。
「停学開けて学校行ったら、センセイ、いなくなってた。転勤させ
られたんだ。どっか遠い街に。」
「・・・・・・・・。」
「彼女、ぜんぜん悪くないんだよ? なっちが告ったからいけないのに。
約束破ったなっちが悪いのに。なんで、なっちは一週間の停学で済んで
センセイは・・・・・。」
もし、自分達もそういう立場になったら、彼女達のような運命を
辿るのだろうか。
同じスキだとしても、相手のほうがリスクが大きいのは事実だ。
なっちのムネのイタミが、ズシリと重く圧し掛かってくる。
- 532 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:50
- 「だから、イジメられたのも仕方ないと思ってたよ。我慢してた。
なにを言われてもそのくらいは、へっちゃらだった。だって、
センセイの受けた仕打ちに比べたらさ・・・。罰なんだ。これは、
なっちへの罰なんだってそう思って。・・・・でもね、だけど、
だけどねヤグチ?・・・・学校には、彼女との思い出がたくさんあり
すぎて。なっち、他の事は我慢できたけど、でも、それが、すっごく
辛くって・・・・・。」
「・・・・なっちぃ・・。」
いつのまにか、ポロポロと涙を零していた。
「だってスゴイ、スキだったんだよ。なっち、センセイのこと・・・・。」
「・・・・うんうん。」
判るよ。
どうしようもなかったんだね。
ヒトを好きになるのに、気持ちを抑えることなんてできない。
なっちは、彼女のことをこんなに想うほど愛していたんだ。
「だから、逃げてきたの。東京に。なっち、逃げてきたんだよ、
なにもかもから。・・・・・卑怯者なんだ・・・。」
違う。それは、違うよ、なっち。
そうじゃないよ。
そう云ってあげたいのに、嗚咽に詰まってなかなか声にならなくて。
だから、仕方なく彼女の背中を、きつく抱きしめた。
- 533 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:52
- 恋のイタミなら、アタシにだってあるよ。
そのおかげでバカなこともいっぱいしてきた。
あの時、ゆうちゃんに出会えなかったら、今頃、ろくな生活はして
いなかっただろう。
ふと、気になったこと。
彼女の首筋にできた、赤い痣。
誰が、それを、キミにつけたの?
なっちは、オイラみたいにバカじゃないから、自分のようなことを
したとは到底思えない、けど。
でも、まさか・・・・。
「ねぇ、なっちぃ、・・なっちぃ・・・・・これ?」
・・・・どうしたの?
- 534 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:54
- アタシのおろおろとした瞳を見咎めると、彼女はまた、フッと息を
吐いた。
うさぎのような赤い目をしながら、ギュっと唇を噛み締める。
なにを云われるのかと、心臓が激しくざわつき始めた。
「・・・・そのコもね、なっちに一目ぼれだって云ったの。なっちが
センセイにしてたみたいな目をして。なっちのことがスキっていうの。
忘れられないヒトがいるって云っても、それでもいいって。
泣くほど辛い恋なら、アタシが忘れさせてあげるって・・・・。」
「!!・・・・ね、待ってよ、・・・・“アタシ”って・・・。」
驚いて顔をあげると、彼女は、困ったようななんともいえない表情を
していた。
「・・・うん、女の子だよ。なっち、ずっと女の子が好きなんだ。
男の子じゃダメみたい・・・・。」
「・・・・・・・・ん。」
- 535 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:55
-
オイラの拙い知識の中に、同性愛者になるのは、先天的な遺伝子の
せいだっていう説があった。
お母さんのお腹の中で、そういう遺伝子が突然変異を起こすんだって。
よくは判らなかったけど、自分が原因でそういうことになりうるわけ
じゃないということみたい。
そして、もうひとつ判ったことは、オイラは、たぶん、同性愛者じゃ
ないということだ。
だって、ゆうちゃん以外のオンナのヒトとそういう関係になれるとは
思えないから。
たとえば、なっちが可愛いと思っても。
キスしたいとは思わないし、裸で抱き合いたいなんて考えられない。
それが、圭ちゃんにしろカオリにしろ同じこと。
オイラは、ゆうちゃんだけが特別なんだ。
好きになった人が、たまたまオンナのヒトだっただけ。
いまは、そう思っている。
だけど、そうじゃないヒトもいる・・・。
- 536 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 18:57
- 「なっちぃ・・・・・。」
「あはっ。もう、なっちバカだよね。せっかく東京に来て、一から
やり直そうとか思ってんのに。また、女の子だって。なんでだろう・・。
もう、あんな苦しい思いしたくないのに。」
瞳いっぱいに水分を溜めて、今にも零れ落ちそうだった。
それでも、聞かずにはいられない。
「なっち、ねぇ、なっち、・・・・スキになっちゃったの? そのコの
こと?」
「・・・・分かんないの。考えたけど、いっぱい考えたけど分かんないんだ。
だって、センセイのことまだスキだし。なのに・・・・・。」
十分の間を置いて、彼女はくたんと倒れこんだ。
キリリと噛み締めた唇が紫色に染まる。
ーーー「ねぇ、いまのキス、気持ちよかった?」
・・・・・。
ーーー「ねぇ、もっとスゴイことがこの先にあるんだよ。アタシが
してあげるから目を閉じて?」
・・・・・・。
- 537 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 21:02
-
「センセイのこと大好きなのに、彼女にされて、なっち・・う・・ぅぅ・。」
「・・・・なっちぃぃ・・。」
苦しげな声を洩らしながら、息を吸い上げて何度も呼吸を試みる。
彼女の背中が、ひどくちいさく見えた。このまま消えてしまいそうな
気がして。
オイラは、慌てて手を差し伸べる。
「ヤグチが羨ましいよ。好きなことをちゃんと好きってみんなに云えて。
気持ち隠さないで、ちゃんと自分と向き合って。だから、なっち、
ヤグチと友達になりたかったの。ヤグチの一番の親友になりたかった。」
「もう、親友じゃんウチら。」
「うん。」
泣きながらふんわりと笑う。
それはたぶん、なっちのホントウの笑顔なんだろう。
そのまま吸い込まれるようにギューっと抱き合った。
腕を通して、彼女の温もりがじんわりと伝わってくる。
- 538 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 21:06
-
やわらかい感触。彼女もオンナノコなんだなぁ〜。
それは、ゆうちゃんと抱き合ったときのようなドキドキ感とはぜんぜん
違っていたけど。
彼女のカラダからやさしい匂いがした。
ねぇ、なっち。
オンナのコを好きになったことは、悪いことじゃないよ。
そんなふうに悩まなくてもいいんだよ。
ヒミツの告白をしてくれた友人を、愛しく思う。
二人のココロが前よりも、もっともっと近づいた気がした。
「ちょっと、そこのお二人さん。こんなヒトの行きかうオーライで、
な〜にイチャイチャしてんの!」
「・・・・んあ?」
どこか聞き覚えのあるその声。
- 539 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 21:09
-
「うわっ、ごっつぁん!」
「・・・・・ごっちん。」
見事に、声を揃う。
「ふへっ?・・・てか、なっち、ごっつぁんと知り合いだったっけ?」
「・・・・そういうヤグチは、なんで知ってるの〜?」
お互いを見つめながら、首をコテンと傾ける。
突如発生した、奇妙なトライアングル。
アタシタチは、すぐに指差し確認を始めた。
「オイラとこいつは、中学のときのセンパイ後輩だったんだ。」
「そうそう、やぐっつぁん、危うく同級生になるところだったんだよねぇ〜〜。」
「うっさい! ・・・ま、そうだけど。てか、そんなことより、二人は
いつ知り合ったのさぁ〜?」
これだけの人数が居れば、2年生と1年生が出会う確立なんて低いはずだ。
家の方向も全然違うし。
なっちは帰宅部、ごっつぁんは、サッカー部。
オイラの問いかけに、なっちがモジモジと膝を突き合わせた。
そうして、彼女が取った行動に、目を剥むくんだ。
- 540 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 21:11
-
「なっちは、アタシの彼女だよ。あのさー、いくらやぐっつぁんでも、
ヒトの彼女を勝手に触んないでくれるかな〜〜。」
ギューっとなっちを抱き寄せて、ほっぺにほっぺを重ね合せた。
まるで、「なっちと抱き合っていいのは、自分だけ。」と、誇示する
みたいに。
なっちのカオが、みるみるうちに赤くなる。
それが、彼女が言っていることがウソではないことを証明していた。
ということは、首筋の痣をつけた人物。
それが、こいつなの〜〜!!
「ウソ〜〜〜!!!!」
「って、声、でかいよ、やぐっつぁん。・・・ま、そういうことなんで、
なっちは、返してもらいますよぉ。」
ふふんと鼻をならして、彼女の腕を取った。
不敵に微笑むごっつぁんの顔を呆然と見つめる。
そのままズルズル引きずられていくなっちに、オイラは、口をあんぐり
させた。マジっすか〜!!
- 541 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 21:16
-
「・・・ヤグチぃ、聞いてくれてありがとね。ありがとーー。」
「へ?・・・あぁ、ううん。」
10メートルくらい離れたところで、なっちが大きな声をあげる。
ごっつぁんの腕に包まりながら。
ただ聞いてあげただけなのに、なにもしていないのに。
なっちは、満面に笑みを浮かべてブンブンと手を振った。
仲間がいたことで、安心したのかもしれないと思い立って、言いかけた
言葉を飲み込んだ。
ズルズルズル。
ドンドンちいさくなっていく彼女。
てか、それ、ほとんど拉致だろうよと、思わず苦笑する。
「・・ね、ちょ、もう、ごっちん離してよー。まだ、ヤグチに話が・・・・。」
「ダーメ。」
な〜んか。おもしろい組み合わせだよな。
でも、いまのなっちには、ごっつぁんみたいなちょっと強引なくらい
が、ちょうどいいのかもしれないね。
もう、友達がしてあげれることなんてなにもない。
少し淋しいけれど、ごっつぁんが、傷ついたなっちのムネのつかえを
癒してくれるのなら。
つーか、お前、手が早すぎるゾーー!!
- 542 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 21:22
-
ズルズルズル。
「ね、ちょー、痛いぃ。も、みんな見てるよ、離してって!」
「じゃー、今から、誰も見てないとこ連れてくよ、いい?」
「な、なんでそーなんのよーーていうか、顔も見たくないって、昨日
言ったっしょ、なんでここにいるの!!」
「んあー、お腹すいたーー。なっち、ご飯、食べに行こっ♪」
「ヒトの話を聞けーーー!!!」
ねぇ、なっち、気づいているのかな?
はじめてみたよ、なっちのそんな顔。
そうさせてんのは、ごっつぁんなんだね。
アナタに涙は似合わないよ。
早く、元のなっちに戻って。
顔を赤くさせながら、去り際にブンブンと手を振って彼女が云った
一言に、オイラのカラダがピキンと固まったんだ。
「ヤグチぃ、ヤグチは、ゆうちゃんとしあわせになるんだよぉ?
なっち、応援してるからね〜!!」
「――――――――――。」
「バイバイ、ヤグチーー!!」
- 543 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/05/30(日) 21:29
- ・・・・・バイバイって。
「はっ、・・・はあぁ〜〜〜?!!!」
なんで、知ってるんだ?
見えなくなってしまったヒトに、もう、問いただすことは出来ない。
彼女の残していった言葉が、頭の中をグルングルンと回っていた。
―――なっちが、アタシタチの関係を知っている・・・?
「・・・・・・・・・・。」
な、なんでよ、なんで、なっちが、知ってるんだよう。
・・・・てか、オイラ、なにかした?
すっかりオレンジ色に染まってしまった空を見上げながら、アタマを
抱えこんだ。
腰に力が入らなくて、ヘナヘナと砂浜に崩れ落ちる。
意味、わかんねーよ、なっちぃ。
夕日が沈みかけるところ。
年上の愛しい愛しいコイビトに、無性に逢いたくなるのだった――。
- 544 名前:kai 投稿日:2004/05/30(日) 21:31
- というわけで、本日の更新は以上です。
学生時代のほろ苦い青春を思い出し、自分で書いててかなり鬱になり
ましたが。(ヲぃ
これから、なっちさんたちのお話も、進めていこうと思っています。
少し、エロなんて展開も入れつつも。<またかい!(笑
- 545 名前:kai 投稿日:2004/05/30(日) 21:35
- しかし昨日は、笑顔全開で“ヤグチ〜”を叫ぶ姐さんを見れてニマニマ
って感じだったのですが。(w
やっぱし、卒業は何度経験しても痛いですねぇ〜・・・。(涙
いつものことながら、どうしてもヤグチを通して見ちゃうので。
辻加護ちゃんで参っているところを、そうくるか、と。
いま、ヤグチがどんな心境でいるかって考えると胸が痛みます。
また、体調を壊さないといいけどね・・・。
といいつつ、相変わらず内容にはあんまり影響はなくて。(汗
でもいつか、いまのヤグチの心境を、リアルなやぐちゅーで表現で
きればいいな〜と思ってます。
でも、すっごく、痛くなりそうなんだけど。<んなの読みたくねー!(苦笑
- 546 名前:マコト 投稿日:2004/05/30(日) 21:35
- 久しぶりにリアルタイムで読ませてもらいました!
なっちの好きだったセンセイって石黒さんかな〜とか思ったりしたんすけど・・・
でもごまなちもイイ感じっす!
二つのCPがこれからどう絡んでいくのか楽しみにまってます(w
ちなみにkaiさん学生時代先生と恋愛でもしてたんすか?(笑)
やぐちゅー、ごまなち両方のエロも期待してます!
- 547 名前:kai 投稿日:2004/05/30(日) 21:58
- >マコトさん・・安倍さんのお相手は、・・・やはりこの方でした。w
ホントは、よっすぃーにしようかと、悩んでいたんですけどねぇ〜。
リアルなヤグチさんのほうは、心配事が多くて可哀相な感じなので、こっち
だけでもシアワセしてあげたいんだけど。どうなるのか・・・・。
>ゆちぃさん・・いつも、ありがとーございます。(ぺこ
ドロドロとは・・・? つなぎのドロドロ?
ドロドロもキライじゃないですけど。当初ははじめてのシリアス路線を
目指していたつもりなんですけど〜。 どーも、うまくいかん!(笑
ドラマもうすぐ終わっちゃうんだ。(涙
でも、パート2絶対ありでしょう! ハロプロメンバーも観ていることですし!
>508さん・・やっぱ、分かりやす・・でしたか。
このカップリングがどーもしっくりくるもんで。
他の作家さんのなちごまも研究しつつ。やぐちゅー同様、こっちも力入れていき
たいです。
>509さん・・≪毎日逢えなっていうのは、やっぱり、体がもたないとかそーゆー…(殴
あはっ、やっぱ、若さがね・・・・。
いやいや、そんなこたーない、ウチの姐さんは、いつでも元気っスよぉ〜〜。(w
今回は、いろんなエロの構想を考えていたり。(汗
ま、ひかれない程ギリギリでがんばりまーす。(ぺこん
いつできるかわからなかったので、本日も多めの更新でした。
また、近いうちにヨロシクお願いしまーす!
- 548 名前:kai 投稿日:2004/05/30(日) 22:00
- age忘れちゃったので、ageる。
- 549 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/05/30(日) 22:44
- おつかれさまです♪
ドロドロって・・・・そのとおりです(爆。
違ってよかった・・・。
なっちじゃなくても、ヤグチの相手は傍にいたらわかっちゃう気が・・・(w。
次もがんばってくださいね〜☆
- 550 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/31(月) 22:50
- なちごまキタ――――!!
なっち鈍そうに見えて案外鋭いな…。
- 551 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/12(土) 04:22
- なちごまだぁぁぁ!!
やぐちゅうも大好きだけど、kaiさんのなちごまのエロ読んでみたいっス☆
お待ちしております。
- 552 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 12:48
-
―――ほんと、ゆうちゃんは、悪いセンセイだよ。
「・・・・・っ、・・!!!」
それは、音楽室からの帰り道だった。
コツコツとヒールの音を立てて階段を降りてくる人影に、オイラは、
ハッと、息を呑んだ。
かろうじて、声は抑えたものの。心臓は、バクンバクンと早鐘している。
踵を鳴らす音だけで、判別できちゃうんだから、オイラもすごいよね。
彼女の匂いを嗅ぎ分ける嗅覚は、犬にだって負けてない。
その姿が、顕になる。
今日は、ピンク色のニットに白いパンツか。
相変わらず派手だなぁ。
彼女を見ていると、教師には服装検査はないのかって言いたくなるよ。
実際、岡村センセイに何度も注意されているのを目撃している。
それでも、一向に止めてこない。
こないだは、超ミニで登校してオイラをやきもきさせた。
今日の数学は、5限だった。朝から、まだかまだかと、すっかり
待ちくたびれて。
ようやく次の授業で逢えるのかとほくそ笑んでいたときの、いきなり
の不意打ちに。
顔が、どうにもしまらなくなった。
- 553 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 12:50
-
ヤグチを見つけたゆうちゃんは、花のようにふんわりと頬笑みながら、
パコン!と、出席簿でアタマを叩いてくる。
いい音が踊り場をコダマした。
思わず口元も緩んじゃいそうになるけど、みんなが見ている手前も
あって、わざとむぅって口を窄まらせてから。
「なに、いたいよ、も〜〜!!」
睨みつけるけど、口元が、ヒクヒクと動いてた。
うれしくて。うれしくて。
ゆうちゃんは、そんなヤグチの複雑な感情もすべて判っているでって
顔をしながら形の良い唇をくにゃりと曲げるんだ。
「ふふっ。軽くやったろぉ。・・・・あ、それよりヤグチ、次の授業、
プリント配るからまた数学準備室に取りに来てな。」
「ええ〜〜、めんどくさいよ〜〜!!」
「もう、そんなん言わんと。アンタ、係りやろ? お昼、食べ終わって
からでええからさ。」
「頼むわ」と、グシャグシャって髪をかき混ぜてから、ウインクする。
うわっ。もう止めてよー。
こんなところで、変なフェロモンださないでよね!
- 554 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 12:51
- トントントンとリズミカルに階段を降りていく気配を背中いっぱいに
感じながら、フーと溜息が零れた。
彼女の残り香が鼻腔をくすぐる。
髪を整える振りしてそこを触れれば、まだ手の温もりが残っていて。
オイラは俯いたまま、にやける顔をなんとか顰めながら、なるだけ
平静を装うように「めんどくせー」とココロにもないことを呟くんだ。
ああ、もう。
こういう偶然は、すごーくうれしい。
うれしすぎて、顔のしまりが戻らないよ。
どうしよう。
だってこんなふうに、教室の外で逢えるのなんて、めずらしいから・・・。
- 555 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 12:53
-
てか、なにが、「数学係」だよぉ!
まったくぅ。
くじ引きでハズレくじをひいたのは、2週間前のはなしだ。
だけど、オイラに取ってそれは、「幸運の」ハズレくじ。
商店街の福引でさえ、毎回ティッシュを貰っている身としては、かなり
の驚きだったのに。
それが、すべて仕組まれたものだったなんて聞いたときには・・・。
「逢える時間が少なすぎるよ!」
そう、ぼやいた声をちゃんと彼女は受け止めてくれたんだ。
もう、ホント、悪いセンセイなんだからぁ・・・。
でも、そういうとこ、大好きだけどね!
- 556 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 12:54
- ◇ ◇ ◇ ◇
なっちにお裾分けしてもらったメロンを齧りながら、ひどくソワソワ
していた。
このまま食堂を飛び出したい気持ちだけど、そうもいかない。
携帯の蓋をパッカパカさせながら、北海道産のデザートをゆっくりと
咀嚼する。
早く逢いたいよ。
早くキスしたいよ。
早くギュって抱きしめられたい。
「はあぁ。」
なかなか進まない時計にイライラしながら、蓋を閉じた。
なんだか視線を感じて顔を上げると、3人がニタニタと笑っている。
「な、なんだよう!」
「いや。・・・・それより、そろそろゆうちゃんのとこ、行ったら。
待ってるよー?」
「・・・・うっ・・・・。」
「待ってる」とやたらと含みを込めた圭ちゃんの声に、眉も険しくなる。
すべて見透かしていますって態度が、堪らなく恥ずかしい。
だからオイラは、無言のまま立ち上がって、食べ終えたトレーを片付けた。
- 557 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 12:56
- ・・・そうなんだ。
海での、なっちの告白を聞いた日の翌日。
「どうして知っているの?」と問いただしたオイラは、彼女の口から
出た答えにその場で頭を抱えこんだしまってた。
知っていたのは、なっちだけじゃなかったんだ。
圭ちゃんも。あの、カオリでさえ。
「なにヤグチ、ウチらが知らなかったと思っていたの?」
どこか呆れたような圭ちゃんの声が、脳裏に蘇る。
あんなにがんばって隠し通していたつもりだったけど、バレバレだった
なんてさ。
なにがいけなかったのかなんて。
すべて、自分が悪かった。
ゆうちゃんに逢ってから、生活態度が激変したのは自分でも判っていた。
今までは、重役出勤がザラだったのに、最近は、毎朝、きっかり登校
している。
ま、そのおかげで授業中は、たいてい居眠りを決め込んでいるけれど、
数学のときだけは、バッチリ目を覚ますのも。
テストの成績も然り。・・・・・あぁ、オイラって・・。
- 558 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 12:59
- 「アンタって、ホントわかり易いよねぇ。それにさ、あんなラブラブ
光線だされたら、気づかないはずないじゃないの!」
圭ちゃんの声に、「あうぅぅ」とうな垂れた。
はい、そのとおりです。
「矢口、授業中ずっとゆうちゃんのことばかり見てるよ?」
「・・・・・・うぅ・・・。」
はい。カオリ。それも、自覚していますよ。
それは、本人にも、指摘されてるし。
だって、そこにいるのがうれしくて、ついつい目を追っちゃうんだもん。
しょうがないじゃん!
「でも、よくよく観察してたら、ゆうちゃんもヤグチのこと見て
ニヤケてるし。あれ、まさか二人、付き合ってる? って思ってたら。
カオリが、いつも矢口が言ってた“運命の人”に出てくるオンナの
人って、ゆうちゃんみたいなヒトだったよねぇ。って言い出したのよね?」
「そうそうそう! 3人でもしかして〜って言ってたんだよねぇ。」
なっちの声に、顔がぶわっと熱くなった。
確かに、自慢げに話していましたね。
- 559 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:00
-
「ほらなんだっけ? 大阪弁の美人で、青い目して、将来はセンセイ
を目指しているヒトで。んで、極めつけは右手のタトゥーでしょ。
ピッタリ。こんな偶然ないじゃない。」
「あうぅ。・・で、でもさ、それだったら、どうして気づいたときに
言ってくれなかったのさー!!」
指折り数える圭ちゃんに、唇を尖らせながら、詰め寄った。
もっと早く聞いてくれれば、オイラだって。
圭ちゃんは、おかしそうに肩を震わせながら、食べ終えたパンの袋を
器用にキュって結ぶんだ。
「だって、ヤグチが隠してるっぽかったし。なんか訳ありなのかなぁってね。
そりゃ、少しは水臭いなって思ったわよ。でも、佐野っチのこともある
から、友達にも云えないんだろうなって気持ちも判るしさ。だから、
アンタが云ってくるまで黙っとこうって云ってたのよねぇ〜〜。」
「・・うあぁん・・圭ちゃぁん〜〜〜。」
うんうん。やっぱ、持つべきものは友達だよね。
ありがとう、圭ちゃん。
オイラ、うれしいよ〜〜。
- 560 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:02
-
「そうだよぉ。それなのに、なっちしゃべっちゃってさ・・・・。」
「ゴメ〜ン。・・・つーか、圭ちゃん、それ、少しチガウっしょ!
こんな矢口なかなか見れないから、面白いから黙って観察しとこうって
云ってたんでしょうがぁ・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
はあぁ。
やっぱり、そういう人だよ。アンタタチは!
まったくぅ!!
あー、だけど、少し不思議だったのは。
「で、でもさ、フツー友達なら、反対とかしないの? センセイだよ?
オンナだよ?」
なっちの室蘭の友達のような反応をされるのはさすがに怖いけど。
でもそれが、フツーの反応なのだとは、思っていた。
同性愛ということは、置いといても。
センセイと生徒が恋愛していいはずがない。でしょ?
もし、バレたとき、3人はどんな反応をするのだろうと考えると、
ちょっと怖かった。
- 561 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:03
-
「別にぃ。いいんじゃない? カオリは賛成だけど。二人お似合いだし。」
―――そういう問題か?
「うん。なっちも賛成だよー。長年の恋を実らしたんだもんね。
ドラマっしょ。」
―――いやいや、出会い方を知ったら、放送なんてできないから。
「バレたら問題だけど。ま、反対はしないわよ。おかげで、アンタの
生活態度が変わったんだもん。アタシは、ゆうちゃんにお礼言いたい
くらいだわ・・・。」
―――つーか、アナタは、アタシのお母さんですかい?
だけど、彼女達の気持ちは素直にうれしかった。
理由はどうあれ、二人の仲を認めてくれたってことだもんね。
ちゃんと話せば、きっと判ってもらえると思っていたよ。
- 562 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:05
- ホントウのところ、ずっとヒミツにしているのが辛かったんだ。
親友にまで内緒にしなきゃいけないことが後ろ暗かった・・・。
ゆうちゃんのこと話したくてたまらないのに、誰にも言えなくて。
こんなにシアワセなのに。友達にも祝福されない恋なんてやっぱ
辛すぎるもん。
だから、彼女達の話を聞いて、実は内心すごくホッとしていた。
ゆうちゃんに、どう説明したらよいものかとアタマを抱えるけど・・・あぁ。
「矢口! 学校なんだから、変なことしちゃダメよ!」
圭ちゃんのそんな言葉を背に、振り返って、「イー」っと歯並びのいい白い歯を
見せ付けた。
もう!
変なことってなんだよう!
圭ちゃんのそういうとこ、ホント、おばちゃんなんだからなっ!!
・・・・・たくぅ。するに決まってんじゃんか、そんなの。
中庭を横切って、早足で階段を駆け上がる。
スカートがバサバサと風で靡いた。
食べたばかりのタマゴサンドがお腹の中をグルグルと泳いでいる。
そうして、あっという間に到着してしまった、「数学準備室」の扉の前。
息を整えて。しまりのない顔を、両手でパチンと叩いてから。
愛しい人が待っている白い扉を、ガラリと開いたんだ―――。
- 563 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:08
- ◇ ◇ ◇ ◇
6畳くらいの室内は、グレー色の業務用机が二つばかり並んでいた。
壁には、オイラが一生開くことはないだろうと思われる分厚い本が
所狭しと並んでいる。
ほどよく日差しも差込み、ふわふわと真っ白いコットンのカーテンが
風に舞い踊り。
机の上には、プリントと山済みされた資料。横を向けば、でっかい
三角定規やコンパス、分度器まであって。
ここはいつ来ても、物珍しいものがたくさん詰まったおもちゃ箱のよう
だった。
職員室は、人いきれがすると。
ゆうちゃんは、空き時間や昼休みには、大抵ひとりでここを使っている。
なんでも、足の臭いセンセイがいるのだとかって、こっちに非難してき
たらしいらしいのだが。あぁ、梅雨時期は、悲惨だよねぇ。
「おう、ヤグチ・・・・・。」
彼女はグルリと椅子を反転しながら、ニッコリと微笑んで手招きする。
いつもと違う甘い匂いがぷ〜んと立ち込める。
可愛らしいキテイちゃんのフォークで、小説本を片手にせっせと口元に
運ぶ彼女。
マグカップなんておウチから持ってくればいいのに、おっさんくさい
湯飲み茶碗で真っ黒いコーヒーを飲んでいた。
笑みのまま固まっていた表情が、スーと消えていくのが判った。
- 564 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:10
- 彼女は最近、めっきり食堂に顔を出さなくなった。
オイラの現在の気鬱のタネ。
それが、この匂いのもとだ。
一年生が、毎日「食べてください」持ってくるんだってさ。
ゆうちゃんの周りにはつねに取り巻きがいることは、オイラも現場を
押さえて知っていた。
彼女は、なぜかもてる。
ものすごーくもてる。
特に、一年生にはアイドルさながらの大人気だ。
その一年の間で、突如、お弁当を作ってくるなんてものが流行りだしたのは、
ここ最近の話。
1人が持ってくると、次から次へと膨れ上がり。
職員室の前では、ありのような人だかりが出来たという。
だけど、ただでさえ少食の彼女がそんな何個も食べられるはずがなくて。
そう言ったのに。
ローテーションなんて組んじゃって。
集まった20人が、日替わりで作ってくるんだってさ。
日替わり弁当かよう!
はあぁ、バっカじゃねーの!
- 565 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:13
-
見返りなんてないのに、そんなことしてどーすんのかね。
まったくぅ。
女子高なんてオトコ日照りで困ったもんだよ。
これじゃぁ、岡村センセイや矢部先生の立場ないじゃんか。
「彼女だ」って宣言できないのには、こういうデメリットもあるんだ。
オイラに見せ付けるように食べているこのヒトが、ひどく憎らしいよ。
「キー」って、奇声を上げたいのをなんとか堪えた。
もう、断ってくれてもいいのに。
なんで、受け取るんだよう。
彼女は、「しゃあないな」と、鼻の下を伸ばしながら、二つ返事で
OKしたとはクラスメートから知り得た情報だった。
ああ、腹立つー。
上から、ピンク色のお弁当箱の中身をこっそりと覗きこんだ。
うわっ、冷凍食品のものばっかり。
これの、どこが手作りなんだって! チンして詰め込んだだけじゃんっ!!
さっきみたばかりの、なっちのお弁当が眩しいよ。
オイラだって、オイラだって、彼女のためなら毎朝お弁当作ってくる
くらいできるもん。
だからって、ぜってー、参戦なんてしないけどね。
それをしたら、負けだって認めてるようなもんだ。
なにが悲しくて一年なんかと張り合わなくちゃなんねーんだか。
こっちは“彼女”だぞー!
だから、黙って、そんな彼女を黙認している。
すっごく胃がムカムカくるけど。
・・・・・そんなのゆうちゃんは、判ってないでしょ。
- 566 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:16
-
「えらい早かったな。・・・ちゃんとご飯、食べてきたんか?」
ミートボールを咀嚼しながら、彼女が笑った。
この瞬間だけ、中澤先生から、コイビトの顔に戻る。
素直に、首をカクンて揺らすと。
彼女は、半分食べたお弁当箱を横に置いて、椅子に座ったままそっと
手を伸ばしてきた。
「な、なに?」
「ん〜? タマゴ。フッ。今日もタマゴサンドか。・・・ま〜た、
慌てて来たんやろ!」
「・・・・別にぃ。」
彼女は、オイラの口の端に付いていたタマゴサンドの欠片をそのまま口に含むと。
にぃと、少女のような笑みを浮かべた。
オイラは、プイと視線を逸らしながら、眉毛を寄せるんだ。
唇が自然に尖がった。
- 567 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:17
-
「・・・ま〜た、そんな可愛くない顔してぇ・・・・。」
「矢口は、元から、こういう顔ですぅ!!」
「はぁん、もう、なに怒ってんねや。せっかくの時間なのに。ほら、
食い。あ〜〜ん。」
フォークにブッ刺して運ばれてきた冷えたエビフライが口の前に止まっ
ている。
「ん!」
視線で口を開けろと命令されて。
仕方なしに、イヤイヤ口に含んだ。
加熱しすぎてなんかグニョグニョしてる。つーか、マズイ。よく、
黙ってこんなの食べてられるよねぇ。
ヒトに出すんだったら味見くらいしてきやがれってんだ!
彼女が、海老の尻尾「ヒョぃ」と取ってくれた。
指が顎に少しだけ触れて、たったそれだけのことなのにドキンと
胸がなる。
- 568 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:19
- 「・・・・美味いか?」
「・・・ゲロ、マズぅ・・・。」
「フフッ。・・・どれ。」
ヒョぃと、オイラの手首を取って、自分の膝の上に誘導する。
椅子に座る彼女に抱っこされた形になると。
少しだけ高い位置にある顎を捕まえられて、彼女はまた、口を開けろ
と命令するんだ。
されるままに、口の中に残してあったものを口移しのまま受け渡した。
左手の指を複雑に絡ませる。
甘い香りに、僅かな汗の匂い。ちょっと粉っぽいのは、チョークの匂い
かな。
なんだかいつもと違って、少しドキドキするよ。
ゆうちゃんは、オイラの唾液の含んだエビフライをゆっくりと咀嚼する
と、そのままゴクンと飲み込んだ。
じっと、見つめ合う。
少し瞳が潤んでしまったのを知られたくなくて、慌てて顔を逸らした。
だけど、それを許してはもらえなくて。
彼女は、オイラの朱色に染まった顔を両手でやさしく何度も擦りなが
ら、顔を近づけてきた。
あぁ、キスされるんだっと思って慌てて瞼を閉じたら、その唇は、
頬を掠めて逃げていってしまう。
- 569 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:20
- えっ? あれ?
どうして?
「・・・そういやアンタ、最近、“チュウして〜”って言わなくなったな?」
彼女は、ヒトの悪い笑みを浮かべながら、そう囁いた。
「えっ?」
「いつも、学校に来たらせがんできてたやん。・・・なんでぇ〜?」
息があたるくらいの至近距離で。
怒っているふうでもなく、いやむしろ、なんだか愉しそうに聞いてくる。
視線を戻すのは躊躇って、そのまま細い首に腕を巻きつけた。
いい匂い。ゆうちゃんの匂いだ。
この匂い大好きぃ。
でも、それは、彼女の言うとおりだった。
- 570 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:22
-
なっちの話を聞いてからというもの、ヒトの目には細心の注意を払って
いる。
ここに入ってくるときも誰かに見られていないか、確認したし。
圭ちゃんたちにバレバレだった事もあって、二人でいるときは、妖しい
噂がたたらないようにと気を配っていた。
だから、カーテンの閉まった人気の少ないここならまだしも、誰が
いつ入ってくるか判らない教室での行為は避けたほうが無難だし。
だって、なにか、あってからでは遅いから。
オイラだけに被害が及ぶのなら構わないけど、彼女の身になにか
起こるのは絶対にイヤだもん。
なっちたちみたいに離れ離れにさせられたら、オイラ死んじゃうよ・・。
「・・・・・・べ、別にぃ。」
最近、こう言うのが多いな。
自分でも判っているんだけど、言葉に窮すると、いつもこんな調子に
なっちゃうの。
でも、ホントのことを言ったら、なっちたちにバレたことも話さなくちゃなんないから。
ヒミツの約束をした手前、いつか言わなくちゃとは思うけど、どう
言ったらいいのか判らなくて。
二人の間に芽生えたちいさなちいさな木の芽。
大事に大事に育てていきたい。
誰にも邪魔されたくない。もう、アナタを失うことなんて考えられない。
- 571 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:24
- 「ふ〜〜ん。・・・なんや、あれ、可愛かったのになぁ。」
ヒトの気も知らずに、そんなことを言うんだ。
全部、アナタとアタシのためなのに。
オイラだって、いつもしたいよ。
ホントは、毎朝チュウして欲しいよ・・・。
いつでもどこでもアナタの唇を欲していのを、ちっとも、判ってないよね。
沈黙が続く。
彼女は、チラリと壁掛けにある時計に視線をやってから、微笑んだ。
自分もつられるように、そこに視線を向ける。
12時40分か。
恋人でいられる時間は、あと、20分だけ。
たった、20分の貴重な時間。
彼女は、きつく抱きしめる腕を解くとオイラの顔をじっ〜と見つめて
くるんだ。
ブルーグレーのコンタクトレンズは、ビー球みたいで、いつ見ても
すごくキレイだ。
ユラユラと揺れる様は、ちいさな海を見ているようで。
この瞳の奥で、彼女に溺れかけている自分の姿がみえた。
こんな綺麗なヒトが、オイラのコイビトなんだよね。
いつだって、そうやって再確認したくなる。
- 572 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:26
-
彼女は、ただ、じっと見つめてくるだけ。
だんだん熱い眼差しに耐えられなくなって、オイラから顔を逸らすと。
甘い吐息が前髪を持ち上げた。
「なんか今日へん。・・・どうしたの?」
ねぇ、なんか、言ってよ。
なんで、黙ったまんまなの?
「ねぇ、ゆう・・・・。」
「――――なぁ、キス、してぇ〜?」
「えっ―――――――。」
初めて聞くその声音に。
顔が、ボッと火が付くのが判った。
「なぁ、してぇや。ヤグチぃ?」
やわらかい大阪弁は、耳に心地よい風を送る。
彼女から、こんなふうに言ってくるのなんて。
てか、人におねだりされたこともないよ。ドクドクと心臓がおかしな
くらい騒いでいた。
ちょっとちょっと、ゆうちゃん、どうしたのさ、急に?
- 573 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:28
-
それでも、その声に抗えなくて戸惑いを感じながらも唇をそっと引き
寄せた。
一応、目玉だけキョロキョロさせて、誰もいないことを確認してから。
ちゅっ。
結んだ唇を軽く合わせる。でも、すぐに離した。磁石のように引き寄せ
られ、また繰り返す。
やわらかい感触。甘い匂い。キスしてるとき、相手はオンナノコなんだな
って確認するの。
彼女の唇を知ったら、もう他のヒトとキスなんて出来ないよ。
すぐに、形のいい唇が薄く開いてきた。
彼女の意図を察して、ドキドキしながら、おそるおそる舌を伸ばすと、
その隙間に差し込んだ。
色気のないミートボールの味がする。苦味のあるコーヒーの香りも。
んじゃ、オイラはタマゴサンドの味がするのかな?
どっちにしても色気ねーや。
含み笑いを浮かべながら、夢中で舌を操った。
キスしながら思うのは、自分がされるのとするのでは、大違いだと
いうことだ。
相手が女の人じゃなかったら、こんな気持にならなかったかもしれないね。
熱いゆうちゃんの口の中を夢中で弄る。
闇雲に舌を転がしながら、甘い唾液を何度も摂取する。
じわりと、瞳が潤んでくるのが判った。
- 574 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:30
- 気持ちいい。
もっと欲しい。
ねぇ、ずっと、ずっと、こうしたかったんだよ、ヤグチ。
だって、キスを交わしたのは、何日ぶり?
「・・・んっ、・・あぁ・・・・・んあっ!!」
自分がしているはずだったのに、気が付いたらいつのまにか、彼女の
舌を迎え入れていた。
舌を絡め取られて、だんだん激しくなるキス。
深く、深く。
喉の奥の奥まで舐め上げられるように。
あまりの濃厚すぎるキスに、オイラはガクガクと体を震わせていた。
「ん、や、ら!・・・・・・っんん!!」
ゆうちゃんは、ホントにキスが巧い。
もう、誰に教わったんだよ!って言いたくなるほどに。
オイラのそんな複雑な心理を巧みに操る。
もっとされたいって思うと、舌が遠のき、忘れた頃に激しく与えられる。
いつもそうやって、弄ばれるんだ。
キスだけで、すでに腰砕け状態だよ。ちゃんと歩いて帰れるかな。
ぼんやりとそんなことを考えていたとき。
「んんんっ!!!!」
- 575 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:31
- きつく吸われながらすっかりカラダを預けていると、ふと、お尻の
辺りに奇妙な感触を覚えた。
彼女の手が、スカートの上を意味ありげに弄っていた。
キスはする。それが深くなることもある。
ハグもする。するけど・・・。
学校でするのは、そこまでだ。
これ以上のことをしたことはもちろんないよ。
「・・・んんっ、・・だ、・・め・・・ゆうちゃ、・・・・」
首を振って、なんとか唇から逃れると、そのまま彼女のカラダを両手で
離した。
それでも構わず、きつく抱きしめてくるゆうちゃん。
んもっ、今日は、どうしたっていうんだよう!
不安な目をしていたのだろう。
彼女は、ふふっ、と意味ありげに微笑んで、熱くなった頬にチュっと
唇を落とした。
「ええやん。誰も、こーへんよ?」
耳元に低く囁かれたその言葉に、カーっと耳たぶが熱くなった。
- 576 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:33
- 彼女は、いつもの揶揄かいなんかじゃなく、本気でこの先にいこうと
しているんだ。
「いやか?」
「―――――。」
そこを指先で擽るようにイタズラしながら、甘い声を吹きかけられた。
ゾクゾクと身震いしながらも、オイラは、身を捩って彼女の顔色を
じっと窺った。
彼女が、なにを考えているのか不安で。
だって、ここは学校だよ? 鍵は閉めていないのに、もし誰かが入って
来たら・・・。
その一瞬の隙に、舌が差し込んできてきつく絡め取られた。
後頭部をガッチリ掴まれて。
有無を言わさぬように激しく舌を吸われた。あっという間に理性が
遠のいていく。
そう、彼女は、知っているんだ。
こうしたら、オイラが、もう逆らえないということを。
強引にされてしまったほうが、堕ちるのが早いのだということを。
だって、その証拠に、カラダはすっかり彼女に向かって開いている。
もう、ずるいよ、ゆうちゃん。
- 577 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:34
- やさしく舌を絡ませながら、指先がお尻に触れてくる。
最初は、ほっぺのあたりを弄っていたのに、徐々に意味ありげに動い
てきて、割れたところを何度も何度も往復してきた。
思わず彼女の舌を噛んじゃいそうになって、オイラの眉はますます
歪むんだ。
ピタリと密着する胸から、彼女の心臓が、ものすごい勢いで動いている
のに気づいた。
それは、オイラも同じだ。
なんだか、いっしょに追い駆けっこしているみたいだね。
ああ、どうしよう。
体が、熱くて熱くて堪らない。
早くなんとかしてほしい。
ようやく長い口づけを解かれると、抱っこされたまま、机に押し付け
られた。
潤む視界のなかで、彼女がここに座れと命令する。
オイラは、操り人形にでもなったかのように、すんなりと彼女の言う
ことに従った。
- 578 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:36
-
「・・・・・っあっ、・・・・・」
ゆっくりと長いスカートが捲られていく。
まずは、足首が露になる。
膝が外気に触れて。次に太腿。そして・・・・・。
オイラは、白い扉と彼女の顔を、交互に窺いながら、覚悟を決めて
ギュっと唇を噛み締めた。
「や〜ん。ちょ、アンタ、いつもこんなやらしいパンツ穿いてきて
んの〜?」
下着を露にすると、揶揄うように彼女は笑った。
そのまま脚を開かされると、ちょうどそこが、彼女の真正面になる。
頬が燃えるように熱くなって。
「ヒモぱん穿いてくる女子高生ってのも、スゴイなぁ。」
「やあぁ!!」
「あ、なにもー、閉じるなや。いい子やから、開きー!」
彼女に掛かると、オイラは赤ちゃんだ。
- 579 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:38
-
「なっ。・・・ゆうちゃん、も、だめっ、でしょ。ここ、がっこっ!!」
「そうやぁ。てか、ゆうちゃんやないやろ。ちゃんと中澤先生って
呼びなさい。」
急に、教師口調になる。
口の端がピクピク震えるのは、意地悪するときの特有の顔。
怯えるオイラを見ながら、きっと、お腹の中で笑ってるんだ。
悔しいとか。こんなところでダメだとかアタマでは思うのに。
体が全然言うことを利いてくれないの。
もっと触れて欲しくて。もっと気持ちよくなりたくて。
高ぶってしまったカラダは、もう、自分では制御できない。
ふと、向かいに座る彼女の顔を見下ろした。
熱く蕩けそうなビー玉は、するどい光を放っている。
脚の間を窺っていたそれが、一瞬、オイラのほうへ向く。
蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった・・・・。
「いい子やから、見せてごらん・・・」
- 580 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:40
- 低く甘く囁く声は、まるで呪文のようで。
無言のまま、ギュっと唇を噛み締めた。
足首を掴む指先。絡み合う視線。
彼女にかかったら、いつだってオイラは無気力だ。
言葉だけで、すっかり体は蕩けてしまってる。
瞼をそっと落とすと、ゆっくりと膝の力を抜いていく・・・・。
僅かにあったはずの決壊は、彼女を前に、粉々に崩れていた―――。
- 581 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:41
-
◇ ◇ ◇ ◇
もしも、誰かが、この扉を開けたらどうなるの?
もしも、誰かが、このオイラの恥ずかしい声を聞きとめたらどうしよう。
そう思うと余計に神経が高ぶって、おかしなくらいカラダが震えていた。
窓から入る海風が、純白のカーテンをやさしく揺らしていた。
中庭から生徒達の笑い声が聞こえてくる。
向こうが聞こえてくるということは、こっちの声も届いちゃうってこと?
大きい声を出したら、ホントに聞かれちゃうかもしれない・・・。
そう思うと、いっそう唇に力を込めて零れる息を塞ぎこんだ。
ゆうちゃんは、机に座るオイラの脚の間をじっと観察している。
その姿は、数学教師というよりも、婦人科のセンセイのようで。
観察というより、診察という言葉が適切なのかもしれない。
「ずいぶんとやけてるなぁ。」
- 582 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:43
- そう言いながら、太ももをやさしく擦る。
それは、プールがあったから。
そう喉元まで出掛かった声も、声にはならなくて。
「ふーん。でも、ここはどうやろね? 見せてごらん―――。」
そんなふうに言いくるめて、彼女は、愉しそうにしゅるりとヒモを
解いた。
キテイちゃんのお弁当箱の横にただの布切れになってしまった哀れな
下着に目に留まる。
オイラは、下半分だけ裸にされた恥ずかしい格好で、彼女の目の前に
大きく脚を広げさせられているんだ。
「あーー、やあぁ、そんな近くで、みちゃ、やだあぁ・・。」
「ふふっ。ヤぁーちゃうやろ? もう、こんなにぐしゅぐしゅさせて
るくせにぃ。」
すでに、中には彼女の人差し指が収まっていた。
ゆうちゃんは、オイラのポイントを探検するように指の先でいろんな
ところを触れてくる。
その度に、零れ出る嬌声を必死に堪えて、首をブンブンと振り回した。
「コラ、ヤグチ、ちゃんと呼吸しんと。死んでまうで!」
- 583 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:45
-
クスリと笑みながら、口元に押さえられていた手をどけられた。
そうは言われても、こうでもしてないと声を抑えられる自信がない。
でも確かに、呼吸していなかったことにも気づいて慌てて深呼吸した。
また、彼女が笑っている。
キスもしてくれない。
胸にも触ってくれない。いつもの手順はすべてはぶかれて。
今日の彼女の興味はただ、ひとつ。
そこいっぱいに注がれていた・・・。
自分のしている格好に、目が眩む。
さっきまでは、こんなはずじゃなかったって思うのに、つーか、なんで、
こんな格好さえられてんだよ。オイラ。
もし、ここで誰かが扉をガラリと開けたらどうなるんだろう。
なんの言い訳も出来ない状況。
ゆうちゃんは、犯罪者になって、学校を追われちゃう?
圭ちゃんたちは、「バカねぇ〜」って一蹴するだけかな。
お願い、誰も来ないで。
もう、神様にでもお願いするしかないよ。
- 584 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:48
- 戸惑いは、彼女の指先をこれ見よがしに見せらると、すぐに萎えていった。
ちゅるんと音をあげて引き抜かれた人差し指。
わざと目の前に見せつけるように、指と指を離すと。
いやらしく光る透明な糸が、納豆のように粘ついていた。
「うわっ。すごいなぁー、こんなんやで、ヤグチ?」
「いやっ!!」
そう叫んで、脚を閉じようとしたけど、彼女は許してはくれない。
オイラが意固地になればなるほど、彼女を喜ばせるのは、もう知っている。
その証拠に、足首をひっぱられた。
強い視線で、もっと、前に来いと命令する。
両脚を机の上に乗せられて、お尻を前に突き出され。
させられた格好に、オイラは、脳みそまで沸騰してしまうくらい熱く
なっていた。
「ほら綺麗やね。もう、ぽっかりお口開いちゃってるで?」
「・・っ、やめぇ・・・・・。」
「今度は、お尻の穴も見える。ほら、ヤグチのシワシワしたピンクい
の見えるで?」
「・・・っも、見ないでぇ・・やめて、よぉ・・・・・。」
- 585 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:50
- グイッとお尻のお肉を引っ張るようにする。
彼女は、お尻のシワの数までを数えるかのような熱い眼差しで、
オイラのアソコをひたすら視姦し続けた。
その視線と言葉責めに、堪えきれずに上からも下からも雫が滴り落ち
はじめた。
「ヤグチは、えっちやなぁ。こんなところで、こんなんしてもーて・・・」
「・・いやあぁ・・・・」
「ほらー、そんな大きい声あげたら、誰が来てまうで。・・・・・」
「・・んんっ。・・・・・」
慌てて、左手の甲を噛み締めながら、必死に堪える。
呼吸がうまく繋げなくて。苦しくて。
「ヤグチ、やらしー。いつから、こんなえっちな子になっちゃったの――?」
含み笑いの声にブンブンと首を振った。
そんなの、いつからって。アナタが、そうさせたくせに。
それは、ゆうちゃんが一番知っているくせに。
そう反論したいけど声にはならない。手を離したら別の声が洩れちゃ
いそうだったから。
- 586 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:52
-
一方的に見られているという行為は、苦しいけれど、別の快感をもた
らしていた。
ゆうちゃんのそこだけに向けられた食い入るような熱い眼差しは、
オイラの内側をもドロドロに蕩かせる。
泣きじゃくりながらなにげに視線を下ろすと、彼女のつむじに目が
止まった。
初めてみたその渦巻き。
根元が少し黒くなりかけた金色のフワフワの髪。
ナルトのようなそれが、なんだか無性に可愛く思えて、知らずに唇を
寄せていた。
「ん?」
子供みたいなきょとんとした顔してオイラを見上げる。
ふと、思う。この人はいったい何者なのだろうと。
子供みたいな無邪気な顔して、こんなヒドイことを平気でする。
教壇に立つと凛々しいセンセイなのに、アタシの前では、イタズラ
ばかりしかける。
オイラがほとほと困って、最後には泣き出すと、彼女は悪びれもせずに
満面の笑みを浮かべながらお母さんのように抱きしめてくるんだ。
息が掛かるほどの距離で、脚の間を覗き込んでいるコイビトの顔を
じっと見つめていた。
- 587 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:54
-
だけど、そんな彼女が、やっぱり好きで好きでたまらない自分。
意地悪されても、どんなに泣かされても、アタシは彼女をキライには
なれない。
彼女のセックスに、すっかり溺れかけていた。
好きな人に見られてるってだけで、触れられなくても、イッちゃい
そうだった。
もう、こんな感覚、初めて。
脚の間から涎を垂らしたように洩れていく液体。
もう、限界だった。
視界が真っ白に染まって、突然、ハレーションを起こした。
「―――してぇ? 欲しい。あぁ、もーー、やあぁ、早くぅ――・・・。」
舌が縺れて、巧くしゃべれない。
だから、せかすように彼女の肩を揺さぶった。
見上げてくる瞳。怖いくらいやさしい微笑で。口元を綻ばせるの。
「ん〜、どうして欲しいの――?」
- 588 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:56
-
意地悪は続いているらしい。
もう、我慢できないくらいなのに。
アタシは、たがが外れて、周囲に聞こえちゃうほどの大きな声で叫んで
いた。
「・・いれ、て。して、もっと。さっきみたいに、触っ――あああぁぁ・・・。」
入っていた。
彼女の細くて長い指が、ズブズブと潜り込む。オイラの中をぐるっと
かき回す。
開いてる片手でグッと入っているところを大きく広げて露見しながら。
視線で犯されて、長い指先で奥の奥まで探られる。
オイラは、いやらしい匂いをそこいらじゅうに充満させて。
絶え間なく卑猥な水音を奏でていた。
「ほら、もったいない。こんなにたくさん零して・・・・。」
「へ? な、なにぃ? いやぁ、いやあぁ・・いやあっ・・・。」
四肢をバタつかせても、無駄に終わった。
しっかりと体を入れられて、どう足掻いても許してはもらえない。
指をしっかりと咥え込みながら、彼女は、なんの躊躇いもなくそこに
唇づけた。
- 589 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 13:58
- 今日は体育があったからいっぱい汗を掻いた。何度もトイレに行った。
汚いのに。こんなのはヤダ! そう泣いて叫んでも、彼女は唇を離し
てはくれない。
オイラの太ももに爪を立てながら、おいしそうにゴクゴクと蜜を口に
含んだ。
ねぇ、なんで、こんなことまでするの?
こんなことされたら、おかしくなっちゃうよぉ。
「あはっ、・・・う・・・・っ、う・・・んっ、・・・・」
もうどうしようもなく膨らみきった突起を舌先で転がされて、おしっこ
の出る穴を何度も何度もなぞられた。
指が、抽送を繰り返す。
その度に、ぐちゅっぐちゅっと卑猥な音が耳をつんざした。
縋るものが欲しくて、彼女の頭を抱え込む。
舌が粘膜を抉る。指が奥に潜むポイントを探る。
声にならない悲鳴が、喉の奥を堰きたてた。
もう、だめ。死んじゃうよぉ。
薄れいく意識のなかで見た、アタシのアソコを蹂躙する彼女の姿は、
ひどく卑猥な眺めだった。
- 590 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 14:00
- そんなときにもかかわらず、オイラは、つむじに目を奪われる。
可愛い。
なんて可愛いんだろう。
泣き濡れた笑みを浮かべながら、アタシは何度もそこに口付ける。
彼女の歯が、屹立した突起をガリッと齧った。
その瞬間・・・。
「んんっ、ああ・・・っ。・・・うぁあああああああ・・・・・・。」
オイラは、あっという間に彼女の口の中で尽き果ててしまってた。
叫び声を押せる余裕なんてなかった。
- 591 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 14:03
- ◇ ◇ ◇ ◇
時計をみた。
コイビトでいられる時間は、残り3分弱。
オイラタチは、きつく抱きしめあって、甘い時間を過ごしていた。
行為が終わったあと、放心したままのオイラに彼女は、テッシュを
3枚抜き取って、濡れぼそったそこの始末をしてくれた。
さっきまでそこにいたはずの狂喜に満ちた彼女の姿はどこにもない。
オイラの大好きないつものやさしいゆうちゃんがそこに座っていた。
彼女は、いつもそうやってオイラの面倒を見てくれる。
恥ずかしいけど、そう甘やかしてくれる彼女のやさしさを、オイラは、
愛していた。
嬉々としながら、小さい子にするみたいに下着も穿かせてくれた。
顔の汗と涙を拭って、よし!と微笑みながら時計を見た彼女は、
これからどうしたいと聞いてきた。
オイラは、恥じらいも忘れて3歳児にでもなったような甘えた声で
「抱っこして」と両手を伸ばした。
耳の後ろから仄かに香るのは、クリニークハッピー。
ほんとに、しあわせな気持ちになるよ。
- 592 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 14:04
-
「なぁ、明後日は、どうしたい? また、横浜行くか・・・。」
おでこに、ぷく〜っと息を吹き込みながら、彼女が言った。
今日は金曜日。
彼女の仕事は、意外にいろいろあって結構忙しいのだ。
だから、デート出来るのは、日曜日の朝の9時から夜の9時までと
暗黙のうちに決まっていた。
もう、パートタイムじゃないんだからさ。
つーか、デートに門限付きだなんて、いまどきありえないよ。
コイビトが教師だとこういう目にあうのか・・・。
「ん〜〜」
と、唸ってから、視線を外すと、すでにご飯がカピカピになってしまった
お弁当に目が止まる。
ギュッと頬を押し付けて、彼女の胸の上で捲くし立てるようにオイラは
言った。
- 593 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 14:08
-
「んとね、日曜日はずっとおウチいたい。あのね、ビデオ借りてきて、
あ、スパイダーマンが観たいな。暗くしてソファで観ようよ。それで、
観終わったら一緒にスーパーに買い物行って。帰りに公園で少し散歩
しよ? アイス食べたいなー。あ、夕飯はヤグチが作るからね。
それと、駅前でケーキも買おうよ。こないだ食べたやつおいしかたよね?」
「ふっ。なんやえらい具体的な日程やなぁ・・・でも、ほんまに、
そんなんでええの〜?」
ホントは観たい映画があった。オイラは、映画は映画館で観たい派だし。
実は、スパイダーマンは2回も見た。
でも、ゆうちゃんは、恋愛映画みたら絶対飽きちゃう人だから。
つーか、オイラもそれは苦手だし。
自分の好きなものを彼女にも好きになってもらいたい。
きっと、気に入ってくれると思うんだ。
おいしいイタめしとか食べてみたかったけど。焼肉っつーのもそそ
られるけど。
ここは、ひとつ、ヤグチの手料理でメロメロにさせてやるんだ。
一年なんかに負けらんねーよ!
そんで、いっぱいキスして、いっぱいえっちしよ?
疲れたらお昼寝して。ずっと、イチャイチャしてようよ。
これって実は、最高の贅沢だよね?
彼女の貸切。一日中、矢口の独り占めだもん。
- 594 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 14:11
- 「いいのー♪」
そう言って胸にグリグリしてから顔をあげると、彼女はやさしい笑み
を浮かべてた。
微笑みあいながら、どちらからともなく唇を寄せる。
触れるだけのキスを交わしてして彼女を見上げると、なんだか照れた
ようにモジモジしていた。
さっきまであんなことしてたのに、なんだよ、もう。
うれしくなって彼女の首にギュってしたとき、けたたましい予鈴の
チャイムが重なった。
「・・はあぁ。」
「・・はあぁ。」
二人同時に嘆息する。
見つめ合って、プーって、噴出した。
しょうがないよね、あと48時間の我慢だよ。
後ろ髪を引かれながらも立ち上がって、スカートのプリーツを直した。
「んじゃ、ヤグチ、先行くね?」
「・・・って、ちょ、待ちぃ。アンタなにしに来たん? ほら、
プリントやろ。ちゃんと持ってって!!」
「は? へ?・・・」
- 595 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 14:13
- だってあれ、口実じゃなかったのー?
ドン!と手渡された白い紙の束。
彼女は、イタズラっぽくウインクする。
あーーもう、やられた。
これだから、ゆうちゃんには適わないっていうんだ。
ベーと舌を出してから、白い扉をガラリと開けた。
眩しいくらいの太陽が、サンサンと照りつけていた。
もう、すっかり夏だなー。
背中に掛けられた声に、脚を止める。
「あ、それとな、日曜日教科書持ってきーよ!」
「な、なんでよう!」
振り返って睨みつけると。彼女は腰に手を当てて。
そこにいるのは恋人ではなく、中澤先生だった。
「はぁん? なんでやないわ。期末が近いやろ。お勉強やお勉強!!」
「ええぇーーー!!!」
どっこの世界にデートに、教科書持参するやつがいるんだよう。
いや、どっかにはいるかもしんないけどさ。
まったく、教師と付き合うのは大変だ。
いや、彼女が特別なのかもしれないけど・・・。
- 596 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/17(木) 14:15
- 行きたいところにも行けなくて、手をつなぐことも出来ない・・。
どこに行っても人目が気になる。
そのくせ校舎の中で、平気でこんなイタズラを仕掛けてくる。
なにを考えているのかさっぱり分かんないよ。
それでも、オイラはこの人が大好きで。ずっと、ずっと一緒にいたいな
って思ってしまう。
「はあぁ。・・・とりあえずは・・・・・。」
このエロスの漂うカラダをなんとかしなくっちゃ。
ま〜た、圭ちゃんたちにからかわれちゃうよ。
重たい腰をトントン叩いて、トイレに向かって歩き出したんだ――。
- 597 名前:kai 投稿日:2004/06/17(木) 14:17
-
お久しぶりの更新です。
やっぱり自分はやぐちゅーが好きだなぁ。
と、再確認しました。
学園物ときたら、やっぱ、こういうエロもありでしょう!<ダメ?w
- 598 名前:kai 投稿日:2004/06/17(木) 14:20
-
レスありがとうございます。
遅くなって、ごめんなさい。
>マコトさん・・ん〜〜、残念ながら、石黒さんではありません。
ちょっと意外な人です。たぶん、どっこでも見たことないCPだと思う。
いつか、ちょびっと登場するかなw
センセイとは恋愛したことはないのですが、中学のとき、ここのなっち
さんのような目に遭ったことがあるくらいで・・。<ま、よくある話。w
お話を作る能力がないので、実体験なんぞも織りいれて作ってまーす。(苦笑)
>ゆちぃさん・・そうですね。
なっちさんは、ぽやんとしてるけど意外と鋭いのかなって印象はあり
ますね。
長らくお待たせしまして。いつも不定期更新で申し訳ないです。(ぺこ
>550さん・・なちごまファンのかたにも読んでいただけたらうれ
しいです。w
二人の馴れ初めもそのうち上げますのでお待ちくださいね〜。ww
>551さん・・今回は、やぐちゅうのエロでしたね。(汗
なちごまのエロは、書いててすっごく新鮮です。でも、なっちさんが
天使サマなので、ちょっと罪悪感が残るんだけどね・・。(苦笑)
はい、もうしばらくお待ちください。(ぺこ
- 599 名前:kai 投稿日:2004/06/17(木) 14:24
- あー、いつもあげていて思うのですが。
この更新の量は、どうなのかなぁって。
分けても出来ないこともないんだけど、いつも大量になってしまって。
読みにくかったりとかしますか?
・・・って、ここで書くことじゃないっか・・・。(苦笑)
もっとうまく更新できないもんかなぁと悩んでいる今日この頃です。
次回こそ、早めにがんばりますので。
- 600 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/17(木) 23:37
- 大量更新上等!
- 601 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/06/18(金) 00:02
- おつかれさまですvvv
大量なのは、かなりLOVEですよ〜♪
いやぁ・・・ほんとにやぐちゅーが好きです。
ヤグチはかわいーし、ゆーちゃんは綺麗だし・・・。
いつでも待ってるんで、マイペースに
これからもがんばってくださいね☆
- 602 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/21(月) 13:03
- 大量更新大歓迎です。
学校でなんてもう‥‥萌え!!
- 603 名前:ヒミツの恋の育てかた 投稿日:2004/06/24(木) 10:53
- ◇ ◇ ◇ ◇
川崎の自宅から東京のはずれの彼女の家までは、電車を3回乗り継いで
やってくる。
地下鉄を降りて海の方向へ歩いて15分。
車の行きかう大通りから、小道を入る。
神社の境内の前を通り過ぎる頃には、すっかり人も疎らになっていた。
今度は、ギラギラする鳩を避けながら。
オイラの口元はどうしようもなく緩んでくるんだ。
アタシは、大好きな人のことを想像しながら歩くこの道のりが、
なにより大好きだった――。
- 604 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 10:56
-
「センセー。分かんないよ〜〜〜!!」
一週間ぶりにくるコイビトの部屋は。
何も変わっていないようでいて、どこか違っているような気もする。
オイラは、真っ白いカーペットの上で胡坐を掻きながら、数字と睨めっ
この真っ最中だ。
鼻と口の間にシャーペンを挟んで、蛸のように唇を尖らせながら振り
返った。
呼ばれた人は、「ふふん♪」と、陽気に鼻唄なんか歌いながらベラ
ンダで洗濯物を干していた。
今日は、快晴。
見事なくらい真っ青な空だ。
家の中でじっとしているなんて、もったいないよー。
ねぇ、勉強なんかしている場合じゃないってばっー。
ガランコロンと洗濯機の回る音。
さっきから忙しい彼女は、洗濯物を干し終えると、今度は、布団を
干しに掛かった。
日曜日の朝。
いつもの彼女の姿を垣間見ているようで、こんなとき、無性にうれしく
なる。
今日は、髪をアップにしていて。
白いうなじがやけに心臓を擽るんだ。
早くそこに口づけてみたいなんてそんなことを想像しながら。
オイラは、「X」と「Y」に取りかかった。
- 605 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 11:00
- スーツ姿もいいけど。
色褪せたブルージーンズに白いTシャツつーの格好よくて。
こんな所帯じみた中澤先生の姿を見れちゃうのも恋人の特権なんだと
思ったら、自然に目尻が下がっちゃうよ。
「おーい、なに、ニタニタしてんねや。 できたんか〜?」
ヒラヒラっと、彼女の左手が目の前を掠めた。
オイラは、ビクンと体を引きながら、そんな彼女の顔をじっと見つめる。
お化粧を落としていても、肌が白くてすごい綺麗なんだもんなー。
「センセー、ここ分かんな〜い!!」
甘えるように言った。
「ん〜? どれどれ。あー、これか。・・・って、これ、こないだ
授業でやったろーが。聞いてなかったんかい!」
いてぇ。
でこピンが飛んでくる。
もう、ちゃんと聞いてたけど、アナタの顔見てたら飛んじゃうんだよう。
そうココロの中で毒ついた声は、もちろん口にはしない。
- 606 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 11:49
- 彼女が、テーブルに両手をあてて、後ろから覗き込んでくる。
今日は、いつものフレグランスの香りはしない。
愛用しているシャンプーと、石鹸と、ウチのとは違う柔軟材の匂い。
日曜日のコイビトの香りだね。
「これはな。・・・・・・」
ツンツンとアタマを突付かれて。やさしい匂いに包まれた。
ドキドキと心臓がビートを刻むけど、そんなの彼女が気づくはずもなくて。
その艶っぽい唇は、色気のない数式を並べるんだ。
「・・・判った? ほら、もっかい最初からやってみー! 出来るから。」
「・・・う、うん。てかさー、どうせならテストに出そうなとこ教えて
よー!」
「はぁん。それは、あきませーん。そんなことしたらズルになるやろ。」
胸の前で、ちいさなバッテンを作って。クスリと笑む。
ちぇーっと唇を尖らせると、彼女は「ほら、やり」と、顎で促した。
しぶしぶと顔を曇らせながら、オイラは、シャーペンを握り直して
ノートと睨めっこする。
こんなはずじゃなかったのになーー・・。
いちゃいちゃのラブラブのピンクモードははどこに消えちゃったんだか。
- 607 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 11:53
- ・・・・最近、思う。
ゆうちゃんは、ねっからのセンセイだね。
人に教えるとき、これほどまで愉しそうな顔をする人をオイラは見た
ことがない。
なんとなくで教職を選んだという話は、ウソだ。
「できたー」と言ってノートを見せると、彼女は、「どれどれ」と、
隣に座って採点し始める。
出来なかった問題には、懇切丁寧に教えてくれ。
正解したところには、たくさんの抱擁と、「よくできました」と、
おっきな花丸を付けてくれた。
オイラは、そうやって上手にのせられながら問題集をかたっぱしから
片付けていったんだ。
センセーは、その間も、掃除機を掛けたり、洗い物をしたりと忙しく
動きまわりながら。
ときどき、ちょっかいをかけてきたりして。
果たして、これは、デートって言えるのだろうか?
だけど、誰にも邪魔されることはないこの空間がなによりうれしい。
色気なんてなくたって、この充足感は一体なんなんだろうって、思う・・・・・。
布団をひっくり返しながら、パタパタと叩く音に。
難しい数式がから目を逸らして、そんな彼女の後姿をじっと見つめて
いた。
- 608 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 11:55
- 背中越しに見える太陽が眩しくて。
ゆうちゃんが、そんなことする人だなんて、初めて逢ったときには、
想像すらしなかったよ。
きっと、彼女に熱を上げている一年生は、こんな中澤先生なんて知ら
ないのだろう。
ぐるりと部屋を見渡すと。
初めてここに来た日よりも、ずいぶん、生活感が滲み出ていた。
この部屋には、すっかり彼女の匂いが染み付いている・・・。
そして、オイラの匂いも感じられた。
あーでもないと一緒に選んだカーテンに、テーブルクロス。
ランチョンマットを買うか買わないかでちいさな喧嘩をしたことも
ついでに思い出して。
ゆうちゃんの部屋の中に、確かに、自分のスペースがあった。
オイラは、それが、ものすごくうれしいんだ。
これは、彼女には、まだ言ってないけど。
オイラが高校を卒業したとき。
センセイと生徒という枠組みが外れたとき。
この部屋で、一緒に生活が出来たらなと思う。
- 609 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 11:56
-
ゆうちゃんが掃除してる間、オイラがキッチンに立って遅めのブランチ
を作るの。
ソファでゆったりしながら、「笑っていいとも・増刊号」なんて眺め
ちゃったりしてさ。
そういうの休日を想像してるだけで、しあわせな気持ちになれるんだ。
ベランダから入ってきてきた潮風が、教科書をパラパラと捲った。
派手な下着が、風でクルクルと回っている。
太陽を浴びて、ふかふかに膨らんだお布団をみて。
オイラは、やらしい想像を巡らせるんだ。
お日様をいっぱい浴びて、早くふたりを包んでおくれ・・・・・。
◇ ◇ ◇ ◇
- 610 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 11:59
- お昼は、近くのパン屋さんで、サンドイッチを買って、公園で食べた。
彼女のおウチから歩いて20分のところに広くてちょっと有名な公園が
あるんだ。
散歩がてらそこに行くことになった。
海岸にある大きな公園は、家族ずれが多いだけで、カップルはそんな
にいない。
だから、思う存分伸び伸び出来る絶好の穴場スポットだ。
その公園の近くには、東京で二つ目に出来たという水族館があるの
だけど。
オイラたちはそんなものには目もくれず、噴水の前の広場で脚を伸ば
しながら優雅に日向ぼっこをしていた。
中学のときのデートと言ったら、
映画行ったり、遊園地行ったり。カラオケに行ったりと。
毎週のようにどこかに出かけなければけないものなのだとばかり、
思っていたけど。
ゆうちゃんと付き合うようになって、それは、間違いだったと気づか
された。
ゆうちゃんの周りに流れる穏やかな空気が気持ちいい。
お金を掛けなくたって、どこにいたって、そこに好きな人さえ居てく
れたら、それだけで、しあわせなんだ・・・・。
そんなことを教えてくれた人・・・・。
昨日見たドラマの話や。学校の友達の話なんてしながら。
くだらない内容でも、彼女がそこにいるだけで、相槌を打ってくれる
だけで愉しい。
- 611 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:01
-
帰りには、約束どおりスーパーに寄った。
カートに黄色い籠を載せて、彼女が、オイラの後ろを着いてくるの。
く〜〜、ヤバイよ。
めちゃくちゃ、うれしいんですけど。なんかこれ。
「ところで、なに、作ってくれるん?」
「ん〜〜〜と、カレー。」
じゃがいもと玉ねぎを両手に抱えてるとき、プーって噴出された。
「な、なんだよう!!」
「・・っ、いや。うん。ええよ。彼氏に初めての手料理やもんね。カレーがええ。」
口の先をピクピクさせながらアタマを撫でられるのに、唇がむ〜と
尖がった。
ねぇ、なんか、バカにしてる?
「むっ。彼氏じゃないじゃんー! なんだよう、カレー、キライなの
かよう!!」
「もーー、ごめんて、怒るなや。カレーは好きやよ。でも、辛口に
してな・・・。」
グリグリと頬を撫でられると、オイラは、すっかり懐柔するんだ。
今度は人参を手にとって茨城産と千葉産のどちらにしようか悩み始めた。
- 612 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:03
- これでも、オイラだって、なににしようかとさんざん迷ったんだぞー。
それこそ初めて食べてもらう料理だし?
得意料理の“肉じゃが”にしてもよかったのだけど、なんか、それって
やらしいじゃんか。
いかにも、自分は料理上手な奥さんですって態度がみえみえになる
ような気がして・・・。
だから、平凡だけど、誰からも親しまれるカレーにしたのに。
それに、ゆうちゃんの好き嫌いが判らなかったから・・・・。
「ねぇ、ゆうちゃん、ゆうちゃんのキライ食べ物ってな〜に?」
云ってから、こんな基本的なことを話していなかったのかと、今更
ながら思った。
「ん〜〜? トマトかな。あ、あと、バナナはキライ。あれは、見るの
もいやや!!」
そう言って、ホントに厭そうに顔を顰める。
そういえばさっき、果物の前を通るとき見向きもせずに素通りして
いたことを思い出した。
「へ〜〜。なんか、バナナキライなんて言う人初めて聞いたよー。
どうして?」
「あんなもん人間の食う食べ物やないわ。アタシはゴリラちゃう!
あの匂いもいややし、見た目もキライ!! あ〜、思い出しただけで
鳥肌立ってくるわ!!」
ゆうちゃんは、わりと性格がはっきりしているところがあるから。
好き嫌いが激しいのもなんとなく頷けた。
だけど、そこまでかい!と、思わなくもないよ・・・。
- 613 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:05
- まぁ、バナナを使う料理なんてあんまないから、問題はないんだけど。
「あーでも、ウチらの中学の給食のときも、バナナ、女子はみんな
残してたなぁ・・・。」
「ふへ。 なんで〜?」
オイラは、わりと好きなほうだったのに食べられなかったんだ・・・。
「だって、男子がジロジロ見て来るんだもんー。あームカツク!!」
「はぁん〜?」
判らないって顔で、首を傾けるから。
オイラは、左手の人差し指を右手で握って、その右手の人差し指を
ピンと伸ばした。
そのまま、ソロソロとお臍の下に下ろすと・・・・。
「ア、アホう! なにしてんねんな、こんなところで!!」
バチンと後頭部を叩かれた。
そんなに痛かったわけではなかったけど、そこを擦っていると。
あーあと、彼女は頷くんだ。
「だって、誰かが似てるって言いはじめてさ、食べてるとこニヤニヤ
して見てくるんだよー。あー、サイアク。思い出しただけでもムカツク
よ。もう、そのおかげで、女子はみんな食べられなかったんだから!!」
「アホな学校やなぁ・・・。で、その余ったバナナは、どうしたん?」
「さぁ。男子が食べてたと思う・・・・。」
心底呆れたように彼女は、溜息をついた。
- 614 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:06
- 「ふ〜〜ん、どうしようもないヤツらやな。でもヤグチも、アタシと
逢うときは、絶対にバナナなんか食べたらあかんで〜!」
「ええーー。なんでよう!」
その理不尽な声に、「わうっ」と吼えた。
男子のことなんて、悪く言えないじゃんー!
「なんでやないわ。匂いがキライやちゅーとるやろ。・・・・もし、
食べてきたら、チュウもせえへんでぇ・・・。」
「チュウ」のところだけわざと低く耳元に囁かれた言葉に、耳たぶが、
カーと熱くなる。
もう、こんなところでなに言ってるんだよう・・・。
「ところで、ヤグチは・・・・・?」
そう、尋ねてきた声に。
「牛乳!!」
と、間一髪答えた。
すると彼女は、目をパチンと瞬いてから、上から下まで嘗め回す
ような目で見つめてくるんだ。
- 615 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:10
- オイラは、ムキになって。
「か、関係ねーよ! 牛乳飲めないからちっちゃいわけじゃねーからな!」
「・・・って、アタシ、なんも言うてへんやろ!」
「目が言ってるんだよう! オイラは、その目には敏感なんだよう!!」
絹ごし豆腐をビニールに詰めながら苦笑いしている人に、目尻を吊り
上げていう。
昔から、キライな食べ物を口にすると、必ずそういう目で見られてきた。
別に、牛乳のせいじゃないと思う。多少はあるのかもしんないけど。
そうは、思いたくはない。
だって、牛乳キライって人でも大きい人は大きいし。
よく飲んでても、ちっちゃい人はいる。
だから、おばあちゃんも、お母さんもわりとちっちゃかったから、
これは、遺伝なんだって思うことにしてるのに・・・・。
「もう、判ったから、そんなキャンキャン吼えるねや。たくー、
この子は、最近、口悪くなってきてからに・・・・。」
苦笑いしながら、喉仏をゴロゴロされた。
こういう抱擁は、なんだかうれしくなる。
人目もはばからずときどき仕掛けてくるそれに、オイラはすっかり
子猫にでもなったように立てた逆毛を戻すんだ・・・。
「それに、アタシは、ちっちゃいほうが好きやでぇ・・・・・。」
あげく、そんなことを耳元で囁かれて。
すっかり大人しい飼い猫になってしまってた。
ゆうちゃんは、ヤグチ扱いが巧い。
悔しいけれど、それも、最近よく感じること。
だけど、そんな彼女が、実は大人気ない困った人だってことも、オイラは
ちゃんと知っているんだぞ・・・・。
- 616 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:13
- ◇ ◇ ◇ ◇
―――それは、昨日のことだった。
「・・・・あ!」
「・・・ヤグチ。」
放課後・・・と、言っても土曜日だったからお昼過ぎのことだったのだけど。
帰ろうと思っていたオイラは、下駄箱付近で珍しいヒトとバッタリ
遭っていた。
久しぶりに見るその人は、また染めたのか、一段とまっキンキンな
アタマをさせていた。
お臍が出そうなほど短い上に、長いスカートをこれ見よがしに引きずって。
気だるそうに歩いてきたんだ。
ヤグチを見つけると、寄ってた眉間を伸ばしてフワリと笑う。
「久しぶりじゃん! 今日は、来てたんだ・・。」
「まー、たまには来ないとな。あ、ヤグチ、もう帰るん? なぁ、
ちょっと、話しない?」
「・・・・・ うん。いいけどぉ・・・あ、ごめんね、先、帰ってて!」
なっちたちに目配せをしてから、そのまま持ってた皮靴を元の場所に
収めた。
一瞬、圭ちゃんが変な顔をしたけど、バイバイと手を振って、気にせず
彼女の背中について行く。
オイラにはオイラの世界があるんだ。
圭ちゃんたちのことは好きだけど、だからと言って、斉藤さんたち
のことを悪く言ってほしくはない。
いや、圭ちゃんは、噂だけで人を悪く言う人ではないけど・・・・。
タバコの匂いがする。
僅かに、お酒の匂いも混じって。
それを、隠そうときつく香水をふりかけるから。
彼女は、ゆうちゃんとはまた違う、大人のオンナの匂いがした・・・。
- 617 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:15
-
すぐに目的の場所まで着くと、彼女はいつもの威厳なんかこれっぽっち
も見せずに。
切なそうな眼差しでオイラを見つめてくる。
「なぁ、ヤグチ?」
「・・ん〜?」
この人は、実は、暴走族なんかをやっていて。
しかも、かなり強面のリーダーだったりするのだけど・・・。
「アンタ、最近、集会こないよなー。てか、単車乗せてって言わなく
なったよな。なんか、避けてる?・・なぁ、それって、アタシのせいか?」
「・・・・・・・・・・。」
ホントは、こんなふうにタメ口なんてつけていい人じゃないんだ。
メンチを切ったら、オトコでさえ、震え上がるような彼女なのに。
でも、アタシの前ではこの調子なの。
もちろん、それには理由があった。
- 618 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:17
- 彼女は、アタシに恋をしていて。
そしてアタシは、そんな彼女の切ない胸のうちを知っている。
だけど、ずっこけそうなほど意外な告白を聞かされたその日に、
アタシは、愛するヒトと思いを遂げてしまってた。
彼女には、まだ、そのことを打ち明けてはいなかった・・・。
「なぁ、アタシが、ああ言ったからなのか・・・・・?」
弱々しい少女の瞳で。
彼女は、静かに詰め寄った。
オイラの心臓は、ドキドキと響かせはじめる。
「・・や。チガウ。いや、チガクもないんだけど・・・その・・・・・。」
あれから、電話するのを気まずくなっていたのはホントウだった。
いや、それもあるけど。
ゆうちゃんのことで頭がいっぱいで、他のことに回らなくなってしま
ってたというのが本音。
斉藤さんを避けていたつもりはないけど、結果的にそう想われても
しかたない状態だ。
オイラの反応に焦れたのか、彼女は、ポッケからタバコを取り出して、
バタバタと制服を叩きながらライターを探した。
見つけた百円ライターで、ボッと火を点けると、おいしそうに、ぷかーと
煙を吐き出す。
久しぶりに懐かしい匂いを嗅ぎながら。
彼女の口元で、オレンヂ色にジリジリと燃える紫煙を見つめて、
オイラは、困ったように眉毛を寄せるんだ。
- 619 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:19
-
どうしよう。
こういうとき、なんて、言えばいいんだろう。
「好きな人できた」と言ったら、それは、「誰か」と尋ねられるだろう。
彼女の名前を出すわけにはいかない。
だからと言って、斉藤さんだけには、ウソは付きたくなかった・・・。
「ゴメンな、ヤグチ?」
「・・・えっ。」
一本目を地面に押し付けながら、吐き捨てるように云った。
「アンタの気持ちも考えないであんなこと言ってさ。アンタココロの中には、
ずっと想ってる人がいるんだもんな。最初から、アタシの勝ち目なんて
なかったんだ・・・。」
「さ、斉藤さん・・・・・。」
彼女は、こんな弱気な人でいいはずがないんだ・・・・。
だからオイラは、ますます切なくなっていく。
「アンタを困らせたかったわけじゃなかった。アタシは、アンタの
ことが好きだから、ホントに・・・・・」
「うん。・・・・」
ありがとう。とココロの中で思ったけど、それは、口にはしない。
- 620 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:22
- 「はあぁ。自分でもしつこいなーって思うけど。でも、想うのはタダ
だろ・・・?」
「う、うん。・・・・」
ふわふわの髪をかきあげて。
クスッとはにかみながら言われた言葉に、オイラの胸はジンと熱くなる・・・。
おもむろに2本目を取り出した彼女。
その紫煙はなかなか昇ってはこなかった。
オイラは、こんなふうに人に想われたことがないから。
いつも、想うばっかりで、フラれてばっかりで。
だから、こんなとき気の利いたことも言えない自分が、すごくもどか
しい・・・。
ゆうちゃんだったら、きっと上手に振ってあげられるだろうと思って、
また気持ちが沈んでいった。
もしも、あのままゆうちゃんに出遭うことがなかったら、いつか、
この人と想いをとげることがあったのだろうか・・・。
一瞬だけ、そう考えたけれど、それ以上は考えないようにした。
そんなことを考えてもしょうがないもん。
だって、彼女と出遭ってしまった。
いま、オイラはしあわせなんだ。もう、彼女のいない生活は考えられない。
斉藤さんには、申し訳ないけど・・・・。
「ねぇ、また今度、バイクに乗せてくれる・・・・?」
そのときは、それだけを言うのが、精一杯だった。
彼女は、オイラの気持ちもくんでくれて、複雑そうにしながらも
「あぁ」と首を傾けた。
オイラは、静かに目を閉じて、ココロの中でもう一度、手を合わせた。
「ごめんなさい」、と。
- 621 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:25
-
そのあと、彼女の仲間が雪崩れ込んできて、その話はそこで打ち切り
となった。
ここは、あまり人気のない校舎の空き教室。
センセイたちも用事がない限りは、めったに立ち寄るような場所では
なかったから。
すっかり喫煙ルームになっている。
やってきたのは、ひとつ上の村田さん。
隣のクラスの大谷ちゃん。もう1人は初めてみる顔だったけど、最近、
チームに入ったのだと紹介された一年生の柴田あゆみちゃんだった。
すごく可愛い子で、斉藤さんにべったりしながら、タバコの火を点け
たりコーヒーを買ってきたりと、甲斐甲斐しくお世話をしていた。
モクモクと3人分の紫煙が広がって、たちまち、ちいさな教室は、
薄い霧が立ち込めた。
オイラは吸わないけど、彼女達の、荒削りな会話を聞いているのは
すごく愉しかったから。
どこどこのチームと喧嘩して、バイクを火だるまにしてやったとか。
検問ブッチしてやったんだとか。
鉄パイプ振り回してやったら、おまわりもアワアワして見ものだったぜ
とか。
彼女達は、よくしゃべり、そしてよく笑った。
なっちたちとは、味わえない独特の世界。
胸が、少しわくわくするような。
そんな斉藤さんの武勇伝を聞かされていたとき、その扉がガラリと
開いたんだ・・・・・・。
- 622 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:27
-
「・・・・・・あ!」
声をあげたのは、ヤグチだ。
顎が外れてしまったかのように、そのまま固まった。
だって、そこにいたのは、紛れもなく想い人。
そう、中澤先生だったから・・・・。
「コラー! なにしてんねんなー!!」
手を仰ぐようにしながら、ズカズカと入ってくる。
目の前の大谷ちゃんが、びびってカラダを引いた。
つーか、オイラが一番、びびってるってばっ!!
後ろ手に隠したタバコ。だけど、この煙を見れば言い逃れなんて出来
ないだろう。
案の定、ゆうちゃんは、彼女達の前にその綺麗な右手を差し出した。
「ほれ、出し!」
オイラのよく知っているその手。
柴ちゃん以外の三人は、しぶしぶしながらも彼女の手の上に三段重ね
に置いていく。
- 623 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:29
- 「はあぁ。アンタらな、仮にもオンナノコなんやから、ハイライトは
ないやろがー。おっさんやんか。もうちょっとカワイらしいメンソール
とか吸わんかい!」
そう言って、そこから、おもむろに一本取り出した。
「・・火ぃ!!」
「は、はい。」
咥えながら言われた言葉に、慌ててライターを点けた大谷ちゃん。
オイラたちは、斉藤さんも含め、そんなヤクザもビックリのような
ゆうちゃんの佇まいにすっかり釘付けになっていた。
短いスカートでヤンキー座りするから、パンツが見えやしないかと
気が気じゃないよ。
中指と人差し指に挟みながら、ぷかーと煙を放つひと。
その姿に、妙に貫禄を感じながらも、彼女の口から吐き出された煙の
行く末を見つめてた。
「くあー、久しぶりやから、目にくるなー!」
そう言って、半分だけ吸い終えたそれを、コーラの空き缶にポトリと
落とした。
ジュって、焼ける音。
そのまま彼女は、手加減なしにゴンゴンゴン。と、揃ったアタマを
殴っていく。
拳の利いた痛そうな音。
うめき声。
アタシの前まできたその手は、パーに変わった。
「アンタは? アンタも一緒に吸ってたん?」
「・・・いや、コイツは吸ってねーよ。ヤグチと柴田は吸ってないです。」
驚きすぎて、声にならなかったオイラを救ってくれたのは、斉藤さん
だった。
それでも、注意しなかったのは同罪やと、柴ちゃんと一緒に、パチンと
軽く叩かれた。
最近、教師の体罰とか問題になってるようだけど、ゆうちゃんには
関係ないらしい。
- 624 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:31
- 「センセー、アタシら、また、停学ですか?」
「そう思うんやったら、学校で吸うのなんてやめーや。」
彼女の叱り方はさっきから、どこかピントが外れていた。
「まぁ、一本もらったしな。しゃーない。今回だけは大目にみとくわ。
でも、次はないでーー!!」
「はあぁ・・・・。」
あからさまにホッとしたような顔をしたのは、大谷ちゃんだ。
「くぅぅ・・・・。」
殴られたところが相当痛かったのか、それとも打ち所が悪かったのか、
村田さんはしきりに頭を押さえていた。
どうしてだろう。
彼女が入ってできた輪が、ぜんぜん違和感がなく感じるのは。
「しっかし、どこの学校でも、タバコ吸う場所は同じなんやな〜。」
湿っぽい空き教室の中をグルンと見渡しながら、彼女がくくっと
笑った。
- 625 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:33
-
「ねー、センセーって、元ヤンキーだったってのはホントーなんですか?」
不躾な質問をしてきたのは、現役ヤンキーの大谷ちゃん。
質問を受けた人は、しきりに眉毛を寄せる。
「それ、誰から聞いたん? んま、否定はしないけど・・・・。」
「やっぱり・・・・。」
最近、まことしやかに囁かれていたあの噂は、ホントウだったのか。
なんとなくは、そう感じていたけど。
別に、問いただすようなことは、しなかった。
ゆうちゃんには、あまり聞いてはいけない過去があるのではないかと
思っていた。
それに、昔の過去を穿り返されて困るのは、オイラもいっしょだったから。
だって、そんなの関係ないよ。
ゆうちゃんが昔、どんなワルだったろうと。ヤクザだったろうと。
そんなヒトを愛してしまったのは、自分だから。
オイラは、昔のゆうちゃんが好きなわけじゃない。いまの、このままの
ゆうちゃんを丸ごと愛しているんだ・・・。
「ねー、久しぶりって、センセーいつ、タバコ止めたのーー?」
「ん〜? 15できっぱりサヨナラしたで。」
じゅ、十五って・・・。
んじゃ、いつから、吸ってたんだよう!
そんなココロの中のツッコミは、オイラだけではなかったはずだ。
- 626 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:35
-
「アンタらもな、いつまでも吸ってるもんやないでー。それに、
タバコ吸いすぎると不細工な子供が生まれてくるんやて。はよ、
やめーや。」
もう、そんな定説聞いたことないぞー!
口から出任せのような、でも、この人が言うとなんとなく真実っぽい
ような声に。
4人は複雑な顔して笑った。
そんなとき、おもむろに彼女が抱きついてきたんだ・・・。
「ヤグチは、吸うたらあかんよー。これ以上、大きくなれへんからなー。」
「ちょっ! 髪、ぐしゃぐしゃになるじゃん! ヤメロよー!!」
オイラの髪の毛をかき混ぜて、後ろからギュっと抱きすくめる。
まさか、人前でこんなことを仕掛けてくるとは思わなくて。
焦って目を泳がせていたら、斉藤さんと、バッチリ目があってしまった。
どーにもいたたまれない気持ちになってカラダを揺らすけど、彼女は、
なかなか離してはくれない・・・。
「やあぁ、ちょ、重っ、重いよー、ゆうちゃんってばー!!」
「ん〜〜。アンタ、ちょっとタバコの匂いするなぁ。もう、アンタら、
ウチの可愛いヤグチに変な遊び教えんといてー!」
「な、なに言ってるんだよう!!」
- 627 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:39
-
首筋を、犬のようにクンクンと嗅ぐフリをしながらズシンと負ぶさっ
てくる。
冗談のように言ったから多分気づかなかったと思うけど、オイラは
内心ヒヤヒヤもんだよ。
斉藤さんの目が笑ってないのにも、気づいてた。
見てる。斉藤さんが、じっと、こっちを見てる。
もう、離れてよー。
ばれちゃう。オイラが好きなのは、この人だって。
てか、なんだか背中が寒い。
バチバチと火花が飛散っているような気がするのは、気のせい?
「さてと。こんなことしてる場合やないわ。鍵閉めなあかん。ほら、
アンタらもとっとと、帰りーー!!」
しっし!と、まるで犬を追い払うみたいな仕草をして。
教室を追い出された。
ゆうちゃんは、何事もなかったかのように窓の鍵の点検をすませると、
一度もこちらを見ずに、次の教室に入っていった。
オイラは、声を掛けるわけにもいかず、そんな後姿を、捨てられた
子犬のようにじっと眺めていたんだ。
「おい、・・・・おいって!」
「・・ふえ?」
斉藤さんの声に、弾かれたように顔をあげた。
オイラは、情けない顔を、慌てて戻して。
キリリと整った眉を潜める人。
笑って返事をしたけど、彼女は、もう、なにかに気づいているのかも
しれない・・。
- 628 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:41
- 「・・・だいじょうぶか?」
「な、なにがぁ〜?」
「・・・・・いや。」
「・・・・・・・。」
乱れた髪を撫でるように。
ゆうちゃんの触れたところを、何度も触る。
いつもは、こんな抱擁をしてくる人じゃないから。
オイラは、されるままに、ピキンと固まっていた。
「しっかし、変わったセンセーだよな。アイツ。」
「・・うん。そうだねー。」
ゆうちゃんは、一年生だけにじゃなく、斉藤さんのような不良と呼ば
れるヒトたちにも、なぜかリスペクトされているという。
でも、今、その理由がなんとなく判った気がするよ・・・。
「中澤ってさ。昔、関西レディースの超すげぇ人だったんだって。
伝説の特攻隊長とか呼ばれて、かなり、はばきかせてたらしーぞ。」
そっと耳打ちされた声に、目を剥いた。
で、伝説って、そんなにスゴイ人だったの?
- 629 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:43
-
「さてと。そろそろ帰るとするか。ヤグチも、帰るだろ? おい、
ヤグチー?」
「・・・はへ?」
「奢るから、なんか食べに行くか?」
「う、うん。ありがとー。やった!!」
久しぶりに甘えるように微笑むと、やっと彼女は、笑ってくれた。
だけど、オイラの心の中は、別の人のことでアタマがいっぱいだった
んだ。
暗闇に連なるテールランプ。
爆音を響かせながら、先頭に立つ華奢な背中を思い描く―――。
伝説の特攻隊長・・・・って、誰が?
◇ ◇ ◇ ◇
- 630 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:45
-
伝説の特攻隊長が、いまは、こんなことをするのか?
ソファの上で、ちゅるんと舌を吸われた―――。
スーパーの帰りがけに寄ったレンタルビデオ屋で、オイラは、
ガックリと肩を落とした。
「スパイダーマン」を探したけれど、20本とも、見事にすべて
レンタル中だったのだ。
よく考えてみれば、今日は日曜日で、しかもレンタル発売された
ばかり。
そりゃ無くても仕方がないか・・・と思わなくもないけど。
それでもやっぱりガックリだよ・・・。
「なんや、そんなに見たかったん? また、今度、借りればええやろーが。」
そうは思っていても、ここまで予定通りに来たらば、やらないと気が
すまないのがオイラの性格なんだ。
「違うの借りれば?」という彼女の声にも耳を貸さなかった。
家に帰ってもしょぼりとしているオイラにみかねた年上のコイビトは、
苦笑しながら抱きついてくる。
そして、慰めるように唇を啄ばみながら、桃の皮を剥くかのように
やさしくオイラの服を脱がせ始めた・・・。
- 631 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:48
-
一緒に買いに行ったイタリア製のソファの上で、甘い嬌声を上げさ
せられて。
取り込んだばかりのふかふかの布団の上で、もう一度たっぷりと愛
された。
3時のおやつは、ゆうちゃんの甘い唇になった―――。
そして、すっかり甘ったるい余韻に浸りながら、そんなやさしい
コイビトへの返礼に愛情たっぷりのカレーをようやく作り終えたとき、
その事件は起きたんだ――。
ピンポンと鳴らすチャイムに、てっきり、ゆうちゃんなんだと思って
確認もせずに鍵を開けてしまった。
「おかえり〜〜。」
新妻のようにエプロンをしながらバタンと扉を開けると、思いがけ
ない人が・・・。
いや、オイラのよーく知っている人が硬直したまま立っていた・・・。
しまった!と、頬を痙攣させる。
アタマが真っ白になったとは、きっと、こういう状態のことなんだと。
―――うわっ、なんて展開なんだろう。これじゃー、安直な昼ドラ
みたいじゃんか・・・。
◇ ◇ ◇ ◇
- 632 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:50
- 取りあえずは、立ち話もなんだからと、上がってもらった。
(オイラの家じゃないけど・・・。)
水出しの麦茶を差し出しながら、沈黙が続いていた。
ああー、かなり気まずいよ。早く、ゆうちゃん帰ってきてー!
ってか、この場合は、帰ってこられたほうが、大変なのか・・・・。
彼女が、グラスを煽る。麦茶を一気に飲み込むと堰を切ったように
切り出してきたんだ。
「プハー。てか、なんで、ヤグチがここにおるん? なんで、ヤグチが
エプロンして、ゆうちゃんの部屋の台所で、カレーなんて作ってるん?」
矢継ぎ早の声に、オイラは、ちいさなカラダをますますちいさく埋める。
「あ、・・・あの、これには、えと、理由が・・・・っていうか、
あっちゃんは、どうしてここに?」
「アタシぃ〜? アタシは、お隣さんやねんけど・・・・。」
「ええーー!!」
ウソー。今まで気がつかなかったよ。
てか、聞いてねよー!!
- 633 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:52
- 「んで、肝心のゆうちゃんは?」
「えと、だから、その、あの・・・・。」
彼女は、どーしても福神漬けの無いカレーはあかんと、ちょっと
ひとっ走り・・・・。
てか、もうすぐ帰って来ちゃうよー。どうしよーー。
なんか、浮気の現場に本妻が乗り込んできた気分だ。いや、もちろん
そんな経験はないし。
あっちゃんは、ゆうちゃんとそんな関係じゃなく、仲の良い友達だって
ことは、ヤグチも知っているんだけど・・・。
どーすんだよ、もーー!! アワアワとパニくる。
あー、でも、ここはひとつ、芝居をうって。
早々に帰ってもらうしかないよね・・・。
「あのねー、あっちゃん。実は、ヤグチ、ゆうちゃんに相談が・・・・・」
「ヤグチたっだいまー♪ あったでぇ。やっぱ、カレーにはこれが
ないとな〜!」
ガチャりと、陽気な声で玄関を開けた人に。
オイラは、がく〜んと項垂れるしかなかったんだ・・・。
◇ ◇ ◇ ◇
- 634 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:54
- お昼寝のさいには、大変お世話になっている保健校医と、らぶらぶな
コイビト件数学教師を前に、オイラはもくもくとカレーを口に運んで
いた。
もーー、味なんてが分かんないよー。
てか、超辛いー。出てくる涙は、カレーのせい?
砂糖菓子のように甘くトロトロな予定なはずだった夕飯は、彼女の
出現によって、こっぱ微塵に打ち砕かれていた。
お葬式のように、シーンと静まり返ったダイニング。
スプーンをカチャカチャと鳴らす音だけが、やけに大きく響いていた。
無言のまま食べ終えた二人は、リビングに移動する。
さっきそこで、いけないことをいたしたことを思い出して、彼女に
バレはしないだろうかと内心ヒヤヒヤもんだよ。
「ヤグチー、洗い物は後でアタシがやるから、アンタもこっちに来な
さい。」
「・・・は、はい。」
無表情のまま手招きされて、オイラは渋々とスポンジをシンクの中に
落とした。
立ち上がって、食後のコーヒーを淹れるゆうちゃん。
顔を強張せながら、小姑のようにじっと、二人を窺ってくるあっちゃんに。
オイラは、ますますちいちゃくなって、白いカーペットの上に正座する
んだ。
- 635 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:56
-
ゆうちゃんは、テーブルの上に三つコーヒーを置くと、あっちゃんを、
向きながら突然、切り出した。
「どうせ、もう気づいてると思うけど。アタシ、この子といま、
付き合うてるんよ。」
「ゆう!!!」
思いもしなかった展開に、ビックリして声をあげた。
な、なにを、言っちゃってるんだよう!
「ふ〜〜ん、そうか〜。」
「・・・って、あっちゃんも!!」
そんな、あっさり納得すんのかよう!
てかさー。
この人。前々から、変わったセンセーだなとは思っていたけど。
いい匂いがしてきたからってご馳走になろうとお皿を持ってきちゃう
ような変な人だけど。
こんな反応ってフツーあり〜?
真っ直ぐ伸びてきた手が、がしがしとオイラのアタマを撫でた。
そのまま腕の中に包まれると、どういう反応をしていいのか分から
なくて。
目を閉じてそのまま彼女の胸に、顔を預けると。
合わせた胸から、トクントクン鼓動が聞こえてくるんだ。
オイラのよりも、数段、早いテンポに胸がキューってなった。
- 636 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 12:58
- 「でもな、ゆうちゃん。ヤグチは生徒やで〜?」
「知ってるわー。そんなもん最初から・・・。」
「そらそうやろうけどー。」
ゆうちゃんは、人目があるのにもかかわらずきつく抱きしめてくる。
そのまま、つむじにチュって、口づけてから。
「しゃあないな。もう、この子に惚れてしもうたんやから。生徒だろ
うと、オンナだろうと関係ないわ・・・。」
「・・・・ゆ、ゆうちゃぁん・・・。」
ズキンと胸をついた言葉。
目の前がユラユラと歪みはじめた。
まさか人前で、そんな言葉を言ってくれるなんて思わなくて。
「好きだ」と言われるよりも、なんだかもっとずっと特別な気がして、
頭の奥を痺れさせる。
彼女は、あまり「好きだ」とかを口にはしない。
オイラが「好き、好き」言うと、うれしそうに頷いてくるだけ。
十回言えば、返ってくるのはせいぜい一回が程度だ。
だから、親友に捧げたその言葉は、オイラの胸をジンと熱くした。
- 637 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 13:00
-
ずっと隠すことばかり考えていたオイラ。
反対に、堂々と宣言して、オイラを守ろうとするゆうちゃん。
庇うように前にはだかるその華奢な背中が、ひどく頼もしく思えて・・・。
この人に、一生、付いていきたいと思った。
「だったら、コーヒーやないやろ。ビールで乾杯しようや。」
そして、この人もまた、オイラの胸を熱くするんだ。
「ん〜。そうしたいところやけどな。ヤグチ、送ってかないけないから・・。」
フッと笑って、愛しい人はオイラの髪をやさしく梳いた。
「えー、今日は、日曜やん。泊まっていったらええやないのー。」
「そら、あかんて。親御さん心配するやろ・・・・。」
そうなんだ。
実は、オイラは、まだ、この部屋に泊まったことがない。
タイムカードを押したかのように、毎回、9時きっかりには、川崎の
マンションへ送り届けられてしまうんだ。
- 638 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 13:03
-
時間を気にせず一緒にいたい。
アナタの寝顔がみたい。
一緒に、日曜洋画劇場観ようよ、と誘っても、「あかん、ダメや」
の一点張りだった。
「お父さん、夜勤なんだ」と、ウソぶいても、首を立てには振らない
頑固者。
「へ〜〜、この暑いのに、あのゆうちゃんが、ビール断ちしてるとはな。」
あっちゃんは、変なところに関心していた。
ゆうちゃんは、無論のビール好きだということは、オイラもよく知って
いた。
食料よりも、ビールの数のほうが上回る冷蔵庫を見れば、一目瞭然だ。
だけど、オイラの前では、一滴も呑んだことがない。
それは、送迎のためであって。
オイラのためなのだろうと想像する。
大好きなビールを我慢してまで、一緒にいてくれるのはうれしい。
もしかしたら、ヤグチがオトナになるまで待っていてくれているの
かもしれない。
でも最近は、彼女にはなにか見えないバリアーのようなものが存在して
いるのではないかと、気がしてならないんだ・・・。
- 639 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 13:10
- ゆうちゃんには、そこまでは、踏み込ませてはくれない領域がある。
だから、この家に泊めてくれない。合鍵も渡してくれない。
最初は、教師と生徒と言う立場上の問題だと思っていたのだけど。
どうも違うような気がしてならない・・・。
2人の間には、でーんと建ったガラスの壁が存在している。
オイラは、その壁をなかなか乗り越えることが出来ないでいる。
もがいて、苦しんで。
だって、透明なガラスは、高いのか低いのかさえわからないから。
いつか、自動的に開かれるときがあるのか、それも、分からない。
それまで、待たなければいけないのか・・・。
オイラは、いつだって、愛情の深さを天秤にかけてる。
不満というよりは、不安。
気持ちが浮いて、沈んで、また浮いて、ずっとその繰り返しだよ。
まるで、ジェットコースターのようだと思う。
だから、病み付きになるのかな・・・。
あっちゃんは、終始ニコニコしながら、出されたビールに口を付けていた。
二人の馴れ初めを聞かれたときには、二人して玉のように汗を掻き
ながらモジモジして。
そして、彼女が3本目のプルトップを空けたとき、またしても、
とんでもないことを言いだしてきたんだ。
- 640 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 13:13
-
「あーー!! したらなんや、あの声は、ヤグチのやったんかぁ〜〜!!」
「ふへ? なに?」
もともと、やくしゃべるセンセイだけど、今日は特にすごい。
「そーか。そーか。おかしいと思ったんやー。」
あっちゃんは、瞳を真っ赤にさせながら、ゆうちゃんの背中をバンバン
叩いた。
「いや、ゆうちゃんって、ずいぶん可愛らしい声だすんやなーと思う
てたんよー・・。」
「はぁん? アンタ、何の話やの〜?」
ゆうちゃんも訝しげに首を傾げる。
あっちゃんは、お酒が弱いみたいで、すっかり出来上がってるよう
だった。
「いやな、たまに聞こえてくるんよー。ここ壁薄いんかなぁ。あ、
判った。ベットがお隣さんなんやわ。いやー、いつもお世話になっと
ります。」
そう言って、ぺコンとアタマを下げる人に。
- 641 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 13:15
-
「うえっ・・・・。な、な、な、・・・・」
壁が、薄いってー。
まさか、まさか、あの声、聞かれてたって・・こと〜?
うっそ〜〜!!!
マジでぇ〜!!
一段、高いところにいる恋人も、驚きの色を隠せないでいた。
あっちゃんは、てっきりゆうちゃんの声なのだと思っていたらしい。
そりゃそーだ。
まさか、オンナノコを連れ込んで、いけないことをしているだなんて
誰も思わないもん。
でも、それは、紛れもなくヤグチの声で。
いけないことをされていた。
つーか、すごい恥ずいー、ひぇーー!!!
酔っ払いのあっちゃんは、爆弾を落としてから、そのまま強制送還
されていった。
もちろん、収容所は、隣の部屋だ。
- 642 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 13:16
-
「ヤグチー、カレーおいしかったで。ごちそうさん!」
「・・・う、うん。」
帰り際に掛けられた言葉に、下を向いてモジモジする。
「それと、この人のこと頼むなー。怒りっぽくてキレやすいけど。
ホンマは、えぇ人やから。そんときは、飼い犬に噛まれたと思うて
我慢してな。」
「うっさいわー、はよ、行きー!!」
ゆうちゃんが、ドン!と、背中を押す。
「スケベなことされそーになったら、大声で、あっちゃんを呼ぶんやでー?」
「・・・・はあぁ。」
「もう、えぇ加減にしー!!」
突き飛ばして、ドアから追いやった。
鍵をかけて。ドアチェーンまでかける。
やれやれと、肩をあげて手を叩くコイビトに、どんな顔を向けていい
のか判らなくて。
部屋に戻ると、「ハア」と息を同時に洩らすんだ。
そして、疲れ切った顔して見つめ合ったとき。
壁を、バンバンと叩く音がした。
- 643 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 13:18
-
「ヤグチー。ヤグチー。気にせんと声あげぇ。今夜も楽しみにして
るでーー!!」
「・・・・あうぅぅ・・・。」
「ほんまに、コイツは、ブチ殺したろかーー!!!」
そう言って、深く深く溜息をつく年上のコイビトに、苦笑いを返す
しかなかった。
そして、今が、チャンスかなと思った。
温くなってしまったコーヒーをゴクリと飲んでいる背中に向かって。
オイラは、深々とアタマを下げるんだ。
「あの、ゆうちゃん、ごめん。あの・・・・実はさ、なっちたちに
ウチらのことバレちゃったみたいなの・・・」
「んぐっ! なにーー!!」
カップの中身がグランと揺れた。
「ご、ごめん。ヤグチ云ったわけじゃないんだけど、なんか態度で
バレたつーか。ごめんなさい。やっぱ、ヤグチが悪かったみたい・・・・。」
ゆうちゃんは、頭を抱こんで。「ん〜〜」と唸りだした。
オイラは、その背中に抱きついて、ごめんなさいと何度も唱えた。
「いや。しゃあないな。でも、アイツらだけか? 他には・・・・?」
「たぶん、大丈夫だと思う。・・・・・・・。」
と、いう保証はないけど。
でも、アレ以来、気をつけているから。
- 644 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 13:20
-
「そっかぁ。はあぁ。うーん、まー、多少、やりづらくはなるけど。」
「う、・・・ごめんね。」
「ええて。あっちゃんにもバレちゃったしな・・・・・。」
「・・・うん。てか。どーして、お隣さんだって、最初に言っといて
くれなかったのさーー!!」
聞いてないよー。
そう愚痴ると、彼女は小さくなって、もうひとつのヒミツを洩らす。
「ごめん。つーか、実は、下の部屋は、平家センセイなんよねーー。」
「う、うそーー!!」
オイラはがっくりと項垂れた。
四世帯のちいさなコーポ。うち、三世帯は教師の部屋だったなんてさ。
いままで、バッティングしなかったことのほうが不思議なくらいだよー。
白いカーペットの上で、膝を突き合わした。
そして、深く深く溜息を零す。疲れちゃったよ。
なんだか、この先、波乱に満ちているような気がするのだけど。
でもすぐに、この人と一緒ならば、なんとかなるかなってそう思う
ことにした。
障害を乗り越えて、少しずつ愛を育んでいければいいよ。
アナタと一緒なら、どんな苦難にも乗り越えていける。
- 645 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 13:25
-
ゆうちゃんが、チラリと時計を見た。オイラも、それにつられるように
見上げると。
タイムリミットまでは、あと一時間を示していた。
あっちゃんの出現のせいで、すっかり予定は狂っちゃったけど。
彼女の言葉が、アタマの奥を何度もリフレーンする。
やわらかい関西弁。
やさしい、温もり。
今日は、いい休日だったよ。
「さてと。―――」
彼女の掛け声に、お尻をもちあげた。
そして、まずは。
ベットの配置を変えるという、共同作業から始めたんだ・・・・。
- 646 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/24(木) 13:28
- 本日の更新は、ここまでです。
- 647 名前:マコト 投稿日:2004/06/24(木) 13:32
- リアルタイムでお邪魔しました♪
やっぱやぐちゅーいいですよねぇ・・・癒されます
稲葉さんと平家さんおなじコーポだったんすね、そりゃぁ声も聞こえますよ(笑)
大量更新は自分的には大歓迎です!可愛い矢口さんに綺麗な中澤さんがたくさんみれますから♪
ではではまたの更新お待ちしております!
- 648 名前:kai 投稿日:2004/06/24(木) 13:32
- >600さん・・お言葉に甘えて、本日も大漁〜♪
>ゆちぃさん・・ほんと、最近はマイペースになってますね。w
少しずつ進んでいく二人の姿を、これからも見守ってやって
ください。(ぺこ
>602さん・・萌えてもらえてなにより。w
次は、どっこにしようかなとか、考えているアホなアタシです。(苦笑)
- 649 名前:kai 投稿日:2004/06/24(木) 13:36
- やぐちゅーは、ひとまずここでお休みします。
そして、次回から、あの人の登場です!
シリアス路線を狙っているのだけど、どうなることか・・・・。
よかったら、チェックしてやってください。
- 650 名前:600 投稿日:2004/06/24(木) 23:45
- おぉ〜こりゃ大漁旗かかげにゃならんね。
楽しみにまってます!
- 651 名前:ゆちぃ 投稿日:2004/06/25(金) 02:41
- おつかれまさです。
明日も早いんですが、勢いで読んじゃいました(w。
えーっと・・・裕ちゃんは伝説の特攻隊長ってことで、
えぇ?!!?とびっくりしてました。
久しぶりに斉藤さんも見れたし、
あっちゃんはかなりおもろいですね〜☆
お世話になってますって言っちゃってるし(爆。
次回はあの人??楽しみにしてますvvv
シリアス大歓迎です♪
- 652 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 11:52
- なんだか、学校中に知れ渡るのも時間の問題のようなきがしてきたw
そうなったら、二人して逃亡かな…デンマークあたりにでも。
- 653 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 21:38
- ◇ ◇ ◇ ◇
長い長い、夢をみていた。
いつもと、いっしょの夢だった。
ボーっとしながらカラダを起こして、目をゴシゴシと擦る。
手が濡れている。
アタシは、泣いていた。
夢の内容を反芻するよう思い出そうとするけど、どんなにがんばってみても
思い出せない。
ついさっきまで見ていたはずなのに、瞼を開けると、記憶喪失にでもなったか
のようにスッポリと消えうせていた。
判っているのは、登場人物だけだ。
アタシがいて。
あの人がいる。
たった二人だけのストーリー。
夢を見ながら泣いているくらいだから、それは、ひどく悲しい物語なのだろうに。
アタシは、いつも、躍起になって思い出そうとする。
あの人にどうしても逢いたくて、逢いたくて。たとえ、夢のなかでもいいから。
そうして、朝が来る。
チュンチュンと雀の鳴き声が聞こえてきた。
隣で寝息を立てている妹を起こさないよう、そっとベットを降りて洗面所に向かう。
朝は、キライだ。朝なんて来なければいい。
どうせなら、このまま、永遠に眠り続けていたかった。
アタシの夢は、あの日からいまも、ロングラン中だ。―――
- 654 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 21:40
- ◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇ、なっちー、今日、暇ぁ〜?」
東京の生活にもようやく慣れてきた。
ジトジトしたこの暑さだけは、参っちゃうけど。
海がすぐ傍にある学校は、風が気持ちいいくらい入ってくるから、
クーラーなんて必要ない。
ただ、少し強すぎるのが、困りものだけどね。
みんな、短いスカートを押さえながら登校する。
いつだったか、マリリンモンローみたいだよねって、圭ちゃんが
笑ってた。
教科書とノートを机の中に閉まっているとき、こんがりと日焼けした
少女がやってきたんだ。
「ねぇねぇ、なっちー、今日は、バイト休みの日でしょ?」
「う、うん。」
ひどく厭な予感がした。
それも的中するんだけど。
アタシは、度々こうして誘われる。
断ることが苦手だから、厭な顔ひとつできない。
気鬱になりながらも、いつものように笑顔で応えた。
- 655 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 21:43
- 「ん?」
「今日さー、またK校と合コンがあるんだけどー。つーかー、この前
の子が、なっちのこと気にいっちゃったんだってぇ。なんか、呼べ呼
べってうっさいんだよねー。」
そう云われて、思い当たるふしを、瞬時に浮かべた。
カラオケボックスで馴れ馴れしく肩を抱いてきた男の子。
みんなが流行り物の曲を唄うなか、彼だけは、聴いたことのないよう
な英語の歌を唄ってた。
みんな、イケてるとか言ってたけど、アタシは、顔がいいってだけで、
ひとつも格好いいとは思えなかった。
高校生のくせにおいしそうにビールを飲みながら、タバコを吸う。
アタシは、タバコを吸う人が、好きじゃない。
ていうか、そもそも、男の子自体がそんなに好きじゃないんだ。
だから、合コンなんて行っても憂鬱なだけ・・・。
「イヤだ行きたくない」とか思っているのに、誘われたらば、断りき
れずにノコノコと付いて行く。
みんなの機嫌を窺って。厭な気持ちにさせないようにと。
そんな自分が、一番キライだった。
- 656 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 21:45
- 行きたくないよ。
そんな人に逢いたくもない。
「ごめん。なっちさー、今月、お金ピンチなんだよねー。」
それは、常套な断り文句なはずだったのに、彼女は、気づいてはくれ
なかった。
「平気だよー。男の子が全部持ってくれるって。ねー、行こうよ〜。
お願い!!」
そう言って手を合わせられたら、もう、断る理由がなくなってしまう。
こんなとき、顔に出ないのは、ホント不便だな。
ほとんど諦めかけて、「何時〜?」と聞きかけたとき、ドンと背中を
押されたんだ・・・。
「ちょっと、待ったぁ! もう、なっち、ひどいじゃんか。オイラと
の約束忘れたのかよう!!」
「ふへっ?」
「今日、渋谷に付き合ってくれるって、約束しただろう!」
そうだっけ?
至近距離でパチパチパチと長い睫毛を激しく瞬く。
たぶん、ウインクしてるつもりなんだろうけど、全然、なってないよー。
でも、彼女の意図がわかって。
- 657 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 21:47
-
「あ、ゴ〜メン忘れてた。ごめんねー、そういうことだからさー。」
「ええーっ。なっち、来れないのー。もう、連れて来るって約束しち
ゃったのに〜。」
「ごめんね。」
「あ、でも、渋谷なら近いから、んじゃ、少しだけでも顔だしてよ。」
なかなか、引っ込まない彼女に、いい加減うんざりしてきた。
だけど、あたしの顔は、そんな時でもニコニコと笑っているんだ。
「ダメだよー。今日は、オイラとデートなんだから。ねー、なっちぃ〜♪」
ヤグチが、そう言って腕に手を絡めてくる。
そのまま、甘えるようにおでこをくっつけた。
甘い香水の匂い。
やわらかい肌の感触。
アタシよりも、ちいさな親友。
男の子といるよりも、ヤグチといるほうがずっと楽しいよ。
「なになに、もしかして、二人、付き合ってんのー?」
こういうのには目ざとい友人が、云ってきた。
ヤグチは、ますます調子に乗って、今度はべったりと抱きついてくる。
- 658 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 21:50
- 「そうだよー。チョーラブラブなんだから〜♪」
「ウっソー。マジでぇ〜。つーか、めちゃ興味あるんだけど〜!!」
「てか、この二人がって可愛いくない〜♪ なになに、もうチュウは
したのかぁ〜?」
「てかさー、二人って、どっちが下になるわけ〜!」
ヤイヤヤイヤと囃し立てる。
すっかり女の子たちに囲まれていた。
ウチのクラスは、みんな仲良しで、しかもお祭り騒ぎが大好きだ。
こないだも、修学旅行で酒盛りして(泡盛で・・)、岡村センセイに
こっぴどく叱られたばかり。
「チュウはまだだよ〜♪ でも、いまが、微妙な時期なんだから、
邪魔すんなよなぁ!」
いつのまにか、記者会見のようになってしまった。
この収まりきらなくなった状況をどうすんだよ〜なんて思うけど。
それで回避できたわけだから、ヤグチには感謝だよね。
みんなが一通り騒ぎ終えて帰った後、アタシは、彼女に向かって手を
合わせた。
「ごめん。ありがとね。」
「もう、イヤなら、イヤって言えばいいだろー!!」
コツンと軽く叩かれた。
彼女の言い方は、少しきついところがあるのだけど。
それは、神奈川の方言なんだよって、前に教えてくれた。
- 659 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 21:53
-
「どうせ、なっちは上野動物園なんだから。このまま、しばらく
付き合ってるってことにしとこーぜ。」
「うっ、・・・・、っていうか、なにそれ?」
なんでそこで、動物園が出てくるんだい?
「ん〜? 上野動物園とくりゃ、パンダじゃん。なっちはパンダなの。
客寄せのパンダちゃん。」
犬とかウサギとかは云われたことはあるけど、パンダは初めてだよ、
ヤグチ。
でも、そーなんだよね。
いつも合コン行くと、なんか、1人だけ浮いてるなって気がする。
ココロから楽しめない。ていうか、全然、楽しくない。
それでも誘われる。そういうのを面倒だとか思いながら、ホントは
ちょっぴりうれしかったりもする。
でも、それは、客寄せのためだったのか・・・。
「あーもう、そんな辛気臭い顔すんなよなー。よっし、なっち、今日は
オイラに付き合え!」
「へ?」
「いいから! カラオケ行こう!!」
アタシの大切な親友。
ヤグチは、太陽みたいなオンナのコ。
みんなに光をあてて、元気にしてくれる。
そんな彼女は、いま、道ならぬ恋をしていた。
◇ ◇ ◇ ◇
- 660 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 21:57
-
一時間は、ほとんど唄いっぱなしだった。
アタシも歌が好きで、ヤグチも好き。やり始めると止まらなくなるのが
いつものことだ。
それでもさすがに、喉がカラカラになってきて。
ようやくドリンクを頼んで一息ついた。
カオリがモデルクラブで忙しくなり、圭ちゃんがマクドナルドでアル
バイトを始めた。
そーなると、必然的に、ふたりでいることが多くなっていた。
あの海の日。
誰にも話したことのなかった胸の痛みを話すことができて、なっちは、
少し気持ちが楽になっていたんだ。
ヤグチは、なっちが、ありのままのなっちでいられる人になっていた。
そして、ヤグチも、アタシの前では色んな顔を見せてくれるようになった。
二人には、共通のヒミツがあった――。
ここなら、二人きりになれるし、邪魔されることもない。
大声を出しても誰も来ない。薄暗がりって言うのも都合がよかった。
なにより、落ち込むくらいならくよくよせずに唄って忘れちゃえ!
と、いうウチらにとって、ここは、持って来いの場所だったんだ。
だから、ヤグチが愚痴を言うとき、惚気を言うとき。
なっちが、相談を持ちかけるときも。きまって、ココへ来る。
- 661 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 21:59
-
今日は、ヤグチが誘ったから、なんか相談でもあるのかなぁ。
そんなことを思いながら白い液体をストローで掻きまわしていると、
ガリガリといつものように氷を齧りながら、ヤグチが聞いてきたんだ。
「ねー、なっち、なっちぃー。あのさー、聞いていい?」
「うん?」
カルピスをゴクンと口に含んで、視線を向ける。
「あのさー、手料理で、これぞ!ってゆーのないかなぁー?」
「はあぁ?」
ヤグチは、焦ると、主語も述語もすっ飛ばしてしゃべるのが悪い癖だよ。
もう、なに言ってんのかぜんぜん分かんないー。
「つーか、なっちって料理得意っぽいじゃん。簡単な手料理で、
「わおっ」って、言わせちゃうようなのって、なんかないかなぁ〜?」
「ゆうちゃんに、作ってあげるんだぁ〜?」
そう言って微笑むと、モジモジしながら、コクンと俯いた。
それは、暗がりだったから判んなかったけど、たぶん、赤いはず。
- 662 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 22:03
- ヤグチは、可愛い。
ヤグチは、恋するオンナノコ。
最初にヤグチを見たとき、――カオリに紹介されたんだけど。
なっちは、ビックリしたんだ。
なにが、一番ビックリだったかっていうと、スカートだった。
あとでこっそり圭ちゃんに、「スケバン」ってゆうんだよね?って、
聞いたら、大爆笑されたっけ。
「あははっ。なっち、いつの時代だよー!」
「だ、だって・・・。」
自己紹介のとき、テレビでは見てたけどこんなに違うものかとカル
チャーショックを受けたんだ。
黒髪のなっちが逆に目立ってしまうくらい、みんな髪を染めていた。
ピアスも当たり前。だって、鼻とかにしている人もいるんだよ。
でも、センセイは、あまり注意はしなくて。
制服こそ、室蘭でも珍しくないセーラー服だったけど、みんな着崩して
着ていた。
階段に上ったら、パンツ見えちゃうよーってくらい短くしているのがフツーなのに。
ヤグチは、足首が隠れるくらい長かったから、かなり目立っていたんだ。
だけど、それが似合ってないわけじゃなくて、むしろ、ヤグチには
合っていて。
髪も金色だったし、こんな可愛い顔立ちした「不良」がいるのか、って
東京は、スゴイなーって驚いてたら。
- 663 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 22:05
-
「ヤグチは、いい子だよー。ま、サボり癖はあるけどね。でも、
明るいし、やさしいし。それに、クラスのムードメーカだからね。
なっちも、きっといい友達になれるよ。」
「うん。」
ヤグチがいい子だってことは、しゃべってみてすぐに判った。
感が鋭くて、会話を楽しくさせる才能がある。
たいした話じゃないことでも、彼女が、話に加わると大爆笑になる
なんてことも多かった。
ヤグチに惹きだされて、自分が、すごいおもしろい人間なんだって
錯覚させられることもあった。
そんなとき、彼女のヒミツを知ることがあったんだ。
「ねー、なっちー。今日さ、合コン行かない〜?」
「合コン?」
なっちは、北海道の大自然の中で育ったから。
最初の頃、彼女達の口からポンポン出てくる言葉は、なんだかテレビを
みているようで、すごく新鮮だったんだ。
そして、その響きは、なんとなく胸をドクドクさせていた。
その頃には、すっかりクラスと打ち解けていて、みんなに「なっち」
と、愛称で呼ばれるほどになっていたのだけど・・・・。
- 664 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 22:07
- 「今日は、サッカー部だから、きっと格好いい子いっぱい来るよー。
なっちも、そろそろ、彼氏見つけなよ。」
「う〜ん。」
初対面の子と話をするのは苦手だ。
ましてや、それが男の子ならば、なお更に。
みんなが行くならば社会見物にでもと思ったけど。
圭ちゃんもカオリも、用事があるみたいだったから、アタシは返事に
困っていた。
・・・ていうか、あれ?
「なんで、ヤグチには聞かないの〜?」
ヤグチこそ適任じゃないかなって言ったら、彼女達は笑いながら首を
振る。
「ヤグチは、オトコはダメなんだよね〜。」
「へ?」
「ヤグチは、オンナのがいいんだってさ。」
「うそ。・・・・・」
なっちは、このときの衝撃を忘れない。
何度も何度も、目の前にいる2人組の顔をみた。
だって、笑ってるんだ。軽蔑したり罵ったり、特異めいた視線を向け
る人はいない。
何事もないように、その事実をたんたんと受け入れている顔だった。
- 665 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 22:09
-
「別に、ダメじゃねーぞ。ただ、あの人じゃなきゃダメだってだけでぇ・・」
「はいはい。ごちそーさま。もー、その話は耳タコだからね。」
そう言って、耳に手をあてて塞ぐフリをする。
「なんだよー。話させろよー!」
ヤグチは、一昨年のクリスマスの日に年上の女の人と出逢った話を、
アタシにだけ聞かせてくれた。
彼女の口から出たとはとても思えないほど、それは、メルヘンな話だった。
アタシは、ダンボのように耳を大きくさせながら、その話を夢中で聞き
入ったんだ。
いままでみたことのないようなキラキラした瞳で、『運命の人』と
称する彼女の話をする友人。
その人ことが大好きで。いまでも忘れられないのだと、辛い胸のうち
をみせた。
なっちは、そんなヤグチを見つめながら、目から水分が零れないように
と必死で戦っていたんだ。
だけど、とうとう堪えきれずにポタリと机を濡らしてしまう。
「な、なに泣いてんだよう。べ、べつに、泣くほどの話じゃねーぞ。」
「う、・・・ん、ごめんね。なんかさ・・・・。」
「なんだよう。」
なんか、ホッとしちゃったんだ。
- 666 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 22:11
-
ずっと、そういう友達が欲しかったの。
メールや、文通の相手じゃなく、顔を見て話せる自分のことを判って
もらえる同じ気持ちの人に逢ってみたかった。
堂々と、好きな人の話をしたかった。
やっと、そういう人に出会えたんだと思ったら。うれしくて。驚いて。
だって、なっちの夢のお相手も、女の人だったから―――。
◇ ◇ ◇ ◇
- 667 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 22:14
- 「ていうか、聞いてる?」
「うわっ! う、うん。あー、料理だよね?」
彼女は、その「運命の人」と、この前、バッタリ再会したばかりだった。
ヤグチの執念の根張り勝ち。でも、それで逢っちゃうんだもん。
スゴイよねー。
矢口のお相手は、なっちもよーく知っている人だった。
そして、その事実は、なっちの胸をキューってさせるんだ。
「でも、ゆうちゃんって、好き嫌い多そうだよね?」
「うん。トマトとバナナはダメだって。他にも結構、あるみたい。」
「ん〜。あ! 肉じゃがとかは? コイビトには定番っしょ。株上が
るよ?」
「んやっ。それは、考えたけど、なんかなー。てか、もっとさ、ビック
リしちゃうくらい派手で、でも安くて、チョー簡単なのってないかな?」
「欲張りだなー。ん〜、いまは、思いつかないけど考えとくよ。」
「うん♪」と頷きながら、彼女は曲を探しに本を捲った。
ヤグチは、女の子。
ヤグチは、可愛い。
いま、彼女の瞼の裏には、あの人の喜ぶ笑顔が映っているのだろう。
ほんのり頬を赤く染めながら、一生懸命、コイビトのことを考えている。
ヤグチを見ていると、ときどき、鏡をみているようだと思うことが
あった。
- 668 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2004/06/27(日) 22:16
-
みんなには内緒なのだけど、ヤグチのコイビトはセンセイだ。
そして、なっちのコイビトもセンセイだった・・。
二人の境遇は、ビックリするくらいよく似ていた。
センセイを好きになって、浮かれていた頃のアタシ。
彼女の言葉に一喜一憂して、泣いたり、笑ったり、怒ったり、毎日が
忙しかった。
それでも、なっちは、あの人が好きで好きで大好きで。
一生懸命、恋をしていた。
ヤグチを見てると、あの頃の自分思い出す。
なっちも、彼女を見てるとき、こんなに可愛かったのかな〜って、
思ったりして・・。
センセイはどうだったんだろう。
ゆうちゃんは、こっちが恥ずかしくなっちゃうくらい、ヤグチに愛情を
渡していた。
授業中にも構わず、二人は、熱い視線を交わしていることがたびたび
ある。
なっちは、ヤグチの前の席だから、そのラブビームがビシバシ伝わって
くるんだ。
どうだろう。
なっちのセンセイは、クルーだったからなー。
そこが、堪らなく好きだったんだけど。
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