きっと藤本さんと松浦さんの話し。
- 1 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/11(木) 02:49
- 題名の通り。きっと藤本さんと松浦さんの話しの短編集です☆
宜しくお願いします。
- 2 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/11(木) 02:50
-
美貴が『娘。』に入ってからどの位たっただろう。
そんなんも気にしてられない程毎日が忙しい。
特にこの時期は、特番やらCM撮影やらでてんてこ舞い。
だから家に帰ってもお風呂に入って速攻寝るだけ。
そして朝が来る。そんな毎日。そんな日常。
- 3 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:42
- その日も歌番組の収録で、朝早くからの仕事で。
(あー、忙しいのはきっといいことなんだよなぁ〜。)
心の中でそう言い聞かせて仕事に励んでたんだ。
いつもどうりに。
そして休憩時間。美貴は机に肩肘をつきながら、
楽屋の中の皆を見渡した。
(こんなハードスケジュールなのに元気だねぇ。)
ボーっとそんな無責任な事を考えていたら、矢口さんが勢いよく
楽屋のドアを開けた。
- 4 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:43
- 「ミキティいる?!」
皆が驚いて一斉に矢口さんの顔を見る。
「あ、いたいた。」
今度は皆の視線が美貴に釘付け。
み、美貴なんかした?
さっきの収録中になんかした?
思わず席を立ってしまった。
「悪い。ちょっと来て。」
返事もしないうちに楽屋から連れ出されて、でも
美貴の頭の中は混乱したまま。
- 5 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:44
- 楽屋から少し離れた廊下の隅で、矢口さんは
やけに神妙な顔で言う。
「ミキティ。最近松浦に会ってる?」
突然の言葉に美貴の頭の上にクエッションマークが飛ぶ。
今矢口さん『松浦』って言った?
「あ、亜弥ちゃんのことですか?」
「他に誰がいると。」
まぁ、言われてみればそうだけど・・・
- 6 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:45
- 「で?最近松浦に会った?」
矢口さんはもう一度同じ質問を繰り返した。
「そりゃ・・・」
仲良いから。大親友だから。
そう言いかけて美貴は言葉を止める。
おかしい。思い出せない。
亜弥ちゃんといつ会ったか思いだせない。
前は毎日っていう位会ってた。
前は休みの度に二人で出かけた。
『前』は・・・。
でも『今』は?
- 7 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:45
- 「会ってないんだね。メールとか電話は?」
口篭もる美貴を見かねたように矢口さんは
ため息まじりにそう言った。
亜弥ちゃんからのメールはたまに来る。
否、来ていた気がする。その他たくさんのメールの中に。
でも美貴は忙しくて・・・あんなに前は仲が良かったのに。
何だかひどく悪い予感がする。
- 8 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:46
- 「亜弥ちゃんに何かあった・・んですか?」
何故弱々しい声になったのかは、自分でも分からない。
でも、口に出した途端不安が胸に渦巻いた。
矢口さんは少し考えてから、
「さっきさぁ。偶然つんくさんと松浦のマネージャーが
話してんの聞いちゃったんだよね。」
表情を曇らせる矢口さん。
胸の中の不安が暗雲のように立ち込める。
「松浦さっ。声が出なくなったらしい。」
- 9 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:46
- 美貴はね。最近、ずっと忙しかったんだ。
言い訳するわけじゃないけど。ほんとなんだよ亜弥ちゃん。
メールの返事とかしなかったのも亜弥ちゃんだけじゃなくて、
皆になんだ。ほんとなんだよ亜弥ちゃん。
でも今思うと不思議だね。
亜弥ちゃんだって、美貴が娘。に入る前から忙しかった筈なのに
あの頃は、ほとんど毎日会ってた。不思議だね。
- 10 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:47
- なんだかその日一日は仕事が手につかなくて、
さっき打った
『亜弥ちゃん声出ないってほんと?!』
ってメールの返事が気になって。
美貴はずっと、うわの空だった。
- 11 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:47
- やっと収録が終わって、皆から離れて携帯を覗く。
『メール受信三件』
急いで画面を操作する。
三件目が亜弥ちゃんからのメールで。
『心配しなくても大丈夫!』
- 12 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:49
- 美貴は頭を抱えた。
心配しなくても大丈夫。
心配しなくとも大丈夫。
考えるよりも先に体が動いて、
隣にあった荷物を引っつかんで楽屋を出た。
- 13 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:49
- 見なれたマンションの見なれたドア。
見なれたインターフォンを押す。
少したって開いたドアの向こうには、
やけに懐かしい亜弥ちゃんの顔。
その表情はいつもどうりで、少し驚いて、
その後凄く嬉しそうに笑う。
だけど今日は。
『美貴たんお疲れ〜』
『ニャハハ。たん、おかえり〜』
その。声が聞けない。
- 14 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:50
- 「亜弥ちゃん・・・。」
美貴は何て言っていいのかわからなくて。
笑えばいいのか。困ればいいのか。
分からなくて。
黙って下を向いた。
不意に掴まれる腕。
思わず顔を上げると、困ったような亜弥ちゃんの
顔が近くにあった。
『取りあえず入って。』
パクパクした口がそう言った気がする。
美貴は黙ったまま頷いた。
- 15 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:50
- 何て言えばいいんだろう。
何て励ませばいいんだろう。
『大丈夫すぐ声出るよ。』
『久しぶりだね。美貴最近忙しくて。』
そんな無責任な言葉を頭の中で羅列していた時、
亜弥ちゃんが両手にマグカップを持って美貴の前に
立っていた。
あれは美貴専用のカップ。
二人で買い物に行った時に二人で選んで買ったやつだ。
- 16 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:51
- 亜弥ちゃんはにっこり笑って美貴の前にそのカップを置いた。
それから二人の間には沈黙が続く。
チクタクチクタクチクタク。
そんな美貴を見かねてか、亜弥ちゃんは突然立ち上がった。
そしてどこからか紙切れと鉛筆を持ってきて。
『たん。具合でも悪いの?』
暫くぶりに見る亜弥ちゃんの字。
- 17 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:52
-
「悪くないよ・・。」
『じゃあお腹すいてる?』
「すいて無いよ・・。」
『鮭トバあるよ?』
「いらない・・。」
『じゃあなんで元気ないの?』
- 18 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:53
- この後に及んでこんな事を言う・・違う。書く亜弥ちゃん。
「亜弥ちゃんさぁ、いつから声、出ないの?」
やっと聞きたかった事が聞けた。
二人は何でも言いあえる仲なのにね。
不思議だね。
『一昨日位から』
「ちょっ、何で美貴に言ってくれなかったの?」
美貴がそう言うと亜弥ちゃんは又、少し困った顔をした。
『すぐに治るよ♪』
ご丁寧に『♪』まで書いちゃって。
- 19 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:54
-
「病院には行った?お医者さん何て言ってた?」
美貴は早口でまくし立てる。
『行ったけど・・・』
「けど何?」
この部屋には確かに亜弥ちゃんと美貴がいる筈なのに、
聞こえてくるのは全部美貴の声。
それがなんだか凄く寂しい。
『精神的なものだからって』
「精神的なもの?亜弥ちゃん何か悩みごとでもあったの?」
もしあったとしたら、どうして美貴には言わない。
『無いよ。無い無い』
やけに大げさに両腕を振り、否定のポーズを取る。
それがかえって嘘を付いてるように見えた。
- 20 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:55
-
「ねえ、美貴と亜弥ちゃんの間には隠しごと無しだよね?」
うんうん。と今度は大きく首を縦に振る。
「美貴と亜弥ちゃんは大親友だよね?」
うんうん。
「じゃあどうして声が出なくなったって美貴に教えて
くれなかったの?」
亜弥ちゃんの首の動きが止まった。
「いくら美貴が忙しくても、それ教えてくれたら飛んで来たよ?」
眉間に皺を寄せて、下を向く亜弥ちゃん。
「ねぇ、美貴は亜弥ちゃんにとってそんな、
軽い感じの友達だったのかな?」
亜弥ちゃんの唇が『違う』と告げた。
- 21 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:57
-
本当は言っちゃいけないこんな事。
声が出なくてつらいのは亜弥ちゃんなのに。
でも、止まらない。
「今日矢口さんに教わらなかったら、美貴は
ずっと知らないまんまだったのかな?」
ずっと下を向いたままの亜弥ちゃん。
美貴の頭の中は暗雲がグルグルグルグル。
今にも雨が降りだしそうだ。
「今日は帰るよ。お大事に。」
そう言って立ちあがりかけた美貴の腕を、
亜弥ちゃんが強い力でしがみついた。
- 22 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/12(金) 01:57
-
その顔は今にも泣き出しそうで。
だけど美貴の怒りは収まらなくて。
静かにその手を振り解いて部屋を出た。
亜弥ちゃんは追いかけて来なかった。
- 23 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/12(金) 02:00
- 今日はここまでです。
>>たろさん。
私のミスの所為でたろさんのレスもやむなく消してしまいました。
すみません。これからも頑張るので宜しくお願いします。
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/12(金) 13:19
- 面白い!!
あやみき大好きです〜!!!!
さて、なんで松浦さんが藤本さんに声が出なくなったのを教えなかったんだろう。
頑張ってください!
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/12(金) 13:19
- 面白い!!
あやみき大好きです〜!!!!
さて、なんで松浦さんが藤本さんに声が出なくなったのを教えなかったんだろう。
頑張ってください!
- 26 名前:たか 投稿日:2003/12/12(金) 17:30
- いえいえ。それと僕の名前はたろではなくたかなんですよ〜〜。
まぁこれを機に覚えてくださいませ。なんかいやに明るい亜弥さんの態度
がとても気になりますね。でもおもしろいですよ〜〜。頑張ってください。
- 27 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:46
-
美貴が悪いのか亜弥ちゃんが悪いのか。
きっと。たぶん。どっちも悪い。
お馬鹿さんな美貴は、その後もそんな風に思ってたんだ。
人生に間違いはつきものだけど。
それで人って成長するもんなんだと、
誰かは言ってたけど。
それってさ。『人を傷付けても』ってことでは無いんだよね。
- 28 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:46
-
美貴の心に比例して、次の日は雨だった。
仕事の合間、ワーワーしてる楽屋にいるのはちょっと
気が引けて、美貴は一人、局のロビーに座っていた。
窓に滴る水滴は誰かの涙を連想させる。
- 29 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:47
-
「ありゃ?ふじもっちゃん?」
聞きなれた声に振り返る。
「ああ。」
自分でも分かるような不機嫌な声。
ごっちんとは『ごまっとう』で一緒に活動してた時はよく話しも
したけど、それが終わってからこうやって二入で会うのは
久しぶりだ。
「『ああ』って。相変わらずそっけ無いねぇ〜。」
相変わらず、ってとこには突っ込みを入れたかったけど、
その時の美貴はそんな心の余裕なんて無かった。
それでもごっちんはストンと美貴の隣に座る。
- 30 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:48
-
そして。
「まっつー声出ないんだって?」
その言葉に。ひどく冷静な自分がいる。
ほらね。悪いのは亜弥ちゃんでしょ?
- 31 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:48
-
「だからそんな不機嫌なんだ。」
何でもないように言うごっちん。
「そんな恐い顔しないでよ、ふじもっちゃん。」
美貴は又外に視線をずらした。
もっと雨が降ればいいのに。
この世界を洗い流してくれる程に。
- 32 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:49
-
はは。何で美貴ってばこんな悲観的なこと考えてるんだろ。
亜弥ちゃんの声が出なくなったから?
亜弥ちゃんのことが心配だから?
違う。違う。違う。
亜弥ちゃんの『一番』が、美貴じゃなかったから。
彼氏もいない。好きな人もいない。
そんな亜弥ちゃんの『一番』は、美貴なんだと思ってたから。
美貴は、亜弥ちゃんが『一番』なのに。
- 33 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:49
-
「亜弥ちゃんさ。ごっちんに何って言ってた?
『声が出なくなっちゃったどうしよー』?
『ごっちん今日家に来て』?
それとも、『ごっちん助けて』とか?」
「はぁ?」
ごっちんの怪訝そうな顔を無視して、美貴は喋り続ける。
「いつの間にそんなに仲良くなったの?ああ、そうか。
お互いソロだからね。美貴も前はそうだったから仲良かったんだ。
でも今は違うから、だから亜弥ちゃんごっちんに相談したんだ。」
これはきっと嫉妬。自分には程遠い感情だと思ってた。
しかも友達相手にだなんて。かっこ悪いね。
両手をぎゅっ、と握り締める。その爪が食い込むほど。
- 34 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:50
-
「ふじもっちゃんさ。何かむかつく。」
ごっちんが静かにそう告げた。
「何か知らないけど今凄くむかついた。」
だから何だよ。ごっちんがむかついたからって、
雨は止まない。
危なくそう口に出す所だった。
美貴は悪くない。美貴は悪くない。
亜弥ちゃんなんて、もう知らない。
- 35 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:50
-
「あのさ。ふじもっちゃん。ウチ達にとって、
声が出ないってどんだけの事か分かってる?」
ごっちんは美貴を見据えてそう言った。
「トーク番組には出れない。ラジオには出れない。
人に言いたい事も言えない。大好きな歌も歌えない。」
歌。
美貴ははっとしてごっちんに視線を合わせた。
- 36 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:51
-
「そんなんウチ達にとっちゃあ死んだのも同じなんだよ。」
美貴はその時。亜弥ちゃんの初めてのソロコンサートを
思い出した。
ステージに立つ亜弥ちゃん。
楽しそうに、嬉しそうに歌を唄う亜弥ちゃん。
美貴は心が揺さぶられて、思わず大泣きしたんだっけ。
よかったね。よかったね。って、何回も呟きながら。
- 37 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:52
-
「まっつーがさ。声が出ないって知った時。後藤、
すっげー酷い事思った。」
苦痛に歪められるごっちんの顔。
「後藤じゃなくてよかったって。それ思った後、
すごく自分が嫌になったよ。」
ごっちんは息を一つ吐く。
「でもふじもっちゃんも後藤と同じだね。まっつーのこと
より自分の方が大事なんだね。」
「違っ」
「後藤はね。まっつーから聞いたんじゃないよ。
つんくさんから聞いたんだよ。」
今美貴はいったいどんな顔してるんだろう。
きっと今にも雨が降り出しそうな顔してるんだろうね。
- 38 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/14(日) 00:54
-
「ふじもっちゃん。もっとよく考えてみなよ。
少なくとも後藤にはまっつーの気持ちが
分かる。今のふじもっちゃんよりもね。」
そう言ってごっちんは席を立った。
この雨はいつ止むんだろう。
- 39 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/14(日) 00:57
-
更新です。
>>名無し読者さん
そう言って頂けると非常に嬉しいです。期待外れにならないように
頑張ります。
>>たけさん
重ね重ね非常に申し訳ありません。今度はしっかり覚えました!
これからも宜しくお願いしますw
- 40 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/14(日) 01:31
- >>39
さ、作者さん…「たか」さんですよ。
- 41 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/15(月) 17:03
- 作者さん。たかさんに失礼だと思います。たかさんは色んな小説にいってて
結構知ってる人多いと思うんですが・・まぁ謝罪したはうが良いですね。
- 42 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/15(月) 17:45
- >>41
意味が判らん…。
名前間違えちゃったのはまずいけど、知ってる人多いと思うって…
レスが長過ぎてウザがられたりしてただけじゃん。(w
てかあやまってるし。
次の更新で気付いたらあやまるだろ?
キモイよおまえ…。
- 43 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/15(月) 19:07
- いやいや、明らかにボケでしょ。
最後に笑いのw付けてるじゃん。
フリもしっかりしてるし、分かれば最高に面白いのになぁ…。
それから、人を馬鹿にしたようなレスは、気分悪い。←42ね。
- 44 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/15(月) 19:57
- なんか荒れ気味だなぁ…
41もけっこう失礼だと思うんだけど、42の言い方もなんだよな。
>>43
ごめん、俺よく判んないんだけど…
ボケって41のレスがって事?
- 45 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 01:56
-
分かってる。悪いのは美貴たんじゃない。
だけど。だけどね。
もう少しあたしの話しも聞いてよ。
声が出なくなっちゃったんだからさ。
字を書くのは喋るより時間がかかるんだからさ。
せめて涙が止まるまで側にいてよ。
- 46 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 01:57
-
異変に気づいたのはその日の朝。
実家からかかってきた電話。
『もしもし亜弥ちゃん?』
(ん?何?)
少し寝ぼけてたから最初はうまく声が出ない
だけかと思った。
『もしもし?聞こえてる?』
(聞こえてるよ〜。)
口はパクパクと動く。
でも。
声が出ない。
堰を出そうと喉に力を入れる。
だけど喉からはぜぇぜぇと空気が漏れるだけ。
- 47 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 01:58
-
あたしまだ夢の中にいる?
そう思ったのを覚えている。
- 48 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 01:59
-
受話器の向こうでまだ何かを喋るお母さん。
あたしは一旦電話を切って、メールを打った。
『ごめん。風邪引いたみたい。声が出ない。』
頭の中はパニックだったけど、お母さんが心配すると
いけないから。
それから慌てて台所に行ってうがいをした。
何回も何回も。
だけどやっぱり声は出ない。
- 49 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 01:59
-
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
夢なら醒めて。そう願った。
あたしは無意識に携帯に手を伸ばし、
電話帳をスクロールする。
『美貴たん』
美貴たん。あたし変だよ、声が出ないよ。
喋れないよ。歌えないよ。恐いよ。今すぐ来て。
美貴たん。美貴たん。美貴たん。
音にならない声でそう叫んだ。
だけど聞こえてきたのは。
『只今電波の途切れた場所にあるか、電源が』
- 50 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 02:00
-
そこであたしの思考は遮断される。
この間美貴たんと会ったのはいつだろう。
声を聞いたのはいつだろう。
メールの返事がきたのはいつだろう。
思い出せない。
- 51 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 02:00
-
あたしはわけもわからず泣いた。
後から後から涙が出た。
どうしたらいいんだろう。
あたしは美貴たん以外あたしを助けてくれそうな人が
思い浮かばない。
他にもきっといるはずなのに、
浮かぶのは美貴たんの顔だけ。
笑ってる顔だけ。
助けてよ。どうして電話に出てくれない?
声を上げて泣きたいけど。その声が出なくて。
ただ大口を開けてあたしは泣いた。
その人の名を呼びながら。
- 52 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 02:01
-
その。温かい体温を思い出して。
- 53 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 02:01
-
その後のことはよく覚えていない。
誰かがしきりにインターフォンを押してて、
覗いたらマネージャーさんで。
気付いたら病院にいて。
『精神的なものだと思いますからなんとも・・』
『それじゃあ困るんですよ!』
そんな会話を、誰かと誰かがしていたような気がする。
- 54 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 02:01
-
たん。あたしはね。大好きなものを、
いっぺんに無くした気がしたんだ。
- 55 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 02:02
-
それから自宅療養を余儀なくされて、
あたしは一日中部屋の中から窓の外の空ばかり
眺めていた。
たまに美貴たんのことを考えた。
美貴たんがモーニング娘。に加入してからは
今までと違い、会う回数が極端に減った。
メールをしても中々返ってこない。
でもそれは仕様が無いと、ちゃんと分かってたから。
少しくらい寂しくても我慢しなくちゃ。
だって美貴たんも頑張ってる。
- 56 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 02:02
-
そう思って毎日あたしも頑張れたんだ。
たとえ寝る暇も無い程お仕事が重なっても。
喉がかれるくらいコンサートをこなしても。
頑張れたんだ。
笑っていられたんだ。
- 57 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 02:03
-
でも声が出なくなった。
そのことを美貴たんに言おうか言わないか随分迷った。
何度も携帯に手を伸ばした。
だけど。
あたしのことで美貴たんに負担をかけたくない。
心配をかけたくない。
そんなことを考えていた三日目。
美貴たんからメールがきた。
『亜弥ちゃん声が出ないって本当?』
- 58 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 02:04
-
あたしは少し焦った。何て返せばいいんだろう。
『誰から聞いたの?』
『本当だよ。美貴たん恐いよ』
『あの時電話したのになんで出てくれなかったの?』
どれも困らせそうなことばかり。
でも返信しないと、美貴たんに心配をかけてしまう。
それは嫌だ。だから。
『心配しなくても大丈夫!』
今思う、精一杯の本音を文字にした。
- 59 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/16(火) 02:04
-
でも、夜になってインターホンが鳴って。
覗き穴から美貴たんを見た時。
あたしはね。泣きたい位嬉しかったんだよ?
それが言葉に出せればよかったのにね。
- 60 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/16(火) 02:14
- 更新です。
>>40 名無し読者さん
Σ!!・・・・_| ̄|○
>>41 名無し読者さん
ごめんなさい凹
>>42 名無し読者さん
いえいえ、私が悪いので。。
>>43 名無し読者さん
本当にボケでもフリでも無かったんです(泣
>>44 名無し読者さん
Σ!荒れ気味なんだ・・_| ̄|○
せめて小説が良い作品になるよう努力します・・・・凹
ご迷惑おかけしました。
- 61 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/17(水) 01:22
- あまり小説以外のことでレスするのもよくないですよね。
作者さん、いつも更新楽しみにしてますよ。
無理しない程度に頑張って下さいね。
- 62 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:13
-
部屋に入っても美貴たんは何も喋ってはくれなかった。
くれなかった?
違うよね。あたしになんて言っていいか、
分からなかったんだよね。美貴たんは優しいから。
だからあたしはいつもみたいにおちゃらけてみせた。
そしたら笑ってくれると思ったから。
いつものように。あたしの大好きな顔で、
『何馬鹿なことばっか言ってんの亜弥ちゃん』
と、あたしの頭を撫でながら。
だけど笑ってはくれなかった。
美貴たんは、段々苦しいそうな顔になっていって。
そんな顔をさせている自分に腹がたった。
- 63 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:13
-
「亜弥ちゃんさぁ、いつから声が出ないの?」
やっと美貴たんが話しかけてくれた。
それだけで救われたような気分になるあたし。
でも現実を思い出して少し考えてから。
『すぐに治るよ♪』
美貴たんが来てくれたから。
美貴たんが心配して会いに来てくれたから。
だからきっと大丈夫。
そんな意味を込めてあたしはそう書いた。
- 64 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:15
-
病院に行ったのかと聞く美貴たんにあたしは
ありのままの正直に伝えた。
お医者さんに言われたことを。
でもその時、美貴たんの表情は一層険しいものになる。
「精神的なもの?亜弥ちゃん何か悩みごとでもあったの?」
『無いよ。無い無い』
予想外の質問に、あたしはつい大袈裟に反応してしまった。
- 65 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:16
-
「ねえ、美貴と亜弥ちゃんの間には隠しごと無しだよね?」
当たり前じゃない。と、大きく頷く。
「美貴と亜弥ちゃんは大親友だよね?」
何度も確認しあったことだから。又大きく頷く。
- 66 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:18
-
「じゃあどうして声が出なくなったって美貴に教えて
くれなかったの?」
え?
「いくら美貴が忙しくても、それ教えてくれたら飛んで来たよ?」
そう思ったからこそ言えなかった。
「ねぇ、美貴は亜弥ちゃんにとってそんな、
軽い感じの友達だったのかな?」
『違う!』自然と口が開いていた。
どうして?どうしてそんなこと言うの美貴たん。
あたしはパニックになってしまった頭の中を、
どうにかして整理しようとする。
- 67 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:19
-
「今日矢口さんに教わらなかったら、美貴は
ずっと知らないまんまだったのかな?」
今だ思考が混乱していて、何て言っていいのかわからなくて。
さっきの美貴たんの言葉だけがグルグルと頭の中を巡る。
「今日は帰るよ。お大事に。」
それは今までに聞いたことの無い位冷たい声だった。
そして美貴たんが立ち上がる。あたしは咄嗟にその
腕にしがみついた。
- 68 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:19
-
行かないで。行かないで。行かないで。
声が出ないことを呪った。
どんなに側にいてほしかったか、
どんなに美貴たんに会たかったか。
まだ伝えてもいないのに。
どうして帰ろうとするの?
あたしが悪い。あたしが悪い。
謝るから。ちゃんと全部話すから。
- 69 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:20
-
だからお願い。今だけは側にいて。
- 70 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:20
-
だけど美貴たんはあたしの腕をゆっくりと振り解く。
スローモーションのように。その行動がコマ送りに感じられた。
遠い遠い感覚の中で。
- 71 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:21
-
美貴たんがいなくなった部屋。
一人ぼっちになってしまった部屋。
やっぱりあたしは何もかも失ってしまったんだと。
歌えない。大切な人に大事なことも伝えられない。
そんな自分の何処に価値があるのかと。
- 72 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:22
-
歌が唄いたい。大好きな歌が唄いたい。
それは出来ない。
- 73 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:22
-
どれだけ美貴たんが大事か。
どれだけ美貴たんだ大好きか。
伝えることも出来ないなんて。
- 74 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:24
-
あたしは悪い子です。
一番大切な人を傷付けてしまいました。
いつも一緒に笑っていたかったのに。
いつまでも一緒に笑っていたかったのに。
神様。これは罰ですか?
- 75 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/17(水) 02:24
-
その日は結局一睡も出来なくて。
次の日は又一日中空を眺めて。
夕方になって夜になって。
気が付くとあたしは、マンションの屋上にいた。
- 76 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/17(水) 02:28
-
更新です。
どうやら短編にはならなそうな予感・・・
>>61 名無し読者さん
ありがとうございます。その言葉、凄く励みになります。
これからも頑張ります!
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/17(水) 11:47
- この先どーなる!?
あぁ…気になって仕方ない。
- 78 名前:つみ 投稿日:2003/12/17(水) 15:07
- ああ切ない・・・
あやみきの切ないのはホントに涙が出てくる・・
- 79 名前:エムディ 投稿日:2003/12/17(水) 15:44
- あぁ〜亜弥ちゃん(涙
続き気になります!
頑張ってください。
- 80 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:45
-
雨の中、美貴は走った。
傘も挿さずにずぶ濡れになりながら。
ごめんね。ごめんね。ごめんね。
美貴、自分のことばっかり考えて、
亜弥ちゃんに酷いこと一杯言ったよ。
誰よりも亜弥ちゃんが辛いはずなのに。
歌を歌えない痛みを、自分に置きかえることもせずに。
- 81 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:47
-
ごっちんに言われて初めて気が付くなんて。
どうして美貴に亜弥ちゃんが言わなかったのかを。
美貴、亜弥ちゃんの親友失格だね。
- 82 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:48
-
亜弥ちゃん。あんな風に笑ってみせなくても良かったんだよ?
泣いて、美貴にしがみつけばよかったのに。
声に出せなくても、助けてって叫べば良かったのに。
だけど。
それもさせてあげられなかった美貴が悪い。
- 83 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:50
-
大丈夫だと思ってた。
少し位離れても大丈夫なはずだと。
お互い分かり合えてると。
美貴は誰より亜弥ちゃんのこと理解していると思ってた。
なのに亜弥ちゃんはもう、美貴のことなんか
どうでもいいんだって。醜い嫉妬して。
本当に大馬鹿だね。おめでたいね。
- 84 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:51
-
怒られてもいい。
泣かれてもいい。
でも美貴が言わないで誰が亜弥ちゃんに言うんだ。
『声が出なくてもずっと側にいるから』
って。
- 85 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:51
-
おかしいかな?
恋人でもない、ただの友達がそんなこと言うなんて。
でも美貴にとって亜弥ちゃんはすごくすごく大事だから。
友達とか恋人とか家族とか。
そんな枠に収まらない位大切な存在だから。
だからね。大丈夫。
美貴がずっと側にいる。
- 86 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:52
-
いつの間にか頬を雨が濡らした。
でもそれは雨じゃなかった。
温かい。涙だった。
- 87 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:52
-
エレベーターを待つのがもどかしくて、
美貴は非常階段を駆け上がった。
息が切れる。喉の奥からはヒューヒューと音が鳴る。
でもそんのもおかまいなしに一気に亜弥ちゃんの部屋
の階まで走る。
息を整える暇も無く部屋のインターホンを押す。
早く顔が見たい。
早く抱き締めてあげたい。
- 88 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:53
-
だけど亜弥ちゃんは一向に出てはこなかった。
もしかして怒ってる?
急いでカバンから携帯を取り出してかけてみる。
部屋の中から聞こえるその音は、何故か美貴を不安にさせた。
ゆっくりとドアノブをまわす。
静かにドアは開いて。
「亜弥ちゃん?」
部屋の中には誰も居ない。
動機が早くなる。
なんだろうこの嫌な予感は。
- 89 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:53
-
美貴は部屋から出て途方に暮れる。
何処に行ったの亜弥ちゃん。こんな雨の日に。
振り返って自分が上ってきた階段を見据える。
ゾクリと寒気がして、何か予感めいたものに導かれ
美貴は階段を上った。
- 90 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/19(金) 01:58
-
更新です。
>>77 名無し読者さん
更に気になって下さいw
>>78 つみさん
これからもっと(ry
>>79 エムディさん
頑張ります!
- 91 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/19(金) 11:36
- なんとゆうか、小気味いいスピード感を感じます。
美貴帝、急げ!
- 92 名前:たか 投稿日:2003/12/20(土) 23:02
- 面白いです。不安な気持ちが伝わってきてとても良かったです。
美貴さ〜ん。急げ!!不安だ・・とても次が気になります。
でも作者さんのペースで頑張ってください。
- 93 名前:つみ 投稿日:2003/12/20(土) 23:21
- 急げ!幸せになれ!
- 94 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 01:51
-
眼下には、イロトリドリの世界。
ここは何処かな?
天国かな?地獄かな?
でもね。きっと。どっちでもいい。
もうあたしには何も無い。
- 95 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 01:52
-
ゆっくりと手すりに手をかけてみる。
あたしは何をしようとしているんだろう。
声が出なくなってまだ四日目じゃん。
例え歌を歌えなくてもきっと生きて行けるよ。
だけど『あの人』を失った。
- 96 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 01:53
-
姫路に帰ろうかな。
うん。それもいい。普通の女の子に戻ろう。
高校って今からでも入れるのかな?
おばあちゃんびっくりするかな?
だけど『あの人』とは会えない。
- 97 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 01:54
-
そして彼氏でも作って。
ラブラブでぇ。デートなんかしてぇ。プリクラ撮ってぇ。
ね、ほら、楽しそうじゃん。
だけど
『あの人』はいない。
- 98 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 01:54
-
ああ。もう。あの人あの人ってうるさいなぁ。
あの人って誰?誰のこと考えてるのあたし。
もしかしてあの、能天気で八方美人で目つきが悪い人のこと?
美貴たんのこと?
だってただの友達じゃん。友達なんて地元にも一杯いるじゃん。
これからだってたくさん出来るじゃん『友達』なんて。
- 99 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 01:55
-
だからさっ。忘れようよ。
もういいよ。どーせ嫌われたんだし。
掴んだ腕も振り払われたんだし。
ねぇ。もういいでしょ?
なのになんで、
泣いてるの、あたし。
- 100 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 01:56
-
なんで相変わらず美貴たんの顔しか思い浮かばないの?
上京して、初めて出来た仲のいい友達だからかな。
寂しかったり、悩んだりした時にいつも一緒に
いてくれた人だからかな?
優しく頭を撫でてくれるからかな?
そんなに大切?
お仕事よりも大切?
歌うことよりも大切?
- 101 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 01:59
-
はは。ごめんね。きっとそうだ。
美貴たんの馬鹿。
美貴たんの馬鹿。
美貴たんの馬鹿。
こんなにあたしが苦しいのに。恐いのに。寂しいのに。
どうしていてくれないの?
もう美貴たんなんてどうでもいいもん。
もうどっか行っちゃえ。
どうせあたしのことなんか嫌いになっちゃったくせに。
- 102 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 02:00
-
だけどほら、やっぱり側にいてほしい。
でもね。それももう出来ない・・・
- 103 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 02:01
-
だから『さよなら』
- 104 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/22(月) 02:01
-
あたしは手すりから身を乗り出してもう一度
イロトリドリの世界を覗く。
あそこに行けば少しは楽になれるのかな。
- 105 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/22(月) 02:05
-
更新です。
>>91 名無し読者さん
早いんだか遅いんだか、自分でも分からなくなってきました(汗
>>92 たかさん
ありがとうございます。マイペースに頑張りますw
>>93 つみさん
w
- 106 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/22(月) 10:26
- オイ!作者!!こんなとこで更新終わりだなんてあんまりじゃねえか!!!(怒)
なんで、どうかできるだけ速やかに更新お願いします(泣)。。。
- 107 名前:つみ 投稿日:2003/12/22(月) 15:38
- こんなところで更新終わりというのは本当に作者さんは罪なお方だ・・・
はやくその罪を重くしないために更新を・・・w
- 108 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/23(火) 01:50
-
「亜弥ちゃん!!」
その声は、叫びにも悲鳴にも似ていた。
雨に濡れてビショビショな彼女。
「亜弥ちゃん!!」
美貴はもう一度叫んだ。
- 109 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/23(火) 01:51
-
ゆっくりと振り返る亜弥ちゃん。
その両眼は虚ろで、美貴の心臓が一つ鳴る。
このまま亜弥ちゃんを失うのかもしれない。
ほんの一瞬、そんな考えが心の中に浮かんだ。
気持ちが悪くなった。
美貴は目を瞑る。ぎゅっと。
ウシナウ?
誰を?亜弥ちゃんを?
どうして?こんなに大事なのに?
なのにどうして失わなくてはいけない?
- 110 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/23(火) 01:52
-
美貴は唄っていた。
どうして唄っているのかわからない
何を唄っているのか、わからない。
ただ唄っていた。
雨の音にかき消されないように、
この声が目の前の彼女に届くように。
祈るように。願うように。
そしてそっと目を開ける。
- 111 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/23(火) 01:52
-
「美貴が唄うから。亜弥ちゃんの代わりに唄うから。
声を出すから。枯れるまで出すから。だから・・・」
もしも、神様が本当にいるのなら。
美貴が無くなっても、
この世から消えても、
「亜弥ちゃんは、いなくならないで。」
- 112 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/23(火) 01:53
-
好きとか嫌いとかじゃないんだ。
ただ、何でかしらないけど、『必要』なんだ。
- 113 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/23(火) 01:54
-
ゆっくりと亜弥ちゃんの方に歩み寄る。
亜弥ちゃんは相変わらず何も映さない瞳でそんな美貴を
凝視している。
やっぱり駄目か。ちゃんと証明しねくちゃ神様には届かないか。
亜弥ちゃんには届かないか。
- 114 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/23(火) 01:57
-
この気持ちが本当か。本物か。
偽善なのか真実なのか。
美貴は亜弥ちゃんに微笑む。
その、キツク手すりを掴む手に美貴は自分の手を重ねる。
少しだけその瞳が揺れる。
「大丈夫。大丈夫だからね。亜弥ちゃん。」
美貴は優しく亜弥ちゃんの頭を撫でる。
亜弥ちゃんは、音にならない声で何かを言った。
そして美貴は柵を飛び越える。
- 115 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/23(火) 01:58
-
恐くなんて無かったよ。
- 116 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/23(火) 01:59
-
だからね。神様。
亜弥ちゃんの声を、返しあげてね。
- 117 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/23(火) 02:01
-
更新です。
>>106 名無し読者さん
はい!速やかに更新してみました(敬礼
>>107 つみさん
軽くなったでしょうか・・・
- 118 名前:つみ 投稿日:2003/12/23(火) 09:47
- うわっ?!
藤本さ〜ん!!
次回がものすごく気になってねむれんな・・・
- 119 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 11:19
- 作者のいじわる…(泣)
- 120 名前:エムディ 投稿日:2003/12/23(火) 19:17
- んあ〜!!!なんで、なんで、藤本さ〜ん(涙)
すっっごく気になりますよ。
頑張ってくださいね。
- 121 名前:たか 投稿日:2003/12/26(金) 09:59
- おわ〜〜!!!どっどうなるんだ?
あの不安定な亜弥さんの気持ちは・・
藤本さんが来た事で亜弥さんはどう変わるのかな?
藤本さんの必死さが痛いほど伝わってきました。
- 122 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:47
-
その最後の微笑みはとても優しくて、
頭を撫でてくれたやわらかな感触に
あたしは、ただ、
嫌われてなくて良かった。って思ったんだ。
- 123 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:47
-
目の前には柵を隔てて美貴たんが立っている。
そして。
雨が降る。雨が降る。
- 124 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:48
-
美貴たん。何処行くの?
さっきまでは隣にいたよね。
でも、
あたしじゃなくて、美貴たんが。
あたしじゃなくて美貴たんが柵を飛び越えた。
あの、光の海の中へと飛びこもうと・・・
- 125 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:48
-
雨と風は容赦なく美貴たんの体を揺らす。
手を伸ばして美貴たんを捕まえなくちゃ。
早く早く早く。
でもあたしの体が言うことを聞かない。
だから
- 126 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:49
-
「いやぁあああああああ!!!!」
あたしは吼えた。
喉が潰れるかと思った。
「美貴たん!!嫌だ!!嫌だよぉぉ!!」
- 127 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:49
-
そして世界は、真っ暗になる。
- 128 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:50
-
アヤチャン
遠い意識の中。誰かがあたしを呼んでいる。
アーヤチャン
心地の良いその声。
オキテヨ
ん。でもまだ眠いんだよ。
モウッ、イイカゲン オキナイト ヒッパタクヨ
それはこまりますよ。これでも松浦はアイドルなんだから。
- 129 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:50
-
ゆっくりと意識が覚醒する。
そこには、大好きな顔。
「み・・・きた・・・・・ん?」
この人があたしの一番大好きな人。
- 130 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:51
-
「おっ。起きた。」
あたしは膝枕をされているその人の頬に無意識に触れる。
その人は優しく微笑む。
ああ、そうか。きっとここは天国。
- 131 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:51
-
「美貴・・・たん。天国ってちょっと寒い・・・」
美貴たんは突然あたしの頬をつねった。
「なぁーに寝ぼけたこと言ってんの。ここは天国
なんかじゃあ無いよ。」
美貴たんは微笑んだままそう言った。
「あんたが気ぃ失ってどーすんの。」
あたしの美貴たん。
「でもごめんね。ちょっと荒療治だったかな?」
- 132 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:52
-
ねぇ。美貴たん。
「だけどさぁ、これしかないって思ったんだ。」
こんな『言葉』なんかじゃ全然足りないけど。
「でも神様ちゃんとお願い聞いてくれたから結果オーライってことで。」
大好きだよ。
「亜弥ちゃん?」
ずっと側にいてね。
- 133 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/28(日) 01:52
-
だい・・・す・・・
あたしの意識は再び途切れた。
- 134 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/28(日) 01:58
-
更新です。
>>118 つみさん
これで寝れるようになったでしょうか?(笑)
>>119 名無し読者さん
泣かないで下さい・・・(泣)
>>120 エムディさん
ありがとうございますw
>>121 たかさん
こんな感じになりました。
- 135 名前:つみ 投稿日:2003/12/28(日) 10:25
- 少し荒っぽすぎではw
しかしどうやったんでしょう?
そのへんも楽しみにしてます!
- 136 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 01:59
-
「それで?」
矢口さんは幾分怒ったよな口調で話の先を促す。
「ですからぁ〜。美貴が屋上から飛び降りようとした時に亜弥ちゃんの声
が出たと。目出度し目出度し。」
途端矢口さんが美貴の頭を激しく打つ。
「いってぇー・・・。」
手加減無し。無慈悲な矢口さんに抗議の視線を向ける。
「あなたは馬鹿ですか?大馬鹿ですか?何だよ
飛び降りようとしたって!何だよ!」
- 137 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:00
-
涙目の矢口さん。
「んー。なんか美貴にもよくわかんないんですけどぉ。
火事場の馬鹿力ってやつですか?」
又頭をスパーンと叩かれた。
「おまえ死ぬとこだったんだぞ?!松浦はただ、声が
出ないだけで・・・」
「でもウチ等にとっちゃあ死んだもどうぜんでしょ?」
これはごっちんのうけうりだけどね。
- 138 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:01
-
「あのですねぇ。美貴は」
バターンと大きな音を立ててドアが開く。
「美貴たぁーーーーん!!!」
ピンク星人松浦亜弥登場。
そのまま美貴の首にしがみつく。
「おぉ亜弥ちゃん今日も元気だねぇ〜。」
「うん。もう絶好調で困っちゃう。ニャハ。」
これが昨日まで声が出なかった人間かぁ?と、
矢口さんは頭を掻いた。
「あ、矢口さん。こんにちは〜。」
「って、今気付いたのかよ?!」
- 139 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:01
-
てへっ。っと可愛く舌を出した亜弥ちゃんは
コツンと矢口さんに小突かれる。
「あ、もう行かなくちゃ。又ね、美貴たん。」
ひらひらと手を振る亜弥ちゃんに美貴も笑顔で
手を振り返す。
「君達オイラのこと忘れすぎ・・・。」
矢口さんはがっくりとうな垂れた。
- 140 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:04
-
長いため息の後、矢口さんがおもむろに言った。
「つーかさぁ、松浦の声が出なくなったのって
きっとあんたにも責任あんじゃない?」
「え?」
亜弥ちゃんの声の原因?そういえばちゃんと
考えたことなかったな。
「どういう事ですか?」
「あいつさぁ、ソロじゃん?一人じゃん?ウチ等は
グループじゃん?15人じゃん?」
何を今更と、美貴は思う。
- 141 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:06
-
「仕事のストレスとかってきっと松浦にもあると思う。」
そこで美貴はハッとする。
「あいつあー見えて実は中々他人に心開かないっていうか、
壁を作るっていうか。」
どうしてなんだろう。
周りの人達は、ごっちんにしろ矢口さんにしろ
亜弥ちゃんのことをちゃんと見ている。
それに比べて美貴は・・・
「でも娘。に入って忙しいミキティには言えない。
あいつ前はさっきみたいに楽屋まで来るっての無かったじゃん。」
- 142 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:07
-
『少なくとも後藤にはまっつーの気持ちが
分かる。今のふじもっちゃんよりもね。』
ごっちんの言葉を思い出す。
- 143 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:08
-
「これからはさっ、少しでいいからさ。松浦かまってやりなよ。
ってオイラが言うのはおかしいか。」
照れたように笑う矢口さん。
美貴にはこんな温かい人達がいつも側にいる。
でも亜弥ちゃんは・・・・
- 144 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:11
-
「美貴は。あの時。屋上から飛び降りようとするふりを
した時、美貴のことが大切ならきっと声を出してくれる
はずだって。そんなこと考えてたんです。」
矢口さんが真顔になって美貴を見ている。
「美貴。なんか馬鹿みたいですよね。自意識過剰ですよね。」
結局美貴は自分のことしか考えてないんだ。
そんな自分が情けなくなった。
- 145 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:13
-
「ああ。うん。でもそれでいいんじゃない?間違えてないよ。」
うつむいていた顔を上げると、
矢口さんは優しく笑っていた。
「だってそん位松浦のことに自信あったんでしょ?
あの子が大事だったんでしょ?」
そう言って矢口さんが美貴の頭をゆっくりと撫でる。
なんだか。許されているような気がした。
「矢口さ」
- 146 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:14
-
バターーーーンと再び大きな音を立てて、
再度乱入松浦亜弥。
「あああああ!!!美貴たんが浮気してるぅぅぅ!!!」
そしてあろうことか美貴と矢口さんの間にダイブ。
「うわぁぁ!!」
「ちょっ!亜弥ちゃん、痛いって!!」
「美貴たんはあたしのぉぉぉ!!」
- 147 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:15
-
亜弥ちゃん。大丈夫。
これからも亜弥ちゃんの側にいるよ。
ずっとずっと一緒だよ。
例え又。その声が聞けなくなったとしても。
- 148 名前:Silent Voice 投稿日:2003/12/29(月) 02:16
-
END
- 149 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/29(月) 02:20
-
完結です。短編のはずがダラダラと中と半端な話しになってしまいました(汗)
今までレスを下さって皆様、感謝しております。一応このスレをちゃんと
埋めるようにとは考えているので、よかったら又見てやって下さいw
>>135 つみさん
なんだかわけのわからない話になってしまって申し訳ありません凹
これからはもうちょっと精進したいと思います。ありがとうございましたw
- 150 名前:あやみき信者 投稿日:2003/12/29(月) 04:47
- お疲れっちゅ☆
声でなくなるって話は結構あるけど、ラストの場面は想像力をフル稼働させて
読むととっても味のある文章だったと思います。何回か読み返してみてやっと
少し理解みたいな感じで、いい文章だったです^^
(↑言葉が足りないとかじゃなくて良い意味でですよ^^;)
あやみき信者としては、こんなストレートなスレ名だとやっぱり
期待しちゃいます★
来年もよろしくおねがいしまっす(ペコリ)
- 151 名前:つみ 投稿日:2003/12/29(月) 09:14
- おいしくいただきました!
あやみきが一番おいしくいただけるCPです!
- 152 名前:たか 投稿日:2003/12/29(月) 11:12
- 面白かったっす。藤本さんのあの行動は亜弥さんを
信じているからこそできた行動だと思うんで
ある意味幸せな二人だなぁと感じました。ラストとかも
藤本さんの前向きな考えで、いい雰囲気な終わり方で
とてもいい話だったと思います!!また期待しております!!
- 153 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/30(火) 19:24
-
レスありがとうございます。
>>150 あやみき信者さん
久しぶりに文章を書いたんで、なんだか今イチ満足出来ない
作品になってしまいました。どうにか次の話しで挽回したいものです。
>>151 つみさん
お粗末さまでしたw
>>152 たかさん
期待に応えられるように精進します。
それでですねぇ、次の作品は暗くて痛い話なので、
苦手な方はスルーして下さい。前作より更新ペース落ちかも
しれませんがマッターリ待ってくれると嬉しいかぎりです。
挙句又短編じゃなくなりそうな予感・・ではでは・・・
- 154 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/30(火) 19:25
-
皆、死んでしまえばいいのに。
- 155 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/30(火) 19:25
-
あまりの体の重さに耐え切れなくて、
どさりと路地裏のゴミ置き場に座りこんだ。
乱れた息を整えようと、深呼吸する。
ここは何処だろう。
重い瞼を開け、空を見上げる。
そこは灰色一色だった。
だけど
綺麗だな。って思った。
青空なんかより全然素敵だ。
少しだけ笑いたくなったから、
少しだけ笑った。
- 156 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/30(火) 19:26
-
自分の境遇を呪うわけでは無い。
同じような人間はこの世にごまんといるだろう。
食べ物も無く、飢餓で苦しむ人達。
戦争に巻きこまれてあっという間に死んでしまう人達。
そんな人達に比べれば全然マシなはず。
でもこんなに苦しいのは、辛いのはきっと、
自分が弱いから。
呪うべきものは自分。
- 157 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/30(火) 19:26
-
ふと視線を下げると、真紅に染まる両手が見えた。
ドス黒く、てらてらと光るそれは、
誰かの舌を連想させる。
「ぐっ。」
何も入っていないはずの胃の中からせり上がる不快感。
このまま地獄に落ちるのかもしれない。
それでもいいと思った。
その方がきっと幸せなんだと思った。
- 158 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/30(火) 19:27
-
生まれてこなけりゃ良かった。
- 159 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/30(火) 19:27
-
何を恨んでいいのか分からない。
誰を憎めばこの汚い場所から立ち上がることが出来るのか。
まぁいいや。どーせこのまま死んじゃうんだし。
最後だからさ。いいでしょ?自分の短い人生憐れむくらい。
アーメン。
- 160 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/30(火) 19:28
-
「すみませぇ〜ん。そんなところで寝てると風邪引きますよぉ〜?」
- 161 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/30(火) 19:28
-
あの時。
あの、腐臭すらした場所で。
どうして見つけられたのかな。
- 162 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/30(火) 19:28
-
それが『救い』だったのか『慈悲』だったのかは知らない。
今でも分からないんだよ。
ごめんね。
- 163 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/30(火) 19:32
-
更新です。
- 164 名前:つみ 投稿日:2003/12/30(火) 22:23
- おお!
新作来ましたね!
こんどはすこしシリアスな感じからですか〜!
楽しみにしてます!
- 165 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:44
-
嫌な夢を見ていたような気がする。
幸せな夢を見ていたような気がする。
どっちでもいいと思った。
- 166 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:47
-
鼻をくすぐるいい匂いに重い瞼をゆっくりと開ける。
カーテンから挿しこむ優しい光。
温かいベット。真新しいパジャマ。
桃色のカーテン。
自分はまだ夢の中にいるんだと納得した。
だから安心してゆっくりと体を起こす。
こんな生活をずっと夢見ていた。
あの薄暗い部屋や、一様に死んだ魚のように見開いた目を
持つ子供達。
そこには希望も光も祈りも救いも存在しない。
- 167 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:47
-
半分起こした体を伸ばしてみる。
キシキシとあちこちが痛んだ。
「つっ。」
この痛み。どうやら夢ではなさそうだ。
自分の体をきつく抱き締める。
これはずっと前からの癖。
誰にも抱き締めてもらったことの無い自分の、
哀しい癖。
だけどなんだこの部屋は、
あそこなら放置されて死ねるって思ったのに。
楽に凍え死ねるって。
- 168 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:48
-
「あ、起きた!」
突然のことに思わずベットから飛び起きる。
「誰?!」
意識の無い間にすでに連れ戻されたのか?
そんな考えが頭をよぎる。
目の前には見知らぬ少女。
体から蒸気が噴出しそうだった。
- 169 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:48
-
「いやぁ〜ん。こっわーーーいぃ。」
両手を口元にあてやけに大袈裟な振るまいに呆気に
取られてしまい、体から力が抜けていく。
恐いと言うわりに楽しそうな口元。
なんだこいつは。でも『あそこ』の人間ではなさそうだ。
一先ず安堵する。
「あんた、誰?」
どさっとベットに座り込み、髪を乱暴に掻き上げながら聞いた。
「ブーーー。不正解!!」
目が点になる。
そして目の前の少女はビシッと人差し指を付きつけた。
- 170 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:49
-
「ダメですっ。やり直し。なってません。人の名前を
聞く時はまず自分から!!それにあなたキレイにするの、
もの凄く大変だったんだからね!あのままだったら
死んじゃってたんだからね!」
そしてニコリと笑った。
その笑顔は昔絵本の中で見た天使によく似ていた。
- 171 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:49
-
「はいっ。じゃあ、やり直し。あなたのお名前なぁんてぇーの♪」
拳をグーにしてマイク代わりなのか目の前に付きつける。
そういえばあの時は酷く汚れていた気がする。
何日もお風呂に入っていなかったし、
それに、奴の返り血を浴びて・・・
再び相手への警戒心が募る。
「あんた。何者?」
- 172 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:50
-
どう考えてもおかしいこの状況。
この部屋の雰囲気に押されて感覚が麻痺してしまったせい
だろうか。
「もぉ、あなた失礼すぎ!あたしにはちゃんと『亜弥』って
名前があるんですからね!!・・・っあ。自分で言っちゃった。てへっ」
その仕草に又も気勢がそがれる。
なんなんだこいつは・・・もうわけが分からなくなってきた。
「まぁそんな所も可愛いでしょ?なぁ〜んちゃってぇ〜。」
そう言いながら肩をバシバシと叩かれた。
「痛い。痛いって!わぁかった。わかったから。」
もう何もかもどうでも良くなってきた。
「美貴だよ。」
「え?」
肩を叩く手が止まる。
- 173 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:50
-
「藤本美貴。」
多分美貴はそうとう膨れっ面してたんだと思う。
だけど彼女は又、ニコリと笑った。
「んじゃ。」
そう言って立ち上がりかけた美貴の肩をドンと押した。
「ちょっ、何すん」
「メッ!」
ふいをつかれて崩れるようにベットに転がった美貴を
ぷぅと両頬を膨らませて見下ろす少女。
「駄目ですっ。」
又駄目出しかよ。今度は何なんだ一体。
- 174 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:51
-
「まだあなたの服乾いていません!」
そう言って指を挿した方向には美貴の服と・・・
「あ、あんた・・・下着まで脱がせたの・・・」
「又あんたって言ったぁ!ちゃんと名前で呼んで下さい!」
「あぁぁもぉぉーーーー。」
頭をぐちゃぐちゃと掻く美貴を、
少女は『亜弥』は楽しそうに笑って見ていた。
- 175 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2003/12/31(水) 16:51
-
その笑顔の裏側は、痛みと悲しみで一杯だったなんて
美貴はその時、気付きもしなかったよ。
ごめんね。
- 176 名前:スケルトン 投稿日:2003/12/31(水) 16:54
-
今年最後の更新です。皆さん良いお年を
>>164 つみさん
ひっそりこっそり始めてみましたw
- 177 名前:つみ 投稿日:2003/12/31(水) 16:58
- なにか裏がありそうな感じ・・・
世話焼きのまつーらさんいい・・
- 178 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:17
-
「あのさぁ。美貴のこと恐くないわけ?」
広いキッチン。テーブルの上には花瓶に入った一本のヒマワリ。
そこで美貴は、用意された朝食をガツガツと食べる。
ご飯に焼き魚に味噌汁に卵焼き。
こんなまともな食事を取ったのは久しぶりだったから、
つい何杯もおかわりしてしまった。
「おいしそうに食べるんだね。」
もうすでに食べ終わり、お茶をすすっている亜弥は
ニコニコと美貴を見ている。
- 179 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:18
-
「つーか、あんた美貴の顔見すぎ。
そして話聞かなすぎ。」
「あ、又あんたって言ったぁ。」
笑ったり膨れたり亜弥の顔は忙しそうだ。
それに比べて美貴は、一体どの位笑っていないだろう。
ちゃんと笑った記憶など遠い記憶の彼方に埋もれてしまっている。
「名前はね、凄く凄く大事なものなんだよ?
あたしにとっては『存在』の証なんだ。」
その時瞳がかすかに揺れたのは、美貴の気のせいだろうか?
「そんなもんなの?」
「そんなもんなの!」
- 180 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:18
-
そっぽを向く亜弥に、少しだけなら譲歩してもいいと思った。
「んじゃあ、もう一回聞くけど、美貴のこと
恐くないの?『亜弥』ちゃん。」
皮肉にも似た声音で言ったのに。亜弥は、
「はいな♪」
それまで見たこともない嬉しそうな顔で振り返る。
- 181 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:19
-
「恐くないの?あれ、絵の具とかケチャップとかじゃ無いよ?
本物の血だったんだよ?」
ちゃんと鮮血を示唆したつもりだったが、
それでも嬉しそうな表情は崩れない。
「もしかしたら美貴。すっごく悪い人かもしれないよ?」
なんでわざわざ自分でこんなことを言わなくてはいけないのか、
本当に調子が狂う。
「恐くなんかないよぉ〜。これでもあたし人を見る目
あるんだ。どーだ。まいったか。」
腰に手を当てながら自慢気に言う亜弥。
いやいやそういうことじゃあ無いから。
知ってるでしょ?あれ、美貴の血じゃないんだよ?
あれは・・・・
- 182 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:19
-
鼓膜が破れる程の悲鳴。
真っ赤に染まる両手。
伸ばされた薄汚い手。
- 183 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:20
-
「どうしたの?大丈夫?」
はっとして顔を上げる。そこには心配そうな亜弥の顔。
誤魔化すように視線を逸らした。
「あのさぁ、美貴たん。」
「美貴たん?」
思わず逸らした視線を亜弥に向ける。
「もし行くとこ無かったら暫くここで寝泊まりしていいよ。」
「なっ」
「あ、帰ることあるなら別だけど。」
そういう事じゃ無くて。
- 184 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:21
-
「あんた、何言ってんの?親とかに何て言うの?」
「ぶぅ、又あんたって言ったぁ。」
「だからそれはもう」
「あたし一人暮らしだから。」
こともなげにそう言い放つ。
一人暮らし?
このだだっ広いマンションに一人暮らし?
そんな馬鹿な。
「だってあん・・亜弥ちゃんまだ未成年でしょ?」
これで実は25でぇ〜す。って言われたらどうしようかと
思った。
- 185 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:22
-
「色々さっ。事情があんだよあたしにも。」
どうやら未成年というのは間違えてはいないらしい。
「でもそんなわけにはいかないよ。美貴、お金持ってないし。
働いてもいないし。だから服が乾いたら帰るよ。」
少し翳るその表情。
「お金なんかいらないよ。美貴たん。帰る所あるの?」
そんな所あるはずが無い。
生まれてこのかたそんな場所を見つけたことは無い。
だけど・・・
「あるよ。」
美貴は嘘を付いた。
そうでも言わないと本当に帰してもらえなそうだったから。
「そっか。」
それ以上は何も言わない。何も聞かない。
二人の間に沈黙が訪れる。
- 186 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:22
-
さっきまではうるさい位喋ってたくせに、
今はしゅんとうな垂れている。
何故か無償に亜弥の笑顔が見たくなった。
馬鹿げてるとは思ったけれど。
- 187 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:23
-
「つーかさ。夕食が焼肉なら少し居てもいいよ。」
ぼそりと箸を口にくわえたまま言った。
「え?」
きょとんとするその顔。
まだ笑ってはいない。
「美貴。焼肉食べたい!」
途端にぱっと明るくなるその表情。
部屋の中さえも明るくなったような気がした。
「了解!」
ビッ。と美貴に敬礼する亜弥ちゃん。
- 188 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:24
-
「ぶっ。何だよそれ。」
思わず噴出してしまう。
「あ、美貴たんが笑ったぁ〜。」
ひどく心地のいいその空間に、美貴は凍った心を少し溶かした。
そして二人の、奇妙な共同生活が始まる。
- 189 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/03(土) 17:26
-
温かく優しいあの部屋を
美貴は決して忘れたりしないだろう。
いつまでもいつまでも。
永遠に。
ごめんね。
- 190 名前:スケルトン 投稿日:2004/01/03(土) 17:29
-
更新です。明けましておめでとうございます。
>>177 つみさん
いつもレスありがとうございます。今年も宜しくお願い致しますw
- 191 名前:つみ 投稿日:2004/01/03(土) 23:57
- いい雰囲気になってきましたね〜!
藤本さんも素直にねぇ・・・
松浦さんにはやはり何かがありそうな感じで・・
次回もまってます。
- 192 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/07(水) 19:17
- 続きが読みたい続きが読みたい続きが読みたい続きが読みたい続きが読みたい
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- 193 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/07(水) 19:28
- ハァハァ…失礼しました
- 194 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 01:49
-
「ねぇ、どうして美貴たんってそんな目つき悪いの?」
「生まれつきだから。」
「ねぇ、どうしてみきたんネギ嫌いなの?」
「草の味がするから。」
嬉々として喋る亜弥ちゃん。
つっけんどんに返す美貴。
そんな会話が繰り返される毎日。
だけどプライベートな質問はしてこない。
- 195 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 01:52
-
亜弥は美貴にちゃんと部屋を一つ用意してくれて、
ノック無しに入ってくることもなかった。
机もある。
ベットもある。
テーブルもある。
生まれて始めての一人部屋。
その中での奇妙な違和感は、否応無しに美貴を襲う。
- 196 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 01:59
-
『亜弥』という人間性を美貴は何一つ知りたいとは思わない。
『亜弥』は『美貴』の中のパーソナリティを何一つ知りたがらない。
全ては非現実。
- 197 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 01:59
- 顔は可愛い方じゃないかと思う。
性格は優しい方なんじゃないかと思う。
広いマンションに住んでいる。
そしてまだ十代。
こんな奇妙な共同生活の中で、安心して過ごせると思う?
答えは『NO』
- 198 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 02:00
-
亜弥の『日常』なら、少し把握する事は出来た。
毎日深夜に帰宅する。
時には大量のアルコールを浴びてベロベロになって帰って来る。
お金には困っていない。
これだけで普通(美貴が考える普通)な人達(美貴が考える、
温かく平均的な家庭の子)とはかけ離れていた。
本で読んだ通りじゃないんだね。
『理想』って
『現実』って
でも所詮そんなもんなのかもしれない。
綺麗な幻想は儚い空想でしかないんだ。
- 199 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 02:01
-
「美貴たん♪」
そう言って真っ白なシーツをベランダで干して広げてみせる。
「美貴たん今日何食べたい?」
眠そうな目を擦りながら寝起き一番問う。
本当にあんた何者?
美貴を拾って、ここに住まわせて。
自身のことは何も話そうとしない。
まぁ美貴も同じだけど。
何が望み?何が切望?
- 200 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 02:02
-
まぁそんなことはどうでもいいか。
美貴は美貴で人探しに昼夜飛びまわってる。
この広い街で、
亜弥に拾ってもらわなければ、
あの時警察にでも見つかっていれば、
美貴はもう駄目だったに違いない。
でもね。美貴はあんたなんて信用なんてしてないからね。
今は取りあえず都合がいいからココに居るんだよ?
『人は利用し利用される』
今まで生きてきた中での唯一の教訓。
ケセラセラ。
おお、マリア。
成るようになれ。
どうせ安住の地なんて何処にも無い。
- 201 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 02:03
-
その日も亜弥は遅くに酔っぱらって帰ってきた。
いつもはまっすぐ寝室に行くのに、
その日に限ってテレビを見ている美貴の部屋にノックも無しに入ってきて、
「みっきたぁ〜〜ん。」
甘えるような声で美貴に抱きつく。
「ちょっと何だよ突然。」
正直あせった。今まで誰かに抱きつかれたことなんて
無かったから内心動揺してしまう。
アルコール臭いその息が美貴の首筋に掛かる。
「うにゅ〜。」
人の体温。
美貴とは違う温度。
- 202 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 02:05
-
亜弥は巻きつけた腕により一層力を込める。
「毎日・・・・・だよぉ・・・・」
「はっ?」
「毎日・・何処・・行ってんだ・・・よぉ」
美貴は軽く舌打ちした。
「何?美貴のこと実は監視してたの?だったら」
ここを出て行こう。
もう誰かに飼われるなんてまっぴらなんだよ。
「違・・・っ」
「だったら何?」
酔っぱらって潤んだ瞳で美貴の目の中を覗くように見ている。
今にも泣き出しそうな顔で。
チクリと胸が痛んだ。
- 203 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 02:11
-
「あた・・しは、ただ・・・美貴たんと・・・・・」
『人は利用し利用される』
こいつも同じムジナの人間か。
でも美貴は利用されるのはご免なんだよ。
もう、二度と。
こいつはあたしの体目当てなんだなって
思った。それならば合点がつく。
美貴に恩を着せて利用するつもりだったんだ。
期待に添えなくてごめんね。
確かに居心地は良かったけど。
あんたなんか大嫌い。
- 204 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 02:15
-
「悪いけど美貴は」
ぶん殴ってやろうか、
罵詈雑言を浴びせようかどっちにしようか迷いながら
言葉を紡いだ。
なのに亜弥に巻かれた腕に力が込めらて、言葉が一瞬だけ詰まる。
「友達にな・・・りた・・・い・・・」
「はぁ?」
「友達・・・・に・・・・」
トモダチ?
予想だにしていない言葉に困惑する。
- 205 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 02:19
-
トモダチって何?
何言ってるのこの人?
パンク寸前の頭の中、亜弥は少し笑う。
痛い位完璧な笑み。
「美貴た・・・ん温った・・・かい・・・」
「ちょっと、亜弥ちゃん。」
見ると亜弥は深い眠りに着いていた。
美貴に抱きついたまま。
その顔は安心しきったように口元を緩めて。
- 206 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/08(木) 02:20
-
寂しかったんだよね。
ずっとずっと。
折角美貴が唯一名前を呼んであげられる人だったのに。
美貴そん時荒んでて、ココロが一杯一杯で、
ちゃんと亜弥ちゃんのこと考えてあげること出来なかったんだ。
ごめんね。
- 207 名前:スケルトン 投稿日:2004/01/08(木) 02:23
-
更新です。
>>191 つみさん
更新遅くてごめんなさい。期待に応えられるよう頑張ります。
>>192、193 名無し読者さん
嬉しいですw
- 208 名前:つみ 投稿日:2004/01/08(木) 11:21
- いろいろな事情があるのですね〜
切ないあやみきだ・・・
- 209 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/09(金) 00:24
- 明日から大学なのにより一層切ない気分に…。
- 210 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 01:52
-
美貴は俗に言う私生児だ。
母親は美貴を生んだ産婦人科に美貴を置き去りにして
姿を消した。
どんな思いで生まれたばかりの我が子を捨てて行ったのか、
勿論美貴は知るよしも方法も無い。
今更会いたいとも思わない。
その人(まぁ美貴にとっては母親か)もその人で事情があったのだろう。
- 211 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 01:54
-
だけど問題はその後なんだ。
あの時病院が、ちゃんとした所に美貴を預けてくれたら、
ちゃんと警察を呼んで対処してくれたら、
本当に今更言っても仕方無いことなんだろうけど。
美貴はこの手を真っ赤にしなくても済んだのに。
- 212 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 01:56
-
ビカビカと光るネオン街。
眠らない街は今日も静寂を知らない。
もう何日もこうやって徘徊している。
この街はあまりにも人が多い過ぎて、
もしかしたらあの子を見つけられないのかもしれないという
不安が何度も胸をよぎる。
でも今の美貴に出来ることは他には無い。
すべき事も思い浮かばない。
だから今日もブラブラと街の中を歩く。
とにかく何も考えたくない。
- 213 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 01:58
-
いつのまにかネオン街を外れて薄暗い通りに出ていた。
考え事をしていたせいか。
いけないいけない。こんなんじゃあ目の前をあの子が
通ったって見過ごしてしまう。
美貴は意識を現実に戻して周りを見渡す。
その時、少し距離を置いて、向こうによく知る人の顔が
視界に入った。だけどそれは美貴の探し人じゃない。
こんないかがわしい場所には相当不釣合いな人物。な、筈。
- 214 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 01:59
-
あれは、亜弥ちゃんだ。
亜弥が男に手を引かれて歩いていた。
それはいつも見ている亜弥とは違って、
美貴は何かいいようの無い違和感にさいなまされた。
最初は亜弥の彼氏なんだと思った。
だけどそれにしては様子がおかしい。
亜弥は明らかに嫌がった表情を見せていたし、
相手の男は中年で、到底亜弥とは釣り合わないような
容姿をして不快そうな亜弥には反比例し、嬉々として
軽快に足取りを運ぶ。
でも美貴には関係の無いこと。
亜弥ちゃんには亜弥ちゃんの人生がある。
美貴は他人に関わっている暇などない。
亜弥ちゃんがどんな日常を送っているかなんて
自分には関係無い。
- 215 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 02:00
-
くるりと踵を返し、人ゴミの中に消えようとした。
『友達にな・・・りた・・・い・・・』
数日前の奇妙な晩の出来事。
痛みにも寂しさにも似たその呟きが脳裏をよぎる。
次の日何もなかったかのように、
『美貴たん、今日は天気がいいね。』
そう言った亜弥の顔には一点の曇りも無かった。
憶えているのかいないのか。
その時はどっちでも良いと思った。
- 216 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 02:01
-
なのにこんな時に思い出さなくても。
歩く足を止め、回れ右をして走る。
もしかしたら亜弥ちゃんはあの男に誘拐されそうなのかもしれない。
あの男は亜弥ちゃんのストーカーなのかもしれない。
自分の中でいくつかの言い訳を作る。
馬鹿じゃないの美貴。ちょっとだけ笑いそうになった。
だってほら、今亜弥ちゃんが誘拐されたら美貴が困るし・・・ね。
- 217 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 02:02
-
「あ、れぇ〜。何でこんなとこにいんの?超久しぶりじゃん。」
およそ自分だとは思えない口調で話しかける。
当たり前だが驚くように振り帰る二人。
「え?彼氏?なあんだぁ〜お邪魔だったぁ?ごめんね。」
それで何も言わなかったら、笑いながら『そうだよ』って
亜弥ちゃんが言ったら美貴は笑ってバイバイするつもりだった。
そっちの方が良かった。そっちの方が美貴には都合が良かった。
なのに亜弥ちゃんはすがるような視線を美貴に向ける。
- 218 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 02:02
-
「な、なんだ。お前。」
初対面の人間になんだお前ってそりゃあちょっと失礼なんじゃない?
美貴のこめかみがピキリと音をたてる。
「あぁ?おっさんこそ誰だよ。」
「おおおお前は」
美貴はその襟首を掴んだ。
眼力には自信があんだよね。美貴。
「さっきからあんた、かなり失礼だねぇ。」
「ひっ」
「どーせロクな生きかたしてないっしょ?」
- 219 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 02:03
-
あんたきっと欲望を汚いやりかたで処理するでしょ?
あんたはきっと金さえあればこの世の勝者になれるとでも思ってんでしょ?
そうゆうのもこの世界じゃあ当たり前なんだっ。って。
普通はそんな風に甘受するのが正当なの?大人なの?
あいつみたいに。
だったら『正当』も『大人』もクソくらえ。
美貴にはそんなん理解出来ない。
これって偏見?
- 220 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 02:04
-
ガタガタ震えだした男を突き飛ばして一睨をきかせる。
周りに人がいないことに感謝するんだね。
「悪いけどこいつさ、大事な友達なんだよ。だから今度こんなこと
したら・・・」
その耳元に口を寄せる。嫌な匂いがした。
「殺すよ?」
- 221 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 02:08
-
勝手に『こんなこと』って言っちゃったけど、
なんだろうね、『こんなこと』って。
大事な友達?亜弥ちゃんが?
そんなん一度も思ったことなんてなかったのに。
なんでそんなこと言っちゃったんだろうね?
でもあの縋るような視線が、何故か美貴には
『助けて』って言ってるような気がしたんだ。
- 222 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 02:08
-
馬鹿じゃないの美貴。
美貴は亜弥の手を半ば無理矢理掴んで又、走った。
馬鹿なんだよね、きっと。
- 223 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/12(月) 02:13
-
その時は無意識だったんだ。男の前で、
亜弥ちゃんの名前を言わなかったのも、
美貴が自分の名前を口にしなかったのも。
無意識にきっと分かってたんだね。
名前を教えていいのは特別な人にだけ。って。
でもそれを理解するのはもっとずっとずっと後でだっから。
ごめんね。
- 224 名前:スケルトン 投稿日:2004/01/12(月) 02:15
-
更新です。
>>208 つみさん
色々事情があるのです・・・(涙
>>209 名無し読者さん
頑張れ!(笑
- 225 名前:つみ 投稿日:2004/01/12(月) 13:39
- あう・・
少し大人な松浦さんですね。
藤本さんの過去もよりいっそう気になってきました。
- 226 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:31
-
やみくもに走って、走って、気が付けば見知らぬ公園。
息の荒い美貴と亜弥ちゃん。
酸素不足で眩暈すらする。
取りあえず繋がれたままの手を引っ張り近くのベンチに座る。
今だその息は荒い。
ベンチに座りながら空を見上げる。
真っ暗な空に光る少ない星達。
なんだか感傷的な気分になった。
そのまま暫くじっとしている。
- 227 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:32
-
「美貴た・・・ん」
呟くような言葉に、美貴はゆっくりと視線を落とす。
「ん?」
ようやく息も整ってきた。
亜弥ちゃんは下を向いたままその繋がれた手に力を込める。
「美貴たん。美貴たん。美貴たん。」
何度も自分を呼ぶその声は震えていた。
美貴は目を瞑る。
- 228 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:32
-
君には君の『痛み』がある。
美貴には美貴の『罪』がある。
人にはそれぞれ抱えているものがある。
それ以上でもそれ以下でもない。
世の中ってそんなもんなんでしょ?
- 229 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:33
-
冷たい風に亜弥が身を振るわせる。
「寒いでしょ。」
おもいっきり走って火照った体が冷え出した。
美貴は亜弥の体を抱く。
- 230 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:33
-
これは偽善なのだろうか。
今亜弥に放り出されたら行き場が無いから。
それこそもっともっとこの手を汚さなくては生きていけないから。
だからこの体を抱き締めているのだろうか。
頭の中はグルグルグルグル。
だから
- 231 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:34
-
「亜弥ちゃん。何であの時、美貴を拾ったの?」
正直に聞いた。
こんな質問なんかしないで、その体をいつまでもいつまでも
抱き締めていたら、亜弥ちゃんは美貴をずっと『飼』っててくれる?
居心地のいい場所を供給してくれる?
ああ。もう分んないよ。だって亜弥ちゃん泣いてるし。
「拾ったっ・・・て。美貴た・・ん猫じゃない・・・・んだから」
綺麗な綺麗な笑顔。
泣き笑いなその顔は、より一層美貴のココロを揺らす。
- 232 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:35
-
「あたしはただ、寂しかっただけ・・・」
チンプンカンプンな言葉。
寂しいという理由で人を拾ったりするのだろうか。
「じゃあ、あの時誰でも良かったの?美貴じゃなくても
家に入れてた?」
「うん。」
一点の迷いもなく、微塵の虚偽もなくそう言った。
美貴はそれに、とても安堵する。
誰でも良かったんだ。
猫でも犬でも人間でも。
そこに個人は存在しない。
- 233 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:35
-
「寂しい寂しい寂しいって思ってたら、美貴たんが落ちてた。」
「落ちてたって、やっぱり拾ったんじゃん。美貴は野良猫だね。あはは。」
亜弥ちゃんもつられて笑う。泣きながら笑う。
狂喜と乱舞のギリギリ1歩手前の二人。
それでも繋いだ手は離さない。
「あははは、はぁ・・・亜矢ちゃん。美貴と友達になりたいって本音?」
笑いすぎて涙が出た。
- 234 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:36
-
「ファ、ハ、実はそんなこと考えたこともありましぇーん。アハハ」
「あ、やっぱりぃ・・ふっ・・は。」
「ってか笑いすぎて苦し・・・友達とかじゃなくて、ただ居て
欲しかっただけだから。」
「じゃあなんで、毎日何処行ってんのって聞いたの?」
「なんとなく、好奇心で。」
美貴は亜弥ちゃんのペット。
勝手に拾われたんだから、勝手に居ついてもいい。
- 235 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:39
-
「いつかふらっとそのまま消えちゃうんじゃないかと
ちょっと心配した。」
賢明で聡明な判断です。
あんな風に人が落ちてるってあんまないしね。
中々知能犯だね。まんまとその術中にはまったわけか。
「でも居なくなっちゃうかもよ?」
少しいじわるがしたくなった。
でも亜弥ちゃんは又してもきっぱりと、
「それは無い。」
断言ですか。そうですか。
- 236 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:40
-
「美貴たんはもうあたしに情が移ったはず。」
自信満々に答える亜弥ちゃん。
先程の涙はどこへやら。
「そのココロは?」
「独断と仮想であたしをあの男から奪い去った。」
奪い去った。って。まったく。
「あたしの手を握ってくれている。」
美貴も寒いんでね。
- 237 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:41
-
「久々にまともな感覚を取り戻すことが出来たよ美貴たん。」
多分それは一瞬だけの感情。
いつ見ても綺麗で完璧な笑顔。
その、きっと相違するココロの中。
「やっぱりあたしの目に狂いは無かったのだ。ニャハハ。」
「適当に拾ったくせに。誰でも良かったくせに。」
わざと悪態をついてみる。
「結果オーライってことで♪」
さっき泣いていた亜弥ちゃん。
ケロリとして飄々としている亜弥ちゃん。
- 238 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:42
-
どっちが『本当』だなんて。
どうでも良いと思った。
- 239 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/21(水) 01:43
-
痛みは誰にでもある。
それが小さくても大きくても。
でもそれは人それぞれに対処すればいい。
人それぞれに。
でも、その人が自分にとって『特別』な人だったら
そんな冷静に考えるなんて出来ない。
その痛みを柔らかく包んであげたい。
でも勿論この時の美貴は亜弥ちゃんのことが『特別』
だなんて全然考えてなかった。
なのにその手をいつまでもいつまでも握っていたんだ。
ごめんね。
- 240 名前:スケルトン 投稿日:2004/01/21(水) 01:44
-
更新です。
>>225 つみさん
いつもレスsりがとうございます。励みになりますw
- 241 名前:つみ 投稿日:2004/01/21(水) 15:30
- こんな接し方も世の中にはあるんですね〜。
2人の関係がさらに進展することを祈りつつ
次回もまってます!
- 242 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 01:52
-
そんなイレギュラーな出来事があった次の次の日の朝。
その日は晴天だった。
「美貴たん!美貴たん!美貴たん!起きて!」
美貴の名前を連呼してパタパタと布団を叩く亜弥ちゃん。
まだまだ睡眠が足りない美貴としてはこの状況を
なんとか回避したく、返事もせず布団の中に潜る。
「お寝坊さんわぁー、お仕置きしちゃうぞっ。」
亜弥ちゃんはそう言うと一気に美貴の布団を剥ぐ。
突然入ってきた冷気に思わず身を震わせる。
- 243 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 01:55
-
「ちょっ、亜弥ちゃんノックぐらいしなよ。」
渋々半身を起こして目を擦りながら文句を言う。
だけど自分のその声音が少し優しくなっていることに気付く。
困ったもんだ。
「したもん。何回も。七回位したもん。」
目を擦りながらでも想像出来る亜弥ちゃんの膨面。
ここに居ついてどの位たつんだっけ。
頭の中に自然に浮かんでくるその表情。
始めの警戒心は何処へやら。
- 244 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 01:55
-
「ねぇねぇ。起きてよぉ〜凄く天気が良いよぉ?」
そんなん美貴の知ったことじゃない。
「ったく・・・こんな朝っぱらから・・・」
「もう昼過ぎだけど?」
美貴は頭をボリボリと掻いた。
- 245 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 01:56
-
「亜弥ちゃんこそ毎日遅くに帰って来るのに
いつも起きるの早いよね。」
「美貴たんが居るからね。」
「そっか。」
今いち意味が分からなかったが適当に相槌を打った。
「あのね、美貴たん今日ね、水族館行こう?」
美貴のまだ呆けてる肩に両手をかけ、
亜弥ちゃんは、満面の笑みでそう言った。
- 246 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 01:57
-
水族館。
水族館。
水族館。
「水族館?」
「そう。水族館。」
「水族館ってあの、魚が一杯いるとこ?」
亜弥は怪訝そうな表情を浮かべる。
- 247 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 01:58
-
「美貴たんもしかして水族館に行ったこと無いの?」
事もなげに亜弥ちゃんは言う。
水族館。遊園地。動物園。博物館。美術館。
そんな言葉の羅列が美貴の頭の中に浮かぶ。
美貴はどれにも行ったことが無い。
別に興味も無い。行きたいと思ったことも無い。
「無い。」
「じゃあ行こう!」
- 248 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:00
-
まるで会話が成り立っていない。
亜弥ちゃんは一人で盛り上がり、
行こう行こうと連呼した。
美貴はそんな亜弥ちゃんを相変わらずただ呆然と眺めていた。
でも、そんなに嬉しいなら、家賃代わりに付き合ってやってもいい。
そんなことを考えるなんて、やっぱり美貴はどうかしてる。
いつからこんな他人に甘い人間になったのだろう。
- 249 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:00
-
亜弥ちゃんは予想以上に準備にてこずり、
結局部屋を出たのは二時間後。
ゲンナリしている美貴を急かすように
亜弥ちゃんと美貴は街を抜け、電車に乗り、
水族館に着く。
その頃には日が少し翳っていた。
始めて見た水族館という場所。
特に感慨も感想も無い。本で見た通りだったから。
- 250 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:01
-
平日、閉館間際の館内にはほとんど人は居ない。
亜弥は小さな水槽から中くらいの水槽まで、その一つ一つに
丁寧に解説や感想を付ける。
「ほら。ここ、ここに小さなエビがいるの。」
だとか。
「あ、このお魚さんピンクだよ。」
「亜弥ちゃんピンク好きなの?」
「うん。大好き。」
あまりのらしさに笑ってしまった。
- 251 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:04
-
だけど美貴はこんな狭い水槽の中で泳ぐ魚達を憐れんでいた。
君達は帰りたくないの?
本当の場所へ。
こんな『箱』の中じゃなくて、海の中へと。
それとももう帰る場所すら忘れているのか。
やっぱりこんなとこに来るんじゃなかった。
亜弥の言う通りにここへ来てしまった自分に嫌気がさした。
- 252 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:04
-
そんな事を考えていたら亜弥ちゃんを見失った。
当たりを見まわすと同じように周囲をきょろきょろとしている
女の子。なんだか泣きべそをかいているように見えたので
小走りに走り、後ろから近づきその手首を掴む。
「亜弥ちゃ」
「痛っ」
苦痛に歪められるその顔。
「亜弥ちゃん?」
「あ、ごめん。見失って少し焦っちゃった。」
- 253 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:05
-
誤魔化すように笑う亜弥ちゃん。
美貴はその掴んだ少しあらわになった
手首を見つめる。そこには赤くグルグルと何かに巻かれたような跡
がくっきりとあった。亜弥ちゃんは素早く袖を直すと、
いつものように笑いながら言った。
「美貴たんに一番見せたいものがあるんだよ。」
今度は亜弥ちゃんが優しく美貴の手首を掴み
先へと歩きだす。
- 254 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:06
-
少し狭い通路を抜け、ホールに出る。
その広がった世界に、美貴は言葉を発することが出来なかった。
大きな大きな水槽。360度に色トリドリの魚達が泳ぐ。
ただ呆然と立ち尽くす美貴。
薄暗い大きなホールの中には亜弥ちゃんと二人きり。
まるで何処か違う世界に迷い込んだかのように。
- 255 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:07
-
「綺麗でしょ。」
そんな亜弥ちゃんの呟きが遠くの方に聞こえる。
こんな綺麗な『何か』を見るのは始めてで。
「時々ね、この時間を狙ってここに来るの。」
静寂に取り残された幻想的な空間。
「なんだか別の世界に迷い込んだみたいでしょ?」
別の世界。
そこに悲しみや痛みや苦しみは存在しない。
それはまるで
- 256 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:07
-
天国
- 257 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:08
-
美貴の望んで病まない世界。
ふいに亜弥ちゃんは美貴の手を強く握った。
「何?」
「美貴たん泣いてるし。」
顔は水槽に向けたまま、亜弥ちゃんが静かにそう告げる。
繋がれていない方の手で自分の頬に触れると、
温かい何かが止めど無く流れていた。
これが涙。
- 258 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:09
-
自分のココロが震えているのが分かる。
「悲しいの?」
「違う。悲しくは無い。」
どうして泣いているのかは分からない。
ただ、あまりにも目の前に広がる光景が美し過ぎて。
「亜弥ちゃん。本当に綺麗だね。」
素直にそう告げる。
「うん。誰かに教えてあげたのは美貴たんが始めて。
他の人には内緒だよ?」
- 259 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:10
-
このまま消えてしまえればいいのに。
全てを無にして。
自分の中のドス黒い感情が、浄化されているかのように
涙が流れ続ける。
「美貴たん。あたしもね。生きてることが嫌になる時が
あるんだ。」
「うん。」
「消えてなくなりたいと思う時もあるんだよ?」
「うん。」
「でもね。美貴たんといると結構そんなことも忘れる。」
「うん。」
「だからね。又一緒に来ようね。」
- 260 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:11
-
色トリドリの魚達は泳ぎ続ける。
その運命も甘受して。
ただ、水槽という彼等の世界を回り続ける。
繋いだ亜弥ちゃんの手は、とても温かかった。
- 261 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:14
-
擦り切れてる手首
いつも一人で来るという水族館
痛い位温かいその体温
やっぱりその全ては非現実的で
けど
魚も亜弥も美貴も今はここに『存在』する。
その命が尽きるまで。
- 262 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/25(日) 02:15
-
そして美貴は、そんな魚達に見惚れていて、
最後の亜弥ちゃんの言葉に返事をすることが出来なかった。
『だからね。又一緒に来ようね。』
ごめんね。
- 263 名前:スケルトン 投稿日:2004/01/25(日) 02:19
-
更新です。最初は本当に短編集にするつもりだったんです(涙
>>241 つみさん
さてさて二人の中は発展するんでしょうか。
どうなんですかねぇ〜w
- 264 名前:つみ 投稿日:2004/01/25(日) 09:46
- 最後の一言が気になりますね〜。
あやみきって感じがしてきました!
次回までまったり待ってます。
- 265 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/27(火) 01:22
- 深いなぁ・・・先が読めずドキドキしちゃいます
- 266 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:44
-
『涙はココロを浄化するんだよ。』
誰かにその言葉を言われた時、美貴は鼻で笑った。
生まれてこのかた泣いたことなんて無かったからね。
ココロを浄化って何?馬鹿じゃないの。
そして、これから先も泣くんなんてことは無いと思った。
- 267 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:44
-
「美貴はね。人を捜してるの。」
目の前の魚達は、ほど良く美貴のココロを溶かす。
まだ涙は止まらない。
「その人って、美貴たんの大事な人なの?」
向けられたその瞳の中からは何かしらの感情は読み取れない。
「そうだよ。ある意味ずっと一緒にいたからね。」
亜弥ちゃんは何も言わない。
どうして話そうなんて考えたのか美貴にも分からない。
- 268 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:45
-
『涙はココロを浄化する』
多分それが答え。
「美貴にも色々あんだよ。」
いつか聞いた亜弥ちゃん台詞。
「色々さっ。」
- 269 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:46
-
亜弥ちゃんが寂しいから美貴を拾ったのは知ってる。
このまま今までどおりの同居を望んでることも知ってる。
亜弥ちゃんの言う通り、確かに美貴の中には亜弥ちゃんへの
情が沸いていたのは確かだ。でも同じ『情』なら、違う彼女への
方が到底強い。それだけの話し。それだけの事。
でもその感情すら超えそうになっている。このまま亜弥ちゃんと
一緒にいるのも悪く無いんじゃないかと考えている自分が恐い。
突然訪れた、始めての『温かさ』に浸ってはいけない。
生きてる限り。記憶がある限り、美貴は確かめなくてはならない。
自分のやったことが正しいのかを・・・
- 270 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:47
-
「そっか。」
「そうなんですよ。」
つまりは優先順位。
「ちょっと悲しい。」
知ってる。
「ちょっと寂しい。」
うん。知ってる。
だけどね。
「亜弥ちゃんよりもずっとずっと前から一緒にいた人なんだ。」
- 271 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:47
-
弱いくせに強がってみせたり、
辛い時に笑ってみせたり、
酷い時に美貴を庇ってくれたり。
そんな人なんだ。
「その人は美貴たんの恋人?」
「違いますよ。相手は女の人ですよ。」
「じゃあ美貴たん。その人見つけたらここ出て行く?
もうあたしとは会わない?」
あぁあ。亜弥ちゃん泣きそうだよ。
だけど
- 272 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:48
-
「多分ね。」
今すぐ家から出て行けと言われても仕方が無いなと思った。
都合のいいように亜弥ちゃんに甘えていたから。
拾った野良猫て、きっと懐かなきゃ捨てられるんでしょ?
そんなもんでしょ。需要と供給。そのバランスが崩れたら、
そこにはもう。『崩壊』しかない。
- 273 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:50
-
亜弥ちゃんは柔かく笑う。
それは奇跡にも近い君の存在の証。
ある意味美貴を破滅へと導く程のその、
天使の笑み
「美貴たんの大事な人は、あたしにとっても大事な人。」
噛み締めるように。
亜弥ちゃんは自分にそう言い聞かせるようのそう呟く。
「美貴たん。その人の名前なんていうの?これでも
あたし顔広いから協力することが出来るかもしれない。」
美貴は思った。
その時思った。
- 274 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:51
-
こいつは救いようが無い。
この世では生きていけない。
あまりにも優しくて優しくて優しくて。
正しくて正しくて正しくて。
- 275 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:51
-
「亜弥ちゃん。美貴に情が移ったんでしょ?」
美貴は今、どんな顔してる?
おちゃらけて言ってるけど、
美貴は今、どんな顔してる?
「情とか、そんなんじゃないよ。美貴たんが好きだから
美貴たんの力になりたい。美貴たんが大事だから
その幸せを願いたい。」
美貴は生まれて始めて、神様ってのに告げる。
- 276 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:52
-
こいつを不幸にしやがったら、例え地獄に落ちてでも
這い上がって、その蜘蛛の糸に縋り付いてでも、
お前を絞め殺してやる。
って。
- 277 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:54
-
「その人はね、『石川梨華』っていうんだ。」
どうやら知らないようだ。その瞳の中は揺れない。
「写真とかってある?」
美貴はいつも持ち歩いている、ある意味お守りのような
たった一枚だけの彼女の写真を見せた。
一瞬だけその瞳の中が揺れる。
見せなければ良かった。
亜弥ちゃんが知っているわけが無いと、タカを括っていた。
『ごめんね。知らないよ美貴たん。』
と、すまなそうに謝って貰いたかった。
そんな考えは間違えてると知りながら。
- 278 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:55
-
正常な思考が欲しい。
普通の人格が欲しい。
一般的な解釈が欲しい。
運命は、皮肉の産物。
「チャーミーさんが美貴たんの探し人だったのかぁ〜」
亜弥ちゃんは笑う。でも今のそれは、『凶器』と『乱舞』の狭間。
流れ続けた涙は止まった。
そこにはもう現れるココロは存在しない。
- 279 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/01/29(木) 01:56
-
始めて行った水族館に美貴の頭の中はイカレていたんだ。
あの時もし、涙を流さなければ。
美貴のココロが洗われなければ。
『幸せ』になれていたのかもしれないのに。
ごめんね。
- 280 名前:スケルトン 投稿日:2004/01/29(木) 01:58
-
更新です。
>>264 つみさん
これからもまったり宜しくお願いします(ぺこり
>>265 名無し飼育さん
自分も(ry
- 281 名前:つみ 投稿日:2004/01/29(木) 07:21
- この展開は・・・
まさかあの方が松浦さんと知り合い?
次回が楽しみです!
- 282 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:46
-
『藤本美貴』
その名前をつけてくれたのは誰なのか、美貴は知らない。
- 283 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:47
-
物心ついた時には、美貴はもう『普通』じゃなかった。
山間にある、うらびれた二階建ての建物の中。
門は頑丈に、頑なにいつも閉ざされている。
そこにはたくさんの子供達がぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、
食事も満足に与えられない。
美貴は産まれた病院からどんな経緯を辿ってか知らないけど
ここに放り込まれた。
- 284 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:48
-
親にさえ捨てられた自分たち。
親にさえ?きっと違うね。
この世界からも捨てられ、それでも仕方なく『生』を受けた子供達の集まり。
ここはイラナイ人間達の巣窟。
- 285 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:49
-
「君達はぁ、産んでくれた親達からも疎まれていて
産まれたぁ。」
毎朝行われる院長の朝礼。そのだるい声音は美貴達の思考をも麻痺させた。
もっともっと小さい時から受けているこの洗脳じみた奴のうんちくは、
否応無しにそれが正しい真実だとすり込まされる。
少なくても美貴以外は。
「つまりぃ、誰からも必要とされていない存在の集まりなのだよ?」
こいつにはココロは無い。こいつには何もない。
その異臭のする体臭。その、ギラギラとする両眼。
美貴は始めから大嫌いだった。
「だけど僕だけが君達を尊重する。僕だけが君達に無限の愛を
与えられることが出来る。」
お前は何処ぞの宗教家か?独裁者か?
- 286 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:50
-
周りの子供達は曇った両眼でじっとそいつを見つめ続ける。
そこには温度は存在しない。
何が『本当』で何が『嘘』なのか、知る術も知らないから。
ここが『世界の始まり』で、ここが『世界の果て』
- 287 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:51
-
だけどいつだったか、その中に一つ。
両眼から強く光を放っている人物を見付けた。
時には怒りに震え、時には心底落胆したり、
コロコロと代わるその表情に、美貴はいつも釘づけになっていた。
そこには確かに『感情』が存在していた。
それまでここの他の入居者に何かを感じたことは無い。
美貴はいつも一人。誰もいらなかった。誰も好きじゃ無かった。
- 288 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:52
-
そんなある日、ここに来て丁度七年目。
始めてその子の隣で奴の朝礼を聞いてた。
なんだか隣の子が気になり、ずっとその子に美貴の神経は向けられる。
「今日もどうしてこんな素晴らしい朝を迎えることが出来たか、
君達は分かっているかね?」
隣の子がボソリと呟く。
『僕のおかげなんだよ。』
「僕のおかげなんだよ。」
二人の声が綺麗にハモった。
途端、美貴は噴出す。
途端、怒号が響く。
- 289 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:53
-
「誰だ!!僕の演説中に笑っている奴はぁぁぁ!!!」
それでも美貴は笑い続けた。
腕を掴まれてその部屋を引きずられて退場させられても、
その後しこたま殴られても。
笑い続けた。ずっとずっと。
ここに入ってあんなに笑ったのは始めてだった。
- 290 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:54
-
その夜。美貴は反省室に閉じ込められて、
窓から見える中途半端な月を眺めていた。
「もしもぉ〜し」
最初は空耳かと思った。その位小さな声だった。
「あれ?いない?えっ?いないの?」
一人自問自答しているようなおかしな声に美貴は眉をひそめる。
「誰?」
美貴はドアのに向かい、そこに耳を当てる。
- 291 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:55
-
「あ、よかったぁ〜。お部屋間違えたのかと思っちゃった。」
何だか嫌に耳に響くキンキンした声。でも、聞いたことのある声。
「朝はごめんね。あたしの所為で怒られちゃったでしょ?
それで心配で・・・・本当にごめんね。」
心配?ごめんね?何言ってんだこいつ。美貴の頭の中には
たくさんのクエッシションマークが飛ぶ。
「あたしがあいつの物真似なんかしたから・・・・」
「あっ」
「あたしの物真似が今日に限って似てたから・・・・」
「はぁ?」
美貴にはかまわずどんどん小ささを増すその声。
- 292 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:55
-
「あたしが」
「ストップ。」
このままずっと延々と呟かれそうだったので制止する。
頭に浮かぶのは、今朝の朝礼の光景。
「あんたちょっと勘違いしてんじゃないの?」
「え?」
「美貴が笑ったのはあんたの所為じゃ無いよ。
ここに入れられてんのもあんたの所為じゃ無い。」
「でも・・・」
「美貴が勝手に笑った。それだけ。」
「だって・・・」
こいつはさっきから『でも』とか『だって』とかばっかで、
美貴は少しいらいらする。
「あんた暗いでしょ。」
「・・・・・」
- 293 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:56
-
返事が返って来ない所を見るとどうやら自覚しているらしい。
「でも・・・・」
美貴も真似て言ってみる。
「あれは似てた。ぶはっ」
大笑いしてしまった。殴られたお腹が痛んだ。
ドアの向こう側からも笑い声がする。
「あははは、美貴、こんなに・・・ぶっ・・笑っ・・・たの始めて・・はっ」
「あた・・・、しも・・・・ふふ」
そのまま二人で笑い続ける。暫く笑ってから、
深呼吸して息を整える。スーハースーハー。
「ねぇ、名前なんていうの?」
- 294 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:58
- ほんの少しの沈黙の後。
「石川梨華です。」
「なんで敬語なのさ。」
「な、なんとなく・・・」
やばい。こいつ面白過ぎる。
「藤本美貴です。」
「なんで敬語なの?」
「真似。」
誰の?と聞く石川梨華に美貴は又爆笑する。
- 295 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 01:58
-
これが美貴と梨華ちゃんとの出会い。
- 296 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/05(木) 02:01
-
始めて心から笑ったあの日から、もう随分たつけど
梨華ちゃんの存在がどれ程美貴の救いになったのかは
計り知れない。
梨華ちゃんがいなかったら美貴は、一生笑うことは
なかったんじゃないかと思う。
凄く大切な人。離れることなんて無いとずっと思ってた。
ずっとずっと一緒にいて、いつかここから二人で逃げ出して、
それからもずっとずっと一緒にって、そう思っていたのに。
なのに
ごめんね。
- 297 名前:スケルトン 投稿日:2004/02/05(木) 02:02
-
更新です。
>>281 つみさん
多分期待していたのとは随分かけ離れてしまったのでは
ないかと・・・・
- 298 名前:つみ 投稿日:2004/02/05(木) 15:44
- いしかーさんは藤本さんの友達でしたか・・・
なんでまつーらさんは知ってるんでしょうね〜?
それを思いつつ次回も待ってます!
- 299 名前:名無し狼 投稿日:2004/02/08(日) 06:08
- いつも楽しみに拝見させていただいています。
作者さんがんばってください。
全然関係ない質問なんですが自分は狼板から飛んできたので
このスレがどこの板にあるのか分からないのです・・・
だれか教えてください。
- 300 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/09(月) 00:16
- >>299
月板です。
http://m-seek.net/cgi-bin/moon/index2.html
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi?bbs=moon&key=1071078587
だと「掲示板に戻る」が404になるけど、
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1071078587/
ならOKよ。
- 301 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:16
-
水族館からの帰り道は二人共無言で、
さっきの続きが聞きたいのに、
ずっとずっと、美貴も亜弥ちゃんも黙ったまま。
暗い一本道を、ただトボトボと歩いていた。
- 302 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:17
-
亜弥ちゃんは梨華ちゃんを知っていた。
喜ばしいことじゃあないですか。
この広い空の下、美貴の捜し人は案外簡単に見つかった。
なぁ〜んだ。亜弥ちゃんに最初から言えば良かった。
写真を見せれば良かった。ね?そうでしょ?
でも、なんだこの違和感は。
早く聞かなきゃ。早く。早く。
美貴は拳をきつく握っていた。
掌は汗でベトベトになっている。
- 303 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:20
-
それでも意を決して問いかけることにした。
「亜弥ちゃ」
その瞬間。美貴の手に、亜弥ちゃんの指が絡む。
「お家に着いたらちゃんとお話するから、今はこのままで良い?」
亜弥ちゃんは正面を見据えながらそう言った。
「いいよ。」
亜弥ちゃんの掌もうっすらと汗ばんでいた。
- 304 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:20
-
そこにどんな真実があろうと。
そこにどんな残酷があろうと。
- 305 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:22
-
突然美貴は、言いようの無い悲壮感に襲われる。
この気持ちがなんなのかは知らない。
ただ、水族館の中で繋いでた左手が妙に懐かしく感じられた。
今も同じそうに握られているのに
そこには安心感も優しさも穏やかさも存在しない。
あるのは『喪失感』
- 306 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:26
-
帰宅した部屋のリビングのソファーに、
二人は隣り合わせに腰かける。電気も付けずに。
そして亜弥ちゃんは饒舌に話し始めた。
「チャーミーさんってさっ。凄く可愛いよね。
ってかあんな可愛い・・・ってか、どっちかっていうと美人さん?
なのに性格は凄く良くて、優しくて穏やかで」
「うん。」
「何かお姉さん?って感じ?でもでもそれにしては頼り無いとこ
とかもあって。どっちかっていうと守ってあげたくなっちゃうタイプ?」
「うん。」
美貴は相槌を打ちながら亜弥ちゃんを見詰める。
暗い部屋の中で、亜弥ちゃんの顔は翳ってよく見えない。
- 307 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:27
-
「だから最初に見た時は驚いたねぇ。何でこんな子が?
って思ったんだ。」
窓の外には丸い丸いお月さま。
あの時見た、中途半端なものじゃなく、
「こんな綺麗な人が?って。」
完璧に丸いその本来の姿。
美貴は目を瞑る。
「でも人には色々あるからね。『事情』ってやつが。」
亜弥ちゃんの声が聞こえる。
始めて聞いた時と寸分違わないその甘えるような声音。
- 308 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:33
-
美貴は何故か突然聞いてみたくなった。
どの位ここに居るのか。
その、確信につく前に。
「亜弥ちゃん。美貴は亜弥ちゃんに拾われてどの位たつの?」
「三ヶ月と八日。」
そんなにいるのか。亜弥ちゃんと二人だけで、この部屋に。
美貴は目を瞑ったまま。記憶を鮮明にする。
- 309 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:34
-
『すみませぇ〜ん。そんなところで寝てると風邪引きますよぉ〜?』
『あたしにはちゃんと『亜弥』って名前があるんですからね!!』
『寂しい寂しい寂しいって思ってたら、美貴たんが落ちてた。』
『なんだか別の世界に迷い込んだみたいでしょ?』
『消えてなくなりたいと思う時もあるんだよ?』
- 310 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:35
-
三ヶ月と八日。その間美貴はずっと亜弥ちゃんと一緒にいた。
毎日顔を合わせるのはほんの何時間の間だったけけど。
亜弥ちゃんは美貴のために毎日ご飯を作ってくれた。
ラップがかったそれにはいつも一言。メモが添えられていて、
『今日もズバッ!といってみよ〜』
『美貴たん。今日は肉だよ肉!』
その全てに、『温度』を感じた。
- 311 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:37
-
「結構居たね。」
「そうかなぁ〜。」
「ありがとね。」
ほんとはね。やっぱりあの時死んじゃた方が良かったんじゃないかって、
毎日思っていたよ。もういいよっ、めんどくさいから。って。
でも美貴は『回復』した。
亜弥ちゃんとの『日常』のおかげで。
亜弥ちゃんとだったからココロが『正常』に機能したんだ。
『温かい』ってこんなにいいものなんだって。
- 312 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:38
-
「そんな。ありがとう。とかって・・・美貴たん。本当にもうあたしとは会わないの?
チャーミーさんを連れて、どこかに行っちゃうの?」
それが、鼻声交じりに聞こえる。でも美貴は目を開かない。
- 313 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:38
-
多分ね。
- 314 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:39
-
今度は言葉には出さない。
「ここにチャーミーさんも一緒に、三人で住もうよ。
あたし全然平気だよ?三人で暮らすの。美貴たんも
チャーミーさんも大好きだからさっ。」
わざと明るく振舞う亜弥ちゃんがとても痛かった。
美貴のココロも痛かった。
三人で暮らす?亜弥ちゃんと美貴と梨華ちゃんで?うん。素敵だね。
凄く凄く素敵だ。そうしたら毎日笑って過ごそう。
この世で自分達が一番幸せだって。そんなことも考えられない位。
幸せになれると思う。
その。それぞれの今までに、『傷』や『罪悪感』や『普通』がなければ。
- 315 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:40
-
亜弥ちゃん。アヤちゃん。あやちゃん。
どうして美貴なんか拾ったの?
そうして美貴じゃなくて他の誰かを拾わなかったの?
それが猫だったら、『普通』の酔っぱらった『男』とかだったら
良かったのに。何でわざわざ美貴を拾ったのさっ。
だったら。こんなに美貴も苦しまずに済んだのに。
苦しい?どうして?
- 316 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:45
-
そんな頭の中の響きをかき消そうと、
「梨華ちゃんに会わてくれる?」
懇願にも似た要求。
亜弥ちゃんの気持ちを全て無視した透明な言葉。
亜弥ちゃんは何も言わない。
「この恩はいつか必ず返すから。」
「美貴たんはずるいね。」
きっとそうだね。
「うん。ずるい。でも。美貴たんの幸せが一番。それに嘘は無いから。
チャーミーさんに会わせてあげる。でも」
- 317 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:48
-
どうか亜弥ちゃんが幸せになれますように。
なれますように。どうか。どうか・・・・
「嫌だよぉ・・・美貴たんに会えないなんて、嫌だよぉぉ・・・・」
美貴はゆっくりと目を開け亜弥ちゃんにでは無く
お月さまを見る。
真っ暗な部屋の外に見える浮かんだ、『罪』も『罰』も無い。
その球体。
『罪』だけ背負っている美貴には、
その、小さな体を抱き締めてやることすら出来ない。
三ヶ月と八日。
もう少しで三ヶ月と九日。
- 318 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:49
-
始めて聞いた亜弥ちゃんのココロの中の言葉。
その言葉に安堵した美貴。
美貴の幸せを願う亜弥ちゃん。
亜弥ちゃんの幸せを願う美貴。
だけどその時ですら、美貴は亜弥ちゃんの本当の痛みを
知らなかった。色々な種類の痛みを。
ごめんね。
- 319 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/10(火) 23:57
-
更新です。
>>298 つみさん
ちょっとづつ確信へと進みます。きっと(汗
>>299 名無し狼さん
飛んで来て頂いてありがとうございますw
これからも宜しくお願い致します(ぺこり
>>300 名無し飼育さん
おおっ。なんて親切な人なんだと思ったのは内緒w
ありがとうございますw
- 320 名前:つみ 投稿日:2004/02/11(水) 00:17
- いよいよ佳境ですね・・・
果たしてチャ―ミーさんの『事情』とは何でしょうか・・・
気になります・・・
次回までまったりまってます!
- 321 名前:名無し狼 投稿日:2004/02/11(水) 07:23
- 作者さん、更新乙です。まだ結末は見えてこないですねw
名無し飼育さん、ありがとうございます!小説専用の板が
あったんですね。初めて知りました・・
物語の続きを楽しみに待つことにします。では、また・・
- 322 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 01:58
-
その、目の前の事実に覚悟はしていたものの、
目の当たりにしたその場所に、
一瞬にして美貴の思考は中断された。
うっすらと予想はしていた。
ある意味残酷で。ある意味この世では当たり前のような場所。
ギラギラ光るネオンの看板。
もうここ最近で見なれてしまっているそんな場所。
無意識に避けて通っていたそれら。看板には大きく、
『ANGEL HOLLY LIGHT』
と書かれている。その言葉の意味を、美貴は知らない。
- 323 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:01
-
それでもここが俗に言ういかがわしい場所だというのは分かる。
何も言わない美貴をみかねて亜弥ちゃんは声をかける。
「あんまり驚かないんだね。」
「うん。」
「じゃあ入ろうか。」
特に抑揚も感情も無く、こともなげにそう言うと、
美貴の腕を掴み促しながら歩く。
その店の『入り口』にでは無く、その店の『裏口』へ。
- 324 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:02
-
その扉を開けようとする亜弥ちゃんを、美貴は制す。
「美貴たん?」
「亜弥ちゃん。恐いんだ。」
正直にそう告げる。
「凄く。凄く恐いんだ。」
- 325 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:02
-
本当は知りたくなかったのかもしれない。
半分は予想していたのかもしれない。
だって美貴も梨華ちゃんもまともな場所でなんか
生きて行けるわけも無かったから。
なのに。なのに。
つい最近のような。遠い昔の記憶のような、
そんな情景が頭の中をその時の音とと一緒に鋭利に
美貴のココロを抉る。
- 326 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:03
-
『美貴、ずっとあなたにされたかった。』
『ねぇ、するなら美貴一人にしてよ。嫌だよ他の人も一緒
なんて・・・』
『皆に逃げる準備させといて。お願い。』
- 327 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:03
-
全ては『偽善』で『欺瞞』?
美貴は間違えていたのかな。
勝手に自由を夢想していたのかな。
だとしたら・・・・・
自分はとんでもない過ちを、罪を犯してしまった。
全てを破壊してしまった。
誰の?
美貴の?
梨華ちゃんの?
皆の?
- 328 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:04
-
「美貴たん。」
亜弥ちゃんの優しい声音と共にその、温かい掌の感触が、
美貴の頬を撫でる。
「ねぇ、美貴たん。大丈夫だよ。ここはそんなに悪い場所じゃ
ないから。チャーミーさんは心も体も売ってないから。」
耳を塞ぎたかった。
何もかもから逃げ出したかった。
これが現実。
これが真実。
「チャーミーさんは、ただ拾われただけだから、直ぐにでも辞めさせられるから。」
その時美貴の胸に、何かが刺さった。
- 329 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:05
-
「何で梨華ちゃんのことチャーミーさんって呼ぶの?」
美貴はずっと『梨華ちゃん』って名前を呼んでいるのに。
亜弥ちゃんはずっと『チャーミーさん』と呼んだままで。
うっすらと、微笑む亜弥ちゃん。
- 330 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:06
-
美貴はそれに何も答えることが出来ない。
言っている意味がよく分からなかったから。
「なぁ〜んてね。にゃはは。」
「亜弥ちゃん?」
「ここは。別の世界なんだ。本当の名前なんか存在しないの。」
「意味が分からないよ亜弥ちゃん。別の世界って何?」
「あたしの『本当』の名前を知ってるのは美貴たんだけ。」
美貴の質問には答えず、一人たんたんと喋る亜弥ちゃん。
「あたしの『本当』の名前を呼んでも良いのは美貴たんだけ。」
執拗にその名を呼ばせようとしていた亜弥ちゃん。
名前こそが存在の証だと。そんな風に言っていた亜弥ちゃん。
「チャーミーさんの『本当』の名前を呼ぶのは美貴たんだけ。」
それでも、美貴は亜弥ちゃんの言っていることの意味を理解することが出来ない。
「こんな場所で『本当』の名前なんて呼ばれたくない。ここに
個人は存在しない。一時の欲望だけを。憂いを、慰めを、
あたし達は提供するだけ。」
- 331 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:07
-
その瞳の中には深い何かが存在する。
その深い言葉は、亜弥ちゃん自身を示すのだろうか。
それとももっと別の意味があるのだろうか。
だけど美貴は知らない。
- 332 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:08
-
「どうする?美貴たん。入るの止めちゃう?」
亜弥ちゃんは扉のノブに手を添えながらいたずらっ子のように美貴に問う。
始めて亜弥ちゃんの笑った顔を見た時から、
ずっと思い続けてきたことがある。
もし本当にこの世に『天使』がいるのなら、
この子が天使に違いないって。
その笑顔はこの、歪みきったココロも浄化してくれたから。
- 333 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:09
-
「あのね。亜弥ちゃん。美貴、結構亜弥ちゃんのことが好きだよ。」
抽象的で曖昧で酷くずるい言葉。
「知ってるよ。」
寂しそうに。痛いたしげにそう言う亜弥ちゃん。
まるで美貴の次の言葉を予知しているかのように。
「でも。梨華ちゃん以上では無いんだ。」
「知ってるよ。」
- 334 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:15
-
今思えば、亜弥ちゃんと過ごして日々は言わば安息と平和で
溢れていた。ココロ穏やかな日々。
無条件の優しさ。心地良さ。
それら全ては亜弥ちゃんが与えてくれたもの。
でもそれに甘んじてはいけない。
浸ってはいけない。
美貴だけがそんな『幸福』を味わったちゃいけない。
「亜弥ちゃん。梨華ちゃんに会わせて。」
- 335 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:15
-
そして亜弥ちゃんは、ゆっくりとドアノブを回す。
- 336 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/20(金) 02:18
-
亜弥ちゃん。美貴、実はこの時嘘ついてたんだ。
亜弥ちゃんよりも梨華ちゃんの方が好きって、言ったけど。
あれは『嘘』だよ。
あの時ですらもう、亜弥ちゃんは、梨華ちゃんと同じ位
『好き』で『大事』で『特別』な存在だったんだ。
でも美貴は誤魔化した。めんどくさかったから。
これ以上、難しいことを考えたくなかったから。
君の言葉と想い全てに蓋をしたんだ。
ごめんね。
- 337 名前:スケルトン 投稿日:2004/02/20(金) 02:21
-
更新です。
>>320 つみさん
え〜と。あの〜。すみません。実は全然佳境じゃなかったりします(汗
>>321 名無し狼さん
結末・・・・・って何処にあるんだろう(遠い目
- 338 名前:つみ 投稿日:2004/02/20(金) 16:59
- 佳境じゃなかなった・・失礼・・・!
次回はチャ―ミーさんとのご対面を楽しみにしてます!
どんなんだろう・・?
- 339 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:42
-
「あらぁ〜?ピンク。今日はお休みじゃなかったの?」
「その子誰?新しい子?」
「何何?ピンクその子ピンクの恋人?」
狭い廊下で行き交う女の人達は口々に亜弥ちゃんに声をかける。
その一つ一つに笑顔だけで返事を返す亜弥ちゃん。
美貴はその耳に小さく耳打ちした。
「亜弥ちゃんって『ピンク』って呼ばれてんだ。」
「うん。」
で、梨華ちゃんは『チャーミー』か。
言い得て妙なり。
- 340 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:43
-
亜弥ちゃんは狭い廊下をずんずん進む。
そして一つの部屋の前で立ち止まる。
亜弥ちゃんは無言。美貴も無言。
トントン亜弥ちゃんはそのドアを軽くノックした。
「開いてるでぇ〜入りぃ〜。」
中から少し間延びした返事が聞こえた。
「失礼しまぁ〜す。」
開けたドアの向こうには、金髪の女の人がソファーに
踏ん反り返って横になっていた。
- 341 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:44
-
「ありゃ?ピンクかいな。お前今夜は休みだったんじゃ・・・
ん?誰や、その後ろの子?」
そう言って身を起こす金髪のお姉さん。
「中澤さん。この人。チャーミーさんのお友達で」
途端、金髪お姉さん。もとい中澤さんの瞳の中が揺れる。
「あいつの友達?本当か?」
怪訝そうな表情でその人は美貴を凝視する。
その疑わしそうな両眼は美貴に答えを求めている。
美貴は亜弥ちゃんを押しのけ、その人の方へと歩み寄る。
「はい。美貴は梨華ちゃんをずっとずっと捜していたんです。」
それが美貴の全て。それが美貴の求めていたこと。
- 342 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:46
-
「『梨華ちゃん』か。どうやら嘘では無いらしいな。
OKや。ピンク。チャーミー呼んで来い。多分フロアに
いるはずやから。客が付いててもかまわへん。」
「分かりました。ありがとうございます。」
亜弥ちゃんはぺこりと一礼すると、部屋を出て行った。
残された美貴はその、展開の早さに呆気に取られて
ただ呆然と立ちすくむだけ。
「自分の事一人称で呼ぶ奴は寂しいがり屋が多いって知ってるか?」
「はぁ?」
「まぁ、それはあたしの勝手な見解やけどね。」
この人が何を言いたいのかが分からない。
- 343 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:46
-
「あ〜。ってか。色々聞きたいことが山程あるんやけど
何から聞いていいものやら・・・」
「美貴にも聞きたいことが山ほどあるんですけど。」
中澤さんはうぅ〜んと唸りながら伸びをした。
「んじゃまず大体予想はつくけど、お前から言うてみぃ。」
美貴は息を一つ吐く。
- 344 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:48
-
「梨華ちゃん未成年なんだけど。何でこんな所にいんの?
こんな。こんな。亜弥ちゃんは心も体も売らないからって
言ってたけど、ここに拾われたんだって言ってたけど」
怒気と困惑の入り混じった言葉は止まらない。
自分が何を言っているのかが分からない程に。
「亜弥ちゃんだって未成年でしょ?亜弥ちゃんも拾われたの?
何だよここは。見るからに如何わしいじゃん。『普通』の
場所じゃ無いじゃん!!」
そんな場所に梨華ちゃんはいる。亜弥ちゃんはいる。
美貴は全身が殺気だっているのが分かる。
- 345 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:49
-
途端中澤さんは笑い始めた。
「あはははは。あんたおもろい奴やね。しかもピンクの本名
までも知ってるんだ。あいつが名前教える奴に、始めておうたわ。」
美貴のことをおちょくっているのか、その笑い声は続く。
怒りが尚のこと増す。
「あんたっ」
更に怒りをぶつけようとする美貴に対し中澤さんわ右手を挙げた。
「ストップ。ストップ。お前は正常や。正しい。間違えてない。
美貴・・・だっけ?お前はきっと優しい子やね。でも考えてみぃ。
チャーミーのマブダチやったら考えてみぃ。」
その挙げた右手で美貴のことを指す。
「お前は『普通』か?」
- 346 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:49
-
その言葉に美貴のココロが凍てつく。
まっ赤な両手。悪臭漂うゴミ置き場。美貴を飼う亜弥ちゃん。
- 347 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:50
-
「あたしがあいつを見付けた時、あいつボロボロやったで。
目の焦点は合って無いへんし、真っ青な顔して、道の真中で
棒立ちしとった。」
「つっ。」
「まだまだ若いな。青いな。で、何や、チャーミーを引き取りに
来たんやったっけ?おまえ何処に住んどるん?働いてるんか?
『世の中』とうまく折り合えてるんか?」
拳を握る。キツク。キツク。
そんな事聞かないで。考えたく無いんだ。
未来なんて、将来なんて。これからなんて。
「どうやらあんたにはチャーミーは渡せんようやな。今のあんたじゃ
二人で手に手を取ってあの世に逝くのがセキの山やろ?」
- 348 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:51
-
美貴は全身の力を抜く。
だってその方が楽なんだもん。
もう何も考えなくて済むしね。
あそこを抜け出してから本当はずっとずっと考えていたこと。
その方が良いんだ。
幸せなんだ。
だから。
- 349 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:52
-
「梨華ちゃんを返して。」
もし嫌だと言われたら、
その首をへし折ってしまおうと思った。
殺してやろうと思った。
そして梨華ちゃんと天国へ。
そこにはきっと。痛みも憎しみも悲しみも存在しない。
ただ穏やかに魂だけが存在するんだ。
- 350 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:54
-
「ばぁーーーーーーっかじゃ無い?」
その声は何処か遠い所で響く。
その声の方へ無意識に振り返る。
「梨華ちゃんはおまえの所有物じゃないよ。」
そこには、黒服を着た顔立ちの整った誰かがドアにもたれ掛かっていた。
美貴の知らない人物。
- 351 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:54
-
だけどそいつは言った。そいつは言った。はっきりと。
『梨華ちゃん』と・・・
- 352 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/02/28(土) 02:57
-
世界は回る。毎日毎日。美貴の意思とか関係なく。
それが、何処に向かっているのかも分からない。
美貴は今、何処にいるんだろう・・・
ごめんね。
- 353 名前:スケルトン 投稿日:2004/02/28(土) 03:01
-
更新です。本当遅くて、挙句少量で申し訳無いです。。。
でけどどんどん話しが膨らんでしまう・・・・
>>338 つみさん
挙句再会じゃ無くて、すみませんすみません(汗
ことごとく期待を裏切ってますね(涙
- 354 名前:つみ 投稿日:2004/02/28(土) 19:43
- おお!キャラが増えた・・・
再会は次回に持ち越しか・・・
『普通』か・・・何か考えさせられますね。
- 355 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/29(日) 14:48
- …あの子かな?だったら嬉しいですけど。
- 356 名前:スケルトン 投稿日:2004/03/01(月) 02:38
- 実は今更ながら一スレふっ飛ばしていた事に気付く(汗そして涙
329と330の間に
「ここではね。『名前』なんて必要無いの。」
「え?」
「そんなものは『現実』を知る重荷になるだけだから。」
と入る筈でした・・・・自分の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!
すみません・・・凹
- 357 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:42
-
「なんや『ベーグル』立ち聞きかいな。」
「ちょっ、『ベーグル』さん!」
間髪入れずに亜弥ちゃんが焦るように部屋に飛び込んで来て、その『ベーグル』と
やらの腕にしがみ付く。だけどそれを振りきって美貴の前へずかずか
と歩いて来た。
「梨華ちゃんはなぁ・・・」
そう言うとそいつはいきなり美貴の襟首を掴む。
「ずっとずっと話してたんだ。会いたい人がいるって。
大切な凄く優しい友達がいるって。」
息も出来ない程にきつく掴まれた襟首。
- 358 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:43
-
「止めんかベーグル!」
その中澤さんの一喝も目の前の人間には届かないらしい。
「その友達がお前なわけ無いよな。中澤さんの言った通り
一緒に死のうなんて思ってる馬鹿が梨華ちゃんの大切な友達のわけ無いよなぁ」
美貴も頭に血が登って、その掴まれた両手を振りほどいた。
「関係ないじゃん!!あんたこそ何が分かるんだよ!
梨華ちゃんと美貴のこと、どんだけ知ってんだ!!
梨華ちゃんを返せ!!」
美貴は怒鳴って睨みつける。何でこんな奴に美貴は批判されなくてはいけないのか。
お前なんかに梨華ちゃんの何が分かると。
「こんな糞みたいな所で働くしかないなら死んだ方がましなんだよ!!」
その途端美貴は体ごと、飛ばされた。激痛と共に。
- 359 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:44
-
「美貴たん!!」
誰かの声が聞こえた。
誰かの声じゃ無い。
それは天使の声。
亜弥ちゃん・・・・
そして意識は、ゆっくりと闇の中へ−−−−−−−
- 360 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:47
-
灰色のビジョンの中。
映画のようにフィルムは回される。
- 361 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:48
-
目の前には扉。
いてもたってもいられず美貴はその扉をあける。
そして、
『院長。美貴が代わるよ。』
なるべく好色そうにそう言った。
目の前には床の倒され、怯える梨華ちゃんと、
梨華ちゃんに覆い被さっている院長。
- 362 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:50
-
美貴は感情を殺し、息を一つ吐く。
『美貴、ずっとあなたにされたかった。なのに、どうしてその子を選ぶの?』
反吐が出そうだった。自分のココロと反比例したその言葉に、
嘔吐しそうだった。だから生唾を飲む。
ゴクリ
狼狽気味の院長の目が、一瞬にしてギラギラしたものになるのが、
身の毛もよだつ程分かった。
『そうかぁ、お前がいつも僕を見ていたのは、反抗していたのは
そうゆことだったのかぁ。僕を好きだったからなのかぁ。』
全身の毛が逆立った。
もしも美貴がどう猛な野生の虎だったら、
その喉もとに間違い無く食らいついていた。
- 363 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:51
-
『おいで。』
今にもよだれが垂れそうな口元を気色の悪い舌が舐める。
美貴は吐き気を必死で押さえた。
『ねぇ、するなら美貴一人にしてよ。嫌だよ他の人も一緒
なんて・・・』
懇願するように言う。梨華ちゃんにちらりと一睨をきかせて。
梨華ちゃんは何かを言いかけるが言葉には出来ない。
それで良いんだよ。梨華ちゃん。
- 364 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:51
-
『おお、そうか。すまない。ほらっ、お前はささっさと
部屋に戻るんだ。』
その小太りの体を揺らし、笑いながら手招きする醜い生き物。
だけど梨華ちゃんは動かない。
軽く舌打ちをしてその細い腕を美貴は掴む。
『痛っ。美貴ちゃん。ナニ?何言って』
『あんた。早く消えなよ。』
大丈夫だよ。梨華ちゃん。美貴が解放してあげる。
梨華ちゃんも。皆も。
- 365 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:51
-
幸せになれますように。
シアワセ ニ ナレマス ヨウニ。
アーメン
- 366 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:52
-
美貴は無理矢理梨華ちゃんを部屋から追い出した。
最後に梨華ちゃんに耳打ちする。
『皆に逃げる準備させといて。お願い。』
そして軽くウインク。
固まったまま、開いた瞳孔。
そこには困惑。恐れ。戸惑いが見える。
『美貴ちゃ』
何かを言いかけた梨華ちゃんを無視して、部屋の外まで引きずり
バタン。と、重い扉を閉める。
- 367 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/04(木) 23:53
-
そしてゆっくりと院長を振り返る。
着ていた上着を脱ぎながら。
『さぁ、始めましょう。』
その言葉は、今宵終焉の序曲。
月の灯りだけが美貴を照らしていた。
- 368 名前:スケルトン 投稿日:2004/03/04(木) 23:59
- 更新です。
>>354 つみさん
予想通りには中々行かない模様ですね(含笑
>>355 名無し読者さん
あの子でしたか?(笑
- 369 名前:つみ 投稿日:2004/03/05(金) 00:42
- ミキティカッケー・・・
なんかすんごい過去ですね。少しエロティックなミキティに
ドキドキしています・・・(w
- 370 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/05(金) 13:58
- うわ…これはちょっとキツイよ作者さん…。
でもやっぱり続きが気になります。
あ、予想通りあの子でした。予想が当たって嬉しいです。
- 371 名前:あやみき信者 投稿日:2004/03/11(木) 12:49
- キッつ!これキッつ〜〜〜〜><;
ミキティ格好よすぎだよぅ;でも悲しすぎだよぅ;;
でも、この先も期待してるよぅ。
頑張って下さいだよぅ(もう意味不明)
- 372 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:43
-
何処かから、優しい歌声が聴こえる。
それは透き通るような透明な声。
- 373 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:45
-
その歌声に引き込まれるようにゆっくりと目を開けると、
そこにはアップで亜弥ちゃんの顔があった。
「亜弥ちゃん・・・近過ぎ・・・」
「あ、美貴たん起きたん。」
なんだか変な言いまわし。
- 374 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:46
-
「ほっぺた痛くない?」
亜弥ちゃんは真下にある美貴の顔を心配そうに覗き込んでいる。
だから近いって・・・
それにしてもほっぺたって何のことだろう?
つーかここ何処?
- 375 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:46
-
ひんやりとした感触が自分の頬を撫でる。
その時になって始めて、亜弥ちゃんに膝枕をされていることに気付く。
だからこんなに二人の距離が近いんだ・・・・
今まで誰かに膝枕なんてされたことなんてなかったから、
凄く恥ずかしい。美貴はむくりと体を起す。
ああ、ここは美貴の部屋だ。亜弥ちゃんの家の美貴の部屋。
亜弥ちゃん家の美貴の部屋の美貴のベットの上。
相変らず鈍い思考の中、美貴はガリガリと頭を掻いた。
- 376 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:47
-
「ごめんね。」
亜弥ちゃんがポツリと呟いた。
「何が?」
この部屋に無断で入ったこと?
それとも美貴に膝枕してたこと?
「ごめんね・・・。」
「だから何が?」
美貴は亜弥ちゃんの隣にきちんと座り直した。
- 377 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:47
-
「チャーミーさんに会わせてあげられなくて。」
チャーミーさん?
「ベーグルさんもいつもは優しくて穏やかな人なんだよ?」
ベーグルさん?
「あんなに怒って、まして人を殴るなんて。初対面の美貴たんを
殴るなんて。そんなこと絶対しない人なんだよ?」
今更、気付いた頬の熱さに気付く。
途端全てがクリアになる。
- 378 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:48
-
『どうやらあんたにはチャーミーは渡せんようやな。今のあんたじゃ
二人で手に手を取ってあの世に逝くのがセキの山やろ?』
『梨華ちゃんはおまえの所有物じゃないよ。』
『美貴たん!!』
『ANGEL HOLLY LIGHT』
そして激痛。
- 379 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:48
-
美貴は亜弥ちゃんの両肩を強く握った。
「どうして!どうして!どうして!」
どうして梨華ちゃんは来なかったの?!
なんで連れて帰れないの?!どうしてあいつに殴られたの?!」
洪水のような言葉を亜弥ちゃんに浴びせる。
その両肩を、今度はがくがくと揺さぶりながら。
亜弥ちゃんは何も言わない。ただ悲しそうに美貴を見ている。
「亜弥ちゃん大丈夫だって言ったじゃん。直ぐに梨華ちゃんに
会わせてくれるって!!」
全ての感情をぶつけた。目の前の相手に。
怒りと失望の中。
- 380 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:49
-
「チャーミーさんが、お客さんの相手してたから、
こっそり呼んでもらおうとして、ベーグルさんに
頼んだの。ベーグルさんはホールホストだから・・・」
やけに強い光を放つあいつ。
「チャーミーさんのお友達がチャーミーさんを迎えに来たからって、
そしたら、ベーグルさん走ってホールを出ちゃって・・・・」
「それを慌てて追いかけて来たんだ。」
コクリと頷く亜弥ちゃん。
今になって痛み出す頬。
「酷いよ亜弥ちゃん・・・あいつ追いかける前に梨華ちゃんに伝えて
欲しかったよ。」
亜弥ちゃんにかけていた手を離し、
両手で顔を覆う。
何の為にあんなとこに行ったんだ。
あんな。あんな。あんな。
- 381 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:50
-
美貴は絶望の淵に立っているような気分だった。
やっぱりね、美貴は間違えたことをしたんだ。
「ごめんね。ごめんね・・・・」
微かに聞える懺悔の言葉。
覆っていた両手を外し、ぼんやりとした視線を向ける。
「あたしが悪いんだ。あたしが悪いんだ・・・」
その瞳の中はやけに虚ろで、
美貴は無意識に口を開く。
- 382 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:52
-
「亜弥ちゃんも、中澤さんに拾われたの?」
くぐもった声で問う。
「違うよ・・・・」
更に亜弥ちゃんの表情は翳り行く。
いつもとは違うどんよりとした声音。
美貴のココロに、赤信号が点滅する。
- 383 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:54
-
「あたしはね、売られたの。」
「売ら・・・れた?」
思考はもう、正常に作動してはくれない。
その意味さえも深く考えることは出来ない。
だけど分かった。こんなこと聞くべきじゃなかったと。
でももう遅い。
- 384 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:54
-
「パパとね。ママに売られたんだ。」
- 385 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:55
-
梨華ちゃん。
亜弥ちゃん。
ピンクちゃん。
チャーミーちゃん。
- 386 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:55
-
「売・・・られた?」
「うん。パパの会社が倒産して、お金が必要で、
妹が二人いて、だから・・・・」
その、短い言葉に。美貴は愕然とする。
なんてことを。なんてことを。なんてことを。
- 387 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:55
-
「美貴たん。泣かないで・・・」
美貴は又、泣いていた。
止まることなく流れる滴。
- 388 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:56
-
皆、死んでしまえばいいのに。
- 389 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:56
-
美貴には色々事情がある。
それを共有しながら梨華ちゃんにも色々事情がある。
そして勿論、亜弥ちゃんにも。
この世界に存在する多種多様の人達にも。
多かれ少なかれ、大にしても小にしてもきっと存在するであろう
痛い痛い現実が。
- 390 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:57
-
だったら皆、死んでしまえばいいのに。
- 391 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:57
-
それは『間違えた』考えなの?
それは『正常』な思考では無いの?
その方が楽なんじゃないの?
- 392 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/16(火) 23:59
- 亜弥ちゃんは美貴が握る両手を優しく包む。
「美貴たん。泣かないで。」
包み込まれた温かい感触と、
繰り返されるその言葉。
「泣かないで。美貴たん。」
- 393 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/03/17(水) 00:00
-
喉の奥から吐き出される嗚咽で、何も言葉にすることなんて出来なかった。
ごめんね
- 394 名前:スケルトン 投稿日:2004/03/17(水) 00:18
-
更新しました。
369>> つみさん
エ、エロチック・・・・(汗
370>> 名無し飼育さん
痛い。暗い。の二拍子が揃っていますで苦手でしたらご注意を・・・
371>> あやみき信者さん
頑張ります!(でもちょっと弱気
- 395 名前:つみ 投稿日:2004/03/17(水) 00:20
- つらい過去っすね〜・・・
ふじもとさんの動向が気になります。
- 396 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/21(日) 17:06
- 深い・・・かなりこの小説の行く末が気になります。
- 397 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/04(日) 01:43
-
あの日から数日。美貴は梨華ちゃんを待っている。
こっそりと段取りを亜弥ちゃんが取ってくれて、
亜弥ちゃんのマンションから近い所にある公園での待ち会わせ。
- 398 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:44
-
美貴は約束の時間より少し早目に出て、
酷く殺風景な公園の、ベンチに座っていた。
何を考えるとも無く無意味に空を見上げる。
あの日、ゴミにまみれた美貴が見上げた空は灰色だった。
綺麗だなって思ったんだっけ。
今日は晴天。まっさらな青色。
- 399 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:45
-
そういえば前に亜弥ちゃんが変な男と嫌そうに歩いてた時
美貴は無理矢理引っ張って同じような公園に迷いこんだっけ。
そして語り会った。
美貴が亜弥ちゃんに拾われた理由とか、
美貴の情が亜弥ちゃんに移っただとか。
そんな会話の中で、亜弥ちゃんの中にも大きな痛みが
存在していることに気付いたんだ。
でも聞かなかった。亜弥ちゃんの抱える痛みが、
どんな種類のものなのか。別に聞く必要も無いと思ったから。
- 400 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:45
-
ああ〜。つーか何で亜弥ちゃんの事考えてるの美貴?
おかしくない?だって今から梨華ちゃんとの夢にまで
見た再会なのに。
亜弥ちゃんはね。ただ寂しかったから美貴を拾っただけなの。
確かに今は一緒に住んでるんだけど、別に亜弥ちゃんの
側に居るのは美貴じゃなくてもいいはずなんだ。
美貴じゃなくても良かったんだよ。
美貴じゃなくても・・・
- 401 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:46
-
『あたしはね、売られたの。』
『パパとね。ママに売られたんだ。』
美貴には関係の無いことだ。
それは亜弥ちゃんの過去であって亜弥ちゃんの問題であって。
それに売られたとしても逃げれば良かったんだ。
美貴と梨華ちゃんみたいにさっ。
『美貴たん。泣かないで。』
美貴はどうかしてたんだよ。泣いた意味が分らないよ。
『泣かないで。美貴たん。』
美貴だって泣きたくなんてなかった。
亜弥ちゃんみたいな、美貴みたいな、
痛い現実を生きてる・・否、それ以上に酷い
人生を送ってる人達がたくさん居るんだ。
- 402 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:46
-
亜弥ちゃんなんて信用していない。
感謝はしてるけど、友達なんかじゃない。
美貴は飼われてるんだ。そこには需要と供給しか無いんだ。
何の繋がりも無いんだ。
- 403 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:47
-
だって。美貴じゃなくても良かったんだから。
ただ一時、側に居てくれたなら誰でも良かったんだ。
寂しさを、誰かで補いたかったんだよ。
美貴が居なくなっても、又次を捜すよ。
寂しい時に一緒に居てくれる誰かを。
今度はさっ。もっといい人拾いなよ。
間違えても両手を血だらけにしてゴミにまみれた人なんて
拾うんじゃ無いよ?ちゃんと側に。ココロのまっさらな人を
見付けるんだよ?
その人にずっと側に居てもらいなよ。
- 404 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:47
-
くつくつと笑いがこみ上げる。
何なんだ美貴は。頭おかしいんじゃない?
止めどなく浮かぶ亜弥ちゃんへの思考。
甘いのかな。美貴は。ちょっとお世話になっただけの人のことを
こんなに真剣に考えるだなんて。
- 405 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:49
-
美貴は甘いね。
あんな子にほんとに情が移るだなんて。
きっと空が青い所為だろう。
だから美貴の所為じゃないよね。
梨華ちゃん。早く会いたいよ。
- 406 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:54
-
そんな風に念じてみる。
梨華ちゃんだけを信じてる。梨華ちゃんだけ側に居てくれればいい。
居てくれればいいんだ。
二人でならきっと幸せになれる。きっと。だから。
「亜弥ちゃんなんかいらない。亜弥ちゃんなんかいらない。」
自分に言いきかせるようにそう呟いた。
- 407 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:57
-
- 408 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 01:59
-
誰かが近づく気配がする。
美貴は一つ息を呑んで、ゆっくりと立ち上がる。
空気で分る。感覚で分る。『ソレ』が彼女であることに。
「梨華ちゃん・・」
美貴は反射的にその名を呼び、顔を向ける。
果たしてそこには美貴の念じた通りの人が立っていた。
久しぶりに見る彼女は、少し痩せていて、
歩みを止め、美貴のことをじっと見ている。
- 409 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 02:00
-
静かな時が、二人の間に流れる。
言いたいことはたくさんあるのに。
一つとして言葉が出て来ない。だから、
「梨華ちゃん・・・」
もう一度その名を呼んだ。今度は噛み締めるように。
彼女は無表情のまま、まだ美貴を見ている。
美貴は右手を差し出し、
「会いたかった。」
そう言って笑った。
- 410 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 02:01
-
途端走り出したその体は、スローモーションのように見えた。
抱きつかれた美貴の頭の中で、色々な気持ちが湧き上がって
ある意味混乱していて、その小さな体を抱き締め返すことさえ出来ない。
「美貴ちゃ・・・捜して・・・・た・・・・
会いたか・・・・った・・」
美貴の肩に顔を埋めすすり泣きながら言う。
愛しさと切なさがこみ上げた。
「美貴も捜してたんだ。ずっと。ずっと。」
- 411 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 02:03
-
嗚咽を上げて泣き続ける梨華ちゃん。
辛かったんだね?苦しかったんだね?
でも大丈夫。二人なら大丈夫。
そしてやっと、美貴はその体を抱き締め返してやることが出来た。
守らないと。この腕の中にあるこの人を。
例え
何を犠牲にしても
- 412 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/04(日) 02:03
-
何を犠牲にしても?
今思うと笑いがこみ上げる。
何を犠牲にしても?
もうすでに取り返しがきかない程たくさんの人を
犠牲にしていたんだって、不幸したんだって、
この時すら気付かなかったんだ。
滑稽だね。
ごめんね。
- 413 名前:スケルトン 投稿日:2004/04/04(日) 02:08
-
更新です。いつも遅い更新で申し訳無いです・・・
>>395 つみさん
本当にいつもレスありがとうございますw
>>396 名無し飼育さん
行く末か・・・(遠い目
- 414 名前:つみ 投稿日:2004/04/04(日) 13:17
- なんか最後の方の言葉に凄い重みを感じます・・・
何かがあったんでしょうね〜・・・ごめんね。
- 415 名前::天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:30
-
梨華ちゃんが泣き止むのを待って、ベンチに並んで座った。
美貴は梨華ちゃんを見つめる。
今美貴の両眼には梨華ちゃんが映っている。
穏やかな気持ち。心地良い感じ。
まるで自分の家に帰って来たかのような。
そんな場所何処にも無いのにね。
- 416 名前::天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:33
-
「美貴ちゃんあたし今、何処で働いてるのか知ってるんだよね?」
「うん。」
梨華ちゃんはまだ少し潤んだ目で美貴のことを見た。
不安そうなその顔に美貴は笑顔を向ける。
「そんな顔しないでよ梨華ちゃん。」
美貴も少し泣きそうになった。
「梨華ちゃん。美貴が梨華ちゃんに会いにお店まで行ったのは
知ってる?」
その髪をゆっくりと撫でながら優しく問う。
- 417 名前::天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:33
-
「う・・ん。聞いた。」
「亜・・・ピンクに聞いたの?」
「違うよ。ピンクちゃんじゃ無いよ。ピンクちゃんに聞いた
のは美貴ちゃんがあたしのこと待ってるから会いに行って
あげて。って」
それだけか。美貴は何故かそのことに安堵する。
「よっすぃーが教えてくれたの。美貴ちゃんがお店に来たって。」
その表情が少し曇る。
それよりも、よっすぃー?誰だ?あの金髪の人のことか?
でも確かあの人中澤って呼ばれていたような・・・
「美貴ちゃん・・・よっすぃーに殴られたんでしょ?でもね
でも、よっすぃーそんなことするような人じゃ無いんだよ?
でもどうして殴ったか理由言ってくれないし、それに」
- 418 名前::天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:36
-
まくし立てる梨華ちゃん。再び脳裏に浮かぶあの憎たらしい顔。
それ以上聞きたくなかったから、
「あいつ。よっすぃーって言うんだ。」
それだけ言った。それだけしか言えなかった。
亜弥ちゃんも知らないあいつの名前を梨華ちゃんは知ってる。
その事実にショックを受けている自分がいた。
自分だって同じなのに。亜弥ちゃんの本名は美貴しかしらないのに。
特別な人間にしか本名は教えないと言っていた。
自分の頭に血が上って行くのが分る。
混乱。混乱。混乱。
「あいつは梨華ちゃんの名前知ってんの?」
「うん。」
下を向く梨華ちゃん。
「だって・・チャーミーなんて呼ばれるの本当は嫌なんだもん・・」
- 419 名前::天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:38
-
だから教えたの?名前を。あそこに現実は無いって、
名前なんて生きていく上での重みになるだけだって
亜弥ちゃんは言ってた。
なのに教えたんだ。
そこに特別な感情は無いの?
美貴はその華奢な両肩を掴んだ。
「梨華ちゃん。今何処に住んでるの?今日美貴と会うってあいつ
には言ったの?あいつは」
そこまで早口で喋りハッとする。
梨華ちゃんが怪訝そうな顔で美貴を見ている。
- 420 名前::天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:39
-
「美貴ちゃんどうしたの?」
どうかしてる。美貴は梨華ちゃんに向けた視線を逸らした。
これじゃあまるであいつに嫉妬しているみたいじゃんか。
「ごめん・・・久しぶりに会ったから、聞きたいことがたくさん
あり過ぎて頭が混乱しちゃったよ。」
美貴は誤魔化そうと笑ったけど、梨華ちゃんは笑ってくれなかった。
「美貴ちゃん。私もね、聞きたいことがあるんだ・・・」
真剣な眼差しは何故か美貴を不安にさせる。
どうして笑ってくれないんだろう。
- 421 名前::天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:39
-
きっと亜弥ちゃんだったら笑ってくれるのに。
亜弥ちゃんは天使だから、美貴のことを許してくれるはずだ。
許す?何から?
- 422 名前::天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:40
-
「美貴ちゃん。あの後。私を部屋から追い出した後、
院長と、何があったの?」
濁りきった二つの目
生臭い体臭
伸びてくる両腕
そして
赤。赤。赤。
思い出したくも無い過去の現実。
- 423 名前::天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:40
-
「殺したよ。」
「え?」
「美貴。あいつのこと殺したんだ。」
- 424 名前::天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:45
-
- 425 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:45
-
梨華ちゃんを部屋から追い出し、美貴は上着を脱いだ。
院長は興奮していた。額から汗を滲ませ、
荒い息を鼻から吐き出している。
美貴は口内に溜まった唾を飲み込み、無理矢理笑う。
視界に入るのは汚いダブルベットと、汚い机と、汚い本棚。
そして汚い男。
『ボクはね、ずっと寂しかったんだ。』
伸びる二の腕が美貴の両腕を握る。
吐き気がする吐き気がする
- 426 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:46
-
『今まで誰もボクのこと愛してくれなかったんだ。』
一体何人をここで無理矢理ヤったんだ、
ここの皆全員知ってるよ。男女問わず、年齢問わずここに
連れて行かれる子達のこと。あんたの欲の所為でぶっ壊れる
子達のこと。『ソレ』の対象が梨華ちゃんになった。
考えたこと無いって言ったら嘘になる。梨華ちゃんを見る
院長の目の色が違うと気付いた日から。こんなことになるんじゃ
ないかと半ば覚悟してたよ。そしてその日が今日だった。
ただそれだけの事。
『誰もボクのこと好きだって言ってくれなかったんだ。』
美貴は両腕を掴まれながらダブルベットの方へと導かれる。
『さぁ、一つになろう。ボクと一つになろう。天国へ行こう。』
天国。天国。天国。
- 427 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:46
-
梨華ちゃんはちゃんと皆に言ってくれたのかなぁ
逃げようって。こんな場所から逃げようって。
美貴は行くよ。天国へ。
そこには、痛みも苦痛も悲しみも貧困も無いんでしょう?
楽になれるんでしょ?じゃあ行くよ。鼻歌歌いながら。
天国へ。温かい世界へ。まるで母親のお腹の中にいた時のように。
- 428 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:47
-
でも
オ前 ト デハ 無イ
- 429 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:47
-
美貴はポケットから取り出した果物ナイフを、
その腹につき立てた。その体にのめり込んで行く感触。
歪む顔。
『ギャァァァァアアァ!!!!!!』
つんざく程の悲鳴。
それを引っこ抜くと同時にその腹にもう一度めり込ませる。
再び響く悲鳴。
- 430 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:48
-
『ど・・・どどどうし・・・て・・・』
口からヨダレと泡を吹きながら美貴を見上げるその眼差し。
『地獄に落ちろよ。』
笑いながらそう言ってやった。
- 431 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/04/22(木) 01:48
-
地獄に落ちるのは美貴なのかもしれない
ごめんね
- 432 名前:スケルトン 投稿日:2004/04/22(木) 01:50
-
更新です
>>つみさん
いつかその意味が分る!・・・・筈
- 433 名前:つみ 投稿日:2004/04/22(木) 15:56
- 複雑になってきましたね・・・
ふじもとさんの心もですけど
ふじもとさんの動向が気になります!
- 434 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/23(金) 18:36
- 重いなぁ・・・・
けど引き込まれちゃうんですよねぇ
- 435 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:22
-
その後のことはよく憶えていない。
頭の中は真っ白で、兎に角走った。
走って走って走って。気付くとあのゴミ置き場にいた。
「両手がね、真っ赤だったんだ。もう死んでもいいって思ったんだ。」
美貴は両手で自分の顔を覆う。
「本当に本当に真っ赤だったんだ・・・」
今まで何度となく言い聞かせて来た。
これで良かったんだって。悪い奴は退治しなくちゃいけないんだって。
人のココロを傷付けちゃいけないんだ。
そんな人間に生きている価値なんか無い。って。
だけど
消えないんだ。痛みが。記憶が。後悔が。
- 436 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:23
-
それが正しかったなんて誰に分かる?
- 437 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:24
-
なにか言いたげな梨華ちゃんを美貴は視線で制す。
「ねえ、梨華ちゃん教えてよ。今度は美貴が聞く番だ。」
美貴はやっぱり天国に行きたいなっ。
「あの後、皆はちゃんと逃げた?」
あの高い所に。光の挿す方に。救いのある所に。
- 438 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:27
-
「美貴ちゃん。」
温かい体温が美貴を包む。
今にも崩れてしまいそうなそんな声を出しながら、
懐かしいその両腕に身を委ねる。
「皆はまだきっとあそこにいるよ。ううん。違うね、
あそこにいるのかは分らないけど。皆は結局何処にも行けなかったの。
いくら私が言ったって無駄だった。外に行こう。ここから
逃げ出して、自由になろうって。何回も何回も言ったけど。
誰も動こうとしなかったの。」
「何・・・で」
「あの場所以外。私達の知る世界なんて無いから。」
何の為にこの手を汚したんだ。
「あそこから逃げたのは私と美貴ちゃんだけ。」
- 439 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:27
-
美貴は誰も救えなかった。それどころか、かえって
皆を混乱させたに違い無い。
皆を不幸にしたに違い無い。
皆を犠牲にして、美貴は逃げたんだ。
- 440 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:27
-
ココロの悲鳴は、音にならなかった。
- 441 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:29
-
だから懇願する。絶望と哀願を込めて。
「梨華ちゃん。一緒にいなくなろう。消えてなくなろうよ。
もう美貴疲れたよ。凄く凄く疲れたんだ。」
あの金髪の中澤さんが言ったように。
むしろあの言葉に導かれるように。
そして温かい掌がゆっくりと美貴の背中を撫でる。
美貴はゆっくりと目を閉じた。
- 442 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:30
-
「美貴達がいなくなったって悲しむ人なんていないよ。
泣いてくれる人なんていないよ。親にも捨てられて
生きて行く術も知らなくて、こんな人間に価値なんて無いでしょ?」
だから大丈夫。きっと大丈夫。
優しく美貴を撫でる手に一層体温がこもる。
- 443 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:30
-
「いいよ。美貴ちゃん。一緒に死んじゃおう。美貴ちゃんが
そうしたいならいいよ。」
その甘い言葉に美貴は顔を上げ、両手を梨華ちゃんの首にかける。
ゆっくりと力を込めながら。
これで楽になれる。全てから解放される。
やっぱりさっ。
天使 ナンカ イナイ
帰りたい。帰りたい。
温かい場所へ。あの、光の挿す方へ。
- 444 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:31
-
例え遠い意識の中、美貴を呼ぶ声が聞えても。
- 445 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:31
-
「美貴・・・・ちゃん・・・で、・・ね」
苦しそうに息を吐きながら梨華ちゃんは言葉を紡いだ。
「で・・・も、悲しむ・・・人いる・・・よ・・ 」
脳裏に浮かぶたった一人の人物。
美貴の飼い主。でもその悲しみは一時の戯言。
だから卑屈に美貴は唇を歪めた。
「梨華ちゃんにはよっすぃーとか?」
その途端梨華ちゃんの頬を涙が伝う。
- 446 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:33
-
美貴はその力を緩める。無意識に。
途端激しくむせる梨華ちゃん。
「ふははっ。ほんとなんだかなっ」
美貴のしたことが全部無駄で、
一人でなんか死ねなくて。
離れていた数ヶ月の間に、梨華ちゃんを見失った。
「美貴・・・ちゃ」
「いいよ。梨華ちゃん行きなよ。」
何かさっ。美貴馬鹿みたいじゃん?
「美貴ちゃん。」
うん。知ってる梨華ちゃんも混乱してるんでしょ?
美貴と同じ位。
知ってたよ。こんなのは茶番だって。
それが死ぬ程悲しいんだって。
- 447 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:34
-
いつまでも立ち上がらない梨華ちゃんを尻目に、
美貴は立ち上がる。ポケットに両手を詰め込んで。
「美貴ちゃん・・。私は・・・」
呟きにも悲鳴にも似た声が背中から聞えた。
知ってたよ。
コンナ ノハ 嘘ノ 世界。
だから。さよなら。
- 448 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:35
-
一人で歩き出した美貴。後ろから梨華ちゃんの
声がしたけど。美貴は振り向かなかった。
何処へ行こうか。
夕暮れの道を、美貴はトボトボと歩く。
このまま警察にでも行って自首しようかな。
美貴は人を殺しましたって。皆の為を思って殺しましたって。
あらいざらい話してしまおうかな。
そしたら今度こそ皆は救われるのかな。
馬鹿みたいだねぇ美貴。ほんと馬鹿みたい。
- 449 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:36
-
- 450 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:37
-
気付くとあの、ゴミ置き場にいて、
亜弥ちゃんを思い出していた。
今何をしているんだろう。
あの部屋の中で美貴の帰りを待っているのだろうか。
思えば奇妙な巡り合わせだった。
最初の頃は疲労感と焦燥感に見まわれて、
まるで警戒心の強い野良猫みたいに毛を逆立てて威嚇していた。
世界中の人間が、美貴の敵だったから。
それが今じゃどうだ。すっかりと大人しくなってしまった。
たまたま餌をくれた通りすがりの亜弥ちゃんになついてしまった。
なついた?
ちょっと違うな。
- 451 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:38
-
ここに来て欲しい
- 452 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:43
-
「あれぇ〜。美貴たんじゃん。」
一瞬幻聴かと思った。
ゆっくりと振り向くとそこには、亜弥ちゃん。
片手に小さな水の入った袋。見るとその中には
金魚が入っていた。
こういうのも奇跡というのだろうか?
理性を保たないと今にも泣き崩れてしまいそうで、
そんな気持ちを隠すように美貴は亜弥ちゃんの方へ1歩近づく。
- 453 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:44
-
「亜弥ちゃん。それどうしたの?」
持ってる金魚を指差した。
「ん?これ?飼うんだよ。」
小さな小さな生き物を亜弥ちゃんは自分の目線へと持っていく。
「美貴たんが居なくなったら寂しいからね。」
今日は天気がいいね。って言うみたいに軽い口調でそう言った。
美貴も口調で返す。
「金魚が美貴の代わり?金魚は喋れないよ?人じゃないよ?」
「美貴たん以外の『人』と一緒に住む気は無いよぉ〜ん。」
そんなことは聞きたくなかった。
亜弥ちゃんが一人で寂しい思いをするなんて、
そんなのは我慢出来ない。
誰でも良い。側にいてあげて欲しかった。
- 454 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:46
-
反復するココロ。
さっきまでは誰よりも側に来てほしいと願ったのに。
- 455 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:47
-
「美貴たんチャ−ミーさんに会ったんでしょ?
これからチャ−ミーさんとこに行くんでしょ?」
そんな風に寂しそうに言わないでよ。
「いくらでもいるじゃん。亜弥ちゃんは可愛いし優しいし、
素敵な人なんかきっとゴマンといるよ。」
「え?」
「だから又誰か拾いなよ。」
亜弥ちゃんは鼻先で笑うと、くるりと美貴に背中を向けた。
- 456 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:51
-
「そうかもね。あたし可愛いし優しいもんねぇ〜。
美貴たんより素敵な人なんてゴマンと・・・いるよ・・・ねぇ〜。」
ニャハハと笑うその背中があまりにも遠く感じて、
美貴は手を伸ばした。掴んだその腕。振り向いた亜弥ちゃん。
「馬鹿っ。何で泣いてんのっ。」
美貴は亜弥ちゃんの泣いている顔を初めて見た。
薄い茶色の両眼からこぼれる透明な液体。
「だぁって嫌だ・・・・よ、美貴たん
うっ・・・っ。がいいんだ・・・・もん。他の人・・・・
なんか・・・・いらな・・・・・・い。」
その言葉には少なからずショックを受けた。
- 457 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:55
-
誰でもいいって言ってたじゃん。
だからこそ美貴は亜弥ちゃんといれたんだ。
美貴は使い捨てだって、
飽きたら捨てられるんだって。
そう思ってた方が楽だったから。
やっぱり美貴となんか一緒にいちゃいけない。
美貴は皆を不幸にしてきたんだ。
梨華ちゃんも施設の皆も。
それに人も殺したんだよ。
もう願ったり祈ったりしないから。
亜弥ちゃんが必要だって・・・
- 458 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:56
-
「美貴じゃなくても大丈夫だよ。きっと長く一緒に
居過ぎたんだね。」
「違・・・っつ・・・嫌・・・・」
亜弥ちゃんは頭を左右に振って美貴の腕を振り解こうとする。
その度に滴る涙。美貴は無意識にその体を引き寄せた。
金魚を潰さないようにそっと。
- 459 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:57
-
「亜弥ちゃん泣かないで・・・」
もう大分薄暗くなって来た裏道で、
美貴はそう呟き続けた。
「行かな・・・・いでよ。行かない・・・で。」
今、亜弥ちゃんの背中には両翼が無い。
本当はその羽で、何処にでも行ける筈だったのに。
これも美貴の所為。
温さに甘んじて、優しくて寂しい天使の側に寄生していた、
美貴の罪。
- 460 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:57
-
償え。
つぐなえ。
ツグナエ。
- 461 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 20:59
-
残る最後の理性は弾け飛んだ。
「美貴は何処にもいかないよ。亜弥ちゃんの側にいるよ、
もう美貴には亜弥ちゃん以外何も無いよ。だから」
神様なんていない。だけど天使はいる。
「泣かないで。」
ずっとずっとそう呟いた。
- 462 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/05/12(水) 21:00
-
何かが狂ってる。
歯車は音を立てて回る。
亜弥ちゃんも美貴も。
何かが狂っていた。
ごめんね。
- 463 名前:スケルトン 投稿日:2004/05/12(水) 21:03
-
更新です。いつも更新遅くてすみません・・・
433>> つみさん
どうなってしうのか。。。こうご期待☆(頭悪っ
434>> 名無し飼育さん
これからもっと深くなる!・・・筈(馬鹿
- 464 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/14(金) 00:05
- 結構話が進みましたね〜。
間に入る一言一言が凄く気になります。
- 465 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/16(日) 03:16
- 本当に愛せる人を見つけた松浦さんは幸せだと思います。
歯車が狂おうが何だろうがこの二人には幸せになって欲しいです。
- 466 名前:つみ 投稿日:2004/05/21(金) 21:48
- 読めない展開ですね〜
何が正解で何が間違いなのか・・
考えさせられますね。
- 467 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/12(土) 17:48
- この後の二人がめちゃくちゃ気になります。
更新来たら小躍りして喜ぶ所存です。
- 468 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:38
-
まだ泣き続ける亜弥ちゃんを抱えるようにして
マンションへと運ぶ。
この間の水族館から帰った時みたいに、灯りはつけないまま、
二人でソファーに座る。亜弥ちゃんが持ってた金魚を、
透明な少し大きめのコップに移して。
暫く背中を撫でてあげると、段々呼吸も落ち付いて来た。
だから美貴は告白する。美貴の全てを。
- 469 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:39
-
「ねぇ、美貴さぁ。人を殺したんだ。最初に会った時、
美貴血だらけだったでしょ?」
へらへらと美貴は笑う。
「梨華ちゃんのことを想って、皆のことを想って。
そいつを殺したんだ。2回位かな?そいつの腹に
ナイフを突き立てた。そいつを殺すことに後悔
なんてなかったよ。」
ずっと暗闇を見つめたまま。
「だけどね、その後のこと今日梨華ちゃんに聞いて
美貴のしたことが全部間違いだったんだって気付いて、
美貴、梨華ちゃんと一緒に死のうと思ったんだ。
でも出来なかったんだけどね。」
今まで話せなかったことを、全部ぶちまける。
例えこれで嫌われてここを追い出されたとしても
美貴は亜弥ちゃんに話さないわけにはいかなかった。
- 470 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:40
-
これは懺悔にも似ている
- 471 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:40
-
「こんな自分が世界で一番嫌い。」
そして美貴は初めて亜弥ちゃんの方を振り向き、
その瞳の中を覗く。暗闇に慣れたこの濁った両眼で。
亜弥ちゃんの中に宿る悲しみ。絶望。
さあ、美貴を捨ててよ。
大事な人なんて美貴はもういらないから。
お願いだから嫌いだと言って。
顔も見たくないって言って。
間違えても梨華ちゃんのように抱き締めたりしないで。
そしたら美貴はきっと壊れてしまう。
- 472 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:41
-
だけどその形の整った唇から流れ出る音は、
美貴が予想していたものとはかけ離れていた。
「自分のこと好きじゃない人に本当の幸せなんて訪れないよ。」
美貴は呆気に取られながら亜弥ちゃんに見入る。
亜弥ちゃんはふくれっつらで美貴を睨みつけた。
「あたしは自分が好き。大好き!」
何故かその瞳は涙に濡れていて、
「そうじゃなきゃ生きていけないもん。あたしはまだ幸せ
じゃないもん。美貴たんも幸せじゃないもん。」
こんな綺麗な人間をいは今まで一度も見たことが無い。
ああそうかやっぱり亜弥ちゃんは人間じゃなかったんだ。
- 473 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:43
-
「だから私は生きてる。美貴たんは死んじゃ駄目。
美貴たんがどんなんだっていいよ。私は美貴たんが好きだから。
でも・・・・」
それから暫くの沈黙。
亜弥ちゃんはかすかに震えている。
「亜弥ちゃん・・・?」
「パパの借金の肩にされて売られて、
そんな私を誰が好きでいてくれるの?」
ああ、そうだ。
「自分しかいないじゃん。そんな風に毎日毎日言いきかせて
嫌だけど借金を中澤さんに返す為にお客さんのアフターに付き合って。」
君には君の、痛みがある。
- 474 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:45
-
「あっ、でもチャ−ミーさんはしてないよ?本当は駄目なんだ。
中澤さんに禁止されてるの。でも1日でも早くお金返したかったから・・
チャ−ミーさんは借金とかしてるわけじゃないから」
だから大丈夫と向けられる泣き笑い。
『梨華ちゃんは、心も体も売らないから。』
梨華ちゃん『は』
今更その言葉の意味を知る。
自分の浅はかさを知る。
醜いココロを映し出したような顔をした男。
嫌そうに付いて歩く亜弥ちゃん。
あんなことを何回繰り返していたの?
- 475 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:48
-
美貴の天使
美貴だけの天使
どうか
溺れたりしないで
この、水槽の中のような狭い世界に
- 476 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:48
-
- 477 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:49
-
美貴は震える亜弥ちゃんを抱き寄せた。
優しく、慈しむように。
「美貴はさぁ。まだ自分のことあんま好きじゃないけど。
亜弥ちゃんのことは好きだな。」
腕の中で微かに震えている亜弥ちゃん。
「亜弥ちゃんの笑った顔見てると、美貴、凄く幸せになるんだ。」
ゆっくりとその頭を撫でる。さらさらとした心地の良い感触。
「亜弥ちゃんがどんな人だっていい。どんな嫌な人間でも、
世界中、皆が亜弥ちゃんを嫌いでも。きっと美貴は大好きだよ。」
だって亜弥ちゃんは美貴を見つけてくれた。
救い出してくれた。
- 478 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:51
-
「亜弥ちゃん。美貴もあそこで働くよ。一緒に
借金返していこう。だからもう嫌なことしないでいいよ。」
強く強く抱き締める。その涙が止まるまで。
「そりゃあ慣れるのに時間はかかると思うけど、美貴頑張って働くから。」
亜弥ちゃんの肩に顔をうずめ美貴は宣言した。
- 479 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:52
-
「そ、それって。美貴たんあたしとずっと一緒にいてくれるってこと?
ってか私、中澤さんがパパに払ったぶん借金いっぱいあるんだよ?」
美貴は黙ってうなずく。
「ずっと、ずっと、ずっと一緒?」
鼻声の亜弥ちゃんのが可愛くて、
その体をぎゅっと抱き締める。
「うん。いーよ。ってかさっきも言ったじゃん。」
「石川さんは?」
「んんぅ?梨華ちゃんにはあいつがいるし。」
美貴は嫌いだけど梨華ちゃんが大分ココロを許してるから
本当はそんな嫌な奴じゃないのかもしれないし。
亜弥ちゃんはとうとう声を上げて泣き出した。
この小さな体に抱えていた悲しみを散らすように。
- 480 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:52
-
「ほんとにほんとにほんと?」
「んもうしつこいなぁ。んじゃ指きりしようか?」
美貴は自分の小指を亜弥ちゃんに差し出す。
でも亜弥ちゃんはじっと美貴の小指を見ているだけ。
そして
- 481 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 01:54
-
「じゃあさ、指きりの変わりに、キスしてよ。」
「うぇ?」
やっぱり予想だにしなかった音を紡ぐ。
「私ファーストキスだけは好きな人とって決めてたんだ。」
「指きりの変わりとかって意味わかんないから、
それに好きな人とかって、それって男のことでしょ?」
なんだか美貴はしどろもどろになりながら、
わけのわからないことをわめく。
ギャ−ギャ−ギャ−と。
だって。ってか、美貴だってキスなんてしたこと無いもん・・・
- 482 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 02:01
-
「誰が決めたの?そんなこと。私は美貴たんが好き。
男とか女とかじゃなくて。あなたが好きです。
今まで誰かにキスを許したことなんて無いよ。」
そしてふっと笑う。
「あなたが、好きです。もうどうしていいかわからない程。」
まっすぐなその言葉は、相も変わらず美貴のココロを抉る。
「あっ。でも美貴たんの一番が私を好じゃないなら意味が」
亜弥ちゃんがそれを言い終わらないうちに、
美貴は不器用に唇を寄せた。
- 483 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 02:03
-
一番とか二番とか、そんなの関係ないよ。
美貴にはもう亜弥ちゃんしかいないんだから。
だからあなたが望むなら、その全てを叶えよう。
きっとこれは『愛』じゃない『恋』じゃない
美貴が天使に溺れたんだ。
ただ、それだけ。
- 484 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/06/16(水) 02:04
-
それでも良いと思った。
そう思ってたんだよ、
亜弥ちゃん。
ごめんね。
- 485 名前:スケルトン 投稿日:2004/06/16(水) 02:10
-
更新しました。
464 名無し飼育さん
更新遅くてすみませんすみません(汗 まだ気にして頂けると幸いです
465 名無し読者さん
あーーー幸せってなんだろう(遠い目
466 つみさん
いつもありがとうございます。今度こそ佳境です(多分
467 名無し読者さん
そんなあなたのレスに自分は小躍りしてしまいました・・・・
- 486 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/16(水) 02:23
- リアルタイム更新キター!!
作者様、更新お疲れ様です。
ビバ!あやみき!
- 487 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/20(日) 03:55
- これっす!こんなの待ってったっす!!
最高っす!!!
- 488 名前:つみ 投稿日:2004/06/20(日) 15:19
- 愛でも恋でもない・・・か・・・
いよいよって感じですね・・・
あやみきを見守りたいと思います!
ごめんね
- 489 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/07/20(火) 23:32
- これで完結なのでしょうか…
続きが存在するならば是非読みたいです。
- 490 名前:読み屋 投稿日:2004/08/01(日) 21:43
- おい!メチャクチャ感動したぞ
あんたすごいぞwww
いや、マジで。
- 491 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/02(月) 15:58
- ↑感動するのは分かるんですが、むやみに上げないでください。
スケルトンさん、いつも楽しみに読んでます。
またお暇な時に更新お願いします。
大好きです!
- 492 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/04(水) 03:15
- おちんち○
- 493 名前:スケルトン 投稿日:2004/08/06(金) 01:35
-
生きております(汗
相変わらず更新が遅くて申し訳ありません凹
夏バテで少々まいっておりました。
続きも大体出来あがっておりますので、
もう少し待って頂くと幸いです。
- 494 名前:読み屋 投稿日:2004/08/07(土) 00:09
- うひょーめっちゃ楽しみ♪♪♪
お願いしますよ!
- 495 名前:亜弥☆ 投稿日:2004/08/07(土) 14:40
- ゃばぃ。この話…すごぃ引き込まれる…感動した!!重ぃ話なのに、どこかリァルで…ゃばぃよ。作者さん!!ぁなた最高かもしれない。
- 496 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/09(月) 23:22
- ヾ川*VvV)ノ
- 497 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:30
-
「で?本当にここでやって行く気になったと・・・」
美貴はコクコクと頷く。
「今までの接客経験は?」
今度はフルフルと頭を振る。
中澤さんはこの前の時みたいに椅子に座りながら
両手を組んで美貴を見上げている。
- 498 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:31
-
「水商売舐めたらあかんで?そんな簡単に慣れるもんちゃうしやな」
「亜弥ちゃんだって梨華ちゃんだってやってる。」
そこで中澤さんは深いため息を付く。
多分中澤さんの美貴への第一印象は最悪だ。
だから断られる覚悟でここへ来た。
「あんなぁ〜」
「美貴、ゴミ置き場でこのまま放置されて死んでもいいって思った。
梨華ちゃんと一緒に死のうと思った。」
「なっ」
でも
「生きてる。生きていかなきゃ行けない理由も出来た。
だからここで働かせて下さい。」
「ったく自分勝手言いおって。なんや途中聞き捨てならん
ことも言うとったような・・・・」
「お願いします何でもします!」
そのまま深く深く頭を下げる。
- 499 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:33
-
「何でウチがこの店やってるか知っとるか?」
唐突な質問に美貴はゆっくりと頭を上げた。
「この世は腐っとんねん。何が悲しくて年ハもいかない子達が
こんな場所に集まんねん。親はどないした。自分の腹痛めて
産んだ子を、どうして抱き締めて、叱って、頭を撫でてやらん?」
中澤さんは誰に言っているんだろう。
両手を組んだまま、淡々と話している。
「例えどんな事情が存在しようとも、たった一個だけでも
優しい思い出を残してやらんかい。」
- 500 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:33
-
だからなのか?
だから、
「中澤さんがその代わり?親とかの代わりに抱き締めてあげるの?
親とかから捨てられたり、売られたり。そんな酷い傷なんて
癒えるわけないじゃん。」
なんて滑稽なんだろう。
こんなんただの金儲けじゃん。
- 501 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:35
-
「相変わらずはっきり言うやっちゃな。」
中澤さんは椅子から立ちあがり美貴に歩み寄る。
『この世に必要の無い人間なんていない。』
『未来なんて自分で作るもの。』
『生きてれば良いことがある。』
『自分の子供を嫌いな親なんかいない。』
この人もそんなありきたりな言葉を吐くのだろうか。
そんな馬鹿みたいに能天気な言葉を。
- 502 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:38
-
「でも、だったらどないする?やっぱり死ぬか?」
「え?」
ゆっくりと中澤さんは美貴の両腕を
力強く握る。キツクキツク。
「生きてく理由が出来たんやろ?生きてんのやろ?
それが現実やろ?だったら金がいんねん。
飯食わなあかんねん。わかっとんか?」
「分ってる・・」
そう。分っているからこそこうして、こんな店に
働こうと、美貴には学も経験も常識も無いから。
そんなのはいらないだろうここで働こうと・・・
- 503 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:40
-
「・・・中澤さん。その為に・・・ここやってる?
そんな人間はこんな仕事位しか出来ないから?」
もしこの店が無かったら、美貴は何処で働くつもり
だったんだろう。
中澤さんが言っていたことは、
偽善にも似た、正しい意見。
「こんな仕事いうなや。」
中澤さんはそう言って苦笑いした。
「あの頃のウチには『こんな』仕事しか思い浮かばんかった。」
こんな風にしか救う手だてが思いつかんかった。
ウチは浅はかなのかもしれんな。」
「どうしてそんな話しを美貴に?」
「そうやなぁ、似てるのかもしれんね。昔のウチに。」
- 504 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:43
-
美貴の何を見て中澤さんがそう思ったのかは知らない。
もしかしたら本当に似ているのかもしれない。
そうで無いかもしれない。でも今はそんなことを
考えている暇は無い。
『大人』の言葉を正しいと思ったのは初めてかもしれない。
こんな人が存在するなんて。
美貴はもう一度深く頭を下げる。
「ここで、働かせて下さい。」
中澤さんは今日何度目かのため息を付く。
- 505 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:44
-
部屋から出ると、
廊下に、ソワソワとピンクのうっすいワンピースを
着た不信人物が一人。美貴の姿を見ると、とことこと駆け寄って来た。
「美貴たん。中澤さん許してくれた?」
「まぁね。あいつの下で見習いってのが多少気にくわないけど・・」
「あいつ・・・ってベーグルさん?嘘、美貴たん黒服着るの?
嘘、ほんと?やばい。絶対かっこいい。接客に支障をきたすかも。」
あわあわおろおろと忙しく表情を変える亜弥ちゃんに、
美貴は少しげんなりする。
「あ、それよりも皆が美貴たんのことを」
「ストー−−−プ。ストップ。」
忘れてたけどこいつ結構面倒臭い。
- 506 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:45
-
「中澤さんが亜弥ちゃんに言えって。ホールで美貴に話しかけない
視線を合わせない。あくまでスタッフ同士。以上。」
「えええーーーーー。無理無理無理ぃ!」
「黙れ。」
黙れって・・・あたしの方が先輩なのに。
そう呟いてぷぅと膨れた後、
「ま、お仕事ですからね。」
と、大人びた表情になる。
今まであまり見たことの無い顔。
- 507 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:46
-
「でもね、本当は少し不安。」
「ん?どして?」
「こんなにいつも一緒にいるなんて。なんか不安。」
なんとなく言いたいことは分る。
今までは自分一人のことを考えれば良かった。
これからもそうなんだと思っていた。
例え側に梨華ちゃんがいたとしても。
例えあそこから抜け出したとしても。
亜弥ちゃんに会うまでは。
- 508 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:47
-
「今に当たり前になるよ。」
「何が?」
「二人でいることが。」
ぶっきらぼうに亜弥ちゃんの顔を見ないで言う。
「どうせこれから飽きる程一緒にいるし。って、うわっ!」
突然の衝撃に体がよろけた。危なく転がりそうな体も持ち直す。
「何すんの!危ないじゃん!」
体に巻かれた腕はその力を緩めない。
「みぃ〜きたん。大好き。」
「いいから離せ。」
「ずっとずっと一緒だもんねぇ〜。」
- 509 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:48
-
この子って甘いな。わた飴みたいだ。
「ねぇ美貴たんのお名前なんてぇ〜の。」
一番始めに会った時にもそんなこと聞かれた。
「ん?」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜。ここでのお名前は?」
そしていつものようにニコリと微笑む。
なんだか色々な気持ちとか記憶とかが一気に膨れ上がって、
不幸だとか死にたいだとか世の中だとか
普通だとか苦しいとか過去とか未来とか
曇った空とか狭い水槽とか存在理由とか
そんなのはもうどうでも良い。
この、腕の中にある体温。
- 510 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:49
-
「美貴は。『ミキ』だよ。」
「ええ?!中澤さんそれで許してくれたの?」
大袈裟に驚く亜弥ちゃんの頭をこづく。
「だってそれ以外思いつかなかった。」
「だったら『アヤ』とかは?そうゆう方が良かったんでないかい?」
うぇ、胸やけしそう。
イメージは
So Pink
- 511 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:50
-
「ブッ。」
「え?何?何笑ってんの美貴たん?」
怪訝そうに訝しげな顔で美貴を覗く亜弥ちゃん。
「内緒。」
So Pink
So Pink
凄く桃色
- 512 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:51
-
ガヤガヤとした足音。
面接のために早く店に来ていた美貴達。
どうやら定時出勤して来た店の人達。
「あれぇ〜ピンク?その子誰?」
「あ、この前の子じゃない?ピンクやっぱりその気があったのね。」
「かっわいい〜。ピンクって面食い〜。」
「あ、美貴ちゃんだ!」
「はぁ?チャ−ミーとも知り合い?何?何?三角関係?」
その騒々しさにゲンナリしていると中から1歩抜け出して来た人物。
美貴は反射的にそいつに睨みをきかせる。
- 513 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:52
-
「あの〜さっ。」
バツの悪そうな顔でバツの悪そうに頭を掻く。
後ろで梨華ちゃんが心配そうに覗いているのも気にいらない。
「この前は殴ってごめん。痛かったよね?」
美貴は何も言わずに黙って凝視していた。
くいくいっと袖を小さく亜弥ちゃんが引っ張る。
「ベーグルさんごめんね。だって、美貴たん。
仲直りしようね。」
仲直りって、美貴は子供か?
でも自然に口元が緩む。
- 514 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:53
-
「ゴラァ!!いつまで廊下で騒いどんねん!!」
「「「はぁ〜い、すみませぇ〜ん。」」」
笑って笑って笑って
皆笑ってて、
それは
美貴を少し安心させる
美貴を少し幸せにさせてくれた
- 515 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/08/16(月) 01:54
-
束の間の時間
ごめんね
- 516 名前:スケルトン 投稿日:2004/08/16(月) 02:02
-
おっそい更新で申し訳orz
486>> 名無し読者さん
まさかリアルタイムで読んでいる方がいるなんて・・ガクプル
487>> 名無し読者さん
待っててもらっているのすみません・・・
488>> つみさん
いよいよなのかそうで無いのか自分でも(ry
489>> 名無し飼育さん
完結かと思われる程更新遅くてごめんなさい・・・
- 517 名前:スケルトン 投稿日:2004/08/16(月) 02:10
-
490、494>>読み屋さん
たいしたモノでは無いのですがこれからも宜しくお願い致します
491>> 名無し飼育さん
温かいお言葉ありがとうございますw
492>> 名無し飼育さん
ポッ(照
495>> 亜弥☆
これからもまったり待っていてもらえば幸いですw
496>> 名無し読者さん
从*‘ 。‘)ノ
- 518 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/16(月) 12:42
- じっくりまちますんで(w
ほんと、楽しみな話です。
- 519 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/19(木) 06:41
- めっちゃ楽しみ……
- 520 名前:読み屋 投稿日:2004/09/24(金) 23:26
- 待ちきれずにもう一回 silent voice読みました
もう涙涙・・・。
スケルトンさん大好き〜w
- 521 名前:名無し読者 投稿日:2004/10/03(日) 03:14
- 待ってます!
- 522 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:38
-
冬の終わりに、美貴達は花火をした。
今年の夏は忙しくてやれなかったから、と
亜弥ちゃんが言って。
- 523 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:38
-
人気の無い公園に色トリドリの光が交差し舞い上がる。
美貴達とは、美貴と亜弥ちゃんと、梨華ちゃんとベーグル。
始めてのそれは、なんだか酷く現実味が無くて、
美貴はただ、それをボーっと少し離れた場所から眺めていた。
一瞬にして舞い上がったかと思えばすぐ消えて、
それは赤かったり青かったり緑がかっていたり。
- 524 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:39
-
これが花火か。って、例によってぼんやりとそんなことを
考えていた時、
「おいっ。ちょっと。」
目の前にはいつのまに来たのか、ベーグルが手に細長い何かを
持って立っていた。
「もしかして花火って始めて?」
「うん。」
「んじゃあ、これ持ってみぃ?」
ニヤニヤしながらこいつが言う時はいつもろくでも無い
ことを考えている証拠だ。
「嫌。」
そう言った美貴はプイッとそっぽを向く。
- 525 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:40
-
「ぜってぇおもしれぇからほら早く持ってみぃ?」
なおも止まらないニヤニヤ笑いに根負けした美貴は、
嫌々とそれを握る。
カチリとライターに火を灯し、花火の真ん中位についているそれに
近づけた。
途端。
「皆逃げろっ!!」
やっぱりか。
そう思ったのも束の間、大きな高い音を立てて
それは宙へと舞った。
- 526 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:40
-
いつのまにか美貴とベーグルは『友達』みたいになっていた。
ベーグルはいつもニヤニヤ笑っている。
第一印象の時とはかけ離れていて、最初の頃は戸惑った。
でも、今も遠くから美貴を見て笑い転げている姿を見ると、
美貴も自然に笑いがこみ上げてくる。
変な感情だ。
でも悪くない。
- 527 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:41
-
「みぃ〜きぃ〜たん。」
しかめっ面で歩いて来たのは亜弥ちゃん。
「ロケット花火はぁ〜手に持ってはいけませんぞ?」
「ロケット花火?ああ、さっきの花火の事?」
「もし、チャ−ミーさんとかあたしのキュートなお顔に
火傷でも負わせたらどう責任を取るおつもり?」
どうやらロケット花火は亜弥ちゃんと梨華ちゃんの近くを
掠めたらしい。
- 528 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:42
-
「それはご愁傷さまで。」
途端両頬をつねられた。
「あだだ。」
「まったく、いつまでたっても口の減らない。」
それから亜弥ちゃんはニコリと微笑んだ。
「花火ってキレイでしょ?」
「まぁね。」
亜弥ちゃんは、じゃれあってる
梨華ちゃんとベーグルに視線を向ける。
「なんかこんなのいいよね。なんか『普通』っぽくて。」
「『普通』って何?」
- 529 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:42
-
パチパチパチパチ
公園の一角、美貴達だけの世界。
- 530 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:42
-
「あたしが今まで想像していた通りの『普通』」
亜弥ちゃんは美貴の手を握る。
「友達と一緒。大好きな人達と一緒。」
美貴はなんとも言えず。ただ、
「ふむ。」
と、だけうなずいた。
「ちょっと!どうして美貴たんはそういつも淡白なのさ!」
そして美貴の手を振り払うと『ベー』っと舌を出した。
- 531 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:43
-
ほんと、この子は怒ったり笑ったり忙しい人だ。
半分呆れながら、今度は美貴から手を伸ばして
その手を握った。
「『普通』って、美貴にはよく分らないけど、
でも、これが『普通』ってことなら、
『普通』も悪く無い。」
亜弥ちゃんは少し驚いた顔で美貴を見ている。
そして又、微笑んだ。
うん。悪くない。
- 532 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:44
-
- 533 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:44
-
「うわっ。」
「マジ?」
近くの自販機でジュースを買ってこようとベーグルが提案し、
じゃんけんで負けたのはなんの因果か亜弥ちゃんとベーグル。
「しゃーねぇピンク行くぞ。結構コンビニまで遠いからなっ。」
「ちょっ、ちょっと待っ」
亜弥ちゃんを急き立てるようにその腕を引っつかみ走り出すベーグル。
残された美貴と梨華ちゃんは近くのベンチに座る。
「なんだかんだ言ってあの二人仲良いんだよね。」
そう言うと梨華ちゃんは笑った。
- 534 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:46
-
「美貴ちゃんは今幸せ?」
梨華ちゃんの問いに美貴はうまく答えることが出来ない。
「私達ずっと幸せじゃなかったじゃん。」
なんだか少しチクリとココロが痛んだ。
抱えた膝に顎を乗せて、梨華ちゃんは遠くの方を見ている。
「でも梨華ちゃんがいたから。」
「うん。」
だからきっと他の子達よりは『幸せ』だったのかもしれない。
今ならそう考えられる。
- 535 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:46
-
「私最近思うんだよね。もういいんじゃないかって。」
「え?」
梨華ちゃんは美貴に柔らかく微笑みかける。
「もう『今まで』のことなんてどうでもいいんじゃないかって。」
梨華ちゃんの言っている意味が分らなくて、
美貴はただ梨華ちゃんの顔を見ていた。
「大事なのは『これから』なんじゃないかな?」
- 536 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:51
-
『これから』?
- 537 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:52
-
「私も美貴ちゃんも、幸せになれるよね。」
そう言うと、梨華ちゃんは美貴を抱き寄せた。
その体温はとてもとても温かくて、
ふと、店の人達を思い出した。
温度のある人達。
ココロのある人達。
状況はあまり変わらないが、
そこにはあの施設にはなかったもの全てが存在している。
- 538 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:53
-
そして
亜弥ちゃん
- 539 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:53
-
願ってやまなかったもの全てが美貴の周りに存在している。
でもそんなのは
不公平で
不条理で
だから
- 540 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:57
-
「これからなんて美貴には無いよ。美貴は皆を不幸にして、
こんな美貴が幸せになる権利なんて無い。」
美貴には『罪』を
「挙句に美貴人殺しだよ?
ココロなんてとうの昔に無くしたと思っていたのに。
でも痛くて。毎日痛くて。嫌な夢も見て。」
梨華ちゃんは黙ったまま美貴の体を抱き締めてくれていた。
「亜弥ちゃんと一緒に居ても痛くて。あんなに優しい人と
こんな美貴が一緒に居ていいわけないって。でも」
もう止まらない自己中心的懺悔。
もう止まらない自己中心的願望。
- 541 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:57
-
「一緒にいたい。一緒に笑っていたい。」
- 542 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:58
-
なんだか夢を見ているみたいだった、
色んなことが走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
確かに約束した。ずっと一緒に居ると。
でも本当はそんな自信はなかった。
だから恐かった。
- 543 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:58
-
いつか自分が亜弥ちゃんを裏切ってしまうんじゃないかと。
いつか亜弥ちゃんが美貴を捨ててしまうんじゃないかと。
ボロボロにして、そのココロを引き裂いてしまうんじゃないかと。
ボロボロになって、このココロが引き裂かれてしまうんじゃないかと。
皆をそうしたように。
あいつの血にまみれた時のように。
「恐いよ。梨華ちゃん。恐いよ。」
- 544 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:58
-
亜弥ちゃんと約束したのに。
一回だけ合わせた唇は、罪悪感だけを膨らませて。
もう美貴はどうしていいのかわからなかった。
「美貴ちゃんは。これからどうしたいの?」
お互いの息だけが白く色を帯びる。
- 545 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:59
-
美貴は。美貴は。美貴は。
「美貴は」
- 546 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:59
-
言いかけた時、
一瞬梨華ちゃんの視線が宙を泳いだ。
そして凍りついたように固まった。
顔色が真っ白になり、
ロウ人形のように身動きすらしなかった。
ゆっくりと梨華ちゃんの視線を辿る。
- 547 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 01:59
-
そこには
あいつがいた。
- 548 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 02:02
-
亜弥ちゃん。
水族館へ行こう。
手を繋いで
大きな水槽の前で二回目のキスをしよう。
- 549 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2004/11/05(金) 02:02
-
ゴメンネ
- 550 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/05(金) 02:03
-
おっそい更新で申し訳orz
- 551 名前:スケルトン 投稿日:2004/11/05(金) 02:09
-
518 名無し飼育さん
じっくりさせすぎてますよね(涙
519 名無し飼育さん
今でも楽しみにしていてくれると感無量です(涙涙
520 読み屋さん
いえいえ全然力量足らずで(涙涙涙
521 名無し読者さん
まだ待っててくれていますでしょうか?(不安
- 552 名前:519 投稿日:2004/11/05(金) 06:47
- 勿論、楽しみに待っていました♪
そして今回のこれは?
お、おぉ……(ドキドキ
- 553 名前:読み屋 投稿日:2004/11/07(日) 03:16
- ウギャギャ、ニャラニャラハァ━━━ ;´Д` ━━━ !!!!!
この小説に何度か泣かされたのですが、また泣かされそうな予感です
怖いです、でもYOYO読みたい
次の更新も楽しみに待っております
がんばってください!
- 554 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/08(月) 05:14
- 更新お疲れ様です。
痛くてしょうがない。
でも純粋な気持ちをもっている二人に、涙が。
藤本さんの願いは叶うのか…目が離せません。
ご自分のペースで頑張って下さい。
- 555 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/30(木) 02:37
- 続き楽しみにしてます。
- 556 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/03(木) 23:20
- まってます
- 557 名前:スケルトン 投稿日:2005/02/17(木) 00:03
- 遅れに遅れて大変申し訳ありません。。。
もう少しで更新致しますので待っていていただけると幸いです。。。
- 558 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/19(土) 09:14
- 待ちます。
- 559 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:43
-
全ての光景は非現実で
全ての光景がゆっくりと時を打つ
「院長。何で生きて」
そう、言ったのを憶えている。
目の前のあいつが懐から何かを取り出したのを憶えている。
- 560 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:44
-
黒光りした何かを。
その一瞬。あいつが笑った気がした。
吐き気がこみ上げる。
こらえきれなくて、美貴は口を押さえて下を向いた。
これは夢だ。
現実である筈が無い。
美貴は殺したんだ。
あの時殺したんだ。
- 561 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:45
-
「美貴たん!!」
亜弥ちゃんの叫び声がキコエタ。
- 562 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:45
-
そして短い騒音。
ただ後ろから。
どさりという鈍い音が聞えた。
一瞬何が起こったのかが分らない。
喉の奥からせり上げてくる何かを我慢しながら、
美貴は顔を上げる。
でもそこにあいつの姿は無い。
やっぱり美貴は幻を見たのだろうか?
- 563 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:46
-
「ピンク!!!!!!」
今度はベーグルの悲鳴が聞こえた。
ゆっくりと振り帰る。
その時はもう吐き気はしなかった。
- 564 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:47
-
色んなことがあった。
生まれてきて
捨てられて
望まないまま拾われて
人を殺して
又、望まないまま拾われて
腐りかけて
否、もう腐れていたのかもしれない
- 565 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:47
-
でも君がいた
美貴の天使。
美貴だけの天使。
- 566 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:47
-
- 567 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:48
-
頭おかしくなりそう。
もういい加減かんべんして欲しいよ。
だからさっ。亜弥ちゃん。
美貴に笑いかけてよ
いつもみたいにさっ。
『美貴たん。』
って。笑いかけてよ。
- 568 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:49
-
拾ったんなら最後まで責任取ってよ。
どうして何も言わないの?
どうして笑ってくれないの?
どうして
どうして
どうして美貴の両手が又、赤い色をしてる?
美貴にはもう、亜弥ちゃんしかいないのに、
どうしてそんな苦しそうに嘆くように
美貴の腕の中で唸っているの?
- 569 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:49
-
「亜弥亜弥亜弥亜弥亜弥」
美貴は叫んでいたのかもしれない。
声になんてならなかったのかもしれない。
必死でその名を呼んだ。
柔らかな指先の感触が頬に伝わる。
- 570 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:50
-
「みぃー・・・きたんが・・又、泣いて・・・るぅ
泣き・・・虫みきた・・・ん・・・寂しが・・・り
美貴た・・・・・ん。」
そして亜弥ちゃんは美貴の頬をゆっくりと撫でた。
その時、亜弥ちゃんの背中には羽があった。
美貴にだけ見える羽が。
「た・・・・ん。愛して・・・る。愛し・・・てる。アイ・・・。」
- 571 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:51
-
美貴はその時金魚を思い出した。
美貴と亜弥ちゃんの部屋の中の水槽で、
ゆっくりと泳ぐ金魚を。
ゆらゆらゆらゆら。
そして美貴と亜弥ちゃんの帰りを待ってる。
そして亜弥ちゃんの瞳が閉じる。
早く帰ろう。あの部屋へ。
早く。
早く。
- 572 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:51
-
「美貴っ!ピンクを離せ!駄目だそんなにきつく絞め付けちゃ!!」
「美貴ちゃん!!」
でも美貴は止めなかった。
だってこの手を離したら、きっと天国に帰っちゃうもん。
今度こそ帰っちゃうもん。
約束したのに。ずっと一緒にいるって。
亜弥ちゃんだって嬉しそうに笑ってくれたもん。
美貴をあげるから。全部あげるから。
もう意地悪なんかしないから。
だからお願い。
- 573 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:52
-
カミサマ
- 574 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:52
-
それからはよく憶えていない。
無理矢理亜弥ちゃんから引き離されて、
亜弥ちゃんとベーグルだけ救急車に押し込まれて。
美貴は取り乱してて、
梨華ちゃんがそんな美貴をずっと抱き締めててくれて。
美貴はそこで意識を手放した。
- 575 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/02/23(水) 01:54
-
好きとか。愛とか。
美貴にはよく分らない。
何も分らない。
だって誰も教えてくれなかったから。
でも、この胸が潰れそうな想いを『愛』というなら
美貴は貴方を
亜弥ちゃんのことを
アイシテル
ゴメンネ
- 576 名前:スケルトン 投稿日:2005/02/23(水) 01:58
-
更新しました。
温かい皆様のおかげでこのスレもここまで続けられることが
出来ました。ありがとうございます。
これからも宜しくお願い致します。
あ、まだ完結では無いので(汗 又まったり待っていて
頂けるとこれ幸いです。
- 577 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/23(水) 21:25
- なぜ、こんなことに・・・。
スケルトンさん、お帰りなさい。
次までまったりまってます。
- 578 名前:読み屋 投稿日:2005/02/24(木) 01:19
- こう、なんと言うか、今の心の中を言葉で表しますと
スケルトンさんの肩をガクガクと揺さぶりながら
「なんでだよぉー、どうしてだよぉー」
と叫んでいる自分が思い浮かべられますw
焦らずにゆくーりまたーりと執筆してください
- 579 名前:っヵ± 投稿日:2005/04/01(金) 20:47
- 更新楽しみにしてぉります!!!
- 580 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/28(木) 10:34
- 待ってます
- 581 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/07(土) 22:05
- 更新ユクーリ待ってます
- 582 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 23:20
- 楽しみにしております。
- 583 名前:名無しマスク 投稿日:2005/07/24(日) 13:25
- 続き楽しみです。
気長に待ってます。
- 584 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/07(日) 23:41
- 胸がつぶれそうです・・・やっぱり神様なんていないんですね。次回心待ちにしてます
- 585 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/08(月) 00:16
- 生存報告だけでもお願いします!!
整理が・・・
- 586 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/08(月) 23:06
- あのぉ・・保全してイイですか?
- 587 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/17(水) 00:20
- 作者さん、ぜひ完結させてください。
お忙しいとは思いますが、頑張って完結してください。
せめて、更新がなくても生存報告でもしてください。
- 588 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:04
-
無機質な機械音が白い部屋に響く
たくさんの管やホースが
真っ白なシーツの間から伸びている
さっきまではベーグルとピンクと中澤さんが
一緒にいた
美貴に色々話しかけてたけど
なんだか酷く眠くて
ただ、どんな言葉にもうんうんとうなずいていた
- 589 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:08
-
手術はどうやら成功した
と、中澤さんが言った
脊髄の一部が破損したらしい
と、ベーグルが言った
今までみたいな五体満足の生活は無理かもしれない
と、白衣を着た誰かが言った
それでも弾は摘出した
と、白衣を着た別の誰かが言った
意識が戻るかどうかも定かではないと
と、白衣を着ない別の誰かが言った
梨華ちゃんは何も言わなかった
- 590 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:08
-
この白い部屋のカーテンは閉めきられていて
今が昼なのか夜なのかわからない
昔の美貴みたいだと思った。
何処もかしこが灰色で
後ろを向いているのか前を向いているのかさえ
区別出来なかった。
ゆっくりと亜弥ちゃんが寝てるシーツの上に頭をあずけた。
- 591 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:09
-
まだ、亜弥ちゃんはここにいるんだ。
生きてはいるんだ。
ただ、名前を呼んでくれないだけ。
ただ、笑ってくれないだけ。
- 592 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:10
-
「美貴、又一人ぼっちに戻っちゃったのかなぁ・・・
あ、でも『友達』がいるってことは一人ぼっち
じゃ無いってことか。んでもさぁ、亜弥ちゃんがイナければ
そんなんどうでもいいわけさねっ。」
ソンナ事ハ ドウデモ イイ
亜弥ちゃんをこんな風にしたあいつが許せない
絶対許せない。
- 593 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:10
-
どうしてあんな所に現れた。
どうしてあんなモノを持っていた。
どうして美貴じゃなくて亜弥ちゃんを狙った。
どうして死んでなかった。
でもそんなことどうでもいい。
もう一度殺してやる。
違う
違う
違う
「美貴のせいだ・・」
美貴を拾ったから。
- 594 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:11
-
何の為の複線なのかがわからない。
あの、穏やかな日々も友人も梨華ちゃんも
全てが美貴の生きてきた道を真っ黒にする。
美貴は生きてるだけで皆を不幸にして呼吸してる。
皆の不幸の上になりたってる。
- 595 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:11
-
「亜弥ちゃんが天使なら。美貴はきっと悪魔だね。」
多分背中からは、真っ黒の羽が生えてる
だから美貴は帰らないと
地獄へ
何処までも深く沈んで
もう二度と帰ってはこれない場所へ
- 596 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:12
-
それでも最後に会いたいな
亜弥ちゃんに
こんな抜け殻みたいなんじゃなくて
- 597 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:13
-
でも期限は切れた
亜弥ちゃんを天国へ帰さないと
美貴はゆっくりと立ち上がる
もう二度と会えない
もう二度と触れられない
もう二度と会わない
もう二度と触れない
- 598 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2005/08/17(水) 17:15
-
「サヨナラ、ありがとう。」
亜弥ちゃん。
「ゴメンネ」
そして真っ白な部屋を出る。
そして真っ黒な世界へ。
美貴は帰る。
- 599 名前:スケルトン 投稿日:2005/08/17(水) 17:17
-
更新しました。
本当に遅くて申し訳ありません。
レスを付けてくださった皆さんありがとうございます。
もう少しで完結です。
再度のんびり待って頂ければ幸いです。。。
- 600 名前:名無しマスク 投稿日:2005/08/18(木) 15:50
- 更新お疲れ様です。
待ってましたよw
もうすぐ完結ですか。
それは喜ばしいことだとは思うんですが、ただこの先が痛そう。。(微汗
再度のんびり待ってますw
- 601 名前:519 投稿日:2005/08/21(日) 09:02
- やばい……なんでこんなに涙が……
更新ありがとうございます。
終わりが読みたい……でも終わって欲しくない。
そんな気持ちです。
- 602 名前:瞬生 投稿日:2005/08/27(土) 22:56
- 早く
更新して
下さい
- 603 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/29(月) 22:34
- あせんないでマターリ更新してくださいね☆待つのも楽しみの一環ですですからw
- 604 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/07(水) 15:25
- 作者さんのペースでいいんで、
頑張って更新してくださいね。
- 605 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/15(木) 10:16
- 作者様のペースで頑張ってくださいね。
まったりと更新お待ちしています。
- 606 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/23(日) 22:03
- まだまだまっとるよ〜
- 607 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/03(木) 21:47
- ねばるぞ
- 608 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/03(木) 23:04
- まだまだ待ってます
- 609 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/09(水) 23:43
- まだねばる
- 610 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/18(金) 01:51
- 一気に読まさせていただきましたが、すっげぇイイです!!
感動で涙が・・・・グスン
っつうわけで待ってます!
作者さん頑張ってください!!
- 611 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/21(月) 04:55
- >>610
どうでもいいけど、ageないでください。更新されたかと皆、勘違いしますよ
- 612 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/04(日) 12:07
- 待ってます・・・
- 613 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:30
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 614 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/20(金) 16:16
- めっちゃ泣いたんだけど!
この話って完結したの?
これで終わり?
- 615 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/21(土) 02:45
- まだ?
- 616 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/21(土) 02:48
- 続きよみたいよぉ
- 617 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/22(日) 02:56
- あげちゃ駄目だって!期待するじゃん・・・
- 618 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/22(日) 16:23
- ねばるぞ
- 619 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/23(月) 01:23
-
- 620 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/28(土) 02:55
- まだまだ待ちますよ
- 621 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/04(土) 04:19
- まだぁー?
- 622 名前:519 投稿日:2006/02/11(土) 07:06
- 生存報告だけでもなんとか……(^^;;;
- 623 名前:スケルトン 投稿日:2006/02/15(水) 02:21
- 生存しております。個人的事情で更新が止まってしまって
いましたが、スレを立てた以上完結させたいと思いますので
宜しくお願い致します。
- 624 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/16(木) 06:51
- おぉ、良かった。
それさえ解れば、待ちますですとも。
頑張ってください〜。
- 625 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/25(土) 14:33
- 待ってますよぉ
- 626 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/03(金) 01:37
- 待ってます!
- 627 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/27(月) 01:53
- 待ってまぁす
- 628 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/10(月) 23:48
- まだかなぁ〜
いつまでも待ってますからね
- 629 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/23(日) 21:55
- いつまでも待ってますよ〜。
- 630 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/27(木) 00:28
- まだぁ〜?
- 631 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/14(日) 00:14
- 作者さん生存報告を…
- 632 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/14(日) 02:28
- 落とします
- 633 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/25(木) 15:20
- まだまだ待ちます。
- 634 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/05(月) 17:23
- まだねばる
- 635 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/06(火) 13:18
- まだまだねばるぞーー!!
おぉーー!!
- 636 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/08(木) 18:02
- 作者さん、せめて生存報告お願いします!!
- 637 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/10(土) 21:40
- のあぁぁあ!生存報告だけでも!!
- 638 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 00:20
- 生存報告をお願いします
- 639 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 04:12
-
- 640 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/30(金) 20:06
- まっています
- 641 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/02(日) 02:16
- ・・・続きありますよね?
待っててOKですよね?
- 642 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/18(火) 20:34
- ねばるぞ
- 643 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/02(水) 23:55
- まだ、待っててもいいんですかい?
- 644 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/11(金) 20:55
- これだけの作品をこのまま終わらせるなんてもったいないですよ!!
- 645 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/03(日) 07:27
- 生存報告だけでも・・・。
- 646 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/15(金) 00:42
-
羽を広げる。
右には真っ白な翼。
左には真っ黒な翼。
だから何処へも行けない。
そうだなぁ。
あえて俗っぽく言うなら
復讐
- 647 名前:スケルトン 投稿日:2006/09/15(金) 00:45
-
スミマセンスミマアセン。
- 648 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/15(金) 01:05
- キターーー!!!!待ってました!!!
- 649 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/15(金) 04:00
- キタ━(゚∀゚)━!!!キタ━(゚∀゚)━!!!キタ━(゚∀゚)━!!!
待ってましたよ!
更新頑張ってくださいね
- 650 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/16(土) 01:32
- 作者さん、最高です!
待ってましたよ!
ラスト、楽しみにお待ちしております。
- 651 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/16(土) 22:13
- やっほぃ!おかえりなさーいw
- 652 名前:519 投稿日:2006/09/18(月) 14:01
- 信じて待ってました。更新ありがとうございます。
どんな結末になろうとも、見たくて仕方がなかったのです。
- 653 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:15
-
もう看板のネオンは落とされていた。
数時間のうちに世界は光の中に包まれる。
ひんやりとしたノブををゆっくりと回し、体を滑り込ませる。
真っ暗な廊下の先には、一筋の光。
そこに向かう。
- 654 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:18
-
「誰や?泥棒か?」
背後から身構えたような声が聞えた。
「違います。」
それだけを言い、その人に近づく。
「美・・・貴?」
縮まったその距離。
「病院にまだいた筈じゃあ、どないし」
最後まで紡がれることは無かった。
自分の拳が相手の鳩尾に食い込んでいたから。
「み・・・きなん・・・」
ずるりと崩れ落ちるその体を支え床に横たえる。
「中澤さん。ごめんなさい。
それと、今までありがとうございました。」
そしてその光を放つ部屋へと再び向かった。
- 655 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:19
-
- 656 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:19
-
一旦部屋へと帰った。
酷く鈍い思考を振り払うため洗面所で顔を洗った。
濡れた顔を上げると自分がいた。
酷く白い。
それとは逆に
体にはもうすでに黒ずんでいる
朱色。
大切な人が流した血液。
その色が濃く付く胸の辺りを握り締める。
- 657 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:20
-
トクリと音がした。
亜弥ちゃんと同じ音。
- 658 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:20
-
美貴 モ 生キテ イル
亜弥チャン モ 生キテ イル
だけど
何も感じない。
眼を閉じた。
- 659 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:22
-
リビングの方で、電話が鳴り始めた。
眼を開き、服を脱ぎ、自分の部屋へと戻る。
クローゼットの奥の奥にある服へと手を伸ばす。
初めて出会った時と同じ服。
洗濯されたそれにはもう、あの時浴びた帰り血は残っていなかった。
落とすのに苦労しただろうに。
その服を着込み、今だ鳴り止まない音へと手を伸ばす。
- 660 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:23
-
「すみません。金魚がいるんです。」
がなり立てる耳に響く声を無視して続ける。
「それの面倒見て貰いませんか?」
受話器を置く。
それに繋がる線を力まかせに引いた。
- 661 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:25
-
あれは確か2、3日前のこと。
『ねぇ亜弥ちゃん。その、美貴も洗濯畳むの手伝うよ。』
『え?』
きょとんとしていた亜弥ちゃん。
『いつも色々亜弥ちゃんに任せっぱなしだし。』
『いいんだよ美貴たん。これは私が好きでやってることだし。』
美貴はバツが悪くて視線を外した。
『だって亜弥ちゃんにおんぶに抱っこじゃ嫌だ。』
『そんなこと・・あ、ちょっと美貴たん?』
中々手渡してはくれないその手の中にあったシャツをひったくる。
『よっ、ん?なんで?なんで亜弥ちゃんみたいにうまく出来ない?』
くすくすと笑い出す亜弥ちゃん。
シャツ一つに悪戦苦闘する美貴。
『駄目だよ美貴たん。それじゃしわしわになちゃうよ。』
そう言ってから美貴の手の中からそれを優しく引く。
そして器用にいつものように綺麗に畳まれていく。
まるで魔法のようだと言ったら大袈裟なんだろうか。
- 662 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:27
-
『どうしたの美貴たん突然。なんかあった?』
だって
と、小さく呟いた。
軽く亜弥ちゃんは首をかしげる。
『だってこれからも一緒にいるんならさ、美貴も少しは
家事とかしないと。亜弥ちゃんも美貴も遅くまで働いてるのは
同じじゃん?』
その時、物凄い勢いで抱きつかれた。
『あ、亜弥ちゃん?』
その体が少し震えていて美貴は不安になった。
『美貴、何か酷いこと言った?』
かぶりを振られ、一層強い力で抱きしめられる。
『嬉しいんだよ?』
その後亜弥ちゃんはそのまま口を噤んでしまい、
結局どうして嬉しいのか聞けなかった。
- 663 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:28
-
暗闇が薄れたその部屋全体を見渡す。
今ならその気持ちが解る。
この寒々しい部屋に温度は無い。
でもあの時は確かに温かかった。
それが続く。これからも続く。
- 664 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:28
-
きっとそう思ったんだね。
だから嬉しかったんだね。
- 665 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:29
-
亜弥ちゃんはここに住んでからずっと
『一人』だったから。
もう大丈夫だよ。
一人なんかじゃ無いよ。
いつまでもいつまでも一人じゃないからね。
- 666 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:29
-
美貴はずっとずっとずっと。
亜弥ちゃんが好きだからね。
- 667 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:31
-
例え
この部屋へは帰ってはこなくても
玄関へと向かう。
靴を履く。
ドアのノブを回し開く。
さて、行くか。
例え
コノ身 ガ 朽チテモ
- 668 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/21(木) 01:32
-
永遠ニ 貴方ヲ 想ウ
- 669 名前:スケルトン 投稿日:2006/09/21(木) 01:36
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今まで待っていてくださった方々本当に有り難うございます(土下座)
何も書けないというスランプからようやく復帰しました。
皆様のおかげで御座います。
これからもう暫くお付き合い下されば有難いです・・・
宜しくお願い致します。
- 670 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/21(木) 05:31
- 更新ありがとうございます
今後の展開が恐いような気がしますが楽しみで仕方ありません
続きまっております
- 671 名前:519 投稿日:2006/09/21(木) 23:32
- 書いてくださるのならそれだけで充分です。
更新ありがとうございます。
- 672 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2006/09/22(金) 00:27
- 待ってましたありがとう。
最後まで頑張ってください
- 673 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/22(金) 20:55
- ありがとう
戻ってきてくれて本当にありがとう
続きはマターリお待ちさせて頂きます
- 674 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:12
-
その建物を実際に目にした時、酷く眩暈と吐き気がした。
意識が飛ばないようにと唇を噛む。
生暖かい一筋が唇の端から零れ落ちた。
目の前には高い塀に囲まれた無機質な建物。
それは、病院を思わせるような造りをしている。
病院か。確かにそれに近いのかもしれない。
ただ、ここに医師はいない。
いるのは
患者だけだ。
- 675 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:13
-
たったの数ヶ月ぶりに見るそれは、禍々しさを増しているように思えた。
高い木々で囲まれいるので、光がここまでは届くことは無い。
遠くから鳥の高い鳴き声が一つ聴こえた。
美貴は裏に周り、隣接する木へとよじ登る。
塀に向けてジャンプした。両手を塀の頂上へと掛ける。
そのまま体を引き上げ、雑草の多い場所めがけて飛び降りる。
ドサリとした鈍い音と共に体に響く痛み。
「っつ」
倒れたまま、体の痛みが引くのを待つ。
- 676 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:14
-
暫くし、軋む身を起こした。
目指す場所は建物から少し離れた所にある。
それにしても、何一つとして音は聞えない。あまりの静寂に
もしかしたら、
と急に一つの考えが頭をよぎる。
もうここには誰も居ない?
でも、
と反覆する思い。
- 677 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:14
-
梨華ちゃんは言った。
ここから誰も逃げるモノはいなかったと。
ここから抜け出したのは美貴と梨華ちゃんだけだったと。
ならばまだ皆ここにいる。
美貴は客観的に考える。
美貴がいた時も『外』から見たら同じ様に感じただろう。
少しでも大きな音を立てると殴られた。
誰かと雑談でもしようものならその相手と引き離された。
だから梨華ちゃんと話しをするのは人目を盗んで。
それこそ反省室に入れられた夜中だとか。
偶然掃除当番の場所が一緒になった時にひそひそと、とか。
- 678 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:15
-
だだ一つの大きな『音』は、あいつの洗脳めいた演説の時だけ。
又、そこで思考が中断される。
よく美貴も梨華ちゃんも『異常』な世界の中で『正常』でいられたなと。
一度外の世界に出て、改めて思った。
ここはやっぱり『異常』だったと。
でも他の子やここで働く大人(まぁここで育った人間だけど)や
あいつは、
狂っている。
光ノ 挿サナイ 世界
- 679 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:16
-
ここにとっては美貴と梨華ちゃんだけが『異常』だったんだ。
美貴と梨華ちゃんだけが
『異端者』
それが一体どんな意味を持つのかは知らない。
そこに救いがあるのか。
いつか分かる時が来るのかもしれない。来ないのかもしれない。
まだ分からない。
ただ、生きている。
美貴は生きている。
今はそれだけでいい。
- 680 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:16
-
見覚えがありすぎるその場所へと一歩一歩近づいていく。
美貴が思い浮かべる相手は神様じゃない。
美貴が祈る相手は神様じゃない。
天使なんて、その言葉を、存在を、
美貴は何処で憶えたんだろう。
亜弥ちゃん。
美貴は間違えてる?
何を?何が?
- 681 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:17
-
目指していたプレハブで出来た建物が視界に入る。
美貴は屈みながら近づく。
何処からどの角度で覗き込めば誰にも見られないかは解っている。
知り尽くした場所だから。
ゆっくりと歩を進め、覗きこんだ。
綺麗に並ぶ子供達が見えた。
それから
その光景に美貴はフラッシュバックする。
- 682 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:17
-
『君達はぁ、この世の何もかもからも拒絶されぇ、生まれたぁ。』
伸びる腕。
黄ばんだ両眼。
異臭。
そして
赤 赤 赤
- 683 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:18
-
『君達はぁ、この世の何もかもからも拒絶されぇ、生まれたぁ。』
伸びる腕。
黄ばんだ両眼。
異臭。
そして
赤 赤 赤
- 684 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:18
-
よろよろと歩き、どれ位遠ざかったのかは解らないが、
近くにあった木へずるずると身を背にし崩れ落ちた。
頭がガンガンと音を立てて鳴る。
鼓動が信じられない速度で打つ。
一刻も早くここから逃げ出してしまいたい。
そして警察へ駆け込もう。
頭の中が真っ白になり、それ以上考えられなくなる。
- 685 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:19
-
逃げる?
冷や汗が額を伝い喉の方まで流れていく。
何処へ逃げる?
もう行く場所なんてこの世界の何処にも存在しない。
警察?
そこでなんて説明する?
殺したと思った人間が生きていて、
亜弥ちゃんを殺そうとして、
あの施設はおかしい。異常だ。
- 686 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:20
-
「馬鹿かっ?」
そこまで考えて、吐き捨てるように呟いた。
例え警察が来たとしても、ここの『患者達』は
何も言わない。何を言われているかも理解出来ない。
ここが『楽園』だと、ここにいることが『幸福』だと
長い月日をかけて言われ続けて来たから。
だから奴はにこやかに対処して、自分がどんなに善人者かアピールする。
そして美貴は頭がいかれた孤児の一人として連れ戻される。
- 687 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:20
-
ジーンズの後ろのポケットにあるそれに手をあて、一呼吸する。
美貴が。終わらせるんだ。
今度こそ。確実に。
何モカモ
- 688 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:21
-
整った呼吸。
冷静なココロ。
又、日が暮れるまでは大分時間がある。
そろそろと体を動かし敷地から出る。
木々の陰に体を横たえ昨日から残る疲労を取り払おうと目を閉じる。
- 689 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2006/09/29(金) 20:21
-
目を閉じても浮かぶのはただ一人。
泥の中に沈んで行くような感覚。
夢の中だけでもいいから。
笑って名前を呼んで。
暗転。
- 690 名前:スケルトン 投稿日:2006/09/29(金) 20:22
-
更新です。
- 691 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2006/09/30(土) 00:34
- 引き込まれます
ドキドキ
- 692 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/30(土) 17:14
- 凄く気になります
どうなるんだろうって感じですね
- 693 名前:519 投稿日:2006/10/01(日) 14:07
- 更新ありがとうございます。
先を読むのが怖くなります。
幸せになってほしいな……
- 694 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/08(水) 02:34
- 待ってます
- 695 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/08(水) 02:35
- 下げます。ごめんなさい。
- 696 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:25
-
頬を伝う汗の嫌な感触に目を醒ます。
辺りを見渡し自分が随分と寝ていたことに気がつく。
闇が美貴の体を覆い隠している。
手の甲で汗を拭い起き上がる。
不自然な程に冷静なココロ。
感情さえもこの闇の中に吸い込まれてしまったのだろうか。
でも
その方が都合が良い。
- 697 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:25
-
眠る前と同じよう塀の中に侵入する。
窓には明かりが一つとして灯っていない。
- 698 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:27
-
昔、美貴は大きくなったらいつかここから逃げ出してやるんだと
梨華ちゃんと二人で作った秘密の場所がある。
そこは普段は倉庫に使われていて滅多に誰も出入りはしない
その部屋の窓の鍵をいつも開けたままにしていた。
時々こっそりと入り、鍵がかけられていないかと確認したりもした。
その都度鍵は開いたままだった。何年も。何年も。
だから多分今も開いたままだろう。
- 699 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:27
-
希望的観測?
それとも
絶望的観測?
開いていて欲しい。
開いていて欲しく無い。
- 700 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:29
-
今更ながら臆病風が心の中に吹く。
頭を一つ振り、その風を薙ぎ払う。
開いていようが開いていまいが開かなくては。
『未来』を切り開かなければ。
- 701 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:30
-
映る誰かが
『未来は自分で切り開くものだ。』
と言ったのを聞いた。
「この人はきっと幸せだね。」
美貴の呟きに、意味が解らないという風に亜弥ちゃんは首を傾げた。
「だって、切り開けるだけの未来を想像出来るんでしょ?この人。」
- 702 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:31
-
美貴は未来なんて考えたことなかった。
いつも考えていたのは『今』から逃げること。
その先のことなんて考えたことも無かった。
「未来のこと考えられるだけ幸せじゃん?」
そう吐き捨てた美貴に隣に座っていた亜弥ちゃんが微笑む。
「じゃあさっ、これから美貴たんはきっと幸せだね。」
「は?」
今度は美貴が訳がわからず首を傾げる。
「これからは『未来』のこと考えられるでしょ?」
美貴は眉を潜める。
「もう美貴たんをいじめる人、誰もいないよ。」
「あっ・・・」
優しく抱かれる体。
伝わる体温。
その温度に浸る。
- 703 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:33
-
赦されている。
美貴は赦されている。
- 704 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:33
-
美貴みたいな人間が
この世に生まれて来ても
イインダ
同じようにその体に腕を廻す。
美貴にも
未来ガ アルンダ
- 705 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:34
-
亜弥ちゃんの胸に耳を押し当てる。
トクリトクリと聞えてくる心音に安堵する。
「美貴たん?」
見上げると蛍光灯の光を背に微笑んでいた。
その表情ががあまりにも綺麗で目を細める。
美貴も笑う。
そして今度は美貴が亜弥ちゃんの頭を胸に抱えた。
「亜弥ちゃん。聞える?」
目を閉じながら胸の中で一つ頷く。
「美貴たんが、生きてる音が聞える。」
- 706 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:37
-
生キテイル 音
同じことを考えていた事が嬉しくて抱えた腕に力を込めた。
病室で耳を当てた時も、確かにあの時と同じ音がした。
トクリトクリ。
と。
今ハ
生キテイル 音ガ
- 707 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:38
-
でも優しく笑いかけてはくれない。
自分の名前を幸せそうに呼んではくれない。
側でずっと待っていればいつかその日がくるかもしれない。
でも、美貴にはその資格は無い。
だから
- 708 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:39
-
その窓に手を掛ける。
音も無く、開く。
広がる先の闇。
これが美貴の未来への出口?
その窓を開け体を滑り込ませながら一つ笑う。
光への出口だった筈の窓。
闇への入口になった窓。
- 709 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:39
-
胸に手を当て自分の鼓動を確認する。
亜弥ちゃん。聞える?
美貴は生きてるよ。
今確かに存在してるよ。
未来なんて本当に誰も分からない。
美貴は今、『未来を切り開いて』いるのかな?
- 710 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:40
-
足元を照らす、懐中電灯すら持っていなから、
暗闇に吸い込まれて行く。
静寂の中、窓から指す月の光を頼りに進む。
妙に美貴のココロも静かで心地が良い。
だから祈ってみる。
生まれてくる生命全部に、意味がありますように。
アーメン
そして観音開き仕様のその重々しい扉を開ける。
- 711 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:41
-
部屋の中は一面の蝋燭。
広々としたソファに肘を突き、横たわる一人と、
その周りを囲む無数の人間。
それが淡い灯りの中に浮かんでいる。
- 712 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:42
-
「おかえり。」
その姿を確認して安堵する。
「やっと目が醒めたんだねぇ。」
一つ呼吸を整え
「院長。これ少し、悪趣味じゃないんですか?」
そう言ってニヤリと口角を上げてみせる。
囲む人間達の前で横たえる院長の前へ、ゆらりと移動する。
「君を迎え入れる為にはそれ相応の準備が必要だと思ったんだよぉ。」
笑みを一つ返す。
- 713 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:43
-
「実は君に」
「黙れ。」
こんな腹を抱えて笑いそうな演出が見たくて深夜を選んだ
訳じゃ無いんだけど、この時間じゃ無いと居ないと思ったんだ。
胸のポケットから重く冷たいモノを取り出す。
- 714 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:43
-
中澤さんすみません。
こんな形であなたの『鉄砲』を持ち出してしまって。
後で謝りますから。
後で。
- 715 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/02/11(日) 02:44
-
誰も微動だにしない、『鉄砲』は院長に向けたまま、
その群れの中の一人に視線を向ける。
「帰ろう。」
「帰ろうよ。梨華ちゃん。」
- 716 名前:スケルトン 投稿日:2007/02/11(日) 02:46
-
更新です。
恐ろしく遅くて申し訳ありません・・・
- 717 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/12(月) 01:42
- 待ってました!更新お疲れ様です。
一体どうなっていくのか、楽しみです。
- 718 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/12(月) 02:21
- おぉ!更新きたー!!乙です。
展開が楽しみです。
サスペンスみたいです(ちょっと表現が違うかな
とにかくとても好きな作品です。
・・・次なる展開がドキドキハラハラです^^;
- 719 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/09(水) 00:10
- 待ってます
- 720 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 22:52
-
想像を超える現実に
創造を超える未来を造ろう
- 721 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 22:53
- 脳ミソがシャボン玉の固まりみたいにゆらゆら揺れる
「梨華ちゃん。帰ろう。」
ユラユラプカプカ
- 722 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 22:53
-
誰も動かない部屋の中
蝋燭だけが揺れる
その中で院長だけが身を起こし
「美貴ぃ。これからは僕達の世界だぁ、からぁ」
手を伸ばされる
- 723 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 22:54
-
『どうしてだろう』
- 724 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 22:55
-
「幸せぃになりたいだろうぉ?」
部屋に発ち込める異様な甘ったるい、
蝋燭から立ち上る臭気
それは凄く不快で
- 725 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 22:56
-
『なんでここで』
- 726 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 22:58
-
「愛されてぇ生きていきたいだろぉ?」
漂う匂いから逃げるように
手で鼻と口を手で覆う
- 727 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 22:59
-
『こんな場所で』
- 728 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:00
-
「さぁ」
更に伸ばされる醜いその手
「もう、お前を愛するモノは、存在しないぃぃい」
浮かぶ赤い色達と
優しい声音
- 729 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:02
-
なんでここで
こんな場所で
美貴だけ
- 730 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:03
-
たった、一人だけのことを考えているんだろう
- 731 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:06
-
亜弥ちゃん
どうかどうかどうか
目ヲ 醒マシテ
って
- 732 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:12
-
この匂いで、
ともすれば立ち消えそうになる思考と理性と幻想の中、
キツク唇を噛む
錆びたような生臭い味が、口内一杯に広がる
痛みでクリアになった視界の中、凝視する。
その姿を見るまで信じていた
梨華ちゃん
いつから?
いつから美貴に『嘘』をついていた?
- 733 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:13
-
何回も言い聞かせた
梨華ちゃんと再会したこれは
『偶然』だって
- 734 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:15
-
『Engel Holly Night』
いつか亜弥ちゃんが言ってた
『天使の輪』って意味だよ。って
- 735 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:18
-
あまりに強いこの臭気に
もはや限界が近付いていた
自分自信の赤い痛みを伴う液体にさえも甘く感じる
だから
- 736 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:19
-
「そろそろ帰ろうか。一緒に。」
笑いながら問いかける
- 737 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:20
-
その問いに
梨華ちゃんは朦朧とした様子で
でも、かすかに頷いて笑ったように見えた
懐から黒い固まりを取り出して、梨華ちゃんに向けた
短く、鈍く、重い音が響く
でも、やっぱり誰も動かない
それをいいことに
今度は自分のこめかみにそれを当てる
- 738 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/05/10(木) 23:22
-
「亜弥ちゃん。」
美貴は悪魔だから地へと
何度目かもわからないその言葉を口にする
「ゴメンネ。」
地ヘト 帰ル
- 739 名前:スケルトン 投稿日:2007/05/10(木) 23:23
-
更新です
しかもsage忘れ・・・・
- 740 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/11(金) 02:28
- 更新乙です!ってたーん!
- 741 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/11(金) 22:18
- 更新きたぁー!
美貴たん一体どうなるの?!ヤバいドキドキしますw続きを希望…
- 742 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/05(火) 08:53
- っ―
更新ありがとうございます。
今は、ただ見守るのみですぅ(T_T)
- 743 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/07(木) 22:01
- やばい
めっちゃ続き気になる
- 744 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/21(木) 23:43
- 更新頑張れ〜
- 745 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:48
-
あたしは美貴とチャーミーが育ったという孤児院へと足を向けた
周りを森に囲まれたまるで要塞のような壁の中、薄暗い建物が
半分焼け焦げて黒ずんでひっそりと存在していた
『KEEP OUT』と書かれたテープがめぐらされている
そのテープのくたびれ具合から、この火災は随分前に
起こった出来事だと知る
「やったのは美貴・・・か?」
もしかしたら当事はニュースにでもなったのかもしれないが
生憎とあたしにテレビや新聞を見る習慣は無い
スーツに手を突っ込んでふぅとため息をついた
「なんやえらいやつら拾っとったんやなぁ・・」
一人言は森の木々の中へと消えていく
- 746 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:49
-
もう朽ち果てて大分たつであろうこの建物の中で
かつてはたくさんの人間が暮らしていたのだろうが
今はもう静寂しか存在していない
何人か犠牲者が出たのだろうか?
どうして美貴はここを抜け出してあまつさえ燃やしてしまったのだろうか?
どうしてチャーミーが逃げる時に一緒じゃなかったのか
疑問ばかりがぐるぐると頭の中を駆け巡る
どちらにしても今はそれを美貴とチャーミーに問うことは叶わないし
聞いた所で私に出会う前のことなのでどうやったとしても
どうか出来ることも無い
- 747 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:50
-
だがもう少し早くあの子達の話しを色々と聞き出していれば
『この』状況は変わったのだろうか?
もしも
は嫌いだ
だからもう無駄なことは考えないことにしよう
それを聞いたらあの子達はあたしを非情だと非難するだろうか?
- 748 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:50
-
あの子達は
もう
二度と
光の挿す方へは行けないのに
- 749 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:51
-
ここに住んでいた子供達がどうなったのかは
更にどうにも出来無いことだ
多分警察にでも保護されたか
それとも運命に潰されたか
世界中は混沌としている
悲しみが満ちている
狂気は弱いモノに牙を剥く
神様なんていない
だから背中を向ける
- 750 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:51
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「さぁて、そろそろお別れの時間やな。」
- 751 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:51
-
煙突から出る白い煙が
天へと向かい流れて行く
それを追って見上げていたが
空があまりに青すぎて目を細める
「中澤さん。もう全部終わりましたよ。何処行っていたんですか?」
目をしぱしぱさせながら振り返える
そこのは同じく黒いスーツに身を包んだベーグル
- 752 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:52
-
「今日はえぇ天気やな。ベーグル。」
「はい・・」
ベーグルもあたしの様に空を仰ぐ
その両目は真っ赤だ
「チャーミーの具合はどや?」
「まだ、意識が戻りません。」
苦痛に顔を歪ませる
そんな顔を見たくなくて
そうかと短い返事をして又、煙の先を追った
「なんや実感も何も湧かんな。」
- 753 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:52
-
もう、美貴はいない
体の欠片は灰となり煙となり
形としてはの存在は無なってしまった
この世で美貴の心の欠片全てを持つ人間も
何処かに消えてしまった
もしかしたら今日は姿を現すかと思っていたのだが、
それも叶わなかった
参列者は二人だけの
とてもとても寂しいお別れ
- 754 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:52
-
美貴の火葬
- 755 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:53
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あの日、店にいたあたしに混乱したベーグルから電話が掛かってきた
『中澤さん!!美貴と梨華ちゃんがっ!!』
あたしはなんとか二人のいる病院を聞き出し駆け込んだ
その時にはもう
チャーミーは意識不明。美貴は意識が半分混濁した状態だった
原因は、花火の光と煙
その両方が発作を引き出した要因らしい
花火をしている最中、美貴とチャーミーは突然錯乱し
訳の分からないことを叫びながら倒れたそうだ
強い中毒症状と幻覚
二人は何かの薬を大量に長い間摂取してたらしい
否、させられていたのだろう
まさかこんな形で後遺症が現れるとは思わなかったのだろうけれど
- 756 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:53
-
うすうす気づいていたのかもしれない
心辺りも無くは無い
やけにタバコを嫌っていた
特に甘い匂いの煙の出るタバコの匂いを嗅いだ時は
恍惚をした表情を浮かべていた時もあった
最初は煙を吸引する類の薬をやっているのかと思った
あたしの知る限りではそういうのもめずらしくない
でも本人達に自覚症状は無いようだったし、
中毒症状も出ていないようだったから
思い過ごしかと思っていた
でも、今思うと
長い間多分そんな類のものを毎日嗅がされていたんだと思う
多分日常茶飯事だったその匂いは
あの子らにとっては空気の匂いと同じだったはずだ
- 757 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:53
-
ベットの上で意識が混濁しながら美貴はずっと
何かと戦っているようだった
何度かピンクの名前を呼んだ
その度にピンクはその手を握った
- 758 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:54
-
祈るように
祈るように
涙を流しながら
- 759 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:54
-
2日目の夜、美貴の容態が急変した
「駄目!!いっちゃ駄目!!」
ガチャリと何かが散らばる音達
美貴の体にしがみつくピンク
一瞬だけ呆気に取られ
「ピンク!!止め!!離せ!!」
同時に腕を回し引き剥がそうとした
「あんたも手伝い!!」
おろおろとする医師や看護士達を尻目に
唖然として立っていたベーグルに向かって叫ぶ
- 760 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:54
-
叫ぶ
叫ぶ
叫ぶ
耳元でも、咽びなが叫ぶ声が聞こえる
「美貴たん!!美貴たん!!」
一人の名を呼びながら
- 761 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:54
-
一体美貴が、チャーミーが、ピンクが何をした?
何をしたからこん風に苦しんで泣いて
叫ばなければならない?
「いかないで!!一人にしないで!!」
この子達が何をした?!
やけに周りの光景がゆっくりと見えて
思考だけがやけに冷静に流れ込む
- 762 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:55
-
どうかこの子達を救って下さい
どうかおの子達を幸せにしてあげて下さい
神様
- 763 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:55
-
その後の光景は一生忘れないだろう
- 764 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:56
-
美貴が突然覚醒したかのように目を開ける
部屋に一瞬の静寂が訪れる
美貴はゆっくりと首を回してピンクを見た
『亜弥ちゃん。』
そして
綺麗に綺麗に微笑んだ
『美貴。天国に、来れたんだ。』
美貴が手を伸ばす
『やっと会えた。』
ピンクは震える手でその手を握った
- 765 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:56
-
『やっと全部終ったよ。』
それから美貴は心配したような顔でたずねる
『梨華ちゃんは?梨華ちゃんもいる?』
チャーミーは未だ集中治療室にいるがそれを美貴が知る筈も無いのに
何故ここでその名前を呼ぶのかが分からなかった
でもピンクは
『いるよ。美貴たん。』
そう言って天使のように微笑んだ
- 766 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:56
-
『そっか、よかった。じゃあ皆一緒なんだね?』
美貴も微笑む
『そうだよ。美貴たん。ここは天国だから
もう苦しまなくていいから。ずっと一緒だから。』
嬉しそうに美貴は頷き
『じゃあ後はベーグルとか、中澤さんをゆっくり待ってようね。』
嬉しそうに嬉しそうに微笑んだ
ピンクも同じように頷く
- 767 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:57
-
『神様って・・いたんだ・・・・ね・・・・亜弥ちゃ・・ん』
すっと一緒に
ずっとずっと一緒に
そして美貴は
ゆっくりと目を閉じた
- 768 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:57
-
「くそっ、それにしても暑いな今日は。」
黒だから余計光を吸収しますしね
と、ベーグルが笑いながら言った
「あいつはどこにいるんやろ。」
美貴が逝ってすぐにピンクはいなくなった
何処を探しても見つからなかった
「早く戻ってこい。」
額の汗を拭いながら独り言のように呟いてみる
視界が霞んで世界がぼやけた
- 769 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:57
-
「亜弥。早く戻ってこい。」
初めてピンクの名前を呼んでみた
だけどどうしてだろう
あの二人の、笑った顔しか思い浮かばない
ベーグルがあたしの肩に手を置いた
「きっと戻ってきますよ。」
もう視界は
完全に塞がれた
- 770 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:58
-
あたし達は
叶わない願いばかり祈って溺れる
だけど
美貴が天国を信じたように
いつか誰もが救われるのだろうか?
- 771 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:58
-
それはきっと
神様しか知らない
アーメン
- 772 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:58
-
- 773 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:58
-
- 774 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:58
-
- 775 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:59
-
レンガで舗装された花々で満ちた庭園の中
老女が若い女性に車椅子を押さえれながら散歩をしている
女性のネームプレートには『紺野』と書かれている
「今日は天気が良いですね〜。お花も綺麗だし。」
紺野の言葉に、老女はただニコニコと笑っている
「あ、そういえば聞きましたよ。昔は有名なお店のオーナーだったん
ですってねそういうのかっこ良いですね。」
特に返事を待つ様子も無く紺野は話しかけ続ける
「え〜と、お店の名前も聞いたんですけど・・え、エンジェ・・駄目だ
ごめんなさい。私昔から横文字だけには弱いんですよ。」
老女は目の前を横切って行った蝶々を視線で追う
そんな様子には構わず紺野は続ける
「こんな日はピクニックとかいいですね〜。院の皆と今度
一緒に行きましょうか?お弁当とか持って。」
紺野は自分の考えが名案だとばかりに頷く
- 776 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 21:59
-
「それとも他に何処か行きたい所とかあります?」
あー、今日は朝に洗濯をしてくれば良かった
と、頭の中ではそんなことを考えていた
『水族館』
どこからか声が聞こえてきた
「え?」
思わず辺りを見渡すが他に人は見当たらない
- 777 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 22:00
-
視線を下に向けると、相変わらずにこにことしている老女
少し思案して
「今、水族館。って言いました?」
返事は無く、相変わらず車椅子にゆったりと身をまかせている
紺野は軽く首を振り笑顔を作った
「喉渇きませんか?私飲みもの買ってくるからちょっと待ってて
もらっていいですか?」
一応横から顔を覗き込んで確認を取る
「すぐ戻りますからね」
紺野はそっと側を離れ駆け足で来た道を戻って行った
- 778 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 22:00
-
ふわりと頬を撫でる暖かな風
聞こえるのは鳥達の声
- 779 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 22:00
-
いつの間にか
老女の前に一人の少女が立っていた
少女はにこりと笑う
老女もにこりと笑い頷く
- 780 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 22:00
-
少女が手を伸ばす
老女も手を伸ばす
- 781 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 22:01
-
『行こうか』
『うん』
そのままゆっくりと二人は空へと向けて飛ぶ
手をかたく繋いで
蒼い蒼い空へと
- 782 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 22:01
-
- 783 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 22:02
-
- 784 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 22:02
-
- 785 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 22:02
-
「松浦さん。松浦さぁ〜ん?あれ?寝ちゃったんですか?」
両手に緑茶を持ちながら、紺野は空を仰ぐ
「こんなに良い天気ですものね。」
眠っているように見える老女の膝の上には
白い羽が二枚落ちていた
- 786 名前:天使は溺れて地に落ちる 投稿日:2007/06/23(土) 22:03
-
『天使は溺れて地に落ちる』
END
- 787 名前:スケルトン 投稿日:2007/06/23(土) 22:05
-
完結です
完結に至ったのも皆様のお陰です
今まで長々と待っていてくださってありがとうございました
- 788 名前:I 投稿日:2007/06/24(日) 01:05
- スケルトンさん
ずっと拝見させていただいていました。
生みの苦しみに悩まれてた時期もあったかと思います。
感想を、となると長くなりそうなので簡潔に。
完結していただき、ありがとうございました。
- 789 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/24(日) 04:03
- 無事に終わらせてくれてありがとうございます。
二人が幸せであれ……
- 790 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/25(月) 09:50
- んあー!!!!!
不覚にも泣いてしまいました。
脱稿おめでとうございます。
そして、お疲れ様でした。
- 791 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/25(月) 18:34
- ありがちな終わり方
だがそれも良い
古き良き娘小説という感じで好きでした
3年半の間に色々ありましたな…私の推しもすっかり変わりましたw
完結させてくれてありがとうございましたm(_ _)m
大変でしたでしょうがまた執筆して頂けると嬉しいです
今はまず休息を…
お疲れさまでした
- 792 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/29(金) 22:50
- 電車の中で泣いてしまいました。
純愛ては重く苦しいからこそ成り立つのかもしれませんね。
毎度毎度、めくるめく展開にひきつけられました。
久しぶりにいい作品に出会えました。
お名前覚えておきます。
- 793 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/01(日) 10:50
- 完結して下さってありがとうございます。
ダークなストーリーに悲しい結末。
本当に悲しいです。悲しい。
でもみんな大好きでした。
中澤さんがイイ味出てました。
お疲れ様です。ありがとうございます!!
- 794 名前:スケルトン 投稿日:2007/11/12(月) 18:54
-
こっそりと
きっと吉澤さんと石川さんの話し。
- 795 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 18:55
-
何もこんな天気のいい日に泣くことないじゃん
寝転がり空を見上げながらボーっとそんなことを考える
だけどしくしくと聞こえる泣き声はなんだか
雨の音に似ているような気がして
雨音が好きな私はそのまま、すぅと深い眠りに入ろうとした
最後の混濁した意識の中で
なんだか天気雨みたいだ
とわけのわからない事を思った
- 796 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 18:56
-
目を醒ましたらあたりは暗くて、頭をポリポリと掻いた
「寝過ぎた」
独り言を言って一つ背伸びをし給水塔からはしごを使って下りる
そして柵から身を乗り出し下を覗き確認する
どうやらさっき泣いていた人はここから飛び降りたりはしていないようだ
そりゃそうかそんなことがあったら寝ていられない位大騒ぎになるよな
一人うんうんと頷いてもう一度背伸びをした時携帯が振動した
「はいもしもし」
『今何処いんの〜?』
間延びした声が耳に響く
「ひみつ〜」
同じように間延びした声を返す
- 797 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 18:57
-
『んあ〜、もう暗いよ』
「ごっちん委員会終わったの?」
『今終わった。早く戻っておいでよ待ってるから』
「あいよ」
パチリと携帯を畳み
さっき聞いた雨音に似た泣き声を思い出す
泣いていた人には悪いけど、あれは悪くなかった
あたしはすっきりとした頭に満悦しながら
屋上を後にする
- 798 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 18:57
-
きっかり一週間後の金曜日
快晴の中その音が再び屋上に響いた
『アメだ』
あたしは心の中で勝手にその人に名前をつけた
我ながら単純な命名
そんなことを知るよしも無い『アメ』は泣き続けている
しかし何をそんなに泣くことがあるんだろうか?
疑問と睡魔が同時に私を襲う
晴れた日に青空の下で泣くというのはどんな気分なのか
聞いてみたい気もしないでもないが
多分『アメ』にとってもここは秘密の場所なんだろう
あたしがここで泣き声を聞いてるという自体
フェアじゃ無い気もしないではないけど
泣かないでと思うべきなんだろうけど
- 799 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 18:58
-
やっぱりこの声は悪く無い
あたしは上半身を起こした
アメの後姿が見える
体育座りで膝に顔を埋めて泣いている
今時体育座りで泣いてる
なんて根暗なんだろうと、内心思ってしまった
あたしは又ごろりと横たわる
目を瞑り耳だけを澄ますと眠気が襲ってきた
うとうととしながら
アメは声以外はいけてない
失礼なことを思った
- 800 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 18:58
-
アメはそれからも不思議なことに1週間に一度現れた
ただ、しくしくと泣いて暫くすると去っていく
流石にこう何度も続くと不思議になってくる
きっかり一週間毎に、何をそんなに泣く出来事があるんだろう
折角の金曜日、明日からの2連休もアメはどこかで泣いてるんだろうか?
もしかしてイジメにあってるとか?
心無いクラスメートからの酷い仕打ちに
毎日耐えて我慢して我慢して
その限界が週末にどっと押し寄せているのかな
ありえる。なんかアメって暗そうだし
う〜ん。だとしたらちょっとかわいそうだ
- 801 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 18:58
-
悲しくてつらくて寂しくて、だからあんな
『雨』みたいに『アメ』は泣くのかな
少しだけ胸がズキリとした
- 802 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 18:59
-
それが丁度一ヶ月続いた5回目の金曜日
「ちょっと!」
あたしは給水塔の上から声を上げる
アメの動きと声がぴたりと止まった
「アメ!」
膝から顔を上げ、きょろきょろと辺りを見渡している
「ここ!ここ!」
瞬間アメは立ち上がり振り向く
私はよっと掛け声をかけて
飛んだ
「あっ」
- 803 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 18:59
-
少し足が痺れたけど、我ながら綺麗に着地
アメは固まったままあたしを見ている
「こんにちは」
うん。とりあえずは挨拶だよね
アメはまだ固まってる
「あっ、あー、あたしは別に怪しいものじゃないんで」
そう言ってから、もしかしてあたし今十分怪しい人なんじゃないかって気付く
でもまぁいいや今はそんなこと気にしている場合じゃない
「あのさ、いつも金曜日ここで泣いてるよね」
途端アメの顔色が青褪める
「な、なんで、」
「知ってるのかって?」
- 804 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 19:00
-
あたしは親指で給水塔を指す
「あそこ、あたしの特等席」
あ、今度は赤くなった
あははは。信号みたいだ
「で、さ。何でいつも泣いてるの?」
なるべく優しい声を
- 805 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 19:00
-
「出した・・・筈なのに。何がいけなかったんだろう?」
あたしはひりひりするほっぺたを押さえながら真剣に問う
目の前のごっちんはう〜んと唸って腕を組んだ
「ほっとけばよかったのかなぁ〜」
「悩むとこそこじゃ無いと思うよ。よしこ」
今度は深くため息をつくごっちん
「なにも泣いてる時に声かけること無いじゃん」
だってぇ〜とあたしはぶぅたれる
「しかもいつも泣いてるよね。なんて、それじゃあ
まるでいつも覗いてたみたいじゃん」
うへー、とあたしは机に突っ伏す
- 806 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 19:00
-
「覗いてたんじゃないよ〜声を聴いてただけなんだよ〜」
「同じことだから」
同じことなのか?
「だからか?だから平手打ちされたの?」
「いやいやそれだけじゃないから」
机から顔を上げると相変わらず呆れ顔のごっちん
「今度会ったらなんて言おう?」
謝った方がきっといい。怒ってたし
「もう来ないと思うよ」
「やっぱりそう思う?」
なんだかとてもがっかりした
こんなんならずっとあそこで泣き声だけを
聴いていればよかったのかも
- 807 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/12(月) 19:01
-
「よしこ何で急にアメちゃんに声をかけようと思ったの?」
だってさ
「雨ってやっぱり空から降るものでしょ?」
- 808 名前:スケルトン 投稿日:2007/11/12(月) 19:01
-
今度こそきっと短編・・・
- 809 名前:158 投稿日:2007/11/13(火) 07:38
- あらっ!いしよし♪
- 810 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/14(水) 19:50
- 続きが楽しみ楽しみ。
- 811 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/17(土) 07:04
- よっすぃーがなんだか素敵だわw
- 812 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:36
-
いつものようにいつもの場所で寝転がってみても
なんだか落ち着かない
アメが来ないアメが来ない
やっぱり来ない
このままもう二度と会えないのか
いやいやそれは嫌だ
だとすると
こりゃ探すしか無いか
- 813 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:37
-
顔はばっちりしっかりと見たし声もわかる
学年とかはわからないけど
この学校のどこかにはいる筈だし
ここはベタに校門ででも待ち伏せがベストか
でもあたし朝弱いからな
立ちながら寝そうだな
じゃあ放課後にするか
よし放課後にしよう
では早速明日の放課後から待ちぶせだ
あたしの顔みて逃げださなきゃいいんだけど
あー、まさかあれがショックで学校にも来てない
ってんじゃないだろうな
- 814 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:37
-
アメのことだからありえる
凄くそんな気がする
もしかして家で泣いてんのかな
だとしたらあたしの責任だよな
あたしは空に向けて掌をかざす
血管がすけてみえた
「困ったな」
- 815 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:38
-
「すいません」
突然声がした
「ねー、そこにいる?」
あたしは体を起こしコンクリートの端に乗り出し顔を出す
「アメ?!」
「雨?」
アメは空を見上げる
「いや、違くて天気の方じゃなくて」
あたしは急いで飛んでアメの前に着地
又少し足が痺れた
- 816 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:38
-
やったーーーアメだぁ
嬉しくなって抱きついた
「ちょ、あなた、なにす」
じたばたと暴れるアメ
「もう来てくれないと思ってた!」
「く、くるし」
ん?と思って締め付けてた体を離した
アメは真っ赤な顔でゲホゲホと咳をした
ちょっと締めすぎたらしい
「こ、殺す気?!」
「あー、ごめん」
少し落ちつたのかアメがあたしのことを睨む
- 817 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:39
-
「ん?何?」
あたしは首を傾げた
「ずっとこの一週間探してた」
奇遇だね。あたしは明日から探そうと思ってたんだ
と言おうとしたんだけどアメはそのまま続けてまくしたてた
「朝とか校門で待ってたりしたんだけど、でも見つからなくて。
休み時間とかも色々な教室覗いたんだけどいなくて
聞きたかったんだけど、貴方ちゃんと毎日学校に来てるの?」
アメの態度があまりに偉そうで
あはははとあたしは笑う
- 818 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:39
-
でもそれだけ探してあたしのことをみつけられないとは
アメは運も悪いんだね。そうかそうか
一人で頷いた
「あたし朝弱いからいつも学校来るの遅刻ぎりぎりなんだ
それに休み時間は机に突っ伏して寝てるかここにいるかだからね
特等席って言ったと思うけどな〜ここに来ればよかったのに」
「ここで会うの、嫌だった」
アメが脱力したみたいに肩を落とす
「なんで?」
「あんな姿みられてたなんて、思い出すのも嫌だから」
だから極力ここはさけていた・・・と
難儀な話しだね
って半分は私の所為か
- 819 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:40
-
「じゃあなんで来たの?」
「お願いがあって」
「お願い?」
ナニナニナニ
なんだろう
イジメっ子を退治してほしいとかかな?
「私がここで泣いてたこと、誰にも言わないで」
「あー」
成程。それを言いたくてわざわざあたしのこと探してたんだ
でも
「ごめん。友達に言っちゃった」
- 820 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:41
-
てへっ。って感じで可愛いく言ったつもりだったんだけど
途端アメの顔色が変わる
え?え?
「ど、どうしたの?」
呆然とするアメを覗くと今にも泣きそうな顔をしていた
「やっぱり・・・・遅かった」
なにもそんなにがっかりすることないじゃんただ
アメが泣いて
あたしが飛び降りて
平手打ちくらって
って話しただけなのに、なんでそんなに悩むことがあるの?
- 821 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:41
-
「ごっちんにだけだよ言ったの。他の人にはアメのこと言ってないよ」
沈黙
アメはまるで銅像のようにピクリとも動かない
もしかしてショックすぎて本当に銅像になったのかな
と思い始めた時
「さっきから言ってるけど『アメ』ってなに?」
銅像もとい、アメが喋った
「あ、あ、ごめんね。名前知らないから勝手にあだ名つけちゃった」
「貴方」
そう言うとスクッと立ち
これまたださい長いスカートをパンパンと掃う
「やっぱり不真面目なんだ」
「へ?」
なんだか急にキリッとしだしたアメに今度はあたしが銅像のようになる
- 822 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:42
-
「不良じゃないよ?煙草とか吸わないし」
「まぁ、そこはあんまり問題じゃないの」
あたしの頭の上にはクエッションマークが飛び交う
「私のどんなこと知ってる?」
はて、どんなこととはなんぞや?
ちょっと考えてみる
アメのことアメのことアメのこと
「金曜日に泣いてる」
「あとは?」
「幸薄そう」
「それは関係ありません」
「結構地黒」
「だから見た目は関係ありません」
「服装が地味。スカート長すぎ」
「だから!!」
- 823 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:42
-
あたしは自分の頬を押さえる
「あとは・・・かよわそうだけど結構力が強い」
「う、あ、ごめんなさい」
あわてたように謝るアメが微笑ましくてつい笑ってしまった
「笑わないでよ。あの時は吃驚したんだから!」
今度は声を荒げて抗議
相変わらずコロコロと表情を変える
「うん。ごめんね。あの時は私が悪かった」
今度は困ったような顔
アメは降ったり曇ったり
見ていて飽きない
- 824 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/17(土) 18:46
- 更新です
>>158さん
いしよしは自分の原点ですのでw
>>名無し飼育さん
期待に答えることが出来ればと・・・
>>名無し飼育さん
自分の勝手な吉澤さんのイメージです
- 825 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 04:41
- 更新お疲れサマ
これからの二人に期待してもいいのかな
って、コノ話はつづくのかしら?
- 826 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 06:00
- 藤本さんと松浦さんの話も大変良かったですけど、
いしよしもいいですね。
よっちゃんが素敵です。
- 827 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:56
-
「で、私に関する情報はそれだけなのね?」
探るようにあたしの顔を覗きこむアメ
「うん」
「本当の本当に?」
「本当の本当に」
一体これはなんの問答なのか
アメが何を言いたいのか分からない
「そう・・・これは不幸中の幸いかも。でも貴方」
「ん?」
腰に手をあてビシリとあたしを指差した
あ〜あ、人を指差しちゃいけないのに
- 828 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:56
-
「もうちょっと真面目に学園生活送ってね」
そしてくるりと踵を返すと背を向けとことこと歩き去る
「待って」
あたしはあわててその腕を?んだ
がくりと揺れるアメの体
「ちょっ、何?」
ここで別れてしまったらもう二度と会えない気がした
「アメ、もうここには来ないの?」
驚くアメにあたしは続ける
- 829 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:57
-
「アメがここに来たかったらあたしが来ないから」
「何言ってるの」
軽く睨まれる
「もう来ないよ」
あっさりとそう言われる
「ねぇ、今もどこかで泣いてるの?」
「腕、離してくれる?」
あたしは頷いてゆっくりと離す
アメが少し笑った
「なんでそんな顔してるの。私のことは気にしないで」
それと、と言って手を伸ばしあたしの頬に触れる
「ここ、ほんとにごめんね」
「別にいいよ」
- 830 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:57
-
あたしはアメから離れて給水塔を目指しはしごに足をかける
「ねぇ!」
振り返る
「本当に少しは真面目になりなさいよ
高校生活はやり直しきかないんだからね」
「はぁ?」
「それから、私のことは絶対もう誰にも言ったりしないで」
そして扉の向こうへと消えて行った
これでさよなら
- 831 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:57
-
「えらいえらい。今日も余裕を持って登校」
「ん〜」
寝癖のついた頭をがりがり掻いて返事をする
アメの言葉を真に受けたわけではないけど
そんなに自分が不真面目に見えるのかとちょっと
へこんだので最近は真面目を心掛けている
真面目を心掛けるってのも変な話しだ
「最近は授業中も寝ないしね」
「んー、でもそろそろ飽きてきた」
笑うごっちん
- 832 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:58
-
「あぁそうそう今日は生徒会の総会だからね」
う〜んと背伸びをする
その手の集まりは苦手だ。退屈極まりない
「帰りたぁ〜い」
「駄目駄目、真面目になったんでしょ?」
真面目ってほんとめんどーだ
つーか真面目の定義って何だ?
今さらながらそんな疑問が頭をよぎった
- 833 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:58
-
もう何度目になるだろう体育座りをしたまま
眠りに落ちそうになるのは
生徒会長とやらのたんたんとした話し声が
より一層眠気を誘う
でもそれはただ退屈に感じるだけの声
アメの泣き声とは違う
アメはこの体育館の何処かにいるのかなぁ?
もうきっと会うことはないだろうけど
変なやつだったな
「ちょっとよしこ、よしこってば」
「んー、寝てないよ〜」
- 834 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:58
-
がくがく揺らされて危なく涎がこぼれるところだった
「違う見てようちらの担任口開けてる」
「あー?」
教職員席にぼやけた視線をやると
確かに口を半開きにしてボーっとしている担任がいた
「飯田先生又宇宙と交信してるよ」
にししと笑うごっちん
あたしは目をごしごしと擦って再度見る
「あの人も宇宙人かなんかなんじゃ」
言いかけてあたしの口がぽっかりと開く
- 835 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:59
-
次の瞬間クリアになる脳ミソ
どうりであんなに偉そうな態度だったわけだ
どうりで真面目真面目うるさかったわけだ
どうりであんなに服装がださいわけだ
この学園が私服だったのも盲点だった
何がもうきっと会うことはないだ
自分のドラマじみた考えを笑い飛ばす
- 836 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:59
-
そこにはアメがいた
アメは職員席にちょこんと座っていた
そうかそうか
アメは教師だったのか
そうかそうか
似合わねぇー
- 837 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/21(水) 17:59
-
「ごっちんごっちん、あそこに座ってる先生誰?」
「んあ?あぁ、新任の人?」
アメは新任の先生だったのか
新任紹介とかってあったのかな
まぁあったとしても憶えてなんかいないけど
「何年の担任?」
「一年だったような気がする」
一個下の学年か
「あの先生がどうかしたの?よしこ」
あたしはにやにやしながらも首を横に振る
アメは誰かに色々知られるのを嫌がってたから
今回はごっちんにも教えないでおこう
- 838 名前:スケルトン 投稿日:2007/11/21(水) 18:02
- 更新です
>>名無し飼育さん
もう少し続きますのでお付き合い頂ければ幸いですw
>>名無し飼育さん
ありがとうございます
ご期待に沿えればと・・・
- 839 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/21(水) 23:26
- おぉーそうきたかって感じですね、予想外の展開で続きを楽しみにしてます。
- 840 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/22(木) 05:33
- 蕩ける「飴」に脳内変換しておりますゥヒ!
楽しみにしてるよー作者さんもがんばれエー!
- 841 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:27
- あたしはジーンズのポケットに両手を突っ込んで廊下を歩く
口に咥えていているチュッパチャップスを上下に揺らしていると
『ロリポップ、ロリポップ』と頭の中に歌が浮かんできたので
鼻歌で歌う
ロォリロリッ、ロリポップ、ドゥドゥンドゥンドゥン
しかしその他の歌詞がわからん
すれ違った生徒があたしのことを見る
あれかね、あたしはそんなに不真面目で有名なのかね
ともすればアメが言ったように不良だと思われてんのかな
それともこの鼻歌がよっぴどへたっぴなのか
まぁいいや
ドゥドゥンドゥンドゥン
- 842 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:27
-
ざわざわと喧騒する教室
時折『キャー』とか『わーマジで?』
なんて甲高い声も聞こえる
元気で大変よろしい
若い子って箸が転がってもおかしいって言うもんね
ってあたしも若い子の一人か
青春を謳歌?
楽しい高校生活?
大いに結構
でもさっ君達、今って
帰りのホームルームの時間なんじゃない?
- 843 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:27
-
『皆!ちょっと聞いて!』
お?
『来月は文化祭だから、出店の話し合いとか』
そうか来月は文化祭だったっけ
うちのクラス何するんだろう
あたしはベーグル屋がいいなぁ
流石にゆでたまご屋は無理だろうし
『ねぇ!!』
あー、そんなに声を荒げちゃ喉潰れちゃうよ
『お願いだから聞いて!』
ほとんど叫び声に近い
- 844 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:28
-
アメの呼びかけ
- 845 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:28
-
だけど騒ぎが止む気配はまったく無い
逆にげらげらと大きな笑い声が聞こえた
明日から週末だから更にテンションが高いんだねぇ
あたしは壁にもたれながらう〜んと腕を組む
どうすっかな
こういうのも今時はめずらしくはないのかもしれない
頼りない教師に生意気ざかりの女子高校生
教師ってのも大変なもんだ
挫折する人もたくさんいるらしいし
- 846 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:28
-
でもそれはそれで仕方の無いことか
自分で困難な壁は乗り越えなきゃね
あたしはもたれていた壁から身を起こす
時々混ざるアメの声を聞きながらあたしは敬礼をする
健闘を祈る
- 847 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:29
-
心の中でエールを送りあたしはその場を後にしようとした
『せんせーうるさーい』
『話し合いとかこっちで勝手にやるからほっといてよ』
『ってかうざい』
ぴたりと歩を止める
--------なんでそんな顔してるの。私のことは気にしないで-----------
『あしたから折角休みなのにその声聞くと
テンション下がるっていつも言ってんじゃん』
- 848 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:29
-
金曜日にアメは泣く
『耳障りでぇーす』
雨音のように
『教師に向いてないってば』
アメが泣く
飛び交う中傷はまだ続いている
背を向けた後方からガラリと音がして
次にばたばたと走り去る音がして
立ってるあたしにも気付きもしないで
- 849 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:29
-
アメは泣き場所まで走るんだろう
- 850 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:30
-
「せんせーさよーならぁ〜」
ぎゃはははという下品な笑い声
--------私のことは絶対もう誰にも言ったりしないで------------
ゴリっと音を立てて飴を噛み砕いた
クソガキ ドモガ
- 851 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:30
-
ガラリと勢いよく教室の扉を開けると
ぴたりと全ての音が止んだ
視線を浴びつつ段を上がり教卓までつかつかと歩く
教卓に頬杖をつき見渡す
こいつらよくこの学園に入学できたもんだな
それともここのレベルがずいぶん低くなったのか?
あー、きっと少子化の所為だ
「あのさっ、今出てったここの担任あたしの知り合いなんだよね。
だからこれ以上あの人困らせたらこのクラス」
途端、顔色が変わる何人かの子達
「潰すよ」
- 852 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:31
-
何かをいいかける子もいるがあたしは無視して教室を出る
歩きながらポケットに手を突っ込んでチュッパチャップスを取り出し
まかれているフィルターを剥がす
我ながらうまく剥けたことに満足し
あむっと口に含むと
いちごみるくの甘い味が広がる
同時にさっきまで頭の中に廻っていた歌も復活
「ロォリロリッ、ロリポップ、ドゥドゥンドゥンドゥン」
今度は声に出して歌ってみた
でもやっぱりサビ以外の歌詞は知らない
- 853 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/11/28(水) 18:31
-
あー、折角真面目を目指してたのに
今日はホームルームさぼっちゃった
まぁいいや
- 854 名前:スケルトン 投稿日:2007/11/28(水) 18:32
-
更新です
あと一話で完結なのでお付き合い頂けると幸いです
- 855 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/28(水) 21:17
- 俺もその歌の続きが思い出せないw
- 856 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/29(木) 00:00
- よっちゃん、カケー!!
- 857 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:53
- 「職権乱用反対」
と、非難がましいごっちんの意見に首を傾げてみせる
「なんのこと?」
にっこりと微笑むあたし
ふー、と息を吐くごっちん
「あんたの行動の意味がわかんないんだけど」
「あたしも意味がわかんなぁ〜い」
両手を挙げて降参のポーズ
「まぁ、あんたがよくわからんことは前から知ってたから」
「流石親友!」
そう叫ぶと頭をゴチッっとぐーで殴られた
「そんなに噂になってる?」
「そりゃあ、ね。あんたある意味有名だし」
「めんどくせっ」
又ゴチっと殴られた
- 858 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:53
-
今日も快晴の空の下あたしは大の字で寝転ぶ
流れる雲が色々な形に姿を変える
バタンドタン
「ねぇ!ちょっと!ちょっといる?」
軽いデジャブ
顔をのっそりと出し下を覗くとそこにはもちろん
「やっほ、アメ」
手なんかもひょいと挙げてみる
- 859 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:53
-
「いいから!降りて来て!」
「命令?それって命令?」
「なんでもいいから!」
なんでもいいってなんじゃそりゃあ
そう思いながらもあたしは今日ははしごを使って降りる
足が痺れるの嫌だし
「あ、今日は降ってこないんだ」
「は?」
なんだ降ってくるって?
あたしが怪訝そうな顔をするとアメは我に返ったような顔をした
「はっ、それより聞きたいことがあるの」
ずいっと前に出てきて一つ高いあたしの顔を見る
「なぁにぃ〜?」
にへらと笑ってみせる
- 860 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:54
-
「『吉澤ひとみ』っ知ってる?」
「ん?」
「ねぇ、少しでもいいから情報が欲しいの。お願い」
真剣な顔で訴えるアメ
でも、お願いって言われても
「ごめん。よく知らない」
正直に言う
「そう・・・一体何がなんだか・・・」
ブツブツと一人言を言い始めるアメ
「それより、ここにはもう来ないんじゃなかったの?」
つい緩む頬
- 861 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:54
-
アメの眉が八の字になる
「ここが好きでしょ〜」
「突然なによ」
あたしがここから見る空が好きなように
アメもそうだったらいいな
いつも体育座りをして泣いてた
それも好きだったけど
だけど
- 862 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:54
-
「あたし、ちゃんとアメが笑ってるとこ見たことない」
今はそっちの方に興味がある
顔をグイッとアメの顔に近づける
アメはなんでかわからないけど顔を真っ赤にした
「か、からかわないでよ。意味わかんないし。
そ、それよりさっきのこと本当に知らない」
「んー?吉澤ひとみのこと?」
う〜んともう一度考えてみる
「この学園とか街とかも仕切ってて、その上凄い不良って噂なんだけど」
あたしは唸る
- 863 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:55
-
「不良じゃないよ。煙草吸わないし」
「あなたのことじゃないの!」
「んー」
アメはがっくりと肩を落とす
「知らないのね・・・」
「んー」
- 864 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:55
-
よく知らないもんじゃない?
自分のことって
- 865 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:55
-
「ねぇねぇ、あそこに一緒に行ってみよーよ?」
あたしは給水塔を指差す
「は?なんで?」
いいからいからとその腕を引っ張って無理やりはしごに登らせた
あたしは上に立つと両手を広げる
「ほら、気持ちよくない?」
横に立つアメも諦めたのか一緒に上を向く
「まぁ・・・ね」
それでもその横顔には泣き顔のかけらも無くて安心する
- 866 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:55
-
「アメは特別ここに登ってもいいよ」
「特別ってねぇ・・・あなた一体なんなのよ」
ため息交じりそう呟くアメ
「それに、大体『アメ』って呼ぶの止めてくれない?」
「だって名前知らないし」
「そういえば私もあなたの名前知らない」
「そーいえばそーかもぉー」
あたしがあはははと笑う
アメは相変わらず呆れ顔
「名前なんて言うのよ」
「んー?」
- 867 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:56
-
おっ、アメがやっとあたしに興味を持ってくれたか
ちょっとぶっきらぼうすぎるのが気にかかるが
「名のる時はまず自分からだよ〜」
よっこいしょとその場に座る
下から手を引っ張ってアメも座らせる
「わ、私は・・・・な、内緒」
今更何言ってんだろうと思いつつ
あー、アメはまだあたしに教師だってばれていない
と思ってんだと気づく
「ほんといつもにやにやしてるか眠そうだよね」
- 868 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:56
-
そしてほっぺたをにょーんと伸ばされた
「実は勝手に貴方にあだ名付けてるんだ」
「あだ名?」
「うん」
「何々?どんなあだ名?」
その時アメが笑った
「貴方いつもここから降ってくるでしょ?それに
私のこと『アメ』って呼ぶし、だから」
あたしはその顔に見とれた
- 869 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:56
-
「空からいつも降ってくるから『ソラ』」
噴出してしまう
「安直なあだ名だねー」
「貴方には言われたくないよ!」
お互いちぐはぐに交わる
それでもいいと思った
「なんかあったらまた降ってあげるよ」
アメの顔が又赤くなる
「まったく・・・無駄に顔だけは綺麗なのよね・・」
「『貴方』じゃなくて、ちゃんと『ソラ』ってよんでよ」
なんだか楽しくなってきた
こんな気分は久しぶりだ
- 870 名前:アメが泣いたらソラが降る 投稿日:2007/12/08(土) 19:57
-
ソラとアメ
うん悪くない
「だからここに来てよアメ」
「気が向いたらね・・・ソラ」
うん悪くない
ソラはアメがお気に入り
- 871 名前:スケルトン 投稿日:2007/12/08(土) 19:57
-
完結です
お付き合い頂きありがとうございました(ペコリ
- 872 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/08(土) 20:54
- いやー綺麗な終わり方でした
素敵なお話ごちそうさまです
- 873 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/08(土) 21:31
- 何もかも分かったら怒るんだろうなぁ、アメ。w
心軽やかに読ませて頂きました。
面白かったです、ありがとうございました。
- 874 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/09(日) 00:21
- えーこれで終わりなの?
続編求む
- 875 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/09(日) 03:31
-
完結お疲れさまです。でもまだ消化不良なんで
次回新スレは「アメとソラ」でお願いしたいス
とか、ひとり言呟いてみたり・・・
- 876 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/09(日) 12:00
- 綺麗なお話でした。とても面白かったです
今度は藤本さんと松浦さんの二人でも、
こんな和やかな話が読んでみたいです
- 877 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/09(日) 15:35
- これからの物語をぜひ求む!
…お願いします。作者さま。
だって面白いんだもの。
- 878 名前:スケルトン 投稿日:2007/12/15(土) 22:00
-
皆様、心暖かいレスありがとうございます。
続編は書き始めると又長くなりそうなので今の所考えておりませんが
楽しんで頂けて幸いです。
長い間使わせて管理人様にも感謝しております。
ありがとうございました。
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