チーズ・ロワイアル
- 1 名前:名無しのЛ 投稿日:2003/12/13(土) 02:38
- ・黒い服をお召しの方。
・『ちーしーなーしーあーしーだろうが!』という方。
・職業が“死ぬよりつらい苦しみ”への水先案内人な方。
・とても素直で騙されやすい方。
・(○`ー´)<………。
以上の方は、お読みにならないことが得策だと思われます。
- 2 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:40
-
そんなワケないじゃん。
起きたらいつもよりベッドが大きいとか、壁紙がピンク一色だとか。
寝るときはジャージを着てるはずなのにマッパとか、
振り返ると枕のむこうにティッシュ箱とか、やたらでかい鏡とか。
たぶん、おそらく、間違いなくここは、そうなんだろうけど。
なんでこんなとこに美貴がいるのか、さっぱり思い出せないのはなんで?
やだ、やだやだ如何わしいよ。
美貴って結構、見た目で勘違いされやすいけど、夢見る少女だったりするじゃん。
コテコテのラブストーリー見て『いいなぁ』なんて憧れたりさ。
それが。そんな美貴が。
ありえない、ありえるワケない、ありえて欲しくない。
なんだよこのお姫様みたいなベッド…………げ。
マジで? やっぱそうくるの? 勘弁してよ。
寝返りながら上体を起こした美貴の隣で、体を覆ってる白いシーツが
こんもりと膨らんでる。まるで、そこに誰かがいるみたいに。
- 3 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:41
-
そんなワケないじゃん。
けど、これが指し示す答えは1つしかないんだと思う。
つまり、美貴は、一夜を………………誰と?
知りたいなら捲ればいいじゃん。
ペローンと、ペロンと軽くシーツを捲るだけでいいんだ。
……でも、むさ苦しいおっさんとかだったらどうする? 立ち直れる?
自信ないよ、だってこういうとこは……初めてだし。
少しでもイケてる人がいてくんなきゃ泣くでしょ。どうする、どうしよう、見ないでおこうか。
誰でもいいじゃん、わざわざ確かめなくてもベッカムあたりと共にしたって思っとけばいいじゃん。
そうだ、そうしよう、それがいい。
そうと決まれば一目散、美貴は床に散らばってる自分の下着と服を掻き集めると
ベッドに背を向けてすばやく着替えた。
「んん…」
「…え?」
穿いたジーンズのポケットに財布と携帯が入ってるのを確認して
(ヤバイ、着信履歴が全部なち姉で埋まってる…心配してるかな)
急いで帰ろうとドアに向かおうとしたとき、シーツの膨らみから聞こえた
かわいらしくて色っぽい声に思わず振り向いてしまった。
- 4 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:41
- するとそこには、シーツから顔だけ出して眠たげに
瞼を擦ってる女の子……女の子……女の………えぇえ!?おおお女の子ぉぉぉ!?!
「あ、おはよぉ」
「おはよう…」
寝惚けたまま微笑まれて、反射的に返してしまう。
いや、なんていうか、なんていうか、すごいかわいくて。
あれ?美貴ってそっちのケあったっけ?
……ないないないない。んなこたぁーない。
えぇ!?どっち?!わかんなくなってきた! でも、だって、なくてもあっても
今美貴の目の前にいるのは彼女であって、ここはそういうとこなワケで、
つまり、結論から言うと………………
ヤッちゃった?
「嫌ぁぁああああ――――――――――!!!!!」
- 5 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:42
-
◇◇◇
- 6 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:42
-
「おーいフジキちゃーん」
「………」
「フジキちゃんってば、フジキー」
「……まさか、それ美貴のこと?」
「んあ、だって藤本美貴でしょ?略してフジキ」
「変な略しかたしないでよ!フジキって普通に苗字じゃん!」
「えー、ならフジミにしとく?あはっ、死にそうになくていいねぇ」
「いいわけあるか!ミキティって呼べよゴマキ!」
「んあ!ゴマキ言うな!」
土曜日、予定もないし1日中寝ちゃえっていう美貴の目論見は、ノックもなしに
入ってきたごっちん――後藤真希によってあっさりと破られた。
「ってゆーか朝だし」
「いや、休みだし」
「なっちがミキティの分もご飯作るからって」
「……眠い」
「なっちの厚意ムダにする気?」
「後で食べるよ」
「冷めるわアホゥ!」
「あっためなおしゃいいじゃんバカ!」
布団を頭まで被って背を向けると、ごっちんはそれを勢いよくはがして冷えた手を
パジャマの中につっこんできた。いきなり氷をあてられたような衝撃を背中に感じて
ヒィだかなんだか悲鳴を上げた美貴は、身を捩じらせてベッドから落下した。
- 7 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:43
- ―――
「痛い…」
「んあ、ごめん」
1階のリビングのソファにぐったりと寝そべり、ベッドから落ちた際に強打した
気持ち広めのおでこを濡れタオルで冷やす。
じろっと軽く睨むとごっちんは申し訳なさそうに頭をさげてキッチンへ逃げていった。
キッチンからはなち姉が作ってる朝食の匂いが漂ってくる。おいしそう。
でも美貴は頭がじんじんしているせいで眠気は飛んだものの食欲は全くない。
「………」
「ちょっと絵里、無言でマグカップ差し出さないでよ」
「…………ごめんなさい……」
「…別にいーけど」
妹の絵里が、コーヒーを持ってきてくれた。
妹っていっても美貴と絵里に血の繋がりはない。ついでに美貴となち姉もない。
5年前、美貴のお父さんとなち姉たちの母親が再婚したから。
中学2年の多感な時期に“親が再婚、1人っ子から3姉妹の次女へ”ってのは
ある程度衝撃的な出来事だったけど、「人生楽しんだもん勝ち」という考えの美貴にとっては
大した問題じゃなかった。お母さんはもういないんだし、お父さんだって恋ぐらいするでしょ。
けどまだ小学生だった上に人見知りするタイプの絵里にとっては大事だったようで
美貴はいまだに『お姉ちゃん』って呼ばれたことないし、あんま口きいてくんないし。
なち姉と話すときはニコニコしてんのに美貴が加わると笑顔が引きつるんだよなぁ。
まだ怖いのかな?美貴のこと。 もう5年も経つのに、大変だよね、人見知りって。
- 8 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:43
- 「亀ちゃーん、美貴大丈夫そう?」
キッチンからなち姉の声が届く。「亀ちゃん」ってのは絵里のこと。
大人しいってわけでもないけど、まるでおばあちゃんのように行動も喋りもゆっくりだから
って理由でなち姉はそう呼んでる。…ん?あ、亀か、『亀のように』だ。
いや、絵里ってちょっと雰囲気フケてんだよね、実際。
そういえば、再婚から1年経ってお父さんの海外赴任が決まり姉妹だけで
生活することになったとき、1度だけ美貴も真似して呼んでみたことがあるんだけど、
美貴のことが怖くてなち姉以外にそう呼ばれるのは嫌だということを
直接言えなかった絵里は、自室の壁と本棚の隙間に入って出てこなくなった。
『…やだ………お姉ちゃんだけ……でも……怒られる………
……絶対怒る…………ほっぺた……ひっぱられて……………死ぬよりつらい苦しみ……』
『ごめんなさい、もう言わないから、絶対言わないから、
ってか怒ってないし、見てこの顔、笑ってるでしょ?美貴笑顔だよ、絵里も笑おうよ。
痛いこととかしないから安心して出といで…って死ぬよりつらい苦しみってどんなの?』
『ブツブツ、ブツブツ…』
『絵里ぃー、絵里ちゃぁん、美貴の話聞いてよぉー、ごめんってばぁ』
『…ん?美貴、亀ちゃんの部屋でなにしてんのさ?』
『なち姉ぇぇぇー助けてよぉぉぉー』
あの日、なち姉が帰ってくるまで6時間以上も隙間の中の暗い瞳に向かって謝り続けた美貴は
絵里の前ではもう二度と、「亀」という単語すら口にすまいと心に決めている。
- 9 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:44
- 「美貴、スープだけでもどぉ?」
「あー…うん、食べるよ、もう大丈夫」
「そぉ?じゃあこっち持ってくるね、絵里もこっちでいい?」
「うん、手伝う」
「あーいいのいいの、ごっちんが頑張るみたいだから」
なち姉の言葉通り、しばらくするとトレーを持ったごっちんが微妙な笑顔で
現れて次から次へとテーブルに朝食を運んできた。
元はといえばごっちんはなち姉に頼まれて美貴を起こしに来たわけで、
ごっちんがなち姉の頼みを断るわけがないのはよく知ってるから
もう怒ってないんだけど、ちらっと目が合っただけで慌てて笑ってみせるのが
面白かったのでそのままにしておいた。
なんか美貴って素の表情とかめちゃめちゃ怖いらしい。
絵里が怖がってるのもそのせいみたいだし、なち姉も最初の1ヶ月ぐらいは
いつか殴られると思ってたって言ってた。
殴るとかありえないから、マジで。
もっと最悪なのは初めて会ったとき――ホテルで食事会したんだったかな?――今のお母さんも
なち姉も絵里も美貴が再婚を反対してるんだって思い込んで
家に帰った後3人で泣きながら家族会議したって話。
- 10 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:44
- たしかにあのとき、メインディッシュに大嫌いなネギが添えられてたり、
(せっかくサーロインでウキウキしてたのにさ、草なんか添えんなよ、おまけに肉ちっせー
150で足りるワケないじゃん、美貴育ち盛りなんだよ?250は余裕でペロリだっつーの)
デザートのケーキにこれまた大嫌いなあんこがのってたことに
(ハァ!?ちょっとちょっとケーキは洋菓子でしょーが!和洋折衷とかありえないし!)
キレてたのは認める。でも反対とかそんな面倒なことしないって。
笑顔確率だって高かったし、そのケーキ絵里にあげたしさ。誤解するほうもするほうだよ。
「美ー貴、なに怖い顔してんの?食べるから手ぇ合わして」
「…小学生じゃあるまいし」
「む。大学生だって挨拶するのは当たり前っしょ」
「あはっ、なっち訛ってる〜」
「なっ!?訛ってないべさ!!」
訛ってるし。
なち姉は絵里が生まれる前まで北海道に住んでたそうで、興奮すると訛りが出る。
とはいえ今なち姉は22で絵里が生まれたのは8つのときなんだから、訛りが抜けてても
おかしくないのに。イモっぽいな、イモだな、イモそのものだ。
「むむ。美貴、今最高に失礼なこと考えたっしょ?
バツとして大掃除手伝いなさい」
「えぇーやだよー埃で鼻ムズムズするじゃん」
「マスクすればいいっしょ、どーせ暇なんだし夜焼肉にしてあげるから」
「焼肉…」
本当のこととはいえ、暇だと決め付けられたことはカチンときたけど
肉のためなら仕方ない。美貴は肉全般が大好きなんだ。
- 11 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:45
- 「ってかなんで大掃除なんかすんの?」
「あれ?言ってなかったっけ?明日からお父さんの知り合いの娘さんがここに下宿するって」
「ついでにごとーもね〜」
「ハァ!?初耳なんだけどっ!お父さんの知り合いってなにさ?
…いや、その前にごっちんもってどういうこと?!」
スプーンを持った右手でテーブルをガンと叩くと、絵里がなち姉の背中に隠れた。
絵里に言ってるわけじゃないのに…。
「なんだかんだ言ってごっちん、毎日のように泊まってくっしょ?
それでこないだごっちんのお母さんと話してたら『もう面倒臭いから
真希そっちで世話してもらえないかしら?』って言われて、父さんたちの寝室と書斎だった
部屋があいてるし、じゃあごっちんを寝室のほうでって…」
「なんで!なんでそこで『じゃあ』ってなんの?!
ごっちんのお母さんもお母さんだよ!面倒臭いってなにさ!
自分の子供だろ!ちゃんと育てろよ!!」
「んあ、ウチは放任だからねぇ」
「そーゆー問題かぁ!……あ」
しまった、大きな声を出しすぎた。
なち姉の腕をキュッと掴む絵里の手が震えてる、ヤバイ。
「絵里、ごめん、別にあの…本気で怒ってるとかじゃなくて
一緒に住むのは…大勢のが楽しいからいいんだけど、洗面所とかさ…」
- 12 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:46
- この家は、トイレは1階と2階に1つずつあるけど、お風呂と洗面所は1階にしかないんだ。
朝とか美貴と絵里だけならまだしもごっちんもいると取り合いになるじゃん。
狭いから一緒に使えないし。
「亀ちゃん怖かった?大丈夫だよ、なっちがついてるから」
「おーよしよし、ミキティってば怖いよね、ごとーも泣きそうだよ」
「…嘘つけゴマキ」
「んあ!だからゴマキ言うな!」
はぁーっ、なんか朝から疲れるんですけど。
でもまぁいっか。ごっちんのお母さんがやってる店で働いてるなち姉を
毎晩危ないからって家まで送ってくれてるごっちんはそのままここに泊まることが多くて
もうほとんど家族みたいなもんだし。絵里もごっちんには懐いてるみたいだし……ぐす。
ごっちんは美貴の1つ下の高3で、学校は違ったしお互い部活もしてなかったから
なち姉と姉妹にならなかったら絶対に知り合ってなかった。
サッパリしてて差別とか偏見って言葉を知らない子だから付き合いやすいし
料理の腕前がなち姉といい勝負なのはありがたいけど……なんか話が急すぎてついてけない。
- 13 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:46
- 「…ったく、そういうことはもっとはやく言ってよね」
「ごめんね?話したとばっかり思ってて…」
「んあ、これからもよろしくねミキティ〜」
「よろしく。で、明日来る子はどんな子なの?お父さんの書斎ってことは
美貴の部屋の隣でしょ、趣味がロックとかだったら速攻で追い出したいんだけど」
「大丈夫。たぶんかわいくておそらく歌は好きでも下手じゃないし
ヘビメタは聴かないと思うから」
「全部推測じゃん!どこが大丈夫なのさ!!
ってかヘビメタ聴いてる女子高生なんて稀少だよ!ロックだっつってんのに!」
「え?ロックってヘビメタのことじゃないのかい?
ごっちん、どう違うの?」
「んあ?…えーと……服装かなぁ?」
「…もういい、名前は?」
「えーっと…たしかウラマツアヤちゃん。いい子だよ、きっと」
全部推測じゃん。
まぁいいけど、面白い子だといいなぁ、絵里と違って人見知りしない子とか。
「そういうワケだから大掃除手伝ってね」
「はいはい」
「はいは1回」
「はぁーい!!これで満足かぁ!」
「…っ」
「絵里ちゃんごめんなさい、大きい声出してごめんなさい、重ね重ねごめんなさい」
ってゆーか美貴にも懐いてよ、マジで。
- 14 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:47
- ―――
あぁ、鼻かみたい。
「美貴、ここ拭いて」
「ぁい」
「ここも」
「…ぁい」
「あ、あとその上も」
「……ックシュン!」
気のせいかな? さっきからなち姉は口ばっかで、掃除してんのは美貴だけな気がする。
ごっちんは自分の部屋を掃除してるからこっちは手伝ってくんないし。
顔も知らないウラマツさんのためになんで美貴が鼻つまらせなきゃなんないの。
マスクつけてても全然意味ないじゃん、ティッシュどこだよ。
「んーじゃあなっちはごっちんの家行って荷物取ってくるから
掃除機かけといてくれる? それとお昼ご飯は自分でなんか買って食べて」
「……グズ」
疲れた。
鼻をかみたいのをなんとか我慢して掃除機をかけ終えた美貴は、思わずその場に座り込む。
お父さんたちが出ていくときに家具は親戚のおじさんにあげたりしたから
今この部屋にはなにもない。美貴のおかげで埃1つなくなった床に窓から陽が射して
その陽だまりの真ん中らへんにいると、煎餅が食べたくなった。
お茶とミカンも欲しいな……ってこれじゃ絵里じゃん。
絵里は最近いつもこの3点セットをお盆に載せて嬉しそうにテレビを見てる。
あーだからフケてんのか、顔はかわいいのに。
- 15 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:47
-
「――――」
「――、――――」
「ん?」
窓の外から声が聞こえる。
聞いたことのない声と、絵里?…の声。
朝ご飯を食べた後、絵里は約束があると言って出かけてった。
会ってた子に送ってもらったのかな?…お、てことはまさか付き合ってるやつか?
うっそ、マジで?絵里にそんな子いたの? 美貴、聞いてないんだけど!
スクープだ。
朝の様子からして、おそらくなち姉もごっちんも知らないに違いない。
美貴は絵里の姉として、相手の顔を携帯で激写しみんなに見せびらかす義務と
相手が絵里にふさわしい子かどうか検証する義務がある。
いざ、レッツフォーカス!
・・・・・・ぉーぃ。
絵里、絵里ちゃん、えりりん、えりっぺ、パッツン。
あれか、不思議ちゃんか、妖精が見えるタイプか。
- 16 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:47
- こっそりと窓から外を覗いた美貴の目に映った絵里は、庭のけやきの木と会話していた。
絵里とは別の声もしたと思ったけど、気のせいだったらしい。
だって美貴に木の精の声が聞こえるわけないし、気のせいだ、気のせい。木の精だけに。プププ。
って寒いこと考えてる場合じゃなかった。
このままじゃ絵里は妖精さんとあっちの世界に逝っちゃう。
――しかし、絵里を呼び戻そうと窓を開けて声をかけようとしたとき、遠目でもわかるくらい派手に
絵里の顔が真っ赤に染まって、かと思うと突然体を翻して家の中に駆け込んでいった。
「絵里ぃ!まだ終わってなか!絵里ぃ!」
そして、けやきから絵里と同じ中学の制服を着た女の子が飛び出してきた。
背は結構小さい、なち姉より小さそう。
よくわかんないけど、2、3歩追いかけた体勢で玄関を凝視したまま固まってる。
なんだ、よかった、絵里はあの子と話してたのか。
そうだよね、いくら絵里でも妖精と会話するわきゃないよね。
って安心したのはいいけど、あの子は絵里になにを言ったんだろう?
まさか……イジメ? でもそれじゃ真っ赤にはなんないか。
あの子もショボーンって顔してるし、『まだ終わってなか』って言ったよね。
方言かな?九州っぽい。明らかになち姉のとは違う。
ニニニィ〜♪。
ん? えぇぇぇえ!?
- 17 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:48
- 考えこんでいると、さっき開けた窓から爽快な鼻歌が舞い込んできた。
あの女の子かと思って視線を彼女に戻す途中、視界の隅に奇妙な人影が。
「どうだったニィ?」
「塾長……それが…」
長い髪を前髪ごとパイナップルみたいに頭のてっぺんで結び、タモさんみたいなサングラスをかけ、
タキシードで身を固めて手にはなぜか竹刀とスピーカーを持った怪しげなマユゲ。
声変わり前の男の子みたいな声からしてあの子と同じぐらいの年だろうに
“塾長”ってどういうこと? つーか何者?!
あんなウサンクサイやつの手下が絵里になんの用だったんだよ!
まだ、認めてもらえてないけど、怖いだけの存在だろうけど
姉だなんて思われてなくても美貴は絵里の姉ちゃんだ。
あの悪党どもを放っておくわけにはいかない。
絵里は、美貴の大事な妹だ!
「お前ら!ウチの絵里になにしやがった!」
なんていうか、シスター魂(ソウル)っていうの?それが爆発した美貴は窓を全開にして叫んだ。
けやきの前の2人がひどく驚いた様子で美貴を見上げる。
「ニィ!?あれは誰ニィ?!」
「絵…里のお姉さんにそっくりやけど…あげん怖い顔やなかったはず…」
「ハァン!? 美貴は怖くない!」
- 18 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:49
- なんだこいつ?なち姉のことは知ってんの?
たしかに美貴となち姉は、血が繋がってないとは思えないほど顔が似てるってよく言われる。
写真なんか激似だって。
「美貴?…あぁ!絵里をいっつも脅しとぉ人や!降りてこい!成敗してやる!」
「あぁん!?美貴がいつ絵里を脅したんだよ!
ってかお前が登ってこい!返り討ちにしてやる!」
「ちょっ…2人とも落ち着くニィ、熱いハートはバラのトゲだニィ」
「ばってんあん人は…っ…絵里……」
美貴の後ろを見て九州っぽいやつが目を見開いた。
振り返ると絵里が黙って立っている。ちょっと怖い。
「絵里!なんなのあいつら!」
「………」
「あ、亀井ちゃーん、元気ニィー?」
「絵里ぃ!最後まで話聞いて!」
「………」
「…ちょっと絵里、まとめて無視しないでよ」
「……脅されて、ないよ」
「「「ハ?」」」
やっと口きいたと思ったら、いきなりなに?
「でも絵里、いつも睨まれてうまくしゃべれんて…」
「美………貴さんは、目つきが鋭い、けど、や……優し、いと思う」
「…へ?」
「キレイ…だから、見られてると……緊張して、うまくしゃべれない…」
「へ?ハ?」
キレイって、美貴が?まーたしかに整ってて美人顔だし、手足も長くてスタイルいいけど。
- 19 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:49
- 「ま、まさか絵里…そん人のこと…っ」
「違う!違うよれいな!私はっ…」
おぉ、びっくりした。絵里のこんなでかい声初めて聞いたよ。
絵里は窓の淵に手をかけて真っ赤な顔で俯く。続きは?「私は」の続きは?
「私、は…」
「…絵里、無理せんでよかとよ、また今度ゆっくり話そ」
「無理してない!子供扱いしないでって言ったでしょ!」
「っぐ…」
「…えー、今のは子供扱いじゃなくない?」
そう思うのは美貴だけですか? 思うに、あの子――れいな、だっけ?の
優しさっつーか絵里のことを気遣っただけだと…
「亀井ちゃぁん、そういうとこが子供っぽいから子供扱いされるんだニィ。
パンツもクマちゃんだし」
「えぇぇ!?絵里クマさんなんか穿いてんのぉ?!」
「…ク、クマ……」
「穿いてないぃ!れいな信じないで!新垣さんの言うことなんか信じちゃダメ!」
「ちょっと絵里、見してパンツ」
「ふぁい?っ…やだぁ!美貴さんの変態!」
「だって興味わくじゃん!中学生が好んで穿くクマさんってどんなのかなって」
うん、好奇心だよ、好奇心。天才になるための第一歩。
「あんスケベ!セクハラする気と?!許せん!ぶっ飛ばしてやる!」
「待て待て田中ちゃん、ここは塾長である私に任せなさい。マユゲビーム!」
- 20 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:49
- 「や、めてぇ!」
「いいじゃんいいじゃぁーん、クマさんに会わせてよぉー…がはぁっ!」
後頭部に鋭い痛み。
一瞬なにが起きたかわからなくて絵里の顔を見ると
スカートを抑えてた手を口にあててこれ以上ないぐらい驚いてる。
ドサッと、なにかが落ちる音がしてゆっくり視線をやる。
竹刀だ。
窓に背を向けて絵里のスカートを捲ろうとしていた美貴の後頭部に投げられたものは
マユゲが持ってた竹刀だった。
こらこら、どこがマユゲビームだよどこが。マユゲ関係ないしビームじゃないし。
浮かんだツッコミは声にならず、意識が遠のいていく。
「美貴さん!!」
最後に美貴の目は、今にも泣き出しそうな絵里を映して、閉じた。
- 21 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:50
- ―――――――――――
――――――
―――
気がつくと、美貴はぐるぐると巻く渦の中にいた。
目を開けても真っ暗で、体もフワフワって浮いてる感じ。
ここ、どこだろう?
『……た………ん……………』
ん? なんか、聞いたこともないような、砂糖菓子みたく甘ったるい声がする。
聞いてるだけでヨダレが出てきそうな……
『……………キ……た………ミ…………ん………………』
キタミン? なにそれ、ビタミンみたいなもん?
C系?B系?E系?どれも女の子には大切なんだよね。あ、あと鉄分も。
『…満月……の……………めぐ…り……あ………う……め……から………』
誰なの? 顔がよく見えないよ。もっと、もっと近づいて…
『……………運命だもん』
ハァ?
- 22 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:51
- ―――
――――――
―――――――――――
「痛い…」
「美貴さん!!」
「…うー…絵里?」
「あぁ!お姉さん!本当にすみませんでした!この通りやけん、許してください!!」
「…?…あー、さっきの九州…」
「れいなです!田中れいなと申します!先程はとんだご無礼を…」
「あーストップストップ。
田中ちゃんね、はいよろしく。それよりマユゲ野朗は?
とりあえずガムテ張って一気に引き剥がしてやりたいんだけど」
目を開けると、ぽろぽろ泣いてる絵里と土下座してる九州がいた。
どうやら美貴が気を失ってる間に色々あったらしい。
「美貴さん、頭大丈夫ですか?」
「…そんな美貴の頭がおかしくなったような言い方しないでよ」
「……あ、ごめんなさい…」
「べ、別に謝んなくていいよ…」
これじゃホントに脅してるみたいじゃん。
絵里はもっと胸を張って生きたほうがいいと思うんだけどなぁ。
「あの、お姉さん。塾長は悪気があったワケやなくて…やる気はあったと思っとー……ばってん、
決してお姉さんを死に至らしめようとかそげなこつやなかんやけん、許しとっただけなかやろうか?」
「……うーんと、途中からよくわかんないんだけど
要はあのマユゲを抜かないでくれってこと?」
「はい、そうです。すいません、テンパると訛っちゃって…」
「田中ちゃんがテンパらなくても…マユゲはどこ行ったのさ?」
「それが…」
- 23 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:51
- 田中ちゃんに免じてマユゲは2、3本残してあげてもいいけど
やっぱり本人からの謝罪も欲しいじゃん?
けど、美貴の言葉に田中ちゃんも絵里も固まっちゃって……
「ん?逃げたの?」
「いや、それが…『間違えたニィ、お仕置きのつもりがLOVEマシーンだったニィ。
田中ちゃん、今日1日あの人をこの家から出しちゃだめニィ!』って叫んで
どっか行っちゃったんです」
「ハイ?なに?なにマシーン?」
「LOVEです、LOVEマシーン」
「アハハッ!ルァヴって!ルァヴってなにさ!
田中ちゃんよく真顔で言えるねー!お腹痛ぁーい!」
しかも美貴のことじっと見つめて言うなんて反則。
ルァヴって、発音めちゃくちゃネイティブだし。ん?絵里?なんかムスッとしてない?
「れいな、こっち見てもっかい言って」
「ふぇ?なにを?」
「今の」
「…LOVEマシーン?」
疑問符を顔いっぱいに浮かべて田中ちゃんがもう1度ネイティブな発音を披露すると
絵里は嬉しそうに白い歯を見せて笑った。
あーもうだめ、美貴ツボに入った、苦しい。苦しくてお腹鳴りそ………ん?
- 24 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:52
- 「そーいや美貴お腹減ったや、2人は昼食べたの?」
「はい、さっき一緒に」
「いいなぁ〜美貴食べてないんだよ。なち姉に自分で買って食べろって言われたし
キッチンズバーガーでも行こうかな」
「だめですよ!塾長が家から出ちゃいけんって…」
「そんなこと言っても理由がわかんないし、頭の痛みもひいたしさ、
ついでにマユゲ探して見つけたらパイナップルごと振り回してやる」
ついでに語尾の『ニィ』を『ヒィ』に変えてやる。
常に恐怖から逃れられない体にしてやる…。
「でも頭…やっぱり心配だし…私が買ってきます」
「んー?いいのいいの、絵里は田中ちゃんと遊んでなって。
なち姉が帰ってきたら手伝わされるかもしんないけど、ね」
「お姉さん、ホントに気をつけてくださいね。塾長があんなこと言ったってことは
必ずなにかあるはずですから」
「ほいほい、…あ、聞くの忘れてたけど3人はどういう関係?」
田中ちゃんの態度からしてイジメじゃないのはわかったけど、あのマユゲがよくわかんない。
「えっと、絵里と塾長は同じクラスで、れいなは塾長が今年の春に設立した
新垣塾の塾生で…簡単に言うと新垣塾部の部員って感じです。
今日は絵里にも新垣塾に入ってもらおうと思いまして、朝から説得してたんですけど…」
「はいタンマ。なにするとこ?そのニガ塾ってのは」
「…おもに目隠しして上から吊るされたものを顔にあたる感触だけでなにかあてたり、
ダジャレを考えたり、腕相撲したりしてます」
「帰れ」
- 25 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:52
- 「えぇぇ!?待ってつかぁさいよお姉さん!なんでいきなり冷たい顔するんですかぁ!」
「そんな怪しいとこに絵里を入れるなんて言語道断、話になんない。
中学生が変な宗教勧誘みたいなことしてんじゃないよ」
「宗教とは違おるとよ!ユニフォームは柔道着だし、帯だってちゃんと白から始まるんやけん!
…あ、でもさゆのはピンクや……まぁそのへんは自由な塾風ってことで」
「いや、塾風とか言われても無理だから、納得できないから、理解できないから」
あぁーまた頭痛くなってきた。今日は厄日だな。
「あの、美貴さん。私、れいなには悪いけど新垣塾に入る気ないから大丈夫です。
新垣さんにはいっつもお煎餅とかもらってて仲はいいですけど
ギャグとか考えるの苦手だし、腕力もないから…」
「え、そういう理由なの?もっと他に理由ないの?…ないの?ないんだ…」
忘れてた、絵里も変な子なんだ。
もういい、今はなにも考えたくない。さっさとご飯買いに行こう。
「じゃあ、美貴行ってくるから、バイバイ…」
「お姉さん!お気をつけて!」
「無事に帰って来てください」
不吉な。雪山にでも行くみたいじゃん。
昼食買いに行くだけなはずなのに、大げさな言葉を背に受けて
美貴はフラフラと自転車にまたがり駅前の商店街にあるデパートに向かった。
- 26 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:53
- ―――
「いらっしゃいませー、ご注文…っミキティ!来てくれたんだ!」
「別に梨華ちゃんに会いに来たワケじゃないけど」
「ぶぅー、なんでそんなこと言うのよぉ」
「キショイ」
「もぉ!怒った!ミキティの注文なんか聞いてやんないんだから!」
「えぇぇーちょっと店長呼んでよー、ここの店員態度悪いよぉー」
「待って待って!やめてよ今保田店長機嫌悪いんだから!」
「じゃあさっさとチーズバーガーにポテトでコーラよろしく」
「…かしこまりました、ここで食べてく?」
「あー…そうしよっかな、袋につめんの面倒でしょ」
「まぁね…では少々お待ちください」
デパートの1階にあるキッチンズバーガーに着くと、高校の同級生だった
梨華ちゃん――石川梨華がちょうどカウンターにいた。
大学が違うから最近会ってなかったけど、相変わらずキショイ声と人柄は変わってないらしい。
「お待たせしましたー、450円です」
「あんがと、じゃ頑張って」
「ごゆっくりー」
トレーを持って店の奥の窓際の席に腰をおろす。
まずはコーラを一口飲んで、チーズバーガーに手を伸ばし――――
- 27 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:53
-
◇◇◇
- 28 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:54
-
「――――た後、どうしたんだっけ?」
「ねぇ…」
「ん?」
頭を抱えてしまった美貴を、ベッドの中の女の子が心配そうに見ていた。
「時間わかる?私、今日からお世話になるお家に9時までに行かないといけなくて」
「え? あ、ちょっと待って……7時だよ。
その家はここから遠いの?って美貴ここがどこかわかんないんだけど…」
「ここは駅前の……だから、藤本さんのお家はそんな遠くないはず…」
「へ?」
藤本さん? フジモトさん? ふじもとさんって言った?
奇遇じゃん。美貴も藤本なんだけど、まさか関係ないよね。
「えっと、さぁ、美貴とあなたって…その……っうわぁあ!」
「?」
関係ない藤本さんの話はおいといて、2人の間になにがあったのかを
聞き出そうとしたとき、女の子の胸元を覆っていたシーツがはらりと落ちた。
み、見ちゃった……すご…でか……い。
てってってってゆーか、確認しなくてもよくなっちゃった。
この子も裸だ。さっき美貴も裸だった。
ここはそういうとこで、ベッドの上で、2人とも裸だったんだ。
なにがあったかなんて聞かなくてもわかる。
- 29 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:54
- 「ごごごごめん!責任は取るから!
とりあえず服着て!その、藤本さん家行かなきゃ!」
「う、うん…じゃあ着替えるね」
「はい!むこう向いてますからごゆっくりどうぞ!」
やばいやばいやばい、どうしようどうしようどうしよう。
美貴ってばなにしてんの?この子たぶん年下だよね。法律的にどうなの。
「終わったよ」
「…じゃ、行こう、藤本さん家に、ね」
「送ってくれるの?」
「うん、うんうん、こうなった以上は他人じゃないし、送りますとも。
と、ところで名前なんていうの?」
「昨日教えたのにもう忘れちゃったのぉ? 亜弥だよ、松浦亜弥」
「え……」
マツウラアヤ? 昨日教えてもらったっけ? 全然覚えてない。
けどなぜか……どっかで聞いたよーな………あれ?
今日から藤本さん家にお世話になるマツウラアヤって、まさか………
『えーっと…たしかウラマツアヤちゃん。いい子だよ、きっと』
「って松浦じゃんか!!なち姉のドアホ――――ッ!!!」
- 30 名前:冗談だったらやめてください。 投稿日:2003/12/13(土) 02:55
-
- 31 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 04:24
- …発見(w
今回の作品も凄くおもしろそうです。
続きお待ちしてます!
- 32 名前:178 投稿日:2003/12/13(土) 06:44
- おー、メインだ。実は1推しなのです
相変わらずのノリで今回も楽しみ
- 33 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 09:57
- キタキタキタキタ━━━━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━━━!!!!!!!!!!
待ってました!待ってた以上のお話の出だしにもうたまりません。
うわー、やべー、またツボを押されてます。
がんがってください。
- 34 名前:つみ 投稿日:2003/12/13(土) 10:39
- これはまた萌える設定だ・・・
作者さんガンバ!
- 35 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 16:42
- 川VvV从 <なち姉・・・・・・
- 36 名前:名も無き読者 投稿日:2003/12/13(土) 20:14
- み〜っけ(w
今回もおもしろそうでなりませぬなぁ…
次回も楽しみにしております。
ていうか皆さん見つけんの早過ぎ…
自分が最初だと思ってたのニィ…
- 37 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/13(土) 22:24
- 新作キタ━━━━ヽ从‘ 。‘从人川VvV从ノ━━━━!!!!!
待ってましたヒィヒィ(;´Д`)
今回のも面白そうなお話しな予感…楽しみに待ってるっす!
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/15(月) 02:57
- 何気に亀ちゃんがイイ。
- 39 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:24
-
「わぁ、いい天気だねミキたん」
「…うん」
ホテルを出て(お金は割り勘だったんだけど安いとこで助かった)
おそらくなち姉の言っていたウラマツアヤこと松浦亜弥ちゃんと一緒に
早朝の商店街を歩く。
美貴の記憶が確かなら、ホテル(またはその近辺)になかった点から見て
自転車はデパートのキッチンズバーガー前の駐輪所に置きっ放しになってるはず。
ていうか、そこにあってくれないと他に心当たりなんて1つもないから困る。
「ねぇたん、まだ早いしさ、朝ご飯食べてこうよ」
「…早くてもいいよ、ウチで食べれば」
「え?ミキたん家でぇ?そんなの悪いよぉ」
それにしても、昨日初めて会ったにしては馴れ馴れしすぎない?
腕組んじゃってるし、喋り方もどっか甘えた感じでさ。
…まぁ、いいい、い、一夜を、と、とと共にしちゃったからかもしんないけど、けど。
「あのさぁ、たんとかミキたんって…なに?」
「ふぇ?また忘れたのぉ?昨日ミキたんて呼んでいいよって言ってくれたじゃん」
「………」
いいワケないじゃんバカ、なんてこと言いやがるんだ昨日の美貴。
ってか松浦さんも小さい子じゃないんだからそんな恥ずかしいあだ名嬉しそうに連呼しないでよ。
- 40 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:24
- 「松浦さんって…いくつ?」
「えぇ?なに急に他人行儀になってんのぉ? 昨日みたいに亜弥ちゃんって呼んでよ」
「……亜弥ちゃんって、いくつ?」
「だから17、高校2年生だってば」
「そっかそっか、ごめん」
このへんも昨日聞いたのね。でもなにも覚えてないし。
ってかなんでチーズバーガー食べようとしたとこからの記憶がないんだろう?
全然匂いしないないからお酒は飲んでないはず、だから二日酔いでもないし。
どっちかっていうと頭はスッキリしてて清々しい。
…ん? そーいやあの特徴的なだるさもないなぁ、下腹部に。………げぇぇ!?
「アアア亜弥ちゃん!!」
「んー?」
「もしかして昨日…っ…美貴が上だったの?!」
「ハ?上?」
「だからその…美貴の方が積極的っていうか乗り気っていうか一方的に攻めちゃったみたいな…」
「あ〜ミキたんノリノリだったねぇ、最初びっくりしたもん。
ホントは恥ずかしいからちょっとやだったんだけどね、たんがあまりにも強引だったから…」
「だぁあああーストォーップ!!!もういい!わかったから!ありがとう!」
「うふ、でも楽しかったよぉ♪」
- 41 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:24
- 昨日の美貴、ブチ殺す。ノリノリで強引って…バカ!大バカ!!
年下の高校生、しかも同性の亜弥ちゃんを楽しませてどーすんの!
しかもそれ覚えてないって最悪じゃん!!
あー…神様ぁ…いるんなら、いるんなら今すぐ時間を巻き戻してください。
いっそのことアダムとイヴの時代まで巻き戻しちゃってください。
美貴、木陰で見守ってますから。
「そうだ、ミキたん苗字はなんていうの?」
「へ?…あ、うーんと……ちょっと待ってくんない?どうせすぐわかるから」
「すぐわかる?」
「うん。あ!自転車あった!美貴こぐから亜弥ちゃん後ろ乗って!」
「はぁーい。…でもたん、藤本さんのお家知ってるの?」
「知ってる知ってる、早く乗って」
知ってるもなにも、美貴の家だもん。
おぁ!?背中にMD…じゃなくて亜弥ちゃんの胸があたる!……ホントでかいな、羨ましい…。
み、みみみ美貴はホホホホントにこの胸を…も、揉んだりとか…したんですか?
嫌ぁー!誰か嘘だって言って!ウワァーン!
美貴の腰に手をまわして背中にピッタリくっついてる亜弥ちゃんの
楽しそうな声が聞こえる中、美貴の頬を熱い雫が流れ落ちていった。
- 42 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:25
- ―――
「美貴!今までどこに行ってたの?!
携帯にも出ないで、なっちがどれだけ心配したと思ってるのさっ!」
「…ごめんなさい」
「ごめんですんだらポリスメンはいらねぇっしょ!!」
「まぁまぁなっち、ミキティだって18なんだし、朝帰りぐらいするお年頃だよ」
「違う!なっちは朝帰りしたことを怒ってるんでなくて!
ちゃんと連絡しなかったことを怒ってるべさ!」
「ホントごめんなさい、反省してます」
「亀ちゃんもついさっきまで起きて待ってたんだよ!あとでちゃんと謝りなさい!」
「はい、謝ります…」
「んあ。でぇ、隣のカワイコちゃんは誰なの?」
「べさぁ!?無断外泊ついでにお持ち帰りだべかぁー!?」
ドアを開けた瞬間、玄関で待ち受けていたなち姉が飛びかかってきた。
普段は、絵里ほどじゃないけどつまんないことでケラケラ笑ってる人に
赤鬼のような形相で詰め寄られると底知れない恐怖を感じる。
しかしその表情も美貴の後ろでモジモジしている亜弥ちゃんを見つけると
ムンクの叫びに変わってしまった。
「いや…お持ち帰りじゃなくて…この子、松浦亜弥ちゃんなんだけど…」
「む?だからなんなのさ?マツウラアヤちゃんならお持ち帰りしてもいいっていうのかい?
全国どこでもテイクアウトオッケーだっていうのかい?!
そんなワケねぇっしょ!マツアヤウラだろうがアヤウラマツだろうが利家とまつだろうが
お持ち帰りなんてそんなはしたない真似していいワケがないべ!!」
「んあ…?アヤ・ウラマツ?あれー?どっかで聞いたような名前だねぇ」
「だからこの子は…」
松浦亜弥だっつってんのに、ってか利家とまつって大河じゃん。
- 43 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:26
- 「美貴さん!!」
「ん?…っのわぁ!?」
暴走するなち姉の大声で目が覚めたのか、絵里が階段を駆け下りてきた。
そしてなち姉と同じように真っすぐ飛びついてくる。
…絵里に抱きつかれるなんて初めてだなぁ、ちょっと嬉しいよ、ぐすん。
「ぅっ、くっ…私が…止めてれば……っ、あの時ちゃんと止めてれば…」
あの時? あぁ、そういえば昨日マユゲに美貴を外出させちゃだめって言われてたんだっけ。
でも、絵里が泣くことないのに。田中ちゃんに止められても出てったのは美貴だし、
その上亜弥ちゃんとあんなとこでベッドインしちゃったのも美貴だし…。
ひとっかけらも絵里が悪いとこなんてないワケで。
「絵里、心配かけてごめんね? けどホラ、美貴無事だしさ、そんな泣かないでよ」
「でもっ…でもっ…」
本当の意味で無事かって言われたら思いっきり有事だけど、ナニがあったかなんて
中学生の絵里に言えるワケない。 ごめんね絵里、破廉恥なお姉ちゃんでごめんね。
…っにしてもかわいいなぁ。誰だよ、絵里のことフケてるなんて言ったやつ。
ん?美貴じゃん、昨日の美貴じゃん。やっぱ昨日の美貴って最悪、シメてやりたい。
- 44 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:26
- 「んあぁー!!!わかった!ウラマツアヤって今日からここに住む子でしょ!」
「べさ?…べさ!!そうだべ!住む子だべ!」
気づくの遅いよ、そこのンアベサコンビ。
「ウラマツさん!!いらっしゃいだべ!
来て早々お見苦しいとこ見せちゃってごめんね、全部美貴が悪いべさ」
「ふぁい?ウラマツって私?…え、あれ、ここってミキたんのお家ですよね?
藤本さん家じゃ…」
そしてさらに遅いのがもう1人。
「んあ?藤本さん家だよ、ここ」
「え?えぇ?」
「…藤本美貴です、改めましてよろしく亜弥ちゃん」
「えぇー?! もっとはやく言ってよミキたぁん」
「なっちは長女の藤本なつみ。ウラマツさんも長女なんだよね、たしか」
「は、はい…。でも……私、松浦…」
「んあーウラマツさんよろしくねぇ〜。まっつーって呼んでいい?
ごとーも居候だから仲良くしよーねぇ〜」
「いや、だから私は松………浦松です、よろしくお願いします」
はやっ、亜弥ちゃん諦めはやっ。
でもこの家で生活するにあたっては、必要な特技なのかも。
- 45 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:27
- 「あとこの泣いちゃってんのが妹の絵里。
なち姉やごっちんと違ってデリケートなつくりになってて、人見知りするけど
よく笑ういい子だからいっぱい話しかけてあげて。
それと胸骨だけは絶対触んないように、これウチの家訓だから」
「家訓…?」
そう、今からおよそ4年前、初めて美貴があれを見たときに制定された
藤本家家訓1223条:『絵里の胸骨を触るどころか押したりなんかした日にゃあ、一生エビが食えないと思え』。
美貴は軽く触れただけだったからよかったけど、まだ絵里が赤ん坊だった頃に
なにも知らず押してしまったお母さんは見事にエビが食べられなくなったそうだ。
ってかスーパーで売ってるの見ただけで涙ぐんでたし………まぁ、気持ちはわかるけど。
「べさ? 鎖骨じゃなかったっけ?」
「それは絵里の勘違い。ってなち姉がちゃんと覚えてなくてどーすんの」
「んあ? 胸骨触るとなんかあんの?」
「ごっちん、世の中には知らなくてもいいことってのがあるんだよ。
とにかく触んな。亜弥ちゃんもわかった?」
「う、うん。絵里ちゃん、よろしくね」
「…ぐす、よろしくお願いします…」
「んあ…」
- 46 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:27
- ―――
「んでぇ、2人はなんで一緒にいたのよ?」
玄関での騒ぎも落ち着き、絵里の涙も止まったところでお腹がすいてることに
気づいたなち姉は朝食の準備に取り掛かった。
待ってる間、リビングのソファで大人しく座っていると美貴にコーヒー、
亜弥ちゃんと絵里にココアを持ってきたごっちんが、興味深そうに尋ねてくる。
なんて説明したらいいんだろう…。ってか覚えてないから下手なこと言えないし、
こんなことなら亜弥ちゃんと打ち合わせしとくんだった。
「えっとぉ、私、来る日1日間違えちゃってぇ」
「へ?」
ゴチャゴチャ考えてたら亜弥ちゃんが話し始めてしまった。
どうしよ、なに言う気だろ、お願いだから絵里の教育に悪影響なことは言わないで。
「昨日朝早く駅に着いたんですけど、さぁ行くぞってパパからもらった地図見たら
『日曜やで人多いやろけど人ごみに流されて迷子にならんよう気ぃつけや』って
メッセージが書いてあって、もぉーパパったら心配症なんだから♪とか思ってたら
『日曜!?土曜日だよ今日は!』ってことになっちゃって……しばらく公園でガビョーンと
凹んでたんですね。そしたらボーッとしすぎちゃって、気づいたらお昼だったんです。
で、お腹もすいたし、なにか食べようと思って歩いてたらミキたんがハンバーガー屋さんから
出てきて、『えへへぇ、これ食べるぅ?』ってチーズバーガーくれたんです」
「ハァ!?」
えへへ? 美貴がえへへ? ついでに亜弥ちゃんを餌付け?
- 47 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:28
- 「んあ?なによミキティ大声だして」
「え、いや、あの…」
「でもミキティ優しいねぇ、まっつーが歩いてるとこ見ただけで
お腹スキスキだってことに気づいてチーズバーガー奢ったげるなんてさ」
「ふぇ?ぃゃ、えっと…」
褒められても記憶ないし。…でも、ってことは美貴のほうから声かけたのか。
つーか激しくナンパじゃん。亜弥ちゃんもそんな怪しい美貴についてっちゃだめだよ。
「うん!ミキたんすっごく優しくてね、そのあと公園に戻って2人で
チーズバーガーとポテトとコーラひとつならわけわけねって食べて、
まだ私は実際ぎこちなくよそよそしかったんだけど、その後ゲームセンター行ってプリクラ撮ったり
服見たりして遊んでる間にどんどん仲良しさんになって、すっかり泊まる場所がないって
こと忘れて楽しんじゃって、夜ご飯食べてるときに思い出して焦ってたら
『じゃあ今夜は美貴とずっと一緒にいよ?』ってミキたんが言ってくれて…」
「…っそーそーそーそー!それで2人でカラオケ行ってオールしてたんだよねー亜弥ちゃーん?」
「え?…あ、うん!」
ゴルァ昨日の美貴ぃ!!またお前か!夜のお誘いまでお前のほうからしたんかっ!!
情けない……同一人物として情けないよコンチクショー。
しかも『ずっと一緒にいよ』って『今夜』がなかったらプロポーズみたいじゃん!!
息継ぎもそこそこに喋る亜弥ちゃんの話を聞いて、美貴の背中は嫌な汗でびしょびしょになった。
けど普通のならまだしも、あんな…あのようなホ…テルに泊まったことは
美貴が注意しなくても言わないほうがいいと亜弥ちゃんも判断してくれたみたいで
いっぱい歌ったよね〜なんて適当に誤魔化してくれた。ホッ。
- 48 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:28
- 「んあ、でも2人とも髪の毛からピーチのいい匂いすんね。銭湯も行ったの?」
「ひょぇ?!…あぁ!行った行った!遊びまくって汗かいたし!ねぇ亜弥ちゃん!」
「っうん!」
「ふぅ〜んいいなぁ〜、銭湯でピーチのシャンプーなんて珍しいねぇ。
今度ごとーも連れてってよ、ね、絵里ちゃんも行きたいよね?」
「…はい、お風呂好きです」
キャー。 知らないよ、知るワケないよそんな銭湯。あるならこっちが教えて欲しい。
ってか絵里って風呂好きだったの? 初めて聞いたよ。
これでまた1つ絵里のことが知れて嬉しいけど、今だけは聞きたくなかった。
「あ、あ、あーっとシャンプーは買ってったんだよね、ミキたん?
私昨日すぐここに来る予定だったから荷物ほとんど持ってなくて
着替えとか買うついでにコンビニ寄ったんで」
「そうそう、持ち込み持ち込み」
「へぇーなんていうの買っ…」
「できたべぇー」
「ご飯だ!ホラごっちん!お腹すいたでしょ!!早く食べよ!」
「んあ、お腹すいたぁ〜」
…ふぅーっ。ごっちん、刑事かあんたは。
ンアーと絵里の手をとってキッチンに入っていくごっちんの背中を見つめて、
美貴はキリキリと鈍く痛み始めた胃をさする。
- 49 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:29
- 「ミキたん、お腹痛いの?」
「ん、ちょっとね。たいしたことないよ。
それより合わせてくれて助かった、ありがとね亜弥ちゃん」
「えへへ、だってミキたん照れ屋さんだもんねぇー、2人のときはあんな甘えたなのにさ。
でもでもぉー、クールなたんもかっこいいよぉー」
へぇ、美貴って照れ屋で亜弥ちゃんと2人だと甘えたなんだ、ふぅーん。
ノリノリの強引な上に甘えん坊でしたか、そうですか。 兄ちゃん、ドロップ舐めたい。
「美貴ぃー?まっつーちゃーん?なにしてんの、はやくおいで」
「はぁーい」
「はぁー…ハハハハハ…アハハハハ…」
壊れてしまえ、壊れれば楽になれるさ、アハハハハハ…。
亜弥ちゃんが藤本家に来て初めての朝食は、やたら豪華で
みんな美味しそうに食べてたけど、美貴には味なんて全然わからなかった。
ただ、いつもはカステラみたいに甘いなち姉の卵焼きが、しょっぱかったような気がした。
- 50 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:29
- ―――
朝食を食べ終わるとすぐに亜弥ちゃんのベッドやら机やらを乗せたトラックが
やってきて、せっかくの日曜はその手伝いで丸1日潰れてしまった。
朝と同じく、昼も夜もウチは貴族か?って言いたくなるほどのご馳走が出たけど
やはり美貴にはそれを味わう余裕もなく……。
疲れた、こんなに疲れる土日も久しぶりだ。特に土曜日がなぁ…。
どうにかして土曜日っていうかどうにかしちゃった土曜日っていうか、
むしろしちゃった土曜日っていうか。
なのに覚えてないってのは痛すぎる。
亜弥ちゃんに声をかけたのも美貴なら、誘ったのも美貴なのに。
全責任は美貴にあるのに。
とにかく、美貴の記憶が抜けちゃってることは亜弥ちゃんには絶対バラしちゃだめ。
ヤッたんだから、ヤッちゃったんだから。
よし、そうと決まればお風呂に入るか。
頭サッパリさせれば思い出すかもしれないしね、亜弥ちゃんの柔肌を。
…って違…わないこともないか…。えぇいこの際なんでもいい!
「♪〜」
ヤケクソな気分で鼻唄交じりに部屋を出てお風呂場に向かう。
ホント1つしかないのこれから不便になるよなぁ〜、この際2階にも作っちゃえばいいのに。
- 51 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:30
-
―――このとき美貴は忘れていた。
夕飯を食べながら、なち姉が勝手にお風呂の順番を決めていたことを。
そして、脱衣所のドアにその順番を書いた紙が貼られていることを―――。
「キャッ!」
「うわぁああ!?!」
なんの気なしに開けたドアをマッハの速度でピシャリと閉める。
見てないもん。なにも見てないもん。
朝と同じ、あの羨ましいほどでかい胸なんて見なかったもん。
「見なかったもぉぉぉん!!!」
「…たん?」
「どぅわぁ!?」
ギャギャギャワー、せっかく見なかったことにしてんのに
わざわざ裸のままドア開けて腰抜かしてる美貴を見下ろさないで!
見下ろされる=亜弥ちゃん屈んどるがな=しかもさりげなくポーズがだっちゅーになってる!!
ってワケで、そうされると谷の間と書いてタニマさんが美貴の前にくっきりハッキリこんにちは。
「もぉ〜たん来るの遅いよぉ。待ってたんだからねぇ、はやく一緒に入ろ」
「ぁ……ぇ…ぃぇぃ…」
アワワワワワ、声聞こえども姿見えず。
いや、見えてんだけどタニマだけ、挟んで欲しいような欲しくないような…ってだぁー!
なに考えてんだ美貴のスケベ!!
- 52 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:30
- 「ほ〜ら立てぇ、立つんだたぁーん」
「ぁぃ……ぁぅ……」
顔が熱い。 やばいな美貴、欲情してんの?ここ浴場なだけに。プププ。
ってまた寒いこと考えちゃったし!それにまだ浴場じゃねぇ!
ここは脱衣所ドア前だ!まだ引き返せるんだ!
「たぁん、はやくってばぁ。なに恥ずかしがってんのぉ?
もぉーお家ではホント態度変わっちゃうんだから」
変えた覚えないけど。でも……あれ…美貴引き返そうとしてるのに、
なんで体は勝手に亜弥ちゃんに導かれるまま脱衣所に入って服脱いでんの?
「えへへごめぇん、寒いからはやく入ろぉ〜」
「うっふっふっ、やぁっと元に戻ったねミキたぁん。
夜はあんなに元気だったのに朝になったら急にテンション下がるからさぁ、
ちょっと心配してたんだぞぉ」
「えへっ、ごめんってばぁ」
誰? 誰この人? どっから声出してんの? キショイよ、美貴ってば梨華ちゃん並にキショイ。
えぇぇえ!?美貴なのぉ?! 違う違う!だって美貴はクールビューティー担当でしょぉ?!
唇に黒いバラ咥えてるタイプじゃないの?!
- 53 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:31
- 「かーわいいなぁ…、そういえばたん、私がここに住むって昨日からわかってたんだよね?
だから『明日も一緒に入ろ♪』って言ったんだよね?
私さぁ、うんって答えたものの絶対無理だなぁ、嘘ついちゃったなって思ってたんだ。
けど……こうやってまたミキたんとお風呂入れて…すごい嬉しいんだぞ」
ものすごい近くで照れたようにボソッと呟く亜弥ちゃんの声が聞こえて
自分のキショさに逝ってしまっていた美貴は現世に舞い戻る。
ひぇぇ。 い、いつの間に入っちゃってたのか、美貴たちは2人で入るには
めちゃくちゃ狭い浴槽の中で向かい合わせになっていた。
しかも顔近い、すんごい近い。上目遣いで見つめられてる。
美貴の心臓は亜弥ちゃんに聞こえちゃうんじゃないかってぐらいバクバクいってて
このままぶっ壊れて止まっちゃいそうなのに、なぜか視線が外せない。
「あ……亜弥ちゃ……っぁ」
「ミーキたん」
なんとかしようと口を開くと、亜弥ちゃんが美貴の肩に擦り寄ってきた。
か、かわいい………。
なんだこの生命体は。美貴と同じ人間なの?女なの? …ワオ。
お風呂のお湯がチャプンと鳴って、亜弥ちゃんの体が美貴の足の間に入ってくる。
背中に腕がまわされて、密着した胸が潰されて…
いや、美貴が潰してんのかな、だって亜弥ちゃんのがでかいから…柔らかい…ってなに考えてんだよ美貴!
- 54 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:31
-
あーもう! ワケわかんないんだけど、けど、けどけど。
なんていうか、女同士でも亜弥ちゃんとなら悪くないっていうか。
こうしてるとドキドキして、あったかくて、気持ちよくて、安心する。
なんだろ? 美貴変だな。 昨日の美貴がしたことは、たぶんすごく最低で
女の風上にも風下にも置いとけない感じだけど、けど、相手が亜弥ちゃんで、よかったっていうか。
そんなこと思ってたら自然に美貴の腕も亜弥ちゃんの背中にまわって
抱き合ったまま、のぼせて頭がクラクラするまで離れられなかった。
- 55 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:31
- ―――
「ふわぁー、長風呂しちゃったねぇ」
「…うん、時間とか大丈夫かな?」
「1人45分ずつで私の後ミキたんだから大丈夫だよ。
あ、でもそろそろ次のごっちんが来ちゃうかな」
「ヤバ、はやく。亜弥ちゃんはやくパジャマ着て、さっさと部屋行くよ」
なんとしても、やつにだけは見られるワケにはいかない。
っていうか絵里の教育のためにもなち姉にだって見られちゃだめだ。
あの2人はこういうネタに嬉々として食いついてくるから気をつけないと。
絵里は亜弥ちゃんの前に入ったらしく、今頃部屋で宿題してるだろうから
見られる心配はない。
でもさすがに部屋の前を通るときはコソコソと忍び足で細心の注意を払った。
「それじゃ亜弥ちゃん、ゆっくり休んで疲れとってね」
今日は引越し作業で朝から動き回ったし、慣れない他人の家で
気も遣っただろうと、美貴はゆっくり亜弥ちゃんの頭を撫でて言った。
「うん。ミキたんもね」
おやすみ――と手を振って部屋に入る。
すると、なぜか亜弥ちゃんも一緒に美貴の部屋に入ってきた。
- 56 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:32
- 「あの…亜弥ちゃん?」
「んー?」
んー?じゃなくて。 いやいや、首を傾げるその角度はすごいかわいらしいんだけど
ここは美貴の部屋で、亜弥ちゃんの部屋は隣なワケよ。
この壁の向こうなワケ、わかる?
「よいしょっ、わあ、たんのにおーい」
おーい、匂いじゃなくて。勝手に人のベッドに入っちゃだめだめ。
犬じゃないんだから枕の匂い嗅がないの。布団にもぐらないもぐらない。
顔だけ出して見上げないで、真っすぐな目で見つめるな。
「たん、湯冷めしちゃうよ?」
「……」
「おーいで」
「…失礼します」
ギャー!だめよ!だめよ美貴しっかり!!
今日のあんたは昨日のあんたとは違うだろ!ここは家なんだ!
絵里もなち姉もごっちんもいんだよ!
「ほらぁ、ちょっと冷たくなってるじゃぁん。
あっためてあげるね、よしよしよぉーしよしよし」
「むぐ…ぅぐ……」
- 57 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:33
- だからだめだって言ってんのに。
ベッドに滑り込んだ美貴を待っていたのは、巨乳という名のイリュージョン。
頭を抱えられて顔を胸に押し付けられる。息ができない。
マジ苦しくて死んじゃいそう…なのに、もがいて危機を脱したいのに動けない。
胸に顔と、心までも惹きつけられて、離れたいのに離れられない。
イリュージョン、あぁ、イリュージョン。
抜け出したいのに抜け出せないこのイリュージョン。巨乳バンザイ。
「これも、昨日約束したもんね。『こぉしてくれなきゃ眠れなぁ〜い』って言った
ときのたん、子供みたいでかわいかったぁ………あれ?たん?もう寝ちゃった?
…寝ちゃったかぁ……寝顔もかわいいなぁー…えへへっ、おやすみのちゅう♪」
おでこに柔らかいものが優しく触れると同時に
ようやく酸素が吸えたような気がしたけど、ときすでに遅し。
美貴は、亜弥ちゃんの胸から抜け出せなくなってしまった。
- 58 名前:だから待ってってば。 投稿日:2003/12/17(水) 05:33
-
- 59 名前:名無しのЛ 投稿日:2003/12/17(水) 05:35
- キャーみみみ見つかってる。
宣伝したけどむこうもこっちも落ちてるし
ってかむこうなんて誰も見ちゃいねーだろぉから
しばらくは誰もこないだろうなフフンとか思ってたのに(爆
レスありがとうございます(感動
ただ、ご存知の方はご存知の通り、お初にお目にかかる方は鼻ですら笑えないほど
作者はアホですので(爆 あまり期待とかしちゃいけませんよ。
>>31 名無し読者様
…見つかっちゃった(w
こんなアホ話を見つけてくださってありがとうございました。
前回ほどアホにはならないと思いますが、呆れないでやってくださいね(爆
>>32 178様
ぐはぁっ!?ごごごご同行願われてるぅ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!
違うんですよ!そりゃ他人とは思えないほどよくn(強制連行
私もすっかり好きで、この2人。でもここのとこずっと後藤さん主役ばっか書いてたんで
こんなんでいいのか不安だったりするんですが。てかロシアンにしてもばればれでしたね(w
>>33 名無し読者様
読者さんもキタキタキタキタ━━━━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━━━!!!!!!!!!!
待っててくださったんですか、ありがとうございます!
出だしツボ押せましたか(wよかった(ww 頑張ります。
- 60 名前:名無しのЛ 投稿日:2003/12/17(水) 05:36
- >>34 つみ様
こんな家だったら、こんな姉ちゃんや妹がいたら…という
コケシのような兄しかいない作者の妄想がそのまま設定になりました(爆
ありがとうございます、頑張ります。
>>35 名無し読者様
(○`ー´)<なーしー・・・・・・
>>36 名も無き読者様
ホント、早いですよね、嬉しい限りです(ww
( ・e・)<ナンバーワンじゃなくてもいいんだニィ、オンリーワンだニィ。
少しでもおもしろくなればいいんですが…どうでしょうね(爆
>>37 名無し読者様
うぉう!?ヒィヒィて(w 待っててくださってありがとうございます。
ただしその予感はハズレですよ!(爆
むしろハズしますよ!(え?
>>38 名無し読者様
ノノ*^ー^)<ありがとうございますぅ。
ゴロツキが終わってしまうのが本当に悲しい今日この頃。
「亀ちゃん」というあだ名がかなり無理矢理でスマソ。
ハロモニでなっちが言ってるの聞いてツボだったもので(w
- 61 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/17(水) 06:32
- 相変わらず面白すぎる…
イリュージョン、もう抜け出せません(´Д`;)ハァハァ
- 62 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/17(水) 07:54
- むはー(*´д`*)
可愛い可愛い可愛いよー!……松浦さん。
主人公はおバカで可愛くて素敵です!w
- 63 名前:178 投稿日:2003/12/17(水) 08:38
- (*゚∀゚)
- 64 名前:つみ 投稿日:2003/12/17(水) 14:57
- イリュージョン・・・
眠たかったこの目を覚ましてくれてありがとうイリュージョン
- 65 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/17(水) 20:49
- 素晴らし過ぎる!
この小説がイリュージョンだ!
毎回楽しませてもらってまふ
- 66 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/22(月) 15:42
- おもしろすぎMAX!
イリュージョンいいなぁ…(*´Д`*)ポワワワワン
- 67 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 18:02
- ハケーンいたしますた(ニヤリ
このところどころにある笑いがたまりませんw
ニヤニヤしながら読ませてもらいまつ。
- 68 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:22
- ―――
ムニュ。
柔らかい感触が頬を包んでいた。
頬だけじゃない。身体も、なにかあたたかいものに優しく包み込まれている。
なんだろう? なにかに似てる。
お父さん? 幼稚園のとき、よく肩車してもらった背中を思い出す。
違う、お父さんはもっと硬くて整髪剤の匂いがしてた。
お母さん?
違う、お母さんより柔らかい。香水の匂いだってしない。
なんだろう?
この、甘い匂いは。
クリームパン?クリームパンかな。美貴の大好きなクリームパン。
そっか、絵里がまた作ってくれたんだ。
- 69 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:23
- 『亀ちゃん事件』の翌日、学校から帰ると家の中に甘い匂いが充満してて、
靴を脱ぐのも忘れて鼻をくんくんさせてたら、全身粉まみれで現れた絵里に服の裾を
引っ張られて連れて行かれた洗面所。
今は美貴とほとんど変わらないぐらい大きくなった絵里だけど、このときは
まだ小っちゃくて、ちょうど美貴の目の前にあった頭まで粉を被って真っ白になってた。
一緒にお風呂に入ろうってことかなと思ったら、絵里は無言で無表情なまま蛇口を指差して
うーんと首を傾げながらも手を洗った美貴を、続いてリビングに引っ張っていった。
リビングのドアを開けると、甘い匂いが濃くなると同時に視界に飛び込んできたのは
テーブルの上に並べられたたくさんのパン。
『わあ、……これ、絵里が作ったの?』
『……』
相変わらず無言だったけど、わずかに頬を赤く染めて絵里は1度だけ頷いた。
『マジで?すごいじゃん!だってパンだよこれ!
パン作るなんてすごいじゃん!』
よく見たら形がいびつで中身が飛び出してるのもあったけど
パン屋以外でパンを作るのはブルジョワの洒落た奥様ぐらいだと思っていた美貴にとって
小学生の絵里が1人でパンを作ったということは、陸上の世界大会で日本人選手が
短距離でメダルを獲ったことと同じぐらい衝撃的かつ感動的だった。
『しかもこれクリームパンだ!!
美貴クリームパン好きなんだよ!すごいすごい!!』
『あ…』
- 70 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:23
- 飛び出した黄色いクリームを見て美貴がはしゃぐと、絵里はそそくさと
それを手にとって背中に隠し、俯いて逃げるように後ずさった。
『あれ?それ美貴が食べていいんじゃないの?』
『……』
『見た目なんか関係ないよ、料理は心じゃん』
『……でも…』
『美貴はそれが食べたい』
『……』
前日の件で怖がられてることは十二分に承知してたから、美貴はなるべく優しく
絵里の耳に言葉が届くように腰を曲げて見上げながら言った。
形が不恰好でも中身がはみ出てても、絵里が粉まみれになって一生懸命作ったものだから。
絵里はしばらく黙って俯いたまま目をキョロキョロさせてたけど、赤いほっぺたをそっと
撫でたら、ようやく顔を上げて美貴にパンを差し出してくれた。
『……ふむ……ほぉ……』
『……』
心配そうな絵里の視線を感じながらゆっくりクリームパンをかじる。
市販のものと違ってすぐに出てきたクリームは甘すぎず、たくさん入ってても
全然しつこくない。でもちゃんとカスタードの味はして……完璧だ。
パンも形はごつくてもフワッとして柔らかいし、これは、美貴が今まで
食べたクリームパンの中で1番おいしいかもしれない。
- 71 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:24
- 『…ど、どうですか?』
『……モグモグ』
やばい、絵里って天才かも。パン作りの天才かも。
ベスト・オブ・ジャムおじさんかも。…ん?あ、絵里は女の子だからベスト・オブ・バタコさんか。
でもなんかバタコってやだな。よくわかんないけどやだ。バタコはやだ。
ってかおいしい、やめらんない。
『あ、あの…マズイなら…無理しないでください……』
『…モグモグモグモグ』
『あの…もう、いいですから…』
『ムシャムシャムシャムシャ…』
無言で食べ続ける美貴を見て、あまりの不味さにまずいとも言えず
無理して口の中に押し込んでるように見えたらしい絵里は、必死に美貴の腕を
掴んでやめさせようとしたけど、あまりのおいしさに我を失ってガッついていた
美貴は一気に5個も食べてしまった。
『ぅっぷ……胃が破裂しそう…』
『ぐすっ…』
『ん?え、絵里?なに泣いてんの?!』
『うっ…だって……マズイのに……ふぇ…』
『ハ?まずい?なにが?』
『これ…』
『へ?待って待って、超おいしかったんだけど』
『え…?』
『いや、だから、おいしかったから夢中で食べちゃって。
見てみ、美貴のお腹パンパンだよ。ほれほれ、お腹パンパンマーン!』
『………プッ』
『…あ、今笑った?笑ったよね?
そっか、絵里はこういうのが好きかぁ。パンパンマーン!パンパンマーン!』
『ププッ…クフフ…』
『ポコティ!ポコティ!』
『ウフフフフフッ…フフフッ…』
- 72 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:24
-
アホだな。思い出すといかに自分が最高にアホだったかよくわかる。
絵里は優しいよ、あんなんで笑ってくれるなんてさ。
美貴だったらすごい冷めた目で見ちゃうだろーに。
その後、笑いすぎて苦しくなった絵里がテレビラックと壁の間に逃げ込むまで
美貴はお腹を晒し続けた。また出てこなかったらどうしようってかなり焦ったんだけど
今度は早めに出てきてくれた。
『ありがとう、おいしかったよ。絵里も食べ……いや、その前にお風呂入っといで』
頭を撫でると、絵里は目を細めて小さく笑ったような気がした。
くすぐったい気持ちで、パタパタとお風呂場へ向かう絵里の後ろ姿を見ていると
電話の留守電が赤く光っていて、1件のメッセージが入っていた。
『ピーッ。もしもし、おはようございます。亀井さんの担任でありながら
大人になってもいい子担当の平家です。今日、絵里ちゃんはお休みでしょうか?
もしそうでしたらご連絡お願いします』
……もしかして、いやもしかしなくても、…絵里、学校さぼったの?
そう、そうだよね、パン作ったんだもんね。
学校行ってからじゃ美貴の帰宅に間に合わないもんね。
たぶん、さぼったのはクリームパンを作るためで、そのクリームパンはハッキリ言われてないけど
美貴のために作ってくれたみたいだから……これは美貴のせいでもある。
ここはさぼりの先輩として適切な処置を施さなくては。
- 73 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:25
- とりあえず学校に電話すると、メッセージの声の先生が出て
『よかった、絵里ちゃん大丈夫ですか?今からそちらに伺おうと思ってたんですよ』
なんて言われた。危なかったぁ、もうちょっと遅かったらやばかった。
さすが自称いい子なだけあって、平家先生はとてもいい人だった。
だから嘘つくのは少し心が痛んだけど、絵里は学校に行く途中で頭が痛くなって
家に引き返したってことにしといた。帰ってきたとき、なち姉も美貴もすでに
出かけてて絵里もすぐ寝ちゃったから連絡ができませんでしたって言うと、
家庭の事情をよく知ってる先生はすぐ納得してくれた。
へへっ、チョロイもんだぜ。
教師騙すなんざ朝飯前よぉ〜と爽快な気分でキッチンに行くと恐ろしい光景が。
あー、美貴これ見たことある。あれでしょ?火山灰だっけ?
火山が噴火したあとニュースで見るよね、こういう光景。一面真っ白、部屋中ホワイティ。
もーこっからはひたすら掃除。
けどすぐになち姉が帰ってきちゃって、悲鳴上げてるところに平家先生が
『無理してやってこなくてもいいんですけど、一応今日出した宿題の
範囲言っとかなと思いまして…』なんつー余計な電話をかけてくるし……。
お風呂から上がった絵里をなち姉は具合が悪いって一瞬信じて心配したんだけど
台所の様子とテーブルに残ったクリームパンを見てすぐに全てを察しちゃって…。
- 74 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:25
- 『亀ちゃん、今日学校行かないでパン作ってたのかい?
頭痛いって先生に嘘ついたのかい?それとも本当に痛かったのかい?
でもそれならなっちに電話しなさいっていつも言ってるよね?
亀ちゃんが苦しんでるときはいつでもなっちは傍にいてあげたいから、
学校休んで看病したよ?』
『………』
『けど今見た感じ元気だし、昨日なっちにクリームパンの作り方聞いたよね?
今度一緒に作ろうって言ったっしょ?…それに、危ないからまだ火や包丁を
1人で使っちゃだめって言ったよね?』
『………』
完全黙秘の姿勢を貫く絵里。
当たり前だ、混乱してるんだろう。他はともかく先生に嘘ついた覚えないんだから。
『なち姉、たしかにさ、絵里はなち姉との約束破ったかもしんないけど
それって美貴のせいでさ、ってか先生に嘘ついたの美貴だし』
『ひゃい?どういう意味だい?』
『いや…なんでかはわかんないんだけど、これ美貴のために作ってくれたんだよ。
だから怒んないでやってくれない?
これなち姉も食べてみてよ。マジ最高においしいから』
『むぁ?…んぐ…むぐ』
有無を言わさずなち姉の口にクリームパンを突っ込む。
最初は苦しそうに食べてたなち姉も、味がわかると目を輝かせ
全部食べきったと同時に大声で
『うまいべさー!!!!!』
って叫んだ。そして怒ってたのも忘れて絵里の頭を撫でまくって
嬉しそうにぎゅーぎゅー抱きついてたっけ。
ニコニコしたまま掃除も手伝ってくれて…でも3人がかりで朝までかかったんだよ…。
- 75 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:25
- 掃除しながら、何回かなち姉が『でもなんで急に作ろうと思ったの?』って
聞いたんだけど、絵里は顔を赤くするだけでそれには答えなかった。
まー後で美貴がいないときに聞いたら恥ずかしそうに小さい声でこう答えたらしいんだけど。
『怖かっ……いっぱい謝っ……でも……怖……スーパー……
…お父さんが……好き………から…』
【訳(訛りあり):藤本なつみ】
≪こないだ美貴が6時間以上も絵里の前で頭を下げ続けてくれたのに
怖くて出ていけなかったことを謝ろうと思ったんだけども、直接謝るのはやっぱり怖い。
ハッ!そういえば前スーパーに買い物に行ったとき、お父さんが
クリームパンを見て『美貴に買ってってやるかな、あいつ好きなんだよ』って言ってたべさ!≫
『買い……でも…作り………調べ、て………できた…』
【訳(訛りあり):藤本なつみ】
≪できてるやつを買いに行こうかと思ったけど、女の子だから好奇心もあるし
作ってみたいべ!でも作り方わかんねぇっしょ、だからなっちに聞いたり本で調べたり
それでもわかんないことは強引に乗り切って作ってみたのさ。したらできたっしょ≫
なち姉の訛りがイメージをぶち壊してくれたけど、絵里って最高にかわいいよね。
あのとき食べたクリームパンの味、美貴は一生忘れない。
- 76 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:26
-
「ミキティ!!まっつーが失踪したぁ!………んあ?」
「あ、おはようございますぅ」
「んあ?あれ?ここミキティの部屋だよね?」
「ふぇ?ごっちん寝惚けてるのぉ?ここ私の部屋だよ」
「そっか。あはっ、ごとー間違えちゃった。もーすぐご飯だからね〜」
「はぁ〜い」
ん?
ムニュ。
「あ、たん起きたぁ?」
「へ?…え?ここって亜弥ちゃんの部屋だっけ?」
「ほぃ?ミキたんの部屋だよ」
「え、でも今…」
「えへへ、たん恥ずかしがり屋さんだからぁ、一緒に寝てたのバレたら
嫌かと思って…あんなうまくいくとは思わなかったんだけどぉ」
まぁごっちんアホだからね。……ってそーじゃなくて!!
なんで美貴の顔は亜弥ちゃんの胸に埋まってんの?…あぁ!イリュージョンっ!
「ミキたん頭まですっぽりお布団被ってたけどさ、明らかにこんもりしてたのにねぇ。
あ、そーだ、よく眠れた?」
「…う、うん。あの…もう美貴も起きるから…離してくれる?」
「えぇーもうちょっといいじゃぁーん」
よくないから、断じてよくないから。
美貴の頭抱えないで。押し付けないで。膨らみが心地いい…ってちがーう!
- 77 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:26
- ―――
「おや?美貴?どーしたの?こんな早く起きてくるなんて」
「…いいじゃんたまには」
いつもは出かける15分前に起きる美貴が亜弥ちゃんと一緒に起きてきたのを見て
なち姉が目を丸くする。
「だってぇー、まさか朝ご飯食べるの?用意してないよ?」
「コーヒーだけでいい」
「だめだよミキたん、朝はしっかり食べないと」
「……ハハハ…」
休みの日とかは気にしないけど、朝食べると身体が重くなるから食べれないんだよ。
ってかなんか、もうすでにお腹いっぱいっていうか……
「ご馳走様、亜弥ちゃん…」
「ふぇ?」
「んあ!?ミキティまっつー食べたの?!」
「ハ?…っちちち違っ!食べるワケないじゃん!」
「でも今ご馳走様亜弥ちゃんって」
「…怪しいべさ」
「?…お姉ちゃん、松浦さんって食べられるの?」
「べさ?いや、そういう意味でなくて…」
「教えるなバカもの!!まだ絵里は知らなくていい!」
「っ…」
「んあぁーミキティが絵里ちゃん泣かしたぁー」
「もぉ!たまに早く起きたかと思えばひどいことしてぇ!
よしよし亀ちゃん、泣かないよぉー」
「…泣きたいのはこっちだよ…」
「え?ミキたん大丈夫ぅ?」
誰のせいだ、誰の。
- 78 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:27
- ―――
「おはよー、っておい藤本、大丈夫かぁ?目が死んでるぞー」
「…ほっといてくださいよ」
「あんだよ、ツレないやつだな。レポート書いてきたか?提出今日の5時までだぞ」
「ハ?レポート?」
「うわっ…お前最悪。『最初に( ´ Д `)を見たとき“Д”を口だと思ったら一生鼻には見えない』
ことについてのレポート書いてこいっつっただろー」
「ゲ……忘れてた…」
「知らねーぞ、落とされても」
「えぇぇぇーやめてくださいよ矢口さぁぁぁーん」
「さん付けじゃなくて教授って呼べっつーの!」
だって見えないんだもん、教授に。
朝から家族に極悪人呼ばわりされ、フラフラと大学に辿り着いた美貴。
不幸なことってのは続くもので亜弥ちゃんとのことがあったせいで
レポートなんかすっかり忘れてた。
「色々あったんすよ矢口さぁん」
「うっさい、どうせ肉ばっか食ってたんだろーが。無理だと思うけど5時までに出せよ。
んじゃバカな藤本はおいといて講義始めまーす。
今日は『保積ぺぺの“ぺぺ”は平仮名かカタカナか』についてー」
「…誰ですかそれ」
「んなっ!? 藤本フザけんなよ!保積ぺぺも知らねーのかよ!
コルゲンコーワのCMでケロタンにからんでただろーが!」
「いや、そんなこと言われても全然わかんないんですけど」
ぺぺって、ぺぺ・ゴンザレスなら知ってるけど人じゃないしな。
- 79 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:27
- 「マジで?!『ご存知!ふんどし頭巾』にも出てたんだぞ!」
「なんすか、ふんどし頭巾って」
「なんだよなんだよ、なにも知らねぇのか。ぺぺchan餃子は絶品だっつーのによぉー…」
教授の矢口さん――矢口真里は145センチの小さい体を折り曲げてガックシと床に手をつく。
こんなこと言っちゃなんだけど、美貴は矢口さんを見るたび、人に書かせる前に
『なんで矢口さんが教授になれたか』についてのレポートを書いて欲しいものだと思う。
だってまだ若いし金髪だしギャルっぽいし、109の店員だってんならわかるけど、
どっからどう見ても大学で教えてる人間には見えないんだもん。
「矢口さーん、ミッキーだけじゃなくて私もってゆーか
みんな知らないと思うんですけどー」
「ゲッ。里田、お前も知らないのか……もぉだめ、矢口やってけない…」
斜め後ろから、まいちゃん――里田まいの声がした。
この大学は付属の女子高からエスカレーターで上がってくる子がほとんどなので
約90%が現役生なんだけど、まいちゃんは高校を出て1年働いてから大学に入ったため
この教室では最年長だ。そのまいちゃんまでもが知らなかったことに
矢口さんは大きなショックを受けたらしく、目に涙を浮かべてる。
「ま、ジェネレーション・ギャップってやつですよ」
「ちくしょー年寄り扱いすんなよ!横浜銀蝿の正式名称も知らないヒヨっ子が!」
「あ、美貴知ってる。『ザ・クレイジー・ライダー横浜銀蝿ローリング・スペシャル・リターンズ』でしょ?」
「へぇー長いねー」
「…っ!藤本!なんでそれ知ってて保積ぺぺ知らないんだよぉ!」
- 80 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:28
- 悔しそうに叫ぶと、矢口さんは本格的に泣き出してしまった。
前のほうの席の子が必死に頭を撫でてあげてる。子供かアンタは。
なんかやだなぁ、美貴が泣かしたみたいじゃん。
「ねーねーミッキー、昨日なにしてたぁー?」
「へ?昨日?昨日は…ウチに下宿の子が来たから、その子の引越しの手伝いしてたよ」
「そーなんだ。携帯かけても全然出ないからなんかあったかと思ったよ」
「携帯?…あ」
そういえば。ゴタゴタが続いたせいで携帯ずっと放置してた。
メールとかチェックしてないや、えーと……。
着信は全部まいちゃんで4件、メールは3件。
うち2件は美貴がバイトで家庭教師してる子からで、残りは梨華ちゃんから。
「なになに『ミキティのバカ!しばらくウチの店来ないでよ!大恥かいたんだからね!プンプン!』
……ハァ!?ってかキショ!」
「大恥って、ミッキーなんかしたの?」
「いや、してな……ゲ!またか!一体なにしやがったんだあの野朗!」
「あの野朗?」
「あいつだよ!一昨日の美貴!」
「……」
「そーだ、まいちゃん聞いて、美貴やばいんだ。とんでもないことしちゃっ…ハガァ!?」
「キャー!ミッキー!」
まいちゃんに一昨日からの出来事を話そうと完全に黒板に背を向けた美貴の
後頭部に突然硬いなにかがあたり顔のまわりを白い粉が舞う。
黒板消しか、やりやがったなあのチビ。
- 81 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:28
- 「オルァ藤本ぉ!矢口に背中向けるなんていい度胸だ!
いいか!今日の講義はしりとりバレーやるかんな!ミスったやつには
矢口の保積ぺぺ大全集を不眠不休で鑑賞させるからそのつもりで!
始めるぞ、最初はリンゴォ!!」
「ゴリラァ!」
「ラッパァ!」
「パイナップルゥ!」
「ルビー・モレノォ!」
いやいや、そこはルビーだけでいいんじゃないの?
なんてつっこむ余裕もなく、開始された全員本気のしりとりバレー。
乙女の恥じらいを捨てた女たちの凄まじい戦いは、美貴と矢口さん以外が
脱落したところで教室に入ってきた学長に止められるまで続いた。
試合後、荒い息を吐きながら生き残った喜びを噛み締めて額の汗を拭っていると
倒れている脱落者たちの山の中から、矢口さんの『ワンピース!』に
『すうどん!』と返して崩れ落ちていったまいちゃんが這い出してきた。
「ミッキー、ナイスファイト」
「まいちゃん、スルメにしとけばよかったのにね」
「ぐぁ!そうか、その手があったか!」
その手っていうかスルメ以外にもいっぱい手はあったと思うんだけど。
テニスで全国大会に出たことがあるまいちゃんは運動神経抜群なのに
天然なせいで脱落しちゃうなんて。しりとりバレー、恐るべし。
…ってかここ、大学だよね?
- 82 名前:戻れるもんなら戻りたい。 投稿日:2003/12/24(水) 07:29
-
- 83 名前:名無しのЛ 投稿日:2003/12/24(水) 07:30
-
亀井さん、お誕生日おめでとうございます。
ノノ*^ー^)<遅いですぅ。
_| ̄|○ゴメンナサイ
レスありがとうございます。
なんかやっぱりアホです、この話(なにを今更
>>61名無し読者様
おやおや、イリュージョンに挟まれていいのは
藤本さんだけですよ(w
というか思ったよりイリュージョンが好評なようで、嬉しい限りです。
>>62名無し読者様
可愛いですか!……松浦さん。
書きながら『キショイかも』って思ってたんで安心しました。
主人公、ただのバカにならないように頑張ります(真剣
>>63178様
前にもこんなレス見た気が…(w
えぇっと、あの子はもうちょっと待ってくださいだニィ。
- 84 名前:名無しのЛ 投稿日:2003/12/24(水) 07:31
- >>64つみ様
藤本さんは寝ちゃったみたいですが…。
イリュージョンには様々な効果があるんですね(w
>>65名無し読者様
こ、この駄文がイリュージョンですか?!
ってことは私はイリュージョニストですか(違
命懸けというところでは合ってるかもしれませんね(w
ありがとうございまふ。
>>66名無し読者様
ありがとうございMAX!
イリュージョン、これからさらに……いえ、なんでもありません(爆
>>67名無し読者様
いらっしゃいませ、ハケーンしていただいてありがとうございます。
ニヤニヤ…怪しい人にならないように気をつけてくださいね(w
- 85 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 07:45
- うを、来てる来てる。
- 86 名前:つみ 投稿日:2003/12/24(水) 16:25
- やぐちさんの講義は人生で一度は受けたいですねぇ〜。
しかし後藤さんのは初めて知りました!
- 87 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 22:41
- イリュージョン故に迷文に見えるってコラコラ!w
この世界は激しく楽しそうですね
そのレポートならスラスラ書ける気がする(嘘
なんつーかギャグがツボにはまって面白いですわ
- 88 名前:178 投稿日:2003/12/24(水) 23:10
- くりぃむぱむたべたひ
にしても僕も講義にはついていけなそう・・・
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 15:25
- 自分は最初に( ´ Д `)を見たとき、まさに“Д”を口だと思いました。
以来、どうしても鼻には見えません。(w
- 90 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/25(木) 21:43
- へえ〜、いつのまにか「リターンズ」ついてたんだ
以上、デビュー当時を知っているオッサンのつぶやきでした(苦笑
- 91 名前:名も無き読者 投稿日:2003/12/25(木) 23:42
- 微妙にすとしーネタ(勝手に略称失敬)が入ってて大喜びな今日この頃…(w
( ´ Д `)に関する今まで知らなんだ驚愕の真実にとまどいつつ、
次回更新をお待ちしてます。
- 92 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:42
- ―――
「ギャハハハハ!ラブホデビューおめでとうミッキー!」
「…めでたくないよ」
学食で昼食タイム。
美貴はさっき話せなかった週末の出来事をまいちゃんに打ち明けていた。
まいちゃんは年上なだけあって頼りになるし、相談しやすいから
悩みがあるときはいつも聞いてもらってるんだ。
「でも記憶ないってひどいよねー、人としてどーなの?」
「わかってるよ、最低だってことは…」
「ウハハッ!お腹イタッ!ってかなにさイリュージョンって、引田天弘かよ!」
「ぐ……」
「スターファイヤァー!」
「あぁもう!うるさいな!」
けど今回は話すんじゃなかったかも。
なんてゆーかさ、亜弥ちゃんと一緒にいるときはあの真っすぐな瞳に
戸惑うばかりで懺悔する暇もなかったけど、……なんてことしちゃったんだろ…。
はぁっと深い溜息をついて生姜焼きをつつく。
美貴の大好きなお肉なのに、なぜか箸が進まない。
あめ色のタマネギだっておいしそうなのに食欲は湧いてこなかった。
- 93 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:43
- 「お?ニクティ食わねーの?」
「…なんでもかんでも“ティ”つけりゃいいってもんじゃないですよ、矢口さん」
いつの間に現れたのか、カツ丼を持った矢口さんが
まいちゃんの隣に座ってニヤニヤしながら美貴を見ていた。
「なんだよエロティのくせに。ついでに女の敵」
「っ!? ぬ、盗み聞きなんて卑怯ですよ!」
「バッ、ちげーよ!聞こえたんだよ!
里田がでかい声でラブホデビューとか言うから!」
「まいちゃん!」
「ガハハハハッ!ごめーん」
ごめんですむか。
「まぁー、若気の至りだっつっても
ヤッちまったもんはヤッちまったんだから責任とれよな」
「…わかってますよ」
「でも大人の世界じゃよく聞く話だけどな、ヤッただけなら」
「ドラマとかでもありますもんねぇー。
けどそれだけで終わらなかったとこがミッキーのすごいとこだよ、うん」
「いや、すごいとか言われても嬉しくないんだけど…」
好きで終わらなかったワケじゃないし。
もしそれでトロフィーがもらえたとしても、そんな凄さいらない。
賞金がもらえるなら……ちょっと考えるけど。
- 94 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:43
- 「しかも相手は女子高生かー。
藤本の毒牙にかかっちまうなんて、かわいそうな子だな」
「どんな子なの?プリクラないの?」
「撮ったらしいけど美貴持ってな……あれ?財布になんか入ってる…」
「お?あんの? これがその松浦って子?
めちゃくちゃかわいいじゃん!!モロ矢口のタイプなんだけど!」
「見して見して、あ!ホントだ、かわいい!」
幸か不幸か、美貴はタイミングよく財布のお札のとこに
入ってたプリクラを発見してしまった。
矢口さんとまいちゃんはカワイイを連呼しながら亜弥ちゃんの顔に見入ってて、
そーだろ、亜弥ちゃんかわいいだろ、セクシーかつキュートだろって、
自分のこと言われてるんじゃないのに不思議と誇らしげな気持ちになる。
「…あれ? でもこの子、夏男君に似てない?」
「ハァ?!」
「ナツオ?誰だよそれ」
「あ…」
思いがけないまいちゃんの言葉に、思わず美貴は大きな声を出してしまった。
それを見て、しまったって顔で口に手をあてるまいちゃんと、
1人状況が読めない矢口さん。
―――夏男。
懐かしいな、元気なのかな。………もう、関係ないけど。
- 95 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:44
- 去年の夏、高校生活最後の夏休みに海で出会ったビーチボーイ。
いかにもサーファーって感じの長い髪に、申し訳程度の顎ひげ。
一見チャラチャラしてんのかと思ったけど話してみたら意外と真面目な人だった。
『好きなタイプは……図書館で働いてるような子かな』
なんてたまに変なことも言う人だったけど、一緒にいると楽しくて
気づかないうちに好きになってた。
そして夏男も、美貴のこと、好きになってくれてたと思う。
告白とかどっちもしなかったけど、夏男はいつも海にいたから
美貴は毎日夏男に会いに行ってた。色んなこと話したり、くだらないことで言い合いしたり。
一緒にいると楽しくて笑ってばっかだった。
夜が明けるのが待ち遠しくて、日が沈むのが悲しくて
家に帰りたくなくて乙女チックに駄々こねたりしたっけ。
まさかこれが、ひと夏の恋になるなんて、微塵も思わずに。
『 美貴へ
グッパイ 夏男 』
夏休みが終わって誰もいなくなった海。始業式の後、走って夏男に会いに行った
美貴が見つけたのは砂浜に下手糞な字で書かれた別れの言葉だった。
- 96 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:44
- 突然すぎて、つっこむ気力もなかったけど
もう2度と夏男に会えないってことだけはわかった。
一方的に別れを告げられたのに腹も立たず涙も出ず、ただ立ち尽くした夏の終わり。
夏男との別れが原因なのかな、それからは美貴は誰とも付き合わず現在に至る。
人を好きになるのが怖くなったんじゃないけど
あんな風に、突然いなくなられたりしたら…っていうのはあると思う。
さよならならさよならって、ちゃんと言って欲しかった。
頭悪いくせに無理して英語なんか使うからいけないんだ。
グッパイじゃ、忘れられないよ、バカ。
―――ってそいつただのアホだろ!!」
「っ…たしかにアホですけど、せっかくの切ないムードぶち壊さないでくださいよ」
「どこが切ないんだよどこが!グッバイもろくに書けないアホに
捨てられたぐらいで1年も恋の有給休暇とってんじゃねぇ!」
ほっといてよ、こっちだってとりたくて有休とってんじゃないっつーの。
そういう気持ちになれないんだからしょうがないじゃん。
- 97 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:44
- 「でもこの…あややだっけ?がいるからもう大丈夫か」
「いやそういうワケでも…」
「記憶ないんだもんねぇ。困ったもんだ」
「いーんだよ記憶なんて!ヤッたってことはあややは藤本のこと好きなんだし
藤本だってあややのこと嫌いじゃないんだろ?
だったらあややと恋しちまえよ、しちゃえばなんとかなるから」
「そうだよミッキー!
もうある意味しちゃったけどさ!」
「………」
「つーか藤本、お前呑気に飯食ってないでレポート書けって。
里田はさっきミスしたから明日までに『ぺぺのひとりごと』読んでこいな」
「ゲ。絶対無理です。
ってかそんな本持ってませんもん」
「買いに逝け。はやくしないと売り切れるぞ。明日までに読んでこなかったら
『白百合さん家のつぼみちゃんはなぜ親である伯爵でも
伯爵夫人でもなく幼稚園の保母さんにそっくりなのか』についてのレポート書かすかんな」
「えぇぇー!?そんなの書いたら消されちゃいますよぉー」
「………」
恋しちゃえ―――かぁ。
できるかな? 亜弥ちゃんと。 美貴、また恋愛できるかなぁ?
- 98 名前:できるかニィ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:45
- ―――
私くし、生まれも育ちも葛飾柴又です、帝釈天で産湯を使い、
姓は新垣、名は里沙、人呼んでマユゲのガキさんと発します。
決まったニィ、決まりまくりだニィ。
やっぱり渥美清さん亡き後、平成の寅さんを演じるのはニィしかいないニィ。
はやく山田洋次監督迎えにこないかな。
なーんてオチャメなことを考えながら、私――新垣里沙は追われていた。
真っ黒い瞳で、息も切らさずに走ってくるクラスメイトに。
「ニィィィ!もぉ勘弁してだニィ!!」
「ん? 塾長、廊下は走っちゃいけんったい」
「ハッ! 田中ちゃんいいところに!ちょっと悪いけどおとりになってニィ!」
「へ? ちょっ、ちょっと塾長ぉー?」
角を曲がって追っ手の死角に入ったところで田中ちゃんに出会った。
ラッキー、里沙ってば超ツイてるぅ♪
田中ちゃんを仕掛けておけば、追っ手は必ず足を止める。
今のうちに本部に駆け込もう………でも、田中ちゃんがちゃんとおとりに
なれるか心配だ。ここは廊下に置かれている校長の銅像(みんなから邪魔だと
悪評を買ってるけど、思わぬところで役に立ったニィ)の影に隠れて
田中ちゃんのおとりぶりを観察することにした。
- 99 名前:できるかニィ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:45
- 「ッキャ!」
「うわあ!?」
危ないなぁ、だから廊下は走っちゃダメなんだニィ。
田中ちゃんが踏ん張ったからよかったものの、もうちょっとで
2人抱き合ったまま倒れこむとこだったニィ。
「…あ、れいな…ごめ…」
「気にしなくてよかばってん。絵里、怪我してなか?」
「う、うん…。れいなが受けとめてくれたから大丈夫…」
「それはよかったと……ん? 熱あると?顔赤くなっとぅよ」
「ふぇ!? いや、その、これは…」
「ハッ!まさかリンゴ病?!大変たい!すぐに病院にっ!」
「ちがっ、れいな落ち着いて…!」
おぉ。さすが新垣塾の塾生だニィ、ナイスプレイ田中ちゃん。
演技とは思えないほどの緊迫した顔で追っ手を私が逃げた方向とは逆の
下駄箱へ向かわせる後姿は、おとりとしての誇りと威厳に満ち溢れている。
「お姉さんに連絡せな、今家にいらっしゃるん?」
「いないよ!っていうかしなくていいから!リンゴ病なんかじゃないよぉ!」
「隠さんでよか。いい子やけん大人しくしとり」
「あ、また子供扱いした!…ってもぉ離してぇ!」
よく頑張った。田中ちゃんには今度コアラのマーチ買ってあげよう。
クネクネと真っ赤な顔で抵抗しながら引きずられて行く追っ手を見て
ニヒルに眉を上げて微笑むと、私は優雅にその場を去った。
- 100 名前:できるかニィ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:46
- ―――
「ひとつ、今日もかわいい道重さゆみ。
ふたつ、いつでもかわいい道重さゆみ。
みっつ、年がら年中かわいい道重さゆみ」
新垣塾本部に辿り着くと、塾生の1人である道重ちゃんが自分の体の
倍はあるだろう鏡の前で楽しそうにステップを踏んでいた。
「あ、じゅくちょー見てください。私ったらかわいいんです」
「うんうん。かわいすぎて直視できないニィ」
満開の笑顔で駆け寄ってくる道重ちゃんを手で制し、私は椅子に座って頭を抱えた。
私は今2つの大きな問題を抱えている。
その対処に追われて、悪いけど後輩のかわいさを褒め称えてる暇なんかないのだ。
そもそも、この時点では1つであったはずの問題が2つに増えて
いること自体大きな問題だ。
それに緊急で追加されたほうの問題は、早急に処理する必要がある。
「ニィィ…どうすればいいんだニィ…」
「じゅくちょー? どうかしたんですか?」
「道重ちゃん……“亀”と“井”のつくものでなんかいいものないニィ?」
「“亀”と“井”ですかぁ? うーん…亀の井とか…」
「ニィ?“亀の井”?それなにニィ?詳しく教えてニィ!」
「えー詳しくですかぁ?」
「はやく!時間がないんだニィ!」
「く、首が…っ」
- 101 名前:できるかニィ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:46
- 半分首を締め上げて聞き出したところ、亀の井とは井戸の名前で、陰陽道・安倍晴明が
この井戸の東側に住んでたとき、神器を投げて不浄な水を霊水にしたといわれていて、
寛正4年(1463年)内藤重清の子・義清がこの井戸で産湯を使ったとき、井戸の中から
亀が現れたことから「亀の井」と名付けられたそうな。
フムフム…これは使えそうだ。
小学校の社会見学で岡崎市六地蔵町に行ったとき(行ってないけど)、
誤って「亀の井」に落ちた彼女が自力で這い上がってきて助かったことにでもすれば……
「でも亀の井って、今は○○鋼材さんの敷地になってて陰も形もないんですけどね」
「ニィ!? ななななんと!…それじゃ使えないニィ…っ」
チィィ!いい考えだったのにっ!
どうすればっ…!どうすればいいんだニィ!
「じゃあ福島県の会津若松にあるお寿司屋さんの亀井鮨はどうですか?」
あぁ、たしかそこはお昼の「お寿司ランチ」と「チラシランチ」が670円で
小鉢とみそ汁も付いて、とってもリーズナブルなんだニィ。
そこのお寿司が大好きだからってことにしちゃえば………
「これは……さすがに苦しいニィ…」
「うーん、他にあったかなぁ?でもなんで急にそんなこと聞くんです?」
「実はカクカクシカジカでね、言い訳考えないといけないんだニィ」
そもそも、口走ったのは私だが、口走らせたのはアイツなのに
なぜ私が言い訳を考えなければならないのか。
そんな疑問を持ちつつも、こうして素直に考えちゃうところが
新垣里沙の新垣里沙たる所以である。
- 102 名前:できるかニィ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:46
- 「でもそれなら、じゅくちょーって絵里とは絵里のお母さんが再婚する前から
友達なんですよね?」
「うん、小1からずっと同じクラスだからね」
「じゃあ絵里の前の苗字も知ってますよね?」
「…ハッ!それだ!すっかり見落としてたニィ!」
コンコン。
「ん?」
「田中れいな、入ります…」
「お、田中ちゃんご苦労様。…って暗い顔してどうしたニィ?」
私がナイスアンサーを手に入れたとき、ションボリ顔で肩を落としてる
田中ちゃんがやってきた。声にも元気がないし、なにかあったんだろうか?
「さっき、絵里に会って………リンゴ病みたいやったから
病院に連れてこーとしたら、『れいなのバカ!鈍感!』って言われて…」
あぁ、さっきの続きか。
「怒って逃げられたニィ?」
「……はい」
「よしよしれーな、元気出せー」
「うん……ありがとさゆ…」
ニーィ? なんで田中ちゃんが凹むニィ?
怒らせちゃったのは失敗だけど、おとりとしては素晴らしい働きをしたんだから
もっと喜ぶべきなのに。
- 103 名前:できるかニィ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:47
- 「はぁ…これで絵里に嫌われたらどーしよ…」
「えぇい田中ちゃん、なにワケわかんないこと言ってるニィ」
「ワケわかんないって…れいなにとっては死活問題たい…」
泣きそうな顔しちゃって大げさだなぁ。
「フゥ、仕方ない。なぜニィがあの藤本絵里を“亀井ちゃん”と呼ぶのか
どうしても聞きたいって言うんだね……」
「え? いきなりなんね? そんなこと言っとらんばい」
「いいのいいのれーな、じゅくちょーが話したいだけだから」
「あれは…小学校2年生のときだった……」
「ほら、たぶん長くなるからここに座って」
「う、うん…」
【リサ・ニイガキのちょっといい話】
あれはまだ、私のマユゲビームがただの熱光線だった頃、
亀井ちゃんのお父さんが、交通事故で他界した。
そう、亀井とは、そのお父さんの姓だったのだ。
ではなぜ、そんな何年も前に亡くなったお父さんの姓を、
お母さんが再婚して姓が藤本に変わった今もニィが使っているのか。
答えを簡単にいうと、それは亀井ちゃんがファザコンだったからだ。
ずいぶん厳しいお父さんだったようで、いつもすごく怖いと聞かされてたけど
お父さんの話をするときの亀井ちゃんはいつも笑顔だった。
というか、昔から意味なくニコニコしてる子だったね。
- 104 名前:できるかニィ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:47
- なのに、そんな亀井ちゃんが、お父さんが亡くなったショックで
一切笑わなくなってしまった。
いつも俯いて目線を下で固定し、口数も少なくなって
たまに口が開いたかと思えば出てくるのは声ではなく唇を舐めるための舌。
前は少しうるさいぐらいお喋りしていた休み時間も、座敷わらしのように
教室の隅の席でボーッとしていることが多くなった。
それでも、お母さんやお姉さん、先生やニィたちが一生懸命励まして
ちょっとずつ元の笑うようになって、苗字はそのまま、大好きな
お父さんの姓を名乗っていた。
しかし、5年生のとき、藤本さんとの再婚が決まって亀井ちゃんが
亀井ではなくなる日がやってきた。
新しいお父さんの姓を名乗らなければならない日が来てしまったのだ。
亀井ちゃんは泣いていた。
新しいお父さんも優しくていい人だけど、亡くなったお父さんのことを忘れたくない。
苗字が変わってしまったら、自分とお父さんの繋がりが消えてしまう。
名前なんか関係ない、心の中にお父さんはいつもいる、とか
もう少し大人ならそう思えたかもしれないけど
亀井ちゃんはまだ子供だった。幼かった。
そして、もちろん私も。
- 105 名前:できるかニィ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:48
- だから私はこう言ったんだ。
お母さんやお姉さんの前では本当の気持ちが言えず、私の前で泣いていた彼女に。
『ニィニィ!ニィは人の名前とか地名を覚えるのが苦手だから
今更亀井ちゃんの苗字が変わるなんて言われても大迷惑だニィ!
フジモトだかフジヤマだかゲイシャだか知らないけど、ニィは今まで通り
亀井ちゃんのこと亀井ちゃんって呼ぶニィ!』
亀井ちゃんの涙が止まった。
驚いたような顔で私を見て、その後プハッと吹き出した。
鼻をすすりながら『ありがとう、新垣さん』と言って、薄く笑った。
キラキラ光る濡れたマツゲが、儚いほど美しかった―――
「え……じゃあ絵里のお姉さん…上のお姉さんが“亀ちゃん”って呼ぶのは…」
「たぶん、ニィと同じ理由ニィ」
「え?新しい苗字が覚えられないからですか?」
「……さゆ、なに聞いてたん…」
なにも聞いてなかったんじゃなかろうか。
まぁ、道重ちゃんのことはおいといて、
お姉さんは亀井ちゃんが言わなくても妹の気持ちをわかってたんだろう。
それで違う理由作って“亀ちゃん”というあだ名をつけたんだ。
わかる人が聞けばすぐに嘘だとわかる理由でも、
その優しい嘘は、亀井ちゃんに本来の笑顔を取り戻させた。
- 106 名前:できるかニィ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:48
- “亀ちゃん”とは姉妹の絆であり、天国のお父さんとの絆でもあるのだ。
だから亀井ちゃんは、このあだ名をとても大事にしていて、
お姉さん以外の人がその名を口にすることを許していない。
なんていい話だ。 里沙、グッジョブ―――
「じゅくちょー、美しく終わろうとしてるとこ悪いんですけど
平家先生についてはどう説明するんですか?」
「ニィ!?そ…それはっ…つい前の癖が出たってことで…」
「それとその留守電聞いた新しいお姉さんも“亀井さん”に全く反応してないんですけど」
「っ…!!」
「この人も前の苗字知ってたのかなぁ?そうとは思えないけどなぁ…」
「ま、まぁ細かいことはほっとくニィ!」
「そうですねぇ、慌ててとってつけたエピソードにしては上手くまとまってたし…」
「とってつけた?……さゆ、それどういうこと?」
「あれ?れーな知らないの? 今の話は…」
「シャラァップ!道重ちゃんシャラァップ!!」
ゴルァ道重! 貴様、私の努力を台無しにする気か!
「塾長、今の話嘘やったと…?」
「当たり前じゃんれーな。だって絵里の前のお父さんまだ生きて…」
「だからシャラァーップ!!!サランラァーップ!!!」
「あ、サランラップの“サラン”って“サラ”と“アン”っていう
女の人の名前からきてるんですよね」
「そーそー! ではニィは用事があるので失礼するニィ!じゃ!」
「ぬぁ!塾長ぉ!待ちんしゃい塾長ぉぉぉ!!」
待てと言われて待つバカはいない。
私は颯爽と廊下に飛び出すと、放課後の雑踏へと溶け込んでいった。
- 107 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:49
- ―――
「…つまり“Д”はその形状が…まさに………カリカリ」
午後の講義を終えた美貴は、空になった教室でレポートを書いていた。
まいちゃんはお昼食べてすぐに本屋に行ったまま戻ってこなかったけど
ちゃんと見つかったのかな?……つーか、売ってんのかな?
売ってたとしても、他の子にとられてたりして。
なんせあの教室にいた美貴以外の生徒全員が買いに行ってんだし。
そんなたくさん在庫おいてる店なさそうだしなぁ。
「で、あるからして……“Д”イコール『んあー』なのである……よし、できた」
ふぅ、4時半か、間に合った。
さっさと提出して帰ろ、なんか今日は疲れたし。
『たぁーん、たぁーん、ミキたぁ〜ん』
「ハ…?」
なんだろ、今ものすごく聞き覚えがあるようでないものが聞こえた気がする。
『ミーキたん、ミキたんたん♪』
「………嘘だぁ………」
やだ、やだやだなぜゆえに。
なぜゆえ美貴の携帯から亜弥ちゃんの声がするのか。
- 108 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:50
- しかもアホっぽいよ、究極に。
出たくない。こんなこっ恥ずかしい声で知らされた着信になんか出たくない。
亜弥ちゃんめ、なんてことをしてくれたんだ。番号まで交換済みか、はぁ。
『たぁーん。まだ出ないのぉ?』
「………」
『はぁーやぁーくぅ、もう待てないよぉ』
「…もしもし」
『もしもし美貴?なっちだけど』
「おぁ!?…なち姉? どーかした?」
てっきり亜弥ちゃんからだと思って、ディスプレイも見ずに
電話に出た美貴は思わず変な声を出してしまった。
ってかなち姉は仕事があるから、この時間にかけてくるなんて滅多にないし。
『んっと今日ね、お店に亀ちゃんが来て、学校でなんかあったみたいなのね。
したらごっちんのお母さんが休んでいいから
どっか遊んでおいでって言ってくれて。
そんで、ごっちんと3人でお盛んな映画観に行くことになったのさ』
「…お盛ん?」
おいおいなち姉、絵里もいるのになんちゅー映画観る気だ。
『べさ? ち、違うべ!お盛んじゃなくてお魚さんの映画!
あの『ファイティング・モニ』ってゆーやつ!』
「…『ファインディング・ニモ』じゃない?」
モニが戦ってどーすんだよ、あれってたしか人間に捕まった子供を親父が
探しに行く話でしょーが。つーかモニって誰だ。
- 109 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:50
- 『あれ?そーだったっけ? まぁなんでもいいけど、
とにかくお魚さんの映画観て、ついでに夕飯食べて帰るから
美貴はまっつーちゃんとなんか食べといてね』
「はーい…ってえぇえ!?」
なんでもよくないよ…って亜弥ちゃんと2人でご飯?2人っきりでご飯?
『なにさ美貴、都合悪いの?』
「え…悪くない…いや、悪い…かもしれないこともない…」
『む?ワケわかんねぇっしょ。
とりあえずそういうことだから、そんな遅くなんないと
思うけど、まっつーちゃんと仲良くね。したっけ切るから。ブツッ』
「あ、うー…ぅー…切れたし……」
こっちの返事も待たずに切ることないじゃん。
にしても……どーしよ………ってなに美貴ビビッてんの?
亜弥ちゃんと食事ぐらい、2人っきりぐらいなんてことないじゃんか。
アハハハ…ハッ。
心の準備ができてないんだよぉ!!だって家で2人きりになんか
なっちゃったらナニが起こるかわかんないじゃん!
当たり前のように抱きつかれた…ぐらいなら大丈夫か。昨日のこともあるし。
イリュージョンなら仕方ない。そこらへんは受け入れよう。
- 110 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:51
- じゃあキスは? キスされたら? 絶対拒んじゃうよ。
それだけでなく押し倒されたりなんかしちゃったらどーよ?
ひぇぇ。
「キャー」「よいではないか。よいではないか」「あーれー」みたいな
ことになったら……。うぉぉ、さ、寒い。すっげー寒い。
美貴、もう疲れたよ…パトラッシュ……なんだかとても眠いんだ………zzz……
ってだめ! 寝ちゃだめ!! 美貴うっかり…じゃなくてしっかり!
おぉぉーボロボロだぁぁぁー全然しっかりしてないしぃぃぃー。
『たぁーん、たぁーん、ミキたぁ〜ん♪』
ギク。 誰もいない教室で、1人パニックに陥る美貴の耳に
またしても亜弥ちゃんの砂糖みたいな声が届く。
このクソ忙しいときに、今度は誰だ。
隠せない苛立ちに、舌打ちしながら携帯を開き
今度はちゃんとディスプレイに表示された名前を見ると――――
【亜弥ちゃん】
泣いてすむなら、すませたい。 すべての恋はシャボン玉。
恋をするなら、この次は。 正しい順序で、恋をしな。
もう、引き返せないのかもしれない。
そんなことを思いながら、震える指で通話ボタンを押した。
- 111 名前:できるかなぁ? 投稿日:2003/12/27(土) 05:51
-
- 112 名前:名無しのЛ 投稿日:2003/12/27(土) 05:52
- 正直に申します。
全然気づいてませんでした_| ̄|○ナンテコッタイ
適当すぎるのも問題ですね。
こんなんだから記念すべき20歳のクリスマスに
酒ばっか飲んでチキン食べ忘れたんやろか…_| ̄|○シクシク
レスありがとうございます。
>>85名無し読者様
(●;´ー`)<キ、キテないべさ!薄いだけだべ!
川;VvV)<いや、そっちじゃないし。
>>86つみ様
受けたいですか?やめたほうが身の為かと(w
>>87名無し読者様
いえいえ、正真正銘迷文ですよ(w
作者は激しくアホなんでギャグを書いてるつもりはなかったり
するんですけど(爆 えぇ、いつも真顔で書いてますから(怖
ではレポート書いてきてくださいね(ww
- 113 名前:名無しのЛ 投稿日:2003/12/27(土) 05:53
- >>88178様
このたびはご指摘本当にどうもありがとうございました。
しかもメル欄使ってくださって、優しさが心に染みます・゜・(ノД`)・゜・
ノノ*^ー^)ノ○<お礼にどうぞ、召し上がってください。
あの講義には書いた私もついてけませんから大丈夫です(何ガ
>>89名無し読者様
私もです(w でもすぐに鼻だって気づいたんですけど
どう頑張っても口にしか見えません。なんででしょうね。
>>90名無し読者様
私はちょうど解散した年に生まれた小娘なんで再結成するまで
全然知らなかったんですが、何回か名前変えて今のリターンズに
なったみたいですね。1へぇいただきました(w
>>91名無し読者様
なんか妙にストシーが懐かしくなっちゃいまして(w
またフラッと入るかもしれませんが、よろしくです。
- 114 名前:つみ 投稿日:2003/12/27(土) 11:51
- この着声ほすぃ・・・
藤本さんレポートお疲れ様でした!
次回はそういうことっぽいのでそこも楽しみにしてます!
- 115 名前:名も無き読者 投稿日:2003/12/27(土) 23:02
- 作者さん、そして垣さん 乙彼です。
今回も藤本さんのパニックぶりに目から心の汗が…(w
次回はもっとスゴイことになりそうなので期待してます。
- 116 名前:makkou 投稿日:2003/12/31(水) 01:00
- 黄色番で書いてるmakkouです。
の○る(ここではあえて伏字で。)さんの小説のファンです。
あやみきさいこ〜。
黒美貴まざってるし。
応援してるのでどんどん期待してます。
亀ちゃんもいいです。サイコー。はぁーーーーーーーん。
ストシーはバイブルです。
- 117 名前:名無しくん 投稿日:2003/12/31(水) 09:39
- おもしろい!
別スレで面白いって書いてあったんで読んでみたら!
これがまた!おもしろい!
登場人物も絶妙な設定でとっても楽しんで読んでます。
次が待ち遠しいです。更新お待ちしております
- 118 名前:178 投稿日:2003/12/31(水) 13:23
- ヽ(´ー`)ノ○<くりぃむぱむもろたよー。ちょっと食べるのがもったいないー
傷が広がる前にと思ったのだけど。
やっぱりちょっと野暮だったかも知れません。申し訳ない。
せめて1回目の指摘のときにもっと分かりやすくすれば良かった
(´-`)。o0(にぃの頑張りに救われたかもー)
- 119 名前:名無し 投稿日:2004/01/06(火) 22:37
- たのしいです!!
ミキティやえりりんサイコー。
田中×亀井??藤本×松浦??
とにかくage!!
頑張って。
- 120 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/06(火) 22:43
- んぉー。
やっぱりおもしろい、今年も楽しまさせて頂きますよ(w
- 121 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:19
-
そんなワケないじゃん。
起きたらいつもよりベッドが大きいとか、壁紙がピンク一色だとか。
寝るときはジャージを着てるはずなのにマッパとか、
振り返ると枕のむこうにティッシュ箱とか、やたらでかい鏡とか。
そのすべてに見覚えがあるとか。
ありえない、ありえるワケない、ありえて欲しくない。
2回目だなんて…………げ。
マジで? やっぱそうくるの? 勘弁してよ。
寝返りながら上体を起こした美貴の隣で、体を覆ってる白いシーツが
こんもりと膨らんでる。しかもこれまた見覚えのある膨らみ。
深くお腹から溜息をついて、今日は迷わずシーツを捲る。
アハハハハ、ハハハハハ。
やっぱりか。ってか違ったら違ったで今すぐ窓から飛び降りるけど。
- 122 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:19
- 美貴の隣で、生まれたままの姿で寝息を立てているのは、亜弥ちゃん。
亜弥ちゃん。
亜弥ちゃん。
亜弥ちゃん。
何回確認しても亜弥ちゃん。
悲しいぐらいに松浦亜弥ちゃん。
セカンドモーニング、松浦亜弥ちゃん。
なんで? どうして? このたびも記憶がないんだけど。
えーと、やっぱり、その………………
またヤッちゃった?
「嫌ぁぁああああ――――――――――!!!!!」
- 123 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:20
-
◇◇◇
- 124 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:20
-
「…………たん、私のこと信じてる?」
「ハ?」
「………私のこと信じてる?」
「う、うん」
「……私のこと信じてる?」
「し、信じてる」
「…私のこと信じてる?」
「信じてる」
「私のこと信じて…」
「だぁぁー!!信じてるから早くして!」
「…うん、じゃあいくよ? えぃっ!」
ペシャーン。
「キャー!できたぁー!!できたよミキたぁん!」
「………うん、できたね……」
見ればわかるよ。
だからそんな嬉しそうにバンザイしないで、恥ずかしい。
隣のテーブルのおじさんたちに思いっきり見られてるんだよ。
見るんじゃねぇよ、鉄板に顔押し付けるぞ。
ヘラを振り回してキャァキャァ騒ぐ亜弥ちゃんを前に、頬がやたら
熱くなってきた美貴は、ニヤニヤと下品な顔でこちらを見ている親父たちを
鋭い眼光で睨みつける。すると3秒もしないうちに美貴の視線に気づいた
親父たちは「ひゃぁ!」と叫んで一斉に椅子から転げ落ち、慌てて立ち上がったと
思うとなぜか美貴たちのテーブルに福沢諭吉を1枚おいて足早に店を後にしていった。
- 125 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:21
- 「たん、あの人たちにお金借してたのぉ?」
「………」
借してません。ってか借すワケないじゃん、あんな親父に。
「じゃあなんでお金おいてってくれたんだろーねぇ? 忘れ物かなぁ?」
おのれのせいじゃ。
直接的な原因は美貴だとしても、根本的な原因は間違いなくお前だ。
「あーわかったぁ。私とミキたんがかわいいからぁ、
おごってあげたくなっちゃったんだねぇ、きっと」
「………アハハハハハ…」
あぁそうだね、あんたはそう思われてただろうよ。
「にゃはは。あ、焼けてきたよぉ。私の初めて、ミキたんにあげるね。あーん」
「あー…って変な言い方しないで!つーか自分で食べれるし!」
「そっか、恥ずかしいか、ごめぇん」
恥ずかしいっていうかね、ありえないの。
ただでさえさっきので周囲の視線買いまくってるっていうのに紛らわしいこと言わないで。
…はぁ、こんなことなら家でインスタントラーメンでも食べりゃよかった。
でもさ、でもさぁ、できるだけ2人っきりの時間なくしたかったんだもん。
再び間違いが起こらないように手を打ちたかったの。
まぁ今更そんなことしても起こってしまった間違いは消せないんですけどね…ぐすっ。
- 126 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:21
- なち姉との電話の後、しんと静まった教室に再び響き渡った亜弥ちゃんの声。
ディスプレイに表示された名前に顔を引きつらせながら応答すると、
『だぁん!』と叫ぶ大きな鼻声が耳に届いた。
脳天まで突き刺さったその声にクラクラしながらなにがあったのか訊ねると、
『がえりみぢがわがんないぶぉ』というお返事。
ぶぉて。
ってか高校生にもなって迷子になったの?
亜弥ちゃんが編入した高校は美貴も通ってたこの大学付属の女子高で、こことは
少し離れたところにある。家からすごい近いところにあるし、道だって2,3回
曲がる程度で全然複雑じゃないんだけど。どうやったら迷えんの?
美貴が呆れて言葉を失うと、慌てたように『だっでだっでぇ!行ぎは絵里ちゃんがいだんだもん!
ぞのどぎにね、道覚えようど思っだよ?思っだけどぉ、お喋りに夢中になっちゃっどぅぇ…』
なんて泣き喚いちゃってうるさいったらありゃしない。
………っていうか絵里と夢中になれるほどお喋りしたんだ。
なんの話したの?って聞きたいけど、涙が出そうだったからやめた。
- 127 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:22
- けど、それならさっさと美貴に電話してくりゃよかったのに。
『ぞうじだがっだげどぉ、だいがぐがなんじに終わるのがわがんながっだんだぼぉん』
放課後になって1人じゃ帰れないことに気づいた亜弥ちゃんは
真っ先に美貴に電話しようと思ったんだけど、もし講義中だったら迷惑になると
考えて遠慮してくれたらしい。
でも絵里に電話しようにも番号まだ聞いてないし(夢中で喋れたくせに)、家にかけても
誰も出ないので頑張って自力でウロウロしていたらだんだん日が落ちてきてしまい、
『わだじぃ、ばどるろわいあるば泣ぎながらみだぶぉ』
どうにかこうにかまた学校へ戻ったものの、暗いとこや怖いものが苦手な亜弥ちゃんは
パニックに陥って、泣きながら美貴に電話してきた、と。
なんだよなんだよ、かわいいじゃん。
そっから先はよく覚えてない。
気づいたら美貴は猛ダッシュでレポートを矢口さんの顔に投げつけて
自転車をかっ飛ばしていた。
- 128 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:22
- 懐かしい校舎が見えて、校門の前で蹲る影に自転車から駆け下りて走り寄ると
気配を感じた亜弥ちゃんは恐る恐る顔を上げた。
そして、美貴を見た途端ぶわっと音が聞こえそうなぐらい勢いよく目に涙を溢れさせ、
大声で『ミギだぁん!』と叫びながら思いっきり体当たりしてきた。
背中にぐわしっと腕が巻きついて苦しさに飛びそうになった意識の中
抱きつかれたことに気づくと、なにやら右肩がじんわり寒い。
………このシャツお気に入りなのに……鼻水つけられた………。
そのうち乾いてカピカピに固まる様を想像して凹んでいると、
どこからか聞こえてくるヒソヒソ声。
『ねぇねぇあれって…』
『あれ?あー、藤本先輩じゃない?』
『えぇーマジ?!相手誰よ? キィ!悔しい!!美貴様は私のものなのにぃ!』
『シィィー!聞こえるって!』
・・・・美貴様?
聞き覚えのある呼び名に美貴の背中が凍りつく。
はやく忘れてしまいたいのに、まだその名が使われているのかと思うと
無償に腹が立って思わず声がした方を睨んでしまった。
- 129 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:22
- 『キャー!あの目!あの目が好きなのぉ!蔑まれたいのぉ!罵られたいのぉ!』
『シィ!だから聞こえちゃうってば!』
聞こえてるってば。
…ったく。どこの誰が言い出したか知らないけど、高2のときに美貴が
駅前のM男養成スクールで女王様役のアルバイトしてるって噂が流れて以来
美貴はそういう性癖の子たちから“美貴様”と呼ばれるようになった。
言っとくけど事実無根だから。
美貴ってある程度寛容な人間だけど、そういうのは理解できないから。
チッと舌打ちすると、亜弥ちゃんがパッと美貴の肩からおでこ離した。
やばいと思って慌てて笑顔を作るけど、無理があったみたいで
美貴を見つめる目からは不安と怯えの色が消えない。
えぇい面倒くさい。こうなったら強制送還だ。
『オルァ!』
『きゃあ!』
『み、美貴様!さすがだわ!あぁ抱かれたい!』
『シィィー!』
誰が抱くか!
美貴は亜弥ちゃんの腰を持ち上げて担ぐとそのまま自転車に乗ってその場を去った。
家までの道すがら、肩や背中に柔らかいモノが当たって鼻の下が伸びたことは内緒にしておこう。
- 130 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:23
- で、家に帰ったんだけど………なにがあったかなんて聞かないでください。
いや、泣いた直後だった分甘えモードなだけだったと思うけど。思いたいけど。
せっかく苦労して家に帰ったのに、長時間2人っきりで誰もいない家にいるのは
危険だと判断した美貴は、時間稼ぎも兼ねて大学の近くにある
お好み焼き屋“ヘラクレス愛ちゃん”で夕飯を食べることにした。
またしても亜弥ちゃんを後ろに乗せ、ゆっくりゆっくりペダルをこぐこと30分。
疲れ果てた美貴はできたものでよかったんだけど、亜弥ちゃんが
『私がひっくり返す!』って言い出して、そのくせ『初めてなのぉ』なんて
モジモジしながらヘラを構えてくれちゃったもんだから……
「ねーねーたん、おいしい?」
「……」
「たん?」
「ふぇ!? あ、なに?」
「…たんのバカ」
バカはそっちだ。
「ご、ごめんね。おいしいなぁって思ったらボーッとしちゃって…」
「ホントぉ? やったぁ、たんに褒められちゃった」
ホッ。適当にごまかしたら上手く機嫌がとれたらしい。
にしても……まだ7時前か。
絵里がいるから9時には帰ってくるだろうけど、それまでどうやって時間潰そう?
とりあえずはこれをゆっくり食べて…でも混んできたから30分もしたら
追い出されるかも。 その後どうしよう? どこでなにしよう?
- 131 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:23
- ―――
「ありがとうございましたぁ」
「ご馳走さまでしたぁ」
「………」
追い出された。
ってホントに追い出されたワケじゃないけど、超満員になった店で
とっくに食べ終わってんのにいつまでもカツオ節をつまんでるのは
良心が痛むっていうか、待ってる人が可哀相っていうか…。
あ、言っとくけどあの1万円は使ってないから、念の為。
「ミキたん、帰りは私がこぐね」
「え?いいよ、美貴がこぐよ」
「いーの、たん疲れてるでしょ? さっきも乗せてくれたし、
私のこと迎えに来てくれたときなんて超速かったしさ。そのお礼だから、乗って?」
「…乗ります」
なーんか、美貴弱くない? 間違ってるよ、キャラが。
そう思うのに、なんでか逆らえない。亜弥ちゃんにじっと見られると
脳が指令出す前に口が勝手に動く、みたいな。
「もっとちゃんと腰に手ぇまわして、落っこちちゃうよ」
「はぁい」
ほら、こんな風に。
- 132 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:24
- 「じゃあしゅっぱぁーつ!」
「おぁっ…と」
亜弥ちゃんが地面から足を離すと少し自転車がふらついて
美貴は思わず亜弥ちゃんの腰にまわした腕に力をこめた。
そうしますと、自動的に美貴は目の前のあたたかい背中に抱きつくことになりまして。
顔もその背中にひっついちゃって、全部包まれたんですよ。
う、わぁ。
また来たよ、帰って来たよイリュージョン。
Wind is blowing from the Ayayan
あややは海 好きなあややの腕の中でも違うあややの夢を見る
Uh−Ah−Uh−Ah
私の中でお眠りなさい
Wind is blowing from the Ayayan
あややは恋
ってなんか変な歌まで聞こえるし!!なんだよこのジュディ・オングみたいなのは!
別に美貴は夕べの余韻が隅々にけだるい甘さを残してないし!
レースのカーテン引きちぎり体に巻き付け踊ってみたくもならないんだけど!
ってか違うあややって誰だ!ウーアー言ってる場合じゃなぁい!
- 133 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:24
- でも…亜弥ちゃんの背中気持ちいい……なんか溶けそう……。
胸だけじゃなく背中もなんて、両A面イリュージョンだなんて。
どうすればいいの? 美貴はこのままこのイリュージョンに溺れていいの?
「…亜弥ちゃん」
「んー?」
「亜弥ちゃ……ゴポゴポ…」
「ん?ミキたん?」
あややという名の大海に、溺れ沈んでいく美貴。
背中のぬくもりだけを感じていると、ふいに亜弥ちゃんが自転車を止めて
美貴の顔を覗き込んできた。
「ミキたん?大丈夫?眠い?」
「んーん…眠くないよ…」
「でも目がトロンてなってるよ。2人乗りで寝ちゃったら危ないからどっかで休む?」
「うぅー、休むってどこでぇ?」
「えっとぉ、公園とかぁー…」
身体が熱い、フワフワする。
どうしよう、どうしよう、今すっごい甘えたい気分。
甘えていいかなぁ? いいよね?
また前を向いて、顎に指をあてて考えてる亜弥ちゃんの背中に
そぉっと頬を擦りつけてみる。すーりすーりすーりすーり。
- 134 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:24
- 「にゃははぁ、くすぐったぁい」
「…いや?」
「んー? いやじゃないけどぉ」
んじゃやーめない。すーりすーりすーりすーり。
マジ最高これ。脱出不可能。
一生閉じ込められても構わない。むしろ閉じ込めてよラビリンス。
「ん? あー!たん見て!あれこないだ一緒に泊まったとこだよぉ」
「へぇぇー?見えんのー?」
「うん、ほらあそこ」
どれどれ…と美貴は名残惜しくもラビリンスから抜け出し、
亜弥ちゃんの指差す方を見た。
すると、暗闇の中に空高くそびえるお城のような建物が。
あぁ、あんな外観だったんだ。初めてまともに見たよ。
「わあぁー、たんたん、もうちょっと左上見て!キレイな満月さん」
「おぉー」
満月にまで「さん」つけるなんて、亜弥ちゃんったらなんて礼儀正しいんだろう。
なんて感心しながら、美貴はでかでかと空に輝く満月を見――――
- 135 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:25
-
◇◇◇
- 136 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:25
-
「――――た後、どうしたんだっけ?」
「ん…」
「っ!?」
「んんー…zzz…」
「……」
ホッ。寝返りうっただけか。
って安心しても意味ない。今日だって学校あるんだし、起きてもらわなきゃ困る。
亜弥ちゃんの服、家に帰ったとき着替えさせといてよかった。
こんなとこから制服で出てくるとこ誰かに見られたら退学もんだよ。
床を見ると、これまた前と同じように服が散らばっている。
ノロノロと手を伸ばしてズボンから携帯を取り出し時間を見ると、まだ6時にもなってなかった。
これなら急がなくても学校には充分間に合うな。
なち姉に連絡は……してあるワケないよね、でも着信もないや。
メールはきてるけど『ミッキー、ぺぺが見つからないよー(泣)』、…まいちゃんだし。
亜弥ちゃんが言っといてくれたのかな?
もしそうなら……なんて言ったんだろう…?
まさかホントのこと言ってないよね?
「むにゃ…ん…?…たんぅ?」
「あ、お、おはよ…」
「んー…おはよぉ…」
「わ、わわわ…」
- 137 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:25
- 寝惚けてるのか、亜弥ちゃんはしんどそうに目を開けて
美貴を見つけるとものすごい力で抱きついてきた。
キャー。胸と胸が!お腹とお腹が直接触れ合ってる!
初めてじゃないけど、一昨日の夜も裸で抱き合ったけど!
あの時はお湯の中だったし、ベッドの上じゃなかったし!
あ、朝からですか…っ!
のわぁ!? さっさと服着とけばよかっ…いや着てなくてよかったかも…。
亜弥ちゃんって赤ちゃんみたいに体温が高くって
太ってないのに、全然無駄な肉ついてないのにフニフニしてて、
肌はすべすべ、なんて素敵な抱き心地。こりゃたまりませんな、タマランチ会長。
「…亜弥ちゃん」
「なぁに?」
「……キスしていい?」
「え?」
え?
美貴、美貴ちゃん、ミキたん、ミキスケ、やい藤本。貴様、今なんと言った?
「ねぇ、キスしていい?」
「……ミ、ミキたんが、したいなら…」
「んじゃする」
お逝きなさ…じゃなくてお待ちなさい。そこの藤本美貴、待ちなさい。
- 138 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:26
- 「目、閉じなよ」
「…うん」
だから待てってば! なに優しくベッドに組み敷いてんの!
亜弥ちゃんもそんな色っぽい目で見上げるな!
おい美貴! 少しは美貴の言うこと聞けよ!!
『チッ、さっきからうるさいなぁ』
『んなっ!あんたが勝手なことするからでしょ!』
『勝手? ハッ、美貴、素直になりなよ。本当はしたいんでしょ?
だって私は本能だもん。あんたの本能がしたいって言ってるんだよ』
『本能だぁ?! なら美貴は理性だ!理性には本能を止める義務がある!』
『あーもーうるさぁーい。
亜弥ちゃんも同意してんだからいいじゃん。無理矢理じゃないんだからさぁー』
『でもぉっ!…待て!待って!本能待ってぇー!』
「んっ…」
むがっ………………懸命の抵抗も虚しく、か、かかか重なってしまいました。
なにが?って唇が。美貴と亜弥ちゃんの唇が。
しかも美貴が上から亜弥ちゃんに向かって着陸した模様。
どうなんですか? あんた昨日キスは絶対拒むって言ってたのに。
起きたばかりで乾いてる亜弥ちゃんの唇にそっと触れた瞬間
思っちゃったよ。離れられないって。
- 139 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:26
- だって気持ちいいんだもん。離れるとまたすぐに触れたくなるんだもん。
キショイよー、美貴ってばキショイよー。
心の中で嘆いても、身体は全然止まってくれない。
夢中になって、何度も何度もついばむと、息を止めてた亜弥ちゃんが
苦しそうに口を開いた。
その隙をついて舌を入れると、受け入れた身体が硬直する。
「ミ、キ、た……」
「ん…?えぇ?」
キスしたままそっと目を開けると、目の前の亜弥ちゃんは可哀相なぐらい
真っ赤になってて、揺れる瞳からは涙が溢れていた。
まさか泣かれるなんて思ってもみなかった美貴は慌てて離れようと
したけど、それは肩に触れてた亜弥ちゃんの手によって阻まれる。
「あ、亜弥ちゃん? ご、ごめん、やだった?ごめんね?」
「ちが…いやなんじゃっ…なくって…」
「泣かないで、お願いだから。ね?」
きゅうっと胸にしがみついてくる亜弥ちゃん。
本能のバカ。同意とれてないじゃんか。
無理矢理しちゃったから泣いちゃったじゃん。
「ごめんね、ホントごめんね」
「っく、ぅ…ち、ちがぁ」
- 140 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:28
- 泣きやんでほしくて、笑ってほしくて。
このとき、この涙の理由を取り違えてしまったせいで、後に
亜弥ちゃんを失うことになるなんて知る由もない美貴は
ただ必死で震える背中を撫でる。
ごめん、朝っぱらからあんな濃厚なの、いやだったよね。
もっと爽やかなのがよかったよね。
もうしないから、交換日記から始めるから、ごめんなさい。
「…たん、たん…ひっく」
「ん…ごめん、亜弥ちゃん…」
なんだろう、この気持ち。
腕の中の女の子が、かわいくってしょうがない。
こんなにかわいい女の子を、泣かせた自分が憎くてしょうがない。
もう1度、キスしたくてたまんない。
なんなんだろう、なんなんだろう。
知ってるなら教えてよ。
この胸に芽生えた甘酸っぱい気持ちの正体を。
湧き上がる想いの名前を。
亜弥ちゃん、あなたに教えてほしい。
- 141 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:29
-
- 142 名前:なんなんだろう。 投稿日:2004/01/07(水) 01:29
- あけてしまったそうでおめでとうございます(遅っ
変に間があいてしまって申し訳。
新年早々PCの不具合で書きあがっていたものが
キレイに消え去りました_| ̄|○ショック
どうやら2004年も幸先の悪いスタートなようです・゜・(ノД`)・゜・
これを読んで私の不幸が移ってしまった方、おられましたらゴメンナサイ。
えっと、書き忘れていたんですが
この話は設定に一部問題があるのでレスはsageでお願いします。
ageると私の命が危険の晒される可能性がありますんで(w
レスありがとうございます。心の傷が癒えます・゜・(ノД`)・゜・
>>114つみ様
あの着声、誰かに聞かれたら相当恥ずかしいですよ(w
从*VvV)<ありがと〜。
そういうことって、どんなことですか?(爆
>>115名も無き読者様
( ・e・)<ありがとニィ。でも頑張ったのはニィだけニィ。
こ、心の汗ありがとうございます(w
でも今年も私はアホなので、期待は禁物です(w
>>116makkou様
ファファファファンだなんてありがとうございます。
黒美貴混ざってますか?というよりこっちの方が黒いかも(w
ストシーがバイブルでいいんですか?(爆
よくない気がしますが、嬉しいです。
- 143 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/01/07(水) 01:30
- >>117名無しくん様
おわわわ、ありがとうございます。
設定は絶妙というより微妙なんですが(爆)楽しんでいただけたなら
幸いです。自分ではおもしろいかどうかよくわからないので
そう言っていただけるとありがたいです。
>>118178様
いえいえ、めちゃくちゃ助かりました。感謝しまくりです。
今までは扱いの悪かったニィの出番が増やせましたし(w
ホントありがとうございます。
あ、クリームパンは早く食べてくださいね。
なんせ4年ぐらい前に作ったやつですから(爆
>>119名無し様
ありがとうございます。
れなえり?あやみき?どうなるんでしょうねぇ(爆
先のことはまだ私もわかりませんが、頑張ります。
>>120名無し読者様
オチありがとうございます。
今年も呆れさせてしまう方が多いと思いますが(w
よろしくです。
- 144 名前:178 投稿日:2004/01/07(水) 07:01
- ぬぉ!急いで食べないと!
・・・って4年前かい!
(´-`)。o0(ひょっとして怒ってる?! w)
食べるべきか否か・・・・うーん・・・・
記憶が飛んじゃう原因予想してたんだけど外れたっぽい・・・。うーむ。
あと変な歌。衣装付で想像してみました。似合うかも w
で、最後のほう
後になんだって?!気になります・・・
今年もよろしくです。
- 145 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/07(水) 11:16
- そんなミキティが好き(爆
Ah…またしてもイリュージョン。
Mrマリックもまっつぁおな超魔術に、PCの前でスタンディングオベレーション
でしたよ、ホント。(←あふぉ
ではでは、ことよろ〜♪(軽ッ)
- 146 名前:つみ 投稿日:2004/01/07(水) 15:55
- 再びイリュージョン・・・
しかもジュディ・オングイリュージョン・・・
ここの藤本さんはホントにアフォでいいですね!
でも少し切なくなってきたきたかな・・・?
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/07(水) 20:48
- 両A面イリュージョン!!
この胸に芽生えた甘酸っぱい気持ち
も〜なんとかしてくれっ!!
まぁ、なんつーか…
最 高 で す 。
- 148 名前:makkou 投稿日:2004/01/08(木) 01:49
- いい。
美貴の理性と本能いい。
今回もサイコーです。
イリュージョンからおいらもぬけだせない。
次も期待してます。
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/10(土) 21:58
- キュンときちゃいましたよ。胸キュンですよ。
- 150 名前:名無し読書 投稿日:2004/01/11(日) 21:59
- 私も胸キュンしちまいました。
今回の更新で「98胸キューン」逝きましたので、
後ほど口座の方に9800円支払わせていただきます。
甘い…しかし酸っぱい…この気持ちは言葉では言い表せなっ…
「甘酸っぱい」か。(ぉぃ
大好きですんで、次回更新楽しみに待ってます。
- 151 名前:気づいてるんだ。 投稿日:2004/01/15(木) 01:36
-
「亜弥ちゃん、そろそろ着替えよ?」
「……ん」
自分でもびっくりするぐらい優しい美貴の声に、亜弥ちゃんはゆっくりと顔を上げた。
ごめん、ホントに。朝からケダモノでごめんね。
お詫びに亜弥ちゃんにもイリュージョンをあげたかったんだけど
たぶん…無理だったよね。ごめん。
いや、でもボリュームは足りないかもだけど
形はいいと思うんだ。なんていうの、美乳ってやつ?美貴の乳なだけに。
それにさ、美貴って手足の長さとかこの身長じゃ考えらんない感じじゃん?
会う前に写真で美貴のこと見てたなち姉に、『170センチぐらいあると思ってたべさ』
って言われたことあるし。矢口さんなんか自分だって小さいクセに、初めての講義のとき
『うわあー顔小っせぇー、チュッパチャップスかと思ったじゃんかよぉー』なんて
よくわからないコメントをしてくれた。
ん?いや、だから、なにが言いたいかっていうと、
美貴の顔は30分で舐め尽くせるってことじゃなくて、それだけ、こう、
自分で言うのもなんだけど全体のバランスが芸術的だから
特別イリュージョンじゃなくてもよかったっていうか。充分だったっていうか。
ついでにおでこだって広くても平気、みたいな。
ってあぁ、もう、なに言ってんの、美貴。
- 152 名前:気づいてるんだ。 投稿日:2004/01/15(木) 01:36
- 「…亜弥ちゃん?」
「……」
美貴がごちゃごちゃ考えてる間も、亜弥ちゃんはまだ腕の中。
なにかを訴えるようにじっと美貴を見たまま、起き上がる気配がない。
「どうしたの?遅刻しちゃうよ?」
「……けな…」
「え?」
ケナ? 古文で『げな』ならあった気がするけど
『けな』は知らないな。どういう意味だろう。
「うご……いの…」
「へ?」
ウゴイノ?なにそれ、そんな日本語あったっけ?ないない。
ん? でも待って。今『うご』と『いの』の間に空欄あったよね。
そこにさっきの『けな』を当てはめてみよう。そうすると………
『うごけないの』
できた!!答えは『動けないの』だ!美貴ってば頭いいー♪
そっかぁ、亜弥ちゃん動けないのかぁー、それは大変で……
「ってえぇ!?動けないぃぃ?!?」
「…うん」
- 153 名前:気づいてるんだ。 投稿日:2004/01/15(木) 01:37
- なんで?!なんで動けないの?電池切れた?
いや、人間なんだからそれはないでしょ。
…ハッ!でも亜弥ちゃんがロボットだったら、今までのイリュージョンは全部
機械仕掛けの摩天楼だったってことに…
『シーツの中は摩天楼〜♪』
メロン記念日バンザイ!
って違ーう!!機械がこんなにソフトタッチなワケないし!
ご飯普通に食べてたし!お風呂も一緒に入ったし!
今の科学じゃまだ無理でしょ、ここまで完璧な人型ロボットは!
「…たん?」
「ぬはぁっ!?まさか未来からタイムマシンに乗って?!」
「ふぇ?なに言ってるのぉ?」
「なに言ってんだろう!? もぉだめ、美貴も動けない」
「ぇえ?ミキたんも?大丈夫ぅ?」
大丈夫じゃないよ。自分のアホさに脱力しちゃって…。
はぁ、ところで亜弥ちゃんはなんで動けないんだろ?
「あ、あのね、さっきドキドキしすぎちゃって…」
「さっき?」
「……たんが……キス…」
「あぁ!あー…ぁー…」
したね、キス。それで泣かせたんだった。
- 154 名前:気づいてるんだ。 投稿日:2004/01/15(木) 01:37
- 「そのドキドキがまだ止まんなくて、体中バクバクいって、力入んない…」
「っ…」
わぉ。なんなのこの子。
襲われたいの? そんな恥ずかしそうな上目遣い反則だよ?
美貴が男だったらマジで我慢なんかできない。
裸だしさ。こんな素肌が密着してる状態で、どうやったら堪えろっていうの?
「ひゃ…ミ、ミキたん?」
頑張れ美貴。美貴は女、女なんだから。
気を抜けば荒くなりそうな呼吸をなんとか抑えて戸惑ってる体を抱きしめる。
ホントに力が入らないみたいで、されるがままの亜弥ちゃんの、瞼に、おでこに
軽くキスを落として髪に顔を埋めると、肩にフッと甘い吐息を感じた。
目を閉じて背中を撫でると、さっきまでは考えごとしてたせいで
全然気づかなかった亜弥ちゃんの早すぎる鼓動が美貴の手をノックしてくる。
「ホ、ホントにバクバクだね」
「ん……たんのせいだよぉ…」
「うん。ごめん」
- 155 名前:気づいてるんだ。 投稿日:2004/01/15(木) 01:37
- 甘えた声で拗ねる亜弥ちゃんに、美貴は
心があったかい泥水につかってるような気分になった。
でも泥っていっても汚くなくて、すごいキレイな泥で。
死海って、こんな感じなのかな。
あそこってボーリングの球も浮くって聞いたけどホントなの?
いつか、一緒に行って試してみようか。
柔らかく跳ねる肌を丁寧に撫で続けると、少しずつ亜弥ちゃんの鼓動も
落ち着いてきた。
それでも、美貴は手を止めることができなくて、
もう今日はこのまま1日中亜弥ちゃんとゴロゴロしてたいって気持ちでいっぱいになる。
「たん……もぉ…大丈夫…」
「そう?無理してない?美貴に気ぃ使わなくていいよ。いざとなったら延長するし」
「だめだよぉ、学校ぉ」
「…ん。そだね」
そだよ、だめだよ。美貴ったらなに雰囲気に飲まれてんの。
年上なんだからしっかりしなきゃ。
「じゃあ亜弥ちゃん先に顔洗っといで」
「うん」
腕の中の亜弥ちゃんごと引っぱり起きて、着替えるためにベッドを降りた。
- 156 名前:気づいてるんだ。 投稿日:2004/01/15(木) 01:38
- ―――
「ホント安いな、ここ」
多少罪悪感を感じながらも、自分の財布が寂しかった美貴は
昨日の親父たちにもらった1万円で精算を済ませて
半分以上返ってきたおつりは全部亜弥ちゃんにあげた。
こないだ美貴が強引だったにも関わらず割り勘だったし
今回もたぶん、美貴が行こうって言った可能性は高いし。
亜弥ちゃんは『悪いよぉ』って渋ってたけど
泣かせちゃったおわびって言って無理矢理受け取らせた。
「たんー、自転車こっちだよー」
「わあ!?亜弥ちゃんそんなでかい声出しちゃだめ、もっとコソコソして」
「えぇーなんでぇー?」
退学になりたいのか。
そこの立て札にも書いてある通り、ここは『18歳未満お断り』なんだよ。
高校生は利用しちゃだめなの。…なのに利用させてごめんなさい。
「しっかりつかまっててね」
「はぁーい」
朝の風が、背中が、気持ちいい。
2人乗りなせいで重いペダルにも慣れた。
っていうかこの重みがないとこぐの寂しいかもって思ってる
自分がいることに、美貴は気づいてる。
これって、どういうことなんだろう。
- 157 名前:すっかり忘れてたっつーの。 投稿日:2004/01/15(木) 01:39
- ―――
「ミキたん、お家の前に誰かいるよ?」
「ん?誰だろ?」
角を曲がって藤本家が見えると、門の前に小さな人影があった。
肩まである真っ黒い髪を左のてっぺんだけチョンと結んでる。
見覚えがあるぞ。あの子はたしか…九州だ。
「おーい田中ちゃん、どしたの?絵里になんか用?」
「ひぁ!?お姉しゃん!あああ朝帰りと?!」
「…まぁ、一応」
お姉しゃんて…テンパると訛りがひどくなんだったっけ。
ってかでかい声で朝帰りとか言わないでよ。近所に丸聞こえじゃんか。
「絵里ちゃんのお友達なのぉ?初めましてぇ、松浦ぁ亜弥でぇす」
「あ、初めまして。絵里の後輩ばさせとっただいてます、田中れいなやけん」
「後輩ちゃんなんだ。私はここに下宿させてもらってるの。よろしくね」
「ハイ、よろしくお願いします」
田中ちゃんは親のしつけがいいのか、礼儀正しく亜弥ちゃんに頭を下げる。
うん、いい子だ。こういうハキハキしてて黙ってるとキツそうな子が
絵里の傍にいてくれてると思うと安心する。あの子はモジモジのクネクネだから。
- 158 名前:すっかり忘れてたっつーの。 投稿日:2004/01/15(木) 01:40
- 「んじゃ絵里呼んでくるわ。
寒いから玄関に入って待ってて」
「あ!よかんやけん!絵里が出てくるまで、ここで待ってますから」
「風邪ひくよー?いいから入んな」
「や、ばってん、心の準備が……きょ、今日は失礼します!お邪魔しましたぁ!」
「ハ?ちょっ、待っ…て、行っちゃった」
お邪魔しましたって、お邪魔してないじゃん。
一体なにしに来たんだか。
「心の準備って、田中ちゃん、絵里ちゃんになにか大事な話があったのかなぁ?」
「え?あー…そうだったのかな。だとしたら美貴悪いことしちゃったや…」
「たんは悪くないよぉ」
でもこんな朝早くにわざわざ来たのに。
まぁ、帰っちゃったもんは仕方ないか。
「ただいまー」
「ただ今帰りましたぁ」
「んあー、ミキティにまっつーお疲れー」
お疲れ? え。美貴は別に疲れるようなこと……したか。
家に入ると、朝シャンしたのか髪にタオルを巻いたごっちんがお迎えしてくれた。
ふにゃっとした笑顔には朝から癒されるんだけど、まさか美貴がお疲れな本当の
理由を知ってるのかと思うと生きた心地がしない。
- 159 名前:すっかり忘れてたっつーの。 投稿日:2004/01/15(木) 01:40
- 「1晩中歩き回って疲れたでしょー?災難だったねぇ。
今なっちがあったかいうどん作ってるけど、ミキティも食べるよね?」
「ハ?」
「っ食べるよ!徹夜明けでお腹ペコペコだもん!ね?ミキたん」
「へ?あ、うん、ペコペコです」
「んあ。んじゃ早くキッチンにゴー」
「ゴー♪」
「……」
亜弥ちゃん、あんたどういう嘘ついたの?
1晩中歩き回ってたとか災難とかワケわかんないんだけど。
しかも朝からうどん………いらないんだけど。
「お帰りなさい。お疲れ様です」
「絵里ちゃんただいまぁー」
「お、2人とも頑張ったね。社会に貢献したご褒美に
なっちが特製おうどん作ってあげたっしょ、冷めないうちに食べるべさ」
「ありがとぉございまぁす」
「…ありがと」
社会に貢献?……もういいや、深く考えないでおこう。
「あ、そうだ絵里、さっき家の前に田中ちゃんがいたよ」
「え…?れいなが?」
「うん。もう帰ったけど」
「・・・・・」
うわ、暗っ。
美貴の言葉を聞いた絵里が目を見開いて一時停止した後
つらそうな顔で俯くと、台所の空気が一瞬にしてダークブルーに染まる。
- 160 名前:すっかり忘れてたっつーの。 投稿日:2004/01/15(木) 01:41
- 「んあ、田中ちゃんって誰?」
「たしか、前に明太子くれた子っしょ?亀ちゃんの1つ下の。
来てたんなら上がってもらえばよかったっしょや。
一緒に学校行く約束してたんでないのかい?」
「・・・してない」
なち姉がなにかを察しながらも優しく問うと
絵里は聞いたこともないような低い声で答える。正直怖い。
田中ちゃんとケンカでもしたのかな。
絵里がケンカって全然予想できないけど、やり合ったっていうよりは
絵里が勝手に拗ねてるっぽい。
こりゃ手強いぞ田中ちゃん。早く謝らないと。
ってそうか、さっき謝るつもりだったのね、なるほど。
「亀ちゃん、なにがあったか知らないけど友達は大事だよ」
「・・・・・」
「んあ、それに絵里ちゃんは笑ってるほうがカワイイし」
「・・・・」
「そぉだよぉ、見て、私うどん口で結べるの!ん〜…ホラできた!」
「・・・」
「おぉー亜弥ちゃんすごいじゃん。どうやってやんの?」
「えっとぉ、こぉ舌をこうしてぇ」
「こう?」
「じゃなくてこぉやってあぁやってぇ…」
「っ…」
- 161 名前:すっかり忘れてたっつーの。 投稿日:2004/01/15(木) 01:41
- ぐはぁっ! 結び方を解説してくれる亜弥ちゃんの口元というか
チョイチョイ動く舌見てたらさっきのキスを思い出して変な気分になってきた。
ヤッバイ、すごいキスしたい。
「噛まないようにクルンと…ってたん、聞いてる?」
「ぁ…聞いてます」
「絵里ちゃんもやってみる?1本あげるよ。ハイ」
「・・・・」
亜弥ちゃんの舌に目を奪われて動けない美貴をよそに
無言のまま絵里もうどん結びに挑戦し始める。
「んあーごとーもやるぅー」
「なっちもー」
そして最終的にはなぜか全員でうどん結んでて、
学校へ行く時間になって絵里が慌てて立ち上がるまで
美貴は太腿をつねってしゃしゃり出てこようとする本能を抑えていた。
危ない危ない、最後のほう鼻血出そうだった。
まだまだ若いね、美貴。
- 162 名前:すっかり忘れてたっつーの。 投稿日:2004/01/15(木) 01:42
- ―――
「えぇえ!?さっそくセカンドモーニングぅ?!もがっ…」
「ゴルァ里田ぁ!講義中だぞ!」
「すいません、黙らせましたから」
「もごっ、ふがっ」
亜弥ちゃんの誘惑から解放されて気が緩んでいたのか、
講義中『結局ぺぺ見つからなかったよ』と涙ぐむまいちゃんに
ヒソヒソと昨夜の報告をしたらめちゃめちゃ驚かれた。
そりゃそうだよね、美貴だってびっくりだもん。
「ったく。で、誰と誰がセカンドモーニングなんだよ?」
「ミッキーと亜弥ちゃ――んぐぇ」
「だぁ!答えるなバカ!」
矢口さんも好奇心剥き出しの楽しそうな顔で聞いてくんな!
他の子が軽蔑まじりな目で見てくるじゃんか!
「おーおー藤本、もうセカンドかよ。こりゃ明日にはサード・チルドレンじゃねぇかぁ?」
「ガハハ!逃げちゃだめだよミッキー!」
「やかましい!誰がチルドレンだ誰が!」
言うんじゃなかった。
おっかしいなぁ、前はもっと頼れる人だと思ってたのに。
「ってことはぁ、正式に付き合うことになったんだ?」
「え?」
- 163 名前:すっかり忘れてたっつーの。 投稿日:2004/01/15(木) 01:42
- いきなり真顔になったまいちゃんの問いかけに、思わず固まる。
正式にって……告白とかして、よろしく、みたいな?
「え?って、そうなったからヤッたんじゃないの?」
「いや、そうじゃなくてまた記憶が…」
「げぇぇぇ!?お前最悪すぎ!1度ならず2度までも
年下の女子高生たぶらかしといてまた記憶がないだとぉ?!」
「んなっ!? 矢口さん!なに聞いてんですか!
ってかみんなの前でそんなに詳しく言わないでくださいよ!白い視線が集中してるじゃないですか!」
「いいじゃんいいじゃん。見られるうちが華だって」
「そんな華いるかぁあ!」
1本でも持ってるなら捨ててやる!焼却処分にしてやる!
「勝手に吠えてろ。んじゃ講義の続きすんぞ。
みんなスクリーンに注目ー、これ見てわかる通り、今のかわいい4代目と違って
『ビスコ坊やの初代と2代目はどう頑張っても坊やに見えない』ワケだけどー」
吠えさせたのはどこの誰だよ。
今日も今日で意味ない講義ばっかしやがって。
「ミッキーさぁ、それならホント1回病院行ったほうがいいんじゃないの?」
「病院?え、頭診てもらえってこと?」
矢口さんへの怒りで煮えくり返るお腹を抑えながらスクリーンのビスコ坊やを
睨んでいると、相変わらず真顔なまいちゃんが小声で囁いてきた。
- 164 名前:すっかり忘れてたっつーの。 投稿日:2004/01/15(木) 01:43
- 「うん。だってお酒飲んだワケじゃないないのに
いきなり記憶飛んだんでしょ?それもこんな短期間に2度も。
絶対どっかおかしいんだよ」
「………」
そんな風に断言されると悲しいけど、やっぱそうなのかな。
思ったことがないワケじゃない。
けど別に、頭がおかしくなるようなことしてないし。
「最近頭怪我したりとかなかったの?
ちょっとぶつけたぐらいでもいいけど、頭がおかしくなるような原因」
「うーん…」
なんかあったかなぁ、ここんとこ色々ありすぎて
頭打ったかどうかなんて覚えてな――――
「でぇ、この1番不気味なのが3代目ね、絵で不気味といえば
有名なのはモナ・リザだけど、あれが不気味なのは眉毛がないからだっていうじゃん?
でもこのビスコ坊やは思いっきり眉毛あるだろ?なのに不気味って
変なオバケより怖ぇよな。特にこの口のあたりが…」
「あああああぁー!!!マユゲだ!!!!!!」
「あん?藤本うっせぇよ!」
「まいちゃん!マユゲだよ!マユゲビームだ!!」
「へ?マユゲビーム?なにそれ?」
「あの日!亜弥ちゃんに初めて会った日!美貴、頭にマユゲビームくらって
意識失ったんだ!くそぉ!あのマユゲ野朗ぉ!!」
- 165 名前:すっかり忘れてたっつーの。 投稿日:2004/01/15(木) 01:44
- あんなインパクトある奴のこと、なんで今まで忘れてたんだろ。
意識が戻ったとき、マユゲが美貴を
『今日1日外に出ちゃだめ』って言ってたって田中ちゃんが言ってたじゃん。
ってことは、美貴がおかしい原因はきっとマユゲの投げた竹刀のせいなんだ。
病院に行くなら行くで、慰謝料として治療費はマユゲに払って
もらわなきゃ気がすまないし。そーいやまだ謝ってもらってもないじゃん。
抜いてやる。全部引っこ抜いてやる。
「待っとれやマユゲぇぇぇ!!!」
「藤本!お前どこ行くんだよ!オイ!」
「ミッキー、よくわかんないけど行ってらっしゃ〜い」
行ってくるよ、まいちゃん。さよなら。
次会うときには、きっと美貴の手は赤く汚れてしまっている。
教室を飛び出し、自転車に跨ると昨日亜弥ちゃんを迎えに
行ったとき以上のスピードでマユゲの元へ向かう。
車も電車も追い抜いて。
『マユゲ、許すまじ』
その思いだけが、美貴を動かしていた。
- 166 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/01/15(木) 01:45
-
- 167 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/01/15(木) 01:45
- レスありがとうございます。
励みになります。多謝。
>>144178様
_, ,_
ノノ*^ー^)<全然怒ってないですぅ。
川;VvV)<・・・はやく食べたほうがよさそうだよ。
亀ちゃんこらこら(w
どういう予想してたんだろー(w
次回謎は解けるかもしれません。ヒントは…『人種』かな?
最後のアレは当分先の話ですんで、しばらくは忘れてて大丈夫ですよ(w
こちらこそ今年もやっぱりアホですけど、よろしくです。
>>145名も無き読者様
川*VvV)<ありがとぉ、美貴も好…
从+‘ 。‘)<す…?
川;VvV)<スッパムーチョ(爆
イリュージョンに盛大な拍手、ありがとうございます。
ことよろ〜♪(同じく軽ッ)
>>146つみ様
いえいえ全然、切ないのは気のせいですよ。
藤本さんはというより、みんなアフォです(w
まともなのは・・・誰かいたかな?(爆
- 168 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/01/15(木) 01:46
- >>147名無飼育さん様
あ り が と う ございます。
でもしばらくはなんとかできないかもしれません(爆
なんせウチの藤本さんヘタ(ryなんで(w
>>148makkou様
ありがとうございます。
だから期待はしちゃダ(ry
イリュージョンからは早めに抜け出さないと
エライことになりますよ(w
>>149名無飼育さん様
胸キュン(●´ー`●)ありがとう。
それはそうと胸キュンって言葉誰が考えたんだろ、気になります(w
>>150名無し読書様
98!くっそぉ、あと2キューンだったのに(爆
でもやった、金欠なので臨時収入嬉しいです。
明日はいつものもやしラーメンに卵も入れられそうです(w
- 169 名前:178 投稿日:2004/01/15(木) 07:04
- 食べさせようとしている・・・4年前の・・・食べさせようとしている・・・
(((( ;゚Д゚))))
にしてもどんな言い訳したんだろう?気になる
あと無言で結ぶとこちょっと見てみたいかも
食べ物関係あるのかなーとか思ってたわけです<予想
- 170 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/15(木) 10:30
- はじめまして。
一気に読みました。おもしろすぎです!
作者様はいったい何者ですか…ほんと最高です。
これからも楽しみにしています。
ビスコ坊やってなんですか?(常識だったらスミマセン)
- 171 名前:つみ 投稿日:2004/01/15(木) 15:56
- 甘くなってますね〜あやみきは!
微妙に田亀も進行中でうれしいです。
この矢口さんの専門分野はいったい・・・?
次回もまってます!
- 172 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/15(木) 17:23
- どんな言い訳したのさ、あやや…(w
みんな信じちゃってるし(ww
まぁあの人たちみんな(ry
ていうか矢口さんの講義受けたいわ(爆
それじゃ次回も楽しみにしてま〜す^ ^
- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/15(木) 21:50
- ドキドキしすぎちゃって…
たまらない、たまらないよぅ!!
堪える必要なんてないよ、美貴たん!!
もう、いくとこまでいっちまえ!!
- 174 名前:名無しビスコ坊や 投稿日:2004/01/17(土) 22:20
- >>170
ググろうよ(w
ttp://www.laku2.com/bisco/knowledge/main.html
- 175 名前:MOMO 投稿日:2004/01/18(日) 01:55
- 赤版でくだらない小説を書いてます。MOMOです。
初めて読みました。衝撃でした。笑いとちょっぴり切ない愛の融合。
最初は笑って、あとは泣けてきました。
美貴が切ない。せつなすぎるよ〜。
がんばれミキティ。眉毛を全部ぬいてやれ〜。
- 176 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:43
- ―――
「次の回、亀…藤本ちゃんからだよ」
「知ってますぅ」
私――新垣里沙の親切心を、クラスメートの藤本絵里は
今日もお決まりの膨れっ面ではね除ける。
正直カワイイので、アヒルのように尖る唇を洗濯バサミで
挟んでやりたくなんか絶対にならないけれど、たまには
「え?ホント?新垣さんありがとう。絵里ったらすっかり忘れリンコ☆」
と舌を出して媚びるように言ってくれてもいいんじゃなかろうか。
なーんて、思うだけで実際にやられたら間違いなくひくけどね。
「か…藤本ちゃんが出塁さえしてくれれば、
次のニィが必ずマユゲでホームラン打ってホームに帰してあげるからね」
「…新垣さんに帰されるぐらいなら自分で帰りますぅ」
よし。成功だ。
この藤本絵里という女は、普段はのほほんとして頼りないのに
運動神経はそれなりに優れている。足も速いし、腕力と腹筋はないが
本気になって腰をひねれば『必殺クネクネスウィング』で
ゴジラ松井なみのホームランをかっ飛ばすことも夢じゃない。
他の子にはそうでもないのに、なぜか私に対しては負けず嫌い精神を
剥き出しにしてくる彼女を挑発して未知の力を引き出してあげるなんて
里沙ったらなんていい子なんだろう。フフフン♪
- 177 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:44
- 4限目、グラウンドで体育の時間。
私たちのチームは今守りだが、人数の調整のために私とK…藤本ちゃんは
ベンチで待機中だ。
「あ、そうだ。昨日田中ちゃん沈んでたニィよ。
『リンゴ病の絵里を病院に連れてこうとしたら怒られた』って」
「っ…」
「リンゴ病ってのはちょっとありえないけど、田中ちゃんは藤本ちゃんのことを
心配して勘違いしちゃったんだから、はやく謝って仲直りするニィ」
「………うん」
おや、珍しく聞き分けがいい。
こりゃもーすぐ雪でも降り出すんじゃないかニィ?
「あ、のね……今朝、れいなが家に来てくれたみたいで…」
「みたい?会ってないニィ?」
「うん。家の前にいたらしいんだけど、火の用心から帰ってきた
美貴さんたちが中に入れようとしたら帰っちゃったって」
「タンマ」
『火の用心から帰ってきた美貴さんたち』ってワケわかんないニィ。
っていうか美貴さんってあの人ニィ?あの、ニィが誤ってLOVEマシーンを喰らわせた…
「あ、えっと、昨夜ね、美貴さんと日曜から家に下宿してる松浦さんが
夕飯帰りに駅前通ったら火の用心してる人たちに手伝いを頼まれたらしくて、
その人たちと一緒に柏木鳴らしながら朝まで歩いてたんだって」
「………」
- 178 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:45
- ニィ?おかしいニィね。昨夜ニィは遅くまでロイヤルなミルクティー片手に
部屋でマッタリングしてたけど『火の用心、カンカン、マッチ1本火事の元』なんて
聞こえなかったニィ。それに平日の夜中にそんなことしたら
『うるさい寝させ!明日遅刻したらどーしてくれんねん!』って苦情がくるんじゃないかニィ?
「美貴さんって偉いよね。こんな寒い時期に1晩中外歩き回るなんて
頼まれても私だったらきっと断っちゃうのに。
松浦さんもね、明日学校あるから無理って思ったらしいんだけど
美貴さんが『美貴はやるよ、この町の安全のためだからさ。亜弥ちゃんは先帰って
このことなち姉に伝えといて』って言ったの聞いて私も頑張るって思い直したんだって」
「………」
ニィニィ、ますますおかしいニィ。
美貴さんって…そんなこと言いそうなキャラじゃなかったニィよ。
ニィと田中ちゃんにいきなり上から怒鳴ってきたし、目つきも凶悪だったニィ。
おまけに心底楽しそうに妹のスカートを捲るエロエロ仮面でもあったし。
「最初は怖かったけど、ホントはすっごく優しいし。
私がね、面白いことするとお姉ちゃんはシラけた顔するけど
美貴さんは大笑いしてくれるの。『もっかいやって!』って。
でもそう言われると、恥ずかしくてできないんだけど……」
「………」
あれか、あのワケわかんないカクカク芸か。
あんなんで大笑いなんて、なるほど優しい人なのかもしれないニィ。
でも………
- 179 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:46
- 「だからといって、ニィの貞操をあの人に捧げるなんてごめんだニィ…」
「え?テイソウ?」
「い、いや、なんでもないニィ…」
「あ!そうだ!新垣さんこないだ美貴さんに竹刀投げつけたよね。
私まだ怒ってるんだよ!」
「チィッ!すっかり忘れてるかと思ったら…、でも!
あれは藤本ちゃんを助けようと思ってしたことだニィ!」
それが間違ってニィの操を危険に晒すことになってしまうなんて。
ニィったらなんて可哀想なの。これぞまさに薄幸の美少女・里沙って感じね。
「それは…そうだけど…でも暴力はよくないもん!」
「ぐ…」
「しかもあの日、美貴さん連絡もなしに朝まで帰ってこなくて
どっかで倒れてるんじゃないかってすごく心配したんだから!」
「ニィ!?帰ってこなかった?!
外出させちゃだめって言ったのに、外に出したニィ!?」
「…だって……止めたんだけど…頭大丈夫だし、新垣さん見つけたら
ひっこ抜いてやるって言って……」
ヒッ、ひっこ抜く?なんて物騒な…。
よかった、あの日早々と家に帰ってて。もし見つかってたら
ひっこ抜くどころかひっつかれていただろう。危ない危ない。
「ちゃんと謝ったほうがいいよ、なるべくはやく」
「ニィ…来週……あたりに謝るニィ」
今すぐには謝れないけど、LOVEマシーンの効力が切れたら
嫌というほど謝ってあげるニィ。
- 180 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:46
- 「それじゃ遅いよぉ。新垣さん、いっつも偉そうに
塾長だとか言ってるクセに、すぐに人に謝ることもできないの?」
「んなニィ!?偉そうとはなんだニィ!
藤本ちゃんはニィが美貴さんとかいう人にイタダカレちゃってもいいニィ?!
ニィのことを『お義姉さん』って呼ぶことになってもいいニィか?!」
ニィは嫌ニィ!ニィはもっと優しい目の人がタイプだし!
藤本里沙だなんてっ…妙にハマってて違和感ないじゃないの!!
だめ!新垣じゃなきゃ、『ニィ』って言ってられなくなっちゃう!
「…ほぇ?なんの話?」
「だぁーからニィが今その人に会っちゃったら!………い、いや、な、なんでもないニィ」
おっとっと、藤本ちゃんがあまりにもつっかかってくるから口が滑った。
マユゲで固く閉じておかなきゃ。
「あー…なんか今誤魔化したぁ」
「誤魔化してないニィ!…あ!チェンジみたいニィよ!
ブツブツ言ってないでさっさとバッターボックスに逝くニィ!」
「……ブツブツなんか言ってないのに…」
「あっそ、なんでもいいから球に当たるようにバッド振るニィよー」
「わかってますぅ!」
ふぅ。肩を怒らせてバッターボックスに向かう背中を見つめてホッと一息。
都合の悪い発言を聞かれてしまったが、一発球でも打てばキレイに忘れてくれるだろう。
ってやだ、今のニィったら少しイヤらしかった。リサリサ反省。
- 181 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:47
- それにしても、藤本ちゃんが優しい顔のほうのお姉ちゃん大好きっ子なのは知ってたけど、
あの強面のほうのお姉さんのことも大好きなんだねぇ。
妹にあんなに想われてるなんて、ちょっと強面さんが羨ましいニィ。
ニィにも妹がいるけど、この前『今時豆なんてやってらんねーよ!』って叫んで
居間の障子を蹴破って大豆片手に家を飛び出して行ったきり帰ってこない。
どこでなにしてるのやら……豆子、はやく帰っておいで。
障子なら、お姉ちゃんが張り替えておいたから。
「かっ飛ばせぇ〜、ふっじもとぉ」
守備を終え、私の後ろに座った子が期待の篭っていない声援を送る。
その声にハッと我に返ると、藤本ちゃんは内股でバッドを構えてクネクネしていた。
あれじゃあ期待しろというほうが無理だ。
だけど、信じてるニィ。打て!打つんだ藤本絵里ぃ!!
クネッ ブゥン ポクッ
「あちゃー、やっぱだめかぁ」
「シッ!まだわかんないニィィ!!」
- 182 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:48
- 松井のようにアーネスト・ホーストのローキックとほぼ同じ衝撃力を持つには程遠いが、
藤本ちゃんのスーパースローな“クネクネスウィング”は
確実に情けない音で球を捉え、空高く打ち上げた。
高さだけで距離はなく、まるで打った藤本ちゃんのようにのんびり空を舞う球が
地上に落ちてくるのを今か今かと待ちうけている相手チーム。
しかし、不思議と球はフヨフヨナヨナヨと宙に浮いていて
一向に落ちてくる気配がない。それどころか――――
「……え、嘘ぉ……」
ひゅるりと吹いた風に乗って、学校の敷地外へ飛んでいってしまった。
「す、すごぉおおおい!藤本さんすごい!!」
「…フッ、当然の結果ニィ」
四方八方から湧き上がる驚嘆の声。
内心かなり動揺しながらもニヒルに呟いて藤本ちゃんを見ると、
眩しいくらいに輝く笑顔で3塁ベースを踏んでいるところだった。
- 183 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:49
- 『絵里、かっこよか…』
『うぎゃっ!?』
ニィん?
突然、左右のマユゲイヤー(半径2キロ以内まで受信可)に遠方からの声が届く。
左の校舎側から届いた聞き覚えのある声に
マユゲアイ(裸族なみの視力)を向けると、窓にへばりついて
藤本ちゃんの雄姿にウットリ見惚れている田中ちゃんが見えた。
もう、授業中は黒板見なさいっていつも言ってるのニィ。
困った子だワ。
そして右の、さきほど球が消えていった側から聞こえた短い悲鳴。
おそらく女性のものだろうが、さすがのマユゲアイも透視はできないので
なにがあったのかはわからない。
ただ、なーんか嫌な予感がする。
不透明だけど、とんでもなく、恐ろしいほど嫌な予感が。
- 184 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:50
- 「新垣さぁーん!ホラ、言った通り自分で帰ってきたよ!」
背中に走る悪寒に震えていると、藤本ちゃんが初めてのおつかいが成功した
子供のような腰振りで帰ってきた。
「おー、お帰りニィ」
「…なにそれ、もっと他に言葉ないの?」
プッ。そんな一瞬で膨れるなんて、ホントお子ちゃまだニェ。
今度ファミレスでお子様ランチ奢ってあげよう。
「ニィニィ、見直したニィ。やれば出来る子ニィね、藤本ちゃんは。
あそこ見える?田中ちゃんも藤本ちゃんのミラクルホームランに惚れ惚れしてるニィよ」
「えっ?…れいな?え…?どこどこ?」
「だからあそこの田中ちゃんの教室のぉー…ニァ!隠れた!」
「えぇ!?なんで?!なんで隠れるのれいなぁ!」
『ヤバッ!絵里見てたの塾長に気づかれとった!』
『あ?田中ぁ、誰見てたって?』
『ぬぁ?え、ちがっ…誰も見てません、すいません』
『チッ、嘘つけこのとんこつラーメン!!
さっきからトカゲみてーに窓にへばりついてただろーが!』
『んなっ!誰がとんこつラーメンと?!
たしかにラーメンといえばとんこつ、とんこつといえばコラーゲンやばってんが、
れいなには『田中麗奈(本名)』っちゅうちゃんとした名前があるんったい!
大体人が謝ってるのに、そげん頭ごなしに怒らんごとてもよかやなかとか!こん味噌ラーメン!』
「…あちゃーケンカになっちゃったニィ」
「うーん…あ、あれ、立ってるのれいな?
どうしたんだろ?なんか怒ってる?…っ…もしかして私のこと…」
「違う違う」
- 185 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:50
- 『味噌ラーメンぅ?お、お前なぜオレが味噌ラーメン派だとっ?!』
『フン。そん寂しか頭とブヨブヨの体見ればわかると!』
おぉ、田中ちゃん。こないだニィが教えたことちゃんと覚えてたんだね。
こないだテレビでやってたんだけど、味噌ラーメンは寒いとこで生まれた
ラーメンなので、体を温めるためにスープにラードが大量に入れられていて
カロリーもラーメンの中では1番高い。
だから味噌ラーメンばっか食べる人は太るついでに油ぎって禿げるそうだ。
ホンマかいな。
ついにラーメンまで禿げの原因にされるなんて、悲しい時代ニィね。
『くぅぅー…負けた、負けたぞ田中霊拿』
『ん。わかればよか…って待て!漢字がじぇんじぇん違う!』
『うるせぇ!中学生のクセに名前2つ持ってるなんて生意気なんだよバーカ!』
『あぁん!?ゴルァおっしゃん表に出ろ!拳で決着つけようやなかか!』
『望むところだ!ただしオレが勝ったら今度2人っきりで
ラーメンマンがモンゴルマンになるまでの軌跡を切々と語ってやるからな!』
『いらん!れいなはロビンマスクのが好いとぉ!』
ロビンか〜ロビンいいよねぇ。でもニィは超人強度が100万パワーもあるのに
ヤラレキャラで、性格も最悪なカナディアンマンのが好きだなぁ。
どっかの元首相以上に強烈な失言をかますとこなんて最高だニィ。
彼が干乾びてしまったときは、ショックでマユゲが枝毛になったっけ。
「れいな……どっか行っちゃった……そんなに怒ってるんだ、私のこと…」
「だから違うってば、よしよし」
- 186 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:51
- 「つーか『美来斗利偉拉麺男』を『ビクトリーラーメンマン』って読むこと自体無理があると!」
「んだとぉ!世界一素晴らしいあて字じゃないか!」
勘違いで沈み込む藤本ちゃんを肩を優しく撫でていると、
田中ちゃんと小太りな先生が火花を散らしながらグラウンドに出てきた。
「…ラーメンマン?」
「ね、どう見ても藤本ちゃんに怒ってるんじゃないでしょ?」
「でも、私のことラーメンマンって言ってるのかも…」
「だあ!んなワケないニィ!
もー面倒くさい!田中ちゃん!ケンカなんかやめてさっさと藤本ちゃんと仲直りして!!」
「あぁ?…じゅっ、塾長!?えええ絵里ぃぃ!?どうしてここに?!」
「体育してたんだからいて当たり前ニィ!ってかさっきずっと見てたでしょーが!」
「み、見てましぇんとよぉ」
そんな赤い顔で否定しても全く説得力がないニィ!
ってそんな照れてる暇があったら、会わせる顔がないのかニィの隣で俯いて
黒雲を背負ってる藤本ちゃんをはやくどうにかして欲しい。
「田中ぁ、なにくっちゃべってんだ!こないならこっちから逝くぞ!
くらえ!闘龍極意ネコジャラシ!!」
「ぐっ、負けるかぁ!ロビン・スペシャル!」
あぁもう!先生も大人なんだから
そんな本気になって田中ちゃんとケンカしてんじゃないニィ!
- 187 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:52
- 「れいな、やっぱり怒ってる……ぐすっ…」
「だぁーかぁーらぁー!」
面倒くさい邪魔くさい辛気くさい。ニィには強気なクセによぉ。
こうなったらニィが先生の気を引いて戦いをやめさせるしかないニィ!
「中国4000年の伝統ラーメンマン。
私はその昔、味噌ラーメンだった。
小さいころ私はよくいじめられ、
味噌っかすにされたものよ。
だがその苦難の子供時代が私の精神を鍛えてくれたのだ」
「ハッ!?そ、その歌はラーメンマンのテーマ『カンフーファイター』!!」
「ん?どこが歌と?語ってるだけやん。それに味噌ラーメンは日本のもんやけん
中国にはなかんやなかと?」
「バカもん!この歌はまずはじめにセリフがあんだよ!
つーか細かいこと気にしてないでお前も歌え!」
「知らんのに歌えるか!」
「えぇい!なら黙ってオレの美声を聞いてやがれ!」
よし、喰い付いたニィ!
ニィの策にまんまと引っ掛かった先生は、ジョン・健・ヌッツォのように
声をお腹から出してニィと一緒に歌い始める。
野球の試合はとっくに中断されていて、私と先生の野外ライブは始まった。
- 188 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:52
- 「「勝負は最後は技ではない。精神だ、心だ。
何事も強くなりたかったら、孤独に耐えて心を磨け。
とあー」」
2番のはじめのセリフに突入したところで、先生が夢中になっているのを確認し、
憤然としている田中ちゃんにマユゲで合図を送る。
『は・や・く、ブ・ラ・ッ・ク・エ・リ・を・な・ん・と・か・し・ろ』
『り・ょ・う・か・い』
田中ちゃんはなぜかそれに尻文字で応えると
ぎこちない足取りで藤本ちゃんに歩み寄り、そぉっと俯く顔を覗き込んだ。
「絵里。昨日は、ごめん」
「…っ…く、ぅっく…」
「なに泣いとぉ?」
「だっ、て…れ、なっ……が…」
「ごめんなさい」
「っ…っ…」
「喋らんでよか。今日は泣いても
明日笑ってくれれば、れいなはそれでよかとよ」
「ぅ…っ…うんっ、ごめっ…」
親指で涙を拭われて、藤本ちゃんは目の前の小さな肩におでこを預ける。
その背中をぽんぽんと叩いてあげながら、田中ちゃんは
小さくニィに向かってVサインをしてみせた。
- 189 名前:青い春だニィ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:53
-
青春って、素敵だニィ。
あ、そういえば、ニィたちの体育の先生はなにをしてるんだと思ったそこのアナタ。
先生は私、新垣里沙だ――――ったらいいのにね。
- 190 名前:なんじゃこりゃ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:54
- ―――
頭に血が上ってるのがわかる。
おかしいな、逆立ちした覚えはないのに。
目を開けると緑色の小さな葉っぱが美貴の顔をくすぐっていて
バンザイしてる両手は黒い土に突っ込んでいた。
「…な……んで…っつ!」
目で確認できないけれど、宙に浮いているだろう足を
降ろそうと必死にもがくと額に鋭い痛みが走る。
なんだ?なんだ?なにが起こった?
美貴はどういう状況にいるワケ?どこよここ?
痛いんだけど、落ち着いてきたら額だけじゃなく肩とかも痛いんだけど。
もしかして…コケた?
コケて舗道に植えてある小さい木みたいなのに突っ込んだ?
ってなんでコケんのさ。美貴がどんだけドジでも
そんな派手に転ぶにはなんかしらの理由があるはずでしょ、なきゃおかしいでしょ。
歩いてて転んでこうなるって普通にありえないし。
ってことは自転車だな。自転車、チャリ、バイセコー、けった、けったマシーン。
ん?あ、そーじゃん、美貴は大学を飛び出して
自転車に乗ったんだよ。それでえーと………
「・・・たん?」
「ぅあ?」
- 191 名前:なんじゃこりゃ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:54
- どこから、たぶん足のほうから、あの甘〜い声が聞こえる。
と、思うといきなり足が誰かの腕に掴まれて、腰から下のバランスが一気に崩れた。
「えい!」
「う、ぐ、わあああ!?」
ガサガサガサボキボキッという音とともに、上半身を針で
突かれてるような痛み。葉と細い枝に顔をバシバシ叩かれて
抜け出した先に見えたのは、ピンク色のパンツが眩しいホワイトピーチパラダイス。
「おぉぉ…」
「ぇ…ッキャ!たんのエッチ!」
「…のぉぉ」
残念。……って違う!全然残念じゃない!
なに考えてんだ美貴の変態!
「もぉ、たんスケベ親父みたいだったぁ…って顔傷だらけだよ!大丈夫?」
「うーん…たぶん」
「痛くない?土とかついてるし、はやく拭いて消毒したほうがいいよ。
私マキロン持ってるからそこの公園で手当てしていい?」
「…うん」
引っぱり出されたままコンクリートの上に転がってる美貴を
亜弥ちゃんは揺らめくスカートをおさえつつ抱き起こしてくれた。
肩に触れられると、痛みに呻く美貴を気遣って腰に手をまわして歩くのを手伝ってくれる。
そして割と広い公園の隅の、小さなベンチに美貴を座らせると
近くの水道でハンカチを濡らして汚れてるらしい顔を丁寧に拭いてマキロンで消毒してくれた。
- 192 名前:なんじゃこりゃ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:55
- 「イッ!…イタタ…」
「ごめんね、もうちょっと我慢してね」
マキロンが傷にしみた美貴に話し掛ける亜弥ちゃんの声は
いつも以上に甘くて、頬を包み込んでくれる手はひどく温かかった。
小さい頃、転んで泣いたとき、今の亜弥ちゃんと同じように美貴を
慰めてくれたお母さんを思い出す。美貴を産んでくれた、本当のお母さん。
大好きだったのに、変わってしまってからは苦手になった。
離婚のときに決めた条件だとかで、月に1度は外で会わなきゃならないのが本当に苦痛なくらい。
場所が焼肉屋じゃなかったら絶対に拒否ってる。
「たん、そんなに痛い?」
「え?…なんで?」
「眉間にシワ寄ってるよ」
「…あー…ちょっとボーッとしただけ」
「そぉ?ならいいけど。でもびっくりしたぁ。
今日は頑張って道覚えたからたんに迷惑かけないですむぞぉって思ったら
道端にたんの足が生えてるんだもん」
「……足だけで…よく美貴だってわかったね…」
「そりゃわかるよぉ。たんの匂いしたもん」
「……」
匂いって、足の?それって臭いんじゃ…
- 193 名前:なんじゃこりゃ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:55
- 「たんのねぇ、サッパリしてるんだけど甘くってぇ
ちょっと親父っぽいけどしっかりしてて優しくて
ワイルドなお肉ぅって感じの匂い、大好き」
いや、わかんないから。その解説じゃピンとこないから。
サッパリして甘い肉って牛のどこだよ。
…って、今なんか最後にとんでもない言葉が聞こえたような…
「大好きだからぁ、ちょっと嗅がせてね?」
「へ?…うぁっ…」
わああ。
いいとかだめとか言う前に
頬にあった手が頭に滑って、肩に抱き寄せられる。
キャー、こここ、こ、ここ外なのに、公園なのに。あ、公園はいいのか?
やややや、よくないよくない、まだ明るいじゃん。
健全な遊びをするとこだよここは、今んとこ。
チビッコに見られたら大変…と、美貴は焦って公園の中を見渡す。
よかった、誰もいない。
でも下校時刻過ぎてんならいつ誰が来てもおかしくない。
離れないと、はやく離れないと。
- 194 名前:なんじゃこりゃ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:56
- 「………」
やっぱりね。そんなことだと思ったよイリュージョン。
つーか肩もかよ。ありえねぇよ。
どんだけアヤンプイプイすりゃ気がすむのさ。
「たーん、じっとしててね」
「ぇ?…んがぁ!」
ひゃああ。
首にかかる髪を左右にどかされて、うなじに衝撃。
くんくん、くんくん。
こいつ!美貴のうなじの匂い嗅いでやがる!!
鼻が!擦り寄ってくる鼻の頭がくすぐったい!身を捩りたいのに捩れないし!
いつの間にか美貴の手は亜弥ちゃんの腕をきゅっと掴んでるし!
これじゃもっと嗅いでって言ってるようなもんじゃん!!
「うぁ…ぁー…やめっ…ぅ」
「んー?やだ?」
「やだっていうか、くすぐったくて死ぬぅ…」
「ふぇ?!死んじゃだめだよぉ!ミキたんしっかりして!」
「あぐぅ…」
首の骨なくなったっぽいし、腰も抜けたっぽい。
ついでに脳味噌も溶けたっぽくて、美貴ってばもう人間じゃない。
- 195 名前:なんじゃこりゃ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:57
- 「たん!?は、鼻血が!!」
「うぇー」
中学生男子か美貴は。
口の中に広がる鉄の味。亜弥ちゃんの制服のつかないように
咄嗟に手で鼻をおさえたんだけど、どんどん溢れてくる鼻血は止まらない。
「ホントは座ったほうがいいんだけど……よいっしょ!」
首と背中がふにゃけてる美貴を、亜弥ちゃんはえいと引っ張って
頭を太腿の上に乗せ、ベンチに寝かせた。
とりあえずさっき顔の傷を拭いてたハンカチを美貴に持たせて
鞄からティッシュを取り出す。
このハンカチ…結構かわいいのに…すっかり美貴の血で汚れちゃった。
ごめんね亜弥ちゃん。でも鼻血が出たのは、あんたのせいだよ亜弥ちゃん。
「あーいっぱい出てるねぇ。ティッシュ詰めるよ?おりゃっ!
っていうかミキたん顔赤いよぉ、おでこ冷やしたほうがいいかなぁ?
ちょっと前髪捲るねぇー…………っひぁああ!!!」
手際よく処置を終えて、額にかかる前髪を撫でた亜弥ちゃんが
驚きというか、怖いもんでも見たような目で悲鳴を上げた。
…広すぎたのかな。ってか広いくらいで叫ぶなんてひどくない?
おでこ広いのは美貴だけじゃないよ?たぶん世界の人口の3分の1は広いよ?
「ひょーがないひゃん、うまれふきなんらから」
(訳:しょーがないじゃん、生まれつきなんだから)
「ぁ…ぁ…」
「あやひゃん?」
(訳:亜弥ちゃん?)
- 196 名前:なんじゃこりゃ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:58
- 「が、顔拓?ハンコ?たん、おでこになにしたのぉ?
なんか…人の顔が刻み込まれてるよぉ!」
「ハ?」
あら?どうやら広さに驚いたんじゃないらしい。
そういやそっか、亜弥ちゃんにおでこ見られるの初めてじゃないよね。
前ちゅうされたような気もするし、一緒にお風呂も入ったしね。
って待って。美貴のおでこに人の顔?
「られ、られのかお?」
(訳:誰?誰の顔?)
「え…絵里ちゃん…?に、似てるのと…あともう1人…」
「ハァ!?ペリィ?!っれかふらちゅもあんのぉ!?」
(訳:ハァ!?絵里ぃ?!ってか2つもあんのぉ!?)
「…うん。見てみる?鏡あるから」
「みへれ」
(訳:見せて)
即答で頼むと、亜弥ちゃんは携帯用にしては大きめの鏡を
美貴の前にさっと出してくれた。
すると、そこに映ったのは――――――
(*^ー^・e・)
「なんりゃこりゃああああああー!!!!!!」
(訳:なんじゃこりゃああああああー!!!!!!)
- 197 名前:なんじゃこりゃ。 投稿日:2004/01/26(月) 04:58
-
- 198 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/01/26(月) 05:00
- ゜ ゜.・∴...( *´ー`)゜ ゜.・∴... デバンガネーベサ
_| ̄|○ゴメンナサイ
レス、ありがとうございます。
>>169178様
ノノ*^ー^)っ○<・・・・・(無言の圧力)
冷凍してあったんで、たぶん大丈夫でしょう(w
言い訳、たいしたものではなかったんですが
おかげで妹の尊敬を勝ち取れました(あややグッジョブ
題名も題名ですしね(w<予想
>>170名無し読者様
はじめまして、ありがとうございます。
作者はただのバカ者です(爆
ビスコ坊や、マユゲを出すためだけの登場だったので
説明をはしょっちゃいましてスミマセン。
顔も見れますので、時間がありましたら是非>>174を
ご覧になってください。
…そういえば私ビスコ食べたことないなぁ(エ
>>171つみ様
甘くなってますか?よかった(w
矢口さんの専門は(〜^◇^)<キャハハ!全宇宙!
- 199 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/01/26(月) 05:01
- >>172名も無き読者様
こんな言い訳でした(w
藤本家はミキティ以外信じて騙されるタイプです。
決してアホじゃ(ry
(〜^◇^)<キャハハ!来いよ!
川;VvV)<いや、やめといたほうがいいよ絶対。
>>173名無し飼育様
川*VvV)<え、いいの?いっていいの?
待て待てミキたん(w
でもそのうち……いってしまうのでしょうか(ww
>>174名無しビスコ坊や様
わざわざありがとうございます。
>>175MOMO様
ありがとうございます。
ショッ、衝撃ですか。たしかにこのアホさは
間違いなく脳に悪影響ですんで(w
こんなアホしかない話で泣けるなんてお優しいですね。
でも抜いてやれはちょっとヒドイかな(w
- 200 名前:178 投稿日:2004/01/26(月) 08:23
- (´-(`)モグモグ<お、うま・・・
Σ(´-`;)<・・・
(´-`;)<大丈夫、きっと大丈夫!
おお、そんな言い訳でしたか (グッジョブ
頭の中もシンプルが一番?!
最初に記憶が飛ぶ前に食べた(のか?)ものも
僕が勘違いするのに十分な条件だったり<予想
で、
なんじゃそれはああああああー!!!!!!
- 201 名前:つみ 投稿日:2004/01/26(月) 15:40
- なっちの卒業で悲しんで・・
そして笑わさせていただきました!
おもしろすぎますっ!
なにげに田中さんのバトルにも笑わさせていただきました。
ホワイトピーチパラダイス・・・
ああホワイトピーチパラダイス・・・
ホワイトピーチパラダイス・・・
- 202 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/26(月) 16:17
- なるほろ。。。
こんな言い訳に騙されてるんですね、あのア…お嬢さんたちは。。。
ていうかガキさん、詳しすぎ…
今回の先生もそうですが、娘。以外のオリジナルキャラも作者サマの
魅力の一つであります、ハイ。
んでやっぱり、
なんじゃぁそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!??????
- 203 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:06
- ―――
「2人とも明日は古典の小テストだったよね?」
「はぁい、先週先生がくれたゴロゴのおかげでバッチリですぅ」
「ホント?じゃあ“あかず”は?」
「あかずの扉じゃ“物足らない”。赤ずきん着ていても“いやにならない”」
「おぉー正解。紺ちゃん、“こころにくし”は?」
「所ジョージの憎しみ、なぜか“奥ゆかしい”。完璧です」
「すごい!ホント完璧じゃん。
2人とも古語の意味覚えるの苦手なのによく頑張ったね」
亜弥ちゃんの献身的な介護のおかげで鼻血が止まった美貴は、一旦家に帰った後
週1で家庭教師をしてる紺ちゃん――紺野あさ美の家に来ていた。
ここにはもう1人、紺ちゃんの親友のまこっちゃん――小川麻琴もいて
美貴は2人に勉強を教えてる。
「えへへ、こうやって楽しく覚えるのは好きなんでぇ売り文句に書いてある通り
5日で全部覚えちゃいましたぁ。これの英語バージョンもあればいいのに。ね、あさ美ちゃん」
「うん。そうすれば私もきっと英語が好きになってただろうね。
けど……下ネタが多いのはちょっと困ります…あと“こころ”がつくものは全て所ジョージ頼りなのも…」
「あーわかる。
所ジョージは色々混ざってワケわかんなくなるし
下ネタは……美貴さ、これお風呂で覚えたりしてたんだけど
『さはれ痴漢よ、もう“どうにでもなれ”!』って声に出して読んだら
なち姉が包丁持って風呂場にすっ飛んできたし。その後ろでフライパンを構えてた絵里なんか
美貴が無事だってわかった途端安心して泣き出しちゃってさぁ」
- 204 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:06
- 「かわいいですね、妹さん」
「うん。でも宥めてたなち姉にフライパン持ったまま思いっきり抱きついたから
なち姉の腰の骨にフライパンがクリーンヒットしてねぇ…ゴーンって音が聞こえたよ」
「うへっ、痛そう」
「愛はときに凶器なのですね。完璧です」
「そうそう、2人も気をつけなね」
「はぁい、…愛は凶器…っと」
いやいやまこっちゃん、それは別にノートに書き留めなくても…。
この通り、教えてるっていってもこんな感じで、2人ともすごく優秀だから、
美貴が教えられることなんて、覚えやすい参考書のことぐらい。
だから美貴に教わるぐらいなら、どこかレベルの高い塾に行ったほうがいいと
思うんだけど、それは紺ちゃん曰く、
『塾で1対40の授業を受けるなんて、たとえ内容が面白く、より受験に必要なもの
であったとしても学校と変わらないじゃないですか』…だそうで。
塾っ子だった美貴としては、たとえ形式が学校と同じでも
教わることは学校の何万倍も面白かったから、その意見はどうかと思うんだけど…。
それにほら、授業とは別に1対1で質問できる巡回個別指導だってあるしさ、
まぁそれも混んでるとすぐに講師がつかまんなかったりするか。
- 205 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:07
- とにかくそんなこんなで紺ちゃんは塾に通うのを嫌がって、それならせめて家庭教師をという
親の気持ちに、仲良しのまこっちゃんを巻き込んで応え、
何人もの家庭教師を家に上げては片っ端から排出してきた。
…そう、排出。
これは美貴もお世話になった家庭教師の斡旋所で伝説として語り継がれてるんだけど。
さっきも言ったように2人とも、特に紺ちゃんは英語さえなんとかすれば
世界大学ランキング1位のマサチューセッツ工科大学も夢じゃないってぐらい
頭がいいから、当然斡旋所は日本一の東京大学に通う学生を紺野家へ送り込んだ。
しかし。
送れど送れど返品されて帰ってきた彼らは皆一様に『まだまだだった、オレはまだまだだった…』
と、東大に入って少なからず天狗になっていた己を責め、自分の勉強をするために
斡旋所から姿を消していった。
自信を持って送り出した優秀な人材が悉く打ちのめされて、斡旋所は意地になったんだと思う。
東大が全滅した後、早稲田やら慶応やらお茶の水やら上智やら、
ときには1度に10人――つまり1対5の勝負に出たこともあった。
- 206 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:07
- それでもやっぱりだめで、最初の東大の敗北から3ヶ月が過ぎた頃、
とうとう美貴の番がやってきた。ひぇぇ。
やだったよ、嫌に決まってんじゃん。
そりゃあ美貴は負けてもさ、自分が賢いなんて思ってないから
ショックでガリ勉にはなんないだろうけど。
斡旋所で飛び回ってた紺ちゃんの噂は、それはそれは恐ろしいものだったから。
今になると、大分脚色されてたことがわかるし(あれは軽い都市伝説だった・・・)
紺ちゃんもまこっちゃんもいい子だから、知り合えてすごく嬉しいんだけど。
ものすごい腰の低い紺ちゃんのお母さんに案内されて
初めて部屋に入ったときのことは、今でもよく覚えてる。
『あさ美ー、家庭教師の先生いらっしゃっ…いやぁあああ!!?』
『…っ、うるさいなぁ、いきなり大声出さないでよマミー』
『だってあなた!床が汚れるじゃないっ!!』
『大丈夫だよ、ビニールシート敷いてるもん。ね、ピーマコ』
『あぁーはいー、終わったら後で片付けますんでぇー』
『てかマミーはさっさと出てって、後ろの先生入れなくて困ってるよ』
『あ!先生すいません!こんな子ですけど
どうかよろしくお願いします!この通りです!!』
『……ハ、ハイ…』
帰りたかった。
- 207 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:07
- お母さんが出ていって美貴の視界に飛び込んできたのは、黒が赤だったら猟奇殺人の現場跡だって
言われてもなんの疑いもなく信じてしまいそうな凄絶な光景。
こんな中に入りたくない。マジで勘弁してほしい。
『お初にお目にかかります、紺野あさ美です』
『…あ、は、初めまして。藤も……そ………………………美子です』
ハァ?あんた誰よ?
ミコって、フジモソミコって誰だよ!!
…………だって、怖かったんだもん。
討ち入りにあったみたいに床や壁、天井に真っ黒い液体が飛び散りまくってる
部屋の真ん中で、書道の筆を持ってニヤリと微笑んでいる柔らかそうなほっぺの女の子に
底知れない危険を察知した美貴は、咄嗟に偽名を名乗ってた。
『藤モソさん?ってことは藤モソ先生ですね。
よろしくお願いしまぁーす、小川麻琴でーす』
『よ、よろしく…』
紺ちゃんの隣で顔の所々を黒く汚し、口をほげーっと開いて人懐っこい笑顔を浮かべる
女の子には危険を感じなかったけど、美貴の声は震えた。
『では藤モソ先生、初日から勉強というのもなんですし
今日のところは私たちと一緒に遊びませんか?』
『え…?』
- 208 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:08
- いやいやいやいや、初日だろうがなんだろうが美貴は家庭教師として
来たんだから勉強すりゃいいんじゃないの?
遊ぶくらいなら帰りたいよ。
そんな歪んでたりだらしなかったりするのじゃなく、なち姉と絵里の屈託のない笑顔が見たいよ。
藤本美貴、バイト先でホームシックにかかりました。
『わあーい!藤モソ先生も遊んでくれるんですかぁ!
やったぁー!絶対負けませんよぉ!』
『ハ?負ける?』
『見ればわかると思いますけど、私たち今
“弘法も筆のあやまりを正せゲーム”してたんです』
『………』
わかんないし、見てもわかんないし。
つーかそれどいういゲームだよ。弘法がどうのこうのってことわざだっけ?。
『あの目標に筆を投げつけ、より正確に点を打って間違いを正せた人が勝ちです』
『…応天門?』
紺野ちゃんが指した壁には“応天門”と書かれた紙が貼られていた。
…ん?でもよく見ると応天門の“応”の字の点が1個足りない。
あぁ、なるほど。今昔物語で弘法大師が間違えたのもこれだったっけ。
で、そんとき大師がやったみたいに筆投げて書き忘れた点を書けと。
…………………それって、どこが楽しいの?
- 209 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:08
- 『このゲームに勝つ。
すなわちそれは弘法大師――空海に勝つということです』
『え…それは激しく違うような気が……』
弘法大師だって間違い直せたんだから、勝つっていうか同点じゃない?
『そして晴れて私くしは、真言宗の新しい祖として歩み始めるのでしょう。完璧です』
『えぇえ!?お坊さんでもないのにぃ?!』
『お紺さんでいいじゃないですか』
よくないでしょ。坊と紺ってどこもかすってないし。
っていうかゲームする前に自分が勝つこと前提にするな!なにが完璧だ!
その昔“孤高のスナイパー”と呼ばれた美貴の狙撃力、ナメたら痛い目にあうぞぉ!
『では藤モソ先生からどうぞ』
『頑張ってくださぁーい』
『フン、やってやろうじゃん!ウルァ!!』
『いいですか、狙うのはこ…っ』
『『…………あ』』
『……………』
悲劇が起きた。殺されると思った。
絶対生きて家には帰れない、なち姉と絵里に2度と会えない。
- 210 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:08
- スナイパーの血が騒いで、手渡された筆を受け取ってすぐに
“応”の字に向かった投げつけたら、最後の念押しの説明をしようと
音もなく目標の傍に移動していた紺ちゃんの左胸に、それは的中してしまった。
『あ………ぇ…えっと…ごめ…』
『あさ美ちゃん!大丈夫?!』
『……ュン……』
『『へ?』』
『…キュン』
『『ハ?』』
怒りで、おかしくなっちゃったのかな?
微かに頬を紅色に染めて汚れた胸元に手をあて俯いていた紺ちゃんは
ゆっくり長い前髪の隙間から大きい目を覗かせると
初恋の乙女のような熱い眼差しで美貴を見つめた。
『……私のハートを………撃ち抜きましたね……』
『ハァ?』
え?ハート?撃ち抜いてないよ、撃ち抜くどころか墨だらけにしちゃったし、
そんなキラキラした目で見られてもドキドキっていうかヒヤヒヤするんだけど。
『むぁあ!!やったぁ!藤モソ先生合格ですよ!
家庭教師認定試験、合格ですぅ!!!』
『えぇえ!?!』
- 211 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:09
- なんで!?ってか認定試験ってなによ?!
聞いてないよそんなの!ゲームだって言ったじゃん!!
『あなたのような人を待っていました。あなたこそ、私とピーマコの家庭教師に相応しい。
失礼なこととは知りつつも騙した無礼をお許しください。
でも先生も私たちに嘘をおつきになられましたから、
お相子ですよね? 藤 “本” 美 “貴” 先 生 』
『んなっ…!?』
『ぬぇー?藤モソミコさんじゃないんですかぁー?
なぁんでそんな嘘つくんですかぁー』
『ア、アハハ……』
ごめんなさい。こっちにも色々思うところがあったもんで。
ってなんで紺ちゃんは美貴の名前知って…
『フフフフフ…ヒ・ミ・ツ』
『……アハハハハ…』
『うー?なぁーに2人見つめあってわらってんですかぁー。
ピーマコも混ぜてよぉー』
本当の恐怖を感じたら人は笑うしかないのだと、美貴はこのとき初めて知った。
『ではお近づきの印に豆乳で乾杯といきましょう』
『ワーイ豆乳ぅー♪』
『ぅぇ…美貴、豆乳はあんまり……』
『乾杯!』
『カンパァーイ♪』
『か、かんぱぁーい…』
- 212 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:09
-
―――あー、懐かしい。
いまだに、なんで紺ちゃんの胸に筆を投げつけたのが合格なのか
サッパリわかんないんだけど
『豆なのか牛乳なのかハッキリしろよ!』と胃に流れ込んでくる豆乳に
心の中でツッコミながら、美貴は晴れて紺ちゃんたちの家庭教師になったんだ。
斡旋所からはミラクル賞だとかで金一封が贈られたし
紺ちゃんのお母さんには泣いて感謝されて時給を多めにしてもらえたから
ラッキーなんだけど、美貴がここに来る度両手を合わせて拝むのだけはやめてほしい。
美貴は地蔵じゃないっつーの。
「先生、この“ファンキーモンキーベイベー”はどう訳したらいいですか?」
「ん?あーっと…“派手なサルの赤ちゃん”でいいんじゃない?」
「フン。サルの赤ちゃんに派手も地味もないだろうに…だから英語は嫌いです!」
「まぁまぁそう言わずに」
「そーだよあさ美ちゃん、サルの赤ちゃんにだって派手顔とか地味顔の子がいるんだよ」
「ケッ、サルのくせに」
「いやいや美貴たちだって元はサルだったじゃん。
サルを悪く言っちゃいけないよ」
「む。さては先生もピーマコもサルの味方ですか、人間の敵ですか、紺野あさ美の敵ですか?」
「「えぇぇ!?めめめ滅相もない!」」
- 213 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:09
- 紺ちゃんの敵だなんて、そんな恐ろしいモンに誰がなるかっ!
美貴とまこっちゃんは膨れっ面で睨んでくる紺ちゃんに必死で首を横に振る。
すると―――
「おや?先生、その彫刻はなんですか?」
「ふぇ…?」
細くなってた目をまん丸にして、紺ちゃんが美貴の顔をガシッと掴んだ。
やあああ!!顔はやめてぇぇぇー!ボディにしてボディにぃぃぃー!!
「あ、ガキさん」
「うぇ?ホントだ、里沙ちゃーん」
「……ハ?」
前髪に手をかけられてヒィィと凍りついてる美貴の晒されたおでこを見て
紺ちゃんがニッコリと微笑む。まこっちゃんまで嬉しそう。
「え?なに?2人とも知り合い?」
「えぇ、幼馴染なんです」
「里沙ちゃんが中学校上がるときに家建てて引越しちゃったんですけど
前はここの隣に住んでたんです。で、その隣は私の家だから
小さいときは毎日3人で遊んでましたぁ」
「へ、へぇ…」
なら2人に頼んでマユゲを呼び出してもらってシメることも可能か…
- 214 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:10
- 「でもなんで里沙ちゃんが先生のおでこに?てかこの合体してる子は誰ですかぁ?」
「んがっ!?合体って言わないでよ!
…なんでかわかんないけど、この子美貴の妹に似てんだから…」
「ほぉぇ!?妹さん?!メチャクチャかわいいじゃないですか!」
「へへへ…まあ、美貴の妹だし」
血は繋がってないけど。
「似てるというか、妹さんなんじゃないですか?
ガキさんと同じクラスですよね?」
「え?なんで知ってんの?」
「前にクラス写真を見せてもらったことがあって、見覚えがあるので」
「や、まぁ一緒だって言ってたけどさぁ
なんで絵里がマユゲなんかと一緒に美貴のおでこに…」
絵里1人なら大歓迎だけど、よりによってマユゲとなんて…。
「それはわかりませんけど、いつからおでこに?」
「あー…それがさ、美貴今日大学抜け出して、自転車でどっかに向かってたのね。
で、中学の近くの道でたぶんコケて木に刺さったんだ」
「「…木に?」」
「うん、しかも逆さまに。
知り合いが通りかかって助けてくれたんだけど
顔が傷だらけだったから手当てしてもらってたら……おでこにこれが…」
(*^ー^・e・)が。
- 215 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:10
- しかも痛み…と亜弥ちゃんのぬくもりで忘れてたけど
自転車なくなっちゃってて、亜弥ちゃんが美貴を見つけたときには近くに
なかったらしいから、たぶんコケたときに飛んでっちゃったんだと思う。
イチキュッパの安物だけどバイト代で買ったマイカーだったのに。
明日から大学どうしよう…。
「転ぶ前はなかったんですかぁ?
「たぶん。あったら気づいてるだろうし」
「うーん……ところでなんで転んだんです?木に刺さるなんて生半可な転倒じゃできないですよ」
「そう、それね。石にでもつまづいたのかなぁ?
なんせ木に刺さって頭に血が上って、おでこも肩も体中痛くて
記憶がハッキリしないんだよねぇ……。
…あ、でも待って、なんか白い丸いものが飛んできたような気が…………」
そうだ。自転車こいでたら空から丸い、丸い球が―――
「先生、大学を出たのは何時頃です?」
「んぇ?えーっと、昼前」
「ということは、おそらくガキさんは4限目の授業中…今日の4限目は
たしか体育だったはずです」
「体育?」
「えぇ。ですから、もし外で球技――野球をしていたとしたら
ガキさん印のボールが飛んできたのも納得です。
マユゲパワーでホームランでも打ったんでしょう」
「なるほど…ってハァア!?納得できるかぁ!」
- 216 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:10
- マユゲってビームだけじゃないんの!?
パワーまであるのか!いらん!!
「ですから、ピッチャーが投げる前に隙をついて
ボールにモコモコペンで顔を描き、マユゲホームランを打ったんですよ。
したらば力の加減を間違えたのかボールが場外まで飛んでいってしまって
先生のおでこに的中したと。
妹さんの顔まで描いたのは、彼女のサービス精神でしょう」
「ほぉほぉ…ってだめよ。やっぱ納得できないし」
そのサービスも有難いんだか余計なんだか。
「えぇーあさ美ちゃんの説明わかりやすかったじゃないですかぁ」
「そういう問題じゃなくて!」
モコモコペンってモコモコしてんでしょ!?
いくら球に勢いがあったからって
こんなクッキリ美貴のおでこに顔を捺印できるワケがない!!
ってか今日びの中学生がモコモコペンなんか持ってんじゃないよ!
それも体育の授業中に!!!
「まあ、ガキさんはそこらへんの中学生とは一味違いますから」
「一味どころか百万味違うよ!
くそぉ!またもやアイツに暴行されるなんて!今度こそ傷害罪で訴えてやる!」
「どぅぇー!?だめだめぇ、里沙ちゃんを犯罪者にしちゃぁ」
「だめじゃなぁーい!監獄にブチ込んだるんじゃああ!」
マットレヤマユゲェー キャーセンセイマッテェー アラセンセイ、ガキサンノオウチシッテルンデスカ?
- 217 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:11
- 「ハッ!知らないじゃん!!」
「ほっ、よかったぁ」
「よかない!2人とも知ってんでしょ!教えてよ!」
教えないと犯人隠匿罪でタイーホだぞ!
「…先生、申し訳ございません。
ガキさんは仲間ですから、仲間を売るようなマネはできません」
「うぃ、私も…」
「っ!?」
…仲間か。なら仕方ない。
よ〜く考えなくても仲間は大事だもんね。
「じゃあ、絵里に聞くよ。
もしかしたら逝かせちゃうかもしんないから、お別れは早めにね」
「…はい」
「えぇぇ!?だからだめですってば!」
「ピーマコ、犯した罪は償わなきゃ」
「ででででもぉ!」
「ごめんね、まこっちゃん」
「どぇぇぇぇぇ」
- 218 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:11
- ―――
「先生、今日もありがとうございました」
「ぐずっ…ぅぇっ…く、ぜんぜぇのバガァ…ぁっ」
「…2人とも、小テスト頑張ってね」
「完璧に頑張ります」
「がんばれまぜんよぉ…」
9時半になって家庭教師が終わり、仏のような顔の紺ちゃんと
ぐずるまこっちゃんに見送られて紺野家をあとにした。
自転車がないから夜風ですっかり冷めた道をマフラーに顔を半分つっこんで歩く。
それでも刺すような空気が中まで入り込んできて5秒に1回はくしゃみが出た。
紺野家は藤本家に近いとこにあって、自転車なら5分もかからないんだけど
歩きだと早足でも10分はかかるかなぁ…くしゅん!
寒いってのに…これも全部マユゲのせいだと思うと憎憎しくて髪が逆立ちそ…ぇっくし!
――カツッ。
と、美貴の脳内でスーパーサイヤ人おっすオラミキティがイメージされたとき
進行方向にある電信柱の影からブーツのかかとの鳴る音とともに細いシルエットが現れた。
「いたいた、たーん」
「…え?」
あ?亜弥ちゃん?
- 219 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:11
- 「よかったぁ、紺野さんのお家見つかんなくてぇ
行き違っちゃってたらどうしようかと思ったぁ」
「…ハ?」
待て待て。1人で勝手に話さないでよワケわかんな…ぃっくし!
「あ、あのね、たんの怪我、まだ痛そうだったし
今夜は冷えるから寒がってるだろうなって思って
なっちさんに紺野さん家の地図描いてもらったの。
でも迷っちゃって…けど、カワイイくしゃみが聞こえたからそれを頼りに歩いてきたのぉ。
これ、毛布にくるまってきたからあったかいよ。早く入って」
「ぐずっ、ぁ…ありがと」
ほああ、天国ぅ。
鬱陶しいだけだと思ってた美貴のくしゃみもたまには役に立つんだぁ。
入ってって言いながら、亜弥ちゃんは体に巻きつけてた毛布を広げて
美貴を抱きしめてくれた。
フワフワの柔らかい毛布&亜弥ちゃんに包まれて
中はまるでこたつみたいにあったかい。芯まで冷えてた体が
どんどん熱を取り戻してく。
- 220 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:12
- 「たん、あったかい?」
「…うん。すごいあったかいよ。
でも危ないじゃん。こんな遅くに1人で歩いたら」
「それはミキたんだってそうでしょぉ?
こぉーんなにカワイイんだもん、誘拐とか心配」
すっと、亜弥ちゃんが真剣な目で言う。
そんな心配初めてされた。なち姉は『変な人が来たら美貴は睨めばいいべ。
ていうか美貴よりなっちのが誘拐されそうだべさ!天使だし!』などと言いやがってくれてるし。
まぁ確かにそうなんだけど、あの人にはごっちんがついてるから大丈夫だろう。
「そだ、電話1回かけたけど通じなかったよ。電源切ってるの?」
「え?ううん、ついてるけど…あー、電池切れだ、ごめん」
「謝んなくていいよぅ。今日大変だったんだし。
早くお家帰ってお風呂入ろ?私も順番後回しにしてもらったから」
「…うん」
また一緒に入るのか。
またあの豊満な胸とご対面か。
………………………………………バンザイ。
「お湯、傷にしみるかなぁ? あ、おでこ大丈夫?」
「…痛みはないよ」
怒りはあるけど。
- 221 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:12
- 「あちゃー、消えてないねぇ」
「…言わないで」
誰よりも消えてほしいと思ってんのは美貴だから。
あちゃーなのは美貴だから。
「…たん」
「ん?」
まただ。美貴のおでこを撫でて眉尻を下げてた亜弥ちゃんがまた真剣な目になった。
けどその視線の行方は、美貴の目じゃなくて。
なんか…鼻?……の下?…らへんをじっと見てる。
どしたの?なんかついてる?まさか鼻毛?
暗いけど顔の距離はすごく近いからもし鼻毛が出てたら丸見えっぽい。
やだ。すごい恥ずかしい、今すぐ処理したい。でも腕は亜弥ちゃんに抱きしめられてて
動かせないし。これじゃ拷問じゃん、どーしよ。ってか人の鼻毛じっと見ないでよ。
見てないで『たん、鼻毛だぁ』って笑って言ってくれればいいじゃん。
なに赤い顔してんの?なんで亜弥ちゃんが赤くなんの?恥ずかしいのはこっちだっつう―――
「…キスしていい?」
「―――んぃ?」
どっかで聞いたことあるセリフ。
あれはたしか、今朝美貴が言ったんだったっけ?
- 222 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:12
- 「ねぇ、キス。していい?」
「…………」
冗談で言ってるんじゃなさそう。
亜弥ちゃんは、美貴がうんって言ったらすぐにキスできるように
首を傾げ鼻先を擦り合わせて返事を待ってる。
どうしよ、なんて答えれば。
「たん、……だめなの?」
「ちがう!」
ホントに、本当に悲しそうに呟くから
思わず美貴は否定していた。
だめじゃないよ。
だめなんかじゃ、ないよ。
美貴だってキスしたい。
亜弥ちゃんとキスしたい。
この気持ちがどこから湧いてくるのかわからないけど
とにかく美貴は、亜弥ちゃんとキスがしたくなった。
「………じゃあ、していい?」
「…うん」
- 223 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:12
- 頷くと、ゆっくりゆっくり、探るように
亜弥ちゃんの唇が美貴に重ねられた。
あまり、自分からキスすることに慣れてないのか
亜弥ちゃんのキスは押しの一手で、吸うことも挟むこともしない。
もどかしい幼いキス。こちらから絡みたい衝動に駆られるも
今朝の濡れた瞳を思い出して踏みとどまった。
「ん…はぁ…」
息苦しくなって1度離れた彼女の背中を柔らかく撫でると
すぐにまた近づいて、軽く触れあったまま吐息交じりの声で囁かれる。
「……たん、朝の続き………して?」
「え……でも…」
「…大丈夫だから。
たんと、ちゃんとしたキス、したいから」
そんなこと言われたら、もう止まれない。
美貴は亜弥ちゃんの背中を電信柱に押しつけると
毛布を頭まで被って深く口づけた。
- 224 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:13
- 「んっ、ふっ……ぁ…んぅ!…」
いつ誰が通りかかるかもわからないのに。
毛布1枚で世界から2人を遮断して。
舌の絡まるちゃんとしたキスの音と
亜弥ちゃんの苦しげで魅惑的な声だけが響く中、
もっともっとって、口づければ口づけるほど
欲する気持ちは溢れ出す。
「ハッ……はぅ………んんん…んん…」
肩に乗っかってる腕がだらりと垂れたと思うと
亜弥ちゃんはぺたりと座りこんだ。
それに合わせて美貴もコンクリートに膝をつき、激しいキスをやめない。
あんなに寒くてクシャミが止まらなかったのに
キスが止まらない毛布の中はじんわり汗ばむほどの熱気がたちこめていて。
自分でも戸惑うぐらい積極的なキスを必死で受けとめてくれる亜弥ちゃん。
そうだ、そうだよ、そういうことじゃん。
答えはこんなに簡単だった。
- 225 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:13
-
キスがしたいと思った。
もっと欲しいと思った。
亜弥ちゃんが愛しいと思った。
心の底から、愛しいと。
- 226 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:13
-
- 227 名前:ミエタキモチ。 投稿日:2004/02/08(日) 14:14
- 地味に更新が遅れてってます、ギョメンナサイ。
利き手の指を痛めましてなっちのアルバムに癒していただきました。
レスありがとうございます。
>>200178様
おぉ、食べたんだ(ww
ま、イザとなったら正露丸がありますから(爆
叫んでくださってアリガd。
これからもシンプルイズベストで頑張りまーす。
>>201つみ様
なっち、頑張ってほしいですね。
田中さんのバトルはアホすぎて消そうかと思ったんですが
そう言っていただけると嬉しいです。アリガ十。
>>202名も無き読者様
ア?まさかアホじゃないですよね(w
ガキさん、実際は世代じゃないから昔のは知らないでしょうね。
私も年をとりました・゜・(ノД`)・゜・
なお、あの先生はもう2度と登場しないと思います(爆
- 228 名前:dada 投稿日:2004/02/08(日) 15:47
- 私もゴロゴを使って、こないだのセンター乗り切りました!
まさかゴロゴが出てくるなんて・・・。
紺野さんと小川さんには、テストでぜひゴロゴパワーで満点をとって貰いたいです。
名無しのЛ さんも使ってたんですか?
最後のあやみきシーン最高です!!
これから、キモチに気づいた藤本さんがどうするのか気になりますね。
- 229 名前:つみ 投稿日:2004/02/08(日) 15:54
- また味のあるキャラがでてきましたね!
おもしろすぎっす!
自分も古文嫌いなんでこれで覚えさせていただきますっ!(w
2人も改めて確認しあいましたね!
- 230 名前:名無し読書 投稿日:2004/02/08(日) 16:18
- ハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!!
>>216の最後の行が妙に面白くて笑いながら見ていたら、
いきなり萌え萌えでドキーリ・・・油断していましたよ。
もうホント大好きですよ作者様。(ポ
- 231 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/08(日) 21:01
- ハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!!
ハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!!
ハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!!
萌え殺されてしまう…
もう…あぁ…あやみきは永遠です。
- 232 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/09(月) 12:23
- 前作同様の完璧さを持ってるようですな、彼女w
>ア?まさかアホじゃないですよね(w
ち、違いますYO!
えーと…あの…ア、アンパンマ…じゃなくて…いやアンポンタ…でもなくて…
だからつまりそのー…
ハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!!(逃)
- 233 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/09(月) 21:56
- ハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!!
なんだけどそのはずなんだけど
(*^ー^・e・)がついてんだよねそのはずですよね
萌えきれなかった自分が憎い
- 234 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:07
- ―――
チュンチュン…チュンチュン…
………ね、眠れなかった。
腕の中の愛しい――と、昨夜ようやく認識した――人のせいで
美貴は一睡もできないまま朝を迎えた。
一晩中寝顔を見ながら髪を撫でてたから目はギンギンするし
腕枕してる右手はたぶん死んでるし。
でも不思議と疲れとかはなくって、頭もスッキリ冴えてる感じ。
「にゃ……た…ぁん…」
ニャターン?
ほっぺたを人差し指でなぞると、愛しい人はその指を食べようと
するみたいに口をパクパクさせる。
その様子が小っちゃい子みたいですごくかわいい。
寝てるのにうにゃうにゃ笑ってるのがたまらなくかわいい。
「亜弥ちゃん、朝だよ」
「むぅ………んにゃ…」
まだ起きないみたい。昨日、寝るの遅かったもんね。
目覚ましも鳴ってないからいっか。
もう少しだけ、こうしていよう。
- 235 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:08
-
◇◇◇
- 236 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:08
-
亜弥ちゃんを電信柱に押しつけて狂ったように唇を貪っていた美貴は
すぐ近くから聞こえた犬の吠える声でようやく我に返った。
むせかえる熱でボーッとする頭を冷やすために毛布から顔を出すと
電信柱にもたれてぐったりしてる亜弥ちゃんの荒い呼吸が
マフラーを通して美貴の喉元に触れる。
亜弥ちゃんは暗い夜道でもわかるくらい赤く染まってて
目を固く閉じたまま肩を揺らして、苦しげに眉を八の字にさせてた。
慌てて抱き寄せたら、ずっと電信柱に押しつけられてたせいで
その背中はひどく冷えてて
毛布で包んでしばらくじっと抱きしめていると
弾んでた呼吸がすぅすぅと穏やかな寝息に変わっていく。…ん?寝息?
わああ、こんな寒いとこで寝たら風邪ひいちゃう。
正直自分とほとんど同じ身長の亜弥ちゃんを背負って、ちゃんと家まで歩けるか不安だったけど
もうすっかり亜弥ちゃんに心奪われまくりな美貴は
背負ったと同時に背中に触れたAMR(Ayaya Makes Revolution)に
ズバッと革命起こされちゃって、仔鹿のように軽快な足取りで無事家に辿り着いた。
- 237 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:09
- 「美貴!まっつーちゃんは高校生なんだから理由もなく
遅くまで連れ回しちゃだめっしょ!」
「え?」
「今何時だと思ってるべか?11時だよ!
家庭教師9時半までっしょ?!1時間半もなにしてたべさ!」
「…う、嘘ぉ…」
家に入ると置時計片手に玄関で仁王立ちしてたなち姉の雷が落ちる。
11時?マジで?
じゃあなに、美貴は1時間ハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!! …じゃなくて!
1時間半も…亜弥ちゃんと…?
「嘘じゃないべさ!携帯かけても2人とも出ないし。
…って、まっつーちゃん寝てるの?」
「はぇ!?あ、あー、うん!
歩き回って疲れたみたい。なち姉の地図が適当すぎたから」
そういえば、毛布の中で何度か軽快なメロディーが聞こえたような…。
あれって亜弥ちゃんの携帯が鳴ってたんだ。
キスに夢中で全然気づかなかった。
「ひょ!?ななななっちの地図が悪いっていうべか?!」
「そだよ。そのせいですれ違っちゃってさっきやっと会えたんだよ。
だからこんなに遅くなったの」
「ガーン!なんてこったいぃー」
- 238 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:10
- ごめんねなち姉、悪者にして。
でもやっぱ、ナニしてたかなんて言えないし。
地図がひどかったのはホントだし。
「じゃあ美貴、亜弥ちゃん寝かせてくるから。なち姉もはやく寝なよ」
「…ベサ」
頭をガックリ垂れて意気消沈してるなち姉を置いて
美貴は亜弥ちゃんの部屋へ向かった。
引越しを手伝ったとき以来、入ったことがなかった亜弥ちゃんの部屋へ。
なんていうか、こればっかりは老若男女問わないと思うんだけど
好きな人の部屋って………緊張するよね。
しかも美貴好きになったばっかっていうか、自覚したばっかだからより一層ドキミキだよ。
ベッ、ベッドとか…ふ、布団とか。
亜弥ちゃんは、この家に来てからは美貴のベッドか
あのホテルのベッドでしか寝てないから、このベッドはすっかりご無沙汰なワケで。
だから亜弥ちゃんの香りがそこまでするのかって言ったら
そんなことはナイチンゲールかもしんないけど。
いや、でも亜弥ちゃんのベッドであることに変わりはなく…ってハッ!
この毛布だって亜弥ちゃんのじゃん!
眠る亜弥ちゃんの体を包み温めてきた歴史ある毛布じゃん!!
- 239 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:10
- ハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!!
って待て!なに毛布の匂い嗅いでんだ美貴!
そんなことしてる場合じゃない!
布団をペロンとめくって亜弥ちゃんを寝かせて美貴も寄り添って布団被っ…
ん?
訂正!寄り添わない!寄り添わない!
上着脱いでないしマフラーも巻きまくりだし!
亜弥ちゃんももうちょっと楽な格好にしてあげないとっ!
ん?
【ミキティ方程式:楽な格好=全裸?】
いやいやいやいや!それは楽すぎるし!下はいいじゃん!パンツぐらい!
だあ!待ちなさい!そこのイヤらしい親指と人差し指待ちなさい!
いやぁあああー待ってぇぇぇー!!!
『うるせぇなーいいじゃんか。胸圧迫されたままじゃかわいそうだろ、デカイんだし』
『べ、別に一晩ぐらい!それに形を保つためにはつけてたほうがいいじゃん!』
『ケッ。いくつだと思ってんだよ。
まだ垂れ下がる年じゃねぇだろーが。それともなにか?
美貴のためによりよい形でいて欲しいのか?さんざんブラつけてない胸に
顔埋めたクセに。垂れる心配より先にお前の顔の型にへこまないか心配しろっつーの』
- 240 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:10
- それもそうだ。
「じゃあ……失礼しまーす………」
本能の説得に納得した美貴は、先に自分のマフラーとジャケットを脱いで
次に亜弥ちゃんを抱き起こしてコートとセーターを脱がせる。
そして、苦心してエイヤコラショとなるべくパンツを見ないようにジーパンを剥いだ。
そうしますと、残る敵は白い薄手のシャツにほんのり浮き立つブラジャーだけ。
シャツは体にピタッと密着するタイプじゃないから
着てても大丈夫そう。
だから、その中に手を入れてブラだけを上手く引き抜いちゃえばいいんだ。
そうそう、昔体育の水泳のときにやった
パンツ脱ぎ大作戦を応用させて、ブラ脱がせ大作戦すればいいんじゃん。
部屋に入ったときの倍以上ドキミキしながら
まずは背中に手を入れてホックを外す。
すると解放された胸がポポンと美貴にあたって、なんともいえない気持ちが心臓をえぐった。
- 241 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:11
- 『ピーッ。衝突シマス、衝突シマス』
おわああっとぉ!
い、いつの間に!?いつの間に美貴のだらしなく開いた口から覗く舌が
あああ亜弥ちゃんの胸に急接近したの?!
シャッ、シャツの上からナニする気だったんだよ美貴のスケベ!
『隊長!前からの突入は危険なのであります!』
た、たしかに。このままじゃ寝てる亜弥ちゃんにひどいことしちゃいそう。
初めてじゃ……ないとはいえ意識のない人の胸を勝手にいじっていいワケがない。
『ピピピピピ。針路変更、針路変更』
とりあえず胸から顔を離さなきゃ。
このイヤらしいミキティマウス&タンをあややバストから離さなきゃ!
そぉっと、美貴にもたれかかる亜弥ちゃんを見ると
安心しきった様子で目を閉じてた。
この安らかな寝顔を壊すワケにはいかない。
亜弥ちゃんは、美貴を信頼してくれてるんだ。
- 242 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:11
- グッと歯を食いしばって起こさないように静かに後ろに回りこみ
背中から抱きしめて頭を支えて、美貴の肩に乗っける。
『マズハ右カラ、第一部隊、突入セヨ』
ラジャア!
と、張り切って第一部隊を亜弥ちゃんのシャツの右袖に潜り込ませたとき
「んん?…たぁ?」
「っぬはぁ!?どぅあああ亜弥ちゃん!」
松浦亜弥、起床。
ぎゃああ!!突入やめぇ!今すぐ撤退!ただちに撤退!
「ぅー…?…ミキたん?なにしてる、のぉ?」
「へ!?ナニ?!ナニもしてないよ!そんなっ、変なことなんて全然!」
「…変ぅ?」
「うぐっ!な、なんでもないよ!
起きたんならお風呂入ろ!ささっ、はやく行くよ!」
「ふぇっ?ま、待ってぇ〜…ありゃ?ホックが外れてりゅ?」
「気のせい!気のせい!」
- 243 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:12
- 全然気のせいじゃないことは美貴が1番よくわかってるけど。
恥ずかしくて恥ずかしくて、一瞬で顔が茹で上がった美貴は
寝ぼけてるクセにホックのことには気づいちゃった亜弥ちゃんを担ぎ上げて
風呂場に直行した。
で、半分寝ながらうにゃうにゃと甘えてくる亜弥ちゃんを
エイトマンなみのスピードで洗い、自分は適当に洗ってゆっくりと湯船につかる。
(その間、スーパーロボットなのにピンチに陥ることが多かったエイトマンと同じく
美貴も亜弥ちゃんの“あややテンプーテーション”に何度も理性を奪われかけ
ミキティピーンチに陥ること多数)
ピンチ回避の1番いい方法はさっさとお風呂から出ることなんだけど
長いこと外にいたから、ちゃんとあったまんないと風邪ひくし。
美貴はいいけど亜弥ちゃんがひいたら心配だから。
なんて思いつつ亜弥ちゃんを抱えていると
ものすごいキラキラした視線を感じた。確かめるまでもない、亜弥ちゃんだ。
「…ど、どしたの?」
「ぎゅう」
「っっっ…!?」
- 244 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:13
- 自分ばっかり抱っこされてるのに飽きたのか
亜弥ちゃんが腕を伸ばして美貴の頭を肩に引き寄せた。
おかげで目の前に鎖骨が!首筋が!
お湯につかって薄くピンクづいた白い素肌が!
あ………まただ……また変な歌が聞こえる……………
あやや あやや あやや
白い 亜弥ちゃんの 素肌は
あやや あやや あやや
美貴が 吸い寄せられるだけ
ってそれは『ざわわ』でしょーが!!!
やめてぇぇえええー!!森山さんやめてぇええー!
嘉門達夫じゃないんだから泣ける歌をそんなヤラしく替え歌しないでぇええー!!
- 245 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:13
-
うぉぉ危険だ、またしても危険だ。
こうなったらなんか違うこと考えよう、考えよう。
なににしよっかな?うーん………
あ!そーいやエイトマンといえば、すきやきふりかけってまだあるよね?
小さい頃、いつかあのCMみたいにレストランでライスだけ注文して
すきやきふりかけかけて食べてみようって思ってた………けど、
そんなことしたら普通に店追い出されるっつーの。
・・・・・。
…え、えっと、あと、ワケわかんないチーズハムふりかけってあったけど
一体どんな味だったんだろう?
誰か食べたことある人いないかなぁ?
・・・・・。
あああ!だめぇ!この素肌を前にして考えことなんかできるかぁ!
- 246 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:14
- 「ふぃ〜、あっちぃ。
たん、そろそろ上がろ?のぼせちゃうよぉ」
「………」
「ん?なぁーにタコみたいな口して固まってるのぉ?
ちゅーしたいのか?ん?」
「っ…」
はい、したいです。ちゅーしたいです。
「よぉーし、じゃあちゅーするべ」
「………」
するべって…。なんつー色気のない。
美貴がなにも言わないのを肯定と受け取ったらしく
妙に勝ち誇った顔の亜弥ちゃんは美貴の両頬に手を添えて
顔を上げさせると、自分の口もタコにして美貴に優しく押しつける。
- 247 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:14
- あぁ、また訂正、この子色気ありまくり。
艶やかな唇に飲み込まれそう。ものすごく亜弥ちゃんを近くに感じる。
まだ自分から深いキスをするのは無理みたいだけど、
押しつけるだけだった昨日とは違って
ちゅっちゅちゅっちゅと軽く吸ってみたり
はむ〜と上唇を挟んでみたり。
やってることは遊びみたいなのに、チラッと見たその表情はとても真剣で。
美貴は亜弥ちゃんにされるがまま
じっと目を閉じて、そのかわいいキスを受けとめた。
- 248 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:15
- その後は、結局2人とものぼせちゃって
フラフラになりながら体拭いて、パジャマ持ってくるの忘れたことに
気づいて美貴だけテンパって急いで取りに行って……………
やっと美貴の部屋のベッドに辿り着いたときには
1時近くで、夜更かしする人間が美貴ぐらいな藤本家は
シーンと静まり返ってた。
だからさっさと寝ようと布団にもぐると
隣から物欲しげな視線が。
―――ま、また?
電気を消したから、ハッキリ見えるワケじゃないけど
その視線の持ち主はずずいと美貴に擦り寄ってきて。
抱きつかれて、抱き返したら、顔を上げて目を閉じ、唇を突き出され、
「…ちゃんとしたの、して?」
なんか今日、いや、もう昨日だけど、キスしてばっかだ。
嬉しいんだけど、気持ちいいんだけど
このまま、離れられなくなったらどうしよう?
亜弥ちゃんなしでは、生きていけなくなったらどうしよう?
- 249 名前:Kiss Kiss Night 投稿日:2004/02/12(木) 17:15
-
◇◇◇
- 250 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:16
-
「くぁ…ぅぅ?……ぁ…おはよぉ」
「お、おはよ」
小さくアクビをして自分を包む腕を不思議そうに見つめた後、
ノロノロと目線を上げた亜弥ちゃんは、ようやく事態を把握して微笑んだ。
効果音をつけるなら『ニャパァ』って感じにシワクチャな笑顔。
見てるだけで、こっちの頬まで自然と緩んじゃう。
「エヘヘ…いつもと逆だからびっくりしちゃったぁ…」
「そ、そういや、そだね……デヘヘッ」
うお。美貴ってばデレデレじゃん。
キショイキショイかなりキてる。
でも無理。どんなに頑張っても今はクールな顔できない。
「……ねぇ、たん」
「ん?」
「…朝、だね」
「う、うん」
- 251 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:16
- な、なに?朝がどうかしたの?
心なしか、亜弥ちゃんは照れてるみたいな、ワクワクしてるような様子で
なにか言いたそうに見上げたりチラッと窺ってみたり
ん〜って唸ったりしながら美貴の胸に顎をくっつけてくる。
愛のテレパシー♪ 上目遣い 横目遣い 下目遣い♪
ひぇぇ、四方八方から熱い桃色光線が…っ。
もう、マジで溶けそうなんだけど。
「朝ぁ〜なんですぅ」
「…は、はあ、そうですね」
「むぅ!朝なのぉ!」
「うへぇ?なんで怒ってるの?」
おわわわワケわかんないよ亜弥ちゃぁん。
朝に対して恨みでもあるの?
「たんの鈍感」
「えぇ?」
いやいや鈍感とか言われても、朝に朝だって言われてどう返せば鋭いワケ?
そんな不満そうな声出されてもサッパリわかんないんだけど。
- 252 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:17
- どんなに考えてもハテナが飛び交いまくりな美貴に
亜弥ちゃんは一つ息をついてから、教えてくれる。
「あーさーなーのーにぃー」
「に?」
「あーさーだーかーらー」
「ら?」
「……ちゅー」
「ちゅ?」
「おはよぉの、ちゅー…」
「っ、…………ちゅ、ちゅーですか」
「…ちゅーです」
ちゅーって、あのちゅーだよね?
おはよぉのちゅーですか。
なんか新婚さんみたいだねぇ……アハハハハ…。
「ん」
「え?」
「ん!」
「あ…あぁ、ハイハイ、ちゅーね」
おはよぉだから、軽く爽やかに。
幸せそうに目を閉じる亜弥ちゃんに優しく触れた。
- 253 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:17
- ―――
軽くのハズが重くなりかけたキスを終えて、目覚ましが鳴る5分前になると
美貴は苦労してベッドから這い出た。
なんで苦労したかっていうと、それは一晩中眠れなかったツケが
ようやくまわってきたとかじゃなくて、
「にゃひひ」だの「んにゃは」だの意味不明な言葉を発しながら
抱きついてくる亜弥ちゃんを引き剥がしてたから。
そりゃ美貴だって…もっと………けどさぁ、
家だし、みんな起きる時間だし。
「まだ力入んないよぉ」とぐずる彼女をベッドに残して
美貴は1人部屋を出る。
冷えきった階段を小走りに降りてリビングに入ると
絵里がソファにちょこんと座ってテレビを観てた。
「おっはよ」
「あ、おはようございま…」
ピシッ。
ん?どしたの?なんで美貴見て固まってんの?
口半開きだよ。ってか唇ちょっと震えてない?大丈夫?
- 254 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:17
- 「絵里?どした?」
「…ぁ…ぁ…ぉ…でこ……」
「へ?」
でこ?……あ!
一瞬なんのことかわからなくて、おでこに手をあてたら
前髪が寝癖で全部逆立ってておでこが全開になってた。
なんだなんだ、絵里もひどいなぁ。
広いぐらいで固まる程驚かないでよ。広い人は世界人口の3分の―――
「に…ぃ…が…きさんっ…」
「ニイガキ?」
ニイガ…あああ!マユゲ!マユゲと絵里の顔まだ消えてなかったんだ。
そら驚くよね。自分があんなやつと同化(?)してる顔が
美貴のおでこに刻まれてたら、そら驚く。
「アハハ、これさー、いきなり空から降ってきた球にヤラれたっていうか。
あのマユゲ昨日ホームラン打ったんでしょ?体育かなんかで。
それが美貴のおでこに直撃しちゃったみたいで。もうさぁ、マジでそろそろアイツ絞めていい?
傷害罪で訴えてもいいんだけどそれじゃ美貴の怒りおさまんないから
この手で地獄を見せてやりたいっていうか、鉄槌下してやりたいんだけど」
「……っ……」
- 255 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:18
- おや?なるべく笑顔満開で言ったんだけど、ちょっと言葉が物騒すぎたかな?
絵里の顔がどんどん青くなって歯がカタカタ鳴る音もする。
ヤバ、フォローしとかないと。
「え、えっと、絞めるって言っても
半分は本気だけど命までは奪わないよ?半殺しっていうか。
マユゲは憎いけど絵里の友達……だよね?
だから絵里があんまりキツイのはやめてって言うなら
動物園のハイエナの檻にでも投げ込むだけで勘弁してあげ…」
ピシピシピシィッ。
「はぇ?絵里?」
「………」
あちゃ、フォローになってなかったかな?
絵里完全に固まっちゃったよ。
「絵里?あの、冗談冗談、半分も本気じゃないよ。
マユゲだって人の子だもんね、コブラツイストだけにしとくよ、うん」
「んあー、おはよ〜ミキティ今日も早いねぇ〜」
「べさ、まっつーちゃんは?
なっちはまっつーちゃんに謝らなくてはいけないべ」
「………」
- 256 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:18
- 天の助けか。なち姉とごっちんが仲良く起きてきてくれたんだけど。
「んあ?絵里ちゃんどしたの?瞬きもしてないけど」
「む。どうせまぁーた美貴がなんかし…ってひゃあああ!!
美貴ぃ!なんだべかそのおでこはぁああ!!!???」
「んあ!?なんじゃそりゃあああ!!!???」
だああ!朝からうるさい!
気づくの遅いし!なち姉は特に遅い!昨夜気づいてなかったんかい!
「だぁーからこれはマユゲが…」
「ひっく…」
「ふぇ?」
渋々また説明しようとしたとき、隣からしゃくりあげる声が。
―――絵里が、泣いてる?
「え、絵里?なんで絵里が泣い…」
「っふぇぇぇん!」
「わっ、絵里!どこ行くの絵里!!」
「亀ちゃん?!」
「んあー?」
- 257 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:19
- 突然顔を両手で覆ってリビングを飛び出して行く絵里。
その後姿に、美貴の背中をものすごぉく嫌〜な予感が走る。
美貴はたぶん、また無意識に地雷を踏んだんだ。
その地雷がなにかはわからないけど
絵里はきっと、きっとまた、あの隙間に―――
「亀ちゃぁん!
美貴!なにボーッとしてるべか!
亀ちゃん泣いてたべ!早く謝りに行くっしょ!」
「んあ!マジ泣きさせるなんて…っ見損なったよミキティ!」
「…………」
そんなこと言われても。
どこを謝ればいいのやら。
絵里にとって、あのマユゲってそんなに大事な人なの?
………ま、ままさか、ここここ恋して……るとか?
「げぇぇ!!!絵里ぃ!やめときな!
アイツだけはやめときなよぉぉおおお!!!」
あんな、あんなマユゲに絵里をやるなんて…っ!
そんなの絶対、絶対反対!!
「絵里ぃ!!絵里ぃぃぃぃぃー!!!」
- 258 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:19
-
後になってみると勘違いだらけだった美貴の声も、
なち姉やごっちんや亜弥ちゃんの声も
話を聞いて駆けつけてきた田中ちゃんの声も無視して隙間に挟まり続け
衰弱した絵里が救急車で病院に運ばれたのは
それから3日後のことだった。
- 259 名前:ある意味ファースト・モーニング。 投稿日:2004/02/12(木) 17:19
-
- 260 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/02/12(木) 17:21
- 毎度アホすぎてごめんなさい。
前回更新時、『加護ちゃんおたおめ』って
書こうと思ってたのにツルッと忘れてました_| ̄|○アイボン…
レスありがとうございます。
>>228dada様
おぉ、受験生の方ですか。
今もゴロゴは愛されてるんですね(w
もちろん私もゴロゴにはかなりお世話になりました。
ただ、今は後輩にあげてしまったんで手元になくて…
貧相な記憶を掘り起こしたんでちょっと違ってるかも(爆
あやみきシーンに有難いお言葉ありがとうございます。
勉強頑張ってください。
>>229つみ様
味ありました?ヨカタ(w
ちょっと2人とも幼い感じにしてみました。
古文お嫌いなんですか、ゴロゴで是非好きになってください。
>>230名無し読書様
ハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!!ありがとう。
あの最後の行は面倒くさくなって
楽をしただけだったんですが(爆)笑っていただけてよかったです(w
え、えぇっと…私も好きです(テレテレ
ありがとうございます。
- 261 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/02/12(木) 17:21
- >>231名無し飼育様
トリプルハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!!ありがとう。
こ、こんなんで萌えてくださるなんて萌え名人ですね(w
でも今回はちょっとアホすぎです(爆)大丈夫でしょうか?
ハイ、誰がなんと言おうとあやみきは永遠です。
>>232名も無き読者様
紺野さんですからね(w
前作よりはかわいらしくするつもりですけど…(うーん難w
ノノ*^ー^)´ー`)´ Д `)<・・・・・。
どうか夜道にお気をつけて、テスト頑張ってください。
>>233名無し読者様
はいそうなんですついてるんです・゜・(ノД`)・゜・
そして今回も(ry
ホントは…もっとミキティをかっこかわいく書きたいんですけど
なんかアホ入れないと書いてて恥ずかしくなっちゃうもんで(w
シャイでごめんシャイ(爆
- 262 名前:名無し読書 投稿日:2004/02/12(木) 21:43
- 自分が最初に使い始めたハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!! が
本文中に入ってって嬉し恥ずかしマンモスうれピーずら。
>>244の歌でまた爆笑ですよもうw
今回は可愛い感じで(*´Д`)ポワワですた。
次回更新も楽しみに待ってるので、よろしくお願い致します。(?
- 263 名前:つみ 投稿日:2004/02/12(木) 21:53
- ハァ━━━━━━*´Д`━━━━━━ン!!!!!
きちゃいましたよ!AMRとはまた・・・
だんだんまつーらさんはここまでくるとある意味罪ですね!
毎度毎度笑わせてもらってます。
亀ちゃんがすこし心配ですね・・・不覚にも隙間にワラタ・・・
- 264 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 22:08
- 素敵です…本能さん…素敵…
もう、それしか言う事はありません…(*´Д`*)ポワワ
- 265 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/13(金) 13:36
- こ、殺される・…
(((( ;゚Д゚))))
以後発言には注意を払うのでどうかご勘弁を。。。(涙
でも安倍さんまた騙されるなんてやっぱり・…
なんでもないです(汗
- 266 名前:MONIX ◆RjqrC4Ko 投稿日:2004/02/25(水) 12:45
- 最初からまとめて読みました〜〜。
いやぁ、もう最高です!!
- 267 名前:名無しさん 投稿日:2004/02/26(木) 16:08
- 今日一気に読ませていただきました。最高すぎます。
ところでなんですが、前作教えていただけないでしょうか?
おねがいします。
- 268 名前:178 投稿日:2004/03/04(木) 02:19
- どもお久しぶりです
あやみきは相変わらずのようで (*^-^)
にしても亀ちゃん。それはそれは怖かったろうねぇ
- 269 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:23
-
どっかの森の片隅で。
『れいにゃん、おはようにゃん……ポリポリ』
『んにゃぁあ!?ええええりにゃん!
まだおっただきますしてなかのに、なに食べてんとぉ?!』
『ギクッ!……な、なにも食べてないにゃん…』
『嘘つけ!口ポリポリいうてるやん!そん音はピンクの漬物ば噛み砕く音に間違おらん!
朝一番にそげんもんポリポリしたら1日中喉渇くから
なんか食べてからにしときぃよっていつも言ってるやなかの!』
『だ、だってぇ……』
『だってやなか!ペッしときぃよ口の中のもん!』
『っそんなぁ!もったいないにゃぁん!』
幼稚園の頃から、どんなに眠くても朝は6時に起きてテレビの前に座り
教育テレビで放送している小猫の人形劇を見るのが、私の日課。
『絵里、今度の日曜日に会って欲しい人がいるんだけど』
と、いつもは7時に起きるのに、その日は6時半に起きてきたお母さんに言われた日も。
『絵里、こないだ会った藤本さんのことどう思う?』
そんな風に尋ねられた日も。
私はテレビの中の小猫たちに夢中で、お母さんがひどく
緊張していたことにも気づかず、「あぁ」とか「ぅん」とか生返事をしていました。
- 270 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:24
-
『藤本さん…新しいお父さんになるのかなぁ…』
『…え?』
初めて藤本さんに会ってから1ヶ月が過ぎたある日のこと。
自分の部屋の小さなコタツでミカンを食べていたら
珍しく難しい顔で入ってきたお姉ちゃんがぼそりと呟きました。
『気づいてなかったのかい?
お母さん、あの人のこと好きっしょ』
『………』
まだ小学生で、恋だとか人を好きになることも知らなかった私と違って
お姉ちゃんは藤本さんの話をする時や
一緒にいる時のお母さんの目に込められた感情を正確に読み取っていました。
というより、会って欲しいと言われた時点で
わかってたみたいだけど。
言われてみれば、藤本さんと初めて会った時
いつもは眩しいくらいに輝く笑顔にどこか影を落として、口数も少なく、
愛想良く話しかけてくる藤本さんを、じっと、観察するように見てたお姉ちゃん。
- 271 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:24
- 藤本さんはとっても優しくていい人だったから
そんな風にしてたのは一瞬だったけど、あのときお姉ちゃんは
藤本さんの本質を見極めようと必死になっていたんだそうです。
『恋は盲目って言うっしょ?また隠し事されてるかもしれないし。
もしそうなら、なっちがなんとかしなきゃって思ってたべさ。
……いらない心配だったけどね』
再婚が決まった日に一緒のお布団で寝ながら、そう話してくれました。
私たちのお父さん――血の繋がったお父さんはとても厳しい人で
「黙ってオレについて来い」っていうセリフが世界1似合う人だったけど
その裏でとても情に脆く騙されやすい一面も持っていました。
そんなお父さんがお母さんに内緒で親友の借金の保証人になり
逃げられて2000万円もの借金を背負わされることになったのは
私が小学校3年生のとき。
その金額よりなにより、お父さんが黙っていたことがショックだったお母さんは
私とお姉ちゃんの手をひいて家を飛び出しました。
- 272 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:25
- そこからは、まだ幼かった私の手の届かないところで
トントンと話が進んで2人は離婚。
それからすぐにお父さんは遠洋マグロ漁船という船に
乗ることになり、もうずっと会っていません。
あまりに突然の出来事に、寂しくて会いたくて仕方なかったけど
お母さんやお姉ちゃんが私以上につらそうな顔をしていたので、
夜お布団にくるまって静かに泣きました。
だけど毎晩お姉ちゃんはその小さな泣き声を聞きつけて背中を撫でてくれたんです。
『お母さんはね、お父さんのことが大好きだけど、同じぐらい大嫌いになっちゃったしょ。
寂しいけど、なっちも泣きたいけど、
お母さんはきっともっと寂しくて泣きたいだろうから、なっちは我慢するのさ』
『…ぇっく……』
『お母さんたちが離婚したのは、なっちたちの為でもあるっしょ。
だから恨んだりしちゃいけないよ?
いい子にいい子に、亀ちゃんは今まで通りすくすく育てばいいんだべ』
『………ぅん』
『お母さんにしか繋げてなかったんだけど
お父さんになにか話があったらいつでもなっちが送信してあげるっしょ。
おとーさーんおとーさーん、亀ちゃんが鼻垂らして泣いてるよーぅ。ハイ、送信』
『た、垂らしてないぃ…』
『えぇぇー垂れてるべさぁー。ハイ、鼻チーン』
『ブゥーッ』
- 273 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:25
-
優しい優しいお姉ちゃん。
大好きなお姉ちゃん。
このときはまだ高校生になったばかりで友達と遅くまで
遊んだりしたい年頃だったに、私の傍にいてくれた。
私なんかよりずっとずっと、大人の事情を理解して苦しかっただろうに
お父さんのこともお母さんのことも責めたりしなかった。
『お母さんは、お父さんに失恋しちゃったんだ。
でもね、失恋の傷はいつか必ず癒えるんだよ。
だからなっちと亀ちゃんで、お母さんを癒してあげようね』
お母さんの傷は私とお姉ちゃんが。
私の傷はお姉ちゃんが。
じゃあ、お姉ちゃんの傷は…?
そう思っていたとき、現れたのは後藤さん。
『今日なまらめんこい子がトーテムポールから降ってきたべさ』
という話をお姉ちゃんに聞いた次の日
後藤さんは手作りのクッキーを持って家にやって来ました。
『んあ、後ろのフジに真の希望アリ。後藤真希です』
『………えっと…絵の里だけど、絵は苦手です…。絵里です』
『なとつとみをくっつけて……ってハッ!なっちの名前は平仮名だべさぁ!!』
- 274 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:25
- いつも眠そうだったけど、『んあー』とか『あはっ』と明るい後藤さんとの
お喋りは寂しい気持ちを忘れさせてくれました。
気がついたら2年が経ち、私が両親の離婚を過去のとある事件というか
出来事として扱えるようになった頃、持ち上がったお母さんの再婚。
驚いたけど、藤本さんならいいかもってすぐに思いました。
動物園や遊園地にも連れて行ってくれたし。
水族館でイルカを見た帰りにはコタツをプレゼントしてくれたし。
ものに釣られたワケじゃないけど、遊んでもらったら
すっごく楽しかったから。
私と藤本さんが笑って話してると、お母さんも
すっごく嬉しそうに笑ってくれたから。
藤本さんに、お父さんになって欲しいって、思いました。
そう伝えると、お母さんは泣きながら私を抱きしめて、
それを見てお姉ちゃんを抱きしめようとした藤本さんは
どこからか風のように現れた後藤さんの飛び膝蹴りをまともにもらって気を失いました。
木枯らしの吹き荒ぶ中、泡を吹く藤本さんを
優しく介抱していたお母さんの幸せそうな顔は、一生忘れません。
- 275 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:26
-
正式に再婚が決まり、市役所に行く前にみんなで食事をしよう
という話になって初めて、私は美貴さんの存在を知りました。
これは藤本さんが隠していたワケではなくて
お母さんが、私は人見知りする子だし
まず藤本さんを見て父親になってもいいかどうか判断させようと
思ったからだそうで、お姉ちゃんはその存在をはやくから知ってたみたいでした。
でもお母さんですら、会ったことはなかったそうです。
なんでも…
『美貴はさぁ、お父さんが決めたことなら反対しないし。
全部終わってからでいいよ。
それよりはやくむこうの子に気に入ってもらわなきゃ。
つーか肉嫌いな人いないよね?美貴、最低でも週6で肉食べなかったら死ぬよ?』
と言ってたとかで、また中学生で色々忙しく外出の多かった美貴さんを
捕まえるのも大変だったみたいでした。
- 276 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:27
- 『写真見たけどなーんか他人とは思えない感じだったべ。
なぜか部屋の中で帽子被ってテレビ見てお腹抱えてるショットだったんだけども
涙まで流しちゃってかわいかったべさ』
わくわく、わくわく。
どんな人なんだろう? はやく会いたいな。
きっと藤本さんに似て、すごく優しくて明るくて面白い人なんだろうな。
どきどき、どきどき。
初対面の当日。
このあたりでは1番大きくて高級なホテルにお気に入りの白いワンピースを着て出かけました。
8階にあるレストランに着くと、すでに藤本さんは
予約してあったテーブルで水を飲んでいて、
『こんばんは。…あ、美貴今トイレで鼻かんでて』
『そ、そうなの』
『き、緊張してきたべさ』
『う、うん』
私たちも胸を高鳴らせながら席に着いて、美貴さんを待ちました。
『ったく…なんだよここ、紙固すぎ』
- 277 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:27
- すると奥にあるトイレのドアがバーンと派手に開いて
茶色い髪を胸のあたりまで伸ばした黒いスーツの女の人が
ものすごく不機嫌そうに赤い鼻をさすりながら出てきました。
怖いなぁ。なに怒ってるんだろう。
なんか通りすがるウェイトレスさんのこと睨んでるみたいだし…。
その鋭い視線に震えると、隣にいたお姉ちゃんが優しく私の手を握ってくれました。
『怖いなら見ちゃだめだよ』
『…うん』
そう言われて、目線を下で固定しようと思った瞬間―――
『あ、こんちはぁ。もしかしてお待たせしちゃいました?』
『『『…っ!?』』』
目を見開きました。 なんで? どうして?
“怒”のオーラを背負ったまま、怖い女の人は私たちのテーブルへやって来たんです。
お待たせって……え?………え?…………
『紹介しますね、娘の美貴です。美貴、こちらが再婚相手の…』
『あー知ってる知ってる。てか毎日呪文みたいに唱えられたら誰でも覚えるし。
えーっと、お母さんとなつみさんと絵里ちゃんですよね。初めましてー』
『『『ひゃっ…ひゃじめめまし…』』』
- 278 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:28
- み、美貴さん?!この人が美貴さん?!
う、嘘ぉ…だって美貴さんはまだ中学2年生だって…っ。
今の美貴さんはショートカットで髪の色も落ち着いた茶色だけど
当時の美貴さんは長い髪を金に近い茶色まで脱色していたし
大人っぽい化粧をしていたのでOLさんみたいだったんです。
その容姿に驚いたのは私だけではなく、なぜか写真で見たことがある
お母さんとお姉ちゃんも口を開けて固まっていました。
『こらこら美貴、お母さんは気が早いぞ』
『えぇーいいじゃん別に。明日には届出すんでしょ?』
『ま、まぁな。アハハハハ』
照れ笑いする藤本さんの肩を叩く美貴さんは
背はそんなに高くないのに足が長くてスラッとしてて
目鼻立ちがハッキリした顔はお茶碗みたいに小っちゃくて。
こんなに美人でキレイな中学生を見たのは、このときが初めてでした。
『絵里ちゃんって聞いてた通り市松人形みたいだねー、かわいい』
『っぇ?イチマツ?』
- 279 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:28
- ドキドキ言ってた胸がバクバクして、緊張が頂点に辿りついたとき
いつの間にか私の前の席に座った美貴さんが私を見ていました。
『お姉ちゃんと妹かぁー、美貴1人っ子だからさー憧れてたんだぁ』
『…ぁ…ぇ、ぇと…』
『ん?なに?』
『ひぅ!?』
緊張で上手く話せない私に、美貴さんが身を乗り出して顔を近づけました。
間近で見たら、キレイな顔がもっとキレイで
スッとした鼻とかキラキラした目とか、魅了されるってこういうことなんだなと思いました。
『あ、み、美貴ちゃん、ごめんなさいね。絵里は人見知りするのよ』
『へぇーそうなんですかぁ、美貴人見知りなんかしたことないやぁ』
『お前は特殊だからなぁ』
『あ?おとーさんに言われたかないよ』
『『『…ひっ!?』』』
藤本さんを一睨みした美貴さんに、私たちは声にならない悲鳴を上げました。
そして私は歯をカタカタ鳴らして震え、お姉ちゃんはテーブルに手をついて
頭を下げ、お母さんは涙目になってお財布を差し出し、許しを乞いだんです。
『ハ?え?絵里ちゃん寒いの?なつみさんは頭痛いんですか?
お母さんは…会計はまだだと思うんだけど…てかお父さんが払うんじゃないの?』
『そりゃそうだよ。オレが誘ったんだから。
あの、3人ともどうかしたんですか?そろそろ料理がきますよ』
- 280 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:29
- どうしたもこうしたも、藤本さんも謝ったほうがいいよぉ。
3人で必死に目で訴えるも聞き入れられず
震えて仕方ない手でなんとか操ったナイフとフォークがお皿にあたって
カチャカチャ鳴り、それが妙におかしくて楽しくなってきたお姉ちゃんは
1人で笑いながらチャカチャンチャッチャ♪とネコ踏んじゃったのリズムを刻んでました。
その間も、美貴さんに何度か声をかけてもらったけど
怖くて顔を上げられなくて…。
なんだか気まずい空気が流れる中(後で聞いたら美貴さんは全然気まずくなかったそうです)
運ばれてきたメインディッシュのお肉。
お肉は美貴さんの大好物だと教えてもらった通り、パァッと明るくなった表情に
ホッと胸を撫でおろすと、次の瞬間驚愕の叫び声が店内に響きました。
『ハァ!?マジで?!』
『ん?どした?』
『親父、貴様の肉をよこせ』
『なんだ、足りないのか?』
『当たり前だ』
『しょうがないなぁ、一口だけだぞ』
『フザけんな全部よこせ、そしてネギはお前が食え』
『ネギはいいけどオレにも肉食わせてくれよー』
『バカ言ってんじゃねぇクソ親父』
『『『あ、あのっ、よかったら私のを…っ』』』
3人揃ってお皿を差し出したら『それは悪いです』って
遠慮されたけど………結局美貴さんは藤本さんにヘッドロックをかけて
お肉を奪い、無理矢理開けさせた口にネギを突っ込んで満足気に微笑んでました。
- 281 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:29
- けど、お肉を食べて、嬉しそうだったのも束の間。
デザートが運ばれてきた途端、ググッと音を立てて美貴さんの眉間にシワが寄り
『親父、ここのシェフとパティシエ呼んでこい』
『へ?あー、お前あんこ嫌いだったなぁ』
『さっきのネギといい…美貴になんか恨みでもあんのか?
正しい和と洋の在り方について小1時間ほど説き伏せたいから呼んでこい』
『やだよ、オレ文句ないもん。勝手に厨房逝ってくればいいだろ』
カツカツと、デザートフォークをテーブルに打ちつける美貴さんに
藤本さんが厨房を顎で指すと
さらにグググッと音がして美貴さんのお腹から絶対零度の怒号が放たれました。
『なにが“もん♪”だ!!40過ぎのオッサンがカワイコぶるな!』
『んだとぉ!いつまでも少年の心を忘れてないだけだろーが!つーか♪なんかつけてねーよ!!』
『ついてたんだよ!この無意識ブリッ子ちゃんが!!』
『誰がブリッ子だ!!ナチュラルプリティって言えバカ!』
突然目の前で始まったケンカ。
あ、あの優しい藤本さんが…胸倉を掴み合って……。
私は特別大人しいほうでもないし、『絵里って結構ズバッと言うよね』って
よく友達に言われるけど、こんな激しい言い合いとかはしたことがありません。
お姉ちゃんもたぶんそうです。
お母さんも離婚するときお父さんとケンカしたけど、もっと冷えた静かなケンカだったと思います。
こんな風に熱くて…まるで男同士みたいなケンカは……。
- 282 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:30
- 『お、お客様、他のお客様に迷惑ですので…』
ウェイターさんが駆け寄ってきてなんとか静まり
美貴さんは掴み合って乱れた服を直しながら『絵里、これあげる』と
デザートを私に差し出しました。
一瞬躊躇したけど、ドスのきいた低い声で『絵里』と呼ばれたら断れるハズもなく、
味なんて少しもわからないデザートを必死に咀嚼して飲み込みました。
『フン、美貴歩いて帰る。親父の車になんか乗ってられるか』
『ヘン、お前なんざ乗せるなんてこっちから願いsageだバカヤロウ』
剣呑な雰囲気は払拭されることなく
美貴さんは3人固まって震える私たちに『バイバーイ』と手を振って
キラリと眩しいネオンの中に消えていきました。
『すいません。なんか騒がしくなっちゃって…』
『い、いえ…あの……大丈夫なんですか?』
『へ?…あぁ、いつものことなんですよ。一種のスキンシップっていうか。
そーだ、こないだ美味しいアイス屋の店見つけたんだ。
絵里ちゃんアイス好きだろ?帰りに寄って買ってこうね』
『…ハイ』
そう言って頭を撫でてくれた藤本さんは、爽やかに笑っていたけど…。
色んな味のアイスを買ってもらった後
家に着いて藤本さんが帰っていくと、突然お母さんが
顔を両手で覆ってすすり泣き始めました。
- 283 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:30
- 『なつみっ…絵里っ…っ…ごめんね。お母さん、美貴ちゃんに
嫌われちゃったみたい…っ』
『違うよお母さん…嫌われたのは…きっとなっちだべ…』
リビングの床に座り込んでしまったお母さんの肩を撫でて
お姉ちゃんも泣いていました。
その光景に、私もどんどん悲しくなって、お母さんに抱きついて泣きました。
『あんなに…怒って……私と食事するのがよっぽど不愉快だったのよね…忌々しかったのよね…シクシク』
『だからお母さんじゃないっしょぉ!
…だってお母さんのこと“お母さん”って呼んでたべさ。
でもなっちのことは…“お姉ちゃん”でなくて“なつみさん”だったっしょ…グス』
『ちがうもんちがうもん、嫌われたのは絵里だもん。
いっぱい話しかけてもらったのに、ちゃんとお返事できなくて。
なんだこのガキって思われたんだもん、絶対そうだもん…ゥック』
3人とも自分が嫌われたのだと主張しあい、結果、3人とも嫌われたと
判断した私たちは一晩中抱き合って涙を流し続けました。
『こんなんじゃ再婚なんて無理ね。2人ともごめんね』
謝らないで、お母さん。
泣かないで、お母さん。
絵里がいるから。絵里とお姉ちゃんは、ずっと傍にいるから。
- 284 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:31
-
翌日、ワンワン泣いたせいで腫れぼったい目のまま小学校に行くと
どこで買ったのか白いローブを身に纏った新垣さんがスキップで近づいてきました。
『ニィ?目がポンポンニィ。ちょうどいい、
昨日マユゲヒーリングっていう新技を開発したから
いっちょ無料で治してあげるニィ。ニィィィィン』
☆ノハヽ !?
ノノ*^ー^)
∩_0¶¶0_∩
| ノ ヽ
/ ● ● | クマ──!!
| ( _●_) ミ
彡、 |∪| 、`\
/ __ ヽノ /´> )
(___) / (_/
| /
| /\ \
| / ) )
∪ ( \
\_)
『キャアアア!な、なにこれぇ?!』
『あ、間違えたニィ。でもそれ1時間経てば自動的に消えるから』
『えぇ!?1時間も乗ってなきゃいけないのぉ?!は、はやく降ろしてよぉ』
『まぁまぁ、遊園地だと思って楽しんでよ』
『こんなの楽しめるわけっ……あ、楽しいかも』
- 285 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:32
- この日、私はクマに乗って疾走する喜びを知りました。
目の腫れは全然癒されなかったけど、美貴さんに嫌われたショックで
沈みこんでいた心がプカプカ浮上して、いつの間にか笑っていました。
もしかしたら新垣さんは私を励まそうとして
ワザと間違えてみせたのかもしれません。案外いい人なんです。案外。
でも、学校の校舎内をクマに乗って駆け回ったせいで職員室に呼ばれ
今まで集会ぐらいでしか見たことがなかった校長先生にコッテリ怒られました。
担任の平家先生は『いやぁ、かっこええわぁ』って褒めてくれたのになぁ。
おまけに怒られた後『親御さんにも注意しとこう』って家に電話されちゃって…。
お母さん昨日泣いたばっかりなのにって焦ったら
なんと来てくれたのは藤本さんでした。
『どうも、この度は娘がご迷惑をおかけしたそうで…』
驚いて顔を上げたのは私だけじゃありませんでした。
先生たちも離婚のことは知ってても、再婚の話は知らなかったから。
って、そんなことより、昨日のことで再婚はだめになったんじゃ…。
『絵里、クマなんかどっから見つけてきたんだ?
危ないから学校で乗り回したりしちゃだめだろ』
向けられた視線が、それまでのものと違っていました。
視界がパァッと明るくなって、嬉しくて嬉しくて。
1度ペロリと唇を舐めてから大きな手をそっと掴みました。
- 286 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:32
- 『ごめんなさい、………お父さん』
そして、ありがとう、お父さん。
それからまた1時間、みっちり怒られて疲れたけど
手を繋いで帰る私たちは、これでもかというくらい笑顔だったと思います。
『お父さん、もう乗っちゃだめですか?』
『ん?そんなに楽しかったのか?』
『はい、すっごく』
『なら乗ってもいいよ。でも今度は学校じゃなくて公園とかで乗りなさい』
『はぁい』
『でもお母さんには内緒な』って小さく囁かれて
お父さんと初めての指切りげんまんをしました。
オレンジの夕日に染まる道。
家に着くのが勿体なくて、ゆっくりゆっくり時間をかけて歩いた道。
幸せに、続く道。
家に着いたら、すぐに新垣さんに電話して
クマに乗せてもらったことのお礼を言い、先生に見つかった瞬間マユゲランニングで
逃げ去ったことを非難しようと思いました。
- 287 名前:家族の始まり。 投稿日:2004/03/12(金) 20:33
-
- 288 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/03/12(金) 20:33
- 更新が遅れて申し訳ございません。
なんか色んなところにガタがきてしまいまして(年寄り臭
雑談しますと、今日誕生日でした(w
1ヶ月もあいといてあやみきないわやっぱりアホだわですみませぬ。
田中さんがまだ出てきてないので
あともうちょっとだけえりえりのお話が続きます。
念の為。
以前藤本さんが言っていたことと食い違う部分がありますが
それは藤本さんが都合の悪いことは忘れてたり
勘違いしてる部分があるからです。決して適当に書いたからでは(ry
レスありがとうございます。
>>262名無し読書様
へぃ、使わせて頂きました(w
どうもありがとうございます。
あの歌は金スマでベッキーが号泣してる時に思いつきました(爆
えぇ、そんな奴です、私は。
>>263つみ様
罪…ご自分のことですか?(w
こんな話に毎度笑ってくださってるなんて優しいですね。
ノノ*^ー^)<ありがとうございます、生きてます。
ただ意識は戻ってないようですが。
- 289 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/03/12(金) 20:34
- >>264名無飼育さん
ま、まぁすすす素敵だなんて…(*´Д`*)ポワワ
でも実際自分の中にあんな本能がいたら嫌ですね。
勝てそうにないし(w
>>265名も無き読者様
フフフ…震えてる震えてる( ̄∀ ̄)+
では今回だけ特別に勘弁してあげましょう(w
(●´ー`)<ベサ?またそんなこと言って………
天使が悪魔に変わる瞬間が見たいべか?
(((( ;゚Д゚))))
>>266MONIX様
おわわ、まとめて読んだりして脳に支障はなかったですか?
お疲れ様&ありがとうございます。
>>267名無しさん
およよ、一気読みお疲れ様&ありがとうございます。
その上前作に興味を持っていただいてありがとうございます。
えっと、前作は青板『すとれい しーぷ』
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/blue/1054715244/
続き月板『ストレイ シープ』
http://mseek.xrea.jp/moon/1060330138.html
ついでにその前金板で『おふぇんす らぶ!』というものも書いてました。
http://mseek.xrea.jp/gold/1046003594.html
今以上に果てしなくへったくそな駄文ですが、よろしければ目をお通しください。
>>267178様
どもども、こちらこそお久しブリーh(ry
ありがとうございます、もうすっかり良くなったハズです(きっと
えぇ、相変わらずアホで…ってその顔亀ちゃんに似てますね(w
ノノ*^ー^)(*^-^)
並べてみた(爆
- 290 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/03/12(金) 20:40
- ☆ノハヽ
ピュー ノノ*^ー^) ノ
=〔~∪ ̄ ̄〕
= ◎――◎
- 291 名前:つみ 投稿日:2004/03/12(金) 20:43
- 過去編を見れてうれしかったです!
それにしてもおもしろすぎですねこの家族は・・・
あの娘にしてあの父ありですか・・・
なんとなく泣ける場面もちらほらあって
とてもよかったです!
次回も楽しみにしてます!
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/13(土) 00:39
- ちょいすぎてしまいましたが。お誕生日おめでとうございます!
いつも面白いお話ありがとうございます〜。
- 293 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/13(土) 12:42
- 更新乙&お誕生日おめでとうございますデス。
♪一度でいいから見てみたい、天使が悪魔になる瞬間♪
歌まr・・・ジョークです。
いつまでも少年の心を忘れない美貴パパ・・・きっと矢口さんのタイプですねw
では次回もマターリ待ってます。。。
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 20:51
- どうやったらこんなに面白い文章が書けるんでしょう?
いっぺん作者さんの脳の構造を見てみたい(オイ
- 295 名前:267 投稿日:2004/03/17(水) 21:29
- 紹介ありがとうございました。
これまた一気に前作読ませていただきましたよ。
私も作者さんの脳の構造ホントに見せていただきたいと感じましたw
- 296 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:15
-
『…スヤスヤ』
日曜日。
いつもは6時に起きる私も、小猫の放送がないお休みの日は
お昼ご飯ができてお母さんやお姉ちゃんに起こされるまで延々と寝てしまいます。
だからその日も、例外なく布団を被って健やかに眠っていました。
『絵里ー』
『スヤスヤ』
『えぇぇーりぃぃー♪』
『……サザン?』
不意に聞こえたいかにもクワタなシャガレ声と
ズシッと布団の上になにかが乗る感覚に、私は目を覚ましました。
すると、ぼんやりした視界の真ん中らへんに
くりくりっと大きな目が2つあって
私が起きたのを見ると、それは三日月の形になりました。
なんだ、お姉ちゃんかぁ。
声が違うような気がしたから誰かと思っちゃった。
もぉー、重いよお姉ちゃぁん。
起き抜けで声を出すのが面倒だったから
布団の中でクネクネ動いてどいてどいてと訴えると
『ひゃあ落ちるぅー』なんて私にしがみついてはしゃいじゃって。
お姉ちゃんっていつまで経ってもほんと子供みた………
- 297 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:15
- 『アハハッ、もう昼だよ。って美貴も今起こされたばっかなんだけど』
…ん? 美 貴 ?
『っ…みみみ!?』
『ん?耳?』
『みっ…み、み、ミーン、ミーン』
『ミーン?セミごっこ?学校で流行ってんの?
へぇ〜、最近の子は虫採りなんかしないって思ってたけどそうでもないんだぁ』
『ミーン、ミ……ミィン…』
『お?もぐっちゃだめだよ、まだ寝んの?お昼パスタだから伸びるよ?』
『…もぐ…る…もぐ…もぐ……モーグモーグモーグモーグ、ウェー、ウェー』
『んぇ?なにそれ?かわいいね』
『モーグモーグモー……グスッ』
『えぇえ!?ななななんで泣くの?!
ごめん、美貴なんかした?…あ、ひょっとして重い?ごめんね?』
『ェック…』
『ご、ごめんってば。よしよし』
『ヒィン…』
『か、亀ちゃん!大丈夫だべかぁ?!
みみみ美貴ちゃん!亀ちゃんになにしたべさ!
たとえバックに闇の組織が控えていようとも、100人相手にケンカして
睨んだだけで勝ったことがあろうとも、亀ちゃんの為に戦うなっちには勝てねぇっしょぉ!』
『ハ?…ってかハサミ危ないし!』
私が藤本絵里になって最初の日曜日。
起こしにきてくれたのは、その数分前にお姉ちゃんが部屋の外から
高枝切りバサミでつまんだ生肉の匂いを嗅がせて起こした美貴さんでした。
- 298 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:16
- 『ガルルルルル!』と生肉に噛み付きながら飛び起き、
10秒ほどモグモグしてから
『なんだ焼けてないじゃん、ユッケでもないのに』と文句を言いつつも
キレイに飲み込んだ美貴さんは、唖然としているお姉ちゃんに
『絵里も起こすの?んじゃ美貴逝ってくる』と声をかけて私の部屋に来てくれたそうです。
それで、私の上に乗って起こしてくれたんだけど…。
美貴さんがわざわざお暇を割いて起こしにきてくださったのに
瞬時に反応して起きられなかったという罪悪感から涙が止まらなかった私を、美貴さんは
高枝切りバサミを振り上げてるお姉ちゃんに目をむけつつ抱きしめてくれました。
『えっと、よくわかんないんだけどごめんね?
たぶん……美貴のことが怖いんだよね? いいよ、慣れてるから。
んじゃ落ち着いたら降りといでね。美貴先に行ってるからさ。
なつみさんも、とりあえずそれ…危ないんで美貴が持ってきますね』
慣れてると言った美貴さんは、どこか寂しそうな目をしていました。
けどすぐに目を柔らかく細めて立ち上がり、お姉ちゃんの手から
高枝切りバサミを取り上げると部屋を出て行きました。
- 299 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:16
- 『…あ、美貴ちゃ…』
美貴さんに落ち度はなにもなかったのに、勝手に勘違いして
刃物をむけてしまったお姉ちゃんが言葉を発したときには
すでにドアの外からは美貴さんの足音すら聞こえなくなっていて。
『どうしよ…なっち、ひどいことしちゃったべさ…』
『………』
このあとのお昼ご飯では喋っていたのはお父さんと美貴さんだけで
私とお姉ちゃんと、お姉ちゃんの送信で事情を知ったお母さんはどんよりと俯いて。
まるで誰かが亡くなったかのような沈み具合だったけど
火葬場でお寿司を食べる人たちだって、そこまで暗くはないと思います。
食事を終えて、みんなで買い物にでも行こうとお父さんが提案すると
美貴さんは『ごめん、友達と約束あるから』と言って出かけて行きました。
『なんだアイツ、今日はなんもないって言ってたのに…』
ぼそっと呟かれたその言葉に、私たちはまた沈みました。
一緒に出かけるの、やだったのかな。
やっぱり、嫌われてるんだな。
さっき私が泣いたから、ますます嫌われちゃったのかな。
家族になったのに。
姉妹になったのに。
・・・・・・
- 300 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:17
-
クマに乗った日、美貴さんに嫌われたことをすっかり忘れて
再婚を喜んでいた私が家に帰ると
複雑そうな、でも幸せそうな顔で荷造りをするお母さんたちの姿がありました。
2人は廊下を走り回った私のことを一切咎めることはなく
(お父さんが黙っていてくれたので、クマに乗ったことはバレてません)
逆に『そんな日もあるよね』と頭を撫でてくれました。
けど、手伝いを終えて夕飯前にお父さんが帰っていくとすぐに2人は私を囲んで円になり
『振り向いて美貴ちゃん!!
私がママよ、なっちが姉だべ、絵里が妹です。だから睨まないで☆大作戦』
について熱心に話し合いを始めました。
というか、だめになったはずなのになぜ大丈夫だったのかというと。
お父さんが一生懸命お母さんを説得してくれたからでした。
お母さんは、最初はどんなに『美貴は生まれつき軽ヤンなんだ』と言われても
耳を貸さなかったらしいけど
お父さんが前の人と離婚したときの話を聞いて、ようやく説得に応じたそうです。
- 301 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:17
- それは、離婚することが決定的になって、
お父さんが美貴さんに『別れてもいいか?』と訊ねたとき、
『どーぞどーぞ、これじゃ一緒にいられないでしょ。アハハ』
と笑うだけで親の決めたことには一切口を挟まず、
美貴さんのお母さんが出て行ったあと
『今はまだ考えられないけど、いつか新しい人を見つけるかもしれない』
と言ったお父さんに、
『心も体も女の人だったら誰でもいいよ』
『別に無理に美貴の母親にならなくていい、お父さんの奥さんになってくれれば』
とだけ言って、まだ離婚のショックが抜けていなかったお父さんの背中を押し
新しい道を歩かせたのは他の誰でもない美貴さんなんだという話でした。
『だから美貴が反対なんかするわけがないし、
君たちを嫌ったりもしていない。安心してお嫁においで』
嫌われていないかについては半信半疑だったみたいだけど、
反対はしていないのなら、これから好いてもらえばいいと
お母さんは婚姻届に判を押し、1週間後には私たちは新しいお家へ引っ越しました。
大きい鞄を持って車から降りたとき
先に着いていた美貴さんが駆け寄ってきて鞄を持ってくれたのに
緊張で口が固まってお礼が言えなかったことを、私は今でも後悔しています。
- 302 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:18
-
家族5人での生活が始まって
やはり私たちは怯えを隠せず、最初の1ヶ月くらいは美貴さんの眼光が
鋭く光るたびに小さく悲鳴を上げ、しとしとと涙で布団を濡らす夜を過ごしていました。
だけどある日『んあ、しばらくは家族水びたしがいいかと思って』と
久しぶりにやって来た後藤さんによって、事態は好転しました。
その日も日曜日で、だけどあの日以来休みの日もお昼前には起きるようになった私が
テレビを見ながら菓子パンをかじっていると玄関の呼び鈴が鳴り、
お姉ちゃんに頼まれた私は玄関に走りました。
そしてドアノブに手をかけたとき―――
『んあ…?』
『あれ…?』
『『お客さん?』』
『『………』』
外から後藤さんと美貴さんの声が聞こえました。
ちょうど美貴さんは飲み物を買いにコンビニから帰ってきたところだったんです。
『…あの、美貴はこの家の者なんだけど、あなたは?』
『んあ、ごとーだってこの家の者みたいな者だよ』
『……いや、みたいな者じゃなくて。美貴は正真正銘この家の者なんだけど』
『じゃあごとーも正真正銘この家の者みたいな者だよ』
『………いやいや、ごとーって言ってる時点で藤本じゃないじゃん』
『んあ…』
『…あ、親戚の人?従兄弟かなんか?』
『んあぁ!?誰がイタコだ!!ごとーは老婆じゃないし、目だってちゃんと見えてるもん!』
『ハァ?!従兄弟だっつってんのに!!』
『だからイタコじゃなぁい!六根清浄祓も般若心経も錫杖経もオシラ祭文も唱えらんないってばぁ!』
『だからっ…人の話聞け!恐山に埋めるぞ!!』
『んあー!やれるもんならやってみなよ!津軽の巫女パァーンチ!』
『なっ!?…って自分でイタコだって認めてどーすんのさエルボォー!』
- 303 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:19
- 『お、お姉ちゃぁん!』
『亀ちゃん?そんなに慌ててどうしたんだい?』
『ごっ、ごとっ…美貴さっ、ケンっ…タコっ…』
_,._
(●´ー`) ガシャーン
( つ O. __
と_)_) (__()、;.o:。
『べさぁっ?!美貴ちゃんがごっちんにケンケンしながらタコを食べさせようとしてるぅ?!』
『うん!』
ちょっと違う気がしたけど、急いでいた私は適当に頷いて
お姉ちゃんを玄関に引っ張って行きました。
『…む?誰もいないっしょ』
『え…?』
言われてみると、たしかに玄関前には誰の姿もなくて……
おかしいな、ついさっきまで声がしてたのに。
ケンカになってたのに。
- 304 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:20
- 『ほんとにごっちんいたのかい?』
『いたよ!呼び鈴鳴ったでしょ、そこに美貴さんが帰ってきたみたいで…』
『うーん……じゃあ2人はどこに行っちゃったのかねぇ?』
『…ハッ!そういえば美貴さん、後藤さんのこと恐山に埋めるって……』
『べべべべさぁ!?そ、そんなぁ!!』
真っ青になった私たちは慌てて家の中に戻り、荷物を用意して
追いかける準備をしました。
『ん?2人ともお出かけか?ちなみにお母さんは今洗濯中だ』
『あ!お父さん!ごっちんが美貴ちゃんに埋められちまうっしょ!』
『ハ? ゴマちゃんが美貴に?』
『生き埋めなんですっ!グスッ…』
『へ?…って絵里泣くなよ。埋めるって…美貴はそんなことするやつじゃない。
なんかの間違いじゃないのか?』
『『間違いだと思いたいけどぉぉ!!』』
泣きながら(お姉ちゃんも半泣きでした)必死にお父さんに
事情を話すと、なぜかププッと笑われて
『大丈夫大丈夫。あいつ青森まで行く金なんかないだろ。あっても使わないよ、ケチだから』
って諭されて、はやく追いかけたいのに家から出してもらえませんでした。
お母さんにも話をすると『すぐに行かなきゃ!』って言ってくれたんだけど
やっぱりお父さんに止められて……。
2人がいなくなって1時間が過ぎた頃には、お姉ちゃんの顔が今まで見たことないような怖い顔になるし、
2時間が過ぎた頃には表情も消えて
『お父さん、ごっちんの身になにかあったら、地獄の果てまで追いかけて
死ぬよりつらい苦しみを味あわせてやるからそのつもりで…』って包丁を磨ぎ始めるし…。
- 305 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:20
- 死ぬよりつらい苦しみってどんなのなんだろう…?
怖いよぉ、お姉ちゃんが怖いよぉ。
3時間が経って、お姉ちゃんが『パッツン…パッツン…』って唱えながら
お父さんの前髪を包丁で器用に切り揃え始めた頃、
玄関のドアが開く音がして、聞き慣れた声が耳に届きました。
『『ただいまぁー』』
『ごっ、ごっちぃぃぃん!!!』
『後藤さぁん!!!』
『んあ? あーなっちぃー、絵里ちゃぁーん』
『ちょっと2人とも、美貴のことも呼んでよ』
『『んなぁっ!?』』
ロケットみたいにすっ飛んで玄関に向かってびっくり。
出かけたときにはジャージだったのに、なぜか通っている学校の制服とは違う
セーラー服を着た美貴さんと同じ格好の後藤さんが仲良さげに肩を組んでいたんです。
『……ベサ…恐山は…?』
『あのねー、今ミキティとカラオケ行ってきたのー』
『ミ、ミキティ…?』
『あはっ、楽しかったぁー』
『楽しかったけどさぁー。あそこのカラオケ、なんで「黒星★喜びみれん」が入ってないんだよ!』
『ク、クロボシキラリヨロコビミレン…?』
『んあ、まぁあれは曲調が大衆律動運動のパク(ryだって話もあるしねぇ』
『それはそうだけどさぁー、せっかく三浦惑星放送上級調査官と同じセーラー服着たのに…』
『あっは!ミキティ似合ってるぅ〜』
『えぇー?ごっちんのが似合ってるよぉ〜』
『『…………』』
- 306 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:21
- あんなに激しく言い争っていた2人の間になにがあったのかはわからなかったし、
5年も前の話なんだから、まだブラックワイドショーは始まってなかったような気もしたけど、
とにかく2人はいつの間にか『ごっちん♪』『ミキティ♪』と呼び合う仲になっていました。
『じゃあさミキティ、今度は仙台のカラオケ屋行こーよ。
喜びみれんはなくても「パトちゃんのラブコール」ならあるかもよ』
『そだね。そんときはなつみさんも絵里も一緒に行こ?』
『『ハ、ハイ…』』
『んあ?なつみさん?ミキティなっちのことそんな風に呼んでんの?
堅苦しくない? なっちでいいよ、ねぇなっち?』
『ふぇ?…あ、う、うん!なっちでいいっしょ!』
『んー…でも一応美貴妹だしなぁ……ナッチ…ナッチ…ナチ……わかった!なち姉にする!
絵里は絵里のままでいい?なんか呼んで欲しいあだ名があったら使うけど』
『…別に…』
『ないの?えりりんでもエイドリッヒでもなんでもいいよ?』
『…じゃあ、取り急ぎエリザベスって呼んでください』
『それはやだ』
『………』
美貴さんの嘘つき。
プクッとほっぺたで不満を表すと、美貴さんは笑いながら
『ごめんごめんエリザベス、むくれないでよエリザベス、エリザベスったらエリザベス』
と連呼してきたので、恥ずかしくなって『やっぱり絵里って呼んでください』ってお願いしました。
このときをキッカケに、後藤さんを通して美貴さんとお姉ちゃんは
どんどん話をするようになって。
それを見たお母さんも美貴さんとどんどん仲良くなって。
私はあんまり話せないけど、でも美貴さんのことは本当に大好きです。
- 307 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:21
-
最初は………そりゃあ、怖かったけど、すっごく優しいし。
なのに、今でもうまく話せないのは…
美貴さんは、私にないものをたくさん持ってて
私とは全然違う人で。
強いというより、しなやかで柔らかいところには憧れるし
サバサバしてて明るく前向きなところは尊敬できる。
お母さんとお姉ちゃんのことも、もちろん尊敬してるけど
美貴さんは特別なんです。
今まで出会ったことのない人だったから。
初めて、こんな魅力的な人に出会ったから。
恋だとか、そういうのとは少し違うけど
私は美貴さんに惹かれてるんです。
だから目が合うと逸らしちゃうし
話し掛けられるとどもっちゃう。
まだときどき怖いけど
私がしたことで美貴さんが笑ってくれると本当に嬉しいんです。
だから、あの日も私は頑張りました。
- 308 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:22
-
再婚から1年が経って『エリがエビに事件』(美貴さん命名)が起こり
藤本家家訓1223条が制定されてすぐの頃、お父さんの海外赴任が決まって
おのおのまだ学生だった私たちは、何度も話し合った結果
3人だけで日本に残ることになりました。
そのあともいろんなことがあって………
『亀ちゃん事件』で美貴さんに迷惑かけちゃったし、
『絵里、初めての非行事件』ではお詫びをするはずがまた迷惑かけちゃって…。
こんなんじゃだめ。
ただでさえちゃんとお話できないのに面倒なことばかりさせちゃって。
なにかしなきゃ。美貴さんのためになること、なにかしなきゃ。
な に か し な き ゃ 。
- 309 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:22
- そう思って自分のできることを探し続けていた私の元に、機会はすぐ訪れました。
『だああー!あいつらマジうるさい!
こっちはもうすぐ受験だっていうのに!』
美貴さんの高校受験まであと1ヶ月という大切な時期、
私たちの住む町内では頻繁に暴走族の集会が行われ
その騒音が大きな問題となっていました。
警察はもちろん迅速に対応して、逮捕された人もいたみたいだけど
どれだけ取り締まっても一向に騒音は止まず
テレビの音すらまともに聞こえない状況にみんな激怒していました。
特に勉強に集中できない美貴さんの怒りは
相当なもので、ある日とうとう『もう無理、皆殺しにしてくる』と
金属バッドを肩に乗せて家を出て行こうとしました。
『だめだべ!相手は暴れて走るんだよ、危ないべさ!』
『はーなーせぇー!』
そんな美貴さんの上に乗っかり、必死で止めるお姉ちゃん。
その光景を見ていた私は黙って立ち上がり、戦うために電話の子機を持って
リビングを出ました。 戦 う た め に 。
プルルルル プルルルル
『…モニモニィ?』
『エリエリィ』
『おー藤本ちゃぁん、どうかしたニィ?』
『実は…』
- 310 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:22
-
『くぁ…こんばんはニィ〜』
電話を終えた私は美貴さんを縄を縛ってたお姉ちゃんに
もう寝ると嘘をついて、窓からコッソリ家を出ました。
大急ぎで暗い夜道を走ると、いつもの公園に眠そうにマユゲを擦りながら
アクビをしている新垣さんがいて、
『制限時間なくしといたニィ。
ここのボタン押せば小さくなるから、終わったらキチンと片付けるニィよ。
それとこの際だから、これあげるニィ』
『いいの? ありがと!じゃあね!』
『おやすみニィー』
初めて乗った日以来、何度も頼んで乗らせてもらってたせいか、
クマをプレゼントしてくれました。やっぱり案外いい人です。案外。
晴れてマイベアーになったクマに乗って疾走したこのときの気分は
ちゃいこ〜としか言いようがありません。
『よし!サツはまいたな!オメーラ、まだまだ飛ばしてくぞぉ!!』
『おぉー!!…って総長…なんか向こうからクマが走ってきてるッス…』
『ハァン?ここは森じゃねーぞコラァ…ってうぉ!?』
『クマ――!!』
『ぎゃああああ―――――!!!!』
『そっ、総長ぉぉぉ!?…っくそぉ!クマの野朗ぉ!!』
『クマ―――!!!』
『ぐはぁ!?』
『クマ――――!!!!』
『ままま参りましたぁぁぁあああ!!』
- 311 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:23
- 騒音をたどって美貴さんの受験勉強を邪魔するにっくき暴走族たちを
見つけた私は、逃げ惑う彼らを次々に蹴散らしていきました。
阿鼻叫喚だとか、断末魔の叫びとか、耳をつんざくような悲鳴が
聞こえたような気もしたけど、
表情も感情も失くして、ひたすら美貴さんの高校受験の障害物を
排除するという作業に没頭していたので、あまり覚えていません。
『警察だ!全員止まりなさ……ん?』
その場にいた暴走族を蹴散らし終えると、やっと追いついてきた
警察に後を任せて、私は家に帰りました。
新垣さんに言われた通りキチンと小さくしたクマを机の上に置いて
手を洗うために1階に降りると、リビングから『助けてぇ』という呻き声が聞こえました。
『…?』
『あ、絵里、眠れないの?ってか助けて。なち姉寝ちゃったんだよ』
リビングに顔だけ入れて覗いてみると
縛られた美貴さんの上に乗っかったまま、お姉ちゃんが熟睡していました。
- 312 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:23
- なんか…亀の親子みたい……。
『フフフッ』
『いや、フフフじゃなくて。笑ってないで助けてよ』
そうだ、笑ってる場合じゃなかった。美貴さんに言っておかなくちゃ。
『…あの、美貴さん…』
『ん?なに?』
『…静かになりましたね』
『へ?…あぁ、そういえば……今夜はもうお開きなのかな?』
『…いいえ。たぶん、もう大丈夫だと思います。
だから、受験勉強頑張ってください』
精一杯の気持ちをこめて言うと、美貴さんはしばらくポカンと口を開けたあと、
照れたように笑って頷いてくれました。
『……ふぇっと…よくわかんないけど…うん、ありがと。頑張る』
『それじゃあ、ほんとにおやすなさい』
『おやすみ…ってだから絵里!助けてってば!』
『フフフッ……おやすミキティ』
『いや!だからフフフじゃなくて!!ってかおやすミキティってなに?!
ダジャレはいいから助けてよ!これじゃ勉強できないじゃん!!』
だって、だってだって。
あれだけの大声で叫んだら、お姉ちゃんも起きると思ったんです。
まさか、朝になるまであの体勢で寝続けるなんて…。
しかも起きたときの第一声が『バナーナ!』だったそうで、
朝から高らかに美貴さんの笑い声が響き、目覚まし時計に起こされるのが
嫌いな私を明るく起こしてくれました。
- 313 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:24
- 気分よく目覚めたその日の朝刊には『抗争か?!暴走族300人が重軽傷』という
記事が小さくのっていました。
その中に『300人とも頭の打ち所が悪かったのか、クマに襲われたと主張している』
って書いて、なにも知らないお姉ちゃんと美貴さんが
『バチが当たったんだよ』って話していたのが、とても面白かったです。
『アリも殺したことないような顔して……意外と凶暴だニィ』
クマをくれた新垣さんには…バレちゃったけど。
私だってアリぐらい踏んづけちゃったことありますぅ。
『クマの上に前髪の揃った暗い目の女の子が乗ってるのを見たって
証言してる人もいるみたいだから、しばらくは乗らないほうが身のためニィよ』
ちぇっ、せっかく自分のものになったのに
乗っちゃだめかぁ。
残念だったけど、その日の夜からは町に静寂が戻って
美貴さんの勉強もはかどっていたようなので我慢しました。
だけど、美貴さんが見事志望校に合格して
暴走族が壊滅したこともすっかり忘れ去られてきたある日
私の我慢は限界に達しました。
- 314 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:24
-
もう、いいよね?
乗ってもいいよね?
だって誘ってるんだもん。
クマが、乗ってってせがんでるんだもん。
念のため、人目につかないように
夜暗くなるのを待って窓から外に出ました。
この夜が、運命の夜になるなんて知らずに。
一生忘れられない夜になるなんて、思いもせずに。
- 315 名前:あなたのためにできること。 投稿日:2004/03/25(木) 17:25
-
- 316 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/03/25(木) 17:26
- 从 `,_っ´)<・・・・・あれ?
レスありがとうございます、そして申し訳ございません。
>>291つみ様
やっぱり遺伝というものは偉大ですから(w
書いた本人どこに泣けるとこがあったのか
サッパリわかりませんが(爆
こんな話を褒めてくださってありがとうございます。
>>292名無飼育さん
ありがとうございます(w
好き勝手書きすぎでアホ極まりない話を読んでくださって
ありがとうございますです、これからも少しでも面白く
なるよう精進いたします。
>>293名も無き読者様
ありがとうございます。
悪魔なっち、降臨させておきました(w
残念ながら朝六時は心のクネクネした人しか観ることができません。
>>294名無飼育さん
そうですね、まずはつよく頭でも打って最高級のアホぅに
なることでしょうか(w
てか脳の構造を見るということは……剃るんですか?(爆
>>295267様
おわわ、またまた一気読みなんて脳味噌に悪いことを…。
でも嬉しいです。ありがとうございます(w
…えっと、うら若き乙女なので剃るのは嫌です(爆
- 317 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/03/25(木) 17:31
- ( ゚д゚)
- 318 名前:亜子 投稿日:2004/03/25(木) 21:30
- はじめまして、こんばんわ。
亜子と申します。
今までずっとROMってました。
ここのえりりん超可愛いです!
クマに乗ってるとこかなり萌えww
ずっと応援してます。
ガキさん‥‥クマくだ(ry
- 319 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/25(木) 21:47
- はぁぁ〜毎度毎度笑いまくりです(w
てかクマに乗るえりりんカワイ!
こっそり抜け出して乗ろうとするし(ww
一生忘れられない夜って、どんな夜になるんだろう…
次回も楽しみです。
そしてもうすぐれいなも出るのかな?
期待していますのでこれからもがんばってください!
- 320 名前:つみ 投稿日:2004/03/25(木) 22:06
- 今回も笑わさせていただきましたw
えりりんちゃいこ〜!ですね!
すべてが絡み合ってすんごいことになってますね。
なちさんもいい角度で入ってきますね♪
次回も楽しみにまってます!
- 321 名前:MONIX ◆RjqrC4Ko 投稿日:2004/03/26(金) 00:09
- >>289
脳に支障なんてあるわけ無いじゃないですか(笑)
なにせ私、「おふぇんす らぶ!」の大ファンですから♪
今回も、物凄く楽しませてもらってます!!
- 322 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/26(金) 09:25
- 更新お疲れサマでございます。
案外。にワロタw
なっち・・・怖いよ、なっち。。。
自分も彼らの数が世界一多い県に在住してるので
ぜひ彼女に撲滅してほしい・・・。w
れいなさんの登場にも期待してます。
- 323 名前:178 投稿日:2004/03/28(日) 06:35
- 藤本父娘 (・∀・)イイ! 次女はマイペース&良い子だね
にしても三女は次女をそういう風に見てたんだ、今後の展開が楽しみ
あと、どこで服仕入れたのか分からないけど(ケチのくせにw)
みきまき(個人的に最強)の格好見たいねぇ
今でぃふぇんすらぶ読んでます。最高。
時間があれば一気読みしたいのだけど我慢して少しずつ。
ノノ*^ー^)(*^-^) ←気付かなかった・・・ (^-^;
- 324 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/05(月) 17:34
- 続き楽しみにしています。頑張って下さい!
- 325 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/04/07(水) 01:42
-
更新の前に。
えぇと、非常に恥ずかしいことなのですが
美貴様と亀ちゃんの年齢がおかしくなっちまってるかもしれないことに
今更気がつきまして_| ̄|○
話の内容が激しくアッホゥなので差し障りはないと思いますが
お気になされる方はとりあえず2人の…というか美貴様の年齢を
無視して読んでください。 川;V)<主人公なのに・・・。
今回は、結構ちゃんと設定を決めてから書き始めたのですが
勢いに任せて書いているせいか相変わらず暴走したり間違えたりで申し訳ないです。
皆様のあたたかい心にはいつもいつも励まされております。
これからもアホなりにアホの限りを尽くしたいと思っておりますので
どうぞよろしくお願いいたします。
名無しのЛ。
- 326 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:44
-
「すぅすぅ…」
「…絵里」
商店街を抜けた通りにある大学病院の1室に、絵里は寝かされていた。
目を固く閉じて零す寝息は穏やかなのに
青白い顔と少しこけた頬が味わった恐怖の深さを物語ってる。
「絵里……目ぇ開けんしゃい…」
絵里が入院して今日で5日目。
大学を終えた美貴が病室にやって来ると、学校をサボッて
付き添ってくれてる田中ちゃんが、蒼白な寝顔を見つめながら
細くなった手をぎゅっと握り締めてた。
「お姉さん怒ってないけん、安心して目ぇ覚ましぃよ。
もし他にも怖いことがあるなられいなに言えばよか。れいなが全力で守ってあげるけん」
半分濡れた声。
けど、精一杯の優しさが込められたその声に
気のせいか絵里の寝顔がフッと和らぐ。
「なに1人で笑っとぉ?
面白いことがあるんなら、れいなにも教えんしゃいよ。
起きて、声聞かせんしゃいよ」
田中ちゃんが、心なしか肉球のある小さな手で
フニフニと絵里の頬をつつく。つつかれて、今度ははっきり微笑む絵里。
- 327 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:44
- ドアにもたれかかってその光景を見ていた美貴は
口の中に甘酸っぱい香りが広がるのを感じて小さく息を吐いた。
「ん?…のわあ!?おおおお姉しゃん!! い、い、いつからそこに?!」
「へ?ついさっきからだけど…そんな驚かなくても…」
「あ、す、すいません。
てっきり誰もいないと思ってたんで…って、今日ははやいんですね」
「うん、午後の講義が休講になって。絵里は…まだ起きないの?」
「…はい」
「……そっか」
まぁ、見てたからわかってたんだけど。
3日間飲まず食わず出さずで隙間に挟まり続け、最終的に意識を
失って引きずり出された絵里は、この5日間昏々と眠り続けてる。
『なんでですか先生ぇ!なんで亀ちゃんは起きないんですかぁ!』
取り乱したなち姉に白衣をボロボロにされながら説明してくれた先生の話によると
詳しい原因はわからないけど、衰弱してるだけで意識が戻らない
原因は身体にはなく、精神的な問題だろうってことだった。
それって思いっきり……美貴のせいってこと?
- 328 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:44
- ―――
絵里が挟まった最初の日。
『絵里ー?大丈夫と? 今塾長に絵里が休んどー……ん?お姉さん?』
休んだ絵里を心配して昼休みに絵里の携帯に電話してきた田中ちゃんに
事情を話すと、田中ちゃんは慌てふためいて額を汗で輝かせながら藤本家に駆けつけてくれた。
『んなっ!?なんねそんおでこはぁ?!………ハッ!まさか…っ!』
玄関で迎えた美貴を見て、驚いたあとサァッと血の気が引いた田中ちゃんの様子に
コイツなにか知ってるなと直感した美貴は
絵里に会わせる前に自室に連れ込んで事情聴取し、「こと」の真相を聞き出した。
『マ、マジでぇ!?』
絵里がホームランぅ?!クネクネしてて腕力の無い絵里がホームランぅ?!
…ってことは…ってことは美貴のおでこにブチ当たったあのボールは……っ!
真実を知り、それによって絵里を襲った恐怖が
どれぐらいのものだったかを想像して泣きたくなりながらも
美貴は急いで絵里の前に跪き、頭を下げて謝った………んだけど。
- 329 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:45
- 『ごめん!美貴知らなくて、でもホントさっきの冗談だし!
なんもしないから、大事な妹を傷つけたりとか絶対しないから!』
『…ブツブツ』
『絵里ぃ!お願いだから出てきてってばぁ!』
『…産医師、異国に向かう、産後…爆竹さん、兄さん走る…二浪し、さんざん破産に泣く…』
『へ?な、なにそれ…?円周率のゴロ?』
『…3.141592 Oh 6535 Oh Yeah♪…』
『んぇ?キューティーパイ? へぇ、絵里ブルーハーツ聴くんだぁ』
『…3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164062862089986280348253421170679…』
『えぇえ!?どこまで覚えてんのぉ?!すごいじゃん!』
『8214808651328230664709384460955058223172535940812848111745028410270193852110555964462294895498038196…』
『わわわ…待って、今度聞くからさ、それより今ははやく出て…』
『4428810975665933446128475648238786783165271201909145648566923460348610454326648213398607260249141273…』
『ほしーんだけどぉ………』
『7245870066063155881748815209209628292540917153643678925903600113305305488204665213841469519415116094…』
『絵里!あれは事故やけん!お姉さんは許してくれとぉよ!』
『330っ……57270365759591953092186117381932611793105118548…』
俯いて円周率を口ずさみ続けてた絵里は、
田中ちゃんの声に一瞬反応して顔を上げたけど、それも1度だけ。
そのあとはなにを言ってもひたすらスルー。
こうなったら無理矢理引っ張り出すしかないと、隙間の中に手を入れたんだけど
もうちょっとで届くってところで絵里がクネクネ動くもんだから捕まえようにも捕まらず。
- 330 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:45
- 小学生の頃『ハヤブサのデコティ』と呼ばれていた美貴が
あんな狭い空間での追いかけっこで負けるなんて…くぅぅ。
って悔しがってる場合じゃなくて。
『亀ちゃん事件』のときはなち姉の説得で出てきてくれたんだけどなぁ。
今回はなち姉もごっちんも亜弥ちゃんも全滅。
エサで釣ろうとしたり、田中ちゃんを隙間の中に入れて捕まえてもらおうとしたけど
絵里は誰の言葉にも耳を貸さず逃げ回って出てきてくれなかった。
だから絵里は勘違いっていうか、誤解っていうか。
まだ美貴が怒ってるって思ってて。
目が覚めないのも、起きたら美貴に怒られるって思ってるから……なんだよね?
はぁ…、なんでこんなんことになったんだか。
誰が悪いんだろう? 美貴? でも美貴も一応被害者じゃないの?
…でも、その被害を与えたのは絵里で……ワザとじゃなくって…。
美貴だって絵里が打ったって知ってたらあんなこと言わなかった。
ホームランなんてすごいじゃんって褒めちぎってたと思う。
その、あのマユゲだと思ったから。
だから、制裁をくわえなきゃって思ったわけで。
- 331 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:46
- 忌々しいマユゲの顔を思い出した美貴の右手に力が入り
強く握る指先が白くなる。
高ぶる感情を抑えようと空いた左手を額にあてると
まだうっすらと残ってるくぼみに一層腹が立って逆効果だった。
「…あのマユゲ野朗ぉ……」
苦虫を噛み潰すっていうのは、こういうことか。
ギリッて音がするぐらい歯をキツク噛むと
前髪をそっと撫でて絵里から離れた田中ちゃんが、申し訳なさそうな上目遣いで美貴を見てくる。
「いや…田中ちゃんは悪くないしさ、全然。
マユゲはムカつくけど、絵里もこんなんなっちゃったし、
中学生相手にいつまでもキレてちゃだめだよね。
そんな顔しなくてもマユゲをボコッたりしないから大丈夫だよ」
「…ありがとうございます…」
田中ちゃんがお礼言わなくても…まぁ、本人いないからしょうがないけど。
「でもさ、あのマユゲ、花ぐらい持ってきてもいいのにね」
絵里はああいう感じだから、クラスの大人しめのグループの中でボーッと空でも眺めてて
目立たないタイプかと思ってたけど、足が速かったりかわいかったりで
学校では結構な人気があるらしく、同じクラスの子はもちろん他のクラスの子とか
下の学年の子とか色んな子が心配してお見舞いに来てくれた。
あまりにもいっぱい来るし、絵里も眠り続けてるから入院3日目で面会謝絶にしてもらったほど。
- 332 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:46
- なのに。
田中ちゃん曰く、小1からずっと同じクラスで、唯一絵里が
生意気な態度をとったり出所不明の対抗意識を燃やしたりと
友達の中でも特に気を許した仲だというあのマユゲは来なかった。
当然といえば当然だけど
話は田中ちゃんから聞いてるだろうに、少しは責任感じたりしないのかな?
「違おっと!」
「…ふぃ?」
やっぱり血祭りにあげとくべきか…と思案し始めたところに
田中ちゃんが大きな声を出した。
「オット?なにそれ?」
「だからあの…塾長は……絵里のことすっごく心配しとって…、
ばってん『LOVEマシーンの効果が完全に消えたとは言えない状態で会うのは危険だニィ』
とかって言ってて、れいなにもよくわからんやばってんが
でん…塾長は毎日ここに来てるんやけん!」
「…ハ? 来てないよ?」
「来とぅとよ!!誰にも気づかれなかようにしとーんで
れいなも見たわけやなか……ばってん、毎日これが部屋の前に置いてあるんやけん!」
(⌒-─⌒)
(・(ё)・ )⊂(` ヮ´*从 ヤケン!
- 333 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:47
- 挑むような目を美貴にむけ、田中ちゃんはベッドの下に
置いてある黒い鞄から手のひらサイズ(もっとでかく見えるのは気のせい)の
かわいらしいのに、なんか変なクマのヌイグルミを取り出した。
「…え?これを…マユゲが?」
「そうたい!鞄の中も見てつかぁさい。全部で5つ、ちゃんとあるでしょ?
ニイガキマークもついとぉし、これは毎朝塾長がここに来て置いてったもんやけん」
たしかに、田中ちゃんの手に1つ、鞄の中に4つクマのヌイグルミがある。
全部同じ顔だけど、それぞれ首にかけられたリボンの色が違っていた。
「で、でもさ、なんでこれ持ってきたのがマユゲなの?
見てないんでしょ?他の人かもしんないじゃん」
「お姉さんは………絵里と塾長の関係をよう知らんからそんなことが言えるんです」
「なっ…」
かかか関係って…や、やめてよ!
あんなマユゲと絵里がふふふ不適切な関係だだだったりししたら美貴泣くよ?
「絵里にクマをあげるなんて、
そげんこつするんはこん世でたった1人、塾長以外にありえなかんったい!」
「…いや、意味わかんないし」
「アリエレーイナ!」
「……ますますわかんないし」
ありえれいなって…ダジャレ?
てか恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。顔赤いよ?
- 334 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:47
- 「…っと、とにかく!クマには特別な意味があるとよ!
れいなと絵里が出会えたんも、塾長とクマのおかげやし!」
「ハ?…会えたのがマユゲとクマのおかげ?」
ごめん。話が全然見えない。
なに? 絵里と田中ちゃんの出会いって動物園だったの?
てっきり学校で知り合って仲良くなったもんだと思ってたんだけど。
「あれは…まだ少し肌寒い春のある夜のことやったと……」
ふぇ?なにいきなり。
誰も聞いてないんだけど…って美貴につっこませる隙も与えず
田中ちゃんは遠くを見つめて語りだした。
◇◇◇
『そげん認めて欲しかなら、クマば捕まえてこい』
『絶対捕まえてやる!おとーしゃんのアホ!』
おとーしゃんとのケンカの末、青いリュックに釣竿を挿して
生まれ育った福岡を飛び出したのは、小学校4年生のときやった。
- 335 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:47
- 当時、れいなには自分の部屋がなくて
弟と2人で狭か部屋ば分け合っとったんです。
最初はそれでも文句なかったと。
でん…やっぱり女の子やし、いつまでも弟と同じ部屋は嫌やったとね。
やけん、ある日おとーしゃんに1人部屋が欲しかって頼んでみたんや。
ばってん、おとーしゃんは『1人前になるまでは1人部屋は与えられなか』って言いよったと。
なんで? 友達はみんな自分の部屋持っとぉよ。
でもそん子たちがみんな1人前やろかって言ったら
カズコちゃんはいつも宿題忘れてくるし、ミネコちゃんは給食のおかずば配るのが下手糞や。
最初の子にたくしゃん入れすぎて、後の子の分がいっつもなくなるんばい。
それに比べてれいなは宿題忘れんし、おかず配るのだって上手たい。
そん証拠にミネコちゃんはもうパンしか配らせてもらえんようになったけど
れいなはカレーもよそえるとよ。
『それはただあんたが給食奉行なだけで、1人前とは言えなか』
なんね? 給食奉行ってなんね?
どうすれば1人前って認めてくれると?
これ以上、れいなはなにをよそえばよかんとね?
- 336 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:48
-
『クマば捕まえてこい』なんて。
そう言えばれいなが諦めると思ったんやろう。
ばってん、生憎れいなはそげんこつでへこたれるほど根性無しやないけん。
いい機会たい。
ここらでいっちょクマでも捕まえて、1人前やって認めさせてみせるけん。
覚悟しとりぃよ、おとーしゃん。
―――
『こんあたりで、クマば見ましぇんでしたか?』
何回そう訊ねたやろう。答えはいつも同じやった。『あぁ、○○動物園で見たよ』
『動物園以外で見ましぇんでした?』って訊きなおすと、
みんな『見てたらたぶん死んでるよ』って言った。
なに言っとう。クマば見たぐらいで死ねる人間がどこにおるんや。
れいなは見るんが目標やなか。捕まえて、おとーしゃんに見せつけてやるんたい。
あるとき『クマなんか探してどうするの?』って訊いてきたおっしゃんに
そう答えたら警察に連れて行かれそうになった。
思わず近くの川に突き落として逃げたけど、あのおっしゃん生きとるやろか?
まぁ、自業自得たい。
- 337 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:48
- 探し始めて1年以上経っても、クマは見つからんかった。
昼は足裏が痛くなるまで歩き回って、夜は公園や鬱蒼と茂った森で寝袋にくるまる日々。
山を越え海を越え、いい加減疲れて柔らかい布団で寝る夢を何回も見たとよ。
でも、1度も帰りたいなんて思わんかった。
れいなは負けず嫌いやけん。
こんまま帰ったら、おとーしゃんになに言われるかわからん。
それに………家出る前にこっそりおとーしゃんの財布から
8万円抜いてきたけん、絶対お尻ペンペンされて怒られる。
そげんこつ、させてたまるか。
よっぽどのことがないかぎり手ぇ出さんかったけん
お金はまだ残っとった。
とりあえずこんお金が底を尽くまでは、行けるところまで行ってやる。
意地だけで歩き続けて
どのぐらい時が経ったのかもようわからんくなった。
ただ、寒か季節が終わって
心地よか生暖かい風が吹き始めたある日。
日本の真ん中らへんに辿り着いて、れいなは困っとった。
だって、こげんところは食事するのにお金がかかるたい。
これじゃあ残りのお金がすぐになくなってしまうとよ。
1番クマがおらなさそうやのに出費がかさむなんて……やっぱり都会は恐ろしか。
- 338 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:48
- ここは1つ、贅沢やけどもうちびっと緑のあるところまで
電車で移動したほうがよかのかな?
歩いてかかる食費ば考えっと、そんほうが安そうやし。
ピコピコと頭の中で計算しながら歩いてると公園が見えた。
覗いてみると広い割に中には誰もおらんくて
ポツンと置かれたベンチが目に入った途端、急な眠気に襲われた。
おっとっと、やば……瞼が重い。ありえなかぐらい重い。
少し休憩しようかな。ベンチに座るんはタダやし………zzz。
.....................................
.........................
...............
........
『ねぇ、こないだの暴走族が300人捕まった事件……関わってないよね?』
『当たり前じゃない、いきなりなに言い出すのよ』
『そ、そうだよね…よかったぁ。
いやさ、あのチームの中にね、お姉ちゃんの知り合いがいたらしくて
その人がクマにヤラれたとかサラサラの黒髪の女の子がクマに乗ってたって言ってるって
聞いたからさぁ。もしかしたらあさ美ちゃんかもって思って…』
『失礼な。私クマより犬のほうが好きだもん』
『う、うん、それはわかってるけど…でもあさ美ちゃん家の玄関に木彫りのクマあるし…』
『ピーマコの家の玄関だって木彫りの七福神があるじゃない』
『ふぇ?あ、あるよぉ、福の神だもん』
『どこがよ、あんな死神やら鬼やら怨霊の集団』
『え?死神ぃ?』
『ま、待ってつかぁさい!!お姉しゃん!さっきの話もうちびっと詳しく教えてつかぁさい!』
『どわああ!?あああなた誰ぇぇぇ?!』
- 339 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:49
- クマ!! クマって言いよったねこん人!!
教えんしゃい!知ってるんなられいなにクマの居場所ば教えんしゃい!
『いや…場所は…暴走族が倒れてたとこなら3丁目のほうだって新聞に載ってたけど
でもクマを見たっていうのは、みんな頭の打ち所が悪かったからだって…』
『3丁目やね?3丁目でクマが出たとね?!
おっしゃああ!!待っとりんしゃいクマぁあああー!!!!』
『………逝っちゃった…』
『…あ、そうだ。クマといえば前にお豆が…』
・・・・・・・・・・
・・・・・
起き抜けの耳に入ってきた情報に、れいなは飛び起きたとよ。
まさかこげなところでやっとクマの有力情報が手に入るなんて……都会は素敵たい。
10分ぐらいやったか、おでこに汗を滲ませながら走って
とうとう3丁目と書かれた電柱を見つけ出したれいなは
そん電柱によじ登って双眼鏡であたりを見渡した。
う〜ん、まだはやいんかな? どこにもおらんばい。
暴走族がどうのこうのって言ってたけん、クマが出たんはもっと遅い時間やったと?
ってか、今まで考えてなかったけど
クマってどうやって捕まえればよかんやろうか?
釣竿で釣るにしても、なにかエサがないと釣れなかよ。
- 340 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:49
- 『ねぇあなた、クマを捕まえたいの?』
『ん?…あ、あんた…誰ね…?』
なんかあったやろかとリュックをゴソゴソしとったら
突然下から声をかけられて、見下ろすと
髪が長くてやたらでかい目のお姉しゃんがれいなを凝視しとった。
『カオ?カオはただの通りすがり。
それより答えて。クマを捕まえるって本気なの?』
『ほ、本気たい。捕まえて、おとーしゃん見返してやるんたい』
なんでこんお姉しゃんはれいながクマハンターって知っとぉと?
気になって問い詰めたかったけど、れいなの言葉を聞いたお姉しゃんの顔が
どんどん寂しそうになっていったけん、聞けんかった。
『…そっか。あれは元々カオリのものだったんだけど、
ガキさんのね、小学校の入学祝いにプレゼントしたの。
でもね、そのプレゼントをガキさんはカオリになんの断りもなくなっちの妹にあげちゃって…。
ひどいよね、みんなひどいよ。こないだはのんちゃんだったし…。
カオリのFOR YOU精神を返してって思うの。
でも思うだけで口に出せないカオは、きっと心が綺麗すぎるんだね。キラリ純粋一直線なんだね』
『……ハ?』
頭おかしいんやろか?もしかして気t(ry
大分失礼なこつば考えとったけど
後になってよくよく考えたら、こんお姉しゃん――飯田さん――はれいなの救世主やった。
- 341 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:50
- 『絵里ちゃんはとってもいい子だし
人のためによかれと思ってしたことだから、責めちゃいけないのかもしれない。
でもね、どんな理由があれ、やっぱり人を傷つけちゃいけないってカオは思うの』
『えりちゃん…?』
『どんなに正しくても、どんな理由があっても
人を殺したら、その人はただの人殺しになっちゃうでしょ?
戦争なんてもってのほか。キリストは隣人を愛せって言ったのに、どうして隣人を殺すの?
コーランには1人の人を殺すことは全人類を殺したのと一緒だって書いてあるのに
どうしていくつもの命を奪えるの?
キリスト教もユダヤ教もイスラム教も、罪のない人を殺していいなんて教えはひとつもないのに』
『………あの』
『なに?』
『そのえりちゃんって子は、人を殺したんですか?』
『ううん、殺してはないよ。
あの子がしたことは、結果的に見ればいいことで、
みんながあの子のおかげで平穏な暮らしを取り戻せたの。
でも、もうクマに乗っちゃだめってカオは思う。1度蹴散らしてしまったら
きっとまた蹴散らしてしまうから』
『…………』
飯田さんの話は、こんときのれいなにはサッパリ意味がわからんくて、
ばってん、もんすごく平和を愛しとぉ人なんやってことはよぉくわかった。
『だから、カオリは田中にエサをあげます』
『あ、それはどうも…ってなんでれいなの名前知っとーと?!』
『あぁ、カオ将来占い師になるの』
『へぇぇ、すごかね』
- 342 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:50
- 『お店の名前はね、「アターレ!」にするつもり』って言いながら
飯田さんはれいなにお煎餅をくれた。
『今夜11時、ここでエサをぶら提げてればクマは絶対釣られるはず。頑張ってね』
『ハイ!ありがとうございました!』
ぺこっと頭を下げると、飯田さんは髪を揺らして去っていった。
そん後は、今日で長かった旅が終わることを信じて焼肉屋に入った。
隣のテーブルで、茶髪のおっしゃんがレバ刺し食べとる高校生ぐらいの女の子に
『前みたいにお母さんって呼んでもええんやで』って言っとったんが気持ち悪かったけど
細かいことは気にせず3人前の盛り合わせを平らげて店を出た。
『ふぅー、食ったばい』
ゆっくり食べたのに時間はまだまだあったけん、次は銭湯に行って
久しぶりに湯船につかった。ずっと川で水浴びやったけん
冬は寒くて死ぬかと思ったこともあったとよ。今ではいい思い出たい。
やっとこさ11時が近づいてきて
れいなはあの電柱に再びよじ登って釣り針に煎餅を仕掛け、じっとクマが現れるのを待った。
『わあっ…気持ちいいねぇクマぁ』
『クマ――♪』
11時になった瞬間やった。れいなの耳に
フニャフニャしてかわいか女の子の楽しげな声とクマの泣き声が聞こえたとよ。
- 343 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:51
- 『来たばい!』
∩_∩ ドド ド ド
( ・(エ)・)っ ド ド ド クマ――♪
( つ゜ / ォ
.,.:,..:.. ...:.. .....,.:,( | (⌒)`):,:, . ォ:, ...,.:..,.::, .:, .
.,.:, .. .. .,. (´ ´し'⌒^ミ `)`)ォ.,.:,..:, .:, .:, .:, .
おぉ、なんちゅう足の速さや。
クマってあんな機敏な生き物やったとね。見直したばい。
…っと感心しとる場合やなか。
エサに気づかれんだら元もこうもなかやん。
最初、100メートルぐらい遠くにおったクマは、みるみるうちに
れいなのところまで近づいてきた。
れいなはクマにエサがよく見えるように釣竿を揺らして煎餅をプラプラさせた。
『あ、クマストップ!あのお煎餅とって』
『クマ――!!』
『えいっ!』
『きゃああああああ!!?!』
- 344 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:51
-
ノハヽ☆
\ ∩─ー0¶(^ー^*从 ====
\/ ● 、_ `0¶ ノ ======
/ \( ● ● |つ
| X_入__ノ ミ よりによって煎餅に俺様が…っクマ――!!
、 (_/ ノ /⌒l
/\___ノ゙_/ / =====
〈 __ノ ====
\ \_ \
\___) \ ====== (´⌒
\ ___ \__ (´⌒;;(´⌒;;
\___)___)(´;;⌒ (´⌒;; ズザザザ
(´⌒; (´⌒;;;
『やったばい!!捕まえたとよ!』
『…っえ?』
『あ、あんたがえりって子やね?
悪いけどそんクマはれいなのもんになったけん、大人しく降りんしゃい』
『な、なんで私の名前っ…れいにゃん!!!』
『ハ?れいにゃん?』
『れいにゃん!れいにゃんだぁー』
『んぇ!? だ、誰がれいにゃんと?れいなは田中れいなたい』
『で、でもっ、れいにゃんにそっくり…かわいい…』
『ひょぇ? か、かわいか…?』
『うん、すっごいかわいい』
『………』
- 345 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:52
- 降りんしゃいって言ったのに、絵里は降りるどころか
クマから電柱に飛び移ってれいなの顔を覗きこんできた。
暗くてよく見えなかったけど、上目遣いで嬉しそうに微笑まれながら
「かわいい」なんて言われて…………、心臓に、矢の刺さる音がした。
『フフフッ、照れてる。れいにゃんかわいいー』
『…や…やけん…れいなはれいにゃんやなかって…』
『撫でてもいい?』
『んなっ!? だだだだめに決まっとぉ!』
『…だめなの?』
『だめ!』
『れいにゃぁん』
『ぐっ……………………い、1回だけやけんね』
『やったぁ』
1回って、頭だけって意味やなくて、総合的な意味やったんやけどなぁ。
絵里は楽しそうに頭を1回撫でた後
人差し指で喉を撫でたり、こめかみにかかる髪を撫でたり…。
『れいにゃんに会えるなんて夢みたい』とかなんとか言いながら
最終的にはぎゅうっと抱きついてきた。
『あの……そろそろ離し…』
『んー?』
『いや、んー?やなくて…』
『んー………zzz…』
『えぇぇ!?ね、寝よったと!?』
『スヤスヤ…』
- 346 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:52
- ど、どういう神経しとるんねこん子は!
こんままじゃ電柱から降りれんし、クマ釣ったまま朝までここにおれって言うんかね?!
こげなとこ誰かに見られたらどうしてくれると?! クマ横取りされるやん!!
『絵里!起きんしゃい!!』
『スピョスピョ』
『だあああ!』
『ニィ?あれは藤本ちゃんにあげたクマだニィ。
しばらく乗っちゃだめって言ったのに、ほんとクマ好きなんだから』
ぐああ早速目撃者が……ってあん人、絵里とクマの知り合いかね?
『スイマセーン、助けてくださーい!』
『ニィん?チミは誰ニィ?どうしてチミの腕の中で藤本ちゃんが寝てるニィ?!』
『それはこっちが知りたいばい。
後で説明しますけんなんとかしてください!お願いします!』
『フフン、なるほど。
じゃあニィが新垣塾を設立した際、塾生になってくれるなら助けてあげるニィ』
『なりますなります!なんでもなりますけんはやく!』
手がしびれて絵里を抱きかかえるのがつらくなってきたれいなが
慌てて叫ぶと、塾長は『マユゲウィーング!』と唱えて黒い大きな翼を広げ
れいなと絵里とクマを持ち上げてバッサバッサと飛び立った。
- 347 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:53
-
すごか!!かっこよかばい!!
『うぉーやったニィ、マユゲウィング初成功だニィ。
あ、チミ、悪いけどクマの首の後ろについてるボタン押してくれる?』
『ハイ!塾長!一生ついて逝きます!!
…っおぉ!!クマが小さくなったとよ!ますます感動したばい!』
『ナッハッハッ、照れるなぁ〜』
こん後、塾長は『サービスニィ』って言って回転技や八の字を披露してくださって
そん間もスーピョー寝とった絵里をそぉっと家まで送り
窓から部屋に入れてベッドに寝かせ、クマをれいなに授けて立ち去ろうとした。
『待ってつかぁさい!』
『ニィ?』
『こんクマ……れいながもらってよかとですか?』
『釣ったんでしょう? なら、もうそれは田中ちゃんのものニィ』
『でん…絵里は、クマが大好きなんですよね?』
れいなに、絵里からクマを奪う権利はあるんやろうか。
飯田さんは、絵里は人を傷つけたって言っとったけど
ばってんそれはいいことをしたからやって言っとった。
- 348 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:53
- れいなが絵里から奪ったクマをおとーしゃんに見せて
そん後、クマはどうなるんやろ?
もしかしたらおとーしゃんは、クマ鍋にして食う気かもしれん。
クマにとっても、絵里の傍にいることが、1番の幸せなんやなかろうか。
『田中ちゃん、チミは今色んなことを考えてるようだけど
本当はそんなことどうでもよくて、ただ、チミがここを離れたくないだけじゃないのかニィ?』
『え…?』
『クマより捕まえたいものを、
お父さんを見返して得られる喜びよりも手に入れたいものを、
見つけてしまったんじゃ、ないのかニィ?』
『っ…』
頭を殴られたみたいやった。
たしかにそうや。
塾長の言う通りや。
れいなは……………れいなは…………………………
◇◇◇
- 349 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:53
- 「と、そういうワケなんです」
「…………」
「ん?お姉さん?」
「ク、クマ……絵里が、あの暴走族を……?」
嘘だ。そんなの信じない。
大体なんなの、今の話。滅茶苦茶にもほどがあるんだけど。
田中ちゃんよく生きてたね。色んな意味で尊敬するよ。
てか田中ちゃんが隣のテーブルに座ってたなんて……
「お姉さん大丈夫と?顔青くなっとぉよ」
「うっ…なんでもない。と、とりあえず絵里とマユゲとクマの関係はよくわかった。
マユゲはちゃんと見舞いに来てくれてんだね。
絵里とも……そっか、そんなに仲いいのか……ハァ」
「そうです。絵里は、おね…なつみお姉さんに対してと同じぐらい
塾長に心開いとるんです。やけん、塾長のこと、絵里の前であまり悪く言わんでください」
「うん………わかった」
一緒に暮らしてるのに、心を開いてもらえない美貴はマユゲ以下か。
まぁ、むこうは小1からの付き合いなんだし…って納得できない自分が悲しい。
- 350 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:54
- 「じゃあ、そろそろ帰るね。美貴がいたら絵里も起きられないだろーし。
なち姉にもあんまり来るなって言われてるから」
起きて1番に美貴を見たら、また隙間に入り込んじゃうかもだし。
「そうですか。…でも、忘れちゃいけんばい。
絵里は、お姉さんのこと好きやけん。
好きやけん、怒らせたこと、こんなに気にしてるとよ」
「…ありがとう。田中ちゃんは優しいね。
学校まで休んで……もし先生になにか言われたら、美貴が話つけたげるから」
「はい。そんときはお願いします」
丁寧にもエレベーターまで送ってくれた田中ちゃんに
手を振って病院を出る。
なんか、これじゃあどっちが家族なのかわかんないなぁ………ハハ。
肩を落として歩いてると、病院前のバス停のベンチに見慣れた影が座っていた。
「ミキたん」
「…亜弥ちゃん」
「一緒に帰ろ?」
「…うん」
- 351 名前:クマとり物語。 投稿日:2004/04/07(水) 01:54
- 美貴の様子から、絵里の容体を察した亜弥ちゃんはなにも聞かなかった。
下をむいてることも気にせず、そっと手を握ってくれる。
今日はホントに、田中ちゃんの話を聞いて
頭を殴られるどころか、火サスに出てくる岸壁から突き落とされた
みたいな衝撃を受けてフラフラになってて
玄関に入った途端泣き出してしまった美貴を
亜弥ちゃんはなにも言わずに抱きしめてくれた。
- 352 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/04/07(水) 01:55
- レスありがとうございます。
>>318亜子様
初めまして、レスありがとうございます。
えりりんかわいいですか(w ちょっと変なんですけど(爆
クマえり、好評(?)なようで嬉しいです。
残念ながらクマはもうガキさんのものでは(ry
>>319名無飼育さん
おぉ、ここでもクマえりが(w
誰でも1つは、親の目を盗んででも乗りたい夢があるものです。
それがクマなのは…この子ぐらいでしょうが…。
期待していただいたのに、アホな夜で申し訳。
頑張ります、ありがとです。
>>320つみ様
絡みあってるというより
ただ絡まってグチャグチャになってるだけなんですけどね(w
なっちは常に右斜め45度から鋭く切れ込みます。
黒髪なっちはちゃいこ〜です(爆
- 353 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/04/07(水) 01:56
- >>321MONIX様
無いですか、よかったぁ(w
おふぇんす…懐かしい…あれを書き始めてもう1年が経つなぁ(遠い目
あんなこっぱずかしい駄文のファンだなんて、ありがとうございます(照
>>322名も無き読者様
やっぱりなっちは天使がいいですね(w
やつらが多いとはまた不幸ですね。
でも危ないのでえりえりは貸せません(爆
>>323178様
メル欄ワロタ(w
いいんですよ、意味なんて。心がなちごまどぅなら!(爆
でぃふぇんすとはまた懐かしい(w
ありがとうございます。
えぇ、次女は良い子でつ(w
良い子なのにね・・・・゜・(ノД`)・゜・
ちなみに服は怪しくない古着屋で2着1000円のセール品を買いました(w
>>324名無し読者様
ありがとうございます。頑張りますです。
- 354 名前:つみ 投稿日:2004/04/07(水) 13:40
- そんな出会いがあったんですね〜・・・
絆の強さを見させていただきました。
しかし途中死にそうなくらい笑ったけど、最後はやはり泣かせるねっ!
- 355 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/07(水) 16:51
- 更新お疲れ様です。
Ah、ツッコミどころが多すぎて・・・。(爆
試しにひとつひとつ・・・大変な作業っぽいので止めときますw
ていうか田中しゃんの過去にチラッ、と出てきた2人が気になる。。。
笑いの後遺症で最後に泣けなかった自分が恨めしいです。
次回も楽しみにしてます。
- 356 名前:178 投稿日:2004/04/08(木) 02:30
- 344笑った。なんでかはまってしまった
昼にこっそり読んでいたのだけど
いきなり笑ったんで視線がイタイイタイ (^-^;
なんかニックネーム誇らしげなんだけど、気に入ってるんだ・・・
ふじもとー気を落とすなー (T-T)
- 357 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:39
- ―――
「…っく、ごめん、いきなり…」
「ううん。もっと泣いていいよ、我慢しなくていいから」
「ふっ……ぐ…」
「私しかいないよ?」
「ぅっ…うっ…うあーぅあぅあぅあぅあぅ、おーいおぃおぃおぃおぃ」
「よしよし」
玄関に入った瞬間、膝から崩れ落ちてしまった美貴を
亜弥ちゃんは意外とたくましい腕で支えて部屋まで運んでくれた。
あ、美貴のじゃなくてね、亜弥ちゃんのなんだけど。
ベッドに美貴を座らせて、横から優しく抱きしめてくれる。
こんな風に泣くなんて。声上げて、子供みたいに泣くなんて
お父さんとお母さんが夫婦としてはもう不成立だって
初めて知ったとき以来かもしんない。
あのときは…ショック受けてるなんて思われたくなくて。
家では平気なフリして、学校に着いた途端屋上に駆け込んで
1人で泣いたんだっけ。鼻水がいっぱい出て大変だったなぁ。
ズズッ、わああ今日も大量、ヤバ、亜弥ちゃんについちゃったよ。
拭こうと思って離れようとしたら「気にしないの」って怒られたし。
- 358 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:39
- あーチクショー。
知り合ったばっかりの、好きになったばっかりの人の前で泣くなんて
恥ずかしいったらないのに。
亜弥ちゃんの声とぬくもりが涙を溢れさせるんだ。
そうだ、亜弥ちゃんのせいだ。
亜弥ちゃんが優しいからいけないんだ。
包み込まれたら安心しちゃうじゃん。
美貴は泣きたくなんかないのに。
泣かないさ、笑うんだ。
悲しくないさ、楽しいんだ。
屋上で空見上げて、自分にそう言い聞かせたんだから。
笑わなきゃ、楽しまなきゃ、
人生なんて長ったらしいもんに付き合ってらんない。
そう、その通り、間違ってない。
だから泣かさないでってば。なんで泣いてんのかわかんなくなる。
アハハハハッ、なんでだぁ? アハハハハッ。
- 359 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:40
- 「わかっ…んなっ、ハハッ…ヒック、クハハッ」
「…ん」
わかんないよ。
教えてくんなくていいから止めて。
泣くか笑うかどっちかにしてよ自分。
…………っ。
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――
―――――
ホテルで食事する前から、なち姉と絵里のことはお父さんに
耳にタコができるぐらい聞かされてた。
特に絵里の話は、毎日夕食の話題になってたっけ。
『絵里ちゃんってさ〜恥ずかしがり屋さんでさ〜
なつみちゃんの後ろに隠れてんの、すっげぇかわいいんだよ!』
『親父、顔がキモイ』
『今日な、ピンクの漬物ずーっと食ってるからオレの分もあげたんだ。
そしたら「ありがとうゴザベス」って初めて笑ってくれたんだよ!』
『…ゴザベス?』
- 360 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:40
- 聞いてるうちにだんだん、会ったこともないのに
2人のこと他人とは思えなくなって。
美貴のほうから2人の話を聞くことも多くなった。
ワクワクしてたんだよ。
なんとなく、会うときのお楽しみにしてたから
2人がどんな顔してるのかも知らなかったし。
どんな声なのかもわからなかった。
緊張はしてなかったけど、前の夜は眠れなくて
枕相手に一晩中『お母さん、なつみさん、絵里ちゃん』って呼ぶ練習してた。
アハハ、思い出すと恥ずかしいことしたなぁ、アハハ。
美貴が話しかけると、真っ黒い目をキョロキョロさせて縮こまりながら
『あの、えっと、その、うんと』って必死に口をパクパクさせてた絵里。
顔近づけたら真っ赤になっちゃって
俯いて、あんまり美貴のことは見てくれなかったけど
人見知りしながらも一生懸命応えようとしてくれたのが、すごく嬉しかった。
絵里ちゃんは優しい子なんだなぁ。
なつみさんは天然ぽくて面白そうだし。
お母さんはしっかりした女の人だし。
うん。 ニュー藤本家、いい感じじゃん。
- 361 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:40
-
そう感じた通り、ニュー藤本家での生活は
美貴的にはかなり楽しくて、久しぶりに家庭の味食べれたし
今までいなかった姉妹っていう存在が新鮮で面白かった。
むこうは怯えてたけど。
なち姉は年上だし、今じゃ美貴のことを平気で
パシリに使ったりするけど…そういえば、刃物を向けられたこともあったっけ。
どっちが怖いの?って感じだよ。
ごっちんがいなかったらどうなってたのかな。
……やめやめ、想像するとかなり寂しい展開しか浮かんでこない。
絵里は、美貴と2人だけになると
いつまで経っても落ち着かないみたいだった。
たぶん、今もそう。
2人じゃないときは『今から面白いことする』って
フニャフニャ笑いながら美貴のツボにクリーンヒットな変な動きを見せてくれたり、
嫌いな緑の野菜を、なち姉の目を盗んでごっちんの皿に投げこんで
それを見て笑った美貴にウフフと得意気に笑い返してくれたりしたけど、
2人っきりだと挨拶とか『ご飯できました』以外で
話しかけられたのって片手で数えても余りそう…。
クリームパンのときだって絵里はほとんど喋らなかったもんなぁ。
- 362 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:41
-
そんな、そんな絵里がだよ?
なち姉の下敷きになってた美貴を、助けてはくれなかったけど応援してくれて
それだけでなんか、盆と正月が一緒に来たっていうの?
美貴的には給料日とバーゲンが一緒に来たほうがいいんだけど
とにかくそんな感じですごい嬉しかったわけ。
だってさ、あのときの美貴って
毎日暴走族にマジギレしてて、絵里は相当怖かったと思う。
だから、せっかくクリームパンで近づけたのに
これでまた距離ひらいちゃったなぁって思ってたんだ。
なのにそこで『頑張ってください』だもん。
ぶっちゃけ感動でちょっと泣きそうだったんだよ。
ウルウルだったんだよ、ウルティだよ、ぐすん。
充分だった。
その一言だけで、美貴は充分だったんだ。
だから、まさか絵里がそんな危ないことをしてくれてたなんて、思うワケないじゃん。
相手は暴走族なんだよ?
怪我しなかったのは奇跡って言ってもおかしくない。
- 363 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:41
- なんだよ、美貴のこと、怖いくせに、なんでそんなことすんのさ。
美貴には懐いてくれないのに、美貴には心開いてくれないのに。
なんで? 全然わかんないよ。
わかんないって。なんでそんなにかわいいんだよ、絵里のバカ。
―――――
――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
「私にもね、妹ちゃん2人いるんだぁ。
上の子はハキハキしたしっかり者でぇ、
下の子はぁ、ちょっとミキたんに似てるかも。
たまに生意気なんだけど、2人ともすっごくかわいいよ。
ケンカもしょっちゅうしたけど
離れて暮らすって決まったときは2人とも大泣きしちゃって
つられて私も泣いちゃってさぁ、妹ちゃんたちが愛しいって心の底から思ったなぁ」
止まらないしゃっくりに喉を引きつらせながらの聴き取りづらい
美貴の話を静かに聞いてた亜弥ちゃんは、美貴の体が
落ち着くのを待って呟くように話し始めた。
- 364 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:42
- 「けどね、そうやって思えたのって
離れることになって初めてっていうか。
それまで2人が自分にとってどれだけかけがえのない存在かなんて、考えたことなかったの」
「…毎日一緒にいたら、普通考えないよ」
「そだね……うん。
寂しいけどよかったんだよね。この家に来れて、ミキたんと、会えて。
ホントによかった」
「…ん……美貴も」
亜弥ちゃんに会えて、よかった。
「あ、そーだ。たんは知らないだろーけどぉ
初めてこのお家に来たとき、私すごいびっくりしてたんだよ?」
「…なんで?」
「だってね、なつみさんも絵里ちゃんも、たんのことすっごい心配してたじゃん。
実はね、私、パパから『藤本さん家は再婚さんやから複雑かもしれへん』って聞かされてて。
おまけに『まぁ子供さんらだけで住んどるで大丈夫やとは思うけど
タワシや財布がステーキにされとったら亜弥がホンマの姉妹ゆーもん教えたらなあかんで。
それで上手いこといったらかっこええがな、昼メロみたいやん。ボタバラボタバラ』
なぁーんて指令まで与えられてたから、最初ごっちんにここが藤本さん家だって
言われたときはすぐに飲み込めなくて。朝ご飯も本物で、すごい安心したの」
「…………」
その場合、ホンマの姉妹よりも
精肉店に行って肉の買い方を教えたほうがいいんじゃない?
- 365 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:42
- 「ミキたんたちはさ、姉妹歴、まだまだ短いでしょ?
なのに、お互いにちゃんと大事に想い合ってて…それって偉いと思う。
まだ絵里ちゃんはミキたんに全部を見せてはないかもしれないけど
そんなの、私だって妹ちゃんたちの全部を見てこれたわけじゃないし」
今は顔もみれないし…って腕に力をこめると
亜弥ちゃんは美貴を抱えたままベッドに寝っ転がった。
より強く抱きしめられて、ついさっき自分の鼻水や涙で濡らしまくった
胸元に正面衝突した美貴が、思わず「ぐうぇ」って呻くと
顔を覗き込んできた亜弥ちゃんの顔は少し怒ってた。
「ねぇミキたん。ミキたんがどう感じるかは自由だけど
心閉じてるとか、懐いてないとか、そんなこと絶対ないと思うよ。
第3者がなに言うんだとか、なにも知らないくせにって思う?
でも私だって、まだ短いけど3人と一緒に住んで間近で見てんだから
絵里ちゃんがミキたんのこと好きってことぐらいわかるよ。
目ぇ見たら、わかるもん。
たん、ちゃんと絵里ちゃんに大切にされてる。大好きって想われてる」
人差し指で鼻をペシペシ叩かれる。
亜弥ちゃんが年下だってこと、一瞬忘れた。
- 366 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:42
-
「自信ない? 大丈夫。
私が、保証してあげる。
松浦亜弥が、保証してあげる」
「にゃはは、これ以上強力な保証なんてないよぉ?
世界1、いや宇宙1だね。
かわいいミキたん、自信持って」
「ホントはちょっとぉ、ヤキモチ焼いちゃったりしてるんだぞ。
だって最近のたん絵里ちゃんにかかりっきりでさぁ
ちゅうもずっとオアズケだしぃ」
「我慢してあげてんだから、そんな顔しないのぉ。
たんがそんなんじゃ絵里ちゃんが起きたとき心配しちゃうよ?
絵里ちゃんの笑顔見たくないのか? どうなんだ? ん?」
「おっし、じゃあ顔洗いに行くべ。
え?服も着替えなって? いいのぉ、今日はミキたんの鼻水どばぁ記念日だもん。
あーなにその目ぇー、生意気ぃー、こぉしてやるぅ!」
「みゃははははは!
ここか? ここが弱いのか? うりうりうりうり!」
- 367 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:43
-
思いっきり泣いた後に思いっきりウリウリされて、
すぐに冷やしたけど、目は倍ぐらいに腫れた。
こ、こんなんじゃ泣いたってバレバレじゃん。
なち姉たちに見せらんないよ。
「もぉ〜照れ屋さんは仕方ないでちゅね〜」って
小っちゃい子扱いしてきたのは腹立ったけど、亜弥ちゃんは
部屋に篭った美貴にご飯を運んできてくれたり
トイレに行くときは美貴と自分の顔を包帯でグルグル巻きにして
「ミイラごっこぉ♪」なんて誤魔化してくれて。
「なんかごめんね、ありがと」
「くふぅー、疲れたぁ。たん、肩揉んで?」
「ハイハイ」
お風呂に入った後、仕事から帰ってきた親父みたいなセリフを口にしながら
亜弥ちゃんはベッドに凭れてカーペットに座ってる美貴の隣に腰を降ろした。
「あ、足も痛いなぁー」
「ハイハイハイ」
「っひゃあ!?くくくくすぐったいよぉ!!」
「え? そう? さっきの仕返しだったりして」
「にゃろう!仕返しの前に恩返ししてよ!」
「肩揉んだじゃん」
「ふぬー!!」
「アハハハッ!なにその顔!」
「ふぬぬ!!人の顔見て笑うなぁ!」
- 368 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:43
- だってフグみたいで面白いんだもん。
亜弥ちゃんサルっぽいからサルフグだ。サルフグ。
「もぉ…バカたん…」
「ハハッ…っ…?」
美貴の頭の中ではすでに珍魚・サルフグとして水族館で展示されちゃってる
亜弥ちゃんが呆れた表情で呟いたその声が、目を見開くほど優しくて、思わず笑いを引っこめた。
「バカだけど。
そうやって、楽しそうにしてるたんが1番かわいい。
笑ってるたんが、1番かわいい。大好き」
「――ぇ?」
な、なにをいきなり………いや、予告されても困るけど。
そんな急にマジな顔して、まさかこれって……告白タイム?
「好きだよ。
まだ、ちゃんと言ったことなかったよね?
ミキたんが好き。初めて会ったときから好きだった」
「……え、あ、どーも」
ヘビに睨まれたカエルみたいになりながら、とりあえず頭を下げる。
喉が熱い。
「ふぇ? ちょっとミキたん、どーもじゃないでしょ」
「え?」
「え?じゃなくて。
人がありえないぐらい心臓バクバクさせて好きって言ってるのに逃げる気?」
「いえいえ…そんなつもりは…」
「なら言ってよ」
- 369 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:44
- こ、怖。
ちょっと亜弥ちゃん怖いんですけど。
心臓バクバクってホントなの? えらいサラッとしてたけど。
確認してみるかな……
「たんのエッチ!そういうのする前にちゃんと言いなさいってば!」
「イタタタ!い、いやこれは確認を…」
「なんの? てかそんなのどうでもいいから。
私はミキたんの気持ちが知りたいの」
一瞬触れたところでつねられちゃったけど
その一瞬でわかるくらい、亜弥ちゃんの心臓は跳ね上がってた。
それが美貴に伝染して、そんなこと言えるかって心は叫ぶけど
体はジリジリ追い詰められて、背中には壁。
顔のすぐ横には亜弥ちゃんの腕。
目の前には亜弥ちゃんの顔。
言いたくないわけじゃない。
強く訴えてくる態度とは裏腹に、不安気に揺れてる瞳が見えるから。
はやく安心させてあげたいって思う。
そんな顔しないで、美貴も好きだよ。
こんなにこんなに、君に惹かれてるんだ。
そう、言えばいいんだよね。
- 370 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:44
-
「………亜弥ちゃん………さっき、どう思ってるか、
目を見たらわかるみたいなこと言ったよね?」
「…絵里ちゃんの話?」
「そう。わかるんでしょ? 目を見れば」
「……そ、それは…」
ごめん。
卑怯だってわかってる。
「亜弥ちゃんが、あてられたら教えてあげる。
美貴の目を見て、美貴の気持ちを」
けど、ちゃんと言うから。
「ミキたんは……」
勇気を、美貴に勇気をください。
「私のことが、好きだね」
ありがとう。
「うん。美貴は、亜弥ちゃんのことが、好きだよ」
- 371 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:45
-
零れる透明の雫。
唇を寄せると、くすぐったそうに笑って
抱き寄せたら、1つになっちゃうんじゃないかってくらい強く抱き返されて。
愛しさに頬が緩んだ。
「私のこと好きなんだね」
「美貴のこと好きなんだ」
おでこをくっつけて、お互いの瞳に映された気持ちを見つめ合う。
亜弥ちゃんが、ミキたんが、好き、好き、大好き、大好き
他の想いなんか見つからない。見つけさせない。
このままずっと、どうか一生、
亜弥ちゃんの瞳から零れる気持ちが変わりませんように。
美貴の瞳から溢れて体中を支配するこの気持ちが、変わりませんように。
- 372 名前:いきなりなんて、聞いてないけど。 投稿日:2004/04/12(月) 03:45
-
- 373 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/04/12(月) 03:46
- お久しぶりです(爆
ベタベタですいません。
レスありがとうございます。
>>354つみ様
絆なんて立派なお言葉勿体ないです。
傷だらけです(何
>>355名も無き読者様
えぇ、止めるのにはおおいに賛成です(w
あの2人はそのうちまた出てきますので
それまで気にしといてくださいね(嘘です、忘れていいです爆
>>356178様
フフフ、読まれなかったぜ(w
はまってしまいましたか…イタイですね(w
気に入ってるというか、諦めたというか(悲
(VvV从<おぅ、ありがとーなのだ。
- 374 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/04/12(月) 03:49
-
川;VvV)(‘ 。‘;从
- 375 名前:つみ 投稿日:2004/04/12(月) 11:56
- ウルティ・・・
今回は感動でした!
今自分もウルティ状態で・・・まつーらさんわたくしも・・w
- 376 名前:178 投稿日:2004/04/12(月) 17:44
- おー。なんか深まりましたねぇ
亀ちゃん早く元気になれー
- 377 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 00:55
- ボタバラで爆笑しましたw作者さんも見てたんですねぇ(笑)
あやみきもラヴラヴだしこれで今夜は気持ち良く眠れそうです。ありがとう。
- 378 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 01:18
- どんだけ萌えればいいんでしょうか…
萌え殺されるってこの事ですねw
ラブラブな二人、さいこーです!!
- 379 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/14(水) 18:55
- 乙彼ッス。
ボタバラで死にかけました(呼吸困難)w
春休み中見てたから。。。
でも最後にあやみき、やってくれましたねぇww
今度は出血多量ですYO(←danger)
続きも楽しみにしてまっす!!
- 380 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:41
-
太陽が沈み、漆黒の闇に月と星だけが輝く夜。
空を見上げる私の元に、1匹のキツネがやってきた。
「コンコン」
「…ニィ?」
どうやって登ってきたのか、3階にある私の部屋のベランダに現れた
黄金色のその足にはキレイな和紙がくくりつけられており
達筆な字で【ガキさんへ】と書かれている。
「なになニィ…」
【 こんばんハッシュドポテト。
んだんだ、オラ見ただ、南の空にでっかい大福みてーな(ry
ののたんは神。
あんた、肩にペットの毛がついてるよ。
ヒャーヒャッヒャッ!ヒョーヒョッヒョッヒョッ!
美人お姉さんとトンマ人形より 】
- 381 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:41
-
そう、始まりは、コンギツネ。
- 382 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:41
-
―――
「……キたん、ミキたん」
「ん…?」
「おはよ、学校行ってくるね」
「あ…うん。ごめん起きなくて…」
「いいよぉ、たん今日2限からなんでしょ? 起こしてごめんね」
ぼてっと重い瞼を持ち上げると
すでに制服に着替えた亜弥ちゃんが美貴の顔を覗きこんでた。
ボーッと霞む視界の中でクニャンと微笑まれて、昨夜の告白を思い出す。
うぉ……は、恥ずかしい………
亜弥ちゃんは平気なのかな?
今美貴ありえないぐらい顔熱いんだけど。
朝から汗だくになりそうなんだけど。
「むふふふふふ」
な、なにその変な笑いは?
まぁ亜弥ちゃんって大抵笑いかたおかしいよね。
それでもかわいいんだけど、妙になにかを企んでそうな亜弥ちゃんは
ズイズイと顔を近づけてくる。
- 383 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:42
- あ、ちゅうか。おはようのちゅうね。
絵里が隙間に挟まってからオアズケだったもんね。
一緒に寝ない日だってあったし。
ハイハイどうぞ、しちゃってくださ―――
「――どぅえ!?」
「ん〜どれどれぇ…よし!ミキたん今日も私が好きだね!合格!」
目を閉じてキスの待ち受け体勢にはいったら、思いっきり瞼をひんむかれた。
「……ぁー…アハハ、そっちか…」
そうですか、そっちですか、瞳の好き好きチェックですか。
バカだな、そんなの確かめなくたって昨日の今日で変わるワケないじゃん。
「そっち?………あー!たんちゅうだと思ったのぉ?」
「へ!? や、えっと、別に」
「誤魔化してもだぁめ。
そっか、たんはウキウキなちゅう希望かぁ。よしよし、叶えてしんぜよう」
ウキウキなちゅう? どんなちゅうだよ。
つーか勘違いがバレてとんでもなく恥ずかしい、際限なく恥ずかしい。
「い、いいよ!いいからはやく学校行き…」
「ちゅう♥」
「っ…」
「ごちそーさまぁー、行ってきまぁーす♪」
「………ヤラレタ」
- 384 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:42
- ヤラレタけど、おかげですっきり目も覚めた。
もう少し寝れるけど、面倒だから起きちゃおう。
と、体を起こそうとして
体の右半身になにかが張りついてることに気づいた。
なんだろ?抱き枕じゃないし………
「…んあ」
「だぁああ!?ごごごごっちん!いつからそこに?!」
「まっつーが来るちょっと前」
「ちょ!?ちょっと前?!てことは見てたの?!」
「見えたの」
「へぇ」
それじゃあ仕方な…いワケあるかぁっ!!
「なに勝手に人のベッドに入り込んでんだよ!!!」
「いやいやこれには深い理由があって」
「どんな理由だよ!!」
「んあー、こないださぁ、ミキティ起こしにきたらまっつーがいたじゃん?
あのとき部屋間違えてるって言われてそっかぁって思ったんだけど
よく考えたらそれないなぁと思ってぇ」
「…考える前に気づきなよ」
- 385 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:43
- 「あはっ。んでね、じゃあなんでまっつー嘘ついたの?
そっか、ミキティのベッドってきっとすごく寝心地がいいんだ!みたいな
感じで試しに寝てみたらまっつーが来て、びっくりさせよーと思って出る
機会窺ってたらいきなりちゅうだもん。ごとーがびっくり」
そんなごとーに美貴がびっくりってか?
で、あとで美貴が話せば亜弥ちゃんもびっくり。
びっくりトライアングルの出来上がり。ワーイワー…
「イ♪って誰が楽しめるかぁ!!
ふざけんなゴマキ!
しかもなんで美貴にひっついてんだよ!」
「んあーあったかくてさー、つーかゴマキ言うな!!」
「うるさい!さっさと出てけ!!」
グワァー ンアァー
〜30分後。
「アタタタタ…青タンできてんじゃん…」
「ごとーもだよ…ミキティ本気でぶつんだもん…」
「ごっちんだって本気で踵落としたじゃん…って言い合ったら振り出しに戻るね。
ごめん、寝起きで機嫌悪かったと思って許して」
「んあ、こっちもごめん」
- 386 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:43
- ベッドの上での格闘を終えて(なんか言いかたヤラしいけど誓って変なことはしてない)
荒い息を吐きながら(これまたヤラしいけどホントにしてないから)
洗面所の鏡を見ると、2人とも見事に血だらけの痣だらけになってた。
おかげで腫れた瞼が目立たないんだけど
明らかに殴り合いのケンカしたのがバレバレだから
2人揃ってなち姉に見られた日にゃあ絶対怒られるニャー………コホン。
「そ、そういやなち姉は?」
「さっき病院の先生から大事な話があるって呼び出されてた。
そのまま今日は仕事休むって。だからその分ごとー頑張んなきゃいけないのに
この顔じゃお客さんの前に出れないよぉー」
「美貴だってこの顔で大学行ったら矢口さんになに言われるやら…
休もっかな、どーせ今日も保積ぺぺだろーし」
「んあ? 誰それ?」
週末を利用して、先日のしりとりバレーの罰ゲームで負けた子たちは
約束通り徹夜で矢口さんの『保積ぺぺ大全集』を見せられたらしいんだけど、
そのあと信じられないことにみんな保積ぺぺファンになっちゃったらしく
リクエストが多いとかで矢口さんの講義はすっかり保積ぺぺ尽くし。
しかも悲しいことに1番ハマっちゃってんのがまいちゃんで
買い損ねた『ぺぺのひとりごと』を隣の県の本屋にまで足を伸ばしてゲットし
毎日のように『おめえ、へそねぇじゃねぇか』って絡んでくる。
ハッキリ言って迷惑だ。
美貴はケロタンじゃないんだからへそぐらいある。
- 387 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:43
- 「んあ、休むんだったらさー、なっち絵里ちゃんの替えの下着持ってくの
忘れたから届けてくんない?
まだ気づいてないみたいだし、できたら今から行ったげて?」
「うん、いいけど……。
てことはなち姉に美貴の顔見られるよね…」
「んあ、仕方ない。
ごとー今日は実家に泊まるよ。
明日になればちょっとはマシになってメイクで誤魔化せると思うし。
つーかミキティさっき目ぇポンポンじゃなかった? あんま寝てないの?」
「へ?…ぁー、うん!絵里のことが心配で…」
「ふぅん。まっつーとイチャついてたのかと思った」
「んぎっ!? な、なワケないじゃん!!
絵里が大変なときにそんなことできるワケないでしょ!
つーか亜弥ちゃんとのこと誰にも言わないでよ!」
「んぇ? なんで?」
な、なんでって、ごっちんに知られた上になち姉にまで知られたら
なに言われるやら…それに絵里の教育によろしくないでしょ。
「んあ〜? でもごとーとなっちのことも知ってるし、
絵里ちゃんだってもうすぐ高校生だからいいんでない?
なんかヤラしい少女マンガとか読んでたし」
「ハァアアア!? ヤッ、ヤラしいマンガぁああ?!
だ、だめそんなの!!まだはやいって!」
もうすぐ高校生だろーがコケラオトシだろーが絵里は絵里なんだよ!!
- 388 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:44
- 「カタイなぁ。見るとヤるじゃ大違いだしさぁ、
読むぐらいいいじゃん。ミキティたちが大きい声とか
出さなかったら問題ないでしょ」
「いやいやいやいや! んなこと家でするワケないって!!
………って待った、さっきなち姉のことで変なこと言わなかった?」
「んあ?変?」
「うん、ごっちんとなち姉のことって…」
「あぁー、うん」
「まさか……」
「食べちゃった♪」
「――っ」
えぇえええ!? あ、あんたらそういう関係だったの?!
全然知らなかったんだけど!
そりゃ確かにいつもくっついてるけど…っ嘘ぉ。
「んあ、だからぁ、なっちとごとーもLOEVLOEVだし
これは絵里ちゃんも知ってることだから隠す必要ないって」
「そ、そうなんだ…」
てかLOVEのつづり間違ってるし、ロエブロエブってなんだよ。
「そんなワケでオープンに行こ!
てっきり知ってると思ってたから
ごとーたちのことちゃんと言ってなくてごめんね」
「いゃ、ぁ、うん…いいよ別に。
じゃあ美貴病院行ってくる、ついでに診てもらおーかな、頭……」
昨日から色んなショック受けまくってるから
20歳越える前に脳細胞が1日10万個どころか100万個ぐらい死滅してるかもしんない。
いや、確実に死んでる、もうだめ。
- 389 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:44
- ―――
「あ、おはようございます。ってそん顔どうしたんです?」
「おはよ、ちょっと転んだんだ。
なち姉は? 先生のとこ?」
昨日と同じく、美貴が病室に来ると眠ってる絵里と
田中ちゃんがいて、なち姉の姿はなかった。
「いえ、さっき戻られて、屋上に行かれました」
「屋上? んじゃ美貴も行ってくる、絵里のことお願いね」
よかった、すれ違ったのかと思った。
でも屋上なんて何の用だろ?
首を傾げながらも美貴は絵里の頭を一撫でして病室を出た。
エレベーターが降りてったばっかだったから
階段を上ってると、途中でスッと嫌な予感が頭を過ぎる。
………まさか。
そんな、まさか。
でも先生に呼び出されたってことは絵里の話だよね。
しかもこんな朝はやくに呼び出されたってことは相当大事な話で。
絵里は今日も眠ったままで……
「なち姉!!!」
どんどん考えが悪い方に突っ走ってひどい寒気に襲われた美貴は
全速力で階段を駆け上がって屋上の扉を開いた。
- 390 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:45
- 「…美貴」
するとそこには眩しい太陽の下で、目元を抑えながら
花壇の傍に座り込んでるなち姉がいて…。
「なち姉、どうし…」
「な、なんでもないっしょ! お花キレイだなぁと思って見てたのさ。
美貴こそなんだい?その顔は。まぁーた悪さしたべか?」
またって、美貴は悪さなんかしたことないっての。
あ、いや、今はそんなことより。
「なんでもなくないでしょ、泣いてんじゃん。
先生になに言われたの? 美貴には言えないワケ?」
「…む」
正面にしゃがんで涙を拭うと、なち姉は悔しそうに下を噛む。
しばらく目線を固いコンクリートに落として
子供みたいな小さい手でポカポカ美貴の肩を叩いた。
「…亀ちゃ……がっ……も…おっ…きない…かもって………」
「…え…」
起きない? もう起きないって、このままずっと?
「げ、いんも…わか…ないしっ……このままじゃ……っえ、えいみ…っ」
「わかったから、もういいから」
- 391 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:45
- 自分が続けようとした言葉に耐え切れず両手で顔を覆ったなち姉の
頭を抱えこむ。嗚咽で漏れる息が胸に触れて、澄んだ青空が滲んだ。
もう何日、この人の晴れ渡るような笑顔を見てないんだろう。
なち姉にとって
絵里がどれだけかわいくて愛しい存在かを、美貴は知ってる。
ずっと守ってきたし、助けてきた。
なち姉がいなかったら絵里はもっと暗い子だったんじゃないかっていうぐらい
2人は一緒に笑ってた。
奪ったのは美貴なのかな。
そう思うと、ここから飛び降りたくなるけど
そんな無責任なことできるワケない。
なにもしないでいなくなるなんてできるかバカ。
絵里は、美貴のためにクマに乗ってくれたんだ。
なち姉は、毎日おいしいご飯作ってくれるんだ。
こんな大事な家族を残して、自分だけ楽になれるか。
葬式代いくらかかると思ってんだバカヤロウ。
亜弥ちゃんとだってこれからじゃんか。
弱音吐くな藤本美貴。
立ち上がれガンダム!!…もといミキンダム!!!
- 392 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:45
- 「なち姉、泣かなくていい。
美貴がなんとかする。絶対なんとかする!!」
「…っ、美貴が…?」
「うん。まかして!」
「どうやって…」
どうやってもこうやってもない。
寝てるなら起こすのみ。
させねぇ、ぜってえさせねぇ。
おばあちゃんになって長寿をまっとうするまで、永眠なんかさせやしねぇ!
「田中ぁ!!手伝え!」
「ひょっ? な、なにをですか?」
「絵里を起こすの! なにがなんでも今日中に起こす!
まずは必殺ミキティ目覚まし! ジリリリリリリリリリリリィ!!!!!」
「ジ、ジリリリリリリリリィ!!!」
屋上から戻った美貴は田中ちゃんと2人で絵里の枕元に立ってバカでかい声で騒ぐ。
けど絵里はピクリとも動かない。
「くそぉ!じゃあ次!!
ミキティモーニングコォール!!!
朝だぁぁぁああああああああああああ―――――!!!!!」
「ダァァァアアアア―――」
「ちょっとあなたたち!!!ここをどこだと思ってるんですか!
病院ですよ!静かにしなさい!!」
「うっさい! 絵里1人起こせないくせになにが病院だ!!
静かにしろってんならこの子外出させますから! 逝くぞ田中ぁ!!」
「ハイ!」
「待ちなさい! 患者をどこに連れて行く気?! こらぁ!」
- 393 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:46
-
―――
「あれー? じゅくちょーって2組だったんですかぁ。
かわいい私にボールあてないでくださいねぇ」
「…あてられたくないなら
他の競技にエントリーすればよかったんじゃないかニィ?」
「ジャンケン負けちゃったんですぅ」
「あぁ、道重ちゃんグーしか出さないもんね」
ついでに言うと田中ちゃんは“グー、チョキ、パー”の順番でしか出さないし。
今度ジャンケン強化合宿をしたほうがいいニィね。
今日は年に1度の球技大会。
白熱した少女と少女の激闘の末に
いつもは青春のシンボル・ニキビができて、リンダ困っちゃう肌から
甘く香りたつ奇跡のSWEAT――ロマンティックエクストラが湧きだし、
その雫に彩られたおでこがまるで宝石箱のように光り輝く。
そんな乙女のジュエリーデイである。
教室の入り口のドアにミニーちゃんのヌイグルミが
吊るし上げられていることで有名な3年2組の生徒であるこの私、新垣里沙も
バレーの選手としてこの大会に参加しているのだが、
どうやら次の対戦相手は塾生の道重が所属するクラスらしい。
- 394 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:46
- 「フッ、負けないニィ」
「私も負けたくないですけど、れーないないし無理かなぁ」
「ニィ? 田中ちゃんいないニィ?」
「はい、絵里のとこお見舞いに行ってます」
「……そーか。毎日行ってるんだったね」
私のクラスメイト――藤本絵里が学校に来なくなったのは
今から1週間以上前のこと。
最初は風邪だと説明されていたが
藤本ちゃんが入院し、見舞いに行ったクラスメイトたちが、いつ行っても
熱のなさそうな、むしろ熱を失ったかのような顔で眠っているのを
不思議に思って彼女の姉に尋ねてみると
『亀ちゃんは……エビアンと間違えて目薬を1g飲んじまったんだべさ』
という悲痛な言葉が返ってきたそうで。
それ以来彼女は眠り姫になった少女・スリーピーえりりんとして
我が校の伝説の1つに加えられたのであるが、
その話がまったくのデタラメであることを、私は知っている。
というかそんなバレバレな嘘に、事情を知る私と田中ちゃん、道重ちゃん以外の
全校生徒が騙されたことが信じられない。
由々しき事態だ。ニッポンの未来は大丈夫だろうか。
- 395 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:46
- まぁそんな先のことよりも今は藤本ちゃんが心配だ。
ピカピカの小学1年で出会って以来、毎日のように顔を合わせていたのに
突然こんなことになるなんて………。
ごめんね藤本ちゃん。
あと3日もすればLOVEマシーンの効力は完全に消え去ると思うから
すぐに病院に行って、ニィのマユゲウェイクアップで起こしてあげるニィ。
それまで、どうかよい夢を。
「じゅくちょー、試合始まりますよー」
「ん? ハイハーイ」
道重ちゃんの声に振り向くと、もうすでに他のメンバーは
コートに入っており、私の顔を見ると『言われた通りパー出したら勝ったよ』と
笑顔でボールを渡してきた。
やっぱりジャンケン強化合宿、決定。
ライン際に立ってボールを構えると、生温い風が頬を撫でる。
おかしな話だが、バスケットと卓球とカバティに場所を取られたため
バレーはグラウンドに追いやられたのだ。
バスケと卓球はともかく、なんで球技大会なのにカバティがあるニィ?
しかもなんでカバティに球技であるバレーが負けるニィ?
絶対誰かの陰謀だ。
あとで調べあげてとっちめてやるニィ。
- 396 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:47
- 「じゅくちょー、はやくしてくださーい」
「…ンニ?あ、ごめんごめん今打つニィ」
おっとっと、考えごとはあとあと。
今は試合に集中だニィ。
と、私がボールを空高く上げ
たおやかな腕で打ちこもうとした瞬間、突然グラウンドに
バカでかい音が響いた。
♪セーラー服で竹刀(かたな)を振るたび 涙で滲んだあの体育館
夢見る私を白馬に乗って むかえに来たのあなたでした♪
「ニィん?喜びみれん?」
「キャッ! なにあのでっかいカボチャの馬車?!」
でもこの歌声、三浦理恵子じゃないニィ。
2人で歌ってる、か細い声とおばちゃんみたいな声。
♪電話を持つ手が何故だか火照るの 知らなきゃ良かった大人の世界♪
しかもこっちに向かって時速300キロぐらいで迫ってきてる
歌の発信源がどでかいスピーカーを乗せたカボチャの馬車ということは………
- 397 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:47
- 「あさ美ちゃん!まこっちゃん!」
間違いない、あの2人だ。
私の呼びかけに応え、バレーコートの手前で砂嵐を起こしながら
止まった馬車から颯爽と降りてきたのは、彼女たちの制服ではない
濃紺のセーラー服を着た見覚えのあるツーフェイス。
♪歯ブラシどうして痛いの 髪の毛どうして立てるの 普通の女じゃだめですか?
捧げてきたわ夜 見ないできたわ夢 私の胸にほら 黒く輝く三つ目の星♪
隣の高校の生徒である2人が一体なんの用なのか?
呆然としている私たちを無視して
あさ美ちゃんたちはマイク片手に拳を振り上げ、喜びみれんを歌い続ける。
「ちょっと!今日は球技大会ニィよ!
カラオケ大会じゃないニィ!!」
ギロッ ヒィィィ
茶々をいれるなと言わんばかりのあさ美ちゃんの睨みに
ニィの周りから悲鳴が漏れた。
あさ美ちゃん…怒ってるの?
初めて見たニィ。ホントにどうしちゃったんだろう?
- 398 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:48
-
♪あん ああんああんあ ググッときたの ビビッと感じる貴方の律動(リズム)
躰の芯から刻まれた いいの 私 喜びみれん♪
困惑していると1番が終わり、呆気にとられてたみんなが
パチパチと拍手を送った。
それを見て満足気に微笑むと、あさ美ちゃんはゆっくり私を捉えて鋭く目を光らせる。
「…に、新垣さん、あれって紺野先輩と小川先輩だよね?
怒ってるみたいだから謝りなよ」
「え…なにを?」
「歌の途中で話しかけちゃったこと!はやく謝んないとマジやばいって!」
「えぇー、でもこんなとこにいきなり来るほうが悪いニィ」
あさ美ちゃんの気迫に怯えたクラスメイトが
小声で言ってくるけど、自分に非がないのに謝るなんて、子供のうちからしたくない。
「ふぇー? じゅくちょー、知ってる人なんですかぁ?」
「あれ? 道重ちゃん知らないっけ?
あの2人はニィの幼馴染で、紺野あさ美ちゃんと小川まこっちゃん」
「幼馴染さんですかぁ、2人とも素敵な歌声ですね」
「でへへっ、照れるなぁ」
「ありがとう。シゲさんって呼んでもいいかしら?」
「はいどうぞー」
「ニィん? ちょっと2人とも、道重ちゃんにお礼言う前に
なんで来たのか説明するニィ!2人のせいで試合始めらんないんだか…ギャア!?」
- 399 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:48
- 迷惑してるニィよーと続けようとしたとき、あさ美ちゃんが
見えない速さで私の懐に入りこみ、首に手刀を振り下ろしてきた。
突然の攻撃に避けきれず、マユゲガードで受け止める。
「お豆、あなたは私の大切な人を泣かせたの。
今の歌はあの人の好きな歌。あの人に捧げるレクイエム」
「へ…?」
「あなたとあの人の間に以前から諍いがあったことは知ってた。
だけど、お豆も私の大切な人だからと思って余計な協力はしなかった。
ピーマコだって、あなたを庇ったのよ」
「庇う…?」
「ピーマコにとっても、あの人は大切な人なの。
だから私たちはお豆に聖なる鉄槌を下すことにした」
聖なる鉄槌? な、なにする気ニィ?
てかあの人って誰ニィ?! サッパリわかんないニィ!
「あさ美ちゃん!もっとちゃんと説明してよ!
いきなり現れたと思ったら大音量でいかがわしい歌唄ってっ!
この学校の風紀が乱れたらどうしてくれるニィ!!
ここは中学校だニィ!みんな清廉潔白な乙女なんだニィ!」
「プププッ」
「なっ、なにがおかしいニィ!!
そ、そりゃ、ちょっとはハレンチな子もいるだろーけど!
ここはハレンチ学園じゃないニィよ!!」
ヒゲゴジラも丸コジ先生もいな…ってゆーか今先生自体いないんですけど!
こないだの体育の時間といい、サボリすぎだニィ!
- 400 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:49
- 「ハレンチ学園といえば、ハレンチ大戦争はショックだったよね。
イキドマリとアユも、みんな死んじゃって…」
「いやあさ美ちゃん! そんなこたぁどうでもいいニィ!」
「よくないよ! お豆だって一緒に泣いたじゃない!」
そりゃ確かにそーだけど!
おまけに2部の、山岸が十兵衛を追いかけて女装して風呂場でペチャパイな
とこ(うろ覚え)までしか読んでないから続きが気になってるけど!
「じゅくちょー、なんですかぁハレンチ学園って?」
「その昔社会問題にもなったマンガでね、主人公の山岸が…」
「教えなくていいニィ!!それよりニィの質問に答えんかい!!」
「…騒がしいなぁ。昨日手紙出したでしょ」
「ハ?」
手紙? 手紙って……
「あぁ!!美人お姉さんとトンマ人形からの!」
「どぅえ? あさ美ちゃーん、トンマ人形って誰のことさー?」
「ピーマコ」
「即答かよっ!ひどいよトンマだなんてー」
かわいそうなまこっちゃん。
でも確かにトンマ人形みたいな顔してるニィ。
- 401 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:49
- 「あのぉ、トンマってどーゆー意味ですかー?」
「マヌケ」
「あー…なるほど」
「ちょっと待ってシゲさん!!今私の顔見て納得したでしょ?
ホントだ小川さんってマヌケ面ですねって思ったでしょ?」
「はい」
「っ…!」
まこっちゃん、撃墜。
「っ! ひどいわお豆!
シゲさんを利用して巧みにまこっちゃんを戦闘不能にするとはっ!」
「なっ?!あさ美ちゃんがトンマなんて書くからでしょ!」
明らかにニィはなにもしてないニィ!
「藤本先生だけでなくピーマコまで…
一体何人私の大切な人を傷つければ気がすむの!!」
「だーからまこっ……ニィ?藤本先生?」
藤本って…
「藤本美貴先生。私とピーマコの、家庭教師の先生よ」
- 402 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:50
- 藤本美貴……っニぁああ!!
藤本ちゃんの強面のほうのお姉さん!!!
「昨日、藤本先生の泣き声が
青汁豆乳を飲んでた私の胸にしかと届いたの。
だからお豆、私はあなたを許さない」
「そ、それは、ニィのせいで泣いたの? あの人が?」
嘘ぉ。あの人って赤ん坊のとき以来泣いたことなさそうなのニィ。
「とゆーワケでお豆。
バレーをしてたんならちょうどいいわ。
私のスペシャルサーブの餌食におなりなさい。えいっ!」
ヒィィ!と、空を仰いで叫んだあさ美ちゃんに
周りのみんなは震え上がる。けど。
「…あ、あの、あさ美ちゃん?
エイもなにもボール持ってないニィ、それのどこがサーブニィ?」
「あれー?じゅくちょー、
むこうの空からなんか飛んできますよー」
「ん?」
言われてみれば、ゴォォォォという飛行音がマユゲイヤーに届く。
フワフワした声の道重ちゃんが指差す空に、みんなが目をむけた。
「あ、ホントだぁ、あれ戦闘機じゃない?」
「うんうん。しかもスウェーデンっぽいねー」
「おぉー、ダブルデルタかっこいー」
「………ま、まさか…」
- 403 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:50
- クラスメイトの呑気な声に、私は凍りついた。
サーブって…サーブってそっちかい!!
「じゅくちょー、あれサーブ35・ドラケンですー。
てことは逃げなきゃ危ないと思うんですけどー」
「うむ!激しく同意ニィ!」
ババババババ!
「ぎゃー!? おでこ撃たれたぁ!!!」
「ヨネ!ヨネしっかり!」
「みんなもはやく逃げるニィ!
こんなグラウンドの真ん中にいちゃあ絶好の的だニィ!!」
「でもじゅくちょー、反対の空からグリペンとビゲンまで飛んでくるんですけどー」
「ニァっ!?挟まれたぁ?!」
ババババババババババババ!!
「ぎゃあああ!?」
「イネ!イネぇ!!」
「キャー、かわいい私まで撃たれたら大変。
じゅくちょー、盾になってください」
「ニィィ!そんなの嫌に決まって…ぐはぁっ!?」
バカなっ…主役である私が…敵の砲弾に散るなんて…っ…
「ふふっ。今日から主役は私、道重さゆみでぇす」
「おのれ……み…ちし……げ…ガクッ」
- 404 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:51
-
―――
「だめか…、次はなにがあるかな…」
「もう、あとはクマしか残ってなかばい」
「クマ…」
絵里を背負って病院を抜け出してきた美貴と田中ちゃんは
思い当たるあらゆる方法で絵里を起こそうと
必死に町内を走り回ってた。
漬物屋も行ったし、アイス屋にも行った。
美容院で髪を洗ってもらったし、足ツボマッサージだってしてもらった。
他にも色々試したけど絵里は全然起きない。
「クマに乗ったら、きっと嬉しくって起きると思うんです。
れいなが釣ってからは絵里がまた暴走せんように
新垣塾に置いてあるけん、本部に行きましょう!」
「よし! 行こう!」
新垣塾か。てことはアイツがいるんだよね。
でも大丈夫、アイツのことはもう責めない。
絵里が起きれば、それでいい。
「「ハ?」」
- 405 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:51
- な、なに? 一体ここでなにがあったの?
新垣塾本部がある中学校に美貴たちが到着すると
そこには恐ろしい光景が広がっていた。
グラウンドいっぱいに、ジャージ姿の女の子が倒れてる。
「な、なんで?」
「今日は球技大会やけん…死闘の末に相討ちしたと?」
「いやいや、相討ちで全滅できる球技ってそうそうないよ?」
恐る恐る、倒れてるうちの1人に近づいてみる。
息はあるようだけど、ぐったりと意識を失って………ん? なんかおでこに…
(o・∀・)
「…紺ちゃん?」
い、いや、まさか。
美貴の知ってる紺ちゃんは、たまにこんな顔するけど
大抵(o・-・)な感じだし、この中学じゃなくて隣の高校の生徒だし。
- 406 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:52
- 「あぁー、れーなだぁー」
「んぉ? さ、さゆっ!?」
無惨な人の山の中から、のほほんとした声。
「さゆ」って、前にどっかで名前聞いたような…田中ちゃんと絵里の友達だっけ?
「さゆ! なにがあったと?!」
「んんーとぉ、サーブがー、サーブじゃなくてサーブでー、
空から銃撃されてー、みんなヤラレちゃったの」
「わからん」
美貴にもサッパリわからん。
てかこの子、人差し指掲げて一生懸命思い出しながら喋ってるのは
かわいらしいけど、なんか無意識にトイレの水飲んじゃいそうな子だな。
「でもー、じゅくちょーが庇ってくれたから私は無事だよ。
世界のキュートは守られたから、安心してね」
「塾長? 塾長はどこにおっと?
姿が見当たらんばい」
「だからー私を庇って撃たれてぇー、小川先輩に担がれてどっか行っちゃった」
「小川…?」
小川ってまこっちゃんなワケないよね。
ありえないありえない、あの子に限ってありえない。
- 407 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:52
- 「小川先輩…って塾長の幼馴染の? てことは紺野先輩もおったん?」
「うん、サーブ呼んだの紺野先輩だもん。
なんかね、藤本先生を泣かせた罰って言ってた」
「んなぁっ!?」
アホなぁ?! これやったのあの2人なの?
そうかもとは思いつつ必死で否定してたのにっ!
しかも美貴を泣かせた罰ぅ?
「藤本先生って?」
「…美貴、紺ちゃんたちの家庭教師やってんだ」
「お姉さん…塾長に泣かされたと?」
「…間接的にね」
聞かないでよ恥ずかしい。
「じゅ、塾長無事やろか…。
心配やけど、ばってん今はそれより絵里をクマに乗せんと」
「絵里? あー絵里ぃー、まだ寝てるの?」
「そうや、でももうすぐ起きるんたい。
さゆ本部の鍵持っとぉやろ? 貸して」
「はーい」
さゆって子は今頃美貴に背負われてる絵里に気づいたらしい。
絵里を見て嬉しそうに笑うと、ジャージのポケットから黒いマユゲ型の鍵を取り出した。
- 408 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:52
- 「じゃあ、れいなたち行くけん。
さゆはすぐに先生呼んで、みんな助けたり」
「んー、体育館にいるかなぁ?」
てかここにはなんでいないの?
球技大会なら怪我とかないようにちゃんと大人が
見てなきゃだめじゃん。
まさか……紺ちゃんたちがなんか手回ししたんじゃ……((((VvV;))))
「お姉さん!こっちです!」
「あ、うん」
いまさらながら、美貴ってとんでもない子のカテキョしてんだなぁ。
次の授業では命の尊さについて教えよう。
「入ってください」
田中ちゃんに案内されてやってきたのは
校舎の脇にポコッと建ってる小さな小屋。
それだけ見れば、中で吹奏楽部が練習しててもおかしくないんだけど
扉の上に取り付けられた“魁! 新垣塾”ってゆー看板がそれを否定してる。
やっぱり胡散臭い。
- 409 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:53
- 「えっとクマは……あった!これです!」
「へぇ、…ラムネちゃん?」
ゴソゴソと、棚を漁ってた田中ちゃんの手には
胸元に絵里の字で『ラムネちゃん』と書かれた名札がついた
緑色のちゃんちゃんこを着てる茶色いクマのヌイグルミが。
「絵里がつけたんです。人間にはつけれんからって」
「……クマにつけるのもどーかと…」
犬や猫ならまだわかるけど。
「ぶっちゃけ、れいなもラムネはどうかと思っとるんですけど
絵里は真剣に考えとったし、いつまでもクマじゃ可哀想やって…」
へ、へぇ。
そういや田中ちゃん、ラムネって名前使ってなかったね。
こいつ、ラムネっていうより太郎か五郎だもんね。
「絵里、絵里ー、ラムネやけん。
ラムネも絵里に会いたがっとぉよ」
とりあえず絵里を椅子に座らせて、たろ…ラムネを巨大化させずに
呼びかけてみる。
鼻に近づけて匂いもかがせたけど、やっぱり反応無し。
- 410 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:53
- 「巨大化させんと無理か」
「ここで?…って下手に外出したら先生に見つかるか。
でも天井突き破ったら意味ないけど、どんぐらいでかくなんの?」
「絵里の3〜5倍です」
「漠然としすぎだよ!3〜5倍って幅広すぎじゃん!」
「最近巨大化させとらんけんわからんとですよ!
細かいことは気にせんでください!」
ピッ グワァン
「クマ――!!!」
「ぎゃあ!?なにこれぇ?!すっげぇ怖いんだけどっ!」
熊じゃん! クマっていうか熊じゃん!!
天井は無事だったけど、思った以上にリアルな熊に美貴の腰が抜けた。
「へぇ、お姉さんて意外と怖がりなんやね。
でも勝手に暴れたりせんから大丈夫と。
しゃがんどらんで絵里乗せるん手伝ってください」
げぇぇ、近寄りたくないのに。
絵里はこんなののどこが好きなんだろ?
どこにカワイサを見出したんだろ?
「クマ――…」
へっぴり腰になりながらも、絵里をクマの肩に乗っける。
寝てて動かない絵里を見たクマは、悲しそうな鳴き声を上げた。
- 411 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:53
- 寂しいの? なんだよ、そんな顔すんなよクマのくせに。
「クマ、絵里を起こすんや!」
「クマ――!!!」
絵里を支えるため、一緒に乗ってる田中ちゃんの一声で
クマはスキップしたりお尻ふったり、小屋壊れるっつーの!な勢いで動きまくる。
「絵里! クマに乗っとぉよ!
楽しいけん、はよ起きんしゃい!」
「…zzz」
「クマ――!!!」
「zzz」
「「………」」
「クマでもだめか…」
やっぱだめなの? 絵里はこのまま、このまま―――
「絵里ぃ!! なんでやぁ!」
がっくりと動きを止めたクマの上で、田中ちゃんが絵里を揺り動かして叫んだ。
その目に、じわじわと涙を浮かべて。
「れいながっ…れいながこんなに起こしとぉのに!
クマにまで一緒に乗っとぉのになんで起きんとぉ!
笑ってくれればいいって言ったのに、なんで笑ってくれんとぉ!!」
「…田中ちゃん」
- 412 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:54
- 今にも零れそうな涙と、振り絞るような声。
それに込められた田中ちゃんの想いが、グサグサと美貴の心に刺さる。
絵里、田中ちゃんは、絵里のことが大好きだってさ。
思うに、絵里だって同じ気持ちなんでしょ?
だったら応えてあげなよ。
「絵里ぃ…頼むけん、起きて。
こんままや…………寂しくて死にそうや………うぐ…」
ポタ。ポタポタポタポタ。
堰をきったように溢れ出した涙が絵里の顔に落ちる。
それを指で拭って、田中ちゃんは絵里に抱きついた。
「うっく、うぇっ、絵里のっ、アホぉ」
「……な?」
「ぐずっ、あ?………………絵里?」
え?
「れぇ…なぁ?」
「……え、絵里? お、おおお起きたと?!」
ちょっと待ってぇ! そんな古典的な、アリガティな方法で起きるの?
やだ、やだやだマジでぇ?!
いや起きたんだからやだってことはないか、めでたしめでた…しぃ。
- 413 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:55
- 「れいな、泣いてる? どうかしたの?」
「…なんも、なんもなか。ゴミが入っただけたい」
「でも…あれ?ラムネちゃん?」
「クマ――♪♪♪」
「え? なんで? どうしっ…!」
おぉ。はやくも美貴の存在忘れやがったな、田中ちゃん。
体を起こして、クマに乗ってる自分に驚く絵里を
田中ちゃんは強く抱きしめた。
まぁ、ハグくらい、いいけどさ。
それ以上はまだだめだぞ。
絵里にキキキキスなんかしたらピラニアのエサにするから。
「気にせんでよか。ちょっとでいいけん、こうしといて」
「れいな…」
美貴に背をむけてる絵里は気づいてないし、
田中ちゃんも目ぇ瞑っちゃって気持ち良さそうな顔してるから
ここは2人っきりにさせてあげよう。
…あ、クマがいるか。真っ赤な顔で耳抑えてるよ、結構カワイイかも。
目が合ったクマは、自分も連れてってくれって目で訴えてきたけど
それは無視して美貴はそっと小屋から抜け出した。
- 414 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:55
-
そうだ、なち姉電話しなきゃ。亜弥ちゃんとごっちんにも。
で、2人が出てきたら、まずは絵里に謝って
田中ちゃんにはお礼を言おう。
あと、清い交際なら応援するけど
そうじゃないのはまだ早いって念押さなきゃ。
「あぁ…よかったぁ」
「よくないニィ」
「っうわあ!?」
びびびびっくりした!!!
なんだよマユゲ! いきなり出てく……ん?
「あれ? なんか変わってない?」
美貴の記憶にあるマユゲは…髪をパイナップルみたいにまとめて
おでこが出てたような……、なのに今は前髪がある。
「あさ美ちゃんにヤラレたニィ。
反省のための断髪式で」
「へ、へぇ」
紺ちゃん、髪切るだけなら
他の子巻き込まなくてもよかったんじゃ…。
- 415 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:55
- 「あの、遅くなって申し訳ないニィ。
こないだはスミマセンでした。心から反省してるニィ」
「ふぇ? あ、いいよいいよ。
絵里が色々お世話になってるみたいだし。
ニイガキさんだっけ? これからも絵里と仲良くしてやってね」
「…ゆ、許してくれるニィ?
な、なんて優しい人だニィ!ありがとうございますニィ!」
アハハ、絵里も起きたことだしね。
せっかくいいことあったのに、怒ってたらつまんないじゃん。
「ただ、もう(*^ー^・e・)はやめてよね。
風でおでこが晒されるたび人に見られて恥ずかしいからさぁ。
そういやニイガキさんもついてんの? おでこに紺ちゃんの顔」
「ニィ、アヒャ美の顔が刻まれたニィ…」
できたばっかりの前髪に隠されたおでこを指して尋ねると
ニイガキさんは髪をかきあげて晒し慣れたおでこを晒してくれ―――
「ニィィィ!? ししししまったニィィィー!!!」
- 416 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:56
-
◇◇◇
- 417 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:56
-
そんなワケないじゃん。
起きたらいつもよりベッドが大きいとか、壁に書道の掛け軸だとか。
寝るときはジャージを着てるはずなのにネグリジェとか、
振り返ると窓際に道重ちゃんとか、やたらでかい鏡とか。
え? ここどこ? たぶん誰かの部屋なんだろうけど、
なんでこんなとこに美貴がいるのか、さっぱり思い出せないのはなんで?
やだやだ、サード・チルドレン?
でも美貴って髪型的にファースト・チルドレンでいいんじゃないの?
親父っぽい食べ物が好きでも正真正銘女だしさ。
だめ? だめ?
てか道重ちゃんなにしてんの?
なに鏡見てウットリしてんの? 美貴起きたんだけど、おーい。
「ホホ! 起きたワね!」
だ、誰?!
猫目が血走りまくってキリキリしたおばさんが近づいてくる。
…ん? おばさんって年でもないか。
- 418 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:57
- 「藤本だっけ? あんた結局お嬢様のベッドで寝ちゃったのねぇ。
甘えん坊もほどほどにしないと、もう大学生なんでしょ?」
「ハ…?」
お嬢様? 結局? 甘えん坊?
ごめん全然わかんない。
「お嬢様はまだ寝てるのね。
そうとう疲れてらっしゃったから当たり前か。
ほら、あんたが疲れさしたんだから、責任持って起こしなさいよ」
美貴が疲れさした? どうやって?
てかだからお嬢様って誰だよ。
このお姫様みたいなベッドの持ち主は誰だ…………げ。
マジで? やっぱそうなんだよね。 勘弁してよ。
寝返りながら上体を起こした美貴の隣で、体を覆ってる白いシーツが
こんもりと膨らんでる。
へぇ、美貴ってばそのお嬢様と一緒に寝たんだ。
- 419 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:57
- 厳しい。
果てしなく厳しい。
この猫目の人と道重ちゃんがいる時点で
隣で寝てるのは絶対亜弥ちゃんじゃないし。
ちゃんと告白しあったばっかりなのに、美貴ってばもう浮気なハニーパイ?
ありえない、ありえるワケない。
美貴は亜弥ちゃんしか好きじゃない。
「ニィ…」
「…え?」
嘘だ。誰か嘘だって言って。
シーツから顔だけ出して眠たげに瞼を擦ってる女の子は幻だって。
「…あ、モッさん、おはようニィ」
「……」
モッさんってなんだ、モッサリみたいじゃんか。
なんで美貴と一緒に寝てんの? なんでお揃いのネグリジェ着てんの?
美貴はあんたに甘えたの?………………
「嫌ぁぁああああ――――――――――!!!!!」
- 420 名前:長い私が止められた。 投稿日:2004/04/16(金) 19:57
-
- 421 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/04/16(金) 19:58
-
うまく切るところが見つからず、アホ長くてすいません。
ここまで読んでくださった方、どうもお疲れ様です。
えりえり編、ようやく終わりました。
レスありがとうございます。
>>375つみ様
こ、こんなんで感動を…じゃあ24時間テレビとか
見ると大変そうですね(w
>>376178様
別のところも深まりました(w
もちろんドラク(ryですよ(ww 実子てw
自分に似た小さい生き物なんて怖くて産めません(爆
- 422 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/04/16(金) 19:58
- >>377名無飼育さん
はい、ボタバラはよくF2で(特集かい
シリアスなのに爆笑できる貴重なドラマでした(w
あやみきで安らぎを提供できてヨカタ…のですが
今回は気持ち良く寝れないかもしれません、ごめんなさい、許してチョンマゲ(爆
>>378名無飼育さん
やっぱりこの2人はラヴラヴの甘甘でないと(w
えりえり編では从‘ 。‘从さんの出番が少なかったので
これからはどんどん出して……いけたらいいなぁ(遠い目
>>379名も無き読者様
たとえ優しくてもあの気遣いはいりません(キッパリ
肉好きの美貴様にやったら…
川 V)y-~~~<殺す。
- 423 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/16(金) 21:00
- LOEV懐かしいなぁ…(w
プッチが出演したときでしたっけ?
- 424 名前:つみ 投稿日:2004/04/16(金) 21:12
- 今回は笑わさせてもらいました・・・
浮気ですか?藤本さん・・・
久しぶりのあの二人も出てきておもしろかったっす!
次回も楽しみでっす!
- 425 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/17(土) 01:04
- 感動。でもピラニアに笑いました
寝ている間に2人に一体、何があったのか?次回が楽しみです
- 426 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/17(土) 17:28
- 更新乙彼サマです。
また最後に爆弾落とされてるしぃ・・・。(汗
今回は最多犠牲者数更新ですかね?
でも一番の被害者はやはり・・・。w
続きも楽しみに待ってまつ。
- 427 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/17(土) 21:10
- …ヤっちゃった?
- 428 名前:shou 投稿日:2004/04/19(月) 15:38
- 最近、見始めましたけど最高っす!(小説 書きたいんですけどパロディでもいいんでしょうか)
- 429 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/19(月) 16:51
- ニィのネグリジェ姿…(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
- 430 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:16
-
嘘だ、嘘だ、嘘に決まってる。
美貴はなにもやってない、ナニもヤッてないよ。
ヤるワケないじゃん!!
- 431 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:17
-
「くぁあ〜…、顔洗ってくるニィ」
「かしこまりました。石川ぁー!お嬢様のおタオルご用意なさい!」
「ハイ!」
「…石川?」
ん? 今ドアの外から聞こえたアニメ声、梨華ちゃん?…なワケないよね。
石川って名前のアニメ声ぐらい他にもいるよ。
「で、あんた」
「ハ? ハイ?」
「ちょっとこっち来てくれる?
あ、道重様、もうすぐ朝食ですのでそれまで
どうぞごゆっくり鏡ご覧になっててくださいね」
「うふ、今日もカワイイ私♪」
道重ちゃんって………確かにカワイイけど。
この扱いの差はなんだろう?
なんで美貴は「あんた」で、さっきも「藤本」って呼び捨てだったのに
道重ちゃんは「様」づけなワケ?
この猫目の人はようするに、ニイガキ家のお手伝いさんとかなんでしょ?
だったら美貴もマユゲの客人なんだから
丁寧に扱ってくれんのが筋ってもんじゃないの?
- 432 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:18
- まぁ美貴は別に、「様」づけなんて背中痒くなりそうだし
この人明らかに美貴より年上だから、呼び捨てでも全然いいんだけどさ。
てかマユゲがこんな豪華な家に住んでるお嬢様だってことにびっくりだよ。
もっと最初から優しくしときゃよかった。
猫目のお手伝いさんについて部屋を出ると、廊下にはバカでかい油絵やら
高そうな花瓶とか、天井には最低でも300万はしそうなシャンデリアが
あったりして、次々に目に飛び込んでくる高級そうな品々に
美貴の口は開きっ放しだった。
すっご、あれなんだ? おぉートラが皮だけになってる!
立派な日本刀もあるし、これが『口は虎、舌は剣』ってヤツか、なるほど。
え?違う? うるさいな、ことわ侍。
絵里はここ来たことあんのかな? なち姉にも見せてやりたいな。
『なっち、こんなエグゼクティヴな空間初めてだべさ!』って絶対喜ぶ。
…なんて考えながらルンルン気分で歩いてると
角を曲がったところで突然首を引っ掴まれ、さっきのマユゲの部屋の
5分の1もない部屋(つっても美貴の部屋と変わんないんだけど)に投げ入れられた。
「痛ぁ…ちょっと、なにすんだよ!」
「よくもノコノコと私の前に現れたわね、藤本美貴」
「へ? 美貴のこと知ってんの?」
ノコノコって…ノコノコもモコモコもロコモコも
ここに来たのはある意味事故なんだけど。
- 433 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:20
- 「忘れたとは言わせないわよ!
あんたのおかげでこっちは大変だったんだから!!」
「え、忘れたっていうか…あなたと会うの初めてだし…」
「キィィ!なにが初めてよ!
私は保田よ!世界の保田圭よ!!
ひれ伏しなさい!!崇め尊びなさいよこのバカ!」
「ハァ!?なんで崇め尊ばなきゃなんないのさ!大仏じゃあるまいし!」
ヤスダ? 世界のヤスダケイ?
そんな…そんな名前……あれ、ヤスダって、どっかで聞いたこと……
『もぉ!怒った!ミキティの注文なんか聞いてやんないんだから!』
『えぇぇーちょっと店長呼んでよー、ここの店員態度悪いよぉー』
『待って待って!やめてよ今保田店長機嫌悪いんだから!』
『じゃあさっさとチーズバーガーにポテトでコーラよろしく』
「…キッチンズバーガーの…店長?」
「“元”ね! あんたのせいでクビになったから“元”店長よ!…ぐすっ!」
ハァア?! 美貴のせい?
いやいやありえないっしょ、美貴がいつヤスダさんをクビにしたのさ?
って待って、てことはさっきのアニメ声…やっぱ梨―――
- 434 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:21
- 「保田さぁん、お嬢様のおでこに(o・∀・)……ってミキティ!!
どうしてここに?!…やだぁ、ネグリジェかわいい…」
「―――華ちゃん…」
「石川ぁ!あんた見惚れてる場合?!
あんたもコイツのせいでクビになった1人でしょ!
もっと責めて攻めて押し倒しなさいよ!!」
「え? い、いいんですかぁ?」
「だああ!最後おかしい!『せめる』も途中で意味変わってるし!
いいワケないじゃんバカ!!」
梨華ちゃん頬を赤らめないで!見つめないで!
なに?! 美貴、ナニされんの?!
亜弥ちゃん助けてぇ!
「でも保田さん、ミキティは…ミキティは石川の大事なお友達なんですぅ!
あのときはきっと…ちょっとはしゃいじゃっただけで…」
「そうは言ってもねぇ!
世の中には“はしゃいじゃってよいとき”と“はしゃいじゃってよくないとき”
があんのよ!!大学生ならそれぐらい見分けられるでしょーが!」
あのとき? あのときってもしかして
美貴がマユゲビーム喰らって最初に記憶が無くなった日のこと?
……そーいやその次の日梨華ちゃんから変なメール着てたんだっけ。
あれ見てからキッチンズバーガー行ってなかったし
最近は亜弥ちゃんと絵里のことばっか考えてたからすっかり忘れてた。
- 435 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:22
- 確かあのメールには…恥がどうとか……
「あの、すいません。
信じてもらえないかもしれないんですけど
美貴、あの日の…キッチンズバーガーで食事しようとしたあたり
からの記憶が無いんです。その前に頭を強く打ってて
それが原因だと思うんですけど…」
つまり、ここのお嬢様が悪いワケで。
「え…? 記憶が無い?
そんな…ミキティ大丈夫なの?病院行った?」
「行ってないけど、結構経ってるし大丈夫だと思うよ。
でも、覚えてないとはいえ自分のしたことの責任は取るよ。
美貴なにしたの? なんで2人はクビになったの?」
「…え、それはえーと…」
「私が教えてあげるわよ! あんたはねぇっ――――
『さぁ!!満月だぞぉ!!イェーイ♪』
『ミ、ミキティ!? ど、どうしたのいきなりっ』
『むぅー? お前違う、惜しいけど全体的に違う。無理』
『ほぃ? な、なに言ってるのよミキティ!』
『んんー、けど暇だな、遊んで』
『だ、だめよぉ、お仕事中だもん』
『ぶぅぅー!!美貴と遊ぶのぉぉ!!!』
『キャアアア!? だ、だめよミキティこんなところでぇぇ!』
――――ってな具合でカウンター飛び越えて石川に馬乗りになった挙句…
- 436 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:23
- 『やっ…ちょ…ミキ、ティ…あんっ…』
『フニャーゴロゴロミャー』
『ちょっと石川ぁー、今変な声聞こえっ…のわぁあああああ!?!?!
ゴゴゴゴルァ!!ナニやってんのお客さんの前でぇ!!』
…嬉しそうに石川の胸に頬擦りしやがって!
どけようとしても全然離れないし、なのにいきなりピーンと立ち上がって
『むぅぅ? いたぁ!!!』
って叫んだと思ったら自分の席にあったバーガーとポテトとコーラ持って
外に飛び出して行ったのよ!!」
「……ハ?」
誰が? え? 美貴が?
「ま、まさかぁ…」
「まさかもトサカもないわよ!!
でぇ、そのわいせつな行為が問題になって店長の私は責任取ってクビ。
石川も問題起こした張本人としてクビにされたのよ」
「………」
え、でも今の話だと美貴が一方的に乗っかったんだから
梨華ちゃんがクビになることないんじゃ…。
- 437 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:24
- 「それがねぇ、石川もなんでか知んないけど、あんたの首に手を回しちゃって
たのよ。本人無意識だったらしいんだけどね。
それを見てた他のバイトの子にチクられちゃって。
まぁ、こういうルックスだから敵多いのよね、コイツ」
「それでも上手くやってたんですよぉ…」
そういえば、高校のときも先輩に睨まれたりしてたっけ。
他校の男子に告られて、フッたらそいつのこと好きな人がいて。
てか無意識ってキショイし。
「てなワケでね、石川も急にクビになって困ってたし、
私は知り合いの紹介でここに勤めることになったから
ついでに頼んでみたのよ。ここ時給いいから
大学行きながらの通いでもキッチンズの倍ぐらい稼げるし」
へぇ、てことはよかったんじゃん?
そんな時給安くて敵の多いとこなんか辞めてここで働けてさぁ。
「…うん、ぶっちゃけラッキーだったから
ミキティにあれ以上メールしなかったの。
次のバイトが決まらなかったら、色々責任取ってもらうつもりだったんだけど」
「すぐに決まってよかったね、ホントに」
「な、ど、どういう意味よぉ」
そういう意味だよ。
- 438 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:24
- 「ってそんなことよりぃぃ!!
私は店長だったのよ!あの仕事に生きがい感じてたのよ!
一生続けるつもりだったのよ!
それを…っ、それをあんたのせいでっ…!」
「…あ、す、すいません…」
ごめんなさい、ホントごめんなさい。
でも話聞いても自分のしたことだって実感が全然ないんですけど。
「確かにここの仕事も…給料がいいだけじゃなく
やりがいがあって、新垣家の人たちもよくしてくれるから
あんたへの恨みは消えつつあったのに…こんな風にいきなり現れてっ!」
「ハイ!すいません!もう2度と現れません!」
だから顔近づけないで!
ツバ飛んでくるし!充分涼しいハズなのに汗まで飛んでくるし!
「んっとにぃ!あんたお嬢様をどういう関係よ!
答えによっちゃあ今日の朝飯にするわよ!!」
「わあーいいですねぇ、石川もミキティ食べてみたいですぅ」
や め て く れ 。
なに考えてんだ貴様らぁ!!
人が下手に出てんのに朝飯にするとは何事だぁ!
- 439 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:25
- 「おらおら! はやく答えなさいよ!」
「だあ!離せぇ!妹が同じクラスなだけだよ!」
「ハッ!なんで姉が妹のクラスメイトの家に泊まりに来んのよ!
しかもあんなに甘えん坊モードで!!
正直に吐きなさいよ! あんたお嬢様のこと狙ってんでしょ!
しかも純粋な気持ちじゃないわね! お金目当てね!」
「んなワケあるかぁあ!!」
誰がお嬢様目当てだ!金目当てだ!
自分の気持ち犠牲にしてまでそんなもんいるかあ!
いや、正直金は欲し…くなんかないぞぉ!
美貴には亜弥ちゃんってゆー胸も乳も豊満な…じゃなくてぇ!
顔も性格もかわいくってたまんない、好きな人がいんだよ!!!
「だからマユゲになんか興味ないんじゃぁあ!」
「んなっ!?あんたお嬢様をマユゲだなんて…っ!
殺す!または生きながらにして地中に埋める!それっきゃない!!」
「えぇー!?ヤヤヤ保田さん落ち着いてくださぁい!
ミキティ逃げてぇ!生き延びてぇぇぇ!!」
言われなくても逃げる!
さよなら梨華ちゃん、元気でね。
- 440 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:26
-
―――
「ってしまったああ!!マユゲ問い詰めるの忘れてたっ!!」
ニイガキさん家からの脱出に成功した美貴は、100メートルほど走ったところ
で頭を抱えた。
だああ! 昨日なにがあってどういうハプニングで
美貴がマユゲと同じベッドでオネムだったのか
激しく知りたいけど今戻ったら保田って人になにされるかわかんないし!
ちょっと待てよ美貴。
どこまで覚えてる? よーく思い出せ。
絵里が起きて、田中ちゃんといい感じで、だから美貴は小屋を出て
そこで前髪を切ったニイガキさんと出会ったんだ。
で、謝られて、和やかな空気の中、おでこを見ようと―――
………ここまでしか覚えてない。
なんなの? やっぱ美貴頭おかしいの?
それともニイガキさんのおでこから毒でも出たの?
なにアイツ、化学兵器? ひぇぇ、勝ち目ないじゃん。
- 441 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:26
- 「あ、美貴さぁん」
自分の考えに背中が冷えて小さく震えると、1週間くらい聞いてなかっただけ
なのに、なんだかひどく懐かしい声が聞こえた。
「絵里!!」
「おはようございます、昨夜はよく眠れました?」
「へ? あっと…たぶん」
起きてからの出来事が強烈すぎて寝た気がしないし、寝た覚えもないけど。
顔を上げると、ピンクのジャージに黒いパーカー姿の絵里が
どことなく恥ずかしそうに笑って立っていた。
夢じゃない。 絵里が起きて、立って、笑ってる。
ただそれだけで、こんなに嬉しいなんて。
こんな些細なことで、幸せを感じるなんて。
ものすごい勢いで抱きしめたいけど
視界の端に犬の散歩してるおばさんが映ったからやめとく。
「新垣さんのベッドってフカフカで気持ちいいんですよね。
私も前遊びに行ったとき1秒で寝ちゃって」
「はやっ!のび太以上じゃん!」
「えへへ」
すごいね絵里ぃー…って、ん?
- 442 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:27
- 「えええ絵里!な、なんで美貴がマユガキさんの家に泊まったことっ…」
「マユガキ?」
「ふぇ? いや間違い!ニイガキ!ニイガキさん!」
混じっちゃった…いやそんなことより!
「なんでって、新垣さんから新垣塾の社会学習として美貴さんに家庭教師の
体験講座してもらうことになったって電話ありましたよ?」
へぇ、そうなんだ。勉強してたんだ。
信じていい? ねぇ、その話、美貴も信じていい?
でもそうだよね、道重ちゃんがいたんだから、間違っても変なことはなかった
ハズ。いや、間違いなくなかったんだ…と思いたい。
「あれ? 新垣塾なら、田中ちゃんは?」
「え?…ぁ…え、新垣さんに聞かなかったですか?
れいなは…その…昨日はウチに泊まったんです…」
「んなにぃぃぃ!?!」
たたた田中ぁあああ!! 手がはやすぎるぞゴルァ!!
美貴のカワイイ妹になにさらしてくれとんじゃヴォケェ!!!
「絵里!田中を出せ!東京湾に沈めてやる!!」
「えぇぇ!? だめですよぉ!」
「だめかどうかは美貴が決める! 絵里、痛いとこない?おぶろうか?」
田中めぇぇ!網で焼いて喰うぞ!!
- 443 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:28
-
―――
「…ごめんなさい」
「別に謝ってくれなくてもいいけどぉ、
好き好きさん同士だよって言い合った次の日だよ?ネクストデイだよ?
なのに朝のあんだけってひどくない?
そりゃーさ、勉強は大事だし、新垣塾のみんなのためなワケだから
優しいたんが断れないのはわかるけどぉ」
「いえ、私くしめには優しさのカケラもございません。
極悪非道、お下劣上等な罪人でございます、すいません」
美貴の留守中を狙って絵里に襲いかかったエロテロリスト・インリ…じゃなくてレイナンを
やっつけるため、遠慮する絵里を無理矢理おんぶして家に帰ると
白いほっぺを割れそうなくらい膨らませて唇を尖らせた亜弥ちゃんが
玄関で拗ねていた。
「…ちゅーしたかったのに」
「っ…」
「1人で寝るの寂しかったぁ」
「ごめんなさい」
「連絡だってさ、なつみさんにしただけで
私には電話もメールもくれないし。こっちからしても返事ないし。
もっとちゃんと考えてよ!ミキたん女の子でしょ!」
「ハイ、反省してます」
「反省ぐらいサルでもできるのぉ!
どーせ中学生相手にデレデレしてたんでしょ!たんのロリコン!」
「し、してないよぉ」
- 444 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:28
- ロ、ロリコンって…。
そりゃマユゲもマユゲ以外を見ればまーかわいいし、道重ちゃんも
目がでかくてかわいかったけどデレデレなんかしてないよ!
覚えてる限りでは!!
「あ、あの、松浦さん、そろそろ用意せんと学校遅れるけん…」
「田中ちゃんは黙ってて! 学校よりロリコンウェイに片足突っ込んじゃってるたんに
正しいあややLOVEウェイを歩かせるほうが大事なんだから!」
「いや片足もなにも突っ込んでないし、ちゃんとあややLOVEだから」
てかどこにあんの、その道。
耳を引っ張られて連れてかれた亜弥ちゃんの部屋で正座して
背中を丸めて謝ってるんだけど、姫の怒りは一向に治まらない。
助けに来てくれた田中ちゃんもその勢いに負けて顔を強張らせた。
「す、すいませんでした」
「田中ちゃんは悪くないよ。ごめんね、すぐ行くから」
「ハイ、じゃあ下行ってます」
むくれてる亜弥ちゃんをなだめつつ声をかけると
田中ちゃんは見えない猫耳をシュンと垂れ下げて部屋を出て行った。
ハッ! そういえば!
縮こまってる姿が可哀想で思わず避難させちゃったけど
本来怒ってるのは美貴で、田中ちゃんがこうなるハズだったのに!
- 445 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:29
- これはマズイ!こんなとこでチンタラボンタラしてる場合じゃない!
一刻も早く下に行って野放しになったエロテロリストを捕獲しないと!
「亜弥ちゃん、そろそろ機嫌治して?
かわいい顔が台無しだよ」
ぶっ、なんてこっ恥ずかしいセリフ。
けど仕方ない。急がないと絵里だけでなくなち姉まで喰われかねない!
今日ごっちんいないんだから!
「ぶぅ!! 怒ってもかわいいもん!」
「ぎゃひゃぁあ!? ご、ごめんなさい!その通り!かわいい!最高!
だからウリウリしないで!!ウリウリやめてぇ!
今度の日曜どこでも好きなとこ連れてくから!美貴が全部奢るから!!」
だああ!渾身のキザなセリフ攻撃が仇にぃぃぃ!
てかやめてぇええー!!笑い死ぬぅー!
「…ホント?」
「ホント!!絶対マジ!」
「なら…許す」
助かった…。笑死5秒前あたりでようやく姫の許しが下りた。
でも亜弥ちゃんはカーペットの上に押し倒してウリウリしてた美貴の上からは
降りてくれず、「にひひ」なんて笑っちゃってる。
ぶっちゃけ重いし、ちょうど鳩尾のとこに腕が刺さってて………
- 446 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:30
- 「やっぱり遊園地かなぁー、動物園でもいいよねぇー」
「ぐふ…ぅ…ぁの、とりあえず降り…」
「水族館もいいなぁー、んんー迷っちゃう」
「ど、どこでもいいから……はゃ……ぐぇっ」
「やっぱ遊園地でいっか、ねぇミキたん?」
「………」
「ほぇ? たん?」
「……」
「たーん、寝ちゃだめだよぉ」
「…」
「もぉ、ちょっとだけだからねぇ」
気づいてよ。てか普通気づくでしょ。
息してないよ、半目で白目じゃん…ってあれ?
なんで鏡もないのに美貴が美貴を見れんの?まるで第3者みたいに。
………………ゲ。
△
川;VvV)
〜 < J J
- 447 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:30
-
―――
「え? じゃあなんでミッキー生きてんの?」
「気合で戻ったに決まってんじゃん」
「おぉー、すごぉーい」
笑死は免れたものの、圧死しかけた美貴は
なんとか自分の体を取り戻して家から逃げ出した。
ていうか亜弥ちゃんから逃げたっていうか…。
自転車がないからバスに乗るとまいちゃんがいたので
速攻で泣きついて、絵里の目覚め→マユゲ・インパクト→朝からヤスス
→あややプレッシャーな出来事を聞いてもらった。
「で、エロテロリストは退治できたの?」
「んーん、まだ」
でも家を出る前に絵里となち姉の服の乱れをチェックして(無事だったみたい)
田中ちゃんと携帯の番号を交換したから、大学が終わったら
呼び出してシメるつもりだ。
「けどそれより、また記憶飛んだんだねぇ。
やっぱ病院行こうよ」
「…ぅん、一通り片付いたら行くよ。
マユゲにも話聞いて、昨日のこと色々聞かないと…」
美貴の身が潔白であることをハッキリさせたいし。
- 448 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:31
- 「うんうん。そのマユゲって子怪しいよねぇ。
だってヤスダさんの話によると、ミッキーが家庭教師してたなんて
真っ赤な嘘でしょ? なのにそんな嘘つくってことは
なんらかの事情をわかってて誤魔化してくれたってことじゃない?
でもその子、亜弥ちゃんの存在は知ってたとしても、ミッキーとの関係は知らないっしょ?」
「たぶんね、絵里も知らないし…」
あ、でも…。
田中ちゃんはわかってんのかな?
こないだ朝帰りするとこ見られたし、さっきもあややLOVEって言ったの
聞かれたし…。
ん? LOVE?
「そういえばマユゲ…LOVEマシーンがどうのって…」
「え?なにそれ?」
効力だかが切れるまではどうのこうのって…やっぱ美貴、アイツに変な呪文でも
かけられてたの? そのせいで記憶が…?
「そうだよ! 絶対そうだよミッキー!
よし! 今日私も行く!
この際だから田中って子も2人まとめて裁判にかけよう!」
「うん! ありがとうまいちゃん!」
- 449 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:31
-
やっぱり持つべきものは頼れる年上だ。
まいちゃんと固い握手を交わし、大学前でバスを降りる。
「あれ? 矢口さん?」
教室に向かって構内を歩いてると、いつもは派手だったりミニだったりを着てるのに
なぜか今日は灰色の作業服を着て重そうな肥料を台車に乗せてる矢口さんがいた。
「矢口さーん、小さいのになにしてるんですかぁー?」
「んだと? 里田、おめぇデカイからって威張ってんじゃねーぞ!」
「えぇー?威張ってはないですよー」
まぁ、たしかに威張ってはないけどからかってるとは思う。
黒い長靴まで履いて自分と同じぐらいの大きさの肥料を、持ち上げてるっていうより
抱きついてる矢口さんは子供みたいで
まいちゃんはニコニコしながら頭を撫でてるし。
「で、なにしてるんですか?
矢口さんって園芸部でもなんでもないでしょ?」
「おぅ、お前らの講義の為に決まってんだろぉー」
「ハ? 美貴たちの?」
「そろそろ保積ぺぺも語り尽くしたっつーかぶっちゃけ
とある人が実は『保積ぺぺの顔も知らない』もんだからさー」
「とある人…?」
誰だ? まぁ誰でもいいか。
- 450 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:32
- 「じゃあなんで書いたんだって話なんだけどよぉ、もうぺぺは無理だから
“ぺ”の次は“ぽ”ってことで今日の講義は裏の畑で
ポマトを作ろうと思ってよ」
「なんですかそれ」
「んなっ!?藤本フザケんなよ!ポマト知らねぇのかよ!!
世界を震撼させたハイブリッド野菜だぞ!超有名なんだぞ!」
「知りませんよ」
「あ、わかったぁ!『上はトマト、下はじゃがいも』ってやつですよね」
「そうだよ!さすが里田!
お前はわかってくれると思った! まいちゃん最高!」
「でっへっへっへっ」
なんなの一体。
ポマトだかトマポだか知んないけど
ここは農業大学じゃないし、学部も全然違うじゃん。
「うっさいうっさい!藤本うっさい!
他に“ぽ”で思いつくもんなかったんだよバーカ!」
「なっ!どっちがバカだ!
“ぽ”ぐらい地球上にはワンサカあるだろーが!」
てか大体“ぺ”の次は“ぽ”とかゆー適当な理由で講義すんのが間違ってんだよ!
「あんだよ、そんな怒んなよ。
ポマト作ればあとでポマトパーティーできるじゃん、楽しいじゃん」
「楽しくないよ」
- 451 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:33
- トマトとじゃがいもだけのパーティーなんてありえない。
肉がないじゃん、肉が。
「あ、でもポマトってー、じゃがいもは小指ぐらいで
トマトはミニトマトよりも小さいのしかできないって聞きましたよー。
だからたくさん作ってもパーティーは無理じゃないですかぁ?」
「えっ!? 嘘っ!
おいらが見たのでっかいやつだよ! ほらこの写真っ!」
まいちゃんの言葉にひどく驚いた矢口さんは
物凄く必死になってポケットから1枚の写真を取り出した。
「…あー…これは本物のトマトとジャガイモの茎をしばっただけですねぇ。
ポマトじゃないです」
「えぇえ!?そそそそんなぁああ!!!」
哀れだな。
てかそのぐらい調べてから作ろうとしなよ。
なんでまいちゃんに教えられてんのさ。
なにそこまでショック受けてんのさ。
どうして泣くのさ。
「…教授が生徒に抱きついて泣かないでくださいよ」
「ぇぐっ、うっく、だって知らなかったんだよぉっ…」
「まーまーミッキー、泣かせてあげなよ」
「へ? ちょ! まいちゃんどこ行くのさ!」
- 452 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:33
- あんたが泣かしたクセに!
まいちゃんは美貴の肩を矢口さんの頭に手を置くと
爽やかな顔で立ち去ってしまった。
ちょっと待って!
これじゃ美貴が泣かせたみたいじゃん!
めちゃめちゃ周囲から『うわぁ、藤本さんひどぉい』
『矢口さんかわいそう』ってゆー視線がブチ刺さってんだけどっ!
美貴は悪くなぁい!
さすがなち姉の妹なだけあって
美貴は普通に天使なんだけど、ミキジェルなんだけど。
悪いのは美貴以外の奴なのに、どうしてこんなことになるのか。
まいちゃんのせいで、この日から約3ヶ月
『藤本美貴極悪人説』が大学から消えてくれなかった。
- 453 名前:極悪人は誰だ。 投稿日:2004/04/27(火) 17:33
-
- 454 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/04/27(火) 17:34
-
話が進まず申し訳。
レス、ありがとうございます。
>>423名無飼育さん
えぇ、ちょこLOVEのときだったかと。
指摘されたときのごっちんがカワイくてカワイくて忘れられませぬ(w
>>424つみ様
川;VvV)<ノーコメント。
次回、明らかになればいいですね(爆
あの2人、実質1人はあんま出てないんですけどね(w
>>425名無飼育さん
かかか感動ありがとうございます、恐縮です。
寝ている間ってなんかヤラしいですね(爆
川;VvV)<なっ、ナニもないよ!ナニも!
- 455 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/04/27(火) 17:34
- >>426名も無き読者様
最多…どうでしょうね、彼女にも過去がありますから(w
川o・∀・)<アヒャ!
>>427名無飼育さん
(*・e・)ポッ
川;VvV)<してないしてない!ありえない!…たぶん(爆
>>428shou様
ありがとうございます。
えぇと、いいと思いますが、案内板でお聞きになられたほうが
よろしいかと思われます。
あと、私くしの命に関わりますのでレスはsageでよろしくお願いします。
>>429名無飼育さん
(*・e・)<かわいいニィよ。見たい?見たいニィ?
そのうち枕元に現れるかもしれません(怖
落としてくださってどうもありがとうございました。
- 456 名前:つみ 投稿日:2004/04/27(火) 17:36
- 気合で戻るなんて・・・w
まさかのところであの方達がでましたね。
川VvV)<天使?
- 457 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/28(水) 17:59
- 更新乙です。
過去があるって・・・まさか町一つ吹きt(ry
それにしてもミキティの気合には感服です。
でもそれ以上にあややが。。。(震
続きが益々気になりますね〜w
次回も楽しみにしてます。
- 458 名前:shou 投稿日:2004/04/30(金) 15:05
- 更新お疲れ様です。
やっぱり藤本さんは自称天使でもちょっと悪者になってしまうんでしょうか?
亀井も前より喋るようになってるし楽しみですね♪
次の更新もきたいしてます。
- 459 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:20
-
―――
「藤本。お前、自分のしたことの罪の重さわかっとるんやろうな?」
「だから、矢口さんを泣かせたのは美貴じゃな…」
「言い訳すなぁっ!!このナチュラルボーンサドが!!」
「んなっ!?違いますよ!!」
誰がサドだ誰が!!
「残念やなぁ、しりとりバレーで生き残ってたん見たときから
お前はできる奴やと思てたんやけど。
こんな形で失うことになるとはな」
「えぇえっ!? う、失うってどういう意味ですか?!」
「そのままの意味や」
そんなぁ!た、たたた、退学…?
まいちゃんが、 ま い ち ゃ ん が 泣かした矢口さんを
厳しい視線に刺されながら懸命に宥めていた美貴が
運悪く『矢口大好き人間』として有名なウチの大学の学長に見つかり、
ヘッドロックされて、ヒョウ柄が部屋中を埋め尽くす
恐怖の学長室へと引きずり込まれたのは、今から3時間ぐらい前だったと思う。
赤い革張りのソファに踏ん反り返った学長の前に正座させられて、
3時間ずっと重い沈黙が体に圧し掛かってた。
- 460 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:21
- はやく逃げたい、まいちゃん助けに来て、てか来い!と
心の中で唱え続けてた美貴に、3時間経ってようやく学長が
口を開いたかと思えば退学だなんて………こんなひどい話ある?
大体さぁ、学長って矢口さん以上に学長らしからなさすぎなんだよ。
髪キンキラ金だし、カラコンで目は青いし、犬っ鼻だし…
「犬っ鼻は関係ないっちゅーねん!!
お前ちょっと自分がキレイで高い鼻持っとるからって調子乗んなや!!」
「ひっ!? なんでわかったんですか?!」
「思いっきり声に出しとったやろ!
今度言うたら2度と声帯を震わせられん体にしたるぞ!!」
「言いません!言いません!もう2度と言いません!犬っ鼻だなんて…あ」
「 死 に さ ら せ 」
うがぁああ!?ワザとじゃないよ!口が滑っただけっ!
って言い訳したくても、口はもう学長の左手で塞がれてるし!
逃げたくても足が痺れてて動かないし!うつ伏せに倒されて乗っかられたし!!
え? 学長、なんですかそれは? 右手の そ れ は。
「ぎゃぁぁぁあああああー!?!?」
助けてぇえええ!!犯されるぅううう!!!しかもバックでぇえええ!!!!!
- 461 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:21
- ドバァン!!!
「待てよ裕子ぉお!!」
「うぉ? 矢口? なんで止めるん?」
あぁ!助かった! 矢口さんが天使に見える!
「止めるに決まってんだろ!
なんだよその右手の道具は!デカイし表面にブツブツまでついてんじゃねーか!
矢口の生徒にイカガワシイもん入れんなよ!」
「うっ。だ、だってぇ…」
おぇっ、学長のやつ、矢口さんに怒られた途端しおらしくなりやがって。
てかまだ入れられてないし!未遂だし!
誤解招くような発言しないでよ!
美貴の腰から下にヒンヤリした空気が触れかけたとき、間一髪のところで学長室に
飛び込んできた矢口さんは、学長から恐ろしい道具を取り上げて
高い声で怒鳴ってくれた。その小さい体から出るデカイ声に、学長はキーンと
キたみたいで、耳を抑えて蹲ってる。
もぉ…ホントにだめかと思った……亜弥ちゃん、あなたの美貴は守られたよ。
「藤本ー、大丈夫かぁー?
あーズボン半分脱げてんじゃん。
よしよし、怖かったな、泣いてもいいぞ」
「泣きませんよ。さりげないフリして美貴のお尻触んないでください」
「キャハハッ! だっていい形してんだもん!」
「ひゃあ!? ももも揉むなぁああ!!」
- 462 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:21
- なんだよ! 助けに来たんじゃないの?!
学長にズリ下げられてプリンと出ちゃってる美貴の半ケツを
楽しそうに触るな!!
…亜弥ちゃんごめん、半分守れなかった…ぐすん。
「だってこのラインすげー…、藤本って意外と色気あるなぁ」
「キモイこと言わないでください。
それより学長が勘違いして美貴のこと退学させようとしてるんで、
はやく真実を伝えてくださいよ」
「え? 真実って?」
「だからぁ! 矢口さんを泣かせたのはまいちゃんで
美貴は慰めてただけだってことですよ!!」
「あー、ハイハイ」
なにがハイハイだ、今世界で最も重要視されるべき真実だってのに
軽んじるな、バカ。
「…ってワケだから」
「ふんふん。ちゅーことは藤本は里田が矢口を泣かせるのを
隣で止めもせずに見とったと、ある意味協力者やと、そういうワケやな」
「そういうこと」
へぇ、そういうことかぁ…
「っなんでそーなんだよ!それじゃ美貴も泣かせたみたいじゃんかっ!」
だああ!ちょっと誰か弁護士呼んでよマジで!!
- 463 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:22
- たしかにポマトを選んだことについては色々言ったけど!
矢口さんが泣いたのは写真のポマトが偽物だったからじゃん!
「口答えすんなや。まーでも里田が首謀者なんやったら
アンタの命は助けといたる。
た だ し 厳重注意ってことで、今度の日曜個人面談や。
もちろん親呼んでもらう。場所はここの裏のファミレス。12時に来い」
…ハ? 面談? 親呼び出し?
てか今度の日曜は……亜弥ちゃんと出かける予定が…
「ま、待てよ裕子。藤本ん家はご両親とも
海外に住んでんだ。急に言っても来れねぇよ、なぁ?」
「そ、そうですよ! 飛行機代だって高いんですから!
そんな簡単には来れません!」
矢口さん、たまにはいいこと言うじゃん!
仕事があるお父さんは絶対無理だし、お母さんだって…。
なんせなち姉と絵里のお母さんだからな。
抜けててポワンとしてるし、不良っていう生き物に最も縁が無い感じだし。
それに結構ネガティブな人だから、こんなヤンキーみたいな学長に
呼び出されたら心臓発作とか起こしかねない。
と、あーだこーだ考えて、絶対無理って結論に美貴が辿り着いたとき
学長の口から、恐ろしい言葉が飛び出してきた。
- 464 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:22
- 「なに言うてるんや藤本。
海外に住んではるほうやなくて、アンタのホントのおかん、おるやろ?
すぐ隣の町に。そっちのおかんに来てもーたらええがな」
「ハァアア!?」
ええワケないがな。
「嫌です!!てか無理です!絶対無理です!無理に決まってるじゃないですか!
あの人はもう美貴の母親じゃないし!」
「なっ…藤本、それはお母さんに失礼だろぉ」
失礼でもなんでもいい! 大体母親じゃなくなったのはむこうからだ!
美貴がまだお母さんだって信じてたときに、アイツは母親じゃなくなったんだ!!
「え? なにお前、そんな暗い過去の持ち主なの?」
「別に暗くはないです…美貴、笑いましたから」
「へ? どゆこと? ウケる母親の辞め方なんてあんの?」
「ありますよ。
ただ、ウケる代わりに子供に嫌われる確率がかなり高いですけど」
いや、たぶん、美貴は嫌ってはないけどさ。
苦手は苦手だし。一生克服できそうにないし。
「それやねん、それがアカンねん。
そら苦手になってもーた気持ちもわからんでもないけど
お母さんはアンタに会いたがっとんねんで?
やのに今月の食事会、予定ができたとか言って蹴ったそうやん。
約束破るなんて、ひどいんとちゃうか?」
- 465 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:23
- 「ハ? なんで学長がそんなこと知って…」
およよと泣くフリをしてハンカチを取り出す学長を
美貴は限りになく疑わしげな目で見た。
「学生の頃、アンタのおかんにお世話になってな。
今でも呑み仲間やねん。こないだ急に呼び出すからなんかあったんかと思たら
娘にフラレたゆーて泣いとって。可哀想やったで」
「あ、あれは…妹がちょっと…色々大変だったから…」
そう、ちょうどあの日は、まだ絵里が隙間に入り込んでるときで。
ずっと隙間の前にいたから焼肉食べに行く時間なんてなかったんだ。
「そーいや藤本、昨日もだけど、3日ぐらい大学来なかった日あったなぁ。
そのあと妹さん入院したんだっけ?」
「えぇ、だから行けなくて」
「ほぉ、でもそれなら、埋め合わせするんが筋っちゅーもんやないんか?」
…ぐ。
好き好んで会いたくはないし、毎月会ってんだからいいじゃんって気持ちが
思いっきりあったんだけど。
腕を組んでヤクザみたいににじり寄って来る学長の言葉には
『頷かな、あとでもっぺんブチ込むぞ』っていう、声にはならない脅しが
含まれてて……あぁもう!!
だからさっきは未遂だってば!ブチ込まれてないっつーの!
- 466 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:23
- 「…わかりました。今度の日曜、12時に裏のファミレスですね」
「おぅ、アンタが電話して頼んで来てもらうんやで」
「…ハィ」
くっそぉ。よりによって学長と知り合いだなんて。
まさかこれを機に美貴がなんかするたび個人面談だってカコつけて
会いに来る気なんじゃ………ひぇぇ、これからは大人しくしよう。
「ねーねー裕ちゃん、矢口も行っていいー?
藤本のお母さん、どんな人か気になるしー」
はぁ、矢口さんまで来るのか。
あんな甘えた声出して、学長の腰に抱きついて頼んだら
断られるワケないし。
「ええで。ただし、なにがあっても驚いたらアカン」
「ふぇ? どういう意味ー?」
はぁぁ、もう美貴帰っていいかな。
帰って亜弥ちゃんにまた謝らなきゃいけないし。
…ヤバイ、ちょっと泣きそう。
鼻がツーンとしてきた美貴は、携帯を取り出して、こっそり
待ち受け画面を見た。
そこには内緒で撮った、亜弥ちゃんの寝顔が映ってる。
- 467 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:24
-
ごめんね、亜弥ちゃん。
てか聞いてよ、亜弥ちゃん。
最近やたらいいことが無いんだけど。
不幸続きなんだけど、これって気のせい?
亜弥ちゃんとキスしたから、神様に嫉妬されてんのかなぁ?
はぁぁぁ。
大きく深い溜息を吐いて、甘える矢口さんに学長が気をとられてる
うちに学長室を出た。
それから死んだように廊下を歩いてると
携帯が振動して、亜弥ちゃんの寝顔が消える。
代わりに出たのは『里田まい』。
こんなタイミングよく電話してくるなんて…とあたりを見渡すと
学食の入り口で美貴に向かってカツ丼と特選・焼肉定食を捧げて土下座してるまいちゃんがいた。
- 468 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:24
-
―――
「いやーミッキー、ホントごめんねぇ」
「……」
「…怒ってる?」
「……ゲップ」
「ガハハッ! やだぁ!ミッキー汚い!」
「 吊 る す ぞ 」
「っ…ごめんなさい、お仕置きはやめてください」
ったく、別に本気でお仕置きする気ないけどさーモグモグ、
だって美貴がムシャムシャしなくてもあとで学長にシバかれるでしょ?
「つーかまいちゃん退学だよ、絶対」
「ガハハ! それはないない!」
「あ? なんで?」
「だってぇー…アレ? ミッキー知らなかったの?」
「ハ? なにを?」
「ここの前の学長、私のじーちゃん。
だからぁ、私を退学になんて、よっぽどの理由がなきゃ無理」
「ハァ!? なんだよそれ!」
ちょっとちょっとぉ!! 教育の場で思いっきりあからさまな差別に
直面したんだけど! 美貴はさっき無罪だってのにあんたの罪被らされて
犯されそうになったんだよ?! それに親呼び出しだし!!
なのにあんたがお咎めナシってどーゆーことさ!!
- 469 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:24
- 「ふぇ? いやぁー、なんもないってことはないんじゃない?
反省文とか、トイレ掃除ぐらいならあるかもー」
「んなの…小学生レベルの罰じゃん…」
性的虐待に比べたら月とスッポン、特選カルビと馬のフンだ。
「へ? 月とスッポンポン?」
「スッポンだよ!!1回噛みついたら雷鳴るまで放さないヤツ!!」
「ガハッ、冗談だってぇ〜、そんくらい知ってるよぉ。
可哀想なミキティ、お尻大丈夫? 痛くない?」
「だからヤラれてないし! もう美貴帰る!」
まいちゃんの奢りのカツ丼と定食も食べ終えたし、結局矢口さんの
講義は休講になったそうで、今日は他の講義がないから
はやく帰ってこの怒りをシャワーで洗い流したい。
それにこれ以上まいちゃんの顔見るもの…って立ち上がろうとしたら
腕をガッと捕まれて引き戻された。
「痛っ! なにすんのさ!」
「ミッキー、大事なこと忘れてる!
エロテロリスト退治! しなくていいの?」
「ハッ!」
…そうじゃん!そうじゃん!レイナンに制裁を加えなきゃじゃん!
- 470 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:25
- 「ね? だからさ、細かいことは忘れよーよ」
「…忘れたいけど、まいちゃんのせいで親呼び出しなんだからね。
しかも前のお母さんだよ? 知ってるでしょ?
アイツと日曜の昼から会わなきゃなんないんだよ」
「……ゲ。マジ? そりゃ災難だぁ」
美貴の友達の中で、お母さんの現状を知ってるのは梨華ちゃんと
まいちゃんだけなんだけど………まいちゃんがそんな顔しないでよ。
会うのは美貴だっつーの。
「それに日曜は……はぁ。
いいや、中学に行こっか。もうすぐ3時だし」
「田中って子にメールしてマユゲちゃんと中学校の向かいに
ある喫茶店に来てもらお? あそこならいつも程好く混んでるし
マユゲちゃんも変な力使わないでしょ」
「だといいけど…」
紺ちゃんはマユゲ1人倒すために大勢の無関係な子達を巻き込んでたしな。
マユゲはそんなことしないって保証はどこにも無いんだけど。
「塾長って名前で後輩に慕われてるんだから、良識は持ってるでしょ」
持ってたらそもそも美貴に竹刀を投げつけたりしないと思うけど…っていう言葉は
飲み込んで、ニカッと笑いながら美貴の腕をとるまいちゃんに、今度は引っぱられて
席を立ち、学食を出た。
- 471 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:25
-
「あれ? ミッキー、あそこにいるの中学の子?」
「え…?」
外に出たところで、まいちゃんがスッと目を細める。
視線を辿って敷地内にあるベンチを見ると―――――絵里?
「あ、美貴さぁん」
「へ? え、えっぇ絵里? ななななんで…」
てゆーか、あれれ?
なんかおかしくない? 朝はマユゲと同じベッドで寝たことが
ショックで全然気になんなかったけど、よく考えたらなんか変だ。
「新垣さんたちが美貴さんに話があるっていうんで、ついて来たんです」
「マユゲが…?」
「あ、初めまして。藤本絵里です」
「あー、ミッキーの妹の? どもー里田まいでぇーす」
言われてみると、絵里が座ってたベンチの背もたれの向こうから顔だけ出して
こちらを窺ってる新垣塾トリオの姿が。
あ、違う。道重ちゃんだけは鏡見て笑ってる。
まさか、そっちから乗り込んでくるとは。
ギロリと睨んでやると、田中ちゃんが小さく震えてマユゲの背中に隠れた。
道重ちゃんはまだ鏡を見てる。
- 472 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:26
- 「あのぉ、今日の晩ご飯なんですけど、私が作るんです。
美貴さんの好きなお肉の料理作るんで、あんまり遅くならないでくださいね」
「…え?…あ…ハイ」
鞄を胸に抱いて、カクンと首を斜めに傾げる絵里。
な、なんだ、この新婚さんみたいな会話は…、妹相手にドキッとしちゃったよ。
つーか絵里、寝てる間に背ぇ伸びた? まさか胸まで…美貴より育ってないよねぇ?
「じゃあ、絵里帰ります。
れいなとさゆのこと、よろしくお願いします」
うわ、でかいかも…育ち盛りだしな…。
ってそんなことはどうでもいいんだ、やっぱりおかしい、おかしすぎる。
絵里はへニャンと笑って頭を下げると、ベンチの後ろの3人に手を振って
小走りで去って行った。へぇ、絵里って髪の毛までクネクネ揺れるんだ。
「へぇー、ミッキーよかったねぇ。
絵里ちゃん、すっかり懐いてくれたんだぁ」
「……え?」
「今回ばかりはもうだめかと思ったけどねぇ。
だってミッキーのせいで入院までしちゃったんだし」
「……そういうことか」
- 473 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:26
- 絵里の態度がどうにも腑に落ちなくて、戸惑いながら絵里の後姿を
見送っていた美貴は、まいちゃんのおかげでようやく気づいた。
そうだよ。
美貴は絵里が寝てる間、起きたらどうやって怒ってないことを
わかってもらおうかとか、どうすればもう1度笑顔を見せてくれるかとか、
そんなことばっか考えてたのに。
絵里が起きてから、美貴はなんもしてないのに。
絵里は隙間に入り込む前以上に美貴に対してスマイリーになった。
朝も、今も、ものすごく打ち解けた感じで話しかけてくれた。
嬉しいけど、めちゃくちゃ嬉しいけど。
なんで? 絵里、どうしちゃったの? 頭大丈夫?
もっかい病院に行って診てもらったほうがいいんじゃ――――
「憶えてないんだニィ。
自分がなぜ入院することになったのか」
「え? うわあ!? ちょっ、いきなり目の前に立たないでよ!!」
- 474 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:26
- 心配で視界の変化に気づかなかった美貴は、突如として身の回りの
半径22センチ内に入りこんでいたマユゲの存在に驚いて心臓が止まりそうになった。
「やだ、モッさんったら昨夜とは一変して冷たい態度だニィ」
「うぇっ!? へ、変なこと言わないでよ!!」
「あちゃー、ミッキーやっぱヤッちゃったのぉー?」
「ヤるワケないじゃん!
ねぇマユゲ!ヤッてないよね?!」
「…ポッ」
「だああ!!? 赤くなるなバカ!」
それじゃヤッたみたいじゃん!!頬を手で抑えるなよ!
「お、お姉さん落ち着いて。
こんなとこでヤッただのヤッてないだの大声で叫んだら
注目の的やけん。どっか静かなとこ行きませんか?」
「…あ? ゲ、みんな見てるし…。
じゃ、じゃあどっか行こう、喫茶店でいい?」
再び体中に刺さる、みんなの『うわあ、藤本さんてばロリコン?』
『中学生なんて…犯罪だよぉ』ってゆー非難の視線。
もぉ、なんなのさ今日は。厄日にもほどがある。
- 475 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:27
- ここからだと、さっきまいちゃんと話してたとこは遠いから違う店になるけど、
喫茶店ぐらいこの近くにだっていっぱいある。
さっさとこの場から逃げたい、逃げ去りたい。
「いえ、れいなのアパートがこの近くなんで
そこにしましょう。狭いですけど、ゆっくり話せるけん」
「 や だ 」
「ほぇ?」
「絶対嫌! エロテロリストの家に連れ込んで美貴になにする気だ!
あんたらまで道具使う気?! 美貴はもうお腹いっぱいだよ!」
美貴の体は亜弥ちゃんのもんだ!
学長といい矢口さんといいお前等といい、勝手に触るなよ!
「え? エロテロ? 道具? お腹いっぱいって……お、お姉さん…
大学でなにしとったとですか…? 勉強してたんやなかとですか?」
「キャー、大人の世界だねー」
「コラコラ道重ちゃん、子供は聞いちゃいけない話だニィ。
耳抑えて、無音の世界に旅立ってなさいだニィ」
「ぶぅー、さゆが子供なられいなも子供ぉー」
・・・しまった、色んな感情が入り乱れて変なこと言っちゃった。
「ミッキー、今のは失言だったね」
「…ほっといて」
- 476 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:27
- あぁ、みんなの視線がますます喰い付いてきてるし。
この3人を今すぐ宇宙の彼方へ蹴り飛ばしたい。
土星あたりまで飛ばしたい。
「まーそんな凹まないで。このままだと喫茶店行っても
誰かついてきちゃいそうだしさ、ここは意を決して
田中ちゃんの家に行くしかないって。ね? 行こ?」
「…うぅ、やだぁ」
ぶっちゃけ心の中では号泣中な美貴をまいちゃんが支えてくれる。
その様子を見た田中ちゃんが、不思議そうな顔で訊ねた。
「え? あの、お姉さんだけでよかんやけん。
てか、なんでそっちのお姉さんれいなの名前知っとーと?」
「ミッキーから聞いたの。
私、ミッキーの大親友でミッキーから厚く信頼されてるから
一緒に行っちゃだめ?ほら、ミッキーも1人で初めてのところに行くの
心細いだろーし」
「………」
「塾長…」
美貴的にはかなり不満のあるまいちゃんの言葉を聞いて、田中ちゃんが
困った顔でマユゲを見ると、マユゲは1つ瞬きをしてからデカイ声で叫んだ。
- 477 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:28
-
「マユゲウィーング!!!」
すると次の瞬間、美貴の体は黒いチクチクする毛に覆われ、悲鳴を上げる余裕もなく
ブラックホールみたいな黒い塊に飲み込まれる。
「いぎゃあああああぁああああー!!?!!?」
痛い!腕にいっぱい毛が刺さってる!!
なんなのこれは!? 美貴をどうする気なの?!
「ミッキー!?ミッキー!!ミッキーがすごい長いマユゲに飲み込まれたぁああ!?
ちょっ…どこに行っ…ちょっと!私も連れてってってば!!」
ぐあああ!? まいちゃんの妙に説明臭いセリフで状況はよくわかったけど!
美貴ってば誘拐されるっぽい!
くそぉ!中学生とはいえ1対3じゃ勝ち目ないじゃん!!
「田中ちゃん! 抵抗が激しいからアパートの窓割っちゃうかもだニィ!」
「えぇえ!? お、お姉さん!暴れちゃいけんとよ!」
「うふ。風になびく私もカワイイ♪」
…実質は1対2か。
これなら勝てそう、ウルァアアア!!!!!
- 478 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:28
- 「ニィィ!! 窓に突っ込むニィ!」
「ぐすっ、今月金欠やのに……ガラス代どうしてくれるとね…」
知るか!
ガラス代以上の被害を美貴は被ってんだ!!
「キャッ、私の顔に傷がついちゃう。
じゅくちょー、私降りますぅ。えぃっ」
「ニィィ!? み、道重ちゃんが落ちたぁああ?!」
「あ、大丈夫たい、さゆはいつも背中にパラシュート背負ってるけん」
んなアホな!?
どんな中学生だよ、常に空の危険に晒されてんの?
てかもう美貴泣くけど、3秒以内に泣くけど。
こんな目も見えない真っ暗な状況で聞こえてくるのが突っ込むとか
パラシュートとかありえない。今どんぐらいの高度で飛んでんだよ、怖いよ。
「ぶつかるニィィィ!!!」
ほら泣いた、涙流れた。
もう知らないよ。ぶつかりたきゃ勝手にぶつかれよ。
次の瞬間、パリンっていう音がして、チクチクする毛越しに強い衝撃を受ける。
5、6回転がってまた衝撃。たぶん壁にぶつかったんだ。
その拍子に美貴を包んでた毛に穴が開いて、やっと暗闇から解放された。
- 479 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:28
- 「ヒィッ!? な、なんやのあんたら…っ?!」
「え…?」
穴から外に這い出すと、美貴の下でマユゲと田中ちゃんがノビてて…
後ろから、知らない女の人の声。
「なぁああ!? 窓割れてるやん!
昨日防弾ガラスに替えたばっかやのに!!」
ぼ、防弾って……なんのために…。
つーかここ田中ちゃんの部屋じゃないの? この人誰?
「……う……あれ?…ここは……」
「あぁ! 田中さん! なんでここに?!
アンタの部屋は隣やろ!!」
「ふぇ? あ、平家さん…? てことはここ…この窓…」
「そうや! ここは私の部屋で、この窓は私の窓や!
ついでにここに散らばってる破片は私の防弾ガラスやぁあ!うわぁああん!!」
「…ぁ、す、すいませ…」
「うぇーんぇんぇんぇんぇんうぃー」
いい子なのにね。
……ハッ!なんだ今の?! 勝手に脳内に言葉が舞い降りたんだけど!
- 480 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:29
-
それからたっぷり1時間。
平家さんは割れた窓からビュンビュン風が入ってくる部屋で
「この子たちの最後は私が看取んねん!」と言って、子供みたいに泣きながら
破片をホウキで片付けた。
でも、やっと片付け終わったと思った瞬間に
やっとこさ起きたマユゲのマユゲウィングから
バサァッとまたガラスの破片が部屋に飛び散って……。
平家さんの不幸は、もう1時間続いた。
いい子なのにね。
- 481 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:29
-
- 482 名前:みんないい子。 投稿日:2004/05/08(土) 02:30
- コンコン、おめでとうコンコン。
川o・-・)<また遅刻ですか。
_| ̄|○モウシワケナイ。
レスありがとうございます。
>>456つみ様
世の中気合が全てですから!
从从 V)<天使。
>>457名も無き読者様
川o・∀・)
コンコンとあややを怒らせてはいけないんです。
きっとそれが、世界平和に繋がるんです。
>>458shou様
(vV从从<損な性格だよ。
いい子なんですよ、ミキティだっていい子なんです。
・゜・(ノД`)・゜・
- 483 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/08(土) 15:22
- 更新乙彼です。
学長を捕まえるべきだと思うのは自分だけでせうか?
だって・・・ねぇ?
最後に出てきたアノ方には吹き出しましたw
続きも楽しみです。
- 484 名前:つみ 投稿日:2004/05/08(土) 23:44
- いい子なのにね・・・
あらたなキャラも出てきて
ますます凄い事になってきましたね!
次回はまた面白そうな事が・・・楽しみにしてます!
- 485 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/10(月) 23:16
- ミキティーと平家さんどっちがかわいそうですかね・・・
幸せにさせてあげてください。
次回も期待してます。がんばってください。
- 486 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:27
-
ヒュンヒュン、ビュビュビュン。
「…ヘックシ!」
「…ニィックシ!」
「…レイニャックシ!」
ずずっ。ガラスが完全に撤去された窓から遠慮なく入ってくる冷たい風に
美貴とマユゲ、田中ちゃんのクシャミが仲良く続く。
「…さ、寒い」
「ならもっとくっつくニィ」
「……」
「お姉さん? なに恥ずかしがっとーと?」
「違うから、それは無いから、純粋に嫌なだけだから」
「ぐすっ、そこまで言うなんてひどいニィ」
フン。なにがひどいだ。
誰のせいでこんなことになったと思ってんだよ。
せっかく絵里の友達だから、今までのオイタは許してやったのに。
もう許さねぇぞ、極悪マユゲめが。
ガラスを片付けた後、仕事へ出かけていった平家さんに
『窓から泥棒に入られたら困るで、帰ってくるまでここにおってもらえへん?』
と頼まれた美貴たち3人は、室内なのにまるで室外っていうか、
前向きに思えば無料アウトドアライフじゃんって感じの部屋で
押入れにあった薄い1枚の布団を分け合って縮こまってる。
- 487 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:27
- 「で、そろそろ話したいんだけど。今日はなんの用だったワケ?」
絵里に案内までさせて、家じゃなく大学に来て、挙句の果てに拉致しやがったって
ことはそれなりの話があるんだろうな、あるよな、なかったらオロスぞ3枚に。
「ニ、ニィ……あの、昨夜のこと…モッさん、知りたいんじゃないかと思って…」
「あ?…あ、あんた、美貴の記憶が無いこと…」
「知ってるニィ。
正確には無いっていうか、今は沈んでるだけで
もしも…モッさんとニィが…その、そういう関係になったら
思い出さないこともないと思ったり思わなかったり…」
どっちだよ。ハッキリしろよ。
てかそういう関係って……そういう関係?
いやその前に『昨夜』って言うのやめてくんない? それじゃまるで美貴とマユゲが…
ありえない。マユゲとそんな…ありえないし。
てことは美貴は思い出さないってことか。
「またしてもモッさんひどっ」
「うっさい。んなことより、なんで美貴の記憶は飛んだの?
2度あることは3度っていうけどこんなの1度で充分だし、むしろ1度もいらないし」
「「え?」」
美貴の表情から考えてることを察したらしいマユゲは
田中ちゃんの肩にすがりついて非難してきたけど、
それを無視して話を続けようとした美貴に、マユゲと田中ちゃんが声を揃えた。
- 488 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:28
- 「ニィ? 3度?」
「お、お姉さん、3度って…あ、れいな、さっき塾長から
お話聞かせていただいたんですけど、お姉さんの記憶…飛んだんは
昨日が初めてなんやなかとですか?」
「へ? 違うよ。マユゲに竹刀ぶつけられた日が初めて。
その後また飛んで、昨日は3度目」
「「………」」
え?なに? 美貴なんかマズイこと言った?
2人とも口パカッと開けて固まっちゃったんだけど。
「あああ、あ、ありえないニィ!」
「ハ?」
「ど、どうして? な、なんでニィ?
モッさんは一体なにをしたニィ?! あんた一体何者ニィ?!」
「んなっ、何者って…」
「ニワワワワワ…」
どういうこと? え? 美貴って何者?
待ってよ、ちゃんと説明してよ。
驚愕して上手く喋れなくなってるマユゲの代わりに田中ちゃんを捕まえる。
「話せ」
「う…あ、は、はい。
あの、お姉さんが昨日飛んだのは、塾長のおでこを見たからなんです」
- 489 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:28
- 「ハ…?」
おでこ? オデコ? O・D・E・K・O?
そんなもので? マユゲのおでこごときで
美貴の記憶が飛んだとな?
「ごときって……塾長のおでこは毎日フワフワに泡立てられた
最高級洗顔料と週に1度のパックで常にツルツルプルプルな状態に
保たれとるとですよ?」
「知るか!! そんな情報いらないし!
なんで美貴がマユゲのおでこで飛ぶんだよ!」
マユゲのおでこでデコデコデコリーン♪…ってノンタックか美貴は!!
「へ? ノンタック?」
「…知らないの?」
「知らんとよ、塾長知ってますか?」
ガーン…!
首を横に振るマユゲを見た途端、美貴は講義中の矢口さんの気持ちが
激しくわかった気がした。
これが……これがジェネレーションギャップか!
「ノンタックを知らない人間がいるなんて…
『おでこのメガネでデコデコデコリーン♪』って超有名なセリフじゃん!」
「そう言われても、ノンタンなら知ってますけど…」
「違ぁう! ノンタックとノンタンじゃ全然違う!!」
- 490 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:29
- あいつは猫じゃん!
それにメガネかけてないでしょーが!
「じゃあ、まさかにこにこぷんとかも知らないの?」
「…あー…聞いたことあるよーな…」
「_| ̄|○」
もうだめ。立ち直れない。
ノンタックもにこにこぷんも知らないなんてありえない。
なんだ今時の中学生は、絵里も知らないのかな、知らないだろうな、ガックシ。
「…って話逸れてるし。
なんでマユゲのおでこで飛ぶワケ?」
「えっと、お姉さんは塾長のLOVEマシーン喰らったけん
塾長のチャームポイントであるおでこを見ると、そのあまりの神々しさに
心奪われて我を忘れちゃうんです。」
「……でも、美貴がマユゲのおでこ見たのは昨日が初めてなのに…」
ていうか、心奪われるって…。
美貴が、マユゲに…、マユゲのおでこに……。泣きたい。
「そう、やけん驚いたとよ。
塾長のLOVEマシーンを受けたんやから、他の人のおでこに
反応するワケないし、それに塾長のおでこに匹敵するほどのおでこは
そうそうありませんから」
「ニィ、ないと言っても過言じゃないニィ」
- 491 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:29
- 無駄にすごい自信だな。
まぁ、でなきゃあんな風には晒せないよね。
「でも昨夜はLOVEマシーンの効果も大分薄れてたから
ずーっとニィの背中に張り付いて、『遊ぼー』っておでこペチペチ
触ってきたぐらいで、心配してたよりは甘えてこなかったニィ。
お風呂も道重ちゃんと一緒に入って、楽しそうだったニィよ」
「 え ? 」
み、道重ちゃんとお風呂に?
お、おい美貴、なにもしなかっただろうな。
亜弥ちゃんと入るときみたいに、抱きついたりしなかっただろうな。
「さゆは末っ子やけん、誰かの面倒見ながら風呂に入ったこと
なかったから嬉しかったって言ってたとよ。
お姉さん、アヒルのオモチャで遊んであげたら
子供みたいに喜んどったって」
「……」
アヒルプレイ…いやいや! 相手は中学生なんだし!
子供みたいってことはナニも大人みたいなことはしてないハズだ!
「モッさんに誤ってLOVEマシーンを喰らわせてしまったときは
正直、最悪の場合はニィの貞操を捧げることになるかもって
覚悟はしてたんだニィ。だから、昨夜もちょっぴり期待…じゃなくて
心の準備はあったんだけど、ただ幼児化してるって感じで
ホント助かったニィ」
「美貴にとってはそれだけでも充分最悪だけど」
「モッさんひどっ、パートスリー」
だからうっさい。つーか期待ってなんだ。間違ってでも
背中が一瞬で冷えること口走るな。
- 492 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:29
-
このあと、2人からさらに話を聞き出したことをまとめると。
美貴が喰らったLOVEマシーンっていうのは
その昔、マユゲがとある目的のために開発したんだけど(怖)
使う直前におおいなる失敗作(ていうか危険作?)であることに
気づいて、ずっと封印してた技らしい。
それを、終身刑にでもなって網走刑務所に入って欲しいぐらい
腹の立つことに、美貴の脳天にヒットさせやがって……。
LOVEマシーンの被害者は、マユゲのおでこを見ると、一瞬にして
マユゲに夢中になっちゃうから、マユゲはそれを避けるために
美貴の前に現れるのを避けてたんだけど。
昨日は紺ちゃんに痛い目に遭わされて凹んでいたことや、
できたばっかりの前髪のおかげで、美貴が普通に接してたから
すっかり見せちゃいけないってことを忘れてて…。
ったく、忘れんなよ。
で、昨日美貴はマユゲと道重ちゃん相手にハシャギにハシャギまくった挙句
あのフカフカのベッドで3人川の字で寝ることを強要して
マユゲと道重ちゃんに挟まれてニコニコしながら寝たそうな。
…ホッ。
無実だった、美貴は汚れてなかったよ亜弥ちゃん!!
- 493 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:30
- でも、でもだ。
何事もなく無事だったワケだから、昨日のことはヨシとして。
問題はその前と前。
亜弥ちゃんとラブホに行っちゃったときは、どうして記憶が飛んだんだろう?
マユゲのおでこ見てないし。見たならマユゲと…(自粛)なハズだし。
「う〜ん…たぶん、記憶が飛んでしまったことについては…
ハッキリとは言えないニィけど、ニィのおでこの代わりになるものを
なにか見たんじゃないのかニィ?
例えば…ニィのおでこの色と同じ、黄色くて丸いものとか」
黄色? きいろ、黄色くて丸い…
「あっ! そういえば!
最初のとき、美貴はキッチンズバーガーでチーズバーガーを食べようとしてたんだ!!」
「ニィ? それがどうしたニィ?」
「ハッ!そうか!
塾長、チーズバーガーを包んどる紙は黄色なんですよ!
やけん黄色くて丸いんです!」
で、次、2度目、2度目のときは………
「…満月だ」
「……なるほど、LOVEマシーンはずっと封印されてて
初めて使ったから、完璧じゃなかったニィ。
だからそういう、ニィのおでこに類似したものを見ただけで
飛んでしまったんだニィ」
- 494 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:30
- 「うん、そういうことなんだろうね、記憶が飛んだ原因は。
けど…なんで、相手が亜弥ちゃんだったんだろう?」
そう、これがわかんない。
今にしてみれば、亜弥ちゃんだったことはとってもラッキーチャチャチャで
運命を操ってる神様がいるならメチャクチャ感謝したいとこだけど。
「マユゲのおでこ以外の、モノに反応しちゃったんならさ、
チーズバーガーならチーズバーガーに夢中になればいいことじゃん?
人間じゃないとダメだってんなら、誰でもよかったんじゃないの?」
でも美貴は。
梨華ちゃんに『違う』って言って
おそらく店の窓から通りかかった亜弥ちゃんを見つけて
飛び出して行ったんだ。
初めて会った日の翌日に亜弥ちゃんから聞いた話だと、美貴は迷わず
亜弥ちゃんの前に来て、チーズバーガーを差し出したみたいだし…。
「…会う前から松浦さんのこと好いとったとか?
そんなことあるワケなかですよね」
「じゃあタイプだったとか…」
「たしかにカワイイけど、亜弥ちゃん女の子だよ?
美貴今まで女の子と付き合ったことないし、そういう風に思ったこともない。
だから、タイプとかで選んだんなら、男の人に行くんじゃないの?」
「「「う〜ん…」」」
- 495 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:31
- 3人とも眉間に皺を寄せ、腕を組んで唸る。
すると数秒の沈黙のあと、絶え間なく入り込んでくる風にそよぐ前髪を
おさえながら、マユゲが懐から取り出したサングラスをかけて叫んだ。
「ニィィ! よくわかんないけど、でも、モッさんには
松浦さんじゃなきゃいけなかったんだと思うニィ!
モッさんの本能が松浦さんを選んだんだから
今までのこととか、男とか女とか、そんなの関係ないニィよ!」
「マユゲ…」
ビシィッと美貴を差した指の向こうの、サングラスの中で光る瞳。
その輝きに、不本意にも思わず見惚れてしまった。
「塾長……かっこよかばい…、塾長の言う通りたい。
恋や愛に国境がないなら、過去や性別だって関係なかね!
お姉しゃんの本能が松浦しゃんば求めたんやけん、
そればどうして?って考えても
理性に答えなんかわかるワケなか!!」
「そっ…か……そうだよね…、頭で考えたって意味ないよね…」
「そうだニィ!!
好きになったんだからあとは一直線!!
思いやりを忘れずに、愛し合っていけばいいんだニィィ!!!」
スパァーンと、美貴の中でなにかが弾けた。
あれ? 美貴、腹立ってたハズなのに、なんでだろ?
今はこんなにマユゲが眩しい。
- 496 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:31
-
亜弥ちゃんが好き。
それでいいんだ。だから出会ったんだ。
この出会いは間違いなんかじゃない。
なにか理由があったとしても、もうどうでもいい。
亜弥ちゃんが好き。
「マユ…いや塾長ぉ!!
美貴はいついつまでも思いやりを忘れず
亜弥ちゃんを愛することをここに誓います!!」
「ニィ!幸せにおなり!」
「おぉ! これでお姉さんも新垣塾の塾生たい!
ユニフォームの柔道着、渡しとくけん」
ビバ! 魁!新垣塾!!
どこからかサッと田中ちゃんが取り出した柔道着を受け取り
颯爽とはおる。固くてちょっと重いけど、鼻を刺すロマンティックな…
「クサッ! 柔道着クサッ!
全然浪漫じゃないし! なんだこの悪臭?!」
「ニィニィ、匂わない柔道着はただの柔道着だニィ」
「そうたい、新品で匂いがせんのをわざわざ豚小屋の近くに干して
匂いつけたんやけんね」
うげぇぇぇっ!!!
なんてことすんだバカ!
- 497 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:31
- 「いらないから!そんな気遣いいらないから!
ただの柔道着でいいし! どうしても匂わせるなら桃の香りがいいし!!」
「ム。新入りのクセに注文が多いニィ」
「じゃあ洗って桃の天然水にでもつけとくばい」
ありがとう田中ちゃ……ん?
危ない、また忘れるとこだった。
「レイナン」
「はぃ? あ、お姉さんれいなのこと名前で呼んでくれると?
嬉しかー、同じ塾の塾生同士これからも仲良く…」
「てめえ!! 昨夜絵里にナニしたんじゃゴルァ!!!」
「ほぇ?! な、ナニもしてましぇんとよぉ!」
嘘つくなスケベ!!
昨日絵里にひっついて『もうちょっとこのまま』とかなんとか
言ってやがっただろーが!! その上にお泊りまでしやがって!
「ノンタックも知らない中学生が絵里に手ぇ出すな!!!」
「だ、出してましぇんってば!!」
「モッさん、田中ちゃんはこう見えて噂のセクシーシャイだから
たぶんキスすらしてないと思うニィよ。
寝るときちょっとくっついて寝たかもしんないけど
それもくっついたのは藤本ちゃんのほうからだろうし」
「そ、そうばい! 絵里からやったとよ!」
「なら問題ないニィ」
「 大 問 題 だ ! ! ! 」
- 498 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:32
- 下心がひとつもなかったとは言い切れないくせに
同じベッドで一夜を過ごすとはナニゴトだ!!
「ぐっ…そりゃ、絵里のこと…好きやけん…
下心はありましたけど……でも!
れいなの理性は本能に負けたりせんし!
一晩中くっつかれて…『れいなぁ』とか寝声で呼ばれて
背中向けたらパジャマぐいって引っぱられて抱きつかれたけど!
絵里はまだ…そういうとこ子供やけん、手繋ぐだけで我慢したと!!」
・・・・マジで?
昨夜の悶々とした苦悩を思い出して涙目になってる田中ちゃんの理性の
強さに美貴は驚きを隠せない。
すごい、すごいよ田中ちゃん。
美貴だったら無理。好きな子にそこまでされたら
完璧に本能に飲まれちゃう。てか飲まれた。
「…偉い」
「聖人君子の鏡だニィ」
「……度胸がないだけかもしれましぇんけど…」
そんなことないよ。絵里が望んでたならともかく、
スピョーと暢気に寝てたんなら、求めてたワケじゃないだろうからね。
- 499 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:32
- 「田中ちゃんホント偉い、尊敬するよ。
その偉業を称えて、ほっぺとおでこへのキスは許す」
「え!? いいんですか?!」
「軽いやつね、3秒以内に離れんだよ。
1秒でもオーバーしたら動物園のカバの池に投げるから」
「ハイ! ありがとうございます!!」
本当に嬉しそうにとびっきりの笑顔で頷くのがかわいくて
頭を撫でると、田中ちゃんは照れながら美貴に抱きついてきた。
「絵里のこと、大事にしますけん!
温かく見守ってつかぁさい!」
「アハハ、おぅ、頑張れよー」
ホントかわいい。新垣塾では先輩だけど、なんか部活の後輩って感じ。
好きな動物のキャラクターに似てるとはいえ、
あの極度の人見知りな絵里が、田中ちゃんと初めて会ったときは
少しも臆することなく懐いた気持ちがなんとなくわかるなぁ。
「2人だけでズルいニィ。ニィも混ぜるニィ」
ゴロティ ゴロニャン ニィニィニィ
2時間ぐらい前までは信じられなかった光景だけど
すっかり仲良くなった美貴たちは、そろってお腹の虫がグゥとなるまで
ひっついて部屋中を転がりまわった。
- 500 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:33
-
―――
――
あとになって思えば、美貴が亜弥ちゃんを選んだ理由に
このとき気づくべきだったのかもしれない。
彼女に教えられる前に
彼女の不安を取り除いてあげられてたら。
でも、そんなこと言ったなんて覚えてないし。
てことは気づいてても、結局泣かせちゃったのかな。
ごめんね。
亜弥ちゃんが好きだよ。
誰の代わりでもない、亜弥ちゃんが好き。
信じてもらえないかもしれないけど、
だけど、ホントに、本当に、好きだから。
――
―――
- 501 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:33
-
―――
「ただいまー」
「たん! お帰りなさぁい!」
「わあ!?」
「み、見てないけん、れいなの目は今固く閉じられとぉ」
7時前になって、『店潰れとった…』と、虚ろな目をした平家さんが帰って
きたので、美貴は田中ちゃんを連れて家に帰った。
今日の夕食は絵里が作るって言ってたし、食べさせてあげたいって思うじゃん?
一緒に塾長も誘ったんだけど、塾長は残念そうに首を振って
マユゲウィングからスカイダイビングした道重ちゃんを捜しに
再びマユゲをはためかせて空へと飛んでいってしまった。
道重ちゃん…大丈夫なのかな? まぁ、どっかの鏡の前にいるだろう。
「あ、亜弥ちゃん…田中ちゃんがいるから、とりあえず服を…」
「う? あ、田中ちゃんこんばんはぁ」
「ど、どうも、お久しぶりです」
ドアを開けた瞬間飼い主を待ってた犬みたいに飛んできた亜弥ちゃんを
見て、田中ちゃんの顔は真っ赤。
…中学生には、刺激的すぎるよね。
だってお風呂上りらしい亜弥ちゃんはピンクのタオルをペロンと巻いてるだけで
『セクシ〜なの? キュ〜トなの?』
『セクシーですセクシーですセクシーです!!!』って感じなんだもん。
- 502 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:34
- 「たん、ごめんね? 今日体育で汗かいちゃったから
先にシャワー浴びちゃったの。
でも湯船には浸かってないから、たんが入るときに一緒に入ろうね?」
「へ? あ、うん、わかったから、あの…」
「お、お風呂…一緒なんですか…」
美貴の後ろで羨ましそうに呟いてる田中ちゃんがいるってのに
亜弥ちゃんは構わず美貴に抱きついて、申し訳なさそうに顔を覗き込んできた。
亜弥ちゃん離れてあの谷間っていうか谷魔っていうかタニシっていうか
いやいや違うタニシなんかいないけどいたら速攻でつまみ出すけどそんな
タニシだの谷村新司だのはどうでもいいから離れてくんないと触っちゃうし
揉んじゃうしありがとうあややがくれたすべてにっていうかボインにありがとう。
「ひゃっ…ちょっと、たんっ…ここ玄関だよぉ?」
「亜弥ちゃんが悪いんだい」
「な、なに駄々っ子みたいな声…んぅっ」
胸だけじゃない。
シャワーあとだから白い肌がタオルと同じピンクに染まってるし
シャンプーやボディーソープだけじゃない、亜弥ちゃん特有の香りが
帰ってきたイリュージョンで理性君さよなら。
そもそも亜弥ちゃんとは本能のお導きで出会ったんだから
別にいいよね、いいんです。
- 503 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:34
- 顎にキスして首をなぞり、鎖骨に噛みつきながら胸を撫でると
視界の端に、抜き足差し足でリビングに入ってく田中ちゃんを確認した。
よし、頼んだぞ田中。
お腹は空いてるけど、今の美貴には食欲よりあやや欲。
10分くらいで行くから上手く言っといて。
「たん…だめぇ…」
「着替え、脱衣所?」
「うん…」
移動決定、美貴も玄関じゃ落ち着かないし。
「ねっ…だから……だめだよぉ?
みんな、たんが帰ってくるの待ってたんだよぉ?」
「じゃあなんで誘惑したのさ」
「ふぇ? し、してないよ!」
したし、されたし、止まんないし。
美貴だって、頭の隅っこではわかってる。
みんな待っててくれたんならお腹空いてるだろうなって。
なら早く行かなきゃって思うけど、身体はもう亜弥ちゃんのこと
脱衣所の床に組み敷いちゃってんだもん。
それにそんな風に困った顔されると余計萌えるワケ、あぁまた誘われた。
- 504 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:35
- 「もぉ、亜弥ちゃん反則すぎ」
「え?…ま、待って!待って!」
鎖骨を這ってた舌にタオルがかすったから引きはがそうとすると
亜弥ちゃんは慌ててガバッと上体を起こした。
「な、なに……するの…?」
「ナニって、そりゃあ…」
言いかけて気づく。
美貴を見る亜弥ちゃんの目が、小さく怯えていることに。
美貴の腕を掴んでる指先が、震えていることに。
「あ…亜弥ちゃん…?」
「今じゃないと…だめ? すぐじゃないとだめなのぉ?」
「………そんなこと、ないけど」
亜弥ちゃん、泣きそうだ。
下唇噛んで、たぶん、今泣いたら美貴のこと傷つけると思って
必死で我慢してる。
なんてことしちゃったんだ美貴は。
思いやりを忘れずって塾長に誓ったばっかなのに、
亜弥ちゃんはこんなにも美貴を思いやってくれてるのに
また欲望のままに突っ走っちゃうなんて。
- 505 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:35
- 「ち、違うよ? たんとこういうことするのが嫌なんじゃないよ?
でも今は、ね? 絵里ちゃん、たんのために一生懸命頑張ってたもん」
「う、うん…ごめん」
「謝んなくていいよぉ、照れ屋なたんもかわいいけど
ケダモノなたんもかっこいいもん」
「でも、怖かったんでしょ?」
「……ちょっとね」
そんな、美貴が悪いのに。どうして亜弥ちゃんが申し訳なさそうなのさ。
言葉で謝ると、きっと亜弥ちゃんも謝っちゃうだろうから
美貴は精一杯の「ごめんなさい」を込めて髪に口づける。
離れると、亜弥ちゃんは優しく笑ってくれた。
「じゃあ、着替えるね」
「うん」
「? 着替えるんだけど」
「うん、どうぞ」
「いや、だから先に行ってて?」
「へ?…あぁ!ハイハイ!行きます行きます逝ってきます!」
「にゃははっ、変なミキたん」
承知、変なのは充分承知、ごめんなさい。
もしかしたら本当のエロテロリストは美貴かもしんない、でもミキリンって
キリンみたいでやだ。ミキティのままでいい?
って誰に聞いてんだ美貴は!
自分のスケベさに凹みながら慌しく脱衣所を飛び出す。
戸をピシャッと閉じて廊下に出ると、そこにはもう亜弥ちゃんの香りはなくて
2、3回の深呼吸ですぐに平常心を取り戻した。
- 506 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:36
-
「美貴さん! お帰りなさい!」
「た、ただいま…」
リビングに入ると、桜満開って感じに晴れやかな笑顔の絵里が
颯爽と駆け寄ってきてくれる。
「ンフフッ」ってなにがそんなに楽しいのか、遠慮がちに掴んだ美貴の小指を
プラプラさせながらダイニングへ引っぱって。
絵里の記憶については、さっき田中ちゃんから詳しく聞いたんだけど
隙間に入り込んでる間とその少し前あたりからがないらしく、
入院の理由は、なち姉が絵里の友達にも言った『目薬ガブ飲み』という
嘘を絵里も信じてるらしい。
騙されやすすぎだ。大丈夫かな、この子。
で、目覚めたときに田中ちゃんが、美貴が絵里を起こすために
尽力したって話を色々イイ感じに聞かせてくれたそうで、
絵里の中で美貴はちょっとしたヒーローになってるみたい。
でも、急にこんな懐いてくれるなんて…
やっぱり寝過ぎたせいで脳がおかしくなったんだろうな。
てか絵里、そろそろ小指が千切れそうなんだけど…イタタタ。
「あ、美貴遅いっしょぉ、靴はちゃんと洗ったかい?」
「ハ?」
- 507 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:37
- ダイニングのテーブルの上にところ狭しと肉やらサラダやらキンピラゴボウが
並ぶ中、両手に箸を持って振り回してるなち姉が不可解な言葉を投げかけてきた。
「あっは! ミキティ犬のフン踏んだんだってねぇ、だっさぁ!」
「ハァ!?」
誰が?! いつ?!
お腹を抱えたごっちんに「ダサティ〜」なんて指差されて
思わず隣の席で小さくなってる田中を睨む。
「………田中」
「ギクッ! す、すいましぇん…」
「あれ? ミキティ内緒にしたかったの?
別にいいじゃんフン踏んだぐらい! あはっ、フン踏んだっておっかすぃ〜」
「ごっちん、そんな笑っちゃ可哀想っしょぉ!
でもたしかにダサいし間抜けだべさ、あははは!」
ぐっ、こいつら…っ、3人まとめてカスピ海に沈めるぞ!
「あの、美貴さん、大丈夫です。
私もよく踏みますから」
「えぇえ!? よく踏むの?!頻繁に踏むの!?」
「ないと踏まないですけど、あるとたまに踏んじゃいますぅ」
「………」
絵里……どんくさ。
衝撃の告白にクラッと血の気が引く。
けど絵里はニコニコしてるから、引き攣りながらも懸命に笑い返した。
- 508 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:37
-
席について、亜弥ちゃんを待ってる間
美貴は嘘下手星人レイーナに小声で説教。
「もっとロクな嘘つけよ」
「すいません、思いつかんくって」
「想像力乏しすぎ」
「犬かクマか悩んだんですけど…」
「悩むなそんなもの!」
それじゃどう転んでも美貴がフンを踏んだってことは変わんないじゃん!
変化が欲しいのはそこじゃない!
つーか食事の前でなに汚い話してくれてんだ!
「…もっと勉強します」
「ま、いいけど。嘘上手なヤツが絵里の相手じゃ困るし。
ただ、罰としてほっぺにキスの許可剥奪。
おでこだけ、しかも2秒以内」
「そ、そんな殺生なぁ!
…じゃ、じゃあ松浦さんに報告するけん。
お姉さんがさゆとお風呂に入ったって」
「なっ!? 卑怯者!!」
脅す気?! 美貴を脅す気?!
「え? 美貴さん、さゆとお風呂入ったんですか?
私もお泊り会すると、いっつもさゆと一緒に入るんですよ」
「へ?! へぇ、いや、美貴は別に…」
- 509 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:38
-
危険信号1。ピコンピコン。
小声だったのに『お姉さんがさゆとお風呂』の部分だけ絵里の
耳に届いてしまったらしい。
「さゆってスタイルいいですよねぇ」なんて、見ただろうけど
覚えてないから頷けない話題振られて冷や汗が出る。
危険信号2。ピコピコピコン。
「すいません、お待たせしちゃって。
絵里ちゃん、さゆちゃんってだぁれ?」
おかしい、足音とか全然聞こえなかったのに。
いつの間に入ってきたの?
危険信号3。ピコピコピコピココ。
「れいなと同い年の新垣塾の子です。
お人形みたいですっごくかわいいんですよぉ」
「ふぅん、会ってみたいなぁ。
あ、食べましょう? いただきまぁす」
「べさ、なんか空気凍りついてないかい?」
「んあ…まっつー目が笑ってない…」
「わあ、絵里ちゃん、これすっごい美味しいよ!
田中ちゃんも食べなよ!」
「あ、お、おっただきます」
- 510 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:38
- 危険信号MAX。ビービービービービービー!
「スタイルがいいって、胸も大きいのぉ?」
「はい、絵里より年下なのに、羨ましいです」
「ふぅー…ん」
怖い、逃げたほうがいいかもしんない。
でもせっかくの絵里の料理を食べないワケにはいかないし。
けど、けど、今一瞬チラッと美貴を見た亜弥ちゃんの目が
ありえないほど怖かったっ…。
道重ちゃんの胸なんか覚えてないから!
大きさとか関係なく美貴にとってのベストバストは亜弥ちゃんの胸だから!
って弁解したくてもここじゃ無理だし!!
「いでぇ!?」
「ん? 美貴さん、どうしたんですか?」
「ぅぐっ…うぅん、なんでもない、なんでもないから!」
いいい痛いぃぃ!!
思いっきりモモの肉つねられた…っ。
亜弥ちゃん! 誤解だよ! 美貴は潔白なんだよぉ!
「田中ぁ! なんてことしてくれんだよぉ!
もうおでこもだめ! 1秒たりとも絵里に触れるな!」
「えぇえ!? だ、だってまさか聞かれとるなんて…」
「ミキたん?なに田中ちゃんとコソコソ喋ってるのぉ?
美味しいからはやく食べなよ。はい、あーん」
「…あ、あー…んぐぅ!」
- 511 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:39
- イデデデデ!痛い!食べさせながらつねんないで!
「どうですか? 美味しいですか?」
「ぁぐ…ぅ、うん!すっごいおいし…ぅっ、ひっく」
「ん? たんってばあまりの美味しさに感動して泣いちゃったみたい」
「やだぁ、美貴さんったら大袈裟ですぅ」
「ぐすっ、ふぇっく、おいしっ…おいしいんだもん、ぐずっ」
たしかに美味しい、間違いなく美味しいけど
この涙は痛いんだよぉ! 亜弥ちゃんごめんなさぁい!!
「あ、そうだ。お姉ちゃんに教えてもらいながら作ったんで
こっちは失敗しなかったんですけど
デザートは食材間違えて失敗しちゃったんで、
冷蔵庫の中にあるけど食べないでくださいね」
「絵里、なに作ったと?」
「マンゴープリン。
でも間違えてマンボウ入れちゃったの」
「…そんなんどこで買ったん…」
「えへへっ」
えへへって、どうやったらマンゴーとマンボウ間違えるんだか。
「マンボウプリンかぁ、どんな味がするんだろうねぇ?
ミキたん、食べてみてよ」
「え…?」
殺す気?
- 512 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:39
- さっき、脱衣所で抱き合った優しい彼女はどこへやら。
完全に怒っちゃってる亜弥ちゃんの暴走は止まらない。
マンボウプリンって、マンボウは刺身で食べるもんでしょうが!
ねぇ、ちょっと絵里、今しがた「食べないでくださいね」って言ったばっかなのに
「食べてみますぅ? マジきついですよぉ」なんて
そんな嬉しそうな顔で冷蔵庫から持ってきちゃダメダメ。
「はぁーい、ミキたんあーん」
「………」
「あーん」
「…ぁ…」
「あーん」
「うわあーん!!!」
パク。
「どぉ?」
「………っ」
破 滅 的 に マ ズ イ 。
なんて口に出せるワケもなく、マンボウプリンを吐き出せるワケもなく。
飲みこんだあとにうっすら見えたあの川は、どこに繋がってたんだろう。
- 513 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:40
-
今日の教訓。
1、亜弥ちゃんを怒らせてはいけない。
2、絵里に1人で買い物に行かせるな。死ぬぞ!
以上。
- 514 名前:本能の恋人。 投稿日:2004/05/14(金) 18:40
-
- 515 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/05/14(金) 18:41
-
レスありがとうございます。励みになりまする。
>>483名も無き読者様
学長も愛があっての行動ですから(w
でも実際にいたら刑務所にブチ込むべきだと思いますけど(爆
>>484つみ様
(;`◇´)<なのになんやねん!
こんな使い方しかできなくて
本当に申し訳ないと思ってます(陳謝
>>485名無し飼育さん
川;VvV)<よくぞ言ってくれた!
私が言うのもなんですが
絶対絶対今回のことも含めて美貴様のが可哀想な気がします(爆
幸せか・・・(遠い目
- 516 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/15(土) 01:36
- 新垣さん良い事言った!!・・・ミキティーまで塾生に?!
ミキティー今回もえらい目にあってますね、やっぱそーゆう役割なんでしょうか・・・
最初から最後まで笑わせてもらいました。次回も楽しみですがんばってください。
- 517 名前:178 投稿日:2004/05/15(土) 12:05
- ふぅ。たまってしまってから読むと凄い読み応えですw
それにしてもうら若き乙女の人の知識って・・・
普通はサーブで戦闘機出てこないのでは?一応知ってはいますけどね
また気になることが書いてある・・・どうなっちゃうんでしょう
あと母親も気になりますね。どんな人なんだ?w
さゆみきおふろ (*´д`)
- 518 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/15(土) 15:27
- 更新お疲れサマです。
教訓、心得ました。(汗
N○Kネタ、三匹出てくるヤツはリアルタイムに知ってるんですが。。。
ま、兎にも角にも大いに笑わしてもらいましたw
でも最後にコレだけは言いたい。
いい子なのにね・・・。
次回も楽しみにしてます。
- 519 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/16(日) 16:21
- ずっとロムってましたが今回は感想を…
やばいっス!楽しすぎですヽ(´Д`;;´Д`)ノなんつーか、あやみき…もといみきあや信者としてはもうサイコー!
美貴さま、イリュージョン…羨ましい(´Д`)ハァハァ
- 520 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/16(日) 21:52
- ジェネレーションギャップ、か・・・
そういえば今の子は「ちびくろサンボ」とか知らないんだよな・・・
- 521 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:27
-
―――
「亜弥ちゃぁん、ごめんってばぁ」
「……たんのバカ、ロリコン」
この光景、今日2回目だよなぁ。
けど、朝とは微妙に違うとこがいくつかあって
亜弥ちゃんは部屋の中、美貴は部屋の外。
食事中は笑顔を絶やさなかった亜弥ちゃんだけど、ごちそうさまをした
途端、他のみんなにわかんないように美貴をギロッと睨んで部屋に
篭ってしまった。
怒ってたけど、半分泣きそうにも見えたその顔を追いかけようとしたら
なち姉にひっつかまれて、
『ごっちんとケンカしたっしょ』
げぇ!?バレたぁ!?みたいな。
そんなの、したこと忘れてたのに……ごっちんの顔は、化粧のおかげで
普通だったんだけど、変に鋭いなち姉の目は誤魔化せなかったようで。
『罰として後片付けは美貴とごっちんでするべさ』
なーんて、美貴さぁ、今日はもう究極に疲れてんだけど?
休ませてよ、ねぇ( `.∀´)ませ……ってなんじゃこりゃあああ!?!
- 522 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:28
- それはヤッスーじゃん!誰も呼んでないし!!
…はぁ、びっくりした。心臓に悪い。
『ミキティ、あとはごとーがやっとくからさ、
まっつーのとこ行っていいよ』
洗剤まみれの食器をお湯で洗い流しながら、重い溜息を吐き出すと
鼻の頭に白い泡をつけたごっちんが心配そうに美貴を見てた。
目が合うと、困ったようにふんにゃり笑いながら
眉毛を思いっきり八の字にして。
そうですか、美貴は今そんなにひどい顔してますか。
『…いいの?』
『うん。時間が経てば経つほど
まっつー意地になっちゃいそうだし、早めになんとかしな』
『…ありがと』
実際立ってるだけでもしんどかった美貴は素直にごっちんに甘えた。
リビングを通るとき、ソファでなち姉が寝てて焦ったけど
『2時ぐらいまでならここに引きとめといてあげるから』
なんつーごっちんの意味深な…ってか、
『絵里もいんだから、変なことしないでよ』
『んあ、田中ちゃんに話つけといたから大丈夫。でも声は抑えてね』
『なっ!? 美貴はしないってば!
抑えるったって…絵里の部屋すぐ隣だし…』
『まっつーの部屋ならいいでしょ、とにかく今は絵里ちゃんの
ことよりもまっつーのこと考えてあげて』
『…わ、わかった』
- 523 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:28
- 言われるまでもなく考えてんだけど。
どうしよう、道重ちゃんと風呂に入ったのは事故なのに。
でも事故って言って許してもらえるワケないし…。
ひたすら謝るしか術がない美貴は、かれこれ30分亜弥ちゃんの部屋の
ドアの前で頭下げっぱなし。
眠いよぉ、疲れたよぉ。
でも、亜弥ちゃんを怒らせたまま寝れないし。
「ホントごめん。
成り行きで入っちゃったんだけど…やだよね?
ごめんね、もっと亜弥ちゃんの気持ち考えるべきだった。
軽率なことしちゃって…ホントごめんなさい」
「……バカ、浮気者、スケベ、ネギ」
「ネ、ネギ…」
最後だけおかしいんだけど、美貴は草か、草ですか。
完全に頭に血が上ってるのか、亜弥ちゃんが許してくれる気配はない。
持久戦になりそう。ヤバイな、すごい眠い。
「そうだ! 亜弥ちゃん、美貴お風呂入りたいんだけど」
「……道重ちゃんと入ってくれば?」
「ぐ…」
- 524 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:29
- とりあえず部屋から出てきてもらおうと思ったけど見事に失敗。
うー…油断すると寝ちゃいそうだよ。
限界はもうこめかみのあたりまできてて、鈍い痛みに変わってる。
「たんは……胸が大きければ誰でもいいんだ…」
「そんなことないって!!
てか道重ちゃんの見てないし!大きいかどうかも知らないし!」
「……嘘つき」
ついてないってば!って否定しようとしたら
鋭い痛みが右側頭部を刺して声にならなかった。意識が飛びかける。
「朝の約束、私はもういいから、道重ちゃんと行ってくればいいよ」
「…ハ?」
「日曜日。まさか、もう忘れたの?」
「忘れてないっ…!…イテテ…あ、でもそれ……だめになっちゃって…」
「え?」
美貴が誘ったのにだめにしちゃったなんて、もっと怒らせちゃいそうだけど
言わなきゃいけないことだし。
美貴は、今日まいちゃんにハメられて学長室に監禁されたこと
(襲われたことは除く)、さらに学長にまでハメられて前の母親と会わなきゃ
いけなくなったことを、こめかみに爪をたてて痛みを掻きまわしながら話した。
- 525 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:29
- 「…お母さんって…たんの、本当の…?」
「うん…」
「お母さん、嫌いなの?」
「…なんで?」
「声、暗くなった」
「……」
断続的に鈍い痛みが頭を刺してくるせいで、亜弥ちゃんの声が遠い。
こんなときに母親のことなんか話したくない。
それ以上訊かれたくなくて、ドアに寄りかかって目を閉じる。
「……たん?」
木の板に阻まれてる2人の距離。
けど、物凄く近くに聞こえる亜弥ちゃんの声に、棘がなくなった。
急に黙った美貴を心配してくれてるのかな?
いつもの甘い、美貴の大好きな声。
…あ、今ドアが動いたような気がする。
支えを失って、美貴の体は固いフローリングの床に倒れこんだ。
したたかに頭を打って小さく呻くと、フワッといい香りに包まれたような…
そんな気がしたけど、どうだろう。
よくわかんないな。
もう、目を開けるのも、しんどいや。
- 526 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:29
-
◇◇◇
- 527 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:30
-
「れーなっ」
「ん?…っなわあ!?」
ぬおおおぉぉ!!落ち着け!落ち着きんしゃいれいな!
こげんときは深呼吸や!吸って吐いて吸って吐いて吸えばよか!!
「れいな?」
「………ブハァッ!ゲホゲホゲホ!
ハァハァ…最後に吐くん忘れとった…」
「ん〜? なに1人でブツブツ言ってるの?」
「な、ななんでもないけん、てか離れんしゃいよ」
「えぇ〜、だって狭いんだもん」
「…一緒に入ろうって言ったん絵里やん…」
「ウフフッ」
いや、うふふやなくて…。
リビングでなつみお姉さんと一緒にテレビ見とったら、後片付けしとった
後藤さんが絵里たちからは死角になるとこからカンペを出してきて、そこには
『子供ははやく部屋に戻ってなるべく出ないように。
トイレは2階のを使うべし。
お風呂に入るときは、必ず5分前にごとーにメールすること。アドレス↓』
って書かれとったけん、れいなは『英語でわからんとこがある』って
嘘ついて絵里の部屋に来たんやけど。
- 528 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:30
- 適当に文法のことでも聞こうとしたら『そういうのはテスト前でいいの』
『よくないよ』『いいもん!』『なっ、ちょ、なんで拗ねるん…』みたいな
ことになって、入院中に塾長が毎日届けたクマのヌイグルミたちを
抱っこして盛大にほっぺた膨らましとったけん、慌ててなんでも言うこと聞くって
言ったら、『じゃあ…一緒に入ろ?』ってこれまた『どこに?どこに?まさかお風…』
『クローゼット♪』
『呂……ぉ?…』
本気でヤラしい期待なんかしとらんかったけど。
なにが悲しゅうてれいなは絵里と一緒にクローゼットに入っとー?
『ふぅ、落ち着くぅ』って、それは絵里だけやけんね。
まぁ、嬉しくないって言ったら嘘やし、
狭いおかげで体はぴったりくっついてるけん、胸の高鳴りば
抑えられんことも事実たい。
ばってん………ばってんくさっ!!!
暗いしホコリっぽいし絵里の顔がよく見えんし!
「ねぇ、今日も泊まってくよね?」
「め、迷惑じゃないなら…」
見えんけど、さすがにこの距離は照れる。
絵里は甘えきった猫みたいにれいなの肩に頭乗せてくにゃくにゃ揺れながら
右手をいじってくるし。
「れいなの手小っちゃーい」ってこの身長で手がジャイアント馬場やったら
変っていうか恐ろしかやん、小さくて当たり前たい。
- 529 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:30
- 「ウチは人数多いほうが楽しいって言ってるし。
れいな寂しがり屋のくせに1人暮らしなんだから
泊まりたいときはいつでも泊まっていいよ、そのほうが絵里も嬉しい」
「っ……」
なんやろね、なんなんやろね、こんかわいさは。
れいなは絵里に会うまで、誰かをほっとけんとか
繋いだ手を離したくないとか、想ったことなかった。
まぁ、さゆもある意味ほっとけんけど……。
けど、意外としっかりしとるし、授業聞いてないのに頭いいし。
絵里も賢いけど、しっかりなんてしとらんけん。
靴下が左右違うなんていつものことやし、穴が開いとっても気にせんし。
そーいや弁当の箸に菜箸持ってきたこともあったねぇ。
ちゃっかり長さの違うやつを。
あげんのどうやって間違えると?
ちゅうか普通鞄に入れっときに気づかなか?
『どーしよぉー掴みにくいー』ってわざわざ1学年下のれいなのところに
半泣きで助け求めてきよって、追いかけてきた塾長がマユゲカッターで
長いほうの菜箸を半分に切り落としてくださったおかげで解決したけど
れいなも塾長も欠席しとったらどうなってたんやろ?
菜箸を持ったまま、すんすん泣いてさゆに頭撫でられることになってたに違おらん。
- 530 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:31
- そげんの、考えただけで胸が痛む。
やけん、風邪ひいても這って教室まで行っとったから、
れいなは絵里が隙間に入るまでずっと無遅刻無欠席やった。
自分でもびっくりやけど、れいなって尽くすタイプやったと。
古き良き女の鏡たい。
『クマば捕まえたんならはやく戻って来い』
写真を送って捕まえたことを証明してから、おとーしゃんは
週に1度必ずキティちゃんの電報を送ってくる。
あのイカツイおとーしゃんが『これ、キティちゃんの電報でお願いします』って
言うとるとこ想像すると不憫でならんけど、でも、れいなはここを離れるワケにはいかんから。
クマば捕まえて、次に捕まえたい人に出会ったから。
そん人はフワフワしとって、気を抜けばどこかにまた入り込んで
しまいそうやけん、れいなは傍から離れられなか。
ちゅうか、いい加減キティちゃんも莫大な量になってきて
部屋のほとんどを占領しとるけん、もう送るのやめてくれんかな。
れいなの生活するスペースがなくなるばい。
ハッ!あの親父、さてはそれが目的で…
「れいな、具合悪いの?」
「え? なんねいきなり」
「黙ってるし、息熱っぽいよ、ちょっとごめんね」
- 531 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:31
-
ひゃあー。
黙ってたんは考えごとしとったからやし!
ね、熱っぽいって、それは絵里のせいやけん!
絵里がくっついとーのが悪いやんか、ばってんそげん近づおったら
よけい熱上がるってば!
そげん心の叫びが届くワケがなく、絵里は心配そうに伸ばした手で
れいなの前髪を持ち上げると、ズイッと顔を近づけた。
手でよかやん、なんでわざわざおでこにおで……えぇえええ!?!?
えええ絵里ぃぃぃ!!ななななに考えとぉ?!?!
普通こんパターンではおでこにおでこが常識やん!!!
いくら不思議ちゃんでもこん常識は覆しちゃいけんとよ!
「ん〜? やっぱ熱いよぉ」
絵里が触れとるからやぁ!!
おでこでも、手でもなく、唇が触れとるそこは、心臓が引越してきた
みたいにバクバクして体中の血液が集まってくる。
どうしよ…バレたらお姉さんに殺される…。
絵里からやけど、「避けろよ」って絶対100dハンマーでおでこ粉砕される。
ひぃぃ、寒気してきた。
おでこは燃えるように熱いけど、体は寒くなってきたとよ。
- 532 名前:包まれて腕の中。 投稿日:2004/05/20(木) 04:32
- 「れいな? 大丈夫?」
「だ……わあ…」
ブルッと震えると、絵里が包むように抱きしめてきた。
六感全てが絵里しか感じられんくなって、心が酔う。
「寒い? 風邪かなぁ? はやくお布団に入らないと」
急に力が抜けて、ぐったり凭れかかったれいなを支えながら
絵里がクローゼットを開けると、瞼の奥に光が差し込んでくる。
薄く目を開けたら、必死にれいなを持ち上げようとしとる
絵里の顔が目の前にあって………
そん頬に、吸い込まれたような気がするけど、よく覚えてなか。
ただベッドに倒れこんで意識が途絶えるまで
ずっと絵里に包まれてたことだけは、覚えとぉ。
◇◇◇
- 533 名前:なっちのラブラブ観察日記。 投稿日:2004/05/20(木) 04:33
-
「んあ、なっちぃ…」
「べさ? ごっちん、そんなとこで丸まってないで美貴の部屋に
2人運ぶの手伝うべさ。1番力あんだから」
その、そりゃ最高に中途半端なとこでまっつーちゃんと亀ちゃんが
同時に半泣きでリビングに駆け込んできたから
体の中で燻ってる熱をどうしたらいいべさってなっちも複雑な心境だけども。
美貴も田中ちゃんも熱出して倒れちゃったんだから
しょうがないっしょぉ。
「なっち氷の用意するから、ごっちんは2階行って」
「んあ…」
ガックリ肩を落としたままのごっちんの背中を押し、なっちは
氷嚢に氷を詰める。
体温計とタオルと薬を引っぱり出して、急いで美貴の部屋に向かうと
ベッドに半目の美貴、下に敷いた布団にしっかり目を閉じた田中ちゃんが
苦しげな顔で眠ってた。
同時に熱出すなんて、仲良しこよしさんだべ。
2人とも寝顔がめんこいっしょ。
- 534 名前:なっちのラブラブ観察日記。 投稿日:2004/05/20(木) 04:33
- 「たん……」
「れいな……」
お? そっちの2人も揃って心配そうだべさ。
したっけ、そんな風にウルウルな目で手を握りしめなくても…
それじゃまるで臨終だべ、臨終。
「まっつーも亀ちゃんも、ただの風邪なのに大袈裟っしょ。
ほらこの薬飲ませて、氷嚢乗せるべさ」
したら苦しさもちょっとは治まるってもんっしょ。
「んあ、なっちお母さんみたい。ごとー惚れちゃう」
「べさ!? おおおお母さんに惚れるなんてぇ!
ごっちんマザコンだったべかぁ?!」
「んあっ!? そそそそういう意味じゃないよ!
たしかにお母さんは大切だけど、なっちのほうが好きだもん!!」
「……べ、べさ…」
や、やだぁ、照れるべごっちん。
みんなの前でそんな……嬉しくって3拍子で踊っちまうっしょ。
ワルツだべ、ワルツ。
「ちょっとお姉ちゃんたち!病人の前で大声出さないの!」
「「あ、ご、ごめんなさい…」」
- 535 名前:なっちのラブラブ観察日記。 投稿日:2004/05/20(木) 04:34
- ひょぉ!? 亀ちゃんっ…亀ちゃんに怒られたべさっ!
あんなにプリプリしちまって……両親がいない今、遅すぎた反抗期を
受け止めるのも姉としてのなっちのツトメ。
つらいけど、ここで泣いてはいけないのさ…。
「たん、飲める?…ミキたん?聞こえてる?」
「ぅー…」
「れいな、れいな起きて」
「ぅ、ぅん…」
ツーンとする鼻を抑えつつ、怒られないように
なっちはごっちんと一緒に美貴の机の影に隠れて
4人を見守ることにした。
…それにしても、なんかこの2組、アッチッチなんでないのかい?
田中ちゃんのほうはどうやら起き上がれたみたいだけど
それを支えてあげてる亀ちゃんの顔が乙女になってるし、
頭痛がひどいみたいで全然起き上がれない美貴を見つめる
まっつーちゃんの瞳は慈愛に満ちまくりだべ。
これは…この子たち、そういう関係なのかい?
で、できちまってるのかい?!
「んあ、その通り」
「そっ、そうだったべか…美貴はともかく亀ちゃんが恋…。
大きくなったのは、体だけじゃないんだねぇ…」
- 536 名前:なっちのラブラブ観察日記。 投稿日:2004/05/20(木) 04:34
- 昔は「お姉ちゃん、お姉ちゃん」って、なっちにくっついて
ばっかだったのに………ちょっと寂しいべさ。
【巣立ちゆく 亀ちゃんの背に 一粒の 涙流して さらばと見送る
なっち、心の短歌(字余り)】
美貴たちのために持ってきたタオルを拝借して目尻を抑える。
「ごとーがいるよ」っていたわるように肩を叩いてくれるごっちんに
頭を預けて、2つの恋の観察に視線を戻すと…
「れいな、水だよ、さっきから欲しがってたでしょ」
「ぁ……ぅん…」
「このお薬も飲んで」
「ミキたん、ちょっとだけでいいから起きて? 薬飲まないと熱下がんないよぉ」
「ぐっ…ぅぅっ…」
「たん、頑張って」
「…っ…、高熱戦隊ぃ!体温高インジャー!!!」
「ひゃあ!? ミ、ミキたん!立たなくていいから!
ポーズとかいらないから!無理しないの!!」
…美貴、アホだべ。
そんな戦隊なんの役に立つべか、敵と戦う前に己に負けてるっしょ。
ベッドの上でフラフラしながら白鳥みたいなポーズを決めてる美貴を
まっつーちゃんが慌てて座らせようとするけども、
その手を振り切ってベッドの下に飛び降りた美貴は
薬を飲もうとしてた田中ちゃんを立ち上がらせ、肩を組んで歌い出した。
- 537 名前:なっちのラブラブ観察日記。 投稿日:2004/05/20(木) 04:35
-
♪ ハートに火がつくぜ 体が燃えるぜ
ウィルスに 侵入されたぜ 高熱戦隊 お水が欲しい
現代人なら冷えピタだって?
でもぬくもり感じたい 好きさ 氷嚢 ウォンチュウ 濡れタオル
僕の熱を (ラララ 僕の)
君の愛で (ラララ 愛で)
冷ましておくれ 唄うと喉が痛い 体温高インジャー ♪
「ミキたん!!!大人しくしてってばぁ!!!!」
「れいなもコーラス入れてないでお薬飲みなさい!!!!」
「うぅー…頭痛いぃぃぃ…」
「ク、クラクラするばい…」
「「自業自得でしょ!!!!!」」
歌い終わると同時に頭を抱えて膝をついた2人にまっつーちゃんと
亀ちゃんは青筋を立ててお怒りモード。
即興にしてはすごくキレイにハモってたから褒めてあげてもいいのに…。
美貴に乗せられて半ば無意識だった田中ちゃんは顔をしかめながらも
すぐに薬を飲み、促されるまま布団を被って目を閉じた。
ふむ、こっちはもう大丈夫。で、美貴のほうは…
- 538 名前:なっちのラブラブ観察日記。 投稿日:2004/05/20(木) 04:36
- 「亜弥ちゃ…」
「ん、薬飲も?」
「…やだ」
「むぅ!飲むのぉ!」
「…亜弥ちゃんが、許してくれるなら…飲む」
「………バカ」
「…風邪ひいてるし…バカじゃないよ…」
「バカだよ、もう許してるに決まってるでしょ。
さっきは痛くしちゃってごめんね? 大好き」
「…ふぇ…っく、あ、亜弥ちゃぁ…ぅっ」
「もぉ泣かないのぉ。ハイ、お口あーん」
「ぅっうぇぇぇん」
許すとかワケわかんないけど、美貴、泣く暇があったら薬飲むべさ。
夕飯のときとは比べ物にならない子供みたいな泣きっぷりに
亀ちゃんもびっくりしてるっしょ。
…む? 今一瞬笑った?
「もぉ、しょうがないなぁたんはぁ」ってまっつーちゃんの
柔らかそうな胸に抱かれて小さく笑ったべ。このスケベ。
「たんの甘えんぼさん、飲ませてあげる」
笑ったおかげで涙が止まり、大人しくなった美貴は
胸から引き剥がされて不満そうだったけど、
すぐに近づいてきたまっつーちゃんの唇を「あわあわ」焦りながら
初めてキスする子みたいに服の胸元をキュッと掴んで受け止めた。
- 539 名前:なっちのラブラブ観察日記。 投稿日:2004/05/20(木) 04:36
-
美貴ったらいつまでも乙女なんだね。
無事に薬を飲み込めたみたいで「えらいえらい」って頭ナデナデされて
なにかを奪われたみたいにポーッとなっちゃってるべさ。
なにごとも初心忘るべからず。
そのピュアなハート、見習いたいっしょ。
「………」
ハッ! 亀ちゃんがすごい顔になってる!
「まさか…自分も田中ちゃんにしてやりたいなんて…」
「違うよなっち、絵里ちゃんミキティたちのこと知らなかったんじゃない?」
「べさ? あ、そっか」
なっちもついさっき知ったんだから
亀ちゃんだって知らなかったよね。
しかもショッパナからあんなヤラしいとこ見ちゃって…
まっつーちゃん、介護の一環とはいえ中学生の前でなにしやがるべか。
そういや最近よくマツウラって人から『娘いますか?』
電話がかかってくんだけども、ウチにいるのはウラマツですって言ってるのに
何度も何度もしつこいのさ。
もしかして今流行りのストーカーかい? まっつーちゃんめんこいからなぁ。
心配だべ。
- 540 名前:なっちのラブラブ観察日記。 投稿日:2004/05/20(木) 04:37
- 「んあ、大丈夫だよ、ミキティがついてるし」
「んー、そうだねぇ」
でも、この光景を見てると
まっつーちゃんに美貴がついてるっていうより、
美貴にまっつーちゃんがついてくれてるって感じっしょ。
美貴ってさりげなく精神的にMだから尻に敷かれてるんでないかい?
年の差とか絶対逆転しちまってるっしょ?
「ハイ、寝ようね。起きたらきっと楽になってるから」
「…手…」
「ん。握っててあげるから。
ちゃんと傍にいるから、安心していいよ」
「…うん………スピー…」
「にゃはは、寝つきいいなぁ」
まっつーちゃんが手をとると、超人的な速度で眠りに落ちていった
美貴の姿を見て、なっちは確信する。
もう、美貴はまっつーちゃんがいないとだめだねぇ。
まっつーちゃん、ちょっぴり不埒な妹だけど、末永くひっぱってやってね。
田中ちゃんも、亀ちゃんとずっと仲良しでいて欲しいべさ。
神様仏様毘沙門天様、この2つの恋を、どうぞよろしくお願いします。
- 541 名前:なっちのラブラブ観察日記。 投稿日:2004/05/20(木) 04:37
-
「………んあ、ビシャモンテンって学業の神様じゃないの?」
「シィーッ!」
- 542 名前:なっちのラブラブ観察日記。 投稿日:2004/05/20(木) 04:37
-
- 543 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/05/20(木) 04:39
-
レス、ありがとうございます。多謝。
>>516名無飼育さん
( ・e・)<ニィニィ、あなたも塾生にならないかニィ?
(VvV从<おいでおいで。
誘われてますよ(w
美貴様、えらいこと続きなんでそろそろ安らぎを
与えたいんですけどね(汗 いつになることやら…。
>>517178様
新日って2つ思いつくんですけど、プロレスじゃないほうですよね?
サーブ、小学生の頃マニアな友人がいたので結構普通に
出しちゃったんですけど…よく考えたら普通の中学生は知らないですよね(w
母親は怒られそうで怖いので、期待しないでください。
(*´д`)←スケベ(w
>>518名も無き読者様
ノンタックはリアルタイムじゃないんですか_| ̄|○
時代の流れを感じます(泣
>>519名無飼育さん
おぉ、ありがとうございます。
こんなんでみきあやだと言っていいのか不安なんですが
信者さんが認めてくださるなら、自信もっていいですかね(w
イリュージョン、ぶっちゃけ私も同感です。
川*VvV)<羨ましいの? でもあーげないっ。
>>520名無飼育さん
懐かしいですねぇ・・・。
絶版になってから何年経つんでしょうか。
読んでた当時は差別なんてものの存在すら知らなかったのになぁ。
- 544 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/20(木) 17:12
- 更新お疲れ様です。
あぁもう、最高という感想しか出てけぇへんw
改めて言うのもなんですが、リアルネタの絡め方とかホント絶妙です。
「なっちは天使」公認記念に登場したアレもアマデウスの数倍ナイスです♪
次回も楽しみにしてます。
- 545 名前:つみ 投稿日:2004/05/21(金) 13:34
- 泣いてしまった・・・
ものあすごく笑わせてもらったところもありーの
涙が止まらないくらい感動させてもらったところもありーのでした。
少し不安なところもありましたが・・・あやみきよ永遠に・・
なちさんがホントに天使に見えました
- 546 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/21(金) 21:37
- なっちは天使や…なら、悪魔は!?
えと、みなさん頑張りましたw
- 547 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/21(金) 22:04
- うわ〜れなえりのシーン多くてえっらい萌えましたわ!
二人でクローゼットに詰まる所を想像しただけでもうw
この二人にも期待しとります!
- 548 名前:shou 投稿日:2004/05/25(火) 17:33
- 修学旅行やテスト等で長い間これませんでしたが、更新お疲れ様です。
また一段とおもしろさが増してますし、キャラだけでなく作者様も成長されてますね(感嘆
個人的には、亀井と田中はどこまでいくのか?というか本能に負けてくれ!って感じですね
理性が強すぎるのも良いとこなんでしょうけどね(半笑
ちょっと長々と書いてしまいましたが上記の事があったのでご勘弁下さい。
作者様、暑くなってきましたが頑張って下さい。(作者として作品をお書きになるまでどれ位でしたか?)
- 549 名前:我道 投稿日:2004/05/26(水) 22:09
- 初めまして。我道と申すものです。
実は、作者様の前作をつい最近発見して(おそっ!)ここを探し当てました。
そして一言言わせてください。あなた様は私を殺す気ですか(笑)?
萌えて、涙ぐんで、笑って、萌えて・・・の繰り返しですよ。
もう、なんと言うか・・・もっと殺してください(w
- 550 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:35
-
「もしもし、美貴ですけど。
斉藤さん? こんにちは、えぇ、伝言頼んでいいですか?
いえ、いいんです、代わらないでください、代わらないで……っ、
……うるさい、いきなりデカイ声出すな、わかってんでしょ?
…そうだよ、あんたが仕組んだんじゃん。12時に大学の裏のファミレスで
面談だってさ。…そう、バ…ガ、ガストね。……ハ? いいい言ってないし!
ガストだよガスト!!…っ喜ぶな!もう切る!遅れんなよ!!」
遅れるぐらいならいっそ来るなバカ!!!
声量を抑えつつも最大限の怒りを通話口に送り込み、カーペットに転がってる
クッションを蹴り飛ばす。壁にあたって、バホォっていう間抜けな音が耳に響いた。
『ひゃああ!?ごっちん!地震っしょぉぉ!!』
『んあ、震度5ぐらい?』
…………そこまで揺れてないでしょ。
『絵里?! ま、待ちんしゃい!すぐ揺れおさまるけん!
そんなとこ入ったら余計危ないとよ!せめて机の下にしんしゃい!』
…………今度はどこに入ったんだか。
廊下に出て聞こえてきた喧騒に、鬱蒼とした気分が余計膨らむ。
- 551 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:35
- なち姉とごっちんは構うのも面倒だからほっといて、
絵里たちには地震じゃないことを伝えたほうがいいかな?
熱あるんだし、隙間で風邪こじらせてもいけないし…。
『…たぁん』
「亜弥ちゃん!?」
絵里の部屋に行こうと思った瞬間、美貴の部屋から頼りなげに漏れた声に
つま先の向く先が90度曲がる。
ノブを壊しそうな勢いでドアを開けると、美貴のベッドの上で寝てた
亜弥ちゃんが、苦しそうに体を起こして震えてた。
「ど、どうしたの?!」
「じ…地震…怖いよ…」
あんたもかい。
っていやいや、ごめん、そうじゃなくて。
「大丈夫だよ。たいしたのじゃないし、もう治まってるよ」
「……すっごい揺れたもん…」
「寝てたからだよ、立ってるとそうでもなかったよ?」
「……ホントぉ?」
「うん、ごめんね、傍離れちゃって」
「ううん…」
熱でポンポンになってる肩を抱き、亜弥ちゃんが安心したように目を閉じたのを
見届けて、そっと顔や首の汗を拭き取る。かわいいなぁ。
- 552 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:36
-
おかげさまで、一晩ですっかり元気になった美貴と田中ちゃんのタスキを
受け取り、看病してた亜弥ちゃんと絵里が
『感染戦隊、身体の節々痛インジャー♪』を歌って倒れたのが明け方。
『ひょぉ!? このままじゃ藤本家が全滅しちまうっしょ!
人間1度ひいた風邪は2度とひかないんだから
美貴と田中ちゃんが責任持って看病するべさ!』
というなち姉(無事)の言葉を受け、美貴と田中ちゃんは
それぞれ看病返しすることになった。
けど『亀ちゃんの教育に悪い』って部屋は分けられて。
心おきなく世話できるから嬉しいけど、いくら“理性の人”とはいえ
レイナンが絵里に変なことしないか心配だし、昨日見られてたことを
思い出すとかなり恥ずかしいし。くぅぅ。
どのぐらい恥ずかしいかってわかりやすく言うと、さっき
“特製なちごま粥”を部屋の前まで持ってきてくれたごっちんに
『ウブッ子ミキティ♪』って言われて思わず回し蹴りしたぐらいで。
寸でのところで避けてくれたから当たってないし、…許せごっちん。
ま、まぁ、そんな感じで、美貴は今亜弥ちゃんの看病中、
つまり美貴は美貴でもミキティン・ゲールだってワケ。
- 553 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:36
-
うつろな目をした亜弥ちゃんは半分も食べられなかったけど、
そのあと薬飲んでスゥーっと寝ちゃったから、しばらく起きないと
思ったんだけどな。てことはそんなに揺れたのか……ショック。
「電話してたのぉ?」
「……うん」
柔らかく寝かせたら、薄く開いた瞳に手に持ってた開きっぱなしの
携帯を見つけられて、なんとなく後ろめたい。
「聞いていい…?」
「え?」
「誰と……喋ってたか…」
「……」
「あ、えと、言いたくないなら…」
布団の端をきゅっと掴んで美貴を見上げてる目は、美貴が感じた
後ろめたさを敏感に察してて。
風邪のときは心細くなったりするし、誤解させても悪いから
美貴は素直に口を開く。のちに後悔することになるなんて、思いもせずに。
「昨日話したよね? 日曜…もう明日か、のことで母親に電話してた」
「会う……んだよね? 平気?」
「うん。仲が悪いとか、嫌いってワケじゃないし。
向こうが必要以上に迫ってくるから苦手なだけで」
「………」
事情も話さずにわかってもらうのは難しいかもしれない。
いつか亜弥ちゃんには、話してもいいって思うけど。
- 554 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:37
- 「亜弥ちゃんしんどいんだし、もっと寝な。
美貴、もうどこにも行かないから」
「……うん」
なんか言いたそうだったけど、亜弥ちゃんはゆっくり頷いた。
しばらくすると、美貴の耳には穏やかとはいえない寝息と
氷嚢の中の氷が溶けて水になる音だけしか聞こえなくなって
白い肌にジワジワ吹き出してる汗を親指で拭うと、
楽しそうなアイツの声が侵入してくる。
『お前、今「あとで美貴が着替えさしちゃる」とか思っただろ?』
『お…思ってないよっ』
『ヌックックックックッ、素直になれよぉー、昨日は着替えさしてもらったんだろぉ?
お返しだよ、お返し。今日はなにヤッたって
全部看病返しの一環ってことでオールオッケーだ!!』
『んなワケあるか!!
お前、美貴の本能だからって思考がヤラしすぎんだよ!』
『タハハッ、仕方ないじゃん。あんたヤラしいんだから』
『美貴は下ネタは大っ嫌いだ!!!』
『下ネタじゃねぇ! これは L O V E 論 だ!!!』
『……あ、そうなんだ』
そっかそっか、それならオッケー。
『“パジャマを脱がすこと、着せること、それもまた、愛”ってワケだな』
『ふむふむ、さすが美貴の本能。イイコト言うねぇ』
『やーん、やめろよぉー褒めるなよぉー』
- 555 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:37
- 『照れるめぇ』なんてアニメ声出しちゃって、本能ちゃんたら
意外とシャイじゃん。って、美貴なんだから当たり前か。
うっし! 亜弥ちゃん! いつでも起きていいよ!
美貴が優しく紐解いてあげるからね!! ウフフフフフ!
心の準備はしっかりして、あとは待つのみとなった美貴は
亜弥ちゃんが起きるまで本能と様々なLOVE論談義に花を―――
「―――ハッ…ぁ? え?」
「あ、たん起きたぁ?」
「…亜弥ちゃん? そのパジャマ…」
「さっきの汗でぐっしょりだったから着替えたんだぁ」
「えぇぇえ!?」
そんなぁ! ゲ、3時間も経ってるし。
咲かせてたつもりが寝ちゃってたらしく、気がつくとベッドが
もぬけの殻になってて、さっきのピンクのとは違う青いパジャマに
身を包んだ亜弥ちゃんが後ろに立ってた。
じ、自分で着替えちゃったの?
「…ガックシ」
「ふぇ? どうし…ぁっ」
「あ、危ないっ」
美貴も病み上がりだから、気を遣ってくれたんだろうけど。
自分のほうがフラフラなクセに1人で着替えた亜弥ちゃんは
一瞬表情を失って美貴の腕の中に倒れこんだ。
- 556 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:38
- 「ったく、無理するからだよ」
「…にゃはは、ごめぇん」
息も荒くて、喋るのもしんどそうなのに無理に笑ったりする。
それに微かな苛立ちを覚えて、美貴は黙って亜弥ちゃんを再び
ベッドに寝かせた。
『あんだよー、そんなに着替えさせたかったのぉ?』
『ちがっ…バカ! 無理させた自分にムカついてんの!』
つーかお前と喋るとまた時間飛ぶから出てくるな!!
美貴は…さっきも、家が揺れて怖がってる亜弥ちゃんのすぐ傍に
いられなかったし(まぁ震源は美貴だけど)
今回は暢気に寝てて千載一遇のチャンスを逃したし…。
や、やややチャンスじゃなくて、トキメキ☆看病返しに失敗したって
だけで…ってだあ、なに言ってんの美貴、ワケわかんない。
『みきうーるぅー、メールだぴょんよぉー』
ぐっ、こんなときにメールまで。
亜弥ちゃんちょっとごめんね。なになに…
【あの、絵里が着替えさせてって言うんですけど…。れいな】
ななななにぃ?!
てめぇ!なに美貴を差し置いてオイシイ場面に遭遇してんだゴルァ!!!
- 557 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:38
- ぐすっ、わかってる、八つ当たりだってわかってる…っ。
けどレイナンに着替えだなんて、危険すぎるから美貴が着替えさせて
やりたいけど…亜弥ちゃんの傍離れらんないし…。
【なち姉は?】
【それが…電話したんですけど繋がらんくて…】
イチャついてやがる…絶対ヤッてやがるっ!
【れいな、 目 隠 し を し ろ 】
【ハッ?】
【いいか、絶対見るな。手袋もして、直接肌に触れるんじゃない。
触ったら最後、お前の視界は赤く染まるぞ】
【……わかりました】
ふぅ。いくら理性が強いったって触ったら本能に飲み込まれるかも
しんないしな。信じてるぞれいな、頑張れいな!
「…たん、喉渇いたよぉ」
「あ、ちょっと待ってね」
キタぁああ!! 口移しね! 口移し!!
うっし、お粥食べさせたとき以来やっと看病らしい看病ができる!
美貴も頑張るぞ! ヘーイ! ポカリカモーンナ!!
- 558 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:39
- ルンルンなステップで、臨時で取り付けた小さい冷蔵庫から
ペットボトルを取り出す。
フタを開けてる美貴を見た亜弥ちゃんが、「んふふふ」ってやたら
嬉しそうに笑うからナニゴトかと思ったら、ガラスに映った
美貴の顔がエライことになってた。なんだ、この幸せいっぱいの顔は。
「亜ー弥ちゃんっ、飲ましたげるねぇ♪」
「えへへっ、うん」
わあ、声まで嬉しそう。
美貴ったらノリノリね。
「んっ…」
これ、結構難しいなぁ。ムセさせないように気をつけなきゃいけないし、
送りこむつもりがつい自分で飲みそうになっしゃうし。
おぼぼ、横から零れる…っあちゃぁ、最初に口に含みすぎたか。
妙に冷静にゴチャゴチャ考えてるせいで頭の中はうるさいけど、
外はとっても静か。亜弥ちゃんが鳴らす、こくこくっていう喉の音が心地いい。
やばい、これハマリそう…。
全部送ったあとに、やっぱり舌は甘い液体と、それ以上に甘い彼女を求めて
突入してく。だから風邪ひいてんだってば。しんどいんだってば。
わかってるけどやめられない。甘い甘い、亜弥ちゃんが欲しい。
- 559 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:39
-
「はっ、…んっ…たぁ…」
背中にまわせるほどの力は入らなくて、肩にそっと手を置くだけの
亜弥ちゃんの分も美貴が強く腕を回して。
埋めてあげるよ、美貴が。
足りないものは、全部美貴がいっぱいにしてあげる。
『たぁーん、たぁーん、ミキたぁ〜ん』
ん? なんだよ、今度は電話かよ。ハイ、無視無視。
…あ、でもれいなだったら出たほうがいいかも…。
「たん、電話…」
迷っていつの間にかキスを止めてた美貴に
亜弥ちゃんがベッドに転がってた携帯を拾って差し出してくれた。
余計なことを…と思いつつ、これじゃあ出ないワケにはいかないなぁって
もう1度軽くキスしてから―――
出るんじゃなかった。
『もしもしぃー、お母さんやけど。
あんさぁ、12時ってどっち?
A?P?どっちのメリディアムに行けばええのん?』
「なっ!?」
- 560 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:40
- しまった、電話に出るときは確認しなきゃだめだったのに…っ。
つーかお母さんとか言うな! キモい!
変にうかれた気持ち悪い声が思いっきり外に漏れまくりで、慌てて
ボタンを連打して受話音量をレベル1まで下げたけど、
最初のほうは聞こえちゃったみたいで亜弥ちゃんの「?」な表情に
思わず顔を背ける。
『あっ、てか12時ってどっちが午前でどっちが午後?
お母さんようわからんくなってきたわぁ』
「勝手に悩んでろ!!
てか面談するのに午前とか午後とかどっちとかないんだよ!
普通に考えて夜中に呼び出すバカがいるかっ!!
アンチでもポストでもない正午に来い!救いようのない大バカがっ!!!」
『ハァー、美貴の怒鳴り声シビれるぅー』
「死ね!」
ブツッ!
があああ!!アイツには常識がないのかっ!
殴りたい、今すぐ殴ってやりたい。アイロンで。
「っ…」
「あ…」
- 561 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:40
- ガンッと床に携帯を叩きつけて我に返る。
背中で、息を飲む音がした。
明らかに怯えた気配。どうしよう、なんて誤魔化せば…
「アッ、アハハ、亜弥ちゃんとのキス邪魔されたから
思わず怒鳴っちゃったぁ…アハハ…」
「……ぇ? や、やだぁ。あはは…」
白々しいのは百も承知。
でも、有無を言わせぬ笑顔で振り返ると、亜弥ちゃんはビクビクしつつ
美貴に合わせてくれた。
ありがとう、ごめんね。
だけど、消えない気まずい空気。
払拭したくてもう1度唇を近づけるのに、亜弥ちゃんは
考え込むような顔になっちゃって応えてくれない。
寂しくなってイジけたら、すぐに気づいて
亜弥ちゃんからキスしてくれたけど。
やっぱりどこか1つになれない部屋の中
外は暗くなり、短いキスを繰り返して目を閉じた2人に朝が訪れた。
- 562 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:41
-
―――
うつした美貴たちと同じように、一晩ですっかりよくなった亜弥ちゃんと
絵里、そして目の下にでっかいクマを作った田中ちゃん(よく頑張った)に
見送られ、美貴は重い足取りで家を出た。
「あー、帰りたーい」
1人呟くも「帰っていいよ」なんて返事が来るわきゃなく。
バス停のベンチに座ってる間、携帯の亜弥ちゃんを眺めて気分を
紛らわせなきゃ無意識に家に帰っちゃいそうだった。
はぁ、この気持ちを抑える理性なんかいらないのに。
「ん…?」
「ゲホゲホゲホ!ゴホゴホゴホゴホ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「…ス、スイマセン、ダイジョブ、デスタ」
肩にベタァっと貼りつくみたいな視線を感じて振り向くと
黒いサングラスにでっかいマスクをしたピンクの髪(真似できない)の
外人さん?がビクッと動いてありえない勢いで咳こんでた。
もうそんな寒くないっていうか、結構あったかいのに
黒いコートなんか着ちゃって…この人も風邪かなぁ?
- 563 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:41
- 「あの、座ってください」
「イエ、オカマ、イナイデスカラ」
「ハ?」
「ア、エット、オカマイナクデゴザイ」
「でも具合悪いなら…」
パォッパォー。
黒い手袋までしてる手をブンブン振る外人さんにベンチを譲ろうと
してると、乗りたくもないバスがやって来た。
「バス、キマシタカラネ。
アリガトウ、アナタハ優シイ日本人デショウ。
ワタシ、アナタヲ一生ワスレナイケドヨ」
「はぁ、どうも」
語尾がおかしい上に大袈裟な。
よっぽど優しさに飢えてたのか、バスの中でも何度か視線を
感じて振り返ると、外人さんはブンブン手を振ってきた。
どうでもいいけど浮いてるよ、浮いてる、浮きすぎ。
顔は見えないけど、手を振り返すと嬉しそうにもっと振ってきたのが
おかしくて、周りの視線も気にしないで爆笑してたら
バスはいつの間にか大学前に着いてた。
- 564 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:41
- 変な人だけど、いなかったら美貴はずっとバスの中で憂鬱な
気分に浸りまくってたと思う。
ありがと外人さん。
もう会わないだろうけど、てか会っても顔わかんないけど。
最後に大きく手を振って、美貴はバスを降りた。
「お、藤本ちゃんと来たな、よしよし」
「キャハハ! おっはよーん!」
「…おはようございます」
ってもう昼だけど。
12時5分前にファミレスに着くと、すでに学長がコーヒー、
矢口さんがメロンソーダに口をつけて席に座ってた。
アイツ…遅れんなって言ったのにまだ来てないのか。
「まぁまぁ、娘に会うでめかしこんどるんやろ。
昨日『美貴から会いたいって電話があった!』言うて
えらい喜んとったで」
「ハァ?!んなこと言ってないし!」
「キャハッ、藤本照れるなってぇ〜」
はぁ、相手したくない。
てか12時過ぎたし、さっさと終わらせて帰りたいんだけどな。
- 565 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:42
- 「そだ、藤本もなんか飲めよ。
ドリンクバーぐらい裕子が奢ってくれるから」
「おぅ、まかしとき」
「じゃ、遠慮なく」
と、まずはオレンジでもって立ち上がった瞬間―――
「ミツコさん!」
「よー中澤ぁー…ん? 誰や隣の小っこい子は、ロックやな。
…って美貴ぃぃ!! 会いたかったでぇえええ!!!!」
「だあ!やめろ!それ以上近づくな!!」
またそんな胡散臭いスーツ着やがって!
シャツとグラサンが揃ってピンクなのもキモいんだよ!
「……え? この人? この人が藤本のお母さん? お父さんじゃなくて?」
「うっ」
矢口さんの最もな呟きに涙が出そうになる。
そうだよね、ほんのり“おしゃべりクッキング”の
K沼さんに似てるけど、どっからどう見てもこの人オッサンだもんね。
「矢口、だから驚いたらあかんって言うたやろ。
ミツコさんは……その……変えはったんや」
「中澤ぁ、いつも言うてるやろ。
オレの名前はもうミツコやない、ミツオやミツオ!
あ、ミツオ言うてもパーマン1号のミツ夫やないで。光る男で寺田光男や!!」
「…て、寺田さん…」
- 566 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:43
- 引いてる。矢口さん思いっきり引いてる。
なのにこのバカはそれにも気づかず矢口さんの手を取って
無理矢理握手しやがった。
「中澤の知り合いかいな?
かわいいやん、ロックでありながらセンチメンタルやんか!」
「は、はぁ…あの、おいらは裕子の大学の…」
\ | /
― (m) ─ ピコーン!
目
/:::::::::::::::::::::::::::ミゞ
/:::: 丿::::::ノ::::::::丿::ヾ
|:::::::::::/::丿:ノノ::ノ::ノ
丿ノ:::::::丿. へノノ ソ
丿l^ 、 ノ丿 (・) (・)
ノ(ヽV ( ,ゝ )
ソ::. / _ ll _〉
丿 ヽ:: ‘ー''/
│ ヽ──│
「わかった! マスコットやな!
大学のマスコット的キャラやな!」
「え…ちがっ…」
「だあああああー!!!お前はひらめくなっ!!」
「ブベボォッ!?」
なにがピコーンだっ! 人の話は最後まで聞け!!!
- 567 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:43
-
自分でも気づかないうちに体が動いてた。
ちょっと黙らせたいなぁって思っただけなのに。
美貴の飛び蹴りをまともに喰らったお母さんは、泡を吹いて
その場に崩れ落ちる。
それを眩しそうに眺めてた学長が、嬉しそうに言った。
「なんだかんだ言うても、あんたはやっぱりミツコさんの子供やな」
「…え?」
「今の飛び蹴り、その昔“ナニワの剣菱悠里”と呼ばれたミツコさんの
蹴りと全く同じやったで。なんや、懐かしゅうて涙出てきたわ」
「…誰ですかケンビシユウリって」
「なっ!? 有閑倶楽部知らんのぉ?!」
「夕刊クラブ…?」
「NOぉぉ」
よくわかんないけど、またジェネレーションギャップだったみたい。
でも、こういうときは矢口さんも一緒になって言ってくるハズなのに
なんで黙って……矢口さん? 矢口さーん?
「うわっ!?…あ、あ、藤本……面白いお母さんだな…」
「……無理しなくていいですよ」
そりゃ、美貴も笑ったけどさ。
ある日突然『美貴、お母さんな、美貴のパパになりたいねん』って言われたときは。
- 568 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:43
- 「ま、まー…その、さすが藤本の母ちゃんって感じだよ」
「やめてくださいよ、そういう肯定の仕方」
「でもよぉ、生き方なんて個人の自由じゃん。否定したら失礼だろ」
あんなに引いといてよく言う。
別に、美貴だって否定はしてない。
好きに生きて欲しいし、楽しく生きて欲しかったから
離婚に反対しなかった。
でも、ミツコからミツオになった途端性格が180度変わっちゃったんだよ。
あんな人じゃなかったんだ。
「昔は……裁縫が好きで、美貴にフリフリの服ばっか着せて
料理も上手で、女らしくて、日本のお母さんの代表みたいな人だったのに…」
「今はハジケてんもんなぁ」
無理してたんだ、きっと。
ずっと男になりたかったって言ってたから、美貴を
産むときだって相当悩んだと思う。
それでも産んでくれたことには、もちろん感謝してるけど。
「そんな暗い顔すんなよ。
気持ちは複雑だと思うけどさ、いつか絶対整理つくって」
「…ですかね」
肩を落とした美貴を、矢口さんは教授らしく励ましてくれた。
小さくお礼を言うと、思いっきり照れて背中をバンバン叩かれる。
- 569 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:44
- 「イタタ、イタッ、痛いですって」
「キャハハッ、お前が似合わねーこと言うからだろぉー!
……で、あの怪しげなスカーフ巻いてるの誰だよ?」
「ハ?」
なに言ってんの、今頃スカーフなんか―――あぁ!?さっきの?!
びっくりした。
いきなり真顔で訊いてきた矢口さんが指差した先には
泡吹いたままのお母さんが倒れてんだけど、
その傍らに膝をついて「大丈夫ですか?!」って心配そうに声をかけてんのは
明らかにさっきの外人さん。 趣味の悪いスカーフで髪隠してるけど、
サングラスでマスクで黒いコートに黒い手袋なんだから間違いない。
……ん? 待てよ。
今の…普通に正しい日本語の発音だったし、声も思いっきり聞き覚えのある……
「亜弥ちゃん…?」
「ギクッ!………ヒ、人違イデスネン……」
「それはない、美貴が亜弥ちゃん間違えるワケない」
さっきは気づかなかったけど、それは置いといて。
「え? 亜弥ちゃんって…あやや? あのラブ…もがっ」
矢口ぃ!!悪いけどおしぼりを口に詰めさせろ!
- 570 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:44
- 「モガモガっ…息がっ…」
「亜弥ちゃん! なんでここに?!」
「…あ、えっと…その…」
「こんな変装までしてなにしに来たのさ!!」
「ご、ごめんなさい…」
いや、不意打ちで、びっくりしただけで。怒ってるんじゃないけど。
でもたぶん、目は鋭くなってる。
その証拠に、亜弥ちゃんは俯いてしまった。
「…ん? う〜ん…お? 今度は誰や?」
「ふぇ? あ、私はミキたんの…」
ピコーン!(AA略
「わかった! 女スパイや…グギゴォッ!?」
「 だ か ら お 前 は ひ ら め く な ! ! ! 」
「たん! お母さんに暴力ふるっちゃだめぇ!」
「えぇい離せぇ!」
暴力じゃない! これはお仕置きだ!
気が晴れるまでやらせてくれぇぇ!!
「しゃーないな。藤本、今日はもう帰り。
ミツコさんもそろそろお店の準備せなあかんでしょ?」
あ? いきなり出てきて止めんなよ。
てかいつの間にビールなんか頼んだんだ、未成年の前で昼間っから飲むな。
- 571 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:45
- 「せやな、あんまり美貴と話せへんかったけど
顔が見れただけで充分や。来てくれてありがとうな」
「ガルルルルルッ」
「たん、吠えてないでちゃんと挨拶しなさい」
「ガルッ…ゥゥゥ…」
お仕置き、お仕置き、お仕置きしたいの。
「もぉ、頑固さんだなぁ。 あ、じゃあ、たん連れて帰ります。
たんのお母さん、ちゃんとした挨拶もできなくてすいません。
私、たんのお家でお世話になってる松浦亜弥です。
また今度、ゆっくりお話させてください。それじゃあ」
「おぉ、美貴の世話ありがとう。
オレ、隣町で小粋なプールバー経営しとるから
よかったら今度美貴と遊びに来てや」
「ハイ、是非」
「行かないし!!帰る前にもう1発殴らせろやぁあああ!!!」
「たん、落ち着いて。どーどー、どーどー」
美貴は馬かっ!
離して!お願い!1発でいいから!我慢するから!
「お仕置きさせてぇえええー!!!!!」
亜弥ちゃんに引きずられて家に着くまでの道すがら、
美貴の悲痛な叫びが青い空に響き渡り続けた。
- 572 名前:マザーコンプレックス。 投稿日:2004/05/27(木) 04:45
-
◇◇◇
- 573 名前: 投稿日:2004/05/27(木) 04:46
-
―――
とある町の、とあるビルの1室。通称・まめおハウスにて。
「…情けない話……“なさばな”か。
私って、イモ好きでしょう? かなりのイモマニアでしょう?
自分でもね、食べてないイモ料理はないって、頑なに信じてた。
だけどこないだ、お豆がおばあちゃんの家に行ったお土産にスパムを
買ってきてくれて。名前を聞いたことはあったけど見るのは初めてで、
嬉しくってフタを開ける前に缶をしげしげと眺めてたの。
そしたらそこには、衝撃の言葉が書かれてた。ポテトスターチって…」
「………」
「そう! そうなの! スパムにはポテトスターチが入ってたの!
なのに今まで1度も食したことがなかっただなんてっ…!
スパムを食べたことがなかったのに全イモ料理を制覇した気になってたなんて…っ。
情けないっ、なんて情けないっ…!」
「…そ、そんなことないよぉ…」
「下手な慰めはいらない。
しかもあのスパムったら油断すると引っくり返るくらいしょっぱくて……アヒャ!」
川o・∀・)
- 574 名前: 投稿日:2004/05/27(木) 04:47
-
「どぅえ? あさ美ちゃあーん? どうしたのー?」
「美貴様が……美貴様がお仕置きを………」
「ぬぇ? 美貴様って、藤本先生?」
「行くわよピーマコ!」
「えぇー? どこにぃー?」
「出でよサーブ!」
「ひょお!? まぁたそんな物騒なもん呼んでぇ。
今度は一体なにするつもりー?」
「美貴様の無念を晴らすの」
「…うーん、全然わかんない」
「目標発見! 投下します!」
「のぁ? なにをー?」
- 575 名前: 投稿日:2004/05/27(木) 04:47
-
/ \
/, '⌒ l.r‐-、.`、
/ ( 八 ) ヽ
( ー-' `ー-' ノ
ー┐ (_八_)┌-' おしおきだべぇーーーーー
`ー┐┌┘
-======' ,=====-
-====' ,=====-
-==' ,==-
______ ,r-‐┘└-‐、______
- 576 名前: 投稿日:2004/05/27(木) 04:48
-
この日、何者かが行った謎の爆撃で、1軒の小粋なプールバーが消滅した。
- 577 名前: 投稿日:2004/05/27(木) 04:48
-
- 578 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/05/27(木) 04:49
-
無茶苦茶すぎて申し訳。いろんな意味でごめんなさい。
レスありがとうございます。
>>544名も無き読者様
改めてありがとうございます。
でも絡め方ってなんかヤラしい…(ポ
>>545つみ様
んなアホな話で感動してくださるなんて信じられ(ry
(●´ー`)<だってホントに天使だもん。
>>546名無飼育さん
1番の悪魔は間違いなく私でしょうね(w
ごめんよ、みんな(爆
- 579 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/05/27(木) 04:49
-
>>547名無飼育さん
れなえりはいいですよねぇ(w
次回は2人の話になると思われますので
( ・e・)ノ<期待しててだニィ!
…嘘です、あんま期待しちゃだめですよ(w
>>548shou様
学校行事お疲れ様です。
田中さんはまだ青いので、本能に負けてもたいしたことは
できないでしょうね(w
えっと、正確なとこはわかりませんが、1年以上はROMってました。
>>549我道様
初めまして。
前作も読んでいただいて、どうもありがとうございます。
いつまでもアホでスミマセン。
こう見えても平和主義者なんで、そんな物騒なこと頼まれても困ります(爆
- 580 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/27(木) 18:13
- 更新乙彼サマです。
_| ̄|○ <くっ、、、読めなんだ。。。
微妙に伏線あったのにコレ程とはっ。。。
もう感服でございます。
しかし作者サマが平和主義者とは知りませんでした。w
書かれるキャラは(ry
ホントに期待を裏切らないというか派手な裏切り方してくれるというか。。。
とにかく一生(?)ついて行きます。
- 581 名前:つみ 投稿日:2004/05/27(木) 21:17
- 更新お疲れ様でした。
ホントに今回の事は読めませんでした・・・
ありえねえぇぇ!って思わず叫ぶ事もしばしば・・
最後のやつでイスから転げ落ちました。
- 582 名前:178(スケベ) 投稿日:2004/05/27(木) 23:37
- お、お母さん?w
あとなんちゅう叫びですかw
- 583 名前:shou 投稿日:2004/05/30(日) 14:43
- 更新お疲れ様です。
返答ありがとうございました。
田中と藤本のコンビがツボにはいってしょうがない(笑
先の読めない面白すぎる展開をこれからも楽しみにしてます。
(前回の不適切な書き込み申し訳ありませんでした。)
- 584 名前:MONIX ◆RjqrC4Ko 投稿日:2004/05/31(月) 03:14
- 相変わらず、楽しいお話を提供してくれますなぁ。
まめおハウス、、、めっさワロタ
- 585 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/06/10(木) 13:23
-
レス、ありがとうございます。
>>580名も無き読者様
普通に茶髪のおっさんに反応なされてたんで
バレてるかなぁと思ってたんですが、ワーイw
あくまで“主義”ですので。
一生は困ります、とマジレス。
>>581つみ様
ちょいとありきたりかなーと不安な部分も
あったんですけど、叫んでいただいてどうもです。
私も同感です。>ありえねえぇぇ!
>>582178(開き直りカッケー)様
あ、ヲレか(ww
私ったらいつの間にか非乙女になっていたようです(悲
あの叫びはまぁ…美貴様ですから(w
- 586 名前:名無しのЛ 投稿日:2004/06/10(木) 13:23
- >>583shou様
この通り果てしなくアホな話なんで
どうぞお気になさらず。別に不適切でもありませんでしたし。
暴走してばっかの田藤コンビですが、これからも
突っ走らせますw
>>584MONIX様
私自身、相変わらずアホなもんで(w
そーいや、まめおハウスにいたのはあの2人ですが、
内1人はあの場所をまめおハウスだとは認識していません。
∬∬´▽`)<?
ここまで怒らずにお付き合いくださった方、本当に
どうもありがとうございます。
またしても余計なことばかり書き過ぎたようですので
旅立ちます。
次スレ『チーズ・ロワイアルU』
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/yellow/1086840495/
遅ればせながら削除依頼を出していただいてたようで
ありがとうございました、お世話になりました。
お礼は身体で(ry
- 587 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/15(火) 03:59
- >>583
「不適切な書き込み」ってのは削除依頼の331での文言だとおもおうんだけど、
それは書きこみ時刻をみると shouさんのレスを指しているのではなく
透明削除されたレス(見逃したけど)だとおもわれ。
スレ汚しかもしれないけど、ちょときになったもので…
- 588 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/22(火) 11:37
- 今更な話かもですが、削除依頼331を書いた者です。
587さんの言ったとおり、shouさんの書き込みのことではないです。
実際、もうどういう書き込みだったか忘れましたが(ぁ
キレイサッパリ跡形もなく削除されてしまいましたので。
自分も気になったので、一応書き込みを。。。
ではでは、失礼しました。
Converted by dat2html.pl v0.2