主食はおがたか副食は…田亀?
- 1 名前:なが〜い前フリ 投稿日:2003/12/15(月) 09:08
- 作者短編スレで鬱陶しく書いていた石川県民というものです。
この度めでたく(?)自スレッドたてちゃいました。新人漫画家が読み切りから連載するのと同じ動きのようなもんです。
スレッド名そのままのスレッドです。基本はおがたか、そして田亀、あとはののかおとかいしよしetc…とバランスよく摂って(書いて)いきたいなぁ…と。
手始めに短編スレで書いていたものの別視点を書かせていただきます。
ただ…短編スレを見ていないと分からない部分もありますがご容赦を。
- 2 名前:伝えたいコト〜愛version〜 投稿日:2003/12/15(月) 09:34
- 訛りが存在しない地域はない。
生活を営んでいれば、必ずその地域の訛りが自然と身についちゃうよね?
ほら、東京の人にだって、東京訛りがあるでしょ?
だからね、訛っていることも個性の一つだと思うの。
でも……。
「ついと寝たらテレビじゃみじゃみになってもて」
「「…え?」」
わたしの言葉に辻さんと里沙ちゃんがフリーズした。
ここまで通じないとなると。
高橋愛、ヘコんじゃいます。
- 3 名前:伝えたいコト〜愛version〜 投稿日:2003/12/15(月) 09:35
-
はぁ。
適当なことを言っておいて楽屋を出る。
別に飲みたいわけじゃないけど自販機コーナーに向かった。
「愛ちゃん、どうしたのさ」
そうしたら麻琴がいて、心配された。
「なぁ麻琴〜…」
横に体育座りで腰を下ろす。
「わたしの言葉って、そんなに訳分からんもんやろか?」
自然と愚痴のようなものが出た。わたしの方が年上なのに。
情けな。
「…なんで?」
それでも彼女の言葉は優しいまま。
だから、甘えてしまい、愚痴を続けてしまう。
すると。
「でもさぁ、あたし、好きだな。愛ちゃんの言葉」
- 4 名前:伝えたいコト〜愛version〜 投稿日:2003/12/15(月) 09:36
-
へ?
「落ち着くって言うのかなぁ…暖かい気持ちになれる言葉だよね」
そう言って笑顔を向ける。
うわ、その顔反則。
すっごいドキドキするから。
「だからさ、ゆっくり喋ってくれたら、
あたし達も理解できるからさ」
「…うん」
彼女の言葉が、ゆっくりと心の中に沁みこんでいく。
ああ。
やっぱりわたし、彼女が大好きだ。
あふれて仕様がないこの気持ち。
麻琴にどうやったら伝えられるのだろう。
そう思った途端に体が動いていた。
- 5 名前:伝えたいコト〜愛version〜 投稿日:2003/12/15(月) 09:36
-
彼女が慌てていることも気にしないで。
ただ抱きしめる。
触れてる部分から想いが伝わればいいのに。
けど、そうはいかないから。
だから言葉ができたんだ。
ついでに訛りもね。
「好きやから」
「麻琴のコト、好きやから」
でも、
大丈夫。
きっと伝わってる。
fin
- 6 名前:寒いカラ〜麻琴version〜 投稿日:2003/12/15(月) 10:19
- 仕事終了後、先に出た愛ちゃんを追おうと、一人外へと急いでいた。
居た。
すると、扉を開けたところで彼女がよろけた。
あわわわわ。
「大丈夫?」そう言いながら後ろにつく。
愛ちゃん軽いから、心配なんだよね。
「大丈夫、平気」
なら良かった。
あーお腹空いた。
やっぱりあさ美ちゃんが干しイモを食べてる時にもらえばよかったかな。
うー、でも食べてると愛ちゃんを見失うかと思ったし。
空腹に寒風は堪えるわ。
- 7 名前:寒いカラ〜麻琴version〜 投稿日:2003/12/15(月) 10:19
- 「寒くなったよねー」
「うん、日も落ちるの早うなったし」
「こんな日はコタツでぬくぬくしたくない?」
「いいね。最高やね」
「でしょ!?あとは温かい食べ物!!」
「肉マンにー焼きイモにーカボチャのシチューー」
あ。今、お腹なった。
「お腹すいたー!!」
そう叫ぶと、彼女はくすくす笑う。やっぱり可愛いな。
ん?
手、擦ってる。
「愛ちゃん、寒いの?」
彼女は少し驚いた顔をしながら「あ…ちょっとね」と言った。
「うーん…」
どうしよっかな。あたしが手袋を持ってたら貸してあげられるのに。
あいにく持ってないしなぁ。
- 8 名前:寒いカラ〜麻琴version〜 投稿日:2003/12/15(月) 10:20
-
あ。
そーだ!
「…どしたん?」
愛ちゃんが心配そうな顔でこっちを見る。
やだなぁ、心配しなくていいよ。
いいコト思いついただけだからさ。
あたしは愛ちゃんの手を取り、自分のコートのポケットに入れた。
- 9 名前:寒いカラ〜麻琴version〜 投稿日:2003/12/15(月) 10:20
-
あちゃちゃちゃちゃ。やった後に気がついた。
やましい気持ち、なんて無かったですよ?
本トに、なーいでぇすよ〜!
だって寒そうだったし…。
本当、本当に何気なくだった、のだけれど。
は…恥ずかしいーーー!!
あぁぁ、何で恋人握りをしているんだあたしは。
顔が熱い。
うわ、絶対に愛ちゃんに顔を見られたくない。
そう思うと、自然と早足になる。
そうしたら「麻琴、足速いが」って文句を言われた。
焦ってることを知られたくなくて、笑ってごまかす。
そうしたら。
- 10 名前:寒いカラ〜麻琴version〜 投稿日:2003/12/15(月) 10:21
-
うほっ!?
なななな何!?…握り返された。
心臓が跳ね上がった。
体も、跳ね上がった。
ああぁ、今の絶対見られたよ。
恥ずかしい。
耳まで、ますます赤くなっていくのが分かる。
空いている手で試しに耳たぶを触ってみる。
ふにふに。
…やっぱり熱い。
けど…さ。
この手、離さないよ。
離さないからね。
…離しちゃヤだよ?
end
- 11 名前:とあるオフの日〜絵里version〜 投稿日:2003/12/15(月) 13:20
- あのさ、
普通、服を二着持っていって試着室に入って、
それを連れに見せるときの台詞は、
「どっちがいいかな?」じゃん。
けどね、それが彼女の場合、
「どっちも私、可愛くない?」なんだよね。
- 12 名前:とあるオフの日〜絵里version〜 投稿日:2003/12/15(月) 13:21
-
丸一日オフの日。私はさゆと一緒に買い物に来ていた。
そして彼女は、この店だけでかれこれ三十分以上も試着室でファッションショーをやっている。
はあ…。
これなら、れいなも誘えば良かった。
んー…でもなぁ。
改めて考える。
れいなとさゆが仲良くしてるところなんて見たくないし。
同じおとめ組だから仕方ない、とは思うけどさ。
…でも。
ツアー先のホテルで一緒に寝たとか聞いてしまうとね。
ムカムカするし、
腹立つし、
焦るし。
- 13 名前:とあるオフの日〜絵里version〜 投稿日:2003/12/15(月) 13:21
-
余裕なんてない。
いっつも不安ばかり心中で渦巻いている。
大体さ、れいなが私のことをどう思っているのかも知らないんだよね。
それとれいなの「一番」も。
…………。
石川さんだったらどうしよう。
ただの憧れじゃなかったら…。
ぐるぐると嫌な妄想ばかり頭の中を回転する。
あー、ダメ、気分変えよう。
「さゆー、私店の外で待ってるから」
「うん…」
布を一枚隔てた向こう側から、うわの空な返事が聞こえた。
- 14 名前:とあるオフの日〜絵里version〜 投稿日:2003/12/15(月) 13:22
-
外に出たって何も変わらないのは分かっていたけれど、
それでも何かしらの行動を起こしたかった。
お店の商品は、さゆを待っている間にとっくに見飽きたし。
外には尽きることを知らない、人の流れがあった。
…よくこんなに人がいるもんだなぁ、なんて変な感想を抱いてしまう。
…あれ?
別に背が高いわけじゃないのに。
別に目立つ容姿じゃないのに。
「れいな?」
何故、私はこの人ごみの中で彼女を見つけられるのだろう?
- 15 名前:とあるオフの日〜絵里version〜 投稿日:2003/12/15(月) 13:22
-
不思議。本当にそう思う。
「れいな、どうしたの?」
問いかけると、ちょっぴり泣きそうな表情で道に迷ったと言う。
彼女の弱腰の態度なんて初めて見た気がする。
何だか嬉しい。
「それなら私が案内しようか?」
自然と、そんな言葉が口に出ていた。
渋るれいなを納得させて、
はぐれそうになったから手を掴んで。
- 16 名前:とあるオフの日〜絵里version〜 投稿日:2003/12/15(月) 13:22
-
そっか。
そうだよ。
不安でしょうがないのなら。
余裕がないのなら。
不安を取り除けるように。
余裕をもてるように。
行動あるのみ!
今、れいなの「一番」は他の誰かだとしても。
私が「一番」になってやる。
れいな、覚悟しててよ!?
End
- 17 名前:再びオチ 投稿日:2003/12/15(月) 13:23
- ただ、私は忘れていた。
さゆのコトを…。
帰宅し、バイブにして鞄に入れていたケータイを見てみると、さゆからの恨み留守電や恨みメール、
そして翌日には彼女が恨めしげな顔で
「ひどいよ絵里…待ってるって言ってたのに…道は分からないし男の人に絡まれそうになるしetc……」と
延々と恨み言を言うのだった……。
終わり
- 18 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/15(月) 14:58
- まこあい(・∀・)イイ!!
田亀も大変萌える。
更新待ってますんよー
- 19 名前:石川県民 投稿日:2003/12/15(月) 15:18
- …と・まぁこんな感じに。今月中にあと最低3コは小話をうpしますので。
感想・批判、色々お待ちしておあります。その内リクとか受付れるといいなぁ……(今はムリっす)
拝。
- 20 名前:石川県民 投稿日:2003/12/15(月) 15:21
- 18>名無しどくしゃサマ。
あぁ!もう読まれた方がいる!!
期待を裏切らないようにがんばります!!
- 21 名前:エムディ 投稿日:2003/12/15(月) 19:47
- うわ〜田亀だ〜!!!小高だ〜!大好きです♪
萌えました、マジで。
頑張ってください。
- 22 名前:ガイ 投稿日:2003/12/15(月) 23:13
- 待ってました!
石川県民サン。
短編スレの時から読んでましたよー。
これからも期待しております。。。
頑張ってください。
- 23 名前:∬´◇`∬川’ー’川 投稿日:2003/12/16(火) 00:08
- キチャッタ━━━━ヽ(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)ノ━━━━!!!!
短編スレ時からお邪魔してましたm(_ _)m
ってか高橋母面白ろすぎです。家○婦は見た!の市原悦子ばりで
覗き改め盗聴し過ぎです(笑
| 冫、)ジー |)彡サッ Σ川’ー’;川
そして、作者さんの主食はおがたかと聞いて何か嬉しいです^^
おがーさん絡み(ってかモテまこ)も良いですが、やっぱりこの二人が
サイコーに好きです。えぇ、愛してますとも(誰
因みに最近、激しく気になるのが田亀っだったりしちゃって(*゚ω゚*)
…良く分からなくなってきたんで、ソロソロおいとまいたします。
作者さん!これからも期待してますんで、がんがってください^^
- 24 名前:石川県民 投稿日:2003/12/18(木) 14:06
- わぉ。レスの多さにちょっと、いや、かなり驚きました。ありがとうございます(多謝)
21>エムディさま
作者フリー短編スレでもお世話になっています(照
あ・エムディさまのも読ませていただきました☆んも〜血糖値が上がる上がる♪甘々なれなえりで。
22>ガイさま
読んでましたか(恥
改めて初めまして♪待って損した、と思われないようにしますのでよろしくお願いします。
23>∬´◇`∬川’ー’川 さま
AAにかなり笑わせていただきました(喜
高橋母はかなり好き勝手に書いたので、笑っていただければ光栄です☆
>そして作者さんの主食はおがたかと聞いて
そうです、主食はおがたかです。もっさもっさ食べます。おかわりなんて当たり前です、副食があれば3杯目だってイケます(w
がんがりますのでこれからもお願いします。
一応『コタツにみかん』後の話です。
ていうか、どの小話も繋がっていることに最近気付きました(遅
思った以上に長くなりました。
小麦粉
- 25 名前:小麦粉 投稿日:2003/12/18(木) 14:08
-
凹。
究極の凹み。
べっこりと、
小川麻琴はヘコんでいた。
心の中で渦巻くのはただ一つ。
ああああぁぁぁぁぁっっっ、あたしの意気地なしィィィィィ!!!
だった。
ちなみに家族は、いろんな意味で恐ろしくて彼女に声をかけられない。
だから、心置きなくヘコんでいた。
今日、オフだった麻琴は、桃色片想い☆中の愛と二人でのんびりと久々の休みを満喫していたが、途中で何故か『ものすごくおいしい』状況になった。が、そこはヘタレの代名詞、男気が足りないせいでその好機を逃してしまったのだ。
だから、今、ヘコんでいる。
――補足程度に付け加えておくが、先程の『片想い』は彼女の中では、である。はっきりばっちり、無関係の人間が見ても片想いではないとは分かるのだが、悲しいかなこのヘタレの代名詞は気付かない。
「うるっさい!ヘタレ言うな!」
…あまつさえナレーターにケチをつける始末。
「うるさいうるさい!あああぁっっ明日どんな顔して愛ちゃんに会えば良いんだぁっっ!?」
今、その愛しの想い人がミソ汁を吹き出しているとも知らず。
麻琴は叫び。
家族は脅え。
夜は更ける。
- 26 名前:小麦粉 投稿日:2003/12/18(木) 14:09
- 翌日。
「おはようござ――うっ!?」
道重さゆみは、楽屋に入った途端に声を詰まらせた。
―――本日、東京の天気は晴れ。夜は曇りになりますが文句なしの上天気。お洗濯日和です。
打って変わって、おとめ組の楽屋は雨のち雪。風も強く、大荒れの予想。外出はお控え下さい―――そんなナレーションが頭の中を巡る。
そんな天候の中心が、座敷童のように部屋の隅っこで体育座りをしている小川麻琴だった。
そして、麻琴の対極線上に新垣・石川・飯田、そして飯田に庇われるように辻がいた。
同期を固まったまま見ている新垣に、道重は、すすす…と歩み寄る。
「塾長…小川さんの周りが怖いです」
「う〜む…陰の気が集まっておる」
呪術者のようなことを言いながら新垣塾長は顔をしかめる。
「私が来た時には既にこうなっていたんだよね…。シゲちゃん、心当たりある?」
「いえ…」今、来たばかりですし、そう付け加える。
「そういえば塾長、どうしてここに?」
さくら組なのだから、こんな災害を被る必要はないはずなのに。道重は思う。
「いや〜。昨日、まこっちゃんは愛ちゃんと過ごしていた、と小耳に挟んだものだから、からかいに来たんだけど…」
そして『これ』に遭遇した、と。
見捨てようにも見捨てておけずに固まっていた新垣塾長。そして、飯田も石川も、ついでに辻も、似たような理由でここに佇んでいるのだろう。
「…あれ?藤本さんはまだ来ていませんか?」しかし見覚えのある鞄が机に放ってある。そう思い首を傾げると。
「私とすれ違いで楽屋から出ていったよ」
逃げたな、そう思うものの口には出せず。
どうしたものか。みんながみんなそう思案していると。
バタンッ!!
「梨っ華ちゃーーーーん!!」
救世主が、来た。
- 27 名前:小麦粉 投稿日:2003/12/18(木) 14:10
- 救世主が来た、みんなそう思った。
「よっすぃー、丁度良かった」
既に石川を抱き締める体勢をとっていた吉澤の前に立ちはだかる飯田。
「な、なんスか」
勢いあまって飯田に抱きつきそうになるが、眉間にシワがよった石川の表情を見て、慌てて体を反らす。
「あれ、何とかできないかな」
飯田が指差す方を見る。
「『あれ』?―――う゛わ゛っ」
ようやく気付き、思わず後ずさりをする。
「新種の妖怪ですか」
「小川よ」
目を凝らし、あぁ本トだ、なんてのんきに言っている。
「でも何でウチが」
「男同士、腹を割って話し合えば何とかなると思うのれす」
「ヤだよメンドくさい」
辻のツッコミ処満載の発言は意に介さず、愛しい恋人の腰に手を伸ばす吉澤。
と。
その腕が押しとどめられた、本人の手によって。
「梨華…ちゃん?」
不思議がる吉澤を、首を傾げて上目遣いで見つめる。
ぐび、と唾を飲み込む吉澤に囁くように言った。
「ねぇ…ダメ?」
ぎゅーん、と吉澤のやる気メータが上がっていく。
やる気メータ:別名 悶々メータ。
トドメの一発。
「お願い、ひとみちゃんにしかできないの。――ね?」
きゅぴーん。
充填完了、チャージ満タン。
「はーっはっはー!オレにまかせろー!!」
拳を振り上げ、意気揚々と麻琴に歩み寄る。
新垣塾長の耳に、ぽそりとこんな会話が入ってきた。
「石川、ごくろーさん」
「いえ。ひとみちゃんの扱いなら、任せてください」
女って怖いな、改めてそう思った。
- 28 名前:小麦粉 投稿日:2003/12/18(木) 14:11
-
救世主、またの名をイケニエと呼ぶ。
任せろ、なんて大口を叩いたことを吉澤はちょっぴり後悔していた。
どんよりどよどよ、低気圧を従えた麻琴に、近づきたくないと思いつつも声をかける。
「小川ぁ〜どうしたんだよ〜〜」
朗らかを装い、少々引きつってはいるものの笑顔の先輩を麻琴は一瞥し。
「アフォには関係ないです」
の一言。
カッティーーーーン。
「アフォ言うんじゃねぇよこのヘタレの代名詞がぁぁぁっっっ!!」
「う、うるさいですよ!大体あたしが加入する前は吉澤さんがヘタレの代名詞だったじゃぁないですか!!」
「てめぇと一緒にするんじゃねえよっ。それにオレはヘタレじゃねえっっ!」
「あたしだって違いますよ!」
「嘘つけよ!!どうせ高橋のことでうじうじうじうじ悩んでいんだろうがっ!」
ざっくり。
その場に居た者はそんな幻聴を麻琴の胸から聞いた。
――ただしヒートアップした吉澤を除いて。
「まだ告白すらしていないんだろーが!?お前をヘタレと言わずして誰がヘタレだゴルァ!!」
「ひ、ひとみちゃん!!」
石川の悲痛な声で我に返る吉澤。そして彼女の見たものは。
「どうせあたしはヘタレの代名詞……………」
妖怪度を進化させた後輩の姿だった……。
- 29 名前:小麦粉 投稿日:2003/12/18(木) 14:12
-
付き合っていられない。
道重はそう思い、石川と飯田に首を絞められている吉澤を尻目に、こっそり楽屋を抜け出した。
ぶらぶらと、あてもなく歩いていると反対側から鞄を片手に田中れいながやって来た。
「あれ?今来たの、遅くない?」
「あ、さくら組の楽屋に行っとった」
「…もしかして、そこに藤本さん、居た?」
「?うん『妖怪と一緒の部屋に居られるかッ』と不思議なことを言いながら」
何だったのだろう、そう言いながら首を捻る彼女に苦笑いを返す。
そんな道重を見て、ますます首を捻るが、ふと思い出したように手をポンと叩く。
「そう、さゆ。お願いがあるけん」
「何?」
「絵里のことばい。あのさ――うっ!?」
ぞわり。
道重の周囲の空気が変わった。例えて言うのなら―――何か、そう、妖怪にでもとり憑かれたかのように。
「さ、さゆ…?」
親友の変化に思わず後ずさる。
「れいな、さくら組の楽屋に行ったのだよね?」
「は、はい」あまりの雰囲気に知らず敬語となる。
「絵里、来てた?」
「はい…」
「そう――」
ふらふらと、田中のやってきた道を歩いていく。
田中はただそれを見送ることしかできなかった―――。
- 30 名前:小麦粉 投稿日:2003/12/18(木) 14:13
-
「おはようござ――?」
田中がおとめ組の楽屋を開けると。
「いくぞこのやろー!」
「その調子だー!!」
何故か麻琴と吉澤が叫んでいた。
そして石川はそんな二人を、涙を湛えた目で見つめており、
飯田・辻・新垣塾長は辟易した表情でその三人を見ていた。
そんな室内の様子に訳が分からずに佇んでいると。
「今度はさくら組に妖怪がやって来た……」
なんて呟きながら藤本が部屋に入ってきた。
再び麻琴が叫ぶ。
「24日!24日に!!愛ちゃん、首を洗って待っていろよーーー!!」
先程も書いた通り、もちろん田中には何が何なのか分からない。
ただ。
あぁ高橋さん、かわいそうに。
それだけを思い椅子に座るのだった。
続く
- 31 名前:石川県民 投稿日:2003/12/18(木) 14:18
- 書けば書くほど男前度が下がっていくピーマコ。『伝えたいコト』の頃の彼女はどこにいった!?(w
24日、高橋はどうなるのか!?小川はどうするのか!?……24日までお待ちくださいマセ。
一応おがたか次回予告。
聖なる夜は猪木でいこう(24日予定)
…下書き中なのですが、感動のシーン、なんてものがありません。何故だ(w
んで。24日前までに田亀小話を二ついれます。
それでこのギャグ路線を変更したいな〜と。(でも24日でギャグになるから意味ないか)
田亀は、頑張れば明日うp、頑張らなければ22日に一つ、予定します。
- 32 名前:石川県民 投稿日:2003/12/18(木) 14:19
- ではでは。
排。
- 33 名前:石川県民 投稿日:2003/12/18(木) 16:10
- あ・漢字間違えてる。
拝。
- 34 名前:sp 投稿日:2003/12/18(木) 18:57
- 小川さんのヘタレ〜な所が凄く出てて私は好きですよ!
ヘタレの方が可愛いです。
田亀の方、頑張ってください。
- 35 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/18(木) 23:03
- 大変(・∀・)イイ!!
もうまこあい最高だよまこあい。
24日期待してます。
田亀も期待してますw
- 36 名前:ガイ 投稿日:2003/12/19(金) 00:25
- 待ってました!
今回も最高ですね!
24日が今から待ち遠しいです。
- 37 名前:石川県民 投稿日:2003/12/23(火) 20:36
- まず最初に。
ガンバレマセンデシタ。ゴメンナサイゴメンナサイ。
決して時差があって、こっちでは今日が22日、なんてことはありません。えぇ、断じて。
ヘコみヘコみ。
昨日うp予定のモノです。
嵐の前の静けさ。
- 38 名前:嵐の前の静けさ。 投稿日:2003/12/23(火) 20:42
- 12月23日は絵里の誕生日だ。
だからあたし、田中れいなは、この間、街で迷っていたところを助けてもらったお礼も兼ねて、何かプレゼントしたいのだけれど…。
正直、絵里の好みってよく分からない。
あたしはカッコイイ系が好き、絵里はカワイイ系が好き。
何か贈るのなら、やっぱり喜んでもらいたいし。
それで、あたしよりは絵里と趣味の似ているさゆに、この前アドバイスをもらおうかと思ったけれど『絵里』って単語を出した途端に妖怪化しちゃったし。
うーーーーーん。
あ。
丁度良い人がいた。
その人の元に駆け寄る。
「あの、石川さん。お願いがあるのですけど」
- 39 名前:嵐の前の静けさ。 投稿日:2003/12/23(火) 20:50
- 訳を話すと、石川さんは快く引き受けてくれた。
やった♪
持つべきものは心優しい先輩だ、なんて浮かれていると。
「止めときなって」
突然石川さんの後ろから誰か出てきた。ふ、藤本さん!
彼女は石川さんの頭を掴み、左右に揺らす。
「ちょっとミキティ、なにすんのよぉ」
高い声で抗議する石川さんを意に介さず、この先輩で同期の彼女は言う。
「梨華ちゃんの悪シュミは全メンバーのお墨付きでしょ?
誰か他の子に頼んだほうがいいって」
…冷静に考えれば確かに。
「…そうですね。それじゃぁ、さゆに頼んでみます」
お辞儀をして部屋から出て行こうとすると、石川さんのブーブー言う声に紛れて「頑張れよ」ていう声も耳に入った。
……何にだろ?
- 40 名前:嵐の前の静けさ。 投稿日:2003/12/23(火) 20:54
- 廊下で歩いていたさゆを見つけ、恐る恐る
「絵里のことやけん…」と前おきしても、
「何?」と普通に返ってきた。
あれ?
「絵里に対して怒ってなかった?」そう聞き返すと。
「もう恨みは晴れたから大丈夫♪」という答えだった。
? ? ?
まぁ…もう一週間以上も前のことだしね。
それはともかく。
「絵里には黙っとってほしいけん」
手を合わせ、そうお願いした。
- 41 名前:嵐の前の静けさ。 投稿日:2003/12/23(火) 21:01
- 「ほら、23日って絵里の誕生日やなかと?何かプレゼントしたいっちゃ、それでさゆに見立ててほしいけん」
「いーよー」
あっけない返事に嬉しくなり、スケジュール帳を取り出して捲る。
「じゃあ、さ。この日どう?あたしらは午後からオフやけん、買い物に付き合って?」
「買い物……」
その声の雰囲気を不審に思い彼女のほうを見ると、そう、まるで、某消費者金融のCMの小型犬の表情で
「れいなは置いていかないよね……?」
なんて不思議なことを言った。
……何があったのだろう…。
- 42 名前:嵐の前の静けさ。 投稿日:2003/12/23(火) 21:11
-
その日。
あたしらおとめ組は午前中に仕事、絵里のいるさくら組は午後から仕事だった。これなら絵里にバレることもないから安心安心♪
二人、これといった当てもなく街を歩く。
「それで、何にするか決めたのー?」
「んー、なんも」
そう。
今日まで色々と考えてみたけれど、何にすればいいのか本当に分からない。
他メンバーに参考程度に聞いてみても、
「田中のあげたものなら亀井は何でも喜ぶ」
みたいなことしか言われなかったし。
…何であたしがあげると絵里が喜ぶの…?
あ。一人、吉澤さんだけが
「自分の首にリボン巻いて『プレゼントはあ・た・し☆』ってやってみたら?ウチ、おととし梨華ちゃんに――ゴフッ」
そこまで言って石川さんに殴られていたっけ。
まぁ…さすがにそれはしないけどさ。
「本当、何にすればいいんだろ…」
「鏡…とかは?」
「いや、さゆの欲しいものじゃなかと」
「ちょっと」
- 43 名前:嵐の前の静けさ。 投稿日:2003/12/23(火) 21:16
- 目に付いた、良いと思えるショップにあちこち入っていくものの、
これ!といったものが見つからない。
洋服、置物、お香、CD、鏡etc……。うーーーん。
なんか…違う……なぁ。
さすがに10軒以上見て回ると二人とも疲れてきた。
近くにあったファーストフード店に入ることに。
コーラで一心地ついていると、ぽそっとさゆが言った。
「ね…れいなにとって絵里はどんな存在?」
- 44 名前:嵐の前の静けさ。 投稿日:2003/12/23(火) 21:23
- 「え?」
それは本当に突然の質問だった。意図が見えないけれど、少し考え、口を開く。
「大切な――人」
うん、そうだ。
「さゆも、先輩がたも大切。ばってん、絵里はそれ以上大切。つーか特別」
これが、本音。
「聞くけどさ――何で?」
「何で絵里が特別なの?」
「…………何でだろう?」
あたしがそう言うと、彼女はがっくしと肩を落とす。
「やっぱり自覚なかったんだ…」と呟きながら。
………なんだか腹立つなぁ。
「教えてあげるよ」
偉そうに言うことに多少反感を覚えつつも、おとなしく次の言葉を待つ。
「れいなは絵里のことが好きなんだよ」
- 45 名前:嵐の前の静けさ。 投稿日:2003/12/23(火) 21:30
- あ・そうなんだ。ふーん。―――って。
「えええええっっっ!?」
店内中に響く声。
ううぅ、周りの人の視線が痛い。
「さゆ、何ば言う?」
声を潜め、顔を赤くしつつ抗議する。
あたしの顔も赤いけれど、彼女の顔も赤い。あたしより恥ずかしかったのだろうなぁ。
「それなら聞くけど、絵里といると楽しい?」
「すっごく楽しい」
「むしろ幸せ?」
「そうだね」
「絵里が塾長と一緒にいるとしたら?」
「すっごく腹立つ」
「塾長が紺野さんだとしても?」
「そうだね」
「じゃあ、そんな気持ちを言葉では何て言うの?」
「……………」
してやったり顔のさゆ。…何かムカつく。
でも。
心のどこかですっきりしている部分があるのも事実。
そっか。
これが『好き』なんだ。
「大体さ、『ただの同期の友達』に誕生日プレゼント贈るだけなら、れいな悩みすぎだよ。わたしの時、そんなに悩んだ?」
確かに。さゆにあげた手持ち三面鏡、なんて10秒で決めたし。
- 46 名前:嵐の前の静けさ。 投稿日:2003/12/23(火) 21:36
- そうやって一人、納得していると、さゆがずずーっと紙コップの中身を飲み干しつつ言った。
「さっき言った『特別』、絵里に言ってあげなてね、彼女不安がっているから」
「うん…」
返事はしたものの、一度『好き』と自覚すると恥ずかしいものがある。
しかし。
まじまじとさゆを見る。普段の『自分大好き☆』な彼女からこんな発言が出るなんて。
やっぱりあたしより年上なんだなぁ、なんて感心していると、彼女が言った。
「Hなコトしたら報告してね♪」
…感心して損した。
- 47 名前:嵐の前の静けさ。 投稿日:2003/12/23(火) 21:46
-
そうと分かれば話は早い、そう言ってさゆはトレイを片付け、引っ張りながらあたしを店の外へと出す。
手を掴まれた状態で連れていかれた場所は一軒のショップ。
「ココ…?」
「うん、これなんか良いと思うの」
中に入り、指し示されたモノ。
…コレ?
「カワイイと思うけどさ、あたし絵里のサイズ知らんと?」
「大丈夫、わたしが知ってるから」
「何で?」
「この間、そういう話をしてたから」
「ふーん…」
「ヤキモチ?」
「!?違ッ!」
全力で否定したら、笑いながら「はいはい」なんて言う。ム、ムカつく…!
気を取り直して。
「で、どういうの?」
「これなんか良くない?」
そう言った指の先には、シンプルだけれどカワイイやつ。
絵里に似合いそう。
よし、決定。
「で、サイズいくつ?」
さゆの言ったサイズは思った以上に小さかった。
「小さくなかと?」そう言うと
「コッチのココのやつだから、サイズが小さいの」
説明してもらうものの、…何でソコ?と思ってみたり。それでも店員さんにそのサイズを告げて、ラッピングもしてもらう。
へへ。
自然と緩む頬。
そうしたらさゆに頬をつつかれた。
……あとでどついてやる。
絵里、喜んでくれるかなぁ。
続く
- 48 名前:石川県民 投稿日:2003/12/23(火) 21:57
- …と、昨日までにコレを書き上げ、今日その決戦の23日をうpするよていでした。
どーにかならんか己の遅筆(泣
まずはレス返しを。
34>spさま
好き、ですか?あら、いやん♪(殴 小川さんはヘタレ〜で何ぼだと思ってますので、あれで良い、と言っていただけるのなら嬉しい限りです☆
spさまのところほど進んでない田亀ですけどこちらもよろしければどうぞ。ていうか告白や付き合う云々の問題です、田中さん(w
35>名無しどくしゃサマ
イイ!と言ってくだされるのなら書いた甲斐がありました♪しかも「大変」までつけてくれるとなればもう(w
田亀もどうぞ!
36>ガイさま
最高、ですか?作者、おだてれば木どころか、どこまでも登っちゃいますよ?(w
それでは今日予定のモノをどーぞ。
一足早い聖なる夜
- 49 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/23(火) 22:02
-
「絵里には黙っとってほしいけん」
廊下でれいなとさゆが話をしていた。耳を澄ますとそんな言葉が聞こえた。
私がその言葉に感覚を麻痺されている間にも話は進み、再び耳を澄ましたときに聞こえたのは、
「買い物に付き合ってくれん?」だった。
角なので二人から死角になる場所から壁と大道具の間から抜け出し、反対方向に走った…っていうか逃げた。
- 50 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/23(火) 22:13
-
気付くと、外に剥き出している非常階段にいた。
風がもの凄く、髪がボサボサになったけれど、そのまま手すりにもたれかかって座り込む。
ショックだった。
二人で買い物に行くことがじゃない。それなら私もさゆと行ったのだから(置いてきぼりにしたけれど)。
――何故私に黙る必要があるの――?
理由が分からないし、悲しかった。
自然と涙も出てくる。
拭うこともせずにそのまま流していると。
ギィ…
誰か重い扉を開けてやって来た。
それは、
「あ、亀井ちゃん」
「塾長…」
だった。
私がいるのを見て「ごめんごめん」言いながら再び閉めようとしていたけれど。
「…泣いてるの?」
閉める手を止め、じっとこっちを見る。
やっばー。
「あ、いえ、ビル風が目にしみただけなので」
そう言ってごまかし、笑ってみてもこの塾長、自慢の眉毛もぴくりとも動かさずに見ている。
そして。
バタン。
扉を閉め、私の横に腰掛ける。
そしてそのまま無言。
疑問に思い、首を傾げると。
「年下の頼りない先輩だけどさ、誰かに話すだけで楽になるコトってあるよ?」
そう言って笑ってくれた。
その笑顔が、とっても頼りがいがあったから。
「…塾長ぉ〜〜〜……」
私は泣き出してしまった。
- 51 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/23(火) 22:26
-
私はさっきあった出来事を話した。何故壁と大道具の隙間にいたのかと聞かれたけれど「落ち着くからです」の一言で済ませた。
すると。
「そういうことなら…多分大丈夫だよ」
と、あっけらかんな返事が返ってきた。
訳が分からない、そんな顔で見ていると、言葉を続けてくれた。
「わざわざ亀井ちゃんに黙ってて、って言ったんでしょ?
それは買い物するものが亀井ちゃんに関係するものだったからじゃないのかな、多分」
「私に…ですか」
「うん。だから大丈夫、きっと大丈夫♪」フリ付きで言う。
そう…なのかな。まだそんな気持ちが心を占めている。
「結局、私不安なんですよね。彼女の気持ちが分からなくて」
元々あの子、無表情じゃないですか。そう言うと、すごく納得してくれた。
でもさ、そう前置きしてくれてから。
「不安とか、そういうものも。恋愛のダイゴ味だと思うな」
「そう…ですかね」
「多分ね」
のほほん、と塾長は言ってくれていたけれど、腕時計を見た途端に慌てて立ち上がる。
「そろそろ集合の時間だよ、急がなきゃ」
その言葉に私も慌てた。
塾長が先に出ようとした時。
「塾長、あの、」
「?」
「ありがとう…ございます」
私がそう言うと、にかっと笑う。
「いいてことだよ。恋愛相談には慣れてるからね♪」
また何かあったら言ってよ、そう言いながら肩を叩いた。
その言葉が頼もしくて、嬉しかった。
- 52 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/23(火) 22:36
-
しばらく経って。
その日はさくら組とおとめ組は別行動の日だった。れいな達は午前中に、そして私達は午後から仕事だった。
早めに仕事場に行ったものの、れいなは既に帰っていた。ちぇっ。
ブナンに仕事をこなしていたら、予定より早く終わった。
塾長と紺野さんがお好み焼き屋に行こう、と誘ってくれたけれど丁重に断った。
ただ、一人歩く。
別に何処かに行く気はないけれど、なんとなくぶらぶらとしていたかった。
そこで目に止まったものは。
ファーストフード店にいる、れいなとさゆだった。
窓越しの二人は、楽しそうに笑っていて、れいなが顔を赤くしたと思ったら、二人で顔を見合わせる。さゆが彼女の手を掴み、店の外へと出る。そして、私に気付くこともなく人ゴミの中、消えていった……。
ぽた。
涙が溢れてきていることは分かっていたけれど、抑えることなんて不可能だった。
塾長…これも『恋愛のダイゴ味』なんですか?
それなら……辛すぎます。
人目も気にせず、ただ私は泣いた。
続く。
- 53 名前:石川県民 投稿日:2003/12/23(火) 22:39
- ここで当分の間更新をしなかったら面白いなぁ、なんて外道なことを思ってみたり。
つーか展開早。早スギ。
ちょっと中断します、明日になろうと今夜中には書き上げますので。
じゃなきゃ亀井さんday だというのに可哀想すぎですから。
ま・リアルタイムで見てくれている人がいたら、の話ですけどね。
拝。
- 54 名前:石川県民 投稿日:2003/12/23(火) 22:40
- 隠して。
- 55 名前:石川県民 投稿日:2003/12/23(火) 22:41
- 隠す。
- 56 名前:sp 投稿日:2003/12/23(火) 23:46
- やっぱり、田亀イイっすね!!
まだ青クサイところがなんとも(w
年、感じさせます。
楽しく待ってます♪
- 57 名前:石川県民 投稿日:2003/12/24(水) 04:55
- 続きです。
- 58 名前:石川県民 投稿日:2003/12/24(水) 05:05
- 12月23日。
その日は他メンバーの方々に誕生日プレゼントを多数、もらっていた。
スタッフさんに大きな紙袋をもらい、全てのプレゼントをその中に収めていく。
すると。
「絵里、ちょっとばいい?」
ドアから控えめに、れいなが声をかけた。
れいなに連れられてやってきたのは、使われていない楽屋だった。
「邪魔が入るようなことがないほうがいい」なんて言って。
「で…なに?」
本当は分かっていたけれど。
だってれいな以外には既にもらっているから。
それでも、わざとぶっきらぼうに、興味ないように言った。
「これ…」
取り出したのは、片手で隠せられるくらい小さな紙袋。
「この前助けてもらったお礼も込めて……誕生日、プレゼント」
何故かこっちのほうを見ないで渡す彼女。それが何だか悲しかった。
「開けてみていい?」
「うん」
中には更に小さな皮袋。その中に入っていたのは。
「あ…」
シルバーの土台にピンクシルバーの十字架のついた指輪だった――。
- 59 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/24(水) 05:16
-
「かわいい…」
怒りも悲しみも忘れ、そう呟くと、れいなが嬉しそうに
「でしょ?」と言った。
ちょっと、その笑顔にキュンときた。
笑顔のままで彼女は言葉を続ける。
「この前、時間があったときに、さゆに見立ててもらったやけん」
―――ずきん。
急速に胸のときめきも消えた。――あるのは、ただ、痛みのみ。
「――いらない」
そう言ってつっぱねると、れいながうろたえるのが分かった。
「何で?嫌い?」
「違う」
言いながら体の向きを変えた。
れいなを見ないように。
「それ、さゆにあげたらいいじゃん」
「何でそこでさゆが出てくるの」
「私に内緒で買い物に行く仲でしょ?」
そう言ったら背後で笑う声。…笑われた。
「ああ。それはぁ、このゆび――」
「どうでもいいよそんなこと!!」
自分の剣幕に驚く。きっと彼女も驚いている。
すると。
「そっか、どうでもいい…か」
寂しそうなその声に、冷水を浴びせかけられた気分になる。
「―――ごめん、絵里のことがよく分からない」
そしれドアへと遠ざかる足音。
ダメ。
行っちゃヤダ。
「馬鹿ーーー!!」
- 60 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/24(水) 05:30
-
「馬鹿ーーー!!私が怒ってる理由くらい聞けーー!」
れいなを引き止めたのは逆ギレもいいとこの言葉だった。あぁ私、支離滅裂だ。
彼女が「訳分かんないよ」って怒る姿が目に浮かぶ。
恐る恐る振り向くと、ノブに手をかけたまま困惑顔でこっちを見ている。
かなり、珍しい。
私は、ちゃんと体の向きを変える。
彼女はノブから手を離して体の向きも変える。
二人、対峙する形。
「じゃあ聞くけど、何で怒っとぅ?」
「れいなが馬鹿だから」
「はあぁ!?」
「れいなさ、私がれいなのこと、どうでもいい人だと思ってるでしょ」
「だって絵里がそう言ったっちゃ」
「それは――」
「大体さ、人が悩んで調べたり尋ねたりして選んだモノを『いらない』の一言でつっぱねるしさぁ」
「そ、それはれいなが乙女心ってものを理解していないからでしょぉ!?」
「は!?どーゆー意味っちゃそれ!あたし、絵里に喜んでほしくて好きそうなものを色々と考えたんだよ!?
それでも良いのが思いつかなくて、さんざんさゆを引っ張り回しもしたのに
『乙女心を理解していない』なんて言われても困るけん!」
「だからって途中で他の人の名前を出すかなぁ!?」
「そこが訳分かんないよ!
それに何で怒ってるのか絵里、理由言ってないし!!」
「そんなの、れいなが好きだからに決まってるじゃない!」
…私の告白はとんでもない喧嘩腰口調だった。
- 61 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/24(水) 05:38
- れいなが驚いた顔で見るけれど気にせず叫ぶ。
「どうでもいい人には怒らないよ!どうでもいい人の優しさに、期待を持ったりしない!
どうでもいい人の笑顔を独り占めしたいだなんて思わない!!
どうでもいい人の…ちょっとした仕草に……辛くなったりしないもの………」
言っている間にも目がどんどんと潤んできている。最近、本当に泣いてばっかりだ。
「それって…」れいなの声がかすれてる。
「れいなだから…」
涙が零れる。
「れいなだから、優しさに期待するの。笑顔を独り占めしたくなるの。
れいなだから…辛くなるの」
力なくへたり込む。嗚咽混じりで聞き取りにくいだろうなぁとは少し思った。けれど、もう一度言う。
「…好きなの…」
- 62 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/24(水) 05:45
-
ぐしぐしと、泣きっぱなしの自分。
あぁ、もう。15歳になったのに。
れいなより一つ年上になったのに。
…情けないなぁ。
それでも涙は止まらない。
と。
「跡になるっちゃ」
そう言って涙を自分のタオルで拭ってくれた。
されるがままにしていて、一通り拭い終わったところで。
腕をつかみ、じっとこっちを見る彼女。
静かに口を開く。
「絵里はぁ、あたしが誰を好きだと思っとる?」
「…さゆか石川さん」素直に答える。
「さゆは友達。石川さんはぁ、ただの憧れやけん」
「…嘘」
「本当」
「じゃあ、好きな人いないの?」
そう聞くと。
「いっちゃん好いとうのはぁ、絵里」
見つめられたまま、そう言われた。
- 63 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/24(水) 05:50
-
「…嘘だぁ」
にわかには信じがたいその言葉。
「本当だよ。じゃなきゃわざわざプレゼントにあそこまで悩んだりしないし。
絵里だから、好みの似てるさゆまで連れて買い物に行ったけん」
…そう言われれば。
でも、なんて、それでもぐずぐず言ってると、
「あのさ」
軽く睨まれた。けれどその顔は…真っ赤。
「あたしがこういうこと、軽々しく口にする人間だと思っとるん?絵里は」
二、三回深呼吸して。
「すっごい恥ずかしいと……」
言うやいなや抱き締められた。
「好き、大好きっちゃよ」
声も、体も、震えていた。
れいなも緊張してるんだ。
そう思うと、すごく嬉しくなった。
私より小さな体に抱き締められるのがすごく、
心地よかった。
- 64 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/24(水) 05:54
-
「そういえば、さ」体を離され、言う。
「?」
「さゆと出かけること、何処で知っと?」
「二人が話してたとき、私あの場にいたんだよ」
「え!?」
「壁と大道具の隙間に」
「………なるほど」
「私に隠し事、できないね」
そう言って笑うと、不敵に笑い返された。
「しないから大丈夫」
また抱き締められた。
- 65 名前:一足早い聖なる夜 投稿日:2003/12/24(水) 05:59
-
「そうだ」
思い出してれいなの体から離れる。
「どうせなら、れいなが指輪、はめてよ」
「あ、ぅん」
皮袋から再び取り出す。
「…さっきもちょっと思ったけどさ、サイズ小さくない?」
「これ、右薬指のサイズだから」
「え゛!?」
ぼひゅんっ、と赤くなる顔。
そんな私を見て、れいなはハテナ顔。
れいな…分かってないのね。
はめてくれたら教えてあげよう。
…知ったら、入れ知恵したさゆのところに殴りにかかるかもしれないけどさ。
右薬指の指輪の意味は『恋人がいます』の証だよ、って。
fin
- 66 名前:石川県民 投稿日:2003/12/24(水) 06:03
- やっとこさ書き上げました。「今夜中」じゃなくて「翌早朝」なんてツッコまないでくださいませませ。
そう言えば、二人が片思い時の小ネタのストックがあったことを今更ながらに思い出してしまったり。
両思いになっちゃったココ以降のストックはないってぇのに。うーん…。
- 67 名前:石川県民 投稿日:2003/12/24(水) 06:10
- 56>spさま。
わぉ!本当に読んでくださっている方がいた!(驚
そうです、青臭いです。青春は青い春と書くのですから(謎
素晴らしきかな勘違い(w
誕生日が来ても、亀井さんはまだ15才ですから(…だよね?)
私なんて今日で21になっちゃいましたよ(日本の法律って誕生日の前日に年を取るらしいんで)
- 68 名前:石川県民 投稿日:2003/12/24(水) 06:12
- さて、次回は猪木です。ただ…これも25日早朝にうp、ってのがシャレじゃない状況です(汗)
待ってくれている方が一人でもいるのなら頑張ってなるべく早くしたいデス。(へこへこ)
拝。
- 69 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/24(水) 06:55
- 田亀萌え。すっごい萌え。
ここまで萌えたのは初めてですバイ。
猪木楽しみにしてます。マターリ待ってますんよ(w
- 70 名前:ガイ 投稿日:2003/12/25(木) 00:16
- いやー、小高もいいですけど田亀もいいっすねー。
何気に塾長がいい味出してます。
次は主食の小高を楽しみにしております。
- 71 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/28(日) 01:35
- ここまで訛ってる田中を見たのははじめてですw
しかし萌えw
- 72 名前:石川県民 投稿日:2003/12/30(火) 12:34
- 私を罵って下サイ。
どんな理由があるにせよ、大幅に遅れました。予告をするとウソ予告になります(涙
それでも見てやるぞ、という方だけどうぞ。
聖なる夜は猪木でいこう
- 73 名前:聖なる夜は猪木でいこう 投稿日:2003/12/30(火) 12:57
- 何て言うのかなぁ…。
今のあたしって、試合直前の、控え室にいるレスラーな状態。
冷たい闘志?みたいなのを内に秘めている感じ。
静かに、メラメラと。
一人、そんな世界に入っていると。
「小川ぁ、口開いてっぞ」
デリカシーの欠片もない先輩に世界を壊された。
しっかりと、口を真一文字にして隣に「どかっ」と座る吉澤さんを横目で睨む。
まぁ、あたしの睨みなんて、鼻で笑われれば吹き飛ぶ程度だけど。
「小川、小川。あっち見てみ」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを湛えて言う。それでも素直に指されたほうを見る。と、
そこには亀井ちゃんの手を取り、出て行く田中ちゃんの姿が。
『お疲れさまでーす』なんて、声を揃えて。
よく見てみると亀井ちゃんは指輪をしていた。
「昨日くっついたらしいよ」
吉澤さんの背後からそう聞こえた。……いつからいたんですか藤本さん。
まだニヤニヤ笑いを湛える吉澤さんが言う。
「後輩に先越されちゃったねぇ」
「ねぇ」同意する藤本さん。
二人してニヤニヤニヤニヤ。
「…て、誰から聞いたんですか、それ」
「おマメ情報」
そういえば藤本さんと里沙ちゃんて意外と仲が良かったですね。
「これが本当のマメ知識、か」
どんどんとオヤジ化していますね、吉澤さん。
人を無視してどんどんと話していくこの二人。
「で、今日は」
「そう24日」
「告れると思う?」
「ムリじゃない?」
「やっぱり?」
「だってねぇ…」
「ヘタレの代名詞だしね」
「ね〜」
ガタンッ。椅子を後ろに倒しつつ立ち上がる。
「ああああもう!陰口なら本人のいないところで叩いてくださいよ!!」
そう吠えると。
「陰口?」
「そんなこと」
『な〜いでぇすよ〜〜』
揃って顔の前で手をブンブン。
- 74 名前:聖なる夜は猪木でいこう 投稿日:2003/12/30(火) 12:57
- な、殴りたい…!!
ぴきぴき青筋を立てるあたしを見て、吉澤さんは苦笑する。
「悪ィ、これがウチらなりの励ましなんだから。さ、はりきっていってこい」
アゴで彼女をさす。
言われなくても分かってますよー、だ。
「大丈夫ですよ、この間『恋愛の極意』も聞いたことですし」
お二人に笑みを向ける。
「完璧です」親友の口癖を使って。
負けるもんか。
後ろに倒れた椅子を直し、あたしは彼女に声をかけた。
「愛ちゃーん!一緒に帰ろー!!」
- 75 名前:聖なる夜は猪木でいこう 投稿日:2003/12/30(火) 13:06
-
道すがら思い出す。
あの日。
じめじめ鬱々妖怪と化していたあたしを救ったのは吉澤さんだった。
「うおおおおおっっっっっ!!」
突然叫んだかと思うと、あたしの胸倉を掴み、椅子に片足をのせて。吠えた。
「いいかぁ小川!告白は度胸だぁっ!男らしくいけぇっ」と。
なんとも頼もしい言葉。その一言で目が覚めた。
そしてあたしも気合注入のために叫んだ。
「うおおおおおおっ!!小川麻琴ッ、やりますバーニング!」
「その意気だぁぁぁ!」
「はいっっっっっ!!」
叫びながら会話して。ついでに勢いで告白する日付も決めて。
「24日!24日に!!愛ちゃん、首を洗って待ってろよー!!」
宣言して。
そうしたら石川さんが涙を流して喜んでくれて。
良かった良かった♪
……という訳でもなくて。
実際、他の人達は呆れていたし。
それに。
「………」
「………」
『恋愛の極意』を伝授してもらっても、緊張して何も話せないあたしって、やっぱりヘタレですかーー!?
- 76 名前:聖なる夜は猪木でいこう 投稿日:2003/12/30(火) 13:13
-
事を起こすときって、こんなに緊張するものなんだ。
銀行強盗を決行する人の気持ちにある意味似ているのかも。
って例えが悪いなぁ。
吉澤さぁん。
あたし、度胸はないです。
男らしくいけません。
だって女の子だもん。
「………」
「………」
気まずい雰囲気。
いつもなら軽口を叩けるのに。
あー、何か話さないと。
何か…何か、何か…っ!
「あ…」
「ふぇっ!?」
び、びっくりしたぁ。今、変な声出ちゃったよ。
「あ…わたし、こっちの方向に用事、あるから…」
帰り道とは逆の方を指す愛ちゃん。
「そ、そう…」
「…じゃ……」
愛ちゃんが、行っちゃう。
覚悟、したのに。
行っちゃう…。
このまま見えなくなるまで見送る?
そんなの嫌だ。
行っちゃう。
止めなきゃ。
――どうやって?
そこまで思うと、口が動いていた。
「愛ーーー!!」
腹式呼吸でおもいっきり叫ぶ。
「お前が好きだコノヤロー!!」
- 77 名前:聖なる夜は猪木でいこう 投稿日:2003/12/30(火) 13:20
-
「愛ちゃーん!一緒に帰ろー!!」
いつもと変わらない調子で誘ってくれたんが嬉しかったのに。
なのに、なのにっ。
「………」
「………」
ずっと無言で。
ずっと俯いて。
何やが!?
ねぇ。
わたしといてつまんないん?
じゃあ、何で…。
どんどんと後ろ向き思考が頭の中を占めていく。
こんなことを考えているのが情けなくて。
「あ…わたし、こっちの方向に用事、あるから…」
ありもしない用事を理由に、逆方向の道を指す。
「そ、そう…」
「…じゃ……」
…はぁ。せっかくのイブなのに。
まぁ、いっか。お母さんがごちそう作って待ってるやろうし。
そーだ…お母さんへのクリスマスプレゼント買ってかーえろ。
「愛ーーー!!」
…!?
振り返る間もなく。
「お前が好きだコノヤロー!!」
- 78 名前:聖なる夜は猪木でいこう 投稿日:2003/12/30(火) 13:23
-
猪木に告白された。
いや、もちろんそうじゃないことは分かっているんやけど。
振り返りもせず、石像と化したわたしに、彼女は更に言葉を投げた。
「お前はどうなんだーー!?」
その一言で、石化の呪いは解けた。
振り返り、わたしも叫ぶ。
「わ、わたしも好きだコノヤローーー!!」
ぴき。
すると。
今度は麻琴が石像と化した。
- 79 名前:聖なる夜は猪木でいこう 投稿日:2003/12/30(火) 13:29
-
つ…
つまらなかったのかいや。
あまりにも動かないから、心配になって、近づいてみる。
「ま…麻琴………?」
ぺしぺし、彼女の頬を叩いた。
「あ゛…」
あ・口開いた。
「『あ゛』?」
ぶわっ、と出てくる彼女の涙と鼻水。
「あ゛〜い゛ぢゃ〜〜〜んッッッ!!」
涙と鼻水ぐちゃぐちゃの顔で抱きつかれた。力いっぱい。
う…うぐぐぐぐっ!
く、苦じい…!!
ロープロープ!
- 80 名前:聖なる夜は猪木でいこう 投稿日:2003/12/30(火) 13:39
-
「本当に゛!?嘘じゃない゛よ゛ね!?」
「うが、うがががが!」
「すっごい嬉しいッ!…って『うが』?
あ。」
や、やっと気づいてくれた。
「ご、ごめん…」
「は…はあ…」
…両想いになったところで死ぬところだった……。
「嬉しくってつい…。…ごめんね?」
「大丈夫」
死ななかったし。
「でも」
「平気やし」
やから、そんな目で見んといて。雨の日に捨てられた仔犬みたいやよ、麻琴。
「…本当に大丈夫?」
「うん」
「じゃ…、帰ろ……?」
「うん…!」
今度は、手をつないで。
視線を合わせて。
沢山喋りながら。
「そういえば用事は?」
「あ。そうやった。あんさ、お母さんへのクリスマスプレゼント買いたいねんて。
…付き合ってくれん?」
「もっちろん!いいよ♪」
お世話になったしね〜心を込めて選んじゃうよ!なんて言いながら、軽い足取り。
…言ってみよっかな。
「ねぇ…」
「なに?愛ちゃん」
「もう一回呼び捨てで言ってくれん?」
「え゛」
ぼひゅん。
耳どころか首まで赤くなる彼女。
「あ゛、い゛や、さっきのはえーと……!」
わたわた、踊るような動きをする。
…やっぱりヘタレだコノヤロウ。
fin.
- 81 名前:オチ 投稿日:2003/12/30(火) 13:53
- 翌日。
『おはようございま――?』
愛ちゃん(…呼び捨てはムリです……)と一緒に楽屋に入ると。
じっとこっちを見ている年長組の6人の方々。
「な…何ですか……?」
か、かなり怖い。
「一緒に来てる」
「それに、手、つないでるべ」
「ってことは」
「「告ったなコレ」」
「「「「うん」」」」
な、なんなの…?
「小川ぁ、ちょっと確認していい?」矢口さんが声を張り上げる。
「は、はい…?」
「昨日、高橋に告白した?」
「え゛」
ぼひゅん!
見なくても分かる、昨夜に続き赤くなった顔・耳・首。
すると。
「何だよちくしょー!!」叫ぶ吉澤さん。
…へ?
「まじで〜!?」うなだれる藤本さん。
…は?
「やったべカオリ♪」
「だね♪」
安倍さんと飯田さんがハイタッチをする。
…??
「しょーがない、ほら」
矢口さんが机の中央に置いていた缶を開け、中に入っていたお金(札じゃん!)を
ほくほく顔の飯田さん、安倍さん、石川さんに渡していく。反対に憮然とした顔の矢口さん、吉澤さん、藤本さん。
…………それってつまり。
「あたしが24日に告白するか賭けていたわけですか………?」
静かに、押し殺しつつ言葉を紡ぐ。
「ヘタレだから無理だと思ったのにな〜」
「儲かったべ♪」
「ありがと、小川♪」
「わ、私はよっすぃ〜に無理矢理参加させられて…!」
「よく言うよ梨華ちゃん」
「そーだそーだ。告ったと分かった時に小さくガッツポーズしただろ。
オイラは見たぞ」
どっかーーーーん!!
「アンタらなぁっっっっっっ!!!!」
小川麻琴、今日も叫びます。
完。
- 82 名前:あとがき 投稿日:2003/12/30(火) 13:56
- やっとくっついたコノヤロウ(w
まぁ…待たれた分、呆れかえるような内容ですが。
私、おかずを先に食べきってしまいご飯が残る、というタイプの人間です。
……お茶漬けくらいにはなったかなぁ。
- 83 名前:石川県民 投稿日:2003/12/30(火) 14:08
- 69>名無しどくしゃサマ
うpして一時間も経ってないレスでしたので、えっらい驚きました(w
誤字がえっらい多い話なのに、それでも『すっごい萌え』と言ってくださる名無しどくしゃサマに感謝感激☆
>ここまで萌えたのは初めてですバイ。
いえ〜い、初めてゲット〜★(殴
…今回はお口に合うでさうか?
70>ガイさま
田亀もいいですか♪よかったよかった(嬉
塾長に目をつけるとはいや〜お目が高い!
私の小話って、5・6期が中心なので、塾長のような存在が、悩める子羊の相談役として適任なのですよ。
決して、この子だけカップリングができないから罪滅ぼしにちょくちょく出してる、という訳ではゴザイマセン。えぇ(汗
71>名無し読者さま
…そんなに訛ってますかねぇ?田中さんがもっと訛ってる小説を読んだことがあるので、これっくらいかな〜と考えてみたり。
それでも萌えてくださってありがとうございます、萌えつきないようにお祈りします(w
- 84 名前:石川県民 投稿日:2003/12/30(火) 14:10
- さて、次回。予定日を書くとほぼ100%ウソになるので。
主食がおがたか、副食が田亀なら、デザートはこの組み合わせなのです。
タイトルだけ出しときます。
魚と金魚の物語り
拝。
- 85 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2003/12/30(火) 14:27
- いえいえ更新してくださるだけありがたいのれす。
それにしても大いに笑わせて頂きましたw
くっついてくれてありがとう。気持ち良く年があけられる(w
デザート、楽しみにしてますよーヽ(´ー`)ノ
- 86 名前:sp 投稿日:2003/12/30(火) 21:37
- やっぱり、おがっさんはこうでなくちゃ♪てことで更新乙。
川*´ー`川<もうお腹いっぱいやよーでもデザートは別腹やって。
頑張ってください!と圧力かけてみたり(w
- 87 名前:ガイ 投稿日:2003/12/31(水) 00:07
- 今年最後に大笑いさせていただきました。
やったね!マコ!ってカンジです。。
それでは、デザートの方楽しみにしています。
初笑いもぜひ石川県民さんで・・・
なんて言ってみたり(笑)
- 88 名前:石川県民 投稿日:2003/12/31(水) 23:58
- 12月の26日や27日程度の出来事だと思ってください。
魚と金魚の物語り
- 89 名前:魚と金魚の物語り〜年の瀬〜 投稿日:2003/12/31(水) 23:59
- 年の瀬迫る今日この頃。
もちろん私達も多分に漏れず、お坊さんよりも走り回っております。
でも。
「んあ〜…やっぱり紺野の家って落ち着くよね〜」
この方と一緒だと、忙しいことも忘れ、空気もゆっくりと流れていくのです。
- 90 名前:魚と金魚の物語り〜年の瀬〜 投稿日:2003/12/31(水) 23:59
-
ダイニングテーブルに向かい合って座り。
二人の前には、ココアと一緒に作ったスイートポテト。
やっぱり後藤さんて料理が上手だなぁ。『一緒に』なんて言いましたが、彼女が一人で作ったようなものです。私は多少手伝っただけで。
「そうだ、紅白出場、おめでとうございます」
改めて頭を下げると。
「いえいえ。そっちこそおめでとう」
ぺこりと、頭を下げ返してくれました。
でも…と彼女は笑いながら言葉を続けます。
「あは。紅白出ていなかったら一緒にコタツに入っておソバ食べながら年越せたのかもねぇ」
「一緒に…」
少し、頬が熱くなります。
「紺野、なに考えたの?やらし〜」
きひひ、と意地悪そうに笑う彼女に、ぶんぶんと手を思いっきり振って否定しますが。
「ち、違いますよ〜!」
……赤い顔だと説得力がありません…ね。
- 91 名前:魚と金魚の物語り〜年の瀬〜 投稿日:2004/01/01(木) 00:00
-
多少のごまかしも込めてココアを啜りますが、
こういう時の温かい物は飲んでもあまり意味がなにのかも…。
後藤さんはそんな私を楽しそうに見ています。
「…なんですか」
つい、憮然とした口調で言ってしまう私は幼いのでしょう。
ですが、彼女は全く意に介しません。
「ん?いや〜、来年もこうできたらいいな、って」
「そうですね」
「あ!二人で出掛けるのもよくない?」
「そうですね」
「美味しいもの食べにいきたいな〜」
「そうですね」
「下の名前で呼び合わない?」
「そうで―――え?」
適当に打っていたあいづち。今、とんでもないことに打ちかけていたような……。
うろたえる私に、とても綺麗な笑顔でトドメの一言を。
「ね?あさ美?」
- 92 名前:魚と金魚の物語り〜年の瀬〜 投稿日:2004/01/01(木) 00:01
-
カ――――。
先ほどとは非にならないほどに顔が熱い。
顔の熱で口内の水分も蒸発したのじゃないのかな、すごいカラカラ。
「ご、ごと――」
「アタシ、下の名前『ごとー』じゃないけど」
………言え、と?
すぅ、はぁ。一呼吸置いて。
「ま――」
「『ま』?」
…その笑顔、好きですけれど、今はすっごい恨めしいです……。
「―――――――――――――――き、さん」
- 93 名前:魚と金魚の物語り〜年の瀬〜 投稿日:2004/01/01(木) 00:09
- 言うと、緊張で脱力した私と、がっくり感で脱力したような彼女。
「もっと縮めてよ。それに『さん』もいらない」
「う…」
ぼひゅん、ぼひゅん。
今の私は、きっと金魚よりも赤い。
目は見開いているし口はパクパク。金魚以外の何者でもない。
「………………恥ずかしいです」
声を絞り出して言うと、
「じゃあ来年の課題ね、アタシのこと名前で呼べるように☆」
「…来年のことを言うと鬼が笑いますよ」
何か抵抗したくて、精一杯、意味のない強がりを言う。
けれど、彼女はさらりとかわす。
「それなら、今年の課題にしよっか?
残り一週間もないけど」
「………来年でいいです」
…何だかちょっぴり敗北感。
「来年も、一緒だよ?」
「…はい。来年も宜しくお願いします」
深々と、頭を下げる。
「こちらこそ」
来年も、再来年も、ずーーっと宜しく。
終わり
- 94 名前:あとがき 投稿日:2004/01/01(木) 00:22
- えっちらおっちっらこっそり更新(全然こっそりやない)。
量は少ないですが、まぁ焼肉屋でもらうアメ程度に思っていただければ。
そんなに甘くはないです、お芋のようなほんのりとした甘味を目指したかった。
- 95 名前:石川県民 投稿日:2004/01/01(木) 00:36
- 85>名無しどくしゃサマ
わお!相変わらず速いレスが!!
69サマとは違う方なのでさうかね…?ともあれ嬉しいのです♪
気持ちよく年が明けれましたか?ヘタレな小川さんですから、告白できずに年を明けさせようとも思いましたが、そうしなくて良かった良かった。
86>spさま
そうです、甘いものは別腹なのです♪
この二人はチョコレートケーキのようなものすごい甘さはありませんが、ちょっこり甘いのです。
ですからいくつでも食べられる(え
87>ガイさま
最後に大笑いですか♪私の中ではシリアス担当は田亀、ギャグ担当はおがたかなのです★
初笑いをご所望ですか?それなら今度は何にしよっかなぁ〜〜?(←書くのは遅いがネタはあるので
- 96 名前:石川県民 投稿日:2004/01/01(木) 00:38
- 次回予定は未定ですが、まぁ一ヶ月放置、とかはしませんので。
何を書くかは、これからゆっくり考えマス。
そして皆々様、しょーもない作者ですが、今年もよろしくお願いいたします(ペコリ)。
拝。
- 97 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/01(木) 08:20
- 同一人物ですw
おかげさまで気持ちよく年が(ry
な、なんて甘いごまこん!!微笑ましい…
こちらこそよろしくお願い申し上げます。
作者様のさらなる活躍を祈りつつ…マターリ更新待ってますw
- 98 名前:sp 投稿日:2004/01/01(木) 23:51
- 後藤さんって紺野さんにデレデレすると思うんですよ。
それが凄い出てて良かったです!
いやぁ、お腹いっぱい♪
- 99 名前:ガイ 投稿日:2004/01/02(金) 01:55
- 思わぬところでごまこんが・・・
昨日の紅白を思い出しニヤニヤしながら読ませていただきました。
↑
アフォ
おっと、新年が明けてしまったので私の期待は膨らむ一方でございます。
更新気長に待ってマース。
それでは、今年もよろしくお願いします。
- 100 名前:東風 投稿日:2004/01/03(土) 19:58
- 田亀サイコ〜です!!
更新まってますよ〜。
- 101 名前:石川県民 投稿日:2004/01/22(木) 09:27
- 予想以上に今書いてる小話が進まないので…
ショート・ショートなぞを。
返信レスは小話の時にお返しします…すいません。
- 102 名前:short・short 絵里サイズ 投稿日:2004/01/22(木) 09:35
- 「れーなってさ、私サイズだよね」
「…は?」(また何を言っとる?)
「れーなは私より小さいじゃん?」
「…だから?」(気にしてることをはっきり言うな……)
「だからぁ」
モゾモゾ・ゴソゴソ
(…何故いきなり腕の中に入ってくると?)
「れーなの腕の中って狭いの。それが気持ちいいの」
「…」
「狭いところ大好き〜♪」
「………(照」(…小さくてもいっか)
- 103 名前:short・short ね〜え?1 投稿日:2004/01/22(木) 09:39
- 「ねぇ紺野ぉ」
「何ですか?後藤さん」
「アタシと干し芋…どっちが好き?」
「後藤さんと…干し芋、ですか?」
「そう」
「…………………………う〜〜ん…………………
そんなの後藤さんに決まってるじゃないですか」
「ああそう…」
(…って何でそんなに長時間考えるの!?
アタシと干し芋って同レベル!?)
- 104 名前:short・short ね〜え?2 投稿日:2004/01/22(木) 09:45
- 「ねぇねぇ亜弥ちゃんはさ、
セクシーな美貴とキュートな美貴、どっちが好き?」
「う〜〜ん…どっちの たん も好き!
って言うか、どんな たん でも好き」
「あ、ありがと…(照」
「うん☆夜、白目で寝てる たん も、
焼肉屋に行って、お肉を飢えた獣の眼で見る たん も好き♪」
(…あんまり嬉しくないのは何でだろう……)
- 105 名前:short・short 福井弁講座 投稿日:2004/01/22(木) 09:52
- 標準語 福井弁
はやくしなさい ≒ はよぅしね
※地域によって異なりマス。
「も〜麻琴早く〜、映画始まっちゃう」
「ちょ、ちょっと待って。今起きたとこだから」(ドタバタ)
「えー!も〜〜はよぅしねー!!」
「…え」(ピタ)
「?」
「寝坊したのは悪いと思うけど、『死ね』はひどいよ!!」(涙/逃走)
「え!?ち、違うの麻琴〜!」
- 106 名前:short・short 第一印象 投稿日:2004/01/22(木) 09:57
- 問 :高橋愛の第一印象は?
回答者:新垣里沙
「最初、韓国人か中国の人かと思った」
「え?私って外国人っぽい?」
「違うの、韓国語か中国語喋ってると思ったの」
(……里沙ちゃんヒドい/涙)
- 107 名前:石川県民 投稿日:2004/01/22(木) 10:45
- …こういう小ネタは沢山思いつくのでこんなカタチで消化してみたり。
多分またやることでしょう。。。
拝。
- 108 名前:ガイ 投稿日:2004/01/23(金) 01:08
- 久しぶりの更新お疲れ様です!
私はいつまでも待っているんで、自分のペースで更新していってくださいね!
もちろん小ネタも大歓迎です(笑)
- 109 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/23(金) 18:21
- なかなか面白いですw
ひそかに楽しみにしております…
- 110 名前:石川県民 投稿日:2004/01/26(月) 16:45
- みなさまいかがお過ごしでしょうか。石川県民です。
当地では、大雪です。
三年ぶりの大雪です。
吹雪に遭うほどの大雪です。
いい年なのに、雪かきにかこつけて雪ダルマまで作っちゃうほどの大雪です。
そんな大雪で思いついたネタで更新します。
日本昔話―雪女―
- 111 名前:日本昔話―雪女― 投稿日:2004/01/26(月) 16:47
- むかーしむか〜しあるところに、
えっらい美形な翁と若者の親子が住んでおりました。
翁の名をよっすぃ〜、若者の名はまこっちゃん、といいました。
元々二人は猟師なのですが、村の女性たちによるよっすぃ〜への貢物だけで充分に暮らしていけたのでした。
ある日のことです。
普段から突拍子もない言動をするよっすぃ〜が、
その日もまた突然言い出しました。
「まこ、雪山に行って猟をするぞ」
「ほぇ?なに、いきなり。よっすぃ〜パパ、とうとうボケちゃったの?」
ゲンコツが頭に降ってきました。父の愛です。涙を浮かべ、頭を抑えるまこっちゃんを無視して説明を始めます。
「ほら、ウチらって猟師じゃん?だから雪山に行って猟をするんだよ」
よっすぃ〜はそれだけ言うと、さっさと仕度し始めました。
- 112 名前:日本昔話―雪女― 投稿日:2004/01/26(月) 16:48
-
横殴りで吹雪が荒れ狂う山中、二つの人影が見えます。
もちろんよっすぃ〜とまこっちゃんです。
何ヶ月か振りの山に、冬に、しかも夕暮れに行くというのは賢い行為ではありません。案の定、二人は道に迷ってしまいました。
吹雪の中では、視界に入るもの全てが白い為、恐ろしいほどに方向感覚が狂います。が・普段でもふらふら歩くまこっちゃんにとっては、あまり変化がないようです。
――それが効を奏したのか、親子は無事、山のあちこちに建ててある山小屋の一つにたどり着くことができました。
- 113 名前:日本昔話―雪女― 投稿日:2004/01/26(月) 16:49
-
夜。まこっちゃんが、ふと目を覚ますと、囲炉裏の火が消えていました。
このままでは寒いので、もう一度熾そうと体を起こしかけた、その時です。戸口に誰かが立っていることに気付きました。
目の大きい、口を真一文字にした、びっくり顔の女性です。
(か、かわいー…)
まこっちゃん、あっけなく一目惚れです。
(でも…誰だろ……村の人じゃないし)
眠気は吹き飛び、声を発することもできずにただ見ていると、女性は音も立てずによっすぃ〜の方へと近づきました。
そして、よっすぃ〜の顔をまじまじと見つめ………ぽっ、と顔を赤くしたのです。
(…だあぁぁぁっ!なによっすぃ〜パパの寝顔に見惚れていんだあぁっっ!!)
叫び出したいのも我慢して、それでもただ見ています。と。
ヒュウ、と細くさせた息をよっすぃ〜に吹きかけます。するとよっすぃ〜の体はどんどんと凍っていきました。
やがて、よっすぃ〜を完全に凍らせると、まこっちゃんの方へと振り向きます。すると自分を見て睨んでいるまこっちゃんの眼光に、多少ビビりつつも、静かにこう言いました。
「あんさわけーから生かすわ。けんどだっか話したら命ねーがよ」
- 114 名前:日本昔話―雪女― 投稿日:2004/01/26(月) 16:49
-
「…は?」
訳も分からず呆けていると、女性は凍ったよっすぃ〜をかかえて出ていきました……。
翌朝、昨日の猛吹雪が嘘のように空は晴れ渡っていました。まこっちゃんはたった一人で下山し、村の人たちにはよっすぃ〜が死んだことだけを伝えました。そして村の全女性と共に、その死を悼むのでした。
悲しい冬も過ぎ、ゆっくりとですが、まこっちゃんの住む村にも春が訪れました。
そんな待ち望んだ春の日のことです。
仕事を終え、家路につこうとしていたまこっちゃんは、途中で女性が行き倒れているのを見つけました。
あわあわと慌てふためき、自分の家に持ち帰って介抱します。
よくよく見てみると、その女性は少々サル顔ですがなかなかの美人です。
かなり衰弱していましたが、まこっちゃんの必死の看病に、少しずつですが確実に良くなっていきました。そして回復した後も、まこっちゃんの人柄に惚れ、そのまま住むことになったのです。
彼女の名は愛。暑さに弱く、少し訛っていましたが、何年も二人は幸せに暮らしていました。
- 115 名前:日本昔話―雪女― 投稿日:2004/01/26(月) 16:50
-
ある冬の日のことです。
その日は朝から雪が降り始め、夜になると、それは吹雪へと変わっていきました。その吹雪のすごさに、まこっちゃんは今まで忘れていたことを、ふと思い出したのです。
「…そういえば昔、こんな体験をしたんだ」
まこっちゃんは、その始終開いている口から、あの夜のことをぽつり、ぽつりと話しました…
「……で、結局その女性が何て言ったのか分からなかったけど…」
これで話しを閉めようとしたところで、今までうつむいて聞いていた愛は、口を開きました。
「『あなたは若いから生かしておきます。けれど誰かに話したら命はないですよ』って言ったんだよ」
「そうなの?愛ちゃん、よく分かったねー」
「うん。だって…」
そのときです。部屋の中だというのに突如二人の間で吹雪が荒れ狂いました。
「それ、言ったのわたしだもん」
- 116 名前:日本昔話―雪女― 投稿日:2004/01/26(月) 16:50
-
気付くと、愛の着ている物は真っ白な着物に変わっていました。
「話したらダメだ、って言ったのに…」
「分かんないよ!」
「…とにかく。話したらもう一緒には居られないから…さいなら」
そう言って戸口から出ていこうとします。
「待って!……殺さないの?」
「……好きになりすぎて殺せないの」
途端、まこっちゃんの目に涙が溢れ、ぐしぐし泣きながら雪女の着物の裾を引っ張ります。
「…やだよぉ……愛ちゃんが…いなく、いなくなるの、やだぁ…………」
行かないで…、その弱々しい呟きについ振り返ってしまいました。
すると―――。
(う………っ!)
去ろうとしていた決心が、大きく傾きました。まこっちゃんの瞳は、雨の中寒さに震える捨てられた仔犬そのものだったのです。
- 117 名前:日本昔話―雪女― 投稿日:2004/01/26(月) 16:51
-
――まこっちゃんは、亡き父よっすぃ〜の才能を確かに引き継いでいました。そう…『フェロモン』を……。
これはたとえ雪女といえども敵うはずもありません。
雪女はため息をつくと、その場に座り込みました。
いつの間にか、いつもの愛の格好に戻っています。
「愛ちゃん?」
「あのさ…」
「?」
「他の人には、言ったらダメやよ?雪女に会ったことと、わたしが雪女だってこと。それさえ守ってくれたらずっと傍に居られるから」
「うん!」
――こうして二人は末永く一緒に暮らしましたとさ。
終わり。
- 118 名前:おまけ 投稿日:2004/01/26(月) 16:57
- 「でもさぁ、愛ちゃん。どうしてすぐに来てくれなかったの?
よっすぃ〜パパが死んでからずっと一人で寂しかったんだから」
「……………標準語の勉強してた」
「…あぁ」
「それに…よっすぃ〜パパは死んでないよ。氷漬けにして仮死状態にしただけ」
「はっ!?」
「ねぇマコ、自分のお母さんのこと覚えてる?」
「ちゃーみーママのこと?あたしが小さいときに死んだ…」
「それ、ウソ」
「嘘ぉっ!?」
「実はちゃーみーママは雪女なの」
「!!?」
「そして…わたしのお姉ちゃん……」
「☆!?」
「え、でも、肌黒かったけど…地黒の雪女なんて……」
「雪焼けでああなったの」
「…なーるほど」
「やっぱり昔、よっすぃ〜パパが秘密を漏らしちゃって、お姉ちゃんは実家に戻ってきちゃったんだけど…ずっと忘れられなくて、恋しくて、わたしに連れてくるように頼んだの。
凍らせて連れてきて家で解凍して…」
(よっすぃ〜パパは冷凍食品か?)
「今はちゃーみーお姉ちゃんと仲良く暮らしてる。だからね、あのときマコに言った言葉はただのハッタリ。どんな場合でも人間に姿を見られたら言わなくちゃいけない習わしなの。で・その人間が気に入ったら相手の家に住む…、という掟」
「そ…そうだったんだ」
目の前が暗くなりつつも必死で耐えるまこっちゃん。漢(オトコ)です。
「でも、パパとママは何で姿を見せてくれないのさ。みんなで一緒に住めばいいじゃん」
愛は首を横に振ります。
「わたしたちの邪魔をしたくない、って言っていたけれど本当は…」
「本当は?」
「…自分たちの邪魔をされたくないだけだと思う……すっごくイチャイチャしてるの、あの二人…」
「……………」
今度こそ終わり。
- 119 名前:石川県民 投稿日:2004/01/26(月) 16:58
-
1話出来ると、もう一羽出来たりしちゃいます。
日本昔話―鶴の恩返し―
- 120 名前:日本昔話―鶴の恩返し― 投稿日:2004/01/26(月) 16:58
- むかーしむか〜しあるところに、
ごとー、という名の若者がおりました。
ある日のことです。ごとーが田んぼ沿いの道を歩いておりますと、一羽の鶴が羽を広げながらもがいていました。
不思議に思い、鶴に近づいてみると、足が鳥を捕まえる罠に掛かっていたのです。
くぇくぇと鳴き懇願する瞳の鶴に、きゅん、ときたごとーは、鶴を罠から逃がしてやりました。
喜ぶ鶴は西の空へと去り際に言いました。
「ありがとうございます。後で恩返しに参ります、完璧です」
「それはいーから、もう捕まんなよ〜」
ごとーは鶴が見えなくなるまで見送りました。
- 121 名前:日本昔話―鶴の恩返し― 投稿日:2004/01/26(月) 16:59
-
それから数日経ったある晩のことです。
家の扉を叩く音がするので開けてみると、人が一人、立っていました。垂れた大きな目とふにふにほっぺの、可愛らしい少女です。
ごとーの心臓がどっくん、と跳ね上がります。
彼女は旅の途中で道に迷ったと言います。
「それならさ、ウチに泊まれば?」
一人よりも誰かがいた方が断然に楽しいので、ごとーは喜んで少女を招きいれました。
ピスタチオを出しつつ話を聞くと、少女の名前は紺野、といい、どこにも行く当てがないと言います。
「んあ!ねぇねぇ、それなら一緒に暮らそうよ!!」
さも名案!と言わんばかりの発言に、ついつい紺野は頷きました。ですが心中では紺野も喜んでいました。
- 122 名前:日本昔話―鶴の恩返し― 投稿日:2004/01/26(月) 16:59
-
「それではすみませんが、お部屋をお借りしますね」
立ち上がり、一礼してはた織り部屋へと進む紺野を、着物の帯を掴んで慌てて引き止めます。
そのときに勢いあまって帯を引きすぎ、彼女を後から自分の方へと引き寄せる形になりました。
そのまま紺野は、ごとーの足の間に尻餅をついてしまいます。
「ねー、ごとーと一緒にいようよ〜」
クールに見られがちのごとーですが、実はとてもベタベタしたがる方なのです。ただ寂しいから同じ部屋に居て欲しかっただけなのですが、引き寄せて座らせたときに紺野の着物の前がはだけ、ちら、と太腿が見えたときにちょっぴりイケナイ気持ちになりつつも、そう言うのでした。
すると紺野は、困惑した声で、でもはっきりと言いました。
「あの、ですが私、以前助けていただいた鶴なので、はたを織ってその恩返しをと…」
これにはごとーは少なからず驚きました。
「そーなの!?」
「はい」
「…………でもさぁ、普通、そーいうことってバレたら駄目なんじゃないの?」
「あ。」
- 123 名前:日本昔話―鶴の恩返し― 投稿日:2004/01/26(月) 17:00
-
……………。
「どーしましょう…」
ますます困惑した声で言われても、ごとーの方がどーしましょう、な気分です。
その時です。ごとーの頭の中で閃いたのは。
「あのさ、紺野。はたを織ってくれるより、ごとー的にはもっと嬉しい恩返しがあるんだけど」
「え?」
よく意味が分からず、振り返りながらごとーの顔をみつめていた紺野でしたが。
「きゃ!?」
ひょい、と抱え上げられたかと思うと、そのままごとーの寝床へと連れていかれました。
「あ、あのごとーさん…?」
「してくれるんでしょ?恩返し…」
***************
それ以来、心優しい若者ごとーは、ほぼ毎晩鶴に『恩返し』をしてもらい、幸せに暮らしたそうな。
( ´Д`) <めでたしめでたし♪
川o・-・) <…そうでしょうか?
完。
- 124 名前:石川県民 投稿日:2004/01/26(月) 17:04
- ひっそりこっそり
大量更新。大漁更新。
もいっちょ、なんて思ってみましたが無理でした。
多分の次回予告でございます。
日本昔話―浦島れいな―
…雪関係ないやん。
すっかり昔話が楽しくなってしまいました♪
あと、みきあやをできそうな日本昔話をどなたか教えて下さい(汗
あんまり思いつかない……。
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/26(月) 17:14
- めちゃくちゃワラターヨ。
昔話にパパママにピスタチオはねーだろw
- 126 名前:石川県民 投稿日:2004/01/26(月) 17:15
- 97>名無しどくしゃサマ
毎回毎回名無しどくしゃサマのお早いレスに小躍りさせてもらってます★
今回はちょっと雰囲気が変わりました(ギャグには変わりないですが
98>spさま
書いていて自分でもツッコミました。
後藤さん骨抜かれすぎ!と。今回のごとーさんはちょっぴり強気です。
99,108>ガイさま
優しいレスに嬉し涙ポロリ♪
小ネタも大歓迎ですか、ならばお言葉に甘えさせていただきます☆
100>東風さま
100番おめでとうございます、とくに何もでませんが(汗
次回の田亀にご期待ください。……あ・やっぱり期待しないでください(謝
109>名無しどくしゃサマ
なかなか面白いですか、よかったよかった♪
日常的な笑い、を狙っております。
- 127 名前:石川県民 投稿日:2004/01/26(月) 17:17
- 125>名無飼育さま
おや、もう読まれた方がいる!
多少(?)めちゃくちゃな方が笑えるかなー、と思いましたのでw
- 128 名前:石川県民 投稿日:2004/01/26(月) 18:12
- 大雪だから、という理由で雪にちなんだショート・ショートを。
- 129 名前:short・short 降り始め 投稿日:2004/01/26(月) 18:15
- 「あ…」
「雪、降ってきたね」
「はい………」
(紺野…空見上げたまま黙ってる……
やっぱ故郷思い出すのかな…)
(かき氷…小豆金時食べたいな…)
- 130 名前:short・short 積雪 投稿日:2004/01/26(月) 18:17
- 「雪、積もったねー。ね、れーな、
雪ダルマ作ろっ!?」
「えぇっ!?」
「な、なに…?」
「雪ダルマって…中に人を埋めて作るんやなかとっ!?」(ビクビク)
「れーな…違うよ」(がっくり/脱力)
- 131 名前:short・short 積雪2 投稿日:2004/01/26(月) 18:22
- ベランダにて。
「梨華ちゃん、何やってんの?」
「あ、みてよっすぃー、雪ダルマ♪」
「おぉ。可愛いじゃん、でも…わざわざ二つ作ったの?」
「うん。こっちの大きめのがよっすぃーで、こっちが私」
「マジで?うぉー、嬉しいよ!」
「よっすぃv」
「梨華ちゃん…」
室内にて。(ココアを啜りつつ)
「あーあ、完全に二人の世界に入っちゃったのれす」(ずずーっ)
「まったくや。ウチらの存在を忘れてるで」(ズズーッ)
- 132 名前:short・short 白銀の世界 投稿日:2004/01/26(月) 18:30
- 「麻琴ー、ベランダで何やってんのー?寒くないん」
「あ〜、うん。雪、積もったなぁと思って。ずっと見てた」
「本当だぁ。…結構積もったね」
「でしょ。なんか…地元のこと思い出しちゃって……」
「あ………」
「…………」
「…ね……寂しい?」
「……うぅん、寂しくないよ。…愛ちゃんがいるから」
お互いちょっと顔が赤くなる。
「…愛ちゃんは?寂しくないの?」
「………
ちょっと寂しい、かも」(笑)
「なんだよ〜それー」(悔)
(嘘だって、冗談やわ麻琴。でも……悔しがってる姿が面白いから
もうちょっと黙ってよーっと)
- 133 名前:石川県民 投稿日:2004/01/26(月) 18:35
- 以上デス。雪ネタ出しつくしました。明日から雪も収まるそうですからちょうどいいかも。
あと……今回はsageてみたのですが、分かりづれぇーよっ!!、って方はお知らせください。
ageたほうがいいのかsageてても無問題か…ちょっと考えたもので。
ではでは。
拝。
- 134 名前:ガイ 投稿日:2004/01/26(月) 23:35
- 大量更新お疲れ様です!
早速昔話シリーズ読みました!
めちゃくちゃ面白かったです!
もっとこのシリーズが読みたいなぁなんてお願いしてみたり・・・(笑)
こっそり期待しております。
- 135 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/01/27(火) 07:15
- 大雪万歳。大雪のおかげで良いものが読めたw
作者様もよう面白い物を考えなさる。凄い。
毎回笑ったり萌えたり忙しいでつw
- 136 名前:読者かもしれない。 投稿日:2004/01/27(火) 14:14
- 雪女、サイコーです!
小川の仔犬顔と高橋愛だけに、
どうする?愛FULL状態ですな。
こりゃまた失礼しやしたっと。
- 137 名前:sp 投稿日:2004/02/02(月) 18:23
- やっぱり小高大好きだー!!と叫んでみたり(w
石川県民様の小説はいつも小ネタが盛り沢山で、思わずプププッと笑ってしまいます。
それではこれからも小説書き頑張って下さい。m(_ _)m
- 138 名前:石川県民 投稿日:2004/02/17(火) 16:48
-
今日のタメゴト。
天災と遅筆者は忘れた頃にやってくる!
…すいません、別に開き直っているわけじゃあないんです。
スレッドもどんぶらこっこと川下に流れたころの更新でございます。
予定通りの「浦島れいな」デス。
「雪女」を読み直すと、行間がなくて読みづらいことが判明して反省中。
無駄なあがき程度には変えてみました。
ついでに語り口調も変えてみました。
どぞ。
- 139 名前:日本昔話−浦島れいな− 投稿日:2004/02/17(火) 16:49
- むかーしむか〜し、あるところに、
浦島れいな という若者がおったそうな。
ある日のこと。れいなが浜辺を歩いておると、
まん丸ほっぺとうずまきほっぺの子供が二人、何かを囲んでおった。
「何やっとぅ?」
れいながそう声をかけると、
「うっせぇ、あっち行け」
「あっち行け」
そう二重に返された。
しかし。
「あ゛?」
お得意の一睨みをすると、
子供たちは ぴゅー と逃げていきおった。
そして。
二人が囲んでいた場所を見ると。
「…女の子?」
ちっちゃな甲羅を背負った子が、
ちっちゃくなってぷるぷると震えておった。
- 140 名前:日本昔話−浦島れいな− 投稿日:2004/02/17(火) 16:50
-
「なんイジメられとぅ、ほら立って」
れいなは腰をかがめながら女の子を立たせ、
あちこちに付いた砂を払ってやった。
その女の子は自分よりも小さくて、
可愛い顔立ちをしていたが、儚げな印象を持っておった。
「どうした?」
女の子はおずおずと口を開いた。
「あの、わたし亀の化身なのですけど…」
「うん」
「いいお天気ですから、お茶とみかんを持って
ひなたぼっこを、と思いましたら」
「…浜辺ですることじゃなか」
「さっきの二人にみかんを取られて……」
うにぅ、と口を曲げて
涙ぐむ亀の頭を、なでなで、れいなは言った。
「しょうがなかと。あのひとすじふたすじ兄弟は
食べ物を見つけると奪ってしまうから。
命があるだけ良かったと思わんと」
「はい……」
「さ・もう海へ帰ったらよか」
「……はい。
あの、ありがとうございました」
深々と頭を下げる亀を手で制し、
「礼はいいっちゃ。
それより、もうイジメられないようにするっちゃ」
「はい!」
こうして亀は海へと帰っていった。
- 141 名前:日本昔話−浦島れいな− 投稿日:2004/02/17(火) 16:51
-
それから数年経ったある日のこと。
れいなが海に糸を垂らしておると、
どこからか「れいなちゃん」と自分を呼ぶ声がする。
辺りを見回しても誰も居ない。
すると「れいなちゃん、こっちだよ」なんて誘導する声。
素直にそれに従うと。
「れいなちゃん、久しぶり」
なんと、以前助けた亀が海面から
ひょっこりと顔を出しておった。
「お、亀。久しぶりやなかと。
どげんしたん?」
「あのねー…、そっちに行ってもいい?」
「よか」
引っ張って岩の上に上げると、
(え、嘘、あのときと同じ亀!?)
れいなが驚くほどに亀は成長しておった。
ぱっつん前髪は変わらないものの、
背はれいなより伸びており、控えめな笑みを佇ませるその顔は
“可愛い”と表現するよりも“美人だ”というほうが正しいほどだった。
「で・どげんしたと?」
はやる鼓動を抑えつつ亀に問う。
「あのね、お礼にきたの」
笑顔を三割増にさせた亀に対し、
「お礼ぇ?」
訝しげな顔を見せるれいな。
「うん。えっとね…」
背中に手を回し、ごそごそと
何かを探る。
(あの甲羅は四次元ポ○ット!?)
「じゃ〜ん」という声と共に取り出し、
差し出されたものは…
「…何やと、コレ」
防水加工の施されたチケット。
「れいなちゃんを竜宮城に
ご招待〜☆」
「…マジで……?」
- 142 名前:日本昔話−浦島れいな− 投稿日:2004/02/17(火) 16:52
-
展開の早さに頭がクラクラしつつも、
面白そうだと思い―れいなは、亀の背中に抱きついた。
甲羅は意外と平べったかったので、たやすく抱きつけた。
「チケットを持っていれば、水の中でも
息ができるからね」
そう言って亀は海へと潜り始めた。
なるほど、確かに息はできる。
便利だなぁ、などと思いながら
水中見物をしていると。
「うぇ…」
つい、声を出してしまった。
目の前にはピンクのお城。
えっちぃ建物を彷彿とさせる、ものすごいシュミであった。
「乙姫さまのシュミなの…」
消え入りそうな声で亀は言いおった…。
- 143 名前:日本昔話−浦島れいな− 投稿日:2004/02/17(火) 16:53
-
竜宮城の中では水もなく、
普通に息もできた。
大広間に通されると。
「――おぉ♪」
そこにいたのは一人の女性。れいなは思わず歓声をあげた。
少々色が黒くてアゴが出ておるが、なかなかの美人じゃった。
そんなれいなの後ろで亀は
頬をぷっくりさせてむくれているが気付かない。
女性は恭しく頭を垂れた。
「絵里を助けてくれてありがとうございます。
私、乙姫の梨華といいます。どうぞ楽しんでいってくださいね☆」
トーンの高い声にくらくらしつつそれは置いといて。
「…『絵里』?」訝しげに後ろを向くと。
亀は呑気に言う。
「あれ…名前言ってなかった?」
「言ってなかと」
「亀の化身の絵里だよ、
改めて宜しくね、れいなちゃんv」
絵里のニコニコ顔に、
どっくん。
と大きく脈打つが、
「うん…」平静を装った。
(えーい静まれ心臓ー!!)
実際に静まったらヤバイのじゃが。
- 144 名前:日本昔話−浦島れいな− 投稿日:2004/02/17(火) 16:54
-
少々混乱しつつあるれいなを尻目に、
喋りにイッパイイッパイになった梨華乙姫の
踊りが披露させることになった。
天井からミラーボールが下りてきて。
――そして、始まった――
鼓膜が破れそうなほどの大音量の音楽に
目も眩むほどの色とりどりの光。
そんな音楽と光の下で行われる
乙姫の一人ディスコに一人ユーロビート、
一人ブレイクに一人レイヴ。
ありとあらゆる激しい踊りが外れた笑いを誘い、
れいなはすっかり楽しくなった。
そして出てきた料理は…焼肉。
れいなが目を丸くしていると、
皿を出した勝気な美少女が口を開いた。
「海の中だから、海鮮料理だと思っていたでしょ。
それじゃあアタシら共食いじゃん」
その言葉に納得しかけると、
椅子の影から少女がひょっこり顔を出した。
「とかなんとか言ってるけど、
単にカニさんが焼肉好きだからだよ」
「黙れ、平目。
乙姫だって肉好きだからいーじゃん」
「カニ…?平目…??」
二人の会話に首を傾げると、椅子の影から出てきた少女が口を開く。
よくよくみると、この子もかなりの美少女じゃった。
- 145 名前:日本昔話−浦島れいな− 投稿日:2004/02/17(火) 16:54
-
「あのね、わたしが平目の化身のさゆみ。
さゆって呼んでね♪
で・こっちがカニの美貴。
ここで番張ってるの」
「張ってねーよ!!」
「…あのさ、二人とも」
ナイスボケにナイスツッコミ。
水を差したのは、ずっと黙って立っていた絵里じゃった。
「れいなちゃん、聞いてないよ…」
れいなはとっくに肉を焼き始めておった、
ピーマンは隅によけながら…。
- 146 名前:日本昔話−浦島れいな− 投稿日:2004/02/17(火) 16:55
-
乙姫の踊りに
炭火焼肉に
魚の化身達とのマンザイ…もとい会話。
楽しい日々は続いてゆくが、
その内れいなは陸地を懐かしく思うようになった。
帰りたい旨を乙姫に伝えると、
悲しそうに言われた。
「そうですか…。踊りはまだ
三章残っていますが…残念です」
残念がる箇所が少々違う気がするが、
名残惜しまれながら、れいなは再び絵里の背中に
乗っかって、竜宮城を去っていった……。
- 147 名前:日本昔話−浦島れいな− 投稿日:2004/02/17(火) 16:55
-
浜辺につき、久々の地上の空気を満喫しておると、
絵里はおもむろに背中に手を回した。
「乙姫からのオミヤゲの…ってあれ?」
あれあれ言いながら背中に手を回した状態でくるくる回る
絵里を変に思いながら声をかける。
「…どした?」
「…………玉手箱忘れたぁ」
ガクーーっと浜辺に手を着き脱力する絵里を見、
「別にいらんと」そう声をかけるも、
「渡さないといけないものなの…」
シクシクと自分の殻ならぬ甲羅に閉じこもる絵里に、
額に手をつきながられいなは深く深くため息をついた。
ぽんぽんと甲羅を叩き、顔を出すように促すれいな。
絵里がひょっこり顔を出したところで言った。
「じゃあ・さ、
玉手箱はいらんと、アンタもらうっちゃ」
「……………………………はい?」
「うん、それがいいっちゃ」
一人結論を出し、一人納得するれいなに
半ば強制的に手足を出されて絵里はうろたえる。
「え、ちょ、ちょっと待って…」
オロオロする絵里を見て悲しそうに一言。
「……嫌?」
「嫌じゃないよ」即答。
――つい本音をぶちまけた絵里は
その後、竜宮城に戻ることはなかったそうじゃ。
え?都合が良すぎる?
ま・昔話なんてそんなもんじゃろ。
完。
- 148 名前:石川県民 投稿日:2004/02/17(火) 17:01
- はーいオチが弱いでーす、自覚してまーす。
さて、次回は。
当地は再び大雪になったのですよ(過去形…)。そのときに考えた
日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜―
です。本当は浦島れいなと一緒にうpしたかったのですが…(凹)
『多分』一週間以内にうpさせていただきます……
- 149 名前:石川県民 投稿日:2004/02/17(火) 17:16
- 134>ガイさま
こっそり期待されてありがとうございます(多謝)
調子に乗って、まだ日本昔話シリーズは続きます、続いちゃいます。
作者、すっかり楽しくなってしまいました♪
135>名無しどくしゃサマ
笑ったり萌えたりと忙しくありがとうございます(喜)
「せっかくの大雪、ネタにしないと損!」という訳の分からん損得勘定で書かせていただきました☆
136>読者かもしれない。サマ
びみょ〜なHNがステキすぎます。というか
『どうする?愛FULL』上手い!上手いです!!
…………ネタに使わせてもらえません?
137>spさま
やっぱり小高大好きだー!!とspさまに続いて叫んでみたり。
小ネタ盛り沢山ですか?狙っても外れることがありますので、
下手な鉄砲数打ちゃ(ry の精神で書いてマス。
- 150 名前:石川県民 投稿日:2004/02/17(火) 17:17
- それでは次回まで。
拝。
- 151 名前:ガイ 投稿日:2004/02/18(水) 01:01
- 待ってました〜!
このシリーズすんごい好きです。
1冊の本になったらいいなぁ〜などとと思いつつ、次回の話に期待です。
- 152 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/02/18(水) 16:05
- れなえり可愛いよれなえり。
かなりツボです。好き。
自分も製本化キボンヌw
- 153 名前:石川県民 投稿日:2004/02/21(土) 17:09
- すっかり春うららな陽気です。
が!冬の話です…。気にしなーい気にしなーい。
予告通りいきます。
日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜―
- 154 名前:日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜― 投稿日:2004/02/21(土) 17:10
- むかーしむか〜しのお話です。
「雪女」のその後の、ある日の朝のこと…。
「ふぁ…暑い…」
愛はパタパタ、手で風を送ります。
姿勢はすっかりだらけており、
体全体を使って「暑くて仕様がない」と表現しちゃっています。
そんな愛を、まこっちゃんは自分で自分の腕をさすりつつ
眺めています。ちなみに今、外ではあちらこちらに氷が張って
います、そんな気温です。
- 155 名前:日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜― 投稿日:2004/02/21(土) 17:10
-
まこっちゃんに雪女とバレて以来――
愛は開き直っていました。
毎日三食をカキ氷にするわ、
お日様が雲間から顔を出せば「暑い」といってだらけるわ――。
ちなみに今は、着物の胸元や裾をはだけさせていますので、
愛の正面に座っているまこっちゃん、朝から一人我慢大会です。
そんなまこっちゃんの苦労を知るはずもなく、
愛はのんきに「あ・ほーや」などと声を上げます。
「あんね、ちゃーみーお姉ちゃんから連絡があったんやけど、
あさって、よっすぃ〜パパと一緒に帰ってくるんやと」と。
「えぇっ!」これには驚きを隠せません。
「でね、パパからの伝言。
『ごちそう用意しておきやがれ』って」
その言葉にまこっちゃん、ぴき、と固まり。
そして、ふにゃふにゃ〜と崩れ落ちました。
「まっずいなぁ、今月ピンチなんだけど。
ごちそうなんて用意できないよ」
- 156 名前:日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜― 投稿日:2004/02/21(土) 17:12
-
一瞬、まこっちゃんの頭上に
どうする 愛 F U L L
の言葉が浮かびますが、借金は嫌だなぁと思います。
古風な考え方です。
むかーしむか〜しのお話なので。
「そういえばさ。夏に引っ越してきた
田中ちゃんとこの絵里ちゃん、
冬になってから見かけないけれど、どうしたんだろう」
「あぁ。冬眠しとるんやと」
「ふ〜ん」
既に強靭な精神力を備えたまこっちゃんは、
その程度では驚かなくなりました。
漢(オトコ)です。
――ちなみに。
その田中ちゃんが絵里を冬眠させない装置、
“コタツ”を発明するのはもう少し経ってからとなります――
「どうりで田中ちゃんの機嫌がずっと悪いわけだ。
お隣さんの紺ちゃんが怯えていたよ」
「紺ちゃんといえば…随分年の差が離れた二人やよね、
ごとーさんと」
「よっすぃ〜パパとごとーさんは同い年だしね。
昔は二人で2トップやっていたんだって」
「紺ちゃんとマコと同い年っぽいよね」
「………あたしがちっちゃな頃から
紺ちゃんはあの姿だよ」
「…ほー」
「昔ね、ごとーさんに聞いたら『あはっ、ツルは千年亀は万年♪』って
答えが返ってきたの」
「…まぁ」
「それ以来、あの二人については
深く考えないようにしてる」
「…うん」
「ねぇ、……愛ちゃんていくつなのさ」
「…………マコよりはちょっぴり年上やよ」
『ちょっぴり』ってどれくらいやねん!と思いつつ、
あえて尋ねませんでした。さすがです。
「…でもさ、マコ」
「なにさ」
「話しを変えたって、あの二人が帰ってくることには
かわらないんやからね?」
「……いーじゃん、現実逃避くらいさせてよ」
- 157 名前:日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜― 投稿日:2004/02/21(土) 17:13
-
その後、二人は話し合い、なにか物を作り、
それを売って足しにしよう、ということに決まりました。
何を作るかで相談し、愛の「カキ氷」を却下して、
造花を作ることにしました。
そして、翌朝までには、カゴ一杯程度の花を作り、
それを、町まで売りに行きます。
まこっちゃんは、カゴを持ち、ラーメン屋の大将を彷彿とさせる
バンダナを巻き、いざ出発です。
「マコ頑張ってぃな〜」
愛の力の抜ける声援を背に受け、
町へと出かけてゆくのでした。
- 158 名前:日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜― 投稿日:2004/02/21(土) 17:14
-
町まで行くには、山を一つ越えなければなりません。
えっちらおっちら、まこっちゃんは歩きます。
峠にさしかかったところで
まこっちゃんはあるものに気付きました。
「お地蔵様だぁ…」
そこには五体のお地蔵様が立っていたのです。
まこっちゃんは一輪ずつ造花をお供えし、
手を合わせて、花が売れるようにお願いしました。
やっとこさ町につきました。
まこっちゃんは元気よく花を売りますが、
町の人は造花に目もくれません。まこっちゃんはしょんぼり。
そこへ、同じようにしょんぼりとした人が通りました。
その人を見ていると、時折思い出したかのように
「笠、笠はいりませんか」
と細い声で言います。
その人も町の人たちは相手にしません。
しょんぼり同士、目が合いました。
「ね、お花は売れた…?」
その人はまこっちゃんに声をかけました。
鼻の頭の赤い、三角巾に
割烹着という姿ですがキレイな人です。
まこっちゃんはぷるぷる首を振ります。
「ね…よかったら、あなたのお花と
私の笠、交換しない?
私はどうせこのまま持って帰っても主人が怒るだけだから……」
それはいい考えだと、そっくりそのまま
造花と笠を交換しました。
取り替えた笠を背負って、まこっちゃんは
ひょこひょこ、村へと続く山道を戻っていきました。
再び峠に差し掛かります。
行きと変わらず、お地蔵様がちょこん、と立っています。
「なんか…寒そう」
まこっちゃんはお地蔵様の頭上の氷を取り除き、
一体一体に先ほど交換した笠を被せていきました。
「れ?笠が一つ足りないや。
どうしよう………」
最後の一体の小さなお地蔵様の前でうんうん唸ります。
「ごめんね、これで許して?小さなお地蔵様」
自分が被っていたラーメン屋の大将もどきのバンダナを
小さなお地蔵様に結びました。
「うん、けっこう似合うね♪」
最後に手を合わせ、お地蔵様にところから去りました。
- 159 名前:日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜― 投稿日:2004/02/21(土) 17:14
-
愛の待つ我が家へと戻り、
今日一日あったことを、愛に話しました。
「――ってわけでさ、よっすぃ〜パパには
ごちそうは我慢してもらうよ」
「でも、さ。ごちそうなかったら、
マコ、よっすぃ〜パパにコブラツイストとかジャーマンスープレックスとかプロレス技かけられるんやないの?」
「うぅ関節技かけられたらヤだなぁ…。
けど、それならそれでもいいや」
ふにゃふにゃ笑いながら言ったまこっちゃんの頭を、
愛は、わしわしと撫でます。
「マコがそれでいいなら
わたしは構わんよ」
愛は、笑顔を返しました。
- 160 名前:日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜― 投稿日:2004/02/21(土) 17:15
-
夜も更けて……。
寝ていたまこっちゃんの目が、ぱちっと開きました。
隣で寝ている愛を揺すります。
「ねぇ愛ちゃん、起きてよ」
「ん〜…なんやが。一晩に二回も無理…」
「何言ってるの!」
「じゃあトイレ?」
「違うよ、音がするの」
「……音?」
愛の目もぱっちり開きます。
確かに、耳を澄ませば
山のほうから何か聞こえます。
「ニイ、ニイ、とか何とか」
「うん、聞こえる…」
「声…だよね」
「うん…」
そかも、そのニイニイとかいう声は
どんどん大きくなっていきます。
何者かがこの家に近づいている、ということです。
ニイ・ニイ・ニイ・ニイ・ニイ。
ぴた、と声が止みました。
そして。
『どぉりゃ〜っ』
『せいりゃぁ〜!』
『うぉりゃあ〜!!』
『どらぁぁ〜!!』
そんな四つの掛け声(?)とともに
四つの地響きがなりました。
「な、なに!?」
まこっちゃん、半ベソです。
そして最後に。
『とりゃ〜眉毛 ビイィ〜ム!!』
そんな声が聞こえたと思った瞬間、
一際大きな地響きが起こり、家がぐらぐら揺れました。
揺れが納まったところで外に出てみると。
「「え…」」
- 161 名前:日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜― 投稿日:2004/02/21(土) 17:16
-
みかん箱大の箱に、溢れんばかりのベーグルが。
他にもカキ氷シロップ、かぼちゃ、ゆで卵等々、
数々の品が投げ置かれてありました。
遠くのほうを見ると、なんとまこっちゃんが
笠を被せたお地蔵様たちが去っていくところだったのです。
最後尾にいたバンダナを巻いた小さなお地蔵様が
自分たちを見ている二人に気付き、
「お二人さん、おっ幸せに〜!!」
そう叫びながらぶんぶか手を振り、
二人の視界から消えていきました。
- 162 名前:日本昔話―雪女U〜ガキ地蔵〜― 投稿日:2004/02/21(土) 17:16
-
姿も見えなくなり、声も聞こえなくなっても、
ふたり呆然と立ち尽くしていると、
「二人とも…どうしたの」
隣の家の戸が開き、そこから顔をだしたのは
ごとーさんの家の紺野さんです。
「あ…紺ちゃん。
あのね、お地蔵様がニイニイとやって来て
とりゃぁ〜とどっすん、眉毛ビームで家の前にこれが…」
「マコ、マコ、分からんて」
まこっちゃんなりに今の出来事を要約しましたが、
意味不明の言葉になりました。
が。
「あ。そういうこと」
紺野さん、あっさり納得です。
「それ、お地蔵様からのお礼だよ。よかったねv」
そこまで言うと、家の奥からの
『んあ〜、紺野寒い〜〜!』
という声で。
「あぁ!ごとーさんすみません!!
じゃあ、オヤスミまこっちゃん、愛ちゃん」
紺野さんはあっさり家に引っ込みました。
まだ二人で立ち尽くしていると、愛がぽつり、と口を開きました。
「マコが…お地蔵様に貢がれた……」
「えぇ!なんでそうなるのさぁ!!」
「マコの浮気者ぉぉぉっっ!」
「ご、誤解だよ愛ちゃぁっん!!」
――…まこっちゃんが愛を納得させるのに、小一時間ばかりかかったそうです――
――こうして二人、無事に(?)よっすぃ〜とちゃーみーを
おもてなしすることができましたとさ。
めでたしめでたし?
- 163 名前:石川県民 投稿日:2004/02/21(土) 17:17
- 終了〜。今回なにげなく、今までの昔話のキャラが出演しちゃっています。
本当は次回の話で昔話シリーズは終わらせようかと思っていましたので。
が。
151>ガイさま。
152>名無しどくしゃサマ。
お二人様の温かいレスで、実際に製本化にならなくても、
一冊の本になるくらいの量になるまで、このシリーズを続けようと思いました。
本当にレスは書く気力になります。
改めて御礼申し上げます。(ぺこり)
- 164 名前:石川県民 投稿日:2004/02/21(土) 17:20
- 151>ガイさま。
152>名無しどくしゃサマ。
本当に一冊の本になったらいいですね(w
纏めて、「よい子の日本昔話」として…
そうなれば「大人の日本昔話」も……(爆
一冊の本になるにはまだまだ量が足りません。
ですのでもうしばしお付き合い願います。
- 165 名前:石川県民 投稿日:2004/02/21(土) 17:25
- さてさてさて。
次回は、道を逸れて
プロジェクトM〜コタツの発明〜
-れいなの苦難-
にでもしようかと思いましたが。
この番組、見たことないので却下、と。
(好奇心を持たれた方、いらっしゃったらお知らせください☆書くかもしれませんので♪)
次回は…ブレーメンの辻さんが可愛くて仕方がないので辻さんメインのを…
といいたいですが、
多分、こっちのほうが先にできそうなので…
日本昔話-六期DE桃太郎-
- 166 名前:石川県民 投稿日:2004/02/21(土) 17:26
- ではでは。なるべく近いうちに。
拝。
- 167 名前:石川県民〜恥〜 投稿日:2004/02/21(土) 21:21
- 今更ながらに訂正をば。
>>156 田中ちゃんとこの絵里ちゃん etc…
話しが繋がっているのですから、正しくは
浦島ちゃんとこの絵里ちゃん etc…
になりますね、はい。
鳴呼恥さらし。。。
- 168 名前:読者かもしれない。 投稿日:2004/02/21(土) 22:04
- ネタ盗られた。・゚・(ノД`)・゚・。
このネタはナマモノなので新鮮なうちに。
- 169 名前:ガイ 投稿日:2004/02/22(日) 00:55
- ガキ地蔵、とても面白い!
キャラ総出演も良かったです!
次回の更新もわくわくしながらお待ちしております。
- 170 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/02/22(日) 10:13
- 川*`ー’)Ъ
もう最高。お腹パンパンなのれす。
掛け声がえっらいナイスですw
最後まで付いて行きますやよー
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/22(日) 14:54
- ガキ地蔵めちゃめちゃおもろかったです〜♪
次回作も面白そうなのばっか!
プロジェクトM面白そうなんで読んでみたいです(w
- 172 名前:新潟ライス 投稿日:2004/02/22(日) 21:43
- 面白いッス。雪シリーズ(昔話)うけまくりです(^_-)
- 173 名前:石川県民 投稿日:2004/02/26(木) 22:25
- 再びショート・ショートなぞを。
ちょっと現代に戻らせていただき…
藤本さんオメデトサンshortshortを。
- 174 名前:short・short 藤本さんオメデトサン 投稿日:2004/02/26(木) 22:34
-
「「「藤本さーん」」」
声のしたほうを向くと、六期の三人がバタバタと走り寄ってきた。
「ん?なに?」
「あの……」
「藤本さん、誕生日おめでとうございます」
「これ、わたしたちからのプレゼントです」
絵里の科白をれいなが遮り、さゆみがずいっ、と紙袋をアタシに差し出した。
うーん、ナイスコンビネーション。
「あ、マジで?ありがと♪」
プレゼントをもらって嬉しくないやつなんていない、
嬉々として紙袋を受け取った。
「でも、メインのプレゼントはこれからなんです」
は?メイン?コース料理じゃあるまいし。
そう思っていると、
がし!と。
アタシの右腕を絵里、
左腕をれいなが掴んで。
アタシをその場に固定させていた。
――は?――
目の前にはさゆみ。
「三人を代表してわたしが…」
「――へ?」
チュ。
――唇にかする程度の感触。
なにをされたか理解するより、
「きゃー」なんて言いながら顔を真っ赤にした
さゆみを先頭に、三人は走り去ってしまった。
- 175 名前:short・short 藤本さんオメデトサン 投稿日:2004/02/26(木) 22:38
-
(ふーん、可愛いとこあるじゃん)
さっきのことを、そう思いながらぷらぷらと歩く。
すると。
「お、藤本」
「あ・飯田さん」
「誕生日オメデト」
「あ。ありがとうございます」
深々とお辞儀を返す。
「これで酒が飲めるな」
「飲めませんって」
マジで言っているのかイマイチ分からない。
「それでは――
エーゲ海より愛を込めて」
「――はい?」
ぷちゅー。
ほっぺたに、柔らかくて生温かい感触。
「ゴチソーさん」
そう言って飯田さんは去っていった。
- 176 名前:short・short 藤本さんオメデトサン 投稿日:2004/02/26(木) 22:45
-
(…よく分からないなぁ飯田さんて)
首を捻りつつ歩く。
すると。
「お〜ミキティ〜〜!!」
「あ〜よっちゃんさん〜」
ずざざ、と滑り込むようにアタシの元にやって来たよっちゃん。
「誕生日おめでと」
「ん、ありがと。
これでアタシのほうが年上だね」
「二ヶ月の間だけじゃん」
「それでも年上じゃん」
あまり意味のない会話をする。
よっちゃんと一緒だと、こんな空気が楽しい。
「はいこれ」
差し出されたのは片手大の包み紙。
「ウチと梨華ちゃんからの誕生日プレゼント」
「お〜ありがと〜〜」
受け取った包み紙を抱きかかえる。
「そ・れ・と☆
ウチからのあつ〜〜いベーゼもv」
「――え?」
ガシッ。
チューーーーーッ。
(ギャーッ!)
- 177 名前:short・short 藤本さんオメデトサン 投稿日:2004/02/26(木) 22:49
-
(うぅ…おもいっきり舌を入れられた……)
よろよろと、みょ〜な脱力感の負われて歩く。
「あー藤本ー!!」
「…矢口さん」
ニコニコ笑顔のちっちゃな先輩。
「ね、藤本。かがんでかがんでv」
「?はい」
素直に従う。
チュッ。
「へへ…誕生日おめでと」
唇が触れた額にそっと触る。
「矢口さん…」
「あ!あとなっ、これッ、誕生日プレゼント!!」
あたふたと小箱を取り出す矢口さん。
「あ、どうも…」
受け取ったまま見つめていると、
顔を赤くしながら、にへへ、と笑ってくれた。
- 178 名前:short・short 藤本さんオメデトサン 投稿日:2004/02/26(木) 22:55
-
(矢口さん…可愛かったなぁ♪)
にやにや思い出し笑いをしながら歩く、怪しいアタシ。
「たん〜♪」
小走りでやって来て、そのまま抱きつく
愛しい可愛い女の子。
「亜弥ちゃんも今日仕事だったの」
「うん、昨日急に入ったの♪」
「でね、たん♪」
「なに、亜弥ちゃん?」
「私、最初から見てたの」
ピキッ。
「さ…最初……?」
「六期の皆さんのところから」
にっこり笑顔が物凄く恐ろしい。
「たんの…」
「え――?」
「たんの馬鹿ーっ!!」
――亜弥ちゃんからのプレゼントは――その自慢の
上腕二等筋から繰り出されたビンタでした――(涙)
終わり。
- 179 名前:石川県民 投稿日:2004/02/26(木) 23:02
- はい、藤本さんオメデトサンshort・short でした〜。
川TvT从 >どこがだよ!!
从ToT从 >たんの馬鹿ー!!
いいんですよ、松浦さんとのイチャイチャベタベタした話なんて、
私より万倍上手な作家さま達がきっと書いてくれますでしょうし。
道藤…マイナーですよねぇ、やっぱり。(ガックリ)
- 180 名前:石川県民 投稿日:2004/02/26(木) 23:04
- 日本昔話シリーズは、明日か明後日にでも更新します、
レスのお返事もそのときにさせていただきますm(__)m
それでは。
拝。
- 181 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/02/27(金) 11:52
- あぁ良いですねーこうゆうのw
不覚にもすべて萌えてしまった。
- 182 名前:ガイ 投稿日:2004/02/28(土) 00:48
- 番外編も面白いですね〜
何はともあれ、遅くなりましたが藤本さんハッピーバースディ♪
- 183 名前:石川県民〜反省〜 投稿日:2004/03/08(月) 23:48
- 明日か明後日と言っていたのに……大人って嘘つきでイヤですね〜。
………申し訳ございませんでした。
いつも以上にぐだぐだですが、いってみましょー、
日本昔話―六期DE桃太郎―
- 184 名前:日本昔話―六期DE桃太郎― 投稿日:2004/03/08(月) 23:54
- むかーしむか〜しあるところに、
ケメじぃさんと、なっちばぁさんがおりました。
ケメじぃさんは山へ柴刈りに、なっちばぁさんは川へ洗濯にいきました。
ばぁさんが川で洗濯をしていると、
上流から大きな桃がどんぶらこっこと流れてきました。
「あんら〜、大きな桃だべさ、
おじぃさんと一緒に食べるべさ」
大きな桃をよっこらしょ、と家まで抱えていきました。
山から帰ってきたじぃさんはびっくり。
桃を撫でながらいいます。
「立派な桃ジャン」
「いっちょ、切ってみるべさ」
キラーン。包丁を掲げ、ばぁさんは言います。
その時です。
- 185 名前:日本昔話―六期DE桃太郎― 投稿日:2004/03/09(火) 00:04
- 桃がカタカタカタカタ動きました。
まるで『切られてはかなわない』と
言わんばかりの動きに、じぃさんとばぁさんはビックリ。
すると。パカッと桃がひとりでに二つに割れたのです。
そして、なんと桃の中には、元ヤンかと思われるほどの目つきで、
包丁を掲げたまま固まっているなっちばぁさんを、
睨んでいる子供がおったのです。
「…子供?」
「子供だべさ」
なっちばぁさんは、包丁を床に置き
子供を抱え上げました。
「じぃさん、桃から子供が生まれたべさ、
この子を私たちの子にしないべか?」
「いいんじゃない?」
じぃさん、あっけなく賛成です。
「よーし、それじゃあ、名前をつけないと。
う〜〜〜〜〜〜〜ん…………………。
あ!閃いた!!桃から生まれたから、
ミキ太郎だべさ!!」
じぃさんと子供(ミキ太郎)はガクッと肩透かしを食らいます。
なぜ桃から生まれてミキ太郎なのか。
なっちばぁさんの思考回路は普通じゃありません。
――こうして、桃から生まれたミキ太郎は、
ケメじぃさんとなっちばぁさんの子になりました――
- 186 名前:日本昔話―六期DE桃太郎― 投稿日:2004/03/09(火) 00:13
-
それから何年か経ったある日のこと。
ミキ太郎はすくすくと育ち、今ではなっちばぁさんよりも
背丈を越えておりました。
そのミキ太郎が囲炉裏の近くで寝転がりながら、
ぼそり、と呟きました。
「鬼退治、しよっかな」
「「…は?」」
近くにいたケメじぃさんとなっちばぁさんは
突然の言葉に呆れるしかありません。
しかし、ミキ太郎は気にする様子もなく、
刀とティッシュ箱を掴むと、
寝グセを手櫛で整えながら
「行ってきまーす」と出て行きました。
「ちょ、ちょっとミキ!」
なっちばぁさんの声も聞こえないフリをします。
「…なんだべさ、あの子」
ミキ太郎の姿が見えなくなったところで、
そう言いました。
ケメじぃさんは一言、
「…あたしって出番、ないじゃん」
と言ったそうです……。
- 187 名前:日本昔話―六期DE桃太郎― 投稿日:2004/03/09(火) 00:21
-
さて、当のミキ太郎は
村を出、どんどこ歩いていきます。
途中、道端にいた犬と、
山でつかまえたサルとキジをお供にし、
どんどん進んでいきます。
サルが、
「あたしって可愛い♪」と言うものですから、
犬が、
「なによー私のほうが可愛いわよ」と噛み付きます。
犬とサルが『可愛い対決』をしている間、
キジは、
「どっちでもいいけん」
けーんけーん言いながら周囲を飛びます。
道中、ずっとこの状態で、かなり賑やかな一行です。
野を越え山越え海に出ます。
そこからは、みんなで力を合わせ、舟をギーコギーコと漕いでいきます。
「こら、サル、鏡を見てないで舟を漕ぐ!」
みんな、で…。
「犬!キジを食おうとするな!!」
ちか、らを、合わせて……。
……………………とにかく。
なんやかんやと言いつつ、
鬼が島に到着です。
- 188 名前:日本昔話―六期DE桃太郎― 投稿日:2004/03/09(火) 00:38
-
鬼が島は、べつに岩山が鬼の形をしているわけでもなく、
いたって普通の島です。
いえ、あえて特徴を挙げるとすれば………ここは南の島。
ヤシ系の樹木やハイビスカスのような花が咲き乱れ、キレイな色の魚が泳いでおり、
島全体に、とろぴか〜るな雰囲気が漂っています。
島に一行が上陸した途端、
三つの影が行く手を阻みました。
「人間ですね。この島には上陸できませんよ」
「ねぇ、大人しく帰ってよ」
「そうれす」
順番に言葉を紡いでいきます。
この鬼が島に住む鬼たちです。
しかし。
「これが…鬼ぃ?」
ミキ太郎、大きく本音をぶちまけます。
――確かに。
頭に一本、もしくは二本、小指の先程度の角が
生えている以外は、普通の人間にしか見えません――
(むしろ…可愛い子ばっかりじゃん)
ミキ太郎がそんなことを考えているとは露知らず、
鬼は言います。
「大人しく去らないのなら…実力行使です!!」
鬼たちが一斉に棒を取り出し、構えました。
――すると。
「へぇ…アタシとやるんだ?」
目を細め、うっすらと笑うミキ太郎。怖いです。
鬼たちは体を震わせ、一歩、後ずさります。
売られたケンカは高価買取、を信条とするミキ太郎、
すらり、と刀を抜きます。
そのまま固まったまま動かない、
一番近くにいた鬼に―――斬りかかりました。
「成敗!」
カシィィィィン―――!
- 189 名前:日本昔話―六期DE桃太郎― 投稿日:2004/03/09(火) 00:45
-
(…え?)
振り下ろした刀は、金属同士のぶつかる音を響かせました。
ミキ太郎、よくよく見てびっくり。
なんと、ミキ太郎と鬼の間に人がおり、
その人物がミキ太郎の刃を自分の刀で受け止めていたのです。
その人物は言います。
「ちょっとミキ、コンノに何すんのさ」
「――え?
…あっ!ごっちん!!」
なんと、隣村のごっちんこと後藤です。
ミキ太郎はひどく狼狽しました。
「な、なんでごっちんがここに!?」
「あは。鬼退治退治してるの」
「イミ分かんないって、それ」
とりあえず、お互い刀をしまいます。
- 190 名前:日本昔話―六期DE桃太郎― 投稿日:2004/03/09(火) 01:01
- ミキ太郎、改めて話しをきくことにします。
「で・なんでごっちんがここに?」
「最初はミキと同じ、鬼退治に来てたんだけどね。
今はー、鬼退治退治?」
「疑問形で聞かれても困るって。だから何それ」
「鬼退治にきたヤツを退治すんの」
「………なんでまたそんなことを」
後藤はちらり、と先ほど助けた鬼、コンノを見ます。
「あは♪だってコンノが、
すっごく幸せそうにゴハンを食べてくれるんだもん♪」
(うぉーい、色香に迷ってやがる…!)
言われたコンノはコンノで、恥ずかしそうにうつむきながら言います。
「後藤さんのゴハンは美味しいですからつい…」
(おいおい、鬼が餌付けされちゃってるよ…)
ミキ太郎、すっかり呆れモードです。
- 191 名前:日本昔話―六期DE桃太郎― 投稿日:2004/03/09(火) 01:32
-
「ここはさ、鬼たちの楽園なんだ。
もう昔みたいに鬼は人間に悪さをしないからさ、
ミキ、鬼退治は諦めてよ」
後藤にこう言われたら、頷くしかありません。
それに、確かに、先ほどの、鬼――コンノ――に斬りかかったときなど、
ミキ太郎が悪人状態だったのですから。
「それにミキのお供たちも戦う気がないみたいだし?」
そう言われて振り返ってみると、お供の二匹と一羽は、
楽しそうに鬼たちと一緒に遊んでいました。
ミキ太郎、軽くため息をつきます。
「わぁーったよ、大人しく帰るよ」
「悪いね」
苦笑いしている後藤に背を向け、
お供たちを呼び寄せようとしたその時です。
「ごっちーん、何かあったのー!?」
遠くから後藤を呼ぶ声がします。
何気なく声がしたほうを向くと、
遠くのほうから誰かが一人、近づいてきます。
よくよく見ると、頭に角が一本、ちびっと生えた女の子でした。
ちょっとサルっぽいなー、とは思いますがかなり可愛い子です。
「んあ、マッツー。もう済んだから気にしなくていいよ〜」
女の子(マッツー)はそれでも近づき――バチッとミキ太郎と目が合いました。
「ごっちん……この人は……?」
「んあ、鬼退治に来たミキご一行様。もう帰るから」
その言葉に女の子(マッツー)は不満そうに声を上げました。
「え〜!ゆっくりしていけばいいのに。ね?そうしませんか!?」
前半は後藤に。後半はミキ太郎に言葉をかけます。
意外と押しに弱いミキ太郎、うろたえます。
「え〜と……」
「あ、あたしマツウラアヤって言いま〜す☆」
「は、はあ…」
「色々、人間の世界のこともお伺いしたいんでぇ、
よければウチに来ませんかぁ?」
「え!?」
――そのまま、ずるずると引っ張られるようにミキ太郎は連れていかれました。
その後――――
鬼が島で鬼退治退治として活躍するミキ太郎の姿があったそうですとさ。
めでたしめでたし。
完。
- 192 名前:石川県民 投稿日:2004/03/09(火) 01:54
- まずはレスのお返しから。
168>読者かもしれない サマ。
ごめんなさい、泣かせてしまいました(謝
>このネタはナマモノなので新鮮なうちに。
すいません、「加熱すれば古くなっても食えるかな」
とか考えてしまいました。(爆
169>ガイさま
『ガキ地蔵』というタイトルなのに
(ё)の出番が少ないです。(爆
これでいいのかと少し思いもしましたが、
「ま・いっか」と開き直ってしまいました。
170>名無しどくしゃサマ
お腹ぱんぱんだなんて…
沢山作りすぎちゃったので、もう少し食べていただけませんか?(w
171>名無し飼育さん様
>次回作も面白そうなのばっか!
…ってイヤン♪(キショ
プロジェクトM、はいご注文承りました〜!
書きます、書かせてください!!(ヤメレ
172>新潟ライスさま
おいしそうなHNですね(じゅるり)
∬∬´▽`) >新潟の米サイコー!
川‘ー‘) >福井の米も美味いやよー!
……石川の米も美味いです(w
ウケていただいて、感謝感激の極みでございます☆
- 193 名前:石川県民 投稿日:2004/03/09(火) 01:59
- 嬉しい限りです♪
181>名無しどくしゃサマ
ありがとうございます。
すべてに萌えていただける、そんな好き嫌いのない方、大好きです☆
182>ガイさま
今回も藤本さんづくしでゴザイマス(w
けれど、後藤さんおいしいところとりすぎ☆(禁句)
- 194 名前:石川県民 投稿日:2004/03/09(火) 02:06
- さて次回ですが…すみませんが
二週間後、三週間後にうpになる可能性大です、大きすぎです。(汗
次回は(まだ)冬の話ですのでなるべく早くうpしたいのですが…
プロジェクトM〜コタツの発明〜
-れいなの苦難-
リクエストもいただいたことですし♪
『浦島れいな』の続編のような形となります。
ただ…私、プロ○ェクトX は見たことないので……
昔話とそんな大差ない話となります、ご了承くださいませm(__)m
- 195 名前:石川県民 投稿日:2004/03/09(火) 02:07
-
それではではなるべく近いうちに……
拝。
- 196 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/03/12(金) 16:20
- 正直笑いまくった。桃鬼モエーw
食う喰う!いっぱい食べる!いっぱい食べます!(;´Д`)
次回更新、マターリ待ってますやよー
- 197 名前:石川県民〜近況状況〜 投稿日:2004/04/02(金) 12:35
- 年度末前後。社長は社員をコキ使います。
現在、コキ使われ真っ最中ですので、ここを待っている、という奇特な方、済みませんがもうしばらくお待ちくださいませ。
社長のごむたいが済み次第、書きますので。
- 198 名前:石川県民〜募集!〜 投稿日:2004/04/02(金) 12:37
- そして。
昔話シリーズで、読みたいCPがあればリクしてください!
元ネタには困っていませんが、CPに困り始めました…。
既にでているCPでも、まだ出ていないCPでも可でございます。
4〜6期中心だと書きやすいですが……
マイナーも受付けます♪
また、『ガキ地蔵』のように、○○の続編、というリクもOKです。
書ける範囲は善処したいと思っていますので、
心優しい方のリク、お待ちしております。
拝。
- 199 名前:名無し 投稿日:2004/04/04(日) 02:02
- 作者さんお待ちしてました!!と言っても初めましてですが…とてもおもしろくて楽しみにしてます!!ちなみにリクCPはみきれなでつ…wお忙しそうですが社長に負けずに作者さんのペースでがんばってください!!マターリ待ってます!!
- 200 名前:sage 投稿日:2004/04/07(水) 22:33
- リクokですか!
じゃあ『日本昔話―六期DE桃太郎』―の
あやみきの続編と後紺の出会った頃の話がみたいですね〜
コキ使われて忙しくてもマターリ待ちますのでがんがって下さい!
- 201 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/07(水) 22:44
- すみません ミスってageてしまいました(汗
戻しときます ホントすみません(滝汗
- 202 名前:石川県民 投稿日:2004/04/15(木) 22:14
- 本っ当に更新が遅くて申し訳ありません。
ええ、もう亀と呼んでください、亀、亀と。
川*^−^ >呼んだー?
呼んでません。
それでは参ります、れっつらごー。
- 203 名前:プロジェクトM〜こたつの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 22:16
-
じっと。
ただ見ていた。
「絵里のばか…」
その悪口は本人には届かない。
祈るように。
すがるように。
ただ一点を見ていた。
- 204 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 22:18
-
プロジェクトM〜コタツの開発〜
―れいなの苦悩―
- 205 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 22:26
- ここは山々に囲まれた村。
多少キテレツな住民ばかり住んでいたが、至って平和な村である。
そんな村に、れいなは昨年の夏に越してきた新参者だ。
最初は慣れない山村での生活だったが、今となっては村人たちとも打ち解け、
日々を楽しく過ごしていた。
「浦島ー、いる?」
一点――押入れ――を見つめていたれいなは、
ゆっくりと声のほうを振り向く。
「なっちさん…」
戸を開け入ってきたのは、隣の家のなっちばぁさんだった。
「絵里ちゃんは?」
その言葉にゆっくりと首を横に振る。
「そっか…まだ起きないんだ……。
ね、浦島。なっちのトコ来てご飯食べなよ」
「え?」
「いいっしょ?ご飯は一人で食べるものじゃないべさ。
それにミキが鬼ヶ島に行ったきり帰ってこないから、なっちもケメじぃも若い話し相手が欲しいべ」
『ね?』なんて言われながら天使スマイルを出されれば、
れいなも頷かざるえなかった。
- 206 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 22:39
-
「さぁー食べるべさ食べるべさ♪」
ぐつぐつと煮える石狩鍋を囲み、れいなはぽつりぽつりと言葉を出す。
「絵里、押入れに入れていた布団と布団の間で冬眠しちゃって…」
「冬眠して、どれ位…?」
「えーっと……もう四ヶ月は経ってますね」
「まだ寒くなる日もあるし……」
「き、きっともうちょっとで起きるべさ!」
「そうだといいんですが……」
「……」
「……」
「一人に…」
「…?」
「…え?」
「一人になると…色々考えて。
夏・秋と、しつこい位に絵里と一緒にいて」
なっちばぁさんとケメじぃさんは相槌を打つのも躊躇われ、
椀を持つ手も動かせなかった。
「あぁ、こんなにも自分の心を絵里が占めていたんだなぁ、って」
箸を椀に置き、うつむくれいな。
「寂しいんです」
それはれいなの本心だった。
「絵里、あたしが一人だダメなのを知ってるくせに……。
だから…」
うつむくれいなの肩が震える。
「だから絵里に腹を立てているんです」
「…はい?」
元々丸いなっちばぁさんの目が更にまん丸くなる。
「あたしを勝手に一人にして」
「はぁ…」
「とりあえず、絵里が起きたら怒鳴ってやろうと思ってます。
あ・おかわりいただけますか?」
そう言って椀を差し出す。
「あ…はいはい」
受け取り、よそいながら思う。
(最近の子は…強いべさ)
ケメじぃさんはポツリと言った。
「…やっぱりあたしの出番、ないじゃん」
- 207 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 22:55
-
翌日。
はあ、と白い息を吐き吐き、あちらこちらにできた薄氷を避けながら川原までれいなはやって来た。
「う〜、寒い〜〜」
かじかむ指に、はぁーっと白い息をかけながら桶で水を汲む。
すると。
「やーっと見つけた、浦島れいな」
足元から、どことなく聞いたことのある声が。
見ると一匹の沢ガニ。
どろん。
そんな音と煙と共に現れたもの。
思わず水の入った桶を落としてしまう。
「カ…カニの美貴……さん!」
「や、久しぶり」
片手を挙げるその姿は、半年前に会った頃とまったく変わりがなかった。
突然の再会に呆けてしまうが、次の瞬間、れいなは身構えた。
「まさか絵里を引き戻しに……!?」
警戒心を露にするれいなに、
「ちがうちがう」と手を振る。
「美貴は梨華乙姫からの祝いの品、届けに来たの。
ほら、こっちがカツオブシ」
「あ・どうも」
「それとこれ。乙姫作のポエム」
「持って帰ってください」
「だめ。絶対に渡すように言われてるから」
半ば押し付けるように渡される。
腕の中のカツオブシとポエム集(特に後者)を
持て余し気味に見つめるれいなに、美貴の声が降り注ぐ。
「実はさゆみも来たがってたんだよねー」
さゆみ、は竜宮城で知り合った平目の化身であり、れいなとも仲が良かった人物でもあった。
「来てくれればよかったのに…」
さゆみにも会いたかった、それはれいなの本心だった。
「や、平目は川を渡れないから」
「…へ?」
- 208 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 23:04
-
――魚の化身たちは、その魚の生息範囲なら行くことはできる。
平目は海水魚だから、さゆみは淡水の川をのぼってこれない
カニは種類は違えど、海水にも淡水にも生息しているから
美貴は来れた――
――のようなことを言った。
本当はケンゾクだのテリトリー云々というよく分からない言葉があったので、
噛み砕いてこう解釈した。
説明を終えた美貴は辺りを見回す。
「で。その当の新妻はどこに?」
「新妻って…。絵里なら冬眠してますよ」
「あ・そーか、冬眠するんだった」
「はい」
「だから浦島の機嫌が悪かったんだな」
「はあぁっ!?」
――いや、確かに悪うなっとったけど、何でこの人が知っとぅ?――
言葉にせずとも、表情で読み取ったのだろう、
美貴が意地悪い笑みを浮かべる。
「水汲みに来たとき、かなり凶悪な顔になってたから分かるの」
あなたに言われたくないです、その言葉は飲み込んだ。
その代わりに、ぺたぺた自分の顔を触る。
「…そんなに出とったんか……」
- 209 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 23:13
-
「うん、出とった」
ニヤニヤと、嫌な笑みを浮かべて面白がる美貴の顔を
はり倒したくなるが、そこはぐっとこらえる。
「じゃ、アタシはとっとと退散するから」
「え、もう?
ゆっくりしていけばいいじゃないですか。あたしらの家に来てくださいよ」
「んー、連れ待たせてるから」
連れ、の一言に首を傾げる。
(さっきさゆは来んと…)
「違う、さゆみじゃない」
心の内を読んだように言う。
「じゃあ――」
「美貴ー、遅い〜」
――誰ですか、という言葉は遮られた。
声のしたほう、つまりは川のほうを見ると、
すらりとした手足に長身の背丈、長い髪をもった女性がこちらへと向かってきていた。
その女性は少しむくれたように美貴の前に立つ。
「ごっめーん、話し込んでた。
れいな、紹介するよ。これが連れ。鮭の化身の圭織」
「なになに?カオリの話?」
――また変なのが出た――それがれいなの率直な感想だった。
- 210 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 23:24
-
圭織、は辺りを不思議そうに見回す。
「あれー?絵里はぁ?」
「冬眠してるってさ」
「なぁんだ、つまんない」
唇を尖らせるその姿は見かけよりも幼く思わせるが、それが不思議と似合っていた。
圭織はれいなの方を見る。
「こちらが絵里のダーリンね」
「だーりん!?」
あまりにも聞き慣れない言葉に、つい語尾が荒くなる。
だが圭織は意に介さず、うっとりと空を見上げながら言葉を続ける。
「あぁ…恋人たちが仲睦まじく身を寄せ合う季節に、
ハニーは土の中にもぐっているというのね……」
「いえ、布団と布団のスキ間…」
「いいの、カオリには分かるの」
「…はあ」
あまり関わらないほうがいい人なのかもしれない。
失礼なことをふと考える。
「そして眠り姫となったハニーのせいで、ダーリンの機嫌が悪いのね
カオリには分かるわ」
「なっ!?」
美貴はともかく、初対面の相手にもわかるくらい眉間のシワでもひどくなっているのかと、
くにくに、シワをほぐしたら。
美貴にぶはっと噴き出された。
- 211 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 23:38
- はらただしく思いつつも圭織の言葉はまだまだ続く。
「じゃあ眠り姫を起こせばダーリンの機嫌は直るというのね」
「いや、だから起こせないんだってば圭織」
しっかりツッコむ美貴に、ぐりん、と振り向く。
「なんでよ」
「冬眠なんだから」
「じゃああったかくしたら起きるでしょ」
「…そういうものなの?」
「さあ、カオリは詳しく知らない。囲炉裏の近くに置いてたら起きるんじゃない?」
「あ・それじゃあダメでしたけど」
つい二人の化身の会話に口を挟む。すると。
「…もうやってたんだ……」
ジト目でつっこまれる。
「う゛」
気まずくなって目線を下のほうにずらす。
圭織がコホンと咳を一つ。
「それはおいといて。
それくらいの暖かさじゃダメなのね。
なんかこう…あったかい空気を閉じ込めれたらいいのにねぇー……」
「はぁ…」
う〜〜〜ん、と三人で考え込む。
「あ〜〜、考えても分からない。
圭織、もう帰ろう」
「えぇー!」
「そうね。人の眠り姫についてあれこれ考えてもつまんないし。
カオリ達は帰るね」
「「じゃーね♪」」
「そんなぁ…」
どろん、と再びケムリが出て。
「じゃ。元気で」
サケの背に乗った沢ガニが、片手、ならぬ片バサミを上げる。
そしてカニを乗せたサケは悠々と川を下っていった………。
れいなにカツオブシとポエム集、そして難題を残して………。
- 212 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 23:45
-
さらに翌日の朝。
「う〜…寒か」
再び寒気が舞い戻ってきたのか、今日はここ最近にない寒さだった。
お向かいの家からだろうか、「麻琴ー気持ちいい天気やでー!」と聞こえるが、
この寒さを『気持ちいい』というのは彼女だけだろう。
もぞもぞ、布団の中で動くが、布団の外に出よう、という気がまったくおきない。
(あたしも冬眠したいっちゃ…)
そう考えて再び寝入ろうとするれいなの頭に。
「……………ん?そーだ!」
なにかがひらめいた。
- 213 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/15(木) 23:54
-
その日、なっちばぁさんは不思議な音を聞いた。
ばりばりと、なにかを壊すような音だった。
音のするところを辿ると、どうやら隣の家から聞こえてくるらしく、
恐る恐る窓から中を覗くと。
「な、なにやってるべさ!」
れいなが床板を剥がしていたのだった。
その声に気づき、振り向くれいな。
その顔にはなにかやる気みたいなものが見えていた。
「あ、なっちさん。おはよーございます」
「浦島、なにやってるべさ?」
「なにって、絵里を起こす準備です」
「はあ?」
床板を剥がすことが何故絵里を起こすことになるのか、さっぱり分からない。
「今日一日、うるさいと思いますけど気にしないでくださーい!」
「はぁ…」
(気にするな、っていうのは無理だべさ……)
- 214 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/16(金) 00:20
- 剥がす音が聞こえなくなると、今度はトンテンカントンテンカンと金槌の音がする。
さすがに、なっちばぁさんだけでなく、他の村人たちも気になったが、
れいなは説明する時間も惜しい、と言わんばかりに釘を打ち付けていた。
夕方。トンテンカンの音も止み、再び覗いてみると、
床の一部が凹の形になっていた。窪んだところにもしっかり板が張ってある。どうやらそこが
一日中のトンテンカンの部分だったらしい。
その窪みが何を意味するのか分からないでいると、れいながそこに火鉢を置き、火を熾す。
さらに、窪みより大きな机を火鉢の上に置くようにし、その机の上に掛け布団をかけた。
そう――それは所謂、堀ゴタツ――
「浦島…これ……」
一息ついたれいなに話しかけるなっちばぁさん。
「へへ。昨日『あったかい空気を閉じ込めるようなものがあればいい』って言った
人がいたんです。そして、今日布団の中で丸まってるときに思いついたんです。
あったかい空気を閉じ込める布団と、あったかくなる火鉢。机が支えになって火鉢の火が布団に移らないようにしたっちゃ」
「はぁ〜。よく思いついたべさ〜〜。
……………愛の力ってやつ?」
最初は素直に感心していたのに、後半はイジワルそうに笑う。
予想通り、れいなは
「そんなんじゃなかですと!」と顔を真っ赤にさせながら、必死に否定している。
そんなれいなを微笑ましく思う。
「はいはい。それじゃなっちは退散するべ。あとはお二人でごゆっくり〜♪」
「なっちさん!」
結局、イジワルな笑みのままなっちばぁさんは扉を閉めた……。
- 215 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/16(金) 00:33
-
なっちばぁさんが去り。
れいなはコタツの中に手を入れ、程よく暖まったのを確認すると、
おもむろに視線を押入れに向けた。
「絵里…」
ゆっくりと近づき、そろそろと襖を開ける。
布団と布団のスキ間に手をいれ、ゆっくりと絵里の甲羅を引き出す。
甲羅は大皿程度の大きさで、よくもまぁこの中に全身が入るものだなと改めて感心する。
甲羅をコタツの中に放り込む。
しばらくすると。
モゾモゾと、中からなにかが動いているのが分かった。
そして。
「…………れいな?」
ぴょっこりと。
眠そうな顔だけを。
四ヶ月ぶりに見る顔を。
布団の間から出した。
「絵里―――…」
色々言おうと思ってた。
寂しさや。
怒りや。
悲しみを。
そんなかずかずの言葉がぐるぐると心の中で渦巻いて。
結局。
「……おはよう」
結局、それしか言えなかった。
「れいな……」
「…なん?」
「お腹すいた…」
同時にきゅるり〜と微かに聞こえた音。
「…久しぶりに会ってそれかい」
- 216 名前:プロジェクトM〜コタツの開発〜 投稿日:2004/04/16(金) 00:42
-
それからというもの。
「絵里ー!!とっととコタツから出んと!」
「やー寒いー」
そんな掛け合いが春が終わるまで毎日のように続いた。
毎日のようにれいなはコタツから出ない絵里にぷりぷりと怒っていたが。
なっちばぁさんは気づいていた。
絵里が冬眠していたときの
寂しい目をれいながしていないことに。
そして。
絵里を見るときのれいなの幸せそうな表情に。
プロジェクトM〜コタツの開発〜
―れいなの苦悩―
完。
- 217 名前:石川県民 投稿日:2004/04/16(金) 00:46
- 書いている間に、もうコタツのいらない季節になっちゃいました…(しくしく。
いっぱいいっぱいでごめーんなさーい!
さて。一応ネタばらし(?)を。
昔々のコタツって実際にこーゆー形だったらしいですよ?
…でも『堀ゴタツ』を知らない人が沢山いたらどうしよ…。
大抵田舎にいけばあったんですがね………。
- 218 名前:石川県民 投稿日:2004/04/16(金) 00:55
- 196>名無しどくしゃサマ。
毎度毎度ありがとうございます。
大食らいの方、大歓迎でございます♪
199>名無し様。
200,201>名無し飼育様。
さっそくのリク、ありがとうございます!
そしてVS社長とのことも慮ってくださってありがとうございます、
嘘みたいな話ですが、社長に口ごたえしたせいで会社クビになりました(笑…えねぇー!)
- 219 名前:石川県民 投稿日:2004/04/16(金) 00:57
- さて、サボってた分、もう少し更新したいと思います。
199名無し様のリクに答えて、れなみきです。
日本昔話―猫又―
- 220 名前:日本昔話―猫又― 投稿日:2004/04/16(金) 01:11
- むかーしむか〜し、あるところに、一人の猟師がおりました。
猟師はたいへん優秀な腕を持っており、たとえ熊のような大きな獲物でも、
銃弾一発で仕留めるほどの腕前だったのです。
猟師の名前を美貴といい、飼い猫のれーなと一緒に住んでおりました。
れーなは、美貴が物心つくころから一緒におり、家族のいない美貴には、
唯一の家族ともいえたのです。
ある日のことです。
れーなを膝に乗せ、竹筒を使って、とん・とん、と慎重に六つの弾に火薬を詰めていると。
「ん…?」
れーなが小さく「にゃ・にゃ」と言いながら、弾を数える仕草をします。
それも、確かめるかのように何度も何度も数えているようです。
(…そういえば猫って年を取ると化け猫になるっていうなぁ……)
そう考え、ふるふる頭を振ります。
(そんな馬鹿な、れーなに限って。そんなことあるわけない)
「れーな、何してるのお前?」
喉をくすぐるように撫でると、ごろごろと気持ちよさそうな音を鳴らして目を細めます。
火薬と弾を横に置き、れーなを抱え上げます。れーなはされるがままに美貴の肩に
顔をうずめました。
「れーな」
「にゃ」
「美貴さぁ、また明日から猟で山に篭るけどさ」
「にゃー」
「大物獲れたらお祝いしよっか」
「にゃあ」
れーなの毛並みを撫で、美貴はその気持ちよさに幸せに浸ります。
ずっとれーなと一緒にいたい、それは美貴のささやかな願いでした。
- 221 名前:日本昔話―猫又― 投稿日:2004/04/16(金) 01:21
-
翌日。まだ日も昇りきらぬうちに美貴は家を出ました。
れーなは専用の座布団で丸くなって眠っていましたが、美貴が出て行くときに、
かすかに、にゃあ、と鳴きました。
その日はおかしな日でした。
いつもなら聞こえる鳥の囀りも。獣の茂みを揺する音も。
生物がいる音が――いえ、気配がまったくしないのです。
美貴はまるで山には自分しか存在していないような錯覚を覚えます。
それは昼も。
夜になっても同じことでした。
夜。焚き火の前で考え込みます。
――この異常性、もしかしたら妖(あやかし)がでるのかもしれない――と。
幾度目かの気を引き締めたそのときです。
先ほどまで木々の隙間から瞬いていた星の光が消え、
焚き火の火がふ――っと消えました。
そして生臭い風が美貴の鼻腔を突いたとき。
木々の奥から二つの丸くて赤い光が見えたのです。
- 222 名前:日本昔話―猫又― 投稿日:2004/04/16(金) 01:31
-
妖の瞳の光だと気づいた美貴は、とっさに引き金に手をかけ、光に
向かって発砲しました。
カァン――…。
甲高い音がしただけで、瞳の光が揺らぐことすらありません。
“美貴の弾はあと四発〜”
『それ』は寒々しい声でした。
ひどく不明瞭で、『人』の声ではありません。
美貴は背筋が震え、がむしゃらに発砲しますが。
カァァン――…。
“美貴の弾はあと三発〜”
カンン――…。
“美貴の弾はあと二発〜”
カアッン――…。
“美貴の弾はあと一発〜”
ただ何か甲高い音と、妖の残りの弾を数える声が響くだけです。
全身が粟立ち震えるのを必死に抑え、五発目を撃ちました。
しかし。
カアァン――…。
変わらず、甲高い音がしただけです。
- 223 名前:日本昔話―猫又― 投稿日:2004/04/16(金) 01:37
-
“ふははははッ!弾はそれで終わりじゃなぁ!!”
そのとき。
美貴は気づきました。
妖が弾の数を一つ、少なく数えていることに。
(でも、残りは一発――くそっ!)
最後の一発に全てをかけて銃を構えます。
これも効かなかったのならば、妖に食われてしまいます。
ガサァッと木々を揺らし、妖が飛び掛ってきたその瞬間。
(――今だ!)
美貴は祈るように最後の引き金を引きました。
- 224 名前:日本昔話―猫又― 投稿日:2004/04/16(金) 01:48
-
“――ぎゃあああああああっっっっっ!!!!”
山中に妖の咆哮が響き渡りました。
「やった…」
美貴は全ての力が抜け、崩れ落ちるようにしゃがみこみます。
何か生臭い液体(おそらく血)を巻き散らかしながら妖は叫びます。
“弾は五発じゃなかったのかぇっ!?”
やはり妖は弾を一つ少なく数えていました。
その勘違いが美貴の命を救ったのでした。
ぐるる…と喉の奥でうなるような声。
“れーなぁぁぁぁ
わしを騙しおったなあっっっっっっ!!”
妖の言葉に、美貴は思い切り顔を上げます。
それと同時に。
――ざしゅ。
「ふに゛ゃっ!」
何かを引き裂くような音と猫のような声。
美貴の顔がさっと青冷めました。
がさがさと、大きな生物が逃げる音は意に介さず、猫のような声が聞こえた方へと
茂みを掻き分けます。
そこには。
「猫又…だったんだね、れーな………」
尻尾が二つ生えた己の飼い猫が血だらけで横たわっていたのです…。
- 225 名前:日本昔話―猫又― 投稿日:2004/04/16(金) 02:14
-
“…ごめんなさい”
血だらけの体をよろよろと起こし、逃げようとするれーなを、
「待って、れーな」
血が付着することも気にせずに抱きしめました。
“離してください、れーなは美貴さんを裏切ったんです”
「なんでよ、美貴を助けてくれたんでしょ。
――それに美貴は嬉しいんだ、れーなと話せて。
だってずっとずーっと、れーなと話したいと思ってたんだから」
“でも、猫又です…”
「関係ないよ。それより早く手当てしないと……」
そう言って体を離す美貴に、れーなは首をゆっくり横に振りました…。
“れーなはもう助からないです”
「そんなこと言わないでよ!」
れーなは手当てしようとする美貴の腕を、二本の尻尾で、静かに押しとどめます。
“最期に……話させてください”
今度は美貴が首を横に振りました。
“聞いてください、美貴さん。
今のは、この辺り一体の猫又の長です。時々山で人を襲って食らいます。”
“そしてれーなたち猫又は、アイツの手下なのです……”
“ごめんなさい…
鉄板を盗んだのも、弾の数を教えたのもれーなです”
確かに近くに美貴が家で使う、焼肉用鉄板が落ちていました。
それには五つの弾の痕がついています。どうやら猫又の長はこれで弾をはじいていたようです。
“でも………”
“れーな、美貴さんが食べられるのが嫌だった。
だから嘘の弾の数教えた……”
「れーな…」
美貴は堪らなくなってれーなを抱きしめました。
「れーな」
「にゃあ」
すでにれーなに人語を話す気力はありませんでした。
「ありがとう」
満足そうにノドを鳴らし――れーなは静かに息を引き取りました……………。
その後、美貴はれーなの墓を作ったあと、猫又の長が逃げた方向を歩いていると、
山中に大きな年経た猫の死骸がありました。
れーなは美貴と周りに住む人々を、自分の命に代えて守ったのでした。
完。
- 226 名前:壊れたあとがき 投稿日:2004/04/16(金) 02:23
- 199>名無しサマ。
ご期待にそえましたでさうか?
藤本さんと田中さんは、ほんわかしたものが似合うかと……
^ ^
`ヮ´) >ほんわかぁ? はっ!煤i石川県民
^ ^
`ヮ´) >どこがほんわかだよ、れーな死んどるやなかと!
石川県民)>だって田中さんを猫にしたくて、猫が出てくる昔話が…
^ ^
`ヮ´) >――これしか思いつかなかった、と。
石川県民)>うん。
^ ^
メ`ヮ´) =O石川県民)>ぎゃー!
^ ^
メ`ヮ´)>れーなはほとんど「にゃあ」ばっかりだし、藤本さんとの
絡みは少ないし、しかもばり短いしで、199名無しサマの
期待にそえれたわけなかと!!(ぐりぐり)
石川県民)>あぁぁぁぁそこはご勘弁をぉぉっぉぉ……(HP赤ゲージ状態)
- 227 名前:石川県民 投稿日:2004/04/16(金) 02:27
- さて次回は。
>200 名無し飼育さまのリクにお答えしまして。
日本昔話―ごとーば〜じょん―
をお送りしま〜す。
- 228 名前:石川県民 投稿日:2004/04/16(金) 02:28
- なるべく早く更新できますよーに。
そして新しい職も早く見つかりますよーに。
拝。
- 229 名前:石川県民 投稿日:2004/04/16(金) 02:30
- ちっと隠してみたり。
- 230 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/04/16(金) 17:04
- 川*’ー’)ノ<無理は禁物やよー
- 231 名前:石川県民 投稿日:2004/05/06(木) 14:32
- 少ない量のくせに遅い更新で申し訳ありません。
それでは予定通りに。
ちょっぴりタイトルを替えて。
日本昔話―桃太郎ごとーば〜じょんあーんどその後―
- 232 名前:日本昔話―桃太郎ごとーば〜じょんあーんどその後― 投稿日:2004/05/06(木) 14:36
- むかーしむか〜しあるところに、お圭、という名のおばぁさんと、
後藤、という名の若者がおりました。
この二人は一緒に住んでいましたが、血の繋がりはありません。
昔、お圭ばぁさんが川から流れてきた桃を拾って二つに割ってみたところ、子供が入っており、それが後藤だったのです。
この後藤、一日中「んぁ〜」と言いながら寝てばっかりいました。
ある日のことです。
「後藤!アンタいい加減にしなさいよ!!」
とうとうお圭ばぁさんがキレました。
「んぁ?圭ちゃん、そんなにカリカリしてるとシワが増えるよぉ?」
「シワが増えたらアンタのせいよ!
まったく〜…若い者が一日中ごろごろ寝てばっかりで………!
一応桃太郎なんだから、アンタ鬼退治にでも行ってきなさい!!」
「えぇ〜!」
おもいっきりぶーたれますが、お圭ばぁさんは聞く耳持たず、追い出すように、後藤を送り出すのでした。
「んもー、圭ちゃんたら乱暴なんだからぁ」
てくてく道を歩きながら後藤は愚痴ります。
「だいたいさー圭ちゃんて(本人のために略)…なんだよね、まったく」
何気に失礼です。
- 233 名前:日本昔話―桃太郎ごとーば〜じょんあーんどその後― 投稿日:2004/05/06(木) 14:36
-
力持ちの後藤は、お供もつけずに一人で歩いてゆきます。
海に出たら、ぎっこらぎっこらと力強く舟を漕いでゆき、
あっという間に鬼ヶ島に到着です。
目の前に聳え立つように建っている鉄門を、
「んぁ…た〜のも〜〜」
ガコンガコン叩いてしばらくすると。
「はぁい、どちらさまでしょぉー?」
ゆっくりと、少しだけ開いた扉から出てきたのは、微妙に口にしまりのない女の子。
それでもよくよく頭頂部をみると、角が一本、ちょこんと生えていますので、まさしく鬼です。
「えーと……」
さすがに面と向かって「鬼退治に来た」とは言えません。
どうしようかと考えあぐねていると。
「立ち話もなんですから、良ければ中に入ってお茶でもどーですかぁ?」
にへらぁ、と。
人懐っこい犬を彷彿とさせる笑顔で言われたら。
後藤に断るすべはありませんでした…。
- 234 名前:日本昔話―桃太郎ごとーば〜じょんあーんどその後― 投稿日:2004/05/06(木) 14:37
-
「ささ、どぉぞ」
目の前に置かれたお茶を、息を吹きかけながら啜っていると。
「マコっちゃ〜ん、お客さま?」
奥の方からまた一人、女の子がやってきました。
そして。
「……っ!」
「…んぁ?」
後藤の顔を見た瞬間にフリーズしたのです。
「…?なに、ごとーの顔になんか付いてる?」
ぺたぺた自分の顔を触ってみるものの、女の子は微動だにしません。
あ・いいえ、一つだけ変化はありました。みるみる顔が赤くなってゆき、それは体全体にも移ったのです。
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」
のんびり屋の後藤もさすがに慌てます。
「熱でもあるのかな…」
ピタン、とおでこに手を触れると、ますます女の子の顔は赤くなります。今ではリンゴと赤さ勝負ができるくらいです。
「どしたのさ、アサミちゃん。お腹すいた?」
マコっちゃん、と呼ばれた最初の女の子が台所からひょっこり出てきます。
お腹がすいて何故顔が赤くなるのか不思議に思いつつ、後藤は立ち上がります。
「それなら後藤が何か作ろうか?」
「え〜いいですよぉ、お客さんにそんなことさせれませんて」
「いいのいいの、料理作るの好きだし。台所借りるね〜」
そう言って後藤は台所へと消えてゆきます。
そして。
「アサミちゃん、大丈夫?」
ひょこひょこ近づいてきた女の子に、フリーズの解けた彼女は。
「…マコっちゃんの馬鹿ぁっ!」
がすっと一発。
「…………………っ(声にならない悲鳴)!!」
鳩尾に正拳突きを食らわしたそうです…。
- 235 名前:日本昔話―桃太郎ごとーば〜じょんあーんどその後― 投稿日:2004/05/06(木) 14:38
-
「んあ、出来たよ」
30分後。三つのオムライスの皿とオニオンスープをお盆に載せて出てきました。
テーブルにはすでに先ほどの二人が。一人は顔を真っ赤に染めて、もう一人は鳩尾をさすりながら顔をしかめています。そんな二人を不思議そうに見つめながら皿とカップを置いていきます。
その途端、真っ赤になっていた子の目が輝きだしました。
「あは。ころころ表情が変わって可愛いね。口に合うといいけど」
可愛いと言われて再び熟れすぎリンゴと化します。後藤も席につき、改めて頭を下げました。
ペコリ。と
「後藤です」
「あ、コンノアサミです、完璧です!」
慌てながらも深々と頭を下げ、
「オガワマコトでぇっす」
笑いながら会釈をします。
「あは♪『完璧です』て何さ、癖?」
面白そうに尋ねる後藤に、これ以上ないというくらいに赤くなります。
パン、と手を合わせて。
「「「いただきます」」」
- 236 名前:日本昔話―桃太郎ごとーば〜じょんあーんどその後― 投稿日:2004/05/06(木) 14:40
-
それはものすごいスピードでした。
(オガワ曰く)お腹が空いていたらしいのでコンノの皿のオムライスは一回り大きめのものだったというのに、現時点では誰の皿よりも残りが少なくなっております。
少々驚いたものの、後藤はそんなコンノを微笑ましく見てしまいます。
(なんか…幸せそうに食べるなぁこの子……)
「あ。」
「へ?」
「おべんとついてる」ごく自然に手を伸ばし。
ひょい、ぱく。
コンノのほっぺに付いたゴハン粒を取って口に入れました。
後藤はこれといって気にしませんが、やられたコンノは、つい先ほどまでオムライスに夢中だったので普通の顔色だったのに、再びリンゴとなります。
(あ〜リアクションが可愛い〜〜〜♪)
後藤の一挙一動に真っ赤になるコンノ。
そんなコンノの一挙一動に釘つけになる後藤。
(あたし…退散したほうがいいのかな)
すっかり蚊帳の外のオガワ。
三者三様です。
- 237 名前:日本昔話―桃太郎ごとーば〜じょんあーんどその後― 投稿日:2004/05/06(木) 14:40
-
オガワはもちろん、親友の心中が手に取れるくらい判ります。
(アサミちゃん後藤さんに一目惚れしたな……このピーマコ、親友の恋を応援するよ!!)
心の中でしっかりキメポーズも取ります。
その時でした。
「「あーアサミちゃんとマコっちゃんずる〜〜いっ!!」」
突如コンノとオガワの後ろから小さな影が二つ、飛び出してきたのです。
そして半分程度残っていたオガワの皿と三分の一ばかし残っていたコンノの皿をひょい、と奪ったかと思うと。
「「いっただっき」」
ぱく。と一気に平らげたのです。
「あ…」
「あー!」
これに悲鳴のような声を上げたのはコンノです。
「ふ、二人ともひどいっ!」
「「へへ〜ん、ごちそう様〜〜」」
「ね、ね、あの子たち誰?」
ぎゃーぎゃー言い争う三人を尻目に、後藤はオガワに尋ねます。
「この島でコンビを組んでる二人です。向かって右がカゴアイちゃんで、左がツジノゾミちゃん」
名前を呼ばれたことに反応したのか、こっちにやって来ます。
「カゴちゃんです♪」
「ツジちゃんです♪」
「「二人合わせてW!!」」
…ぱちぱちぱち。
ビシッと決まったポーズに、後藤、思わず拍手します。
- 238 名前:日本昔話―桃太郎ごとーば〜じょんあーんどその後― 投稿日:2004/05/06(木) 14:41
-
「そんでぇ、きれいなお姉さんが鬼ヶ島に何の用ですかぁ?」
決まったところでカゴが口を開きました。
「あ・そういえば聞いてなかった」
すっかり忘れてた、というふうにポンと手を叩くオガワです。
そんなオガワにツジは眉をひそめます。
「ダメだよマコっちゃぁん、最近は『鬼退治』にやってくる危険な人間もいるんだからぁ」
ぎく。
自分もそんな「危険な人間」としてやって来たことに冷や汗が出ます。
「あー…鬼退治って、そんなに来るんだ?」
後ろめたさを隠して聞くと、
「そぅなんですよぉ。先月は3人もやって来たんですよ。
まったく、ウチらがなにをやったっちゅーねん、この島で静かに暮らしてるだけなのに」
ぷりぷり怒りながらカゴが答え、その答えに後藤の胸はチクンと痛みます。
「あ、そーだ!」
オガワが『閃いた!』と言わんばかりの声を出しました。
「後藤さん、良かったらこの島のボディガードになっていただけませんか!?」
このアイデアにWの二人も頷きます。
「そりゃあ、ええアイデアやん。ね、ね、ボディガードになってくださいよ」
「…でも危険ですよぉ」
この案にコンノは弱々しく反対します。
が。
素早くやって来たオガワがひそひそ耳打ちします。
「アサミちゃん、後藤さんをこの島に留まらせるチャンスなんだよ!?」
「えっ!?」
「アサミちゃんの気持ち、気づかないと思ってた?」
「で、でも…」
部屋の反対側のほうでWと後藤もヒソヒソ話します。
「ね?ね?ボディガードって悪くないと思いますよぉ?」
「んぁ〜でもなぁ…」
「今ならなーんと、アサミちゃんをお付けしますよぉ〜」
TV通販のように言われた言葉に。
後藤はカゴを見て。
がしっ。
二人で握手をしながらニッコリ笑いました…。
- 239 名前:日本昔話―桃太郎ごとーば〜じょんあーんどその後― 投稿日:2004/05/06(木) 14:44
-
**************************
「――というわけでボディガードを引き受けたのよ」
長々と話した後藤はお茶を一口飲んで喉を潤わせました。
「ふーん、底の深いような浅いような話しだったね」
「何気に失礼だね、ミキ」
後ろからはがい締め――もとい抱き付かれたままでミキは後藤の話を聞いていました。抱きついているのは当然、マツウラです。ミキの首筋に気持ち良さそうに顔を埋めています。
ここは後藤たちが食事をしていた部屋です。ミキはここに通され、後藤の話を聞いていたので。
「つーかミキ肩凝らないの?」
「ん。まだ大丈夫」
マツウラの頭を撫でつつ答えます。
「でもさ、鉄門なんて何処にあったのさ」
「ミキが上陸したのは南の海岸で、鉄門のある正面玄関は島の北側にあるの」
「…正面玄関なんてあるんだ……」
すると。
ぴーんぽーん♪
その、正面玄関のチャイムが鳴りました。
「あ、あたし出ま〜す」
マツウラがミキから体を離し、ぱたぱたスリッパを鳴らして
小走りで行きました。
- 240 名前:日本昔話―桃太郎ごとーば〜じょんあーんどその後― 投稿日:2004/05/06(木) 14:45
- 「――だからさ、ミキも鬼退治退治をしない?正直後藤一人じゃきつい時もあるんだ」
「そうだなぁ…」
少し考えます。
「きゃー!」
玄関から悲鳴が聞こえました。マツウラの声です。
さっ、と顔を青ざめ、ミキは玄関へと走っていきました。
ばたばたばた。
「アヤちゃん!」
玄関に駆けつけたミキの見たものは。
「俺らは鬼を成敗しにきたものぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
マツウラに襲い掛かる男達の姿。
ぷっちーーーーん。ミキの頭の中で何かが切れました。
「アヤちゃんに何するんじゃボケェッッ!!!!」
本職のヤ○ザも真っ青な啖呵をきって。
バキイィィィィッッッ。
思いっきり男達を右ストレートで殴り飛ばしたのです。
憐れ男達は海の底へと消えてしまいました…………。
肩で息するミキに泣きながら抱きつくマツウラ。
そんな二人に微笑む後藤。
「――一緒にやってくれるよね?鬼退治退治」
もうミキに断る理由はありませんでした………。
こうしてミキは鬼ヶ島の平和(マツウラの平和)を守っていきましたとさ。
めでたしめでたし♪
- 241 名前:石川県民 投稿日:2004/05/06(木) 14:50
- ごめんなさい、あやみきシーンが少ないです。
考えてもいちゃいちゃべたべたするところしか思いつかなくて。
でも後紺ですでに砂糖吐きそうだったので。
カットさせていただきました。(爆)
200>名無し飼育様。
ご不満でしたらお申し出ください。改めて書かせていただきますm(__)m
- 242 名前:石川県民 投稿日:2004/05/06(木) 14:53
- 230>名無しどくしゃサマ。
毎回のように心温かいレスありがとうございます(涙ホロリ)
「無茶」が
精神状況のことなのか、
経済状況のことなのか、
更新状況のことなのか。
どれにあたるのかとしばし考えてしまいました(ニガワラ
- 243 名前:石川県民 投稿日:2004/05/06(木) 14:55
- さて。ここで『日本昔話シリーズ』を置きまして。
ちょっと変わったものを書かせていただきます。
GW中に考えたネタです。
猫背の王子と背筋の良い人魚
- 244 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 14:56
-
5月2日。晴。
寄せては返す、波の音。潮風を受けながらあたしはぎっこらぎっこらと音が鳴る自転車を漕いだ。
ここは海沿いの町。GW中、わざわざ埼玉から遊びに来ていたイトコが、
「なにもねー!」って叫ぶくらい、何もない町。
一番近くのコンビニまで自転車で30分くらいかかって、唯一あるものは小さな港、っていうこの町を、イトコが何て言おうとあたしは好きだった。
ときどき、強い潮風を受けて車体は右に傾く。慌ててバランスをとった。
右手にはハンドル以外にもトランペットのケースも握っていたから、どうしても重心が右に寄ってしまう。
親にねだってねだって、高校合格祝いとして買ってもらったトランペット。今のところ、あたしの、宝物。
今から行くのは、この先,右に曲がって坂を上ったところにある海の見える場所。
休日はそこでトランペットを吹くのがあたしの日課だったから。
右に曲がって、坂の下にきたところで立ち漕ぎを始める。
辛そうに揺れる、ケース。ぎいぎい悲鳴を上げる、自転車。太ももが震える、あたし。
もう限界、ってところで上りきるのはいつものこと。ぜいはぁ、息を切らしながらよろよろと自転車を漕いだら到着。
海塀の先の海面が陽光をきらきらと反射しているから目を細める。
目を細めた光の海の先に。
人魚が、いた。
- 245 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 14:57
-
…人魚?
ん〜なわぁ〜けな〜い。
あたしってオメデタイ頭してるなぁ、彼女は、人間。人魚なわけ、ない。
自転車を降りて、ゆっくり、近づく。
海塀にぴしゃん、と座る人魚。
猫背を気にしているあたしが見惚れるくらいにきれいな、背筋。
「あの…」
声をかけたらゆっくり振り向く。うぁ、美人。
「ここで、演奏していいですか?」
ケースを持ち上げ尋ねると「どーぞ」って素っ気無い返事が返ってきた。
ぷるぷる、唇を震わせて。充分にほぐれた感じがしたらマウスピースをあててヴーヴー音を出して。
マウスピースをトランペットに嵌めて。ゆっくり、深く呼吸して、口をあてた。
ファーーン、パパフワーン♪
昔、課題曲として出された『星条旗よ永遠なれ』。
何十、何百回と練習で吹いた曲。そして、毎回ここで吹いている曲。
その後は『威風堂々』『ロッキーのテーマ』とか好き勝手に吹いて。
あたしは海に向かって、吹き続けた。
腕につけたデジタル時計が電子音を鳴らしたところでマウスピースから唇を離す。
人魚はずっと、背筋を伸ばしたままで海を見つめていた。
いそいそと片付ける。
「それじゃぁ、お邪魔しました〜」
別に彼女の領地じゃないのに、あたしはそんなことを言って自転車に跨った。
最初の一回以来、人魚はこちらをちらりとも見なかった。
- 246 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 14:57
-
夜。
さすがに家の中でトランペットを吹くわけにはいかないので、マウスピースをヴーヴー鳴らしていると、暇を持て余したイトコが、
「二人で肝試ししないか?」と持ちかけてきた。けれど、
「ヴヴー」吹きながら首を横に振った。
「ちぇ。あー暇だー!どっかに可愛い子でもいねーかな〜」
そう言って寝転がるイトコに向かって。
「ヴ・ブ」
絶対に意味が通じないだろうと高を括ってそう吹くと。
「んなぁに〜?『バカ』だと〜ぉ?」
しっかり通じちゃったみたいで。
がばぁっと起き上がって、追いかけられて、しっかりプロレスの間接技をきめられてしまった……。
- 247 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 14:58
-
5月3日。晴。
昨日のプロレスのせいで体中が痛い。
角を曲がった先の坂も、途中で自転車から降りて押すことにして。イトコへの恨みをぶつぶつ漏らしながら上りきると。
目を細めた光の先に。
今日も、人魚が、いた。
相変わらずぴしゃん、ときれいに背筋を伸ばして。
やっぱり、見惚れる。
ゆっくりと自転車を押して。
「こんにちは。今日も演奏していいっすか?」
ケースを持ち上げ尋ねると、今度はこっちを見ずに「どーぞ」と素っ気無く言った。
ぷるぷる、唇を震わせて。充分にほぐれた感じがしたらマウスピースをあててヴーヴー音を出して。
マウスピースをトランペットに嵌めて。ゆっくり、深く呼吸して、口をあてた。
ファーーン、パパフワーン♪
昨日と同じ『星条旗よ永遠なれ』を。
そして。
プァァァァン、ファン・ファン♪
昨日吹かなかった曲を。
この曲、途中の間奏部分でいきなり高い音になるから、ちょっとテクがいる。
息を、できるだけ細く、そして早く!出す。そのことを重点的に意識していると。
…ェン♪
あ。全然関係ないところでミスった。
あちゃーあちゃー。まぁいいや、とりあえず最後まで吹いてしまおうっと。
………♪。
結局、意識していた高音部分も少しトチって曲は終了した。
ケースに入れていた楽譜を見なおす。間違えた箇所を確認して、もう一度挑戦しようとしたところで――。
「ねえ。今の曲、何」
人魚が、きれいな背筋のまま、こっちを見ていた。
- 248 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 14:58
-
「ねえ、何て題名?」
正面から顔を見たのはニ回目。ぅあ、やっぱり美人。あたしは背筋だけじゃなく、人魚の顔にも見惚れてしまった。
「ちょっと、聞いとるん?」
見惚れた顔が眉間に皺寄せたところで我に返る。
「あ、あぁ!今の?ウチの校歌っす」
慌てて見せた楽譜には、しっかりと『○○高等学校校歌』と印刷されている。
楽譜を受け取った人魚は「ふーん」と見つめ、ぶつぶつとメロディを口ずさみ始める。と思ったら、ぴょこ、とこっちを見た。
「結構難しい曲やねー」
「作詞作曲した人が校歌に斬新性を求めたらしくって」
「…変な人」
作った人間にそれほど興味を示さず、人魚は再び楽譜に目を戻す。
……ところで。
「GW中に帰省しにきた人?」
「……まあ、そんなところ」
やっぱり。小さなこの町で見たことない顔だったし。イントネーションも違うし。
一人納得していると、人魚はじっとこちらを見てきた。
「ね、ね。この楽譜、ちっと貸してくれんけ?」
「ほぇ?まぁ…いいけど」
どうせほとんど暗記してるし。家に帰れば、コピーしたやつがまだあるだろうし。
「ねぇ、明日もここに来る?明日には楽譜、返すから、さ」
「ふぇ…あぁ、いいよ、あげる、それ。家にも楽譜あるし」
「そぉ?あんがと」
それだけ言って、再び楽譜を読み始めた。
その―――。背筋を伸ばして海塀に座っている、楽譜を読んでいる姿は、
ものすごく絵になっていて。
なんだか叫びたい気持ちになったので。
代わりにトランペットを吹いた。
プォーーーーン………。
一度口を離して、一息ついて。改めて口を付けた。
―――今度は、トチらないように―――。
プァァァァン、ファン・ファン♪
- 249 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 14:59
-
夜。
マウスピースだけを口にあててヴーヴーやっていると、
釣りに行っていたイトコが帰ってきた。
心なしかぽーっとした顔で。
「やっべーよ、マジやっべー」
あまり関わりたくなかったけれど、なにがやばいのか聞いてみると。
「もぉ一目見た瞬間にばしーっんて雷落ちたね。
ウチさぁ、天使に会っちゃったよ。日焼けしてたけれどめちゃくちゃ天使だよ、アレ」
ちょっぴり不思議な日本語になっていたけど、なんとなく判った。
昨日言っていたことが現実になったんだ。
でも……。
天使に出会ったイトコに人魚に出会ったあたし。
オメデタイ二人だなぁって、自分のことなのにつくづく呆れた。
- 250 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 15:00
-
5月4日。曇。
太陽がときどき顔を出すけれど、すぐに雲の後ろに隠れてしまう。そんな天気。潮風も、いつもより強い。
イトコが天使を釣りに、早朝から家を出ていった。
あたしはいつも通りの時間に家を出た。その目的がトランペットを吹くためなのか人魚に会うためなのかは自分でも分からなかったけど。
角を曲がって坂を立ち漕ぎして、ぜいぜい息をついたら見える、慣れつつある風景。
やっぱり人魚が背筋をぴしゃんと伸ばして海塀に座っていた。
「こんにちは、今日も演奏するからね?」
ケースを開けながら言うと、人魚は目線を海に向けたまま、だけど口の端を少し上げて「どーぞ」と言った。
ぷるぷる、唇を震わせて。充分にほぐれた感じがしたらマウスピースをあててヴーヴー音を出して。
マウスピースをトランペットに嵌めて。ゆっくり、深く呼吸して、口をあてた。
プァァァァン、ファン・ファン♪
昨日と同じ、校歌。―――すると。
♪海原へと 羽ばたく 夢を♪
隣から聞こえる、歌詞。
見ると、人魚が少し笑いながら歌っていた。
その、澄んだ声がトランペットの音と絡み合って。
めちゃくちゃ気持ち良かった。
- 251 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 15:01
-
吹き終え、口を離す。
正直、驚いた。
彼女が歌詞を覚えてきたことに。上手く歌ったことに。そして―――声に。
はっきりいって聞き惚れた。背筋がぞくぞく、って粟立った。
……悔しいな。あたし惚れてばっかりじゃん。
「さっすが人魚、きれいな歌声だね」
「人魚?」
あ゛。
やべーやべー。あたしの中のアダ名、言っちゃった。どーしましょ。
「えーっと、あの、ね、初めて見たときに人魚だと思ったの。名前も知らないから…」
慌てて言い繕うあたし。鳴呼挙動不審。
くすり、と笑った。そんな笑い方も似合うな、なんて思う。
「別にえーよ。わたしだって勝手にアダ名で呼んでたし」
「…どんな」
「猫背の王子」
- 252 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 15:01
-
…はい?
目が点になったあたしを気にせずに人魚は話す。
「あんさ、これ本のタイトルなんやよ。キミを見たときに頭に浮かんだんよ」
猫背の…王子…。う〜〜〜ん。
「それ、どんな話?」
「女たらしの話」
うげ。
「そんでな、信頼していた男性に裏切られて全てを失うんよ」
なにがおかしいのかクスクス笑う。
「あたし女たらしじゃないよぉ」
ぶーたれて言うと、ぽん、と頭を撫でられた。
「そういう意味やないよ。ただのイメージやし気にせんで」
「……うん」
頭に置かれた手が温かくって、柔らかくって。気持ち良くって目をつぶる。
「それに、そーいうんなら、別にわたしだって王子様を追っかけて陸に上がってきたわけやのぅし」
そりゃそーだ。それに足と引き換えに声を失っているわけじゃないし。
「ただのイメージだったから気にしないでよ」
言われた言葉を返した。
「うん」
彼女も、返した。
あたしは目をつぶったまま。人魚は頭を撫でたまま。
ぽそり、と呟く。
「どうしよっか…名前。教えあう?」
「ん〜別にええんやない?」
「そう?」
「うん。わたしはぁ、人魚。キミはぁ、猫背の王子。
それでええと思う」
「そっか」
「うん」
「…あの、さぁ」
「う?」
「人魚姫のように……失恋したら、泡のように消える、ってのは潔いって思わない?」
「う〜…。そう、かなぁ?」
「そうだよ……」
そう言って遠くを見つめる。
そのどこを見ているのか分からない瞳を見て。
なんだか胸が締めつけられた。
なんだか悲しくなった。
なんだか、泣きたくなった。
- 253 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 15:01
-
夜。
雲行きがますます怪しくなってきた。明日は雨っぽい、テレビで天気予報を確認したら、やっぱり明日の予報は雨だった。でも、今夜今すぐにも降り出しそう。
マウスピースを口にあてず、人魚の言っていたことを反芻していると、
天使を釣りに行っていたイトコが帰ってきた。
同時に聞こえる庭からのポツポツ、という音。間一髪。
肩を強く押さえこまれて無理やり座らされる。
目の前にはニヤついた顔。……はいはい、話したくってしようがないんだね。
「ウチはここに住む!」
突然声高らかに宣言するイトコにかなりビビった。
……そんなに熱烈に惚れちゃったの?
聞くところによると(聞かされたところによると)、イトコの“天使”はあたしも顔見知りの人だった。ご近所の漁師の娘さんで、昔は一緒にイノキごっこをしたりして、よく遊んでくれた人。
「もぉさぁ〜、シャレになんないくらい可愛いんだってさ〜〜っ!」
はいはいはいはい。可愛いことは分かったからちょっとは離れてよ、
何であたしを抱きかかえる必要があるの。
「うおー!好きだーーー!!」
だあああああっ、抱きしめるなあっ、あたしで代用するなぁぁぁぁぁぁっっっ!!
…釣られたのは天使なのかイトコなのかどっちだろう……。
- 254 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 15:02
-
5月5日。雨。
起きたときに聞こえたのはザアザアという雨の音。目を覚ましてもしばらく布団の中でぼーっとしてた。
「雨…かぁ……」
……人魚は今日も来てるのかな。
強い雨の音。来ているわけないじゃん。
あたしのトランペットも雨の日はお休み。
でも…。
「あら、出かけるの?」
お母さんの言葉に頷く。
カッパを着て玄関を出る。車庫に周って、キイキイ鳴る自転車を取り出して。ペダルをゆっくり漕ぎ始めた。
雨がビシビシ痛い。それでもあたしは漕ぐ。
来ているわけないじゃん。それにGW中の帰省だったんだから、昨日で帰った可能性あるじゃん。
でも。
昨日、あれだけ喋ったのに。
あたしがトランペットで伴奏したり、一緒に歌ったのに。
…頭、撫でてもらったのに。
それだけで終わり、なんて寂しいよ。
お願い、いて。
いつものように海塀に背筋をぴしゃん、とさせて座っていて。
いつものようにあたしの右手にトランペットのケースは握られていない。
それでも坂の上を目指して自転車を漕ぐ。
トランペットを吹くためじゃなくて、
……人魚に会うために。
- 255 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 15:02
-
いつも以上に体力を消耗しながら上りきると。
―――そりゃ、いてほしいとは願ってた。けど―――。
「…ねぇ、風邪引くよぉ」
傘もささず、人魚は海塀に背筋をぴしゃん、とさせて座っていた。
きぃきぃと自転車を押して近づく。
人魚は笑っていた。
「大丈夫やって。人魚はもともと海の生き物やから、これっくらいの雨、なんともないわ」
「…本当の人魚じゃないじゃん。風邪引くよ」
人魚は笑ったまま何も言わなかった。
「あのさぁ…昨日の話なんだけど。失恋して泡となって消える人魚姫の話」
まだ無言の人魚。構わずに話し続ける。
「あたしは潔いなんて思わない」
驚いた顔でこっちを見る。
「たった一回の失恋で泡になってほしくないな。
生きて…他の王子と恋愛してほしかった……」
「他の…ね」
ちょっと馬鹿にしたように笑う。それでも気にしない。
「うん。王子なんて世界中に沢山いるんだから」
ぶはっ、て吹き出された。
ゆっくり、その手をとる。
「たとえばさ、ここにも、いるじゃん、王子」
人魚の冷えた手を両手で包み、ほう…って息をかける。大きく震える体。
「猫背の王子ってのはいかがでしょ?」
- 256 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 15:03
-
普通に立っているあたしと海塀に座っている人魚。どうしても身長差ができてしまう。人魚が、背中を丸めて顔を近づける。
「それで…猫背の王子サマにも振られたら、人魚姫は……うぅん、人魚はどうしたらいいがん…?」
声が震えてる。――今、人魚の頬を伝った水は雨だったのかな?
もう人魚姫の喩え話なのか人魚自身の話なのか判別できなかった。
まぁ、どっちでも、言うことは変わらないけど。
「あたしは、振らない。猫背の王子は人魚姫を…じゃなくて人魚を一生愛するよ。
だから人魚もあたしに恋してほしい」
どうもね、一目見たときから惚れちゃってたらしいから。
――“猫”が“魚”を手放すわけないじゃん――
押し倒すかのように抱き付いてきた人魚。
この子は失恋したばかりなのかも、なんてふと失礼なことを考える。
あたしの胸元に顔をつけて泣きじゃくるこの子を。
心から愛しいって、思った。
ゆっくりと、濡れた艶やかな髪を撫でる。
トランペット以上の、あたしの、宝物。
見つけた。
- 257 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 15:03
-
夜。
電話越しで言い争うイトコをよそに、今日の出来事を思い出す。
あの後――。
人魚はゆっくり体を離した。
「…なぁ、猫背の王子。運命って、信じとる?」
雨に濡れた、細い声で聞く。
「つーか、あたしらの出会いが運命だし」
「うわキザ」
「…うるさいなぁ」
分かってるよ、そんなの。少し膨らんだ頬を指で突つかれた。簡単に空気は抜ける。
「………じゃあ、さ。またいつかどこかで会えたら、運命ってことで」
「いんや。今度会えたら必然やで」
「はい?」
「だからぁ、あたしらが出会うのは必然やった、てこと」
…うわ、そっちのほうが――
「…キザ」
ぽかん、て頭をはたかれた。
結局、あたしたちはまたいつかどこかで会えたら、っていう約束にならない約束をして別れた。
ただ、別れる寸前に――。
「もう一度会えるように、…おまじない」
とか言われて………、
きっ、き、きすされた。
何をされたか理解する前に人魚は走り去っていった。
あたしはその場で、一人悶えて。
うあ〜〜〜〜今思い出しても顔から火が出る〜〜〜っ!
だってきすだよ、ふぁーすときすだったんだよ!?あたしトランペットでも1stやったことないのに!ってファースト違いだ自分。
ソファーでクッション抱えながらジタバタ暴れてると、
「きしょ!オマエ顔崩れてるぞ」
電話を終えたイトコのきつ〜い言葉が降ってきた。
本当は今日帰るはずだったのに色香に迷って…もとい、恋のためにまだここにいる。
「叔母さん何て言ってたの?」
「明日来るってよ」
面白くなさそうに言う。
「ウチに首に縄つけてでも連れて帰るって言ってた」
想像してみると笑えたけど、笑わなかった。
イトコも叔母さんも本気だからかな。
抱きつかれたりして迷惑したけど、
あたしは、イトコと天使の恋が上手くいけばいいと願わずにいられなかった。
- 258 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 15:05
-
5月6日。晴。
GWは終わった。これからは灰色のウィーク。あうぅ、中間試験が近いんだよなぁ。
しっかり休みボケした頭に、無理やり数学の方式とか主人公の心情とか古典での修飾語の使い方とかをギッチリ詰め込んで。
放課後、ちょっぴりふらふらしながら音楽室に向かう。もちろん右手にトランペットのケースを握って。
特別教室の並んだ棟を歩いていると。
音楽室より二つ前にあるCAI教室で足が止まった。
その――、教室から聞こえる歌声。ここ数日聞いてた声。
CAI教室。…ここを使っているのは確か合唱部。
半分開いていたドアから顔を入れると、一人の生徒があたしからは後ろを向いて歌っていた。
運良くドアの近くにいた同じクラスの子をつかまえて、歌っている彼女のことを尋ねる。
「転校生だってさ。前まで強豪校にいたから、ものすごく歌上手なんだよ!
でも…なんでウチの校歌をすらすら歌えるのかなぁ?」
…転校生。
――にゃろう。
歌い終わった彼女を合唱部の人達が取り囲む。
すごーい、歌うまいねー、感動したー、とか言いながら。
その塊に近づくと、中心にいた彼女もあたしに気づいた。塊の中から出てきてあたしの前に立つ。
――あぅ、制服姿にもやっぱり見惚れる。
――ってそうじゃなくて。
「帰省だって言ってたじゃん」
「わたし『まぁそんなところ』って言わんかったっけ?」
「言ってたね。騙したな」
「騙してないって。帰省して、そのままここに住むことになってんて。ここ、お父さんの故郷なんや」
…くそぅ、なんか悔しい。
「おまじない、効いたね」
意地悪そうな笑顔。でもちょっと赤い気がする。
「今度会うときは必然だったよね」
「ほーやで。あ・また伴奏して?」
「いいけどさ…でも、その前に……」
「なに?」
「名前、教えてよ」
- 259 名前:猫背の王子と背筋の良い人魚 投稿日:2004/05/06(木) 15:05
-
夜。
イトコは結局、叔母さんに首根っこを掴まれて埼玉へと帰っていった。
また夏休みにここに来ることを誓って。
叔母さんも、イトコの恋を引き裂く気はなく、学校を卒業さえすればこっちに就職するように勧めたのは叔母さんだった。
とうぶん遠距離恋愛だけど、イトコと天使の恋は上手くいきそう。
今、あたしの手の中にあるのはマウスピースじゃなくて一枚のメモ用紙。
名前とケータイの番号とメルアドが書かれてる。
彼女、人魚の名前は普通の日本人名だった。でも、口に出すと、なんだか顔が熱くなる。
ケータイを取り出して、早速人魚にメールを打った。
『今からあの場所で会えない?』
fin.
- 260 名前:石川県民 投稿日:2004/05/06(木) 15:08
- 終了です。
全員名前が出ていませんが、まあ誰が誰かというのは…分かりますね(w
こういうのはいかがでしょうか?批評お待ちしております。
- 261 名前:石川県民〜再度募集!〜 投稿日:2004/05/06(木) 15:12
- さて次回…ですが。
う〜〜〜〜〜………。
だれか、リクエストください。(切願)
『日本昔話シリーズ』でもリアル・アンリアル、書ける範囲で書かせていただきます。
ただ、ファンタジーのほうが書きやすい…かも。(汗
お待ちさせていただきます。
- 262 名前:石川県民 投稿日:2004/05/06(木) 15:12
- それではいつかまた。
拝。
- 263 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/05/06(木) 16:56
- クゥウウ…(・∀・)イイ!!!
雨のシーンなんか特にたまらない。好き。
猫と魚とか格好良すぎる。素敵。
んでもって一番乗りでリク。まこあいでアンリアル希望ヽ(´ー`)ノ
- 264 名前:我道 投稿日:2004/05/06(木) 17:32
- はじめまして、我道と申すものです(ぺこり)
実は結構前からROMってました。
なんかいいですよねぇ・・・なんというか、こう、ほのぼのするんですよねぇ。
いきなり現れてなんですが、後紺でアンリアル、リクしてもいいですか?
最後に、作者様これからも自分のペースでがんばってください!
- 265 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/06(木) 23:21
- 田亀不足。。。(ノ_<。)
学園モノでお願いできますか?
- 266 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/07(金) 02:46
- 更新乙です。
昔話のほのぼのした雰囲気も好きですが、
『猫背の王子と背筋の良い人魚』の雰囲気がめっちゃツボでした。
そこはかとなく漂う甘いさが(・∀・)イイ!
ただ一つ言わせてもらうと、
私は主人公さんに『猫背の王子』的なイメージがなかったので、
少し違和感じますた。
偉そうなこと言ってスマソ。
一読者の戯言&シュプレヒコールと取ってもらえれば幸いでつ。
- 267 名前:石川県民 投稿日:2004/05/10(月) 03:27
- 友人宛に某錬金術ギャグ話を書いてて紺野さんの誕生日を忘れてました。
川o・-・) <……。
ゴメンナサイ。
5月は後紺の月らしいですので、おわびも兼ねて中篇の後紺を書きます。
まんまタイトルと同じ曲がモチーフとなっております。
- 268 名前:天体観測 投稿日:2004/05/10(月) 03:29
- ごめん、紺野。
アタシさ、紺野に伝えていない事実が沢山あった。
アタシさ、紺野に伝えていない想いも沢山あった。
その全てが、今も心に残ってる…。
キミと見たあの夜空のように。
強く、強く――。
- 269 名前:天体観測 投稿日:2004/05/10(月) 03:30
-
――天体観測――
- 270 名前:天体観測―第1話― 投稿日:2004/05/10(月) 03:42
-
深夜、暗闇に響く靴の音。
ゴム底の不明瞭な音が誰もいない建物の中、響く。
ゆっくり、規則正しく、響く。
階段を上りきって、扉の前で足を止めて、カチャカチャぶつかり合う鍵の束を取り出して。
そのうちの一つを差し込んで。穴の奥でカチャン、と音が鳴る。
重い音をたてて開く扉。普段はあまり開かれることのない屋上への扉。
開けた瞬間に一陣の風が前髪を揺らす。
それ、は日中の熱を帯びているように生暖かかった。
ゆっくり開いた扉の先にある、夜空。
吸い込まれるように足を踏み入れる―――。
「ひっ」
喉の奥で潰れる悲鳴。
5階建ての屋上に。
自分が入ってきたところしか出入り口がなくて、
たった今までその出入り口に鍵がかかっていた。
なのに。
先客が、いた。
そよそよと夜風に茶色の髪を揺らさせて、
手すりにもたれながら夜の町並みを眺めている。
声に気づいたのか、ゆっくりとこちらを振り向く。
思わず息を呑む、それくらいに整った顔立ち。
先客は、ゆっくりとした足取りで近づいてきて、
横を通り過ぎた。
そのまま扉をくぐって、カツカツ靴音を響かせながら階段を下りていった……。
- 271 名前:天体観測―第1話― 投稿日:2004/05/10(月) 03:52
-
「もぉすっごい怖かったんだよ!」
昨夜屋上で起こった出来事を話し終えると、わたしは力いっぱい叫んだ。
まだ教室に残っていた二、三人の子たちがこっちを見たけれど、気にせずに
目の前の友人にして後輩の里沙ちゃん――新垣里沙――をにらんだ。
「それなら部長、なんで夜中に屋上に一人で行ったんですか、ふぁ〜あ」
わたしの叫びもにらみも全然気にせずに大あくび。
「それは里沙ちゃんが天文部の月一恒例屋上天体観測をサボったからだよ」
ジト目で言うと、
「あ。いえ、記事を今日中に提出しないと、今月の新聞落としちゃうので、
決してサボったわけじゃなくて……悪かったですよぉ」
- 272 名前:天体観測―第1話― 投稿日:2004/05/10(月) 04:01
-
ご自慢の眉毛をしょぼーんと下げながら言う里沙ちゃんについ吹き出してしまう。
分かってますって、里沙ちゃんは新聞部で1番の敏腕記者だから、締め切り直前はいい記事を書こうと、
時には徹夜で頑張っているってこと。
…それに、行事がなくて紙面にゆとりのある月は、その季節に見える星座を取り上げてくれるし。
ただ、ちょーっと、深夜の校舎を一人で歩くはめになった恨みがあるだけなの。
「…やっぱり恨んでるじゃないですかぁ」
ぽつりと言った言葉は聞こえない振りをして立ち上がる。
「さ、里沙ちゃん、そろそろ行こっか」
「?どこへ?っていうかなんで部長、二年の教室にいるんでしたっけ?」
はぁ、とため息。
いくら寝不足でもぼーっとしすぎだよ。
「今日の放課後に行くって言ってたでしょ、まこっちゃんのお見舞い」
「あ・そーでした」
自分でも呆れたのか、苦笑いをして立ち上がった。
- 273 名前:天体観測―第1話― 投稿日:2004/05/10(月) 04:18
-
申し遅れました、わたしの名前は紺野あさ美。
ここ、H学園の三年生でして、天文部の部長を勤めています。
天文部部長なんて、聞こえはいいですけど、創立三年目の総人数が十名にも満たない弱小部ですけど…。
しかも里沙ちゃんのようにかけもちで入部している子が大半でほとんどが幽霊部員でして、
実際に活動しているのはわたしと副部長のまこっちゃんと里沙ちゃんだけでして…。
…あぁ、自分で言ってヘコんできました。
ここは病院に行く途中にあるケーキ屋さん。
肩を落とすわたしを不思議そうに見ながらも、里沙ちゃんは
「あ、マコ先輩にはカボチャのシフォンでいいですね〜?」
なんて、ショーケースのケーキをしっかり吟味している。
「いいんじゃないのかな?食事制限もないって言ってたし」
…腰を痛めただけだったよね。
「あたしガトーショコラにしようっと。部長は?」
「スイートポテトとチョコタルトとフルーツケーキで」
「…せめて二つにしませんか?」
場所は変わって。
お見舞いの品を片手に消毒薬臭の漂うリノリウムの廊下を歩いていくわたしたち。
「50…2号室、あった、ここだ」
ナースセンターで尋ねた部屋を見つけてノック。
「は〜い」って声がしたのでドアをスライドさせて。
すると。
「あ、二人とも久し振り〜♪」
ベッドの隣に置いた椅子に腰掛けながら手を振るその姿。
本当、久し振り。三月以来。
「お久し振りです、高橋先輩」
病室には、天文部 元部長と現副部長の二人がいました。
- 274 名前:天体観測―第1話― 投稿日:2004/05/10(月) 04:39
-
持ってきたお見舞い品のケーキをみんなでつつく。
高橋先輩には、わたしが二つ選んだスイートポテトとフルーツケーキのうちの
フルーツケーキの方を。
「マコ先輩、腰の具合はどうです?」
「ベルトで固定しているから痛くはないよ〜」
「けんどほんとあほやでぇ、木から落ちて腰を強打するなんて」
「え!?まこっちゃん、入院の原因それだったの!?」
「……ぅん」
「あれ、あさ美ちゃん知らんかったん?」
「全然知りませんでしたよ」
「あ、あたしも知りませんでした」
「なぁんだ、心配したのが馬鹿みたい」
「あたしもー」
「あぅ、みんな冷たい…」
――女三人で『姦しい』のだから、四人もいれば当然のように賑やかで。
この部屋、二人部屋だけど、まこっちゃんしか入院していなくて良かった。
「あ、隣のベッド、桃子ちゃんて子がいたけど、今朝退院しちゃったんだぁ」
へー。
「まこっちゃんはいつぐらいに退院できるの?」
「えーと再来週には…って再来週中間試験中じゃん。
試験終わるまで入院してようかなぁ…」
「あ、マコ先輩それずるい!それならあたしも入院したい!」
「まこっちゃんも里沙ちゃんもダメだってば」
「ほーやで。それに麻琴、わたしと同じ学校にくるんやろ?
もし推薦とるんなら、一学期の成績が重要になるんやよ」
「…は〜い…」
叱られた犬みたいにショボーンとしたまこっちゃんの頭をわしわと撫でる、先輩。
- 275 名前:天体観測―第1話― 投稿日:2004/05/10(月) 04:40
- なんか、いいな。この二人。
好ましく二人を見ていると、里沙ちゃんが耳打ちしてきた。
「やっぱりあのウワサ、本当でしょうかね?」
「さぁ、どうだろうね」
苦笑を返すしかないよ。
『あのウワサ』というのは、厳格なお家で育ち、習い事ばっかりで自分の時間がなかった高橋先輩が
まこっちゃんといたいがために天文部を作った、というもの。
それと『月一恒例屋上天体観測』を作ったのも高橋先輩。
もし『あのウワサ』が本当ならば、これも、逢引きですか逢引き目的で作ったんですかと問い詰めたいところですけどね。
閑話休題。
別に里沙ちゃんじゃなくても、二人にウワサの真相を確かめたいところなんですけど、
二人共々なかなかに口が固いもので、ウワサはウワサの域を出ていません。
- 276 名前:天体観測―第1話― 投稿日:2004/05/10(月) 04:51
-
「それじゃあまこっちゃん、お大事にね」
長居をしても悪いので、わたしと里沙ちゃんは退散します。
「うん。あさ美ちゃん、里沙ちゃん、ありがとね」
「あとは若いお二人同士でごゆっくりどうぞ〜♪」
「里沙ちゃん、それじゃお見合いみたいだよ!」
見ると二人の顔は真っ赤っ赤。
そそくさ、と部屋から出た。
ぱたん、とドアを閉めたところで、里沙ちゃんが
「あの二人ってどこまで進んでいるんでしょうねぇ?
う〜ん気になる、記者の血が騒ぐ〜!」
そう言ってドアに張り付いて聞き耳を立てる里沙ちゃんに
「それじゃあ記者じゃなくて出歯亀だよ」
そう囁いてドアから引っぺがしてエレベーターに押し込んだ。
病院の外に出たところで里沙ちゃんはケータイの電源を入れる。
すると。
「おぉっ!?」
メールを読んでいた彼女の眉がぴくっとあがる。新聞部の友人からかな?
「こ…これはスクープの予感…!
ごめんなさい、部長、ここで失礼します!!」
深くお辞儀をすると慌てて走っていった……。
- 277 名前:天体観測―第1話― 投稿日:2004/05/10(月) 05:09
-
一人残ったわたし。どうしようかな…。
うーん、さっきケーキ食べて喉渇いたから飲み物欲しいけれど、
この辺りにコンビニは無かったし…。
踵を返して、今出たばかりの病院に再び入る。
えーと…あった、案内表示板。うん、売店は地下一階。
近くにあった階段で下りる、途中でパジャマ姿の人とすれ違う。
階段を下りると廊下は三方向にわかれている。
エレベーターの脇に一本ずつ、そして、その左右の内の一本とは逆方向に一本――。
…どの先だろう……。
表示板には。
←リネン室 売店→
霊安室→
とりあえず、わたしから見て奥のエレベーター脇の廊下を進む。
歩いても売店はなくて。
それに誰にもすれ違わないのが不安に拍車をかけて。
進んだ先は曲がり角。おそるおそる先を覗いてみると。
……やっぱり。
奥には観音開きの扉が。
道、間違えました。
別に、死んだ方がいらっしゃらなくてもね、気分の良いものじゃないですし。
やっぱり薄気味悪いです。
アンニュイな気分になりながら踵を返すと――。
「――ッ!」
数メートル後ろに、人が。
び、び、びっくりしたぁ。ばくばくなる乱れ打ちの心臓。
相手もわたしに気づいたようで。
「ぁ!」
その方の顔を見て、小さく悲鳴を上げてしまう。
昨日の今日で忘れるはずがありません。
昨夜、屋上で会った人が、そこに佇んでいました―――。
- 278 名前:天体観測―第1話― 投稿日:2004/05/10(月) 05:11
- 天体観測―第1話― 完。
天体観測―第2話― に続く。
- 279 名前:石川県民 投稿日:2004/05/10(月) 05:13
- こんな感じです。この先けっこうコテコテな内容だと思われます。
『後紺の月』である5月中には完結を目指してます。
- 280 名前:石川県民 投稿日:2004/05/10(月) 05:26
- 263>名無しどくしゃサマ。
お早いレス、ありがとうございます!
“好き”という単純明快なお言葉に心臓が撃ち抜かれたくらいに喜びました♪
『まこあいアンリアル』はい、承りました〜!
5月ということで後紺を優先しましたけれど、これの次に中篇で書かせていただきます☆
264>我道サマ。
はじめましてでございます(ぺこり)
ビッグネームの方のご来店(?)にかなり驚きました。
私もROMさせていただいてます、自スレ240のヤ○ザな藤本さんが、
我道サマの藤本さんぽいなぁとも自覚しちゃってます。
後紺のアンリアル、始まってしまいましたが、ご期待に添えますかどうか……。
我道サマの更新ペースを見習いたいと思っておりますです。
- 281 名前:石川県民 投稿日:2004/05/10(月) 05:39
- 265>名無飼育さんサマ。
カルシウム不足、ビタミン不足、田亀不足。サプリメントがないところが辛いところですね。
学園物……ギャグとシリアスどちらがいいでしょうか?
遅筆で稚拙ながら補給のお手伝いさせていただきます♪
266>名無飼育さんサマ。
的確なお言葉、ありがとうございます。
>主人公さんに『猫背の王子』的なイメージがなかったので、
少し違和感じますた。
その通りだと思います、自分でも『人魚』ばっかりキャラが立ちすぎて
『猫背の王子』は弱かったなぁと自覚しております。
ただ、実際に『猫背の王子』を読んだことある方でしたら、あの小説の主人公をイメージするよりは『猫背の王子』という語感だけを使ったと思っていただければと。
甘かったところを指摘していただけるのは勉強になります!
ありがとうございます。
- 282 名前:石川県民 投稿日:2004/05/10(月) 05:40
- それではまた。
拝。
- 283 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/05/10(月) 17:10
- 気になる展開ですね…。
後紺の月ということで楽しませて頂きます(;´Д`)ハァハァ
- 284 名前:我道 投稿日:2004/05/10(月) 18:19
- 後紺をありがとうございます(ペコリ)
イイ味、イイ味・・・皆イイ味です(w
ビ、ビッグ・・・(気絶)はっ!?
いえいえ、私なぞまだまだひよっこ・・・いや、何かもうミカズキモです。
石川県民様がROMしてくださっているということで、恥ずかしいやら嬉しいやら・・・。
長くなりすいません。最後に、自分のペースで頑張ってください!
- 285 名前:265 投稿日:2004/05/11(火) 22:41
- リク了承ありがとうございます。m(_ _)m
この二年ほど飼育より離れていたんですが、
久々に開けて読んだのが花板・円氏の「君は僕の宝物」だったんです。
おかげで関心が無かった六期メンにハマりまして、リクした次第です。
「とある〜」や「嵐の〜」、「一足早い〜」の田亀もお気に入りです。
もちろん、さゆも絡ませてあげてください。ヨロシクです。
- 286 名前:石川県民 投稿日:2004/05/18(火) 04:06
- 『中篇』と銘打ったものの、そんなに長くないと思っちゃった石川県民です。
細々と、少ない量ですが更新させていただきます。
ああ区切るの下手だなぁ、自分。
- 287 名前:天体観測 第二話〜序〜 投稿日:2004/05/18(火) 04:08
-
数瞬の間、見つめあう。
相手も、わたしのことを思い出したようで、口の端をつりあげた。
けれど、それだけ。
ゆっくりとした足取りで奥へと進む、その人。
微動だにできない、自分。
瞳に、囚われていた。
その、髪の色と同じくらいに茶色い瞳に。
視線を外し、横を通り過ぎる彼女。既視感を引き起こした。
あの時、かけようと思ってかけられなかった声。
「あの!」
わたしは、
「今夜お暇ですか!?」
振り向き、声をかけていた。
- 288 名前:天体観測 第二話〜序〜 投稿日:2004/05/18(火) 04:08
-
おそるおそる顔を上げると。
その人はなんていうかその……
…呆けていた。
ぽかーんと口を開けたその表情が、ちょっと魚っぽいな、なんて失礼なことも考えてしまう。
たっぷり十秒間は呆けられた後。
困ったように頭を掻かれ、口を開く。
「えーと、ごとーナンパされてんの?女の子にされたのは初めてだよ」
あ・ごとーってお名前なんだ。
そうじゃなくて。
な、なんぱぁっっ!?
「そ、そんな滅相もない!!」
ぶんぶん激しく首を振って大声で否定すると。
『ごとーさん』は微苦笑を浮かべていた。
「えっと、あの、結局昨夜はその、観測できなかったので、今夜も、しようと思いまして、えーと、その天体観測を」
とん。
『ごとーさん』は壁に寄りかかった。
「ゆっくり話しなよ。そんなに慌てなくていいからさ。別に逃げやしないし」
- 289 名前:天体観測 第二話 投稿日:2004/05/18(火) 04:09
-
* * * * * * * * *
- 290 名前:天体観測 第二話 投稿日:2004/05/18(火) 04:09
-
天体観測に適した時間というのは、草木も眠る丑三つ時、つまりは午前二時なんです。
家を出る前に聞いたラジオでは雨は降らない模様。
望遠鏡を担いで、待ち合わせ場所のフミキリに着くと、まだ約束の人は来ていなかった。
待ちながら昼の出来事をぼんやりと思い出す。
※ ※ ※
「ふーん、天文部なんだ」
「はい、一応部長をやっています」
場所を一階のロビーにかえて(霊安室の前で話し続けるのはちょっと…)、
わたしたちは話していた。
彼女の名前は後藤真希さん、わたしより二つ上だけれど、誕生日はまだ来ていないそうで。
昨夜、どうして、どうやって鍵のかかった屋上に聞いてみたけれど、
「ヒ・ミ・ツ♪」の一言で済まされてしまった。
そして、逆に「えーと、紺野?紺野こそ、何で深夜の学校の屋上になんか来たのさ」と聞き返されてしまったのです。
「へえ、部活の一環として来てたんだ。
じゃあ、さっきのお誘いの今夜も、部活として?」
「わたし個人の趣味なんですけど…駄目でしょうか?」
「ダメなんて言ってないじゃん。場所はどこ?今夜も屋上?」
首を振って否定した。
「高台の公園なんですけれど…」
「…?」
眉間にシワを寄せる後藤さん。知らないのかな?
「一度別のところで待ち合わせしましょうか?」
「そうしてくれるとありがたいかも」
* * *
- 291 名前:天体観測 第二話 投稿日:2004/05/18(火) 04:10
-
そんなわけで、わたしは後藤さんを待っている。
はっきり言って、不思議な人だと思う。
どちらかというと人見知りなわたしが、わざわざ呼び止めた。
なにか、引きつけるものがあった。
そうじゃないと、今まで誰も呼ばなかったわたしだけの趣味に誘う理由が見つからないと思う。
そんなことを意味もなく考えていた二分後。
「あ〜、早いね」
片手にコンビニ袋を持って後藤さんはやって来た。
「ごとー、超珍しく予定時間に来たのに」
「…それが普通なのでは……」
「三十分は遅れるのがごとーの普通」
………。
絶句するしかなかった。
- 292 名前:天体観測 第二話 投稿日:2004/05/18(火) 04:10
-
「でもさー、なんでわざわざ高台の公園に行くのさ。他の、近くの公園じゃダメなの?」
「街灯とか、車のライトとか余計な光がないほうが綺麗に見えますので…」
今、望遠鏡は後藤さんに担がれている。最初は断ったけれど、
「ごとーのほうが力あるから」と言われて…。
かわりに、コンビニの袋はわたしが持つことにさせていただいた。
「ふーん、真面目なんだねえ」
「いえ…好きでやっていることですので……」
フミキリから公園までの道はそんなに遠くない。
一つ二つ角を曲がって、その先にある坂を上がればたどり着く。
歩きながらする会話。
ゆったりとした空気が流れて、楽しかった。
「ここでいいの?」
「はい。ありがとうございます」
目的地に着いて、景色の見渡せる高台の広場に望遠鏡を置く。
わたしがセットしている間、後藤さんは夜空を見上げていた。
「うわぉ。けっこう星があるんだね、ちゃんと見たのは初めてかも。
これだけでもごとー感動」
「望遠鏡で見るともっとすごいですよ」
「へぇ…」
言葉は切れる。
どこか遠くのほうから車のエンジン音や救急車のサイレン音が微かに聞こえる。
先に口を開いたのは後藤さんだった。
「ね、ハレー彗星は見える?」
「見えませんよ」
たしか次回の出現は2061年のはず。
- 293 名前:天体観測 第二話 投稿日:2004/05/18(火) 04:11
-
「ちぇ」なんて言いながらコンビニの袋を漁る姿は、なんだか可愛かった。
袋から取り出し、プシュッとプルタブを開け、口をつける後藤さん。
…ってその大きく黒い一つ星が描かれた缶は。
「後藤さん…貴女お幾つですか?」
「………54」
ぷちーん。
「そんなあからさまに嘘だと分かる嘘をつかないでください!!」
中身が零れるのも気にせずにすばやくひったくる。
「あぁ〜ビール〜〜っ」
「駄目です!処分します!!」
たぱたぱと、土に染み込ませる。
袋に入っていたもう一つの缶も、中身を捨てる。
「ちぇー、それ紺野の分なのに」
「いりません」
「…………マジメちゃん」
なんとでも言ってください。
- 294 名前:天体観測 第二話 投稿日:2004/05/18(火) 04:12
-
まったくもう。
微調整も済み、レンズをのぞいて確認した後、地面にのの字を書いて、すっかりイジケモードになった後藤さんの肩を叩く。
「望遠鏡をのぞいてみてください」
「む〜?」
まだアヒル口だったけれど、のぞいてくれた。
「ぅあ――」
瞬間、目を奪われ、食い入るように見る。
「――すごい。ね、これ何星?この星赤いね」
「それは火星です。赤星ともいいますよ。
レンズを月のほうに向けてみてください、クレーターがはっきり見えますよ」
言うとおりに向けてくれる。すると歓声を上げてくれた。
「うわっ、月の表面てすっごいデコボコ。ジャガイモみたい」
「ジャガイモ…」
夜空に浮かぶジャガイモ。
想像したら、ちょっと美味しそうだな、と思った。
我に返り、ぷるぷる頭を振る。
「なにかご質問はありますか?」
「スリーサイズはいくつ?」
「…後藤さん!」
「あはっ、冗談だって。ね、これ何星?」
「――もうっ。あ、それはですね…――」
金星。
北斗七星。
しし座。
おとめ座。
沢山の、星座。
- 295 名前:天体観測 第二話 投稿日:2004/05/18(火) 04:12
-
- 296 名前:天体観測 第二話 投稿日:2004/05/18(火) 04:12
-
ゆっくりと、二人で夜道を歩く。
望遠鏡は、再度後藤さんの肩に。
「すごかった…ごとー感動」
ぼうっとした口調で言う。本当に感動したみたい。
「結構、星って見えるんだね。知らなかったよ」
「あの辺りは外灯も少ないですし、まだ空気も街中よりは澄んでいますので…」
「へえー。っていうか、星座って初めて見たよ。あんなにキレイなものなんだね」
「興味を持っていただけて嬉しいです」
元々そんなにない距離。
ゆっくり、歩いても近づく待ち合わせ場所のフミキリ。
「じゃ、ここで…」
一瞬、このフミキリがもっと遠くにあったら良かったのに、と思ったのは何故でしょう…。
「本当にありがとう、いい体験できたよ」
望遠鏡を渡されたときに言われた言葉。
「じゃあ、ね」
ゆっくりと、去っていくその後姿。
「あのっ!」
足を止めて、振り返ってくれた。
「――宜しければ…また一緒に天体観測をしませんか?」
返してくれたのはあどけない笑顔。
「あぁ、そうだね。――またね」
「…はいっ」
- 297 名前:天体観測 第二話 投稿日:2004/05/18(火) 04:14
- 天体観測―第2話― 完。
天体観測―第3話― に続く。
- 298 名前:石川県民 投稿日:2004/05/18(火) 04:29
- ご返礼を…。
283>名無しどくしゃサマ。
ありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです♪
284>我道サマ。
>>いや、何かもうミカズキモです。
調べてみました。ミカヅキモ。美しい三日月形だそうで、比較的きれいな淡水に生ずるそうですね。
それなら私は、ツヅミモです(訳分からん)。
ちなみに、次スレ、期待してます♪
285>265さま。
花板、円サマで田亀にハマられたと…。あわわわわーーーー!!!
あの方はもう神の領域っすよ!一緒にしちゃいけませんて!!
円サマの田亀でハマられ、私の田亀で愛想が尽きないように頑張らさせていただきます。。。
もちろん、道重さんも絡ませていただきます。
- 299 名前:石川県民 投稿日:2004/05/18(火) 04:32
- 我道サマ。
すいません、>>298の『次スレ』は『My Believe Ways』の次板という意味です、
変な日本語になってしまいました。申し訳ありません。
- 300 名前:石川県民 投稿日:2004/05/18(火) 04:33
- それではまた会う日まで。わちゃちゃ。
拝。
- 301 名前:我道 投稿日:2004/05/18(火) 23:10
- おぉ・・・動き出してきましたね。
>ちなみに、次スレ、期待してます♪
お、お恥ずかしい・・・楽しみだなんてそんな・・・頑張ります。
最後に更新お疲れ様です&ありがとうございました。
次回も期待してますよ!(プレッシャーデスカ?
- 302 名前:石川県民 投稿日:2004/05/19(水) 14:31
- 第2話を書いた後に、「都会だとあんなに星が見えるわけない」と気づきました。失態☆
それでは短いですが、第3話、いきます。
- 303 名前:天体観測―第3話― 投稿日:2004/05/19(水) 14:33
-
天体観測から数日後。
夜半、ヨーグルトの入った袋を片手に、今なお人の多い大通りを歩く。
空を半分くらい雲が覆っていたけれど、天気予報では今夜中は降らないとのこと。
でも、これだと天体観測はできないなぁとぼんやりと思った。
そういえば、以前にもぼんやりと歩いていて電柱に激突して、まこっちゃんに笑われたっけ。
…その本人はわたしを笑っている最中に立て看板に激突したけれど。
そんなまこっちゃんは、順調に回復しているらしく、予定より早く退院できるそうで。
よかったよかった。
ふと目に入った路地裏。
…え?
ちらっとしか見えなかったあの姿は。
路地裏へと足を進めた。
あれは確かに、後藤さん。
そして、
叫んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
人が倒れていた。うつ伏せになったその人は、わたしと同じくらいの女の子。
何故か近くに携帯電話が転がっていた。
私の悲鳴で人が来た、
「誰か救急車を呼んでください!」
OLのような女性が慌ててカバンから携帯電話を取り出す。
倒れている子は、ほかの方に任せて、わたしは駆け出す。後ろのほうで「あ、ちょっと!」なんて声も聞こえたけれど、無視。
さっきのは絶対に後藤さん、見間違えなんかじゃない。
あの倒れていた子。後藤さんと無関係とは思えない。
- 304 名前:天体観測―第3話― 投稿日:2004/05/19(水) 14:33
-
走り回って探している間に、どんどん空を雲が覆っていく。
――どうも天気予報ははずれたみたい。
大通り、路地裏、コンビニの中。
どこを探しても後藤さんの姿はなかった。
それでも、走り回る。
ぽつぽつと、頬に、肩に降ってきた水滴。
あっという間にそれは雨となって、無数に降ってくる。
たくさんの人に、
「これっくらいの長さの茶色の髪の女性を見かけませんでしたでしょうか?」
と聞いた。
誰一人、知ってる人はいなかった。
雨足は強さを増していく。頬にあたる水滴が痛い。
服は水を吸って、どんどんと重たくなっていく。髪も、同様に。
かじかむ手に、はあっ、と息をかける。
後藤さん―――…
- 305 名前:天体観測―第3話― 投稿日:2004/05/19(水) 14:35
- 天体観測―第3話― 完。
天体観測―第4話― に続く。
- 306 名前:石川県民 投稿日:2004/05/19(水) 14:40
- (・Д・) 短ッ!
これでいいのかと思ってみたり、これでいいんじゃと開き直ってみたり。
301>我道サマ。
>プレッシャーデスカ?
プレッシャージャナイデス。
お引越しおめでとうございます♪
- 307 名前:石川県民 投稿日:2004/05/19(水) 14:40
- それでは。
拝。
- 308 名前:265 投稿日:2004/05/19(水) 22:02
- 円氏の作品は「深く静かに淡々とほんのり温い」(?)
という、印象があります。
対して石川県民さんの作品は「好物食べてるトロモニの笑顔」(?)
的な温かさです。(あくまで主観ですが。)
それぞれの良さがありますので、自信持って下さい。
つまらない作品にレスなんてしませんて。(w
- 309 名前:石川県民 投稿日:2004/05/21(金) 22:41
- それでは第4話参ります。
今回で紺野さんSIDEは終わりです。
- 310 名前:天体観測―第4話― 投稿日:2004/05/21(金) 22:42
-
ゲホッ、ゴホゴホ!!
気持ち悪い…咳き込んだときに、空っぽの胃から吐き出された胃液が口腔いっぱいに広がる。
お母さんが置いといてくれた洗面器にそれを吐き出す。
頭がぼーっとして目が霞む。
ベッドの周囲だけ重力が倍になったんじゃないかと思うくらいに体が重い。
- 311 名前:天体観測―第4話― 投稿日:2004/05/21(金) 22:42
-
――結局。
後藤さんは見つからなかった。
わたしはずぶ濡れになって家に帰り、お父さんが心配して「早く風呂に入れ」って言ってくれたけど、なんだか億劫になって。お風呂に入るどころか、ろくに髪も乾かさないでベッドに倒れこんだ。
その報いが、これ。
朝、目が覚めてから、体がだるくって仕様がない。それに、頭がガンガン痛む。きっと二日酔いってこんな感じなのかな、と思った。
けれど、わたしのは当然二日酔いなんかじゃなくって。熱を測ったら39度8分なんていう普段お目にかかれないような数値を叩き出した。
薬を飲んでおとなしく寝ていれば熱は下がるだろうと思ったけれど、それはどうも甘い考えだったみたい。
窓から見える青空が夜空に替わっても、熱は一向に下がらない。
どころか、さっき測ったら40度を超えていた。
- 312 名前:天体観測―第4話― 投稿日:2004/05/21(金) 22:43
-
お粥も喉を通らなくて、今日口にしたのはスポーツドリンクを数口程度。
それなのに何度も、胃の奥からこみ上げてくるものがあった。
咳の連続で、呼吸もままならない。口の端から垂れた唾液をタオルで拭う。
体がひどく暑いのに、同時にひどく寒い。体温調節機能が狂っていた。
咳の合間に荒く呼吸をしても、息苦しさは全然なくならない。
今、何時だろう…。
そんなことを朦朧とする頭で考えていたら。
そっと。
頬に自分のじゃない手が添えられた。
- 313 名前:天体観測―第4話― 投稿日:2004/05/21(金) 22:45
-
誰…お母さん?
うっすらと目を開けても、部屋の中が暗くてよく分からない。
ただ、ひんやりとした柔らかいその手が気持ちよくて。
安心できて。
ゆっくり目を閉じる。
手が頬から離れると。
ひょいっと。
浮遊感が。
さらに体がぐるっと旋回した――気が。
な、なに??
そして再び、背中にベッドの感触が甦る。
目を開けて確かめようとしても、ひどい睡魔が襲い掛かる。
夢と現実の間で、なにかを掴んだ気がしたけれど、それがなにかは確かめられなかった―――。
- 314 名前:天体観測―第4話― 投稿日:2004/05/21(金) 22:46
-
次に目を覚ましたのは朝。朝日がわたしを照らす。
ゆっくり体を起こす。
部屋にはわたし以外だれもいない。
「わたし…こんなに寝相悪かった?」
今までパジャマが捲れていたことはあったけど…上下逆さまになっていたのは初めてかも。ご丁寧に掛け布団まで体の向きに合わせて逆さまになっている。
そして。
昨日の体の辛さは、嘘のようになくなっていた。
- 315 名前:天体観測―第4話― 投稿日:2004/05/21(金) 22:47
- 天体観測―第4話― 完。
天体観測―第5話―に続く。
- 316 名前:石川県民 投稿日:2004/05/21(金) 22:51
- 次回から後藤さんSIDEに参ります。
308>265サマ。
>それぞれの良さがありますので、
ありがとうございます、感涙。
自信…持てるようになれればいいなと思います。まだ自分で納得できないときもありますので(苦笑
- 317 名前:石川県民 投稿日:2004/05/21(金) 22:52
- それでは。
あぁ〜区切るのって難すいぃ。
拝。
- 318 名前:石川県民 投稿日:2004/05/26(水) 04:17
- いまさらながらに言います。『天体観測』はファンタジーです、と。
それでは第5話に参ります。
- 319 名前:天体観測―第5話― 投稿日:2004/05/26(水) 04:18
- ごとーに家族はいない。
ごとーの13歳の誕生日に、家族みんなでドライブに出かけたんだ。おとーさんが途中、レストランでお祝いしようって言ってくれた。
その瞬間までは幸せだったんだ。
ごとー達の目の前にダンプカーが現れるまでは。
ダンプカーの運転手は居眠りしていたらしかったんだってさ。それを聞いたとき、なんか笑えた。
みーんな死んじゃった。
おとーさんも、おかーさんも、おねーちゃんも、弟も。
みーんな。
ごとーだけ奇跡的に生き残ったんだって。
でも、知ってるんだ。
“生き残った”んじゃなくて“生き残らされた”ことに。
ぐるっぐるに巻かれた包帯の隙間から見えた、宙に漂う、ウツボとウミヘビを足して二で割ったような生き物、に。
―――死神に―――。
- 320 名前:天体観測―第5話― 投稿日:2004/05/26(水) 04:18
-
“死神”はごとーの目の前まで宙に漂ったまま“言った”。(実際には声が耳から聞こえた訳じゃなくて、頭の中に直接語りかけられた感じだった)
我は死神。お前はこのまま死ぬか、我の使い魔として生きるか 。
それは、選択権のない選択だった。
その時は死にたくなんかなかったし。何としてでも生きたかったんだ。
だから、
「使い魔になる」
そう言ったつもりだったけれど、実際は口を動かすこともできず、ただ頭の中で言った。
でも“死神”はそれで理解した。
便利だな、ちょっとだけそう思った。
そして。
刹那に“使い魔としての心得”を教えられた。
文字通り、頭の中に“叩き込む”形で。
- 321 名前:天体観測―第5話― 投稿日:2004/05/26(水) 04:19
-
【死神とは】
曰く、霊体動物(精神的実体)であり、使い魔となった人間には見えるし触れることも可能だが、普通の人間には見えないし触れることもできない。
曰く、魂――特に人間――を糧とする。
曰く、寝ているときに死神が頭上で旋回した者は、どう足掻いてもその命は助からず、魂は死神の糧となる。
曰く、寝ているときに死神が足元で旋回した者は、命は助かり、魂は食べられない。
曰く、糧を奪う者は絶対に許さない。
Etc…
【使い魔とは】
曰く、死神の僕であり、絶えず死神の側にいること。
曰く、命の際の者を見つけだすこと。
曰く、他の死神が己の仕える死神の糧を強奪するのをふせぐこと。
曰く、『死』の補助をした罪により、使い魔は死んでも輪廻の輪に入ることは許されないこと。
Etc…
もちろん、即理解できたわけじゃない。
叩き込まれた瞬間に、頭はオーバーヒートして、気を失ったんだから。
- 322 名前:天体観測―第5話― 投稿日:2004/05/26(水) 04:19
-
一通り体が回復し、ぐるぐる巻かれた包帯も外された日、医者に告げられた。
家族が全員亡くなったことを。
それまでは、ごとーとは違う部屋に入院していると思ってた。
それを告げられたとき…………死にたかった。
でも、一度失った死ぬ機会。自分で死ぬ勇気はなかった。
意味もなく、宙に漂う死神を見ていた――。
- 323 名前:天体観測―第5話― 投稿日:2004/05/26(水) 04:19
-
それから数年後。
- 324 名前:天体観測―第5話― 投稿日:2004/05/26(水) 04:20
-
「学校…かぁ」
懐かしさを覚えて、グラウンド側の門から入る。中学、高校のどっちだろ。ま・どっちでもいーか。
グラウンドから見上げた校舎は、自分が夜の世界を支配しているんだと言わんばかりに威圧的に建っていて。
そんな建物に登ってみたくなった。
右腕を中空に差し出す。
死神がその長い体を差し出した右腕に絡ませる。
そして、昇り始めた。
右腕から感じる浮遊感。続いて全身にもそれを感じる。引っ張られている感じじゃなくて、なんだか無重力状態っぽかった。
そのまま、ふわふわとゆっくり空へと昇る。
屋上まで浮遊してもらい、降ろしてもらう。
辺りを見回し、柵のほうへと近づく。
威圧的な校舎から見る景色は――はっきりいって、つまんない。
家族を亡くしてからは、あちこちの地を転々とした。三日前にこの町に来たけど、大型店舗や娯楽施設もなく、ただ大きな病院があるだけ。
だからかな、――貧相な、夜景だった。
ま…大きな病院があるから、死神のゴハンには困らないけど…。
明日、そこに行ってみよう、そう思ったときだった。
- 325 名前:天体観測―第5話― 投稿日:2004/05/26(水) 04:20
-
「ひっ」
後ろから、人の声。
んぁ、誰よこんな時間にこんな場所に来るなんて。――ってそれはごとーも同じか。
ゆっくり、振り向く。
そこには、望遠鏡を担いだ女の子。色白で、大きな目をしているけれど、その瞳には怯えが混ざってる。
そりゃそーか。誰もいないはずの屋上に人がいれば驚くものよ、うん。
なら、とっとと退散しようっと。
まさか、この子の目の前で死神に下ろしてもらうわけにもいかないし…。死神の姿は見えないけど、その分、ごとー一人がぷかぷか浮いてるように見えちゃうんだろうな。
ちょーどいーや、この子が今開けたところから下りよう。
ごとーが近づいても、その子は微動だにしなかった、まぁ“できなかった”んだろうけど。
横を通り、そのまま校舎の中へ。
靴音が響くことも気にせずに下りた。
- 326 名前:天体観測―第5話― 投稿日:2004/05/26(水) 04:21
-
ここ数年ですっかり“使い魔”が身についた。
死神に逆らっても、どうせ死ぬだけだし。
使い魔の最重要課題は『死ぬか生きるかの瀬戸際の人間を見つけること』。
これは、と思う人間を見つけるだけで、死神は勝手に頭の上か足の先かで“回転”してくれる。
罪悪感は、無くなった。
どうせ死ぬ人は死ぬんだし、その魂を死神に食べさせるか食べさせないかの違いだし。
それに、“回転”しているときは側にいなくてもいいことも都合がよかった。直線距離で50mは離れてても大丈夫だし、人が死ぬ瞬間を見なくて済むことは、確実に心を軽くさせていた。
心の奥底にずしりとくる“なにか”を、知らないふりをしていた。
- 327 名前:天体観測―第5話― 投稿日:2004/05/26(水) 04:21
-
次の日。
ごとーは、ごくごく普通に病院内に入った。
案内板で霊安室の場所を確認して、そちらへと足を向ける。一般的な病院のように、この病院も霊安室は地下だった。
死んだばかりの体の近くに、魂が成仏もせずに浮遊していることもあるから、遺体がないかなぁ、と思った。ないならないで、その後に一般人が立ち入れる範囲でICUにでも行ってみようと思った。
人気の無い廊下を歩いてゆく。
「――ッ!」
んあ、誰よこんなところで。…ってなんか既視感に襲われる。
顔を上げると。
「ぁ!」
相手が小さく声を上げた。
……あら昨夜の子。
知らず知らずに口の端が上がる。
縁があるねー、また横、通らせてもらうね。
ぷ。
あーあ、そんなに目ぇ見開いちゃって。別に取って食おうってわけなじゃいんだから。
ゆっくり、通り抜ける。
「あの!」
ん?
「今夜お暇ですか!?」
………はい?
「えーと、ごとーナンパされてんの?女の子にされたのは初めてだよ」
わぉ、初体験。
女の子は。
「な、なんぱぁっっ!?」
ぶんぶんと、折れるんじゃないかって思うくらいにその細い首を激しく振った。
- 328 名前:天体観測―第5話― 投稿日:2004/05/26(水) 04:22
- 天体観測―第5話― 完。
天体観測―第6話― に続く。
- 329 名前:石川県民 投稿日:2004/05/26(水) 04:22
- また数時間後に更新します。
- 330 名前:265 投稿日:2004/05/26(水) 08:06
- 寝不足にならない程度に。(w
- 331 名前:天体観測―第6話― 投稿日:2004/05/26(水) 15:59
- 初めて会ったとき以来、“喋る”ことのない死神。きっと、人語を理解する能力はあっても、本来なら喋ることのない生き物なんだろうな、きっと。
今まで、死神とのコミュニケーションは、死神のオーラっていうか気配っていうか、まぁとにかくそういうものをごとーは読み取ってきていた。
その、死神は今。
あまり機嫌が宜しくない。
「でもさー、なんでわざわざ高台の公園に行くのさ。他の、近くの公園じゃダメなの?」
望遠鏡を担ぎながら隣にいる女の子、紺野に尋ねる。そして、そんなごとーの右後方の空中に。
死神は漂っていた。
もともと、“回転”するとき以外は、ごとーは死神の傍にいる。だってごとー使い魔だし。
つまり、いつも主導権は死神にある。
それなのに。
今、ごとーの意志で行動している。それが気に食わないんだろうな。
ま・たまにはいーじゃん。
「ふーん、真面目なんだねえ」
「いえ…好きでやっていることですので……」
死神の存在を無視して、紺野との会話を楽しんだ。
- 332 名前:天体観測―第6話― 投稿日:2004/05/26(水) 15:59
-
「ここでいいの?」
「はい。ありがとうございます」
望遠鏡を置くと、紺野は調整し始めた。
その間、なんとなく空を見上げる。
うわぉ。
「けっこう星があるんだね、ちゃんと見たのは初めてかも。
これだけでもごとー感動」
「望遠鏡で見るともっとすごいですよ」
「へぇ…」
大きく光ったり、小さく光ったりと、個々に光る星々。
ちょっと、すごい。
あ、そーだ。
「ね、ハレー彗星は見える?」
見てみたいんだよね、あれ。
「見えませんよ」
そーなの!?
「ちぇ」
持ってもらった袋を漁る。ビールを取り出して、口をつける。
すると。
紺野が目をすっごく開いて、こっちを見ていた。
何?欲しい?ちゃんと紺野の分も買ってきたよ?
「後藤さん…貴女お幾つですか?」
静かな、低い声。いや〜な汗が背中を伝う。
「………54」
咄嗟に、嘘をついた。
「そんなあからさまに嘘だと分かる嘘をつかないでください!!」
あっけなくバレて、ビールはひったくられる。
あぁ〜〜〜っ。
たぱたぱと、土にビールを染み込ませていった……。
…ちぇっ。
- 333 名前:天体観測―第6話― 投稿日:2004/05/26(水) 16:00
-
「望遠鏡をのぞいてみてください」
イジけていると、肩を叩かれてそう言われた。
「む〜?」
どれどれ?あまり期待もせずにのぞいてみた。
「ぅあ――」
言葉が出なかった。
レンズの中には、荒々しく野性的な赤を帯びた天体が。あまりの迫力に、頭を殴られた気分だった。
「――すごい。ね、これ何星?この星赤いね」
「それは火星です。赤星ともいいますよ。
レンズを月のほうに向けてみてください、クレーターがはっきり見えますよ」
言われるまま、肉眼で月の位置を確認してからレンズをそちらへと向ける。
うわお。
「うわっ、月の表面てすっごいデコボコ。ジャガイモみたい」
夜空に浮かぶジャガイモって結構良さそうじゃん?
「なにかご質問はありますか?」
聞きたいこと?ん〜、
「スリーサイズはいくつ?」
「…後藤さん!」
あはっ、リアクションがいいね!
紺野との天体観測を心行くまで楽しんだ―――。
- 334 名前:天体観測―第6話― 投稿日:2004/05/26(水) 16:00
-
再び、望遠鏡を担ぎながら、ゆっくり夜道を歩いてゆく。
すごかった、本当にすごかった。期待していなかった分、驚きも倍だった。
素直に感動したことを伝えると、紺野は柔らかく笑ってくれた。
ゆっくり、歩いても近づく分かれ道。
待ち合わせしていたフミキリで足を止める。
このまま、肩の望遠鏡を返さなかったら、まだ一緒にいれるのかな……そこまで考えて否定した。なにを、馬鹿なことを。
「じゃあ、ね」
本当に、ありがとう。すごく楽しかったよ。
「あのっ!」
声を、かけてくれた。振り返る。
「――宜しければ…また一緒に天体観測をしませんか?」
その言葉は、とても嬉しかった。知らず知らずに笑っていた。
「あぁ、そうだね。――またね」
「…はいっ」
――また、ね――。
- 335 名前:天体観測―第6話― 投稿日:2004/05/26(水) 16:01
- 天体観測―第6話― 完。
天体観測―第7話― に続く。
- 336 名前:石川県民 投稿日:2004/05/26(水) 16:03
- 330>265サマ
わざわざありがとうございます、ここ最近の生活リズムはしっちゃかめっちゃかでございます。
- 337 名前:石川県民 投稿日:2004/05/26(水) 16:03
- あと2、3話で終わります。
それでは。
拝。
- 338 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/05/27(木) 17:52
- 死神と来たか!!面白いですな(・∀・)
- 339 名前:石川県民 投稿日:2004/05/31(月) 23:54
- ちっくしょう…間に合わない。
それでは本編スタート。
- 340 名前:天体観測―第7話― 投稿日:2004/05/31(月) 23:55
-
あの時『また』と言ったけれど、正直、もう会うつもりはない。
紺野と会っていると、すごく楽しかった。だから…その分、自分の置かれている環境が嫌になった。
間際の人間独特の青白い呼吸音、臭い、雰囲気。全てが彼女に相反するもの。
全てが、自分を再認識させるもの。
ごとーは、使い魔。
ヘンな噂が流れる前に(間際の人間の近くで、死神はともかく、ごとーの姿は何回か見られたことあるし)、転々と住む場所をかえている。だから、ちょっと早いけどもう去り時かな、と考えた。
あと二、三日でこの町を去ろう、うん。
さよなら、紺野。
- 341 名前:天体観測―第7話― 投稿日:2004/05/31(月) 23:55
-
野良猫のように足音も立てずに路地裏を進む。死神は、あまり街灯の多い大通りを好まない。
それは、ある種の習性みたいなもの。
急ぐこともないので、のんびりと死神の後に続く。
カシャン、となにかが落ちる音が。
そちらへと足を向ける前に、死神がそちらへと向かっていった。
そこには女の子が一人、胸をおさえて倒れていた。
「ちょっと、大じょー…」言葉は途切れる。
近づこうとしたら、死神が一足(?)早く、その子の頭上でグルングルン旋回し始めたから。
- 342 名前:天体観測―第7話― 投稿日:2004/05/31(月) 23:55
-
なんだ…この子、もう死ぬじゃん。
それに、死神が回るスピードも速いから、きっとあと少しでこの子の命のロウソクは尽きる。
どうしようもないから、ただ近くで佇んだ。
すると。
「だれ…しに、…がみ…?」
ごとーを見上げ、息も切れ切れに言った。
「まぁ…そんなとこかな」
正しくは使い魔だけど。
その子は丁度いいと言わんばかりに、苦しそうだけど、笑った。
「あの、さ……」
荒い呼吸が言葉の邪魔をする。
「メール――――送っといてよ」
は?メール?
なに、この子。
まぁ…いいけどさ。
無言で落ちてたケータイを拾って(さっきの音はケータイが落ちる音だったんだ)、すでに本文が完成していたメールを送信した。
それを見ていた彼女は、地面に顔をつける間際、息も絶え絶えに呟いた。
「ありがとう」
こと切れた。
- 343 名前:天体観測―第7話― 投稿日:2004/05/31(月) 23:56
-
死神がおもむろに口を開ける。頭から出てきた青白い物体を飲み込む様子をただ見ていた。
――違う、視界に意味は成していなかった。
たった今聞いた言葉を脳が拒否していた。こんなもの、聞かなかった、脳から追い出してしまえ、と。
――信じられない。
あ り が と う ?
最期の最期に言う言葉が、それ?
ちょっと、
待って。
ありえないから。
なんで、
なんでよ?
普通、
普通さ、もーちょっとこの世に未練のある言葉を残さないわけ?
90を過ぎた枯れたじーさんじゃあるまいしさ。
事故った人間の死ぬ間際に何回か立ち会ったことあるけど、みんな「死にたくない」って言って死んでいったんだよ?
信じられない。
なんで最期に「ありがとう」なんて言うのさ。
なんで、安らかそうな顔をしてんのさ。
踵を返し、その場から走り出した。
走りながら右腕を差し出して、死神に絡ませる。
ふわり、と浮く体。
離れたかった。
『ありがとう』と言って笑顔で死んだあの子から。
逃げたかった。
- 344 名前:天体観測―第7話― 投稿日:2004/05/31(月) 23:56
-
- 345 名前:天体観測―第7話― 投稿日:2004/05/31(月) 23:56
-
「――っくしゅん!」
あ゛―。
先ほど、突発的に降った雨が、確実に夜の空気を冷やしていた。今住んでるウィークリーマンションに戻ったら、お風呂でも沸かそうかな、そう思いながら夜道を歩く。
あてもなく宙を泳ぐ(ようにごとーには見える)死神の後につきながら。
一応死神には、人間のソレとは違う構造だけれど、嗅覚みたいなものがあって。ソレを使って、間際の人間を探し出すこともあるらしいのよ。
だから、ごとーにはあてもなく泳ぐように見えても、きっと、確実に、死神はエサに近づいている。
それなのに。
やってきたのは閑静な住宅街。
なんで??
- 346 名前:天体観測―第7話― 投稿日:2004/05/31(月) 23:57
-
自宅で最期を望む病床のじーさんでもいるのかしら。
死神の動きが止まった。
死神の頭は、一軒の、なんの変哲もない家に向いている。
門柱に埋め込まれている表札を何気なく覘いてみた。
【紺野】
あは…っ、はっ、つまんない偶然だよね。
別に『後藤』ほどじゃないけど、珍しい苗字ってわけじゃないんだしさ。
本当、つまんない偶然。
死神が二階へと飛んでいこうとするので、慌てて右腕を絡ませた。
- 347 名前:天体観測―第7話― 投稿日:2004/05/31(月) 23:57
-
窓から見た部屋の中。そこは、じーさんが寝るような部屋じゃあなかった。
そこは、女の子の部屋。
霊体動物である死神に、窓をすり抜けてもらって、鍵も開けてもらう。
ゆっくり、音をたてないように窓を開け、窓辺で靴を脱ぐ。
「なんで…」
だれに問うわけでもなく呟く。
ベッドで苦しそうに荒い息を吐き出す人物に。
ウツボとウミヘビを足して二で割ったような生き物、死神は。
旋回していた。
「紺野――…」
ごとーの知ってる人間の頭上を。
ぐるぐると、いやらしく。
- 348 名前:天体観測―第7話― 投稿日:2004/05/31(月) 23:58
- 天体観測―第7話― 完。
天体観測―第8話― に続く。
- 349 名前:石川県民 投稿日:2004/05/31(月) 23:59
- とりあえず、今週中には終わらせます!
- 350 名前:石川県民 投稿日:2004/06/01(火) 00:01
- 338>名無しどくしゃサマ。
そーです、死神なんです。面白いと言っていただけて光栄です☆
このあと、コテコテな内容になりますが、呆れずにお付き合いくださいませ(願。
- 351 名前:石川県民 投稿日:2004/06/01(火) 00:02
- それではまた。
…水曜日あたりにでも!
拝。
- 352 名前:我道 投稿日:2004/06/01(火) 03:10
- 何でしょう・・・こう、なんかドキドキします(苦笑)
マターリ頑張ってください!
- 353 名前:石川県民 投稿日:2004/06/02(水) 18:09
- 天体観測、第8話、改め最終話です。
- 354 名前:天体観測―最終話― 投稿日:2004/06/02(水) 18:09
-
走った。
とにかく走った。
ひたすら走った。
走って、逃げていた。
でも。
逃げても逃げても追いかけてくる。
そんな状況の中。ごとーの心には二つの相反する感情があった。この状況に後悔している自分と、満足している自分。
- 355 名前:天体観測―最終話― 投稿日:2004/06/02(水) 18:10
-
なんでこんなことになったんだろう。
なんであの時あんなことをしたんだろう。
分かってたはずじゃん。
死神はエサを横取りするやつを絶対に許さない、って。
ありがとうを最期の言葉にしたあの子に会ってから、ごとーはおかしくなったんだ。
そうだ、きっとそうだ。
そうじゃなきゃ、考えられない。
あの時、横たわる紺野の体を反転させた理由が。
理由なんてない。
ただ助けたかっただけ。
紺野と見た星々は。
儚いほどに、
切ないほどに、
綺麗だった。
わくわくした、
どきどきした、
楽しかった。
だから…だから。
あの時、つい、暗くても真っ赤だと判る頬に手を伸ばしてしまった時に。
熱を帯びた瞳をゆっくり閉じた姿に。
覚悟を決めたんだ。
抱え上げ、頭と足の位置を逆にする。ついでに掛布も一緒に。
死神は、一度旋回すると止まれないから、ごとーの行動を止める術もなく、ただぐるぐる回っていた。
すると、突如?まれた服のスソ。その弱々しい拳を外すこともせず、両手で包んだ。
ゆっくり目を閉じる。
ねえ、お願い。
ごとーの命のロウソク。紺野に継ぎ足して。
- 356 名前:天体観測―最終話― 投稿日:2004/06/02(水) 18:10
-
逃げても逃げても追いかけてくる。
死神は、ちまちまと、そのアホみたいに大きな口でごとーの肉を引きちぎる。反撃しようにも、一度啄んだかと思うと、さっと距離をとる。
一撃で殺そうとしない。確実に嬲りながら体力を消耗させ、ねちねちと。
…陰湿!
こっちは走り回ってるけれど、向こうは悠々と飛びながら、宙から攻撃してくる。
逃げ切れない。
漠然としていた“死”を、明瞭に悟る。――でも、いーや、拾った命なんだし。
体中あちこち啄まれ、あちこちから血が吹き出している。部位によっては骨らしき白いものまで見えていた。
走る足取りもおぼつかない。
血が流れすぎて目が霞む。
でも。
最後に一泡吹かせたい。
何度も何度も、幾度も幾度も、攻撃を受けたせいで次にくるタイミングもなんとなく分かった。
肉を啄もうとする瞬間。
左後方から襲ってきた死神に、振り向きざまの右ストレートを放った。
“―――!”
死神の声にならない声。ごとーの拳は確実に左眼を捉えていた。
宙で、その長い体をくねらせ、のたうちまわる。
「あはっ!」
そう簡単に殺されるかっつーの。
のたうちまわっている間に逃げ出す。
それは、ただの時間稼ぎ。死神を撒くことはもう不可能だった。
- 357 名前:天体観測―最終話― 投稿日:2004/06/02(水) 18:11
-
どこかの、草の茂った公園に入ったところで足はよろけ、倒れこんだ。
「…うー…」
全身に力が入らない。もう、瞼すら自分の意志で動かせない。
あの後。
紺野の呼吸が穏やかになったところで、服を?んでいた手を放させ、ごとーは死神から逃げ出した。そしたらいつの間にか朝になっている、空が青い。
全然、気付かなかった。
朝…かぁ。星は見えないじゃん。
あーあ、自分の方から離れる決心、していたはずなのにな。
もう一度、たった一度でいいから、一緒に星が見たい。
あの時、最期にありがとうを言ったあの子から逃げた理由がやっと分かった。
――羨ましくてしょうがなかったんだ――。
そう気付いた瞬間、その子が脳裏で苦笑した気がした。
やーっと。
こんな状態で。
自分の気持ちに気付いちゃった、命を捨ててまでも紺野を助けたかった理由。
ごとーは死んでも生まれ変わることはできないから。
未来永劫、永遠に伝えることのできない告白。
ごめん、紺野。
アタシさ、紺野に伝えていない事実が沢山あった。
アタシさ、紺野に伝えていない想いも沢山あった。
その全てが、今も心に残ってる…。
キミと見たあの夜空のように。
強く、強く――。
目の前がどんどん黒くなっていく。
あ、死ぬやこりゃ。
――あはっ。
死ぬのに、全然怖くない、むしろ穏やかな気分。
紺野…。
- 358 名前:天体観測―最終話― 投稿日:2004/06/02(水) 18:12
-
- 359 名前:天体観測―epilogue― 投稿日:2004/06/02(水) 18:13
-
天体観測―epilogue―
- 360 名前:天体観測―epilogue― 投稿日:2004/06/02(水) 18:13
-
天体観測に適した時間というのは、草木も眠る丑三つ時、つまりは午前二時なんです。
家を出る前に聞いたラジオでは雨は降らない模様。
あの日の待ち合わせ時刻に遅れそうなので、望遠鏡を担いで小走りに急ぐ。
ぎりぎり間に合い、フミキリの前でしばらく佇む。二分後、だれも来なくても、望遠鏡を担ぎなおして歩き始める。
日にちを指定していなかった、わたし達の約束。意味が、ない。
でも、突然ひょっこりと現れそうな気がする。
「ごめーん、紺野」とか言いながら。
やって来たら、またビールを持ってくるかもしれない。
今度は、飲むのに付き合ってみようかな、と思う。ほんの、ちょっとだけ。
ハレー彗星は見えないけれど。
今度は二人で彗星を探してみるのもいいかもしれない。
…でも後藤さん途中で飽きないかな?
「ごぜーん にじー、フミキリーにー♪」
深夜、迷惑にならない程度の声で口ずさむ。
後藤さん。
わたしはきっと、貴女が来るまで、一人で天体観測を続けているでしょう。
伝えたいことがあるんです。
たった一言だけですが、伝えたいんです。
自分の正直な、気持ちを。
あ、手紙に書くのもいいかも。
だから、フミキリで二分間だけ待ってます。
その時間に間に合ったら、一緒に天体観測しましょうね。
- 361 名前:天体観測―epilogue― 投稿日:2004/06/02(水) 18:14
-
「イマ」という ほうき星
君と二人追いかけている
- 362 名前:天体観測 投稿日:2004/06/02(水) 18:14
-
天体観測――完――
- 363 名前:スレ隠しという名の言い訳 投稿日:2004/06/02(水) 18:18
- 本来この話は『紺野さんを命がけで守る後藤さん』を書きたくて始めた話でした。それが曲がりくねってこうなりました。
ちなみにこの『天体観測』、私の心の中のサブタイトルは『救いのない話』です。
モチーフにした曲の、そしてアーティストのFANの皆様、申し訳ありません……!!!!
リクエストしてくださった我道サマ、そして見守ってくださった皆々様方、…こんなんでよかったですか?
- 364 名前:石川県民〜予告という名の警告(?)〜 投稿日:2004/06/02(水) 18:27
- 352>我道サマ。
どきどきしてくださってありがとうございます。(感謝)
そして次回ですが。名無しどくしゃサマがリクしてくださった、まこあい(小高?)のアンリアルです。…懲りずに、再!度!とある曲がモチーフです。
んで、えっちぃです。……15禁ぐらい?
…………………リクしてくださった名無しどくしゃサマ、15歳未満ではありませんよね…?
それでは。
拝。
- 365 名前:我道 投稿日:2004/06/02(水) 18:32
- 完結お疲れ様です&ありがとうございました。
読んでいましたら、ジーンときて、ウルッときて・・・。
つまり・・・泣きました(涙)
良きお話を、本当にありがとうございました。
- 366 名前:石川県民〜誤字訂正〜 投稿日:2004/06/02(水) 22:31
- 常用外漢字を使ったところ、ワードでは出ていたのに、実際には『?』になってました、失態。
レス355内の『?まれた』は『掴まれた』です。あぁ恥さらし。
- 367 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/06/03(木) 16:51
- 結構ツボです。とにかく斬新。そして素敵なラストだワァ。
スレを立てた頃とちょっと書き方が変わったような感じがしますた。
完結お疲れ様でした。
では、リク楽しみにしています。ちなみにオーバー15なのでご安心下さいw
- 368 名前:石川県民 投稿日:2004/06/04(金) 22:11
- 365>我道サマ
あわわわわ、泣かれるなんて…!
ささ、これで涙を拭いて… )つ□
良いお話だなんて言ってくださって、本当にありがとうございます。
367>名無しどくしゃサマ
斬新、ですか、ありがとうございます。まぁ、元ネタはある意味グリムな訳ですが。。。
書き方も変わりましたかね?自分ではよく判らないですが。。。
オーバー15ですか、よしっ!(w
- 369 名前:石川県民〜お知らせと予告〜 投稿日:2004/06/04(金) 22:23
- 次回のまこあい話、“らいおんハート”は申し訳ありませんが、ochiで更新させていただきますので、ご理解とご協力のほどお願いいたします。。。
別に男性が出るわけではないのですが、書き進めていくと、age更新だと恥ずかしい話になってしまいましたので(爆)。
“らいおんハート”は全5話です。そして、今までと違うコトをしようと思い、予告をいれてみることにしました。
それでは第1話の予告スタート。
- 370 名前:らいおんハート―第1話予告― 投稿日:2004/06/04(金) 22:25
-
現代の医学ではフカノウ―――
ごめんね、ごめんなさい。―――
「先輩、あたしとお付き合いしませんか?」
「えぇよ」
可愛いなぁ、と思う――。でも、それだけ。
「聞こえるかもしれない、って思うほうが燃えない?」
「…!バカッ!」
愛ちゃんとの行為に溺れに溺れた―――
「わたし、ずっとまこっちゃんが好きだったの…」
らいおんハート―第1話 もって半年―
- 371 名前:らいおんハート 投稿日:2004/06/06(日) 01:36
-
愛ちゃん、ごめんね。
あたしってさー、結構シャイだから、さ。
口に出すのが恥ずかしいんだよね。
うん、本ト、ごめん。
今度、逢ったらちゃんと言うからさ。
――ね?
- 372 名前:らいおんハート 投稿日:2004/06/06(日) 01:36
-
らいおんハート
- 373 名前:らいおんハート―第1話 もって半年― 投稿日:2004/06/06(日) 01:37
-
――モッテハントシ――
医者がそう発した瞬間、お母さんは泣き崩れた。
言われた当の本人であるあたしは、視界に映る全てのものが色を失った。
意識の遠くのほうで、大ドーミャクリュウ、とか手術、とか現代の医学ではフカノウとか聞こえた。
ぼんやりと、ああだから部活の最中や終わった後は、あんなにも苦しかったのか、と妙に冷静に分析している自分もいた。
今すぐにでも入院、という言葉を、あたしは遮った。
どうせ助からないのなら、今までと変わらない生活をおくりたい、って。
お医者さんは渋い顔で、お母さんは泣きながらだけど、二人はあたしの言葉を受け入れてくれた。
ごめんね、お母さん。
ずっと、最後まで我がままばっかり言って。
ごめんね。
- 374 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:38
-
次の日。あたしは水泳部に退部届を出した。
さすがにね、部活を続けていると即心臓部の太い血管が破裂するなんて言われれば辞めざるをえない。
必死に引き止める顧問の先生に理由を説明する気にもなれなくて、にへらにへらと笑ってみせた。
そしたら「お前がこの学校に入ったのは何のためだ!」て怒鳴られた。
――そんなのあたしが知りたいよ。
水泳部に、スポーツ特待生として入ってきたあたし。
その水泳部を辞めると、あたしがこの学校にいる価値なんて――ない。
「せめてマネージャーとしてこの部に…」と引き止めてくれる先生。
でも………自分が泳げなくて、人が泳いでいる姿を見ても妬ましいだけなんです。
ごめんなさい。
- 375 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:39
-
…退部して三日経過。
あたしは……暇だった。
中学生のころから四年以上、水泳やトレーニング漬けだったあたしにとって、放課後なんて何をしたらいいのか分からない。
――本当に自分には水泳しかなかったんだな。そう思ったら目の前が滲んだけれど、それは、きっと眼が乾燥したんだ。
まっすぐ家に帰る気もどこかに寄る気もおきない。
仲の良い友人は、部関連の子ばかりだから、自然と距離を置いてしまって。
結果、一人で校内をぷらぷらしていた。
図書室にも行ってみたけれど、元々読書に向かないあたしの脳ミソ。
幸の薄そうな雰囲気の図書委員に、貸し出しの手続きをさせることもなく、図書室を出た。
どーしよ…意味もなく校内を彷徨うのなら、家で寝ていたほうがいいかも…。
生徒玄関へと向かうべく、階段を下りる。
すると、上からくすくす笑いが聞こえた。
見上げると、中段の辺りで手すりから体を半分のぞかせて笑っている子。
誰だろ…でも、可愛い。
目が印象的だった。
相手が口を開く。
「…麻琴やろ?水泳部の小川麻琴。この時間は部活やないの?」
「部活は辞めたんです。それより…どちら様でしょ?貴女みたいな可愛い知り合いがいたら、あたし覚えてるハズなんですけど」
その子は「そりゃありがと」なんて言いながら下りてくる。
笑みをたたえたまま。
あたしより二段上の段で足を止める。
「三年A組の高橋愛や、こうして話すのは初めてやし」
あら、先輩でしたか。確かに、ついてる校章がそうだ。
「二年D組の小川麻琴っス。で・なんで先輩はあたしのこと知ってるんスか?」
素朴な疑問をぶつけてみる。
「屋内プール場の二階は観客席になっとるやろ?わたし、そこで見とってんて」
なーるほど。あそこは出入り自由だから、部に関係のない人でも好きに見れる。
- 376 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:40
- 「泳いでいる姿が格好良かったから、麻琴の名前だけは覚えたんよ。けど、辞めたんや、ちと残念」
唇を軽く尖らせる姿に、軽く心が揺れる。
口が勝手に動いていた。
「先輩…お暇ですか?」
「どちらかといえば暇やね」
「なら、あたしとお付き合いしませんか?」
お医者さんは言っていた。
――日々安静にすごしていれば寿命は、少しは延びるって――。逆に刺激があれば、心臓に負担がかかって、寿命を縮めることになるってことも。
当然のように、日々安静にすごすように言われた。
でも…味気ない生活を延ばしたって、何の意味があるんだろうって、ずっと考えていた。
そう考えていたからこそ、出た言葉だった。
平穏な最期なんて、欲しくない。
先輩は目を見開く、驚いた顔をして。そして。
「えぇよ」
微笑んだ。
- 377 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:40
-
***** *****
- 378 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:40
-
「あっ!麻琴…!」
弓なりに、しなる体。
制服って便利だなぁ、て思う。
だって、昨日と同じ服を着ていたって、まずバレることはないから。
「麻琴…プールのにおいがする。もう…体に染み付いてるんやね」
あたしの胸元に顔を埋めて、先輩――愛ちゃんは言う。
「愛ちゃん、くすぐったいよ」
「ん、でも」
「でも?」
「わたし、カナヅチねんて。
せやからプールのにおいは嫌いやった…けど……麻琴からのは安心する……」
そう言って、鼻をこすりつける。
「愛ちゃん…」
腕を掴み、引っくり返す要領でお互いの体を逆位置にする。
「麻琴?…ふぁっ」
首筋に唇を当てただけで上がる、甘い吐息。
「えっ、ちょ…っ、ぁん。シたばっか…!」
あたしの体と唇を力なく押し返そうとする。
「だあって愛ちゃんが可愛いことを言うから。
…いや?」
自覚するぐらい、口の端は上がっている。
愛ちゃんは、少し悔しそうな顔をして、腕をあたしの首に絡ませてきた。
「いや や、ない」
耳元で囁いた。
――そう。
指先でなぞるだけでびくびく震える体も。
次第に高くなっていく喘ぎ声も。
恍惚とした表情も。
目尻にたまる涙も。
可愛いなぁ、と思う――。
でも、それだけ。
それ以上の想いが、ない。
- 379 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:41
-
***** *****
- 380 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:42
-
「まこっちゃん!」
放課後。
ぼけーっと、受信されたメールを見ていたら、声をかけられた。
とても、なじみのあった、声。でも距離をおいていた、声。
ゆっくり、振り向く。
「あさ美ちゃん…」
水泳部で、一番仲の良かった子が、そこに立っていた。
「ちょっと…いいかな…?」
相変わらず、細い声。
「無理」
微かに身じろいだあさ美ちゃんを無視してカバンをつかんで立ち上がる。
「ごめんね、愛ちゃんが待っているんだ」
受信されたメールは愛ちゃんからのもの。
一緒に帰ろう、っていうお誘いメールだった。
「…『アイチャン』…?」
あたしの友達は、大抵あさ美ちゃんの友達。だから知らない名前に、あさ美ちゃんは首を傾げた。
「そ。三年A組の高橋愛。あたしの恋人」
「あ……そう、なんだ…」
「だから、またね」
うつむくあさ美ちゃんの横を通って教室を出た。
そのまま生徒玄関へ。
あたしの靴箱兼ロッカーに寄りかかっていた愛ちゃん。こっちを見て、体を浮かせた。
「お待たせ」
「んー、そんなに待ってないわ」
「そう?」
靴を履き替える。
「でもさ、愛ちゃん今日は塾じゃなかった?」
「先生の都合で休み」
「ふーん、受験生は大変だね、学校の外でも勉強しないといけないんだから」
「麻琴も来年はそうなるよ、進学やろ?」
「…まーね」
――あたしに“来年”なんてないよ。
そんな言葉を飲み込んで、愛ちゃんの方へと向き直る。
「ね、今日も愛ちゃんちに泊まっていい?」
そう言うと思いっきり目を開いた。驚いたときの、クセ。
「麻琴のお母さん、心配しない?二日連続やなんて」
「連絡はいれてるし。それにあたしんち、結構放任主義なんだ」
――前まではそうでもなかったんだけどね。
医者に宣告されて以来、両親はできる限りのワガママを聞いてくれるようになっただけ。
愛ちゃんちはご両親共々、出張が多くて、家に居ることが少ない。だから、あたしはちょくちょく入り浸っていた。
- 381 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:43
-
「でも……今日、お父さん出張から帰ってくるんやって…」
「そう?じゃあ父娘団欒を邪魔しちゃ悪いか」
「そうやのうて」ぷるぷる首を振る。…頬が赤いよ?
「お父さんの書斎、わたしの部屋の隣やから…」
あ、なーるほど。
そりゃ、ね、愛ちゃんちに泊まればスルことはスル。っていうか毎回?
それに早口に、壁が薄い、とか言うから間違いない。…それなら。
ケータイを取り出し、短縮で家に電話をかける。すぐに、繋がった。
「あ、おかーさん?今夜も愛ちゃんちに泊まるから」
「ちょっ、麻琴!?」
慌てふためく愛ちゃんを横目に、笑いながら電話を切った。
ケータイをしまって、ニヤニヤ笑いをしながら、愛ちゃんのほうへと向く。
「今夜は声、出すのガマンしてね。愛ちゃんの声、高いからよく響くんだし」
愛ちゃんは顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせる。
それは、あさ美ちゃんの特技の金魚のモノマネによく似ていた。
耳元に、唇を寄せる。
「聞こえるかもしれない、って思うほうが燃えない?」
「…!バカッ!」
真っ赤な顔で睨んでいる。でも…
「だめなの?」
――あたしは知ってる。この、一つ年上の訛った恋人は、あたしを受け入れてくれることを―――。
「……………ぇぇょ」
小さな声だけど、受け入れてくれた。
ほら、彼女は、愛ちゃんは優しい―――。
- 382 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:43
-
***** *****
- 383 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:43
-
「―――――っぁ…」
シーツに顔をつけ、がくがく震える愛ちゃん。
「愛ちゃん、こっち向いてよ」
抱え、体を起こさせる。シーツには噛み跡がついていた。
後ろから抱きしめ、自分の指を噛まさせる。そのまま体を空いている左指でなぞると、ビクビクと痙攣のような動きをする。
少しだけこっちを振り向くその姿。あたしの指を噛み、涙目の表情。
――たまらない。
確実に感じている証拠を示している胸の先端を、乱暴に手の平で転がし弄ぶ。
「愛ちゃん…いつもより感じてるけど、こーゆーのが好きなの?」
「ひが…っ」
指を噛まされてるせいで、しっかりと否定の言葉になっていない。でもさ…。
左手を下へと滑らす。そのまま足の付け根へ。
指を隙間に差し込むと、濡れた音が。
…こんなに溢れさせていたら説得力ないよ?
滑りに任せ、ゆっくりと指を愛ちゃんの中へと挿入させていく。すると、眉間にシワを寄せ、苦しそうに息を吐く。
ねぇ、そんなに苦しそうにしないでよ。
気持ちよくさせてあげるから。
――あたしより先に天国へ連れてってあげる――。
「―――あぁっ」
- 384 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:44
-
***** *****
- 385 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:44
-
愛ちゃんと体を重ねるのは好き。
今まで一筋だった水泳を取り上げられたあたしは、次に与えられた“愛ちゃん”に夢中になった。愛ちゃんとの行為に溺れに溺れた。
愛ちゃんの存在は、あたしに夢を見させてくれる。
本当は心臓に欠陥なんかなくって、ごくごく平凡な、つまんないけれど平和な日常がこのままずっと続くんじゃないかって。
“あの子”の存在は真逆。
期待されていた水泳を辞めないといけなくて、あたしの心臓は今すぐにでも止まりそうなんだということを―――。
“あの子”がいると、どうしても過去の栄光を思い出す。きつかったけれど、充実していた以前を思い出す。
だから、お願い、姿を見せないで。
あさ美ちゃん―――。
- 386 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:44
-
***** *****
- 387 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:45
-
六時間目の最中、バイブレーションにしていたケータイが震え、メールを受信したことを表示した。先生に見つからないようにこっそりと中身を確認する。
Fromあさ美ちゃん
話したいことがあるの。放課後教室に居て。
「………………………」
たっぷり考えてから、返信ボタンに親指を伸ばす。
『いいよ。待ってるね』
- 388 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:46
-
特になにかをする訳でもなく教室に残っていた子達も帰ったころ、あさ美ちゃんはやって来た。
「ごめん、遅くなった」
「別にいーよぉ。…それに、人がいないほうが話しやすいことなんじゃない…?」
「…うん」
やっぱり。
椅子に座ったままのあたしと、両の指を絡ませながらもじもじしているあさ美ちゃん。
なかなか話を切り出せずにいるようだった。
「昨日の放課後、話そうとしてたこと?」
「…そう。あの、ね、まこっちゃん、嫌なことでも、あったの?」
へ?
「水泳部、辞めた理由……」
あ、そう繋がるのね。
- 389 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:47
-
「別に嫌なことがあったわけじゃないよ、ただ水泳に飽きたっていうか――」
「嘘」
断言するあさ美ちゃん。…なんでよ。
「まこっちゃん、あんなに一生懸命になって泳いでたじゃない。飽きるなんて、嘘」
あたしはなにも言わずにそっぽを向く。
あたしの嘘を破り捨てないでよ。たとえみえみえの嘘でも、あたしはその嘘を纏うことで平常心を保っているんだから。
飽きた、なんてことはない。今でもありありと感じられる、水を掻く感触。息継ぎの呼吸、水との一体感、そして染み付いた充実感。――どれもが懐かしくて、恋しい。
あさ美ちゃんは言葉を連ねていく。
「わたしは泳ぐのが遅いから、まこっちゃんの速くてフォームのきれいな泳ぎにずっと憧れてた。
だから―――…わたし、まこっちゃんには水泳を続けてほしい………」
「…………あたしだって続けたかったよ」
どんなにタイムが遅くたっていい。泳ぎたい、泳ぎ続けたかった。
これが、あたしの本音。
- 390 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:47
-
あたしの呟きに目を輝かせるあさ美ちゃん。
「それなら水泳部に戻ろうよ?わたしからも先生に伝えるから」
乱暴に椅子から立ち上がる。あさ美ちゃんは肩を震わせた。
「そんなことしなくていーよ、あたしは戻らないから」
「……、なんでよ、好きなんでしょ?水泳」
珍しく声を荒げている。
「あさ美ちゃんこそなんでさ、なんでそんなに構うの!!」
お願いだから放っておいてよ、これ以上あたしに水泳への執着を持たせないで!
あさ美ちゃんは言葉に詰まる――と思ったら。
「それは――。わたし、ずっとまこっちゃんが好きだったの…だから……」
- 391 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:48
-
確実な、不意打ちだった。
今までもだれかに告白されたことはあったけれど、それらは事前に悟ることができた。けれど今回のは――確実に、ノーガードで側頭部のあたりを殴りつけられた気分だった。
殴りつけられ、麻痺した頭で考える。
この子はどれくらいにあたしのことが好きなのだろう、と。
真っ赤になって俯くあさ美ちゃんの、腕をゆっくりつかむ。
恐る恐るといった感じに、顔を上げてくれた。
愛ちゃんは、いろんなあたしを受け入れてくれた。
じゃあ――――あさ美ちゃんは?どれだけ受け入れてくれるの?
「んっ!」
唇を、あさ美ちゃんのそれに押し付ける。
愛ちゃんのとは、違う柔らかさ。
押し返そうとする腕。けれど、あたしの腕がそれをロックしている。
その内、抵抗を諦めるあさ美ちゃんの腕。
- 392 名前:らいおんハート―第1話 投稿日:2004/06/06(日) 01:48
-
唇の角度を変えるときに、舌を差し込む。
歯列をなぞり、歯の裏を撫でたところで、あさ美ちゃんの舌をちょん、とつつく。
おずおずと、舌を伸ばしてきた。
そのまま、勝手きままに絡める。
がたんっ、というドアの音。あさ美ちゃんが慌てて離れ、振り向く。あたしもそっちを見る。すると―――。
「愛ちゃん……」
「ぁ―――」
微かに声を上げ、俯いて走り去った。
あたしはアホみたいにつっ立ったまま。
あさ美ちゃんがこっちを見る。
「今の人が…『タカハシアイ』さん…?」
「うん…」
「……追わないの?」
「……追えないよ…」
今のあたしには、追う資格なんか、ない。
- 393 名前:らいおんハート 投稿日:2004/06/06(日) 01:49
-
- 394 名前:らいおんハート―第2話予告― 投稿日:2004/06/06(日) 01:50
- 「おはよう、麻琴」
愛ちゃん、なんでそんなに普通なのさ――?
「愛ちゃん、あの人のこと好きでしょ」
目にいっぱいの涙をためて―――。
「わたしには、麻琴しかいない―――!」
ねぇ、あたし達ってなにしてるのかな。
罵倒し合って、傷つけ合って、体を重ねあって―――こんなの恋愛じゃない。
「ね、あさ美ちゃん。―――抱いていい?」
らいおんハート―第2話 みせかけの恋―
- 395 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/06(日) 09:19
- ハマリまくりです!
第二話楽しみにしてます
- 396 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/06/06(日) 14:27
- (゚д゚)ウマー
素晴らしいですワァ。期待以上。
更新楽しみにしてますよほ。
- 397 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/06(日) 16:41
- おおっ!すごく続きが気になる展開です。
少し黒い小川さんが新鮮でいいですね。
次回も楽しみにしてます。
- 398 名前:石川県民 投稿日:2004/06/10(木) 20:16
- ochiててエロいっちゅうのに、レス、ありがとうございます。本ト、書く動力源になりますわ。
395>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます、ドロドロした第2話ですが、よろしければ…。
396>名無しどくしゃサマ。
ありがとうございます。期待以上と言われますと嬉しいです、期待を裏切らないようにがんばります。
397>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます。
今までヘタレで良い子な小川さんばかり書いてきたので、えっちで悪い子な小川さんにしてみました。
それでは、運動不足・野菜不足な人の血管なみにドロドロした続きをどうぞ。
- 399 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:17
-
愛ちゃんに、見られた。
あさ美ちゃんと、キスしているところ。
どうしよう。
怒られるのかな。
泣かれるのかな。
それとも、絶縁でも言い渡されるのかな。
そして、あたしはどうしたいのかな。
泣いて謝る?
逆ギレする?
絶縁を言い渡されたら、すんなり受け止める?
どうだろ…――。
自分がなにをしたいのか、分からない。
- 400 名前:らいおんハート―第2話 投稿日:2004/06/10(木) 20:17
-
一晩、散々悩んだ頭に、さんさんと輝く朝日がしみる。目も、おもいっきり細める。
そう。
一晩、悩んだ。
悩んだ、んだよ?
なのにさ、
なんで。
「おはよう、麻琴」
門扉の前に佇み微笑む、いつもと変わらないその姿、表情。
愛ちゃん、なんでそんなに普通なのさ――?
- 401 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:18
-
二人、そろって登校する。
けれど、あたしの歩みはいつもより遅く、自然と愛ちゃんが先に行く形となる。
なにも言わない愛ちゃんに、あたしはたまらず声を出した。
「あの、さ、愛ちゃん、昨日のことなんだけど――…」
「…――うん」
「ぇと、その……」
自分から切り出したのに言葉が続かない。
あたしから見える愛ちゃんは後姿のみ。どんな表情をしているのかすら分からない。
「―――…悪いとは、思うとるん?」
「え?」
言いよどんでいたあたしに代わっての愛ちゃんの言葉。
…そりゃあ、思ってるけどさ……。
「思うてくれとるんなら、それでいいよ」
振り返り、するりとあたしの手をとる。
「行こ。学校遅れるし」
手を握られ、近くで見る愛ちゃんの表情は―――。
いつもと、なにも変わりがなかった。
- 402 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:19
-
***** *****
- 403 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:20
-
そんな、ものなの?
あまりにも、あっさりとした態度。正直、拍子抜けした。
そりゃあ、怒られたくも、泣かれたくも、絶縁を言い渡されたくもなかったけどさ。
だからって、物分りが良すぎませんこと?高橋愛さん?
一時間目の英語の時間。英文も、英文法も、先生の「ホホ、ここはテストに出るわよ!」なんていう声もそっちのけで、ぐるぐるとそんなことを考えていた。
彼女の真意が分からない。
少なくとも、泣かれることも怒られることも絶縁も言い渡されなくてよかった、って安堵するのは的外れなような気がする。
なんで、朝、微笑んだのだろう。
愛ちゃんの、気持ちが分からない。
- 404 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:21
-
…………眠い。
寝不足の頭で難しいことを考えたってどうにもならない。
先生に「具合が悪いんデス」と言って、保健委員の付き添いを断って、保健室に向かった。ぷらぷら廊下を歩く。
寝不足なのは、昨夜ずっと悩んでいたからだけじゃない。最近、ずっと眠りが浅い。
眠るのが、怖いんだ―――。
「失礼します…」
そろりとドアを開ける。白衣の人が一人、こっちを見た。
「あ、小川。心臓大丈夫?」
保健医の飯田先生は、校内ではあたしの担任の先生と共に身体のことを知ってる人。
「はい。あの…ベッドで休ませてもらえますか?」
「いいけど…あのね、カオリ今から出かけないといけないの。二時間くらいで戻れると思うんだけど…」
「おとなしく寝てますから大丈夫です」
「そう?じゃあなるべく早く戻れるようにするから。場合によっては職員室にいる他の先生方を呼んでもいいからね」
この電話、使っていいから、と机の上を指して、飯田先生は去っていった。
ベッドの周りのカーテンを閉めてベッドに潜りこむ。
あたしはすぐに睡魔のシッポをつかみ、うつらうつらと舟を漕ぎ始めた。
微かに、心臓がとくんとくんと脈を打っているのを感じる。
ゆっくりと、けど、規則正しく。
とくん、とくん、とくん、とくん…。
鼓動が、感じられなくなった。
「―――――ッ!」
跳ね起き、両手を左胸にあてる。
さっきまでとうってかわって、心臓はばくばくと脈を打っていた。
はあはあはあはあ。
背中を冷や汗が幾筋も伝い、睡魔はどこかへと逃げていった。
そう。
いつも、こう。
眠っている最中に心臓が止まるんじゃないかって、二度と目が覚めることもなく体が冷たくなるんじゃないかって、錯覚に襲われる。
眠るのが、怖い―――。
鼓動が落ち着いたところで再び横になる。けれど眠れるわけなくて、なんとなく持ってきたケータイをいじる。
時刻を確認すると、そろそろ一時間目が終わる。
さしたる意味もなく、愛ちゃんにメールを送った。
『今、保健室。』
- 405 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:22
-
来てほしかったわけじゃくて、ただなんとなく送っただけのメール。
それでも、一時間目が終了すると、愛ちゃんは保健室に来てくれた。
「大丈夫なん…?」
「んー、ただの寝不足」
きっちりカーテンを閉めてベッドに近づいてくる。あたしは上半身だけ起こした。
そっと、頬に手が触れられる。
「顔色、あんま良くない。…すまん、朝に気づいてあげれんで」
痛そうな、顔。そんな顔は見たくなくて、愛ちゃんの胸に額をあてる。
とく・とく、愛ちゃんの鼓動を感じる。
そのまま腕を背中に回す。
「ね、シよ」
「はい?」
目を開き、イマイチ理解できていない愛ちゃんを、そのままベッドに引きずりこむ。
「え、ちょ、保健の先生戻ってくるんじゃ…!」
「飯田先生ならあと一時間は戻ってこないよ」
あたしの両足をヒザで跨ぐ体勢にさせる。自然と、あたしが見上げる形に。
シャツの裾をスカートから引っ張り出して、そこから手を侵入させる。わき腹をつたい、上へと滑らせる。
「ふ…」
敏感な恋人は、それだけで声を漏らす。
背中へと手を回し、ホックを外す。
「あ…っ、…ゃ、だ…」
聞こえないフリをして、シャツもインナーも一緒にまくる。あらわれた胸に舌を這わせる。
「あ…はぁっ、ぅん」
ちゅっ、ちゅっ、ちゅーっと音をたててついばんでいると、休み時間終了のチャイムが鳴る。舌を離す。
「愛ちゃん、二時間目どうする?」
分かっているけど聞く。熱を帯びた瞳で泣きそうな顔をしていた。
「いい…。サボる……」
「そ」
行為を、再開する。
愛ちゃんが、あたしの頭を抱く形になって、舌を動かすたびに声が上がった。
「…ぁ、ふぅ…っ、――んっ」
ぬるりと指を侵入させると耳元で感じる、熱い息。
ねぇ愛ちゃん。あたし、眠るのが怖いんだ。そのまま冷たく永遠に眠っちゃいそうで。
だからさ、愛ちゃんの熱をあたしに頂戴――。
唇から漏れる熱を、あたしのものにしたくって、深く、取り込むように口付けた―――。
- 406 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:23
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***** *****
- 407 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:23
-
翌日。
今日は、愛ちゃんは塾の日。
今のところ塾は週二回だけれど、夏休みに一週間の強化合宿があり、夏休みが明けたら、週三回になるらしい。
受験生は大変だ。
「ありがとーございましたー」やる気のないダルそうな声に見送られて、コンビニを出た。
ペットボトルジュースと雑誌の入った袋を片手に、夜道を歩く。
遠い夜空に、微かに星が見えた。
街中だと街灯が邪魔をして星はよく見えない。ここから、ちょっと遠いけれど高台の公園に行けば綺麗に見えるかな、とは思ったけれど、思っただけ。実行する気はない。
どーせ死んだって、星にはなれないんだし。
交差点に差し掛かり、ちょっと考えてから左に曲がった。家に帰るには、違う道。
確か、愛ちゃんの通う塾はこっち。
ただ行ってみるだけ。だいたい、何時に終わるのか知らないし。まだやっているならご苦労様なことだと思う。
個人塾、だったっけ。
しばらく歩くと電柱の看板に『新垣塾』と書いてある。きっとこれだ。『20m先』とも書かれてあるから、道の先を見る。
すると。
丁度愛ちゃんらしき人が出てきた。
「あいちゃ……」かけようとした声は止まる。
塾の前に停車していた車から出てきた人によって。
その人を見た瞬間に、愛ちゃんが嬉しそうに駆け寄ったのを見て。
…誰?
サラサラの金髪に長い背丈。ホクロが多いけれど、それが白い肌に映えていた。キレイな、人。
愛ちゃんは一人っ子。兄弟なんていうベタな関係じゃない。
誰、その人。
なんで、頬を赤くしてその人と話すの。
なんで、とびきりの笑顔をその人に向けるの。
なんで、その人の車に乗るの。
なんで―――。
車は二人を乗せて、あたしに気づくことなく去っていった……。
- 408 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:24
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***** *****
- 409 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:24
-
翌朝。
あたしの寝不足による不調は最高潮。機嫌の不調も最高潮。
目の下のクマが特にひどい。
迎えにきた愛ちゃんが驚くほどに。
「ど…どうしたん、そのクマ……」
「別に」
伸ばされた手を払いのけ、あたしは先に行く。
手を払われた愛ちゃんは、慌てて追いかけてきた。
「なん、麻琴。わたしなんかした?」
「したよ」
「え…」
自分から聞いておいて、身に覚えがなかったのか愛ちゃんは戸惑っている。そんなところすら、今のあたしには腹が立った。
「昨日、塾の終わったばかりの愛ちゃんを見たんだ」
「見たんなら声かけてくれればよか――」
「あの金髪の人、誰?」
「――あの人はお父さんの会社の部下の人で、昔から馴染みがある人なんよ」
「愛ちゃんさ、あの人のこと好きでしょ」
「…昔、ね」
「今もじゃないの?」
「ぇ……」
- 410 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:25
-
驚いた顔であたしを見る。その瞳には、悲しそうな色があった。その色は、なんでそんなこと言うの?と如実に語っていた。
あたしの思いやりのない言葉は続く。
「大人の人だよね、本当はああいう人のほうがいいんじゃない?」
「ま…こと、」
手を握られたけれど、それすらも振りほどく。
「つーか愛ちゃんて抱かれ上手だよね。
もしかしてあの人は以前の恋人とか?そして色々教えてもらったの?」
「麻琴っ!」
愛ちゃんの大声に暴言を言う口は止まる。登校する数人の子たちが、こっちを見ていた。そんな好奇の視線から逃れるように愛ちゃんは俯き、あたしはそんな愛ちゃんを見る。
「…愛ちゃんには、ああいう人のほうがいいんじゃない?」
ぶるり、と大きく震える肩。その弱々しい肩はあたしが抱きしめるものじゃない気がした。
「なんで…」
「ん?」
「なんでそんなこと言うがん、―――麻琴…」
ゆっくり、顔を上げた、その大きな目にいっぱいの涙をためて―――。
「わたしには、麻琴しかいない―――!」
- 411 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:26
-
それは、その言葉は今のあたしにとって、ひどく嘘くさい響きを持っていた。
そんなことを言う愛ちゃんをめちゃくちゃにしたくて仕様がない。
「どうしたら…信じてくれるん?」
「――じゃあ今すぐさせて」
「え」
壁に押し付け、首筋に唇を当てる。強く、吸う。
「ぅあ…っ」
愛ちゃんの口から苦痛の声が漏れても気にせずに。
本当にしたいわけじゃない。だけど、どうしようもないくらい心の奥から突き上げる、この乱暴な感情をどうしたらいいの――?
「や…めて!」
突き飛ばされ、二人の間に距離が生まれた。首筋には痛々しいほどの赤い痣。あたしの、跡。
「ひ、どい、よ、麻琴…」
たまっていた涙は流れ落ちて筋を作っていた。それを綺麗だと思う。
愛ちゃんは、学校のほうへと走っていった。
- 412 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:26
-
追うこともしないで、その姿を見送る。姿が見えなくなったところで、踵を返し、家に戻る。
お母さんには「学校に行く途中で具合が悪くなった」とだけ言って、二階の自分の部屋に上がった。
ドアを閉め、思いっきりカバンをベッドに叩きつける。くぐもった音がしただけだった。
愛ちゃんは、今日一日、学校で首筋のキスマークを晒さないといけない――、そう思うと愉快になる。
分かってるよ、自分の異常性に。
あたしは、破壊衝動を抑えられなかった、あたしの側に居てくれる人をとことん傷つけた。きっと、もう側には居てくれない。
ねぇ、あたしって、あたし達って、なにしてるのかな、なにしてたのかな。
罵倒し合って、傷つけ合って、体を重ねあって―――こんなの恋愛じゃない。
考えることが面倒くさくって、カバンを床に落としてベッドに潜りこむ。
寝ているうちに心臓が止まってもいいよ、ただ今はなにも考えたくない――。
- 413 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:27
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***** *****
- 414 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:27
-
目が覚めると辺りは薄暗かった。近くの目覚まし時計を見ると18:30と示されている。…こんなにぐっすり寝たのは久しぶりかも。
ケータイを取り出してディスプレイを見る。……今日の着信は0件。メールも問い合わせてみる、やっぱり0件。
分かっていたことだったけど、寂しかった。
起きるわけでも寝るわけでもなく、ただぼーっとしていると。
ピン・ポーン♪
あたしを現実に引き戻すチャイム音がした。
起き上がり、窓から門扉を見る。
そこに立っていた人は、あたしの視線に気づき、にっこり微笑んだ。
「あさ美ちゃん…」
- 415 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:28
-
カーペットに座る彼女に烏龍茶の入ったグラスを渡す。
「まこっちゃんの部屋に入るのって久しぶり……」
「そうだね…」
あの日の放課後以来、会うことも話すこともなかったあたし達。
どうしても、微妙な空気が間に流れる。
「で・今日はどうしたの。水泳部に戻れって話ならあたし…」
「タカハシさん」
言葉に、詰まる。
「――とは、どうなったの?」
「………………」
あたしはなにも言わない、あさ美ちゃんも黙っている。
不自然な沈黙が二人を包む。
「多分、振られたと思う。彼女には沢山ひどいことしたし……」
一気に、早口にそれだけ言い切る。
「そう…………」
「………………」
再び、沈黙。
そっと、あさ美ちゃんが近づく。悲しそうな顔で、頬に触れられた。
既視感を引き起こす。
あの日、保健室で愛ちゃんに触れられたことと重なる。
胸に、額をあてる。
「ね、あさ美ちゃん。―――抱いていい?」
- 416 名前:らいおんハート―第2話 みせかけの恋― 投稿日:2004/06/10(木) 20:29
-
背中に回された手を肯定と受け取り、首筋に唇を寄せる。愛ちゃんとは違う、肌。
「ぅ…」
愛ちゃんとは違う、声。
首筋から鎖骨までを舌で舐める。
そこで、両手でぐっと顔を上げさせられた。
あさ美ちゃんは――泣いていた。
その、震える唇で言葉を紡ぐ。
「ねぇ…わたしを抱くのはタカハシさんを忘れるため?それともタカハシさんの代わりに抱くの?」
答え、られなかった。
はらはらと、涙をこぼすあさ美ちゃん。
「どっちにしたって…わたしも、まこっちゃんも、タカハシさんも、悲しいだけじゃない………」
あさ美ちゃんの涙は止まない。
あたしも目の前がぼやけ、とめどなく涙があふれた。
ごめんね、あさ美ちゃん。
ごめん、本当にごめんね。
ごめんね――――愛ちゃん。
- 417 名前:らいおんハート 投稿日:2004/06/10(木) 20:30
-
- 418 名前:らいおんハート―第3話予告― 投稿日:2004/06/10(木) 20:30
- 「あたし、一年の田中っていいます」
ガアンッと防火扉が鈍い音をたてて響く。それは、彼女が殴りつけた音。
「あの人には…アナタしかいないんです……ッ」
荒々しくドアを開ける。
「愛ちゃん!」
よろける体。スローモーションのようにゆっくりと沈んでいく。
キリキリ痛む心臓。
お願い、今だけは止まらないで―――!
「あのとき――笑わなくてもよかったんだよ」
「ばかぁっ!」
「うん…ゴメンね」
泣きじゃくりながらしがみつく彼女に、初めて愛しさを覚えた。
らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱―
- 419 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/06/10(木) 21:18
- ドロドロに重苦しくて良いですぜ…作者様…w
心臓が締め付けられるよほ。
- 420 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/12(土) 09:22
- 小川さん、生き急いでますね。゜(゚´Д`゚)゜。
あーどうなっちゃうんだろう
- 421 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/18(金) 22:05
- おち
- 422 名前:石川県民 投稿日:2004/06/23(水) 03:01
- 夏カゼ引いとりました。ゲホゲホ。馬鹿は夏カゼを引くってのは本当なんですね、納得したあとちょっと凹。
やっとこさ直り…もとい治りましたので更新です。
419>名無しどくしゃサマ。
>ドロドロに重苦しくて良いですぜ
作者もなんだかドロドロが気に入っちゃってます。
作者自身がドロドロになりたいくらいに(ヤメロ人間でいれ自分。
420>名無飼育さんサマ。
>あーどうなっちゃうんだろう
どうなっちゃうんでしょう?
421>名無飼育さんサマ。
わざわざ落としておいてアリガトウゴザイマス。
それでは第3話参ります。
- 423 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:02
-
あの日から一週間経った。
愛ちゃんとは、会うことも、電話することも、メールをすることもなかった。校内ですれ違うことも、目に留まることも出来ないのだから、きっと徹底的に避けられているんだと思う。
愛ちゃん――顔が見たい、話がしたい、謝りたい。
けれど、同時に湧き上がるこの気持ち。それは恐怖感。
確固な別れを告げられるのが怖い。
あんなに愛ちゃんを傷つけてきたのに、いざ自分が傷つけられる側になると、カスリ傷一つですら怖くて仕方がない。
――あたしは、どうしようもない臆病者だ――。
- 424 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:02
-
昼休み。
お弁当箱の中身を半分ほど残してフタをする。
最近、食欲がめっきり落ちた。
病状が悪化したのか、愛ちゃんと会うことが出来ないせいか――。多分後者だと思う。
クラスメイト達と会話をするのも億劫なので、お弁当箱を片付けて机に突っ伏そうとすると。
「マコー、この子があんたに用があるってさー」
ドアの近くにいた子が、あたしを呼んでくれた。
そっちを見ると、目つきの険しい子がこっちを見ている。
…誰?
とりあえずクラスの子に礼を言って、あたしに用があるっていう子と対峙する。
近くで見ても、やっぱり覚えがない。少なくとも水泳部では見なかった顔。
ぺこり、とその子は一礼した。
「あたし、一年の田中っていいます。
小川先輩、お話があるんですが宜しいですか?」
- 425 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:03
-
人がいないほうがいい、という彼女の要望によって、特別教室ばかりの棟階段へ。
辺りに人がいないことを確認してから口を開いた。
「んで、なんの用?」
「三年の高橋愛先輩――――ご存知ですよね?」
ご存知ですよ。
険しい目つきの彼女を睨み返す。
「愛ちゃんとは、どういう関係?」
「昔からの知り合いなんですよ。あたし、先ぱ――高橋さんの家の向かいの家なんです。気づきませんでした?」
気づきませんでしたよ。
「あたしは小川先輩、アナタが高橋さんの家に入り浸っているのを知ってます」
あらそうですか。
「あたし、はっきりいってアナタのことが嫌いです」
「…ふーん」
本当にはっきり言うじゃん。
互いに相手を睨み合う。
「…それで?わざわざ二年のクラスに来てまで、嫌いなあたしを呼んだ理由ってなに?」
「あたし、高橋さんのことが好きなんです」
一呼吸、おいてからはっきり言い切った。
- 426 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:04
-
一瞬、心の中で吹き荒れた寒風を無視して言葉を紡ぐ。
「…告白なら本人に言えばいいじゃん」
「この学校に入学したときにしましたよ。
そしたら『れいなのことは妹にしか見えない。それに、ずっと憧れている人がいるから』ってきっぱり言われましたよ」
「…そうなんだ」
知らなかった、憧れている人がいるなんて。……この間の金髪の人のことかな。
――じゃあなんで、そんな人がいるのにあたしと付き合っていたんだろ。
「――今、バカなこと考えてましたね」
「ほぇ?」
彼女は悔しそうに歯軋りした。…なんでよ。
「あたし、告白する以前から高橋さんには憧れている人がいることは知っていました。だって、すごく嬉しそうにあたしの前でも話していましたから。水泳部の人のこと」
「え…」
絶句するあたしを無視して喋り続ける。
「とてもきれいなフォームで、一番速く泳いでいる、って。
その子がすごく水泳が好きなんだってことが伝わって、泳げない自分でもその楽しさが分かるような気がするって」
下唇を噛んで俯く彼女。
「だからあたし、アナタのことが嫌いです。
あたしには、あんな嬉しそうな表情、させることができないから――…」
「嫌いです」
もう一度、言われた。
- 427 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:05
-
俯いたまま、顔を上げようともせず黙っている。
あたしは髪を掻き毟り、手を頭に置いたまま口を開く。
「えーっと、なにちゃんだっけ」
「…田中です、田中れいな」
「うん。これからはさ、田中ちゃんが愛ちゃんのこと支えてあげなよ」
「―――は?」
訳が分からないといった声を出す田中ちゃん。だけど、あたしは名案だと思った。
そうだよ、それがいいじゃん。
だってさ、今更愛ちゃんがどれだけあたしのことを想っていてくれたのかを知らせてくれたって、きっともう手遅れ。
あたしは、愛ちゃんを傷つけて傷つけた。
「あたし、さ、愛ちゃんに沢山ひどいことして傷つけちゃったんだ。だから、もう愛想尽かされたと思うんだ。
これからはさ、田中ちゃんが愛ちゃんの傍にいてあげなよ」
彼女、田中ちゃんは顔を上げた。その表情は――怒っている。
ガァァァァーーンッ……。
防火扉が鈍い音をたてて響く。それは、田中ちゃんが殴りつけた音。そしてその拳はあたしの顔の真横にあった。
要は、あたしの後ろにあった防火扉を田中ちゃんは殴ったってこと。
「……なに寝ぼけたこと言ってるんですか…」
「あたしじゃ駄目だからアナタに言ってるとよ!
あの人には…高橋さんには、アナタいないっちゃ……っ」
興奮した田中ちゃんは訛っていた。そういえば愛ちゃんも焦ったりすると訛りが酷くなっていたっけ。
あたしは脱力したように後ろの防火扉に背を預けた。田中ちゃんは涙目で見ていた。きっと、あれは、悔し涙。
「だって…もう、無理だよ……」
「無理じゃありません」
…なんで断言するのさ。期待しちゃうじゃん。
「まだ……間に合う…のかな」
愛ちゃんの心があたしにあった、あの時まで。
涙を拭った田中ちゃんが、険しい目つきできっぱり言った。
「間に合わせるんです」
- 428 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:05
-
***** *****
- 429 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:07
-
田中ちゃんと別れた後、普通教室のある棟へと戻る。走らず、けれど早足で。
目指すは三年A組、愛ちゃんのクラス。
「たぁのもー!」
ドアの前でそう言うと、教室にいた人全員がこっちを見た。ちょっと恥ずかしい。
「ど、どうしたの小川」
見知った顔の、水泳部の先輩がこっちに来てくれた。
「愛ちゃ…じゃなくて高橋愛先輩と取次ぎお願いできますかぁ?」
先輩はあっさりと応じてくれて、人の多い教室に戻る。けれどすぐにこっちにやって来た。
「昼休みが始まってすぐに出ていったけど…まだ戻ってないみたい」
あら。肩透かしを食らった気分。
先輩にお礼を言って、去ろうとしたら―――。
「小川、高橋さんのこと、諦めないでいてやってね――」
そう言われた。驚いて振り返ると、先輩は親指を立てていた。
そっか…先輩、あたし達のこと知ってるんだ。
登校時間に痴態をやったこともあるのだから、先輩の耳にも入っていたとしてもなにも不思議じゃなかった。
「言われなくたって、諦めませんよぉ」
笑って、そう言い返した。
先輩も、笑ってくれた。
- 430 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:08
-
愛ちゃん、何処に行ったんだろう。
ケータイを取り出し、広げる。
「…」
けれど、ちょっと考えてから再び折り畳んでスカートのポケットにしまう。
自力で、探そう。
メールや電話に頼んない。
あたし自身で愛ちゃんを見つけてみせる。
三年生のB組からE組まで全部訪問してみたけど愛ちゃんは何処にもいない。
愛ちゃん、何処?
必死で居そうな場所を考える。
屋上に校舎裏…何処もピンとこない。
考えろ、考えるんだ自分。
あと十分足らずで昼休みは終わる。終わる前に会いたい。話がしたい。
愛ちゃんは何処にいる?
“屋内プール場の二階は観客席になっとるやろ?わたし、そこで―――”
不意に、初めて愛ちゃの話したときのことを思い出した。
- 431 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:08
-
***** *****
- 432 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:09
-
水の匂いが充満している。同時に鼻孔の奥で感じる塩素の臭い。
とても、なじみのあった、臭い。でも距離をおいていた、臭い。
校舎から離れて、武道場と隣接している屋内プール場。館内に入ってすぐに二階へと上がる。
観客席、そうプレートに書かれたドアを荒々しく開ける。
「愛ちゃん!」
いた。
ドアからは対称の位置の椅子に、うずくまっていた。
一週間ぶりに見るその顔は、ちょっとやつれているように思えた。
驚いた表情でこっちを見て――。
「えっ!」
逃げた。
うずくまっていた椅子からは近く、ドアからは遠くにある、下のプール室へと続く階段を駆け下りていく。慌ててその後を追う。
「待ってよ愛ちゃん!」
声なんか聞こえないと言わんばかりに走る足を緩めない。
プールサイドを走る愛ちゃん。後を追うあたし。
時計回りにプールの周りを走るあたし達。
「なんで…」
「…え」
「なんで追っかけてくるんやぁ!」
愛ちゃんは叫びながらも足は動いてる。
「愛ちゃんが逃げるからでしょお!」
あたしだって走りたくないっつーの。左胸が痛いし。
「もう麻琴とは会いたくないんて!」
「嘘だぁ!」
あたしは叫ぶ。すると叫び返された。
「本トやよ!顔も見たくなんかない!!」
「それなら!」
ゼイゼイなる喉から声を振り絞る。
「それなら…なんでここに居るのさ……」
なんでわざわざ教室から遠いプール場の観客席に居たのさ。
あたしを見てたっていう席に座ってたのさ。
- 433 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:10
-
「……」
愛ちゃんの足がやっと止まった。すでにあたし達はプールの周りを四分の三週はしていた。
「…愛ちゃん」
呼吸を無理やり整えて呟く。ゆっくり近づいた。
すると。
「えっ!」
また、逃げた。
走る愛ちゃんを再び追おうとしたら。
脳裏に、昔小学生の頃に先生に言われた言葉がよぎった。
『プールサイドは滑るから走らないこと』
そんな言葉を思い出すくらい。
走り出した愛ちゃんの体はプール側へと滑っていた。
- 434 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:11
-
よろける体。
上がる水しぶき。
水しぶきが頬についた瞬間、我に返った。
「愛ちゃん!」
苦しそうな顔が、スローモーションのようにゆっくりと沈んでいく。
何回目かの、肌を合わせた後に言われたこと。
“わたし、カナヅチねんて”
「あわわわわっ」
プールに飛び込む。
冷たい水の感触。
それがあたしの全身を襲い、そして心臓を鷲掴みする。
キリキリ痛む心臓。
お願い、今だけは止まらないで―――!
あたしに、愛ちゃんを助けさせて…!!
泳ぎ、愛ちゃんのいたところで一呼吸して水に潜る。
もがき動く腕の下から手を入れて抱き寄せる。
そのまま顔を水から出した。
「ぷはぁ!」
ぷるぷると顔の雫を振り払う。愛ちゃんは激しく咳き込んでいた。良かった、息はある。
「大丈夫…?」
愛ちゃんはあたしの腕の中だと気づくと、ばたばたと暴れだした。
「うわっ、溺れるから落ち着いて!ねっ!?」
そう叫ぶと、しぶしぶといった感じだけれど、しがみついてくれた。
- 435 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:11
-
二人、プールサイドに倒れこむ。あたしは愛ちゃんを抱いたまま。
荒い息だけが場に響く。
チャイムなんてとっくの前に鳴り終わっていた。
愛ちゃんの息が整ってきたところで、言葉を吐き出した。
「ね…あの日、愛ちゃん笑ってたよね……。
あたしがあさ美ちゃんとキスした次の日」
何も言わない愛ちゃんの顔を持って、目線を合わせる。
あたしの目の前には愛ちゃん、愛ちゃんの目の前にはあたし。
「あのとき――笑わなくてもよかったんだよ…。
泣き喚いてくれても…怒って罵ってくれてもよかったんだ……本音、ぶつけてくれればよかった……」
あたしはきっと、無意識に愛ちゃんの気持ちを封じ込めていたんだろう。愛ちゃんが、怒ることや泣くことを知らずに禁じさせていたんだ。だから――愛ちゃんには笑うことしか残っていなかったんだ。
ぽろぽろと、愛ちゃんの目から大粒の涙が落ちた。その涙は、今まで見たどんな涙よりも一番綺麗だと思った。
「ばか…」
「うん」
「ばかぁっ!」
「うん…ゴメンね」
正直、なにに対しての責め言葉なのかは分からない。
だって、沢山ひどいこと、してきちゃったし。
きっと、愛ちゃんも、よく分かっていないと思う。
でも、それでも。
「本トに麻琴のばかあっ!」
「ゴメンね…」
愛ちゃんは責め続け、あたしは謝り続けた。
「……かぁ」
「うん…」
泣きじゃくりなからしがみつくこの子の頭を撫でながら、初めて、今までにない愛しさを覚えた。
どうしようもないくらいに、胸から想いが溢れ出ていた。
- 436 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:12
-
***** *****
- 437 名前:らいおんハート―第3話 ぼくの薬箱― 投稿日:2004/06/23(水) 03:12
-
夜。
部屋の中は灯りをつけなくても、銀色に光る月と、僅かに差し込む道路灯のおかげで、真っ暗闇というわけじゃあなかった。目を凝らせば、相手の顔もぼんやりとだけど分かる。
あたし達はベッドに寝転がりながら指を絡ませ、額をくっつけ合っていた。ちなみに服は、着ている。
今は、昼のプール場の続き。
「大体麻琴って強引やし――」
…はい。
「意見を押し通せば、絶対にわたしが折れると思っとるし――」
…実際そうだったじゃん。
「それにエロい!隣の部屋にお父さんがおったときも、それに保健室のときも―――!」
――反論する言葉もゴザイマセン。
「でも、好き」
言った愛ちゃんの顔と言われたあたしの顔、暗闇の中で赤くなった。
「もう…他の人とはキスせんでよ……」
「うん…もう、愛ちゃんとしか、しない」
近い距離で見つめ合い、どちらからともなく触れるだけのキスをした。
心を熱くする感触。
愛ちゃんはゆっくり目を閉じて、すぐに寝息をたて始めた。
愛ちゃん――。
好きなの。
あたしは、愛ちゃんを守るために生まれたとか、そんな格好の良いこと言えないけど。
この残り少ない命を、愛ちゃんに全部、捧げたい。
愛ちゃんが呆れるほど、傍にいるよ。
短い永遠の愛を、貴女に誓う。
- 438 名前:らいおんハート 投稿日:2004/06/23(水) 03:13
-
- 439 名前:らいおんハート―第4話予告― 投稿日:2004/06/23(水) 03:14
- 「先輩…、これ……」
驚いた表情の田中ちゃんの手から袋をとる。
ずいっ、とチケットを二枚、目の前に広げて見せる。
「愛ちゃん、デートしよう?」
「ぉいしそー…」
ガラスの向こうで悠々と泳ぐ魚に対して呟くと、隣にいる愛ちゃんにぺちりとはたかれた。
「麻琴、意地汚い」
「あたし、さ、愛ちゃんに伝えてないことがあるの…」
「――なに?」
深呼吸を一つ、してから口を開いた。
「あたしは―――――」
流れる涙を拭いもせずに、受話器越しで言葉を続けた。
「先輩は、もう永くない…」
『れいな…』
らいおんハート―第4話 最初で最後のデート―
- 440 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 08:57
- もうすっかり引き込まれてしまってて、
予告編見ただけで涙が出そうです・・・
次回を楽しみにしてます。
- 441 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 09:18
- 毎回楽しみに読ませていただいています。
もう、涙腺緩みまくりです。
いろんな意味で、この二人にがんばってほしいと思います。
作者様、更新お疲れ様でした。
- 442 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/06/23(水) 19:39
- 思わず涙を流してしまいました…ブォォォオオ!!
そして胸キョソ。
次回はもっと凄いことになる予感。期待です。
- 443 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 23:32
- 更新お疲れ様でした。
何か、あったかい気持ちになりました。最高です。
次回も期待しちゃいます。
- 444 名前:石川県民 投稿日:2004/06/27(日) 23:58
- 今回はあんまり落とさんくてもいいような内容な気もしますが一応。
440>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます、涙が出そうになりましたらこちらでお拭きくださいませ… )つ□
そして申し訳ありませんが『らいおんハート』のときは、E-mail欄にsageかochiと記入していただけませんでしょうか。。。作者小心者なので。
441>名無飼育さんサマ。
毎回楽しみだなんて…(照)
涙腺は緩んでいらっしゃいますか、まだ涙は出ていませんか?
たとえ結果が実らなくても、この二人は二人なりにがんばってますね…。
そして、落としていただいて本当にありがとうございました。(感謝)
442>名無しどくしゃサマ。
ありがとうございます。あわわ、泣かれたのならこちらでお拭きください )つ□
って一枚で足りますか?今回はすごいことになったのでさうか?ご確認くださいませ。
443>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます。あったかい気持ちになっていただけて光栄デス♪
はてさて今回はどういう気持ちになられるのでしょう。。。
それでは第4話参ります。
- 445 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート― 投稿日:2004/06/27(日) 23:59
-
愛ちゃんの、長い人生の中で憶えていてほしいんだ。
――あたしという人間がいたことを。
――あたしという恋人がいたことを。
- 446 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:00
-
***** *****
- 447 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:01
-
小さな町に不釣合いな大きな病院。
第一病棟という棟の一室に設けられた循環器内科というプレートが掛かっている空間に、あたしは居る。
お母さんが通院・診察に付き添おうとしたけれど、あたしが一人でも大丈夫だと言って断った。
お医者さんは、あたしの胸にしばらく聴診器をあてた後に調子はどうかと聞いてきた。あたしは、最近胸の痛みが強くなってきたと話した。
走り回った末に服を着たままプールに飛び込んだことは言わなかった。
お医者さんはあまり表情を変えずに話を聞いて。強い薬に替えましょう、これからはそれを朝昼晩、食後に飲んでください。とだけ言った。カルテに読めない文字を綴っていく。
服を整え、アリガトウゴザイマシタと告げてから椅子から立ち上がる。部屋を出る間際、看護士さんがオダイジニ、と言ってくれた。
――なににだろう。
ロビーに戻り、精算所でお金を払い、薬局に薬の名前が書かれた用紙を出した。
お掛けになってしばらくお待ちくださいと言われたので、お掛けになってしばらくお待ちになった。
名前を呼ばれ、薬の入った袋を受け取る。中には錠剤とカプセルがそれぞれ一種類ずつ。
用事はこれで終了。せっかくだからこのまま総合駅のほうまで足を伸ばしてみようかな。
そう決めて、歩き出すと向かいから来た人とぶつかった。薬の袋を落としてしまう。
「あ、ごめんなさい」
ぶつかった相手が袋を拾ってくれた。
「こっちこそ」
どうもフラフラ歩く癖が直らないや。
袋を差し出され、受け取ろうとしたら。
「…小川先輩?」
「……田中ちゃん」
よりによってあたしは知り合いとぶつかっていた。
- 448 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:01
-
「田中ちゃん何でここに…」
「親戚の見舞いですけど……」
自分の手にある袋を困惑ぎみに見ている。
「あ、それカゼ薬」
とっさに嘘をついて、空咳までしてみる。
田中ちゃんは、薬を半分袋から取り出して見始めた。
「先輩…、これ……」
堅い口調と驚いた表情の田中ちゃんの手から袋をとる。
袋をカバンにしまい、見ると、田中ちゃんは睨んで…もとい、見据えていた。
「その“カゼ薬”、去年心臓病で亡くなった叔父さんも飲んでいた薬です……」
声は、掠れていた。
あちゃー。
カゼ薬じゃないこと、バレてる。
「高橋さんはこのこと…!」
首を振る。
「愛ちゃんは、何も知らないよ」
「……言わないつもりですか」
「うん。だからさ、田中ちゃんも愛ちゃんには黙っていてよ」
「――っ、一つ…教えてください。先輩はあとどれくらいの…」
「……もって半年。日頃の行い次第でいくらでも縮むけどね」
「そう………ですか…」
立ちすくむ田中ちゃんに、じゃあねとだけ言ってあたしは建物を出た。
- 449 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:02
-
***** *****
- 450 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:03
-
昼休み。
机を寄せ合って一緒に食事をしている人がいると思えば、お弁当箱を持って教室を出る人もいる。それぞれがそれぞれのすごし方をしている中で。
「明日休日でしょ」
「ほぅやね」
あたしは、堂々と三年A組に入り込んでいた。
愛ちゃんの前の席の人の椅子を、背もたれがお腹にくるようにして座っている。ここの席の人は別教室で食事を摂っているそうで、今教室にはいない。
「塾、ないでしょ?」
「うん。なに?」
「あのね…」
カバンに手を伸ばし、中から取り出す。
「じゃーん」
ずいっ、とチケットを二枚、目の前に広げて見せる。
「愛ちゃん、デートしよう?」
昨日、総合駅構内にあるチケットセンターでとった物。それは、最寄駅から五駅ほど離れた港町に最近オープンした水族館のチケット。
「どう?」
目を丸くしたまま呆けている愛ちゃんに尋ねる。
「嫌?水族館嫌い?」
そう言うと、慌てたように首をぷるぷる振った。
「そうやのぅて。初めて…やなぁと思って」
「なにが?」
「デートが」
そういえばそうね。
今までは一緒に登下校したり、愛ちゃんちに泊まったり、ぐらいしかなかったね。
「初デート、水族館でいいかなー?」
苦笑しながら愛ちゃんは「ぃいともー」と言ってチケットを一枚、あたしの手から取った。
「どこで待ち合わせしよっか?現地集合?」
「それやったら、送り迎えしてもらうからええけど…」
「…送り迎え……」
「?麻琴、どしたん?」
「迎えにいくよ」
「――え」
「あたしが、愛ちゃんちまで迎えに行くよ。もう―――ヨシザワさん?に送り迎えされたら嫌だし」
――プールに落ちた日の夜に聞いたこと。あの日、夜遅くに一人で帰宅するのは危険だから、ということで愛ちゃん一家全員が懇意にしている“ヨシザワさん”が迎えに来てくれたということ。
「――ぅん」
あたしのあからさまな嫉妬に驚きつつも、すぐに笑顔に変わって了承してくれた。
時計を見ると、そろそろ予鈴が鳴る頃。あたしは立ち上がった。
「明日、9時30分に迎えに行くよ」
「うん」
- 451 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:03
-
***** *****
- 452 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:04
-
いー天気ー。
絶好のデート日和だね、こりゃ。
軽い足取りで愛ちゃんちに向かう。呼び鈴を押すと、すぐに愛ちゃんは出てきた。
うわぉ。
あたし、愛ちゃんの私服姿って初めて見た。
ホルターネックにメッシュトップスを合わせ、下はサテンのカーゴスカート。
一言で言うと、可愛い。
こんな可愛い姿が見れるのなら、もっと前からいろんなところに一緒に出掛ければよかった。
ちっ。
対するあたしは、色違いのタンクトップを重ね着して、下はルーズジーンズ。頭にはキャップ、右腕にはリストバンド。
対称的にボーイズスタイル。
それでも愛ちゃんが「麻琴、かっこいい」って言ってくれた。
よっしゃ♪
- 453 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:04
-
手をつないで駅へと向かう。
今日が楽しみで昨日あまり寝られなかったと言うと、愛ちゃんがはにかみながら、わたしも、と言ってくれた。
最寄駅から二駅離れた総合駅へ。そこから私鉄に乗り換える。
電車の中で、愛ちゃんが「色々調べてんて」とカバンから紙を取り出した。それは水族館のホームページをプリントアウトした用紙。
「二時間ごとにイルカショーがあるんやって」
あたしも用紙を覗き込む。
「じゃあ、さ…この12時30分のショーを見ようよ、その後お昼ご飯にしよう?」
「うん!」
カタン、カタタンと心地よく揺れる電車。
車窓からは柔らかな日差し。
…眠い。
ごめん、愛ちゃん、ちょっとだけ。
「へ?麻琴?」
肩に頭を乗せて目をつぶる。
うつらうつらとまどろんでいると、降りる駅の名前を告げられた。
ぱっと目を開ける。うん、ちょっとすっきり。
「愛ちゃん、降りるよ?」
向きながら言うと、愛ちゃんの顔はちょっとだけ赤くなっていた。
- 454 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:05
-
「…大っきーい…」
駅を出てすぐ、海沿いにある水族館は思っていた以上に広大だった。
「全部見て回ると疲れそうだね」
「疲れたら休めばええよ」
「そだね。そのときはまた肩貸してね」
そう言うと、また愛ちゃんの頬はぽっと赤くなった。
受け付けでチケットを渡し、半券を受け取る。それをジーンズにポケトットにしまう。愛ちゃんは丁寧に財布に入れていた。
あたしたちは、口に出すこともなく再び手を繋ぎ合った。
- 455 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:05
-
「見てよ、エイってすごく平べったいよ」
「ほんまやざ」
ガラスの近くにいたエイはふいっと上昇し始めた。おかけでエイの顔が見える。
「あ…」
「…ちょっと、可愛い」
「うん、ちょと以外」
マイワシが群れになりながら悠々と泳いでいた。
「ぉいしそー…」
ガラスの向こうで悠々と泳ぐ魚に対して呟くと、隣にいる愛ちゃんにぺちりとはたかれた。
「麻琴、意地汚い」
「え〜、愛ちゃんもそう思わない?」
上目遣いでこっちを見て、親指と人差し指で『ちょっとだけ』っていうジェスチャーをしながら恥ずかしそうに笑った。
「あ、ウツボ」
岩穴にいるウツボの近くでガラスをこんこん叩く。
すると。
「ぉうっ」
噛みつこうとしてきた。
ガラスで隔たれているのだから噛まれることはないけど…ちょっと驚いた。
「麻琴、ガラス叩いたらダメやざ」
はい、すいません。
深海魚コーナー。
ここは通路も照明を落とし、暗くされている。備え付けられているスコープみたいなもので魚を見る。
「ヘンな顔」
愛ちゃんが率直な意見を述べた。…うん、あたしもそう思う。
「ねえねえ愛ちゃん」
「ん?」
「今見た魚ってー、こんな顔?」
魚を真似て変顔をすると。
「だぁーはっはー!ま、麻琴そっくりやざー!!」
愛ちゃん大爆笑。涙を浮かべて「似てる」と言ってくれた。
……なんか複雑。
- 456 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:06
-
時計を見ると12時15分。
「そろそろ行こっか」
イルカショーを見るために、館内を出た。
屋外の会場はすでに人の群れ。
プールを囲むように席が設けられているけど、どこもいっぱい。
あたし達はやっと空いている席を見つけた最上段の一番後ろに腰をおろした。
「あー楽しみや♪」
本当に楽しそうに呟いた。
「あたしも、楽しみ」
飼育係らしいお姉さんがマイクを持って「みなさんコンニチハー!」って出てきて。
すぐにショーは始まった。
クチバシの先にボールをのせて後ろ向きに泳ぐイルカに会場の人全員が歓声を上げる。愛ちゃんも例に漏れず、破顔して声を上げて。「ぉお」と小さく驚き声を上げていた。
あたしは、そんな愛ちゃんを見ていた。
ループくぐりで(きっとわざと)失敗したイルカに「ガンバレ」と呟いてあげたり、そのイルカがループくぐりに成功すると、滅茶苦茶に喜んでいる姿に。
見惚れた。
可愛い。すっごく可愛い。こんな姿が見られるのなら、イルカ達、倒れるまで芸してくれないかなーって人でなしなことを考えたりもした。
「ん?なに?」
あたしの視線に気づいてこっちを見る。
「うぅん、別になんでもない」
「それなら、わたし見とらんとイルカを見んと」
肩を叩かれ促された。
視線を愛ちゃんからイルカへと移動。
――本当は愛ちゃんを見ていたいんだけどな。
でも、最後の大技で、調教師の人をのせての大ジャンプに、あたしは愛ちゃんと声をあげて、会場の人と一緒にイルカ達に拍手を送った。
- 457 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:07
-
「良かったよね〜」
「イルカ可愛かった〜」
場所は代わって水族館内のレストラン。愛ちゃんの前には海鮮パスタ。あたしの前にはパエリヤが。
カボチャ料理がないのが残念。
話しながらお互い料理を口に運んでいく。
さっきのイルカ達について話していると、ふと気づいたように言われた。
「麻琴、あんまり食べとらんじ」
一人前用の鉄の浅鍋は、中身がまだ半分は残っている。
「うーん、これ見た目より中身が多いんだよね」
――嘘。最近食欲がかなり落ちた。
「愛ちゃん、手伝ってよ」
中身をすくい、スプーンを愛ちゃんの口元に持っていく。恥ずかしそうに、だけど口を開いてくれた。
愛ちゃんが咀嚼するのを見ながら、あたしもスプーンを口に運んだ。
ちょっとだけ愛ちゃんの顔が赤くなった。
四分の三は口にしたところで鉄の浅鍋は下げてもらった、コップに水を足してもらう。
「ちょっと、ごめん」
愛ちゃんが席を立って化粧室のほうへと進んでいく。
そのスキにカバンからケースを取り出し、錠剤とカプセルを一緒に口に放り込む。
足してもらった水でそれを飲んでいると、愛ちゃんが戻ってきた。
「お待たせ。この後どうする?」
「愛ちゃん」
「ん?」
「あたしさ――……ぅうんゴメン、やっぱりいいや」
「何や、気になるじ」
「ごめん忘れて。それよりさ、この後エチゼンクラゲが見たいなー」
「…分かった」
同時に席を立った。
- 458 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:07
-
***** *****
- 459 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:08
-
食事後。
色んな種類のクラゲを見て。
巨大コンブを見て。
デンキウナギの放電を見た。
売店に立ち寄り、水族館オリジナルのイルカのついたストラップを紐が色違いの物をお互い購入した。あたしは黄色、愛ちゃんは赤色。
二人で早速ケータイに取り付けた。
今、あたし達は水族館を出て、隣接された公園の中を歩いている。海が見えるベンチに腰掛けた。
「疲れた?」
「あたいは大丈夫。愛ちゃんは?」
「ちょっと疲れた。やっぱ麻琴のように体鍛えられとらんし」
「水泳部直伝の地獄メニュー教えてあげよっか?鍛えられるよ」
「遠慮しとく」
ふと、会話が途切れる。二人の間を潮風が通り抜けた。
「愛ちゃん…」
沈黙を破ったのはあたしから。
「さっき、言おうとしたことなんだけど、さ」
「…うん」
見つめ合う。あたしの真面目な表情に、愛ちゃんも神妙になる。
「あたし、さ、愛ちゃんに伝えてないことがあるの…」
「――なに?」
深呼吸を一つ、してから口を開いた。
「あたしは―――――」
- 460 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート 投稿日:2004/06/28(月) 00:08
-
「愛ちゃんが、好きです」
- 461 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート― 投稿日:2004/06/28(月) 00:09
-
「え…」
予想していない言葉だったんだろうな。ぽかーんとしている愛ちゃんが、ちょっと笑えた。
「ほら、あたし、ちゃんと言ってなかったじゃん。だから……」
今更恥ずかしさが全身を襲う。体中が熱い。
「ぅあー、言っといてなんだけど恥ずかし〜」
「…言われたほうも、改めて言われると恥ずかしいやざ……」
愛ちゃんは、顔も耳も首までもが真っ赤。目も潤んでいる。
でも、あたしも同じような状態なんだろうな。
「改めて…なんだけど。愛ちゃん、あたしと付き合ってください」
ぺこり、頭を下げる。
その頭を恐る恐る上げると。
「…はい」
手を胸の前に合わせて頷いてくれた。
二人、額をくっつけ合って笑った。
やっと、あたし達は本当に恋人になれた。
- 462 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート― 投稿日:2004/06/28(月) 00:10
-
***** *****
- 463 名前:らいおんハート―第4話 最初で最後のデート― 投稿日:2004/06/28(月) 00:10
-
れいなは何度も躊躇った様子を見せていた。
手の中の携帯電話を開き、閉じ、再び開ける。
そんな無意味な動作を繰り返す。
しかし、やっと意を決したように開き、アドレス帳から一人の人物の番号をディスプレイに表示させる。
それは、違う高校に進学したせいで離れ離れになった中学の友人だった。今でも月に一・二度は顔を合わせる、仲の良い子。
通話ボタンを押して耳にあてる。2コールくらいで相手はすぐに出た。
『れいな?どうしたの』
「絵里…」
『…声が暗いけど、なにかあった…?』
「あのさ、聞いて欲しいことがあるっちゃ。――あまりにも物事が大きすぎて…一人では抱えきれんけん…」
『――いいよ。話して楽になるなら聞いてあげるから』
「――ぁりがとう」
『お礼はいいから。それで?どうしたの?』
「あの…さ……」
ぽつりぽつりと語り出した。
「あた、あたしの好きな人の恋人が…」
「病気、なんだ…」
「あたし、その人、先輩のことが嫌いだったけん。
あたしの好きな人、いっつも泣かせて。
裏切って。
傷つけて」
「でも、さ。
あたしの好きな人は、その人のことになると、すっごくいい表情するっちゃ。
あたしは、その表情を見るのが好きだった……」
的を射ない言葉に、じわじわと嗚咽が混ざり出した。
訛りと相まって聞き取りづらいが、それでも絵里は静かに聞いていた。れいなは流れる涙を拭いもせずに、電話越しで言葉を続けた。
「先輩は、もう永くない…もって半年の命らしいけん……。
あ、あたし、
辛いんだ。
悲しいんだ。
もぉ、どうしたらいいのか分からんよ…ぉ」
『れいな…』
絵里はそれ以上のことは口に出来なかった。
れいなは携帯電話を握り締め、ただひたすら泣いた……。
- 464 名前:らいおんハート 投稿日:2004/06/28(月) 00:11
-
- 465 名前:らいおんハート―最終話予告― 投稿日:2004/06/28(月) 00:12
- “生きるイミ”をずっと考えていた。
あたしを痺れさせる、柔らかい感触。
はぁはぁと荒い息。
「大丈夫?」
あたしに“愛すること”を教えてくれた、
そのぬくもりをずっと抱けるように。
「夏休み、二人でどこか行こうよ」
ズキズキと痛む心臓。痛みが治まらない。むしろ―――
「――――――ぁ……」
獰猛な動物に、荒々しく爪を立てられたよう。
翳む目に、ストラップの黄色が不思議と鮮やかに映った。
愛ちゃん、ごめんね。
今度、逢ったらちゃんと言うからさ。――ね?
らいおんハート―最終話 らいおんハート―
- 466 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/06/28(月) 09:29
- つ□ チリ紙頂きます。
。・゚・(ノД`)・゚・。タリマセンッ
幸せそうだよぉ幸せそうだけど胸が苦しいよぉ…
あぁ。ついに最終話。ちょっと怖いけども楽しみにしてます。
- 467 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/29(火) 16:16
- 更新お疲れ様でした
幸せな時間が逆にせつないっす・・
最終話を心して待ってます
- 468 名前:石川県民〜鳴呼恥さらし〜 投稿日:2004/07/02(金) 01:44
- 誤字脱字の多い“らいおんハート”。間違いを全て挙げるとキリがないので、upした後に気づき、死にそうになった二つを訂正させてください。。。
>427内 ×「あの人には…高橋さんには、アナタいないっちゃ……っ」
○「あの人には…高橋さんには、アナタしかいないっちゃ……っ」
田中さん、意気込みすぎて舌が回らなかったようです。
`ヮ´) >アナタいないっちゃ。
>459内 ×「あたいは大丈夫。愛ちゃんは?」
○「あたしは大丈夫。愛ちゃんは?」
小川さん、昭和の不良じゃないんですから、「あたい」ってなにさ。
∬´▽`) >あたい。
- 469 名前:石川県民 投稿日:2004/07/02(金) 01:45
-
さて。今回は予告のメール欄内にて注意したとおり、エロいです。今更ですが、エロいのがダメな方は、>>470〜>>480くらいまでは飛ばしてください。読まなくても話は分かりますので。
466>名無しどくしゃサマ。
>。・゚・(ノД`)・゚・。タリマセンッ
あわわ箱ティッシュ箱ティッシュ。…一箱あれば足りますか?
>幸せそうだけど胸が苦しいよぉ…
そうなんですよ、幸せな分、辛いのですよ。
467>名無飼育さんサマ。
>幸せな時間が逆にせつないっす‥
――書いてから、この第4話が切なさを増幅させるだけのモノだと気づきました。
それでは最終話、参ります。
- 470 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:46
- “生きるイミ”をずっと考えていた。
指を入れても一度も引っかかることのないサラサラの髪。形の良い後頭部を撫でながら、ゆっくりとベッドに寝かせる。あたしも、覆い被さるように乗ると、ベッドが少し軋んだ。
ここは、愛ちゃんの部屋。
今までに何度もした行為。けど本当の“恋人”としては初めてのこと。
あたしの前には愛ちゃんの顔。愛ちゃんの前にはあたしの顔。そんな至近距離で見つめ合う。
“…麻琴やろ?水泳部の小川麻琴”
笑いながらそう言ってきたときを思い出す。
そう。
本当はあの日、階段で目が合った瞬間に既にこの瞳に囚われていたのかもしれない。
それなのにあたしは。
鈍かったから。
臆病だったから。
子供だったから――気づかなかった。
ひどく遠回りをしていたんだ。
- 471 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:47
-
頬に手を寄せると、ゆっくりとその手を握ってきてくれた。
二人で微笑みあう。
ゆっくりと目を閉じたことを確認してから、顔中を唇で触れた。
額。
眉尻。
目元。
鼻先。
頬。
あたしの手を握ったままのその手の甲にも。
そして――唇。
触れるだけのキス。けれど、あたしを痺れさせる、柔らかい感触。ビリビリと心を振るわせる。
- 472 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:48
-
そのまま舌を這わせながら唇を首筋へと移動する。
「――ぁ……」
漏れる、声。
空いているほうの手を服の中に進入させようとすると。
「…愛ちゃん?」
その手を、止められた。
「……嫌、なの?」
小さく首を横に振る。
キュッとあたしの服をつかむ。そのまま、捲り上げようとする。
――あぁ、なるほど。
顔に触れていた手を離して、されるがままに大人しく、服を脱がされる。腕を袖から抜いて最後に頭からすっぽりと服を抜かれた。
あたしは自分のインナーに手をかけ、剥ぎ取ってベッドの下に落とす。愛ちゃんにも、持ってもらっていたあたしの服を下に落としてもらう。
今度は、あたしの番。
愛ちゃんの服を捲って、腕を袖から抜いてもらう。そして頭も。
脱がせた服は下に落とし、すぐに愛ちゃんを抱き寄せた。そのまま背中のホックに手をかける。
軽い音がして外れる。それも、ベッドの下へ。
ベッドの下で絡む、あたし達の服。
そして。
ベッドの上で絡む、あたし達。
服に負けないくらいに肌を密着させて、腕を、指を、足を絡ませ合う。
顔を寄せて、唇に触れ合う。お互いの舌も、絡ませた。
唾液も絡み、唇を離すと糸になる。
――ぷつん、とそれが切れる。
- 473 名前:らいおんハート―最終話 投稿日:2004/07/02(金) 01:48
-
頭をずらし、舌を尖らせ鎖骨をなぞる。肩のほうの先端をチュと軽く音を立てて口付けた。
愛ちゃんはくすぐったそうに体をよじる。
唇を移動させて、首のつけ根のほうをカリ、と歯を立てて齧った。
「ふぅぅん…」
声を漏らし、少しだけ腰を引く。
そんな姿がどうしようもなくて―――あたしは体中に口付ける。
胸。
わき腹。
二の腕。
おへその上。
そして全てに――赤い刻印をつける。
貴女にあたしを刻ませて――。
「――ぅんッ」
赤い刻印をつける度に少しだけ出る声。それを聞く度に、体の底から昂ぶってくるものがある。
- 474 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:49
-
絡ませていた指を外す。その指をゆっくり肌に滑らせる。愛ちゃんの指はあたしの髪に絡められた。時々軽く、引っ張られる。
胸の先端を指の腹で触れる・擦る・転がす。
一つ一つの動作にびくびく震える愛ちゃんの体。
指を胸から離し、もっと下へ。
そして。
ピチャ。
――そんな音がするほどに、溢れていた。
「…ぁ」
愛ちゃんも聞こえていたらしく、ぷいっとそっぽを向く。――恥ずかしがる、あたしの恋人。
こっちを向いた耳を軽く噛み、入り口付近でゆっくりと指を回す。
「――はぅっ」
かするように愛ちゃんに触れていると、だんだんとわたあめのように愛液が纏わりついてきた。
「――くぅっ」
眉間に寄るシワ。
とろんとした目つき。
荒く、熱い息。
――全てが、感じている証拠。
…って。
あたたたた、愛ちゃん髪引っ張りすぎ。
- 475 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:50
-
「愛ちゃん、髪、痛いよっ」
あたしが小さく叫ぶと、我に返ったような表情。
「ご、ごめん」
慌てて手を離される。――ふうっ。
愛ちゃんの空いた手は、今度はシーツを掴む。…でも。
あたしは空いている左腕を愛ちゃんの背中に回す。
―――ね?
目で訴えると、シーツを掴んでいた手ともう片方の手を背中へと回してきてくれた。
愛ちゃんは両手で、あたしは片手でお互いを抱きしめ合う。
指の動きを再開する。
「ふぅ――ぁっ、うん…」
かすめたり掻き出したりする度に上がる声。
- 476 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:50
-
「愛ちゃん…いくよ?」
「ぅん…。―――ぁ、…ぁあっ」
ぬるっとしていて、すごく熱い、愛ちゃんの中。
根元まで入れた指をゆっくり第一関節まで抜いて、二本目を入れる。
きつい。
「う゛ぁ…」
辛そうな声。はぁはぁと荒い息。
「大丈夫?」
声をかけると、虚ろな瞳を向けて頷いてくれた。
辛かったら言ってね。
もう愛ちゃんが辛くなるようなことはしたくないから。
- 477 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:51
-
ゆっくり、指を動かす。絡みつく愛ちゃんの中。
「はぁぁぁぁ…麻琴ぉ…」
「愛ちゃん、好き、大好き」
今まで口にすることのなかった睦言に。
愛ちゃんは目を開き、そして――笑ってくれた。あたしを抱きしめる力が強くなる。
「わたしも、大好き」
中を掻き回すように動かす。
「ふゃぁぁあっ…」
抱きしめてくれる腕がびくびくと痙攣している。
涙の溜まった目尻に唇をあて、吸い取る。――ちょっと、しょっぱい。
愛ちゃんは唇に欲しがった。
口付け、淫蕩な表情を見せる愛ちゃんに囁く。
「ね…あたしの肩噛んでいて」
「え…」
なにを言われたのかイマイチ理解していない顔。
「ほら」
左手で後頭部を持ち上げて、肩へと寄せさせる。
指を、速く、強く前後に動かす。
「――ふぅッ」
肩に軽い痛みが走った。
――そう。愛ちゃん噛んでいてよ。
あたしに貴女を刻みつけてよ。
あたしに“愛すること”を教えてくれた、
そのぬくもりをずっと抱けるように。
最期の恐怖に打ち勝てるように―――。
- 478 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:51
-
「んぅ、ぁ、ふぅぁ、あぁ!」
段々と高くなっていく嬌声。
ねぇ。
愛ちゃんをあたしで埋めてあげる。
だから。
あたしを愛ちゃんで満たしてよ。
親指で一番敏感な部分に触れ、小刻みに動かす。
愛ちゃんは腰を跳ね上げた。
「ふぁぁあああ!!」
ぎゅう……っ!と指を締め付けて――果てた。
枕に頭を乗せてあげると、目を閉じていた。
ゆっくりと指を抜く。
「大好き、だよ」
荒い息を整えている愛ちゃんを再度抱きしめた。
- 479 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:52
-
貴女に遭えてよかった。
貴女のぬくもりを抱けてよかった。
本当に、心からそう思う。
- 480 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:52
-
***** *****
- 481 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:53
-
「夏休み、二人でどこか行こうよ。受験勉強の息抜き程度にさ。
愛ちゃん、行きたいトコある?」
裸のまま、指を絡ませ合いながら話す。
考える仕草をした後に、けだるそうに口を開いた。
「海、行きたい。麻琴の泳ぎを見たい」
「ん〜、愛ちゃんがビキニ着てくれたらね」
にっこり笑ってそう言うと。
「………すけべ。
大体わたし泳げんのに、水着着てどうすんのさ」
「教えてあげるよ。手取り足取り腰取り♪」
「………ぉやじ」
ジト目の愛ちゃんに苦笑を返した。
「腰取りは冗談だけどさ、考えといてよ。塾の合宿が終わった頃にでも…行こう?」
「…うん」
愛ちゃんが腕の中に入ってくる。あたしは背中に手を回す。
穏やかに愛ちゃんは微笑み、目を閉じた。
すぐに聞こえてきた寝息。
そっと、体を動かしてその横顔を見た。
心が、震える。
その顔は、まさに、あたしだけの、天使。
しばらく見つめ、頬にキスをする。
行為を終えた後の愛ちゃんの眠りは深く、この程度じゃ起きないけれど。
それでも、眠っていることをしっかり確認する。
ゆっくり、背中に回していた手を外し、ベッドから抜け出す。シーツを愛ちゃんの肩にまで引っ張り上げた。
散らばり、絡み合っている服から自分のを取り出して身に纏う。
「愛ちゃん、ありがとう」
あたしは音を立てずに、部屋を出た。
- 482 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:53
-
***** *****
- 483 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:54
-
夜の街。その路地裏を、あたしは胸を押さえて歩く。
部屋、灯りが点いてなくて良かった。
脂汗が流れていることに気づかれなかったし。
ズキズキと痛む心臓。痛みが治まらない。むしろ―――
愛ちゃん、ごめんね。
本当は、朝まで一緒にいたかったけれど。――愛ちゃんが目を覚ましたときに最初に目にするのがあたしでありたかったんだけれど。
呆れるほど傍にいるって誓ったけれど。
発作を起こす姿は、愛ちゃんには見られたくないんだ。
――取り敢えず家に帰ろう。今までとは確実に違う痛みに、目が翳む。
あたしはふらふらとケータイをポケットから取り出す。
メールの新規作成を選択して、送信先を愛ちゃんに設定。ゆっくりを文字を打ち始める。
たった一言の、あたしの気持ち。
本当はさ、愛ちゃんが目を覚ましたときに言いたかったんだけどね。
――無理っぽいし。
…それにちょっと、恥ずかしいし。
今は、メールで伝えさせて。
本文をなんとか作成したところで。
ばくんっ!!
「――――――ぁ……」
今までとは段違いの痛み。
獰猛な動物に、荒々しく爪を立てられたような痛みに、ケータイを取り落とした。
カシャンと軽い音をたてて落ちるケータイ。
ヒザから崩れ落ちる、体。
…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!
声にならない痛みに体が動かせない――近くに落ちたケータイを拾うことすらできない。―――送信ボタン、押すだけなのに。
……ちくしょう…っ!
- 484 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:55
-
そのときだった。
「ちょっと、大じょー…」
中途半端な言葉が聞こえた。
誰か、来た。
足しか見えないけれど、その人は第一声以降は無言で近くに佇んでいる。
気力を絞って顔を上げる。
立っていたのは女の人。ちょっと、魚っぽい。
「だれ…しに、…がみ…?」
お迎えきちゃったのかな、あたし。
女の人はかったるそうに、
「まぁ…そんなとこかな」とあたしの冗談に付き合ってくれた。
死神さんでも構わないよ、ちょっと頼みごと聞いてくれない?
「あの、さ……メール――――送っといてよ」
転がっているケータイを視線で指すと、死神さんは『は?』みたいな顔になった。
それでも。
無言で腰を曲げてケータイを拾い上げてくれた。
死神さんの手の中にあるケータイ。
翳む目に、ストラップの黄色が不思議と鮮やかに映った。
操作をした後に死神さんは画面をこっちに向けて『これでいい?』みたいな表情をする。
あたしはゆっくり、顔を地面に伏せる。
愛ちゃん、ごめんね。
あたしってさー、結構シャイだから、さ。
口に出すのが恥ずかしいんだよね。
うん、本ト、ごめん。
今度、逢ったらちゃんと言うからさ。
――ね?
- 485 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:55
-
ああ、良かった。
親切な死神さん。
お母さん。
田中ちゃん。
あさ美ちゃん。
そして――愛ちゃん。
本当に、
本当に。
「ありがとう」
- 486 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:55
-
***** *****
- 487 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:56
-
使い魔は、瞠目していた。
たった今、聞いた言葉を理解することが出来なかったから。
たゆたう心と視界。
弾かれたようにその場から走り出す。
そして――。
使い魔が走り去った直後に。
「――きゃああああっ!!」
その場から、悲鳴が上がった。
- 488 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:56
-
***** *****
- 489 名前:らいおんハート―最終話 らいおんハート― 投稿日:2004/07/02(金) 01:57
-
雨の、音がした。
激しい、雨の音に。ふと――愛は目を開ける。
視界で認識する前に、手探りで麻琴のいたところを探る。が、麻琴はおろか、そのぬくもりすら既に消え失せていた。
はあ、とため息を一つ吐く。
以前にも時々、麻琴は夜中に家に帰ることがあった。今回もそうなのだろうと思うが――朝までいて欲しいと願うのは自分のエゴなのだろうか愛は考える。
時刻を確認する為に携帯電話に手を伸ばす。
すると、一件のメール着信があった。
どうせ迷惑メールだろう、とさしたる期待もせずに表示させる。
メールの中身を見た瞬間。
目を大きく開き、次にはその双眸からぽろぽろ涙を落とした。
「…ま、ことの……アホォ…。
ちゃんと、口で言、言ぇ…」
それは、麻琴からの初めての言葉。
携帯電話を握り締め、しゃくり上げながら愛は泣き続けた。
- 490 名前:らいおんハート―最終話 投稿日:2004/07/02(金) 01:57
-
From 麻琴
Sub (not title)
―――――――――――
愛してるよ。
- 491 名前:らいおんハート 投稿日:2004/07/02(金) 01:58
-
- 492 名前:らいおんハート 投稿日:2004/07/02(金) 01:58
-
らいおんハート――fin.――
- 493 名前:石川県民 投稿日:2004/07/02(金) 01:59
- 以上です。
“天体観測”とは違う世界なのですが、世界の一部分が交差したのだと考えていただければ。。。(汗)
続編として“らいおんハート”の高橋さん視点というものも考えましたが、めんどくさ…げふげふ。――わざわざ両方の気持ちを書く必要もないかと思いました。ので、これで“らいおんハート”は終了です。
ちなみに私の心の中のサブタイトルは“救いのない話その2”でした。
リクをしてくださった名無しどくしゃサマ、そして読んでくださった皆々様。本当にお付き合い、ありがとうございました。(ぺこり)
- 494 名前:石川県民〜次回予告〜 投稿日:2004/07/02(金) 01:59
-
さてさて次回からは>265 名無飼育さんサマのリクで学園田亀です。
再々度救いのない、ochi進行な話にしようかと思いましたが、考えた話内の道重さんが怖いキャラになってしまったので却下…で。ふつーな学園物です。こちらも長々と続きます。
次回からはageでいきたいと思います。
そして申し訳ありませんが二週間ばかしお休みさせていただき、その間にまとめたいと思いますので宜しくお願いします。
- 495 名前:石川県民 投稿日:2004/07/02(金) 02:00
-
それではまた。
拝。
- 496 名前:我道 投稿日:2004/07/02(金) 16:31
- 更新、完結お疲れ様です。静かにROMってました。
・゚・(ノД`)・゚・<涙が、止まらないですよぉ・・・。
前作に引き続き、いい話をありがとうございました。
今はゆっくり休んでください。
最後にもう一度、本当にありがとうございました。
- 497 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/07/02(金) 17:42
- 感動です…思わず胸が熱くなりました。
これ以上、上手く言葉に表せません。・゚・(ノД`)・゚・。
とても良い作品を読めて大変嬉しいです。
あなた様にリクして良かった。
ありがとうございました。
- 498 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/03(土) 08:14
- 完結、お疲れ様でした!
ううっ・・感動っ。・゚・(ノд`)・゚・。 暖かくて切なくて・・・
こんな素敵な作品を堪能させて頂きまして
本当にありがとうございました
- 499 名前:265 投稿日:2004/07/06(火) 21:48
- 意外な所でリンクされてた。。。
上手いなぁ。( ̄^ ̄;)
で。
キタ━━━ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ━━━!!!!
ありがとうございますっ! 田亀不足にあえいでおりましたぁっ!
このところ、田亀モノが軒並み止まってたりしてたんで。(泣
二週間の休養後をお待ちしておりますッ!
- 500 名前:石川県民〜夏バテ気味〜 投稿日:2004/07/17(土) 05:11
- 500☆です。
元々当地でハロモニ。が映らなくなった怒りから書き始めた娘。小説。こんなにも長々と続けてくれたのも読んでくださって、且つレスをしてくださる皆々様のおかげでございます。感謝の念は尽きません。
ラストが少女趣味(?)な“らいおんハート”あまりのくささに非難はあるかもと思いましたが……温かいレス、ありがとうございます。
496>我道サマ。
ありがとうございます。いい話だなんて……素直に照れます。
そうなのです、リンクしてたのです。こーゆーのが好きなので、またやるかもです。
こちらこそありがとうございました。
497>名無しどくしゃサマ。
『上手く言葉に表せない』最高のほめ言葉をありがとうございます。
『あなた様』という言葉にビックリ。言われたことのない言葉はむず痒いデス。
こちらこそ、ありがとうございました。あなた様のリクがあったから書けたものでもございます。
498>名無飼育さんサマ。
素敵な作品だなんて………(超赤面) 顔の赤さが元に戻りません、どうしましょう。
こちらこそ、本当にありがとうございます。
…………三人も泣かせてしまった。悪人だ私。
499>265サマ。
意外なところでリンクしてましたか。自分で書いてる最中は『こんなんバレバレじゃねーか、書かないほうがいいんちゃうかー!?』と自虐状態だったのでちょっとびっくりなお言葉です。
そして。
踊って喜ばれますと、笑ってごまかすことしかできません(ワハハ。
斬新性を求めたら、ヘンな話になりました。ゴメンナサイゴメンナサイ。
お口に合えば宜しいですが。。。
- 501 名前:石川県民 投稿日:2004/07/17(土) 05:16
- >494内で長々と続く、と言っていましたが、その『長々と続くもの』は書いているうちにリクされたものとは違う内容になりつつあったので、もうしわけありませんが没とさせていただきました。ごめんなさい。
改めて考え直したものは…そんなに長くないですねぇ。4話か5話くらいかと。
そして。
延々とタイトルを考えましたが、いいタイトルが思い浮かびませんでした。
ので当分のあいだ、仮タイトルで進行させていただきます。
それでは。
鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮)
- 502 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:16
- 幼いころの記憶―――。
多分…テレビでそういうシーンを見たのだと思う。
女の人に男の人が“オレがお前を守る”って誓ってたのを。
それが、すごく格好よくて。
それが、すごく羨ましくて。
だから――言った。
だから――言ってもらった。
“あたしがずっと守ったるけん”
“うん!一生だよ!?”
“おう!”
それを―――。
彼女は覚えているのだろうか…。
あの子は覚えているわけないよね…。
- 503 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:17
-
***** *****
- 504 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:17
-
「めんッ」
パァァァァン……。
気持ちの良い音が、場内に響いた。
主審の腕が上がる。
「面有り!一本!!」
一瞬の間の後。
大歓声が上がった。
立礼をし、それぞれ場外へ。次の組の試合が始まったところで壁にもたれた。
籠手を外し、面の後ろに手をかけてヒモを解く。おもむろに面を脱いで、れいなは辺りを見回した。
観客席に、知っている顔が見えた。道重さゆみ。小学生のころからの親しい人物。現・クラスメイトでもある。
しかし――。
もう一人の、小学生のころからの親しい人物の顔は見当たらなかった。
- 505 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:17
-
面の下に巻いていた手拭でわしゃわしゃ頭の汗を拭う。
すると。
「田中先ぱーい!」
声のした方に顔を上げると同時に。
がすっ。
「ぐえっ」
タックル…もとい抱きつかれた。変な声も出る。
「田中先輩、すっごい格好良かったですよ!今の面!!」
「あ、ありがと雅ちゃん。でも今のは痛か…」
「あ・ごめんなさぁい、大丈夫ですかぁ?」
近距離で見上げられる形で謝られた。…雅は小学生なのにすごく大人びているから、こういう姿にはドキッとさせられる。
「大丈夫、大丈夫だから離れてね」
中学生が小学生の色香にやられるのも悔しいので、れいなは雅を引っぺがす。
丁度そのときに、小等部の集団の方から雅を呼ぶ声がし、しぶしぶといった感じに離れた。去る間際に手を振られたので振り返すと、笑顔になって走っていった。
小学生は素直でいいなぁ――。
年寄りくさいことを思いつつ、手拭をカバンに押し込んだ。
- 506 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:18
-
―――ここはハロモニ女学園武道場。今は、年に二回行われる全学年一斉練習試合の日。
ハロモニ女学園は小中高大一貫校であり、武道場や図書館、講堂といった施設は共用のため、現在この武道場には、この建物を使用する、弓道部、柔道部、そして剣道部の三部活、十六学年が集結している。
――先ほどの、中等部三年田中れいなも小等部六年夏焼雅も、試合に参加している一人だった。
ちなみに―――蛇足として説明しておくと、ここハロモニ女学園は無宗教学園だ。
某カタカナ女学園のようなカトリック教学園ではない。中道にマリア像は置かれてないし、生徒会室が館として校舎と離れた場所に存在していない。ついでに、近隣に仏教系男子校も、存在しない。――念のため。
閑話休題。
まぁ、そんな学校が舞台なのである。
- 507 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:18
-
「れいなお疲れ〜」
剣道場を出たところで声をかけられた。そこに立っていたのは、先ほど観客席に居たさゆみ。
「さゆ、待っとってくれたんだ」
「うん。一緒に帰ろ」
「おう」
二人、並んで歩く。
武道場を出たところで。
「本、返したいから図書館に付き合ってよ」
そんなさゆみの言葉にれいなは顔をしかめた。
「ヤダ。とっとと家に帰ってシャワー浴びたいけん。先、帰る」
武道場にもシャワー室はあるが、今日のような日はたいへん混み合っている。だかられいなのように家に帰って済ませる者も少なくない。
さゆみより先に校門へと続く道を歩いていると、後ろから声をかけられる。
「ふーん、れいな来週提出の地理の課題、一人でやるんだ。頑張ってね」
「………………図書館でもどこでも付き合うっちゃよ」
自分一人の力だけでは終わらせられる訳がない量の課題が頭をよぎる。
れいなは踵を返さざるを得なかった。
- 508 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:19
-
講堂の左隣にある図書館。全学年共有のため、その建物は普通の学校にある図書室と比べようもないくらいにデカい。ちなみに、今更ながらに説明しておくと、講堂の右隣にある武道場も、巨大である。
そんな図書館に、れいなはさゆみの後ろをのろのろと歩きながらついていく。ほとんど足を入れたことのない施設に、きょろきょろ辺りを見回してしまう。
図書館特有の紙と微かなホコリのにおいが鼻孔をつく。
さゆみはカウンターの方へと近づいていく、れいなも後を追う。
カウンターの中で図書委員の子が帳面になにか書きつけていた。その子が、顔を上げた。
「あ…」
「……絵里…」
もう一人の、昔から親しい人物が、そこにいた。
- 509 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:19
-
お互い、カウンター越しに見つめ……否、固まりあう。
「やっほー絵里♪」
さゆみが軽快な口調で語りかけ、二人、我に返る。
「さゆ、今日は返却?」
「うん。これとー…これ、よろしく」
カバンから二冊、引っ張り出す。絵里は改めて、れいなを見た。
「…れいなは?」
「ぁ、あたしは、さゆに連れてこられただけだから…別に」
ごもごも、言いよどむ。
「…そぅ」
絵里も、それだけしか返さない。
沈黙。
絵里は俯き、返却作業をし出した。そんな絵里にさゆみはカウンターにヒジをつけて話し出す。
「今日れいながさ、試合だったんだよ」
「そう」
「結果は、胴が決まってれいなの勝ち」
「面」
つい、口を挟む。
「そうそう、面」
コイツは本当に自分の試合を見ていてくれたのか一抹の不安を感じる。……まあ剣道は防具を着たら、垂にある名前でしか判断できなくなるから仕様がないかもしれないが。
「そう――良かったね」
その、一言だけだった。絵里の感想は。れいなの心の中でざわりと風が吹く。
「絵里も見にくれば良かったのに」
さゆみの呑気な声に、絵里は苦笑を返す。
「図書当番だったから…」
「――そんなもん、替わってもらえばよかとやろ」
- 510 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:19
-
「え…」
れいなの不機嫌そうな呟きに、絵里はおろか、さゆみも目を丸くした。二人から目を逸らす。ひどく、子どもじみた言葉だということは、発した瞬間に自覚していたから。
絵里は口の端を上げた。
「れいな、わたしがいなくて寂しかったんだ」
似合わない、冷たい笑みを浮かべて言った。
「違う」
すっぱりきっぱりはっきり言い捨てると踵を返す。
「さゆ、返却もう終わったとやろ、あたし先行くけん」
すたすた、早足で出口に向かう。
「ちょ、ちょっと待ってよ。絵里、またね!」
慌てて後を追った。
絵里は下を向いたまま作業を続け、二人の方を見ようとしなかった。
だから、絵里が唇を噛んで、震える手を抑え、耐えるようにしていたことを、二人は知らない―――。
- 511 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:20
-
二人、河原沿いの道を歩く。時折、草をそよがせ駆ける風が二人の暑気を奪っていく。
二人は一緒に歩いていない。一人の後を、もう一人がほてほてとついていく。ほてほて、ついていっている方が口を開いた。
「ねぇれいな。――絵里、なんか変わったよね」
「…高校生になって忙しいんやなかと?」
「…そうかなあ」
「……もしくは中学生なんかと遊んでられるか、とか」
「…絵里はそんな子じゃないよ」
「どーだか」
絵里、こと亀井絵里は、れいなやさゆみよりも一つ年上の高校一年生。三人とも小学生のころからの付き合いだった。
その昔、れいなの一家が福岡から引越してきた折、れいな・さゆみ・絵里の母親たちが仲良くなり、その子どもたちも親しくなったのだった。
……小学生のころは、それこそ毎日のように、れいなとさゆみが絵里をあちこちに引っ張りまわすという形で遊んでいたというのに。
……絵里が中学生のころだって、れいなの家でTVゲームをしたり、さゆみの家でマンガを読んでいたりしていたというのに。
絵里が高校生になったころから、そんな付き合いはなくなり始めた。
ほてほてとした足取りは変わらないが、先を行く人物の足はやや速くなった。
「……れいな本当は寂しいくせに」
「――勝手な憶測で人の心情話すのやめるばい」
「無理しちゃって」
足が、止まった。少しだけ振り返ると、相変わらずほてほてとした足取りでこっちに来ている。
「…なにが言いたかと」
「れいな、気づいてないなら言わない」
「ふん」
再び、歩き出した。
「れいな、アイス奢って」
「ヤダ」
- 512 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:20
-
***** *****
- 513 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:21
-
“――絵里、なんか変わったよね”
タオルを首にかけ、髪が生乾きのままぐでーっとソファに身を沈める。
家に帰ってから、シャワー中もシャワー後の今も、頭の中で回るのはさゆみの言葉。
「変わったって…付き合いが悪くなっただけと」
誰に言うわけでもなく呟く。
――そう、悪くなった。
れいなやさゆみ誘っても“忙しい”や“用事がある”の一言で済ませ、遊ぶことがなくなった。
ただ、それだけ。
たったそれだけなのに――。
「はぁ…」
ずるずるとソファにさらに身を沈める。
どうしてこんなに気にかかり―――
さゆみの言葉が響くのか―――。
「はぁ………」
れいなには分からなかった――。
- 514 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:21
-
「若い娘がなーにため息ついてるんとー」
台所から母親の声が降ってきた。
「れいな、暇っしょ。これ亀井さん家に届けんかい」
ずい、と惣菜の入ったタッパーを突き出した。
「え゛…」
よりによって最悪のタイミングで言ってきた。
「そ、それはちょっと――」
絵里とは気まずいから行きたくない、とは言えない――言いたくない。
しかし母親はどこ吹く風。
「なに言ってるんと。お母さんが入院しちゃって絵里ちゃん大変なんだから、少しは手伝いなっちゃ」
「は――?」
「――アンタ、知らんかったと?」
れいなの拍子抜けした声に、母親は呆れた。
- 515 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:22
-
ぺったらぺったら、サンダルの音が情けなく鳴る。右手の数個のタッパーの入った紙袋はなるべく揺らさないように気をつける。
“亀井さん体が弱いっちゃろ?暑さで体調崩してるときに持病の喘息が悪化したらしいと”
母親の言葉が反復する。
そんなこと、絵里から聞いてない。
そんなこと、絵里から知らされてない。
“原っぱにヘビが出た〜”
“亀、飼い始めたと”
“キレイな石みーっけ”
昔は、どんな些細なことでも教えあってきたのに。
言ってきたのに。
伝えてきたのに。
空を仰ぎ見ると、遠くのほうに空はある。
この空と同じくらい、絵里が遠くに感じた。
呼び鈴を押して暫くすると、ドアの向こうからパタパタという音が早足で近づいてくるのが分かった。
「はい」
ドアを開けて、れいなの姿を確認すると、絵里は驚いた。れいなはバツが悪そうな顔をする。
「おかんから聞いたっと…おばさん、入院したっとね?」
「………うん。でもあと一週間くらいで退院するし」
「……そ」
何故教えてくれなかったのか、と絵里を責めるような言葉は口から出なかった。もしも絵里の口から、わざわざれいなに教えることじゃない、とかなんとか言われたら自分が立ち直れなくなることは気づいていたから。
紙袋を突き出す。
「これ、おかんが持っていけって…。惣菜」
「ぁ、ありがとう…」
絵里も控えめに手を伸ばして受け取る。
中を見、一枚の用紙が入っていることに気づく。
「じゃ、あたしはこれで」
用紙を読んでいる絵里に背を向けると。
「れいな……これ」
声をかけられた。振り返ると、用紙をこっちに差し出している。
受け取り、中を読んだ。
- 516 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:22
-
絵里ちゃんへ。
お母さんが入院しているので、おばさんが替わりに晩御飯を作ります。いっぱい食べてね。
それと、お父さんは今仕事で忙しい時期でしょうし、一人で食べるのも寂しいと思いますので、れいなを送ります。一緒に食べてあげてください。
れいなのおばさんより。
れいなへ。
そんなわけだから、絵里ちゃん家でお相伴に預かりなさい。
食べずに帰ってきても、アンタの夕飯は残ってないからね。
お母様より。
「………聞いてないっちゃ」
絵里は、眉間にシワを寄せて中を読んだれいなを困ったように見た。
「…取り合えず、上がって」
靴箱から来客用のスリッパを取り出しながら言った。
- 517 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:23
-
海老のチリソース煮に肉団子に花ニラの唐辛子とゴマ油の和え物に炊き込みご飯。
きっちり二人分入っているそれらをタッパーから取り出し、皿に盛る。また、一人分の分量で小さめのタッパーに入っている同種類のものは、未だ帰ってこない絵里の父親の分であろう。
「おじさん…まだ仕事なんだ」
「うん。最近は残業が続いてるって」
「ふーん…」
微妙な、雰囲気。
れいなは、頭の中で必死になにか話題になるような事柄を探すが、上手く見つからない。絵里の顔からはなにも読み取れず、ただ黙々と皿に移し変えている。
なにか切り出す前に、盛り付けが終わった。互いに向かい合ってテーブルに座りあう。
「「…いただきます」」
二人だけの晩餐が、始まった。
気まずいとは思いつつも、育ち盛りで尚且つ部活動の後ということもあって、れいなは早いスピードで皿を片付けていく。ただし、花ニラの和え物だけは、あまりの辛さに箸も止まり、麦茶の注がれたグラスに手を伸ばした。
目に涙を溜めて飲み干すと、絵里がクスリと笑った。
「…れいなと食事するの、久しぶり」
「あぁ……そうやとね」
昔はよく、相手の家で時間を忘れて遊んでいると、互いに夕飯をご馳走になることが多々あった。そこには時々さゆみも加わった。
しかしこうやって絵里と一緒に食事をするのは―――
「…一年以上ぶりやとね」
確かれいなが中学一年生だったとき以来。
「…そうだね」
絵里は懐かしむように微笑んだ。
それは。
絵里の中ではそんなことは過去形になっているということを表しているような気がして。
なんとなく苛ついた。
「絵里、これやる」
絵里の器に自分の和え物を入れる。
「あー、なにするのよぉ」
「あたし食えん。絵里、食って」
ぶーぶー文句を言いつつも絵里は和え物に箸を伸ばした。
そんな姿は以前と変わっていなかったので、れいなは安堵した。
- 518 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:28
-
れいなが二杯目の麦茶を啜り終えたところで、絵里の洗い物の手も止まった。
キュッキュッと音をたててタッパーの四隅の水滴も拭い取る。拭き終えたタッパーを紙袋に戻していく。
「おばさんに、ご馳走様でした、って伝えておいてね」
「…ぉう」
のろのろと立ち上がってグラスを流し台へ持っていこうとすると、絵里が手を伸ばしてれいなの手からグラスを取った。そして引き換えに紙袋を渡された。軽い。
絵里は玄関まで見送りに来てくれた。
「じゃ」
サンダルを突っかけたところで。
ふわり、と髪を一房掬い取られた。
心臓が跳ね上がる。
「れいな、髪、ちゃんと乾かしてから来ようよ。きっと匂い、うつっちゃってる」
さらに髪に鼻を近づけられる。
二段階に心臓が跳ね上がった。
「ああやっぱり、チリソースの匂いがうつってる」
「べ、別にいいっちゃ。また洗うし」
自分でもよく分からない心情を悟られたくなくて、髪を振る。
「そう?――じゃぁ、ね」
「……うん」
ドアを、しめる。
「………素っ気無くなったクセに、いきなりあんなことすんな。…絵里のひきょーもん」
ドア向こうの絵里には聞こえない声で言う。
顔が熱いのは、決して夏の暑さのせいだけじゃないことは自覚していた―――。
ぺったらぺったら情けない音を鳴らして歩く。
やっぱり、絵里のことがよく分からなくなった。
突き放すかと思ったら以前のように接してきたりして。
そんな絵里が癪だったが。
そんな絵里にまんまと翻弄されてる自分が一番癪だった。
- 519 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話(仮) 投稿日:2004/07/17(土) 05:30
-
To be continue...
- 520 名前:一言次回予告 投稿日:2004/07/17(土) 05:31
-
田中さん、おもいっきり寝過ごします。
- 521 名前:石川県民 投稿日:2004/07/17(土) 05:32
- それでは。
拝。
- 522 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/17(土) 17:58
- とっても良いです。
頑張ってくださいです
- 523 名前:265 投稿日:2004/07/17(土) 22:56
- (`ー´)ニヒヒ。
イイ感じです♪ サスガデス!
特に斬新なモノを求めてるワケでもないので、
このマターリした二人を見ているのも好きです。
とても締りの無い顔で読んでますよ。(w
タイトルもそのままでイイのでは?
- 524 名前:石川県民 投稿日:2004/08/04(水) 07:25
- ∬T∇T)>どーにもこーにも腰が痛い♪
遅くなって申し訳ありません。椅子に座れるくらいには腰も復活したので再開です。
522>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます、頑張ります!
523>265サマ。
締りのない顔は締めてくださいませ。じゃないと∬´∇`)になります。
∬`∇´)>んだとゴルァ! ひいっ<(石川県民
タイトルもそのままでイイですか、ならば本タイトルとさせていただきます♪
- 525 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:27
- 呼び鈴を押す。
“えーりーー!行くぞー!”
ドアの向こうからパタパタ音を立てて現れた絵里は、浴衣を着ていた。ピンク白地の花柄がとても似合っていた。
“お、おまたせ。れいな、さゆ”
“絵里、浴衣っさね。可愛いっちゃ”
“あ…ありがと…”
れいなの言葉に、恥ずかしそう笑う。
そんな絵里を見て満足そうに微笑むれいなの肩に、ずしりとした感触。
“れいな、わたしには『可愛い』って言わなかったのに〜”
さゆみも浴衣を着ていたのである。――ちなみにれいなはジーンズにシャツと、普段と変わらない服装。
“あ〜はいはい、さゆも似合う、可愛いっちゃ”
おざなりな言い方でも、さゆみは満足してれいなから離れた。
“““いってきま〜す”“”
絵里の母親に三人で手を振って、神社へと向かっていった―――。
- 526 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:27
-
れいなは、目が覚めても視線が焦点を定めていなかった。
のろのろと、目覚まし時計に目をやる。針は、アラームをセットした一時間前を指している。
タオルケットに包まり、体ごと横に向く。そのままぼんやりと、今見た夢を思う。
(今のは……小学…三年生のころだっけ…)
とろとろと、再度、夢と現の狭間を行き来する。
(しっかし…しょっぱなから“可愛い”とか言うあたしってなんつーマセガキやったんちゃ…)
- 527 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:27
-
小学三年生の夏。近くの神社でやっていたお祭り。れいなはさゆみと…絵里の三人で行った。
カラコロとゲタを鳴らす二人のやや後ろを歩く。
神社の周辺の道には屋台が立ち並び、人がごった返していた。なるべく三人、離れないようにするものの、そうしようとする度に、人が間を通り、距離が開く。
鳥居をくぐり、神社の敷地内に入ると、更に人が増えていた。れいなからは、人の隙間から、ちらりと絵里やさゆみの姿が確認できた。
“絵里ー、さゆー、こっち来ー”
そう言ったときだった。自分の右後ろに射的の屋台があることに気づいた。人ごみの方に顔を向けると、さゆみがこちらに近づいてくる。
れいなは財布を取り出し、お祭りの為にもらったお小遣いの中から早速百円玉を三枚、取り出した。
- 528 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:28
-
欲しい品物があるわけじゃないが、こういうものをやりたくなる性を持っている。
腕を目一杯伸ばし、定める。
一発目。はずれ。
二発目。バービー人形にあたるものの、倒れず。
三発目。小さめの怪獣のぬいぐるみにあたり、揺れるものの、倒れず。
四発目。はずれ。
最後の弾。しっかりと狙いを怪獣の頭部に定める。
ぱひゅん。
軽い音をたてて弾を発射。怪獣のぬいぐるみは、大きく後ろに傾き―――倒れた。
“っしゃー!”
片手でガッツポーズ。ぬいぐるみを受け取ったところでさゆみが側に来た。早速獲物を見せる。
“一回で取った。上手いっちゃろ”
“おめでとー。…ところで絵里はぁ?”
“――は”
“れいな一緒じゃないの?”
- 529 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:28
-
勝手に絵里はさゆみと一緒だと思い込んでいた自分に腹が立った。
二人で探しに行こうとするものの、この人ごみの中では、今度はれいなとさゆみがはぐれてしまうかもしれない。
“さゆは鳥居の下で待っとるっちゃ!”
そう言い残して、人ごみをかきわけていった。
人を掻き分け、絵里を探す。時折、無理に分け入り、嫌な顔をされるが、そんなことは気にしない。
“絵ー里ー、どこにおるとー!?”
叫んでも帰ってくる声はなく、しかも近くの町内会館から始まったカラオケ大会の模様が、あちこちに設置されたスピーカーから流れ始め、声で探すのが不可能になった。
人波に、
もまれ、
挟まれ、
流され。
気づいたら社殿の近くまできていた。
連なる屋台の終わり、対となった石灯籠に、ちょこん、とうずくまる影がある。
――見覚えのある浴衣。
“絵里っ!”
駆け寄ると、影はゆっくりと顔を上げる。
“……れぃ…な……”
涙の溜まった目でこっちを見上げ――更に涙を溢れさせた。
“あわわ、絵里!?”
ぐしぐし涙を流し、言葉も出ない姿に心が痛む。
――早く泣き止んでほしくて。
“絵里、これやるっ”
反射的に、先ほどの怪獣のぬいぐるみを差し出した。
ぴた、と絵里の涙が止まる。
ぬいぐるみを受け取り、しげしげと見つめ――。
“…可愛くない”
“射的の景品に文句を言うんやなかっ、いらんなら返せ!”
“やー”
すっかり泣き止み、ぬいぐるみを抱く反対側の手を握る。
“行こ。さゆが鳥居で待っとるけん”
“うん”
絵里も握り返した。
再び人波にもまれ、ときには逆流にあいながらも、鳥居に近づく。繋いだ手が解けそうになる度に強く握りなおし、握り返された。
- 530 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:28
-
ごろん、と寝返りをうつ。くるまっていたタオルケットが半分ばかしはだけた。
(…あのころの絵里は泣き虫で――あたしがいないとダメだと思っとった……)
そこまで懐古し、ちらりと時計に目をやった。
「げ」
起床時間は、とっくに過ぎていた。
- 531 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:29
-
***** *****
- 532 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:29
-
大きな音を立てて武道場の廊下を走る。
よりによって、朝練のある日に寝坊するなんて、とれいなは心中慌てる。更衣室で胴着と袴に素早く着替える。
「すみませんっ遅れましたぁっ!」
大きな声で道場に入ると、全員の視線が集中した。
「田中ぁ〜遅刻したら道場十周だぞ〜」
指導にきていた、大学部の剣道部員の人が苦笑いしながら言う。
「はい、今すぐっ」
息も整わないうちに走り出した。
道場内はそんなに広いというわけでもないので、十周といっても五分もあればすぐに終わる。ただ、他の人が素振りを始める中、マグロのようにぐるぐる回るのは、寂しいものがあるが。
走り終えたところで、ストレッチを行い、素振りに参加する。息を整え、背筋を伸ばし。真っ直ぐに前を見据える。
れいなが参加したところで、端の人から「いーち、にぃー、さーん」と素振りの数を数えていく。一人十まで数えたら、隣の人が点呼を繋いでいく。
そのように、次々と数え終わったところで、反対側の端にいたれいなの番になる。
「一、二、三、四…」
半ば無意識に数を言っていく。
「五、六…」
不意に、先日のことを思い出した。
髪を一房掬い取られ、顔を近づけられて。
“チリソースの匂いがうつってる”
「んあぅ!」
思い出し赤面すると、隣の子が困ったようにれいなを見ていた。
「………『んあぅ』?」
「あ。…………八、九、十ぅ…」
益々顔を赤くして、数を終えた。
- 533 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:29
-
***** *****
- 534 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:30
-
『ありがとうございましたー』
全員、正座した深く礼をする。し終えると、場内の空気が緩み、早々に腰を上げる者、隣と喋る者、様々である。
れいなは頭の手拭をはずし、バリバリ頭を掻く。痒いというよりも、むしろ汗を飛ばすためである。すると。
「よっ、田中」
「あ、藤本先輩」
指導で参加していた大学生、藤本美貴が声をかけてきた。
すたすた、美貴が寄ってくる。
美貴とはどちらかといえば親しい間柄だから、緊張することもないが、顔を覗き込まれれば、訝しげな表情をつい、してしまう。
覗き込まれたまま、聞かれる。
「素振りのとき――何考えてた?」
「…はい?」
「変な声出した、あの時」
「――…あぁ」
幼なじみのこと考えてました、なんて素直に言うわけもなく、
「……まぁ、ちょっと」と適当に言葉を濁す。
すると。
「なにか、悩んでるっしょ」
どき。
「とくに悩んでることなんてなかですよ――?」
跳ね上がった心臓を気づかれないように言うものの。
「そういう科白は美貴の目を見て言うように。目を逸らして言っても説得力ないぞ。
――今日の放課後、ちょっと付き合いな」
なかなかに鋭いこの先輩にここまで言われて、否と言える根性はれいなは持ち合わせていない。
「……はい」
しおしお、頷いた。
- 535 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:30
-
***** *****
- 536 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:30
-
――掃除も終わって放課後。
教科書類は机の中に放り込んであるので、薄い鞄を片手に教室を出る。
「れいな、部活ないなら一緒に帰ろ」
という声が後ろからかかる。
声の主はすぐにれいなの横に並ぶ。帰宅部のさゆみだ。
「さゆ、悪いけど、これから人に会うんちゃ」
「――絵里?」
「ちゃう。藤本先輩」
そう言うと。
がし、と肩を強く掴まれた。
驚いてさゆみを見ると、眼が光っていて、れいなは少し震えた。
「行く。付いてく」
「…は?」
「わたしも行く。藤本先輩に会う」
――来るな。――そう言いたかった。
言いたかったが。
「……分かった」
言えない迫力を、感じた。
れいなは、嬉々として隣を歩くさゆみに見えないよう、こっそりため息をついた。
- 537 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:31
-
大学部正門前の喫茶店。そこが、美貴が指定した場所だった。
学園の壁沿いに歩き、指定場所に向かう。喫茶店が見えると、ガラス張りの向こう側に美貴の姿が見えた。
顔を上げ、こちらに気づく。
隣を歩いていたさゆみがぶんぶん大きく手を振った。れいなは隣にいる身をして、ちょっと恥ずかしい。美貴は笑いながら小さく手を振り返していた。
自動ドアが開いた途端、冷気が二人を柔らかく包む。美貴のいる窓際のテーブルに歩み寄る。
「藤本先輩、お久し振りです」
「や。シゲさんとは卒業式以来だね」
「はい♪」
――美貴とさゆみは、れいなを介しての知り合いである。
美貴は二人を座らせ、飲み物を注文する。店員が注文を取り、去ったところで。
「さて」
美貴はテーブルに身を乗り出す。真正面に座らされたれいなは思わず身を後ろに引いた。
「――改めて聞くけど、素振りのとき何考えてた?」
「……」
「…なにか、あったのですか?」
なにも聞かされていないさゆみは要領を得ない顔で見る。口を開かないれいなの変わりに、美貴はさゆみへと視線を移す。
丁度、注文したものが運ばれてきた。
「シゲさんさ、田中がなんか悩んでること、知らない?」
アイスコーヒーを手に取りながら尋ねる。
「れいなの――ですか?それでしたら絵里のことですよぉ」
「…ちょい、さゆ、なんであたしの悩んでることが絵里のことだと断定するんちゃ」
さゆみの返答につい口を出す。すると、当然のように言い切られた。
「だってれいな、中間考査の地歴公民で、奇跡の一ケタ台の点数を取っても落ち込む素振りすらしなかったのに、絵里のことになると、すごく敏感になるじゃない」
さゆみの言葉にれいなは固まる。
対する美貴は呵呵大笑した。
- 538 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:31
-
――ひとしきり笑った後。
「『絵里』って……確か…亀井、ちゃんだったよね。一つ上の、あの幸が薄そうな」
幸が薄そう、は余計だと思いつつもれいなは頷く。
――絵里も、さゆみと同様に美貴とはれいなを介しての顔見知りである。
コーヒーを吸い上げた後に口を開く。
「つまり―――田中は亀井ちゃんのことを考えていた、と。それで奇声を上げた、と」
れいなは無言でクリームソーダのアイスをガシガシ崩し始めた。そんな姿を美貴は肯定と取る。
「剣道は精神の鍛錬もするものなのに……情けないねぇ」
アイスを崩すれいなを無視して、美貴はさゆみに尋ねる。――本来なられいな当人に尋ねるはずだったが、この素直じゃない後輩よりはさゆみの方が素直に答えてくれそうだからである。
「田中と亀井ちゃんのあいだに、なにかあったの?
「大したことじゃないんですけど…」
「その『大したこと』じゃないことに田中はダメージを受けてるみたいだけれど」
「そうですね。
その…絵里が高等部に入ってから付き合いが悪くなったんです」
「――ふぅん。で?」
「それだけです」
「は!?」
「ですから『大したことじゃない』と」
「――ふぅん」
美貴はなにかを納得したようにれいなを見る。
- 539 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:32
-
苛々してきた。
勝手に首をつっこみ、勝手に真意が理解できたような態度をして。
ムカつく。
―――に。
本当に、ムカつく。
「ねぇ田中」
声をかけられ、ゆっくり顔を上げる。眉間のシワは隠さずに。相手は平静なまま。それが益々苛立たせる。
「ねえ田中。なんでそんなに苛立ってる?
その苛立ちを誰に向けてる?――美貴に?シゲさん?それとも―――」
――ダンッ!
大きな音を立てて乱暴に椅子から立ち上がる。店の視線が一気に集中した。
「――帰ります」
静かに、言い放つ。
美貴は飲み物と一緒に持ってこられた伝票を表に向ける。
「――そ。クリームソーダ税込199円」
険しい目つきのまま美貴を見るが、当の本人は飄々としている。
「―――悪いけど、心中を指摘されただけで席を立つ後輩に奢るつもりはないから」
ダンッ。
千円札をテーブルに叩きつけ、れいなは足早に店から出た―――。
- 540 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:32
-
――店に残った二人のうちの一人が、頭に手をやる。その仕草、表情が、
“参ったなぁ”と語っている。
「ね、シゲさんは田中があんなに苛ついている理由、分かる?」
にっこり、頷く。
「わたし、れいなの親友ですから♪」
「――じゃあ、田中の亀井ちゃんに対する想いは?」
それにも笑顔で頷いた。そして、逆に質問をし返す。
「藤本先輩は?」
「美貴は田中の先輩だからね♪」
笑顔で返す。
「それに、田中は妹みたいな存在だからね。――あの鈍さや不器用さも可愛くていいんだけど」
さゆみは自分の前にあるクリームソーダに手を伸ばす。
「――れいなは、自分が誰に対して一番笑ったり怒ったり恥ずかしがったりしているか、気づいてないんですよね」
しみじみと、出来の悪い我が子を嘆く親のように言う。
「まぁ、そこがれいなの良い所でもあるんですけど」
美貴は困ったように笑う。
「――傍目八目とはよく言ったものだね」
「ちなみにさぁ――亀井ちゃんの付き合いが悪くなった理由、分かる?」
「それは残念ながら…」
目を伏せる。
「…あの二人になにかあったことは、美貴にも考え付くんだけどね……」
二人、口を閉じる。
「ね、シゲさん」
「はい?」
「この後ヒマ?」
「はい」
「なら、美貴と遊びに行かない?」
「はい♪」
- 541 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/04(水) 07:33
-
To be continue...
- 542 名前:一言次回予告。 投稿日:2004/08/04(水) 07:33
- 図書館内での禁止事項が増えます。
- 543 名前:石川県民 投稿日:2004/08/04(水) 07:34
- それではまた。
拝。
- 544 名前:ナッシー(265) 投稿日:2004/08/05(木) 00:35
- ツボというか墓穴というか、はまってますね〜 <れいな
そんなれいなを把握している二人もハマリ役ですな♪
素直になれない彼女がどう動くのか、次回も楽しみです。
せめて、口だけは閉じて読むことにしましょう。(`▽´)
- 545 名前:石川県民 投稿日:2004/08/07(土) 03:02
- 今回がある意味一番書きたかった回でございます。
でも短いです。エライコッチャ。
544>ナッシー(265)サマ。
ありがとうございます。
あの二人は【れいなを生温かく見守る会】の会員でございます(ウソデス。
素直になれない彼女はまだ自分から動きません、困ったものです。
ええ、口は閉じてお読みくださいマセ。
- 546 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:03
- 【図書館内での禁止事項】
@飲食。
A大声での雑談。
B携帯電話での通話(尚、小等部・中等部の者が携帯電話を使用した場合、没収となる)
- 547 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:03
-
***** *****
- 548 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:03
-
美貴と会った翌日。
朝から元気に、さんさんと輝く太陽を見ながら今日も一日暑いな―――と思うことすらなく、れいなは机にアゴをのせて呆けていた。
クラスメイト達は、机の横を通るたびにオハヨウと言うのだが、返事はない。そんなれいなに、声を掛けた者達は呆れたり、深く考えたりせずにいたりで、れいなの気が済むまで呆けさせていた―――一人を除いて。
ぼ〜っと、視界に映るものが意味を成さずにいると、ぴょこ、と緑色の物体が目の前に現れた。
「れいな、暗〜い」
緑色の物体は口をパクパク開閉させて言う。―――ようやく、ゆっくりアゴを机から離し、向こう側に隠れているようにしている人物に声をかけた。
「……さゆ、なにしてるんちゃ…?」
「おはよう、れいな」
さゆみは、右手にはめている緑色の物体――カエルくんのマペットの口をパクパク動かして朝の挨拶を述べた。
「…おはよ」
なんでそんなもの持っているっちゃ、そんな言葉を飲み込んで挨拶を返すと、嬉しそうにさゆみが言った。
「いいでしょ。昨日、あの後藤本先輩とゲーセンに行って、UFOキャッチャーでとってくれたの♪プリクラも一緒に撮ったの、見る?」
「いや、いい」
カバンからプリクラ帳を取り出そうとするのを手で制す。
- 549 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:04
-
「あの、さぁ…」
制され、ぶーたれているさゆみの態度は意に介さず、おそるおそる口を開く。
「藤本先輩―――」
「――先輩、怒ってないよ。むしろれいなのこと気にしてた」
れいなの科白を遮り、言う。
「……そっか。ありがと」
――なんだかんだ、昨日の喧嘩を売る態度で店を出て行ったことに心苦しく感じていたれいなは、さゆみの言葉で体の力を抜いた。
――小心者だと自分でも思った。
さゆみはゴソゴソとカエルくんの口になにかを挟ませる。そしてれいなにカエルくんを向ける。
「れいな。手、出して」
素直に出す。
チャリン。
カエルくんの口からなにか出される。いまいち理解できない表情で手の中を見た。
五百円玉が一枚、百円玉が二枚、一円玉が一枚。―――計801円。
「忘れ物、だってさ」
目だけを動かすと、カエルくんの口がパクパク動いていた。
「先輩が、届けといて、って」
「…ふーん」
きっちりクリームソーダ分が引かれているところが藤本先輩らしいな、と思った。
- 550 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:05
-
渡された801円を財布にしまったところで、カエルくんの口が再び動く。
「それと、先輩から伝言があるの」
「………」
無言を、言ってもいいという意味にとり、カエルくんの口は動く。
「えーとね…『田中の心をザワつかせているもの――その正体に気づいているよね。ね、田中は今の状態でいいの?』それと……」
むぎゅ。
つい、手を伸ばし、カエルくんの口を閉じた。さゆみは、それを見て、それでも言葉を続けた。
「『自分の心と正直に向き合いなよ』―――だってさ」
- 551 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:05
-
「…以上?」
「以上」
「……他に、なにか言っとった?」
「え〜〜と…『美貴が説教する立場になるなんて……。あーぁ美貴も年取ったなぁ』って」
軽く笑えた。
きっと頭を掻きながら、自分自身に呆れたように呟いたであろうことも想像できた。
「れいなは良い先輩を持ったねぇ」
「…うん」
しみじみと言われた言葉に素直に頷く。
予鈴が鳴った。あと五分で本鈴が鳴って、朝のHRが始まる。
さゆみは立ち上がり、れいなの席より二つ右後ろの自分の席に行きかけた。
「今日の昼休み、絵里が図書当番だよ」
横を通る間際に言われた科白に、つい顔を見た。
さゆみは笑っていた。
「れいなは良い親友を持ったねぇ」
「…………………まぁね」
認めるのも癪だし自分で言うな、とも思ったが確かにその通りなので、小さく肯定した。
- 552 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:05
-
***** *****
- 553 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:06
-
昼休み。五分でお弁当の中身をピーマン以外を平らげて、クラス棟から出る。
――いつもなら講堂まで来たらそのまま右隣の建物に入るが、今日は左隣の建物へ。ここに足を入れるのは、さゆみに付き合った以来である。
本のある空間独特の匂い――新しい紙や古紙の匂いに微かにインクの匂いも混ざり、埃の臭いもある――鼻についた。
カウンター内を見てみると、中に居るのは見知らぬ生徒がただ一人。ぽ〜っと立っている。
聞いたほうが手っ取り早いと思い、カウンター内の生徒に声をかけた。
「あの…絵――じゃなくて。亀井、先輩、いますか」
引っ張ればぷにーっと伸びそうな頬を持ったタレ目の生徒――微妙にれいなの着ている制服とは違うから高等部の人だろう――は、不思議そうな顔をしながらも、列を成している書棚の一部分を指した。
「絵里ちゃんなら、確かあの辺りの本を整理してるけど…」
「ありがとうございます」
一礼してから、示されたほうの棚へと向かう。
フロア一面に敷かれたカーペットが足音を吸収する。
近づいた書棚の側面には【日本古典】のプレートが掲げられている。カウンターのほうを振り返ると、教えてくれた高等部の生徒が、大きく一度、頷いた。
- 554 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:06
-
襲い掛かってくるのじゃないのかと錯覚するほど、威圧的な棚の中には“紫式部日記”だの“宇治拾遺物語”だの“大鏡”だの、れいななら一生開くことのない本達が陳列されていた。実際、借りる人が少ないのか、この一角は特に埃臭い。
――そんな埃臭い中で。書棚の奥で。絵里が左脇に本を数冊抱えて、右手を目一杯伸ばしながら、上の棚に本を納めていた。
「絵里」
声をかけると、驚いたように振り向いた。そして声をかけた相手がれいなだと分かると、再び驚いた。
「れいな……。…珍しい、ね。図書館に来るなんて…」
「ん。ちょっと絵里に用があったと」
それなら、と言わんばかりに絵里は視線を書棚に戻す。
「…悪いけど、今整理してる最中だから」
「作業したままでいいから聞いてほしいちゃ」
――朝のHRから昼休みの間、ずっと考えていた。自分の中にある想いや苛立ち、疑問を、的確に表現できる言葉達を。
あまりにも没頭しすぎて、二時間目の英語の時間に教師の保田から『田中、standの過去分詞形は?』と聞かれ『今それどころじゃないっちゃ』と答えてしまったほどに。
――そんな言葉達は、今、口にしないと上手く伝わらないような気がしたから。
絵里はしばし手を止め―――。
「…いぃよ」
再び、本を納め始めた。
- 555 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:07
-
れいなは近くの書棚に軽く体を預ける。
「あたしさ、――絵里になにかしたと?」
「――え?」驚いたように振り向く。
「なんか…高等部にいってから絵里が遠くなった……つーか冷たくなった」
「そんな…、……普通だよ…」
「――でも、付き合いは悪くなったさね」
「……」
とうとう手を止めて俯いた。
「『用がある』とか『忙しい』とか言って……距離、とって」
「……本当に、忙しかったから……」
「ばってん、絵里部活とかしてないさね。なのに?それに図書当番もそんなにちょくちょくある訳ないっちゃね?」
「…………」
無言はすなわち肯定だった。自嘲するようにれいなは言葉を続けた。
「……中学生なんかに構ってられんと?」
「違うっ!」
弾かれたように振り向く。が、れいなの目を見ることはない。
「…違う、よぉ」
なにが“違う”のか、理解し難かった。ならば何故―――。
素直に想いをぶつける。
「…じゃあ、なんで…?――あたしの、目を見て言って」
「…………」
再々度の沈黙。
- 556 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:07
-
「なぁ絵里」
ゆっくり、近づく。足音はカーペットに吸収されている。絵里は動かない。
「突き放すのなら、しっかり突き放して。冷たいと思ったら前と同じように優しくして……中途半端に優しくされると期待しちゃうけんね」
自分の髪を一房掬う。それはこの間、絵里に触れられた場所。――あの時の絵里は確かに、以前と変わらない絵里だった。
「…なんの、期待?」
絵里が顔を上げた。互いの顔が目前にあった。
「例えば―――こういうこと、していいのかな、とか」
「――んッ」
- 557 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:07
-
肩を掴み、絵里の唇に自分のを押し当てた。
絵里の手から本が落ちる。
唇を離し、視線を真っ直ぐにして絵里を見る。
「あたしは、絵里のこと好いとぉ。――絵里は?」
そして―――。
パシンッと軽い音が【日本古典】の棚に響いた。
条件反射で、はたかれた頬を押さえる。
絵里の右手は、はたいた形のまま。
「――――図書館で、こんなことしないで」
それだけ言うと、落とした本を拾いもせずに、書棚の奥から走り去った。
一人、残されたれいな。
- 558 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:08
-
【図書館内での禁止事項】
@飲食。
A大声での雑談。
B携帯電話での通話(尚、小等部・中等部の者が携帯電話を使用した場合、没収となる)
そして。
Cキス。
- 559 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/07(土) 03:08
-
To be continue...
- 560 名前:一言次回予告。 投稿日:2004/08/07(土) 03:09
- 事故に遭います。
- 561 名前:石川県民 投稿日:2004/08/07(土) 03:09
- それでは。
拝。
- 562 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/07(土) 08:43
- 田中さん、やりましたね(笑)
続き待ってます。頑張ってください。
- 563 名前:ナッシー 投稿日:2004/08/07(土) 12:39
- ( ̄□ ̄;)。。。
- 564 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/07(土) 14:06
- 更新お疲れ様です。
田中さん男らしいですね。
めちゃくちゃ続きが気になります。
- 565 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/13(金) 21:44
- 面白いです!!
続き楽しみにしています。
- 566 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/14(土) 15:46
- 一言次回予告の言葉が気になります・・・。
次の更新も楽しみにしてます。
- 567 名前:sp 投稿日:2004/08/15(日) 19:51
- と、図書室で…(*´Д`)
いつも思うながら石川県民様の小説は素晴らしいです。
先が気になります。
更新待ってますよ。
- 568 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/18(水) 18:24
- 何で藤本さんはわざわざ田中に・・・・。
これは何かの伏線なのでしょうか?
- 569 名前:我道 投稿日:2004/08/24(火) 07:36
- 遅くなりましたが、更新お疲れ様です。
田中さん、グッジョブですねw
もう、頬が弛緩しっぱなしです。気付くとにやけてます(危険
次も楽しみに待ってます。頑張ってください
- 570 名前:石川県民 投稿日:2004/08/25(水) 13:22
- 某雑談スレにあった黒板、本当に出来ればいいのに。
出来ればスレッド立てるのに。
わけが分からない方はスルーしてください。(w
遅くなって申し訳ありません。他の娘。小説は書けるのに、この続きだけは書けない
スランプに陥ってました。平謝り平謝り。
今回もまた、超短くてしかももう一人のメインの方がでてきません。ゴメンナサイゴメンナサイ。
- 571 名前:石川県民 投稿日:2004/08/25(水) 13:39
- 562>名無し読者サマ。
ありがとうございます。田中さんやっちゃいましたね(笑)
563>ナッシーさま。
口は閉じてくださいませ(笑)
564>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます。田中さんは九州男児ですからばり男らしかですたい(笑)。
565>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます。こんな続きになりました。
566>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます。あはは…『一言次回予告』はそもそもスレ隠しのために始めたことなので、
『次回のことを予告しているが、的は射ていない一言』ですので、あまり深く気にしないことをオススメします。
567>spサマ。
恥ずかしリンゴちゃんなspサマ、レスありがとうございます♪
田中さん図書室でやっちゃいました。良い子の皆さんは真似しないように(笑)
568>名無飼育さんサマ。
えーと……藤本さんはただのお節介です。伏線なんてありません(滝汗)。
鋭い見方、ありがとうございます。ただ、作者も考えてなかったところを切り込まれるとドキドキです。
ぼろがバレませんよーに…。
569>我道サマ。
ありがとうございます。田中さんはよくやりました(笑)。
頬が緩みっぱなしなら押さえて差し上げま(ry
そして。どちらの名無飼育さんサマか分かりませぬが、先ほどCP分類板に行ったら、このスレが紹介されていて
ひどく驚きました。しかもわざわざ三つも……!
紹介されるのが夢だったので、昇天しそうなほどに嬉しかったです。本当にありがとうございます。
それでは本編スタートです。
- 572 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/25(水) 13:40
- その日の放課後―――。れいなは部活を休んで家に戻っていた。着替えもせずに、ベッドに寝転がる。
ほぉ、と深く息をついた以外は無言で虚空を見つめる。
“自分の心と正直に向き合いなよ”
親友経由で聞かされた先輩の言葉―――。
れいなにとって、先輩の言葉というのは絶対だ。
だから、正直に向き合った。
あの時――触れたい、って思った。
その、口唇に。
だから、そうした。
そして、実際に、したら――はたかれた。
“――――図書館で、こんなことしないで”
そう言い残して、去っていった。
図書館じゃなければいいのか、という問題じゃあないということは判っている。
ならば――、要は――、つまり―――。
「…フラれたっちゃあね……」
口にし、自分の言葉にひどく傷ついた。
- 573 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/25(水) 13:41
-
頭を抱え、一人悶えていると。…とん、とん、と誰かが階段を上がってくるのが分かった。母親にしては軽い足音。
ガチャ。
「やっぱりれいないた」
ノックもせずにドアを開けたのは、制服姿のさゆみだった。
「………」
横目でチラと見て、れいなは枕に顔を埋めた。さゆみはさゆみで、
「制服シワになるよ」とだけ言って、クッションに腰を下ろす。
そしてカバンから、持ち歩くには大きすぎる鏡を取り出し、自分を見つめ始めた。
「………………」
「……………♪」
枕に顔を埋めたままのれいなに、鏡を見つめたままのさゆみ。
「………………」
「……………♪」
質は違えど二人とも無言である。
「………………」
「……………♪」
そして。
「………………」
「……………♪」
そして。
「………………さゆ、なんね?」
先に静寂を破ったのはれいなだった。
- 574 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/25(水) 13:41
-
「あのねー、」
鏡を見たまま話し出すさゆみ。
「放課後図書館に行ったらー、」
がばっとおきて、ぼふっとシーツを頭まで被ったれいな。その行動に、むっとするさゆみ。
鏡をしまい、シーツに手をかけて剥ぎ取ろうとする。
「れいな、聞いてよ」
「いやっちゃ」小さく、くぐもった声。
「聞けー!」
「命令かい!」
ツッこんだそのスキにシーツを剥ぎ取られた。れいなは眉間にシワを寄せた顔でふてくされる。正直怖い顔だが、見慣れているさゆみは気にもとめない。
「さっき、図書館に行ったら絵里に会ったの」
「…………」
「そうしたら絵里、わたしを見た途端に逃げ出したの」
「………ほぉ」
ずい、と顔を近づける。その分後ろに身を引くれいな。
「れいな、絵里になんかしたでしょ」
- 575 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/25(水) 13:41
-
「……絵里に聞かなかったと?」
「だーかーらー、話しをする前に逃げられたの。れいな、なにがあったか話して」
さらに顔を近づけ迫るさゆみにそっぽを向く。
「いやっちゃ。言いたくなか」
「…なんでよ」
「…口にしたくなかとぅ」
先ほどの独り言でも、ひどく傷ついた自分の弱い心。再度“言葉”という“形”にしてしまえば、それは紛れもない“真実”となる。
- 576 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/25(水) 13:42
-
「もう…絵里のことなんてどうでもいいたい」
「…どうでもいいわけないじゃない」
「もういいんちゃッ!」
突然の大声に身を竦めるさゆみ。――同時に目を見開いた。
れいなの頬に涙が伝っていたから。
「あたしが絵里を気にしようが、好いとろうが、絵里はあたしを気にしないし好いとらんちゃ!」
――ぼろぼろととめどなく涙が零れ落ちる。――気丈なれいなの涙を見るのは、小学校三年生のときにガケから転がり落ちた以来のことだった。さゆみは言葉も出せず、ただ見つめる。
しゃくりあげながら言葉を続ける。
「絵里のこと…ずっと、す、好き……大好きだったちゃ………昔…“ずっと守る”って誓ったのは、本…本気だったばい………でも、…絵里にとっちゃ、そんなの“子供の遊び”でしかなかったばい……」
絵里は“誓い”どころかそんな遊びは覚えていない―――れいなはそう感じていた。
どんなに想っても、相手には重荷にしかならない。――それが辛い。
「………好いとらん…」
自分の心に確定させるように呟いた。
- 577 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/25(水) 13:42
-
***** *****
- 578 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/25(水) 13:42
-
洗面所の鏡で自分を見ると、瞼が腫れて赤くなっていた。
――みっともない顔。
れいなはそれだけを思って、寝グセを直し始めた。
――あの後。
泣いて泣いて泣き続けた。
いつの間にかさゆみはいなくなっていたが、それにも気づかなかったほどに泣いた。
――多分、一人にしておいてくれたのだろう。
数年分の想いを涙という形で、一晩で体から押し流すのは辛いことだった。―――事実、全てを流しきったわけじゃない。
――それでも、次の日には学校に行けるくらいには流せていた。
れいなが失恋しようが大泣きしようが、朝に日は昇るし学校もある。
―――結局、いつもと変わらない日常。腫れた瞼が昨日のことを蒸し返しているだけだ。
朝食を八分(パンの焼ける三分も含む)で片付け、れいなは家を出た。
朝なのに、アスファルトに反射する夏の日差しが目にしみた。
- 579 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/25(水) 13:43
-
のろのろとした足取りで道を歩く。人目もはばからずに大口開けて欠伸をして目をこする。玄関を出る際に母親に持たされたアイスノンを瞼にあてる。ひんやりと、心地よく熱を奪ってくれる。
交差点。信号の赤で足を止める。ぼんやりとアイスノンを片目にあてていると、横切る車の間から、向かいの歩行者路を歩くさゆみの姿が映った。
さゆみもれいなに気づき、手を一度大きく振ってから交差点で足を止めた。れいながそっちに渡って、一緒に登校するつもりだろう。
信号が青になった。れいなはアイスノンを右手に持ち替え、右目にあてながら横断歩道を渡り始めた。
だから、だろうか。
急ぐようなスピードで交差点に入り、乱暴に左折してきた車に気づけなかったのは。
れいなは。
さゆみがこっちを見て青ざめ驚愕の顔をしたのが分かった途端―――
右側にひどく鈍い衝撃を感じた。
- 580 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/08/25(水) 13:44
-
To be continue...
- 581 名前:一言次回予告。 投稿日:2004/08/25(水) 13:44
-
素直になれないあの子の真意が明らかに?
- 582 名前:石川県民 投稿日:2004/08/25(水) 13:45
- それでは。
拝。
- 583 名前:ナッシー 投稿日:2004/08/26(木) 07:52
- う〜む。
口を閉じておこうとは思うんですが、
男前だったり、叩かれたり、
あげく飛ばされたり(?)で、
意外な展開に閉じてるヒマがありません。(笑)
- 584 名前:sp 投稿日:2004/08/26(木) 17:30
- 更新お疲れ様です。
先が読めないというのはこのことですね。
素直になれないあの子がもどかしいというか何というか…
次回も楽しみに待ってますよ。
- 585 名前:石川県民 投稿日:2004/09/17(金) 00:29
- 生きてます、という生存報告もこめて予定外の短い更新。
なので『一言次回予告』の内容は嘘になっちまいました。そこまで今回は更新できません。
土に埋まって深く深く反省。
583>ナッシーさま。
今回は口を閉じることができると思います(w
584>spサマ。
今回も、もどかしいです。
それと。
某板某スレ内355>名無飼育さんサマ。
誰だか当たっておりましたでしょうか。私、石川県民でした。ありがとうございました。
- 586 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/17(金) 00:30
- ぷらぷらと、診察台に腰をかけながら包帯の巻かれた足を揺らす。
「捻挫ですね。まぁ十日もすれば治りますよ。念のため今日一日は安静にしていてください」
医師の言葉に、れいな――ではなく青ざめた顔で立っていた青年がほぉーと息を吐いた。
「痛いようでしたら痛み止めを出しておきますけど…」
どうします?という表情の医師に、れいなは首を横に振った。
「湿布は十日分出しておきますね。十日経っても痛いようでしたら、また来てください」
包帯の巻かれた右足に体重をかけないようにしながら台から降りた。一礼してから青年と共に診察室を出た。
廊下では、ソファに座っていたさゆみが「どーだった?」とあまり心配していない様子で声をかけた。
「右腕と右足に打撲と捻挫」
かったるく答える。
「あの…」
声をかけた青年のほうを見ると、深々と頭を下げられた。
「本当に、すみませんでした」
「いいんですよ、気にしないでください」
「さゆ…なんでアンタが言うと」
あのとき。
急ぐようにとはいえ、左折するために車が減速していたことと、れいなの体に染みついていて条件反射でとった受身のために、車から青年が出てきたときには既にアスファルトに片膝ついて起き上がりかけていた。
それでも慌てふためく青年が「びょ、病院に行きましょう」とれいなを車に乗り込ませていると、さゆみが「この子の保護者だから一緒に行きます」と言い出した。誰が誰の保護者だと抗議する間もなくさゆみも乗り込み、発進した。
――そして今に至る。
診断書と湿布を受け取り、外へ出る。青年が家まで送ると言うので素直に車に乗り込んだ。開いた窓から話しかける。
「さゆ、あんたはどうすると?」
「今から学校に行く。先生にれいなのこと話しといてあげる」
「ん。さんきゅ」
- 587 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/17(金) 00:31
-
家まで送ってもらい、母親に事情を説明すると、呆れられ、青年に平身低頭し、「ほら、アンタも」と一緒に頭を下げさせられた。
恐縮しながら青年は名刺を取り出し、また病院に行くことがありましたらこちらに連絡してください、と言った。れいなはさらに無理矢理頭を下げさせられた。
取り敢えず今日一日安静にしていろと言われたので、部屋に戻りTシャツと短パンという楽な格好に着替える。そのままクッションを枕にして寝転がる。
安静にしていろと言われても、体は至って健康体だからヒマでヒマでしょうがない。
仕方なく本棚から漫画を一冊抜き取り、読み始めた。
―――。
五巻で完結するそれを読み終え、時計に目をやると、学校では昼休みが終わり、五時間目が始まるころだった。
五時間目は国語だったよなぁ、ぼんやりとどうでもいいことを考えていると。
「…?」訝しげに体を起こす。
忙しない足音が聞こえた。ドタドタというかガスガスというか、とにかくそんな乱暴な足音が階段を上ってきている。
近づいてくる足音がちょっぴり怖くなって体を引くと。
乱暴にドアを開けられた。
「れいな!!」
部屋に飛び込んできたのは。
「え……?絵里…?」
- 588 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/17(金) 00:33
-
忙しく上下する肩。額に浮かぶ大粒の汗。乱れた黒髪。頬には髪が一本張り付いている。
制服姿で全力疾走してきた、そんな感じだった。
「ど、どげんしたと…?」恐る恐る尋ねると。
「えっ絵里!?」
絵里はその場でふにゃふにゃと崩れ落ちた。
慌てて立ち上がろうとして、捻った右足に体重をかけてしまい、れいなは引っくり返る。そんなれいなを見て、絵里はぽつぽつ話し出した。
「中等部の子が事故に遭ったって噂聞いて……昼休みにさゆのところ行って話聞いたら…………れいなが車に撥ねられたから、今すぐれいなの家に行けって言われて…てっきりれいな、生死の境をさ迷っているかと思った…」
――生死の境をさ迷っているのなら家にいるわけがないのに…。そう思ったが……多分気が動転していて頭が回らなかったのだろうな、と思い直す。それから、わざと怪我の具合を言わなかったさゆみに、心の中で毒を吐いた。――しかし、さゆみのおかげで絵里は来てくれた。それには素直に感謝する。
- 589 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/17(金) 00:33
-
絵里は崩れ落ちた姿勢のまま俯き、ぽつぽつ話す。
「れいなの家に来るまで…すごく不安でしょうがなかったの……れいなが死んじゃったらどうしようとか思って………昨日のことも謝ってないから……」
「昨日のこと…」
ぼふんっと頭に浮かんだ。
「あれはあたしが悪かったとぅ…その、絵里の気持ち確かめんと…ッ」
赤い顔であたふた言い繕うれいなに、俯いたまま首を振って否定する絵里。
「叩いて、ごめんね。…驚いたからつい……」
つい、で叩くな、と思うが黙って聞く。
「別に……その……………嫌じゃなかったし……」
「――――え?」
思考が、停止した。耳が言葉を受け入れはしたが、脳理解していない。
「絵里……」
座ったまま、足を引きずるように近づくと。
「れいな、思ったより元気だから、わたし学校に戻るねっ!」
突如立ち上がり、朗らかに言った。――ただし、顔を真っ赤にして。
来たとき程ではないが、やっぱり乱暴な足音を鳴らし、絵里は去っていった――。
――絵里以上に顔どころか耳まで真っ赤にさせたれいなを部屋に残して。
「なんなんね…」
転がるようにやって来たと思ったら、転がるように去っていった。
叩いて「こんなことしないで」と言ったと思ったら、次の日には「嫌じゃなかった」と言う。
「ぐわ〜〜」
訳の分からない声を上げ、クッションを抱きかかえながら、れいなは一人ごろごろ転がり悶絶した…。
- 590 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/17(金) 00:33
-
*****
- 591 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/17(金) 00:34
-
そのまま眠ってしまったらしい。目をしばたかせ、窓を見ると外は暮れかかっていた。まだ半分寝ている頭で考えたことは――
「…腹へった…」
つい口に出してしまう。
タイミング良く階下から母親の夕食を告げる声が聞こえた。
「はぁ〜〜いっ」
大きく返事して、のろのろと起き上がる。
こきり、首を回して薄暗い部屋を見回す。
ふと。
回していた首が止まる。首を斜めにしたまま本棚に近づく。
胸の高さまでしかない本棚の上に置いてあるもの。そっと持ち上げる。
薄く積もっていた埃に息を吹きかけると、予想以上に埃が舞った。
「ぅわっぷ」
慌ててティッシュをつかみ、埃を拭う。先端の像部分、台部分、プレート部分、すべての埃を拭った。
汚れたティッシュをゴミ箱に放り投げ、持ち上げたものを本棚の上に置き直す。
それは――昨年度にもらった小さなトロフィーだった。
薄暗い部屋、改めてトロフィーを見つめる。
―――頭の中で点と点が線で繋がった気がした。
そのとき。
「れいなッ、はよ降りてくるっちゃ!!」
母親の怒鳴り声が階下から響いた。
れいなは思考を中断し、あわてて部屋から出た。
- 592 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/17(金) 00:35
-
To be continue...
- 593 名前:一言次回予告。 投稿日:2004/09/17(金) 00:36
- 次回で本当に素直になれない彼女の真意が明らかになります。
んで最終話デス。且つ今までの鬱憤を晴らすかのようにイチャイチャしてます。
- 594 名前:石川県民 投稿日:2004/09/17(金) 00:37
- 二・三日中には次回upします。
それでは。
拝。
- 595 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/17(金) 01:01
- 生存報告&更新ありがとー。
早くイチャイチャ読みてー!
- 596 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/17(金) 19:06
- 絵里もれいなもどっちもうらやましすぎます
- 597 名前:石川県民 投稿日:2004/09/19(日) 00:36
- “らいおんハート”より短い話なのに、“らいおんハート”より書くのに手間取ったこの話もようやく最終話デス。
595>名無飼育さんサマ。
こちらこそありがとーございます。
596>名無飼育さんサマ。
今回はどっちのほうがうらやましいでしょうか?
それでは参ります。
- 598 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:37
- 事故から十日経った日曜日。
靴を履き、とんとん、とつま先で地面を叩く。そのまま足首をぐるりと一回し。その足首には包帯は巻かれていない。
大きく頷き確信する。治った、と。
「れいな、何処行ってくると?」母親がひょっこりリビングから顔を出す。
「ん。絵里んち」
母親は、そう、とだけ言って顔を戻した。
「いってきまーす」
聞いているが分からないが、声をかけ玄関を出た。
- 599 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:37
-
ピン・ポーン♪
チャイムを押して待つこと数秒。微かにパタパタというスリッパの音が聞こえる。
「あら、れいなちゃんいらっしゃい」
「おばさん、退院おめでとうございます」
今回ドアを開けたのは絵里の母親だった。
「わたしが病院にいる間、れいなちゃんのお母さんにお世話になったみたいね。
絵里二階にいるから上がって頂戴」
軽く頭を下げて、出してもらったスリッパを履いた。
- 600 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:38
-
部屋のドアをノックする。
「絵里、開けるばい」返事がくる前にドアを開ける。
「れ、れいな!?」
ベッドに腰かけ、手を後ろに回し、目を丸くさせた絵里がいた。
「なに隠してると?」
「べ、別に…」
「あやしい」
意地悪な笑みを浮かべて近づく。絵里は少しだけ後ずさりした。
「見せるっちゃ」
肩をつかみ前に倒して後ろに手を伸ばす。――なにかモコモコしたものがれいなの指先に触れた。
「これ……」
取り上げた茶色の物体――。自然、れいなの頬が緩んだ。
「もう捨てたと思ってたばい…」
それは、夏祭りの射的で取った怪獣のぬいぐるみだった。絵里は、れいなの手から取り戻し、呟く。
「…捨てるわけないじゃない……」
「ばってん、あんとき“可愛くない”って言っとったけん」
絵里は俯く。
「それでも、捨てないの」
それきり、二人は黙る。が、れいなにとって、この沈黙は心苦しいものではなかった。俯いたままの絵里から目を離し、部屋を見渡す。
久しく入ってなかったな、そう思いながら。――ラックに入ったCD、壁に貼られたポスター、机の上の置物。なにも、変わらない。あえていうのならば、ハンガーにかけられた制服が中等部から高等部のものに替わっただけだ。
そんなことを思い、ただ立っていると。
「れいな……………ごめんね…」
先に口を開いたのは絵里だった。
- 601 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:38
-
「なにに対して謝ってるたい?」
尋ねると、理由を話す前に「こっち座って」と自分の隣を促し、れいながベッドに腰かけたところで、ぽつぽつ口を開いた。
「夏祭りのとき、勝手にはぐれて泣いたわたしを慰めるためにこれ、くれたんだよね…?」
手の中のぬいぐるみを撫でて言葉を続ける。
「わたし、すごく嬉しかったんだよ?でも……泣いていた自分がみっともなくて…恥ずかしくて…つい“可愛くない”なんて言っちゃったの……」
「別に…いーっちゃ」
絵里の素直じゃない言葉は毎度のことだから。
「それと……この間、図書館で叩いちゃって…改めて、ごめん」
「それも…」
別にいーっちゃ、とは言えなかった。
会話が途切れる。再度沈黙が二人を包み込む。
「それで…今日はどうしたの?」
またしても、先に口を開いたのは絵里だった。
「ちょっと、気づいたことがあるばい。それを確かめにきたとよ」
絵里を見ると、促すように一つ頷いた。
「去年、あたしが剣道で都大会に出場したことは知っとるさね?」
絵里は俯く。れいなに表情が見えない状態で小さく首を降った。
「個人戦でかなり勝ち進んだことも覚えとると?」
「……さゆと一緒に観に行ったもの。…覚えてるよ…。
準優勝、だったよね」
「そ。あたしがトロフィー見せにいくと、絵里困った顔してたばい」
「…………」
「それからっちゃね、絵里がよそよそしくなったのは」
- 602 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:39
-
「なぁ、絵里」
「……」
沈黙を肯定と受け取り、言葉を続ける。
「あのころは受験勉強が忙しいのかと思ってたばい。でも、ちょっと考えればエスカレーターなんだから一生懸命勉強する必要なんてないさね。
――なんで?」
俯いたままの絵里が肩を大きく震わせた。
「―――あたしが入賞したの、そんなに嫌だったと?」
「………………」
沈黙は、肯定だ。
深く、深く息を吐く。
「…そんなにあたしのこと嫌いだとは知らなかったけん。嫌われとるの気づかんと………ずっと絵里を好いとったあたしの気持ちもアホじゃけん」
腰を浮かす。もう、用はない。
ぱしん。
「…………は…?」
ぱしん。ぱしん。
絵里が俯いたままれいなの腕を、平手で力なく叩き出した。
ぱしん。ぱしん。ぱしん。
「なにするばい!」
叩く手首をつかむ。痛くはないが腹は立つ。乱暴につかんだ反動で絵里の手からぬいぐるみが零れ落ちた。
「絵里!!」
無理矢理顔を上げさせる。
すると。
「……ふ…っう…」
漏れ出る嗚咽を、唇を震わせ必死に堪えていた。が、頬を伝うものは隠すことすらできなかった。
絵里は、泣いていた。
- 603 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:39
-
つかんでいた手首をこわごわ離す。絵里は力なく手を垂らす。
そっと肩を抱いて、ゆっくりと自分の体に絵里を凭れかけさせる。絵里の額が鎖骨に当たってくすぐったかったが、堪える。肩を抱いていた腕を背中へと移動させた。
――小さなころからの、絵里を落ち着かせるためのれいなだけの方法。
「…すまんちゃ……」
ひっく、ひっく、と絵里の肩は小さく上下する。
「その………言い過ぎたばい…」
絵里の長い髪に指を入れる。さらさらと、髪が指の間から流れていく。
れいなは独り言のように話し出した。
「絵里は…もう忘れとると思うけん、小さなころに“あたしが絵里を守る”って誓ったこと…。…あたしは、誓いを守るために剣道を始めたっちゃ……、…それからずっと剣道を続けとるのは…――今でもその気持ちが変わらないからばい…………。
ばってん、…絵里が嫌なら剣道は辞めるたい――絵里に嫌われたくなかとぅから…」
ひれ伏し、懇願するような気持ちだった。
呆れるくらい、絵里を中心に自分の世界が構築されていることはちゃんと気づいていた。それでも―――担任に授業中の居眠りを怒られたときよりも、剣道の試合を接線で負けたときよりも、テストで驚異的なくらい恐ろしい点数をとったときよりも――絵里に嫌われることが一番堪えるのだから。
しょうがない、どうしようもない、そう心の中で呟く。
“れいなの悩みは絵里のこと”
“絵里のことになるとすごく敏感になるじゃない”
二週間ほど前に、さゆみに言われた科白を思い出す。
親友のその通りの言葉に、ただただ舌を巻くしかなかった。
- 604 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:40
-
さらさらと、無意味に絵里の髪を梳く。いつの間にか、絵里の腕はれいなの腰に回されていた。
これも、小さなころからの、絵里の気持ちが落ち着いてきたという合図。
「…れいな………」
「――ん?」
「…ならないよ……」
「…へ?」
ゆっくり、れいなに凭れさせていた体を起こす。――涙はすでに止まっていた。
「嫌いになんか、ならないよ…」
もう一度、はっきり言った。
- 605 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:40
-
「絵里…………」
呟いたまま見つめているれいなの腕に再びもぐりこむ絵里。鎖骨に額をつけると、今度は体をよじらせたので、心臓の鼓動を聞くような形で顔を埋めなおす。
「ごめんね、れいな」
「…なにがっちゃ?」
「わたし、れいなはそんな誓い、すっかり忘れてると思ってた」
「ひどいばい」
顔を見なくても、唇を尖らせるれいなの姿が容易に想像できて、クスリと笑う。
「ごめんね、れいな」
「…今度はなににたい」
「誓いを守ってくれるために剣道を始めたこと、そして続けてくれていること、わたし知らなくて」
「…まあ、それはあたしも言わなかったし。別にいーっちゃ」
――幼い思考で単純に『守るためには武術』という考えに至り、それを実行に移し、続けているだけなのだから、謝られると逆に――困る。
「ごめんね、れいな」
「…次はなににばい」
「ごめんね…」
「だーかーらー、なににばい」
絵里はなにも喋らず、れいなの腕に回している腕に力をこめた。
「ぐぇ」れいなの口から変な声が漏れた。
「――怖かったの」
喋った、と思ったらそれだけだった。
「なにがっちゃ?」だから、促す。
「れいなが準優勝したとき、――れいながわたしとは違う、別世界の人のように感じたの。わたしの幼馴染じゃない、別のれいなに」
「ぇ――」
「れいなが――凄く遠くに感じたの…」
- 606 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:41
-
「高校だって、絶対にハロモニの高等部に行かなくちゃいけない訳じゃないじゃない。れいなの腕前なら、どこの学校のスポーツ推薦だって可能だし。だから……」
「だから………あたしが絵里から離れる前に、自分から距離を置こうとした、と?」
「ぅん…」
絵里は震えていた。れいなは腰からの振動でそれを知る。そ…っと絵里の肩を撫ぜる。
「絵里……」
しばらく撫で、なるべく優しく、口を開く。
絵里が怯えないように、絵里が震えないように。
肩を撫でていた腕を、頭へと移動させる。
「絵里のアンポンタン。
――あたしはあたしっちゃ。なにも変わっとらん、――亀井絵里の幼馴染、田中れいなばい」
「うん…」
「だから――もうあたしから離れようとしないでほしいっちゃ」
「――うん」
「剣道だって辞めないけんね」
「…うん」
- 607 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:41
-
顔、見られなくてよかった、とれいなは心の底から思った。――真っ赤を軽く超え完熟トマトなみに赤い顔を。
ただ――片方だけ見える絵里の耳も、かなり熟した色になっているから、おあいこだろう。そう考える。
「あー…その……剣道、絵里のためと思ってやってたけど、そのせいで遠く感じとったこと、気づけんくて…すまん」
れいなの力の抜けた声に、絵里はからかうように軽く応える。
「れいなは鈍いから」
「絵里は素直じゃないさね」
ゆっくりと、自分の体から絵里を引き離す。さきほど泣いたせいか、絵里の目は少しだけ赤かった。軽く胸が痛む。
赤い目を、赤い顔で見つめる。
「改めて言うとぅ。――絵里のこと、ばり好いとぅ」
「…うそ」
「あたしが嘘ついたことあると?」
「あるじゃない」
「……」
「小学生のときに行った遊園地の巨大迷路に一緒に入ったとき、置いていかないって約束したのに、さっさと一人で行って置いてきぼりにしたじゃない」
「………」
「わたしの十歳の誕生日パーティで、ケーキのロウソクの火を消さないって言ったのに、わたしが消そうとした瞬間に、先に吹き消したよね」
「…………」
「ほかにも――」
「も、もういいっちゃ、もういい」
今までついた嘘を全て列挙しかねない絵里を、両手で慌てて制した。
額に手をやる。
参った。
コイツは確実に、自分以上に一緒に過ごした日々を覚えている。
れいなはそう確信せざるを得ない。
――何故忘れている、と思い込んでいたんだろう。そう思う。
- 608 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:41
-
痒くもない頭を掻きつつ口を開く。
「…今度は嘘じゃないばい」
「……本当に?」
「――あたしって信用ないっちゃね…」
「今までれいなが“嘘じゃない”って言った嘘、言ってあげよっか?」
「ヤメテ」
絵里の口を手で押さえる。顔を半分隠された絵里は、拗ねた目でれいなを見た。
「とーにーかーく、図書館で言ったことも、さっき言った言葉も嘘じゃなか。だから………絵里の返事、聞かせてほしいたい…」
目線を逸らしつつ言うと、絵里の眉がふにゅん、と八の字になった。
れいなの手を外し、絵里は再び心臓の鼓動を聞くような体勢でれいなのからだに身を沈めた。
「…絵里?」
しょうがないというか、条件反射に絵里の背に手を回す。
「絵――」
「もうちょっと…待って」
聞こえてきたのは、蚊の囁きほどに小さな声。
「もうちょっとだけ…返事は待って………」
れいなは絵里をかかえたまま天上を仰ぎ見た。
「別によかとーよ。いくらでも待つばい」
今更、焦ることもない。絵里の言う“もうちょっと”を気長に待つことにしよう。
ゆっくり、ゆっくりと、絵里の髪を撫ぜる。
急ぐことはないから。――絵里の隣は自分の指定席だから。
さらさらの髪を弄びつつ、れいなはそう考えた。
- 609 名前:鈍いあの子と素直になれない彼女の話 投稿日:2004/09/19(日) 00:42
-
End... (for the moment)
- 610 名前:石川県民 投稿日:2004/09/19(日) 00:46
- 強制終了っぽくて申し訳ないです。一応は、この話はこれで終わりです。“一応は”
ナッシーさまに『学園もの』というリクをいただいたときに石川県民の頭には「学園といえば…部活と委員会」
という安っぽい考えからこんな話になりました。
ナッシーさま、読んでくださった沢山の皆々様。お付き合いありがとうございました。
- 611 名前:石川県民〜次回予告〜 投稿日:2004/09/19(日) 00:50
- 現在、安っぽい感動をお届けできるような中篇田亀を下書き中です。ぶっちゃければ570で言ってた、『他の娘。小説』です。
“らいおんハート”より長いシロモノ(予定)なのですが、できれば最初から最後まで一度でupしたいので、大ッ変に申し訳ありませんが
数ヶ月ばかし更新はないと思ってください。。。今年中にはupします。
ですが…数ヶ月待ってて良かったと思える田亀にしてみせ…………たいなぁ、ドウカシラ。
お待ちしていただける方だけお待ちください。。。
- 612 名前:石川県民 投稿日:2004/09/19(日) 00:51
- それでは。
邪魔なので落としときます。
拝。
- 613 名前:sp 投稿日:2004/09/19(日) 02:41
- 更新&完結乙です。
やっぱり石川県民様の読み物大好っきです(ノ∀`*)ニヘ
個人的に田中さんの腕をぱしんぱしん叩く亀井さんにワラタw
ええ、真剣なシーンなのに笑ってしまいスミマセン…
中篇田亀頑張ってくださいね。
- 614 名前:名無し読者 投稿日:2004/09/21(火) 01:27
- 完結おめでとうございます。
最後の方、とても綺麗で大好きです。
次回作も田亀ですか!楽しみです。
>>613
微妙にネタバレしてますよ・・・
- 615 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/22(水) 02:21
- なるほど、そういうことでしたか。微笑ましい。
確かにいちゃついてますなあ。最高。
この二人、これからどうなることやら。いろいろ想像してしまいます。
作りこまれた新作、期待してます。
- 616 名前:石川県民 投稿日:2004/09/23(木) 01:37
- 数ヶ月は更新しないと書いたくせにさっそく裏切ってみたり。
613>spサマ。
ありがとうございます。
>真剣なシーンなのに笑ってしまいスミマセン…
いえ、私も似たことを以前やってしまいましたので、お気になさらず。。。オシオキダベー
614>名無し読者サマ。
ありがとうございます。
綺麗でしたでしょうか(照。
次回も田亀です。田中さんが書きやすいから作りやすいのです♪
615>名無飼育さんサマ。
そういうことだったのです。微笑ましいというかじれったいというか。。。
これからこの二人はどうなることでしょうか、私にもよくわかりません(ヲイ
さてさて。いまから上げるものは本当は14日に予定していたものです。
それではれっつごー。
- 617 名前:小川さんの災難 投稿日:2004/09/23(木) 01:39
- あたしの頬を撫ぜる風は冷気を帯びていた。
昼間はまだ残暑を思わせる暑さだけど、あと10分で明日になるような時間帯だと、さすがに涼しいや。
公園の、車の進入を防ぐための柵に腰かけて、向こう隣にあるマンションの一室を見つめる。灯りははついているから、愛ちゃんはまだ起きているはず。
時計に目をやると23:55。愛ちゃんの部屋に向かうにはまだちょっと早い。
ポケットに手を入れると包装紙の感触を指先に感じる。それを、つかみ取り出す。あたしの手の平に納まる程度の、キレイにラッピングされた小箱。
再び時計に目をやる。23:59。うん、そろそろいいな。
柵から降りて、マンションに向かう。
エントランスホール横のエレベーターのボタンを押して待つことしばし。
降りてきた箱に乗り込み、ボタンを押す。鈍く動き出した箱の壁に凭れる。
手の平の小箱を見つめてニヤける顔。――愛ちゃん、喜んでくれるよね。
ニヤけている内にエレベーターは到着してドアが開く。
箱から出て、各ドアの上にある部屋番号を順番に見ていく。………。あ、あったここだ。
時計は00:01と表示。よし、ちょうどいいや。
ピン・ポーン♪
『はい?』
すぐにインターフォンのスピーカーから声が出た。良かった、愛ちゃん起きてた。
「愛ちゃん、あたし」
『麻琴――?』
「そ。中に入れて?」
『うん!あ゛――でも…、ちぃと待って!!』
………なに?珍しく言いよどまれちゃった…。やっぱりこんな時間に来たの、迷惑だったのかなぁ…。
- 618 名前:小川さんの災難 投稿日:2004/09/23(木) 01:39
-
『待って』って言ってたのにすぐに開いたドア。顔を見せた、愛しい人。あたしはたまらず抱きしめた。
「愛ちゃん――18才のお誕生日、オメデト」
ひさしぶりの、愛ちゃんの感触。
「ごめんね、こんな時間に来ちゃって。でも――誰よりも一番早く、愛ちゃんにオメデトって言いたかったの」
「あ゛…ぅ、…あんがと……」
…?また言いよどまれた。
「やっぱり…迷惑だった?」
もぞもぞと、あたしの腕の中で首を振る。
「ほうやのぅて。…ただ……」
ただ…?
その瞬間、大好きだけど大尊敬してるけど、今は聞きたくない声が耳に届いた。
「おーっす、麻琴」
「ほえ?」
奥から出てきたのは――。
「……なんで吉澤さんがここにいるんです?」
- 619 名前:小川さんの災難 投稿日:2004/09/23(木) 01:40
-
訳が分らず呆けていると、吉澤さんが「麻琴、口・口」と言った。慌てて閉じる。
にや〜っと嫌な笑みを満面に浮かべる吉澤さん。
「なんでウチが今ここにいるのか知りたい?」
「まぁ、一応」貴重な愛ちゃんとの時間、邪魔されたし。
腕を広げ、にこやかに話し出す。
「麻琴のことだから、14日になった瞬間に、のこのこ深夜に現れて、高橋に誕生日おめでとうと言いに来ると思ったんだよ、ウチは」
――そのとおりですよ、ちくしょう。
行動パターン読みすぎっす。
「だからウチはぁ、それを邪魔しに来たんだよ」
「―――ハイ?」
え、ちょっと待ってください。理解できない――つーかしたくないんすけど。
頭を抱えるあたしに、吉澤さんはトドメの一撃を言い放ってくれた。
「14日になった瞬間、高橋に一番最初に『18才の誕生日おめでとう』と言ったのはウチだよーん♪」
- 620 名前:小川さんの災難 投稿日:2004/09/23(木) 01:41
-
…………………え?
「麻琴が悔しがるだろうと思って、この吉澤さんはやっちゃいました♪」
ぷちーーん。
「どういうつもりですかそれぇっっっ!!」
「麻琴の悔しがる姿を見て楽しむつもり」
「ありえねえっっっっ!!!!」
あたしの大声に、愛ちゃんがびくっと首をすくませた。
――はっ!もしかして愛ちゃん、吉澤さんと二人っきりでいたってこと!?
愛ちゃんの肩を乱暴につかんだ。
「愛ちゃん!吉澤さんにお尻触られたり胸揉まれたりしなかった!?」
エロエロオヤジの吉澤さんのことだから、もしかしてそれ以上のことも…ッ!
愛ちゃんは目を丸くしてぷるぷる首を振って否定してくれた。吉澤さんがつまらなそうに口を挟む。
「麻琴、ウチをなんだと思ってるんだ?可愛い弟の彼女にそんなことすると思うわけ?」
「吉澤さんこの間、楽屋で愛ちゃん組み敷いてたじゃないですかぁっ!!」
信じられるか、吉澤さんの言葉なんて。
愛ちゃんを再度腕の中に閉じ込めたところで、奥の部屋から、ものっっすごい殺気を感じた。
「麻琴…それ本当?」
この声は。吉澤さんがオホーツク海なみに青くなった。
声の主はゆっくりと近づいてくる。――相変わらずの細い腰、でかい胸、黒い肌。
そういえば最近『美勇伝』のほうで仕事が離れること多かったでしたっけ。
「…石川さんもいらしてたんですか……」
あはは。それなら愛ちゃんの貞操も安全だ。あはは…は……。
……吉澤さん、ゴメンナサイ。
- 621 名前:小川さんの災難 投稿日:2004/09/23(木) 01:41
-
「麻琴、わたしたちもう帰るから。邪魔してごめんね?――よっすぃー、歩きながらでいいから聞きたいことがあるの……沢山ね」
石川さんはゆっくりと吉澤さんの首根っこをつかんだ。玄関にいたあたしは慌ててスミに寄って石川さんに道をあける。
「じゃあね、ふたりとも。また明日仕事でね」
「「お、おやすみなさい」」
「チャオ〜♪」
満面の笑みのままフェードアウトした石川さん。――吉澤さんの首をつかんでいる右手は、血管が浮くほどに力が強くこもっていたけれど。
- 622 名前:小川さんの災難 投稿日:2004/09/23(木) 01:41
-
ぼーっと目の前で繰り広げられた光景に動けずにいると。
「麻琴…部屋に上がってよ?」
その言葉に自分がまだ靴も脱いでいないことに気がついた。
あげられたリビングのテ−ブルには飲みかけのお茶のグラスが三つあった。ほっ、違うメンバーがいなくてよかった。
それ以外にテーブルにはケーキ屋さん定番の取っ手のついた白い紙箱と、ビデオテープ程度の包みが。
「これ、さっきの二人が持ってきたの?」
「ほぅやで。ケーキ箱のほうは…………石川さんの手作りケーキやって…。麻琴と一緒に食べて、やと…」
食べたくないんですけど。…このまま捨てちゃだめかな。…だめだよね……。
絶対に明日(つーか今日)感想聞くだろうし。――はぁ。
とりあえずケーキから話を替えて。
「じゃあこっちの包みは吉澤さんから?」
愛ちゃんは素直に頷いてくれた。
「麻琴と一緒に中を見ろって言われたんよ」
なんだろ?
「開けてみるよ?」愛ちゃんは包みを外し出す。
…大きさからしてビデオテープみたいだけど、なんのビデオ?宝塚のビデオだったら愛ちゃんもあたしも嬉しいけどなぁ。
パッケージが現れる。愛ちゃんの手の中を覗き見た。
二人して固まる。
それは、金髪のお姉さんたちが絡み合う、18才未満は見ちゃいけないビデオだった。
愛ちゃんの手からビデオを奪う。
ぱきん。
膝を使ってテープを二つに割る。
「ねぇ、ビデオテープって不燃ごみ?」
「あ…プラスチックごみやざ」
「そう」テープの残骸をごみ箱に放り込んだ。
- 623 名前:小川さんの災難 投稿日:2004/09/23(木) 01:42
-
さて、と。気を取り直して。
「愛ちゃん。これ、あたしからの―――あ゛」
そのとき気づいた。吉澤さんに叫んだとき、持っていた小箱を握りつぶしていたことを――。
「ごめん…愛ちゃん…」
とほほ、と情けない声を出すと、愛ちゃんはあたしの手からぐしゃぐしゃになった小箱を取ってくれた。
「――開けてみていいけ?」
「ぅん…」
「ぁ――…」
愛ちゃんが箱を開けたところで、中身を摘み上げる。そのまま愛ちゃんの左手を取る。
「この間一緒に買い物したとき、愛ちゃんがさんざん迷って結局買わなかったやつだよこれ…」
愛ちゃんの小指に、小さな石のついたピンキーリング。
あたしは愛ちゃんを見る。
愛ちゃんは…………複雑な表情をしていた……。
- 624 名前:小川さんの災難 投稿日:2004/09/23(木) 01:42
-
「…もしかしなくても吉澤さん、あたしのこの行動も読んでた?」
強張る愛ちゃんの顔。
愛ちゃんの素直なところ好きだけど、今だけは……………ちょっとキライ………。
あたしの表情で心中を察してくれたのか、
「わたしすっごく嬉しいんよっ!?ありがとう!!」
慌ててそう言ってくれた。
分ってる、分ってるよ。
それでも、なにも言わないあたしに不安を感じたのか、首に腕を回して抱きついてきてくれた。
「ありがと麻琴…大好き、やよ」
あたしも愛ちゃんの背中に腕を回す。
「あたしも、大好き」
抱き合いながら思った。―――石川さん、思いっきりオシオキしちゃってください、と。
翌日。――あたしの願いが効いたのか、吉澤さんは両ほっぺに湿布を張って楽屋入りをした―――。
- 625 名前:石川県民 投稿日:2004/09/23(木) 01:46
- 高橋さんお誕生日オメデトウという話なのに、高橋さんが全然出ていないことは気にしないでください。
オガーさんが書きたくて書きたくてしょうがなかっただけですから。(コラ
数時間後には今日が誕生日のかたの話もupしたいと思います。
拝。
- 626 名前:石川県民 投稿日:2004/09/23(木) 03:33
- それでは、ひさびさの後紺です。
- 627 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:34
-
つい最近あったこと。
- 628 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:34
-
「紺野にとって、一番おいしいものって、なに?」
それは、会うと毎回のように作っていただいている夕飯のときのこと。
その言葉に、わたしの箸は止まった。向かいの席に座った後藤さんを見ると、わたしの表情から心中を汲み取ってくれたように、
「ふと、思ったんだ」と付け加えてくれた。
手を合わせ、いただきます、と呟いて箸を動かし始め、気楽に話す後藤さん。
「ほら、紺野ってなんでもおいしそうに食べるじゃん?だから思ったのよね、そんな紺野が一番おいしいと思うものってなんだろう?って」
エビの淡雪揚げを口に入れ「うん、成功」なんて言っている。――本当に深い意味はないみたい。
でも。わたしは箸を置いて考える。
一番おいしいもの……。
干しイモもカボチャも大好きだけど、『一番』と言われるともっと違うものがあるような………う〜〜ん…。
思考の迷宮に入りかけたわたしを、
「紺野―?エビ食べないならアタシが全部食べちゃうよー?」
後藤さんはたったその一言で現実に引き戻した。
「た、食べます食べます!」
慌てて残り少なくなったエビを箸でつまむ。
エビに花椒塩をつけた瞬間、閃いた。
「後藤さんのお料理です」
「…は?」五目野菜のうま煮を掬っていた後藤さんは、イマイチ理解できていない様子。
「ですから、わたしにとって一番おいしいもののことです」
「ぁあ、はいはい」
やっと何の話か分ってくれたようで。
「わたしは、後藤さんの作ってくれる料理が、一番おいしいです」
「――」
箸を置き、まじまじとわたしを見つめる。…へんなこと言っちゃったかな。
「な、なんでしょうか…」少し体を引いた。
後藤さんは口の端を上げた。
「ありがと、紺野」
そう言って、手を伸ばして頭を撫でてくれた。
- 629 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:35
-
そして、今日。
- 630 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:35
-
現在9月22日。明日、9月23日は後藤さんの誕生日。
大好きで、大尊敬している後藤さん。おいしいご飯を作ってくれる後藤さん。
不肖、わたくし紺野あさ美。日ごろの感謝の気持ちを込めて、手作りのお菓子を贈りたいと思います…!
――いえですね、既製品のものをただプレゼントするだけでは、この気持ちの全てを伝えられない気がしまして。
…シュークリーム作りに、初挑戦してみたいと思います。
最初はシュー生地から。
えーっとまず薄力粉をふるって………次に牛乳・水・無塩バター・塩をナベに入れて火にかけて…………薄力粉も入れ、粉気がなくなるように手早く……手早く…手ば…………あーっナベの底が焦げてきたっ!
こほん。……こんな感じでいいかな。それから溶き卵を少しずつ加えて…えっと、生地を掬ったときに生地の先がおじぎするくらいの固さね……………おじぎしないよぉ…。
……これっくらいでいいよね。次に口金をセットした絞り袋に入れて、オーブンシートを敷いた天板に等間隔を開けて直径3cmに絞り出す…あれ、生地が上手く絞り切れない。…む…っ、…しょっ、と。あ゛…出しすぎた……。
それから……、あとはオーブンで焼くだけ…最初は220℃で7〜8分、200℃に下げて7〜8分…180℃にして10分…。………………生地が膨らまない……。
そして。粗熱も取れたシュー生地は………つぶれた紙コップのような形状だった…。
なんでえっっっっ!!??
- 631 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:36
-
しくしく……シュー生地は作り直そう…。先にカスタードクリームを作っちゃおう。
…ボウルに砂糖・薄力粉・コーンスターチを入れて、軽く混ぜる…っと。牛乳を大さじ3杯入れて、卵黄も混ぜる……。
バニラビーンズをさやからしごいて取り出して、残りの牛乳と一緒にナベの中へ。………沸騰したら、半量をボウルに…うわ、フチから牛乳がこぼれ……と、と。
えーっとそれから……手早く混ぜたら再びナベに―――ってあれ?……卵黄が…煮詰まってる……………。
- 632 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:36
-
キッチンの片付けもせずに、リビングのソファに突っ伏す。
………自分がお菓子作りも上手くいかないくらい鈍くさいなんて思わなかった…。
本当に、歌もダンスも上手で料理の天才の後藤さんとは真逆の人間だ…。
一人きりの静寂に耐え切れなくなって、おもむろにテレビのリモコンに手を伸ばして電源を入れた。
ぱしぱし、無意味にチャンネルを替える。
――その手が止まった。
後藤さんが、映っていたから。
それは、番組の予告CMで、ほんの一瞬で後藤さんは消えた。でも――わたしの心には映し出されたまま。
ほんの一瞬だったのに…ステキだったな…後藤さん。……大好きです。
- 633 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:37
-
「えいっ!」
掛け声をかけてソファから起き上がる。
髪を後ろで一つに纏め、再びキッチンへ。
汚れたボウル、木ベラ、ナベ諸々をシンクに。蛇口を捻って洗い始める。
もう一度、作り直そう。
たった一回の失敗でくよくよしたってしょうがないのだし。
これくらいのことで諦めるくらい、後藤さんへの気持ちは弱くないのだから。
調理器具を洗い終え、もう一度お菓子作りの本を読み直した。
- 634 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:37
-
そして、9月23日。
- 635 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:38
-
「ぁふ……」アクビをかみ殺して、しょぼしょぼする目を瞬かせた。
きちんとラッピングした箱を持って、後藤さんの楽屋へと急ぐ。
シュークリーム作りは、二回目で上手くできた。
お菓子の本に載っていた写真よりは生地に膨らみが少し足りなかったけれど、一個だけ味見してみたら、普通においしかったし。
ただ、作り終え、ラッピングをしたころには、いつも寝る時間帯を大幅に過ぎていて。
だから、ちょっぴり寝不足なのです…。
それでも、早く後藤さんに会いたくて、渡したくて。
早足で通路を歩く。
すると、ちょうど後藤さんが楽屋から出てくるところで。
「あ。紺野」後藤さんも、気づいてくれた。
早足を軽い駆け足に変えて近づく。
そのとき。
どん、と横から鈍い衝撃が。
べち、とその場にしりもちをつくと、側には大荷物を抱えたスタッフさんがいた。
「あ、ごめんなさい!」慌てて謝るスタッフさん。
「いえ…こちらこそ……」しりもちをついたまま、わたしも謝る。
……あれ?
持ってた箱は…?
自分の手の中にも傍にもない。
視線を少し上げると。
「あ…」
後藤さんの足元に箱は、リボンが解け、さかさまになって落ちていた……。
- 636 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:38
-
おそるおそる近づき、箱を持ち上げてみる。
「あ………あぁ…………」
…シュークリームは全部、床に落ちていた。
気が抜け、しゃがんでうな垂れる。
……なんでわたしってこうなのだろう……大事なところで失敗ばかりして………。
自己嫌悪の渦に巻き込まれているわたしの側に、誰かがしゃがむ気配がした。
「これ、紺野が作ったの?」
「…はい」
「…アタシのために?」
「……はい」
――後藤さんの、ためにです。
視界の端っこで後藤さんの指が落ちたシュークリームを摘まむのが見えた。
「ご、後藤さんっっ!?」
慌てて顔を上げると、シュークリームを口にしているところだった。
- 637 名前:魚と金魚の物語り〜後藤さんの誕生日〜 投稿日:2004/09/23(木) 03:38
-
なにも言えず、目を開いて口をぱくぱくさせていると。
「美味しいよ」
そう言って、微笑んでくれた。
まだなにも言えないわたしの頭を撫でながら、ゆっくりと話し出す。
「この間、聞いたよね?『一番おいしいものってなに?』って。
あれ、アタシはね、『だれかが自分のために作ってくれたもの』だと思うの」
そこまで言ってくしゃっと顔を崩した。
「特に、紺野が作ってくれたものなら尚更ね。だから――…すっごく美味しいよ」
わたしはただ俯いた。頭の上の手の温もりが、視界を滲ませる。
――なんで、この人はこんなにわたしを喜ばせるのが上手なんだろう。なんで、今まで以上に好きという気持ちを溢れさせるのだろう―――。
もう一つ、シュークリームを摘まもうとする手を、そっと握った。そのまま、耳元で囁いた。
お誕生日、おめでとうございます…。
Fin.
- 638 名前:石川県民 投稿日:2004/09/23(木) 03:41
- 実際の紺野さんの料理の腕前ってどうなのでしょう…?
好きな二人ですが、書きづらい二人です。
それでは。
拝。
- 639 名前:konkon 投稿日:2004/09/24(金) 01:19
- うぉぉぉ!
こんごま最高です!
二人の思う気持ちが本当に最高です!
これからも更新お願いいたしますm(_ _)m
- 640 名前:ナッシー 投稿日:2004/09/27(月) 23:14
- 遅ればせながら、「鈍いあの子と〜」完結乙です。
最後の最後でニンマリさせて頂きました♪
前回レスした後、なんと嫁がれいなと同じような事故に会い、
こちらはしっかり右足首骨折し入院してまして。(^^;
あげく、その翌日にはPCモニターまで逝く始末で、
今日やっと読むことが出来ました。
オガーと後紺の短編もイイ感じやないですか。
構想数ヶ月の中篇田亀も期待してますよ♪
- 641 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/14(木) 12:24
- おがたか待ち
- 642 名前:石川県民 投稿日:2004/10/28(木) 22:03
- 小川さんの故郷、新潟県にて大地震が発生しました、亡くなられた方のご冥福と早い復興をお祈り申し上げます。
当地、能登地方も震度4に見舞われました。驚きました、それだけでした。
639>konkonサマ。
照れるようなお言葉ありがとうございます。
自分でデザートはこの二人だといいくさっていましたし、待ってる方がいらっしゃったのでちょっと調子に乗っていこうかな、と思います、
640>ナッシーさま。
ありがとうございます…って奥様大丈夫でしょうか!?ふつーに目が落ちるほど驚きました。早いご回復、お祈り申し上げます。。。
構想数ヶ月……アハハ、構想自体は一週間でできたのですが、いざ下書きを始めると書いても書いても終わらなくてちょっと泣きそうです。この話だけで新スレ立てる予定なほどです。
641>名無飼育さんサマ。
そんなアナタ様のためにも本日の更新デス☆
――明日は10月29日。私にとって生誕日です。
正直12月25日なんかより生誕日なのです。
ですので今日10月28日はイブでございます。
なので再度予告を裏切って。小川さんの話をupしようかな、と。
前編と後編、二回にわけます。
- 643 名前:電波塔 投稿日:2004/10/28(木) 22:03
-
電波塔
- 644 名前:電波塔・前編 投稿日:2004/10/28(木) 22:04
- 時々ね、ふと思うんだ。――例えば、通学中の混み合った電車に揺られているときとか、授業中、現国の時間に黒板を見ずに窓の外を見ているときとかに。
運命の赤い糸だってコードレスのこの時代、あたしの言葉や想いや気持ちは、ちゃんと想い人に通じてるのかな、相手はちゃんと受信してくれてるのかな、なんて。
…ま、想い人なんていないけどさぁ、時々思っちゃうのよ。――ふと、ね。
- 645 名前:電波塔・前編 投稿日:2004/10/28(木) 22:04
-
定期を自動改札機に入れて、吐き出されたそれを受け取る。階段は面倒くさいからエスカレーターに乗る。前に立つオジサンのヘアトニック臭に顔をしかめながらホームへと上る。
耳にあてたヘッドフォンからは、最近お気に入りの曲が、ホームの雑踏音に負けない音量で流れている。
人目を気にしないで大きくアクビをして脳に酸素を送り込む。目尻に溜まった涙を手で拭う。
ベンチは既にくたびれたサラリーマンや甘栗を剥きながら大声で会話するオバサン達で満席。だから力なく突っ立って電車が来るのを待つ。今日は座れるといいなぁ、そんなことを思いながら。
これが、あたしの日常。
- 646 名前:電波塔・前編 投稿日:2004/10/28(木) 22:05
-
意味もなくホームの屋根、架線の向こうにある秋空を見る。水で薄めたみたいな青色の中にどんより、ねずみ色の雲が所々に散らばっている。雨、降らないといいけど。
♪ アンテナ 拾った 言葉から ♪
MDウォークマンから流れる曲を、声を出さずに呟き歌う。視線を空から下げる。――下げた視線は下り線のモームに佇む子とぶつかった。
――相手、グレーの上着に赤を基調としたチェックスカートという、あたしとは(当たり前だけど)違う学校の制服のその子は、視線をずらすこともなくあたしを見ている……気がする。
条件反射に近く、あたしは笑いかけた。――仲の良い子に『犬っぽい』と揶揄された笑みを。………これで無表情で視線をずらされたりしたら結構しょっくだけどね。
だけど。
その子は視線をずらすことも、訝しげにあたしを見ることもなく、顔をくしゃっとさせて笑い返してくれた。
心臓が跳ねた。
思わず胸を抑えたところで下りのホームに電車が滑り込んできた。あの子の姿が見えなくなる、頭をぴょこぴょこ左右に動かし探そうとすると、こっち、上りのホームにも電車が入ってきた。あぁ、もうっ!
電車から吐き出される人々に苛つきながら、尽きるのを待って。電車に乗り込む。反対側のドア窓からあの子の姿を探し始めたところで、下りの電車は去っていった。――姿を現した下りのホームに、当然のようにあの子の姿はなかった……。
意気消沈のあたしを慰めるかのように上りの電車も走り始めた。
カタン・カタン揺れる電車。カタン・カタン揺れるあたし。
…明日も会えるかなぁ……。
あたしの日常が、ちょっとだけ色を変えた。
- 647 名前:電波塔・前編 投稿日:2004/10/28(木) 22:05
-
次の日。
普段より確実に軽い足取りでエスカレーターを使わないで階段を駆け上る。ヘッドフォンから流れる曲が、あたしを励ましてくれているように思えた。ホームまで上ったところで、ぜえ、と一息。
歩きながら、向かいの下りのホームを見回す。――あ、いた。
昨日と同じところであの子は一人で立っていた。見つめていると、向こうも気づいてくれたみたい、あたしを見つめんがらゆっくり一文字ずつ、口を開いた。
お・は・よ・う。
あたしも返す。
お・は・よー。
顔をクシャッとさせた笑み。嬉しくなって笑い返す。
線路を隔てて笑いあう、奇妙なあたし達。
下りの電車があの子の姿を消した。昨日と同じように首をぴょこぴょこ動かして探していると、昨日と同じように上りの電車があたしの邪魔をする。
電車に駆け込み、きょろきょろ探すと、タイミング悪く下りの電車は発車する。そしてあたしが窓に張り付いたまま発車する上り。
なにもかも、昨日と同じ。
明日も会いたい、そう思うあたしの気持ちも、昨日と同じ。
- 648 名前:電波塔・前編 投稿日:2004/10/28(木) 22:06
-
さらに次の日。
階段を二段飛ばしで駆け上る。ヘッドフォンからはテンションをがんがん上げてくれる音楽が流れている。ホームまで登ると、下を向いてぜえぜえ、舌を出して息を整える。
勢いよく顔を上げて、下りのホームに視線を這わせる。
あ、いた―――けれど。
彼女は、つるんとした小顔の、同じ制服を着た子と親しげに喋っていた。…あたしには気づいていない。
がんがん上がっていたテンションは、ぎゅーんと下降した。
階段近くにいるのも邪魔なので、少しだけ歩いてあの子との距離を縮める。凝視するのもなんなので、遠くを見ながら流れる音楽に集中する。
♪ すべて 失った あの日 ♪
とんとん。肩を叩かれたので振り返る。
ふに。
「――やだ、こんなの引っかからないでよ、まこっちゃん。おはよう」
ほっぺに指がささった。…唇を突き出してヘッドフォンをはずす。
「…おはよ。なにするのさー、あさ美ちゃん」
コードのスイッチで曲を止める。あたしの隣に立つ、クラスメイトのあさ美ちゃん。
「なんかね、まこっちゃんが」
「あたしが?」
「ほら、スーパーの入り口近くで繋がれていて、ご主人様の買い物が終わるのを待っている犬っているじゃない?――そんな犬のような表情をしていたから。つい、ね」
あたしはワンコか。からかいたくなっちゃったぁ、とか言ってるあさ美ちゃんのほっぺをつつき返す。
- 649 名前:電波塔・前編 投稿日:2004/10/28(木) 22:06
-
電車が来るまで、あさ美ちゃんと取留めのない会話をする。――課題の数学、後で見せ合って答え合わせしよう、とか。今日の体育は外だっけ、とか。今晩放送されるドラマの話、とか。
ぐだぐだ力なく話していると、プォーンと電車の線路を走る音が聞こえてきた。ふと、視線を下りのホームに向けた。
あの子が、見てた。
面白くなさそうな彼女の表情。
「ぁ――…」
喉から掠れた声が漏れる。なにか言おうとする前に電車が彼女の姿を隠した。
呆然とする間もなく、上りの電車もやってきた。
あさ美ちゃんと一緒に、おとなしく乗り込む。
シートはどこも空いてなんかなくって、仕方がないので手すり棒に体を預けた。そのままがくーっとうな垂れる。
あさ美ちゃんと話してただけ。
なのに。
――あの子の面白くなさそうな表情を頭の中でリプレイすると。
それが信じられないくらいヘコむ。
…なんだよぅ、先に会話してたのそっちじゃん……。
口の中、そんな毒を吐くことしかできない、度胸のないあたし。
電車は、テンションの上がらないあたしを乗せて、カタン・カタンと走り続けた…。
- 650 名前:電波塔・前編 投稿日:2004/10/28(木) 22:07
-
次の日。
いつもより一本早いバスに乗り込んで、いつもより十五分は早く駅に到着。階段を全速力で駆け上ってホームに到着。十月の終わりだってのに熱くなった体に、朝の冷たい風が気持ちいい。
下りのホームを見渡しても、あの子はまだ来ていなかった。
一人掛けのイスが三つ繋がったベンチは空いていたけれど、あたしは立ったままあの子が来るのを待つ。
視線は下りホームに向けたまま、耳はヘッドフォンから流れる音楽に集中する。
♪ 丘の上 たった 電波塔 ♪
曲が終わって、次の曲のイントロが流れたころ。
あの子が階段を登ってきた。
ゆっくりとした足取りでホームを歩く。
あたしに気づけー!って念を送ると、気づいてくれた。少しだけ目を見開いてあたしを見た。
お・は・よ・う。
今度はあたしから口を開いた。――彼女は昨日のように面白くなさそうな表情、
をしないで笑いかけてくれた。
お・は・よ・う。
彼女も、挨拶を返してくれた。嬉しくなって自然と頬が緩む。
彼女はホームの時計を指してから、再び口を開いた。
は・や・い・ね。
――今日は駅に来るのが早いね、そういう意味だろうな。あたしは素直に頷いた。…だって昨日のようにあさ美ちゃんやあの子の友達に邪魔されたくなかったし。
貴女に会いたかったから――とはさすがに言えない…。恥ずかし〜。
- 651 名前:電波塔・前編 投稿日:2004/10/28(木) 22:07
-
顔を赤くしたあたしを、首を捻りながら見ているあの子。――いきなり“あっ。”て感じの顔になった。…?
とんとん。肩を叩かれ、条件反射で振り返った。
ぶに。
「…まこっちゃん。二日連続でひっかからないでよ」
二日連続でほっぺに指がささり、呆れたように言うあさ美ちゃん。
首を元に戻すと――あの子が口を抑えて笑っていた。
- 652 名前:電波塔・前編 投稿日:2004/10/28(木) 22:08
-
次の日。
昨日と同じように、いつもより十五分は早くホームに参上。
まったりと立ちながら、まったりといつもの曲を聴きながら、下りホームを見つめ、彼女の姿が来るのを待つ。
あ・来た。
視線がぶつかり、あさ美ちゃんの言葉を借りると『犬のような笑顔』を向けて口を開く。
お・は・よ・う。
彼女は―――返してくれなくて、ただ痛々しく微笑んだ。
え……なに…?
ヘッドフォンの音が遠ざかる。心に黒い渦が巻く。
切なげな瞳でこっちを見てる。その表情は――…そうだ、憂いてるんだ。…なんで?
視線が絡む、繋がる。目を逸らせないし、逸らしたくない。
あたしの瞳にはあの子が、
あの子の瞳にはきっとあたしが映ってる。
『臨時の特別急行列車が通過します。』
スピーカーからアナウンスが流れた。
- 653 名前:電波塔・前編 投稿日:2004/10/28(木) 22:08
-
見つめ合ったまま、彼女の口が動いた。
す・き。
あたしも、口を動かす。
あ・た・し・も。
轟音をたてて臨時列車が通過した。彼女の姿が隠される。白線の上に立っていたあたしは、まともに風をうけた。
乱れた髪を直す間もなく、列車は通り過ぎた。ボサボサの前髪の向こうから見える視界には―――彼女の姿はなかった。
即行で踵を返す。駆け登った階段を倍の速さで駆け降りる。
階段を降りたそこは、他の番線ホームに行く広い通路になっている。目を凝らし、彼女が降りたと思われる階段近くを見渡す。――――いたっ!!
通学・通勤ラッシュでごった返す人波を掻き分ける。ぶつかり、迷惑そうに睨むサラリーマンもいたけれど無視。あたしと同じ制服を着た子ともぶつかった。
「まこっちゃん!?」
――あさ美ちゃんだった、でも振り返る時間すらあたしには無い。
それよりも―――ッ。
腕を伸ばし、その手を掴む。
振り向いた彼女を初めて至近距離で見つめ、口を動かす。
「すき」
さっき言われた言葉をそのまま伝える。――すると。
「わたしも」
同じように返された。
手を握る力を強くする。
「行こう?」
頷いて握り返してくれた。
人の流れに逆らって改札口へと向かう。二人、手は繋いだまま。
「愛ちゃん!?」
途中、あのつるんとした小顔の子が彼女に声をかけたけど、あたし達は立ち止まらなかった。
改札口を抜け、外へと向かう。
あたしは何処へ行くつもりだろう――?自分でも分からなかった。
でも。
日常から去るなら何処へでもよかった―――。
- 654 名前:電波塔 投稿日:2004/10/28(木) 22:09
-
前編 了
- 655 名前:石川県民 投稿日:2004/10/28(木) 22:10
- 石川県民)>後編に続きます。
川’ー’)>わぁしのときとは随分扱いが違うのぉ…。
石川県民)>やっぱり一押しの娘。さんの誕生日は…ね♪
川’Д’)>…………。(チャキーン)
石川県民)>高橋さん、それ私の電工ナイフ。刃渡りも肉厚もあるから、振りかざすと危な――ぎゃあっ!!
【ざしゅっ!!】
川’ー’)>ヘボ作者、後編はいつupするんやが?29日以内にはできるんかいのー?
【返事がない。ただのしかばねのようだ。】
- 656 名前:代理:高橋愛 投稿日:2004/10/28(木) 22:11
-
川’ー’)ノシ >作者に代わってそれではまた〜♪
- 657 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/29(金) 02:07
- 今までと少し話の感じが違いますね。
いや、徐々に変わってきてるなぁと思ってましたが。
こーゆー感じも好きです。
次回更新楽しみに待ってます。
- 658 名前:名無し読者 投稿日:2004/10/29(金) 11:07
- 高橋さんなんてことを!ザオリク〜!
後編楽しみにしてますよ。
- 659 名前:石川県民@復活 投稿日:2004/10/29(金) 23:55
- 657>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます。
作者本人、感じが変わりつつあるのは自覚しちゃっております。
これからも変わってしまうかもしれませぬが、それでもお付き合いいただけたら幸いです。
658>名無し読者サマ。
ザオリクをかけてくださってありがとうございます。
わかってくれた方がいたので嬉しかったです♪
- 660 名前:さて。 投稿日:2004/10/29(金) 23:56
- 石川県民)>前編と後編、二回に分けると言いましたが、予定を変更して前編・中篇・後編の三回にわけて、前夜・本夜・後夜を祝いたいと思います。
川o・-・)>……素直に今夜29日中に全部書ききれないと言ったらどうですか…?
石川県民)>ぎくっ!で、、、でも書いてたら話が前編の二倍量になったのも事実だし………!
川o・-・)>………ウソ予告ばっかりしてると読者サマに愛想尽かされますよ……。
石川県民)>あうっ!!
【いスかわけんみん に158のダメージ!】
【いスかわけんみん は しんでしまった】
- 661 名前:代理:紺野あさ美 投稿日:2004/10/29(金) 23:56
-
川o・-・)>それでは続きをどうぞ♪
- 662 名前:電波塔・中篇 投稿日:2004/10/29(金) 23:57
- 手を繋いだまま二人、駅を抜け、あてもなく歩く。
「わたし、初めて学校サボったわいや〜」
彼女、高橋愛ちゃんは、独特のイントネーションを持っていた。
「へえ〜、初サボリの感想は?」
「んー…」
アゴに指をあてて考え込む。
「楽しい。…ちっと、はらはらするけどなんか楽しいんよ」
そう言って笑ってくれた。あたしも笑い返す。
「――なぁ、毎朝気になっとったんけど、なに聴いとるん?」
あたしの首に掛けられたヘッドフォンを指す。ウォークマンからMDを取り出しラベルを見せた。
「これ。最近人気のアーティストの1stアルバム曲。オススメはー…これと、これ」
タイトルを指しても、愛ちゃんはただ首を捻っていた。あら。
「…あんまり興味ない?」
「違うんよ、ただ…あんま最近のアーティストって知らんげんて」
あ・そうなの。
「じゃあ、普段どんなの聴くの?」
「え……と………………山口百恵?」
――渋い。
ホームで見詰め合うだけじゃ分からなかったことを沢山話す。――愛ちゃんの初サボリ、あたしの聴いていた音楽。それ以外にも愛ちゃんはケータイを持っていないこと、あたしより一つ上の三年生だということetc…。
沢山聞かれて、沢山聞く。互いに相手のことを知りたかったし、伝えたかったから。
――言葉で、伝え合う。視線で、繋がり合う。心を、触れ合わせる。
日常から去る、なんて格好いいこと思っていたけれど、所詮一介の高校生の身、たった一日学校をサボるだけが限界だった。
でも、愛ちゃんがいる日常なら大歓迎。
「…また明日」
「うん、また朝、駅でね」
大きく手を振り合って駅の前で別れた。
夕日が染めた街の中に愛ちゃんが溶けるまで、あたしは手を振り見ていた。
- 663 名前:電波塔・中篇 投稿日:2004/10/29(金) 23:58
-
次の日。
そろそろ十五分早く駅に来ることに慣れてきた。軽い足取りで階段を登る。登りきったところで一回だけ深く息を吸って吐いた。
いつもと同じ場所であの子―――、愛ちゃんを待つ。
………………………………あれ?
「まこっちゃんがいつも見てた子、今日は来てないね」
「あ、あさ美ちゃん!?」
いつの間にか隣にあさ美ちゃんが立っていた。
「おはよう。まこっちゃん驚きすぎだよ」
いや、ふつーに驚くよ。
「今日はいつもと違う時間の電車に乗ったのかな?」
「…そんなことないと思う…」
だって昨日約束したもん。――また明日、また駅で、って。
待ちぼうけを食らった気分で立っていると、とうとう下り線の電車がやって来てしまった。上りの電車もすぐにやって来た。
ドアから吐き出され、降りた人たちが階段に向かってしまっても、あたしは電車に乗り込まなかった。
…待っていれば、もう少し待っていれば愛ちゃんは来ると思うから。――もしかしたら寝坊して一本遅れた電車に乗るのかもしれないじゃん。
強い力で腕を引っ張られた。あさ美ちゃんがあたしの腕を掴みながら電車に乗り込む。
「気持ちは分からないでもないけどさ、これに乗りそびれたら遅刻しちゃうよ?」
う゛ー。
すぐにドアが閉まって発車。結局、愛ちゃんは現れなかった。
あさ美ちゃんは、一人分だけ空いていたシートにあたしを座らせてくれた。遠慮なく座って敗退したボクサーの如く真っ白になるあたし。
カタン・カタン、電車は今日も揺れる。
すぐ前で吊り革を握っていたあさ美ちゃんは、なにかを思い出そうとするかのように呟いた。
「まこっちゃんが見てたあの子の顔……どっかで見たことあるの…」
ほへ?
「……駅でじゃないの?」
至極当たり前のことを言うと、首を振られた。
「たしか…写真のようなもので………」
それきり黙ったあさ美ちゃん。
胸の中、ざわりと波が立った。
- 664 名前:電波塔・中篇 投稿日:2004/10/29(金) 23:58
-
次の日。
慣れてきた日常より、さらにもう一本早いバスに乗って駅に到着。―――三十分早い駅構内、ホームは閑散としていた。ホーにあるスタンド式の売店に並べられた雑誌だってまだナイロンテープで縛られている。
吐き出した息は白い。最近、朝はがくんと冷え込みだした。たまらなくなって120円取り出し、自販機に入れてミルクティーのボタンを押した。プルタブを開けてベンチに座る。硬く冷たい感触が背筋を震わせた。
もしかして昨日は、都合があって早い電車に乗ったのかもしれない。そう考えてこんな時間に来た。―――だって、今日だってその可能性はある…かもしれない。
無理やり、自身に言い聞かせてミルクティーを啜りながら人のいない下りホームを睨む。
ちら、ほら、人が来たところで、いつものより一本早い下りの電車がやってきた。――けれど愛ちゃんはやって来なかった。
―――今日はいつも通りの電車かも。
そう思い込んで気力を奮う。立ち上がり、空になった缶をゴミ箱へ。再度ベンチに座らず、いつも通り突っ立つ。
♪ ただ 歪んで 軋む 日々に♪
いつもなら気持ちよく聴ける音楽も、今のあたしには苦痛なだけ――。曲を止めて耳からヘッドフォンを外す。
- 665 名前:電波塔・中篇 投稿日:2004/10/29(金) 23:59
-
あたしが座っていたベンチは、くたびれたサラリーマンや甘栗を剥きながら大声で会話するオバサン達が占領。あたしと同じ制服姿の子が数人ホームに立ってお喋りしていた。――いつもの日常が、目の前に現れ始める。ただ愛ちゃんだけがいない。
とんとん。――肩を叩かれた。条件反射で振り向く寸前、反対側に振り向く。――あさ美ちゃん、三回も引っかからないよ。
「…あら?」振り向いた先にいたのはあさ美ちゃんじゃなかった。
あたしとは違う制服を着た子が立っていた。グレーの上着に赤を基調としたチェックスカートという服装に見覚えが。っていうか顔にも見覚えが…………そうだ、このつるんとした小顔は。
「…愛ちゃんの、友達…だよね?」
そう言うと、こっくり頷いてくれた。
「新垣里沙っていいます」
「えと…ニイガキさん、こっちのホームじゃないよね?」
再びこっくり。
「――アナタに用がありまして」
――ほえ?訳が分からず、ただ口を開けていると。
ぱしぃぃんっ。
弾けるような音がホームに響いた。――左ほっぺは痛くはなかったけれど痺れた感覚。
人の視線が集中する。――平手打ちをしたニイガキさんと、平手打ちをされたあたしに。
「……え?」叩かれた、ということが分かっても理由が分からない。
だから、目で問う。―――なんで?と。
不思議と怒りは沸かなかった。
なんだか泣くのを堪えるように睨むニイガキさん。
「アナタのせいで――愛ちゃんが……っ!!」
愛ちゃん。その単語で我に返る。ニイガキさんはすでに背を向けていた。
「待って!!」
走り去るニイガキさんの腕をつか――めず、ただ空をつかむあたしの手。
ニイガキさんの姿は人ゴミの中、消えた。
動けず、ただ突っ立ったままのあたし。
まだ熱いほっぺに、ひんやりと冷たいものが。ゆっくり振り向く。
「ちゃんと冷やさないと、アザになるよ」
「…ありがとう」
あさ美ちゃんが、濡らしたハンカチを押し当ててくれていた。
- 666 名前:電波塔・中篇 投稿日:2004/10/29(金) 23:59
-
「これでよし…。家に帰ったら湿布を張り替えたほうがいいわよ」
湿布が入った袋のチャックをパチンと閉じる保健室の先生に頭を下げる。
「ありがとーございましたー」
「はーいお大事に」
付き添ってくれたあさ美ちゃんと一緒に保健室を出る。
二人、ほてほてと廊下を歩く。
「まこっちゃん大丈夫?」
「んー触らなければ平気」
「…えい」
「いだだだだっ、つつかないでよ!」
…あさ美ちゃんて優しいのかそうじゃないのか分かんない……。
階段を上り、教室に行こうとしたら手をつかまれた。
「…まこっちゃん。わたし思い出したの」
「なにを?」
「――ちょっと、付き合って」
手をつかんだまま、教室のある方向とは反対側の廊下へと向かうあさ美ちゃん。…この先にあるのは図書室と生徒会室。
あさ美ちゃんは、なんのためらいもなく生徒会室のドアを開けた。
- 667 名前:電波塔・中篇 投稿日:2004/10/30(土) 00:00
-
開けたドアの先には女の子が一人、パソコンに向かって文字を打ち込んでいた。生徒スリッパの色は、一年生を表す赤。
その子が振り向く。
「会長、おはようございますたい」
椅子に座ったまま頭を軽く下げる。あさ美ちゃんの後ろにいたあたしにも、「ども」と軽く頭を下げてくれた。あたしも軽く下げ返す。
「おはよう、早いね」
「あー…絵――じゃなくて副会長がこれ、今日の昼休みの小会議で使うからパソコンで作成しとけって言ったけん。
いつもより早起きしたから眠かとです」
書類らしき紙の束をこっちに向けて、大きくアクビをした。
「書記は大変ですたい〜」グチのように言う。
中に入って大きな資料棚に近寄り戸を開けるあさ美ちゃん。ドアのところで立ったままのあたしを手招きする。
慣れない場所に緊張しつつ、「おじゃましまーす…」と呟いて入ると、パソコンに向かっていた子が「どーぞ〜」と返してくれた。
棚の中の書類を、忙しく指を繰っているあさ美ちゃんに近づく。
「わたし、前にまこっちゃんが見てたあの子のこと見覚えあるって言ってたでしょ?どこで見たのか思い出したの」
そこまで言って、指が止まり、一冊のパンフレットを引き抜いた。
「これに、載ってたの」
それは、郊外にある音楽学校の、案内パンフレットだった。
パラパラ、後ろのほうを捲るあさ美ちゃん。
「厳しいことで有名なの、ここ」
詳しいね、そう言うと苦笑いされた。
あさ美ちゃんの科白に、愛ちゃんが今まで学校をサボったことがないと言っていてことを思い出す。
「――ほら、ここ」
開いて見せてくれたページは、音楽家として活躍している卒業生、華々しい経歴を所持している在校生を自慢…じゃなくて紹介しているページだった。
【声楽科】、そう枠組みされた箇所に確かに愛ちゃんの写真が。
写真の下に書かれた数々のコンクール優勝歴に目眩を感じる。
平々凡々などこにでもいる高校生のあたしと、学校から秘蔵っ子のような扱いを受けている愛ちゃん。
あまりにもあたしの日常と愛ちゃんの日常の世界がかけ離れすぎていた―――。
駅のホームが唯一の接点だったんだ。
- 668 名前:電波塔・中篇 投稿日:2004/10/30(土) 00:00
-
引け目を感じて、俯いて床を見ていると、背中をどーんと叩かれた。驚いて振り返るとさっきの子が立っていた。
「なに沈んどるとですか。あたし先輩の事情は知らんですが、先輩がつまんないことで落ち込んどることは分かるですたい」
つまんないことって…。
「――おもいきり、手ぇ伸ばしてつかまえればよかと」
「伸ばして、つかまえて、繋げて――全て伝え合えてから、つまんないこと悩めばよかと」
――なにも言えなかった。ただ言葉が心に響いた。
あさ美ちゃんがくすくす笑い出す。
「経験者は語る、ってやつ?」
「あ、あたしは違うとですばい!」顔を赤くして慌てるその子。
「――で。アナタはどうしたいっちゃ?」
話題を変えるようにあたしに振る。
「あたしは―――…」
- 669 名前:電波塔・中篇 投稿日:2004/10/30(土) 00:00
-
次の日。
冷たい風がほっぺにあたる。あたしは駅の下りホームの階段脇に立って人を待っていた。
…多分そろそろくるはず。
予想は大当たり。階段を登ってきたその人の腕を、今度はちゃんとつかまえた。
驚いて、振り返るその人。
「アナタ…」
「ニイガキさん、お願いです。愛ちゃんがどこにいったのか教えてください」
- 670 名前:代理:紺野あさ美 投稿日:2004/10/30(土) 00:02
- 川o・-・)>それではまた明日…というよりまた今夜にて♪
- 671 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/31(日) 01:37
- なにがあったんだろう
訛りの凄い書記さんと副会長のエピソードも気になりつつ
今夜の更新待ち
- 672 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/05(金) 02:39
- 待ってます
- 673 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2004/11/15(月) 06:19
- 最初から最後まで全て読ませて頂きました。一気に読みました。
ありきたりな言葉ですが、本当に最高でした。たまりません。更新待ってます。
- 674 名前:代理:新垣里沙 投稿日:2004/11/29(月) 16:57
- (ё)>ヘボ作者死亡中につき、アタシが代理だニイ。
671>名無飼育さんサマ。
なにがあったかは今日あかされるニイ。一ヶ月もお待たせさせるほどの事でもないですけど…。
>訛りの凄い書記さんと副会長のエピソードも気になりつつ
そこの部分は作者はなーんも考えてないんだニイ。
672>名無飼育さんサマ。
お待たせしましたニイ。
673>孤独なカウボーイ様。
はじめましてだニイ。このレスにあるものを一気喰い……一気読みするのは体によくないニイ。
たまりません、なんて言うと作者が付け上がるニイ。でも…ありがとうございますニイ。
(ё)>それではどうぞですニイ。
- 675 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 16:58
- カタン・カタン揺れる電車。いつもはのどかに感じる音が、今はあたしを苛立たせていた。気ばかり急いていて、先頭車両の運転席の扉の前で地団駄を踏む。
運転手さん、お願いだからもっと急いで…!
――もちろん、そういう訳にはいかないことは分かっていたけれど、それでも、どうにもならない祈りを捧げる。
―――地団駄を踏んだり祈りを捧げたりぐるぐる回ったりと、一通り悶えたところで、壁に凭れた。…これ以上他のお客さんの奇異な視線を集めたくないし。
落ち着く意味も込めて目をつぶる。そのまま、数十分前の会話を反芻する―――。
- 676 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 16:58
-
***** *****
- 677 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 16:59
-
「愛ちゃんはどこにいったのですか」
振り向いたまま目を開いていたニイガキさん。我に返って、腕を掴んでいるのがあたしだと気づくと、大きく腕を振って解こうとするけど、こっちも負けていられない。
「お願いします!」
勢いよく頭を下げると、上から「…………はぁ」というため息が聞こえた。
「…逃げないから離して」
呆れたような口調。素直に手を離す。
きつい目つきのままあたしを見据える。
「ねえ、アナタは愛ちゃんがどういう子か知ってる?」
「ほぇ?」
どういう子って……訛ってて、年上っぽくなくて、どことなく猿っぽくて、笑うと顔がクシャッてなる子…てこと?――思ったことをそのまま伝えると、ニイガキさんはこめかみを押さえながら
「そうだけどそうじゃないの」と言った。
「愛ちゃんが、ウチの音楽学校じゃどういう存在かっていうこと」
口を閉じたあたしを見て、ニイガキさんは感情なく言葉を出す。
「愛ちゃんは特別クラスの子で、そのクラスの子は学校から重いほどの期待を背負わされてるわ。愛ちゃんは、卒業したら学校の推薦でオーストリアに留学することがつい最近、決まったしね」
わお。
「なのに――留学が決まった翌日に“あの”逃避行まがいのこと」
- 678 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 16:59
-
言葉が出なかった――あの日、愛ちゃんの憂いた表情・瞳がフラッシュバックする。そんなあたしを気にせずに淡々と語るニイガキさん。
「学校側は大慌て。だってそうよね、留学も決定した箔押しに使う生徒がそんなことしちゃったら。
愛ちゃんの意思も無視して学校側の決断で卒業後なんていわず、即、留学することになったの」
目つきを険しくした。
「愛ちゃんの幼馴染のわたしが、怒ってる理由は分かった?」
あたしは力なく頷いた。
「あの…即、っていつなんですか?」
せめて見送りだけでもしてあげたい。
「今日」
………はい?
一瞬、なに言われたか理解できなかった。――十秒くらい間をおいて。
「きょ、今日!?な、何時の便ですかぁっ!!」
詰め寄るあたしにたじろいで後ずさりするニイガキさん。
「午前中とだけ聞いたけど…」
こうしちゃいられない!踵を返して階段へと足を伸ばす。
「ねえっ!」
振り返ると目を丸くしたニイガキさんの姿が。
「…行くの?」
あたしは当然とばかりに頷く。
階段を下りてる最中に。
「あの!…さ」
再び後ろから声が。素直に振り返る。ちょうど下り線のホームに電車が滑り込んできた。申し訳なさそうな顔のニイガキさん。
「昨日は…叩いて、ごめんなさい」
恥ずかしそうな声。あたしはにっかり笑って、気にしないで、という意味を込めて首を振った。
- 679 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 16:59
-
***** *****
- 680 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 16:59
-
そのままJR線から私鉄の空港方面行の電車に飛び乗って――今に至る訳で。
目を強くつぶってただ願う。
愛ちゃん、
愛ちゃん。
愛ちゃん…!
逢いたいの。
ねえ、なにも言わずにあたしの前から消えないでよ。
あたしの悶絶や祈りや願いとは無関係に、時刻通りに空港前駅に到着した電車。
開いたドアから弾き出るように駆け出した。
階段を二段飛ばしで飛び降りて、改札機に切符を突っ込む。
駅構内を空港方面に向かって全力疾走!
旅行荷物を抱えた老夫婦や一塊になった外国人が怪訝な顔であたしを見ていたけれど、そんなもの無視。
外に出たら出たで、道路を隔てて建っている空港まで再び爆走!
タクシーや普通車が迷惑そうに停まってあたしに道を開けてくれた。
空港構内で電光掲示板を見やってオーストリア行きの便を確かめる。
………えーと。
――これ、かな。今から一時間後にフライト時刻のやつ。二番入り口。近くの構内地図で位置を確認する―――あたしの入ってきた出入り口から一番遠い場所にある搭乗口だった。
よしっ!気合をいれて力走……………………できないよもう…。
さっきから走ってばっかりだったから、もう膝が半笑いしている。
それでも。
歩くよりは早い速さで再々度走り始めた。
あ、明日は筋肉痛だ絶対…。
- 681 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 17:00
-
二番口近くの、背中合わせで備えられているソファーの一つに見覚えのある後ろ姿が見えた。
「あぃ…ちゃ…」
掠れた、全然通らない声。――それでもその後ろ姿は振り返ってくれた。
目を大きく開いて握っていた文庫本を慌てて閉じた愛ちゃん。
「ど、どしたんよ!?」
どうしたってアナタ。
「ニ、ニイガキ…さんに……聞いて……」
ぜはーぜはーぜはー。
荒い呼吸のせいで上手く喋れない。
愛ちゃんがカバンのに手を突っ込んでミネラルウォーターを取り出し、渡してくれた。
お礼もそこそこにキャップを捻って口を付ける。
ごぎゅーっと勢いよく飲んでいる最中「そぉか里沙ちゃんが…」と愛ちゃんは呟いていた。
半分近く飲んで、口を離す。…ふぅ。
- 682 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 17:00
-
「オーストリアに、行くの?」
こくん、と頷く愛ちゃん。
行かないで。
行かないで、あたしの傍にいてよ。
そう言ったら愛ちゃんは止めてくれるのかな。
……でも。
「夢やったから」
凛とした表情で答える愛ちゃんの顔を見ると言葉は引っ込んだ。
「ごめんな、言わんと行こうとして。急やったから…おとついと昨日で荷物纏めてて学校にも行けんかったし」
「こっちこそ――ごめん。あたしのせいで―――」
ぷるぷる、首を振られた。
「どっちみち行くんやったから、ただ早くなっただけやし。それに麻琴は後悔しとるん?わたしは楽しかったわいや」
「…あたしも、楽しかった」
「すっごいドキドキした…貴重な思い出作れたし……」
遠くを見るような目で言う愛ちゃん。
- 683 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 17:01
-
思い出、その言葉にあたしは愛ちゃんを凝視する。
「…そんな眼で見んといてよ」愛ちゃんは目を逸らした。
呟くように言われる。
「いつ日本に戻ってこれるか分からんし…うぅん、もしかしたら向こうで永住するかもしれん……」
愛ちゃんの手を取り両手で包む。
「思い出に、しないでよ」
あたしのことを、あたしとのことを、過去にしないで。
「せやけど…っ」
堪えきれなかったように涙が一筋、愛ちゃんの頬を流れた。包み込んでいる中の手は震えていた。
「わたし自身の夢のために、麻琴を“待ってて”なんて言葉で縛れるわけないやろ…」
優しく、体を抱きしめた。震えている華奢な肩。――すごいよ、こんな細い肩に沢山の期待を背負っていたんだね。あたしの腕の中、愛ちゃんは泣いていた。
「待ってるから」
「ずっと日本で待ってるから。何年かかってもいいから…戻ってきて?」
「うん…」
発信される言葉、想い。きちんと、受信してくれたみたい。
繋がる、あたしたちの心。
- 684 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 17:01
-
体を離し、ポケットからMDウォークマンを取り出す。ボタンを押してMDディスクを引き抜いた。
「ショボいけど…これ餞別。持っていって、オーストリアにまで」
「ありがとぉ」
目尻の涙を拭いつつ、受け取ってくれた。
「もう…搭乗ゲートまで行かんと…」
「うん…」
手を繋ぎ、のろのろと歩く。
係員にチケットを見せて、入っていく愛ちゃん。あたしは滲む目でその後ろ姿を見ていた。――と、いきなり振り返った。
「麻琴!」
「ひゃ、ひゃい!?」
突然呼ばれて上手く舌が回らなかった。
「わたし絶対戻ってくるさかい、せやから…浮気すんなよぉ!」
あたしは小刻みにこくこく頷いた。
……そんなあたしたちの遣り取りを一部始終見ていた係員さんが、口を押さえ肩を小さく震わせた。
「それと…」
まだあるの?
「いってきます!」
一瞬なにを言われたか分からなかった。でも我に返ってすぐに笑顔で言葉を返す。
「いってらっしゃい!」
- 685 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 17:01
-
***** *****
- 686 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 17:02
-
暖房の効いた暖かい研究室でぬくぬくと缶のコーンスープを啜っているとドアがノックされた。
「ふぁい?」
気の抜けた返事をするとドアが開けられ、そこにはゼミの後輩が立っていた。
「教授ならいないよー?」
あたしがそう答える間にも、後輩は部屋の中に入ってきた。
「レポート提出しにきただけですたい、教授に渡しといてください」
「あぁ、はいはい」
受け取り、乱雑に本や書類が積み重なった机の上に卵形の文鎮を乗せて置いておく。
後輩は首をぐるりと一周させてやれやれと言わんばかりに自分の肩を揉んだ。
「あはは、お疲れ様〜」
「やっと肩の荷が下りたですばい。先輩はお暇なんですか?」
「次の時間の二年と三年のディベートの手伝いをしなきゃなんないよ」
いいながらレジメをちらっと見せると「去年あたしもやりましたっちゃ、論戦してる間に、喧嘩口調になっちゃうですばい」そう思い出すように呟いた。
―――あれから六年経った。あたしは今、大学の院に入って院生として教授と生徒の間を忙しく駆けずり回る日々を送っていた。
二年ほど前、愛ちゃんがオーストリアでは高名な合唱団の初の日本人ソプラニストになったことをインターネットで知った。
あの日以来、愛ちゃんとは一度も会ってないし手紙の遣り取りだってしていない。
元気に活躍しているのなら、それで良かった。
- 687 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 17:02
-
コーンスープのモロコシ粒をなんとか取り出せないかと口を開けて逆さにしたまま缶を叩いていると、後輩が「あ、そうだ」と言ってポケットに手を突っ込んだ。
「正門のところでコレ、渡すよう頼まれとったですたい」
モロコシ粒を一粒、噛まずに飲み込んでしまった。缶を置いて差し出されたものを受け取る。…心なしか後輩の顔はニヤけているような。
差し出されたそれは一枚のMDディスク。
「先輩もスミに置けないですっちゃ。あーんな美人さんと知り合いだなんて」
このこの、と肘でつつく後輩を無視してMDディスクを見つめる、かなり昔のアルバム名が書かれた背中のラベルシール。シールの中で踊る、見覚えのある幼い文字。
劣化することなく、鮮明に記憶が引き出された。
「ねえ!」
「はっ、はい!?」
「これ渡した人、まだ正門にいるの!?」
詰め寄るあたしから身を引きながら頷く後輩。
あたしは後輩を置いて研究室から飛び出す。
「先輩!?」後ろから聞こえた声は無視!
階段を駆け降りて研究棟からも飛び出る。冬の匂いを帯びた冷気が全身を包んだ。
暖かい研究室からなにも羽織らずに出てきたことを後悔したけれど、そのまま正門まで走り続ける。
こんなダッシュ、あの日以来だっけ。
正門まで続くだらだらとした長い道。脇に植えられた銀杏は既に葉を失っていて、枯れた銀杏並木をあたしは走る。
- 688 名前:電波塔:後編 投稿日:2004/11/29(月) 17:03
-
正門に一人、髪の長くて黒いロングコートを来た人を見つけた時点で走っていた足を緩め、歩み、立ち止まる。その人との距離は5m程度。――ゆっくり、あたしのほうを振り返った。
冷たい風が一迅、吹いた。ぶへっくし、色気のないクシャミをして腕をさする。やっぱり寒い。その人は乱れた髪を掻き揚げた。
ぶつかり合う視線。今は使わないあの駅での思い出と重なった。
その人はゆっくり、口を開いた。
「ちぃと、太ったんちゃう?」
――がくっ。六年ぶりに会って第一声がそれ?
「いいじゃん別にぃ。…それよりどうして日本にいるのさ?」
ふふん、と得意気な顔。その、幼さを残した表情が六年前と変わらない。
あたしに向かってVサインを突き出す。
「初の日本公演が決定したんやよー!」
「おーっ!!」
ぱちぱち、寒空の下で感心しながら拍手した。
「っつーわけで…麻琴、ただいま!!」
あたしに向かって駆け出す。
♪ Check OK? ♪
飛び込んできたのを、しっかり受け止めて抱き締める。
「愛ちゃん、おっかえりー!!」
- 689 名前:電波塔 投稿日:2004/11/29(月) 17:03
-
電波塔 了
- 690 名前:楽屋裏 投稿日:2004/11/29(月) 17:16
- (ё)>やーっと終わったニイ。
川’ー’)>ほんまやざ。無駄に書くのが遅かったがし。
川o・-・)>まったくだよね。
∬´▽`∬>ていうかさぁ………。
(ё)>ニ?
川’ー’)>なん?
川o・-・)>なに?
∬´▽`∬>あたしの誕生日おめでと話なのになんでみんなが前書きや後書きに参加してるのさ…?
(ё)>だって…。
川’ー’)>麻琴が…、
川o・-・)>まこっちゃんばかり……、
(ё)>目立ちすぎ!
川’ー’)>出すぎやよ!
川o・-・)>出てばっかりじゃない!
∬T▽T∬>そういう文句は作者に言ってよ作者に……。
(ё)>それでは…。
川’ー’)>今度こそ次はは田中ちゃんと亀井ちゃんの話やがし。
川o・-・)>まだ三分の一程度しか下書きしてないみたいだから期待せずにお待ちください。
∬T▽T∬>あたしのことは無視かよっ!
- 691 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/12/07(火) 19:26
- やばい。めちゃくちゃドキドキしたっす。
ラストが二人らしい感じで…もう最高。ぐふっ…
お疲れ様でした。れなえりも楽しみにしてますよぉー
- 692 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/17(金) 14:24
- この二人なら現実でもありかも…そんなことを感じさせてくれる
リアルの二人と作者さんの空間の味のコラボ。 堪能させていただきました。
- 693 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/31(金) 06:18
- 保全
- 694 名前:石川県民〜お知らせ〜 投稿日:2005/01/13(木) 01:39
- みなさま明けましておめ(強制終了/遅いっつーの)。
保全の意味も込めましてお知らせなんぞを。
どのツラ下げてやって来た、石川県民です。今までなにやってたんだと思われるかもしれませんが、
現実世界で就職したり、『鈍いあの子と素直になれない彼女の話』内の田中さんと似たような事故に遭ってたり過労とストレスでぶっ倒れてたりしてました、あっはっは。
まず返レスを。
691>名無しどくしゃサマ。
ありがとうございます。ドキドキしていただいて小躍り中でございます。
>ラストが二人らしい感じで
この二人を書くときに、小川さんはカッコよくしすぎずに、高橋さんはキレイにしすぎずに、
二人の間には微妙に三枚目な空気を漂わせれば、リアルの二人に近いと石川県民は最近になって気づきました。
692>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます。
>この二人なら現実でもありかも
この二人を書くときに(ry
ですがリアルに似せて書くと、カッコイイ小川さんが書けなくなるのが最近のジレンマだったりします(w
693>名無飼育さんサマ。
ありがとうございました。わざわざ保全してくれる方がいらっしゃって、ちょっと驚きました。
【お知らせ】
前々から予告していた田亀ですが、予想を遥かに超える長さになりました(Wordで普通に書いても150P以上)ので、
新スレを建てたいと思っとります。
まだ書き上げてませぬが、頑張れば一月中に、頑張れなくても二月中には建てるつもりです。
黄板のほうで【舞い落ちる刹那の中で】というスレタイのものを予定しております。あまり期待せずにお待ちくださいマセ。
キスシーンが多いですがそれと同じくらいに涙シーンが多い話です。
それでは。
拝。
- 695 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/13(木) 16:22
- 新スレ!
うわーめちゃくちゃ楽しみー。
期待しないでワクワクして待ってます。
では無理をせずお身体ご自愛くださいませ。
- 696 名前:ナッシー 投稿日:2005/01/26(水) 22:22
- 新スレ新スレ♪ 〜( ̄▽ ̄〜)(〜 ̄▽ ̄)〜
お久し振りでございます♪
それにしても石川県民さんまで、
事故に過労にストレスって。。。
御自愛なされませ。(∇ ̄;)
ウチのはもう、歩いております。
まだ歩行速度は半分ですけどね。(^^;
- 697 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/28(金) 07:29
- 私も過激に応援しております。
田亀も大好きですが、作者様の文章もこれまた大好きであります。
期待しております。
- 698 名前:石川県民 投稿日:2005/03/02(水) 19:43
- 石川県民は忘れ去られたころにやってくる…!
どうもお久しぶりです、災害のようなヤツ石川県民です。
以前からのたまわっていたキスシーンも涙シーンも多い長ったらしい田亀を書きました。
黄板 舞い落ちる刹那の中で コチラ↓
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/yellow/1109747946/
何ヶ月もお待たせさせた割にはショボいものですが、お暇でしたら読んでみてくださいマセ。
- 699 名前:石川県民 投稿日:2005/03/02(水) 20:02
- 695>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます、書いてみましたので、お口にあえばいいですが…
>無理をせずお身体ご自愛くださいませ
スミマセン、いい年して無理してしまい、只今風邪でヘロヘロです。喉が痛ひ…
696>ナッシーさま。
こちらこそお久しぶりでございます。素敵な新スレの舞、ありがとうございます。
奥様は現在どこまで回復されたでしょうか?
石川県民は事故と言うと大げさ、と思うくらいの超軽傷で済みました(両膝打撲)
697>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます、過激に応援されますと、激しく応えたくなっちゃいます♪
ご期待に添えられたかがドッキドキです。
>田亀も大好きですが、作者様の文章もこれまた大好きであります
名無飼育さんサマ!な、なんて危篤な……じゃなくて奇特なお方でしょう!!
正直、自分の文章は好きじゃないんです(きっぱり)、黄板で書いたロング田亀、
後半はあまりの文の稚拙さに、本気で人間止めてダンゴムシになりたいと思ったくらいですから…。
好きだと言ってくださる方がいると、もう少し人間でいて頑張ってみようかな、と思います。。。
- 700 名前:石川県民 投稿日:2005/03/02(水) 20:08
- さてさて。
こちらのスレですが、まだ用量も余ってるので、
『電波塔』の紺野さんのお話でも書いてみようかなーとか思ってみたりしてます。
紺野さんがどういう経緯で生徒会長になったのかを書いてみたいなー、とか、とか…・
黄板の話の読切続編と同時進行で書きますので、うpは遅いです。。。
それでは。
拝。
- 701 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/25(金) 21:27
- 楽しみにしてます。
- 702 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/28(月) 16:48
- 三日掛けて全て!読まさせて頂きました! 非常ーに!面白く、悲しく楽しいです!(T_T) 黄板にある作者様の作品も凄く泣けました(T_T) 友人のことと重なったりして、自分が今どうするべきか考えさせられました。お礼を言っても言い切れません! こちらでしていたのを知らず、ぜひとも最後までお付き合いさせて頂きます!!次回更新待ってます。 (長々と汚文申し訳ありませんでしたm(__)m)
- 703 名前:ナッシー 投稿日:2005/03/29(火) 21:39
- 黄板のを読みましたよ
その感想は向こうにあります
長かったのでプリントアウトして
仕事場で読もうとしたら、A4片面とはいえ、
なんと120枚越えました。( ̄◇ ̄;)
で、人前では読めなくなったのと、内容の重さで
今まで掛かりましたけど。
ともあれ、お疲れ様でした。(o⌒∇⌒o)
カミさん、なんとかフツーに歩けますが、
運動量がガタ落ちしたので、体重がやや増・(`Д´)=○)☆。+)バキッ
- 704 名前:石川県民 投稿日:2005/05/30(月) 10:33
- ンヶ月振りにひょっこりと。生きていました、石川県民です。
激短いものを再びちょこちょこ書いていこう思います。
>701 名無飼育さんサマ。
ありがとうございます、楽しみにされるほどのものではありませぬが、再開です。
>702 通りすがりの者サマ。
(;゚Д゚) み、三日かけて読んでくださったとは…!嬉しいやら恐縮やら。アワワ。過剰摂取は危険デース。
>ぜひとも最後までお付き合いさせて頂きます!!
………最後というか、果てがもう見えません。どこまで行くのかは書いてる本人が分かりませんが、それでも宜しければお付き合いください。
>703 ナッシー様。
ありがとうございます、黄板のアレは田亀好きーな方に読んでほしかったですので、本望です。
プリントアウト…120枚……(大汗・滝汗・海汗) すごい量ですね、そんなに書いてたのか私。
奥様の体重は戻られましたか?(w
- 705 名前:石川県民 投稿日:2005/05/30(月) 10:34
- それではちょこっとだけ紺野さんのお話に参ります。
再び鯵缶です。ファンの方ごめんなさい。
- 706 名前:ノーネーム 投稿日:2005/05/30(月) 10:35
- ほてほて、廊下を歩く一人の女の子。
「よいしょ、うんしょ」
長めの髪をさらさら揺らし、掛けている黒縁眼鏡がずれて鼻眼鏡になっても、気にも止めずに、上下に腕で数冊の本を支え、ゆっくりとしながらもしっかりとした足取りのその子は、自分以外に誰も歩いていない、図書室へと続く廊下を進んでいた。
途中、左手側にある生徒会室。引き戸は閉められているが、中から何やら話し声がするので、人はいるのだろう。少女は当たり前のように生徒会室を通り過ぎ―――
パアアァァン!!
―――過ぎようとした足は、激しく勢いよく開かれた引き戸の前で止まる。目を丸くした表情で、突然開いた生徒会室の戸を見ると、開けた本人らしき金髪の背の高い少女がこちらを見ていた。
本を持ったままの少女と金髪の少女、しばし見詰め合い―――。
本を持ったままの少女は金髪の少女にくるっと体の向きをかえられ、両肩を掴まれ、生徒会室に入れられた。会室の中には椅子に座って机に頬杖をつく少女が一人。
「んぁ?ヨシコ、その子がどーしたの?」
「ごっちーん!この子を生徒会書記に任命―!」
「……はぃぃぃっ!?」
肩を掴まれたままの少女、紺野あさ美は驚いた表情のままヨシコなる少女の顔を仰いだ。
- 707 名前:ノーネーム 投稿日:2005/05/30(月) 10:35
-
***** *****
- 708 名前:ノーネーム 投稿日:2005/05/30(月) 10:35
-
でぇひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ。
間の抜けた笑い声が生徒会室前廊下に響き渡る。
「まこっちゃん、笑いすぎ」
生徒会室前掲示板を見ている二人の少女。一人はまこっちゃんと呼ばれた、今だ大口開けて笑っている小川麻琴と、そんな麻琴を拗ねた目で見ているあさ美と。
「いつまで笑ってるの」
「でひゃっひゃっひゃっ…、だぁ〜ってさ〜」
麻琴が指差す先には一枚の任命書。
- 709 名前:ノーネーム 投稿日:2005/05/30(月) 10:36
-
一年一組 紺野あさ美
右の者を生徒会書記に任命する。
生徒会
- 710 名前:ノーネーム 投稿日:2005/05/30(月) 10:36
-
「生徒会室前を歩いていたら、いきなりスカウトされて、それで本トに生徒会役員になった人なんて、なかなかいないから…」
そこまで言って再び、ひゃはひゃは、笑い出す。――あさ美は右拳を作る。
がすっ。
脇腹に右拳を叩き込む。脇腹を抑えてようやく静かになった麻琴を尻目に、あさ美は改めて任命書を見た。
「わたしなんかに…務まるのかなぁ……」
ため息と一緒に、弱音を吐き出した。
- 711 名前:ノーネーム 投稿日:2005/05/30(月) 10:36
-
***** *****
- 712 名前:ノーネーム 投稿日:2005/05/30(月) 10:37
-
ぱぁーんっ。
「ようこそ後藤生徒会へー!」
ぱちぱちぱちぱち。
「………」
あさ美は入り口で突っ立つしかなかった。
放課後、生徒会室に来るように言われ、素直にやって来て戸を開けた途端『コレ』だった。自分に向かってクラッカーを鳴らして激しく拍手する者二人、やる気なく拍手する者一人、頬杖ついてこちらを見ている者一人。
訳が分からない。
訳が分からないからただ突っ立っていると、頬杖ついた少女が、
「つーか『後藤生徒会』てなに?」
と、激しく拍手し続ける金髪に尋ねた。
「ごっちんが生徒カイチョーじゃん?だから『後藤生徒会』。そんだけ」
「なんかダサいよ、ヨシコ」
「分かりやすいからいーじゃん」
「ヤだ、格好悪い。…で、いい加減入ったら?」
最後の言葉だけ、あさ美の方を見て言った。
「あ、はい。すみません」我に返り、反射的に謝って、慌てて入る。
「…別に謝らなくたっていいけどさぁ…」
「ご、ごめんなさいっ。…あ」
言って、気付く。頬杖ついたままの少女の視線にいたたまれなくなり、あさ美は首を下げた。
- 713 名前:ノーネーム 投稿日:2005/05/30(月) 10:37
-
「はーい!埒があかないのでもう終了〜っ」
激しく拍手していたもう一人の少女が朗らかに言った。顔を上げたあさ美に笑顔を向ける。
「まずは自己紹介ね。ワタシが会計の二年三組、松浦亜弥です♪」
「一年一組、紺野あさ美です」慌てて頭を下げた。
「そう、紺ちゃん、よろしくね。そしてぇ、あそこにいるのがぁー」
亜弥の視線が、ソファに座ってやる気なく拍手していた少女に向けられる、あさ美もつられて見た。
視線に気付き、
「三年一組、藤本…美貴。副会長」ぶっきらぼうに告げると、
「My sweet darling」亜弥が付け加えた。
「亜弥ちゃん、変なこと吹き込まないの」すぐさま美貴がつっこむ。
「そして生徒会長さんのー」
つっこむ美貴をナチュラルに無視して、頬杖ついたままの少女を指した。
「ごとー。後藤真希、三年二組」
頬杖ついたまま、少女、真希は「ょろしく」と付け加えた。
「よろしく…お願いします」
頭を下げてから、改めて真希を見る。入学式や陸上記録会といった学校行事で、壇上に立つ生徒会長の姿、というものは何度も見たことあるが、こうやって間近で見たのは初めてだと思う。
なんというか…テレビで見ていた人物が、実際に自分の前に立っているような、そんな違和感を覚えた。
- 714 名前:ノーネーム 投稿日:2005/05/30(月) 10:37
-
肩に、手を回される。
「俺を差し置いて、ごっちんに見惚れているのかい?」
肩の手と、キザな口調に驚いて顔を上げると、いつの間に側にいたのか、いきなり自分を書記に任命したあの金髪少女が立っていた。
キザ男のふりをやめて、それでも様になる笑みを浮かべる。
「ウチは三年四組吉澤ひとみ」
「あ・よろしくおねが…え?」
下げかけた頭が途中で止まる。
「吉澤さんて…あのフットサル部の吉澤さんですか?」
――あの全国大会優勝に導いた、フットサル部部長の吉澤さん――?
「そう。よく知ってんじゃん」ひとみは器用に片眉を上げた。
まこっちゃんが騒いでましたので、そんな言葉は言わずにおいていると、「よっすぃのこと知らない子のほうが珍しいよ」と亜弥の声が入った。
「吉澤さん、生徒会に入ってらしたのですか…」
フットサル部部長との掛け持ちだなんてすごいなぁ、と感心していると。
「ウチは部外者」
「…え?」
あっけらかんと、意外な言葉が返ってきた。
「部外者はいちゃいけない、って規則はないし」
――まぁ、そうですけど。
――でも、この場を一番仕切ってますけど。
- 715 名前:ノーネーム 投稿日:2005/05/30(月) 10:38
-
――それに。
「…よかったのでしょうか」
「ん?なにが?」
「…わたしなんか、いれちゃって。みなさんの…足手まといになるだけな気がします……」
ひとみは一度真希のほうを見て―――再びあさ美を見た。
「顔が良ければ、それでオッケー」
ご丁寧に親指と人差し指でマルを作ったひとみに、益々困惑の表情を見せた。
「それでしたら尚更わたしなん…っ」
消極的に反論しかけたあさ美の肩に、手が置かれた。振り向くと亜弥が真っ直ぐな瞳を向けていた。
「紺ちゃん。“わたしなんか”って言わずに、一緒にやっていこう?足手まとい上等、最初から完璧にやれる人なんていないんだから。できっこない、とかの決めつけはよくないよ」
「…………はい…」
あさ美は、部屋にいる人たちを見渡して、
「よろしく、おねがいします」
改めて、頭を下げた。
- 716 名前:石川県民 投稿日:2005/05/30(月) 10:39
- 先ずはこんだけ。
それでは。 拝。
- 717 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 14:16
- おぉっ、待ちに待った番外編だぁ
やっぱ石川県民さんの作品は惹きつけられますね。
続き楽しみにしてます。
- 718 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/30(月) 20:42
- 更新お疲れさまです。 作者様の作品待ちわびてました。 今度も何か気になるお話です。 次回更新待ってます。
- 719 名前:石川県民 投稿日:2005/06/25(土) 23:00
- ごめんなさい・・・普通に書けない日々をすごしております。。。
とりあえず…本ッ当に恐縮すぎますが、ちょこっとだけ載せておきます。。。
717>名無飼育さんサマ。
ありがとうございます。
惹きつけられる、だなんてあら恥ずかしや。
728>通りすがりの者サマ。
ごめんなさい、これからもかなり待ちわびさせてしまいます。。。
- 720 名前:ノーネーム 投稿日:2005/06/25(土) 23:00
-
「それでは終了します」
真希の一言で空き教室に居た者全員席を立ち、礼をした。あさ美も慌てたせいでヒザを机にぶつけながらも立ち、頭を下げた。
少しだけ場の空気が緩んだが、昼休み終了五分前のチャイムが鳴り響くと、皆慌しく教室を出始める。
対して、あさ美はふにゃふにゃ椅子に座って頬を机にくっつけた。
「あぁ…今日も……」
この世の終わりとばかりの悲愴な声を出す。
――今日も、お弁当が半分しか食べれなかった。
二日連続の昼休みに行われた部活会議。
当然あさ美も生徒会書記として出席しなければならない。
それは分かってる。しないといけないことだとは。
――でも、頭が納得しても、胃は納得してくれない。
- 721 名前:ノーネーム 投稿日:2005/06/25(土) 23:01
-
「紺ちゃーん?」
ゆさゆさ揺られ、顔を上げると、美貴と腕を絡ませた亜弥がいた。
「もうみんな、出ちゃったよ」
見回すと、亜弥の言葉通り、教室にいた各部長は、ついでに真希の姿もなかった。
「あ、ごめんなさい」
慌てて立ち上がり、再びヒザを机にぶつけた。
「紺ちゃん。あーん」
反射的に口を開けると、なにかを放り込まれた。舌で触れる。――固くて甘い。
「一粒300メートル。あげる」
渡されたそれは、お馴染みの人物が箱に描かれたキャラメル。
「ありふぁとございまふ」
「放課後、生徒会室に集合だから」
「はい」
「つうか、亜弥ちゃん離して。美貴、次は移動教室なんだから」
「なによ〜腕組みたくないのぉ?」
「なんでそうなるの」
口で説得するのを諦めたのか、亜弥をずるずる引っ張りながら戸まで歩く美貴。当の亜弥は、
「じゃーね♪」ひらひら、あさ美に手を振った。
のんびり手を振り返し、さきほどもらったキャラメルの箱を見る。これで飢えを凌げということか。
小さな頃、おまけで付いてるオモチャをなかなか捨てれなかったっけ。そう思い出しながら、もう一つ、口に放り入れた。
ゆっくり、ハート形のキャラメルが溶けていく。
昼休み終了のチャイムが鳴った。
「いけない!」
我に返り、慌てて教室を飛び出した。
- 722 名前:ノーネーム 投稿日:2005/06/25(土) 23:02
-
放課後。
そろり、生徒会室の戸を開けると、まだ誰もいなかった。あさ美は無意識に止めていた息を吐いて中に入る。
ソファに座って他の役員が来るのを待つ。ふ、と思い立って、カバンから一枚のわら半紙を取り出した。
HR時に渡された希望進路調査表。進学するなら四大か短大、専門学校か、はたまた就職するのか、大まかな感じでいいから考えておくように、と言われたもの。
今のうちに考えておけと言われても…――これが正直なところだった。
- 723 名前:ノーネーム 投稿日:2005/06/25(土) 23:02
-
わら半紙を眺めていると、誰かが戸を開けた。振り向くと、
「コンコン、早いじゃん」
両手にファイルを抱えた、それでもポーズをきめているひとみが足で戸を開けていた。
ひとみからファイルを半分奪う。
「さんきゅ、取り敢えずそこの机に置いておこうか」
「はい」
机に積み上げると、ひとみが「あ゛〜」と奇声を上げて肩を回した。
「ったくごっちんは人使い荒いっつーの!」
「あの……前々から疑問に思っていたのですが…」
「なんだいベイベー」
「何故吉澤さんは、役員でもないのに、こうやって手伝ったりしてるのですか?」
ひとみは暫く「ん〜」と唸ってから口を開いた。
「単に、生徒会の人数が少ないから雑用を手伝ってるのもあるし、マブダチのごっちんが、容赦なくこき使ってる、ていうのもあるけどさ」
一度言葉を切り、考え、…………口をむにゃむにゃさせた。
「ま、ウチにも色々あるんだ」と締めた。
「色々ですか」
「そう、色々」
「そうですか…」
- 724 名前:ノーネーム 投稿日:2005/06/25(土) 23:02
-
ひとみは器用に片眉を上げながらあさ美に問う。
「コンコン、もしかしてまだウチが勝手に役員にしたこと怒ってる?」
「いえ。そういう訳では――」
ないですけど。その言葉は出てこなかった。――ひとみの言う通り、まだ納得しきれていないのかも、と考える自分がいたから。
考え込み始めたあさ美の頭に、軽く手が乗せられた。
「言っとくけどウチは推薦しただけだよ?正式に書記に任命したのは ごっちんなんだから、気になるようだったら聞いてみたら?」
「…そうですね、はい」
控え目に笑って頷くと、ひとみも様になる笑みを返した。
「いい子だねー」
がばちょっ、とあさ美に抱きついた。
戸が開く。ひとみと、その腕の中のあさ美、一緒に振り向いた。
「あ・よっちゃんが紺ちゃんを襲ってる」
それが、戸を開けた美貴の第一声だった。
- 725 名前:石川県民 投稿日:2005/06/25(土) 23:03
- こんだけです、少量ですみません。
それでは。拝。
- 726 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/26(日) 01:09
- お忙しいでしょうが・・
続きが・・気になりまくりです。
- 727 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/26(日) 11:46
- 少量更新お疲れさまです。お忙しい中、更新をありがとうございますm(__)m よっすぃーの言葉が少し気掛かりですね。 次回更新マッタリ待ってます。
- 728 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/10(日) 13:08
- こちらでは初レスです。既に全部の話を読んでいますが、どれも大好きです。「ノーネーム」の続きも気になります。
次回の更新楽しみにしてます〜。
- 729 名前:石川県民 投稿日:2005/07/20(水) 23:26
- >>726-728
ごめんなさい・ごめんなさい・ごめんなさい・ごめんなさい・ごめんなさい・ごめんなさい、ありがとうございます。
石川県民です。大ッ変に申し訳ございません。
諸事情に因り、当分小説が書けなくなりました。
事情その@ ノートパソが亡くなりました(無くなった、ではないんです)飼育に掲載・未掲載してたもの全て消えました。
事情そのA ↑の翌日にサイフを落としました(更新の99%をネカフェでしているので、先立つものがないと更新できないのです)
そして、電波塔・ノーネームの鯵缶シリーズ(勝手に命名)、登場人物を増やすたびに話が膨れ上がる状態です。
ノーネーム内の吉澤さんの言う「色々」はこの話の中では明かされませんし(ヲイ)
「考えてない」と言ってた紺野生徒会の副会長と書紀の話も、結局考えてますし(こらっ)
まことに勝手ですが、改めて仕切り直させてくださいませ。
- 730 名前:石川県民 投稿日:2005/07/20(水) 23:35
- 保全等は結構です、倉庫に逝ったら逝ったでその時はまた別の場所で披露するつもりです。
とりあえず今は、黄板で話してた小高を、鉛筆とノートで書き溜めておきます。見つけたら読んでやってくださいませ。
こちらは、早くても年末年始になります(遅ッ)
長編用・短編用・ほいく・黒以外の、その時に空いている板にうpさせていただきます。
タイトルは「One_day_I_found_you.Tonight_I_miss_you.」です。
それでは。拝。
- 731 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/25(月) 17:26
- 作者様に幸あることを祈ってます
- 732 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/09(火) 00:27
- パソが無いのは自分も同じですし、100%更新はネットカフェです(涙 いつか拝見が出来るコトを願ってます。
- 733 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 08:23
- シリアスからギャグありで面白かったです
小高はもとより、作者様のおかげで田亀にハマりました
また作者様が復帰されることを願っておりますm(__)m
- 734 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/29(月) 14:19
- 石川県民さん、頑張って下さい。
気長に更新待たせていただきますね。
- 735 名前:なは 投稿日:2005/12/01(木) 19:25
- アゲ
- 736 名前:祐 投稿日:2005/12/03(土) 06:56
- ↑上げるな更新したかと思うだろ。
作者様、楽しみに待ってるんで気が向いたときにでも更新してくれると嬉しいでつ(つд;*)
- 737 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:38
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 738 名前:石川県民 投稿日:2005/12/14(水) 00:54
- お久しぶりでございます。オンライン上でもオフライン上でも色々あった石川県民です。
>>731-736の方々へ。
本当にすいませんでした。
>>737
わざわざご報告どもです。
さて連載再開!と思われた方もいいらっしゃるかもしれませんが、ごめんなさい、そうではありません。
どーにもこーにも登場人物サマたちが動いてくれませんので、コロリとまったく違う話を書きます。
以前黄板で田亀を書いたときに、レスで覚えていた方がいらっしゃったので、調子にのって書いてみました。
・・・・・・・・・・・・7419サマ、見てますか?(笑)
日本昔話_一寸れいな
- 739 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 00:55
- むかーしむか〜し、京の都から思いっきり南に離れた村に、一人の女の子がありました。名前はれいなといい、いつでも大胆不敵な笑顔でした。
「れいなに任せんしゃ〜い!」これが口癖でした。
そんなれいなは、いつも村の子供たちのリーダー的存在だったのです。
ところがっ。元気と度胸は誰にも負けないほどありますが、れいなはなんと大人の小指ほどの背丈しかなかったのです。
何年経っても、人一倍肉を食べても、ちっとも大きくなりませんでした。
それでも。れいなは村の誰よりも小さかったのですが、村の誰よりもすくすくと元気に育ってゆきました。
- 740 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 00:55
-
ある日のことです。
「れな、都に行きたか」
突然、両親にそう告げました。
父親も母親も、目を丸くして、いきなりどげんしたと、と尋ねます。
「いきなりじゃなかと。ずっと考えとったけん、都に行って偉い人にお仕えするっちゃ!」
れいなは都へ行くと言い出したら、両親がどれだけ反対しても、頑として聞き入れません。
「…しょうがなか、れなの好きにするがよかと」
しぶしぶ両親が折れ、れいなのために針の刀に麦わらの鞘、そしてお椀の舟に箸の櫂を用意したのでした。
「んじゃ。お父しゃんお母しゃん、行ってくるっちゃ!」
村のすぐ側を流れている小川にお椀の舟を着水させて、れいなは元気に舟を漕ぎ出しました。
「れ〜な〜、体に気をつけるっちゃよ〜」
「いつでも帰ってきぃしゃい〜」
両親の声を背に、れいなはすいすい小川を下っていくのでした…。
「だ〜〜〜っ!ぶつかる!!」
「食うな!れなはエサじゃなかと!」
「目がま〜わ〜る〜〜ぅ」
れいなの乗ったお椀の舟は、何度も岩にぶつかりそうになったり、タコに絡まれそうになったり、鳴門海峡名物の渦潮に巻き込まれそうになりましたが、それでもれいなは、えっちらおっちら、めげずに舟を漕ぎ続けました。
- 741 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 00:56
- 地元を離れて何ヶ月経ったでしょうか。
「…着いたっちゃ!」
地元では見ることの無かった華美で豪奢な屋敷が連なっているのが見えてきました。人も比べ物にならないほど大勢歩いています。
れいなは逸る気持ちを必死に抑えながらお椀の舟を陸に上げて脇に箸の櫂を置きました。そして(れいななりに)大またで大通りを歩き、特に目立ったお屋敷の中で一番立派なお屋敷の前で足を止めました。
「よしっ、ここにお仕えするばい!たぁのも〜〜っ」
そこは藤本の大尽という方のお屋敷だったのです。門番はれいなのあまりの小ささに目を丸くし、面白いもの好きなお大尽に会わせてあげました。
「れいなって言いますばい!藤本のお大尽さまにお仕えしたいっちゃ!」
「美貴に仕えたいの?ていうかありえない小ささだよね、面白いね、いいよ採用してあげる」
あっさり快諾しました。
- 742 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 00:56
-
さて、このお大尽には奥方の亜弥、そして二人の娘がおりました。長女が絵里姫、次女がさゆ姫と言い、れいなは絵里姫のほうにお仕えすることになったのです。
初めてお会いしたとき、絵里姫は襖の後ろに隠れながらおずおずと顔を半分出しました。
(――おうっ)心の中でれいなは呻きます。
とすっ、胸に矢が刺さる気分を味わったのです。
そんなれいなの心中を知る由もなく、ただれいなを細い目を広げながら見ていた絵里姫は我に返って安心したかのように、
「れいな、よろしくね」襖から顔を全部出して微笑みました。
(――あうっ)二本目の矢が胸に刺さりました。
「よ、よろしくお願いいたしますばい…」
桃色な混乱を努めて表に出さないようにしながら、れいなは頭を下げました。
こうしてれいなは、絵里姫のもとで、立派にお仕えできるようにと、読み書きや剣の修行に励みました。絵里姫は絵里姫で「ちっちゃくてかわいい〜♪」とかいってれいなを撫でくり回したり(その間れいなは顔も体も真っ赤にさせてがちがちに固まっています)手の平に乗せたり、さゆ姫と可愛い対決をしたりと、何を考えてるのか良く分からない表情でふにゃふにゃ笑っているのでした。
そうしてまたたく間に幾年かが過ぎました。
- 743 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 00:57
- ある年の春のことです。藤本のお大尽家は花見にいくことになりました。大尽の美貴、奥方の亜弥、絵里とさゆの二人の姫、そしてれいながお供として付いていきました。
お大尽家族は牛車の中、れいなだけが牛車を引く牛の頭に乗っかりながら警護にあたります。
「牛〜、サボって道草食ったりしたら、れいながお前を焼いて食うけんね〜。…それにしても良い天気たいね、絶好の花見日和ばい」
柔らかな風が木々を優しく揺らすのを見ていると、牛車の中から「れいなー、牛を焼くときは美貴も呼びなよ〜」なんてお大尽の声が聞こえてきます。れいながのんびりした気持ちで空を見上げると――、
「……ん?」
禍禍しい黒雲が空を覆い始めていたのです。
「牛、ちょっと止まりんしゃい」
「れいな、なにかあった?」
「…どうしたのれいな?」
眉間にシワを寄せて牛を止めさせると、牛車からお大尽と絵里姫の不安げな声が聞こえてきます。亜弥とさゆ姫の声は聞こえてきません。毎回のようにうっとりと手鏡を覗き込んでいるのでしょう。
「お大尽しゃま、姫しゃま、牛車からは出んといてくだしゃい」
鞘に手を伸ばし、柄に手をかけていつでも刀を抜き出せる体勢をとった、その時です。
- 744 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 00:57
- 空を完全に覆った黒雲が、ゴロゴロと雷音を鳴らし、一条の稲光が牛車の手前に落ちました。土煙が舞う中でれいなは、煙の剥こう側にうっすらと大きな影を見ました。
「ごははははははっ!!」
腹の底に響く声で大きな影、高さも幅も牛車の倍はあろうかと思われる黒鬼が、雄叫びを上げました。
「これはついておる。貴族の車が供を連れずにおるとは」
「こら鬼―!供はここにおるばい!!」
れいなが牛の頭上でぴょんこぴょんこと飛び跳ねながら自己主張します。れいなに気付いた黒鬼は、ですが鼻息を一吹きさせただけにすぎませんでした。
「おい豆ツブ、姫と牛を置いて立ち去れ。わしのランチにするんじゃからな」
「わざわざランチだなんて言葉を使うんじゃなかと。姫しゃまも牛も渡さんばい」
ちゃきーん、刀を抜き出して勇ましく黒鬼と対峙します。が・体型差の悲しさよ、黒鬼はれいなを馬鹿にした表情で笑いながら摘み上げました。
「うるさい豆ツブめ、それならお前から先に食ろうてやるわ。後でわしの腹の中で姫と牛に会えば良かろうが」
あっけなくれいなを飲み込んだのです。
「あぁ!れいなっ」御簾の隙間から覗いていた絵里姫は悲痛な声を上げました。
「さて五月蝿いのもいなくなったことだし、のんびりとランチにするかのう」
黒鬼はゆっくりと牛車に近づき始めました。
- 745 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 00:58
-
さて飲み込まれたれいなはといいますと。
「黒鬼め、よく噛んで物を食えと教わらんかったみたいばいね…」
胃袋の中で呟いておりました。
丸呑みされたれいなは胃液の海に溺れることもなく、黒鬼に食べられたらしき動物の骨に上手く着地して、カスリ傷一つ負っていませんでした。
「ぐずぐずしてる場合じゃなか、こんな臭い胃袋の中で姫しゃまとお会いしたくなかと」
早速針の刀を構え直し、ちくちく胃壁に突き刺しました。
- 746 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 00:58
-
「ぐあはっはっはっはっは……ん?――痛いっ!」
黒鬼は牛に伸ばしていた手を止めて、地面を転げ回りました。
「いだだだだだだだだだだだ!!あれ?痛くないかも?あ゛っ!!やっぱり痛い!いだだだだだだだだ!!」
『どうだ参ったか!』黒鬼の中かられいなの声が聞こえます。
「参った…参りました……オシオキハゴカンベンクダサイ」
『もう都には来ないか!』
「キマセンキマセンチカヅキマセン」
『よ〜し。それなら舌を出しんしゃい』
べっ、と黒鬼が舌を出すと、べっ、とれいなが出てきました。その姿をみて、御簾から外を見ていたお大尽と絵里姫の二人は歓声を上げてハイタッチし合いました。
お大尽も姫も牛も無事なのを確認してから、れいなは黒鬼を見上げながら叫びました。
「再び現れたら、そん時は覚悟しんしゃい!!二度と乱暴なことをしちゃあかんとよ!」
「分かりました〜。え〜ん胃腸科に行ってやる〜〜」
黒鬼は泣きながら逃げていきました。
「れいな、無事だったか!」
「大丈夫れいな!?」
最初にお大尽が、次に絵里姫が御簾から出てきて、れいなに駆け寄りました。
「なに?なにかあったの?」
「どうしたの〜?」
そして、車の中でお大尽と絵里姫がハイタッチしたときに初めて鏡から顔を上げて異変に気付いた奥方とさゆ姫が間延びした声で不思議そうに出てきました。
「お大尽しゃま、奥方しゃま、お姫しゃま方、ご無事でなによりですっちゃ」
「れいなも無事でよかった、鬼に飲み込まれたときはどうしようかと思った・・・・・・っ」
絵里姫はれいなを両手で掬い上げて抱き締めます。
「ぉう、お、お、お、お姫しゃま・・・・・・」
梅干しにもサクランボにも剣玉の玉にも負けないくらい、れいなの全身は真っ赤っ赤です。
- 747 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 00:59
- 「あ・なんか落ちてる。さっきの鬼が落としたのかな」
お大尽が何かに気付き、拾い上げたそれは木で出来た小さな槌でした。
「何でも好きな願い事が三つだけ叶う、打出の小槌ですね」
「お姫しゃま、よくご存知ですね」
「だって柄の部分にそう書いてあるもの」
ほら、と指すところには確かにご丁寧にも『これは何でも好きな願い事が三つだけ叶う打出の小槌です』と書いてあります。さらに反対側には『使い方』まで書いてありました。
「えっと・・・、『小槌を三回上下に振って、それから願い事を三つ言ってください。それだけであ〜んな願いもこ〜んな願いも即叶えます』だって。
これは鬼を追い払ったれいなの物だから、れいなのお願い事に使わなくっちゃね」
なにがいい?とニコニコしながら聞いてくる絵里姫に、れいなは期待に目を輝かせました。
「よ、よかとですと!?それでしたら、れいなはおっきくなりたいですっちゃ!」
元気よく答えながら、わくわくと絵里姫を見上げます。絵里姫は「えい・えい・えい」と三回小槌を振って―――、
- 748 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 01:00
- 「れい………「さゆはおっきな鏡が欲しいーー!」
ボンッ!
「あ、ママも大きな鏡が欲しい」
ボンッ!!
「美貴、焼肉食べたい。肉・肉」
ボボンッ!
もくもくと白い煙を上げて現れたものは、姿見が二つと、すでにいい感じに肉が焼けたバーベキューセットでした。
「なの………」
「うのおぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!?」
「「「やったーー!」」」
いまいち事態が飲み込めない絵里姫と変な声を上げるれいな、そして歓声を上げる三人。
「外で見るさゆもやっぱり可愛いの♪」
「ずっと手鏡だけで不満だったから、ずっと欲しかったんだよね♪」
「さっきからすっごい肉の気分だったんだよね、ありがとれいな♪」
「アハハ……ヨカデスッチャ、ミナシャマニヨロコンデイタダケルノナラレイナモウレシカトデス………」
全然嬉しくなさそうな声で _| ̄|○ な格好をしているれいなを、絵里姫が頭を撫でて慰めました。
その後れいながお大尽の美貴と争うように肉を食いまくったのは言うまでもありません。
- 749 名前:日本昔話_一寸れいな 投稿日:2005/12/14(水) 01:00
-
結局。――その後もれいなは小さいままでしたが、絵里姫のお側でそこそこ幸せに暮らしたそーですな。
それなりにめでたしめでたし。
- 750 名前:石川県民 投稿日:2005/12/14(水) 01:04
- このネタは、確か亀井さんの写真集を見ながら「・・・髪の長い亀井さんて十二単とか似合ういかも・・・」
とか思ったことが始まりだったよーな。
後は「手乗りれいな、萌え」とか考えてたので。うん。変態ですな自分。
- 751 名前:石川県民 投稿日:2005/12/14(水) 01:07
- 次もなにかネタが思いつき次第、書いていきます。当分読み切りにします。
『ノーネーム』を待ち望んでいた方がいらっしゃいましたら本当にゴメンナサイ。
次回は多分現代アンリアルな読み切りの話だと思います。
それでは。拝。
- 752 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/14(水) 09:28
- 思わず「キター!!」と絶叫しそうになりました。おかえりなさいませ。……ああ、生きててよかった(w
コメディーチックでかなり笑いました。>>750はかなり納得です。萌えすぎて壊れそうになりました。
師匠が復帰されて、自分の中で「やる気メーター」がぐんぐん上昇するのがわかります(w
- 753 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/12/14(水) 23:02
- 作者様お待ちしておりましたw
更新お疲れ様です。
シリーズ到来ですね。
弁がハマりますよ、ごちそうさまです。
次回更新待ってます。
- 754 名前:7419 投稿日:2005/12/15(木) 17:59
- お久しぶりです。
ちゃっかり見ちゃいましたよw
そしてやっぱり好きです、昔話シリーズ。
途中まで「あれっ、結構普通かな?」と思ってたら、
最後にドンと来ましたね。
また笑わせていただきました。
次回も期待してますよ。
- 755 名前:石川県民 投稿日:2006/01/25(水) 20:23
- お久しぶりでございます。先ずは返レスをば…。
752>駆け出し作者サマ。
ありがとうございます。大抵私の書くものなんてコメディーかシリアスに大別できます。
>>750に同意されたそんなアナタは立派に変態の仲間入りでございます♪
753>通りすがちの者サマ。
ありがとうございます。今、訛ってない田中さんが出る話を下書きしてる最中ですので、その反動で「どこの方言やねん」とツッこめるくらいに訛らせてしまいました☆
754>7419サマ。
お久しぶりです&ありがとうござます。
普通に書いてもつまらないのでヒネてみました。お口にあったみたいでなによりです。
- 756 名前:石川県民 投稿日:2006/01/25(水) 20:24
- さて、読んでる皆様にはどーでもいいことですが、あんまり近くない近況をば。
石川県民、実は秋に自動普通二輪の免許を取りまして。11月末には待望のバイクも購入いたしました。それからしばらくして自分の体のサイズに合うバイクウェアがないので代わりにスノーボードウェアを購入いたしました。よっしゃこれで冬のツーリングができる!と嬉々したその2日後―――。
こんな時期には珍しい大雪です。溶けた、と思えばまた降り積もる、の繰り返しです……。皆様の地域ではいかがでしょうか?無事がなければ何よりですが。
まあ、雪に対して怒ってもしゃーないので、発想を転換してみました。つまり「この大雪をネタにしてなにか書いてやれ」と。
ネタを思いついてから書き上げるのに遅くなりましたが、そんなわけで本日の更新です。
- 757 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:24
- 十二月。そう、それは空から白い贈り物が降る季節―――。………って。
「……降り過ぎだってば」
カーテンの隙間から外を見て、呆然と呟いた。
- 758 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:25
-
ちっぽけな、幸せな雪つぶ
- 759 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:25
-
カーテンの隙間から見た世界は、全てが雪に覆われていた。いつもなら当たり前に見えていた一軒屋も木造アパートも角のラーメン屋も全てが見えない。騒々しい日常の世界が一晩で白銀の世界へと変化していた。
この地域でこんな十二月半ばに雪がここまで降るなんて、本当に珍しい。白い息を吐きながらテレビを付けようかと考えたけれど、やっぱり止めて、カーテンを閉めてから再びベッドに潜り込んだ。さっきまで寝ていた布団は心地良い暖かさを含んでいて、冷えた体を優しく包み込んでくれる。
「こんな日に学校なんて行く気しないっての。今日は休み……んぁ〜…」
勝手に休校にして、アタシは再び眠りの世界に戻っていった。
- 760 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:25
-
…………。
一度目を開け、それからもう一度目を閉じて……しぱしぱ目を瞬かせた。手探りで携帯電話を掴んで現在の時刻を表示させる。AM00:10、という表示に、わお、と呟く。
上体を起こしてぷるぷる頭を振って、ベッドから抜け出してみる。布団から出た足首を、冷気が強く掴んだ。
「さむ……」エアコンをオンにしてからパジャマの上からジャンパーを羽織った。
暖かい風が部屋に吹く中、ベランダに近づいた。なんとなく、外の景色がどうなったのかを見たくて、カーテンを開けて錠を開ける。
「んあ……」思わず、白い息と一緒に声が漏れる。それくらいにいつもの景色とはかけ離れていたから。雪は止んでいたけれど、薄い闇色の空の下に広がるものは白い雪しかなかったから。月光やぽつぽつと立っている街灯の光を雪が反射しているのか、いつもより夜目が利いていた。まるで雪の砂漠のような景色には、世界中にある物全てが冬眠したかのような静寂が―――、
……さく、さく。
―――静寂が、来ているわけじゃなかったみたい。手すりに手をかけて下を覗き込んでみると、マンションの出入り口、同じマンションに住むどっかの子どもが作ったらしき雪ダルマの側で、蹲ってなにか探している女の子がいた。
……アタシよりは少し年下かな、長い黒髪を纏めたりせずにそのまま流している。――ってあの子白いワンピース以外なにも着てなくない!?帽子や手袋も付けてないどころか肩も見えてるじゃん!
「ねえ、ちょっとーっ」
周囲に迷惑ならない程度に、でもあの子に聞こえる位の声で呼びかける。
「そんなカッコで寒くないのー?」
その子は顔を跳ね上げさせて、声をかけられたことに驚いた様子でこっちを見上げた。
「ていうか、こんな時間になにしてんのさ?」
「…………っ」
怯えた表情でアタシを見ていたと思うと――――。
「んあっ!?こらっ!」
ぴゅ〜と一目散に走って逃げていった。
- 761 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:26
-
「なんて子だよ全く……」ぶつぶつ言いながら部屋に戻る。
すっかり冷えた体を布団に包ませて、ごろんとベッドに横になった。
「人が心配してあげたっていうのにさー」
オンにしたままのエアコンからの温風に髪を撫でられていると、とろとろと睡魔が体に入ってくる。
「……必死でなにかを探してたよねぇ」
ゆっくり目をつぶる。瞼の裏にはっきり映る、さっきの子の大きな黒い瞳を震わせたタレ目。触り心地の良さそうなぷくっとしたほっぺた。
「結構、可愛かったよね……」
――そこまで考えたところで意識はオフになった。
「Zzzz……」
- 762 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:26
-
* * * * *
- 763 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:26
-
……さく、さく。
次の日の同時刻。窓を少しだけ開けて耳をそばだてる。今夜も聞こえる雪に触れる音。こっそりベランダに出て下を見ると、やっぱり昨夜のあの子が雪ダルマのすぐ側で一心不乱に雪を掻いていた。
昨日と変わらず今日も一日中雪が舞い降りてきていた(ちなみに今日も自主休校)。さらっさらの粉雪は、白く雪化粧を施された街に更に厚化粧を重ねている。
「ん〜」こき・こき、首を鳴らして一考してみる。
「外は寒いし、ちょびっとだけど雪も降ってるんだから、寝たほうが利口だよねぇ……わざわざ外に出るなんて馬鹿っていうかねぇ」
――でも、気になる。こんな真夜中に二晩続けて薄手で雪を掻くあの子が。
短く息を吐く。馬鹿になってみよう、そう結論を出してハンガーにかけていたコートとマフラーに手を伸ばした。
- 764 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:27
-
エレベーターでエントランスまで降りて、脇目も振らずに下を向いているその子に、足音を忍ばせて近づく。
「アンタ昨日もいたよね」
突然声をかけられてその子が予想通りにビビって勢いよく顔を上げた隙に、側にしゃがみこむ。
「その格好、見ていて寒いよ。しかも真夜中だから不審極まりないっての」その子が雪を掻いていたところを同じように掻いてみる。……あ、手袋忘れてた。まぁいっか。
「ぁの……えと、」女の子はこの状況が上手く理解できなくて意味不明な言葉を紡いでいる。
「探し物?」質問しながらも、手は休めず雪を掻く。
「はい。……あ」アタシの問いに素直に頷いてから状況を理解したらしい。
「なら手伝ってあげる。なにを落としたのさ」
「……その、指輪、を。……大事な物です、ので」
「その指輪、大事な人からもらった物?」
「えぇ、はい。そんなところです……」
ふーーーん、てことは恋人からもらったものかな。お熱いことで。
アタシが雪を掻いていると、おずおずといった感じにその子も近くを掻き始めた。さく・さく・さく・さく。アタシたちの雪を掻く音だけが寒々しいくらいに大きく響く。
「でもさ、なんでわざわざこんな真夜中に探すのさ」聴覚からの寒さに耐え切れずに、再び質問をする。
「地上に降りることのできるのがこの時間なのです……」
……?親が厳しくて自由に外出もできないってこと?
「寒くないの?」
「えっと……その、わ・たし、暑がり……なんです。で。ですので大丈夫!……です」
えらいしどろもどろだぁねえ。――まあいいけどさ。
「アタシの名前は真希、後藤真希。アンタは?」
「……あさ美、と申します」
あさ美、ね。――変わった形で出会ったこの子の名前を脳内にインプットする。
- 765 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:27
- 「ね、あさ美。いつ頃に落としたか覚えてないの?」
「……昨日の午前中ではないかと自分で見当をつけていますが……」
「ってことはもっと下に埋まってる可能性が高いよね。……よしっ」気合を充填し直して、もっと深く掘る。
さく・さく・ざく・ざく。指を使っての慎重な発掘が続く。時折かじかむ指に息を吐きかけて、昨日の朝の地層ならぬ雪層まで掘っていった。
「あの……」
「んあ?」
「ごめん、なさい……ご迷惑おかけしまして……」
「いーのいーの。アタシが自分の意思でやってることなんだから」
「ご・後藤さんは、お優しいですね」
「んぁ、そんなこと初めて言われたよ」
変わってるとはよく言われるけどね、そう付け加えたら、小さく口を笑みの形にしてくれた。
- 766 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:28
-
すっかり恐縮しきったあさ美の隣で、アタシは困り果てていた。
「……見つからない」
――ホントにこの辺りでに落としたの?そうあさ美に尋ねると「絶対ここです!」なんて断言して、それから我に返るように縮こまっちゃうし。
ぽりぽり頭を掻きながら夜空を仰ぎ見る。もちろん星も月も見えなくて、ブ厚い雲から雪がひらひら降ってきて、鼻の頭に乗ったと思ったらふわっと溶けた。その瞬間。
ぴこーん!頭の中で電球が光った。
「もしかして……」
『それ』を見据えて、ゆっくり立ち上がる。
「雪が降り出したのは一昨日の夜からだから……」
『それ』、雪ダルマに手をかけて。
「あの、後藤さん!?」
「作った子たちごめんね!!」
ドタマを掴んで横に力をかける。雪ダルマはゆっくり倒れて……ばかっ!とドタマが真っ二つになった。
「あぁぁぁぁ……」やや青ざめた顔で割れたドタマを見つめるあさ美。
そんなあさ美を気にせず、再びしゃがんでドタマ内部を探る。
「……んあっ!」
気合の声と共に雪の中から抜いた掌の中には――確かに銀色の小さな輪っか、指輪が掴まれていた。
- 767 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:28
-
「これ?」
確認として見せると、あさ美は激しく首を上下に振る。――気持ち幅広い作りの輪は滑らかな曲線を描いていて、小さな石が一つだけ上品に埋め込まれたもの。
渡すと、あさ美は両手で受け取り胸の辺りで大事そうに握り締めた。
「ありがとうございます……っ!」
うわ。
うわっ。
うわっ!
目尻に少しだけ涙を浮かべながらの最上級の笑顔に心臓が不規則に脈打った。あーこの子ずっと俯いてたし必死な顔ばっかりだったけれど、こんな風に笑えるんだぁ。
指輪を左の中指に嵌めたあさ美、何気なくその手を取った。――って。
「冷たッ!」
まるで雪のように冷たい手に思わず声を上げる。勢いで腕にも触れる。
「んあっ!!さっき大丈夫とか言ってたくせに全然大丈夫じゃないじゃん!腕もカチコチに冷たいじゃん!」
深夜迷惑もなんのそのな音量で叫ぶ。
あさ美の雪のような手を引っ張って速攻でマンションに入る。
「ウチに来て暖まっていきなよ」エレベータに押し込めながらボタンを押す。
自分の部屋まで有無を言わせず連れてこられたあさ美は、当然のようにきょろきょろ左右を見回しながら狼狽えている。
「一人暮しだから余計な気ぃ回さなくていーよ」
コートとマフラーをソファに放り投げながら、所在無さ気なあさ美に声をかける。ついでにピピッと設定温度を上げながらエアコンをオンにした。
「あっと……え……」
くるくる回りながらオロオロしてるあさ美をリビングに残したまんま、キッチンに向かう。バカッとココアの缶を開けて山盛り一杯鍋に取り出す。それを牛乳と練ってペースト状になったところで火にかけて牛乳で伸ばし、沸騰直前で火からおろした。マグカップに注いで、ついでにグランマニエルを数滴たらしておこうっと。
出来立てのホットココアの入ったマグカップを、ほい、と差し出した。
「熱いから気をつけてね〜」
「あ・ありがとうござ……」
つ、とあさ美が差し出した手が――――マグカップに触れた途端、ゆるりと溶けた。
「んあーーーッッ?」
アタシの絶叫は、最高潮で近所迷惑に響いた。
- 768 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:29
-
* * * * *
- 769 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:29
-
さっきつけたエアコンを、も一度オフにして。ソファに放り投げたコートをも一度着込んで。まだ乱れ打ちしている心臓を体に収めながら、ソファの上でわざわざ体育座りをする。……全開にしたベランダを気にしながら、それでも視線を向けれない状況で。
「んぁ……どう?」どきどきしながら恐る恐る声をかける。
「んー……もう大丈夫、です。はい」ベランダからのんびりとした声。
指を――ちゃんと十本ある両の指を、ぐっ・ぱー、しながらあさ美が戻ってきた。体育座りをやめて、向かいに正座で座ったあさ美を見つめる。……蛍光灯の下で見ても、人間にしか見えないのになぁ。
「改めまして自己紹介させていただきます。――雪の女王様より、この辺り一帯の雪の管理を仰せつかった雪の精の、あさ美と申します」
「……人間で大学生の、後藤真希……です」
深々と頭を下げられたので、つられてこっちも頭を下げた。
「んあ……さっきはゴメンね、指を溶かしちゃって。熱くなかった?」
頭を下げたまま謝ると、ぶんぶん手を振られた。
「わたし熱いとか痛いとかいう感覚は持っていないんです。それに後藤さんのお宅に降った雪を拝借させていただきましたので、この通り元に戻りましたですし」
ですので気にしないでください。……なんて言われても、ねえ。一度は指を溶かしちゃったし。これって人間相手なら怪我をさせたようなものじゃないのかなあ。
「それならさ」立ち上がってキッチンに向かう。
- 770 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:30
- これっくらいのことならいくらなんでもあさ美だって恐縮しないよね。そう自分に言い聞かせて再び小鍋を火にかける。ついでに冷凍庫のドアを開けた。
「人間の食べ物って食べれるの?」
「はぁ、基本的に物は食べないですけれど食べることはできます」
それがなにか? 首を傾げながら尋ねるあさ美の前にスプーンとヴァニラアイスのカップを置いた。
「これなら食べれるんじゃないのかなあ」
カップとアタシを交互に見つめるあさ美の前に、手早く作った、牛乳の量を減らした代わりに氷をぶちこんだココアも置く。
「良かったら食べて。美味しいんだから」
ね、そう笑いかけるとオズオズといった感じにカップとスプーンに手を伸ばした。――アイスを一口、口にして。
「美味しいです!」あさ美は目を丸くした。
夢中でヴァニラアイスを口に運ぶあさ美に「まだあるからね」と抹茶やストロベリーも見せると、目を輝かせた。――珍しく安売りして買い置きしていたアイスがこんなところで役に立つなんてね。
- 771 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:30
-
氷が溶けてぬるくなったココアを、あさ美はフーフーと息を吹きかけてから飲み始める。コクンと喉を鳴らして再び目を輝かせた。――そんな姿を見て、思わず目が細くなる。
「んあ、雪の精って普段は何を食べてるの?」
時折ココアを口にしながらストロベリーアイスを食べるあさ美の向かいに座る。
「日中は本体……一粒の雪の結晶の姿をしていますので、何かを食べたり飲んだりはできないのですよ。深夜零時から四時までの間はこうやって人の姿になれますので、食べたり喋れたりするのです」のんびりと、でもスプーンを口に運ぶ手は休めずに言う。
ふ〜ん、そうなんだぁ〜。……ん?
「じゃあ日中はどうやってその指輪をしてるのさ」
『その』落とした大切な指輪を指差すとあさ美は照れたように笑った。
「これは本当は雪の制御装置なのですよ、私が人の姿をしているときは指輪の形をしてますが、本体の姿のときにはこの装置も結晶に変化するのです」
スプーンとカップを置いて、左手をさっと振り上げる。ぽわん・握り拳程度の雪の塊がテーブルに現れた。へ〜〜すごいすごい……って、ちょっと待った。
「……さっき、この辺り一帯の雪の管理を仰せつかったって言ってたよね?」
ぴくり、あさ美の肩が上がる。顔を見るときょろきょろ目が泳いでる。
「この時期外れの大雪は……あさ美の仕業?」
「……す、すみません」
すっかり縮こまって頭を下げた。
「本当は雪の季節を告げる程度の量を降らすはずだったのですが制御装置を地上に落としてしまいまして……」
「――制御が利かなくなって、こんなにも降ってしまった。ってわけなんだね」
「仰るとおりです。申し訳ございません」
頭を下げたままぷるぷる震えるあさ美に「んあ、頭を上げなって」そう声をかけた。
「アタシ別に怒ってないよ。むしろ指輪を落としたのだからあさ美にも会えたんだから、逆に嬉しいんだから。だから気にしなくっていいよ」
笑いながら言ったら目尻に涙を溜めたまま頭を上げた。その涙を指で掬ってやる。――わお、涙なのに凍りそうに冷たい。
- 772 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:31
- 振り返り時計を見ると、一時を過ぎたところ。
「ね、あさ美。お話しよっか」
四時まで人の姿をしていられるのなら、このまま一緒に夜更かししようよ。アイスはまだまだあるしね♪ そう提案すると、あさ美は雪の精なのにお日様のように顔を輝かせた。
雪の女王様ってどんな人? とか、雪の管理はどう? とか、後藤さんは何をされている方なのですか? とか、ガクセイ生活は楽しいのですか? とか、お互いの日常のことを聞き合い答え合った。
――時は楽しい時間だからこそ、あっという間に過ぎてしまい。
「あの……名残惜しいですが、そろそろ失礼します……」
ゆっくりあさ美は立ち上がった。
「んあ、送っていこうか?」
「いえ、ベランダから失礼いたします」
カラカラ窓を開けるその姿に、思わず声をかけた。
「ねえ、明日も来てくれるかな?」
あさ美はゆっくり振り返り――。
「……はいっ」
今まで見た中で、一番綺麗な笑顔を見せてくれた。ずきゅーんっ、幻の銃声が聞こえてアタシの心臓は打ち抜かれた。
「それでは……」
深々と礼をしてから、微小の氷霧を残し、あさ美の姿は消えた。その今までいた所に小さく手を振ってから窓を閉める。
ソファに座ってエアコンのリモコンに手を伸ばす。――温風が吹く部屋の中、一人顔に熱を持ったまま暫くぼぉっとしていた。
――別に風邪を引いたわけじゃないからね。
- 773 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:31
-
* * * * *
- 774 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:31
-
あと一時間で今日が終わる、っていう時間からアタシは部屋でソワソワしていた。あと三十分というところでエアコンを切った。あと十分というところで、らしくないな、そう思って一人苦笑いをした。あと五分というところで時計を睨め出した。
今日が昨日に変わってすぐに、ベランダから音が聞こえた。カーテンを開けると困った笑顔のあさ美が立っていた。
「いらっしゃい」逸る気持ちを抑えて、静かに言う。
「お邪魔します」わざわざ礼とお辞儀までして入ってきた。
そんなところが可愛く思えて頭を撫でたら、ひやりとした感触に思わず手を引っ込めた。
「後藤さん……?」
「ん、あぁ。ごめんね。――ねぇ髪の毛触っていい?」
アタシの突然の言葉に戸惑いながら、でも頷いてくれた。
真っ黒のサラサラな髪に指を通す。冷たくも暖かくもないものがサラサラ指を通るのかと思ったけれど、全然違う。まるで霜柱のような触感と冷たさ。ついでにぷくぷくのほっぺにも触ってみた。あぁ……覚悟はしてたけれど、温かみなんて欠片もない、降りたての粉雪を触ってるみたい。
この子はやっぱり雪の精なんだなぁと実感する。
ほっぺに触れたままそんなことをぼんやり考えていると、あさ美は恥ずかしそうに身を捩らせた。
「あの、ずっと触られてますと、その……溶けちゃいます」
「あっごめんごめん!」
ぱっと手を離すと、あさ美はそれはそれで寂しそうな表情をする。……どっちなのさ。
「ねえ、今日も食べてくでしょ? 昼に色んな種類のアイスを買っておいたから、好きなだけ食べていっていーよ」
その言葉に、あさ美は顔を輝かせる。でもすぐに俯き、困った笑顔をした。
「ん? どうしたの? 食べたくない?」
ふるふる首を横に振って、
「いえ、いただきます!」元気よく返事してくれた。
- 775 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:32
-
あさ美は昨日よりさらにゆっくりとチョコレートアイスを口に運んでいた。時折、視線が揺蕩ってアタシのと絡むと申し訳なさそうに下にずらす。心がココにもアイスにもない感じ。……チョコレートは好きじゃないのかな。
「どうしたのさ、なんか元気ないね」
とうとう気になって声をかけた。あさ美は弾かれたようにアタシを見、それから力の無けた表情を浮かべた。
「分かり、ますか?」
「すっごい分かる」
口に入れていたスプーンをゆっくりとテーブルに置いた。ぇへへ、と小さく笑ってから。
「実は……バレちゃいました」困った笑顔のまま言った。
…………え?
「……誰に? ……何を?」
薄々返ってくる言葉が分かっていたけれど掠れた声で聞いてみた。
「雪の女王様に、指輪を落としたことと、こうやって人間……後藤さんとお話したりアイスをご馳走になったことをです」
「バレたらどうなるの?」
「消えます」
あさ美の言葉はあまりにもあっさりし過ぎていて、理解できなかった。――うぅん、理解したくなかった。
のんびりとした動作であさ美は時計を見た。
「えぇと今が十二時四十分ですから……あと二十分くらいで私は消滅します。――本当はバレた時点で消されても不思議ではなかったのですが、女王様は特別に後藤さんにお別れを告げる時間をくださいまして」
「そんな……」ぶるぶる、自分の体が震えるのが分かる。
「仕方ないですから」
「そんな酷いことを『仕方ない』で済ませないでよ!不条理じゃんッ!」
思いきりテーブルを叩いて立ち上がった。逆にあさ美は縮こまった。その姿を見て我に返る。
- 776 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:32
- 「……すみません……」
「んぁ……アタシが悪かった。八つ当りも入ってた。……ごめん」
再びソファに腰を下ろす。重い沈黙が部屋に漂う。
「あさ美は……死ぬの?」
堪えきれず、言葉にしたくなかったけれど言葉にするしかない言葉を口にする。あさ美は小さく首を傾げてから。
「私の本体は一粒の結晶ですから『死ぬ』という言葉は違うような気がします。ただ『消える』それだけです」
「同じじゃん」
「いいえ。えぇと例えばですね、雪が降ってきてそれが一粒、手の平に乗って溶けて消えたとしましても、それを『雪が死ぬ』とは言わないじゃないですか」
「…………」
「元々、一冬だけの存在ですので、今消えるか春に消えるかの違いだけです」
「でも……」
それでもなにか言おうとするアタシに、あさ美は微苦笑をした。
「私は充分すぎるほど幸せです。本来ならほかの雪たちと同じように、降ってアスファルトに落ちて溶けるだけの存在だったのですから。後藤さんにお会いできて、本当に良かったです……」
違う。違うよあさ美。アタシにそんな誰かを幸せにする力なんて、無い。――そう言いたかった。なのに、言葉は喉に引っかかって口から出すことは出来なかった。俯いて顔を隠す。
あと十分ほどでお別れですねぇ、あさ美の声は人事みたいに間延びしていた。
- 777 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:33
-
「あの、後藤さん」
俯いたままのアタシにあさ美の声が降る。
「厚かましいですが……お願いをきいてくれますか」
奥歯を噛み締めながら顔をあげる。――泣き顔なんて見せたくなかった。
「いいよ、なんでもきいてあげる」
最初が少し震えてしまった。
「なんでもやってあげる。なんでも食べたいもの作ってあげる」
今のアタシなら、あさ美が望むなら牛の丸焼きだって用意する。
「あのですね……」
もじもじ、そんな音が聞こえそうに指を擦る。
- 778 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:33
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「ぎゅ……って、してもらえませんでしょうか……」
- 779 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:33
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自分で言っておきながら、耳まで真っ赤になったあさ美。俯いて、あの、とか、えと、とか言い淀んでいた。その間にアタシは立ち上がり、あさ美の横に立つ。そして俯いたままのあさ美の腕を乱暴に取った。
「ひゃぅ」
変な声を出されても、お構いなしに腰に腕を回し、額を肩に擦りつけさせる。空いた左手は後頭部に添えた。
「こんなんで……いいの?」流れる髪から覗いている耳に唇を近づけて聞いた。
「……はい」そろそろとアタシの腰に両腕が巻きついた。
「でもさ、ずっとこうしてたら、あさ美は溶けちゃうじゃん」
ほら、今だってもうアタシの手の平が触れるところや息がかかるところが形を失いかけてるし。体を離そうとしたら、腰に回る腕がアタシを強く引き止めた。いいんです、という言葉と共に。
「たいへん身勝手ですが、どうせでしたら女王様に消されるより、後藤さんに溶かされたいな、と思いまして。私が初めて知り合って、初めてお話して、初めて優しくしてもらって……初めて大好きになった人間の方ですので」
「アタシだって……」再び強く抱き締めた。
初めて知り合った、初めて話した、初めてアイスを奢った、あさ美が初めての――、
「好きになった子だよ」
ぇへへ、小さく、けれど幸せそうに笑ってくれた。
そうしてる間にも、あさ美の体はゆるゆると溶けていく……。
「あの、シモヤケにしてしまいましたらごめんなさい」
こんな自分が溶けて消えそうなときに、アタシの心配なんかしなくていいんだってば。そう伝えようとして顔を覗き見る。あさ美は穏やかに微笑んでいた。
「あぁ、これが『あったかい』ていう感じなのですねぇ」
「あさ――」
間延びした声でずれたことを言って――あさ美は消えた。
- 780 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:34
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* * * * *
- 781 名前:ちっぽけな、幸せな雪つぶ 投稿日:2006/01/25(水) 20:34
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サアサアと滑らかに音をたてて雨は降り続ける。その音を聞きながら天気予報を確認すると、雪だるまマークはどこにも無く、ひたすら一週間は傘マークが続いている。女王様が『なかったことに』をしているのかもしれない。
窓を開けてベランダに出る。街中の、一軒屋の木造アパートの角のラーメン屋の全てに積もった雪を雨が溶かしていく。
ねえ止めてよ。あの子を溶かさないで。
このまま雪が溶けて、いつも通りの日常が始まるのかと思うと不思議な気分になる。ドジな雪の精なんて、寝ているときに見た夢なんじゃないかとすら思えてくる。
でも。
振り返ってリビングを見る。テーブルの上にはアイスのカップとスプーンが丁寧に置かれたまま。
雨はベランダにも降り注ぐ。そして容赦無く積もっていた雪を溶かしていく。そっと手を伸ばし、手摺りに乗っていたみぞれ状になった雪を掬った。
“後藤さん”
のんびりとしたあの声、あの笑顔を思い出しながら――掬った雪に静かに口付けた。
- 782 名前:石川県民 投稿日:2006/01/25(水) 20:35
-
終了です。
石川県民、雪は好きです。例え一晩で30cm以上積もって車が埋まってても。車のドアが凍ってお湯をかけないと開かなくても。ブーツが何個もびちゃびちゃになって使い道にならなくても。エアコンのかけっぱなしで電気代がかさんでも。バイクのエンジンがかからなくなっても。
…えぇ好きですとも。
- 783 名前:石川県民〜隠しのための雑談〜 投稿日:2006/01/25(水) 20:35
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石川県民の中では『紺野さん=食いしん坊キャラ』という図式が成立しているのですが、そんな私と意見が一致する方に、オススメしたい本があります。
森奈津子の『西城秀樹のおかげです』SFエロ短編集なのですが、その中にある『地球娘による地球外クッキング』に出てくる美花子という人物を紺野さんだと思うと死ぬほど笑えます。そうじゃなくても死ぬほど笑えますが。
興味のある方は是非。
- 784 名前:石川県民 投稿日:2006/01/25(水) 20:36
-
さて次は何を書くべ。
∬∬´◇`)>…………。
ではまた。 拝。
∬∬T◇T)
- 785 名前:通りすがりの者 投稿日:2006/01/27(金) 00:23
- 更新お疲れ様です。
いやぁ、作者様、お久しぶりですね。
なんだか妙な気分となっておりますが、また作品を
拝見させて頂けて大変嬉しく思います(笑
次回更新待ってます。
- 786 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/01/27(金) 09:37
- 更新お疲れ様です。ワーイ、ヘンタイノオスミツキダー
確か吉さゆで似た設定の話があったんですが、こんごまもあったかくていいですね。
あ、余計なお世話かもですが、容量がかなりギリギリではないでせうか。
次回も楽しみにしてます。……お、小川さんに愛の手を!
川’ー’川 <呼んだ?
- 787 名前:7419 投稿日:2006/01/28(土) 21:04
- 更新お疲れ様です。
そんなに雪降ったんですか。大変ですね。
私の所は昔からほとんどというか全く雪が降らないんで羨ましいです。
12月に一度少し降ったんですけど、思わず少し遊んでしまいました(笑
今作もよかったです、心暖まる感じで。
こんごまって本当にお互いにマイペースなのに、
ちゃんと成立してるって感じで結構憧れます。
次回も頑張ってください。
- 788 名前:石川県民 投稿日:2006/02/15(水) 06:03
- どうもです。整理が始まるとのことですので、2003年末に建てたこのスレッドを倉庫に逝かせようと思います。
その前に辺レスをば。
785>通りすがりの者サマ。
…書いた物に対しては触れてくれないのですね(凹)。毎回無理されてレスをつけてくれなくても結構ですよぉ。(ていうか正直いい加減頭にキてます)
786>駆け出し作者サマ。
ありがとうございます。吉さゆに似たものがあると言われて気づきました。ていうかあんな名作とこっちの駄文を一緒にしないほうがいいですよ。玉に石を混ぜるモンです。
容量はupしてる最中で気づきました、ヒヤヒヤしながら更新してました(w
787>7419サマ。
ありがとうございます。12月に一晩で30cm以上積もった時には、翌朝外に出て呆然としておりました。
今年に入ってからは紺野さんは担当を外れたようで、例年並みの積雪量です(w
こんごまは正直自信が無いので(紺野さんはキャラが書きにくいし、後藤さんは言語が話させづらい)嬉しいお言葉を頂けて光栄です。
- 789 名前:石川県民 投稿日:2006/02/15(水) 06:08
- 入りきるかどうか微妙ですが、このスレッド最後の更新を行います。やっぱり最後はこの二人で締めたい…!
まこあい へたれな王子様
- 790 名前:へたれな王子様 投稿日:2006/02/15(水) 06:09
-
「ふあ〜あ。麻琴ぉー、もう寝よー」
「あーうん。……愛、ちゃん」
「なんやぁ?」
「でへへ……あのね、チョコレートありがとう、すっごい美味しかった」
「どういたしまして。あんなんで良かったら、また作ってあげるがし」
「本当?……あ、でもいいや。…………太るし」
「少しぐらい食べたって太らんて」
「でも太ったあたしを見て、愛ちゃんあたしのことキライになっちゃうかもしれないじゃん」
「それはないわ」
「なんでそう言い切れるのさぁ。しかも即答だし」
「それはな、」
「そんなんでキライになる中途半端な惚れ方はしとらんから」
「…………」
「分かった?」
「……ぁい」
- 791 名前:へたれな王子様 投稿日:2006/02/15(水) 06:09
-
「でも、さ」
「なんやぁ?」
「考えちゃうんだよね、なんで愛ちゃんはあたしを選んだのかって」
「好きやから、って答えだけじゃ納得できん?」
「……うん。――だってさ、あたしよりカッコ良い人や可愛い子だって、頼りになる人も面白い子もいるのにさ、なんであたしなんだろう、って」
「まぁ確かにそうやねぇ」
「でしょう?正直自分で言って落ち込んじゃったし」
「麻琴は、きりっと格好良い顔しとるって見惚れた瞬間に口をあけてアホ顔になるし、可愛い笑顔やなぁって思ったら仕草がオバサンぽいし、頼りになると感じたらすぐ泣き顔になるし、面白いこと言うなぁと思ったらオチを他の人に取られとるし」
「……そこまで言わなくたっていいじゃぁん……」
「ほれ、今だってすーぐヘコんどるし」
「……うー」
「でも、あーしは、」
「そんな全てが『愛おしい』て思える相手は麻琴だけやったんや」
「…………」
「納得した?」
「……ぅい」
- 792 名前:へたれな王子様 投稿日:2006/02/15(水) 06:10
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「正直な、自問自答することがあるんよ。何であーしは麻琴じゃなきゃ駄目やったんやろうって」
「ふぇ」
「こーんなヘタレの国の王子を好きになるなんて、あーしは何て悪趣味なんやろうとも思ったさかい」
「……そこまで言わなくたっても良くない?」
「でもなぁ、」
「あーしはそんな麻琴が好きで好きで好きで好きで好きで好きで堪んないやよ」
「…………」
「せやから、麻琴はあーしだけの王子様でおってや。他の人王子様にはならんといて」
「……頑張りまぁっす」
- 793 名前:へたれな王子様 投稿日:2006/02/15(水) 06:11
-
「不安にさせとった?」
「え?」
「あーしが麻琴のこと嫌いになる、なんて言い出したから」
「……ちびっとだけ」
「ほーかぁ……」
「ぁの、愛ちゃん、なにか企んでない? その笑顔、すっごい気になるんだけど」
「知りたいん?」
「知りたいよーな、知りたくないよーな」
「じゃあ教えるわ。その方が麻琴もすっきりするやろうし」
「……いろんな意味でドキドキする」
「あーしはぁ、」
「麻琴がそんな不安を持たんくなる位、もっと麻琴にあーしの事を好きにならせんといかんなぁ、って改めて決意したんよ」
「……できればその決意はナシの方向で」
「なんでやよぉ」
「これ以上、好きになっちゃったら多分体がもたない。ドキドキし過ぎて心臓が破裂しちゃう」
「ん。分かったわ」
「よろしく」
- 794 名前:へたれな王子様 投稿日:2006/02/15(水) 06:12
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「ふあ〜あ」
「ぁふ〜」
「もう眠いわ」
「あたしも。もう寝よう」
「ほぅやね」
「オヤスミ愛ちゃん」
「おやすみ、麻琴」
「あ・そうだ愛ちゃん」
「なんやぁ?」
「あんね、」
「今日も一日愛ちゃんのことが好きだったよ」
「……ヘタレの国の王子が格好つけるな、あほぅ」
「でへへ」
「じゃあ本当におやすみ、麻琴」
「オヤスミ、愛ちゃん」
終わり。
- 795 名前:石川県民 投稿日:2006/02/15(水) 06:14
-
それではまたどこかでお会いしましょう。
拝。
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