【月を見るたび】スプラッター短編集【思い出すがいい】
- 1 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/20(土) 09:48
- 企画は流れてしまったものの書きたい!読みたい!って人
いそうなのでとりあえず短編スレを立ててみました。
スプラッタを書きたいけど自スレと雰囲気が違い過ぎて・・・。
マジファソに叩かれたら嫌だし・・・。
そんな貴方!ここで作品を発表してみませんか!?
【ルール】
・長くても25レス以内におさめる
・タイトルと終わりを必ず明記
・必ずochi。上がってたら見つけ次第ochiして下さい
・完結してから書き込む事。放棄禁止
・案内板含めどこにも宣伝禁止。偶然に見つけた人だけご参加下さい
【※ 注意 ※】
このスレには残酷な表現が多様されています。
推しメンが可哀想な目に会うのが耐えれない人は
興味本位にも覗かない事をお勧めします。
- 2 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/20(土) 09:50
- 叩かれた数だけ褒め言葉・・・かな?
ではスタート!
- 3 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:53
- 「愛妻ののたん」
- 4 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:53
-
時の経つのは早いもの。ののたんが私の家に来てから一週間が経ちました。
もちろん独身でぶらぶらしていた私のこと、やっと身を固めてくれたのねと家族も大喜びです。が、
ちょっと待ってもらいたい。ののたんですよ。あの。
- 5 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:53
- 小説の主人公や、芸能人ならいざしらず。私のようないち小市民としては、なんの
説明もなくやってきて、なんの説明もなく妻として振る舞う国民的アイドルに
ついて、疑念を抱かないわけにはいかないのです。
そんな私の苦悩もしってかしらずかののたんはブィーンと音を立てて
鼻歌まじりで掃除機などかけているわけです。
その後姿を見ていると。見ていると・・・。
「ねえののたん。」
たまらなくなって、私は声をかけた。
「ののたんのうなじを見ていると
なんだか僕はムラムラ来てしまうのですよ。」
- 6 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:54
- するとののたんは笑って、
「では髪を下ろしましょうか。」
と言う。
私はすこし悩んだ。
けれどののたんのお団子頭は芸術だから、
「でもののたんのお団子頭は芸術だから。」
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:54
- するとののたんは、困ったように笑って、
「ではうなじを汚しましょう。」
と言う。
なんとも言えずに黙っているとののたんは
まだ笑いながら掃除機を
自らの首に押し当てブィイイイン。
そしたら有り得ないことに皮膚がベりっとはがれて。
- 8 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:54
- 「ああ、痛い。」
ののたんは笑いながら血だらけのノズルを首から放してぽん、と音がして
ハデに血が飛び散った。
「けれどこれも旦那様のためだから。」
私は思わず呟く。
「ああ、絨毯が血塗れじゃないか。すぐにダスキンを呼ぶがいい。」
- 9 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:55
-
その晩は隣で眠りながら、ののたんは一晩中うんうん唸っていた。
ああさぞかし痛いのだろうと私はやきもきしながら寝息などたてていたのだけれど。
翌朝起きると台所でののたん、首には包帯をぐるぐる巻きつけ
すっかり元気な顔してオムライスなんか作ってた。
思わず私は背中から声をかける。
「ああののたん、料理などしたら、
ののたんの白魚のような手が荒れてしまうじゃないか。」
するとののたんは笑って、
「ならば出前を取りましょうか。」
と言う。
- 10 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:55
- 私はすこし迷った。
しかしののたんの手料理は芸術だから。
「でもののたんの手料理は芸術だから。」
するとののたんは、困ったように笑って、
「ならば白魚を黒く染めてしまいましょう。」
- 11 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:56
- なんとも言えずに黙っていると、
ののたんが不意に両手をじゅう、と
押しつけたのは十二分に熱されたフライパン。
とたんに肉の焦げる匂いが伝わる。
「ああ、熱い。」
ののたんは笑いながら苦しそうに息を吐いて
脂汗の滲むおでこに綺麗なシワが二本、三本寄って。
「けれどこれも旦那様のためならば。」
私は思わず呟く。
「換気扇を回してくれ。ああ、卵が台無しじゃないか。」
- 12 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:56
-
「両手はまだ駄目かい。」
氷水を満たした洗面器を取り替えながら私は、涙目で首を振るののたんにそう何度も問いかけた。
「いえわたしはだいじょうぶ。それより御飯をどうしましょう。」
ののたんは健気にそう言い放つ。
「その通りだよののたん。それは重要な問題なんだ。何より僕はお腹が空いているんだよ。」
するとののたんは笑って、
「やっぱり出前を取りましょうよ。」
と言う。
それでもいい。
けれどののたんの苦しむ顔は芸術だから。
「出前は嫌だなあ。」
- 13 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:56
- するとののたんは、困ったように笑って、
「どうしましょう、旦那様。」
舌足らずの甘えた声で、
上目遣いで私を見て、そう言うのだ。
「そんな綺麗な目で見つめられたら、
僕はなんの知恵も浮かばないよ。」
- 14 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:57
- するとののたんは無言で立ち上がると、洗面所に向かい歩き出すのです。
私もその後に付いて廊下を歩きます。そうして背中に呼びかけるように話す。
「ねえののたん、ののたんはきっと剃刀か何かを
取りにいくつもりなのでしょう。」
ののたんは返事をしない。私はさらに続ける。
「ねえののたん、それでののたんはきっと自分の瞳を
切り裂いてしまうつもりなのでしょう。」
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:57
- 気づくと洗面所に二人は立っていて、鏡ごしにののたんは
にっこり笑うと、いかにも痛そうな顔で剃刀を手にとった。
おそらく火傷が痛むのだろう。
「ならば見つめられないようにしてしまいましょう。」
と言ってふりかえったののたんは剃刀を一閃。
とたんに真っ赤に染まる視界はやがて一瞬ののち、黒に変わった。
- 16 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:57
-
「さて、御飯はどうしましょうか。」
そんな声を尻目に私は、声も出さずにのたうちまわる。
どちらかと言えば目を切り裂かれた痛みよりも、もうののたんの苦しむ顔が見られないことが
辛かった。
だってののたんの苦しむ顔は芸術だから。
- 17 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 19:57
- おしまい
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 21:00
- 「かっとばそ」
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 21:01
- 彼女は喉から血を流して倒れていた。
どういう事が起こったのか、私には見当もつかなかった。だが。これは絶好のチャンスだ。この子が持っているに違いない。
それを手に入れさえすれば、私の願いがかなうのだ。
- 20 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 21:01
- ない。どこを探してもない。
ヒューヒューと音がする。息をしているのだが、喉から空気がもれてしまっている。
そうか、ここだ。よく考えれば、当たり前のことじゃないか。
私は、ナイフで喉の穴を広げた。ごぼごぼと血がこぼれ、体が動くのがうざいので、右胸にナイフを突き立てた。
両手の人差し指と中指を喉の傷あとに突っ込んで、左右に大きく広げた。右のこぶしを奥にねじこみ、手探りで探してみたものの、それらしい感触はなかった。
どうにも探しづらいので、探しやすく分解するしかない。肉切り包丁で首を、顎のところと胴体のつけねのところで切断した。
首の骨を、焼き魚を食べるように引き抜いて、残った肉の部分を覗いてみた。見当たらない。包丁で叩いてみても、金属音すらしない。
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 21:01
- そうか、あれは喉に取りつけるものじゃないんだ。
声は喉の震えからくる。だけど機械が出すんだから、喉につけなくても全然かまわない。肺から口内までの器官のどこかだ。
私はさっき投げ捨てた首の髪の毛をつかんだ。蒼くなった唇に指をつっこんだ。みしみしと口の端が裂けていった。
懐中電灯を持ってくればよかった。とは言っても、これに出食わしたのが偶然なのだから、準備不足なのは仕方がない。
下顎をつかんで引っぱると、ようやく外れてくれた。歯の裏には何もない。舌を引っこ抜いて、四つに切ってみたが、中にもなかった。
すると、肺か気管のどちらか。あばらを金鎚で砕き、ナイフで胸を引き裂いた。左右のすっかりしぼんだ肺を引っぱり出して、揉みほぐした。一応裂いてみたが、ここにもなかった。
- 22 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 21:01
- 気管にもない。待てよ、と、私は首のほうに戻った。空気は口だけじゃない、鼻も通る。ナイフで鼻を削ぎ、金鎚で叩いた。何回目かで割れいくつかに分かれたが、徒労だった。
すると脳か。脳に命令して人を惑わす特殊な電波を出すのかもしれない。ハンマーで頭蓋を潰した。脳みそをほぐし、慎重に伸ばす。でも、ない。
何かしらの振動により発する波長だとしたら、どこについていても良いことになる。面倒になった私はローラー作戦を取った。
つま先からみじん切りに体を刻んでいく。非効率だが仕方がない。右脚、左脚、下腹部、胃、右腕、左腕。骨はすべて粉砕し、吟味した。肉は挽肉になるまで叩いたが、結局見つからなかった。
- 23 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 21:02
- 「ちぇ、使えねー」
金属バットでミートの山を横から叩いた。飛び散った肉はびちびちと壁にくっついて、ゆっくりと床に落ちていった。
「あれ、何してるの、紺野?」
はっとして振り向いた。ここは冷静を保たなければならない。悲鳴でも上げられて、逃げられたら面倒だ。
「いえ、なんでもありませんよ」
「そう。それより、道重見なかった?」
「いいえ。知りません」
ここにある肉の山がそうであると教えてやろうか、それともすぐに殺してしまうか。後者を選択し、ナイフを後ろでに握りしめた。
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 21:02
- 「そうそう、これ知ってる?」
私はあっと声をもらした。右手の中に、小さなチップがあった。
「それは……」
「これを喉の中につけるとね、なぜだか知らないけど、人々を魅了する電波が発生するの。電波だから、オンチは変わらないけどね」
私は思わず手を伸ばした。
「道重がつけてたのよ、これ……」
私のナイフは空を切った。視界が赤く染まり、ヒューヒューという、あの忌まわしい音が私の喉元からこぼれ始めた。
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 21:02
- ……………
- 26 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 21:03
- 「へー、これがピンのCMかぁ」
「なんだかさ、耳について離れないよね、この歌」
「なんでだろ?」
♪ お肉好き好き、お腹空き空き……。
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/24(水) 21:03
- おしまい
- 28 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:37
-
限りなく鼠
- 29 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:38
-
目の前で人がはねた。枯葉みたいにひらひらと宙を舞って、ミラーの鉄柱に
叩き付けられて地面に落ちた。カラダがあり得ない形に歪んで、口から
血の混じった吐瀉物が大量に吐き出され、道路に広がった。通行人は慌てて
身を引いて、悲鳴を上げて逃げ出した女性もいた。
「ひっ」
助手席の美貴は普段出さないような声をあげると、私の腕にしがみついてきた。
私は唖然としてその光景を見守っていたが、ものすごいスピードで目の前を
通過していったクルマの姿は眼の奥に焼き付いていた。
- 30 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:38
- 「よっすぃー、あれ……」
「轢き逃げだあ」
気の抜けた声で言ったら、美貴に睨み付けられた。
「なに呑気なこといってんの? 早く、追っかけないと」
「え?」
私は驚いて美貴の顔を見る。真顔だ。
「捕まえなきゃ!」
「けど、私じゃ……」
「早く出してよ! 美貴、警察に通報するから!」
議論してる余裕はなさそうな雰囲気だった。私は不安で汗ばんだ手でハンドルを
握り治すと、アクセルを踏み込んだ。
- 31 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:38
- カーブを曲がるとき、被害者の男がちらっと目に入った。ぴくりともせず、
血の海の中に全身をねじ曲げて横たわっている。通行人は、それがなにかの
パフォーマンスアートの一種であるかのように、黙殺と好奇心の混じった
視線を送りながら足早に通り過ぎていった。
目当てのクルマはすぐに見付かった。どこでも見たことがないような、巨大で
戦車のようなクルマだ。もの凄いスピードで、信号も通行人も目に入らない
様子で暴走していく。私たちとの距離は、あっという間に離れていった。
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:39
- 「はい、白い箱みたいなクルマで、ナンバーは……ええと、はやく、はやく、
よっすぃー追いついてよ!」
ケータイに向かって喚きながら、美貴はしきりに肩を叩いてくる。
「そんなこと言われたって!」
私は怒鳴った。免許を取ったのは、ついこないだだった。自分のクルマで、
普通の道路を走るのもまだ3度目くらいだ。
クラクションの罵声を聞き流しながら、絶望的な気分でアクセルを踏んだ。
速度計はすでに100近くまで行っている。と、そのときまた人がはねられた。
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:39
- 下校途中の小学生の集団だったようだ。アリの行列を蹴散らすように、小さな
人間達が四方に飛んだ。数人が地面に転がり、数人が中へ跳ね上がった。
黄色い帽子をかぶった女の子が側の電柱に頭からぶつかり、爆ぜた。フロント
ガラスに血の一線が引かれ、灰色っぽいカタマリがへばりついて広がった。
あれは脳の一部だ。私は血の気が引いて一瞬気絶しそうになった。が、美貴が
慌ててハンドルにしがみついて叫んだので、気を取り戻した。
「あぶないって!」
耳障りな音を立てて車体が180度回転した。巨大車のタイヤにすりつぶされた
残骸が道路いっぱいに広がっていた。私たちも、危うく膝をついて泣き
じゃくっている子供を跳ね飛ばしそうになっていた。
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:40
- 「ど……どこいった、あのクルマ?」
自分でも驚くくらい冷静な口調でつぶやく。美貴は三叉路の一方を指さした。
顔色が陶器のように白くなっている。私も同じような状態なんだろう。
白い車体のあちこちを赤く染め、そこかしこに人間の破片を貼り付けた
ままのクルマは、何の目的か分からないが、異常な暴走は止まるところ
を知らなかった。老人をはね、女子高生を潰し、抜け道がわりに通過した
小さな雑貨屋を店員ごとゴミの山にした。私たちは、その残骸をよけて
追いすがっていくだけで精一杯だった。
- 35 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:40
- なんで自分たちが追い続けているのか、理由はわからない。正義感のような
ものだろうか? それとも、目の前で次々に解体され、血や骨や臓物や
肉の塊や脳髄や体液を撒き散らしていく人間たちを目にして、神経が麻痺
してしまったのだろうか。
遠方のあちこちからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。いまさら
おそいよ、と心の中で毒づいた。
クルマは閑静な住宅街のあちこちに傷跡を残した後、下り坂の大通りを
暴走し、私たちもよく知っている大きな町へ向かっていた。
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:40
- 「よっすぃー危ないって!」
何度めかの金切り声を、美貴があげた。私はそのたびに、危うく轢きそうに
なっていた人をかわし、罵声が投げかけられた。今の私は、闇雲にスピードを
あげてあのバケモノに追いつくことしか考えてなかった。
私たち以外にも、他にあのクルマを追い続けてるクルマ達は何台かいる
みたいだ……と気付く。どこから来たものか分からないが、いつしか、バケモノ
を先頭にした、公道を舞台にした無茶苦茶なレースに参戦させられてしまった
ような、そんな気分になった。
- 37 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:41
- 自分たちのスピードとは逆に、不思議と呑気にそんなことを考えていた
刹那、すでに目前にまで追いすがっていた暴走車は、トラックをよけた勢い
で歩道に乗り上げ、植え込みに腰掛けてクレープを食べていた数人の若者を
跳ね飛ばした。一人が目の前のショーウィンドウに叩き付けられ、ガラスの
破片と一緒に血に埋もれた。並木がなぎ倒され、車道に倒れてきた。
「うわっ!」
細い幹をそのまま踏みつけて、たまらず私たちのクルマは跳ね上がった。
そのまま数メートルほど宙を舞った後、奇跡的にうまい体勢で地面に着地
した。衝撃が全身を襲い、首と両肩が殴られたようにいたんだ。
- 38 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:41
- 「美貴、大丈夫……?」
横目で助手席を窺うと、天井にアタマをぶつけた美貴はぐったりと気を
失っていた。
「おい、なに寝てんだよ! バカ!」
喚きながら、私はむちゃくちゃにハンドルを切る。すでに人通りの多い
場所まで入り込んでおり、周囲を悲鳴や罵声が飛びかっている。
スピードを緩めることなく、クルマはスクランブル交差点へ突入して行く。
人で埋め尽くされた道路。群衆の真ん中で血塗れのクルマが次々に人を
跳ね飛ばしていく。血煙がただよって揺らめいている。何人かがやけ気味に
クルマへものを投げつけたりしているが、なんの効果もない。
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:42
- 混乱の中で、すでに歩道にも車道にも人が溢れ出していた。暴走とは関係の
ない乱闘も始まっている。目の前に通り抜けられるような隙間は見あたら
なかった。しかしここで止まってしまっては、混乱に巻き込まれて身動きが
取れなくなると言う恐怖もあった。
自分がなにをしているのかわけがわからなくなっていた。歩道に乗り上げる
と植え込みを踏み潰しながら猛スピードで駆け抜けようとした。と、路地の
影から数人のスーツ姿の集団が。ブレーキにかけた足は凍り付いたように
動かなかった。そのままのスピードで集団を跳ね飛ばす。一人が車体に
乗り上げ、フロントガラスに顔面をぶつけた。放射状にヒビが走り、血が
広がり舞い上がった。中年男性の脂ぎった顔面が潰されて、両目は眼窩から
飛び出し弾けていた。真っ赤な舌がガラスのひび割れに挟まり、先端が
風に靡いてヒラヒラとおもちゃの旗のようにはためいていた。
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:42
- 吐き気がした。視界の端にかろうじてまだ巨大車はとらえられている。そこ
だけを見ていれば、集中力は途切れないような気がした。私は、立て続けに
往来で右往左往している連中を跳ね飛ばして、クルマへと追いすがっていった。
助手席で美貴がうめいた。クルマは上り坂で右折すると、信号機を踏み潰し
ながら数軒の露店を引きずっていった。タイヤに数本のミミズのような
ものが……腸だろう……からみついているのが見える。そのせいか、多少
スピードは落ちているようだった。
- 41 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:43
- これなら追いつける──そう思った瞬間、ビルの影になっている路地から
一台のバスが姿を現した。二台のクルマはたまらず衝突し、派手な音を
立てて大破した。バスの割れた窓から、何人かが血だらけの顔を出して
なにかを喚き立てていた。が、次の刹那、タンクに引火したのか凄まじい
爆発を起こし、大勢の人間もろとも二台のクルマは四散した。
私は右折しかけていた手を戻し、そのままのスピードで大通りを直進して
いった。黒煙は空高く舞い上がり、粉塵とともに晴れ渡った空を汚していた。
- 42 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:43
- 助手席から引きつった悲鳴が上がった。横目で見ると、美貴が両手で口を
抑え、ひび割れたフロントガラスに張り付いた死体と、血だらけになった
車体に視線を釘づけていた。震える双眸には涙が浮いて、顔の皮膚は恐怖で
蒼白になっていた。
私はなにも言わず、人通りの多い場所に向かい、アクセルを踏み込んだ。
ゲームはまだ始まったばかりなのだ。抜けることは出来ない。限りなく
どこまでも逃げ続けるだけだ。血の雨を降らせながら。
サイレンの音が、エコーを伴って聞こえてきた。
- 43 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/05(月) 21:43
-
終わり
- 44 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 01:32
- 無限抱擁
- 45 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 01:32
- 辻希美、加護亜依の卒業が本人、及びメンバーに知らされた十二月三十一日。
紅白のステージを終えた後、飯田圭織はトイレの個室で泣いていた。
自身が教育係を務め、とくに可愛がっていた辻が離れていってしまう。
辻と加護の二人は喜んでいたが、素直に祝ってやる気になど到底なれそうになかった。
楽しかった日々を思い出しながら便器の蓋の上で蹲っていると、誰かがドアを叩いた。
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 01:33
- 「カオリン、ねぇ、いるんでしょ。お願い、あけて」
辻だった。飯田が黙って応じずにいると、再び辻が言った。
「カオリン、みんな待ってるよ。ね、行こう」
- 47 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 01:33
- なおも飯田が応じずにいると、ドアがドンッと音を立てた。
「よいしょ」と声がしたかと思うと、飯田の前に何かが降ってきた。
辻がドアをよじ登ってきたのだった。辻は蹲ったままの飯田の頭、何も言わずに抱きしめた。
母親が子供にする様な、限りなく優しい抱擁だった。
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 01:34
- 「ぐすっ……ぐすっ……のんちゃーーーん」
顔を涙と鼻水でグシャグシャにして、飯田も辻に抱きついた。そして、強く抱きしめた。
わんわん泣きながら、強く、強く抱きしめた。
- 49 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 01:34
- 「グエッ」
辻の内臓がいくつか潰れ、背骨が折れた。辻は死んだ。
もう何が悲しいのかわけが分からないまま、飯田はいつまでも泣き続けていた。
- 50 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 01:35
- 終
- 51 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 01:42
-
mince dance
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 01:48
-
純白のマットが敷かれた広場。
左側から藤本美貴、右側から松浦亜弥が現れる。広場の中心で向かい合い、互いの視線を絡ませ合う二人。
「踊ろっか、たん」
「うん」
二人、手を繋ぐ。
零れ落ちるのは、燃えるように緋い血の雫。
- 53 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 01:55
-
五指と五指が、鮮血を撒き散らしながら結ばれる。
繋いだ手を支点に美貴がくるりと輪を描くように舞うと、亜弥の綺麗な指がぽとりと落ちた。
真っ白なキャンパスに、赤い弧が描かれる。
次々にその身を離れる指たち。
亜弥は体勢を崩しそうになるのを、美貴の手首を掴む事で堪えた。
白い手首に、真っ赤な薔薇の花が咲き誇る。
白い布地にも美しい紅が咲いた。
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 02:00
-
美貴、そのまま亜弥の体を引き寄せ、斜めに倒す。
亜弥のしなやかな肉体を支えるは、美貴の硝子細工のような両腕。
支えられた首筋と腰の辺りから、火を吹くように血が流れ出す。
二人の目に映るものは苦痛か、甘美な悦楽か。
真実を知るのは、ただ命の色に染め上げられた白いキャンバスのみか。
- 55 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 02:07
- 亜弥は自らの体を跳ね上げ、宙へと舞わせる。
ルビーのような赤い水滴が飛び散り、床を、美貴の顔を鮮やかに彩る。
暫く床に水玉模様を描いた後、亜弥の体は再び美貴の腕(かいな)へ舞い戻る。
衝撃で腕が裂け、骨が露出する。
血の赤と骨の白から生み出された薄桃色。
二人は漸く互いの体を重ねあった。
- 56 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 02:13
-
美貴と亜弥の鋭利な体は、互いの肉を切り刻んでゆく。
抱き合うほどに、そして愛し合うほどに。
美貴の背中には縦に裂け目が入り、生臭い噴水を辺りに飛ばし始める。
亜弥の腹部からは、血のような臓物のような物体がずるずると溢れ出した。
キャンパスに描かれた、力強い筆跡。
それは二人が最初に向き合った場所で、終わりを告げようとしている。
- 57 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 02:20
-
「愛してるよ、亜弥ちゃん」
「美貴たん・・・」
嘗ては蒼き空を映したであろう二対の宝玉も、今では濁った色しか垣間見えず。
されど目には映らぬ何かを、二人は映し出していた。
菫色の唇が、軽く触れ合う。
血を失い蝋のように色褪せた筈の肌が、僅かの間、輝きを取り戻した。
お互いの血に滑りながら、崩れ落ちる肉体。
それはまさに己の生命を賭した芸術の、集大成だった。
- 58 名前:名無しさん 投稿日:2004/01/07(水) 02:21
- おわり
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/18(水) 13:54
- 保全
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/06(土) 19:36
- ここの作品グロイケド全部いい。
他作品キボン。出来れば後藤絡みで…・゚・(ノД`)・゚・
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:11
- .
『 ビヨンド 』
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- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:12
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もしもし。フロントです。どうなさいましたか?
はい。え?お部屋を変更したい? 差し支えなければお部屋を変更されたい理由をおっしゃっていただけませんでしょうか? はい。はあ。幽霊が出るんですか?
申し訳ありませんが、現在空き部屋は36号室のみになっております。すみません。それでは。
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- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:13
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―― この前も36号室にも幽霊が出るとおっしゃるお客様がいらっしゃった? ――
ああ。
あなたは新人ですから、36号室のことを知らないようですね。
交代の時間までまだまだありますね。
いいでしょう。
36号室でかつて何があったのか、お話ししてさしあげましょう。
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- 64 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:14
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始めに事件が起こったのは確か2004年1月5日、月曜日でした。
当時、部屋清掃係でありました私が36号室を訪れた時のことです。
私はバスルームで奇妙な物体を見つけてしました。
風呂桶には、なみなみと水張られておりました。石鹸でも使われたのでしょう。水は白く、透明度はまったくありません。
そこには黒いごみ袋が浮かんでおりました。
私がむんず、と黒いごみ袋を掴みあげた時、水面から“肩”が現れました。
…そう。
それは人間でした。
人間の女性が、ごみ袋を頭から被って、風呂桶につかったまま死んでおりました。
女性の名前は確か、福田明日香様と記憶しております。
福田様は当時、受験を控えておりました。高校を退学なされ、大検をとりましたが、大学受験には失敗し、浪人になっておられました。当ホテルで缶詰になって勉強に励んでおられました。警察の方では受験ノイローゼとして片付けられたようですね。
――死因は何? ――
遺体からは大量のアルコールと睡眠薬と三環系抗欝薬が検出されたそうです。 頭に被っておられたごみ袋は、無意識に破られてしまわないように二重にされておりました。 勿論、部屋からは大量の酒瓶と、プリンの空き箱が見つかりました。
―― プリンの空き箱に意味はあるのか? ――
あなたはご存知ないのですね。 薬物自殺をされる方は、ヨーグルトやプリンに薬をまぶして食されるのですよ。
おそらく、窒息と低体温と、薬物による複合自殺であったと思われます。
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- 65 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:15
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2004年3月30日・火曜日に36号室に止まったお客様は吉澤紗耶香様とおっしゃいます。
吉澤様は、当ホテルのラウンジで、別のお客様 ――吉澤紗耶香様の旦那様です ――と待ち合わせをしておられました。
ところが、時間になってもラウンジに吉澤様は姿を現しませんでした。 じれた旦那様は吉澤様が泊まっていらっしゃる部屋に直接尋ねて行こうと、フロントにいらっしゃいました。
私は吉澤様の部屋に何度もコールをかけましたが、遂に受話器がとられる事はありませんでした。
キーを預けられておりませんでしたから、外出をしていることはないように思われました。 旦那様は不安に思われ、私と私の上司と共に、36号室に入られました。
あなたは縊死された遺体を見たことがありますか?
首吊り自殺をなされた方々の遺体というものは実に千差万別でして、比較的に美しい状態であの世へ行かれた方もあれば、酷い状態であの世に行かれた方もいらっしゃるようです。
そして、吉澤紗耶香様は、とても酷い状態であの世へ行かれました。
部屋の鴨居に幾重にも束ねた電気コードをくくりつけて…
――え?36号室に鴨居はない? ――
ええ。今はありません。一度あの部屋で火災が起こりまして、改装したのですよ。
その話はまた別の話としてお教えしましょう……。
その身体からはあらゆる力が抜け去り、だらーんと揺れておりました。
青紫に変色した顔面は腫れあがり、目玉と舌が飛び出そうになっておりました。
彼女の遺体の下は糞尿にまみれておりました。それは首吊り遺体にはよくある状態ですが……彼女の遺体が酷いと思ったのは、糞尿と…血にまみれた、未熟な胎児がその遺体の下にあったからです。
吉澤様は当時、妊娠しておりました。
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- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:16
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保田圭様がいらっしゃったのは、それから2週間ほど経った4月14日の水曜日でございました。
保田様は是非として36号室を御予約され、いらっしゃいました。
保田様は死んだ吉澤 ――保田様にとっては市井様でしょう―― と生前、とても親しい仲でいらっしゃいました。 市井様が最期に過ごされたこの部屋を観てみたいと思ったのかもしれません。 全身を黒い服装で固め、その左手首には数珠が巻きつかれてありました。
保田様は、本当に市井様と仲が良ろしかったのでしょう。
保田様はそのままバルコニーから飛び降りて死んでしまわれました。
コンクリートにはまるでお好み焼きのようにかつての保田様だった物体がへばりついておりました。
―― 21メートル前後、衝撃速度にして71km/hではそんな状態にはならない? ――
あなたは何故そのような事を知っていらっしゃるのですか?
それはともかく、いらっしゃった葬儀社の方は、肉片を引き剥がす作業に苦慮されたと聞きます。
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- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:19
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2005年2月17日・木曜日の朝11時。
若い女性二人名が、36号室に泊まったまま、チェックアウトにいらっしゃいませんでした。 延長の連絡もいただいておりませんでしたから、私は昼の1時を過ぎた頃、失礼ながらマスターキーを使って部屋の中に入らせていただきました。
お二人はベッドの上で眠っておられるように見えました。
しかし、私が障ろうとしなかったのは、二人のかたわらに置かれてあった紙に書いてあった文字を見たからです。
『さわらないでください。 危険です。 感電する恐れがあります』
私は即座にとって帰し、警察に連絡を入れました。
警察が調べた結果、ニ人の左胸に5円玉、肋骨の下辺りに50円玉を電気コードに結び、電気コードはタイマースイッチを経由してコンセントに繋がれていたそうです。
ご丁寧にコンセントにはスライダックも付けられており…
―― スライダックって何? ――
失礼。一般の方には馴染みの薄い単語でしたね。
スライダックというのは、日本語でいう「電圧可変装置」であります。 電子楽器について少し知識のある方ならご存知でしょうが…… 海外製の電子楽器を日本で使用する折など、この装置を使うのです。
お二人がスライダックについて知っていても不思議な話ではありません。
―― どうして?
若いあなたはご存知ないでしょうが、36号室で亡くなられた福田明日香様、市井紗耶香様、保田圭様、そしてこの二人は、当時、国民的アイドルとして活躍した「モーニング娘。」に所属しておられたのですよ。
二人の名前は安倍なつみと矢口真里とおっしゃいます。
二人は固く手を握り合っておりました。
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- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:20
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たて続けに同じ部屋で、「モーニング娘。」に所属していた人物が亡くなるという事実は、マスコミにもファンの方々にも様々な憶測を呼んだものです。 この時期、ファンだったのでしょう若い方々が36号室を予約を入れるようになり、皮肉にもホテルの経営は黒字続きでありました。
――彼らもそこで死んだ?
いいえ。
そのような事はございませんでした。
そう、それこそ幽霊騒ぎなどは起こりましたが、この時点で36号室で亡くなられたのはまだ3人だけです。
――モーニング娘。の人だけ死んだ?
ええ。そうなのです。妙な話だと思いますか?
しかし、まだこの話は終わっていません。モーニング娘。のメンバーはまだまだいらっしゃるのですよ…。
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- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:21
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翌日の2月18日・金曜日に、当時モーニング娘。のリーダーをしておられました飯田圭織様が、私と数名のスタッフと、警察の方と共に、同僚が亡くなった36号室にいらっしゃいました。
飯田様はしばらくじっとしておられましたが、突然、何度も何度も何度も何度も壁に頭を打ち付けて、死なれました。
ええ。
勿論、私は止めました。
私だけではありません。その場にいた何人もの成人男性が飯田様を抑えようとしました。
しかし、飯田様は何かにとり憑かれたように、凄まじい力で私たちを振り払い、死ぬまで壁に頭を打つ続けられたのです。
低い唸り声をあげ、何度も何度も何度も…。
ごつ… というにぶくも明瞭な音が、壁にぶつかる度に、濁った音に変わりました。
壁には飯田様の血と。
そして飯田様は頭と鼻から、血を流して亡くなられました。
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- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:22
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そうそう。
先ほど、36号室で火災が起きたと言いましたね。
火災が起きたのは2005年3月25日・土曜日の深夜です。
幸い、火災はぼや程度で済みましたが、36号室に宿泊されておりました二人の女性は、残念ながら助かりませんでした。
二人の女性は身元の判別が不可能なほどに酷く“焼き尽くされて”おりました。
まさに“焼き尽くされた”としか、いいようがないのです。
何故なら、右足のすねから下を残して骨まで灰となっていたのですから…。
―― 人体発火のようだ? ――
ああ。
よくご存知ですね。 その通りです。
火災の規模はぼや程度で済んだのにも関わらず、部屋に残されていたのは足と、数本の髪の毛ぐらいでありました。
宿泊名簿やマネージャーの方、家族の方から情報を集めた結果、ようやく二人の身元が判明しました。
中澤裕子様と山田彩様 ――旧姓は石黒彩様と申します―― が、その日、36号室に宿泊されていたようです。
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- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:23
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この火災で、私たちは、思いがけないものを発見しました。
現場検証中に、急に36号室の壁が崩れましたのです。
そう。
そこは飯田様が丁度、頭をぶつけて亡くなられた辺りの壁でした。
そこからひどい臭いが漂ってきたので、壁の奥を調べてみると、なんと、金髪の男性の遺体がぬりこめられていたのです。
遺体はすでに腐敗しており、死後5〜6年は経過していたそうです。
様々な調査の結果、その男性はモーニング娘。のプロデューサー・つんく氏であることが判明しました。
2005年当時も、モーニング娘。のプロデューサー・つんくという人物は存在しておりました。では、壁にぬりこめられた男は誰なのでしょうかね?
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- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:24
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ここからはあくまでも私の推測ですがね…。
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- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:25
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このホテルは山崎直樹様という株式会社アップフロントグループ代表取締役の男のいとこにあたる方が建てたものです。
アップフロントグループの一枚看板が「モーニング娘。」でした。
テレビ東京系『ASAYAN』でのオーディション企画『シャ乱Qのロックヴォーカリストオーディション』に落選した中澤様、石黒様、安倍様、飯田様、福田様は、インディーズのオリジナルCDシングル「愛の種」を5日間で5万枚売り切り、1998年1月28日に1stシングル「モーニングコーヒー」で華々しくデビューされました。
1998年5月3日に保田様、矢口様、市井様を新しくメンバーに迎えて、モーニング娘。は上昇の機運に乗られたのですが 、1999年1月17日にメンバー最年少の福田明日香様が学業専念の為にモーニング娘。から卒業を表明されました。
そして、モーニング娘。につまづきが起こるのです。
1999年7月14日に発売された6thシングル「ふるさと」は、『ASAYAN』オーディション出身のアイドル・鈴木あみ様に惨敗し、今後、どうされるかの会議が、このホテルで行われたようなのです。
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- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:26
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これはあくまでも推測ですがね…。
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- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:28
- .
「シャ乱Q」ボーカル出身のつんくという人物は、ここで殺されたのではないかと私は思うのですよ。
事故か、故殺かどうかは分かりません。
遺体の腐敗は激しく、ただ、頭部に致命的な損傷が見られたことだけ判明しました。
1999年9月9日に発売された7thシングル「LOVEマシーン」は、それまでのつんく氏の描いていた曲とは趣きが異なったものでした。
しかし、「LOVEマシーン」はミリオンヒットを達成し、こうして国民的アイドルグループ「モーニング娘。」の図式が成立したことは確かです。
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- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:29
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一連の事件でお亡くなりになられた人物と、「つんく氏の遺体」の関連に注目したコアファンの方々は、掲示板などで
『メインから降ろされたつんくの怨念が、8人を殺したのではないか』
とか
『アップフロントに切られたつんくの呪い』
だとか、囁いたものです。
彼の目指したものは、壁にぬりこめられてしまった……。
歪んだ無念の想いは、8人を道連れにしたのではないかと……。
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- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:31
- ・
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…おっと。そろそろ、あなたの交代の時間が来たようですよ。
あなたはこの一連の出来事について、どう思いますか?
……そうですか。あなたも怨念だか呪いの仕業と思ったのですね。
そうですか。分かりました。
はい。お疲れさま。
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- 78 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:31
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- 79 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:32
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- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:32
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- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:32
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- 82 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:33
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- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:33
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- 84 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:34
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・
・
怨念だって?
呪いだって?
そんな非科学的なことがあるはずがないだろう?
全部、私が『殺した』にきまってるじゃないか!!!
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- 85 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 01:35
- .
『 ビヨンド 』
END
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- 86 名前:ビヨンドを書いた人 投稿日:2004/03/11(木) 03:31
- …しまった…。>>68と>>69の間に時間的な矛盾が…。失敬。
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 03:53
- END and END
・
・
あなた、カミソリは痛いわよ
川に飛びこみゃ、びしょ濡れだし
酸は火傷
薬飲んだら、震えがブルブル
銃は御法度
紐は伸びるし
ガスは臭い
どう? 生きている方がマシでしょ?
・
・
本当に終わり。
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/12(金) 18:06
- マンセー
- 89 名前:名無し。。 投稿日:2004/03/14(日) 11:21
- やべぇ みんなすげーよ
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 12:01
- 割りと良作揃いじゃん。。
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 18:51
-
『ひつじたちのちんもく』
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 18:51
-
「あいぼん、ご飯一緒に食べに行くのれす」
「ごめんな。のの。…今日はちょっと食欲ないわ。他の子誘ってや」
「…… そうれすか…」
やっぱりれす。 今日もれす。
あいぼんはこの頃、付き合い悪いのれす。
別にそれは構わないことれす。それよりも心配なのはあいぼんの元気がないことれす。 「覇気」というものが感じられないのれす。……え?そんな難しい言葉分かって使ってるのかよ?!……しつれーれすね。こうみえてもののは「博識」なのれすよ。のーあるたかは爪かくすのれすよ。
「あいぼん、なんか痩せちゃったね…」
我々のやりとりを見ていた高橋が心配そうに呟くのれした。
「まだ後藤さんが居なくなったのに慣れてないんだね」
と、小川が相槌を打ちます。
「師弟愛ってやつかなー。矢口さんが卒業することになったらどうしよう…私…」
新垣が色々なんか言ってます。
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 18:52
-
あいぼんが元気がない理由は「明白」なのれす。
ごとーしゃんがモーニング娘。から居なくなって、あいぼんはいつも寂しそうれす。
ののはあいぼんの「親友」として心配なのれす…。大切な「親友」なのれす…
『To:後藤真希
Cc:
Sb:相談に乗ってください
後藤さん、お忙しいしい
ところ失礼します。
辻です。
加護さんのことで
ちょっと後藤さんに
相談したいことがあります。
お暇な時で構いませんので
連絡いただければ幸いです』
ぽちっとな。
送信しゅーりょー。
ののは良い方法を思いつきました。あいぼんを元気にする一石二鳥な方法を思いついたのれすよ。
…え?メールの文章が仰々しいれすか?
いつものののメールの文章はこんなもんれすよ。いちいち「話し言葉」でメールをうつほど、ののは暇人じゃないのれす。
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 18:53
- 「……でさぁ、辻ちゃん。あいぼんの事で相談って何かなあ?」
ごとーしゃんがののの家に尋ねてきたのは、メールを送ってから1週間ぐらいした頃のことれす。 ごとーしゃん、ソロになってやっぱり暇になったんれすね。それはどうでも良いのれすが、ののはちゃんとお菓子とお茶を出して、ごとーしゃんと和やかに“近況”のお話をしていました。
ごとーしゃんはすっかり和んでいます。
「えーっとれすね……実は……」
ぼこ
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- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 18:54
-
ずるずるずる…
「よいしょ。よいしょ」
痩せているごとーしゃんでも、ののが力持ちれも、やっぱり人間を持ち上げるのは大変なのれす。
ごとーしゃんの両足を結んだロープは、負荷50キロまで吊り下げ可能のフックを経由して、ののの手の中にあります。なんとか引っ張りあげて、ごとーしゃんを逆さ吊りにすることに成功したのれす。
「さてと…」
まずは血抜きれす。
ここに取り出したるは電動ドリルというものれす。 電動ドリルでごとーしゃんの頚動脈あたりに穴を空けるのれす。
きゅいいいいいいん
どぴゃーー
ビンゴで頚動脈を切ったので、勢い良く赤い血が飛び出てきます。
どんどん血が流れて、飛び散ります。
ののも、部屋の壁も、床も、ごとーしゃんの辺りは真っ赤れす。 部屋じゅう、たちまち、濃い血の臭いで覆われてしまいました。
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 18:54
-
血抜きが終了したら、逆さ吊りしていたごとーしゃんを降ろします。
頭を切断する前に、まず頚骨を砕かないといけません。
血まみれのごとーしゃんの髪の毛を掴んで、部屋じゅうをずるずるずるずるずるずるずるずる引き回します。
頚骨を砕いたら、弓鋸で頭と胴体を切断しにかかります。
ぶちゅぶちゅ ずちゅ
ごり ごりごり
ごしゅずちゅぶちゅぶちゅ
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 18:58
-
さあ、頭が取れました。
次に取り出したるは、万力れす。
机の上に置いた万力で、ごとーしゃんの頭をしっかり固定します。
それから、顎の下に切り目を入れます。
その後に、剃刀で筋組織と皮膚の接着部分を切り離しながら、ゆっくりと、皮膚を“脱がせるように”剥いでいきます。
第一関門は鼻の部分れす。 皮膚を引っ張り過ぎて穴を空けないように、慎重に作業を進めなければならないのれす。
慎重に慎重に、ゆっくりゆっくり…。
時々ぷちっ、ぷつっと、筋繊維だか何だかがちぎれるような音が出ます。
ゆっくりゆっくり…。
第二関門は目の部分れす。 これも鼻の部分と同じように…“高度なてくにっく”が必要なのれす。
慎重に慎重に、ゆっくりゆっくり…。
時々ぷちっ、ぷつっと、筋繊維だか何だかがちぎれるような音が出ます。
ゆっくりゆっくり…。
ゆっくりゆっくり…。
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- 98 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 19:02
- ののの手元には、目を空けた赤黒い塊になった頭と、クレープ生地のような皮膚が残りました。
とりあえず皮膚は置いといて。
今度は頭の上の方をのこぎりでざっくばらんに開頭します。
ぐちょぐちょした脳味噌を適当にすくい出して、顔面の皮膚の裏側からすり込んでいきます。
ぬりぬりぬりぬり
ぬりぬりぬりぬり
丁寧に、何度もまんべんなく顔の皮にすり込むのれす。
ぬりぬりぬりぬり
ここで脂肪をちゃんとなじませておかないと、皮のふちが乾いて、被ったときに“みょーにちくちくする”ってエディが言っていたのれす。
ぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬり ぬりぬり ぬり ぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬ りぬり ぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬり ぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬり ぬり ぬり ぬり ぬり ぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬりぬり ぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬり ぬりぬり
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- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 19:02
- .
ののは、充分に脂肪をなじませた、それに塩を振り、陰干しにしました。
ふー。 とりあえず作業は終了なのれす。
これから片付けがちょっと大変れすね…。
ちょうどお腹が空いたので、料理にするのれす。
処女のお尻はオーブンでとろとろにすると美味いとフィッシュじいさんが手紙で書いていたのれす。 じゅる。
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- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 19:03
- .
「おはよー。辻ちゃん」
「梨華ちゃん。おはよーなのれす」
廊下でまごまごしていると、梨華ちゃんがやってきたのれす。
「辻ちゃん、入らないの?」
「あのー…」
「ん?」
「中にあいぼんが居るか確かめてきて欲しいのれす」
「…なんで?」
「なんでもへちまもないのれす」
「ヘンなの。辻ちゃん」
梨華ちゃんはそう言って、楽屋に入って行きました。
『梨華ちゃーん。おはよー』
中からあいぼんの声が聞こえてきました。
ついにあいぼんを元気づける時が来たのれす。
あいぼんはごとーしゃんが居なくなって、寂しいのれす。
ののはバッグからお面を取り出しました。
がちゃ
「おはよう!あいぼん!」
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- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 19:04
-
『ひつじたちのちんもく』
おわり。
- 102 名前:ななしのななしのななし 投稿日:2004/03/20(土) 18:03
- ひょえー!
- 103 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 01:23
- 「シンプル」
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 01:24
- 「大体」
膝の上で鞄をごそごそとやりながら、飯田が言った。
「みんな変に凝り過ぎなんだよ。やっぱシンプルが一番だね」
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 01:25
- 飯田は鞄からお面を取り出した。穴が沢山開いた、随分と使い込まれたお面だった。
そしてそれを顔にあてがい、ゴムで固定する。両目の穴から、ギョロリと瞳が覗く。
飯田は続けて鉈を取り出した。古びて所々刃こぼれはあるが、妖しい輝きを放っている。
大勢の人間の血を吸った凶器だけが持つ輝きだった。
- 106 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 01:25
- 飯田こそは、世間を騒がす謎の殺人鬼ジョンソンだった。
悪魔と化した飯田は、最早誰に止めることはできない。飯田が飽きるまで殺戮が続くのだ。
飯田は隠れていたトイレの個室のドアをぶち破ると、手始めに目の前に居た掃除のおばちゃんの首を刎ねた。
そして廊下に飛び出すと、そこら中の人間を片っ端から叩き殺した。
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 01:26
- あっという間に都内一等地にあるテレビ局内はパニック状態と化した。
逃げ惑う人々の背中を飯田は驚くべき俊足で追いまわし、次々と惨殺して行く。
上から下、下から上へ。所狭しと狩は行われ、局内の生存者はいよいよ一人だけとなってしまった。
命を賭けた鬼ごっこである。
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 01:26
- 運悪く追われる立場となってしまったのは、若い女性のADだった。
必死で逃げるも、あまりの恐怖に頭が真っ白になり、どこをどう行ったら良いか判らない。
振り返ると無言で迫るジョンソンがいる。
ついには力尽き、階段の踊り場でへたり込んでしまった。
確実な死の恐怖に全身が震える。見上げると、階段の上からジョンソンが見下ろしていた。
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 01:27
- 「キャアアアアアアアアアアアアアアァァァッッッ!!!」
悲鳴を合図に、ジョンソンが跳躍した。鉈を振りかぶりながらジョンソンが降ってくる。
死ぬのだ。ADは、頭を抱えた。次の瞬間、凄まじい衝撃が彼女の身体を貫いた。そして気絶した。
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 01:27
- 警察が現場に駆けつけると、踊り場で倒れているADが発見された。彼女が唯一の生存者だった。
すぐ傍には、着地に失敗したジョンソンが転がっていた。鉈は、ジョンソン自身の血を吸ってぬめっていた。
- 111 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 01:28
- 終
- 112 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:17
-
Lard, Lips, Liquor
- 113 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:18
-
【正しいゾンビの作り方】
1:テトロドトキシン(フグから取れる神経毒)で全身を麻痺状態にする
2:半日ほど地中へ生き埋めにする
3:脳(前頭葉)に損傷を負った状態で蘇生させる
4:仕事のための「条件付け」を行う
- 114 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:18
-
◆
いつからか分からないが、私は歩き続けていた。夢の中なのか、夢から
覚めたばかりなのか、いずれにしてもアタマはぼんやりとしていて、自分
の置かれている状況がさっぱり分からない。辺りは薄暗く、雨の降った
後のように薄く霧が立ちこめていて、視界は不明瞭だ。足下の土はぬか
るんで、一歩一歩がひどく重たく感じられる。
私と同じように、ただ同じ方向に憑かれたようにして歩き続けている一団
が前後にいるようだった。私もその中の一人なのだろう……。みな一様に
泥まみれで、生気のないまっ白な顔をしている。ぎくしゃくと不器用そう
に手足を動かして、歩いているというよりも少しずつ転びながらかろうじて
前進し続けているといった感じだ。私も、カラダが思うように動かせず
苛立ちを覚えていたので、やはり同じように見えているのだろう。誰も、
私がモーニング娘。の高橋愛だとは、気付いていない様子だった。普段
からそれほど気付かれるタイプではないけど……。
- 115 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:18
-
指先は凍傷にかかったみたいに、感覚がなく動かせない。足下からも泥沼
みたいな地面からじわじわと冷気が染み込んできて、熱を奪われていく。
周囲から、湿り気を帯びた緑の匂いが漂ってくる。私は、全身の筋肉が、
筋を切断されたみたいにうまく動かせなくなっているのに対して、五感は
ひどく研ぎ澄まされていることに気付いた。ひどい悪臭だ……。まるで
生肉を日向に放置し続けたみたいな。前後を私と共に後進し続けている
人たちは、ほとんど死体だ……。鼻や口から粘液を垂れ流し、時折、人間
のものとは思えないような呻き声を発すること以外は。それに比べれば、
私はまだよっぽどマシなはずだ……そう思いたかった。
ふらふらと、ぬかるみに隠れた草の根に足を取られないように気をつけ
ながら、私は自分の姿をあらためた。泥まみれになっていたが、普段身に
つけている黒いジャージが分かった。そして、ようやく思い出した。私は、
その日も一人居残ってずっと自主トレを続けていたんだった……。
五期の他の三人、麻琴とあさ美と里沙はしばらく付き合ってくれていたけど、
結局いつものように一人になっていた。すでに夜の深い時間になっていて、
私は軽くシャワーを浴びると、タクシーを拾って帰ろうと夜道に立って
いたのだ。そのほんの短い時間に、私は……
- 116 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:19
-
悲鳴を上げたかったが、それはくぐもった、身の毛もよだつような呻き声
になって喉の奥から漏れだしただけだった。どろどろになって頬に貼り
ついている髪をかき乱して、どこでもいいから駆けだして救いを求めた
かった。しかし、腕は、バランスをとるためかバカみたいに前に着きだした
状態から動かすことも出来ず、足は決まった方向に投げ出すようにして
進んでいくだけだった。私は不意に、以前はどんな風にして歩いていたの
か思い出せず不安になった。右脚から踏み出して左、右、交互にテンポ
よく……いや、踏み出しは左からだったっけ……。
けもの道から、ようやく開かれた場所に出た。白く新しかったスニーカーは
見る影もなく泥にまみれて、ぼろぼろになっていた。どれくらい歩かさ
れたんだろう。私は、固い地面を踏めているということだけでも、ひどく
幸福な出来事に感じられてしまった。それくらい、疲れ果てていた。
- 117 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:19
- ぽつぽつとぶら下げられた白熱灯に照らされているだけのだだっ広い場所を
しばらく歩かされて、私たちはようやく、腐った木材で組み上げられた
掘っ建て小屋に導かれていた。灰色のつなぎを着て、警棒を振っている
のはここの管理人なのだろう。大きなマスクと防護グラスで顔を覆った
彼に、私たちは追い立てられるようにして次々と小屋へ入れられていった。
酸化したような鼻を突く匂いが、小屋の中には充満していた。先客たちは
私たちよりもさらにひどい状態で、衣服のみならず、皮膚までボロ紙の
ように引き裂け、あちこちに赤黒い塊がこびりついていた。血と吐瀉物
と排泄物が混じり合って、湿気の中で腐敗したような匂い……それが、より
鋭敏になった私の嗅覚に突き刺さってきた。喉の奥から熱い物がこみ上げて
きて、開けっ放しだった口や鼻からこぼれ落ちた。凄惨な光景と痛みで
涙がとめどなく溢れてきたが、瞼を閉じることもうまくいかなかった。
ちょっとした体育館ほどの広さのある小屋は、そのまま地面に仮設された
もののようで、私たちは空いた隙間を見つけて蹲るしかなかった。一晩が
すぎ、亀裂だらけの壁をとおして日光が差し込んできていたが、窓もなに
もない小屋の中は相変わらず薄暗かった。もっとも、そのほうが、嫌な
光景をはっきりと見ることなくありがたかったが……。
- 118 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:19
- この場の悪夢のような状況に慣れる事なんて出来そうになかったが、それ
でも、私はようやく少しは落ち着いて考えられるようになっていた。
先客たちはもとより、私と一緒にここへ連れ込まれた人たち──男もいれ
ば女もいたし、子供から老人まで、満遍なく揃っていた──は、ほとんど
自分の意志もなにも持っていない状態みたいだった。私が横になるための
場所を確保しようと強引に押しのけたときも、なんら抵抗もせずにそのまま
転がっていった。呻き声を上げたり、ふらふらと手足を揺らしたりする
程度の反応はあったが、それは本当に単なる反応でしかないようだった。
私はまだ少なくとも思考するだけの能力は残されているんだ。ラッキー
なことなのかどうなのか分からないが、条件反射だけで動かされる状態に
される寸前のところで、かろうじて踏みとどまったようだ。
しかし、一体ここはどこで、私たちはなんのためにカラダの自由を奪われて
……というより、死体同然の状態にされて、閉じこめられているのか、それ
は全く想像もつかなかった。
- 119 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:20
-
◆
一週間ほどが経った。一日三回、灰色のつなぎを着た管理人が扉を開け、
近くにいる数人を適当に捕まえて表へ連れ出していった。そして、一日
一回、私たちの時と同じく夜中だったが、数人の追加メンバーが小屋に
連れ込まれてきていた。
私は小屋の奥に陣取り──この場所にいればひとまず連れ出されることは
ないと分かっていた。もし出たくなれば扉の側まで移動すればいい、それ
で事態が好転するとは思えなかったが──、じっと観察を続けた。この中
で脱出出来る可能性が残されているのは私だけだろう。連れ出されたメンバー
は、ほとんどが戻ってくることはなかったが、それでもごくたまに、追加
メンバーたちに混じって戻されることがあった。その時は、大概全身に
深い傷を負った状態で、血だらけになって戻ってきた。プロレスのTシャツ
を着た大柄な男は、二度連れ出されて二度戻ってきたが、一度目には脇腹
に深くナイフが刺さった状態で、二度目はクビが半分もげかけていた。当然
のことながら治療などはなされず、三度目に連れ出されてそれから二度と
戻ってくることはなかった。
ひどくアタマが朦朧としている。連れ込まれてから一週間、食事も飲み
ものも与えられていなかった。他の人たちも、私と同じように空腹なはずだ。
あるいは、彼らのような状態になればそれすら感じないのかもしれないが……。
- 120 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:20
- 微かな光と闇の交代から日付を数えるのも限界になってきた十日目……、
ようやく、小屋の中へ食事が放り込まれた。食事と言うよりも、それは
単なる生肉の塊だった。ゴミ用の青いポリバケツ3つ分、血腥い匂いを
振りまきながら、管理人たちによって無造作に運び込まれた。
その時、突然小屋全体が激しく揺れ動いた。ほとんど死体同然に無反応
だった人々が、一斉にむくむくと起き出すと、肉へ向かって集まりはじ
めたのだった。やはり、空腹感はずっと残されていたのだ。
彼らは時折すばやい動きを見せるものの、ほとんどは緩慢にふらついている
だけだったので、肉にありつくのは容易だった。血抜きもされていないし、
内臓やらも一緒くたにぶちこまれていたが、気にしている余裕なんて残って
いなかった。私はポリバケツに顔から突っ込むと、血塗れになりながら
生臭い肉で空腹をいやした。嗅覚だけでなく味覚も鋭敏になっているようで、
鉄錆と腐った古着の混じり合ったような味が、口の中から全身に広がって
いくようだった。
- 121 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:20
-
◆
どれくらいの月日が流れたのだろう……茫洋とした思考でもはや数え続ける
ことも難しくなっていた。夜になっても暑さと湿気が残るようになって
いたから、季節が変わったことは確かなようだ。
私がいなくなった娘。はどうなっているだろう……。何事もなかったように、
適当な言い訳をつけてまた忙しい日常を送っているのだろうか。誰か、私を
一生懸命探し続けてくれているだろうか。
状況は全く変化することはなかった。一日三回の連れ出しと一回の追加、
十日に一度与えられる、血と生肉の塊……。私のカラダはいまだうまく
動かせなかったが、感覚はどんどん研ぎ澄まされていくようだった。匂い
だけで肉の詰まったポリバケツが近付いてくるのが分かるほどに。そして、
その匂いを嗅いだ瞬間に、だらだらと垂れ流されるよだれを止めることが
出来なくなるほどに。
肉体も精神も、限界が近付いてきていた。小屋の扉には簡単な閂がつけ
られているだけだったが、私のカラダでは少しずらすことさえ難しかった。
脱出するためには、やはり連れ出しの群の中に混じるしか方法はなさそう
だった。出戻り組の悲惨な有様に、これまで何度も躊躇してきたが、もはや
そんな猶予も残っていないように感じられた。
- 122 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:21
- 夜明け前に、私はのろのろと扉の側まで移動した。理由はないが、今日
この日であれば、なにかラッキーな状況が訪れてくれるかもしれないと、
そんな確信が、なぜか生まれていた。
昼前に、他の10人ほどと一緒に私は連れ出された。久しぶりに表の空気に
さらされて、あまりに澄んで感じられたのでそのまま風に攫われてしまい
そうな気分になった。ここにはじめて連れてこられた時のように、空気は
湿っていて、空には灰色の雲が立ちこめていた。
空き地をしばらく進み、鉄条網の付いたフェンスをくぐった。扉には鎖
と南京錠がつけられ、厳重に管理されている場所のようだった。
- 123 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:21
- 廃液処理場の跡地のような、SF映画に出て来そうな秘密の研究所のよう
な場所を通過した。途中で、半分の人が別れ、その場に残された。
地下へと向かう階段を延々と下りた。鉄板を踏みしめるカンカンという
音が、冷えた地下の空気の中で反響していた。薄暗くてよく見えないが、
掘り抜かれた壁には一面に、蔦状の植物が拡がっていた。しかし、よく
見るとそれは、血管のように脈打っていた。
私を含む五人は、工場の管制ルームのような部屋に連れてこられた。部屋は
ひどく散らかって、盗賊団に荒らされたあとのようだった。管理人の指示
を受けて、私たちはその部屋の別々の場所に隔離された。私は、奥の掃除
用具入れみたいなロッカーに閉じこめられた。そして、管理人は全員が
所定の位置に納まったことを確認すると、姿を消した。
なんだ、これは? 私は弱り切ったアタマで、必死に考えた。そして、ふと
思い当たることがあった。
- 124 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:21
- あれはいつのことだっただろうか。私と、まこっちゃんと……あと何人か
いて、そして藤本さんが喋っていた。どんな話題から流れていったのか
はよく覚えていなかったが、藤本さんは急に秘密めかした口調になると、
聞いた話なんだけど、と前置きしてから、ある会員制のアトラクション
のことについて語り始めた。
「サバイバルゲームのリアル版って感じっぽいのかな。ゲームであった
じゃん。壊滅した街に入っていって、ゾンビをばんばん撃ち殺していくの。
そのゾンビがすっごい、本物としか思えないんだって。ね、興味ない?」
「あたし怖いのダメなんですよ」
そう言ったのは多分私だ。麻琴は逆に興味を惹かれたみたいで、
「それって、普通に参加できるんですか?」
と、身を乗り出していた。
「紹介制だから。でも、チーム参加が前提だから、機会があったら声かけ
てあげるよ」
- 125 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:22
- ゾンビゲームの話はそれっきり聞かなくなっていた。しかし、ここがその
時藤本さんから聞かされたゲームの会場で、私たちが秘密裡に調達された
ゾンビの役を演じさせられているのだとしたら……。
銃声が聞こえた。古臭いタイプライターを連打するような、乾いた一続き
のプラスチックっぽい音が、すぐ下のフロアから聞こえてくる。もうずっと
耳にし続けていた、特有の低い呻き声が、折り重なるようにして響いてくる。
銃を持った連中が、口々に悲鳴をあげたり喝采をあげたりしながら、私の
隠されている部屋に接近してくる。必要なアイテムを探し、襲いかかって
くるゾンビどもを次々と射殺しているのだ。
私は小屋に閉じこめられた人たちの緩慢な動きを思い出した。私もあの
状態だとすれば、それこそ撃たれるがままだろう。
猶予はなかった。私は体当たりでロッカーを開けると、部屋を見回して
どこか隠れられそうな場所を探した。私と一緒に連れられてきた人たち
は、戸棚や、机の下や、部屋の隅の死角に配置されている。
私はふらふらと扉の側まで近付くと、すぐ近くに蹲った。彼らが扉を開いて
なだれ込んできても、うまくすればここなら見逃すかもしれない。もし
見付かったとしても……それでも、他の可能性は思いつかなかった。
複数の足音が近付いてきて、荒々しく扉が開かれた。
- 126 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:22
- 彼らの過ぎ去った後には、凄惨な光景だけが残されていた。同じ人間とは
全く思っていない様子で、容赦なくマシンガンを放ち、ナイフを振るった。
真っ先に机の下から飛び出した男のゾンビは、ライフルの一撃で胸の真ん中
に大きな穴を開けられた。背中から肉と内臓が飛び出し、辺りに飛び散った。
参加者の一人が戸棚に近付いたときに背後から襲いかかった女性ゾンビは、
背中にナイフを突き立てられて、床に倒された後アタマを踏み潰された。
灰色の脳漿と血が一面に拡がり、たちまち饐えた臭いが部屋中に充満した。
私は襲いかかっていきたいという衝動を必死になって押さえていた。それは、
長い間一緒に過ごしたせいか、殺されていくゾンビたちに仲間意識のよう
なものを覚えたからだろうか。それとも、気付かないうちにゲームのための
条件付けを行われてしまっていたのだろうか。しかし、私はまだ完全な
ゾンビじゃない。ここを抜け出したら、最悪の殺人ゲームを、真っ先に
告発してやらないといけないんだ。それが出来るのは、私だけだ。
- 127 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:22
- 殺戮が終わり参加者たちが出ていった後、私は別のゾンビが潜り込んで
いた戸棚に隠れた。しばらくするとマスクをつけた係員が数人やってきて、
手慣れた様子で室内の掃除を始めた。死体の数を厳密にあらためることは
していないようだった。開け放されたロッカーを一瞥し、大した疑問も
抱かずそのまま立ち去っていった。私は、追加のゾンビたちがやってくる
前に、急いで──といっても大したスピードは出せなかったが──部屋を
後にした。
- 128 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:23
-
◆
連れてこられたルートの逆を辿り、長い鉄のステップを上って、趣向を
凝らしたアトラクションのセットの中を進んでいった。何度か係員たちと
ニアミスをしかけたものの、運良く発見されずに済んでいた。しかし、ここ
は想像以上に広く、複雑に入り組んでいるようだった。私の緩慢な歩み
では、一日かけてもロクに距離を進むことは出来なかった。それでいて、
疲労は信じられないほどに溜まっていった。
空はいつ見てもどんよりと重く、灰色の分厚い雲が立ちこめていた。あるいは、
全部屋内に設置されているものなのかもしれない。となると、抜け出すのは
難しい……。時折、どこからか彷徨い出て来たゾンビとすれ違うことが
あったが、いずれも完全に意思は奪われているようで、私の姿を見ても
なんの反応もしなかった。協力者を見つけるのも無理みたいだった。
- 129 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:23
-
……
どれほどの時間が流れたのか、全く分からない。私は、蓄積された疲労と
極限の空腹で、どうしようもなくなっていた。荒野の中心に置かれた死体
安置所を象ったセットの中で、ゾンビたちと一緒に膝を抱えていた。
諦めたらそこで終わりだと、何度も自分に言い聞かせた。しかし、いくら
強く意志を持っても、カラダが言うことを聞いてくれなかった。
割れた窓ガラスの外から、話し声が聞こえた。女性の二人連れだ。やがて
二人は別ルートに別れたようで、会話が止んだ。
あの声は、どこかで聞いたことがあるような気がした。おぼろげな記憶の
中から、微かな一筋の残滓を救い出そうとした。
- 130 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:24
- そうだ、あれは……藤本さんの声だ。そして、一緒にいたのは……麻琴だ。
木製の扉が開かれる軋んだ音がした。条件反射のように、ゾンビたちが
むくむくと起き出して、扉の方へ向かっていく。続いて、容赦のない銃声
が響き渡り、腐った血の匂いが辺りに撒き散らされる。
残り少ない力を振り絞って、私は立ち上がった。見間違えではない。血煙
の向こうで拳銃を放っているのは、確かに小川麻琴だ。
- 131 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:24
- 麻琴!
そう声をあげたつもりだった。しかし、私の声もまた他のゾンビと同じ
ような、くぐもった呻き声にしかならなかった。
ほとんど感覚のなくなった足を踏み出した。そのまま前のめりで数歩進んで、
巨漢のゾンビにぶつかって止まった。と、すぐ前で銃声が聞こえ、巨漢は
血を吐きながら倒れた。
銃を構えた麻琴が目の前にいる。お願い、気付いて! 私は一縷の望みを
込めて、麻琴の目を見つめた。
一瞬、信じられない、といった表情を浮かべた後、麻琴はぽかんと口を
あけたまま凍り付いていた。
「……愛ちゃん?」
- 132 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:24
- 私はうれしさで涙が溢れそうになった。よかった。これで、ここを抜け
出せる。また人間としての生活を、取り戻すことが出来る。
一歩、また一歩と前へ踏み出していく。麻琴は、まだ事態をよく飲み込め
ていない様子で、それでも銃は下ろしてじっと視線は逸らさずにいる。
急に、カラダの奥からある感覚が蘇ってきた。それは嗅覚を刺激して、忘れ
かけていたあの味を思い起こさせた。
ずっとここで食べ続けてきた、血と生肉の混じり合った匂い……微かでは
あったが、それは目の前から確実に漂ってきていた。
そして私はようやく気付いた。私たちがずっと食べ続けて、気付かない
うちに覚えさせられていた、欲求を。……
- 133 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:25
- その感覚に逆らうことは出来なかった。カラダが、突然力を帯びたよう
だった。目の前にあるのは、新鮮で、健康的に育てられた、肉と脂の塊で、
美しい血がたっぷりと染み込んでいることだろう。
胃が悲鳴をあげていた。私は自分でも驚くほど俊敏な動きでその塊に飛び
かかると、欲求の赴くままに待ちわびた食事にかぶりついた。鮮血が溢れ、
柔らかな肉の感触が舌の先から全身に伝わって、私を潤した。
- 134 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/11(日) 17:25
-
END
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 20:59
- 小川、哀れ…
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 21:13
- 気づいてやれた小川に拍手
愛を感じるね。
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 00:12
-
『君が眼よ、美しく我を語れ』
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 00:12
- 「プリンが食べたい」と突然言い出して、わざわざ評判の洋菓子店に寄って来てもらった割には、
プリンを口にした道重の反応は実にあっさりとしたものだった。
彼女は特別感想を述べるでもなく、ましてや嬉しそうな顔をするでもなく、
時々チラチラと亀井の様子を窺う以外は、ただ黙々とスプーンを口に運ぶばかりだ。
道重の向かいには、わがままにつきあわされた亀井が同じくプリンをチビチビと食べており、
覗き見てくる道重を不思議そうに見返しながらも、無言の空気に呑み込まれていた。
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 00:13
- ブラインドの隙間から染み込む黄昏時の春の陽射しは数々の陰影の群れを作り出し、
無彩色で統一された素っ気無い室内に淡い色を持たせる。
うつむきがちの亀井は異様に赤い夕陽に真正面から照らされては眩しげに目を細めていて、
度々震えるその長い睫毛は目元に細やかな影を落としている。
一方、窓を背にした道重の姿は、ワンピースの肩にあしらわれた大きなリボンが光に透ける以外は
すっかり影に染められていて、そこから伸びた脚がソファとテーブルの間に窮屈そうに収まっている。
ビルの高所に位置するこの部屋には時々思い出したように低いエンジン音が遠くから届くだけで、
都会の一角というのが嘘かと思うほどに静まり返っており、乾いた空気がそれを余計に増長させる。
2人だけの閉じられた空間にはカラメルの香りがそこはかとなく広がっていた。
撮影の待ち時間である。
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 00:14
- プリンは評判どおりの味で、なめらかな舌触りも鼻に抜ける芳香も申し分なかったが、
今の道重にとってそんなことは最早どうでもよかった。
それよりもただ、亀井の不安げな漆黒の眼に彼女は夢中になっていた。
揺れる睫毛の奥は強烈な陽の色さえも吸い取ってしまいそうなほど深いのに、
それでも涼やかさは失われない。切れ長の目は水辺の匂いがする。
凝視された亀井はスプーンを咥えたまま、所在無さげに辺りに視線を投げた。
道重の手に握られた小さなスプーンは軟い香りを削り取り、そして時折空を切る。
動かない目線の先には、さまよう黒い瞳に映る道重の姿。
- 141 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 00:14
- そこに生じる矛盾。
この眼を持ってるのが、一番かわいいわたしじゃないなんて。
道重はむうと頬を膨らませた。
亀井はひたすらスプーンを口に運ぶ。
プリンがなまめかしく光を弾く。底に溜まったカラメルソースがじわりと滲み出た。
そうだ、そうだ。わたしのものに。
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 00:14
- 亀井は初め、道重が倒れたのかと思った。
テーブルに突っ伏すように手をついた道重は、そのまま勢いをつけてソファに腰掛ける亀井に飛びかかる。
突然の事に亀井は逃げることもできずに、ソファごと床に投げ出された。
「いっ…」
床に打ち付けられた頭を押さえてうめく。起き上がれない。痛みが鼻に抜ける。
亀井が強くつぶった目をようやく開くと、目の前に道重の顔があった。
目が合ったような気がしたが実際は、亀井からは逆光で、その表情ははっきりとは窺い知れない。
揺さぶられたテーブルの上では食べかけのプリンがひっくり返っていて、
染み出たカラメルが白いテーブルをゆっくりと侵していった。
顔にかかった黒髪を道重がそっと指で払う。髪ははらりと流れ、絨毯敷きの床に広がる。
頬に触れる指は優しいが、道重は相変わらず無言だ。亀井の眉間に思わずうっすら皺が寄る。
不安げに道重の名前を呼ぼうとしたとき、その手が不意に顔を覆い、亀井の瞼を無理矢理開かせた。
右手に握られたスプーンが、鈍く光った。
- 143 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 00:15
- 尋常じゃない。
亀井は慌てて道重の身体を突き飛ばそうとしたが、馬乗りになった道重の力は思いのほか強く、
投げ出された脚をばたつかせるのが精一杯だ。
声を上げて静止しようにも、顔を押さえつけられているのとあまりの恐怖とで上手く声が出せず、
必死の叫びは喉のずっと奥の方でグルグル渦巻いた。
赤い光は銀色の緩やかなカーブに散らされて亀井の眼へと突き刺さる。
眩しさに目を閉じようとするが、押さえつけられた瞼は痙攣のように小刻みに動くだけだった。
道重が何か呟いたが、もう亀井にその声は届いてはいない。
その優しい声色も、肩に乗った可愛らしいリボンも、下腹部に感じる柔らかい重みも、
彼女の全てが恐怖に変換されていた。
ふと右手が動いて、光の道筋が変わる。
ひやりとした感触が、瞼の裏へあてがわれる。
叫んだ。が、やはり声は出なかった。
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 00:15
- 興奮のためか、緊張のせいか。
道重の白い頬はほんのりと紅潮し、薄く開かれた口からは熱っぽい息が小刻みに吐かれている。
ねじ伏せられた亀井は自分の行く末に幾度も吐き気を催し、
口内に溜まった吐瀉物は口角から低いうめき声と共に漏れ出しては、
几帳面に一番上まで留められたシャツの襟元を汚した。震える両腕が道重の肩を力なく叩く。
道重は右手に一層力を込めた。
「きい」
悲鳴ともつかぬ弱々しい声があがる。
じわじわと肉を破る感触が手のひらにありありと伝わる。
ある程度まで押し進めると、眼孔の奥で蠢いていた抵抗が軽くなった。
柄まで刺さったスプーンをそのままぐるりと回してからゆっくり引き抜くと、
鈍い響きとともに小さな眼球が姿を現し、ようやく気絶した亀井の頬を転がった。
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 00:16
- 床に落ちかけたそれを慌てて拾い上げた道重は、大事そうに左手に乗せる。
仰向けに寝転がったままの亀井の顔には眼球とともに流れ出た様々な液体が染みを作っており、
ぽっかりと空いた眼窩はその深い洞の中へと茜色の光を呑み込んでいた。
道重はその暗闇へと繋がる、桃色の肉を纏った白い糸をスプーンの角で断ち切って左手を高く掲げた。
白く冴えた表面には赤く鮮やかな繊維がところどころに走っていて、
存分に陽を受けたその姿は、まるでごく新鮮な果実のようだ。
みずみずしく光る漆黒の瞳に、道重のうっとりとした眼が映りこむ。
道重は笑っていた。
わたしのものに。わたしのものに。
道重は自ら瞼を引き上げると、その奥にスプーンをぐっと滑り込ませた。
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 00:16
-
end
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/09(日) 00:18
- ぐはー
やっぱりここの作品は目が離せないな。
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/30(金) 15:05
- ho
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/07(火) 02:23
- ho
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/27(月) 09:31
- 保全
- 151 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:08
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『スナッフ』
- 152 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:08
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劇場後悔を約半年後に迎えたホラー映画「BEHIND OF THE BLIND DEAD」の撮影状況は、あまり順調とは言えなかった。
日本で恐怖ものの映像を撮る際にしばしば聞かれる「不可解なアクシデント」が、この映画でも起こっていたからに他ならない。
今や日本のホラー作家として、確固たる地位を築いていた藤本美貴の新作「BEHIND OF THE BLIND DEAD」を原作とするこの映画は、ある事件をモチーフとしていたから、この手の「アクシデント」は、ある程度予想できたと思われた。
いわく“霊感”のあるスタッフが、少女二人の幽霊を見たとか、撮影したフィルムに妙な影が映っているとか、スタッフが急病や怪我に見舞われたとか。
藤本美貴は、よく撮影現場にやってきていた。
特に演出や演技に口を出すわけではない。
ただ、じっと撮影風景を遠くから見ている、それだけだった。
- 153 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:09
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#10シーン:第3の犠牲者の殺害シーン
場所:多摩川河川敷
『 暗い夜道を必死で走る少女の後ろ姿。
しかし、その視界は狭く、ぼやけ、スローモーションがかかっている。
静かな夜道に鳴り響く馬の駆ける音と、不気味な息遣い。
と、逃げ去る少女の前に現れる、もうひとつの人影。
少女の顎を掴むと、橋桁へ引きずり込む。
必死に逃れようともがく少女の右手を、馬の片足が無残に砕いた。
月にかざされた刀。
刀は、人影に抑え込まれたままの左手を切断する。
少女は絶叫をあげようとするが、人影に乱暴に頭を地面に突っ込まれた。
刀の主は、殺害を弄ぶかのように、次々と腕や脚を切断していく。
少女を抑えていた人影が、心臓をえぐりとる。
したたる血を浴びるように飲むと、心臓をまるでフライドチキンを食べるようにむしゃぶりつく。 人影は切断された肉片を拾い集め、血をすすり、貪る。
刀の主は、切断された少女の首を掲げると、その両眼を無造作にえぐりとった。』
- 154 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:10
-
藤本美貴は、台本を読みながら、内心、苦笑していた。
この殺害シーンだけで、編集・完成しても5分以上も続くのだ。よくもこんなシーンが通ったものだ――――…もっとも、惨殺シーンが通らなければ、映画化権を断っていただろうが。
役者の迫真の演技の続く中、藤本はぼんやりと考えていた。
あの二人は、どこかで見ているだろうか……。
…………。
………。
……。
…。
- 155 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:11
-
「藤本さん、サークルから抜けるって本当?」
冬の真っ只中の、しかも夜だった。
藤本は多摩川沿いの河川敷で、二人の少女と向かい合っていた。
「本当だけど?」
寒い―――。 何もこんな寒い所に呼び出す必要なんてないじゃないか。ファーストフード店とか、喫茶店とか、あるだろうに、と、彼女らの話を聞きながらぼんやり思った。
「どうして辞めるの?」
もう一人の少女が口を開いた。
少し遠くに見える鉄橋に、電車が走っているのが見えた。
街の光が、夜の川面にきらきらと反射していた。
「別に。辞めたいから辞めるの。どうだっていいじゃない」
「私、ちょっと聞いたんだけど、藤本さん、公募小説を書いてるって…」
ちっ。耳聡い奴らだ。
藤本は内心、舌打ちをした。
「私たち、2年間一緒にやってきたじゃない!サークルと小説、どっちが大事なの?!」
「はあ?!」
藤本は、少女の紡いだ、あまりにも稚拙なセリフに笑いをこらえきれなかった。
- 156 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:12
-
藤本美貴は二年前、ちょっとした好奇心で、友人がよく手伝いに行っているサークルの手伝いに行った。
それはいわゆる「同人漫画」を描くサークルだった。
手伝いに何度か参加するうちに、いつの間にか藤本はサークルのメンバーのうちに入れられていた。
女性14人の同人サークル「モーニング娘。」で活動する未知の世界は、それなりに楽しかった。
しかし、始めにサークル内で仲の特によかった二人はプロの道を歩み始め、サークルから脱退した。
そして、つい最近、最年長のリーダーが就職してサークルから抜け、メインの書き手も先日、プロの編集者にスカウトされ、辞めてしまった。
度重なるメンバーの脱退で「モーニング娘。」は逆に内部の結束を固めるようになっていった。
藤本は、元々、束縛されるのが好きではなかった。
結束を固めた「モーニング娘。」は、藤本の生活にやたら干渉するようになっていった。
もしも「モーニング娘。」で、漫画を描いていくことで生活していけるようならば、残ってもいいかと思ったが、藤本の目から見て、どう見てもこのサークルで食っていくことは不可能のように見えた。
元々、友人に誘われて手伝いに行っただけの身である藤本が「モーニング娘。」にこだわる理由など何処にもない。
もっとも「モーニング娘。」にとっては、藤本は大切な存在だっただろう。
作家志望の彼女の提供する「原作」は、既成の同人作家に見られない、エロティシズムとサディズム、そしてゴシック・ホラーの混合とも言える独特の感性に満ちていて、ファンも多かった。
事実、彼女が「原作」にクレジットされた本は、サークル内では安定した増刷を重ねる、貴重な収入源でもあった。
藤本を失うことは「モーニング娘。」の大きな損失と言えよう。
- 157 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:12
-
「あのね。いい加減に私の生活に干渉するの、やめてくれない?私は同人世界でやっていくつもりは全然ないし」
寒さで足元は冷え切っていた。
寒空の下で、何を好んでバカげた論争に付き合わなければならないのか。
藤本はもとより、気の長いほうではない。
「辞めるって言ったら、辞める。それだけ。飯田さんや石川さんだってやめたじゃない。なんで私だけ、辞めるのにしつこく言われなきゃいけないの?!」
藤本は語気を強めた。
年下の二人は押し黙った。
「帰る」
藤本は河川敷から出るために歩き出した。
「待って!」
一人が藤本の腕を掴み、一人が前に立ちはだかった。
「―――!しつこいっ!」
―――――― その時、藤本の頭の中で何かが弾けた。
―――――― いや、もしかしたら、悪魔が囁いたのかもしれない。
―――――― オマエ、本当ニ 人ヲ 殺シテミタイダロ?
ポケットの中で握り締めていたナイフが閃いた。
立ちはだかる少女の首筋に、ナイフを突き立てた。
「ブスリ」とか「ズブリ」とか、そんなマンガ的な擬音が聞こえるような感触はどこにもなかった。
ナイフはいともたやすく、少女の首筋に吸い込まれていった。
引き抜く際、厚い人皮がベロリとめくれ、瞬時に赤黒い血が、どくどくと溢れ始め、やや遅れて鮮血がぴゅー、と、飛び出した。
(あー。ホラー映画みたい)
藤本は、眼前の光景を眺めながら、他人事のように思った。
そして、腕を掴んだまま固まっている、もう一人の少女に向き直った―――― 。
- 158 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:13
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翌日、スポーツ新聞の見出しは「多摩川少女殺人事件」と安易なネーミングで報じられた。
ただ「多摩川で少女二人、殺害される」などの味気ない見出しを付けられるよりはマシだと思った。
何せ、マスコミが興味をかきたてるように、わざわざ少女二人の両眼をえぐりとったのだから。
殺害された少女の携帯電話の最後に残る連絡先が藤本だったことから、事情聴取は行われたが、一通りの話を聞かれただけで終了した。
凶器のナイフは、二人を殺害後、川にすぐに捨てた。
返り血を吸ったコートは黒色だったために、歩いて帰る最中に見咎められることもなかった。途中に交番の前さえ通ったが、なんら警戒されることはなかった。
全ての服は、翌日の朝のゴミとして処分した。
東京都のごみの区分けに厳しいので、多摩川を隔てた神奈川県でごみを出した。神奈川県はごみの収集には非常にルーズなことを、藤本は知っていた。 証拠はあっさりと消滅した。
以降、さしたる捜査の進展もなく「多摩川少女殺人事件」は忘れ去られていった。
ちなみに被害者の名前は道重さゆみと亀井絵里という。
- 159 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:14
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どんなホラー映画や小説にも勝る、実際の殺人経験は、藤本美貴を完璧なホラー作家に仕立てあげた。
―――――― 服にしみついた濃い血のにおい。
―――――― 街灯に照らし出された血飛沫。
―――――― 見上げた空に輝いた満月。
―――――― エスカルゴのように、するりと喉を通り過ぎていった血の味付けをした四つの目玉の味。
刹那の体験は、幻想と陰惨に彩られた、救いようのない話を紡ぎ出した。
重苦しく、暗く、時には退屈なまでに徹底的な残虐描写。
気の滅入るような雰囲気は、読んでいる者の心を蝕み、混乱させる。
全体の殺伐とした雰囲気や、読み終わった後の絶望感。
藤本美貴は、日本ホラー小説界の寵児となった。
だが、20歳でデビューして以来15年。 彼女は自分の中で「恐怖」が枯渇していく事実を感じていた。
…。
……。
………。
…………。
- 160 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:15
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#31シーン:第4の犠牲者を検分する刑事たち
場所:多摩川河川敷
『 そこには“肉塊”が転がっていた。
“死体”というのはあまりにも無惨な“肉塊”だった。
衣服は切り裂かれ、赤と桃色の斑に染めた臓物が、胴体から無造作に飛び出していた。
両腕はない。
胴体から強烈な力でもぎとられた痕跡は見えたが、その先はどこにもなく、僅かな肉片が転がっていた。肉片には血まみれの爪がついていた。
(…喰われたんだ――!)
現場検証に訪れた刑事二人は、口にするまでもなく、顔を見合わせた。 寂しく転がる「頭」が、それを証明していた。
鋭利な刃物でスッパリと切断された生首の主の少女の「両眼」はまたしても「くりぬかれて」いたからだ。
刑事の一人は、少女の脚の方へ注視した。
脚は、何かに重たいものに踏みつけられたかのように、ぐちゃぐちゃだった。
血痕を追うと、U字型に窪んだ穴が、川に至るまで、まるで四足動物が歩いていったかのように続いていた。
「くそ野郎!!」
刑事は思わずわめいた。
- 161 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:16
-
「多摩川河川敷少女連続殺人事件」―――― マスコミによって名付けられたこの「連続殺人事件」の被害者は、必ず少女で、何故か河川敷にやって来て、四肢や内臓を食われたあげくに、首を鋭利な刃物で切り落とされ、両眼をくりぬかれていた。 そして、死体の周りには血にまみれた“馬の蹄”の跡が残されていて、それは必ず川へ向っていくのである。
何のいたずらかは分からない。が、刑事にとって、その“いたずら”は憤怒を通り越して、憎悪さえかきたてるのだ。
だが、“馬の蹄”は有力な分析対象ともなった。
結果、専門家の答えは
「人を乗せたサラブレット種の馬の蹄である」
というものだった。
この大都会に、馬に乗った人が、夜な夜な刃物を持って、少女を追いかけて殺すだと――――?
そんなバカげた話など、信じられない。
百歩譲って、そんな風体の者が居たとしよう。
だが、ここはまぎれもなく、東京という不夜の街なのだ。
そんな“奇天烈な殺人者”の目撃情報が寄せられてもおかしくはないはずなのに、全くといって目撃情報はないのだ。信じることなどできまい。
「もしかしたら…本当に噂の女武者の幽霊なのかもな…」
もう一人の刑事が冗談のように呟いた。
「バカを言うな!!」 』
- 162 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:18
-
―――――。
「はい、カット!」
藤本はロケ隊から離れた場所で、撮影風景を見守っていた。
1シーンの収録が終わったその時、ADの一人が、やや深刻な顔をして、監督に耳打ちをしている。
(―――― 来た――― )
藤本は静かに立ち上がる。
次のシーンの撮影は、明日の夜更け。
都合により「BEHIND OF THE BLIND DEAD」のラストシーン間近を撮ることになっている。
ラストシーンまでの流れはこうだ―――。
15年前、多摩川河川敷で、二人の少女が両眼をくりぬかれて殺された。
事件は結局、迷宮入りとなった。
だが、またしても多摩川沿いで、少女を狙う殺人事件が頻発する。
しかし15年前の事件とは比べ物にならない猟奇性や、その神出鬼没さは、刑事達を悩ませる。
世間の「いかがわしい」噂によれば、15年前に殺された少女二人が、自分達を殺した犯人に復讐をとげるべく、悪霊となって甦ったのだという。 殺された少女二人は、生前、夢見がちなアマチュア漫画家で、未完成の遺稿の作品は
「その昔、病弱な妹を馬に乗せて牽く姉と共に、四国八十八箇所巡りを行っていた姉妹が、山賊に襲われて無惨な最期を迎えるが、復讐のために白衣の武者姿で甦った妹が、山賊に復讐する」
というものと
「“ハッピーエンド”をむかえたはずのシンデレラが、庶民あがりのシンデレラは女王の厳しい躾と退屈な王宮生活に耐えられず発狂し、やがて、怪しげな下男や巫女とつるんでオカルトにはまっていき、召使いの少女を次々と殺し、その美貌を維持するために血を浴びるようになる」
というものだったらしい。
だから、二人の少女は描きかけの漫画の登場人物の姿を借りて、夜な夜な殺人を繰り広げているのだと。
15年前に二人を殺した犯人は、二人の殺害現場の河川敷に、噂を確かめるためにやってくる。 果たして、噂はただの噂なのか、本当に自分に復讐するために二人が甦ったのか? ―――。
それが、物語の流れだった。
- 163 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:18
-
藤本は、ゆっくりと監督に近付いた。
「どうかしたんですか?監督さん」
「あ、ああ…。実はね、犯人役の子が交通事故に遭ったらしいんだ」
「へえ」
「いや、軽傷だから、撮影に支障はない。が、明日の夜更けの撮影までには復帰できないらしいんだ」
「撮影準備、中止しますか?」
ADの言葉に、監督は腕を組んでうなった。
「ねえ、監督さん。夜更けのシーンは犯人の後姿を遠くから撮るだけでしょ? 代わりに私がやるのはどうかな?セリフもないし。役者の子と背格好も髪型も変わらないし」
藤本はにこやかに提案した。
「うーん」
「それ、いいっすよ。スペシャルゲストでクレジットできて話題にもなりますよ」
「お前は黙っとれ」
「まあまあ。監督さん。撮影日時も押してるんだし、天候のこともあるし。美貴で手を打たない?」
「そうだな……おーい、ちょっとみんな集まってくれ!!」
藤本は笑顔をたやさなかった。
(――ついに―― 来る――― )
- 164 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:21
- #44シーン:夜更けの川
場所:多摩川河川敷
藤本美貴は、あの日と同じ黒いコートを着て、夜更けの河川敷にたたずんでいた。
ここまでは計算通りだった。
藤本はだが、自分の中で「恐怖」が枯渇していく事実を感じていた。
だから、「賭け」に出た。
どこからともなく、霧が辺りを覆っていく…。
(―― 来た―――)
次第に濃くなっていく霧の中から、馬の蹄の音が聞こえてくる。
「……おい…ちょっとなんか様子、おかしくないか?」
撮影しているひとりが呟いた。
「霧が…」
もうひとりのカメラマンが呟く。
藤本美貴は、静かに佇んでいる。
見上げればそこには、馬に乗った二人の姿があった。それは藤本の「恐怖」を体現する。15年前に見た美しい二人の少女の顔に、両眼はなかった。それは藤本の「罪」を告発する。
「道重さゆみ…。 亀井絵里…」
藤本は唇を震わせて、その名を呟いた。。
それは恐怖と、愉悦だった。
「神よ! 私は今、善と悪の彼岸にいる!」
藤本は奮い立たせるように叫んだ。
両眼のない、二人が藤本を見下ろす。
藤本はふたりを見上げる。
この「恐怖」をもし、乗り越えれたならば、私はまた一段、高みに登ることだろう。
だが、この「恐怖」に屈したならば、私は「罪」を得るだろう。
藤本は、にやりと笑った。
- 165 名前:スナッフ 投稿日:2004/09/28(火) 04:22
-
END
- 166 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 16:05
- すげぇ…
- 167 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/26(火) 18:03
- ほ
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 19:51
- 久ぶりに更新されていた。。
やっぱりここ最高!
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/28(日) 18:35
- ほ
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/11(火) 13:29
- ぜ
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/05(土) 21:56
- ん
- 172 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/26(土) 20:49
- ぁ
- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/20(水) 22:04
- ほ
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/20(金) 16:12
- ぜ
- 175 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/18(土) 16:23
- ん
- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/01(金) 17:59
- ゴ
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/26(金) 02:27
- マ
- 178 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/22(木) 00:42
- キ
- 179 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/23(金) 01:20
- い
- 180 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/09(金) 09:41
- ち
- 181 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/09(金) 09:41
- |
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:35
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
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