レッドタイズ
- 1 名前:takatomo 投稿日:2003/12/21(日) 17:38
- 前作、セバータイズの第2部です。
飯田、石川主役。あとは吉澤、後藤、6期がメインです。
ジャンルはライトファンタジー。
まだまだ下手ですがよろしくお願いします。
レスは大歓迎です。
頂けると、作者は舞い上がって更新速度が上がるかもしれません。
前スレ:赤板「セバータイズ」
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/red/1046957710/
ここになければ倉庫にあります。
前スレの簡単なあらすじは>>2
本編は>>3-
それではよろしくお願いします。
- 2 名前:あらすじ 投稿日:2003/12/21(日) 17:40
- 5年前に終わった戦争。
モーニング公国の軍人であり、その戦争で名を馳せた飯田圭織のもとへ、突然現れた吉澤ひとみ。
吉澤は飯田の幼馴染であり、現在のモーニング公国の王、安倍なつみの命令で飯田を殺しに来たという。
突然のことに戸惑いながらも、一緒にいた従者の小川麻琴、そして北に位置するカントリー公国一の精霊師、石川梨華と共に逃げ出す飯田。
その途中で彼女たちは後藤真希と藤本美貴という少女に出会う。
モーニング公国を出た飯田達は、西に位置するプッチモニ公国を目指す。
そこで、出会った市井紗耶香から、後藤がその国の王であることを知らされる。
そうした折、ミニモニ公国がプッチモニ公国を攻めてくる。
多くの犠牲を払いながら飯田達は勝利するが、その途中で飯田は「時を統べしもの」に出会う。
世界の叡智といわれる彼女は、飯田に「輝ける闇」の存在と、その復活が起ころうとしていることを話す。
安倍に会うこと、そして「輝ける闇」の復活の阻止。
飯田達はモーニング公国へと進路をとる。。
小川、藤本、後藤、石川、そしてミニモニ公国の少女辻。
彼女らの助けを借り、ようやく安倍に会う飯田。
戦いの後に飯田は彼女の口から真実を聴く。
そして、続く安倍の言葉をさえぎるように現れたのは吉澤。
吉澤は安倍をその手にかけた。
その時、世界に異変が起きた。
- 3 名前:PROLOGUE 投稿日:2003/12/21(日) 17:41
- <PROLOGUE>
世界は闇に覆われた。
ここ、戦いの真っ最中だった関所も、誰もがその手を止めた。
まさしく闇だった。
夜ではない。闇。
月どころか星一つ見えない。
漆黒の闇が頭上を覆っていた。
そして、次の瞬間、彼らを無数の影が襲った。
- 4 名前:takatomo 投稿日:2003/12/21(日) 17:42
- <1>
ふと名前を呼ばれたような気がして、私は目を覚ました。
そして、目の前の光景に言葉を失った。
倒れているなっちの姿。
その向こうに吉澤ひとみ。
そして何より、足元には自分が横たわっていた。
「どういうこと…」
自分の代わりに石川が声を出した。
その視線からは動揺が見て取れる。
「どういうこと?私は死んでなかった。それだけのことですよ?」
吉澤は口元だけ笑みを作って言った。
そして沈黙が流れる。
- 5 名前:takatomo 投稿日:2003/12/21(日) 17:42
- 「梨華ちゃん」
それを破ったのは背後からの声だった。
開け放しの扉に立っていたのは、後藤と辻だった。
生きていたことに安堵を覚えたけれど、二人の背中には藤本と小川の姿があることに気付いた。
二人とも顔を上げることもしないまま、手足は力なく垂れていた。
吉澤のことも気になるため、すぐに視線を戻すが、彼女達の登場によって、吉澤は全く動じる素振りは見せなかった。
何人きても同じこと。
その気持ちを吉澤の表情から読み取ることが出来た。
「後藤、二人は大丈夫なの?」
視線を動かさずに尋ねる。
だけど、後藤の返事はなかった。
「後藤!」
振り返って大声を出すが、後藤の視線は私に向いていなかった。
「ごっちん、二人は大丈夫なの…」
石川の声。
「生きてるよ。大丈夫じゃないけどね…」
後藤はすぐに答えた。
- 6 名前:takatomo 投稿日:2003/12/21(日) 17:43
- 「どういうこと…」
今度は私が言った。
石川の名前を呼んでみたが、やはり反応はない。
反応どころか、石川はさっきから一度も私の方を向いていないことに気付いた。
「圭織は…」
後藤が言った。視線は私の足元。
倒れている私の方を向いていた。
「わからない…でも絶対死んじゃいないよ」
「死んじゃいないんだ」と再度繰り返した石川。
だが、その言葉こそ、私の疑問を解決するものになった。
私、死んだんだ。
あっさりするほどの結論。
何も思わなかった。否定する気も起こらなかった。
何かしようという気も起こらなかった。
- 7 名前:takatomo 投稿日:2003/12/21(日) 17:43
- 死んだ。
その事実は、私から全てのエネルギーを奪い取っていた。
後藤と辻は石川に近寄り、藤本と小川を床に寝かせた。
二人とも背中は血で真っ赤だったが、後藤の方は服が大きく裂けて傷が見えていた。
私は傍観者だった。
ただ、事の成り行きをぼーっと見ていた。
二人は剣を抜いた。
吉澤は尚も棒立ちのまま。
だけど、ゾクゾクするほどの気配を感じる。
殺気とかそういうものじゃなくて、もっとこう毒されていくような。
吐き気を催すような気配だった。
「私が相手するまでもないね」
吉澤がすっと手を上げると、部屋の中に見たこともないような生物が1体現われた。
私の倍くらいの大きさ。
トカゲのような生き物だけど、その下半身は蜘蛛のように多くの足が放射線状に生えていた。
その先には鎌のようなツメがある。
全身真っ黒で、赤い目がその中で異様に光っていた。
大きく口を開き、唸り声を上げる。
鋭い牙が並んでいるのがわかった。
化け物。
まさしくそのフレーズがぴったりだった。
- 8 名前:takatomo 投稿日:2003/12/21(日) 17:45
- 化け物は大きく一度吼えたかと思うと、赤い眼光が石川たちを捉えた。
見た目とは裏腹の俊敏な動き。
虚をつかれたのか、石川は動けなかった。
化け物のツメが石川を襲うが、その寸前で辻が剣で止める。
後藤はその隙に化け物に近づき、首に剣を振り下ろした。
「やった!」
石川が叫んだ。
だが、後藤はすぐに化け物から離れた。
「こいつ、何なのよ」
後藤が吐き捨てるように言った。
石川と辻は後藤の所まで下がる。
化け物は切られたのがなんともないように動いている。
こいつに血が流れているかわからないが、少なくとも切られた首にはなんの変化もないようだった。
後藤の剣はジュエル・ウエポンだ。
世界で一番優れた武器に違いない。
更に後藤の技術が合わさっているのに、この化け物には傷一つついていなかった。
- 9 名前:takatomo 投稿日:2003/12/21(日) 17:47
- >>3-8 更新終了。
2部もよろしくお願いします。
- 10 名前:名も無き読者 投稿日:2003/12/21(日) 23:38
- 待ってました〜(w
これからもついて行くんで頑張って下さい。
- 11 名前:マコ 投稿日:2003/12/22(月) 00:49
- うわ。 きたきた。 たのしみです。
がんばってください。
- 12 名前:モテごまlove 投稿日:2003/12/22(月) 16:27
- 待ってました〜☆
続きがすごい楽しみです!!
ミキティとピーマコは大丈夫なんでしょうか…
- 13 名前:とこま 投稿日:2003/12/22(月) 23:12
- 更新お疲れ様です。
第2部ですか!楽しみに待ってました!
最後までお供しますぜ。
- 14 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/12/23(火) 01:41
- 更新お疲れ様です。そして新スレおめでとうございます。
最初からすごい展開に……。
どこまでもついていきますので頑張ってください!
- 15 名前:takatomo 投稿日:2003/12/24(水) 00:12
- 化け物は再度攻撃を仕掛けてくる。
辻と後藤は石川を守るように、化け物のツメをいなしていく。
石川も自分の役割がわかっているようだった。
彼女の体が淡く光っているのがわかった。
ここまではっきり見えた構成は初めてだった。
組んでいく様子まで一つ一つわかる。
複雑に空間的に織り込まれていく構成。
それと共に石川の口から言葉が漏れ始めた。
「この世を燃やし尽くす火炎の精よ」
結び目を引っ張るように小さくなっていく構成。
「我が力、そなた達の糧となりて」
手のひらに収まるくらいに凝縮されたそれは、石川の指輪と共に強く光り始めた。
「聖なる炎をこの世に灯し」
化け物の周りに構成の光が広げられる。
後藤と辻は化け物から離れる。
「我に仇なすものを撃て」
炎の柱が現われ、その生き物を一瞬で飲み込んだ。
部屋が一気に明るくなる。
天井を突き抜ける炎。
ふらつく石川を後藤が支える。
石川の最大の呪文であろうことは予測がついた。
- 16 名前:takatomo 投稿日:2003/12/24(水) 00:12
- だが、その炎が揺れる。
中から化け物は飛び出してきた。
誰も予想していなかっただろう。
化け物の攻撃を避けきれずに、辻がまともにツメで切られた。
化け物は体が熱で真っ赤になっていたが、ダメージ自体は受けた様子はなかった。
「嘘でしょ」
石川の声は震えていた。
違う。声だけでなく、体も震えていた。
石川だけでなく、後藤まで。
いや、私まで震えていた。
震えが止まらない。
化け物の存在は人智を超えていた。
私が生きていたとしてもどうにもならないだろう。
化け物が更に石川たちに攻撃しようとしたが、急に何かに怯えたように身をすくめた。
見ると、向こうでは吉澤も膝を立てて頭を下げていた。
- 17 名前:takatomo 投稿日:2003/12/24(水) 00:12
- 何が起こっているのかわからなかった。
その後に現われた吉澤以上の禍々しい気配。
吉澤の前に現われた黒い渦から、それは発せられていた。
「吉澤、少し時間がかかり過ぎだぞ」
「は、申し訳ございません」
くぐもった様な声。渦から現われたのは一人の女の子。
安倍なつみ…
咄嗟に頭の中に閃いた単語を否定する。
なっちはそこに倒れている。
だとしたら、彼女は…
「安倍…麻美」
私と石川の声が重なった。
「梨華ちゃん、大当たりだよ」
梨華ちゃんと言ってはいるが、吉澤の声は先ほどまでよりもはるかに真剣だった。
- 18 名前:takatomo 投稿日:2003/12/24(水) 00:13
- 「無駄口はいい。さっさと行くぞ」
「はい。こいつらはいかがいたしましょう?」
「そこの雑魚に処分させればよい。万が一生きていても、命が少し延びるだけだ」
二人は黒い渦に飲み込まれるように姿を消した。
その前に、麻美が私の方をちらっと見たような気がした。
私達は動けなかった。
私達だけでなく、化け物まで。
時が止まったように、二人が消えていくのを見送っていた。
何が起こっているのか少しも理解できなかった。
これは全部夢じゃないのか。
そう思いたかった。
- 19 名前:takatomo 投稿日:2003/12/24(水) 00:13
- >>15-18 更新終了。短くてすいません。
- 20 名前:takatomo 投稿日:2003/12/24(水) 00:16
- >>10-14
まとめてレス返し失礼します。
たくさんのレスをありがとうございます。
更新頻度は以前より落ちるかと思いますが、第二部もよろしくお願いします。
- 21 名前:とこま 投稿日:2003/12/25(木) 20:34
- 更新お疲れ様です。
あっちまで登場・・・
どうなるのか・・・
楽しみに待ってます。
- 22 名前:しばしば 投稿日:2003/12/26(金) 21:29
- 新スレおめでとうございます。
そして更新お疲れ様です。
遅ればせながら、参上いたしました。
基本ROMになりますが、これからも見つづけていくので頑張ってください。
- 23 名前:takatomo 投稿日:2003/12/28(日) 01:35
- 私を現実に引き戻したのは、石川の悲鳴だった。
さっきまで動きを止めていた化け物が、いきなり動いて石川に攻撃を加えたようだ。
「こいつ、よくも梨華ちゃんを!」
後藤が向かっていく。
何度も何度も化け物の体をごっちんの剣が薙ぐ。
でも、変わらず傷一つ、痛み一つ与えられてなかった。
ごっちんが今度は剣を突き立てる。
化け物の体に剣が刺さった。
「やった」
私は思わず叫んだ。
化け物の首の付け根。
どんな生き物でも致命傷となるような場所に違いなかった。
刀身が半分ほど埋まっている。
そして、更に後藤は力を入れていた。
剣がどんどんうまっていく。
どんどん、どんどん。
私はその時、自分の思い違いに気付いてなかった。
- 24 名前:takatomo 投稿日:2003/12/28(日) 01:37
- 化け物のツメを後藤が避ける。
その際に後藤は剣から手を離した。
私はその瞬間を逃さなかった。
確かに私はその目で見たんだ。
後藤の手を離れた剣が、ひとりでに化け物の中に埋まっていくのを。
「何なのよ…こいつ」
剣は化け物の体内に消えていった。
もちろん、さっきまで剣が刺さってた場所は傷一つ無かった。
どうすればいいの?
剣も効かない。魔法も効かない。
打つ手が無い。
後藤は必死に化け物の攻撃をかわし続けている。
息も大分上がっている。
無理も無い。
あれだけの出血をしているんだ。
本当はここまでこれただけでも精一杯なはず。
- 25 名前:takatomo 投稿日:2003/12/28(日) 01:38
- ついに後藤が化け物にツメに捕まった。
上手く体を逸らしたのか、すぐに立ち上がるが、足元はふらついていた。
そこに化け物のツメが再び襲い掛かる。
後藤は全く動いていなかった。
だけど、化け物のツメの動きが止まった。
不自然な体勢のままピタリと止まった。
化け物だけじゃない。
後藤も全く動いていなかった。
辻も、石川も。
誰一人として動いていなかった。
混乱する私の背後から声が聞こえた。
「飯田さん、助けに来ました。あなたはここにいるべき人じゃない」
見たことない子だった。
だけど、その後ろに私は見たことある顔を見つけた。
時を統べしものの見習いの子だっけ?
ということは、この前の子も時を統べしものだろうか。
- 26 名前:takatomo 投稿日:2003/12/28(日) 01:38
- 「あなたは?」
「私は田中れいな。後ろの子は、道重さゆみ。さゆは、以前お会いしたことがあると思います」
「うん、覚えてる。じゃあ、あなたも時を統べしものなの?
「はい。私は時を統べしもののうち、巫女と呼ばれるものです」
テキパキと受け答えをする子だ。
どこか美貴に似ている。
話し方だけでなく、雰囲気も。
目の前にしたときの異質さが、美貴に共通するものがあると思う。
「で、助けてくれるってどういうこと?私は死んでるんだよ」
「そうです。あなたは私の前の巫女によって呪いがかけられています。
それによって、時を統べしものを復活させようとすると、死を持って制裁することになっています」
「じゃあ、輝ける闇はやっぱり復活したのね」
「そうです。私がうかつでした。もう少し早く気付いていれば、安倍なつみさんを殺させはしなかったのですが…」
「どういうこと?」
「何をしておる」
私の問いかけには、別の声が応えた。
声のするほうを見ると、以前に見た光がそこにあった。
- 27 名前:takatomo 投稿日:2003/12/28(日) 01:39
- 「時を統べしものの巫女よ、この者を連れ出すとはどういうことだ!」
「輝ける闇は復活してしまいました。輝ける闇を阻止するのは、この人の力が必要なんです」
「復活したのは知っておる。だから我が殺したのだからな。だが、この人間風情を生き返らせることは許さん」
「どうしてですか?この人の力が必要なんです」
「人間がか?そこの闇なるものにさえ勝てない人間がか?」
「そうです…私達精霊にではない人間こそが、輝ける闇を止めることができるんです。
精霊を消すのは、精霊では駄目なんです」
精霊?
自分の耳を疑った。
彼女達は精霊なの?
それ以前にわからないことはたくさんある。
私はさすがに口を開いた。
「ちょっと待って。わかるように説明してくれない?全然話がわからないんだ」
- 28 名前:takatomo 投稿日:2003/12/28(日) 01:41
- >>22-27 更新終了です。
次はちょっとした謎解き編ですかね。
年内にもう一回はなんとか更新したいと思ってます。
- 29 名前:takatomo 投稿日:2003/12/28(日) 01:46
- >>21
ありがとうございます。
のっけから展開がわけの分からないことになってますが、次の更新でわかるようになる予定です。
>>22
ありがとうございます。
ちまちました更新ですけれど、見守ってやってください。
- 30 名前:とこま 投稿日:2003/12/29(月) 15:42
- 更新お疲れ様です。
6期がいよいよ表舞台に立つんですね。
楽しみに待ってます。
- 31 名前:takatomo 投稿日:2003/12/31(水) 19:44
-
「……いいですよね?」
「勝手にしろ」
光は苛立ったような声を発したが、田中は気にも留めないように、私に話し始めた。
「輝ける闇は、私達と同じ精霊です。そこにいるのは光の精霊。
私達時を統べしものは、時の精霊です」
その後の話はややこしいことばかりだった。
普通、精霊というものは具現化することはできない。
宝石という媒介を通して、この世に干渉することはできるが、実体を持つことは出来ない。
これは、石川から何度も聞いたことがある。
だが、彼女達は、高位の精霊であり、実体を持つことが出来る。
通常、それは人間と全く同じ。
力が桁違いであるということを除けば、全く普通の人間と区別がつかないものだった。
田中はそこで私に、「こんな子を見ませんでしたか?」と尋ねた。
いきなり私の目の前に現われた人の顔。
その女の子を私は見たことがあった。
吉澤の背後に浮かんでいた子だ。
チラッとしか見えなかったけれど、間違いない。
私は、そのことと共に、麻美ちゃんのことも話した。
- 32 名前:takatomo 投稿日:2003/12/31(水) 19:44
- 「そうですか…やっぱり絵里ですか…」
「れいな…どういうことなの?ねえ?」
「さゆ…」
道重に肩を持たれ、田中はバツの悪そうな顔をした。
「後で…ちゃんと説明するから…」
道重の目を見ることなく言った。
この二人と、絵里って子の関係はよくわからない。
そもそも田中と道重の関係も、よくわからない。
精霊の世界に友達なんて観念があるのかわからないけど、二人のそれは友達という気はしなかった。
「それで、どうして輝ける闇は復活したの?麻美ちゃんは、輝ける闇なの?」
「は…はい…恐らくそうだと思います。飯田さんの話を聞いた限りですと…」
「で、どういうことなのよ?」
「はい…でも、一つだけ約束してください」
「何さ?」
「自分を責めないで下さい。悪いのは、読みが浅かった私なんです。
相手の狡猾さに気付かなかった、私が悪いんです」
そう前置きされて、田中はポツリポツリと話し始めた。
- 33 名前:takatomo 投稿日:2003/12/31(水) 19:45
- 私はこの国に、後藤の仲間としてやってきた。
後藤が私に付いて来たといっても、名目上は、プッチモニ公国軍ということになってしまうんだろう。
つまり、なっちが死んだことは、歴史的に見ると、プッチモニ公国軍がモーニング公国を制圧したという事
実になってしまう。
そうなると、この瞬間、この世界を統一するのは、プッチモニ公国だ。
モーニング公国に制圧されていたカントリー公国も、もちろん、ミニモニ公国はプッチモニ公国の制圧下に
あったのだから。
となれば…モーニング公国の領土にかけられていた封印は、一瞬で消え去ることになる。
それが、田中の口から発された、輝ける闇復活の真相だった。
「私のせい?私が後藤を…」
私の思考が止まりそうになるのを防いだのは、田中の声だった。
「違います。私の読みが甘かったんです。約束してくださいと言ったはずです。
今回のことは、不可抗力です。飯田さんたちが悪いわけではないです」
「だから…飯田さんを殺すのは間違ってます」
田中は振り返って言った。
- 34 名前:takatomo 投稿日:2003/12/31(水) 19:45
- 「ほう、何が言いたい?」
「そういうことですよ。あなたは間違っています。輝ける闇を消すのに、飯田さんの存在は必要なんです」
「だから、こいつ一人が生き返ったところで何が出来るというのだ!」
「じゃあ…そこの闇なるものを倒せたら考えてくれませんか?」
「無駄だ」
「無駄?」
鸚鵡返しに田中は言った。
「やっても意味がないといっている。人間ごときが倒せるわけないのだからな」
「ちょっと…」
「何言ってんのよ!さっきからおとなしくしてりゃ言いたい放題いいやがって!」
反論しようとする私の声にかぶさったのは田中の声だった。
- 35 名前:takatomo 投稿日:2003/12/31(水) 19:46
- 「何が無駄よ。やってみないとわかんないでしょ?やりもしないで駄目駄目言ってさ、ばっかじゃないの?
無駄なのはあんたの存在の方でしょ?だいたいさーこっちが下手に出てりゃいい気になって…
子どもだからって見くびるんじゃないよ」
目をキッと吊り上げて叫ぶ田中。
さっきまでの姿はどこへやら、光を指差し、今にも食いつかんばかりの勢いだった。
光は黙ったままだった。
「ちょっと、何とか言ったらどうなのよ!」
「れいな、れいな」
更に喚き立てる田中を道重が後ろから抑える。
田中は今にも倒れそうなくらい半身を乗り出していた。
「フフ…フ…」
光から漏れるような笑いが聞こえた。
田中が更に睨みつける。
- 36 名前:takatomo 投稿日:2003/12/31(水) 19:46
- 「おもしろい…そなたの意見、まことにおもしろい。そして…そなた自身もな」
「あんたに気に入られたって何もうれしくないわよ!」
すかさず反論する田中。
道重は後ろから「れいな、駄目だって」となだめた。
「そこまで言うのなら見せてもらおう。そなたらに力をな」
その言葉と共に、私の体は光に包まれた。
目の前が真っ白になっていく。
フワッと体が浮いたかと思うと、私の視界が晴れていった。
目の前では後藤が化け物に今にもやられそうになっていた。
急いで後藤の体を引っ張る。
間一髪、化け物のツメが後藤の体があった場所を通った。
- 37 名前:takatomo 投稿日:2003/12/31(水) 19:46
- 『飯田さん、聞こえますか?』
田中の声は頭に直接響いてきた。
「うん、聞こえてる」
声に出して答える。
『今から化け物を倒す方法を説明します』
「おっけー」
痛む左手で槍を拾い、私は化け物に向かい合った。
- 38 名前:takatomo 投稿日:2003/12/31(水) 19:47
- >>31-37 更新終了
今年最後になんとか更新。
年始は少しお休みしたいと思っています。
今年一年ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
- 39 名前:takatomo 投稿日:2003/12/31(水) 19:49
- >>30
ありがとうございます。ようやくこれで娘。はほぼ揃ったかと思います。
あと一人、亀井はもう少し後ですね。今年中には出したかったのですが…
- 40 名前:とこま 投稿日:2004/01/01(木) 19:14
- あけましておめでとうございます。
更新お疲れ様です。
闇の正体は一体・・・
楽しみに待ってます。
- 41 名前:takatomo 投稿日:2004/01/11(日) 00:13
- 化け物はゆっくりと振り返り、私に狙いを定めたようだ。
傍に倒れている後藤を始め、石川たちにも何の関心も示していない。
動くものを殺す。その単純な本能だけが、こいつの動力のように思えた。
『闇なるものは、実体があるわけではないのです』
田中の声がまた頭に響く。
彼女らの気配はするが、視界には入っていなかった。
背後にいるか、それともいないのか。
空間とか時間とか、その辺りの難しいことを考えるのは後でいい。
まずはこいつを倒さないことには始まらない。
『私達は半実体化と呼んでいますが、存在自体がすごく曖昧なんです』
田中の声を聞きながら、化け物の攻撃を避ける。
後藤が巻き添えになる可能性があるので、大きく後ろにジャンプした。
化け物も私を追うように、攻撃体勢のまま再びジャンプした。
- 42 名前:takatomo 投稿日:2004/01/11(日) 00:15
- 『だから、飯田さんたちの攻撃は受け付けないんです。精霊術は実体を与え…』
「ちょっと、説明は後からでいいからさ、とりあえずこいつを倒す方法教えて!
後藤たちの手当てをしないと、死んじゃうよ」
正直なところ、私自身の体力の問題もあった。
全身から出血した体は、以前のように傷が無く、なっちから受けた傷だけガ残っている。
だけど、血液量は戻ってきていないらいらしく。
あの光が生き返らせてくれたようだけど、それでも疲労感は既にピークに達していた。
『わかりました。では、槍を捨ててまっすぐ立ってください』
私は槍を化け物に放った。
化け物のツメの間を上手く抜けた槍は、化け物の右足に刺さったが、後藤の剣と同様、中に飲み込まれていった。
『大きく息を吸って止めて下さい。少し気持ち悪いと思いますが、息を乱さないで下さい』
両手をだらんとたらし、肩で大きく息を吸う。
見上げた天井は大きな穴がぽっかり開いて、穴の周りはまだ熱を持って赤くなっていた。
- 43 名前:takatomo 投稿日:2004/01/11(日) 00:16
- 不意に何かが入ってくる感覚がした。
見上げた顔が反射的に下がる。
「何か」が頭の先から足先までを走り抜けている感覚。
皮膚の下をミミズが這っているような、なんとも言えない感覚だった。
だが、私は自分の体が光を放っていくのに気付いた。
『念じてください。倒そうって、闇なるものを倒そうって』
聞こえたのは道重の声だった。
頭に響いた。
いや、そんなんじゃない。
直接、私の心が言葉を感じている。
化け物が飛び掛る。
私はただ祈った。
避ける気も何も無い。
ただ祈った。
恐怖なんて無かった。
頭の中は、消えろという思いで一杯だった。
- 44 名前:takatomo 投稿日:2004/01/11(日) 00:17
- 化け物が眼前に迫った時、体から何かが一気に飛び出した。
一気に全身を疲労が襲う。さっきの比ではない。
体中から光と共に全てを放出したような感覚で、立っていられなかった。
だけど、目の前から化け物が消えていることは倒れながらも認識した。
『やりましたね』
今度は田中の声が聞こえた。
私は顔を上げることも、答えることも出来なかった。
- 45 名前:takatomo 投稿日:2004/01/11(日) 00:19
- >>42-44 更新終了。
今更ながら、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
これだけ期間空いて、更新少ないのはあれなので…
連休中にもう一度更新するつもりです。
- 46 名前:takatomo 投稿日:2004/01/11(日) 00:20
- >>41 ありがとうございます。今年もよろしくです。
次は2部の設定説明編になりますので、話が混むかもしれません…
- 47 名前:とこま 投稿日:2004/01/11(日) 19:06
- 更新お疲れ様です。
置いていかれないように付いていきます。
- 48 名前:takatomo 投稿日:2004/01/13(火) 00:23
- <2>
私が目を覚ましたときは、もう全てが終わっていた。
終わっていたんだけど、、それが始まりになることは私はすぐに予感できた。
私の体の傷は完全に治っていた。
私だけでなく、飯田さんもごっちんも、全員。
服は破れ、血で汚れているのが少し気になったが、みんなが無事なことに安心できた。
みんなの輪の中に、一度だけ会った、時を統べしものだと思われる子が立っていた。
田中れいな。私にニコッと笑いながら彼女は自分の名前を言った。
その隣にはもう一人女の子。彼女は道重さゆみと名乗った。
私達の傷を治したのが、この二人だということは、薄々気付いていた。
どこか人ではない違和感を、二人からは十分感じ取ることが出来た。
- 49 名前:takatomo 投稿日:2004/01/13(火) 00:23
- 「どこからお話しましょうか?」
田中が言ったが、どこからかと聞かれても答えられない。
強いて言うなら、最初から。
状況なんて少しも分かっていないんだから。
「最初から話してくれない?私はある程度聞いたけど、他の子は聞いてないから」
飯田さんが答えた。
そうして、田中は一つ一つ話し始めた。
なぜ輝ける闇が復活したのか。
時を統べしものと輝ける闇が精霊であること。
彼女らが精霊であるという事実には、私は思わず声を上げた。
宝石の媒体無しに実体化できる精霊の存在なんて、聞いたことも無かったからだ。
だけど、彼女達に対する違和感の正体も納得できた。
詠唱時に自分の周囲に感じる感覚と、彼女達が醸し出す感覚が似ていたから。
- 50 名前:takatomo 投稿日:2004/01/13(火) 00:24
- 「輝ける闇を倒すには、私達の力だけでは不可能です。
あなたたち、人間の力を貸していただかないといけません。
実体化している輝ける闇を倒せるのは、実体のあるあなた達の力が必要なんです」
田中は言った。
もちろん、私達が力を貸さないわけはない。
このままだと、世界が滅んでしまう事くらい理解できる。
さっきみたいな化け物、闇なるものが世界中に現われているらしい。
それに、輝ける闇の力が田中たちから聞いた通りなら、この世界は数日でなくなってしまうかもしれない。
「どうすればいいの?」
「絵里を…吉澤ひとみの後ろに映っていた少女を覚えていますか?」
「絵里?吉澤ひとみの後ろ…」
記憶をたどっていく。
吉澤に術を放ったときに見えた、薄い影。
はっきり見えなかったが、人の顔をしていたのかもしれない。
- 51 名前:takatomo 投稿日:2004/01/13(火) 00:24
- 「あの子も時を統べしものなんだよね?」
飯田さんの言葉に、田中は頷く。
「絵里は、吉澤ひとみと同化しています。それが吉澤ひとみの本当の強さの正体です。
そして、それが輝ける闇に立ち向かう方法です」
「じゃあ、誰と?」
飯田さんはもうわかったかのように、田中に言った。
私も頭では理解できているだろうが、その意味を認識することをどこか拒否していた。
「飯田さんと石川さんの二人でお願いします」
「ちょっと待って!」
ごっちんが叫んだ。
みんなの視線が一斉に集まる。
- 52 名前:takatomo 投稿日:2004/01/13(火) 00:25
- 「どうして私は駄目なの?私を連れてってよ」
「出来ません…」
「どうして!」
「私は石川さんと、さゆは飯田さんと波長が一致しています。
波長の合わない人と同化するには、お互い負担が大きすぎます」
「他にはいないの?時を統べしものって他にもいるはずでしょ!その中から私と合う人連れてきてよ!」
ごっちんが更に声を大きくする。
田中は答えなかった。
そのことが無理だということを示していた。
「ごっちん…」
美貴がそっとごっちんの手を握る。
ごっちんの体は震えていた。
「れいな…あの人、さっき私が手当てしたとき何か変だったんだけど…」
道重が消えそうな声で言った。
田中はそれを聞き、ゆっくり美貴の方へと近づいた。
- 53 名前:takatomo 投稿日:2004/01/13(火) 00:28
- >>48-52 更新終了
動きが無い場面がもう少し続きそうです。
次回更新はなんとか週末までに一回いれたいです。
>>47 ありがとうございます。
ようやく話が動き出した予感(遅
- 54 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/13(火) 19:32
- 皆復活バンザーイ!
ミキテイ、どうした?
- 55 名前:とこま 投稿日:2004/01/13(火) 21:14
- 更新お疲れ様です。
みんな復活しましたか!
嬉しいことです。
ミキティは無事なのかな?
- 56 名前:takatomo 投稿日:2004/01/16(金) 01:10
-
「あなたは…藤本美貴さんですよね?」
そう言うと、返事を待たずに田中は美貴の顔を両手で持ち、グイと顔を自分の方へ向けた。
私だけでなく、みんな何が起こるのか、じっと見つめている。
田中は、数分間美貴の目をじっと見て、顔から手を離した。
手を放された美貴は、ガクンとその場に膝を着いた。
「ミキティ」
ごっちんが倒れそうになる美貴を支える。
そして、田中を見上げた目は、殺意すらこもっていた。
だけど、田中はそんなことを気にも留めない様子で言った。
「後藤さん、あなたにも手伝っていただけるかもしれません」
- 57 名前:takatomo 投稿日:2004/01/16(金) 01:11
- 言葉の意味がわからなかった。
さっきまで無理だといっていたのに、この数分で何が変わったんだろう?
「うん…ごっちん、私はね」
顔を伏せたままの美貴が話し始めた。
それと共に光が美貴の体を包む。
その光は手を繋いだ後藤の方へと広がっていき、そして…
美貴の姿は光と共に消えた。
代わりにごっちんの体が光っていく。
青色。
青い光がごっちんの体を包んでいった。
意味がわからない。
自分の目の前で起こっていることを認識することは出来た。
でも、それを理論と結びつけることはできなかった。
何が起こっているの?
その問いかけを私はすぐに頭の中に浮かべることが出来なかった。
- 58 名前:takatomo 投稿日:2004/01/16(金) 01:11
- 「ミキティ…」
ごっちんの声。
その声と共に、光はどんどんその輝きを増していく。
「後藤さん、これ…闇なるものを倒すときに回収しておきました」
道重が差し出したのはごっちんの剣。
化け物の体内にあったはずの剣がそこにあった。
ごっちんはそれを受け取って、頭上にかざした。
「何が起こってるのよ…」
さすがの飯田さんの声も震えていた。
辻ちゃんは泣きそうな顔で、飯田さんの体にぴったり引っ付いていた。
光が剣へと移っていく。
刀身は一層青く輝き、私達の顔を照らした。
- 59 名前:takatomo 投稿日:2004/01/16(金) 01:12
- 「これが同化です。後藤さん、気分はいかがですか?」
一人落ち着き払った田中が問いかける。
「ん、体がフワフワする。なんかさ、力が押さえてても外に溢れてる気がするんだ」
「藤本さんはどうですか?」
田中はここいるはずの無い美貴へと質問した。
まるで、いるのが当然かのように。
「ああ、ミキティも気持ちいいって。私の中だからかなって…もう、変なこと言わないでよ」
ごっちんは一人でクスクス笑っている。
ようやく私にも今起こっていることが理解でき始めた。
「藤本さんは、時を統べしものです。自覚はしていなかったようですが。
私が少し記憶を揺さぶると、すぐに思い出したようです。
おそらく、すごく不安定な状態だったんでしょう。私が力を貸すまでも無く、後藤さんと同化してしまいました。
後藤さんとの波長も抜群によいと思いますよ」
ごっちんがまた微笑んだ。
きっと美貴と何か話しているんだろう。
今まで見たことないくらい幸せそうなごっちんを見ると、少し胸が痛んだ。
- 60 名前:takatomo 投稿日:2004/01/16(金) 01:16
- >>56-59 更新終了
次は少し間が空くかもしれません。
そうなったらすいません。
>>54
ありがとうございます。
6人には、まだまだ働いてもらわないといけませんので(w
>>55
ありがとうございます。
そろそろ1部の残りの伏線が全て消化しきれる頃です。
- 61 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/01/16(金) 01:32
- 更新お疲れ様です!
まさかこうなるとわ! ビックリしたけどイイです!
二人とも嬉しそうで、幸せそうで!
次回も期待してます! マイペースに頑張ってください!
- 62 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/16(金) 18:38
- OH!!
おもしろそうな展開になって来ましたね〜^ ^
次もマターリ待ってます。
- 63 名前:とこま 投稿日:2004/01/16(金) 20:50
- 更新お疲れ様です。
こんな展開になるとは\(◎o◎)/!
ミキティ良かったっす(感涙)
- 64 名前:takatomo 投稿日:2004/01/22(木) 01:26
- 「それでは、石川さん、飯田さん、準備はよろしいでしょうか?」
「れいな、ちょっと待って。飯田さん、ジュエル・ウエポン持ってないの」
田中の表情が曇る。
確かに飯田さんはジュエル・ウエポンを持っていなかった。
それが何の不都合があるのかは、なんとなくわかった。
ごっちんの体の光が、剣へと移っていったように。
やっぱり、時を統べしものは精霊だってことだった。
宝石というものが、彼女達にとって悪いように働くわけが無い。
「飯田さん、この国に伝わるジュエル・ウエポンの話、聞いてないですか?」
「…ないよ。そんなの初耳だよ」
「そうですか…王族が封印していると聞いたのですが…」
- 65 名前:takatomo 投稿日:2004/01/22(木) 01:26
-
「この部屋の、奥」
それは、聞こえるはずの無い声だった。
パッと部屋が光ったかと思うと、大きな光が頭上に現われた。
「あんた、まだいたんだ」
田中はこの光を知っているようだ。
でも、決して友好的ではなさそうなことは、彼女の言い方でわかった。
「圭織、この部屋の奥よ。そこにある。この国の王族に伝わる伝説の武器が」
「なっち、なっちなの!」
そう、光から聞こえる声は、確かに死んだはずの安倍なつみの声だった。
- 66 名前:takatomo 投稿日:2004/01/22(木) 01:26
-
「一時的に我が魂を捕らえてある。我ができるのはもうこれくらいだからな」
別の声。男の声だった。
「ありがと…なっち、伝説の武器ってなんなの?」
「それは、私がこの国の王じゃないって証明だったんだ。
槍だよ。世界に散らばるジュエル・ウエポンの中で唯一の槍。パールでできた、圭織の槍だよ」
「なっち、ありがとう…」
飯田さんは部屋を飛び出した。小川もすぐに後を追った。
そして、それとともに、頭上の光も消えていった。
「我はもう何も出来ん。後はそなたらの力を見せてもらうぞ」
「ありがとう」
消えそうな声で、そっぽを向いて田中は言った。
道重もそっと宙に向かってお辞儀をした。
- 67 名前:takatomo 投稿日:2004/01/22(木) 01:27
- 飯田さんが戻ってくるまで、まだ少し時間がかかりそうだった。
ごっちんは相変わらずミキティと話しているようだった。
辻ちゃんは一人取り残される形で、その場に座っていた。
「ねぇ、同化ってどういうことなの?」
「同化ですか?」
「うん、私達と一緒になっても、田中の力が上がるようには思えないんだ。
今の田中の力は、私とは桁違いに強いでしょ?」
「ええ、失礼ですが、たぶんそうですね。でも、私達は、実体化するために、多大なエネルギーを使っています。
だから、実体化すると、大きな力は使えないのです」
今の力が大きな力じゃないのなら、私達って何なんだろうか?
なおさら、同化なんてする意味が、無いように思えて仕方なかった。
- 68 名前:takatomo 投稿日:2004/01/22(木) 01:27
-
「同化というのは、簡単に言うと、鎖なんです。非実体化した私たちを、この世界に繋ぎとめておくための鎖。
その分、私達は実体化で使用する力を使わなくて済みます。実体化には石川さんの体を借りることになりますので。
石川さん側には、ずっと同じ精霊が宝石に宿ってるみたいなものです。
一応、私達には意思があるので、後藤さんと藤本さんみたいに、意識は共用できます」
「でもさ、私たちの方の力は足りるの?
容量以上の力は、その反動が大きいんじゃないの?」
「それは、精霊術の反動のことですか?」
私は頷いた。
田中が言うとおりなら、私はとんでもない力を手に入れることになる。
でも、それは諸刃の剣に違いない。
分不相応な力をもってしまったために、大きな火傷をした人を私はたくさん知っている。
だとしたら、同化ということは危険極まりないことなのかもしれない。
- 69 名前:takatomo 投稿日:2004/01/22(木) 01:33
- >>64-68 更新終了。遅くなって申し訳ありません。
とりあえず2月の二週目までは、これくらいのペースを保つのが精一杯です。
>>61 ありがとうございます。こんな形のCPで少し心配でしたが、気に入っていただけたならよかったです。
>>62 ありがとうございます。やっと話が動き始めました。今後もよろしくお願いします。
>>63 ありがとうございます。藤本さんはまだ消えるわけではないので、今後の彼女もご期待ください。
- 70 名前:とこま 投稿日:2004/01/23(金) 22:53
- 更新お疲れ様です。
ミキティはまだ消えてないんですね。
なっちは消えちゃったけど・・・。
- 71 名前:takatomo 投稿日:2004/01/27(火) 00:46
- 私の不安そうな顔色を感じたのか、田中は私の両手をそっと握って答えた。
「大丈夫です。石川さんの容量は問題ないです。私が私の力を石川さんを媒体にして使うだけです。
精霊の力を宝石を媒体にして、術者の力で引き出す精霊術とは根本的に違います」
暖かい手だった。
彼女が精霊なんて信じられなかった。
私達と全く同じ。美貴がわからなかったように、田中も人間と言われれば、微塵も疑えなかった。
「田中は、本当に精霊なの?」
私は言った。
田中の答えを聞く前に、飯田さんが戻ってきた。
- 72 名前:takatomo 投稿日:2004/01/27(火) 00:46
- 右手に持っていたのは真っ白な槍だった。
赤く染まった体が、余計に白を映えさせていた。
細くて長いそれは、どこか飯田さんを髣髴させた。
「それじゃ、始めますね」
私の手を握る田中の手に、力が入ったのを感じた。
道重も、飯田さんの方へと近づく。
小川は飯田さんから少し距離をとった。
「石川さん、よろしくお願いします」
田中の声が聞こえた。
視線を戻すと、目の前に田中の姿はなかった。
代わりに両手が光に包まれる。
赤い光だった。
右手から腕、肩へと上がっていき、左手へと移っていく。
さっきのごっちんと同じように、指輪の所へ光が移り、そこで光が消えた。
- 73 名前:takatomo 投稿日:2004/01/27(火) 00:46
-
ドクンと一つ、胸が鳴った。
それが引き金となって、指輪から全身へと光が広がっていく。
そして、私は自分の中の田中の存在がわかった。
『石川さん、どんな感じですか?』
「何か…変な感じ」
私の声に、真剣に様子を見守っていた辻と小川がこっちを向いた。
『意識が共有されていますから、声に出さなくても大丈夫ですよ』
「そうなの?」
そうは言われても、やっぱり口に出してしまう。
どっちにしろ通じるのなら、私は慣れている声という手段を選ぶことにした。
- 74 名前:takatomo 投稿日:2004/01/27(火) 00:47
-
『さゆも、飯田さんと上手くいったみたいです』
飯田さんの方を見ると、白い光が全身を包んでいた。
『それでは、行きましょうか。輝ける闇のところに』
田中の声が、それまでの雰囲気を一気に占めた。
ごっちんや飯田さんにも聞こえているんだろうか。
二人の表情も一気に引き締まった。
- 75 名前:takatomo 投稿日:2004/01/27(火) 00:49
- >>71-74 更新終了。
短くてすいません。次は飯田視点になると思います。
>>70
ありがとうございます。次こそは多めに更新しようと思ってます。
- 76 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/27(火) 17:35
- いよいよ次回…ですかね?
楽しみ楽しみw
- 77 名前:とこま 投稿日:2004/01/27(火) 21:02
- 更新お疲れ様です。
いよいよ戦いですか。
次回も楽しみに待ってます。
- 78 名前:takatomo 投稿日:2004/01/28(水) 01:29
- <3>
『後どれくらいかかりそう?』
私は道重に尋ねた。
石川はさっきから、大きな声で独り言を言っている。
きっと田中と話しているんだろうけど、田中の声が聞こえないだけに、奇妙だった。
私と後藤は、心の声で会話している。
最初は少しなれなかったけど、コツを掴めば楽なものだった。
『波動をかなり大きく感じます。もう少し北ですね』
『そっか』
城を出てから、私達はまっすぐ北へと向かった。
空を飛ぶという行為は、何度か経験したけど、自分の力で飛ぶというのは違和感が大きい。
自分の力といっても、道重の力を借りているだけなんだけどね。
右手に持った槍が、闇を白く照らしている。
世界はまさしく闇だった。
月や星の光は、実はすごく明るかったんだなと思える。
完全な闇に覆われた世界は、私達が過ごしてきたどんな夜よりも暗かった。
- 79 名前:takatomo 投稿日:2004/01/28(水) 01:30
- 生きている人はいるんだろうか。
生活の光すら見えない眼下に、不安がよぎる。
辻と小川は城に残してきた。
連れて行くことはできたが、二人には悪いけど足手まといになってしまうだけだ。
あの二人はそれを理解していた。
がんばって。二人は自らそう言った。
行きたいとは一言も言わずに。
もう一度槍を握りなおす。
部屋の奥は行き止まりだった。
私が足を止めると、後ろからの足音も止まった。
小川がついて来ているのは気配でわかっていた。
目の前にある壁は、特に装飾が施してあるわけでもない。左右の壁と同じ作りの壁。
なっちの言葉がなければ、私は引き返していたに違いなかった。
- 80 名前:takatomo 投稿日:2004/01/28(水) 01:30
- 慎重に目の前の壁に手を当てていく。
きっとどこかに仕掛けがあるはずだ。
小川も私に倣って、壁を慎重に触っていく。
手ごたえが合った。
少しだけ壁がへこんでいた、いや、文字が書かれていた。
Whatever may happen in the future
even if it will be very ordinary
the only way to step the life is step by step
so I never want to stop
古代語のようだった。
私は古代語を読むことは出来ない。
HPNの意味はわかっている。あれは一つの言葉だからだ。
でも、文章になると、これぽっちも読めない。
これが仕掛けのヒントなんだろうか?
- 81 名前:takatomo 投稿日:2004/01/28(水) 01:31
- 「Whatever may happen in the future, even if it will be very ordinary
the only way to step the life is step by step, so I never want to stop」
「飯田さん?」
小川の声を聞いて、私ははっとした。
私は自分の言葉に驚いた。
読めるわけが無いはずの言葉を、私は口に出していた。
途端に、壁が崩れていく。音一つ立てない。
崩れていくというより、消えていっていた。
中から白い光が漏れてくる。
中にあったのは、一本の光り輝く槍だった。
- 82 名前:takatomo 投稿日:2004/01/28(水) 01:36
- >>78-81 更新終了。書く時間あったので更新。
ちみちみ更新ばかりですいません。
>>76
ありがとうございます。
またまたひっぱってしまいました。もう少し…だとは思います。
>>77
ありがとうございます。
序盤が長すぎです。いつになったら戦闘始まるんでしょう…
どうかマターリお待ちください。
- 83 名前:とこま 投稿日:2004/01/28(水) 19:59
- 更新お疲れ様です。
マターリ待ってますよ(^o^)/
- 84 名前:takatomo 投稿日:2004/02/01(日) 23:53
- 巻かれた鎖を少しずつ外し、手に取った。
軽い。
今までに持ったどんな槍よりも軽かった。
軽く振ってみる。
槍から発せられる光が、その軌道を描く。
空気すらも切り裂いているように思えた。
「これが…私のジュエル・ウエポン…」
直感的にこれが、自分のものであることはわかった。
でも、不思議と感慨は無かった。
自分の半身を取り戻したとか。
そんな思いは微塵も沸かなかった。
- 85 名前:takatomo 投稿日:2004/02/01(日) 23:54
-
『飯田さん、そろそろですよ』
道重の声に続くように、先頭を行く石川のスピードが落ちる。
カントリー公国北部の山岳地帯だろうか。
もうすぐ夏も近いというのに、まだ雪が積もっていた。
なにより驚いたのは、少しも寒さを感じないことだった。
これも道重の力なんだろうか。
雪を踏みしめる音がどこか懐かしく、私を安心させた。
変わらず周りは真っ暗だった。
暗闇の中に浮かぶ、赤と青と白の光。
私達の体から発せられる光が、白い雪を銘々の色に染めていた。
「あら、生きてたんですね」
闇の中から黒い光が現われた。
黒い光という表現は、おかしいのかもしれない。
でも、確かに闇の中に、揺らめく黒い光が見えた。
- 86 名前:takatomo 投稿日:2004/02/01(日) 23:54
-
「吉澤、ここは任せたぞ」
その更に奥から聞こえたのは、輝ける闇の声だった。
離れていても、気配が移動していくのがわかる。
『行かせちゃダメ!』
田中の声が聞こえる。
時を統べしもの同士は通信が出来るから、私の頭に田中の声も聞こえる。
もちろん、藤本の声も聞こえる。
『この先に何があるの?』
道重はわかりませんとだけ言った。
『ここ、何かわかりますか?』
『世界で一番高い山ですね』
田中と藤本のやり取りが聞こえる。
- 87 名前:takatomo 投稿日:2004/02/01(日) 23:55
- 『そうです。この上はこの大陸で一番空に近い場所です』
田中の言葉を遮るように、私の前を黒い影が横切った。
足元の雪がごっそり削げ落ち、遠くで轟音が響いた。
「光よ」
石川の声。
それと共に、周りが一気に明るくなった。
見渡す限り一面雪。
ただ、私の前を横切った黒い線は、はるか闇へと消えていっていた。
その線の出所は、この光の中、黒い闇を体にまとっている吉澤ひとみ。
彼女は輝ける闇ではないが、その由来がわかったように思えた。
この光の中で、放射状に闇を放つ彼女は、まさしく闇が輝いているように見えた。
「田中、続けて」
槍を構えて私は言った。
吉澤は、禍々しい気配を抑えようともせずに、私に向き合った。
- 88 名前:takatomo 投稿日:2004/02/01(日) 23:55
- 『麻美さんは、輝ける闇の媒体になっているんです』
吉澤は再び闇を放った。
すでに構成すら組んでいる様子も無い。
それとも、早すぎて見ることができないんだろうか。
この距離ではかわすことは簡単だ。
着地した左足で一気に吉澤との距離を詰めた。
吉澤は一瞬で剣を抜き、私の槍を受け止めた。
一見ただの剣だったが、確かに私の槍を受け止めていた。
『私達とは逆のパターンなんです。麻美さんの中にいるから、力を出せないんです』
私の背後から後藤が飛び掛る。
私は吉澤の剣から力が抜ける瞬間を待った。
後藤の攻撃を避けるために動くはず。
その瞬間に槍をずらして攻撃するためだ。
だが、私の思惑とは異なる。
吉澤は剣から放した左手で、後藤の剣を受け止めていた。
もちろん剣の力が緩むわけはなかった。
すっと横を見ると、後藤の剣は、吉澤の指輪で綺麗に受け止められていた。
後藤に目で合図して、同時に後ろに下がる。
- 89 名前:takatomo 投稿日:2004/02/01(日) 23:56
- 『麻美さんは最後の人柱なんです。輝ける闇の完全な復活を防ぐための』
下がる私を追うように、吉澤が闇を放つ。
体をひねってかわすが、すぐ前に吉澤の剣が迫った。
咄嗟に踏ん張った足が、雪にとられてバランスを崩す。
それが幸いしてか前髪を数本絡めとられ、額に薄く傷が入った。
だが、吉澤は二撃目を狙う。
そこに炎が巻き起こる。
石川に違いない。
左手でそれをかき消すが、それも計算済みだったようだ。
炎の後ろから、またも後藤が現われた。
さすがに吉澤は剣で受けた。
「田中、それで、続きを」
叫んで私は立ち直った。
『飯田さん、右です』
藤本の声。
吉澤の左手はこっちを向いていた。
右に飛ぶ私と交差するように、闇が走った。
- 90 名前:takatomo 投稿日:2004/02/01(日) 23:58
- >>84-89 更新終了です。
やっと動き始めました。会話がすごくややこしくなってる模様…
今週も忙しいので、また少し空くかもしれません。
>>83 ありがとうございます。更新速度戻すのにはもう少しかかりそうです。すいません。
- 91 名前:とこま 投稿日:2004/02/03(火) 20:23
- 更新お疲れ様です。
作者様のペースで更新して下さい。
あ、交信しないでね(爆)
- 92 名前:takatomo 投稿日:2004/02/05(木) 00:32
-
パキン
雪にまみれる私の耳に確かに聞こえた。
顔を上げると、そこには吉澤の姿は無かった。
『右です』
道重が言う。
視線を移すと、後藤と吉澤の姿があった。
吉澤の剣は折れていた。
右手は血に染まっていた。
白い大地に落ちていく赤い染み。
後藤は尚も吉澤から離れることなく、剣撃を繰り出す。
密着したままでの高速の剣技。
後藤の姿はなっちを思い起こさせた。
- 93 名前:takatomo 投稿日:2004/02/05(木) 00:33
- 吉澤が追い詰められていくのがわかる。
余裕は微塵も感じられなかった。
私の足元に目をやると、そこには吉澤の剣身と、赤い血が残っていた。
後藤の剣が切ったんだろうか?
「キャッ」
短い悲鳴が聞こえ、後藤が吹き飛ばされた。
「後藤」
叫ぶ私を制するように、すぐに後藤は起き上がった。
吉澤は追撃をかけなかった。
かざした手を、ゆっくりと右手に当てた。
黒いローブでは、どれだけの出血かわからない。
しかし、雪にしみこんでいく血の量が、傷の深さを物語っていた。
- 94 名前:takatomo 投稿日:2004/02/05(木) 00:33
- 『吉澤は傷を治せないの?』
『はい。ヒーリング能力を持つのはさゆだけですから』
田中の声は、先ほどまでの元気が無いように思えた。
「じゃあ、このまま殺しちゃうよ」
田中の声が聞こえているんだろう。
後藤が言った。
『待って…駄目…』
突然道重が大声を出した。
後藤は私の方を向いた。
そして、吉澤の方を一度振り返ってから、私のところまで戻ってきた。
石川も近づいてくる。
『絵里がいるんです…だから…殺さないで…』
泣いているんだろうか。
ポツリポツリと道重は言った。
私の胸の中には悲しみが広がり始めた。
- 95 名前:takatomo 投稿日:2004/02/05(木) 00:33
- 『さゆ、そんな事言ったって…吉澤ひとみを倒さないと…』
『れいなは絵里が死んでもいいって言うの?』
一気に悲しみが押し寄せてきた。
私は泣いた。
道重の代わりに。
涙の流せない道重の代わりに泣いていた。
「どうしろって言うのよ」
後藤が言った。
それは答えを待つものではなく、道重に覚悟を決めさせるための問いだった。
だけど、道重は黙ったままだった。
道重はずっと迷っていたのかもしれない。
絵里という少女と戦いたくないと。
もしかしたら、私の槍で剣が切れなかったのも、道重の迷いから来るものじゃないんだろうか?
- 96 名前:takatomo 投稿日:2004/02/05(木) 00:34
- 道重はまだ何も言わない。
そっと、石川が私の肩に手を置いた。
途端に平行覚が失われ、私は石川にもたれかかった。
「田中がごめんなさいって」
石川が小声で言った。
「道重にショックを与えて気絶させたって」
石川の言うとおり、私の中に道重の意識は感じられなかった。
「田中、あなたは大丈夫なの?」
絵里という少女が大切なのは、田中も同じはずだった。
- 97 名前:takatomo 投稿日:2004/02/05(木) 00:34
- 「任せてください。先に輝ける闇を。って…後のことは美貴に言っておくからって」
田中の言葉を石川が伝えるのだから、それがどんな思いで言われたものなのかわからない。
私に出来ることは、田中の言葉に従うことだけだった。
道重まで傷つけた彼女の覚悟を、無駄にしないためにも。
「行こう」
後藤を促し、私は先へ進む。
吉澤が阻止しようとするが、石川の精霊術が相殺した。
次第に明かりが遠のいていった。
前を進む後藤の光を頼りに、私達は雪の中を駆け上がっていった。
- 98 名前:takatomo 投稿日:2004/02/05(木) 00:37
- >>92-97 更新終了
次はいつだろう?割と近いうちに更新しそうです。
次は石川編でしょうか。たぶん。
>>91 ありがとうございます。
更新早くなるなら交信さえもしたいです。
(最近飯田さんが、めっきり交信していないのは、気のせいではないでしょう)
- 99 名前:とこま 投稿日:2004/02/06(金) 20:53
- 更新お疲れ様です。
飯田さんは交信している暇が無いのでは?
まとめ役も大変ですね。
- 100 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 00:31
- <4>
「田中、いいの?」
『はい。でも、さゆは私を恨むんでしょうね』
「そんなことない。これは仕方ないことなんだから」
吉澤ひとみの放つ闇を、光の精霊術で相殺する。
私は光の精霊術を使えるようになっていた。
構成すら、頭の中に流れてくる。
今までよりも、はるかに複雑な構成を、答えのわかった迷路のように、瞬間的に構築できた。
そして、それと共に、吉澤ひとみの組む構成も見えた。
組んでいる時間が存在するんだろうか?
手をかざすと出現するキメ細やかな構成。
絵を取り出しているかのように、構成が現われていた。
- 101 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 00:31
- 徐々に私は押されていった。
こっちが先に構成を組むことが出来ないんだから、当然のことだった。
「この世を黒く染めし者」
不意に、攻撃の手が止んだかと思うと、私の耳にその言葉が聞こえた。
「深遠なる闇より出でて」
それが詠唱だと体が理解したのは、すぐ後だった。
「全ての光を飲みつくせ」
吉澤の両手から、闇が放たれる。
凝集されたそれは、一本の筋となって私に向かってきた。
- 102 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 00:31
- 避けれる。
でも、もしかしたら先に居る飯田さんたちに当たるかもしれない。
相殺?
できるの?そんなことが。
考えがまとまらないままに、闇は迫ってくる。
詠唱は間に合わない。
避けることもできない。
私は出来るかぎり構成を組むことにした。
ぎりぎりまで粘って、少しでも大きな構成を。
こんなものでどうにかなるとは思えない。
矢を紙で受け止めるようなものだ。
それでも、やらないよりはましだろう。
闇が目前まで迫った。
術を開放する。
私の前に現われた光は、一瞬で視界から消えた。
それを認識するのと、目の前が真っ暗になるのは同時だった。
- 103 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 00:32
-
――――――――――――
―――――――
――――
―
暗闇の中、私は目を覚ました。
「田中?」
呼びかけるが返事は無い。
動こうとすると、足元が緩んだ。
踏みなれた雪とは、明らかに違う感触だった。
どろどろとした嫌な感触がどんどんせり上がってくる。
動こうとしても足は動かなかった。
「な、なんなの?田中、田中!」
私はどんどん沈んでいた。
膝から下はもう動かない。
混乱する頭で、必死に構成を組んだ。
しかし、精霊術は発動しない。
ゆっくりと、でも止まることなく体は沈んでいく。
それが余計に私の恐怖を誘った。
- 104 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 00:33
- 「いや…田中、助けてよ」
下半身はもう動かない。
嫌な感触はもうお腹の辺りまで来ていた。
「飯田さん、美貴、ごっちん!」
叫んでも誰の返事も無い。
「誰か、助けてよ!」
首筋を駆け上がる感触が口元まで届き、私は口を閉じた。
顔をどんどん駆け上がっていく。
そして、私はすっぽり覆われた。
――――――――
―――――
―――
―
- 105 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 00:36
- 私、死ぬのかな?
全身の感覚が無くなっていく。
死ぬって言うことはこういうことなんだろうか。
「私ね、人間界に行かないといけないんだ」
ふと、声が聞こえてきた。
「さゆにはもう言ってるの?」
田中の声だった。
「…ううん、まだ」
「…さゆには会わないで行ってもらえるかな?」
「れいな…わかった…でも、一つだけお願い」
「何?」
「さゆを…お願いね」
――――――――
――――――
――――
―
- 106 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 00:37
-
『石川さん』
途端に目の前に光が差した。
「田中?私…痛っ」
全身がきしむように痛んだ。
さっきのは、夢?
痛む体を起こす。
これが現実だ。
さっきのは、夢だと自分に言い聞かせる。
「私、どれくらい意識無かった?」
『ほんの数秒ですよ』
「吉澤は?」
「この世を黒く染めし者」
私の声に答えるように、吉澤の詠唱は始まった。
- 107 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 00:40
- >>100-106 更新終了
もう残り半分切ってます。あと2、3章くらいで終わる予定です。
>>99 ありがとうございます。
ようやくこのお話も終わりが見えてきました。
もうすぐ一年ですが、それくらいまでに終われるといいですね…
- 108 名前:とこま 投稿日:2004/02/07(土) 16:22
- 更新お疲れ様です。
佳境に入ってきましたね。
みんな無事であらんことを祈ってます(-人-)
- 109 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:26
- 「どうしよう…もう一回くらったらやばいよね…」
『石川さん、私の力を信じてくれないんですか?』
「深遠の闇より出でて」
「わかった。力を貸してね」
私は両手を天に掲げた。
「この世を照らす尊き者よ」
「全ての光を飲みつくせ」
吉澤の術が完成した。
「天から来たりしその恵み」
闇が近づいてくる。
掲げた両手に光が集まり、次第に形を成していく。
- 110 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:26
- 「我が力となり給え」
光が矢の形に変化する。
迫り来る闇に、私の光の矢が刺さった。
音もなく、両者は消滅した。
だけど、そのことを思う暇は無かった。
吉澤は再び闇を放った。
大きな術ではらちがあかないと思ったのか、次々に闇はやってくる。
構成の速度が違うんだから、悔しいけど私にとって効果的だった。
しかし、吉澤の傷がそれほどまでに深かったのだろうか。
それとも、大きな術を使ったからなんだろうか。
徐々に構成が解れ始めていくのがわかる。
私の方が、組み慣れてどんどん早くなっていくのに対して、吉澤のそれは明らかに遅くなっていった。
- 111 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:27
- 「田中、本当にいいのね?」
手ごたえをつかめた。もう吉澤を倒すことはわけないだろう。
『ええ…』
吉澤の構成が完全に崩れた。
私はそれを逃さずに、炎を放つ。
身をかわす吉澤だったが、左半身が炎に包まれた。
ダイヤモンドが炎を消していくが、それでも彼女に致命傷を負わせるには十分だった。
『絵里!』
田中の声が、私の構成をストップさせた。
強がっているのは、十分意識として流れてきていた。
だけど、田中が声にださないから、私は吉澤ひとみと戦えた。
だから…もうこれ以上、戦うことは…
- 112 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:27
- 「殺さないの?さっさと殺せばいいでしょ?」
左足はすでに炭化しつつあった。
左手も、皮膚が焼け落ち、真っ赤に腫れ上がっていた。
それでも、ダイヤの指輪だけが、やけに輝いていた。
『れ…い…な…』
突然聞いたこと無い声が聞こえた。
『絵里…絵里なの?』
『れいな…ごめんなさい…』
吉澤の後ろに、城で見た少女の姿が浮かび上がった。
以前よりもはっきりとした輪郭をもつ彼女。
何かに怯えているような気弱そうな目。
だけど、綺麗な顔。雪に反射された光によって、一層際立って見えた。
天使。
そのフレーズがぴったりだった。
足元で傷ついた悪魔と、対照的過ぎる風貌だった。
- 113 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:27
- 『絵里、どうして?』
『ごめん、れいな…ごめんなさい』
『ゴメンじゃわからない!』
私に一気に悲しみが押し寄せてきた。
絵里と呼ばれた少女はビクッとした。
『さゆも、心配してたんだよ?』
『さゆは心配してないよ』
『なんで!さゆは…さゆはね、絵里のことが…』
田中の悲しみが私に更に響いていく。
田中の思いはわかった。
道重が好きなんだ。
だから、だから田中は道重を…
だから、田中はここに残ったんだ。
- 114 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:28
- 『違う!さゆがすきなのは…れいななのよ』
『違うよ!さゆの一番大切な人はあなたなの。私じゃダメなのよ。
私じゃ、あなたの代わりはできなかったのよ』
私の中に、涙を流す道重の顔が浮かんだ。
そして、それを見ている田中の思いも。
どうして田中が私を選んだのか、少しわかる気がした。
私と田中は同じなんだ。
大切な人を思う気持ちが届かない者同士。
だから田中と私の波長が合うんだろう。
『れいな…でも…私はもう…』
「もう無理ですよ」
二人の会話に割り込んだのは吉澤だった。
驚く私と対照的に、田中に動じた様子はなかった。
悲しみだけが波のように押し寄せ、その波は変化する兆しすらなかった。
- 115 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:28
- 『それくらいわかってるよ。でもね、お前が今、生かされてるってこと、忘れないでね』
逆に田中の言葉に吉澤が驚いた。
普段の余裕は少しも見えない。
散々私達を弄んできたこいつが、初めて見せる焦りだった。
「田中、本当に無理なの?」
『ええ、駄目なんです。無理なんですよ』
意思が伝わってきてるだけに、何でもない口調で言う彼女に、私は涙を抑えられなかった。
「闇に取り込まれてしまえば、もう別れることは出来ません。
絵里が闇と同化している時点で、覚悟は出来ていました」
嘘だ。
覚悟なんて出来てるわけが無い。
田中の意識は私には筒抜けなんだよ。
田中の悲しみはわかってるんだよ。
私は涙を拭いた。
私が泣いててどうするの?
田中が泣けないのに、私が泣けるの?
「本当にいいんですか?この子はあなたにとって大切な人なんでしょ?」
悪魔のささやきは、田中の心を揺さぶらなかった。
大切な人だからこそ、一度決心すれば変えられない。
悲しみはあるものの、葛藤は無かった。
- 116 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:29
- 「田中、いいのね?」
何回聞いただろう。駄目といって欲しくないのに、私は尋ねる。
それが田中を苦しめているだけなのは、わかってる。
私は、自分を納得させているだけに過ぎないんだ。
田中がいいというから。その言い訳が欲しいだけなんだろう。
そこまでわかっていても、私は聞かずにはいられなかった。
「石川さん、ありがとうございます」
田中は私に言った。
こんな時まで、私に気を使って…
私の術が切れた。
辺りは暗闇に包まれた。
私の姿は赤く光っている。
向こうには吉澤がいるんだろう。姿は見えないが、暗闇にほのかにうつった少女が、それを確認させた。
私は両手を天にかざした。
- 117 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:31
-
この世を照らす尊き者よ
天から来たりしその恵み
我が力となり給え
この世を黒く染めし者
深遠の闇より出でて
全ての光を飲みつくせ
完成は同時だった。
だけど、吉澤の手から闇は現われなかった。
- 118 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:32
- 「き、貴様…」
『れいな、さようなら…』
『絵里、絵里―――』
矢は吉澤の体を貫いた。
そこから幾多の光が溢れ出す。
眩しい光を浴びようとも、私は目をつぶらなかった。
最後の一瞬まで見ていることが、私の最後の役目だから。
光が止み、辺りはまた暗闇に包まれる。
思い出したかのように、全身が痛くなった。
もう、吉澤の気配は感じられなかった。
もちろん、絵里という少女の声も聞こえなかった。
「行こうか。みんな待ってる」
田中は答えなかった。
私はそっと構成を組んで、飯田さんたちの後を追った。
- 119 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:34
- >>109-118 更新終了。
次は飯田編。やっとゴールが見えてきました。
>>108 ありがとうございます。
ラストは…まだ少し迷ってます。どんな形にしろ、未来のある結末にはしたいと思います。
- 120 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:35
-
- 121 名前:takatomo 投稿日:2004/02/07(土) 22:35
-
- 122 名前:とこま 投稿日:2004/02/08(日) 11:23
- 更新お疲れ様です。
パンドラの箱のように絶望の中にも希望だけは残してください。
- 123 名前:takatomo 投稿日:2004/02/12(木) 01:31
- <5>
背後が一瞬光り輝いた。
立ち止まって振り返る。
もう後ろからの光は消えていた。
「圭織…」
何の変化も無かった。
真っ暗闇が果てしなく続いているだけで。
石川が灯していた光だって、この暗闇の中、さっきまでは淡く光っていた。
なのに、さっきの大きな光の後は見えない。
何かあったのは間違いないだろう。
後藤も気になっているのがよくわかる。
私も今すぐにでも戻りたい。
でも、それはできないんだ。
一つ深呼吸して、私は前を向いた。
雪を踏みしめる一歩が重かった。
二人とも無言だった。
さっきのことを声に出すことを避けていた。
雪を踏む音だけが、規則的に耳に入った。
- 124 名前:takatomo 投稿日:2004/02/12(木) 01:31
- どれくらい進んだのかわからない。
何度も何度も後ろを振り返ったが、光が灯されることは無かった。
真っ暗闇の中、ただ上へと進んでいる。
世界で一番高いんだから、そう簡単には上にはいけないと思ってる。
でも、雪山ということもあり、疲労が激しかった。
『ここは…』
私の周りに光が灯る。道重が気付いたようだ。
『大丈夫?』
『れいなは?絵里は?』
『田中なら何とかしてくれるよ』
答えにもならないことをいってはぐらかす。
さっきの不安は努めて隠していた。
- 125 名前:takatomo 投稿日:2004/02/12(木) 01:32
- 『でも、れいなは…』
「大丈夫だって。一応梨華ちゃんもいるんだから」
会話を聞いていたのか、後藤がそう言って私の背中をバシバシ叩いた。
『それに…もうそんなこと考えてる場合じゃないですよね』
藤本の声。
迂闊だった。
今まで道重が気絶していたから気付かなかったけど…
もう、すぐそこまで来ていたんだ…
- 126 名前:takatomo 投稿日:2004/02/12(木) 01:32
-
「吉澤は死んだんだな」
私達のすぐ上にあいつはいた。
空気が振動しているような威圧感に包まれた。
槍を握る手が汗ばんでいくのがわかる。
だけど、さっきの言葉が、私を少し落ち着かせていたのも事実。
石川は、吉澤を倒したということがわかったから。
『飯田さん、田中から聞いた話をしますね…
とても大事なことですから。本当はもっと早くするべきでしたが』
輝ける闇に動く気配は無かった。
耳だけは藤本の言葉に集中し、私は必死で輝ける闇の気配をうかがっていた。
『輝ける闇は、この世に復活しましたが、まだ完全体ではないんです。
一部分が復活しただけで、後はまだ封印されたままなんです』
その情報を絶望ととるか、希望ととるか。
不完全でこの力なんだから、完全体なら…
完全体ではないんだから、倒すことは出来るんじゃないか。
私は後者の考えを取った。
- 127 名前:takatomo 投稿日:2004/02/12(木) 01:32
- 「ふむ、おもしろい」
輝ける闇は言った。この会話が聞こえているらしい。
余裕だろうか?
もしかしたら藤本は、あなたを倒す方法を知ってるのかもしれない。
なのに、寧ろ輝ける闇から殺気が失せていった。
『封印が破られたといっても、4本の封印がずれただけです。
その隙間から、一部分がこの世に出てきただけなんです。
麻美さんの体がそれを受け止める役目を果たしています』
『何のために?』
『それはわかりません。偶然なのか、それも復活を防ぐ安全装置なのか。
でも、そのせいで力を制限されているのも事実です。
私達と違って、闇は人に同化しているとその力は制限さるそうです』
輝ける闇は何も言ってこなかった。
気配も変わる様子も無い。
何を考えているんだろうか…
- 128 名前:takatomo 投稿日:2004/02/12(木) 01:34
- >>123-127 更新終了
一応6章までの予定なので、もうスグです。
>>122
ありがとうございます。
ようやくラストまで道が出来てきました。期待を裏切らないラストにできるようがんばります。
- 129 名前:とこま 投稿日:2004/02/12(木) 21:02
- 更新お疲れ様です。
最後まで付いていきますぜ。
- 130 名前:takatomo 投稿日:2004/02/14(土) 01:41
- 『ここにそいつがきたのは、その封印を破るためです。
世界で一番高い場所。ここが、精霊の力が強く集まるところなんです。
封印を解くには、この場所が…』
「フフフ…」
笑い声に藤本の言葉が止まった。
「田中とか言ったな、我を封じたものの子孫は」
笑いを含んだ声だった。
意図がわからない。
さっきから、少しも。
「我がどうして、こんなちっぽけな体にいるのか、大きな勘違いをしているようだな」
『どういうことよ、れいなが間違ってるって言うの』
道重が言った。
なんだかんだ言っても田中のことを、この子は信頼しているに違いない。
- 131 名前:takatomo 投稿日:2004/02/14(土) 01:42
- 「封印の隙間から出てきたのではない。我が封印された時から計算してたことだ。
時を統べしものの掛けた封印はやっかいだった。だから、我は一部分だけこの体に乗り移らせたのだ」
「はったりは止めたら?あなたの言葉は矛盾してるでしょ?」
後藤が剣を抜いた。
「ふん、どうして我がこの体にいるのかということか?
それはな、実体があれば、非実体の我を封じる封印を、弱い力だけで解くことができるからだ」
「ごちゃごちゃ言ってるけどさ、結局あんたを殺せば全て済むってことでしょ」
その言葉と共に、私達の周囲が明るくなった。
私達の少し上だった。
漆黒の闇が輝いていた。
こんなことが出来るのは一人しかいない。
無事でよかった…
上から降りてくる石川の姿を確認し、私は安堵した。
- 132 名前:takatomo 投稿日:2004/02/14(土) 01:43
- 『れいな…』
『ごめん…絵里は…』
田中は言葉を詰まらせた。
道重は何も言わなかった。
黙っていた。
意識が感じられない。
道重の心が、考えが霧がかかったようにぼやけていた。
「やれるものならやってみろ。お前らが何人こようが我の相手ではない」
一回り大きくなった闇が私達に向かって吼えた。
- 133 名前:takatomo 投稿日:2004/02/14(土) 01:44
- 「この世を照らす尊き者よ」
石川の詠唱が合図となり、私と後藤が地面を蹴る。
後藤の剣が左、私の槍が右をつく。
輝ける闇は武器一つ持っていなかった。
素手で私達の刃を受け止める。
止められた部分の光が一瞬で消えた。
それだけじゃない。
次々と光が薄れていった。
『飯田さん、これ…ヤバイです』
道重の声に、私は槍を引いた。
光が道重の力ならば、それが吸収されていっているということなんだろうか。
下がる私を追うように、衝撃が体を包んだ。
体が押しつぶされそうになる。
全身がミシミシと音を立てていた。
近くの雪の塊につっこみ、ようやく開放される。
すぐに埋もれた体を起こした。
後藤はまだ何度も、輝ける闇に剣を振っている
だけど、剣を振るたびに無くなっていく光。
光が消えた瞬間、後藤の体は大きく宙を舞った。
- 134 名前:takatomo 投稿日:2004/02/14(土) 01:44
- 「我が力となり給え」
離れる後藤と入れ違うように完成したのが石川の精霊術。
光の矢が石川の両手から放たれた。
さすがに輝ける闇を包む闇が変化した。
放射状に広がっていたそれが、収束していく。
光の矢を闇が受け止めていく。
みるみるうちに小さくなっていく矢。
『飯田さん!』
田中の声が聞こえた。
私は彼女が意図することを理解できた。
槍はもう以前の輝きを取り戻していた。
一足飛びで輝ける闇に近づく。
矢はもう私の槍より細くなっていた。
槍を振る。
狙いは闇をまとっていない部分。
- 135 名前:takatomo 投稿日:2004/02/14(土) 01:45
- 手ごたえはあった。
右肩に深い傷が走った。
だけど、血はでなかった。
ぽっかり開いた傷口があるだけで。
「貴様…」
目が合った。
瞬間、私の体に闇が放たれた。
腹部に直撃する黒い塊は、とてつもない衝撃だった。
しかも、それは私から離れることなく、私の体を押しつぶしていく。
肋骨の折れる音がした。
一本だけじゃない。
次々に何本も。
そして、その次は私の口から多量の血が吹き出た。
内臓、やられたのかもね…
- 136 名前:takatomo 投稿日:2004/02/14(土) 01:45
- 『体をさばけませんか』
私は左足を思いっきり踏ん張った。
少しずつ右に逸れていく黒い塊。
私の体を抉り取るように、それは右脇を抜けていった。
もう一度血を吐く。
体がつながっているようには思えなかった。
右のわき腹はごっそり肉が削げ落ちていた。
もう少し遅かったら死んでいたのかもしれない。
『治します。動かないで下さい』
道重の言葉と共に、暖かい光が傷口を包んだ。
- 137 名前:takatomo 投稿日:2004/02/14(土) 01:51
- >>130-136 更新終了
何か変な文章が続いてます。
次回更新は少し空くかもしれません。
>>129
ありがとうございます。あと少しだけですがお付き合いください。
- 138 名前:とこま 投稿日:2004/02/15(日) 20:32
- 更新お疲れ様です。
最後の敵と戦闘ですね。
勝つことを祈りつつ・・・(-人-)
- 139 名前:takatomo 投稿日:2004/02/16(月) 01:04
- 石川は再度詠唱を始めた。
その間足止めするのは後藤。
幸い大きな怪我は無いようで、変わらない動きで輝ける闇に向かっていった。
ともかく、勝機が見えたのは確かだった。
私がつけた肩の傷は、この距離からでも見える。
ダメージはあるに違いない。
『道重、まだ?』
『すいません、もう少しです…かなり深い傷ですので』
あれだけの傷が治ることに、感謝しなければならないんだけど、私ははやる気持ちを抑えることは出来なかった。
そして、後藤が再び闇に飲まれた瞬間、私は我慢できずに立ち上がった。
『飯田さん、まだですって!』
道重の言葉を聞かない振りして、輝ける闇に向かう。
石川に向けていた攻撃を私の方へと変える。
石川の精霊術はもうすぐ完成する。
この瞬間を逃すわけにはいかないんだ。
迫ってくる闇を避け、距離を詰めた。
腹部には鈍い痛みがまとわりついていた。
- 140 名前:takatomo 投稿日:2004/02/16(月) 01:07
- 「治癒能力か」
私の槍を受け止め、少し驚いたように言った。
そして、爆発するような衝撃が体にふりかかる。
輝ける闇の全身から放出された闇。
威力はそれほどでもなかったが、私の体勢を崩すには十分で、更に、塞がっていない傷口をもう一度開けるにも十分だった。
そこに降りかかる先ほどの闇の塊。
私はとっさに槍で受け止めた。
大きな衝撃が手に伝わる。
折れてしまいそうなくらい、槍がしなっていた。
腹部から血が噴出す。
途端に右手の力が抜けていった。
槍が弾かれたとき、私は死を覚悟した。
だけど、塊は大きく右に進路を逸らした。
左を見ると、両手を出した石川の姿。
精霊術で弾き飛ばしてくれたようだ。
- 141 名前:takatomo 投稿日:2004/02/16(月) 01:07
- 「ありがとう」
少し離れた位置に落ちた槍を拾った。
でも、これでもう一度、詠唱の時間を稼がなくてはいけなくなった。
全身雪にまみれた格好で、後藤も起き上がる。
ぶらんと垂れた左手は、どう見ても無事には見えなかった。
『左、折れてます』
藤本の声だった。
『田中、どうする…』
私は頼った。自分一人の判断力では限界が見え始めていたから。
『石川さん自身も、立て続けに精霊術を使っていますので、早めに決めたいところです…』
『策は?』
『もう一度詠唱の時間稼いでくれますか?』
「了解」
私と後藤の声が重なった。
血は止まっていた。
なんとか止血してあるだけですと、道重は言った。
それでもちゃんと動けるなら十分だった。
- 142 名前:takatomo 投稿日:2004/02/16(月) 01:08
- 後藤と私の攻撃は、明らかに動きを止めることを趣旨としたものだった。
無理をせずに攻めているので、余程のことが無い限り、ダメージを受けることは無い。
二人がかりなので、輝ける闇のほうも、攻撃に転じる隙がほとんど無かった。
『飯田さん、行きます。槍で受けてくださいね』
田中が短く言った。
そんなことが可能なんだろうか?
でも、田中が言うなら間違いないだろう。
放たれた光の矢に、私は槍をかざした。
雷に打たれたような衝撃の襲われた。
だけど、私の槍はさっきまでとは比較なら無いくらい輝いていた。
「何!」
初めて輝ける闇が狼狽した。
私のふった槍は、逆に闇を消し、傷を刻んだ。
「くっ貴様」
私は次の攻撃は、収束された闇によって受け止められた。
だけど、後藤はその次を理解していた。
- 143 名前:takatomo 投稿日:2004/02/16(月) 01:08
- 「私を忘れてるんじゃないの?」
収束することでできた、闇をまとっていない腹部を、剣が切り払った。
「貴様ら、もう許さんぞ」
輝ける闇は、顔をしかめていた。
追い詰めているのは明らかに私達。
形勢は逆転している。
気付くと、槍の光が弱くなっていた。
『精霊術を貯めているので、長い時間はもちません』
道重の忠告に、私は一旦距離をとった。
後藤と石川、二人と並ぶように立つ。
後藤の左手にそっと手を当てる。
私の怪我よりも、先に後藤の怪我を治す方が早い。
それに、私の怪我は動くのには問題ないのだから、後回しでよかった。
石川はこの瞬間にも詠唱を始めている。
次の攻撃で決めるつもりだった。
輝ける闇は動かない。
さっきまでの威勢の良さはどこへいったのだろう。
闇すら体から発されていなかった。
- 144 名前:takatomo 投稿日:2004/02/16(月) 01:13
- >>139-143 更新終了です。
あと数回の更新で終わりそうな予感。
>>138 ありがとうございます。
こんなに長くかけたのも、いつも頂けるレスのおかげです。
- 145 名前:とこま 投稿日:2004/02/16(月) 21:43
- 更新お疲れ様です。
いよいよ終わってしまうんですね(泣)
- 146 名前:takatomo 投稿日:2004/02/18(水) 01:37
- 『もう、終わらせましょう』
田中は言った。
石川の精霊術が後藤の剣に宿る。
そして、すぐに再び詠唱を始めた。
光り輝く剣を一度軽く振った後藤。
その後、輝ける闇に向かった。
私も同時に向かう。
その時だった。
輝ける闇が動いたのは。
後藤の剣を素手で受け止めた。
たった二本の指で剣は止まっていた。
「貴様らは、調子に乗りすぎたようだ」
目が開くと同時に、私達を闇が包んだ。
石川の術を吹き飛ばし、あたり一面が闇と化した。
- 147 名前:takatomo 投稿日:2004/02/18(水) 01:38
- 『飯田さん、もう少し時間稼いで下さい。精霊が集まりにくくなってます』
田中の声だった。
だけど、それはちょっと難しい注文なのかもしれない。
後藤は必死に剣を動かそうとするが、ピクリとも動かない。
逆に、剣を闇が伝っていく。
後藤は剣を離そうとしなかった。
私の槍はまるで壁があるかのように、輝ける闇に届かない。
「後藤、離しな」
私の声は遅かった。
いや、もしかしたら後藤は剣を離す気が無かったのかもしれない。
ともかく、闇は後藤を巻き込んだ。
悲鳴と共に、空中に高く放り上げられた後藤。
闇が後藤の体から飛散する。
私の顔に生暖かい液体が降ってきた。
血。
どす黒い血が、降ってきた。
後藤は落ちてこない。
後藤からの光も消え、姿さえ見えない。
- 148 名前:takatomo 投稿日:2004/02/18(水) 01:38
- 『飯田さん、前』
道重に言われ、私は視線を戻そうとしたが、遅かった。
3、いや、4方向から一度に衝撃に襲われる。
左手、右足、お腹、そして顔面。
槍だけは落とさないように、しっかりと力を入れていた。
闇の中、どれくらいの速度で動いているかわからない。
平衡感覚も失われ、私は時折当たる雪の感触で、地面の位置を確認していた。
ようやく、雪の塊につっこんで止まる。
爆音と共に、体に雪の重みが一気にのしかかる。
口の中には鉄の味と、ごつごつした感触。
そして、それを流し去るように、私は一度血を吐いた。
雪に黒が染みていく。
白い歯がその中に落ちていた。
3本折れていた。
「そんな、嘘」
石川の声だった。
ボーっとする意識をなんとか維持し、私は先にある光を見た。
光は止まっていた。
掲げた手の前で止まった光は、すぐに闇に飲まれた。
- 149 名前:takatomo 投稿日:2004/02/18(水) 01:38
- バタン
大きな音が前方でした。
私はまだそれが何かわからなかった。
それよりも、石川を守らないといけないという意識が強かった。
私達の切り札は間違いなく石川なんだ。
田中と石川の力がないと…
痺れる全身を動かそうとするが、雪の重みがそれを許さない。
右足、左手
一つずつ体を雪から掘り起こしていく。
『田中、逃げて。あなたたちを失うわけにはいかない』
心の中で懸命に叫ぶが、石川の光は動こうとしていない。
「くそ!」
叫んでも、体はついてこない。
右手、左足が雪から開放された時、石川の光は小さくなっていた。
「石川!」
叫んで駆け寄ろうとするが、走るには程遠い体の状況。
それでも、道重が治癒してくれているのだろうか。
徐々に体は麻痺から回復し、激痛を覚え始めていた。
- 150 名前:takatomo 投稿日:2004/02/18(水) 01:39
- 『れいな!』
道重が呼ぶが、田中の返事は無い。
そう、そういえば藤本は…後藤はどうなった?
不意に私は躓いた。
つま先に残ったのは、柔らかいような、妙な感触。
起き上がり、見てみると、それは変わり果てた後藤の姿だった。
骨は折れているんだろうか?
違う、折れていないところが無い。
全身が不自然な形に広がっている。
まるで、それが自然な形であるかのように、全身が。
「後藤…」
返事は無い。
体からの光は消えているのだから、藤本の意識が無いこともすぐにわかる。
それでも、右手に握られた剣。
それがかすかに動いた気がした。
生きている。
生きていて欲しい。
『道重…』
治癒を頼まなければいけない。
でも、その間私はここを動けない。
石川は…
石川はどうなっているの…
- 151 名前:takatomo 投稿日:2004/02/18(水) 01:39
- その考えは私をはっとさせた。
私は最低の人間かもしれない。
人の命をはかりにかけている。
後藤と石川、どっちが重いのか。
自己嫌悪に、私は胸から込みあがってくるものをこらえられなかった。
血にまみれてかすかに残った吐瀉物が雪に染みていく。
『飯田さん…後藤さんはしばらく大丈夫です。それよりも、れいなはどうかわかりません…』
消えるような声で提案した道重。
「ごめん、絶対治してあげるから」
私は走った。
泣きながら走った。
まだ死なないから。
それだけの理由で、もうすぐ死ぬかもしれない後藤を私は置いて行く。
最低だ。
最低。
最低の人間だ。
自分を責めながらも、体はどんどんスピードを上げていく。
石川の光がさっきまであった場所へと。
- 152 名前:takatomo 投稿日:2004/02/18(水) 01:41
- >>146-151 更新終了
あと3回の予定です。次は週末くらいにはできればいいなと思っております。
>>145 ありがとうございます。
もうこれで「一応」でもなんでもなく、完全に完結となります。
残り数回ですが、よろしくお願いします。
- 153 名前:名無し募集仲。。。 投稿日:2004/02/18(水) 06:16
- ここまで来て初めてレスします。
結末が待ちきれないでいるのに、終わらないで欲しいと思ってみたり。
あと3回、最後まで応援してます。
頑張ってください。
- 154 名前:ぴかちる 投稿日:2004/02/18(水) 19:43
- 最低なんかじゃないぞ!自信を持てカオリ!
(´Д`)〈私ま〜つ〜わ♪いつまでも…zzz..
- 155 名前:とこま 投稿日:2004/02/18(水) 21:37
- 更新お疲れ様です。
あと3回ですか。
精一杯モニターの前で応援させていただきます。
- 156 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/19(木) 12:08
- 更新乙彼です。
あと3回ですか〜。。。
寂しいですけど、応援してます!
- 157 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:38
-
『道重、わかる?』
暗闇の中、距離感がつかめない。
たぶんこの辺りだろうとは思うんだけど…
『右。少し右です』
沈黙の後、答えが返ってきた。
ゆっくりと一歩踏み出す。
私の光が辺りをほのかに照らしていた。
後藤の姿はもう闇に消えていた。
「飯田さん…」
石川は気を失っていなかった。
後藤のことが頭をよぎり、後悔と共に安堵が漏れる。
- 158 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:38
- 『れいな、れいな』
だけど、道重の声には田中は反応しなかった。
「私を守るために、無理に力使ってくれたから…」
『れいなは…れいなは死んじゃったの?』
「道重!」
私は思わず声に出していた。
死んでるわけ無い。
田中が死んだら、どうやってあいつを倒すの?
田中と石川の力がないと…
自分に言い聞かせていた。
さっきの光景を見ていないわけない。忘れているわけも無い。
石川の術は簡単に止められた。
石川の術を帯びた後藤の剣も止められた。
私達に残された手段はあるの?
- 159 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:39
- 「無いな。貴様らは調子に乗りすぎた」
目の前に現われたのは輝ける闇。
槍を構えたが、どうすればいいかわからなかった。
「死ね」
かざされた両手。
だが、それは私の方を向かず、輝ける闇自身の首に向かった。
事態が理解できない私に、声が聞こえる。
「早く、今のうちに」
田中の声ではなかった。
だからといって、他に思い当たる人物はいない。
聞いたことの無い声ではなかった。
どこか懐かしい声で。
「貴様…」
「早く、私を殺して!」
かぶさるように二つの声が、輝ける闇の口、違う、安倍麻美の口から聞こえた。
ということは…
- 160 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:39
- 答えは一つだけ。
しかし、そのことが私の決心を曇らせる。
輝ける闇だと思っていたからこそ、私はためらい無く攻撃できた。
そこに、安倍麻美の意識があるのなら…
なっちの顔がかぶさる。
見れば見るほど瓜二つな二人。
だけど、そんな感情に流されるほど、修羅場をくぐってこなかったわけじゃない。
このチャンスを生かさないとどうなるか、私は判断できる。
「ごめん」
私は槍を伸ばした。
心臓を一突き。
苦痛の無いように、確実に死ぬように。
槍はたやすく貫通した。
苦悶の声が漏れる。
その声は輝ける闇の声でなく、安倍麻美の声だった。
私は思わず顔を背けた。
- 161 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:40
- ところが、すぐに槍に重みを感じた。
見ると、私の槍が握られていた。
「ふん…我がこれくらいで死ぬと思ってるのか?」
そして…パキンと一つ音がした。
それは絶望というものを一層確信させる音だった。
私の手には何もなかった。
輝ける闇にも何も刺さっていなかった。
さっきまで一本の槍となしていたものは、今は無数の結晶に。
私の光に照らされ、それは雪のようにきらきらと光った。
声が出なかった。
私も、道重も、そして石川も。
目の前に広がる光の結晶を見つめていた。
「これで、もう何もできまい。もう忌々しいこの体の持ち主の意識も消した。
後は貴様らを消すだけだ」
一歩輝ける闇が近づいた。
その時、私の手には光の槍が再び現われていた。
- 162 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:41
- 『さゆ!』
石川の体に光が戻る。
田中が気付いたようだ。
『道重?』
私の中に道重の意識は感じられなかった。
ただ、現われた槍が、何であるかを見抜けないほど私は鈍感ではなかった。
『道重…』
『さゆ、さゆ、駄目だ。そんなことしたら…さゆが』
田中の声が聞こえるが、私はかまわず輝ける闇に突っ込んだ。
さすがに目の色を変えた。
私の槍は確実に輝ける闇から闇を奪っていく。
槍が当たることで、肉体的なダメージは一切与えていなかった。
だけど、効いていないはずはなかった。
いや、今までで一番厳しい攻撃なのかもしれない。
輝ける闇はたまらず私の攻撃を避け始めた。
受けてばかりだったあいつが。
後ろに下がると同時に、右手から闇が放たれる。
私はそれを槍で弾いた。
弾くことが出来た。
- 163 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:41
- 『さゆ、止めて…もう…』
田中の声は尚も聞こえる。
心なしか、槍が短くなっていく印象があった。
それはもちろん気のせいでも何でもなく。
こうして足を止めている間にも、確実に短く、細くなっていくのがわかった。
私は足を止めるのをやめ、全力で輝ける闇に向かっていった。
二度、三度攻撃を加える。
槍は体に当たっても、刺さることは無かった。
感触も無かった。
だけど、確実に闇を削ぎ落としていた。
相手の攻撃を弾きつつ、私の槍は確実にとらえていた。
武術というレベルの問題になると、私のほうが数段上だった。
田中の声はいつしか聞こえなくなった。
輝ける闇が闇を放つ。
それは目前でいくつにも分かれ、私を襲う。
もう短剣としかいえないような長さになった光で、それを裁いていく。
1つ、2つ、3つ、4つ…
これで最後。
『さゆ――――』
その時、田中の絶叫が聞こえた。
私は5つ目を処理しようとしたが、不意に雪の冷たさを感じた。
今まで、全く感じていなかった、雪の冷たさを。
私は咄嗟に闇を避けた。
- 164 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:42
-
右手にはもう光が無かった。
それが意味することは…
足元から寒さが全身を包む。
それが意味することは…
田中の叫び。
それが意味することは…
私から光は完全に消えた。
私を守っていてくれる人は消えた。
そう…道重さゆみは死んだ…
- 165 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:43
-
- 166 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:43
-
- 167 名前:takatomo 投稿日:2004/02/21(土) 23:48
- >>157-164 更新終了
後2回の予定です。
久しぶりに多くのレスを頂きうれしい限りです。
>>153 ありがとうございます。そう思っていただけると、書いている方としてはうれしい限りです。
>>154 ありがとうございます。お待たせしないように、次は早く書くつもりですので。
>>155 ありがとうございます。最後までよろしくお願いします。
>>156 ありがとうございます。あと2回ですが、よろしくお願いします。
- 168 名前:とこま 投稿日:2004/02/22(日) 21:06
- 更新お疲れ様です。
一人一人と舞台から去っていく・・・(泣)
- 169 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:22
-
田中の声が聞こえないことがありがたかった。
それで、私はまだ意識をはっきり持てているんだろう。
石川は泣き声が耳に届いていた。
これで、また策は無くなったことになる。
追い詰めることは出来ていた。
でも、これじゃ…もう…
「飯田さん…」
石川が左手に手をかけながら言った。
石川の目から、田中の言葉が聞こえてきたような気がした。
私の頭の中に、すっと入ってくる複雑な思考。
それはアイコンタクトという域を超えたものだった。
- 170 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:22
- なぜ、そんなことが出来たのかわからない。
道重の最後の力とか想定するのは安易過ぎる。
だけど、その不思議な現象のおかげで、私は…
「石川…後藤がすぐ近くにいる。光を…」
私の言葉に続くように、辺りが明るくなり、後藤の姿が見えた。
先ほどと少しも変わっていない。
だけど、かすかに動く剣が、私を再び安堵させる。
石川からあるものを受け取って、私は更に言った。
「後藤のところ行ってて…それから…」
「何ですか?」
「後は、任せたよ!」
受け取ったあるもの―ガーネットの指輪―を指にはめた。
頭が割れるような痛みと共に、吐き気が襲ってきた。
私の体に赤い光と白い光が交互に現われ、そして、一つになっていく。
桃色の光が私を包み込み、徐々に苦痛が薄れていく。
だけど、それでも体にかかる負荷は大きいものだった。
体の中から何かが溢れ出そうとしている。
全身がはちきれそうだった。
- 171 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:23
- 石川が後藤のもとへ行ったのを確認し、私は手をかざした。
私は精霊師ではない。
だけど、そうすることを体が指令した。
「飯田さん!」
石川と後藤は光に包まれ消えていく。
「さよなら…」
わずかに残った光が消えた。
『飯田さん…すいません』
田中が謝る理由がわからなかった。
これは自分の意思で決めたことだ。
「もう、封印を解くことは叶わないな。いいだろう、我は今の力のまま、この世を統べるとしよう」
安倍麻美の体が崩れ落ちた。
辺りを照らす光が再び消し飛んだ。
強大な闇が私の前に現われた。
実体を捨て、非実体化した輝ける闇の力は、先ほどとは比にならなかった。
- 172 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:23
- 「あんただけは、私が命に代えても倒してみせる!」
私の体から放たれる光がより大きくなった。
それを包み込むように闇が広がっていく。
後藤、藤本、辻、小川、道重…
そして、石川…
みんな、さようなら…
- 173 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:24
- <6>
「飯田さん!」
光が私達を包んだ。
とても暖かい光。
目の前が真っ白になっていく。
さよなら。
光の中からその言葉が聞こえた。
「飯田さん!」
光が晴れ、私達が立っていたのは、違う場所だった。
薄暗い部屋の中に響いた。
足元に雪の代わりに、絨毯の毛の感触がした。
「石川さん」
小川の声がした。
そう、小川の声だった。
私の横には小川の顔があった。
その隣には辻ちゃんの姿が。
- 174 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:24
- ここは…モーニング公国の城?
「梨華ちゃん、感動の再会はこの状況を処理してからにしようね」
ごっちんの声だった。
あれほどまでに重傷だったごっちんが…
精霊術でどうしても行うことができないもの。
それは、治癒と空間を移動すること。
治癒は道重がやってみせた。
田中は出来なかった。
でも、飯田さんと一緒なら出来ている。
しかも、道重以上の力で。
更に、カントリー公国の北部から、こんなところまで一瞬で私達を…
飯田さんと田中の力なら、勝てるのかもしれない…
- 175 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:25
- その前に、私達がここを切り抜けないといけない。
ごっちんが言ったことは正しかった。
辻ちゃんと小川は追い詰められていたんだ。
周りを囲むのは、前に見た化け物。
「ごっちん」
指輪が無い今、私は何も出来ない。
辻ちゃんも小川にしたってそう。
こいつらに二人の攻撃は意味を成さない。
「わかってる」
相手は5体だった。
ごっちんが剣を両手で持つ。
勝負は一瞬だった。
紙でも切るかのように、次々と体が分かれ、そして機能を停止した。
「こんなもんかな」
剣を納めてごっちんは言う。
一瞬の出来事に、何を言えばいいかわからなかった。
- 176 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:25
- 「飯田さんは、飯田さんはどこに?」
小川が言った。
私とごっちんは目を合わせた。
「圭織は…」
「きっと帰ってくるから…」
私達はそれだけしか言えなかった。
それ以上、何も言えなかった。
私達がどうこうできるレベルの話じゃなかったんだ。
長い沈黙だった。
4人でじっと立っていた。
長い、長い時間だった。
壁に開いた大きな穴から、暗黒の世界を見下ろす。
ところどころに赤い炎が見えるだけ。
それも、人工的に灯されたように見えない。
無秩序に燃えている炎。
生きている気配が感じられないような世界だった。
- 177 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:26
- どれくらい経っただろう。
変化の無い真っ暗な世界を見下ろし続けてから。
私は気付いた。
光が差し始めていることに。
「ごっちん!」
私は叫んだ。
光は次第に強くなっていく。
太陽が顔を出し、闇が世界から消えていく。
それが、私達の戦いを終える知らせだった。
―――だけど飯田さんは、田中は、私達の前に戻ってこなかった。
- 178 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:26
-
- 179 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:26
-
- 180 名前:takatomo 投稿日:2004/02/22(日) 23:29
- >>169-177 更新終了
後一回です。明日には更新するつもりです。
>>168 ありがとうございます。長い間ありがとうございました。後一回だけ、お付き合いください。
- 181 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/02/23(月) 00:04
- ついに最後なんですね・・・泣けてきます・・・
- 182 名前:takatomo 投稿日:2004/02/23(月) 23:20
- 先にレス返ししておきます。
>>181 ありがとうございます。
そう言っていただけると、長く書いてきた甲斐があるというものです。
最後、よろしくです。
- 183 名前:takatomo 投稿日:2004/02/23(月) 23:24
- <7>
―――
―――――
―――――――
―――――――――
「我を倒したところで、終わると思っているのか?
我の一部を倒しただけで終わると思うな。また、我は復活してみせる。
吉澤のような闇に近い人間が現われれば、必ずな…」
「封印はもう解かせない。あなたがいる世界はここじゃない」
『封印の修復はもう完成しています。あなたが復活することは二度とありません』
「ふっ…いいだろう…次の機会があるなら、我はもうこんな過ちは犯さない。その時を覚悟しておけ」
「言ってな…私達は絶対に復活させないから…」
――――――ねえ、石川…待ってるから――――――
- 184 名前:takatomo 投稿日:2004/02/23(月) 23:25
-
「梨華ちゃん、この辺だよね?」
あれからもう3年の月日が流れていた。
世間では、復興という言葉がやっと囁かれ始めてた頃だ。
私はモーニング公国にいた。
3年前の混乱の後、この大陸はモーニング公国として統一されている。
そして、王族でもない私が、モーニング公国にいることとなった。
王として。
ごっちんは、美貴と共に飯田さんを探して世界中を回っていた。
そのおかげで、王になるべき人がいなかった。
成り行きで私になっているが、実際の仕事は全部、小川が取り仕切っているだった。
カントリー公国などの3国は、それぞれ地方という形で名残を残している。
それぞれを治めるのは、保田さんと辻ちゃん。
カントリーには、私が兼ねる形でいたが、斉藤みうなという若い精霊師を後に任命した。
- 185 名前:takatomo 投稿日:2004/02/23(月) 23:26
- ごっちんがどれだけ探しても見つからなかった飯田さん。
でも…私が今朝見た夢が正しければ…
飯田さんはここにいる。
世界で一番高い山。
封印の源となるここに。
あの時と同じ、雪が積もるこの山を登ってきた。
ごっちんも、小川も、辻ちゃんもいる。
頂上は雪が広がるだけで何も無かった。
みんなからため息が漏れる。
やっぱり今朝の夢は、ただの夢だったんだろうか?
飯田さんはいないんだろうか…
期待が裏切られた分、余計に悲しみが襲ってくる。
涙がこぼれた。
3年間、絶対泣かないと決めていたのに。
- 186 名前:takatomo 投稿日:2004/02/23(月) 23:28
-
「梨華ちゃん…」
ごっちんの声。
顔を上げると、目の前に光の柱があった。
私はためらいもせず、その柱に左手を添えた。
私の左手には新しいガーネットの指輪。
それが一度光り、光の柱が消えていく。
3年前と少しも変わらない姿がそこにあった。
「ただいま」
その言葉の後に、私の中に感じる懐かしい感覚。
『お待たせしました』
田中の声だった…
- 187 名前:takatomo 投稿日:2004/02/23(月) 23:28
- レッドタイズ END
- 188 名前:takatomo 投稿日:2004/02/23(月) 23:28
-
- 189 名前:takatomo 投稿日:2004/02/23(月) 23:31
- >>183-187 最終更新
あとがきみたいなもの
約一年という長い間、ありがとうございました。
正直ここまで長くなるとは思っていませんでした。
題名について、レッドタイズは「 led ties 」という綴りです。(一応1レス目のメール欄で主張してました。)
「導かれた絆」という意味です。
でも、レッドを「 red 」とかけて、赤い絆=血の絆という意味も含む題にしています。
セバータイズとは続きでありますが、どちらかといえば六期中心の書き方でした。
また、限られた人の視点でしか書いていませんので、間に設定していたエピソードを書いてない部分が結構あります。
そこで、このスレの残りに、外伝を付け加えていこうかなと考えております。
速度はとてつもなく遅いでしょうが、たまーに見てもらえるとうれしいです。
どれを書くかはまだ決めていません。
もしリクエストがあれば、書ける分は書いていきたいです。
今考えているのは、石川と柴田の昔の話とか、石川と飯田の出会いとか。
その辺から書いていきたいとは思っています。
また、新作は4月ごろにできたらなと考えております。
長い間、本当にありがとうございました。
読者の皆様、そしてレスをくださった皆様のおかげで、完結することが出来ました。
最後に、感想などをいただけるとうれしいです。
- 190 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/24(火) 11:17
- 完結おめっとさんです。
とてもスピード感があって、読んでて飽きない作品でしたw
外伝の方も楽しみにしてますのでマターリ頑張って下さい。
- 191 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/24(火) 11:21
- 完結おめでとうございます。
そしてお疲れ様でした。
いつも楽しみにしていた小説が終ってしまうのは淋しい気もしますが、
外伝も新作も楽しみにしています。
これからも頑張って下さい!
- 192 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/24(火) 13:24
- 後藤と藤本の話がみたいです。
- 193 名前:とこま 投稿日:2004/02/24(火) 20:11
- 完結お疲れ様でした。
ついに終わってしまいましたが、外伝や新作を楽しみに待ってます。
- 194 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/25(水) 00:55
- 完結おめでとう。
次作も期待しています。
- 195 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/02/25(水) 01:18
- 完結おめでとうございます!
ずっと読ませていただいてましたが、とってもよかったです!
お疲れ様でした〜!
外伝や新作も楽しみにしてます。
もしよければ、私もごっちん&ミキティのお話読んでみたいです。
- 196 名前:しばしば 投稿日:2004/02/26(木) 14:17
- 完結おめでとうございます。
約一年もの間、お疲れ様でした。
そしてありがとうございます。
個人的には勉強になることも多く、モニターの前で感心することが多かったです。
外伝、そして新作の方も楽しみにしています。
- 197 名前:rina 投稿日:2004/02/26(木) 14:51
- 完結おめでとうございます!!
最初から最後まで、また読みなおしてしまいました。
何回読んでも感動します。
外伝や新作も楽しみにしてます。
私もごっちん&ミキティのお話読んでみたいです。
- 198 名前:takatomo 投稿日:2004/02/28(土) 01:07
- たくさんのレスありがとうございます。
いろいろな感想がいただけて、書いてきた甲斐があったなと、再度うれしくなりました。
>>190 ありがとうございます。更新が早くなったり遅くなったり申し訳ありませんでした。
>>191 ありがとうございます。完結が寂しいと思っていただけてうれしいです。
>>192 ありがとうございます。次は藤本と後藤の外伝を書くつもりです。
>>193 いつもありがとうございました。おかげさまで完結することが出来ました。
>>194 ありがとうございます。次作までの繋ぎとはいえませんが、外伝の方、よろしくです。
>>195 ありがとうございます。外伝はみきごまの話にさせていただきます。
あお、カイト様の作品の方、昨日から読ませていただいてます。楽しみにしていますので。
>>196 ありがとうございます。私もしばしばさんの作品を見て、勉強になることが多かったです。
次はしばしばさんの完結のほう、楽しみにさせていただきます。
>>197 ありがとうございます。 そう言っていただけるとうれしい限りです。外伝の方、みきごまにさせていただきます。
そちらの方も楽しんでいただけたらうれしいです。
- 199 名前:takatomo 投稿日:2004/02/28(土) 01:09
- というわけで、外伝の方、本日から始めさせていただきます。
まず最初は、リクいただいたとおり、藤本と後藤のお話を。
二人が出会ってからのお話を書いていきたいと思います。
もう少しお付き合いいただけるとうれしいです。
- 200 名前:takatomo 投稿日:2004/02/28(土) 01:10
- レッドタイズ外伝 Episode1「1/2」
- 201 名前:takatomo 投稿日:2004/02/28(土) 01:12
-
あれからもう2年が経っていた…
私が、自分の半身と出会ってから…
あの頃はよく、中澤さんと散歩に行っていた。
私の半身に出会ったのもその時。
夕暮れの川岸だった。
見つけたのは私。
助けようといったのは中澤さん。
彼女がしっかり握っていた剣が何か、私は知っていた。
でも、それは言うべきではないと私は判断した。
中澤さんも聞かなかったから、言わなかった。
- 202 名前:takatomo 投稿日:2004/02/28(土) 01:12
- 「なあ、藤本、この子の面倒みたってくれんか?」
少女を背中に背負って帰る途中、中澤さんは私に言った。
もちろん、否定することなんて出来ない。
「この子、まだ子どもやで…こんな戦争の無い世の中でなぁ
こんな傷負って、こんなとこに倒れてるんや。
きっと今まで辛い目にあってきたんやろ…」
その言葉が、私にも向けられていることに気付いていた。
だけど、何も答えなかった。
私の過去なんて…大した意味はない。
それに…あれは一人前の「道具」になるための、私に課せられた宿命だったんだから。
- 203 名前:takatomo 投稿日:2004/02/28(土) 01:13
- 「後藤、真希です…」
少女が目を覚ましたのは、次の日の昼。
途切れ途切れにそう名乗った。
名前以外、何もわからないという。
この町は、プッチモニ公国との境にあるんだから、その名前から連想される人物は、一人しかいない。
だけど、中澤さんは私に言った。
「あんたが思ってること、あの子に伝えたらあかんで」
「……」
「あの国の事情は知っとる。だから、この子を返されへん。
この子はここで、普通の生活をしたほうがええんや」
エゴという言葉を当てはめるなら、これがまさしくそうなんだろう。
私はその判断に従うしかない。
それが忍びの定め。
私はただの「道具」でしかない。
それ以上でもそれ以下でもないんだから。
剣は隠してある。
こうして、私と後藤真希の生活は始まった。
彼女が後藤真希なら年は私よりも一つ下。
でも、私の前にいる彼女はとても1つ下には見えない。
幼すぎる。
何かの間違いかと思うくらい。
大人びた外見とアンバランスなほど、無邪気な子どもだった。
- 204 名前:takatomo 投稿日:2004/02/28(土) 01:13
- 「ねーねーミキティ」
「はい、何ですか?」
彼女は私をいつからかミキティと呼ぶようになっていた。
何でもない生活。
朝起きて、昼には二人で町に出て買い物をする。
そして、三人で散歩に行く。
帰ってきてから、私が夕食を作る様子を後藤真希は横で見ていた。
何でもない生活だった。
でも、それは壊れるべくして壊れる。
記憶をなくしたとしても、後藤真希という束縛から彼女は逃れられるわけがなかった。
- 205 名前:takatomo 投稿日:2004/02/28(土) 01:14
- 雨の日だっただろうか。
そう、雨だった。
濡れた髪の毛が印象的だったから覚えている。
路地裏で、一人佇んでいた後藤真希の姿。
研ぎ澄まされた刃のような美しさに、私はしばし見とれていた。
事件が起こったのは、その日の夕方。
雨がやむことを期待して、昼からの買い物を遅らせていた。
結局、雨がやまずに、夕方ごろ私達は町へ出かけた。
その日は警戒していなかったわけじゃなかった。
町につくとすぐに視線を感じていた。
遠巻きに私達を観察している目。
後藤真希はそのことに気付いている様子もなく、いつも通りだった。
- 206 名前:takatomo 投稿日:2004/02/28(土) 01:16
- >>200-205 更新終了です。中途半端ですいません。
できるだけ近いうちにすぐ更新します。
- 207 名前:とこま 投稿日:2004/02/28(土) 09:14
- 更新お疲れ様です。
みきごまの外伝ですね。
楽しみに待ってますよ。
- 208 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/29(日) 10:41
- おっ、外伝ですか。
楽しみ楽しみw
- 209 名前:takatomo 投稿日:2004/03/02(火) 23:18
- 私はまだまだ未熟だったに違いない。
まさかこんな街中で襲ってはこないだろうと踏んでいた。
それが、どこか油断につながっていた。
それとも、周りの状況の把握に神経を使いすぎていたんだろうか。
後から考えると、私はどうしてあの時、後藤真希から注意を外したんだろうか。
敵の目的が後藤真希である以上、敵のことよりも、後藤真希を見ていなければいけなかった。
ともかく、気付いた時には、私の周りに男が5人囲っていた。
気付いた時には、後藤真希は私の傍にいなかった。
町のど真ん中。
雨のせいで人がまばらだったが、こんなところで…
素手の女一人を男5人が囲む絵は、どういったものなんだろうか。
そんなことよりも、私は後藤真希を探さないといけない。
まだ遠くには行っていないはずだ。
- 210 名前:takatomo 投稿日:2004/03/02(火) 23:19
- 一人の男を蹴り上げると、そのまま私は輪の中を抜けた。
後ろから怒声が聞こえる。
相手を動かないようにするのはたやすい。
でも、そんな暇なんて無い。後藤真希を探さないと。
今日が雨だったことは、私に大きく味方してくれた。
一つは、人通りが少ないこと。
そしてもう一つは…
あった。
路地裏に続く細い道についたたくさんの足跡。
その奥で見たのは、一人佇んでいた後藤真希の姿。
男達のものだろうか。
片手に持った剣が赤く染まっていた。
水溜りと混じっていく赤い血。
そして、彼女は私の方へと視線を向けた。
- 211 名前:takatomo 投稿日:2004/03/02(火) 23:19
- 「あんたの仲間?」
後藤真希の声だった。
だけど、それは私が聞いていた暖かい声じゃない。
鋭い、冷たい声だった。
「違います」
「そう、ならここがどこか知ってる?」
「ここは、モーニング公国、ピッコロタウンです」
尋問にあってるように思えた。
実際にそれは尋問だったんだが。
「ふーん」と言って後藤真希は剣を捨てた。
赤い血が水と交じり合って薄くなり、銀色の刀身が見えた。
「殺してないからね。たぶん生きてるよ」
声は私の後ろから聞こえた。
剣を見ていた一瞬の間に、彼女は私の後ろに移動していた。
- 212 名前:takatomo 投稿日:2004/03/02(火) 23:19
- 「あなたは、誰なんですか」
「見ず知らずの人間に名乗るような名前じゃない」
警告という意味を含んだ言葉だった。
「ごっちん…私がわからないの?」
私はこのとき、初めてごっちんと彼女のことを呼んだ。
ずっと、そう呼べといってきたが、私はやんわりと断ってきていた。
「あんた何者?」
警戒が強まった。
彼女が剣を持っていたのなら、私の首に刃があってもおかしくなかっただろう。
- 213 名前:takatomo 投稿日:2004/03/02(火) 23:20
- 「藤本美貴。覚えてないの?ねえ、思い出してよ」
私は何をやってるんだろう?
彼女の記憶が戻ったのならいいじゃない?
このまま彼女がどこかへ行ってしまえば、もうかかわらなくて済む。
今日みたいなことも無く、今までどおり、中澤さんと二人で暮らせる。
でも、中澤さんに頼まれた。
この子の面倒を見るって。
だから、私は後藤真希についていかなくちゃいけない。
彼女の安全を守らないといけない。
本当にそうなの?
それだけなの?
自分の中でいくつも声がする。
どれが真実なの?
どれが私のやるべきことなの?
- 214 名前:takatomo 投稿日:2004/03/02(火) 23:20
- 「わかんないね。ま、いい。今回は見逃してあげる」
考え込む私に、彼女はそう言って立ち去ろうとする。
しかし、その歩みはすぐに止まった。
さっき、私を囲んでいた男達が前にいた。
「よくもさっきはやってくれたな」
口元を真っ赤に染めて男は言った。
「邪魔」
後藤真希は冷たく言い放った。
「なんだと?貴様、自分の立場がわかってるのか?」
男が剣を抜き、後藤真希に突きつける。
後藤真希は動じる様子も無く、剣を手で払った。
- 215 名前:takatomo 投稿日:2004/03/02(火) 23:21
- 「邪魔だって言ってるでしょ」
肘を蹴り上げる。声を上げ、男の手から剣がこぼれる。
それをすぐに手にすると、向かってくる4人は、もう相手ではなかった。
スピードが違いすぎている。
男が剣を振り上げる時には、既に切り払っていた。
「こんなもんでしょ」
最初の男の目の前に、剣を突きつけていた。
悲鳴のような、情けない声を上げて、男は地面に座り込む。
「黒幕は誰?」
「知らねぇ俺は何も知らねぇ」
「私短気だからさ、さっきの奴は刺しちゃったんだよね」
肩に剣先が沈んでいき、男の服に赤い点が広がっていく。
再び大きな悲鳴が上がった。
「答えてくれる気になった?」
「わかった…言う言う、何でも言うから…」
- 216 名前:takatomo 投稿日:2004/03/02(火) 23:22
- その時だった。目の前が光ったかと思うと、全身に痛みが走った。
意識を失わなかったのは、私が訓練を受けていたから。
でも、全身は痺れ、動かすことはできなかった。
後藤真希も男も、それだけじゃない。
この場にいる誰もが気を失っていた。
「他愛もない。こうも簡単に事が運ぶとはな」
壁が破壊されたかと思うと、男が二人現われた。
一人は赤いローブを身に付けた男。
指には光る宝石があった。
精霊術か…
雷…
水で濡れたこの場所で、雷を使うとこうなるのか…
気付くのが遅かったわけじゃない。
頭から完全に外れていた。
思いつきもしなかった。
やられた…
もう一人の男が後藤真希を担ぎ上げる。
全く抵抗する様子も無い。
完全に気を失っているようだ。
私の体はまだ動かない。
体に雨が当たる感触は戻ってきたが、声すら出すことはできなかった。
- 217 名前:takatomo 投稿日:2004/03/02(火) 23:24
- >>209-214 更新終了
この話はあと一回更新で終わりそうです。次は何にしようかな…
>>207 ありがとうございます。みきごまの話だけど絡みが少なくて申し訳ないです。
>>208 ありがとうございます。外伝なのに意外と長くなっちゃってます。
- 218 名前:とこま 投稿日:2004/03/03(水) 21:11
- 更新お疲れ様です。
いやあ〜、みきごまは良いですね。
次回も楽しみに待ってます。
- 219 名前:takatomo 投稿日:2004/03/07(日) 01:36
- 「ちょっと待ちーや」
男達の向こうから聞こえた声。
私の聞き間違い出なければ、それは希望の声だった。
そして、同時に後ろめたさを感じる声だった。
後藤真希のことを頼まれたのに…
私は何をやってるんだ…
「ほんまに、かえってくんのが遅いなと思ったら…
こないなとこで、いざこざやってたんか」
私の方に中澤さんの視線が向けられた。
逸らしたかった。
でも、そうすることもできないのが、今の私の状況だった。
- 220 名前:takatomo 投稿日:2004/03/07(日) 01:36
- 「こいつらみたいになりたくなかったら、どいてな」
「それはこっちの台詞や。さっさと後藤をおいてったら、見逃したろ」
中澤さんは素手だった。
彼女がどれだけ強いのかなんてわからない。
男達の笑い声が聞こえる。
私はようやく手先に感覚が戻ってきた。
痺れはするが、動かせないことは無い。
力がうまく入らないから、立ち上がることはまだできなかったが…
「やろうってのか?」
「後藤をおいてかんかったら、そうなるで」
言うが早いか、中澤さんは動いた。
後藤真希を担ぐ男の顎を突き上げる一発。
でも、距離が遠すぎる。
中澤さんと男の間は1m近く開いているはずだった。
- 221 名前:takatomo 投稿日:2004/03/07(日) 01:36
- 男がひるみ、後藤真希がずり落ちる。
男を更に一発押し倒しながら、中澤さんは後藤真希を受け止めた。
彼女の手にあるのは、一本の黒い棒。
さっきまで素手だったはずなのに…
「次はあんたや。精霊術唱えようとしても無駄やで。こっちのが早いからな」
そういうと、棒は長さを変え、赤いローブの男の前まで伸びる。
「覚えていろ…必ず、そいつは…」
「何って?またくんのかいな?」
言うが早いか、棒で男の側頭部を殴りつけた。
男は気を失って倒れた。
中澤さんは次に、倒れているもう一人の男の頭も殴りつけた。
ぞっとするような光景だった。
いつものやさしい中澤さんからは想像も出来ないような行為。
そして、見たこともない厳しい顔。
後藤真希を抱えながら私の方へ近づいてくる。
ピチャピチャをいう足音が、私の鼓動を早めていた。
- 222 名前:takatomo 投稿日:2004/03/07(日) 01:36
- 「おーい、大丈夫か?」
私の顔を覗き込む。
その顔はいつもの中澤さんだった。
「ええ…」
なんとか声を出す。
中澤さんの手をかり、なんとか立ち上がる。
「あんたは知ってたん?」
「ええ…」
「そうか…私が聞かんかったから言わんかったん?」
「ええ…」
「そっか…ええよ、怒ってないから」
中澤さんが後藤真希の頭を撫でた。
まだまだ目を覚ます気配は無かった。
- 223 名前:takatomo 投稿日:2004/03/07(日) 01:37
- 後藤真希が目を覚ましたのは、その日の夜。
ベットから起き上がった彼女の第一声は「お腹空いた」だった。
記憶は再び無くなっていた。
少し遅い夕食を食べ、再び後藤真希が眠りについた頃、中澤さんが私を呼んで言った。
テーブルの上にはしまっていたはずの剣が置いてあった。
「藤本、この剣やけど」
「はい…」
「あんたに任せる。あんたの判断で後藤に渡しや」
「私がですか?」
「ああ。そうや。あんたがいいと思ったら渡し。私は何も言わん」
「わかりました…」
剣をそっと手にする。
どこか暖かい感覚。
うっすらと光を放つ青い刀身に、私はしばし見とれていた。
- 224 名前:takatomo 投稿日:2004/03/07(日) 01:37
- 「あんた、持っても何もないん?」
「ええ。何ともないですが?」
「そうか…あ、そうや、あの男達、全員始末しといてな」
「はい。わかってます」
後藤真希の生活を守るために…
これもエゴ。
彼女を守るために、鬼となった中澤さん。
なら、私が彼女のために手を汚さない理由は無い。
それから、彼女は髪を染めた。
真っ黒だった彼女の髪は、栗色になった。
こんなことで変わるとは思えないが…
だけど、彼女の外出を止めるわけにはいけない。
だから私は、常に町を窺っていた。
ささいな変化を見逃さないように。
そして、時には始末することもあった。
だが、時と共に数は減り、一年もすると途絶えた。
それでも、私は常に警戒していた。
全ては後藤真希のために。
彼女の生活を守るために。
そして…中澤さんの命令を守るために…
- 225 名前:takatomo 投稿日:2004/03/07(日) 01:38
- >>219-224 更新終了
外伝一つ目おしまい。次は何を書こうかな…
>>218 ありがとうございます。結局最後までみきごま…なのかみたいな…
すいません…
- 226 名前:とこま 投稿日:2004/03/07(日) 21:36
- 更新お疲れ様です。
次のカップリングは誰でしょう♪
楽しみに待ってます。
- 227 名前:takatomo 投稿日:2004/03/11(木) 01:07
- 外伝二つ目。吉澤の話を書きます。
吉澤の話していっても、本編でわからなかった方の面。
飯田達が表面なら、裏面みたいな感じで。
後、これが終われば一応完全に完結にするつもりです。
書きたい話とかたくさんありますが、書いていればキリが無いですから…
新作のほうもそろそろ取り掛かろうかなと思ってますので…
- 228 名前:takatomo 投稿日:2004/03/11(木) 01:07
- 外伝2「光と闇と」
- 229 名前:takatomo 投稿日:2004/03/11(木) 01:08
-
―――――
お前の力、我のために使ってみぬか?
我はまだ、ここから出ることは出来ぬ。
変わりに、お前に力を授けよう。
呪われし子、吉澤ひとみよ。
―――――
- 230 名前:takatomo 投稿日:2004/03/11(木) 01:08
- 真っ暗闇の中、吉澤は体を起こした。
「また、あの夢か…」
自分の体の中に、当たり前のように存在する闇を宿した時、吉澤はまだ、赤ん坊だった。
生まれたばかりの彼女を捨てたのは、実の父である。
そして、谷底へと落ちた彼女に力を与えたのが、輝ける闇だった。
それから、彼女は成長し、モーニング公国に流れ着く。
輝ける闇を復活させるために。
今のところ、吉澤の策は上手く回っていた。
吉澤に援軍の要請をした加護は――正確に言えば吉澤から持ちかけたことなんだが――飯田達に敗れていた。
これで、残すはモーニング公国だけ。
飯田がこっちに来るにしろ、安倍が負けるにしろ、吉澤にとってはどっちでもよかった。
どっちが勝っても関係ない。
自分の思うがままに、動く奴らを見るのは楽しかった。
安倍の元へ報告が届くたびに、横で笑いをこらえていたのは、他でもない吉澤だった。
- 231 名前:takatomo 投稿日:2004/03/11(木) 01:08
- ベッドの脇においていた指輪に手を伸ばす。
真っ暗闇だったが、吉澤の手は寸分の狂いもなく指輪を掴んだ。
闇は、吉澤にとっては居心地のよい場所でしかないのだから。
ダイヤモンドの指輪は、手に入れるのに苦労した。
それは金銭的ではなく、時間的に。
なぜなら、ダイヤモンドは精霊師がもつ宝石ではないため、ゴミに等しいものだったからだ。
宝石を扱うところへいってもあるわけはない。
吉澤は直接、ミニモニ公国の鉱山へと足を運んで手に入れていた。
ただ、彼女にとってダイヤモンドは媒体ではなかった。
彼女に潜む闇のおかげで、精霊術は使うことが出来た。
そもそも、ダイヤモンド自体、精霊が宿るものではないのだから。
しかし、彼女がそれを手に入れたのはわけがあった。
一つは、対精霊師用。
もう一つは、時を統べしもののためだった。
- 232 名前:takatomo 投稿日:2004/03/11(木) 01:09
- それは半分偶然だった。
吉澤が安倍の元へと来たころだっただろうか。
亀井絵里と出会ったのは。
闇の気配を感知した亀井が、安倍の下へ訪れようとした。
しかし、闇の空気を感じた彼女が、その前に吉澤の所へとやってきた。
「あなたは…何者なんですか?」
「さあね?ただの精霊師以外の何に見えますか?」
亀井の顔に警戒の色が見える。
自分の前に立っているのは、真っ黒なローブをきた人間。
人間には間違いなかった。
人間から闇を感じる。
そんなことがあるわけない。亀井は首を振った。
ありえないわけではない。だが、ありえるはずが無いことだ。
- 233 名前:takatomo 投稿日:2004/03/11(木) 01:10
- 「あなた、時を統べしものでしょう?その割には、あなたも心の中に闇を持っていますね?」
吉澤は左手を掲げた。
ダイヤモンドが光る。
精霊の宿ることの無い宝石。
闇の精霊をもつ人間。
ダイヤモンドの指輪を持つ人間。
その前に立つ時を統べしもの。
通常ありえないはずの三つの出来事がそろった時、それは起こった。
時をすべしものは精霊であって、限りなく精霊に遠い存在。
亀井はダイヤモンドに吸い込まれた。
- 234 名前:takatomo 投稿日:2004/03/11(木) 01:13
- >>227-233 更新終了。
久しぶりに書いた3人称なので、文章全然違いますね。
>>226 ありがとうございます。次の更新には少しはCP要素が出てくる予定です…
- 235 名前:とこま 投稿日:2004/03/11(木) 20:42
- 更新お疲れ様です。
よっすぃ〜の話ですか。
CPは誰だろう?
楽しみに待ってます。
- 236 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:17
- >>235 ありがとうございます。ちょっとCPが微妙になってますが…最終更新です。
よろしくお願いします。
- 237 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:19
- そして、更にもう一つの偶然は、亀井が宿ることで、それが吉澤の闇の力を緩衝されたことだ。
それゆえに、彼女はその後、時を統べしものに気付かれることは無かった。
それでは、亀井が心に持っていた闇とは。
時を統べしものである彼女が持つ闇、それは彼女が抱く後悔だった。
田中れいなと亀井絵里、そして道重さゆみ。
3人は所謂幼馴染だった。
何年も一緒に過ごしてきたかけがえの無い存在。
3人が3人ともを大切に思っていた。
だけど、それが崩れる。
田中の巫女としての能力が、二人と離れることが多くした。
時を統べしものはある一定の年齢にならないと、人間界にはいけない。
だが、巫女である田中は人間界に行くことを許されている。
彼女が数日間帰ってこないこともざらにあった。
ならば、必然的に、亀井と道重が話す機会が多くなる。
そして、亀井が道重に惹かれていった。
- 238 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:19
- 精霊である彼女達は、そもそも人間のように結婚して子どもを作ることはしない。
だが、精霊である彼女達は、独占欲というものを持っている。
その対象が道重になるのは、それほど時間を必要としなかった。
3人のバランスがくずれ、一旦亀井の中に芽生えた独占欲。
だが、道重はまだそれを持っていなかった。
ともすれば、道重は田中の名前を出す。
「れいなは、いつ帰ってくるんだろうね?」
「れいなが帰ってきたら、3人でさ…」
「れいな、今回の用事って何だったの?」
「れいながいなくて寂しかったよ」
「れいな、あのね…」
道重の口から出る「れいな」という言葉。
その一つ一つが亀井の心を切り裂いた。
田中と離れることが多いだけに、道重も田中がいる時は、喜んで田中にひっつく。
道重はもちろん何も意識していない。
久しぶりに会った田中との再会を喜んでいるだけ。
だが、亀井はそうは思えなかった。
- 239 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:20
- さゆは、れいなのことが好きなんだ。
彼女の頭はそれを事実として受け付ける。
そして、彼女は道重、田中より一歳上だったから、一人だけ早く人間界にいける年齢となった。
亀井は優しい子だった。
田中も亀井にとって大事な人だった。
だから…
だから亀井は、二人の前から姿を消すことにした。
道重のためを思って。
大好きな、大好きな道重のためを思って。
「私ね、人間界に行かないといけないんだ」
亀井はある時、田中に言った。
行かないといけないのではなく、自分から志願したことだったが。
そして…それを決定したのは他ならぬ田中だったが…
- 240 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:20
- 「さゆにはもう言ってるの?」
「…ううん、まだ」
亀井は悩んでいた。
道重に言うべきかどうか。
彼女の気持ちを最後に確かめたい気もしていた。
もしかしたら自分が好きなんじゃないのかって、かすかな希望が彼女の中にあったから。
「…さゆには会わないで行ってもらえるかな?」
田中は言った。
亀井の気持ちを知ってて言った。
なぜなら、田中は道重のことが好きだったから。
好きだからこそ、道重が自分といる時と、亀井といる時の違いを痛感していた。
道重自身は気付いていない。
そういう意味で、彼女は子どもだった。
そして、人間界に行くことが多かった田中は…
そういう意味では大人になってしまっていた。
亀井の志願は田中にとって願ったり。
道重がこれで自分に向いてくれるんじゃないかと。
これは田中の打算。
- 241 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:20
- 人間界へといった田中と、行ったことのない亀井。
共に大人であった二人だったが、大きく違っていた。
「れいな…わかった…でも、一つだけお願い」
「何?」
「さゆを…お願いね」
亀井は田中の返事を待たずに飛び出した。
そうしてやってきた人間界だった…
後に、田中は自分の過ちに心を痛めることとなる。
道重の涙が、彼女の罪悪感を一層強めた。
だからこそ、彼女はあの時、石川と共に吉澤のところへ残ったのかもしれない。
自分がやってしまった過ちを、自分の手で償うために…
- 242 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:22
- 指輪をはめた吉澤は暗闇の中、扉を開け、外へと出た。
真っ暗な外。ここは城の地下だった。
昔は牢獄として使われていたところだが、地上への通路はとっくに塞がれ、誰も入ってくることは無い。
吉澤の指輪が光り、彼女は光に包まれた。
空間を移動するなんて、彼女にはたやすいことだった。
亀井の力を手に入れた吉澤は、次に安倍麻美を使い始める。
元々病弱だった麻美には、吉澤が予め手を加えていた。
彼女の中にある闇の一部を移している。
吉澤が彼女の容態を操作することはわけなかった。
そのことで、安倍なつみの信頼を得ることも、動作無いことだった。
信頼というと語弊があるだろう。
だが、安倍なつみにとって、吉澤が不可欠な存在になっていた。
あとは全てが思い通り。
安倍を思うがままに操っていた。
飯田のことも、安倍麻美という名前を出すだけで簡単に。
- 243 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:24
- 吉澤が飯田を逃がしたのはわざとだった。
その方が理由ができる。カントリー公国へ攻める理由が。
もっとも、吉澤はプッチモニ公国まで逃げるとは思っていなかった。
プッチモニ公国へは、向こうの大臣を使ってこちらに攻めさせる予定だった。
その時にミニモニ公国にも攻めさせるつもりだった。
計画は変わったが、目的が達成されることには変わらない。
ここまで仕込んだ計画は、もうすぐ終わる。もうすぐそこまで来ている。
「なつみさん、飯田圭織さん達はもう来ました?」
「まだよ」
王座に座る安倍が答える。
この作戦を切り出したのは安倍だった。
吉澤も飯田達が砦を攻めたという報告を聞いてから、同じことを考えていた。
城にわざと飯田達を誘い込み、そこで始末する。
大部隊はいらない。
少数精鋭で十分。
それを加えたのは吉澤だったが。
- 244 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:26
- そっちの方が吉澤としては把握しやすい。
彼女にとってどちらが勝ってもかまわないのだから、さっさと勝負がつくほうがうれしかった。
このとき、安倍はまだ、心のどこかでは、殺すことを迷っていたのもしれない。
だが、そんな安倍の心を打ち砕くように、声が聞こえた。
「飯田圭織達が城門を突破しました」
吉澤の顔には笑みが浮かぶ。
最後の戦いは始まった。
- 245 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:26
- 外伝2「光と闇と」 END
- 246 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:26
-
- 247 名前:takatomo 投稿日:2004/03/17(水) 02:32
- >>237-245 最終更新です。
本当に長い間ありがとうございました。
もっといろいろ書きたいんですが、こればっかり書いているのもと思いまして。
次作は4月中旬には始めることができればなと思います。
ファンタジー書きたいんですが、その前に一本リアル中編を挟むかもしれません。
まだ迷い中。
もし始めましたらこのスレでもお知らせしますので、よろしければ見てください。
13ヶ月くらいでしょうか。長ったらしい作品を読んでいただきありがとうございました。
- 248 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/17(水) 09:46
- 長い間お疲れ様でした。
登場人物一人一人の心の動きがよくわかって、
心を揺さぶられる作品でした。
次作も楽しみにしてるのでそん時はまたよろしくですw
良き作品をありがとうございました。
- 249 名前:とこま 投稿日:2004/03/21(日) 21:29
- お疲れ様でした。
読んでいて感情移入が出来ました。
次作も楽しみに待ってます。
- 250 名前:takatomo 投稿日:2004/03/22(月) 02:06
- >>248 長い間ありがとうございました。
次作のほう、できるだけ早く始めようと思っています。
ご期待に沿えるような作品を書ければなと。
始まりましたらよろしくお願いします。
>>249 長い間ありがとうございました。
ずっとつけて頂いていたレスが励みになっていました。
完結したのも、それがあったからという部分はあったと思います。
次作のほうもよろしくお願いします。
- 251 名前:takatomo 投稿日:2004/04/04(日) 22:42
- 新しいスレ立てました。
銀板『夢限幻無』
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/silver/1081085516/
です。
よろしければお付き合いください。
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