亀井絵里聖誕祭 〜Moon Side〜
- 1 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/22(月) 20:22
- 亀井絵里ちゃんお誕生日おめでとう!ということで
地球から見えない The Dark Side Of The Moon(月の裏側)のように
誰にも見せない裏の顔を持つ絵里りんお祝いスレッド@M-SEEK月板です
花板に姉妹スレッドがありますが、
こちらには見た目とは裏腹に腹黒い絵里りんの小説をお願いします
(姉妹スレッドは心優しい絵里りんの小説用です)
1ヶ月後の2004/1/23に
花板のスレッドと月板のスレッドのレス数を比べまして
多いほうを絵里りんの小説用キャラと勝手に決めようと思ってますので
皆様ふるってご参加ください
姉妹スレッドのアドレスは2に・・・・
- 2 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/22(月) 20:23
- 姉妹スレッド
亀井絵里聖誕祭 〜Flower Side〜
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/flower/1072092121/
- 3 名前:ミチシゲビンタ 投稿日:2003/12/23(火) 01:21
- ポケモンからの青白い光が明るいキッチンを照らしている。
道重さゆみはぬいぐるみを抱きしめながら、ベッドに浅く腰掛けている。
瞬き一つすることなくて、そしてテンカン症状を起こして救急車で病院に運ばれた。
目を開けると画面の中には、亀井絵里が居た。
左側の釣り上がった文字で再販売価格維持契約関連商品の指定と書かれた
フリップを出した後、司会者からそのフリップでいいこいいこさせられている。
音がないためにそのやりとりは解らないが、誰かを思い出しているような、何だ
かビクビクした雰囲気は伝わってくる。
頭を抑えながら奥歯を覗かせる絵里のアップを見てさゆみは愁う。
絵里のものはさゆのもの、さゆのものもさゆのもの、そんな何かがあるはずだ。
- 4 名前:ミチシゲビンタ 投稿日:2003/12/23(火) 01:22
- 「あかさたな、じゃない?」
ふたりきりの控え室。
他に誰も居ないのを良い事にさゆみが持ちかけた猥談に、
同じく他に誰も居ないのを良い事に煙草の煙りを吐き出しながら、
田中れいなが答える。
「あいつさ、なんかつえぇ感じすんじゃん。オラワクワクすっぞ」
さゆみの二の腕に、れいながそっと足を置く。
「でも、あんたのもので絵里のものじゃないものもあるんだから、気にすんなよ」
「それ何……んっがんんっ」
れいながゆっくりとさゆみに顔を寄せて、さゆみは喉を詰まらせて病院へ。
- 5 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 01:23
- 病院帰りに電車の中、運良く端に座れたさゆみは壁に凭れた。
瞳を閉じて疲れた体を休ませると、心地よい眠りに誘なわれて行く。
絵里が壁と壁に挟まれて居た。
何故か喪服を着ていて、釣り上がった形のコンタクトレンズなんてつけている。
「急激な景気変動により長期プライムレートの負荷が高くなった場合に日銀は公定歩合の操作以外に何をすべきか?」
はっ?
「何をいきなり?」
「道重君、こたえなさい!」
言いながら目を赤くしてコンタクトレンズをいじる絵里は痛そうな顔をしていた。
絵里に睨まれたままさゆみは学校の授業を思い出す。
負荷が高くなるってことは金利が上がるってことで市場にお金を回す必要があるからえっとつまり……?
「かっ、買いオペ?」
「他には」
「他にはぁ?」
- 6 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 01:23
- 目が醒めると終電は終点だった。
深夜割増料金のタクシーは止まる暇なく値段を上げ続けて行き、
一万円を超えそうなその時、さゆみはストップひばりくんを思い出した。
ゴールドカードで支払ったさゆみは、突き刺すような空気の中を歩いて家に向かう。
絵里のせいなんだからね!
さゆみは携帯を星空へ向けると、怒りのメールを絵里とれいなに飛ばした。
間髪を入れずにさゆみの携帯が二回、震えた。
絵里からは「そんなことより聞いてくれ1よ、私の誕生日だって憶えてる?」と返って来た。
れいなからは「そんなことより聞いてくれ1よ、絵里の誕生日だって憶えてた?」と返って来た。
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 01:24
- 12月のラブソングがなぜか中国語で流れている。
暖かい部屋、ケーキの甘い匂い、きらきらと輝くクリスマスツリー。
れいなは付け髭までしてサンタクロースの格好、さゆみはトナカイのかぶりもの、
絵里だけが銀色のドレスを着て。
「おめでとう」
そう言ってれいなが絵里の右頬にビンタ。
「おめでとう」
そう言ってさゆみも絵里の左頬にビンタ。
「ありがとうーーー!!!」
はにかむ絵里は本当に、本当に憎たらしくて、猪木のようで。
- 8 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 01:25
- 「さゆ、れいな」
「んっ?」
ドレスの少女がトナカイとサンタクロースを引き寄せ、そっと舌打ち。
「言っておきたいことがあるの」
「何?」
「何々?」
「さゆのもので、あたしのものじゃないもの。れいなのもので、あたしのものじゃないもの。あたしには思いつかない」
「でもあたし、ジャイアンじゃない。もちろん猪木でもない。でも猪木祭は成功してほしい」
そして絵里はさゆみの頬に往復ビンタ、れいなの頬に往復ビンタ。
れいなは含み笑いでさゆみを見る。
さゆみは頬を真っ赤に染め、PRIDEを見ようと決めた。
- 9 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 01:25
- ミチシゲビンタ
おわり
- 10 名前:プレゼント 投稿日:2003/12/23(火) 05:50
- 「エリ、ほらプレゼントだよ」
タナカはそう言って小さな箱を差し出した。丁度タバコの箱くらいの大きさだ。エリは「ええ本当?ありがとー」とか言いながらもうすでに中身の予想をはじめている。ミチシゲさんはポケットをさぐりながら心のなかだけで呟く。「ヤバイ先を越された。」
- 11 名前:プレゼント 投稿日:2003/12/23(火) 05:50
- 「ねぇ開けていい?いい?」包装に手をかけながらエリは言う。
「駄目だよここじゃまずいよ、みんないるし」楽屋を見渡しながらタナカが言う。確かに楽屋ではみんな、一応はそしらぬ顔してるけど興味しんしんで二人の様子をうかがっている。それが鈍感なエリにもわかる。
「じゃあ帰ってから開けようかな。」
エリはつまらなさそうにそう言った。
するとイイダさんが我慢ならないといった感じで口を挟む。
「あんたそれ、手に持ってんのもしかしてタバコじゃないの。うちらはアイドルなんだよ。」
とんでもない因縁だ。エリは慌てて手を振る。
「違いますよこれはプレゼント。」
「だったら見せてみなさいよ。」
「そうだ見せてみろ。」と続くのはヤグチさん。完璧なコンビネーションにはエリじゃ歯が立たない。
- 12 名前:プレゼント 投稿日:2003/12/23(火) 05:51
- 「どうしよう。」とエリはタナカを振りかえる。
「困ったな。」とタナカはエリから目をそらす。
そしてミチシゲさんがニコニコ笑いながら「開ければいいじゃん」という。
エリは泣きそうになりながら箱を開ける。
「あれ。」
中から出てきたのはマルボロライトメンソール。
「あんたいい度胸してるわね。」ギラギラした目でイイダさんが近づいてくる。
「これを使うといいっしょ。」とアベさんが何やら黒い棒のようなものをイイダさんに手渡す。
「とりあえず没収だな。」とヤグチさんが箱を取り上げてそっとポケットに入れる。
- 13 名前:プレゼント 投稿日:2003/12/23(火) 05:51
- エリはもうやけくそだ。
「あたしメンソール吸わないんですけど。ねぇ?」
しかし振りかえってもタナカはすでに姿を消している。
鈍い音とくぐもった悲鳴を背中で聞きながら
ミチシゲさんは無理して買ったカルチェのライターをそっとバッグの奥にしまいこむ。
誰にも気づかれないように。
- 14 名前:プレゼント 投稿日:2003/12/23(火) 05:51
- おわり
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/23(火) 10:04
- ●ミチシゲビンタ
傲慢かつ手が早い。かなりの黒亀井っぷりに病因通いを繰り返す道重が
不憫でなりませんでした。小ネタ満載なのも面白いし、紅白に出るくせに
見ない事を決めるオチも面白かったです。答えが「あかさたな」とは
道重の持ちかけた猥談とはいったい何だったんでしょう?笑えます。
花板の聖誕祭スレッドにこれのパクリを書いちゃいました……ごめんなさい。
●プレゼント
田中と亀井の微妙な関係が素晴らしいと思いました。全員が黒いと
見せかけて道重だけがちょっと黒さが薄いのも素晴らしいです。
旧メンも6期メンも格悪いし黒メンばっかり。背景の描写がほとんど
ないのに楽屋の風景がとても伝わってきました。モーニング娘。が
6人に減った未来の時代。いつか訪れるのかも……。
- 16 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:08
- 「でさぁ、あの話なんだけど、どうするの? 本気?」
「う〜ん、メンバーが揃えば、あたしはやりたい。」
「あたしもやりたいよぉ。で、誰か知ってる子いないの?」
「隣のクラスに新垣って子がいるんだけど。でも、あたし喋った事ないんだよね。」
「ふぅん、その人は、どっちの候補?」
「ドラム。ブラバンで、パーカッション担当してるんだって。」
「じゃ、絵里、その人スカウトしてきてよ。あたしベース捜すから。」
麗奈はそう言って、あたしが抱えてるポテトチップの袋にガサッと手を入れた。
- 17 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:09
- もうすぐ、学校の文化祭がある。
今年こそは、ハードロックバンドを組んでステージに立ちたい。
あたしのスペシャルなギターを全校生徒に聴かせたい。
実は去年の文化祭の時、ウチのバンドで弾かねぇか、と同じクラスの奴に誘われた。
ラウドネスのコピーをすると言うので、一回だけ練習に参加してみた。
結構期待してたのだが、ボーカルのあまりの下手さにマジで鬱になり、
男ばかりの中で弾くのはやっぱり嫌かも、と適当な理由をつけて断った。
- 18 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:10
- あたし、亀井絵里は両親の影響で、小さいときからハードロックが好きだった。
家の中では、当たり前の様にツェッペリンやディープパープルが流れていて
あたしが特に好きなのが、マイケルシェンカーだった。
パパはそんなあたしに、中学の入学祝いにギブソンのフライングVをプレゼントしてくれた。
初めてのギターがフライングVだなんて、きっとあたしくらいだろう。
とにかく弾き辛い。座って弾くのは無理なので、ストラップを付け、立ってみる。
コイツはやたら重い上に、バランスを取るのが難しく、Cのコードすらまともに音が出ない。
しかし、死ぬ程負けず嫌いのあたしは、そこから猛練習を積み重ね、
今では普通にCDにあわせて弾けるようになっていた。
- 19 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:10
- 田中麗奈とは、生徒会で知り合った。1コ年下のコイツは、驚くほど歌がうまい。
最初からなんか気が合ったのだが、音楽の趣味が偶然にも似ていたため一気に仲良くなった。
ガールズバンドを組んで、文化祭のステージに立とうと誓い合う。
放課後、あたしはブラスバンド部が練習する音楽室へと向かった。
ヘタクソ共がロングトーンの練習をしている中で、心地よいドラムの音が聞こえてくる。
窓からそっと覗いてみると、叩いているのは新垣里沙だった。
コレは使える、と即座に思ったあたしは、部員を押し退け彼女に近づいていった。
- 20 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:11
- 『新垣のスカウト成功!ヤツのドラム聞いたけど結構イケてる。』
彼女と話したあたしは、文の最後にハートマークを入れ麗奈にメールを送る。
暫くしてすぐに、メールの着信音が鳴った。
『やったじゃん!あたしも偶然なんだけど、スゴいヤツ見つけた。
絵里くらい上手いかも。あした日曜だし、4人で会おうよ。』
・・・あたしくらい上手い・・・って、何が? フ●ラ? ・・・や、そうじゃなくて。
もしかしてギターが? まさか・・・ね。あたしくらい上手いギターを弾く奴なんて
イングウェイ・・・とか・・・スティーブ・ ヴァイ・・・とかじゃないの?
・・・あっ、麗奈め、慌てて返信しようとして字を打ち間違えたんだ・・・
あたしは無理矢理自分にそう言い聞かし、携帯を折り畳んだ。
- 21 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:12
- 昨日の麗奈のメールは間違いでは無かった。
ここはあたしの部屋。
初めて4人が集まり、それぞれが簡単な自己紹介をした後、
その女があたしのフライングVを手に取り、ヴァンヘイレンを弾き始めた。
・・・うまい。・・・カッティング、ソロ、そして・・・タッピング。
・・・もしかしたら・・・あたしと同等か・・・それ以上かも・・・
「ふ〜ん、やっぱりコレって弾きにくい。あっ、絵里もなんか弾いてみて。」
・・・コ、コレ? あたしが命の次に大事なフライングVをコレ呼ばわり?
や、怒る場所の順番が違うぞ。コイツ、今、あたしの事、絵里って呼んだ?
さっき初めて会った、一つ年上のあたしを、よ、呼び捨てにしやがった・・・
ムカついたあたしはその女からギターをひったくり、手なりで、ソロを無茶苦茶に弾き始めた。
- 22 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:13
- 「うまい、うまい。」
あたしが弾き終わると、笑顔で拍手をしながらその女はいった。
「絵里、うまいねぇ。昨日麗奈から話を聞いた時は、
あたしもギターやりたかったんだけど、今の聴かされるとベースでいいや。」
っつうか、何故タメ口? あたしの方が1コ年上なんだってば・・・
しかし素直に褒められた事で、あたしの怒りは少しおさまっていた。
- 23 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:14
- 「じゃ、練習は火曜と金曜と日曜ってことで。いい? みんな?」
何故かリーダーっぽく仕切っていた、新垣が最後にそう言ってお開きとなった。
まぁ、いいや。ロックバンドって何故か、ドラマーがリーダー、ってのが多いもんね。
「絵里、あの子どう思った?」
その後も残っていた麗奈が絵里に声を掛ける。
「正直、ムカつく。」
絵里の答えに麗奈は大きな声で笑った。
「絵里すごい顔して見てたもんね。」
- 24 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:14
- 「う〜ん、でも、アイツはマジで上手かった。それは認めるけど・・・」
「けど?」
あたしと同じくらい可愛いのが気に入らない。
アイツがいるとあたしが目立たない様な気がする。
そう言いたかった絵里は、グッとその言葉を堪えた。
「なんで会ったばかりで、タメ口なんだよ?」
また麗奈は笑い声をあげた。
- 25 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:15
- それから一ヶ月半の間、週3回の練習をこなし、音的にはバンドとして完成されつつあった。
ベースも見事に弾きこなす、道重さゆみには相変わらずムカついていたが
今となっては、あたしの隣でベースを弾くのはコイツ以外に考えられない。
あたし達は文化祭の予選会をあっさりクリアして、明日の本番を残すのみとなった。
「で、バンド名なんだけど、どうする?」
最後の練習が終わった後の喫茶店で、新垣が切り出す。
「ARMED AND READY。」
誰も何も言わなかったので、あたしはそう言った。
「ふ〜ん、だから、白黒ツートンのフライングV、か。」
さゆみが呟く。
- 26 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:16
- 「なにそれ?どういう意味?」
「アームドアンドレディーって、マイケルシェンカーブループの曲のタイトルなの。
で、そのマイケルシェンカーの代名詞とも言えるギターがギブソンの白黒ツートンの
フライングVなんだよね。だから絵里って、マイケルシェンカーが大好きだって事。」
新垣に説明したさゆみが、そうよね、絵里? と言ってあたしの方を見たのでコックリ頷いた。
「で、言葉の意味は?」
「武装して準備が出来た、って事。」
「いいじゃん、カッコいい。あたし賛成。」
麗奈が手を上げる。
「じゃ、ステージ衣装も武装する?」
「もちろん、ハデにいこうぜ。」
「よし、決定だぁ〜。」
あたし達は盛り上がり、明日どんな衣装にするかは、コンセプトを決めずに
お互いにも秘密にしてビックリさせよう、と言って別れた。
- 27 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:17
- 文化祭当日、午前中のくだらないコーラスとかが終わり
いよいよバンド演奏の時間になった。
トリを務めるあたし達だが、メイクと着替えがあるので早々と体育館脇のトイレに篭もる。
4個ある個室をあたし達で占領し、それぞれが中で着替えた。
最初に出てきた新垣、そして次に出た麗奈と二人でお互いの衣装を見て
喚声をあげている。あたしがドアを開けて出ていくと、
「絵里、カッコいい〜!!」
と新垣と麗奈が叫んだ。
- 28 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:18
- あたしは全身黒で、チューブトップのブラが透けて見えるシースルーのTシャツ、
上下共ギリギリのローライズ&ミニのタイトスカート、膝たけのロングブーツだった。
新垣はプリント柄のタンクトップ。ぴったりしたタイトなパンツにアディダスの白いバッシュ。
ドラムのコイツにしてはまぁまぁだと言えるだろう。
麗奈は白い水着のブラにゴールドのジャケット。白いミニスカートで網タイツ。
くるぶしまでの編み上げになってるピンヒールのブーツ。
「あたしは熱くなったら、コレ脱ぐんだ。したら、ブラだけになるんだよ。」
「いや、二人とも、いい感じだよ。ってゆうか、麗奈のその服どこで売ってんの?」
あたし達は三人で照れながら笑った。
- 29 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:18
- その後10分くらい待って出て来たさゆみを見て、あたし達は絶句した。
「・・・あ、あんた、・・・それで・・・ステージ出る・・・つもり?」
さゆみの衣装は布の面積が極小の赤のビキニだった。ひざ上までの豹柄のストッキング
に赤いエナメルのハイヒール。首には赤い革のチョーカーをまいている。
「・・・ってか、どこのイメクラ嬢なんだ、アンタ。それにしてもすごい水着。」
「えっ、コレでは水に入れないよ。下着だもん。」
「・・・マジで?」
「うん、それにしても、みんな地味ねぇ。昨日あれだけハデにいこうって言ってて。」
「・・・」
これ、下着か・・・しかもパンツの両サイドはヒモになっていて、きれいに蝶々結びされてある。
くっそぅ、やられた。コイツまさかココまでやるとは・・・
- 30 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:19
- あたし達の出番の時間になり、体育館に向かう。
全員コートを羽織ってステージにあがり、一発目の直前にコートを脱ぐ、というのは
昨日の打ちあわせ通りだった。
ステージ袖に到着し、アナウンスが流れる。
『それでは今日の文化祭のトリを飾るグループの紹介です。
ボーカル田中麗奈、ギター亀井絵里、ベース道重さゆみ、ドラムス新垣里沙。
ARMED AND READY〜!!』
- 31 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:19
- 最初の曲のイントロは、あたしのリフから始まる。スポットライトが当たった時、
4人で合図をし、一斉にコートを脱いだ。
それまで静かだった体育館が男子生徒を中心に爆発した。
きっと中にはあたしを見て、暴発してしまった奴もいるだろう。
しかし・・・ほとんどの人間がさゆみの方に注目している。
まぁ、しょうがない。ファッションでは完敗だ。
けどあたしにはギターがある。演奏でコイツラをきっと振り向かせてみせる・・・
- 32 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:20
- 2、3,4曲とあたしはギターを弾いていて、とてもいい気持ちだった。
このなんとも形容しがたい充実感。バンドの持つグルーブがうねりまくり、
あたしを見てるとか、さゆみを見てるとか、そんな事はもうどうでもいい気がした。
『次があたし達の最後の曲です。聴いてください!』
麗奈の短いMCをはさみ、ラストの曲が始まった。
これはあたしの最大の見せ場のソロがある大好きな曲だ。
凄まじい熱気の中、ギターソロがやって来た。あたしはステージ中央に進み
ギターを弾く事だけに集中した。
- 33 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:21
- ・・・ん? ・・・あれ? ・・・なんか倍音が出過ぎてる?
なんかオカシイと思って、ふと横を見ると・・・
・・・さゆみがピッタリあたしに被るようにして、この難しいソロに
ベースでユニゾンで付いてきている。
しかも体勢はまるで、リンボーダンスでもしそうな勢いだ。
ぬおわぁぁ〜〜〜っ、あたしの一番オイシイところをぉぉぉ〜〜〜っ!!!
この時のあたしは多分、無意識だったんだろう。
もし意識があったのであれば、それは正真正銘の不可抗力という奴だ。
あたしはさゆみの太ももの上あたりでヒラヒラと踊る赤いヒモを引っ張ってしまった。
- 34 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:22
- 『どうも、ありがとうございました〜〜〜!!!』
全て終わった。麗奈が小さい身体を一杯に伸ばして、アリーナを煽る。
汗だくの新垣が、ドラムセットを離れ、皆ありがとぉ、と叫びながら
こっちに向かって走ってくる。
あたしもギターを降ろし、額の汗を拭いながら皆に手を振る。
さゆみがベースを降ろした時、小さな赤い布がハラッと床に落ちた。
さゆみはそれに気付かない。さゆみが客席に投げキッスを始めると
一瞬、体育館の中は凍りついたかのように静まり返った。
キョトンとした顔のさゆみがもう一度投げキッスをすると、
2、3秒の静寂を置いて、今度は先程以上の狂ったような騒ぎになった。
そのリアクションに満足したさゆみは、笑顔でステージの下手へと捌けていった。
- 35 名前:ARMED AND READY 投稿日:2003/12/28(日) 16:23
- おわり
- 36 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:27
-
『イマジン』
- 37 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:27
- お正月。
……はもう終わった。コンサートばっかりで疲れた。やっと落ち着いて
休めるようになった頃には、もう周りのみんなは新年のペースで動き出して
しまってる。わたしひとりヒマジンで、なんかさみしいような。
それでもわたしは、こたつに入ってお煎餅とミカンとお茶があれば、のんびり
といい感じでお正月ムード。
昼まで寝て、ボーっと午後の番組を眺めてる。
変なクイズ番組の再放送をやっていた。司会はカツラ疑惑のある有名な
おじさんだ。回答者には昔に人気があったらしいみなさんが……なんだか
他人事みたいなそうでないような。
- 38 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:28
- 「それでは第3問!」
ハイテンションで問題が読み上げられる。
「この大福、衣をそのままにして中の餡だけを食べるには、どうすればいい?」
画面いっぱいに大福の映像が。なんかシュールだ。
回答者はみんな悩んでる。けどわたし、このクイズは知っていた。小学校の
とき、図書室にあったつまらない本で見かけたことがある。
答え;最初から中に人間を入れて大福を作る! ファイナルアンサー。
……わたしが作ったクイズじゃないけど、下らない。
でもあんこに包まれて大福の中に入るっていうのは、どんな感じなんだろう。
想像してみる。
- 39 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:28
- 上品な甘さを含んだ香りがする、冷たくて少し湿った餡の感触。
弾力があって、厚みのある柔らかい皮……は触れないけど。
入るとしたら横たわってはいるのかな。けど、大福はそんな平べったくない
から、中で膝を抱えて座っていられるかも。
重みがあって、軽く押されてるくらいの感触なんだろうな。
ああ、入ってみたい。……
わたしはふわふわした気分でお茶を啜ると、つまらないクイズ番組は飽きた
のでチャンネルを変えた。
去年のニュースの総集編みたいな番組をやっている。
わたしたちのことも出るかもしれない。見てみよう。
- 40 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:29
- 画面には、白髪交じりの髭面で、すごく濃い顔をしたおじさんが映ってる。
誰だろう? ふだんニュースみないんでよく分からない。
口を開けられて、スプーンみたいなのを突っ込まれてる。病気なのかな。
キャスターさんが解説をくわえる。フセインというひとらしい。
……
ふーん、ずっと追い掛けられてて、ついにつかまったんだ。
最後は、狭い地下室に隠れてるところを見つけられたそうだ。
想像してみる。
- 41 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:29
- 四方に冷たい石の壁。地下だから、実際に押されてなくても圧迫感がありそう。
わたしは横になって、誰も来ないように祈っている。
光は枕もとにおいた小さなランプだけ。カラダを動かすと、壁一面に広がった
影がもわーっと動く。
人の気配が迫ってくる。動悸が高まって、体温があがって、壁に触れると
すごく冷たくて、少し押されてる感じで。……
入り口がこじ開けられて、眩しい光に目を細める。英語で問いかけられる。
わたしは落ち着いた声で答える。
「撃たないで。わたしはモーニング娘。のかめいえり」
急に寒くなって、膝にかかっていたこたつのふとんを首まで引っ張り上げた。
机がちょっとずれて、茶わんがカタカタと音を立てた。
- 42 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:29
- 芸能ニュースはしばらくやらなそうだったので、録画したお正月の番組を
みることにした。
日テレの生放送の番組を適当にスキップしながら見る。やっぱりわたしは
可愛い。さゆより。今度またそういってからかおう。
松浦さんが箱に閉じこめられ大脱出というのをやっていた。その場で見て
いて、てっきり本当にトラブルでつぶされちゃったと思ってた。
藤本さんと飯田さんが泣いている。ちょっと感動的だ。
高橋さんがマジギレしている。面白い。
箱の中の映像、あらためてみるとやっぱり嘘臭い。なんかわざともたもた
してるみたいな感じだし。
大体あれじゃ閉じこめられてる感が少ないような気がする。
想像してみる。
- 43 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:30
- わたしだったら、箱はもっとカラダに密着するくらいのサイズにしてもらおう。
拘束するのも、手足だけとかじゃなくて、全身をがっちりとラバーのスーツで
鍵もずらっとつけてもらうほうがいいな。
つるされて落とされるのもいまいちかな。それより、左右から巨大な壁に
プレスされていくっていうほうが、盛り上がりそう。
それを見て、本気で泣き出すさゆとれいな。ハァハァ……。
突然携帯がなった。ビックリして飛び上がってしまった。
着メロはあのグループの曲。キモヲタさんたちに叩かれそうだからナイショだけど。
- 44 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:30
- 「もしもしー」
「あ、絵里ー?」
れいなだった。
「なにしてた?」
「んー、ぼーっとしてた」
「あはは、絵里らしいね」
なにがらしいのか分からなかったけど、黙っていた。
「それより、今日の新聞見た?」
「見たよ? なにかあった?」
「ううん、普通の新聞じゃなくてスポーツ新聞。あ、いま画像送るね。待ってて」
「うん」
なんだろう。辻さん加護さんの記事なら大体読んだけど。
- 45 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:31
- しばらくすると、写メールで記事が届いた。暗くてちょっと読みにくかった
けど、なにが起きたのかは分かった。見出しはこんな感じだった。
『モー娘。藤本美貴の実家 強風で全壊!』
大袈裟なロゴの隣に、縦に写真が並べられている。
潰れる前と、潰れたあとだ。使用前→使用後みたいだった。
「藤本さん、あんまり故郷のはなしとかしたがらなかったけど、風で潰れ
ちゃうなんてわらっちゃうよねー」
れいなが喋っているのが聞こえたが、わたしはその写真に釘付けだった。
- 46 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:31
- 赤い屋根のうすっぺらい建物。扉の間隔からすると、部屋の幅も狭そうだ。
そんな家が風に吹かれてぺしゃんこになっている。
もしわたしがここで寝てたら……。
「えり? 聞いてる? えりー?」
想像してみる。……
- 47 名前:ノノ*^ー^) 投稿日:2004/01/09(金) 20:31
- おわりです
- 48 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:05
-
- 49 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:10
- 「くだらない」絵里は思わずつぶやいた。
実際のところ、全くをもってくだらない話で、絵里がそう漏らすのも無理はなかった。
ついさっき空になったビールの缶が絵里の手元から放たれ、閉まった店のシャッターに
派手な音をたてる。自身が引き起こした騒音ながら、それすらも気に障る。
「んっとぉに、くだらない!」
もう一度その言葉が口をついた時、絵里は身体が冷えていることに気が付き、身震いを
一つした。
別に酔っ払っているわけではなかった。500mlの缶ビール一本で酔える時期はとうに過
ぎ、駅から家までの歩かなくてはならない約15分間のただの習慣になっている。
駅前の自販機でそれを購入し、それが空くまで何度となく口に運ぶ。いつしか苦みは気
にならなくなり、心地良くなり、そしてついには何とも思わなくなった。習慣。それ以
外の言葉は当てはまらないように思えた。
絵里自身、酔えもしないくせにこの習慣を止めない愚かしさは感じていたが、止めない
といけない理由も見当たらなかった。いや、挙げようとすればいくらでもある。絵里は
アイドルグループの一員なのだし、こんなところを写真に撮られたりすれば、それは即
今の地位を失うことを意味する。彼女は今日、15才になったばかりなのだ。だけどそん
なものは壊してしまいたい気にもなっていた。
- 50 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:12
- 「15の夜、か」
その思いつきに、しばし苦笑する。
彼女にとっては大昔にあたる頃、そんな歌をうたっていた人がいたらしい事を思い出す。
絵里は兄の影響で、小学生の頃からその曲が耳に馴染んではいるが、その内容を馬鹿らし
いと思っていた。そしてそんなくだらない歌に感情を重ねそうになった自分に対しても、
馬鹿らしさを感じた。
マイナスの感情がつまった白い息を吐くと、自宅のドアを開ける。家はリビングの電気
が消え、息をひそめ眠っている。いや、眠ってなんていない。各部屋には存在を意味する
灯りがともっていた。胸の内で悪態を吐こうとしたが、もはやそれもどうでもよかった。
自分の部屋にすべり込み、リモコンで暖房を作動させると、コートを脱ぎ捨て、ベッド
に身体をあずけた。そして疲れをまとい、眠る。
同じ歌手がこんな状況も歌詞にしていたかも知れない。そんなことを考えるか考えない
かのうちに、絵里の意識はもうどこにもなかった。
- 51 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:13
- ◇
- 52 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:15
- 挨拶の言葉を口にしながら楽屋に入ると、同じフレーズが返ってくる。いつも通りの代
わり映えのしない風景。もちろんそれに文句をつけるつもりは、絵里にはない。気分に重
りをつけるのは、その後のほぼ同い年の同期メンの対応。いつもなられいなが新鮮な刺激
を持ち寄って来るはずが、ここ最近はそれが全くなくなった。
自然と視線は、部屋の隅で話している二人に向く。
れいなは少し変わっていると、絵里は初対面の頃から思っていた。年下なのに、話をし
ていると絵里のほうが感心してしまう事の方が多い。絵里の知らない世界のドアを、れい
なは次々と開く。いい影響だとはとても言うことは出来なくとも、ビールに手を出したの
は彼女の誘いがあったからだ。秘密を分け合う間柄にはありがちな事で、二人は少々排他
的になるほどに気が合った。
―――確かに、そんな関係のバランスを崩したのは絵里の方だったのかも知れない。
そのドミノ倒しは特別な事ではない。常日頃孤立していたもう一人の同年代の同期、さ
ゆりに申し訳ない気持ちがあったのは当然の事であっただろう。そして話をしてみればさ
ゆりも、合わないと決め付けていた先入観を覆すのに充分な魅力を備えていた。それなら
ば仲間に加えればいいと考えるのも当然の心理だと、絵里は思う。
「おはよう」
感情と裏腹な笑顔を作ることくらいは造作もない。
対照的に二人にはギクッとしたような様子が用意に見て取れる。一秒にも満たない短い
時間、というより瞬間、誤魔化し切れない感情が二人に走る。
「お、おはよう」
れいなが返事を口にすると、さゆりも内心の動揺を抑えた口調でそう言った。
- 53 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:18
- 途端にそれ以上二人と口をきくのが煩わしくなり、絵里はその場を離れ、一人で収録に
向かうための準備を始める。
―――くだらない。絵里は心中で昨夜と同じつぶやきをくり返す。
確かにれいなは、さゆりを加えようという絵里の言葉にいい顔をしなかった。しかしそれ
も時間が解決してくれる事なのだろうと考え、事実、その通りになったように見えていた。
れいなは元々人より少ない笑顔をさゆりに向けるようになったし、さゆりはさゆりで、れ
いなに対するおびえの表情を見せる事はほとんどなくなった。
それがれいなの復讐だとは知らずに、縁結び役のぬるい快感に酔っていた自分を心底間の
抜けたピエロだったと、絵里は苦笑する。
それからというもの、れいなは少しずつ絵里から距離を置き始め、その代わりにさゆり
との関係を深化していった。絵里の知らないところで二人はコソコソと話すようになり、
さゆりもそれには異論がないらしい。自然と絵里は一人でいる時間が多くなり、それが顕
著になった今月の中盤になって、ようやくれいなの意図に気がついた。
衣装に着替え、メイクを終えると、それを待っていたかのようにお呼びの声がかかり、
全員でバラバラとスタジオに向かう。もちろんあの二人に話しかける事もなければ、目を
合わせる事もなかった。
- 54 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:18
- ◇
- 55 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:20
- カットの掛け声と共に収録が終わり、今日の仕事が終わる。精神的な疲労は、肉体的な
それよりもよっぽど性質が悪い。考える事が面倒になり、絵里はさっさと手荷物をまとめ
ると楽屋を後にした。
街並はカップルに埋め尽くされ、電飾が点滅をくり返す。
その光景を見て、絵里はようやく今日がクリスマス・イヴだった事を思い出す。絵里にと
って、さっきまでは正月で、クリスマスは二、三週間前の事だった。もちろんそれはスタ
ジオの中での話。楽屋では、誰かがそんな内容の事をわめき散らしていた気がする。感情
をシャットアウトし、場に合ったセリフを垂れ流しているだけだった絵里には、それは何
処か遠い世界の会話だった。自分の前に広がる光景を目にして、ようやくハッとするぐら
いに。
クリスマスソングが何処からともなく流れ、雪のないコンクリートの街までを夢の世界へ
と変える。ウンザリとした気持ちの一方で、絵里はこんな街並も悪くないかも知れないと
思った。人間関係はうっとうしくても、誰とも知れない相手の幸せを願う歌ならばそんな
面倒はない。それで少しでも気分が軽くなるのなら、裏切るような友達はいらない。
そう、裏切るような友達はいらない。
- 56 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:23
- と、ゆっくりとした空気を慌しい足音が掻き消した。
二人分のその気配が自分の方に向いているのを察知して、絵里は振り返る。
「ちょっとぉ、帰るの早い!」
れいなが少々アクセントのズレた声を出した。
絵里は呆気に取られながらも、関係ない、とだけ口にするが、そんな事は
気にも留めずにさゆりが続く。
「そうだよ!計画が台無しになっちゃうところだったんだからぁ」
「そんなの…」
「とりあえず!」二人は顔を見合わせ、何度かズレながらも、タイミングを
合わせて声を上げた。「せーの、誕生日おめでと!」
- 57 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:24
- 知らない。そう口にしようとした絵里の言葉は、街の調和を乱すほどの祝福に阻まれた。
そんな騒音をたてた二人は、動揺している絵里の態度に気付く様子もない。
「誕生日とクリスマス、両方プレゼントせがまれちゃたまんないから、どうせなら一日遅
らせて驚かせてやろうと思ってさ」
れいなが得意そうに言うと、さゆりも目を輝かせる。
「その分、今日の企画はスゴいんだから!楽屋に戻ったら、絵里、絶対に驚くよ?」
絵里は声を出せずにいた。そしてそのまま二人がようやく何かがおかしいと勘付くぐらい
のたっぷりとした時間沈黙した挙句、
「ゴメン、今日、調子が悪いから」とだけ口にする。
歩き出す絵里を追いかけるようにさゆりの声が響く。
「じゃあ、プレゼントだけでも今走って持ってくるからさぁ!」
絵里は振り返りもせずに、明日でいい、そう言った。
- 58 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:25
- ◇
- 59 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:27
- 「くだらない」自宅までの道を踏みしめながら、絵里はつぶやく。昨日と同じように、最
低の気分だった。
違っていたのはその言葉や感情の対象が、自分にあるという事。れいなやさゆりは、絵
里の中で憎悪にも似た黒いものが渦巻いていた事なんて、知りもしなかったのだろう。そ
うとも知らず、無邪気に絵里の喜ぶ顔を見ようと試行錯誤していた二人を思うと、自分へ
と向かうトゲを止める事は出来なかった。
結果、絵里は自分をピエロだと思っていた自分こそがピエロだったのだと感じた。
空を見上げれば星が無意味にキレイに輝いている。地方に比べれば東京のそれは汚く、
星の数もキラメキも少ないというが、生まれてこのかた東京に在来している絵里にはそん
な事は関係なく思える。少なくとも絵里から見れば十分キレイなのだし、そしてそれは普
段、気にも止めないくだらないものだった。
くだらないもの。そういうものに手を伸ばすのもたまにはいいかも知れない。絵里は周
りをキョロキョロと見回し、人がいないのを確認すると、夜空に向かって両腕を広げた。
- 60 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:29
- さっきもこんな照れがあった。二人の真意が分かった時、本当は嬉しくて仕方がなかった。
それでもそれをさらす事はプライドが許さなかった。誰に対する?それは分からない。
悶々とした感情を抱えながら、絵里は今日も一人の夜道を歩く。
ふと、習慣になっていた行為を今日はしていないのに気がついた。小さな驚きと、不思
議に湧いてくる暖かい気持ちにとまどいながら、それでも絵里は思った。
人っていうのは、そんなに一気に変われるものじゃない。人の優しさに気付いたからとい
って、その日から斜に構えた態度を改め、いい人になるなんて出来ない。
―――でも、ほんの少しなら。
絵里は再び周りを見回し、昨日自分が投棄したままの空き缶が路上に転がっているのに目
を止めると、それを拾い上げ、店先のクズかごにそれを放り込むのだった。
- 61 名前:15の夜 投稿日:2004/01/15(木) 21:30
- −−− 15の夜 完 −−−
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/15(木) 21:31
- あの。。。リアルで読ませていただいたんですが。
さゆり→さゆみじゃないですか?
- 63 名前:アホ作者 投稿日:2004/01/15(木) 23:04
- ウワー、すみません。
脳内変換お願いします。
本気でアホさ加減に落ち込みました。
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