青空〜その蒼の向こう〜

1 名前:丹羽 投稿日:2004/01/14(水) 02:15
初めまして、丹羽といいます。
話はアンリアルで進みます。
話の長さは今のところ決めていません。
主要メンバーは多分4期5期あたりです。
2 名前:プロローグ 投稿日:2004/01/14(水) 02:21
それが夢だったのか、そうじゃなかったのか。
今となってはもうわからない。
自分が誰なのかもわからなければ。
自分がどうしてここにいるのかもわからない。
そして。
この目の前にいる女性がどうして自分を迎えにくるのかさえも。
3 名前:プロローグ 投稿日:2004/01/14(水) 02:29
「あ、その荷物は圭織宛で郵送しておいて」
「いいんですかぁ?そんなことしてぇ」
「いいの。無駄口たたく前にさっさと動け!」
「人使いが荒いんだから、矢口さんは」

私は、とりあえず目の前で繰り広げられる光景を、
ただ黙ってみているしかなかった。
いきなりやってきたかと思えば、
引越しだの荷物まとめてだの、ちっさいのによく喋る人は、
私を見てこう言った。

「あなた、今日からおいら達の仲間だから」
4 名前:プロローグ 投稿日:2004/01/14(水) 02:35
とりあえず、この矢口さんとかいう人が言うには、
私は(難しくてよく分からなかったけれど)とりあえずすごい奴らしい。
で、野放しにしておくととても危険で、
記憶がなくなっている間に仲間に引き込むらしいのだ。

「あの、それで私はどこの誰なんでしょうか?」
「聞いてはいたけど、本当に記憶なくなってんだねぇ」
「気づいたら病院にいたもので」
「まぁ、仕方ないよねぇ。あれだけの事件に巻き込まれてんだから」

1人、納得してる矢口さん。
だから、私はどこの誰なんですか。
5 名前:プロローグ 投稿日:2004/01/14(水) 02:42
「あのね、おいらはあんたのこと連れて来いって言われただけで、
 あんたのことを知ってるわけじゃないの」

矢口さんは、申し訳なさそうに私に言った。
知らないといわれたら、こっちもどうしようもない。

「そう・・・なんですか・・・」
「事件に関しちゃいろいろと聞かされたけどね」
「私はなんか危ないことに首を突っ込んでたんでしょうか?」

記憶がなくなるほどに、危ない事件。
前の私は何をやっていたんだろうか。

「おいらが言えた義理じゃないけどね。まぁ、それなりには」

話を聞いた限りでの判断だけど、と矢口さんは言う。
私はどこの誰で、何をしていたんだろう。
6 名前:プロローグ 投稿日:2004/01/14(水) 02:52
「矢口さぁん!終わりましたよぉ!」

黒目がちで、綺麗な顔立ちをしている人が玄関から顔を覗かせる。
身長もあるようで、ぱっと見それなりにカッコイイ。

「あ、おつかれ。それじゃあ、行こうか」

私は、そのまま車へと乗せられて。
長らく過ごした家を後にした。

「ひとまず、自己紹介しなくちゃね。
 おいらは、矢口真里。これでも19。で、そっちのが・・・」
「吉澤ひとみです。年は17。一応、君の面倒を見ることになったから。
 矢口さんともどもよろしくね」
「は・・はぁ・・」

とりあえず、ともどもよろしくってのは使い方が間違ってる気が、
しないでもないけれどつっこまないでおいた。
7 名前:プロローグ 投稿日:2004/01/14(水) 02:59
連れてこられたのは、とても大きな建物。
今日からここで住むことになったからと、
さらりと言われて気後れするのが普通だと思う。
一体、どういうところなんだ、ここは。

「そうだ、これ。あなたの名前だってさ」

手渡された紙に書いてあったのは、
紛れもなくどこかで見たことのある名前だった。

「高橋愛・・・・」
「それじゃあ、おいらは上に報告してくるからあと頼むね」
「はい」

私は、ただその紙切れを見つめるばかりだった。
8 名前:プロローグ 投稿日:2004/01/14(水) 03:03
〜プロローグ:終〜

* * * * * *
9 名前:丹羽 投稿日:2004/01/14(水) 03:04
今日は、ここまで。
次回更新は多分今週末になります。
早ければ明日にでも。
10 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/15(木) 00:22
面白そう!期待して待ってます。
11 名前:第1話 投稿日:2004/01/15(木) 10:58


****田中×藤本****
12 名前:第1話 投稿日:2004/01/15(木) 10:59
目が覚めたら、私はいつもの部屋で寝ていた。
昨日は・・・・どうやって帰ったんだっけ?
全く思い出せない。
昨日は、遅くまで外を出歩いていて・・。
そこで、先輩に出会って、
飲み会に付き合わされて・・・。
そっか、酔ってたから覚えてないんだ。
それ以前に未成年に酒を飲ませるなって話だ。

「アホだ・・・」

我ながら、自分のいい加減さに嫌気がさす。
適当なのはどうにも変えられないらしい。
ため息をつきながら、ベッドから降りる。
が、その直後目の前にある光景に唖然とする。
13 名前:第1話 投稿日:2004/01/15(木) 10:59

「な・・・な・・・」

テーブルの上には、なんとも立派な食事が並べられている。
おかしい。
自分でやったなんてまずありえない。
じ・・じゃあ誰が・・。

「あ、おはよ」
「うわぁ!!!」

な・・・なんで?どして?

「なんで、藤本さんがここにおるとですかぁ!?」

しかもどうやってここに入り込んだんですか。
得意の鍵開けの技ですか?
14 名前:第1話 投稿日:2004/01/15(木) 11:00
「人聞き悪いよね、田中ちゃんをここまで運んだのは美貴なんだよ?」
「そうなんですか?」
「そうなの。ほら、ぐだぐだ言ってないでさっさと食べてよ。集合かかったから」
「え?」
「例のね、女の子がやってきたからって」
「あの・・・記憶ばなくしたっていう・・・」
「そう、その子・・・」

藤本さんは、なぜかそう言ったあと私をにらみつけてきた。
私はなにも言ってませんよ?

「な・・・なんですか・・」
「・・・・・浮気したら許さないからね?」
「は!?」
「言うの忘れてたけど、田中ちゃんは美貴のもんって決まってるから」
15 名前:第1話 投稿日:2004/01/15(木) 11:00

い・・・いつからそんな・・。
言うの忘れてたって・・・・。
ってか、私はモノ扱いですか・・・・?
そもそも、私と藤本さんはそういう関係だったんですか?
いろいろと疑問符が浮かんできてはいたが、
あまり考えないことにした。
今は、早く食べてしまおう。
集合に遅れると飯田さんにしかられてしまう。

「美貴は・・・本気だからね?」

藤本さんがなにやらつぶやいていたが、
食べるのに必死になっていた私には聞こえなかった。

朝ご飯を食べ終わると、
藤本さんと2人で3階にあるミーティングルームへと向かう。
その間、藤本さんと会話することはなかった。
私が何故5歳も年齢が違う藤本さんと一緒に行動しているのかと言うと、
それは説明するのに1週間は強いられるだろう。
16 名前:第1話 投稿日:2004/01/15(木) 11:00
「何、ぶつぶつ言ってんの?」
「や、なんでもないです」

藤本さんのすごいことといえば、
先ほど出てきた得意の鍵開けの技。
どんな鍵でも数秒にして開けてしまう。
下手すれば犯罪につながる特技だけれども、
ここでは役に立つ能力らしい。
つまり、藤本さんの前ではどんな鍵も、
ただの鉄くずに過ぎないのだ。
17 名前:丹羽 投稿日:2004/01/15(木) 11:05
今日はここまでです。
中途半端すぎてごめんなさい。
しかも、4期5期中心とか書いてたくせに、
れなみきかいてるじゃん、自分。

>チナ犬様
感想ありがとうございます!!
期待してくださってるなんて・・(嬉
これからもっとおもしろくなる予定なので、
楽しみにしててくださいませ!
18 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/15(木) 17:25
やっぱ面白い!!
やべぇ、れなみき気になってはいたけど
ここでめっちゃはまりそうですw
更新お疲れ様です!がんばってください!!
19 名前:第1話 投稿日:2004/01/16(金) 21:12

「はぁ・・・・」

思わずため息。
どうしてそんなにすごい人が、
私と一緒に行動しているんだろう。
まさか・・・監視されてる!?
や・・・ちょっと待って。
間違っても、私にそんなすごい特技があるわけがないし、
藤本さんににらまれることをしたわけでもない。

「ついたよ」
「え?あ、はい」

エレベータは何時の間にか3階について。
降りてすぐミーティングルームだ。
部屋に入ると、どうやら私達が最後だったらしく。

「藤本・田中、遅い」
「田中ちゃんが寝坊しましたぁ」
「そうなんで・・・ってれなのせい!?」
「もう、理由はいいからさっさと座る」
「「は〜い」」

一番後ろの席に、藤本さんと距離を置いて座る。
すぐ前には吉澤さん。
20 名前:第1話 投稿日:2004/01/16(金) 21:12

「じゃあ、今朝も言ったように、彼女が仲間に加わることになったから」
「あ・・・高橋・・・愛です」
「世話係は吉澤に決まったけど、部屋がまだ片付いてないから・・・」

飯田さんは一応部屋にいる全員の顔を見渡して。

「田中!!あんたんとこにしばらく預ける!」
「「えぇ!?」」

藤本さんとハモった。

「田中んとこが一番部屋整理してあるし、一番環境がいい」
「まぁ、よっすぃ〜んとこに預けたらどうなるかわかんないしねぇ」
「矢口さん、ひでぇっす!!田中んとこには負けるけど・・・」

吉澤さんの反論を無視して飯田さんは進める。

「なんかあったら、そこの紺野にでも聞いたらいいから」
「田中ちゃん、がんばろうね」

なんだって、こんなに簡単なんだろうか。
世話係の人に預けるのが筋ってもんじゃないんですか?
21 名前:第1話 投稿日:2004/01/16(金) 21:13

「それじゃあ、話はこれだけだから。解散!!」


「あの・・」

さっき紹介された高橋さんが声をかけてきた。
そっか、私の部屋に来るんだから当たり前か。

「あ、田中れいなです」
「よろしくお願いします」
「敬語は使わんでよかです。私のが年下やっけん」
「じゃあ、よろしく」

握手までされて。
なかなかよく出来た人らしい。
それになかなか綺麗な顔立ち。

「田中ちゃん」
「おわぁ!」

藤本さん、相変わらず神出鬼没・・・。

「あ、高橋さん、こちらが・・」
「藤本美貴」
「・・・さんです」
「高橋あ「知ってる」」

なんだかすごい不機嫌なのはどうしてだろう。
あ、矢口さん。なんだか手招きされてる。
22 名前:第1話 投稿日:2004/01/16(金) 21:14

「ちょっとまっててください」

そう2人に言って・・・。
二人にして大丈夫かなぁ。

「なんですか?」
「藤本・・・大丈夫か?」
「ん〜、さっきより不機嫌みたかです」
「そっかぁ」

矢口さんはちょっと頭をかいた。
さっきの険悪ムードを見ていたみたいだ。

「でも・・・大丈夫と思います」
「なんで?」
「れなは藤本さんのこと信じとるけん」

少なくとも、私はそう思う。
23 名前:第1話 投稿日:2004/01/16(金) 21:14

「・・・・・」
「矢口さん?」
「はは。田中はなかなかおもしろいね」
「そうですかね?」
「その時折出る九州弁といい、藤本が一緒にいたがるのも分かる気がするね」
「博多弁ですって・・・」
「ま、がんばりなよ」

番犬に噛みつかれないようにねぇ、
と笑いながら部屋へと戻って行った。
番犬って犬扱いですか?
噛みつかれたら・・・・。
想像しただけで痛い。



「ここです」

部屋に案内する。
つっても自分の部屋に戻ってきただけ。
近くにあったソファーにでも座ってもらう。

「はぁ〜・・本当に片付いてるね」
「そうですか?」
「さっきは吉澤さんだっけ?あの人んとこにいたけどそれなりに散らかってた」
「それなりに・・・。」
24 名前:第1話 投稿日:2004/01/16(金) 21:15

吉澤さんて見た目綺麗好きそうなのに。
とりあえず、寝るところはいつも藤本さんが寝てるところでよしとして、
着替えどうしよう。
私のじゃ小さいし・・・・。
は!!そっか、こういう時こそ紺野さんに聞けばいいんだ!

「紺野さん!!」
「ん〜?どうしたの?」
「早速でなんなんですけど、着替えはどがんしたらよかとですかね?」
「あ〜、田中ちゃんのじゃちょっと小さいからねぇ。私の貸すよ」
「本当ですか?」
「うん、見た感じサイズは同じ位だったし」

完壁すぎて言葉もないです。

「それに来るかなぁって思って実はもう用意してたから」
「・・・・・」

さすがです。
寸分のミスもないその行動の早さ。
お礼を言って部屋に戻った。
高橋さんは置きっぱなしにしていた本を、
真剣に読みふけっていた。
25 名前:第1話 投稿日:2004/01/16(金) 21:19
更新終り!!
相変わらず短いです。
第1話はれなみき路線で突っ走ります!

>>チナ犬様
感想いつもありがとうございます!
れなみき、はまっちゃってくださいませ。
一度はまると抜け出せませんよ〜?(w
26 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/17(土) 23:53
これからどうなるのか楽しみでワクワクします!
高橋さんの過去とかいろいろ気になりますな。
藤本さんの嫉妬、ちょっとこわいけどかわいいですね。
作者さんのせいではまっちゃいましたよ、れなみき(w
27 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:40

「着替え借りてきたんで、使ってくださいね」
「あ、ありがとう」
「おもしろかでしょ?それ」
「ん〜なんかね、ハマる」

藤本さんと同じようなことを言うんだ。
そういや、藤本さんはどうしたかな?

「ね〜、藤本さんはよく田中ちゃんとこに来るの?」
「来るっていうかペア組まされてるんで・・・」
「あ〜、一緒の行動が多いんだ」
「藤本さんはすごか人やけん、
どうしてれなと一緒におるとかわからんとやけど・・・」

高橋さんは、すこし苦笑いをした。
そして、背後に悪寒を感じた。

「田中ちゃん」
「のわぁぁぁ!」
28 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:41

鍵閉めてたはずなのに。
どうして・・・・。

「美貴が鍵開け得意なの一番知ってるのは田中ちゃんでしょ?」
「あ・・・」
「と、高橋さん。よっすぃ〜が呼んでたよ」
「よっすぃ〜?」
「あ、吉澤さんのことですよ」
「あ〜」

そういえば後で来いとか言われてた気がする〜などと、
笑いながら高橋さんは出ていく。
あぁ、どうしてタイミング悪くここを去るんですかぁ。

「ふ・・・藤本さん・・・怒っとるですか?」
「・・・・なんで美貴が怒らなくちゃいけないのさ」
「や・・・それは・・・」
29 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:41

なんかさっきからすごいにらまれてるし、
声がいつもよりも低いです。
なんて、口が裂けても言えないです。

「浮気はダメだって言ったでしょ?美貴は」
「だから、浮気とか言う前にどうし・・!?」

目の前には藤本さんの顔。
というか、これはもしかしなくてもその・・・。

(キ・・・キスされよる!?)

「んはぁ・・」
「ふ・・・ふ・・・藤も・・藤本さん!?」
「何?」
「いあ・・・今の・・・その・・・」
「キスだよ?」

や、普通にキスだよって・・えぇ!?
30 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:42

「な!な!な!なんばしよっとですかぁ!!」

もう顔が赤いのなんて気にしてられない。

「美貴がしたいからした」
「や・・その・・キス・・とかは一番好きな人とするもんやろ〜もん!!」

私は、子供だけどもそういうことの重大さというか、
とりあえずそういうのは一番好きな人とするもんだって、
お母さんから聞かされてて・・それで・・あの・・。
微妙に・・・嬉しかったというか・・・・。
あぁもう!!何が言いたいんだ!私は!

「田中ちゃんは嫌だった・・?」

うあ・・・そんな上目遣いとか反則ではないでしょうか。
だから、微妙にその・・嬉しかったっ・・・てぇ!!
2度も言わせんでよ!!(1人突っ込みだby作者)
31 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:42

「どうだった?」
「あ・・う・・え・・・っと・・」

あぁもう、この場から消えたいです。

(ん・・?ちょっと待ってよ)

私はここで自分の能力を思い出した。
藤本さんには悪いけれど、
ここはひとまず逃げます。

「ご・・ごめんなさい!!」
「ちょ・・田中ちゃん!!!」

藤本美貴の前から、田中れいなは文字通り、
消えた。
テレポーテーション。
れいなの能力の一つである。
32 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:43

「逃がしたかぁ・・」
「美貴ティ〜」
「矢口さん」
「あんまり田中いじめるなよ?まだ子供なんだからさ」
「美貴のモノに手を出す高橋さんがいけないんです」
「あのさ、どうしてそこまで独占したがるんだ?」
「・・・・・」

美貴には・・・もう彼女しか帰るところがないから。

『あ、藤本さんおかえりなさい』
『藤本さん、ご飯食べますか?』
『藤本さん』

田中れいなの取る行動の、
その一つ一つが美貴を捕らえて離さない。
美貴の帰る場所はここなんだって。
あの笑顔がそう示してくれてるから。
33 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:43

「田中はただ優しいだけだぞ?美貴ティに特別な感情を持ってるわけじゃない」
「だから・・・心の中まで美貴で一杯にしてしまわなくちゃ・・・」
「いつか誰かに取られるってか・・」
「・・・・」

矢口さんは、はぁっとため息をついた。
ねぇ、美貴は何か間違ってますか?

「美貴ティの気持ちはわからないでもないけどさ・・」
「矢口さんは・・・あきらめろとでも言うんですか?」
「や、そうじゃなくて。気持ちの一方通行だけじゃ本当の気持ちは・・。
 田中には伝わらないよ」
「・・・・・」
34 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:44
********

「お〜、高橋こっちこっちぃ!」
「なんですか?」
「ちょっとな訓練だよ。記憶はまだ思い出さなくてもいいけどさ、
 自分の能力だけでも思い出してもらおうと思ってさ」
「能力?」
「そ、高橋は覚えてなくても体は覚えてるはずだからさ。はい、これ持って」

と、手渡されたのは拳銃。
モデルガンではなく本物だ。

「すっご・・本物?」
「当たり前だよ。うちらは生きるか死ぬかの仕事をしてるんだから」
「生きるか・・・死ぬか・・」
「大丈夫だよ、高橋はそういう世界のTOPに今までいたんだからさ」
35 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:44

すぐに感覚は思い出す。
吉澤さんは笑ってそう言っていた。
そういう世界・・・。
生と死のはざまで生活している。
私よりも年下のあの田中れいなだって、
紺野あさ美だってそういう運命の下で生きている。

「・・・・・」
「ん?どした」
「・・・嫌やよ・・・・」
「は?」
「・・・え!?あ、なんですか?」
「や・・やよ・・・って何?」
「は?何のことですか?」

一瞬、何かが頭をよぎった。
誰だっただろう。
すごく大切だった気がするのに・・。
36 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:45

「高橋?」
「あ、なんでもないです。はじめましょう」
「そっか。ならあそこのマトを狙って・・・」

吉澤さんの言葉なんて、
頭に入ることはなかった。
ずっと、頭を掠めて悩まされる。
あの顔は・・・・。
あの傷は・・・。

『愛・・ちゃ・・ん・・』

ズキン!!

「うぁっ!!!」
「高橋!高橋!?」
37 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:46

拳銃が手元から落ちる。
ダメだ、思い出してはいけない。
だけど、大切な何かが・・。

『もう・・・・何もかも・・忘れて・・しまえ・・たら・・』
『いつか・・・また・・笑・・顔で・・ね?』

記憶の破片がいくつかに固まり始めて。
ダメ!ダメなの!!
まだその時じゃない!!

「うわぁあああああああ!!!」

『小川は、高橋愛のことが好きだからさ』
38 名前:第1話 投稿日:2004/01/18(日) 12:46
****第1話 終了****
39 名前:丹羽 投稿日:2004/01/18(日) 12:52
第1話終了だぁ。
れなみきすっげぇ、中途半端な感じでごめんなさいです。
というか高橋さんの相手はやっぱり小川さんしか思いつかない・・。

>>チナ犬様
第1話でのれなみきはここでいったん終了ですけども、
これからもちょくちょく出てきますよ、れなみき。
藤本さんがちょっと乙女です(ぇ
すっごい藤本さん書くのが楽しいです(爆
高橋さんの過去は騒然たるものです。
結構シビアな感じですね。
きっとおいらでもわからないくらいに・・・。
40 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/18(日) 16:29
もうやべえ!抜け切れません!!
楽しみで毎日チェックしてますよw
おがたか、おいらもすきです!
でも最近高紺、れなあい書こうとか思ってたり、てかもう書いてたり(ry
藤本さんにもなんか悲しい過去がありそうですね!
ああ、気になってしょうがないw
更新お疲れ様!!作者さん頑張って!!
41 名前:ポンコツろぼっと 投稿日:2004/01/19(月) 00:11
どもども読みに来ましたよ〜ポンでつ


っつかれなみきハァ━━━;´Д`━━━ン!!!みきれなハァ━━━;´Д`━━━ン!!!片思い(?)ハァ━━━;´Д`━━━ン!!!

スイマセンスイマセン阿呆なテンションで…
最近みきれなキ過ぎて過剰反応しまくりでつ…

帝やたかーしの過去、気になりますねぇ…れいな…癒してあげて(爆)


また読みに来ます更新頑張って下さい〜
42 名前:第2話 投稿日:2004/01/21(水) 18:09


********
43 名前:第2話 投稿日:2004/01/21(水) 18:10

「あ、気づきました?」
「・・・ここは・・」
「私の部屋です。吉澤さんが運んできてくれました」
「そっか・・・」

訓練・・・どころじゃなかったんだ。
私のせいじゃん。

「高橋さんが自分を責めることはないって吉澤さんが言ってました」
「吉澤さん・・が?」
「はい。何も悪くないんだからと」

田中ちゃんはそう言うと、台所へと引っ込んでいった。
年下のはずなのに、どうしてこうも大人びて見えるのだろうか。
笑い方もどことなくぎこちない。
44 名前:第2話 投稿日:2004/01/21(水) 18:10

「高橋さん」
「何?」
「どっか出かけてみます?」
「え?」

田中ちゃんの思いもよらぬ言動により、
私は外出を許可された。
息抜きが必要だと、田中ちゃんが飯田さんに説明してくれたらしい。
まぁ、当たり前のごとく藤本さんというオプション付きでだけれど。

「水族館だぁ〜〜!」
「どうせなら遊園地とかにすればいいのに・・」
「れなが来たかったとです。嫌なら来んでもよかったとですよ?」
「誰も嫌とは言ってないじゃん」
「高橋さん、行きましょう!」
「え!?あ、うん」
45 名前:第2話 投稿日:2004/01/21(水) 18:11

水槽の光が蛍光灯の光に反射して綺麗だ。
幻想世界に迷い込んだみたい。

「水の色って、大抵青じゃなかですか」
「え?うん、だって・・」
「人は先入観で物を見すぎよるです」
「へ?」
「高橋さんがれなのことば先入観で見よるごたぁもんです」

にかっと笑って、また私の手を引いて歩く小さい背中。
私達の後ろを、お目付け役のごとく歩く藤本さん。

「れなにとって、水の色は無色です」
「え?」
「何物にもとらわれないし、何物にでもなれる」
「なんにでも・・・なれる・・?」
「赤や黒、それに銀色にだってなれるやなかですか」
「あ・・・」
46 名前:第2話 投稿日:2004/01/21(水) 18:11

そうだ。
無色のものには、色を与えればなんにだってなれてしまう。
水は、朝日を浴びてオレンジにだって染まるし、
夕日を浴びて、赤色にでもなる。
夜になれば、暗闇に染まり、
朝になれば緑色から青色に変化する。
見方によっては白にだってなるし、紫にもなる。
光を反射させれば銀色はおろか金色にもなってしまう。
だから、田中ちゃんは無色だと表現したんだ・・。

「れなは無色であり続けたい」
「どうして・・?」
「守るべき物を守るためには、
 自分自身をまず守りつづけなければいけない。
 そのためにはどんなものにも染まったらいけんとです」

その瞳はなんの迷いもなかった。
なぜか藤本さんが気になって、
そちらを見たが前髪で隠れて、
どんな表情をしているのか分からずじまいだった。
そしてまた、そこでどうして藤本さんが気になったのか、
自分でもわからなかった。
47 名前:第2話 投稿日:2004/01/21(水) 18:11

「何?」
「いえ・・」
「・・・り・・!?」

突然、田中ちゃんが手を離して走り出した。

「ちょ・・田中ちゃん!!!??」
「れいな!!」

藤本さんが田中ちゃんの名前を呼び捨てした。
初めて聞いた。

「絵里!!!」
「違うよ、れいな!!」
「絵里だよ!」
「違う!死んだ人間は戻らない!」
「!!」
48 名前:第2話 投稿日:2004/01/21(水) 18:12

無色で有りつづけたい田中ちゃん。
そうか・・・それは・・・。
私とは違う意味で残酷なことなんだ・・。
死んだ人間に縛られて。
それを忘れたくないから。
失いたくないから何物にも染まりたくない。
どこかで悟ったから藤本さんが気になったんだ。

「絵里は死んどらん!」
「死んだの!れいなが殺したの!」

藤本さんの腕の中で、
もがきつづける田中ちゃん。

「ちゃんと前を見なよ!ねぇ、美貴を見てよ!」
「嫌!絵里は死んどらん!れなが絵里を殺すわけがなか!」
「れいな!!」
49 名前:第2話 投稿日:2004/01/21(水) 18:12

藤本さんは、仕方なさそうに田中ちゃんのわき腹を殴った。
痛そうだ。
・・じゃなくて、田中ちゃんはそのままくてんと横倒れになった。

「このことは・・・飯田さんには内緒だからね」
「なんでですか」
「田中ちゃんは・・このことは誰にも話したことがない」

そのまま、藤本さんが田中ちゃんをおぶって、
建物に帰った。
飯田さんには騒ぎ疲れて眠ってしまったのだと、説明した。
だけど、それでも私はなんとなく後味が悪かった。
記憶がない私の方が実は幸せなことだなんて、
思いたくなかったのも事実だから。
50 名前:丹羽 投稿日:2004/01/21(水) 18:18
雪が降ってて手がかじかんでます。
第2話を途中まで更新!
今回は高橋さん視点で。

>>チナ犬様
ま!毎日ですか!!!はわわ。それなのに、
更新不定期で申し訳ないです。
れなあいですか!しかももう書いて・・。読みたいです!
藤本さんや高橋さん同様にれいなにも過去があるんです。
まぁ、それは後々に。
>>ポンコツろぼっと様
読みにきてくださったんですかぁ!!(汗
いやはやれなみきをあなた様に洗脳されてからというもの、
なぜかれなみきばかりが浮かんでしまって・・。
れなみきに過剰反応してください(w

えっと、毎度のことながらレス下手でもうしわけありませんです。
51 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/21(水) 22:31
わーい!!更新だ!!更新お疲れ様です!
いや、更新待ってる間も楽しくてしょうがないのでw
気にしないでください、おいらも自分のスレ更新結構遅れて(ry
れなあい、書いたらはまりますよ(←何気に勧誘
れいな・・・切ないです。セリフに感動してしまいました。
どんどん面白くなっていきますね、この小説w
頑張ってください!!
52 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:14

「田中ちゃんは・・・どうですか?」

ずっと付きっきりで見ている藤本さんに声をかける。
一度たりとも目線をこちらへよこそうとはしない。

「美貴は・・」
「?」
「美貴はもうれいなの心をつかみきったつもりでいた」

まただ。
田中ちゃんのことを呼び捨てにした。
田中ちゃんの手をぎゅっと握り締める、
藤本さんの表情は悲しそうだった。

「どうしたられいなを救えるんだろう」
「ふじも・・・」
「ねぇ?どうしたら記憶をなくせるの?
 どうしたら、れいなの記憶を美貴で一杯にさせられるの?」
「ふ・・ふじ・・」
「れいなには・・まだ・・あの子が住みついて離れない・・」
53 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:15

無色でありたいと願う田中ちゃん。
それは、やんわりと藤本さんの気持ちを拒否することと同じだった。

「・・・ん・・」
「あ」
「田中ちゃん!?」

藤本さんは田中ちゃんという呼び方に戻っていて。
田中ちゃんも目が覚めた時には、
元の田中ちゃんに戻っていた。
藤本さんは水族館でのことは言うことはなかった。
それはそれで当たり前のことなのだろうと思う。

「高橋さん」

真夜中に、田中ちゃんが私を呼んだ。

「一緒に寝てよかですか?」

今にも泣きそうな顔をしているのは、
どうしてだろう。
すぐさま布団に招き入れた。
54 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:15

「どうかしたの?」
「怖い夢を見たんです」
「夢?」
「闇が・・全てを飲み込んでしまうんです」

闇が・・・怖いんです。
田中ちゃんはそうつぶやきながら、
寝入ってしまった。

この子はこの世界に入ってしまって、
もう何年、光を感じなくなってしまったんだろう。
感じなくなってしまったからこそ、
そういう闇が怖くなってしまったのだろうか。


「「光を作り出すのも闇を作り出すのも、人間なんだよ」」

「誰!?」

急に声がして飛び起きた。
そこには、どうやってここのセキュリティをかいくぐったのか、
似ているようで似つかない2人組がいた。
55 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:16

「なんやぁ、ほんまに忘れてしまっとるで」
「つまらないですねぇ」
「あなた達・・・誰?」
「あかん、お得意の訛りすら忘れてしまっとるわ」
「自己紹介するしかないですよ」
「そやなぁ。ったく、手間がかかる親分さんや」

関西弁の女の子と、妙な話し方をする女の子。
この子たち、私のことを知ってる?

「のんは辻希美です」
「うちは加護亜依や。うちら2人はあんたのことを迎えに来たんや」
「迎えに・・・?」
「そや。探すのに苦労したでぇ。
 こちらさんはようさん仕事が速うなっとって驚いたわ」
「まぁ、のんの手にかかればどうってことないですけどね」
「高橋愛ちゃん、あんたには戻ってきてもらわんとあかんねん」

加護と名乗った少女が言った。
56 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:16

「まぁ、今すぐにとは言わんけどな。ゆっくりと考えとってや」
「親分さんにもいろいろと事情があるようだし」
「それに隣の博識娘が起きたようや」
「あさ美ちゃんの発明品にはいつも泣かされるのです」
「「それじゃあまた来るから」なのです」

とたんに煙幕が出て二人の姿は跡形もなく消えていた。
と、同時に・・。

「「辻!加護!」」

吉澤さん・・ドアはちゃんと弁償してもらいますよ?

「高橋!無事だったか!?」
「え?あぁ、一応は・・」
「よっすぃ〜、もともと辻加護はそういう専門じゃないよ」
「だけど、連れていかれてからじゃ遅いですよ!」

矢口さんが、冷静に吉澤さんに突っ込んでいる。
というか、静かにしてもらえますか?
まだ、田中ちゃんが寝てるんで・・・。
57 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:16

「ん〜・・・なんですかぁ・・・?」

あぁ〜、ほら起きちゃったじゃないですかぁ。

「あーーーーー!!!吉澤さん!!またドア壊したとですかぁ!」
「ご・・ゴメン、田中・・今度はちゃんと直すから」

過去に余罪あったんですか、吉澤さん。
しかもそれは田中ちゃんが自分で修繕したのか・・・。
って、第1声がそれでいいの?田中ちゃん。

「辻さんと加護さんはどうやって私のセキュリティを、
 かいくぐっているんでしょうか」
「あいつらの鼻は犬よりも鋭い」
「ん〜また作りなおしですね」
「あぁ、頼むよ紺野」

紺野さんはそうやって自室に引っ込んでしまった。
と、とたんに大きな音が響く。
一応、防音設備は整っているはずなんだけど・・。
この音の中でも起きてこない藤本さんは、すごい。
58 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:17

「飯田さんに報告ですか?」
「圭織はもうすでに知ってる」
「へ?」
「ほら」

そうやって窓の外を指差す。
そこから上を覗くと、
隣の建物の屋上でなにやらたたずんでいる飯田さんを見つけた。
・・・・・・大丈夫だろうか、あの人は。

「さぁて、あいつらも動き出したか」
「あ・・あの!」
「ん?どした、高橋」
「説明・・してもらえませんか?
 私には何がなんだかさっぱりで・・」
「そうか・・今の高橋にはほんとに無関係すぎることだね」
「は?」

矢口さんはどこから話そうか迷った挙句、
ようやく口を開いた。

「辻と加護はもともとうちらの仲間だったんだ・・・―――――――

59 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:18


*******************

「つじぃ!かごぉ!」
「うへ!見つかった!のの、逃げるよ!」
「ほいきた!」

辻希美の手から放たれた煙幕。
辺り一面を白い煙が覆い尽くす。
つまみ食いがばれて、
逃げるつもりだった二人だが、
逃げようとした瞬間に、
誰かにつかまった。
それが、2人の記憶をなくす前の高橋愛との出会いだった。

「な・・なんやねんな!」
「あんたは誰ですか!」
「あんなぁ、ここのりぃだぁ〜を探しとるんやけどぉ〜」
「人の話を聞かんかい!われぇ!」
「そうなのです。ここで矢口さんにつかまったら、
 煙幕がもったいないのです」
「そういうこととちゃうわ、のの!
 ここで矢口さんにつかまってもうたら、
 昼飯抜きやねんで!?」
「そ・・それは困るのです!」
「あ〜、ここのりぃだぁ〜はどこにいるやが?」
60 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:19

このとき、2人はまだ高橋愛の存在を知らなかったし、
高橋もまた、それほど知れ渡ってはいなかった。
したがって、二人の高橋に対する感情と言えば、

「「はよ離さんかい!わけのわからん方言を喋る女(アマ)」」

しかなかったのである。
で、当の高橋はと言えば、
その2人を悠々とつかみあげて、
リーダーである飯田圭織の居場所を聞き出すつもりだったのだが、
この2人じゃ役に立たないと判断して、
そのまま2人を離すのも忘れて奥へと突き進んでいるというわけである。

「こっ!・・っくそ!なんちゅう力やねん!」
「のんの腕力でもダメだ」
「あぁ、ごめんごめん。もう2人に用はないんやが」

と、ぱっと手を離した。
どすんと床に落ちる二人。
2人をそのままにして、歩いていく高橋に
加護が怒鳴りつけた。
61 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:19

「ちょぉ待たんかぁい!!!」
「なんやざ」
「うちら2人をこげな扱いして、
 ただで済む思とんのかぁ!?」
「あ・・あいぼん」
「のんは黙っとってや。
 うちらはこう見えてもここじゃちょっとは出来るエリートなんや!
 そのうちらをコケにして、無事で済む思うたら大間違いや言うとるんや!」
「ほやってぇ、なんかしてくれんの?」
「血ぃ見したるわ!!」
「あいぼん!!!!」

喧嘩を吹っかけたのはいいが、
血を見たのは加護の方だった。
お得意のとび技でこてんぱんにしてやろうと思っていたのが、
軽々とかわされて滅多打ちにされてしまったのである。
と、相方がやられて黙ってみているわけにはいかない辻。
手榴弾やら閃光弾やらとにかくありったけの爆弾を、
高橋に投げつけたのであるが、
煙がのけてみてみたら、これまた無傷で立っているではないか。
辻はへなへなと座り込んでしまう。
62 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:20

「なぁんや、これでおしまい?
 つまらんわぁ。」
「ちょ・・ちょお待ちぃ」

加護がたちあがる。

「あんた何者や」
「あ〜し?あ〜しはただの中学生やでぇ」

そう。高橋はまだ殺し屋ではなかった。
むしろ何でも屋に近い感じ。
頼まれればなんでもやる。
依頼を成し遂げるまでは、
どんな手段も選ばない。
これが、そのときの高橋の理念におかれていたと思う。
まぁ、こうした理念が元で後に殺し屋と呼ばれるようになるのだが。
そして、この時の高橋の目的は飯田圭織に、
ある依頼者からの要求を交渉しに来たのだった。

「でぇ、ここのりぃだぁ〜はどこにおるんやが知ってるか?」
「い・・飯田さんに会ってどないする気やねん!」
「別に、依頼を成し遂げるだけやよ〜」
「依頼?」
「よそ様の依頼事はしぃくれっとやよ〜」
63 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:20

口元に指をあてて言うその姿は、
とても、殺し屋になる人物には見えない。

「それと、さっさと人の名前を口に出すんは、
 危ないから気をつけたがえぇよ〜」
「くそ!なめるんやないで!」

すたすたと歩いていく後ろからの不意をついて、
内心勝ったも同然と思っていた加護だったが、
ふらりとまいあがったかと思うと、
そのまま加護の背後にまわりナイフを突きつけた。

「これ以上邪魔するんやったら殺すでぇ?」
「!!!」

あまりに見事なその動きに、
2人は言葉をなくした。
笑顔の裏にはりつく殺気。
2人は死を覚悟した。

「死にとぉないんやったら邪魔せんとってやぁ」
64 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:21

さっきとは裏腹な笑顔で、
2人の前から歩いていった。
殺気も何時の間にか消えていた。

「か・・・かっこいいのです」
「の・・のの!?」
「決めたのです!のんはあの人の弟子になるのです!」
「弟子になるって、飯田さんはどないしたんや!」
「飯田さんは心のお師匠さまです。だけど、さっきの人となら
 のんはもっと強くなれる気がするんです!」

辻は、目を輝かせて言い放った。
そうなるともう誰が何を言っても、
答えが変わることはない。
加護も長い間相方としてやってきた分、
辻のそういうところは分かっている。

「せやなぁ、ののがそう言うんやったらうちも弟子になるわ」
「あいぼん!」
「うちら、コンビやねんから」
「ありがと〜〜〜!!」
65 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:21

と、言うわけで辻加護の2人は、
用件を終えて帰ってきた高橋に、
弟子にしてくれるように頼み込んだ。
高橋は、最初のうちはかたくなに拒んでいたのだが、
徐々におされ始めた。

「やから、あ〜しは弟子なんてとらんしいらないんよ〜」
「お願いや!うちら強くなりたいんや!」
「お願いしますなのです!」

高橋が2人を弟子にすると決めたのは、
なんとまぁ意外にもこの一言だった。

「「荷物運びでもなんでもしますから!」」

弟子入りが決まった二人は、
飯田に出て行くとストレートに告げて、
ここの組織から抜けたというわけなのである。


************
66 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:21

 ―――・・・・というわけなんだよ」
「私の・・・ですか?」
「まぁ記憶をなくす前の・・だけどね。
 まぁ、おいらも圭織に聞いただけだから、
 そこんところはよくわからないけどさ。
 それで辻の奴が本当にいろんな意味で手ごわくなったんだよなぁ」
「で、どうして私とここの組織は敵対するようになったんですか?」
「それを話すとまた長くなるんだけども・・・」

矢口さんは髪をぐしゃぐしゃとかいたあと、
吉澤さんに何やら耳打ちしていた。

「え〜?吉澤がですかぁ?」
「文句言わないで返事!」
「は〜い」

何を言われたのかは知らないけれど、
吉澤さんはすごく落ち込んでいた。
それからしばらくして、
みんな自分の部屋に戻って行った。
相変わらず隣からはすごい音がしている。
田中ちゃんが、コーヒーを作ってくれた。
67 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:22

「砂糖入れます?」
「あ、うん」
「ミルクは・・・」
「あ、ミルクはいらない」
「できました」
「ありがとう」

受け取ったコーヒーを一口。
砂糖の分量もちょうどいい。

「田中ちゃんは知ってるの?辻さん加護さんのこと」
「いえ・・。でも聞いたことはありますよ」
「そうなんだ・・・」

私の弟子になったという、
あの2人組のことが頭から離れなかった。
68 名前:第2話 投稿日:2004/01/25(日) 15:22


****第2話 終了****
69 名前:丹羽 投稿日:2004/01/25(日) 15:31
第2話を一気に更新。
やぁっと辻加護出せたぁ。ちょっと満足です。
ですが、れいなのことと辻加護のことが、
書けて第3話のことはなんにも考えてません。
どうしよう・・。
>>チナ犬様
いつもいつもありがとうです。
おかげで更新にも力が入るってもんです。
れなあい・・・今度短編でも組んで書いてみようかと思います。
れいなのセリフは、絶対使いたかったんで、
この2話は満足いくものになってます。あくまで自己満足の域なんですけどね。
よし!第3話もがんばろ〜っと!
70 名前:丹羽 投稿日:2004/01/25(日) 15:35
追記:高橋さんの訛りが妙におかしいですが、
やんわりとおかしいところを教えてくださると
助かります。
読者様まかせで申し訳ないです。
71 名前:チナ犬 投稿日:2004/01/25(日) 17:26
更新おつかれさまです!
れなあい是非書いてください!!
藤本さん・・・切ないなぁ。
私も高橋さんの訛り、よくわかりません(爆
すみません、やくたたずで・・・。
辻加護いいっすね〜、この二人まで卒業となるとなんだか寂しい。
72 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/26(月) 17:37
れなみきーー!
萌えです(w続きが気になりますねー。頑張ってください。
73 名前:第3話 投稿日:2004/02/03(火) 13:53


  ********
74 名前:第3話 投稿日:2004/02/03(火) 13:54

ここに来て2週間が経った。
私はといえば、
まだ田中ちゃんのところにお世話になっている。
聞くところによれば、
飯田さんが私の部屋の荷物の量を見て、
部屋に入りきらないと判断したらしく、
いろいろと大変なようで。

「高橋さん、ご飯できたけん」
「あ、うん」

なので、片付くまでもうちょっと
田中ちゃんのところにお世話になることにしたのだった。

「ねー、田中ちゃんて本当は何歳なの?」
「れなですかぁ?もうすぐで12歳になります」
「じゅ・・12歳!?え?もうすぐってことはまだ11なの!?」
「そうですよ?」
75 名前:第3話 投稿日:2004/02/03(火) 13:54

田中ちゃん・・・・あんた一体どういう流れでこの世界に入ってきたんですか。
しかもまだ11歳にして、
青色は無色だとか、
人殺した経験ありだとか(これは本人自覚ないけど)、
ボキャブラリー豊富で難しい言葉知ってたりとか、
ありえないことだらけですよ?あなた。

「そんなに珍しいことでもなからしいです。
 辻さん加護さんとかここに来た時はまだ8歳やったらしいですけん」

8歳って・・・、小学生じゃないですか。
や、11歳も十分小学生だけど。
私は・・・覚えてないからわかんないけど、
多分10代になってからだよな、
この世界に入ったのは。
うん、多分そうだ。

76 名前:第3話 投稿日:2004/02/03(火) 13:55

「それに高橋さんだって人のこと言えんけん」
「なんで」
「高橋さんだって、まだ15歳やん」
「私15歳なの?」
「飯田さんがそう言ってました」

ありえない。
ありえないことが多すぎる、ここ。
や、一番ありえないのはまだ15歳なのに、
記憶なくしてたりする私なんだけども。

「3歳しか違わんとやけん」
「3歳“も”じゃなくて?」
「れなん中じゃそがん変わらん」

田中ちゃんは黙々とご飯を食べてる。
落ち着いてるよなぁ。

「2人とも」
「あ、藤本さん」
「どがんかしたとですか?」
「飯田さんが呼んでる」

私と田中ちゃんは急いでご飯を口の中にかきこんだ。
77 名前:丹羽 投稿日:2004/02/03(火) 14:00

今日はここまで。
ってか、久々の更新。3話はどういった感じで進めようか考え中・・。

>>チナ犬様
れなあい。おいらが書くとどういった感じになるのやら。
藤本さんにはちょこっと切ない感じでいてもらいます(爆
いえいえ、おいらが勝手に頼み込んでしまったことですんで、
気になさらないでくださいな。
辻加護。おいらの中では最強最高の2人組です。

>>名無し読者様
萌えです!れなみきは萌え!
続きも萌えてもらえるようにがんばりますよ!
78 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:00



*************
79 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:01

「田中」
「はい」
「あんたのパートナーを高橋に変更するわ」
「え?」
「藤本の許可もちゃんと取ってある」

田中ちゃんは藤本さんと飯田さんを交互に見ていた。
私が田中ちゃんのパートナーに?
そのまえにどうして藤本さんはパートナーを変わることを
許可したんだろうか。

「憶えてる?」
「何をですか」
「高橋のパートナーだった子は、田中そっくりだったんだよ」

飯田さんの言葉に思わず田中ちゃんを見てしまった。
田中ちゃんは何も知らないといった感じで、
首を横に振る。
どうして今更そんなことを言うのだろうか。
80 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:01

「あ、よっすぃ〜。来たね」
「あ〜、やっぱり話さなくちゃいけないんすね・・」
「お世話係でしょう?」
「んあ〜〜・・・」

吉澤さんはどこか後ろめたそうにしていて。
あのとき矢口さんから、何を言われたんだろう。

「あのな、高橋」
「はい」
「お前にその田中そっくりの相手を殺してもらう」
「は?」
「お前のパートナーだったやつは、危険因子なんだ。」
「自分の仲間だった・・・人を殺せと・・・言うんですか?」
「そうだ」
「な・・・んで・・」
「さっきも言っただろう?危険因子なんだって。
 それに記憶を失っている今の方が何かと都合がいい」
「記憶を・・・?」

その時、なぜか水族館での田中ちゃんを思い出した。
殺してもいないのに、
自分が殺したのだといわれて。

「田中」
「あ、はい」
「ちょっとおいで」
「はい」

田中ちゃんは飯田さんと一緒に部屋を出て行く。
藤本さんもその後に続いた。
部屋には私と吉澤さんだけ。
81 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:01

「記憶がない今のうちに、あいつを殺してしまわないと
 あとあと大変なことになりかねないんだ・・・高橋自身が」
「私が・・・・?」
「事情は言えない。高橋が今なんで記憶を取り戻すのをいやがるのか。
 そこのところがはっきりしていないから」
「どういう・・・ことですか?」
「これまで訓練してきたよな。それは、今後の高橋のためでもあるんだ」
「私のため・・・?」

吉澤さんが言っていることがよく理解できなかった。
記憶がなくなっている今だからこそ、
そういう大切だった人(この場合は私のパートナー人になるのかな)と、
会わせてはいけないのではないだろうか。

「そこでだ」
「え?」
「田中が出てくる」
「は?」
「高橋は『は?』とか『え?』とか『あ』が多すぎ」
「あ・・はぁ・・――」

そういえばそうだ。
あわてて口を手で押さえたが、
吉澤さんは笑っている。
82 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:02

「田中は高橋のパートナーだった奴によく似ているんだ」
「田中ちゃん・・・・が・・?」
「そ。そこで、これから1週間。田中とデモをしてもらう」
「デモ?」
「そいつは、お前と互角にやりあったんだ。
 田中もここでの実力は上の方。
 今のお前が感覚を取り戻すために、
 デモンストレーションをやってもらう」

田中ちゃんと・・?
私が?
その相手と戦うために?

「田中は見た目以上に実力はあるんだ。
 吉澤でさえも苦戦させられたんだからな」
「そうなんですか?」
「だから、お前のパートナーになった」
「藤本さんもそれに了解したんですか」
「そういうこと。美貴を納得させるのに苦労したよ」

私の潜在能力を取り戻すには、
そうしたほうが一番手っ取り早いのだとか。
私より後に部屋に戻ってきた田中ちゃんは、
どこかぐったりしていた。

「なんかさせられたの?」
「飯田さんと秘密特訓・・」
「秘密特訓?」
「腕もなまってるだろうからって・・・」

見れば所々青あざが出来ている。
田中ちゃんは救急箱からシップを取り出して、
はりつけていた。
83 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:02

「さすがに久しぶりやったけん、
 感覚取り戻すとに時間かかりました」
「・・・・」
「高橋さんの潜在能力もすぐに取り戻せますよ」

さ、ご飯にしましょうと、
田中ちゃんは台所に向かった。

「美貴んだかんね」
「のあ!」
「いくらパートナーになったからって、
 田中ちゃんがあんたのもんになったわけじゃない」
「わかってますよ。は〜、びっくりしたぁ」
「晩御飯は美貴もここで食べてるじゃん。
 それに明日からは毎日来るんだし」
「そうですけど。ノックくらいしてから入ってきてくださいよ」

藤本さんが田中ちゃんとご飯だけは一緒に採ると、
聞かないものだから飯田さんがしぶしぶ折れていた。
藤本さんは田中ちゃんと遣り合ったことなんかあるのだろうか。
84 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:03

「美貴?ないよ」
「は?」
「結果が見えてるのに、なんで遣り合う必要があんのさ」
「それじゃあ、藤本さんは田中ちゃんの実力は・・・」
「知らないし知りたくもない」

田中ちゃんは田中ちゃんだからと、
藤本さんはそれだけ言って席についた。
ということは、田中ちゃんは藤本さんよりも弱いんだろうか・・。
・・・・?でも、吉澤さんは苦戦させられたって言ってたよね・・?
あ、でも苦戦したってだけで負けたとは言ってないか。
そっか。そうなんだ。

「あ、田中ちゃん、私も手伝うよ」

ふと、田中ちゃん1人に任せていたことに気づき、
慌てて手伝いに行く。
藤本さんは1人テレビを見ていた。
85 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:03

「高橋さん!お鍋!吹き出てる!」
「え?わぁ!!」

考え事は料理中にするもんじゃないな。
そんな私達を見ながら、
心配そうに声をかけてくる人が1人。

「ちょっと、大丈夫なの?
 食べれるの作ってよ?」

そんな言うんだったらちょっとは手伝ってください。

とは言えない。
口が裂けても言えない。

「それじゃあ、これ運んでください」
「おっけぇ」

綺麗に飾り付けされた皿を、
テーブルの上に運ぶ。

「ん、上達したじゃん?」
「・・・藤本さんがいちいちうるさいけん・・・」
「なんか言った?」
「いえ・・」

時々思う。
藤本さんと田中ちゃんはどこか以心伝心みたいなところがある。
目が合っただけで何を考えてるのか分かってしまうとか、
そういう感じ。
86 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:03

「あーーーー!」
「高橋さんがぼさっとしとるけん」
「田中ちゃんのちょうだい!」
「残念。れなのはもう食べちゃいました」
「う〜、せっかく取っておいたのに」
「2人とも子供くさいよ」
「「子供だもん」」

まだ15歳なのだ。
子供と言われて当然である。
田中ちゃんと私は顔を合わせて、
微笑んだ。

「あ〜、美貴抜かして何笑いあってんのさ」
「藤本さんが悪かとやっけん」
「子供だから、すぐにすねるんです」
「藤本さんは大人やっけん子供のことはわからんもんね」
「失礼な。美貴は大人でもあり子供でもあるよ」
「微妙〜」

子供でもなんでもいい。
こうして笑い合える時間が少しでも長くなるよう。
この密かな幸せをいつまでも感じていられるよう願いたくもあった。
隣で眠る田中ちゃんの顔を覗き込む。
闇が怖いと思う日がなくなるように。
こういう世界もなくなればいいと思う。
誰も傷つかずに済む世界が。
87 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:04


************
88 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:04

田中ちゃんのパートナーになってから早くも2週間が経過していた。
肉弾戦に早くなれるよう、
田中ちゃんと組み手をしたり、
実戦同様にどちらかが倒れるまで遣り合ったことも、
ここ2.3日あった。
だけど、どうしても吉澤さんが言う潜在能力とか、
過去の自分に備わっていた能力とか、
うすらと残る記憶の破片でさえも、
思い出すことは出来なかった。
まだ、2週間しか経過していない。
吉澤さんにしてみれば“しか”なのだろうが、
私にとっては“も”なのだ。


正直、私は怖かった。
もし記憶を取り戻して、
ここにいるみんなと対立してしまうのが、
傷つけてしまうのがどうしようもなく怖くて仕方がなかった。


「はぁ〜」
「色っぽいため息」
「矢口さん」

訓練室の前の廊下で矢口さんに出会った。
矢口さんは吉澤さんの様子を見に来ただけらしい。
89 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:05

「どう?調子は」

私は首を横に振った。
もう、何もできないのではないか。
このまま記憶が戻らなくてもいいのではないか。
思いのままを伝える。
何時の間にかマイナス思考に私はなっていた。
矢口さんは、ただ黙って聞いていて。
だけどそれがなんだか嬉しかった。

「高橋なりに出した答え?」
「え?」
「記憶取り戻さなくてもいいって・・」
「多分、それが一番いいと思うんです。
 自分のためにも。みんなのためにも」

なまじつぶやくように言った。

「じゃあさ、田中にも同じことが言えるよね」
「え?」
「田中も高橋と同じように拾われてきた子なんだ」

同じように・・?
記憶をなくしていたってこと・・・・?
90 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:05

「美貴ティ・・藤本もそんときくっついてきた」
「・・・・・・」
「田中はさ、記憶を思い出したいって言ったんだ。
 取り戻したいってね。だけど、自分がどこの誰かもわからないままで
 今までの過去を一気に取り戻すなんて不可能なんだよね」
「それで・・・どうしたんですか・・?」

水族館でのことがよみがえる。

「名前とかは調べれば分かるし、運動能力っていうか、
 体が覚えてることはすんなり思い出せてたみたい。
 だけど、やっぱりメンタルな部分なのかな。
 精神的な面で思い出す、記憶を取り戻すのを恐れてる」

矢口さんはそう言うと、飲みかけのジュースを一気にあおった。
ごみ箱に投げ入れる。

「藤本はね、ただたんに組織に入りたいってことで、
 圭織がいれてあげただけ。とある人の紹介でだけどね。
 来るもの拒まずだから。まぁ敵は例外だけど」
「あの・・・それで・・どうして私のことが田中ちゃんにも
 言えるんでしょうか・・?」
「高橋と田中は多分、精神的なとこで似てるんだと思う。
 それを貯め込むかそのまま吐き出すかの違いだけでさ。
 高橋の考えもいいことだと思う。人は十人十色だし。
 逃げる選択肢も田中には与えられてるんだ。
 だけど、それを田中は自ら捨て去った」

あえて、逃げると言い放った矢口さんの声が、
妙に遠く感じた。
91 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:07

「怖いけど逃げたくない」
「え?」
「田中がおいらに言った言葉。
 ほんとに小学生か!?ってくらいに
 大人びた考えの持ち主だよ」

―世の中を知っている―

「だから、田中には高橋の気持ちもよくわかるんだ。
 境遇がどうで有れ似たもの同士」

―水の色は無色―

「もうちっとさ、肩の力を抜いてみたら?
 上手くごまかしてたつもりでも
 田中はきっと気づいてるよ」

―闇に飲み込まれる―

「あんたと同じように大切なものをなくしたんだろうね」

―記憶にない大切なものの喪失―

「高橋?」
「え!?あ、すいません・・・」
「なんか思い当たるふしでもある?」
「いえ・・」

田中ちゃんの言葉にはどれも納得できるものがしばしばあった。
まるで自分のことを言われているような感覚に陥ってしまうことさえあった。
でも・・そしたらどうして藤本さんは田中ちゃんのことを・・・。
そういうことが過去にも何回かあったとしたら・・。

「高橋ほど器用じゃないから。田中は」
「いえ・・・私はそんなに器用じゃないです」

―現にこうやって悩み苦しんでいる―
92 名前:第3話 投稿日:2004/02/13(金) 19:07

****第3話 終了****
93 名前:丹羽 投稿日:2004/02/13(金) 19:12
10日ぶりに第3話を一気に更新だ。
なんだかちょっとわけがわからなくなってきた・・(汗
重い感じにはしたくないんですけども・・・(今更
田中さんの過去を少しずつ少しずつ小出しにしながら、
高橋さんの過去をどどーんと明らかにできたらいいなぁ。
94 名前:ポンコツろぼっと 投稿日:2004/02/13(金) 23:17
おお更新されてる〜(w
小出しにされるれいなの過去が凄く気になりますねぇ
どうやら深く関わってるらしい帝やたかーしのも気になりますが…

ちっちゃくれなみきも期待しとりますですハイ(w
頑張って下さい〜
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/18(木) 12:05
ho
96 名前:きん 投稿日:2004/03/23(火) 15:51
さっそく、休憩中に読みにきたで!続きが気になるで、なんつーかれなみき…(´Д`)ハァハァ
とりあえず出てきてない娘。メンの役どころとかとあわせて、過去とこれからが気になるだす
97 名前:第4話 投稿日:2004/03/28(日) 15:24



********
98 名前:第4話 投稿日:2004/03/28(日) 15:25

「や、梨華ちゃん」
「よっすぃ〜じゃない。どうしたの?」
「ん、ちょっとさ顔見たくなって」

吉澤ひとみは、飯田圭織からしばしの休養をもらって、
かつての仲間を訪ねていた。
同期でライバルで小さいころからの親友である彼女の元へ。

「何ヶ月ぶりだっけ・・?」
「1年くらいじゃない?〜ヶ月ってあれじゃないのよ、もう」
「もうそんななるんだ」

出された紅茶を飲みながら、
相変わらずの部屋を見まわす。

「変わらないねぇここ」
「変えたくないの」
「え?」
「思い出を消したくないの」
99 名前:第4話 投稿日:2004/03/28(日) 15:25

彼女が執着しているものの正体を、
ひとみは分かっていた。
知っているからこそ、
彼女が心配でたまらないのだ。

「高橋・・・・が今いるんだって・・?」
「あぁ・・・うん。記憶なくしちゃってるけどね」
「そ・・・なんだ」
「辻加護は戻ってこなかったけど」
「・・・・・・・」

悲惨だった。
彼女が失ったものは大きすぎたんだ。
小川麻琴の例の事件での彼女の崩壊はそれはもう、
悪夢を見ているような感覚にさえ陥った時期もあったくらい。

「麻琴・・・はね」
「うん」
「親切で優しくて人懐っこくてだけど頭は悪くて、
 人から好かれる子だった」
「うん」
「そういう世界にいるべき人間じゃないって分かってた」
「うん・・・・」
「だけど・・・だけど・・・」
100 名前:第4話 投稿日:2004/03/28(日) 15:26
「梨華ちゃんだけが悪いんじゃないよ。
 あの事件は偶然に偶然が重なってしまっただけで・・」
「でも!まだ2人は若いんだよ。私が引き止めていれば麻琴だって、
 それに高橋だって傷つかずに済んだかもしれないのに・・・」
「今更言っても仕方ないことなんだよ」
「今更じゃない。今だから言うの。」
「小川は危険因子なんだ、それなのに今更助けろとでも言うの?」
「助ける・・・・のとは違う。私は解放してあげたいだけなの」
「解放・・?」
「高橋を・・自由に羽ばたかせてあげたい」

―彼女はもっと違う運命を歩むはずだった―
101 名前:第4話 投稿日:2004/03/28(日) 15:26

彼女、石川梨華はそう言った。
自分の身内である小川よりも高橋の方を取ったということなのだろうか。
いや・・・それはありえない。
あの事件の首謀者である小川麻琴に、
一番依存していたのは彼女だったはずだから。

「私は、あれからいろいろと調べた。
 もちろん、もうそっち系列ではないから単独でだけれど」
「それで?」
「これ」
「?」
「高橋がどうしてあの時飯田さんと衝突しなければならなかったのか。
 問題はそこにあるのよ」

―それまでは上手く情報をやり取りしあっていたのに―

ひとみは、梨華の手から数枚にまとめられたレポートを取り、黙読した。
さすがだ。だてに闇の疾風と呼ばれていただけのことはある。
これだけのことをどこでどうやって手に入れてきたのか。
102 名前:第4話 投稿日:2004/03/28(日) 15:26

「麻琴は、高橋を利用して飯田さんに復襲しようとしたの」
「は?」
「飯田さんは・・・・麻琴の大切な人を殺してしまったから」
「え!?なんで!?」
「飯田さんに限って・・と、思うでしょ?
 私だって最初はそう思った。それに、麻琴自身も判断しかねていたの」
「だったらなんで!」
「ここ。5月5日、麻琴は誰かと密会している」

梨華が指差したのは、
レポートの真中辺り。
確かにその通りに書いてある。

「誰かが麻琴になんらかの誤植知識を与えたとしか考えられないのよ。
 麻琴にそう信じ込ませてしまった」
「けれど、誰がそんなこと・・・」
「飯田さんを一番憎む人物」
「一番・・・・・まさか!?」
「そう。後藤真希。ごっちん」

後藤真希。
かつては仲間で組織内随一の切れ者だった。
だが、とある事故をきっかけに圭織と衝突し、
組織を抜けてしまっていた。
103 名前:第4話 投稿日:2004/03/28(日) 15:27

「それに麻琴自身、彼女を信頼しきっていたというところに、
 最大のミスがあったのよ、それに」
「ごっちん側にも最大のミスがあった」
「うん」
「そうか、ごっちんは麻琴が危険因子になってしまっていることに気がつかなかった!」
「えぇ、でもごっちんのことだからきっとまたしかけてくるに違いない」
「だけど、いくらごっちんでもそんな子供みたいにねちねちと・・・」
「飯田さんを直接狙わない理由はただ一つ」
「自分と同じ苦しみを味合わせてやりたいってことか・・・・」
「飯田さんは麻琴をかわいがっていた。
 えぇ、それはもう本当の妹のようにね。
 私が思うにそれには償いの意もこめられていたと思うの」

圭織は、決して忘れてたわけではなかったはず。
麻琴もそれを感じたからこそ、判断しかねてた。
だけど、それを真希が方向を誤らせたのだ。
能力の一つである“操り言葉”で。
やっかいなことになってきた。
ひとみはそう思った。
一つの事件が、思わぬところでもう一つの事件とリンクしてしまっていたのだ。
104 名前:第4話 投稿日:2004/03/28(日) 15:28

「だけど・・梨華ちゃんはどうやってそこまでの情報を・・」
「あぁ、それは・・」
「「私達がいるからだよ」」

学校帰りなのだろうか。
学生かばんを抱えた2人組。
ひとみはこの2人を知っていた。
105 名前:第4話 投稿日:2004/03/28(日) 15:29



****第4話 終了****
106 名前:丹羽 投稿日:2004/03/28(日) 15:34
約1ヶ月半ぶりの更新・・・。
ダメダメすぎるな、おいら。
そして、どんどん複雑になっていく・・。

ポンコツろぼっと様>レス遅くなってしまい申し訳ございません。
過去も小出しに明らかになっていきます。
れなみき、この2人が今回のかぎを握っているのです(爆
とりあえずがんがりまぁ〜す(のほほん

名無飼育さん様>hoありがとうございます(感謝

きん様>読みに来て下さりありがとうございます(w
なんだがこそばゆい感じですが、がんばりますね!

では続けて第5話も行ってみましょう!
107 名前:第5話 投稿日:2004/03/28(日) 15:35



********
108 名前:第5話 投稿日:2004/03/28(日) 15:36

「辻!?加護!?」
「いきなり転がり込んできて面倒見てくれって言うものだから」
「その代わりにのんたちが梨華ちゃんの欲しい情報を集めてもいいって言ったんです」
「タダで住まわせてもらおうなんて虫がよすぎるしな」
「え!?じゃあどうしてあのとき・・・」
「あぁ、あれは高橋愛ちゃんを連れてきて欲しいって」
「梨華ちゃんが」
「えぇ!?」

ひとみは気が抜けてしまった。
てっきり辻加護は小川側についたのだとばかり思ってしまっていたから。

「のんは愛ちゃんしか師匠はいらないのです」
「デメリットになるようなとこにはいかん」
「どちらでもない私のところでメリットはあるの?」
「梨華ちゃんとこだったら、よっすぃ〜も尋ねてくるし」
「位置的にちょうどええんや。学校にも程よく近いからな」
「うちが来ることわかってた?」
「実はね」
109 名前:第5話 投稿日:2004/03/28(日) 15:36

ひとみは忘れていた。
梨華の能力が“予知夢”であることを。

「でも、どうして今更私を尋ねてきたの?」
「さっきも言ったでしょ。顔見たくなったから」
「よっすぃ〜、飯田さんに休養もらってるやん」
「ウソはいけないのです」
「あ・・!なんでそれを」
「のんを甘く見てはいけないのです」

辻希美はかばんの中からノートパソコンを取り出した。

(こいつ・・・ホントに中学生かよ)

「ってかさ梨華ちゃん、2人に食べさせるお金ってどうしてんのさ」
「え?あぁ、知らなかった?ここのマンションは私のママの管理下なのよ。
 で、今は私が責任者としてまかせられてるわけ。
 だから、お金には苦労してないのよね」
「・・・・・・お前ら・・」
「「デメリットになるようなところには行かない」」

知らなかったのはひとみだけ。
実は梨華が組織にいるころから任されていて、
何度かそういう仕事の時にも使わせてもらっていたことがあったのだ。
110 名前:第5話 投稿日:2004/03/28(日) 15:36

「でもさ、もうひとみちゃんとは呼んでくれないんだね」
「呼んでほしい?」
「・・・わかんない」
「よっすぃ〜はもう、ひとみちゃんってがらじゃないです」
「すっかり男前に成長しよるしな」
「お前ら2人はいちいちうるさいんだよ!」
「「いひゃいいひゃい!」」

ひとみは希美と亜依のほっぺたをつねった。
もう前の自分には戻れない。
誰もがわかっていたこと。

「なんか久しぶりだね。4人でこうして騒ぐのなんて」
「気づけば組織のメンバーも変わってるしな」
「美貴ちゃんは元気?」
「梨華ちゃん、美貴知ってるの!?」
「知ってるもなにも私が紹介してあげたんだもの」
「えぇ!?」
「飯田さんも矢口さんも知ってることよ?あれ?よっすぃ〜知らなかったの?」
「うあ〜・・・また二人して黙ってたのかよ〜・・」
「あと、田中ちゃんにも会ったしね」
「えぇ!?聞いてないよ!?そんなの!」
「聞いてなくて当たり前。田中ちゃんは自分でここにやってきたんだもの」
111 名前:第5話 投稿日:2004/03/28(日) 15:37

田中が自分でここに?
どうしてまた・・・。

「むしろ私というよりはのんを尋ねてきたんけどね」
「どうして?」
「それは言えないわよ」
「・・・・でもなんで田中は辻がここにいることを知ってたのさ?」
「彼女の能力の一つだと思うけど、はっきりしない」
「のんのことは矢口さんに聞いたって言うから、
 尋ねてきたんだと思うけど」
「うちにはさっぱりな内容やったのに、
 田中ちゃんはなんか悟った感じやったしな」
「よっすぃ〜、田中ちゃんは飯田さんをも超えてしまうかもしれないわ」
「はぁ!?」

ひとみは素っ頓狂な声を出した。
あの田中が飯田をも越えてしまうかもしれないと、
梨華がばかげたことを言い放ったからだ。
ありえない。
組織のリーダーである飯田がそうやすやすと田中に超えられてしまうはずがない。
112 名前:第5話 投稿日:2004/03/28(日) 15:37

「そうさせないためには高橋を田中ちゃんと離す必要があるのよ」
「2人とも記憶がないんだよ?
 それに田中に何ができるっていうのさ」
「よっすぃ〜、記憶がない今だからこそ危ないのよ。
 無意識に力を使ってしまいかねないの」

力の暴走。
梨華はそう言った。
記憶がない今だから危険なのだと。
ひとみは、ずっと考え込んでいた。

***********
113 名前:第5話 投稿日:2004/03/28(日) 15:37

「え?吉澤さんいないんですか?」

高橋は声をあげた。

「そ、ちょっと休みをとってね」
「だけど矢口さん、この仕事に休みもなにも・・・」
「いいから!ちゃんと集中して!」
「は、はい」

高橋は、次々と己を狙ってくるボールをさらりとかわしていく。
身体能力だけは取り戻しつつあるようだった。
よっすぃ〜が休みを取ったのがなぜかだなんて。
圭織にしかわからない。

「よし、今日はこれで終りね」
「は・・・・はい」
「疲れた?」
「少し・・・」
「はは、あれだけやって少しだなんて答えれるなら、
 身体能力はばっちりだね」

チェック表に記入して、
ペンをポケットへとしまい込んだ。
114 名前:第5話 投稿日:2004/03/28(日) 15:38

「どう?最近は」
「どうって・・・まぁ特にこれといって・・」

相変わらず藤本とは険悪らしいが、
それでも前よりは仲良くなっているようだった。

「田中は?」
「え?」
「田中とはどう?」
「ん〜・・・最近はあんまり話してませんね」
「なんで?まだ同じ部屋なんでしょ?」
「なんていうか・・話し掛けても上の空って感じで・・・」
「・・・・・」

そういえば最近見かける田中の姿と言えば、
休憩室のベンチに座って何やら考え込んでいるところばかり。
115 名前:第5話 投稿日:2004/03/28(日) 15:38

「それに気づいたらいなくなってて・・」
「え?」
「さっきまで隣にいたのに、数秒後には姿がなくなってたりすることが増えたんです」
「それ!!いつから!?」
「え、いつからって・・・つい最近・・・」
「具体的に!!」
「えっと・・3日前くらいから・・・」
「あいつ・・・まさか!!」

梨華が恐れていたこと。
記憶がないゆえの力の暴走。
制限方法を覚えていない今、
何よりも気をつけなければいけないことだったのに。

力の共鳴。
目のみえないところで2人の力が膨大なエネルギーになろうとしている。
うかつだった・・。
記憶をなくしているとはいえ、
2人を一緒にするべきではなかったんだ。

「高橋!行くよ!!」
「え!?どこにですか?」
「いいからついてきて!!」

悪夢が、
再び訪れようとしている・・・。
116 名前:第5話 投稿日:2004/03/28(日) 15:39



****第5話 終了****
117 名前:丹羽 投稿日:2004/03/28(日) 15:42
とりあえず4話・5話と続けて更新しました。
まだこの段階では謎は謎のままです。
おいらも途中からちょこっとあれ?っていうとこがあったんですが、
まぁ後に問題はないのでそのままにしました。

第6話はがらっと変わりますので、
混乱がないようにしたいと思います。
長い間放置しててほんとすみませんでした。
これからはまたがんばりますよ!
118 名前:きん 投稿日:2004/03/28(日) 17:47
更新おつです
制御を知らないまま使ってるゆーても、田中さんは自分の意志で瞬間移動していたよーな…まわりが気付いてないだけなんかなー。次回から話がガラっと変わるってことですが、楽しみに待ってます
119 名前:六の目ダイス 投稿日:2004/03/28(日) 20:23
初!田中さんはどうなるんすかね?期待します。
120 名前:ポンコツろぼっと 投稿日:2004/04/14(水) 14:52
久しぶりにPCから登場・・・
れいな!!れいなが気になって夜も眠れないわ!!帝との関係性も(爆
と、とにかく頑張って!
121 名前:丹羽 投稿日:2004/05/12(水) 21:42
1ヶ月強も更新怠るとかどうよ、自分。
ってなわけでレスを。

きん様>そういうことではないんですよ〜。
    確かに田中さんは能力を自分の意志で使ってましたが(矛盾
    まぁ、それは後のお楽しみで。

六の目ダイス様>おぉ!!感想ありがとうございます!
        田中さんの行方は・・・どうなるんでしょう(ぇ

ポンコツろぼっと様>れなみき重視でw
          はい!とにかくがんばります!!

では、更新開始!!!
122 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:43



********
123 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:44



―どうして私は、君を思い出せないんだろう。―
124 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:44



「あ、気づいた?」
「ま・・・っくら・・?」
「あぁ・・・あんたの目な、見えなくなったらしいで」
「えぇ!?????」
「何かつらいことでもあったんとちゃうかって医者は言うとった」

声だけが聞こえてくる不思議な空間で、
私は夢を見ていた。
懐かしい。
誰かと笑いながら作業をしている。
自分らしき人。

「名前くらい言えるやろ?」
「お・・・小川・・・麻琴」
「小川さんな」
「あ・・あなたは?」
「うち?」

その声は、どこか迷った、だけど綺麗な声をしていた。

「うちは名無し」
「え?」
「名前なんて持ってないねん」
「なんでですか?」
「ずいぶん前に・・・なくしてもーたからかな」

記憶を忘れてきたんだと、声は言った。
関西弁らしいイントネーション。
だけど、いくらなんでも助けてもらっておきながら、
『あんた』と呼ぶことはできるわけがない。
125 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:46

「名無し・・・さん?」
「なんや?」
「今日はいつでここはどこなんでしょう」
「今日は4月24日、ここはうちの部屋」
「私は・・・どうやってここにきたんですか?」
「それはうちに聞かれてもわからへんわ。
 あんたはうちの家の前で倒れてたんや」

まぶたを上げる感覚はあるのに、
目の前に広がるのはただの暗闇。
だけれど、目頭が熱くなるのは手に取るようにわかって。
一筋の水が、私のほほを駆け下りた。

「ここは静かやし、めったに来客とかあらへんから、
 気軽にいいで。しばらくはあんたも動けへんしな」
「すみません、迷惑かけて」
「いいって。困った時はお互い様」

ははって、乾いた声が聞こえた。
名無しさんはたくさん物事をしっていて。
大抵の質問には答えてくれた。
政治のこと、経済のこと、芸能関係のこと、
そして裏世界のことまでも。

「表向きはそこまで儲かっているような感じはせんのやけどね、
 裏を覗けばそこは殺戮の世界」
「よく知ってるんですね」
「こんなん普通にネットとか開けば調べられるわ」
「パソコン持ってるんですか?」
「一応」
「・・・・メールも出来ます?」
「そりゃあね」
「あの・・お願いしても・・・いいですか?」

あの人がまだ代わらずにあれを持っているのなら、
お願い。彼女を助けてあげて。
126 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:47


「な、ご飯は何がいい?」
「え・・お任せしますよ」
「ダメやって、客人やし、食べたいものなんでも言ってや」
「でも・・・・」
「なら、うちの好きなんでいい?」
「・・・えぇ」
「今日はもうすぐあと1人帰ってくるから」

同居人なのだと、名無しさんは言う。
私を見つけたのもその人なのだと。
お礼を・・言わなくては。

「ただいまぁ〜」
「おかえりぃ」
「あ、気がついたんだ」
「そ、小川ちゃんって言うんやって」
「ふ〜ん、あ、見えないんだったっけ」
「そう、せやからちゃんと彼女のところで自己紹介しとき〜や」

見えない何かが、会話をしている空間は、
それは不思議な空間で。
自分だけが取り残された気分になった。
と、何かが私の手に触れて。

「初めまして。私は・・・ん〜っと・・あややって呼んで」
「は?」
「名無しから聞いたでしょ?私も同じ。名前なんてないの」
「それで・・どうしてあやや?」
「近くに落ちてたチラシにね、載ってたのを使わせてもらってるだけ」
「そうなんですか・・」
「あやや、ご飯運ぶの手伝ってや」
127 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:47

名無しさんがお皿を持っているのか、
カチャカチャと音がする。

「ごめんごめん」

あややさんはすぐに立って、
名無しさんに駆け寄るのがわかる。
というか、お礼を言い損ねた?もしかして。

「よし、じゃあ食べようかな」
「ちょっとまった。小川ちゃんが食べれないじゃん、これじゃあ」
「あ、そやな」

よいしょと、声が聞こえて。
すぐそばで何かを置く音がした。

「小川ちゃんには私が食べさせてあげるから」

あややさんが言う。
そっか、動けない私に合わせてくれてるんだ。

「ほい、口あけて〜」

言われた通りに口をあけると、
何かが口の中へと飛び込んだ。
最初は熱くて、思わず吹きだしそうになったけれど、
徐々に慣れてきた。

「おいし〜」

素直な感想。

「まぁ、あややよりはできるから」
「あ、名無しめ!」
「ほらほら、小川ちゃんが待っとるから」
「んもう、覚えてろよ?」

関西弁の名無しさんと、ちょっと声がかわいいあややさん。
2人はどこか不思議なオーラを発していた。
128 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:48

「ねぇねぇ、小川ちゃんは恋人とかいるの?」
「え?・・いません・・ねぇ・・」
「なんや、その間は」
「や、ちょっと思い出してまして」
「あややはさぁ、そういう記憶が全然ないから
 憧れるんだぁ。誰かと付き合うの」
「うちかてそうやけどなぁ、なんや疲れそうや」
「おばさん」
「うっさい」
「2人はずっと一緒なんですか?」
「いや、うちは最初からここに住んどってんけどな、
 こいつが転がり込んできてん」
「仕方ないじゃん、行くとこもなくて犬に追いかけられたんだもん」
「な?理由がわけわからんやろ?」
「確かに・・っぷ・・・」
「あ、笑った?小川ちゃん、今笑ったでしょ!」
「や・・あの・・すいませ・・ん・・っくく・・」
「あややの感覚がわからへんねんて、小川ちゃんには」
「なんでよ〜、ホントなんだからぁ」
「あ・・っは・・・・あややさんって・・オモシロイ・・・」

笑いが止まらない。
どうやら私はわけがわからないことに反応してしまうみたいだ。

「あは・・あははは・・っくく・・・」
「あかんわ、小川ちゃん、笑いとまらんようなってしもうた」
「なぁにがおもしろかったのかなぁ?」
「あんたの存在自体とちゃうの?」
「どうしてそうなるのぉ」
129 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:48

止まっていた時間が、
ゆっくりと私の中で動き出す。

『ドクン』

胸の奥から湧き上がる熱いこの気持ちはなんなのだろうか。
この奮い立つような燃え滾る感情は。
私は、もう誰も殺したくはないのに・・・。

『ガチャン』

「ど・・どないしたんや?」
「あ・・あ・・・」

思い出したくない。
お願いだから、もう出てこないで。
もう誰も私に殺させないで。

『小川』

『圭織を殺すの?』

『やめて、まこっちゃん!』

『麻琴!!やめなさい!』

お願い。お願いだから。

『力を暴走させるのは、君が弱いから』

『好きやよ?麻琴』

もう、私は・・・普通ではなくなってしまったんだ。

『生きてたら・・・また会おうね・・・』

そう・・私は・・・君を・・・・。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
130 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:49



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131 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:49


「は?家が一つぶっ飛んだって?」
「そ、それがうちらのせいになってんだけども、どうする?」
「濡れ衣着せられたままってのも・・」
「圭織、動くなら今しかないと思うよ?」
「・・・・・・・・・」

この気配、きっとあの子に間違いはない。
間違いはないけれど、確証はない。

「・・・わかった。よっすぃ〜を連れてきて」
「圭織、よっすぃ〜は今休暇中でしょ?」
「いいから。呼ぶの。っていうか呼びなさい」
「わかったよ〜、わかったからにらまないで。怖いから」

矢口は、しぶしぶ部屋から出て行く。
後に残ったのは、藤本と高橋の2人だけ。
紺野は多分部屋にこもって実験か何かしているんだろう。

「田中は?」
「知りません」
「私も・・・今日はまだ見てません」
132 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:49

テレポーテーション
田中の能力の一つ。
ここにやってきて、一つ一つ能力を開花させていった田中だったが、
ここのところ能力の使い方が乱暴すぎていた。
この前、矢口と高橋がここに走り込んできた時だって、田中はいなかった。

『消えた』

2人は言った。
コントロールし切れなくなっている。
そう考えるのが妥当だ。

「圭織〜、よっすぃ〜あと15分くらいで来るってさ」

携帯をしまいながら矢口が部屋に入ってくる。
力の共鳴。
高橋と出会ったことで、田中の何かが目覚めてしまった。
あの時、確かに矢口はそう言ったんだ。

「そう、ありがとう」
「圭織、大丈夫?」
「え?どうして」
「だってさっきからずっと黙り込んでるし」
「飯田さんが黙り込むのはいつものことじゃないですか」
「藤本、怒るよ?」
「冗談で〜す」

藤本はおちゃらけるように言う。
高橋はさっきから黙ったまま。
やはり、高橋は石川の元へと預けた方がいいのだろうか。
悪夢が再び起こる前に。
133 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:50



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


134 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:50

気づいたら病院だった。
辺りを見まわして後藤さんの姿を見つける。

「まぁたハデにやっちゃったねぇ、小川」
「ご・・・後藤さん・・」
「安心しなよ、一緒にいた2人は無事だからさ」

名無しさんにあややさん。
助けてもらったのに、
私はなんてことを・・・・。

そこで自分の異変に気づいた。

「見える・・・・?」
「お医者さんが爆発の衝撃で変化が起こったんだろうって言ってたけど」
「変化・・・・?」
「ま、ごとーにはよくわかんないけどね」

後藤さんはそのまま近くにあった椅子に腰掛ける。

「ごとーがわかるのは、小川は危険因子ってことぐらいかな」
「危険・・・いんし・・・?」
「感情の高ぶりによる『力』の暴走、無意識のうちにモノを破壊してしまう能力、
 野放しにしておいたら全世界を壊滅に追いやりかねない人物のこと」
「わ・・・私が・・・?」
「そ。もっとも、梨華ちゃんとよっすぃ〜は知ってたみたいだけどね」
「なんで・・・教えて・・・」
「教えてくれなかったのかって?もし教えたとして小川はなんかできるの?」
「それは・・・・」
135 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:52

すぐに答えられなかった。
自分はいてはいけない人間なんだって。
それがすごく・・・痛かった。

「あ、そうだ」
「はい?」
「高橋・・・生きてるってさ」
「ホントですか!!!???」
「圭ちゃんの情報網はカンペキだからね」

よかった。
殺してなど・・いなかったんだ。
よかった・・・ホントによかった・・・。

「だけどね、記憶をなくしてるって」
「え?」
「今までのことぜ〜んぶ憶えてないんだってさ」

後藤さんは持っていた缶ジュースを飲み干す。

私は、何を間違えたんだろう。
あの時、私はなんて言った?
彼女は、なんて言った?
私は、何をしようとした・・・・・・・?
136 名前:第6話 投稿日:2004/05/12(水) 21:53


****第6話 終了****


137 名前:丹羽 投稿日:2004/05/12(水) 22:01
というわけで久しぶりに第6話を更新。
やっとこ小川さんとうじょ〜。
そしてごとーさんもとうじょ〜。
名無しさんとあややさん。
この2人はね、多分だれでも分かると思いますが、
あややさんがあの人だとは決して限りませんのであしからず。
場面展開も早いです。
さてさて、次の更新はいつになるのやら・・・(ぇ
138 名前:きん 投稿日:2004/05/13(木) 01:46
ハァ━━;´Д`━━ン!!更新キタ━━(゚∀゚)━━!!!
危うく見逃すトコやった♪
いったい何が起こってるのやら…
139 名前:ポンコツろぼっと 投稿日:2004/05/21(金) 03:52
更新待ってましたよ〜
人が増えて深まる世界と謎…うぅむ奥が深い!
焦らず騒がすマターリお座りしてるんで
じっくり更新頑張って下さいな
140 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/08(木) 19:07
初めから一気に読ませて頂きました。
小川さんを取り巻く人間関係が興味深いです。
更新、待ってますので頑張ってください。
141 名前:丹羽 投稿日:2004/08/02(月) 13:30
2ヶ月・・もう3ヶ月放置しまくりですみません。
とりあえず今回は第7話を少しだけ更新したいなと。

きん様>更新遅すぎてほんと申し訳ないです(汗

ポンコツろぼっと様>奥が深すぎてきてるおいらが混乱してきております(ダメじゃん
とりあえずがんばりますよ!

名無し飼育様>はわわ(汗
こんなお話を読んでくださりありがとうございます!
このお話は一応高橋さんと小川さんメイン(実は)なので、
なんとか早く2人を鉢合わせたいなと思うております。
更新がんばりますね!
142 名前:第7話 投稿日:2004/08/02(月) 13:31






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143 名前:第7話 投稿日:2004/08/02(月) 13:32

空は今日も蒼い。
まっさらで雲一つない。
病院の屋上からそれを眺めながら、
後藤さんの言葉を頭の中でリピート。

『野放しにしておいたら全世界を壊滅に追いやりかねない人物』

すでに滅亡の道をひた走っている世界を思えば、
私はただのきっかけにすぎないのかもしれない。
だけれど、私のせいで大切な人がいなくなるのは嫌だ。

「要注意人物なわけか・・・私は」

ため息を一つ。
地面に落とした。

誰が悪いわけでもない。

「なにたそがれてんのさ」

懐かしい、凛とした声。
忘れるわけがない。
144 名前:第7話 投稿日:2004/08/02(月) 13:32

「よ、吉澤さん!!!」
「全く、ごっちんはどういうつもりかねぇ?」

吉澤さんがつかつかと歩み寄ってきて。
私は思わず首をすくめた。

(たたかれる!!)

だけど、予想は外れて。
吉澤さんは私の横に立った。
相変わらず綺麗な横顔だ。

「ごっちんがね、居場所(ココ)教えてくれたんだ」
「え?」
「ホントは梨華ちゃんも来たがってたんだけど」
「・・・・・」
「それは困るっしょ?あんたもさ」
「・・・・はい」

合わす顔がない。
あの人にはとてもよくしてもらったのに。

145 名前:第7話 投稿日:2004/08/02(月) 13:33


「ま、そんな沈むなって」

優しくしてくれる吉澤さん。
私は責められても仕方ない存在なのに。
なんでそんなに優しくしてくれるんですか。

「ホントはね、小川のこと・・殺さなくちゃいけないんだ」
「・・危険因子・・だからですか」
「知ってたんだ」
「後藤さんから・・・」
「・・・・だけどね、今はそういうの抜きにして会いにきたから」
「え?」
「それに小川を殺しに来るのはよしざーじゃないし」

146 名前:第7話 投稿日:2004/08/02(月) 13:34







一呼吸おいた吉澤さんの口から出たのは

「殺しに来るのは高橋だから」

衝撃的な言葉だった。





147 名前:丹羽 投稿日:2004/08/02(月) 13:35
一応ここまで(汗
み・・・みじか!!!
すいません、ストックがあんまりないもので(滝汗


辻加護卒業でちょっと凹んでたりします(爆
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/03(火) 19:13
更新お疲れ様でした!
小川さん高橋さんがメインですか!
この二人の関係どうなってるんだろうって思ってたので嬉しいです。
焦らず、まったり待ちますので丹羽さんのペースで頑張ってください。
149 名前:きん 投稿日:2004/08/04(水) 02:48
う〜ん、更新待ってました!最初から読み返したけどやぱ面白いデス

気になるところは色々あるけど、ネタばれになりそうなんで…
とりあえず、れなみきに何かを期待して待ってます♪
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/05(土) 18:56
待ってます…

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