異神の時
- 1 名前:【発動】 投稿日:2004/01/20(火) 02:10
-
「サード・パワー発動!!」
何処からともなく聞こえてきた少女の声。
その声に反応する様に、ここ横浜アリーナの上空に光の渦が現れる。
光の渦は収束していき、徐々に人の形を成していく。
そして、光が消えた後には蒼い騎士がその姿を現わした。
それは西洋の甲冑の様な姿をしており、背面からリング状の突起物がせり出している。
正面から見ると、蒼い粒子状の光を放つそのリングは後光を放つ東洋の仏像の用にも見える。
そして、東西両方の姿を併せ持つその姿は内包する精神的な力強さと洗練された武具の鋭さ
を併せ持った、まるで神話の世界の騎士の様である。
蒼い騎士が眼下を望み見ると横浜アリーナが静かに佇んでいる。
先程まで、あるアイドルグループのコンサートが開かれており、その場に集う人々の熱気で周辺
は喧騒に包まれていた。
しかし、今はコンサート終了後の祭りの後にも似た微妙な寂寥感に包まれ、道を行きかう人々や
建物さえも心なしか寂しそうに見える。
そんな光景を眺めていた蒼い騎士は次に上空を見上げると、右腕を真横に突き出した。
すると、そこには先ほどと同じ、がしかし一回り小さい光の渦が現れ右腕を飲み込んだ。
- 2 名前:【発動】 投稿日:2004/01/20(火) 02:11
-
刹那!!上空で光が弾ける。
光は無数の火の玉となり横浜アリーナに向かって降りそそぐ。
突然起きた異変に、人々は上空を指差しながら口々に何かを叫び始めている。
蒼い騎士は上空から降り注ぐ火の玉を兜の奥の双眸で睨み付け、光の渦から右腕を引き抜く。
すると、その手には自らの身の丈程もある馬上槍(ランス)が握られていた。
蒼い騎士がランスを頭上にかざす。
すると、それは不思議な振動音を発しながら虹色に輝き始めた。
「位相転換!!」
再び聞こえた少女の声に反応し、虹色の光は爆発的に膨れ上がっていく。
光は数百メートルに及ぶ範囲を全て包み込むと突然収束しいき、やがて消えさってしまった。
光が消えると蒼い騎士と無数の火の玉もその姿を消しており、後には何事も無かったかのよう
に静かな町並みに横浜アリーナがたたづんでいた。
- 3 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/20(火) 02:13
-
「ジュ・バイフ!! 避けて!!」
上空から迫る火の玉を巧みに避けながら、蒼い騎士は前方の岩山に向かって飛んでいく。
その動きは慣性を無視したかのような急旋回を繰り返し、ジグザグの軌道を描いている。
眼下には広大な森林地帯が広がっていたが森の濃い緑は降り注ぐ無数の火の玉によって
赤い火の海へとその姿を変えていた。
そんな中で、前方の岩山の周辺だけはその浸食を受けていないように見える。
それどころか明らかに降り注ぐ火の玉はその周辺を避けているようだ。
「特殊なエネルギーフィールドが張ってあるの? だとすれば本体はあそこに。
どう思うジュ・バイフ?」
少女は蒼い騎士の中で、前方の岩山を映し出しているモニターを見ながら誰にともなく呟いた。
黒よりも少しだけ明るい髪の毛をストレートに伸ばし、少し垂れた大きな瞳に、ふっくらとした頬。
小さな口から洩れる声も細く、その印象はおっとりした大人しい少女といった感じである。
しかし、そんな外見とは裏腹に、その双眸には強い意志の光が宿っている。
- 4 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/20(火) 02:14
-
「....そう....貴方もそう思うの? なら...いく!!」
少女はそう宣言すると、自らジュ・バイフと呼んだ蒼い騎士を駆り、ランスからエネルギー弾を
岩山に向かって撃ち込んでいく。
何発めかのエネルギー弾を発射した後、ジュ・バイフを急停止させると、左手を前方に突き出
して円形のエネルギーシールドを出現させた。
「やれた...の?」
既に上空からの攻撃は止んでおり、辺りは森の燃える音以外いっさい聞こえなくなっている。
少女はシールドとランスを構えた姿勢のまま、ジュ・バイフを徐々に岩山へと接近させる。
既に攻撃は止んでいたが空間に漂う殺気が薄れることはない。
それどころか、その禍々しき殺気は徐々に増しているようにさえ感じられる。
いや、実際それは強烈な殺気と憎悪とを周囲の空間に撒き散らし始め、急速にその存在感を
現し始めた。
- 5 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/20(火) 02:16
-
「くっ...!! ジュ・バイフ...怖がってるの?」
少女の中にジュ・バイフの意思が流れ込んでくる。
自分自身の存在をかき消してしてしまう程の圧倒的な存在感。
そんな存在から放たれる殺気と憎悪は、少女の意識をも徐々に侵食していく。
「くっ..負けないで...あなたは一人じゃないんだから、私が..いる!!」
少女は自らの恐怖を振り払うかのようにジュ・バイフに向かって語りかけると、自身の精神力
を総動員して、前方の岩山へとジュ・バイフを接近させる。
自身が恐怖に打ち勝てなければジュ・バイフにも伝わってしまう。
同調者である少女の強固な意志のみが生命体であるジュバイフの精神を安定させる。
そして、その状態でなければ十分に力を発揮することが出来ないのだ。
- 6 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/20(火) 02:18
-
「!! くる!!」
岩山周辺の大気が揺れる。
明らかに、大気の濃度が増したように感じられる。
実際その力は物理的にジュ・バイフを押えつけようとしていた。
「うっ...動けない!!」
ジュ・バイフの中で、少女は苦しげにうめく。
徐々に岩山が崩れ始め、その隙間から炎かあふれ出す。
つぎの瞬間、岩山が粉々にはじけ飛んだ。
すると、中から深紅の炎を纏った竜が姿を現した。
その姿は西洋の物語に出てくるドラゴンそのものの姿をしている。
違うのは蝙蝠のような翼ではなく炎の翼を持っていること、そして頭部に生えた二本の角
もまた炎を帯びていること、正しく破滅をもたらす炎の化身の様である。
生きとし生けるもの全てを燃やし尽くす破壊の炎。
それ自体が意思を持っている。 破壊、憎悪、怒り、それらが具現化した力の象徴。
その視線に触れただけで身も心も焼き尽くされてしまうような、そんな錯覚を起こしてしまう。
- 7 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/20(火) 02:19
-
(熱い...体が...心が燃えてしまいそう)
ジュ・バイフを押さえつける力とは別に、少女自身を蝕む強烈な破滅への意思。
少女は自らの意思を保つことさえ困難な精神状態に追い込まれていく。
炎の竜は、その翼を一振りすると巨体を中に浮かせた。
そして、徐々に翼と角が深紅の光を増していく。
炎の竜は憎悪の眼差しをこちらに向けると次の瞬間、咆哮を放つ。
すると、先程とは比べ物に成らないほど高純度の巨大な火の玉を吐き出した。
(くっ...もう駄目!! 避けられない!!)
少女は、その眼差しを閉ざすと次の瞬間訪れるであろう破滅に身を任せた。
- 8 名前:【横浜アリーナ】 投稿日:2004/01/20(火) 02:21
-
「ちょっとー!! 紺野が居ないよー!!」
ここ、横浜アリーナの楽屋で高い声を更に高くして石川梨華が叫んでいる。
先程まで開かれていたコンサートも無事終了し、モーニング娘。のメンバー達は既に衣装から
私服へと着替えており、帰る準備は出来ていた。
しかし、紺野あさ美だけがその場に居ないのだ。
「もー、また紺野なの!! どーしてあの子はいつも居なくなるのよー!?」
度々居なくなる紺野に、リーダーの飯田が怒り心頭である。
「そう言えば!! あさ美ちゃん、衣装のまま着替えてないんじゃ!?」
既に他のメンバーは飯田と目が合わない様に、部屋の隅で荷物を纏める振りをしているのだが
高橋だけが逃げ遅れたのか、飯田の話に真面目に答えている。
「大体ね、かおりは思うの。五期メンバーも、これからは娘。を引っ張っていってくれなきゃいけ
ないって。高橋は一番年上なんだから、そーゆーところをしっかりしてくれないとね。」
いつの間にか紺野の代わりに説教を聞かされているのだが、根が真面目なのか真剣に話を
聞いて、力いっぱいうなずいている。
- 9 名前:【横浜アリーナ】 投稿日:2004/01/20(火) 02:22
-
「でも〜紺野ったら何処行っちゃたんでしょうね? 矢口さん」
「えっ!! う〜ん...おいらにゃ分かんないや」
「でも汗だってかいてるし、風引いちゃいますよ〜あんなかっこのままじゃ〜」
最初に叫んだ石川はと言うと、いつの間にか微妙に飯田の視線から外れる位置に移動して、
矢口と何やら話し込んでいる。
「まあ、確かにほっとく訳にも行かないか。 よしっ!! おいら紺野探してくるから石川はあっち
お願いね」
そう言って飯田のほうを指差しながら、矢口は楽屋を飛び出していく。
「そんな〜!! ずるいですよ、矢口さ〜ん」
- 10 名前:【横浜アリーナ】 投稿日:2004/01/20(火) 02:24
-
「も〜、また何か遭ったのかよ〜。 紺野...無事だと良いけど?」
楽屋を飛び出した矢口は廊下を走りながら呟いた。
そもそも、石川にはああ言ったが矢口には心当たりがあった。
だから、実を言うとかなり焦っているのだ。
「もー!! 何処にいんだよー!! 紺野ー!!」
- 11 名前:月オオカミ 投稿日:2004/01/20(火) 02:35
- こんな話をまったりとやって行こうかと思います。
人に見せるには初めてなので緊張しますが、頑張って書いて
いこうと思います。
更新はゆっくりかと思いますが、以後よろしくお願いします。
- 12 名前:聖なる竜騎士 投稿日:2004/01/20(火) 16:45
- どうも初めまして。
同じく空板で小説を書いている「聖なる竜騎士」です。
どうやら読ませていただくと、紺野が主人口の現代ファンタジーっぽい小説
ですね。
なにやら最初から、派手な展開になってこれからのストーリーが気になります。
「ジュ・バイフ」って一体、なんですかね?
謎も多い小説ですね。
これから更新楽しみにしています。頑張って下さい。
- 13 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/20(火) 18:06
- おもしろそうです。
続きに期待w
- 14 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/29(木) 15:08
-
紺野あさ美の意識は闇に沈もうとしていた。
自らに訪れようとしている破滅の瞬間に備え、苦痛を和らげる為の自己防衛本能が
働いたのだろう。
あとは肉体が滅びるのを待つだけ。
いや、そんな感覚さえも既に無くなろうとしている。
このまま行けば、間違いなくその瞬間は訪れるだろうと言う時、それは起こった。
『...一人じゃない......僕らは、この世界で......生きていく...♪♪』
(歌!?...懐かしい歌...誰の声?)
『そのままで.....約束.......意味は無い.......♪♪』
- 15 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/29(木) 15:10
-
微かに聞こえて来る歌声が、紺野の心を包み込む。
業火に包まれ燃え尽きようとしていた紺野の心を優しく包み込み、繋ぎ合わせていく。
消滅へ向かって薄れかけていた紺野の意識が、徐々に目覚めていく。
「!! ジュ・バイフ !!」
紺野の声に反応し、ジュ・バイフの兜の奥の眼が光る。
「セカンド・パワー発動!!」
再び叫んだ紺野の声に反応し、ジュ・バイフの背中のリングが蒼い粒子状の光を放ち始める。
蒼い光の粒子は背面のリングを旋回し始め、徐々にその光を強めていく。
その光が最高潮に達すると、蒼い光のリングはジュ・バイフを追い越して前方に展開した。
- 16 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/29(木) 15:11
-
「いけ―――っ!!」
紺野は掛け声とともに、ジュ・バイフを光のリングに向かって突進させる。
リングを通過した瞬間、ジュ・バイフは光の弾丸と化した。
蒼い光の弾丸と化したジュ・バイフは竜の発した火の玉に向かっていく。
巨大な火の玉と蒼い光の弾丸が衝突した瞬間、大気が揺れ衝撃波は下方の木々をなぎ倒す。
両者の力は拮抗し、激しくせめぎあっている。
「くっ...ま...けないっ!!」
ジュバイフの纏った蒼い光は高速で回転し始めると、徐々に火の玉を押し戻し始める。
炎の竜が苦しげに呻く。
しだいに竜の翼と角の炎がその光を失っていく。
- 17 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/29(木) 15:13
-
瞬間!! 火の玉は轟音を発し四散した。
「まだ!!」
火の玉を打ち破った蒼の弾丸は、そのまま炎の竜に向かって突進していく。
竜は炎の翼を広げると自らの体を覆い隠した。
瞬間!! 蒼い光と深紅の光が衝突する。
一瞬、両者の力は拮抗したが、次の瞬間には蒼の弾丸が炎の翼を打ち破っていた。
炎の翼を突き破った蒼の弾丸は急停止すると、身に纏った光が弾け中から蒼の騎士
ジュ・バイフが再びその姿を現した。
「勝った....の?」
紺野がそう呟くと、竜の纏う炎は徐々に薄れていき、灼熱の溶岩が冷え固まっていくように
黒い岩石へとその姿を変えていく。
そして、炎が消えると共に徐々にその巨体は崩れ去っていった。
「勝てた...でも、さっきの歌は一体?」
紺野は自らの腕で自分自身を抱きしめ、あの瞬間に聞こえてきた歌を思い出す。
幼き日に母親に抱かれた時の様な、暖かくて安心できる感覚。
厳しさの中にも優しさを持った、先輩達の叱咤激励。
無知なる者に教えを諭す、賢者の言葉。
それらを全て併せ持った、あの歌が聞こえなければ、紅蓮の炎に焼かれていただろう。
「...とにかく...戻ろう、皆のところに」
- 18 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/29(木) 15:14
-
蒼の騎士ジュ・バイフが再び虹色の光と共に消え去った後、闇色の霧が現れる。
その闇色の霧は周辺の光を飲み込むように、徐々にその濃度を増していく。
下方で燃える木々の炎も霧に包まれ、燃えているのに光を失っていくとゆう矛盾した状態
に陥っている。
「あれが異次元擬甲生命体、蒼の騎士ジュ・バイフか...フッ! 噂ほどでは無いな」
闇色の霧の中から聞こえるのは闇色の声。
声に籠められているのは嘲りと嘲笑の響き。
「しかし、あの者に幾度となく我等が侵攻を邪魔されております」
「だからこそ、不甲斐ない貴様らに代わり我が呼ばれたのであろう」
「くっ! 帝の仰せで無ければ、貴様などに!!」
「ファハハハハハ!! 不服か!?」
「そうは言っておらん!!」
闇色の霧の中に紫電が走り、電光を纏ったローブ姿の人影が現れる。
それと相対するように、霧は渦を巻きながら人の形を成して行く。
そして、闇色の霧は漆黒の鎧を纏った漆黒の騎士へと変化を遂げた。
- 19 名前:【時界の森】 投稿日:2004/01/29(木) 15:15
-
漆黒の鎧騎士と、電光を帯びたローブ姿の二人の魔人が対峙する。
周囲の空間が張り詰め、燃え残った木々も恐怖に震えるように鳴動する。
闇色の霧を紫電が切り裂き、逆に霧は濃度を増しそれを覆い尽くす。
一瞬、両者は攻めぎ合うが、紫電はすぐに消え去りローブの魔人も一歩引く。
空間に張り詰めていた緊張が薄れ、両者の間に漂っていた一触即発の雰囲気も消え去った。
「まあよい! 精々足元をすくわれない事だな!」
そう言うとローブの魔人の姿が薄れていく。
「帝の期待を裏切らない事を祈っているよ。 暗黒騎士殿!」
今度こそ、ローブの魔人が消え去ると、漆黒の鎧騎士は自らも徐々に霧へと姿を変えていく。
「言われるまでも無い!! 我こそが帝の宿願を叶え、我が民を救済する者!!」
「この暗黒騎士グードゥーがな、ファハハハハハハ!!」
- 20 名前:【横浜アリーナ】 投稿日:2004/01/29(木) 15:17
-
矢口真里はアリーナの廊下を走りながら、紺野の秘密を知った時の事を思い出していた。
「紺野...また...戦ってるの?」
(あの時、垣間見た裏の世界。 紺野が居なければ、おいらは戻って来れなかった)
「また、あの時みたいに!?」
- 21 名前:【アナザーワールド−渋谷−】 投稿日:2004/01/29(木) 15:18
-
「も〜、どこなんだよ〜ここは? 何で、誰も居ないんだよ〜?」
矢口真里は目に涙を溜めながら、渋谷の街を彷徨っている。
夜の渋谷の街並みは明らかに何時もと様子が違っていた。
普段なら人通りの絶える事が無い表通りにも、人っ子一人居ない。
それどころか、車も走っておらず建物の中に人影さえ無い。
「何なんだよ〜!? 誰も居ないし、月も赤いし、気持ち悪いよ〜!!」
「うっ...やだよ〜圭ちゃんも梨華ちゃんも何処行ったんだよ〜!?」
どんなに叫んでも誰も居ない、この世界に居るのは自分独りだけ、そんな思いに矢口の
心は張り裂けそうだった。
泣き疲れて、これ以上歩く気力も無くなった矢口はビルの隙間にしゃがみこむ。
赤い月明かりに照らされた街並みが、まるで血を流しているように見える。
それは、矢口の恐怖心を更にかき立てて行く。
「も〜やだ〜〜!!」
しゃがみ込み頭を抱えて、もうこれ以上何もする気力も無くなってしまった矢口は、虚ろな
目で地面を眺めながら心を閉ざそうとしていた。
- 22 名前:【アナザーワールド−渋谷−】 投稿日:2004/01/29(木) 15:19
-
(何で、こんな事に成ったんだろう? あの時、圭ちゃんと、梨華ちゃんと一緒に映画館に
居たはずなのに。 あの時、映画館の中で不思議な耳鳴りがして、スクリーンが光って、
目を開けたときには皆居なくなって....そうだ! 映画館の前で、なっちに会ったんだ、
も〜会えないのかな...皆は無事だと良いけど...おいらはも〜)
「グルルルルルル」
「ひゃ!! なに!? 」
「グルルルルルルルルルル」
「何だよ〜!?」
何処からともなく、地の底から響くような唸り声が聞こえてくる。
獲物を狩る肉食獣の唸り声を発しながら、その気配は矢口のもとに近づいて来る。
「死ぬ?...も〜いいよ!」
恐怖と絶望で麻痺した心は全てを諦めてしまったようだ。
自らの命さえも...
- 23 名前:【アナザーワールド−渋谷−】 投稿日:2004/01/29(木) 15:20
-
『..口さん...矢口さん...矢口さん!!』
「...紺野?」
『すぐ行きます! だから諦めないでください!』
頭の中に直接響いてきた紺野の声。
矢口の虚ろだった瞳に光が戻る。
先程までの絶望感が嘘のように、引いて行く。
仲間の声が、独りじゃないとゆう思いが、矢口にとっては何よりも掛け替えの無い物。
『矢口さん、立って!! そこから離れてください!!』
「紺野!! どこ! どこに居るの!?」
『早く!! 走って!!』
紺野の声に押されるように、矢口は走り出す。
その瞬間、背後に先程の何倍もの獰猛な気配が現れた。
矢口は振り返らずに、全力で走る。
「グウオオオオオオ!!」
「うっさい!! 死ね、ボケ!!」
矢口は獣の咆哮に悪態をつく。
先程度とは違う、立ち直った矢口は生命力に満ちている。
この世界に自分が独りじゃないと分かった以上、絶望などしている場合じゃない。
- 24 名前:【アナザーワールド−渋谷−】 投稿日:2004/01/29(木) 15:22
-
背後から飛び掛ってくる気配を感じ、矢口はとっさに目の前のビルに飛び込む。
獣はガラスを突き破り、矢口を追ってビルに飛び込んでくる。
「うお〜! まじ!?」
振り返った矢口の目に映ったのは、全長5メートルは有ろうかという角の生えた狼。
さらに背中からは無数の刃が生えており、その姿は正しく地獄の魔獣と言った感じである。
魔獣は深紅の目を矢口に向け、今にも飛び掛ろうとしている。
飛び込んだビルはホテルだろうか、1階は吹き抜けのロビーになっている。
とにかく奥に入ってしまえば、あの巨体では追っては来れまい。
矢口はジリジリと後退り、一気に走り出した。
次の瞬間、やな気配がした矢口は前方に倒れこむ。
「ひえ〜あっぶね〜」
倒れこんだ矢口の僅か数十センチ上の壁に、刃が深々と突き刺さっている。
どうやら、魔獣は背中の刃を飛ばせるようだ。
間獣の背中に再び刃が生えてきた。
今度も避けられるとは限らない。
むしろ、最初の刃を避けれた事自体が奇跡と言ったもいいくらいだ。
- 25 名前:【アナザーワールド−渋谷−】 投稿日:2004/01/29(木) 15:23
-
魔獣の背中から無数の刃が飛び出す。
それは、放射状に放たれ今度こそ逃げ場は無い。
「諦めない!! また皆に会うんだ!!」
そう矢口が叫んだ瞬間、目の前に蒼く光る円形の盾が出現する。
「なに!?」
魔獣から放たれた刃は盾に弾かれ、矢口を切り裂くことは出来なかった。
矢口が目を開けると、左手を前方の光の盾にかざし、こちらを振り返り微笑んでいる
紺野あさ美の姿がそこにはあった。
「おまたせしました...矢口さん!」
- 26 名前:月オオカミ 投稿日:2004/01/29(木) 15:41
- >>12
聖なる竜騎士さん、早速有難うございます。
色々謎は有るのですが、自分の力量で考えた設定をちゃんと
消化出来るか不安だったりします。
それでは、今後ともよろしくお願いします。
>>13
名も無き読者さん、どうも有り難うございます。
ゆっくりとは思いますが、ご期待に沿えるように精進します。
- 27 名前:名も無き読者 投稿日:2004/01/29(木) 16:09
- 更新乙彼デス。
スピード感があって楽しいですw
これからもついて行くんで作者サマのペースで頑張ってくらさい。
では次回までマターリお待ちしてます。。。
- 28 名前:月オオカミ 投稿日:2004/02/10(火) 01:15
- 25レスは間違いです。
すいません、直す前のを載せてしまいました。
それでは、続きを更新します。
- 29 名前:【アナザーワールド−渋谷−】 投稿日:2004/02/10(火) 01:18
-
再び魔獣の背中から無数の刃が打ち出された。
それは放射状に放たれ、今度こそ逃げ場は無い。
「絶対、諦めない!! 皆に、また会うんだ!!」
矢口がそう叫んだ瞬間、目の前に蒼く光る円形の盾が現れる。
魔獣から放たれた刃は光の盾に弾かれ、矢口を切り裂くことは出来なかった。
矢口は自らを護ってくれた光の盾を、信じられないと言った面持ちで見つめながら、
いきなり起きた奇跡に目前の魔獣のことを一瞬忘れていた。
「グルルルルルルル」
魔獣が憎しみの眼差しを矢口に向けながら唸る。
否、矢口の後ろを睨み付けているようだ。
「えっ! なっ….なに!?」
矢口が後ろを振り返ると、そこには左手を前方の光の盾にかざし、決然たる眼差しで
魔獣の双眸を睨み付ける紺野あさ美の姿があった。
「お待たせしました、矢口さん!」
紺野あさ美はそう言って矢口に微笑んだ。
- 30 名前:【アナザーワールド−渋谷−】 投稿日:2004/02/10(火) 01:20
-
「こっ…紺野!? 何で…どっ、どうして!?」
「話は後です! 今はアイツをやっつけなくちゃ!!」
紺野はそう言って上げていた左手を振り下ろし、前方の光の盾を消すと、今度は右手を
振り上げて叫んだ。
「!! ジュ・バイフ !!」
その声に反応して、紺野のすぐ後ろに蒼い光の渦が現れる。
蒼い光の渦が収束すると、そこには蒼い甲冑を纏った鎧騎士が立っていた。
「えっ…えっ…なっ…なに!?」
「矢口さん!! 乗ってください!!」
「えっ! 乗るって……これに?」
「ジュ・バイフ! お願い!」
紺野の言葉に反応して、蒼い鎧騎士は片膝を着き胸部の装甲を開く。
「さっ!! 早く!!」
「ちょ…ちょっとまって、何!? ぎゃー!!」
紺野は言いながらも無理やり矢口を中に押し込んだ。
- 31 名前:【アナザーワールド−渋谷−】 投稿日:2004/02/10(火) 01:21
-
胸部の装甲が閉じると全面に周りの景色が映し出される。
そこには牙を剥き出し、今まさに跳びかからんとしている魔獣の姿が映し出されていた。
「ぎゃー!! きっ、きたー!!」
「ジュ・バイフ!!」
紺野の意思に反応してジュ・バイフは魔獣を殴りつける。
魔獣は壁を突き破り、ビルの外まで吹き飛ぶ。
「まだ――!!」
ジュ・バイフは魔獣を追って外に飛び出すと、いつの間にか右腕に握られたランスを
魔獣に向かって突き出す。
しかし、魔獣は強靭な足腰を使ってランスを避けて跳躍すると、背中の刃を伸ばして
回転しながら突進してくる。
「ぎゃー!! きた! きた!」
ジュ・バイフは咄嗟にシールドを出現させ、高速回転する魔獣を受け止めるが、抑えき
れずに魔獣諸共ビルの壁に激突する。
魔獣は更に回転を強めると、ジュ・バイフを壁に押し込めようとする。
「ぎゃー、痛い! 痛い! 痛い!!」
「何言ってるんですか、矢口さん! そんな訳ないじゃないですか!!」
「気分の問題よ! 気分の! それより何とかして〜紺野!!」
「……分かりました」
- 32 名前:【アナザーワールド−渋谷−】 投稿日:2004/02/10(火) 01:22
-
ジュ・バイフがランスを真横に放つ。
すると、空間が歪みランスを飲み込んだ。
次の瞬間、反対側、魔獣の真横から現れたランスが回転する魔獣の中心に突き刺さる。
「グギャウウウウ!!」
魔獣は苦痛の悲鳴を上げ、ジュ・バイフの横の壁に激突する。
「これで決めます!!」
魔獣から距離をとったジュ・バイフは両の拳を胸の前で合わせる。
すると、拳は蒼い光を帯び、それは徐々に強くなっていく。
ジュ・バイフは拳を腰に持っていき空手のような構えをとる。
「行きます!!」
「よしっ!! いけ――っ!! コンコン――!!」
ジュ・バイフは魔獣に向かって地面を滑るように突進する。
魔獣は起き上がると背中の刃をジュ・バイフに向かって放つ。
ジュ・バイフが光を帯びた右拳を突き出すと、光は膨れ上がり向かってくる刃をなぎ払う。
魔獣は再び飛び上がり拳を避けようとするが、突き刺さったランスに邪魔されて思うように
動けない。
- 33 名前:【アナザーワールド−渋谷−】 投稿日:2004/02/10(火) 01:24
-
「ビックインパクト!!」
紺野が叫んだ瞬間、ジュ・バイフは魔獣に右拳を叩き込む。
「グリュウウウウウウ!!」
拳が魔獣に当たった瞬間、拳の光が爆発する。
爆発の衝撃波は空間ごと魔獣を薙ぎ払う。
爆風が収まり周辺に舞い散った塵が収まると、青く光るランスが地面に突き刺さっていた。
「フッ〜 終わりましたよ、矢口さん」
「こっ…紺野〜〜」
「矢口さん…涙が」
「あれ〜何だろ〜涙が止まらない」
「戻りましょ、皆の所に」
「うん…うんっ! 戻れるんだ!」
そう言って矢口真里は泣きながら微笑んだ。
- 34 名前:【横浜アリーナ】 投稿日:2004/02/10(火) 01:27
-
(そう、あの時は確かステージの上に出たんだ。 紺野はここが一番出やすいなんて
言ってたけど、ひょっとしたら今度も?)
矢口は灯の消えたステージに向かって走る。
「紺野〜そこに居てよ〜」
すでにセットは片づけられ、スタッフもまばらな舞台裏を通りステージに出る。
「紺野ー!!」
「えっ! 矢口?」
「なっち!! 何でここに!?」
ステージの上には、すでにモーニング娘。を卒業した安倍なつみが、驚いた顔で矢口の
方を眺めている。
「何で!? なっち、来てたの!! 何で言ってくれなかったのよ!!」
「ごめん。 急に時間が出来て…そしたら何か急に懐かしくなって来ちゃった!」
「何だよ! も〜てっきり紺野かと思ったじゃないか〜」
「紺野? そう言えばさっきも。 何か、あったの!?」
「えっ!! やっ…何もないよ! うん、ほんと…いつものあれだから!」
「ハイハイ! どーせ、なっちはもう部外者ですよ〜だ!」
そう言って安倍は大袈裟に切なそうな表情を作った。
「なっ、何言ってんだよ、ほんとに何でも無いって! ほら、紺野って昔からたまに居なく
なってたじゃん。 ね!!」
「な〜に焦ってるんだか!」
「えっ、焦ってなんか無いって、ほんとに…うん!」
「フフッ、ま〜いいべさ。 でも、何かあったら本当、ちゃんとなっちにも相談してよね」
「うっ…うん!」
「じゃあ、なっちは皆の顔でも見て来ますか」
そう言って安倍はステージの裏に去っていく。
「ごめん! なっち、ど〜しても言えないんだ!」
- 35 名前:【横浜アリーナ】 投稿日:2004/02/10(火) 01:28
-
矢口はステージの中央に立って周りを見渡す。
「紺野〜ここにも居ないのかよ〜。 も〜本当に何処なんだよ〜」
矢口がそう言って俯くと、視界の端に蒼く淡い光が現れる。
光は徐々に大きく、そして人の形になっていく。
「えっ、こっ…紺野?」
光が収束すると、そこにはコンサートの衣装を着たままの紺野あさ美が、ちょっと疲れた
表情をして立っていた。
「矢口さん! 今、帰りました」
「紺野〜、も〜何てカッコしてんだよ〜」
「だあって〜しょうがなかったんですよ〜」
「何だよ〜緊張感無いな〜も〜。 でも、怪我は無いんだよね!」
「はい!! 大丈夫です!!」
「よし!! 戻ろっか!! でもな〜、かおり怒ってんだろ〜な〜」
「そこらへんは矢口さん、お願いします!」
そう言って紺野はちょっと得意げで、それでいて少しだけ儚げな微笑を浮かべた。
- 36 名前:月オオカミ 投稿日:2004/02/10(火) 01:38
- 少ないですが今回の更新はここまでです。
>>27
名も無き読者さん。レス、どうもありがとうございます。
何か、戦闘シーンばかりで話がなかなか進まないですが
今後とも見てやってください。
- 37 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/11(水) 03:49
- イイヨー
- 38 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/11(水) 12:39
- 乙です。
戦闘シーン好きなんでw
今後に期待して待ってます。。。
- 39 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 23:00
- w
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/13(土) 05:44
- 続きまだかな
- 41 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/29(土) 23:14
- 作者さま、更新を待ってます。
紺野関連の小説を探していて、やっと見つけました。
頑張ってください。
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