My World

1 名前:コスミックレスカー 投稿日:2004/01/20(火) 20:50
CPとかあんまり無いですが
どうぞ読んでください。
2 名前:コスミックレスカー 投稿日:2004/01/20(火) 20:50


どこかの古い酒蔵の奥に、
お酒をつくる小人の仲間が
今でもいるかもしれません。


3 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/20(火) 20:52


第1話―つぼの中の小人たち―



ある寒い十一月の日暮れ。
郵便配達が通りに面した大きな建物の扉を、力いっぱい叩いていました。
「ゆうびーん、ゆうびーん」
その家には郵便受けもなかったのです。
表札もなければ窓もほとんどなく、重い鉄の扉はさびついていました。
白い壁はすすけて、家の中からは物音ひとつ聞こえません。
(こんなところに人がいるんだろうか。)
そう思いながらも郵便屋は扉を叩き続けていました。
何故ならその手紙には、
『東通り三―三―十一   保田屋酒店様』
と、書いてあるのでしたから。
そしてその建物は、間違いなく保田屋の酒蔵でしたから。

二十何年か昔、このあたりに大きなつくり酒屋があって、
それが保田屋という名前だったのを、この郵便屋も聞いて知っていました。
その保田屋が、戦争のときに酒蔵をひとつ残しただけで丸焼けになり、
家族も店員もちりぢりになったまま潰れてしまったことも、聞いていました。

けれども今、このたったひとつ残った酒蔵あてに、手紙がきているのです。

あれから世の中はすっかり変わり、町の様子も町の名前も変わりました。
が、その封筒には、確かに今の町名番地が書かれ、間違いなくこの酒蔵を指していました。

そこで郵便屋は、もう一度大きな声を上げました。
「保田屋さーん」
それから、鉄の扉に耳を押し付けてみました。
すると中で、ことんと音がしたのです。
続いて鍵を開ける音が、カチャカチャと聞こえました。
郵便屋は、思わず後ずさりして、
「あのぅ、郵便です」
と、言いました。

すると扉がギィと開き、郵便屋の前には、
紺のかすりの着物を着たおばあさんが、静かに立っていました。

歳は七十に近いでしょうか。
いいえ、腰がずいぶん曲がっていて、八十にも九十にも見えます。
その人は小さな目をしょぼしょぼさせながら、
「あたしゃ、保田屋の隠居でね」
と、言いました。
4 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/20(火) 20:53
郵便屋はびっくりして、
「まさか。保田屋の人はみんなちりぢりになって、この町にはひとりもいないって聞いてますよ」
と、言いました。
すると、おばあさんはにっこり笑って、
「それが、たったひとり残っていたの」
と、言いました。
「あたしゃ、この酒蔵で息子の便りをじっと待ってました。
 かれこれ二十年も待ってました。ああ、それが今やっときたんですよ」

おばあさんは手紙を受け取ると、両手にはさんで拝むようにしてから、
ふところにしまいました。
それからひょっと郵便屋の方を向いて、こんなことを言いました。
「あんた、少し休んでいきなさい。良い便りを届けてくれたお礼に、
 とっときのお酒をごちそうするから」

郵便屋はちょっぴり気味が悪いなと思いましたが、また、
ちょっぴり面白そうだとも思いました。

酒蔵の奥には小さな灯りがぼーっとともっていて、
お酒とかびの混じった不思議な臭いが流れてくるのです。

郵便屋はしばらく躊躇いましたが、バイクにつけた鞄がこのとき丁度空っぽで、
今日の配達はこれで終わりだったことを思い出すと、少し気が軽くなりました。
そのうえ、おばあさんがしきりにすすめるので、
「それじゃ、少しだけ」
と、酒蔵の中へ入っていったのです。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/22(木) 14:56
面白そうです。楽しみ
6 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/22(木) 23:50


蔵の中は、まるで洞穴のようでした。

長い間光も風も入らず、訪ねる者もなかった古い酒蔵です。
こんなところに住んでいる人があるとしたら、これはお化けか幽霊ではないでしょうか。
郵便屋は恐る恐る、おばあさんの顔を見つめました。

が、おばあさんはちっとも恐ろしい様子をしていません。
少ない白い髪を後ろで小さく結って、細い目で笑っています。
古い大きな店の奥には、よくこんな感じのおばあさんがいるものです。
「まあ、おかけなさい」
と、おばあさんは言いました。
気がつくと、目の前に大きな肘掛け椅子がありました。
蔵の中は思いがけなく、ちょっとした応接間になっていたのです。
古めかしい丸テーブルと、ビロードの椅子が四つ。
すすけたランプと鉄のストーブ。
それらの道具が、まるで魔法の光を浴びたように、ぼっと浮かび上がってきました。

郵便屋は椅子に腰掛けて、ストーブに両手をかざしました。
するとおばあさんは、
「今、暖かくなるお酒をごちそうしようね」
と、言いました。
7 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/22(木) 23:51
それからどんどん奥へ行くと、突き当りの酒樽の上にひょいとのぼって、
高い棚からつぼをひとつおろしました。
それは二十センチほどの高さの、土で焼いたつぼでした。
おばあさんはそのつぼを大事そうにさすりながら戻ってくると、
丸テーブルの上にそっと置きました。
「これがうちのとっときのお酒でねえ、菊酒なんですよ」
「ほう・・・」

郵便屋は目をパチパチさせました。

「菊酒というと、つまりその、菊の花からつくるお酒ですか」
「そう」
と、おばあさんは頷きました。
「その通りですよ。ぶどうからつくればぶどう酒、梅からつくれば梅酒。
 それと同じこと。だけどね、これはただのお酒じゃないの。
 そりゃもう、この世にふたつとない珍しいものなんですよ」
「ほう、特別のにおいでもするんですか?」
郵便屋は、片手でつぼを持ち上げてにおいを嗅ごうとしました。
するとつぼはひょいと持ち上がったのです。思いがけなく軽々と。
8 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/22(木) 23:51
「か、からっぽじゃないですか」
ひょうしぬけしたように郵便屋は叫びました。
するとおばあさんは、口を押さえて、まるで悪戯っ子のようにくくっと笑うと、
「だから、この世にふたつとないお酒なんですよ」
と、言いました。
「馬鹿にしないでください」
郵便屋はむっとしました。
てっきりからかわれているのだと思いました。
するとおばあさんは、
「まあまあまあ」
と、郵便屋の肩に手を置いたのです。
それからその耳元で、
「あんた、びっくりしちゃいけないよ」
と、囁きました。
「これから面白いことが始まるんだから」
9 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/22(木) 23:54
>名無し飼育さん様
ありがとうございます。
なるべく期待に応えたいと思います。
10 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/01/23(金) 22:17
ワクワク。どんなことやろ
11 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/25(日) 01:41
そういうとおばあさんは、ふところから白い布を取り出して、つぼの横に広げました。
それは、レースのふち飾りのついたハンカチでした。
隅っこに、とても小さな青いハートの模様が刺繍してありました。
準備が出来上がると、おばあさんはつぼに向かって、こんな歌をうたったのです。

「出ておいで 出ておいで 菊酒つくりの 小人さん」

この歌には、特別のリズムがありました。
例えば、遠い南の島のたいこの音のような・・・。

「出ておいで 出ておいで 菊酒つくりの 小人さん」

すると、つぼの口から、細い縄ばしごがするすると降りてきて、
ハンカチのはしに届きました。
12 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/25(日) 01:41
そして、つぼの中から、小さな小さな人が、ゆっくりと出てきたのです。
郵便屋は息をのみました。
「こ、び、と・・・」
掠れた声でそう呟くと、目をまんまるにして、
その小人がはしごを降りてくるのを見つめていました。

それは、太った男の小人でした。
大きな前掛けをして、黒い長靴を履き、よく見るとその長靴の裏には、
ちゃんとギザギザのゴムまではってあります。
白い木綿の手袋をはめ、わらのほつれた麦わら帽子をかぶり・・・なにもかも人間です。
「これが、菊酒をつくる小人です」
と、おばあさんは囁きました。

小人はハンカチの上にぴょんと降りると、上を向き、両手を口にあてて、
何か叫ぶような格好をしました。

すると、今度はつぼの中から女の小人が出てきました。
それから、子供の小人が三人。

小人の一家は、みんなおそろいの前掛けに麦わら帽子、そして、黒い長靴をはいています。
13 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/25(日) 01:42

(なるほど。こりゃ素敵だ)
郵便屋はすっかり感心しました。

ハンカチの上に降りた五人の小人は、前掛けのポケットから、
小さな小さな緑色の苗を取り出して、植え始めました。
多分、これから、このハンカチの上で、何か不思議な植物が育つのでしょう。

小人たちのポケットからは、まるで手品のように、あとからあとから苗が出てきます。
そして、みるみるうちに、ハンカチの上は緑の畑になりました。
「これはみんな菊の苗なんですよ」
と、おばあさんが囁きました。
「驚きましたねえ・・・」
郵便屋はため息をつきました。
「ハンカチの上に、菊畑ができるなんて・・・」
14 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/25(日) 01:42
まだお酒も飲まないのに、郵便屋は浮かれてきました。
急に楽しくて楽しくてたまらなくなってきたのです。
それは、子供のころ、おもちゃの兵隊を机の上に並べたときの気持ちに似ています。
それから砂場で小さな線路やトンネルを作り、
そこに電車を走らせたときの気持ちにも似ています。
ああ、そういう小さな世界にさよならをしてから、いく年過ぎたでしょうか。
郵便屋の毎日といったら、くる日もくる日も赤いバイクで町中を駆け巡り、
たまの日曜には寝転がって空を見るのがせいぜいでした。
(ずいぶん長いこと小人のことなんか考えたこともなかったな。
だけど・・・まさか・・・、まさか、本当にいるとは思わなかったよ)

郵便屋はなんだかワクワクしてきました。
やがて、菊の苗は少し大きくなり、芥子粒程の蕾が、
ポツポツとついているのが分かりました。
「あの蕾が開くんですよ」
おばあさんが囁きました。
15 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/01/25(日) 01:45
>名無し募集中。。。様
特に大したことも起きませんが
楽しみにしていただけると嬉しいです。
16 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/01/25(日) 18:49
どうなるんだろう・・・
17 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/02/03(火) 22:48
と、みるみるうちに、蕾が開き始めました。
あっちにひとつ、こっちにひとつ・・・。
まるで、夜の街に次々と灯りがともっていくのを、
高い空から見ているような具合です。

白菊、黄菊、紫菊・・・。

たちまち、ハンカチの上は、色とりどりの菊の花畑になりました。

すると、五人の小人は一斉に帽子を脱ぎだしました。
そして、花を摘み始めたのです。
摘んだ花は、どんどん帽子の中へたまっていきます。
これは、なかなか大変な仕事でしたが、小人たちは楽しそうに働きます。
「ふうん。この人たちは働き者なんだねえ」

郵便屋はすっかり感心しました。
すると、おばあさんは、得意になって言いました。
「そうですとも。この人たちは、ただの小人じゃない、お酒の精なんだもの」
「お酒の精・・・」
「そう。例えば、ヨーグルトの中にはヨーグルトの精がいるし、
パンの中にもパンの精がいる。それと同じことなの。
つまりこの人たちは、菊酒の精なんですよ。
いつも、こんな粗末な格好で、働くことだけを楽しみに生きているんです。
だけどもし、この人たちが、綺麗な服を着たいとか、
遊んで暮らしたいとか思い始めたら、もうお酒の精ではなくなってしまうんです。
お酒をつくる力を失って、ただの小人になってしまうんです」
「なるほどねえ。そんなこと、今までちっとも知らなかった」
郵便屋はため息をつきました。
18 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/02/03(火) 22:49
やがて、ハンカチの上の菊の花は、すっかりつみ取られ、
五人の小人は帽子を抱えて、順々につぼの中へ帰っていくところでした。
菊の花びらのどっさり入っているつぼの中へ――。

これから、どうなるんだろうかと、郵便屋は思いました。

おばあさんはハンカチを口につけて、ふーっと、
まるでろうそくを吹き消すように息をかけました。
すると、小さな菊畑は綺麗に消えて、テーブルの上には古いつぼと、
白いハンカチが、何事もなかったように置かれているのでした。

まったく、ハンカチの上には、何一つ残っていません。
隅っこの青いハートの刺繍だけが、小さな点のように浮き上がって見えるだけでした。

おばあさんはそのハンカチを、きちんと畳んで、ふところにしまうと、
今度は杯をふたつ用意しました。
そして、つぼを指差して、さっきと同じことを言うのでした。
「さあ、これがうちのとっときのお酒でねえ。菊酒なんですよ」
19 名前:つぼの中の小人たち 投稿日:2004/02/03(火) 22:49
それからおばあさんは、静かにつぼを持ち上げ、
ふたつの杯に、とくとくとお酒を注いだのでした。

確かに、確かに、それはお酒でした。
良い匂いのする、とろりとした飲み物なのでした。
郵便屋はしばらくの間、魔法にかけられたように、ぽかんとしていました。
すると、おばあさんは、ゆっくりと杯いっぱいのお酒を飲み干しました。
それから目をつぶって、こんなことを言いました。
「これは良いお酒ですよ。これをいっぱい飲むと、心が晴れ晴れしますよ。
さあさあ、あなた、遠慮しないで飲んでごらん」

すすめられるままに、郵便屋は、恐る恐るお酒を飲みました。

それは上等のお酒でした。

いつでしたか、局長さんの家で、フランスのぶどう酒をご馳走になりましたが、
それより、もっと良いお酒でした。
ほんのりと花の香りがします。
いっぱい飲んで、目をつぶると、一面の菊の花畑が浮かんでくるのでした。
花の上に、のどかな秋の陽が降り注いでいます。
・・・ふと、郵便屋は、自分が今、菊畑の真ん中に座っているような気がしました。
色とりどりの花の上を、風がさーっと渡っていきました。
「なるほどねえ。こんなお酒は初めてだ」
郵便屋はすっかり感心して、続けて五杯も飲みました。
20 名前:コスミックレスカー 投稿日:2004/02/03(火) 22:51
>名無し募集中。。。様
更新、遅い&少なくて申し訳ありません。
ストックは結構溜まっているのですが
一度に大量更新するのが不安で・・・。
マターリしてても読んでくださると光栄です。
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 18:38
変わった趣旨のお話しですね。
期待してますヨ。
22 名前:21 投稿日:2004/08/05(木) 02:36
半年経っちゃいましたね。
お盆あたりに更新してくれないかな〜。

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